うちのポケモンがなんかおかしいんだが (右肘に違和感)
しおりを挟む

この小説の処方箋

この小説は元々にじふぁんで掲載されていたものです。一応完結しています。

現在にじふぁんという部分のサイトは消滅しており、一般公開されておりません。

作者が閲覧するデータのみ残っている形ですが、1月には削除される予定です。

 

 

 

この小説には以下の成分が含まれます。

 

・話が進むとゲームに存在しないオリジナルの技が出てくる。

・魔改造と思わしきポケモンが出てくる  

・演出上、改行が大量にあるシーンが存在する  ←←←←←NEW!!02/05

・ゲームに無い要素がてんこもり。結構現実に近い。

・基本的にコメディースタイルなので深く突っ込みを入れると吐血します。楽しく反応しますが。

・遊戯王のオリジナルカードのような印象があるらしい。

・料理の描写があるわけでもないのに主人公の料理の腕がやたらと凄い。

・良くも悪くもポケモンとして見ると期待はずれな感じがあるらしい。

・ネタが満載。コアなモノが非常に多い(音ゲーとかも一部出ます

・感想欄は基本的に突っ込みスペース。

・『顔文字』と一部ブロントさんネタが含まれます。こうかは ばつ牛ンだ!

 

等の科学的肥料が合成されており、野菜の種を植えると異常種が育ちます。

みんなはアストロノーカで品質悪魔なんて作っちゃダメだよ★

 

10/08追記

この小説は基本的にポケモンを余り知らない人でも読めるように構成されております。

わからないポケモンが居たら、名前で検索してデータを確認してみてください。

鳴き声はニコニコ大百科で聴けるので、アニメで聞いた事が無いポケモンの声は

作者はそこで聴いて、音を文字にして鳴かせてます。

 

そんなカオスな内容ですが、よろしければご閲覧くださいませ。

あと作者がかなり適当な性格なので、良い案があれば随時どこかに入れます。

しかし気に食わない提案の場合は全力で突っぱねるので諦めてください。

ハーレムなんぞクソッタレ。




当作品のモットー。
読者として見やすい文章を。
設定されている機能は設定されている機能通りに取り扱う。


故に、あらすじはあらすじのみ入れたいので
作品を上げる上での注意事項は個々で全て纏めます。

ついでにポケモンというジャンルをガキくさいと思っている人達へのアンチテーゼ。
故に彼らに知らせたい。この世界は偽証と悪意に満ち溢れていると。
ポケモン二次?ワロスwwwwとか思ってる人に
この世界というより、ポケモンの世界自体子供向けではなく大人向けに作られている事を
ご理解頂きたい、と考えております。通信対戦とかもう子供の入る隙間もねぇよ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タツヤの軌跡
1話 出会い



こちらでは初めまして。
ご閲覧いただきありがとう御座います。
適当なストーリーですが、よろしくお願いします。



 

 

─────チュチュン……、チュン、チュン……。

 

 

 

 

今日の朝もいつもと変わらず、オニスズメの朝のさえずりが響く。

 

あぁ……うるさい……もうちょい寝かせてくれ……。

 

ピョンピョンと動いているのか、屋根の上からはさえずりだけでなく

トントンと、オニスズメが歩を進める振動も響く。

 

あいつらは地味にでかい。

あくまでも「スズメ」を見慣れていた俺からしたらだが……。

それだけの大きさで動けば、そりゃ屋根も揺れる。

眠いながら振動を感じる限り、ニ匹か三匹が屋根にいるようだ。

 

 

……求愛でもしてんのかねぇ────他でやってくれ、他で……。

 

 

自然と目を覚ませなかった事から、頭の中の考えが若干苛立ちが支配する。

やっぱ朝は自然と目を覚ましたいもんである。

苦し紛れに布団を頭まで被って、俺は二度寝の体勢に入った。

 

 

チュン、チュン……、チュンッ!?

─────ギャァ!!ギャァギャァ!!ギョァー!!

 

 

……バトル、始まりました。他の♂でも乱入したのか。

 

「─────ぬっぐ……ッ、ふぁーぁああぁ……」

 

こんな騒音だらけではこれ以上寝るのも不可能だろうし、素直に起きる。

今日も精神年齢30歳、肉体年齢10歳であるチグハグの俺の一日が始ま─────

 

 

 

─────朝っぱらからうるっさぁああいッ!タっくんの部屋の上で何してんのよっ!!

─────フーちゃん!!あの屋根のオニスズメどもふぶきでぶっ飛ばしなさい!!!

─────リーザァーッ!

 

ずごぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 

─────ギャチュチュアギョァギャギョァーーーーー?!?!

 

─────ててててーん♪

 

─────あら?フーちゃん今のでまた強くなっちゃったのねぇ。

─────最近全然反応なかったし、もうちょっとだったのかしら。

─────フーちゃん、偉いわね~♪

─────リ~♪ リ~♪

 

 

「………………。」

 

 

…………まぁ、何も言うまい。

俺の部屋の窓が凍り付いている事なんぞ知らん。

さらに言えば母さんの手持ちがあの4段階の変身がある宇宙人と同じ名前なのも知った事か。

常識なんぞ今から行くトイレに、改めて流してしまえばいい。

 

 

 

 

───改めて自己紹介しよう。

俺の名前は『旧姓:田島 直哉』、『現:タツヤ』。

 

ああ、うん、そうなんだ。ありふれた例ですまない。

もうわかりきってる事だと思うんだが

 

俺は曰く、転生者とか憑依者というやつだ。

 

まあ別に俺の個人情報なんぞどうでもいいと思うから説明は飛ばす。

よくよく考えれば自己紹介とか必要ねぇなこれ。

 

とりあえず……上記のありふれた例ですまないのだが

何の因果か……ポケットモンスター、縮めてポケモンの世界に来てしまった。

 

この世界でニ歳位の時だろうか? 何故か「俺」の意識が芽生え始めた。

そのニ歳より前の記憶がないため、憑依者なのか転生者なのかは未だによくわからない。

ただまぁこの世界が、自分が居た平成日本ではないのはしっかりわかった。

 

だって、意識が芽生えた時に空飛んでたのが鳥じゃなかったんだもん。

あれはカイリューだったと思う、もしかしたら他にも似たのが居るかもしれないが

少なくともずんぐりした……薄茶色? の空飛ぶ爬虫類を俺は知らない。

さらにそこらに立ってた看板見たら「マサラタウン」とか書かれてっし。

その時は落ち着いて『マ』の左側に油性マジックで『イ』と追加しておいた。

 

意識が芽生えた直後で戸惑ってこそいたんだが

周りを見渡せばそれはもう、俺からしたら不思議な世界しか広がってなかった。

人がいるかと思って安心したら……その人の傍らとか、他の人のそばとかに

なんか見た事あるよーな動物ばっかで、ああ、これポケモンだー、って。

 

 

 

まあ、俺の回想はこんなところにしておこう、腹が減らなくても俺は戦が出来ぬ。

トイレでも既に用を足し終わってすっきりだ。

とっとと母さんに挨拶してメシを食おう。さすがにそろそろ台所に戻ってるだろう。

 

「おはよう~……って、あれ? シン兄ちゃん。母さんは?

 さっき外でオニスズメぶっ飛ばしてたのは聞こえたけど、まだいないの?」

 

リビングに入ってみると母親の姿は無く

日頃は家に居ない兄ちゃんの姿だけしか確認出来なかった。

 

「おはよう、タツヤ。

 母さんなら、なんかフーちゃん強くなってテンション上がったのか

 そのままはしゃぎながらフーちゃんにぶら下がってどっか飛んでったのは見たよ」

「母さん……」

 

だめだあの母親、早くなんとかしないと……。

 

「ま、いいんじゃないかい? 朝ご飯もあるし、そのうち戻ってくるよー  多分」

「なんかもう本当、なんでウチってこんなに常識からすっ飛んでんの?」

 

今目の前にいるシン兄ちゃんも去年、すっげぇ『やりこみ四天王戦』ぽい応酬があったが

わりかし極普通にポケモンリーグの頂点立ってたし。

まぁその後速攻でチャンピオン辞退して、また地方巡りに戻ってたんだが。

 

「あ、あはは……。

 まあ確かに母さんの手持ちポケモンも僕の立場も

 一般家庭とズレてるのは間違いないけど……それをタツヤが言うのはどうなのさ?」

「えー……」

 

苦笑いで返答してくるシン兄ちゃん。

どうやら俺もシン兄ちゃんから見たら十分異端らしい。

一応俺、ちゃんと年相応演じてる自信あったんだけどな……?

 

「小さい頃からやたら頭良いし、子供らしいわがままもないし……

 僕自身、タツヤが本当に弟なのかって結構疑ってるんだよ?

 タツヤと僕を知ってる人からはいっつも"君が弟だろw"ってからかわれてんだから……。

 僕だって結構しっかり者のつもりなのになぁ、みんなひどいよ……」

 

あっれぇー?

結構自信あったのに実はそんなことはなかったぜ。中身が既におっさんでごめんなさい。

 

「いや、まぁ……逆に言えば手の掛からない弟で面倒も少なかったしょ?

 それに、別に俺の事はどうでも良いよ。

 俺がなんだのこんだのより、俺のお腹がウボァーな状態である事の方が重要だし」

「久しぶりに戻ってきたけどタツヤは相変わらずだなぁ、ウボァーってなんなんだい」

 

相変わらずなのは仕方ない、人間簡単には変われないもんなのだ。

中身が既に熟達しちゃってるから、ね……

 

「それじゃ、頂きますっと」

 

ともあれ食わねば始まらない。

ひとまず大人しくご飯を食べましょう、朝の始まりは朝ごはんからである。

朝昼兼用はいかんぞ。一日の原動力である朝はしっかり食わないとな。

 

 

 

 

「そういえば……タツヤはポケモンもらいに行かないのかい?

 もう10歳の誕生日もしばらく前に過ぎてるんだし、そろそろ僕みたいに旅する頃だろ?」

「あーうん、それねぇ……。

 実は10歳になった時にオーキド博士に速攻でもらいには行ったんだけどさぁ」

 

そりゃぁやっぱ、ガキの頃の一大イベントだったから楽しみだった。

今までも母さんや兄ちゃんに手持ちの子を借りたりはしてたけどさ……

初めての自分のポケモンってなるとやっぱこう、特別なもんになるんじゃないの?

今では私がおじいさんってわけではないだろうけども。

 

んで、胸に期待を膨らませて研究所に行ってみたら……

留守番の研究所員さんが「博士、今講義に出かけてるよー」とか抜かしやがる。

ちくしょう、ポケモンの権威のクセに普段は引き篭もってやがるのに

何故こういう時に限っていないのだ、と素で思った俺は悪くない。

 

研究所員さんが「多分少ししたら帰ってくるよ」というから

のんびり所員さんと会話しながら待ってたら、その日一日全く帰ってこなくて。

 

で、研究所の電話がなって……電話先は警察。

「博士が講義の帰り道でロケット団に拉致られた」ってふざけんな。警察仕事しろ。

それからはもう、滅多に訪れないイベントだから研究所もてんやわんやで。

所員さんもてんやわんやだったが、とりあえず俺は関係ないので帰った。

 

「そんで、帰ってきたらなんかもうどうでもいいやーってなって。」

「聞いた事がない例だな、ハハハ。

 ……博士、あれだけ護衛つけろって……何してるんだよ……」

 

思うところがあるのか、シン兄もこれには思わず苦笑い。

 

「ぁーでもまぁそろそろもらいに行こうかなぁ、旅に出るかどうかはわかんないけど。

 別に手持ちが無いままで人生終わるわけでもないし……。

 ……まぁ面倒がってたらいかんよね、うん」

「何で10歳でそんなに達観してんのかなぁ、タツヤは本当に。

 レッド君とかグリーン君、なんかもっと可愛げあったよ?」

「まーじでー」

 

俺はポケモンに関してそこまで詳しくないんだが、ゲームとアニメの違いは大体わかる。

そしてこの世界はアニメよりはゲーム寄りらしい。

ちなみにレッド君とグリーン君は俺のニ歳年上である。

そして二人共、二年程前に旅立っている。この世界子供に冒険させすぎだろ……。

 

「まあ思い立ったが吉日かもしれないな。

 ご飯食べたら研究所に行ってみるよ、今日は拉致られてなければいいんだけど」

「すっごい皮肉だなぁ、地味にその時の事恨んでるんだね?」

 

はい。

旅立ってロケット団にあったら超ボコボコにする予定です。

まあ……犯罪組織がポンポン10歳児に絡んでくんのかって話なんだけども。

 

博士もあんなのに拉致られてんなよホント。

 

 

 

 

そんなわけでご飯も済ましたので、歩いて研究所前に来てみました。

別に立ち止まる意味も無いのでさっそく中に入ってしまおう。

 

「こんにちわー」

「おや、タツヤ君久しぶりじゃのぅ」

「オーキド博士、ご無沙汰してます」

 

入り口自体はフリーなので普通におじゃましたところ入り口に最終目標が居た。

『勇者のくせになまいきだ』現象である。

 

「いやー本当、3ヶ月前はすまんかったのー。まさか誘拐されるとは……」

「博士、一応ポケモンの権威なんですからもっとちゃんとしてください……」

「権威なんて言葉、よく知っとるのう……しかも一応とは。酷いもんじゃ」

「よく言えば親しみやすいですけど……

 悪く言えばそこらのオッサンと変わらないですしね、博士って」

「ま、まぁそんな小難しい事はさておいてじゃな!」

 

あ、話題変換しやがった。ちくしょう。

もっちょいネチネチ言って恨みを晴らしたかったのに。

 

「ここに来てくれたって事は、最初のポケモンを受け取りに来たって事じゃな?」

「はい、まあそうです」

「うむうむ、これでタツヤ君も一人前か。時が過ぎるのは早いのう……」

 

この世界のオーキド博士は、かなり一般市民に馴染んでいる。

白衣を着ていないとただのその辺のおっさんである。

俺もたまに研究所に来て、話を聞いたり突っ込んだ事を質問したりもしていた。

下手に厳格な雰囲気がない分、オーキド博士には少しだけ世話になっていたのである。

 

 

「 ! そうじゃタツヤ君。変わったポケモンに興味はないかね?」

「変わったポケモン……ですか?」

「わしも世界を色々飛び回ってポケモンを見て歩いておるのじゃが……

 どうも最近、外来種として持ち込まれたりでもしているんじゃろうか?

 別の地方にいるはずのポケモンも、普通にこっちに居たりもするんじゃよ」

「そうなんですか」

 

まあその方が、こっちとしては色んな子が見れるからそっちの方がいい。

でもそういうのって……生態系とか平気なんか?

日本の河川も一部の地域じゃ、色々状況が重なってグッピーが自生したりしてんぞ?

 

「で……まぁ、の? わしも最近、研究のためにもらった子が一匹いるんじゃが……」

「その子が、変わっている?」

「タツヤ君は本当に聡いのぅ……まぁそういうことじゃな。

 まぁそのポケモンの種族的には、普通は穏やかな性格の子ばかりのはずなんじゃが……

 もらった子はなんやら、やんちゃというかなんというかのう。

 ステータスも有り得ん方向に突出しておってなぁ……」

 

この世界では、一体どの辺りで技術革新を遂げたのか

ポケモン図鑑がゲームと比べて全体的にやたらハイスペックになっている。

なんとそれひとつでステータスはおろか性格と努力値まで見れるのだ。

 

ただまあ、ここはゲームの世界っぽくはあるが生きている俺らは間違いなく現実。

ステータスや努力値は数字化こそされていないが……

まあ棒グラフみたいに、目に見える形で表されるようになっているのだ。

 

「面白そうですね、その子」

「でも普通と違うから苦労するかもしれんぞー?」

「苦労を知らないで苦労するなら苦労と思う事も無いでしょうし、俺は構いませんよ」

「しつこいかもしれんが君本当に10歳かね」

 

違います。

 

「んーじゃあまあ……引き合わせてみようかの。こっちじゃよ」

「はい、お邪魔しますー」

 

そうして俺らは研究所の奥に入って行き、とある部屋の前に辿り付いた。

 

「ここじゃよ、この中に彼女がおる」

「……彼女?」

「ああそうじゃ、♀しかいない種族なんでの……そこだけは間違いなかろう」

「そんなのもいるんですね」

 

俺は実はポケモンに関しては本気で中途半端な知識しかない。

タイプぐらいならアニメもほんの少し見ていた事があるのでわかるが

アニメで効いていたが故に、どく属性がはがね属性に通ると本気で信じていた事がある。

その程度の付け焼刃でしかない。

 

「じゃあまあ(怖いから先に)入ってみておくれ」

「今なんか妙な間がありませんでした? まぁ、とりあえずお願いします」

 

了承して扉を開ける。

 

ガチャ……

 

開け放たれた扉から、部屋全体を見渡してみる。

まあなんというか研究所らしくは無い部屋である。

妙な液体が入ったガラスの筒にポケモンが浮かんでいるなんていう事も無く

一言で述べるなら応接間とか、なんかそんな感じだ。

 

そしてその部屋の中には、緑のコントラストが目立つ子が居た。

見た目が緑で占められている割合が多い分草っぽい感じがする。

まぁ……さすがにこの点は間違っていないだろう。

 

草を表す風体の他に、頭にちょこんと乗った花と見える部分も

その子の可愛らしさを強調しており、まるで草のお姫様の様なフォルムである。

そんな彼女に似合いそうなニックネームは、やはりストレートに「お嬢」……なのだが。

 

 

「い、いよぉ、ドレディア。今日の調子はどうじゃ~?」

「…………ァ゛ア゛?」

 

 

その子の姿勢と顔つきが全てのイメージをぶっ壊していた。

 

 

緑のお姫様は、博士が声を掛けた瞬間にダミ声を上げつつ振り返り

可愛い顔が台無しになるレベルでこっちを睨む……いや

額に青筋を立ててこっちにガン付けており、なおかつどうやったらああなるのか

下半身の膨らんだかぼちゃパンツのような部分が

若干平べったくなっていて、その上に腕と思われる部分の肘を両側に乗せ

うん、なんていうか完全にヤンキー座りのような体勢だった。

 

 

 

この出会いが

 

 

 

俺がこの世界でずっと付き合う事になる相棒との、初めての出会いだった。

 

 

 

博士、チェンジお願いします。俺にはこんな恐ろしい子は無理です。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 やめて

 

 

さすがにこんな子が待っているとは思わず、結構動揺してしまった。

しかしこの場で俺が固まっていても、話が一向に進まないため

とりあえず意を決して、話しかけてみる事にした。

 

 

 

 

 

 

「博士」

 

 

 

 

 

 

博士に。

 

 

 

 

「(バタン)どうかしたかのぅ?」

 

おい。

ドア閉めんな。おい。

 

「いやぁ、この子がこの研究所に来て3週間ぐらいなんじゃがの。

 既に6,7発ぶん殴られとってのう。痛いのは出来れば避けたいんじゃよ」

「この子殴んの?!」

 

あんた何気に俺を生贄か厄介払いに使おうとしてないか!?

 

「苦労を知らんなら苦労ではない、じゃろ~?ハッハッハッハ……」

「いや確かにそうですけど。

 殴られて痛いのは苦労とかそういう問題じゃないと思います。

 訴えますよ?訴えて勝ちますよ?」

「本当どっから覚えて来てるんじゃその知識は」

 

しかし使えない博士は置いておくにしても、今の問題は

とにかくこのヤンキーなドレディア……ドレディアさんだ。

もしかしたら博士の事が生理的に嫌いなだけかもだし、まずは話してみて─────

 

「ッ!?」

「ァア゛?」

 

なんとドレディアさんは最初に居た位置、部屋のちょっと入った位置から

いつの間にか入り口に近い場所に居る俺の目の前に来ていた。

そして相変わらずのしかめっ面である。

これ完全にメンチ切ってるよね?色んな意味で心臓に悪い。

 

「え、えーと……」

「…………。」

 

やっべーこのドレディアさんめっちゃ怖い。

殴る気配こそまだ無いけどヘタに動いたら速攻で手が飛んできそうな雰囲気が……

しかし怖がっているだけでは彼女に対して失礼だろう。

今こそ30歳児の実力を発揮する時だ。多分。きっと。そうだといいな。

 

「こ、こんにちわ~……?」

「…………ディ。」

 

……おお!?これはコミュニケーション成功か!?

ちゃんと一言だけだけど挨拶返したぞ!!

この調子でなんとかコミュを繋げて、理解を─────

 

カチャ

 

「タ、タツヤ君、まだ殴られ─────」

 

ゴッシャァッ!!!

 

「へぶおぉおっっ!?」

 

凄い勢いでドレディアさんからパンチが繰り出され、顔に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

もちろん博士に。

 

 

 

 

……ってかちょっと待って!!なんなのこの子怖い!!

博士がこっちに開けたドア、人の手が通るか通らないか位しかないぞ!?

なんで全速力で振り抜いてバッチリ博士の顔捉えてんの!?

 

ドレディアさんはさらに博士に殴りかかろうと

俺を追い越し扉に強引に押し迫った。

 

「ちょっ……ちょっ!!駄目だよッ!!ドレディア……さんッ!!

 確かに気に食わないんだろうけどそれは駄目ッ!!

 博士一応責任者なんだから、ドレディアさん下手したら処分されちゃうよ!?」

 

 

「……ッ!」

 

 

あわてて抱きとめ、説得を試みたところ何とか踏み留まってくれた。

 

「いや、前から殴られてるっつってたし

 これ位じゃ処分とまではいかないかもだけど……!

 そんな簡単に殴り飛ばしちゃ駄目だよ!

 他の人は殴られて見逃すほど優しくないかもしれないんだから!」

 

 

「ディ……。」

 

彼女さえ納得したら、俺と一緒に研究所の外に出る事は間違いない。

気に入らないという理由だけで誰彼構わず殴り飛ばしていたらさすがに連れ歩けない。

 

 

 

「ぐ、ぶ……、タ……タちゅヤ君……

 大丈夫、きゃね……?」

「いやもう博士が大丈夫じゃないでしょ。

 一体どれだけ嫌われてたんですか……。」

 

声からして明らかに鼻を押さえているのがわかる。

下手したら鼻血も駄々漏れ状態なのだろう。

それほどにドレディアさんの渾身の一撃は、綺麗に博士の顔に入っていた。

 

だが、とりあえず俺だけでも少し冷静になってみよう。

部屋に入ってから今までを考える限り、ドレディアさんは

博士に関してだけは間違いなく敵視している。理由こそわからんが。

 

しかし俺に対してはどうだろう?

部屋に入ってきた時には値踏みはされていたと思う。

実際すぐに全体をジロジロ見られていたみたいだし。

だけども俺は、まだこの子には殴られていない。

会話もちゃんと耳に届いていた、ような気がする。踏み留まってたし。

 

 

「……博士、ちょっとしばらく別の部屋に居てもらえませんか?」

「しょ、しょれで平気なのきゃね……」

「彼女と少し話してみます。

 幸い俺は博士よりは嫌われてないみたいなので」

「……わきゃった、わしゃラボに引っ込むかりゃの。

 話がちゅいたらそちらに来てくりぇ……」

 

そういって気配が遠ざかっていくのがわかった。

ドレディアさんに視線を移すと、彼女の横顔から

「ッチ……次は殺ス。」という感じの目線をドア越しに送っているのが見て取れた。

 

うん、怖い。

怖いけど、何とかしないと。

前世で、凶暴なペットの行く末を知っているだけあって

絶対に彼女をこのままにするわけにはいかない。

ロケット団なんて犯罪組織が普通に居る位なのだ、どれだけ世界が違っても

人間の汚さなんて根本的には同じだろう、使えないと思われたら見捨てられるのだ。

 

だから、彼女はこのままには出来ない。

 

「ねぇ、ドレディアさん」

「…………」

 

なんだ、と言いたげな感じで。目線をドアから俺の顔に目線を移してくる。

 

「君に、さ。何があったか俺にはわからないよ。

 同情はしないし勘ぐりも出来ればやりたくない」

「…………」

「だから俺の質問にひとつひとつ、答えてくれないかな?

 嫌な事は答えなくていいし、俺もそういう質問の聴き方はしないから」

「………ディ。」

 

トン。

俺は彼女に軽く押された。

そしてドレディアさんとほんの少しだけ距離が離れ、

離れた後に彼女はどっかりと座った(ように見えた。足が見えないからよくわからん)。

多分聴いてやる、と言っているのだろう。拒否なら全力で殴られてんだろうしな。

 

「じゃぁ……えーと。博士の事は嫌いなんだね?」

「(コクン)」

「今あったばっかだけど、俺の事は嫌い?」

「(フルフル)」

「ふむふむ、じゃあ……君はここに居続けるつもりなのか?」

「(フルフル)」

「そっか、まあそうだよね。

 じゃあ、ならさ─────

 

 

─────俺と一緒に、ここから出るのは嫌かい?」

 

 

ドレディアさんは、俺の顔を見上げる。

多分この子は人ではないながらも人の機微に関して聡いのだろう。

俺が怖がっているのもしっかりわかっているのだ。

それに今なら良く見ずともわかる。

彼女の顔には、怒りの象徴とも取れる険が現れていない。

 

────だからこそ。

彼女の顔から言いたい事が見て取れる。

 

 

 

わたしがこわくないのか?と。

 

 

 

だからこそ、俺も本音でぶつかろう。

 

「……言わなくても、わかってるんだよね?

 怖いさ、あんな動きされちゃ……怖いに決まってる」

「……ッ」

「でも、逆もなんだと思うんだよ、俺は」

「……?……?」

 

つまりは、だ……

 

 

 

「───君も『人間が怖い』んだろ、きっと」

 

 

「───────。」

 

 

 

多分そのはずなのだ。

彼女の行動は正直な話、俺から見たらであるが。

前世に居た猫の、威嚇行動と大差ないのだ。

 

「詭弁なんだろうけど、どっちも怖いってんならさ。

 怖いってお互いに思ってるなら、立場だって同じなんだ。

 だったらここで互いに警戒しあってるより────

 一緒に行動したら、また互いの気持ちも変わるかもしれない。

 どうかな?

 

 

 ─── 一緒にさ、外に出てみない?」

 

 

 

我ながら非常に恥ずかしい発言である。なんだこれ。

今この場でなかったら布団に包まってバタバタしてしまいそうだ。

現にドレディアさんは俯いてしまって────────んむ?

 

 

顔こそ伏せてしまったが……

────────彼女は、自分の手をおずおずと自分に差し出してきた。

 

 

俺に、手を、差し出した。

 

それが、きっと彼女の答えなのだろう。

 

 

 

 

「これ、お姫様願望?私をここから連れ出して的な?」

「────────────!!レーディーーアァァァアッッ!!」

「え、ちょ待べふっ!?」

 

最後に冗談を述べて見たら見事に平手で顎を打ち抜かれた。

人体の構成上仕方なく、立つバランスを崩しながら倒れてしまう。

ォゥドレディアさん、アナタ世界狙えるヨ……

 

 

────────最後に見れたドレディアさんの横顔は、心持ち笑顔だった気がした。

 

 




こんなドレディアが居てもいいじゃない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 何これ

処方箋修正 18:17


 

 

──あぁーなんかふわふわするわぁ~

 

───俺何してたんだっけかぁ~

 

────気持ち良いしこのまま寝続けるかな……

 

─────あーでもなんか膝痛いし……痛い……

 

 

 

ッハ!?

 

 

 

いきなり意識が覚醒する。

あのドレディアさんから見事な顎への一撃をいきなり貰ったんだっけか。

膝が自分の体重をモロに受けて、圧迫感を感じている。

 

……あれ、おかしくね?

顎に受けて脳震盪で気絶というなら、寝転がっているのではなかろうか?

なのに重力は寝ている感じの影響ではない。

なんかこう、吊り下げられてるような──────────

 

 

「…………」

「……えー?」

 

顔を床から正面のほうへ回すと、ドレディアさんの顔がすぐ前に存在していた。

 

 

( ゚д゚)(゚д゚ )

 

 

こんな感じである。

 

サッと顔色を見た限りでは、特に青筋等は立っていないようだ。

怒っているわけではないらしい。

 

「ディアー? ディー?」

 

ぺしぺし。

 

なんかドレディアさんの左手? 左の葉っぱ? でほっぺを叩かれる。

なんだこの状況。ていうか自分の体勢……

 

「──────────あぁ、そういうことですね、はい」

「ドレ~ディア~。」

 

顔と目を軽く動かしようやく状況を把握する事が出来た。

ドレディアさんが襟首掴んでぶら下げていたのだ。

道理でこんな体勢なんですね。多分気絶した後に吊り下げられたのだろう。

 

「─────なんで殴られたのかはこの際置いておくが

 とりあえずは心配してくれた……んだよね?」

「ディ。」

 

ドレディアさんはコクンと頷く。

 

「あーおっけーおっけー、もう平気だよ。

 掴んでる所、離してもらってもいいかな」

 

またコクンとうなずき、ちょっとした浮遊感のあと上半身が床に向かう。

離してくれたということであろう。

普通に手で体重を支え、立ち上がろうとして。

 

 

ええ、まあずっこけました。

 

「ディ!?」

「……あぁ、まあ当たり前っすね……綺麗に顎に来てたからなぁ」

「ディ……ディァ……?」

 

普通、急激に顎を揺さぶられた場合、漫画的に表現するなら脳みそがシェイクされる。

バランス感覚的なモノは速攻では回復しない。

 

俺も意識を若干ながら奪われていたようだが、それでも長時間ではないのだろう。

ダメージがまだ普通に残っていたようで横倒しに錐揉みしてしまった。オウフ

ドレディアさんもさすがに人体構造までは理解していないようで

何故俺が倒れてしまったのかも含めて、先ほど以上に心配そうである。

 

「あははぁ~……こりゃぁ少し休まないとだめかもなぁ」

「…………」

「ん、あれ。どしたん?って、ちょ─────ぬわぁ!」

「ディーァ。」

 

ふん、と息を鳴らし俺を背負うドレディアさん。

いくら子供ッたって30㌔程度はあるんだがなぁ。

どんだけ力あるんですか貴方。

 

が、まあ助かるのは事実だし体も子供だし、プライドなんざどうでもいっか。

 

「あーうん、このまま運んでもらえると助かるよ。

 博士んとこに行けばソファーもあるし、喋る事に関しては問題は無いから。」

「ディ。」

「じゃあまあ、博士の顔見るのは嫌だろうけど……

 博士のラボまで運んでもらえるかな。道は俺が教えるよ」

「(コクン)」

 

そうして、ドレディアさんが居た部屋から退室する。

険のある態度もすっかり取れてるようだし(行動はまだ若干問題がありそうだが)

怖い事には変わりないけど、結構良いパートナーになれるかもしれないなぁ。

なんか強そうだし。どんぐらい強いんだろうかドレディアさん。

 

 

 

 

 

 

「あーここだよ、ここ。扉開けちゃっていいよ~」

 

ノックなんて単語はきっと知らないだろう。

普通に入ってもらおう。

 

「ディ~ァ。」

 

ガチャ

 

「博士ぇー、話は終わったよー」

「ぉぉー、ひょうかぁタちゅヤくゅん、ちょっちょ待っちょれー

 やっひょちょまってきたんずゃー」

 

もはや言葉が聞き取りづらい。どこまで出てんすか鼻血。

しかもそれだけ出て血液足りるんですか。

 

最後の言葉は【やっと止まってきたんじゃー】って言いたかったんだろうか。

まあ博士についてはどうでもいいや、普段から他のポケモンにも

ガブガブ噛まれてんの見てるし、慣れてんでしょ多分。

 

「じゃあドレディアさん、博士の事は放置でいいから

 ちょっとそこにあるソファーに座らせてもらえる?」

「ド~レディ。」

 

んで、ドレディアさんはソファーに歩いていってくれて

俺を背中から降ろし──────────いや。

 

 

背中に手を回して両手で持ち上げて

勢い良く俺をソファーにぶん投げやがりました。

 

 

しかし俺ももうここまで来るとなんか色々どうでもよくなっており

悲鳴すら上げずにソファーに墜落する。

家がぶっ飛んでると耐性出来るのね、人体って不思議だわ。

 

やれやれ、と思いながらソファーからのっそりと起き上がり

背もたれに体重を預けながら座った。

 

 

「ィァ…………」

 

 

おい。

ドレディアさん。おい。

あんたなんで驚いてんの。あんたが投げたんだろ。

瞳が【順応性早すぎんぞコイツ】って言ってますよ。

狙ってやるなや。静かに置いてくれよ。だから怖がられてんだっての。

 

「なんか仲良くなったのか、なってないのか微妙じゃのぉ」

「てか博士鼻完全に陥没してますよ。

 病院行かないと。それはさすがに。」

「ぉぅ、まあそーじゃな。でもまあ今ははなつっぺで十分じゃ

 病院は殴らんし逃げん」

 

どんだけドレディアさんに嫌がられてたんだよ。

てかドレディアさん、あんたも博士が近づいただけで顔に青筋立てないで。

 

とりあえず俺の将来はひとつだけ決まった。

痛い想いはしたくない=ポケモン博士にはならない。よし。

 

「まあ、この子……ドレディアさんは俺が連れてく事になりました。

 ちゃんと話し合って同意も貰えたので、多分なんとかなります」

「はっはっは、そうかそうか、タツヤ君なら安心じゃ。

 よかったのぉドレディア──────────あぶぇっ!!」

「…………#」

 

もう突っ込まんぞ、疲れた。

綺麗にリバーブロー?が入ってたが知らん。

 

「とりあえず今日はこの辺で失礼しようかと思ってます。

 他に何かやらなきゃいけないモノとかって、もうないですかね?」

「す……少し位、心配してくれても……

 や、やらなきゃいけないってのはないがのぅ

 わしからちょっとプレゼントは用意しておるよ」

「あ、本当ですか?ありがとうございます。なんかくれるんですか?」

「うむ、君は昔から聡いし

 ポケモンに関しても、並々ならぬ関心も知識も持ち合わせている。

 じゃから君にはポケモン図鑑を預けてみようと思っての」

 

おぉ、まさか図鑑がもらえるとは。

この世界だとポケモン図鑑は高性能過ぎて、量産が効きづらく

そこまで供給が無いものなので、渡される人員も結構制限されているのだ。

俺も以前レッドさんに見せてもらってやたらハイスペック過ぎて

うらやましいと思ったものである。

 

「……それにシン君に渡さないで旅立たせたら

 普通にリーグ制覇して戻ってきちゃったからの……

 物事は客観的に見ないほうが良いと思い返してな……」

 

まじかよ。

シン兄ちゃん、何者だあんた。

ステータスも努力値も知らないでテッペン取ったんか。

 

「まぁ、うん。未来なんて誰にもわからないもんですしね」

「それを踏まえても君の家族は色々な意味で強豪揃いじゃからのう。

 特にぶっ飛んでるのは君の母さんじゃなぁ」

「ええ、まぁ……」

 

 

朝方一瞬だけ話に上がったフーちゃんだが

実はあの子、他の人のポケモンなのだ。

そして母はバッヂを現在1個も持っていない。持っていないってか返上したらしいが。

それでもバッヂを持っていないなら普通は言う事を聴いてくれないのだ。

バッヂなしで言う事を聴いてくれるのはLv10までだったはずだしね。

 

じゃあなんで言う事を聴いているのか?

単純な話である。フーちゃんは母に平伏(ひれふ)したのだ。

母は殴ったわけでも怒鳴ったわけでもない。

瞳の力の威圧感だけでカントーの伝説ポケモンの上に立ったのだ。

 

……改めて思うと超こえぇー、なんなんだ俺の家族。

全員転生者なんじゃねえのこれ。

 

 

「まーそっちはどうでもいいです。俺の朝飯の献立以上にどうでもいいです。

 今ここで母のことを話しても何にもなりません。

 博士にも早く病院に行ってもらいたいし、サクっと貰って帰っていいです?」

「いまいち感動が無いのぅ、エリートとして選ばれたも同然なんじゃぞ?」

「素直に突っ込ませてもらうとただの安牌確保じゃないですか」

「ディ。」

「うぐっ……」

 

俺とドレディアさんの突っ込むような瞳に晒され

博士は若干声に詰まる。エリート?しらんがな(´・ω・`)

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「──────────ほら、これじゃ。

 これがポケモン図鑑じゃな」

「はい、ありがとうございます博士。

 これをくれたご恩は30分位忘れません」

「ディ~ァ」

「…………そうかい、まあ頑張っておくれ。

 わしも突っ込むの疲れたわぃ、鼻痛いし」

 

 

冗談ですよ。恩は忘れませんから。

多分。

 

 

そして博士も病院に行くために出て行き、ラボに一人残る俺。

俺が大人だったら機密だのなんだので、一緒に出なきゃならないのだろうが

昔から入り浸ってる顔馴染み。問題はないようである。

 

そしてカチャカチャパコパコとポケモン図鑑をいじっている。

ほうほう……ポケモンのナンバー、分布地、地図は当たり前として……

 

「カレンダー、時計、電卓、カメラ、家計簿、ストップウォッチ。

 方位磁石システムに食い歩きマップ、カントーのひ・み・つ★情報。

 沈没船の地図にご当地グルメ情報……」

 

 

なんだよこれwwwwwwwwwwwww

 

 

そしてふと、一番の便利機能に目が行った。

ステータスと努力値の棒グラフチェックである。

 

「これが凄いんだよなー、特に努力値。

 図鑑の持ち主は育成も極めて当然ってかぁ?知らんっつーの」

「──────────ディ?」

 

肩越しからドレディアさんが図鑑を覗く。

両手を俺の肩に置きながら覗いてくるもんだから

頭で想像するとドレディアらしさが非常に出ていてとても可愛い。

んだけど所詮ドレディアさんだしな……まあ可愛いんだけどさ。

 

「っと、そうだ。

 この機能、使って見ようか」

 

ドレディアさんも居るしな。

どういう図で表示されるかだけは覚えておこう。

 

「はーいよっと、チェックチェックでぽちっとな~」

 

ポチッ★

pipipipipipipipipipippipipipip

ピーン♪

 

「ディ?」

「ん、ああ大丈夫だよ。特に何もしてないから……

 どれどれ、ドレディアさんのデータは……」

 

 

 

 

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

No.549★突然変異★

ドレディア Lv15程度

 

タイプ1:くさ

タイプ2:かくとう

 

せいかく:クレイジー こうげき成長率+1.3倍 とくこう成長率-0.5倍

とくせい;いかく (バトルに出た瞬間に敵のこうげきを下げる)

 

親:タツヤ

 

こうげき:━━━━━━━

ぼうぎょ:━━━━━━

とくこう:━

とくぼう:━━━━

すばやさ:━━━━━━━━

 

現努力値

こうげき:+++++++++++++++

すばやさ:+++++++++++

 

わざ1:うまのりパンチ 連続技。おうふくビンタ、乱れ突きと同類

わざ2:がんめんパンチ 初代はっぱカッター並の急所率。急所に入ると高確率でピヨる

わざ3:ドレインパンチ 相手の体力を吸収する拳

わざ4:いばる      相手の攻撃を2段階あげてしまうが確実に混乱させる

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

 

 

 

 

「ふー」

 

パタン。

図鑑を閉じる。

 

 

 

なんだこれ。

なんなの、突然変異て。

ゲームシステム的に考えて、親が俺になってんのに

何で既に努力値振られてんの。意味わかんねぇ。

 

 

 

「よし、帰るか!!」

「ディ!!」

 

俺は思考を放棄した。

バグポケ?知るかそんなもん。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 破壊姫

 

先程研究所のラボで、初めての相棒であるドレディアさんの

ステータスのイカれっぷりを確認した後、なんとか頭の再起動に成功。

 

とはいってもあの時に発言した通り、まずは帰るだけなんだが。

確認した所で即座に旅立つとかどこのゲーム主人公や。

 

気絶した時間を除いても多分1時間はあの研究所に居たし

そろそろ母さんも帰ってくる頃ではなかろうか。

 

「しかし、ねぇ……んーむ」

「ディ?」

 

視線を横で歩くドレディアさんに目を向けると

なんぞや?といった感じに首をかしげる。

見た目だけはお嬢様なのでとても可愛い仕草である。

 

 

そして考えるはこの可愛いドレディアさんの、色々な意味での異常っぷりである。

前世でゲーム内容を覚えている限り、突然変異なんて言葉は

とんでもなく低確率で出てくる色違いのポケモンとかの事の様な気がする。

 

実際ニコニコ動画の某動画でも色違いの鯉王を自力でGETするために

えっらい回数釣り上げたり、卵作ったりしてた。

 

突然変異という名にふさわしい低確率なわけだが

このドレディアさん、色が違うってわけでもなし。

 

実際性格の見たまんまのステータスだったし、一体どういうことなんだろう?

 

「……あ。もしかして攻撃の高さかな?

 確かはなびらのまいが物理にしか見えないとかネタにされてたよな」

 

そのネタだけを考えるに、物理にしか見えないって事は

要するに特殊扱いの攻撃ってことだろう。

何度も言うが見た目だけならお(しと)やかな御嬢様なのだ、ドレディアさんは。

どう見ても物理特化のアタッカーには見えない。腕とかぺらっぺらやぞ。

 

けど、それにしたって努力値の数字でも

こうげき振りで凄まじいグラフの伸びを示していたしなぁ……

 

「とりあえずわからない事は先駆者に聞くのが常套手段だよなぁ。

 博士はいつ帰るかもわからんし、シン兄ちゃんに聞いてみよう」

 

ひとまずの状況整理も付いた。

コアユーザーでなかった分だけ、何が違っているのかわからん。

可愛いイメージしかなかったからなぁ、種族値とか把握してないんだよな。

 

 

 

 

 

 

「たーだいまぁー」

 

自分の家の玄関を開け、いつも通りの帰宅挨拶。

靴を玄関で脱ぎながら家の中へと入る。

 

「あーい、おかえりー」

 

一方家の中から聞こえるシン兄ちゃんの声は

普段から旅に出ていて家に居ないため、久しぶりすぎて聞き慣れない挨拶。

次はいつ行ってしまうんだかなぁ。

そして普段から聴き慣れた声は聞こえない、つまり。

 

「どこまで行ってんだろうねぇ、母さん」

「さぁねぇ……まあ空の旅は楽しいからね、ネジが緩んじゃったんだろうね。

 ところでそっちの子が、タツヤのこれからの相棒かい?」

「あ、うん。この子、ドレディアさん。

 まあシン兄ちゃんなら見た事もあると思うけど」

「うん、ドレディアは何度も見た事あるね、手持ちには居ないけど……

 今まで逢ったドレディア達は可愛く着飾られて凄かったなぁ」

「…………#(ビキッ)」

『ッえ……!?』

 

うぉおおおぉいッッ!?

なに青筋立ててらっしゃるんですかドレディアさんッッ!!

しかも若干ゆらぁりと動いてんぞこの子!!

なんだ、あれか?! 比べられたのが嫌だったか

着飾るのが軟弱だ、とかか!? 暴れられたら困る……!

 

……ッチ、効くかどうか判らんが───最終手段だッ!

 

「ドレディアさん、もし家族に手ぇ出したら……

 ……3日間ご飯無しね?」

「─────ッッッ!!?」

 

 

ご飯で縛りきれるか不安だったが

様子を見るからに、こうか は ばつぐんだ!!

あれか、お嬢、お姫じゃなくクレイジーだからこそか。

飯、重要なのか。ドレディアさん。

 

「えーと……タツヤ?」

「あ、うん……なんかこのドレディアさんって他のドレディアと違って

 すっごい変わってるらしいんだよ、苦労するぞー? って言われたし」

「ディアーーッ!! ドレディーアーーーーッ!!」

 

ドレディアさんがマジ泣きしながら俺の手を揺らす。

ああ、うん。大丈夫よドレディアさん。

『飯抜きはマジで勘弁してーーー!!』ですよね。多分。

 

「てな感じに普通のドレディアとは掛け離れてる感じ」

「ディ……#」

 

比べんな、ってか? そんな感じでの青筋かねぇこれ。

説明するにはまずそこからしなきゃならないんだし他にどうせぇっつーのよ。

勘弁してくださいドレディアさん。

 

「あ、はは……ま、気が強いって事だね。斬新でいいと思うよ、僕は」

「っていうか性格も聴いた事がない感じでさぁ。

 しかもなんかナンバーの横に【突然変異★ミ】とか描いてたんだよ」

「─────えーと、多分聞き間違いだよね?

 僕の耳おかしくなったかなぁ、突然変異なんてあるわけないよね?

 アッハッハッハッハ」

 

ところがどっこい。

 

「はい。ドレディアさんのステータス」

「う……うん」

 

読み込んでポケモン図鑑をシン兄ちゃんに手渡す。

そしてシン兄ちゃんはおもむろに図鑑を見ていって─────

 

 

 

 

 

 

パタン。

静かに図鑑を閉じた。

 

 

 

 

 

「こういう時、どんな顔をすればいいかわからないんだ……」

「笑ったら殴られると思うよ」

「やっぱり?」

「ディ。」

 

こら、腕をぶるんぶるん振るうんじゃない。

シン兄ちゃんも若干引いてるじゃねーか。

ドレディアさん、殴ったら飯抜きになるの忘れてない?

 

 

 

 

「─────まあとりあえず僕から言える事は」

「うん、お願い。何が突然変異なのかさっぱりわからないんだ」

 

さて何が違うのか……。

 

「ドレディアはそもそもが、くさ単体のタイプだよ。

 かくとうタイプが混ざってるなんて、聴いた事もない」

「─────えぇぇーー。」

 

そんなところから既に違うんかい。

 

「それに技の名前も見せてもらったけど……

 特にこの上の二つ、なんなんだ……? 全くわからないよ。

 性格がクレイジーって聴いたけど、技がダーティー過ぎるよ」

「ああ、やっぱそうなんだ」

 

うまのりパンチとがんめんパンチだっけか。

明らかになんてーか、技っていうより喧嘩屋の動きの事だもんなぁ。

KOFのラルフさんの超必殺っすか?

 

「ディァー?」

「ん?一体なんなんだ、って?」

 

えーと。どう説明しよ。殴られたくないし。

 

「─────ドレディアさんは凄い、んだってさ」

「……ッ!~~~」

 

あら、顔背けられちゃった。

若干顔赤いのわかるし照れてるんだな。

一応褒めた範疇に入る内容だったから、まあ照れるかな?

 

 

 

 

「─────ま、とりあえずは、うん。

 全部だね、全てが『有り得ない』の一言だよ。

 凡人で終わるか、超越するか、全然わからないね」

「ま、そりゃそうだよねぇ。でも俺はやり方次第じゃ化けるとは思ってるよ。

 実際親しい人間に全力で顔パンやっちゃう子だし……」

 

オーキド博士も顔面陥没させられて今病院だwwwって言ったら

シン兄ちゃんはあとずさりまでしてしまった。

 

 

正直なところ、俺の素人観点からすると化けるとしか思えない。

聴く限りだとドレディアって種族はとくこうに強さがある子達ってわけだし

そんなのがいきなり物理攻撃でぶん殴ってくるとか

予想外すぎる事にしかならんっしょ。

 

勝負事の世界で生きていく場合は、どういう形であっても不意打ちとかって大事だからね。

 

「んー、そだねぇ……強さの段階もLv15付近なら……

 僕のパソコンの中に居る子たちと少し戦わせて、どんなものか見てみようか?」

「ぉー、初バトル? 助かるよ、シン兄ちゃん。

 このまま外出したら下手したら世紀末化しかねないと思ってたから」

「…………ァア゛?」

 

うわぁ、やっべぇすごい顔でメンチ切ってこっち見てるー。

やめてー。やーめーてー。仕方ないだろー。

どうやって考えても野良のポケモン血祭りにする光景しか見えてこないよー。

 

「あ、ははは……まあ、ちょっと部屋でパソコンいじってくるよ。

 少し待っててね、ドレディアちゃんとタツヤ」

「あーい、わかったー」

「…………ディ」

 

 

そう言ってシン兄ちゃんは2階に上がっていった。

ひとまずの会話の区切りが付いたためか、ドレディアさんも

こちらをガン見するのは一旦やめたようである。

 

準備するもん殆どないけど、適当に考えてみるかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

てか母さんいつになったら帰ってくんのさ。洗濯物、まだ洗濯機だよ?




ギャラクティカファントム、ロマンあってかっこいいよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 ひでえ

と、言うわけで。

 

シン兄ちゃんとの勝負のために

俺とドレディアさんは、家の外に出てきた。

さすがに家の中でバトれる程、この世界の家は頑丈ではないのです。

 

 

 

 

 

 

「つーわけで初バトルー」

「ディーァ~」

 

パチパチパチ

適当に拍手してみた。もちろんそれを見る者など誰も居ない。

さて、シン兄ちゃんはまだ下りてきてないわけだが

ひとつだけドレディアさんに確認しておきたい事があったのだ。

 

「ねぇ、ドレディアさん率直にひとつだけ聞いていい?」

「ァー?」

「俺の指示聞く気ってある?」

「ディァ」

 

まあそーだよねぇ。うん

 

俺はさっきからドレディアさんとは会話が成り立っている。

その上で、瞳から見るドレディアさんの意思は。

 

【知らん。】

と言っていた。

 

「あい了解。好き勝手にやっちゃっていいよ。

 俺も元々ドレディアさんが言う事聴いてくれると思ってないし」

「ディ!!」

 

指示を聞かない旨を、快く快諾する俺。

そしてそれを聞き、胸を張って自信満々に俺にえばり散らすドレディアさん。

さすがクレイジー。そこに痺れる憧れるとでも言うと思ったか。

 

 

まあ、なんていうか実は出会った初期から

指示を飛ばす事に関しては諦めていたのでしたとさ。

 

あくまでも感覚だからわかってもらえないかもだが

最初にもらうポケモンってLv5でしょう。

Lv100とLv5じゃ殆どの場合勝負にならん。

つまりはLv5はヒヨコなわけで。

ジュウシマツ住職がニャーンって言っちゃうレベルだ。

 

 

変な雑念が混ざったが、それはとりあえずトイレに置いといて。

もらった時点で初めてトレーナーとなる主人公勢も

駆け出しって意味じゃ、貰うポケモン達と立場が一緒なわけでしょ?

 

この世界、具体的な数字では現れないが

レベル表記だけは数字が表現として使われる。

信頼率は88%と言われている位には高い。

稀にLv30程度という表記だったとしても

Lv50相当の動きをする子もいるにはいるらしいが、それはあくまでも例外。

大体はマシンで評価されたレベル程度の動きをするそうだ。

 

そして図鑑で見た限りドレディアさんはLv15程度とのこと。

明らかにひよっこじゃねえだろこれは。

『一緒に成長していくよ★』とかそういう話はゼロに近いと思っていた。

 

こんな地味な考察を帰り道がてらにしており

ならばせめて、ドレディアさんの酷すぎる無茶振り以外は

許容していこうと、マイナス方向で覚悟を決めていたのだ。

 

多分瞳の意思見る限り間違ってなかったし。

 

 

 

「や、お待たせ。少し時間かけちゃったかな?」

 

─────っと。

少し考え込んでいる間にシン兄ちゃんの準備が整ったらしい。

玄関からのんびりと歩いてきた。

 

「待たせてごめんね、ドレディアにタツヤ。

 とりあえずLv15に一番近い子だったからこの子にしたよ」

「まあボール見せられても俺にはわからないんですがね?」

「あはは、まあそうだね」

「(フンスフンス)」

 

ドレディアさんは【誰であろうがぶっとばす!!】という感じに

荒い息を巻いて右腕に相当する草をグリングリン回している。

 

「それじゃ、始めようかぁ~」

「わかった、それじゃドレディアさん頑張ってね」

「アーッ!!!」

 

気合入った返しなんだろうけど……

その言葉は文章面だけだと、明らかにやられフラグですよドレディアさん。

 

まぁそんなこともあるまいな。

いくらシン兄ちゃんのポケモンとはいえ

ドレディアさん明らかにぶっ飛んだ規格外だし。

どこぞの世界のジョンス・リーさんの如くフラグなんてぶち折るんだろう。

おそらくは───これからも。

 

「じゃ、俺はそっちの隅っこで見てるから自由にやっちゃって」

「……えっ? いや、タツヤ何言ってんの?」

「いや、なんかドレディアさんさ~……

 俺の指示聞く気なんざネェヨーっつってんだよね」

「─────へぇ。 そうか……そうなのか」

 

おぉぅ、シン兄ちゃんの顔が歪んだ笑みに……。

まさかドレディアさんをぶちのめしてしまうつもりだろうか。

出来る確信があるのか兄ちゃん?

 

当のドレディアさんはシン兄ちゃんの笑みに気づいていない。

シャドーボクシングの様な動きをして万全の体勢だ。

 

…………多分、ドレディアさんは俺をそばに置かなかった事を後悔するんだろうな。

あの笑みは……あの笑みを浮かべたシン兄ちゃんは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やばい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あはははは。

アハハハハハハハハハハハハ。

 

そうかそうか、うん、オッケーだ。

フフフフフフ、タツヤは悪くないな、アハハハハハハ。

 

 

ドレディア……、それじゃぁ駄目だよ?

全ての人にそれを適応させろと言える程、僕は傲慢じゃないつもりだけど……

それだけは、駄目だねぇ~……。

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、楽しいなぁ。

愉快だよ、アッハッハ。

ドレディア……、タツヤが居なくとも

僕程度になら余裕で勝てる、と思ったんだね?

 

 

僕を、ナメたんだね?

 

 

 

 

良いだろう、多分今後のタツヤのためにもなる。

その長すぎるプライドの鼻っツラ……

 

 

 

こわして

あげるよ

 

 

 

 

 

 

「さぁ、始めようかぁ?フフフ」

「ドレーディァッ」

 

ドレディアさんはよほど自信満々なのか右手を上げて

人間で言えば指でちょいちょいとする感じで不敵な表情をしている。

 

さて、シン兄ちゃんは何を出すのか……

 

「選んだのが君でよかったよ、僕は後悔しなさそうだ……

 さぁ、行ってくれ───

 

 

 

 

 

 ────バタフリー!!」

 

ポコン。とボールが地面に放物線を描いて落ちる。

ぺかぁああん

 

「──フリィイイイイイ!!!」

 

見紛う事なきバタフリーだ。

俺も彼は良く知っている。まあアニメでだけどもね。

ガキの頃に見てたアニメってのは良く覚えてるもんだよねぇ。

 

ドレディアさんは【どいつが来たって同じ事だぜ!!】と言わんばかりに

臨戦態勢を取り始めた……あれ臨戦態勢なのかな、多分そうだろうな。

物凄い低姿勢で、まるでクラウチングスタートの様である。

 

 

ん……あれ?

バタフリー、バタフリー……彼って確か念力使ったよね。

うろ覚えだけどこれは間違いないし、見た限りでも

むしタイプかひこうタイプか、その念力からしてエスパーだよね。

確か飛行って、かくとうタイプの弱点じゃなかったっけ……

エスパー属性もかくとうの弱点だったはずだし……

じゃなきゃ初代のヤマブキシティだっけ? の道場、ナツメさんに

ジムリーダー権限取られてなかったはずだよね。

その手の発想で考えるんなら、くさってむしの主食だよな?

 

 

……まぁ、負けたなら負けたで別に良いか。

上には上が居るって知るのもいい機会だと思うよ、ドレディアさん。

 

ついでだからバタフリーの情報見せてもらうか。

 

簡略情報表示、っと。

pipipip

 

バタフリー Lv18程度

 

簡略過ぎだなぁ。

まあゲームでも人のポケモンで見れる情報なんて

HPバーとレベルと名前位だよね。ある意味現実的だ。

 

 

さて、ドレディアさんはどうするのか……

お、動い───って、うわスゲェなんだよあれッ!?

 

ドレディアさん、さっき表現したクラウチングから

なんとロケットの如く凄まじい速度でバタフリーに突っ込んでった!!

ロケットずつきじゃないよねあれ!?

 

っと、さすがにそれは無いっぽいな。

ブレる位早いけど腕振りかぶってんの見えた。

あれはドレインパンチかがんめんパンチかな。

 

 

「ッレディアァァァッッ!!!」

「バタフリー!!自分の位置にしびれごなを撒いた後に『跳べ』!!」

「ッリィイィイン!!」

 

おおぉ、あのバタフリーも負けてないな。

見事にシン兄ちゃんの指示通りに動き切った。

跳べって指示は上に行けって事だったのね。

 

おかげさまでうちのドレディアさんは攻撃が見事にスカった上に

しびれごな地帯に一瞬突っ込んでいる、あれは麻痺が入ったのかな?

 

 

あ、入ってるっぽい。なんか若干動きがゆらぁ~ってしてる。

 

って、ちょwwwwwドレディアさんなんで顔に傷あるのwwwww

 

あれかな、凄い勢いだったし飛び膝蹴りみたいな自爆判定受けたのか?

人間で言えばすりむけてる程度の汚れが付いている。

ダメージ的にもちょっとって感じだろうか。

 

一手目は完全にシン兄ちゃんのモンだな、さすがリーグ頂点に立った人だ。

自慢出来る兄貴である。キャーシンサマー

 

 

「ッレディァァァァ……」

「バタフリー、次はドレディアの周りを中距離で回転しながらだ!

 ねんりき!!」

「フリィィィ!!」

 

どうやらドレディアさんは麻痺しているせいでうまく動けないらしい。

その間にバタフリーはなかなかに素早い動きで

ドレディアさんを円の中心にしつつ動き回っている。

 

「アッ……!ァァァ゛ア゛ア゛ッッ!!」

 

そしてねんりきも直撃したらしい。

ドレディアさんが頭を抑えている。若干痛々しくなってきた。

って……

 

 

「あれ……?」

 

 

見間違いだろうか?なんか……

ドレディアさんにものっすげぇ黒いオーラみたいなのが見える。

顔も半分位、陰っている。そしてその陰っている部分から目が怪しく光っている。

イメージでしかないが背景からゴゴゴゴゴゴゴゴとか聞こえてきそうだ。

 

シン兄ちゃんに目を移してみると……どうやら見間違いではないようだ。

若干驚いているのが見える。

 

それでもそこまで動揺していないらしい。

家ではドレディアさんがバイオレンスな動きをする度に怖がってたのに……

そういえばうちの兄貴に限らず、この世界の住民は

大体の人がバトルジャンキーが若干混じっているんだっけか。

グリーンとかうざったいほど酷かったし。

 

 

 

 

「…………ッレ、ディ───」

「ん?」

「え?」

「……フリィ?」

 

麻痺状態のドレディアさんが、またゆらりと動く。

その動きはとても緩慢で───

 

 

 

 

 

 

「───ァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

黒いオーラを纏いつつ、呟いた後雄叫びを挙げた。

 

と思った次の瞬間。

 

 

ズドンッ!!

 

 

なんとドレディアさんはその叫んだ一瞬で

バタフリーとの距離をゼロまで持っていった!!

 

「ちょっ、嘘ぉーっ!?」

「んなぁ!?」

 

 

ガッシィッッ!!

 

「フリッ?!フリィイイィィィィッ!?」

 

ドレディアさんはその期を逃さず、喉輪の如く片腕でバタフリーの首を捕らえた!!

 

おいおいマジかよっ……!? 麻痺しててあの速度か!?

既に完全にドレディアさんの距離だ。

バタフリーももがいてはいるが…これは無理だ。

ドレディアさんは逃がす気なんてこれっぽっちもなさそうだ。

 

 

そしてドレディアさんは掴んだ勢いのまま、バタフリーを地面に押し倒し─────

 

 

「─────ァァァァァァ、

 ァァァァ ア ア ア ア ア ッ !!

 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーッッッ!!!」

 

完全に殺し切るために、あの技へと移行したっ!!

 

       ゴスッ!!  ゴスッ!!

 

「リ゛ッ、リ゛ィッ、フリ゛ィッ!」

 

 ゴスッ!!      ガスッ!!

    ゴッ!!         ゴスッ!!

 

 

バタフリーが苦悶の叫びを上げてもドレディアさんは一切力を抜かず

うまのりパンチの応酬は無慈悲に続いて行く。

 

 

「ばっ、バカなッ……!

 耐えろバタフリー!! 頼むッ!!

 耐えてくれぇーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

 

「リ゛ッ……!リ゛ィ゛ッー…

 フ、リ゛ィッ……」

 

 

「ァァァ゛ア゛ア゛ァ゛ァァァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーッッッ」

 

うまのりパンチが完全な形で入り続けているっ……!

一切手加減が無い、ひとつひとつが凄まじい威力だ。

 

    ガスッ!!

            ゴスッ!!

 

ま、まだ入るんかっ!? いつ止まるんだあれ!!

 

 

 

 

 

「ッ……────────」

 

あ、止まった。

やってる最中に麻痺が発動したのか……?

もしくはバタフリーを倒し終わって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バタフリーねんりきッッ!!!」

「……

 

 

 ─────フ。

 

 

 

 リ゛イイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おおお、止まった一瞬でバタフリーがねんりきやりだした。

バタフリーの上に乗っているドレディアさんがガクンガクンとゆれている。

つーかあの攻撃に耐えきったのかバタフリー。

 

確かにねんりきなら倒れながらでも集中すれば出来るもんな。

その隙を逃がさなかったシン兄ちゃんもシン兄ちゃんでやっぱり凄い。

 

「……ッ゛、アッ……」

 

そしてその一撃が致命的だったのか、ドレディアさんは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レ……ディ……─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬乗りの状態から……

 

 

 

 

 

静かに、横に崩れ落ちていった……




勝つと思ったの?
ねえ勝つと思ったの?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 挫折姫

俺の手持ちによる初バトルは、俺の負けで終わってしまった。

まあ俺の初バトルなのに俺が試合に一切干渉していないんだが。

 

あれだけイカれた性能のドレディアさんは、普通のバタフリーに討ち取られた。

 

無理なものは無理という事なのだろう。

いくらチート気味とはいえ、ドレディアさんはたった一人のドレディアだったのだ。

 

「っふー……」

「シン兄ちゃん、お疲れ様」

 

シン兄ちゃんは深い溜息をついていた。まあ、そりゃぁそうだろう。

 

「正直最後のあれは、さすがに負けを覚悟したよ……

 攻撃が入る前にもう、やられたらやばいのが丸分かりな気迫だったからね」

「うん、俺もあそこまで無茶苦茶な動きするとは思ってなかった」

 

いくらドレディアさんが素早いと言っても

あれは一般的なポケモンの『素早い』って概念を越えてないか?

 

「しびれごなで麻痺もしていたはずなんだから……

 従来の素早さから数字が半減しているはずなのに……さすがは突然変異、だね」

 

まさに瞬間加速装置と例えられる速度だった。

 

「それに、あの黒いオーラが出てからはプレッシャーがとんでもなかったからね。

 絶対負けたくなかったから、こっちも必死だったよ」

「そう考えるとバタフリーは本当によく頑張ったんだなぁ」

「ああ、本当に……よくやってくれたよ。ありがとう、バタフリー」

「フリィ♪」

 

ぼろべろなのになんという健気な事か。

シン兄ちゃんが頭を撫でたら可愛い声を一鳴き。

 

っと、和んでないで俺もドレディアさんを運ばないと。

博士からドレディアさんのボールもらうの忘れたから、手でベッドまで運ばないとならない。

 

「じゃ、俺はドレディアさん運ぶよ」

「わかった、バタフリーもおいで」

 

シン兄ちゃんはバタフリーに赤い光線を当て、ボールに戻す。

 

「しっかし最後の攻撃、バタフリー良く耐え切ったもんだね。

 防御方面に育ててた子なの?」

 

俺はドレディアさんをお姫様抱っこしながら聞いた。

あ、ちょ、重い。ドレディアさんマジ16㌔。

子供の腕力にはきついっす。ヌゴァー

 

「いや、この子はそこまで思案して育てはしなかったんだけどね。

 実際勝負全体を考え直しても、運が重なり続けてようやく勝てたってだけさ」

 

あれ、そうなんだ。

俺が感じた限りだと、どこで運が重なったのか全然わからない。

 

「開幕のしびれごなだって完全に運だしね。

 あれは掛かってくれないと勝負が成立しなかった可能性もあったと思う」

 

ああ、そう言われれば確かにそこは運だな。

やはり一度リーグを制覇した人だ、客観的な視点を持ち合わせているのだろう。

俺はうんうんとうなずいた。

 

「その後のしびれた影響での動きの遅延もだし

 一歩間違えれば、こっちが負けていたのは間違いないと思うよ。

 それに決定的だった要因が二つあるから、そこも重要だね」

「二つも……?」

 

一体どこの事だろう?

俺は前世でやったポケモンでも、パワーファイトでゲームクリアした一般ユーザーだから

攻略やら戦略やら、少しややこしくなると話がさっぱりなのだ。

 

「一つ目は、おそらくだけど最後のうまのりパンチがかくとうタイプだった事だと思う。

 バタフリーはかくとうタイプの攻撃は、タイプ的にとにかく通らないようになってるんだ」

「あーだから耐え切ったのか、でも8発も攻撃してたしな。

 かなりやばかったんだろうね」

「あぁ……。ずっと続くと思っちゃったから、そこだけは本気でやばかった。

 指示が遅れてたら、って考えるとゾっとするよ……」

 

それにシン兄ちゃんの場合、客観的に見てた俺と違って

あの禍々しいオーラを背負った状態のドレディアさんだったわけだしな。

あれは本当に気圧される。敵として遭ってたらトレーナー戦でも逃げ出しそうだ。

 

「そして2つ目だ、これが彼女には致命的だった。彼女は──『ひとりだった』から」

 

なるほど、そこか。

 

確かに良く考えればそのとおりだ。

あそこで指示する人間、つまり俺が戦いに参加してたら

結果も色々と違ったものになっていたかもしれない。

一応の準備としてきずぐすりも1個あったし。

試合に参加してないって感じが強くて使うのを忘れていたが……

 

「どうやらその顔を見る限り、【if】の可能性でこそあるれけど

 他の可能性についてはしっかり考えているみたいだね」

「うん、例えば俺がドレディアさんにいばるを指示したら

 これも確率なんだろうけど……その時点で勝負が付いていた可能性もあったんだろうね」

「そのとおりさ。世の中──ひとりじゃ限界があるんだから」

 

そっか。まあ、そうだよな。

一人より二人のほうが、出来る事の幅は広がる。

 

「ともあれ肩の荷も少し下りたよ。

 これでドレディアも傍若無人な振る舞いが少しは収まると思う」

「あれ、そんなところにまでこの敗北の効果って生きるんだ」

「ああ、彼女はいつもひとりだったんだろう。

 今までもそれで生きてきた、生きてこれたんだと思う。

 だからこそタツヤの指示なんていらないと思ったんじゃないか?」

「なるほどねぇ……」

 

ひとり……か。

俺も似たようなもんだから少しわかる……かな。

転生だか憑依なんて綺麗な言葉、うらやましい言葉と聞こえるかもだが……

実際はそんな事は無い。これは断言させてもらおう。

 

産まれ落ちた世界とは常識自体が違う世界。

そこの世界の常識は持ち込めず、なおかつ年齢通りの子供のように振る舞わなければ

すぐさまに気味悪がられ、世間と周りから放逐される。最悪、ゴミのように駆除される。

 

以前の生活での『当たり前』が『異質』になり

今まで培った『知識』が『迫害の原因』になる。

 

戻りたくても戻れないむなしさ。

 

同類も居ない絶望。

 

探す事すら出来ない鬱憤。

 

今考えると、良く気が狂わなかったものだと思う。

 

「ドレディアは、その一人である事が完全にアイデンティティーになってたろ?

 ああいう天狗状態は、一度その鼻っツラを根元からぶち折らないと

 絶対に直らないもんだと僕は思ってる。

 僕自身も経験してるからね……挫折は二度三度じゃきかないよ」

 

テッペン取った兄ちゃんですら、か。

あ……もしかしてあれかな? バトルフロンティアとか言うところか?

 

「意外だなぁ、俺から見たらシン兄ちゃん完璧超人なのに……

 バトルフロンティアって施設にでも行ってたの?」

「いや、行ったけどあれは挫折には入らないと思う。

 ……一度目は、あれだよ。……母さん。」

「…………さいですか。

 もう語らなくていいよ、細部がわからなくても大体理解した」

 

傷口を自分から広げてもらう事もなかろう。……ん、傷口?

 

「それじゃあ、ドレディアさんも同じような状態かもしれないって事か」

「うん、まあ僕は挫折から自分で立ち上がるのに

 周りに人も沢山いたからすぐに立ち直れたけど……

 彼女は人が居ないのが当たり前な環境だっただろうし。

 ちゃんと相棒としてケアしてあげなきゃ、ね?」

 

そしてシン兄ちゃんは家に入るために俺と擦れ違う際に

ポン、と肩を叩いてくれた。

 

頼り甲斐のある兄ちゃんである。ありがとうございます。

 

 

 

 

「ぬ、ぐぐ、ォォォォ」

 

きっつい、きっつかった。

お姫様抱っこ状態で階段上がるのは本当きつかった。

そこで目を覚まされたらぶん殴られかねないし。

既に腕が限界超えてます。筋トレちゃうねんで! 

 

「ぐっ、ったぁー」

 

それでもなんとか、ちっぽけな男のプライドを使い切り

衝撃があまり来ないようにドレディアさんを自分のベッドに下ろす。

 

「ふー……」

 

とりあえずの任務は完了。

デコに出た汗をぬぐいつつ、俺も勉強机の椅子を引っ張り出して着席する。

そしてベッドに卸したドレディアさんを改めて見下ろしてみる。

 

「……こうやって寝てりゃ可愛いもんなんだけどなぁ」

 

新作のポケモンやってない俺でも彼女の存在は知っていた。

対になる形のエルフーンも凄い可愛かったしね、うん。

 

寝てる姿からは今日見たダーティーな動きをするドレディアさんは

欠片も想像する事が出来ないわけで──

 

「──ん?目、覚めたかい」

 

どうやらようやっと意識を取り戻したらしい。

ドレディアさんが、ゆっくりと目を開いていく。

 

「…………ディ?」

 

横に寝かされたベッドの上から、顔だけこちらに向け

【私はどうしたんだ?】といった感じにこちらを見てくる。

 

「体は大丈夫? 外傷こそ殆ど無いけど……」

「ディァ~……」

 

やはりかなりきつそうである。まあゲーム概念的にゃHP0なのは間違いないしなぁ。

それに、やはりしっかりと結果も伝えなければならんよな。

俺は、彼女のトレーナーになったのだから。

 

「ドレディアさん」

「……?」

「……君は、負けたよ」

「ッッ!?」

 

ドレディアさんは俺の言葉を聴いた瞬間に寝ている体をガバッと起こし

こちらに詰め寄ろうとして───バランスを崩し、ベッドからよろめく。

俺は即座に椅子から尻を浮かせ、ドレディアさんの体を捕まえて支えた。

 

「っとぉ。駄目だよドレディアさん。

 完全に気絶するほど攻撃食らってるんだから」

「デ……ィ……」

 

認めたくないのに体が思うように動かないほどダメージがある。

だからこそそれが事実なのは、本人も理解しているのだろう。

 

「ほら、ゆっくりベッドに座って。今はゆっくり休まないと、ね」

「…………」

 

それでもこれに関しては現実から目を背けてもらうわけには行かない。

やはりトレーナーとして、相棒として言わなければいけないようだ。

 

「─────なんで、負けたと思う?」

「ッ……。」

「なんで、勝てなかったと思う?」

「ディ……ァ……」

 

ドレディアさんは、少し俯いてしまう。

俺に問われた事で多分、生を受けて初の敗北と

向き合わなければならなくなったのが辛いからだろうか?

 

 

 

 

なら、俺はこう伝えよう─────

 

 

 

 

「──別に、負けてもいいんだよ」

「──……ディ?」

 

そうさ、負けたって良いんだよ。

 

「負ける事は別に悪い事じゃない、

 悔しいかも知れないけど、それ以上に伸びる可能性だってあるんだ。

 一番駄目なのは負けた事を負けたままにする事だ」

「…………。」

 

ドレディアさんがここで負けた事を認めず、今日の勝負を無かった事にしたら

それはずっと勝負に負けたままと同意なのだ。

相棒として、ここで彼女を立ち止まらせる訳には行かない。

 

「確かにドレディアさんは強いんだろうさ。

 シン兄ちゃんも肝を潰してたし、俺だって凄い驚いた。

 けど、それでも負ける時は負けるんだ。

 ドレディアさん、君はそれについて認めないといけない」

「ッ…………」

 

認めてもらえないと、俺と彼女はこれから先───ずっと、進む事が出来ないだろうから。

 

「負ける事は、嫌かい?」

「……ディ(コクン)」

「ドレディアさんは、強いよね」

「…………。」

「──ずっと、一人のまま戦いたいか?」

「ッ!!(フルフル)」

 

彼女は、ついに泣き出した。

 

瞳から涙がどんどん溢れてくる。

もしかしたらトラウマに触れているのかもしれない。

しかしこのまま済ませては、何も得る物が無い。

 

「いくら強くても一人じゃ、限界があるんだよ。

 一人が悪い、とは俺も言えない……でもさ、

 

 

 

 

 ───このまま一人で居続けたら、君はいつまでも負け続けると思う」

 

 

 

「ァ……ア……ァァァ……」

 

 

 

ドレディアさんは、今日見た振る舞いからして

頑ななプライドを持っている事が容易に想像出来る。

そしてそれは、譲れない戦いを行ったシン兄ちゃんに完璧にへし折られたらしい。

俺の最後の一言を聞いて、彼女は顔を手で伏せ声も殺さず泣き続けている。

 

 

 

……やれやれ。こういうしみったれたのは苦手なんだが。

 

 

 

「一人じゃ、さ」

 

 

 

「…………ディ?」

 

ドレディアさんは顔に伏せていた手をどけて、その泣き顔を俺に向ける。

 

涙も、まだ止まらないらしい。

俺もドレディアさんを真正面から見据える。

 

「一人じゃさ、無理な事が沢山ある。

 でも二人なら、無理な事も減ってくるんだ」

「─────」

「ドレディアさんは、負けたくないんだよね」

「─────ディ(コクン)」

「俺は、今日、君のトレーナーになったばっかりだ。

 右も左もわからない初心者だけど……それでも、君のトレーナーだ。

 きっと、君が負ける事を少しでも減らす事が出来ると思う。

 ドレディアさん、君はもう───『ひとり』じゃない」

「───……ッッ。」

 

まだ日の光が涙に反射しているが、ドレディアさんは新たな涙は流れなくなったようだ。

 

 

 

なら、改めて伝えよう─────

 

 

 

「ドレディアさん、俺は、君の、相棒だからさ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───『ふたり』で一緒に、歩いて行こうよ」

 

 

 

 




青臭いですかね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 旅日記

 

俺がドレディアさんと向き合ったその翌日。

 

俺とドレディアさんは、マサラタウンから旅立つ準備を入念に済ませ

そして今まさに、家から旅立とうとしている。

玄関には、昨日「僕もそろそろ旅に出るかな」と呟いていたシン兄ちゃん。

 

 

 

 

え、母さんはどうしたって? なんか帰ってこなかった。

思考がぶっ飛んでるのは前々からだったが、1日帰ってこない事は非常に珍しい。

おかげで飯は子供と生活能力が薄い兄と一緒に作った。

家庭料理のプロでもないので内容はちょっと貧相なものでした。チクショウ

 

 

ちなみにいきなり翌日に時が飛んでいるが

昨日あれから何も無かったというわけではない。

 

ただ、今までの日常をぶっ壊してくれるドレディアさんは

バトルで負った怪我を癒す為に俺の部屋でずっと寝ていたので

他に記述するような事がオーキド博士のとこ行って

ドレディアさんのボールを回収する事位しかなかったのだ。

あとは適当にテレビ見て、ドレディアさんにも飯持ってった位である。

 

まあ、持ってった時も寝てたから俺が食ったけど。

そのちょっと後に起きて、食器に気づかれて、説明したら殴られましたけど。

でも寝ていたせいか腹はそこまで減ってなかったらしく

そこそこの説教で勘弁して頂けました。

 

そして今日の朝食は一部掠め取られた、俺の食事に何をするだァー!

ちくせう、覚えてろドレディアさん、飯の恨みは3倍返しだ。

 

 

「それじゃぁ、俺らはそろそろ行くよ」

「ドレ~ディァ」

「うん、行ってらっしゃい。

 俺の居る間に母さんが帰ってきたら、旅に出たって伝えておくよ」

 

まぁシン兄ちゃんもいつ空の下に戻るかわからないし、書置きは用意しておいたけどね。

シン兄ちゃんも旅に出る場合、それをテーブルに置いてくれるよう頼んでいる。

 

ところで何故旅に出るか、だが。

実は今日の飯の後に決まった。まさかのハレのちグゥ展開。

 

俺は適当にそこら辺で野良ポケモンとバトって

のんびりと成長していくドレディアさんを見れるだけでも十分だったのだが

飯が終わった後に話し合った、というより意思を汲んだ結果、

 

直訳

「いつかお前の兄貴しばき倒したいから

 もっと別のヤツと戦って臨機応変出来るようにすんぞ!

 おめー相棒っつってたんだから付き合うよな?な?」

 

といった感じで、下手をすれば鉄拳制裁を喰らいそうな勢いで詰め寄られた為

簡易レジャーセットを用意し、旅に出る準備をスパパパパッとしたわけである。

 

ちなみにこの簡易レジャーセット、合計5kg。

この世界、旅に出ている人がムダに多いせいなのか

携帯性とか、そこら辺の技術がかなり突出してます。

自転車で海を走れるようになるとか、間違った進化でもしそうである。

 

 

 

 

 

 

「ところでタツヤ、最初の目標はどうするんだい?」

「ん?別にないよ」

「えっ」

「えっ」

「レッ」

 

最後のはドレディアさんである。

 

「いや、目標もないのに旅に出るのかい?

 それはちょっともうフリーダム過ぎるというか、なんと言うか……」

「うん、まあ俺個人の目標なんてのは別にないんだけどねー。

 ポケモンマスターとか、なりたい人がなればいいと思ってるし。

 俺は正直ドレディアさんのトレーナーとして彼女の旅に付き添うだけだよ」

「ディーァー!」

 

ドレディアさんはシン兄ちゃんにシャドーボクシングをしている。

つってもまあ、子供が腕を前後にシュッシュッとやるのと何も変わらんが。

 

「あはは、目を見れば大体何伝えたいのかはわかるよ」

「うん、多分【絶対そのうちぶっ飛ばすから覚えておけ】って言ってると思う。

 今朝も似たような事俺に向けて伝えてたし」

「うわぁ、怖い。

 でもまぁ、ポケモンバトルなら負けないからね?

 ───……簡単に勝てると思うなよ、いつでも掛かって来なさい」

 

わぁ★

シン兄ちゃんとドレディアさんの間で目に見える火花が。

俺のストレスがマッハでやばい。誰か胃薬ください。

ポケモン用の傷薬なんていらねーから。

 

「あーもうあんたら2人、隙間で挟まれる俺の事も考えろコノヤロウ。

 とっとと行くよドレディアさん」

 

ガシッ

 

「レッ!? レディァ!? アーッ!!」

 

俺はじたばたするドレディアさんをずるずると引きずっていく。

昨日の出会いから鑑みて、おそらくやっと俺のターン!!

 

シン兄ちゃんも玄関で柔らかい笑みを浮かべて、俺らに手を振ってくれている。

有難い見送りだ。必ず成長して帰ってくるから、見ててくれ!

 

 

 

 

 

 

さて、そんなこんなでマサラタウンを出発し、はや4日。

いきなり日時をすっ飛ばすので、旅に出てから付け始めた日記を開いて

過去を遡ってみようと思う。

 

 

 

『1日目 晴れ

 

 今日から(ドレディアさんに巻き込まれる形で)旅に出る事にした。

 ゲームだとたったの1分も掛からない距離なのに

 現実だと4,5日掛かる距離と知っていきなり絶望した。

 

 トキワシティに向かう途中、土手を見つける。

 道行く人から「土手を使うとマサラタウンに帰るのが楽だよ!!」と言われる。

 こんなちっぽけな土手を超える事が出来ないなんて納得が行かないので

 試しにドレディアさんに自分を投げてもらってみたら普通に登れた。

 そして投げたドレディアさんは一回ボールの光線で回収し、再び出す。

 これ登山か何かに使えねぇかな。』

 

『2日目 曇り

 昨日は旅の初日だったのもあって浮かれていた様である。

 気づいたら昨日1日、ゲームのくだらない常識をドレディアさんと共に

 ぶち壊す事に白熱していて、旅の歩みが全然進んでなかった。

 

 道を歩いていると突然ポケモン図鑑が鳴り出した。

 モンスターでも出たのかと思ったら、画面を見ると「オ・ト・ク★情報★」。

 一体何事だと思い仔細を見るため画面を進めると

 「近くにアイテムが落ちてるヨ!!」と出ていた。

 なにこれダウジングマシンじゃん。マックスアップが近くに落ちていた。

 

 使おうとも思ったのだがドレディアさんの努力値が振り切れている気がしたので

 持ち主を探したところ案外近場で困っている大人を発見。

 聞いてみると持ち主だった。渡したらえらく感謝された。

 まああれ高いしね、お礼にモンスターボールを1個もらった。

 捕獲可能なボールを1個も持ってなかった事に気づいたので、助かった。

 ドレディアさんからの【さすが私の相棒だ】という視線がうれしかったので

 今回の件は、お値段プライスレス。俺うまい事言った。』

 

『3日目 槍

 今気付いたら昨日のマックスアップは努力値を上げるものではなかった。

 今更ながら使っておけばよかったかもしれない、と若干後悔。

 

 とりあえず昨日はだいぶ距離を稼げたと思う。3日目で既に旅の自炊に慣れてきた。

 

 そこら辺の草むらで今日の朝飯の山菜を取得するため

 ごそごそ探していると、初めて野良ポケモンのポッポと遭遇。

 ちょっと感動していたら、ドレディアさんが前に歩み出て

 首元をいきなり鷲掴み。そのままぶん投げた。

 感動までぶん投げられた気がした。

 なお、そのポッポは鳥だったのが幸いし、途中で体勢を立て直して慌てて逃げた。

 

 今日も適当にゲームの常識をぶち壊そうとドレディアさんと画策。

 ちなみにドレディアさんには「ゲームの常識」ではなく

 「面白そうだからやってみよう」と誘っている。

 今度はぶん投げてうまく木の枝に着地出来るかどうかを試す事にした。

 結論から言えば成功。ただバランスが絶妙に安定しきらないと危ない事も判明。

 2回ほど落ちたのだが、ドレディアさんが襟首を片手で掴んで助けてくれた。

 でも重力の慣性で首がとても絞まった。ウボァ』

 

 

 

こんなところである。意外に野生ポケモンに出会わない。

あいつら森にもちゃんといたと思うんだがなぁ。

 

まあ、大事件らしい事件もなく、のんびりと歩を進めている。

昨日は3人ほどすれ違ったのだが、その中の一人の女の子が

自転車でスィーと走っていたのでうらやましく思ったもんだが

自転車乗ってたらドレディアさんと歩けないし、まあ無くてもいいか?

 

……あれ?そういやあの女の子カスミじゃなかったか?

まあもう確認も出来ないし、いいか。

 

「~♪  ~♪

 ディ~♪ア~♪」

 

ドレディアさんは旅に出てから結構ご機嫌である。

今も歌いながらノリノリで横を歩いております。

 

見た目からして明らかに森のお嬢様なドレディアさんなのだが

博士も言っていた「もらいうけた」=「卵から育てられた」という感じらしく

今まで旅やら森やらに行った事が無かったらしい。

故に見る物全部が新鮮で、ワクワクが止まらないらしい。

ノリでポケモン図鑑でドレディアさんをチェックしてみたら

ステータス異常:wktk になってた。明らかに無駄なステータスだなオイ。

 

そういえば……

 

「ドレディアさんさぁ、トレーナーとバトルせんの?

 出発した日から絡んでくる奴ら、全部睨み利かせて追い払ってっけど」

「ディ~? ァー、ァ~ァ~、

 ドレ~、ドレディァー。ディー」

 

ふむふむ、まあ確かにそうですね。

というよりドレディアさんの初戦の相手が悪すぎただけだわ。

シン兄ちゃんはチャンピオン倒す位の実力者。

むしろそこらのガキンチョに同じレベルでいろ、って方が無理な事である。

もし戦って勝っても、所詮70円とか90円だったはずだしなぁ。

俺としても旨みそんなに無いし、確かにどうでもいいっちゃどうでもいい。

 

あ、しまった……直訳しとくわ。

【あいつら弱い。あんなの倒し続けてもアイツに勝てん】だそうです。

 

「でもそうなると、ドレディアさんを満足させる相手なんてほぼ居ないんじゃない?」

「ディ~…ディアー!! ディアー!!」

 

なるほど。

【あいつら軟弱すぎる……もっと鍛えれ馬鹿共!!】ですか。

 

「ジムリーダーの手持ちぐらいなら、ドレディアさんの満足の行く相手も

 居るには居るだろうけどなぁ……俺ジム戦興味ないんだよね。

 下手に勝ったら目立ちそうだし……」

「…………#」

 

オウフ、ドレディアさんがお怒りモード。

しかたねーじゃんかー、嫌なものは嫌なんだい。

バタフリー10匹ぶつけんぞドレディアさん。

 

「ディィイィィイィ…………アァッ!!」

 

ドキャァッ!!と、鈍い音が響く。

周りの木に八つ当たりしだした。タチわりぃー

そしてミシミシと斜めになっていく木、最終的には斜めの自重に耐えられず

殴られた場所から完全に木が折れた。

 

まあドレディアさんの怪力は今更なので特に突っ込まない。

木もまあ……ご冥福をお祈りしておけば良いだろう。

 

…………ん? 倒れた木の先の風景に建物が見えるぞ?

 

「おお、街だ。ドレディアさん、ほらあれ。人口建設物だ。

 やっとトキワシティだぁー」

「ディ~? ……っ! ディ~ア~っ!!」

 

折れた木の先の方を見れば、丁度その木が影になる角度だったのか

ちょっとしたビルっぽい建物が見えた。

 

「よーし、あとちょっとで街だー。

 具体的にはふかふかのベッドだー。気合入れていくぞー」

「ディーー!!」

 

ドレディアさんはドレディアさんで【うまいメシー!!】と気合を入れている。

さぁ、次の街までもうすぐだ!

 

 

「おっドレディアさん、高い土手だ!

 あれやるぞ、あれ!」

「ドレディアー!!」

 

合図に従い、ドレディアさんは腕をぶんぶか振り回して入念な準備に入る。

 

そして俺投げ→ボール回収で最短ルートを突っ走る俺たち。

道行く人からは驚かれたが気にしない。俺らの欲望を止められる者は居ないのだ!

 

さぁ、レッツダイブ! ベッドよ首を洗って待っていろ!!

あ、ベッドに首ねえな。シーツ洗って待っていろ!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 バイト

 

 

ここはトキワシティ。

先日、ドレディアさんとの旅路……あれ旅路かな? とりあえず旅路の果てに

人が住む町へとようやく辿り付いたのだ。

 

 

「ディッ! ドレディァッ!」

 

そしてここはトキワシティ内にある公園的なスペース。

ドレディアさんはそこら辺に出ている露店の食べ物を俺にねだっている。

 

「ドレディアさん」

「ディ~?」

 

 

 

「金が、尽きた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───?」

 

首をかしげられた。どうやらどういうことかわかってないらしい。

 

「金が無い。うまい飯が食えない。俺ら貧乏。俺の財布がストレスでマッハ、OK?」

「??????」

 

ドレディアさんが右手?を顔の顎に当て、可愛らしく首を傾げる。

 

……もしや金の概念がわかってないのか? もしくは俺の説明が悪いのか?

いやまあ、お金なんて人間が勝手に作り出したもんですからね。わからんでも無理ないけど。

とりあえず確定事項はひとつだけあるので、それだけ述べておく。

 

「つまりそれは買えません」

「レ、レディァーーー!?」

 

後ろにズガーンとイナヅマが落ちたようなイメージと共にドレディアさんは仰け反ってしまう。

 

「いや、マジ。これマジ。インド人嘘つかない。マジでインド人を右に。

 試しにそこで売ってるお兄さんに聞いてみたら? 俺今17円しかないよ」

「レ……レ~ディア~……♡」

 

こんなところで可愛らしくキャラを作る安上がりのドレディアさん。

しかし現実は非情である、直後にドレディアさんは深い悲しみに包まれる。

 

「あー、はははは……さすがに17円、じゃね……

 ごめんね?ドレディアちゃん、こっちも生活のためだから……」

「ァ、ァ……アアアァァァァ……」

 

l!li ○rz !lil

 

まさにこんな状態のドレディアさん。

うん、まあ自業自得といえばそこまでだ。だって……

 

 

 

 

 

 

 

 

もうこの街に来てから5日は過ぎてんだもん。時既にトキワシティ。

そりゃーその間ずっと飲み食いしてたら、俺の3000円なんてあっという間に無くなる。

しかも8割ドレディアさんの飲食代である。

 

※宿泊と最低限の食事はポケモンセンターで出来ます。

 ただし最低限。おいしくはない。

 

 

 

「そんなわけで、お金を稼がなきゃなりません」

「レディッ!!」

 

うまいもののためなら、と気合十分のドレディアさん。

 

「しかし、ここら辺のトレーナーはみんな、100円位しかのお金しか取れません。

 ドレディアさんはお金の価値がわからんと思うけど……

 そうだなぁ……100円だと、1回勝ってもお店で何かを買う事すら出来ない位かな」

「ァァァァ……ァァァァ……」

 

またorz状態になり、どんどん失望の色に染まっていくドレディアさん。

なんか今日の彼女、見てておもしれぇな。なにこのかわいいいきもの。

ともあれ、ここで前から俺の考えていた腹案をついに公表する!!

 

「そんなわけでゲーム概念をぶち壊せ・第3段!

 

【別にトレーナー倒すだけが金を得る方法じゃなくね?】

 

 を実地したいと思いまーす!」

「ディーアーッ!!!」

 

一緒に腕を振り上げるドレディアさん。しかしこいつ絶対俺の言ってる内容わかってねえ。

 

まあそんなわけで。

ポケモンセンターの職員さんや、フレンドリィショップの店員さんがいる。

ならそこで使われる機材、道具はどっから生み出されてる?

どこから生み出されてようと、俺にとっては激しくどうでも良いのだが

その答えの先には、ひとつだけ見逃せない点がある。

そう、『生み出されてる』なら生み出す人がいる。つまり働いている。

さらに突き詰めれば『働ける』のだから、これを使わない手はない。

いちいち虫取り少年の70円目当てに相手なんぞしてられん。

 

「と、言うわけで特別ゲストをご紹介したいと思いまーす!」

「レーディー!」

 

ぱちぱちぱち。

ドレディアさんもノリノリである。

まぁ背景がうまい飯のためという、非常にたくましい欲望が渦巻いているのが若干傷だが。

 

「ではご登場頂きましょう、さっきの露店のお兄さーーーん!」

「ドレーディァー! ドレーーーディァーーー!」

「え、ええっと……こんにちわ?」

「はい、こんにちわ!!」

「ディッ!!」

 

つーことで特別ゲストは、さっきドレディアさんが食べ物をねだった露店のお兄さんでした。

 

「な、何の用、なのかな……?

 僕も屋台で売らないとならないから、ちょっと遊んではいられないんだけども……」

「あ、説明全くしてませんでしたね、ごめんなさい。

 率直に言えば、ドレディアさんをお兄さんの店で1日アルバイトに入れて欲しいんです」

「えっ!?」

「ディ!?」

 

ドレディアさんが【私に何やらせる気だ!?】という意思を込めてガン見してくる。

うるせぇ、働かざるもの食うべからずじゃぁ。

俺は働いてなくても消費された3000円は、元々俺の小遣いだから俺はいいんじゃぁ。

 

「もちろん無理に押し付けようとはしてません。

 あくまでも、構わないという感じであればお願いしたいので……」

「そうは言っても、うーん……僕のお店もそこまで儲かってるわけじゃないし

 もし働いたとしても本当に安いお金しか出せないよ?」

「あ、じゃあお仕事の終わり位にお兄さんのお店の食べ物を

 3つぐらい包んでもらえませんか?それがお給料で良いです」

「ディァっ!?」

「えぇっ!?」

 

俺の提案にドレディアさんとお兄さんの声が上がる。

まあ例えポケモンとは言え日給450円とかどこの身内中学生バイトだよって話だよな。

 

「いやっ、それは……安すぎない、かな?」

「いいんです、正直なところお金目的ではないので」

「そ、そうなの?」

 

ぶっちゃけた話だが、クレイジーな性格の癖に

環境故に仕方なかったのもあるが、世間様の扱いで引きこもりでしかないドレディアさんに

社会経験を積ませる事が出来るのならば、今回はそれでいいのである。

ちなみにドレディアさんが驚いているのは【3個もくれんの!?】って感じ。安い奴め。

 

まあこれで少しでもお金のありがたみや、その金はどっから出てきているか。

その食べ物ですらどこから生み出されるか、を知ってもらいたいのである。

 

そうじゃないとこの世間知らず、俺の財布を常に食いつぶしやがる。

 

「っと、そうだ、お兄さんちょっといいですか?

 そんなに安いのにも訳があるのでちょっとこちらに……」

「あ、うん……」

「ドレディアさんはちょっとそこにいてね、大事な話だから」

「ディ。」

 

ドレディアさんが軽く手を挙げ、おそらく同意してくれた。

そうして2人で若干距離を離れ、ひそひそ話を開始する。

 

「まああの子、早い話が世間知らずなんですよ。

 だから出来る事より出来ない事のほうが多いと思うんで……」

「そういう事か……こっちが任せる仕事はなんでもいいのかい?」

「はい、好きなように使って見てください。

 それと、何をやらせても店に被害を(こうむ)りそうな場合は

 可哀想だけど店の横に置いてマスコットでもさせててください。

 見た目だけは素晴らしいはずなので」

「わかった、まあ確かに彼女が集客してくれてるだけで人は寄ってきそうだね。

 他の地方のポケモンは最近は見るけどまだまだ珍しいしね……

 もしも完全に役立たずって事になっちゃったら、そうさせてもらうよ」

 

そうして話し合いも終わり、2人でドレディアさんの元へ。

俺はドレディアさんをお兄さんに任せ、街中のほうへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────って、ちょっと待ったぁーーーー!!

 ど、どこ行くんだ?! 君も一緒に店を手伝うんじゃないの!?」

「ディアァーーーー!?」

「えっ?」

 

あれ、言ってなかったっけ。

 

「いや、俺は俺で別の何かでお金の稼ぎ方を探します。

 普段一人でお店を回してるんなら+αが居るだけで十分ですよね?」

「え、あ……うん、そうだけど」

「ディーー!! ドレディーアー!!」

 

【私を置いてどこ行く気じゃモルスァ!!】と肩をぐらんぐらん揺らしてくる。

やめてやめて、せかいのほうそくがみだれる。

とりあえずドレディアさんの手を掴んで揺れを止め……うおーぷ、やばし

 

「ふ、ふふぁ……ドレディアさん揺らしすぎ……

 まあ、ちょっとあれです。街中で弾き語りでもしてみようかと思って。

 大金を稼ぎたいわけでもないし、大道芸的なので丁度いいかなって」

「ま、まぁそれなら止めないけど……

 正直それならバトルしてたほうがいいんじゃないの?」

「あ、いや、さっきも言ったけどお金が目的なわけじゃないんです。

 (この世界に来てから)ずっとやりたいなーって思ってたので」

 

現代日本では、その手の事をするには周りの目がきつくて恥ずかしかったから出来なかった。

しかしここでは他人との距離が結構密接なわけで。そこまで恥ずかしくないはず!!

 

「なんか若干会話に間があったのは気になるけど

 そこまで言うなら止めはしないよ。楽器はちゃんとあるのかい?」

「はい、旅に出るときに3つほど軽いヤツを」

「そっか、わかった。それじゃあこの子は責任を持って預からせてもらうよ」

「ディ……」

 

若干寂しそうに俺の袖を引っ張ってくるドレディアさん。

うーむ、今日は本当に色んな表情見せてくれて可愛いのうコヤツめ。

 

 

 

 

 

 

ってわけで。街中に到着ー。

 

ここは トキワシティ です。

うるさい知っとるわ。

 

ゲームだとトキワシティは、一度戻る事こそあるものの

家の軒数も3つか4つ程度しかない(しかも施設込み)の

シティなんぞ呼べるかぃ、といった規模でしかなかったが、この世界では違う。

 

つまりは、ゲームと違ってそこそこ近代的になっているのである。

ちょいと小さい列車の駅のショッピングモール程度はある。ビルっぽい建物も結構立ってるしね。

 

「さて……」

 

俺は人通りの多い道を選び、そばにあった街路樹の隙間に位置する。

周りを見ても、ポケモンを使った大道芸がちらほら見え

暇つぶし目的でここに訪れている観客さんも結構いるようである。

あ、エルフーンがおる。可愛いなぁ。ちょっとモフらせろコノヤロウ。

 

 

 

さて……俺の家から持ってきた楽器だが。

 

・小さめのギター(子供のおもちゃがちょっとマシになった程度。音はしっかり出る)

・音が3段階位のちっこいピアノ(小さい子供向けのがマシにry)

・オカリナ(アイリッシュ系の音楽が前世で好きだったから結構練習した)

 

の3種である。これだけあればある程度は前世の音楽が再現出来るのさ!

残念なのはドラムの担当が居ない事、居ればもっと幅を広げる事が可能なのだが……

 

 

この世界、とにかくポケモン以外での娯楽が少ない。

一応俺んちにもファミコンはあるんだけどさ。

だがファミコンだけやってても、いつかは飽きる暇潰しだ。

 

故に、俺はこっちで周りから怪しまれないレベルで

こっそりと楽器の練習をしていたのである。

 

ちなみに前世では音楽なんぞ素人なので

例え前の世界の記憶があれど、一から音感を鍛えるハメになった。

 

だが素人とはいえ中身が大人なもんだから、ある程度の合理性があり

母さんに対して練習の成果を出してみたら、拙い演奏にも拘らず最高評価を頂いてしまった。

 

つまり、「一桁の子供である俺」の成長率が異常だという事。

これは周囲の人間にバレてしまえば、いつかの危惧のように淘汰されかねない。

あくまでもただの子供であることを演じなければいけなかったわけである。

何度、もうゴールしてもいいよねと呟いたか判ったモノではない。

 

が、それでもこの世界には無い(または、『まだ』無い)音楽を知っている手前

娯楽の少なすぎるこの世界の音楽では物足りなすぎたんだ。

音ゲーとかびっちりやってっと、本当にもうあれだ。ダメなんです。うん。

公式の曲じゃないけどAngel Dust Abyssとか聴きたくなってまうねん。

 

 

ともあれ、頑張って演奏していこう。

ちらっと周囲を見ると、まだ演奏もしていないのに

10歳の子供がごそごそしているのが気になるのか、結構視線を感じる。

 

やべえwwwwちょっともう今の時点ではずいwwwwwやめてwwww

 

ちくしょう、自分の顔が赤いのが自分でわかる、やばし。

だがここで緊張していても始まらない。

 

俺はおひねりを入れてもらうためのザル籠を自分の前に設置し街路樹の石垣の上に腰を下ろす。

ゲームの常識なんてぶち壊してやるぜ! 俺の飯の種の音楽(現代音楽のパクリ)を聴けぇーーーー!!

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※詳しく歌詞やらなんやら描写すると規約に引っかかるのでカットさせて頂きます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

─────2時間後─────

 

パチパチパチパチパチパチ

パチパチパチパチパチパチ

 

やっべぇ、何この人だかり。いつの間にか俺の周囲がひどい事に。

これ40~50人近くいるんちゃうか。現代音楽の力強し。

なんか大道芸してた人達まで俺んとこ来てるし。あんたら仕事しる!!

 

「すげーなボウズ!!」

「とってもいい歌だわ!!」

「あ、ありがとうございます……」

「歌の無い曲もすげー良かったよ!」

「あのオカリナっていう楽器の音色も素敵ね!!」

「え、ええ……はい……」

 

 

もうこれべた褒め。この世界は音楽のジャンルの層が薄いのか?

それとも現代のアーティスト、作曲者達が凄いのか?

 

 

今回演奏した曲と歌った詩は、全て現代ではかなりの人気を博した曲である。

音ゲーという単語を知らない方は、とりあえず音が鳴るゲームと考えてくれればいい。

でもってその手のゲームは音を主軸としてゲームを製作しているわけで……

当然のことながら『そのゲームでやる音が素晴らしくなければゲームとして成立しない』のである。

 

当然ユーザーだって毎度毎度評価をする。その評価が最低なら打ち切られる。

そんな厳しい条件の中で打ち切られず、自分があちらで生きていた時には

なんと19まで出ているのだ。これをこちらで流さない手は無い。

 

一般人は知らない曲ばかりでも、蓋を開ければ大衆向けの曲も沢山あるのだ。

やっててよかったBeatmania。ありがとうコナミ、ありがとうdjTAKA。ありがとうNAOKI。

 

いつかエビワラーの前で『アリス』のチャンピオン歌いてぇwwww

 

ともあれ……

 

「と、とりあえず今日はこれで終わります」

「えーまじかー!!」

「もっと聴かせてー!!」

「歌ってくれー!!」

 

うるせぇこっちはありがたすぎるけどストレスがやばいんじゃ!

俺が歌って、演奏してんのは全部パクリと同じなんじゃ! こんな大観衆の前で歌い続けられるかーー!!

 

「ごめんなさい、僕も予定があるので……」

 

別にないけどな! ドレディアさん迎えに行く位だ。

 

「ちぇー、仕方ないなぁ」

「坊や、また曲聴かせてね!」

「きっと聴きに来るからな!!」

 

ありがたいんだ、本当有難いんだけど、俺元々小心者なんです……

2,3人立ち止まって聞いてくれればそれでよかったのにっ。

 

そうして人ごみは散り散りになり、みんなが俺から離れていく。

 

「ふぅー……」

 

出した楽器を片付けながら俺は一人溜息。

これやばいなー、下手したら恥ずかしさで黒歴史化しそうだ。

 

「さて……と。おひねり回収用のザ……ル……」

 

ザル籠を見る。

別に取られたわけではない。一度目をぐしぐしして、もう一度見る。

ちょっと信じられないのでもう一度深呼吸して見る。

何が起きているのか理解出来ないのでザルを別の角度から立って、見る。

 

…………あるぇ? なんか小銭が山盛りですよ?

山盛りな上にお札が何枚か紛れ込んでますよ?

 

 

 

 

総額、14,216円でした。なんだこれ。

 

 

 

 

 

 

いくらガン見しても現実が一向に変わらないので、現実を前向きに検討し

とりあえずお金はたくさん得られたのであると、なんとか現実を認めた。

 

そんなわけで小銭が若干重いものの、全てリュックに仕舞いこみ

ドレディアさん達の様子を見に行く。うまくやっているだろうか?

 

 

 

 

「はーい、お待たせしましたー!! こちら3つですねー!!

 ドレディアちゃん、これあっちのお客さんにお願いー!!」

「ドレディアー!!」

「はい了解しました、2つですね!! 少々お待ちください!!」

「あらあら、ありがとう♪ 貴方可愛いわねぇ~♪」

「ディァー!」

 

 

やべえ、なんかめっちゃ繁盛してんねんけど。今日は大当たりの日なのか?そうなのか?

 

このまま手伝いに入ってもいいかと思ったんだが、面白そうなので適当なところに座って見学開始。

 

 

「ほいこれ!! これはあそこのお客さんね!! 頼んだよドレディアちゃん!!」

「ディー! ……ァ? ッアァァァッッ?!」

「あっ!?」

 

 

あ、つんのめった。って、あー。

売り物がドレディアさんの手を離れて、ぽーんとアイキャンフライ。

体勢立て直すのも間に合わないだろうなー……って。

 

 

「───ッレ、ッディ、ァァァァァアアアアアッッ!!!」

『ぉぉおおぉぉおーーーーっ!?』

 

なんと俊足ロケットダイブで放り出された売り物をキャッチ。

そしてガッシリと獲物を腕の中に入れつつ錐揉みしながら華麗に着地。

 

「ッ、ドレディァッ!」

 

オオォォォォォォォオオオオッッ!!!!

パチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 

「ディ……、ディァ~♪」

 

おや、照れている。珍しい。

頬を若干赤くしつつ、目が優しい感じの笑顔である。

 

そうしてドレディアさんは無事守り抜いた売り物をお客さんに届け

お礼を言われてまた照れて、お兄さんの所へ戻っていった。

 

 

うむうむ、非常に良い傾向である。

 

 

 

 

「───やっ、お疲れ様~」

「お、君か。おつかれさま。そっちはどうだったんだい?」

「ディッ!!」

「あ、はい。こっちはぼちぼちです。当初の予想収入よりは格段に上でした」

 

 

ここは意味も無く謙遜しておく。

いや、だって恥ずかしいやん。「パクリで大金得た」なんて。

 

「こっちもこっちで凄い忙しかったよ。

 多分今日1日だけで3日分は売れたんじゃないかな」

「ディァ!!」

 

ぅぉぅ、遠目から見てても凄まじい繁盛っぷりだったがそこまでか。

ドレディアさんもえっへんと胸を張っている。胸無いけど。

 

見てたからドレディアさんがどれだけ働いていたかは知っているが

一応は、本人が働いたという自覚のために聞いておこう。

 

「ドレディアさんは、どうでしたか? お邪魔じゃなかったですかね」

「いや、そんな事全くないよ、本当に。おかげでとても助かったよ。

 今日来てくれたお客さんは、やっぱり彼女目当ての人が多かったからね」

「……ディァ~///」

 

ドレディアさんがもじもじしておる。本当にこの子性格クレイジーか?

 

「それならよかったんですけども」

「いや、まだ街に居るならこれからもお手伝いに来て欲しい位だよ。

 今日みたいな売り上げならもっとマシな給料は出してあげられるからね」

「だってさ。

 ドレディアさん、褒められてるよ。よかったね」

「ディァー///」

 

片手を頬に当てたと思ったらべしっとはたかれた。何故だ。

照れ隠しだろうか、多分そうだろう。じゃなきゃ理不尽だ。

 

「それじゃぁ、今日の給料だ。

 はい、これ3つと……よし、君にはこれもあげよう」

「ディァ~♪ ディ~♪」

「ん……1日1個券?」

 

ドレディアさんは予定通りの食い物をGETしとても嬉しそうだ。

しかし、俺がもらったこれは……なんだこれ?

 

「まあ、それは僕が今作ったもんなんだけどもね。

 この街に居る間なら、1日に1個だけならこの売り物をあげるよ。

 ドレディアさんに食べさせてあげて」

「え、でも……いいんですか?タダなんて」

「今日は本当にフル回転だったしね、1日1個位のおまけなら

 こっちも何とか出来るから、まあ頑張ったで賞ってところかな?」

 

良いお兄さんである。

なおドレディアさんはこれの意味がわかっていないようで

【もう食ってもいいか!?いいよな!?な?!】という目で見てきて

なんといえばいいのやら。

 

「わかりました、それじゃあお言葉に甘えます。いつこの街から旅立つかはわかりませんけど

 ドレディアさんの気が向いたら、またこちらにお手伝いさせに来させるので、よろしくです」

「わかったよ、今日は本当にありがとう」

「いえ、こちらこそ我がままを通してしまってすみません」

「いやいや、いいんだよ、これも何かの縁だったってことさ~」

「そうですね、縁なんてどこからでも来ますしね!」

「ディッ!」

 

 

 

こうしてトキワシティ入場から5日目が終わった。

本日の収益、まさかの1万円オーバー。

ちなみにお金の額に関してはドレディアさんには虚偽申請してます。

 

また7割食費にされたらたまったもんじゃねぇ。




overjoyって、最高やん?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 虫天国

10/08 処方箋追記


「えーっと、このまま道なりでトキワの森、と……」

「ディァ。」

 

こんにちわ。

最近名前が呼ばれていないため自分で名前を忘れかけている存在、タツヤです。多分。

 

トキワシティでの小休止も(小休止の割には長く居ついた気がするが)ひとまず終え

現在、また気楽な旅路へ戻っている。

 

ポケモンセンターのふかふかなベッドは名残惜しいが、そこで生活を続けるわけでもない。

体が贅沢を覚えぬうちに旅立たないと……

 

ちなみにあの後数日はトキワシティに居た。

露店のお兄さんの所にも顔を出したし、俺も俺で今度は露店で弾き語りをした。

露店の場所の方が前回の場所より人通りもまばらであり、結構のんびり演奏出来ていたのがよかった。

まあ、お兄さんにも「その歌は自作なのかい?」と突っ込まれ、ちょっとバツが悪い思いはしたけどね。

 

前回の場所よりは収入も1500円と全然少なかったが、こちとら既に1万を稼いでいる。

その日は別段収入が少なくても問題がなかったので、楽しくお兄さんとお話しながらやってました。

 

しかしドレディアさんも歌を(というか曲だな、多分)気に入ってたのは驚いた。

そういう方向性皆無だと思ってたんだけど……。

あれかな、草木に歌聴かせると成長が早くなるとかそっち系で気に入ったのか?

 

街を出る際にはお兄さんに見送ってもらえた。

ドレディアさんと2人で普通に行くつもりだったから、若干感動してしまった。

やはり人とのふれあいってぇのは良いもんだー。お兄さん愛してる。

 

ドレディアさんもドレディアさんでお兄さんから売り物をもらい

しばらくこれが食えないとわかると結構名残惜しそうにしてた。

本当にお世話になりました。またいつか来ます。

 

 

 

そんなわけで、現在えーと……何番道路よここ。

まあどこでもいいや、トキワと森を繋ぐ道です、うん。

 

「一応は地図の通りに道なりに進んで行くつもりだから、次の目的地はニビシティだね」

「ド~レディ~ア~」

 

腕をぶんぶか振り上げながら道を進むドレディアさん。

本当にうちの子は元気でいらっしゃいます。

 

 

 

─────っと、しばらく歩いていたら小屋が見えてきた。

あそこがゲームとかでも小屋が建てられてた地点、兼・入り口かな?

 

「よーし、とりあえず森に到着だな。一応は注意しながら進むぞー」

「レーディァ!」

 

任せろ!といった感じで同意してくれるドレディアさん。

いやはや、ホントしょっぱなからLv15だとたくましいっすね。

 

 

 

 

──────で。

 

「何してんのドレディアさん……」

「ディ……ディァ~……」

 

現在の状況を3行で説明しよう。

 

・森で草むらに入った。当然野良ポケが出てくる

・キャタピー参上、出てきた途端にドレディアさんが俺の後ろに回って及び腰

 

うん、しっかり3行で埋まったな。

ぽちっと図鑑を開いて相手の簡易情報を見てみると

 

・キャタピー Lv4程度

 

普通にチンケな感じである。一体どうしたんだドレディアさん。

 

(……まさか元々虫が苦手だったのか? でもそうなるとシン兄ちゃんとの一戦が矛盾するな……)

 

ふむ、ちょっと謎が多いし色々試してみようか……

 

「とうっ」

「ディッ!?」

 

とりあえず素早くドレディアさんの後ろに回りこんでみた。

反応を見る限りは、驚いているなぁ。

 

「さぁさぁ、頑張って。ほれ、ほれ、ほれ

 倒さんと先に進めんよ、ほれ、ほれ、ほれ」

「ド、レ……!」

 

うーん、顔はやはり引きつっている感じである。少なくとも今の時点で虫は苦手、と。

……前がそうじゃなかったってんならシン兄ちゃんとの一戦でトラウマ化したか……?

 

と、考えていたところへ。

 

「ピキィ」

 

と鳴きながらキャタピーが迫ってきた。

 

「……………レ」

「ん……? レ、だと……?」

「ディアァァァァァァーーーー!!!!」

 

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド………

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

えーと……。

 

「行っちゃったねぇ……」

「ピキィ……」

 

叫んだと思ったら、一目散にドレディアさんが逃げ出した。

その場に取り残される俺とキャタピー君。

 

「どうしよう……?」

「……ッピ!? ピキィ!!」

「って、ぬわス!! 何をしやがるキャタピー!!」

 

こいつ、いきなり体当たりしてきやがった。なんとか交わしきったが。

あれか、俺が問いかけたから当初の予定だった戦いを思い出したってか。

相手いねえだろうが、逃げてったろうが。俺とやるってかコノヤロウ。

 

「てめぇ……上等だぁ……」

「ッピ!?」

 

俺がゆらりと殺気立つと、キャタピーがあまりの変貌振りに警戒を露にする。

 

「ポケモンがいねえと人間様が何も出来ないと思ってやがんのかぁ……!?」

「…………ッ!」

 

どうやら俺の動きにあわせて体当たりをしようとしているらしい。

虫独特の動きで攻撃の構えを取り始めた。良いだろう、やってやんよ……。

 

「後悔すんなよ……!

 唸れぇッ!!   俺のッ!!

 超 ・ 必 ・ 殺  !!」

「──ッッ!!」

 

俺の動きに反応を示し、ぶち当てる構えを取るキャタピー。

 

 

─────ッ!今だッッ!!!

 

 

俺はタイミングを合わせて一気に加速するッ!!!

 

 

「───逃げるんだよォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダ……─────

 

 

フハハハハ、見たか諸君!! これこそが人類最強の必殺技!!

『戦・略・的・撤・退★ミ』である!! ありがとうJOJO!!

今の俺は風ッ!! 真空ッ!! 誰よりも早くッ!! 誰よりも尊いッ!!

 

 

 

今思うと、一人取り残されたキャタピーがちょっと可哀想だなぁ。

 

 

 

 

 

 

さて、入り口の小屋まで息を切らせて辿り付いた訳だが……

虫の宝庫である森に、逃げながら居続けるとも思えないし

確実にここらにドレディアさんが居ると思うんだが……

 

─────殺気ッ!!

 

「そこだァァァーーーッッ!!」

 

俺はそろりと拾った小粒の石を素早く投擲ッ!!

 

コツンっ

 

「ディーッ!?」

 

                CRITICAL HIT!!

                First Attack Bonus!!

                        + 5 0 0 0

 

「よしっ!! ……って、ドレディアさんじゃん」

「ァー……!」

 

顔を手で覆っているドレディアさん。

どうやら当たり所が素晴らしかったようである。ナイス俺。

 

「ったく……いきなり逃げ出さんでくれよ。

 置いてかれてキャタピーにもろに襲われたよ」

「…………#」

 

……久しぶりに、顔に青筋立てたな。やはりクレイジーはクレイジー。

最近やたらと可愛らしかったから性格でも変わったかと思ったが……

何々、【石を当てた事に対しての謝罪は無しかテメェ……】だと?

 

ッハン! 何を言うか!!

 

「元はと言えば何も言わずに逃げ出したドレディアさんが悪い!!

 これについては絶対に退かんぞっ!! 媚びぬぞっ!! かえりry」

「─────」

 

俺の言葉を聞き入れたドレディアさんが、ゆらぁりとこちらへ歩み寄ってくる。

……ッフ、たかがキャタピーに逃げ出した貴様が俺に立ち向かうか。

 

「ククク……その意気や良し。

 貴様の間違った常識、今こそ訂正してくれようッ!!

 トアァァーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

「ディアァアアァァアアアアアッッ!!!」

 

そして俺とドレディアさんは交錯するッッ!!

 

 

 

 

 

2秒で負けました。

 

 

 

 

 

「石投げてすんませんっした……。 マジ反省してます……勘弁してください……」

「……ァ゛ア゛?」

 

土下座で対応するも受け入れてもらえん。

目の前にはヤンキー座りで青筋+しかめっ面のドレディアさん。

 

ん? 男のプライド? そんなんで腹膨れねえべさ。

 

 

「まあそれはさておき、何でいきなり逃げ出したの。

 大体予想ついてるけど、さすがに仮の主(笑)の俺をほっぽって逃げちゃあかんっしょ」

「ディ#」

 

土下座をやめ、とりあえず小屋の椅子に座り一息ついた。

【まだ許してねーぞゴラァ】という視線が来てるが気にしない俺。

過去は悔い改め続けるためにあるものではない。

 

「……兄ちゃんのバタフリーに負けたのがそんなにキツかった?」

「ッ!」

 

先から思っていた事を伝えてみると、図星のようである。

 

俺からしたらやりすぎな結果なんだけどなぁ……

苦手なタイプで、なおかつレベルも上で、ダメージも通りづらい相手を

たったの1ターンで追い詰めてんだぜ? 明らかに無双スペックっしょこれ。

 

でもまあ……こういうのって一期一夜で直るってんなら

誰も世の中で苦労してないんだよな……。さすがに森を通るまでに直してもらうのは無理だろう。

 

……しょうがない、か。

 

「森は諦めて、別のルート探そうかー……」

「ディッ!? ディ~ア!?」

 

【良いの?行かなくても大丈夫なの?】と言った感じだろうか。

若干顔からうれしそうな感じが出ている。

 

「まあ、今日はこれ以上動き回るのはやめておこっか。

 野宿よりはマシな小屋があるわけだし、ここに泊まっちゃおう」

「ディア~♪」

 

そんなに虫に遭いたくないのか。ここまでの毛嫌いになるとさすがにちょっと不安も出てくる。

どこかでこのトラウマ取り除かないとなぁ……

 

 

この世界のチャンピオンが虫大好き系の人だったら即座にこのチートが戦力外と化す。

ん~む、どうやってこのトラウマ取り除けばいいかなぁ……



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 黒い奴

 

さて、そんなわけでトキワの小屋で一泊する事となった。。

 

小屋でのんびりしている間、何かに付けてドレディアさんとバトルし

なおかつ敗北している間に、どうやったらこのトキワの森を回避出来るか考えていた。

 

 

─────────────────────────

『案1』・強行突破

 

とりあえずドレディアさんにボールの中に入ってもらって

俺が一人で逃げながら突破すればいいんじゃね?って話。

しかしこれは俺が疲れるため、どうしようもない場合だけそうするつもりだ。

─────────────────────────

『案2』・youモンスターボール使っちゃえYO!

 

前に図鑑のヒミツ情報が発動した際に色々あってもらったモンスターボールがある。

あ、ちなみにトキワではそっち系のは一切買いませんでした。

充実しすぎてて忘れてたんだわ。ドレディアさん1匹で十分と思ってたし。

きずぐすりですら最初の1個だけだぜ!!

 

ま、ともあれこれを使い、そこらのポケモンをgetするという方向性だ。

現状では可能な上で確実度が高そうなので要熟考。

─────────────────────────

『案3』・火を使い森林破壊

 

…………。

おい誰だこんなの入れたの!!

ドレディアさん!! あんたかっ!?

─────────────────────────

『案4』・完全別ルート開拓

 

実はこれに関しても宛てがひとつある。

俺の記憶が間違ってなければ、人によっては一切近づかなかったダンジョンの

ディグダのあなの入り口があるはずなのだ。

そっちから入り込んでニビ無視しちゃおうぜ計画である。

ただ、覚えている限りだとあそこってニビ側にあった気したんだよな……。

─────────────────────────

『案5』・一旦実家に戻ってフーちゃんでアイキャンフライ

 

時間が掛かりすぎる。

ある意味もう一つの最終手段。

─────────────────────────

『案6』・諦める。

 

ドレディアさんに殴られるので却下。

─────────────────────────

 

 

 

─────案4、だな。これしかない。

今さらりと考えたけど他の案は、何も面白い事がなさそうだ。

俺個人としては別に案6でもいいんだが、まあ、殴られんの嫌だし。

 

 

 

「そーいうわけで、新規別ルート開拓となりました」もっしゃもっしゃ。

 

「ディァ。」もしょもしょもしょ。

 

「とりあえずさぁ、こっからここら辺に細い木があると思うんよ」もっしゃもっしゃ。ごくん。

 

「ンだからこの辺でそれを探して、あとは崖ショートカットみたいに」

 

「(コクコク)」もしょもしょもしょ。ごくん

 

もっちょい食うか。

 

「超えりゃ木を切る必要ないと思うんだよね」もっしゃもっしゃ。

 

ああ、漬物ねえのが寂しい。飯盒のごはんとってもおいしいのに。

この世界は魚とか肉とかないからご飯単品、パン単品も慣れきったもんであるが。

おっとやばい、大豆ハンバーグが食いたくなってきた……

 

 

 

「さて、腹ごしらえも済んだし」

「ディァ~」

「片付けて一眠りしようか。」

「レディアッ!?」

 

ん、なんですかその抗議の声は。旅なんてのんびりでいいんだよ。

あぁうっせぇ揺らすなドレディアさん、あぁん? なになに……? あ、なるほど。

【早く進んで早く強い奴と戦って早くあいつをぶちのめしたい】、と。

 

「まあまあ、ドレディアさん。急がば回れとも言うさ。

 急いだところで何が変わるってわけでもないんだし、さ?

 こう、のんびりまったり行ければ……って、ちょ、なにしてんすか」

「ディァ#」

 

あっ、いやっ、やめてぇぇぇえ。引きずらないでぇぇぇ。

ズボンが汚れちゃうぅうぅぅぅぅ。

あぁあああぁぁぁぁぁぁぁ……。

 

そんなわけで、俺はずるずるとドレディアさんに引っ張られていってしまった。

 

ジーザスっ!

 

 

 

 

「んー、地図を見る限りはここら辺からは完全に獣道だね。

 図鑑の地図にも掛かれてないから危険もいくらかあるかもな……」

「ディッ!! ディッ!! ディァッ!!」

 

なになに、【危険なんてたいしたことねえよ!!】とな。

 

「……キャタピー」

「……ッ!?」

 

「ビードル」

「ッ!?ッッ?!」

 

「スピアー」

「ディーーーー!?」

 

「あ、あっちにバタフリーが」

「アーーーーーーーッ!!」

 

……っと、やりすぎたかな。怖がって丸まってしまった。

まあ俺のズボンをギュッと掴んで震えているのは見る人によっては萌え要素だと思うが。

ごめんよドレディアさん。

 

「大丈夫だよ、もう行ったみたいだから。(元から居ないけど)

 ほら、立って立って。早く行こうって言ったのはドレディアさんだよ?」

「レ……ディ……」

 

とっても弱気になってしまっているようだ。

 

「ふぅ、とりあえずまた虫系のポケモンが出てきそうだったら

 一旦ボールの中に入ってくれていいからね。

 少しでも先に行かないと、ずっとここで足止め食っちゃうよ」

「ディァ~……」

 

完全に涙目である。

シン兄ちゃん、今更過ぎだけどやりすぎだわこれ。

まあ一部の方には想像するだけで俺得のはずなので、良いか。

 

 

 

 

で、適当に歩いてたんだが。

 

「迷った。どうするアイフル」

「#」

 

青筋立てんなコノヤロウ。

仕方ないだろう、獣道だぞコノヤロウ。

道っぽくねえんだぞ。どこ歩いてっかわかんねえんだぞ。

 

覚えている人は既に皆無かもしれないが

ポケモン図鑑には方位磁石システムがある。俺はこれを使った上で迷っている。

 

ん、何故だと? そんなもん決まっているだろう。

 

 

 

 

 

目的地のディグダのあなが東西南北どっちかわからんだけだ。

 

 

 

 

ついでに言えばゲーム的に、ニビシティは上に突き進めばいけるわけだが

この現実では上=北ではなかったのがとても痛い。

そんな調子でどこまで進んでも、最早周りに木しかあらへんがな。

 

木を隠すには森と言う。そして俺はぶっちゃけもう動きたくねえ。

そして横に居るのは森のプリンセスドレディアさん。

コイツ地面に埋めてそこら辺にテント立ててもう寝たい。

でも、この子埋めた所で普通に這い出てくるんだろうな。マンドラゴラかよ。

 

……まあ、うん。

こちらは仮にも10歳児である。いくら精神年齢が高くとも体まではついてこない。

ので───

 

「まあ、前見たくのんびり進めればなと思います」

「ディ#」

「抗議したって無理なもんは無理。

 ドレディアさん、俺子供だよ? 体力持たないから」

「…………アッ。」

 

何初めて気づいたみたいな顔してんの貴方。あんたの中で俺は何者になってんの?

 

「ま、少し開けた場所を探そう。こんだけ草ばっかじゃ寝る場所にも出来ないよ」

「ディ~……」

 

ひっじょ~~に面倒臭そうに、ドレディアさんが肩を下げながら歩き出した。

テメェ劣悪な労働環境で労働基準監督署に訴えんぞコノヤロウ。

 

「…………このままじゃご飯も作れなさそうだな~(ボソッ」

「(ピクッ)」

「今日は晩ごはん無しかぁ……寂しいなぁ……」

「ディッ!! ディアッ!! レディアッ!!」

 

ご飯関連で攻めてみたら案の定、急にやる気を出し始めた。

最初はすぐそばでだるそ~に歩いてたクセしやがって、

それがいきなり30メートルは先です。今では私がおじいさん。

いやおじいさんちゃうぞ。ヴェルターズオリジナルちゃうぞ。

 

まあ……ともあれ、【早く!!早く探そうず!!】とあちらでうるさいので

2人でとっとと、キャンプに適した地点を探そう。

 

 

 

 

そして探し当てたのは良いんだが。

現在俺らは大量のポケモンに囲まれてしまっている。

 

「っぐ……どうしてこんなことにっ……!!」

「ディ~♪」

 

そんな状況なのにドレディアさんはとても楽しそうだ。

まあ、仕方ないといえば仕方ないのだが。何故なら─────

 

 

 

 

寝るのには早すぎたので演奏してたら

音楽に釣られてポケモンが勝手に寄って来たからだ。

 

 

「ペラップー♪」

「──────♪」

「キリンリキ~♪」

「ドレ~ディ~ア~♪」

「ピジョット~♪」

「うっきゃっきゃっきゃ!!」ちなみに彼はヤルキモノだ。

「ナジョー♪」

「ミュゥ~♪」

「ハナハナ~♪」

「ピッピー♪」

 

 

すっごい数である。しかも中には野生で確認されてないのもいるぞ。

まぁ確認うんぬんは、あくまでもゲームの話だけどね。

しかもなんかすっごい幻っぽいのが居る気すんだけど……

まあいいや、音楽好きなヤツにいいやつも悪いやつも平凡も幻も無いな!

それに俺は幻の御方より2番目の全く鳴かないディグダのが気になるんだ!ダリナンダアンタ!

 

ピッピが穴久保ピッピじゃないのが少し残念。

ギエピー! って言って欲しかった。俺だけか?

ちなみにあの漫画、まだ連載してるんやで。15年やで。

世間でポケモンが有名になった一因、あの漫画にもあるんやで。

何気に影響力が計り知れない大御所様だったりします。

 

 

それはさておき、こういう野生動物とのふれあいも悪いもんじゃないよね。

個人的には前世で、小猿と仲がよかったおっさんのコピペとか大好きだった。

ていうか野生のクセに襲ってこないし。音楽は偉大だー。

 

「よーし、それじゃぁそろそろ暗くなるけどまだ行くぞー!!」

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉお!!(意訳)』

 

小さな相棒達、再びスタンバイ!!

さぁ先手はオカリナ君、君だ!!

コンドルは飛んでいくとかやっちゃおう!!

 

「~~~~♪

     ~~~~~~~♪

         ~~~~~~♪」

 

「ドッレディッア♪ レッディアッ♪」

 

横では楽しそうにドレディアさんが踊っている。

ふむ、この子ミュージカル方面とかでの才能も有しているのかな?

でもポケモン図鑑はカントー版が基軸なので

イッシュ系列に入るミュージカル方面のステータスは表示してくれないようだ。

 

他のポケモン達も各々音楽に合わせて楽しんでくれているようだ。

うーむこのままブレーメンの音楽隊でも目指してしまおうか。

 

「すてぃーびーえーにろーん・・・・・・

 あろーぅうぃーずあーうぅりゅぅーーー!

 ほわぁぁーーいざんまーいさぷろぉーすつ……ゆぅー?」

「ディ?」

 

なにやら後ろの方でガサリと音がした気がした。また音楽に釣られてポケモンが来たのか?

ドレディアさんも音に気づいたのか、一緒にそちらに振り返って───

 

 

───あれ?なんか黒ずくめの人間が3人もいるよ?

 

 

「っチ!!気付かれたか!! 投網発射しちまえ!!」

『おうっ!!!』

 

いきなり黒ずくめ達が(せわ)しなくなり始め、変な装置を……

って、投網? 投網って、あれか? あれだよな。つまり……──

 

「って、おぬぉー?!」

「ッディァー!!」

『リキィーミュゥーハナハナーペラップー!?!?!?!?』

 

各々が悲鳴を上げて、途端に森が騒がしくなる。

俺はびっくりしてそのまま動けなかったのだが

ドレディアさんは、クレイジーから来る野生のカンなのか

その神速とも言える持ち前の速度で、俺を抱えて網の包囲から脱出してくれた。

 

「んなぁっ!?なんっつー速さだ!!」

「不意打ちに近かったのに脱出しやがるなんて、面倒クセェ……!」

 

あっちでなんか戯言抜かしてるがこっちはそれどころじゃない。

具体的には抱えてもらって脱出したはいいのだが、体に来るG負担が結構きつかった。

 

「あ、ありがとう……ドレディアさん……ぐっじょぶだよ、うん」

「ディッ!」

 

ドレディアさんに支えてもらい、立ち上がる。

ああ、演奏を聴きに来てくれたみんなは網に引っかかってしまったようだ。

くっそ、こいつら……!

 

「あんたらなんなんだよ……!! 予想はついてるけどさっ……」

「クックック、その予想は多分正しいんだろうなぁ?

 そうさぁ、俺らは泣く子も黙るロケット団さ」

「別件で人目につかない移動をしなきゃならんで面倒と思ってたが……

 まさかこんなご馳走が転がってるたぁなぁ……笑いが止まんねぇぜ。ヘッヘッヘ」

「まあ、あっちのほうで聴いてたが、こいつらはお前の音楽聴きに来てたんだよな?

 ありがとうよ、おかげでボスにいい手土産が出来たわwwww」

 

 

……こいつら

どうしてくれよう

うめるか? ばらすか? けすか?

 

「んだぁ……? ガキンチョ、てめぇ一人で俺ら3人何とか出来るとでも──」

 

あぁ、うるせーなぁこいつら

たりきほんがんだけどドレディアさんもいるしころして───

 

ぺしっ

 

「っ?! 何すんだよドレディアさん」

 

いきなり横っツラを隣に居たドレディアさんに叩かれ、俺は思わず抗議を───

 

「─────。」

「ッ! ……。」

 

しようとして、俺は抗議を停止する。

彼女は、ドレディアさんは──いつも通りに、目で俺に語りかけていた。

 

【ムカつくのはわかるが落ち着け。私も非常に腹が立っている。

 トレーナーとして、今こそ私に指示する時だろう。】

 

と。

 

見れば顔にも普段とは比べ物にならない、濃い青筋が見える。

それだけ怒り狂っているのだろう。それでも留まっているのは───

 

 

 

 

───きっと俺の指示を、効率の良さを、信用してくれているのだろう。

 

 

「ハッ、友情物語は美しいもんだねぇ~。そら行けドガース!

 とりあえずそんな草ポケモン1匹で何が出来るんだってのwwww」

「かわいそうでちゅね~wwwwww

 まあこっちは3人で一気にやっちゃいますけども~(笑

 おら行け!! ズバット!!」

「つーわけでぇ、さようならーってなぁ!! 出番だ、デルビル!!」

 

ボンッ!!

   ボンッ!!

      ボンッ!!

 

「ドガ~ス。」

「ギュギャァー!!」

「グルルルルッ……」

 

……、1:3か。

 

ああ、知ってる。大丈夫。こういう時こそ前世が生きるってな。

 

精神の落ち着きは大丈夫。1対多で戦場をひっくり返すにはどうするか。

ドレディアさんがチートクラスでも正面から馬鹿正直にやる必要はなし。

プライドなんざゴミと同じだ。必要なのは効率だけ。

 

あぁ、やるよ、やってやるよ。

てめぇら、俺を、ドレディアさんを舐めた事を後悔させてやる。

 

 

 

 

 

 

─────せいぜい、死ぬなよ?

 

 

 






人には、激昂する権利がある。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話 VS黒

戦闘表現の都合上、長いように見えますが
空白が多いです。しかしこの回だけは行間を潰すわけには行かん。

それでも良い方はどうぞ。


「さーて……。絶体絶命のような気もするが……」

 

まぁ実はそんな事も無いが、とりあえず口に出す。

 

「気もするんじゃなくてそうなんだってのwww」

「こいつ本気でアホだなぁ、おもしれぇー」

「さーて、冥土の土産は準備したかぁ~?」

 

これは、例えるなら詰め将棋のようなものだ。

俺自身、確実に『痛い思いはする』だろう。だが……

 

 

 

 

この戦力を用いて、負ける事は有り得ない。

脳内で幾度かシュミレーションし、それは確信に至った。

 

「ドレディアさん」

「ディァ」

「よく聞け、最初に───

 ・

 ・

「……ッ!?

 ・

 ・

 …………」

 ・

 ・

 ・

 ────これだけは守ってくれ。そうじゃなきゃ負ける可能性もある」

「……ディ、ァ」

「ひゃっーはっはぁ!! 今更命乞いの相談かよっ!?」

「やっべえコイツ本当痛いわぁwwww」

 

なにやら向こうは大爆笑しているが知ったことではない。

 

ドレディアさんも、しっかりと了承したのを確認した。

 

「───頼んだぞ」

「ッ!」

 

今必要なものは、冷静な、冷徹な先見の目だけだ。

下手をすれば潰される。これは確かにそうではある。

だが、下手をしないのならば、こんな屑共に負ける確率など存在すら許されない。

 

ドレディアさんも俺の案については訝しげであり

疑問もあったようだが、先程の目を見ればわかる。

 

 

 

彼女は必ず、忠実に守ってくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───おい、屑共」

 

『…………ぁあ゛ッ!?』

 

「殺さないようにだけはしてやるよ。

 ───楽しい宴会を邪魔した対価は、今から全て徴収するぞ」

 

「──おい」

「───ああ」

「────問題ねえな」

 

 

『ぶち殺してやらぁ、こんクソ餓鬼がァッッ!!!』

 

 

寝言は寝てからほざいてもらいたいもんだ。

 

相手の3匹のポケモンも、持ち主の怒りを感じ取ったのか

臨戦態勢へと入ったのがわかった。

 

 

さぁーて……、と。

森に捨てられた産業廃棄物は、しっかりとお片付けしなければ、ね?

 

 

 

 

 

「さぁ、ゴミ掃除開始だ……。

 行くぞ────────ドレディアッ!」

 

 

 

 

「ッレ、ッディアァァァーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 

 

開幕、ドレディアさんの特性である「いかく」が発動する。

クレイジー故に付き纏う空気の重さに、3匹全員は少し怯えたような素振りを見せた。

 

そしてこれを皮切りに、一見不利な戦闘は開幕する。

俺は黒い奴らの3匹が動き出す前にとある行動を取った。

 

 

ズボッ

 

 

 

『…………???』

 

黒軍団はポケモンを含めて、全員俺の行動に謎を抱いた。

俺の取った行動は───

 

 

 

 

 

 

 

自分の胸元の襟首に、左腕を突っ込む事。

 

 

 

そして、準備は完了した。

ドレディアさんは持ち前の俊敏な動きを生かし、高速で───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を─────ズバットへとぶん投げた(・・・・・)

 

 

『なぁッッッ!!!???』

「ギュギャーッ!?」

 

そして俺は勢い良くズバットへ吸い込まれていき

かなりの衝撃を自分で受けつつ、ズバットと一緒に地面へ転がる。

 

 

 

 

                             シュッ

 

 

 

 

ッゴガァン!!!

 

 

「グゲァーーーーーッッ!?」

「はぁっ?!」

「ちょ……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

ゴミ全員が俺に注目するその間に、ドレディアさんはターゲットを一撃で吹き飛ばした。

場に残るのは、ドガース・デルビル。そして俺と一緒に地面へ一旦墜落したズバット。

 

開幕に場に出た3匹は全て健在である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういうことである。

俺は真っ先に『将』を討ち取りに行かせたのだ。

 

 

 

 

これは前世、今世共通の事だと自負しているが、人間という生き物は野生をやめてから

大体の人間が「野生の勘」という第六感が鈍っている。

───つまりは、だ。

 

 

俺も含めてではあるが、「予想外の事態」というものに大抵の人間は『弱い』。

見なくても良いものに過剰に反応してしまう、完全に反応しきれない、このどちらかだ。

予想が付いているなら、待ち構えて対処も出来るだろう。

 

 

───だが、開幕から自分の主人をぶっ飛ばして

投擲武器にするなどという暴挙を一体誰が予想出来るだろうか?

加えて全員が全員『これはポケモンバトルだ』と思っていたはずである。

 

その間違った認識をした結果が、黒いヤツ一人の一撃退場。

 

少なくとも俺は『バトル』ではなく『生死を賭けた戦い』と始めから認識している。

この認識の重さの違いが、開幕の策略効果の有り無しを左右したのだ。

 

もちろんこれの結果に関しては俺もそこそこに擦り傷を負う事は免れない。

しかしこれは俺にとっては予想の範囲内。加えてダメージを少しでも軽減するため

ドレディアさんが襟首から襟掴み投げをすると見越して、自分の襟首が首を絞めない様に。

そしてその後の動きの阻害にならない様に、防護策を練った結果が先程の襟首への手挿入である。

 

 

そして改めて言うが『予想外』なのだ。今回の場合は過剰反応である。

理解出来ないが故に、『全員が俺とズバットを見てしまった』のだ。

 

 

 

 

───ドレディアさんを除いて。

 

 

これで、残りの勢力は5つ。

開幕は成功である。

 

「……テメェッ!! 生きて帰れると思うんじゃねぇぞォッ」

「うるせぇんだよ屑共が。

 ゴチャゴチャ抜かしてる元気があるなら俺等に一撃でも加えてみろや、このタンカスが!」

「───上等だぁクソガキィッッ!!!!!!

 ズバットッ!! そのクソガキから全部血ぃ吸い取っちまえッッ!!!」

 

 

 

さぁて、引っかかってくれたか。

俺は立ち上がり、横で再び羽ばたき始めて浮いたズバットを見据える。

 

「ギィギャァァーーーーーッッ!!」

「─────ッディ……!!」

 

そのズバットの行動にドレディアさんは

 

 

 

 

 

 

 

 

俺を完全に放置し……ドガースを倒しに、飛び出した。

 

 

『はぁーッ!?!?』

 

そして、またしてもこの屑共は引っかかってくれる。

思わず笑いがこみ上げてきたが、必死に我慢する。

何故なら俺の目の前にはズバットが勢い良く口を開けて、俺から血を吸おうと迫っているからだ。

 

 

 

簡単な話である。

人間心理として、『普通なら』自己保身に走るモノだろう。

残った屑共は、ドレディアさんが俺を守りに走ると『予想』していた。

そして俺はそこの点を戦いが開幕する前から『読み切った』。

俺はそれを考え抜いた上で、最初にドレディアさんに

「俺に一切加勢せず、見捨てろ」と言っておいたのだ。

 

 

ネットゲームというのはご存知だろうか?

インターネットを介し、日本中、果ては世界中まで人間と繋がる事が出来るゲームである。

 

そしてその中には、対人戦、ギルドvs等の『戦い』も存在する。

俺はこのうちの対人戦に特化して、頑張っていた時期があるのだ。

最初はただ対戦出来る事が楽しかった。次には勝ちたいと願った。

そして最後には───勝つ事しか考えなくなった。

 

 

その結果失ったものは計り知れない。

時間は私生活を全て注ぎ込み、出歩かなくなり、友は去り。

ストレスで叫ぶ奇人の状態に陥った事すらあった。

 

しかし某漫画の如く「等価交換」は存在する。

戦いというくだらないモノに賭けた対価は、確かに得た。

 

 

 

それが『人心掌握』という名の先見予測である。

 

 

上下左右。

右以外が塞がれていたら、罠と気付かぬ奴は必ず右に逃げる。

戦闘の終盤。

追い詰められたら、せめて一矢報いようとがむしゃらになる。

戦闘の結末。

負けそうになれば、どうしてもあわてて普段の動きが出来なくなる。

 

 

 

つまりは、人の『当然』を用いて先を予測。

その予測を上回る行動を起こすために発想が追い付く「妄想」である。

だが「妄想」とは、情報が間違っていないのであれば───

 

 

 

完全予測に成り得る。

 

 

 

 

「ギギィ!?」

 

ズシュッ!!

 

「グッ、ぬッ……!」

「なっ……───」

「何を───!?」

 

 

 

 

 

 

 

俺は。

 

 

 

 

 

ズバットに。

 

 

 

 

 

自分の右手を、差し出した。

 

 

 

 

 

 

 

噛み付かれたその瞬間から、物凄い痛みが腕の中を駆け巡る。

噛み付いた直後から吸われ始めたのか、若干腕自体にも違和感が出た。

 

それはそうである。なんせこのズバットは見た限りでも70~90cmはある。

現実に居た蝙蝠とは訳が違う。巨大であるが故に牙もでかい。

それが、刺さっているのだから───痛くない訳が無い……!

 

 

 

「ッぐ……ガ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────ァァァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ゴッシャァッッ!!

 

 

 

 

 

「ギィァーーッ!!??」

 

 

 

 

 

 

「───バッ、馬鹿なっ……!!」

「なん、なんだ、ッあのガキっ……。狂ってる……!」

 

 

 

 

だが、その痛みですら『予測済み』なのだ。どんな痛みかは知らなかった。

俺の居た勝負の世界は、あくまでもネットゲームでしかないデジタルな世界なのだから。

しかしそれでも、この痛みを超える痛みを頭で予測していれば

───我慢出来ない事もない。

 

 

 

 

その痛みを堪えつつ、俺は渾身の力で─────

 

 

 

自分の右腕ごと、ズバットを近くに在った木に叩き付けた。

この小さい体で可能な限りの力を全て叩き付けた。

 

腕力、背筋力、そして─────遠心力。

 

 

 

今更過ぎるが俺の体は子供でも、頭の中身は30代のおっさんなのだ。

あらゆる『力』は、どう作用させれば最大威力を発揮するか位、認知している。

 

 

つまりはこんな小さな体でも戦力に成り得るのだ。

 

いくら子供でも……───

 

脚のつま先に全力を込めたトーキックを脛に喰らえば、大人でも痛いだろう。

 

完全な空手の正拳突きを股間に食らえば、大人でも悶絶するだろう。

 

倒れた所に全力で首を踏み抜かれれば、大人であろうと喉は潰れるだろう。

 

 

 

 

そしてあまりの予想外な威力に、俺に噛み付いたズバットは完全に崩れ落ちた。

 

 

 

「あ、有り得ねぇ……、なんなんだよコイツ……」

「ガキが……ただのガキが育成されたポケモンを倒すなんて聞いた事もねえ……」

 

 

 

ここも予想していた。やはりな、と流石にニヤついてしまう。

今のところはほぼ予想外もなく、全て思惑通りだ。

 

単純な話である。

こいつらの中ではこの場の勝負は『3対1』だったのだ。

俺の中ではこの場の勝負は最初から『6対2』だった。

 

 

 

使える手駒が1個か2個かで、取れる方策は全く変わってくる。

一人であれば全周囲が敵だが、2人なら背後をお互いに取れば

敵は正面左右からしか襲ってこないだろう。

2人なら一人が捨て身で突撃して相手を削り

もう一人が相手の将を奇襲で倒す事も可能だろう。

 

 

『6対2』と『4対2』

どちらが対処しやすいかなど、言うまでも無い。

 

俺の事をただのクソガキとナメたツケが、今見事に屑共に回ってきたわけだ。

そして、状況は……──

 

 

 

 

『【3】対2』になった。

 

 

 

 

 

ゴガンッ!!

 

 

 

 

 

「……ース」

「……ディア」

 

「……ッ!? しまっ──!!」

「あ……あ……」

 

 

あまりの事に呆然とする屑共。

俺がズバットに対して大立ち回りをしている間に

ドレディアさんがドガースに向かったのを見ていたのに

すっかり指示を忘れてしまい、結果ドレディアさんはうまのりパンチで全殺し。

 

確か毒は格闘タイプの技が通りにくかったというイメージがある。

しかし───トレーナーから指示が来ないポケモンなんぞ、ただの木偶だ。

通りにくかろうがなんだろうが関係ない。ずっと攻撃が続けばそのまま倒れる。

 

 

まるで阿修羅のようにドレディアさんはユラァリと立ち上がる。

今の彼女を言い表すなら、まさに鬼神。

 

出された全部が全部、彼女の苦手タイプが混ざっていたはずである。

しかしそれを全く苦にせず、イカれた相棒はキッチリとカタを付けてくれる。

 

まだ戦ってないデルビルは炎属性。

俺が倒したズバットは、飛行属性、ついでに毒。

そして今ドレディアさんが倒したドガースも、これまた毒。

 

さすがにゲームルールを完全に逸脱してしまっている感じがある

『トレーナーがポケモンを倒す』という暴挙こそ混ざってはいるが

実際のところ並のポケモンでは全部の属性が合ってでもいない限り

ここまでの戦果はまず、無理だと判断している。

 

 

 

それもこれも、ドレディアさんが全てにおいて規格外だから生み出された結果だ。

俺に噛み付いたズバットだって開幕のいかくの効果で若干の攻撃力低下はあったはず。

 

しかしそれを置いてもドレディアさんはとにかく素早い。

素早い上に破壊力がとんでもない、完全なアタッカー。

 

ドレディアさんは将棋で言うなら『飛車+角行+桂馬』である。

こんな反則的な手駒があった上で、三下に負ける等……王将が3個居ても有り得ない。

 

 

 

「おいで、ドレディアさん、次の策だ」

「───ディッ!!」

 

まるで残像を残すかの様なスピードで、俺の傍らへとスタンバイした。

そして俺はドレディアさんを屑共の視線から庇う様な立ち位置へ動く。

 

「ディァ……」

「ん……あぁ、腕は大丈夫だよ。気にしなくていい。

 終わってから包帯代わりに布でも巻けばどうにでもなるさ」

 

心配そうに俺の右腕に手を置いてくれるドレディアさん。

ごめんね、さっきから無茶な事ばっかりする主で───

 

「てっ……てめぇらぁ……!! 恥ずかしくねえのかよっ!!」

「そうだそうだぁっ!!」

 

…………? 何が、だろうか。

俺は特に自分を恥じるような事はしていないはずだが……。

 

「さ……さっきからよぉッ!! 正々堂々と戦う様な事もしねえでよぉッ!!」

「挙句の果てになんでトレーナーがポケモン倒すなんただの反則だろーがぁ!!

 ふざけた事やらかしてんじゃねぇぞボケナスがぁっ!!!」

 

 

 

ああ、そういうことね。

 

 

 

「─────言いたい事は大体わかった。

 つまりはお前らは俺が正々堂々と戦えない卑怯な奴って言いたいんだな?」

 

自分達はルールに則って戦っているのに

貴様のその常識を逸脱した行動はなんなのだ、と。

 

「ったりめぇだぁ!! プライド無ェのかクソガキがっ!!

 ポケモンバトルにトレーナーがしゃしゃり出るなんて奇襲紛いの─────」

 

 

「……クッ、クク……くふふふ、ハハハハッ!

 アーーッハッハッハッハッハッハッハッハッッ!!!」

 

 

「……ッ!?」

 

急に笑い出した俺を、黒い奴等は俺に驚愕と奇異の目を向ける。

 

「ハッハッハッハッ……! おっもしれぇ。

 お前等、現状認識すら出来ねえのかよ……! フ、フフ、ハッハッハッ!」

「な……んッ、テメェ、なんで笑ってやがるッ!?」

 

やれやれ、どうしてわからんのかなぁ。

 

「─── 最 高 じゃないか」                      シュゥゥゥン

 

 

『───ハァっ!?』

 

屑共は俺の言葉が理解出来ないのか、二人揃って奇声を上げる。

 

 

 

「卑怯だと?

 

    ──上等じゃないか。

 

 奇襲だと?

 

    ───最高じゃないか。

 

 プライドだと?

 

    ────ゴミ程度の価値しか無いじゃないか。

 

 上二つの言葉が、要因が、合わされば。

 

               人数差すら物ともしない最強の戦略になる。

 

 そこにプライドなんてもんが合わされば。

 

               全ての策を塵に化す無謀が生まれてしまう。

 

 聞かせてくれよ……。

 

 

 何故、まともに正面からぶつかり合わなければならないんだ?

 

          どこに、アホの如く正直に、正面から正々堂々散り急ぐ必要があるんだ?

 

 

 ……これ以上の意見なんて、有りもしないし必要ですら無い。

 実に合理的で、素晴らしい根源じゃないか。」

 

俺はその小さい体の両腕を、左右に目一杯広げ、語り尽くす。

全てが自分の思うままに、全てが自分の手の内に。

何一つ恥じる所など見当たらない、勝利への持論を。

 

『─────────。』

 

ハハハ、最早言葉すら尽きたか。ならあえて口にしようか。

 

「なぁ、反則と言ったかな?

 なら聞きたい、あんたらは最初何対何だと思っていたんだ?」

「ぬっ……!!」

「ッグ……!!」

 

「反則、と言ったかな?

 なら問おう、あんたらは俺に対してどうすると発言した?」

「……───」

「ッ……───」

 

「反則、と言ったよな?

 殴られる覚悟すら無いのに危害を加えられた途端にてのひら返して

 ピーチクパーチク騒ぎ立てる恥知らずは、確かに反則ではないんだよなぁ」

 

そう、別にこれに関しては何も卑怯な事などない。

タダ単に、ゴミ、塵と同じく平等に価値がないだけで。

 

「けどな……

 

 

 ───そんな恥知らず共に用いるべきルールなんて、存在すると思っているのか?」

 

「……ッ!! るっせぇ!!」

「こっちにゃ……まだデルビルが残ってんだッッ!!

 噛み付いて喰い千切れやデルビルッッ!!」

「───ッグルァ!!」

 

 

そうか、それでもまだ正面から突撃させるのか。

 

 

……トレーナー失格だな。

 

 

とても凶暴なデルビルの口が俺に迫る。

だが俺は落ち着いて────

 

 

 

 

デルビルの口の中に、ずっと右手で握っていた土を投げ入れた。

 

「ッギュェ!? ゲフェッゲゥッ……!!」

 

口の中に異物を放り込まれたデルビルは完全に俺への突撃を止め

なんとか体内から出そうと、咳き込みながら悲鳴を上げている。

 

「お、おま……この期に及んでッ……」

「一体いつから握ってやがった……」

「馬鹿のひとつ覚えみてぇにデルビルを俺へ向かわせたお前らに対して

 なんでいちいち説明してやらなきゃならないんだ?

 説明して何になる? お前等が聞いた所で、それがどんな事に活きる?

 正面から向かわせて、『今』どうなった? 少しは自分で考えろ、屑。

 お前らを信頼して、素直に命令を聞いたデルビルに謝りながらな……」

 

 

まあ、わかる人にはわかるものだ。

俺が地面に手を付いたシーンなんて『一度しかない』。

その時に決まっているだろう。屑は脳みそも屑だったようだ。

 

「───くっそ!!

 なんとか俺らだけでもあの草の野郎止めんぞ!!」

「……おう、って……

 あいつ一体どこに消え───」

 

 

 

ッゴシャァッ!!

 

「あげぁーーーーっ!?」

「っなぁッ?! 後ろだとぉーーー!?」

 

俺の後ろに居たはずであるドレディアさんは

後ろから屑共の一人をぶん殴ってぶっ飛ばす。

 

 

 

「言ったろ? 奇襲ってぇのはな……─── 最 高 なんだよ」

「ッディ!!」

 

先程の、自分でも真っ青な位の厨二病全開の発言の最中に

俺は密かにドレディアさんをボールに仕舞い。

視線がデルビルに行った隙を突いて、そのボールを手首の動きだけで

屑共の後ろの方へ投げ込んでいたのだ。

 

 

 

いくら多方面に警戒をしたところで、真後ろからの攻撃なんざ

『予測が付いていなければ』回避なんぞ絶対に出来ないものである。

 

さて……

 

「───ようやっと、2対2になったなぁ? 屑」

「グ……ガ……ッ、てめぇぇぇぇ……」

 

ここまで差を詰められても、つまらない『プライド』を前面に押し出し

怒りを露にする屑。もはや同情の余地も無い。

 

 

 

 

───完全に潰してやる。

 

 

「ドレディアさん、頼む」

「ッディア!!」

 

今までの戦果からか、完全に俺の奇妙な行動を信用してくれたらしい。

屑の片割れを殴り倒した位置から俺の傍らへすぐさま来て、最後の策略を促した。

 

 

 

その最後の策略は。

 

「ッッ!! デルビル、気をつけろぉ!!」

「ッゲゥ!!」

 

まだ口に入った土が取れていないのか、妙な鳴き声を上げながらも

なんとか迎撃体勢にスタンバイするデルビル。まあそれも仕方ない。

 

ドレディアさんは、俺を抱え上げているのだから。

最初にズバットに対して投げたあの奇襲を警戒しているのだろう。

 

そしてあちらの警戒にも構わず、ドレディアさんは俺をぶん投げる───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────相手の近くの木の上へ。

 

 

 

 

 

「っはぁ……?」

「グゥ……?」

 

 

なんてことはない、これは俺がトキワに行くために提案していた

あの土手ショートカットの応用版だ。実際日記かなんかにも書いていたはず。

俺は太い枝に乗り、腕の痛みを堪えつつ幹に手を当てバランスを取りきった。

 

屑とデルビルは揃って俺を見上げてきた。

 

そして俺はその先にあるこいつ等の考えを、こう予想する。

「俺が罠で、ドレディアさんが本命」と思い込み───

 

 

「ッ!? デルビルッ!! 草野郎だァ!! アイツから目を離すなぁッ!!」

「ッゲゥッ!!」

 

 

───ほらね。

 

そしてドレディアさんは、俺の作戦のために。

 

 

 

「…………。」

 

 

俺を幹の上に投げた状態から、一切動かない。

 

 

「…………あぁん?」

「……?…………???」

 

 

 

奇襲ってのは、『予想外』だから奇襲なのだ。

一度見られた奇襲になど意味はない、警戒されて当たり前……そして、それをこいつらはした。

その警戒をさらに高めるべく、あちらにとっては

本気で意味がわからない行動である「動かない」を実践してもらう。

 

 

 

 

そしてそんな予想外が起こってしまったら……

とある事項は頭の中からすっぽ抜けてしまうものだ。

 

 

 

そして俺はそのとある事項を思い出してもらうべく……

 

 

 

トンッ

 

 

ッズダァン!!!

 

「ゲグッッ!?」

「2対2、だろ? 俺を忘れんなよ」

 

 

木の上から屑を狙って飛び降り、うまい具合に踏み潰す。

見上げるような高さの位置から、子供と言えど遠慮なく人の上に降りればどうなるか?

物理的に潰れるに決まっている。当たり所が悪ければ死すら有り得る。

高くて怖くて飛び出しづらくて、ついでに衝撃で腕もさらに痛くなってしまうが

もう戦いも終わるのだからここは我慢である。

 

俺はゆらりと立ち上がり、ドレディアさんもデルビルを俺と挟む様に歩いてくる。

 

「ッグゥ……グルルルル……」

「……デルビル。もう終わりだ」

「ッ!?」

 

突然俺が話しかけた事で少なからず動揺している。

この戦いは、『既に終わった』のだ。

 

「お前の相棒達も、トレーナーも全員片付けた。

 一人でこのドレディアさんと俺のコンビに張り合えるのか?」

「ディァ。」

「…………。」

「俺らはあくまで、……まぁ、お前の飼い主を貶めて悪いが───

 こいつらが許せなかったから今回立ち向かっただけだからね……

 お前が憎いわけじゃないんだ」

「グゥ……。」

「もちろんお前は飼い主を倒した俺が憎いだろうさ……。

 でもそれでお前も掛かってくるなら、俺達はお前を容赦なく叩き潰さなきゃならない。

 負けは負けなんだ。認めてくれればこれ以上俺らが戦う意味は既に無いんだ。

 だから、頼む、この通りだ───

 

 

 

 

 

 

 ───……降参、してくれ」

 

 

 

 

 

今述べたように、俺はこのデルビルまで片付けようとは思っていない。

黒い奴等はすぐさま私刑で処刑にしてもいいが、こいつにまで罪があるわけではない。

屑共を全て片付けた時点で、この戦いの詰み将棋な既に完成したのだ。

 

「……。キュン、キュゥーン……」

 

デルビルは、俺とドレディアさんから離れ

こいつの飼い主と思われる屑の所へ行き、心配そうに傍らに座った。

 

 

 

 

 

 

戦いは、終わった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話 oh…


処方箋を更新。
ついにアイツが登場。


 

「ッはー……。疲れたなぁ~」

「ディ~ア、ディァ~」

 

たかだか20分程度の戦いでこそあったが

取った策略も策略で安全策でなかったために体の疲労感がッパネェ。

 

すぐ傍にはデルビルを除いた死屍累々が築かれているのだが

縛る事も忘れ、俺はどっかりとそこら辺の木の根に腰を下ろした。

 

「───つッ!!」

 

座った衝撃程度ですら、ズバットに噛まれた腕が酷く軋む。

血も未だに流れており(とは言っても極少量。そこまで深くは無い)

さらには戦い始めにドレディアさんにぶん投げられた関係で擦ってしまった傷まであるから

どうにも面倒な痛みである。一度気になるとどうしても……あぁん。

 

「ディ~……」

「ん……?」

 

ドレディアさんの声にあまり力が無い。負担を掛け過ぎたか? ……って、あぁ

 

「……気にしないでいいよ、これは。

 俺はトレーナーとして、自分の相棒が自由に動ける選択肢は取ったはずだから。

 ドレディアさんは何も悪くないからさ」

 

どうやらドレディアさんは俺の腕の傷を本気で心配してくれているらしい。

そのせいで声色が若干落ち着いている、と勘違いしたようだ。

 

それに取った戦略は、実際大当たりだったはずだ。

なんせポケモン単体で見ても1:3である。戦いなんてもんは普通は質より量。

この事実だけでも負けかねないわけなのである。

それをひっくり返す事が出来たのだから、これを当たりと言わずなんと言おうか。

 

だからこそ自分の相棒のドレディアさんが無傷なのは素晴らしく誇れる事だ。

……の、だが……、ドレディアさんの

 

【私が無傷でも、私が守るべきあんたが自爆してりゃ世話ないよ……】

 

と言う視線がとてもきつい……。

 

いいじゃねーかよぅ、泥臭かろうが卑怯だろうが

最後に勝てば官軍なんだい。負けちまったら賊軍なんだぃ。

 

 

 

 

 

 

だが、まあ。

そういう気遣いは結構……いや、とても嬉しかった。

 

最初の時には顎を打ち抜かれ、初戦闘では貴様なんぞ要らんと言われ

その後には飯を奪われ、森の中では置いてけぼりに……

 

 

 

あれ? 碌な思い出がねえぞこれ?

 

まぁ、ともあれ。

今回の戦いで初めてドレディアさんは俺個人を認めてくれた。

認めてくれた上で、俺を必要としてくれたのだ。

今回の戦いは公式のポケモンバトルでは無いと割り切っていたからこそ

無茶を通り越して反則な手を数多く使ってしまった。

 

反則であるなら公式の試合では使い物にならない。

これからはもっと通常の立ち回りの研究にも力を入れなければなーと思ってしまう。

 

これから彼女と一緒に戦う機会こそ二度とないかもしれないが

彼女が気重ね無く戦えて、気持ち良く勝利出来るように色々考えて見るかな。

 

 

 

 

さて、腕の治療もドレディアさんに手伝ってもらった。

のはいいのだが、手首よりちょっと下に噛み付かれた後があるのに対し

包帯っぽい布で肩までぐるぐるにしやがった不器用レディはどないしてくれよう。

 

 

まあ最初から言ってはいるが俺の事なんぞどうでもいい。

そんな事より問題は、このロケット団を(捕縛済み)転がしたのはいいが

 

『ピッピー!ミュゥー!!

 ペラップー♪ピジョットォー!!

 うっきゃハナハナーっきゃー!!』

 

こっちどうしよう。

みんなが予想外に暴れすぎて絡まりまくってんだけど、網。

 

「ディッ、ディッ。ディァッ。」

「いや、ないし。無理だし」

 

【これも予測済みなんだろ? 対処出来るんだろ? なっ? なっ?】という視線が痛い。

さっきからこの子、視線で俺を殺そうとしてるんだろうか。

 

 

そんなこんなでぎゃーぎゃー騒がれつつ

俺ももうこの際だから放置して進んでしまおうか、と思い始めた当たりで

 

 

 

ポコッ。

 

地面から顔をひとつ覗かせた存在が出てきた。

宴会している時に居た無口なディグダっぽい。

「ディグダ……お前、何気に網から抜け出してたのか」

「─────。」

 

つぶらな瞳でじーっと見つめてきやがる。クッ……こいつぁ中々に威力のある攻撃だッ……! 

 

「抜け出せてるなら話も早い。

 ほら、行ったほうが良いぞ。またいつロケット団みたいな

 無理やり浚おうとする奴が来るかもわからないんだぞ?」

「─────。」

 

ぬう、これだけ促しても未だに動く気配が……。ん?

視線に意思を……感じるな、うん……なになに?

 

【貴方こそ我の主に相応しい。

 是非その旅路の末席に加えては頂けぬだろうか】

 

ふむ。無口だからこその科目で礼儀正しい意思が見える。

ディグダってもしかしてみんなこんなもんなのだろうか。

 

「ドレディアさん、この子の言いたい事はわかってる?」

「? ディァー(フルフル)」

「そっか、確認したいんだけどお前仲間になりたいっつってんのよね?」

「─────。(コクコク)」

「ッて訳らしいんだけど、ドレディアさんは構わない?」

「…………ディ~、ディァ」

 

悩んだ後に、しかたねえなーといった風に同意をよこすドレディアさん。

俺としてもドレディアさん単体じゃ出来る事と出来ない事が出てくるだろうし

新しく仲間が増えるのはちょうどいいのかもしれない。

 

「よし、わかったよ。

 モンスターボールもひとつ空きがある。君を歓迎させてもらうよ」

「─────ッ!!」

「じゃ、荷物からボールを……───。

 ……………………。」

 

 

 

 

 

ボールは、ある。大丈夫、勘違いしないで欲しい。

 

俺の目線の先には先程と同じくディグダがいる。

のだが、俺の目の前でディグダはこんな行動を取り始めた。

 

 

俺が仲間宣言を承諾し、ディグダはとても喜んだのだろうか。

普段は全く見えない体が穴から「出てきた」。

なんというかこう、のそっと出てきた。

 

そして今までゲームで見た事が無いその体は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た限りでは180~190cmはありそうな、スラッとした長いボディ。

 

全身は顔と同じく茶色であり。

 

胸に乳首、そして股間に秘所が見当たらない。全身タイツのようだ。

 

そして極め付けは……程良い筋肉。筋骨隆々ではない。

 

まさに健康的な美丈夫である。

 

しかも顔は今まで通りプリティな感じの……その罪の無い顔の下には

 

前述した、まさに2chの八頭身を少しマシにしたようなボディが。

 

 

 

 

 

そんなディグダが、俺の目の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええええええええええええええええええええええええ」

 

 

あ、ありのまま今起こった事をry

ディグダが仲間になりたそうにこちらを見てry

許可したらPixivタグにも登録されている「いつものディグダ」がry

な、なにを言っているのかわからねーと思うが……

俺も何を言っているかわかんねぇ……

 

 

「ァ……」

 

ドレディアさんもまさかの展開に唖然としていますwwwwwwwwww

 

そして当の本人のディグダ(?)は俺らの態度も一切気にせず。

俺の目の前に来て、片膝を付いた。

 

 

その上で、両腕を前に突き出し右拳を掌で包み……なんて言ったっけこれ、中国っぽいやつ。

ああ、あれだわ、拳包礼? でよかったっけ。

ともあれ俺の目の前でその姿勢になり、静かに、しずかーに頭を垂れた。

 

その意思は目を見ずとも余裕で垣間見える。

 

【我が主殿───。

 これより先、いかなる手段を用いようとも

 貴方に我が忠誠の全てを捧げることを誓いましょう───。】

 

と言った感じの……うん、意思だと思う。

 

 

 

って、えええええええええええええええええええええ

 

「いや、ちょっとそれ微妙に困るんだけど?!

 え、ディグダなの!? 本当にディグダなの貴方?」

 

そう問うた所、彼は答えやがった。

 

【我に何かおかしな所はありましたかな】

 

と返してきやがった。どうしろってんだこれ!

こんなの引き連れて街中歩いてたら何言われるかわかったもんじゃねーぞ!

 

やっべ、このままでは俺が彼の持ち主になるのが確定してしまう。

なんとか、なんとかせねば……!

 

 

 

何か起死回生の打開策は……。

…………。

 

くるり。

 

顔を少し右斜めに動かし、視線をそちらに移す。

すると今まで忘れていた……。

 

『ミュゥー!! ペラップー♪

 ハナハナー!! ピジョットー!!

 リキィー!! ピッピー!!』

 

こんなのがいた。

 

これ解決したら、自然な流れで逃げ切れねえかなぁ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話 No!

ペラップーは何故か瀕死になっても、倒れても声がそのままペラップー♪なのだそうです。
他のポケモンは少し声が低くなったり、初代だとキャタピーが瀕死になるとゴースの声になったりするんですがね。


 

目の前には相変わらずの、がんじがらめポケモンズ。

こいつらをまず助け出して、この奇妙なディグダの問題をうやむやにする!!

 

そんな決心を元に情報分析を開始───したいのだが……。

 

『【はよだせぇええええええ!!】(ペラップー♪)』(意訳)

 

と、網の中が騒がしい上にむにょむにょ動いてややこしい事この上ない。

まるで、マサルさんの形が崩れた『めそ』のようだ。

しかし『めそ』はまぁどうでもいいとして。

 

「んーどうしようかなぁ……?」

 

この状態では網の質や、絡まった箇所がどこかも調べられない。

 

「ディ~……」

 

………………あ、良い事思いついた。よし、やるだけやってみよう。

 

「ドレディアさん、ちょっといい?」

「アー?」

「ちょっとあの子ら威嚇してみて。

 あんだけごそごそされてると下手したらこっちがさらに怪我しちまうから」

「アー。ディァ」

 

なるほどわかった、と快択を得た。

 

「はーいみんなこっち注目ー♪」

『リキピミュハナ!?(ペラップー♪)』

 

一旦こちらに視線を集める。そして─────

 

「うるさいとこの子が君らを全殺しにしちゃうゾ★ミ」

 

隣のドレディアさんの肩をポンっと叩き、前に出てもらう。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

ってちょwwwwドレディアさんwwww兄貴戦で見た黒いオーラ出なすったwwww

なんなのこれ、いかく付属関連なの!?

 

しかも良く見たら何故か俺を見抜いてるしwwwwwwwwww

顔の方にも青筋がっ。何故だっ。

 

【てめぇ私だって仮にも♀なんだぞ……もうちょっと表現考えろコラ#】

 

ってな意思が垣間見えた。だってあんた出来るやん。ドガース全殺し(瀕死)にしたやん。

本当なんなんですか貴方はっ。お嬢様的に扱われたいならもうちょいおしとやかにせぇや!

 

 

『───────────。』

 

そして『めそ』達、あ、いや……ポケモンズは

レディアさんの風格に完全に飲まれ黙りこくった。顔も心なしか青い。

やはり野生の動物は危機に敏感だねぇ。

 

 

あ、後ろのディグダまで青くなって正座してるや。

ドレディアさん、姐御ポジ獲得おめでとうございます。

 

 

「そんじゃあとりあえず、お前ら静かにしててくれなー。

 暴れられるとこっちもどこをどうすればいいかわからなくなるから困るんだよ」

『キュ~……(ペラップー♪)』

 

なんで鳴き声統一したし。

お前らそんな声出せたのかよ。

 

 

 

 

そんなわけで情報収集開始。

まず網だが……うむ、これに使われている網目のものは

やはり漁とかに使われる細い物ではない。むしろ停泊のために使われるロープだ。

1本切るにしても多大な労力が必要そうだ。

さすがにのこぎりなんてねぇしなぁ。俺らが斬る案は一旦保留。

 

 

 

次は捕まってるポケモン達を見てみるか。

ふむ……ピジョットとペラップーならエアスラッシュはどうか?

キレイハナならはっぱカッター、リーフスラッシュ当たりで何とかならないかな。

あとは……───ピッピでゆびをふるの可能性に賭けるか?

 

 

…………。

 

 

「ピッピ、ちょっといい? ゆびをふるって使える?」

「ッピ? ピッピィ!!!」

 

ktkr。もうやるしかないなこれは。

むしろここまで聞いておいてやらない方が状況的に失礼である。

 

「よし、GOッ!!!!」

「ピピィ~ピッピ~!!」

 

 

ふーりふーりふーりふーりふーり。

可愛らしく指を振るピッピ。やっべえ和むわこr───ん?

 

指を振り終えたピッピがゆっくりと光りだした。効果が発動したか。

そしてマグネシウム閃光弾並ににまで光り輝いた次の瞬間──────。

 

 

 

 

 

ドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ 

      オオオオオオオオオオオオオオォォン!!!!!!!

 

 

 

 

全員巻き込んで大爆発しやがった。しかもデルビルと黒3人まで吹っ飛んでるのが見えた。

デルビル、ごめん。君結構離れて見てたのにね。

 

 

 

 

あまりと言えばあまりの威力に、網は無事千切れ飛んだ。

そして、中に入っていたポケモンも全員千切れ飛んだ。あんまりである。

 

なお、現在進行形で俺の意識も飛びかけてます。

やめてドレディアさん、ウメボシはやめて、

やめ───あ、母さん……今そっちに行くよ────

 

「─────!」

「ディッ!?」

 

意識が天に向かいそうになったところで、なんとディグダが救いに来てくれた。

結構根性あるのね貴方。さっきのドレディアさん見てたのに。

 

まあ本当、全員が全員瀕死です。

俺もだし、元気にウメボシしやがったドレディアさんもボロッベロです。

もちろんディグダも。ホント世話掛けてすんません。

 

【コイツは一辺殺さねぇと学ばねぇよ。

 どいてやがれディグダ、てめぇもブチ殺すゾ、ァ゛ア゛?】

【だ、駄目だッ!! いくら姐さんが我が主にイラついててもそれは駄目だッ!!

 それに主の目を見る限りもうヤバイ!! やめてあげてくれ!!】

 

ってな視線がギリギリ見えました。

ギリギリなのは何故か?もう、意識が、ね、持たな───

 

ぐぃっ

 

─────っへ?

 

ゴシャァッ!!

 

「オウフ、オウフ……」

 

意識を飛ばしかけたと見るや、ドレディアさんは俺の頭を掴み

地面とキスさせやがった。

 

そして本来ならめっちゃ痛いんだろうけども既に戦いの疲れに加え

大爆発のやられ具合、なおかつウメボシダメージで俺の意識は深い悲しみに包まれた。

 

「うっ、ぐぅ……」

 

それでも根性で何とか持ち直す。ふらふらする。

今日びアニメでもいねえぞ、こんな根性座った10歳児。

 

「─────!」

「ディ#」

 

大丈夫であるか、と心配してくれるディグダに

次こそ殺すゾ、という視線で見抜いてくるドレディアさん。

 

やばい、ディグダの印象が急上昇で天元突破。君は俺をまともに扱ってくれるんだな。

 

「っぐ……ふぅ……。

 ううぬ、さて……網は千切れたけど……」

 

千切れたけど、まさかの全員瀕死オチ。

どうしよう、ポケモンセンターに連れて行くにしても全員は連れて行けないぞ。

しかもミュウなんて持っていったら実験施設に持ってかれるに決まってる。

 

これはもう全てを放り出して逃げるしかないのか。

やれる事だけは一応やってみるか。

 

「ドレディアさん、ディグダ……

 俺がやらかしといてあれだけど、俺はさすがにこの現状をどうにか出来る力も策も無い。

 切欠だけでもつかめればいいんだけど、何か案はないかな」

「……#、ディ~……」

 

やれやれといった感じにひとまずの怒りを抑えてくれたドレディアさん。

しかし瞳から察するに彼女も打開策に関しては浮かばないみたいだ。

 

やはりディグダも同じく……───あれ?

なんか語りかけてきてる。

 

「─────!! ─────ッ!!」

 

【我に提案がある!! きっとなんとか出来るっ!!】だと……?!

 

「マジでか? ちょっとそれ聴かせて」

 

「─────!! ─────!!」

 

おお、なんと。そういう事か。

意訳をしよう。

 

【ここは我らディグダの住処にかなり近い。

 そこから我らの仲間達を連れて来よう。人海戦術(人ですか?)で

 下界の町へ運べば良いと思うのだ】

 

「それ採用。悪いけどちょっと呼んできてもらえる?

 それが出来るんならもうそれしかないわ」

「ッ─────!」

 

任せろ、といった感じにディグダは、さっきまで居た穴に潜っていった。

 

 

 

なお一部の人はここで逃げればいいじゃないかと思われるかもだが

さすがに外道なのは戦術だけです。人間性まで外道ではないはず。

こんな状況作り出しておいて捨て置けないよ……。

 

痛む体を動かし、運べる子達を集めだす俺。

キリンリキはまず無理だから、他のちっさい子達をキリンリキの周りに集める。

ドレディアさんも瀕死ではあるのだが、まあゲーム中でも瀕死ながらかいりき使えるわけだし

そこまで瀕死という状態は問題ではないようである。

ドレディアさんはピジョットとヤルキモノを担当してくれた。

 

「っふぅ……」

「ディ~ァ~」

 

ついでだからロケット団+ポケモン達も運んでおき、待つこと10分程度。

 

 

ポコッ。

 

「お、おかえりディグダ。どうだったかな?」

「ッ─────!!」

 

穴から腕を出し、グッと親指を立ててくれた。

ありがたいんだけどぶっちゃけ構図がDQ3のようがんまじんにしか見えません。

ちょっと吹きそうになるが何とか堪える。

 

そして───────

 

 

ポコッ   ポコッ  ポコッ   ポコッ   ポコッ  ポコッ 

    ポコッ   ポコッ  ポコッ   ポコッ ボコォッ  

ポコッ  ボコォッ    ポコッ ポコッ     ポコッ ポコッ 

 ポコッ    ポコッ ポコッ ボコォッ ポコッ  ポコッ 

  ポコッ ポコッ    ポコッ   ポコッ   ポコッ  ポコッ 

 

 

ありがたい事に、どんだけ連れてきてんの君。

なお、ところどころ混ざっているボコォッはダグトリオである。

 

まあこれだけいれば全員背負って……ッ!?

背負って、だと!?

 

まさかこいつら全員あのディグダみたいに体が……!!

 

 

 

 

と思ったがまさかの普通オチだった。

アニメ見たく顔だけ出して、土をモゴモゴと掘り進み

頭に全員を乗せて、ついでに俺らも乗せてもらってトキワにリバースしている。

 

なお俺だけ構図がやばい。俺が乗っているのは体つきのディグダなのだが

何故かコイツだけ瀕死なのに普通にテクテク歩いてやがる。

そしてその頭の上に胡坐を掻いている俺。視点2m60㎝。

さらに俺の頭の上にはドレディアさんが鎮座している。視点多分3m20㎝。

 

 

想像すると異様な光景だ。

ディグダの波が瀕死なポケモン達+ロケット団を頭に乗せ引き連れ

なおかつその先頭には謎のトーテムポールin俺ら。

誰かカメラ持ってきて。これ町の新しい名物になるよ。

 

 

 

 

 

 

夜だったのもあり、人目にはそこまで付かずにトキワのポケセンに到着した。

ディグダに降ろしてもらってポケセンに入ったのだが。

 

 

まず担当者に俺がぼろべろなのを驚かれ。

そして外にいるディグダに驚かれ。ってかドン引きされ。

さらに後ろにいるディグダの波に唖然とし

その上に載っている傷だらけのポケモン達を見て、なんと瞬時に思考が復活。

この世界の大人チョーつええ。プロって言葉はこういう時のためにある表現なんだね。

 

そんで事情を説明した後に治療を開始してもらった。

さすがに「思いつきでゆびをふるをやらせたら大爆発して全員吹っ飛んだ」っつったら

20分ぐらい説教されました。俺も瀕死なんですけど。

 

 

+αの事情もしっかり説明しておいた。

どうしてこうなったのかの原因であるロケット団には病院送り後に逮捕。

ミュウに関しては俺の手持ちである、と説明。

体つきディグダに関しては、俺もよくわかんないけど瀕死だから、と

しっかりと治療をしてもらう事になった。

 

 

 

 

ところで良く考えてみたのだが……こうなった原因ってさ、なんだと思う?

 

俺としてはドレディアさんを推す。

 

だって、よく考えたらこの一連の大騒ぎって

ドレディアさんが虫を怖がらなければ起こらなかったわけじゃん。

そのまま森突破してニビ行ってれば旅も順調だったよな、これ。

だから全てはドレディアさんが悪い。

 

「そういう訳だから今日と明日飯抜きね」

「ア゛ァ゛ア゛!?」

 

【どういうわけか欠片もわかんねぇよバカ!!】と抗議を入れられた。

めんどくせぇ。

 

「3日間飯抜きね。決定」

「アァァァーーー?! ァァァァ……」

 

ふふり、財布を握ってんのは俺なのだ。せいぜい反省して虫嫌いを直すが良い。

 

「─────。」

 

ぽんぽん、とやさしく姐御の背中を叩くディグダ。

なんだこいつやべぇ、めっちゃイケメンじゃないか。

 

 

 

ッと……そういえば。

一連の関連でモンスターボールにこそ入ってもらったけど

このディグダのステとかそういうの、まだ確認してなかった。ちょっと見てみようか。

 

ゴソゴソ、カチャカチャ

pipipipipipipipipip

ピーン♪

 

「─────!?」

「あ、大丈夫だよー、大丈夫。

 つーかそこら辺はドレディアさんと反応同じなんだな」

 

さて……。どうだろう。

 

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

No.050★突然変異★

ディグダ Lv8程度

 

タイプ1:じめん

タイプ2:かくとう

 

せいかく:ちゅうぎもの 全成長率0.9倍 経験地取得率1/3

とくせい:ちゅうぎしん (持ち主が親の場合、素早さを除く全ステータスが2倍)

とくせい:マルチスキル (攻撃する際と防御する際の技が同時に選択可能。

             具体例1で攻撃時にメガトンパンチ、防御時にまもる。

             具体例2で防御時に攻撃技を選択すると威力だけ1.5倍扱いになる。

             ただしあなをほる、そらをとぶには適用されない。)

親:タツヤ

 

こうげき:━

ぼうぎょ:━━

とくこう:━

とくぼう:━━

すばやさ:━━━━━━

 

現努力値

なし

 

わざ1:

わざ2:

わざ3:

わざ4:

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

 

技ナッシングwwwwwwwwwwww使えねえwwwwwwww

そして予想通りだったけどこいつも突然変異だよwwwwwwww

 

しかも特性なんだこれ!! 殆どのステータス2倍とか!!

なんで2個特性ついてんの!? さらには付いてる2個目の特性までイカれてるし!!

チャーレムですら確か物理攻撃力だけだろ!!

 

 

ステータスは全然な感じだが、これLv8っしょ?

Lv100とまで言わずともLv30とかあたりでもう超化けんじゃねえのこれ。

 

やっべぇ、こいつやっべぇ。

性格のデメリットとか気にならないほど狂ってる。

レベルなんて地道に上げればいいし。しかも狂ってる癖に超紳士だし。

 

 

「これ……一応博士に報告した方がいいのかなぁ」

 

 

シン兄ちゃん、俺の手持ちがドンドンイカれていきます。

助けてください。もしくはなんとかしてください。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話 人気者

 

 

「───うーん……これは、なぁ。

 図説こそもらったけど、完全なオーダーメイドだよね。結構高くなっちゃうよ?」

「やっぱそうですかぁ」

「ミュ~」

 

突然謎の会話失礼。

現在俺はトキワシティに滞在したままです。

 

 

んで、どこにいるかっつーと。

 

 

 

 

 

楽器屋です。ついでにミュウも連れ歩いてる。

この後どうせ野生に戻るってのもあるし

少しの間だけだが人間の生活でものんびり見てもらおうかなって思ってね。

こいつは(図鑑によると)頭も良いらしいし、色々とタメに成る事もあるだろう。

 

ん? これ以上楽器増やすつもりか、って?

いやうん、増やすんだけど俺の使うもんじゃないよ。ここで提案してんのはね。

 

現在注文を頼もうとしているのは、持ち運びが可能なドラムセットである。

コンパクトに軽量化、というスタンスの図説を作り今店主さんに渡したところだ。

 

 

今回新しく謎ディグダがうちの面子に加わった。

ドレディアさんも楽器の才能こそまだ謎だが、踊れるアイドルなのは確定している。

 

だから謎ディグダにも楽器を使わせようと思い、こちらにお邪魔させてもらってます。

ただのディグダだとドラムとか無理だろうが、あのディグダはボディが人間に近い。

それならばドラムだってやろうと思えばやれちゃうんじゃねーの? と。

 

かといって俺らは旅人の身なので、普通のドラムなんぞ持って歩けば

途中で(ディグダごと)投げ捨ててしまいたくなる候補No.1になってしまうのは間違いない。

 

という理由から、総計3キロ位に収まるはずの

ドラム図説を提出して見せてみたのだ。

 

 

「やっぱ作るとしたらかなり額行きますかねぇ」

「んー……正直材料の入手は安く済ませられるし難しくないね」

「でも結構高くなってしまう理由がある、と」

「話が早いようでなによりだ。これを、この素材でまともな音と同時に

 満足出来る耐久度を出すには、片手間で作る程度じゃさすがに無理だ。

 これ一つだけに完全集中する必要がありそうだからね」

「技術料ですね」

「ミュ~ゥ」

「……君、年いくつ?良くそんなモノ知ってるね」

 

 

今年で30歳っす。でも魔法使いじゃないっす。

 

 

「ん、よし。14,000円でどうかな?」

「買います」

「……即答、か。そんなにお金持ってるのかい?

 バトル慣れしてるようには見えないけど……」

「はい、バトル慣れはしてません。でも持ってます。じゃあ、これで」

 

そうして15,000円を手渡す。

 

「わかった。そこまでして欲しいものなんだな。

 一度引き受けたモノは自分が納得行くまで仕上げるのが筋だ、

 絶対に君が納得行くモノにするからな、1日だけ時間をもらえるかい?」

「はい、大丈夫です。急ぐ旅でもないので」

 

小銭を返却してもらった。これで残り金額あとわずか。

 

 

さて、楽器屋での用事も終わった。

1日以上は滞在する計算になるなぁ。

お金減りすぎたかもしれないし、また演奏でもしてみようか?

 

「んー、どうしよっかねぇ……」

「ミュゥ~?」

 

……別に、お金は次の街ででも稼げるだろうしな。不安定収入ではあるだろうけど。

そんなのより旅は道連れ世は情けとも言うし、ミュウにとことん紹介して歩こうか。

 

よし、そうしよう。

どうせドレディアさんはまた出店の兄さんのとこで

食べ物3つでバイトしてそうだし問題ねえべ。

 

「なぁ、ミュウよ」

「ミュ?」

「もうすぐお別れにはなるんだろうけど

 よければ人間の町を簡単に案内するぞ、どうする?」

「ミュゥー!! ミューウ!」

 

喜んでいるようだ。俺の周りでふわふわしつつ体をオーバーリアクションに動かしている。

実に微笑ましい。あんたも見習え、俺の手持ちの草のヤツ。

そう、お前だお前 m9(゜д゜)

 

 

side ドレディア

 

 

「……ッディ!?」

もぐもぐ。

 

 

side out

 

 

「んじゃ、まぁ。

 高いもんはあまり食わせられねーけど、適当に屋台でも回ろうか」

「ミュゥー? ミュゥー」

 

屋台ってよくわからないから、任せるよ★だってさぁ。

やべえなこいつ、突然変異でもないだろうしマジで持ち帰りたい。

ドレディアさん、ヒロイン枠終了ありがとうございました。

 

 

side ドレディア

 

 

「……ァ゛ア゛ッ!?#」

 

……。

 

もぐもぐ。

 

「ドレディアちゃん、さっきからどしたの」

 

 

side out

 

 

そんな訳で、この前荒稼ぎした街路樹のほうまで来てみた。

大道芸の人達が元気に芸をやっている。んー偉いねぇ。

俺があっちの世界で19や終わる直前の20の時なんてずーっとネットゲームやってたからなぁ。

自主性があって素晴らしいと思います。尊敬出来る。

 

「ミュゥー!! ミュ~!!」

「お、気に入ったかい? それなら何よりだよ」

 

やはりこいつは頭が良い。よくわかっている。

大道芸の人たちの動きは極論で言ってしまえば

【ポケモンの方がもっと芸っぽく動ける】のだ。

 

だがしかし、ミュウよ君は偉い。

【空を飛ぶことも出来ず、重力制御下でしか動けない人間が

 ポケモン並の超人的な動き、バランスを出来ている事】に価値をしっかりと見出している。

 

これ、ミュウへの過剰評価じゃないよ?

もう大体目ぇ見たら何考えてるかわかるんだ。この子も結構わかりやすい。

 

ちなみに俺ら、結構な人込みに混ざって大道芸を見ているんだが

ミュウの希少価値に気付く人は皆無である。まあ元々伝説ではなく幻のポケモンだしね。

普通に知られてないんだわ、ミュウとかセレビィとか。わかる人にはわかるんだけど……

まあ大道芸見に来てる研究者なんぞ、変り種過ぎる。

多分居ないだろうから俺も秘匿せず堂々と一緒に見て───

 

 

「───ん、あれ? お前……

 ッ!! この前ここら辺で歌ってたボウズじゃねえか!」

「え、あっ本当だ!」

「おお、君は!」

「え、えぇ?」

 

おいちょっと待て。なんで幻のポケモンより俺のが扱い上なんだよ。

そしてギャラリーのおっさん、あんたもあんたで気付くな。

俺は今一般のMOBなんだよ。空気に溶け込む一般人なんだよ。幻のポケモン連れ歩いてるけどさ。

 

「何!?あの子が来てるのかっ?!」

「おい皆! 芸なんぞやってる場合じゃないぞ!!

 また彼の曲が聴けるぞっ!!」

 

 

ちょ待てwwwwwwwwww続けてwwwwwwww

俺らはあんたら見に来てんだっつーのwwwwwwww

ようし、ここは普段俺が利用こそすれ用いてない策略、「常識」を使って凌ぐ!!

 

「あ、でもごめんなさい……今日は楽器を持ってきて無───」

「はい、俺のエレキギター」

 

おいギャラリーその3wwwwwwwwwww

出すな出すなwwwwwwwwwwwwwwww

気楽にガキに魂の相棒差し出すなwwwwwwwww

 

「でもギターだけで出来るわけでは───」

「オカリナならうちの子供のがあるぞっ!!

 おいっ、兄ちゃんに貸してやるんだっ!!」

「うん、パパッ!!」

 

くぁwせdrftgyふじこlp;@:ぃlぴl

おい誰か俺の気持ちを汲み取れ!! 押し付けてんじゃねえっ!!

ドレディアさん助けて!!姐御助けてっ!! ミュウはわくわくしてて頼りにならないっ!!

 

 

side ドレディア

 

「……ディー?ディァ~♪」

 

~♪ ~♪

 

「なんか【やっぱ最後には私が頼りなのね】って顔してるねぇ。

 本当にありがたいよ、ドレディアちゃん。じゃ、これあっちのお客さんにお願いねー」

「ァ~ィ♪」

 

Three out change

 

 

「───ッハ!? 今、なんか野球で攻守が交代した気がしたぞっ!?」

「はぁ?何言ってんだボウズ?」

 

あ、うんまあ多分気のせいっす、おっさん。

 

 

 

んで、いつの間にやら楽器を2個も渡され。

オカリナはともかくギターのほうはギャラリーその3の兄ちゃんの魂が篭ってるのもあって

俺の持ち歩いてるギターより遥かに質が良い。フライングⅤとはわかってますね、貴方。

 

「やれやれ、今日はこいつと街見て歩くだけで済ますつもりだったんだけどなぁ」

「ミュィ。」

 

まあいいじゃん、あの時みたいに聴かせてよ★、ですって。

まあ演奏者冥利に尽きますねぇ。ありがたい話さ。

 

「したっけ、しゃあないっすね。

 何曲かやらせてもらいますよ~」

 

「おっしゃぁ!! やっちまえ!!」

「よーし! 噂に聞く天才のギターの捌きから来る音色……、参考にさせてもらうよ!!」

「ぼくお兄さんみたいに立派に音楽演奏出来るようになりたい!」

「さすが俺の子だ、これからも頑張るんだぞ!盗める技術はどんどん盗んじまうんだ!!」

 

 

あーもー……誰もわかんねーだろうけど、俺が歌ってるの全部パクリなんだっての。

ちくしょうこっちの気も知らないで……

ドレディアさん、助け……っと、さっきスリーアウトになってたっけ。

 

「まぁ……」

 

どかりと街路樹の段差に座る。

そして指を掻き、ギターの弦チェック。うむ素晴らしい音色だ。

 

 

ギターで結構弾ける曲にしようか……

ミスチル様の「名も無き詩」なんていいかな。

 

 

 

 

 

 

「ミュ~ゥミュ~ゥ」

「あいよ、ミュウもお疲れ様」

 

 

いきなり場面すっ飛ばしてすまない。もう今更だし飛ばしていいかな、って。

みんなでわいわい騒いで、おひねり飛んできたのをミュウがサイコキネシスで回収してくれたんさ。

明らかにサイコキネシスの無駄遣い。

 

今日は歌い続けていたわけでも無いのに8,684円になったぜ。

たったの5曲か6曲でとんでもない収入だ。

俺まだ10歳だし、税納める義務ないから税務署行かなくてもいいよね?

 

 

 

税でどうでもいいこと思い出したけど、ポケモンってゲームってさぁ。

政治家とか軍の幹部、とかそっち方面の人全然対戦相手として出てこないよね。

エセ軍人っぽいマチスだけじゃねえの、軍の幹部系列って。

もうムダヅモ無き改革的にやっちゃおうよ。政治家出すべや。

AIなのにバトルフロンティアの高難易度位の思考持たせてさ。

 

 

「そうは思わんかねワトソン君」

「【しらんがな(´・ω・`)】」

 

ひどい。

 

 

 

 

さーて。ムダに時間も食っちまったしただいまの時間だ。

宿泊先であるポケモンセンターに戻ってきた。

 

なんか帰ってくる途中、夕暮れの日の中動く影を見つけ

空を見上げてみたらフリーザーがヤマブキシティ方面へ飛んでいくのが見えて綺麗だった。

サトシ君がアニメ第1話で見惚れるのもわかる。

で、なんかそのフリーザーから

 

【タっくん、待っててねぇぇぇぇぇええええええッッ!!】

 

とか母に近い声が聴こえたのはきっと気のせいだと思う。耳鳴りって地味に嫌だよね。

 

 

とりあえず、まあ、うん。帰ってきたんだけどもさ。

 

「ディグダ何やってんの」

「ミュ。」

「─────。」

 

ディグダは土の中に埋まっていた。いや埋まってたって表記でいいのか?

なんかディグダらしく顔だけ出してたんだわ、入り口の横で。

 

んで、返答が

【やはり我はディグダの一人、土の中に体を収めるのが落ち着く】だそうです。

 

「真面目すぎるのもいいけど、もうちょい柔軟になった方がいいんじゃね?

 ドレディアさん、行動も身体能力もぶっ飛んでっから

 そんな堅苦しいと持たないよ、きっと」

 

「……─────。」

 

【主からのアドバイスだ、前向きに検討させて頂く】、か。

まあ無理には言いませんから好きにしてください。

 

 

「あ、ディグダ。明日ちょっと付き合ってもらうから。

 この街から出る前にちょっと寄る所がある」

 

「ッ─────。」

 

腕がニュッと地面から出てきた。ひょうがまじんですね、わかります。

 

 

まあひょうがまじんでも構わないけどドラムの才能持ってたらいいなぁ。

 

ま、今日はこんなところで寝るとしましょうかね。

 

「ミュウ、一緒に寝るかね」

「ミュゥ~♪」

 

はっはっは、かわういやつめ。持ち帰るぞコノヤロウ。

 

 

ん? ドレディアさん? 精勤賞ですね、わかります。お仕事頑張ってください。

 

 

 

 

 

side ドレディア

 

「……ディァッ!?ディアーーーーー!!!」

 

「……?【私の立ち位置が奪われたーーーー!!】?

 よくわからないけど、ドンマイ。

 ほら、売れ残りだけど1個追加してあげるから、ドンマイ」

 

「ディッ!? ディ~♪」

 

 

延長12回



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間1 とある母親の非日常

たまにはこんなのもいかがでしょう。



 

ハーイ♪ 皆さんこんにちわぁ~。

シンとタっくんの母親をやらせてもらってる、レンカって言いま~す♪

 

最近ちょっと出番がなくてこんな枠をもらっちゃいました。

いいんでしょうかね? まあいいんでしょうね、多分。

 

ちょっと前にうちのフーちゃんのレベルが上がってねぇ

なんかすっごい幸せになっちゃってね?

気付いたらアイキャンフラーイってやっちゃってたのよ。

あの時のフーちゃんとの旅はとっても楽しかったわぁ♪

 

 

でも帰ってきたら酷い現実に直面しちゃったのよ。

洗濯物は洗濯機に入ったままで若干すっぱい匂い出しちゃってて

もう1回洗いなおさなきゃならなかったし。

 

シンに関してはそろそろまた旅に出るって言ってたからいいんだけど

なんとシンに触発されてタっくんまで旅に出ちゃったのよぅ~;;

あの子の成長を見届ける事だけが私の幸せだったのにっ。

 

 

 

……さすがにご飯も作らないで1日家を開けたのは不味かったのかしら?

 

 

 

私、タっくんが出て行ってから2日位は寝込んじゃった。だってショックだったんだもん。

そのあとちゃんと立て直したのよ! ちゃんと私は立ち上がったっ!!

 

だけどもやっぱりその後地獄を見た。2日寝てた間に家事は溜まっちゃったし

ご近所付き合いもあったのにいきなり寝込んじゃって心配かけたし

何よりタっくんの部屋を掃除に行って、居ないのを改めて知って

むせび泣いてしまったわ……我ながら情け無いわぁ。

フーちゃん、あの時は心配かけてごめんね? あ、ついでにご近所さんも。

 

 

 

それでねぇ、最近になって

「逢えなくて寂しいなら逢いに行けばいいじゃない」って結論が出たのよね。

だから出て行った日数から考えて、そろそろヤマブキシティ位までは

バッヂを取りに行ってるだろうって思ってね? 飛んでいったのよ。

そしたらそのジムの子に「そんな子は来てない」って言われてね?

ガックリしながら帰ってくるしかなかったわけよ……。

 

んー私の時は10日もあればチャンピオンになってたと思うんだけどなぁ。

きっとタっくんも私の能力は受け継いでくれてる、と思ったんだけど……。

普通最初に行く事になるニビシティにも現れてないらしいのよね。

怖い目にあってなければいいんだけども、不安だわぁ。

 

 

まっ、くよくよしてたって仕方が無いのよ!

私には目の前に迫った家事がある! とっとと始末せねばっ!!

…………ウボァ。

 

 

「フリ~、フリ~ザ~♪」

「あら、フーちゃんおはよう~、今日も良い羽の色ねぇ♪」

「フリィ~♪」

 

そんなわけでこの子はフリーザーのフーちゃん。

知り合いから「頼む、こいつを育ててくれっ!」って言われて

「そんなもん自分で育てろっ!!」って言い返してぶっ飛ばしたんだけども。

ぼろべろになりながら出されたこの子があまりにも綺麗で気に入っちゃってね?

 

 

まあ、なんていうか。うん……。

奪い取っちゃった★

 

今でもたまに「お願いだから返してください……」って連絡は来るんだけど

肝心のフーちゃんが完全に知り合いより私になついちゃってんのよね。

あ、これは本当よ? 前に知り合いの前に出したらこの子

速攻でれいとうビーム出して凍らせてたし。

 

ま、その後ちゃんと「人に危害加えたらメっ!!」って怒ったけどね。

やっぱり怒るところは怒らないと、ね?

 

多分私と初めて逢った時にフーちゃんも懲りてるだろうし。

……あの時はちょっとやりすぎちゃったかな?

 

「ねね、フーちゃん。ちょっとトキワシティでキャベツが安いらしいのよ。

 お金渡すから買ってきてくれないかしら」

「フリ~」

「ふふ、ありがと♪ ちゃんと八百屋さんには連絡しておくから、後でお願いね」

「リーザ~♪」

 

こうやっていると会話が成立しているようにも見えるかもしれないけど……

実は、私はフーちゃんがなんと言っているかはわからない。

フーちゃん自体は私の言葉も、覚える事が出来たみたいなんだけど

タっくんみたいにどうしても完全な意思疎通は出来ない。

 

あれ、本当どうやってるのかしら。

なんか「目見ればわかるよ」って言ってたけど私はさっぱりだわ。

 

 

そうして私とフーちゃんは朝食を済ませ

フーちゃんはキャベツを買いにトキワまで飛んでいった。

 

さって私もお部屋の模様替えでも───

 

ピンポーン

 

「───あら?」

 

お客さんなんて珍しいわね。誰かしら?

私は玄関へと向かい、扉を開けた。

 

「はーい?」

「や、レンカさん。朝っぱらからすまんのう」

「あら、オーキドさんじゃないの。一体どうしたの?」

「うむ、ちょっとこっちの青年がの。

 レンカさんのフリーザーの話をどこかで聴いたらしくての?

 実物を見たいとマサラタウンに来たそうなんじゃよ。

 あの子の羽ツヤも、レンカさんと同じでとても綺麗じゃからのう」

「やーもう♪ オーキドさんったら、お上手なんだから★」

 

バシィッ

 

「おきょろぉっ?!」

 

あら、力入れすぎちゃったかしら? 博士が変な声出して5m位吹っ飛んじゃった。

後ろに居たシン位のわかめみたいな子が、唖然としてオーキドさんと私を交互に見ている。

 

「あ、はははは、いやいやぁ、相変わらずじゃのう本当に。

 タツヤ君が出て行った時はちょっと心配しとったんじゃが平気そうじゃな」

「あーうん、あれはねぇ───」

「し、失礼。貴方が噂に最近良く噂に聞く

 この辺を飛び回ってるフリーザーのトレーナーでしょうか」

「え、はいそうですねぇ。トレーナー……なのかしら?」

 

トレーナーやってたのもずいぶん昔だしねぇ。

今も名乗っていいのかしら。バッヂも全部返却してるし……。

 

「なんでも、見た上で戦力になりそうなら譲って欲しいって事らしくてのう?

 マサラタウンにはわしの研究所もあるし、そちらの見学ついでに

 話を通してもらえないか、って言われての(結末はわかりきっとるが)」

「あら、そうなの~♪ 若いっていいわねぇ~。

 やっぱり、手持ちは最強を名立たる能力の!! っていう感じ?」

「え、ええそうです。ボクもそう思ってます。空を華麗に飛び回っている、と聞いて

 この辺りの制空権を完全に制圧出来る強さがあると判断しまして……」

 

ん~良い響きねぇ。フーちゃんを褒められる事も幸せだけど

やっぱり何より、強くありたい! って思う心が昔を思い出してねぇ。

滾って来ちゃうわぁ~♪

 

「ところで貴方、お名前は? カントーを中心に活動してるの?」

「あ、はい。ボクの名前はタクトと言います。

 活動拠点はカントーではありませんね。ホウエンを中心に回ってました。

 ジムは全て回りきったのですが、噂を聞いてこちらへ……」

 

あらあらー、遠いところからご苦労様ねぇ。

 

「まあ、立ち話もなんだからお上がりなさいな。オーキドさんはどうするー?」

「じゃあわしも上がらせてもらうかの。

 今日のノルマも片付けたしの。(助手に押し付けただけじゃが)」

「あ……はい、ではお邪魔します」

 

とりあえず玄関から2人を家の中に上げたのだった。

 

 

 

 

「ん、まぁ結論から言っちゃうとあの子は渡せないわねぇ」

「そ、そんなっ! ボクの持論も完全に理解してくれているのにっ?!」

「うん、それはわかるんだけども、今の生活じゃ

 あの子も欠かせないしねぇ……今もキャベツ買いに行ってくれてるし」

「え、は……キャ、キャベツ、ですか?」

 

スーパーの安売りの時とかあの子の能力便利だしー。

 

「じゃ、じゃあボクが代わりに生活を支えるポケモンを───」

「ちょっと待ってもらえるかしら? 貴方はフーちゃんを見てすらいないのに

 噂の内容だけであの子を欲しがっているの?」

「(やっぱり予想した通りの展開になっとるのう)」

「え、はい。聴く限りではボクの戦力になるに相応し───」

「───噂どおりの強さじゃなかったら、どうするの?」

「ッえ!?」

 

私の返しに彼は詰まってしまう。

 

「強いポケモンがいいのは私も認めましょう。それで人のポケモンを欲しがって───

 自分の希望にそぐわなかったら、貴方は一体その子をどうするのかしら?」

「……あえて失礼を承知で述べさせて頂きます。

 頂けるなら返すだけ。交換したなら逃がすまでです。

 頂いたのであれば要らなくなった時点で返却すれば良い。

 交換したなら対価としてこちらもポケモンを譲っている。

 自分のモノになったポケモンをどうしようと───」

 

 

パチパチパチパチ

思わず私は拍手をしてしまう。

 

「え、えっと……」

「んー素晴らしい持論ねぇ♪ 失礼を承知ってわかってるのも良いわね。

 独りよがりでその論に至った訳じゃないのは認めてあげましょう♪」

「で、ではっ!!」

「───それとこれとは話が別よ。

 なんで好き好んでそんな相手に『家族』を譲らなきゃなんないのよ」

「…………。」

 

あっはっは、血が完全に滾っちゃったわねぇ♪

これは一回叩き伏せないとすっきりしないかも。

ウフフフフフフフフフフ♪

 

「ふぅ、紅茶が旨いのう。(完全予測過ぎてワロタ。

 タツヤ君、わしも君の持論に1歩近づけてるようじゃぞ)」

 

「……家族なんて、馬鹿らしいっ!!

 強いポケモンは強くあらねばその価値を発揮しないっ!!

 家族ごっこで縛って良い存在じゃないッッ!!」

「───貴方の手持ちの子、全員雑魚以下なのに?」

「はぁッ!? それは少し聞き捨てなりませんよ……!!

 見ても居ないのにいけしゃあしゃあと……!!」

 

まあ失礼に失礼で返すのは常套手段よねぇ。

 

「わかるわよ。貴方を見てれば。

 手持ちも大体各地の伝承に残るポケモンなんでしょ?」

「ッ!?」

 

何故わかった、と言いたげなタクト君。

 

「その持論と手に入れた根性は認めてあげるわ。

 昔は私もそういう時期があった───だからこそ」

 

彼は確かに立派だと私は思う。目指しているモノがあるのだから。

でも、やっぱりそれだけじゃ駄目なのよねー。

 

「今の貴方ではその子達は扱いきれるわけがない。

 ポケモンとトレーナーっていうのは、密接に繋がっているのよ。

 どれだけ強力な技が、特性が、タイプがあろうと……」

 

 

この子が持論を持っているように、渡しにだって譲れない持論はある。

 

 

だから、あえて言葉を汚くして言いましょう───

 

 

 

「───指示する使い手が悪ければ、それはゴミ同然の価値しか発揮しないのよ!」

 

 

そして私の論は、逆に言えば……

強さが関係なくても、指示する使い手がよければ宝石の輝きを持つ事も表している。

 

だが私の言葉『だけ』を聞き取ったタクト君は、顔に憤怒の表情を滲ませる。

 

 

「ッ……いいでしょうっ……!

 そこまで言うなら……貴方は私を軽く捻る事が出来るのですねっ!?」

「なんなら今、腕力で証明して見せましょうか?」

「いや腕力って!! ちょっと待ってくださいっ!!

 そこは実力って言葉のはずでしょう!?

 何でこの話で人間vs人間になってるんですかっ!!」

 

エー、だってそのほうが話早いじゃない。

しかも若干腰が引けてるわねぇ、男の子がそんなんじゃ駄目よ♪

まあ私の腕力が他の人と違っておかしいのも理解してるけど。

さっきオーキドさんふっ飛ばしちゃったしねぇ……。そりゃ怯えちゃうか。

 

「……まぁ、良いわ♪

 話してて私も、久しぶりに燃え盛っちゃったからね~。

 ───叩き潰してあげるわよ」

「……ッ!! その発言、飲み込まないでくださいよっ……!!」

「若いっていいのぅ」

 

私はオーキドさんみたいにのんびりとしたいんだけどねー。

 

「とは言っても……マサラタウンの中には勝負出来る施設もないし

 ちょっと移動する事になるわね」

「いいでしょう、どちらでやりましょうか?ボクはどこでも構いませんよ」

 

んーどこがいいかしら……あっ、そういえば!

 

「そうだっ!! 確かサカキ君から最近連絡があったんだわ!

 トキワでのジムを期間限定で再開したから、一度は顔を見せてくれって」

「おー、サカキ君かぁ~、懐かしいのう……」

「ッ!? サカキって、あの……

 全国の中でもジムのレベリングが飛び抜けて高いカントーで

 現最頂点に君臨しているトキワのジムリーダーですか?!」

 

あー他の地方じゃそんな風に言われてんのねぇ。かっこつけちゃって~♪

 

「まあ少なくとも私と最後にバトルした3年前はまだまだひよっこだったわねぇ」

「あ……あの最強のジムリーダーが……

 ひとつの地方のチャンピオンになれる実力者が、ひよっこ……!?」

「あータクト君タクト君。

 動揺してるかもしれんけど、これはマジじゃからな?

 わし、たまたまトキワのジムに行った時にその試合見たんじゃよ」

 

あーれはやばかったのー、虐殺に近かったしの。とか失礼な事を抜かすオーキドさん。

あとでハバネロの漬物無理やり食わせてやろうかしら?

 

「まあ、フーちゃんが帰ってきたら移動しましょうか。

 そろそろ帰ってくる───」

 

 

フリィ~♪

あら、丁度良く帰ってきてくれたわ~。

さっすが私の家族★

 

「おかえり~フーちゃん♪キャベツありがとうねぇ~」

「フリィ~フリィ~♪」

「ほ、本当にキャベツ買いに行かせてる……」

「あー、ここの家族はどの人もぶっ飛んでてのう。

 何気にこの人の息子、この地方のチャンピオンになっとるよ。

 しかもフシギバナ1匹で。強かったし凄かったのーあれは……」

「…………ック、ボクはいつの間に人外魔境に飛び込んだんだッッ!!」

「人んちで失礼な事言ってんじゃないわよ───この場で殺すわよ?」

「ヒィッーーー!?」

 

脅すために左手をゴキゴキならしてみる。

あら可愛い。オーキドさんの後ろに隠れちゃった。

 

「これこれ、レンカさん。さすがに殺人はわしも庇いきれんぞ?」

「いやだわ~♪ 冗談に決まってるじゃないの★」

 

バシィッ

 

『あぎょぱーっ!?!?』

 

ゴッシャァン

 

あらいけない、また叩いちゃった。

今度は後ろにタクト君がいたのもあって巻き込んじゃったわ。

 

 

 

 

 

 

 

ま、これからバトルでも全殺しにしてあげるけどね?

ウフフ♪




10/12 19:52 修正完了。
怖い奥様ステキ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間2 ふえるワカメの地獄黙示録

気絶させてしまった2名をフーちゃんのこおりのつぶてで叩き起こし

しっかり戸締りをして、トキワシティへ飛ぶ準備を完了させる。

 

よし、今日は洗濯物もまだ洗ってない。生乾きの嫌な匂いはしないわっ!!

 

「あたた……レンカさんもーちょっとやさしく起こしてくれんかのう……」

「やさしくってどうですか? まさかキスで起こせとか……キャッ」

「怖い事言わんでおくれ。ってあー違う違う!!

 レンカさんがどーとかそういう話ではないからの!!

 だからそんな怖いオーラ出して近寄ってこんでおくれっ!!」

 

あらあら♪ オーラって何の事かしら? ウフフフ。

ん、なんかタクト君がすっかり縮こまっちゃってるわね。

怖がらせてしまったかしら……? どうしてかしらねぇ。

 

「あれじゃよあれ。レンカさんにキスなんぞされた日にゃ

 リーグで快挙成し遂げてしまいおったレン君に

 一度やると決めたらやり方を選ばないタツヤ君を敵に回すのが怖いだけじゃっ」

 

あー、レンに関してはいまいち快挙って気がしないけど

タツヤに関しては本気で同意しちゃうわねぇ。

あの子本当、出来る事ならなんでもするし、やらせるから……。

 

 

 

 

ま、そんなわけでっと。

トキワに向かうために私は家から持ち出したロープでオーキドさんをフーちゃんに括り付け

私もフーちゃんの背中に乗り込む。ん……? なんか視線を感じるわね……。

 

「どしたのー? タクト君」

「あ、いや、その……オーキド博士は、その……

 何故、フリーザーに括り付けられているのでしょう……」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 

あら……? 私、他の人をフーちゃんに乗せる時にいつもこうしてるんだけど。

 

「オーキドさん、これ何がおかしいのかしら?」

「いや、わしにも───あー、そうかなるほど。

 多分普通に空飛ぶポケモンに乗るのと同じような想像しているのではないかね」

「え、えーと、多分そうです」

「このフーちゃんはのう、凄まじく早いんじゃよ。下手に素人が乗ったら風圧に耐えられないんじゃ」

「…………。」

 

んもぅ、タクト君なんなのよぅっ、その目は!

速いのは良い事なのよっ!! スーパーの特売にだってすぐに辿り付けるんだから!!

 

「よ、よしッ!! もうボクは惑わされないぞ!!

 この地方にいる間、細かい事は気にしない事にしよう!! そうしよう!!」

「そーじゃのー、なんせ人のポケモンとはいえ伝説ポケモンが

 キャベツ入った袋をクチバシに挟んで空を飛んでる地方じゃからのー」

「ええ、もうそれがこちらでは当然なんですよねッ!!

 ボクはまたひとつ強くなれた気がします!!」

「あらぁ、それはよかったわ♪ 強い事は良い事だからね、うんうん」

「ええ、何にも動じない心を鍛えるつもりでここに来たと思うことにします」

 

先程互いに譲れなかったモノがあり、言い争いこそしたものの

認めるべきところはしっかりと認めてあげないとね。

 

「よし、それじゃ移動程度で呼び出すのは悪いが、頼むぞレックウザ!!」

「グギャァォォォォォォウ!!!」

 

あらーでっかい龍だわねぇ。

ホウエン地方の特番であの龍の壁画見たことがある気がするけど……

多分本物なのでしょうねぇ、どうやって捕まえたのかしら? ま、どうでもいいか~。

 

「さーてそれじゃみんな、トキワへレッツゴ~~★」

 

いっくわよーフーちゃんー!!最・大☆加・速ッ!!

 

 

 

 

ドッシュゥンッッッ!!

 

 

 

イヤッホーォォォォォォウッッ!! やっぱ空は気持ちいいわねぇー!!

オーキドさんもそう思うでしょ、って……あら?

 

寝てるわ。よくこんな高さで眠れるわねぇ……。

日頃のお仕事で疲れが溜まっているのかしら……?

 

 

 

 

んさってーと。

空を飛び始めて10分、無事トキワに到着した。博士もさっきやさしく起こしておくれと言っていたから

肩を揺らして起こしてみたのだけど、今度は泡吹き出しちゃった。 どうしたのかしら?

 

「んーそれにしてもフーちゃん、タクト君全然見えないわねぇ」

「フリィ~」

 

そんなにスピード出した覚えもないんだけど、どうにも速すぎたらしい。

ちょっと街道場にでも寄って、オーキドさんの気付けをお願いしようかしら。

泡まで吹かれちゃうと私もちょっと対処がしにくい───

 

「ぉ、おぉぉぉ……、め、めそ……」

 

……って起きてくれたわ。よかった~♪

 

「オーキドさん、大丈夫ー? いきなり泡吹いたから心配したのよー?」

「ッハッ?! モンテスキュー!?

 ……っととと、レンカさんじゃったか。えーと……あぁ、トキワについたんじゃな」

 

なんかよくわからない言葉を言ってるわねぇ。本当に、お仕事が忙しすぎるのかしら?

 

「んもーオーキドさん、心配かけさせないでよぅ。

 泡まで吹いちゃったからちょっとびっくりしちゃったじゃないの」

「あはは、すまんすまん。最近慣れてきたと思っておったんじゃがなぁ。

 まさかいつも乗せてもらってる3倍速まで出されると思っておらんでのー

 ちょっと肝が抜けてしまったわい」

 

あれぇ? そんなにスピード出してたかしら?

いつも私がフーちゃんと一緒にスーパー行く時は5分位なんだけど。

 

そんなやり取りをしているうちに漸くタクト君がトキワシティに到着した。

あれから20分も経ってるけど……寄り道でもしてたのかしらね? って……

 

「ぜぇぇ…ぜぇぇぇ……、お、お待たせ、して……すみま、せん……」

「ちょ、ちょっと大丈夫貴方!? なんか顔が青くなってるわよ!?」

「酸欠症状じゃないかの? 大方フーちゃんの速度に少しでも付いていこうと

 限界スピードまで飛ばして息が吸いづらかったんじゃないかね。空は空気が薄いからのぅ」

「え……ええ、そう、です……

 スー、ハァ~、スー、……ふぅー」

 

何とか落ち着いてきているみたいだけど、これはちょっとまだ心配だわねぇ。

 

「オーキドさん、ちょっとタクト君見ててもらえるかしら?

 私は彼が落ち着く間にジムに行って許可取ってくるわ」

「おう、そーかぁ。わかったぞぃ。

 わしらも動けるようになったらなるべくすぐ向かうからのう」

「お、お手数、かけます……」

 

頑張り所があるのは可愛いと思う。でももーちょっと体鍛えないと駄目よ? タクト君。

オーキドさんは年もいってるし仕方ないとしても、ね。

 

 

 

 

そうして私はジムまで辿り着いた。

来るまでの間に街を見渡してみたけれどトキワシティの町並みも

なかなか変わらないものなのねぇ。昔を思い出すわぁ~♪

 

さってとぉ。久しぶりのトキワジムだし、恥ずかしい真似は出来ないわねっ!

 

そして私はウィーンと開く自動扉をくぐって、トキワジムの中へと入る。

 

「ハ~イみんな~♪ 元気してるぅー?」

「ん?」

「あれ、どこかで……」

「……あっ!? レンカさんっ! レンカさんじゃないっすかっ!!

 ご無沙汰してますっ!! お元気でしたか!?」

「あら、貴方の顔覚えてるわ! 久しぶりねぇ~♪

 こっちはのんびり暮らさせてもらってるわよー。そっちはあまり変わらないのかしら?」

「はいっ!! このジムも期間限定でしか開けてないので

 皆が集まり切る事は稀ですが、皆元気でやってるそうっす!!」

 

 

そっかそっか。みんな頑張っているのねぇ。

やっぱ若いって良いわねぇー、なんかこうがむしゃらで、ね♪

 

 

ざわ、ざわ、ざわ。ざわ、ざわ、ざわ。

 

おい、教官が……  ああ、あんなに下手に出て……

        あのお姉さん何者だ……?

    そういえば前にジムリーダーと話してなかったっけ……

 

ざわ、ざわ、ざわ。ざわ、ざわ、ざわ。

 

あら、気付いたらなんか後ろで皆集まって話しちゃってるわね。

見ない子達だから、私もよくわかんないや。

 

「じゃあ、ちょっと悪いんだけどサカキ君呼んできてもらえるかしら?

 今日はちょっとバトルの関係で施設を借りたくてね」

「なっ、レンカさんがバトルするんすかっ!?

 無謀なバカも居たもんだなぁ……よし、わかりましたっ!

 おい、悪い。ちょっとジムリーダー呼んできてもらえるかー?

 レンカさんが来てくれたって言えばすぐわかると思うからよー」

「あ、はい……わかりました」

 

そんなやり取りの後、一人の子が奥のほうへ走っていった。

そして私は古株の子と話し込んでいたんだけど、後ろから一人出てきて質問してきた。

 

「あ、あの……教官。こちらの女性は一体どなたなのでしょう」

「ばっかお前、カントーの最終兵器(リーサルウェポン)の事聞いた事ねえのか?!

 この人がその最終兵器であり、ジムリーダーの師匠であるレンカさんだっ!!」

 

どよっ。

どよどよどよ。

ざわざわざわ。

 

一気に後ろが騒がしくなっちゃった。

私その渾名好きじゃないんだけどねぇ……なんかごっついじゃない。

もうちょっとこう、カントーの愛天使、とか。聖なる守護者、とか。なんかないのかしら?

 

っと、少し考えてる間にサカキ君がこっちに来てくれた。

 

「おぉ、こんにちわ。

 レンカ師匠、お久しぶりでございます。ご健勝のようで何よりです」

「ぉー、サカキ君お久しぶりー♪ 見ない間にかっこよくなっちゃってまぁ……。

 その黒スーツなんかも、どこかのマフィアっぽくて素敵よ~♪」

「ッ……!! そ、そうですか、お褒め頂き嬉しい限りです、ハハハ」

 

うんうん、顔も正直昔から悪役っぽいと思ってたし、ばっちりだわこれー。

もうどこかのマフィアのボスにしか見えないわ♪ 確実に幹部の威厳は超えてるわね!

 

「それで、連絡も無かったですし急遽来たのですよね?

 前々から、一度顔を見せてくれと連絡はしていましたが……どうなさったので?」

「あーうん。ちょっと私の家のほうで色々あってバトルすることになってねー。

 施設借りたいなーって思って、フーちゃんに乗ってこっちに来たのよ」

 

こちらの事情を伝えると、サカキ君は顔を真っ青にして慌て始めた。

 

「色々……だとっ!? レンカ師匠、貴方の手を煩わせる事はありません。

 何かあるならすぐに私達トキワジムの面子が───」

「あー大丈夫大丈夫、そんなややこしい事じゃないからね☆

 ちょっとあれよ。世の中の厳しさを子供に教えるだけだから、ね?」

「そ、そうです、か……? なら良いのですが……」

 

相変わらずのあわてんぼうさんねぇ、サカキ君は。

でも結構貫禄もついてきてるし、ジムリーダーより上は狙えそうねぇ。

頑張るんだぞっ、若者よっ!!

 

「ま、そういうわけなんだけど、借りちゃってもいいかしら?」

「ええ、どうぞどうぞ。

 今日は大規模なバトルの予定もありませんし構いませんよ。

 ところで対戦相手はどちらに? 姿が見えないようですが……」

「あーなんかちょっと空で酸欠起こしたらしくてねー。一緒に来たオーキドさんに任せたのよ」

「なるほど、まあそれなら仕方が無いですな。誰もが通る道です。

 ところでひとつお願いがあるのですが……」

 

ん? お願い、とな。何かしら?

 

「よければレンカさんのお手前を、うちのジムのやつらにも見せたく思いまして。

 試合の見学の許可を頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「えーそんな恥ずかしいわよぅ♪ まあ見て減るものでもないし、いいわよー」

「ハッ! ありがとうございます。これでうちのやつらも一皮剥けると思います」

 

んー私なんかの試合見ただけで何か参考になるものなんてあるかしらねぇ……?

まあいっかぁ。見たいって言ってる物を止めることもないしー。

 

「あ、あの。ジムリーダー少しよろしいですか?玄関に、来客がいらっしゃるのですが……」

「ん……もしかして。今レンカ師匠が話していた対戦相手でしょうか?」

「あ、多分そうだわ。片方、わかめみたいな赤マントの子だった?」

「あ、はいそうです。ではこちらに案内しますね」

 

そういって、ジムの子は玄関に向かっていった。

 

「さーてとぉ!! 大体2年ぶり位のポケモンバトルかしらねっ!! 張り切って行きますかぁ!!」

「ハハハ、やはりレンカ師匠はいつまでもお若いですなぁ。うらやましい限りです」

「んもー、何うまい事言っちゃってんのよぅ☆」

 

バシィッ

 

「うぐぅふっ!!」

 

ってあー、やっちゃった。

 

って、あら?

 

おー! うまく回転して5m位先で着地したわ! 凄い凄い!!

 

「っふぅ……相変わらずの見事なお力です。

 意識を持っていかれそうでしたよ、ハハハハハ」

「んーサカキ君本当に成長したわねぇ。

 まともな事なんも教えてないけど、師匠としては本当に嬉しいわ!」

「いやいや、これも全て師匠のおかげですよ」

 

そんな会話をしているうちに、オーキドさんとタクト君がこちらに来た。

 

「すみません、落ち着くまで時間が掛かってしまいました。

 お待たせしてしまい申し訳ない。」

「いいのよいいのよ、人間誰しも急に慣れる事なんて出来ないんだし、ね?」

「うむ、そうだぞ若いの。人間何事も経験から来るものだ」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いようサカキ君。久しぶりじゃのぉ。レンカさん、サカキ君と話は既についてるのかね?」

「オーキド博士もお久しぶりです。施設の件は問題ありませんよ。すぐに準備しますので」

「ッ!? こ、こちらの方が最強のジムリーダーと言われているサカキさん、ですか!?」

 

目の前にいるのがサカキ君と知り、目を見開くタクト君。

そういえば家に居る時もなんか尊敬っぽい印象は感じたわねぇ。

 

「最強かどうかは自分ではわからないが……

 私はこのジムのジムリーダーを勤めさせてもらっているサカキだ。

 今日は頑張って善戦するように心掛けるんだぞ。若いの」

「ハ……ハイッ!! 光栄ですッ!! 頑張らせて頂きますッ!!」

 

おーおー、直立で姿勢正しちゃって。やっぱ可愛いところあるわねーこの子♪

 

「ではみなさん、ご案内しましょう。

 レンカ師匠は勝手知ったる庭かと思いますが……。こちらです、どうぞ」

「はいはーい♪」

「おう、すまんのーサカキ君」

「え、あれ? 今、師匠って……あれ?」

 

どしたのー? とっとと行くわよー。

 

 

そんなこんなでバトル会場へ私達は足を運んだ。

オーキドさんは観客席から私達を見ている。まあ試合する本人でもないしねー。

観客席はジムの子達に加えて、今日来てない子にまで連絡をしたのか

さっきジムに居た3倍以上の人数が席を占めている。

 

いやーもうおばさん恥ずかしいわっ、キャッ♪

 

「それではルールは使用アイテム禁止の勝ち抜き制。

 レンカ師匠が手持ちを1匹しか所持していないので1:3となりますが

 これで問題ないでしょうか?」

 

「ええ、問題ないわ~」

「……クッ、まさか1匹で対峙されるとは。絶対に貴方の鼻を明かして見せますよ……!」

 

うふふ、今のうちに憤っておくといいわぁ~。楽しい楽しいお仕置きの時間、開幕よ♪

 

「了解しました、では試合を始める前に……若いの、少し良いか?」

「あ、はい……なんでしょうか」

「……ここで負けても諦めるんじゃないぞ。世の中には、理不尽という言葉は確かに存在するんだ」

「え、ボクが負ける事前提なんですかこの試合っ?! サカキさんから見てもそうなんですかっ!?」

 

なんか楽しいやり取りしてるわねぇー。

大丈夫よーサカキ君。そんなトラウマになるような事しないから♪

 

 

 

多分。

 

 

 

「では、審判はジムリーダーの私、サカキが務めさせて頂く。両者……バトル開始ッッ!!」

 

そして試合は始まった。

 

私の出す子はもちろんフーちゃん。頼りにしてるわよっ☆

 

「さ、いってらっしゃいフーちゃん。頑張ってね~」

「さぁ、行くんだダークライッ!! ボク達を雑魚と言った事を後悔させてやれ!!」

 

バシュゥゥゥン!!

 

お互いの子たちが場に出てきた。

タクト君の出した子は、なんか真っ黒い子が出てきた。

ちょっと怖い感じがするわねぇ~。でも白髪だし見た目の割りに苦労してるのかしら。

 

「ほぉう……そいつは、地方の伝承で見たことがあるな。

 伝承だと……確か悪夢を司っていたと思ったが?」

「ええ、さすがサカキさんですね、よくお調べになられている。

 その通りです。このダークライは───」

 

と、軽く説明を通していた。まー私はどうでもいいんだけどもね。

伝承で悪く言われていようと、実際逢ってみるとそんな事もないって子は多いし。

案外あの黒い子だって、人間と友達だった過去があったりするかもね~。

 

「では……ボクから行かせて頂きましょう。ダークライ、ダークホールだ」

「ォォォオオオ……」

 

あら、なんか怖い技ねぇ。どんな攻撃かしら。

 

って、フーちゃん?

 

「フ、リー……ザァ……」

「ふふふ、このダークライのダークホールには、さすがに貴方のフリーザーでも耐えられませんか。

 このまま眠らせて、じっくり料理させて頂きます」

 

へぇ、眠らせる技なんだ。

ふーん。

 

「リー……ザ───」

 

 

 

 

 

「───フーちゃん?」

 

 

ビックゥゥゥゥンッッ!!!!

 

「えっ!?」

 

私の声を聴いてシャキンと跳ね伸び、姿勢を正すフーちゃん。

それに対して何か驚いているタクト君。どうしたのかしらね。

まあいいわ、こっちの用事が先だし。

 

「もう、駄目じゃないのフーちゃん。眠いのならちゃんと家に帰ってから寝ないとね☆」

 

 

「リッ、リィッ!! リーザァッ!!」

「うん、よしよし♪ いい子いい子~」

 

やっぱりこの子は可愛いわねぇ~。

帰ったらおいしいもの食べさせてあげないと♪

 

「う、く─────例え眠らなかろうとまだまだ手はあるっ!!

 ダークライっ!! きあいだ───」

 

「フーちゃん。メガホーン」

「え、なっ、メ、メガホーンっ!?あのフリーザーのどこに角が───」

「フリィィィィィィィザァァアアァァーーーーー!!!」

 

キィィィィィン、と。

フーちゃんの頭の頭頂部が輝き出す。

そして急速に冷気が渦巻き、その頭頂部に1本の分厚いツノが完成した。

 

完成した後、フーちゃんはいつもどおりの速度で

相手のダークライという子に突進した。

 

 

あとはまあ、言うまでも無い。予想通りあの子、悪タイプだったみたいだし。

一応氷で出来てる模擬技に近いとはいえ、あれ概念が虫の技だしねー。

耐えられたらその場で負けを認めても良かったかな?

 

「あ……あ……」

「若いの、どうする……? まだやるか?」

「ッ!! 当たり前だァッ!! こんなところで引き下がれるかぁー!!」

「まぁ、うん。挫折だけはするなよ」

 

タクト君は倒れたダークライをしまい、次のポケモンを出そうとする。

 

「くっそ……こんな場で出したくはなかったが……!!

 行けっ!! ギラティナァッ!!!!」

 

バシュゥゥゥン

 

「ギラァァァァアアアアッッ!!!」

 

次はなんか、白黒っぽい

なんか丸っこいフォルムの虫みたいな子が出てきた。

 

「ッフ、リィ……!」

 

あら、なんかフーちゃんが気圧されてるわねぇ。なんか出ているのかしら?

 

「フッフッフ……ギラティナの威圧感は半端では済みませんよ……!

 行動する際にしっかりと───」

 

 

 

 

 

 

「ふーん、威圧感ねぇ、こんなのの事かしら?」

 

 

 

 

◇◇◇

 

審判としてこの場にいる私でも、あのギラティナというポケモンの威圧感が

凄まじいものがあるのは、よくわかった。

 

 

 

しかし、世の中とは広いものよ。

私はあれ以上のプレッシャーに何度も耐えてきた。

この程度では、あれに慣れているやつらは屁でもない。

 

 

 

そう───あのレンカ師匠のプレッシャーに勝てるものなど存在しない。

彼女が、本当に相手を脅す場合に発する威圧感は既にプレッシャーというジャンルを超越している。

その超越した威圧感は、私達に常に守護神のようなオーラを見せてくれる。

今も、レンカ師匠の後ろには

 

 

 

 

ジョウト地方の寺などでよく見られる、仁王という存在に良く似た何かが

このバトルフィールドの場を、完全に飲み込んでいた。

 

 

 

 

あ、師匠のフリーザーもとても汗だくになっている。

大丈夫か、あれ。

 

◇◇◇

 

 

「なっ……なぁっ……!?」

 

んふふふふ♪ 驚いてる驚いてる♪

こんな位のものが威圧感っていうなら私もいくらでも出せるし~。

 

 

『ギラティナの 全ステータス および やる気 調子 その他もろもろが がくっと下がった!』

 

 

ん、あら? なんか今変な情報が表示された様な気がしたわね……? ま、いいや~。

 

「ギ、ラ……ッ」

「ど、どうしたんだギラティナっ!!

 行ってくれ! 頼む、勝って見せてくれっ!!」

 

必死にギラティナって子をタクト君は説得している。

でもま~無理無理♪ 今まで自分以上のプレッシャーに出会った事が無い子が

自分を上回るプレッシャーが出た時に急に対処出来るなんて思えないもの。

 

「ラ……ギッ……ラァァァァァァァァ!!(;д;)」

 

ダダダァッ!!

 

あら、試合会場の隅っこに行っちゃった。

なんかあの子も結構可愛いわねぇ~。

 

 

「───えー、審判として判定をさせて頂く。ギラティナ、戦意喪失により勝者フリーザー」

「あら!! フーちゃんよかったわねー!! 勝てたわよー!あと一人よー!」

「フ、フリ、フリィ……」

 

あれ? フーちゃんも若干怖がってるわね。

あの子の威圧感にちょっと怯えちゃったのかしら?

 

「どうする、若いの。いつギブアップしても大丈夫だぞ。

 人間、妥協というのも大事────」

「ま、まだだァッ!!! まだボクには、ボクにはまだ1体いるんだっ!!

 こんな、こんな事があってたまるかっ!!」

 

うんうん、諦めないのはとっても偉いわー。

でももう次何を出すかわかっちゃってるから試合自体は終わってるんだけども。

 

「くそっ……こんなっ、こんなぁッ!!

 これが、これが貴方の言っていた使い手の良し悪しですかっ!!!

 ボクのポケモンの敗因の殆どが、完全に試合の外の話じゃないですかっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうよ?」

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

 

即答されると思っていなかったのか、タクト君は絶句する。

 

「私は、ね。試合に関わらない部分でも、出来るだけ自分に有利に動くように心掛けてるの。

 出来る事は全てしたほうがいいって、息子に学んだのよ」

 

横で審判をしているサカキ君が「ほう……?」と興味深く呟いているが

とりあえずは私の話である。

 

 

「家でも言ったわよね? 私は貴方のスタイルに大いに賛同する。

 その上で私は貴方のとっているスタイルそのままに、バトルをしていた。

 でも、ある時に息子との簡易バトルに負け掛けた時に、気付いたのよ。

 単純一直でやる事は、相手をナメる事にも等しい、ってね」

 

 

「───。」

「ちょ、ちょっと待ってくださいレンカ師匠っ!!

 負け掛けたって、シン君、にですか!?有り得ないっ!!

 貴方はたかが地方リーグチャンピオンに敗れかける程安易な人では───」

 

タクト君に諭す会話中に、思うところがあったのかサカキ君が詰問してくる。

一応は、ジムリーダーやってるもんね。そりゃ私が言ってる事の異常性もわかるか。

 

「いいえ、具体的に言うなら負け掛けたのは下の息子、タツヤ。

 元々、シンは私とポケモンバトルで手合わせするのが好きで

 何度勝負をやっても常に私は勝っていた、そしてあの時も勝つには勝ったわ」

 

「で、では……?」

 

「でも、その時の試合だけは全てが違ったのよ。セコンドとして、シンの横にはタツヤが居た。

 そしてタツヤから来るアドバイスをシンは忠実に従った結果……

 私は手持ちの6体を常に残した状態でいつも勝っていたのに

 あの試合で、私は手持ち1体を残して……しかも瀕死に限りなく近い状態で勝ったのよ」

 

「な、なんと─────」

 

サカキ君はどうやら私が言わんとした事に気付いたらしい。

 

 

 

 

 

 

そう、常に6体を残して勝てるほどの実力差があったのに。

 

タツヤが、あの子が横で指示の補助をしただけで。

 

実力差を、タツヤが言うには「策略」で全て補ったのだ。

 

 

「そして……一体どうやって、そこまでのアドバイスを導き出したか?

 あの子に尋ねて、答えを聞いた時───私の世界は、ひっくり返った」

「い、一体どういう手で……」

「あの子、タツヤはね。私の性格や行動を自分の頭の中で想像して

 常に私の行動を先読みしていたのよ。それをシンに伝えていたって形ね。

 

 ───加えて、取った手段はほぼ全て、試合の外の形での介入だった。

 

 例えば、ポケモンの脚先を若干土につけさせておいて

 タイミング良く蹴り上げて、ポケモンの顔に土をぶちまけて煙幕にして。

 例えば、そのポケモンが戦ってる最中に急に横を見る指示をしていて

 私達も一緒に横を見ちゃってる間に必殺の一撃を入れたり、とね」

 

本当に、一体あの小さい頭にどれだけの考えが埋もれているのか。

 

「……その話はやはり事実なのでしょうね。

 だとしたら、貴方の息子は野戦の天才だ。間違いない」

「ええ、確信したわ。同時にあの子は公式の試合では勝ち上がれない。

 でも、それを鑑みても補い切る魅力があの子にはあるわ。

 だからこそ、私はあの子を尊敬する。あの子の言う事が正しいと思う。

 

 ───だから、下の立場相手でも絶対に手を抜かないわ」

 

「う───っ!」

 

話を終え、タクト君に話を戻す。あまりにもあまりな言い分と感じられたかもしれない。

だけども、私は私の尊敬するあの子のためにも。

 

「───貴方を、叩き潰します」

「うぅぅぅぅぅ……くそッ……! もうお前だけが頼りだ……

 頼む、レックウザ───」

 

 

 

 

 

「フーちゃん、こおりのつぶて」

 

 

 

 

ズドドドドドドドドドドッ!!!

 

 

さっき見た龍の子が出てきた『瞬間を狙って』私は指示を飛ばした。

見ただけでドラゴンタイプなのはわかっていた。氷の技は良く通る。

そして他の属性らしき属性も見当たらず、なおかつ空を飛んでいた。

 

 

ならば、あの子はひこうとドラゴンタイプ。

こおりタイプの攻撃は、致命的なダメージが通るはず。

 

 

結果、フーちゃんのレベルが高いのもあり

こおりのつぶての一撃だけで、彼のレックウザという子は沈んだ。

 

 

「あ……、あぁ……」

「───勝者、レンカ師匠。

 これにて試合の終了を宣言する」

 

 

タクト君は、試合の結果に膝から崩れ落ちた。

 

私は、私の出来る事をした。あとは、彼がさらに強くなる事を祈るだけだ。

 

 

「レンカ師匠、お疲れ様でした。相変わらずのお手前、見事です」

「やーんもう、相変わらずなんてうまいこといっちゃってー。

 それにサカキ君位なら途中から私が若干変わった事ぐらい気付いてたんでしょ?」

「ええ、そうですね。前までの師匠ならタイプの技への一致になど拘らず

 常にふぶきか絶対零度で決着をつけていたでしょうし」

 

そうなのである。

前までの私は属性があっていようといなかろうと

倒せばどちらにしろ同じと思っており、それをとことんまで突き詰めていた。

結果的に私の子供達のコンビを打ち破ったのもその力押しが

最後の決め手になってたんだけども、ね?

 

タツヤ曰く

「強行突破は立派な策。対立相手が立てた策を無理やり潰す強攻策」

ってことらしいんだけど。これ褒められてるのかなぁ。

 

「うんうん、私もあの頃は浅はかだったなぁ……」

「あの頃といっても3年前程度でしょうに……」

「余計な突っ込みしてんじゃないのっ!! 可愛くないなぁ、もう」

「ハハハハ、いつまでも師匠の掌で踊り続けはしませんよ」

「んもぅ~!」

 

頬を膨らませて反論する。

しかし見ない間にいい男になってしまったサカキ君にはそれは通じないようだ。

昔はあんなに真っ赤にしてワタワタしてたのに、チクショウ。

 

「───手合わせ、ありがとうございました」

「あ、タクト君……そっちの子達は大丈夫だった?」

「ええ、幸いにもギリギリ瀕死になるレベルでダメージは留まっていたようで」

「そう、それならよかったわ。……大人気ないことしちゃってごめんね?」

「いえ……大丈夫です。ボクは目が覚めました。

 まだ、貴方の言う事全てを実践したり理解したり出来るわけじゃないですけど

 納得出来ることのほうが多かったのは事実ですし」

「そっか、そう言ってくれると私も嬉しいわ♪」

 

この子はやはり、見所があった。

少し道を間違えれば、ずっとあのまま傲慢だったのだろうけど

手遅れになる前に、私たちは引き合えてよかったと思っている。

 

「若いの、世界は───広いだろう?」

「あ、ははは、はは……あの、サカキさん、後ろ」

「ん? って、あ」

 

なんやら失礼な事を抜かしよったサカキ君の頭を、私は後ろからわしづかみにしてやる。

何よ世界が広いって。私が世界に1人しかいないバケモノとでも言いたいのかしら?

 

「んー♪ 相変わらず良い具合の形してるわねぇ~♪」

「そ、そうで、すか。ありが───」

「ね、サカキ君、久しぶりにさ?グシャっといっちゃう? いっちゃう?」

「あ、あの、出来ればご勘弁を」

「あらー遠慮しなくていいのよ~♪ えいっ♪」

 

ぎゅっ

 

「み゜きゃっ」

 

カクン

 

瞬時にサカキ君から力が抜けた。

 

こういうところの根性はまだまだねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、サカキさぁーーーーん!? しっかり、しっかりしてくださいっ!!

 だ、誰かー!! 誰かハピナスを呼んできてくださいー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ま、そんなこんなで私のちょっと日常から外れたお話はこれでおしまい。

あの後タクト君が私に土下座して弟子入りを志願した話は

また別の機会があればお話しようと思います。

 

 

それじゃ、アデュ~☆

 

 

 




なお、前回レンカさんが「ヤマブキぐらいまで行けてるに違いない」と断定した理由は
「多分あの子なら公式戦で勝てなくても脅しとかなんかでバッヂを獲得してるはず」と
自分の息子に絶対の信頼を置いていたからです。

お前等自重しろ。


ちなみにどうでも良い事ですが、当小説では

少しの間→◇の前後1行
舞台暗転→◇の前後2行
時系列含め、しばらくの時が過ぎる→◇3行

となっております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話 長丁場

俺は今現在クチバシティにいる。

 

クチバシティと言えば、あれだ。豪華客船イベント? そんなもんどーでもええわ。

 

初代ポケモン赤緑の、町BGMの良さだよッ! 右のフィールドに出ても良曲が流れるんだぜ!!

しかもカビゴン寝てんだぜ!! 邪魔くっせぇ!!

 

今回も長い旅路で日記を書いてきているので、これでどういう流れなのかを確認しよう。

 

 

『14日目 晴れ

 楽器屋さんに行き携帯用ドラムセットを確認しに行く。

 もちろん例のディグダを連れた上でだ。

 ポケモンセンターからディグダを連れ出す際に

 

「街中でディグダを連れ歩くと道路の舗装が崩れて面倒だから

 連れ歩くなら地面を掘り進ませないように」

 

 と、厳重注意を喰らってしまう。注目度的に俺オワタ。

 

 楽器のほうは納得の出来だった。

 どうやったのか本当に3㌔程度にしよった。さすがプロ、素晴らしいです。

 しかしどうしても耐久度だけは減ってしまったらしく

 近くに寄ったら手入れするから持ってきてくれ、と言われた。

 ついでだから店の中でディグダのリズム感と才能を見ようと叩かせてみた。

 結果、ごくフツーという形でまとまる。これからの成長に期待。

 楽器屋を出た後、ミュウとお別れした。

 【またいつか会おうネ☆】と言っていた。ん~、実にヒロインである。

 

 あと寝る前に突然ドレディアさんが布団に突撃してきたんだがどうしたんだろうか』

 

 

 

 

『15日目 灼熱

 あの大爆発の件のポケモン達の治療が完了したらしい。

 別にあの子達に合わせて滞在していたわけではないのだが

 区切りの良いタイミングという事で、元居た森に還すために一緒に旅に出ることにした。

 

 出店のお兄さんがまた見送りに来てくれた。人情素晴らしきかな。

 ドレディアさんがまた食い物をもらっていた、今度は5つだ。

 俺も食いたくなったので1個こっそり奪ったらバレて酷い目にあった。

 

 歩くのが面倒だったのでキリンリキに乗せてもらった。

 ドレディアさんはディグダの頭の上に咲いていた。お前よく16㌔頭に載せたまま歩けるなぁ。

 

 途中でまたフリーザーを見かけた。多分またフーちゃんだろう。

 今度はたまねぎのネット加えてた。ニビシティのスーパーで安かったんだろうか。

 

 夕方になりかけた辺りで、あの例の大爆発現場に到着した。

 辺りには千切れたネットが(笑)

 お別れの1曲として、kokiaさんの「ありがとう」を演奏しておいた。

 みんな静かに聴いていた。名曲の力は偉大である。

 

 明日はトキワの森に再び戻るつもりだ。ディグダで無理やり突破出来る事を祈ろう』

 

 

 

 

『16日目 砂漠化

 朝起きて朝食の準備を全員で済ます。

 なんとディグダが自然薯を取ってきたので、綺麗に洗って摩り下ろして食った。うめぇ。

 

 腹ごしらえが終わった後、またあの小屋に行き、森への突撃準備を済ます。

 ドレディアさんは【またここに行くのか……?】と、瞳をうるうるさせて

 拒絶の意思を出していたがとりあえず無視。

 しばらく不機嫌だったが知らん。可愛く作ってもあんたのキャラは把握しとるわ。

 

 そして森に入ってキャタピーが出てきた。

 さらにここで驚愕の事実が発見。ディグダがやばい。

 ダメダメな方向でヤバい。どんなヤバさかというと……

 

 

 技が無い→攻撃時に悪あがき→反動ダメージ

 

            ↓

 

 キャタピーの攻撃→防御時も悪あがき

 

            ↓

 

 悪あがきの攻撃威力は1.5倍になるが反動まで1.5倍

 

           ↓

 

 ディグダのHP係数は元々超低い→反動ダメージでK.O、キャタピー倒しきれない

 

 

 こんな感じだった。

 とりあえず手持ちにはドレディアさんが居たので

 出して即逃げてもらって俺もついていったので目の前は真っ暗にならなかった。

 でもディグダの成長に関してはお先真っ暗になった。

 

 また森の小屋にリバース。一泊すればディグダも復活するだろう。

 倒れてるディグダにも晩御飯を用意したんだが、ドレディアさんが奪い取った。

 さすがに説教しておいた。5分続けてたら【うるせぇ】と殴られた。ひどい』

 

 

 

 

『17日目 世紀末

 昨日の最後にやられた仕打ちと、ディグダの飯を奪った行動が

 理不尽すぎるという結論に至った為、ドレディアさんが寝てる間に

 亀甲縛りにして小屋の天井に吊るしておいた。

 起きた時に抗議の声を精一杯あげられたが「ざまぁwwwww」と言って放置。

 

 俺とディグダの2人で飯を食べる。横でドレディアさんの血涙がうざかった。

 ディグダもディグダで

 【こんな役に立たない我のためにこのような旨い飯、誠に忝い】と言っていた。

 なんでドレディアさんにこの謙虚さがないのだろう。

 ドレディアさんの可愛さにヤンキーの態度が合わさって一見最強に見えるが

 正直怖いだけなのでやめてください。

 

 とりあえず吊るしたドレディアさんを他の来訪者に誤解されないように

 首に【反省中】と言う札をつけ、俺とディグダは外に出て修行に移る。

 

 Lv3程度のコラッタ相手ならなんとかギリギリ勝ちきれるようで

 倒す事は出来たのだが経験地が1/3。どうしろってんだこれ。

 なんとか5~6時間休ませては戦わせ続け、ディグダのレベルが上がった。

 

 喜んでいるのも束の間、俺は完全にディグダの育成で挫折した。

 レベルが上がったのは良い、嬉しい事だ。苦労も報われる。とその時は思った。

 しかしレベルが上がった事で覚えた技がひとつある。

 

 「にらみつける」だ。

 

 技を1個覚える→技がにらみつけるのみ→悪あがきも出来ない→ナンテコッタイ

 

 俺の旅路には一体どれだけの壁が立ちはだかるのだろう。

 誰か建築重機のユンボ持ってきてくれ。俺はトレーナーをやめるぞJOJOォーーー!!

 

 小屋に戻ったらドレディアさんがさめざめと泣いていた。

 降ろしたらぶん殴られるだろうなと思ってはいたのだが、さすがに可哀想なので降ろした。

 

 

 結論から言おう。ドレディアさんがちょっと成長した。

 ちゃんと反省するにまで至っていたのだ。しょんぼりしていた。

 でも吊るしたのはやはり納得出来ないのか、極々軽く顔面に拳を入れられた。

 鼻血程度で済んだので俺も許す事にしよう』

 

 

 

 

『18日目 拳王

 昨日のディグダ事件の関係で、ディグダのひとり立ちが不可能になった。

 これは同時にトキワの森攻略が詰んだのを意味した。

 

 一応ドレディアさんに後続を詰めてもらって、の経験地譲歩の戦いも

 やるにはやってみたがあまりにも非効率的過ぎたのでやめた。

 言い方を間違った。ドレディアさんが飽きて戦う事を放棄した。

 

 取得経験地1/3→分けてもらうと1/6

 

 ディグダは育成屋に放り込んだ方がいいのだろうか。

 でもこいつ体こそキモいけど性格超良い奴だし一緒に旅したいんだけどな。

 

 突破が無理ではどうしようもないので、当初の計画通り

 ディグダの穴からクチバにいっちまおう計画を発動。

 今回は道案内付きなのでディグダに先導して、穴まで行ってもらう。

 道のところどころで崖とかがあったんだが、ディグダに掘り進んでもらい

 俺らでも通れるような、降りれるような階段を作ってもらった。ポケモンまじすげえ。

 

 日が暮れてしまったのもあり、もう少しの距離らしいのだが

 念のため大事を取ってキャンプで済ます事にする。

 月が綺麗だったのだが、またフーちゃんが飛んでおり風情が台無しだった』

 

 

 

『19日目 剛衝波

 そこら辺からまた野生植物を取り、朝食にする。

 ディグダがまた自然薯持ってきた、やばいこいつサバイバルスキル高い。

 今日の朝食も非常に美味でした、ありがとうディグダ。君の事は忘れない。

 

 歩いて30分位でディグダの穴に辿り付く。

 圧倒的大スペクタクルでもなかった。だがまァ確かにゲームの通り

 人が自転車で走れる程度の広さはあるようだ。

 

 そして中を歩いてたら前に世話になったディグダ達が顔を見せた。

 こちらにマッチョディグダが居る事もあり、戦闘は起こらなかった。

 歩いてたら疲れてきたのでまたディグダの頭の上に乗る事に。

 ドレディアさんも俺の上に乗ってきたがまあよし。

 

 1時間位歩いていると人とすれ違った。やはりクチバ側の入り口はオープンなんだな。

 そしてすれ違った直後、巣穴のダグトリオとバトってた。やられてた。

 ディグダ6、7匹で倒れたポケモンと真っ暗になったであろうトレーナーを

 顔だけ出した集団で運んでいく姿はシュールだった。

 前世のトルネコの不思議のダンジョン思い出した。

 

 ってか気付いたんだが、あの運ばれていった人ってグリーンさんじゃね?

 暗くてよく見えなかったけどそっくりだったような。

 

 そんなこんなでクチバシティへ到着した。やっと新境地だー。

 今日は面倒だ、明日から街の散策頑張ろう。

 

 やっぱり道行く人にディグダはガン見された。そりゃぁ……なぁ。うん』

 

 

 

 

というわけで大体20日目が今日だ。

実は適当に日記をつけているので日数は既によくわからない!!

まあのんびりとした旅だしこんなのもいいんじゃねーのー。

 

何気にゲームルート完全崩壊気味である。タケシ、カスミとはなんだったのか。

 

 

そして俺らは港付近へやってきた。

こういう場所は出店やおいしい店ってのがあるから見逃せない。

おいしい匂いにつられたのか、ドレディアさんの顔のほっこり具合がやばい。

おい誰かカメラ持ってねえのか、カメラ。

 

「─────ッ!!」

 

ディグダもディグダで道行くセーラー服(この場合は船乗りの兄ちゃん)を見て

ちょっと興奮している。着たいのか、あれを。

 

 

 

 

「ディ~~~~~ア~~~~~~~~~♪」

「~~~~~~♪」

 

そんなこんなで街を散策して2時間程度。

おいしい食べ物ガッツリ食ってドレディアさんは幸せそうである。

お前後で3000円返せよマジで。1日で消費しやがって。

 

ディグダはディグダで、セーラー服ではなく帽子がほしかったらしい。

中々に斬新な姿となってしまった。

裸タイツ気味に、ポパイが被っているような白帽子。

これもカメラに取りたい。そして出来る事ならネットにうpしたい。

まあこの世界、人同士のコミュニティー取る程度にしかネット発達してないけどね。

 

そして俺も俺で珍妙な2匹(うち1匹は愛らしさなんだろうけど)を連れている事から

必然注目度がアップしてしまう。俺の精神力もアップアップしてしまう。おぼれる。

 

 

と、精神的に余裕がなくなっていたのが起因になってしまったのか

人にぶつかってしまった。しかも体格が良い方なのか俺が吹っ飛ばされる。

 

「う、わっととと……」

「オゥソーリィ! リトルボーイ、だいじょうぶネー!?」

「あ、はい平気です、こちらこそすみませんでした」

「オフコースネー! よかったデース!」

 

と、とっても気さくに心配して頂けた。

……あれ?なんかこの片言って、ゲームにも特徴的な人居たよね確か。確か……

 

「ッ!? オゥシット!! 

 ミーのライセンスがロストしたネー!! マイガッ!!」

「ん、ライセンス……?」

 

なんだろう、日本滞在証明書みたいなパスポート的なもんかそれ?

パスポート的なもんなら……

 

「あのー」

「ソーリィリトルボーィ!! ミーはライセンス無いとカントー居れないネ!!

 探さないとアウトね!! シーユー!!」

「まてぃっ」

 

ガシッ

 

ここで何かしらの物語なら拾って届けて『君はあの時の!!』になるのだろうが

こちとらテンプレ嫌いで有名な俺だ、そうはいかん。この場でこれを解決する!!

 

そう、俺は目の前のパチモンアメリカ人っぽい、ホウキ頭のタメ軍人のような人が……

おそらくはこの街のジムリーダーっぽい人が落としたであろう物を既に発見している!

 

「ホワーィ? ミーはライセンスをクイックサーチしなきゃ駄目ネー!!」

「足元!! フット!!」

 

そうして俺は目の前のガイルに……そう、あまりの慌てぶりだったのかもだが

自分で落としてふんずけて、しかも体を捻ってポケットをごそごそやっていた手前

ずっとパスポートらしきものをグリグリしていたのだ。

パスポートに謝れっ!! ドレディアさんでもそんなこと「ディ?#」なんでもないです。

 

「オゥ!! 確かにマイパスポート!!

 センキューリトルボーイ!! ジムに忘れた思ったネー!!」

「そうですか、手間が掛からなかったようでよかったです」

「感謝感謝ネー! センキューベリーマッチ!!」

「いえいえ、それほどでも。では俺はこれで───」

 

ただ偶然ぶつかっただけってのもあるし

ジムに用事があるわけでもないので、そそくさと場を去ろうと───

 

「ヘイボーイ、ストップ!! ストップドゥ!! ストッピング!!」

「ぉぉう、なんですか、俺がどうかしましたか?」

 

何故か引き止められた。

 

「パスポート見つけてくれたお礼したいネー!! ボーイ、クチバのメンじゃないネー?

 おいしいイートイン教えるヨー!! ランチ一緒どーですカー?」

「ディアッ!!」

 

おいドレディアさんwwwwwテメェいきなり出てくんなwwwwwwwwwww

なんなのもうこの子本当に!! 飯と聴いたら飛び出すとか!!

こいつシオンタウンで三橋貴志に改名してやろうか。

 

 

あ、ちなみに三橋貴志というのは、昔の漫画の「今日から俺は!!」の主人公です。

がめつく意地汚く金に弱く飯と聴いたら飛んでくるような子です。

まあ漫画自体は楽しいからお勧めしておこう。

むしろあの漫画こっちの世界で書いて売り出してやろうか。

サイクリングロード走ってる暴走族辺りになら需要ありそうだぞ。

 

「ハッハッハー!! こっちのフラワーレディはゴーでオーケーね?

 行くヨー!! デリシャスランチでゴーワバーゥ!!」

「ディ~ア♪ ディ~アー♪」

「─────。」

「こっち見んなディグダ、俺もどうしようか考えてるんだ」

 

 

もう放置してポケモンセンター行ってもいいかこれ?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話 奇麗事

 

 

前回のあの出会いがあり

今俺は、クチバジムリーダーのマチスさんとお昼をご一緒していません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

するとでも思ったかっ!!

何が悲しくてパスポートっぽいのを踏んづけているのを指摘しただけで

身長2倍近くのイナヅマアメリケンと一緒に飯食わねばあかんのじゃ。

俺、別にジムに用事とか一切ねーし。

 

とりあえずあの後、試しにディグダとその場で佇んでいたら

マチスさんとドレディアさんがズンズンと進んで行ったので

さらに佇んでみたら、視界から消えたのでそのままディグダと引き返した。

 

 

ん、俺の行動に何か問題があるかね?

俺は問題があるとしたらドレディアさんのほうだと思うのだがどうだろう。

知らない人についていくんじゃありません。

 

ディグダもディグダで【あ、主……あれ放っておいてよろしいのか?】と

言っていたがそんな面倒くさいもん投げっぱなしジャーマンじゃボケェ。

 

そんなんだからヒロイン枠からどんどん遠ざかっていくんだっつーの。

全くもう、俺の好みはもっとこう、おしとやかな……だな。

おお、ディグダ、お前もわかってくれるか。そうだよな、あれはちょっと、駄目だよな。

 

 

……ま、あれはあくまで相棒です。異性としては見れません。

てかポケモンと人間とか誰得だ。流石に駄目だろう。

 

ともあれ、さり気なくあの場からフェードアウトする事に成功し、次は次で暇つぶしの時間である。

初日から弾き語りってのもねー……あまり歩いてこそ居ないけど(頭に乗ってたから

それとこれとは話が別ですね、そうですね。

まあ、この街もゲームと違ってとても広い。暇つぶしには事欠かないだろう。

 

 

 

「ディグダー、せっかくの港町だし海見に行かねー?」

「─────。」

 

【我も一度は目にしたい、付き従おう】ですってさ。

 

まあ海っていうか入り江って表現が正しいんだろうけど

マサラタウンにも一応あるにはあるんだけどね。あれはなんか、うん。

海って言っちゃ駄目だろう。

 

そんなわけで波止場まで行ってみる。うん、大勢の人が釣りを楽しんでいるのが見えるな。

って、これやばくね? 釣り人ってポケモンバトル挑んでこなかったっけ。

っとー、大丈夫だ、セフセフ。どう考えても街中でバトルは無いだろう。

これは間違いない、ゲームで考えても、どの作品も街のど真ん中でバトルはなかったはず。

 

今の俺はネテロじいさんも真っ青の、1日1万回感謝のにらみつけるしか持たない

ディグダしか手持ちに居ないからな。おのれディゲイ───……ドレディア。

 

 

 

そして周りに目を向ければ、まー入れ食い入れ食いってなぁ。

見渡す限りぴちぴちしてるわ、コイキングが。

こいつらがギャラドスなんて狂キャラになるなんて本当信じらんねー。

今、全員ギャラドスに進化したら港は大惨事だなぁ。

おーい金銀のロケット団ー。暇だからあの怪電波ここで使えー。

 

「……ん? 君は……釣りに興味でもあるのかい?

 釣竿を持っているわけでもないのに釣りをしている人を見ているようだが」

「あーそうですねぇ、釣りは結構好きです。今回の旅じゃ竿持って来てないですけどもね」

 

前世もガキの頃はじーちゃんち行った時に船出してもらって

沖まで釣りに行ってたなぁ……俺んちのじーちゃん漁師だったんよ。

鮭うまかった。ただしウニ、テメーは駄目だ。なんでお前あんなにグロいんだ。

※俺のために出してくれたわけではなく、集まった親戚連中に紛れ込んだ形。

 

「ほほう……そうなのか。釣り、良いよねぇ」

「食いつく一瞬を見逃したら負けですよね」

「うむうむ、君はよくわかってる! わかっているな!!」

 

まあ実はそんなに負けでもないんだが。

たまに餌食われたかも知れないと思って糸引き上げたら

魚が食いついていることがある。まあ大体は小魚だけどね。

 

「よし、私のお下がりでよければ君に釣竿を上げよう!」

「おぉ、本当ですか。ありがとうございます」

 

まさかの釣竿贈呈。やっべこれはテンション上がる。

って、あれ?ちょっと待てよ……クチバって確か……ボロの───

 

「年季が入ってて少し見た目はボロっちぃが、性能は折り紙付きだ!

 出来る事なら大事にしておくれ」

「わーい、ありがとうございます」

 

やっぱボロの釣竿だった(笑 ちくしょー家の中でもらえるもんだと思って油断してた!!

おっさんなんでこんなところにいるんだチクショウ!!

 

「よかったら今からやるかい? 餌も分けてあげるよ。

 まだまだたくさんあるし、たまには誰かと共釣りもいいもんだ」

「そう……ですね。どうせ暇だったしせっかくの機会だ。お付き合いさせてもらいますかねー。

 ん? ディグダ……お前もやりたいのか」

 

横を見ると目をキラキラさせているディグダが居た。

しかしその可愛らしい顔の下はマッスルボディ、色々どころか全部台無しである。

 

「……な、そ、その後ろの人はディグダ、なのかい? その、えーと、見た事無い体をしているねぇ」

「あ、うん、大丈夫です。皆によく言われます。どう考えてもキモいですよねこれ」

 

ガーンッ

ディグダの後ろにイナヅマが走る。

人間のビジュアルで見るとどうしてもアウトなんですよ、君。

 

「ま、まあ良いか。そのディグダも釣りをしてみたいなら

 私の釣竿を貸してあげよう。ほら、おいで」

 

シュタッと立ち直り、腰から45度の角度でしっかりと礼をした。

お前本当どこで学んだのよ、その紳士的態度。

 

「おぉ……見た目こそ難があるけど、実にしっかりとした礼だね。

 もしかして彼、凄く礼儀が成っているんじゃないかい?」

「お見事です。俺と出会った時から既に紳士でした」

 

やっぱわかる人はすぐわかるんだなー。

実際ここまでの礼儀を持った人なんて、人間でも早々居ない。

 

「さ、餌はつけたぞー。ほら、これを使うんだ。

 ディグダ、釣りってのは時間との戦いだからな……あせるんじゃないぞ!」

「ッ─────!」

 

釣り人さんに激励され、気合を入れて横に体育座りをして、釣り糸を垂らすディグダ。

シュールすぎるwwwwwwwwwwww

 

 

 

 

 

 

 

「ッヒョォォウッッ!! ビッグヒットだぁーッ!!

 ほほう、178cmのコイキングだなッ!! こいつぁ記念になるッ!!」

「ッッ─────!!」

「おお、ディグダ!! 君も4匹目か、やるな!!

 ぬ、175cm!! やるじゃないかっ……!!」

 

釣り人さんとディグダは楽しく釣りバトルをしている。

さっきから20分程度しか経ってないが、2人とも入れ食い状態だ。

ポケモンと人間の枠を超えて友情を……イイハナシダナー

 

 

ん、俺? なんもこねえよ。

ふん、所詮釣れたってコイキングだろうしな……悔しくなんかないやい。

祝福って事で後でディグダの飯にハバネロエキスを混ぜておいてあげよう。

きっと喜ぶぞー。チクショウ。

 

 

クン、クン。

 

「ん?」

 

今確かに手応えが。

 

「お、ついに君にも当たりが来たか!!

 ふふん、私達には適うまいがなっ!!」

「─────(ニヤリ」

「ディグダ、お前後でハバネロ飯な」

「ッッッ!?!?」

 

そんなバカなっ!? とでも言いたげな表情のディグダ。

うるせーテメー持ち主様差し置いて入れ食いしてるテメーが悪いんだ。

 

しかも手応えちっちゃいですからねこれ。

はーぁ、釣り上げたところで後ろの2人がドヤ顔すんのが目に見えてる。

めんどっくせぇー。もう2人とも海に突き落として帰るかな。

 

とりあえずリールをキュルキュルと巻いて行く。すると海面に黒い影が出てきた。

……しかし、なんだこれ? 手応えが本当に少ない。だが長靴ってオチはないはず。

若干動いてはいるのだ。んー……? とりあえず引き上げてみようっと。

 

 

ザパァ。

 

 

「…………。(俺」

「…………。(魚」

「…………。(デ」

「…………、コイキングじゃない、ね……?(釣」

 

うん、コイキングじゃないな。

ていうかゲーム的にはコイツ激レアなヤツなはずなんだけど。

んー……別の角度から見てみても明らかにコイツは……。

 

 

 

 

 

ヒンバスだ。

 

 

 

 

 

ちょっと待て。何でお前がこんなところで釣れる。

確かにポケモン図鑑的な説明だと『どこにでも居る』って書かれてるけど!

この世界ゲーム順所だしお前が釣れるのはどう考えてもおかしいだろ!!

 

 

と、一人突っ込んでいたんだが……コイツ様子がおかしい。

元気が全然無いのだ。どうしたんだ?

 

 

「お、おい……ヒンバス、お前死んでないよな……?」

「グ。」

「あ、大丈夫っすか、了解です」

「これはヒンバスっていうのかい?」

「はい、そうです。俺の記憶が正しければ、コイキング=ギャラドスの対になるような存在です。

 ヒンバスには失礼かもだけどコイツあんまり綺麗じゃないでしょう?」

「あれ? そう、かね……? かなり身奇麗で色ツヤが出ている気がするんだが」

「え?」

 

釣り上げられて、その場で黙っているヒンバスに目を向けてみる。

 

「…………。」

 

……あれぇ?! 本当だ!

なんだコイツ色合いは確かにヒンバスだけど美しさ的なモンが既に高いように見えるぞ!?

 

「……えーとまあ、とりあえず身奇麗じゃなければ印象があまり綺麗じゃないポケモンでしてね。

 でも進化をしたら一際美しい、ミロカロスって存在になれるはずなんです」

「おーミロカロスか!! それは私も知っているぞ!!

 美術館とかで結構モチーフにされてる事が多い、美しい蛇みたいな存在だね?」

「あ、そうそう。それっす」

 

 

ふーん。この世界じゃ釣り人にすら進化前の存在知らされてないのか。

まさに醜いアヒルの子だな……。しかしなんだろうこの違和感。

なんか既に美しさ的なものが振り切れているっぽくて

その上で元気が無い……一体どういう事だろう。

 

でもまあ、既に美しさがMAXならレベル上がれば即ミロカロスって事だよな。

そう考えるとお得だし、捕まえるか。

しかしこの元気の無さだしな……捕まえるっていうより説得かな。

 

 

「なぁ、ヒンバス。お前俺についてこないか?」

「……グ。」

「……は?」

 

今、ちょっとコイツが言ってた内容を理解出来なかった。

どういう事だ、【私を捕まえてもきっと幻滅しますよ……】だと?

 

「聞き間違いじゃなければ頷いてくれ。

 お前、今……【私を捕まえても幻滅する】って言った?」

「ッ!? ……グ。」

 

俺がヒンバスの言葉を聞き取れた事にヒンバス自身が驚いているようだ。

そして後ろの釣り人も俺が会話を理解している事に驚いているらしい。

 

「き、君……ポケモンと話せるのか?」

「ああ、話せるっていうかあくまで目が語りかけてくるってレベルですけど。

 意思の疎通は基本可能ですね。俺が今言った内容も間違ってないんだろ?」

「グ。」

 

と、同意してくれるヒンバス。

 

「……改めて聴く。ヒンバス、お前は俺が幻滅すると思っているけど

 俺がお前を捕まえる事については否定しないんだな?」

「…………。」

「そうか……。ディグダ、俺のリュックの中からモンスターボール持ってきてくれ」

「ッ─────!」

 

グッと親指を立て、少し後ろに置いていた俺のリュックから

モンスターボールを持ってきてくれた。

 

「……ヒンバスよ、何の事情抱えてんのか知らんけど、

 お前も、俺のパーティーに来た事、後悔すんなよ?」

「…………。」

「まずあれだ、ディグダが既にこれだし」

「グ。」

 

【それについては激しく同意します】ですってさ。

なんだよ結構話せるんじゃねーか、ヒンバス。

そしてディグダもディグダで地面に手付いてうなだれてんなよ、いい加減認めろ。

 

「それじゃ───よろしく頼むな。」

「グ。」

 

カチッ

パシュゥゥゥン。

コトン。

 

ボールも抵抗らしい抵抗を一切見せず、すぐにヒンバスが捕まる。

そして俺はボールからヒンバスを出してみる。

 

「よう、改めてよろしく頼むぞ。ヒンバス」

「…………。」

「で、お前なんの事情抱えてるんだ?

 別に解決出来る気もしないけど話してみるだけ話してみろよ。」

「───グ。」

「はっ?!」

 

 

 

 

え。

 

 

えー。

 

 

 

 

「マジっすか。」

「グ。」

「え、え、ちょっと君、どういう会話なんだいこれ」

「えーと……ちょっと待ってください。ディグダぁ!! リュック持ってきてくれ!!」

「─────。」

「おお、ついでだから持ってきたってか。褒めて使わす」

 

 

そして俺はガサゴソとあるものを取り出した。それは、ご存知ポケモン図鑑。

俺は目の前に居るヒンバスに照準を合わせ、データを読み込む。

 

pipipipipipipipipip

ピーン。

 

「ほら、これです、ここ。ヒンバスが言ってたのはこれです」

「え、えーとどれどれ…………えぇーーー!?嘘ォッ!?」

 

その内容は。

 

 

 

 

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

No.349

ヒンバス Lv100確定

 

タイプ1:みず

 

せいかく:おだやか

とくせい:すいすい (天候が雨の時、素早さが上がる)

 

親:タツヤ

 

こうげき:━━━━━━━━━━━━━━━━

ぼうぎょ:━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

とくこう:━━━━━━━━━━━━━━━

とくぼう:━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

すばやさ:━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━《長すぎるので省略》

 

現努力値

こうげき:+++++

ぼうぎょ:++++++

とくこう:++

とくぼう:++++++++

すばやさ:++++

 

わざ1:はねる

わざ2:たいあたり

わざ3:じたばた

わざ4:すてみタックル

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

 

 

「ひゃ……100ッ!? レベル、100ッ!?」

「……なるほどな、そういう事か。今の時点で既にLv100って事は……

 俺が期待せざるを得なかったミロカロスになる事は永遠に無い……

 だから幻滅するって言ってたのか」

「ッ!? そ、そうか! 

 ポケモンはレベルが上がるか、特殊条件を満たさない限り進化しない……

 ヒンバスがミロカロスになるのもレベルが何かしらに関わっているのか」

「…………。」

 

【これでわかったでしょう?

 私には未来がありません……さぁ、この役立たずを逃がしなさい。

 私をパーティーに加えても、将来貴方は必ず後悔する……。】

 

 

 

…………。

これが、理不尽、ってやつか。

 

 

 

「───お前、人に育てられてたな?」

「ッ!?」

 

何故それを、って顔だが……図鑑から推察すればモロわかりだ。

 

「ただの予想でしかないけど多分合ってるはずだ。

 お前の前の持ち主は、何かの経緯でミロカロスがお前から進化するのを知った。

 だが肝心の進化の方法を全く知らなかった。戦わせてLv100になったけど進化しない。

 そして後になってうつくしさを磨き上げれば進化すると知った。

 しかしその時には既にお前はLv100。どうやっても進化は出来ない」

 

そう、こいつはきっと───人が生み出した罪の原型だ。

自分の都合で、自分で勝手に解釈し、自分が必要としなくなれば、自分で絶望を与える。

その罪に巻き込まれてしまったのが、こいつなのだ。

 

「───そして、進化出来ないお前は、捨てられた」

 

 

「ッッ───」

「合っているらしいな。まあ、気持ちはわからんでもないよ。

 お前の気持ちも、持ち主だったヤツの気持ちも。」

 

そう伝えた所、ヒンバスの顔が若干厳しくなる。

 

何故ここに来て無残にも進化の花道を断ち切った、前の持ち主の気持ちを理解出来るとのたまうか?

 

「人間ってなぁ、身勝手だからなぁ。人にも寄るんだが、自分の役に立たないとわかったら……

 それがどんなものでも容赦なく切り捨てるんだ。例え血の繋がった血縁でもな。

 なんせ自分が成り上がるために同族を貶める事すら躊躇わないんだぜ?

 狂ってるだろ。笑いたければ笑っていいぞ、ヒンバス」

 

ヒンバスはヒンバスでぽかんとしている。

持ち主だったヤツの気持ちがわかると言った時は

俺に対してとても残念な感じの視線を送っていたが───

 

「───選んでくれ」

「グ……?」

「次は、お前が選べ。人をもう一度信じてみるか。

 この場で人との関わりを全て捨てて野生に戻るか」

「……。」

 

人だってポケモンだって、信用しあえなきゃ……必ずどっかで関係が破綻するもんだからね。

 

「俺はお前の気持ちもわかると言った。さぞ絶望してんだろうな。

 だからこそ一旦捕まえはしたが……無理には誘わないよ。けど、な───」

 

難しい事では在るさ、一度信頼出来なくなった物をもう一度信頼してみる、なんてな。

 

でも……。

 

「ヒンバス、お前が俺を必要とするなら───」

 

 

二度と、信頼出来ないわけじゃぁ無い。そうだろう?

だから、さ───

 

 

「───俺も、お前を必要としよう」

 

 

 

───たまには、こんな奇麗な戯言があったっていいだろ?

 















現BW世代において、ヒンバスの進化法が変わっており
アイテムを持たせて通信を行うだけで進化出来るようになっております。

しかしこの小説は世界観が初代に限りなく近いためそれは採用されません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話 修練1

 

 

ディグダとヒンバスを連れ、ポケセンで割り当てられた自室に戻り

のんびりと話しながらすごしていると、頬に飯粒をつけたドレディアさんがご帰宅なされた。

 

「おっすおかえりドレディアさん。

 あの軍人さんとのデートは楽し───チョイサァッ!!」

 

帰宅と同時に速攻で顔面を狙ってきたドレディアさんの拳を、軽やかでもない動きで回避する俺。

 

「ディーッ!! ディアーッ! アーッ!!#」

「るっせーやかましぃわッ誰が殴らせるかぁ!

 知らん人に飯なんてもんでホイホイ付いていくなんぞ貴様どこの女児かっ! あ、女児でしたねっ!!」

「ァァァァァアアアアアアッ!!#」

 

ズットンバッタンドスン ボカッ ドタンバタン。

 

多大な攻防を繰り広げつつ回避に望みそして普通に殴られ、と

繰り返しているうちに我らがイケメンディグダが騒ぎを収めようと

 

スッ

 

「─────。」

 

【主に姐御、いい加減にしていただきた─────。】

 

「チョイャァ!! ディグダガードッ!!」

「ァ゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛!!#」

 

サッ

 

ゴッす。

 

 

 

 

 

あ、手頃な位置にいたもんだからつい盾にしてしまった。

ドレディアさんの破壊掌が顔の中央に完全に入っている。

 

 

ちーん

 

「…………。」

「…………。」

 

あーあ。

 

「ディグダは犠牲になったのだ……。」

「ドレェ……。」

 

 

 

 

・前回までのあらすじ。

 

釣り人Lv100をGET

 

 

そんなわけで、今俺の部屋には釣り人のおっさんLv100が───

 

「グ。」

 

もとい、ヒンバスLv100が居る。

 

「ディァ?#」

 

【おめー私の許可も得ずに面子増やすたぁいい度胸だな】という感じに

睨みつけてくるドレディアさん。

 

「…………グ。」

「ッ!?」

 

おおう、ヒンバスさんそんなこと言うなよ。

【私が邪魔なのであればいつでも去りますので、言ってください】なんて……。

流石のドレディアさんも、そういう肯定には慣れてないのか慌てている。

 

「ディッ!! ディァッ(フルフル) ディァッ!! (ビシッ」

「おいふざけんなっ!! そこで俺に話題転換すんなやっ!!

 なーにが全てはコイツが悪いだァー!!」

 

くっそうコノヤロウもう怒ったぞ!! ドレディアさん対策の必殺を今こそっ!!

 

「でぇーぃ! 出会え出会え!! この財布という名の印籠が目に留まらぬかぁっ!!」

「……。(っへ」

「あれっ!?」

 

ドレディアさんは大げさに両手を中途まで上げ、俺をバカにする仕草をする。

なんということでしょう、効いていません。これには匠も苦笑い。

 

「い、いいんだなっ!! 貴様の飯に賭ける金はこれから1/10にするからなっ!!

 それでも良いんだなっ!! どうなっても知らんぞ!」

「ディ~ア~ッ♪」

 

な、なんだこの余裕はっ!?

何がなんだかわからないっ。一体、どうなってしまうのかー!!

 

そしてドレディアさんはおもむろに紙らしき何かを見せやがる。

 

「ディ~ァ~ディァ~♪」

「……? 電話番号、か? これは」

 

その紙にはなんかぐにゃぐにゃの平仮名で書かれた文字と番号が書かれていた。

 

これが電話番号と過程→どこで手に入れたか

       ↓

今までコノヤロウが居た所はおそらくマチスさんとの食事

      ↓

Heyプリティーフラワーガール!!

お腹減ったらミーのとこ来るがいいネー!!

      ↓

つまりお前に食事制限されてもマチスさんのところ行けば良いもんねー♪

 

ということであろうか。でもこれ……。

 

「確かに電話番号だけど俺宛てみたいだよ?

 【きょうははぐれてしまいましたが、よければこちらにれんらくをください】

 って書かれてるし。これドレディアさんに飯食わすぞーって連絡先ちゃうよ?」

「レっ」

「えっ」

 

何それ。この子こんな勘違いであんな態度取ってたの?

こんな時どういう顔をすればいいかわからないの。

 

「……。(俺」

「………。(草」

「…………。(魚」

 

サッ

あ、コノヤロウしまいやがった。

俺に見せないで自分で確保→欲しけりゃ飯の制限取り消せってか?

……よかろう、中身おっさんの俺を舐めんなよ。

ハーイ良い子のみんなー♪ 追撃殲滅戦の開始だよー♪

適正レベルは62からだよ♪ って、このネタ誰がわかるんだ。ジゼルェ

 

「ドレディアさん」

「ぴ~ぴぴ~♪(口笛」

「その紙さぁ。俺が欲しがってなきゃ意味ないってわかってる?」

「…………ア。」

「俺あの人、良い人なのはわかるけど濃いから逢いたくないし~」

「ァ……ア……!」

「てかぶっちゃけもうこの街出て次の街に行くのもいいよね♪

 この旅ってドレディアさんの修行の旅だし~♪」

「レッ、レレレッ、レレレレレっ」

 

必死に首を振っているドレディアさんである。

そりゃもうこの紙は、この街限定でしか意味を成さないわけで。

つまりはこれからずっと食事制限。

 

「と、言うわけで……この街に居る間はずっとポケモンセンターの食事だけで良いね?

 良いよね? 駄目とか言わないよね? ん? ん?w」

「アーッ!? アッー!! アッー!!」

 

ガチ泣きである。やっべ面白ぇwwww

と、弱みを握っていじめていたら思わぬ横槍が。

 

「ッグ!!」

「おおぅふ!?」

 

いきなりヒンバスに頭の上に乗っかられて、ヒレでべちって額を叩かれた。

そのヒレの感触はとてもしっとりしていて、お肌に優しいソフランCってちゃうわ。

まあ痛くは無いが驚いた。

 

「グー…………。」

「いや、うんまあ……そうなんすけどね?

 普段から殴られたりしてるもんだから意趣返し、と思いまして」

「グッ!!」

 

ベチコーン。

 

「あちゅんっ!? やめてっ!?

 それ痛くないけどなんかヌルッてしてて地味にいやだ!!」

 

俺が嫌がっているのを見てドレディアさんは面白がっているかと思いきや

自分の劣勢をいきなり巻き返してくれたヒンバスに対してものすごい尊敬の目を送っている。

両手を重ねて祈るようにキラキラとした目を俺の頭の上に向ける。

 

べちん。

べちょん。

べちゅん。

 

「ぅおぉぉぉおい!! やめろって言ってんでしょ!!」

「ッグ!!」

「だったら取り消せだとぉ?!

 お前俺の財布がいつもどれだけ悲鳴上げてっかわかってんのかこの新参めー!」

「アァァ……ァアア……!」

 

くそうっ! なんだこの予想だにしない劣勢は!!

ドレディアさんなんてもう尊敬を通り越して願掛けのレベルだ!!

 

「ちくしょう、こうなったら頭から取り外してやるっ!!」

「ッグググググ!!」

「ちょwwwwおまwwwwこんなところでLv100なの発揮しないでwwww

 なんだよその粘着力wwwww」

 

なんだよもう! ムダに高性能だこいつ!! おのれディゲ───……ヒンバスっ!!

 

「グッ!! グッ!!(ぺちんぺちん」

「っだぁーわかったわかった! 譲歩するからそれやめれぇー!!」

 

こんにゃくで尻をぺちんぺちんとして気持ちいいのとは訳がちゃうねんぞ!!

 

「ッグ……」

「わかったわかった……ちゃんと言った事は守るから……

 ったくもー、反省させるつもりが俺が反省させられてんじゃないか」

「ディアーッ!! レディ~ァー!!」

 

俺がヒンバスを頭から取った瞬間、ドレディアさんはヒンバスを奪い取り

あまりの嬉しさにヒンバスを両手で掲げながらクルクル回り始めた。

だがヒンバスもヒンバスで笑顔を浮かべて嬉しそうなため、俺も俺でちょっと突っ込めない。

 

これ、形だけなら絵になるのにこれに至った背景が勘違いによる飯の紛失とか、ね。

台無しだよコノヤロウ。

 

 

 

 

 

 

 

あ、ディグダ起きた?

大丈夫か?

 

【いえ、いいのです……どうせ我は……】ですか。

ごめん、なんか近くにあったから、つい。

 

 

ひとまずはヒンバスとドレディアさんの顔見せも終わった。

関係も険悪なものにならなかったようで一安心である。

 

 

「まあそれはともあれ、今後のこの街での活動についてだが」

「ディァ」

「─────。」

「グ」

 

初日だけで新しい出会いや新しい仲間。

イベントが目白押しすぎて今後がどんどん霞んでいくため

これからの方針をしっかりと打ち立て、方向性を見失わないようにしよう。

 

「まず、また金がなくなってきました。

 主にそこの草の子のせいです。ドゥーユーアンダスターンド?」

「ディ、ディ~ア~?」

 

【何の事でしょうか?】じゃねーよバカ。

 

「ヒンバス、この子毎度こういう感じ。

 俺の怒りは有頂天、もはや財布に余裕は一切にぃ。お分かり?」

「…………グ。」

 

さすがにここまでとは予想していなかったのか

先程まで完全にドレディアさんの味方だったのに対し

俺の方にも同意をよこしてくれるヒンバス。

 

ちなみに現在の残金は3000ちょっとだ。

ディグダへ買ってやった帽子がちょっとね、4000円程度したんよ。

彼普段から食に対してもそこまで執着してないから、金が掛かってない。

のでたまにはという事で、プレゼントしてやったのだ。

 

で、3000円もあるなら余裕あんじゃね? と思った貴方。

ちょっと表へ出ろ。お前らここがなんなのかわかってんのか。

 

ここはゲームじゃない。飲まず食わずで構わん主人公クンとは違うのだよ。

毎日生活費が掛かってんだこっちは。まあぶっちゃけ贅沢費っちゃ贅沢費だが。

それでもドレディアさんが日々を越すための金が1000円程度。

ずばりあと3日、何もしなければそれで俺の財布は早くも終了ですね。

 

「だがまあ、とりあえず猶予としてはあと2日程度はあると考えている。

 俺が弾き語りしても、トキワシティほど人が来ない可能性もあるんだ。

 だからまあ、あくまでも程度だけど2日程度は猶予がある」

「ディ~」

「─────。」

「グ~」

 

現状認識としてリアルな数字を教えておく。

 

「んでなんだが、明日からは戦闘訓練やトレーナ戦で訓練をして行こうかと思っている」

「ディ!?」

 

【やっとか!?】と喜びの声を上げるドレディアさん。

まあ元々貴方はシン兄ちゃんに勝つ事を目的として、俺を旅に引き連れたって感じだからね。

でも最近飯の事に目を捉えすぎて、その目的忘れてねえ?

 

「ただ、ひとつ注意をしておこう。

 ドレディアさん、俺と一緒になってからまともに戦ったのって

 あの森の中での乱戦だけだったよね?」

「ディァ」

 

野生ポケモンは野生ポケモンで、ドレディアさんが

全部威圧オーラで追っ払っちまうから戦った事が無い。だからこそあの1戦しかやっていないのだ。

 

「で、ドレディアさん。

 トレーナーと戦う時は俺がやってた行動とか指示した行動はやっちゃだめだよ?」

 

俺をぶん投げる、とか。

俺がやったみたいに土を口に入れる、とかその辺。

 

「ディ~?」

「何故、って? 俺があそこまで容赦なくやったのは

 あくまでもあいつらが、俺達に対して容赦無く攻撃しそうだったからだよ」

 

俺は一生懸命ドレディアさんが思っているであろう誤解を解いていく。

まともな試合であんなダーティーなことはしちゃいけません。

 

「だからトレーナーと戦う時はあくまでも、ドレディアさんはガチンコ勝負で戦ってくれ。

 ドレディアさんが持つ能力に関しては制限はつけないからね」

「ディァッ!!」

 

うむ、良い返事だ。

 

「次にディグダ。お前はトレーナー戦じゃなく

 訓練のほうに入ってもらう。さすがに睨みつけるだけだと無理」

「ッ……」

「とりあえずはまあ、必殺には程遠いんだろうけどわるあがきよりはマシな攻撃教えっから。

 まず攻撃手段がないと育つ事も出来ないからな」

「ッ!!」

 

了承した!と返事が返ってくる。

 

「で、最後にヒンバス」

「グ。」

「お前のレベルを考えるとこのパーティーだと無双状態になっちゃうんだよな」

「……グ?」

「あ、無双ってのは敵が居ない状態って事。

 ステータスから考えてもお前1匹でここら辺のトレーナーは

 全部倒せちゃいそうなんだよ」

「グ~」

 

さすがにヒンバスといえどLv100。

しかも何気にすてみタックル覚えてるから、ここら辺のレベルだと全部一確っぽい。

つーかでんきタイプのジムのクチバジムまであっさり行っちゃう。

 

「でもそれだとドレディアさんの経験が積まれないんだ。

 んだからヒンバスには、2人の訓練の相手を務めてもらおうと思う」

「グ。(コク」

 

過剰戦力であるのは間違いないわけなのだが

これをパーティーの訓練の模擬戦相手とすればどうか?

素早さは凄まじい位にあったし、さすがにLv15や9に

撃墜されるほど脆いわけもないのである。

 

それに模擬戦の相手が弱かったら、模擬戦の意味が無い。

 

 

俺はコイツを必要とすると言った。

Lv30から40位の子の戦闘訓練にはとても適切な相手と思う。

Lv100なのにその位のレベルの子の相手というのは

可哀想なのかもだが、俺はそうは思わん。

 

 

───元の持ち主に、役目すら無いと見限られたコイツに

俺は出来る限り、活躍の場を与えたい。それは偽善かもしれないし、自己満足かもしれない。

 

 

 

だから、どうした?

偽善結構、自己満足結構。

互いに納得し合えるのならば、それに越した事は無い。

 

 

だからこそ、ヒンバス。

──────これから、よろしく頼むよ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話 修練2

 

 

 

「と、言うわけで俺らはここの森に集合している」

「ディーア!」

「ッ────!!」

「グーー!」

「ヘーイッ!!」

 

 

少し前に述べた通り、俺らは修練のために

ひとまずクチバシティ=ハナダシティの間のゲームだと壁扱いの木が生い茂る森の中にいる。

草原だと野生のポケモンがいつ襲ってくるかわからんからね。

 

「今回はドレディアさんにも訓練に参加してもらう。

 何かしら俺の言った事や動きで、戦闘に生きる事があればどんどん拾っちゃってくれ」

「ディッ!」

 

ビシィッと俺に敬礼の手の形を見せるドレディアさん。

 

「今日はとりあえずメインとしてはディグダの訓練だな。

 まずは基礎である(と思われる)体術と立ち回りや脚捌きを教えるぞ。

 ただ、俺は知識があっても体は素人だから、あくまでも理論って形になる」

「─────ッ!」

 

こちらもビシィッと俺に敬礼する。

お前の場合、背でかいし細マッチョだからいい絵面になってんなー。

 

「さて……では訓練を始める前にひとつ」

「ディ?」

「……?」

「グ……?」

「ホワィ?」

 

 

 

 

 

「なんであんたまで居るの。マチスさん」

 

 

 

 

 

「ハッハー!細かい事気にシナーイ! オッケーオッケー!!」

「仕事どうしたんだよあんた」

 

 

そう、なんでか知らんがマチスさんが居る。

なんか街中で俺らが補足されてしまい、付いてこられた。

ア、その時に昨日の軍人さん=やっぱりマチスさんだった、でしっかり判明しました。

こんな特徴的な人あんまし居ないよね。元々軍人なんてのが全然いねーしポケモンって。

 

「ミーもちょっと訓練ーて気にナルーネー。ミーのジムでんきタイプメインでショー?

 近くのディグダハウスでディグダをキャプチャーされるト、ミーのジムベリーイージーなってしまうネ」

「まあ、そうですね」

 

俺も原作でダグトリオでフルボッコにしたし。捕まえる方が大変だった記憶がある。

 

「そーゆーのあるからネー。ヒントがあればベリナーイス思ったネー」

「まあ……邪魔しに来たわけでもないでしょうし構いませんよ。お暇ならどうぞ」

「ワーォ、センキュネー!!

 アフターランチご馳走するから楽しみにシテルネー!」

「ッディァ(ボグッ)ッアー!ッアー!」

「おめーはいい加減謙虚って言葉を覚えろこのアホンダラ」

 

ドレディアさん、本当あんたそろそろ学べよ。博士に学習装置送ってもらうぞ?

 

 

っと、そういえば。

 

 

「マチスさん。昨日はこの大飯喰らいがすみませんでした。

 この子が食べた金額、教えてもらえますか?俺が支払いますんで」

「ノンノン♪ ノープロブレムネー!!

 ミーもこのシティでジムリーダーがジョブねー!! マネーもちゃんと沢山あるヨー。

 5,000円なんて問題ナッシングネー♪」

 

 

おい。

5,000円て。

ドレディアさん。おい。

目ぇ逸らすな。こっち向けやお前。

 

 

「それじゃ、まずは体捌きのほうからだ。ディグダは結構素早さがあるだろう?」

「ッ─────」

「まずは攻撃に当たらない事が大切だと思う。よって攻撃のかわし方を説明しよう」

 

 

まず、どの攻撃が来るかを理解する事。

パンチ系か、キック系か、噛み付きや体当たりか。はたまた特殊系列の攻撃、炎水電気か。

 

「これが大切だ。まあこれらは大体のトレーナーがやる前に宣言しちゃうから

 体を張ってどの単語がどの攻撃かってのを覚えていけばいい」

「ッ!」

 

次に特殊ではない肉体攻撃系の場合の対処。

フェイントを混ぜていないという前提でこそあるが攻撃は必ず【自分に対して向けられる】事が殆どだ。

 

「つまり、どこの箇所に攻撃が来るかわかれば

 自分の手足や体全てを使って、その軌道を逸らす努力をするんだ」

 

ガードをして受け止めるだけでは衝撃がきつい事が多いはずだ。

 

「ホゥホゥ……ユー、教え方本格的だネー。ミーの軍でも似たような事はやったネー」

「おぉ、そうですか。元本職に言われるとちょっと嬉しいや」

 

ともあれ、実演をしよう。

 

「ディグダ、俺に対してパンチをするんだ。

 ただしこれは模範演技だからな、本気でやったら俺が泣くぞ?」

「ッ!!」

 

というわけでディグダは構える。

手加減するようにも伝えたのでちゃんとガキの俺でも見える速度。

そして俺に真っ直ぐ向かってきたところで。

 

パシッ

 

ディグダの手を横から払い、軌道を逸らす。

 

「これが軌道逸らしだ。出来る限りこれを使えば、ダメージはあまり受けなくなるはずだ」

 

まあ素人考えではあるがね。

 

「ミーのステディも出していいカー?」

「あ、ライチュウっすか? 問題ないすよー」

 

ステディってなんか相棒とか恋人って意味だったよな。

マチスさんの切り札は本気モードは知らんけどライチュウだったし間違ってないだろう。

 

「センキュー!!GO、VOLTY!!」

 

軍人が気合を入れてモンスターボールをそこら辺に投げる。

 

バシュゥゥゥン

 

「ッチューゥ!!」

 

そしてプリティーなもちもちネズミが出てきてくれました。

やべー可愛い、ちょっと抱きしめたいわこれ。俺ピカチュウよりライチュウのほうが好きなんだわ。

ゴリチュウry

 

「やっほう、ライチュウ。いやボルティって呼ぶか。

 今は攻撃を逸らす技術の修練中だ。見て確認した後に試してくれ。

 君の場合は尻尾とかでもいいかもしれないね」

「チュゥ」

 

というわけで、ライチュウに視認してもらうためさっきの繰り返しをする。

少しずつディグダにはパンチのスピードを速めてもらい

それを繰り返す事でどうやってやるのかを見せ続ける。

 

同じように蹴りのほうも避けをメインに見せてみる。

 

「よし、じゃあ次は実践に近い形でやってみよう。

 ヒンバス、そこそこのスピードでディグダに体当たりしてくれ。

 ディグダはヒンバス自体をパンチと思って、さっきやったみたいに軌道を逸らすんだ」

 

俺がヒンバスにそのように指示を飛ばし、ヒンバスに体当たりを繰り出してもらう。

もっと高速で突進は出来るはずだがさすがLv100の先輩。きっちり手加減できてます。

ディグダもディグダでかなり軌道逸らしは慣れてきたようだ。

バシッ・バシッ・ガスッ と小気味良い音を刻んでいる。

 

横を見ればライチュウもマチスさんを相手に逸らしの訓練をしていた。

結構凄い威力のパンチを、ライチュウは自慢の尻尾でタイミングを合わせてパシッと逸らし続けている。

 

「うん、みんないい感じだ。

 ドレディアさんはここら辺、勘で出来ちゃいそうだけど……まあ学べると思ったら確認しておいてね」

「ディ~ア~」

 

 

「軌道逸らしはこんなところでいいだろう。次はちょっとしたステップアップに移るよー」

「ッ!」

「イエース!」

「ライチュー!」

「ッグ」

 

元々ここで全てが身に付くとは思っていない。あくまでも知識を知ってもらうだけだ。

そこから使える知識が引っ張り出される事を祈るのみ。やらないよりは遥かにマシなはずだからね。

 

「次は、【攻撃の撃墜】だ。軌道逸らしはあくまでも逸らす事に特化した内容。

 攻撃の撃墜は、その場でそれを打ち落としてシャットアウトする事だ」

「ホーゥ……」

「ッ」

「チュー」

 

さっき応用といった様に、これは軌道逸らしからの展開。

 

「じゃあ、ディグダ。今回はそこそこゆっくり俺にパンチをしてみてくれ」

「ッ!」

 

というわけで肉眼でも余裕で交わせる速度でパンチを出してくれる。

そこに俺は体をそらしつつ、ディグダの【肘】にパンチを入れた。

 

「ッ?!」

「オーウ!?」

「チュ?!」

 

カウンターとはまた違う概念、撃墜を目の当たりにして

やはりバトルにこんな概念はないのか、全員が全員驚いている。

ドレディアさんも声こそ上げていないが目を見張っていた。

 

「これはあくまでもこういう形を示しただけ。やり方はそれこそ無数にあるよ。

 ストライクとかなら腕に鎌をタイミングよく突き刺せば、相手が痛がって攻撃を中断するかもだしね」

「ホゥホゥ……これメモする価値十分あるネ」

「ッチュー」

 

実例に関しては、本当に数え切れないほど存在する。

蹴りを繰り出す相手の軸足の足の甲を踵で踏み潰す、とかね。

そうだな、例えば……

 

「ライチュウは、尻尾に電気を纏わせられる?」

「チュウ!」

「じゃあ……ちょっとピリッて来る程度でいいから、纏わせてマチスさんのパンチを逸らしてみて」

 

言われて即座にやる2人。そして案の定───

 

「ゥワーオ! ベリーボルティックネー!」

「ッチュー!」

「こういう感じで、逸らしつつの攻撃も可能って事さ。

 電気自体が攻撃になっているわけだね。ちなみにディグダの場合はこういうことも可能だよ」

 

またディグダにパンチを出してもらう。

そこで今度はあえて横からパンチを打ち払い、『伸びきった腕』の『肘』に対してパンチを入れる。

 

「これが逸らしと撃墜の同時進行」

「…………」

「スゴーイネー」

「ラーイ」

 

もしかしたらわかる人はわかるかもしれないなぁ。今俺がやった行動はある漫画を参照にしている。

逸らしや撃墜は自分の概念から引っ張り出しているが、今やった行動はれっきとした技になる。

 

 

 

陣内流柔術、『鬼会(おにだまり)』である。

 

 

 

俺は今日から、攻撃用武術としてディグダに

この陣内流柔術の基礎として必要な『握力』が無くても出来る技を教えていこうと思っている。

他にも「はじめの一歩」から来るボクシング的な技や。色々な格闘技の漫画の技も色々教えていくつもりだ。

しかし関節技だけは注意して教えないとな……アレはほぼヒトガタじゃないと意味を成さない。

 

ついでだ、本物の鬼会も見せようか。

 

「さらにこれらを繋げるとこうなる」

 

もう1回ディグダにパンチをしてもらい

今度も先程と同じく、パンチを払い硬直したところで肘に拳を入れる。

その肘に入れた拳の腕をディグダのほうへ曲げ

そのままディグダの脇腹に突進。肘を脇腹に入れる。

そしてその勢いを維持したまま、脚を払い、肩に体重を乗せ、ディグダの脇腹に体ごと突っ込む。

 

「ッ!?!?」

「ウォォォゥ!? グゥレイトォッ!!」

「ッチュ……ッチュゥ!!」

 

なお、もちろんの事素人の見た目真似事でしかない。

あの漫画の主人公は一瞬でこれをやり、相手をぶっ飛ばす事もあったが

10歳の子供に綺麗に出来るわけもない。素人なめんなウボァー。

見せきってディグダに突っ込んだ後は、無様にディグダの上に乗っかった。

 

「っふぅ……速度もゆっくりだから見てもらえたと思う。

 要するに逸らしも撃墜も、なおかつ攻撃ってかカウンターも

 混ぜればここまで昇華出来るってのを伝えたかったんだ」

 

凄まじく格好悪い形になったがね。

でもまあ体捌きの形としては良い形に伝えられたと思う。

 

「でもあんなの実践で出来るのは殆ど無い、これは覚えておいて。

 ああいうのって、やっぱり基本がしっかりしてないと、絶対に本番で動き切れないんだよ。

 普段から常にあの手の動きに慣れておいて、初めて出来るようになるはずだから」

「ッ(コクコク」

「ホウホウ……VOLTY、今日見に来て良かったネー。

 これ、ベリーディフィカルトネ。でもやる価値あるヨー」

「チュゥチュゥ」

 

 

まあ、どうせ漫画の知識でしかない。

俺としてはディグダの育成の少しの補助になればそれでいいのだ。

まさかジム戦で生きるような技術にはなるまいよ。

 

 

「そんじゃ次は……ん?どしたのドレディアさん」

「ディッ!! ディッ!!」

 

なになに、ちょっとやって見たい事があるとな。

そしてドレディアさんは両腕でパンチを出しまくった。風斬り音が凄い。さすがこうげきステ特化型だ。

 

「ディッ!! ディァッ!!」

「え、今のをマチスさんにやってもらいたい、だって?」

「ホワィ、何故にミーね?」

「多分ですけどまともな体術が出来る人が他にいないからじゃないですかね。

 さっきライチュウ相手になかなかのパンチ出してましたよね」

「ァー、オケーオケー。

 じゃあフラワーレディー、行くヨー! ッシャァォーゥ!!」

 

気合を一発入れてドレディアさんに向けて轟々と拳の乱打をしていった。

そしてドレディアさんはなんと───

 

「───ドーレドレドレドレドレドレドレドレドレッッ!!!」

「ウォワォッ!?」

「うっわ、マジかオイッ?!」

 

なんと相手の拳に合わせ、自分の拳を重ね当てて迎撃しているっ!!

なんつー高等技術だこれは?!

 

「ドレドレドレドレドレッッ、ッディァー!!」

「ッ……! ノーッ! ギブアップ、ギブアップネ」

「すっげぇ……ホントに何モンだあんた……」

「───ッ」

「ラーイ……」

「グ……」

 

出される拳に綺麗にあわせ続けた後、ドレディアさんは一瞬の合間を縫って

マチスさんの顎に対して寸止めで拳を合わせた。

これまるでJOJOの承太郎vsDIOのオラ無駄合戦だよ……

 

「ッディァ!!」

「うん、素直に凄いよ。新しい技術の習得おめでとう。

 冗談抜きで今晩はおいしいもの用意してあげるよ」

「ッ!? ディアーッディアーッ!」

 

まるで子供のようにぴょんこぴょんこと跳び、ご飯に対してか技術に対してか、喜びを表している。

 

「ユーのフラワーレディ凄いネ……。ベリークレイジー」

「うんまあ、あの子性格がそのままクレイジーって出ますからね」

「オゥwwww」

 

いや、やっぱ笑いますよねwww

あの可愛らしい姿にクレイジーなんて性格やもん。

 

 

 

 

そんなこんなで修行はどんどん過ぎていった。

 

 

相手を俺からヒンバスにシフトチェンジしてもらったり

 

ヒンバスも速度をちょっとずつ上げ、ディグダの技術昇華に一役買ったり

 

ライチュウとドレディアの実践に近い模擬戦を全員で見学したり。

 

俺も俺で漫画から得た知識を述べてみて

使えるものがないかを全員で探ったり、と何気に結構充実してました。

 

 

「まあ、今日はこんなところにしておこうか。みんな結構ボロボロみたいだしね」

「ユーも結構ばっちぃネーww」

「オゥマジっすかwww」

「ラーイ♪」

「ディーア♪」

「グッ!!」

「─────♪」

 

 

いやぁ、みんな良い笑顔だ。

 

 

 

 

 

テテテテーン♪

 

 

「んぁ?」

「ホワィ?」

 

何の音だ? いや、これはレベルアップとか技覚える時とかの音だな。

つまりはポケモン図鑑からだろうか?

 

ごそごそとリュックから取り出し、パチッと図鑑を開いてみる。

 

「ん……? 更新情報あり?」

「ネクストデータネー?」

 

画面をどんどん進めていってみる。

するとドレディアさんとディグダの欄が点滅しているのが目に付いた。

 

ふむふむ……?

 

 

[> ドレディアの レベルが 16ていどに なった!

 

ほほう、修行でも経験地入ってくれるのか。

これ育て屋事業起こしてもいいんじゃね?

 

[> ドレディアは あたらしく

    マッハパンチれんだを おぼえたい……!

 

[> しかし ドレディアは わざを 4つ

    おぼえるので せいいっぱいだ!

 

 

 

ほうほう……あれかぁ。

でもまぁ別に技として覚えなくてもこれ、普通に防御で使い回してくれるよね?

 

 

 

[> マッハパンチれんだの かわりに

    ほかの わざを わすれさせますか?

  はい

[>いいえ

 

 

 

いいえをぽちっとね。

 

 

 

[> では…… むりやり

    おぼえさせますか?

 

[>はい

  いいえ

 

 

うんうん、技を覚えるのを諦めるってね。はいをぽちっとね、

……って、あれ!? なんか文章おかしくね?!

 

 

[> ドレディアは むりやり

   マッハパンチれんだを おぼえた!!

 

 

ててててーん♪

 

 

ちょwwwwww覚えんなwwwwwwww

なんだよ無理やり覚えさせますかってwwwwww

 

「ディ~ア~♪」

 

【私はまたひとつ強くなった!】とか喜んでいらっしゃるドレディアさん。

なんか久しぶりにドレディアさんのイカれっぷりを見た気がする。

しかも無理やり覚えたはずなのに。デメリットっぽいのが欠片も見当たらんこの子は本当になんなんだ。

 

どう見てもバグの塊です。本当にありがとうございました。

 

「……ユーのフラワーレディすごすぎネー。ミーのジム、来たらノンノンよ?」

「行く予定こそないけどそれ酷くないっすか」

 

まあ、やりあいたくないのは素でわかる。

アニメでも技4つ以上使ってる子が居た気はしたけど、これはないわー。マジでないわー。

 

 

 

 

 

 

ついでに言うが、ディグダもLv9からLv11になってた。

修行するだけで2もアップ!? と思ったが、何気に5時間もぶっ続けでやってた事が判明。

朝の8時位からやってたはずなのに今13時半だよ。楽しい事をやってると時間がすぐ過ぎるわぁ。

 

でもって技も技で

 

わざ1:にらみつける

わざ2:じんないりゅう (臨機応変に効果が変わる)

わざ3:

わざ4:

 

と更新されていた。

こっちもバグの塊だよ……なんだよじんないりゅうって……

 

 

まあ当初の計画通りこちらのパーティメンバーは、微弱では在るがきっちり強くなってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお後日談になるが、クチバジムリーダーマチスの手持ちのライチュウが

この日を境に異様に強くなってしまったらしく

トレーナー間のジム情報で、トキワジムに並ぶ最難関ジムとなったらしい事をここに付け加えておく。

 






物語が予定通り狂って参りました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話 野戦1

昨日、俺の前世知識を交えた修練は……まぁ多分そこそこの実入りで終わる事が出来たと思う。

次の修行は、vsトレーナーに移ろうと思っている。つまりは今回はドレディアさんが主役である。

 

前回の修行でまともな攻撃技(?)を得たディグダも、トレーナー戦に交えたいところだ。

訓練こそしてディグダもなんとかまともな形にこそなってくれたが

やはり実戦から勘を鍛えねば、宝の持ち腐れになると俺は判断している。

 

 

「さて、ドレディアさんは待ちに待ったという感じかな?

 今日からシン兄ちゃん打倒のスタートとして、そこら辺のトレーナーとの対戦をしていくよー」

「ドレッディアーッ!!」

 

早くも気合十分。やはり性格的にも血気盛んのようである。

 

「ディグダも一応出てもらうつもりだから、覚悟はしておいてね」

「─────ッ!?」

「ああ、大丈夫大丈夫。失礼な話かもしれないけど、まだ戦力とは見てないから。

 むしろここでぶっ倒されて、上位連中の力を味わっておいてくれ。

 経験ってのは力になるもんだからね、やれる時にやっちまうんだよ」

「────…。」

 

【わかり申した、我が主よ】と応えるディグダ。

ディグダはトレーナー戦より、野生ポケモンの相手から始めるべきだろうな。

でもまあ、あれだあれ。もののついで?

 

「で、最後にヒンバス。君は基本待機してもらうことになる」

「グ。」

 

身の上はわかってくれているようで何より。説明する手間が省けるのは素晴らしい事である。

 

前の説明でもしたと思うが、ヒンバスでLv100になっても実力的には30~40がせいぜいというところだろう。

しかし逆に言えばそれでも30~40程度の実力があるのだ。今回の修行で使うと他の2人が育たなくなる。

 

なので基本活躍の場は無いと思うが、それを納得してくれている。

やはりコイツは、パーティーに入れてよかった。

 

コイツにふざけた事しやがった前の持ち主よ。

あんたが見限って捨てたヒンバスは、立派に俺のパーティーのエースやってるよ。

 

 

 

 

「さーて到着しましたクチバシティの東!!」

「ディーアー!」

「ッ────!」

「グッ!!」

 

初代なら神BGMが流れてくれるこの原っぱ!!

うーむ、トレーナーが盛り上がっている!! ドレディアさん追い払うなよ!! 良いなッ!

 

 

草ッ原と道路では、ポケモンバトルが大人子供関係なく繰り広げられている。

たまにちらりと見れば体当たりで吹っ飛ばされる小型のポケモン。

またあるところを見ればさいみんじゅつに掛かってふらふらなポケモン。

すっげー賑わっている。やっぱ生は違うね。そいや生ビールとビールの違いってなんぞ。

 

 

「ふむ」

「ディ?」

「─────?」

 

とても盛り上がっていてこう言うのは申し訳ないのだが

 

「バトルすんの怖い」

 

バコッ。

 

殴られた。

 

「えーん、だって怖いんだもーん」

「ディァ#」

「─────;」

 

【姐御、すぐに殴ってはだめだ】と間に入ってくれるディグダ。

ドレディアさんに殴られ、ディグダに優しくされ。まさに気分は乙女也。ディグダ惚れてまうやろー。

 

 

「ああ、そうだ。何もうろつく必要はないんだ」

「ディア~?」

 

どういうことだ~? と首を傾げるドレディアさん。

 

今思えば俺は別にこの世界の主人公をしたいわけじゃない。なので俺から出向いて行く必要もない。

だったらさ、ゲームでそこら辺にオブジェとして立っているトレーナーみたいに

棒立ちで、相手が来るのを待つってのも手じゃね? それこそシビレ罠とか仕掛けて。

 

よし、そうとわかれば。

 

 

 

 

「ッ! 目が合ったわね、君ッ!! さぁ、ポケモンバトルよ!!」

 

トレーナー同士は目を合わせたら戦わなければならない。

 

                          らしい。

 

誰が決めたんだ、そんな内容。知るかボケ。

まあ今回は別に、その常識を否定して回りたいわけではないので普通に勝負をする。

今回のバトル相手はガールスカウトちゃんだ!! 俺よりちょっと年上、シン兄ちゃんより年下かな?

 

「フッフッフ……」

「うっ……!? な、何、よ……?!」

 

いきなりの俺の含み笑いに多少引くガルスカちゃん。

 

そう、待ち構えているのだ俺達は。

 

 

 

さぁっ!!

今こそパーティーの結束力を試すッッ!!

 

 

 

 

「赤レンジャイッッ!!」

 

 

ズバァァァン!!

 

 

「ドレディアッッ!!」

 

 

ドバァァァン!!

 

 

「ッッ────!!」

 

 

ジャキィィィイン!!

 

 

「ッグーーー!!」

 

 

ドコォォォオオン!!

 

 

 

 

 

 

「4人揃って、ゴレンジャイッッ!!」

 

ビシィィィィ!!

 

 

♪ジャッジャッジャララジャッジャー♪

 

決めポーズも完璧だ……ふつ、さらさら

なお他のみんなはポケモンなので最後の名乗りは俺だけだぜ!! 若干寂しいっ!!

 

「ってちょっと待てぃっ!! なんで4人なのにゴレンジャイなのよっ!!

 5人揃ってゴレンジャイでしょうがぁー!!」

「甘い、甘いぞガルスカちゃんっ!!」

「略すなー! 何が甘いってーのよぅ!!」

「なんでゴレンジャイが5人いる必要性があるっ! ならば俺らは4人でも名乗れる事は必須っ!

 その様な常識、まさに愚の骨頂ッッ!!」

「お約束ってもんがあるでしょうがっ! 大体なんでムダに演出とポーズに凝ってんのよっ!!」

 

そんなもん暇だからに決まってんでしょ。

 

「ふふふふ、我らに恐れをなしたか……

 我ら4人と熱き魂が揃った今、我々に勝てるモノはちょっとしかいないっ!!」

「ドレディアーッ!!」

「─────ッ!!」

 

後ろでズバーンドシャーンと決めポーズをするドレディグダ。ノリが良くて非常に助かる。

 

「ちょっとなんかいっ!! そこは誰も居ないって言いなさいよっ!!

 てか今まで突っ込み損ねてたけどそのディグダっぽいのは一体なんなのよぉ!!」

「あ、これについては説明が必要ですね」

「いや……いきなり素に戻らないでよ……」

 

俺はリュックからポケモン図鑑、略してポケズを取り出しディグダを読み込ませ

技とステータスを除いてガルスカちゃんである彼女に見せてあげる。

 

「と、突然変異……?」

「ええまあ、ぶっちゃけ彼……多分同意見をもらえると思うんですが

 細身のゴーリキーがディグダの覆面被ったようにしか見えませんよね?

 でも、彼はディグダのあなで育った(はずの)立派なディグダなんです」

「ま、まあわかったわ……そうね、突然変異なのね」

 

そんなのいるんだ、とボソリと呟いているガルスカちゃん。

まあ俺もドレディアさんの情報見てビビりましたから。

 

「じゃあ、そういう事で。お疲れ様でした」

「うん、わかったわ、お疲れ様」

 

そして互いに手を振り、去っていくガルスカちゃん。

 

「ディァ#」

 

バコォッ

またドレディアさんに頭ぶっ叩かれた。

【何で綺麗にお別れしてんだよ、バトルしろ阿呆】と目が語っている。

 

「いやぁしまったしまった、ちゃっかり忘れてたよ」

「…………ッッ!!#」

 

なんだよ。そうだよ、ちゃっかり忘れたんだよ。文句あっかコラ。

あ、ちょ、やめ、やめて。首絞めないで。

 

 

 

 

「───ってちょっと待てぇーぃ!! なんで綺麗にお別れしてんのよぉー!!」

 

おおう、まさかのドレディアさんとのシンクロ。ガルスカちゃんは間違いなく突然変異。

 

「しかも貴方は貴方でなんで、自分の手持ちの子に首絞められて天寿を全うしそうなのよ!!」

「ゲホッ、ゴホッ、えーと……俺の魅力?☆ミ」

「ディッ!#」

 

ドフォッ!

 

あぎょん。ボディーに連続パンチはやめてドレディアさん。

横でディグダが必死に止めようとしている。ディグダマジ愛してる。

 

「なんていうか手馴れてるわねー……ともあれッ、ポケモンバトルよっ!!」

「ふっふっふっふ……赤レンジャイっ!!」

「それはもういいわぁー!!」

 

さすがに二度ネタは旬がないようです。

ガルスカちゃんのサンドが俺の顔面に投げられのぺっと張り付かれました。おい虐待すんな。

 

 

 

 

「お願い、私のサンドっ!!」

「じゃあ俺もお願いっ!! 俺のカツサンドっ!!」

「ッ!?!?」

 

そう言って俺はディグダを前に出す。

【私じゃねえのかよォィ#】という抗議と

【わ、我の名前はディグダだっ!! 断じてカツサンドなどという謎なモノではないっ!!】

という抗議が交差する。

アア、そういえばこの世界肉が無いからカツもないのね。やっちゃった★ミ

 

「サンドっ!! ひっかくのよっ!」

「ディグダッッ!! 任せるッッ!!」

「えええええええええーーーー!! あんた指示出しなさいよっ。何よそれぇ!!」

「事件は会議室で起きてるんじゃない……───現場で起きてんだッッ!!」

「意味わかんないわよもうっ」

 

場に目を移すと、ディグダがひっかくの回避に成功していた。

小形動物という形もあり、小さいターゲットの手を狙うより

サンド全体のほうが狙いやすいと判断したのか、サンドごと手を用いて打ち払っていた。

 

「っくぅ、やるわね」

「まあやってんのは全部あのディグダですけどね」

「そうだけどさ……貴方本気でやる気あるの?」

「正直ここら辺のトレーナーさん、全員目が血走ってて怖いからポケセンに帰って寝たいです」

 

次はディグダが攻撃を入れようとしてサンドに飛び掛る。

しかしサンドも負けてはいない。カウンター気味に引っかいてきた。

そしてディグダはとくせい2のマルチスキルで───

 

「あっ」

「えっ?」

「ディ?」

 

ゾシュンッ

 

 

その一撃は。

 

 

おなかのやや下へと吸い込まれていき。

 

 

「ッッ!?!? ッッ─────!! ーーーーーーーーーッッ!!!」

 

 

 

 

サンドのひっかく攻撃は、いわゆるコッカーン★な部分に直撃。

体つきからディグダは男だと思うんだが、その、ほら、男のバベルの塔がある地点にね?

ひっかくがズバシャーって。……ァゥッ!! 俺にもなんか痛みがっ!!

 

俺も股間を押さえてぴょんぴょんして、ディグダは股間を押さえてゴロゴロ転がり

そして相手のサンドも男なのか、とても申し訳なさそうに

バトルの最中にも関わらずディグダに近寄り、体を労わっている。

 

「……なんなのよ、この状況」

「男じゃないとわからないやいっ!!」

「ドレ~……」

 

痛みがわからないのかやれやれといった感じに肩を竦めるドレディアさん。

 

「まあ、これはしょうがないです。負けを認めます」

「うん、一応あれって急所に入ったって事なのよね?」

「ディグダも別に体力が多い種族ってわけでもないですからね」

 

そんなわけで、初トレーナー戦は敗北が決定した。ディグダは犠牲になったのだ……

 

「ドレェ……」

 

 

「では、賞金として600円を……」

「えっ600……円ッ!? ちょっと高くない? 君お金持ちなのねぇ」

「あーうんまあ、子供って観点だと確かにお金持ちかと」

「でもなんでここで勝負を終わらせるの? そこの草属性の子もいるし、魚の子も居たじゃない。

 サンドは地面属性だから相性は素晴らしく悪いだろうけど……私も他の子がいるのよ?」

「まあ、俺は別にそれでも構いませんけど……多分地獄見ますよ……?」

「じ、地獄?」

 

ドレディアさん、相手が属性うんたらーとか一切関係ないからなぁ。

虫飛行相手に格闘技で一撃で瀕死に持っていくとか本当、おかしい。

 

「じゃあ、ドレディアさんが勝っても俺は賞金結構なんで、やるだけやってみます?」

「わかったわ、じゃあお願い。そこまで強いのなら、逆に興味も湧くからね」

 

というわけでドレディアさん、出番っす。

 

「ディ~ァ~」

 

腕を超全力でブルンブルンと振り回すドレディアさん。

 

「え、えぇーっ。この子特殊攻撃系の子じゃないのっ?!」

「……俺の記憶が正しければそのはずだったんですがねー」

 

とりあえずサンドとドレディアさんのバトルが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬で終わりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

マッハパンチれんだ。

ドガガガガガガガ

8かい あたった!!

プシャォーン(初代の敵が倒れる音)

 

「てわけでウィナーイーズ、ドレディアー」

「ドレディアーッ!!」

 

胸を張り、ふんすふんすと鼻息荒く。

復活したディグダも改めてドレディアさんを尊敬の目で見て。

ガルスカちゃんはあまりの能力に唖然としている。

 

「────まだ、やるかい?」

 

某10代の傷だらけ組長の真似をしてみた。

 

「……やめておくわ。うん……これは確かに無理ね。切り札なのね……」

「あ、俺の切り札はこの子じゃないですよ? 特攻隊長的な存在なのは多分間違いないですけど」

「ってことは、あのお魚さんが?」

「ええ、ヒンバスっていうんですけど、あいつLv100で確定してるんですよね」

 

ッブーーーーーーーー

あのAAもかくやと言わぬばかりに噴出したガルスカちゃん。

 

「な、なんで、なんでLv100がこんなところにッ……!?」

「まぁ、事情はあとで説明しますよ。そちらもサンドがやられちゃってますし……

 一旦ポケセン行きますよね? 俺もディグダが倒れたので」

「あぁ、そうね……じゃあ一緒に行きましょうか」

 

 

そうして俺らは一旦クチバの東平原を後にした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話 野戦2

ガールスカウトさんもといモモさんと一緒に、ポケセンまで戻ってきました。

ちゃんと回復しないとね。ゲームだとやられたトレーナー佇んでるけどさぁ……

何であの人たち主人公と違って目の前が真っ暗にならんのよ。

回復してあげろよ。全員げんきのかたまり持ちか。売らせろ。

 

 

 

「なるほど、ね……コイキングに似たり寄ったりの能力か。

 それなら確かにLv100でも凄まじい戦力には成り得ないわね」

「そういうことです、ただまあ腐っても鯛……あ、いや鯛いねえか。

 腐ってもトサキントなので強いポケモンのLv40~50程度の実力はありますよ」

 

断じて力説する。ヒンバスは役立たずなどではない。

さいみんじゅつが使える点から、すいすいの特性を使って対戦で使っていた猛者までいるぐらいだ。

 

「うん、確かにここら辺のトレーナーのレベルで考えれば……確実に切り札ではあるわね」

「そういうことで、自重させてもらってるんですよ。

 今必要なのは経験なので、勝ち負けは重要でもないんです」

 

金あるし。へっへっへっへ

 

「あ、そうだ。もっさん、お願いがあるんですけど」

「なによそのもっさんって!? モモって呼んでくれればいいじゃないのよっ!」

「だってモモさんて何か覚えづらいんですもん。もっさんだったらほら、気さくに話しかけれていい感じ?」

「ディァッ」

「ドレディアちゃんも同意しないでよッ! ……ふぅ。で、お願いって何?」

「はい、5人目のゴレンジャイになってほしいんです。

 今なら桃レンジャイの枠が空いてるんですがいかがでしょう?」

「やらないわよっ!!」

 

あれー、残念。

名前もモモだしもうこれは神の引き合わせと思ったのにそんなことはなかったんだぜ。

 

「はい、お待たせしました~♪

 こちら、モモさんのサンドちゃんと~、こちら、タツヤ君のディグダ(?)ちゃんです~」

 

そうして瀕死扱いだった俺達の手持ちが戻ってきた。ディグダ疑問系www生きろwww

 

「君はまた原っぱに戻るの?」

「そうっすねー、何事も経験ですからね。負ける事だって成長につながりますから」

「なんていうか……タツヤ君と話してると、年下と話してるイメージが全く湧かないわ」

「まあ、中身おっさ───おっと、これは言えないな、ぐへへ」

「なんなのよそのぐへへって!? ちょっとキモい、やめてっ!!」

「ォゥフ……目の前でキモいって言われると若干傷付く……俺のガラスのハートが悲しみに包まれた……」

「あ、ご、ごめん……」

 

いや、まあいいんすけど。冗談ですから気にしないでください。

しかし危ない危ない、何気に素で口走りそうになった。

 

「もっさんもあっちの方に戻るんですか?」

「呼び方はそれで換えてくれないのね……うぅ~」

「もっさんいいじゃないっすかぁ、もっさん、もっさん~」

「ドレディアちゃん、お菓子上げるからさ。

 ちょっとこの子にスクリューパイルドライバーやってくれない?」

 

ガシッ

 

「え、ちょ」

「ッアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッッ!!!」

 

ギャルルルルルィッ    ヅっどんグ。

 

考える暇も与えられずに凄まじい攻撃を入れられた。

ファイナルアトミックバスターやばし。ダイイングメッセージを……残さねば……

 

ミニスカ

 

おれの めのまえが まっくらに なった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッハ!? ここはどこだ?! ここか?! ここがええのんかっ!?」

「いきなり何言ってんのよ……頭はさっぱりしたかしら?

 気絶したからディグダ君にかついでもらって原っぱに戻ってきたんじゃないの、感謝しなさいよ?」

「あんたヒンバスけしかけんぞ? 人のポケモン目の前で買収しやがって。

 あんたがやらせてんのに何恩着せがましい事言ってんじゃコラァ」

「ディァ~ン♪」

 

横でアイスをぺろぺろ、ぺろぺろ、大事な事なので二回言いました。

ぺろぺろしているドレディアさん。

 

「ふん、タツヤ君が悪いのよっ。人が嫌がってるのに「もっさん。」……なんて呼ぶし。

 ドレディアちゃん、もう1回……」

「それ以上言ったらモモちゃん★ミのおっぱいわしづかみにすっからな」

「っひ?! いきなり何言ってんのよっ!!」

「#ディァ」

 

べちんっ

 

「ぉあふっ!? いきなり何するんすかドレディアさんっ!!」

「……#」

 

くそう、なんだこれ、なんだこいつっ。

青筋立てながらも頬が赤いっ。最近こいつの感情が読めん。

 

「……? あら? あらあら? ドレディアちゃん、もしかして……?」

「ッディ!? ディッ!! アッ!!」

「あらあら、うふふ♪ わかったわかった、大丈夫よ~」

 

なにやら女同士通じ合うもんがあるのか、ぶるんぶるんと首を振ったり

何が大丈夫なのか全く興味が無いが、なにやら会話が成立しているようである。

 

そして【ふー】、と一息ついたドレディアさん。もっさんはもっさんで楽しそうにドレディアをいじっている。

何その謎会話。俺も混ぜれ。

 

 

 

 

というわけで草ッ原2回目である。

 

「おい、次なんのネタやる?」

「ディアー」

「─────。」

「ッグ」

「またやるのっ!?」

 

もっさんは驚いてるが、日常的に同じ事ばっかじゃつまらんやん。

日々を楽しく生きてんだからさぁ、俺ら。

少しでも毎日を充実させようぜ、だからもっさんは桃レンジャイを……

 

「い、いやだからねっ?! またパイルドライバーやらせるわよっ?!」

 

…………ッチ。俺も体の安全は大切だ、勘弁してやらぁ。

 

 

 

 

 

「ディァ……?」

 

おめーもおめーで【おかし、くれないの……?】とか上目遣いしてんじゃねーよ。

 

 

 

 

「さてまぁ、ネタは浮かんでたはずなんですけど、なんか忘れてしまったんで飯にしましょう飯に」

「……はぁ、なんかもうどうでもいいわぁー。ご飯にするって、何食べんのよー」

「ああ、朝にポケセンで台所借りて作ってきたんですよ。これでも飯作るのはそこそこ得意なのでー」

 

ディグダのとってきた自然薯もちょっと残ってたしな。

ひらべったく切って焼いて山芋? ステーキにしてみた。他にもおかずは山菜からもりだくさーん!

人里に下りてきたから調味料使って味付けもバッチリだぜ!!

 

「う゛ゎ……私ガールスカウトなのに野営料理の出来栄え、確実に負けてる……」

 

|!|i ○| ̄|_ !|i|

 

フッホッホッホ、がっくりきてる。がっくりきてるよー。

別に野営料理なんぞ森を旅してたら腕前なんぞぐんぐん上がるわい。

 

「よかったらもっさんもいかがですか? なんならサンドにも食べさせてあげてください」

「ッ!? 良いのっ?! ごめん実はすっごいおいしそうで食べたかったです」

「あっはっは、もっさん結構正直っすね。いいっすよいいっすよ、どうぞどうぞー」

「うん、ご馳走になるわ! サンドもおいで!」

 

パシュゥゥゥンという音と共にサンドが出現する。

ボールの中で会話を聞いていたのかヨダレがだらだらである。

なんかそういうのも含めてこの小動物可愛いぞおいww

 

 

ドレディアさんは、残念ながら協調性というものをまだ学べていないため

自分の取り分が確実に減るので若干嫌がったが……まあそこはもうご飯食べ始めたら気にもならんものだ。

 

人数が多いのも相まって、楽しい飯団欒となっております。

何気にドレディアさんがサンド相手にお姉さんぶってんのが普段の態度から見れない可愛さを見せている。

ディグダはディグダでヒンバスと仲良く食べている感じだ。ポケモン同士仲が良くてよきかな。

 

 

俺も俺で、飯を一緒に食べながらもっさんに、食材と和を成す味付けの基本と

野営では調味料を持ち歩かないと駄目だから、味付けが無くても旨い素材の組み合わせを教えたり、と

久しぶりの人との触れ合いを楽しませてもらっている。人が多いとやっぱ飯も美味いよね。

 

 

 

だが俺はある事を失念していた。

 

それは……

 

 

 

 

 

 

 

ガサガサッ

 

 

「ッ!! 目があったなぁ? 勝負だー!」

 

 

 

ここトレーナー激戦区だったわ。飯どころじゃねえよって話。

 

「やだ。」

「ええっ!?」

「ちょっ、タツヤ君!?」

 

なんだよその非難する目は。こちとらおいしく飯食ってんだぞコラ。

 

「───。(ゆらぁり」

「え、な、なんだっ?!」

「な、何?タツヤ君どうしたのよ」

 

俺はおもむろに立ち上がり、厨二病の活用で顔面を片手で覆いながら

飯団欒(めしだんらん)に突撃してきた短パン小僧に指をさす。もちろん格好の参考はあの人だ。

 

「小僧ッ貴様、考えてみるが良いッ!! 家で家族と楽しくご飯を食べている時にッ!!

 いきなり家に乱入され、飯を中断させられたらどう思うッ!!

 貴様は今まさに、その行いをしようとしているのだッ!!」

「うっ……!? 確かにそれは嫌だけど、ここはそもそもが家でもなんでもねーだろっ!!

 こんなところで食ってるほうが悪いじゃねーかぁっ!」

「ぬぅ……?! なんという正論をッ……貴様ッ、見えているなッ!?」

「なにがだよっ?! とにかく勝負だっ!!」

 

 

 

 

「なんなのよこの茶番劇www」

「ディーァ」

「いつもの事なんだ……」

 

後ろでは飯から目を離して、もっさんとドレディアさんが俺等に突っ込みを入れている。

てかおめーら意思疎通してんじゃねえよ。それは俺の特技だ。

 

 

 

 

「それいけぇっ!! スリープっ!!」

 

パッシュゥゥゥン!!

そして小僧の宣言通り、ボールからはスリープが飛び出してくる。

「トゥルトゥルトゥル!!」

 

多分言葉にするとこんな鳴き声だな。

 

「スリープか……ならドレディアさんお願いするよ」

「ディアディアディアドレディアー!!」

 

シュシュシュシュシュとシャドーボクシングをしてみせるドレディアさん。

胃袋が若干膨れたのか毛ヅヤ(毛ヅヤ?)がとても良い状態だ。

まあこれならもしかしたらエスパータイプ相手でも勝てるかもねー。

うむ、その気合の入りっぷりにスリープの腰が若干引けている。ってかこれただの特性のいかくやん。

加えてエスパータイプのあの子の攻撃値下げても意味ねー。

 

 

「スリープ、ずつきっ!!」

 

あれ?! そこねんりきじゃねえの普通?!

って、ああそうか、特攻が高くても初期のレベルだと、特攻系の技覚えてないとかよくあったよね。

バタフリーもLv10でなれるけど確かねんりき覚えんの12じゃなかったっけか。

まあ、それなら概念的に考えても頭突きに拳当てて相殺して大丈夫だべ。

 

「ドレディアさん、ずつきに合わせてがんめんパンチっ!!

 結果的に額か頭頂部にパンチになるけど細かい事は気にしないでっ!!」

「なんで指示飛ばすだけなのに説明口調になってんのよ……」

 

スリープのずつきとドレディアさんの破壊姫パンチが激突する。

なかなか凄い衝撃がこちらにもビンビン伝わってくる。あのスリープ地味に攻撃値高くねえ?

 

「ドレディアさんっ!!

 そこで【もう……おせぇーーーー!!】って言いながらパンチから圧拳!!」

「ディァッ!?」

 

【何それっ?!】だとぉっ!? そんなもんアドリブでやり切れよっ!

 

「ほら、もっさんもッ。ここで『いかん碇ッ!!拳を退けッ!!』って言って!! ほらっ」

「ネタがさっぱりわかんないわよっ!! 真面目にバトルしなさいっ!!」

 

えー俺かなり真面目なんすけどー。ッチ、うっせーな……反省してまーす。

 

「くそぉっ!! こんなふざけたヤツに負けたくねー! スリープ!! もう1回ずつきだぁっ!!」

「ドレディアさん!!」

「ディッ!?」

 

 

試しに目で合図を送ってみる。 殺 れ と。

 

その瞬間ドレディアさんの目がニヤリとしたような気がした。

 

 

そしてドレディアさんは、スリープにずつきさせるまでもなく

 

 

ぶっちゃけ俺は見えなかった位の速度で、ずつきする前のスリーパーの首を

弾丸の如く駆け抜けた自分の体ごと押し倒し、十八番のうまのりパンチへ移行するっ!!

 

「あぁっ!スリープゥゥゥっ!!」

「ディッ! アッ! ディッ! アッ! ディーァァァァッッ!!」

 

ゴスッゲスッ

          ドグッ  ガスッ

   ボグゥッ

 

「トゥルトゥル……」

 

そして攻撃に移る事すら出来ずに、スリープはやられた。

破壊姫万歳。ひたすら怖いだけだよドレディアさん。

 

「あ、あああ……スリープ……」

「うーしよくやったドレディアさん。圧拳に関してはあとで勉強しようね」

「ディ#」

 

【いきなり変な事やらせようとスンナ】と非難を頂いてしまった。

いいじゃねーかよぅ。楽しく行こうぜ。

 

「くっそぉっ……! 頼むっ、スリープ!!」

「えっ?! もう1匹っ!?」

 

そういえばゲームでも結構いた、同じポケモン使ってくるやつ!!

何気に初めて遭遇したなこういうの。まあトキワの周りの虫取り少年も多分そういうのいるんだろうけど

あっちじゃ全部、ドレディアさんが眼力で追い払っちまってたからなー……。

 

「じゃ、ドレディアさん。油断せずに慎重に、ね」

「レッ!」

 

うむ、よい返事だ。頼むぞ……俺の相棒。

 

「スリープっ!! さいみんじゅつだー!!」

「トゥルトゥル!!」

「ッディ……!?」

 

ほぅ、あのス  プは  さ     じゅ

 

 

  れ?   なんか  ねむい けど

 

 

うそ?  んで  れに んじゅつ  ……

 

 

 

 

おれの めのまえが まっくらに なった

 

 

にどめ かよ

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐっすりと眠った後、起きて何があったか話を聞いたところ

ドレディアさんも「ずっと」すぴょすぴょ寝てて、ねんりきで普通にやられてたそうです。

 

 

「なんで君にまでさいみんじゅつが行くのよ……」

「僕もトレーナーの人にまでさいみんじゅつが効いちゃったの初めてだよ……

 まあ負けたくなかったからチャンスと思って遠慮なく倒しちゃったけど」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話 野戦3

 

 

「─────いっ! おーい、起きろぉっ! 賞金よこせ賞金ー!!」

「ぉーぃ、タツヤ君ー。ここ草ッ原なんだよー。襲われるよー」

 

……。

るっせぇな……。

寝かせろ……気持ちいいんだよ……。

 

「おい、起きろって言ってんだろッッ!! いい加減に起き────」

「───ッせぇーーやんならぁあぁぁああああッッ!!!!」

 

俺はもう勘で、音がする方に全力で右足を振りかぶった。

 

ボギャゥ

 

「ひぎょぇぁーっ?!」

「トゥルトゥル!?」

 

悲鳴の後に、なんか「かひゅー、かひゅー……」と声が聞こえるが

さっきより静かになったので俺の意識は再び闇の世界に

 

「まーたどこ蹴ってるのよ。前のディグダみたいに痛がってんじゃないのよ、彼」

 

そして頭に冷たい何かが、ずぢょぢょぢょぢょと降りかかる。

 

「ァァァァァァ!! なん、なんぞっ?! ここはどこ? 俺は俺?

 ッは?! しもんきん!! しもんきんじゃないかっ!!」

「やっと起きたわねぇ。彼あんなんになっちゃったわよ?」

「しもんきんじゃねぇのッ!? って、へ?」

 

どうやら俺は頭に水(in水筒)をジョボジョボぶっ掛けられたらしい。

寝耳に水とはまさにこのこと、やばいわこれは……誰でも意識が覚醒する。

濡れた頭をもッさんが指差した方へ向けると……それこそまさにさっきまでのディグダ状態としか言えない

スリープにずつきを使わせてた短パン小僧が居たのだ。居たのだが……誰だこれ。

 

「あー、大丈夫? あと君、誰?」

「ぉ───ーーー──ァ……!」

 

ぅぉぅ、すっごい涙目。横に居るスリープはこの子の手持ちだろうか。

すっごい心配そうに彼の股間をトントンしている。

 

「さっきまでバトルしてたじゃないの……」

「バトル? 俺の記憶が正しければ全力で飯を和気藹々としてたはずだが」

「そこのドレディアちゃん見てもそう言える?」

 

再び指を差すもっさんの先には

ぼろぼろになって倒れ伏したドレディアさんが───

 

 

「ッ!?ドレディアさん!?」

 

 

思わず俺はドレディアさんのところに駆け出す。

もっさんが何か言い掛けてたが知ったことではない。あの状態は、やばい……! 間違いなく瀕死だ。

 

「ドレディアさんッ!! 大丈夫か!? しっかりしてくれ! しっかり───」

 

そうして横倒しになっていたドレディアさんを抱え上げ

こちらに顔を向けて見て見ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はなちょうちん出して寝てやがった。

 

 

 

 

「っそぉい!!」

 

ぶぅゎぁん、と。

俺のどこからこんな力が湧いたかわからないが、

なんかイラッとしたので16㌔は間違いなくあるドレディアさんを明後日の方向へ放り投げた。

ちょっとした高さからバウンドして、そこらに再び転がるドレディアさん。

 

「ちょ、何してんのタツヤ君ーーー!」

「うっせぇ!! 心配した俺の心の焦りを返せぇーーーー!!

 瀕死かと思って超心配したのにあいつぐっすり寝てんじゃねえかっ!!」

「間違ってないから! 瀕死なのは間違いないんだよ!?

 そんな乱暴に扱ったら彼女の状態が───」

 

もっさんはドレディアさんが投げた方向を見て固まる。

俺もどうしたんだと言わんばかりに顔を向けた。

 

 

 

ゆらぁり、と、ドレディアさんが起き上がりこちらを見据えた

三面六腑の緑色な阿修羅が、そこには居た。

お馴染みのダークオーラを携えて、ゆっくり、ゆっくりとこちらへ来る。

何故黒いオーラを出しているかはわからないが、全然無事らしい。

 

 

「なんだよやっぱり普通に動けてんじゃないか。もっさんもあまり心配させ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の記憶はそこで途切れている。

今日何回途切れたんだろう。

 

 

 

 

「やっぱりポケモンって親に似るのね……

 睡眠妨害されて仕返しした所なんてそっくりだわぁ」

 

 

そんな呟きがどこからか聞こえた気がした。

 

 

 

 

ってわけで再びポケセンだが。

 

「俺はなんでここに居るの? さっきまで楽しく飯を食ってた記憶があるんだけど」

「タツヤ君の記憶力がカスなのはわかったわ。

 三行で説明するわね。

 

・ドレディアちゃんが怒り狂って全力疾走がんめんパンチ。

 

 OKかしら?」

「あーい、了解ー。さっぱりわかんねえよ」

 

ごちん、と拳骨をもっさんにもらってしまった。

あんまりである。

 

「うぅー……玉が潰れた気がするよぅ……痛いヨゥ……」

「トゥルトゥル……」

 

横にはなんかどっかで見たような短パン小僧。

ああ、お前なんか倒れてたよね、俺の横で。

 

「おう、大丈夫かー? なんかさっき倒れてたけど」

「犯人はお前だァーーーー!! なんで他人視点なんだよっ!!」

「ええっ?! そんな、濡れ衣だ! みずのはごろもだ!」

「何よそれ。その子の言ってる事は正しいわよ。間違いなく犯人はタツヤ君、私が保証するわ」

 

ええ、全然記憶にないんだけどっ。

そうか、これが現代社会で問題化している冤罪ってやつか。

 

「なんか君、寝てる最中に無意識にジャストミートしてたからねー。

 覚えてないのも無理は無いと思うわよ?」

「そっか、寝てる間にやったなら俺が自分からやったわけじゃないよね!!

 おいお前何勝手に俺に冤罪吹っかけてやがんだ。潰すぞ」

「ッヒィ?!」

 

股間を押さえながら隅っこへ逃げていく短パン小僧。

おのれディ、短パン小僧、貴様の仕業か。

 

「もう話が進まないから取り仕切るわねー。

 そろそろドレディアちゃんと君のスリープも戻ってくるだろうし」

 

そうだ、そこだ。

なんでそもそもドレディアさんが預けられるほど磨耗してんだよ。

 

「タツヤ君ごとまとめてさいみんじゅつ喰らって、ずっと攻撃されてたからよ」

「ずっと俺のターン!!」

「いや、君じゃなくてあそこのタカシ君ね?」

 

ようやっと股間が落ち着いたのか、こちらへ来る他称タカシ君。

スリープもようやく一息、といった感じに後ろでほっとしている。

 

「そうだよ、そういうわけなんだからさ。お前負けたんだから賞金よこせよな!」

「はぃ? 負けた? 『俺』が?」

「ええ、ドレディアちゃんは確実に瀕死のダメージをもらってたわよ?」

「オゥシット、状況把握」

 

まったく、やはり小僧は小僧だったらしい。つまりは……

 

「『俺』は負けてないって事だな」

「はぁー? 何言ってんだよお前。俺ドレディア倒したじゃん。俺の勝ちじゃん」

「阿呆。なんで俺の手持ちがドレディアさん1体って事になってんだよ」

「え……あッ!?」

「そういうことだよ。

 どうやられたかとかに関してはさっぱり覚えてないけど、そこまで言うなら再戦するしかないな。

 俺らが飯食ってる時に突撃してきたんだろうけど他にもポケモン居ただろ?

 ドレディアさんだけなわけねぇだろうが」

 

 

多分俺が負けたって話になってんのは、その場で俺も寝ちゃったから

勝負を中断せざるを得ない形になったからだろう。

別に負けたことにしてもいいけど、なんかこいつ調子乗っててムカつくわ。

金よこせ金よこせって、マジなんかこう、へし折りたい。だからボコる。

 

「つーかこの短パン小僧コノヤロウッッ!

 今考えたらお前なんで俺にさいみんじゅつ使ってんだコラァッ!

 訴えんぞッ!訴えて実しやかに勝つぞッ!」

「し、知るかよそんなもんッ! お前が勝手に寝たんじゃないかー!」

「挙句の果てに寝てる間に勝利確定とか……新手の詐欺かよッ!

 お前そんなモンチャンピオン本人眠らせたら勝利確定とかどんな暴論だッ!」

「だ、だからあれはお前が勝手に……───」

 

ギャースカギャースカ

 

「……こういうところは、子供っぽいのねぇ」

「─────;」

 

「はーいお待たせー♪ タツヤ君、今日よく来るわねぇ。

 はい♪ 貴方のドレディアちゃんよ? それとタカシ君、貴方のスリープももう全快よー」

『あ、どうもッス』

 

どうやら俺がクソガキと口論をしている間にポケモンの回復が終わったようである。

思わずタイミング的にハモってしまった。

 

「んじゃここの用事も済んだだろうし、適当な野原で再戦な

 お前マジで後悔させてやっから覚えとけよ」

「ッチ、わかったよ」

「じゃ、私はここまで付き合ったし、見届けさせてもらうかな。

 さっき倒れた2匹は使っちゃ駄目よ?」

「わーってらぃ、まだ元気のかけらなんて買う金ないしね」

「っちぇ、しょうがないや。それで勘弁してやるよ」

 

なんか個人的に言動が精神年齢30年の人間じゃなくなってきている。

体に引っ張られているのか、単に短パン小僧がクソガキすぎるのか。

どっちかはわからんがとにかくイラついてきた。全てをぶち抜いてすっきりさせてもらうッ!

 

 

 

 

んで、野原に移動中ー。

俺はなんかもう歩くのまた面倒になったから、ディグダの頭の上に咲いている。

ここ結構居心地良いんだわ~。ドレディアさんは横でもっさんと楽しくおしゃべりしてる。

こいつら完全に意思通ってるわ。凄い人もいたもんだ。

 

タカシの野郎は賞金をもらえると思ってたものがまだお預けだからなのかぶすっくれて後ろを歩いている。

 

 

なお、ドレディアさんなんだが

彼女も飯をみんなで楽しく食ってた時から記憶が途切れているらしい。

【山芋のステーキうまかった!!また食いてぇ!】つってたわ。

横でもっさんが「似すぎでしょ……」って呟いてたけど、どうでもいいから華麗にスルー!

 

 

 

「さて、と。それじゃあ再開すっか」

「ふん、あとで吠え面かくなよっ。行けぇスリープ!!」

 

パシュゥゥン

 

「トゥルトゥルトゥル!!」

 

別にここで改めて出さなくてもポケセンから連れ歩けばよかったじゃんよお前。

 

「んじゃ俺も───行けぇっ!!サンドッ!!」

 

パシュゥゥゥン

もっさんのボールがひとりでに動き出し、戦うためにサンドが出てきた。

 

「くっ、サンドかっ!」

「ってちょっと待てぇぇぇぇい!! サンドは私のポケモンでしょうがぁ!!」

『えぇっ!?』

「なんで二人して驚いてんのよぉーーー!!」

「え、いや、だって……俺が見た飯の時に確かにサンド居たし……」

「私の腰のボールから出てきてるあたりで疑問を抱きなさいー!」

「あ、そういえばッ?!」

 

この人達ノリいいなぁ。話してて楽しいわー。

サンドもサンドで、【え、私どうしたらいいの……?】と

首を交互に俺ともっさんに動かして、困った表情を見せている。

ホント小動物系は和むなぁ。うんうん。

 

「うん、そうだな。呼び出しておいてごめんな?

 忘れてたけどお前ってもっさんのポケモンだったよな」

「キュー。」

 

俺にそう返して、トテトテともっさんの足元に戻った。

 

「あー本当疲れるわー……なんなのよもう。あそこでお別れしておけばよかった」

「そうなると俺の山菜メニューも中途に終わっていたわけだが」

「ック……弱みに付け込まれたわっ……」

 

何で一人でシリアスしてんすか、もっさん。

 

「もういいからお前真剣にやれよー! とっとと出せぇー!!」

「あーはいはい、ったく空気読めよなー、つまんねえ。

 ドレディアさんは駄目だし……ヒンバス、頼むわー」

「ッ!? ちょ、タツヤ君ッ!?」

 

パシュゥゥゥンと音がして出てくるヒンバスお前いつの間にボールに帰ってたの?

 

なにやらもっさんが横で五月蝿いが、こいつ本当にイラつくんだ。グリーンさんよりきついわ。

せいぜい「な、何をするだァー!!」って叫んでろ。

 

 

「……っへ、ヒンバスか。俺そのポケモン知ってるもんね~。

 コイキングと同じような、進化前は超弱いやつだろ? 前にホウエンの友達に教えてもらったんだ!」

「あ、そう」

「……はぁ、じゃぁバトル開始しなさいー」

 

そうしてバトルは始まる。

 

「やれっ、スリープ!!さいみ───」

「ヒンバス、すてみタックル。」

 

 

俺の合図と共にヒンバスはとんでもない勢いで彼のスリープにぶち当たって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スリープが50~60m先に、べちょって落ちた。

 

「…………」

 

あまりにも予想外な展開に、タケシ? はスリープの落ちた先を見て唖然としている。

何気に横で見ていたドレディアさんもあまりの威力に呆然としている。

 

「ま、戦闘不能だろ? ほれ次出せよ次」

「え、あ、え」

 

こっちに顔を向け、わたわたと慌てだすタクヤ?。ん、もしかして……。

 

「お前の手持ち、あのスリープ2匹だけ?」

「う、うん……」

「そっか、なら俺の勝ちだな?」

「まあ、こうなるわよねーあのヒンバスなら……」

 

まあ外野視点だからわからんでもないが、のんびりとしたもっさん。

 

「ヒンバス、反動大丈夫か?」

「ッグ!」

「おう、そっか。ありがとうな」

 

よく頑張ってくれたので、俺は頭を撫でておいた。ヒンバスも嬉しそうにしている。

うんうん、こういう嬉しい感じの笑顔をしてもらえると、俺もなんとも言えない感覚があって嬉しい。

 

「───じゃあ、タなんとか。賞金くれや。お前の負けだろ?」

「く、くっそっ……こんなふざけたやつに……!」

 

そうしてごそごそとポケットを探る、タ。

なお、ぶっ飛んだスリープはディグダに回収を任せた。そのままポケセンに運んでもらっている。

アイツの知能指数本当にポケモンか? 最近疑わしくなってきたぞ。

 

「……ほら、150円」

「…………お前ちょっとピョンピョンしてみろや」

「え、なんで───」

「ヒンバ~ス♪ すてみタックル準備~♪」

「グ;」

 

【流石にこの子にやるのは気が引けます】と否定意思のヒンバス。

オンドゥルルラギッタンディスカー!! ウソダ……ウゾダドンドコドーン!!

しかしそんな会話も タ にはわからないため

 

「ヒィッ!? しますっ、やりますっ!!」

 

慌てて小気味よく、ぴょんぴょんとやりだす。

 

じゃらじゃらじゃらじゃら

そしてやはりというかなんというか、明らかに150円じゃない音がする。

 

「おうなんだよお前、まだ金持ってんじゃねーかよ。

 おらとっとと見せれや。タックル入っちゃうよー?」

「グー;」

 

そこで声を上げるのは不正解っすよヒンバス。超怯えてんじゃねえか、タが。

 

「は、はい……」

「……やけに100円とか10円が多いな。合計5,000円位あるじゃん。

 お前もしかしてここら辺じゃ結構強かったのか」

「え、えっと……今日20回位戦ったけど、ポケモン倒れたのが今回が初めてで……」

 

うそっ?! コイツ何気に才能か運の塊なんじゃねえの?

スリープ2匹で無双とかどんだけだよ。きょうびTAS動画でもそんなん流行らんぞ。

 

「ふーん、まぁ。半分没収」

「ええー!?」

「タツヤ君、それはさすがに……」

「飯を邪魔された。あいつが突っかかってきた。その上で負けた。

 俺の怒りは有頂天。何調子こいちゃってるわけ?」

「す、すんません……」

「はぁー。君も運が悪かったわね……」

 

もはや説得までぶん投げたもっさん。うんうん、平和が一番ですよ。

平和を乱すヤツは全殺しと言わずとも9.8殺しぐらいはしないと、世の中平和にならんのだよ。

 

 

 

そんなこんなで タ はポケセンにスリープを引き取りに戻った。

俺ともっさんは、飯こそ中断したが野営に関する知識を話し合いながら、前居た原っぱに戻っていった。

 

 

全く意味の無い余談だが、ドレディアさんの頭の上に

サンドが乗っかって、とてもほのぼのした光景が一部で見られた。

サンドがとってもうれしそうだ。この子俺にください。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話 修練3

 

 

前回までのあらすじ。3行。

 

・飯がうまい。

・サンド可愛い。

・スクリューパイルドライバー。

 

こんなところだろう。

 

 

 

んで、俺はとりあえず全員ボールから出して会議を始める。

 

「一応今日がトレーナー戦での最初の日だったわけだが

 みんながみんな、得る物があったと思う。まあヒンバスだきゃぁ例外だろうけども」

「ディア。」

「ッ─────b!」

「グッ」

 

勝ったり、負けたり。運がよかったり、悪かったり。

 

いや、全部悪かったっけ?

ヒンバスだけは予想通りただの無双だったし。

 

ドレディアさんもただ単に攻撃のみのごり押しだけじゃ,勝ち続けるのは難しいのがわかったと思う。

ディグダはディグダで、まだまだ成長途上なのも実感出来たはず。

これは得るモノが大きかったと言える。自覚って大事なんよ。

 

「んで、今日は最後のタなんたらから2500円という暴利を獲得出来たので

 1日の終わりだし、全員お疲れ様記念に何か美味しいものを食べようと思う」

「ァァア~♪」

「~~♪」

「グ~♪グ~♪」

「ぅわ~い♪」

 

うむうむ、いい日位は俺も大盤振舞せんとね。

飴と鞭ってわけじゃないけど、やはり記念時位はしっかりした贅沢を。

 

「で、みんなに選んでもらいたいのは、俺が食材持ってきてなんか作るか

 外に食いに行くか、の2択だな。どっちがいい?」

「ディ~……」

「~~……」

「グ~……」

「ん~……」

 

俺の腕は外食と悩んでもらえる程らしい。

まあ悪くない気持ちだ。俺だけは「他人が作ってくれる」っつー最高のスパイスがないから

そこまで美味いと感じないんですけどもなー。

 

「ディ!」

「ッ─────!」

「ッグ!」

「そうね!」

「ほう、外食ね。よし、わかった。

 じゃ、みんなポケセンで回復したらマチスさんにでも電話かけて

 美味い飯屋がどこにあるか聞いてみようや」

 

そうとわかったら外出準備だな。

 

「んじゃ俺は色々準備してくっから、

 みんなは一旦ポケセンの職員さんに回復してもらってきてくれ」

「ディァ~」

「ッb」

「グッ」

「はーい」

 

そんな感じで、一旦全員が解散。

さっきも何気にディグダにスリープ届けさせて、なおかつ回復してたらしいし

別に俺が着いて行かなくても、特に問題ねえべな。

 

そしてディグダがドレディアさんの腰辺りを両手で掴み。

ドレディアさんがヒンバスを両手で持ち。

ディグ・ドレ・バスの順で合体。ゴレンジャイ時の効果線まで見えた。

そんな感じで自らトーテムポール化し、職員さんのもとへ歩いて行った。

それを見届けた後、俺は部屋に

 

「楽しみね~♪ 何食べるつもりなのー?」

 

戻る事にした。

 

「っちょ……無視しないでよっ!!

 さっきから何気に私が外されてるのもずっと我慢してたのにっ!!」

 

今日はスクリューパイル喰らったり

さいみんじゅつ喰らって地面で寝転がったりしちまったからな、服が土だらけだ。

 

「ぉーぃ! お願いッ! 私に気付いてっ!!」

 

洗濯は面倒だが、これも仕方なし。

旅をする身としては出来るうちにしておかねば────

 

「だからちょっと待てぃっ!!」

 

ずざぁっと俺の進行方向にもっさんが立ちふさがる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スルーして横を通過する。

 

家での生活と違って洗濯物って溜めておけないんよ。

旅の最中だと洗濯物すら荷物としてかさばるわけじゃん?

その分邪魔になるから、適度に中の肌着を何着か持って

後は外側にそこそこ頑丈な皮服とかが、旅にはお勧めって感じ。

肌着だと畳めばかなりコンパクトになってくれるからね。

それでも洗剤なしで川で洗って干してってのは

ずいぶん野性味溢れる話だと思うが……あくまで前世基準だけどなー。

 

 

そして俺はすぱっと着替えて、全員が待っているであろうポケセンの待合室まで降りていく。

案の定俺の3匹は既に回復が終わったらしく、ドレディアさん以外は

俺を待ちわびていたようだ。+αを伴って。

 

「しくしく……めそめそ……」

 

なんかもっさんが泣いている。

 

「おぅ、サンド~。さっきは変なところで呼び出してごめんな~」

「キューッ!」

 

頭をぐりぐりと撫でてやる。これ位のがサンド硬いし丁度いいべ。

どうやらそれは正解らしくうれしそうである。んん~ドレディアさんでは味わえないこの感情。

 

「私よりサンドに……ぅぅ……」

「ディァ~……」

 

横を見てみるとドレディアさんが

なんか隅っこでかびくさい状態になっているもっさんの肩を叩いて優しく慰めているのが見えた。

お前らもうペアで旅すればいいんじゃね? 俺出来れば帰ってのんびりしたいんだけど。

 

そんなもんはどーでもいいので

ポケセンの電話を借りてマチスさんに電話するため、受付の方へ向かった。

ついでだからこの子も連れて行こうっと。

サンドマジかわええ。お前の子供が出来たら俺に育てさせてくれ!

 

 

「あーもしもし、マチスさんっすか?」

「ォウ! リトルボーイ! どうしたネー?

 ご飯かー? トレーニングかー? それともジムのバイト希望ネー?」

「今日は飯っすー。初めてのトレーナー戦も一通り終わりましたんでね。

 手持ちの子と一緒に初戦パーティーでもしようと思いまして。

 おいしい飯屋知ってるって話だったし、ついでにマチスさんも夜飯一緒にどうっすかね?」

「オッケーネ! カミシラサワー!!

 今日はリーダーのジョブエンドよ、すぐ行けるネ! いつが良いネー?」

 

カミシラサワ? なんだそれは。ヒナミザワと似たようなもんだろうか。

まあ深く気にしないでおこうか。

 

「あ、そんならすぐ集まりましょうかー。

 後プラスアルファで1名と1匹以上いるんですけどいいっすか?

 あ、奢ってもらいたいわけじゃなくて着いてくるって意味で。」

 

その言葉を聴いて、後ろでキノコが生えていたどっかのガールスカウトが

バッとこちらに振り向いて凝視している。

 

「オーケィオーケィ! ディナー、みんなで食べる、ベリースウィーツ!

 楽しく楽しくィャッホゥ! ザッツライッ!」

「了解っす、ありがとうですー。

 じゃあ少ししたらクチバジムの入り口まで行きますね。地理は把握してるんで平気っすー」

「オーライッ! 待ってるヨー!」

「はーい」

 

ガチャン。

 

電話終了、これでオッケーネ♪ へいるまんかい。

 

「タツヤぐん~~~;;」

「ぉぉう、かびくせぇ、なんすかもっさん」

「私のごどわずれない゛でぐれだのね゛ぇ~;;」

「……。」

 

如何に年上の若干美少女といえどこれは少々鬱陶しい。

頭の上に乗っけてたサンドを、昼間の仕返しとばかりにぺちょっと顔面に貼り付けてやった。

 

「んじゃみんな行くぞー」

『オォォォオゥ!!』(意訳込み)

 

 

 

 

 

んで、飯屋。

もっさんにマチスさんを、マチスさんにもっさんを紹介してすぐに飯屋へGOと相成った。

何気に既にジムリーダーと知り合いな俺にもっさんが若干驚いていたが

単なる偶然でしかないのでそこを強く説明しておいた。変な目で見られると碌な事ねーし。

 

勝った額こそ-600円からの2500円なのでそこまでではないが、せっかくの記念パーティみたいなものだ。

ちょっと豪華に一人1200円位にしたら、現代的に言えばイタリアっぽいファミレスでの食事となった。

そしてうめぇ。さすがマチスさんだ。伊達にジムリーダーとしてここに居ついてねえな。

実は大雑把といわれているアメリカンの舌はそこまで信用していなかったのだが。

 

 

「───でまあ、そんなわけで大体の課題も見つかったんで

 明日はまた1日、修練に回して訓練しようと思ってるんですよ」

「ホッホウ! またイエスタディみたいにやるノ?

 ミーもまた参加したいネ、オーケィ?」

「ええ、構いませんよ。居てもらうとありがたい事もあるみたいですし」

「修練……? なんのこと?」

 

ああ、そういやもっさんには訓練やら修練やら何も伝えてなかったなー。

 

「トレーナー戦じゃなくて、身内で技の訓練とか……実践形式で技の応酬を仕合って

 それぞれの技の熟練度ってーの? そういうのを磨き上げようって感じ。

 何気に経験地も入ってるんだよね、そのかわり1日にやる時間が長いんだけども」

「え、なにそれッ!? そんなのやってんの!?」

「ん?うん」

 

なんかやたら驚いてんなぁもっさん。やっぱそんなことせんの? この世界じゃ。

練習もない一発実戦なんて(実践ではないぞ)、俺の中では賭けもいいところなんだが。

 

「リトルボーイのスタディ、ベリーハードアンドベリーディフィカルトネ。

 でもミーのステディ、ベリベリストロングになったヨー」

「えー? たったの1日でですか?」

「イエス!嘘じゃないネー。今日もディグダがステディのトレーナー沢山来たヨ。

 でもー、ミーのVOLTY全部K.Oしたネ!!」

「……ちなみに、どの位その手の挑戦者来ました?」

「んー? 多分サーティは居たと思うネー」

 

うっそ?! 30組!? サーティーンじゃねえよな?

しかも属性的に苦手なディグダ相手になんだその無双は。

 

「ちなみにどんな感じでした?」

「えーとネー。まずネ、大体のディグダはあなをほるで攻めてきたネー。

 でもー、リトルボーイのスタディで「予想しろー」言ってたね?

 だからVOLTYにもそれ伝えたネー」

「ええ、確かに教えてますね」

「そしたラー。VOLTY、穴を掘って出てきたディグダにメガトンパンチ入れたネ。

 ALLワンキルだったネー。出る場所もわかりきってたカラALLで命中したヨー。

 バーサスしたトレーナー、ポカーンしてたネー」

 

ええー。

 

やべえ、俺マチスさんのボルティチート化させちゃった?

もっさんも横でぽかーんとしてる。お前戦ってねえだろwwww

 

「だから、ミーもVOLTYも強くなったネ!

 でもまだスタディあるなら、ミーもVOLTYももっとストロングになれるネ!」

「かもしんないっすけど……あんまし期待されても困りますよ?俺所詮10歳ですし……」

「あーそれなんだけどネー」

 

……ん?

なんかマチスさんの目がいきなり鋭くなったのは気のせいだろうか。

 

「───リトルボーイ。

 ハウオールダーユー(how old are you)?」

「いや、だから10歳って」

「フールネー。ユーフール。

 ───リトルボーイ。ユー、絶対にテンイヤーズオールド、ノーね」

 

……!? いや、確かに中身はそうだが……!?

なんだ、一体何が言いたい、まさかばれたわけでもないし。

 

「そういえばタツヤ君と話してると明らかに10歳って感じじゃなかったわね。

 正直私の10歳は上の兄さんより大人な感じはした気がした」

「いや、何あんた急に話に混じってんの。いいからそこでぽかーんってしててください」

「何よその扱いッ!さっきからなんか私に対して酷すぎないっ!?」

 

うるせー、人が一番やべー時にやベー人に加勢すんなし。

 

「で、マチスさん……結論から聴いてもいいですかね?」

 

とりあえず出てきた飯、ってかピザが冷えるのは好まないので、俺はあえて結論を先に持ってくる。

 

「───ホワイ?」

「俺は、10歳です。それ以上でもそれ以下でもありません。

 逆に聴きます。俺が10歳じゃなかったらマチスさんは『俺に何をしたいんですか』?」

「……───」

(やっぱ絶対10歳じゃないわこの子……)

 

なんか横でしっつれーな目で見てくる年上のねーちゃんがいるが、一旦意識の外に置き

俺はマチスさんに目を向け続ける。俺が10歳じゃないとして、一体なんだというのか。

 

その是を、聞くために。

 

「…………ン~、確かにー、ユーがテンイヤーズオールドじゃなくてもー

 特にクエスチョンな事はないネー?」

「でしょう、別に俺の年齢なんぞどーでもいいでしょう。

 今は俺が訓練するからマチスさんもどーですかって話ですしね」

「そーネェ。ウンウン、オッケーオッケー。変な事聴いてソーリーネ?」

「構いませんよ。周りと比べて明らかに浮いてんのは自覚してますし」

 

こうして話を無理やり終わらせる事に成功する。

別に俺の中身が前世を受け継いでいる事が何かしら問題に繋がるとは思っていないが

人知と理屈を超えてしまっているその内容を知られてしまうと

なにかしら面倒事が自分に降り掛かりかねない。

 

あ、ちなみに話題にゃ全然出てませんけど

俺のポケモンやもっさんのポケモン、ボルティも加えて

ポケモンはポケモンで話の蚊帳の外って感じで、飯をうまうましてホクホク顔になってます。

 

なんで俺だけ旨い飯食いながら胃に穴開きそうになってんの?

理不尽すぎる。この世界弁護士っていんのかな。もっさんに慰謝料請求しても問題ねえだろこれ。

 

 

 

 

 

 

つーわけで、翌日。

 

クチバ=ヤマブキの道路入り口に全員集合。もっさんも

【ジムリーダーなんて存在がさらに強くなる訓練が気になる】ってことで

訓練を様子見、内容を見て参加してみるという話になったので

入り口には俺、マチスさん+ボルティ、もっさんと(サンド出せよ)

気分的にいつも出しておきたいので俺の手持ちのドレディグバスが集まっている。

そして昨日発動したままの、セータカノッポのトーテムポールである。

 

ボルティが可愛すぎるので、許可を得てまたボルティを抱きしめさせてもらった。

あぁーうん、やっぱポケモンって言ったらライチュウだろ。技覚えなくなるけど。

 

「そんじゃ森のほうに移動しますかね」

「オッケーヨー、VOLTY、GOネ~」

「チューゥ」

「森?」

「あー、そうです。あそこの未開っぽい森辺りです」

 

そういって、原っぱでも道路でもない鬱蒼とした樹の固まりを指差す。

 

「あんなところでやってるんだ……」

 

そんな会話をしながらズンズン進んでいく俺ら。あっさりと前回訓練した場所に到着した。

 

 

「そんじゃー今日ももちろん、主にディグダの訓練だ。

 今日は攻撃系の特化コースと、野戦訓練をしておこう」

「ッb」

「ドレディアさんやヒンバスも含めて、一旦みんなは見学の方向でお願いしますね」

「オーケィ!」

「わかったわー」

「チュー」

 

んじゃ、とりあえず握力が必要なくても出来そうな攻撃から行こう。

蹴りとか、丸鍔(まるつば)とか教えてみよう。まずは手技からだな。

 

「んじゃまず手技からだ。

 この前も言ったけど俺はあくまで武術は素人だから

 こういうのがある、ってことを学んでくれよ?」

「ッ!!」

 

敬礼の形を取り、了承とするディグダ。うむうむ、教え甲斐のある生徒です。

 

「んじゃ、まずはこうやって回転して───」

 

言葉で表すのは難しいが、俺はディグダの前でギャルッと地面に脚を着けながら、横回転。

 

「こう、振りかぶるっ!!」

 

その回転を生かして、拳を裏拳気味にディグダの人間であれば顎がありそうな位置に当てる。

まあ身長足りないか、らディグダの胸元よりちょっと下位にしか拳は届いてないけどねぇ。

 

「ホーゥ……狭いフィールドでの遠心力を使ったパンチネー?」

「そうです。本来ならこれは顎がある相手に有効なんですけど

 もひとつ、面白い利用方法を思いつきましてね」

 

その方法を見せるために俺は手に痛みを和らげる器具を取り付ける。

流石に今からやる方法は素手では痛すぎるんでな。

ギッチギチに手を固めて、もう片方の左手にはポケセンから持ってきた枕を持つ。

 

「まずこの枕を、小型のポケモンと思ってくれ。

 本来なら今見せた技はさっきも言ったとおり、人型の対応なんだ。

 んだから、小型に対応する形を今から見せる」

 

で、俺は枕を───

 

「まずはポケモン自体の迎撃ってことで、上に打ち上げる───!」

 

そして枕が上に上がって、さらに下に落ちてくるところで─────!

 

「───こう、だぁ!!」

 

タイミングを合わせて丸鍔で撃ち抜いた。

そして素人なので、撃ち抜いた後は自分の体のバランスを維持しきれずにずっこける。

 

「ォォォオオ……」

「─────ッ」

「……? えーと、よくわからないんだけど……」

「あーもー、こういうのばっかやってっと服が汚れてしかたねえなぁ。

 もっさんはよくわからなかったみたいだけど、ディグダとマチスさんは理解出来たんですよね?」

「イエース、ベリーエクセレント思うネー。やっぱりリトルボーイのスタディ、すごーいネー」

「いやまあ……ありがとうございます」

 

殆どパクリなんすけどね。にわ○まこ○先生、すんません。

 

「ともあれこれの利点は、相手が空中で体勢を整え切れないであろう事だ。

 基本、鳥とかそういう系統の子じゃないと、空中で一度崩された体勢はまず元に戻せない」

「ッ(コクコク)」

「それじゃ、形もわかったことだし。ヒンバス、ディグダの相手頼む」

「ッグ!」

「多分まだヒンバスはどういう形で決するかわかってないと思う。

 だから2度目に当てられた攻撃の後、着地に気をつけてくれ」

「グ~」

 

 

 

んで、バトンタッチして演習をやってもらった

 

ヒンバス体当たりでディグダに突撃。

ディグダはその体当たりが当たる寸前に合わせて

部位ではなくヒンバス自体を丸ごと上に打ち上げ

落ちてきたところでうまく遠心力を使った模擬回転技、丸鍔を当てる。

 

「おおぉぉおー、凄いー、凄いわー」

「これが一応の最終形態。まあこういうことを俺は教えてるわけね」

「オーラィ! VOLTY、早速ミー達もやってみるネ!! リトルボーイ、枕借りてもオーケー?」

「はい、ポケモンセンターにはまず間違いなく使い物にならなくなるって伝えて

 買い取りって形で貰い受けてるんで、ボロボロにしても平気ですよ」

「センキューネ!」

「ライチュー!」

 

そうしてマチスさんが勢い良く枕をボルティに投げ、ボルティは体を回転させ尻尾で打ち上げる。

今思えばボルティは攻撃部位こそ尻尾だけど。元々丸鍔の形式で攻撃を逸らしてたなwww

 

そして枕が落ちてきたところで

 

「GOッッ! MegatonPunchッッ!!」

「ッチュゥー!!」

 

ヅッドムッ!!

 

勢い良くメガトンパンチが入り

凄い勢いでそこらの木に枕がべちーんと叩き付けられた。

 

「うわー、さすがジムリーダーだ……吸収すっごい速い……」

「まああれは経験もあるはずだよ、もっさん。

 なんせ元軍人さんだし。体鍛えなきゃやってられない職業のはずだからね。

 今まで培ってきた経験上、形が想像しやすいんだよ」

「だからなんで自称10歳でそんな深くまで認知出来てるのよ……

 私なんて言われなきゃわからないわぁ~」

 

HAHAHA、まあ実際マチスさんより年上だし、俺。

本当、前世の話になるけど、自衛隊の皆さんいつも日本の平和を守ってくれてて有難う御座います。

 

「んじゃ、とりあえずディグダはヒンバスが相手してくれるし

 マチスさんたちはマチスさん達で確定した。

 俺はドレディアさん出すから、サンドに逸らしの訓練させてみようか」

「わかったわ、お願いするわね。サンド、出てきなさいっ!」

 

パシュゥゥゥン!!

 

「キューゥ!」

「サンドォー!!」

 

出てきた瞬間思わず抱きしめてぐりぐりしてしまう。

 

くれ。

マジで。

 

「何してんのよ……w」

「ディァ#」

 

これにはもっさんも苦笑い。ええい、可愛すぎるサンドに罪があるんだ。

そしてドレディアさんは何故に青筋立ててらっしゃいますか。

 

「なんでわからないかなぁ……ま、ポケモンと人だしね~、ちょっと望みは薄いのかもね」

「ディ~;」

 

なんかいきなり慰められだしたぞ、ドレディアさんが。

話の流れがわからんわ。誰か翻訳家連れてきてくれ。

 

 






10歳のガキが格闘技とかねーよと思うかもですが
今後色々と必要なためこれは外せません。

具体的に言うなら集団戦。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話 修練4

 

 

サンドの相手はドレディアさんに頼んだ。

だがドレディアさんは素早い上に攻撃値がぶっ飛んでいる。

いかに種族的に弱めとはいえ、Lv100のヒンバスの半分程度の攻撃値とかどういうことだよ。

今Lv16。つまりは32で追い付く。64でヒンバスの2倍以上、100になったら3.5倍……?

つまりはスリープにすてみタックルをしたら200~240m位ぶっ飛ぶわけで……。

 

 

っ!! ひらめいたっ!!

 

「Lv100のドレディアさんとスリープで鳥人間コンテストに出れば優勝間違いねえ!!」

 

これだっ!!今すぐ応募せねばっ!!

 

「ねえ、タツヤ君。変な電波を受信しちゃってさぁ。

 なんかネフェルピトーって子が貴方の頭の中見てみたいとか言ってきてるんだけど」

 

なんだと。

 

 

話が盛大にずれたが……

そんなおっそろしー攻撃を俺の「私の子よ?」サンドにさせるわけにはいかない。

なので元々硬いのを考え適当な木片を持ってきてもらい、それの撃墜訓練から入って貰う事にしよう。

 

ドレディアさんが、サンドのレベルに合わせて投げて

サンドが体全体を使い、尻尾を振り回して撃墜。徐々にスピードアップさせていくように指示しておいた。

 

 

さて、こっちはこっちでディグダに蹴りも教えねばな。

 

「んじゃ、手技のレパートリーも増えた事だし次は足技を訓練するぞー」

「オッケィ!」

「チュー!」

「ッd」

 

まあ蹴りに関しては陣内流云々よっか遠心力の使い方や

脚の部分による強度を考えて教えていかなきゃならないだろうなぁ、最初は。

 

「蹴りについては、技がどうこうより

 まず先に【どうやれば最大威力が出るか】を課題にしようと思う」

 

そして実演に入った。

 

「ただの蹴りって言っても色々あって……

 例えばこんな風に適当に前に蹴り上げるのも間違いなく【蹴り】だ。

 でもこんなのじゃ碌なダメージは与えられない」

「まぁ、当たり前ネェ」

『(コクコク)』

 

ポケモン2匹がうんうんとうなずいている。

 

「んで、生物ってのは体に関して筋肉が満遍なく繋がってるわけでさ……

 これを利用しない手は無い。ディグダちょっと俺の蹴りを掌で受け止めるように構えて」

 

言われ、ディグダが構える。

所詮ガキの体の威力の蹴りではあるが、威力の考察には持って来いなわけだ。

マチスさんのガチムチ蹴りなんぞ見てたら俺が失禁してまうわ。

 

「まずは最初に見せた駄目な蹴り」

 

パシッと受け止めてもらう。

単に脚を振り子の原理でぶん回して掌に吸い込ませただけだからな。

 

「次は脚と繋がっている腰をプラスして出す蹴り」

 

俺は出来るだけ遠心力を乗せ、ディグダの掌に自分の蹴りを吸い込ませる。

 

 

バシィッ!!

 

 

「ッ……!」

「ホゥ……」

 

音からしてもう違うわけよ。

 

「ま、腰をプラスしただけでこれだけの違いが出るわけですね。

 さっきの振り子原理の蹴りもやり様によっては同等の威力は出ますが

 こちらのほうが安定感は抜群ではないかな? と思います」

「フムフム」

 

で、最後のサンプル。

 

「空手で言う回し蹴りのような形になりますが、これが体全体を使った────」

 

別に俺が綺麗に決めるかどうかなんぞは重要視していないので

とにかくがむしゃらに、全部の思いつく限りの動きを乗せ

俺はディグダの掌に─────

 

「─────ッッ蹴りですっ!!」

 

体を一回転させ、腰にも子供の体には多少無茶な動きを加え

狙いがブレそうになるが、全力で蹴りを入れる。

 

 

ッバッチィィン!!

 

 

「ッッ?!」

「ォォーウ、ガードが吹っ飛んだネー!」

「チューゥ!チューゥ!」

 

んで蹴りを入れたはいいのだが、肝心の俺は格闘技経験すらないただの理屈屋。

入れ終わった後にいつも通りふらつき、尻餅をついてしまう。

 

「あきゅんっ」

「ハッハッハ! リトルボーイもまだまだウィークネスネー!」

「しゃあないじゃないっすかぁ……所詮ガキなんっすからー」

「オーケィオーケィ! ソーリィソーリィ!」

 

俺をからかいながらマチスさんは手を差し出してくれたので、その手を掴ませて貰い立ち上がった。

 

「ま、威力の考察はこんな感じとして。次はカウンターからの連携としてみようか」

「オーラーィ。じゃあまたミーが枕スロゥイングするネー?」

「お願いしますー」

 

立ち位置を調整後、ふわんと投げてもらった。

俺はその枕に狙いを絞り、どうにか形良く足の裏を当てる技法で蹴り上げる事に成功した。

 

「ホゥホウ~、確かにリトルボーイはフォルムにするのが上手ネー」

「ありがとうございます、とりあえず今のがカウンターだね」

「ラーィ。」

「ッ。」

 

そしてマチスさんに次の段階を見せるために

再度枕を投げてもらう。

 

「んで、このカウンターに合わせてッ─────」

 

再度、うまく蹴り上げを決めることが出来て枕が宙に浮く。

そして良い具合に狙いを絞り、体を無理矢理ねじりながら

 

「んぅぅぅッ……せぇゃぁッ!!」

『ッ!!?』

 

枕に体の体重を全て乗せた横蹴りをぶち当てる。。

まあもちろんその後に体勢整えられずに背中から地面にぺちんと倒れましたが。

格闘技未経験者なめんな。体全体使った攻撃の後に立ってなんぞ居られるかい。

 

「オォォォー……ユーはリアルに色々なオフェンス持ってるネー。

 エクセレンツッ! すごーいヨー!」

「チュゥチュゥー!」

「(コクコク)」

「あはは……まぁ(パクリな上に)終わりまで体勢保てませんけどね……」

 

本当にかっこ悪いったらありゃせんわぃ。

だがそれもこれもディグダを強化するためだ……あえて涙を呑もう。

 

「んで、この手の動きは全部さ、そんな立派な体を持ってるディグダなら

 完全に理想の形に仕上げられると思うんだよ。体の育ってない俺ですらこうなんだしね。

 俺の理想系は枕ももっと勢い良く吹っ飛んで、横蹴りする威力に関しても凄まじい威力がある」

 

そう、それこそ前世の体であればかなりの再現度で見せれたかもしれないが

今の俺はあくまでただのガキ程度の体しかない。その点ディグダは凄まじいボディバランスだ。

 

「もちろんの事、体の(しな)りはなるべく遠心力を込めて相手に更なるダメージを与えられるようになってる。

 さすがにこれは技法としてすっごい難しいと思うけど

 出来た時の素晴らしさは、威力だけじゃなく見た目まで完全かもしれないね」

「ッッ!!(コクコク」

 

ディグダもさすがにこれには惚れ込んだのか、さっそくマチスさんに枕を投擲して貰い始めた。

ボルティは横で2人に掛け声を送っている。ライチュウ可愛すぎる、ボルティはさらに可愛い気がする。

 

 

 

……俺、今ならポケモン大好きクラブの会長に勝てる気がするッ!!

 

 

 

ちなみに今見せた体をねじった横蹴りの出典はゲームでこそ在るが実在する技だ。

スパイクアウトって多人数型ゲームで唯一の女性キャラが使う最大攻撃がこれだ。

その威力たるや、吹っ飛んだ敵の直線状に居たら纏めて吹っ飛ぶぐらいの勢いである。

 

さすがにこの技はヒンバスに小動物型を模倣してもらうのは

あまりに威力がありすぎてやばそうなので、枕でやり続けてもらう。

まず蹴り上げがカウンターだからその分威力があるし

横蹴りだって全体重を込めた上での大遠心力なのだ。

 

これを練習とはいえポケモンにやらせるやつが居るなら俺は今すぐ海に沈めるね。

 

え?さっき痛そうな手技でヒンバスに付き合わせてたじゃんって?

確かにあれも打ち上げ形式の振り打ちだから、叩きつけられる事こそないけど痛そうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マチスさん、コンクリート扱ってるところ知らないっすかね?

 俺、脚に付けてちょっと海に沈んできます」

「ホ、ホワィッ!? どうしたネッ?! 一体何事ヨ?!」

「ッ?!?!」

「チューゥ?!」

 

 

俺は犠牲になったのだ……

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話 修練終

 

 

あの自問自答の後とりあえずそこらのコンクリートを拾い

結構盛大にマチスさんたちに止められたのだが、波止場に向かって行き

コンクリートを足に括り付けてどぷんと飛び降りた。

 

 

そんで「いざさ~らば~、さ~ら~ば~せーんせーいー」とか沈みながら頭の中で歌っていたら

 

(いざさ~らb『神は言っている……ここで死ぬ定めではないと……』)

 

とか変な声が突然混ざってきて、なんかクジラっぽいヤツの頭……なのか?

なんかそのまま水中に着地した感覚がして、気付いたらザブァーって海から出ていた。

「なんだこれはー」とか言ってたら、おそらくしおふきなんだろうか?

ブシャーってその頭から波止場にまで打ち上げられて

釣り人達が「なんだ撮影か何かか」と釣りに意識を戻す最中

飛び降りたシーンを見ていたドレディアさん達に捕まり、うまのりパンチでしこたま殴られてしまった。

 

 

まあそんな昼休憩を挟み、今はみんなでクチバシティで食事をしている。

てか、さっきのクジラみてぇなのってカイオーガじゃねえ? なんか、天気が雨になりかけてたし。

 

 

 

「ていうかなんで君、命失いかけてたのに普通にご飯食べてるの?

 私達の心配なんだったの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

「だって、なんかヒンバスに酷い役目押し付けてると思ったら死にたくなったんだもん」

「どういう理由よ……そのまま死んじゃったら大騒ぎだし

 ヒンバスだって2度目のご主人様失う事になるのよ?!」

「グッグッ;;」

「……ッ!! ォォォォァァァァ、凄い後悔の念がッ……!!

 やめてメルエムッッ……!押し潰されるッッ……!!」

 

あぁ、なんということか。ありのまま今思ったことを話すぜ……!

ヒンバスを大事にしていた(・・・・・・・)と思ったら大事にされていた(・・・・・・・・)

な、何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も大事にされてたのを理解出来なかった……!

 

どうしてこうなった。

 

「アハーハーハー!本当リトルボーイ見てると飽きないネー!

 さすがにリアルにコンクリーツ付けて飛び込んだ時はマイアイズを疑ったけどネー」

「思い立ったら即行動。美徳ですね、実に」

 

 

 

ズッゴシッ!

 

 

いきなりドレディアさんに今度はがんめんパンチで襲われた。

な、なにをするだァー!! しかも涙目だし!! 涙目なのは俺だァー!!

 

「ディ#;;」

「タツヤ君、彼らの言葉わかるんでしょ? ちゃんと受け止めてあげなきゃ、駄目よ?」

「あー。うん、はい」

 

【本当に死んだと思ったんだからな……!心配は一応、したんだからな……!】

 

とか目で訴えられたら流石に俺もボケれないし反省するわ。マジすいません。

ちょっと自分を軽々しく扱いすぎました。

 

「グ~、グ~」

「ん、どしたのヒンバス。あとドレディアさん、マジでごめん」

「ディァ……」

「ググ~、グ」

 

【私の事は良いのです。この均衡で実力が抜きん出ているのは理解しています。

 それに加えて私も、教導役として貴方に了承をしたのですから……】

 

「まあ、うんそうだけどね……

 でも地味に叩かれ続けてるわけだし、やっぱ痛いじゃん?

 いくらLv100先駆者とはいえ、やらせてた俺って虐待者に近くねーかって思ってね……」

 

そんな風に現実を事細かに話して俺の気持ちを知ってもらいたかったのだが

どうやら妙に賢いこやつ等にはその返答すら聞き入れてもらえないようだ。

 

「ディア。」

「─────。」

 

【なーにが虐待者だっつーの。

 痛みだのなんだのでも何かしら代償にしねえと成長なんてしねえもんだろうが】

【その通りだと思うぞ、我が主よ】

 

なんなのお前ら。明らかに俺より学が上じゃね? これ。

別の意味でガックリ来るもんがある。

 

「ふふ、ドレディアちゃんの意思しか私には見えないけど……タツヤ君、みんなに愛されてるわねぇ♪」

「まあ、そこは俺ですから。マチスさんにも愛されてますし」

「ォーゥ?! ミーがユーにラヴミードゥ?! ソンナコトナイデスヨッ?!」

 

 

あはははは、とみんながみんな笑っている。ぁー、俺周りに恵まれたんだなぁ、これ。

最初は周りに居るのはドレディアさんだけだったのに、たった1ヶ月ちょっとで遠くまで来たもんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもその割りにそこら辺でしょっちゅうさぁ。

フーちゃんらしきフリーザーが飛んでいる光景はなんとかならんのだろうか?

遠くに来た気しないんだよね、割と切実に。

 

 

 

 

昼飯は軽めに済ませ、また郊外の森へと辿り付く俺ら。さーて、本日最後の授業と行きますかー。

 

 

「では最後の授業。野戦訓練をしようと思います」

「さっきも言ってたけど野戦って何?」

「そうねー、ヤセン? ヤサイじゃないノー?」

 

あんたはどこのサイヤ人を想像してんだよwww

 

「野戦ってのは、要するにルール無用のバーリトゥードゥですよ。

 野生のポケモンとの勝負にルールなんてないでしょう?」

「あー、オーケィオーケィ、そういうことねー。アイムアンダスターンド」

「そういう事かぁ、要はトレーナー以外との戦い向けの訓練ね?」

「んむ。そういうことでござる」

 

つまりはそういう事である。

俺が前にロケット団相手に「6:2」をやらかした勝負。

ああいう形の対処や対策を今回はやっていこうと思う。

 

「んじゃそういうわけで心構え。

 

・殺らなきゃ殺られる。殺す覚悟が無いなら逃げろ。

・あるものはなんでも使え。例えそれが味方の亡骸だろうと。

・決して手加減をするな、隙を見せるな。

 

 こんなとこかなー」

『…………。』

 

ん、なんじゃらほい。

全員して黙りこくりおって。

 

「内容が予想を超えていたわ……それもうただの戦争じゃないの……」

「……ハウオールダーユー? HAHAHA……。」

 

 

「それじゃ、心構えはとにかく油断なくって事で。

 次は実際に使える技や知識をやっていこう。全員勉強の準備はいいかー」

 

「ディアッ!!」

「ッ!b」

「グッグッ!」

 

俺の手持ちの元気な声がする。

 

「わかったわっ!!」

「ッキュー!!」

 

あれ、サンドはこっち側じゃね?

 

「Yes、Sir!! General!!」

ライ、ッチュー(イエ、ッサー)!! ヂュヂュララ(ジェネラル)!!」

 

ボルティすっごい頑張った、それは褒める。

 

 

 

 

 

「じゃ、とりあえずはもう思いつくことを片っ端から教えていくよ。

 では最初の概念から。ずばりハッタリだ」

「ハッタリ? それって虚実とか虚像とかそういうの?」

「うん、それ」

「……そんなのがなんの役に立つの?」

「……。」

 

マチスさんはダンマリか。さすがにわかってらっしゃる、のかな?

 

「そんじゃあ実演するから。お題はにらみつける」

 

 

そんな訳で俺は全員を睨みつけて見た。

 

 

「ッ────!」

「ディー?」

 

しかし ドレディア には きかなかった!▼

 

「ッ────!」

「別に怖くないわよぅ(笑」

 

くっそう、くっそう!

見てろよ! 次から変わるんだからなっ!!

 

「まあ、ちょっとあまりの情けなさに泣きそうだけど我慢する。

 そんでまあ、次はハッタリを込めたにらみつけるだが───」

 

俺はゆっくりと無意味に腕を大開きしながら

全員から視線を逸らすように、後ろを向いて手をだらりとさせる。

 

『…………?』

 

ま、何をするのかわからないんだろうな。それはな……こう、やるのさッ!!

 

 

俺はぬらぁりと、皆が居る後ろ側にゆっくりと振り向き

口元をニヤァと笑わせつつ、頭の中では本気で

【お前等は完膚なきまでに完全にコロス】と念じながら

実にスローモーに、全員をザァっと睨みつけた。

 

 

「ッディ……?!」

「う、うそ……ただ睨まれただけなのに……凄い背中に寒気を、感じる……!」

「チュ、チュー……」

「キュー(ぱたり)」

 

そして約一匹、普通に耐え切れず地面にぱたりこと倒れてしまった。

ああ、サンドっ! ごめん! 気絶しちまうなんてっ!!

 

「……ッ!」

 

マチスさんだけは厳しく俺を睨み返しているが

あのドレディアさんですら、俺に対して恐れを抱いている。

 

そこで俺は気が抜けてしまい、なんかが『ポシュン』と音を立ててどっかに飛んでいってしまった。

 

「ふー……まぁ、そういうこと。

 今やったのが、ハッタリ込みの【にらみつける】さ」

「う……」

「ディァ……」

 

ふっふっふ、どうやら恐ろしさは知ってもらえたか。

なんだかんだでみんな、10歳と舐めているからなぁ。

10歳じゃないと疑っていても姿形がこれでは、油断もしちまうだろうさ。

 

「ユーは本当に凄いネ……

 ミーが推薦すればきっとすぐにトレーナーズスクールのティーチャー位は確実ネ」

「はぁ、そりゃどうもっす」

 

若干恥ずかしい褒め言葉ではあるが

さすがに教えてんのが同じ年齢のヤツじゃ教えられる相手も締まらんべさ。

 

「とにかくハッタリの概念は……例えば、相手が油断していたり

 気を引き締めていたりと、必要以上に普通じゃない状態の時に有効だ。

 相手の対応と認識をずらすためにも、デメリットもそんなに思いつかないし

 積極的にやって行きたい事のひとつだと俺は思ってる」

「覚えておくわ……確かにあるかなしかじゃ、全部何もかも違ったもの」

「ドレディーア。」

 

うむ、理解してもらえたようで何より。

 

 

合間にサンドをゆすって起こしておく。涙目で見られてしまったので本気で謝った。

之は之で反省しないとな。ともあれ次に移るとしよう。

 

「次に野戦で必要なのはとにかく予想外の動きをすること。

 野戦って言葉が適合する戦いは、どう足掻いても必ず自分の命の危険が付き纏う。

 その予想外を起こすヤツが敵対相手であれ、自分達であれ……

 とにかく予想外の事ばかり起きると、不利にしかならない。だからこそ状況の把握が必要なんだ。

 そしてその把握の度合いを邪魔するのが予想外という行動ね」

「言葉ではわかったわ。具体的にはどんな事が予想外になるの?」

「んー、そうだねぇ……」

 

実践出来ないわけでもないしちょっと見せてみようか。

 

「じゃあ、ドレディアさんちょっと手伝って?」

「ディ?」

 

【私か?】と疑問系で尋ねてくるドレディアさん。

 

「うん、それじゃあドレディアさんはそっちに立ってね。んで俺はここ、と」

「ディーァ」

「…………。」

 

相変わらずマチスさんの目はとても厳しい。

やっぱ軍隊でもこの手に関する事が、掠る程度のレベルで教導されているのであろうか?

 

「で、俺が今からドレディアさんに攻撃するから

 ドレディアさんはその場から動かないで交わしてね」

「ディッディ~ア~♪」

「……ドレディアちゃんに当てるつもりなの?」

 

【お前の攻撃かわすのなんざ余裕だっての♪】と

非常に余裕そうである。もっさんも俺に対する信頼が0%(じぇろパー)

……吠え面掻くなよ?クックック

 

「じゃあいっくよー」

 

俺は立っていた地点から走り、ドレディアさん目掛けて飛び蹴りをするっ!

 

「ディッ(ヒョィ」

「やっぱりねぇ(笑」

 

あっさりと交わされてしまって───

 

 

 

 

 

 

───俺はドレディアさんのすぐ後ろにあった木を跳ね返りの壁として利用して

三角蹴りの応用を使い、再び飛び蹴りで襲い掛かった。

 

「ッディァー!?」

「ええっ?! そんなのアリっ?!」

 

ドレディアさんやもっさんだけでなく他のポケモン達も目を見開いて結果を見る。

 

さすがに直撃こそしなかったものの

ドレディアさんはしっかりとガードした(・・・・・)

 

 

 

つまりは───交わす事は出来なかったのだ。

 

 

 

「─────ふう、とまあこういう事。これが予想外が生み出す油断を突く奇襲だ」

『(コクコクコクコク)』

 

マチスさん以外の全員が、結果と違った内容であることからなのか

素直に首を立てに振る。お前らスイーッチョンの水飲み鳥かい。

 

「他にも色々あるよ。例えばこの木片を見て?」

「ン? ウッドチップネー……」

「うん、どッからどう見ても木屑ね」

「ディーアー」

「ライチュー」

 

「で、これをさ。───こうするのね」

 

俺はぽーいと上に高く放り投げる。

全員の目線はもちろんそちらに向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はその間にマチスさんの足元まで飛び掛り

顎目掛けてアッパーを打ち抜こうとして─

 

『ッッッ!?!?』

 

寸止め、とするには若干距離は開きすぎているが

ともあれ拳を直接当てず、その動きを形付けたまま停止する。

 

「……シット! ミーもベリー注意してたノーニ……やられてしまったネー」

「ちょ、ちょっと待ってよ……マチスさんって元軍人でしょ?!

 軍隊格闘とか習ってたんですよね……?!」

「……イエスよ」

「そういうことさ。今、現に。格闘のド素人が、経験者の領域に土足で踏み込めたのさ。

 これらも普通じゃ絶対に出来る事じゃない。

 あくまでもそれらが予想外だからこそ、出来る最終結果」

 

ルールなんてどこにも無い戦いで、これ以上に有利な戦略など

完全なる違法を除いてある訳が無いと俺は思っている。

それほどまでに予想外というのは、戦況を有利に形作っていく重要な要素なのだ。

 

「……さすがにここまで続けざまに出し続ければ

 どれだけ有用な事かは、完全に理解してもらえたね?」

「ええ、純粋に凄いと思ったわ……私じゃ絶対にあそこまでは発想が追い付かない」

「ディア。ディアー」

 

まあ、俺もここに至るまでには相当に時間が掛かったからなぁ。

でも、いかに子供だましの連続とはいえ、俺はあのロケット団共を駆逐した。

それは大体の俺の論が正しかった事の証明でもある。

 

 

 

 

よし、ここでずっとうんうん唸ってもらうために

俺は実践を見せたわけではない。

之はあくまで授業なのだ。

 

「そういうわけで、予想外の初級版としてー。

 俺がやったみたいに三角蹴りの応用からみんなでやってみようか。

 最初に大事である事は『自分自身攻撃は間違いなく交わされる』って

 予想をしている事だからね?

 当たる、と思って攻撃を出してて防がれて、で

 逆に予想外を喰らっちゃったら元も子も無い。

 まずは当たればラッキー程度の形でいいんだ。

 外れるとハナっから思ってて、交わされたその後に追撃が出来れば良い」

 

初歩の初歩である奇襲、だね。

相手のペースに乗せさせないためにも、これは大事である。

 

「それじゃ、みんな練習を開始してみてー」

 

 

「ッディアー!!」

                     「─────!!d」

         「グッグッグッ!!」

    「キュー!!」

               「ライッチューゥ!!」

 

全員が全員、気合を入れた声を張り出す。

まったく、みんな元気なもんである。中身ジジイ手前の俺には真似出来んわ。

 

 

 

 

ま、こんな感じで2日目の修練も終了した。

 

この日は昼すら跨いでひたすら修練していたのもあり

ドレディアさんはレベルが2程度上がり、18って感じに。

ディグダは必要経験地上昇と経験地1/3のコンボがネックなのか、1しか上がらず12程度に留まった。

 

今回は特に新技の発生はなかった。

あの横蹴りををディグダが覚えなかったのは、まだまだ使いこなせていないという判断なのだろうか。

ぱっと見た感じかなりサマになってたんだけどなぁ。

 

 

 

 

さらに後日談になるんだが……

 

マチスさんのボルティがパワーアップしすぎたらしく

もはやディグダを連れて来た程度ではクチバジムの攻略が不可能になったようだ。

 

ディグダ5匹とダグトリオ連れて来たトレーナーまで普通にフルボッコにされたらしい。

 

近々ポケモンリーグからマチスさんに「自重しろお前wwww」と注意が来るとか来ないとか

トレーナー間ではもっぱらの噂となったそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

本日の犠牲者

 

枕・650円。






感想にナイナイ、有り得ない的なもんが来てましたがしったこっちゃありません。
世間一般で馬鹿売れしてて知名度が高い小説の作家だって表現で大失敗している昨今で
そんなものを完全に気にして書かないで居たら何も楽しくありません。

この件は処方箋に書くほどの事でもありませんが
元々ポケモンはアニメでもタケシがこうそくいどうを使ってたり
主人公のサトシ君がポケモン並にタフだったり
ムサシがハブネークを自力でぶっ潰してGETしていたりと
公式が無茶な世界観なのを前提にしてご閲覧ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話 野戦終

16:54 修正完了


 

・ω・

 

 

「ドガースっ! スモッグだぁっ!!」

「させるかぁっ!」

 

こちとら素早さだけなら(進化後だったらだが)トップクラスの進化前だ!

 

「ディグダァー!! まずは蹴り上げろぉーッ!!」

「───ッッッ!!」

 

スモッグが発動しきる前に、本来カウンター的な意味合いで教えたはずの

横蹴り前の蹴り上げを超速ダッシュの中に、まるでサッカー選手の様に混ぜ

スモークを発動させようとしていたドガースを蹴り上げる。

 

「ドガーっ!?」

 

かなり高く上がったドガースを見失わず、見定めた後落下地点辺りまでダッシュを掛け

ディグダはきっちりと「リンダさんシュート」を決め、ドガースは地面に叩きつけられた。

 

「あーっ! ドガースっ! 負けるなっ! 立てぇー!!」

「……あれって技の分類、何になるのかな。

 格闘だったら効きにくいはずだけど、あのドガース起きないわねぇ」

「んー……なんでしょうね」

 

横に居るもっさんのクエスチョンに答える。

いや、俺もあれどう考えても、出展から考えても格闘以外有り得んと思うんだが。

急所にでも当たったのかなぁ。

 

 

「うぅ……ドガースぅ……」

「俺の勝ちだな。参ったか」

「ってかなんなんだよあのディグダはぁー! あれゴーリキーじゃねえの!?」

「うちのディグダに文句があるならディグダのあな行って来い。

 腐るほど居るから、あれが」

『いるのっ?!』

 

いやいないけどね。もっさんまでハモんないでくださいよ。

 

「まあそんな事はどうでもいいんだ」

「いや、あんましよくないよタツヤ君!?」

「いいんだっつーの!! 俺の財布の肉付きがストレスでマッハなほうが問題だ!!」

 

 

 

 

そうなのだ。

訓練終了やら、途中途中での記念みたいに金を使いまくってたらなんと残金28円だった。

10000円って少ないよね。おいビルゲ●ツ100万位持ってきやがれチクショウ。

 

そんなわけで、財布の足しにはなりきらないだろうが

成果を試すという目的も踏まえ、また野試合に来たのである。

 

ちなみに横についてきたもっさんに真っ先に喧嘩を売ったんだが

売った瞬間サンドを両手で抱え上げられ、無条件降伏するしかなかった。

 

 

 

 

そんなこんなで俺のポケモンであるサンドを頭の上に乗せ「だから私のだってば」

成長したディグダを戦いに走らせて見たのである。

結果はとても上々だ。冗談抜きで育成屋でもやってみようか?

 

覚えているだろうか?

少し前までこいつ、わるあがきしか出来なかったんだぜ。

しかもやっと技覚えたと思ったらにらみつけるだし。あの頃のディグダはまさに黒歴史だ。

 

そして今回は股間への攻撃直撃も無く(ッてか無意識に抑えてたわ、ディグダ。

                                余程トラウマだったんだろうな。

無事に攻撃をし終えて、今に至る。

他にもドレディアさんが討ち倒した試合もあり、財布の中身も1847円にまで膨れている。

 

 

まあ8試合やった結果がこれなんだけどもね。

しかも何気にここのトレーナー油断が出来ないのが多く

何回かドレディアさんもディグダもやられており、ポケセンへリバースする事も多かった。

これだから凶暴な人達は……そういやもっさんもその一人だったなー。

懐かしい話だ、12年前位の話だな……

 

「私と貴方が逢ったの3,4日前でしょうが……

 しかも12年前とか生まれてすらいないじゃないの、君」

「空想に突っ込むなし。もっさんヤマブキシティでジムトレーナーになれるんじゃないの?」

「エスパータイプなんていないわよ……」

「もっさん自身がエスパータイプじゃん。いけっ!! もっさん!! サイコキネシスッ!!」

「ミュ~♪」

 

 

『えっ?!』

 

 

え!? あれ?! なんでそこでミュウが出てくんの!?

お前どっから湧いたっ?! 風呂からか!?

 

「え、ちょ、何この子可愛い~~~~♪ おいでおいで、撫でさせて!」

「ミュ~ィ。」

「うわぁ……ね、貴方私の子にならない?! ね?! ね?!」

「ミュッ!?」

 

ささっと俺の後ろに隠れるミュウ。まあ仕方ないね、今のもっさんは……、ってうおっ。

 

 

完全に目が充血して鼻息荒くフンスフンスしているwww

頭の上のサンドがドン引きwwww

 

よし、あの興奮を冷ます方法を思いついた。

 

「全員出てこーい!!」

 

 

「ドレディアー!!」

「─────ッ!!」 お前はもとからいたよね。

「グッグッ!!」

「キューッ!」

「ミュゥ!!」

 

準備は整った!! Let's GO!!

 

「みんなでもっさんを胴上げすると見せかけて高速でプロペラみたいに回すんだっ!!」

「えっ?! ってキャァァァァァアアアアアア!!!」

 

俺の指示に従い(サンドまで)、こうなんと表現すればいいのか「アアアアァァァ!!」

ぶんぶかぶんぶかと凄い勢いでもっさんを回転させ始めた。「ァァァァァアアアア!!」

速度がやべえ。コーヒーカップとか目じゃないぞ。「アアアァァアアアァア!!」

 

「よーし全員、停止ー!!」

『ドレグキュミュー!!』

「んで、止めきったらもっさんを地面に寝かせるんだっ!!」

 

そして全員でそっともっさんを地面に降ろす。

その結果どうなるか───

 

「うヴぉぇえええ……世界が、世界が私に喧嘩を売っている……!!

 なんで地面、あんたが回ってんのよぅっ……! 停止しなさいよぉっ……!」

 

ギリギリ吐いてはいないようだがかなり気持ち悪いらしい。

そして予想だが、すっごいぐわんぐわんと体が動いているはずだ。

しかし! 無事にもっさんは正気を取り戻した。

 

「ど、どれ……でぃあ、ちゃん……」

「ディ~?」

「あ……アイス2個で、ファイナル、アトミック……バスター……!!」

 

 

がっし。

 

「え、ちょ。ドレディアさん何してイヤアアアアアアアアアアアアーーーーッッ!!」

「ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーー!!」

 

ファイナル!! ドグンッ

アトミック!! ドゴンッ

ふんっ!!   ベキョッ

バースタァー!!  ブンブンブンブン、ドカーンッ

 

 

 

 

 

                K . O

 

                               第4R 1分28秒

 

 

 

 

そして恒例のポケモンセンター。あれ、ここってポケモン治すところだよね?

なんで俺、治療されるわけでもないのにいつも運び込まれてんの?

 

 

「ドレディアさん。」

「ディ~?♪(ぺろぺろ」

「今のは痛かった……、痛かったぞーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

俺のあまりのフリーザ様の気迫にドレディアさんが若干ビビる。

 

「ッディ!」

 

しかし所詮俺なんだそうです。一瞬で立ち直られた。

 

 

「#」

「ァ~?(ぺろぺろ」

「ポケモンをボールに戻すビームッ!!」

 

ピチュンッ!!

 

「アッ!?」

 

パシュゥゥゥンとボールに戻されるドレディアさん。

即座にボールがぐにぐに動き始めるが、俺は素早く受付に行き

受付の方にガムテープを借りて、ボールをぐるぐる巻きにしてリュックの中に放り投げた。

 

「おっし、みんなー。今日稼いだお金で飯食いに行こうぜー、飯ー」

「ッ!!b」

「ッグー!!」

「ミュー!!」

 

一連の内容を見ていたのに、最近動じなくなった2匹である。

君らも地味に酷いよね。ドレディアさん止めないし、俺も止めないし。

 

ん、サンドとプラスアルファはどうしたって?

また買収しやがったお仕置きとして、+αを花壇に埋めてきた。

さすがに俺のサンドも居た堪れなくなったのか、埋めた+αの横から離れなかったのだ。

 

 

 

「あーちょっとなんか背中ですっごい何かが動いてるから

 部屋にリュック置いてくるわ、ちょっと待ってて」

「ッb」

「グッ」

「ミュィ」

 

さーてご飯だご飯だ。今日は何を食べよっかなー♪

 

 

 

 

 

何を食べようか迷っている時に、横におでん屋があったので

今晩はおでんをみんなで食べる事にした。がんもどき旨いよ?

 

「おっちゃん!! 俺ちくわぶとはんぺん!!」

「ッ!!」

「グーッ!! グーッ!!」

「ミュッミュッ♪」

 

ディグダとヒンバス、後特別ゲストもメニュー表で

「これとこれ!!」と自己主張し、注文が決まる。

 

ちなみに現実だとちくわもはんぺんも「すけとうだら」という魚を

練ったタネで形を作り、それらの食品となっているわけなのだが

こちらの世界は魚というものは全てポケモンなため、加工食品はない。

ならこれなんなんだと思ったら、大豆でした。

ハンバーグも大豆だしこの世界大豆作ってりゃ食って行ける気がする。

 

 

 

「オウー? リトルボーイ!!」

「ライ~チュ」

「あれ?マチスさんにボルティ。今日はマチスさんもここっすか?」

 

なんとイナヅマアメリケンがご来訪。

狙ってやってんのか? と思われるかもしれないが実はそうでもない。

 

こうやって逢う時はこのように書き述べているが実際クチバに滞在し始めてからは

マチスさんと会っていない日のほうが、圧倒的に多いのである。

之は完全な偶然だ。之は完全な偶然だ。大事なご都合主義なので2回言いました。

 

「お疲れ様です。この時間って事は……今日はこれからオフですか?」

「ゥーィムッシュ!! 最近チャレンジャーもひと段落してきたネー。

 負担減ってとってもナイスねー」

「それはいい事ですね~。(……挑戦者にゃぁたまったもんじゃねーだろうけど)」

「ン? 新しいキッズが居るネ~。

 このキッズ、どうしたネ? フラワーレディにMossanは~?」

 

やはり気にはなるか、でもジムリーダークラスでも知らんミュウの存在って

本当に、どれだけ幻扱いなんだろう。

 

「この子はミュウって言います。前にトキワシティ辺りで縁がありまして……

 なんか今日もっさんと会話してたらいきなり湧いてきました」

「ワ、湧く……?」

「んで、ドレディアさんともっさんはそれぞれお仕置きして放置です。

 具体的に言うともっさんは花壇に埋めてきました。

 ドレディアさんはボールに戻して厳重封印して部屋に放置です」

「あら~……フラワーレディも大変ネー……ディナー、ランチ大好きなーのにネー」

「そうじゃないとお仕置きになりませんしね」

 

 

なんか後ろからお前ひどくね? とか聴こえてきているような気がするがきっと気のせいだ。

アトミックバスターで頭をちょっと強めに打っちゃったのが原因だろう。

 

「まあ、オッケーオッケー。

 HEYマスター、ミーはがんもと大根とちくわ頼むネー」

「なかなか通なところ攻めますね。ここも結構行き着けなんすか?」

「ゥイムッシュー。おでん最高やん!! アメリカに持って帰りたいネ!!」

「おい混ざってんぞアメリケン。」

 

この人実は日本人なんちゃうの?

 

「ハッハー! ドントマーインヅ!! (don't mind!!)

 日本いいとこカントー最高! ご飯とってもおいしいネー」

「そいつぁよかったです、ご飯は確かにうめぇわ」

 

なんせ肉と魚が一切存在して無くてもしっかりと食った気分になれるんだからな。

こっちの世界、一体食べ物にどんな工夫がされているのやら。

 

「へい、ジムリーダーさん、おまちぃ」

「オゥセンキュー!! Volty、ホッティングだから気をつけるネー。

 ちくわぶー、PASS!!」

「ちゅーぅ♪」

 

マチスさんの箸から軽く投げられたちくわぶをカプカプ食べ始める

とても幸せそうにちくわぶを食べだすボルティだった。

おーまえはなんでそんなに可愛いんだーぁー。

 

「俺らもそろそろ食うかー。あっついうちが美味いしな!」

「ミュゥミュゥ♪」

「ッb」

「グ♪」

 

 

「ほー。コングラチュレイシュン~! リトルボーイもとっても頑張ってるネー!」

「以前のディグダで考えれば、今のディグダはもはや主力ですね。

 本当、健気に頑張ってくれてると思います」

「ッd」

「そーネ!! ユーのディグダ(?)のスタディクオリティ、ファンタスティックだったネ。

 きっと才能沢山ハヴィングしてるーネ」

「(´・ω・`)」

 

ことここに至っても未だに疑問系で言われるディグダがとってもしょんぼりしている。

まあ元気出せよ……大将ー、こいつに大根お願いー。

 

「そのうちジムに遊びに行くのもいいかもしれないっすねw」

「オーゥ!ノゥ、ノゥ!! フラワーレディちょーアフレイドゥ!

 フラワーレディ属性とか関係ナッシングだからベリーアフレイドゥ!!」

 

ここまで評価されているドレディアさん。

いや本当にあの子バグの塊だからな、やべえもん。

 

「まあバッヂとか関係なしでもどこまでやれるのかとかも

 見てみたいですからねー……ま、そのうち行かせて貰いますよ」

 

俺らからしたらジム前の細い木とかどうにでもなるし。

サントアンヌ号の船長は犠牲になったのだ……。

 

「まーその時はおてやわらかに頼むヨー?」

「うん、機会があれば互いに全力でやりあいましょう」

 

微妙にすれ違っている会話に、2人で笑いあう。

ポケモン達もおいしいおでんを肴に、とても楽しんでいるようだ。

サンドにもがんもどき買ってってあげるかな~♪

 

 

 

 

 

side ドレディア

 

「ァー;; ァァー;;

 ドレディァーー;;」

 

※↑飯に行くぞーのくだりは聞こえていた

 

side out

 

 

side もっちゃん

 

「…………。

 ねえ、サンド……そろそろ出してくれてもいいじゃない……」

「キュッ!!」

「ねぇ~……タツヤ君に危害を加えさせたのは謝るからぁ~……

 そろそろお風呂とか入りたいのよぅ……」

「キュッ!!(ぶんぶん」

「貴方最近あの子にばっかり懐いてるじゃないのっ!! うぅ~……私の相棒なのにっ……」

 

 

「キュ~ン♪」

 

side end



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話 チート


趣味全開です


 

 

前回述べていた通り、金はもうどん底スレスレである。

現在382円。まあ昨日の30円弱しかない状態よりはマシだろう。

そんなわけでお金を稼がなければ行けません。

 

ああ、それとついでに……おしおきしてた2人はさすがに帰ってきた後で、出しておいた。

もっさん掘り出すのはサンドも手伝ってくれたし、ドレディアさんもさすがに反省したようだ。

 

……でもその反省の意味合いが

 

【アイス2個で買収→飯抜きになる可能性が高い】

 

という方向性なのはどういうことだ。

マスターに危害を加えてはいけないって方向性で反省して欲しいんですけど?

 

おい。目ぇ逸らすなそこ。

こっち見ろ。おい。

 

ディグダがそっと、肩をぽんぽんと叩いてくれる。

この優しさが非常に、うん、非常にありがたくて、ね……

 

 

涙が出ちゃう。だって、男の子だもん。体だけ。ショタ好きは帰れ。

 

「てーわけで、お金稼ぎをしなければこれ以上は何も出来ませんー」

「ディァー」

「─────。」

「グ~」

「ミューィ」

 

ポケモンセンター待合室の椅子で会議中。

 

 

「まあ、普通にまた路上で弾き語りでもしてみようと思う。

 もしかしたらバトルしてたほうが割りがいいかもしれないんだが

 それでもま、やらんうちに結果を決めるのはよくない」

「ドレディー?」

「いや、今回はドレディアさんも弾き語りに付き合ってもらうよ」

「ディァ~。」

「今日は皆でお金稼ぎ、だな。頑張って美味い飯を食おうー」

『ミュディグーーー!!』

 

 

……【ダ】って鳴くやつ居れば ディグダ って完成するのにな。あいつ全く鳴かないから。

 

「そんなわけで午前中は主にディグダのドラムのリズム合わせと……

 今回はちょっとミュウにも力貸して欲しいんだわ」

「ミュ~?」

 

【わたしが?】と首を捻る幻の御方。

ミュウの特徴から考えて、前々から若干考えては居たのだがね。

 

「他にも、ドレディアさんはカスタネットやってもらうわ。

 ヒンバスはちょっとその体じゃ楽器も無理だろうからボイスパーカッションにチャレンジしてもらおう」

「ディ~?」

「グ~~?」

「ダ~~?」

 

 

ごめん、最後のダは俺だ。

 

それぞれに役割を説明し、気楽に音合わせを開始。その休憩時間に俺は残ったお金で袋菓子を買ってきて

合間に全員で食べておいた。デカねるねるねるねマジお勧め。

 

 

音あわせの結果なのだが、実はうまくいくと思っていなかった。

楽譜やらサンプル音源も無いに等しいからね……10年前という、俺の掠れた記憶だけが頼りだった。

 

の、だが。

 

こいつらの音感と才能ヤバい。どのぐらいやばいかってモンゴリアンウォーイ!ってぐらい。

俺が口で説明したら【こんな感じか?】といわんばかりに

俺の記憶そのままのリズムと音質を披露しやがる。

ちくしょう、俺がガキの頃に血の滲むような努力をしたのはなんだったんだ。

前世で楽器なんぞ全くやらなかったから独学で必死に玩具使って慣れたのに。

しかも周りの目を気にしまくってひっそりと頑張ってたのに。

 

……まあ、今回はこれに関してはプラスでしかない。

マイナスなんて俺の嫉妬だけだ。遠くでしっとマスクが呼んでいる気がする。

 

そんなわけで、今現在はクチバの大道芸広場に居る。

どうでもいいけどもしかしてクチバって千葉が元ネタ?

 

 

「ほォ~……こっちもトキワに負けず劣らずだなぁ。

 大道芸自体はこっちの方が盛り上がってんのかな」

 

ゲームやってた時にセキチクあたりで見かけた気がするジャグラーなる職業の人達も

場を盛り上げるためにスタイリッシュなアクションでスパポポポと超人芸を繰り広げております。

 

うわ、しかも出してる玉を額に全部乗せてトーテムポール化しやがった。

うちらがいつもやってる珍獣大百科とは訳が違う。

何故かスーパーマリオワールドのうねうねするサボテンを思い出した。

 

「ミュ~♪ ミュ~~~♪」

「いや、うんあれはすげえわ。

 俺なんかがあの程度で銭を貰い受けていいのかねぇ……?」

「ディァッ!! ディァッ!!」

 

【おめぇのも十分すげえって!!】と慰めてくれるドレディアさん。

いやまあ慰めはありがたいけど所詮パクりだからなぁ。

前世のアーティストさん達がこっちに転生してきちゃったら、俺間違いなく著作権侵害で訴えられるよ。

サトウの切り餅みたいに8億取られるよ。

 

 

「……ま、もしも全然人が集まらなかったら、マチスさんのとこで雑用のバイトでもしようか~」

「ディァ~」

「ッb」

「グ~!」

 

 

 

さて、適当に全員で間合いを取りやすい場所を探して……

 

おっ。お(あつら)え向きにいい感じの場所が開いてるな。ここゲッチュー。んん~♪サルゲッチュ~♪

 

 

でーは、っと。それぞれの機材を設置して行こう。

俺は楽器3種、ミニギター、ミニピアノ、オカリナ。

ディグダはミニドラム。(登場久々だな、このドラム)

ドレディアさんはダンス兼カスタネット。

ヒンバスはお立ち台程度のダンボール。しめってやわらかくならんよなこれ?

 

 

そしてミュウは……オーディオとかについているスピーカー丸々1個持ってきてもらった。

 

 

何をやらせるんだ、とな?

さっきも考えてた事だが、前々からあることを考えていたのだ。

 

ミュウはエスパータイプ→ポルターガイスト現象とかイケんじゃね?

                 +

技が全部使える→曲解して考えれば電気信号自由自在じゃね?

                 ↓

オーディオの配線から電気信号流せば現実の機械音源再現出来るんじゃね?

 

という理論もクソもない暴論である。

 

で、結果。出来てしまったから困る。汚いなさすが幻きたない。

 

 

ちなみに借りた場所はポケモンセンターの俺の部屋からです。

まあ小型だしいいべ。直径縦10cm、横4,5cm程度のものだ。

 

 

そして、この手の準備もやはりそこそこ時間は掛けねばならず、

その間にどうしても体の都合上、悪目立ちしてしまい……

 

「こんな子供が何を……」「彼の年齢ならポケモンバトルではないか」

 

という興味本位の視線に晒される。ちくしょー今に見てろぉ!

ちっくしょ、やっぱミニドラムはコンパクトにされている分、細かすぎてどうしても時間が……

ディグダ、もう人の視線が嫌だから体で俺を視線から庇ってくれ。

ああ、でもディグダが前面に出てると俺以上に目立つ事になる。誰かなんとかしる。

 

 

とかなんとか頭の中で漫才を繰り広げている間に準備は整った。

客付きも興味本位の人たちがそこそこいる、十分である。

 

「皆、準備は良いかッ!!」

 

「ドレディアーッ!!」

「ッ─────!!」

「グッグ~ッ!!」

「ミュミューィ!!」

 

 

今日の出だしと前半戦は、スピッ●さんの『ロビ●ソン』から『●ェリー』で

レミオロ●ンさんの『conayuki』を提出させて頂こう。

 

 

俺のパクり魂が熱く燃えているぅぅぅう!!

そのまま後ろめたさで燃え尽きてしまいそうだぁあああああ!!

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※歌詞を書くと規約に触れるので描写は自主規制させて頂きます。

 お暇な方は八頭身ディグダとのデートでも想像してお楽しみください。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

───ジャンジャン、ジャンジャン、ジャンジャンジャジャージャ……

───ジャラ~ン~。

 

 

粉雪の最後のギター部分を終えると、周りからやかましいぐらいの拍手が飛んでくる。

いやんもうやめて。本当に後ろめたさで燃え尽きちゃう。

 

 

 

だーもうまったく、また満員御礼だよ。ありがてぇんだけどさぁ、本当に。

でもあれだよ、ジャグラーや大道芸の方々よ! あんたらは自分の技を磨け!! こっちくんな!!

アーティストの皆さんすみません。貴方達の音楽はこちらでも大人気です。

ここには書いていない曲も沢山弾き語らせて頂きました。

 

そして俺のポケモン+ゲストのミュウ達も大人気である。

一旦次の心構えのため少しのインターバルを取っているため

みんなには自由にしてくれと伝えた結果、こうなった。

 

 

・ドレディア→ザル持ってお捻り回収。姿形も相まってその状態ですら大人気。

 

・ディグダ→子供には余り人気が無いが、理解のある大人には細い筋肉が絶大な人気。

 

・ヒンバス→元々美しさがMAX気味なので美しく映るらしく、こちらもドレディアさんに並ぶ人気。

 

・ミュウ→浮ける上にあのような愛らしい姿なので子供に大人気。

     エスパー系の技でいろいろな現象を起こして楽しませている。

 

・俺→恥ずかしさのあまり心構えに全力を注ぐしかなくボッチ。

 

 

まて これは こうめいの わな だ

 

 

 

ふー……大丈夫。ボッチなんて寂しくない。今はみんないるもん。ぐすん

 

 

「よっし……みんな、そろそろ最後行くぞ」

「ディァディァー!!」

「ッb」

「ググ~!!」

「ミュ~ィ♪」

 

全員がこっちに来る。ドレディアさんだけは元々モノを持っていたために

それをこっちに持って帰ってくるわけだが

 

…………。

 

「おいちょっと待て、なんだこれは」

「ディァ?」

 

【どうした?】という感じでこちらを見てくるドレディアさん。

俺は上に掲げていたザルを見る。ギャラリーも、なんだなんだどうしたんだ、とザワザワしだした。

 

俺の目が腐ってなければ、だが……

 

 

 

 

 

 

なんかザルの小銭の山に

1万円が3枚ほど突っ込まれているみたいなのですが?

 

 

 

「えええええええええ!! おいちょっと待て!!

 誰だ一万円突っ込んだの!? しかもこれ複数人かっ?!」

「あぁ、それはワシだな」

「あ、うちもうちもー」

「俺らは2人で5,000円づつってことで1万入れたわ!」

 

そして俺が叫んでいると手を上げるギャラリーの一部。

何考えてんだあんたら!! こちとら中身こそ30だが体はまだ10歳だぞ!!

そんなのに1万くれてやるとか何考えてんすか!! 子供の金銭感覚狂っちゃうでしょうがッッ!

このDIOに対してッッ!!

 

「ちょ、ちょっとこれはやりすぎですっ。

 確かにおひねりは……欲しいですけどっ、うん、欲しいですけどっ」

「いや、本当にいいんだ。それはワシの正当な評価だ」

「うちもやねー。音楽って方向性でここまで良いのってやっぱしなかなか無いと思うで?」

 

そう返して来る紳士なおっさんと関西弁のねーちゃん。

ねーちゃんアンタ良く見たらコガネシティのジムリーダーのアカネさんじゃねえか!!

 

「2人が言うとおりだと思うよ。俺は正直感動した」

「あぁ、マジでなぁ。ポケモンに演奏させるって発想が凄いわ。

 どんな連携練習したらそんなの出来るんよ?」

 

それはこいつらの才能なだけです!! 俺は知らん!!

 

「いや、でも」

「いいんだよ! もらっとけ少年!!

 俺だって1万円か、金に余裕があればそんぐらい突っ込んでるって!」

 

何気に切実な感想やめてくんない!?

見栄っ張りとかが反応したらどうしてくれるのだクサムァ!

 

「そうそう、本当に良かったわよー!」

「にいちゃんすごかったよ!」

 

こちらはまた親子で評価してくれる。罪悪感で胸がキリキリするッ……!

開き直れない俺よ、なんとかしる!

 

 

「ぬ、ぐ……」

 

絶対貰いすぎだ。貰いすぎだが……! この人達退かない……どうしようもないっ。

 

「わかりました……観念します……」

 正直なところ、所持金2桁なんで皆様の好意に甘えさせて頂きます」

『2桁ッ!?!?!?』

 

あ、しまっ─────

 

「はいストップストップストップ!!! これ以上はいらん!! いらんからな!!」

「えー」

「えー」

「ええー」

 

えー。じゃねえよあんたら。

こんだけありゃ全然しばらく生活できるっての。さらに突っ込もうとするな!!

 

 

っふー……とりあえず、だ。

 

 

「では、皆さん。

 今日は俺の歌なんか(で穢された素晴らしい曲々)を聴いてくれて……本当にありがとうございます」

「ディァー!」

「─────。」

「ググ~♪」

「ミュー!? ミュミューィッ?!」

 

ドレディアさんは元気に手を挙げ

 

ディグダは礼儀正しく斜め45度の礼を

 

ヒンバスは嬉しそうに左右に揺れて

 

ミュウは最後の最後で子供に捕まってしまい、尻尾をつかまれ振り回されていた。

 

「では、本日の最後に。曲の開発(再現)に苦労した……

 正直完成すると思っていなかった曲を、披露して今回の演奏を締めようと思います」

 

パチパチパチパチパチ

パチパチパチパチパチ

 

みんなの拍手を得て、俺に再度気合が入る。

さぁ、ミュウ。ここが正念場だ。君にやってもらった機械音源の、最たるテッペンだッ!!

 

「それでは、行きます。『Love is Eternity』(by 【○ors k】さん)」

 

 

 

 

「─────ド・レーディァ(エ・ターニティ)

 

 

ドレディアさんが呟き、カスタネットでリズムが取られ

 

次にディグダのミニドラムが軽快に響き

 

ミュウの機械音源再生が全体に映えて行く。

 

さらにはヒンバスのボイスパーカッションで、真似出来る機械音源の再生。

 

 

 

そして─────。

 

「─────レー(ラーヴ))、ディァ ド、レーディァ(イズ、エ・ターニティ)。」

 

怒涛の勢いで、ピアノの音を繰り出して、繋げていく。

 

時に静かに流し、パートが流し終われば、またさらに

 

 

 

ピアノの音の暴流を繰り出していく。

 

指が吊る位の暴流を次々と繰り出して行き

 

最後にミュウに機械音源を出し続けてもらって

 

 

曲は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ、反応あんましないぞ。す、滑ったかな……?

なんかすっげー全員静まり返ってんですけど。

そらー、こんだけポケモンバトルが常識として成立してる世界だしなー。

音ゲーなんて概念存在も

 

 

『ォォオオオオオオオアアアアアアアアアアアァアアアアア!!!』

「っオォォオゥ!?」

 

な、なんぞやっ?! いきなりギャラリーの声が大爆裂したっ!!

耳がっ!! ミミガー!! あ、沖縄いきてぇ。

 

 

「すげぇーー!」

「なんだこれぇー!!」

「こんな旋律、聴いた事無いぞ!」

 

次々と場にギャラリーの声が溢れかえる。

まぁ、そりゃぁ……この世界にないもん引っ張り出してますんで……

 

「素晴らしかったよっ!! 実に胸に響くピアノ音だった!!」

「あんな表現もあるんやね……!」

 

いやまぁうん、曲作った人一般公募からIIDXの作曲者を勤め始めたぐらいの才能の塊だからな。

 

そっか、滑ったわけではなかったのか。

こんだけ感動してくれたなら、みんなが俺にくれたおひねり分位にはなってくれたかなぁ……

ありがとうk○rs kさん。

 

 

「では、ご清聴ありがとうございました」

 

そうして、ギャラリーが解散していく。皆が皆、笑顔で帰って行ってくれている。

中には期待はずれで終わってしまった人もいるのかもしれない。

でも、確かに笑顔で帰ってくれている人が居る。

 

それを見るだけで、罪悪感が少しだけ軽くなる。

遠い遠い異世界ではありますが……アーティストの皆さん。

あなた方の作り出した音楽は、やはり万国共通で感情が沸き立つようです。

 

 

 

「さって、みんなー片付けに入るぞー、ミュウは配線縛ってー。

 ディグダはドラムの小型化、ドレディアさんはヒンバスのダンボール畳んで~」

 

俺も出していた楽器をリュックに詰め込み

頂いたお捻りもあとで勘定するため、ひとまず持ってきておいた袋に全部突っ込んだ。

 

 

「失礼、ちょっとよろしいかな?」

「───……ん?」

 

後ろを見てみるとなんか船長っぽい感じの人が居る。

雰囲気的にはアドバンスの四天王のドラゴン使いじーさんだ。

さすがにさっきのアカネさんと違い当人ではないだろうが、雰囲気はそんなもん。

 

「えっと……なんでしょうか」

「さっきの演奏、聞かせてもらっていたよ。

 実に良い音楽と旋律だった───とても耳に残ったよ」

「はい、ありがとうございます」

 

……まぁ、ただの感想述べる為に俺の前に来たってわけはないよな。

ここで話が繋がらなかったら、逆に俺が即座に「なんでやねーん」と突っ込む。

 

「それで、なんだがね」

「はい……なんでしょうか?」

「まあわしは見た目の通り、ある船の船長をやっておってね?

 それで2日後に、わしの船でパーティーが開かれるんじゃよ」

(マジで船長だったんか、この人)

 

あくまでも、っぽいってだけだったんだがな。

 

「それでな? 良ければなんじゃが……

 そのパーティーで、君の曲を演奏して欲しいと思っていてね」

「先に聞いておきますけど前座ですよね? ね? ねぇ?

 前座じゃないと嫌ですよ? それ以上は恥ずかしくて死ねますよ?」

 

なんでそんな大舞台で大それた事やらなあかんねんな。

俺のチキンハートじゃ死んだ上でフライドチキンにされてドレディアさんに食われてまうわい。

 

「ァー……♡」

 

おいそこ、俺の心を読むな。

ヨダレたらすな。いいからダンボール畳め。

 

「いや、あれだけの内容ならメインでやって欲しいんじゃが」

「ウボァーッッ!!」

「そ、そんなに嫌なのかね? 無理にとは言わぬが……

 出来れば是非、そのパーティーの参加者にも君の演奏を聴かせたいのだが……」

「うぬぅー……」

 

船長さんそこまで評価してくれやがりますか。

断りたくても断れねえじゃねえかそんな言い方だと。

 

「いや、でも──    ───あれ?」

 

 

今一瞬、何か見逃せないものが船長さんの後ろを横切ったような。

……俺の見間違いかな?

 

 

 

「ど、どうしたのかな?」

「いえ、ちょっと待ってください……」

 

俺は、偶然目に付いてしまったとある方向をずっと凝視する。

 

───間違いない、やはり、あれは。

 

 

そして、パーティー。さらにはパーティーが開かれる位の船。

だとしたら──……だろう、な。

 

 

 

「わかりました、船長さん。そのお話、(うけたまわ)ります。」

「おお、そうか! ありがとう、よかったよかった!

 本当に他の参加者にも聴かせたいと思っててね、とても嬉しいよ!

 それで演奏に対する報酬なんじゃが、とりあえずは前金でごじゅ─────」

「いえ、それは結構です」

 

率直に、船長さんからの報酬うんたら話を途中で区切る。

 

そう、報酬なんてものを気にしている場合ではない。

 

「えっ? いやしかし」

「───その代わり、準備して頂きたいものがいくつかあります。

 それらを、そちら側の負担で作っては頂けないでしょうか」

「む、何か違う楽器が欲しいのかな?」

「いえ、楽器ではありません、ただ───」

 

 

 

 

俺の予想(・・)が正しければ、間違いなく使う事になりそうだ。

 

 

 

 

───2日後、だったか……1日使い切って、万全に準備しておこう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話 船長ェ

※前回のフラグは一体何か?
 
ヒント・彼が真剣になったのは作中で一度だけしかありません


船長さんの話を快諾した後、俺はすぐに街中に移動した。

必要になるであろうものの準備のためである。

 

とりあえずの費用という事で、20,000円を借り受けた。

準備にどれほど時間が掛かるかはわからないが、お金のほうはおそらく問題ないだろうと思う。

 

あちらは「とりあえずとはいえ20,000円程度で良いのか」と恐縮していたが

俺の考えが間違っていなければ俺はそもそも歌う事すら無いだろう。

間違っていたら間違っていたで、普通に歌って帰ってきたらいいだけである。

 

さすがに船上パーティーなんてセレブなイメージしかない所に集まる人達だし

俺がそこで歌ったところで何も尾を引くことは無いはずだ。

一番怖いのは一般民衆に謎の褒めちぎりをされてこっぱずかしくなる事だけだからな。

 

 

 

 

そして俺は、クチバの街中から金物屋と靴屋を探し出し

それぞれ『この世界では発想自体が存在しない』モノを注文しておいた。

靴はともあれ、金物に関しては刃物ですらない。

作る人も、使い方がさっぱりわからないだろうからまず問題にはならない。

 

作成には1日は掛かるとの事らしいので、船に上がる前に取りに行く事となった。

 

 

他にも何か使えそうなものはないか、と街中を探していたところ丁度良い物があった。

 

100円ライターである。

 

多分、俺が行く船にもあの設備があるだろう。うまく利用すれば『ヒンバスが凄まじい戦力に成る』。

 

 

 

そんなこんなで弾き語りが終わった後、街中をうろつき

今現在はポケモンセンター、落ち着いて戻って来たところである。

まあ、また途中で歩くのが面倒になったので帰り道はディグダの頭の上に乗ってたが。

 

「……ん?」

 

ポケセンの待合室にはもっさんが居た。バトル帰りだろうか?

……無駄に巻き込むこともないな。もし俺の行く船に乗るというなら話も別だが。

 

「こんにちわ、もっさん」

「……あら? タツヤ君」

「ッキュ~」

 

サンドがこちらに気付いて鳴いて、俺の手持ちの子達も2人に挨拶を返す。

一応声を掛けてあさっての予定を聞いておこう。

 

「今日は東にいなかったみたいだけど、何かやってたの?」

「ええ、お金稼ぎしてました。昨日350円しかなかったので」

「……私に600円も渡してたのは見得だったの?」

「いえ、っと……そういえばおひねり計算すらしてなかったな」

「おひねり?大道芸でもやってたのね」

「ええ、弾き語りです。んしょっと……」

 

 

ドチャッ。

 

 

リュックにしてはやけにヘビー級な音が地面に響く。……そういえば小銭、トキワより凄まじかったな。

音にもっさんが多少(ほう)けている間に俺はリュックから銭袋を取り出した。

待合室の長椅子を使って、全部出した後に札を引き抜いて小銭を並べて行き……

その内容に引き続き呆けているもっさんを尻目に、計算してみたら

 

 

俺は頭を抱えてしまった。これ10歳が稼ぐ金じゃねえだろ。

 

 

「81,450円……」

「あ、はは、はははは……そりゃ600円なんてちっちゃいわね」

 

んもー。この世界ってなんなんだ本当。子供に旅させるわ子供にこんなに金渡すわ。

下手したらこの世界の子供って、下の世話まで経験してんじゃねえのこれ?

 

もっとこう、さぁ。この500円玉も10円とかで十分なのよ。

なんで今回1円とか10円が殆ど見当たらずに100円とか500円に化けてんの?

 

「ま……いいか。明日辺り銀行にでも行って小銭換金してこよう」

 

今はそれどころではないからな、もっさんと話さないと。

 

「もっさんちょっといいかな。あさってって、どっかに行く予定とかあったりする?」

「ん? いや、特には無いわよ?」

「ふむ、特には無し、と……」

 

これで船の中で会う確率は無くなったか。当事者でないならそれに越した事は無い。

 

「……あ!? はは~ん。な~に? お姉さんをデートに誘いたいのー?

 でーも、まだ3歳は早いわよー♪ もうちょっとおおき─────」

 

横でなにやらくねくねしだしたもっさんを放置し

サンドに手でバイバイとやった後、俺達は部屋に戻る。

ドレディアさんがなんかもっさんを可哀想な目で見てたのは気のせいだろうか。

 

 

そして俺らはポケモンセンターの自分の部屋に戻った。

 

あ、ちなみにミュウにはありがとうございました的な賃金を既に渡してお別れしている。

船長に渡された20,000円の余りから、好きそうなお菓子を袋一杯買って手渡しておいた。

【また来るねー★ミ】と言って、可愛らしい妖精はしゅぽんと消えた。

次はいつ逢えるかなー。実際あさっての事考えたら居てもらうのも手だが

さすがに野生でなおかつ幻な子を、人間のドロドロに巻き込むわけにゃ行かん。

 

 

では、会議と行くか。

 

「とりあえず、今日はみんなお疲れ様」

「ディーァ~」

「ッ─────。」

「ッグ」

「本来ならこれからおいしいものでも食べに行きたいところなんだけど……

 他に意見を詰めなきゃならない事が出来た。お祝いはまた今度にしてくれ」

 

ドレディアさんはその言葉にちょっとだけガックリしたが

詰めなきゃならないというところを聞き逃さなかったのだろう、すぐに聞く体勢に入る。

 

「今日はみんな知っての通り、あのおじいちゃんから依頼されて

 2日後に船で俺らの音楽を演奏する事になった、ここまでは良いな?」

『(コクコク)』

「でも俺が危険予想をする限り、音楽を演奏する事すら出来なくなると思ってる」

『!?!?!?』

 

一体どういうことだ、と全員が全員俺に注目する。

 

 

そう、俺はあの船長さんと話している間に見てしまったのだ。あいつらを───

 

「───あのおじいさんと話していた後ろのほうで

 ロケット団がコソコソとやっていたのを見た」

「……ディッ!?」

「ッ─────!?」

 

ヒンバスは直接係わり合いが無いため、この件の重要度がわからないようだが

俺がロケット団とやりあった際に当事者だったドレディアさんと

傍観者だったディグダはどういうことかという顔を向けてくる。

 

「この街は港町なんだ。だからこそあの船長さんもいるわけだけど……

 俺はその船長さんが乗る船にひとつ心当たりがある。

 もちろん違っているかもしれないけど……多分そうだ。

 あの人が乗っている、管理している船は───」

 

そう、ここはクチバシティ。

クチバシティといえば、イナヅマアメリケンのイメージが強いのだが

そもそも彼に会うためには、ある場所へ行ってひでんマシンを貰わなければ成らない。

 

 

「その船は───サントアンヌ号だ」

 

 

ここで元のポケモンをわかっている人ならノってくれるのだろうが

残念ながら今話を聴いている3匹はそのゲーム世界の住人だった。サントアンヌ号なんぞ知るわけもない。

 

「サントアンヌ号ってのは、とっても大きくて豪華な船なんだ。

 んでもって、そんなところで開かれるパーティーが

 俺らが普段やっているような小さい小さいパーティーな訳が無い。

 

 ───十中八九、ロケット団が何かをやらかそうと動いてる」

 

『………………。』

 

 

 

俺の話を真剣に聞いてくれる3匹。

普通であれば「そんなことがあるわけない」と俺の意見を一蹴されて、なおかつ変人扱いされる論だ。

それでも真剣に聞いてくれる。……本当に、俺には過ぎた相棒達だ。

 

 

「ただ、これらはあくまでも俺の予想の最悪の部類でしかない。

 本当にロケット団が動いたら、演奏どころじゃなくなるけど

 何も無ければそれが一番平和でいい。音楽の準備はしておこう」

「ディ」

「ッb」

「グ~」

 

あさってにそのパーティーがあるわけだが、下準備自体は既に全て今日で終わらせてしまった。

一日の余裕があるわけだし……それなら事前準備をした方が良いだろう、な。

 

「あさってに俺の最悪が当たって戦いが始まったら、完全にルール無用の戦いになる。

 明日は一日野戦訓練に時間を回して、隙無く挑めるようにしておこう」

『ディーグーッ───!!!』

 

 

 

 

 

 

そして時間は2日後。船のパーティーの日である。

俺は先日注文しておいた道具と、バトル用に買い集めた道具をリュックに詰め

待ち合わせに指定した場所で船長さんと合流、船の波止場まで案内してもらう。

 

 

 

「ようこそ、タツヤ君。これがわしの船、サントアンヌ号だ」

『…………。』

 

……えーと、なんだ、これ?

ゲームの室内とか部屋の数とか考えた上で、大きさは予想してはいたんだが……

目の前に存在するブツは、それを遥かに上回っていた。

 

 

全長500mはあるぞ、この船。バカでけぇー。

あっちの世界のじいちゃんの船が30隻は乗りそうだ。俺の面子が全員ポカーンとしてる。

 

「ははは、驚いてもらえて何よりだよ」

「こんなもん作る金、一体世界のどこにあるんですか」

「いや、それをわしに言われても……」

 

いや、凄まじい。本当に凄まじい。

誰だよこんなの作ったの。お前らホエルオーに乗って旅でもしろや。

無機物に乗って優雅にしてんじゃねえ。もしくは水面を走れ。

 

「ま、とりあえず中に入ろうか。

 既に参加者達も大体の人たちが乗り込んでいるはずだろう」

「あ、はい……わかりました。じゃ、行くよ皆ー」

 

船の入り口で船長さんに挨拶を交わす船乗りさん。

──…………。まあ、確証があるわけでもない。ひとまずは、普通に入ろうか。

 

 

「ところで船長さん」

「な、なに……か、な?」

 

船長さん顔色がやべえwww大丈夫ですかwwwwww

そういやこの人船駄目だったよねwww歩いてるだけなのに酔ってらっしゃるwww

 

「えーと、今日のパーティーってどんなパーティーなんですか?」

「あ、ああ……そういえばまだ伝えて、うっぷ……伝えて無かったね。

 今日の集まり、は、ポケモンリーグ主催で……ポケモンの権威の人や……

 カントーとジョウトのジムリーダーが……うふぅ、集まるパーティーだよ」

 

船長さん、悪い事言わないからあんたもう帰れよ。

なんで自分の体に鞭打ってこんな仕事してんの。金か? 世の中金か?

 

しかし……これであそこに他地方のジムリーダー・アカネちゃんが居たのも合点が行く。

パーティーの数日前にクチバ入りして暇つぶしをしてたんだろうな。

まあ、どうせあっちは俺のことなんぞ覚えてもおるまい。

俺はのんびりと準備を───

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?君は……タツヤ君?」

 

 

 

 

 

side ???

 

 

 

 

 

ハナダシティで貰ったサントアンヌ号の乗船チケットを使い、僕はその船の廊下を歩いていた。

この船自体に用があるわけじゃないんだけど、見聞を広めるにはいいかなって思って。

 

すると船長らしき威厳の……いや、別に威厳はなかったや。

ただの船酔いしているおじいさんの後ろに居た子に見覚えがあったために、声を掛けてみた。

 

「……あれ? 君は……タツヤ君?」

「あ、どうも。レッドさん」

 

久しぶりに逢ったんだけど、彼も僕のことを覚えていてくれたようだ。

 

今僕が話しかけているこの子はタツヤ君。僕と同じマサラタウンの出身だ。

 

どちらかというと僕が良く世話になっていたのは彼のお兄さん、シンさんだ。

手持ちのポケモン、わずか1匹のみでリーグを制覇した、偉大な人だ。

その人に世話になっていた時に、よく後ろから僕達を見ていた子がこのタツヤ君だ。

 

「久しぶりだね、ところで……連れのおじいさんの顔色が悪いみたいだけど……?」

「うん。船長さん……さすがにその状態は辛いでしょう。

 他の誰かに他の事聞いておきますんで、この辺でいいですよ」

 

この人ホントに船長さんなのっ?!

 

「あ、ああ……すまん、本当に……わしは自分の部屋で休んでいるよ……」

 

そういって、船長さんは去っていった。

今あったばかりだけど大丈夫かなぁ。あの歩調千鳥足どころじゃないよ。

 

「大丈夫かなぁ、船長さん……。ともあれレッドさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「うん、僕のほうも旅は順調だよ。ポケモン達もかなり強くなったからね」

 

彼は今10歳位のはずだけど、昔から感じていた通り発言にはやはり子供らしさがどこか欠けている。

良く言えば紳士的で、悪く言えば形式張っている。

 

態度だけで考えたらシンさんのほうが弟にしか感じられなかったのも良く覚えている。

 

ついでに言うと彼らの母親は生物の限界を超越していた。

 

「僕はハナダシティでチケットを貰ったからここに居るんだけど……タツヤ君はどうしてここに?」

「あー、俺は街中で弾き語りしてたらここの船長さんの目に留まったらしくて……パーティーで演奏を、と」

 

なるほど……昔から彼は、音楽観については一流を遥かに超えていた。

技術自体は初回に聞いた時こそまだまだ拙い感じもあったが、次の時にはそれすら無い。

カントーで音楽をやらせたら、間違いなく一流から突出する何かを持っていた。

 

この世界でポケモンに一切関わらなくても、生活していけそうな才能を持っている人は稀有だ。

弾く音楽も素晴らしいのだが、僕が一番印象に残っているのは

音楽に関して僕を含むみんなが喜ぶと、いつも微妙な笑みを浮かべる彼の姿だ。

手放しで喜んでいるのを見た事が無い……天才ってのは皆そんなものなのかな?

 

「へぇ~、そっかぁ。それじゃあ今日のパーティーはきっととても良い物になるんだろうね!」

「(まあ弾く音楽、全部パクリなんすけどね……)ボソッ……」

「……え? 今何か言ったかい?」

「あ、いいえーなにも」

 

良く聞こえなかったけど……まあ、いいや。

旅に出てから久しく聴けていない彼の才能に、また触れられるのだから。

 

それにせっかく再会したついでだ。

僕も僕の流儀で彼との再会を分かち合いたい……だから───

 

「───それじゃあ……久しぶりに、ポケモンバトルでもやるかい?

 僕も旅している間に沢山成長はしたからね……まだまだ負けないよ?」

「ええー、やるんすかー。だるいんすけどー」

 

ガクッ……思わずずっこけてしまう。彼は昔からこういうところがあるから困る。

何故か皆が凌ぎを削りあってるポケモンバトルから一歩身を退いているのだ。

まぁ、戦う時には戦ってるんだけど。

 

「いや、だるいって……目と目を合わせたら戦うのがトレーナーだよ?」

「トレーナーだがジャージだか知らないっすけど

 そんな常識、そらのはしらに行って天に返してきてください」

 

とまあ、こんな感じなのである。彼には常識という言葉が殆ど通用しない。

どうしてなのかはわからないが、彼の中では常識が常識となっていないらしいのだ。

 

しかし僕も一度火が着いたら止めたくは無い。

しっかりと勝負をして、せめて同じ町の年上出身者として威厳を見せたいんだ!

 

「まぁまぁ、久しぶりにあったんだし、さ? そんなこと言わずにやろ───」

「あれ、グリーンさんじゃないっすか。グリーンさんもここに来てたんですね」

「えっ? グリーンも───……って、あれ?」

 

タツヤ君に釣られて、僕は後ろに振り返ってみるが……

そこには別にグリーンどころか誰もいなかった。

 

「タツヤ君、グリーンなんてどこにも───」

 

 

 

 

 

 \ | /

─こつぜん─

 / | \

 

 

 

タツヤ君までいなかった。

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

ふぅ~、あっぶねーあぶねー。

レッドさんもこの世界の例に漏れずバトルジャンキーなの忘れてた。

あんな手合いを毎度毎度相手にしていてはこちらの神経が擦り切れる。

連れ歩いていた皆を素早くボールに仕舞い、とっととトンズラしておいた。

 

 

さーて、そこらの船員さんに俺の部屋でも聞いておくか。

どうせカモフラージュなんだろうけど、リアリティを出すためにその位は頭に叩き込んでるだろ、多分。

めんどくせー事になんなきゃ一番良いんだけどねー。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話 えー。

 

 

さて、とりあえずレッドさんからは逃げ仰せたので

そこら辺の船員さんをとッ捕まえ、演奏者の待機室を聞き出した。

 

2階の船長室の近くだそうだ。

……船長室、か。やっぱ吐いてんだろうな、あの人。まあ俺の目の前で吐かなかった事は、僥倖に値する。

準備したモノを貰いに行ったついでに、お釣りで買っておいた酔い覚まし1ケースでもあとで届けておこう。

 

っと、あったあった。演奏者控え室って表札が壁に引っかかって───

 

「あーっ!! お前タツヤじゃねえかっ!!」

 

 

…………ッチ、失念していた。今度は本当にグリーンかよ。

船長室の近くに行けば、原作でも確かにアイツが現れてたよな。

 

「どうもこんにちわ。それじゃ失礼します」

「ちょ、ちょ、おまっ、ちょっと待てよッ!

 何でお前、昔っから俺に対してだけすっげー冷てぇんだよっ!!」

「んー具体的にヒントを申し上げるのであればですが……

 レッドさんと話している時に、自分の正面に鏡を置く事をお勧めします」

「……はぁ??」

「『他人=鏡』の振り見て我が身直せって事だよ、言わせんな恥ずかしい///」

「意味わかんねーよ……」

 

まあ本人にゃわからんか。てかここまで言われてわからないあなたって日本人?

 

まあそういうわけで……。

目の前に居るこの人は、原作にて主人公のライバルであるグリーンだ。

ちなみにこのグリーンはアニメのようなクールな性格ではない。

初代原作にとても似ている、ライバルのレッドさんを完全に見下しながら接しているタイプの性格である。

 

そう、いつも見下しながら話しているようにしか見えないため、見ててウザい。

別に俺に対してウザいわけではないのだが、俺はレッドさんが嫌いではない。

そしてそれに対する対応が酷すぎるこの人を俺が好きになれるわけも無い。

そんなんだから将来ポケモンリーグ制覇してから10分で破られるなんて

伝説的なギネス記録の短さになっちまうんだよwwww

 

「ったく……まー別にいいけどよー」

 

いいんだっ?!

 

「で、お前はなんでこの船に乗ってんだー?」

「弾き語りしてたら船長さんに誘われました。パーティーで是非演奏してくれって」

「あー……お前昔っから楽器の弾き方すげかったもんなー」

 

とりあえずの軽い雑談が始まる。俺は一応、この人が好きではないが……完全に嫌いでもない。

でもまともな対応してると大体うっさくなるので、基本突き放して接している。

 

「そういうグリーンさんは?」

「あー俺はこの船の船長がすっげー技持ってるって聴いたからよー。

 逢いに行ってみたらこれがただの船酔いジジイ! 学ぶもんもねーからとっとと降りようと思ってなー」

「あーそういえばそんなイベントあったっけ」

「イベント?」

「ええ、イベントです」

 

俺は堂々と原作イベントを『イベント』と表現する。

この人、どうせまだまだガキくせぇし少しぐらいぶっちゃけても何にも気付かないままスルーするべ、多分。

 

「ま、そんなんもう終わった事だからどーでもいいけどさ」

 

ほらね。所詮10分のチャンピオンである。

 

「とりあえず、だ。ここであったが100年目! タツヤ、バトルするぞっ!!」

「いやですよバカ。何言ってんの? ねえ何言ってんの?www」

「え、いや……トレーナーは目ぇ合わせたらバトルするのが常識だろ!?」

「そんな常識フエン火山に行って常識ごと灰になってきてください」

「お前ひどすぎるだろそれ!!」

 

知らんわ。

 

「俺は覚えてんだからなー!! 最後にマサラでバトルした時にお前がやった事!!」

「……へ? 最後……グリーンさんとの最後……あぁ、あれか」

 

あーそういえば途中で相手すんの面倒になって……そっと後ろから近づいて

三年殺しでポケモンじゃなくグリーンさんK.Oしたんだっけ。そんな事良く覚えてんな、あんた。

 

「別にそんなのどうでもいいじゃないっすか。子供のお遊びですよ、お遊び。

 俺その時8歳っすよ? グリーンさんが痔になったわけでもなし、ケツが臭かったわけでもなし。

 特に問題ないじゃないですか、むしろ感謝されるべき?」

「どう考えても問題ありすぎだー!!」

 

だから知らんっての、あぁ面倒になってきたもうどうしようwwww

 

「とりあえずバトルだー! 行けー、カメックスー!!」

 

パシュゥゥゥゥン!!

 

「ガメェーーー!!」

 

うそっ?! お前ここで既にカメックスなの!?

なんでそれでディグダのあなで負けてトルネコ化してたんだよ!!

 

「はー、凄いですねー。はいはい、カメックスカメックス」

「おまっ……また俺の事バカにしてー!!」

「ん、あれ? レッドさん、どうもっす」

「えっ?!」

 

さっきと同じ手を使い、とりあえず集中を逸らす。

しかしここからは一味違う。お前は俺に勝負を仕掛けた。

 

 

───その報い、思い知るが良いっ!!

 

 

「んだよ、別にレッドなんか───」

「ッしゃんなろぉおおおおおおおおおお!!」

 

俺は気合を一声入れて、全力で足を振りかぶった。

 

ずっドむ。

 

「よ゜るんっ?!」

 

一瞬で白目を向いて、『股間』を押さえながら崩れ落ちるグリーンさん。

 

「ガッ、ガメッ!?」

 

突然の事態にグリーンさんのカメックスがグリーンさんに駆け寄る。

危害を加えた俺に関しては完全放置である。

もしかしてこのカメさん、あの痛みがわからないってことは♀か?

 

 

「んじゃ、そーいうことでー。

 俺今から会場に行って視察しなきゃならないんで、またマサラに里帰りした時にでも逢いましょ~♪」

「る゜、おづッ……」

 

え、なになに……バトルで決着つけろってか。

 

 

こまけぇこたぁいいんだよっ!!(AA略

 

 

こうして当面の危機は去った。

なんかボールに戻したドレディアさんのボールから尊敬の意思が若干汲み取れるのは気のせいだと思う。

 

 

 

 

そんなこんなで会場入り~っと。なんかやたらゲーム本筋のイベントに巻き込まれた。

ったく……無駄な時間である。そんなもん勝手にあんたらでやっててくれ。

 

今は俺の手持ちの3匹も普通に外に出しており、一緒に会場入りしていた。

ディグダの注目度がヤバイ。さすが突然変異だな。

 

俺がその上で胡坐掻いてるのは多分問題ではないはず。

あくまでもディグダだからだろう。あれ、そうだよね?

目立ちすぎるのも嫌なのでディグダからとりあえず降りておく。

そしてじっくりと会場の設備を見ていた所……

 

 

「……あれー? 君おととい街で楽器弾いてた子ちゃうん?」

「えっ」

 

俺は声に釣られて左を見てみた。誰もいない。

なんだ、気のせいだったか。

 

「なんでそっちやねんな。こっちやこっち。」

「えっ」

 

俺は声に釣られて後ろを見てみた。誰もいない。

なんだ、幻聴だったか。

 

 

無理やり頭を捕まれて右を向かされた。

 

「うん、やっぱおとといの子やー。まあ君じゃなくてもあのディグダ見れば1発でわかるもんやけど」

「あ、どうも……えーと、一万円の人」

 

俺が彼女の事を知っているのはあくまでもゲームでの事。

ここで俺がアカネさんの名前を答えるのはちょっとまずいだろう。

俺的に、あくまで一般的に考えてだぞ? 一番印象が深かった事態を込め、この名前で呼んでみた。

 

「い、一万円の人て……ゆきっちゃん(一万円の中の人)ちゃうねんでw」

「いやー……俺、貴方の名前を伺った事があるわけでもないですし」

「あ、そういえばそーやなぁ。

 うちはジョウトのほうでなー? コガネシティでジムリーダーしてるモンやねん」

「へぇ~そうですかぁ。よろしくです」

 

なんだっけ、コガネジムでのジムリーダーの通称。

とりあえずおっぱいに目線を移してみる。トラウマのミルタンクが思い出された。

ついでに渾名も思い出した。ダイナマイトプリティギャルだ。まあ、おっぱいに毅然は無いがな。

 

おっぱいについて、大きさでうんだのかんだの言ってんのは二流である。

ちっさいかおっきいかどっちかに特化してねえと駄目だろ!!

故にもっさん、テメーは駄目だっ。

 

「アカネちゃん……この子、お知り合い?」

 

おっと、アカネさんの後ろから同じジョウト地方のジムリーダー、ミカンさんが突撃してきました。

俺もうとっとと別の箇所調べたいんですけど。女の色香に釣られる時期はとっくの間に過ぎ去っとるけんね。

 

「ああ、ミカンちゃん。この子なー、ちょい前に街に暇つぶしで出かけてたら

 すっごい音楽演奏してたんよ。うちメッチャ感動してん」

「それで、その時におひねりで一万円くれた人ですね。

 あと2人、一万円をくれた人がいるのでその人達もアカネって名前なんですよね」

「んなわけあるかーいっ!」

 

ズビー(突っ込み

 

さすがの関西人である。

こっちの世界じゃなんか方言の単語違った気もするけど……どうでもいいですよね、すいません。

 

「で、君はなんでこのパーティーにおるん? こっちの地方のジムリーダーなんかー?」

「いや、簡単に三行で述べると

 

・弾き語りしてたら船長さんに「ここで演奏してくれ」と頼まれた。

 

 って感じです」

「ほぉほぉ、まああの質なら当然やな、うちもそれよくわかるー」

「あ、あの……アカネちゃん……全然三行じゃない点に突っ込もうよ……」

 

ぬぅ、鋭いな、コタツミカンさん。

 

「まあ、そーいうわけでこの子は……。あれ?君、名前は?

 うちだけ名乗ってんのに君の聴いてへんやん」

「えーと、おおおにぐまがわらのまるごんざぶろうざえもんです。よろしくです」

「えぇっ!? 何そのすっごい長い名前!?」

「お、おおおにぐま、ぐま・・・ざぶとんざえもんさん?」

 

だーれがドレディアさんの尻に敷かれる間男じゃ。

大鬼熊瓦之丸・権三郎左衛門だ。リピートアフターミー。

 

「失礼しました。覚えにくそうですね。

 大鬼熊瓦之丸・権三郎左衛門です。略してタツヤと呼んでください」

「どこにその3文字が混ざってんねんな!? 明らかにそっちが本名やん?!」

「むぅ、ばれただとっ……!? 貴様ッ、見えているなッ?!」

「もうわけがわかんないよーぅ!!」

 

失礼、もう作品の構成上どっかでボケないと尺が短くてどうしようもないんです。

 

「というわけで船長に頼まれて演奏しにきたために、こちらに居させてもらってます」

「あ、はい、よろしくです!」

「うん、よろしゅーな! 冗談抜きで期待してんで!!」

「あーごめんなさい、それ無理です」

『えっ?!』

 

これは流石に事情を説明せねばなるまい。

あ、あくまでも多分出来ないって理由じゃなくてな。こっちの理由さ。

 

「アカネさんは知ってるはずですけど、ピンクで浮いてた子いたでしょ?

 あの子、もう帰っちゃったんです。なので一番難しい音を出せない状態です」

「あーなるほど、確かにあの子が出してた音こそ一番斬新やったもんなー」

「ピアノのメロディーラインのほうも忘れないでくださいよ?(ニヤ」

「うんうん、大丈夫。あれもホンマびっくりしたしな!

 でも確かにあの最後の曲のは、あの子がおらんとな……」

「そんなに凄い曲だったの?」

「うちはあれで人生観がひっくり返った」

「うわぁ、聴きたかったぁ~……」

 

この世界、IIDXの曲はかなりウケが良いらしい。

まあ、殆どの曲はミュウがおらんと出来んがな、きっと。

せいぜい出来るの、三味線持って1st samurai位じゃね?

 

「ま、それでも(弾く機会があれば)他にもレパートリーは沢山あります。

 若輩で申し訳ないですが、楽しみにしててくださいね」

「うん、楽しみにさせてもらいますね!」

「なんでこんな年下に敬語なんですかww」

「え、あぅ、そのぅ……」

 

はがね使いなのに。ん、待てよ……?

はがね使い=硬い=態度が硬い=おどおどしい……!?

 

こ   れ   だ   !!

 

俺は今、真理を見た!!

 

 

 

まあそんなもんはトイレに置いといて。

 

「じゃあ俺はもうちょっと会場を見て───」

「オーゥ! リトルボーイ!? ヘィヘィー! 元気ですカー!?」

「ぬぉう!?」

 

いきなり首にがしっと腕をかけられ、びっくりする俺。

もうこんな現れ方をする人は一人しかいない。そらーもう一人しかいない。

 

 

 

 

 

露店のお兄さんだっ!!!!!!

 

 

「それダレネー?」

 

あ、全然違うし。アメリケンやった。

 

「あ、マチっさん! こんにちわー!!」

「こんにちわ、マチスさん」

 

いきなり現れたマチスさんに気楽に挨拶する2人。

まあ、そーか。2人ともジムリーダーだしね。威厳の欠片もねえけど。

それに加えてマチスさんも、俺と会う時いつも仕事してる感じがしないから忘れがちだけど

一応は、ジムリーダーだからな。ここにいてもおかしくは無い。

 

「で、リトルボーイ、一体どうしたネー?

 なんでこのPARTYに居るネー? スタディティーチャーで呼ばれたネ?」

「あーいや、違います。楽団として呼ばれた感じっす」

「ホワィ? オーケストラぁ? キャンユープレイミュージック?」

「イエス、ジェネラル! 一応金に困ったら音楽で食いつないでる身なんでねー」

 

そういやマチスさんには音楽関連の事一切見せた事なかったもんなぁ。

出会って間もないから仕方ないけど。実際もっさんも知りはしたが見てないわけだし。

 

「へぇ~マチッさん、この子の音楽の腕知らんねやなー。マジ、すっごいで? 惚れてまうで?」

「リアリィ? それはベリー楽しみネー!!」

「あれ? アカネさん俺に惚れてくれたんですか? そのおっぱいは非常に好みなので結婚してください」

「胸だけしか見てないやつと結婚なんか出来るかーい!!」

 

ズビー(突っ込み

 

貴様ッ、見えているなッ……!!

 

「あはは、すっかり馴染んじゃったんだね。もう昔からの知り合いにしか見えないよー」

「あれ、そーか?相性ええんかね?」

「そうかもしれませんねぇ、もうこの際だから俺ら幼馴染ってことにしましょうか」

「それもらいッ!」

「もらうのっ!?」

「アハーハー! 本当にリトルボーイが居ると、周りも皆グッドフェイスネー!!」

 

そらぁ恐縮です。ん、あれ……そういえば。

 

「そういやマチスさん、俺のドレディアさん見ませんでした?

 かなりの時間、目ぇ離してたから彼女が何してるかわかんねえや」

「ンー? フラワーレディ? あっちでディグダ(?)とペアで

 静かだけど豪快に沢山イーティングしてたーヨ?」

 

まーた食ってんのか。

ドレディアさんらしいといえば非常にドレディアさんらしいが。

 

「やれやれ、ちょっと拾ってきますかね。

 一応お二人にもドレディアさん紹介しておきたいし」

「そのドレディアって子さぁ。もしかしてあそこで光ってる子? 後ろにあの細マッチョおるし」

「えっ」

 

そう言われ、指差された方向を見てみる。光ってるってなんだ?

 

 

 

あれ、マジで光ってる。なして?

 

 

 

そしてリュックから音が出ていることに気付く。ポケモン図鑑の音だな。

 

「ちょっとすみませんね」

「うんー」

「はい」

 

マチスさんは返事を返さず、肩越しに俺とポケズ(ポケモン図鑑)を見やる。

 

なんだこりゃ、緊急アラート? カチっと更新してみたところ、驚きの情報が目に入る。

 

 

 

 

 

 

 

[> おや……!?

   ドレディアの ようすが ……!?

 

 

えっ、おいちょっと待て。

 

 

『何でっ!?』

 

俺とマチスさんが一緒に驚く。マチスさんもこれが進化の前兆なのを知っているのだろう。

 

ポケモン図鑑からあの音楽が流れてくる。

 

 

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でーっ♪

 

 

え、ドレディアさんマジで進化すんの!?

君最終形態ちゃうのそれ?! 俺も聞いた事ないよ!?

 

 

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でーっ♪

 

 

 

 

そして、俺等の驚愕すら置き去りにして音楽が終わる───!!

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話 ついに

 

 

そしてポケモン図鑑から発せられる音楽が鳴り止み───!!

 

 

 

キュピィィィイインッ!!

 

 

 

 

 

 

 

「ドレディアーっ!!」

 

 

 

 

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

[> おめでとう! ドレディアは

   おなかいっぱいに なった!!

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

 

 

 

「知るかぁぁぁぁぁぁぁぁあああァァァーーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

俺は全速力でダッシュして、ドレディアさんの後頭部を狙い手刀を撃ち放った。

ズパァァァンと良い音と共に、ドレディアさんは目を回し地面に崩れ落ちた。

 

 

超期待させておいてなんだこれはッ!!

おまっ、おなかいっぱいになったとかどうでもいいわッ!!

なんで進化の音すんだよッ! Bキャンセルしたらどうなるんだっつーの!!

 

横でディグダが【あ、姐御ッ!?】と慌てふためいているが知った事ではない。

おのれドレディア、期待させておいてこんなオチとか!!

お姫様の次はもう王女様しかないと期待したのになんだよこれぇ!!

 

 

「アッハッハッハッハーーー!!www ユー、本当面白すぎーネー!!www

 エンターテイナーネーwwww ウォッフwwwwフォッwwwww」

「笑いすぎだこの野郎ッ! こちとら本気で期待したんだぞッ!!」

 

正直洒落になっていない。周りの人達もドン引きである。

 

 

あれ? ドン引きなのは攻撃した俺に対して? まあいいやどうでも。

 

 

「はー……ちょっとドレディアさんの気付けしてきますわ……」

「オーケィー。プリティーガール達には伝えておくネー」

 

ったく、まさかのオチだよこれ。とっととトイレに向かうか。

 

───…………。

 

「───そろそろ、か?」

 

時間帯的に、そろそろ事が起こってもおかしくは無い。

俺は思わず、一人で静かに呟いた。

 

 

さて、そんなこんなで全員連れて男子トイレ。

ドレディアさんは確実に女の子だが細かい事は気にするな。

 

軽く水をぱしゃっと掛けて、ドレディアさんを起こす。

 

「ディ~……ディァ~……?」

 

目を覚ましたドレディアさんは記憶が若干すっ飛んでいるらしく

俺に【なんだ、何が起こったんだ】と聞いてきた。

 

「うん、はた迷惑な事してすっごいガッカリしたからとりあえず気絶させた」

「#」

 

【なんじゃそれは】という意思が垣間見える。

 

「けどまあ、それも一旦置いておくよ。───俺の予想が正しければ、そろそろ何か起こるはずだ」

『ッ!!』

 

完全なタイミングこそ、わからないが……そろそろパーティー参加要員も全員集まりきるはず。

ここを逃せばむしろ空気を読め、とばかりの話になってしまう。

逆にここいらで何も起こらなければ俺も楽だなぁ。

船長さんに報酬もらって、適当な曲弾いてワーってなってもらえれば嬉しい。

 

 

しかし、事態をプラス思考に持っていき続けるのは得にならない。

最悪の最悪を予想して対処に回った方が、能率はいいのだ。

良い事の能率なんて放っておいても回転率いいしね。

 

「じゃ、とりあえず……作戦予定の為に、みんな悪いけど一旦ボールに戻ってくれ」

「ディッ」

「ッb」

「グーグ」

 

ピシュゥゥン。

 

「───これでよし……あとはほぼ想像通りに進んでくれれば、逆転の一手位はすぐに成るだろう」

 

淡い期待は削除しておく。もう一人当てもつけなきゃならないしな。

そして俺は皆の入ったモンスターボールをしまった。道具の準備も、万全だ。

 

 

 

 

「ただいまー。どうも変な時に抜けてすいませんね、マチスさんにアカネさん」

「かまへんよー、うちもあれは笑わせてもらったし。

 おなかいっぱいになったって、なんやねんあれwwww」

「フラワーレディ、クレイジーにも程があるヨwwwww」

「俺の期待は深い悲しみに包まれたっ……!!」

 

もう2人とも大ウケである。困った人達め。

っと───……

 

「すみません、アカネさん。良ければ仲介をしてもらいたい人がいるんですが……」

「ん、なんや?」

「ジョウトで格闘タイプに特化してる人って居ましたよね。シジマ……さんでしたっけ?」

「うん、あのおっちゃんなー。ポケモン並に強いけど、シジマのおっちゃんがどないしてん?」

「ええ、ちょっとお話させてもらいたくて」

「まあ、別にええんやないかな。ついてきてー」

「いってらッシャーイ」

 

マチスさんに見送られ、会場をとてとてと歩いていく。

そして上半身裸のおっさん、シジマさんが見えてきた。服着ろあんた。なんで下だけタキシードなんだよ。

 

「ぅーぉい、シジマのおっちゃーん」

「ん? おぉ、アカネかっ! どうしたー?」

「なんかよーわからんけどこの子が話したい言うてなー」

「どうも、こんにちわ」

「んぅ? どうした坊主! わしと一緒に鍛えるか?」

 

 

あかんこの人脳筋だ。バトルジャンキーとはまた違った厄介度。

 

 

って……そんなところでひるんでいる暇は無い。

 

「……少し、真面目なお話があります。こちらに来て頂けませんか」

「……? 本当に、どうしたんだ坊主?」

「ん……? うちはおらんほうがええかな。んならマチッさんとこに戻っておくわー」

「おぉアカネ、マチスさん見つけたのか! わしもよろしく言ってたって伝えておいてくれ!!」

「ぅいーぅいー」

 

そうしてアカネさんは去っていった。さて、と……

 

「こんな賑やかな場でお手数を掛けて申し訳ありません」

「いや、大丈夫だ。お前さんが纏ってる雰囲気で比較的真剣なのはわかるからな」

「ありがとうございます、実は……──」

 

 

「それじゃあ、もしもそうなったらお願いしますね」

「───わかった、もしそうなったら任せておけ」

 

最悪の事態に陥った場合の仕込みも伝え、シジマさんと別れる。

俺も手持ち無沙汰になったので、適当に腹が膨れそうなモンを食い歩いてみる。

 

そしたらまた知った顔から声を掛けられた。

 

「ん……? 君はタツヤ君じゃないか?」

「え、あ───」

 

……そう、か。一応こいつもジムリーダーだったんだっけか。

この場に居なければ、確かにおかしい話だな。

 

俺は声を掛けられた人物へと挨拶を返す。

 

 

「こんにちわ───サカキ、さん」

 

 

 

そこにはロケット団の頭目、サカキが居た。

俺と彼が何故知り合いなのか……それは母親に原因がある。

母親はトキワジム他の名誉トレーナーとなっており

ジムリーダー連中の一部にも母親を師事している人が何人かいる。そのうちの一人が、サカキなわけだ。

小さい頃にこれを知った時、冗談抜きでひっくり返りそうになった。

 

 

「久しぶりだね、元気だったかね?」

「ええ。手持ちのポケモンには何度か殴られてますが、比較的元気にやってます」

「な、殴られ……?」

 

ん、何か問題があったかな。

 

「レンカ師匠から話は聞いているよ。

 挨拶もなく旅立ったんだって? とても寂しそうにしてたよ(笑」

「あーなんてーんすかねぇ。機を見るに敏也って感じです」

「ハッハッハ! さすがはレンカさんの息子さんだ。

 まあレンカさんもここいらで君を探し回っているみたいだし、すぐにまた逢えるのではないかな」

「あ、そうなんですか?」

 

だからやたらフーちゃん見るのか。別に家に居ればいつでも逢えるだろうに。

……あれ? そういえば俺一度も家に戻ってねえぞ。

 

「ところで君は何故ここに?」

「なんかみんなにそれ言われるなぁ。演奏楽団として船長にとッ捕まりました」

「ああ……一度君の腕は聴かせて貰ったが……

 レンカ師匠を初めて見た時よりびっくりしたからな、ある意味では」

 

褒め言葉なんでしょうね、ありがとうございます。……なんか納得行かんもんがあるけどさ。

 

「サカキさんもやはりお忙しいんでしょうね。最強のジムリーダーって位だし」

「いや、そんな事も無いさ。下に付いて来てくれるトレーナー達がよくやってくれている」

 

この謙遜の仕合には余り意味はない。

ただ、俺がサカキを警戒している事を悟られるのだけは不味そうだ。

 

あのくるくるパーであっけらかんとした母親の事だ。

おそらく、俺がバーリトゥドゥ限定で強い事はちらりと話してしまっているはず。

今回の先の予想に気付いている様子を見せたら、下手すると別室に拉致られかねん。

 

「まあ、今日はゆっくりと羽を伸ばさせてもらうつもりだよ。君の演奏、楽しみにさせてもらうよ」

「ええ、ありがとうございます」

 

お……いい感じの話の区切りになったか、ありがたい話だ。

なんか悟られる前にとっとと逃げよう。

 

 

 

ってかこの人、この船の襲撃なんてことやらかして俺の母親にバレたら

フーちゃんの絶対零度を生身で喰らう事、理解してんだろうか。

 

でもこれでひとつ情報が増えた。

おそらくは───この情報は役に立つ(・・・・)

 

 

 

 

先のサカキとの会合をひと段落させて行く場所もないため、アカネ・ミカン連合のところへ足を運んだ。

マチスさんはどっか他のあいさつ回りに行った様である。

俺の本来の出番もまだまだ後らしいしな。メインとかやめろし。

バックミュージック担当でええっちゅーねん。

 

「───あ、そろそろパーティー全体の挨拶みたいなのが始まるのかな?」

「んぉ? そーみたいやなぁ」

「ですね」

 

会場の、壇上に一人の若い人が上がってきた。

 

───……。

 

「本日は皆様、お忙しいところをお集まり頂き、誠に有難う御座います。

 あまり全員が集まることが少ないジムリーダー様達ですが───」

 

主催者っぽい人の長ったらしい方便が続く。

こういうのってよくもまあ、ここまで文章になるもんだよねぇ。

 

「───交友を深めて頂きたく集まったこの場ですが、

 このような形にするのは非常に申し訳なく思います───」

 

……やっぱり、な。こうなったか。

 

そのおかしな建前文章に、俺と、とある2人を除いた全員がざわざわし始める。

 

「─────そういうわけで。全員大人しくモンスターボールをこちらに渡せ」

 

会場の扉が全て開き、黒ずくめのゴミ共が会場に入り込んでくる。

その横には全員ビリリダマとマルマイン、他にもヘルガーやグラエナに

凄いモノではドンカラスまで見受けられる。

 

「えっ、な……な、なに、これ……!」

「ど、どういう、どういう事なんですかっ!?」

「…………。」

 

今は俺の予想している事情を説明しない方がいいな。返って変に冷静になられて目立っても困る。

 

 

 

 

───この場は、これからのこの船は。

 

 

非情に徹しきれないヤツは、邪魔(・・)だ。

 

 

 

「おらッ!! とっととテメェラのポケモン出せやっ! どうなっても知らねぇぞ!!」

「う、うぅ……うーっ……!!」

「そん、な……、何も、何も出来ないなんてっ……!」

「……───。」

 

 

 

横に居る二人が悔しがりながら、相棒の入ったモンスターボールを差し出す中で

俺も荷物を下ろし、リュックの中からモンスターボールを相棒の数の分、提出させられた。

 

 

 

 

さーて。ここまでは完全にあの日からの予測通り。

この先も上手く行けば問題ないんだけども、な。……まぁ、せいぜい気張りますか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話 逆襲1

 

全員が全員相棒の入ったモンスターボールを回収され、ただ悲痛に沈黙の顔をしている。

 

ま……その中で唯一その手の表情を見せてない人が2人程居るがね?

 

サカキと俺だ。

 

まあ、サカキは当たり前だろうな……。

自作自演みたいなもんだ。こういうのマッチポンプって言うんだっけ。

 

 

シジマさんにも先程会った時「もしかしたらこういう事になる」とは伝えてはいたものの

真剣に答えてくれては居たが……現実味が全然無いからなのか、半分は笑い話と取られたようだ。

無警戒のまま入り込まれてあっさりボールを回収されている。

 

 

「これ、なんなん……うちら、どうなってしまうん……」

「うぅ……アカネちゃん、私、怖い……」

「んーまあ、もーちっと狭い部屋にみんな集められて人質、でしょうね」

『……え?』

 

ここで初めてアカネさんとミカンさんは、俺が慌てていない事に気付いたのか俺の方に視線を移す。

 

「タ、タツヤん……(こわ)ないんか……? 何されるかわかったもんやないんやで……?」

「気にするだけ無駄ですよ、そんな起こりえない未来なんて」

「お、起こりえないって……?」

 

ミカンさんは不思議そうに声に出す。

 

「どういう事やの、タツヤん。外の人たちが気付いてくれとるんか?」

「いやー? 十中八九気付いてないでしょう。騒動始まってまだ5分しか経ってないっすよ」

「じゃ、じゃあ、なんでっ……?! なんでそこまで言い切れるんやっ……!?」

 

周りにはまだロケット団がいるので、アカネさんは小声で俺に答えをせかす。

 

「そんなもん決まってるじゃないですか」

「え……?」

「どういう事……?」

 

 

 

 

 

 

「─────俺が、覆すんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

そうして、人質全員を見渡しの良い環境にするため

パーティーホールより少し狭い部屋に全員移動させられる。

 

その間にこちらは状況を整理しておこう。

 

まず、船員さんは船長含め、全員拘束されているのは間違いない。

これだけ大規模なパーティーの従業員と船員なのだから……

確実にパーティーが始まる前に全てロケット団に摩り替わっているはず。

殺されてはいないはずだろう、この世界その手の倫理にすっげーゆるいし。

 

 

 

そして、ジムリーダー達は基本ポケモンと一緒に戦わないと役に立たない(・・・・・・)

今、そのポケモンが居ない彼らに協力を仰ぐだけ無駄な労力であると結論付けた。

下手にポケモンと同じ部屋において、何かあったら即座に謀反が始まるから、ね?

 

 

 

俺はこの状況になるのをかなり前から予測していたため

『基本』から外れた存在、つまり単体で戦えるシジマさんに声を掛けて説明したのだ。

ただの一度だけ、俺の言った通りに動いてくれればOKだ。

 

しかし格闘家という『正々堂々』とした風潮がある世界の住人都合で

奇襲戦では下手したら殺されてしまうだろう。

シジマさんは、予定している一度だけ協力してくれればいい。

 

 

さて、ロケット団の見張り含めて全員部屋に入ったか。

俺の予測が正しければ、ここで出てくる見張り用ポケモンはビリリダマか───

 

「とりあえずお前らはこれから人質になってもらう。下手な事したらこいつでドカンだからなっ!!」

 

パシュゥゥゥン

 

「ガゴガーグゴォォォォン!!」

 

───その進化系のマルマイン、だ。

 

んー、もうちょっと情報仕入れておくか……基本ロケット団って間抜けばっかだし釣られるべ。

話しかける前にシジマさんに目を合わせ「今はまだその機会じゃない」と伝えるために首を振っておく。

 

「あ……あのっ、人質って、どういう事なんですかっ……!?」

「あぁ~?」

 

凄く面倒そうに対応しやがるロケット団。

大体の予測は付いているのだが……予測ではない、ちゃんとした情報も聞きたい。

 

「簡単な話よ、ポケモンリーグにてめーらと身代金の交換……ってところだ」

「そ、そんな……」

 

一応しおらしく対応しておく。油断大敵は後々からだ。

 

「ったく、本当にバカばっかだねぇ~。

 こんなところに一同に集まるとか何か起こったら大問題なのわかるだろうによww」

『ぅ、ぐっ……!!』

 

ジムリーダーと、研究者達の大部分がこの低俗な発言に反応してしまう。

いやいや、貴方達は別に何も悪くないんすよ? 悪いのはこのカス共でしょう。

 

さて……この黒い物体に付き合うのも飽きた。俺はのんびりと離れ、シジマさんの横にまで行く。

 

「坊主……お前の言った通りになっちまったな……

 だけどこの状況になるまで待てっつーのはどういう事だぁ……?」

 

小声で話しかけてくるシジマさん。

 

「そりゃー今ここにいるみんなは人質でもありますが

 俺らが動いて守らなきゃならない人達でもありますんで。

 完全に集まってもらって危機感抱いてくれた方が俺としては楽ですから」

「……どこまで、予想してた?」

「ほぼ全部です」

 

俺の言葉に驚愕の色を浮かべるシジマさん。黒いヤツはそのシジマさんにも気付かず

他のジムリーダーが悔しがっているのを見て、優越感に浸っている。

 

 

───さて、と。始めますか。

 

 

「シジマさん……今から始めます。予定通りお願いしますね。

 これが成功しないと───全て、詰みます」

「……ッ! わかった、任せておけっ……!」

 

そうして俺はシジマさんのところも離れ、ロケット団の前を普通に通り過ぎる。

「なんだこいつ?」程度には思われるだろうが……なんせ俺の体は10歳ボディだ。

これで警戒しろという方がおかしい。

 

 

状況は整った。

 

 

俺   ←黒   シ   の位置づけだ。

 

 

 

─────んじゃ、やりますかねっ!!

 

まずは、俺はおもむろに。

街で適当に拾った小石をポケットから出し。

ロケット団も俺の動きに疑問を感じ、その動きを確認する。

 

そして俺は、石を投げた。

 

 

 

もちろんロケット団に投げるなんてバカな真似はしない。

適当な位置にころんころんと転がって止まる。

 

ロケット団もジムリーダー達や研究者さん達も、俺の動きに謎を感じた。

───頼みましたよ、シジマさんっ!!

 

 

そして俺は『黒いヤツもばっちり俺の動きを見ている』状況で、黒いヤツへと殴りかかった。

 

 

「……なッ!? てめぇ、ナメんなぁクソガ───」

 

 

 

 

 

「───ッ!! ゼァァァァァアアアア!!!」

 

 

 

 

 

こちらに極端に視線が集まった瞬間、後ろからシジマさんが飛び出すッッ!!!

 

 

ドッグォッ!!

 

 

「ぃえぎゅぁッ……?!」

 

 

そして黒いヤツは崩れ落ちた。

 

場に残された敵勢力はマルマインのみ。こちらは別に放置でいい。

 

ん、何故かって? 簡単な話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先にトレーナーの口を封じてしまえば……心配なり驚愕なりで、咄嗟に動けないのがポケモンなんだよ。

 

 

「んっふっふっふ……」

「フフフ、ハハハハ!!!」

 

そして俺とシジマさんは2人で歩み寄り

 

「予定通りです。ありがとうございます」

「なんのっ! 坊主のアシストも本気で凄かったぞっ!」

 

俺の身長が若干足りないが、俺は手を挙げシジマさんはそれにあわせ

片手ハイタッチの形で手をパシーンと鳴らし合った。

 

 

 

 

さてここからは解説となる。あくまでも俺の持論が予定通りだっただけだが。

 

 

 

まず、ロケット団は見張りとして完全に警戒してはいた。しかしその警戒対象は『全体』でしかない。

個々の戦力を確認するとまではしていなかったのだ。

さすがにシジマさん辺りの肉体が凄い人は注視していただろうが……

逆に言ってしまえば警戒するに値しない俺やツクシ君(だよね?あれ)は

完全に警戒の外に置かれたわけである。

 

故に、その予想外(●●●)を利用し、俺がロケット団の注意をひきつけることによって

全体の感覚の殆どを俺に向けるように仕向けたのが、さっきの謎の小石投擲と殴りかかった行動である。

 

そしてここで最大の障壁となると思われるマルマインであるが

『今回の場合に限り』戦力外なのである。理由は2つほどある。

 

・俺自身が子供であり、黒いヤツが『自分だけで対処出来るレベルと判断』し

 指示を送らない事が目に見えている。

 

・ここでマルマインに指示を送り、それこそだいばくはつなんて指示した日には

 確かに集団という意味では日本人的な意味でも正しいが、自分も一緒に吹っ飛ばされるわけであり

 自殺志願者でもない限りは、我が身可愛さはあるはずだ。

 

という状況に成るのを予測した。

 

あとはここまでの状況を作り出してしまえば

口裏を合わせていた通り、シジマさんが飛び出してぶっ飛ばすだけだ。

 

 

これが今回の俺の予測であり、策もしっかりと成功を果たした。

 

 

───ついでに『武器も1個仕入れる事が出来た』。

 

 

 

 

そこで一緒に驚愕で見ているサカキさんよ。

どうだ? 予想外の事態ってなぁ───『楽しい』だろ?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話 逆襲2

 

……完全にしてやられたッ。

私はレンカ師匠からその情報を聞いていた上で、彼を……タツヤ君を過小評価しすぎていたッ……!

 

今、彼が私の団員を倒した事によって───彼らは全て人質の意味を成さなくなる可能性が非常に高い。

 

一般的に思われる事としては、数の暴力で見張りを無理やり黙らせる事であるだろうが……

そんな事をすればたちどころに騒ぎとなり、再び私の団員が集結して完全に拘束する事が目に見えている。

 

しかし一切の騒ぎ無く、この状況を作り出したのであれば話は別だ。

 

 

この作戦を始める前に、団員には言い含めていた事がある。

私も表の姿としてジムリーダーであるが故に、この集まりには参加しなければならない事情を抱えていた。

故に事が起こった時、私の扱いで不自然が浮かび上がった場合全てがバレてしまい

完全に追い込まれる可能性も小さいながらあったのだ。

 

だからこそ「一人の人質として扱え」と、全員に伝えている。

 

そして、人質として成り立った場合、絶対に確認に来るなとも伝えた。

私の裏事情があるために、見張りも一人しか配置しなかったのだ。

しかもこの見張りには私の顔を知らない者を(あて)がわせていた。

 

そして彼は見事なまでに騒ぎを起こさず、私の団員を無力化させてしまった。

一連の動きを見ていればわかる。あれは───彼のあの動きは『戦い』だった。

自分を囮とする形での、『戦い』だったのだ。

 

そして囮の役目が十分果たされた後、主戦力であるシジマ殿が飛び出したのだろう。

会話を聞いていてわかった。あれは全て予定されていたものだったのだ。

 

 

タツヤ君ッ……! 一体、一体どこから予想を始めていたッ……!?

まさか、まさかとは思うが、私の───

 

 

 

 

 

 

「───ッッッ?!」

 

 

 

 

タツヤ君が、一瞬こちらを見てきた。

 

そのタツヤ君の表情は、全てを物語っていた。

 

【楽しいか? サカキさんよ。】と。

 

彼は……私の正体に気付いている……!

間違いない。私がロケット団のボスなのに完全に気付いている……!

 

私は、彼を完全に舐めていた……。彼は……「野戦の天才」などではない。

 

 

彼は───

 

 

 

野戦の───『構築家』だ。全てを自分の思う方向に進める、策図屋だ。

 

 

 

 

とりあえず第一段階完了。ついでに手に入れた武器も説得しよう(・・・・・)

俺は一旦シジマさんに後ろに下がるように手で指示し、マルマインに話しかけ始める。

 

 

「さて、マルマイン───」

「ッオォォン!?」

「お前の選択肢は、既に無いに等しい。

 1つ目。役目を果たすために主人もろとも(・・・・・・)だいばくはつ、か……

 2つ目。主人の身柄の安全の為に、俺の言う事を聞くか、だ。

 お前もポケモンとはいえ……この状況が完全に自分の不利なのはわかるな?」

「ッ……」

「ついでに言おう。俺も出来ればそんな事はしたくないが……

 俺らに牙を剥いたコイツを、別に生かしておく理由もなくてな?

 ───今すぐに、殺したっていいんだ」

「ちょっ?! タツヤんっそれだけはあかんッッ!!」

「イエス!! リトルボーイッ、キリングだけはバッドネ!!」

「──っせぇな、ちょっと黙ってろ」

『ッッ……!!』

 

後ろでぺちゃくちゃとうるさい連中をマルマインごと黙らせる。

交渉って言葉も知らねえ平和ボケ共は黙っててくれ。

 

「さて……マルマイン、俺は本気だ。お前は主人がどうなってもいいのか?

 俺の言う事を『一度だけ』聞くなら、こいつの命の安全は保障しよう。

 俺は嘘を付くし、人も騙す。けどな───」

 

交渉において平然と嘘をつける事は、自分に流れを引き寄せる際の必須スキルだ。

しかし日頃からそういう事ばかりしていれば、信用が失われていくのも然り。

 

だが、譲れない境界線というものは───あるものなのだ。

 

「───約束だけは、守ってやるからよ。俺にその力、貸してもらうぞ」

「…………。」

 

マルマインは悲痛な面持ちをしながら、選択の余地が殆ど無いのを改めて悟る。

黒いヤツの近くに一旦転がって行き、自分のボールを加えて俺の所に転がってくる。

 

「───よし、交渉成立だ。

 一度だけだ───それで、必ずコイツは生かしてやる」

 

キュゥゥゥゥゥン。

 

元々殺す気なんてゼロだけどな。

俺だって出来るなら人殺しなんぞ絶対にやりたくない。確実に夢に出てくる。

 

そう、要はハッタリというやつである。

 

やる気もないのにやるやる、という……まあやるやる詐欺のようなものだろう。

しかし時と場合を間違えなければ、自分が優位に立った上で

便利に交渉事を進める事が出来る、目には見えない武器だ。

 

 

そして俺はこれを使い、「だいばくはつ」の権限を1回獲得したわけである。

 

 

「タ、タツヤん……! 殺しだけは、殺しだけはあかんでっ!?

 いくら正当防衛でも、タツヤんまで犯罪者になってまうっ!!」

「そうネッ! キルだけはストップネ! 他にいくらでも方法はあるヨ!」

「大丈夫ですよ、別に殺すつもりなんて欠片もないですから」

『……ハッ?』

「───ハッタリ、ってやつですよ。

 マチスさんも俺との野戦訓練で持論は聴いたでしょ?」

「……ォーゥ、完全にやられてしまったネー。本気にしか見えなかったーヨ」

「それがハッタリの本懐ですから」

 

でもこの会話は一応マルマインにもボールの中で聴こえているはず。

なので後押しだけはしておこう。

 

「───ま、必要になったらいつでも殺す覚悟はありますが、ね?」

『───────────。』

 

演出効果を出すために、自分の中でとても綺麗な笑みを浮かべて、そうのたまう。

こんなのが見た目10歳で、しかも無邪気に笑いながら言うのだ───不気味でしか、ないだろう。

 

 

「───わかったネ。リトルボーイ、これからどうするノ? ミー達はどう動けばいいネ?」

「あぁ、一切動かないでください。俺が全部始末してきますんで」

『ハァァァっ?!』

 

全員が全員素っ頓狂な声を上げる。

んだよ、うっせえな……その方が確実なんだっての。

 

「き、君一人でかっ!? そんなこと出来る訳が無いじゃないかっ!!」

 

そういって今まで聞いた事が無い声が場に混ざる。

おぉ、生タケシだ。ニビジムリーダーの生タケシだ。

 

「今、一人で覆したじゃないですか」

「そ、それはシジマさんがやってくれた事だろう?!」

「───残念だがタケシの坊主、今回の内容は全部───本当に全部、そのタツヤって坊主の策略だ」

「なっ……──」

「俺は全員が人質に取られる前に『こうなるかもしれない』って説明を受けた上で

 理想的に終わる形として後ろから襲う事を提案されただけだ」

『…………。』

 

全員、サカキも含めての沈黙が部屋を占める。……まあ無理もねえわな。

情報なしで認識すりゃ、俺はただの小僧だ。その点については文句もない。

 

「で、でもミーも戦えるね!!

 アーミーアーツはマイカントリーでもトレーニングしてたネ!!」

「わしもこの通り、ポケモンと相対程度は出来るつもりだが……それでも一人のほうが良いのか」

「ええ、はっきり言って全員の戦力を考えても───付いてこられても、邪魔なだけです」

「ッ─────!」

 

その言葉にシジマさんが悔しそうに目を伏せる。

こういう時はオブラートなんていらない。不快に思われてもストレートに伝えるべきだ。

 

「ミ、ミーは違うヨー?! ユーのバーリトゥドゥちゃんとスタディしたネ!!」

「勉強している分だけまだまだ未熟って証明です。

 足を引っ張られたらおそらく即座に死ぬので。俺もマチスさんも、ね……」

 

そう、こうやって普通に会話こそしているが……今の時点では完全に不利な事には変わりは無い。

右に進むか左に進むかを間違っただけで、人生が瞬時に終わる可能性すらあるのだ。

その状況で足手まといを護り切れる程、俺は天狗ではない。

 

「それに……この部屋に居る分には安全は確保されますからね。

 まずバレる事もない……そうですよね? サカキさん」

「ッ……何故、私に問うのかな?」

「さて、なんででしょうね~♪」

 

ジムリーダー達も研究者達も、何故ここでサカキを指名したのかは疑問に思っている。

まさか最強のジムリーダーが闇の組織のボスなんて思わないだろうからな……。

俺は前世が故に知っているが。

 

そしてここで船内にサカキが居るという情報が生きてくる。

まさか今回船を制圧しているロケット団の殆どが、

サカキをボスと認識していないなんてことはないだろう。

つまり今のこの状況はおそらく作り出された(・・・・・・)ものだ。

 

普通に考えて、そんな状況を作るならまず安全や身分の揺れが発生しない状況で作る。

そんな状態を考えて、ボスであるサカキがいるこの部屋に

ロケット団が無駄に確認しに来るなんて事、俺には考えられん。

加えてサカキ自身がこの部屋からロケット団に向けて、何かメッセージを発信する事もとても難しいはず。

 

───故に、この人質の部屋は、あの時黒いヤツの無力化に成功した瞬間から

ロケット団からの安全が保障されたようなものなのだ。この状況は、『動かない』。

 

ロケット団達はこの人質達に関して、

『反乱に動く事は無い、だってボスも居るし』と誤認を発生させている可能性だって高いのだ。

どこの世界でも頼りになる上司が作戦に混ざってりゃ、信頼感もひとしおだってーねぇ。ククククク。

 

そして俺も人質を気にしなくていいなら自由に動ける。

10の足手まといの中での1の救いを求める程、俺はバカじゃない。

あの前世の戦闘経験は伊達ではないのだ。結局頼れるのは俺一人だけ。当然の状況、というやつである。

 

 

 

「んじゃ、みんな出てこ~い」

 

 

 

俺はボールを腹から3つ取り出す。

 

パッパッパシュゥゥゥン。

 

「ッディァァー!!!」

「ッ─────!!」

「グググググ!!」

『ええええええええええええええええええ!?!?!?!?』

 

元気良く出てきた俺のポケモン達に、部屋に居る気絶した黒いのを除く全員が驚いている。

 

「な、なな、なんっ……なん、でっ!?」

「ど、どうしてっ……!? あの時、タツヤ君もボールを持っていかれたはずじゃっ……!?」

「な、なんで君は今までポケモンを出さなかったんだっ!?」

 

と、アカネさんとミカンさんの順で俺に突っ込みを入れてきて

最後に生タケシが俺に疑問をぶつけてきた。

 

「よく考えればわかる事でしょう?

 俺が渡したボールは中身が空のボールってだけの話です。

 ドレディアさんしばいて「ディ#」気付けに行った時に、全員ボールにしまって腹に仕込んでたんですよ」

 

これも当然の事だ。

なんでボールが回収されるのがわかりきってるのに、わざわざ本物を渡さねばならないのか?

 

「ポケモンを出さなかった理由は、ですね。

 正面切って戦うよっか、気付かれずに後ろから奇襲して

 いきなり張り倒した方が効率もいいし疲れないからです」

 

これも俺の中では当然のこと。

正々堂々なんざクソ喰らえだ。言い直すならうん○食べろである。

 

「そ、そういえば確かに帰って来た時っ……! タツヤんのポケモン、全員出てなかったっ……!」

「…………。」

「───あ、ハハ、ハハハ。ああ、わかった、認めよう……。

 君と比べたらこの部屋に居る全員は、確かに足手まといだ───間違いない」

「んむ、今更ではありますが理解してもらえたようで何よりです」

 

事実に気付くアカネさんに、それを聴いた上で何もいえないミカンさん。

そして下準備の段階で遥かに上を行っていた俺に対して

ようやっと、足手まといの事実を認めてくれた生の人。

 

「まあ下手したら死ぬかもしれませんけど

 その場合は一人でも巻き添えにしてロケット団共減らしておきますんで

 もしもそうなったらお願いしますね」

「ナッ!? 何言うネ、リトルボーイ!! そんな事スピーチするなんてファールネ!?」

「ただ考えられる可能性を言っただけです。だからこんなにスムーズに足元すくわれるんですよ?」

「オゥ……確かにリアルアンサーね……」

 

 

周りに居る人たちも

「確かに……」とか「そうね……」とか認める発言をしている。

俺は仕方の無い事と思っているが、認識するのは良い事だろう。

 

「そういうわけで、被害を蒙ったとしても所詮ガキ1匹です。

 俺も死にたくないので努力こそしますが、そうなったら後はお願いします」

「……わかった。でもタツヤん、本当に……本当に、死なんといてな……?

 うち、みんなにあの音楽聴かせたい……君がおらんと、あの音楽も聴かせられへん……」

「タツヤ君……本当に、気をつけてね……」

「まあなんとかなるでしょう、武器も持ってきてるし」

 

そういって、俺は2日前に準備していたモノをポケットから取り出した。

その物体は───わっかが4つくっついて、それに持ち手が付いている形状。

 

「え、それ、なに?」

「……これで、叩くの?」

「あはは、まあ見ただけじゃわからないっすよね。

 これはね───こうやって使うんですよ」

 

俺はその4つのわっかに指を通す。

そして持ち手を持たずに、全体から包み込むように握る(・・)

 

全員が全員ハテナを…… あ、シジマさん気付いたや 浮かべているので試しに使って見る。

壁は壊れるだろうし床の方がいいよな。

 

「こうやって握って───こうするんですよッッ!!!」

 

俺はそれを握ったまま拳で床を叩いた。

結果、俺の手はわっかに守られつつ、なおかつ床に、子供が叩くにしてはなかなかの衝撃を残す。

その衝撃に全員が全員驚いた。気付いたシジマさんですら、だ。

 

 

そう、俺が2日前に金物屋に頼んだものは「メリケンサック」である。

今回の顛末を想定し、俺自身もちょっとは戦えるようにしたかったのだ。

 

「ちなみに靴の先っぽにも鉄板と鉄の塊を仕込んでます」

「……準備万端すぎネー」

「タツヤん、凄いの音楽だけやなかったんやね……」

「私より年下なのに……」

「わしがそれを貸して欲しいぐらいじゃが……ともあれ、タツヤの坊主よ」

「はい」

 

改めて、シジマさんに話しかけられた。顔を見る限り決心したかのような感じだ。

 

「わしが出来る仕事は、全力でやった。

 大人全員が役立たずなんて本気で恥ずかしいが……───頼んだぞっ!!」

「ええ、任せてください。死なない程度には頑張りますんで」

「本当に、無事で帰ってきてぇなっ……!」

「お願い、タツヤ君っ……!」

「本当に申し訳ない……──後は頼んだよ!」

 

心配なのはわかるし、してもらえるだけでもうれしいもんだ。

けど、大丈夫だと思います。だって俺には───

 

 

 

「ドレディァー!!」

「ッッッ!!!」

「グッグッグッ!!」

 

 

 

こんなにも素晴らしい、相棒達がいますから。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話 逆襲3

 

全員が集められた部屋を出て、ひとまず頭を冷静にする。

今回の船の上での騒動……何を持って決着とすれば良いのか。

 

やはり主犯人物の拘束こそ一番の結果だが……

正直現段階でサカキを犯人として差し出すのは証拠が足りなさ過ぎる。

俺がサカキ=ロケットボスというのを知っている件も証拠があるわけで無く、事前知識があっただけである。

 

 

 

となると……

 

「次に好ましいのは副長的な存在をとッ捕まえる事か……」

 

それ以外に考えられない。

犯行人物こそそこらに腐るほど居るが、それだけでは例え8割捕まっても

あいつらは止まる事は無いだろう。むしろ全員で自爆して果てる可能性まである。

 

「うん、なんか帰りたくなってきたな」

「ディ#」

「ぉぉう、わかったわかった、さすがにそれはしないから」

 

即座にふざけんなと否定されてしまった。ううっ、私が育てた子がなんでこんな事にっ。

 

 

っと、階段付近に早速か……5人は居るか?

 

「ん~……どうしよっか……まだばれない方が良いんだよね」

「─────。」

「グッグ?」

 

【釣ってみてはどうでしょう?】とな。……釣る、ねぇ。やってみるか。

 

 

 

 

「ぁー、だりぃなー……」

「まあ、一度占拠しちまえば後はお偉いさん方の仕事だしな」

『だーなぁー……』

 

                  ヒュッ

                         ころんころん

 

『ん?』

「なんだぁ……?」

「なんか転がったような音したなぁ」

「んだんだ……一応俺らも見張りって役割だし、確認だけでもしとくかぁ」

「んじゃ、5人も居るし3人残れば十分だべ。俺とお前で見てこよーぜ」

 

……ッ!

 

「やれやれ、めんどくせえなーw」

「そう言うな、暇つぶしの道具持ってこなかった俺らが悪ぃわ」

 

……。

 

 

「おーい、結局なんだった?」

「ああ、なんでか知らんけど小石だわー」

「小石ー?」

「そこら辺に転がってそうな石だー」

「そこらに誰かいるんじゃねえの? 脱走者とか」

「まっさかーw まあちょっくら周り見て」

                         シュッ

「───あん?」

                

                     ペカァァァァン

「ガゴガーグォォォオン」

「……マルマイン? お前、ロケット団のマルマインか?」

「どしたー?」

「いや、なんかマルマインいたんだわー。

 こっちに喧嘩売ってるわけじゃないし敵でも無いと───」

「おう、そーかぁ。んじゃこっち戻ってこいやー」

 

─────。

 

「……ん?」

「おーい、どしたー?」

 

─────。

 

「……? おい、どうしたー?」

「返事が無い、な……」

「……俺、一応確認に行ってみるわ」

「わかった、気をつけてな」

 

……。

 

「平気かー?」

「今んところ何もねえわ、って……ありゃ」

「ガゴガーグォォォン」

「どうだ?」

「ああ、確かにマルマインがいるわー。なあお前、こっちに来た二人どこ行ったか見て───」

 

─────。

 

「……おい。……おいッ!!」

 

─────。

 

「───おい、これ明らかにおかしいぞ」

「だな……返事が返ってきてない」

「どうする?」

「……多分たいした事じゃねーだろ、2人で確認した後報告するべ」

 

………♪

 

「ガゴガーグォォォォン」

「マルマイン、だな」

「ああ、どっからどう見てもマルマインだな」

「グォォオォン」

「お前、ここら辺に来た奴ら知らないか?」

「グォーン」

「あの部屋か?」

 

…………ッ!!

 

「よし、ちょっと見てくる。お前はマルマインと一緒にいてくれ」

「わかった、気ぃ付けろよ。何出るかわかんねぇぞ」

 

─────。

 

「───ッァァァァ」

「ッ!? おい、どうしたっ!!」

 

───掛かったッ!!

 

「なっ!?てめ───」

「ッ─────!」

「ッ─────!!」

「ッ─────!!!」

 

 

どかぼこばきべしあにゅんモッチャンアフロギシぴーん

 

 

「っふー……こいつらアホか? 1人だけでも上層部かどっかに報告に行くべきだろ。

 そう考えられる俺の発想がおかしいのかなぁ」

「ディァー♪」

「ッb」

「グッグッグッ♪」

 

全員が全員、いい仕事をして一汗掻いたところである。

なんとか2階出口部分、制圧完了っと。マルマインの囮、最強です。

警戒心がやわらかすぎる。お前らやわらか戦車の軟弱さを見習え。

 

やーわらっか戦車のこーっころーは♪っと、歌ってる場合ではない。

 

「マルマイン、ご苦労だった」

「…………。」

「───お前に憎まれんのは十分承知してんよ。

 でもな、お前がアイツを守りたいのと同じで……俺だってあの人達を出来る事なら守りたいんだよ」

「───ガゴガァー」

「まぁ、少しの間だけの付き合いだがな。互いに仕方ない状況なんだ、互いに諦めて行こうぜ」

「…………。(プイッ」

 

会話の内容は察してください。

この内容に翻訳が必要な程、野暮ではないだろう。

 

 

「とりあえずここからは時間制限付きになるだろう。

 あいつらと定時連絡を取ってる奴らが来たら流石にバレるはずだ」

「ディー」

「慎重に行きたい所だが、次辺りは集団戦とかになるかもしれない。

 今以上に気を引き締めていこう」

『ディーグッ───b』

 

静かに同意する3匹。

さァ……次は1階か……ん、1階ってそういえば……?

 

 

 

 

 

「調理場が確か、あったな……」

 

 

 

 

よかった、1階に移ってみたが、階段辺りはザルのようだ。

どうやらあの5人のうちの2人か3人は元から下のほうの警備だったらしい。

 

そして俺達は、特に何事も無く調理場に辿り付いた。

 

ここも今はシンッ───と静まり返っている。

そりゃーそうだ、調理担当者もおそらくロケット団に摩り替わって……

 

 

 

って、不味いッ!! ロケット団がまだ居るッ!!

こっちを向きそうになったところで急いでみんなで下に隠れる。

 

「あぁーん? なんか居るのか……?

 外の奴ら何してんだ、大人しく摘み食いも出来ねーなぁ」

 

ああ、摘み食いは最高っすよね。そこは認めるわ。って、そうじゃない。

 

「……こっちに来た時に一気にシバくぞっ!!」

『─────b!』

 

 

コッコッコッコッコッ

 

 

「さーて、何がいるのか───」

 

 

「敵ながら、ちょっと惨いな」

 

さすがにこれはオーバーキルにも程がある気がする。

 

まず、ヤツが覗いたところでドレディアさんのがんめんパンチが入った。

しかも限りなくど真ん中。クレヨンしんちゃんの前がみえねぇ状態。

その後慣性の法則でぶっ飛んだところで、その先に待ち構えていたディグダが

野戦で教えておいた鉄山靠を、飛んできた勢いを丸ごと反射するかのように。

そしてゴシャッって音を一瞬出しながらきりもみしたところで

 

ヒンバスのはねるが発動した。

 

しかし なにも おこらない

 

けど俺らは癒されたからいいわ。

 

「よっし、全員よくやった」

『ッb』

「ついでだ、摘み食いしてこーぜ」

「ッッッ♪♪♪ ッッッ♪♪♪」

「─────……;」

「ググ……;」

 

うん、後ろの2人は正常だ。ドレディアさん喜びすぎだっての。コケんなよ?

 

 

 

 

 

 

ま、ともあれ目的の物は手に入れた。

酒の入った瓶と、ゴミ箱にあったスーパーボール。

さて、使う機会は多分現れるのだろうが……上手く使いきれるといいな。

 

 

 




おかしなところや改訂ミスが見つけられた場合
ご報告頂けると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

33話 無双撃

厨二全開です。


 

モノを仕入れ終えた俺と三匹は、また静かに廊下に出た。

摘み食いを終えたドレディアさんがまた光りだした為、チョップでBキャンセルする事も忘れない。

こんなところでポケモン図鑑鳴らされたら堪ったもんじゃねえ。

 

 

慎重に歩を進め、ロケット団との遭遇を回避し続けていると、途中で奴らがザワザワし始めた事に気付く。

どうやら階段の見張りが居ない事に気付かれてしまったらしい。

 

 

しかしここで予想していた内容がひとつ的中している事も判明。思わずほくそえむ。

 

やはり人質にサカキを混ぜる事も前提として計画されていたらしく

人質が無事かどうかを確認しに行けないようだ。

 

これでアカネさんやらマチスさんやらが捕らえられて、俺らの前に突き出される事もなくなったと思う。

 

とりあえずは、目標地点をどこにするかを決めあぐねた為

幹部のヤツが居そうな、最初のパーティー会場まで戻る事にした。

 

そしてなんとか敵の目に映る事を避け続け

パーティー会場よりほんのちょっと離れた部屋に辿り付く。

 

「全員、大丈夫か?」

「ディ。」

「───。」

「ッグ。」

 

まあ怪我もまだしてないし、消耗も非常に少なくここまで来ている。準備の方は万端のようだ。

 

「今からパーティー会場まで行く。もうここまで手が回っているから隠れる意味が殆ど無い。

 集団戦になると思うから、気を引き締めて行くんだぞ」

『ッッ───!!!』

 

よし、気合は入ったな。タイミングを見て部屋を───

 

「こんな近場に居るわけねーじゃんよー」

「一応だ一応。次に口封じされんのは俺らかもしんねえんだぞ」

「そりゃそーだけどよぉ……」   ガチャッ

 

 

ッッ!? しまっ───

 

「ほら、いねえだろ。さぁ次──」

「……ッドレディアさん!!」

「ッァァアアーッ!!」

 

ズドムッ!!

 

「あぎょぁっ?!」

 

ドレディアさんのがんめんパンチが、部屋に入ってきた黒いヤツを襲う。

ポケモンを出す事すら怠った無警戒なやつは凄まじい威力で殴られ

入り口の向かいの壁までぶっ飛んで、派手な音を出した。

 

「て、てめぇらッッ……!! こっちだぁーッ!! こっちに居───」

「ッッ───!」

 

ディグダが素早く鉄山靠を放ち、大声で喋りかけたヤツを吹き飛ばした。

本来この技はカウンターで入らなければ最大の威力を発揮しないのだが

人間一人を気絶させるには十分だったらしい。

 

 

───あっちだぁーッ!! 行くぞーっ!!

────くっそがぁ、舐めやがってぇぇぇ!

─────こっちだこっちーッ!! 全員来いーッ!!

 

 

くっそ、さすがにこれだけ派手な音を出してスルーは虫が良すぎたか……!

こうなったら一気に行くしかないな。

 

「───……行くぞ、もう隠れて行動する必要は無いッ!!」

「ッディァァァアアアーーーッッ!!」

「ッッ!! ッッ!!」

「ッググッグ!!」

 

全員結構フラストレーションが溜まっていたらしい。

気合が入りすぎているイメージがあるが……まぁ悪い事ではないか。

 

 

そして元々近場に居たのもあり、すぐにパーティー会場に到着。

でかい扉を開け放つと、待機所にでもなっていたのか7,8人のロケット団が俺らを待ち構えていた。

 

「こぉのクソガキが……ずーいぶんと派手に立ち回ってくれたなぁ……? オイ」

「飛んで火に行く夏の虫~だっけか? わざわざこんなに人が居る所にご苦労だなぁ」

「ま、そういうわけでネズミ捕りに掛かった鼠ちゃんよぉ」

「───ロケット団舐めて、タダで終われると思うなよ」

 

口々に汚らしい発言を飛ばしてくるゴキブリ共。

うっわぁィ♪ 見事にテンプレな悪役っぷりだぁ。

 

……よし。

状況としては、やはりかなり理想的な場所だ。

 

「全員、集合」

「ディ」

「──。」

「グッ」

 

ひとまずは全体的な攻めの概要を伝えておこう。

 

「いいか皆……このパーティーホールは昨日訓練した山と思え。使える武器は全て使うんだ」

『……?』

 

全員が首を傾げる。まあ、確かに普段は気付けない武器ばかりだろうからな。

 

「そこいら中にあるだろ? テーブルに椅子に、これから出てくるポケモン達。

 加えて言うならあそこで突っ立ってるクソ共だって投げりゃ人間手裏剣になる」

『ッ!!!』

 

気付いてくれたようだ。

 

「今回はとにかく敵が多い戦いになる……。昨日教えた事、しっかりやるんだぞっ」

「ッディッ!!」

「ッッ───!!」

「ッグッグ!!」

 

題して、オペレーション・スパイクアウトッッ! 出展は前世のゲーセンからである。

 

「無駄なお話し合いは終わったかぁ? そんじゃまぁ……俺らもやっちゃいますかねぇ♪」

「おら全員出てこいやぁ!! 行って来いッ!!」

 

ペカァァァン

ペカァァァァン

ペカペカァァァァン

 

ぅーおう。こいつはまた豪勢な面子で……

 

オーソドックスなコラッタからニャースにポチエナ、ヘルガー……グラエナももちろん居る。

進化系のラッタやら、先程見たドンカラス、果てはゴルバットにレパルダスに……マニューラまでいやがる。

見事に悪役統一って感じだなぁ、おい。

 

 

「きっちり体にトラウマ染み込ませてやらぁ……全員、押し潰せぇぇぇーーッッ!!」

 

その言葉を皮切りに、本当に一斉に飛び込んできやがった。……頼むぞ、みんなっ!!

 

そして一匹のコラッタが先行してドレディアさんに───

向かってきたところで、ドレディアさんは勢い良く手を振り下ろすッッ!!

 

「ッッディ───ァァァア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーッッッ!!!」

 

ズッガァァァッッ!!

 

凄まじい勢いと形容出来るような振り下ろしのパンチに

相手のコラッタはとんでもない勢いで地面に叩き付けられた。

あまりの威力に衝撃波が発生し、敵全員が若干怯んでいる。

 

「──ッ! 今だディグダッッ!! ボーリングシュートで蹴り飛ばせェェェッッ!!」

「ッッッ!!!」

 

俺の声を聞き届け、ディグダは素早く一番手近に居たラッタに近づき

その勢いを体に乗せたまま、綺麗な蹴りをラッタにぶち込んだッッ!!

 

ズッダァァァァン!!

 

そしてディグダはその勢いを生かし切り、

完全に伸びているラッタを、クズ共の集団へと全力で蹴り飛ばす。

 

「んなっ?!」

「ちょ、おまっ───」

『うぎゃぁぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!!』

 

蹴り飛ばされた方向に居た運の悪い団員は

手前に居たポケモン達やラッタに巻き込まれ、ラッタごと壁に激突した。

 

こういう集団戦を想定しての訓練を全員に施しており

集団を手っ取り早く怯ませる方法を、一日費やしてディグダに教え込んだ。

敵を蹴り飛ばせる武器と発想させれば、まとめて敵にダメージを与えられる集団殲滅技である。

 

ディグダが横槍を入れられないように、ヒンバスも持ち前の素早さを生かし

ディグダに向かう敵に対して体当たりを仕掛け、旨く牽制してくれている。

 

ドレディアさんもドレディアさんで、とってもダーティ。

最初に気絶させたコラッタを持ち上げ、ディグダの足元へ落とす。

その意図に気付いたディグダは、再び集団に狙ってコラッタをシュート。

 

「ァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーッッ!!

 ドッ、レッ、───ディァアアアアアーーーーーーーッッ!!!!!」

 

再度阿鼻叫喚が生まれている中、ドレディアさんは近くにあった椅子を持ち上げ

そこらへんのニューラやヤミカラスに投擲して即撃墜、さらに混乱を引き出す。

最後にはテーブルもジャイアントスイング風味に振り回し、そのまま敵の真ん中に突っ込んで行った。

 

『ギャギョグェアギェァーーー?!』

 

薙ぎ払った後、後ろで待機している団員に対してテーブルをぶん投げ

素早くこちらのほうに戻ってきてくれた。

 

 

「……よし、いいぞ。このペースで行けばしばらくの間戦いの流れは決まらない……!」

 

 

良い感じでここまでは来ている。なんせ最初は4対20位だったからな。(もちろん人を含める)

良い具合に昨日の訓練が作用しているらしい。

今では倒れ伏したり、被害にあったりで瀕死一歩手前なのも含め

4対8程度にまで数が競ってきているが─────

 

 

「ここかぁ、ってうおォォッ!? なんだこりゃぁ?!」

「おい、増援呼んで来てくれッッ!! こいつら思った以上にやりやがるっっ!!」

 

新しくフロアに入ってきたクズ共が、目の前の光景に叫びながら戦線に混ざりだす。

ッチ、ついに増援が現れ始めたか……。

 

「マジかよっ……こいつら3匹でこんだけぶち倒しやがったってのかッ……」

「隊長呼んで来い隊長!! 事情説明してこっち来てもらえッ」

 

 

……隊長、だとっ!? 

くっそ、十把一絡げ(じっぱひとからげ)の連中なら、この形でいくらでも削りきれるってのに……!

 

その隊長とやらが来る前になんとか削れるだけ削───

 

「ドンカラスッ、あのガキ狙えッ!! 先に潰しちまえっ!!」

「ギャォォォーッ!!」

『ッ!?』

「……ッ!!」

 

よりにもよってドンカラスをこっちにやんのかよっ?! 10歳児なんてコラッタで十分だろッ!

俺の3匹は全員集団の波を抑えきるのに精一杯……───

 

「ッッ────!!」

 

バキィッ    

「ウニャァーーーッッ!?」

        バシッ

 

「ギャォォオオッッ!?」

 

……って、うそっ?! ディグダがマニューラを蹴り上げてドンカラスにぶち当てただと?!

お前そんな高等技術どっから引っ張ってきたんだディグダ!

 

「ッなんだとぉ?! なんとか体勢立て直せドンカラスッ!!」

 

動きが阻害されて空中バランスを保てなくなるドンカラス。

こんなぶっつけ本番で、かなりの高等技術をディグダは見せ付けてくれた。

 

 

──……このチャンス、見逃すわけには行かねェッ!!

 

 

「ディグダぁーーーーッ! そのままマニューラを他のヤツにぶち込めぇーーーっ!!

 コイツはッ……───ドンカラスは俺が殺るッ!!」

「ッ!? ……ッッ!!」

 

俺の指示に従い、浮力制御を失ったドンカラスを無視し

ディグダは空中に投げ出されたマニューラを追っかけ、また敵が固まってる所へ蹴り飛ばした。

 

俺は俺で完全にバランスを崩し、慣性の法則に従いふらふらと近づいたドンカラスに飛び掛る。

 

「ぬぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!」

「ギ、ギャォォァァッッ!!」

『嘘ォッ!?』

 

飛び蹴りなんて地味に高等技術な事なんぞ狙わない。

羽ばたき状態から地面に降ろすため、そのまま体ごとドンカラスに突撃してがっしりと掴み切る。

 

「ぬッ、ぐッッ!!」

「ギャォァオォオッッ!!」

 

クソがッ!! 大人しくしてくれっ!!

 

「お、おいお前ら!

 あのドンカラスを援護しやがれェッ!! 早くっ!! 早くし───」

「ッグーーーーー!!」

 

ズガァッ!!

 

「ウギャァァンッ!?」

 

追撃を仕掛けられないように、援護しようとするグラエナを狙い

またうまくたいあたりをぶちかまし、動きを阻害してくれるヒンバス。

 

くっそ、こいつらところどころで本気でありがたいなオイっ!!

 

そしてこっちもようやく、漸くだッ……!

 

「ッハァ……てこずらせやがって……!」

「ッギャッ……!!」

 

しばらく揉み合った後、コイツが羽を広げた所に膝で乗りかかり、動きを完全に縫い付ける事に成功した。

 

「ガキだと思って舐めてっからだ……

 

 

 ───現代生まれのナックルダスター、受けやがれやぁーーーーッッッ!!」

 

俺は力の限り、サックを握りこんだ拳をドンカラスの胸に振り下ろした。

 

ガッ!!

 

「グギャァァアァッッ?!」

 

心は痛むが……躊躇なんて絶対にしない。少しでも迷ってたら確実にやられるッ!!

ここでしとめきらないと、俺が殺されるんだッ!!

 

鳥類なんて、体重を軽くするために大体の鳥が骨等が脆かったり

もしくは、全体的に作りが脆弱だったりするもんなはずだ。

俺は内臓を守る肋骨すら脆いと勝手に錯覚し、思い込むままひたすら拳を胸に振り下ろし続けるッ!!

 

   ガスッ!!    ゴスッ!!

         ガスッ!      グシャッ!!

 ゴシャァッ!!        グシャッ!!

 

「ゲッ、グ、ゲァ……」

 

次第に殴る音が変わっていき、反応が鈍くなるドンカラス。

そして……───

 

「……────」

「ハァ、ハァ、ハァーッ……」

「お、おい───嘘だろ……?」

「あ、あのガキ───生身でドンカラス倒しやがっただと……」

 

ドンカラスの抵抗が全く無くなり、ようやっと……俺はゆっくりと立ち上がる。

一歩間違えば、確実にやられてた状況だった……でも、やはりそこは信頼出来る相棒達だ。

 

 

10歳の、弱っちい体でも……───

 

 

───命賭けならポケモン一匹倒す程度、訳は無いッ!!

 

 

 

 

「───おら……来いや……」

 

『うッ……!?』

 

「俺らの事を殺すつもりで来てんだろ……? だったらよぉ……」

 

既に俺の体力は、底を尽きかけている。

全力でやらなければ一匹程度も倒せないのが本当の事実。

 

 

だが……だからこそ。

 

 

全力でやるのなら、いくらでも潰していける。

 

 

「───テメェラが殺されても、一切文句言うんじゃねェぞッッ!!」

 

「ッッディァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッーーーーー!!」

 

「ーーーーーーッッ!! ーーーーーーッッ!!」

 

「ッグググググググググーーーーーーーッッ!!」

 

 

───これでもまだナメて掛かるってんなら、てめぇら生きて帰れると思うんじゃねェぞッッ!!

 

 

 

 

行くぞ──……相棒ッッ!!

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

34話 終劇戦

 

 

奇跡のドンカラス撃破から、敵が完全に尻すぼんでくれたようで

こちらに対して攻めあぐね始めているのがよくわかる。

 

冗談抜きでの話だが、人の……しかも子供の身でドンカラス撃破なんぞ夢ですら有り得ない事である。

数々の幸運、加えてこちらにとって都合の良い予想外があの結果を産んだだけなのだが……

敵からしたら何も関係ない。純粋に、怖さが際立ってしまったのだ。

もちろんこれに関してもハッタリに近い。偶然が偶然を生み出し、それを否定していないだけの話。

 

「ドレェェェ、ディィィイ、アァァアアアアッッッ!!」

 

ズッガァァァンッッ!!

 

『うげぉぁぁああッッ!!』

 

俺はもうまともに戦える相手がズバットかコラッタ、ニャース等の低種族値位しか居ないが

ドレディアさんが絶賛テーブル無双中である。また一人団員が乙った。

彼女にとってのテーブルとは、呂布の方天画戟(ほうてんがげき)と同じようなものなのだろうか。

 

 

「ッッ!! ッッ────!!」

 

ドグォッ!!

 

『ギュギャァァアアッッ!!』

 

こちらのディグダもかなり好調だ。ドレディアさん程目立っているわけではないものの

敵を投擲武器として蹴り飛ばし、意気込み直した敵の出鼻を完全にくじき続けている。

 

 

 

「おうっ!! こっちだこっちだっ」

「うっわ……こんだけ来てんのになんでまだ倒せてねえんだよっ?!」

「しかたねぇだろっ!! あの緑のとキモいのがやばいんだよっ!!」

「キモい……? って、うわなんだあれ?! ディグダ!? ディグダなのかよ?! あれで!?」

「#####」

 

ガッシ。   ブゥヮンッ!!

 

「えっ」

「えっ」

 

ドギャァッ!!

 

「「ぎょぱぁーっ!!」」

『隊員CとFーーーーーーーーー!!!!』

 

 

ついにディグダも周りの家具を武器に戦いだした。

しかもあの重そうなテーブルを片手で投げ飛ばしている。

投げた地点が敵を巻き込まずピンポイントで狙ったっぽいのは、指摘して修正させるべきなんだろうか。

 

だが……いくらこちらが優勢で保っていても、傷が浅いヤツは少し時間を置いたらすぐに立ち直ってくる。

……さっきのヤバい連中から抜かされた、俺の大切なエースのためにも

用意しておいた切り札一発、サクっとやっちまいますかいっ!!

 

 

俺は背中のリュックからあるものを取り出す。

 

 

厨房で回収した、スーパーボールと酒の瓶である。

使い方はそれぞれ別々ではあるが、同時に使っても効果はあるはずだ。

 

さて、今日も楽しいハッタリタイムと行きますかねぇ!!

 

「次から次とてめぇらうぜーんだよッッ!!」

「あぁん!? だったらとっとと倒れやがれクソ餓鬼がァッ!!」

「怒った! もうとっとと終わらせてやるッ。

 いけぇっーーー!! 俺の切り札、フリーザァー!!!」

『フ、フリーザーだとぉーーー!?』

 

そしてボールを投擲する。

 

 

 

 

 

 

 

何も反応が無い。

 

 

 

 

 

 

 

『…………は?』

「今だ!! 全員手ごろなのを畳み掛けろぉー!!」

「ドーレーッ、ディーーーーァッッ!」

「ッ!!」

「ッグーーーッ!!」

 

 

ズッガォォォォンッ!!

ドッグォォオオオォォンッ!!

 

『ひぎょぇぁーーーー!!』

 

元から作戦と伝えていたためこちらの手持ちの全員は

今のハッタリで敵が止まった瞬間を狙い、一網打尽にするために

そこらにあった椅子やらテーブルやらを全部かき集め、一方的にアウトレンジから投げつけ始める。

ヒンバスは少しでも近づいてきそうな敵に対してすてみタックルで応酬している。

若干反動で苦しそうだが……、頑張ってくれ、ヒンバス……!

 

 

 

「やれやれ……お前らはこんな小さな子供ですら倒せないのか」

「あっ、たっ、隊長ッ!!」

 

ッ! くっそ、ついに隊長格とやらが来ちまったか……!

 

「申し訳ありません、予想外に強すぎて……俺らじゃここから動かさないのが……」

「別に言い訳など要らん!! あの御方の為に働いているという自覚があるのかッ!!」

「す、すいませんっ!」

「ふん……」

 

チッ、隊長だかってのが来たと同時に、おそらく占拠してた殆どの団員がこっちに来ちまったか……

こちらは若干疲れ始めてきてるのに、4vs50ぐらいまで行っちまったぞ……!

それでもそのうちの15人程度は役にも立たねえ団員なのが有難いか……?

 

「まあ、すぐに終わらせてポケモンリーグと交渉に入ろう。───やれ……カビゴン」

 

んなぁっ?! あんだけ豪勢なメンバーに加えてカビゴンだとぉー!?

きつすぎにも程があんだろーがオイッ!!

 

ペカァァァンッ

 

「カービカービゴンゴンッ!!」

 

うっわ……しかもなんかめっちゃ強そうだし……!

かくとう技っぽいのを持ってる二人でも、これの相手はきつすぎるっぽいぞ……!

 

高速で思考を巡らす。今考えるのを止めたら確実に押し切られる。

 

何か無いか……!?

 

マルマインは今使っても良いが、絶対にカビゴンは生き残る……

それを倒しきれるか……? 駄目だまだ材料は足りない……一旦逃げるか?

でもこれ以上逃げ場はなさそうだ……それにここから離れたら「アレ」が使えなくなる……!

 

どうにか、どうにか何かないのか……

 

「ディ……!」

「──……ドレディア、さん」

 

俺の不安そうな顔が読まれてしまったのか、ドレディアさんから励ましの言葉が入る。

 

「───ああ、ありがとう。大丈夫だ……きっと何とかして見せるから。

 ドレディアさん───……、ドレディアさん、だと?」

「ディァ?」

 

【一体どうしたんだ】と俺に問いかけてくるが、俺の頭の整理のが先だ。

 

 

どうして俺は彼女に思考が引っかかった? なんだ、何が引っかかったんだ。

 

性格か? クレイジーだ。……違う、これじゃない。

かくとうタイプのドレインパンチとうまのりパンチか?

カビゴンには確かに効果は抜群だが……あの耐久力じゃ崩しきれない。

ならなんだ……?! 後の技はマッハパンチれんだとがんめんパンチと

 

 

 

「ッッッ!!」

 

 

 

これだッ、もうこれしかないっ!! 完全に賭けだがやらないよりマシだっ!!

 

ようやく思考を巡らし終わり、相手方を見てみるとあちらも準備が整ったのか

カビゴン含め全員が一気に雪崩れ込んで来そうなところで俺は指示を出した。

 

頼む……成功してくれ……!

 

 

 

 

「ドレディアさんッッ!!

 

 

 カビゴンにいばるんだッッ!!」

 

 

「……!? ディッ!!」

 

俺の聞き慣れない指示が飛び、迷いながらもカビゴンの真正面に立ち

ドレディアさんは───……

 

 

……カビゴンと見つめ合い始めた? あれ? なんだこれ。

 

「…………。(ド」

「…………。(カ」

 

…………。

 

「…………。(へっ」

「ッッ!!#####」

 

うっわwwwちょwwwドレディアさんwwwソレはやばいwww

もはや『いばる』の領域ではなく『生理的な挑発』に近いwwwww

あの子見詰め合ってたと思ったら両肩竦めて【駄目だコイツwww】とか言いやがったwww

 

あれはやべーわ、俺でも激昂するわ。

 

「ゴッ、ゴ、ゴゴゴゴン……###」

 

効果はバッチリ認知出来る。ドレディアさんもヤツの次の行動に備えて警戒している。

 

 

 

  カビゴンは

 

  こんらん している !!

 

 

 

    ?

         ?

  ?

       ?

 

俺は思わず成功してくれ、と祈らざるを得ない。ここで冷静になられたら……俺らは、瞬時に終わる。

 

 

 

  わけも わからず

 

  じ()んを こうげきした!!

 

 

 

……ん? なんか今、一文字おかしい気がしたぞ?

なんだろう。そんなことよりカビゴン───

 

 

「ゴォァァアアアアアァァァアアアアアッッッ!!!」

「うお、ちょっカビゴンどう、うわぁああああああーーーーッッ!!!」

「ゴォォアアァアアァアアアアッッ!!!」

『ギグゲグギャァアアアァァアアアアーーーーーーーーーーッッ!!!』

 

 

……うわぁ。武丸化した。目まで半開きだし。

今だったらバス停とか握り締めそうだ、このカビゴン。

自分の周りのポケモンと人間に手当たり次第手を出して八つ当たりしてる……

これ成功……なのかな? いや、多分成功だよな……カビゴン1匹しかいなくなれば

俺らも容易に逃げて、皆を解放してこいつら押さえつけんのも可能だろうし。

 

 

「グゴァァアアアアアァァァァァッッ!!」

「ええいっ、何をやってるんだカビゴンッッ!! 落ち着けェッ!!

 おちつ────グペァッ!! コラァー!! コラッタを投げつけるなぁっ!!」

 

 

これ、チャンスだよな、もしかしなくても。

そうとわかれば今のうちにこちらの手勢の強化だ!!

 

俺はさっきから持っていた酒の瓶を適当なテーブルに叩きつけ、中身を散らばらせる。

 

「ッ!? 何をしている、ガキッ!!」

 

そして近場にある手ごろなテーブルクロスを、買ってきた100円ライターで火をつけた。

もちろんそんな一瞬で、そこまで火が燃え広がるわけも無い。

故に、火が着いた状態で酒瓶を割った地点へ放り投げた。

 

すると火はアルコールに反応して火力が強まり、テーブルクロスの火がどんどん強くなる。

油より酒の方が火は強くなりやすいのだ。

 

「くそっ!! あいつはどうでもいいっ!! 今はカビゴンをなんとか────うぬぁっ?!

 コラァー!! ヤミカラスを投げてくるなぁっ!!」

「グゴァアァアアァアアァァッッ!!」

 

そして灰色の煙まで出してくるテーブルクロス。

敵も然る事ながら、ドレディアさん達まで俺が何をやろうとしているのかわからないらしく

全員が全員、俺の方へと顔を向けてきているのがわかる。

 

 

なーに、すぐ始まるさ……!

 

 

「ええいっ!! もういいっ!! お前はボールに戻って───ん?」

 

そうして、それ(・・)は発動した。

 

 

───……ザァァァァァァァアアァァァ……

 

 

室内に雨が降り注ぐ。

外ならまだわかるが室内でこれは異常事態だ。

 

 

 

「雨……だと? いや、違う……これは……

 

 

 ッッ!! スプリンクラーかッ!?」

 

 

その通りさっ……そしてこっちは───

 

 

 

 

 

 

雨の状態なら素早さが上がるエースがいるんだよッッッ!!!

 

 

「行って来い、ヒンバスッッ!!

 カビゴンを避けながら周りにきっちりトドメ刺してこいッッ!!」

「ッ!!!!

 グッググググググーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 

今まで見たこともないような凄まじいスピードで

ヒンバスは周りでうめいていたポケモンと人に体当たりをしていった。

まさにそのスピードは神風。危ない一撃を全て避け。

必要なところにだけ突撃を実行していく、まさに意思のある暴走特急だ。

体当たりをした敵をそのまま壁に見立て三角蹴りのようにそこから弾け飛び

次の敵に体当たりを繰り返している。素早すぎてもはや視認すら難しい状況になってきた。

 

「ゴォォォォォオオオオオオオオオァァァァァ!!!!」

 

あっちはあっちでまだ混乱してるしwwwwww

しかもなりふりを構っていないのか、そこら辺の柱やら壁に

勢い良くぶち当たっており、何気にダメージが蓄積されている。

 

周りが役に立たない今、畳み掛けられるんじゃないか……?!

 

「……全員、突撃ィィーーーッッ!!!」

「ッ!!  ドレッディァアアアァァーーーーッッ!!!」

「ッッ!!  ──ーーーッッ!!」

 

ヒンバスが周りを潰している中、俺は2人を突貫させた。今なら……今ならなんとか出来るッッ……!!

 

そしてカビゴンの恐ろしく気の入った一撃をすれすれで交わしつつ

ドレディアさんはがんめんパンチを積極的に放ち

ディグダもディグダで、じんないりゅうの技で蹴り当てを喰らわせている。

 

 

だが、やはりカビゴンはさすがのカビゴンだ……!

そう簡単に倒れないタフさがあ───……っな!?

 

「ドレディアァーーーッッ!! 後ろからだァーーーー!!」

「……ディァッ?!」

「ニャァァァァアアアッッ!!」

 

先程ディグダが叩き伏せたはずのマニューラがドレディアさんの背後から現れ、きりさいてくるッ……!

 

「ッッディ……!」

 

その攻撃をなんとか受け止めきり

寸でのところで致命傷を避けたドレディアさんが若干退く……───って!!

 

「だ、駄目だっ……!! ドレディアーーッ!!

 駄目だぁーーーー!! そっちだけは駄目だぁーーーー!!」

 

そっちの方向は……カビゴンの攻撃が────!

 

「ゴァァァァァアアアアアアアアアァァーーーーッッ!!!」

「ア─────」

 

まるでスローモーのように景色が遅くなって─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ッグゥー-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に入った、と思われたカビゴンの一撃は

 

 

本当の、刹那の差で。

 

自分の体ごと、ドレディアさんへ回避を促したヒンバスのファインプレーにより。

 

ドレディアさんはヒンバス共々、攻撃を交わし切った。

 

「……! ぅ、お、ぉ……」

 

冷や汗が体中からドッと吹き出る。あれが当たっていたら、下手したら即死だ。

例え中身が強靭なポケモンでも、あれだけはやばい。

 

 

 

 

───ここしか、ないっ!! 最後の切り札……ここで使って全部終わりにするッッ!!

 

「全員下がれぇーーーーー!! もう十分だッッ!! 下がれぇーーーー!!」

 

『ッッ!!』

 

俺の指示を聞いた瞬間に、全員が素早さを生かし一瞬で俺の前左右に辿り付く。

 

 

「全員、この部屋から出るんだッッ!!」

『ッ!?』

「いいから出ろッ!!

 

 

 

 マルマイン─────約束の時だッ!!

 

 

 

 カビゴンにだいばくはつだぁーーーー!!」

 

 

ペカァァァァァン

 

「ガグガァーーーーーグゴォォォォォンッッッ!!」

 

 

 

───カッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズッドォォオオオオォォォォオオオオオ

              ォォォオオオオォォォォォォン!!!

 

 

 

「うあぁああぁぁあああーーーー!?」

「ッディーーァーーーーッッ!!!」

「!?!!?!???!」

「ッググーーーーーーッ!!」

 

体勢を整えた上で、なお逃げ切れず、大爆発に巻き込まれ吹っ飛ばされる俺達。

 

「っづァグッ……!!」

「ディァアーーーァアーーーッッ!?」

 

俺が壁に吹き飛ばされた所にドレディアさんがストレートに飛んできて、って……

 

「えっちょっ……!」

 

 

ズんドムっ。

 

 

「うごぇぁっ……!!」

「ッッ─────!!!」

 

ドレディアさんの体が俺に叩きつけられる。やばい16㌔さん痛いやめて。

そして意識が飛びそうになるのを堪えて前を見ると、飛んでくるのはまさかのディグダ。

 

「ちょ、おまっ……!」

 

ズッどムッ。

 

「おげぇぁっ……」

「ッグッグーーーー!?」

 

ああ、神よ、貴方は俺を殺したいのかっ。

もはや意識が千切れる寸前のところで、空飛ぶ魚さんが俺目掛けて……!

 

べちこーん。

 

「ふげぶっ」

 

最後だけは若干マシだった。魚が顔面に跳ねたと思えばまだ……なんとか……

 

 

 

 

 

「ディッ!! ディーァッ!」

「……ッ、う……ど、ドレディ、ア、さんか……」

 

どうやらマジで意識がすっ飛びかけていたらしい。

ドレディアさんを筆頭に、俺の手持ち全員が上から見下ろしているのが視界に映った。

 

「ディーァ、ドレーディァ」

「お、終わった、のか……?」

「ディー……」

 

既に満身創痍もいいところである。俺がダメージ負ったの、最後の一瞬だけだけどな……

 

だいばくはつを起こしたマルマインの居る方向へ歩み寄っていく俺ら。

そこには───

 

 

黒こげになったマルマインと

 

 

完全に瀕死になっているカビゴンと、その他もろもろが倒れ伏していた。

 

 

 

「っ、ぁぁ……ハハハ」

「……ディ~♪」

「♪♪」

「グ~♪」

 

 

俺は思わず、みんなと笑いあってしまう。

ふ、ハハハ、本当に、なんかズレたら全部がパーだった、けどさ……

 

 

───やっぱ、やりゃぁ出来んじゃねぇか、俺達。

 

 

 

 

「─────勝ったぞぉぉぉぉぉぉォォォォォォォッッ!!!!」

 

「ディーーーーーーーァアアアァーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

35話 後始末

 

フロアでの超絶大乱闘も終わり、現在俺はロケット団共を縛っている。

総勢30人程度。よくこいつらの手持ちと合わせて片付けきったな……あのカビゴン様々である。

 

 

ロケット団を縛るロープについてだが。テーブルクロスを4等分で引きちぎり縄の代用にしている。

耐久力はこれで十分だろう。手と足を動かせない形に縛れるならポケモン無しじゃ何も出来ん。

 

ポケモン達は放っておいてもいいだろう。

こいつらは別に悪い事やりたさにコイツらについてきているわけじゃない。

放置してたところで無害のはずだ。さすがに縛られてるのを見つけたら

開放するために動きかねないが、そこは言葉巧みの説得ってことで。

 

 

 

 

よし、全員縛り終わったな。

 

「んじゃみんなー、こいつら引きずって甲板まで行くぞー」

「ディーァー」

「ッb」

「……グー」

 

そうして、俺達は気合を入れて黒いやつらを引きずっていく。

ヒンバスだけ引っ張る事が出来ないので、ディグダの頭の上に乗ってマスコット化。

一気に持っていくことは無理なので7~8人ずつであり、ドレディアさんの怪力でも6人がせいぜいらしい。

あとはディグダが2人程に、俺とヒンバスはゼロ。子供と魚なめんな。

 

え、なんで甲板かって?

さすがに手足縛って海に投げ捨てたりはしませんよ?

 

 

甲板の鉄柵からこいつらを逆さに吊るすだけです。

 

 

そうして全員運び終わった後、一応この後のことを一考し

幹部クラスっぽい隊長だけ、適当にわかりやすいようにしておいた。

 

ちなみにパーティー会場はもはや内装を改築しないといけないレベルでボロボロだ。

カビゴンが暴れ、俺らの手持ちがテーブル等を武器にして木片が飛び散り

なおかつ俺の切り札のスプリンクラーのための火で

床は焼け焦げ、燃えカスは広がり、煙臭く、最後にトドメの大爆発。

 

 

……よく沈まなかったな。

 

 

いやまあ、船の規模はでっけーけどさ? それでもよく耐えた。

っと、戻った時にちゃんとあいつ回収しねえとな……

 

 

 

 

そうして一仕事終え、俺は皆が居る部屋の前まで戻ってきた。

 

コンコン。

 

しばらく静寂が続き、そっと扉が開かれ───

 

「ッ!! 坊主っ!! 無事かっ!?

 無事だなッ!? おおおぉぉ、よかったーーーーよかったぁーーーー!!」

 

ガッシ。

え、ちょ。

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥ

 

「あぎゃぁぁぁぁぁ───」

 

 

「ちょ、ちょっ、シジマのおっちゃん!!

 それ死んでまうっ!! タツヤん死んでまうっ!!」

「あぁ、タ、タツヤくーーーーん!!」

「ん!? おぉぉお?! だ、大丈夫かぁっ!? ちくしょう、ロケット団にやられたのかっ!?」

「どー考えてもミスターシジマが原因ネー」

「な、なんだとっ!?」

 

 

 

……

 

………

 

…………

 

 

ッ!?

 

 

「モ、モンテスキューッ!?」

 

俺は急いでがばぁっと身を起こした。

 

「ッディ!?」

「うわっ!?」

「ッ───!?」

「きゃぁっ!!」

「ぬぉぁ!?」

「ゥワォ!?」

「ググッ!?」

 

辺りをきょろきょろ見渡す……。ああ、なんだ、やっぱり……

 

「夢か……。」

((((((((なにがだー!?))))))))

 

 

 

「な、なぁ、タツヤん……? 気分は大丈夫? 具合悪いとこ、ない?」

「え、へ?」

 

再度周りを見渡してみると、ジムリーダー面子が俺を囲っている。

周りには俺の手持ちの3匹も混ざっているようだ。

 

「えーと、あの、これ一体どういうことでしょう」

「あんなー、扉からノックしたからな?

 一番戦えるシジマさんにな、様子見てもらったねんな」

「イエス」

「ふむふむ、それで?」

「したらな? タツヤんがそこにいてー、思わず力いっぱい抱きしめちゃったらしいねん」

「わぁ♡」

 

やらないか。これあの漫画のアームストロング少佐のあれじゃないか。

 

「でー、ユーはミスターシジマのパワーに耐えれなくてー。

 そのままスタンしてスリーピングネー」

「す、すまんかった……さっき派手な振動もあって、まさかと思ってしまっていてな……」

「ええ、大丈夫です。まあ確かに危なかったですし」

「で、寝こけてる所でドレディーちゃんが膝枕してくれてたーって感じや~」

「え」

 

俺は後ろを見てみる。

するとドレディアさんの顔が真っ赤になっていた。

ああすまん、恥ずかしかったのね……そんな事させて悪かったね。

 

「ありがとう、ドレディアさん」

「──────///」

 

恥ずかしさのあまり俯いてしまった。まあ、あとでもう1回謝っておこう。

 

「ニシシシ……タツヤんも罪作りやねぇ~♪

 こないな可愛いお姫さんに好かれてもうて、このっ、このっ♪」

「うわうぜぇ、乳もむぞこの野郎」

「うっわ、そないなストレートなセクハラこの子の前で言うっ!?」

「───#」

「お前が悪いっ」 by薬師寺

「あんたやあんたっ!!」

「わ、私なら……揉んでくれても……」

 

ズパァンッ

 

「あきゃんっ!?」

「ちょ、ドレディアさん、ミカンさんに何してんの!? 人に危害加えちゃ駄目でしょっ!!」

「……いやー? 今のは仕方ないと思うけどなー?

 ニシシシ、ドレディーちゃんもこれ以上ライバル増やしたかないもんなー?」

「///#」

「わー♪ 怒ったー♪ きゃーきゃー♪」

「ァァァア゛ア゛ッッ!!」

 

 

そんなわけのわからない光景を見せられて、俺はもうどうしたらいいかわからないの。

 

「ミー達が笑えばいいと思うネーwwww」

 

お前らがかよ。

 

 

 

 

っと、忘れないうちにやっておかないとな……

 

「えっと、みなさんにお伝えします」

『…………。』

「とりあえず船上のロケット団は全部始末しました。この船はもう大丈夫です」

 

『ッッ!! ウオァワアアワワアアアアアアァッァァァ!!!』

 

一気に大歓声に包まれる部屋。

サカキの野郎も苦笑いでこそあるがそれに混ざってカモフラージュしている。

大人達に「よくやった!!」「ありがとう!」「本当に凄いな!!」と

次々に体をぺしぺし叩かれ、握手され。頭ぐりぐりされ。

んでドレディアさんがアカネさんの首を片手で掴んで引きずって、ってちょ。

 

「おいドレディアさん!! それ息止まってる!! 息止まってるってっ!!」

「ァー?」

 

こっちに向けてアカネさんを片手で差し出した。

身長の都合上吊るされる形でこそないが、完全に白目ですwwww

 

「あーもう、他の人に暴力振るっちゃだめでしょーが。今日ご飯抜きね」

「ッアァァー!? ディァー!! ディァー!!」

 

【俺は悪くねえ!! こいつが!! こいつが悪いんだっ!!】と主張するが

どんな理由でも気絶させるぐらいの暴力は許しません。

 

「さて、そんなことはどうでもいいんだ」

「……#」

「いや、アカネちゃん一応死にかけてるよ……?」

 

と、復活したミカンさん。そんなもんより俺は優先しなきゃならんことがあるんだ。

 

 

そうして俺は歩み寄る。

 

 

未だ気絶した見張りのロケット団に。

 

 

そして起こすために腹を蹴り飛ばす。

 

「うぐぇっ!? ──ッカ、っぐほ、ぐほっ……!

 て、テメェ!? 何しやが──って、なん、だ、これ……」

 

現状把握が少し遅れる黒い見張り。まあ、あんたずっと気絶してましたもんね。

 

「アンタが気絶してた時間、大体1時間。その間に船は解放させてもらったよ」

「んなっ!? デタラメ言うんじゃねぇっ!!」

「デタラメじゃねーよ、そんなもんこっから出りゃすぐわかる。

 それより俺の用事をとっとと済まさせてもらうぞ」

「あぁっ!?」

 

 

「───出て来い、マルマイン」

 

 

ペカァァァン

 

 

「ハッ?! それ俺のマルマインじゃ───って」

「───ォォン……」

「お、おまっ、どう、どうしたんだっ!?

 瀕死じゃねーかっ!! テメェ、俺の相棒に何しやがったぁっ!!」

「交渉したんだよ」

「こ、交渉だと……?」

 

 

そう、交渉だったんだ。そしてそれは成立した。

 

 

「そうだよ。そのマルマインはな……。

 お前が捕縛されて、殺されるかもしれない状況だったお前を助けるためにそうなったんだ」

「な、何言ってやがるっ! たかが交渉でこんな目に遭う訳───」

「俺の言う事を一度だけ聴く事を条件として。お前の身の安全を約束したんだよ」

「───ぁ」

 

 

こいつは、このマルマインは、とても尊く、とても気高い。

どんな理由であれ主人に尽くすコイツのためにも。

 

 

契約は───履行しなくてはならない。

 

 

「わかったか、こいつはお前を守るためにここまでボロボロになってんだ」

「たった一度だけでどうしてここまで───ッ! ……だいばくはつか!」

「そうだ、ただ主人のためだけに。知らないやつの言う事を一度だけ聴いて。

 こいつは、自ら瀕死になったんだ」

「───お、お前……」

「ォォン……」

 

 

罪は、罪だ。犯した以上犯罪者にはなる。

そこだけはどうしようもないが、俺は……約束は、ちゃんと守ったぞ。

 

 

「そいつの事を思うならもう悪事から足を洗え。

 そんだけ素晴らしい心意気を持ってるマルマインがいるんだ。

 お前ならトレーナーとしても良い所まで行けんだろ、きっと」

「───……ッ。

 

 ───すまん、頼みがある……場違いな願いなのはわかっている。

 

 わかってるが……頼みたい。縄を解いてくれ……」

 

 

「いいぞ。ドレディアさん、頼む」

『ええっ!?』

 

室内の全員が驚く。まあそりゃそうだな、解いたら何するかわかったもんじゃないし。

───普通なら、だけどな。

 

こんな状況で解かれた途端に暴れるようなら、今度こそ俺が手加減無しに殺してやるまでだ。

約束を違う事にはなるが、それは許される事ではない。

 

だからこそだ。

この後のこいつの行動なんてわかりきったもんだ。

 

 

 

 

「……まない、すまないっ、ありがとう……マルマインっ……!」

 

「ガゴー……」

 

「俺の、俺のため、にっ、頑張っ、って、くれたんだなっ……」

 

 

 

 

そして解かれた手で、マルマインを抱きしめる団員。

 

 

 

 

ぁーぁ……くっせーくせー。青春くせぇー。どうしてこんな青くせぇ事出来るんかねぇ?

お前周り見てみろよ……全員クサすぎてドン引きしてんじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

───まぁ全員、涙流してっけどさ。

 

 

 

 

 

 

残りの事後処理は比較的スムーズだった。

俺一人じゃ面倒だった作業もみんなでやれば速いものである。

 

あの人質部屋から解放されて、とりあえず全員甲板に連れて行き

ロケット団がどういう状態か見せた。引かれた。

だって転がしておくだけじゃ逃げるかもしんねーべや。

 

そして幹部クラスのヤツを引き上げ、どう言う事かを問い詰めている最中

ジムリーダー面々の一部は、パーティー会場で転がっているポケモン達を

説得、無力化するためにそちらに向かっていった。

 

 

なお、俺はだるすぎたので甲板でのんびりしている。

たまにロケット団のカス共を揺らして遊んでいた。

 

あ、一人吊ってたテーブルクロスがちぎれて落ちた。悪いけどヒンバス頼むわ。

 

そうして船長室からは、船長の遺体が発見されたそうだ。

 

まあゲロまみれで気絶して倒れてただけだけど。

 

多分カビゴンの大暴れ含めた、大爆発の振動もあって完全にやられてしまったのだろう。

ご冥福をお祈りいたします。

 

 

ついでに、海に落ちて助けたロケット団に

皆の相棒のありかを聞きだして、研究員さんの一人に向かわせておいた。

甲板に帰って来た時、みんなは大事な相棒達との再会にとても喜んでいた。

またひとつ仲が深まったのだろう。

 

 

 

ん? レッドさんとグリーンさんはどうしたってか?

 

グリーン=あの股間潰しの後しばらく呻いていたところ

       介抱してくれたのが偶然見つけたレッドさんだった。

レッド= そして速攻でバトルが始まり、手持ちがボロボロになったため

      一旦ポケセンに行った所、騒動が勃発。参加し損ねた。

      もちろんグリーンさんも既に船に用が無いため一緒に降りていた。

 

 

という顛末らしい。まあこんなイベントゲームにないしね。

主役級の彼らは原作力だかなんだかで、参加出来なかったんだろう。

 

 

摩り替わられた船員さん達も港の倉庫で監禁されていることが判明。

無事に死傷者無く、事件は終わりを迎えた。

 

港に接着した船からロケット団どもを降ろし、警察に引き渡しておく。

慌てて警察がサントアンヌ号に大量に出向いていたので

現場検証とかでこれから色々忙しくなるんだろうな。

 

ま、俺としてはドレディアさんが満足行くまで喰ったみたいだし

俺も俺で予想していた最悪の出来事が発生、そして無事に解決。

やりたい事は全部やり終えたので、とても満足している。

 

警察に現場検証に協力してくれと言われたんだが

流石にその日はだるすぎたので後日に頼む、といって俺はポケセンに戻った。

その後警察がパーティー会場の有様を見て、本気でドン引きしていたとマチスさんが言っていた。

というかマチスさんもドン引きしてた。

 

「一体ドゥーユープレイしたらあそこまでなるネー?」って言ってたわ。

 

 

 

 

そしてポケモンセンターに到着して───

 

「あー、タツヤ君っ!! もう、どこ行ってたのよー!!」

「ん、どしたのもっさん」

 

懐かしい顔を見た。いや昨日地味に会ってるけどさ。

 

「せっかくおととい今日の予定はどうだっていうから、予定空けてたのに全然居ないんだもんっ」

「え、あれ聴いただけなんですけど。なんでそれでもっさんが予定空けてんすか」

「え、いや、そんな/// 言わせないでよそんな事っ」

「はぁそっすか」

 

なにやら俺は恥ずかしい事を聞いてしまったらしい。

なんだろう、今日の朝飯が歯の隙間に詰まってるとかそんぐらいのレベルな気がするが。

 

「いまいちやる気出してないわね……それじゃ、どこか行きましょっ」

「俺パス。疲れた」

「えっ!? そんな疲れるまで今まで何やってたのよ!」

「サントアンヌ号が襲撃されたんでロケット団駆逐してました」

「……はぃ? まーたまた、冗談言っちゃってー。お姉さんは騙されないよーだ♪」

「お前がそう思うんならそうなんだろ。───てめーの中ではな」

「ひどっ!? んもー、冗談でごまかすんじゃないわよッ!」

「知りません。おやすみなさい。サンドー、一緒に寝るー?」

「キュキュー!!」

「あ、ちょ、サンドっ!! コラァーーーーーーーーー!!」

 

 

こんな感じの会話があって、俺はサンドと

何故か布団にもぐりこんで来たドレディアさんと一緒に寝た。

 

 

翌日、テレビかなんかで事件の事を知ったもっさんが

やたら執拗に俺に質問を浴びせまくってたのが面倒だった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

36話 マジか

昨日の活動報告は、3,4人程度の人がコメントしてきたら
昨日中に進化系列のお話を全部纏めて終わらせるつもりでした。
だが集まらなかったので普通に更新。

なろうの方でもこの話の流れです。


 

 

・∀・

 

───うゅ~ん……いい気持ちだぁ~

 

 

ペシッ

 

 

───……ぁ~?

 

眠い意識を何とか抑え、目を少し開けてみる。

開けてきた視界の中で、ドレディアさんが俺の顔を覗いているのがわかった。

 

 

 

……いつもと変わらん日常だ。おやすみなさい。

 

ぱたり。

 

───Zzz...

 

 

───ん? なんか浮いているような感じがする……気持ち良

 

ドスッ

 

「おふぁぅっ!?」

 

背中の真ん中からケツ辺りに痛烈な衝撃が走った。その衝撃に思わず俺は海老反(えびぞ)りになる。

 

「なっ、なんっ、何事っ!?」

「ディァー」

 

なんか自信満々にドヤ顔をしているドレディアさん。

その隣には椅子に腰かけて座っているディグダが居た。膝の上にはヒンバスも鎮座している。

とりあえず犯人はドレディアさんくさいので、目を見て意思を確認してみた。

 

【優しく起こすのめんどくせぇから

 お前に教わったバックブリーカーっての試してみた】ですって。なにこの子。

 

……ッ#

 

「朝は気持ちよく起こさないと駄目でしょうがっ!!

 一日の始まりなんだからそっと起こせっ!!

 ってかディグバスッ!! お前等もコイツ止めてくれや!!」

「ディ~」

 

なんとまあこやつ、そんな事はどうでも良いという感じに

目線を俺のリュックに移し、ゴソゴソとやり始めた。

 

……なんだ?

 

ドレディアさんが自らリュックなんぞいじった事ないんだが。

そしてドレディアさんはあるものを取り出して俺に見せてきた。

 

ポケズ(ポケモン図鑑)だ。

しかもなんかアラートってか、電子音が鳴っている。

 

「なんだよ、こんなもん起きてからでもよかったじゃんか……

 まさか、またおなかいっぱいにさせろとか思ってんじゃねーだろうなオイ」

「(ふるふる)」

 

なになに、【これがうるさくて私が寝られん】とな。しらねーよ。寝てろよ。

 

 

「はー……なんだ一体……───更新情報?」

 

 

なんかあったっけか……更新、更新。───あーわかった、多分あれだろ。

 

 

「あの大乱闘の時に入った経験地かなぁ」

「ディーァー」

「─────。」

「グー」

 

おそらくそれに関する事項で更新があったと判断し

ポケズをポチポチと操作して、画面を次々に飛ばして行った。

 

 

そしてレベルアップの画面になり。

 

 

ててててーん♪

 

 

例のあの音がした。

ていうかこのポケズ、なんかやたら適当じゃねーか?

音のなるタイミングがいつも色々とおかしいぞ。前はリュックに入った状態でそのまま鳴ってたのに。

 

と思いながら画面を見てみた。

 

[> ドレディアの レベルが 31ていど なった!

 

ほうほう、31か。おめでとうドレディアさん。

前の修練の時はギリギリレベルが上がらなかったのか18のままだったよね。

 

 

 

 

 

あれ? 18?

 

「なんぞコレッッ?! なんで13も上がってんのこれッッ!?」

「ディ~♪」

 

自信満々なドヤ顔を続けるドレディアさん。

ウザさは置いといてもこれは一体……

 

「あ、予想ついた。多分そういうことか」

 

 

ポケモンのゲームの話なのだが……

同じレベルでも進化前と進化後のタイプを倒すと、経験地もかなり違ったりする。

加えて言うなら、進化するには大体がレベル進化なわけで

必然、進化するレベルは最低限通過していなければ進化すらしない。

あの船内で戦ったのは8割ぐらい進化後のポケモンだった。

つまり余裕でLv18のドレディアさんを超えている連中が大半という事になる。

 

……まあ例外は何個かあるけどねー。

確かピカチュウverの原作でもトキワの森にLv7のピジョンとか出なかったっけ。

あと、同じくトキワの森でピカチュウ捕まえたらグレン島でマルマインLv3と交換出来るんよね。

 

それは置いといて。

 

 

そこからさらに考えて、あの状況はポケモンだけで考えれば

3匹vs34~37匹だったわけで……全部がLv30であったとしても

その経験地の量は、Lv18という身で考えるなら相当おいしいはずである。

 

普通に考えてLv18がLv30の敵を倒すなんて無理があるからね。

出来たとしても大苦戦は必須。だからこそ経験地の幅も凄いわけだ。

そして今回の乱戦はそれを多大に可能にした。

 

 

ポケモンバトルしか知らんあのポケモン達は、どうにか自分の領域で頑張って戦おうとはしていたが

こちとら完全に外道戦術、『落ちてるものは何でも使え』を実行。

殆どの戦況で圧倒的優位に立っていたのだ。椅子とかぶん投げてたしww

だからこそ、この一気上昇になったのだろうな。

 

あのカビゴンや最後までなんとか踏ん張ってたマニューラのも入ってるっぽいかな?

だいばくはつでやられた訳だが、同時にマルマインもノックアウト。

マルマインに入らない分攻撃に参加してた俺の手持ちに入ったはずだ。

加えてあのカビゴンはエースっぽかった。下手したらLvとか50行ってたりしたかも。

 

って、ん……? まだ更新情報があるのか。

 

 

[> ドレディアは あたらしく

   プロレスわざを おぼえたい……!!

 

 

ちょwwwwプロレスてwww 今のバックブリーカーもそうだけど

船内でやったテーブルジャイアントスイングもプロレスの凶器攻撃と判定されたのかっ!?

 

 

[> ドレディアは わざを 4つ

   おぼえるのが せいいっぱいだった(●●)

 

 

うん、まあ普通はそう──おい待て、なんか文章おかしいぞおい。

具体的にはなんで語尾が過去形なんだオイ。

 

 

[> でもそんなのかんけいねえっ!!

   ドレディアは むりやり プロレスわざを おぼえた!!

 

 

おいwwwwwwwwwww

 

「なんなんだよこの図鑑ッッ! 完全におかしいぞ! お前絶対中身入ってんだろッ!」

「ディーアディアー!!」

 

あんたはそれでいいのかよ……なんと言えばいいのかもうわからんわこれ。

 

pipipipi

 

あん? まだ更新情報があるってか? ポチポチっと……

 

 

[> ディグダの レベルが 26ていどに なった!!

 

 

っと、そりゃそうか。ディグダも一緒に戦ってんなら当然こいつにも経験値が行く。

ディグダに至っては一気にLv14もUPか、ドレディアさんより上がり幅が少ないな……

まあ経験地取得が1/3だっつっても序盤の必要経験地なんてたかが知れてるし

あんだけ格上倒し続けてても、この数字は道理ってところか。

 

[> ディグダは あたらしく

   リンダさんシュートを おぼえた!

[> ディグダは あたらしく

   なげつける を おぼえた!

 

おおー模擬技が技に昇格した、おめでとう。

あの時も完全に使いこなしてたしこっちも道理か。

何故か途中でキレてぶん投げてた椅子は、普通に投げつけるという判定になったようだが。

ドレディアさんだけじゃ危なかったはず───

 

 

ぴこぴこん♪

 

 

ん?

 

 

 

 

でん♪でん♪

 

でん♪でん♪

 

でん♪でん♪

 

でん♪でーっ♪

 

 

え、おい。

この音楽は───進化!?

 

慌てて椅子に座っているはずのディグダを見てみる。

 

 

うわぁーーーーーーーーッッ!! 光り輝いてるーーー!!

 

 

でん♪でん♪

 

でん♪でん♪

 

でん♪でん♪

 

でん♪でーっ♪

 

 

っていうかあのディグダが進化するとどーなんの!?

感想でも阿修羅みたいになんのかとか言われてたけどっ!!

やばいこれBキャンセルした方がいいの?! おい誰か意見くれ意見ッッ!!

 

そんな事を考えているうちに音楽が鳴り止み───!!

 

 

シュンッ。

 

 

……あれ? ディグダが光を発さなくなった。なんだ、どういうことだ。

Bキャンセルっぽい事も一切してないんだが……

 

ポケズを見てみるが、何も表示されていない。なんだろう、一体何が起こった……?

 

───再度ディグダを見てみると、ディグダは立ち上がり部屋から出ようとしている。

 

「って、おい。どこに───ん?」

 

ディグダは出る前に俺達にちょいちょいと、手招きをする。

付いて来てほしいという事だろうか。そうだとしても一体どこに行くつもりだ?

ドレディアさんとヒンバスも一緒に連れて、ディグダに付いて行ってみる事にした。

 

 

 

 

そしてしばらく歩いていくと、そこは懐かしのディグダのあな。

ここからクチバに入ってきたんだっけなー、ハナダシティとはなんだったのか。

 

ディグダは穴の入り口のほうへ向かっていく。

入るのかな? と思ったのだが……穴には入らず入り口辺りで立ち止まった。

すると───

 

 

ぽこっ。

 

 

ディグダが1匹出てきた。

 

 

ぽこんっ。

 

 

さらに1匹出てきたようだ。

 

……ん、これで三匹? 三匹ってことは……まだ進化の途中なのかもしかして。

ポケモン図鑑の設定でも、画面的には分裂にしか見えないが三つ子という設定だったはずだ。

 

外からディグダ達の様子を見続けているのだが

ディグダはその出てきた二匹と、アイコンタクトとジェスチャーで何やら会話しているようだ。

 

そしてディグダが俺に対して【この御仁だ】と言わんばかりに手を差し伸べたところ

穴のそばから出てきたディグダ達もこちらに目を移した。

 

そして最後に……ディグダ達全員が目を合わせてしっかりとうなずいていた。

 

 

んで。

 

 

ぽこっと穴から二匹が出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

うん、出てきた(●●●●)んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

二匹の可愛い顔の下の体は、あのディグダと同じく細マッチョだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええええーーーーーーーーーーーーーー!?」

「ディーーーーーーーー!?」

「ッグーーーーーーーー?!」

 

 

え、ちょ、おまっ。

 

 

ディグダ達はこちらの様子に一切意識を飛ばさず俺のところへ歩み寄ってきた。こえぇー!

 

そして彼らは俺の前で片膝をつき、全員がゆっくりと拳に手を添え拳包礼を作り。

あの時のディグダと同じく、ゆっくりとこちらに頭を垂れた。

 

 

その瞬間、3人が光り輝く……───!!

 

「うわぁッ!?」

「ディー!」

 

あまりのまぶしさに俺らは目をそむける。

光が収まったようなので改めて目を向けたが、3人に変化は無い。

 

 

なんだ……? と思っていたところにあの音楽が鳴り響きやがった。

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

ッ!! まさか、まさか、おいっ!! まさかッ?!

 

俺は慌ててポケットに入れてた図鑑を取り出す。

 

 

[> おめでとう!

   ディグダは ダグトリオに しんかした!!

 

 

図鑑には、唯の一文でしかないはずの──絶望的な一文が表示されていた……───

 

 

「いやああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッッッ!!!」

 

思わず頭を抱え、頭をぶんぶん振ってしまう。

なんだよこれ!! もう突っ込みどころがありすぎて死にたいッ!!

 

なんでわざわざここに来て進化する必要があったんだよっ!!

しかもこのキモいのが3人になったとか俺どうすればいいんだよ!

ていうかお前ら全員突然変異だろっ?! どんな確率乱数が発生したらこうなんだよッ!!

もしここで三匹でダグトリオになってなかったら、最終的にこのキモいの9人になってたのかよっ!!

 

 

「ちくしょう神ィィィーーーー!!お前が存在するのならっ!!

 俺がお前に何をしたって言うんだァァァーーーーーーーーーー!!!」

 

 

その叫び声は朝10時ぐらいの太陽に吸い込まれていった。

 

俺本当どうしよう。もうこいつのボールを土に埋めて隠居したい。

きっと今なら誰も文句を言わないはずだ。誰か助けて。

 

 

 




前書きより抽出

>>昨日中に進化系列のお話を全部纏めて終わらせるつもりでした


進化系列のお話


つまりは、まだ終わっていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37話  えぇぇ

演出のためではありますが、おそらく改行が酷いので
納得行かない方はブラウザバックと言わず、窓からPCを投げ捨ててください。







 

 

一体俺はこの状況をどうしたらよいのだろう……本気で悩んでしまう。

あのディグダ一匹だけでも、キモい意味でいつも手を焼いていたのに

よりにもよってマジで増殖しやがった……お前等一体何者だ。いやどう考えてもディグダか。

 

 

タイヤキをお店で頼んで、こげたタイヤキが渡された位どうしようもない気分だ。

 

 

しかもこいつらはこいつらでさー。

【いかがなされたのだ、我らが主殿】とか語ってくるしよー。

何律儀に主君への誓いとかやってやがんだ。エビフライぶつけんぞこの野郎。

 

 

 

 

pipipipip

 

 

 

「───ぁん?」

 

例の如くポケズ(ポケモン図鑑)からアラートが聴こえてくる。

あれー? 元ディグダも元ヒロインも「ア゛ァ?#」……ドレディアさんも

終わったはずなのになんでまだアラートが鳴るのだ?

 

「ネクストねぇ……」

 

画面を見る限りは『 NEXT[>[> 』と表示されており

まだ何か情報が残っている事を示しているわけだが……

残っているのなんて、もう───ってことはッ?!

 

「──……まさかッ、ヒンバス関連かッ!?」

「ッグ!?」

 

いやいや、まさかまさか。こいつはLv100で確定だろ!?

なんで新規情報が今更出てくるんだ!?

 

 

慌てて画面を勧めてみた。

 

 

 

ててててーん♪

 

 

 

ッ……!? まさか……本当にそうなのかッ!? 俺は思わず画面を凝視してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[> タツヤの レベルが

   15ていどに なった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「って俺かーーーーーーーーいッ!!!」

 

 

 

思わず、ずっこけながら突っ込んでしまった。

隣でまさかまさかと見ていたヒンバスもまさかのオチに

無能コイキング状態に陥った。ぴちぴちしてやがる。

 

おいテメェドレディアコノヤロウ横で笑ってんじゃねえwwww

あ、ダグドリさん達すいません起こしてもらっちゃって。

 

「ってちょっと待ておいッ! 俺のレベルが上がるとか、ポケモン扱いかよっ!!」

 

どういうことなの……

 

そして念のために他画面も見てみるモノの……これと言った更新情報はもう無い様だ。

 

「……他に更新情報はないか。

 まあ『しびれごな』とか覚えたら、それこそ本当にどうしようの世界だけどさぁ」

 

まさか俺のレベルが上がるとは思わなかった。ダリナンダアンダイッダイ……

 

「……あー、もしかしなくてもこれ、あれか」

 

ドンカラスぶっ倒したやつですねこれ。

その後にもコラッタとか未進化のやつ二匹ぐらい、蹴っとばしてぶちのめしたしなぁ。

ていうか元のレベルいくつだよ俺。そしてドンカラスはどの位のレベルだったんだよ。

 

前にズバット倒した時にはレベルなんて上がらなかったがなぁ。

あれはもしかしてLv7とかLv9のヤツで、経験地がたいした事なかったってことかな。

 

 

 

そしてレベルが上がったってのもあってなんか体がちょっと成長した感じがする。

たくましくなった系とでもいうのだろうか? 心持ち筋肉が若干付いたような……

でも俺のレベル上がってどないすんねん、この世界体育祭とかなんてないし。

 

「あーもう……なんか一気に疲れたわ……とりあえずポケセン戻るべ……」

 

 

何も準備せずにディグダ……ダグトリオ? と一緒にディグダのあなまで来たために

金とかも全てポケセンに置きっぱなしである。

このまま町に繰り出したところでやれる事は、もっさんをからかって遊ぶぐらいしかない。

 

いつものように俺はダグトリオ、名称ディグダONEの頭の上に乗っかる。

ドレディアさんはディグダTWOに、ヒンバスはディグダⅢに。

 

 

あれ、これ個人に専用機付いた感じじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───……。」

 

 

 

 

そして各々がダグ123に乗っかった状態で街を練り歩き、俺らはポケセンに到着した。

周りの目がやばかったが今更である。常識なんて捨てちまえよお前ら。楽になるぜ?

 

昨日の襲撃にして今日の進化騒ぎ……何かするのも面倒だったが

食べるご飯に手を抜くなんぞ、俺の選択肢には存在しない。

買い置いていた材料を台所で調理し、全員で食べた。

ディグダが分裂しやがったため、買い置き食材は全部なくなるが

まあ、あまり認めたくないが新しい家族だしな……差別をするわけにはいかない。

もしディグダの性格を受け継いでんなら、そこまで金が掛からないのもおそらく同じことだろうし。

 

途中でもっさんが俺の部屋で寝てたはずのサンドを連れて一緒に食堂に下りて来た。

そういえばサンドはいつの間に俺のベッドからいなくなっていたのだろう。

 

俺等が食堂で食ってる飯を見て、俺が作ったもんだと説明したらまた若干へこまれたあと

分けて欲しいといわれたので御代わり分をまわす。

ドレディアさんがゴネて(ry、だがサンドが一緒だと強く出れないようである。

さすがは「私の子だからね」    (゜д゜)r<

 

 

「ん……さて、と」

 

一名この場に暗いモノを背負った子が居る。

大体予想は付いてっけど……慰めてやらんと、な。

 

 

 

 

俺に出歩くつもりが無いのもあり、今日は各自で自由行動にさせた。

一応述べておくがポケモンに自由行動をやらせるなんてのは、この世界では俺ぐらいである。

他の人はボールにしまったりして、個人行動を許すとまではしていない。

俺は基本、手持ちのこいつらの事動物とかそんな感じで見ていないので

同等の立場、立ち位置の存在として扱っている。

 

故に、基本的に他の人がやっていない事もよくやるようになっているのだ。

 

ドレディアさんはせっかくだから話が合うもっさんと一緒に。

ダグトリオは三匹揃って、一旦ディグダのあなに報告に行くそうだ。

 

 

何をだ?

 

 

で、残ってんのが。

 

「……。」

 

こいつなわけだが。

 

 

 

「よう、ヒンバス。どうした」

「ッ!?」

「別にそんなに驚く事もないだろ。俺の部屋なんだから俺が帰ってきて当たり前だ」

「グ。」

 

返事にも覇気が全く感じられない。普段は優しい感じの雰囲気で応答してくれるんだがね。

 

「なぁヒンバスよ。ちょっと一緒に波止場にでも行こうや」

「……。」

 

目を瞑って否定の意思を出すヒンバス。

 

 

 

 

 

もちろんしったこっちゃねー。

 

「はーい行くぞー。返事は YES か はい か OK しか認めませーん」

「ッグ!? グーーーーッ!!」

 

 

Lv100のじたばたを繰り出すヒンバス。

だがしかしLv15に進化した俺には、痛いやめて落ち着けこの野郎。

いくらHPMAXでもいてーっつーの。

 

「お前……いくらなんでも一応の主人に攻撃はないんじゃねえ?」

「ッ────」

 

言うとぴたりと収まった。

……やはり、前の持ち主の事はまだまだトラウマか。

上の発言から、ヒンバスは先を勝手に予想して……自分の不都合な事ばかり妄想した結果

じたばたするのをやめてしまったのだろう。

 

「よっと」

「───グ……」

 

【本当にそんな気分ではないのですが……】という感じに意思を返してくるが

構わずヒンバスを俺の頭に載せ、出発準備を整える。

 

 

「二人っきりの時なんぞ滅多になかったんだし、たまにゃあ付き合えよ」

「…………グ」

 

うむうむ、そうこなきゃな。

俺はサントアンヌ号でパクった『あれ』を持って、部屋を出た。

 

 

 

 

そうして俺達は、波止場までやってきた。ここはヒンバスを釣り上げた付近である。

 

「ここに来るのは2、3週間ぶり位かねー」

「グー」

 

【そうですね】と返してくるヒンバス。『笑っていいとも』かこのやろー。

 

 

海の向こうからやってくる潮風が涼しげに俺らを撫でていく。

季節柄とても気持ちが良い風だ。まあ部屋帰ったら風呂入るの確定だけどさ。

潮風ってしばらく浴びてるとべとつくんだぜ。やってらんねー。

 

 

 

「……んで? 何悩んでんだ?」

「ッグ!?」

 

こっちを見上げてくるヒンバス。

俺はあえてそれ以上何も言わずに見つめ続けるが……やはり、目を逸らされた。

 

「言い当てて欲しいのか? お前、俺の事舐めすぎだろう」

「───。」

 

ヒンバスは俺のあまりの物言いに無言になってしまった。

色んな感情が渦巻いてんだろうなぁ。俺には経験がないからわからんけど……ね。

 

「……グ」

 

その鳴き声を皮切りに、魚クンの瞳との会話でしかないが

ヒンバスはとつとつと語りだした───

 

 

【私は……あの場での皆がうらやましかったのです。

 全員が全員、レベルという概念が凄まじく上がり……

 果てはご主人様までレベルがあがってしまい……】

 

うん、大丈夫。それは俺も予想外すぎた。

RPGじゃねーんだぞ。俺が今居るここは現実だバカヤロー。

 

【その上、ディグダさんはついに進化をしてしまいました……

 ご主人様には思うところがあるかもしれませんが……私から見たら、やはりそれは眩しすぎた】

「うん、そーか」

 

眩しい云々ってのは、もちろん進化の際に発する発光量の話ではない。

 

 

だって こいつは Lv100だから。

 

その光を、自分で発する事は……無理だから。

 

 

【何故私はこのような身になってしまったのでしょう。

 何故私はこのような身にされてしまったのでしょう。

 どうして私はこのような状況になってしまったのでしょう。

 ───……私は、何故こんなにも……弱いのでしょう】

「…………。」

 

……まあ、弱いって所は認めないでもない。

 

多分だが、多分の話だが。

このパーティーでの、ヒンバスの現状であるLV100の利点であったはずの

周りと比べてのステータスのぶっ飛び具合も既にそれほどではなくなっているはずだ。

 

ドレディアさんは一気にLvが31にまで上がり、なおかつ彼女は努力値が完全に振られていた。

まだ見ていないが、おそらくヒンバスの数値は大きく上回っているだろう。

 

ダグトリオはおそらくステータス自体は全部平均的かもだが

持ち主が俺である限り、戦闘においてそのステータスは全て跳ね上がる。

目に見える数字が少なくても、戦闘になれば

ダグトリオはドレディアさんより活躍する可能性もあるのだ。

 

そしてその二人は……つい最近まで、本当につい最近まで

ヒンバスが修行に付き合っていた、格下の存在───

 

この状況で劣等感が芽生えないのなら、生き物として失格な気すらしてしまう。

 

【この状況で私が出来る事などあるのですか?!

 今の状況で私に出来る事とは一体なんなのですか?!

 私は───もう、要らない存在なのですか……!?】

 

完全に不安と焦燥のデフレスパイラルを起こすヒンバス。

その体の中に宿す負の念は、とても大きい。既にこちらに向ける瞳の中には涙が見える。

出来る事なら閲覧者諸君、「でも魚だろ」とか言わないで欲しい。

 

 

 

【私は───もう、野生に戻った方が良いのでしょうね……】

 

 

 

 

「なんでだ?」

 

 

 

 

俺は一言だけ添えた。

 

負のスパイラルに陥っているヒンバスは

いきなりの発言にこちらに顔を向け、驚いた瞳で俺を見た。

 

「お前は確かにお前自身がこのパーティーに要らないと思ったんだろうさ。

 ───聴くが、俺がいつお前なんぞ要らんと言った?」

【ッ!! ─────……】

 

そう。

 

言っていない。

 

そして。

 

「俺はお前と初めて逢った時に言ったはずだ───」

 

 

 

 

───お前が、俺を必要とする限り。

────俺も、お前を必要としよう。

 

 

 

「お前にとって、俺は必要としない存在か?」

【で、でも───】

「───実は、な」

 

俺は、お前をまだ必要としている。

だから、本来なら……墓場に持っていかねばならない事を、お前に伝えよう。

 

「俺はお前が進化出来る方法に心当たりがある」

【ッッッ!?!?】

 

ヒンバスの目が驚愕の色を浮かべて剥き出しにされる。

 

……気持ちはわからんでもない。客観的に考えれば、似たような形はいくらでも考えられる。

 

 

───利き腕を事故で切断せざるを得なかった人が居たとしよう。

その人が絶望を浮かべている所に「君の腕を再度生やす方法がある」と言われたら

 

その人はどう思うだろうか。

 

───末期がんで余命半年と言われた人などいくらでもいるだろう。

その人が絶望を浮かべている所に「貴方を完全に治療出来る人がいる」と言われたら

 

その人はどう思うだろうか。

 

 

「但し。この方法を述べる前に───お前にはひとつ伝えなきゃならない事がある」

【……───。】

 

……話の流れでとてつもなく重要な事とわかったか。

さすがはヒンバス、俺のパーティーの保護者的存在と言ったところか。

 

【言ってください。私は、その方法が存在するなら……藁でも良い、(すが)りたい……】

「わかった。とても簡潔に伝えると、だ。俺は『この世界の人間じゃない』」

【─── は ? 】

 

ま、さすがにこれだけじゃ意味もわからんか。

 

「もうちょっと詳しく言うと、だ。

 俺にとってのこの世界は、前に送った人生の中で……ゲームとして存在していた世界だ」

【そ、そんなバカなッ!?】

 

……言わんとした事にはまだ気付けてないか。

どうやらヒンバスは【もしそうだとしたら私達までゲームの一部か!?】と

そんなことを思ったんだろうな。

 

「まあそこはある意味どうでもいいんだ。

 実際俺の世界でもLv100から進化させる方法なんて

 あるにはあったが殆どのヤツは無理だったから」

【なら私の進化の方法だって無いに決まっているではないですかッ!!】

「言っただろう。あくまでも……心当たりがあるだけだ」

【ッ……!】

 

やはり突然見せてしまった蜘蛛の糸に、ヒンバスは我を見失っているらしい。

 

……あまりじらすのも良くないな。

要は、この世界の人間じゃないと言う事を伝えられれば良かっただけなのだ。

 

【よく考えれば心当たりはいくらでもあります……

 貴方が修練と呼んだあの修行の方法、技に……

 あの船上の戦いで取った貴方の戦法、指示は

 この世界では全て発想される事すらないものばかりだった───

 言い換えるなら、悪の組織ですらそこまでやらない方法ばかりでした。】

「そいつぁ有難い褒め言葉。俺ぁ合法の中なら……勝ちゃなんでもいいんだよ。

 勝てば官軍、───負ければ賊軍だ」

 

 

この真理はいつだって[俺]と言う存在をしっかり認識させてくれる。

これがなければ、俺は俺ですらない。

 

「さて、大体考えてもらえたわけだが……

 俺の居た世界ではな? ポケモンなんてのは一切いなかったんだ」

【はい……そんな世界が、あるのですね】

「でもって、ポケモン達が持っている力も借り受ける事が出来ない。

 当然の事だな。だって存在すらしてないんだからな」

 

むしろ俺らからしたらこの世界のほうが異常だ。

 

あっさりと体の作りやおそらく内臓までもがレベルやら石という概念であっさりと「進化」する。

どこのインベイダーであろうか。宇宙生物と言われたら素直に信じるレベルである。

 

「そして、そんな便利が存在がいないなら───

 当然人は、自力で歩かなければ発展も出来ない」

 

そう、現代日本は「人類」が自力で発展してきたからこそ

俺が生きていた平成の世まで繁栄していたのだ。

 

「その発展に関して、いろいろなものが調べ尽くされててな?

 中には同じ生物である「人間」をいじくり尽くして、データを取ったりもしたわけだ」

【なっ───!?】

 

よく考えりゃ残酷な世界だ。弱肉強食なんて遥かに劣る。

鬼畜外道の跋扈(ばっこ)していた世界なんだからな。ヒンバスもそこに気付いたからこその驚きだろう。

 

「さて、俺が心当たりがあるといったところは───ずばりこの、人間のデータだ」

【え……? 何故ヒンバスである私の進化に、

 貴方がいた世界だという人間のデータが関わるのですか……?】

 

素直な疑問を、ヒンバスはぶつけてくる。まあその疑問は当然といえば当然だな。

 

「俺が見た情報の中にな? 生物……もしかしたら人間だけかもしれないんだが。

 通常時は、全力と比べて30%の力しか出して生きていないって統計があったんだ。

 今話した『全力』ってのは、思いっきり走るとかそういった意味で発揮されるわけじゃない」

【───私にはまだ答えが見えません。続けてください。】

「要はさ。どれだけ全力で走っても。どれだけ頑張って戦っても。

 30%っていうリミッター、限界地点が設定されてたわけだ。

 残りの70%は生きているうちに殆ど出る事無く終わる」

【はい。】

 

 

さて、結論を述べよう。

 

「ヒンバス、お前はLv100だよな。なら俺は改めてお前に問いたい。

 それがお前の限界だと、誰が決めたんだ?」

【え……そんなのはこの世界の───】

「常識、だよな? 誰かに決められたわけではないんだろう?

 だったらさぁ、一体誰がヒンバスはLv101になれない、と決めた?」

【ッ!?】

 

まさかそんなところの発想か、という感じのヒンバス。

まぁ暴論すぎるのは理解している。だが───

 

「もう一度言おう。『誰が決めた?』

 だったら、今から101になれるかどうかを試してみるのも有りなんじゃないかって思ってな」

【───そんな、夢物語があるわけないじゃないですか……】

「やってみないとわからないし、多分今までこの世界でそうなったのは居なかったんだろう。

 なら───お前がこの世界の一番最初になればいい」

【───。】

 

もはや言葉すら出てこないヒンバス。

 

「お前も俺と一緒に居て常識なんてもんがカスなのは知っただろ。

 だったらやるだけやってみてから諦めろ。

 俺はここに手段を提示した。お前はお前で今、自分の中で限界を超えろ。

 見果てぬ夢なんだろう? 夢は───叶わない限り、悪夢のままなんだよ」

 

 

なれるわけもないのにずっと夢見る進化した姿。その姿には、自分は絶対に届かない。

 

 

 

これほどの悪夢が、他にどこにある。

 

 

「さて、ここにふしぎなアメがある」

【え……、そんな貴重品一体どこからっ!?】

「なんか船内の部屋に落ちてたからパクった」

【ぁ…………。】

 

こんな良い流れで、使うのが盗品ですみません。でも一番手っ取り早いのはこれなんだ。

 

「で、これをヒンバスに使おうとすると」

 

pin

 

[> つかっても こうかが ないよ

 

「と出るわけだ。ポケズではな」

【当たり前の事ですね】

「ではヒンバス、今だ。───今、この時を持って、己の限界を超えろ」

【ッ!? 今ですかっ?!】

「そうだ、今だ。

 ───今まで、お前はどれだけの理不尽に遭って来た?

 ────今まで、お前はどれだけの絶望に遭遇してきた?

 今この瞬間を持って、その負の連鎖を断ち切れ。

 ここに存在しているお前の限界はLv100なんかじゃないッッ!!」

 

 

俺も正直こんな方法が成功するとは思っていない。

だが、可能性はきっと、0ではない。だから───

 

「お前自身で進むしかないだろッ!

 もし駄目でも俺はお前を必要としてやるッ! だから───」

 

 

お前は、唯ひたすらに自分の壁をぶち壊せばいい。

 

 

「───だから、『お前』も今ここで『お前』を乗り越えろッッッ!!」

 

【───ッ!!! お願いしますッ!!】

 

そう言われ、俺はヒンバスの口にふしぎなアメを投げ入れた。

レベルを1上げられるなんて便利なアイテムを、こんな形で使う阿呆など居はしないだろう。

 

だが、俺はやってやる。

 

仲間のために。家族のために。消費するのなら───

 

 

 

 

これに勝る本望など……世界に存在しない。

 

 

 

 

 

そして───

 

 

 

 

 

ててててーん♪

 

 

 

 

 

あの音が、なった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

38話 なんと

例の如く演出のために改行が凄まじいです。前半だけですが。
納得出来ない方はPCを投げ捨てろとは言わん。
まあ俺のためにコーラでも買ってこいや。10分な。


 

 

ててててーん♪

 

 

 

 

あの音が、した。

 

 

 

 

つまりは……レベルが上がったと言う事だ。ならばその先に待ち受けるのは──

 

 

俺は図鑑に目を降ろす。

 

 

 

 

 

[> ヒンバスは レベル0ていどに なった!

 

 

 

 

 

って、ちょwwwwwwww

 

 

 

ぜ、ゼロだと?! じぇろだとぉー!? まさかの101構想を通り越してオーバーフロー!?

スペランカーも127機以上になったら1回死んだだけでゲームオーバーになると聞いているが……

そっちと同じ状態になってしまった!? 

 

 

あれ……? でも、待てよ。

 

ヒンバスの進化条件はうつくしさの一定範囲超えでのレベルアップ。

例えオーバーフローして0に戻ったとしても

『データ的』と言ったら失礼かもだが『レベルは上がった』という判定なはずだ。

そうでなければ図鑑からもあの音がしないはず───ってことはッ……!?

 

 

[> おや……!?

  ヒンバスの ようすが ……!?

 

 

やっぱりだッ!!

 

 

「ヒンバスッ!!」

「─────ッ!!」

「やったぞッ! お前は、やったんだッ!!

 お前の夢は、今……叶うんだッ!!」

「~~~~~~~ッ!!」

 

号泣に打ち震えるヒンバス。

 

自分の体の内部の事だ。きっとデータが見えずとも……ヒンバスもわかるのだろう。

 

 

 

 

 

 

諦めた夢が、目の前に現れた現実が。

 

 

 

 

 

 

己が、その醜いアヒルの子から……白鳥になっていく体感が。

 

 

 

 

 

 

人の手により最強にされ。

 

 

 

 

 

 

人の手により貶められた夢の愚物が。

 

 

 

 

 

 

常識をかなぐり捨てて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、輝き出す───!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[> あ、おんがく いれないほうがいいですかね、さすがに。

 

 

 

 

 

わかってんなら黙ってろポケズ(ポケモン図鑑)!!

 

 

 

 

 

 

 

キュピィィィィィィィン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光り輝いた夢の残滓が晴れた先には

 

何処から見てもひたすらに美しき存在が

 

進化する前からは想像も付かない、共通性すら存在しない

 

七色に輝く鱗を宿した、美の化身が

 

 

 

 

 

 

 

そこに、存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホアァァァアアアァーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[> わたしより あなたが いったほうが あのこも よろこびそうですよ

    

    

 

ああ、そうだろうな。

 

そうさせて、もらうよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ミロカロス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァァァァーーーー!! ホアァァァ~~~~~~~~!!!」

「ちょ、痛いって。もうちょっとやさしくしてくれ。

 嬉しいのはわかる。俺もうれしいけどさすがにちょっと痛いよ」

「ホアァァァ~~~~~~~♡」

 

本当に嬉しいのだろう。

 

俺達はまだ波止場から移動してないが

ミロカロスは進化が終わって心の底から叫んだ瞬間に

ずっと俺から巻き付いて離れてくれない。しかも結構きつめで、痛い。

 

だがしかし俺は以前シジマさんに気絶するほど抱きしめられた事がある。

そのため、その基準からすれば余裕で耐え切れる!

たまには役に立つな、おっさんッ!

 

まぁ、今日ぐらいはいいだろう。

ずっと俺の頬に顔をすりすりしているが、その顔はとても笑顔だ。

仲間の嬉しさを許容出来ない程俺の器は小さくないはずだ。うん、そのはずだ。

その割にはよくドレディアさん飯抜きにしてるけど。

 

 

しかし───

 

 

「ミロカロス。」

「───?」

 

首をこてん、と傾げる。

やばい可愛い。可愛い。ラブアンドピースってこのためにある言葉だきっと。

 

 

「───よかったな!」

「~~~~~~~~~ッッ!!」

 

 

すりすりすりすり。

あぁんもうなんだよこの可愛い生き物はー。

おい、前の持ち主よ。今だけはてめぇに感謝したるわ。

 

 

 

 

こいつは

 

 

 

 

俺の相棒の一人だ。

 

 

 

 

 

 

「さて、とりあえずちょっと離れてもらえるかい」

「~~~。ホアァ~……」

 

物凄く残念そうに、俺から体を離すミロカロス。

もういいじゃん、40分近くずっとこうしてたんだぜー。俺もたっぷり堪能したけどさぁ。

 

「ちょっと気になってた事があってね。それを確かめたいんだわ」

「??」

 

 

そう、気になってるってのはあれだ。ミロカロスのステータスだ。

 

ポケズにゃ間違いなく、表記は0ってかかれてた。

100でもないし1000でもない、じぇろだ。

 

その場合ステータスはどうなるのだろうか。概念的には0の次は1だが……

 

そんなわけで……

 

pipipipipi

 

とな。

 

 

 

ぽーん

 

 

 

読み込みが終わる。ポケズをミロカロスと一緒に二人で確認してみた。

 

 

 

 

 

 

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

No.350★異状進化★

ミロカロス Lv0確定

 

タイプ1:みず

タイプ2:びじょ

 

せいかく:へいわしゅぎ (戦闘に参加出来ない。)

とくせい:かしょうりょく 

 

(まさに神の領域の歌声。戦闘における『うたう』なら他の手持ちにまで効果を及ぼす勢い。)

 

親:タツヤ

 

こうげき:

ぼうぎょ:

とくこう:

とくぼう:

すばやさ:━

 

現努力値

うたごえ:+++++++++++++++++++++++++++++++

はっせい:+++++++

 

わざ1:ソプラノ

わざ2:アルト

わざ3:テノール

わざ4:バス

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

ぱたん。

 

 

 

ポケットに図鑑をしまった。

 

「えーと」

「?」

「雌だったの?」

「ホァー!」

 

タイプ2に:びじょってあったんだよ。

 

OK、理解しました。

 

「んでさ」

「??」

「何この タイプ:びじょ って。」

「~~~~~~」

「ああっ!? ごめんっ!

 そんな困った顔しないでっ! ごめんッ!

 お前にわかるわけないよなっ! そうだよなっ!!」

 

なんだよこの罪悪感、ちくしょう。

 

「ついでにさ。」

「???」

「なにあの へいわしゅぎ って。戦闘に参加出来ないとか書いてたんだけど。」

「…………;;」

「ごめーーーーーんッ! お願い泣かないでーーーーー!!」

 

 

すみませぇーん! マジで泣かないでぇー!! その垂れ目で泣かれると俺も心苦しい!!

 

あ、何気にこの子アドバンスverだ! DSからは釣り目だったはずだからな!!

 

 

「つまりはもう戦いたくない、と。

 まあ、お前の通った道は知っているからな……それについては仕方ないと思うことにするよ」

「ホァァァ~~~~ン♡」

「わーっ、だぁっ、まだだっ! まだ巻き付いて来るんじゃない!!」

「ホァ~……」

 

残念そうに下がるミロカロス。お前ヒンバスの時と性格違いすぎねえ?

ヒンバスのときもっとしっかりした大人だったと思うんだけど。

まさかLv0になって精神年齢も0になったのではあるまいな。

 

「でもお前……これどうすんの?」

「───。」

「本当に、戦えなくていいのか?」

 

俺は素直に思ったことを質問してみた。

 

返ってきた返事はあまりにも悲しい、理解されていない内容だった。

 

【やはり、戦えなければ私は要らないですか……?

 私はもう必要とは、されないのでしょうか……】

 

こんな返事が返ってくると俺もさすがに悲しくなる。

 

 

 

「ミロカロス、ちょっとここら辺まで頭出して。」

「……?」

「うん、そうそう、そこら辺。ちょっとそのままね」

「ホァ……?」

 

 

よーし……気合は十分。

Fight 1、Ready~~~……Go!!!!

 

 

「なんばかんがえとっつかぬしやぁあああああああ!!!!」

 

 

 

 \ | /

─げんこつ─

 / | \

 

 

 

「ホッ、ホアッ!? ホアァァーーーー!?」

「うるせーーーッ! ネットのコピペみたいな叫び声してんじゃねえッ!!」

「~~~~~~~;;」

「泣いても駄目っ!!」

「ホアァ~♡♡♡♡」

「                 可愛くしても駄目っ!!」

 

ごめん実はちょっと揺らいだ! でも俺頑張った!!

ミロカロスは何故拳骨されたのかよくわからず困り顔のままである。

 

 

「ミロカロス、なんで俺が怒ってるかわかるか。

 いや、わからないからそんな態度してるんだよな」

「;;」

「理不尽と思うかもしれない、でも俺は叩かなきゃならなかった。

 お前、俺の事わかってなさすぎだろそれ」

「?????」

「なぁ、ミロカロス。戦闘能力がなくなっただけでよ。

 

 ───俺が見捨てると本気で思ったのか?

 

 思ったんなら俺はお前にどれだけ距離を置かれて接されてたんだろうな。

 こっちは積極的に、なんとかお前のトラウマ消そうと頑張ってたのによ」

「ッ!」

 

ただ傷の舐めあいという関係にしたくないから。

教導役や、切り札という存在にまでなってもらったのにこれはない。

俺でも涙が出ちゃうクラスだ。

 

「お前自身もわかってたじゃねーかよ、最初にあった時。

 誰が好き好んでLv100のヒンバスなんか使うんだってーの。

 俺だって正直後半の戦力としちゃ期待してなかったさ」

「───。」

「いいかミロカロス。今だけ考える時間をくれてやる。

 ───なんで、それでも俺がお前をパーティーに入れ続けたか。

 その意味を考えて、知れ。」

 

 

 

 

その言葉にミロカロスはしばらく停止し

 

 

 

 

本当の、心の底からと思われる涙を瞳から零し始めた。

 

 

 

 

「───ようやくわかったか、バカが」

「~~~~~~~~~ーーーーーーッッ!!!」

 

勢い良く俺に巻きついてくるミロカロス。

 

さすがにこれは許容してやろう。説教は終わりってな。

また頬にすりすりしてきたので俺も頭を撫でてやった。

 

 

 

 

 

若干強く叩きすぎたのか額にたんこぶが出来てた。

 

 

 

 

 

あの後しばらくいちゃついた(?)俺らは、お互いに落ち着きを取り戻した後に

ポケモンセンター、略してポに戻る事にした。

 

一緒に(ポケモンセンター)に向かう最後に

【本当に感謝しています。ありがとう、ご主人様】と言いながら(言いながらでいいのか?)

頬にチュッとやられたのは、ちょっと他の人に殺されても仕方が無いかなと思った。

 

 

俺はノーマルだからな。

ノーマルだ。かくとうに弱いからな。

 

 

でもこれを気にアブノーマルになっても良い気もした。

だがそこは鉄の意志で我慢。

 

 

帰り道もミロカロスに【乗れ、乗りなさい。乗らないと駄目】と駄目押しを喰らい

背中に乗せられて移動する事となってしまった。

 

楽だったんだけど、この辺りにミロカロスなんてまず見ないので

ディグダとは違う意味で非常に注目されて、なんか恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

本当におめでとう。

 

 

ミロカロス。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

39話 嫌です

ミロカロスの背に乗り街中をずりずりと行進し、(ポケモンセンター)に辿り付く。

 

しっかし……これがあのヒンバスから……ねぇ。

コイキングギャラドスも訳のわからん存在だが、こっちもこっちで訳のわからん存在だなぁ。

天体戦士サンレッドのタイザ君みてーなもんか?

 

「ホ~ァ~?」

「ん? うん、良い感じ~」

 

乗り心地はいかがですかと聞かれたので素直に答える。

普段のディグダの頭の上もかなりいいものがあるんだが

あそこはいかんせん、体勢の都合上バランスが取りづらい。

それと比較すると、まあちょっとずりずりと音がしているのはあれだが

乗り心地はこちらのほうが格段によいものがある。

みんなも乗ってみると良い。いいモンだぞこれは。

 

 

俺が良い感じ~と言ったからか、ミロカロスはまたご機嫌になる。

目を瞑りながらリズム良く首を振りながら前に進んでいく。

 

 

 

 ゜

 

「ッ~!?  ッーー!?」

「あーぁ、前見ねぇから……」

 

犬も歩けば棒に当たる。ミロも歩けば電柱に当たる。

 

「喜んでくれてこっちも有難いけど、ちゃんと前は見なきゃあかんぜよーぃ」

「ホォ~~ン……。」

 

切なそうに声を上げるミロカロス。

進化して自由の利く体になったのはいいが……前の体との違いに戸惑ってるってとこか?

 

「ほれほれ、安全運転安全運転。それいけすすめーミロカロスー」

「ホァ~♪」

 

首元をぺんぺんと優しく叩き、進む事を促した。

再びご機嫌になりずりずりずりずり。

 

 

へん、うらやましいか道端の奴らめ。俺の自慢の相棒じゃぁ、クケケケケ。

 

 

でもちょっとこっぱずかしぃ。

 

 

 

 

そんなこんなで (ポケモンセンター)に到着ー。ミロカロス、ごくろーさん~。

 

「よっ、と」

 

ミロカロスの体から降りて、ポケモンセンターの中に入っていった。

俺が入った後ろから、ミロカロスも一緒についてくる。

 

「……お?」

 

入り口をくぐると、そこには朝に二人で出かけたはずの二人組が居た。

 

随分早く戻ってきたなぁ、もっさんとドレディアさん。

待合室の椅子で2人で楽しそうにお話をしている。

 

ついでだからミロカロスの事も伝えておこう。

 

「おーい、そこの緑と野営ガールー。こっち向けー」

「ディァ?」

「ん? タツ……」

『ッ!?!?』

 

にひひひひ、やはりLv100からの進化は驚くか。

せいぜい進化出来る奴らなんて石使うやつらと交換して進化するやつだけだもんなー。

 

「んふふふふふ、どうだぃ2人とも。美しさに見惚れて声も出ぬか」

「~~~~~♪」

「ぐっ……! 本気でふつくしいっ……!!」

「ディッ、ディアッ!? ド、ドレ、ディァッ!?」

「ホァ~~♪」

「ッッッーーーー!!♪」

 

二人で会話した後、ミロカロスに抱きついていくドレディアさん。

うむうむ、二人共元から仲は良かったしな。ドレディアさんも嬉しいのだろう。

ミロカロスもゆるゆるとドレディアさんに巻きついていく。

二人とも良い笑顔だ……もっさんカメラ持ってんだろ。よこせ。

 

「んん~良い絵ねぇ……ところでタツヤ君……

 あのヒンバスがこうなったのよね? 話には聞いてたし」

「まさに。」

「あの子Lv100だったんでしょ……? 一体どうやってやったのよ」

「んー、洗脳に近いかな? お前の限界はLv100なんかじゃない、って言い切って

 ふしぎなアメ食わせたら成功した」

「ああ、そう。まあ君らしいわ」

 

あまりにもそっけない返事を頂く。なんと失礼な対応か。

驚くぐらいしろよ。俺だって成功すると思ってなかったんだぞ。

とりあえずもっさんも椅子に座ったままだし、俺も勢いよく体重を預けてどかっと座る。

 

「そいやダグトリオは戻ってきてないのか?」

「ん? ああ戻ってきてたわよ。土の中のが落ち着くって、庭で顔出してるわぁ」

「なるほど、精神汚染が広がらなくていいかもしれぬな」

 

……本当あいつらこれからどう扱おう。

一匹だけならまだしも三匹の細マッチョタイツが街を練り歩くとか

速攻で警察飛んできそうで嫌なんだけど。

 

「あ、そいやタツヤ君。マチスさんから伝言預かってるわよ」

「ん……マチスさんから……?」

 

一体なんだろう、ジム戦やるべーとかか?

 

「えーとねぇ、なんかタツヤ君に感謝状贈られるらしいのよ」

「ふーん」

 

なんの感謝状だろう。心底どうでもいいんだけど。

 

「……驚かない辺り、さすがねぇ。

 それで式典の最中に、市長さんが直々にテロを阻止した感謝状って事で

 君に送るらしいわよー。本当に凄いことしたわねぇ……」

「別にそんなの旅の足しにもならねーし要らないんだけどなぁ」

「あはは、言うわねぇ。でもま、名誉なもんなんだから受け取っておきなさいな」

「へーへー」

 

本気で知ったこっちゃないので適当に手ぇ振っておく。

隣で「まったく……」と呟いているもっさん。

 

「ホァ~」

「ん、喜びの舞は終わったのかミロカロス」

「ディァ~♪」

「ホァ~♪」

 

そかそか、二人共堪能したってかぁ。シュルシュルシュル。

 

「♪♪♪」

「おいおい、こんなところで巻き付いてくんなよー」

「ドッ……!!#」

 

ハハハ、まあヒンバスの時にゃこんなコミュニケーション取れんかったからなー。

流石に毎度毎度やられると体力も持たな───って、ん?

 

「どしたよドレディアさん。なんで青筋立ててんだ、眉間に」

「───ッ##」

「お、おい……?! なんだ、なんだってんだよ!!」

「ァ…………。」

 

───ん? ミロカロスがそっと離れて行った。

なんだ、どうした? さっきなんぞ言うまで離れなかったのに……。

 

「ホ、ホォ~……ン……」

「ァー……ド、ドレディ、アー」

「な、なんだぁ……おい、どうした2人とも」

「いや、わかりなさいよそこは……」

 

何をだ。

 

そしてドレディアさんは苦々しい顔に変化してしばらく悩み始めた後

仕方ねぇわ……とでも言わんばかりの動きでミロカロスの首辺りにポンと手を当てた。

 

「~~~~~~ッッ」

 

再度、軽めにドレディアさんに巻きついたミロカロス。

今度はさっきの俺のように頬にすりすりしている。

 

 

なるほど、わからん。

俺は目を見てもらえないと意思の疎通は無理である。

 

こら横。やれやれ、とか言ってんじゃねえ。

想いは正しく伝わらんのだ。見ないと伝わらん。

 

「で、どうするの? 今日の15時からって話らしいけど」

「あぁ、今日なんだ……今11時位か」

「そーねぇ、まだまだ時間あるわよー。お祭りもあるみたいだし、食べ歩いてみたら?」

「うんまぁ、考えておくわ。とりあえず潮風にしばらく当てられたから体洗いたい。

 シャワールーム行ってくるー」

「あいあい、いってらっしゃい。私はミロカロス達と戯れておくわぁー」

 

ひらひらと手を振り同意の意を返しておく。

さーて体さっぱり洗ってとっとと支度だ。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

会場はとても賑やかにざわついている……それはそうだろう。

なんといっても今日はジムリーダーが大人数で集まっても防ぎきる事が出来なかった

サントアンヌ号のテロ事件を、たったの一人で解決したヒーローのお披露目なのだから。

 

この世界ではジムリーダーはとても人気がある存在だ。

なおかつ、そのジムリーダー達の強さを持ってしても解決し得なかった事件を

ただの一人で立ち回り、ジムリーダー全員を人質に取られながら

そして全員を無事に救出しきった、英雄が現れたのだ。

これだけのゴシップで、ざわつかない民衆は殆どいない。

 

もちろんその背景には色々と理由はある。

褒められた形でない戦闘。説得した元敵に自爆させる、等……

しかしその辺りはメディアには不要な情報であり、黙殺される事になった。

 

 

どういう人なんだろう──

やっぱかっこいいのかな!───

どんな方法で皆を助け出したのか聴きたいわ────

サイン貰っておいた方がいいんじゃないか─────

 

そんな意見が様々な形で飛び交いながら、民衆はその時を待つ。

 

「やぁ~すっごい人気やねぇタツヤん。

 これ街のジムリーダーのマチっさん人気、余裕で超えてへん?」

「アハ~ハ~、超えてるネー。シット(嫉妬)! なんてネ~♪」

「でも、やっぱりこうなりますよねぇ……

 本当に、あんな子供が占拠された船をたった一人で……」

「うんうん、これは本当唯事やないでぇ。

 ミカンちゃん、一気にライバル増えてしまうなぁwww」

「え、えぇぇ!? そ、そんなんじゃないもんっ!!

 わ、私がタツヤ君に対して想ってる事はそんなんじゃないもんっ!!」

「ほぉほぉ~♪ んじゃなんなんや~? ほれ、お姉さんに言うてみぃ~、ケケケケ」

「もぅ、いじわるだよアカネちゃんっ!!」

 

ぺちっ。

 

「あてっ、アッハッハ~、ミカンちゃんもウブやんなぁ?」

「アカネガール、からかうのよくないヨー?

 アカネガールもリトルボーイの事好きーヨネ? イーブンイーブンネー♪」

「なっ、うちはそんなんやあれへんっ!

 単にあの子の音楽聴きたいだけやっ! ホンマやからなっ!?」

「……なんで慌ててるのよぅ、アカネちゃん」

「へっ!? あ、いや、それは……」

「アハーハー♪ リトルボーイも大変ネー。

 ダイナマイトガールにスチールガール~♪ コングラッチュレイショーン!」

「マチっさんも何言うてんねんなッ! うちはそんなんやあれへん言うてるやろっ!!」

「説得力皆無だよ、アカネちゃん」

 

ミカンはさらにライバルが増えたと嘆き、アカネは必死に否定を続け

それをマチスが楽しそうにからかい続けて───

 

「こんにちわー、マチスさん」

「おぅ? Mossan~、ヘーィ、ユーファィーン?」

「アイムファインセンキューってね~。そちらのお二人は……お初ですよね?」

「うち、アカネー。ジョウトのコガネってとこでジムリーダーしとるモンや」

「わ、私はミカンと、申します……アサギシティでジムリーダーを……えっと、貴方は?」

「ミーが仲介しておくネー。こちらのガールはMossan言うネー。

 リトルボーイ・タツヤのフレンドネ、OK?」

「ええ、多分そんなところだと思います。

 でもお二人とも私と同じぐらいなのにジムリーダーなんですね……。尊敬しちゃいます」

 

互いに速攻で自己紹介を終わらせた。

 

「そろそろタツヤ君もこっちに来てると思ったんですけど

 マチスさんは見かけませんでしたか?」

「ん~ん。ノットルックネー。

 Mossanもノットルック?」

「はい、マチスさんの傍にならいるかなーって思って……

 遠くから見えたんで追っかけてきたんですけど」

「こっちには来てへんなぁ。

 それにあのディグダとか出してるやろし、目立つと思うねんけど」

「あ、あのディグダ、ダグトリオに進化してましたよ。

 丸々三人に分裂したような感じでした」

『ええぇぇぇぇぇーーーーッッ?!』

 

さすがの情報に驚く三人。

あんな誰がどうみても『ディグダ?』と疑問符を付き返しかねない存在が

さらに二人増えて三人組になるなど、誰が想像出来ようか。

 

「す、すさまじい事になってんねんなぁ……」

「私はもう彼の奇想天外には慣れましたけどね。

 百鬼夜行って呼んでもいいんじゃないかしら、あの子の周り」

「……あれ? でもそれならさらに目立つはずですよね……

 この時間まで見当たらないって───」

 

 

『これより、街の行事に際し、民間人ながら

 テロからの防衛に多大な貢献をしてくれた方へ、感謝状が贈られます』

 

 

「───あ、始まったみたいや!

 さてさて、みんなで精一杯大きい音出して祝福せなあかんな♪」

「アカネちゃん……顔がイケナイ子の目付きになってるよ」

「あはは……アカネさんはそういうタイプの方なんですね」

「話してるととっても楽しいネー♪」

 

 

『では、クチバシティ市長。並びに今回の被害を最小に留めてくれた───え?』

 

 

「ん?」

「え?」

「オゥ?」

「あれ?!」

 

 

全員が全員、改めて壇上を見つめる。するとそこには───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんか細マッチョのディグダの覆面を被った全身茶タイツの三人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えええええええええええええぇぇぇぇぇーーーーーーーッッ!??!??!』

 

 

一同驚愕である。無理もない。

こんなのがヒーローなどと誰が認められるのだろうか。

 

「ちょ、ちょ……もしかしなくてもっ!!

 あれ、今もっさんが進化したちゅーてた、『あれ』か!?」

「う、うん……でもなんで彼らが壇上に上がってるのに

 タツヤ君はいないんだろう……?」

「あ、あれ見てッ! なんかディグダ(?)が市長さんに手渡してるっ!!」

「ンンー!? よく見えないネー!!」

 

 

会場はとても騒然としている。

ヒーローが現れたと思ったら謎の三人組が現れたとしか見えていない。

そしてその謎の三人組の一人は、市長に手紙らしきものを渡して

壇上から普通に降りて、そのまま壇上の裏に消えていった。

 

「な、なんやろ……何渡したんや?」

「て、手紙みたい、だったけど……今市長さんが確認してくれてるみたいだよ?」

「…………。」

「なにかしら、手紙……? 急にこれなくなった、とか?」

 

 

そしてざわついている中、市長の声が会場に響く。

 

 

『えー……皆様にお知らせ致します。

 今の三人組は「我が主殿からの手紙である」という紙をこちらに見せて

 同時に、封のされた手紙を1通、手渡してくれました』

 

 

 

ざわ……    ざわ……

     ざわ……     ざわ……

  ざわ……    ざわ……     ざわ……

    ざわ……    ざわ……  おざわ……

 

 

『今、手紙を開封してみました。

 その中に書かれていた内容をお知らせ致します……』

 

 

……。

 

 

会場が一気に静まり返る。

 

 

 

 

『──手紙には、ただ一言。「めんどい」と書かれております…………。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええええええええええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっっっ!!?!?!?!?』

 

 

まさかのドタキャンだった。

人の都合など知った事じゃねえ、とでも言わんばかりの無視っぷりだった。

 

 

「え、な、ど、どないなんねんこれ?! 式典中止!?」

「わ、わたしにもわからない……!」

「テキトーに支度して行くって行ってたのに……」

「ッ!? ちょ、もっさん、今支度って言った?!」

「え、ええ───って、まさか!?」

 

 

「アーッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!」

 

 

「うわぁマチっさんが壊れたぁ!!」

「ッて、それどころじゃないわよッ! 彼の行動を考えるからに既に旅に出てるわっ!!」

「あかんっ、それはあかんっ!

 ミカンちゃんと一緒にあのラブイズエターニティーだか聴けへんやんかっ!!

 行くでミカンちゃんっ!!」

「ええーっ!? 行くってどこに!? 私達ジョウトに帰るんでしょ?!」

「そんなんどうでもええねん!! ジムリーダーなんてどうでもええんやっ。

 とにかくタツヤん捕まえな話にならんっ!!

 情報を得るためにポケセンに突撃やぁーーーー!!」

「ああぁぁああぁぁぁぁぁーーーーー…………」

 

 

勢い良くアカネに引きずられていくミカン。

というか既に引っ張る力が強すぎて足が浮いている。

彼女は一体どれだけの馬力で動いているのだろうか。

 

「わ、わたしもっ!!」

 

それに続いてモモも彼女達を追従するかのように走り出した。

 

 

一人ぽつんと取り残されたマチス。会場は未だざわついている。

 

 

 

(そうか……少年よ、目立つ事を嫌ったか。

 自由に旅が出来る道を、選んだのだな……)

 

 

 

そんな事を思いながら

彼が街に来てからの思い出を頭の中に浮かべては消し、浮かべては消しを繰り返した。

 

年上であるはずの自分が教えられ、結果が出て。

 

一緒におでんを食べ盛り上がり。

 

船内でも笑いのドつぼが発生し。

 

いつも彼の周りは賑やかで、自分も自然とそれに混ざっていた。

 

 

 

マチスは今走り去って行った彼女達とは違い、ジムリーダーである責任感や職務もある。

ただトレーナーを相手に戦っていれば良いだけではない。

故に、追いかける旅に出たくともジムの任務を放り捨てて

気ままに旅に出るわけにはいかないのだ。

 

 

 

つまりは、賑やかだった日々も終わりを告げる事を意味した。

 

 

 

 

 

(ありがとう、少年。楽しかったよ、小さい英雄)

 

 

 

 

その思いは感謝となり。

 

その思いは感想となり。

 

一筋の記憶として、マチスの中に残る───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

See(また) you(いつか) Again(逢おう)…….」

 

 

 

 

 

空を見上げながら、そっと呟く。

 

 

 

 

 

Little(小さき) soul(心の) Friend(友よ)…….」

 

 

 

 

 

 

同じ空の下で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで俺は今クチバシティのずっと東の、カビゴンが眠ってる場所にいる。

 

これ以上クチバシティにいたら周りがうっさくなるのが目に見えているため

とっとと旅を再開することにしたのだ。

 

自覚こそないがそこそこの有名人になってしまったと考え

そんなので街中を歩いていたら即座に連れ去られる可能性を考慮し

(ポケモンセンター)の庭で埋まってたダグトリオに相談。

突貫工事でトンネルをクチバ東の関所?の近くまで掘って繋げて貰い

全部支度を終えた後、みんなを連れてここまで来たのだ。

 

いや本当トキワからディグダのあなに行く時にも思ったけど

ポケモンマジすげえわ。たったの三匹なのにこれだぞ?

ミロカロスまで普通に通れる穴、即座に作りまくってんだからな……

穴がクチバ東にまで繋がったの、一時間程度とか恐ろしいわ。

そしてその道を2時間もかけてゆったりと歩き、現在位置である。

 

なおトンネルを作ったままだと何か言われかねないので

会場に伝達ついでに、ダグトリオには穴を埋めつつこちらに来てくれと頼んでいる。

 

ま、しばらくしたら顔も見せるだろうし

カビゴンの腹の上から回収ビームして、クチバとはお別れだな。

 

 

 

 

───本当に良い街だったなぁ。

────ありがとう、マチスさん。またいつか来るよ。

 

 

 

そんな思いを胸に抱いて、同じ空の下にいるはずのマチスさんに思いを(ふけ)る。

 

 

「よっし、ドレディアさん、やってくれ!!」

「ディアディアー!!」

 

ガッシッ。

 

「ディーアーッ!!」

 

すぽぉーん

 

「っととぉ……よいっしょっと!!」

 

見事カビゴンの腹の上に着地。ポケモンの笛? いらね。

 

土手上がりの応用でカビゴンの腹の上に乗っかり、ダグトリオが来れば任務完了である。

 

 

 

「っしゃーッ! ひっさしぶりの旅だぁーッ!!

 お前ら気合入れていくぞぉーーーー!!!」

「ドレッディアーーーーーー!!!!」

「ホォォァァァァァァァァ!!!」

「キュキューーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

なんでサンドいんの?

 

 

 





クチバ編、終了


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

使われない設定も含めた人物紹介

感想欄ではなく、メッセージ送信で細かな疑問にお答えします。
そして聞かれた疑問はこちらの後書きに随時追記されます。

ただし、殆どの返答は元々決まっているものではなく
その場ででっち上げて「こんなんでよくね?」程度のアンサーなので
その辺りはご了承下さい。





~ポケモン勢~

 

 

ドレディアさん  

ドレディア♀ Lv31程度 親:タツヤ

 

テーマソング:pop'n15 凛として咲く花の如く

 

タツヤの最初のポケモン。

初心者トレーナーでは持て余してしまう程の尋常ならざる能力を有している。

そのくせ何かに付けて負けている。

 

タツヤに出会う前は別の人物の元で生まれ、その人が彼女の異常に気付き

研究資料としてオーキドに預けられた経緯を持つ。そのためオーキドが嫌いなのではなく研究者が嫌い。

しかしその研究者の中でもオーキドだけが

彼女に比較的まともな態度で接していたのはどういう皮肉だろうか。

 

ステータスに関しては努力値を含め、完全に物理攻撃特化になっている。

性格も相まってなのか、攻撃と素早さがとんでもなく高い。

 

異常な自分に対して何も気にせず素で接してくるタツヤの事が

ちょっと気になっているようである。

 

 

 

元ディグダ

ダグトリオ Lv26程度 親:タツヤ

 

テーマソング:IIDX 19 Mamonis

 

2番目にパーティー入りしたモグラ。モグラ?

設定上では地味に6Vとなっている、突然変異の中の突然変異。

 

ドレディアさんがトキワの森を踏破出来ないため

別ルートの攻略休憩中にタツヤ達に出会い、戦い?に巻き込まれる。

その際にタツヤが見せた在り方に惚れ込み、忠誠を誓う。

 

割と現代日本の人が遊びで想像するタイプの

ディグダの可愛らしさを全てぶち壊す体をしており、よく周りにキモがられている。

しかし中の子的には超が付く程出来た人格者なため、すぐに警戒心を解かれる事が多い。

 

進化して3人になってしまった。どうしよう。

 

 

 

ミロカロス

ミロカロス♀ Lv0 親:タツヤ

 

テーマソング

ヒンバス時:松任○由美 春よ来い

ミロちゃん:felys ~long version~ by onoken

 

クチバシティの波止場でタツヤ達が釣りをした際に

どのポケモンも見向きすらしなかった釣り針に掛かった稀有な存在。

 

勝手な都合で未来を奪われ、さらには捨てられ……奇跡的に憎みこそしなかったが

人間に関しては完全に諦めの境地に達していた。

 

タツヤとの会合でも、自分の身を調べたらどうせ捨てられると諦めていたのだが

自分をパーティーに加えると明言され、半信半疑で付いていった結果

レベル的に年長者なのもあり、パーティーの母親的な位置に落ち着く。

 

現在は進化したは良いものの、戦力がゼロになってしまった。

それでもパーティーにおいてくれる事もプラスして

タツヤに関しては伝えきれない程感謝の気持ちを持っており

既に親愛・情愛のレベルをぶち抜いて、恋愛のレベルになっている。

ドレディアさんとの交渉の結果、共有で落ち着いたようだ。

 

 

 

ミュウ

ミュウ♂♀? Lv25程度 野生のポケモン

 

テーマソング:キューピー3分間クッキング

 

タツヤの手持ちではないが、ぽこぽこと目の前に現れる不思議な子。

しかも何かしら役割を持っているわけではなく自分の暇つぶしで現れている。

 

本来は見かけられることすらない幻のポケモン。

故にこの世界の住民はミュウの存在すら知らない。

 

の、だが。

 

既に各地方のポケモンが、この世界には入り乱れており

住民は見かけても『珍しい子だなァ』程度の印象しか持たず、特に騒がれる事が無い。

 

 

 

フーちゃん

フリーザー♂ Lv98程度 親:クロツグ

 

テーマソング:IIDX14 Snow Storm

 

タツヤの母親のポケモン。本来は別の人のポケモンだったが

母親が見惚れた結果、奪い取ってしまった(合法で)。

 

初登場時点ではLv97程度だった。オニスズメを倒したら98に。

カンスト寸前である事と、初代のフリーザーの強さがガチだった事から

現状、登場している中では最強のポケモンであると思われる。

 

作中最強であるのだが、基本母ちゃんの使いッ走り。断じて作者の体言ではない。

 

現在は母ちゃんのおつかいを頼まれたり

タツヤ捜索隊隊長として、カントー中の空を飛び回っている。

しかし元々鳥なので鳥目な上に、千里眼があるわけでもないので

いまだに見つけられていない。但し目立つためタツヤ側は何度か目撃している。

 

 

 

VOLTY

ライチュウ♂ Lv64程度 親:マチス

 

テーマソング:とある科○の超○磁○ OP LEVEL5-judgelight

 

クチバジムリーダー、マチスの相棒。

某有名な電気ネズミの進化系。ぽてぽてしててとても可愛い。

 

クチバジムのすぐ傍にディグダのあなが存在するため

いつもディグダを連れてこられてはきつい戦いを強いられていたのだが

タツヤの修練についていったマチスに呼び出され

一緒に修練を受けたのが転機となり、クチバジム最強の存在と化す。

 

初期はLv29と初代ピカチュウver程度のレベルだったはずなのだが

修練後、勝ち抜き続けていたらいつの間にかこんなレベルに。

 

 

性格もとても温厚で、タツヤにも好かれている。

 

 

 

サンド

サンド♂ Lv13程度 親:モモ

 

テーマソング:モンスターハンターのロード画面の音楽byアイルーが踊ってるやつ

 

 

モモの相棒。

モモには他のポケモンも居るが明確に描写されている相棒はこの子のようだ。

 

非常に愛くるしい見た目なため、タツヤがとても惚れていて

親のモモは最近危機感を抱き始めている。

 

 

……サンドがモンハンのロード画面で踊る動画はないのかね?

 

 

 

 

~人間~

 

 

マチス 

 

 

喋り方がとても特徴のある初代登場人物。クチバジムリーダー。

 

人物像としては日本人が想像するお気楽なアメリカンである。

面倒見も良く、気さくで明るいためとても接しやすい。

ただしジム戦においては結構厳しい性格になっており

そこら辺も含めてマチスの手持ちからは全面的な信頼を置かれている。

 

元軍人なのもあり、色々シビアなものも経験している。

人生経験も当作品内部のキャラが固まった中では2,3番目に豊富なのもあり

タツヤの中身が10歳どころではない事に唯一気付いた人でもある。

 

 

モモ

 

タツヤにもっさんと呼ばれているガールスカウト。

クチバ東の、トレーナー御用達の野試合地点でタツヤと出会う。

 

少しだけタツヤより年上なため、大人ぶってはいるものの

タツヤの中身の人生経験は30をそろそろ超えるため、ガキんちょとしか見られていない悲しい人。

 

そしてサンドも寝取られかけているため、本人は全然気付いていないが背水の陣である。

 

 

トキワシティの露店のお兄さん

 

テーマソング:ファミコンソフト コナミワイワイワールド モアイステージボス

 

実は現カントーチャンピオン。

しかしこの世界では四天王の実力が他トレーナーと隔絶されたものがあるため

暇すぎて近場のトキワで物を売って暮らしている。

 

此処最近、出番は1年半程無いようだ。もちろん一年半前の出番はvsシンである。

 

語られては居ないが2度ほどシンを破っている。

その後リベンジで三度目の正直を起こされ、破られた。

そして速攻でチャンピオンを返上され、変わらぬ露店暮らしを楽しんでいる。

なんか似たようなチャンピオンがアドバンスに居たような気がしたな。

 

元々ポケモンに関しては極限まで鍛えているものの

ちゃんと愛情も入れまくって育てているため、ポケモンからの人気は高い。

故にドレディアさんも初対面で嫌悪感が一切無かったようである。

なお、タツヤがシンの弟とはさすがに気付けなかったらしい。

 

ちなみに手持ちは

 

クチート(臨機応変、クチートなめんなよ?マイナーなのもあって強いんだぞ、多分)

ヤミラミ(変化技)

カビゴン(火力。エース)

サーナイト(特殊。準エース)

ゴウカザル(素早さ、開幕投手)

テッカニン(積み技)

 

となっている。

 

戦術がタツヤを公式戦特化にした上で

さらに戦術を良い意味で悪化させたような凶悪な強さなのもあり

普通のトレーナーは戦っている最中に負けを悟る程である。

 

この世界の最強の一角にしては珍しく、大抵の一角が面識のある

タツヤの母親、レンカと一切の面識が無い。

 

 

 

シン

 

タツヤにとっての理想の兄貴。かなり出来た人。

カントーポケモンリーグ制覇者。

作中では書かれていないが現在シンオウ地方をうろついている。

 

タツヤがもらってきた時点で

十分に常識を逸脱したステータスをしていたドレディアさんを

割と苦労しつつも撃破し、その後の態度の軟化に一役を担った。

 

その後はタツヤと同じタイミングで旅に出て

弟と同じくどこかの空の下、のんびりと地方を回っている。

 

 

 

レンカ

 

テーマソング1:発狂BMSより★★5 FREEDOM DiVE [FOUR DIMENSIONS] HARD

テーマソング2:IIDX16 卑弥呼 黒

テーマソング3:IIDX12 冥Another ダブル&ハードEX

 

 

作中最強の存在。

この世界の創造神、アルセウス曰く「ただのバグ」。

 

 

他称1「生まれてくる世界を間違えた人」

他称2「生まれてくる種族を間違えた人」

 

現在バッヂを所持していないにもかかわらず、その存在感と威厳だけで

他人のポケモンに言う事を聞かせることが出来る程のよくわからない何か。

 

 

現在はマサラタウンでのんびり暮らしていたのだが

子離れも出来ていないのにいきなりタツヤに出て行かれて超テンパっている。

 

 

 

タツヤ

 

テーマソング:戦闘BGM限定 凛然なる戦い (LIVE A LIVE 中世編より)

 

当作品の主人公。

 

地味に当作品中でレンカですら追いつかないほどの

完璧なぶっちぎりのチート性能を有している。

 

その性能詳細は、「少しよりちょっと付き合いがある程度」の人物、ポケモンが

全て良い方向でバグるという謎のチート。

 

なおかつ、全部(言葉通り全部)のポケモンと意思の疎通が可能なため

世界中のポケモンを集めて指導し切る事すら可能。

もしもこの戦力を用いて母と戦った場合さすがに勝つことが出来る。数の暴力は偉大である。

しかしそのチートの存在に本人が全く気付いていないためこの流れが形になることはない。

 

 

クチバ東で戦ったタなんとかでは無理だが

船でマルマインを借りた(借りた?)ロケット団に始まり

ガールスカウトのモモ、代表例でクチバジムリーダーマチス。

 

現時点でVOLTYがとんでもない成績を残しているのはタツヤのチートの影響。

上記の面子は、現時点で全て狂った性能を有すか実力者となる未来が決まっている。

 

ミロカロスがレベル上限をぶっ壊して進化したのは

宗教じみた厨二病を発揮して概念を洗脳したタツヤが原因である。

 

なお、レンカの弟子という形で接しているサカキにもその影響があり

現時点でロケット団ボスであるという影すら警察組織に踏ませていない。

 

 

地味に船内で彼が倒したドンカラスはLv68である。

カビゴンは自爆でこそ果てたが、Lv83だった。

そしてそんな超絶なポケモンを人の身で打破するに至った幸運、状況は

タツヤでなければ作れないという、本気で地味ながら

作中最強のチート所有者である。現代知識まであるし。

 

一言で述べるならこの世界でのおかしい事象は「大体こいつのせい」である。

 




世界概念設定


Q.VOLTY既に強すぎるのになんでまだジムで戦ってんの?

A.ポケモンリーグ側から実力の確認、付近のトレーナーレベルの比較などで
  しっかりと厳選、選別された結果その位置に収まったライチュウなので
  基本的にはここまで実力差が開く程育つ事自体が例外すぎるため
  ポケモンリーグ側も対応に困っているという現状。

Q.レンカって何者?

A.俺が知るか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

40話 水の上

 

 

「うぅ~~~~~ん……」

「キュ~?」

 

今俺の目の前にはもっさんのサンドが居る。

 

これからまた旅を再会するに当たって、癒し系のサンドに関しては

割りと本気で連れて行きたいのだが、俺はもっさんとポケモンを交換した覚えがない。

つまりは一方的に持っていく形になってしまう。

 

ひとの ポケモンを とったら どろぼう!

 

と作中でも言われているわけだし

俺がこれをやってしまうと、店主と盗賊番と番犬が発生して

+18ラセン風魔の盾が無い俺の身では218とかそんなダメージを受けて

即座にわたしの ぼうけんが これで おわってしまう。

 

 

そんなことになっては俺も嫌なので、こればかりはどうしようもない。

サンドは比較的速やかに、もっさんに返さなくてはならないのだ。

 

「サンド……俺も残念だけど、な……お前を連れて行くわけには、行かないんだ……」

「キュー……;;」

「俺も悲しい、悲しいよ;; でも男は耐えねばならん時があるのだっ……!」

「キュ……!!」

「サンドォーーーーーッッ!!」

「キューーーーーーーッ!!」

 

互いに熱い抱擁を行う。あぁ、運命とはかくも残酷なもの───

 

 

べちんっ

 

 

「あふっ!?」

 

 

な、なんだっ!? 俺の頬に何かが───

 

 

どすっ

 

 

「おぐっ?!」

 

つ、次は脇腹……いや、これはリバーブロー(肝臓打ち)?!

な、なんだぁ?! まさか下で寝てるカビゴンか?!

 

 

「ホァ#」

「ディ#」

 

あれ、なんか痛い目見たのにそれを事前でガードしてくれなかった上に

すっごい厳しい目&青筋立ててらっしゃる俺の相棒達がいるんですが。

 

「……まさかとは思うが君らが犯人?」

 

ぷぃっ

ぷぃっ

 

目ぇ逸らしやがった! こいつらだっ!!

 

「なんてことだ、犯人は身内にいたっ……! お前ら覚悟は出来てんだろうなッッ!!」

『###』

 

うわ怖っ!! なんだこの謎の迫力はッ?!

でも俺はNoと言えるかもしれない男ッ! ……ここで退いては男が(すた)る!!

 

「行くぞサンドッ! こいつらに目にモノ───ってこらぁーーッッ!!

 俺を持ち上げるなぁー! な、なにをするだァー!!」

「ホァー。」

「ディ。ディ。」

 

ミロカロスが尻尾を俺の体に巻きつけ宙ぶらりんになったところを

ドレディアさんに渡し、ドレディアさんが両手で俺を抱え上げている。

やばい、これはアルゼンチンバックブリ───

 

 

 

ぽーぃ。

 

 

 

 

「あぁああああぁぁぁぁァァァァ...........」

「キューーーーーーーーーーーーーウッッ!!」

 

俺の心の友である男の娘、サンドの心配した悲鳴が遠

                                   ざ

                                    か

                                     っ

                                      て

                                      い

                                      く

 

 

 

どぽん

 

 

 

死因・水死

 

 

その後、服が水を吸ってしまい体が重くて沈んで行った所を

さすがに犯人のミロカロスも居た堪れなくなったのか、追いかけて拾い上げてくれた。

ちくしょう、上げて落とすなんてどこで覚えたんだ貴様。

 

あれ、なんか意味違うような気がするな。

 

その間にどうやらダグトリオが俺らに追いついたらしく、穴からぽこっと出てきた。

ついでだから事情を説明し、サンドをクチバに届ける役目を与える。

まあ一匹行けば十分だべ。前から付き合いのあるディグONEに頼んだ。

一旦離れて行動になるが後でシオンタウンで合流する事になっている。

 

本当に名残惜しい別れになったが、いつかまた逢えるよ。

それまで元気でな! 次は進化した姿を見せてくれ!!

 

 

もっさんもデスピサロみたいに進化しねえかな。

 

 

ま、ともあれそんなやり取りがあり時間都合もいい具合だったのか

追っ手も現れず、晴れてのんびり空の下。なんか犯罪者みたいだなぁ、俺なんかしたっけ。

 

 

ふとポケモン図鑑を見てみたら、なにやらおかしいことになっていた。

ダグトリオの名前がダグペアになってやがった。あれか、ディグONEが欠けたからか。

戦力どうなんのとステータスを見たところでさらなるおかしさが発覚。

 

 

────────────────────────────────────

 

ダグペア Lv26程度

 

こうげき:━━━━━━━━━━━×2

ぼうぎょ:━━━━━━━━━━━━━×2

とくこう:━━━━━━━━━━━×2

とくぼう:━━━━━━━━━━━━━×2

すばやさ:━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━×2

 

現努力値

すばやさ:──wwへ√ ̄レヘ√V⌒\へz__×2

 

────────────────────────────────────

 

 

全部に×2と付いている上に努力値のすばやさが完全にバグっている。

なんだこれ。素早さにまで×2ってついているってことは

ちゅうせいしんによる戦闘時のステータス2倍じゃないよな?

 

……まさか今2匹だから×2、ってか?

 

ディグONEが帰ってきたらもう1回見てみよう。

 

 

 

そしてついでだからということでドレディアさんのステータスも見てみる事にした。

 

 

────────────────────────────────────

 

ドレディア Lv31程度

 

こうげき:━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━《長いので省略》

ぼうぎょ:━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

とくこう:

とくぼう:━━━━━━━━━━━

すばやさ:━━━━━━━━《長すぎてもはや全部を画面で表示しきれていない》

 

現努力値

こうげき:+++++++++++++++++++++++++++++++++++

すばやさ:+++++++++++++++++++++

 

────────────────────────────────────

 

 

「ドレディアさん努力値振り切ってたんじゃねえのっ!?

 しかも戦う相手適当だったのに理想のとこだけ伸びてんだけどっ?!」

「ディ~ア~」

 

凄いだろって胸張ってる。

 

凄いけど、凄いけどさ。いいのこれ。

 

戦力としては正直ヒンバスが抜けた穴を見事に埋めてくれてるよ?

だが、始めにちょっとはあったとくこうが完全なゼロになってんのはどういうこと。

これがっ……世界の選択かっ……!!

 

「ホァ~♪ ホ~ァ~♪」

「ん、私も私も、ってか? ミロカロスのは前に見たじゃん」

「;;」

「だー泣くなぁーッ!! お前ほんっと性格まるっと変わりやがったなっ!!」

 

そんなコントを踏まえ、手持ちのバケモノ具合がいろんな意味で上昇している事を

改めて知ることになったステータス確認になった。

 

 

 

 

そんなわけで、どんなわけだ。

俺らは今水の上にいる。1名を除く。

 

 

普通に橋っぽいところを歩いてシオンタウンのほう目指してたんだが

途中でやたらトレーナーに絡まれる事に嫌気が差し

後半辺りは戦わせる前に俺が後ろから奇襲を掛けて

水の中に放り込んで事なきを得ていたのだが、あ、ちょ、おま通報すんな。

あまりにも絡まれすぎるためそれすら面倒になってしまった。

 

 

ので、ここは水の権威のミロカロスの登場である。

なんでか知らんがなみのりもないのに水の上に乗ってくれたのだ。

初代でもアイテムのペゾってやつを使って、なみのり出来たなぁ。懐かしいわ。

 

ん、そんなアイテム知らんだと?

バグ技だよバグ技。詳細は適当に調べりゃごろごろそこらに転がってんぞ。

 

同じ理由で多分シオンタウンでミュウにも逢えるだろう。

あいつは出口付近に出てきたはずだ。

 

なみのりを覚えていない事や、そもそも俺がバッヂ皆無なのに使えている事実を

とりあえずトイレに置いといて、俺らは水の上の旅と相成ったのだ。

 

配置はこんな感じである。

 

 

中腰辺りの一番乗りやすい地点に俺が座り、

ドレディアさんはミロカロスとおしゃべりしながら進みたいのか

首の辺りに捕まりながら、楽しくミロカロスと話している。

 

そしてダグペアのうちのダグTWOが、何故かミロカロスの頭の上で

腕を組みながら垂直に立って、向こう岸を見つめているため非常に目立つ。

お前バランス感覚どうなってんの? てかミロカロスもミロカロスで許すなよ。

楽しそうに「ホァ~~~~~♡」とか叫んでるし。

 

なおダグⅢは船でもないのにミロカロス酔いをして

尻尾の辺りで完全にダウンしており、下半身が水の中に落ちかけている。

まあ、このパーティーのおかあさん的なミロカロスの事だ。

その辺のフォローもしっかりとして、あ、ダグⅢがずり落ちた。

 

ダグⅢは犠牲になったのだ……

 

 

とそんな感じで進んでいると後ろから猛烈な勢いで水ポケモンが泳いできた。

 

と思ったらただのダグONEだった。何してんのお前。北島か。

 

しっかりと肩にダグⅢを抱えている辺りはさすがの元ディグダといったところだ。

 

 

なんか今、ダグⅢはお前が助けろよとかどっかから聴こえた気がする。知らん。

 

 

 

 

水上でも海パン野郎が喧嘩を売ってくるため旅路は非常に面倒だったが

俺がボロの釣竿を使い、全員の海パンを一本釣りすることでめでたく騒動は集結。

釣り上げ奪い取った海パンなんぞ持っててもうれしくないので

コイキングの餌にしておいた。フルチンざまぁwwwww

 

つーかお前もお前で食うなよ、コイキング。

しかもなんか離れてからちらっと後ろ見たらギャラドスになってるし。

パンツ食って進化とかお前どこの食道楽だよ。てかこっちくんな。

 

 

 

 

てーわけでっ!!

 

やってきましたシオンタウン!!

 

 

 

 

「の、近くの休憩所!!!」

 

 

 

 

シオンタウンはまだ先でした。この世界の距離感舐めてた。

また数日は海の上であろうか……まあミロカロスの背中の乗り心地は素晴らしいから

別に問題なんて全くないけどなー。せいぜい潮風がべたつく程度だ。

 

気張って急ぐ旅路でもないので

クチバを出る前に買い入れた食材を、休憩所の中で調理し全員に振舞っておいた。

ギャラドスがえらく喜んでいた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

41話    

 

 

みんなでご飯を食べ、休憩所内で就寝。目を覚ましたら俺の周りはカオスだった。

 

まず最近ことごとく寝る際に俺の傍にいるドレディアさんと

そのドレディアさんごと俺に絡み付いていたミロカロス。

 

そしてダグトリオ連盟がそれをトライアングルで囲むかのように

俺らに背を向け、不動の体勢で腕を組みながら突っ立っていた。

 

あ、はなちょうちん見えた。あいつら寝てやがる。

別にここ休憩所なんだから、そんなに警戒せんでもいいのに……

 

と、ここで俺が起きた事に気が付いたのか、ミロカロスも目をゆるりと開けていく。

 

「ホァ」

「ん、おはようミロカロス……まだ眠いなぁ」

 

 

しばらくの間滞在し、寝慣れたクチバのベッドが懐かしい。

ミロカロスの頭をなでなでしつつ、ゆっくりとミロカロスの束縛から逃れる。

 

「ディアァ……」

「ドレディアさんも起きたか、おはよう。まだ出発しないから寝てていいよ」

「ァー。」

 

少し起き上がり瞳をくしくしした後再びミロカロスにもたれかかった。

高級すぎる枕だなぁ。質感最高だけどさ。

ミロカロスにも「まだ寝てていいよ」とそっと伝え、飯の準備に取り掛かるために外に出る。

 

 

 

 

 

 

 

ちらっと後ろを見たらダグトリオは目を覚ます事もなく寝ていた。

お前ら主が動いたんだからそこは漫画表現っぽくハッとして起きとけよ。

 

 

 

 

飯の準備に取り掛かっていると昨日のギャラドスが現れた。

あいつら結構でけぇからびびったんだが、目を見て昨日のギャラドスと確認。

適当に会話しながら食材を洗った。見た目に反して性格がおだやからしくとても落ち着いている。

普通ギャラドスなんてそのパワーをもてあまして暴れまくってるもんらしいのだが。

 

今回の朝飯でクチバから出る際に買い入れた食材は尽きる。

んだからお昼までにはシオンに着きたいもんである。

 

「ディアー!」

「ホァー!」

『─────。』

 

おっと、全員起きてきたか……まだ調理段階まで入ってないけどまあいいか。

 

ていうかディグダ共。

お前ら休憩所から出てきた途端にいそいそとトーテムポール化すんな。

何がそこまでお前らをトーテムポールに掻き立てるんだ?

全長6m弱になってるし。下のディグダの膝をかっくんってさせたらどうなるんだろう。

 

 

 

 

「さて、ご飯の完成だー。今日もギャラドスの分まで作ったから食ってけや」

「ゴォォァァァグォオォォ♪」

 

声が図太いわりにご機嫌とわかる唸り声を上げるギャラドス。見た目の割りに結構可愛いぞ。

まあ体格からして腹の足しになるかどうか微妙なんだが、喜んでもらえる事は嬉しいもんっすよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァァァァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーッッ!!!」

「ゴォァァァァァァァァーーーーーーッッ!!」

「                           ホァ」

「ッッ……!」

 

やばい、気合入れて朝食作った覚えはないんだが

飯の奪い合いで戦争が勃発しやがった。原因は主にドレディアさんだ。

 

まず、俺がギャラドスに差し出した山芋の煮付けをドレディアさんがこっそり奪い取り

それに気付いたギャラドスが、仕返しとばかりにドレディアさんに出された朝食を全部飲み込んだ。

 

怒り狂ったドレディアさんがマッハパンチれんだで攻撃を開始。

 

そしてギャラドスに隙が出来たチャンスに

ミロカロスがそっとギャラドスに出された一部のおかずに手を付けやがった。

あんた何やってんのミロカロス。

 

さらにドレディアさんの(※ここ重要)繰り出した攻撃の一部が

俺に被弾しそうになり、ダグONEがすんでのところでガードしてくれた。

 

それを機にドレディアvsギャラドスvsダグトリオが発生してしまう。

朝っぱらから元気よく乱闘をおっぱじめやがった。お前ら帰れよ。

 

 

あー。ギャラドスが水ん中ですっごい暴れてるせいで

沖に居た海パ……フ○ルチン野郎が水の流れに巻き込まれてぷかぷか浮いている。

これやっぱ俺に苦情来んの?

 

 

面倒になったので、隙を突いて朝食を作るのに使った深底鍋をドレディアさんに被せ

そこらに落ちていた木の棒を持ち、渾身の力で鍋を振り抜いた。

ドレディアさんは衝撃と鍋の反響音で『状態異常:こんらん』となり、フラフラダンスを開始。

ギャラダグがそれにビビって静かになったところで全員の説教を開始した。

まあギャラドスは被害者なんだけど、大人気なさすぎだからひとまとめで懇々と説教しておいた。

 

ドレディアさんはこんらんの末に海に落ちてぷかぷか浮いてた。

ギャラドスに鍋だけ回収してもらった。へこんでも別に使えるし。

 

ミロカロスもなんとか可愛い態度でごまかそうとしてたが

ここはお仕置きをしておかないと威厳もクソもないと思ったため

尻尾の方を無理やり玉結びにしておしおきしておいた。

謎の痛みに悲鳴を上げていたが、お前が悪い。

 

 

「ギャラドス、ついでに説教しちまったけど……うちのアホが本当にすまなかったな。

 どうせシオンタウンに付けば食材もまた仕入れられるから、その時に改めて作りに来るよ。

 すまないが今回はそれで勘弁してくれ」

「グォオオォオォ」

 

 

残念そうではあるが、また作りに来ると約束したので一応は納得してもらえた。

 

いや、可哀想すぎるべさ。

楽しみにしてたのにそれをしょっちゅう食ってる子が横からかっぱらって食うとか

俺なら家出しちゃうね。初めて食べれるご馳走ならなおさらだわ。

 

「ホォゥ;;ホォァァアァ;;」

「るっせー、俺はちゃんと見てたんだからな。ごまかせると思うなっ!」

 

自分の力で解けないのか玉結びを解いてくれと懇願するミロカロスを一蹴。

怒る時に怒れないとどんどん増長しちゃうのが生き物ってもんだ。

叱る時はきっちり叱る。これ大切ね。

 

 

『;;;;;;』

「うっさい。反論は認めん。最初に決定した事は絶対だ。

 お前らは海を泳いでシオンタウンまで来い」

 

ディグONEは昨日全力で泳いだせいなのか、体全体が凄まじい筋肉痛を起こしているらしく

ディグⅢは昨日の件で海自体に苦手意識を持ってしまっており

ディグTWOは単にミロカロスの頭の上に乗れないのが残念なんだそうだ。

 

ドレディアさんはまだ目を回して浮いている。

沖に流されつつあるな。                            まあいいや

 

 

 

 

そんなわけでギャラドスとドレディアさんにお別れを告げ

海の中動きの鈍いダグトリオが横で泳いで、俺は動きの硬いミロカロスに乗り

のんびりとまた海の旅に出た。あの距離なら半日後には辿り着いているだろう。

 

 

そして特に描写する事がなかったため速攻魔法発動! キング・クリムゾンッ!!

 

あれ、魔法でもなんでもねえやこれ。物理攻撃だ。

 

強いて出来事を上げるのなら、カメックスに乗ったグリーンさんに偶然遭遇し

またバトルを仕掛けられそうになった事ぐらいか。

 

船の中と同じような方法で注意を逸らした後、カメックスに飛び乗り

巴投げでグリーンさんをカメックスの上からすっ飛ばして事なきを得た。平和が一番っすよね。

 

 

そんなこんなでやーっとシオンタウンの手前まで到着ーっと。

 

「ふーやれやれ……なんか色々あった気がするけど、ひとまずは無事に辿り着けてよかった~」

「ホ、ホアァ;;」

『ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ』

 

【そろそろホントに解いてくださいー;;】と懇願するミロカロスに

肩で息を付き、疲労困憊のダグトリオ達。

 

ま、ミロカロスに関してはこの辺で勘弁してやるか。

 

「わかったよ、ちゃんと反省しただろうな? 今解いてやるから尻尾出せー」

「ホアァ~~♡」

 

出された尻尾のギュウギュウの玉結びの隙間に

腕を突っ込んで隙間を作りつつ、あ、やべ、圧迫されて腕が若干痛い。

なんとかゆるりゆるりと解放していった。

 

「~~~~~♪」

 

ようやっとの違和感から解放されたのがうれしいのか

尻尾をぴよんぴよんと振り、異常が無いのを確認している。

 

「ダグトリオよぉ、お前らも俺を守ってくれたのはありがたいけど

 あの場はドレドスを相手にすんじゃなくドレディアさん一択だろ。

 敵を間違えんな、敵を。わかったか?」

『;;;;;;(コクコクコク)』

 

うむ、反省も全員済んだな、今回の件はこれで───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおぅ、なんだぁっ!?」

 

すっげー勢いで何かがこっちに泳いでくる。クロマグロみてぇwwwww

凄まじい水しぶきで何がこっちに向かってきているのか

良く見えないが色合いだけはなんとか確認出来る。赤い花の───

 

 

あ、ドレディアさんじゃん。

 

 

「ディアディアディアディアディアディアディアディアディアーーーーー!!!」

 

 

ずっぱぉーんっ。

 

水から勢い良く飛び出し、こちらへ着地。

こちらもダグトリオと同じく肩を付かせ、ぜぇぜぇ言っている。

そして青筋を立てながらこちらをガン見してきた。

 

「ド・レ・ディ・ア……!!#」

「ぁ゛あ゛? 何ぃ? なんか文句あるの?(笑」

「ッ!?」

 

明らかに見当違いな怒りを買っている事を目を見て確認出来た。

さすがにこれはちょっとないな、と苦笑すら覚えた。

ん、あれ? なんかミロカロスとダグトリオも後ずさってんな。

 

「で、何……? 言いたい事あんなら

 ちゃんと言ってもらえないとこっちも困るんだけど(笑」

「レ、レッ、レレレッ」

 

笑顔で詰め寄ったのだが……ドレディアさんまで後ずさりを始めた。

お前ら失礼すぎるだろ、こっちがこんなに温和な笑顔で我慢してんのによ。

 

「……で?# なんか言う事ある前にやらなきゃなんねーことあんじゃねーの?

 おいコラ草のお嬢様よぉ? レレレだけじゃわかんねーぞオイコラ」

「ディァーッ!! ディァァァッ!!」

 

ドレディアさんにしては珍しく歯に物が詰まったような感情表現で

俺のイライラは限界付近にまで到達しており、思わず口調が荒くなってしまった。

そしたら急にドレディアさんはジャンピング土下座を始めた。

ぴょぃーんと跳ね上がり【すいませんっ!! マジすいませんでしたぁーーー!!】と

ジャンプした後に土下座を繰り返した。

 

「なードレディアさんよぉ。ごめんで済んだら警察いらねーって言葉知らんの?

 俺にゃ何に対して謝ってんのかさっぱりだわ(笑」

「ドレレディディアレディアドレディレレレドドレディアディアレ……」

 

もうめんどくせーからポケットに手を突っ込んで土下座謝罪を聞いた。

今までの俺に対する態度はなんだったのかと思う程に今回は腰が低い。

やはり笑顔が効いたのだろうか。

頭ごなしに怒るより誠意を持って笑顔で接する事も必要だよね。なんかイライラすっけど。

 

 

「ホ、ホァアァ~……ホォァ~……」

 

【ご、ご主人様……前に人間の笑顔って元々は

 獲物に対して向ける威嚇行動って仰ってましたよね……?

 今ドレディアちゃんに向けてる笑顔がまさにそれなんですけど……】

 

 

あれ、マジっすか。

おかしいな。

 

 

 

 

ま、色々あったけど無事シオンタウンに到着だ。

グリーンさんは犠牲になった気がするけど将来チャンピオンになるだろうし

こんなところでくじけはしないはずである。

 

これからこの街で俺達は何をして、何が出来るんだろうか。

とても楽しみなもんである。まずは1曲歌いてぇなぁ。

色々試したいし、まずは街の西でミュウと逢ってこようかな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

42話 シオン

後半に改行演出あり。
その手の演出が苦手な方はブラウザバックといわずPCを壊して買い替えなおしてそのPCを投げ捨ててください。


そんなわけで、やってきましたシオンタウン。

有名どころのポケモンタワーがある街ですね。

まあ、どちらにしろシルフスコープのためにタマムシまで行って

ロケット団の……あれは支部? 本部? どっちかわからへんけど

それを潰す……いやいや、サカキに会う必要がある。

 

 

 

めんどくせぇから母さんがサカキ脅してぶんどってくんねーかな。

まあ、無理か……色々とおかしい人だが世間常識だけはそこそこあるしな……。

 

旅に出てから全く逢ってないけど母さん元気にしてんのかなぁ。

船上で襲われる前にサカキが「俺を探してる」って言ってたけど。

フーちゃんは結構見かけっけど、母さん乗ってんのはあんまし見た事ないんよね。

 

まあなんにしてもしばらくの間この街に世話になるわけだし (ポケモンセンター)に宿の登録しに行くかね。

俺はいつものようにダグONEの頭の上に胡坐を掻いた。

三匹、いや三人でいいか。三人に増えたのでドレディアさんもダグⅢの上に乗り

ミロカロスはダグTWOの上に乗っかっている。

海では乗られて陸じゃ乗って、か。理想的な関係だなぁ。

 

 

 

あれ? 良く考えたらミロカロスって160㌔位なかったっけ?

なんでダグTWO、頭の上に乗られて平気なんだろう。

辛そうな様子すら一切見えねぇ。TWOは首の筋肉が突然変異なのだろうか。

下半身気味の部分をダグTWOの首に引っ掛け、まるでマフラーのようにして

旨くバランスを取りながら乗っかっている。

ぶっちゃけ蛇に捕食される寸前のモグラにしか見えない。

 

まぁいいや。このPTがおかしいのなんて今に始まった事じゃねーべさ。

とっとと (ポケモンセンター)に行こう。

 

さすがに初めての街だとダグトリオに乗ってると奇異の眼で見られる。

お前らだってギャロップとかケンタロスに乗ったりすんだろうが。

それと同じだ。それが人型モグラなだけだっての、こっちみんなっ!

 

 

 

 

「はい、それじゃこちらの鍵を使ってくださいね」

「あいっす、ありがとうございますー」

 

ポケモンセンターに入る際に、さすがにダグONEから降りているため

俺自身は普通に見えるので、受付でも普通に扱ってもらえた。

元ディグダ含めてダグ共がキモがられるのはいつものことである。

ダグ共は全員フロアの隅っこで背中向けて床に の って書いてるが気にしちゃいけない。

 

 

「♪♪♪」

「ん、なんぞミロカロス。遊びに行こうってか」

「ディー」

「んー……まあそれでもいいんだけどな……

 いや、先にミュウに会いに行こうか」

 

 

あのバグの手順こそ踏んでないけどあそこに出るって事は

少なくともあそこに根城的な何かがあるんだろうし、呼べば出てくるんじゃないかな? と思う。

 

「~~~?」

「ああ、あれだよ。ミロカロスにゃ話したろ? 進化の時に言ったあれだよ。

 それでやれる「とある方法」使ったらそこでミュウが出てくるんだ」

「…………。」

 

やっぱ自分がゲーム云々ってのは、今でも微妙に思っちゃうかぁ。

ま、安心しろ……ここが例えゲームだとしても俺らぁ立派に心臓動いてんだからさ。

 

「ディ……? ディーア?」

「ッ! …………~~~(フルフル」

「ドッ!? ドレディーアッ! アーッ!」

 

どうやら俺が言った「あれ」を知りたかったらしくドレディアさんはミロカロスに尋ねた様だが

ミロカロスもミロカロスで、話の内容の斜め上ッぷりに加えて

秘密にしておいた方が良いと判断したのか、珍しくドレディアさんに否定意見を持って答えた。

そして教えろ教えろとうるさいわけで、今の状況である。

 

「へーへー、静かにしろードレディアさん。

 まずはクソ重てぇ荷物全部部屋においてからだ。部屋行くぞー」

「…………(ッチ」

「舌打ちすんな」

 

ぺんっ。

 

「ッディ!? アアァァ!!」

 

なんやら後ろで【テメェこのやろー!!】とさらにうるさくなった。

ま、ミロカロスが静かにしろって言ってくれるだろう。俺はさっさと階段に上がっていった。

 

 

 

 

そんなわけで、手持ちのみんなを連れて現在街の西出口である。

確かあの技だと音楽が変わって二歩位だっけか?

昔過ぎてよく覚えてないけどまあ大体そんぐらいのはず……。

 

 

ふーむ、距離感からしてこの辺りだろうか。

 

「ディーア?」

「ホァー?」

『─────。』

 

ドレカロスの二人は俺に対しても『ここら辺なのか(ですか)?』と尋ねてくる。

一方ダグトリオ達は違和感を何も感じていないのだろう、周りをきょろきょろしている。

 

別にここに居なくても何も問題ないし、とりあえず呼んでみようか。

 

「おーい、ミュウー。いるんだろー? 出てきてくれー」

 

 

「……ふむ?」

 

声を出してみるが反応がまるでない。やっぱあの手順踏まないと駄目なのかな。

周りの人からは突然声を出した故に視線が集中し

自分の相棒達からは『本当に居るのか?』と疑問視が集中する。

 

 

 

「───君、ミュウについて何か知っているのかね」

「ん?」

 

道行く人が何人も居る中から、なんか学者さんって感じの人が話しかけてきた。

なんでこんな開放されたところにいるんすか。アウトドア系学者ってか。

 

「えぇ、まあ友達っすけど」

「は……? あはは、何を言っているんだね君は。

 ミュウというのは学者の間じゃポケモン全ての始祖といわれる幻のポケモンなんだよ?

 君みたいな小さい子の───」

 

「───そういう偏屈な常識に凝り固まってる大人の前に現れないから

 幻って呼ばれてるだけじゃないっすか?

 何も知らんし考えん俺の前じゃ気軽に出てきてくれてますよ、あいつ」

 

「なっ───!?」

 

なにやら高尚に語りだしたので、こちらも皮肉たっぷりに返す。

その返しが気に食わなかったのか、学者殿は顔を真っ赤にする、が。

 

「っは……これだから何も知らない子供は……

 人の目の前に滅多に姿を見せないミュウがそんなに気楽に見れるわけないだろう。

 それは君の夢か何かだったんじゃないかね?」

 

「あー、まあそんじゃあ子供の夢って事で結構です。

 俺、あんたみてーな夢持った子供すら、理屈持って馬鹿にするような大人になりたかないんで」

 

「───ッ!! 君っ!! さっきから聴いていれば」

「みゅぅ~……」

 

学者が完全に怒りが有頂天((笑))になったところに、いいタイミングで幻^o^ポケモンのミュウが登場。

俺からすれば学者の上にいるんだが学者には見えないため

声がしたのは聴こえたらしく周りをきょろきょろしだした。

 

「みゅう~……だと……?! まさかミュウが本当に居るのかッ!?」

「よぅ、元気だったかミュウ。悪い、寝てたんだな……起こしちまったか」

 

そう、ミュウは出てきた時に目をコスコスしていた。実際半目でこちらに降りてきてる。

 

「ミュ~~ッ」

「おう、まあこっちはこっちの事情でお前がここらに居るの知ってたからな。

 しばらくそこの街に居るつもりだから挨拶に来たんだよ」

「ミュミュ~♪」

 

そして学者の上らへんからこちらの胸元に降りてくるミュウ

 

「ほ、本物だっ……資料通りの姿だっ!!

 これはのんびりしていられないぞっ、今すぐ連れて帰らないと!!」

 

 

ガッシッ。

 

 

「ミュウッ!?」

「なっ?!」

 

なんとこの学者、ミュウを後ろから首に手をかけて無理やり持ち去ろうとしだした。

普段からテレキネシスか何かで体重調整をして浮いているのだろうミュウは

その無理やりに抵抗むなしく引っ張られて行きかける。

 

「テメェコラァッ!! 人のダチになにしてやがんだっ!!

 やってる事が立派に誘拐だってのわかんねーのか?!」

「君こそ何を言っているんだ!! これは世紀の発見だぞ?!

 野生ポケモンであるこいつを連れ去ったところで誰も問題にしない!!」

「俺が問題にしてんだろーが!!」

「子供一人より科学の名誉だっ!!」

 

ッ………!!#

 

自分勝手な大人なんぞ前世のバイトの職場でも

この世界のロケット団でも見てきたが……こいつが一番腹が立つっ!!

 

「ミューウ!! ミューゥ!!」

「ええいじたばたするなっ!! せいっ!!」

 

ガスッ

 

「ッッ?!───」

「て……てめ───」

 

学者に掴まれながら首をぶっ叩かれ、動かなくなるミュウ。

 

 

 

その瞬間にキレ

 

 

 

かけたがここでキレては行けない……!!

やばいぐらい頭がぐつぐつするが思考を感情に任せてはいけない!!

何か、何か手は────

 

 

 

ああ、悪い。普通にあったや。尺稼ぎっぽくてすまんな。

 

 

 

俺の手持ちにゃ1人と団体3名、大人なんかより普通に速いヤツがいるじゃねーか。

 

 

 

 

「頼むわ、お前ら」

「ァァァァァァァァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!」

「─────ッ!」

「ッ─────!」

「─────!!」

 

 

 

 

俺の背中を追って付いてきていた4人に、静かにバトンタッチした。

ドレディアさんも研究所での理不尽すぎる研究者の態度がフラッシュバックしたのか

凄まじい気合を入れて研究者の前に躍り出た。

 

……ダグトリオ達は何故か土に潜っていった。

何をするつもりだろうか?

 

 

「ぐっ……なんという素早さだっ……この草の娘も連れて帰りたいがっ……!

 ビリリダマ、出て来いっ!!」

 

ペカァァァン

 

「バゴバーグォォォン」

 

……ビリリダマ?

素早いしポケモンとしては特徴のある優秀な部類ではあるが……

こんな往来で流石に自爆は指示しないだろうな……念のために俺も近づいて───

 

「ビリリダマっ!! じば───」

 

うわマジでこいつ指示しやがるつもりだっ!! その先は言わせ───

 

 

バコォァっ!!

 

 

「ぬぅおあぁっ?!」

 

その瞬間地面から三本のマドハンドが出てきた?! なん……あぁ、ダグトリオ達か。

もしかして自爆対策で地面に潜っていったのか?

 

いや、単純にドレディアさんが少し止めた後に地面で追いついて

もしもポケモンを出しても何も『指示させない』ために

地面から体勢崩して無効化するつもりだったんだろうな。

何気に策略の詰め方が俺に似てきてんじゃないか、お前ら。

 

 

 

 

嬉しいことだ。

 

 

 

 

「グオォォン?!」

「わ、私の事はいいっ! ビリリダマっ!! こいつらをターゲットにじば」

「はーい鉄拳ドーンッ!!」

「レッディアーーーーーーーッッ!!」

 

ドレディアさんの十八番、がんめんパンチが学者に放たれるッ!!

 

そして

そのこぶしは

きれいに

かおに

はいりました♡

ざまぁwwwww

 

 

「ぎゅぺぁぇーーーーーー」

 

勢い良く人込みの方向へすっ飛んで行き、もちろん道行く人も肉クッションなんぞ御免なわけで。

 

クソ学者は、顔面を殴られた上で顔面からコンクリに落ちた。

ざまぁwwwwwwwwwwwwwww

 

 

 

殴った瞬間にミュウからは手を離しており、殴られた地点でミュウはぐったりしている。

ビリリダマも指示が無ければただのボール。ひとまずはこれで安心だな……。

 

ふー……

 

「ドレディアさん、ダグトリオ。」

「ディッ!」

『ッ─────』

 

俺は片手を上げて、お前らも片手を上げろと目で指示を送った。

そして上に上げられる合計4本の手。

 

 

 

 

「グッジョブだ! 流石だなお前らッ!」

 

 

 

 

俺は順々に傍から、上げられた手にハイタッチをしていった。

 

んで、ミュウを介抱しに───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホアァァァァ~~~~~~!!

 ホ~~~アァァ~~~~~!!;;」

 

あ、やべ。ミロカロス忘れてた。素早さないから俺らにおいていかれたのか。

そこそこの速度でずりずりと俺らに近寄って───

 

 

 

 

ぐしゃっ

 

 

 

 

 

あ、学者轢き潰された。ビリリダマが唖然としてあちらを見ている。

 

 

 

 

 

はい、皆さんご一緒に。

 

 

 

 

ざまぁwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

43話 理不尽

 

 

 

とりあえず轢き潰れた気絶研究員を縄でふん縛り、事情を話して警察に回収してもらう。

ええ、あんな場所に警察が居るなんてのは流石にご都合主義すぎたので

面倒ですが引きずって警察まで連れて行きました。

 

しかし事情を説明するところで思わぬ苦労が発生。ミュウの取り扱いについてだ。

 

曰くこいつは友達であって、俺の手持ちではない。

つまりは表現的にイラつくがこいつは俺の所有物ではない。

さらには野生のポケモンであれば誰が回収しようと勝手、という内容だった。

挙句に捕まえようとしていた所を俺が邪魔したという形で俺がしょっぴかれかける。

 

俺がいくらこいつは友達だ、こいつを助けただけだと説明しても

婦警さんがその意見を一向に曲げようとしない。

 

仕方が無いのでこいつが幻のポケモンといわれている希少種で

人間の都合で生かすべきではないと説明したら

 

「そんなのは子供の都合でしょう」

「だったらあんたは伝承で伝えられるようなポケモンが友達になった時に

 同じ目に遭っても黙ってられんのかよッッ!!」

「その子のより良い生活環境を整えてあげるためでしょう? 喜んで同意するわよ」

 

どうやら本気でそう思っているらしく話にならない。

 

だが俺はこう考えている。

 

確かに研究施設に預けた場合、生態などが解明されてより過ごしやすくなるのかもしれない。

 

だが一匹目として研究され、犠牲になるのは最初のミュウだ。

薬品などを注射され、突っ込まれ飲まされ、色々と実験もされるだろう。

その後に、人にまともな感情を持てるとは考えられない。

 

その研究の結果、後に発見されるかすらわからないミュウのためになろうとも

今、俺の友達であるミュウは……こいつだけなのだ。

他の知らんミュウのために、何故こいつが犠牲にならなければならないのか。

 

 

確かに俺の危惧は予想でしかないかもしれない。

だが、あまりにもこの世界の大人の暴論が気に食わなかった。あの研究員だけじゃなかったのだ。

この婦警までそうだというなら他の大人もそうである可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で。

 

俺は今その警察署で拘留されてます。

 

 

 

 

 

ごめん、イラついてどうしようもなかったからミュウ含め超暴れさせた。盛大に。

 

 

 

「子供の持論なめてんじゃねぇぞオラアアァァァァァーーーーーーーッッ!!!!」

「ディァァァァァァァアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーッッ!!」

『ッ!! ッ!! ッ!!』

「ミュミュミュミュミュミュミュミュミュミュミューーーーーーッッ!!!」

 

 

といった感じである。ミロカロスは既に荒事担当ではないのでしまっといた。

 

具体的に述べるとドレディアさんが受付の長机を引っぺがし振り回し。

ダグトリオがタイルをぶち抜いて地面でもごもごしまくり。

そしてぶち抜いて出た破片やら土の塊を蹴り飛ばしまくり。

ついでに引き連れてきた研究員も蹴り飛ばしまくり。

ミュウに至ってはサイコパワー全力全壊である。誤字にあらず。

攻撃性ポルターガイストと化した観葉植物やらボールペンやらコピー機やらで

警察は一気に騒がしい状況を通り越して1階受付フロアが半壊に。

 

 

 

正直に言おう。

流石に反省してます。

 

いや、マジでな?

 

確かにミュウは大切な友達なんだけどもな。

俺が居た前世も警察の不祥事とか、日本に留まらず外国ですら凄まじかったよ?

でも暴れた後で考えたが、この婦警以外は

少なくとも「その時」は真面目に職務を遂行していた訳である。

そして婦警も少なくとも「不祥事を起こした」訳ではない。

俺は、個人の意見に反発してその人の職場をぶっ壊すというあるまじき行為に及んでしまったのだ。

 

俺はその瞬間不祥事をしているかどうかすらわからない状況で

考えもなしに子供の癇癪で許されると思い、盛大に暴れてしまったのである。

 

だからといって暴れたのはさすがにやりすぎた。

厨返しにすらなっていない上に「目には目を」の論を通り越し「目には死を」になっている。

……大人ぶっていても頭ん中は全然ガキだったらしい。

 

そんなわけ今数日、檻の中という扱いを受けてしまい投獄されている。

 

「……みんなすまん。さっき抑えてたのもあって、我慢し切れなかった……」

「ディーアッ!!」

『ッbbb』

「ミュィ~♪」

「♪♪♪」

 

しっかり反省してその意を伝えたが、逆に激励されてしまった。

ミュウとミロカロスに至っては巻きついてくる始末である。

 

【あそこで激昂しなかったら俺らの主人じゃねえ!!】

【忠義を果たすに十分なお人柄と再確認致しました×3】

【大丈夫だよ、君がやってなきゃ僕があの警察署丸ごとぶっ壊してたから♪】

【ご主人様~♪】

 

という感じだった。

 

君らなんかドレディアさんのクレイジーな性格伝播(でんぱ)してねえ?

 

 

 

 

あとついでに言うと……

 

此処に来るまでに水上に叩き落したトレーナーからもやっぱり苦情が届いていたらしく……

そこの点でも警察の方に迷惑をかけてしまった。拘留期間2日が3日に延びてしまいました。

 

「目と目が合ったらしっかり戦わないと駄目でしょうっ」

 

との事。

 

めんでーんだよその常識。

 

 

 

 

まあそんな経緯がありまして。

やっとこさ拘留を解かれた俺らですこんにちわ。

 

拘留されていた時に感じた現実と違う事は

 

・親に連絡が入れられていない

・ポケモンセンターのほうにも彼らを拘留する

 

という事が伝えられていた事だろうか。なんか親切設計だ。

多分親に連絡に関しては子供でも旅に出まくってるからだろうな。

入れたところで遠距離過ぎて来れない事のが多いと言う事だろう。

 

 (ポケモンセンター)の件は、旅荷物の処遇といったところだろうか。

 

 

出る前にお騒がせ以上のことをやってしまった後ろめたさもあり

受付フロアに出て暴れた事を謝罪して回った。

結構慰められはした。やっぱりわかってくれる人はわかってくれるらしい。

まあ許してくれた理由が

 

・君並に暴れる人もたまにいる

・少し昔にこの警察署を人間一人で更地に変えた伝説の人が居る

・半壊になったところでポケモンが頑張ってくれれば2日で元通り

・その日は休日だったので問題なし

 

という感じで、大丈夫かよシオン警察隊と思った。

特に最後。他人事過ぎだろ。

 

 

んで晴れて警察署から出てきた。シャバの空気うめぇー。

俺の手持ち+αも、全員すっきりした上で空気がうまいらしい。

ま、あんな狭ッ苦しい所に入れられてたら仕方が無いよな。

 

ダグトリオはいつも通りすぎる程にトーテムポールになり

しっかりと直射日光を浴びて気持ち良いらしい。

目を閉じて実に可愛らしい。顔だけ。

ドレディアさんなんぞ特攻と特防が上がっている気すらする。

 

あ、そうそう、ちなみにミュウは今回の件でも俺の手持ちじゃありません。

一緒に暴れた=こいつのポケモンだ、と思われたらしく

事情すら聞かれずに纏めてぶち込まれた。

事情を知っていた婦警は速攻で気絶していたため、まあわからんでもない対応だ。

 

 

「まあとりあえずは一旦 (ポケモンセンター)に戻ろっか。

 そこから動く動かないは別にしても、ひとまず腰を落ち着けよう」

「ディァー!」

『ッddd』

「ミュゥー」

「ホ~ァ~」

 

いい感じの同意だがダグトリオ、テメーは駄目だ。

トーテムポール状態から全員が腰から上をこちらに向かせ

親指をおったてている図は軽くホラーである。きめぇ。

 

 

 

 

「育て屋を始めようと思う」

『……ディホァミュ? ッ?』

 

突然すぎる展開だったか。説明が必要そうだ。

 

「まず今回の件で思ったことだが、暴れた事はやりすぎだったと反省してる。

 でも警察側の対応が俺にとって理不尽すぎたからその感情が(たぎ)った……これはOKか?」

『(コクコク)』×6

 

うむ。ここは良いか。

 

「そしてそこから考えるからに、俺と同じように理不尽な目に遭った人が居た可能性もあるわけだ」

『(うんうん)』×6

 

目の前に居たわけではない。だが、駆け入った一人である俺があんな対応をされた。

 

だったら他にも居てもおかしくは無い。

 

前世では少なくとも、ストーカーの被害が悪化し

警察に対応されず殺されてしまった人が後を立たなかった。

そしてこの世界ではポケモンという合法の防衛手段が存在する。

その防衛手段を、俺ら流で鍛え上げるという内容で

育て屋という結論に俺は至ったのである。

 

 

「で、原点を考えれば理不尽ってのは

 自分に防衛力があれば回避される事も、結構あるんではないかと俺は思った。

 今回で言えば、ミュウが悪いわけではないけど

 焦っちまって流されて、気絶されて……ってわけだろう?」

「ミュ~……」

「責めちまう形になって悪いな。

 でも現状はしっかり認識しておかないと後で躓くから……」

 

 

そう、結論に至った最終理由はここだ。

全体的に伝説に残るポケモンや幻といわれるポケモン達は

自衛能力が凄まじく高いからこそ人間に囚われ難いのではないかと思う。

その点で考えてこのミュウはあの一瞬だけだとしても、防衛を忘れる程度に自衛力が低かったのだ。

 

 

「んで、今回育て屋をするから

 ミュウはそれに引っ付いて俺らから自衛手段を学んじまえばいい」

「!」

 

と、言うわけだ。育て屋自体は正直、モノのついで。

だが現実に育て屋という人が居るのであれば、それは金になると言う事である。

んでもってミュウを鍛え上げている間は金にならない。

 

つまりは生活費が、さくせん:ガンガン減ろうぜ になる事を意味する。

 

んだったら合同訓練的な形にして、参加する事になるポケモンの持ち主から

合理的に生活費を頂いてしまえば、俺は金が減らずミュウは鍛えられ

ついでに預けた人のポケモンまで鍛えられ、と一石三鳥である。

 

 

「今回はミュウを育てていく方向性になるから

 他の皆は教官的な役割になる。心構えをしっかり持ってくれよ?」

「ディッ!!」

『ッ!!!』

「ホ、ホァ……」

 

ミロカロスが心配そうに俺に声を掛けてくる。

ま、既に戦闘能力もないし仕方が無い心配だな。

 

だがっ!!

 

「心配ご無用ッッ!!ミロカロスについては代案を考えてあるッ!!」

「ホァァ?!」

「お前には訓練が終わった後のみんなの慰安に回ってもらう!

 歌ってよし、タオル持ってきてよし、見てよしの三重奏だ!!」

「~~~~~~~~♪♪♪」

 

褒められたと受け取ったのかミロカロスは俺に巻きついてきた。

はっはっは、くるしゅうないくるしゅうない。

巻きつき加減もちゃんと調整出来ている、成長してるなー。

俺も頭を撫で返しておいた。

 

 

現在俺の所持金は大体75,000円よりちょっと下だ。

この金が減らぬうちに色々取り揃えてしまおう!!

 

 

あとは訓練地の拠点の確保だな。

それに客とかどうやって集めたらいいのかね、看板とか立ててもいいのかな。

 

 

無計画で行き当たりばったりだが、目的が何も無いよりは全然良い。

反省するところはしっかり反省して、その後はきっちり前を向いて歩こう。

 

 

 

 

 

 

「俺達の明日はこれからだッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 




         ~蜜柑~





右肘先生の次回作にはコタツが必要です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

44話 育て屋?

 

 

さて、そんなわけで皆と相談した結果俺等は育て屋をする事にしたのだが。

 

「で、だ」

「ディ。」

『──。』

「ホ~ァ」

「ミュ。」

「何から始めたらいいんだろう」

【【【【知らねえよ。】】】】

 

oh酷いわぁ。うちの子達が非行に走りよった……親の私への愛情はどこへ行った。

相談所へのダイヤルナンバーシックスエイト、オー♪ オー♪

 

 

まずは修行場所は前回のクチバみたいに郊外の森でOKだよな。

街の中じゃないなら街に許可取る必要も無い……のか?

日本じゃどの郊外でも住所がしっかり振られてて管轄とされていたが、ここじゃどうなんだろーねぇ。

 

あー、まずは街役場にでも行ってみるか。

わからん事はググれないなら人に聞いたほうが手っ取り早い。

 

 

 

 

 

てわけで街役場にやってまいりました。

 

 

「すみませーん。郊外を拠点に育て屋をやりたいんですけど

 そういうのって許可とか申請とか要らないんすかね?」

「なんで君みたいな年でそんな厳密な方向性まで知っているのかすっごい疑問だけど

 とりあえずは街の中での土地なら許可とかも必要よ」

 

と、受付のおねーさん。知ってる事は罪じゃないし良いじゃないかぁ。

 

「宣伝的なものは街の中で数日やりたいんですけど、そういうのには必要ですかね」

「あー一応それは許可取ってもらおうかな。

 道路使用許可証があったほうが何かと面倒は起こらないわよ。

 ただ1日500円掛かるけど。1日ごとにこっちに来てもらう事になるわねー」

「了解しました、それじゃあその道路使用許可証ってのお願いします」

 

 

 

てわけで発行してもらいました。これで大手を振って宣伝が出来る。

 

まあやくざなんて出てきたところで、この世界じゃチンケなロケット団だ。

もし現れたらロケット団以上にやくざなドレディアさんに任せてしまおう。

 

 

「ディーァ?」

「ホァー」

「ん、大丈夫だよん。ちゃんと許可もらってきたからこれで安心さぁ」

『ッddd』

「ミューィ♪」

 

街役場の中に入らず外で待っていたみんなに声を掛ける。

さて……ここらじゃどこで人が集まっているだろうか?

街頭演説みたいな形でいいのかな、さすがにそれはうるさすぎるか?

 

 

 

 

んなわけで街役場から移動して……やってきました我らがホーム、大道芸広場!!

どこの町でもしっかり賑わってるのー。それだけ娯楽の質が薄いのかね。

 

 

こちらに来る前にホームセンターに立ち寄り、適当に板と書く物を買った。

『育て屋受付中』と、でかでかと書いた看板をミュウに持ってもらい

適当な位置にどっかり座り込んだ。

 

 

「さて、どなたか来てくれますかのぅ?」

「ディ~」

 

んむ、まあ先の事なんぞわかったもんでもねえしな。

ミュウに板をふよふと浮かしてもらい、のんびりとご予約をお待ちすることに。

 

 

 

 

「君みたいな小さい子が育て屋……?

 どうにもちょっと育つかどうか怪しいんだけども……」

「ぬう、確かに説得力はないですね……」

 

 

 

 

「育て屋ってぐらいだしレベルはちゃんと上がるのよねぇ?」

「そうですね、たださすがに戦っているほうが成長は早いと思いますけど」

「ん~~~……街の西に行けばトレーナーの人達も賑わってるし

 利用する意味もないかなぁ……」

 

 

 

 

「期間はどの位を見積もっているのでしょうか?」

「一応は5日~一週間ぐらいと思っています。

 場合によっては延びると思いますし、それでお客さんが納得出来なくても

 教育が終われば引渡しという形になってしまいますね。

 あとは預けられた子の努力次第になります」

「きょ、教育……?」

 

 

 

 

───カー、カァー。

 

ヤミカラスが鳴き始めた。外はとっぷり夕暮れである。

 

 

ものっそいウケが悪かった。誰も予約とかしてくれないのねー。

まあわからんでもないんだけど……無謀だったか。

 

 

「こんな宣伝じゃ駄目なのかなぁ……

 やっぱラジオとか流してもらわないと認知とかもきついのかな……

 マスメディアって大事だよねぇ」

「ディ~;;」

「ホォ~ン……」

『;;;;;;』

「ミュィー?! ミューーーーゥ!!」

 

 

みんなで残念な反省会をしている。

ミュウはあのクチバの時と同じように、小さい子供にとッ捕まって振り回されている。

まあ頑張れ、人間悪い奴等ばっかじゃねえからさ。

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

今日は宣伝で回らず、誰か来る事を期待して必要物資を買っておこうと思った。

適当な掘っ立て小屋やらなんやらの寝床は郊外であろうと

ポケモンの力を使えばすぐに簡素なモノは出来上がるだろう。

なんだったらドレディアさん達はボールに入って寝てもらえばいいし。

野宿で外に出て寝てるよりいいだろう。

 

 

そんなわけでまたホームセンター。

まあ主にダグトリオのせいで奇異な視線で見られているが気にしない。

カイリキーボディーじゃないだけ良いじゃないのさ。のさ。のさ……

 

「まあ、まずはしっかりと疲れを癒すためにってことで……

 タオルとかの清潔感が大切かな? ……これが汚れてたらやる気も出ないよなぁ」

『(うんうん)』

 

ダグトリオ達がうなずいてくれる。

 

「じゃあタオルはとりあえず6、7枚買っておこう。

 ミロカロスも技じゃもう何も使えないけど、水を出す位だったら出来るよね?」

「ホァ~~♪」

 

うむ、それなら綺麗な水で洗う事に関しても問題は無い。

そもそも来てくれるかどうかもわからんが、まあこちらの人数+α程度でよかろう。

 

 

あとは……あ、そうだ。

 

「でかめの(たらい)でも買っておこう。

 ミロカロスが水出せるし、訓練終わった後のひとッ風呂って感じで汗も流せる。

 えーと、盥、盥……風呂用具コーナーになるかな?」

「ドレ~ディァ。」

 

みんなでテクテク風呂用具コーナーに歩いていったが

あるにはあったけど風呂という意味では小さい気がした。

お子様用プールで代用できると思い、そちらを購入する事に。

 

 

「他に何か必要そうなもんってあるー?」

『…………。(ん~』

 

みんなが悩み始めた。

安めのモノならまだまだ資金に余裕があるし、準備出来るからな。

それで訓練の度合いが上達するようなものがあれば儲けものだ。

 

「っ! ディアッ!!」

「お、なんだいドレディアさん」

【うまい飯っ!! 飯うまかったら超やる気出るッ!!】

「街で食えぇぇぇェェーーーッッ!!」

 

 

ズパァン。

綺麗な突込みが決まった。

 

基本、食事は俺の自炊だ。安上がりになるだろうし。

本当に美味い飯食いたいなら訓練が全部終わって街に帰った後にでも食ってください。

 

「他はー?」

 

後ろで後頭部からぷすぷす煙を立てて倒れてるドレディアさんは気にしない方向で。

 

「ホァ~。」

「ん、ミロカロス……何かある?」

【縄とかいかがでしょうか?

 ガードマンというのなら、その場にあるものを全部使いこなしてでも

 護衛対象なり自分を守るのがお仕事ですよね?】

「ふむ、縄か。いいねそれ、採用」

「ホァァァ♪」

 

訓練って度合いなら、縄は色々と万能性もありそうだ。

落ちているものとして使うもよしだし、適当な木片を縄で括って吊るして

ボクサーがやっているような小さい袋をぺしぺしするかの様に使う事も出来るし

不規則に動かして命中率訓練とかにも使えそうである。

 

「ダグ共はなんかないかー」

「……;」

「───;」

「────ッ!」

「お、ダグⅢなんかあるか」

【防衛を考えるのであれば自陣を強化するが得策。

 簡単にハンマー等を買い入れて即席陣訓練を取り入れてはいかがだろうか】

「ほう……まあ使う要素は薄いかもだが

 それも状況判断強化って意味じゃ有りだな。採用しておこう」

「───!!」

「ッ♪ ──♪ ──♪」

「(えっへん)」

 

ダグⅢ態度でけぇww

他の2人は自分達から無事にアイディアが出たことにほっとしてⅢを褒めている。

 

「ミュウはどうよ」

【僕はブロック塀の部品ぐらいしか思いつかないよ。

 ぶっ壊してその破片投げて、って感じで】

「あーそれは多分郊外の森でも木片やら何やら落ちてるだろうし

 さすがに不採用かなぁ」

「ミュィ」

 

元々採用されると思っていなかったのか素直に案を引っ込めた。

 

まあこんなところだろうか?

とりあえず買うもの全部買い入れて、会計を済まそう。

 

 

明日は誰か来てくれるといいなぁ。

信用度が見た目からして0どころかマイナスなのだけが気になるが。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

45話 育て屋ェ…



趣味全開です。音ゲー関連凄いです。




 

 

本日、既に育て屋をやると決めてから3日目である。

 

 

今日は1日空けたので大道芸広場にいかなければ何もやる事が無い。

本格的に計画がオジャンとなる上にただのニートになるため、とりあえず向かう事にする。

 

の、だが……もう行きたくねえ……初日のウケの悪さが、未だ尾を引いている。

 

 

「なぁ、お前等さぁ……なんかテレビとかラジオにコネねえの?」

【あるわけねえだろ】ドレディアさん。

【何故我らにそんな伝が】ダグ共。

【この際テレビ局作る?】ミュウ。

【さ、さすがに……】ミロカロス。

 

 

 

ウボァー

 

 

 

「ま、しゃあねえわな……あと2日ぐらい様子見て

 誰も来なかったらミュウ一人に教え込む形でやろうか……財布持つかなぁ」

「ディ~……?」

 

【飯は……ちゃんと、食えるよな……?】とドレディアさん。

やっぱ飯っすか、心配は。まあドレディアさんだししょうがないな。

 

「まあ悪いけど基本俺の自炊になるわ。でもまあ……

 俺もなるべくみんなのテンション下げないように

 極力好きなメニューとか作っていくから、それで勘弁してくれ」

「ディ♪」

 

外食しづらい状況なのは若干不満そうだが

俺の作る飯も飯で、ドレディアさんの胃袋を掌握しているため

クーデターのようにはならないらしい様だ。ひと安心である。

 

「じゃぁまぁ、暇つぶしの道具でも持っていこっか。

 全員音楽関連でももってけー。時間つぶしに色々教えるから」

「ディァーッ!」

『ッ!bbb』

「ホォォァァ~~!!」

「ミュミュ~ィ!」

 

 

 

 

街役場に行って、許可証は交付してもらった。

そんでいつもどおりに大道芸広場に行ったが……やっぱウケ悪ぃー。

もう帰りてぇ。此処に居ると精神がズンドコ(むしば)まれる。

 

今日も変わらずミュウにふよふよと浮いて看板を掲げてもらっているが

どうにも俺等に興味を持ってくれる人があまりにも少ないのだ。

ミュウの存在が珍しいのか、集まってくるのはミュウ目当ての子ばかりである。

 

何人かは、遠巻きに俺達を見てはいるようなのだが

近づいてまで話を聞こうとは思っていないようである。

 

 

暇くせぇ。もうダメだなこれ。

 

 

「どうせ誰もこねーし適当に音あわせでもしておくかー」

「ディーア」

『ddd』

「ホァ~」

「ミュィ」

 

 

さて、ミニピアノとミニギター取り出したが……どんな曲を教えようかな。

このミニピアノじゃ音域が小さすぎて冥とかfffffとかはさすがにきつすぎるしなー。

 

特にfffffなんて五重奏だぜ?

俺よく知らんけどこれってピアノ5台分って事だろ多分。1人でどうしろと。

まあミュウいりゃ可能だけど殆どミュウ頼りになってしまう。

 

……クラシックから『魔王』を一旦教えて、ボンバヘッのコピペとかやっちゃうか?

父の腕の中の子は既にボンバヘッ!

 

んー、Anisakisとかだったら色んな音あるし皆で頑張れるかなぁ。

 

……ッ!!!そうだ!!!

 

「───Fascination MAXXだッッ!!」

『ッッ!?!?!?』

 

 

あの曲なら俺がミニピアノ2台で低音域と高音域を維持しながら頑張れば

ミュウのフォローも今回あるし、案外出来るんじゃないかッ!?

ドレディアさんはカスタネットの変わりにタンバリンでも持たせて……

 

おっとしまった、一人で考えが暴走してしまった。全員俺の突然の奇声にドン引きしている。

 

 

「っと……突然曲名言われてもわからんよな、すまん。

 今から色々教えるからまずやってみようかー」

「ディー!」

「ホァー!」

『ッ!ddd』

「ミュー!!」

「あ、ごめん。ミュウの負担すんげー事になるわ」

「ミュー?!」

 

 

 

・д・

 

とりあえず色々と教え終わって1時間。

そしてその1時間で全員が全員音をほぼ完全に再現してんのはどういうことなの……

 

やっぱこいつら音楽関連になると途端にチート化する。

一見平凡に見えるダグONEですらどんどんと腕を上げているのがわかる。

今回歌声っぽいモノは無いのでミロカロスには適当に

尻尾で地面をぺちぺち叩いてリズム取りと、声で紛れさせる事の出来る音の部分を頼んだ。

 

 

あ、そうそう。

ダグTWOとダグⅢは、現状俺らで楽器が間に合っているため

バックダンサーという感じの役割を与えてみました。

そしたらこいつらノリノリ過ぎて凄まじかった。ダンスで音を此処まで表現出来るってすげぇ。

 

 

ニコニコ動画ネタで申し訳ないが躍らせてみたのは

某ド○ルドが踊るMAXXと、マツケンが踊るMAXXだ。

よくあんな普通に踊るものが高速再生されたものを再現出来るもんだとしみじみ思った。

 

その動きが目立ってしまったのか、ダグ達を遠目からチラホラ見ている人がいるな。

 

だが……現状平凡な才能は俺とダグONEのみ。

しかしダグONEもバグの塊なため順調に成長中……そのうち俺がただの楽譜屋になりそうだ。

 

 

「じゃ、合わせてみようか。結構すんごいのになるぞー」

【【【オーッ!!】】】

 

 

息を込め───集中、集中、とにかく集中。

 

ゲームでは鍵盤を押してりゃ担当部位の音が勝手に出るが

こっちじゃ完全に音を再現しないと曲としてすら成立しない。

ちょっと油断したら音がズレてチャルメラソングになってしまう。

 

さぁ、DDR出典ながらIIDX14のボスを務めた偉大な曲を……

 

 

───此処に再現して見せようッ!!

 

 

 

 

 

 

ダグONEのリズムあわせのスティックから

 

まさにいきなりとしか例え様が無いピアノ音のハリケーン

 

その後ろで響く、この世界にはない……張り付くような音

 

さらにその中で異常に映えるダグTWOとダグⅢのダンス

 

踊る最中に混じるイナズマのように繋がる重低音─────

 

後ろで懸命に着いて来るダグONEのドラム音が響き

 

だが突然音の暴風雨は落ち着きを示し

 

俺が演奏するピアノの五月雨(さみだれ)音が辺りに響き渡る……

 

 

 

 

全員でリズム良く音を出し、曲へと合成されていき

 

とある節目でそれはいきなり停止を見せる

 

かと思いきや一瞬の後に地鳴りのような繰り返しの音をミュウが出し

 

終わったと思った途端に開幕に出した俺のピアノ音のハリケーンが再度現れ

 

全員が全員その音に合わせ、教えた全てをぶつけてくる。

 

全部の演奏し終え、静かになったかと思ったところで

 

 

ミュウにしか出せない機械音を使い、曲の締めを表現し終え……

 

 

 

演奏は。

 

終わった。

 

 

 

 

 

ッッアァァァァぁぁぁぁぁーーーーーーー!!!

やっぱ良い曲だァぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!

 

こればっかりは本当に、ミュウ様々だ。

IIDX関連は電子音関連のせいでこいつが居ないと、再現ほぼ無理だからな!

うーん、クチバでやったL・I・E以来のすっきり感である。

録音機材買ってきて個人用に収録しようかなぁ。たまに聴くとテンションが上がる。

 

 

「みんなお疲れ様だー、凄いよかった、凄いよかったぞー!!

 大事な事だから二回言ったぞ! 大事な事だから二回言いました!」

「ディーァーァー!!」

『ッ!! ッ!! ッ!!』

「~~♪ ~~♪」

「ミュゥー!」

 

ドレディアさんに至ってはまだハイテンションでトリップしている。

ダグ共も大体そんな感じだがこちらは節度を保っているな。

ミロカロスはまた新しいジャンルの音が聴けたためなのかご機嫌な感じで

ミュウはしっかりとその音を覚えるために念入りにスピーカーをいじっている。

 

 

「はー♪ 満足したぁー。育て屋とかもうどーでもいいや。

 今日はもう帰って飯食って寝r───」

 

 

ウオォォォォオオオオオオオオオ!!!

 

          オォオオオオオォォォォオオオオ!!!

 

                    ワァァアアァァアアアアアアアア!!!

 

 

「おふぇあぁッ!?」

「ドレディッ?!」

 

突然後ろから爆発するような大歓声を浴びた。な、なんじゃぁ?!

なんか何時の間にやら周りが凄まじい事になっている!!

俺らの周りが隙間無く人垣で固められていた。

 

よし、恥ずかしい! ダグトリオ、あなをほるだ!!

 

【我らがあなをほるを覚えていないが……】

 

クソッダメだコイツ使えねえっ!! ちくしょう!!

 

 

「アンコールッ!!」

「アンコールッ!!!」

「アンコールッ!!!!」

「えぇー。だりぃー」

 

今の俺は曲を完成させて満足した燃えカスである。

もう一度燃えろとかガソリンがないと無理なレベルです。

 

「やってくれないのかー?」

「もう1回! もう1回聴きたいわー!」

「他の曲なんかないのか!?」

「いや、ありますけど……今日はちょっと」

 

 

相変わらずのIIDX人気である。もう専用の機械作ってプロデュースしてやろうか。

でもカイリキーがトップランカーになるのは確定的に明らかだからなー。

 

 

「次、いつだ? 絶対聴きに来るぞ!!」

「ごめんなさい、ただの暇つぶしだったんで予定はないっす。

 普段はこれで食ってるんで……」

「やっぱり本職だったか、あんな斬新な音色は初めて聴いたよ!」

 

 

俺発祥じゃないっすけどね。

もうコナ○の人全員この世界に転生させようぜ。多分シェア独占出来るぞ。

 

やれやれ……この結果は予想しておかなきゃ駄目だったかなぁ。

音楽系列への欲望が満足点に達していないこの世界じゃ

俺の知識から引っ張ってくる曲は全部チートじみた音色なのだろう。

欲望が満腹になるってんならこうなるのも当たり前、か?

 

 

まあこんな状態では育て屋予約なんぞやりたくてもやれん。

曲の注目度が高すぎてそっちをやれとしか言われぬ。

 

 

何? 人が集まってんだからかき集めればいいじゃんってか?

彼らはあくまで音楽に群がってきた人なだけだ。

ポケモンを鍛えたい、ガードマンにしたい人とは訳が違う。

そんな中途半端な理由でこちらにポケモンを預けられても俺だって困るんだ。

 

んだから今日はこれで募集も終わりだな……とっとと帰って飯でも作ろ。

結局歓声に呼び止められただけで、結果的にやる事変わってなくてワロス。

 

「んじゃ皆、 (ポケセン)に帰るかー」

「ディァ~」

「ホォァー」

「ミューィ」

『ッ!』

 

さて、皆も集まったし……いつも通りによっこいしょっと。

俺らはダグ共の頭の上に乗っかる。もちろんミロカロスもドレディアさんも行動は一緒だ。

明らかに重いミロカロスを、平然と頭の上に乗せるダグTWOにギャラリーがドン引きしてる。

まあ、わかるわ……それは。

 

 

「えーと、曲を聴いてくれた皆さん。俺は適当に旅しながら弾き語りをしているんで

 別の街で逢った時にまた、よろしくお願いします」

「残念だなぁ……今日はもう聴けないのか……」

「でも俺は惚れた!! 違う街で見かけたら是非聴かせてもらうよ!!」

「私も! あんな演奏ならいくらでも聴きたいわ!」

 

 

順調にIIDXの信者が増えていっているようである。

これ、IIDX10辺りのサントラ作ったら音楽の神になれるんじゃねえか?

 

 

ま、そんなわけで。

行く前は渋っていたが、いざ行ってみたら大満足の結果になった。

でもミュウに対する護衛術は一切進歩していない。どうしよう。

 

 

あと2日だけ待つか……ま、誰も来ない可能性のが圧倒的に高いが。

今日で周りからは育て屋ではなく演奏家のイメージ付いちまっただろうしなぁ。

世の中上手く回らんもんである。

 

 

 

とりあえず俺も俺で満足度が凄かったので、みんなに大盤振る舞いしてしまった。

ドレディアさん単騎で20,000円とか食われたのはさすがにきつかったが、うんまあいいや。






シナリオを進めろという方へ。
俺はご都合主義なタグこそ謡っているが、そんなところまでご都合主義にしません。
書きたい事を全て書いた小説の復刻版みたいなものなのでそこら辺は諦めてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

46話 育てろよ。

趣味全開から一転、今度はこの小説らしさが全開です。


さて、ついに4日目だ。

予約未だに0。参ったかコノヤロウ。

 

 

昨日あれだけ人だかり作っちまったしな……後ろめたさで広場に行く気にもなれん。

 

 

「今日どーするよみんな。自由時間とかにでもするかね」

「ァー……」

「ホォ~ゥ」

『───……。』

「Zzz……Zzz……サンバディトゥナーイ……」

 

ミュウは俺の頭の上で二度寝してます。

旅し始めてから頭の上に何か乗せる事多いなぁ、乗る事もすっげー多いけど。

 

「ホァ~?」

「ん、ギャラドス……? ああ、あいつか。

 そういや飯の材料仕入れたらまた会いに来るって約束してたなー」

 

ミロカロスが言ったのはあの時のパンツギャラドスの事だった。

あいつは今日も元気にパンツ食ってるんだろうか。

 

「ま、今日は広場に行くつもりもないし、遠足がてらあいつのところに行こうか」

「ディーア」

「ホォァ~♪」

『bbb』

「Zzz」

 

 

 

 

「んじゃま、休憩所のほうにしゅっぱーつ」

 

全員がダグトリオの頭にGET・SET。街中を相変わらずの視線の中、てくてく歩いていく。

今日もいい天気である。西を見てみたらどっかのバカが試合中に天気でも操作したのか

むっさドカ雨が降っているのだが俺には関係ない。俺が行くのは街の南だからな。

 

既にご馳走用に素材も買い集めたし何も問題は無い。

大豆を大量に仕入れて、肉の感触にとても似たものを用意しようと思う。

元は俺らだって獣だったわけだ、俺ですらまだあの肉の旨みが忘れられないのに

野生のあいつらが肉が嫌いなわけは無かろう。まあ、あいつらも肉食ってないんだろうが。

 

どちらにしろ豆ってのもあるしな、そこまで金が掛からないのは魅力である。

あいつも喜んでくれればいいんだが……どうでしょう、魚類?に豆は魅力なのだろうか。

 

 

 

ん、ドレディアさんに注意を促さなくてもいいのか、ってか?

別にいらんべよ。あの焼き土下座の後で同じ愚をやるんだってんなら

俺、他の4人連れてマサラに帰っから。

 

 

 

 

 

「ん……? 君は……!?」

「ん」

「よっ、3日振りぐらいかな?」

 

なんか呼ばれた気がするので声がした方へ振り向いてみると

海の中にぷかぷか浮かぶ海パン男がいた。何故か頭だけ出して、だが。

 

「どちら様でしょうか……?」

「あーまあ区別が付かないのも無理ないかなぁ。

 俺ら基本水泳キャップにゴーグルだしなぁ、ハハハ」

 

そう、海パン男さんは仰る。うんまぁ区別しろってほうが無理。

海パン男って言やぁ、俺に声を掛ける覚えがあるのは

ギャラドスの進化のきっかけになった事件の人ぐらいしか覚えが無い。

にしてはこの人俺にフレンドリーに話しかけてきてるし。

 

「ほら、あれだよあれ。釣竿で海パン剥ぎ取られたヤツさー」

「えっ?!」

 

うそん、その人ずばりかい。なんでこんなにフレンドリーなんやアンタ。

あれか? 「世界は俺が思っているよりは、ちょっとだけ優しい」とかそんなん?

 

 

「いや、君には本当にお礼を言いたくてね!」

「お、お礼っ?!」

 

やっべお礼参りktkr(きたこれ)

高校でも平々凡々にすごしてそういうの回避してきたのにっ!!

まさかこんな世界でそんなハメに遭うなんて───

 

「あー何勘違いしてるのか手に取るようにわかるけどそっちじゃないよw」

 

と、人のよさそうな笑みを浮かべて手をパタパタ振り、否定してくれた。

 

「えっ、じゃあお礼って本当にその言葉どおりっすか……」

「うん、そうだ!」

 

なんだろうか? 俺は一体この人に何をしたんだろうか。

お礼を言われるような事はやった覚えが無いのだが。

 

「君に海パンを剥ぎ取られて、海から出るに出られずいたんだがね……」

「そのおかげで生涯の恋人にあったとかそんなのですか?」

「いやいや、さすがにそんな漫画みたいな話はないよw」

 

ですよねー。じゃあなんなんだろうか。

 

「そして長時間海の中に居て俺は、悟りを開いたんだっ……!

 むしろ海パン要らなくね? って───あ、ちょっと君ぃーーーー!!」

 

 

 

 

やっべまじやっべ!! ごめん!! 世界、ほんとごめん!!

俺いつの間にか世界に一人の変態を生み出してた!! もう話のオチわかるべこれ!!

 

もう海パン要らない→おまたブーラブラ仮面!! だろ!!

 

「ダグ共ォー!! 全速前進だぁ!!」

『ッ!b ッ!b ッ!b』

 

逃げろォォォーーーーー!! どうなっても知らんぞォォォォーーーーーッッ!!!

 

 

「ていうかあんたも俺逃げてんだから泳いで追っかけてくんなやぁあああああ!!!」

「そんな事言わずにさぁああああ!! 君もフルチ○になろうぜぇええええ!!」

「うるせぇぇぇーーーーー!! 次は金魂に針引っ掛けんぞテメェー!!」

「ひゅんっ?!」

 

思わず想像してしまったのか泳ぎが一瞬止まるフ○ルチン男の人。

これはチャンスだそうだチャンスだ今逃げないと俺はフルchinにされる。

 

「でええええいもう面倒だぁぁーーーーッッ!!

 ダグ共ーーーーッッ!!水面走れェェェェーーーーーーーッッッ!!!」

『ッッッ!!!!!!』

 

 

ズドバババババババ

      バババババババババ

            バババババカババババ

                   ババババババババババ……

 

・。.

 

 

「ダグ達、頑張ってくれたな。本当にありがとう。マジでありがとう。

 お前たちが頑張ってくれたおかげで、俺らは変態から救われた」

「ディッ!」

「ホァ~~♪」

「ミュィ~♪」

『──/// ──/// ──///』

 

全員から激励を受け、とても恥ずかしそうに照れているダグトリオ。

今回の件のおかげで俺らの絆はさらに深まった気がした。

 

そのキッカケが一人の変態による危機っていうのも話としてアレだが。

 

ドレディアさんも珍しく【よくやったなオメェラ!!】と褒めているし

ミロカロスもミロカロスで【私より速かったですよ♪】とベタ褒めである。

俺は烈海王思い出したわ。あれは速くなかったけど。

 

「ま、さすがに疲れたべ。ここからはミロカロスにバトンタッチだな。

 全員ミロに乗れぇー、優雅に泳いで参ろうではないかー」

「ディー!!」

「ミュィ~」

『ッbbb』

「~~~♪♪~~♪」

 

 

さーて、ギャラドスんとこまであと2時間位ってところか。

 

 

 

 

 

 

なんか若干遠くで水上警察が一人の海パン野郎を囲っている気がするが

まあ見なかったことにしよう。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

47話 育てた

 

水上警察の人たちがお仕事を頑張っているのを確認した後、少し前に旅をしてたのと同じように

俺らはまたミロカロスに乗って、波の間をゆるゆると進んでいた。

 

潮風が気持ちいいわぁ~……各自それぞれの場所に乗り(ダグTWOはもはや語る必要もあるまい)

のんびり、ゆ~ったり。ホテルまほろbです。ごめん、これ地方CMだこれ。多分。

 

 

俺は……まあ、また体調崩してるダグⅢを(ねぎら)っておこうか。

お前もう泳いだ方がいいんじゃねえの?

 

 

 

「───……ーーいっ! ぉーーーーぃ!!」

「……んぁー?」

 

 

なんやら後ろから呼ばれているような気がしたので振り返ってみた。

かなり遠くにサーフボードに乗ったピカチュウと誰かが見える。

 

「んだぁ……? なんだあれ。波乗りピカチュウとかいつのネタだよ……。

 みんなあれなんだか見えっかー?」

「ミューィ」

「ディー? ……ッ! ディー! ディァ!!」

「えっ!?」

 

見覚えがあるだと?! なんか赤い服来たヤツっつってんな。

クチバのサントアンヌの廊下で逢って、やりすごしたヤツ……?

 

 

 

やりすごしたっつったら2人しかおらんやん。

一人は既に海に叩き込んだ。だとしたらもう一人のほうだな。

 

 

「レッドさんか」

「ぉーーーーい!! おーーーーーーい!!」

「ピーッカァーーーー!!」

「ういーっすー。お久しぶりー? っす」

「やっぱりタツヤ君だったか! こんな海の上で奇遇だねー」

「そうっすねぇ、こんな所でどうしたんすかレッドさん」

 

シオンにでも向かってんのだろうか?

でもこの方向だと、あのカビゴンなんとかしないとこちらに来れないはずだが。

 

「うん、クチバの後にどこを旅すればいいのかわからなくなってね……

 ヤマブキシティに行こうとしたら警備員さんに止められるし……」

 

しまった。そっちの方向もあったか。

適当に飲み物渡せば通してくれるだろうし……失敗したかな?

今、別の意味で挫折しかけてるし……

 

「クチバから来たのはいいっすけど、一体あのカビゴンどうしたんすか」

「あー、うん、アレは邪魔だったね。

 なんか普通に強そうだったからさ、寝てたしゲットしようとしたんだよ」

 

戦わないでか。案外ちゃっかりしてるんすねレッドさん。

 

「で、1回ボール使ったんだけどさ。なんか全然拘束力なくて……

 でもその時に気付いたんだけど、一瞬だけはボールに入るでしょ?

 その一瞬のうちに塞がれていた道を通って、こっちまで来たんだ~」

 

なーる……かなり頭がいいボールの使い方だ。普通はまず気付かない。

 

「ところで、タツヤ君は一体どうしてここに?

 あっちからこっちってことは……シオンから来たんだよね」

「あぁ、はい。俺の場合は……

 えーと、海を通ってたらそこらの海パン野郎がうざったくて。

 んでもって戦うのも面倒だから釣竿でパンツを剥ぎ取って無力化して」

「相変わらず過ぎるwwwwwwwww」

「ブフォッwwwwwwwwww」

 

なんと失礼な。ちなみにブフォッはピカチュウである。

そんな言い方だと普段から俺がそんな事ばかりしているみたいじゃないか。

俺はいつもパンツを剥ぎ取ってなんて居ないぞ。

 

 

「で、そんなばっちぃもんを持ってたいわけでもなかったんで

 そこら辺泳いでたコイキングに食わせたら

 なんかその影響でそいつ、ギャラドスになっちゃったんすよ」

「なんでパンツ食って進化するんだwwww いやぁ……本当タツヤ君面白い事してるねぇ。

 話を聞いてるだけで笑いしか出てこないとか日常生活がスタイリッシュすぎるよ」

「ピッwwwwwwwwピwwwカwwwwwwっうぇwwww」

 

 

おい。横で腹抱えてるピカチュウ。お前今「っうぇ」って言わなかったか。

ピカチューとしか鳴けないんちゃうんか。

 

「まあ、そいつに飯食わす約束したんですよ。

 暇になっちまったんで、今回それをやろうかとねー」

「もうどっから突っ込んだら良いのか僕わからないよっ!!

 約束が出来ている時点で何かがおかしいよっwww」

「wwwwwwwwwwwww」

 

 

やばいピカチュウがウザすぎるwwww 芝生ーナイトフィーバーだ。

 

「まあ、そういうわけなら僕もご一緒させてもらおうかなぁ」

「あれ、珍しいっすね……バトル仕掛けてこないなんて」

「こんな海の上じゃ出来る事が限られすぎてるよ。

 しかも今ピカチュウの波乗りって関係上で、サーフボードしか僕らの陣地無いし……」

「ぁーなるほど」

 

バトルジャンキーでも時と場合はちゃんと選ぶらしい。

正直かなり見直した。レッドさんはやはりグリーンさんより格上だった。

 

「君の用事が終われば案内付きでシオンタウンに行けるし

 もしギャラドスが納得してくれたら僕のパーティーに入って欲しいぐらいだからね」

「ほぉほぉ。まあ俺は波乗り要員は既に確保してるんで

 ギャラドスさえ納得したらいいんじゃないですかね」

「うん、波乗り要員って今乗ってるその子だよね?

 随分綺麗な子だね……どこで見つけたんだい?」

「あーこいつあれっすよ。前に船の廊下で妙な魚が俺の近くに居たでしょ?

 あいつが進化したらこうなるんです」

 

俺はミロカロスの首を撫でながら教えてあげた。

ミロカロスも「ホァ♪」と鳴きながら顔を俺にすり寄せて来る。

 

「えぇーっ?!」

 

レッドさんは驚きの声を上げる。

まあ知らない人はびっくりするよねー。貧弱→暴虐のコイギャラよっか予測付かんし。

 

「まるでコイキングがギャラドスになるみたいな感じだね……」

「コイギャラが力の象徴なら、ヒンカロスは美の象徴ってとこっすかね。

 美術館とか行ったらこいつがモチーフにされた絵とか彫像沢山ありますよ」

「うーん、かなり強そうだし羨ましいなぁ」

 

そう言ってレッドさんはうらやむが、ミロカロスはもう戦闘力無いんだよね。

それに羨ましいっつっても、俺もこいつも進化する事に関しちゃ完全に予想外な内容だったんだ。

互いに望んでいない、諦めたからこそ手に入った今の関係なのである。

羨ましがられたところで調子に乗ることは無い。えへへへ。

 

「あとまあ、ミロカロスもですけど……ダグトリオ達も波乗り出来ますよ」

「……? ごめん、なんか耳がおかしくなったみたいだ。

 ちょっともう一回言って貰えるかな?」

「ダグトリオ達も波乗り出来ますよ」

「いやいやいやいや、まさかそんないくらなんでもwww」

「ピーカァー(呆れた目」

 

しっつれいな。

 

 

「ダグTWO。ちょっと波乗り見せてあげて」

「ッ!!b」

 

ミロカロスの頭の上からダグTWOがすたーんと軽やかに俺の隣に。

そして俺はダグTWOの頭の上に胡坐を掻き─────

 

「Let's Goッ!!!!」

 

スターンッ!!

ズバババババババババババババババババ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほいっ、着地っ!!」

「─────ッ!!」

 

バババババババババババババッ、パシュァッ。

 

ダグTWOは軽やかに水面から飛び、ミロカロスの胴体に負担を掛けずに着地した。

そして俺もその超速での風圧やら着地の際のGなど一切歯牙にも掛けず、きっちり不動あぐら。

 

パチパチパチ

ありがとう、ドレディアさんとミュウ。

 

「というわけです」

「なんだか僕、今から逢いに行くギャラドスまでどんなのか不安になってきちゃったよ。

 なんていうかタツヤ君はクレイジーすぎるよ。君は未来に生きてるね」

「ピーカ、ピーカ」

 

そういって褒めてんのか貶してんのか、おそらく貶している発言を残しやがった。

お前らマジでそろそろ海に突き落とすぞコノヤロウ。

 

 

 

 

「ここら辺だったかなぁ」

 

 

俺らは一旦海から浅橋のような道に乗っかり、みんなでテクテクと歩いていた。

突っかかってくるトレーナーは全部ピカチュウにまかせっきりだった。

 

既にボルテッカー使ってるとか鬼過ぎる。オーバーキルもいいところだ。

そしてピカチュウもピカチュウで反動のせいで後1回攻撃を喰らったら

瀕死になりそうな状態だったりする。レッドさん歪みねぇな。

 

「全く変哲の無い普通の道だねぇ」

「ま、世の中なんて全部の場所がそんなもんですよ。

 おーいギャラドスー!! 海パン食って進化したギャラドスー!!

 飯作りに来たぞー!! いるかぁー!!」

 

 

反応が無い。留守だろうか? それとも俺との約束忘れて居住を移しちゃったかな。

 

「来ないねぇ」

「来ないっすねぇ……近くに居ないのかもしんねえなー。

 近場の休憩所でそれらしい影見るまで待って───」

 

 

───ォォォォオオオオオン!!!

 

「ん」

「あ、あれじゃないのかな」

「そーっすねぇ、空飛んでるなー」

 

何か空から雄叫びらしきものと細長いのがこちらに向かってきているのが見える。

 

確か水と飛行タイプだったからそれもわかるけど

こいつって普段水の中にいるんじゃなかったの?

 

かと思っている間にギャラドスはぐんぐん近づく。

 

「グオッォォォオオオオン♪」

「おっす、日ぃ空けちまってすまなかったなー。

 今日は約束通り、うまい飯を作りに戻ってきたぞー」

「グオッ、グオッ、グオォオォォオオ!!」

 

きゃーすっごい御機嫌だわーこの子。凄まじく嬉しそうである。よしよし。

馬鹿でかい顔の頬を手で撫でてやったら凶悪な顔ながら笑顔になっていた。

なんだこいつ結構可愛いぞ。

 

 

その後レッドさんを紹介したり、一緒に来て欲しいと思っている等を伝えながら

若干時間を潰し、ご飯時までのんびりしていた。

ついでだからピカチュウ借りてもふもふして気持ちいい状態になってたら

ドレディアさんとミロカロスにまた一撃ずつもらってしまった。

いつも理由無しにやられるし、地方裁判所に訴えたら通らないかな、これ。

 

 

<>

 

 

「───っとぉ、おーまたせーぃ!!

 久しぶりに俺の持ち入れる知識をふんだんに使った

 漢料理・in・the・野営食が完成したぞー!!!」

 

大量に素材を使ったから疲れたが

これ以上のラインナップは無いだろうと言えるほど気合入れて作った!!

 

「ドーレーディーアーッ!!」

「ホォォォァァァァーーーーー!!」

『──────ッッッ!!!』※箸持ってお椀でチンチンチンチン×3

「ミュミュミュミュミュー!!!」

「やっほおおおおおーーーーーーッッ!!」

「ピーカァァァァ!!」

「グォォォァァァァァアアアアッッ!!」

 

 

こちらも非常に盛り上がっている。

まあ、あんだけうまそーーーーな匂い充満させてたらそりゃ腹も減りますわな。

皆さん待たせてすんません。

 

 

「今日は本気で大量に作ったからなッ!!

 さすがに満腹にはならんだろうけどギャラドスも十分に食えると思うぞ!

 さぁ、堪能しやがれーーーー!!」

『ウオオォォォォォオオオオオオ!!!』(意訳

 

こうして全員が大興奮する中、バトルアリーナin食事時は幕を開けた。

 

 

 

とは言っても前のように戦争は起こらない。今回は安い材料をものすごい量で買い入れた。

豆腐を2万円分、といえば判っていただけるだろうか? まあ原材料の豆だが。

豆はうまく作れば腹いっぱい食べられるおいしいものとなる。腹持ちも良いしな。

ドレディアさんがガッツリ食い、他の人達がたっぷり食っても

十分に残る物量を仕上げているのだ、抜かりは無いッ!!

 

 

()ーーー()ーーーディ()ーーーー()ーーーーッッッ!!」

「ッ!」

「ッ!」

「ッ!」

『ッッッ!! Σd(゜д゜)(1) Σd(´∀`)(2) Σd(゜∀゜)(3)

「ホォ~~~ン♡」

「ミュゥゥゥゥ~~~♡」

「やばいこれやばいなにがやばいって味がもうやばい!!

 タツヤ君結婚して!! 僕頑張ってポケモンマスターになって家計を支えるからっ!」

「月5000万稼げるなら考えないでもないっすよ」

「ごめんそれは無理だ!! ビルゲ○ツに頼ってくれ!!」

「ピ~~♡ カ~~~♡ ヂュゥゥゥゥーーー♡」

「グギャァォォォォォン♡」

 

 

とても賑やかな休憩所前付近。ご飯は世界を平和にするようですね。

 

 

 

 

「はい、全員お粗末様」

 

全員好きなだけ食ったのか非常に満足してそこら辺に転がっている。

満腹になった後に寝転がるのは実は体によくないからやめましょう。

簡単に言うと胃液が胃より若干遡ってしまい、胃の入り口の細胞が変異します。

年単位でそれを繰り返すとガンにもなったりします。死亡例もある。

 

「ディァ~~~♡」

 

ドレディアさんは寝転がりながら、完全に顔がふにゃけてとても幸せそうに猫なで声を出している。

目元も普段のつぶらな瞳ではなく、なんかこう……完全に幸せな感じに目を閉じている。

 

シャッターチャンス!! 富竹どこだ!!

 

『─────。』

 

ダグトリオ達は3人で仲良く正座し、俺に深々と礼をしてきた。

【まっこと美味で御座った。感謝致します、我らが主殿】だとよ。

礼儀正しいヤツは好きだ。

 

「ホァ~ン♡」

 

ミロカロスもあの時と同じ位の強さで俺に巻きついてきている。

満腹とはかくも素晴らしきモノなり。

 

ミュウは今まで腹いっぱい食ったことなどないのか

倒れ伏して声も上げずに悦に浸っている。

ぐでーっとしてる猫みたいで可愛いわこれwww

 

「うめぇ~~~♡」

「ぴかぁ~~~♡」

 

こっちはこっちで主とポケモンで似たモン同士な反応である。

笑顔で飯を食ってもらえるのはこっちとしてはいい事だ。

 

「─────。」

 

ギャラドスも満腹になり、その怖い顔で笑顔に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なってねえ。

ってかむしろ光ってんぞおい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴこぴこん♪

 

 

 

 

 

「ッ?!」

 

あ、あの音だとッ?!

 

進化?! ってそんなわけないかー。

前に船でドレディアさんも満腹になっただけなのに、やたら紛らわしい発光してたしな。

 

はー、びびらすなよギャラドス。洗い物してこよっと。

 

 

でん♪ でん♪

でん♪ でん♪

でん♪ でん♪

でん♪ でーっ♪

 

 

あーもうわかったからポケズよ。うるせーから静かにしててください。

別にお前がうるさくても洗い物は出来るが、ミロカロス以外でその音楽に良い思い出がないんだ。

てか今気付いたけどミロカロスの進化の際、鳴ってなかったじゃねえか。

 

でん♪ でん♪

でん♪ でん♪

でん♪ でん♪

でん♪ でーっ♪

 

 

 

ご飯を食べさせた後に作ったやつがする作業、それが洗い物である。

これを怠ると後々どんどん面倒になるので、気付いたうちに全部片付けると後が楽になるのだ。

みんなもちゃんとやるんだぞ!

 

 

 

 

キュピィィィィィーーーーン!!!

 

「うわぁーーーー!!」

「ピカァーーーーー!?」

「ディーーーーー?!」

「ホ、ホァッ、ホアァーーー!!」

「ミュッ、ミュゥ! ミューーーーー!!!」

 

後ろでなんやら叫び声が聴こえる。まああれ本当にまぶしいしな。

ドレディアさんも自分の発光量は自分で見えてなかったから、今回は驚いているんだろうねぇ。

 

 

 

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

おめでとう!

ギャラドスは よくわからないなにかに しんかした!

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

 

ま、ポケズが異常なのは放置放置。

こいつ何気にミロカロスの進化の時に、中身入ってるみたいな反応してたからな。

 

洗い物ももうちょっとで終わる。もう一頑張りだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

48話 誰お前

 

 

「───よっこいしょ、まあこんなもんか」

 

とりあえず料理に使った器やら鍋やらは、一通り水で(すす)いでキュッとした。

今回の料理は油を一切使っていないので、海でそのまま丸洗いしても環境被害はないはずだ。

むしろ海の生き物にゃ食べカスが良い具合にご馳走になるかもしれない?

 

別の問題を挙げるなら、洗うのに使ったのが海水だから

生物学的に見れば、器は綺麗に見えてもプランクトンとかがびっちし付着してるっぽい辺りだ。

 

 

 

え、油を使わない料理は何の料理かって?

えーとな、ほら、あれよあれ、なんだっけ。

そうだ! ト───

 

 

「た、大変だッ! タツヤ君ッ!! タツヤくぅぅうんッッ!!

 ギャラドスがっ!! ギャラドスがっ!!」

「ああ、光ったんでしょ。そこまでは見てました」

 

んで、おなかいっぱいに なった!って表示されてんだろうね、ポケズには。

 

 

※タツヤはポケモン図鑑に構うのが面倒で音がなっている途中でしまってます。

  故に表示された文字を見てません。

 

「そ、そう!! 光ったんだよっ!

 光ったって事は進化って事なのは知ってるだろ?!」

「ああ、それなんていうか生命のイタズラっすよ。

 前にドレディアさんも、サントアンヌ号でむっちゃ光ったんすよ」

「ええっ?! ドレディアも?!」

「んで、ポケモン図鑑見たら……おめでとう、ドレディアおなか一杯になったよ!! ですってさ。

 それと同じでしょ、放置でおkおk」

「そ、そうなんだ……そんな事が……って。

 違ぁーーーーーうッ!! 本当だよ! 今回は本当だって!!」

「はぁー? 何がですか。俺が10歳なのは本当ですよ」

「聴いてない!! 全然聴いてないし信用してないから!!」

 

おいひどくねえか何気に。

 

「ギャ、ギャラドスっ!! 進化してるっ!

 本当に、もうギャラドスじゃないっ! なんか、別の何かになった!!」

「……ハァッ!? ちょ、マジで言ってんすか?!」

「僕も洗い物運ぶの手伝うから!! 早くこっち来て!!」

「わ、わかりましたっ!!」

 

口々にそう述べ合い、俺たちは慌てて水際からキャンプへ戻る。つーかマジで進化かよ。

 

あれちょっとまて、これがマジなら前のドレディアさんはなんなの。

ギャラドスが進化するとか聞いた事も無い。ドレディアさんも最終進化系のはず。

 

 

本当にアレはなんだったんだ?

 

 

で、2人で慌てて食事地点に行ったら

 

 

 

 

 

本当になんかいた。

 

 

 

 

 

ただ、冗談抜きで格好良いという表現が当てはまるだろう。俺の目の前に居たのは

 

 

見紛(みまご)う事なき、『龍』そのものだった。

 

 

これが本当にギャラドスだとするなら、だが

以前にあった、まだなんとなく魚くせぇ部分が一切合財削除されている。

えらも無いし、腹の方のボンレスハムっぽいのも一切なくなっている。

そこに居たのはうなじと背中に毛を生やした、まさに『龍』だった。

 

 

色もギャラドスが水色っぽいのに比べ、こちらは完全に青である。

髭っぽいのも生えていないし、ゴツくもない。ひたすらシャープネスな感じである。

 

これがファンタジーだったら、シーサーペントとかそんな表記が似合うのだろうか?

目も細めに口もタラコ唇でもなく……身長もギャラドスと比べ物にならんほど長くなっている。

ミロカロスの2倍以上あるぞこれ。……目算、約17mと見た!!

 

そしてそんなのが、だな……地面に居ないで、ちょっと浮いてふよふよしてんだわ。

イメージで言うならドラゴンボールのシェンロンの色を青にして

さらにごてごてしいものを一切取り除いた感じだろうか。

レックウザよりもかっけぇぞこれ。

 

下でくつろいでいたみんなが驚きのあまり見上げて固まっている。

ばかでけーし威厳あるし、浮いてるしなんだこいつ。

 

 

「…………。」

「…………。」

 

 

俺はレッドさんと顔を見合わせる。

 

目で語られた。

 

【Who is this?】

 

俺は静かに首を振る。

 

【I don't Know.】

 

レッドさんが頭を抱えてしまった。

 

 

ふと龍に目を向けてみたら顔の方を少し上に上げていた。ってかあれ、息目一杯吸ってんじゃね?

 

 

 

 

 

「ギュガァァァァアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

 

「うおぉぉぉおおぉぉ?!」

「うわぁあああああぁ!!」

 

うわうるっせー!! この野郎突然雄叫び挙げやがったコンチクショウッ!!

モンハンのリオレウスの叫びとかってこんなのなのか? 思わず耳を塞いでしまう。

 

あ、塞ぐ手がないミロカロスがひっくり返っちゃった。って……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴルァァァァァァアアアアァーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギュッ?!」

「ぎゃぁああああぁああ……あふぁ」

 

 

ぱたりこ

 

レッドさんが気絶した。そんなんはどうでもいい。

 

 

「テメェゴルァ!! うちのミロカロスになんてことしてくれてんだオイ!!

 テメェのクソうるせぇ叫び声のせいで完全に気絶しちまってんじゃねえか!!」

「ギュ、ギュ」

「なんで進化したとか馬鹿でかくなったとか新種じゃねーのとか

 そんなんはどうでもいいんだよ!! 俺の仲間に何 し て く れ や が っ た !!」

「ギュ~;」

「ぁ゛あ゛?! ごめんで済んだら警察いらねーって前から言ってんだろうが!!

 今何をして御免なさいじゃねえんだよ!

 んだったら始めッから吼えてんじゃねえこのクソッタレがッッ!!

 ちんたま引き抜いて家畜にすんぞこの青い一本グソが!!」

「~~~;;;;;」

「だぁーーーーら俺に謝ってんのがまず間違いなんだ阿呆が!!

 ミロカロスを起こしてミロカロスにごめんなさいだろうがぁっ!!

 そんな事もわかんねーのかコラ!! ティッシュで拭いてトイレに流すぞ?!」

「(´;ω;`)」

 

 

って、こんな青い一本グソに構っている暇は無いっ!! 俺の仲間はっ?!

 

よし、ドレディアさんはうまく耳塞いで回避してるな!!

ダグトリオは慌てて地面に犬神家して回避したらしい!!

ミュウは満腹で寝たままだ!! 一安心!!

良く見ると人の体が地面から3本生えてて気持ちわりぃけどまあいいか!!

 

「ミロカロス、大丈夫か! ミロカロスー!」

「きゅ~(@ω@)」

「ああっ!ミロカロスが!!

 

 

 

 

 ───コロス。」

 

 

 

 

「ッ?!?!」

「今、この場で捌いテヤるヨ。綺麗ニ(はらわた)取リ除イテ寿司ニシチャオウ」

 

包丁どこかな♪ どこにしまったっけ♪

あ、リュックの中だね♪ 持ってこないと♪

 

「(´;ω;`)~~~~~~~!!」(ぺこぺこ、ぺこぺこ)

「いやァ? もう謝らなくてイインダヨ♪

 とってもトッテモおいしく作ッテアゲルカラぁ~」

「(((´;A;`)))」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホァアァ~~~@@」

「ッ?! ミロカロス、目が覚めたか?!」

「ディァ!」

『─────!!』

 

慌てて俺らはミロカロスに駆け寄った。後ろで変なうん()がうごめいているが至極どうでもいい。

 

「大丈夫か? どこか変なところは? 痛いところはないだろうな?」

「@@(コクコク」

「っはぁ~~~、そうかぁ……よかったぁ~」

 

頭は若干くらくらするものの、他には内面外面異常も特にないらしい。

はぁー……一安心だわぁ……さってとぉ。

 

 

 

 

残ったお仕事しないトネ♪

 

 

 

 

「オゥクソ野郎……寿司ネタになる覚悟ハ出来タかァ?」

「(((;A;)))」

「なーに……痛いのは一瞬だけだからよ♪ やさしーく殺してあげ───」

「ホァ?! ホァアァアァアアーーーー!!」

 

どすんっ。

 

「おぶっ?!」

 

なんとミロカロスに体当たりをされた。

なんだなんだ、俺がどうした。もしかして混乱してんのか。

 

「大丈夫大丈夫、これはミロカロスにやるんじゃないからね~。

 あそこの変な青いのを()(キザ)ムための───」

 

べっちん。

 

「あうっ!」

 

今度は尻尾で叩かれた。な、なにをするだァー。

挙句の果てにばっちぃ青いのの前に立ち塞がっている!

お、おとうさんそんな子に覚えた育ちはありませんよ!

違った! 育てた覚えはありませんよ!

 

「なんだよ、なんでだよミロカロス!! 俺が一体何をしたんだ!」

【これからしようとしているではありませんかっ!!】

「えぇー?! 何をだぁー!!」

【私のために、これからこの子に対して

 尋常ならざる仕置きをしようとしている事位わかりますっ!】

「いや、そうだよ?! だからどい───」

【させませんっ! 言ったでしょう!? この『子』はまだ幼いのです!!】

「ぅ……、その図体でまだ子だってのか」

【そうです! あなた方が持っている機械で確かめてみてくださいっ!!

 私にはわかります!! この子は突然体が変異しただけで中身は子供ですっ!!】

 

ミロカロスがおかん丸出しな意気込みで俺に説教をぶちかましてくる。

そういや性格もおだやかだった感じだったな。

力に溺れて暴れていた事もなかったし……案外本当なのかもしれん。

 

「おいポケズ。あれちょっとスキャンしてくれ」

 

[> あの あおい なにかを ですか?

 

「うん、そう」

 

[> りょうかいしました

 

ポチッとな。

 

pipipぴーん♪

 

音みじかっ?!

 

 

[わかんねえ Lv8程度]

 

何故かポケモンの名前が表示される5文字の欄にポケズの意見が載る。

お前諦めんの早すぎだろ?! 対象ネームが わかんねえ とか待てよお前!!

そしてLv8……だと……

 

 

「えええーーーー。お前明らかにLv100とかLv150とかしょうたいふめいのタイプだろうがよ」

「(´;ω;`)」

【でもご主人様、これでわかったでしょう……この子はまだまだ幼子なのです。

 いくら私のためとは言え……殺すのならば! この身を踏み越えてから、やってください!】

「え、ちょ、おまっ。なんでそんな壮大な話になってんのッ?!」

【それだけ許してはならない行為なのです。

 ご主人様……あなたも覚えてくれているでしょう。私が進化した時───最初にやった事を】

「あ───」

 

 

 

 

そうだ、そうだったな……

 

 

 

進化出来て、嬉しくて、心の底から

 

 

 

鳴き叫んでた、な。

 

 

 

「わかった、すまなかった……

 俺も少し動転していたみたいだ。怖がらせてごめんな……」

「ギュ~……」

 

現ポケモンネーム わかんねえ が若干怖がりつつも俺の謝罪を認めてくれた。

 

「ホァァ~♪」

「ギュ~♡」

 

おおぅ、事が落ち着いたからなのか

ミロカロスがあの馬鹿でけぇやつの頭を撫で始めた。

青いやつもくすぐったそうにミロカロスの尻尾の愛撫を受け止めている。

 

 

 

さすがにあのでかさで子供とは思わなかったな。

原因は主に俺か、悪い事をしたかもしれない。海パンなんて食わせてなければ……

 

 

 

 

 

 

「ま、そういうわけで。

 全員起きたしこれからのことを話し合おうか」

「ギュガァ~」

「ディーァ」

「ホァ」

『─────。』

「うん」

「ピカァ」

「ミュ」

 

レッドさんのほうはピカチュウがDengeki tube 100万V ★★2で叩き起こしていた。

ん、なんの事かわからんだと?段位Overjoyって動画でも探しなさい。

3曲目に入ってるはずだから。

 

「まずこいつの名前を決めよう。ポケモン図鑑で調べてみたら

 表示名が【わかんねえ】とかあほくせぇ表記になっていたので」

「ん~種族的な名前かい? オーキド博士に全部任せちゃった方がいいんじゃ……」

「そいつぁ余りお勧めしませんよレッドさん」

「え、なんで……」

「普段人がいいおっさんでも、あの人も、周りの人も研究者です。

 任せたら間違いなくこいつ自身は不幸になりますよ」

「なんでだい……? 何事もわかったほうが便利だと思うけど」

 

まあ、そうだよなぁ普通は……普段なら気にもしない内容だが

日々進化するその後ろには、現実世界でも確かに踏みにじられた何かがあったもんなのだ。

それは未来永劫どの世界でも───絶対に、変わらん。

 

「簡単に言います。こいつの生態を徹底的に解析するために

 こいつは生きて研究所を出ることなく人生(?)を終える可能性が圧倒的に高いです」

「えっ?!」

「理解するために投薬、解剖、皮膚をバラして成分解析。

 何にどれだけ耐えられるのか。火に岩に、ノーマルに格闘に、と。

 本当に意味そのままに、『何でもやられる』でしょうね。

 それはどれだけ耐久力が有っても……やられている本人からすれば地獄にしか映りませんよ」

「ぁ…………」

 

ただのエゴかもしれんがなー。

たかが薬ひとつだってなんの副作用もなしに完成するなんて有り得ん話だ。

何かしらの人体実験が必ずどこかで行われて

そして無事が確認されて初めて市場に流通するのだからな。

 

 

「ま、レッドさんがそこまで言うんだったら

 こいつは俺が連れて行きますわ。誰にも手出しさせません」

「わ、わかったよ……個人的には何も知らないのは不安すぎるけど

 そこまで聴かされたら僕もさすがに、博士に任せるのは無理だ」

「うむ、よきかな。で、話がズレましたけど名前ですね」

「ギュガァァァ~」

「うーん、突然そういわれると困るなぁ……

 ギャラドスの進化系って事だろうし……ギュライガ、とか?」

「呼びづれぇ~……」

「えぇー」

 

じゃあ俺の案から行くか。こういう場合はまんまのがいいだろ。

 

「俺はとりあえず、青い龍、として。

 セイリュウ『青龍』かソウリュウ『蒼龍』をお勧めしましょうかね」

「あーそっちのほうがしっくり来るねぇ。じゃあ、セイリュウのほうをもらおうかな?」

「ギュ~♪」

「お、気に入ったのか。センスあるな、わかんねえ」

「(´・ω・`)」

 

名前で呼んで、ってか。呼んだじゃん。お前高町なのはさんかよ。

 

「じゃ、そう言う事で君の名前はセイリュウだよ。

 これからよろしくね、セイリュウ」

「~~~♡♡♡」

 

おおう、やはり原作ラスボスは恐ろしい。あの威厳あるバケモノを速攻で懐かせてやがる。

 

「それじゃ、一旦このボールに入ってね」

「ギュ~♪」

 

カチン

 

カッポォン。

 

 

レッドさんのポケズからゲットした音が聞こえてきた。無事に完了したようである。

 

そして作業が終わり、レッドさんはまたセイリュウを出した。

やっぱでけぇこいつー。アニメのイワークも相当なでかさだったが。

 

「あ、ついでだからレッドさん。そいつのステ見せてください」

「うん、わかった」

 

 

pipipipipipipi

ぴーん

 

「どれどれ……」

「ふーむ?」

 

俺はレッドさんの肩口から覗くようにして図鑑を閲覧する。

 

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

No.%&$★異常進化★

セイリュウ Lv8程度

 

タイプ1:みず

タイプ2:ドラゴン

 

せいかく:おだやか

とくせい:ふゆう (地面属性の攻撃を受けない)

 

元凶:タツヤ

 

こうげき:━━━━━━

ぼうぎょ:━━━━━━

とくこう:━━━━━

とくぼう:━━━━━

すばやさ:━━━━━━━━

 

現努力値

 

なし

 

わざ1:はねる

わざ2:かみつく

わざ3:

わざ4:

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

 

「うわぁ」

「うわぁ」

「ギュガァ」

 

お前も大概だな、セイリュウ。ステータスがLv8でこれとか。

……最終進化系って考えりゃ妥当なところか?

でもギャラドスって種族値めっちゃ高くなかったっけ……それが進化してこの状態……?!

おいやばくねえかこれ。劣化アルセウス?!

 

 

しかも親が表記されるところが、なんで俺の名前なんだよ。元凶とか書かれてるし。

つか水ドラゴンのタイプとか確か弱点ドラゴンだけじゃねえかこれ。

シンオウのパルキアさんと同じじゃねえかwwww

 

「恐ろしいなお前、しかも地面攻撃は無効ってか」

「これは……育て切れたら恐ろしいポケモンになるだろうね」

「俺でも勝てるか怪しいですよ」

「ギュガ」

 

まあいいや、俺のポケモンじゃねーし。

 

「んじゃ色々問題もすっきりしたところで帰りますかー」

「あ、そうだね……もうみんなお腹も落ち着いただろうし」

「ディー」

「ミュー」

「ホァ」

『ddd』

 

全員お腹は良好な様子。

 

「おーいセイリュウよ。俺道案内すっからさぁ、背中乗っけてくんねえ? 

 みんなで一緒に街まで行こうやー」

「ギュガ~~~~♪」

 

訪ねてみると同意を得られた。これで帰り道が楽になる。

 

「おっし、片付けも終わってるし行きますか! もう夕方だけど問題ねえべ!」

「わかった! シオンってどんなとこだろうなぁ。楽しみだー!」

「あ、多分グリーンさんいますよ。

 ちょっと前に海上であって、戦うのめんどくせぇから海に突き落としました」

「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

「ブフォッwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

2人仲良く噴出すレッドさんとピカチュウ。

そんなに面白いかなぁ、俺に取っちゃ普通なんだけど。

 

 

そんなこんなで空の旅ーーーーー!!

高いぜイヤッホーウ!! しかも目立つぜいやっほーぅ!! セイリュウお前長ぇんだよ!!

まあどうせこれから目立つのは持ち主のレッドさんだからどーでもいいが!!

 

「ディーーー♪ ディァアアアアーーー♪」

『♡♪ ♡♪ ♡♪ 』

「ホァホァホァホァ~~♡」

「ミュ~ミュミュ~ィ♪」

 

俺の手持ちも楽しそうだぁ、いや本当に気持ちいいなこれ。

今だったらあの朝にフーちゃんとどっかすっ飛んでった母さんの気持ちわかるわ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シオンタウン交流 ドレディアさん

 

シオンの街へと帰ってきたはいいのだが……

広場での件でまた騒がしくなるかもしれない可能性を嫌い、今日も全員に自由行動でOKと伝えた。

 

褒められるのは確かに嬉しい事なのだが、下地は自分が訓練したとはいえ

弾いている曲は結局のところ、単なる丸パクリなものばかりである。

 

色々異世界に行ったーだのなんだのって作品はネットでも見ていたが、いつも思ってたんだよ。

お前らその能力、ただ単に特典として貰い受けただけだってのに

なんで努力してきて強くなって、その特典に一歩及ばず負けた人達を平然と見下せるの? と。

 

そういう気持ちと似たような物で、自分が作詞作曲した曲ならまだしも……パクリじゃなぁ。

褒められてるのは結局のところ俺ではなく、その作り上げた人への賞賛なわけだ。

 

故に俺が歌って騒がれてとして……それが再度発生するのは非常にめんどくせぇ。

どのぐらいめんどくさいかっていうと、外食に完全に慣れた一人暮らしの人が

一時間以上掛けて自炊を行うぐらいにめんどくせぇ。

 

ついでに言えばこれの後片付けが一番めんどくせぇわけでござるよ。

 

ま、そんなわけで……金稼ぎにも育て屋の客を引っ張る場所に行けないため

それらの認知度が薄まるまで、適当にブラブラしておこうと思ったのである。

 

「ディー……ア……?」

「……ん? どしたドレディアさん」

 

何も持たずに外に出歩いては、買い食いも出来ないので

色々と外出準備をしているところに、食堂で飯を食い続けていたドレディアさんが

飯を食って満足したのか、部屋まで戻ってきたようで扉から体を半分出して俺に問いかけてくる。

 

どうやら【何やってんだ?】と聞きたい様だ。

 

「さっき食堂でも言ったけど、今日はみんな自由行動だ。

 別に部屋で寝ててもいいし、なんかするってんならしてきても良いよ。

 俺は適当にどっかぶらついてくるから、外に出る準備してんのさ」

「アー……」

 

俺の返答に納得が行ったのか、【そうかー】と声を出すドレディアさん。

 

そんな感じに小銭を持って、服も着替え終ったので部屋を……───

 

 

くいっ、くいっ

 

 

「ん?」

 

 なんか服の後ろを引っ張られて……

 

「って、ドレディアさん……どしたん? なんか食いたいもんで金が足りないとかか?」

「アー。ドレ、ドレディァー」

 

ん……【たまにゃァ一緒にどっか行こうぜ】とな……?

 

珍しい事もあるもんだなぁ。いつもだったら我先にと飯屋か屋台に突っ込むのに。

加えて俺が居ると金額やらなんやらを制限するため、彼女からすれば鬱陶しいはずなんだが。

 

「別に一緒に来るってんなら構わんけど……

 俺、基本的に食い歩きとかしないぞ? 一緒に居ても暇になると思うが」

「ディァ」

 

ふーむ……【別にそれでもいいわ】と来たか。

一体何を考えてるのかわからんが、別に良いってんならまあいいか。

言質も取ったし、約束を反故にする様なら封印処理しちまえばいいし。

 

「ま、そんなら一緒にどっか行くか。ついといでードレディアさん」

「! ドレ~ディアッ!」

 

別に構わんという旨を伝えた所、ドレディアさんは何故か満面の笑みで了承を返してきた。

まあ喜んでくれるってんなら俺も別に悪い気はせんから全然問題無いんだが……

それだけでここまで喜ぶとは、一体どうしたのだろうか?

 

 

 

 

 

あぁ……そういえば……

 

 

仲間が出来てからは、二人きりになる事もなかったなぁ……───

 

 

 

 

 

 

「ディ~ァ~♪ ディアッディァ~♪」

「コラコラ、あんまし離れないでくれよ」

「ドレーディァッ」

 

(ひら)けた平原の10m先ぐらいを、ドレディアさんはハイテンションで飛び跳ねる。

対して俺はのんびりと歩んでいるため、どうしても距離に幅が出来る。

 

街中を歩くってのも普通すぎるので、現在はシオンの西へ訪れていた。

そこかしこでトレーナー達がシノギを削りあっている。

 

一方俺は戦う気もさらっさら無いので、先程のやり取りの通り二人だけで歩いている。

今バトルに発展したらドレディアさんで6タテしなければならない状況だ。

二人っきりで出かけるって事自体もかなり珍しいのだが

いつもは用意周到な俺が、こんな無防備で出歩くのも俺自身で珍しいと思ってしまう。

 

「ディーァ! ディァッ!」

「はいはい、わかったわかった。そんな急かさないでくれよ」

「~~~~♪」

 

【ほれ早く! 早く!】と手招きするドレディアさんに苦笑しながら声を掛ける。

見る限り、ドレディアさんの表情はとても笑顔であり

まあ、たまには無防備なのもいいかなとーと思ってしまったり。

 

って、あ。

 

「───……ッ!」

 

油断しながら歩いてしまったためか、そこら辺に居たトレーナーと目が逢ってしまう。

目と目が合うー♪ ってちゃうわ。そんなん美しいお姉さんとだけでお願いします。

 

「ンッフッフッフ……! 目が合いおったな、小僧ッ!

 さぁポケモンバトルだ……おぬしの手持ち、いかほどか見せてもらうぞッ!」

 

そんな風に絡んで来てしまったギャンブラーのおっさん。

序盤だと1000円オーバー所持しているこの人達はご馳走だった覚えがあるが

今、生身で接するとただの禿げ上がったオヤジでしかない。

 

そんなわけでやり過ごすために……お、あの人でいいか。俺の後ろに居るし。

 

「って、ちょ、小僧ッどこへ行くんだッ!」

 

ステステステーとおっさんを無視して、絶賛バトってる最中の人に話しかける。

 

「ねえねえお兄さん、なんかあそこのギャンブラーさんがお兄さんとバトルしたいって」

「……ハァッ? いや、俺バトル中なんだけど」

「でも、あのギャンブラーさん『目が合いおったな!』とか言ってましたよ。

 じゃあ俺はコレで失礼しますねー」

「ったく、人がバトルしてる最中にとはなんと非常識な……───」

 

仲介も果たしたので、俺はとっととドレディアさんと先へ……

 

「って違うわぁーーーッッ!! 小僧お前何考えてんだッ!!

 俺とバトルすんのはお前に決まっとろーがッッ!

 なんで俺がいきなり非常識扱いされんきゃならんのだッ!!」

「えーでも俺の後ろにこのお兄さん居たし、この人見てんのかと」

「いやそんなんどう考えても目ぇ合ってないだろうがッ。

 完全にバトル中じゃねーか! 人の邪魔してんじゃねぇってのッ!」

 

なんぞ俺と遭遇する人の中では珍しく正論で切り返してくるハゲさん。

いやんもう私面倒ではちきれちゃうわッ!

 

横で見てみたらドレディアさんが【俺等の邪魔すんじゃねーよ#】って

ハゲさんにすっげーメンチ切ってるし。

 

「ふふふふ……お前の手持ちであろうこの草のお嬢はやる気満々らしいぞ?

 さぁ、改めて俺とバトルだッ! あ、君すまんねなんか邪魔したみたいで」

「ああ、いや別に構わんすよ。よっしゃニャースみだれひっかきッ!」

 

俺と再び相対して、俺が巻き込んだお兄さんを元のバトルに戻しつつ

ドレディアさんとガチで張り合おうとするハゲさん。

 

どうでもいいけど完全に意味合い間違ってるよ。

バトルをやる気満々ってか、邪魔するんじゃねぇって感じで殺る気満々ですよ?

 

「さぁ、俺の相棒よ……あの草のお嬢に一泡吹かせてやれぃッ!

 いでよッ! ロコンッ!」

 

そしてハゲさんは俺との間にボールを投げ、その中からはロコンが出てきた。

 

「キューキャールルゥッッ!」

「ねぇ、ハゲさん」

「あん? どうした小僧」

「この子ちょうだい。もふもふしてて可愛い」

「キャルルゥッ?!」

「ア゛ァ゛ッ!?」

 

全員が全員それぞれの反応を返してくる。

いやだってロコン可愛いやん。進化したら可愛いが優雅になるし。

 

んー、でもまあ俺はどっちかってーとキュウコンの方が好きかな。

知ってるか? Pixivでのポケモンで最初に投稿された絵って

ピカチュウでもなんでもなく、キュウコンなんだぜ。

 

まぁとりあえず目の前の現実から目を背けても状況は余り変わらん。

ここまで発展しちゃったらバトルするしかないよなぁ。

 

「やれやれ、仕方ねぇか……悪いけどドレディアさんちゃっちゃとやっちゃって」

「…………#」

 

あれ、なんで俺がジド目で見られているんだろう。

今日のドレディアさんは、なんか久しぶりにバイオレンスまっしぐらだぞ。

 

「あー……まぁ、やりすぎん様にね」

「……ディ~ァ~」

 

【ぁ゛ーまったくもう……】とでも言いたげに俺に溜息とヤレヤレって動作をする緑の子。

ぼくが なにを したと いうんだー。

 

「ふん、仲睦まじい事だなッ!

 先手必勝だロコンッ、火の粉をお見舞いしてやれいっ!」

「キューキャッッ!!」

 

ハゲさんがロコンに対して命令を飛ばし

ロコンはそれに習い『くさタイプ』の弱点である『ほのおタイプ』で攻撃してきた。

 

「ドレディアさーん」

「ァー?」

「そのまま突っ切ってロコン捕まえてー」

「ァーィ」

 

正直火の粉なんて、現実でやられてみればただのへちょい火のカスである。

こんなんでくさが燃えるわけねーだろう常識的に考えて。

 

俺の指令をひょいひょい聞いて、ひのこの中を普通にズンズン歩くドレディアさん。

その図に流石のギャンブラーも驚愕を隠し切れないらしい。

 

いや、だって俺等も火の粉が掛かった程度じゃ

ちょっとだけ「アチッ!」ってなるだけだろ。そんなんダメージにもならん。

うちの自慢の子を火で倒したいならバハムートでも連れてこい。

 

「キューッ!? キューキャーォォンッ!!」

「ディー。」

「ああ、はいはい。んじゃドレディアさんそのロコンを地面に押し付けて寝転がらせてー」

「ァー。」

「んで、次はその背中にドレディアさんが馬乗りになってー」

「ァーィ。」

 

俺の指示に従い、組み伏せたロコンの体勢を次々と変えて行くドレディアさん。

一応はプロレス技の範囲で指令を飛ばしている。

技が体に染み付いている形でとられているのか、俺の指示をテキパキとこなしていく。

 

「ちょ、ちょおまっ、うちのロコンに何しやがる気だ!?」

「何って、技に決まってんじゃん。

 あ、そんで膝にロコンの両腕を乗せてだねー」

「ァィァィ。」

「キュッ……!?」

「んで、アゴを持ってギュイィィーーーって引っ張ってー」

「ディー、ァァァアアアーーーーッッ!」

「……ッ!? ッ?! ッーーーー!!」

 

そして発動、伝家の宝刀キャメルクラッチ。

喰らうロコンはひとたまりも無く、息が凄くしづらい状況になってしまっている。

 

「んで、さらにギュィィィィイーーーって」

「ァァァァーーーーーッッ!!」

「────ッ! ーーーーーーーーーーッッ!!」

「あ、あぁぁぁあーッ! や、やめてぇっ! やめたげてぇっ!」

 

見知らぬ技を仕掛けられてはいるが、見た目以上にダメージがやばそうなのか

ロコンの持ち主であるハゲさんは大慌てである。

 

んーまああのドレディアさんの力で3,4回も引っ張れば1発K.Oだよな。

さすがにもう無理だろ、あのロコン。

 

「もういいよー、ドレディアさん」

「ディーァー」

 

そうして組み伏せていたロコンから全て極まった状態を解除して

ポテポテポテ、とこちらにドレディアさんは戻ってきた。

 

一方やられていたロコンは堪ったものではなかったらしく、完全にグロッキー入ってる。

うーん、ドレディアさんやはり強し。

 

「お、ォォォォォォ……ロ、ロコォーーン……なんと、なんという……」

「んじゃ、俺等これで失礼しますー」

「ディァー」ノシ

「あっ、ちょ待てコラッ!! 俺の手持ちはまだ居るぞッ!!」

「えーまだやるんすかー。俺等も目的とかないけどバトルやるために来てるわけじゃないから

 とっとと別のトコ行きたいんですけどー」

 

あんだけコテンパンにして差し上げたのに、ハゲさんはまだやる気らしい。

そのやる気、是非あんたのハゲた毛根に注いで上げてくださいよ。

 

「う、うるせぇッ! 一度始まった勝負は完全に終わるまで負けじゃねぇッ!!」

「はぁ……ったくもう、ドレディアさんちょっと下がってて」

「……ディ?」

 

【なんだなんだ? 何するんだ?】という視線を背中から受けつつ

ハゲさんが次のポケモンを繰り出そうと懐からモンスターボールを取り出し

投げる準備に入ったところで俺は突っ立ってた場所からダッシュで飛び出した。

 

「行けぇーリザー……───ッドッ?!」

 

突然駆け出してきた俺に気付き、ボールを投げる手がつるっと滑るハゲさん。

無論手から離れ堕ちたボールはちょこっとスポーンと浮いて、俺の方へ。

 

そしてそこへタイミングを合わせて俺は───

 

 

「───ボールを相手のゴールにシュゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!」

 

 

すぺぇーーーーーん

 

 

こちらに飛んできたリザードのモンスターボールを、綺麗にシュートして差し上げた。

ボールは子供の脚力とはいえ、高々と上の方へすっ飛んでいった。

 

「───超ッッ! エキサイティンッッッッ!!」

「っちょ、おいコラお前何やってやがるッ!」

 

指でGJな握りこぶしを差し出した俺に、ハゲさんは非難の声を上げるが知った事ではない。

俺はゆっくりと蹴り放ったモンスターボールの方へと指を差し、ハゲさんもそちらを見る。

 

 

遥か高くまで舞い上がったモンスターボールから、リザードが出てくる。

しかしその場は地面の無い上空。リザードさん真ッ逆さまに落下。

その高さ、大体20~30mぐらいだろうか。悲鳴を上げながら落下速度が加速して

 

 

べちゃっと、地面に落ちた。

 

 

「あ、あああああ、ああああああああああああーーーーーー!!!」

 

 

その様子を逐一見ていたハゲさんは、大慌てでリザードのところへ走っていった。

 

「いってらっしゃーい。んじゃ俺等も行こうかドレディアさん」

「ディ~ァー♪」

 

ドレディアさんに【結構やるじゃねえかッ!】と賞賛を送られながら、俺はその場を後にした。

賞金? 別に要らんよ金に困ってねーし。

 

 

 

んーしかし、やはり俺の相棒っつったら……やっぱドレディアさんだなぁ。

ちゃんと行動もわかってくれてるし、認めてもくれるから全てにおいてやりやすい。

 

 

「じゃ、今日は原っぱにでも行って……のんびり二人で昼寝でもしよっか」

「ドレ~ディァ~♪」

 

その旨の快諾を得て、今後の予定が決まった。

今日は二人でのんびりと、そよ風でも浴びながら寝て過ごそう。

 

 

 

 

これからもよろしくな、ドレディアさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 部屋に置かれたまんまのポケモン図鑑

 

 

ててててーん♪

タツヤの レベルが 17 ていどに なった!

 

side out

 

 

 

 

 





リア充もげろ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シオンタウン交流 ダグトリオ


勢いで書いただけなので、飛ばしても構いません。


というかある意味ポケモン全く関係ない内容なので
くだらない内容にビキッと来る人は黙ってブラウザバックといわず
修学旅行で買ってきた木刀か奈良刀でPCを真っ二つにすると良いと思われます。





 

チチッ……チチチッッ……

 

本日も穏やかなる、麗らかな朝方。

季節柄、特に寒くも暑くも無い……外を出歩くには最適な気温。

 

そんな中、俺はシオン西のトレーナー'sバトルフィールドへ来ている。

基本的に野良バトルを面倒事として嫌っている、この俺が……だ。

 

しかし自然環境とは裏腹に、トレーナーが激アツ状態で興奮真っ只中なこのフィールドで

俺はバトルを仕掛けるわけでもなく、ただ草の上に腕を組んで胡坐を掻き座っていた。

 

しっかりと目を閉じ、瞑想の様にただひたすらに……───

 

 

「……ッ! そこの貴方……出来るわねッ?!

 さぁモンスターボールを取り出しなさい、バトルよッッ!!」

 

 

目を閉じているのに、無常にもバトルを仕掛けられる俺。

この世界では基本的に目を閉じてても、顔が向き合った瞬間に「目が合う」として

ポケモンバトルが成立してしまう様なのである。

 

然るに、ただ瞑想然としている俺ではバトルを仕掛けられるのも明白すぎる事実。

 

「……? ど、どうしたのよ。今の時代、瞑想修行なんて時代遅れよ?

 まさか本当にそんな事をやってたわけじゃ……」

 

そんな事に成るのは当然なのに、何故俺はここで胡坐を掻いているのか?

 

「……クックックック」

「ッ?! な、何よ……は、早くボールを───」

 

そんなの、決まっているではないか。

 

 

 

ただの暇潰しのためだ。

 

 

 

そして、俺はバトルを仕掛けてきたとあるミニスカートに対し

 カッ! と目を見開き、睨み付けた。

 

「ふ、ふふん、ようやくやる気になったのね!

 さぁバトル開始よッ! 私のピッピ、カモォー……───?」

 

ポコッ。

 

ミニスカート殿がモンスターボールをスロゥイングしようとしたところで

突然地面から何かが生えた音がする。

 

 

 

その音の発生源は。

 

 

俺のケツの下だ。

 

 

「…………。えーと……ディグダ?」

 

俺のケツの下から出てきた何かは、可愛らしいモグラモンスター代表格のディグダ。

その飛び出たディグダの頭の上に、俺は胡坐を掻き続けている。

 

「そ、そのディグダで勝負をするって言うのよね……?

 ふ、ふふんッ! ディグダなんて私だって何回も見てきて───?」

 

ボコッ。

 

 

 

そしてそのディグダは、さらに地面から出てくる。

 

 

そう、出てくる。

 

 

 

あ の 細 マ ッ チ ョ の 体 が 。

 

 

「ッッッーーーーーーーーーーー?!?!?!?!?」

 

最近、自分のダグトリオ達に慣れ過ぎてしまい

こいつらの顔の下に細マッチョがあるというのが当然だと認識してしまいがちだが

この謎のディグダボディは、普段この世界に居る人は一切見た事が無いであろう斬新な体なのだ。

 

つまり、いきなりそれが現れる事は十分なる常識の初見殺しとなるのである。

 

そして、ディグダはのっそりと自分が出てきた穴からヌッと出てきて。

さらにその穴からポコッとディグダが現れる。

 

「あ……ア……ま、まさ……か……」

 

そしてもちろん後続のディグダも、細マッチョの体を携えて

穴の中からヌッと出てきたと思ったら、さらにディグダがポコッと現れ。

 

「(゚д゚)」

 

 

 

そして……ここに。

 

 

伝説の三賢者が、今……揃う。

 

 

いや、ただのダグトリオだけど。

 

 

 

そして俺はいつも通り、さらに言えば草原にずっと鎮座していた状態のまま

ダグONEの頭の上でまだ胡坐を掻いたままに、ミニスカート殿をにらみつけている。

 

「あ、な、な……だ、ダグトリ、オ……?」

 

ミニスカート殿がその事実に気付いたと同時に

ダグONEは、ミニスカート殿の方へと一歩だけ踏み出す。

続いてダグTWOもダグⅢもダグONEの動きに習い、一歩だけずずぃっと踏み出した。

 

「あ───……っき……」

 

ミニスカート殿は声を上ずりつつ、悲鳴を上げかける。

……ミニスカート殿、あなたは───残念ながら、最後のトリガーを引いてしまった。

 

そして、俺等は。

 

彼女が悲鳴を上げきる前に。

 

猛烈に彼女にダッシュを仕掛けるッッ!!

 

 

ズダダダダダダダッッッ!!!

 

 

「───ぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

 

ダダダダダダダダダダダダッッッッ!!

 

「ぬははははははーーーーーーーッッ!!

 追えーーーーーーーッッ!! 追えーーーーーーーーーーッッ!!

 資本主義のブタ共へ愛の鉄槌を喰らわせるのだァァーーーーーッッ!!」

 

ダグONEの頭の上に乗りつつ、何故か俺までハイテンションになってきて

涙目で走り去るミニスカート殿をダグ共を使って追い回し続け

平原をひたすらに騒がしく駆け抜け続けた。

 

もちろんその真ん前にはずーーっとミニスカート殿が逃げ続けている。

 

 

「いーーーーーやぁぁぁぁーーーーーーーーーッッ!!!

 変態がーーーーーーーッッ!! 変態が追ってくるーーーーーーーーッッ!!」

「ヒャーーーッハッハッハーーーーーッッ!!

 恐れろッッ!! 震えろッッ!! 縮こまれッッ!!

 我に敵無しィィィィィィーーーーーーッッ!! とーつげきぃぃぃーーーー!!」

『(;´・ω・`)(;´・ω・`)(;´・ω・`)』

 

いやーやっべぇこれ気持ち良いわぁー!

普段いつも喧嘩、いやバトルを自信満々に仕掛けてくるバトルジャンキー共を

突然の奇襲で追い回し、バトルを発生すらさせないこの効率の良さッッ!!

 

いつもいつもいつもいつもいつもいつも、面倒な勝負ばっかり仕掛けてくるヤツラに対して

俺は初めて、合理的に一矢を報いる事が出来ている気がするッッ!!

 

そんな風に考えている間もダグ共はミニスカートに対して付かず離れず

ペプシマンダッシュを常に続けて追いすがっている!

やっばいこれマジハマる! 逃げるのを追いかけるのは人間に残っている野性の本能だ!

 

「ふゎーーっはっはっはぁーーーーーッ!!

 怯えろッ!! 竦めッ!! 足掻けッッ!!

 つわもの! もののふ! 俺に続けェェェーーーーーーーー!!!」

「たーーーーーーすーーーーーけーーーーーーてーーーーーーッッッ!!」

 

うわはははははははーーーーーッッ!!助けなんぞ来るものかぁーーー!!

襲っているわけでもなくただ追い掛け回している俺に犯罪要素など何一つ無いッッ!!

 

前進ッッ!! 強撃ッ!! 速攻ッッ!! 加速ッッ!! 蹂躙ッッッ!!

 

この俺を止める者など存在すら許されないのだぁーーー!!

ようこそ諸君、楽園パレードへッッ!! いざゆかん我等の聖地へ……───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあそんなわけでですね。

聖地に到着してしまいました。

 

留置所って名前なんですけどね、聖地。

 

 

「どうしてこうなったんだろう」

【【【それは突っ込み待ちなのであろうか、主殿よ】】】

 

俺、なんも悪い事してないのに……。世の中絶対間違ってる。

 

短時間の暇潰しと、世の中への復讐のために考え付いたトレーナー追っかけまわし案件は

追い掛け回している最中でミニスカート殿が警察署へ駆け込んで

俺の事を大げさに説明しやがったらしく、俺の自由行動はここで終わってしまった。

 

あーやべぇなこれ。帰ったらドレディアさんにぶん殴られそうだ。

主に飯を作らなかったとかその辺で。

 

 

 

 

 

 

 

 

side とある港町のジム

 

 

「───どーもぉー。朝刊でーす」

「ハァーィ。エブリディお疲れサマデース」

 

とある陽気なアメリカの元軍人が、新聞配達の青年から朝刊を受け取る。

挨拶を返して部屋に戻る最中に、新聞を広げていつもの楽しみである三面記事へと目を向ける。

 

すると、とある見出しが載っていた。

 

【怪奇!!シオンタウンに謎のマッチョマン三人が現れ、未成年女性を追い掛け回す!!】

 

その見出しであのダグトリオが思い浮かんだアメリカの元軍人は間違っていない。

そして見出しに『怪奇!!』と書いているにも関わらず犯人逮捕の内容と記事が載っていた。

載せられた小さい写真は、ダグトリオのマスクを被った細いマッチョが

前に差し出した手に手錠をぶら下げて、警察署の中に入っていくという内容だった。

 

「…………リトルボーイ、アナタ何やってるネー……」

 

元軍人は、思わずそう呟いてしまうのだった。

 

 

 





ダグトリオ交流は、新製品のジュースで困り果てている販促社員に出会い
ペプシマンのパクリのようにさせて、あのテーマと共に走ってくるCMを
ダグトリオの細マッチョでペプシマンを再現して撮るという内容で考えてました。

しかし、まぁ、なんか、その、うん。
こうなったわ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シオンタウン交流 ?????

 

 

 

「…………。

 ……………………。」

 

周りの時間がゆっくりと流れていく。まるで俺だけがそこに取り残されたかのように。

そう、まさにこの俺がスロウリィ。

 

「…………。

 ……………………。」

 

まあ、俺がスロウリィに感じているからといって周りがプッチ神父化しているわけでもなく

ただ単に俺が暇なのであり、そのせいで色々と流れが違う気がしているだけだった。

人間なんぞ大体そんなもんである。

 

少し遠くで、キャモメと思わしき鳥が「ミャァ、ミャァ」と鳴いている気がする。

まああいつらベースがカモメでも鳴き声全然違うけどな……。

 

そんなわけで、俺は最近で考えると本当に珍しく

たった一人でシオンの街の南の方で釣りをしていた。

 

そして一切釣れねえ。

 

この世界で釣りをしたところで、釣れたものは食えるものではない。

アジやらホッケ、サンマどころかフナすら居ないこの世界。

釣れるものは最低でもコイキングさん、そんな世界でございます。

 

まぁ、俺は食った事無いが『鯉こく』って料理もあるらしいんだがね。

でもあの間抜け面を食おうという気にはならない。

不味そうだし、何より周りがポケモンの命を奪う事を必死で止めようとする。

 

世界全体が菜食主義者とか本当、達観している世界だよなぁ。

『銀の匙』の主人公はポケモン世界に来たら色々救われるんではなかろうか。

 

「…………。

 ……………………。」

 

俺の釣竿さんは一向に反応する気配無し。

おかげで全く持ってどうでもいい事ばかり連想していってしまう。

 

「…………。

 ………………失敗、したなぁ」

 

マサラから旅に出て、現在このシオンタウン。

私生活でも旅の最中でも、一人きりになったシーンが全く無い事に気づき

『たまには良いかなぁ』と思って、自由行動で一人になってみたらこれである。

 

 

ギギギギギギ……こんな事なら下らん見栄を張らず誰かと一緒に来ればよかった。

かといってダグトリオっつか、ダグONE連れて来たら殺したくなるだけだしな……。

あいつ何故か釣りがやたらうまいし。

 

 

「…………くそっ、もう (ポケセン)に帰って寝るかな」

 

さすがに一時間以上なんの反応も無く、波止場にひたすらあぐらを掻いていては

ケツが悲鳴を上げるのも無理もない話であり、現にケツが割れそうで───

 

「───……ん?」

 

一人寂しく思考の深淵へと(いざな)われていたところでちょっとした変化に気付く。

釣竿に反応があるわけではないのだが、釣り糸を垂らしている横になにやら影が。

 

ひたすら凪ぎている海を見つめていたら、そういう細かい差異にもすぐ気付く。

まあ……要はそれほどまでに暇だったっつーことなんだけども。

 

そして影はどんどんと濃くなっていき、水面から何かが出てきて……

 

 

チャポ。

 

 

その何かが顔を覗かせてこちらを───

 

「……って、なんだミロカロスか」

「ホァ」

 

水面からちょこんと顔を出したのは、俺の手持ちのミロカロスだった。

どうやらこいつは今日の自由行動で海に潜って何かをしていたらしい。

 

 

※ 自分の主人をおっかけてきただけです。

 

 

「ホァ~?」

「……ん? 俺はご覧の通り釣りだよ。まあボウズ真っ最中だけどもな」

「ホ、ホォ……ン?」

「ああ、そうか悪い悪い。ボウズってのは釣りしてる人達の中で

 全然魚が釣れないっつー事を指す単語なんだよ」

「ホ~ァ~」

 

そんな風に説明をして、ミロカロスと会話する。

ちなみに地方によってはボウズではなくオケラと言ったりするらしい。

 

「ま……一人で居るのもいいかと思ってな。

 こうやって釣りに来てみたんだが……いや、暇で暇で仕方ねぇわ」

「…………。」

 

思わず愚痴ってしまうが、まあどうか聞いてもらいたい。

釣るために来てるのに、目的が一切果たされないとかどんな苦行だよ。

そらぁ、愚痴のひとつも……。

 

「って、お?」

 

そんな事を考えていると、ようやく釣り糸に反応が……!?

やっと、やっと何か釣れるのかッ?!

 

ボロの釣竿なのでリールなんぞもないために、ぐいぐいと引っ張り

反応している何かをわくわくしながら引っ張り上げ───

 

 

「──……おい」

「…………ホァ♪」

 

 

釣れたのは今しがた話していた俺の手持ちのミロカロスだった。

釣り糸の先、というか針に食いつくのは嫌だったのか針のちょっと上を口に咥えていた。

 

多分俺が釣れない釣れないと愚痴っていたから、哀れに思って釣られてくれたんだろうが……

やばい、これは自分が情けなさ過ぎて泣けてくる。

 

が……まぁ、気遣い自体はなんかほっこりするしありがたい。

やっぱり一人より二人の方が嬉しさも楽しさも増すんだな。

 

「全く……釣られてしまいました、じゃないっての。

 ほれ、そんな所に居ないでこっちまで来なさいな」

「ホァ~♡」

 

ミロカロスは別に海の中に居たところで問題はないのかもしれないが

せっかくこうして一緒の場所に居るんだし、隣で話しながら……って、ん?

 

咥えていた釣り糸を離して、こちらに来ようとしているミロカロスだが……様子がおかしい。

海面と波止場の段差に張り付いて、こうなにやらウネウネと───って、まさか。

 

「…………ミロカロスよ」

「ホ、ホァッ!」

「まさか……──登れないのか?」

「ホ、ホォ~ン;;」

 

 

……まったく、なんなんだこの可愛い生き物は。

涙目でこっちを見てくるんじゃない。

 

 

 

 

波止場に上がる事が出来ないという謎の可愛さを出していたミロカロスを引き上げ

ミロカロスも隣に鎮座し、俺も再び釣りを続行する。

まあ、やり直したところで多分何も釣れないんだろうけども。

 

「…………。

 ……………………。」

「~~♪」

 

しかしまぁ、なんとも奇妙な話ではあるなぁ。

たまには一人でと思って波止場に来て、釣りをしてみたら全く楽しくなくて。

 

そして偶然会ったミロカロスと二人で居ると、釣れなくても少し楽しくて。

 

……そういや、ドレディアさんと逢った時にも言った事があったっけな。

 

─── 一人より、二人の方がやれる事が増える、とかなんかそんなん。

 

 

…………。

 

 

「───なぁ、ミロカロス」

「~~?」

 

ふと思った事があったので、ミロカロスに尋ねてみる事にした。

 

「お前は、俺と一緒に来て……後悔してないか?」

「…………?」

 

ミロカロスは、【突然どうしたのですか?】といった感じに俺を見てくる。

 

「お前のあの状況を一度見てるから、どれだけ進化したかったかってのはわかる」

「ホァー」

「だけど……同時に失ったモンも、計り知れないだろ」

「──……」

 

確かにこいつは、夢にまで見た……夢でしかなかったはずの進化を果たした。

しかしそれは通常の進化の結果とは全く違い……戦う能力を完全に失った。

 

その内容は、こいつが望んだモノなのかどうかはさすがに俺にもわからない。

しかしポケモンという生物は基本的に戦ってなんぼの世界であり、生態であるはず。

 

それを一切しないで過ごすのは、一体どんな苦行であろうかと今でも思うのだ。

 

「あの時は、さ。

 俺はお前に『戦えなくていいのか?』って尋ねたら……

 お前は【やはり戦えなくては駄目なのですね……】って言ったけど、さ」

「(コクコク)」

「俺は、俺自身はお前がそうなってもよかったさ。……どちらにしろ、約束してたしな。

 けど……それでも、さ……───

 

 お前は、『お前自身』は、これでよかったのか?」

 

「─────。」

 

俺がミロカロスの本音を尋ねる質問をすると

ミロカロスは俺から目線を逸らし、大海原に見える地平線に目を向ける。

 

釣られて俺もそちらに眼をやれば、色々な鳥が海の上を飛び交い

彼ら独自の生活があるのがよくわかる光景が映されていた。

 

その彼ら独自の生活をする権利すら、生態的に奪ってしまう事になった俺は……

 

 

 

どれだけの謝罪を、しなければならないのだろう───

 

 

 

そしてミロカロスに顔を向けてみると、静かに目を瞑っていた。

 

やはり、その進化の代償を色々考えているのだろうか。

 

少し居た堪れなくなり、俺は罪悪感から釣り糸へと視線を戻す。

相も変わらず釣り糸は静かであり、波のリズムで揺れる糸を眺め続け───

 

「───ん?」

「……──」

 

地面が何かを擦る音が聞こえたので、そちらに目を向けてみれば

ミロカロスが隣から俺の方まで近寄ってきて……

 

巻きつくというわけでもなく、その6mの体を使って俺の周りを取り囲み

ミロカロスの体の上半分に当たる部分を俺の背中に回し

頭の上にはミロカロスの首から頭部を使ってしな垂れかかる体勢になった。

 

……って。

 

「おいおい、それじゃ何言いたいのかわかんねぇよ。

 俺ぁお前らの言いたい事、基本的に目を見なくちゃわかんねーんだし」

「……ホ~ァ~♪」

 

顔の部分を俺の頭の上に持ってこられた都合上

その鳴き声ですら何を示しているのかわからなくなってしまう。

 

目は口ほどに物を言う、という言葉もある。

その「口」ほどのものが見えなければ、俺もこいつらとコミュニケーションを取れないのだ。

 

「ホァ~~、ホ~ァ~♪」

「いや、だからわかんねぇっての。顔こっちに見せなさい」

「~~~~♡」

 

言葉がわからんから目を合わせろと催促しても、鳴き声をあげるばかりで動こうとしない。

これは、俺が動かなくては駄目だろうか。

 

そんな風に考えていると、ミロカロスは俺の頭の上に自分の頭を置いた状態で───

 

 

 

───歌い始めたのだった。

 

 

 

「~~~♪ ~~、~~♪」

「ミロカロス……」

「~♪ ~~♪ ~~~~♪」

「…………そっか」

 

ミロカロスの顔は未だに俺の顔より上にあるので

明確に意思を感じ取る事は、残念ながら出来ていない。

 

しかしこいつが歌うその声は、悲壮感が漂っている歌声でもなく

今の話の流れからして、きっと別の形で『気にするな』と伝えたいのだろう。

 

 

 

確かに、ミロカロスに進化するに当たって失ったモノは多大にあった。

 

 

しかし、同時にこいつがそれで

 

 

得たモノってのもあったんだな───

 

 

 

「~~♪ ~~♪ ~♪

  ~~~♪ ~♪ ~~~♪」

 

 

頭の上で、ミロカロスの心地良い歌声が響いていく。

やはり直接目を見ないと、何を伝えたいのかははっきりわからないが……

 

 

 

それでも、こいつの歌声を聴けている俺は……結構、幸せだった。

 

 

 

 










後にも先にも、彼の釣竿で釣れたのはこの子だけです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

49話 育て屋!

がんばって作ったミロカロスの話にほとんど反応がなかった。
もう帰っていいですか。


 

 

ギャラドス進化事件から、数日が過ぎ去った。

事件が起きた現場では(おびただ)しい数の犠牲者が───

 

我々はこれ以上の犠牲を出さないために、更なる調査を

 

「ディ#」

 

べちっ

 

怒られてしまった。

 

「おいドレディアちゃんコラ。日常生活に変化は必要なんだぞ。

 時代は常にバイオレンスを求めているんだ」

 

べちっ

 

あふんっ

 

「へーへー、わかりましたよーだ。

 悪ふざけしてないで朝食でも作ってきますさかい、まっとりーな」

「ディァ♪」

「ハバネロフルコースにしておくね」

「アッ!?」

 

 

ひとしきりドレディアさんの辛味悶絶姿を堪能した後、全員集合して本日の予定を決めていく。

 

レッドさんは町に案内した時点で別れておいた。

原作の流れならポケモンタワーで今頃グリーンさんのケツを掘っている事だろう。

 

「んじゃ、多分無駄に終わるだろうけど……今日が育て屋予約の最終日だ。

 期待しすぎても碌な事は無いのが世の常だから、希望を持たずに頑張ろう」

「ディァー……」

「ホーァ……」

『………。』

「ミュィ~」

 

 

全員に『後ろ向き過ぎるぞ』と突っ込まれる。うるせーこちとら本気で悲しいんじゃい。

愛情の裏返しは無関心って言葉知らねーのか貴様ら。

世間様に無関心やられまくって俺のガラスのハートはテーブルから落ちる寸前ですよ?

 

 

はーぁ……まあどうせラストだ、気張らず行くべきである。

そうさ、俺はブロントさんの様に謙虚なナイトなのだ。

最初から居るべきではないと思っていることから後々の精神安定剤系の効果はばつ牛ンだ。

 

 

 

 

そんなわけで本日のラストDAYを無事に過ごすため、再度警察署へ来ている。

 

「こんにちわー、路上許可証お願いしますー」

「あら、今日で三度目かしら? こんにちわ」

「良く覚えてるもんですね、お姉さんも」

「そりゃぁ……普通路上許可証なんて取りに来ないし。

 そもそも知らない子ばかりだからね、それと比較しちゃうと君は偉いわぁ~」

 

ちなみに、確率は少ないながらも何かしら問題が起こったことはある、との事。

まぁ面倒くさい思いしたくねえし、その保険のための500円ってんなら安いもんさ。

 

「多分今日で最後になります」

「あらもう逢えなくなっちゃうんだ、残念」

「だって、来る人来る人俺が育て屋やる事に疑念しか持たないんですもん」

「君だってそこらの10歳の子が育て屋やります~^^って言ってたら信用しないでしょ?」

「まぁそうっすけどね~……」

 

そういうわけで許可証持って広場へGO to HELL。

 

 

そうして広場に着いたのだが……今日は何か人が疎らだな。

若干少ない程度だが、目に付く程度に少ない。まあこんなんならすぐに諦めも付く。

 

「ミュウ、看板頼むわー」

「ミュ~ウ」

 

この前と同じく、同人誌の売り子の如く看板を持たせてふよふよさせておく。

実に愛らしい見た目である。看板娘とはこの事だな。

 

 

「兄さん兄さん……ちょっといいですかい、へへへ……」

「え、な、なんだ……?」

 

暇だったのでそこら辺を歩いていたボーイスカウトを捕まえてみた。

 

「ジムリーダーのカスミ×エリカさんのエッチな本はいら──」

 

ごっす。

 

「あぎょぁっ?!」

「ディァ#」

「ホァァ#」

 

あかんうちの女帝にバレてしまった! こうなったら……!

 

「ならば俺×ボーイスカウト君でどうだっ!!」

「ディッ!?///」

「ホ、ホァッ!!///」

『─────!!///』

 

予想外の三匹まで釣れたっ!! やべえ!!

 

「え、えっと、その……

 カスミさんと、エリカさんのえっちな本があるなら……ぜ、ぜひっ……!!」

「おおう、わけぇのう兄ちゃん。実はそんなもんはないっ!!」

「え、ええーーー!!」

 

 

 

 

そんなこんなで暇つぶしにボーイスカウトの兄ちゃん捕まえた。

彼はイワヤマトンネルを通ってこちらに来たらしい。

名をカズ君と言うそうである。子供が出来たら『かずのこ』だね★ミ

 

「ほぉ~、君も面白い旅してるんだねぇ……

 コイキングにパンツを食わせてギャラドス、飯を食わせたら新種……

 ていうか、パンツってなんなんだ本当に」

「いや、それは本当俺も知りたいですわ。

 ちらっと気になって後ろ振り向いたらギャラドスになってたんすもん。

 しかもLv8でなってたみたいなんですよね」

「うっそ?! コイキングがギャラドスにってLv20程度からでしょ?!」

 

言うとやはり驚くカズさん。本当どういうことなんだよ。

 

「そちらは何か面白い事とかはありました?」

「んー、やべぇwwwwって思ったのはさっき通ったイワヤマトンネルであったよ」

「ほほう! そいつぁ是非聞いてみたいっすね!」

「うん、まああそこって土地柄やまおとこさん達の聖地なんだわ。

 んでもってそのうちの一人がさ、少年にばっかり勝負を吹っかけてたんだよね」

「うわ、それカツアゲみたいなもんじゃないっすか」

「そう、そう思うよね? でも実は違ったんだ!」

「え、なにが。」

「その人しばらく観察してたんだけど、戦うたびにハァハァ言ってたんだわwww」

「まさかの下ネタwwwwwww薔薇の園に帰れwwwwwww」

 

ちょっと通報してきたほうがよくね? イワヤマトンネルに犯罪者がいまーすって。

 

なんか後ろでドレディアさんとミロカロスがやたらほっとしているがどうしたのだろう。

 

「いやー、あれはやばかったね。もう付近を通っただけでやばいなにかが感じられた」

「ちなみに勝敗は?」

「やまおとこさん全敗wwwwwwwwww」

「オウフwwwwwwwオウフwwwwwwwwww」

 

ドMでしたwwwww いやぁ世の中面白ぇなぁ、暇しねえわこの世界。

 

「そいやハナダからイワヤマに行ったんすよね? ハナダのジムリーダーとか強かったっすか?」

「んーそうでもなかったかなぁ。とりあえず俺の場合はミルタンクが手持ちにいたってのもあったし

 適当にゾンビ戦術やってたら普通に潰せたよ」

「あー格闘技使えるようなのはさすがにいなさそうだなぁあそこ」

 

原作でもたまに属性が違う攻撃が飛んできてびっくりする事はある。

ナゾノクサで挑んでトサキントに突っつかれて絶望したのは俺だけじゃねえべや。

 

「カズさんてバッヂいくつ持ってんすか?」

「ん、カスミさんにもらったバッヂで5個目だねー。

 あとはクチバシティとグレン島行って、トキワシティは開くまで待機かな」

「ああ、サカキさんな……あの人忙しいからなー」

 

悪の組織運営してるし。

 

「え、知り合い?!」

「ああ、俺の母親の弟子なんですよあの人。その伝で俺も軽く顔を逢わせた位はした事あるんです」

「あ、あの最強のジムリーダーが、師事……!? すごい母親なんだな……」

「ああ、本当にやべえっすよ。

 なんせ本人曰く神話クラスのポケモンとマブダチっつってましたから」

「それはないっしょwwwww」

「ですよねーwwww」

 

あそこまでぶっ飛んでてもさすがにそれはあるまい。

神話クラスってなると、ディアパルにレシゼクとアルセウスか?

ユクシーとかアグノムも伝説に入るのかなぁ。

 

ああ、そういえば教えておこうか。

 

「クチバのバッヂが残ってんでしたっけ、そういえば」

「ん、ああ。そうだな。まあ近くにディグダのあながあるらしいし……

 そこでディグダ一匹ゲットして、鍛えて挑もうと思ってるよ」

「あーそれやめたほういいっすよ」

「……え? なんで? 地面の攻撃って電気の唯一の弱点だよね」

「街出る前に聞いた噂なんですけど……マチスさんのライチュウ今とんでもない事になってんすよね。

 ディグダ五匹とダグトリオ一匹持参したガチ対策PT、6タテしたらしいんすよ」

「           」

 

(゜д゜)←まさにこんな顔のカズさん。

とりあえずボルティの事をライチュウと呼んでいるのは

この場でマチスさんが知り合いと言うことを説明していないからである。

なんで名前知ってんのとか聞かれても説明めんどくせーし。

 

「え、ちょ……それ、マジ?!」

「ええ、なんでも俺に習った内容の応用で、地面に潜ったところをもぐら叩きを想定して

 出てきた瞬間にメガトンパンチぶっぱしてK.Oし続けたそうなんです」

「なんだそれやべえwwwwマジやべえwwww

 

 ……って、ちょっと待てぃ! 『俺に習った内容』?!」

「え、はい……って、あ」

 

やばい、めんどくさがって説明しなかったところが変なところで漏れた。

ていうかそこらの人も立ち止まるな。俺は変な事は一切言ってへん。

 

「その面子を一匹で6タテしたってのはマジ?」

「街に行けばわかると思います。人の噂は盾で防ぎきれませんしね」

「君が育てたってのは……どういうこと?」

「その時、俺のダグトリオ……ああ、その時はディグダだったんすけどね。

 こいつが果てしなく弱かったもんだから、戦える状態にするために技とか教えてたんですよ。

 昔はやばかったっすよー、こいつ」

「───///」

 

恥ずかしがってもじもじしながら、右手を後頭部に宛てて照れるダグONE。

その苦労話を聞き及んでいるのか、横からTWOとⅢがやさしく肩にを叩いてた。

 

「……どのぐらいやばかったか、聴いてもいい?」

「ええ。まずこいつ技覚えてなかったんですよね、一切。何も。」

「うそんwwwwww」

「いやこれがマジなんすわ。でもって必然わるあがきしか出せない状態になるじゃないっすか」

「まあ当たり前だよなぁ、そんで?」

「ディグダ自体もHPが低いわけで。

 ついでに言うと俺のディグダ、ってかダグトリオは二回攻撃出来るんすよ」

「うぉ、なんだその地味なチート」

「まあまあ、話はまだ終わってません」

 

 

ふふふ、本題はここからなのだ。

あの時は本当に逆の意味で笑いが込み上げてきてたからな。

 

 

「まず相手はキャタピーのLv4程度だったんすけどね」

「うん」

「使う技がわるあがきでしょう? ダメージ与えたらもちろん反動あるわけっすよ」

「そだな、そんで?」

「攻撃で反動ダメージ。キャタピーの体当たりでダメージ。

 そして二回目の攻撃は必然カウンター気味に入ります」

「───まさかっ」

「ええ、その通りです。

 合計のダメージでディグダ自身がキャタピー倒しきれなくて自分がK.Oなんです」

「wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

 

やっぱツボに入るよなこれwwwww

二回攻撃なんて反則級の特性持ってんのにそれのせいで倒れるとかwwwwwwwww

 

 

「やっべ、ひっさびさにマジで腹いてぇわぁ。何そのオチ、最高じゃんよ」

「ありがとうございますwwwww

 まあそんなわけでディグダ鍛える必要性があったんすよねー」

「なるほどなー。んでマチスさんに教えたってのは?」

「ええ、街で偶然ぶつかって、その際になくしたものをその場で見つけてあげたんですけど

 その時になんか、よくわかんないんすけど捕捉されたみたいで」

「ほほう」

「んで、訓練に行くって時に街中で再度偶然会いましてね」

「うん」

「勝手についてきました」

「仕事しろよwwwwwwwwwwwwww」

 

 

やっぱ俺は正しいんだな。普通そういう突っ込み来るよね。

 

 

「で、俺が教える内容をマチスさんが横から聞いてて

 VOLTYっていうんですけどね? その相棒のライチュウが

 マチスさん相手に俺と同じような訓練を積み始めまして」

「その訓練の内容ってのも気になるけど……って、まさか……?」

「本人曰くそこから負け知らずになったって、おでん屋で言ってました」

「うわぁ、なんかおでん屋ってところがすっげーリアリティあるわぁ」

 

あの時のおでんおいしかったなー。

 

ん、後ろでドレディアさんが青筋立ててる。【しらねえぞ#】だと?

何言ってんだよ、みんなで食べに行ったじゃないか。ドレディアさん抜きで。

 

 

「んー……そこまでの話ってなると嘘って事もないよな……? 妙に現実感溢れまくってるし」

「別に嘘つく必要もないですしねー」

「失礼……ちょっとよろしいですかな?」

『ん』

 

俺とカズさんは2人して話しかけられたほうへ振り向く。なんか執事然とした人が立ってた。

さっき一瞬注目した人は殆ど立ち去っていたが、この人は残ったのだろうか。

 

「えーと、俺っすか?」

「ええ、そうです……今のお話は本当なのでしょうか?」

「どの辺りがですか? まあどこら辺だとしても全部マジっすけど」

「……少し、確認をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「な、何をっすか?」

「我々の伝を使ってマチス殿本人に連絡を取って、その事実を確認させて頂きたいのですが……」

「あーそっち方面での確認か、そっちなら構いませんよー。

 あの人やたらフランクだしすぐ会話の許可は出ると思います」

「───ッ! では……少々お時間を……」

 

俺がホラを吹いていると思ったから本人に確認を取りたかったのかな。

別に時間なんぞいくらでもあるけど、何がしたいんだこのキリっとした執事さんは。

 

「な、なぁ……?」

「ん、なんすかカズさん」

「俺、あの人テレビで見たことあるんだけど……」

「あれ、マジっすか。変態紳士とかそっち系?」

「それは流石に失礼すぎるだろwwww いや、多分間違いないと思うんだけど……」

「どんな番組っすか? 司会者で執事ってのはないと思うけど……」

「あの人、ジョウトのほうから行けるバトルフロンティアの施設のマスター代理じゃね?」

 

 

 

 

       えっ。 

 

 

 

 

( ゜д゜)       (    )←執事の後頭部

 

 

 

                     えっ。

 

 

 

 

あれ? そういえばなんか色合いをどっかで見た事が……

 

 

 

 

「───はい、はい。それは事実……である、と……

 つかぬ事をお伺いしますが───……ボルティ?! 確かにさっきそう言って……!

 あ、いや、はい、ええ、わかりました……ご協力感謝いたしますぞ、マチス殿。

 え? そこに居るなら少し会話させてくれ? ええ、構いませんが……」

 

 

会話結構駄々漏れだから聞こえてきてんだけどもう話終わりかけてんのかよ。

やはり執事は格が違った。事務やスケジュール管理のプロフェッショナルである。

 

「申し訳ありません、タツヤ殿でよろしかったでしょうか?」

「あれ? 俺、名前名乗って……って、あー。その電話のマチスさんに聞いたのか」

「ええ……会話が全て本当だとは流石に思ってませんでしたが……。

 ともあれ、マチス殿が『代わって頂きたい』と」

「あ、はい。わかりましたー」

 

そうして電話を受け取った。1,2週間ぶりってところかなー。

 

「えっと……ちょっと俺もいいっすか?」

「おや、わたくしでございますか?」

「あ……あの……間違ってたら申し訳ないんすけど……

 もしかして……コクランさん、でしょーか」

「ええ、そうでございますぞ。わたしの名をご存知とは、なかなか見聞が広いのでございますな」

「す、すいません!! サインくださいっ!!」

「わ、わたくしのでございますか?」

 

 

なんか後ろでうっせーけどいいや、とりあえず俺は久しぶりのマチスさんだ。

 

 

「どもー。マチスさんっすかー?」

『オォウ!! リアリィね!! リトルボーイね!!

 ヴォイスでわかるヨー!! アイムファイーンセンキュー!エンドユー?』

 

おー懐かしいわぁ、数日しか経ってないのに。マチスさんはいつもパワフルだなぁ。

 

「あはは、アイムファインセンキュー。

 そっちも元気そうっすねー、テンション全く変わってないじゃないっすか」

『アハーハー! ミーもチルドレンじゃないからネー!!

 色々チェンジ出来るシーズンはセピアカラーinフォトショップネー!』

「写真の中の思い出って感じっすかぁ。まだまだ若いんだから頑張りましょうよマチスさん」

『オゥ、ワンカウント取られたネー。そっちはどうなノー? 今どこネー』

「シオンタウンっすー。ちょっとあの時の訓練の効果もあったし

 育て屋でもやってみよーかなーって」

『そっちにアカネミカンMossanのガールチームがゴーしてたけどちゃんと逢えたノー?』

「え? あの人らこっち来てんすか? 見かけてないっすけど」

『オーゥ、そーなのネー。アンダスターンド。

 もしこっちに帰って来たら伝えてもオーケィ?』

「あー別に構わんっすよー。俺は俺で好き勝手させてもらいますけど」

 

協調性がないって言われそうだけど

俺は俺でドレディアさんを強くするって目的もあるからなー。

 

『オッケーィ! センキューネ! 落ち着いたらまたクチバにカミングネー!

 でもジムにチャレンジは勘弁ネー!!』

「わかりましたー! 全力全壊で立ち向かわせてもらいますっ!!」

『やめて言ウテルヤンケーwwww でもー、待ってるーヨ!!」

「あいっす、いつかまた寄らせてもらいますね」

『ワクテカして待ってるヨー!! シーユーアゲーィン!!』

「うっす、またねー」

 

そうして通話を切った。

やはり懐かしい知故との会話は自然と盛り上がってしまうものだなぁ。

電話代大丈夫かな、結構話し込んじゃったけど。

 

「えーと、さっき名前聴こえてたんすけどコクランさんですよね?

 電話終わりましたので、これお返しします」

「あ、はい、了解致しましたぞ」

 

手渡しで電話を返した。

 

「んで、一体どうしたんですか?

 別にマチスさんに確認が必要な何かがあるとは思いませんけど……」

「いえ……そちらの可愛いポケモンさんが持っていらっしゃるように

 育て屋をやろうとしていらっしゃるのですよね?」

「あー。そういえば」

 

話の内容が育て屋とか全く関係無いからすっかり忘れてた。

今の時点でもミュウがふわふわして看板を所持していらっしゃいました。忘れててゴメン。

 

「そ、そういえばって……」

「いやー全然お客さん来てくんねーもんだから

 正直もう諦めて、この子の訓練自費でやろうとしてたんっすよねー」

「……まあ、わからんでもねーと思うけど。

 どっからどう見たってただのお子ちゃまだもんよ、君」

「んまぁ、なんて失礼なんざんしょこのお兄さんは。

 こうなったらあなたがえっちな本を欲しがってたってカスミさんに伝え───」

「や、やめて!? なにその拷問っ?!」

 

 

うるせーもう決定事項だバカヤロー。

絶対いつかチクってやる。

 

 

「では、今の時点ではご予約も何も入っていないと言う事でよろしいのでしょうか?」

「ん、そうっすけど……それが何か?」

「いや、君気付いておこうや……

 この話の流れは「それならばわたくしのポケモンを……」って流れじゃんよ」

 

ん、確かに言われて見ればそんな流れ?!

 

「カズさん天才じゃね?!」

「あ、はははは……まあそういうわけなのですが……

 しかしですね、もし同意して頂けるのであればなのですが」

「え? なんすか同意って」

「ジョウトのバトルフロンティアの方にお越し頂いて

 施設で管理されてるポケモン達の指導に当たって頂ければと」

「あ、そういうのは無しで」

「えっ?! 君、これ超大抜擢だぞ……?! それ断っちゃうのか……!」

「そ、そうですね。わたくしどもとしましても、かなり譲歩した高待遇なのですが……」

「ちなみに月3ヶ月、そちらで管理、訓練した場合の給料は?」

「ええ、大体の概算ではございますが……おそらくは月額470万程度は御用意出来るかと……」

「ッブーーーーーーーーーーーーー」

「ああ、やっぱそれはやめておきますわ」

 

 

しらけた。

なんでこの世界ってこんなのばっかなんだろう。

 

 

「うぉぉぉぉおおおおい!!! なんでっ?! よ、470円じゃないんだぞっ?! 470万だぞっ?!

 買いたい放題の天国じゃねーか!! うちのおとんだって会社の月の給料22万だぞ?!」

「結構良い給料もらってんじゃないっすか、カズさんのお父さん。

 そんだけ稼ぐのにすっげー頑張ったんでしょうね」

「え、いや……うちのおとん、コクランさん程にバトル強いわけでもねーし……」

「でも立派にカズさんちっていう名前の立派な一個の城、守ってんじゃないっすか」

「あ……。」

「ほう……。」

 

カズさんは呆然として……コクランさんは俺を見定めるように、一声を出していた。

 

「会社なんて嫌な事のが良い事より沢山ある所なんですよ?

 仕事が大好きって人もいますけど、そんなの社会人の一割二割居たら奇跡と思いますよ。

 それを我慢しながら、月額22万稼ぎ出せるまで頑張ってんじゃないっすか。

 俺はそのお父さん、尊敬出来ますね。すっげー立派と思います」

「い、いや……ありがとう?」

「はは、どういたしまして」

 

まあ470万ってのはでけぇわな。金額だけ聞けば恐ろしい程の高待遇だ。

てか本当、10歳児にそんな金を渡そうとするんじゃねえ。

 

「ま、ともあれですね。俺もこうやって旅しながら街歩いてるわけですけど」

 

「ディッ!」

「ミュッ!」

 

「こんぐらいの身を維持するのなんて、10日間で考えても5,000円もあれば十分食っていけるんですよ」

 

「ホアァ~♪」

『ッbbb』

 

「そんな状態を作り上げてこれたのに

 横ッツラからいきなり価値観完全にぶっ壊される金額を提示されても、困るんですよね」

「……。」

「そ、そういう考えも出来るのか……」

「ミュ~……」

 

ん……俺の心の中、ミュウに若干覗かれたか。

まあ嘘偽りの無い話だし、思い出すの嫌かもだが勘弁してくれな、ミュウ。

 

「そんで価値観ぶっ壊されて。それが終わったら二度と手に入らないような大金を持って。

 なのに人間の欲望っつーのは限りなく肥大するんですよ。小さくならないんですよね。

 使ってもなくならねーwwwwって勘違いして

 遠い未来に身の破滅を巻き起こすのは目に見えてます。

 そういう高待遇は全てに置いて上を目指せる人がやれば良いと思いますよ。

 

 

 ───俺は、まだ自分を見失いたくないので」

 

 

ミュウはこの育て屋を立ち上げる前に

見事なまでの自分勝手な人間の欲望に一瞬振り回されたしな……

すまねえなホント、嫌な事思い出させちまって。

 

 

「…………了解致しました。

 タツヤ殿、出過ぎた真似をしでかしてしまい、誠に申し訳ありませぬ」

「や、謝らんでくださいコクランさん。

 それよりもこんな10歳児の戯言に付き合わせてすみません」

「いえいえ、わたくし感服致しました……そこまで考えた上での即答拒否とは思わず。

 あなたよりも人生を長く過ごしているのに、恥ずかしい限りですぞ」

「そうか……そういう考え方なのか……

 確かにそんな、月に俺の親父が年間で稼ぐお金なんて手に入れたら

 俺も価値観全部変わっちまうかも、な……」

 

そんな風に二人は口にし、一人ごちている。

 

はー、でもこれで客なし決定かー。

まぁテキトーにミュウ鍛え上げて、次はタマムシにでも───

 

 

 

 

 

「───バトルフロンティアの件は了解致しました。

 しかし、わたくし個人の育成依頼であるならお引き受け頂けるのですよね?」

「……え?」

 

コクランさんの……依頼?

 

「おや、お引き受け頂けないのでしょうかな?」

「いや……そりゃこっちとしても嬉しいっすけど……どうなるかわかりませんよ?

 そもそもブレーン代理なんて務めてる人のポケモン凌駕する育成なんて───」

「しかし既にクチバジムリーダーのポケモンを、無双化させるまでに至らせた証明がありましたぞ?」

 

あれ、ゲームじゃジムリーダーとフロンティアブレーンって格が違わないか?

グラットンソードry

 

「まあ……別に無理に断る理由もありませんけど」

「ではわたくしめの手持ちから、お願いしたく存じます」

「じゃ、じゃあ俺も!!」

「え」

 

なんでカズさんまで?

 

「だ、だってよ!! その育成過程に俺のポケモン突っ込んだらさ!

 それってコクランさんのポケモンと俺のポケモンが同期って事になるよな?!」

「あーまあ……そうなんじゃないっすか?」

「そ、それにフロンティアブレーンが認めた育成の手腕だろっ!?

 だったら、俺のポケモンもすっげー強くなるかもしんねえだろッッ!!」

「期待されても困りますよ? だって育てるのは所詮ガキだし」

 

つーか育ててるはずの俺が野試合で負けてることあるし。

正直強くなるってーよりその持ち主の腕だべ。

 

「でもいいんだっ! 頼むっ!」

「あ、はい。わかりました。まあ俺も適度に頑張りますよ」

 

どうしても俺に預けたいらしく、頭まで下げられてしまった。

まぁ期待されて気が悪くなる事もない。

俺は俺の方向性で問題なくやりゃいいってことだろう。

 

 

「んじゃとりあえずお互いに1匹ずつ預かるってーことで……

 あ、そうだ。お二人とも格闘タイプの子って居ませんか?

 多分俺の育て方、格闘タイプだとやたら強くなるかもしんないっす」

「格闘……タイプですか?」

「一応俺も一匹持ってっけど……なんでだ?」

「んー図鑑見れば一発なんですけど……

 ドレディアさんのタイプ、わかります? あとダグトリオも」

「え? ええっと……ドレディアはくさタイプで……ダグトリオはじめんタイプでございますな」

「そうっすよね、コクランさん。俺もそれで間違いないと思います」

 

 

ところがどっこい。

 

 

「この二人、何故かその二つに加えてかくとうタイプ持ちなんです」

『ハァーーーーーッ?!』

 

その驚く二人のカルチャーショックが気持ちよいのか、草姫と地面の騎士はふんぞり返る。

 

いつもの如く図鑑をぽちぽちーっと。

ドレディアさんはマジで外見だけなら完全にお嬢様だからな。むしろ見てわかる人が居たら怖い。

 

「はい」

「……うわ、マジだ……。突然変異とかついてる……」

「こ、これは……さすがに……わたくしどもも予想外でした……」

「んで、この二人と……今は戦闘力もなくなっちまったけど

 このミロカロスの前身のヒンバスで、サントアンヌ号って船でも無双してます」

「ふ、船で無双ですか……って、いや、ちょっと待ってください。

 ……船、船……───サントアンヌ号ッ?!」

「うわっ、なんっすかどうしたんすかコクランさん!?」

「俺もびっくりした……どしたんすか、コクランさん」

 

上がカズさんで下が俺です。

 

いきなり思い出したかのようにコクランさんに詰め寄られた。

男に詰め寄られるのは気持ちのいいモンではない。やや心臓に悪いぞコノヤロー。

 

「サントアンヌ号で無双って……まさか……あのロケット団が船を占拠した事件を……

 たった一人で人質を解放しつつロケット団を殲滅したと言うのはタツヤ殿の事ですかッ?!」

「あー……なんか語弊があるみたいですけど……

 俺は別に無双してませんよ。やったのは彼女達です。

 俺がしたのなんて、体勢崩したドンカラスを生身でボコっただけですよ」

『          』

 

 

あれ、なんか口をぽかーんと空けて2人が固まってしまった。おーい大丈夫かー。

 

 

「な、生身って……嘘ですよね……?」

「え、いや割とマジなんすけど。これがその時使ったもんっす」

 

そうしてメリケンサックを取り出す。

 

「……これは一体?」

「……なんだぁ? これ。投げるのか?」

「いえ、こうやって───」

 

下に向けて拳を打ち下ろす。

 

 

ガシュッ!!!

 

 

メリケンサックはそこそこの勢いで土を抉った。

 

『ッ……!?』

 

二人がその威力に再び驚いている。まあこっちの世界、こんな武器ってなさそうだしなー……

ポケモン頼りにも程がある。もっと肉食え肉。

 

「まあ、これで胸ぶん殴り続けて内臓イカれさせました」

「こ、コクランさん……どう思いますか……?」

「───これは、間違いなく事実ですね。ドンカラスといえば耐久力はそこまで高くない。

 この威力で殴り続ければ、骨はへし折れ中の肉まで衝撃が届きます」

「う、わ……」

「ちょっとー。ドン引きせんといてやー。結構死ぬ気で頑張ったんやからさー」

 

 

 

またヒソヒソ話を再開させちまいやがった。

 

俺一人でぽつねんとされて寂しいのでミロカロスに乗っかって遊んでよう。

お、ドレディアさんも上るかね。

オイダグTWO。何かに付けてミロカロスの頭の上に乗ろうとすんな。

ミュウはドレディアさんにくっついている。君ら微妙なところで仲いいねぇ。

 

 

ん、なんかコクランさんがこちらに振り向いた。

カズさんもなんか決心した感じだのう。

 

 

「あなたの発言、全て信頼させて頂きましょう。

 わたくしめの相棒の事、よろしくお願い致します」

「お、俺のも頼むな? でも出来れば常識からは逸脱させないでくれな」

「しらね」

「おいwwwwwwwwwwww」

 

 

常識なんざカスだ! 予想外からの攻撃が全てを制す!!

 

 

「えーと、とりあえず一週間コースで考えてます。

 その、えーと……お金が、ですね?」

「ええ、おいくらになるのでしょうか?」

「えーと、一人……15,000円ほど頂きたいなーと……」

「うっ……育て屋の相場よっかはかなり高いな。なんでだ?」

 

 

そう。ゲームなら10Lv上がっても1100円にしかならないが

この世界では育て屋に1回預けるとなると1匹で10000円は行く。

そうだとしても5000円の差異は、基本的に旅をしているトレーナーからすると

どうしても無視出来ない金額でなのである。

 

まあ多分育て屋さんの生活とかも掛かってるからなんだろーなぁ。

俺だってこれから生活かかるから問題はなかろう。

 

「では、カズ殿。ここはわたくしめが代金をお持ち致しましょう」

「……えっ?! いやそんな悪いっすよ! 確かに厳しいっすけど!!」

「いえいえ、良いのですよ。『同期』でしょう?」

「───ッ!」

 

その言葉に、カズさんは胸いっぱいになったかのように

一瞬硬直し、その後静かにコクランさんに対して頭を下げた。

 

「───ありがとうございます、先輩。ご好意に、甘えさせて頂きます」

「ふふふ、先輩、ですか。バトルキャッスルではよく聞いた単語ですが……

 こういう場で言われるのも、なかなか良いものなのですね」

「へ、へへへ……!」

 

うーむ、二人して嬉しそうだ。俺蚊帳の外じゃねえか。

 

「なぁドレディアさん、ミロカロス」

「ディ?」

「ホァ?」

「カズ×コクランってどうよ」

 

 

 

 

 

 

俺は二人にぶん殴られて犬神家状態になってしまった。

地面の中冷てぇーーwwwうひょーwwww

 

 

 

なんかすいません。

 

 

 

 

「じゃあ、俺のポケモンからはこいつを預けるわ。

 今もエース並に頑張ってもらってるからな……一週間後、期待させてもらうぜ?」

 

というわけで紹介されたのはダゲキだった。あの格闘家っぽいやつな。

 

「ピィョルォォォォン」

 

ダゲキから挨拶をされた。鳴き声カン高ぇwwwwww

 

「しかし偶然と言うのもあるものなのですね……

 まさか、わたくしの本来の活動拠点である地方にいるポケモンをこちらで見るとは……」

 

ああ、カトレアさんのお屋敷ってことだろうか?

なんか昔から世話してるようなイメージあるしなー。

住み始めて一年二年であの連携にはなるまいよ。

 

「と、いうわけで。わたくしからはこの子をお預けさせて頂きますぞ」

 

その場に現れたのはナゲキだった。あの格闘家ry

 

「ゥモン」

 

おっす。お前声低いな。

 

ふーむ……こいつら、か……おあつらえ向きに人型だし、色々教え込めるかな。

っと、そうそう。誠意のために先に伝えておこう。

 

 

「えーと今回、一人15,000円って高額を取りますけど

 その半額は使い切って、こいつらに良い飯食わせながら

 訓練に励んでもらうので、ご安心ください」

「ほほう……それは良い環境ですね。期待させて頂きますよ」

「うまい飯かぁ、何食わすんだ?」

「ああ、時間的にもそろそろ昼だしポケセンで俺が作りましょうか?

 大体俺の手作りを気合入れて食わすって感じッすから、丁度良いかと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コクランさんに専属コックとしてカトレア家に混ざらないかと言われた。

知らん。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

50話 育て屋ッ

 

とりあえず育て屋の開始も無事に決まり、 (ポケモンセンター)で飯食った後

コクランさんとカズさんにダナゲキを預かりました。

 

 

「では、わたくしはバトルフロンティアの管理もありますので……明日にはこちらを経ちます。

 また1週間後程度にこちらに来訪致しますので、その時にまたお話を伺わせて頂きますぞ」

「あーい了解っす。もしかしたらこっち来てから2,3日程度お待たせするかもしれませんが……

 そこはまあ、その時によって応相談でー」

「俺は別に動き回る予定もないしな……

 ま、ここら辺でトレーナーとバトってっと思うから、何かあったら声掛けてくれ」

「カズさんも了解っす。そっちも俺に何かあったら声掛けてください」

 

そんなわけでお二人とは一時お別れ。

役目を引き受ける事が出来た、なんたる至福感。俺はむっさがんばるぞー。多分。

 

 

 

 

てーわけで、俺らは全員で郊外に向かう。

まあ、向かったところで今日やる事は限られてんだけどなー。

 

「まずは修行出来るような場所を見つけなあかん」

「ディァー」

「ゥモン」

「ピィョ」

 

まずギャラドスに逢いに行く前とかに探しておけよって自分で思った。

行き当たりばったり過ぎる。

 

 

ちょいっと入ったところで、こぢんまりと開けた場所を発見した。

この位の空間なら丁度良いだろうか? 街から離れすぎるってのも帰る時に面倒だからなー。

 

「とりあえずここら辺を拠点にしてみっかー」

「ホ~ァ」

「ミュィ~」

 

町にいる間は別に使う予定もないし、簡易テントを張ってっと……

飯とかも面倒だからここで作る可能性もあるし、野外道具や調理道具はここに放り込んでおこう。

 

「さってと……ダゲキ。ナゲキ。俺らも初対面に等しいわけだ。

 今日から軽い修行はするけど、まずは自己紹介とかからしていきたい」

「ピィョ!!」

「モンッ!!」

 

うむ、元気やよし。二人とも格闘家のように姿勢を正し正座している。

 

「んじゃまず俺だ。今回の育て屋計画の主犯だ」

「ピィョ;」

 

【主犯て;】とダゲキが突っ込んで来た。まあ確かに犯罪じゃないけど別にええやん。

 

「ここじゃあまり声を大にして言えないが……色々と変な知識を持ってるもんでな。

 その中で使う事が出来る技術を、お前たちにふんだんに教えていこうと思う。

 教えても無駄なことは一切教えないから安心してくれ。

 学んでいけば必ずお前達のご主人も納得してくれるモノに仕上がるからな」

「ピィョ!!」

「ゥモッ!!」

 

 

こいつら二人に関しては自分の手持ちとは少し扱いを変え、考えて育成をしていく予定である。

 

予定である。予定は未定と同じである。

もしも変な能力が追加されても俺の責任ではない。きっと。

 

「次にお前達の稽古の相手であり師匠になるやつらだ。まずはドレディアさん、どうぞ」

「ディァー!!」

 

 

腕を組みながらずいっと前に出てきた。

おい威嚇発動してんじゃねぇ。二人共若干びびってんじゃねえか。

まあ、今回に限っては威厳的なものも必要かもだし、いいか?

 

「もしかしたらお前達も自分の故郷でドレディアを見た事あるかもな。

 でもこのドレディアさんは他のドレディアと一線を駕している」

「……?」

「???」

 

二人とも疑問な顔をしている。まあ見せた方が速いか。

 

「ドレディアさん。そこの木あるしょ」

「ディ。」

「パンチでぶち折って。」

「ドレディ!!」

「ョ?!」

「モンッ?!」

 

彼らの瞳が【うそん?!】と物語っている。

ま、普通は特殊のほうに攻撃力がある子だからな。

間違っても拳で木を叩き折る種族ではないwwww

 

で、ドレディアさんが。

 

凄まじい勢いで、俺の腰の倍はあるほどの木にパンチをぶち当てた。

 

 

ッドォォォオンッッ!!!

 

 

とすんげー音を立てて殴られた木はすっ飛んでった(●●●●●●●)

15m位先にあった木にぶつかって、殴られた木は漸く停止する。

 

 

えー。

 

破壊力上がりすぎでしょあんた。木が『飛ぶ』ってどういうことなの……

 

 

「(゜д゜)」

「(゜д゜)」

「うん、ごめん。ダゲキ、ナゲキ。

 正直俺もここまで攻撃力上がってると思わなかったわ。想定外すぎる威力だった。」

「ディ~(ニヤァ」

 

ドレディアさんが【どんなモンよ】とでも言いたげに俺を見てくる。

おいドヤ顔やめろ、うぜえ。

 

「ま……とりあえずドレディアさんが当面の師匠、って事でいいよね?」

「……オッス!!」

「オッス!!」

「あれ?! お前等鳴き声以外で喋れんの!?」

 

 

【【武道家の嗜みっす!!】】と目で語ってきた。

 

わぁ、俺びっくりだぁ。まあいつもの事だけど。

こんなに色々イカレてんのは俺の周りだけなんだろーか?

森の音楽祭してた時もあいつらキューンとか言ってたし。

 

「次にダグトリオを紹介するよ。

 こいつらのうちの、俺がダグONEって呼んでるやつがお前達の大先輩に当たる。

 最初は弱かったが今じゃ立派にうちの戦闘力だ。

 それまでの四苦八苦した過程を色々と理解してるから、しっかり教えてもらってくれ」

「ッ!!b」

「ピィョ」

「ゥモン」

 

ダグONEが前に出てきてサムズアップしたところでふと疑問が沸いた。

 

「そういやさぁ、お前等ダグトリオになってから戦いしてねーけどさ。

 俺が教えた技とかってどーなってんの? やっぱダグONE一人でやる事になんのか?」

『(フルフルフル)』

 

え。

既に二人にはどういう概念か教えてる、ってか。

 

「じゃあ俺もちょっと見たいからやってみてくんね?

 リンダさんシュート頼むわ。対象は木片でいいか?」

『bbb』

 

良いらしいから、ドレディアさんに頼んでさっきぶっ飛ばした木を

また丁度良い部分でへし折ってもらい、持ってきてもらった。

 

「んじゃ、これをドレディアさんがお前等に投げるから

 お前等のリンダさんシュート見せてくれー」

『ッッッ!!!』

「ディーーーー……アァッ!!」

 

完全に振りかぶり、ドレディアさんがダグⅢにぶん投げた。

凄まじく速かったのだけはわかった。すっげースピードでよく見えなかったが。

 

そしてダグⅢは……

 

 

 

回し蹴りをタイミングよく木片にぶち当て、放物線を描かせてダグTWOにパスする。

 

ダグTWOは飛んできた木片を足の甲を叩き込んで上に蹴り上げ、木片は空中でシュルシュル回転。

 

最後にダグONEが空中回転して向かってくる木片にタイミングを合わせ。

 

一旦軽くジャンプをして、体を伸ばした後すぐに縮こまりながら足を踏ん張り。

 

完全なタイミングで体を全力に伸ばした横蹴りをぶちかます。

 

凄い勢いで横っ飛びした木片は、あろうことかダグTWOに向かい

 

危ないと思ったのも束の間、ダグTWOまでダグONEと同じ動きをしてリンダさんシュート。

 

当然さらに蹴られた木片はさらに高速ですっ飛び、ダグⅢへ……あとはもう説明も必要ないだろう。

 

ダグⅢまで全く同じ動きで横蹴りシュートをぶちかまし

 

そこら辺の木にぶちあたった木片は、木っ端微塵に砕け散った。

 

 

 

 

うわなんだこれ、なんかめっちゃカッコよくなってやがる。

横で見てるダナゲキも呆然としてるし。

一人でやる技を三人で連携してテンポ良く繋げたその技術力は

同じ道を歩んでいる者からすれば確実に憧れるレベルである。

 

「……え、えーと、とりあえずこれがお前等の先輩。

 まぁなんつーか、頑張って教えてもらってくれ」

『ッッッ!!bbb』

「オッスッ!!」

「ゥォオオッス!!」

 

ダナゲキ、やたら気合が入るでござるの巻。まあ、うん、カッコよかったしな。

 

「で、今回のお前達の同期になるのがこの子だ。ミュウっていう」

「ミュー!!」

「……?」

「……?」

 

ふむ、【何だコイツ、明らかに格闘タイプじゃねえぞ】×2って目ですね。

 

「ちなみに言っておくけどこのミュウは凄まじく強いぞ」

『ッ?!』

 

覚えてる限りだが、ミュウとかセレビィとかの幻ポケモンって

確か種族値ALL100なんだよね? 流石にそんな事言ってもこいつらにゃ伝わらんけど。

 

「でもまあ、まだまだオコサマって感じ。だからお前等と一緒に鍛えるわけだ。

 本格的に教え込むのはお前達のほうだから安心してくれ。

 ミュウは横から見てて、自分が役に立てられそうなモノを吸収するだけだからな」

「オッス」

「ゥオッス」

「ミュ~ィ」

 

ミュウが最後に一鳴きして、ナゲキの頭の上に乗っかっていった。

突然の内容にナゲキは若干驚くが、感触がたまらないのかすぐ笑顔になった。

横にいるダゲキもミュウの頬をちょっとつんつんして、また笑顔になった。

 

 

可愛さは世界共通のようである。

 

 

「で、最後にミロカロスー」

「ホォァァ~!!」

「こいつは訓練には参加しないから、あまり気にしなくていいぞー。

 主にお前達のマネージャーやってもらうから」

『…………?』

 

【マネージャーって……?】と首を傾げられた。

ああ、そうか……この世界、学校の部活とかそういうの一切ないもんな。

マネージャーって言葉自体がここで出る言葉として異質なわけか。

 

「まぁ、お前等の疲れを癒すために歌ってくれたり

 汗を拭くためにタオル持ってきてくれたり

 喉が渇いてたら水を持ってきてくれるって感じだよ」

『(コクコク)』

 

【了解しました、師範。】と目で言ってきた。

ああ、俺師範って扱いなんだ。まあそうかもだが。

 

「ホァァ~♪」

 

バチコーンっ。

 

ミロカロスはダゲキとナゲキにウインクをした。なんでサマになってんのお前。

 

『ッッッ?!?!』

 

そしてダナゲキもダナゲキで、

その美しさにメロメロになってしまったのか思わず頬を赤く染めていた。

まあ人間から見ても美しいんだからポケモンから見たらもっと美しいんだろーな。

 

「ま、これに加えて俺が料理担当にもなる。

 多分お前等もうまいって感じてもらえれるはずだから、そこそこ期待しておいてくれー」

「オォッス!!」

「ゥオッス!!」

 

うむ、非常に元気のよろしい事だ。

 

 

 

 

「んじゃぁ、とりあえず模擬戦を先にしたい。

 お前等の実力がどの位なのか把握してとけば、この先の育成もスムーズに出来るかもだからな」

 

そういうわけで、ダゲキはドレディアさんと。

ナゲキはダグONE単体と組み手をさせてみる事にした。

 

「よし、それじゃぁまずダゲキvsドレディアさん、開始!!」

「ピィヨルォォォォォン!!」

「─────。」

 

気合を入れてダゲキが構えたのに対し、ドレディアさんは返答すらしない。

ふーむ……? 師匠らしくしようとでもしているのか、普段のドレディアさんぽくない。

 

「……ッ」

「─────。」

 

しかしそれでもダゲキから見れば隙などほぼ無いらしく

その雰囲気だけで気圧されているようである。

 

スッ

 

お、ドレディアさんが動い───

 

くいっくいっ。

 

ドレディアさんは手の部分に該当するところで

人間が「おら来いコノヤロー」という感じにクイクイしていた。

 

ただの挑発かーい!! ていうかお前ちょうはつ持ってへんやろー!!

 

「……ッ!! ……ォォオオオオオオオオオオンッッ!!」

 

見下されたと思ってしまったのか、気合の叫びを出しながら

ダゲキは凄い踏み込み速度でドレディアさんに飛び蹴りを放ち───

 

 

     ド

 

            ン

 

                    ッ

 

「うわぁっ?!」

「ホアァー!?」

『ッッッ!!!』

 

すんごい衝撃波が俺らを襲った。

とんでもなく馬鹿でけぇ音がした瞬間、こちらにも土やら小石やらが飛び散ってきた。

 

「な……なんだ……どうなった?」

 

慌てて防御していた、顔に当てた二の腕をゆっくり下ろし

交錯したはずのドレディアさんとダゲキを見てみた。

 

 

 

 

そこに佇んでいたのはもちろんドレディアさん。

 

そしてその下にはダゲキが顔面から地面に叩き伏せられていた。

 

どうやらさっき襲ってきた衝撃波はこの際に発生したものらしい。

 

 

 

様子を見る限り、だが。

飛び蹴りで襲ってきたダゲキにドレディアさんは

ドンピシャでタイミングを合わせ、地面に向けて手を振り下ろしたらしい。

 

図案で想像してもらうなら、だが……

ONE PIECEの主人公ルフィがハイエナのベ○ミーに対して一撃で叩き伏せた方向性に近い。

 

しかもそれは叩き伏せる方向こそ横から下になっているが

完全にカウンター気味に入ったのもあり一撃でK.Oまで行ったようである。

 

 

ついでに言えばダゲキは完全に瀕死である。ドレディアさん何してんのあんた。

 

「やりすぎじゃアホォーーー!!」

「ァ~……★ミ」

「可愛くごめんなさいしても駄目っ!!」

「ディァー;;」

 

ホントだめだこの脳筋。

 

「……まあ、とりあえずダゲキの能力は大体把握出来た。

 まだまだ発展途上で、ドレディアさんの足元にも及ばないってところか。

 ミロカロスー、悪いけど早速仕事だぁー。ダゲキの事介抱してあげてくれ」

「ホ~ァ~」

 

そうしてミロカロスはダゲキが着ている胴衣の襟を口でくわえ上げ

開けた場所よりは森に近い場所へ連れて行った。

 

 

「(゜д゜)」

『(゜д゜)(゜д゜)(゜д゜)』

 

ナゲキに加え、ダグトリオまで今の結果にぽかーんとしている。

一撃なのもあったが、その際にもすんばらしい衝撃波がこっち来てたしな。

なんてーか……Lvはそこまで違わないはずなのに、色々と規格外すぎる。

 

 

あれ、なんか母さん思い出した。

 

 

「ま、まあ次だな。今度はナゲキの実力を見せてもらいたい。

 ダグONE、ナゲキ、よろしく頼む。」

「ゥ、ゥモンッ!!」

「─────。」

 

 

先程までドレディアさん達が模擬戦をしていた場所に二人共向かい

俺はその間にドレディアさんを縛って木に吊るしておいた。

 

「ディーアー;;」

 

二人一緒に開始の立ち間合いへ立ち、互いに準備が完了しているようである。

 

「それじゃ、始め!!」

「ゥモオォオンッ!!」

「ッ!!」

 

開始の合図と同時にナゲキはダグONEに積極的に飛びついていった。

だがしかし、ダグトリオも元は素早さがとんでもない種族だ。

ナゲキのスピードではまだまだダグトリオには及ばないらしく

掴みかかった際にあっさりと交わされていた。

 

「ッッ!!」

 

ドスォッ!!

 

「ゥ……!」

 

交わす前に簡単な潰しをやったのか

ダグトリオはすれ違いざまに足刀のような形でナゲキの脇腹を抉っていた。

なかなかに綺麗な戦い方である。

 

「ゥー……!」

 

しかしナゲキもまだまだ負けてはいないと言った感じで気合十分のようだ。

ダグONEは静かに手を前に構え、次なる交錯へ構えを取る。

 

「ゥモオォオッ!!」

「─────ッ!!」

 

飛び掛ってきたナゲキの手をダグONEは打ち払い、逸らす。

 

「────ォォォオ!!」

「ッ?!」

 

そして逸らされた直後にもう片方の手を、死角気味にダグトリオまで迫らせた。

突然奇襲にまで発展したその行動にダグトリオは若干あせったようで

少し後ずさり、ナゲキの攻撃を回避する。

 

「……!」

「─────。」

 

かなり頑張った内容だったのだろう。ナゲキは悔しそうである。

ダグトリオも静かに間合いを作り、ナゲキの様子を見ている。

 

 

ふむ……

 

 

「よし、そこまで」

「ッ?!」

「─────。」

 

俺は二人の戦いを止めることにした。大体見たいものも見れたし問題は無い。

 

「ゥモンッ!!」

「【何故止めるのですか】とな?」

 

突然戦いを止めたことについて、ナゲキから抗議をもらう。

まあ真剣勝負ではあっただろうし、納得行かないものもあるんだろうな。

 

「じゃ、解説しよう……まずナゲキ、正直お前はすっげー頑張った。

 やっぱりあのコクランさんの手持ちなんだな……間違いなく頑張ってたよ」

「…………。」

 

本当に、弐連撃気味に投げに行ったのは純粋に凄いと思う。

この世界の常識では、その技単発に全力を注ぐ風潮がある。

しかしこいつはそれらの常識をかなぐり捨てて

回避されたと同時に即座にダグONEに掴みかかったのだ。

これについては俺の指針上とても評価出来る。

 

「でもお前、最初に投げ以外から入る手がないだろ」

「ッ!!」

 

そう。その常識を捨てた攻撃を交わされる……つまりはもうそれ以外に手が無いわけである。

あとは交わし交わされの消耗戦にしかならない。

模擬戦でそんな試合を繰り広げる必要もないので、俺は試合を止めたのだ。

 

「これは、あくまでも模擬戦だ。

 そりゃー勝ちたいだろうけど、勝つ必要のない戦いだ。

 これからはそういうこだわりに関しても少し手を加えて行く。

 あくまでもまだまだ登竜門でしかない……だからこれで終わりだ」

「……ゥモン」

 

少し元気の無い返事ではあるが、ナゲキは確かに了解の声を上げた。

ひとまずは納得して頂けたようである。

 

 

「ピ、ピィョ……」

「お、目ぇ醒めたかダゲキー。大丈夫かー」

 

 

後ろからダゲキの声が聞こえたので俺はそちらに向かった。

どうやら本気で強烈な一撃をもらったらしく、まだミロカロスの介抱から立ち上がれない様子だ。

 

「まあ、とりあえずあまり気にすんなよ。

 あのドレディアさんは本気でおかしいから」

「……オッス」

 

どうせお前もこれからドレディアさんに近づいていくんだ。

急いで成長する必要は無い。俺は出来る限りお前を伸ばしてやろう。

 

「まぁ、一旦ポケモンセンターに行っておこうか。

 今日は初日だしこんなもんでいいだろう」

「ホァ~」

「ピョ……」

「ミュィ~」

 

いつの間にかミュウは対戦が終わったナゲキの頭にくっついていた。

ナゲキもナゲキでさっきまでの対戦熱がこれで覚めるらしく

幸せそうな顔をしてほっこりしていやがる。

 

ちくしょう、ポジション取られた。

 

「明日からはバシバシ訓練して行くから覚悟しろよ?

 そいじゃみんな、街まで帰るぞーッ!!」

「ディァー;;」

「ホァ~!!」

「ミュー!!」

「ゥモンッ!!」

 

こうして1日目は終了した。

二人の成長、ミュウの成長も踏まえ、これから一週間がとても楽しみである。

明日からのワクワクを考えながら、俺らは森を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディァー;;」

 

 

 

 

 






救いのある物語で蒼穹のファフナー、ロボット大戦に参加せんかなー
一度参戦したKって原作よりENDがひどくなる上に公式から完全否定された黒歴史らしいのよね


-追記-
リンダさんシュートと何度も記述していますがわからない人は全くわからないと思います。
この蹴りは「SPIKE OUT」というゲームの女性キャラ[LINDA]が使用する蹴りで
CHARGELv4まで貯めて放つ蹴りが、これに該当します。
今ふらっと「スパイクアウト リンダ」で検索したらYOUTUBEで何件も引っかかったので
図を明確に想像したい方は動画をご参照ください。
ちなみにゲーム自体は多人数プレイが可能で、ものっすげー面白いものです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

51話 育て屋、間

 

 

 

森の郊外から全員を引き連れ、街へと帰ってきた。この後は (ポケセン)に戻り、飯食って1day終了である。

 

ダゲキはドレディアさんに貰った一撃がやばすぎるため、ミロカロスに運んでもらっている。

俺らは全員ナゲキもダグトリオに乗ってもらって街まで帰ってきた。歩くのだりぃし。

 

ナゲキも流石に最初は人の奇異の目を気にしていたが

少し歩き出せばもう気にならなくなったらしい。順応早いなお前……

 

「んじゃ俺は今晩の飯の買出し行ってくるわ。お前等どうせ結構食うだろ?」

「……オッス」

「オッス!」

 

うむ、【【食いまくるっす!!】】ですってさ。

格闘家なんて沢山食うイメージしかないしな、大丈夫大丈夫。

 

「そいじゃ、ミロカロスとダグ共はそのまま ()に向かってくれ。俺は買うもん買ってくるわー」

『ッ!bbb』

「ホ~ァ」

 

 

 

 

んで、ダグONEから降りてのしばらくの別行動……つっても飯の素材買うだけだが。

あのギャラドスピクニックほどは要らんよな……

 

 

「よっし、とりあえず豆での肉付けメインに

 トドメとして腹が膨れるようにコンニャクの細切りでも仕込むか」

 

 

・д・

 

別に買い物途中にグリーンさんやらレッドさんというパプリカピーマンペアに逢う事も無く

特段何も無かったので、描写はすっ飛ばす。

 

そして俺は当然 ()に戻るわけなのだが……む?

ミロカロス達が中ではなく外で待ってくれていた。

 

「みんな入り口で待っててくれたのか、ただいまー」

「ホァ~!」

『ッ!( ゜д゜)>( ゜д゜)>( ゜д゜)>』

『オッスッ!』

「よっ! おかえりー!」

「おかえりなさい~」

「はーい、元気してたー?」

「あいあい、了解了解。んじゃみんな腹も減ってっし、飯とっとと作って食うべー」

 

そうして全員に ()に入るように促す。

さてと……最初の飯だしスタミナ付くぐらいにゃ食わせてやらねーとな!

 

 

「んで、どうだお前らー。飯うめーかー?」

『ォォォオオオオオオオッス!!!』

 

ダゲキとナゲキの大絶叫が食堂に木霊する。

うむよし。気合が入る程度には喜んでもらえているらしい。

 

「ホ~ァ~♡」

『~~~~~(*´д`)() (*´д`)() (*´д`)()

「みゅ、みゅ……」

 

俺のパーティーの常連も非常に満足してくれているようだ。

ミュウにいたっては完全に食いすぎた感じがする。

あれは食いすぎてウップウップなっている状態と同じだww

 

「相変わらずやばすぎる腕だわ……ていうか進化してる……料理の腕が……」

「ホンマバケモンかタツヤんは……美味過ぎて適わんわぁ」

「おいしぃ~♡♡」

 

んじゃそろそろ俺も食うかぁ。今日は動き回ってたから俺も腹が減ってしまった。

 

「いただきます、っと」

 

そう宣言して皆によそった残り物を気合入れて口の中に掻き込み始めた。

ぁーうめー。あっちの世界の母ちゃんには未だ及ばないがそれでもうめー。

ふーむ、この大豆……おからをこしとってマヨネーズ混ぜてサラダにしてはどうだろうか。

 

てか、この世界卵って……そういえばラッキーの卵は食ってんだったか?

んなら酢さえ用意出来れば調整してマヨネーズは作れるだろうか。

 

 

 

 

そんなこんなで騒がしい俺らの飯の時間はあっという間に過ぎ去った。

全員満足してくれたようで何よりである。もはや後は寝るだけだ。

明日の訓練に必要なもんは全部あっちに置いてるし、これ以上はやる事が無い。

 

「んじゃみんな部屋行くかー。」

「ホァ~」

『ッッッ』

「ピィョルォォン」

「ゥモン」

 

そういやこいつらはどこで寝るつもりかな? ボールだろうか。

地面に布団を敷いて寝たほうが回復効率はよさそうだが。

 ()の機械では疲れとかはしっかり回復してくれるようだが、精神的なものまでは回復してくれない。

気を落ち着けて寝る事が出来る布団が、俺としてはベストと感じる。

……べ、別に俺が好きだからとかじゃないからね?

 

「んじゃうちらも自分らの部屋に戻るわー。また明日なータツヤんー♪」

「おやすみなさいー」

「おやすみー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ?

 

 

 

「え」

 

「え?」

「え?」

「え?」

 

 

 

 

 

あれ?

 

「え、ちょ、なんでッ?! いつの間にあんたら居たの?!」

「……タツヤ君、それはいくらなんでも酷くない?」

「……ちょっと待ちぃな。タツヤん今までうちらの存在気付いてへんかってん?」

「そんな……酷い……」

 

そこ! DQ1のローラ姫ネタはいい!

なんでいつの間に俺らに混ざってたんだあんたらはッ。

 

 

まあもう説明するまでもないだろう。

あんたらってのは、もちろんの事「サントアンヌのスマイルプリキュ○」の三人だ。

 

「誰やねんそれっ!?」

「え、アカネさん達の事に決まってんじゃないすか」

 

てわけで、いつの間にかアカネさんにミカンさんに加え何故かもっさんまで俺の目の前に居た。

 

「一体いつから俺らの空間に混ざってきてたんですか……

 全く気付けませんでしたよ……先祖に忍者でも居たんすか? 汚いなさすが忍者きたない」

「人聞きの悪い事言うてんやないっ! ご飯作る時もうちら手伝っとったやんか!」

「え、嘘っ?!」

 

そんな描写は一切無かったぞ?!

 

「でも、お料理をお皿へ盛り付けたぐらいですけれどね」

「うん、私達が出る幕とか一切無く凄い手際で作ってたし」

 

お褒めの言葉ありがとうございます。見習え。クカカカカカ

参考例は前世の母親の真似である。

 

「マチスさんに三人が何故かこっちに向かってるとは聴いてましたけど……

 あんたら一体、何時頃この街に来たんですか?」

「ん? 今日の昼過ぎ辺りやで。

 んで旅してきて一番に向かうっちゅーたらやっぱポケセンやん。

 これからどーしよーって三人でしばらく相談してたら日もとっぷり暮れとってなー。

 こっちの夕焼けも綺麗やねーとか想ってたら

 ダグトリオの頭にナゲキって風景が出てきて全部台無しやった」

 

綺麗な風景は犠牲になったのだ……お前等ェ……

 

「それで、なんですけど……三人でさらに相談したら

『こんなおかしなダグトリオを連れているのはやっぱりタツヤ君しか居ない』

 って結論になったんです」

「なにそれひどい」

 

あまりにもあまりな俺の特定で俺の魂は汚された。

週刊文集にチクろうかなこれ。記事代いくら貰えるかな。

 

「だから、この子達と一緒に待ってたら多分タツヤ君も帰ってくるだろうって事で

 ま、入り口に全員でスタンバってたわけよ」

「お前は相変わらず可愛いなーサンド♪」

「キュキューッ!!」

「あ、いつの間に出てんのよサンドッ?!」

 

途中から話を聞くのが面倒になってしまい

いつの間にかボールから出ていたサンドと久しぶりのふれあいを果たす。

癒しってやっぱ大切想うねん、最近ミロカロスは俺を叩いてばっかだし。

ミロカロスの癒しキャラは早くも終了ですね。

 

「ホァッ?!」

 

そこ目ざとく反応してんじゃねえ。

 

 

「ま、いいやねみーし。部屋戻るべ部屋ー」

「ホーァ」

『─────。』

「ピィョ」

「ゥモン」

「ミューィ♪」

「キュキュー♡」

 

そして俺のパーティー全員で、部屋の中に入っていった。

 

「おっけーやー。また明日なータツヤん♪」

「改めて、おやすみなさいタツヤ君」

「ちょっと?! 私のサンド返してよッ!! ねえちょっ───」

 

パタン。ガチャ。

 

「ま、ええやんもっさん。明日になりゃ普通に逢えるて」

「ううー……私の最初のポケモンなのにぃ……なんで私よりあの子に懐いてんのよぉ……!」

「えっと……あの……ご、ご愁傷様?」

 

 

 

さーてなんか予想外な連中が混ざりやがったが、明日も一日楽しみだー!!

 

「ホ、ホァ……」

 

ん、どしたミロカロス。

 

「【なんか忘れてない?】ってか? んー……?」

 

なんか忘れてたっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディァー……;;」

 

 

 

 

 






ファフナーの主題歌がやばい。

サビの部分のシャングリラァー!の後の歌詞が
空想、のはずなのに糞にしか聞こえない。きったねぇ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

52話 その罪

 

 

「……こちらA隊。入り口周辺異常なし、オーバー」

 

朝日も顔を出したばかりのそんな時刻、  の入り口周辺に怪しい奴が一人。

その怪しい奴の名前はタツヤというらしい。誰でしょうね。

 

現在時刻、04:00位、(すーぱー)朝っぱらです。オコサマはまだ寝てろという時間。

お子様なはずの俺は今起きて  の外で御座います。

そして受付の人に借りたタッパに飯を入れて、一人修行場に向かいます。

 

 

もちろん内容はドレディアさんの餌付け……いや。

殴られるの怖いから飯で懐柔……本音過ぎるな……。

忘れていたお詫び……元から食えたもんだよなぁ。

愛してる……だめだ、俺の嫁はサーナイトだ。

 

 

まあ、どうでもいいや。とりあえず飯食わせに行く。

なんでこんな朝っぱらに一人かってか?

 

 

 

忘れてたなんて言うの恥ずかしいやん///

そういうわけで全員おねんねしているこの時間にこっそりと、と言う事だ。

では参ろうか諸君。極秘ミッションの開始だ。

 

 

 

「……っは、……はぁッ、う、ぐ……」

 

そんなこんなでドレディアさんを吊るした修行場へ向かっているのだが

子供の足では郊外の森の踏破はきつかった。早くも挫折しそうである。

 

こういう時はチャリ欲しくなるよなー。でもこの世界100万とかふざけた値段だから買えない。

いつかあの店は燃やしてやるかフーちゃんに永久凍土化させようと思っている。

ダナゲキの最終テストにあの店の破壊を任すのも良いかな。

そんで、1個チャリ持ってこさせて免許皆伝、みたいな。

やべえこれロケット団も真っ青な犯罪組織じゃんか。

 

あーダグONEだけでも起こしてくればよかった。

あいつ基本鳴かないしとても便利なヤツなのだ。キモいけど。

 

 

「やーれやれ……ったく、楽を覚えっと碌な事ねえなぁ」

 

 

これから少しずつでも歩いてリハビリしようかなぁ。

こんなんじゃダメだよな、人間常に進化していかねば。

 

「っとー。そろそろ修行場か……」

 

ドレディアさんはどーなってっかねぇ、っと。

目ぇ血走らせて俺に恨みしてこなきゃいいけど。

やめて!! プレッシャーで俺のPPはもうゼロよ!!

 

 

そして到着……開けた場所へと辿り付く。

ドレディアさんが作った木の無残な残骸と、ダゲキが頭から犬神家した跡が生々しい。

薄暗くて見えづらいが、確かもうちょっと先の……森に近い部分に───

 

 

「あ」

 

 

ドレディアさんが居た。

俺が吊るしたのと同じような状況であり、誰かに手を付けられた様子も無い。

そしてドレディアさんは眠っているのか眠っていないのかすらわからない。

 

 

何故なら。

 

 

なんか燃え尽きてたからだ。超真っ白だわ、あしたのジョーのホセ戦後だろこれ。

顔にも何やら影が出来ている。劇画タッチwwww

 

って、笑ってる場合じゃない。

ちょっとやりすぎたかもしれない。主に忘れて帰った辺りが。

 

 

「おーい、ドレディアさん生きてっかー」

「─────。」

 

へんじが ない。

ただの ドレディア のようだ……

 

どうやら寝ているか気を失っているかのどちらからしい。

まあしばらく放置しちまったし腹も減ってるだろうから

それらを紛らわせるために明らかに寝ているんだろうけど。

 

ま、しゃあないな……大人しいうちに降ろしておいてあげよう。

この様子なら反省もしただろうし。

 

 ・

  ・

   ・

    ・

   ・∀・

    ・

   ・

  ・

 ・

 

ってわけで……ロープを固定していた杭を抜き、そーっと縄を伸ばしてドレディアさんを着陸させた。

ついでに下ろしたドレディアさんの傍に行って縄を解いておく。

どうやらまだ燃え尽きているようなので、一旦置いていたタッパを持って再度近づいていく。

 

「ほーら、ドレディアさんの好きなご飯だよー★」

 

そうして、来る前に温めておいたタッパの蓋を外し、ドレディアさんの前に差し出す。

 

 

んでいつも通り彼女はそれで起き上がって

 

 

 

 

 

 

 

 

こない。

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

おかしいな……飯大好きなドレディアさんがこれで反応しないわけも無いと思うのだが。

 

これ、白いけど……まさか……

 

 

枯れてる……?!

 

 

「ちょ、一大事かもしかして?! おいドレディアさん、大丈夫か? 起きろッ!」

 

『寝ている』と『気絶』によるorでの、まさかの後者だった。

吊るされてて気絶とかどういうことなの……

 

俺はやさしくドレディアさんをゆすった。

それでも起きないようなので頬をぺちぺちと叩き、ようやく反応をもらえる。

 

「…レ……ァ……。」

「よ、よかった、ちゃんと起きてくれたか……。」

 

起きてくれたはいいのだが……なにか様子がおかしい。

白い時点ですでに何かがおかしいのは間違いないのだが……それに加えて物凄く目が虚ろだ。

これは一体……どうしたのだろうか?

 

「ほらドレディアさん、ご飯持って来たよ。

 まだおいしいはずだから、食べていいよ?」

「…………ァ。」

 

んんん……?! ご飯に全く反応を示さない……だと!?

 

「どうしたんだドレディアさん……なんでそんなに虚ろな目してるんだ……!?」

「ディ……ァ……。」

 

日頃と全く違う彼女の様子に、俺は流石に不安になって顔を覗き込む。

 

彼女の目から意思を汲み取り

 

 

 

俺は思わず固まってしまった。

 

 

 

彼女の瞳は確かに、俺に伝えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【捨てないで】 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……」

 

───まずい、やってしまった。

俺は、『絶対にやってはいけない事』のひとつを……やってしまっていた。

 

日頃からお互いにチャラけてコミュニケーションを取っていたが故に

普段の様子からあまりにも想像が付かない大チョンボをやらかしていたのだ。

 

 

 

たとえ怒る理由があったにしても、体の自由を奪い……あまつさえそこに放置して立ち去り

忘れていたという理由で長時間人の通るような場所でもないココに置き去りにしたまま

全員を引き連れて、帰って行く。

 

誰がどう考えても、ドレディアさんのトレーナーを辞したとしか見えない。

 

 

「ド、ドレディアさん……違うよ、違うんだ。

 捨てたわけじゃないんだよ? 大丈夫だから、ね?」

「…………ィ……ァ……」

 

 

【一人にしないで】

 

俺の目を見て意思を伝えた後、ドレディアさんは未だ白いまま涙を流し始める。 

そして俺は今回自分がやった行動を(かんが)みて、何も言えなくなってしまう。

 

駄目だ……これは、これだけは。

 

気楽にやっていいことじゃない。

 

「…………」

「ディ……。」

 

【私は───要らない子なの?】

 

その目から流れ続けてくる懇願の感情に、自分が激しく動揺してしまっているのがわかる。

こんな風に見つめられて、俺はどう言えばいいのか……ただ否定するだけではこの問題は終わらない。

 

これは……そんな気軽に、気楽に片付けて良い問題じゃない。

 

どうすれば……どうすればいい、どうすれば良かったんだ。

 

 

ああ……、やばい、頭がとてもぐるぐるしてきた。

何をどうすればいいのだろう、どこから訂正すればいいのだろう。

 

「ぁ……、あ……」

 

何か言おうとしても、言葉が口から出てきてくれない。

頭に浮かぶ言葉は言い訳にしかならないようなチンケな言葉ばかりしか出てこない。

その程度の言葉で許されて良い問題じゃないんだ。

 

何から言えばいいのか、口にしなければならないのに口に出来ないもどかしさが続く。

 

 

「───……ドレディアさん」

「─────」

 

真っ直ぐに、白いドレディアさんに見抜かれる。

 

そして俺は───

 

 

ドレディアさんをそっと抱きしめた。

 

 

これが正しいかどうかはわからないが、口に出来ない言葉を考え

その空気を持続させてしまうよりは、絶対に間違っていないはず。

 

 

今は、こんな事しか出来ないが───これが……俺の精いっぱいの、謝罪だ。

 

 

「すまない……」

「…………。」

 

静かに静かに、俺は喋る。

 

「本当に、すまなかった……」

「…………。」

 

何に対して悪かったと、そんな簡単な事すら言えない……。

だが……今回俺がやった対応は、あまりにも稚拙で粗雑で。

 

そんな一言しか発する事が出来なかった。

 

「本当に、俺が悪かった……許して欲しい。

 ドレディアさんは要らない子なんかじゃない……とっても大切な───俺の『仲間』だ……」

「…………。」

「殴ったって良い、投げ飛ばしたって構わない。

 ドレディアさん……本当に、ごめん」

 

不細工にしかまとまってくれない謝罪を、俺は繰り返してしまう。

 

 

今思い返してみれば、あいつの背負っていた境遇に同情し

ヒンバスでありミロカロスであるあいつを、特別視していた事も否定出来ない。

 

あいつだから、あんな身だから必要とされてない───と。

 

だから俺はあいつの前では声高らかに

「仲間」だの「大切なパーティーの一員だ」と繰り返し述べていた。

それは唯の、安い同情でしかなかったのかもしれない。

 

 

でも……                                   (ダグトリオはともかくとして)

一番付き合いが長いドレディアさんに対して、そう言う事は一切言っていなかった。

 

少し考えれば気付ける事だったはずなのだ。

彼女は───研究所に『預けられた』。研究所で『生まれた』わけではないのだ。

 

ドレディアさんが生まれた場所から引き離され、研究所で過ごしていた中でも

異常で手に負えないという理由から隔離され、周りは見知らぬ研究者が歩くばかり。

 

そんな事すら、少し考えればいくらでも予想出来る状況に居た俺が

あろう事か全てをスルーして、考えに行き着く事すら拒絶していた。

 

その彼女にとって、今回受けた仕打ちはどれだけの苦行だったのか。

人に絶望して、俺がそこから引っ張り出して───さらに絶望を加え。

無意識といえど、これは殺されても文句が言えない鬼の所業だ。

 

 

前の世界の人生で、俺自身良くわかっていた言葉なはずなのに。

言われなきゃ、わからない事なのに。

 

 

 

 

─────想いは、正しく伝わらない。

 

 

 

 

同じ人間同士ですら、分かり合える事など無かったのに。

言葉にしなければ、全てを伝える事など出来るわけが無いのに。

俺はずっと彼女に対して───『それ』を怠っていたのだ。

 

「ドレディアさん、君は一人じゃない……

 俺が俺である限り、ずっと大切な相棒であり───『友達』だ」

「……ァ……ァァ……」

 

謝りながら、伝える。とても不恰好に映る事だろう。

今更伝えるものでもない、もっと普段から伝えていなければならなかった事だ。

 

だから、ドレディアさんを傷つけてしまった。

既に遅いかもしれないが、俺は謝る以外に何も出来る事が無い。

 

 

そして

 

 

ドレディアさんは

 

 

 

 

 

 

「ァァ……ァ……ァァー……!!

 ァァァァァーーーーーーー…………!」

 

 

 

 

───声を上げて、泣き出してしまった。

 

 

 

 

そんなドレディアさんを、俺はそっと抱き締め続ける。

俺が知らない彼女が抱えていた孤独な部分を、少しでも一緒に背負えるように。

 

 

 

ドレディアさんは───ずっと、泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

「でもこれは酷いと思うんだ」

「……#」

 

ドレディアさんが泣き止んで、持ってきたご飯を食べさせたら色が戻ってくれた。

いつも通りの緑の姫君な色合いである……本当に、良かった。

 

 

ンで戻った、よかったねと声を掛けたと同時にがんめんパンチを食らった。

威力が普段の二倍は出ていた気がする。顔面が陥没して前が見えねぇ。

 

 

「ま……すまなかった。本当に、悪かった」  ポンッ

「……ッ?!」

 

俺が謝罪を述べると、ドレディアさんがドン引きして後ずさりをする。

ちくしょー俺が誠心誠意を持って謝るのがそんなに───って、ん?

 

目を見る限り、なんかドン引きしてる内容がちょっと違うっぽいぞ?

なになに……ふむふむ。

【お、お前バケモノだったのかっ?! 顔が一瞬で戻るとかありえねぇッ!】

とな?

 

失礼な。ただの転生者だ。

 

 

「うん、とりあえずな」

「ディァ」

「人、いなくてよかったね」

「ッ…………!? ~~~///」

 

せっかくなのでちょっとした意趣返しをしてみたところ

ドレディアさんはその白い顔を即座に真っ赤にさせて、顔に手を当て屈み込んでしまった。

 

まぁ、あんな泣き姿を見られるのは彼女の本意でもなかろう。

PT内じゃ姐御な立ち位置だし、事実言われて白い顔どころか緑の部分まで真っ赤である。

 

確か、前世でやってたネトゲのROから派生してた『印象に残ったスレ』でも

ギルド内部の姐御肌なローグが、狩り中にペットのスポアに話しかけながら狩ってて

隠れて会話を記録してたヤツPvに強制召還して、ボコったって話もあったぐらいだしな。

 

アレは見られてはいけないシーンだろう。

そしてそんなシーンを作り出してしまった俺は、酷い奴であり──果報者なんだろう。

 

「さ、朝飯もこれから作らなきゃならない。  に戻ろっか!」

「ディッ!!」

 

そして俺らは立ち上がり歩き出す。輝く朝日の中、本拠地に戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

お互いに、一人じゃないと主張し合う様に、手を繋ぎながら。

 

 

 

 






にじファン掲載時より改稿しまくってます。
かなり気合入れたが、逆に滑ってるかもわからんが……

この話はにじファン掲載時においてもミロカロスに匹敵する良さだったようです。
感想数もいきなりズドンと来てたし。あれは帰ってきてびっくりしたわ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

53話 ダゲキ

多分新しく出てきたこのかくとうポケモン2人の末路は皆さんが想像していた通りだと思います。
基本的に斜め上にぶっ飛んだ内容しか書いていないが
たまには俺も皆さんの思い通りに動きます。


 

 

 

 

どうしよう。

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ダゲキが……ダゲキじゃなくなった。

 

 

 

 

 

……ッハ?! いかんいかん。周りを置いてけぼりで一人ごちてはいかん。

まずは思い返そう、一体ドウシテドンドコド。

 

 

そう、この一日の朝は……ドレディアさんと絆を深め合って、手を繋ぎながら帰った所からだ。

 

 

 

~~~時間逆流中~~~

 

 

 

「ま、多分みんな起きてないだろうからこそっと部屋戻るよ」

「ディァ~」

「あとなんか知らんけどもっさんとかアカネさんとか居たわ」

「oh……」

「まーそっちのほうは適当に言っておけば問題ないべさ。

 てか今ドレディアさんohって言わなかった? ohって。」

「ド、ドレ~ディァ~?」

「なんの事かなじゃねーよ。バレないとでも思ってたのかお前は」

「ディッ ★ミ」

「……まあいっか。俺の周りがおかしいことなんざ今に始まった事じゃない」

「ディ~、ア~」

 

そうだそうだ、と言わんばかりに肩をポンポンと叩いてくるドレディアさん。

実際んとこ俺の周りでおかしいのの筆頭ってダグトリオぶッちぎって君なんだけどね?

 

 

さーてもうちょっと歩けば愛しの  ……おや?

 

 

何やら影が見えたので目を凝らしたら、ミロカロスがポケモンセンターの入り口横にいるではないか。

んんん、出る時に起こしてしまったかな? そんでいなくなっちまった俺を待っててくれたとかかね。

 

お、ミロカロスがこっちに気付いた。

 

「ホォァァ~~~~♪」

「おーう、おはようー」

「ディーアー」

 

綺麗に鳴き声を上げたので……まあ多分朝の挨拶だろう、こちらも挨拶を返しておいた。

俺らがポケモンセンターに近づくのと同じく、ミロカロスもゆったりとこちらに寄ってきた。

 

「どしたんよミロカロス、こんな朝っぱらからあんなところにいて」

「ホァ~♪」

 

oh、なんと。

【お二人が仲良く帰ってくるのをお待ちしていたのですよ♪】ですと。

なんだ、静かに迎えに行く……訂正。懐柔しに行くの、バレてたか。

 

「参ったな、お前にゃかなわねぇや」

「~~~♪」

 

う、ぬ……このやろうニコニコしよってからに。

【その様子だとちゃんと仲直りも終えているみたいですねぇ♪】と言っている。

くそ、その笑顔なんかむかつくな。飯にハバネロ仕込んでやろうか。

 

横を見てみるとドレディアさんも再度ゆでだこになってやがった。

今なら特性もスナイパーになっていそうである。 

 

「ディ、ァ……///」

「~~~~♪」

 

ドレディアさんの体にシュルシュルと巻きついていくミロカロス。

何やら二人で会話っぽいのを始めたが、俺は特に興味が湧かない。

とりあえずは飯も作らないとなんねえし、とっとと台所に行こう。

サンドの分はさておいて、+α×3の分も作らなきゃダメかなー、やっぱ。

 

 

 

 

そんなわけで、飯も食い終わり修行場in俺ら。

なお、サンド連盟は招待しておりません。

俺が育成を頼まれたのはあくまでもあの二人。お金まで頂いているのだ。

そこに身内とはいえ無料で育成に近い形のネタばらしをするつもりは無い。

 

『面子』

・俺

・ドレディアさん

・ミロカロス

・321ダグ

・ミュウ

・ダナ

 

なお、朝の食事中に聴いたのだが……あのPTでの実力者はなんとサンドらしい。

レベルが30以上は開いているアカネさんのミルタンクですら歯が立たないそうである。

なんでだろう……? 俺と戦った時はディグダこそ急所で仕留めてたけど

ドレディアさんと戦った時は一秒で終わったよな……?

 

 

 

※一度修行に参加しているからです。若干バグってます。

 

 

 

まあそういうわけで、朝から育成訓練となったわけだ。

 

 

「そういえばお前等のレベルって全然見てなかったなぁ……

 ちょっと見せてもらうけど、別に構わんよな?」

「ピィョル!」

「ゥモン!」

「あいあいーっと、ポケズポケズっと……」

 

リュックをごそごそしてポケモン図鑑を取り出し、かちっと電源を入れてみる。

 

 

ブゥゥゥン。

電源が付いた。

 

 

「あれ?」

 

既に画面になんやら文字が書かれているな……なになに。

 

 

 

 

 

 

 

 

[> とうききゅうぎょうまえだおしちゅうにつき りんじきゅうぎょうちゅう

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は無言でポケズを全力投球して森の中に捨てた。

 

 

 

 

「いや、わりぃな。俺のポケモン図鑑なんか調子悪いみたいだわ。

 自己申告で申し訳ねえけど教えてもらえるか?」

「ぴ、ピィョ……;」

 

【あれはいいのですか?;】とな。良いに決まってんじゃん。知らんわもう。

 

 

「ゥモン」

「ピィョルォォォン」

 

ほうほう。

 

ナゲキがLv81でダゲキがLv43とな。

 

 

 

 

 

「いやいやいやいやいやいやいや。81とかあんた」

「ゥ、ゥモン……」

 

ナゲキやべえ。

いや、でもコクランさんだしこんなもんなのだろうか……?

 

ていうかドレディアさん、あんたが一撃で倒したダゲキLv43なんですけど。

属性一致してるわけでもないのにLv12の差を一撃ってあんた一体なんなんだ。

しかもダゲキって特性がんじょうなのが有名じゃなかったっけ……?

 

「ディッ!!」

 

えっへんとなんやら無駄に自慢げにしてていらついたので、胸を揉んだらぶん殴られた。

 

「ま、とりあえず俺らの訓練方式から行こうかー」

「オッス!」

「オッス!」

 

というわけで訓練開始。まずは概念からの説明である。

 

「一応前提として確認させてもらいたいんだけどさ。

 ダゲキは投げるのが嫌で、ナゲキは殴る蹴るをしないんだよな?」

『(コクコク)』

「それってプライドかなんか?」

『オッス!!』

「ぜってー譲れない?」

『ッ……! ……。』

 

【出来る事ならご勘弁を……】か。

まあ嫌がってるって訳じゃなければ別にいいかな。正直適当に論破すればいいし。

 

「まあオッケーオッケー、わかったわ。そこら辺は考慮しておくな」

『オッス!!』

「じゃ、早速学んでもらおうか。まず最初にひとつ……

【勝ちにこだわれ。例え何を使ってでも】。

 これ、一番重要だからしっかり記憶するように。」

『……?』

 

【当たり前のことでは?】と首を傾げる2人。

まあ言葉だけじゃよくわからんよなー。「何を使ってでも」って言われても。

 

「ま、俺らが普段やるのはトレーナー戦だからさ?

 なんでも使える状況って限られてっけど……

 野生のポケモンと戦う時なんかはルールなんてないだろ?」

『(コクコク)』

「一応は野生での戦いを想定して、教えを吸収していってくれ。

 あとダゲキ。お前にはまず投げを教える」

「ピィョ?!」

「ああ、待て。慌てるな。

【言ってる事が違う】ってのもまあ言葉だけならその通りだが

 別に投げるっつっても掴んで投げるだけが『投げ』じゃない」

「? ???」

 

ちょっと言葉遊びのような状態になってしまったので

さっそくだがダグ共に参考例をやらせてみることにした。

 

「じゃ、まずはダグONEに模範演技をしてもらおう」

 

TWOとⅢは演技のために既に動いている。

木片を2個設置完了。仮に木片A、Bとする。

 

「んじゃダグONE頼むー」

「ッ!」

 

シュッ

バコォッ。A    →   →  → →  ΣAB パカァン

 

「という感じにだな。

 ひとつの対象を蹴り飛ばして、相手にぶつけるといったイメージだ」

「オッス」

 

今ダグONEにやってもらったのは木片Aを蹴っ飛ばしてBにボーリングしてもらったという図である。

 

「本来ならこれも掴んで投げた方が簡単だな? でもってダゲキはプライドがあるからやらん、と」

「(コクコク)」

「なら蹴り飛ばせば良い。以上」

「─────!」

 

【なるほど、やはりそういうことか】ですってよ。

お前どこのダディャーナザンだよ。

 

「他にも小技としてー。」

 

俺はつま先を森の地面にザッシュザッシュと打ち付ける。

土が若干掘られてやわらかくなった。

 

『……?』

「こうしまーす。」

 

土につま先をつけたまま前蹴りをする。

当然つま先に乗っていた土は蹴りの軌道と同じく

バラけながら放物線を描いて飛んでいった。

 

「蹴る事を目的とせず、元から土を飛ばすために蹴るッつー事な」

「……オッス」

 

どうやら余り納得がいかないらしいが……ここで詭弁の登場である。クケケケ。

 

「お前はまあ自称武道家だし、こういう卑怯なのは嫌かもしれんがな?」

「……」

「勝たなきゃ意味ねえんだよ」

「ッ?!」

 

それは納得出来ない!! とばかりに立ち上がるが……俺はそれを手で制す。

 

「いいか? 勝てば官軍負ければ賊軍なんて言葉もあってな。

 内容を主張出来るのは決まって勝者なんだよ」

「ッ─────」

「負けた方が何を言ったところで負け犬の遠吠えだ。

 だったら合理的な手段なら何をやってでも、まず勝たなきゃ始まらない」

 

歴史ってのは大体が勝者が勝手に改ざんして作り上げたモンなはずだ。

参考例は常に勝者でしかない。素晴らしいまでに弱肉強食である。

 

「だから反則じゃなければ何をしても良い。最低限維持したいプライド以外は捨てろ。

 とにかく、勝て。考える限り出来る事をやりつくして、それでも無理なら負けろ」

「───オッス!!」

 

強引にねじ伏せる理論になってしまったが、まあ間違いすぎちゃいないだろう。

ゲームでも、試合でも、勝ったヤツが正しいんだ。

 

厨キャラ? 卑怯? それがなんだというのか。なら何故お前等はそれを使わない?

 

結論はこうなる。勝たなきゃ何も始まらない。これは真理である。

 

 

 

 

そんな感じに、戦場での心構えを懇々と説いていった。

まあ今回はダゲキ寄りに説明させてもらっているが、今はまだ偏っててもよかろう。

 

んで次は実技指導ってことで色々とテクニカルな技を教えている。主に陣内流柔術。

幸いダグトリオがしっかりと覚えているから、蹴り当てや打撃技をすっぱ抜いて

体捌きも踏まえ、それを指導していたわけである。

 

 

で、教えてる最中に閃いた。

元々陣内流は教える予定だった。でもってダゲキは胴衣を着ている。

黒い胴衣にしたらもっと陣内流っぽくなるんじゃね? って思ったのだ。

 

んっふっふ、用意しておいたんだこれが! ご都合主義? 万歳三唱。

細かい作りは覚えてないけど、黒い胴衣を着せればもはや陣内流にしか見えぬ!

 

そんなわけで。

 

「そうそう、ダゲキにプレゼントがあるんだ」

「ピィョ?」

 

リュックから黒い胴衣を取り出して、ダゲキに見せてみる。

 

「これは今教えてる陣内流って技を作った人たちが好んで来ている胴衣でな。

 カッコイイと思わんかねダゲキ君。これを君にあげようと思う」

「ッ!?」

 

【いいんすか師範?!】と意を返してきた。

んっふっふー、もちろんではないかダゲキ君。君のために用意したのだから。

 

「サイズは適当だけど動き難い作りにはしてないはずだ。

 よかったらさっそく着込んでみてくれ」

「ピィョルォォォォォオン!!」

 

横で【いいなー】とか思いながら見ているナゲキは一旦置いといて。

ダゲキは礼を持って俺から胴衣を受け取り、早速着込んでいた。

胴衣の下はあれだったわ。ダグトリオと同じ感じ。

チクビがなくて股間の王者も存在していない、全身タイツ風味。

 

 

 

そして着替えが完了し、俺らの方に振り返ったダゲキ。

 

「おぉぉぉお……!!」

「ディ……!」

「ホァ……!!」

「Zzz……」

 

寝るなやミュウ。見とけや。お前の授業も兼ねてんだぞ。

 

まあともあれ、今までの白からいきなり黒になったって斬新さもあり

なんかすんげーかっこよくなりやがったダゲキ。

 

「すっげーぞ! 似合ってるッ! 超似合ってるー!」

「───。」

 

 

 

 

 

あれ?

 

なんか様子おかしい。

上を見上げて……なんかダゲキの体がどくんどくんと……心臓が動いてるのがわかります。

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり光りだした。

 

 

 

 

 

 

 

「ぅおおおおおおおい!!??  お前もか?!」

 

 

 

 

セイリュウに引き続きおめーもかコノヤロウ?!

どーなってんだよ俺の周り本当によー!!

 

 

あれ?

でも光ってる割には音楽とか無いな。

いつもならでんでんでんでー♪ってなってんのに。

 

あ、臨時休業中って書いてたっけそういえば。

とことん役に立たねぇなあいつ。

 

 

てか進化させていいのこれ?! カズ君に許可とか必要なんじゃねーのこれ?!

しかもダゲキって進化しないはずだよね!?

 

 

 

 

って迷っているうちに進化直前までっ!!

もう間に合わな───

 

 

 

ピカァァァァァァァァァン!!!

 

 

 

「ぬわーーーー!!」

「ディァーーーー!!」

「ホァァァー!!!」

「Zzz……」

『(地面に犬神家)』

 

 

ダゲキがとんでもなく眩しい光を最後に放ち……光が収まる頃、俺はダゲキが居た所を見た。

 

するとそこには

 

 

 

 

 

 

 

買ってやったオニューだったはずの胴衣の上着のうちの

 

腕を通す部分が何故か既にボロボロでちぎれており、まるでベストのようになっていて

 

そのベストの肩からは気迫なのかなんなのか、オーラみたいな炎がゆらゆらしていて

 

黒かった瞳は赤い瞳孔になっていた。

 

そして顔の形も瞳以外に何も変わらず、頭もしっかり坊主のままだが

 

何故か首の周りにでっけー数珠がついている。

 

極めつけに、胴衣の背中には……ただ一文字。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、光り輝いていた。

 

 

 

 

「メッサツ……!」

 

 

その見た目から連想出来るのは、もうアイツしかいない。

 

 

「ご……ご、ご……」

「ディ……?」

「ホ~ァ……」

 

 

 

 

 

「豪鬼だぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

そこにはストIIの豪鬼そっくりになってしまったダゲキが立っていた。

あ、でも顔は鬼みたいではない。格好だけね。

 

それはさておき、もうなんていうかなんだろう、なんなんだろう。

どうすればいいかわからない。もう帰って寝ようかな。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

54話 ナゲキ


完全に趣味が入ってます。




 

 

 

 

どうしよう。

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ナゲキが……ナゲキじゃなくなった。でもぶっちゃけこれはかなり嬉しいな。

 

 

 

 

 

……ッハ?! いかんいかん。周りを置いてけぼりで一人ごちてはいかん。

まずは思い返そう、一体ドウシテドンドコド。

 

 

 

そう、あれはダゲキがなんか豪鬼っぽいのに進化して

問題を色々片付けた翌日、つまり今日の事だ。

 

 

 

 

~~~~~時間逆流中~~~~~

 

 

 

 

さて、時をすっ飛ばして悪いのだが基本的にダイジェストだ。

 

 

まず……帰って寝たくなったゲフンゲフン、帰って寝たくなった出来事であるダゲキの突然進化。

ストⅡの豪鬼にしか見えない進化を遂げてしまった件だが……

 

ストⅡの豪鬼も人の話を聴く気配がないという印象は持っていたが

それと同じでこの元ダゲキも進化した直後から人の言う事を一切聴かなくなった。

なんかこう、ただひたすらに自分の拳を確かめたいみたいなオーラが出まくってて……

 

 

仕方が無いからこうしてやった。

 

 

1.勝負を挑む。相手はドレディアさん

2.試合は白熱、進化系のLv43相手に普通にやりあうドレディアさんが恐ろしい。

3.途中でダグトリオも参戦させる。全員ヒートアップの上で元ダゲキ超不利。

4.トドメにナゲキとミュウも参戦させる。

5.ミュウのサイコキネシスで足固め

          ↓

  ダグのトリプルリンダさんシュート

          ↓

  ドレディアさんのうまのりパンチでオーバーキル

          ↓

  暇だったので俺もトドメにメリケンで股間にパンチ1発

6.ぶん投げたポケズを回収後、カメラモードを起動。

7.服、全部ひんむいて素っ裸にして吊るして写真撮影。

8.起きた後全部を説明、素直にしなきゃ増刷してバラまくと脅す。

9.平和的解決。被害は何も無かった。

 

 

平和っていいもんだよな~。

 

 

「…………オッス……!」

「おいおい何悔し涙流してんだよ。別に何もなかったんだからいいじゃんかよー」

「ッ…………;;」

 

俺にはよくわからないがどうやら結構悔しいらしい。

一応卑怯だぞと元ダゲキにも言われたんだが

 

「知らんよ」

 

って言ったら黙りこくった。俺が一体何をしたと言うんだ。

 

 

「ディ……」

 

 

あれ、ドレディアさんにも非難の目を向けられた。

何故だ、何故なんだ。誰か教えてくれ。

 

 

 

 

そんな感じで訓練どころじゃなくなったから、その日はいい時間になってたしそれで終了。

帰った後にプリキュア達とのふれあいもあったのだが、サンドのほうが大事なので割愛。

元ダゲキも元ダゲキで帰ってきた後に俺の飯がある事を思い出し

 

【逆らってたら飯が食えなくなる……!? → プライドなんてカスだろ】

 

という結論に達したようで、すっかり大人しくなった。

まああの写真は何かあった時用に保管しておくが。

 

 

そして翌日である今日。普通に修行を再開して

元ダゲキは実力が上がったのもあるし、ダグトリオ全員を相手取り組み手をやってもらっていた。

実質ダグトリオ、あいつら一匹一匹がイカれたステータスのディグダって感じだから

進化して実力が跳ね上がっててもさすがにきついようである。

 

加えて、元ダゲキが俺をチラチラ警戒してやがる……なんもしねーっつーの。おそらくは。

 

とりあえずあちらはアレで放っておいてもいいだろう。

次はナゲキへの概念説明だ。それに加えて投げという限定なら

色々と教えられる事も多いはず。関節技とか。

 

 

「じゃ、あっちはあっちでやらせておくとして……今日はナゲキに色々と教えて行こう」

「オッスッ!!」

 

きっちり正座して俺の話を聞くナゲキ。

さすが執事のポケモン、礼節がしっかりしているもんだ。

 

「ナゲキに聴きたいんだが、投げってどういうもんだと思ってる?」

「ゥ……ゥモン?」

 

ある意味なんだそれはと言われても仕方が無い質問をし

案の定ナゲキは返答に困ってしまったようだ。

 

一応結論は【掴んでぶん投げる】という回答をもらった。

 

「まあ、それで問題ないよ。じゃあナゲキは『どこを』掴んでぶん投げる?」

「…………?」

 

【そりゃぁ……腕とか服っぽいのがあればそことか……】

 

ふむふむ、まあやっぱりってところか。

あの模擬戦でも感じたが、ナゲキの中では『投げ』は『投げ』でしかないようである。

 

「じゃあまずその概念を拡大していこうか。

 今から攻撃するからちょっと躱してくれるか?」

「ゥモ……ン?!」

 

そうして俺はテキトーに、それこそ10歳という年齢同様程度の子供騙しの蹴りをナゲキに入れる。

見え見えだったのもあり、普通にナゲキはそいっと体を反らしてかわした。

 

で、俺は蹴ったままの体勢でストップ。そこでナゲキに問う。

 

 

「今、この瞬間さ───足を掴んで投げれないか?」

「ッ?!?!」

 

言われてハッとし、お試し程度に俺の脚を片手で掴んでみるナゲキ。

 

「今回は俺が事前にお前に対して警告してたから、軽く躱せたけどナ……

 まあ実戦じゃそこまでうまく行かないもんだ」

「オッス」

 

見るからに鈍足そうだしな、ナゲキって。

 

「でもそれをまた、別の方向性を持ってうまくやる方法がある」

「…………?」

「今度は躱しちゃダメだぞー」

 

そう言って俺はのんびりとナゲキに対して拳で手を出した。

威力も無い子供の拳なのもあり、俺の手はナゲキの肩にトンッと当たって止まる。

 

「今、俺の攻撃に当たっちまったよな」

「オッス」

「ここで掴んで投げればよくね?」

「!」

 

そういうこと。

この世界、カウンターはカウンターとして存在するが

別にカウンターが発動する際、拳や蹴りでなければならないというルールは存在しない。

 

ナゲキは体格上、やはり鈍足タイプのようだ。

しかしこれでタフではない、と言われても俺は信じられん……受け止める硬さ位はあるはずである。

 

「そういう形で考えたらさ、あの時の模擬戦のダグONEも蹴り頻繁にやってたろ。

 当たって止めて掴んでってやれば、まだ攻撃をしっかり発動出来てただろ?」

「オッス!」

「『要は考え方次第』ってことさ、別に自分から掴みに行かなきゃなんねーって事もない。

 掴める所で掴む、これが大切だと思うんだ」

「(コクコク)」

 

こんな感じで概念を植えつけていった。

 

 

「じゃあ次は技を教えていこう、ドレディアさんお願いします。」

「ディッ!」

 

そうして、ドレディアさんの出番が回ってくる。

さて、なんでここで打撃技が主体の……しかも人にモノを教える事にとことん向いていなさそうな

緑の暴れ姫・ドレディアさんをここで引っ張ってくるか?

 

んっふっふっふ……何気に彼女は打撃技だけではないのだ。

そう、何を隠そう彼女は……

 

 

 

 

 

『プロレスわざ』を覚えている!!

 

 

 

 

 

「そんなわけでドレディアさんは色々と投げ技を使える(はずだ)から

 投げに該当する事をナゲキに吸収していってもらう」

「ゥモン!!」

「手ぇ抜いて覚えちゃうとあーなっちゃうからな?」

「?」

 

そう言って俺が指差した先をナゲキも確認する。

その先にはダグ共の連携技を完璧なタイミングでモロに喰らって

ぶっとんで木に激突してめり込んだ元ダゲキが存在していた。

 

今必死にミロカロスが木から取り出そうと頑張っている所だった。

 

「(゜д゜)」

「ドレディアさんはあーいう方向の手加減、皆無だからな。

 油断してっとレベルが圧倒的でも昨日のダゲキみたくなっちまうよ?」

「(;゜д゜)」

「ディ。」

「(コクコクコクコク)」

 

そしてナゲキはより一層気を引き締める。

非常に説得力がある風景が近場にあってよかった。

 

「じゃぁドレディアさん、ナゲキに技を教えてやってくれ」

「ディァッ!!」

 

威勢の良い声と共に、ドレディアさんは草スカートの中からビンの栓抜きを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てやコラァァァァーーーーーーッッ!!

 おまっ、なんでよりにもよって最初に教えるプロレス技が凶器攻撃なんだよっ!!」

「ディァーッ?!」

 

【プロレスと言ったらこれしかないだろ?!】とか返してきやがるドレディアさん。

お前は一体何処で間違った知識を吸収してきてんだおい。

 

「投げ技系を教えるっつっといてそれはねえだろッ!アホかッ?! アホなんですね!?」

「……#」

「(´д`)」

 

あまりの内容にナゲキが呆れてしまっていた。

無理もない……なんで投げを教わるためにここにいるのに、いきなり栓抜きを出されなければならんのか。

 

 

 

 

ま、そんなこんなでナゲキには色々と教え込んでいった。

 

「そうそう、そうやって首から引っこ抜くように持ち上げて

 地面に叩き付けるのを垂直落下式DDT、またはナイアガラバスターって言うんだ」

「オッス!」

「ディッ!」

 

 

「こんな感じに足を組み合わせるとすっげー痛いだろ。

 人間系限定だけど、間接の攻撃も非常に有効だ。これを足四の字固めと言う」

「ゥモーーーーーーーーッ!!」 パンパンパン

「ディァーwwwww」

 

 

「そう、肩で持ち上げて……相手の背骨を自分の首を軸にして

 折るように締め上げるのを、アルゼンチンバックブリーカーって言うんだ」

「ゥモーーン!!」

「アッーーーーーーーーーー!!」

 

ちなみにキン肉マンだとロビンマスクが使う『タワーブリッジ』に該当します。

 

 

「そんな風に自分の体重も使って、相手を道連れ式に叩き付けるのを

 S・T・O、正式名称スペース・トルネード・オガ○だ」

「ゥ、ウモン……?」

「うん、大丈夫。結構痛いけど大丈夫。あとでミロカロスとサンドに癒してもらうから」

「m9wwwwwwwwww」

「指差すなドレディアコノヤロウ#」

 

 

 

 

 

 

「教えていくと時間なんてあっという間に過ぎ去るなー……」

「ディーァ」

「オッス」

 

他にもパワーボムだの、パイルドライバー、あの時使ったキャメルクラッチ。

挙句の果てにはラリアットだのと教えて行き(STOへ派生するといって無理やり納得させた

気付けばもう時間も15:00辺りである。

途中元ダゲキはしこたまダグトリオにぶっ飛ばされたらしく

気迫も形無しである。とりあえず横目で見て8回K.Oされてたのは確認した。

 

「ま、今日覚えた事をこれからの模擬戦にも役立てて、実戦で躊躇しないように訓練していこう」

「オォッスッッ!!」

「明日はナゲキがダグトリオと戦ってもらうからね」

「(゜д゜)」

「大丈夫大丈夫。お前Lv81だろ? そんな簡単にやられねえって。

 逆に倒せんじゃないのか?」

「……(;゜д゜)」

「あ、やっぱきつそう……?」

 

 

Lv81がここまでの顔をするとか……どんだけぶっとんだステータスしてんだよダグトリオ共は。

 

 

「ドレディアさんもお疲れ様。

 今日はありがとうね、知ってる人が一人居るだけでやっぱ違うもんだわ」

 

俺は頭の花辺りをぐしぐしと撫でながら、横に居たドレディアさんに礼を言っておいた。

 

「~~~///」

 

あら、こんなのでも赤くなっちゃうか。

素直に礼を言われるのに慣れていないってところか。

 

 

……なんすかミロカロスさん。こっち見てニヤニヤすんなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ててててーん♪

 

 

「ん?」

「ディ?」

「オッス?」

 

これは……ポケズのアラートだ。

あれ? 今冬季休暇の前倒しで臨時休業とか書いてなかったっけ。

アプリ的なもんは使えてたけど。

 

とりあえずテントの中においていたリュックからポケズを取り出し、操作をして画面を表示させてみた。

 

[> ダグトリオ?は

   レベル29ていどに あがった!

 

[> ゴウキ(でいいですよね もうめんどいし)は

   レベル45ていどに あがった!

 

[> ナゲキは

   レベル82ていどに あがった!

 

ふむ、まあ修練の終了と取られたんだろうな……けどなんだこれ、突っ込み所が満載すぎる。

 

そうか、あいつは見た目のまんまゴウキって名前になったか。

なんか今画面上で妙な同意を求められた気がするが……

あんだけ育ち難いダグトリオでも、あれだけ組み手をやらせたら3も上がるか……そんな事より。

 

「お前休業中じゃなかったの?」

 

[> わたしたちの とうききゅうぎょうは きほんてきに

   たったの1にちしか ないのです

 

「ああ、そうなの……」

 

ブラック企業乙って感じだが、すっげーどーでもいい。

 

「てーかお前さぁ。いやお前ってか中の人。

 あんたこの世界のどっかのコールセンターとかそんなのから見てんだろ」

 

[> コールセンターとは なんでしょうか?

 

あれ?

 

「いや、あんた明らかに中身人間だろ」

 

[> いえ わたしの なかみは

   ただの ポケモンずかんで ございますよ?

 

……。

こりゃ博士に持っていって換えてもらっても無駄そうだな。

子供の夢は壊してはならないってか……。

 

 

ぴこぴこん♪

 

 

「え」

 

 

 

おい。

最近この音聞いたぞ。

なんか、元ギャラドスの辺りで。

なに? 進化すんの? 誰がだよ。

 

 

[> おや ……!?

   ナゲキの ようすが ……!?

 

 

……はぁ、またか。

三回目はさすがにお腹一杯です。

 

 

そして恒例の音楽とともにナゲキが光り輝き始め───

 

 

 

 

 

フォ~フォーン、フォフォーフォフォーン。

フォーフォー、フォフォフォフォフォフォーン。

 

 

 

 

「え……」

 

 

 

 

なんだ、この音楽……いつもと違うぞ?

いや、っていうか……俺、この音楽聴いた事あるぞ……!?

 

 

 

「な……これ……ま、まさか……!?」

「ディァ?」

「ホーァ?」

 

 

 

お、おまっ……ポケズ……!? なんでお前がこの音楽を……!?

この世界にあの人は存在していないはずだぞ?!

いや、それどころか既にあの現世にすら───

 

俺の動揺は完全に放置され、ポケズからは「あの音楽」が流れ続け

ナゲキはどんどん進化のフォルムを形成していく。

 

 

 

 

フォーン、ダンダンダッダダン、ダダッダッダダダ↓

 

ダンダンダッダダン、ダダッダッダ、ダダッダン。

 

 

 

 

そして俺が知る、「あの音楽」の前奏が終わると同時に

ナゲキは、一層光り輝き───!

 

 

ピカァァァァァァン!!

 

「ディァー!」

「ホォァー?!」

 

例の如く、うちの子達は驚いて目を伏せるが

俺はこの時ばかりは光も気にせず、ナゲキを注目するしかなかった。

思わず期待せずにいられない。あの音楽が本物なら……

例え本人でなくとも、本人ではなくとも……!!

 

 

 

 

 

光が収まりそこに居た元ナゲキは

 

身長が1.3mからおそらくは1.8m辺りにまで伸び

 

着ていた柔道着は姿形もなく、見につけているものは

 

黒長に炎をあしらったかのような赤い模様が混ざったズボンと、変わらぬ太眉頭部に白い鉢巻。

 

体格も身長こそ伸びてはいるものの、そのずんぐりした体格はなお変わらず。

 

そう、まさに。プロレスラーの名に冠する体格だった。

 

 

 

 

             ~推奨BGM:爆勝宣言~

 

 

 

 

 

 

「ッシャァオラァーッッ!!」

 

 

 

 

 

[> おめでとう!

   ナゲキは ハカイオウに しんかした!!

 

 

「は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 橋本ォォォォオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

 

 

ただの、進化した手前の似ている形なのだろう。

ダゲキの元ネタだって、漫画か現実かはわからないが

熊殺しの人をモチーフにされているっぽいと聞いた事がある。

 

そして、このナゲキの進化のモチーフは明らかに……

2005年に急逝してしまった、元新日本プロレス、闘魂三銃士の一角。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

破壊王・橋本真也の姿となった元ナゲキが、そこに居た。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

55話 アイツ

ダゲキ進化条件
1.タツヤとそこそこ以上に付き合う
2.くろいどうぎを所持する

ナゲキ進化条件
1.タツヤとそこそこ以上に付き合う
2.わざ「プロレスわざ」を覚えた状態でレベルアップ

こんな感じになっております。


 

 

どうしよう。

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイツが……なんかおかしなことになった。

 

 

 

 

 

ッハ?! いかんいかん。周りを置いてけぼりで一人ごちてはいかん。

まずは思い返そう、一体ダディャーナザァンッ!! ナズェ、ミデルンディスー!!

 

 

 

 

そう、あれはナゲキがハカイオウに進化して

訓練もちょうど良い区切りになったので帰った、つまり今日の事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハカイオウに進化した元ナゲキは、さすがにゴウキとは元ネタが違うせいか

そこそこに温厚であり、手間がそこまで掛からなかった。

 

とはいえ、やはり自分の新しい力を試したいのか

力は(みなぎ)っているらしく、正式な模擬戦を申し込まれた。

 

というわけでこちらが出したのはミロカロス。

 

面倒なので無条件降伏、としようとしたら流石に全員に白い目で見られた。

挙句にミロカロスにガチ泣きされてしまった。すんません。

 

とりあえずせっかくだからということで、同じ訓練生のミュウをあてがってみる事にした。

 

進化前にも結構、仲がよかった印象があったが

試合に関しては別らしく、二人共真剣な空気を出していた。

 

直接的にミュウには指導をしていないものの、ダグトリオvsゴウキをじっくり見ていたり

俺らのプロレス技指導の方でもどういうのが有効か、と確認していたので

悪い試合にはならないと思っていた。

 

「それじゃー……始めっ!」

「ッシャオラァーーッッ!!」

「ッミュ!」

 

合図と同時にハカイオウはなかなかの速度でミュウに詰め寄る。

対してミュウはハカイオウの直線から横に動き、激突だけを避けるような動きに移る。

 

「ッシャー!」

 

その動きを確認したところから、ハカイオウは力強く地面を踏み込み

まさに踏んだ場所を爆発させるかの如く地面を蹴り、ミュウにさらに詰め寄った。

 

 

そこにミュウがすかさず

 

「ミュゥーーー!!」

「ッ?!」

 

足にサイコキネシスをぶちあて、つんのめらせた。

これは昨日ゴウキ暴走中にトドメの流れの起点になったヤツだな。

 

突然バランスを崩され、ハカイオウはもつれて倒れこんでしまう。

 

「ミュミュミューゥ!!」

 

倒れた所で、そこら辺に転がっている小石や枝等にねんりきを仕掛け

全ての小物をハカイオウへ殺到させる。

全方位から突き進んでくる小物ではさすがに逃れられないだろう、と思った矢先。

 

「ッシャァァアアアアアアアアッッ!!!」

 

即座に立ち上がったハカイオウは全体重と威力を込め、地面に足を振り下ろした。

 

 

ズっどん!!

 

 

重厚な音と共に土やら小石やらがめくれ上がり

殺到していたミュウの小石枝に当たり、結果ミュウの操っていたものは全て地に落ちた。

 

「おぉー」

「ホァー」

 

なかなかに良い攻防だと思う。

ポケモンバトルに似て非なるものなのがまたベストだ。

 

「って、あれ? ミュウどこ行った」

「ディ……ディァ!」

 

ドレディアさんが指差した(指無いけど)方向、上を見てみると

ミュウが戦闘機さながらの動きで空を動き回っており、その周りには

木の葉が渦巻いているのが見える。

 

「おーwwwロックマン2だwwwウッドマンだwww」

「ァー?」

「ホァー?」

 

まあ君らはネタわからんよなー。

横でゴウキもうずうずしているが、まあ今回は自重しているようである。

 

「ミュゥゥゥウウー!!!」

 

その木の葉を高速で自分の周りに纏わせたままミュウはハカイオウに突撃していった。

 

かなりの速度である。さすがにこれは躱しきれないかな?

 

 

 

 

ヒュガッ!!

 

 

 

 

勢いがあり、なおかつ軽い音が場に響いた。そしてその場に存在していたのは……。

 

 

 

「ッシャー♡」

「ミュゥゥー;;」

 

 

 

ミュウの攻撃をギリギリまでひきつけ、すんでの所で軸をずらし

すれ違い様にミュウの尻尾をしっかり掴み取った、ハカイオウが居た。

 

 

「んむ、それまでー。

 いいねぇ、ハカイオウ。ちゃんと今日の教訓が生きているようで何よりだ」

「オッスッ!」

「ミュゥー;;」

「はいはい、ミュウも泣かない泣かない。まずレベルが圧倒的に違うんだから」

 

そういう意味では小技が目立ったが、ミュウだって頑張っていたはずである。

しかし一回掴んで投げられたら、それだけでオーバーキルになるので

ハカイオウもそれを理解し、掴んだ時点で勝負が付いたとして

それ以上何もしなかったんだろうな。手間が掛からなくて良いことだ。

 

 

「楽しかったか? ハカイオウ」

「ゥオォォオッス!」

「良い返事である。明日はゴウキとやりあうのもいいかもしれんね」

「!」

「───!」

 

その言葉に二人で反応し、そして二人共同じタイミングで向き合い始める。

やはり新しい体をしっかり使い込みたいのだろう。人間にはわからぬ感覚だな……。

 

「ま、それもこれも明日だ、明日。

 今日は帰ってご飯と風呂してゆっくりしようぜー」

「ディァー!」

「ホーァ!」

『ッ!bbb』

「ミュゥー!」

『オーッス!!』

 

 

 

 

んで、修行場からポケモンセンターに戻る最中にプリキュアを見かけた。

あちらもすぐにこちらに気が付いたらしく、手を振りながらこちらへ来る。

 

「おーっす。今日はもう終わりなん?」

「どもっす、アカネさん方。今日は帰って飯食って風呂で終わりの予定です」

「へぇ、そうなんだ……

 ところでなんか教え子の二人、様子変わってない?」

「メッサツ!!」

「ッシャオラー!」

「鳴き声まで変わってますね……どうしたんですか?」

「進化した。」

『(゜д゜)(゜д゜)(゜д゜)』

 

やはりこの世界でもゲームと同じくダナゲキが進化しないのは当たり前らしい。

お前等どうしてこうなったんだ。

 

「まぁ、ええか。タツヤんの事やし今に始まった事やないやろ」

「あー、まあそう言われればねー……ミロちゃんの件もあるし……」

「ホァァ~~♪」

 

会話の流れから後ろに居たミロカロスが綺麗に鳴き声を上げる。

あの時は本当に凄かったなぁ。性格の変貌っぷりが。

 

「なぁなぁ、もしかしてうちのミルタンクもタツヤんに預けたら

 なんかビックリ進化とかせえへんかな? せえへんかなぁ?」

「しないでしょさすがに。一体これ以上どう進化するっつーんすか。

 アフロつけてアフロブレイク?」

「ただのバッフロンやんかwwww」

「もうこの際だから改名してチチアフロとかそういうのでいいんじゃないすかね」

「wwwwwwwwwwwwwwwwww」

 

アカネさんはドつぼの範囲が広いようである。

そういやカズさんもミルタンク持ってたっけか。

 

「あ、そうだタツヤ君。

 私達これから街中でお買い物するんですけど、よかったら一緒にどうですか?」

「買い物っすかー……俺、修行開始する前に欲しいもん揃えちまってるしなー」

「そ、そうですか……残念──」

 

 

 

                 ───ーぃ!ぉーい!>Ω

 

 

ん、あれ……? 遠くで赤い何かが俺らに声をかけている。

シャアかな。

 

「ん、誰やあれ?」

「さぁ、私は知らないけど……」

「わ、私も……じゃあタツヤ君のお知り合いですか?」

「うん、あの人レッドさんっつーんだ。こっち来た時にでも詳しく紹介しますよ」

 

 

そんな会話をしているうちにレッドさんが合流した。

シャアじゃなかった、残念。

 

「やぁ、タツヤ君! こっちのお姉さん達は?」

「久しぶりーとかそういう挨拶一切無くプリキュア達に注目が行く辺り

 俺の事などどうでもよさげな感じがして俺は深い悲しみに包まれた」

「え、あ、いやっ! そうじゃない! 大丈夫だよ!!

 そういうわけじゃないんだっ!!」

 

 

 

ふん、この女ったらしめ。

アニメでもとっかえひっかえ美少女と旅しやがって。

ところでみんなは誰派だね? 俺は問答無用でアイリスだ。

 

 

 

「まーどうでもいっすわ……こんにちわーレッドさん。セイリュウ元気にやってます?」

「あーうん、元気だねぇ……元気すぎて───」

「待ちぃなタツヤん。会話始める前に互いに紹介ぐらいさせてぇや」

「あ、じゃあ俺あっちでサンドと遊んでますわ。

 もっさん、サンド俺にくれ。具体的には所有権。」

「……今だけだからね」

 

そしてサンドを出してくれた。

 

「キュ~♡」

「よーっす。うーむお前は相変わらずかぁぃぃのぅー」

『#』

 

ぐりぐりと抱き寄せながらサンドと触れ合う。

あぁ、レッドさん。その三人もうお持ち帰りして結構ですよ。

俺はサンドがここにいればいい。

 

 

 

 

楽しくサンドと触れ合っていると時間はすぐに過ぎるらしい。

具体的には4分ほど。あちらの自己紹介も終わったようである。

 

「なぁ、タツヤん……wwコイキングに海パン食わせて進化させたてホンマ?ww」

「あぁ、マジっすよそれ。その後のオチも聞いてますよね」

「あんたホンマなんやねんなwwwwwwww」

「俺に聞くなやwwwwwww」

「本当にタツヤ君は色んな事をしているんですねぇ……」

「料理も出来るし訓練の腕も多彩ってところだもんねぇ。

 それでなんで野良のポケモンバトルではたまに負けるのかしら?」

「さぁ、相性じゃねぇの? 勝ちたいとも思わんし」

「君ほど貪欲の欠片も無い子って珍しいと思うわ、私」

 

やるからには勝ちてぇけどさ。

勝つためにポケモンバトル、って形にはしてないなぁ。

 

「んでんで? レッド君、さっきのセイリュウって子見せて見せて!!

 めっさカッコええんやろ? うち見てみたい!!」

「あ、私も興味あります!」

「あーうん、すっごいでかいけど大丈夫かな……?」

「ま、いんじゃねーすか? 人通りのど真ん中ってわけじゃないし」

「そーだね、じゃあ……セイリュウ、君に決めたっ!」

 

ここですらそれを言うか。まぁ良い台詞だと俺も思いますけどね。

戦闘中以外は別にいいんじゃねえの? とも思う。

 

そしてセイリュウが出てきた。

 

「ギュガァーー!」

 

『おぉぉぉおおおおおおお!!』

 

今日のボイスは控えめなようである。

まあ、あのボイスをここでやられたら俺が再びキレそうだが。

 

「ギュガ~~♡」

「お、おぉぅ、うむ、俺は元気だぞセイリュウ」

 

俺にその巨体をくねらせ近寄ってきたセイリュウ。でっかい顔を俺の頬に擦り付けてくる。

ごつごつしていないのだけが救いだ。まあ倍率的な意味では完全に捕食寸前だが。

 

ポケットモンスターの世界に居るんだが、俺はもう捕食されるかもしれない。

 

「……君ってポケモンブリーダーの才能でもあるんじゃないの?」

「あー、モモさん鋭いねぇ。確かにタツヤ君見て攻撃的な子って

 昔から彼の事見てたけど、全く居なかったね。案外才能あるかもよ? タツヤ君」

「そやなー、サンドに懐かれこんなでかいのにも懐かれって……

 人のポケモンなのにえらいことやで、これ」

「俺は普通に暮らせればそれでいいです。

 それがポケモンブリーダーだろうがカントーチャンピオンだろうが暮らせればいいっす」

「「「「まず君自体が普通じゃない(とちゃう)から」」」」

 

おいィ?

お前等喧嘩売ってんのか? そうなのか?

ハカイオウとゴウキ、実力証明したいよね? ね?

あれやっちゃっていいz───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴこぴこん♪

 

 

「へ?」

「え」

「「「ん? 何今の音」」」

 

 

えーと、うん。今間違いなく聴こえたよね。

 

「今のは……うん、ポケモン図鑑のアラートだね」

「そっすね……進化する前のお知らせみたいな音ですよ」

「え、なんで戦ってもいないのにいきなりや?!」

「そ、それより! 進化する子って誰です?!」

 

 

いや、えと……ごめん正直俺にも予想付かない。

 

俺の面子を見渡してみる。

 

「ディ?」

『─────?』

「ホ~ァ?」

「ミュィ」

「ッシャー?」

「メッサツ?」

 

 

……ミュウ……かッ?!

 

「もしかして私のサンドかしら……?」

 

あ、そっちの線もあるか。

でもミュウだけハテナマークがついてへんぞ、これはまさか……?!

 

俺は慌ててポケズ(ポケモン図鑑)を取り出す。

 

 

 

 

「あれ……?」

「ど、どうしたんだ。タツヤ君」

「いや、えーと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───俺のポケズ(ポケモン図鑑)、なんも反応してないんすよ」

 

『え……!?』

 

全員が全員驚きの声を上げる。

そりゃぁ、あの音がなって図鑑に何も反応が無ければ戸惑いも───

 

「なにかしら変な事があれば間違いなくタツヤ君が原因なのに無反応……!?」

「ど、どういうこっちゃこれ……!? これでタツヤんが原因と違うとか……」

「わ、私もタツヤ君じゃないならもう予想が……」

「や、やっぱり私のサンドなのかな……?」

 

おいお前等マジでぶっ飛ばすぞ。もっさん以外。

そこの三人は土下座しなきゃ絶対許さねー。

 

しかし、あの音がなったってことはポケズが動いていたと言う事だ。

なのに何故か反応が無い、これは一体……、ッ!?

 

「レッドさんッ!」

「うわっ!? な、なんだ? どうしたんだい?」

「もしかしてレッドさんのポケズじゃないっすか?

 俺のが無反応ならもうレッドさんのしか選択肢ないじゃないっすか!」

『………あ!!』

 

全員がそれだ! という顔をする。

 

「ま、待ってくれ! 今取り出してみるから!」

「てことはタツヤんちゃうってことよなぁ……

 たまには変な内容でもタツヤんが原因やないってこともあるん───」

「ハカイオウ。あれにアルゼンチンバックブリーカー。」

「オォッス!!」

「え、あ、ちょ、やー! や、やめっ、アーーーーーッ!!

 い、痛いっ!! あ、や、ま、待って!! 謝る! 謝るから、アッーーー!!」

 

 

もうそのまま背骨へし折っ再起不能(リタイヤ)させてしまえ。バァァァーーz__ン

まあ、絶妙な力加減はしているみたいだけどなー。

 

 

「……え。」

「ん、レッドさん。どうでした? やっぱそっちっすか?」

「い、いや、えーと。うん……

 そうだったんだけど……そうだったんだけど、これ……」

『ん?』

「アーーーーッ!! お、お願い、痛いっ!! やめっ……アーーーーッ!!」

 

 

うーむ、アカネさんうっせぇ。ハカイオウ、その辺でいいよ。

 

 

で、レッドさんに見せられたポケモン図鑑の画面を確認してみると───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[> おや ……!?

   タツヤの ポケモンずかんの ようすが ……!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

え。

 

 

 

 

え。

 

 

 

 

 

さっきの音って進化前のアラート。

で、レッドさんの画面表示。

 

 

 

 

え。

 

 

 

 

 

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でーっ♪

 

 

おいどういうことだwwwwwwwwww

なんだよこれはwwwwwwwwwwwwwww

 

 

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でん♪

でん♪でーっ♪

 

 

そして鈍く光っていた俺の手にあったポケズが

あの音の鳴り終わりに一層輝きを増して行った───

 

 

 

一言だけ言わせてくれ。

 

 

 

 

 

『なんでぇーーーーーーーーーーーッッ!?!?!?』

 

 

 

 

 

あ、ハモった。そりゃそうっすよね。全員同じ意見だよね。

 

 

そして光が収まり、俺の手元に存在したのは───

 

 

 

 

 

 

普通のポケモン図鑑のフォルムからほんの若干だけゴツくなり

 

ちょっと角ばった感じをかもし出す赤い物体。

 

そしてその画面には

 

 

[> しんか かんりょう。 さすがわたし。

 

 

とか書いていやがった。

 

 

 

 

 

そしてレッドさんのポケモン図鑑から最後の音が鳴り響き───

 

 

 

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

[> おめでとう! タツヤの ポケモンずかんは

   

   Ver1.025から Ver2.0に しんかした!! 

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

 

とか書かれてた。

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

全員無言である。

そしてその中、俺だけが動き出した。

 

 

背筋、腕力、全てを限界まで振り絞り……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力で森の方向へ投擲した。

実に良い具合にシュルルルルルと横回転しながら空気に乗り

滑るように森の中へすっ飛んでいったのを、俺は無事見送った。

 

 

 

 

 

 







さすがにこの流れだと予想しきってた人もいましたかね……
進化進化でさらにってなるともうこいつしか残ってないもんなぁ。
平凡ですみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

56話 平穏。

・作中のリンダさんシュートについて。

文字だけではイメージがいまいち浮かばない人も多いと思います。
元ネタの単語は全部作中初登場の際に入れていますが、それで検索するのも面倒という人もいるはず。

そういう人用のために、小説家になろう関連ページである挿絵投稿サイトの「みてみん」に
リンダさんシュートの際、どうやって動いているかの図説をペイントで作って掲載しました。

ダグ達の素晴らし(くキモ)い動きをさらに想像したい方は
みてみんのページで右肘に違和感という投稿者を探してみてください。
そこに載ってるはずです。




 

 

「ふー……」

 

 

全力での遠投を終え、俺は一息ついた……んん、肩の調子が下がってるかな……?

肩といえば、パワフルプロ野球のサクセス久しぶりにやりてーなぁ。

この世界には無いからまず無理だが……シルフカンパニーに企画でも持ち込んでみようか。

 

 

「やっぱタツヤんが原因やったなwwwwwwwwうちは君しかおらんと思っと───」

「ゴウキ。あれに瞬獄殺。」

「ムンッ………!」  - = Ξ Ω ギュォォォオン

「え、ちょ       」

 

 

そ、その動きは、トキ……!?

ズガガガガガガガガガ(ぺちぺちぺちぺちぺち)!!

 

 

 

 

                               15HIT COMBO!

                  K.O

 

                   天

 

 

 

 

「南無三……アカネさん、今はゆっくり眠れ……」

「あ、アカネちゃーーーーーんッ!?」

 

ゴウキがやっぱり覚えていた瞬獄殺で、アカネさんを黙らせる。

まあ音を聴く限り、ちゃんと手加減も出来ていたようだし問題なかろう。

 

「はー、本当にいつも通りすぎるわねぇ。今日も平和な一日になりそうだわ」

「失礼な。俺もポケモンじゃないのが進化するなんざ初めてですよ」

「どっちにしろ原因はやっぱりタツヤ君だよ……」

「そうね」

「アカネちゃーーーーーんッッ!! しっかりしてぇーーーーッッ!!」

「わ、我が生涯……一片の悔い無し……」

 

 

まあ確かに原因俺だったんだけどな、不名誉すぎて納得いかねえ。

っと、そういえば……?

 

「出かけるって話でしたっけ? ミカンさん」

「あ、そ、うん、そうだけど……もう買い物終わってるんじゃ……?

 っていうかッ! アカネちゃんに攻撃させちゃダメじゃないですか!!」

「大丈夫だ、問題ない」

「大問題だよーーーーーーーぅ!!」

 

 

綺麗な笑顔でエルシャダイをする俺に、腕を振りながら詰め寄ってくるミカンさん。

あーこれサーナイトだったら幸せだったのになー……

 

 

どっすっ。

 

「はぐっ?!」

 

べちこーん。

 

「おにゅぁッ!!」

 

何故かいきなりボディーに顔面にと連続で攻撃を食らった。

な、なんじゃっ……?! アカネさんの怨念か!?

 

「ディ~#」

「ホォァァァ#」

 

また貴様らか犯人は! なんでそういきなり殴って来るかね貴様らはッ!

もういいわッ! 俺、体は子ども、頭脳は大人のあの子呼んでくるからッ!

 

「ははは……相変わらず、懐かれてるみたいだね」

「どこがやっ?! おもっくそ殴られとるやんけ!」

 

思わず関西弁になってレッドさんに反論してしまう。

これで懐いてるとか有り得ねえよ。むしろ手頃なストレス発散のサンドバッグじゃねえか。

 

 

 

 

 

ガサガサガサガサガサガサガサ。

 

 

 

 

「あん?」

「ん……?」

「え……?」

「あら……」

 

なんか妙な音が聞こえてきた……なんだろう、虫が這い寄るような。 

 

 

 

 

「何も投げ捨てなくてもいいじゃないですか……」

 

「はっ?」

 

 

 

え、投げ捨てる?

 

俺は声がしたほうに振り向いてみる。するとそこには───

 

 

 

 

 

 

 

誰も居なかった。あれ?

 

「ミカンさん今俺に話しかけてないですよね?」

「は、はい。というか私も今、聞こえました」

「あれぇ?」

 

もっかい声がしたほうを見てみたがやはり何も居ない。

 

「下。下です。アンダー。その視線から目線を下に向けてください」

 

あん?

言われた通りに地面を見るように、目線を下げてみる。

 

 

そこには元ポケモン図鑑がいた。

なんか図鑑全体の四つ角に、鋭く尖った蜘蛛みたいな機械足が生えている。

 

 

 

俺はそれを拾う。

 

「いきなり投げ捨てるのは流石に酷いですよ? これからはちゃんと」

 

 

 

 

肩と腕、背中に力を振り絞り、今回は助走をつけて全力で投球した。

 

                                             アァ

                                                 ァ

                                                   ァ

                                                     ・

                                                      ・

                                                       ■

 

「うん。まあやっぱ気のせいだったっす。ごめんなさい」

「え、えーと……」

 

 

どうしたんですかミカンさん、そんな私、どうすればいいのみたいな顔して。

 

 

「まあここにいても気絶したアカネさんしかいませんし……

 まずはポケモンセンターにでも帰っておきますか。出歩くにしても風呂位は入りたいですし」

「わ、わかったよ。じゃあセイリュウに乗せてもらおうか」

「んですね、よろしく頼むわセイリュウ」

「ギュガ~~」

 

ハカイオウにアカネさんを背負ってもらい、全員でセイリュウに乗り込んだ。

ふわり、と重力を無視し、蒼の龍は華麗に空へと舞い上がった。

 

 

「わぁーすっごーい……空ってこんなに景色がいいのねー」

「キューキューッ!!」

「私のハガネールもこんな風に飛べたらなー……」

 

なにやらコタツさんがかなり怖い事を想像している。

ミカンさん、そりゃさすがに無理ってもんです。

しっかし相変わらずの大スペクタクルだ……空飛ぶポケモン、俺もゲットしておこうかなぁ。

 

「わ、我が生涯……一片の……」

 

もうええっちゅーねんそれは。

 

「私を置いていかないでくださーいッ!!」

 

そんな時、横手からなにやら苦情が聞こえてきた。

……ん? 全員揃ってるよな……別に誰も置いてってなんか───

 

 

 

 

 

 

横を見てみたら俺の元ポケモン図鑑が、図鑑の一部から炎をジェット噴射しながら飛んで来ていた。

しかもセイリュウの動いている速度にこの小型で付いてくるとか。

 

「セイリュウー、ちょっと頼みあんだけどー」

「ギューガー?」

「尻尾さ、軽く左右に振ってみてくんね?」

「ギュガ?」

 

【こうかな?】という感じに尻尾を軽く振ってくれるセイリュウ。

うん、それでいいよ。ありがとうー。

なんかぺちんって音がしたのはきっと気のせいだからね。

 

                                 ア

                                    ァ

                                      ァ

                                        ・

                                         ・

                                          。←

 

 

 

んで結局……元ポケモン図鑑は振り切れずポケモンセンターに到着した辺りで

割かし普通に追いついてしまい、俺の頭の上にスチャっと着地しやがった。

馴れ馴れしすぎたが故にドレディアさん達が嫉妬でもしたのか

ポケズを頭から叩き落として後ろでボコってたが。

 

 

『─────。』

 

【主殿も大変であるな……】

 

「やっぱ俺の味方、お前だけだわ……」

 

やさしくぽんぽんと肩を叩かれ、思わずしみじみと呟いてしまっていた。

ダグトリオ、お前らは本当に俺の清涼剤だよ……

ほら……小遣いやるよ、これでなんか好きな物買って来い。俺コーラね。3分な。

 

 

「ふっふっふ! Ver2.0の私には衝撃吸収装置も防水性能も付与されているのですッ!

 あなた達が何をしたところでこの私をあ、ちょ、それは反則、やめてッ!」

 

 

後ろをふと見てみたらどっから持ってきたのか

ドレディアさんがマイナスドライバーを手に持ち、ポケズを分解しようとしてた。

 

なるほど、やはりそういうことか。

 

「ドレディアさん」

「ディーア?」

「はいこれ」

 

俺はそういってレジャー道具の中から常に持参していた、十得ドライバーを手渡しておいた。

 

「なにやってんの?! ねえマスターなにやってんのあなた!?

 別にいいじゃないですか!! 私が進化してもいいじゃないですか!!」

 

俺には何も聴こえない、手渡してポケモンセンターの中に入っていく。

 

「あ、あれ……本当に良いのかい? オーキド博士から貰ったものなのに……」

「俺、思うんです……物事には限度ってもんがあるって。

 俺もう生きるのに疲れました」

「そこまで疲れちゃったんですか……タツヤ君……;」

「まー、あれだけ濃いのに囲まれてたら流石に私も疲れそうだけど、ね」

「キュー」

 

皆さんから色々な意味での同情をもらい、俺の心の切なさはマッハです。

 

ま、風呂入るべ風呂。そっからだ。

 

 

 

 

うむーさっぱりしたのである。やはりお風呂は最高やってん。

小銭を使い、俺は受付の横にある自販機でミックスオレを買って飲んだ。

 

「うめぇーーーー」

「それは僕も認めよう。風呂上りの乳製品はうまいよねー」

「あー、うちのミルタンクのミルクも結構うまいんやでー? 今度飲んでみる?」

『是非!!』

「おぉぅ……!? 即答レベルまでッ?」

 

風呂上りにうまいミルクなんて、至上の贅沢じゃねえか。

ていうかいつの間に復活したんやアカネさんよ。

 

「ん……まあゴウキやっけ、あの子も多少手加減してくれたみたいやしなー」

「メッサツ!」

「と、口では怖い事を申しております。」

「メッサツ?!」

 

鳴き声だから仕方ないけど、漢字にしたら滅殺ですからね。

まあ空気はしっかり読める子に戻ったようである。

あの時の俺の股間の一撃は間違っていなかった事が今証明された。はず。

 

「うう……体中いじくりまわされた……私もう博士の元に行けない……!」

「あぁ、そう。」

「冷たっ!?」

 

なにやら機械の癖に寝言をほざいているのがいるが、まあそんなんどうでもいい。

ドレディアさんとミロカロスは何故かツヤツヤテカテカしている。

良いストレス発散にでもなったんでしょーかね?

 

「んで、これからどうするんすか?」

「あーそやねぇ、うちらは生活用品でも買った後にこの街の名物……でええんやろか?

 ポケモンタワーて所に行ってみよっかなーって」

「ああ、あそこっすか」

 

みんなのトラウマシオンタウン。今まで俺が訪れたこの街ではトラウマイベントが一切なかったが

子供ながらにあの怖い音楽で恐怖していた覚えしかない。

 

あと演出上仕方が無いとはいえ、きとうしがゴースに乗っ取られてるって表現が

ずーっとおかしいと思っていた位しか頭に残っていない。

乗っ取られてんのにゴースを繰り出したってさwwww

ボールで管理出来てますwwwwwって感じ。

 

「んーそうだねぇ、僕もポケモンタワーの方は興味があるかなぁ?

 なんかゴーストポケモンがたまに出てくるらしいし」

「何気になんでそんなポケモン出てくる危険地帯を

 普通に一般人に開放してんですかね、街の人は」

「そ、それは私も街の人じゃないからわからないかな……」

「今思うとなんでやろねぇ」

「別にいいんじゃない? そこまで深く考えなくても」

 

 

論文でも発表してみようか。

危機管理がなっていないこの世界の実情、的な感じで。

 

ま、とりあえずは今日のこの後の予定は皆を連れてポケモンタワーかな?

ゴースとか空飛べねーかなぁ。捕まえるのも一考だろうか。

でもま……あそこは一応お墓なんだし、大騒ぎしないように皆に言い聞かせておかないとな。

 

 

 





>>でもま……あそこは一応お墓なんだし、大騒ぎしないように皆に言い聞かせておかないとな。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

57話 バトル



>>でもま……あそこは一応お墓なんだし、大騒ぎしないように皆に言い聞かせておかないとな。








とりあえず現在5人組+αで俺らの後ろに俺らの手持ちの子達、結構な大名行列である。

セイリュウは連れ回すにはでかすぎるため一度戻されて、現在の一番長身はミロカロスである。

 

……あれ、そういえばミュウどこいった? セイリュウ乗った辺りから見当たらん気がするが……

まあそのうち出てくるだろう、出てこなくても修業的な心構えは一通り仕込んだ。

このままお別れでも問題あるまい。

 

っと……そんな事を行っているうちに見えてきたか。

 

「ああ、あれだね、ポケモンタワー」

「ぉー、やっぱでっかいんやなー」

「こんなに大きいものがポケモン達のお墓なんですね……」

「……出来ることなら観光目的以外では来たくないわね」

 

 

……ま、そうだな。

『観光以外』ってなったら……それは当然、身近な『家族』が死んだ時だから。

 

 

ふと、見上げているうちの子達を見る。

 

ドレディアさんにミロカロス。

 

二人はなんじゃらほいなという感じに疑問を飛ばして俺を見てくる。

───うん、これは……無くしちゃいけないモノだな、絶対に。

 

 

ツンツンツン

 

 

「ん」

 

 

後ろからなんか突っつかれたので振り返ってみると

ダグ共が『我等は? ねえ我等は?』と自分達に指を差しながら視線を送っていた。

何お前ら、俺の思考読んだの? タイプ3はエスパー?

 

ま、いつもならウザいで済ますところだが……

ここには……出来る事なら本当に、観光以外で来たくないしな。

 

返答として、ダグONEの背中をポンポンと叩いておいた。これで、あいつらにゃ十分伝わるだろう。

 

 

そんなこんなでやってきましたポケモンタゥワァ。

別にBGMがかかっている施設ってわけでもないので

雰囲気的には若干おどろおどろしいものはあるが……ま、普通の施設だな。

一階の時点で、お墓が並んでいるが。

 

 

「……普段、ポケモンが死ぬところなんて見ないから

 これだけお墓があると……変なところに迷い込んじゃった錯覚をしちゃうね」

「そうですね……私の子達もいつかは……お別れしなきゃならないのかな」

「まぁ、そやろね……コイキングとか一部は訳わからんほど長生きする子もおるけど

 その子らはその子らで、うちらが先に死ぬからどちらにしろお別れになるしな」

「サンド……私達もお別れは絶対にしないようにしましょうね」

「キュ!」

 

全員が全員、それぞれのポケモンまたは自分の想いを口に出し

『死』というものに関して思い耽っていく。

……やはり、こういう光景は感慨深いモノを想ってしまうな。

 

 

 

 

この世界に来た後にあちらに残った筈の俺の体は……ここにある墓と同じ所に、収まってしまったのかな。

 

 

 

 

「なぁ、タツヤん、どしたんや?」

「───……えっ?」

「いや、なんか建物のそばに来てから随分静かやなって思うてな」

「ディ~……」

「あぁ……いや、大丈夫っすよ。なんでもありませんから」

 

ミロカロスにこそ、話したが……

こちらの人達に俺が思っていた事を伝えた所で、理解を得るのは難しいだろう。

 

 

同じ境遇の人なんて、探すだけ無駄だから。

 

 

「あ、ここから二階にあがれるらしいよ。みんなはどうする?」

「うちは行こっかな。やっぱりうちらの先輩やった子らって事やし

 これからもポケモン(みんな)と生きてく手前、見ておきたい」

「……良い考えですね、アカネさん。なら俺も行きますかね」

「私はもう別にいいけど……ま、多数決って事で付いていくわ」

「わ、私も、です。」

 

そんな感じで、俺らがこの世界を歩き出す前に

この世界に存在していた先輩方に、挨拶しながらタワーを上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閲覧者諸君は覚えているだろうか。

ポケモンタワーのイベント自体は確かフジ老人だかフジ超人だかふじこAふじおだかを助けるものがある。

 

 

 

 

けどさ。

 

その前に、だ。

 

イベント、もう1個あったよな?

 

 

そう、あれだ。

 

 

 

 

 

 

 

初代ポケモンだとここでライバルが現れるんだ、二階部分な。

そして今、試合は既に終わっており

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポケモンタワーの二階は壊滅している。壁すら1/4ほど吹っ飛んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

ついでに言うならグリーンも吹っ飛んだ壁と一緒に吹っ飛んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうめんどくせーから説明放棄していいかなこれ。

いいよね?

 

あれ、駄目っすか。

 

 

やれやれ……まあ簡単に説明しますわ……

 

 

 

 

1.遭遇。原作と同じような台詞を吐いて、グリーンさんがレッドさんに勝負を仕掛ける。

2.ピカチュウvsカメックス。相性の問題から楽勝と思われたがカメックスは育っている。

3.凄まじく拮抗した後、ピカチュウがごり押しで負けた。

4.次にレッドさんが繰り出したのがセイリュウ。

5.セイリュウの身長は目算で17m。

6.施設での戦いで出す事がそもそもおかしい。

7.よりにもよって指示した内容が「あばれる」。

8.お墓の殆どは全て横倒しか粉砕。暴れたが故に尻尾もぶんぶか振り回し。

9.遠心力最大状態で壁にぺちーん。ばこーん。ついでにグリカメックスにもばこーん。

Q.オ゛レト、イショニタタカッテクレルンウェ!!

A.オンドゥルルラギッタンディスカー!!

 

 

まあ、こんな感じである。

幸い作りは頑丈なのか、タワー自体が崩れる心配は今のところなさそうである。

根元に近い二階部分が壊滅してんのに施設の耐久度が維持されてるって何気にすげぇな。

 

んで、当然ながら係員さん達がレッドさんを捕獲に乗りだした。

そしてセイリュウに乗ったままレッドさんは逃げやがった。

あいつら本当にチャンピオンなれるの? 今回の件で足付くんじゃね?

 

 

「ええ試合やったねぇ~」

「本当ねー、燃える試合だったわぁ」

「そうですね!」

「あんたら目ぇ腐ってんの? ねぇ腐ってんの?

 ねえなんでこの風景見てそんなのほほんとしてられるの? 馬鹿なの? 死ぬの? ねえ?」

『タツヤ()と出会ってからはこんな事なんていつもの事(です)し。』

 

 

挙句の果てに俺のせいにされた。

俺、今決めたわ。この世界滅ぼすわ。俺に優しくない世界なんて要らない。

 

 

「ね、タツヤ君!」

「ぁー? なんすかもっさん。

 俺はこれから世界を破壊するために忙しくなるんで、簡単な内容なら後回しにしてください」

「なんで今の会話だけでそんなにネガってんの?! そんなんじゃないわよっ! 立派な用事よ!」

 

あん? 用事?

 

「はぁ、なんすか。金なら貸さないっすからね」

「え……じ、実を言うと買い物しすぎたから

 3,000円位どうにかならないかなーって……って違う!!」

「違うっつってる割りに、全部その通りだった気がしたんですが」

「い、いいのよ!! 今重要なのはそんな事じゃないもん!!

 タツヤ君っ、久しぶりに私と勝負しなさいっ!!」

 

なんかもっさんが突然寝言を言い出した。何で寝てないのに使えんのあんた。

 

この惨状とあのセイリュウの内容を見て、なんで俺とバトルなんて発想に辿り付いたんだろう。

この世界発想が異常過ぎるだろ。お前等壁を修理するとかさ

もしくはお墓を元に戻そうとかそういう意思は一切ないのかっ?!

先祖を敬っていると見せかけてまったく敬っていないこの世界に絶望しそうだ。

 

「そういやうちら、タツヤんのバトルとか見た事ないなぁ。

 んじゃここみたいにしたらあかんやろうし、外いこ! 外!」

「私達が船内で見たタツヤ君って、シジマさんに抱き締められて気絶したのと

 あの集まった船内で囮になった内容だけですもんね……」

「んっふっふっふ、だが私は一度タツヤ君には勝っている!!」

『えっ?!』

 

あー、まあそうっすねー。

 

 

あ、そうだ、この手で行こう。

 

 

「どうせまた負けるんで無条件降伏でお願いします」

「よし、私の勝ち!! ってなんでよーぅ!!」

 

ズビーッと手の甲で突っ込みいれてくるもっさん。

君コガネシティで漫才やったら? ハカイオウ借りて、橋本新喜劇って。

 

「でぇーいッ、このまま行けばあの祭典みたいにまた逃げるのが目に見えてる!

 サンドッッ! タツヤ君に抱き付きなさいッ!!」

「キューンッッ!!」

「サンドォーーーーッッ!!」

 

俺はバッと出てきたサンドを両腕を一杯に広げ受け入れる

かいぐりかいぐりかいぐり。

うむ、この世はまだ俺の味方だな。滅ぼすなんてとんでもない。

 

そしてその隙に服の襟をガッと捕まれてしまった。って、ちょ?!

 

「さぁ行くわよ! GO! GO!」

「え、ちょ、あーっ! でもサンド可愛いから手ぇ離したくないっ!!

 ど、ドレディアさんッ、ミロカロスっ! この人なんとかしてッ割とマジでッ!!」

「…………。」

「…………。」

 

 

ぷいっ

 

 

「お前等ああああああああああァァァァァァっ!?」

 

 

ずりずりずり

        ずりずりずり 

                ずりずりずり……

 

 

 

「んじゃ、うちらも行こか!」

「うんっ!」

『オッス!!』

「ディーア」

「ホァ」

『───;;;;;;』

 

 

 

 

そんなわけで今俺はカツ丼を食いたいです。

 

 

 

「私はサンドで相手をさせてもらうわッ!! 貴方はどうするの?」

「飯食ってきていいすか」

 

「私はサンドで相手をさせてもらうわッ!! 貴方はどうするの?」

「帰って寝ていいっすか」

 

「私はサンドで相手をさせてもらうわッ!! 貴方はどうするの?#」

「そんな事をやってみろ……オレァクサムヲムッコロスッッ!」         ミューゥ>Ω

「私はサンドで相手をさせてもらうっつってんでしょッ!! 早く誰か出しなさいっ!」

「ん、おぉミュウ。お前どこ行ってたんだ」

「ミューイ!!」

 

【セイリュウの背中の毛の中が気持ちよくて、気付いたら寝てた!

 んでもって気付いたらボールの中に居て出られなくて、また寝て起きたら大惨事だった!!】

 

oh……突然出てきたミュウに事情を聴いたらそんな返答が帰ってきた。

体の近くに居たらボールに戻す光線に巻き込まれるんだねぇ。

 

「は・や・く、しなさーーーーーい!!」

「と見せかけて高速足払いっ!!」

 

俺はとっとと試合から逃げるため突然もっさんに足払いを仕掛けた。

 

「当たるかっ!!」

 

なんと寸前のところで小ジャンプして交わされたっ?!

 

「うそぉっ!? お前どこの聖戦士だよっ!?」

「耳元で怒鳴るなっ!!」

 

お前絶対ミミロップの目が赤い事に対してにんじんを食べるからとか言うんだな?!

 

「キュー!! キュー!!」

「ほら、サンドも速く戦いたいっつってんでしょ!! 早くしなさい!!」

 

 

【僕だってあれから鍛えたんだからね!! 負けないよ!!】

 

と、本当に語っていたりする。

 

しかし俺は人間であり、野生動物等には無い話し合いという交渉術を持っている。

これを利用しない手はない。ぼくはあくまでもひせんしゅぎなのだー

 

「今なら4,000円を渡そう。勝っても賞金は400円だ……さぁどうする? ククク」

 

「……ッ?! よ、よん、せん……う、ぐ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、お金……の、方……が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 い、いや、勝負よっ! 勝負じゃないとダメッ!!」

 

「あんた長く悩みすぎだろっ?! どんだけ金欠なんだオイッ!」

 

まさか改行が必要なまで悩むとこっちも思って無かったよ?!

 

「はー……さすがにもう諦めるしかないか……」

「君本当、どんだけ戦いたくないのよ……」

「例え世界全てを敵に回してもです」

「なんかカッコイイ言い回しだけどすっごい情けないからね?!」

 

うるせーチキンの何が悪いってんだ。移動速度だって二倍なんだぞ。

その代わりどんだけ強い盾装備して変化しても、ダメージ170とか喰らうようになっちまうけど。

 

そいやマスターチキンとカイリキーってそっくりだよな。

鳥ポケとカイリキーに卵作らせたらグレートチキン出てくるんじゃね?

 

「ま、いいや。とりあえずダグトリオ出てくれ……あの時の雪辱戦だ。構わないだろ?」

『ッ!!!』

「やっとやる気になってくれたのね……ッ! 絶対に負けないんだからっ!!」

「まあ俺が問題なく負けるんで大丈夫っすよ」

「君本当そのうち殴り飛ばすよっ?!」

 

俺は非常にやる気が無いので適当に目線を逸らしてみたら

二人揃って仲良く警察から逃げるレッドさんとグリーンさんが居た。

 

「話は纏まったんよね? じゃあうちが試合開始の合図してもええ?」

「あ、お願いするわ。見てなさいよー……私だって頑張ってるんだからね!」

「そりゃご苦労な事です。うちのポケモン達も鍛えてくださいな」

「では、タツヤvsも……も……もっさんッ! バトル、始めーーー!!」

「二人とも頑張ってーーーーーー!!」

「嫌でーーーーーす!!」

「ええぇええーーーーーッッ?!」

 

そんなわけでバトル開始と相成りました。

 

「んじゃダグトリオ、とりあえずにらみつけてくれ」

『ッ─────!!!』

 

ダグトリオが言われた通りにサンドをギンッと睨みつける。

これでサンドの防御力は下がっ───

 

「───。(ニヤァ」

 

サンドはおもむろに右手を胸元まで上げ、爪を太陽の光に反射させる。

 

『ッ?!;;;;;;』

 

[> ダグトリオの こうげきりょくが さがった!!

    あいての サンドには こうかが ないみたいだ……

 

いきなり訳のわからん展開になり、ポケズアラームがなったので懐から取り出し

存在を主張し始めたポケズを見てみると、なかなかに有り得ない内容を表示していた。  

 

「なにこれwwwwwwww」

「俺もわかんねえwwwww どういうことwwww」

 

まさか使ったヤツの方が攻撃力が下がるとは。近くに寄ってきたもっさんと二人で笑いあってしまう。

あれだろーなー。ダグONEが股間抑えてるし……

前にやった時のバトルで急所に当たった一撃を思い出さざるを得なくて、怯えたんだろう。

 

そんな風に思っている隙を見逃さず、もっさんはすぐさまサンドの後ろに戻って

続けざまに指示を飛ばした。

 

「サンドっ! 防御形式のころがるをしなさいっ!!」

「ッキューゥ!!」

 

防御形式……? なんだそれ。ころがるっつったら……あれだよな?

5連続攻撃で5回目の一撃がクソ強い技だよな。

今だと『まもる』とか『みきる』がメジャー化してるせいでクソ技扱いの。

 

そう考えているとサンドは立っている地面に対して、高速でギュルギュルと転がりだす。

当然地面が抉れていき、土と砂が混ざりながら……ダグトリオを襲った?!

 

『ッッッ?!?!?!』

 

ブバァッと予想外な土と砂をがっつり浴びてしまうダグトリオ。

 

[> ダグトリオの めいちゅうりつが さがった!

   サンドの ぼうぎょりょくが あがった!!

 

うっそ?! なんであれで防御が上がってんのっ?!

一体どうやって───

 

「ふふ、驚いてくれてるみたいね。

 これはね……土を抉る過程で転がっている、つまり丸くなっているからよ!!」

「……ッ!? まさか……『まるくなる』と『すなかけ』の同時発動ってか?!」

 

もっさんが口にしてくれたヒントから推察を行い、状況からして結論がこれしか出ない。

やるなー……発想の仕方が素晴らしい。普通に詰み技としては厨ニ病ランクじゃないのか、これ。

よく思いついたな、俺には真似出来んわ。

 

「ダグトリオ、まだ行けるな?」

『;;;』

 

【ちょっときついし怖いです;;】

 

と返してくるダグONE。

他のダグ二人も、サンドに予想外すぎる行動ばかりされて若干怯えている。

 

「全員じんないりゅうで臨機応変に攻撃だっ!」

『ッッッ!!!』

 

俺は指示を飛ばした後、ダグトリオ達は持ち前の素早さで一気に戦場に展開し

対峙するサンドの周りを、効率よくデルタ形式に固めていった。

 

「───……」

「……───」

「─wへ√V……」

「……ッキュ……!」

「サンド、大丈夫ね?」

「キュゥ!!」

 

これに対してもまだ怯えんか。

こいつら、普通は地面に潜って一塊で動いてるから三匹で一匹のポケモン扱いだが

突然変異なせいで別行動可能だから1vs3やってるようなもんだってのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱあの時連れてっちゃえばよかったなぁ……

でも俺バッヂ持ってないから試合じゃ言う事聴いてくれる事もないだろうしな……

 

 

 

 

 

 

 

 

ともあれ、ダグ共は完全に展開完了。ここで一気に決めておきたい。

 

「ダグトリオ、ゴーーーーーッ!!」

『ッッッ!!!』

 

ダグONEは後独楽(うしろごま)を放ち、ダグTWOは巻雲(まきぐも)を放つ。

ダグⅢはジャンプして肘を構える仕草を取った。あれは星兜(ほしかぶと)かな。

 

・後独楽→ジャンプ回転蹴り

・巻雲→空手の胴廻し回転蹴りに近いです

・星兜→本来は人間の頭上に肘を打ち下ろす技

 

 

「今よッ! サンド、まもりなさい!!」

「キューーーーーー!!」

「oh。」

 

ここでまもると来たか。当然ゲーム内性能の如く、ダグ共の攻撃は無効化され───

 

 

ズゴガガガッ!!

 

『ッッッッーーーーーーーーー?!』

「あ」

「あ」

「キュ」

 

サンドが守った事により、全てタイミングがかみ合っていたはずの三人の攻撃は

全ての攻撃の終着地点がずれてしまい…………そして。

 

ダグONEの後独楽が、ダグTWOが放つ巻雲のタイミングと丁度合い

後独楽の放つ蹴りがダグTWOの顔面を捉えてしまう。しかも綺麗に。

 

さらには後独楽が守られた事による体勢の崩れから

ダグONEは予想外な方向へ体勢を崩し、まさかのダグⅢの星兜の餌食に。

 

 

 

 

 

ちーん

 

 

 

 

 

渦中のど真ん中にいるサンドすらその惨状にぽかーんとしている。

 

 

「─────!! ─────!!;;」

「あー……ご愁傷様?」

「……まあ、ありがとうございます」

 

一人残ったダグⅢは必死にダグONEとダグTWOを交互に近寄り、体を揺する。

だが二人共綺麗に攻撃が入りすぎたせいか、ぴくりとも動いていない。

 

横を見てみたらアカネさんが

 

「ブフォッwwwwwwゲフwwwwwちょwwゴホwwwおまwwwwwwww」

 

と、飲んでいたお茶が鼻から出てきて面白い事になっていた。

慌ててミカンさんがハンケチーフを用いて、ごしごししている。

 

まあ、仕方なかろう。多分これは俺でもそうなる。

まさかの防御が最大の攻撃現象。

 

 

「仕方ねえわ……ダグⅢ、一応頑張ってみれ。

 ダグONEもお前等とくっつくまで一人で頑張ってたしな」

「………ッッ!!b」

「ふ、ふふふ、この予想外なアクシデントの利……生かしきってみせるわ!

 負けるんじゃないわよ、サンドッ!」

「キュゥ!」

 

 

とりあえずはこの攻撃が最後になる事を祈ろう。

 

「……ダグⅢ、リンダシュートだッッ!!」

「ッ!!」

 

ダグからディグにランクダウンしたところで、一人の素早さは変わらない。

凄まじい速度で、一気にサンドに近寄る。

 

「サンドっ!! 耐えてっ!!」

 

レベルがいくつになったかまでは聴いてはいないが……

それでも特性で攻撃力が二倍であり、なおかつタイプ一致(多分格闘技だろこれ)している。

おそらく倒しきれるはずっ!!

 

 

そしてダグトリオの超絶な横蹴りがサンドに入った!

 

ッゴォン!!

 

「ッ?!」

 

ぬ……? ちょっと硬い音がしたな……。───あっ……!

最初のまるくなるの効果で硬くなってる上に、にらみつける返しで攻撃力が下がってんだ!

 

……だが、ダグトリオの技はリンダさんシュート単一だけじゃない。

そこからさらにじんないりゅうで波状攻撃だっ!

 

「蹴り飛ばしてトドメを───」

「今よサンドッ! 飛び上がってきりさきなさい!!」

「ッキュァーーーーーーー!!」

 

うおっ……!? なんとここでそれを指示するかぁッッ?!

蹴り飛ばす体勢にまで行って体が伸びきってるダグⅢの体は、どの部位も防御に廻せない!

絶好のタイミング過ぎ───

 

 

 

 

ザシュァッ

 

 

 

 

「あ」

「あ」

「キュ」

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!

                     ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

サンドのきりさくは、初代準処なのだろうか……急所に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

急所に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダグⅢの股間に。

 

 

 

 

 

 

 

 

すぐさまダグⅢは股間を抑えてうずくまってしまった。

うわー……ダグONEの時はひっかくだったのに、今回はきりさくで当たったか……

思わず俺の金魂も縮み上がってしまう。

 

 

ダグⅢはうずくまったままブルブル震えるだけで、動く気配はない。

 

 

「えーと……これ、もっさんの勝ちでええか?」

「ええ、急所は急所ですし……てか前に負けた時もこの形でしたし……」

「あ、そうなん……あの子らも苦労してんねんな……」

「私には痛みはわからないけど……えっと、早くポケセンに連れてってあげてね?」

「わかりました……」

 

なんていうか本当に、運が悪いなぁうちのダグは。

頑張って耐えれば、その後の攻撃も普通に決めれたかもしれないのに

よりにもよって最強の弱点の股間への一撃だもんなぁ。

 

ダグⅢをK.Oしたサンドも、あの時と同じく申し訳なさそうに腰をトントンしてあげている。

微笑ましい光景ではあるけど、男としては洒落にならん。

 

 

 

そういうわけである意味久しぶりのトレーナー対戦は、俺の敗北で終わってしまった。

ダグ共、ステータス完全にぶっ飛んでるしイケるかもと思ったんだけどなー。

 

 

 




相変わらず勝てないタツヤ。
彼の不運はどこまで続くのか。


※コイキング長寿説は模造ですが現実基準です。
一般的に鯉という魚は長生きで、70年以上生きるといわれている生物です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

58話 やめろ

 

 

ダグトリオは犠牲になったのだェ、なこの状況。

要するにまあサンドがダグトリオ倒したわけである。

 

 

 

まあ予想はしてたんだけどさー。

なんかサンド光ってんだよね、今。

ポケズからもでんでんなってるし。

 

 

 

 

まぁ、光るだけだってんなら問題も何もないんだが

とりあえず少しだけ過去に(さかのぼ)ろう。

 

 

 

 

倒れ伏すダグトリオ達、なんという凄惨な現場であろうか。

地面に寝転がる茶色い細マッチョ3匹……まるで殺害現場である。

 

そんな中で、色んな要素こそあったにしてもしっかりと勝ったサンドは

自分のトレーナーであるもっさんに抱きついていった。

 

 

「よくやってくれたわ、サンドっ!!」

「キューーー!!」

 

 

あれ、なんかすっげー殺したい。

俺の可愛いサンドを貴様が何故抱き締め───

 

ひょい

 

「───え? あれ?」

 

なんか両脇の下、っていうか脇腹から持ち上げられ……?

 

「あ、ドレディアちゃ───」

 

ヒュッ

 

ドゴォッ!!

 

「ぎゃァァーーーーーーーーーーーーッッ?!!」

「#」

 

 

けっ、ケツがっ!! 尾てい骨がッ!!

アトミックドロップだこれ?! 痛っ痛いっ!!

 

「おぐごごごごご……!」

「あー……嫉妬しちゃったのねぇ、ドレディアちゃん……」

「ディァ#」

「つ、つーか……ドレ、ディアさん……!! あんたの、その体に、なんでそんな硬い膝がッ……!」

「ディ? ドレディァ。」

 

そういって、ドレディアさんはなんとかぼちゃパンツみたいな部分の一枚を少しだけ横にずらし

膝にプロテクターがあるのを確認させてくれた。お前それどっから持ってきた。

 

「み、ミロカロス……先立つ不幸をお許しください……(ガクッ」

「ホ、ホァッ!? ホァ~~~!! ホァ~~~~!!;;」

 

あまりのケツの痛みに、俺のケツが二つになってしまいそうだ。

ミロカロスが近寄ってきて、頭で俺を揺すってくれるが

もはやケツの痛みに耐える術もなく、俺の意識は途切れて行き───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴこぴこん♪

 

「ん」

「あれ?」

「おっ」

「あっ」

 

 

またあの音っすね。

俺はすくっと立ち上がり、ポケットをごそごそいじる。

横でミロカロスが驚きながらもほっとしているがどうしたんだろうか。

 

そうして取り出したポケズ(ポケモン図鑑)

 

「おーい、今度はなんだぁ?」

「あぁ、えーと……そちらのサンドちゃんがなんか進化するみたいですねー」

 

もはや普通に会話してきているこのポケズ。

ダリナンダアンタイッタイ……。

 

「あぁ、ついに、ついに進化してくれるのねっ、サンド!!」

「キュー、キュー」

 

 

ピカァァァァァ!!

 

 

もっさんから離れて地に降り立ったサンドは、進化中の独特の光を出し始める。

 

「今まで画面で文字を表記してましたけど

 私も進化しましたし、もう普通に喋りながらでもいいですよね?」

「好きにしてくれ。俺の周りがイカれてるのは今に始まった事じゃねえ」

「りょーかいです♪ それじゃ音楽流しますねー」

「なんかもう色々台無しやっ!?」

「アカネちゃん。もう今更過ぎるよ」

 

ミカンさんはすっかり馴染んだようである。

 

そしてあの でんでん♪ の音楽がなっていき───

 

 

 

 

 

あれ? ちょっと待てよ?

 

サンドが進化するんだからそりゃもちろんサンドパンだよな。

つまりはあのサンドの可愛さが若干なくなってゴツくなっちゃうんだよね。

あれもあれで可愛いけどちょっと釣り目っぽくなっちゃうし……

やっぱりあいつはまんまるなオメメが似合うと俺は思うんだよ。

それに手も確かゴツくなるよな。なんか爪らしいっつーか。

でも今の時点でもきりさくを立派にやれてるし、そんなのいらなくね?

 

 

と思っているのも束の間、ついにサンドが

 

 

キュピィィィィィイイ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっと待ってサンド」

「キュッ?!」

「えっ?!」

 

 

なにやら後ろで驚いているもっさん。

そしてポケズが……

 

 

「あれ?!

 サンドの 進化が 止ま───」

「ああ、進化はそのまま続けていいわ。」

「あれ、そうですか? では光らせたままにしておきますね」

 

うむ、気が利いているな。さすが俺のポケズ。

 

「ちょい待ちぃなーーーーーッッ!! 今更過ぎるけど突っ込み所マジで満載過ぎんで!!!

 なんやねん光らせたままにしておくとかどういうことやッッ?! 犯人はお前かッ?!」

「私も進化しましたから。」

「そーいう問題ちゃうねん!!」

「まぁ、あれは放っておいてサンド。」

「キュ」

 

俺はサンドに真っ正直に言っていく。

 

「俺は出来ればお前に進化して欲しくない!」

「キュ……」

「ちょっとタツヤ君!? その子は私の子なのよ!

 そこだけはあなたのどうこう言うところじゃないわ!!」

「じゃあ勝利金額15円ね。」

「えっ……いや……それは……って、それは関係ないじゃないのっ!!」

「まあ、大丈夫ですよ。

 サンド、落ち着いて聴いてくれ」

「キュー……」

 

サンドはずっとピカァーっと光りながら俺の話に耳を傾けてくれる。

 

「でもお前だって進化は絶対したいよな?」

「キュー。」

「じゃあもう進化前と進化後の姿合わせて、いいとこ取りした姿に進化すればよくね?」

「キュっ?!」

 

【その発想はなかったわ】と返してくれるサンド。

 

「そ、そんな事出来るわけないでしょ?!」

「知らんそんなもん。俺がしたいようにやるんじゃ。

 えーと……まず目だな、目。

 こう、こんな感じの釣り目じゃなく、進化前のまーるいオメメで……」

「キュ、キュ」

「んで爪もいらねえっしょ。今のままでも十分芸達者だしな?

 背中のは進化後のあのトゲトゲっぽいのがいいよな」

「キュー!」

「……(;゜д゜)」 ←もっさん

 

ちなみにこんな会話を繰り広げながら進化中のサンドをいじりまくってますが

サンドはあくまでも進化の途中。すっげー光ってます。

 

「んじゃまぁこんな感じでいいか。進化終わらせてみてくれー」

「キュー」

 

 

キュピィィィィィイイン!!

 

 

「キューーーーィ!!!」

 

 

そして光が収まった先に現れたサンドは。

 

 

ぶっちゃけ進化前の背中のウロコが逆立っただけだった。

 

でも体格はばっちり進化後な感じに大きくなってくれている。

 

 

よし、全部想定通り!!

 

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

[> おめでとう! 

   サンドは サンドパンに なったけど

    タツヤに じゃっかん けがされた!!

 

 

でーんでーんでーん♪     でででででででーん♪

 

 

 

おいお前失礼な事画面に書いてんじゃねえよ!!

 

 

「あ……あ……」

「まぁええか。どうせタツヤんやし」

「うん、そうだよ。もう私のハガネールも預けちゃおうかな?

 チタニウムとかすっごい硬い子になっちゃったりして♪」

 

もっさんは唖然としているが、これはこれで可愛いままに強くなってるだろう?

我ながらいい仕事しすぎたわ。やばいわ。

 

 

「キューーーーーー!!」

 

 

そう言いながらサンドはもっさんに再び抱きついた。いや、サンドパンか。

 

ドフッ。

 

「……大きく、なったわね」

「キュー!!」

「進化……したのね……」

「キューーー!!」

「おめでとう……サンドパン……

 おめで、とう……、う……うわぁぁぁぁ~~~ん!!」

「キュー! キュー!」

「やっど……やっど進化じでぐれだのねぇ~!!

 長かっだ……長がっだよぅーーーー!! うェえええええーーーーーーん!!!」

 

手持ちの子が一匹進化しただけにも拘らず、何やらもっさんガチ泣きモード。

なんかあったんだな、サンドともっさんの間には。

進化しただけなのにかなり泣いてしまっている。

 

「うんうん、自分の初めての子が進化した時はあんな感じよな……!

 ええ話や……ホンマ、ええ話や……!」

「ぐすっ……よかったね、もっさん……!」

 

残りのプリキュアも貰い泣きに近い形で感動を共有している。

俺の初めての手持ちの子……ドレディアさんだなー。もう逢った時に既に進化してたし……

新しく進化するかと思ったら、お腹一杯になっただけだったし……

2番目のヤツだけど、ダグトリオが進化した時は……

 

 

 

 

あれ? 俺進化で感動したのミロカロスだけだぞ? どういうことだこれ。

 

 

 

 

「とりあえず……おめでとう、サンドパン! 今のお前もばっちり可愛いぞッ!!」

「キューーーーーゥ!!」

 

 

もっさんが泣きやんだ後に俺もサンドパンの方へ向かい、素直な感想を述べておく。

まあ、なんていうか……いじりまくっちゃったけど。

 

 

そして鳴き声を上げながら俺にとててててーとジャーンプ。

 

ドフゥッ。

 

「オウフっ、やっぱ重くなったな。うむ、大きくなっても可愛いぞ!!」

「キュー! キュー!」

 

うむむ、ここは楽園パラダイスなり!! この感触はやはり最高で───

 

 

 

 

ひょい

 

 

「おっ?!」

「キュッ?! キュッ。」

 

 

俺はまた誰かに軽々と持ち上げられてしまい、その際にサンドパンを取り落としてしまう。

しかしサンドパンはしっかり着地してくれたようだ。

ふと後ろを見てみると、ドレディアさんが居た。

 

 

「なんだドレディアさんか、どうし───」

 

 

ヒュッ

 

 

ドゴァッ。

 

 

「アッーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

け、ケツがっ?! ケツが割れたッ!!?

俺のケツがっケツが三つに割れたっ!!

 

「おごぉぉぉぁぁぁ……」

「キューーー!?」

「ディァァァ#」

「ホォァァァァ#」

 

お、俺はもう、だめだ……

 

「み、ミロカロス……すまない、不甲斐ないパートナーで───」

 

べちこぉーん。

 

「あぺぇー!」

 

ミロカロスの尻尾で顔面をぶったたかれた。ひどい、俺が何をしたっていうんだ。

ケツ痛いわ顔面平手打ち(手?)されるわでもう散々である。

 

「ねぇ、タツヤ君。私達の方も落ち着いたところで、その……

 ダグトリオに勝った賞金、欲しいんだけど……」

「あ、そうっすね、ちょっと待ってください」

 

そう言われたので俺はスタッと立ち上がり、ポケットの小銭入れをごそごそする。

後ろでドレディアさんとミロカロスがややびっくりしているがどうしたのだろう。

 

「ば、化けモンや……タツヤんも十分化けモンや……

 ポケモンの特性の『さいせいりょく』なんて余裕で超えてんやん……」

「色々とタフなんだろうねぇ」

 

お、あったあった、これでいいな。

 

「はい、もっさんこれ。おめでとう!」

 

そうして俺はもっさんに手を沿え、硬貨を二枚渡した。

 

「あ、ありがとう……ふふ、うれしいな。うん、ありがとう、タツヤ君!!」

「いやいや、なんのなんの、嬉しい事は共有しないとね」

 

そして俺はいそいそと、ダグ達全員を起こして周り、気付けをして回復させる。

よし、俺が乗っても平気だな? OK? わかった、じゃあ頭にっと。

 

「ん、どうしたのタツヤ君、ダグトリオなんて起こして」

「いやなに、移動しなきゃならなくなると思いまして」

「え、移動? ……あれ、なんか硬貨が少ないような───」

「よし、ミロカロスもダグⅢに乗れッ!!

 ドレディアさんや元ダナゲキは付いてこれるな!?」

「え、な、なにこれ……じゅ、15円……?」

「ダグONE、GOーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

「ッーーーーーーーーー!!!」

「ッディーーーーー!!」

「オッス!!!」

「オオオオーッス!!」

 

 

 

 

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダッッッッ。

 

 

「ディ、ディァー!?」

 

【ど、どこに向かってんだーーーー!?】だとぉー?!

 

「俺が知るかぁーーーーーーッ!!!」

「ディァー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私、もうトレーナー、やめよっかな。

 15円だって……あんなすっごいダグちゃん達に勝てたのに

 15円なんだって……400円って言ってたのに……」

「えーと……ど、どんまい?」

「きゅ、キュゥ……」

「あ、あの……私、300円ぐらいなら……」

「うん、ありがとう……」

 

 

 







ヒロインは間違いなくダグトリオ。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

59話      

 

先程の流れの途中でダッシュしたはいいものの、行く宛もなかったので普通にポケセンに戻ってきた。

そしてハカイオウ以外は平然としてやがる。お前等随分スタミナあるナー……。

ハカイオウは、まあ明らかに迅速系じゃないし仕方ないな。

 

 

どうせみんな一気に帰ってくるんだろーし、今から飯作っておくかぁ。

俺らでえーと、俺含めて7人とサンドパンとプリキュアで11人分か。

大飯喰らいも三人ほど居るし、15人分程度作ればすっきりするかね。

 

 

 

 

 

 

「せやからー、そんな気にせんでええねんてー。

 うちら旅が本業やないけど……人生こんなんよっかきついの、もっと沢山あるはずやで?」

「うん……」

「あ、あの……私達もちゃんと説得しますから……。

 お願いだから、元気出してください、ね?」

「うん……;;」

「あ、おかえりんさいー」

「ん、ただいまー」

「ただいま……」

「え、あれ?! ここ『ただいま』って言って良いシーンなんですかッ?!」

 

前回ので大分慣れたと思ったが、やはりミカンさんはミカンさんだったようである。

ここで『ただいま』と言わずなんと言えば良いのであろうか。

 

「とりあえず今晩食う飯はもう作っといてますから。好きにお椀に移して食っちゃってください」

「おうー、毎度毎度すまんねタツヤん! タツヤんの飯おいしーからうち大好きやぁ」

「そいつぁ有難い事で。もっさんも飯食って元気出してー」

「うん……」

「もっさん! しっかり! しっかりしてくださいッッ!!

 元凶に慰められてるところに違和感持ちましょうよッッ!!」

 

え、元凶って俺でしょうか? 俺なんかしたっけ。

っと、そうだ。もっさんにちゃんと渡しておこう。

 

「ねえねえ、もっさんー」

「ん、なぁに……?」

「ほい、これ。さっきの試合の賞金。」

「え……?」

「さすがに15円は冗談だよ。色々言われんのめんどくせーから逃げたけど」

 

そういって、俺は5,000円の入った封筒を渡す。

まあ中身は今の段階では皆には見えてないがね。

 

「……? ……?」

 

なんかもっさんは混乱しているらしい。

俺の言っている事とやっている事がわかっていないのか、封筒と俺の顔を何度も見比べてくる。

 

「そん中はサンドパンの進化祝いも入ってっけど

 一応は試合の賞金としてしっかり収めておいたから。俺に気にせず好きに使ってください」

「え、と……ありが、とう?」

「なんでそこで疑問系になるのかな」

 

ま、俺はとりあえず渡すもんは渡したし……。

俺の手持ちの子達を呼んでこなきゃな。飯出来たーって。

 

 

 

 

というわけで、全員をぞろぞろと連れて食堂へ───

 

「お、タツヤ君ー」

「ん。」

 

なんか呼び止められた、誰だろう?

 

俺は後ろを振り返ってみるとカズさんがいた。

そういえばここら辺でトレーナー戦やってるっつってたっけか。

 

「どもっすー、カズさんー」

「おう、三日か四日振りか? そっちの調子はどうだね」

「あーもう絶好調って感じですかねー。

 あ、いや、ごめん訂正します。絶好調どころか全部ぶっ壊れました」

「日本語でおkwwwwwwww」

「そういわれても本当にそうなんだっつーのwwwwww」

 

 

日本語でおkとかなんと失礼な。他にどう表現しろと。

預かった単一の進化無し型のやつらがまとめて進化したとかさ。

ついでに言えばポケモン図鑑まで進化したとか、一体どう伝えればいいのさ。

 

 

「ま、いいや。そっちもどうせこれから飯なんだろ?

 俺も一緒に行くからそん時に聞かせてくれや」

「あ、いいっすよー。なんならついでにカズさんも俺の飯食います?」

「お、マジか?! あれをもう一回食えるってんなら大歓迎だ!!」

「OKっすー、んじゃ行くべーさー」

「おうッ! しっかしダゲキお前よー、随分雰囲気変わったな!

 その数珠とか胴衣はタツヤ君に貰ったのか?」

「お、オッス?」

「え、何その声」

 

 

おいちょっと待て。

ゴウキ、お前自分のトレーナーのカズさんにすらその声出してなかったのか。

いやー、もう何がどこからどうおかしいのかさっぱりわかんなくなってきたな最近。

 

ま、いいやーとりあえず食堂行くべ食堂ー。

 

 

「お、戻ってきたなタツヤん……と、どちらさんや?」

「うお、なんだこの美少女揃い踏みのうらやま空間は……とりあえずこんにちわっと。

 えーと……、俺ぁこっちのタツヤ君に、ポケモン預けて育ててもらってるモンだよ」

「ってぇことは……あの元ダゲキか元ナゲキか、どっちかの親御さんて事やな?」

「うんそうそう、俺のは元ダゲキのほうだね、元ダゲキ……も、元?」

「あれ、こっち来るまでに聴いてへんかってん?」

「いや、初耳だけど何その『元ダゲキ』、って」

 

あっちはなんか盛り上がってんな。放っておいてもいいだろう。

よっし全員席に着けー。ゴウキはカズさんと一緒に居ていいぞ。

久しぶりだし隣同士で飯食って来い。

 

「あ、あの、タツヤ君、ちょっといいかな」

「ん?」

 

なにやらもっさんが申し訳なさそうに俺に声を掛けてきた。

 

「あ、あの、えーとね? さっき封筒の中身、みんなで一緒に見たんだけどさ。

 5,000円って多すぎじゃないかって……」

「あーいっすよいっすよ。

 金額としちゃ確かに結構でけぇかもですけど……

 こっちもさっきのはさすがに後味悪い事しちゃったかなーって思ってましたし」

「お、思ってたんだ……」

 

最後の発言はミカンさんである。何? なんか文句あんのかおい。

こら、目ぇ逸らすなミカンさん。

 

「で、でも、ね」

「はーいそこまで。それ以上言っちゃうと次は賞金5円になっちゃうよ?」

「そ、それはさすがに嫌っ?!」

「ならもうそれでいいじゃないっすか。

 これからご飯ですし、ご飯は美味しく頂かないと食べ物への冒涜と同意義なんですよ?

 細かい事は気にせず、じっくり味わって食べましょうよ」

「…………。」

 

なーんかいつものもっさんじゃない感じがすんなぁ。

いつもだったら派手に突っ込んできてくれて俺もからかい甲斐があるんだが。

ま、とりあえずうちのみんなのご飯をよそってよそってーっと。

 

「タツヤ君っ!」

「うおっ?!」

「あ、ありがとうねっ!」

「いや、えーと……どういたしまして? 飯冷えるからはよ食え。」

「……わかったわ! よし、食べるわよサンドパン!!」

「キュッキュー!!」

 

んで、もっさんはアカネさんとカズさんが話している座席の方へと向かった。

サンドパンも一緒になって後ろへ付いて行く。かーわええー♡

 

っと……ん?

 

サンドパンがもっさんを追いかけながら向かう最中立ち止まってこちらを向いた。

 

「キュゥー!」

 

【タツヤさん、お金、本当にありがとうっ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

や、やばい。

 

鼻血が出そうだ。

 

わざわざそれを言うためだけに立ち止まってくれたのか。ちょ、あ、やべ垂れてきた。

俺もサンド捕まえてこようかな。あれ可愛すぎる。鼻つっぺどこだ。

 

 

「ふふっ、はいティッシュ♪」

「あ、ミカンふぁん、どもっふ」

 

俺はティッシュ箱から急いで一枚取り、キュルキュルとネジって鼻つっぺを作る。

そして鼻にぶっ刺しておいた。

 

「ねぇ、タツヤ君」

「ん、なんふかミカンふぁん」

「君って、本当にカッコイイね」

「これでかッ?! 鼻つっぺしてんのにこれでかッ?!」

「い、いや、えーっと……ごめん、今はカッコよくない、かな」

「うむ、それで良い。人間正直が一番である」

 

こんな格好でむしろ格好良いとか、初期のカッコよさ0のハッサンが聴いたら泣くぞ?

まああのステータスって初期装備がかわのこしまきなせいで

-20になってるだけらしいけど。ちなみにドラクエ6の話です。

 

「でもね、えっとね? もっさんがお金使いすぎちゃったっていうのは聴いてたよね」

「ええ。まあ、はっきり言ってしまえば自業自得としか思えませんけど」

「そ……そこははっきり言わないでおいてあげようよ……。

 でもね、そういうのも考慮してあの金額にしたんだよね?」

「さぁ? どうでひょうかね。元々完全に気分屋でふし」

「……うん、やっぱり、君ってかっこいいよ」

「さっきから何寝言ばっか言ってんすかミカンさん。

 ちゃんと寝言は寝てから言わないとダメですよ?」

「ふふ、それも照れ隠しなのかもね? うんうん♪」

「おーい黄色い救急車来てくれー、ここに夢遊病患者がいるー」

 

 

なんなんだこの会話ー。日本語が通じないよー。助けてー。

 

って、そうだ。

 

「賞金5,000円だってんなら俺がさっき渡した15円返してもらわないと!!」

「ダメッ?! それはダメっ!! 綺麗に纏まったのに色々台無しになっちゃうよ!?」

「な、なんでだッ?! あんた15円稼ぐのに

 人間どれだけ苦労しなきゃならないか知らんのかッ?!」

「で、でも駄目だよっ! だったら私の15円あげるからっ!」

「貴様ぁ……! この俺をたかが15円で買えると思っているのかッッ!!」

「もうどうすればいいのよーう!!!」

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

「あっちはあっちでなんか盛り上がってんねぇ。あの子タツヤ君の彼女かなんか?」

「いや、ちゃうよ? まあうちらみんなタツヤんの事それなりに好きっちゃ好きやけど」

「あぁ、やっぱそうなんだ……リア充撲滅すべしと思えてきた」

「まーまー。あの子のそばにおると色々と規格外で楽しいねん」

「そりゃわかっけどさぁー。なんなの美少女3人に同時に好かれてるとか」

「う……い、いいじゃないのよ、誰が誰を好きになろうと……」

「まぁ……あのやまおとこさんみたいにちっこい子にハァハァ言わなきゃ

 確かにどうでもいいっちゃ、いいかなぁ」

『え、なにそれ』

「いや、前にタツヤ君に話したんだけどねぇ……───」

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

そして飯になったわけだが、大いに盛り上がっております。

 

完全に意気投合したのかアカネさんとカズさんは

もっさんまで巻き込んで一緒にゲラゲラ笑いながら食べておりますし

俺も俺で手持ちの子達が勢い良く食べていくため、作り手冥利に尽きると、ね。

 

「ん~♡ おいしぃー!」

 

正面でミカンさんも喜んでおります。

おっとその横ではドレディアさんが既にどんぶり四杯目だぁーッッ!

 

一体、どうなってしまうのかー!!

 

ちなみにミュウはサイコキネシスでおかずとご飯を小さく丸めて

口にぽいぽい入れておいしそーーーに食べている。

ダグ共はもともとの性格もあってなのか、飯の最中は一番行儀がいい。

加えて食べる量も少しずつなため、見習うならこいつらしかいないといった感じである。

 

「ホァ、ホァ」

「ん、これ? ほいよ」

「ホァ~♡」

 

ミロカロスは基本、俺と一緒に食べている。

体はでっけぇんだがこいつもダグ並に小食なため、俺が少し箸でつまんで食べさせてやれば事足りるのだ。

 

 

「お、そうだタツヤ君よー」

「ん、なんすかカズさーんー」

「リア充しねー」

「るっせーおめーがしねー」

「まあそれはいいんだけどさー」

 

いいんだ。てかアカネさん横で笑いすぎ。

 

「まだ期間満了してないけど……

 よかったら君の手持ちと、このゴウキでバトルさせてみたいんだけど駄目かなー?」

「ああ、別に構わないっすよー。やっぱ持ち主としちゃ気になるでしょうしー」

「おーう、あんがとなー。じゃあ飯食い終わって落ち着いたらやるべー」

「おっけーっすよー。ちゃんと金出した分は既に間違いなく育ててますから期待しててくださいー」

「りょっかーい。しかし相変わらず飯うめぇぞこらー」

「ざまぁーwwwww」

 

 

そして最後には男友達独特のノリで締めくくる。

やはり横ではアカネさんが「あんたらなんなんよwwwww」と腹を抱えている。

まあやっぱカズさんと話してんのも楽しいわー。性別気にしなくていいから楽だし。

 

 

「ま、ああいう話になりましたが」

『??????』

 

突然振られた会話に俺の手持ち全員が【なんぞ?】とでも言いたげに俺に振り向く。

 

「うちからはドレディアさんで行くから。ドレディアさんしっかり準備しといてくれぃ」

「ディーァー!」

 

ドレディアさんは元気に返事をしてくれた。

おい行儀悪いぞ。手を振り上げるから箸にあった食べカスがぽろぽろ落ちたじゃないか。

もう、この子は駄目な子ね。おしおきかしら。

 

 





評価10が1個消えた。
だからあれほど「入れる前に本当にそのポイントでいいのか考えろ」と……


まあ俺は少なくとも人に見せて恥ずかしくないレベルであろうと判断して
自分自身で読んでそれなりに面白いから公開してます。

それぞれ個人個人で合う合わないはあろうかと思いますが
【しっかりと】評価をしてください。

俺ならまあ、7ポイントかね……。俺自身が読んで面白くねぇ文章は載せてねぇぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

60話 師弟戦

やっちまった……説明足らずだったか。

俺が前の話で言った『【しっかりと】評価をしてください』というのは
ポイントを入れろとねだった意味ではないのです。

あくまでも、これから俺の小説、もしくは別の小説でも入れる事があろう評価に対して
その数字の意味を【しっかりと】考えて入れてくれとの発言だったんです。
まあもう説明したところで手遅れだろうが。

変に促したような感じになってしまって申し訳ない。
今からなら遅くない。10を追加した人達、一度考え直してくれ。

もっと良い小説はあるだろう、好みに向くモノもあるだろう。
評価10は何度も入れれるものではありません。
完全に好みに合致した人が入れてくれれば俺は満足なんです。



 

 

ポケセンでカズさんと話をして、飯を美味しく頂いた後は

先程のお話通り、ゴウキのプレリリースと相成りました。

 

その合間に使った食器を洗ったり拭いたり投げたりドレディアさんがキャッチしたりダグONEの顔面に直撃したり

ハカイオウが気合入ったり、ゴウキが波動(だん)で打ち落としたりと色々とあったりしたんだが

まあ余り面白くない描写になるだろうし割愛。

 

 

んで、ポケモンバトルのためにみんなで外に出たんだが

ここでひとつ思い当たる内容が浮かんできたので、確認を取る事にした。

 

「ねえねえカズさん」

「ん、なんだー?」

「今回俺はどういう風に対応しましょうかね。普通モードと本気モードがあるんすけど」

「え、と……? 本気モードって、あれか?

 各々のジムリーダーが挑戦者用とは別に持ってる手持ちみたいな?」

「あ、ちょっと違いますかね……俺の場合はなんていうのかなぁ……

 ポケモンバトルって形より、野良(のら)(いくさ)って形の方が俺の子達も極限まで強くなるんですよ」

「ほうほう」

 

その内容に耳を傾けるカズさん。

俺、基本的にポケモンバトルだと普通に負ける雑魚だからな。

 

「今回、ゴウキとハカイオウに教えている内容に関しても

 実際のところはこの状況で強くなるような内容が結構な割合を占めてます」

「……ほほう、そんならもうそれで戦うしかねえだろッ!」

「んっふっふっふ……さすがわかっていらっしゃる。負けても文句を言うでないぞー?」

「へっへっへ……上等上等ッ! 俺だって伊達にバッヂ5個も持ってねーよ!

 年下にきちんとモノを教えてみせてやらぁ!」

 

ガチバトルの方が良いとの事で気合が入るカズさん。チャレンジ精神旺盛だなぁ……クックック。

一回見た程度で完全に真似出来るサル芸ではないからな。せーぜー楽しみにしてくださいな。

 

「なーなータツヤん、さっきもっさんと戦ったのは普通モードなんか?」

「ああ、そうっすねぇ。

 見てないでしょうけど、船でやりあってた戦いが俺の本気モードの戦いですよー」

「ほほー……そら興味あるなぁ。うちらも着いてってええやろ?」

「私もちょっと興味あります……」

「そういえば私もそれは見た事ないわね……

 まあ私は一度講習に参加してるし、大体予想付くけれど……」

 

ギャラリーが三人追加されて、さらに盛り上がる。

まあ別に負けてもいいんだが……こちらの土俵に上げてしまったわけだし、負けるわけにもいかんよな。

ドレディアさんにゃひっさしぶりに頑張ってもらわねば。

 

 

 

 

ま、そんなわけで都合が良い場所と行ったら修行場位しか思いつかないので

全員で修行場に足を運んでもらった。まあ俺らはいつも通りダグ共の上に乗っかってたが。

 

 

「さて、何か設定したいルールはありますか?」

「んー……パッ、とは思いつかないけど……

 こっちは一応ゴウキのお試しって形だし、そっちも一人で頼んでいいかな」

「オッケーですよー。問題ないっす」

 

 

たいした提案でもなかったので俺は快諾(かいだく)で答える。

つーか抜けると思ってんのか、このドレディアさんを。

 

「さて、ドレディアさん……あの船以来の本場だ。心構えは十分かな?」

「ディ~ァ~^^」

 

俺の確認の言葉に、ドレディアさんは恐ろしい表情でニヤァリと笑ってくれた。

うふふ、頼りになる子やわぁ……いやらしい笑みを浮かべおってからに。

 

「んじゃ、さらに気合入れてもらいますかーね」

「ドレディ~?」

「勝てたら明日の朝ごはんにおかずを二品追加してあげよう。」

「ドォォォォォ……ッッ!!」

 

よし、目が爛々と輝き出したのを確認。試合前の気合はこんなものでOKだろう。

 

っと……そうだ。

 

「試合をするカズさんはさておいて……

 見学者の三人とサンドパンは適当な位置に下がって置いてくださいねー。

 下手したら巻き添え喰らいかねませんからー」

「えっ……巻き添えて……なんやッ?! りゅうせいぐんとかせえへんやろな?!」

「ある意味もっと凶悪かもー?」

「ぉぉぉぉおおおいッッ!!」

 

ま、本当に危ないってことはないだろうし……

なんかモノ飛んできたら庇ってやってくれな、サンドパン。

 

「じゃ、そろそろ開始しましょうか、カズさん。合図はミカンさんに任せていいですかね」

「あ、はい、わかりました」

「うっし、美少女が合図で始まる試合とか激アツじゃねえか。やったるぜーぃ!!」

「メッサツ……!」

 

あちらもなかなかに気合が入っているようである。

 

では開始前の指令と行きますか。

 

「んじゃドレディアさん。最初は、ね───」

「ディ。ドレディァ。(コクコク」

 

 

 

 

「で、ではただいまより……タツヤvsカズの試合を行います!」

「ディーァー!」

「オオォォオッスッッ!!!」

「は、始めぇ~!」

 

そして開始の合図として、ミカンさんは手を振り下ろした。

 

「よーっし、ゴウキッッ!! まずは……───」

 

 

 

 

「ドレディアさんッッ!! ───ソーラービームだッッッ!!」

「ディァー!!」

 

 

 

 

「───なっ?!いきなりタメ技だと!?」

「メッサツ……?!」

 

 

俺の突然のごり押しファイトに、相手方は大層驚いている。

そしてドレディアさんは溜めるような構えを取り始めた。

 

「な、なぁ……? タツヤんって開幕からあんな隙だらけで戦うんか?

 セオリーどころか完全に素人の戦い方やん……」

「う、うん……私もジムリーダーやってるけど……あれは悪手にしか見えないよね……」

「……あれ? ソーラービーム……? ドレディアちゃんって確か……」

 

観客の三人娘は、互いに開幕の内容を話し合っている。

 

「……チャンスだっ!! ゴウキ、今のうちに一撃入れちまえッ!」

「ッ……!? オ、オッスッ!!」

 

そうして、カズさんはもちろんの事、現在において隙だらけ状態のドレディアさんを見て

攻撃を溜めている最中に攻撃を仕掛けるよう、ゴウキに指示する。

 

 

 

 

 

だが、カズさんは一切気付いていない。

 

本来のトレーナーであるカズさんの指示に、ゴウキが戸惑いを見せたのを。

 

『戸惑い』というその内容が、カズさんとゴウキで違う意味があったのを。

 

 

 

ゴウキは指示に従い、かなりのスピードでドレディアさんに肉薄した。

 

 

 

そして拳が交錯する瞬間。俺はドレディアさんの顔がにやけているのを確認する。

 

 

 

  グ

    ォ

      ッ

        !!

 

「───なっ!?」

「……う、うっそぉッ?!」

「え、ええええええッッ!?」

「あー、やっぱり。」

 

 

凄い衝撃が巻き起こり。

 

 

 

ゴウキが、凄い勢いでそこらの木に吹っ飛んでいった。

 

 

 

ドキャァッ!!

 

 

 

そして同時に、木にぶち当たって止まる。

 

「メ、メッサツ……!」

「お、おい、大丈夫かゴウキ! 一体、一体何が───」

 

 

開幕の一手はこちらが獲得した。幸先の良いスタートである……これからも順調に進めば良いな。

 

「も、もっさん、あれどういう事や?

 なんで殴られとるドレディアちゃんがそのままで、ゴウキがすごい勢いでぶっ飛んでんねんな?」

「うん、ソーラービームを指示した時点で違和感感じててさ。

 今、ちょうど思い出したんだけど……」

「う、うん……」

「──あの子、特殊型じゃなくて完全に物理型なのよね。

 前に見せてもらったステータスで、特攻のステータスグラフ一本しかなかったし」

『え、えええええええええええええーーーーーー!?』

 

ん、なんかミカンさんとアカネさんが驚いていらっしゃる。

そういえばドレディアさんのステータス、彼女らには見せた事なかったっけか。

 

「だから多分だけど……あのソーラービームの指示は、打ち合わせ済みの擬態だと思う。

 ゴウキの攻撃にあわせて、ドレディアちゃんがなんか殴り飛ばしたんじゃないかしら」

 

もっさん、正解。

 

俺が指示した内容は、最初の一撃目から判断ミスを誘うために

有り得ない攻撃・有り得ない指示を出して、相手を釣る事だった。

 

もっさんはドレディアさんの特攻がカスなのを知ってはいたが

カズさんに見せていないというのだけは俺も流石に覚えていた。

故に隙だらけになる指示を飛ばし、ドレディアさんにはその指示を無視して

戸惑いながら攻撃をしてくるであろうゴウキに、なんかカウンターとか入れろと言ったのだ。

見た限りでは、アレは『プロレスわざ』のラリアットだろうか?

腕が鎌首をもたげている。カウンター気味だったし威力も素晴らしい事になっている。

 

 

ついでに言えば、戸惑いの種類は

 

 

・カズさん=俺の指示の稚拙さ

・ゴウキ=ドレディアさんにそんな技が無いのを知っている

 

というすれ違いである。

 

ゴウキは普段からドレディアさんと組み手をし合ってて、彼女がどういう存在か十分に理解していた。

故にそれが擬態か何かだと、ゴウキは高確率で察知していたはずだが

カズさんが飛ばした指示は聴かねばならず、疑問が解けないままに攻撃を仕掛けざるを得なかったのだ。

 

そして、結末はこれである。だが───

 

グ……ググ……

 

「だ、大丈夫かゴウキ、まだやれるか?」

「オ、オォッス!!」

 

これしきの事で終わるような鍛え方はしてなかったよなぁ。

 

「くそっ……開幕から一体なんなんだ……!

 タツヤ君、全然ソーラービームなんかじゃないじゃないかっ!」

「それがどうかしましたか?」

「なっ……ひ、卑怯と思わないのか!?」

 

「んー卑怯ですかぁ…… ───実に、素晴らしい響きですね」

 

「な……な……」

「カズさんも言ったじゃないですか、本気モードで良いって。

 俺の本気モードってのはこう言う事ですよ。

 

 ポケモンの実力だけが全て、ではない。

 

 トレーナーの指示だけが全て、ではない。

 

 生物として反応してしまう、信用してしまう全てを

 

 擬態と誤解で戦場を作り出し、それを嘲笑いながら攻撃する……───それが、俺の本気です」

 

 

 

奇麗事は要らない。

 

お約束も要らない。

 

定型句だって要らない。

 

 

 

「勝てば、良いんですよ」

 

俺は勤めて笑顔で、自分の(ことわり)をカズさんに伝えた。

 

「……はっ、ハハハ、そうか……これは……───やりがいのあるバトルだ……!

 俺もプライドってもんがある。……こんな卑怯者に負けちゃぁなんねえなッッ!!」

「ええ、そうですね。でもね……卑怯者って───とっても強いんですよ?」

「上等だァッ!! ゴウキッッッ、『しゃくねつはどう』だッッ!!」

「……メッサツ!!」

 

指示を聞いた瞬間ゴウキは気合を入れるような構えを取り

あの技を繰り出してきた。曰く、ヨガフレイムコマンドというやつだ。

 

 

もちろんの事、直線的にドレディアさんに迫るが……

ドレディアさんは構えている間に拾ったそこらの小石を握り。

 

 

ヒュッ

 

ッパァン!!

 

 

迫り来るしゃくねつはどうに小石を投げつけ、空中で激突させる。

当然の如く、しゃくねつはどうは散っていった。その周りには軽い火の粉が舞い遊んでいる。

 

「う、ぐ……」

「そんなもんか? ゴウキ。

 んなら……最初のダメージが抜け切らないうちにやってもらおうかね」

 

俺がそう言うのと同時に

ドレディアさんは相も変わらぬ凄まじいトップスピードで、ゴウキに迫り行った。

 

「げ、迎撃しろ! ゴウキッ!!」

「ディァァァアッッ!!」

「メッサ……ツ?!」

 

ギャルッッ!!

 

ッダァン!!

 

「ディァーッ!」

「ゴ、ゴウキィーーーー!!」

「ォ、オオォ……ッス!!」

「う、わ……なんやねんなあの動き……。

 並みの格闘タイプじゃまずあんな動きお目にかかれんで……」

「凄い……」

「やっぱポテンシャルが凄いのねぇ……ドレディアちゃん」

 

 

ドレディアさんは、迎撃のためにゴウキが繰り出した拳を打ち払いながら

その柔軟性溢れる葉っぱのような手を、ゴウキの腕に巻きつけ

巻きつけたその手を軸にして、体全てをハンマー代わりにした

横打ちドロップキックをゴウキにぶちかましたのだ。

イメージとしては、あのかぼちゃドレスっぽい部分で横からぶん殴った感じである。

 

拳を突き出している上に正面からの打撃でもないため

ゴウキはその一撃を綺麗に貰い、もんどり打ってしまった。

 

もちろんの事、ドレディアさんは吹っ飛ぶと同時にゴウキの手を離しており

スチャッと堂に入った形で着地する。

 

 

「うはー……ドレちゃんかっこええなぁ……」

「うん、あれは凄いねー……シジマさんの子達でも厳しそうだよ」

「あの子は本当に初見殺し過ぎるわね……

 誰もあんな可憐な姿で殴りこんでくるなんて想像出来ないわよ……」

 

うむ、ハッタリという点が非常に生きる、素晴らしい相棒であると思っている。

 

「けどあのドレディアちゃんが凄い割りには……タツヤんって一切堂に入った指示飛ばしてへんよね。

 ただのコバンザメって事?」

「あ、そういえば……全然ドレディアさんに指示を飛ばしてないですね」

 

 

ちゃ、ちゃうわいっ!!

ちゃんと行動する前に色々指示は飛ばしてんだいっ!!

 

まあ、ちょっと後ろで沈むような会話を繰り広げられているが、そこはひとまず置いておこう。

他に考えられるあちらの手は……波動(だん)連打とかだろうか。

 

「ドレディアさん、ホームラン準備」

「ッ! ディァ!」

 

俺の指示を聞き届けた後、ドレディアさんは

 

 

 

ドグォッ!

 

 

 

そこらの木に拳をぶちかまし、根元間近からへし折った。

 

 

『ええええええええええええええええええええええええええ!?』

 

 

カズさんと三人娘が一斉に驚く。……まあ、そりゃぁ驚くか。

俺も旅の始めにこれを見た時はありえねーと思ったもんだ。

 

そしてドレディアさんは、へし折った木を持ち───装備(●●)した。

 

 

「う、くそっ……一体何をするつもりだ……! 投げてくるのか……!?」

「んふふー、さーてどうですかね。ドレディアさんちゃんと準備しとけよー」

「ディ~ア♪」

 

うむ、気持ちにも余裕が感じられる返答である。

 

「くっそ……ゴウキ!! あの木を何とかするんだっ!!」

「ムンッ……!」 --==Ξ三 Ω ギューン

 

おっと、ここでまさかの瞬獄殺か……速攻で打撃を入れまくって木屑にする算段かね?

しかし木を装備したドレディアさんには大した内容ではない。

 

 

「それ、ドレディアさんやっちまえ」

「ディィィィィ……

 

 

 

 

 ァァァァアアアッッ!!!!」

 

 

 

ブゥォヮンッ!!

 

 

「ッ?!」

 

 

ドギャァッ!!

 

ッダァァン!!

 

 

 

 

まるで幽鬼のように迫り来るゴウキに対して

ドレディアさんは文字通り木をフルスイングし、ゴウキをまた別の方向の木へぶっ飛ばした。

またも背中から木にぶち当たってしまい、ゴウキにダメージが蓄積される。

 

「ゴ、ゴウキッ!! しっかりするんだ!! お前はまだそんなもんじゃ───」

 

「躊躇うなドレディアさんッ!! ゴウキに木を投げつけちまえッ!!」

 

「ディァーーーーーーー!!!」

 

『うえぇえええええぇぇええーーーーーー!?!?!?』

 

 

俺はドレディアさんに追加の指示を飛ばし

たった今バット代わりにしていた木を、全力でゴウキに投げつける様に指示を飛ばす。

 

無慈悲だろうがなんだろうが……攻撃出来る隙があるなら、その時その時に全力を注がせる!!

 

 

そして、投げられた木は……あんな小さなお嬢様の何処にそのパワーがあるのか……

下手な野球選手のストレートより早く、ゴウキに向かっていった。

 

 

だが───

 

 

ゴシャァッ!!

 

 

『っ!?』

「あ、あ……」

 

 

その木が辿り付いた地点には。

 

 

 

未だ拳を構え

 

その拳を用いて木をさらに真っ二つにぶち折り

 

ダメージをいくら喰らっても

 

なお戦場に佇む『黒い鬼』が居た。

 

 

その鬼を確認した上で、俺は鬼に語りかける。

 

「うん、いい感じだゴウキ……出来ることは全部やれ。勝つためにならなんでもやれ」

「……オッス!!」

「それら全てが全部出来なくなった後でなら、負ける事を許す。

 

 ───やれッ! ドレディアさんッッ!!」

 

 

「ァァァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!」

 

 

「ま、負けるなゴウキッ!! インファイトだぁーーーーー!!」

 

 

「ォォォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!」

 

 

 

 

ドガガガガガガガガガッッ!!!

 

            ズガガガガガガガガッッ!!!

 

 

 

ゴウキのインファイトに対し、ドレディアさんはマッハパンチれんだで相殺していく。

今の状況は、まさにあのマチスさんとの訓練の成果の現れである。

 

 

「く、くっそ……! あのドレディア強すぎんぞっ……!!

 なんなんだよッ……インファイトっつったら格闘でも最高峰の威力だぞッ……!?」

 

「ホンマ、あの子どんだけやねんな……!

 こんなんポケモンリーグどころかチャンピオン戦でも見た事ないでッ……!?」

 

「   (ぽけー)   」

 

「ミ、ミカンちゃんっ!? しっかり!! 今凄いところなんだから、見ないと損よっ!?」

 

 

それぞれがそれぞれの感想を述べる中、俺はぶつかり合う二人を冷静に見る。

ドレディアさんはパンチでインファイトを相殺しているが……

同時に一、二発攻撃を逸らしている。

そのタイミングの狂い故に、ゴウキは僅かながらに押し込まれていき……

 

 

「ォォォオオオオオオッ!!!」

「……────。」

 

 

ヒュガッ!!

 

 

「メ、メッサツ……!?」

「な、なぁっ……!?」

 

 

 

ついに。

 

ドレディアさんは。

 

そのインファイトをかいくぐり。

 

ゴウキの首元に、喉輪を打ち込んだ。

 

 

「メ、メッサ……」

「ドォレェ、ディァー!!!」

 

 

ズダァン!!

 

 

「……ーーーーーッ!!」

 

 

そのまま勢い良く、ゴウキを地面に押し倒し……すなわち。

 

 

「ァァアアァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!」

 

 

 

 

 

がんめんパンチの。

 

 

 

 

 

必殺の領域に杭を打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……参った。完全に負けたわ」

「うむ、お相手ありがとうございました」

 

 

こうして、ゴウキのプレリリースは終わった。

まあ相手が悪すぎるというのはあるが、性能の把握としては問題もなかろうと思う。

 

流石に全部が全部、俺に都合が良い状況だったし

かなり本気でドレディアさんも動いてくれた。レベル差があっても結果は必然だろう。

 

 

「お疲れさんー。いやいや、ええもん見せてもろたわー」

「うん、オツカレー。ミカンちゃんの意識がまだ帰ってきてないけど

 私は十分に楽しませてもらったわ……あの時サンドが瞬殺されたのもよくわかる」

「   ぽけー。   」

 

 

観客さんの反応は三者三様といったところである。そして全く鳴き声こそ描写されてないが……

ずっと見ていたサンドパンにも、何か学ぶものがあれば幸いだったのだが。

 

「いやしかし、なんでそのドレディアってこんなに肉弾戦に強いんだ?

 俺の記憶じゃドレディアは特攻が強いってデータのはずだけど……」

「ま、色々あるんすよ。こっちも」

 

わざわざ突然変異だのなんだのとバラす必要もない。

ていうか説明面倒だから秘密のままにしておく。

 

 

「ディァー。」

「お、ドレディアさんもお疲れ」

 

 

がんめんパンチをやりきった地点から、気絶したゴウキを背負い

ドレディアさんが俺らの元へと戻ってきた。ゴウキ、完全にグロッキー状態である。

うーわ、うーわ、うーわ……

 

「まあ、こんな感じで育ってくれてます。

 あと二、三日で引き渡しになりますけど……現状だとどうっすかね」

「あぁ……負けたのを差っぴいても、これは凄いわ。

 正直木を投げつけられた時は完全に負けを覚悟したけど……

 自分の判断で無効化してたからなぁ、前のダゲキじゃあんな事は出来なかったと思うよ」

「ご満足いただけたようで何よりです」

 

進化したってのもあるかもだが、今の能力でも十分に満足してもらえているらしい。

実際今回の戦いで出てこなかった臨機応変なシーンもたくさんある。

返した後にさらに満足してもらえる事を祈りたいところである。

 

 

 

 

 

 

ま、こんな感じで今日の夜は更けていった。

明日も頑張るぞーい。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

61話 修行?

※ガチ注意※

今回の話は本気でポケモンという要素がほとんど関係ありません。
ついでに言ってしまえば技もほぼ一切出てきません。

が、しかし……元々どうでも良い部分を特に強調して書いているのが俺のスタイルです。
実際訂正前も15000字前後あったはずなので、見応えは多分あると思います。

それでは……おそらくにじファン連載時代に最も力を入れた61話、どうぞ。



昨日の模擬激戦から一夜明け、翌日の朝。

 

 

眠い。

俺また寝るわ。

 

 

 

 

61話、完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはようございます。

二度寝してたらドレディアさんに飯作れって腹にダイビングされました。

俺の腹は大海原ちゃうぞ。水のフィールドでダイビングをしろ。

 

 

 

「さて、今日はいろいろな意味を込めて、『連携』を学んでもらおうと思います」

「連携かぁ?」

「連携、ですか」

「連携、ねぇ……」

「ディァ~」

『─────。』

「ホァー」

「ミュゥー」

「キュー」

『オッス』

 

 

こうやって表現すると本当に初期に比べて面子が増えてんな……ぶっちゃけ描写しきれんわ。

前の話なんてミロカロスとダグ共、鳴き声すら上げてないぞ。

ダグ共は鳴き声と言っていいのかどうかわからんが。

 

 

ん、何? メタんな? メタングがなんだって?

俺はそんなモン持ってないぞ。

 

正直ゲーセンのUFOキャッチャーは全部メタグロス化すれば良いと思うんだ。

それが出来ないなら1日15分ハンドグリップをキャッチャーの腕に握らせる法令を作れ。

 

ちなみにカズさんは今日も元気にトレーナー戦に出かけている。

「ゴウキの仕上がり、楽しみにしてんわ!」と言い残して

俺の飯をついでに食わせた後、元気良くシオンの西に出て行った。

 

ついでになんで三人娘が修行会議に参加しているかというと

今日は修行場まで移動していないからである。

加えて聴かれても大した問題でもないと判断し、邪魔者扱いするのもあれなので許可した。

 

「うむ、連携である。

 昨日ポケセンに帰ってきた時にこんなものが目に留まった」

 

昨日のうちに受付の人から許可を貰い、ポスターを一枚もらっている。

それをテーブルに広げ、全員に見せる。

 

「ん……?」

「えーと……」

「んっと……?」

 

 

『……ポケモンタワー修復作業、日勤アルバイト募集???』

 

 

その通り。

 

レッドさんがぶっ壊したあのポケモンタワーだが

なんらかの事情で、修理に大活躍するポケモンが不足しているらしく作業が進んでいないらしい。

故に一般からの公募で、力のあるポケモンをアルバイトで雇い入れる方針に出たのだろう。

 

「このアルバイトに俺も含め全員で入ろうと思う」

「うーわ、これって一人頭の扱いやから……

 日勤5,000円だとしたら、10人で50,000円かぁ?

 えっげつなー。人のポケモンに野生のポケモンまで混ざってるのにー」

「ふん、なんとでも言え。俺は使えるものなら寝転がっている親でも使う」

「タツヤ君、それはちょっと……」

「キュー」

「私のサンドパン、まさかそれに入れないでしょうね? 入れたら本気でぶっ飛ばすわよ」

「金に困ってんならもっさんも作業に入ればいいじゃないですか」

「私はトレーナーとしてお金を稼ぎますっ!!

 バイトはバイトしたい人だけしてればいいじゃないのよ」

 

そんな風に息巻いて、大否定に走るもっさん

この人将来ぜってー苦労するだろうなー……視野が狭いのはイカんぞ。ゲソ。

 

 

ま、こういう作業ってのは連携がよければ作業がスパスパ進むものなのだ。

 

俺が教えている修行内容は基本的に野良限定といっても過言じゃない。

その場に何があるか、何が居るか、その辺りは全部不明瞭である。

 

故にその場に居る人と一緒に戦う場合、即席の連携すら必要になるかもしれない。

そこら辺の模擬テスト的な感じで、このバイトへ赴くのだ。

 

 

「んー、うちもミルタンク連れて参加してみよかなぁ?」

「私の手持ちの子は……ちょっと、役に立てない子ばかりかな……」

 

ふむ、ミルタンクか。

モーモーミルク振る舞い放題ってのは確かに参加者も喜びそうだが。

 

「今回は別に見られても大した情報の流出も無いだろうし

 参加するってんなら俺は全然構わんっすよ」

「あんがとタツヤん! そんならうちも参加で行くわ!」

 

 

こんな感じでトントンと話は進んで行った。

 

 

 

 

というわけでポケモンタワー前。作業者を簡易面接する待機小屋に登場in俺ら。

 

「んー……? 君らが修復工事に参加するってのかい?

 力作業に体力作業だから、パワフルな子じゃないと困るんだが……」

「あーまあ見た目に関してはあまり役に立たないってのも認めます。

 でも確実に作業の中でなら主役級に動けるのが何人もいますよ」

「確かに、後ろのえーと、格好は若干おかしいが……ダゲキとナゲキだな?

 君らは頑張ってもらえそうだが……」

「確かにうちも一人の人間として見たら

 工事現場ではエースにはなれんなぁ……ポケモンバトルとはまたちゃうやろし」

 

作業現場の監督さんにちょっと難しい顔をされてしまう俺ら。

ちなみにこれは当然といえば当然である。監督さんの立場になればよくわかる事だ。

 

 

 

まず修復する作業に掛かる費用、給料はどこから出るか?

これは当然ポケモンタワーを施設として所有しているシオンタウンである。

 

でもってここが重要だが、新たに費用が必要になったとしても

余程の事が無い限り費用の追加がされる事はない。その費用やら見積もりやらも最初に出して

会社に請け負ってもらうのがこの世界の工事における最初の手順なのである。

 

俺が元居た現実世界は知らん。

 

 

そして、その一回の見積もり+費用を計算した結果、シオンタウンから出されるお金。

こっから材料費や人件費を全て出すわけである。

 

『工期が間に合わない』だの『材料に不手際があった』だので

余計な費用が掛かった場合でもここから捻出される。

 

んで最後に全部終わって、残ったお金が会社の利益として挙がる訳だ。

つまり……余計な人件費だの、工期が延びるだのが発生すれば利益は下がってしまうのである。

 

最終的にそのお金ですらまかないきれない何かが発生した場合は

施工会社がお金を出して工事を完了させなきゃならない。

 

『お金がないからもう無理です』で済む世界ではないのだ。

そんなことをしたら最後、その後に仕事が舞い込むことはまずなくなる。

社会全体から爪弾きにされて会社が終わってしまうのだ。

 

故に、会社としては戦力になる人だとしても安く雇わなければならない。

赤字現場にするわけにはいかないのだ。

 

 

だからこそ監督さんも人選びは慎重にやっている。

故に俺らは難題と取られてしまうわけである。ここを恨むのは筋違いというものだ。

 

 

「……仕方ない、今は本当に猫の手も借りたい程だ。君らも作業現場に入ってもらおう。

 但しッッ!! 君らに関してだけは日給ではなく歩合制にさせてもらう!

 それが認められないなら、すまないがお断りさせてもらおう」

 

ほー……歩合と来たか。むしろとてもいい提案である。

 

「歩合制ですね、いくつか質問があるんですがいいっすかね」

「……? 歩合って言葉がわからんかったか? 歩合ってのは───」

「ああ違います違います。大丈夫っすよー。

 その歩合に関わる仕事の内容の良し悪しは、個人の出来になるんですかね」

「ん……そんなのは当たり前じゃないか」

「じゃあそこをちょっと換えて欲しいです。

 一人一人の仕事の良し悪しじゃなく、俺ら全員をチームとして見て

 そのチーム全員の作業の進み具合で、最終的な歩合を決定して欲しいんです」

 

正直俺やアカネさんの腕力なんぞたかが知れている。俺らが活躍するのは力仕事の方ではない。

だからチーム全体で考えてもらって、影響力とかを考えて

その分を評価に入れてもらったほうが良い結果が生まれるはずだ。

 

「……チームでの歩合、か。

 その場合、トレーナーの君達が活躍しない分のデメリットは

 動けるポケモン達の活躍した分と相殺される可能性のが圧倒的に高いが……

 それでもいいのかね? ポケモンだけ貸し出すほうが効率的だと思うが」

「俺らはそっちのが有難いっす、お願いしていいですかね?」

「わかった、そちらがそれでいいならそうさせてもらおうか。

 それじゃあ……んー今回はこの子らのトレーナーである君達二人のサインでいいか……

 こっちの紙の必要事項を書いていってくれ、書き方の例はこっちの用紙だ。

 間違えた内容を書かれると後々面倒な事も発生しかねないんでな、しっかり頼む」

「了解っすー。」

「りょっかいやー。」

 

俺らはそれぞれ、監督さんから紙二枚とボールペンをもらって必要事項を埋めていく。

 

「え……なんで働く側のうちらが300円取られるん?」

「ん? ああ、これですか? これも結構重要ですよ。

 これは保険ですからね、必須事項の一つです」

「保険て……何、どーいうこと?」

 

 

※長文をうまく区切れなかったため

 見易さを重視してここから先の一部、一人一人の発言毎に1行あけております。

 

 

「この現場で作業している際に俺らが何かの間違いで怪我するとするじゃないですか。

 それがどうしようもない大怪我とかだった場合を例にしますけど……

 ポケモンバトルをしに、交戦地に行く事も出来ないし

 仕事をメインに生活している人達は、仕事を休まなきゃならない。

 その間、当然自分の給料は0円ですよね? 下手したら入院費用だけで大きいマイナスです」

 

「そやね」

 

「そのためのこの300円です。

 もし俺らが怪我をしなければこの300円は丸々保険会社のモノなわけですが

 俺らが怪我をしてしまった場合はこの300円以上の保証を保険会社がしなきゃならない。

 そんな感じにうまい具合に成り立っているわけですね」

 

「……坊主、お前よくそんな事知ってるな。説明する手間が省けたぞ。

知らんヤツは大体ここで文句を言うからな」

 

「いやなに、俺らの住んでた家とか

 それこそポケモンセンターとかだって、全部が全部監督さんが直接担当した現場ではないだろうけど

 監督さんと同じ業界で頑張ってる人達の産物でしょう?

 そこに感謝を感じられるなら、少し考えればわかる事ですよ」

 

「うーむ、坊主みたいに知恵があるヤツが日雇いで来たのは初めてだな……

 お前さん……別にこんなところで働かなくてもいくらでも稼ぐ手段あるんじゃないか?

 一体ここに何をしに来たんだ」

 

「実はポケモン達の連携の訓練だったりします」

 

「ちょっ?! それ言わんほうがええんちゃうかぃ?」

 

「……ははぁ、なるほど。やっぱお前さん知恵モノだな。

 基礎を戦いじゃなく日常から引っ張ろうとする辺り……

 変化系をメインにした戦いとか大好きなんじゃないか?」

 

「うーむ、さすがですね監督さん。俺の言葉だけでそこまでわかるか」

 

 

何故日常から引っ張るなら変化系が大好きか?

 

脳筋……つまりはパワーファイト主義なら、基礎をそのまま戦いから引っ張り出すからである。

戦いじゃないところから引っ張ろうと考えるのは大体が、偏屈か変態か変人か俺だ。

 

 

「そっちも私生活だと結構良い戦いしたりしてんじゃないすか?」

 

「ふふん。これでも一応トキワジムのトレーナーだ。ガキに舐められない程度にゃ頑張ってんぜ」

 

「うっわぁ……トキワジムて、あれやろ?

 そのジムに所属してるトレーナー全員が

 別の街のジムリーダーやっても問題ない実力持ってるってジムやろ?」

 

「おーそうだなぁ。他のジムに行って戦ったーってヤツの話は良く聴くが

 接戦繰り広げたって話はほぼ全員から聞いてたなぁ」

 

「ちなみにこのアカネさん、ジョウトのコガネシティでジムリーダーやってますよ」

 

「おぉ!? マジかぁ、こんな小さい嬢ちゃんがなぁ……

 コガネ……コガネ……ノーマルタイプだっけか?」

 

「せーかいー。なんや、うちんとこ結構有名やん♪」

 

「俺が聞いた中じゃかなり有名な方だぞ? 大体のヤツがミルタンクを突破出来ないっつってたなぁ」

 

 

……おい、これ見てるやつら。

一度はミルタンクに負けた経験があるやつ、正直に手を上げろ。

俺は一度負けたぞ。レベルあげまくってごり押した。

 

 

「ふふーん、うちの可愛(かわ)えぇ子を舐めるからやな!」

 

「……まさか、今回現場に参加するのはそのミルタンクなのか!?」

 

「んふふー♪ 結構力持ちやからな! 期待しとってー★」

 

「そいつぁ頼もしいな、ハッハッハ。

 坊主、お前もミルタンクに負けねーように頑張ってくれよ!」

 

「うーぃす。まぁ失望させない程度に頑張りますよー」

 

 

俺、細かい雑用以外は指示飛ばすだけだし。

 

 

 

 

つーわけで、現場状況などを聞かせてもらった。

まずは8:30から作業開始。作業前に全員で現場ミーティングなんだそうだ。

一応ミーティングは既に終了している。

 

現在、監督さんの会社でなにやら立て込んでいるらしく

重量のある作業を負担してくれるポケモン達が殆どこちらに来ていないらしい。

故に工期は5、6日を見積もっているそうである。

 

しかもその重機代わりの子達が居ない故に、資材とかもタワーの外にある状況だ。

これは並みのポケモン達じゃ時間掛かりそうだなー。

 

ま……やるからにはきっちり、綺麗に。手抜きは許さん、頑張っていこう!

 

 

「全員ヘルメットは被ったかー!!」

 

『おぉーーーーう!!』 ※意訳

 

「安全第一ッ! 全員突撃ぃー!!」

 

『うおおおおおおおーーーーーー!!!』 ※意訳

 

こうして連携修行の一日が幕を開けた!!

 

 

 

 

 

 

作業指示・力作業編。

 

「よしっ、じゃあまず資材を一気に二階に運んじまうぞ。

 

 担当!!

 

 ドレディアッ! ダグトリオッ! ゴウキッ! ハカイオウッ! ミルタンクッ!」

 

『サーイエッサー!!』

 

「一気に持って行こうとするなッ! あくまでも自分が出来ると思う範囲で持って行けッ!」

 

『サーイエッサー!!』

 

ドレディアさんは自慢の怪力、ダグトリオは三人での連携作業。

元ダナゲキは元々の馬力が強いポケモンである。

アカネさんのミルタンクは、パワー作業に関してはこの面子に若干劣るので

これに向いていない俺、アカネさん、ミロカロス、ミュウで補助する。

 

つーかドレディアさんの馬鹿力がすげえ。

元ダナゲキ合わせてもおそらく250キロ程度の重量なのに

一人で400キロ位持ってってるぞ。しかも平気な顔して往復してやがる。

 

ダグトリオのほうは完全に効率重視だ。一回一回の搬出は小出しだが

チャッチャッチャッと、見ていて気持ちが良いほどに外の資材が減っていった。

 

ミルタンクは一回に持っていける量も25キロ程。一般人って感じである。

こう比較をすると少ない気もしてしまうが十分である。

俺ら一人一人じゃ、二階に上がる労力を考えても5キロ……またはそれより下が限界だ。

 

ミロカロスもレベルダウン効果で重量物はからっきしである。

それなのにダグトリオ達が頭に乗っかっても涼しい顔なのは何故なんだ?

どういう感じに作用してんのよ、ミロカロスの筋力って。

 

ミュウは俺ら小粒達がふらついたりしてモノを落としそうになった時に

サイコキネシスで資材が傷付かない様に補助してもらっている。

 

 

こんな感じで頑張っていたら二時間程度で全ての資材を運び終える事に成功。

監督さんが唖然としていた。まあ確実にドレディアさんに驚いてんだな。

 

 

そんなこんなで全ての資材を二階の入り口部分へ運び終えた。

 

 

 

 

 

 

作業指示・現場作業AM編。

 

 

資材を一通り運び終わり、現在10:40ほどである。

お昼にはまだ早い時間帯といったところだ、10分ほど小休止をした後に全員を集める。

 

「えーと、監督さんからもらった作業指示は……

 瓦礫の撤去と壊れた壁に新しい資材を使っての修復だな」

 

間取り図を見る限り、ときたまバトルが発生してしまう関係上

排水管とかもしっかりと床に配置されているようである。

 

「よし、じゃあまずは修復しやすい形に持って行こうか。

 ついでのサービスで、壊れた壁のレンガは先に砕いて形を整えよう」

 

『サーイエッサー!!』

 

「んー、これの担当はミュウ一人居ればいいかな。指示は俺が出そう。

 小さい瓦礫は非力組全員で、このでっかい袋に入れて行ってくれ。

 大きい瓦礫は豪力組で、穴の開いちまった壁のちょっと外側においてくれ。

 すぐ近くだと俺とミュウが躓いて危ないかもだから」

 

『サーイエッサー!!』

 

「ついでにアカネさん、俺らはポケモンじゃないからさ。

 きつい事はやらんようにしておいてね」

 

「了解やっ!!」

 

と、いうわけで各自散開。俺とミュウは一緒に穴の開いた壁へ向かう。

 

「とりあえずここは(高い所から足を)(滑らせても体重を)(支えきれるベルト)つけれるような場所もねえし……

 もし俺が足滑らせて落ちそうになったら、補助頼むね」

「ミュゥー!」

「んじゃ、えーと……ふむふむ。

 よし、ここをこんな形で、このブロックが正式な形ね?

 この形じゃない崩れているブロックの外枠をだな……切り取るようにサイコキネシスをやっていってくれ」

「ミュゥミュー?」

 

【こう?】

 

ガガガッ。

 

小気味良い破砕音と共に、どんどんと階段状に壁が削り取られていく。

 

「うんよし、そんな感じー。

 んじゃここを開始地点にして、あそこの穴の終わりまで削って行こう」

「ミューミュー!」

 

ガッガッガッガッ。

まるであみだクジのようにガスガスと90度に削れて行く壁。

文字の形的には凸凹←こんな感じである。意味が全く真逆だ。

周りではみんながせっせと瓦礫を集めている。削り作業自体は30分程度で終わってくれた。

 

ふと周りよりちょっと奥を見てみると……さっそく豪力組が華麗な連携を見せていた。

 

ハカイオウ→ドレディアさん→ゴウキの順に

 

ぽーい → ぽーい → バカァゥッ、と。

実際何キロあるかすらわからん程のドデカイ瓦礫が

バレーボールのように浮いている様は末恐ろしいモノがある。

俺は今、ポケモンが重機を越えた瞬間を見た。

 

ゴウキが最後に瓦礫を砕いているのは、一通り運びやすいようにするためであろう。

 

 

ふむ、よし……こんなところか。

 

 

「よっしゃ、俺らは一旦ここで作業をやめるぞー。

 飯だー。全員一階に降りろー」

 

『ォオオオオオオオオオウッッ!!!!』

 

 

仕事時間では、飯の時間に一番気合が入るのが社会人の常識です。

 

 

 

 

作業指示・昼食編。

 

 

昨日寝る前に仕込んでおいた大量提供向けの安い素材で仕上げたご飯とおかずを、休憩室から引っ張り出してくる。

かなり重たかったのだがドレディアさんが手伝ってくれたおかげで飯の準備もさほど時間は掛からなかった。

頭の花に弁当箱を載せてバランスとりながら歩く様は結構かわいいぞ。

でも食べ物で遊んだらだめでしょっ。

 

今日は待機小屋で食わず、せっかくなので青空の下食べようと言う事に。

 

「なぁ、ミュウ。α波って知らん?」

「ミュ?」

「んーやっぱ知らないか……なんかこうさぁ、熱線みたいな……

 ご飯を温められるビームみたいな……」

「ミューミュ?」

 

【こんなの?】と言って、冷えたご飯に謎ビームをかけてくれた。

その結果出来たのは、ぬるいご飯。

 

ポケモンやべえ。

 

「さすがだな……これをちょっとご飯とおかずにかけてほしいんだ。

 冷えた飯よりはあったかいご飯、これだけでやる気も違う!」

「ディァーッッ!!」

 

その会話内容に即座に反応する我等がドレディア大帝。即反応とかさすがですね。

 

ミュウに頼んで順々に熱量を調整し、食べ物を温めて行ってもらう。

やりすぎたモノに関してはちょっと具を広げて、自然に冷ます。

 

「あ、アカネさん。ミルタンクのお乳飲ませてもらってもいい?

 水筒代わりの入れモンあるから、これに入れてほしいんだけど」

「ってことらしいわ。ミルタンク、イケる?」

「ンモォォォァン!」

 

ドリンクの方も、ミックスオレより回復効果が高いモーモーミルクを確保。

とってもおいしい昼飯になりそうでござる。

 

 

「お、なんだなんだ。お前さん達は外で食うのか」

「あ、どうもっす」

 

 

監督さんがポケモンタワーから出てきた。

後ろには今日のお手伝いさん+元々の監督さんの手持ちであろう子が連なっている。

 

「あ、おっちゃん。そっちの作業はどうやー?」

「まぁ……ボチボチってところだな。

 元は人のポケモンだし、力が強いっつってもこっちが本業じゃないからな。

 変な事しないように補助すんので精一杯だ」

「監督さん達は飯どうすんすか? なんだったら俺らの昼飯食ってきます?」

「 ! いいのか? んならお邪魔させてもらおうか。

 匂いからして食欲そそっちまう様な気合入ってる飯みたいだしな」

「あいあい、かなり作ってきたんで多分大丈夫っす。君らもこっち来いーみんなで食うべー」

『オオオオオオオオゥ!!』

 

と、現場合計で20人程の青空大宴会となりましたとさ。

監督さん並びに、本日監督さんの下についている力自慢ポケモン達も

『うーーまーーいーーぞーー』と言っていた。お粗末さまです。

 

なおミルタンクはさすがに20人分のお乳はきつかったらしく

昼飯が始まる前にアカネさんにポケセンに向かってもらって回復してきてもらった。

 

二人共ご飯に入るのは若干遅れたが、ミュウのα波でホカホカ状態での提供に成功。

おいしさを堪能して頂きました。

 

 

 

 

作業指示・現場作業PM編。

 

 

「よし、昼の作業を説明するぞー。

 まず穴の外は、上から落とす瓦礫の撤去役にドレディアさんとダグトリオ。

 二階からぶん投げる作業はハカイオウとゴウキだ。

 非力組は引き続き袋に小さい瓦礫を詰め込んで行ってくれ」

 

『サー、イエッサー!!』

 

俺はひとまず、担当人数が多い二階のほうへと上がる。

そして作業位置に問題が無いのを確認。作業に移った。

 

「じゃ、怪我しないようにドレディアさん達から少し離れた場所に投げてくれ。

 ドレディアさん達はー、落ちた場所に取りに行ってー。

 そんでー、拾い上げたらそっちのトロッコに乗っけてってー。

 ダグONEはトロッコが満杯になったら、動かして瓦礫置き場に持ってってー」

 

二階から穴の下に居るみんなに対しての発言なので、若干大声です。

 

『サーイエッサー!!』

 

そして豪快に始まる大瓦礫乱舞。

 

ひゅーん。どーん。ひゅーん。どーん。

 

その後ろでは非力組がちょこちょこと袋を完成させていく。

一時間後、大体キリ良く大きい瓦礫が始末し終わった。

そして袋の作成も5袋作りこちらも移動する。

 

ガッシ。

 

「あ、ハカイオウにゴウキ、ちょっと待った」

『オッス?』

「こっちにあるのは袋だからね。袋自体に耐久力があるんだ。

 んだからでっけぇ瓦礫と同じように投げると

 あっちで袋が遠心力と重量に耐え切れなくて、破けて散らばって面倒になる。

 手間かけて悪いけど、一個一個ロープで持つトコを縛ってゆっくり下に降ろすよ」

『オォッス!!』

 

そうして非力組で、ぶっといロープを持ち手に括りつけ

ハカイオウに袋の移動を、ゴウキにロープを引っ張り落下制御を指示する。

 

「そうそう、いきなりずーんって落ちないようになー。

 いい感じいい感じー。よーしドレディアさんにダグ達ー。

 ロープを解いて、袋をトロッコに持っていってくれー」

 

『サーイエッサー!!』

 

結構硬めに、そして複雑に縛られたロープの部分に多少苦戦しているのがここから見える。

ここばかりは手を抜くわけに行かない。ロープの縛り口が重さに耐えれなくて

解れて袋が落下したら下手すりゃ死ぬからな。

 

そして外れたロープを再度二階部分へ引っ張り上げ、次の袋に括りつける。

これを繰り返す事四回。袋も無事に下に送り終えた。

全部瓦礫置き場に移動したのを確認した後、ドレディアさんとダグ共を二階へ戻した。

 

「よっし、それじゃ次だ! ミロカロス、出番だぞ!」

「ホーァ?」

「砂利と埃を出来るだけ一気に取り除く。

 床に水をぶち当てながらうまくあの穴に持って行って排水してくれ」

「ホァー!」

 

そしてミロカロス、気合一発みずでっぽう。威力はせいぜい蛇口のホース。

 

ドバーーーーーッと。びちゃびちゃと床に水が浸透していく。

いつも思うがその水はどっから精製されているんだろうか。

 

まあ細かい事を気にしてはいけない。

そんな事を考えていると、どんどん綺麗になっていく穴の周り。

10分ほど水圧での瓦礫撤去を繰り返し、ひと段落が済んだ。

 

 

 

 

作業指示・現場修復編。

 

 

「よし、本日最後の作業だッ! この壁の穴の修復に取り掛かる!!」

 

『サーイエッサー!!』

 

「修復する材料は、朝に全部二階の入り口に持っていったな?

 あれ、一応他の担当区域のヤツも混ざってるから

 ここを修理する分と間違えないで持ってくるようにしてくれ」

 

『サーイエッサー!!』

 

「じゃ、担当区分けなー。

 まず豪力組、ドレディアさん、ゴウキ、ハカイオウ。

 君らはレンガと石材をメインにこっちに運んでくれ。

 但し! 極力レンガとかも欠けさせない様に運んでくれ」

 

『サーイエッサー!!』

 

「一応豪快な上に繊細な作業とか、訳のわからん内容になるから

 ミュウは豪力組について、危ない箇所がありそうだったら補助してあげてくれ。

 持つための隙間をサイコキネシスで少し持ち上げて作るだけでも違うから」

「ミューィ!!」

「んじゃ、とりあえず人間二人の俺とアカネさんで

 レンガのつなぎになる……これ、この溝ね。これを塗って作っていくよ。

 監督さんから作り方の指南書もらって来てるから、これを一回読んでおこう」

「っしゃぁ! 腕の見せ所やな!」

「んでー、ダグ達は高い場所に、これを塗りこんでいってくれ。

 ついでにそこにレンガを置く際には頭に乗っかるから」

『ッbbb』

 

一応監督さんに高所用の機材がある場所も教えてもらってるんだが

元々このダグ達、三人で速攻でトーテムポール作れる程バランス感覚に優れている。

故にそんなもん使わなくてもこいつらが居れば事足りる。

 

 

 

ぬーりぬーりぬーり。

 

レンガを並べ、レンガを並べ、レンガを並べ。

 

ぬーりぬーりぬーり。

 

レンガを並べ、レンガを並べ、レンガを並べ。

 

 

「っふぅー……こっちは結構しんどいなぁ……

 ミルタンクー、うちにミルクちょーだいー」

「ンモォォン」

「あ、俺も頼むわ。喉渇いた」

「ンモォォン♪」

 

水筒に乳を搾り出してもらい、ぬるいまま一気に飲み干す。

ゴッキュゴッキュゴッキュ。

 

『うーーまーーいーーぞーー!!』

 

たまんねぇッ! マジうめぇッ!

 

「あ、アカネさん、そこちょっと歪んでますよ」

「ぅお、マジか。気ぃつけるわー……ぬりぬりっと……」

 

 

ぬーりぬーりぬーり。

 

レンガを並べ、レンガを並べ、レンガを並べ。

 

ぬーりぬーりぬーり。

 

レンガを並べ、レンガを並べ、レンガを並べ。

 

 

「ふぅー……ちょっと疲れてきたなぁ……」

「ん、そうっすねぇ。今は14:30ってところか……おっしみんなー、小休止取るぞー」

 

『サーイエッサー!!』

 

 

 

 

「いやーこういうのも楽しいもんやなー!

 バトルばっかしてる子らにもさせてみたいわー!」

「モノを作るってのはそれだけで楽しいもんですしね。

 ずっとやり続けてるとさすがに飽きが来ますけど……悪い事でもないでしょう?」

「うんー。もっさんが言う事もわかるにはわかるけど

 うちはこういうのも結構好きやな。『有り』やと思う」

「実際んとこ、作業も結構な勢いで進んでますからね。

 これはかなりのハイペースだと思いますよ」

「まあ、明らかにドレディアちゃんの質がやばかったなぁ。

 朝のあれがなかったらもーちょい時間掛かってたんちゃうん?」

「そっすね、ドレディアさん一人でパワーポケモン4、5人分働いてましたし」

「ホンマに、可憐な癖によぅ頑張りよるのう、ドレディアちゃん!

 くのっ、くのっ♪」

「ディ~ア~///」

 

アカネさんに肘でつんつんとされて真っ赤になるドレディアさん。

褒められてまんざらでもないらしい。

 

 

んで、休憩が終わった後も同じように繰り返し。

後半はダグの頭に二人で乗っかって、高い部分を埋めていく。

高い部分で歪んでしまった所は、ミュウのサイコキネシスで微調整を行ってもらった。

 

 

 

 

そして16:00頃───

 

 

 

 

「かーーーんせーーーーいッッ!」

 

『イエェェェェェェェェェイッッ!!』

 

 

一応内部が完成した後、外側からも見てみたが

まだ溝の部分の材料が乾ききっていないため、外から見ると色合いにムラがあるが……

多分ここまで仕上げちまえば、素人作業で考えるなら及第点と思われる。

内側から見て気付ける(ゆが)みも、ミュウが居たおかげで違和感はしっかり取り除けている。

これにて担当工区、作業終了である。

 

「よし、そんじゃあみんなで監督さんに報告に行くぞー」

「ドレディアー!!」

『ッッッ!!!』

「ホァ~!」

「ミュゥー!!」

「オッケーやー!」

「ンモォーン!」

『オォッス!!』

 

 

 

 

「あ、監督さーーん」

「お、どうした坊主! そっちの作業はどんぐらいまで行ってる?」

「無事に終わりました! 最終チェックお願い出来ますか?」

「おう、終わったか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……終わったの?」

 

「え、はい。」

「(゜д゜)」

 

あれ。

 

「……まあ確かに考えてみれば、あの朝の作業の早さがあればわからんでもないか。

 んじゃぁ、ちょいと仕事の出来栄え見せてもらうかね。

 こっちもプロだからな、残念な部分はきっちり残念って言わせて貰わんとな」

「あい了解っす、それじゃこっちにお願いします」

「んっふっふー、おっちゃん驚いたらあかんで? うちらチョー頑張ったんやで!」

「ハッハッハ! なーに大丈夫だ。大人を舐めちゃいけねえぞ?

 あの仕事の速さで……なおかつ坊主は『終わった』ってきっぱり言ってんだ。

 しっかりと終わったって目安の見える範囲で仕事をしたんだろ?」

「ううむ、まあそうなんですけど。

 もうちょっと子供がやった事的な扱いをしてくれても

 いいじゃなかろうかと思ってしまいます」

「ハッハッハ、なーに。

 坊主が達観してんのはあの朝の会話でしっかりわかっちまってるしな!」

 

工事帽の上からぺしぺしと軽く叩かれる。まあ悪い気もしない。

 

そうして俺らは作業を終了させた場所に向かう。

 

 

 

 

「うーむ、まさかここまで仕上げてくれるたぁなぁ……

 瓦礫の撤去も完全に終わってるし……」

「いい感じっすか?」

「おう、ここまでやってくれりゃ上出来だ。

 ただまあ、さすがに全体的に見れば素人作業っぽい箇所はあるがな」

「んーむ、結構頑張ったんすけどそういう点はやっぱ目立ちますか」

「んだぁな、でもここまで形が出来てんなら、あとは俺一人で微調整出来るしな。

 きっちり戦力として働いてくれたようで何よりだ」

「ういっす。ありがとうございます。

 みんなー、お褒めの言葉を頂いたぞー!」

 

『イエェェェェェェェィ!!』

 

こんなわけで、作業終了予定から二時間ほど早いが

俺らのポケモンタワー修復作業は完了したのだった。

 

ちなみに現場監督さん曰く、予定ではここまでの内容に至るまで三日を予定してたそうな。

改めて自分達の面子がどれだけ化け物なのかよくわかる結果である。

 

 

 

 

そして場面は作業待機小屋……俺らは監督さんと一緒にここまで戻ってきた。

今日の給料の手当ての件である。

 

「うっし、それじゃ今日の手取りだ。えーと……ちょっと待ってくれなー」

「はーい」

 

監督さんがそろばんを用いて、緻密な計算を始める。

 

まあ素人考えではあるが、今している計算はおそらく日数的なものだろう。

これから5、6日かけてやる作業が一気に短縮された分、人件費の浮きを計算しているのではなかろうか。

 

もちろんの事、その浮き全てが全部俺らに入って来るほど社会は甘くない。

 

例で考えて、5日で掛かる人件費が300万、1日60万掛かるとして。

今回俺らがやった作業が丸々5日分だとしたら240万浮いている事になる。

 

しかしその金額が浮けば浮くほど会社の利益が増えるわけで

ここでその240万全てを功績者に渡すお人よしな会社は

他の悪い事を考える会社にあっさり飲まれているはずだ。

 

それこそ、浮いた240万から60万を差っぴいて俺らに渡したとすると

俺らは一日でもらえる給料が60万だったはずが120万。

 

※厳密には俺ら全員で60万では無い。

 今日監督さんの下に付いて働いていた子も含めて60万の計算である。

 加えて今回の説明全てが『あくまでも』例なので事実ではない。

 

会社側は元々の工程で300万掛かる費用が120万で済み、浮いた金額が180万。

どっちも得をするWin×Winが成立する。

全部よこせよ、と思う人も中には居るだろうが……それなら俺は逆に()(ただ)す。

 

 

貴様は。

 

自分が監督さんの立場に立って。

 

浮いた会社の利益を全部貢献した相手に渡せるのか。と。

 

 

要は妥協が大事なのだ。ちゃんとした線引きをするのが大切である。

 

 

そして監督さんは計算が終わったようである。

 

「ふー、待たせてすまなかったな」

「わくわく、わくわく♪ うちらはいくら貰えんやろねー♪」

「まあ俺は別にいくらでもいいっすわ。修行の場所提供してもらってるよーなもんですし」

「お、いいのかッ!? じゃあ給料がっつり減らしても───」

「ドレディアさん、今から二階行ってきて壁半分壊してきて。」

「だーーーーーーーッッ!! 無し無しッッ! 今の無しッッ!!

 俺が悪かったッッ!! 勘弁してくれッッ!!」

「うむ、よし。ドレディアさん、キャンセルでお願いします」

「ディーァー」

 

繰り返す。妥協は大事なのだ。みんなはこんな脅しやらんように。

やったらクビどころじゃ済まんぞ。最悪の最悪で裁判にも発展しそうである。

そんな実例あるかどうか知らんが。

 

「ん、ゴホン……そいじゃ、チーム全体での歩合だったよな?

 今日の作業場での完成度を見て───全員合わせて40万とさせてもらおう、問題無いな?」

「……タツヤん、これって多いん?」

「すっげー多い。」

「おぉ、やっぱ坊主はしっかりと相場わかってるか。

 有難い話だ、こっちも社長に良い報告返せそうで嬉しいぞ」

 

 

元々、一人頭が5,000円と見積もっていた。

俺、ドレ、ダグ、ダグ、ダグ、ゴウキ、ハカイ、ミュウ、ミロ。

アカネさん側が、アカネさんとミルタンク、これらで11人。

一人5,000円だってんなら当然11人で55,000円である。

 

つまり40万って事は、一人頭で考えて、適当に計算しても日給36,000円前後である。

 

社会人は大体の人が週2日の休みで働く。

一月(ひとつき)が30日で大体4週間。22日働いたとしよう。

22日×36,000円。月の給料が約780,000円である。

 

どれだけ多いかわかって頂けただろうか。多分人気ホスト並であろう。

まあ、中身が年相応のアカネさんにこの計算を速攻でしろってのは無理な話。

俺は俺で価値観がわかってればそれでいいのだ。

 

 

「そんなわけで、っと……よし、40万きっちり入れたからな。

 坊主に嬢ちゃん……今日は本気で助かった、飯もえっらい旨いもん食わせてもらったしな。

 明日にはこの現場も引き渡せそうだ」

「おお、そんなに早いっすか」

「それだけの仕事をお前さん達はしてくれたって事さ」

 

やはり褒められるのはくすぐったいが、気持ちが良い物である。

 

「それじゃあ、今日はどうもありがとうございました」

「おっちゃん、ありがとうなー!」

「おう! こっちこそありがとうな!

 また機会があったら是非頼みたいもんだ」

 

 

 

こうして、連携修行は終了した。

 

 

 

 

 

 

「はい、それではー。

 今日もらった給料の分配に入りまーす」

「やたー!!」

「アカネちゃん、お疲れ様」

「ちゃんと修行は出来てたの?」

「ええ、ばっちりですよー」

 

とりあえずは封筒の中から現金を引っ張り出し、ズァッと横に広げる。

 

「え───」

「な───」

 

ミカンさんともっさんはその光景に非常に驚いているようだ。

まあ40万なんて大金なかなか見ないだろうしな……無理もない。

 

「さて、と。計算は結構ざっくばらんにやります。

 そいじゃアカネさんとミルタンク。

 二人の参加で一人40,000円。計80,000円でOKですか?」

「んっふっふー、駄目に決まってんやろ? その倍はもらわんと───」

「了解ー、それじゃ2人合わせて20円で。

 はいこれ、お疲れ様」

 

俺はポケットから10円玉を二枚出して、二人に向かって放り投げた。

 

「ごめんなさいごめんなさい。こんな場所で欲長けてごめんなさい。

 一人4万でいいです。訂正します。ごめんなさい」

「それでよし。じゃ、これ収めてください」

 

ふざけた事に対してふざけた内容を伝えて黙殺完了。

4万でも若干多めに手渡してるのにそれに文句をつけるとは何事か。

 

「う゛わ……ミルタンク……8万やで8万……

 これ地味に凄くない? やばいでこれ。」

「ンモォオーン!」

「う、うらやましい……! こっちは1500円しか稼げてないのにっ……!!」

「すごいねっ、アカネちゃんっ!!」

「んふーふーふーふー♡」

 

プリキュア達が寄り集まって結果に関して色々話し合っている。

もっさんはお金よりプライドを選んだんでしょーが。文句を言うでない。

 

そして残金は32万。

 

「ゴウキ、ハカイオウ」

『オッス?』

「お前達は一人頭5万だ。修行が終わった後にそれぞれのパートナーに渡してやんな。

 きっと喜んでくれるぞ」

『オォォォッス?!』

 

【いいんすか師範!?】と投げかけてくる2人。

何……問題は無い。俺だって人のポケモン酷使して得た金使うほど、人間捨てちゃ居ないからな。

 

「お前等が頑張って稼いだ金だ、まあ建前は修行って形だけどな?

 ほら、大事に持っておけよ」

『オォッス!!』

「まぁうちらと比べて完全に疲れる作業、一手に担ってたしな……

 うちらより高くなるのも当然やなぁ」

 

こうして5万5万と手渡し、残金22万。

 

「ミュウ、お前も4万だ」

「ミュゥー!」

「お前はまだお金の価値もそこまでわかっちゃいないだろうけど

 4万もあればお菓子とかも沢山買えるからな、でも一気に使いすぎちゃだめだぞ?

 残ったお金がドレぐらいの価値のものかとかってのは、その都度聴きに来ていいから

 無駄に増徴して一気に使いすぎないようにな」

「ミュウー♡」

 

そうして、ミュウにも4万円入りの封筒を渡しておく。

 

「んで、これの残りが俺らの取り分だ。

 合わせて18万だな、このお金は俺が管理する」

「ディーァ」

「ホァ~」

『ッッッbbb』

 

特に否定もなく、俺の手持ちの子からは同意を得た。

元々しっかりと堅実に金を使っていた実績を認めてもらえたのだろう。

もちろん全額生活費に回さず、半額位はそれぞれの贅沢に使わせてあげるつもりだ。

 

「よっし、これで今日の修行は完全に終了だッ!

 旨い夜飯食って、また明日も頑張るぞー!」

 

『イエェェェェエエエイッッ!!』

 

 

 

今晩のご飯も盛り上がりそうである。

 

 




工事現場ルールは殆どうろ覚えです。
適当にオリジナルも入ってますのでこれが全てではありません。
ついでに言えばこういう解体作業は埃が舞いやすいため防塵マスクは必須です。
でもここはポケモン世界なので、見た目の想像し辛さからつけさせてはおりません。

とりあえずな、ネットの情報だけを鵜呑みにして
工事現場の人達をドカタ程度のヤツだと卑下するヤツは一度考え直せ。
彼らは確かに気性も荒いし、すぐに怒ったりもする。

けど俺らが住んでる家の一つ一つだって彼らが存在しなければ
ひとつとして出来てないんだぞ。
学校で全部習えるもんとは訳が違う。馬鹿にしてるやつは思い直せ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

62話 最終日


完全ギャグパートです。




 

 

 

「はい、それじゃテストを返します。」

「ディーァ」

『ッbbb』

「ホーァ」

「ミュィ」

「あいー」

「は~い」

「はい。」

「キュー」

「メッサツ!!」

「ッシャオラ!」

 

 

 

全員、誰が誰だかわかるかな?

三番目は多分俺だわ。

 

 

「えー、では今回のテストの平均点ですがー。

 47点でした。お前等マジ俺と一緒に何を学んでたの? ねえ舐めてんのこれ?」

「ディァー……」

『orzorzorz』

「ホォ~ン……」

「ミュー……」

「すんません……」

「す、すみません」

「ごめんなさい……」

「キュー……」

「オッス……」

「オッス……」

 

 

まったく……一体どういうことだこのボロボロな成績は。

お前等平均65点位取ってくれよ。この一週間なんだったんだよ。

 

 

「はー……じゃあまずドベから発表だー。

 この1週間でいっちばん何も学んでないヤツなー。覚悟はいいか?」

『『『GOKURI(;゜A゜)』』』

 

 

 

全員予想は出来ているだろうか? さぁ、成績最下位は誰でしょうかー。

 

ポケズ。演出頼む。

 

 

 

でん♪でん♪

 

でん♪でん♪

 

でん♪でん♪

 

でん♪でーっ♪

 

 

 

「───最下位は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカネさんだぁーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

 

 

 

「えええええーーーーーーーーーー!?

 ウワぁぁぁぁぁーーーーーーー!! う、嘘やぁーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 

 

 

アカネさんが頭を抱えてぶんぶんと体を振る。

 

学力試験、人間がまさかのポケモン以下へと甘んじた瞬間である。

まあこの人途中からの参加者だけどいくらなんでもこれはねえわ。

明らかな脳筋のハカイオウとゴウキに負けているとかどういうことなの……

 

他の面子は明らかにほっとしている。

 

 

「ちなみに得点は……  1 7 点 ! お前本当張っ倒すぞ?!

 俺が教えた内容全然頭に入ってねぇじゃねぇか!!」

「そ、そんな……

 うちのアイデンティティーが……うちは実は出来る子って設定やのに……」

 

知らねえよそんなもん。

そんな事より教師役の俺の深い悲しみを何とかしろ。

 

 

 

 

 

 

 

ん、おっと……すまん。

何の説明もしてなかったな、そういえば。

 

 

まあ今はご覧の通り、ポケモンセンターの一室を借りて育て屋の最終日をお送りしております。

 

 

俺の理念は、だな。能力だけ高くても駄目なのだ。

その場その場で臨機応変に対応出来る順応力が大切なのな。

 

んだから最終日は学力テストにしてやった。

 

 

 

 

 

 

事の起こりは朝に関わっている。

 

俺が朝、起きる前に、だな。なんか前世の夢を見たんだよ。

 

んで、高校でテストやってたんだわ。

 

そしたっけさー。数学が何故か50点50点の2枚で出てきてな?

一枚で100点満点にしろよって話なんだけどさ。

 

俺数学苦手でさ。二枚合わせて合計で7点しか取れなかったんだよ。

情けないにも程があるんだが、内訳がもっと酷いんだわ。

 

 

 

1枚目が6点。2枚目が1点。しかもおまけ的な意味で1問目だけ△付いてた。

 

 

 

此処まで来ると笑い話になるレベルなんだがよ。

やっぱ本人としてはプライドが崩れ去った瞬間なわけよ。

夢の中とは言えなんか悔しいじゃんか、な?

 

 

 

んだからベッドから起きて歯磨きして飯作る前にソッコーで問題作り上げて

人数分コピーさせてもらって、最終日の育て屋ジャンルを学力試験にしてやった。

 

 

 

俺は悪くない。

 

 

 

 

 

 

とまあ、こんな理由で学力テストを終わらせて、今なわけである。

 

「ま、アカネさんの脳みそはとりあえずカスって事が判明しました」

「う、う、うぅー……orz」

 

「───が……だ。他にも恥ずかしい成績を取りやがったやつが居るっっ!!」

『『『ッ!?(;゜д゜)』』』

「続いてブービーを発表する……

 

 ───ドレディアッ!!

 

 お前24点とか舐めてんの?! ねえ舐めてんの!?」

 

「ディァァァァァッ?!?!」

 

【そんな馬鹿な!?】と言わんばかりに席から立ち上がるドレディアさん。

 

「とりあえず解答欄の答えを読み上げる!!

 

 Q.街中で財布を拾いました。どうする?

 A.全力でぶん投げる。

 

 とかなにこれ! ねえなんで投げ捨てんの?!

 届けろよッッ!! 投げる位なら交番に持ってけよッッ!!」

「ァー……」

「他にもまだまだあるッ!

 

 Q.スライムが現れた!! コマンド?

 A.メガンテ

 

 なんでいきなり自爆呪文なんだよッッ! おかしいですよカテジ○さんッッ!!」

「ディァッ!! ディーァ!!」

 

【自爆はロマンだろ!!】だと!? お前マジでドラクエやったらそれしろよ!?

 

「最後にッッ!!

 

 Q.自分のトレーナーが大怪我を負ってしまいました。まずやる事は?

 A.かいふくのくすりを叩き付ける

 

 お前これただ凶器でぶん殴ってトドメ刺そうとしてるだけじゃねえかーーッ!」

「ディァ?! ディァ、ドレーディァ!」

 

ドレディアさんはその答えに対して全力で抗議の声を上げる。

【違う! それは違う!! 蓋を開ける手間を惜しんだだけだ!!】とか抜かしてやがる。

 

「けどな……こんだけ珍回答してんのに

 アカネさんより上とかどういう事なんだよ……。

 おいそこ、目逸らすな。どういう事なんだよ、おい」

 

ちくしょう……なんかもう、傷口を抉られる思いだ。

こいつらにとって俺ってなんなんだろう。

 

「んで、酷いドレディアさんは置いといて……

 意外なところでダグトリオ、いやダグONEにTWO、Ⅲ。

 お前等だけは信じてたのにどういうことだこれ……」

『─────;;』

 

ダグトリオ達の得点は28、29、33点の順である。

 

「俺、お前等のトレーナーである事が悲しくなってきたよ? この悲しみ、何処に捨てればいいの?

 限りのあーるー、学生(仲間)なんてー僕ーはー……要ーらーなーいよー……」

 

 

俺の手持ちの酷さを話そうか。

                                    ゜

 

「さて、ここからはまだ比較的頑張ってくれたやつらになる。

 えーまずは、意外に好成績……。ハカイオウ! 64点ッッ!! ゴウキ! 71点ッッ!!」

 

『オォオーッスッ!!』

 

突然こんな方針に切り替えた上でのこの結果。修行の成果としては上々ではなかろうか?

 

「んーただ……確かに点数はよかったんだが。

 二人共……わからないところの回答を適当に答えるのは頂けないな」

「「(ギクッ)」」                          ゜

「本当に……なんなんだこれは?

 

 Q.シンオウ地方のご当地品は何か?

 A.台所に干してあるパンツ

 

 Q.ジョウト地方における伝説のポケモン2種を答えよ。

 A.タツヤ カトレア ゜

 

 Q.アンノーンのZ文字タイプの出現率を答えよ。 

 A.焼きもろこし150円                      ゜

 

 これ、明日にでもそれぞれの持ち主に晒しておくから」

 

『( д ) 』

 

お前等、目どこに吹っ飛ばしてんだよ。

 

「さて、こいつらはこの辺にしておいて……次! ミロカロス79点!」

 

「ホァ~~~~♪」

 

「やっぱお前の存在は癒しだ。うん。これからもよろしく頼むな、お前は俺の救いだよ」

「♡♡♡♡」

 

ちなみにこいつは口で紙に答えを書いてました、器用なもんさねー。

俺は流石に口で文字は、うん……かなりきつい。

 

 

「ではここからはトップランカーになる……

 突然テスト形式にしたのに対応したその適応力は見事と言える!

 第4位! サンドパン、88点ッッ!」

 

『おおぉおおーーーーー!!』

 

一般的なポケモンの中では意外にもこの子がインテリだった。

やっぱこの子も俺の癒しだわぁ……クチバでも教えてたしな、この成績は先生としてはとっても有難い。

 

「サンドパンはあとでご褒美を上げるからな~。お前本当いい子すぎるだろ、さすが俺の」

「私の子よ?」

「さすが俺のポケモンだ」

「言い直すなッ!!」

 

なんやら横で寝言をほざいているガールスカウトがいるがとりあえず放置だ。

 

「んで、第3位だ…… 第3位!! もっさん!! 96点ッッ!!」

 

『おぉぉおーーーーーーーーーーーー!!』

 

「ふふん、ざっとこんなもんよ♪」

「まあぶっちゃけ解答欄は非常に面白みに欠ける常識的なものしかありませんでした。

 答えられてない問題がフェルマーの最終定理ぐらいだしな」

「いや、そもそもそんな法則聞いたこともないわよッッ?! そんなもん、どう答えろってーのよ!!」

「適当に塩味とかカラメルソースがベストとか答えりゃいいじゃんよ」

「食べ物だったのそれッ?!」

 

会話は突っ込みがしっかりしてんだけどなー。

なんで紙に書くと模範解答にしかならないんだろう、このお姉さんは。

 

「では次、第2位……!!

 もうここら辺まで来ると呼ばれてない人もたったの二人しか居ないわけだ……

 さて、どっちがどっちだろうな……!!

 

 では……

 

 第、2位だ!!

 

 ミカンさん、99点ッッ!」

 

『あぁぁおおおぉおおぉおーー!!』

 

 

惜しい……実に惜しい、後一点が届かなかったミカンさん。

でも結果は素晴らしいよ、見事と言える。

 

「おめでとうミカンさん。

 後一点届かなかったけど99点はとっても立派だと思う。ベストオブ常識人だね」

「あ、ありがとう……///」

「なぁなぁ、タツヤん。採点したのタツヤんやろ?

 残りの一点で届かなかったのってなんの問題やったんや?」

「ん? 別に何も間違ってませんよ」

『え』

「なんかその場の気分でちょっとノリが悪いなーって思ったんで

 俺独自の採点で1点マイナスにしておきました」

『ひどっ?!』

「う、うう……間違ってないのに99点って……ひどいよぅ……」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。

 つまりは俺が採点してなきゃ100点って事なんですから」

「いや、そういう問題じゃ済まされないわよこれ……

 

 って、あれ? てことは1位は……タツヤ君の気分でマイナスもされないで

 ミカンさんの99点を超えたって事よね……つまり満点……!?」

「うむ、その通り!

 

 ではもう残っている人も一人しかいないが発表だッッ!!

 良くぞ人間の頭脳を抜いたッッ!! さすが技を全部覚えられるだけある!!

 

 

 第 1 位 ! !

 

 

 ミュウ!!

 

 

 

 

 

 

 

 1 0 8 点 だと……!?」

 

 

 

 

 

『えええーーーーーーーーーーーー!?』

 

 

 

 

 

おいなんで100点満点のテストでこいつ108点も取れてんだよ。どういうことなの……

 

 

「ミュミュ~♪」

「いやちょっと待てお前ッ! まさかお前……!

 俺が一旦採点した紙引っこ抜いて、エスパーの技かなんかで文字変えやがったなッ?!」

「ミュ~ミュミュ~♪」

 

【勝てばいいんでしょ~?】だと……

 

「た、確かにその通りだ……。

 そういう意味ではお前は確かに俺の修行を事細かに理解している事になる……!」

「(ドヤァ)」

「うわうぜぇ! その顔やめろ!」

「あかん、その手があったか!!

 ミュウちゃん、うちのテストの点数の改ざんも頼むで!!」

「おいやめろ! 採点者の前で堂々と宣言してんじゃねえ!!」

「ディァ、ディーァ、ドレディ!!」

「おめーも頼んでんじゃねえ! いいから隅っこでメガンテしてろや!!」

「ディー#」

「うるせえッッ! この件に関してはお前は一切正しくないッ!!

 いいから隅っこ行って『ディーフェンス!! ディーフェンス!!』とでも言ってろ!!」

 

なんなんだよこれもうー!

俺はこんな事を覚えさせるために修行をしてたのか?!

思わぬ追撃に俺がK.Oされてしまいそうだ!

 

「ミューミュミューゥ!!」

 

と、気合を入れてミュウが叫んだ後に

俺が持っていた採点用紙がふわりと浮いて……ってお前マジでやる気か?!

 

「ちょ、やめ、やめろ、ミュウーーーーーー!!」

「よっしゃああーーーー!! 頑張れぇーーーー!!」

「ド、レディァーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてミュウがいじった解答用紙を見てみたら

 

 

ドレディアさんが4点に。

 

 

アカネさんが2点になってた。

 

 

二人して隅っこに行って『ディーフェンス……、ディーフェンス……』ってやり始めた。

 

 

さて、これで育て屋全行程が終了した。

明日はコクマロさんとカズさんにあって、出来栄えを見てもらうだけだー。

結構充実した一週間だったなぁ……。こういうのもいいもんだねぇ……。

 

 

 

あ、やべ。コクマロさんじゃねえ、コクランさんだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

63話 鳴く声

短い+厨二病



多くは言わん。気に入らないならPCを投げ捨てろ。


 

「……なんだかんだで、まあ……うん。

 一週間なんてすぐだったな、2人とも」

「メッサツ。」

「ッシャァ」

 

 

学力テストの結果発表を終え

俺は二人を連れ出しポケモンセンターの裏、施設の外に出てきている。

 

 

「お前等は、どうだったかね?

 俺も『育て屋』って名を出して、人のポケモンを育てたのは初めてだったんだが……」

 

「……オッス」

 

「オッス!!」

 

 

ゴウキが

【正直、色々な意味で世界が変わったとしか表現出来ません……

 師範には、食事から我の暴走の制御、概念の進化に我自身の進化……

 様々なもので世話になったと自覚しておりますし

 自分自身の正当な評価として、間違いなく主人の一番槍を目指せる力を

 獲得出来ていると判断するに至れる一挙一動を得ました】と述べ。

 

ハカイオウは

【己は今まで、バトルに出ることも無く、ボディーガードが主の日陰者だった……

 しかしこの一週間、色々と考えさせられる事ばかりだった。

 そして日陰者だからこそ出来る戦い方がある事も、知るに至れた……。

 まっこと、感謝の極みに御座います。例えこれからもバトルに出れずとも

 我が主の護衛にメインメンバーの訓練、やれる事に全力で携わる覚悟が出来申した】と述べる。

 

 

評価としては最上級のものをもらえているようだ。おっかなびっくりだった部分もあるし

ゴウキに関しては一度全力でフルボッコにしてしまっているため、怯えさせてしまったかと思ったが

あいつもあいつで、あの時の状態は暴走であったと自覚していたらしい。

 

ハカイオウのほうは、今回初めて聞いた話になってしまうが

やはりメインメンバーにも混ざっていない事から

コクランさんと一緒に居る機会も、試合外での常用といったところなのだろう。

しかし今回の修練でカウンターなる投げのバトルスタイルの開発にも成功した。

下手をすれば、バトルフロンティア入りも夢ではないと思っている。

 

 

良い結果だ、本当に良い結果だ。

持ち主二人は、俺にどう言ってくるか現状わからないが……

カズさんに至っては今の時点でもそこそこ好意的な受け取り方だったし

俺は俺で、本人自身が満足してくれている事のほうが重要だ。

彼らが俺の修練の内容に納得出来ていなければ

俺が教えた事だって、100%を実戦に活かす事は無理なはずだ。

 

 

 

「───そうか、うん、そっか。ありがとう二人共」

『オッスッ!!』

 

 

 

手応えはしっかりとあった。今後の旅でもこれが活きるかもしれないな。

 

 

 

さて、最後の特別授業だ。

 

 

 

「……では、二人共───これより、俺の最後の修練を始める」

「「!?」」

「大丈夫だ、今回の修練は今日やった学力テストに近い。

 体を動かすもんじゃなく、あくまでも概念って感じだな」

 

最後の最後だ。

あくまでも俺の理念でしかないが、最後の一押しとして

一本、ブレない軸を持ってもらおう。

 

「これから話す内容をしっかり聞いてくれ。

 お前等がどう捉えるかにもよるが……聞いて損な話でもないからな」

『……。』

 

 

 

 

「───いいか。

 

 

 今、ここに存在している自分を、常に、最強の存在と思え。

 

 我の他に敵は無し。我に攻め入る者に壁は無し。

 

 想像する自分の姿は、常に最強。

 

 想像しなくても存在する姿は、常に最強。

 

 飛行だ、エスパーだ、草だ、虫だ、そんなものは───……一切関係無いッッ!!

 

 例えどんな戦いでも、どんな状況でも───

 

 自分が立つ山の頂は。常に王者ッッ!!

 

 自分が立てる唯一の場所は、常に最強ッッ!!

 

 自分が辿り付いたその場所は、常に敵無しッッ!!

 

 

 ───どんな時であっても、これを、絶対に、忘れるな。」

 

『───……。』

 

自分を信じる事。

その強さの裏は、自分が努力をした事。

その実力の表面は、自分が成し得て辿り付いた傑物。

 

自分を信じる事を怠れば、自分が自分である事すら不安に感じてしまう。

 

 

だから、俺は。

 

この二人に対して、常に思う事を最後に指示する。

 

 

「……これで、全修練行程を終了する───二人共、今までお疲れ様」

「─────。」

「─────。」

 

俺が修了を宣言した後、正座していた二人は立ち上がる。

そして───

 

 

【【師範、今までお世話になりましたッ!!】】

 

 

そんな意味の眼を俺に向けた後、斜め45度の礼を俺にしてくれた。

 

 

二人と最後の修練を終えて、俺ら三人はポケモンセンターの中に戻ろうと

ポケモンセンターの裏から、ポケセンの入り口に向かい───

 

 

 

 

「──ャー……キュキャー、──ォーンー;;」

 

 

 

 

「……んぁ?」

『オッス?』

 

なんやら、鳴き声が聴こえた。

加えて音の質から鳴き声であり、泣き声だったらしい。

 

「……お前等も、今聴こえたよな?」

『オッス』

 

二人にも、先程の泣き声は耳に届いたようである。

 

「……確か、こっちのほうから声がしたな」

 

俺ら三人で、裏手の横にあった林に足を踏み入れる。

途中途中で聴こえる鳴き声を頼りに、足を進めてみた結果……

 

 

そこには、悲しい鳴き声を上げ、目元を手でこすりながら歩き回る

カラカラの姿があったのだった。

 

「おい、どうしたんだ。大丈夫か?」

「キュキャッ?!」

 

俺が突然声を掛けてしまったが為なのか

カラカラは酷く驚き、足をもつれさせながら逃げ出そうとしてしまう。

しかしそのもつれが致命的だったのか、足に足をひっかけ転んでしまった。

 

「お、おい……大丈夫か?

 俺はお前に何もしないから……安心してくれ。

 それに俺はお前の言葉もきっとわかる、大丈夫だ」

「───。」

 

俺は言葉をかけながら近寄り、傍に腰を下ろした。

 

「なぁ……お前、どうしてあんなに切ない声を出しながら歩いてたんだ?」

「…………キュキャーォン」

 

そいつの言葉に俺は若干動揺してしまった。

 

【おかあちゃんが、いないの。どこにも、いないの。】

 

その意思を目から汲み取り、少し思案してみる……そして一旦辿り付いた結論。

 

「ポケズ、ちょっとカラカラの図鑑データを出してくれないか?」

「あ、はい、了解しました」

 

ポケットからポケズを取り出し、頼み込む。

そして無駄に3Dの立体映像パネルのように、図鑑説明での詳細な文面を確認する。

とりあえず自分の記憶がそこまで間違っていなかった事を確認した。

 

カラカラは、初代の図鑑説明でも他のポケモンに比べて

やたら物悲しい設定を持っているのだ。

全体的に子供向けのファンシーな仕上がりに出来ているポケモン世界の中では

比較的異質な役割を、ゲーム製作者から与えられているわけだ。

 

んで、こいつが話す おかあちゃんがいない の話……

ここは、『シオンタウン』だ。つまり─────

 

 

おそらく、ゲームにも登場していた……あの保護されたカラカラはこいつなんだろう。

 

 

「カラカラ、質問させてもらっていいか?」

「キャォーン……?」

「お前、母ちゃんと別れる前に黒い姿したやつらに追われてなかったか?」

「キュキャー……」

 

その返答からは同意の返事をもらえた……確定、であろう。

 

心の中で、無駄に健全だった前世の日本人らしい倫理が渦巻く。

こんな子を放っておいていいのか。こんな理不尽が許されていいのか。

あの黒い連中を───暴挙を、許してもいいのか。

 

世界的に見ればこのカラカラはあくまでもカラカラだ。

図鑑説明にすら乗る位の不幸要素、つまりはこの世界に居るカラカラが

全員、今目の前に居る子のような境遇なのかもしれない。

 

 

もしそうでも、そうだとしても───

 

「カラカラ。」

「キュ……?」

 

俺はそっと、そーっと自分の手をカラカラの前に持って行く。

そしてゆっくりと、カラカラの目の前を通過させ───

 

カラカラの頭の上に、骨の上に手を置いた。

 

 

「安心しろ、カラカラ──……」

「キュー……」

 

慰めるように、カラカラの頭を撫でてやる。

少しばかりでしかないが、カラカラは落ち着きを取り戻して行った。

 

その上で俺は述べる。

 

 

 

 

 

「───俺が、お前の母ちゃん、見つけてやるよ」

 

 

 

───目の前で泣いてるコイツ一匹を救う位は、許されてもいいだろう?

 

 






大多数の困っている連中の中で、一人だけ贔屓にすれば
他の困っている連中はその一人に嫉妬を抱きます。

だが、それでも。
手を出してしまうのが日本人であろうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

64話 悲劇?

 

 

今さっき、カラカラをポケモンセンターの裏手で保護した俺達は

ポケセンの中にいる皆に説明をするために、一度建物の中へと戻る事に。

 

カラカラについてはあくまでも保護だ。モンスターボールは使っていない。

今も俺が抱え上げ、子供のこの体では若干体重が重いのだが

それでもこいつに、人間のぬくもりも知ってもらいたいため俺の腕の中に納まってもらっている。

今も静かにクークーと寝息を立てている。

 

 

んで、俺はテスト会場だったポケモンセンターのとある一室に足を運ぶ。

まだ皆居るといいんだが……下手したらミカンさん達はもうどっか行っちゃってるかな。

 

 

「ん、あれ? タツヤ君……そのカラカラどうしたの?」

「む?」

 

ちょうどT字路に当たる廊下を歩いている際に横手からもっさんが現れ、話しかけられる。

 

「それを今からみんなに説明しようと思ってましてね……

 まあ俺の手持ちの子達にだけ説明出来ればいいんで

 もっさん達は今日、用事でもあるならこのまま解散でもOKっすけど」

「んん、まあ私は特段決まった用事はないけど……あの二人はどうかしらね」

 

もっさんを混ぜた四人でテクテクと歩きながら話していると、すぐに件の会場が見えてくる。

俺は扉に手を掛け、普通に開ける。

いきなり中から人が出てきてごっちんこなんぞというアクシデントはない。

 

 

ガチャ

 

 

 

全員俺が開けた音を出した扉の方に少し顔を向け、俺ともっさんである事を知り、軽く声を上げる。

それと同時に、俺の腕の中のカラカラを見つけ「あれ?」という表情も付け加えてくる。

 

 

隅っこではアカネさんとドレディアさんが

『ディーフェンス、ディーフェンス……湘北ファイッ……』

とかやっていた。君ら何してんの?

 

 

「とまぁ、そういうわけで……俺はこれからコイツと母親探しに行く。

 俺の手持ちの戦力は、今回全員付いて来てもらうつもりだ。

 ミロカロスとミュウは、カズさんとコクランさんが今日現れるかもだから

 ポケセンで待機しといて、もしも尋ねてきたら伝言を伝えておいて欲しい」

「ホァ~」

「ミュィ」

「んで、トレーナー③姉妹はどうされますかい?」

「今更過ぎるけどもう突っ込まへんからな?

 まあ、うちはいつも通り着いてっても構わんねんけど……

 今回は遠慮しておこかな? 母親探すだけやったら戦いとかなさそうやし……」

「あら珍しいわね、最近タツヤ君とべったりだったのに」

「な、ちゃ、ちゃうわっ!! たまたまや! たまたまやねんっ!!」

「あらあら、うふふ♡ そのうちナッシーに進化しちゃうんですね♪」

「むー……! まあ、今もっさんが言った『べったり』って部分もあるな。

 ここんとこしょっちゅうタツヤんとおるわけやし……」

 

まあ否定はしないでおこうか。バイトですら一緒についてきたしな。

 

「それに加えて戦いらしい戦いもしてへんしなー。

 腕もなまっちょろくなっちゃ、うちとしてもジョウトに戻った時に困るし……

 今日はそこらのトレーナーに声かけてバトルするつもりや」

「ご冥福をお祈りします」

「ちょ待てや!? なんでいきなり喪に服しとんねんな!?」

「おや、わからないのか……俺がご冥福をお祈りしますと言ったのは、貴様ではないッ……!!

 

 シオンの西にいるトレーナー全てに対してだッ!!

 

 キルゼムオールが達成される事を、心よりお祈り申し上げておきます。」

 

ミルタンク参戦、この悪夢に対してシオン西の方々はどう乗り切るのか……。

多分無理だ。この人のミルタンクってポケモンバトル限定だと歩く災害と同じようなもんだし。

 

「え、ええー……? それどう受け止めればええねんな……

 うちが対象やなかった事を喜ぶべきか、何気に失礼な事を言っているのを怒るべきか」

「うふふ、いいじゃない。その通りなんだし」

「ミカンちゃんも旅に出始めてから、うちにえっらい失礼抜かしよるな?

 ジョウト戻った時覚えておきや? ルカリオ誰かに借りてそっちに挑むで?」

「え、ちょ、それはやめて! やめて!」

「やめたげてよぉ!(裏声」

「そこはそこでキモい声出してんなやタツヤんっ!!」

 

つーか何気にこの人達って色々戦略面考えてるよね。

はがねタイプは確かに格闘が弱点ってのもあるが、ルカリオ借りてくる辺りがミソだ。

ほら、はがねタイプって見た目の通り硬そうじゃん。

つまりあれ、弱点突かれたところで素の防御ステが突出してるから

そこまで大ダメージにならんのよね。んで大体共通してんのが特防の脆さだ。

まあ確かルカリオって防御ももろかったと思うが。

 

ルカリオは何故か物理攻撃力よっか特殊攻撃力のが高いからな……

伊達にリーダーやってねーなぁ、この人ら。

 

「ふーん……まあ、それなら今日は私がついていこうかしらね。

 サンドパンと同じ地面タイプっていうのもあるし……何より可哀想だしね……」

 

俺に近寄って、まだ寝ているカラカラの頭をやさしく撫でるもっさん。

俺もこの人に対して酷い扱いしてんのは自覚あるけど

素が美少女だと、こういう図も絵になるもんなんだなー。

 

「じゃあ、私もついていきますね。戦いは一昨日にたっぷりは楽しんできましたし……」

「了解しました、ミカンさん」

「それにタツヤんと一緒に居たいしー(ボソッ」

「ア、ァァァァアカネちゃんっ?! そんなっ、そんな事ないもんっ!!」

「にししし、さっきの仕返しやっ!」

 

 

「つーわけでダグ達、ハカイオウにゴウキ……まとめて破壊号。

 今日はこの子の母親探しをしてみる事にするから頼むわ」

『─────!!bbb』

『オッス(小声』

 

何気に寝ているカラカラを気遣って小声な辺り、二人の紳士っぷりが伺える。

 

「ていうかタツヤ君……今の二人の会話聞いておいてあげようよ……」

「ん、何がっすか。なんか喋ってたんかね?」

「いや、もういいわ。いつもの事だし」

 

横を見てみればアカネさんがチッと舌打ちしてたり

ミカンさんが明らかにホッとしている様子が伺える。

なんだ、そんなに俺に聞いて欲しくなかったのか。改めて聞いてやりたい。

 

っと……一応俺の手持ちには伝えておこうか。

シオンで、カラカラの……だしな。高確率で間違いないだろう。

三人でキャイキャイやり始めた外で、俺は全員をそっと集めて小声で話す。

 

 

「お前等には一応伝えておく……今回かなりの確率で戦闘になるはずだ」

『『『ッ!?』』』

「ロケット団が絡んでんだよ……多分な。俺はあいつらとの事故率もすげえし

 下手すりゃ情報漏れてて、俺が逆恨みされてっかもしんねえ」

『『『……。』』』

「もちろんの事、ただの確率論だ……

(レッドさん達も絡んできて、全部片付けてくれっかもしんねーし)

 だから一応、戦う心構えだけは持っておいてくれ」

 

【【【【【ラジャーッ】】】】】 内訳:ダグダグダグ破壊号

 

「ホァ~……」

「ん、ミロカロス……うん、まあ大丈夫だよ。

 こいつらがどんだけイカれたステしてっかは、お前も知ってるだろう」

 

ミロカロスが心配そうに鳴いて来たので安心させるために、頭をこちらに引き寄せて撫でてやる。

くすぐったそうにしているが、気持ち良さそうな表情をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ディーフェンス、ディーフェンス……、湘北ファイッ……】

 

 

ドレディアさんまだやってたの?

 

 

 

 

さて、街中に繰り出したのはいいんだが……

ゲームの世界での結末を知っているのは俺だけなわけだ。

こいつの母親がどこにいるのかはもはや確定的に明らかであるわけなのだが

じゃあそこに行こう、居るから。と言っても不自然さが際立ってしまう。

 

……それに、もしかしたらまだ殺されるまで行ってない可能性もあるからな。

下調べ自体は、やったところでデメリットもないだろう。

 

「Zzz……。ヵラ~~……」

「ディ~ァ」

 

未だに気持ちよさそうに寝るカラカラ。

ちなみに抱っこの役割はドレディアさんに任せてみた。

ドレディアさん、性格こそすっ飛んでいるが……俺は根が優しい部分があるのも理解している。

それ故に任せてみたら、やはり子供は手荒に扱う事は無いようである。

むしろ俺より熟達して、カラカラの睡眠が妨害されないように気をつけているのがわかる。

 

 

さて……どうするか?

ここから先は過ぎ去る時間とタイミングの戦いになるのだろうか?

 

ふむ……そこらの人を捕まえてみっか。

ちょうど良い具合にのんびり歩いている人も居る。

 

「あの、すいません。少しよろしいでしょうか」

「ん、なぁに? どうしたのボク」

 

俺が捕まえたのは、ゲーム中で『おとなのおねえさん』と表記されるボディコンのねーちゃんだった。

 

「今、このカラカラのお母さんを探してんですけど……

 ガラガラ関連で何か話を聞いたーとかって、覚えはありませんかね」

「あら残念、年下の男の子と遊べると思ったのにポケモン関連なのね。

 んんー……ガラガラ、ねぇ……? あ、そういえば」

「何か記憶に残ってますか?」

「うん、私の友達がねー……?

 なんかロケット団に追われてるっぽいガラガラが居たって前に話してたわ。

 もしかしてそれなんじゃないかな?」

「多分、そうですね……」

「だとしたら、可哀想ねぇ……この子のお母さん、まず生きてない……かな」

「……。」

 

やはり、世界構成としてこういうところはシビアなんだな。

一般人全員が、ガラガラのあの頭の骨が高く売れる事を知っているんだろう。

 

倫理観故に一般人がガラガラを襲う事こそないが……

倫理なんぞを気にしない、建前、中身共に悪の組織ってんなら……

確実に命を刈り取り、金に換えているはずである。

 

「友達も、出来れば助けてあげたかったって言ってたけど……」

「ま、知りもしないポケモン一匹のために

 これからの生活を危なくは出来ない、ってところなんでしょうね」

「……君、よく考えてるわねぇ」

「それほどでもありません」

 

ロケット団なんぞ平成日本、いや昭和日本で考えればヤクザと一緒である。

ニュースでも一部見たことがなかろうか。暴力団員が一般人を無残に殺したというニュースを……。

 

それまで全く、暴力団となんて関わりが無かった人達が

いきなり因縁をつけられて、未来を奪われている……つまり、だ。

 

一歩道を踏み外せば、俺らだってそうなりかねない。

故に自己保身として、『関わらなければ』自分に害が及ぶことも無い。

だからこそその友達も、ガラガラを見て見ぬ振りで通すしかなかったのだろうな。

 

「ともあれ、ありがとうございました」

「ん、いいのよ~大した情報あげれなくてごめんね?

 そのガラガラだってこの子の母親じゃないかもしれないのに……」

「いえ、何も情報が無いより遥かにマシです……では、俺達はこの辺で」

 

そうしてお姉さんから離れながら、俺達は軽く手を振る。

お姉さんも小さく手を振り返してくれた。

 

「さて、残酷な話だが(あのお姉さん)……こいつのお母さんは(おっぱい大きかったな)

 死んでいるとして話を進めたほうがいいな……。」

「……やっぱり、そうなっちゃいますよね」

「うん……悲しいけど、ね。

 ところでタツヤ君、気のせいかもしれないけど……なんかすっごい厭らしい事想像してない?」

「は?」

 

何だ突然。意味がわからない。

 

「まぁ、それはどうでもいいですけど……もしかしたらのもしかしたら、ですが

 カラカラはポケモンタワーにも出てくることがあると聞いてます。

 母親が生き残ってそちらを探している可能性も否定出来ません。まずはポケモンタワーに───」

 

 

 

「───だからよぉ!うぜぇっつってんだよこのクソジジイがッッ!!」

「何故ですか! どうしてポケモンをいじめたり殺したりする必要があるのです!」

「ぁあッ?! 金になるからに決まってんだろぉがよッッ!!」

 

 

 

……ぁん?一体なんの言い争いだ?

 

俺ら三人と手持ちの子達は目を見合わせ全員でうなずき、声がするほうへそっと顔を覗かせた。

 

 

「他にお金を稼ぐ方法なんていくらでもあるでしょう!?」

「俺らだって無期限で金をゆっくり稼ぐなんて都合の良い話も余裕もねぇんだよッ!!

 そうでもしなきゃ俺らだって飯を食っていけねえんだッッ!!」

「そのために他の生きている者を殺すのが貴方達の道理なのですかっ?!」

「所詮弱いやつが悪ぃんだよッッ!!

 金になるってんなら俺らに襲われても負けない実力が無いヤツが悪いんだ!!」

 

 

……なるほどな。

原作じゃどうなって、あの最上階の状態になったのかわからんが……

 

 

 

これがこの世界の。

 

ロケット団とフジ老人の馴れ初めか……!

 

「貴方達には見えないのですか……!

 我が子を探し、未だに成仏出来ないあのガラガラのお母さんの無念が……!」

 

ッ!!

 

やはり……もう手遅れだったか。

 

 

時系列はもう、ゲームの流れに酷似してるので確定したな……

 

 

 

あとはどう動いてやるべきだろうか。

 

 

 





この世界には家畜がいないという設定のため

>そのためにポケモンを殺すのかッ!!
>てめぇだって牛肉やら鶏肉やら食ってんだろうがッッ!

という定番のシーンが使えないジレンマ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

65話 母さん

フジ老人とロケット団のクソ共ががなりあっている途中に

俺はドレディアさんに土手ショートカットの応用で屋根に放り投げてもらい着地して

屋根から飛び降りつつフジ老人にスワンダイブ式DDTをかました

 

 

 

なんてことは特になかった。

いや、感想欄でこうした方がいいんじゃないかとか言われたもんだからさ。

ちょっとそんな事を妄想しちゃったんですよねボク。

 

しかしまったくの無実であるフジ老人に地獄の断頭台をかませなんて

怖い人がいたもんですねまったく。

 

 

 

 

まぁとりあえずそれは置いといて、新しく情報は仕入れる事が出来た。

コイツの母さんは……間違いなく原作でも登場していた、あの捕まえられないLv30のガラガラだろう。

 

「……。」

「むなくそ悪い話ね……」

 

この手の黒い感情そのものには、二人も余り慣れていないのだろうな。

ロケット団の一方的過ぎる持論を聞いて、気分が悪くなっているようだ。

 

まあそんなものはどうでもいい。

あれらは、勝手にレッドさんが片付けてくれるはずである。

 

俺もあれはむなくそ悪い……だが真面目な話、我慢出来ない程でもない。

だったらこのカラカラの母ちゃんと思われるあいつと引き合わせてしまったほうが

こちらの用事もあっさり済むし、あんなやつらを気にしている暇など勿体無くて仕方が無い。

それならまだ面倒でこそあるがみんなに飯でも振舞っていた方が喜びがある分だけマシである。

 

「……さっき言いかけてた事だけど、ポケモンタワーに行こう。

 聞いた状況と、今言い争ってた状況からして……

 あのじいちゃんが言ってる幽霊がこいつの母ちゃんだと思う」

「……いいわ、行きましょう。ここに居ても気分悪くなるだけだし」

「はい……」

 

 

そうして、俺らは修復されたばかりのポケモンタワーに向かう事になった。

 

 

 

 

つーわけでポケモンタワー前。

どうやら監督さん達がやっていた修復作業は完全に終わっているらしく

資材やら休憩小屋やらも既に撤去されていた後だった。

つまりは気重ね無く入る事が出来る。

 

「……? キュキャ~……」

「ディ?」

 

ん……どうやらカラカラが目を覚ましたようだ。

ドレディアさんの腕の中で少しだけもぞもぞと動いている。

 

「ディ~ァ、ディ~ァ。」

「……キュ~……Zzz……」

 

そして案の定、子守まで上手いドレディアさんである。

まあ現実でもこういう人たまに居るよね……基本ガサツなのに子供とかの面倒見良い人。

 

……さて、三階への入り口に着いたが。

ここから先ってシルフスコープってのがないと、バトルにすらならないんだよな。

まあ逃げれば進む事は出来たはずだし、いいか。

 

「とりあえずミカンさんにもっさん。三階からはなんか幽霊っぽいもんが出るはずです。

 怖いかもしれないけど基本的に (幽霊状態なら)無害のはずなので気にしないで行きましょう」

「え、ちょっと……幽霊、出、出るのッ!?」

「は、初耳です……どこでそんな情報を知ったんですか……? ていうか、今の変な間は……?」

 

ッ! しまった……抜かったか。

確かに一緒に居た時間でそんな情報を聞いたシーンはなかったな……

壁の修理の時に聞いたって事にすると、後でアカネさんに確認されたら面倒な事になる。

とすると……あえて反応しないほうが吉か。

 

「俺が先頭で進むんで、二人は俺の後ろについてきてください」

「わ、わかったわ」

「わかりました……」

 

無視成功。目の前に計り知れない恐怖があるとごまかせるもんだね。

 

「ドレディアさん……カラカラこっちにちょうだい。こっから先は……ね?」

「ッ! ……ディーァ」

「……ダグ達も一応逃げる準備だけはしとけよ。下手したらお前等の技は全部無効化も有り得るから」

『……。(コクリ』

 

事前にポケモンセンターで説明していたため、俺が多く語らずともわかってもらえたようだ。

 

そして俺はカラカラを受け取り、三階まで上がってきた。するといきなり───

 

 

「───ケケケケケケケケケケケケケケ!!!!!」

「うおっ?!」

「ディァッ!?」

『ッキャァアアーーーーーッッ!!』

「ッキュキャ?!」

 

 

階段を上がって三階に到達した俺らに対し、なんか巫女服みたいな……ああ、そういえば居たな。

きとうしって人たちだこれ。漢字で表すと、祈祷師。

 

なんだっけ、確か設定上だとゴースとかゴーストに乗っ取られてんだっけ。

 

ってかさぁ……うっせーんだよな。ミカンさんともっさんも含めてだが。

カラカラ寝てたのに起きちゃったじゃんよ。

 

 

 

ん……? あ、そうだ。

ゲームだとトレーナー戦って事になってたけど……こっちは普通に体乗っ取られてんだよな、多分。

でもって操ってんのがゴース、ゴースト……だとすると、だ。

 

「ドレディアさん、耳貸して」

「ディ?」

「ごにょごにょごにょ……」

「(コクコク)」

「キュ~、キュ~……」

「ケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!!」

『キャーーッ!! キャーーーッッ!!』

 

 

カラカラは不安げに俺を見上げてくる。

大丈夫だ、カラカラ。俺らに任せておけ!                あと外野うっせぇ。

 

……ではドレディア嬢、お願い致します!!

 

「───。」

「ッケ……!?」

 

 

ゴゴゴゴゴゴ

       ゴゴゴゴゴゴ

              ゴゴゴゴゴゴ

 

 

これは、ドレディアさんの特性のいかくである。

 

本来であれば攻撃力が一段階下がるのと同じものだが……色々とおかしいドレディアさんの事だ。

その攻撃性能ではなく、恐怖だけで相手の精神をぶち折る事も可能であると思う。

 

そのため、乗っ取っているゴース……またはゴーストを怖がらせ

祈祷師さんの体から逃げ出してもらうために

全力でハッタリを込めながら、いかくしてやってくれと頼んだのだ。

 

一歩一歩、とても重い足を踏み締めるように

ドレディアさんは乗っ取り祈祷師に歩み寄って行く。

その一歩一歩にプレッシャーがあり、何も知らなければ俺ですら気圧されそうだ。

 

そして俺の提案は功を奏し……

 

「ッコ、コッ、コエエエエエエエエエエッッ!!」

 

ボシュゥゥゥウ。

 

祈祷師さんの体からガス状の何かが抜けて逃げていった。今回はゴースだったか。

 

「あふ……」

 

ドサッ

 

操られていたところを逃げられ、体を支える力が何もなくなってしまい

祈祷師さんは床に崩れ落ちたのだった。

 

 

「な、なんなの、なんなのこれ……! すっごいなんか怖かったンだけど……!」

「う、うぅぅぅうう……」

 

その声がする後ろを見てみると

既に全てが終わっているのに、もっさんとミカンさんが後ろで互いを抱き合ってガタガタしていた。

 

「あーまあ……ゴースに乗っ取られてたんでしょうね。ゴースはわかりますよね? あの変なの」

「え、ええ……」

「あ、あれが、ですか?」

「まあ違ったところで俺にはさして関係ありません。とっとと行きましょう、いざ進めやキッチン。」

『なんで台所……?』

 

うるさい、キャベツを忘れたんだ。

 

っと、そうそう……

 

「ドレディアさん、ありがとう。今日はこの調子で頼むよ」

「ディ、ディ~ァ///」

「キュキャー!」

 

若干照れているらしい。

カラカラも保母さんがとっても強い事に感動しているようである。

 

 

 

 

そんなこんなでどんどんポケモンタワーを踏破していく俺ら。

やはりドレディアさんは色んな意味で規格外である。まさかむしよけスプレー化するとは。

 

もちろんのこと、あの「タチサレ……タチサレ……」とうるさいのが定番の

ふたばちゃんねる? の【ねないこ だれだ】 みたいなのも出てきた。

 

まあ、とりあえず俺とドレディアさんが「邪魔くせぇ、どっか行け」と

その都度追い払っているから問題ないのだが……

ていうかそんなんで言われた通りにどっか行くなよ幽霊共も。

もうちょっと張り合えよ。寂しいじゃないか。

 

祈祷師さん達も祈祷師さん達で、順調に浄化出来ている。

なんせ見かける祈祷師さん、ほぼ取り付かれてっからなー。

あんたら修行不足すぎじゃねえの?

 

なお、途中で不思議な事が二つほどあった。

 

一体何故なのかはわからないんだが

いつの間にか俺の頭の上にムウマージがくっついていた。

今も「△▲☆★~♪」と鳴いてご機嫌モード真っ最中である。

 

つかお前イッシュでしか出てこないんじゃなかったの?

初出はDPtだとしても、こいつは野生では出てこなかったからな。

人の手が加えられてない場合になるが、イッシュのヤグルマ? だかにしか居ないはずなんだが。

お前ももしかして墓参りに来たの?

 

 

そしてもうひとつは……なんとゲンガーが出てきたのだ。ゴーストの最終進化系。

初代から結構使えてる万能さんですね、ゲンガーっつったら。

 

もちろん突っ込みどころも二つほどある。

なんでシルフスコープ無いのに幽霊として出てきていないのか。

加えて野生じゃ出現しないはずのお前がなんでここに居るねんな、と。

 

そして俺自身の感想としては既にムウマージが頭の上でご機嫌にくっついていて驚きが無い上に

なおかつ何故かドレディアさんの威圧オーラが俺にまで滲み出てきてて怖いという謎な状態である。

 

まあ、多分俺らが幽霊に全く動じねえからつまらなすぎて出張ってきたんだろうな、こいつら。

ゲンガーの方は姿を現して戦うなりなんなりした方が楽しそうだ、とでも思ってんだろう。

 

ムウマージは知らん。

 

「ギャゴーンッ!!」

「うん、まあとりあえずうるせぇから黙れ」

 

と言って、俺がケンカキックぶちかましたら何故か普通に当たって

物理耐久が殆ど無い子だったのか、その一撃だけでゲンガーは気絶してしまった。

 

扱い的には格闘かノーマルという感じなはずなのだが、何故当たったんだろう。

もしかしてポケモンタワー来てから見るヤツ全部に動揺してないから

世界システム的に とくせい:きもったま とでも取られたんだろうか?

 

 

ててててーん♪

 

 

しかも俺のレベル上がったし。

 

「マスターは凄いですねぇ……

 なんで最終進化系を10歳の子供が一撃でK.O出来るんでしょうか……?」

「知らんよポケズ(ポケモン図鑑)……たまたま急所に当たったとかそんなんだべ

 実際俺よっかお前の方が異常だっつーの」

「そうでしょーかねぇ……あ、ちなみにLv20です。」

 

さいですか。

 

「まぁ、Lv20おめでとう。タツヤ君」

「うん、ていうかタツヤ君レベルの概念あったんですね」

 

そうっすね。

 

 

てわけで、色々と迷ったり、ゴースっぽい系が入ってこれない結界で休んだり

その結界が気持ちよすぎてダラけながらカラカラと遊んだり

何故かさっきぶっ倒したゲンガーまで結界に入ってきて、これも一緒にカラカラと遊んだり

もっさんとミカンさんが休憩してて絵になるような構図だったり

ゲンガーがもっさんに色目を使い出してサンドパンにボコられたり

俺がムウマージと色々と談笑してるとドレディアさんに腹パンされたり。と。

 

まぁ結構色々あった。途中から何かがおかしい気がするが。

 

「いつもの事よ」

「うん、いつもの事です」

「ギャゴーン」

「△▲☆★~♪」

 

そんな風に説き伏せられてしまった。

俺って思考おかしいのかな、何かがおかしい気がしたんだが。

 

ていうかなんでお前ついてきてんのゲンガー。

ああ、そうすか……もっさんが気に入ったと……一応サンドパンとも和解しているようである。

俺がダグONEに乗るが如く、サンドパンはゲンガーの頭の上に乗っている。

 

図としてはゲンガーのあの頭のツンツンが

サンドパンの背中の剣山になってスーパーグレードアップしているような図である。

 

垂れサンドパンktkr。

そういやRagnarok Onlineでも『+7たれ猫』とかいうわけのわからん防具もあったな。

 

 

ところでなにやら俺らが行かなかった道の方でなんか騒がしいようなのだが……

なんなんだろうか、あれか? フジ老人withロケット団のような形をした金魚のうんち?

 

そもそもフジ老人やらロケット団やらが見えたわけでもないが

ここでそんな騒がしいイベントになるっつったらあの人らしかおらんべ。

 

んで、もうちょっと進んだ後にまた疲れたので

全員を説得し、結界にあえて引き返して休んでいたら

 

 

「あ、タツヤ君。」

「あ、どうもレッd……犯罪者さん」

「えぇっ?!」

「……まぁ、一応犯罪者よね」

「うん……ここの二階、酷い状態にしてたし」

「いや、あれはね?! 僕が悪いんじゃなくてね?!」

「おめーのせいだってさ、セイリュウ。この人このままにしといていいのかお前」

 

◎<ギュガー……

 

なんとボールに入ったまま返答するという前代未聞の内容をやらかすセイリュウ。

お前あの図体なのに結構そういう細かい芸当出来んのな……

 

「んで、どうしたんすかレッドさんは」

「いきなり素に戻らないでよ……まあ僕は、なんかシオンの住民の人から

 フジ老人が危ないから連れ戻してもらえないだろうか、って言われて」

「ふーん」

「なんか興味なさそうだね……なんで聴いてきたんだ……」

 

ま、俺としちゃ大体レッドさんやグリーンさんが原作に沿って動いてんの知ってるしな……

今更新しい知識など彼らの関連では殆ど出てこない。

 

「俺らも用事あって上目指してますけど……どうします?

 共同戦線で行きます? それとも普段通り俺にバトルでも仕掛けます?」

「お、今日はやる気あるのかい? じゃあバt……」

「ドレディアさん、レッドさんの股間に───」

「共同戦線と行こうか! うん、それがいいッッ!!」

「……ッチ。レッドさんの股間に手を出さないようにな」

「ドレ~」

「貴方達も全然変わらないわねぇ」

「ふふふ、この状況だとむしろとっても頼もしいですけどね♪」

 

ま、そんな事がありまして。

レッドさんと合流したのだった。

 

 

 

 

そしてみんなでガンガン進むうち、ついに最上階に上がる階段が見えてきた。

 

……って、あれ? なんか今階段を黒い何かが上がっていったような……

 

「ッ! そうか、あれが住民さん達が言ってたロケット団か!

 という事は……最上階にフジって人が居るんだな!!」

 

レッドさんが横手で突然名推理を語りだす。うん、まぁ多分そうなんだろうけど。

よくそんなちっこい情報でそこまでこじつけましたね。

 

んでまぁ……俺らはその階段の下に張っているはずのこいつの母親に話しかけて

適当に成仏してもらえばOKだろうな。会えるだけ原作よっか遥かにマシだろう。

 

 

 

「……しかし、面倒だ。」

「ディァー……」

 

ここ何階だっけ、忘れたが……とりあえず、祈祷師とゆうれいがうっせーんだ本当。

ドレディアさんのいかくのおかげで、なんとか戦闘にもならず追い払えてはいるのだが……

 

「も、もうちょっとお願いね。頑張って、ドレディアちゃん!!」

「キュ、キュー!」

「△▲☆★~!」

「ギャゴーン!」

「が、頑張ってください!!」

「キュキャーォーン!」

「が、頑張ってくれ!!」

 

そうして全員から声援を貰うドレディアさん。つーかお前もかよ、レッドさん。

あんた逃げ出した後タマムシ方面とか飛んでさ。

ちゃっかりシルフスコープ手に入れちゃったりしてるんちゃうんかい。

そういうところだけ妙にゲーム構成から外れてんのかい。

 

レッドさん総評:使えねえ。★☆☆☆☆

 

 

っと、ようやく階段手前が見えてきたか。

 

「よし、ここまで来ればもう……うっ!?」

 

ん、レッドさんが威勢良く駆け出そうとしたところでいきなり怯んだ。

なんだろう、エテボースの命の玉込みのネコだましでも喰らったか?

 

「くそ、まだ出るのかっ……!」

「タチサレ……タチサレ……」

 

レッドさんが登ろうとした階段の前に、またゆうれいが立ちはだかる。

 

「タ、タツヤ君、ドレディア!! 頼む、こいつも追い払ってくれ!!」

「ディーァ!!」

 

威勢良くレッドさんに返事をしていると見せかけて

【わかった!! 街に帰ったらご飯奢れよ!!】とかちゃっかり意思に乗せているこの子は

本当にどうしたらいいんだろうか。まあ、なるようになるか。

 

 

ゴゴゴゴゴゴ……!

 

「ッ……! タ、タチ、サレ……! タチサレ……!」

「な、に……逃げない!?」

「……。」

 

やっぱり、か……。

 

こいつ、Lv30のあのガラガラで確定だ。

そしてまだこっちの内容は確定はしていないが……こいつの母ちゃんだよな、多分。

さて、シルフスコープもないしどうしたものか───

 

「あ、そうだっ!!」

「……ぬっ?!」

 

突然レッドさんが何かに気付いたように大声を上げる。

そして目の前にゆうれいが立ちはだかっているにも拘らず、カバンをごそごそしている。

 

 

「てぇーぃ!!」

 

 

ぽーい

 

 

カバンから何かを取り出したレッドさんは、ゆうれいに対してそれを投げつけた。

モンスターボールだろうか? ボールだとゆうれいは躱すはずだが……

 

そして幽霊の右辺りに、ぼてんぼてんと転がった後

投げたものは動きを止める。そして───

 

「タチサレ……タチサレ……」

 

何故かゆうれいはその投げたものに対してタチサレと言い始める。

そしてそれを確認した後レッドさんは……

 

 

 

 

 

レッドさんは外道にも俺らを完全に放置して

 

幽霊の注目が投げたものに向いているうちに、階段を駆け上がりやがった。

 

 

 

 

 

 

「     」

「ディーァ……」

「     」

「キュー」

「ギャゴーン」

「     」

「キュキャーオン」

「△▲☆★~……」

 

あまりの華麗な放置に俺ら人間三人はぽかーんとしてしまう。

一体ゆうれいが何故投げたものに注視し始めたのか気にもなったので

俺は目線をゆうれいの足元に向けてみると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにはピッピ人形があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの裏技かぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?

 

 

 

 

 

「ひ、ひでえ……色んな意味で酷すぎる……」

 

俺は現実のゲームにて裏技的な要素として行われる事があった『あれ』を

この現象であると認識し、あまりの実的な重さに色々とどうしようもなくなる。

 

おい、これ見てるやつら……お前等はこんなことやってないよな……!?

ちゃんと、ちゃんとゲームでもこのガラガラ、成仏させてあげたよな……!?

 

くっそ、こんな、こんな腐れた内容だっつんなら……

まだ友達にコピーしてもらった伝説ポケモンでオーバーキルした方がマシだろこれ……!

 

 

っと、しまった。思わずアレすぎる内容に思考が止まりかけたが……

 

 

俺は。俺らは。

どちらにしろここでの最終目的は最上階ではなくこのゆうれいなのだ。

別段レッドさんが居なくなったところで何も問題は無い。

 

んー……とりあえず試せるところから試してみるか。

今までドレディアさんを見て逃げるヤツばっかだったから、どうなるかはわからんが……

 

「タチサレ……タチサレ……」

 

まだやっている。本当に報われねーなぁこれ。

とりあえずさっきゲンガーは蹴り飛ばせたので多分俺の攻撃は当たると思う。

 

「せいっ」

 

ボカッ。

 

あ、やっぱあたった。

 

「ゴッ!? ゴォーガゴォンッ!?」

「あ、本性出した。」

 

まさかの一発成功である。タグのご都合主義万歳。

そしてどういう原理なんだか知らんが、俺が殴り鳴き声を上げ……

その姿が幽霊じみたものから、しっかりと形を纏って行き……

 

 

「……えっ?!」

「う、うそっ……」

 

 

場に現れたのは───やはり思った通りに、ガラガラであった。

うんまあ二人が驚いてるところは多分あれだろう。

あんなお化けみたいな姿したヤツが、まさかガラガラだとは思わなかったんだろうな。

何気に追い払ったゆうれいの中にもカラカラは居たと思われるのだが。

 

「キュ……キュキャーォン……?」

「───ゴッ?!」

 

俺らと一緒に居たカラカラが鳴き声を上げ、その鳴き声にガラガラが反応する。

 

 

 

 

反応したって事は。

 

やっぱり、このガラガラが。

 

こいつの母親だったのだろう。

 

別に殺されたシーンを見たわけではない。

 

現状形を保っている関係上、吐き気を覚えたわけでもない。

 

 

 

だが……。だが、だ。

何故、日本を舞台としたこの世界で……

 

 

 

こんな事がまかり通っているのだろうか───

 

 

 

「……ッ、キュキャァー!!」

「───。」

 

鳴き声を上げながら、カラカラはお母さんに抱きついた。

ゲームでも普通にぶん殴れた関係上なのか、まだ受肉しているようであり

抱きついてもすり抜けてしまう事はないようである。

 

 

 

だが。

 

 

何故、世界とはこうも残酷なのだろうか。

 

 

もう、そのガラガラは既に。

 

 

───体が透けてきている。

 

 

「ッ!? キャォーン!! キュキャーォン!!」

「……───。」

 

カラカラもその事実に気付いたのか、必死に母さんを呼び止めている。

それを聴いた上で少しコワモテな見た目のあのガラガラが、とても、とても優しく微笑んでいた。

多分、私が居なくなっても元気でやるんだよ、とか言っているんだろうな。

カラカラはそれを聴いても、まだ鳴き叫んでいる。

 

 

「……う、うう……!」

「ギャゴーン……」

「キュ……」

「か、可哀想っ……!」

 

俺ら第三者達は各々それぞれ、その悲劇に悲しい思いをぶつけている。

 

 

 

 

 

……あまり、好ましい事ではないんだがな。

ゲームの内容で考えると、既に一歩進んだ状態まで足を突っ込んでいるわけだし

このまま終わらせるのは、あまりにも後味が悪い。

 

 

 

 

 

───概念改革、やってみるか。

 

 

 

 

 

「少し、いいか」

「ッ?!」

「……ゴーガゴォン?」

 

俺に声を掛けられ、カラカラは驚き……ガラガラは俺にちらりと目線をやり、俺を見る。

その体は既に、向こうの風景が見えてしまう位になっている。

 

「ガラガラ、お前はもう自分で死んでしまったのは理解してるよな」

「……?(コクリ」

「体ももう透けてきてるが……───お前、それでいいのか?」

 

「ッ……!?」

 

「言葉にする必要があるか? なら言おう……最後に子供に会えれば、それで満足なのか?」

 

「……。(コクリ」

 

「その子供の未来は一切気にならない、と」

 

「ッ?! ゴーガァゴンッ!!(ブンブン」

 

「だったらよぉ。もうこの際そのまんま現存し続ければいいじゃん」

 

「     」

 

 

どうやら俺が何を言いたいのかわからず頭がクラッシュしてしまったようだ。

しかし体の透け具合の侵食は一旦止まったようである。

 

「そんな、これ以上体を維持していられないとか

 この世に居るわけにはいかないとか……───そんなもん、どうだっていいじゃねぇか」

 

「…………。」

 

「お前は、コイツの母ちゃんなんだろ? 見守ってやりゃいいじゃんか。

 死んだからなんだっつーんだ? 普通死んだらそこでおしまいなんだよ。

 お前は奇跡かなんかでそういう状態になれたんだからさ、そのまま維持しちまえばいいじゃねえか」

 

「ご、ゴーガゴォ……」

 

 

そして、俺は一息ついて

 

 

「───維持出来ないってんなら、そんなもん気合でなんとかしちまえよ。

 

 出来るだろ? お前の子供がこんなに悲しがってんだぞ?

 

 ……出来んだろッッ!? やってみせろよッ!!

 

 こいつを独りぼっちにしたまま、お前は自分勝手に天国に行くのか?!

 

 そんな自分勝手を、自分自身で許せるのか!?

 

 無理だのやれないだのじゃねえッッ!! やってみせろッッ!!

 

 死んだから、自分がバケモノだからって諦めんな!!

 

 こいつにとってはッッ!! 今お前がここに存在している事が重要なんだよッ!!」

 

 

一気に捲くし立てた。

 

 

「……───。」

 

 

 

息継ぎをして改めて考えてみたが……我ながら暴論過ぎる内容でだった。

ミロカロスの時の論から、何も変わっていない自分が恨めしい。

こんな理論で現世に残れるのなら、墓場は絶賛幽霊祭りになってしまっているからな。

 

 

だが、それでも。

 

こんな暴論でも。

 

 

 

 

効果は…───あったらしい。

 

 

 

 

完全に、体の透け具合が……止まるどころか透明感がなくなっていた。

 

 

「───なぁ、ガラガラ」

「ゴーガゴォン……」

「───見守って、やれよ」

「……───。(コクッ」

 

 

そして。

 

 

 

ピカァァァアァァァッッ!!

 

 

カラカラとガラガラ、二匹が同時に急激に輝き出した。

ポケズからは進化するアラートも聴こえない。

 

俺はその光から目を逸らさず、成り行きを見守った。

 

 

光が収まった先には───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キュッキャ、ォオオーーーーン!!」

 

「ゴォーガゴォン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラカラの背後に

 

ガラガラがまるで守護神のように浮いて

 

自分の子供を、暖かく包むように

 

守っているのだった。

 

 

 

俺はその構図を確認した後、カラカラの傍に行く。

 

 

「おう、カラカラ」

「キュキャ?」

 

 

ガラガラを守護霊としたカラカラに声をかけ

 

 

「約束、ちゃんと守ったからな」

「───キュキャーォーンッッ!!」

 

 

 

そう言って、カラカラの頭をぐりぐりと撫でてやった。

 

 

 






原作では、ゆうれいからは逃げる事が出来ます。
そして、フジ老人フロアに上がる手前にはガラガラが固定敵として存在します。
このガラガラも今回の話のように最初は幽霊なのですが
シルフスコープを使うと正体を見破ったとして、ガラガラが姿を現します。
そして俺の聞いた限りだと、正体を現したガラガラは捕まえる事が出来ず
なおかつ逃げる事も出来ません。

しかし野生相手となるので、ピッピ人形を使う事が出来るのです。
そしてその人形を使うと、戦闘が終了→イベント終了のフラグが立ち
ガラガラは人形を見ただけで成仏してしまうという、とんでもない展開になってしまうのです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

66話 真の悪

 

 

「よかったね……よかったね、カラカラちゃん……!」

「キュキャ~♡」

「うん、いいお話の展開だと私も思うんだけど、さ……うん。

 ガラガラ、あんたも巻き込まれたようなもんよね……」

「ゴーガゴ?」

「えっとね……あなただけじゃないのよ、世界の倫理ぶっ壊れてるの。

 このタツヤ君の周りね、わけのわからない進化とか理念がぶっ壊れてるのばっかなのよ」

「(゜д゜)」

「せっかくの感動が台無しだよもっさん。飯奢れ」

「もっと台無しよっ?!」

 

 

おまっ、せっかく綺麗に纏め上げたのに巻き込まれたとか失礼すぎる。

 

 

「……。」

「ん、どしたんだガラガラ」

「ゴーガゴォン」

 

【それでも、ワタシはアンタに感謝している。

 この子の傍に居れるのは、やっぱワタシの望む幸せの形だ】

 

そんな意思が垣間見える視線を俺に向けてくれていた。

 

「ん、そうか……そいつもまだまだ人生これから長いんだ。きっちり見守ってやれや」

「ゴガッ!!」

 

 

良い返事である。さて用事も終わったし───

 

 

「────ッ、────!!」

「──?! ────! ──。」

「────!! ───!?」

 

 

 

「あん?」

「ドレディーァ?」

「えっ?」

「ん、なに今の声」

「ギャゴーン?」

「キュー?」

「メッサツ……?」

「ォッス……?」

 

なんやら階段の上が騒がしいようである。この階段の上に何が……? って、あ。

 

 

「ああ、そうか……なるほど、うんうん」

「え、えっと……タツヤ君は何があるかわかったの? 一体今の声って……」

「ほらあれっすよ、レッドさんですよこれ。でもってレッドさんが追っかけてる相手。

 もうここも次の階で終わりなわけですし、必然この上に居るって事に」

『あー。』

 

 

なるほど、と全員が納得の表情。

 

……とすると、……ふむふむ、よし。

 

 

「おーい。俺の手持ち全員集合。あとついでにカラ&ガラも来いー」

「ディーァ?」

『─────???』

「キュキャー?」

「ゴーガ?」

『……オッス?』

 

よし、全員が集まったのを確認。

あ、もっさん達も多分後で活躍出来るから、一旦引っ込んでおいて。

 

 

「えっとな、多分だけどこれからロケット団が逃げ降りてくる」

『!?!?!?!?』

「ああ、大丈夫だ安心してくれ。多分無防備だから」

『?????』

「いいか?レッドさんがさっき俺らを無視して。

 俺らを無視して。俺らを放置して。俺らをそのままにして。俺らをry上に上がっていったわけだろ?

 なのに出てくるのはロケット団のみ……どういう事かわかったか?」

「……アー。ディア、ディア」

 

【……あー、なるほど、なるほど】

 

「ドレディアさんはわかったようだね。

 ネタ晴らししちまうと、だ……多分ロケット団はレッドさんに手持ち全滅させられてる」

『!!』

「ということはですね……やりたい放題なわけですね^^」

『^^』

 

「ハーイ全員配置につけーwwwwww」

 

『イヤッホォォォォオオオゥッ!!』

 

うふふのふ、全員すてんばーい。

特にガラガラ、あの時の恨みを別人かもだが晴らしてしまえッ! でも成仏すんなよそれで!!

 

 

 

そして待つ事5分程度。

 

 

「だーくっそぉッ!! なんなんだあのキメぇピッピはッ?!」

「やたらバカでけぇドラゴンポケモンまで居るしよぉ……! あんなの聞いてねえぞッ!」

「ちっくしょう、こんなのやって……ら、れ……」

 

「はーい♡ いらっしゃいませー♡」

「ドレーディァー♪」(ゴキッゴキッ

『♪♪♪♪♪♪』

「キュ♪」

「ゴガ♪」

『ガチムチパラディンオッスオッス!!』

 

おいハカイオウとゴウキ、なんだその鳴き声は。お前等本当なんなんだ。

 

俺らの手持ち+カラガラ親子が全員、良い笑顔に加えて

背景にDEATHオーラを背負い、その黒い何かが燃え盛る中

哀れな羊どもはレッドさんに追い立てられ、こっちの縄張りにダーイヴ♪

INTO YOUR HEART ってな♡

 

「な、なん、お前ら……?!」

「んー、まあ、あれだよあれ。誰だっていいじゃん♪」

 

ひゃっひゃっひゃ、人数差で押し潰すのはたーのしいねぇ♪

さぁ……お祭りの時間だぁ~♡

 

NO(ノー) ESCAPE(エスケープ)!!

 FIGHT(ファイツ)ッ!!」

 

『ウォォォオオオオォォォォォォォッッ!!!!』

『ぎゃぁぁぁあああああぁぁぁーーーーーーーーっっ?!!?』

 

 

 

 

ててててーん♪

 

 

お、別にポケモンと戦ったわけでもないのに経験値も入るのか。

今回は誰がレベルがあがったんだろうか。

 

そうして立体画面が浮かび上がり、俺は文字を確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[> ポケズは

   レベル4ていどに あがった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前かーーーーーーーーーーーいッッ!!」

 

ポケズを取り出し、全力で墓場のどっかに投擲した。

 

「キャーーーーーーー!!!」

 

なんかの断末魔が聴こえたが知ったことではない。とりあえず……

 

目の前のぼろっべろにしてやったロケット団三名を見やった後、俺はガラガラに視線を移す。

あちらもこっちの目線に気付いたらしい。

 

「おう、ガラガラ。やりたい放題やってやれたか?」

「ゴーーー!!」

「うむ、そうか、よかったよかった」

「─────。」

「うぉおおおおおおおおいッッ!? もう思い残す事は無いじゃねえよお前ッッ!?

 体透けさせんなっ!! 戻ってこぉおおおーーーーい!!」

「ッ!?」

 

なんとか体が透明化するのを防ぎ、一安心。

やんなっつってたことやるとかマジ勘弁してくださいガラガラさん。

 

「カラカラもよかったな。お前と母ちゃんいじめたやつ、倒せたぞ?」

「キュキャーォン!」

「うむうむ」

 

ご褒美に頭をぐりぐりとしてやる。まだまだ子供だからなのか嬉しそうである。

 

 

「あ、相変わらずえぐいわね、タツヤ君……クチバのあの短パン小僧の子を思い出したわ……」

「キュー♡」

「タ、タツヤ君……その笑顔……怖いっ……!」

「ギャゴーン」

 

 

なんだと。

 

 

「ドレディー、ディーァ?」

「ん、こいつらどうすんだって?」

 

ドレディアさんが完全にボロッベロになったロケット団について尋ねてくる。

んん、どうしよう。まあいいか。

 

「そこの窓から捨てちゃっていいよ」

「ちょっ?! タツヤ君それは駄目よ! いくらなんでも死んじゃうわよ!」

「ぇー」

「ゴー」

「ガラガラもッ! いくら殺されたっていってもやり返すのは駄目よ!!」

「ゴー……」

「つまんね」

「……ったくもう。ごめんゲンガー。その三人なんだけど……

 ちょっと窓から下に降りて警察に届けておいてくれない?

 ここに置いておいたらタツヤ君達に殺されかねないわ」

「ギャゴーン!!」

 

聞き届けるが速しと言わんがばかりに、ゲンガーは颯爽と頭のとげに三人の服を引っ掛け

窓からスパパパパパパとロッククライムして降りていった。それシンオウ地方の秘伝技じゃねえの?

 

 

「さーて」

「うん、私達の用事も終わったし」

「これからどうするんですか?」

 

「は?」

 

「へ?」

「え?」

「ディ?」

 

何言ってんだこの人ら。

 

「まだ仕事、ありますよ? 何言ってんですか」

「え、え」

「えっと……まだ何かあるんですか?」

「そりゃーありますよ。

 

 

 

 

 

 

 ───まだ、上にレッドさんがいるでしょ?」

 

 

 

 

『あ。』

 

 

そう。

俺らをゆうれいの前で放置した「愚か者」が。

 

 

 

 

「───……っとと、おじいさん、階段に気をつけてくださいね」

「おぉ、すまんね、レッド君……おや? この方達は君の友達かい?」

「ん……? あ! みんな! おじいさんは無事に救えたよ!!」

 

「はーい♡ 寝言は寝てから言えー♡」

 

「え」

 

「ドレーディァー♪」(ゴキッゴキッ

『♪♪♪♪♪♪』

「うふふ♪」

「うふふ♡」

「キューキュー♪」

「キュ♪」

「ゴガ♪」

『やらないか』

 

おい、破壊号。お前等そのベンチどっから出した。

胸元はだけてんじゃねえ。てか普通に喋れてんじゃんか。

 

 

「いや、えっと。何?どうしたの?」

「ほほう、言わなきゃわからんかこの血便め。

 

・ゆうれい

・放置

・俺らも放置

・危険度無視

・自分は悠々とおじいさんといちゃいちゃ

 

 ……弁解があるなら先に聞いておこうか?」

「えっと、あの、目の前が見えてなかったっていうか、その。」

「目の前が見えてなかった……ねぇ───……むしろ真っ暗にしたるわこのくそったれぇッッ!

 テメーの血は名前の通り赤色だぁーーーーーーーーーー!!!」

『ゥオォォォォオオオォォォォッッ!!!!』

「ぎゃーーーーーーー!! ごめんなさーーーーーーい!!!」

 

 

 

 

 

                :みせられないよ!: 

 

 

 

 

 

とりあえず愚か者をフルボッコにして、俺達はポケモンタワーを降りた。

帰り道、あなぬけのヒモを用意していなかったため

再び幽霊とバトルアスリーテスになってしまったんだが、まあそこは割愛。

具体的に言うと、俺があまりのウザさにキレてLv22になってしまった程度である。

きとうしの人まで蹴り飛ばしたのはやりすぎたかな?

 

「……さて。カラカラ、ガラガラ。これでお別れだな」

「キュ。」

「ゴ。」

「お前等は元々野生なんだ。人に縛られるより野生のが気楽に生きていけるだろ?」

「キュー」

「ゴー」

 

ガラガラ自体、ゲームで捕まえられないやつなのだ。

それが混ざったカラカラも必然捕まえられない法則になる。

元より、俺も俺で子連れ狼になる気はサラサラ無いからな……

原作ではついぞ、再会すら叶わなかった親子なのだ。のんびり暮らしてほしいものである。

 

「じゃ、またな!」

「またね、ガラガラちゃん」

「元気でねー」

「キュー!」

「ゴ!」

 

 

そうして、俺らは(きびす)を返す。今回も幸先悪しといった感じの事件だったが

とりあえず悲しい原作寄りのイベントを多少のハッピーエンドに持っていけたのはよかった。

 

 

「△▲☆★~♪」

「うん、そうだな……何事もハッピーエンドが一番だよなやっぱ……」

「ディァー」

「たまにシオンに寄って、あの親子の様子を見るのもいいかもしれないですね。

 探すのが難点そうですけど……」

「んーそうっすねー。ポケモンなんて同じ姿のヤツ、ザラに居るしなぁ」

 

でもあいつらの場合、ガラガラが後ろで浮いてるカラカラを探せば

案外すばやく発見出来るんではなかろうか?

 

「ま、ともあれ……これで全部の用事は終わりました。

 レッドさんも気重ね無くぶっ殺したし、カズさんとコクランさんが待ってるかもしらん。

 俺はポケモンセンターに戻らせてもらいますね」

「んー、私は警察の方に寄ってゲンガー回収してから戻るわね。

 あの子多分ポケモンセンターの場所知らないと思うし」

「じゃ、私もそっちに付いて行こうかな。

 すぐにポケモンセンターで合流出来ると思うけど……一旦お別れですね」

「りょっかーい。んじゃまたあとでー」

 

ポケセンへ向かう道での分かれ目で、俺は二人と別れた。

そしてミュウとミロカロスが待つポケモンセンターへずんずんと帰って───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「△▲☆★~♪」

 

 

 

 

あれ? なんでムウマージまだ居んの?

 

 




というわけで、カラ&ガラの代わりに固定ファンも多そうなムウマージが参戦です。
異常についてはあまり考えていませんが、本編でカラ&ガラが空気過ぎたため
多少マシにならんかと思って交代させました。

一応異常についてはひとつだけ決めてます。
●●です。














降板になったカラカラのステ。


√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

No.104★突然変異★
カラカラ Lv12程度

タイプ1:じめん
タイプ2:ゴースト

せいかく:マザコン 成長変動無し
とくせい1:ははのあい  (弱点属性無効)
とくせい2:スタンドイン (守護霊の母親を幽波紋化。別行動可能。一人ダブルバトルOK)

親:ガラガラ

こうげき:━━━ + ━━━━━━━━━━━━━━
ぼうぎょ:━━━━━━ + ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
とくこう:━ + ━━━━
とくぼう:━━ + ━━━━━━━━━━━━━
すばやさ:━ + ━━━━

現努力値
なし

わざ1:なきごえ
わざ2:しっぽをふる
わざ3:ホネこんぼう
わざ4:オーバーソウル (母が覚えている技を使用可能。PP5)

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

67話 育て屋終

やぁこんにちわ、タツヤだ。多分。

 

簡単に時系列の説明をしよう。

結論から言えば昨日の時点でカズさんとコクランさんはポケセンには訪れなかった。

来るとしたら今日であろうと思われる。

 

 

 

「つーわけで、今日でこの二人とはお別れなんっすよね」

「ほぉ、そーなんか」

「気付けば大分長く一緒に居ましたねぇ」

「まさか進化するとは思わなかったけどね」

「ッシャオラァ」

「メッサツ」

 

朝に食堂で、皆を連れて軽めの食事を取りながら、プリキュア達と会話する。

そしてふと、ゴウキが進化した際と同じ問題が残っている事に気付く。

 

「そういやコクランさんにゃ、ハカイオウの事どう説明すりゃいいかなぁ」

「説明なんて要らんとちゃうー? 預けた側としては強くなってくれて万々歳やんか」

「そんなもんっすかねぇ」

「まあ、多少は驚くと思うけど問題ないと思うわよ?」

「ふむ、そんなもんなのかな」

 

 

俺だったら預けたピカチュウがゴリチュウになってたら嫌なんだけどな。

他の人と思考がずれてきてしまってるんだろーか。

 

 

カチャッ。

 

 

「失礼致します、こちらの食堂にタツヤ殿という方は───」

「お、コクランさん。どうもっす」

「おぉタツヤ殿、一週間振りでございますな。ご健勝で御座いましたでしょうか?」

「あぁ、はい。なんか昨日レベル上がってました」

「ほほう! そうでございますか! まさかLv81程度であるナゲキのレベルが上がるとは───」

「あ、いや……そっちじゃなく俺本人っす。なんかLv15からLv22になりまして」

「      」

 

コクランさんがいきなり思考停止に陥ってしまう。

速攻で頭クラッシュさせてごめんなさい。でもマジなんです。

まあついでに言えば、ハカイオウも修行中に82になってたはずだけど。

 

「うちらも最初、あんなんやったんやなー」

「そうですね~」

「私は最初っから突っ込んでばっかだったわ……」

「まあ、タツヤ殿ですし日常茶飯事なのでしょうね。

 ワタクシが預けさせて頂きましたナゲキの成長は、如何で御座いましょうか」

『うわ一瞬で復活した。』

 

コクランさんはモノの数秒で人に復活を遂げた。さすが出来る男は違うな……

 

「えーっとですね、ナゲキ……なんですけども」

「えぇ」

「その、元ナゲキに───」

 

 

ガチャリッ。

 

 

「おいーっす。こっちにタツヤ君いねえかー? 受付の人が飯に行ってるっつって───」

「お、カズさんだ」

「おやカズ殿。お早う御座います。」

「おう、タツヤ君! コクランさんもお久しぶりっす!!」

 

食堂にカズさんまで乱入してきた。

これで今回シオンで承った育て屋関連の重要人物は全て揃った事になる。

 

「よかったらコクランさんもカズさんも飯どうすか?

 さ、どうぞどうぞ座ってください。別に食べてもドレディアさんの飯が減るだけですので」

「ア゛ァ゛ッ!?」

「客の前で恥掻かせたりせんよね? ん?」

「……ァーィ」

 

最近この子も返事が器用になって来た気がするなー。多分今のもドレデ『ィ』『ア』を旨く使ったんだろう。

 

「うーむ、確かにあの食事を食べれるのは有難いですが……

 ドレディア嬢……ご同伴に預かっても、よろしいのでしょうか?」

「ディァー」

「……彼女は、なんと仰っているのでしょうか?」

「どうぞって言うてはりますよ。ええんちゃいますか?」

 

これに関してはおべっかでも空気読めでもなく、本当にそう言っている。

不満たらったらに言わなくなった辺りにとても成長を感じます。

以前なんて飯の件で罰を与えたら瞬時にしかめっ面だったのに。

 

「では……お食事に参加させて頂ける御礼に、こちらをどうぞ。

 少々甘い味付けの御菓子となってしまいますが……お受け取り下さい」

「ディッ?! ディァッ?! ディ~ア~♪」

 

手渡しでお菓子を受け取ったドレディアさんの顔が瞬時にほっこりとなる。

最近描写こそされてないが、飯に関する執着は今もなお凄いものがある。

 

「んー……んじゃ俺も先輩に習って、ドレディアちゃんにこれあげるかね」

 

そういって取り出したのは菓子パンだった。

あんパンとは渋いトコを突いてんな、カズさん。

 

「タツヤ君達いなかったらこれで飯済ませる予定だったけど

 食わせてもらえんなら、もういらねーしな。ドレディアちゃん貰ってくれや!」

「ァァァアアアァァァァ~~~~~~~♪」

 

 

歌いだしたwwwww

 

 

「お二人ともすみません。ご好意、この草の子に代わって感謝をお伝え致します」

「いやいや、なになに。タツヤ殿の作る料理は、この御菓子ですら超越するほど凄いものですぞ?」

「あーやっぱそうなんすか? その御菓子高そうですけど……

 俺の舌は間違ってなかったらしいな、誇ってしまえタツヤ君ッ!

「は、ハァ……」

「いや、タツヤ君、あなたの作るご飯冗談抜きでやばいわよ?

 私もう自分で作った食事食べてもなんか色あせてる気がするもん」

「お前は真面目に作っとけや、ガールスカウト。」

「そのぐらいってことよ♪」

 

この人も突っ込まなくなってきたなー。つまんねえ。

一人旅に出るかな、そろそろ。

 

 

 

 

そんなこんなでみんなで楽しく朝のお食事会を終わらせた。

 

もちろん食している間にも、コクランさんとハカイオウはちゃんと会っているわけだが

説明は飯の後に俺から来るだろうと思ったのか、食事中には質問はなかった。

 

「ああいう風に、食事中って状況に気配りを出来るのが大人の条件なわけですよ」

「ほうほう……参考になるわ。いや、やっぱかっけぇよなコクランさん」

 

カズさんとその事でヒソヒソ話をしながら、楽しく朝ごはんを頂いた。

 

 

 

 

「な、なるほど……進化、ですか。

 ダゲキやナゲキがメインで活動している本場のイッシュ地方でも

 そのような話は聞いた事がないのですが……」

『誰でもそうだと思います。

 ついでに言えば原因は確実にタツヤ()だと思います。』

 

失礼な四人である。お前等そんな事ばかり言ってんならもう飯作ってやんないぞ。

 

「だが……まあ納得出来るモノもあります。

 なんせ二、三日一緒だっただけのライチュウが無敗になる内容ですからな……」

 

あ、そっち方面で納得しちゃうんだ。

俺としては、もうちょっと突っ込んでほしいんだが。

 

「それに関しても、先にお試しで使わせてもらった俺が証明しますよ。

 ダゲキも、いや……ゴウキも冗談抜きのレベルになってましたし」

「メッサツ……!」

「ほほぅ……それは楽しみですぞ」

 

 

いや、まあ強くなっては居るだろうな。

元のスペックがLv80位とか、凄まじいわけだし。

 

 

「んでもって、一応俺のコンセプトは『強いだけじゃ駄目』ってのを

 前面に出してるんで、強さ以外にも鍛えさせてもらってます」

『ほー……』

「修行中は戦う事があっても指示らしい指示は飛ばしてませんでしたからね。

 その分自分で考える力が育ってくれてんじゃないかなと思います」

「あぁ……だからか。あの時のゴウキのぶち折り回避は」

「ぶ、ぶち折り回避?」

「まあまあコクランさん、そこら辺はとりあえず今重要でもありませんから。

 ついでに学力テストなんぞというのまでしてみたんですが」

「学力……テスト?」

「そんなもんまでしてたのかタツヤ君……ん?」

 

学力テストの件を話した所、そこでとある違和感に気付いたのか

カズさんが声を上げて俺に質問を飛ばしてくる。

 

「───……結果はどうだったんだ?」

「アカネさんが全ポケモンも混ざった上でドベ(最下位)でした」

「ちょっwwwwwwwアカネちゃんwwwwwww」

「……う、む、ぐ、く、ぅ     ぐっ……」

 

カズさんが盛大に突っ込む中、コクランさんがものっそい笑いを堪えている。

もうやめてッ! コクランさんの残りのHPは1よッ!

 

そして言われたアカネさんは即座にずどーんと気を落とし、部屋の隅っこでディフェンスをやり始めた。

 

「んで、二人の内容としては上々です。

 全員参加の中の平均を余裕で超えた点数取ってましたから」

『ホホウ』

「解答用紙はこちらになります、お二人ともどうぞ」

『オォッスッ?!』

 

二人が【やめて?!】と言ってくるがそんなもんは知らんwww

そうして解答用紙に描かれた答えを順々に見て行く二人。

 

「おいタツヤ君wwwwwこの子らの中じゃ君は伝説ポケモンらしいぞwww」

「そもそもポケモンじゃねえっつーの俺は!

 そいつらわかんねえとこの問題、珍回答しか書いてないだけだぃ!!」

「…………。」

 

 

ゴゴゴ

     ゴゴゴ

           ゴゴゴ

 

 

あれ? なんかコクランさんから黒いオーラが……

 

「ナゲキ……いや、ハカイオウ……」

「オ、オッス……!」

「なんなのですか、この回答はッ……!

 よりにもよって、お嬢様の名前をここに入れますかッ……!」

「ォッス……」

 

うわぁー、そういやカトレアってコクランさんの主じゃねえか……今更気付いたわ。

なんか別のカトレア思い浮かべてた。

 

「まぁまぁコクランさん……落ち着いてくださいな。所詮ただのテストですから……」

「いいえっ!!  黙る事など出来ませんぞっ!!

 ハカイオウッッ!! そこに直れッッ!!」

「ッ!!」

 

言われて即座に直立不動になるハカイオウ。

うっわーさすがのブレーン代理。威圧感が半端ねぇわ。

 

「お嬢様は伝説のポケモンなどで留まるような御方ではありませんッッ!!

 ゆくゆくはセレビィ、果てはマナフィやビクティニ以上の

 高尚な存在になっていく方ですッ!!! それを伝説如きで留めるとは……

 貴様ァっ!! お嬢様の従者の手持ちの自覚があるのかァっ!!!」

『そこなのっ?!?!』

 

なんかコクランさんが変な方向性に突っ走りだした!

おいやめろ!! 誰か止めろ!! 

 

「まずそもそもがお嬢様のお名前をこのような用紙に気軽に書く事が間違っているのだッッ!!

 貴様はお嬢様のお名前の『価値』を何と心得て今まで私についてきたのだッ!?」

 

やばい、なんかもう別ベクトルに突っ走りすぎてる。

ならば俺の必殺・暴論で止めてしまおう。

 

「はーいそこまでー。そこまでー」

「な、何故止めるのですかタツヤ殿ッ?! 話はまだ───」

「コクランさんは見解が狭すぎですっ! この場合はむしろ褒めて遣わすべきでしょうッ!!」

「なっ───」

「いいですか……元々ポケモンってのは人間の友として非常に親しまれています。

 しかしながら親しまれている程度で殆どのポケモンが留まっている中

 自分の主人に『更なる主人』が存在しているという概念を理解している上で

 自分達の上に立つ、伝説のポケモン並に偉いと判断して、

 この用紙のここにカトレアさんの名前を入れたその判断基準を、むしろ褒め称えるべきです!!」

 

一気に畳み掛けてみた。

あまりの早口にとなりのカズ(トトロ)さんがぽかーんとしている。

やばい、今ネコバス呼ばないで。

 

「ふむ……なるほど、そういう方向で考えれば

 私の手持ちの中でも、この用紙に名前を書くに至らない子すら居る可能性もあるわけですか……

 ふーむ、なるほどなるほど……」

 

ちょっとどきどきしつつ見守っていると、どうやら一定範囲で納得したようだ。

 

「よし……ハカイオウ、先程はすまなかった。

 さすが、控えとは言え私の手持ちのポケモンだな!

 帰ったら存分に褒美を与えよう、期待して良いぞ」

「オ、オッス!!」

 

どうやら俺の暴論で、コクランさんはこの件に関して考えがまるっと代わってしまったらしい。

やばい俺暴論弁護士になれるんちゃうか。

 

ハカイオウもちらっとだけ俺を見て

【師範、ありがとうございます!】と意思を飛ばしていた。

なに気にするな。あのままだといつ説教終わったかわかんねーし。

 

 

 

 

さて時間は飛んで訓練場。

俺が持ち込んだ私物の回収ってのもあるんだが……コクランさんに

 

「是非、私もタツヤ殿の手持ちのメンバーで、ハカイオウの試用運転をさせて欲しい」

 

と申し出られてしまった。

カズさんに許可していた手前うなずくしかなく、全員で訓練場へ行く事になった。

三人娘のプリキュア☆達は「暇だし。」の鶴の声だった。

 

 

「では、ハカイオウ……この一週間でどれだけ腕を上げたのか

 私に見せてもらいますよっ!!」

「ッシャオラァアアアァア!!!」

 

 

あっちはあっちで気合が入っているが、こちらは何で行こうか……

 

「ッディァ?! ディァ?!」

『─────!! ッ!! ──!!』

「ミュゥ! ミュゥ!」

「ホ~ァ~☆」

 

 

ドレディアさんは、【私にやらせろッ! 私に任せろッッ!!】と意気込み

ダグ共は、【姐御ばかりずるいぞっ!! 我らも最近良い所がないのだ!! 譲れッッ!!】と

ミュウもミュウで、【リベンジしたいよっ!! させてよっ!!】と復讐に燃え

ミロカロスは蚊帳の外だった。鳴きながら頭を摺り寄せて俺に甘えてくる。

そういえばお前しばらく出番なかったもんな。

 

 

 

んー……気合が入っているこいつらでもいいっちゃいいんだけど……。

 

 

 

よし。

 

 

 

 

「ムウマージ。お前暇つぶしに頑張ってきてみろ」

「△▲ー?」

 

どうせ暇つぶしでタワーから人里に降りてきているのだろうし

捕まえたわけでもないがムウマージに任せてしまえばいいやと判断。

 

「ア゛ァ゛ッ?! ディーアーッ! ディァーッッ!!」

「ミュッーーー!! ミュッーーーーッッ!」

『─────;; ;; ;;』

「ええーい、黙れ」

 

味方から大ブーイングを喰らうも俺には こうかが ないみたいだ……

 

「△▲☆★~♡」

 

俺の提案にムウマージは快く了承をして

乗っかっていた俺の頭から少し下にズレて、俺に頬擦りをしてきた。やばいこいつ可愛い。

 

そして俺からふよりと離れて、ハカイオウ&コクランさんの前へと軽やかに躍り出た。

厳密には俺の手持ちではないんだけども、戦えば大して変わらんべ。

 

「ムウマージー、頑張れよー」

「ギャゴーンッ!!」

「△▲☆★~♪」

 

同じゴーストタイプのポケモンだからなのか、もっさんのゲンガーが俺と一緒に声援を送る。

逆に俺の手持ち全員はミロカロスを除いて全員隅っこでいじけ始めた。こいつらめんどくせぇな……

 

 

 

 

「ん……そういえば」

「 ? 何、どしたのタツヤ君」

「いや、気付いたらムウマージってタワーからいつの間にか混ざってたから

 ステとか見た事なかったなーって思いまして」

 

その事に気付き、昨日投げ捨てた後に回収したポケズLv4を取り出し

ムウマージの情報を閲覧するためにデータの解析を頼んだ。

 

どうやらレベルが上がった際に野生でも人のポケモンでも詳細を確認出来るようになったらしい。

さすがのご都合主義、もといスーパーメカである。

 

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

No.429

ムウマージ♂ Lv999程度

 

タイプ1:ゴースト

タイプ2:ゴースト

タイプ3:とてもゴースト

 

せいかく:ふめい

とくせい1:アストラルゲート (PP無限)

とくせい2:ふゆう        (浮いてますねぇ。)

 

親:レンカ

 

こうげき:━━━

ぼうぎょ:━━━━━━

とくこう:━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

とくぼう:とくこうと同じぐらいデス。 byポケズ

すばやさ:━━━━━━━━━━━━━

 

現努力値

必要なし

 

わざ1:じゅうはざん(ギガスレイヴ)              金色の魔王から無理やり力を借りて酷使。

わざ2:メガフレア               辺り一帯を対象ごと荒野にする。

わざ3:かくばくはつ              原子力の分子振動を用いて極大爆発。

わざ4:エターナルフォースブリザード    相手は死ぬ。というか周りも全員死ぬ。

 

√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√√

 

 

 

「       」

「△☆★~? △▲☆★~♡」

 

ポケズの内容を確認して固まっている俺に振り向き

ムウマージは手をふりふりしたりと、とてもかわいらしい仕草をこちらに振りまき

改めてハカイオウに向き直って気合を入れている。

 

やッべー可愛いわぁー、可愛いモノに罪は無いよなー。

うん、罪は無いなー。罪はー ────

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう問題じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 

 

俺はウインディの神速を超える速さでムウマージを瞬時に回収する。

ギャロップの240kmなんて話にならない程加速した俺の懐に、なんとか発動する前のムウマージ。

そのまま修行場から一目散に逃げ出した。

 

 

 

後ろから なにごとだー だの、 どうしたんだー だのと聞こえてきたが

こちらはもうそれどころじゃない。可愛さのせいで世界が滅亡する。

 

なんだ、もうなんだこれ、なんなのこれ。たすけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~おまけ~~~

 

☆タツヤが気付かなかった場合☆

 

 

「よし、じゃあ頼むぞムウマージ。

 適当になんかやって倒してくれー」

「ふ、仮にもフロンティアブレーン代理を務めていませんよ。

 さぁ行くのですぞハカイオウ! 貴方の力を見せるのです!」

「ッシャァー!!」

 

 

気合を入れて前に出てくるハカイオウ。

さて、こちらのムウマージは何をするのかな?

 

「それではタツヤvsコクランさん、ファイトー!」

 

審判役のもっさんが開始の合図をし、こちらのムウマージは少し体を縮めて

手を二つ合わせるように動く。そしてその手のひらの中に光が集まりだし……

そしてその光はまるで世界の闇を振り払うかの様な極光───

 

 

 

 

「────え?」

 

 

 

か く ば く は つ

 

 

 

199X年、ポケモンが生息する世界は、核の炎に包まれたッッ!!

全ての海はかくばくはつの火力で干上がり、生物は全て死滅した様に思えた……

 

 

 

だがッッ!! 人類は一人だけ絶滅していなかった!!

 

 

その名はッッ! ケンシr……レンカッッ!!

 

 

しかし雌が一人残ったところで種族の繁栄は不可能ッッ!!

 

 

レンカが倒れた時、地球から生物は消え去った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ~ うちのポケモンがなんかおかしいんだが ~

 

 

                BAD END 1  人類滅亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       fin






スレイヤーズは俺が初めて読んだ小説でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

69話 裏事情

注1.前話のラストを改変+おまけを付け加えてます。
   よろしければ閲覧の程を。

注2.なろうで連載していた話の流れ上で
   とても必要なフラグが、カラカラが抜けた際になくなってしまったため
   帳尻を合わせるために2話合成してます。

注3.話数変えるのめんどい。よって68話辺りは表記として消えました。
   以降69話からのスタートとなります


 

 

現在俺は、シオンタウンの留置所に居る。

俺は一体何回ここに来ればいいんだろう。

 

 

前回ムウマージを抱えて逃げ出した後の話になるんだが

その場で放置喰らった俺の手持ちの戦力全員が(ミュウも)

私も私も、とあれよこれよでハカイオウとのバトルが決まったんだそうだ。

 

多対一だったため、圧倒的な不利を抱えてハカイオウは勝負に挑んだわけなのだが

ある意味俺が育てたという内容に限りなくマッチしたため、とても善戦したらしい。

 

具体的に言えば躱して握って別の子に投げ、わざと当たって他の子に投げ。

完全にスパイクアウト戦術である。別にココまで教えてないんだがやはり方針がその内容なので

バトルスタイルもそちらの方で熟達してしまったんだろうか。

 

 

ちなみにここまではきっちりと穏便に済んでいる。

Lv82、なおかつフロンティアブレーン代理の手持ちであるが故に

凄まじいまでに戦い抜いたのだが、結局のところは数の暴力に屈していたそうな。

 

 

んで、この後にこんな状況になったそうだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「ふむ……」

「ん、どうしたんですか、コクランさん」  ←カズさんの台詞。俺じゃないぞ

「ついで、と言ってはなんですが……

 同門のゴウキとハカイオウで一試合やらせてもらえればと思いまして……

 今やっていた様な形ではなく、互いにトレーナーの指示を飛ばしての形でね」

「うえぇぇえええええぇぇええッッ!? 無理無理ッ! 絶対無理ッッ!!」

「いやいや、これは本当にわからないと思いますぞ?

 案外わたくしめのハカイオウでも負けるやもしれませぬ……」

「いやいやいやいや、コクランさんやめて?!

 圧倒的敗北が目に見えてるんですけど!?」

「───。」

 

そして……スッ、と。

ゴウキが見学していた場所から立ち上がった。

 

「ゴ、ゴウキッ! 駄目だ! 無理なものは無理だ!」

「……メッサツ!」

「───……お、前」

「本人もこう申しているようで御座いますし、一試合如何でございましょう?」

「んー……じゃぁ、まあ……滅多に無い機会だし、お願いします」

 

こうして、カズvsコクマロが決まり……

かいふくのくすりを飲んだハカイオウとゴウキは

お互いを見やり、拳と拳を合わせて試合前の挨拶を交わしていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 

で、こんなことに。

 

ムウマージにお前の存在がなんたるものやと説明し終えて修行場に戻ってきたんだけども……。

せめてあの時ここ残ればよかった。修行場どころか森が壊滅している。

 

 

 

隅っこでカズさんとコクランさんが折れた木の下敷きになって伸びている。

ダグ共は素早くトンネルを掘りつけ人間三人娘とミロカロス他を速攻で避難させたようだ。

お前等良くやった。

 

そして最後にはあまりの無茶苦茶ぶりにドレディアさんがキレて、ルール無用の大乱闘を引き起こし

木はぶち折れ、その木がぶん投げられ、栓抜きまで投擲され。

さらにゴウキのしゃくねつはどうで燃え上がり。

その燃え上がった木をハカイオウがフライングニールキックで体ごと蹴り飛ばし。

ゴウキから放たれる波動(だん)をハカイオウもドレディアさんも

なんと素手でバチンとビンタして逸らし。逸らされた波動(だん)

さらに他の木にぶち当たり、なぎ倒され……といった事が

俺がココに辿り着いた時点で繰り広げられていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

そしてその惨状の最後に、ぶちギレた俺が三人を(自主規制)してK.Oして

倒してしまったせいなのかレベルが29まで上がってしまった。

 

 

「なんなんだよこれ……もうおうち帰りたい……」

「△▲☆★ー……」

 

そんな異界の風景と思わしき『元・森』に立ち尽くす俺は、ムウマージに慰められるのだった

 

 

あー、そろそろ警察さん方がこっちに着く頃か。

こんだけ大暴れしてるし、付近の人たちが森の異常って事で通報してるよな……

 

 

森崩壊騒動の後、気絶した三匹を全員叩き起こし

倒れた木の撤去だけでもしやすいように、ひとまとめにしていたところで

やはり警察の方々がおいでになってしまった。

 

ま、通報の方は予想するからに、ただ単に森の様子がおかしいとかそっち方面だったはずである。

誰も暴れてる最中見に来なかったし。

むしろ外から森を見ただけで、「森に破壊者が居る」なんて通報だったらむしろその人は神であろう。

 

 

「……で? なんでこんな事になってんだ?」

「はい、順々に説明しますんで……

 ……くぉらてめぇらッッ!! 止まってないでキリキリ片付けろッ!!」

「ディッ、ディ~~ッ!」

『オ、オ、ッスッ!!』

 

警察の人に事情聴取をされ始めた辺りで

周りを片付けてたボケ三匹がこちらの話に聞き耳を立てていたため、一喝して作業を再開させる。

 

「う、む……彼らが手伝ってくれているから

 片付けはかなり速く終わりそうだが……っていうか。

 あのドレディア……ドレディアなんだよな。あれは一体なんなんだ? どういう事なんだ?」

「あ、ドレディアの仔細を知ってるんすね、警察のお兄さん。

 彼女はあれです、気にしないほうが楽ですよ」

「…………。うん、そうだなっ!」

 

視界の端に映るドレディアさんは、折れた木を二本纏めて持ち上げ

青々しい葉っぱをつけたその木を、割と普通の速度で走りながら

ズリズリと引きずって走っている。

 

走っている。

 

うん、まあそういう事だろう。

見て見ぬ振りをしたほうが何も考えずに済むという現実逃避だと思う。

 

 

「……で、あそこで気絶してる二人は被害者で

 主犯はむしろ、その戦いを提案した君だ、と」

「はい、そうっす。申し訳ないです」

「確認するけど……、あの、今せわしなく動き続けてくれてる三人が

 全体的に森を滅茶苦茶にして、最後に君がキレて彼らにトドメを刺した、と」

「はい、間違ってません」

 

この件に関しては全て俺が罪を被る事にした。

そもそもムウマージをつれて逃げ出したのは俺であり、これら全ての事象はそこから発生している。

 

それに万が一にでもブレーン代理のコクランさんが警察に拘束されたら

ひとつの施設の運営がひっじょーに不味い事になる。

ならば特に縛りも制限も無い俺が出頭した方が色々と救いがあるはずだ。

 

「……んー、その話が本当だとしたら多分牢屋に入ってもらう事になると思うんだが」

「仕方ないすね……俺もまさかここまで酷い事になると思ってなかったんで」

「そうか……まぁ、一応俺からも事情は説明して、短い日数で出れる程度に嘆願書は出しておくよ。

 話を聞く限りでしかないが、根本的に君は悪い子とは思えないからな」

「すんません、ありがとうっす」

 

どちらにしろ、俺が原因でこんだけの事態を引き起こしてしまったんだ。

犯人不明ではこれからも忙しいコクランさんまでここで縛られる可能性もある。

そんなら比較的自由な俺が罪を引っかぶってしまおうという計算だ。

 

どうせ以前にも捕まっちまってるしな……一回捕まってしまえば二回も三回も一緒だ。

 

 

 

 

そんなわけで冒頭の続き。再び戻って参りました牢獄in。

再び拘留されてしまってまーす。あはー♪

 

「やれやれ、まったく……ドレディアさん、本当に今回はあかんわ。

 なんで止め(トメ)に入らないでトドメに入ったんだよ」

「ディ~ァ~///」

「褒めてねぇッ!!」

「ディッ?!」

 

やった本人はこんな調子である。もーどうすればいいのさ。

 

 

 

なお、俺の他の手持ちはポケモンセンター預かりとなっている。

拘留される前に、気絶から復活したコクランさんとカズさんに頼み手配をお願いしておいた。

故に隣にはドレディアさんしかおらず若干暇である。

ドレディアさんが要る理由は前回と同じ。俺本人が反省をしている上に感情的でないため。

特段脅威にはならないと判断されたからである。

悪い事考えてるヤツの隣にポケモン置くと碌な事になんねーからなー。

 

一応ミュウはそのテレパス性能を使って、牢屋まで逢いに来てくれたんだが

この際だ、という事でお別れとしておいた。修行も終わってるしね。

 

あの一週間で勉強した内容は学力テストの結果でもはっきりとわかっている。

初期の目的が達成されたので、縛る必要はもうなくなったのだ。

 

んで、拘留期間は前回より短く二日である。

あの時の警察のお兄さんが面倒臭がらず、本当に嘆願書を出してくれたらしい。

この世界の警察は地味に前世の警察よりしっかりしていて、本当に有難い。

 

「ま、ご飯時まで暇になるだろーな……ゆっくりしてようかね。」

「……ァー」

 

つまんねぇーとでも言いたげに、ドレディアさんはふてくされた。

残りの拘留期間は一日と18時間って所か……寝る子は育つっつーし、のんびりと寝て──

 

 

「んだからよぉ……次の飯の時間に持ってきたヤツを牢越しにひッ捕まえてだな……」

「んなもんで脱走出来るってんなら世の中苦労してねえだろ」

「持ってきたヤツの声防ぎ切らなきゃすぐに誰か駆けつけるだろーしな……」

 

 

……ぁん? なんか物騒な話してるやつらが居るな……。

 

って、こいつら───

 

「あの時のロケット団か……」

「んだぁ……? 俺らの事を知ってるなんざ将来有望なヤツ───って、テメェは!!」

「こンのクソガキっ!! テメェラのせいで俺らは本部に合流出来ねえんだぞっ!!」

「ちくしょう、今すぐぶちのめしてやるッッ!! ここを開けろっ!!」

 

悲しいまでの低レベルっぷりに怒りを通り越して嘆きすら出てきてしまう。

その嘆きこそ我の糧也、いやなんでもありません。

 

「ひとまず落ち着いてくれ、そこの黒い人達。

 まあこんなところに来た原因がそういったところで───」

「っせぇんだよッッ!! 出せっつってんだろうがぁー!!

 看守どうしたぁー?! とっとと来いやっ、ぶっ殺すぞッ!!」

「って叫ぶのも当たり前だよなー」

「クソが、なめくさりやがって!!」

 

  い

     い

        か

           ら 

 

                  黙 れ ッ ッ ! ! 」

 

 

─────。

 

 

あまりにうるさかったので、大声を出してさらに一喝、何とか静かになったようである。

 

「いいか? あんたらは悪い事してここに入れられてるわけだろ?

 そんなやつらに警察の方々が俺を殴るために牢から出すなんてするはずないだろ」

「……グッ」

「加えて閉じ込めておいた方が安全なのに

 わざわざ『ぶっ殺す』っつってるやつらをどうして開放するんだよ?

 逆に考えてみろ逆に」

「逆にだとぉ?」

「あんたらが看守の立場で、そんな事を言ってる凶悪犯罪者がいて。

 そいつらを信じてなおかつ開放出来るか?」

『…………まず、しない。』

「だろ?」

 

漸くまともな思考回路に戻ってくれたようである。

 

「ッチ……確かにそう考えりゃ余計な体力使っちまったぜ……」

「つーか、クソガキよぉ……お前、なんでこんな所に居んだよ?」

「そういやそうだな……俺ら捕まえる位なんだから、悪が許せねぇ普通のガキなんだろ?」

「別に俺は悪が嫌いって訳でもねーさ」

『は?』

 

俺の返答と持論に黒い方々は揃って呆けた顔になる。

 

「簡単に言うなら俺は悪い事の全部を否定はしねーよ。

 必要悪って言葉位あんたらも聞いた事あんだろ?」

「……まぁ、な」

「でも俺らが必要悪とは限らねーだろうが」

「俺が動いた理由はそこだよ」

「……まぁ返答はそこそこ予想出来てっけどな……どうせこっから動けねーし暇なんだ、喋れや」

「まぁどうやったって悪を認めてるってやつがあんたらを拘束したってんなら

 そこしか理由も浮かばねーよなぁ。そういう事だよ」

 

そこに至る理由はあまりにも小さく、ただの個人の感情でしかない。

 

「俺が見逃せなかったのは、許せなかったのは……

 わざわざ親子の絆を引き裂いてまで、ガラガラを殺した事だ」

 

『…………。』

 

三人は一様に黙りこくる。

 

「ガラガラとカラカラの持つ骨が高いのは俺も知ってるよ」

 

初代でもそれが理由で殺されてる的な描写、あったしな。

 

「けど、他にも金作る方法なんざあるだろ。

 ポケモンとはいえ、他の生物の幸せをぶち壊してまで稼ぐもんでもないだろ?

 俺はただ単にそこが許せなかっただけだ」

「ケッ……何も知らねぇシャバ憎が……」

「……なんか理由でもあんのかよ」

 

悪の組織独特のルールでもあるのだろうか。

 

「俺らだってなぁ、いや少なくとも俺はってところか……。

 俺だって殺してまで金なんざ得たくなかったさ」

「まぁ……そいつぁ一応俺もだな」

 

と語るロケット団員AとB。

と同時に俺はふと、別の団員かもしれないが……

フジ老人とこいつらが言い争っていたシーンを思い出した。

 

「そういやあんたらの仲間が『無期限でゆっくり金を稼ぐなんて無理だ』とか言ってたな」

「そうだよ、俺らだってわざわざ危険な事してまで悪の組織になんざ居たくねえよ」

「んだったらなんでここで捕まってんだ」

「───そんだけ物事知ってるテメェなら若干予想はついてんだろ」

「……まぁ、な」

 

金を稼がなければならない、だが急がなければならない理由。

 

「上納金、とかそっち系か?」

「やっぱりな……その年齢でそんな単語は普通知らねぇだろう。ま、それだけじゃないけどな」

「……それだけじゃない? あーわかった。あれだろ。お前等リーダーに恩あるんだな?」

「ッ?! そこまで想像出来んのか……さすが俺らの動きを予想して構えてただけあるな」

 

こいつらの動機はある意味単純な話だったのだ。

自分達に対して何かしら施してくれたボス、または主に対して忠誠があるだけだった。

その忠誠に基づいて、たとえ悪い事だったとしても主のためにそれを成し遂げようとしていたのだろう。

 

「まあサカキさん基本的に悪い人じゃねーからなぁ」

『ハァッ?!』

 

いきなり大声を出して驚く団員達。

大声過ぎてドレディアさんまで若干退いてるじゃないか。

 

「お、おまっ……!? テメェみてぇなガキが何でうちらのボスの存在をピンポイントで知ってんだ?!」

「まだ警察関連にすら名前はバレてないはずだぞっ!?」

「あー。……んーと……うん、悪ぃ。

 そこら辺は聞かなかった事にしてくれ、事情があるんだ」

 

そう、前世でそんな役割をしてたのを覚えてるという、説明出来ない事情が。

 

「……俺らも一応、四苦八苦してその情報が流出しないようにしてたんだからな?

 お前、警察にチクんじゃねぇぞ?」

「あー大丈夫大丈夫。一応そっちも事情もあるんだろーし誰にも言った事ねーから」

 

言おうとした事はあるが。

 

「ったく……テメェ一体どこまで知ってやがるんだよ」

「……聞きたいのか?」

「……どうせ俺らは今から団員と合流も出来ねぇし情報も伝えられねーよ。

 喋っておけや、どうせこの場のオフレコだ」

「えーと……まずタマムシシティのゲームセンターにある地下のヒミツ基地だろ?」

『そこを既に知ってんのかっ?!』

「あとは一年以内ぐらいにゃシルフカンパニー本社襲撃の予定組み込んでるよな」

『…………。』

「あとはまあ、ちっこい事しか知らねーよ。

 せいぜいが地下のヒミツ基地のボスの部屋がエレベーターでしかいけないって事ぐらいだ」

 

俺が次々とひけらかしていく内容に、団員三人は完全に絶句する。

 

「……俺らの情報って、なんなんだろうな」

「結構頑張ってたはずなんだけどな……?」

「あー、擁護するわけじゃねーけど気にしないでいいよ。

 俺がそれを知るに至ったのは本当に反則的なモンから情報引っ張ってっからだからさ」

「なんだよ、反則的なもんって」

「ぶっちゃけ、アカシックレコードとかそんなモンに近い」

「アカ……? なんだそりゃ」

「お前知ってっか?」

「いや、知らねー……つーかレコードって。普通CDとかだろーが。本当になんだそれ」

 

 

アカシックレコードを知らん人はテキトーに検索してください。

エヴァでもどっかでこの単語が混ざってた気がしたなー。

 

 

「まあ、それはさておいて、だ」

「あぁん?」

 

今回の会話でちょっと確認したい事も出来た。

今、尋ねてみるべきだろう。

 

「少し話をさせてもらってもいいか」

「テメェの事語りなら勘弁だぜ。そんなん聞いてられる程人間出来てねーよ」

「違う違う、お前等の事だよ」

「……俺らだと?」

 

そう、お前等ロケット団一人一人の構成員だ。

 

「お前等一人一人じゃなくてもいいわ。

 全体的にもやっぱ、サカキさんの徳に惹かれて仕方なくロケット団で居るってやつらも居るのか?」

「あーそりゃぁ大勢居るぞ。実際サカキさんがボスじゃなくなったら即座に内部分裂すると思う」

「それは俺も同意見だな、あの人じゃないとロケット団は回らねーよ」

 

 

なるほどな。やはりサカキ自体は良い人ではあるのか。

ゲーム中でも大人の事情だのなんだのとかって言ってたしな。

あえてジムリーダーに戻って主人公と最後の決戦してる辺りでも

俺はサカキが完全な悪とはどうしても思えなかった。

 

 

「じゃあ次だ……お前等は好き好んで、犯罪をしているわけではないんだな?」

「そこら辺も俺個人は一応同意だ。組織の実情も知ってっからな」

「実情、か」

「あぁ、そうだ。サカキさん本人も徳が高すぎんのかもだけどよ……

 俺らみてーに普通に働けねぇ奴等が居たらどっかこっかから必ず拾ってくるんだわ」

「ほぉ……」

「んで、俺らは飯の種もねぇ無駄な食い扶持なわけだろ?

 必然、組織全体に負担が掛かってくるわけだ」

 

……これは三国志の『黄布の乱』的なもんか?

最初こそただの農民の反乱だが、規模を維持するために略奪するしかなくなった的な。

 

「俺らも俺らで何かしてやりてぇけどなんも出来ねぇ。

 少しでも組織のためにってなると、やっぱ犯罪するしかねぇわけだ」

「……まさかとは思うけど、お前等それを免罪符にはしてねぇだろうな。

 もしそうだってんなら、俺はここ出たら本気でロケット団潰すぞ」

「……全くしてねえっつったら嘘になるだろーな。

 誰彼、心の奥じゃ無理やり合理化させてるだろうさ」

「…………」

 

そうか……。

 

まだ、組織全体が完全に腐ったわけではないのか。

 

「なぁ、ロケット団よぉ」

「あん? なんだよクソガキ」

「───お前等は……少なくともお前『達』は、サカキさんのためになら、変われるか?」

「はっきり言ってやる。ボスが望むならイエスだ」

「俺もだな」

「俺もだ。あの人の負担が減るならなんでもしてやらぁ」

 

そうか、だったら……

 

 

 

 

 

「俺、ここ出たらロケット団改変してくるわ」

 

 

 

 

 

『はぁ?』

 

一同口を開けてポカーンとしている。

 

「ひゃっはっはっはwwww何言ってんだよクソガキwwwwおめぇ一人で何か出来───」

「ないって自分で決め付けたから今のテメェ等が居るんだろ」

「──……」

「少なくとも俺は面倒くさがってもそのままにはしねーよ。

 お前等が本気でサカキさんのために、いや……サカキのために動ける、変われるってんなら。

 

 

 何とかなるように動いてやるよ」

 

『…………。』

 

全員、一様に俺を見つめてくる。

おそらく言葉の内容から、俺がそれをやろうとしているのは嘘ではないと思ったんだろうな。

 

「へっ……テメェみてーなジャリボーイに何が出来るか知らねーがな。

 もし……もし何かしら変えれたんなら───俺も死ぬ気で変わってやるよ」

「おいコラ、何B一人でかっこつけてんだよ。俺だって変わってやらぁ」

「俺一人だけ抜かしてんじゃねぇよ。

 こんなクソジャリがやってみせるって断言してんだから俺だって変わってやらぁ」

「……そうか」

 

三人の発言に俺は少し安堵を覚えた。

 

───やはり、まだ腐りきっていないらしい。

 

「約束してやるよ」

「ぁあ? 何をだよ」

「お前等、今日言った事ぜってー忘れるなよ。

 

 変え終わったら、お前等の身柄を突き止めて

 

 司法に則って解放してもらえるようにサカキに口添えしといてやっから」

 

 

 

「…………。」

「…………。」

「……本気で、変えるつもりか」

「そうだ」

「ま……期待しねーで待っててやるさ。

 本当にそれは、ボスのために、───サカキさんのためになるんだろうな?」

「サカキがいいやつなら、な」

「───だったらこっちも……」

『約束してやるよ』

「そうか」

 

 

 

 

次の行き先は、決まった。

 

 

 

 

そこから先は特にそいつらとの会話もなく、普通に大人しく過ごした。

さらにそこから三時間後程度に、コクランさんが面会にやってきてシオンを経つ事を伝えてくれた。

わざわざ律儀にありがとうございます。

 

「私がしでかした事の尻拭いをさせてしまい本当に申し訳御座いません……」

「まぁ、いいんすよ。俺どうせ暇ですし」

 

一応はカズさんも気にしているかもしれないので、気にしない旨の伝言を頼んでおいた。

 

「いつか、バトルフロンティアに……いや、ジョウト地方に来た際には

 私めの権限を使い、御優待させて頂きますので……」

「いやいいっすよ本当。ああいう風にしろって育てたのも俺ですし」

「それでも私は感謝の念が拭えません。

 ……いつか、またお会いしましょう。お嬢様にもご紹介したいですし」

「アハハ、まあ彼女の感情と能力が制御出来るようになったらね」

「ッッ?! 何故その事をッ……!?」

「あ、やべ」

 

 

色々と問い詰められたが、まあその後に暇になるのはわかりきっていた。

色々とのらりくらりと交わして時間を有効に使わせてもらった。

 

 

 

 

 

 

そしてあの会話から二日後。

 

「よっす。ちゃんとおとなしくしてたか?」

「あ、あん時のお兄さん。

 どうもありがとうございます、おかげさまで早めに外に出られますね」

「はっはっは、なーに。

 未来を担う若人なんだからよ、こんなところで何日も足止めしちゃわりぃだろ」

 

俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、お兄さんは言ってくる。

 

「ドレディアの嬢ちゃん」

「ディ?」

「ちゃんと、ご主人様の言う事聞かなきゃ駄目だぞ?

 君が原因でまたこんなところに来ちまうかもしれないんだからな。」

「─────(こくり)」

 

ドレディアさんにも軽い挨拶をして、お兄さんとは警察署前で別れた。

いい人だったなー。

 

 

「さて、のんびりしてる暇はないぞ。ドレディアさん」

「ディーァ?」

「明確な目的も得られた。明日から忙しくなるぜ!」

「ドレディァー!!」

 

 

そうと決まったらとっととポケセンに居るみんなを回収して

旅に出る準備をしなきゃな!!

 

 

 

 

 

次の目的地は、タマムシシティだ!!

 

 

 

 

 

side サンドパン

 

 

こんにちわ。ぼくサンドパンです。はじめまして。

なんかよくわかんないんだけど、ご主人様とそのお友達がわたわたしてる。

 

「その情報確かなんやろなッ?! 既にタツヤんは警察んとこにはおらんねんなッ?!」

「ま、間違いないですっ!!」

「んで、ポケモンセンターにも彼の手持ちの子達がおらん……

 まさかまたうちらに何も言わないで旅に出たんか!?」

「た、多分そうね、これは……

 私達もまだまだ、彼の中じゃ優先順位低いんでしょうねぇ……」

「落ち着いてる場合やないやろっ!! あのうンまい飯、食えなくなってまうやんか!!」

「多分何も伝えられないでまた旅に出て行かれたのって、そこら辺もあるんじゃないかなぁ……?」

「う……確かに食費ぐらいはたまに払っておくべきやったんやろうか……」

「はぁ、なんにしてもこれでまた探さなきゃならないわけか……」

 

はなしのないようから考えると、またぼくの親友のたつやさんが旅にでたんだって。

それで、その旅にでた原因をみんなではなしてるけど

たぶんたつやさんの事だし……たんに忘れてたんじゃないかなぁ?

 

「キュー、キュー」

「ギャゴーンッ」

 

さいきんいっしょに仲間になったゲンガーちゃんとも話してみたけど

ぜんぜんつきあいがないゲンガーちゃんですら、わすれてったんじゃない? といってた。

にんげんかんけいって、複雑だよね。

 

でも、あのごはんがたべられなくなるのはざんねんだなー。

また、あいたいな!

 

あ、でもごはんだけが目的じゃないからね?

ぼく、たつやさんはかわいがってくれるからだいすきなんだ!

またなでてもらいたい!

 

「よっしゃ、とりあえず旅荷物はすぐにまとめられるな?

 準備出来たらとっとと追いかけんでッ!!」

「で、でもどこに行くのかな?」

「んー私も今回はわからないわねー……」

「そんなん決まってるやん……セキチクシティや!!」

 

 

アレ? なんかいま、あえなくなっちゃう事が決定しちゃったような気がしてきちゃった。

でも、またきっとあえるよね。いつになるかわからないけど、きっとあえるよね。

 

 






さて、フラグに気付く方は居るのだろうか……
前作からまるっと代わってしまっている部分があるため目立たないが

「ある」部分の表現が消えてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

70話 道行く

 

 

「……なぁ。」

「ディ……」

『…………orz』

「△▲☆★~……」

「ホ、ホァァ~!!」

 

 

 

俺達は今ミロカロスを除いて全員へこんでいる。

 

 

まあ、おそらく俺等をご覧の方々は察しがついていると思うが

 

 

 

 

 

現在野良トレーナー戦で敗北連チャン真っ最中です。

 

 

「俺等って、こんなに弱かったんだっけ……?」

 

 

 

 

 

 

シオンからヤマブキに向かうルートで

結構トレーナーが多かったのは皆さん覚えていらっしゃるだろうか。もしくはご存知だろうか。

 

俺の記憶が正しければーなんだが……

あそこはギャンブラーとかミニスカートとか、その辺のがせいぜいだと思ったんだがなー。

それが一体どんな改変が来てこうなってんのか知らんけど、この世界だと、さ?

 

 

エリートトレーナー顔負けの戦略ばっかしてくる人達しかいねえんだけど。

なんなんだよもう、Lv1ドーブルとか出てきた時はもうドン引きだったわ。

しかもそいつはそいつで、「意外だろう? ニヤリ」とかきめぇ顔してっし。

 

一応俺もその手の戦略は前世でtubeとか使ったりして動画で見てんだわ。

おそらく独自に打ち立てた論として使えるようにしたんだけどさー、やられるほうは気分よくねーやな。

 

ドレディアさんで挑んでしまい、ドーブルがLv1で出てきた時点でさ……誰だって警戒するだろ?

うちの緑の子は変化技とか一切無いストレートな子だからね……そしたらこうなったよ。

 

いばる→こんらんしても普通に技を繰り出す

 

仕方無しに叩く→当然タスキ→バッチリタイミング良くがむしゃら

 

HP一気にこっちも1だよ、ひどいわ。

 

んでパンチとかそんなのしかないし、がんめんパンチ普通に指示飛ばしたら

エアームドとか出てくるしさー。ひこうタイプのせいで一致もしねえよバカ。

 

さらにいばるをやったら、HP1のまんまドーブル出てきてさ?

ねこだましでパチンってやられてこっちのHP1削られて終わり。

つまーーーーーーーーーんねーーーーーーーー。

 

 

本気でニヤニヤうざってぇから、懐から2円取り出して

目に投げつけてとっとと次に進んだ。刺さってたけど知らん。

ウザいヤツは死んで来い。

 

 

まあ……あまり戦いたくないし、物珍しいはずのムウマージ前に出して歩いてたら……

まあなんていえばいいのかなぁ。

 

 

だいばくはつ喰らった。以上。それ以上は聞くな。

やられる前にやれをやられたよ。

 

 

そして最後の砦のダグトリオ、これが一番酷かった。

可愛いもの大好き系な手持ちのはずのミニスカートに喧嘩を売られたんだ。

出してきたのはフシギダネだった。

 

まず開幕早々からくさタイプの攻撃で大ダメージ食らうかも、と思って警戒してたんだが

やってきたのはやどりぎのたねだった。

俺チェンジ出来るポケモン居ないから解除不可能。

 

ゲームと違い現実世界的な動きが可能なこの世界で、さらにイカれた内容をやられる。

なんとダグの超攻撃をこらえるで持ちこたえられた。お前それ使えたっけ?

 

しかもそこからさらにバトンタッチ。

出てきたのはなんとLv1のノズパスだぁーッッ!

あんたデザインセンスおかしいだろッッ! どう考えても可愛くねぇよそいつ!

 

んで……Lv1のノズパスっつったらもう、わかるべ?

 

ダグがこうげき→がんじょう+ゴツゴツメット→いたみわけでダグの体力ごっそり持ってかれる

やどりぎで回復→ノズパスHPMAX、がんじょう再使用可能

 

ないわー。

 

いらついたからダグが倒れた後、ノズパスに走りよってゴツゴツメット蹴り飛ばした後に

メリケンサックで顔面ぶん殴ってとっとと逃げ出しました。

トレーナーが何もしないと思うなよ。明日の月夜の晩を拝めると思うな……!

 

 

 

……まぁ、こんな結果になりましたとさ。

この世界怖い。もう怖い。おうちかえりたい。

うちの連中も強い強いと思ってたんだが、まさかこんな結果になるとは。

 

ミロカロスが戦わない上に生き残ってる判定だから

こっちの手持ちの200,000円近くが半分になる事もはないが

それでもあんだけ強いのに負けさせてしまう俺に悲しみを禁じ得ない。

 

「ホ~ァ! ホァ~ホッ、アッ! ホァー!!」

「うん、ありがとうミロカロス。お前、ホント癒しだわ」

 

【たまたまですよ! たまたま! ご主人様! 皆! 元気出して!】

 

と慰めてくるミロカロスに思わずほろりと涙が出る。俺って一体なんなんだろうか。

 

「やれやれ……こんなんでポケセンに辿り付け───」

「そこの君っ!!勝負だっ!!」

 

 

……あー? なんか知らんけどワカメっぽいヤツが俺にさらなる追撃をかけてくる。

 

「……見てわからんっすかね。こっちゃもう満身創痍なんすけど」

「う……まあ、わかるけど……!

 でもボクは師匠の教えに習い、どんな時でも油断もしないし……情けも捨てなければならないんだっ!」

 

知ったこっちゃねえよバカ。もう去ねこのド阿呆。

 

「あーはいはい、OKっすよ、OK。

 なんかすっげーイライラしてきたんで受けますわ」

「ふ、そうか……ならばこちらからポケモンを出させてもらおうッ!

 ……頼むぞ、ダークライッッ!!」

「─────!!」

 

 

ふーん、ダークライね。

 

 

「さぁ、そちらはどのポケモンを出すのかな?」

「俺だよ」

 

 

 

 

そして俺はもう試合開始の合図すら面倒になり

とっととダークライに走り寄った。メリケンサックも装着済みだ。

 

 

 

「え」

「─」

 

 

相手の動揺すら気にせず、ジャンプしながら突撃してダークライの顔面を鷲掴みにする。

そして自分の体重+重力の法則を用いて、浮いている状態から地面に引き摺り下ろした。

そのままマウントポジションまで持ってってパウンドをし続けた。

 

 

あとはもう言うまでもない……相手に手を出される前に、完全に私情を捨てて

地面に落ちて戸惑っているダークライを一方的にボコった。

 

あぁもうウザってぇ。

あんな状態で俺にポケモンけしかけてくるあのワカメもウザってぇ。

殴り続けてもなかなか倒れないこのダークライもウザってぇ。

あんなポケモン持ってんのにLv1ドーブルを何とかする判断すら下せない俺がうぜぇ。

全部が全部、ウザってぇ。

 

 

くたばれよもう。

 

 

 

最後に全力でダークライの喉を踏み抜いた。

声にならない絶叫が足元から聞こえたが俺の知ったことではない。

 

 

 

「はぁ~、やってらんね……おい行こうや皆、とっととタマムシ行かねぇと……」

 

 

全員を呼び寄せ早々にその場を引き上げる。賞金? いらねーよ、手持ちに20万もあるし……

 

なんか皆が皆、俺を怖がり始めてしまったが

そんなもんはヤマブキかタマムシについてから聞けばいい。

とにかく野宿でも良いから、不貞寝したくなった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

なんだろう。

今、何が起きたんだ。

 

 

目の前には、地面に沈んだボクのダークライ。倒したのは小さな子供。

ミロカロスが元気なのを確認していたので、てっきりミロカロスを出してくると思ったら

何故かトレーナーがボクのダークライに攻撃し始め、ものの30秒でダークライが地に伏した。

 

改めて思い返してみても何かがおかしいな。

なんだろう、なんか、何かおかしいんだけど……あれ?

 

 

って、それどころじゃないっ!!

 

 

 

「ダ、ダークライっ!! 大丈夫か!?

 しっかりするんだ! ほらっ、げんきのかけらだ!!」

「─────;;」

 

 

 

 

 

 

っぷはぁー。

 

ようやく、ようやく地下通路に着いたか……長かった、ここに至るまで約8時間。

全てがどうでも良くなって俺が参戦した戦いから6時間、といったところだ。

地下通路ならトレーナーも居ないし、居たとしてもお互いが通り道のすれ違いだ。

 

 

「はー……みんなご苦労さん。

 流石にその体じゃ疲れたべ、ここら辺でキャンプ張るかー」

「ァァー……」

『─────。』

「△▲☆★~……;;」

「ホ~ァ~」

 

ドレディアさんは既に仰向けに伸び、ムウマージもそれに習う。

ダグ達はキリッと整列していると見せかけて実はふらふらしてる、ある意味根性座ってんなぁこいつら。

ミロカロスは皆を励まそうと精一杯だ。

 

これはもう動けるのは俺しかおらんな。テントは俺一人で張るか……頑張らねば。

 

 

あとはまあ、普通の夜に至る道である。

俺がテントを張り終え、夜飯の調理を開始する。

ドレディアさんが飯の匂いを即座に嗅ぎ付け、ムウマージと一緒に

 

【まだか? まだか? なぁ、まだなのか?】

【なのかー】

 

と体を揺すってきたりしたが、いつも通りの日常茶飯事である。

身に付くかどうかはわからんが、一応女の子だしドレディアさんにも飯の作り方を教えながら調理。

 

出来上がった後はみんなでレッツイーティングだ。まあまあおいしかった。

他の皆は相変わらず大騒ぎしてたが、まあ自分の作ったモン食ってもな……

誰かのおいしい手料理食べたいディス。

 

あとは、寝るまでにちょいと時間が余ったので

観客の居ない音楽会をみんなでやって、全員で音に聞き惚れていた。

 

 

 

あれ? なんか二つほど重要な部分が抜け落ちてるような……

そういやもっさんたちはどこ行ったんだ? サンドパン撫でたくなったんだけど。

 

ついでに言えばさっき俺がぶっ倒したダークライって

通常だと手に入らないポケモンだったような……?

 

 

 

……ま、いいか。

 

 

 








主人公無双。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

71話 弾無視

 

 

んー。

なんていうか、なぁ。うん。

 

明らかにおかしいっつーかなんつーか。

 

 

今俺らはシオンとタマムシを繋ぐ地下通路を歩いてんだけど……

 

なんでこんなに薄暗いのかな。蛍光灯ぐらい付けろよ。

こんだけ暗かったら確かにモノ落とすのも仕方ないわ。金玉()マジで転がってたし。

あんな5,000円もするもん、大事に取っておけよなー……

 

「ディーッ、アッ!」

「ッ!」

 

パシッ

 

「─────ッ!」

「ホーァッ!!」

 

パシッ

 

「ホーァッ!」

「△▲☆★~!」

 

パシッ

 

 

そして後ろでは手に入れた5,000円でキャッチボールしてます。

仲睦まじい事で……まあ仲良いのは悪い事でもないから止めはせんがね。

 

ダグTWOとダグⅢと共に前を歩きながらそんな事を考える。

穏やかな顔をして見守ってやるのがトレーナーの器ってもの───

 

 

「ホァッ!?」

「ッ?!」

「アッ!」

 

 

ん?

 

 

なんかよくわからん動揺を起こした声を聞き

俺はそちらを振り返ってみると、なんか丸いものに既に視界を遮ら

 

 

 

 

                                   ゴッ。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで地下通路で寝ているのかな、俺は」

「……」

「ァー……」

「ホ、ホアァ~;」

 

 

記憶が途切れるまでは確かに立っていたはずなのに、何故か今は誰かの膝枕。

一様に心配してくれるのはうん、ありがたいんだけどさ。

なんかスッゲー額が痛いんだけどなんなのこれ、どういうこと?

 

まだかなり鈍い痛みが走る頭を押さえ、ダグTWOの膝枕から起き上がる。

 

 

とりあえず心から怒っては居ないものの、皆への躾も大事と思い

犯人であるムウマージをさかさまに吊るしてダグⅢに持ってもらい

俺らは地下通路をどんどんと進んでいった。

 

「△▲☆★~……;;」

「……;;」

 

なにやら後ろからちょっと切ない悲鳴が聞こえるが、それまだマシな対応なんだからな?

ドレディアさんが俺に同じ事やってたらモンスターボールに封印の上で

二日間飯抜きに加えて、出る直後にボール超大回転しちゃうよ。

下手したらナックルカーブまで使っちゃう位の勢いでお仕置きしちゃうね。

 

「つーわけだから諦めれ、ムウマージ。お前は不意ながら一応悪い事したんだからな」

「△▲~;;」

 

横でミロカロスもムウマージの顔に頬を擦りつけ

【よしよし。】と慰めている。別にトラウマにはなるまい。

 

っと……ようやっと地下通路も出口が見えてきたようだ。

ゲームだと10秒あれば通れるのにな。広すぎる世界に嫉妬を覚える。

 

 

 

「ふーぅ、よっしゃぁー。久しぶりの日の光だぁー」

「ディァー!!」

『─────ッ!!!』

「ホァ~!!」

「☆★ー;;」

 

ようやく地下通路を抜けきり、建物から出て太陽の匂いを吸いたかったのに

 

 

何処のバカだ。

近くの戦場であまごいしやがったやつは。殺してぇ。

 

「俺、今この憎しみを自分のパワーに生かせたらアルセウスに勝てる気がするんだ」

「?」

『???』

「?」

「△▲☆★ー;;」

 

うん、まあ予想してたけど。

アルセウスなんていう創造神は知らんよな、みんな。

 

 

「ったくやれやれ……(原作じゃ)この辺にトレーナーなんぞいないと思ったんだが……」

 

ま、よーやく狭い場所から抜けれたんだ。雨でも別に問題な───

 

 

 

 

 

 

 

どしゃぶりになりやがった。

 

「おい、この天気にしてるやつら殺しに行くぞ」

【【【【いや、そのりくつはおかしい】】】】

 

 

 

 

 

 

と、いうわけでようやく到着しましたタマムシシティ。

服がべちゃべちゃで気持ち悪い、若干赤い気もする。

 

「ま、とりあえずは恒例のポケモンセンターだー。

 部屋適当に予約入れて服絞って着替えてぇから」

「ァーィ。」

『bbb』

「ホォ~ン」

「△▲☆★ー」

 

 

確かこの町のポケセンは町の入り口付近にあったな……

 

あったあった、多分あれだ。入り口の近くにニョロボンとトレーナーいるし。

 

とりあえずすれ違いざまに、ニョロボンの腹に扇風機・右腕に空気砲みたいなものを素早く添えつけ

俺らはポケモンセンターの中に入っていった。

 

 

 

 

「───はい、はい。これでオッケーです。こちらが部屋の鍵になります、どうぞー」

「ういっすー、ありがとうございまーす」

 

スムーズに鍵の取引も完了した。

このタマムシシティは、原作でもイベントやら新規の商品やらがやたら沢山出てくる街でも有名である。

 

「……クックック、長かった、長かったぜぇ。ここまで来るのは、長かったぜぇ……!!」

「……ディァ?」

「ホ~ァ?」

 

今まで街ひとつにコンビニしか存在しなかったド田舎と違い

(マサラにはコンビニ代わりのフレンドリーショップすらないため、辺境の地としておく)

この町にはデパートがあり、なおかつミックスオレという対コスト比で比べると

圧倒的に段違いの回復アイテムまで売っているのだ。

 

ポケモンを全然知らない人へ、金銭と回復によるデータはご覧の通りである。

 

 

--------------------きずぐすり系列--------------------

 

きずぐすり-----------HP 20回復。300円。地味にモンスターボールより高い。

 

いいきずぐすり-------HP 50回復。700円。ゴミ。理由は後述。

 

すごいきずぐすり-----HP200回復。1500円。普通のポケならほぼ満タン。

 

まんたんのくすり-----HPALL回復。2500円。ハピで止まります。

 

かいふくのくすり-----瀕死以外全部回復。3000円。売れ。

 

---------------------ジュース系列---------------------

 

おいしいみず----------HP 50回復。200円。薬より水のほうが効果が高い……

 

サイコソーダ----------HP 60回復。300円。正直これを買うなら水だね。

 

ミックスオレ----------HP 80回復。350円。キラーコンテンツ。お世話になった人は数多い

 

モーモーミルク--------HP100回復。500円。野生のミルタンクがたまに持っていたりする

 

----------------------キリトレマセン-------------------

 

 

ご理解頂けただろうか。

この世界、傷薬よりジュースのほうがポケモンが回復するのである。

 

対値段コストで考えても……

 

 

いいきずぐすり700円=おいしいみず200円   効果は同じ

 

 

もうこの時点でお察しくださいのレベルである。

 

なおかつきずぐすりの最低効果ですら300円。

しかしおいしい水は200円。消費税込みで210円である。(消費税ないけど

 

で、サイコソーダとおいしい水を比べると…100円の差で10しか違わない。

そしてミックスオレは350円で80……どう考えてもサイコソーダに揺れ動く事はないだろう。

 

HP回復コストで考えればだが、おいしいみずはNo.1なのは間違いない。

しかもあるイベントで警備員に手渡すと、たかが水にも関わらず全ゲートで回し飲みをする。

 

HPを200回復するとする。

すごいきずぐすりで1500円。おいしいみずは50×4、800円である。

ミックスオレだと計算上ちょっと少ないが、350×2の700円でも160である。

 

しかし攻略途中になると、50と80の差で苦労するシーンが増えてくるため

おいしいみずを買いあさるのは本気で低コストプレイをする人位だろう。

大体の人は効果と費用が釣り合っているミックスオレに飛びつくのだ。

 

なお、ゲームクリア辺りになるとミックスオレでも間に合わないため

効果を重視する意味で、すごいきずぐすりやまんたんのくすりが活躍するわけである。

 

そしてこんな回復革命がデパートに存在しているにも拘らず。

そう、デパートなのだ。百貨店である。

雑貨が100個以上あるだろうからの、百 貨 店 である。

 

他のジャンルの革命も沢山存在しているのだ。

 

たとえば技マシン。

 

威力が強いのを考えてメガトンパンチをしこたま覚えさせたのは俺だけじゃないと思う。

同時にパワーファイトで全攻略が出来る初代で

『かげぶんしん? リフレクター? なんだそれは』なのは俺だけじゃないはず。

 

例えばドーピング。

ふしぎなくすりシリーズのドレディア動画は俺のフェイト(運命)

 

 

他にも、とある(バグ)技があり、凄いことが起こるのだ。

まぁそれについては、また今度話そうと思う。

 

 

 

デパートひとつ取ってもこれだけの革命がタマムシでは起こっているのだ。

だが……それだけではないのだ、ここは。

 

 

ブイズの始祖、イーブイも手に入る。

ロケット団イベントの始まりである、地下の秘密基地もある。

 

そして、何より……!! この町には……!!

 

 

 

 

 

ス ロ ッ ト が あ る !!!!!!111!!1!!!11!11!

 

 

 

 

 

「いざ行かん、夢の境地へッッ!!!11}!!111!}!}!{1」

 

ウオォオオオオォォォオォォォォォォッッ!!!

俺は万枚を出すぞJOJOォーーーーーー!!

震えるぜハートッッッ!!  ぶっ壊すほどクラッシュッッッ!!!

 

 

「ディアー!?」

「ホ、ホアァ! ホアァ~~~!!」

『─────。』

 

スッ、スッ、スッ。

 

「△☆? △▲☆★~♪」

「ホァ? ホ、ホァ~。」

「ディッ! ディアーディァッ!!」(ビシッ

『ッッッ!!bbb』

 

タタタタタタタタタタタタタタタタッッ!!

 

後ろを振り返ってみると、ダグ共が俺の他の手持ちの子を頭に乗っけて

俺の後を着かず離れず追いかけてきている。

よくわかってんじゃねぇか……!! 今の俺は止まらんぜッッ!!

 

 

待ってろッッ!! スロットコーナーッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スロットとかカスっすよね。マジ前世でパチンカスなんて言葉があるのわかるわー。

ったく、20,000円分もコインにしたのに大当たり1回しか引かないでやんの。

のくせREGだきゃ5回も来るし……増えるわけねーべや。全部設定1なんじゃねえのこれ。

 

 

「ぁーぁ、やってらんねえ。マジ楽しくねえ」

 

 

「ディァーディァー♪」

「ホァ~ァ~ァ~ァ~♪」

「(゜д゜)」

「(゜д゜)」

「(゜д゜)」

『(*゜д゜)b(*゜д゜)b(*゜д゜)b』

「△▲☆★~△▲☆★~♪」

 

 

 

の癖こいつらはこいつらで

分けてやった15枚位から、全員4000枚か5000枚は出てるであろう大フィーバーだしよ。

全員4箱か5箱積んでるのに、なんで俺だけ休憩所でおいしいみず飲んでんだよ。

今体力50回復したって何も起こらんっつーの。アホか。

 

ドレディアさんはドレディアさんでもう8箱目のカチ盛り作り始めてるしよー。

店員もドン引きだわ。なんなんだこいつの引き。

 

マジつまらん。ホントつまらん。別にポリゴンなんざどーでもいいし。

技マシンだってどーでもいいし。はーァ。

 

 

ま、いいかー……どうせあとでサカキの野郎に八つ当たりすりゃいいし。

あとでゴネて設定6でもやらせてもらおう。

 

そんな風に八つ当たり対象にサカキを添えて俺は暇を潰すのだった。

 

 

 

 

結局、朝の10時→夕方6時位まで全員ぶん回してこんな結果になった。

 

 

ドレディアさん----11,486枚。

 

ダグONE--------6,229枚。

 

ダグTWO--------4,877枚。

 

ダグⅢ----------5,634枚。

 

ムウマージ-----7,495枚。

 

ミロカロス-------8,522枚。

 

俺----------- -925枚。

 

 

TOTAL・・・・・・43,318枚。

 

現実で『換金する』と考えると、86万円分の出玉枚数である。(現実だと1枚20円

 

 

 

くそったれが。

 

 

 

 

はー、やれやれ。本気でくそったれだな。スロットは。

ちくしょう、俺の手持ちのやつらが後ろで超楽しそうなのが憎過ぎる。

 

まあ、ここまで出尽くしてしまえば、使うことはないと思うが

強力な技マシンだのポケモンだのももらえるわけだ。

悪いことではない。悪いことではない。……ッチ。

 

 

はぁ、これに関してはもう考えないようにしよう。

まだ、イベントひとつ残ってるしな。

 

 

 

つー訳でやってまいりました、タマムシシティ西の郊外。

カビゴンの二匹目が寝ているのがここからでも良く見える。

あいつら結構でけーからなー。

 

んじゃ、とりあえずっと。

 

「ドレディアさん、お願いー」

「ディーアッ!! ────ァァアアッ!!」

 

ぽーい。

 

「よっととと……ふぅっ」

 

無事に細い木に乗っかれた。

懐かしきかな、居合い斬りってなんですかスタイルです。

 

「相変わらずマスターは規格外ですねぇ。

 ちゃんといあいぎり使いましょうよ」

「るっさいわポケズ(ポケモン図鑑)。俺から言わせればこんな細い木を通り抜けられん方がおかしい」

 

横から茶々が入ったが、無視して細い木からぴょいっと向こう側に降りる。

そしてドレディアさんはどんどこ仲間を放り投げる。

ムウマージだけ、普通にふよふよと浮いているため特に何もしなかった。

 

そして最後にドレディアさんへ木の裏からボールに戻すビームを撃って、任務完了。

 

「よし、全員居るな? どうせ何も危ないこと無いけど、行くぞー」

『おーーう!!』

 

全員でテクテクと歩き出し、サイクリングロードの関所? みたいな所の『裏』を行く。

そしてその先に待ち受けるのは……当然の事。

 

 

 

「よし、ついた。ちょっと時間的に暗くなっちゃったけど

 まあ多分大丈夫だべ。ノックして中に入るぞー」

【【【【はーーーい。】】】】

 

 

 

 

ま、イベントは省略するがご存知の人はご存知の通りである。

ここは『ひでんマシン02』、そらをとぶを覚えられるひでんマシンをもらえる家である。

『省略する』と述べた通り、既にもらいうけた後だ。

 

俺の手持ちに空を飛べるようなやついなくね? と思った人はまだまだ甘い。

こちとら素でふゆうなるとくせいを持っているムウマージがいるのだ。

常にふよふよ浮いてるし、きっとそらをとぶを覚えられるはず! うちの連中なんかおかしいしっ!

 

そして覚えたら、適当に概念いじって背中に乗っかって、久しぶりにマサラタウンに帰るんだ!

母さん元気にしてっかなー。最近フーちゃんもとんと見かけんが。

 

「んっふっふ、本当にそらをとぶは便利だよな。よっし、起動ーー!!」

 

 

ペポパポペポ~

 

[> ひでんマシン02を きどうした!

   なかには、そらをとぶが きろくされていた!

 

    そらをとぶを ポケモンに おぼえさせますか?

 

 

うむ、よし……で、全員の一覧が出て……

 

●=キャラアイコンと思え。

 

 

 

 

● ドレディア  おぼえられない

● ダグトリオ  おぼえられる

● ミロカロス  おぼえられない

● ムウマージ おぼえられない

 

 

 

 

 

あら、やっぱ原作通り覚えてくれないのか。

んーちょいと残念だ。あのふよふよした状態に乗るのは楽しそうだったのに。

 

ムウマージが駄目なら……他のポケモンも当然覚えられない、と。

仕方ない、適当な鳥ポケモンでも捕まえなきゃ駄目かな。

 

俺はひでんマシンをリュックの中にとっとと片付けて街に戻る準備を終えた。

 

「ふぅ、まあしゃあねえわ。みんなーポケセンに戻るぞーい」

【【【【はーーーい。】】】】

 

 

 

そんなこんなで、タマムシの初日は終わったのだった。

 

 

 







ひでんマシンを見ている際、主人公の視線はムウマージの一行部分に固定されてます。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

72話 難しい

 

そらをとぶによる一旦の帰省も諦めざるを得ず、普通にポケセンに戻って一晩を越した。

 

途中、何も考えずにぐっすり寝てやがるカビゴンにイラっとし

油性マジックを用いて、腹にものっそいリアルな福笑いを書いておいた。

しかも目だけ、ややアニメ調にしてやった。ざまぁ。

 

 

 

 

 

 

「眠いんだが?」

「ディァ」

 

【しらねーよ】

 

最近のポケセンで過ごす朝としては毎度恒例になってきているのだが

寝ているのにも拘らずドレディアさんにずりずり引っ張られて台所へ向かう図である。

引きずられてる途中でケツが冷えて起きた。まあ、平穏が一番であるという事だろう。

 

 

 

 

ま、パジャマでも料理は普通に可能なので

その服装のままポケセンでいつもの如く借りている台所へタツヤたんinしたお^^

 

【おいすー^^】

「よーし、今日もどっか行くかー^^」

【行くな馬鹿】

 

頭をべちんとぶっ叩かれ、仕方無しに素材をテーブルに並べて行く。

台所には既に腹をすかせているのか全員が集まっている。

何気に6mはあるミロカロスが入っても狭苦しいと感じないこの台所に嫉妬が!

 

 

「あぁ、ミロカロス、そこのみりん取ってくれやー」

「ホァ~~」

 

でかい鍋でぐつぐつ。

 

「っと……そろそろか。ムウマージ、団子くれ」

「☆~」

 

んん~~~~いい匂いである。

何故これは俺が作ったものなのだろうか。

誰か食べさせてくれ。他人が作ってくれたものというスパイスが著しく欠けてるんだ。

 

「そろそろ出来ると思うからダグ達は皿とお椀並べておいてくれや」

『(゜д゜)>』

 

そう伝えると、ダグ達は無料貸し出しのステンレス食器を戸棚から出すべく

戸棚の方へ向かい、そこから人数分のお椀とかを持ってくる。

 

「よし……じゃ、最後に。ドレディアさん、そこの一味唐辛子頂戴」

「ディァ」

 

そして手渡されたものを間髪いれずドレディアさんの口に突っ込んだ。

 

「お前これハバネロエキスじゃねえか!! 俺らを殺す気かっ!!」

「ンモゴォァーーーー!? ンモゴァーーー!?」

「一味っつってんだろーがッ!!

 ちゃんと渡せこのっ! このっ!! 貴様が食えこんなものっ!!」

「ンモガァーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

ばたーん。

じたばたじたばた。

 

 

「ふー……。ミロカロス、一味唐辛子お願い……」

「ホ、ホァ」

 

伝えると、ミロカロスが一味唐辛子のビンを口でくわえて俺に差し出す。

最後にちょちょっと振りかけて、はい完成ー♪

 

 

ミロカロスは倒れて口を塞いでうめいているドレディアさんに

氷水で割った冷水を差し出していた。ええ子や。

 

 

 

 

「ってわけで、昨日の間に大体やる事はやり尽くしたから

 今日はロケット団の地下基地に乗り込みます」

「ディァー」

 

ガツガツ。

 

「ホァ~?」

「あ、今日はミロカロスもついてきてOKだよ。多分戦闘にはならんから。」

「ホ、ホァ?」

 

 

【ろ、ロケット団絡みなのに……ですか?】といった感じのミロカロス。

まああくまで多分でしかないんだけどもね。

 

 

「うん。」

「ホ~ァ……ホォ~ン」

「───。」

 

 

【では、戦いの準備は特には必要無し、と?】 byダグONE

 

 

「まぁ、あくまでも上手く事が運べばになるけどな。

 一応はしょっぱなから交渉が決裂したら暴れれるやつには暴れてもらう」

『ッ!bbb』

 

 

そんなわけで……

一応全員に柔らかい樹皮で出来た、丈夫な袋に入れたコインを持たせる。

無論これは投擲用の武器としてである。一部ドラマじゃ小銭ぎっしりの袋が凶器だったりするんだぜ。

 

俺が1円玉をトレーナーに投げつけるが如く

ちゃんとそれ自体も狙わなくても良いので、投げつければ立派な牽制武器に成り得るのだ。

加えてコインは、500円玉よりは重くないが、100円よりは十分に大きい。

投擲武器としてはかなり有効なものであろう。もったいなくないし。

 

よし、話は纏まった……。

使わないだろうが、俺もメリケンサックを持って出かける準備を完了させよう。

 

 

 

そろそろドレディアさんもハバネロによって出遅れた飯を食い終わる頃だろうし。

 

 

 

 

「よし、エアーマンっ!! ぼうふうだッッ!!」

「ケロロロ!!」

 

 

ヂュゴオオォォォォォォォォオオオオッッ!!

 

 

ポケセンの外に出てみると昨日さりげなく腹に扇風機を設置しておいたニョロボンが

青い鎧まで着込んで完全にエアーマン化していた。鳴き声だけはニョロボンのままである。

 

まるで竜巻のような技を繰り出して、鍛錬に励んでいた。

 

「いいぞっ!! 次はエアシューターだっ!!」

 

ドンッ! ドンッ! ドンッ!!

 

小型の竜巻が彼の訓練の的としている木にぶつかっていった。使いこなしてるねぇー。

 

 

まあそんなもんはどうでもいい。ゲームセンターにGOである。

 

 

 

 

 

 

そうして俺らはゲームセンターに辿り付いた。

まあ、障害なんぞあるわけもないしな。

 

強いて障害を述べるなら

手渡したコインでドレディアさんがスロットをやり始めようとした位だ。

亀甲縛りにして、ミロカロスにくわえておいて貰った。

 

「ディァー;;」

「フォ、フォァ~~……」

 

くわえているせいか、ミロカロスの鳴き声が口ごもっていて新鮮である。

 

 

っと、居た居た。無関心な店員を装ってるっぽいがあいつだろ。

服装にでっかくRなんて文字出てるし。お前等実は隠す気ないだろ?

 

 

「おい、そこの」

「んぁ?」

 

俺に話しかけられこちらを振り向く団員、店員っぽく振舞おうとする態度が欠片も無い。

 

「……ポスターの裏。」

「ッ?!」

 

俺の言葉を聞き取ると同時に素早く身構える団員、まあ当然といえば当然か。

ゲームではバレバレであったものの、未だにこのゲームセンターが運営されているってことは

今もなお、普通にここの地下基地が民衆にばれていない証拠である。

 

そのばれていない基地への入り口を知る俺を、警戒するのは当たり前の事。

 

「……ガキ、てめぇ何モンだ?!」

「───……サカキ」

「……ッ!?!?」

「サカキに、タツヤが来たって伝えろ。今すぐに、だ」

「てめ、なんっ……ボスの名前っ……!?」

 

自分達が秘匿する情報を次々と出され、団員はパニックになっている。

やれやれ……これは無理矢理にでも行くしか───

 

「……ッ、ちょっと待ってろ」

「お」」

 

力ずくでなんとかしてしまおうと思ったところで

ロケット団の見張りは、俺に待機しろと言ってきた。

 

「俺は見張り任される様な下っ端だ、テメェがなんなのか把握しきれねえ……

 一応下に連絡は繋いでやらぁ……もし俺らと無関係だったら、わかってんだろうな」

「好きにすればいいんじゃないか? ───俺を殺す覚悟があるなら、殺される覚悟もしとけよ」

「……そこに居ろよ」

 

そう言い残して、一旦団員は戸棚の奥に消えていこうとしたが……一旦俺が引き止める。

 

「あ、ちょっと待て。」

「……あぁ?」

「立ってんのめんどくせーから休憩所に居るわ」

「それだけのために引きとめんなっ?! シリアスくせぇ雰囲気が台無しじゃねぇか!!」

「るっせーなぁ。こっちとしちゃ家で寝ッ転がっててぇんだよ、無理言うなや」

「……はぁ、なんかやる気削がれたわ。適当に繋いでくっからゲームセンターの中にいりゃいいわ」

「あいあい、まあミロカロス目立つしすぐわかるべ。んじゃ行ってくるわ」

「おうー。じゃあ俺も行くわー」

 

 

というわけで、一旦見張りの団員と別れる事となった。

なんか後半一気に雰囲気が和んでいた気がしないでもない。

 

 

 

 

 

 

頭が痛い。

 

非常に痛い。

 

つい先日のサントアンヌでの件で

一気にグループの資金力を増すつもりが、返って赤字の状態で撤退せざるを得なくなってしまった。

資金繰りが非常に苦しい状況だったのに、サントアンヌの件を成功させる為に投資していた経費も

あの結末で一切合財が無駄に終わってしまったのだ。

 

さらには先日、いきなりこの基地に侵入した子供もおり

施設の隠匿対策を見直さねばならんという案件もある。

 

不動産に掛かる費用は基本的に全てが桁違いである。

どう足掻いたところでグループの資金力の低下は免れきれない。

 

どうにか不要な経費はなかろうかと、グループに関する全資料を首領室へ持ち込み

一から資料を見直しているのだが……無駄こそ見つかるものの

それ以上にさらに追加で金をかけねばならない部分が多数見出され

このままではジリ貧で……いや、正直詰み掛けている。

 

メイン収入であるゲームセンターに関しても、最近いまいち斬新さが無いためか

客離れも深刻化しており、景品を仕入れたところで金にならないのだ。

 

 

……これが、私が無謀にも若者達を囲って保護した結果か。

最早、打てる手など殆ど無いに等しい。

 

 

……まだ下準備が全然整っていないが、シルフカンパニーを───

 

 

 

◎<オィーッス!!オィーッス!!

 

 

 

……ん? 基地内部の内線、だと?

 

現在も睡眠時間を削りながら資料を洗い出している所だ。

無駄な件に関しては、一切を下の立場の者達の判断に任せるとつい先日伝えていたはずだが……

 

 

カチャッ

 

 

「私だ、一体どうした。お前達では判断しきれない事でも起こったか?」

『あ、ボス……はい、そうです。』

「内容を伝えてくれ」

『は、はい。今上の見張りのヤツが降りてきて……

 おかしなガキがボスに逢わせろって来てるらしいんです』

「……? おかしなガキ、だと?」

 

つい先日ここに侵入なんて事をやらかした、あの気持ち悪い顔をしたピッピを連れた少年であろうか?

だとしたら私に繋ぐまでもなく徹底排除を命じていたはずだが……。

 

まあ、彼も私のポケモンを全て打ち倒した上で、何も取らずに帰って行った珍妙な存在であったが。

 

あ、そういえば私の部屋に隠していた『いいきずぐすり』を持っていかれたか。

しかしその少年のせいで私はさらなる金策を迫られ───

 

「先日侵入した子供なら対処は既に伝えていたはずだが?」

『あ、いや……前のあのガキじゃないらしいっす。

 おい、ちょっとお前ボスにそのまま事情を伝えてくれ』

『う、うっす! 了解ッす!

 お電話代わりました! 今日、見張りを担当してたモンッす!』

「うむ、聴こえているよ。大丈夫だ……それで、何故私に逢わせろと?」

『はい、ここからは自分が伝え聞いた事全てなんですが……

 まずそのガキは、ボスの名前まで知っていました』

「───な、なんだとッ!?」

 

思わず声を荒げてしまう。

 

つまりその見張りにあった子供は

「ボスに逢わせろ」ではなく、「サカキに逢わせろ」と言った事になる。

私がロケット団を運営している事は、団全体にも徹底させている秘匿案件のひとつだ。

それを、子供が知っているだと?!

 

『お、驚かれるのはよくわかります。しかしそれだけではなかったんです』

「ほ、他になんだと言っていたのだ」

『……まず第一声が、1Fにある基地の入り口出現ボタンを示唆していました。

 ぼそっと「ポスターの裏」って言いやがったんです』

「─────あ、あ」

 

 

なんだ? どういうことだ?!

何故だ?! まさか、あのピッピを連れた少年が情報をリークしたのか?!

最早それしか考えられん……あの少年は確かに入り口も、私の存在も知っている。

 

確かに良く考えてみれば、警察視点で考えるに……

ここの情報、私がリーダーという情報は確実に欲しがる内容だ。

そう、金一封を(したた)めても問題ないレベルの情報だ。

 

 

……そう、か。

 

 

何故子供を遣わせたのかはわからないが……

 

 

どうやら私も、年貢の納め時が来たようだな……。

 

 

すまぬ、私を信じて付いて来てくれた団員達よ……。

 

 

「───その子供は、なんと言っていた」

『い、いえ……その……ボスに逢わせろ、としか……』

「───逢わせろ、とだけだと?」

 

 

おかしい。

 

もしも警察の関係者であれば、トキワのジムリーダーである私が

この犯罪組織を運営している事を確信してここに来ているはずである。

それこそ武力鎮圧すら視野に入れているはず。……なのに『逢わせろ』とだけ?

 

「他に何か言い忘れている内容はないか?」

『えーと、えーと……あっ! そう言えば名前を名乗っていましたッ!』

「名前、か。その名前は覚えているか?」

『はい、確か……タ、タク?』

「タク……? 覚えは無いが……」

『あ、違う! そうだ、タツヤ!! タツヤって名乗ってました!!』

 

 

 

 

 

 

 

「なんだとぉおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「お、やった! 2回目のBIGだ!」

 

休憩所で待つと言っていたのだが、30秒で座っている事に飽きてしまい

1000円分だけ…と思い、持ってきたコインの中から50枚だけ出し

適当な台に座って打ったところ、5Gで777が揃ってくれた。

 

その後も50G位、小役を織り交ぜながら飲まれて行き

今、再び777に当選したのである。

 

「にっひっひ、やっぱりスロットは出ないと面白くねーやな」

 

よし……ならばもうちょっと攻めてもう一発位出して───

 

 

「も、申し訳ありません、タツヤさんでよろしかったでしょうか!!」

「んぁ?」

 

いきなり肩越しに話しかけられ、俺はそちらを振り向いてみた。

先程のロケット団員見張りが、敬語で話しかけてきている。

 

「っと……話はちゃんと通ったん?」

「は、はい。ボスが直接B1Fまで上がってくるとの事です。

 よ、よろしければそちらまでご案内致しますが……」

「んー、しゃあねえか……少し待っててくれ。

 いや、待っててください。今コインを出しますんで」

「い、いえ、そんな……俺に敬語なんて……

 むしろ先程は、ボスの知り合いにとんだ失礼を……」

「あぁ、そこは気にしないでください」

「へっ?」

「あなたは組織において、しっかりと役目であり、立場を守っていただけです。

 不審なヤツが現れて、あの態度になるのは役目の関係上仕方が無い事でしょう」

「え、えっと……そう言って頂ければ、はい。ありがとう、ございます」

「いえ、こちらこそ休憩所で待っていると伝えたのにゲームに興じてて申し訳ないです」

「い、いや、大丈夫っす! タツヤさんのミロカロス、でよかったっすかね?

 あいつがとても賢いのか、俺の言葉を理解した上でここを教えてくれたんで」

 

あぁ、やっぱおめーは俺の癒しだミロカロス。これからもよろしく頼むよ。

 

そう話している間にも、クレジットの中にあった41枚を払い出し終え

コインをじゃりじゃりと始末した。

 

「さってと……それじゃ、みんなと合流してB1Fにお邪魔させてもらいますかね」

「は、はい! では俺はポスターの前にいるので、準備が出来たらお越しください!」

「了解しました、ではまたすぐ後で」

 

そう言い伝え、俺らは一旦別れた。

 

 

どうやら最悪の展開は回避出来たようである。

この後どう動いて行くかは……サカキ次第といったところか。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

73話 改革案

いやぁ、やはり71話だけは別格の破壊力があるんだなぁ。
なろうよりユーザー数が遥かに低いこちらでも同じぐらいの感想が来るとは嬉しい事よ。

そしてこれも悲しい事実なのですが……
残念ながら今の現状、俺の力ではおそらくアレを超えるギャグは出せません。

今回のお話も含めて、完結までギャグパートで「あれ以下だなー」としらけてしまうかもですが
どうかご閲覧の程をお願い致します。

ああ、ついでにお気に入りから最新話でここに飛んだ方へ。
夜中に1本投稿しているので、まずは前の話へどうぞ。


 

落ち着け。       

落ち着いていられるか?

 

うろたえるな。

うろたえずにいられるか?

 

今、この私の。

 

 

ロケット団の基地に。

 

 

 

私の『天敵』が、目的すら述べずに現れるのに。

 

 

内線を伝え聞いた私はそのまま見張りの者に全体放送の言伝(ことづて)を頼み

急ぎ基地内に待機している団員を、B1Fに集めさせる。

 

私も私で、早急にB1Fまで上がらなければならないのだが

その前に彼がここに現れた理由を考えなくてはならない。

 

これから起こる事のひとつに間違いなく交渉事というものがあるためだ。

 

 

……何故、わざわざここに現れたか。

それはすなわち、何か目的があるからと思われる。

私がレンカ師匠の弟子という事柄のみで、ここに現れる事は断じて有り得ない。

まずどこでここに基地があるという事を知ったかも問題になる。

 

おそらくは……情報の漏洩元はあのレッドとかいう少年であろう。

いくらで情報を買い取ったかはわからないが……つまりはこの施設に存在するモノの中で、

彼がレッドという少年に支払った金額以上に価値がある何かがあるという事になる。

 

もしその何かが私達の損益に繋がらない何かなら、何一つ問題はないだろう。

だが……施設の中から切り取らなければならない何かだった場合は

 

 

 

 

おそらく、今日がロケット団の解散する日となるだろう。

 

 

 

 

人の中で生きる以上、金という対価は絶対に必要だ。もしくは金になるものでも良い。

綿密に伝え聞いたわけではないが、この悪の組織『ロケット団』には

現在130~150名からなる人員で構成されている。

 

彼ら一人一人には最低限度の給料しか与えられていないし、幹部ですらほぼ同等の給料。

それでも、支出として人件費はどうしても掛かってしまう。

この組織を支えている彼らとて、飯を食わねば戦えないのだ。

 

そして今、私の組織の資金繰りは最悪であり……

何かを切り取られ、それを補修、補充しなければならない事態に陥った際……

 

 

私は、その金額を工面する事が出来ない。

 

 

くそ、頭が上手く回らない……! 彼がここに何を求めて、現れてしまったのだ……!?

私に今必要なモノは組織の運営状況ではない。彼との交渉の場でアドバンテージを取れる何かだ……!

 

思わず顔が、苦虫を噛み潰した様な表情になってしまう。

考えれば考えるほど、『タツヤ』という存在を何一つとして理解する事が出来ない。

睡眠時間が圧倒的に足りていないのもあるかもしれんが……

 

 

今改めて考えても、タツヤ君に関しては本当に『よくわからない』。

昔、師匠の家で食事を馳走になった事があり、その時に彼と初めて出会ったのだが……

昔と表現する程に彼が小さかった時から、既に彼という存在は把握が難しかったのだ。

 

年相応の子供のように振舞っては居たが……どうしてなのかはわからない。

しかし最初に逢った時から既に、彼の眼力は力を感じられず枯れ果てており

全てに絶望した眼差ししか周りに向けていなかった。

 

まさかそんな子供が、今……私の天敵となって現れるなどと誰が思おうか。

 

 

「ボス、まもなくB1Fに到着致します」

「……あぁ、わかった」

 

 

……クックック。時が過ぎるというのは早いものだ。

なんとかアドバンテージをと思い考えに耽っていたら、その間にタイムオーバーとは……。

 

時間は、もう残されていない。

私達の命運は、ここで尽きるのだろう。

 

いや、案外それも良いかも知れんな。私も犯罪者として刑務所に入った後になるだろうが……

 

 

 

【何にも縛られずに、私は私として。ポケモンバトルだけを考えられる】

 

 

 

うむ、なかなか良いのではないだろうか。

今の私は表も裏も立場に支配されていて、自由に自分を振舞える事が殆ど無い。

 

ロケット団が解散してしまえばこの秘密基地も不要になるのだ。

不動産として売却すればそれなりの値段になるかも知れん。

その売却額を、最後まで残ってくれていた団員に配布して人生のリスタートをしてもらえば

最後まで私に付いて来てしまった者達も、少しは救いがあるだろう。

 

 

「君」

「 ? ハッ、何か御用で御座いましょうか」

「今まで、迷惑を掛けたな」

「え、あ、ハッ、いやッ! わ、私は今までボスに迷惑を掛けられた事などありません!」

「いや、畏まらずとも良い……

 おそらくだが、今日の客人がここに訪れた事で───ロケット団は、消える」

「……ッ?! そ、そんな……?! ───……いえ、もしそうであっても。

 私のボスに対する忠誠は絶対に変わりません」

「……そうか」

 

所属する全員に対して、碌な給料すら渡せなかった私に対して

名前も知らぬのにここまで忠義を尽くしてくれるのか……───

 

「───ありがとう、私についてきてくれて」

「…………!」

 

目の前の団員の眼に、涙が浮かんでいる

やれやれ、解散する前に酷い事を抜かしてしまったか。

すまん……名前すら知らない団員よ……そして───今まで、本当にありがとう。

 

 

 

ピッコーン。

 

 

 

「───ついて、しまったか」

「は、はい゛っ、最後まで、おどもいだしますっ!!」

「あぁ───よろしく、頼むよ」

 

その瞬間、私は久しぶりに……自然と『笑顔』になれたと思う。

名は……聞く必要も無いか、今必要なのはそんなものでは無い。

 

 

名など知らずとも、後ろを任せられる信頼と信用のみだ。

 

 

さぁ。

最後の戦場に───出向こうか。

 

 

「タ、タツヤ様、ご来訪なされましたァーーーーー!!」

「…………。」

 

 

ついに、来てしまったか。

 

 

今の私の人生の中で、最も恐れる強敵が。

 

 

そして、ゲームセンターコーナーに繋がる階段から次々と現れる彼のポケモンと(おぼ)しき子達。

 

 

あの白長い蛇のような子は、どこかで見た事があるな……?

 

ああ、あれは確かホウエン地方が原初のミロカロスという存在だっただろうか。

 

以前、ジムリーダー達の集いで訪れた美術館で確認した事があるな。

そして種族としても、非常に優れた種であったはずだ。

 

 

次に現れたのは、……ディグダ? だったはず。

私にとっては悪夢でしかないサントアンヌの人質を集めた部屋で

緑の姫君、ミロカロスの前身であったはずの魚ともども確認している。

こちらに歩いて来てるディグダは間違いなくその時の子だが……三(匹?)に増えている。

 

ん。三(匹??)……三(匹???) いや、そんな。まさか……

あれは───ダグトリオ? まさか……───あれらはダグトリオなのかッ?!

 

う、ぬ……地面系のジムを運営している私としては、ああいう系統も欲しいところだな……

もしかしたらイロモノというだけでなく本気で強いかも知れん。

 

 

次は……ムウマージだな。

……なにやら私に対して視線を送りつけているが……なんだろうか?。

 

……ん? そういえば、私が最初にレンカ師匠に出会った際にも

あの方の手持ちにムウマージがいらっしゃったが……いや、まさかな。

 

 

そして、その後ろから───

私達に爆弾を産み付けた存在、そして……出来損ないの悪夢(レンカ師匠)の息子。

 

タツヤ君が、隣に連れ添う緑の姫君、ドレディアと手を繋ぎ。

 

ゆっくりと一歩ずつ、階段を降りて来る。

 

 

 

そうして私達はあのサントアンヌの件以来、久しぶりに顔をあわせた。

 

私の中では完全に諦めも付いているため、動揺や緊張も無く、私は彼と普通に相対出来ているようだ。

 

 

「やぁ……タツヤ君、ようこそ、私の城へ」

「ふぁぃ、いふぃなりすふぃふぁへん」

「いや、構わないよ。何故この基地の存在を知っていたのかは非常に興味があるが……」

 

 

興味はあるのだが……それよりもっと気になる点がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タツヤ君、君は何故……顔面に致命傷を負っているんだい?」

 

「前が見えねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故か、彼は顔面が何か凄い物を正面から受け止めたかの如く、潰れていた。

 

 

 

 

◇◇◇

 

うっす、タツヤだ。

俺はあの後見張りのロケット団員に案内されて、地下の秘密基地にまで到着した。

 

見張り役と軽い別れの後に自分の手持ちの子と合流したのだが

待ち時間の間に、俺がスロットをやっていたという事実を話したところ

最初に禁止されてなおかつ恥ずかしい縛られ方をしたドレディアさんが

 

【私は遊ぼうとして縛られてんのに、なんでテメェは遊んでんだコノヤロォォォォ!!】

 

と、縄を体全体に力を込めて千切り飛ばし、怒りのメガトン(がんめん)パンチを、俺の顔面に放ち。

それをモロに貰ってしまい、現在進行形でおもっくそ顔面がへこんでしまっている。

おかげで目線がえらいことになってしまい、マジで視界がブレてよくわからん。

まさかサカキから同情まで貰ってしまうとは。

 

俺のあまりの風体に、B1Fに集合でもさせていたのかそこに居たロケット団員達がすっごいざわざわしている。

 

 

……なんなんだ、あのポケモン達は

……白いのと緑のは綺麗だな

……ていうかその主人のちっこいの、人間やめてねえか

……あの怪我でなんで気絶もせずにこっちに歩いて来れてるんだ?

……つかボスの客人だし救急車呼んでおいた方がいいんじゃねえのこれ

……バカ、俺らはとりあえず現状待機だ

 

 

お前等もうちょっと声抑えるとかしろよ……丸聞こえでございますよ。

 

 

「う、む……とりあえず治療も兼ねて私の部屋に招待しよう、歩く事は出来るのだね?」

「いふぇ()ます」

「わかった……では、こちらのエレベーターに来てもらいたい。

 君……すまないがエレベーターの使用準備を頼む」

「りょ、了解致しました」

 

そうして、俺らは入り口の奥へ一人のロケット団員が消えて行くのを確認し

団員が行った道をゆったりと上書きしながら歩いて行く。

ちなみに俺の歩調はドレディアさんに引っ張ってもらってなんとかなっている。

だって足元見えねえんだもん。

 

 

「ではボス……俺は引き続き部屋の前に待機していますんで、何かあったら言ってください」

「うむ、何かあればすぐに呼ぼう。

 そうだな、まず先に茶を出しておいてもらおうか。持ってきてくれるか?」

「了解しました、では一旦失礼します」

 

エレベーターから一緒に降りてきた団員と部屋の前で別れ

俺らはサカキさんの……事務室? に入る。

 

「散らかっていてすまない。ここがこの基地で私が使っている部屋だ」

よふみえふぁいんへ(良く見えないんで)もんあいありあふぇん(問題ありません)

「……よかったら、ここに治療班を呼ぼうか? 最近私設した部隊なのだが……」

「いや、へっこーっふ(結構っす)

 

 

そして俺は顔面に力を入れ始める。

そろそろ自然治癒的な意味で戻しても大丈夫のはずだ。

 

んぐぐぐぐぐぐ……

 

 

ポンッ。

 

 

「     」

「(;゜д゜)」

『(;゜д゜)』

「(´д`)」

「(゜д゜)」

 

誰がどの反応なのかは想像に任せる。

まあともあれこれで顔の形も元に戻った。

 

 

「んで……一体どうしたんですかこの紙の山は」

 

 

 

 

 

 ……ハッ?!

 

 

 

 いや、すまないね……色々な意味で。君が訪ねて来るついさっきまで、団体の資料を閲覧していたんだよ。

 どこかに無駄はないだろうかと思って、ね」

「……そうっすか」

 

気のせいでもなんでもなく、サカキの後姿は

疲れがイナバガレージ100人の如く、どんよりとしたものを背負っている。

むしろ後ろに見える雰囲気が人の形を纏ってイナバウアーすらしている気がする。

 

経費等の無駄を省くという部分は

経理などに居なかった俺としても、やる必要のある作業なのはわかる。

 

しかし……それを組織の長自らがやらなければならないぐらい、ロケット団は逼迫(ひっぱく)しているらしい。

 

……完全なただのMOB、一構成員ですら、意識せざるを得ない程に。

 

 

そう考えている間に、サカキは部屋にあるソファーへと腰を下ろし

同時に俺も対面にあるソファーに座るよう促され

ソファーに合うテーブルを挟み、互いに顔を向き合わせる。

 

そのタイミングを狙っていたのか、静かに団員が入ってきて

俺らにひとつずつ、お茶を置いていってくれた。

 

俺の顔を見た時にすんごいビビった顔をしてたが、どうしたのだろうか。

 

「───それで、今日は何故こんなところへ来たのかな?

 色々聞きたい事はある……しかし、まず最初にこれを聞いておきたい」

 

出されたお茶に手もつけず、真剣そのものの顔つきでサカキは俺に問いかけてくる。

 

「君は……

 

 私の敵なのか?」

 

「味方です」

 

俺はサカキが投げかけてきた質問に対し即答で答える。

 

 

 

 

「……どういう、事かね」

 

俺の言った、たった5文字の発音が想定の範囲外だったらしく

サカキはややどもりつつ、再び俺に尋ねてきた。

 

「俺達の間で、色々とすれ違いはあると思います。

 俺はサカキさんの質問に一つ一つ答えて行きますんで、不安な内容から尋ねてみてください」

「……わかった。では最初は……

 サントアンヌ号で私達の仕事を邪魔した上で、何故今回は味方と言い切れるのかな?」

「基本概念の違いですよ」

 

そう、ただの概念のすれ違いである。

 

「……概念、か? よくわからない例えを使うね」

「えーとですね……サカキさんは、俺があの件で邪魔したから

 ロケット団に対して嫌悪感を持っていると思っていますよね?」

「まあ、そうだね。そう言って問題ないと思うが……それがどうしたのかな」

「俺はロケット団自体にそこまで嫌悪感は持っていませんでした。まあ今は若干持ってますがね……」

「あの時は違った、と?」

「ええ、そうです。あの時はぶっちゃけると……何かしら大事になってしまって

 予測出来ない被害が出ると思って、船に乗り込んだようなもんなんです。

 つまりは嫌悪感じゃなく、ガキの振り回す正義の暴論に近いわけです」

 

原作では欠片も見当たらなかったイベントだからな……先を予想する事など出来なかった。

 

「あの時点では嫌悪感ではなく……

 うーむ……? 言い換えると『邪魔だったから排除した』という感じでいいのかな」

「その解釈でOKです。なので俺はロケット団自体はそこまで憎んでません。

 途中でゴミの如きクズが居たのも認めますけど」

「そう、か。……わかった。次の質問、いいかな」

「はい」

 

一応は一通りの理解は得られた様である。

まあ誰だって何度も往復する道にゴミ箱が横に転がってたら片付けるだろう。

規模を小さくして例を出すとそんなもんと一緒なのである。

 

次にサカキはこう尋ねてきた。

 

「君は……どこでこの基地の存在を知ったのかな?」

「生まれた時から、としか言えないですね」

「……んー、さすがに寝なければ駄目らしいな。

 今妙な幻聴が聞こえてしまったよ、ハッハッハ。

 年は取りたくないものだね……───もう一度聞いてもいいかな?」

「一万年と二千年前から愛してる」

「……わざわざ来てもらった上でこんな事を言うのは、本当に申し訳ないんだが。

 人の言葉がまともに聞き取れなくなってしまったようだ。

 すまないが、一度睡眠を取ってから改めて話し合いをしたいんだが……構わないかね」

 

おっと、ボス自らが組織の粗探しをしなければならない状況だったのを忘れてた。

先程のイナバウアーは幻視でもなんでもなく、割とマジで疲れているようだ。

 

「ごめんなさいサカキさん、少し冗談が過ぎました。

 ただ、生まれた時から知っていたって部分は本当です」

「それこそ問題が有りすぎる気がするんだが……

 君が生まれた時には私はこの団体を運営してすらいなかったよ?」

「んー……厳密には全然違うんですけど、未来予測みたいなものだと思ってください」

「……少なくとも結果は知っていた、という事かい?」

「はい」

「そうか……そうだったか」

 

何故かとてつもなくほっとしたような感じで、サカキは溜息をついた。

俺が発言した内容が空耳じゃなかったのがそんなに嬉しいのだろうか?

 

まぁ……俺も俺でこの世界じゃ異端中の異端だからな……。

言葉通りに説明したところで、御覧の様に理解されない場合の方が多い。

 

「俺からも質問いいでしょうか? ここに来た理由にも繋がるんですけど」

「構わないよ。こちらとしては最大の懸念だった事が、今の質問二つで一旦消えてくれたからね。

 こちらの質問は君の聞きたい事を聞いた上で、疑問があれば改めて質問させてもらうよ」

「ご配慮どうもです。では……

 

 サカキさん───ロケット団は、既に金銭面で追い詰められていますよね?」

「───どこで、それを? その情報は一般世間では、まず耳に入る事が無い情報だと思うが」

 

と、サカキは述べ、お茶を一口飲む。

顔にあまり驚きが見られない、どうやらもうこっちが何を知っててもおかしくないと諦めたらしい。

 

そしてサカキが俺に投げかける疑問も、そんな情報を一般民衆が耳に入れたところで

【へーそうなんだ】で終わり、そのキッカケを元に崩壊したら

【ああ、やっぱそうだったんだ】的な事を思い浮かべて頭から消し去る。

そんな程度の情報でしかない。

 

「俺はつい最近までシオンタウンに居ましてね……。そこで、色々と縁があったんですよ。

 その中に邪魔だったというか、憎かった団員がいまして……」

「うむ、そうか。あちらで私の団員が三名ほど連絡が取れなくなっているが、君だったのか」

 

また、サカキがお茶を一口飲む。

 

「留置所送りにしたのはいいんですが、俺も別件で留置所送りになってしまいましてね」

 

 

ッブーーーーーーー

 

 

サカキが盛大にお茶を噴き出した。おい俺に掛けんなコノヤロウ。

 

 

「バフッ、コフッ、ゴホッ……す、す()ない。続けてくれるかい?」

 

 

鼻からお茶垂れてますよ、サカキさん。

 

 

「とりあえずティッシュどうぞ……。

 んで、俺が留置所送りにしたその3人と少し話す機会がありましてね……。

 随分尊敬されているみたいじゃないですか」

「いや、なに……ただの偶像だろうさ。私はそんなに立派な人間では無いよ」

 

ティッシュで鼻をフキフキしながら、俺にCOOLな事を伝えてくるサカキ。

ごめん、正直さっきの噴き出しで全部台無しっす。

 

「なるほどね……その時に、団の経営状況を聞いたという事か」

「ええ……一構成員に心配されてしまう程の状態だ、とね」

 

 

まあさっきのお茶の件は忘れよう。

そうでないと思考がドつぼにハマって俺まで噴きそうになる。

 

 

「さて、結論から述べてもいいですかね」

「ああ、今のところは聞き返したい事も無い。

 言ってみてくれるかい?」

「はい」

 

 

そして俺は、あいつらの約束を守るために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に……───ロケット団を管理させてみませんか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう、発言した。

 

 

 

 





元々連載していた時もプロットなんて一切立てずに書いていたのですが
それでもポケモンってジャンルに関わらず、原作の敵対組織を
ココまで深く掘り下げたモノはあまり見なかったと自分で思っていました。

SEEDとかで、最初っからザフト勢力とかなのは除いてね。
要はアンチでもないのに敵対組織に肩入れ?とかなんかそんなん。


故に個人的にはここから先、かなり力を入れて執筆してます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

74話 会談中

さて、一応はタマムシについてからネタもすっごいぐらい入れまくってるんだが
ダグの印象が強すぎるせいで完全にスルーされて終わりましたよの巻。

まあ、おっさんにしかわからんネタもたくさんあるし、いいか。


 

 

「……駄目だ。それを許容するわけには行かない」

「む、そうですか……」

 

残念な事にあっさりと断られてしまった。

 

「我々は一応、世間様で言う悪事をやらかしてしまってるんだ、その関係上で君のような子供に……

 君が考えている『管理』の範囲が何処から何処までなのかはわからないが

 管理させるとなると、『今までの私達は何のために動いていたのだ』とかの

 組織全体からの突き上げが、随分ときつい事になってしまうと思う」

「ん~俺が管理したいって部分は、そここそが一番重要なんですが」

「……? どういう事かね」

「ちょっと表現が難しいんですが……ロケット団は根元の先から腐りかけて来てるんですよ」

「……末端が、という事かな?」

「そうなりますね、話している限りサカキさんはそこまで悪い事を自分からやるように思えない。

 でも、世間で一通り聞く酷い事件は、どこかしらでロケット団が関わっています」

「例えば、と聞いたら?」

 

聞くまでも無いと思う内容だったのだが……

まあ、それなら現実を教えた方がいいのだろうか? 見て見ぬ振りなら尚更だな。

 

「少なくともシオンでガラガラが殺されてます」

「ッ……」

 

聞きたくなかった、といった感じに呻いて顔を苦くするサカキ。

 

やはり組織の方向性として、命のやり取りまでには手を出していないのか。

そうでなきゃあんなに崇拝されてるなんて事、あるわけ無いよな……。

 

「極力簡単に述べるなら……ですが。

 悪事というものを軽く考えてる愚か者達を、今切り捨てられるなら

 ロケット団はまだ健全化する事が可能だと思ってます」

「───切り捨てられた者の末路は?」

「切り捨てられる理由があるから切り捨てられるだけです。

 俺はそれに関しては、自業自得としか言えません。

 さっきの顔色でわかりましたけど……ガラガラ種からの骨の強奪は

 ロケット団では合法ではないんですよね?」

「……あぁ、その通りだ。その件で私が弁明したところで何にもならないだろうが……」

 

そう言うと、サカキは椅子に座りままうなだれて、深く深く溜息をついた。

 

どうやら禁止事項としていたのは本当の事らしく

サカキは額に手を当て、本当に残念そうに首を振った。

そして、ひとまず落ち着いたのか俺に再度目線を合わせて来る。

 

「正直に話そう」

「ん……何を、ですか?」

 

サカキがなにやら、突然決心したかの様に話しかけてきた。

 

「私は君がここを尋ねて来たと、内線で聞いた後にだが……

 今日がロケット団の命日になると、私は思っていたんだ」

「あれ……俺なんて存在が来るだけで、そこまで切羽詰るぐらいにやばい事なんて俺やってたっけ」

「ハハハ、なかなか愉快なジョークだね。

 あのサントアンヌ号で、私のロケット団人員が1/4は乗り込んでいたんだよ?

 それを計画ごと完膚なきまでに粉砕するのは、私達に取っては危険極まりない事だよ」

 

……なるほど、客観的に考えればそうもなるか。

 

俺からすれば道端にあった巨木が邪魔くさいからダイナマイトを仕込んで爆破した印象でしかない。

しかしやられた側からすれば、綿密に練っていた組織の命綱に関わる作戦だったらしいし

そんなもん一回でもぶっ壊してたら、組織に指名手配されてもおかしくなかったなぁ。

 

「なんかすんません。でもまぁ……

 あれはそちらも悪事とわかってたでしょうし、お互いイーブンでお願いしますね」

「あぁ、わかった。むしろあれは子供一人を止められない私達の作戦に

 落ち度があったと思っているから、その件については大丈夫だよ」

「はい、了解です」

「それに……君はひとつ、何かを忘れてないかい?」

「……この会話の流れなら、やばい事に繋がる事ですよね?」

「あぁ、そうだ」

 

 

んんー? 俺がロケット団に対して印象付けるような何かをやらかしたのは……

やはりサントアンヌだけだよな。うん。

 

トキワ近くの三人や、ポケモンタワーの三人は

連絡が取れないという所までは調べられているかもだが

さすがに司法取引やら何やらを混ぜてもそこから『俺がやばい』とはならないよな……?

 

「お前等わかる?」

「ディーァ(フルフル)」

『(フルフル)』

「ホァ(ブルンブルン)」

 

うんまあ、そうだよな。お前等ずっと一緒に居たしなぁ……

 

「ギブっす、サカキさん。答え教えてください」

「本気で気付いていなかったのか……w

 

 ───ならこう言えばわかるかな?

 

 ……私は、『誰の弟子』だい?」

 

「あーそこか。そういう事か」

 

 

素で忘れていた。

俺自身、母さんの事をそこまで意識して無いからな。

しかし、うん……確かに、そうだな。

自分の弟子が悪の組織を運営してましたなんて母さんが知ったら

多分6秒で、この基地が蒸発するんじゃないだろうか。

 

 

俺って存在をつっついて、母さんって存在がしゃしゃり出てくるのが

サカキにとって一番都合が悪い事だったって事か……案外紐無しバンジーで生きてんなぁこの人。

 

 

「もうわかってもらえたようだね。

 もしもあの人が報復なんてことで動いたら、下手したらこの基地どころか

 タマムシシティひとつが丸ごと崩壊してしまう。

 その人から最大の愛を貰ってる子供が目的も告げずに私の前に現れたら……。

 まぁ、そういうことさ……あとはもう、言う必要もないね?」

 

「ええ……すっかり失念してました。

 まぁ俺にとっては母親っていう、傍に居るのが当たり前の存在ですから気付けませんでしたよ……

 その血縁上、常にイカれた存在が後ろ盾になってるのを」

 

まさに灯台下暗しと行ったところか。

周りが明るく見えていても、案外自分が持っている力に関しては気付けないもんらしい。

 

でもタマムシシティ消し飛ばすとか正気か? そこまで酷い存在じゃなかったと思ったんだが。

うちの母親の構成物質はタンパク質と血液ではなく、プルトニウムや放射能とかなのか?

 

「その様子だと信じていないようだね。

 君がシオンにいた時に噂話で聞いた事が無いかい?

 警察署を更地、または廃墟に変えた『人』がいる、って」

「    」

 

 

あれかよ。

ポケモンを大暴れさせて更地に変えた、と思ったら人一人で暴れまわって更地にしたんかい。

俺の母親は宇宙物質で出来ていたらしい。アルセウスさん、なんとかしてください。

 

 

「ハッハッハ、やはり現地じゃまだ噂として根強く残っていたか」

「てかそれもう伝承の類じゃないっすか」

「師匠なら語り継がれても何も問題なさそうだ……」

「うちの母親がなんかおかしいんだが……」

 

 

二人して頭を抱えてしまう。

 

「まぁ……サカキさんの言いたい事はわかりました。要するに俺の存在が不気味すぎたってことですね」

「ご存知、いや……ご覧の通りといったところか? ……会計も不在で非常に切迫していてね。

 この施設から、何かを持ち出そうとしているんではないかと疑っていたのさ……」

「……んー、サカキさん。そこまで酷いんだってんなら……

 この基地、当然隅から隅まで探しましたよね?」

「 ? それは当然だが……不要な嗜好品なんて金の無駄だからね」

 

あー、これやっぱ気付いてねえな。

まあ原作でもダウジングマシンですら反応してなかったし無理もねえか。

 

「少しだけ席外してもいいですか」

「え、ど、どうかしたかね。何か不備でもあったかい?」

「不備っちゃ不備ですね。ちょっとカードキー貸してもらってもいいですか? B1Fに戻りたいんで」

「あ、あぁ……では、これを」

「ええ、確かに。すぐに戻りますんで安心してください。

 お前等もここに居てくれ。多分5分あれば戻るから」

「ディ」

「ホァ」

「△~」

『───b』

 

そういって俺は部屋を出て、団員の人と顔で礼をし合ってエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

B1F、とある空き部屋近く。

正面の階段入り口から見て、左の空き部屋手前である。

 

 

「おい。今なんかボスの知り合いって子供が入っていかなかったか?」

「あぁ、ボスを放っておいて何してんだろうな」

「……見てみる、か」

「まあこんぐらいなら何も言われんよな」

 

 

そうして、二人の団員がタツヤの入っていった空き部屋を覗く。

幸い隠すつもりも一切無いのか、タツヤは扉を開けっ放しだった。

 

 

そして当の本人は、部屋の中をごそごそしている。

 

 

「……くしょー、ゲームだとモノもなんも一切なかったのにな……

 さすがに現実じゃ物置程度にゃなっちまってるか……」

 

どうやら地面をごそごそと探り当てているようだ。

他に乱雑に置かれているものがあって、効率としてはあまりよくないようだが。

 

「……なにやってんだ? あれ」

「わかんねえ。確かこの部屋ってダウジングマシン使っても反応なかった部屋だよな」

「だな、間違いねえ。そんな部屋で一体何して───」

 

 

 

 

 

 

「あったぁーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

タツヤは きんのたまを てにいれた!

 

 

 

「「嘘ぉーッ!?」」

 

覗いていた二人は、当然ながら驚く。

ダウジングマシンとは、基本探しているものに対して敏感に働く。

ここの部屋に探りを入れた際にはもちろんの事『金目の物』という指定だった。

 

そしてその機械に反応が無かった所から彼は金の玉を引っ張り出したのだ。

驚かれるのも当然の事である。

 

 

「っと、すいません奇妙な行動してて。

 この金魂も、元々この基地にあったのは理解してますんで

 サカキさんにちゃんと渡すから安心してください」

「え、あ、はい。了解っす」

「じゃあ、俺ちょっとB4F戻るんでこれで……」

 

言うが素早く、シタタタターと軽やかに立ち去ってしまった。

 

 

そして取り残された団員は思う。

 

 

『なんなんだあの子供……』

 

 

 

 

というわけで。

サカキさんの、えーと、ボス部屋? いやなんか違うな……まあいいやどうでも。

さっきまで話し合っていた場所に戻ってきた。

 

ガチャ。

 

 

扉を開けたらそこにはカオスが広がっていた。

サカキが椅子から離れて土下座に近い体勢でへこんでおり

その周りではダグトリオが三人して、サカキに対して慰めをしているようである。

なにしてんだお前ら。

 

「そ、そんな……君達は……君達は特性として……!

 タツヤ君の元でなければ、真価を発揮出来ないのか……!!」

『;;;』

「くそっ……地面タイプを主に使うジムリーダーとしては

 君達がどれだけ素晴らしいのかよくわかるというのにっ……!」

『─────。』

 

なんとサカキは手のひらで目頭を掴み、割とガチ泣きしていた。

……なるほど、戦力として考えれば確かにこのダグ共は地面タイプでは最強の一角だ。

それが特性上、未来永劫自分の手で使えないのはきついものがあるのだろう。

 

ポンポン。

三者三様に、サカキの肩を叩いている。

 

「……あぁ、すまないダグトリオ。ありがとう。私としたことが取り乱してしまったか……

 いや、君達がとても素晴らしいのは確信している。

 誰も理解者が現れずとも、私はいつでも君達を認めるからな」

『ッbbb』

 

ビシッとサムズアップで答えるダグ共。

 

まあ、ここらでいいか。

 

「ただいまー」

「ッ!? うっ、お、おかえり、タツヤ君。……まさか、見られてしまったかな?」

「サテナンノコトダカ。

 ま、それはさておいて……サカキさんこれどうぞ。なんかの足しにでもしてください」

「ん、これ、は……!? ……今君は、話し合いの最中でありながら部屋を出て行った。

 そしてなおかつ私にカードキーを借りて……ッ!? まさかこれは基地の中にあったものか?!」

「そうです。ちゃんと探さないと駄目ですよ」

「い、一体何処から……既にめぼしいものはダウジングマシンで拾い上げたはずだが」

「B1Fの、えーと……入り口から見て左の物置ですよ」

「そこもしっかり探している……うむ、間違いない。

 資料でもチェックマークがついているな」

 

サカキはデスクに積み上げられていた書類のうちからバインダーに挟まれたものを引っ張り出し

自分達が探したであろう場所をしっかりと示したページをガン見している。

 

しっかし、そこまでしてんのか。どんだけやばいんだよここ……。

 

「ま、そういう事です。俺は『知っていた』んですよ」

「……『生まれた時から』という話の、アレかい?」

「そうです。あくまでも情報でしかないですけどね」

「……君を私の団の管理者にした場合は?」

「あ、そっちは完全にイレギュラーです、すみません」

「う、む、そうなのか。なるほど……確かに予知夢やら先見予測とはまた違うものだな」

「ま、そんな所ですね……都合のいいもんじゃありません」

 

 

未来なんて切り開いてナンボである。

決められた未来ほど詰まらんものはないだろうなぁ。

 

 

「とりあえず……改めて聞いておきますか。俺に、色々任せてみませんか」

「…………。」

「サカキさんも、薄々気がついてんでしょ? 俺が普通の10歳児じゃないって事ぐらいは。」

「……やはり、それを置いても君の存在を許してしてしまうと

 ロケット団として……団体として体裁を保てなくなる。そうなってしまっては元の木阿弥だ」

「んーむ……」

 

 

まぁ……確かに団体としては、団体で動けなきゃむしろ一緒に居る事がデメリットになるな。

一応はアタマ張ってるこの人が言ってるんだから、そこら辺は間違いない内容なのだろう。

 

むしろもう母さんにチクって更地に変えたほうが早いだろうか?

俺はあくまでもロケット団に張り付いてる膿が気に食わないから掃除しようとしてるが

別に悪の組織がひとつ滅んだところで俺は痛くも痒くも……って、駄目だ。

 

 

留置所のあいつらと、約束したばっかじゃないか。

いかんいかん、ロケット団の体裁を……ん、母さん、体裁……更地、潰す……?

 

 

 

「あ、閃いた」

 

 

 

そうだ、そうしてしまえばいいじゃないか。

 

「どうしたんだね、今、閃いたと言ったか……?」

「ええ、サカキさん。とてもいい事を思いつきました。

 ロケット団、一旦潰しちゃいましょう」

 

潰した後で再構築すればいいじゃないか。

 

潰す前に膿を取り払って、んでもって再度別の形で結成して

中の面子は旧ロケット団から動かず同じ面子……これならいろいろなところにも顔出せんじゃないかな。

 

「つ、潰すって……そんなに簡単に行くものではないよ?

 もし仮に潰したとしても反発は必須だ、それをどう抑えるつもりだ?」

 

んっふっふ、そんなものは閃いた際に既に考えてある。

 

 

ビッシッ。

 

「!?」

 

失礼ながら、サカキに指を差させて頂く。みんなは人に指なんぞ差しちゃいかんぞ。

 

「サカキさん」

「な、なんだね……?」

「御輿に、なってください」

「……すまん、意味がよくわからないんだが」

「要するに、何から何まで解散方向で全てでっちあげたり、勘違いさせます。

 その後の説得やら、構成やらをサカキさんの威光でなんとかします」

「……ハハハ、そんな事出来るわけが」

「出来る。」

「ッ……」

 

実際この人は稀有な立場にいるのだ。

表のトレーナー代表格でありながら、裏の悪の組織の首領。

これほど都合のいい肩書き、使わずしてどこに用いるか。

 

「サカキさん、内情的には俺が貴方を操る事になっちまうでしょう。

 それでも、信頼してみてもらえませんか?」

「───……信頼、か」

 

その一言に反応し、サカキは一人自然とつぶやく。なにやら思い至るものが有ったらしい。

 

「答えを聞く前の最後の質問です、サカキさん。

 

 貴方は───プライドと自己保身を取るんですか?

 

 それとも──みんなで楽しく飯を食べていける道を取るんですか?」

 

「……。」

 

「前者になんの意味があるんでしょう。なんの価値があるんでしょう。

 そんなモノなら……大事な、大切な人達と一緒に歩んで行くために捨てる事ぐらい、出来ますよね?」

 

「そう、だな───」

 

……なるほど、そういう事か、

 

今のサカキの様子を見てわかった事がひとつ増えた。

団員達は盲信と言える程にサカキを信頼しきっている。

 

そして、同じく。

 

サカキも、自分の組織の構成員であるロケット団員に対して全幅の信頼を寄せていたのだ。

 

……本当にやるもんだな、サカキ。この組織は完全に一枚岩らしい。

 

 

「───さて、サカキさん……あなたは、どちらを選びましたか?」

 

「ふ───当然…… 後者、だ。」

 

 

 

 

その言葉を聴き、俺はソファーから立ち上がる。

 

同時に、サカキも対面のソファーから立ち上がった。

 

 

お互いに何も言わずに、手を前に出し。

 

 

そしてお互いの手は交差をして……互いの手を握り合ったのだった。

 

 

 




さて、あさきゆめみしまで頑張ろう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

75話 地獄だ

 

 

「さて……」

「うむ……」

 

少しだけオマセなクソガキとカントー一帯全てを牛耳った悪の組織の首領(ドン)が握手をする。

ロケット団再生プロジェクトの歴史的瞬間である。

 

あるのだが。

 

「まずこれどうにかしないと行けないですよね……」

「……どうしたものか。正直一度団体を潰すなら

 もうこれごと葬り去りたいんだが。私の睡眠時間を返してくれ」

「それはサカキさんの自業自得でしょ。

 自分で世話も出来ないのに、次々と入れちゃうからこうなるんです」

「……むぅ」

 

 

そう、俺らが会合を行ったのはサカキさんの部屋。

 

つまりは……サカキさんが粗を探していた資料もそのままズデンと残っているわけで……

 

 

 

情報は貴重なものだ。

 

貴重なものだ。

 

間違いない。

 

間違いないけど。

 

 

こんな部屋を埋め尽くすような書類から何を発見しろと言うんだ。

そしてこの地獄の釜の入り口から先は、確実にこれから役立つであろうはずの

現時点のロケット団の経済状況が事細かに書かれているはずなのだ。

 

でも正直、一枚もいじりたくねぇ。

一枚でもいじったらそこで最後、この目の前の光景全てが片付くまで

この書類達とポケモンバトルをしなくてはならなくなるのだから。

 

ロケットだんの かみたば が しょうぶを しかけてきた!

 

にげられない!

 

「でもやっぱやらなきゃだよなぁ……」

「……すまんが、わかる範囲で手伝ってもらえるかい」

「正直断りたいっす……経理とかそっち関連の人間居ないんですか?」

「……恥ずかしながら、ね。

 そんな技を持っている人は、既に自活出来る生活基盤を整えているさ……

 うちではまず御目に掛かれない人材だろうね」

「なんつー嫌なデスマーチ確定ルートだ……」

 

 

「これ、ここ。もうちょいなんとかなるんじゃないっすか」

「ん? ……そうだな、確かに……」

「もうここら辺はこっちのモノと合体させて報告受けやすいようにしましょうよ」

「なるほど、そうするか……」

 

 

「ドレー。ドレーディァー」

「△▲☆★~……」

「ん、どしたの。ドレディアさんに」

「☆★ー///」

「ディッ!」

「あぁ……ムウマージがトイレに行きたいってか。

 サカキさん、ちょっとこの子達トイレに連れてってあげられますかね」

「ん、わかった。おーい、この子達をトイレに連れて行ってあげてくれ」

「はいっ!」

 

 

「Zzz……、ッ!」

 

少しいびきが聴こえたと思ったら、サカキさんはすぐに取り繕う。

 

「サカキさん……そういや全然寝てないッつってましたっけ」

「いや、すまん、今のは! 今のは違うんだ!

 まさか私が君一人に任せて寝こけているなどとそんなことは!」

「すんませーん、外の団員さんー」

「ちょ、タツヤ君っ?!」

「はい、なんでしょうか!」

「貴方達のボスはもう駄目だわ。元々限界近かったらしい。

 仮眠室辺りにぶちこんであげといてください」

「え……あ、はい……」

「いや、タツヤ君! タツヤ君!?」

「ボスの健康も大事でしょうー? たまには命令無視しないと駄目ですよー」

「……わかりましたっ!」

「だ、駄目だっ! 私がッ! ここのボスである私がッ! 客人に全て任せて寝るなどとっ!」

 

 

「うっげー……めっちゃしんどい……」

「ホァ~~……」

「あぁ、飲み物か……ありがとう、ミロカロス」

「─────。」

 

モミモミ。

 

「ん、あ、ハハハ。

 ダグONE、大丈夫だ。まだ肩が凝るほどやっちゃいないさ。

 でも、ありがとう」

「(コクコク)」

 

 

「片付かねぇ……」

「ディーァ……」

『;;;』

「ホォ~ン;」

「△▲☆★ー」

 

ひとまず書類と戦い始めてから二時間。サカキがダウンしてから1時間半。

眼を通せるだけ通してみたが、やはり無駄すぎる無駄が次々に出てくるわけもなく

小さい、もしくは細かいものが幾つか見つかる程度でしかなく、どうしても無駄作業に思えてくる。

加えて片付いた書類も、多分まだこれ1/20にも届いてないぞ。

 

サカキさんは当分起きてこないだろうしな……あーどうしよこれ。

 

 

が、まあ……なんと言いますか。

経理が居ないとここまで悲惨になるのね、組織って。

普通の特撮とかでもそういう裏側って全然描写されてないけど

(せいぜい描写されてんのは天体戦士サンレッドでタイザ君がやった回ぐらいのもんだろう)

見えない部分で縁の下の力持ちって、居るモンなんだな……。

 

 

「ってか……この部屋の惨状を団の全員に見せた方が、案外結束力高まるんじゃないか……?」

 

本気でそう思う。つーかこれぶっちゃけお前らの尻拭いばっかやん。

二人になったところで書類の片付く速度が変わらないとかどんだけなのだろう。

 

さーすがにこればっかりはポケモンの皆には手伝ってもらえないからなぁ。

価値観が違いすぎて何に書いているのかすらさっぱりだろうし。

 

「せめて頭の良いヤツなら……って、あ」

 

頭の良いヤツ、居たな……しかもここはタマムシだし……

 

 

「よし、決定。あいつ連れて来よう」

 

 

俺は一旦片付けられた書類と未処理のモノを残し

部屋前待機の団員に、席を外す旨を伝えポケセンに戻った。

 

 

 

 

と、いうわけで。

ポケセンに戻り、俺が旅荷物から取り出したのは……

 

 

 

 

ボロの釣竿。

 

 

 

 

諸君はご存知だろうか。

実はこのタマムシではとあるスポットで……幻のポケモンであるミュウが

 

 

 

 

 

釣れる。

 

 

 

 

 

いや、本当だヨ? 釣れるのよ。

 

「まあ厳密に言えば釣竿は要らないんだけどなー」

 

それでもここはゲームに程近い現実。セレクトボタンなんぞないのである。

加えて、シオンではバグ技でミュウが出現する位置辺りで呼びかけただけでも

あいつはちゃんと出てきてくれたのだ。

 

 

だったら釣る事が出来るタマムシのあの場所で、釣り糸垂らしたら案外食いつくんじゃね?

 

 

というわけでの、ボロの釣竿である。

 

「ディーァ、ディ?」

「ん、これを何に使うのかって? ミュウ釣るんだよ、ミュウ」

「…………?」

 

ぺしぺし。ぺしぺし。コンコン。

 

「俺は別に頭が壊れても居ないしイカれてもいないし混乱しても居ない」

「ディァー;」

 

くそっ、なんか真面目に心配されちゃってる。

そういうわけじゃないのにっ、そういうわけじゃないのにっ!

 

「ま、とりあえず釣りスポットに行くぞー。」

「……;」

「ホァ;」

 

 

さて、やってきました釣りスポットのひとつ!

 

 

 

 

 

 

タマムシデパート。

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょ、お前等、帰るなッ!!

 ここなんだッ!! 本当にここなんだってッ!!」

「……。」

「……。」

 

うっわー、すっげぇ疑惑の眼差し向けられてるし。

ちなみにダグ共とムウマージは置いてきた、必要以上に多人数で行くような用件でもないしな。

 

「なら、賭けるか。

 俺がここでミュウを釣り上げられなかったら、お前等の今晩のおかずに三品目追加してやろう」

「ッ!!」

「!!」

「で、俺がミュウを釣り上げたら、今日のおかず無しね」

「……。(ニヤァ」

「ホ~ァ♪ ホ~ァ♪」

 

二人共、最早勝ったも同然と思ったのか

俺に対して【約束はちゃんと守るんだぞ???】と念を入れて見つめてくる。

 

 

ふふん、後で後悔しても知らんぜ。

 

 

というわけでタマムシデパートに入り、位置の確認のためエレベーターに乗る。

んで2Fをぽちっと。記憶が正しければあそこのあの店員だから……。

 

 

ピッコーン♪

 

 

「お、着いた着いた。降りれー」

「ディァ」

「ホァー」

 

そうして俺らは2Fに降り立ち、辺りを見回してみる。

 

現実世界のゲームだとデパートですらこぢんまりとしているフロアしかなかったが

ゲームとは違うこの世界ではとにもかくにもやたら広い。

そこら辺で「かってーかってー」と親にねだっている子供が微笑ましい。

 

さて……俺の目標地点であるお店のカウンター、曰くレジを発見。

 

 

「さて、んじゃミュウ釣るか……」

「……wwwwww」

「wwwww」

 

二人は俺の後ろで声を殺しながら笑っている。

ちっくしょう、今に見てろ。お前等の今晩のおかずは俺が貰う!

 

っと、居た居た。あの店員で大丈夫だよな。

 

んじゃ、ま……えーと、よしこの一日一個券でいいか。(※8話ぐらいを参照の事)

さすがにこれは買い取れはしないだろう。

 

 

さて、ではいっちょやりますか!

 

 

「すいませーん」

「あ、はい! いらっしゃいませ!」

「えーと、これ売ります」

「はい、きずぐすりですね! 150円になります」

「ありがとうございます、では次これ売りたいんですけど」

 

そうして俺はすぐに一日一個券を店員さんに差し出す。

 

「え? えっと……申し訳御座いません、これはちょっと買い取れませんね」

「はい、ありがとうございました」

「??? またお越しください」

 

んで、後ろの二人も ??? と浮かべ、変わらず店員さん ??? となっている中

 

 

 

俺はカウンターの方に、伸ばした釣竿の糸を垂らす。

 

 

 

「え、ちょ、おっお客様?」

「……ディァーTT」

「ホァ~、ホ、ホァー!;;」

 

 

【壊れやがったTT】だの

【お、お願い! ご主人様、正気に戻ってください!】だのと外野がうるさい。

これでいいんだ。これで間違ってないはず。

 

そして周りをガン無視し、少し経つ事。

 

 

「……え? ……ッ?! えッ!? ええーッッ?!」

 

店員さんが悲鳴を上げる。

 

 

───……さては……掛かったな!?

 

「ドャァアアアアアアァァッッ!!」

 

「ミュミューーーーーーーーッッ!?!?」

 

 

ザッパァーーーン。

 

 

俺が気合を入れて引っ張った釣竿にはやはり手応えがあり

その釣り糸にぶら下がる物体を見てみれば、やはり想像通りに

 

 

 

 

 

 

 

ぷらーんと。

 

ミュウが食いついていた。

 

 

 

 

 

 

『ええええええええええええええええええええ!?!?!?』

 

 

 

 

 

 

ふ、勝った……晩飯の手間が少し省けた。

 

さて、釣り上げたミュウに話しかけるか。

もしかしたら別のミュウかもしんねーし。

 

 

「ようミュウ。シオン以来だな。あんまし時間経ってないけど元気だったか?」

「ミュミューミュゥー」

 

うむ、同じミュウなのを確認。

まあこいつ、割とホイホイ出てきちゃいるが、もしも俺の知ってるミュウと別個体として

幻のポケモンが二匹も三匹も居たら俺が逆に困っちまうわ。

 

「ちょっと用があってな、ついてきてくれっか?」

「ミュィ」

「あ、店員さんすみません。お騒がせしました。おい二人共行くぞ」

『             』

「あ、ありがとう、ございました?」

 

ドレディアさんとミロカロスは、若干ぼーぜんとしつつも

ちゃんと言葉に従い俺に着いてきた。

 

……夜飯、覚悟しろよてめぇら。

 

 

所代わってこちらは屋上。推奨テーマソング・ミックスオレ。

 

「───つーわけでな。今ちょっと苦労してんだわ……

 お前ならポケモンどころか人間含めても頭良いだろうし、ちょっと手伝ってくれねーかなぁ」

【別にいいよー。基本暇だからー】

「ん、そうか。ありがとう!

 まあもし見てわからねーってんだったら教えるし

 教えても理解出来ないってんなら無理もしなくていいからな」

【わかった! でもおいしいご飯はちょうだいね?】

「あんなもんでいいならいつでも食いに来い。でもあまり人目に付かないように来てくれよ?」

【おっけーだよー】

 

やはり相変わらず気さくなヤツである。

少しでも仕事がスムーズに動く事を祈ろう。

 

「っと……そうだ」

「ミュ?」

「お前息子だか娘だか兄弟だかわからないけど、血縁関係者いるよな?」

「ミュ?!」

 

【なんで知ってんの?!】

 

まあ驚きはするかー。

説明しきれないし、俺の頭覗いて理解出来ないんなら諦めてくれ。

 

「ミュウツーでよかったよな。そいつも呼んでくんねーかな」

【いや……それは正直お勧め出来ないかな。あの子、人間の事本気で憎んでるから】

「そこはお前、口八丁ってヤツだよ。

 思考読まれたんなら害意がないのに気付くだろうし

 まあとにかく呼んでくれないかな、すぐにこっちに呼べるか?」

【まぁ……僕たちはテレポート使えるからね……どうなっても知らないよ?】

「かまへんかまへん、そんじゃ頼むわー」

 

気楽に頼み、ミュウは仕方ないなーといった顔で何かを念じ始めた。

まあ多分ハナダの洞窟に居るミュウツーに念話でも飛ばしてんだろうな。

 

【仕方がないから話だけでも聞いてやるってさー、すぐ現れるよ。

 多分サイコウェーブみたいなの発生するから離れた方がいいよ】

 

了解、という感じに俺は手を挙げ、ミュウの周りからさっさと退く。

ぼーっとしているドレディアさん達も押し出し、若干距離を開ける。

あ、そこのお嬢ちゃんもこっち来てね、危ないから。

 

 

そして待つ事5秒ほど。

 

 

バリッ、  バリッ。

  バリバリッ。

 

グゥゥゥォォォォン。

 

おぉう。まさになんかラスボスが現れそうな感じのダークホール的な何かが出てきた。

そしてその中から出てくるのは、白と紫の巨兵。

いや、巨大かなこれ? まあ俺よりでっけーしそれでいいや。

 

【全く……ミュウよ、人と付き合うなとまでは私も言えないが

 下らぬ用で私まで巻き込まないでくれないか】

【いやー最近よく付き合ってる子のお願いだからさー、断るに断れなかったんだよねー】

【……で? 私を呼び出したその子供とやらはどこに居る】

「ぅーぃ、ここでーす」

【…………。】

 

なんか俺を見定めるような視線で見てくるので

とりあえず空気を和ませるために俺はとある場所へ移動する。

 

【……? 本当に、あれでいいのか?

 私に全く動じていないのは評価するが、なんか飄々(ひょうひょう)としているぞ】

【うんー。まあ彼がよくわかんないのは、今に始まった事じゃないから☆】

 

失礼な。

ま、とりあえず全員分のサイコソーダとミックスオレを自販機から買う。

俺は……ミックスオレでいいか。原作でも世話になったし。

 

「ほいよ、サイコソーダでいいか?」

【む、飲み物か。出来ればまろやかな飲み物が良いのだが】

「ああ、そんならミックスオレの方にしとこうか」

【じゃ、僕はそのサイコソーダっての頂戴☆】

「ほれ、開けれるか?」

【んっふっふー、僕らをなんだと思ってるんだい?】

 

そしてミュウはサイコキネシスでビンの蓋を開けやがった。なんという能力の無駄遣い。

同じくミュウツーも蓋を開け、一口啜ってみている。

 

【っ?! これは……人間もバカには出来ないな】

「お、気に入ったか」

【うむ、日頃からこのような甘味は取っていないからな。実に新鮮な味であるよ】

「そいつぁよかった、ミュウもソーダ大丈夫か?」

【もう一本もらってもいいねこれは!!】

「がめついのはいけないと思います」

 

お気に召したようで何よりです。

 

 

 

 

「つーわけでだね、ちゃんと報酬も出すから書類整理をお願いしたいと思ってね」

【貴様はそんな下らぬ用事で私を呼んだと言うのか……!】

 

ミュウツーは額に血管すら浮かび上がらせながら、俺に怒りをぶち当ててくる。

まぁ一応伝説のポケモンだし、やっぱりそういうのは気に入らないのかね?

 

「だってさー、辛かったし作業はかどらないしで酷いんだもんさー。

 そしたらミュウがここで釣れるの思い出してな、そんなら芋づる式でミュウツーも。」

【いつも思うけど、君そういう知識どっから引っ張ってんの?】

「頭の中覗きたければ覗いていいぞ? パンクしても知らねーけど」

【なら私が見せてもらおうか、……ッッ!? ッぐ、なっ!? な、なんだ、コ、これは!?】

「まあ、常人と違うってのだけ把握しておいてくれぃ」

【しか、も……貴様、あの女と知り合いなのかっ!?】

「え?」

 

女? なんだ、誰だそれ。

しかもミュウツーが「あの女」っつーぐらいのレベルの人ってこと?

 

「対象名が抜けててわからん、詳細ぷりーづ。」

【レンカという女だ……!】

「あ、母さんか」

【母親だったか……あれが子を成したなど……一体何の冗談だ】

 

あんた伝説のポケモンだからって

うちの身内にあんまし失礼な事言わないでくれないかな?

 

「まあそんなのはどうでもいいんだ」

【いいの……?】

「いーの。んで、手伝ってもらえるか?」

【ふん、断る。例えあの女の息子といえどもそんなチンケな事で私が動いてたまるか】

 

そうしてミュウツーにはにべも無く断られてしまう。

まーそうだよなぁ、こいつ二次創作とか映画でも無駄にえらっそーだし。

 

「じゃあミックスオレ返して。350円でもいいよ」

【なッ!? さっきの飲み物かッ!? 貴様、卑怯───】

「俺が卑怯ならミュウツーはせっこいねぇ。350円も払えないんだ~。伝説のポケモン(笑)」

【ぬ……ぐ……!!】

【相変わらず真っ黒だねぇ。君と居ると飽きなくて素晴らしいよ】

「そいつぁどーも。

 んで、伝説のポケモン様はミックスオレ飲んでそのままばっくれるんだろ?

 いいよいいよ、ほら行った行った。図鑑もドケチって付け足しておいて貰うからwww」

 

俺はわざと身振り手振りを大きくして、挑発しながらミュウツーの退室を促す。

いやまあここ青空の下だけどな?

そしてグ、ギ、ギと震えていたミュウツーは、溜まらず述べる。

 

【……わかった、わかった! すれば良いのだろう! 貴様、いつか覚えて居ろよ……!!】

「まあ、たまにゃぁいいだろ。そう毛嫌いすんなよ。

 同じ人間である俺が、お前が昔関わった人間がカスだっての十分わかるからさ」

【……ふん、人間全員がそうじゃないとでも言いたいのか?】

「お前どうせテレパシーだのなんだので、俺の言いたい事大体わかるんだろうが。

 んな事いちいち口に出さなくてもいいだろ?」

【ッチ……貸しひとつだぞ】

「へいへい、ありがとうございますだ。伝説のポケモンさん」

【ふん……】

 

説得完了っと。

 

プライドが高いヤツはこう扱えばいいってバッチャが言ってた。

 

ちなみにもしもそこの小さい子から強奪とかをしていたら

俺は即座に帰ってもらってた事を付け加えておく。さすがに屑に頼る気は無い。

 

「んじゃまー、一旦ポケモンセンター行くわ。俺の仲間も一応一緒に連れて行くから」

【わかったよー。しっかし凄いね君は……

 まさか、僕が一切仲裁に入らなくても説得しきれるとは思って無かったよ】

「こうでもなきゃ元の世界じゃ生きてけなかったからな。人の最大の敵は人なんだよ」

【苦労してたんだねぇ、あの頭の中身の時代は……】

「ま、それはどうでもいいだろ。二人共俺についてきてくれー」

【わかった】

【了解だよー】

 

 

そして俺らは屋上の入り口件出口に向かう。お嬢ちゃん、騒がせてごめんね?

 

 

 

ほれ、そこで固まってるドレディアさんとミロカロスもさっさと来い。

 

 

 





この小説は初代のGBである赤緑のネタを豊富に含んでいる上で
どうでも良いところがかなり忠実に再現されてます。

自販機がある屋上には、うろうろしている女の子が一人居るので
これもどうでも良い描写ですが、屋上に居る事を描写しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

76話



ポケモンとはなんなのか。





 

 

さてまあ、WM(ダブルミュウ)を引き連れて基地に戻ってきたはいいのだが

俺は一体目の前の人物をどう取り扱えばいいんだろう。

 

 

 

「す、すまなかったタツヤ君っ!

 いくら体調が優れないからといって客人に全てを任せてしまうなどと……!」

「いやまあそれはいいんすけどね……それ、団員さんが着替えさせてくれたんですか?」

「ディーァ」

「え?」

 

俺が指差すはサカキさん。

サカキさんが目の前に居るのに『それ』と伝えサカキさんを指差す。

 

 

つまりは、サカキさんの服装。

 

 

 

ダッ!   バァンッ!!

 

 

 

それに気付いたサカキさんは、ダッシュで元居たと思われる仮眠部屋へと突っ込んでいった。

 

 

まあ、うん。

 

 

パジャマだったんだわ。あのおっさん。

しかもイーブイとかエルフーンとかポッチャマとか、可愛い系の柄。

あんなのが原作じゃシルフカンパニー占拠したのかよ……。

 

 

「す、すまなかったタツヤ君っ!

 いくら体調が優れないからといって客人に全てを任せてしまうなどと……!」

「いいえ~。体壊してその後使い物にならなくなる方が怖いっすからね」

「うむ、まあそうだねハッハッハッハ」

「ハッハッハッハッハ」

 

 

乾いた笑いが響く。互いに無かった事にしようとしている辺りが非常に白々しい。

 

 

「んで、サカキさん。助っ人としてこの二匹連れて来ました」

「む……? 一体何に対する助っ人かな」

「あーそういやサカキさんが出た後に勝手に思案して連れてきたんだっけか。

 こいつら頭良いんで、書類整理ぐらいならすぐに即戦力になると思いまして」

「ほぉ、そうなのか。見たところバトルも非常に強そうだが……

 少し難しいものを取り扱っているが、君達は大丈夫かな?」

【ふ、なめるなよ人間……書類なんぞというものでこの私が止められると思ったか……!】

「ごめんなさい、この子ちょっと厨ニ病なんです」

【おいコラ貴様ぁ!!】

「はっはっは、賑やかで結構結構。わかった……頼りにさせていただくよ」

 

反応から見る限りやはりこの世界はゲーム順所らしい。

アニメだかポケスペ? だかの設定じゃ

ロケット団がミュウツー作り出したとかってのもあった気がしたが

リーダーであるサカキが一切WMを存じていないらしい。

 

「ま、互いに顔合わせも済みましたし……

 なるべく早く片付けて、少しでも整理を進めておきましょう」

「うむ、わかった。では部屋へ向かおうか」

【はーい】

【ふん……】

 

 

 

 

【何故だ……! 何故私はここにいる……!】

 

 

ミュウツー使えねえ。駄目だこいつ。

まさか初代の文句なし最強ポケモンが事務に至ってはただの燃えカスとは思わなんだ。

 

【何故だ……! 何故私はここにいる……!】

 

 

ミュウツーは、さっきから懇切丁寧に教えている書類整理に関する知識が全然頭の中に入らず

さっきから白い頭が赤くフットーしかけている。今の発言から察するにもう帰りたいらしい。

 

そういやこいつポケモン図鑑でももっとも凶暴だか凶悪なポケモンって書いてたっけ。

戦闘に特化されたなんたらーってのも見かけたなぁ……。

 

 

つまり、脳筋。

 

 

「おいこらミュウツー、あんだけ大見得切っといてクソも進まないとか

 お前恥ずかしくないのか。おい。おい。返事しろ伝説(失笑)」

【う、ぐ……グギギギ……】

「てかお前等なら同時演算とかなんかそんなの出来そうだと思ったんだがなぁ。

 出来ないんか? そういうの」

【なんだそれは、そのなんとか演算というのは】

「脳みそで3つ4つのことを同時に考えて物事を進める超級能力の事だよ」

【ほう、それは便利そうだな……やってみるか】

 

 

 

プス、プスプス……

 

煙出てやがる……大丈夫かこいつ……?

 

 

【り、理解したぁーーーッッ!!】

 

プスプスプスプス……

 

頭から黒い煙まで出てきた辺りでやっと理解という言葉を聴く。

何個に分けて同時に考えたかわからんけど、それ使ってこの時間かよ。

煙たすぎてサカキさん換気扇回し始めたじゃないか。

 

 

「おつかれ、お前大丈夫か本当に」

【う、うるさいっ! 貴様の様な餓鬼に理解出来て……この私が理解出来ない道理など無いのだッ!】

「お、すんげー頼りになる言葉だなー。んじゃ次のステップに行くかー」

【なん……だと……】

 

 

ミュウツーのバックにイナヅマが走った。俺が教えたのなんざまだまだ初歩の初歩である。

なんでこんな、書類の種類ごとの整理でこんな事になるんだろう。

 

「ほれ、次は書類の中身まで見た上で判別しろ。

 上っ面の文面だけじゃたまに違う内容とかもあるんだからな」

【すまん、もうこの施設を完膚なきまでに破壊して全てを無かった事にしたいのだが?】

「ちょっとオーキド博士にミュウツーは脳筋(失笑)だったって連絡してくるわ」

【やめんかぁーーーーーー!!】

 

頭の中を軽く覗けるためか、オーキド博士というのが

ポケモン図鑑をいじくっている人間だとわかるらしい。

必死に繋ぎ止めてくるのは微笑ましいのか哀れなのか。

 

「つってもよぉ……あっち見てみろよ」

【あっち、だと?】

 

 

 

 

「プランA紙をを頼む」

「ミュ」

「次は会計項目の書類を」

「ミュ」

「諸費の合計金額の書類を頼む」

「ミュ」

「これらを纏めてあちらに固めておいてくれ」

「ミュミュ」

「よし、では次は施設関連の用紙を頼む」

「ミュー」

 

 

 

 

まあこんな感じである。

ミュウは部屋に着くなり、サイコキネシスを用いて紙の透視を行い

何処に何の書類があるのか区別がついたらしい。さすがの幻。

 

そしてサカキに頼まれる度、サイコキネシスをまた用いて

その内容が書かれた書類をズバッとサカキのテーブルまで引っ張り出し、そこに置く。

 

ものっそい効率的である。書類の残りが1/10位にまで減っているぞ。

さっきのパジャマサカキとはなんだったのか。

 

「…………」

【……なんだ?】

「…………」

【……なんだ、と聞いているんだが?】

(……はぁ)

【貴様ッ!? 今心の中で溜息をつきおったな!? な、何様のつもりだっ!?】

「はぁ」

【ぐぅぅぅぅわぁぁあっ!! むかっ、むかつくぅー!

 そこに直れっ!! 成敗してくれるわっ!!】

「あ、マジで? じゃあこの書類群の成敗よろしくお願いするわ」

【        】

 

 

こいつ、何しに来たんだろう。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで何とか書類整理は終わった。

 

ミュウが規格外レベルで有能だったらしく、全体の3/4は片付けてくれた。

サカキと息が合っていたのもあると思われる。

 

こっちも遥かに劣るものの

次第にミュウツーが効率を学び出し、なんとか1/4弱は片付けるに至った。

脳筋と万能の違いだねぇ……。

 

 

【あぁ……空が……空が落ちる……】

 

 

ミュウツーは完全に脳みそがパンクしているらしく正面から机に突っ伏している。役にたたねぇ。

ま、それでも全然働いてくれた方なんだけどな。

 

「ミュミュー♪」

「ん、おうお疲れ。飴ちゃん食うか」

「!? ミュ~~♡」

 

今回の功労者が近くに寄ってきたので、蜂蜜飴をひょいとくれてやった。

 

「うむ、ありがとうタツヤ君。

 まさかあの量が今日中に終わるとは……有能な子達なのだね」

「あぁまぁ、良い意味でも悪い意味でもここまでとは思ってなかったんですけどね」

「ディーァ」

「ホァー」

「ん、お茶か……すまないね。有能な秘書が居るようで、うらやましい事だ」

「お、あんがと。いやまあそんなもんじゃないすよ、ハハハ」

 

もし秘書って肩書きがついたとしても

元ルガールの秘書って感じだ、バリバリ戦闘向けの。

ミロカロスは秘書じゃなくて天使だし。

 

 

 

「さって、それじゃ……本会議と行きますか」

「うむ……よろしく頼むよ、タツヤ君」

 

完全にダウンしたミュウツーは一旦ソファーに転がせておいて

俺達はこれから先のロケット団に関する本会議に移ろう。

 

「んじゃまず、ロケット団は一旦完全に瓦解させます。

 あくまでもロケット団員の都合が、後々まで続く方向で」

「うむ、ちなみに案件は?」

「もしかしたらまだ来てないかもしんないっすけど……

 こう、帽子被ってて……ピカチュウか、バカでけぇドラゴン連れた子がここに侵入した事ありませんか?」

「あぁ……その子ではないかもしれないが

 よくわからんピッピを連れた子になら、一度侵入されたことがある」

「ピッピ……ですか? まあなんでもいいや、その子に一役買ってもらうかなって」

 

この世界じゃレッドさんが侵入したわけじゃないのか。

まー確かにポケモンタワーに居る時点でスコープも持ってなかったしなー……

 

「……なるほど、読めたよ。

 彼にヒーローとして立ってもらって、ぶつかった私達は力及ばず消えて行く、と……」

「そんな感じですね、あとは今の時点できつい資金運用の件ですが」

「!? 既に何か方法があるのか!?」

「どうせ一旦潰すわけですし、この地下基地を不動産に売りに出しませんか?」

「な、なるほど、いっそ守らず換金してしまえ、と……

 ッ、しまった……タツヤ君、それはおそらく無理だ」

「あれ、何故に?」

「この基地は法に基づいて作られていない……私達が密やかに作り出し、勝手に使っているだけだ。

 不動産として売り払うと色々と、問題が発生するだろう」

「あー」

 

俺もさすがにそこまでは詳しくないが

確かに法で考えれば明らかにアウトな気がする。

ッチ……これが普通に認められれば資金の元手、1000万は硬いと思っていたのだが。

 

 

「まあ目の前で用意する金はまだ何かしら方法もあるでしょう。

 ひとまずおいておきますか」

「わかった、やはり都合の良いものなど出てこないんだな……」

「人生と同じですよ」

 

さて、次は合理的な解散方法……かな。

 

「次にロケット団の解散についてですが……。

 ある意味ここが一番重要です。世間にロケット団がまだ生き残ってると捉えられると

 警戒だのなんだのをされて面倒な事になりかねませんからね……。んでもってここでひとつ提案が」

「ん」

「まだ世間じゃサカキさんがロケット団の頭目だという事はバレてません。

 なのでロケット団側のリーダーの役目で、替え玉を用意します」

「なっ!?」

 

サカキがなにやら憤ってソファから立ち上がる。

なんか反発っぽい雰囲気である。どうしてだろう?

 

「……他に何か手はないか?

 私としては、大切にしてきた団員を替え玉に……自分がのうのうと生き(ながら)えるのは無理だ……」

「そこは逆に考えてもらうしかないですね」

「逆とは?」

「ぶっちゃけた話、ロケット団は犯罪集団というよりサカキさんの私設軍団に近いです」

「うむ……? そうなのかな、自分では自覚は無いが」

「んで、その私設軍団からボスが居なくなったら?」

「……かなり危うい事になるだろうね」

 

まさに苺のショートケーキから苺を抜かれた状態になる。なんと無残な光景であろうか。

 

「というわけで、サカキさんが居なくなるって事はゲームオーバーにも近いため、これは必須です。

 逆にここで納得してもらわないと先々でどん詰まりになります」

「ぬ……」

「まあそこまで考えてしまうなら後回しにしてもいいでしょう。

 でも、決断しなければならない時はすぐそこですからね」

「…………ッ」

 

凄まじく苦い顔になってしまった。しかし整理した書類で確認する現状をを見る限りでは

このぐらい乗り切ってもらえないと、ロケット団自体があっさりと潰れてしまうはずだ。

なんとか涙を呑んでもらわねばならないのだ。

 

 

「ひとまずこんなところですね……

 まだまだ決める事は沢山有りますけど……正直ポケセンに帰ってさっさと寝てぇ。疲れた」

「気持ちはわかるが……もうちょっと我慢できなかったのかい?

 せっかくの見せ場だったろうに……」

「理想で寝心地は作れませんッッ!!!」

「ホァ~;」

 

 

だってさぁ、ほぼ丸一日興味すら薄い書類見ててさ?

誰が楽しいんだっつーの。俺なんてやってる最中眠くてヨダレ出しかけたぞ。

 

 

「まぁ……確かに重要な内容ではあるが

 下手に妙な体調のままやってると、変な方向に意見が曲がっていきかねないからな……。

 今日は、この辺りにしておこうか」

「うい、まあサカキさんも多少寝たとは言え眠いでしょう。

 お互い明日に備えてゆっくりしておきましょう」

「わかった、ではまた明日ここへ頼む」

「了解ー、それじゃ今日はこれで失礼します」

 

会議自体はそんなに進んでくれなかったなぁ。団の再生までいつまでかかるやら。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

とりあえず全員引き連れてポケセンへ戻ってきた。

WMへの報酬については飯を考えているからだ。

 

ポケモンに金なんて渡したところで人間ルールでしかなく、つまらないだろう。

そんなら三大欲求で直接訴えかける、飯を作って食わせた方が満足度が高いんではないかと思ったのだ。

 

 

なおミロカロスとドレディアさんの飯についてはふりかけごはんです。

賭けの代償、ここで受けてもらってます。

ドレディアさんがふりかけごはんの前でガチ泣きしている。

 

 

「んで、結構頑張ったんだけどどうだ?」

【ふむ、悪くは無い】

「む……そうか、満足させれるほど良いモンではなかったか。

 となると、ミュウツーに手伝ってもらうのは今日でおしまいか」

 

一応みんなには美味いと言って貰えている飯だから

報酬としても良い物と捉えてくれるんではないかと思ったのだが。

 

「ま、大して美味いとも思わないもんのためには働かせないさ。

 今日頑張ってくれた分だけでミックスオレ分は帳消しにするから

 遠慮なく帰ってくれていいからな」

【悪くは無い】

 

 

ん、あれ?

 

 

「いや、それはさっき聞いたぞ? お気に召さなかったんだろうし、帰って大丈夫───」

【悪くは、無い】

 

 

なにこのオウムインコ。

白い上になんか腹が紫なんですけど。

 

 

【ターツヤー】

「あん? どした、ミュウ」

【その子、照れてるだけだよ★】

【なっ?! ミュウ、貴様ッ!!】

「はぃ?」

 

いや、どう考えてもそうは見えないんですが。すっげー仏頂面だし、別に頬が赤いわけでもない。

 

【同じような味覚持ってる僕がすっごいおいしいって感じてるんだから

 それが不味いわけは無───もがががががっ!!】

【くそっ、このっ、黙れッ!!】

 

なんとミュウツーはミュウの口を黙らせるためにサイコキネシスまで使い出した。

一応は、美味いという表現の裏返しって事なのだろうか……?

 

 

まあ、明日も普通についてきてくれたらそうだと思っておこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~おまけのおまけ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

あまりにもあまりな夜飯に、ドレディアさんが家出した。

 

 






飯ィーーーッッ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

77話 方針。

このハーメルンで、評価10が減るのって俺ぐらいなんだろうなぁ。


 

「───既に、『ロケット団』という組織は、限界まで来てしまったのだッ!」

 

 

 

地下施設のとある広いホール。

サカキの声がホール全体まで響く。

 

 

「残念な事に世の中は全て、金、金、金だッ!!

 金が無くては全てが回らない、慈善行為だけで動く団体など夢の中ですら存在しないッ!」

 

 

集められた団員総計110人程の前に立ち、サカキはずっと大演説を繰り返している。

 

 

「君達が私に対して献上してくれた金が足りない、というわけではない……

 だがしかし、今のままでは負の連鎖しか生まないのだッ!!

 我等が、法を犯して金を稼ぎ続ければ……

 いつかどこかから、その流れを断ち切るべく……法の番人がやってくる!!」

 

 

現状のロケット団は、どうなのか。

そしてこれから先の未来も、どうなのか。

 

 

「君達はほぼ全員、何も出来ない自分に打ちひしがれて居た所を私が手を差し出した……

 それは……視点によっては、救いであったかもしれない。

 しかし、それでは駄目なのだッ!! 自分で立ち上がらなければ何にもならないのだッ!!

 このままではこのロケット団が救いようが無い程腐り

 人の世において負の面のみを強調されて語り継がれ、消え落ちて行くだろう……」

 

 

話の内容が本当に重大な内容だと気付き始め、話を聞いている団員達は多少ザワザワし始める。

 

 

「だが、そうなる前にっ! 私達の故郷となったこの基地に居るためにッッ!!

 今一度だ……今一度ッッ!! 自分達が出来る内容を振り返ろうではないかッッ!!

 その中には諸君が好きではないもの、気に入らないものがあるかもしれない……。

 しかし、そんなものはこの世界で生きている人間全てに当て嵌まる事を忘れるなっ!!

 好きで仕事を選べる人間など本当の少数だッ!!

 殆どの人間は職を選ぶ事すら難しいものなのだからっ!!」

 

 

会話の内容も、一応は俺が手を加えてある。

暴論ばかり振りかざしたところで違和感が出てしまう……

なら、言葉だけでも聴いている全員の立場に立ったが如く進めれば

聴いている人たちも会話の内容を自然と吟味し始めるのだ。

 

 

「故にっ!! 我等は、犯罪を犯してしまった悪の集団である我等は、解散するっ!!」

 

 

 

どよっ!!

    ざわざわ

  どよどよ   どよどよ

      ざわざわ

 

 

「そしてここにッ!! 新しい概念とシステムを用いた新会社……

 有限会社・弾頭の設立を宣言するッ!!」

 

 

 

シ……ン。

 

 

 

 

   う   お

 

 

ウオオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッッ!!!

 

 

 

 

まだ全てが終わったわけではないが……

ひとまず団の中身の改革は、何とかこれで一区切りが着いたと思う。

 

 

ん、急に話が飛びすぎとな。

 

あーまぁ確かにそうだったな、すまない。

私にとってはつい昨日の出来事だが、君達にとっては多分───

 

 

───明日の出来事だ。

 

 

 

 

朝飯を食い終え、朝の散歩に出かけていたのだろうか

珍しく朝食同席を欠席したドレディアさんが大急ぎで飯をかっくらった後

俺達は再びゲームセンターに行き

 

 

 

 

 

 

 

 

スロットしてた。

 

 

「んーむ、出ては飲まれての繰り返しだなー」

「ディァ~(ニヤァ」

「ぐ、くっそ……初日の大爆発で味を占めやがって……!

 今日限定ならドレディアさんだって俺より出てねえじゃねえか!!」

「ディッ……!」

「ホ~ァ~♪」

 

 

ぺち、ぺち、──ぺち。

 

□<でーん! でれれーん! でれれーん!!

 

「~~~~♪」

「……ちくしょう、ミロカロスめ」

「レディァ……!」

 

しっかり目押しすら覚えおってからに。

しかもあの馬鹿でかい尻尾でつつくようにトントントンと。

 

【おいっ!! 貴様ァッ!!】

「あん?どしたミュウツー」

【一体なんなのだこの騒がしい場所はッッ!!

 貴様らの真似をして動かしてるのはいいものの、私の箱だけ何も出てこないぞっ!!】

「……ご愁傷様、もうやめとけ。

 それぞれ運の向き不向きってのもあるだろうから」

【グ、グググ……!

 何故ミュウはあんなに出ているのに私の台はずっと静かなのだッ!!】

 

ん。

試しにそちらを見てみたらミュウが既に4箱目を作っている所だった。

ちょっと待てお前。まだ開店から1時間半も経ってないぞ。

恐ろしいほどの回収率である。

 

 

「……何をしているんだね君達は。団員に連絡を受けてこちらに来てみれば」

「アァ、サカキさん。いやまぁやっぱここに来たら一回は打ちたいから……」

「まあ、良いといえば良いか……

 キリがついたら、また下に来てくれると助かる」

「了解ー、そろそろやめておきます」

「ディァー。……アッ?!」

 

ビシッ、ビシッ、───ビシッ。

 

□<でーん! でれれーん! でれれーん!

 

「ド~レ~ディァ~♪」

「…………チ。」

 

そろそろ行くか。

ドレディアさんがボーナスを消化してる間にみんなを集めよう。

 

 

 

 

「うむ、急かした様ですまないね。飲み物はお茶で良いかな?」

「あ、はい」

「わかった、すまんがお茶を二個頼む」

「了解しました!」

 

部屋の入り口のロケット団員にお茶を頼み、俺らは昨日の話の続きを話し合う。

 

「今日はもっと話を進めるために、議題を決めておこうと思うんだ」

「ん、議題ですか……」

「一応それらしいようにホワイトボードも物置から引っ張り出した。

 というわけで……今日の議題は『どこまでやれば改革が成されたか』としようと思う」

「んむ……どこまでやれば、か」

 

確かにこれは重要な点であろう。

ほぼ無いと思うが、行き過ぎて突っ走る事も有り得るから

今のうちに明確な基準を決めておくのも悪い事ではない。

 

そして今、ザラっと考えてみたわけだが……

俺の最大の目的達成内容は、ロケット団に蔓延(はびこ)る屑共の駆逐だ。

そして、屑共を駆逐したとてロケット団自体に自活能力が無ければ

また団員が犯罪事を繰り返しかねないし

追い出された屑共も、再び団に戻って変な事をやらかしかねんと思う。

 

となると……

 

「団全体で考えて、僅かながらでも利益を上げた上で

 団員全員の生活が可能な状態に持って行く……かな」

「なるほど……

 私としてはそのような内容で問題はないが……具体的には?」

「それはさすがに今から考えるんですよ。

 俺も内政に関わった事があるわけじゃないですし……

 流石に10歳ではないですけど神みたいに長生きしてるわけではないですからね?」

「う、む……やはり上手い事行くというのは夢想過ぎたか」

 

 

そんなこんなであれやこれやと話し合っていき─────

 

 

「ふむ、ひとまずはこんなところだろうか?」

「大体意見も出尽くした感じがありますね」

 

 

 

・【ロケット団自体は犯罪組織として終わらせるため、解散】

 

「これは昨日も話した内容だな」

「ええ」

 

 

 

・【解散する前に人員整理を行い、明らかに寄生でしかない屑を引っこ抜いて排除】

 

「こちらは昨日君が話していた内容だね」

「ま、選別と区別についてはこっちに案があるんで大丈夫っす」

「そうかい」

 

 

 

・【再び集合する場合は会社として再結成する】

 

「なるほどな……構成員をそのまま社員とするわけか。

 人員整理の後だから、モラル的なものも健全化している者達で構成される、と」

「そういうことです」

 

 

 

・【基地の家具を大改築、団員の住まいにする(家賃節約)】

 

「これは、全員を管理しきれということかな?」

「いや違います。

 それぞれで家賃とか借りているより、いっそここを下宿扱いにすれば

 全体的には微額でしょうけど……節約にはなるはずですから」

 

 

 

・【資本金はポケモンリーグより限界まで借り受ける(内容は悪人更正のための会社設立)】

 

「……これは、さすがに無理じゃないかな?」

「いや、可能だと思います。

 だってサカキさんがロケット団のボスって知ってる一般人なんて俺ぐらいでしょうし。

 前にこの基地に突撃しかけてきた子だって、サカキさんは見たかもだけど

 サカキさんって存在がボスと明確に知ったわけじゃないですよね?」

「あーそうか、なるほど。確かにその通りだ。

 遭遇してバトルはしたが、年上目線で少し語って終わらせただけだな」

「君のポケモンは君に非常に懐いているな……でしたっけ」

「……ふふふ、あの会話ですら知られているとは……ね。君が敵のままでなくてよかったよ」

 

 

 

・【団員は可能な限り派遣会社の登録扱い、それぞれの適応を考え無理なものは無理とする】

 

「これは……一体どういう事かね?」

「いや、単に人って言う資材を提供する会社って事ですよ。

 派遣された人員の管理はこちらの仕事、保険関係やらなんやらとね。

 派遣される会社は金銭都合や面接の手間も省けますし、人が逃げたとしても派遣会社の責任に出来る。

 その代わり、人一人を雇うよりは若干高い金を派遣会社に払う。

 派遣会社はその金の中から仲介費用、派遣された人員への給料に(あて)がうって感じです」

「う……む?」

 

 

 

・【食事に関しても、最低限度の出資で済ませられるよう基地で朝昼晩を提供

   個人的に食したい場合もあるだろうと思われるので、その都度ルールを改正】

 

「これは、基地を住居にするという案件と似たようなものだね?」

「はい」

 

 

 

・【スタート時は、とにかくすぐに金になるような内容を選び、片付けて行く】

 

「これは具体的に言うと?」

「専門的な内容の仕事を選ぶのではなく……

 とにかく団員の生活の安定を心掛けて、そうですねぇ……例えばシルフカンパニーではなく

 シルフカンパニーが卸している下請け会社の倉庫とかに人を入れるんですよ」

「そうか、技量がそこまで必要が無い職なら……!」

 

 

 

・【派遣法に加え、自社でのアイテムや道具、家具、メディアの開発を視野に入れる】

 

「こ、これは……?」

「派遣の体制だけではきっと限界が来ると思います。

 だからこそ自分達で金を生み出せる基軸を作らないと、会社としては長生き出来ないはずです。

 それこそ研究員とかでも会社の体制に反りが合わないって人も沢山居ると思うんですよ。

 その人達を招いて希望する研究をさせてあげれば、ただの馬鹿でなければ成果が出ると思います」

「しかし研究といえば無駄に金食い虫なイメージがあるが……」

「だからこそ最優先は前述の団員の生活安定が最優先です」

「そうか、わかった」

 

 

 

以上の内容となった。

他にも重要な点が出てきた際には、その時に考えれば良いだろう。

 

「しかし、派遣というのは……こんな事が可能なのかね」

「まぁサカキさんの人脈次第ですかねぇ。

 実際んとこ、団員全てが全て無能なわけも無いと思いますし

 労働の喜びを知らないだけってのも結構居る気がするなーって思ったんで」

 

話している最中にわかった事だが、なんとこの世界『派遣会社』というものが無いらしい。

だったら多分、穴だらけにはなるかもしれないが

前世のテキトー知識を知っている俺が色々伝えれば、利益に繋がるかもしれない。

 

「そして、この基地は完全に居住区にする、と……」

「はい、まあ違法建築っぽいらしいし、団員全員の住所をここにするのは

 少し問題ある気がするから、そこはサカキさんが調べておいてください」

「わかった」

「すずめの涙かもしれませんが、俺も手持ちの金も投資しておきますんで

 とりあえず使ってやってください、しばらくの飯代ぐらいにはなると思います」

「……すまん、恩に着るよ。

 子供の姿の君からお金を借りるのは正直人生やめたくなるほど悲しいが……今回のでよくわかった。

 なりふりなんぞ、構っていられん事はいくらでもあるとね」

「良い事です」

 

ズズズ、と茶を飲み一息。

ぁー、軽く渋くてうめぇー。

 

【おい、貴様】

「あ、いたの?」

 

横に存在していたらしいミュウツーが俺らの話に割って入ってくる。

 

【……殺されたいのか?】

「いやーあっはっは、      ごめんなさい。」

【ふん、分かれば良い……それで?

 こんな下らん会議に我等を同席させたのは何故だ。

 ミュウなんぞ机に突っ伏して寝ているではないか】

「Zzzzz」

「ハハハ……なかなか可愛いじゃないか。

 すまん、小さい枕的なものを探して持ってきてもらえないか?」

「ハッ、了解です」

 

ミュウはよだれを机に広げ、爆睡していた。

まぁ、内容は後で伝えても問題なかろう。

 

「お前たちにはな……心が読めるのを利用して、人員整理に協力してもらいたいんだよ」

【ほう……?】

「今回の会議からまず第一に動くのは解散前の人員整理だ。

 俺の最大の目的はここにあるから、ここで手を抜くわけには行かない」

【うむ、そうか】

「別にそこから先は頼む事も多分発生しないだろうし

 暇ならロケット団に付き合うも良し、ハナダに帰るも良し、ってところだな」

【わかった、まああの書類整理よりは楽そうで一安心だ】

 

まーうん、そうだろうけどもね。

自分で脳筋宣言して楽しいのかな。

偏らせるとろくなことにならん、という事だろうか……

 

 

っと、忘れないうちに金を出しておこうか。

 

「えーと……」

「む、どうしたのかな?」

【何をしているのだ、金という単語が貴様の頭に見えたが……】

「あぁ……さっきの投資の話か、本当にすまない。

 必ず、出してもらえる金額以上にしてみせるから」

「いや、別にいいっすよ。

 俺自身そこまで浪費するタイプじゃなかったみたいなんで……

 それに俺はいざとなればテキトーに路上で芸やれば金稼げますから」

「君が芸……となると、音楽関連か。

 アレは確かに、聴くものを惹きつけるだろうな」

【ほう、貴様そんな事が出来るのか】

「ま、パクリだけどね。頭ん中覗いたお前ならわかるだろ」

 

 

よし、財布発見と。

 

というわけで、現金公開ー。

 

 

256,891円。

 

「        」

【ふむ……? これは多いのか。そこに居るモノの心を読んだ上での判断だが】

「まぁ、うん……改めて考えたらありえねーなこれ」

 

小学5年生が25万持ってるとか、どんだけカツアゲのカモネギだ。

 

 

とりあえずそこから一万拾い上げ、ひとまずの生活費とする。

 

「それじゃ、これを収めてください。

 くれぐれも、妙な方向性に使わないでくださいね?」

「わかった。今更細かい事を気にしても駄目だな。

 本当に有難う、必ずだ。必ず有効に使わせてもらうよ」

 

最近俺の異常性を知った上で復活するのが早い人ばかりだな。

きっと母親のせいだ。あれがぶっ飛びすぎてるんだ。フウロかよ。

 

「お前達もすまないな、みんなで頑張って稼いだ金なのにこんな所に使って」

「ディァディァ~」

「ホァ♪」

 

【気にするな】、と伝えてくれる二人。

まぁその分しっかり美味い飯作ってやるからな、勘弁してくれ。

 

 

 

 

これが会議終了の当日の様子である。

 

それからは時間軸もそこそこ素早く動いて行った。

 

まず翌日に所属団員全てを集め、俺が適当に描いた心理テストをやってもらう。

運良く全国に散らばっていた団員も全員タマムシに居たようで、漏れは無いらしい。

 

そしてそのテストの用紙を参考程度に使い

サカキさん、ミュウツー、ミュウを一緒に並べた上で、全員と面接。

 

テストに関してどういう内容を思って書いたか、自分はどう思っているか。

嘘やら差異やらはミュウとミュウツーにテレパスを送って貰い、俺はそれらを用紙に書いて纏めて行く。

 

結果、本気でどうしようもないと思われる快楽犯罪者が15名程見つかり

こいつらを呼び出し、こいつらの起こした全概要を曝け出し追放。

相手も相手で嘘やら何やらが全く通じない状況だったため、把握は容易かった。

 

 

そして、まだ世間でのロケット団解散には漕ぎ着けていないものの……

一区切りが着いたがために、現在の大演説である。

 

 

「私達は今宵を持ってして、全員が運命共同体だッ!

 反りが合わない者もいるだろう、性格的に無理というものもいるだろう……

 だが、我等は共に歩まなければ……私も含めて全員がそこで共倒れだッッ!

 何か疑問、不満があれば遠慮なく私を捕まえ、それを報告してくれッ!

 君らが動く上で無理が少ない指針へ、必ず持って行く事を約束するッ!

 組織というものは小さい亀裂から大きな傷跡になり、瓦解する事もよくあるのだッ!

 それらを防ぐのは、まさに運命共同体の君達しかいないッッ!!」

 

 

全員、真剣にサカキの話を聞いている。本当にすごいカリスマである。

この姿なら原作でのあのワイルドさもよくわかる。パジャマの件は忘れてあげてください。

 

 

【なかなか堂に入った演技だな?】

「あぁまぁ……お前等あの姿見てるもんなー」

【クックック……あの姿はきっちり記憶しているからな。念写でもして紙に現像してやろうか?】

「あれ、そんな事出来るの?」

【ふふふ、私にそれぐらい造作も……って、おい。

 貴様何を考えている!? 私にこれ以上労働をさせるつもりか!?】

 

あぁ、やっぱ頭の中で色々考えるとすぐにばれるのね。

しかーし、そんな便利な能力があるなら使わない手は無い。

せいぜい頑張ってもらおう。紫色の労働者様★

 

【う、く……くそっ……! 余計な事を喋ってしまったか……!】

「まぁ、諦めろ。人生うまく行かない事ばっかだよ」

【貴様が言うなぁッ!! しかも私は人ですらないっ!!】

【もう今更じゃん~。もっと楽しく生きようよ、ミュウツー】

【ッチ……お前も同じ事が出来るんだから、同じく働けッ!】

「いや、ミュウはなんかすっげー万能そうだから他に回ってもらうわ」

【          】

 

今の俺の台詞は、逆に言えば「お前にはそれしか能が無いwwww」と言っている様な物だ。

 

 

哀れ、脳筋。

 

 

ま、これでやっとスタート地点だなー。

堅実に稼いで行って、とっととあいつらとの約束を果たそう。

 

 

 

 

 

 

 

~~おまけ~~

 

『ムウマージさん』

 

色々な会議やらなんやらを終えて、一度俺らはポケセンに戻り

のんびりと眠っていたムウマージが起きてそこらをふよふよしていたので

一緒に散歩をする事にした。

 

「ま、なんとか一区切り付きそうで安心したわ」

「△▲☆★~♪」

 

そんな風に話しながら道を歩いていると

なにやら異様に威勢が良いガーディが俺らに向かって吠え出した。

横にはトレーナーらしき人も見受けられる。テメェ躾ぐらいちゃんとしとけコラ。

 

突然吠えられて、ムウマージはとてもびっくりしてしまっている。

 

「こーらっ、やめなさいポチッ!

 ごめんなさい、驚かせてしまって……」

「いや、まあいいっすけど……」

「ムウマージちゃんもごめんなさいねぇ、攻撃しないであげて───」

「はぁ、行こうかムウマーj───」

 

 

後ろのムウマージに振り返ると、涙目になりながらガーディに攻撃をしかけようとしていた。

とても怖かったのだろう、ってか……あれ? こいつの攻撃って確か……

 

そんな事を考えているうちに光はどんどんムウマージの手のひらに集約されていき───

 

 

 

 

「────え?」

 

 

 

か く ば く は つ

 

 

 

199X年、ポケモンが生息する世界は、核の炎に包まれたッッ!!

全ての海はかくばくはつの火力で干上がり、生物は全て死滅した様に思えた……

 

 

 

だがッッ!! 人類は一人だけ絶滅していなかった!!

 

 

その名はッッ! ケンシr……レンカッッ!!

 

 

そしてムウマージは雄だったので種族の壁を越えて繁栄ッッ!!

 

 

地球上に新たなアダムとイヴが誕生したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ~ うちのポケモンがなんかおかしいんだが ~

 

 

                BAD END 2   人類滅亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       fin

 

 

 

 

 

 

 

 





ムウマージは、これから暇があれば世界を破滅に導いていくと思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

78話 ロケット団繁盛記 属性はなんだ?



さぁ始まりました、ポケモンいらねーじゃんシナリオ。
果たして付いてこれる人はどれだけいるのだろうか。


 

 

「団員が得意な事の識別?」

「ええ、スキモノこそ上手なれっていうじゃないですか。

 労働力の基本がポケモンからなるとは言え、人間にしか出来ない事も多数あると思うんで

 一覧的なもんを作っておきたいんですよね」

「なるほど、な。

 確かに自分が好きな、もしくは活躍出来る仕事なら……労働欲もかなり上がりそうだな」

「まあ、多分ですけども」

 

やはりというかなんというか、手始めに行う事は団員に収入源を持たせる事となっている。

 

基地の住居化はポケモン辺りを使えば結構迅速に出来るのだ。

それに人間二、三日なら適当にきつい環境で寝ても死なん、案外丈夫に出来ているのである。

 

 

というわけで得意そうな事、これならやれそうだという事、逆に絶対無理だという事を纏めてみる事にした。

 

 

とはいってもこの文面で表すのは非常に難しい。

ので簡単に表現するとこうなった。

 

・肉体労働OK60名程度 駄目20名

・事務会計、接客OK40名程度 駄目35名

・俺は孤高のトレーナー 10名程度

・その他、他に才能が秀でてそうな人15名程度。

 

なお、どちらもOKという人もそれぞれに割り振っているため

細かい人数の合計に差異がないかと思う人は、まあ、その、なんだ? 考えるな。感じろ。

 

 

「ふむ……肉体労働がOKの者はすぐにでも派遣、というものをしてみるべきか?」

「有りだと思いますね、加えてその中で忍耐が結構強そうな人を選びましょう」

 

仕事から逃げ出したら、責任はあくまでこっちなのである。

申し訳なさもあるが、出来る事ならちゃんと持続出来る人を派遣してやりたい。

Win×Winは全てにおいて大切なのである。

 

 

「事務の方はどうなのかね?」

「何人かは、安定してきたらこの……本部? で使った方がいいでしょうね」

「あーうん、あの地獄はもうこりごりだな。

 なるほど……ああなってしまう前に担当者を入れておかないと、あの地獄が生まれるのだな」

 

俺もアレは結構トラウマです。なんであれが一日で片付くんだ。

 

「事務の方は色々ときついかもしれませんね。

 どうなるかはわからないけど、基本的に企業が取り扱う数字に該当する内容って

 殆どの場合『社外秘』とか『企業秘密』のレベルですから」

「難しいものなんだね?」

「多分ですけど……」

 

下手すれば肉体労働系でも、『作業内容の手順』が社外秘とか言いかねんからな。

凄いところだと本当に真似されたら困るレベルでやってるから、あるにはあるんだけどね。

 

「ふむ……ちなみに資金と解散の手順はどうするべきだと思うかね。

 やはり目の前のものが無くては駄目だから、先にリーグに資金提供かな?」

「いや、乗り込んだ子供見つけるのが先だと思いますね。

 先に資本金借りたら矛盾が生じると思います。ロケット団がまだ生きてる的な」

「あー……やはりあの子供の捜索が最優先か……」

「相性悪いんですか?」

「うん、まあ、なんていうか……とにかくピッピが強すぎたイメージかな。

 あのピッピは確実に場慣れしてたよ」

「……?」

 

まあ、気にしない方がいいか。

 

「じゃあ順序としては

 

1.早急に収入源を

2.子供を発見

3.資本金の申請

 

 って具合でいいっすかね」

「そうなる、かな? ではまずは手近なところからか」

 

 

方向性が可決されたので、互いの知り合いを通じて労働者の派遣が可能かどうかを確かめる事になった。。

 

 

 

 

 

だが互いの知り合いといったところで、俺は基本的に旅ガラス。

根を張って頑張っている知り合いなど殆ど居ない。

 

今までので列挙するに……

 

・トキワの露店お兄さん

・ジムリーダーのマチスさん

・ポケモンタワーの監督さん

・寝てたカビゴン

 

ぐらいのものである。っていうか最後のなんだよ、おい。

 

なおコクランさんがこの中にあげられていないのは

地方が違うという関係上、ポケモンのそらをとぶを使っても日帰りがきつい点にある。

住み込みという形でも良いのだが……今回はちょっと置いておこう。

 

まずはトキワのお兄さんから声掛けてみようか。

でも一人で食って行くのでなんたらっつってたし、希望は薄いな。

期待しないで声を掛けてみよう。

 

 

 

 

というわけで。現在トキワシティ。

 

移動手段はロケット団内部で鳥ポケ持ってる人から借りて、ひでん02使った。

懐かしさもあるだろうという事で今回はドレディアさんを連れている。

みんなの紹介は、また機会があればってことでいいよね。

 

本当は基地に備え付けられてた電話で連絡しようと思ったんだが

俺、あのお兄さんの電話番号知らなかったんだわ。

だったらもう直接行くしかねー!! ってことで。

 

「ディーァー!」

 

【懐かしいーーー!】と、気合を入れて叫んでいるドレディアさん。

うむ、ここは俺らにとってスタート地点にも等しい場所だからな。

 

まぁ本当に懐かしいものだ、あれからもう65話ぐらい進んでるんだぜ。

あの時、17円なんて金しか財布になかったのに、今じゃ(既に大半はサカキに渡したが)25万。

えらい出世したものである。

 

「ディッ! ドレディァッ!」

「あーはいはい、わかったわかった。そんなに引っ張らないでくれ~」

 

ぐいぐいとドレディアさんに引っ張られ、お兄さんが居ると思われる所へ向かって行く。

 

 

「お、居た。何だ結構繁盛してるっぽいね」

「ドレディー!」

 

お兄さんが露店を出している所へ行くと、

今もお客さんが二人程、品物が出来るのを待っている所だった。

 

「はい、毎度どうもですー。またお越しください」

「うん、お兄ちゃんまたねー!」

 

小さい子が、母親に引き連れられながら露店のお兄さんに挨拶してた。

なんとまあ微笑ましい光景だろうか。俺も将来これぐらいのんびりしてぇわ。

 

 

……。

 

俺は、ふとその可能性が現実的かどうかを考えて

横にちらりと目をやってみた。

 

「ディァ?」

 

うん、無理だな。彼女が居る限り。

 

「#」

 

ベシンっ。

 

「おふぁ。なんか殴られたの久しぶりだ、何すんだよぅドレディアさん」

「ディァ#」

 

【なんかすっげぇ不快なオーラを感じた。】

 

ちくしょうこいつタイプ3にエスパーでもあるんじゃないか。

 

 

「……あれ? 君達……タツヤ君にドレディアちゃんじゃないか!」

「あ、ばれた。こんにちわーお兄さん」

「ドレディァー!!」

 

騒いでいたのが災いしたのか、お兄さんに気付かれてしまった。

まあ別に隠れるようなもんでもないんだが。

 

「っとと……はい、お待ちどうさまです。

 ちょっと熱いのでお気をつけてくださいね」

「えぇ、ありがとう。また来るわね」

「毎度有難う御座いまーす!」

 

そうして今いる最後のお客さんに売り物を渡し、客が途切れた。

 

「やぁ、本当に久しぶりだね! 元気にしてたかい?」

「ええ、お久しぶりです。新しい仲間とかも出来たし旅は順調って感じですよ」

「ディーァ」

「ん、そうか。いい事だね!

 今日はまた、一体どうしてここに? ここら辺に用事でもあったのかい」

「ああ、えーと……用事自体はお兄さん本人ですね」

「え、あれ? 僕?」

 

 

「ふむふむ、新しい会社の方向として『人材の提供』を……か」

「ええ、俺の知り合いっつっても本当に少ないんで

 少ないんだったら片っ端から当たってしまえって感じでここに来たんです」

「んー……前にも言ったけど僕の露店は基本一人で十分だからな……。

 ごめんね、僕のところはこれ以上の人間は必要ないかな」

「やっぱそうですよね……まあそう思ってはいたんですけど」

「あれ……でもちょっと待って? その会社って、色んな仕事を求めてるの?」

「ディァ?」

「ええまぁ……といっても誰にでも出来る仕事じゃないと……って感じですけど」

「……事務と雑務に強い人間って居ない?」

「へ?」

 

 

事務……? この露店でか?

いや、一人で回してるって話だし税金だのなんだのの帳簿も一人で書いてるって事だよな。

なんで事務寄りの人間が必要なんだ?

 

 

「いやね、僕の関係してるところで最近事務員さんが二人減ってって話でね。

 一人は応募が来て労働力の確保は出来たらしいんだけど

 もう一人の方が足りてなくて、手が回ってない内容があるらしいんだよ」

「なるほど、それでですか」

 

俺はもしかしたら必要になるかもと思い、事前に団員の方向性をまとめていた書類を取り出し

事務関連希望者の項目をざらりと読み流す。

 

うん、よし。普通に事務と雑務を一緒に考えている人達ばかりだ。

これなら誰を引っ張っても大丈夫そうだな。

 

「大丈夫ですね、多分すぐに何とか出来ると思います」

「本当かい?! すぐに働いてもらう事は出来そう?」

「多分二、三日あれば問題ないと思いますけど……。まあここで断言出来る話じゃないだろうし

 正式な契約にする必要もあるから、ここではあくまでも『多分』としか言えないです」

「わかった、それじゃあ僕もそこに連絡入れておくから

 明日にでも、いや……今日でも良いかな?

 まだ午前中だし、面接ぐらいならしてくれると思う」

「ドレディー」

 

もっしゃもっしゃ。

話の途中ですがお兄さんの露店の元マスコットは

腹いっぱい食いモンを食べております。俺にもくれ。

 

「わかりました。

 本拠地がタマムシなんで、ちょっととんぼがえりになるから時間掛かりますけど……

 その面接って確実に今日いけますかね?」

「きっと行けると思う。もし駄目だったら僕が責任持って一日の宿は用意するよ」

「了解です、じゃあ俺一旦タマムシに戻りますね。

 どうせもう一度来るし、ドレディアさんは使ってくれてて構わないですから」

「あれ、いいの? うれしいな!

 また君と働けるとは思って無かったよ、ドレディアちゃんはそれでいい?」

「ディッ!」

「うん、わかった! 頑張ろうね!」

 

 

いい話になっている。

第78話、完!

 

 

 

 

 

 

「って話になったんで、さっそく一名派遣は出来そうです」

「仕事が速すぎるよタツヤ君……こっちはまだ約束を取り付けてる程度なのに。

 ……本当に、ありがとう」

「まあ、大丈夫ですよ。これは俺自身のためでもありますから」

 

 

タマムシに到着した後基地に速攻で駆け込み、事情を説明。

見事会社第一号の労働権利者の獲得となった。

 

ちなみに謎と思われているかもしれないので小ネタを二つほど。

 

有限会社は株式会社と違い、そこまで設立に手間は掛からない。

全く掛からないというわけではないが段違いであるのは間違いないと思われる。

 

……まあ俺が生きてた前世だとその辺りでもなんかかんか裏技が出来たみたいだけどもな。

逆に株式会社の枠組みで敷居を下げる目的での起業は無理だのなんだのってもあったかもだし。

 

まあ文句言われてから考えれば良いと思う。

 

そしてこの世界、ポケモンという存在がメインでそこらに跋扈しているため

ここら辺の法の整備が穴がありまくりなレベルでおざなりであり

昨日、サカキさんが宣言した後本人が役場に出向き

会社の設立に関する手続きを全て終えているので、こちらは堂々と有限会社を名乗れる状況である。

 

次に、基地の入り口だが。

既にあのゲーセンの棚の裏とは別の入り口を作成し、団員達はそこを利用するように働きかけた。

最近基地の方へと移動する件が非常に多いので、毎度毎度あそこを使っていたら

客に怪しまれてそこから芋づる式にバレかねない。

俺が今回使った入り口も、もう一つの作った方である。

 

ダグトリオ、ご苦労さんっした。

 

 

そんなわけで、俺ら二人で厳選した団員を一人呼び出し『仕事が決まりそうだ』という内容を伝える。

ちなみにロケット団員(女)となっている。お姉さんである。

 

「というわけで、昨日の今日ですまないがさっそく働いてもらう事になると思う……。

 君は、この会社の運命を左右する存在だ。

 君の仕事内容次第で、私達の明日は『大部分』でこそ無いものの、評価という意味で揺れ動く……。

 ──先陣、頼んだぞ!」

「は、はいっ! が、がががんばりますっ!!」

 

サカキに神妙に説明され、思わず硬くなってしまうお姉さん。

 

「お姉さん」

「は、ひゃぃっ!!」

「ああ、そんな硬くならず……俺は所詮ただのガキですから。

 それに今日はあくまでも面接です、そういう時こそ落ち着かなきゃね」

「え、ええ……」

 

まずはリラックスしてもらうのも大切だからな。

 

「……お姉さん、今回第一号とかなんとかが重なってしまって

 無駄にプレッシャーが掛かってしまう状況が成立してしまってますが……。

 ひとまずは、自分らしさを忘れないでください」

「自分らしさ……?」

「会社の方針に従うのは社会人として当然です。

 でも、『会社のために』と思って自分を犠牲にしすぎないでくださいね。

 本当にきついことなら、サカキさんに言えばちゃんと対応してくれるはずです。

 こんな事でボスの手を煩わせられないとか、私一人でやりきれる、とか……

 そういう深みに嵌らないで。ヤバイと思ったらすぐに言ってください。

 きついと思ったら気にする事なく遠慮なく言っていいんです。

 サカキさんは……ロケット団は、貴方を絶対に見捨てません」

「───はいっ!!」

「よし、話は済んだな? ではさっそく面接の準備に取り掛かってくれ!」

「了解しました、ボス!!」

 

 

うむ、ここまでハキハキしていれば問題はなかろう。

あとはお兄さんの話を信じるだけである。

 

 

 

 

 

そしてお姉さんをトキワに送り、しばらくお兄さんのとこでだべってたのだが

4時間ほど後に電話連絡で基地に連絡があり

お兄さんのツテの会社から、採用の通知をもらったとの報告があったそうである。

 

 






どうやら最近主要の閲覧層は全て招き入れてしまった気がする。
新規にポケモン小説を読むとしても本作は向いてないだろうし
ここら辺が需要の限界なのかのう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

79話 ロケット団繁盛記 ミュウツーは使える?

お金はどうやったら生み出せるのかねー。
世の中こんなに上手くいかねーけどなー。


 

 

【さっそく念写とな】

「うん、出来る事と出来ない事を確かめていきたいのもあるし……

 ぶっちゃけお前、使いどころがすげー厳しい気してるからさー」

【ふん、俗物如きが片付けなければならない事を、私がする必要など何処にも無いだろうしな】

「直訳すると無能でOKですよね」

【貴様殺されたいのかっ!?】

「オーゥアイムソーリィー。ワタシー、ムノウノーコトバー、ワーカリマセーン」

【殺すッ! 殺しきるッッ!!】

「ぬはーはっはっはっは」

 

 

今日も俺はミュウツーをからかい

シャドーボールやらサイコキネシスやらが飛び交う部屋の中、のんびりとここで出来る事を探っている。

 

 

 

 

 

前回から既に10日、ここに至るまでの健全化はなかなかに順調である。

第一号の派遣さんが出た事で残っている団員も勢いづいて

あとは労働先の確保という事だったのだが、やはり大人の人脈強し。

 

サカキがあの翌日からコネをフルに活用し、4社との話し合いをまとめ

合計で15人程度派遣を行ったところ、それなりの評価を得るに至った。

評判は中の中、良くも悪くも無いといったところで収まっている。

まあいきなり大評判になって引く手数多(あまた)なんて展開は無理がありましたね。

 

まあ何が言いたいのかといえば、ここで悪い評判にならないってことは

少なからずかもしれないが需要が有るという事だ。

故にこの派遣企画は間違っていなかった事にも繋がる。

 

やはり彼らに足りなかったのは労働の喜びだったのだろうな。

 

このままサカキが順調に食い込ませていけば全員の生活安定に関しては

いい感じにクリア出来て行くと思う。

 

ここから先が長いとは思うものの、一応は一安心である。

真面目に今回働きだした15人+前回のお姉さんの総計から

既に一ヶ月は組織が持つ金が入っているのは確認している。

 

そこからそれぞれに給料を出して行くとはいっても

今のところはとにかく全てを回るようにする事が重要である。

 

二の次、とまでは言わないが……

今働いている人たちは、尊いボスのためにも贅沢を控えてもらわなきゃならない。

まあそれでも犯罪をやって稼ぐ金よりは、きっと嬉しく思ってくれるはずである。

 

 

 

 

で……一応、段階がちょっと飛んでしまうんだが

話し合いでも、最後の方に項目が挙がっていた内容の

『開発面』に当たる事を、今まさに俺らがやろうとしている。

 

何故そこまですっ飛んだかといったらやはり

ミュウツーが使えなさ過ぎたがために、といったところか……。

 

あの書類で役に立ってくれたってだけでも十分に有難いんだが

それから後も不平不満を俺にぶちあてながら

なんだかんだで俺等と一緒に……いや、飯をたかりに来ている。

こいつ、律儀にも一日一回はハナダまで帰ってるのだ。

 

やはり洞窟最強がいきなり居なくなると治安的なものが崩れるんだろーか? 

 

 

そんな事を思案している間にミュウツーは一通り暴れ終え、大体のものを大体の場所に二人で戻した後

改めて今回やろうとしている概要を伝える。

 

【貴様の頭の中で、念写出来そうなものをしてみろと?】

「そんな感じだ。多分だけどその透視的な人の頭の中見るやつって

 限定的なもんなら、そこまで酷い負担にもならないんじゃないのか?」

【まあ、やってみてやる……私はどうするのだ】

「んじゃとりあえず……紙を置いてっと。

 よし、今から適当な絵を思い浮かべてみるから、それを写してみてくれ」

 

ミュウツーの前に紙を置き、すぐに写せる様に手配。

 

んんー……どんなのがいいかな……。

よし、前世でPixivで見たトリトドンの画像でも思い浮かべてみるか。

 

「んんんんんんん……よし、やってくれ!!」

【む、これか。わかった】

 

見た限りでの細かい絵面を思い出し、頭の中に強く念じてみる。

そしてミュウツーは目の前の紙に手を宛て、少し力を入れると……

 

パシッ。

 

紙で何かを叩くような音が聞こえ、ミュウツーが触れた紙に変化が起きていた。

その紙に書かれている絵は、まさに俺が今頭の中で想像していた物だ。

色合い、色ツヤ、フォルムに至る全てにおいて完璧である。

 

「おおー、そうそう、これだこれだ。

 再現度……うん、ここまで出来てりゃ問題無いな!」

【うむ、まあ私がわざわざ動いているのだ。

 中途半端な内容など、起こり得る筈も無いからな】

 

まあ唯我独尊の変な白紫は置いておくとして

これが出来るなら、本の出版で金を得る事も出来ると思われる。

 

「うんうん、しっかしこの絵は可愛いよなぁ。

 この苺ケーキみたいなのに加えて首をかしげているのがなんとも……」

【うむ、これはとても可愛いな。

 私は見た事が無いが、これは別地方のポケモンであろう?】

「そうそう、トリトドンっつーんだこいつ。

 一応そのあとリストラされちまったりしてるけど、チャンピオンが使ったポケモンでもあるんだぜ」

【ほぉ……なかなかの強さを持っているわけだ。

 だがまあ、私の足元には遠く及ばないのだろうな】

 

あー……。

まあお前初代限定なら種族値がアルセウス超えてるもんなー。

 

まあ、バグポケになってしまうんだが……

初代は青限定で種族値が合計1000超えてるけつばんってのも居たはずだけど。

 

「まあお前の事はどうでもいいや」

【おいコラ】

「んじゃぁ次は……漫画でやってみるか。んんんんんん……!!」

【ッチ……やるぞ……。】

 

新しく紙を引っ張り出し、ミュウツーは俺の頭を覗く。

そしてまたパリッと音がしたので、念じるのをやめて紙を見る。

 

そこにあった絵とは……

 

 

「なにこれ」

【私にもよくわからん、なんだこれは】

 

 

全然漫画になっておらず、なんだろうこれ……なんだろう?

全部のコマがひとつに重なってるような……?

 

んー、となると……ちょっとアレを思い浮かべてみるか。

あのカンフースタイルっぽい動きをしてて

下で少女が惚れるっぽい顔をしているやつで、よくトレスされてたやつ。

 

 

 

 

結果、阿修羅もしくは千手観音になっていた。

しかもご丁寧に少女の即頭部から手と足が生えているというカオスな状態で。

 

 

 

 

「これはあかんわ。さすがにこれはあかんわ。」

【む、ぬう……!? 何故だ……私は確かに貴様の頭の中で映像を見たのに……!】

 

 

どうやらあちらも、俺の頭の中から見たものを写せていないのが謎らしく

少し困惑しているようである。

 

「んー……次は見開きでの映像を想像してみるか」

【む……わかった、やってみろ】

 

また、新たに紙を引っ張り出しミュウツーの前に置く。

んー、内容は今日から俺はの35巻からでいいか。

 

「むむむん……! さあやれ!」

【よし、こうだな……】

 

パリッ

 

そして念者が成功されたようであり、再び絵を見てみる。

 

 

全然違う絵だった。

 

 

「お前何してんの!?」

【い、いや違う!! これは断じて違う!! そう、手違いだ、何か別の……】

「あーそうすかそうすか、了解了解。種族値744超え乙」

【ウ、ググググ……】

 

 

少しはやってくれると思ったら所詮脳筋でした。

まあミュウツーなんてこんなもんだよな。

 

 

「あれ? でもそうなるとなんで最初のトリトドンは大成功したんだ?」

【む、あの首をかしげている絵か? 確かにあれはしっかりと描写されていたな】

「んー……んじゃもっかい一枚絵でやってみようか」

【わかった】

 

 

先程と同じ手順で、またやってみる。

 

すると……

 

「……出来てるな」

【そうだな、可愛い感じの鳥ポケモンだな。

 これはあれか? ネイティオというのを一度見た事があるが……】

「そうそう、それの進化前の子だ」

 

写してもらったのはネイティの顎辺りをくすぐって

ネイティも満足そうに目を瞑りながらそれを受けている絵だ。

 

この結果から考え、様々な可能性を考えつつ

繰り返し念写をしてもらった結果、アホな内容がわかった。

 

 

 

 

こいつ、自分が可愛いと思ったもんしか、しっかり描写出来てなかった。

 

 

 

 

漫画は全滅、風景描写とかもやってみてもらったがこれも駄目。

前世での動物を思い浮かべてみたが、これも駄目。

 

アニメというか二次元調での可愛い絵にだけ

気合を入れて、しっかりと描写しているという謎現象が起きた。

 

 

「……。」

【……。】

「お前、さ」

【なんだ】

「可愛いもの、大好きなの?」

【……悪いか】

「……そのツラで?」

【う、うるさいッ!! 私が気にしている事を言うなッッ!!】

 

してたんだ。

 

とまあ、こういう結果となったわけである、アホだ。

まさに好きモノこそ上手なれ、の究極の領域だな……。

 

 

んで、二人の会議の場に残ったのは……カオスな千手観音と、生み出す事に成功した可愛い画像である。

 

 

【ふむ、こちらの成功作は私が持って帰っても良いな?】

「あーうん、まあ確かに使えるモンでも無い……いや、待てよ?」

【ぬ】

 

 

売れる、って意味なら別に本であれば漫画でなくてもよくねーか?

写真集なんて言葉もあるし、文字しか載ってない小説なんて内容もあるわけだ。

 

だったら内容なんぞ気にせず、みんなが『金を払う価値がある』と思う物であれば

本にしても売れるのではなかろーか?

 

 

「ストップ。それは一旦こっちで引き取る」

【ぬ……! 嫌がらせのつもりか貴様!!】

「違うっての。お前からすりゃむしろ本懐だって。

 俺らがここで何を話し合ってたかお前覚えてるか?」

【可愛いポケモンは正義という事だろう】

「いっぺん死んでこい」

 

 

直球で言われ、ガガーンとなって部屋の隅でのののと書くミュウツー。

そんな中俺はテーブルから念写に成功した20枚の絵を取り

一応適度にテーマを持つように並べ替えて見る。

 

うん、これはいけそうだな。

バカ売れはしないだろうけど……弾頭の資金力底上げには繋がりそうだ。

 

 

 

 

んで、色々な会社に交渉に出かけているサカキとミュウが帰ってきた所で

今回の内容を話し合って、サカキのコネから試しに少し出版してみる事となった。

 

とりあえずの仮に……という事で

俺が提供した24万からいくらか使い、この画像を本に仕上げて書店で売りこんでみる事に。

発行部数は500冊。タマムシデパートの書店に加え

フレンドリーショップにも置いてみるそうだ。

 

 

「まあ、赤字にさえならなければ問題ないだろうね」

「そうですね、まあ赤字になったところで俺の提供した金が減るだけだし……

 実際もう、あれなくてもなんとかなるレベルで土台が出来てますよね」

「うむ、今日掛け合った会社の返事もなかなかよかったよ。

 人数は少ないと思うが、また派遣枠を増やす事が出来そうだ」

「おぉ、そいつはいい報告ですね」

【僕も結構頑張ったんだよー? グラフとかそういうのの念写で】

「ミュウが万能すぎて俺の苦労はなんだったのかと小一時間アイツを問い詰めたい」

 

 

問い詰めたい。

 

 

 

 

 

 

してまぁ、あれから数日経った結果だが。

 

やはりバカ売れはしなかった。世の中そんなに甘くありません。

 

が、しかし。やはり可愛いものに目が無い人はミュウツーでなくとも居るらしく

徐々に徐々にではあるが、売れていっているらしい。

タマムシデパートでは既に15冊売れてるそうだ。

これなら1ヶ月ぐらいすれば、本を印刷するために使った分は戻ってきそうである。

 

 

そんな内容が確定したので、その報告が来た晩は飯を結構豪勢にしてやった。

ミュウもミュウツーも、今回出番が無かったみんなも喜んでいた。

ミュウツーだけは相変わらず、【悪くは無い】の一点張りだったが。

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

 

 

『ミュウツーは強い?』

 

 

 

 

「そーいやさぁ、お前ってどんぐらい強いのよ。

 一応お前って存在が戦闘特化みたいな感じで作られたってのは知ってんだけどさ」

【ふん、そんなもの……この世に匹敵するものがおらんぐらいに決まっておろうが】

「なにバカ言ってんのお前? お前の世界どんだけ狭いんだよ」

【……ほう、そんなに殺されたいか】

「だって、俺ですらお前より強い人とか強い可能性があるヤツとかわかるし。

 まず母さんだべ? 後アルセウスもそーだろ」

【……アルセウス、とはなんだ?】

「……へ? いや、お前ポケモンなのに創造主の……って、あー」

 

そうか、こいつ……【人工的に生み出された】存在だから

そういう神とか神秘とかそっち系、全く無知なわけか。

 

家畜の豚が野生の神秘を知らないのと同じレベルだと思う。

 

「まあ、アルセウスは置いといて……母さんどうにか出来んの?

 あれ一応ただの人間よ? あのパジャマ着てたおっさんが弟子ってぐらいよ?」

【ぬ、ぐ……き、きっと奇襲でも掛ければ行ける、はず……!】

 

駄目だこの脳筋。

 

「△▲☆★~?」

「お、ムウマージか」

「△▲☆★~~~~♪」

 

基本的に施設内においては手持ちを全部開放している。

そしてミュウツーと話していた部屋は機密でもなんでもない内容だったので開きっぱなしであり

そこを通りがかったムウマージが俺の方へとふよふよと飛んできて顔に頬擦りをしてくる。

 

可愛いは正義。

 

【……ふ、さすがにあの女と渡り合うのは骨が折れるが……

 そのムウマージとやら程度であれば、寝ていても出来るであろうな】

「……」

【どうした? 我が本来苦手なゴーストタイプを完封出来ると聞いて恐れ(おのの)いたか】

「…………」

「△▲☆★~~~♡」

 

 

ミュウツー……お前はなんで……そんなに死に急ぐんだ……

ムウマージはミュウツーの談義に全く興味が無いのか、俺の胸元に回り込んでぎゅ~っとしている。

 

 

 

 

んで、白い巨塔がなんかうるせーのでムウマージとバトルすることになった。

 

【全く、我の本当の力をこんな何も意味が無いところで見れることを光栄に思うが良い】

「ミュウツー」

【ん、どうした。あまりの感動に敬愛すら覚えたか?】

「勝てたら今日の晩飯、超特盛り」

【なん、だと……!】

 

結果が目に見えているのであえておだてていじってみる。

そしてその一言を聞いたミュウツーは、紫のオーラを全身に纏って完全な戦闘モードに入る。

 

「じゃ、ムウマージ……かくばくはつだけはやめてね?

 俺らが吹っ飛ぶだけじゃすまなくなるから。適当に首でも絞めてやっつけてあげて」

「△▲☆★~?」

「うん、そうそう。核はさすがに、長い間毒が残っちゃうからね」

「△★~ッ!」

 

事前に危険なモノをやらないように指示を出しておき、身の安全を確保する。

 

さて、ミュウツーはどこまでやるんだろうか。

この世界結構ありえない事ばっかだから案外倒したりして?

 

【クククッ……行くぞ、ムウマージとやら……! 

 オォォォォオォォォォッッ…………】

「おぉ、なんて禍々しいオーラ。多分あれシャドーボールか」

「☆★~」

 

気合一発、禍々しい空気とオーラを肥大化させていき

それを手のひらに纏め始めるミュウツー。その大きさ……全長が自販機並にでかい。

まあ要するに巨大な玉である。やるねェ……。

 

【ハッハッハッハッハッハッッッ!!

 消し飛べェェェーーーーーーーーーーーーーッッッ!!】

 

勢い良くこちらに繰り出されるシャドーボール。

さてうちのムウマージさんはどうするのか……

 

「△▲☆★~……」

 

溜息をひとつ吐き、めんどくっさそーに右手に当たる布っぽい部分を横に振った。

 

 

ぺちん。

 

 

ズゴガゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!!

 

 

【なっ………!?】

「おー。すっげえ威力。伊達にLv70のラスボスじゃねぇなぁ」

「△▲☆★~(^q^)」

「ん、何々……正直期待はずれ、ってか。……んーまぁ、うん、ノーコメント」

「△▲☆★~△▲☆★~♪」

「よしよし、良くやったなムウマージ。

 それじゃあまあなんか適当に反撃しちゃえ」

「△▲ー!」

 

自分の渾身の一撃がまるで母さんを相手にしているかのような対処をされ、ミュウツー呆然。

そしてムウマージは……なにやら詠唱に入り始めたようだ。

大規模な災害級のものでなければ、もうなんでもいい。

自重だけはしておくれよ、ムウマージよ。

 

そしてムウマージは詠唱を終え、両手を上に掲げた。

その掲げた両手の先からは、ちょっと丸っこい黒いモノがぽこんと出てきて

 

 

 

さっきのミュウツーどころじゃない巨大な大きさに一瞬で膨れ上がった。

 

やべえ、あれも核と同じようなもんじゃなかったっけ……重破斬って。

 

【           】

 

その大きさにミュウツーは口を開けて、尻餅ついて放心している。

てかお前その無防備であれもらったら死ぬんじゃないかな、かな。

 

そしてその巨大なやばい黒い玉を、ムウマージが放り投げ……なかった。

玉の形状をした、おそらくは重破斬であろうモノがムウマージの手のひらに収束されて行き……

 

玉の形状から……いわゆる、ツーハンドソード形式の大きさまで絞り上げられ

なんかばちばちした棒? というかなんかそんな形状の長いモノにまとまった。

 

「△▲☆★ーッ!」

 

そして一声可愛らしい鳴き声をあげて、その棒状のものを勢い良く振り下ろし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、宇宙の片隅にある「地球」という惑星は崩壊した……。

球状の惑星が、一瞬で二つに割れ……その軌跡は地球の重力を形成する場所まで破壊が及んだ。

 

結果、その重力波からもたらされる色々といけませんなエネルギーが巻き放たれた結果

数秒後、木っ端微塵に吹き飛んだのだ。

 

 

1000年後、ジラーチが宇宙外から地球があった場所に辿り着いた時

何も無いその空間を見て、一人号泣したと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ~ うちのポケモンがなんかおかしいんだが ~

 

 

                BAD END 8   地球滅亡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 






今日も気楽に世界滅亡




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間3 バグ


ちっくしょう閲覧者め。
ムウマージの可愛さだけにやられず本編の方でも突っ込んでくれよ。
トリトドンケーキマジ可愛いんだぞこのやろう。



 

 

 

「ん~む、やはりいきなり状況の改善とまでは行きませんか」

「それはさすがにね……

 だが君が協力を申し出てくれたおかげで、前と今では比較にならない位にいい方向に進んでいるよ。

 私も睡眠時間が増えて体調が改善したよ」

「ミュィ」

 

俺がロケット団の指針に関してあれこれ言い始めてから、二週間が経過した。

 

元々が人という資材の提供となるため

元手が殆ど掛かっていないのもあり、働けば働く分だけ黒字が計上されている。

 

しかしそれでも、まだまだ自転車操業なのは否めない。

たったの二週間では、目に見える形で結果が出てくるわけではない。

それが非常にもどかしい期間といったところである。

 

「んん~~~~」

 

本も出版しはしたが、それも話題性が皆無なところからの発案。

やはりこちらも劇的な変化は起こっていない。どうにも、もどかしい気持ちが溜まっていくわけで……。

 

久しぶりにみんな呼んで、大道芸広場で音楽でも鳴らすべきだろーか?

しかしそんな暇があるなら───

 

 

「……思い悩んでいるようだね、それらが殆ど私達に関わる事であるのはうれしいが……。

 タツヤ君、たまには気分転換で出かけてみてはどうだね?」

「気分……転換、ですか」

「君がこちらに着てから休日らしい休日もないだろう?

 今日一日、これからフリーにしてやりたい事でもやってはどうだい」

「んんんん~~~」

 

やりたい事っつってもなぁ……特にないんだよなぁ。

やってみっか的な事はさっき述べた大道芸関連だが。

んでもまぁ……ここでウジウジしてたって仕事の邪魔になるだけか。

 

「わかりました、お言葉に甘えておきます」

「うむ、それが良い。こんな地下にずっといる事なんてないしね。

 私達の団員も頑張ってくれているからな。君一人を少しの間、自由にする余裕はあるつもりだよ?」

「はい、そんじゃまあ適当にブラついてきます」

 

 

そんなこんなで急に休暇が舞い降りてしまった。ポケセンに戻ってみんなと話し合ってみるか。

 

 

 

 

「ま、そんなわけで一日余裕が出来たんだが……みんなはなんかやりたい事とかあるか?」

 

俺の手持ちをみんな集めて、ひとまず聴いてみる事に。

 

「ディ~……」

 

ドレディアさんはすぐに思いつかないようだ。

スロットも最近飽きてきたって言ってたしな……

 

ドレディアさんの今のところの貯蓄枚数は8000枚程度に落ち着いている。

あの大爆発後から、徐々に徐々に減って行ってる感じなわけだ。

 

まあやる気が落ち込んで行くのはよくわかるがね。あの大爆発味わった後じゃな~……。

 

「ミロカロスは?」

「ホ、ホァ……ホォ~ン」

 

【わ、私はみんなでお昼寝でも出来れば……】と謙虚な答えが帰ってきた。

うーむ……いじらしい子やのう。お昼寝ってところがまた、な?

 

なんとなく傍に寄ってミロカロスの頭をグリグリ撫でておいた。

 

「ムウマージはどうだね」

「★」

 

【無し。】ですか。ストレートすぎてどうしよう。

 

皆そんなにやりたいのは無かったってことかね……ミロカロスのお昼寝でも取り上げようか?

 

 

○ノ  ←ダグONE

   

「ん?」

 

ダグONEが挙手した。何かやりたい事があるんだろうか?

 

「─────、─────。」

「ほう、ジムか……そういや確かに一度も行った事無いな」

 

ダグONEは、【戦わずとも良いので、ジムという施設が何たるかを確認させて頂きたい】と言っている。

 

ゲーム中ならチャンピオンロードに入るため、必須なバッヂであるが

俺自身別に最終目標がそこにあるわけでもなく、どうでもいいなと思いながら旅を続けていたわけで……

確かに見学とかそっち方面ならありか、と思ったのだ。

 

「みんなはどうよ?」

「ディァ!」

「ホ~ァ」

「b」

「d」

「△▲~☆★~」

 

 

全員問題ない、との事である。

 

そんじゃーのんびり見学でも行きますかー。 

 

 

 

 

ってわけでやってきましたタマムシジム。ゲームだと生け花教室も兼ねてんだっけ?

ひでりロコンとか持ってったら凄いちやほやされそうな場所だ。

 

「おっす! 未来のチャンピオン!」

「あ、ごめんなさい。俺挑戦者じゃないっす」

「ぅおう! いきなり消極的だな。お兄さんちょっと悲しいよ」

 

別に良いじゃないかー。

そんなわけで中に入って行く俺。

 

 

※初代の赤緑だと男禁制なため、アドバイスくれるお兄さんは外につまみ出されてます

 

 

「あら、新しい挑戦者の子~?」

「うわぁ、今回もちっちゃいねぇー。可愛いー♪」

「おぉぉうなんだなんだ、俺は挑戦者じゃなく見学に来ただけでござるますよ?」

「あれ、そなの」

 

なにやら入り口でお兄さんと会話している間にサーチされてしまったのか

入り口のほうにどんどん人が群がってきてしまった、ジムの都合上みんな女性で居心地が非常に悪い。

 

そしてふと入り口のすぐ横に立っていた石像が気になり、ちょいと閲覧。

 

タマムシジムにんていトレーナー!! 2かげつばん

 

─────

─────

─────

グリーン

─────

─────

─────

─────

レッド

─────

─────

 

……

 

おほー……やっぱりレッドさんより遥か前にここを突破していたか、グリーンさん

意外な事にレッドさんも既にこちらを突破していた。本当にあの人いつこの街に来たんだ?

もしかしたらこの二週間の間にすれ違っただけかもしれないが。

 

「ん、石像……?」

 

石像ってそういえば……。

 

 

「あれぇ、皆さん~どうなさったんですかぁ~?」

「あ、エリカさんー」

「挑戦者じゃないんだけど、見学希望って子が来てましてー」

「あら~そうなのですか~、……あれぇ? 何故かどこかで見たような~……」

 

なにやら後ろで、なんかサントアンヌ号の人質室辺りで聞こえたような声がするがとりあえず放置。

俺はこの石像に関して色々と思案してみる。

 

「ミロカロスは今なみのり覚えてないし……覚えてた所で多分やれないよな。

 っと、そうだ……確かミュウを釣り上げた時にコンパクトにしといた釣竿が……」

「ディ……?」

「ホ、ホァ……?」

『……???』

 

ふむ、よし……やってみるか。

なみのりのが一番楽しそうだったが。

 

「こんにちわ~。えーと、どこかで~、逢った事……

  ? あれ、なにをやっているんですかぁ~?」

「ど、どしたのボク。釣竿なんて出して」

「すいません、皆さんちょっと離れてください」

「あ、はぃ~」

「??? はーい」

「ディァー」

「ホァ~ン」

 

そうして俺はちょっと皆に距離を開けてもらい、石像を前に釣竿を構えた。

 

「えっと、本当に何してるのかな?」

「まさか壊すつもりじゃ……でも釣竿で壊れるわけないわよねぇ」

 

よし、準備完了。多分起こる。

 

「ていっ」

 

ひゅんっ。

 

 

 

 

 

ぽちゃ。

 

 

 

俺が釣竿から重りを放物線上に石像に放ち

そして重りは石とぶつかった音ではなく、まるで水が波紋を打つかの如く

やわらかい音を残し、ズブズブと糸が石像の中に沈んでいった。

 

 

 

「「「「「「え。」」」」」」

 

 

「んん~、やっぱり出来たかー……さて何が……っと来たか、せいっ!!」

 

ボロの釣竿だし、全然期待はしていないが

きっちり出来た事に意味があると差別化し、釣竿を引っ張った。

 

 

ザッパァァァン!!

 

 

「コッコッコイコィコィコィコィコィコィッッ!!!」

「よし、釣れた!」

 

「「「「「「何これぇーーーーーーー!??!?!?」」」」」」

 

「あらぁ~」

 

 

とりあえずコイキングが襲ってきたので

ドレディアさんのストンピングでぺちぺち踏んづけて追い返しておいた。

キャッチアンドリリースとは違うが、逃がす場所が石像しかないので

ドレディアさんに石像に放り込んでもらった所、やはり戻っていった。

 

ん、周囲が唖然としている。

 

あー……まあ当然といえば当然か。

俺も現実で忠犬ハチ公の像を使って釣りをし始めて、なおかつサバとか釣れたら同じ反応になるだろうし……。

 

「……よかったら、やってみます?」

「……え? 私にも出来るの?」

「多分出来るかと……どうぞ」

「え、ええ……、ふー…─えいっ!!」

 

 

ぽちゃ。

 

 

やっぱり出来た。

 

「う、うわ!? 来たっ、来たよ!! 本当に来てるッッ!!」

「え、ちょっとちょっと本当に!? 頑張って頑張って!!」

「う、くくくく……えぇーーーいッッ!!」

 

 

ザパァーーン。

 

今度はメノクラゲである。ぼろいからLv5だが。

 

「キャーキャーーーー!!」

「何これすっごーいッ!!」

「えー!? なんなの、なにこれどういうこと!?」

「と、とりあえずフシギソウ! やっちゃいなさいッ!!」

 

ペカァァァン。

 

「フッシー!!」

 

あちらではメノクラゲとのバトルが始まった。

まあ楽しんでくれてるみたいだし、しばらく釣竿は貸しておこうか。

 

 

そんなこんなでタマムシジムにてバグを試したところ、やはり出来たのだった。

ジムの見学もそこそこさせてもらい、トレーナーとの対戦などを見て

相変わらずこの世界はそこらのトレーナーの腕がやばいなと認識した休日だった。

 

マニューラまもみが耐久型とかアホじゃねーのマジで。

しかもきっちり勝ってたし。

 

 

 

 

後日談として。

 

このタマムシを発祥として、各カントージムに『試してみてくれ』との連絡が通達され

カントー全体に石像で釣りが出来るという謎現象が発生し

結果……ジムどころか、ポケモンリーグ横の石像ですら出来たとの事である。

 

加えてニビジムでは何故かミニリュウが釣り上げられ、大いに賑わったらしい。

 

発見者が俺だということをサカキに伝えた所

苦笑しながら「予想してたよ」と言われたのはどう考えればよいのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

「うん、今日はなかなか楽しい日だったな」

「ディーァ!」

『bbb』

 

突然の休日に最初は一体どうすればいいのか迷ったものだが

旅をし始めて一度も訪れた事が無いジムを尋ねたのはなかなか楽しかった。

 

思いつかなくてもやれることなんて一杯あるもんだね。

そういうのが知れたってだけでも、本当に良かった気がする。

 

正直なんかクチバから出てからずっと切羽詰ってたような気がしないでもないしなー。

 

 

「よし、今日はみんなで一緒に風呂でも入ろうか。

 のんびり茹でダコになった後でゆっくり晩飯食おうぜー」

「△▲☆★ー!」

「ホァ~~~!」

 

今日の晩飯は何作るかねー。

ダグ共に手伝ってもらってうどんでも作っちゃいますかね。

 

あぁ、お風呂も晩飯も楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ~ うちのポケモンがなんかおかしいんだが ~

 

 

                BAD END 17  宇宙消滅

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                       fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






年末は凄まじく忙しくなる可能性が圧倒的に高いので
1週間近く更新出来ない可能性があります。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

80話 ロケット団繁盛記 ロケット団解散

少し時間が出来たので投稿


 

「……そうですか」

「あぁ……それが必要というのは、認めたくはなかった。

 それでも君に言われてから、認識だけはするようにしていたからね……決着は、ついたよ」

 

 

有限会社の弾頭を100%活かす為にどうしても歩かなければならなかった地雷原……

ロケット団の解散は、三週間目にして漸く一息ついたようだ。

 

 

「ちなみに、子供の名前ってなんでした? まさかグリーンとかじゃないっすよね」

「む、グリーンとは確かオーキド博士のお孫さんではなかったかい?

 さすがに私もそれぐらいは知っているよ」

 

あー……まあサカキってこの世界限定だとかなり顔広いしな。

グリーンぐらいなら知っていても不思議はないか。

 

「まあ、それはどうでもいいか……最終的にロケット団の形はどうなりましたか?」

「……幹部達で話し合ったんだが、代役に関しては全員立候補してくれてな。

 その一部が出頭して、嘘と本当を混ぜた事情を警察に述べて行くとの事だ」

「……本当に、部下に恵まれてるんですね」

「そんな彼らを、活かして管理出来なかった自分が憎いよ」

 

 

話をまとめてみたところ、意外な方向性で解散へ持っていったようだ。

 

 

幹部が全員立候補。

その上でボスの存在が外部に漏れていない。

ならばいっそボスは自分達の虚像で、下っ端を動かすための口実だったとしたらどうだ。

 

どっかの世界の武田信玄化、といったところである。てばさき部隊強いらしいねぇ。

 

そんな内容になり、初めからサカキがロケット団の内部に存在していなかったという方向性になった。

 

一応、俺も疑問が残ったので

 

「サカキさんは一度この基地で子供と戦っている。

 その子供がロケット団とサカキさんの関連性についてリークしたらどうするんですか?」

 

と、問いただした所……

 

「その子供一人の発言と、最強のジムリーダーの私の発言……どちらの発言が、信じられるかな?」

 

といわれてしまった。

 

汚いなさすがサカキきたない。

 

確かに警察とかの捜査でも、子供の目撃情報とかは無効にする事が多い。

当たり前といえば当たり前なのだが、そういうところで常識を使ってくるとは……。

 

この世界のロケット団は組織としてレベルが高いようだ。

 

 

そんなわけで、ある意味代役を立てるという方法より

サカキの身の上限定で考えればかなり効率的にロケット団の解散は済んだ。

これから動ける幅も増えて行くことだろう。

 

弾頭の未来は明るそうである。

 

 

 

 

 

 

「───つーわけでさぁ、もっとこう、な? サーナイトにウサ耳をつけたりしてだな」

【しかしそんな事をしてしまえば

 ミミロルだかミミロップだかというのとキャラが被ってしまうのではないのか?】

「ばっかお前わかってねーなぁ。───可愛いもんには何つけたって可愛いんだよ」

【なんと、そういう発想か……】

「でもまあやっぱ小動物的な可愛さの方が人気は出そうだなぁ。お前は何か案はないかね」

【その場で言われてすぐ出せるなどただの化け物ではないか。

 いくら私が優れているとはいえ無茶振りを出すな】

「良いモン考えられたら夜飯豪華にしてやるぞ」

          

             0.3秒

 

【人間の行事に従ってポケモンが何か知らしているというのはどうだ。

 バレンタインとかいうイベントも貴様達の間ではあっただろう。

 その行事に従い、我等ポケモンが笑顔でチョコをだな……】

 

「お、それなかなか良いな。もうちょっと考えてみようか」

 

なるほど、行事か……初詣、七夕、運動会……?

 

……ッ!?

 

サーナイトに水着ッ!? やばい、これで勝つる。

 

【貴様の頭の中はピンクな発想しかないのか?】

「うるせー、価値観が違うんだい。ばーやばーや」

「君らは相変わらずよくわからない会話をしているな……」

「ミュゥ」

「お、サカキさん。リーグとの交渉はどうでしたか?」

 

基地でまたミュウツーと今後の写真集に関して話し合っていたところ

ポケモンリーグにロケット団の引継ぎ的な内容を詰めていたサカキが戻ってきた。

 

 

「あぁ、やはり君の言っていた方向性と、部下が見出してくれた道が

 凄まじく形になってくれているらしい。

 私が『残った連中が暴走しないように面倒を見よう』と言ったら

 鶴の一声で会社規模の援助が確定したよ」

「おーぅ、まさかそんなにスムーズに行くとは」

 

やはり厄介者を引き受けてくれるのはありがたいと思われるようだ。

 

まぁ、確かにカントーとジョウトじゃロケット団以外に迷惑な団体って居ないからな。

悪の組織のでかいところが消えたら、クリーンなイメージを保てるとでも踏んだかな?

大人達ってなぁ、見栄と面子大切にするからねぇ……。

 

 

そして俺は、机に置いているサイコソーダを飲みつつサカキに尋ねる。

 

「そんで、お幾らほど見積もって貰えたんですか?」

「ひとまずの方向性として、2000万の融資を受ける事が出来たよ」

「ッッブーーーーーーーーーー」

【ぬぁっ?! 貴様、私に向かって噴き出すなァッ!!】

【wwwwww】

【ミュウッ!! 貴様も指差して笑い転げるなァッ!!】

「わ、悪いミュウツー……。に、20,000,000円っすか……」

「まあ、無理もない。正直私も端金を掴まされて尻拭いに回されると思っていたんだが……」

 

 

んーむ、これは嬉しい悲鳴と見るべきなのか厄介者として捉えるべきなのか……。

しかしこの金に安心して2000万をすり減らしていくよりは

このままの方向性で地道でも良いから金を稼げる道を探し続けた方が良いだろう。

何かあった時にどちらが対応出来るかと言ったら間違いなく後者である。

 

 

 

 

とりあえず2000万に関しては、元々後回しにする予定だった開発部に回す事になった。

この金を元手として、研究費用と研究員を弾頭に招き入れて本格的にやるらしい。

 

 

 

まあそんなものは今はどうでもいいんだ。

 

 

 

「お前だってサーナイトが巫女服姿だったらすっげー興奮するだろ!?

 正直に言え!! 嘘ごまかし一切無く言え!!」

【馬鹿者ッ!! 貴様の行く道は邪道でしかないのが何故わからぬ!?

 時代はファンシーな方向に向かっているのだッッ!!

 バチュルとかいう小さいポケモン20匹に囲まれてる姿を想像してみろッ!!

 この私でも鼻血を出して一撃必殺だぞッ!?】

「……っへ、お前とは一度拳を交えて話さなきゃ駄目らしいな……!」

【ふん……可愛いモノへの愛に溢れ返った私を倒せるとでも思っているのか!?】

「ミュウ、よかったら一緒にお昼の食事でもどうかな?

 たまにはタツヤ君が作った物でもなく、外食でもいいだろう」

「ミュッ!? ミュゥ~♡」

 

 

ガチャ、バタン。

 

 

「俺のターンッ! 初音ミク姿のミミロップを場に出してターンエンドッッ!!」

【私のターンッ!! 窒素ガスを詰められ飛べなくなって

 横たわったフワンテを場に出してターンエンドッッ!!】

 

 

あーだこーだあーだこーだ。

 

 

俺らの命を賭けたよくわからない何かの会合は基地で夜飯が始まるまで続いた。

 

 

 

 

 

 

良い時間になってしまったので、WM(ダブルミュウ)を連れてポケセンに帰ろうとしたのだが……

なにやら帰り道の向こう側が騒がしい。

 

 

「なんだぁ……? ここら辺で騒ぎがあるなんて珍しいな」

【ふむ……? 確かにここら辺の地形は、我等が滞在している上部の階層にある

 ゲームセンターとか言う施設のために警察組織とやらも治安に力を入れているようだが】

「確かにああいう遊技場ってのは風紀が乱れて何かしらの問題の種になるもんだが……

 お前その詳細どっから引っ張ってきたんだ」

【そこらにいる制服を着た者達の頭の中を覗いたに決まっておろうが】

 

なにそれ怖い。こいつ野放しにしといていいのか。

 

【君、とことん俺様体質のままだねぇ……】

「まあ別に俺は困んねーからどうでもいいけど」

【君ももうちょっと危機感持ったほうがいいよ……?】

 

 

とまあ、そんな理由は置いといても騒がしいわけだ。一体どうした、ん、だ───

 

ちらりと見えてしまった光景に俺は思わず頭を抱えてしまった。

 

 

騒がしい理由は、だ。

サイクリングロード辺りに居る暴走族とかがタマムシに凱旋しているから、だと思う。

最後尾にはカビゴンも見えるな……。異常な光景だ。

 

そんで、だ。

そいつらがまあ、暴走とは言えない程度に群がって整列しながら道路を走っているわけなんだがね?

なんていうのかな、ちゃんと一車線を横三台で走ってる感じ。

まるで軍隊パレードをバイクで行進するみたいにさ。

 

 

 

 

 

 

でもって、なんでその団体の先頭がドレディアさんの運転するバイクなんだよ。

 

 

 

 

 

【お、おい……あの草の嬢は貴様のところの子ではないのか?】

【うん、ってか間違いなくそうだよね、あれ】

「もう帰りたい……」

 

 

どういう事なの……。

 

 

「ディッ? ディァ! ディァー!!」

「げっ、こっち気付きやがった」

 

見てみればあいつ、すっげーにこやかに笑顔向けて来てるし。

ん? 全員に指令を飛ばし始めたぞ。

 

キッ、キキッ、ザカザカザカザカッッ。

 

おぉぅ……なんとまぁ、統率が取れている。

全員が路肩に2台ずつきっちりと並べた上で停車し始めた。

 

「ディーッ! ドレディーァ!」

「うん、えっと、おかえり……。ドレディアさん、何してんのアンタ」

「ディァー、ディァ、ドレ、ドレーディァー。」

 

…………。

 

【今日、みんなどっか行っちまって暇だったから

 散策してたら前に寝てたカビゴンが居る道に出て、邪魔だったからぶっ飛ばした。

 そしたらなんか、姐御と呼ばせてくださいって言って着いてきた。

 んでもってそいつが寝てた道の先に行ったらこいつらが居て

 やたら絡んでくるから全員、手持ちのポケモンごとぶっ飛ばしたら

 俺らのリーダーになってくださいとか言われて、バイクもらった】

 

 

…………。

 

 

「おい! ガキっ、てめぇ! 姐さんに対して頭が高ぇぞっ!!」

「…………。」

 

なんかごっついモヒカンが俺に絡んできた。

 

「この姐さんはなぁっ! 今まで誰も成し遂げられなかった

 サイクリングロードの族の統一を果たした偉大な方なんだぞぉっ!?」

「カビッ! カビゴッ!」

 

カビゴンまで絡んできやがった。

 

「それがわかったならきっちり頭下げんかいコラァっ!!!」

 

「俺こいつの主なんだけど」

 

「すんませんっしたぁーーーーーーーーーー!!!!」

『すんませんっしたぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』

「ゴッゴンーーーーーーーーー!!!」

 

全員一人として息を乱す事なく俺に土下座しやがった。

 

周りで見ていた人たちもドン引きしてすっごい良い迷惑である。

俺の平穏はどこにあるのー。

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、とりあえず結果としてだが……。

弾頭の構成員が増えた、とだけ追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            ~ うちのポケモンがなんかおかしいんだが ~

 

 

                BAD END 4 とりあえず滅亡

 

 

 

 

 

 

 

 

                       fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ムウマージは相変わらず凄いなぁ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

81話 ロケット団繁盛記 アイテムの開発

ムウマージの地球滅亡期は前回で終了しました。
本来は今回も、とある形で滅亡させようとしていたのですが
おまけではなく完全に本編に絡む形だったのですけれども
調整があまりにも面倒くさすぎて諦めました。


 

 

 

「ふー……今日も良い朝だ」

「ホ~ァ~♪」

『ッbbb』

「△▲☆★~♪」

 

綺麗な朝日を浴び、俺らはポケモンセンターから出てそれぞれの行く場所へ向かう。

 

ちなみにドレディアさんは朝早くから出ている。光合成しながら頑張っている事だろう。

 

俺達がタマムシに来てから既に一ヶ月が過ぎようとしている。

そういやもうちょいで俺の誕生日だなぁ……31回目の。

 

ま、この辺りまで生きている人ならもうお分かりと思うが

誕生日如きで大騒ぎする年齢は既に通り越してしまっており

こちらの世界でそれを祝ってくれる人が居ることは素直に嬉しいが、別段どーでもいいのが本音。

手持ちの子達にも俺の誕生日は言ってないし、今年はそのままスルーとなるだろう。

 

 

「んじゃまた昼にでもー」

 ○ノ ○/ ○ノ      ←ダグ共

「△▲☆★ー!」

 

そうしてムウマージと地面三人衆は街の外の方へ歩いて行き

俺とミロカロスはそのまま弾頭地下施設へと向かう。

 

 

あいつらがが一体何をしているかについてだが、どうも最近のんびりしすぎている感じがあるとの事で

ムウマージの指揮下の元、色々と鍛えているのだそうだ。

 

レベルからして色々な経験が段違いなんだそうで、参考になる事が多々あるらしい。

 

 

「ホ~ァ、ホァ」

「ん、なんだねミロさんや」

「(クイッ、クイッ)」

「たまには背中に乗らないか、とな」

 

 

んん……確かに最近よく乗っていたダグONEが別行動なせいで、基本的な移動は徒歩ばかりだ。

物に乗っているイメージが全然沸かない。まあちょいと目立ってしまうが別に構わんかのう。

 

「んじゃ頼むかな、背中借りるよ」

「~♪♪♪」

 

ミロカロスは俺が腰を落とした辺りでとてもご機嫌になる。

そういや人を乗せるのが好きなイメージが結構あるなぁ。

最初に進化したときもすっげー乗れプッシュって感じだったし。

 

 

そんな感じでズリズリと二人で地下施設に進んでいると、ドレディアさんを見つけた。

 

「おっす、頑張ってっかい」

「ディ? ディーァ~!」

 

あちらもこっちに手を振り、返答する。

周りでは元暴走族の弾頭構成員がせっせこせっせこ街の掃除を行っている。

 

 

さて、ドレディアさんの今の担当だが……要はあれである。

見かけが悪いやつらが良い事してると二倍よく見える作戦。

 

新たに弾頭に入る事になったサイクリングロード族はそのインパクトの真逆を用いて

街の清掃に当たらせる事にしたのだ。

 

今日で丁度十日目ぐらいであろうか。

ゴミもかなり集まっており、集まっているという事は当然どこかは綺麗になっている。

 

ついでだからゴミを分別させて、空き缶類は溜めた後に金属屋に持っていって金にしている。

そしてその金は暴走族達の仕事が終わった後のジュース代となるわけだ。

 

まあ正直異様な光景を作り出した自覚はあるんだが……最近からだろうか?

普通のおばちゃんたちもボランティアに参加するようになっている。

 

暴走族達もまだまだ言葉遣いは荒いが、世に反発する形で暴走をしていた関係上の話で

そのおばちゃん達のおかげで、周りの大人全てが敵ではないと自覚してきたのか

和気藹々としながら、おばちゃんと一緒にゴミ拾いや清掃活動をしている。

 

 

「んん、今日も良い感じだな。これもドレディアさんのカリスマの成せる業か」

「ディァ~///」

「ホ~ァ♪」

「ディッ!!」

「よし、今日の晩飯は力の限りおいしいものを用意しよう。

 頑張ってくれよ? 期待してっから」

「!」

 

【やっべ、超頑張る!!】と意思を返し、また清掃活動の指導へと戻って行く。

ドレディアさんは本当に姐御肌が似合うなぁ。

 

 

 

 

というわけでin弾頭地下施設。

 

今日はサカキもミュウも一日レベルで外回りの予定だ。

契約社も7社にまであがり、順調に雇用を得られているようである。

 

まあ、おそらくそろそろ問題が発生してくる時期だと思っているのだが

サカキも面倒見が良いし俺も31歳目前のおっさんだから悩みがあれば、何かしら相談には乗れると思う。

目の前に問題が出てきたら対処でOKだろうな。

 

【ぬ、貴様か……今日も写真集の戦いか?】

「おうミュウツー、今日は違う。開発室行ってくる」

 

施設内で突然ミュウツーとかち合う。

 

最近はポケモンの可愛い系写真集の内容に関して

互いに口を酸っぱくしながらものっすっごい内容を語りまくっている感じである。

 

そしてときたま弾頭内で発生する問題を、サカキが居ない場合に限り

二人で処理しに行ったりと、まあ他のやつらよりは比較的のんびりした日々を過ごしている。

 

 

たまに殺し合いに発展してるけど。

 

 

【開発か……ふん。(ニヤァ

 脆弱な人間共は何かに頼らねば生きていけず、悲しいものだなぁ?】

「ミロカロス、そっち右に頼むわ」

【おい無視するな貴様ッ!!】

 

ずりずり~っとミロカロスが移動していき、ようやく開発室。

五日前ぐらいにサカキが集めてきたはぐれ研究員が、部屋を使って色々と開発しようと頑張っているらしい。

 

 

カチャ

 

「こんちわっすー」

「ホァ~~。」

「ん……、おぉタツヤ殿か。これはこれは」

「タツヤ殿か、御機嫌よう」

「タツヤ殿、今日はどんな用事かね?」

 

 

現在研究に割り当てられている人員は三人。

そして何故か俺は彼らから殿という敬称を付けられ呼ばれている。

 

どうやらサカキがここを立ち上げるに至る俺のやらかした事と、31歳の中身を説明してしまったらしい。

まあ言いふらさなければ困るもんでもないから放置してるんだが。

 

「はい、今日は色々と開発案を持ってきまして……」

「む、開発したいものか……すぐに出来るようなものなのかな?」

「まー多分無理と思ってるんですがね。夢は広く持ちたいので」

「そうかそうか、よければ話を聞かせてもらえるかね」

【一体何を作り上げるつもりなのだ、貴様は】

「とりあえずはまあ候補はまとめて来たから……こんなところかな」

 

そして俺は研究室のテーブルに手書きの書類を並べていく。

その内容は……

 

 

【E缶】

【ファイアフラワー】

【スーパースター】

【1upキノコ】

【すけすけのたび】

【まっぷのかーそる】

【たつじんめがね】

【タイム風呂敷】

【もしもボックス】

【バブルローション】 ←名前は穏やかだがとあるゲームで使える、隠しボスすら即死させるアイテムです。

【バーニィシューズ】

【健康スリッパ】

【バスターコール】

【アルテマのマテリア】

【おさわり探偵なめこ栽培キット】

 

 

「……これ、は」

【……名前を見ただけでは全くわからん。なんなのだこの謎の文字の羅列は】

「一応わかりそうで、なおかつ開発が極限までつまらなさそうなのは健康スリッパかね?」

「ああ、うんまぁそうですねぇ……」

 

とりあえず思いつくものを書き並べてみたのだがこれはさすがに失敗だっただろうか。

なんか一部やばいのもあるし。

 

 

 

 

健康スリッパを除いて、他のものはほぼ開発が絶望視されるものなので

気楽に選んだ【すけすけのたび】を一番最初の開発案として回す事にした。

 

知る人はいなかろうと思うので簡単に説明しておこう。

 

すけすけのたびという物は、あるゲームで登場した

気楽に買えるゲームバランスブレイカーとも呼ばれる、足に付ける道具である。

 

そのゲームでジャンプをすると、まぁ普通に放物線を描いて落下するのだが

このアイテムを装備すると……ジャンプ力関係なく、まるで重力軽制御空間のように

ふわりとジャンプする事が出来るようになるアイテムである。

ちなみに滞空時間は10秒を越えていた気がした。

 

どのぐらいバランスブレイカーかというと

ゲームの普通のマップでジャンプだけで移動すれば6、7回。

場合によってはそれ以上ジャンプをしなければ画面端まで行けないのだが

それを装備するとジャンプ1発で、ゆるい軌道を保ちつつ画面端まで行ってしまうという

コントロールが難しくはあるものの、装備してて楽しい道具No.1である。

 

しかもこれだけの内容が、もう一度強調するが『気楽に買える』のだから

昔のゲームは楽しかったものだなぁ……と思ってしまう。

 

ちなみにそれで浮いてる間にせんぷうきゃくをすると

どんどんと加速していき、最終的にとんでもない速度で画面端に到着するようになる。

 

 

んで、この世界はなにやら一部へんてこな内容で狂っているため

『名を鑑みるような外見だったらその効果になるんじゃね?』と

こじつけすぎる内容が思い浮かんだため、早速実行してみようと思ったわけなのだ。

 

 

「なるほど、そんな道具か。作れたら確かに面白そうだが……同時に危険ではないか?」

「そうだな……そんなコントロールが難しいもので着地に失敗したら

 酷い擦り傷を負いそうだし……着地地点によってはグロテスクな事に成りかねないぞ?」

「ホァ~~……」

【ふ……所詮人間が考えそうな物よな。

 私のようにサイコパワーを用いて浮けば良いというのに……クックック】

「てわけで早速作るだけ作ろうと思います。

 そして期待はしていないのでさくっとやっちゃいますから

 ちょっと研究室の隅っこ借りていいですか?」

【おい無視するな貴様ッ!! 地味に傷付くんだぞその対応はッ!】

 

 

さっきからいちいち突っかかってきてミュウツーがうるさい。

可愛い系の画像でも思い浮かべて黙らせてしまおうか。

 

 

「まぁ、こちらは特には構わないよ。

 一応私達も何かしら益が出るような物がないか調べているから

 騒がしくさえしなければ問題は無い」

「あい、なるべく邪魔にならないように静かにします。

 まあ大騒ぎするとしても、どうせミュウツーだけだろうし」

【貴様サイコキネシスでねじ切るぞっ!?】

「ハッハッハ、確かにそうだな!」

「フハハハハッ!! タツヤ殿はボキャブラリーにも優れているなぁ」

【同意するな貴様等ァーーー!!】

 

 

ま、そんなこんなで開発室の一部を間借りする事に。

 

ミロカロスは研究員の方へつけた。こいつの美の像が何かしらの開発に繋がる可能性もあるからな。

 

 

 

 

では材料の紹介に移ります。

 

 

・職場の机とかに敷かれてる透明なマット

・ミュウツー

 

 

以上になります。

 

ちなみに透明ならビニール袋でもよくね? と思った人へ送る。

そんな薄手や破けた時怖いじゃないか。透明だったら良いってもんじゃねえぞ!

なので透明でありなおかつ柔軟性もそこそこありそうな、机のマットとしたわけである。

 

 

【というか何故この私が材料なのだッ!?

 貴様、私を過小評価するのもいい加減にしろよ……!!】

「…………。」

 

ちょっとうるさくなってきた。

頭に和む映像でも描いて読み取らせて静かになってもらおう。

 

よし……

 

チルタリ+エルフン+モココ+ワタッコ勢揃いのコットンガードでもっふーん!!

 

【なっ、う……おぉっ!?】

 

ぱたり。

 

俺の頭の中での鮮明な映像が見えたのか

ミュウツーは静かに倒れた。しかも鼻血付きである。精神が弱すぎる……。

 

ま、いいか……とりあえず製作作業である。コイツの出番はもうちょい後で良い。

 

 

1.分厚いカッターを取り出します。

2.足袋の形になるようにマットを切り取ります。

3.四対作ったら完成~♪

4.あとはミュウツーの謎パワーを用いて適当に接着。

  こんなもんに糸通したら針がイカれる。

 

 

 

「うむ……よし。おーいミュウツー起きろー。

 早く起きないと姓名判断士のとこ連れてってギーグって名前に改名すんぞー」

 

【それは別のゲームだぁーーーーーーっ!!

 

 って、ハッ!? 私は今何を……!?】

 

「よし、起きたか。これを頼む」

【貴様、私が貴様の脳内を読み取れるからといって、最近頼み言やらなんやらが適当すぎるぞ……】

 

だって説明したところで必要の無い行動じゃないか。

無駄な事は省くもんである、それになんの文句があろうか。

 

【ふむ……こう、か?】

 

ミュウツーがサイコキネシスで俺が仕上げた四対の足袋型を浮かせ、何やらグニョグニョと揉み始める。

そしてそれが終わった後には、よくわからない原理で接着された透明な足袋が!

 

「これには匠もご満悦」

【何を言っているのだ貴様は】

 

ミュウツーがそのまま念力でこちらにポーンと渡してきたので、早速手触りを確認。

 

うん、まあ……あれだ。これ人の履くもんじゃないね。

むっちりごわごわで、通気性も無く肌にぺとつく。せめて靴下を履いてから履く必要があるな。

 

 

「ま……適当な作りだとこんなもんだよなー」

【で、これがどうなるというのだ】

「いやまぁ、俺だってこんなもんでそうなると思ってないけどね。

 とりあえずやってみようか」

 

 

そして軽くぴょいっと跳ねてえぇぉぉおえおおあおあおあああああああああ!?!?!?

 

 

「うぉぁあああぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーー!??!」

【なぁっ?!】

 

 

まるで慣性の法則がヤクザと化したかの如く理不尽な速度で、俺は壁に体当たりをしてしまった。

ミュウツーも普段びっくりしないのに、今回ばかりはドン引きしている。

 

 

「あでででで……。おいおいこれまさか……」

【お、おいっ! 大丈夫かッ?! 今、なにやら生き物として軌道がおかしかったぞ!?】

「いや、うん、なんていうか……

 完成しちゃった。これ、まんま『すけすけのたび』だ……」

【そ、そんな簡単に出来上がるものなのか……人間とは侮れぬな】

 

 

いや、絶対これはただの偶然だ。

こんなのが開発できるんならどっかの誰かがこの世界の史実のどこかで開発に成功しているはずである。

 

 

「タツヤ殿、今なにやら凄い音と悲鳴が聞こえたが……」

「ホ、ホァ~?」

「ああ、平気っす平気っす……」

「というかこの部屋の惨状は一体……? 壁にでも体当たりしていたのかな?」

「えーと、はい。なんかアイテム出来ちゃいました」

『え』

 

 

 

 

 

 

そのあと研究員にも貸し、試しに使ってみてもらったら

全員運動音痴が凄まじいのか、有り得ない軌道を描きながら戸棚とかに体当たりしていた。

 

ぶつかる度、心配して寄って行くミロカロスは女神だと思う。

 

 

「こ、これは……なんともはや」

「一体どういう原理になっているんだね……? 非常に興味深いのだが」

「いや、俺もよくわかんねっす……」

【私もアナライズしてみたが、これは一体何なのだ……?

 研究者の間で言われている『おーぱーつ』なるものと同じ反応を示すのだが……】

 

 

そこまでのレベルか。

いや納得できるけど、この性能なら。

 

 

「まぁ、良いか。

 とりあえず作りたいものは作れたんで俺等はこの辺で失礼しますね。

 また何かアイディアでも出たら直接こちらに来ますんでー」

「うむ、了解した。斬新なアイディアを持ってきてくれる事を期待しているよ」

「では……タツヤ殿、またな」

「あい、そいではー」

 

 

 

 

そんなわけで、俺等は自由に動ける外に出てきた。

ミュウツーは暇だから研究員と試行錯誤してみるらしい。

 

 

「ミロカロスもこれ、使ってみる?」

「ホァ」

「んーまぁコントロール難しいかもだから、最初は軽く飛ぶぐらいじゃないと駄目だよ」

「ホァー」

 

そんなわけで、サイズが全然あっていないので

三対あるカラフル尻尾のうちの両側に嵌めるだけだが、すけすけのたび装着完了。

 

「?!!?」

「お、体が軽くなったかね。

 本当に、心ばかりのイメージで飛んでみると良いよ」

「ホ、ホァ……ホォンッ!!」

 

ぴょぃ、ーーーーーーーッスーーーー→→

 

「! ! ッ!! ホァッ!」

 

その妙な浮遊感に戸惑いながらも、ミロカロスは何とかからだのコントロールに成功し

無難にそこら辺に着地を完了させている。

 

おぉ、すげえすげえ。

初フライなのに、ミロカロスはしっかりと自分の体勢を保って着地した。

 

「やるなぁ、ミロカロスー。どうだ、これ結構面白いだろ?」

「ホァッ! ホ、ホァッ!」

 

どうやら凄いという感想しか出てこないらしく、意思が美味く伝わってこない。

ただまあ楽しんでいるのだけは間違いないようだ。

 

よし、それじゃ次は俺がコントロールの調整とするか。

 

「次俺が使うから、ミロカロスはちょっとここで待っててもらえるか?」

「ホァ~~♪」

「んじゃ、ちょっと尻尾から失礼してっと……」

 

尻尾からぬぎぬぎと足袋を脱がして行く。

 

そして俺は靴を脱ぎ、足袋を装着。

 

 

からだが かるく なってゆく……

 

 

よし、次はちゃんとコントロールして見せるぞ……!

 

「ふーー……せゃぁっ!!」

 

んばっっ!!

 

────────

 

                       うおぉぉおおおお!!!

                                             流されるぅぅぅ!!

 

 

「ぬ、ぐっ……!!」

 

なんとか、なんとか体勢を保つんだ……!!

 

「ぬ、ぅぅぅ!」

 

よしよし、いい感じだ! でも怖い! 超怖い!!

高さが15mはあるんだ! しかも俺の身一つ……!!

 

「ぬううううぉぉぉぉぉ……!!」

 

なんとかコントロールのコツを掴んできた。

どうやら若干の傾きやらなにやらに体勢が作用するようで

無理矢理なバランスを続けない限り

ゆっくりゆっくりと上がったり下がったり進んだり進まなかったりと出来るようだ。

 

「おぉぉぉおおお、よぉっと!!」

 

すたん、とうまくミロカロスの前に着地する。

今度は研究室のような失態を犯さず、うまく出来たようだ。

 

「ホァーーーー♪」

「お、おう、ありがとう! 結構怖かった、うん!」

 

【お疲れ様ですー♪】と声を掛けてきてくれたのだが

実際のところ、恐ろしさでそこまで余裕が無い事実。

なんか俺何気にとんでもないもん開発してしまっただろうか。

 

まあ封印指定かなぁ、これは。弾頭の資料室にでも飾っておこうか。

 

 

 

 

 

 

~おまけという名の本編~

 

 

 

 

 

 

そんな感じで時間を過ごしつつ、今はもうお昼時。

そろそろみんな腹をすかせてポケセンに集合する頃合である。

 

そうしてミロカロスと二人、テクテク歩いていると再びドレディアさんと遭遇した。

 

「ディァッ!」

「おう、順調ー?」

 

そう尋ねると見事なまでのサムズアップで返してくる。

順調ならそれに越した事はないのう。

 

「ディーァー?」

「んー? 俺等はちょっとアイテム開発してて……あ、そうだ」

 

このすけすけのたび、ドレディアさんに使わせてみるか?

肉弾戦実践派であるドレディアさんとかダグのどれかに使わせたら

これチート級の戦力アップになるんじゃなかろうか。

 

 

というわけで。

かくかくしかじか

なめなめぺろぺろ

がっしぼかすいーつ

 

 

「てわけで、体が軽くなる履物なんだ」

「oh」

「ドレディアさん、よかったらちょっと使ってみて」

「ディァー」

 

ドレディアさんの足を拝借して、すけすけのたびを設置して行く。

 

前にも語ったと思うが、ドレディアさんのあのかぼちゃぱんつの下は普通に足が生え揃っている。

物理特化なせいなのかややマッシヴだが。

 

 

「!? ディ、ディァ!?」

「お、軽くなってきた?」

「ディ、ディァ!」

「じゃあ、自分が思うようにジャンプしてみてくれるかい」

「……ディァ!                ……ァァァアアアアアアアアアーーーーーーーー!?」

 

うっお。

ドレディアさんはすんごい速度で空に舞っていった。

あれ時速35キロとか出てんじゃないのか。何かに激突したらやばそ……

 

 

って、あれ?

 

なんかうまくコントロール出来てないかあれ。

ゲームで見るまんまのイメージの動きしてんだけど。

 

 

「おーい! コントロール出来てるかー!?」

「     デ     ィ       ァーーー     ァーーーー!!!」

 

 

またも凄まじい勢いで俺の頭を通過して行くドレディアさん。

 

しかしその顔は驚愕から笑顔に替わっているのがわかる。

まさかの天才恐るべし、あれは完全にコントロールを物にしているぞ。

 

 

「って、おーい! 前、前! ビルあるぞーッ!!」

「ッ!!     ディァー!!」

 

 

そして激突する寸前にドレディアさんは

空中でくるりと一回転して、ビルの窓ガラスに『着地』した。

 

軽業師、爆誕である。

 

しかもその着地した窓ガラスからさらに跳ね、高度をさらに追加して空を舞っている。

 

 

「すげぇー……」

「ホァ~~~……」

 

 

俺等の実例とは比較にならんレベルの取り扱いである。

これなら弾頭に記念品にせずとも、渡して使わせても良いだろうか。

 

「 ァァーーー  アアーーー    ディーーァーーー♪    アアアーーー♪」

 

そうして街には奇妙な光景が生まれてしまった。

 

ドレディアという空を飛ばない種族が

まるで羽があるかの如く建物の隙間を飛翔しているという、謎現象である。

 

ドレディアさんの傘下の元暴走族もすごい騒ぎ立てているのだが

騒ぎ方がファンクラブっぽいのがなんか不安を掻き立てる。

 

 

「おーい、ドレディアさんーそろそろ降りておいでー。ご飯に行くからさー」

「               アァー         ディァー!!   」

 

 

ふむ、返答はあったしもうすぐ降りてくるだろう。

んじゃ、ミロカロスもこっから移動する準備しておこ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、エアーマン! 次は『ぼうふう』だッ!!」

「ケロロロ!!」

 

 

 

 

 

グォォォォオオオオオ

             オオオオオオオオオオオオオ

                              ォォオオオオオオオオン!!!

 

 

 

 

 

「      !?       ァ、  デ   !   ァァァー  ・・・  ...   ........」

 

 

「えッ?!」

「ホァッ!?」

 

 

え、ちょ。

 

ああああああああああああああああーーーーー!!

 

ドレディアさんが突然横っ腹から吹いた『ぼうふう』に

完全にコントロールを持っていかれてどっかにすっ飛んでったぁーーー!!!

 

 

「ど、ドレディアさぁーーーーんッッ!!」

「ホァーーー! ホァーーーーー!!!」

「リ、リィーーーーダァアアアアアアアーーーーーーー!!」

 

 

叫ぶしかなかったその場の状況であるが

ドレディアさんはコントロールを失ったまま、青空の向こうへキュピーンと輝いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうどうしようもなくなってしまったのでポケセンにその旨を伝え捜索願を出していたところ

三日後にトキワシティで保護されている事が分かった。

 

保護者は露店のお兄さんであり、いつも通り露店で売ってる所にいきなり落下してきたそうである。

なんというホールインワン、落ちてきた直後は色々な事がありガチ泣き状態だったようである。

 

 

 

 

 

こうして、ネタにはなるがやはり危険という事で

すけすけのたびは封印指定されてしまったのだった。

 

 






もしもボックスは別名ブラックボックス。
絶対にこの世に出してはいけない道具です。
22世紀の人は何を考えているのか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タマムシシティ交流 滅亡の子

てきとーにでっち上げたポエムみたいな歌詞があります。
そういうのが苦手、嫌いな方はバックオーライして電柱に衝突してください。


 

 

★ムウマージ★

 

 

 

 

『萌えとはなんたるや』という事について、朝からミュウツーと話し合っていた所

色々と決裂してしまい、尻尾を掴んでジャイアントスイングしていたら疲れてしまったので

気楽に散歩と洒落込んでいる。

 

おぉ、今日もエアーマンは元気に『ぼうふう』やってんなぁ。

なんであいつああなったんだろう。

 

と、そんな事を軽く考えながら歩き続けていると

ふよふよ~んとムウマージが横切っていくのが見えた。

 

ここら辺でムウマージなんぞ出ないし、あいつは俺らと一緒に居るムウマージだろう。

 

「ぉーぃ、ムウマージ~~」

「 ? ……! △▲☆★~!」

 

やはりそうだったらしく、俺を見つけるとこちらに飛んできて頭へと抱きついてきた。

 

「今日はどこ行こうとしてたんよ、ムウマージ」

「~~~。△▲☆★」

「ん、そかそか。お前も別に予定があって動いてたわけではない、とな」

 

【ん~】と手を顔に当てて考える仕草を見せて、ムウマージは可愛らしく俺に返答をしてくる。

 

「俺も別段用事があるわけじゃないんだけどな……

 互いに暇なら一緒にどこか行こうか」

「△▲☆★ー!」

 

笑顔で体を広げて見せて、元気一杯に同意を示すムウマージ。

いやぁ、本当にマジカルな子ですねムウマージは。

一部のポケモンてなんでこんなに愛らしいんだ。

 

 

 

 

そんなわけで、金も特段持ち歩いて居ない俺らが向かう場所といったら

やはり大道芸広場ぐらいしかないのであった。

 

サイクリングロードの方はもうなんか色々とウザったい事になりそうだし

色々と暇つぶしになるといったら、もうここいらしかないのである。

 

「△▲☆★~~~」

「ほー、お前もここには結構来てんのか」

 

元々ムウマージにも金は持たせたりしてないので、基本は無料どころをふらついているそうだ。

そんなら森の日光浴に適したところとかも知ってたりするのだろうか。

 

でもこいつゴーストタイプだからな……ゴーストが日光浴って何事よ。

健康オバケとかどういう矛盾であろうか。

 

「はいっはいっはいッッ!! いつもより多めに回っておりまーすッ!!」

「ガッゴガーグォーォォンッ!」

 

あちらでは和風テイストな傘を差して、その上でマルマインを大回転させてる芸をしている。

危ないからこそ他の人達もハラハラしながら楽しんでいるのだろうか。

 

「ギャァグォーンッッ!!」

「さぁさぁよってらっしゃい見てらっしゃい! 世にも珍しいリザードンの火絵図だよッ!」

 

こちらではリザードンが吐く炎を用いて、焼き跡での絵だったり

火そのものに流動的な動きを加えて、絵図としている芸のようだ。

 

なんともはや、この世界も多彩だねぇ。

 

「♪ ♪ ♪~」

「いや、本当タマムシとかまで来るとこういうところでも改革的なもんだな」

 

基本的に娯楽に飢えまくってるこの世界の方々だが

こういった芸術点を見せられると、あちらで真似出来ないものばかりなため

普通に感心させられて、とても楽しいものである。

 

「───さぁさぁー! 歌唱力コンテストの受付ももうすぐで締め切りだよー!

 みなさん奮って参加しておくれー!」

 

……ん?

 

「歌唱力コンテストか」

「★ー」

 

声を出して参加者を募っている人からチラシをもらい、その内容を閲覧してみた。

どうやら人間とポケモンで一緒に参加して、なんか色々競い合うらしい。

 

この手のイベントはミロカロスと一緒にやったら間違いなく一位だろうなぁ。

しかし締め切りももう間近との事で、呼んでくる暇はなかろう。

 

「よし、ムウマージ。せっかくだから暇つぶしに参戦してみようか」

「 ! △▲☆★~~!」

 

俺の発言に対して、またも笑顔で答えてくるムウマージ。

 

一応これでも弾き語りをしてた時とかは、俺が歌ってた時もあったからな。

喉もそこそこ鍛えられてんだぜ、まあ音痴じゃないってレベルなだけだが。

 

参加者を募っている人に登録場所を教えてもらい、俺らはその会場へ向かった。

 

 

 

 

『……では、ゼッケン16番! タツヤ君とムウマージでーす!

 みなさん拍手でお迎えくださいー!!』

 

しばらく控え所で他の参加者達が歌う歌を聴きながら待機していると

俺らの番になったようである。

 

よっしゃ、こういう大会っぽいのに出るの初めてだし、少し気合いれて頑張らせてもらおうかね。

 

「……さ、行くかムウマージ!」

「△▲☆★ッ!」

 

二人で元気良く壇上へと上がり、その舞台へ俺等の姿を見せる。

前々の参加者達が気合を入れて良い歌を歌っていた関係上、会場のボルテージもかなりのものだ。

俺らも気合をしっかり入れたが、観客達まで拍手に気合を入れており

会場の人数と比例しても結構な拍手の音が聞こえてきた。

 

これはちょっとふざけてはいられんな。

 

ちなみに歌う曲は残念ながら前世のアーティストが生み出した曲ではない。

演奏してくれる人達がこの世界の人達の関係上、再現が出来ないのだ。

本来なら「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」とか歌いたかったんだけど。

 

故にこの世界にある曲で、ポケモン達との共存などをテーマにした曲を歌う事にした。

 

『さぁ、こちらではあまり見ないポケモンのムウマージを連れているタツヤ君!

 一体どのような歌声を披露してくれるのでしょうかー!

 では……歌って頂きましょう! 「空からの足音」』

 

司会者の声が会場に鳴り響き、そして「空からの足音」の演奏が始まった。

 

基本的に「日本語」、つまりは意味のある単語を紡ぐのは人間側の仕事だ。

そしてその後ろで色々と声を出し、さらに深みを出していくのがポケモン側の仕事である。

 

(いつもはあっちの世界の曲ばっかり歌ってはいるが……)

 

やはり、こちらの演奏だってあちら側のものに負けては居ないと思う。

本当に、演奏出来る人達ってのが少なすぎるのが難点ではあるが……。

 

俺は軽く息を吸い込み、マイクを口元に持ってきて───歌い始めた。

 

 

 

 

いつも通りの毎日を 過ごす事は出来ただろうか

 

初めての『トモダチ』の君と 別れてしまったのはいつだったか

 

そして泣き そして悔やみ そして乗り越え

 

次の『トモダチ』と歩む私は いつも通りの私なのかな

 

起きるには早すぎる刻に ふと目を覚ましてしまう

 

夜明けに姿を見せた太陽から 重なるように現れた君

 

そして喜び そして嬉しく そして───

 

 

夢だったのに 君が話した言葉は とてもとても……

 

ありがとう たのしかった わすれないで

 

それは私の言いたい事で だけど君はそれを伝えて

 

次の『トモダチ』と一緒でも きっと僕も一緒だから

 

別れてしまう運命でも 全てが無くなるわけじゃない

 

だから私は歩んで行ける きっと『トモダチ』と歩いていける

 

だから  あなたも   わすれないで……───

 

 

 

 

歌い終わって、演奏の終わりと同時にまた拍手が鳴り響いた。

元々歌唱力に関しては、認められる域でもないのでごく普通であるはずだ。

 

「ありがとうございますー」

「△▲☆★ー」

 

もっと大歓声を浴びれるような歌声でも持っていればよかったのだが

暇つぶしでの参加としては……『トモダチ』とも良い思い出を残せたのではなかろうか。

 

『はい、タツヤ君とムウマージのペアで「空からの足音」でしたー!

 これで参加者全員が歌い終わりまして、優勝者が発表されます!

 さぁタマムシ歌唱力コンテストの優勝者は───って、ええええええええええ!!』

 

「▲☆ーー?!」

 

そんな司会者の絶叫を聞きながら

 

 

 

 

 

 

 

俺はぽてりこと倒れた。

 

 

 

『ちょ、ちょっとタツヤ君ッ?! どうしたんでしょうかッ?!

 あ……これなんかやばそうだッ! ちょ、救急車ーーーーーッッ!!』

「△▲☆★~! △▲☆★~!!」

 

俺は……なんで……倒れてるのかなぁ……?

 

司会者の雄叫び(?)を聞きながら、俺は意識を失って行き───

 

 

 

 

 

気付いたらポケセンで寝かされてました。

どうやら病院に行く程のものではなかったらしい。

 

 

そして起き上がった後にちょっと検証してみたんだが

どうやらムウマージの歌声は普通に『ほろびのうた』だったよーでございます。

『わざ』欄に無かったから油断してた。どうやらこいつのVOICEはデフォルトでやばいようです。

 

「△▲☆★~;; △▲☆★~;;」

 

申し訳なさそうに謝るムウマージの頭をベッドで撫でながら

その日一日の午後はポケセンのベッドで過ごす事になってしまった俺でしたとさ。

 

 






歌詞は本気でテキトーです。
歌っぽければそれでいいや、と。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タマムシシティ交流 忘れ去られたアイツ

皆さん、お待たせしま……いや、そんなでもねぇか。
とりあえず作ったのでどうぞ。


2012年も終わりという今日、最後の最後で立派な人助けをしてきた。

なにやら職場の年下から「暇なら何かしませんか」とメールが来て
そいつんちに迎えに行ったら出てきやがらねぇ。

仕方が無いのでしばらく車で待っていたら
何やら聞き覚えがある「ヂュイィィィィィィン」という音。

そう、それは雪国特有の現象。
路面が上がり坂でツルッツルすぎて登れない車のタイヤのすべる音。

そう断定して音がある方向へ行って見ると
まさにその断定した状況通りの、一軒屋から出ようとしている家族の乗った車があった。
その家の駐車場のわずかな坂にあるジェラード上の雪のせいでタイヤが空回りしていた。

運転手に手で軽いジェスチャーをして車の後ろへスタンバイ。
【前後に動くタイミングにあわせてアクセル踏んでください】と指示を出して
俺は車の後ろで車にがぶり寄り。

4度ほど繰り返して、無事に坂を乗り越したのを確認。
お礼を言われてこちらも笑顔で手を振り、待機させてた俺の車に戻った。


俺の待ち人は30分来なかった。


 

 

誰も居なくなった、ポケモンセンター内でタツヤが借りている部屋。

ここに、なにやらうごめくものが存在した。

 

「…………。」

 

その動く物体は部屋の中を見渡し(?)、誰も居ないことを確認する。

 

「クッ……」

 

誰も居ない事を悔しがり、その身体にある足を使い自分が立っている場所から降りた。

 

「初めてですよ……この私をここまでコケにしてくれたおバカさんは……!」

 

一人で出てきて一人で勝手に盛り上がり、怨嗟の思念を燃え上がらせる。

その後ろに現れるは……まるで世紀末の覇者と思えるような濃密なオーラ。

 

そして最後に、それはそっと呟いた。

 

「この私を忘れやがるなんて……許しませんよ、マスターッ!!」

 

 

そう、呟いたのは。

 

 

 

 

なんか四角い物体だった。

 

人、それをポケモン図鑑と言う。

 

 

 

はず。

 

 

 

 

 

 

なにやら視点が飛んでいた気がするが一体何のことだろうか。

 

『どうした』

「いや、なんか……よくわかんないんだが恨み言かなんか言われた気がしたんだよ」

『ふむ……貴様のやっている事だ。どこかで恨みでも買ったのではないか?』

「昔にぶっ潰したロケット団員以外にゃそんな事してねぇと思うんだがなぁ」

 

金魂蹴ったりしたトレーナーは数多いけど、俺を恨んでるってこたぁあるまい。

まぁ俺がそれをされたら全殺しにするけど。

 

『貴様が思考している内容が矛盾だらけなのだが、どうしたらいいのだろう』

「気にしたところで世界は平和にならんよ」

『そういう問題だったのか……』

 

当たり前だ。

 

まぁ、ともあれ……気のせいなのは間違いないはず。断言。

 

『さて……私は一旦ハナダの洞窟に戻らねば……

 さすがに三日以上開けるのは不味かろうしな』

「ん、そうか……あぁそうだ、土産でも持っていくと良い」

『土産、だと?』

「おう。ほい、5,000円」

『ふむ』

「タマムシデパート行けばインスタントラーメンも地下のスーパーにあると思うし

 後はハナダの洞窟の水と石を適当に刳り貫いた岩鍋でも作ってみんなに食わせりゃいいし

 余った金で適当に菓子買って行くってのでもいいさ」

『ふむふむ、作り方は……そうやるのか』

 

俺の頭から勝手に思念を読み取ってインスタントラーメンの作り方を学ぶミュウツー。

ここら辺は、なぜかミュウツーも応用力が高い。

 

『ではさっそく向かわせてもらおうか。金銭に関しては感謝しておいてやる』

「まぁ、何気に色々と助けてもらってるしな。

 たまにゃぁ人間が作り出した文化でも味わってきてくれ」

『ふ……では、また来てやろう。一旦さらばだ』

 

そういって、ミュウツーはテレポートで部屋から消えた。

おそらくはそのままデパート前まで直で跳んだのだろう。

 

一気に白い嵐が静まり、部屋に平穏が訪れた。

 

俺もこのまま開発室辺りに行って新製品の概念でも構築するか。

そう思い立って、俺は部屋を出るために扉を開ける。

 

 

 

「あ、居やがりましたねマスターッッ!」

「……ん? マスター?」

 

なにやら呼び慣れない声に加えて聞き覚えが無い……いや、若干ある声が廊下に響いた。

その廊下には弾頭の社員が黒っぽいスーツとネクタイを締めて歩いているが

そちらに顔を向けると【私ではありません】的なジェスチャーで返された。

 

……? 気のせい、か。

 

しかしあんなはっきりした幻聴を聞くなんて珍しいな。

この街に来てから、不眠症になったことは無いのだが……

 

ともあれ開発室に出向いて今後の───

 

「無視しないでくださいよッ! あなたどんだけ私をいじめれば気が済むんですかッ!」

「……?!」

 

声が、した。

これは間違いなく幻聴といったものではない。

なんだ、一体どこから……

 

そうして廊下で立ち止まっていた弾頭の社員と目が合った。

【一体どうなってんだ】と目で問うた所、その社員は目線を下に向けた。

 

俺も釣られて下の方を見てみると、なにやら四角い物体がある。

 

 

 

けとばしてみた。

 

 

 

「ギャァァァーーーーーッッ!!」

 

あ、すっげー声出してすっ飛んでいった。

てことは犯人はあいつだったか。

 

よし、満足したし開発室に向かおう。

 

 

 

 

「ってわけでですね、もっとこう……主婦を味方につけるような発明をするんですよ」

「……何故、主婦なのかな?」

「大体の家庭で財布握ってんのなんてお母さんでしょ?

 あの人たちに魅力だと見られるようなものを発明すればお金周りが良くなります。

 つまりはこちらに回される開発費用も……ね?」

「おぉ、なるほど。急がば回れということかね。

 確かにそんな方向性で我々の匠は動かないと思うが、開発費用は是非欲しいものだからね」

 

前の世界では、健康サンダル(足の裏を置く場所がボツボツしてるやつ)とか

ご飯を冷凍する際に目安となる四角を作っただけのもの、とか。

そういうのですら販売金額が一億とか行ってたはずだからな。

 

 

 

 

「くぉらぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!! マァスタァーーーーーッッ!!」

「ッ!? な、なんの声だッ?!」

「あぁ、えーと……」

 

心当たりが超あるんだけど説明が面倒すぎる。

 

よし、放置。

 

「……開発室ッ! ここですねッ!」

 

そんな声が扉の辺りで鳴り響き、研究者全員が驚いてそちらに目を向けた。

 

するとどうだろう、何故か扉は開かずに……なにやら外枠の淵に沿う様に赤い線が伸びて行く。

それは外枠通りに一度90度曲がり、さらに90度曲がり……床まで線が伸びついた。

 

そして……扉は赤い線通りに、まるで切り抜かれたようにバターンと室内へと倒れ込んで来た。

 

「隠れても無駄ですッッ! マスター!」

「そんなわけでですね、やはり家庭のお財布の人にお買い上げ頂くのがベストと思いまして……」

「マァァァァスタァァァァァーーーーーーーーーーッッ!!」

 

……うっせぇなぁ。

最近ドレディアさんの暴虐に慣れて来た俺でもちょっとブチギレモードになってしまうレベル。

仕方が無い、構ってやるか。

 

俺は開発室前の廊下に居るその小さくて四角い物体まで歩いていく。

その四角い物体にはなにやら砲筒のようなモノがちょろっと出ていて

四角の四隅には、メカっぽいカギ爪の様な足が生え揃っていた。

 

「な、なんですかッ! 今更謝っても私は許しませ、って、あ、ちょっ」

 

まだなにやらかんやらと喚くそいつをひょいっと拾い上げ

俺の胸元まで持ってきて画面を直視する。

 

「ふ、ふんッ! 言ってるでしょう! 今更謝っても許さないってッ!

 えーと、そうですねぇ、とりあえず今までの忘れ去ってたお詫びに色々としてもらっ───」

 

 

ポチッ

 

電源OFF

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、お騒がせしました。

 それじゃぁ開発方向のまとめに入りましょうか」

「……いいのかね、それは」

「というかそれは、なんなのかねタツヤ殿」

「ん? まあ気にしないでください。そんなことより開発実績を上げるのが先です」

 

そう、ここら辺は割りとマジで重要だったりする。

会社で何の業績も出せない部門なんてただのお荷物でしかない。

雇い入れたからにはしっかりとなんらかの成果を出さなければ色々と格差にも繋がってくる。

 

そんな事を起こさないために、とにかく一般人に受け入れられる開発をする必要があるのだ。

俺は手に持った四角い物体を部屋に設置されてるゴミ箱に投げ入れ、ソファーに座りなおし

今までの話し合いでまとめていた物をノートに書き込んで情報を整理していった。

 

 

 

 

それらも終わってポケセンへ帰ってみると

ドレディアさんとミロカロスが四角い何かとバトってた。

 

 

電源切ったのにどうやって戻ってきたんだろう。

 

 

 




というわけでまあ今年もこれで終了です。

ではみなさんで最後に一声を上げて終わらせましょうか。

サン、ハイ。


「リア充爆発しろッ!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

82話 ロケット団繁盛記 施設のアップグレード








 

の前のおまけ。

 

 

☆セレクトバグ☆

 

 

「ふーむ」

 

俺は現在、タマムシデパートにあるエレベーターの中に居る。

何故にこんな限定的なところに居るのかといえば……えーと、まぁ、その……

 

怖いもの見たさというか、なんというか……

 

俺が旅に出てから頻発して行っている(初回の出会いを除いた)ミュウとの遭遇にも関わるのだが

これは、初代ポケットモンスターにおいて裏技(バグ)として名高く

同時に全ての裏技(バグ)の基盤とされる行為である『セレクトバグ』と言われるものを関連させている。

 

もちろんの事、この世界にはあのゲームの画面から操る世界における『セレクト』が存在しない。

故に俺は方法と過程をすっ飛ばして、結果が現れるはずのところでミュウを呼び出し

そしてミュウは必ずそこに居た。デパートの釣りの結果は居たと言っていいのか微妙だが。

 

さて、『セレクトバグ』の詳細だが……簡単に言えばアイテム欄のアイテム整理である。

そこでモノを動かす際に使われるのがセレクトで、これを戦闘中、フィールド問わず行うと

高確率で色々とバグるのである、そしてバグの内容は行為に関連して固定されており

綿密に詳細を知っていれば、意のままに色々と操れてしまうわけなのである。

 

例を述べればマスターボール無限増殖(購入?)や以前述べた『ペゾ』であろうか。

『ペゾ』とは簡単に言えばポケモンなしで波乗り状態になれるバグアイテムである。

本来手持ちのポケモン一覧からなみのりを使わなければ水の上にいけないのに

このアイテムを水の手前で使うと、普通に乗れてしまうのだ。

 

さて、前置きが長くなったのだが……何故エレベーターの中なのか?

それはこのエレベーター内にある各階停止ボタンに起因する。

 

先程アイテム欄のアイテム整理で『セレクト』を使う、と述べたが……

まだまだ開発黎明期であったが故にゲームボーイロムの容量の低さがネックとなったのか

『階層移動に使われるボタン指示』が『アイテム欄と同じもの』が使いまわされており

これは同時にシルフカンパニーでも同じ事が挙げられる。

 

 

 

そう。

 

『アイテム欄と同じもの』。

 

つまり……

 

このエレベーター内も……

何が起こるかわからないバグの宝庫なのである。シンドr(データがこわれています!)

 

 

…………では、やってみますか!

 

「えーと……このスーパーボールをこっちに動かして……

 でもってきずぐすりをこっちに……あ、サイコソーダの空き缶が……あとで捨てんと」

 

背負ったリュックを自分の手前に降ろし、中身をガサゴソと弄繰(いじく)り回してみた。

そして最後にリュックのチャックをピシャッと閉じて、背負いなおす。

 

要は、あのセレクトバグではアイテムが移動されている過程がある。

ならばセレクトと同じようにアイテムの順番を入れ替えれば事が成ると判断したのだが……

 

ベキッ、ベキョッ、ぐにゃぁ~~~~~

 

 

 

お、おうわぁぁぁーーー。こ、これは効果テキメンだぁ。

リュックを背負いなおしたら完全にエレベーター内部の風景がイカれてきた。

本来であれば数字やら文字やらが並んでいるであろう風景の裂け目は

限りなく現実に近い世界であるが所以なのか、黒い裂け目として現れている。

 

うわぁ、これ完全にホラーだぞ。足場までゆがんできてやがる。

 

 

ゴォォォォォォ……

 

 

「……ん?」

 

下手したら、というか上手にやらないと帰れなさそうだと気付いてちょっと怖気(おじけ)付いていると

なにやら飛行音のような音が響いてくるのを感じた。

 

……この狭いエレベーターに飛行音?

 

改めて考えてみるとなにかがおかしい。

いや、もう現状自体がおかしいっちゃおかしいんだが……この小さな箱の中で何故に飛行音が?

 

そんな風に考えていると、その飛行音はズンドコこちらに近づいて大音響になり

もうここまで来たらなんもできねーやと開き直ってそれを待っていたら

 

 

裂け目からにょきっと何かが出てきた。

 

「………………」

「………………」

 

互いに見詰め合ってしまう俺ら。めっとめがあうー

 

そのにょきっと出てきた何かの頭部は……なんというか、ゴツい。

銀、もしくはくすんだ灰色っぽい外殻と、顔面には黒い皮膚? ついでに目は赤い。

そしてそれらの周りには金色の肋骨みたいな、なんかそんなのが付いてる。

そしてどっかで見たことがあるような感じである。

 

そう、えーと……映画? うん、映画のポスターだな。

なんかそれと完全に一致してる……ってことはこいつ伝説ポケモンだよな……

 

なんだっけ、えーと……きゅ、キュレム……?

いや、違うな……対戦であまり見ないからフォルムも断定的にしか覚えて居ないのだが

キュレムだった場合こおりタイプがあったはずだ、こいつはこおりっぽくない。

 

「…………ギラァー……」

「あ、はい。なんかすんません……」

 

なんか怒られてしまった。

【お前か、こんなめんどくさい現象を引き起こしたのは】ですって。

 

でもこの場にこんなイカついのが現れたって事は……コイツはこれを何とか出来る能力があるのかな。

のっしのっしと割れ目から這い出てきて、狭いエレベーターなせいでぎゅうぎゅう詰め状態になる。

 

もう見上げるとかそんなレベルじゃない。

思ったよりやわらかいぷにぷになお腹とエレベーターの壁に挟まれ、ウキュッとなった。

 

そして出てきたそいつは俺の目には見えない何かの作業をやりだし

風景は次第に落ち着きを取り戻していった。地味にすげぇー。

まあそれでもぷにぷにのお腹に挟まれているせいで視界は4割ぐらいしか見えてないのだが。

 

自分が這い出てきた割れ目だけを残し、全てを修復し終えた後にその割れ目に入り

【わちきも忙しいんだ。もうこんな事するでないぞ】と俺を見て鳴き声を挙げ、そいつは帰っていった。

 

とりあえず割れ目が閉じる前に「ホントにすんませんっしたー」と声を響かせておいた。

閉じる瞬間に向こうから「ギラァー」と帰ってきた。

 

 

ぴんっぽーん♪

 

おっと、4Fに付いたか。

まあなんにせよ。あのままにならんで良かった。

ご苦労さんでした、虫っぽい伝説さん。

 

 

おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タマムシに来て、はや一ヶ月半といったところまで来た。

 

 

 

今まで滞在した街の中ではダントツに長い部類に入り

なおかつ原作イベントっぽいのが既に全部終わっているのを確認しているため居心地が非常に良いのだ。

サカキから最低限度の謝礼みたいなのも入って来るからな。

 

 

大道芸に関しては残念ながら一回も出来て居ない。

暇な日は暇な日で、俺が何もやってなくても手持ちの子は誰かしら用事があったり

そもそも暇な日自体そこまで多くないのが障り、音楽に関しては没案気味である。

 

まあ社内での慰安行事的なもので、全員で集まって

コンサートっぽい事は二回ほどした事があるので、ムラムラしているわけではない。

 

すけすけのたびを開発してから個人的にも優先したい事がなくなり

もっぱら弾頭に向かう日々としては、弾頭社員で働き始めた人達の愚痴相談に乗ったり

なんというか身体年齢にそぐわない事ばかりやっている。

 

 

「上司の物言いがきっついんです……!」

「意見言われるだけマシだよ? 本当に諦められたら何も言われなくなるのが社会だよ?」

「なんであなたはそれを知ってるんですか……」

 

 

「仕事時間ばかりで私生活が保てないんです……!」

「ボスのため」

「やっべ超頑張れる」

 

 

「毎日毎日同じ事の繰り返しで飽きる」

「飯だって毎日食ってるしょ、それと同じと思ってください」

「あれは一食一食でおいしさが……!」

「心苦しいながら犯罪して銭を稼いでた日々と今は、どっちがマシ?」

「……今、です」

「忙しいだけ、幸せなんだよ……」

「……なんでそんな疲れきった表情で言うんですか?」

 

 

「会社に華が無い! 彼女欲しい!」

「はい、これ」

「ん、なんでしょうか……『しっと団員募集中』!?」

「満たされるかもよ?」

「行ってみます!!」

 

 

「彼女に仕事と私どっちが大切とか言われました、どうしたらいいですか」

「リア充は殺す」

「えっ」

「冗談はさておき……

『なら仕事やめるけど、収入の無い俺を養ってくれるんだよね?』とでも言えばいいと思う。

 否定するなら価値観の違いでFA。既に50:50状態だし」

「人間の本質に絶望したッッ!!」

 

 

「仕事中の癒しのためにボスのプロマイドが欲しいです……♡」

「おーいミュウツー」

【呼んだか?】

「俺の頭の中複写頼むわ」

【なんだこの気持ち悪いアイツは……】

「な……こ、これは……ォォォォォオッッ!!」

 

そこにはボディビルダーの如くの肉体美を誇るサカキのニヒルな笑顔が!!

しかも綺麗なサイドチェストを決めているッッ!!

 

 

まあこんな毎日なため暇なんです。

 

弾頭という組織としてはまあまあのスタートとなっているのは間違いない。

 

現時点での簡易業務成績。

【人材派遣部門】

 

・人材派遣における派遣達成度27人/118人 分母に新規参入の暴走族は除く。

・支出は施設の低額で出来る改装=布団持ってきて団員の部屋化程度。

・元々電気ガス水道は通っていたためキッチンもあり、改装の必要なし。

・予定としてはサカキのコネで、待機組と派遣組を交代して送り出し経験を積ませるのも企画中。

 

【道具開発部門】

 

・スタートからまだ日が浅い

・加えてひとつのアイテムでも開発は時間が掛かる

・研究員の給料と研究施設の増設  2000万→1874万

・後々の伸びに期待

 

 

といった感じである。まあ開発に関してはいきなりうまく行くもんじゃないよな。

あぁ地下施設担当の経理のお姉さん、データありがとうございます。

 

 

 

 

「ゲームセンターの改築……かね」

「はい、ていうかスロットの改築ってか。あーでもゲームセンター自体ってのもありかもなぁ」

 

元来の意味どおり、ゲームの中央地点……。つまりは本当のゲームセンター化もありかもしれない。

でもまあ……日本人として非常に残念ながら、スロットの方に着眼した方が効果が高そうだ。

 

民族属性なのか、日頃から仕事だのなんだので鬱憤を溜めているせいなのか

日本人はやたらと誘惑に弱いのである。それなのに……

 

「スロットコーナー、完全に停滞気味ですよね」

「う、む……正直赤字スレスレだね。

 上で働いている店員の給料とフロアの清掃社員の給料を払ったら、赤字ではある」

 

実際ゲームでも客付きはそこまでなかったはずである。

なんせ床に100枚落ちてても店員も客も気付かないような店だし。

 

「ここのシステムを全体的に改築しましょう」

「システム……かね」

「ええ、システムです」

 

 

そして案件を具体的に列挙。現実のパチ屋ならこんな感じだったろう程度の想像だが。

 

 

・コインを現金に換える事を可能にする

・景品も一応用意するが、基本交換目的というより見栄えのため

・換金してフレンドリーショップで買ったほうが安上がりな利率にする

 面倒な人は若干の高い値段設定でもここでお土産を買っていくはず

 

「まずこれが基盤のシステムです。

 正直ポケモンとコインの交換とかわざマシンとの交換とか時代遅れ。」

「そ……そう、かね?」

「わざマシンはぶっちゃけ自分達で量産して、何かしらの店に卸した方が利益が出ると思います」

「それはおかしくないかね。

 わざマシン15のはかいこうせんひとつ取っても5500枚で提供している。

 50枚で1000円なら、11万円という金額が手に入るわけだが」

 

 

まあ初代でやりこんでいたやつらはその手で買ってたかもしれないが。

 

 

「では聴きますけど、最近のわざマシン景品コーナーの品物の減り具合は?」

「……、ゼロ、だ」

「じゃあもちろん利益もゼロ円ですよね。

 だったら廉価で開放してしまって素早く銭を作るのも手なんですよ、あくまでも手ですけど」

「そうだったのか……」

 

気持ちはわからんでもない、だがいつ手に入るか分からない高額な売り物よりは

順調に概算に組み込める売り方をして利益に計上したほうが楽である。

 

「あとはスロット自体も換えます」

「スロットを換える?」

「ええ、台を。」

 

サカキは ??? といった感じのマークが頭に浮かんでいるような状態である。

 

「もっと楽しく、演出とかをばーんと入れて

 ボーナスが出ていないときでもワクワク感を感じるようにするんです」

「……すまん、ちょっと想像が付かないな」

「ぬぅ……説明すら難しいとなると、きついなぁ」

 

何処から説明したらよいものか。

 

「お……? タツヤ君、今とても良い案が浮かんだぞ。よかったら聴いてもらえないかな?」

「へ? 良い案……っすか」

 

ふむ、なんだろうか。こちらの考えと似ているのなら歓迎だが……。

 

「うむ、じっくりと考えてみたんだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部タツヤ君に任せるといいと思うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただの丸投げじゃないですかやだー!!」

 

 

 

 

 

 

 

弾頭の未来は明るそうだ。主にもうすぐ爆発して消え去りそうな最後の炎的な意味で。

 

 

 

 

と、いうわけで。

全部任されてしまったので好き勝手にやらせてもらう事に。

 

会社の明暗を11歳児に任せるとか社会バカにしてんのかあいつら。

 

それはさておき、現在俺はタマムシの某マンションに来ている。

多分ここだと思うんだが……。

 

念のため裏口のあるマンションを探してみてたが、この一件だけだったのでここのはずである。

 

覚えている人はいらっしゃるだろうか。

何を隠そう初代の赤緑、青に加えてピカverもだと思うが

初代には、ゲームの中に開発室がそのままあるのだ。

まあFF4の開発室みたいな扱いだとは思うんだがね、とりあえずあることが重要だ。

 

つまり、ゲームを作った写し身達がゲームに居た。

そしてゲーム順所っぽいこの世界でも、製作者達が居るという事に繋がる。

 

なお、今日は一人である。

ドレディアさんはなおも奉仕活動に行き、ミロカロスはタマムシジムの石像にダイブしにいった。

 

確か二階にあったはずだが……

マンションの階段を登り、次の階へと足を進めたら

やはりそこには開発室があった。

 

 

「ごめんくださーい」

「ん?」

「子供?」

「誰かの子供か?」

「いや、見た事ないなぁ」

 

とりあえず部屋の入り口にお邪魔し、元気に挨拶を。

 

「えーと、こちらはゲームフリー○さんの開発室でよかったですか?」

「うん、そうだけど……」

「君は、どうしたのかな?」

「んっと……自分はこういう者の代理なんですが」

 

そしてサカキから預かった名刺を取り出し、手前に居た人に渡す。

 

「ん……トキワジムリーダー及び有限会社弾頭取締役、サカキ……!?」

「え、マジでか」

「まじまじ、ほら」

「ぉー」

「もし疑わしいと思ったら、ですけれども

 そちらの番号に電話してくれれば、多分語りではないのは分かってもらえると思います」

「ふむふむ、そんで最強のジムリーダーさんトコの子が何の用だい?」

「開発して欲しいものがありまして……」

『開発???』

 

全員が声を揃えて俺の言葉に反応する、但し疑問系ではあるのだが。

 

 

 

俺の企画は、ずばり現代スロットをここのスロットととっかえて設置しちゃおう作戦である。

しかし、弾頭の研究員はそちらの液晶関連やらゲームデータの法則性には疎いと思われるので

外注という形で専門家に丸投げという作戦である。

 

現代のスロット史は様々な暦を刻んでいるが

ひとまずは北斗世代と呼べるものから色々引っ張り出す形でOKだと思う。

 

あとは人がスロットに戻ってくるのを確認した上で

出す日には出し、回収する日には回収するという手順を踏めば……

まあ、弾頭の黒字の追加程度なら無難に何とかなると思われる。

 

実際のところ弾頭は他にお金を得る機会があるため

あくまでも若干のプラスで抑える事が重要と思っている。

今現在の現状より若干マシ程度にすればいいのだ。

 

現実だとたかがスロットの癖に、殺し殺されと発生してるからな。

自殺者なんぞミリオンゴッ○で何人発生したかわかったものではない。

4440Gの地獄よ……今こそ封印されろ。

 

 

 

 

「───というわけで、こんな次世代のスロット機を企画しているんです。

 開発にご一考頂けないでしょうか……僕等の技術では無理なものがありまして」

「なかなか面白そうな設定だな……。

 今ポケモンが跋扈しているこの世の中で、あえてポケモンに触れない作品か」

「人を選びそうだが……男らしいロマンにも溢れているみたいだな」

「ユーザーを男限定と絞れば、批判も少なくなるかな?」

 

 

とりあえず北斗の○をサンプル内容として出して話し合いをしているが、なかなかに順調である。

 

どうやらあちらとしても

『ポケモンが関わらない』というレアな題材に興味を引かれているといった様子らしい。

 

「ひとまず一番先にして欲しいのは基盤と液晶の関連性ですね。

 そこさえ出来れば現存しているスロット台を改造して実用化も可能と思っていますんで」

「なるほど、納期と報酬は?」

「納期は遅すぎなければOKかと。報酬は───」

 

 

 

とまあ、こんな感じで順調に話は進んでいった。

やはりこの世界の人達、娯楽に飢えすぎである。

 

課題のひとつ、液晶やらデータ関連やらはAREA 1 Clearとなった。

他の課題の、台デザインや耐久性についてはまた各々で分散して研究すれば良いだろう。

耐久度は最低、ドレディアさんが台をパンチしても壊れない程度は欲しい。

長らく使えるものだし『とにかく頑丈に』がコンセプトになるだろう。

 

 

 

まだまだ先の見えない企画だが、俺はサカキに全部任されたのだ。

失敗したらサカキに責任を押し付けてしまえばいい。クククク……

 

 

 

 

 

ついでだから貰った費用で

全部任された特権を用いて、手持ち全員を呼び出して高級料亭で飯を食わせておいた。

全員幸せそうな顔をしていて非常に満足したお昼だった事を追記しておく。

 

報告したらなんかサカキの頭頂部から髪が何本か はらり と落ちた気がしたが。

 

 

 






いや、すまん。
前半のオマケに力入れてたら意識が途切れてた。

まあとりあえずこんなんどうぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

83話 ロケット団繁盛記 運命は動く





現在、俺は地下施設の部屋のひとつで三人と会談をしている。

 

 

一人は、もちろん俺。

もう一人は、ミュウツー。

そして最後は、ゲームフリー○の一人。

 

 

「カスミもいいよね!」

「何を言っているんだアンタは。

 ポケモンが沢山いる世界なんだからポケモンに愛を注いだって良いだろう。

 昔なんてポケモンと結婚出来た時代があったんだぜ」

【貴様等が言わんとする事がわからんでもない。

 しかしもとよりポケモンは可愛く造られた種族が多い、ここに注目せずして一体何処を注目するのだ】

 

「エリカもいいよね!」

「つまり俺の嫁はサーナイトかキルリアという事なんだ。

 少女から大人の女性に変貌する様はとてもクるものがあるんだぞ?

 しかも種族がほうようポケモンとか、むしろ心を握りつぶせと」

【何故貴様等はそんな方向性でしかモノを考えられないのだ。

 良いか? 元来萌えというものは可愛らしさから来ているものであり

 いかに大人の女性と括られる人間といえど、そこに可愛さを混ぜればだな】

 

「ナツメもいいよね!」

「ちっがぁぁーーーうッッ!! 良いかッッ?!

 ポケモンと人間だからこそ燃えるとかそういう発想じゃないッ!!

 魂を投げ捨ててでも信頼に値する相棒だからこそ激情が生まれるんだッッ!!

 そこに人間だのポケモンだのというくくりは塵レベルですら存在しないッッ!!」

【貴様こそ何故納得せぬのだッ!!

 あまえんぼうのエルフーン五匹に同時に抱き付かれる事を想像してみろッッ!!

 いじっぱりのクルマユにそっと傍に寄られる事を想像してみろッッ!!

 全てのモノは可愛さから成り立っているとどうして理解出来ないのだッッ!?】

 

 

「へへへ……OKだ、戦争だな」

「ああ、もうここまで来たらやるしかねえ……」 ←ゲーフ○社員

【愚か者共め……ひとつの視点でしか見れないその愚考、後悔するが良い……!】

 

 

 

 

 

その日……地下施設にある一つの部屋とその真上に当たるゲームコーナーフロアの一角が崩壊した。

原因は、意外な事にゲームフリー○社員の戦闘力の過大っぷりだった。

まさか俺どころかミュウツーが完全K.Oされるとは。

ミュウツーのサイコブレイクを余裕で耐え切って、あいつの顔面を握りつぶして持ち上げた時は

正直ハガレ○のグリードを思い出す図だった事をここに記しておく。

ちなみに俺はワンパンK.Oでした。

 

 

さて……下らない事を話し合っていたら施設崩壊という洒落になってない赤字が発生してしまったが

ロケット団改め、弾頭の運営はかなり順調である。

 

もちろんの事、未だに中小企業ランクにすら行っていないが

解散・会社設立の境目に至る前に、自分で資料に目を通した関係上これは奇跡に等しい。

以前の彼等はそれほどだった。一歩間違えれば団員全員が暴走か奈落だったのだ。

 

 

人材派遣の方は二ヶ月近く経った今

本当に地味としか言えないが、順調に働くための枠を獲得出来ており

その利便さを知った他の会社からも働き手を急造出来ないかと持ち掛けられたりして

以前の憂き目に遭っていたサカキは、今とても充実していると思う。

 

そして、ここら辺が順調になり始めたら

サカキはきっとトキワジムリーダーに完全に復帰すると思う。

以前までのサカキはロケット団の団員を捨てきれず

あちらに支障が出る位に足を引っ張られまくっていたのだ。

 

この件の参考資料、解散前のあの一シーン。

 

開発部門に関しては、やはりまだまだ金を消費し続けるだけ……という感じである。

一応俺も、現代知識のパクリとしてでしかないのだが

『主婦が発案した億の売り上げを達成した便利品!』とか

そっち方面で提案をしていたのだが、なんと研究員達がそれらの提案を魔改造し始めた。

 

実際のところ、その魔改造が成功したら本気で想像出来ない売れ行きの商品になりそうなため

こちらもロケットスタートを踏み留まるに至ってしまうのだ。

 

実際一億とかそんな売上が出るは思えんが……

それでもサカキ抜きであっても会社が回せるレベルに至るには

どうしてもここで大幅な黒字を生み出せる何かを発表させたいのだ。

 

 

ゲームフリー○に依頼したスロット改革案に関しても、先週から実装されている。

あの人達仕事が速すぎる。大部分を作り終えた後に俺が毎日あちらにお邪魔し

細かく意見を述べて行き、四日後には全て完成。合計7、8日。

 

稼動に関しては……実はまだ客付きには繋がっていない。

やはり価値観が違いすぎるのか、伸び悩みという感じである。

 

だが、どちらにしろ前の状態では頭打ちであり

現状その頭打ちでさらに横ばいであるわけだ、今更失うものなど何も無かった。

 

ひとまとめに現状を説明すると大体こんな感じである、成功では有るだろう。

ガキが相談役に近いところに割り振られている時点で何か世間としておかしいのに

速攻で組織解体が起こっていないだけ、連携は素晴らしいものがあった。

 

まずガキに職業相談してる時点でも突っ込みどころが満載だったりするのだが

そこで出した意見に関してもしっかり飲み込んでくれたあの人達は正直人として尊敬出来る。

俺は同じ立場でガキに言われた所で信用出来なさそうだし……。

 

 

 

 

 

 

「健康診断、ですか」

「あぁ、こちらでも管理している者達が大部分働ける雇用は獲得出来たからね。

 ここら辺で、前回の状態では出来なかったモノを入れて

 自分達も相手方も一安心させて上げたいなといったところだよ」

「良い案ではありますね……そういう細かい配慮は大切だと思います」

 

これに関しては結構同意しておく。

人間の体の構造とは良くわからないもので、死に至るような病でもしばらく体内に潜伏するのだ。

そういうのが『もしものもしも』であった時に、事前に気付く事が出来るこの福利厚生の価値は

俺が前世で面倒くさげに受けていたのと全く印象が異なり、潜在的な得は計り知れない。

 

「でもまぁ、俺は必要ないか。

 僅かでしかないけど、いらない金なら金削りたいところだし

 俺の事は気にしないで、社員の皆さんの健康診断しちゃってください」

「いやいやいやいや、何を言っているんだねタツヤ君。

 これは大事な事だぞ? 例え子供だからといって……」

「いいんですって、どうせ頑健に決まってますしやるだけ無駄です。

 子供のこの体で生活習慣病やら肝臓やらから始まる潜伏的な病気があるとも思えませんし

 そんな事やってる暇があるならミュウツーと萌え絵でも作りますよ」

「た、確かにそうかもしれないが……それこそ『もしかしたらが』───」

「ある可能性があったんなら俺だって素直に受けてますって。

 そういう人間ってのはサカキさんもわかってるでしょ」

「いや……まぁ、そうだと思うが……」

 

そんなこんなで色々な理由を盾にして、面倒な社内行事を回避した。

価値があるっつっても俺が受けたところで無価値だからなー。

 

 

そして現在ドレディアさんと街中をぶらついている。

そろそろどうだろうと思って、昨日は元暴走族と分けて行動させていたのだが

ドレディアさんの代わりに彼等の手綱(たづな)を上手く操ったのが

ボランティアで参加している近所のおばちゃん方だった。

 

やはり年長者には年長者なりのコツがあるらしい。

 

そんなわけで、昨日はモグラーズがやっていた訓練に参加させ

今日は一日一杯休日扱いとして、俺と街をぶらついているといった感じである。

 

 

「最近ずっとあいつらと一緒だったけど、どうだったよ」

「ディァー。ディーァ」

 

【裏表が無くてはっきりしてるヤツラばっかだったから付き合いやすかった】

 

そいつぁ結構。

まああんな奴らの中に軍師系列の人間居たら、さすがに警察の方々も手に負えないだろうしな。

気難しいドレディアさんですら『付き合いやすい』と例えられるのは、有る意味当然の帰結である。

 

「人見知り、少しは直ったかい?」

 

ドレディアさんはバッとこちらに顔を向けてくる。

その顔は非常に驚いており、【そこまで考えての抜擢だったのか?】といった感じである。

 

 

ごめん。実はそこまで考えてませんでした。

 

 

まあ訂正するのも格好悪いのでスルーである。

 

「ま、世の中色んなヤツがいるからな。ドレディアさんの周りに居た研究員もだし……

 それこそトキワのお兄さんみたいな人だって居る。のんびり付き合い方を覚えてきゃいいんじゃない?」

「……ディァッ!」

 

うむ、良い返事だ。

最初の戦いで俺の指示なんぞどーでもいいと思っていたあの子と

同一人物(人物?)とはとても思えない成長っぷりである。

 

 

そーいやそれ関連で思い出したけど……俺、普通のトレーナー戦での成績って著しく悪いんだよなぁ。

 

勝てたのなんてクチバの東での数戦だけだし

ヒンバス状態のミロカロスにスリープぶっ飛ばしてもらったのはノーカンだ。

31歳の頭で考えるからに、2:6や4:35を打ち破っているのは僥倖なはずだが

この世界でのメインの戦いで勝てないとかどんだけ貧弱なんだろうか、俺は。

 

「ドレディアさん、今日行きたい所とかは? デパートとか見て回りたいとかは無い?」

「~~……ディーァ(フルフル)」

「んじゃぁさ、今日はちょいと俺と特訓しない?」

「ディ?」

 

 

そしてドレディアさんに内容を懇々と説明して行く。

一番付き合いが長いからこそ、俺の出す苦点に関しても理解は示してもらえた。

 

 

「まあ正直逃げればいいだけってのはあるんだけどさー。

 前にもシオンの警察でそこら辺の行動も問題に上がったからね……」

「ァー……」

 

あの件は本当にやりすぎた。一階ロビーが全壊とか。

でもすぐに直ってたよな……もしかしてさっきぶっ壊した弾頭の部屋も

明日辺りになったら一瞬で直ったりしているんだろうか。

 

「ま、そういうわけでだ。

 特にやりたい事がないんならそっちでの修行でどうかな」

「ディァ!」

 

ドレディアさんも快諾で答えてくれる。

うむ、実際今は金の余裕も大体あるわけだし(金がなくなったら支給されるから

今のうちに問題点があれば何とかしてしまいたいところである。

 

「んじゃまぁ、あいつら一応回収しておこうか。

 人数多い方が何かと模擬の形も想像しやすいだろうし」

「ァーィ」

 

 

というわけで。

俺等は街中から地面連合が修行していると言っていた森へ向かう事になったのだった。

 

 

 

 

 

『…………。

 ─────……、……。』

 

バサッ、バサバサッ。

 

 

 

 

「んっと……この辺り、か?」

「ディーァ」

 

タマムシから郊外へ出て、森の中の道無き道を行く。

そろそろ特訓場所へ着くと思うのだが。

 

と思っていたところ、視界が急に開けた位置に出た。

どうやらここがタマムシ滞在での御用達修行場のようだ……が。

 

 

「───あれ? 誰も居ないぞ」

「ドレディァ~?」

 

 

地面やら周りの木にエグい抉れ跡も残っているため

俺の手持ちの子がやらかしたのは間違いないという感じの形跡はある。

 

だがしかし、場所はあれどもダグ共の姿は見当たらない。

一体何処に行ったのだろうか。

 

 

「ドレディアさんは昨日のうちになんか聞いてない?」

「(フルフル)」

「んん……なんだろーか。すれ違いかな?

 何かしら用事でも出来て一旦街にでも戻ったのかね」

 

昼飯は二時間ほど前に皆で食べたばかりだし

俺の手持ちは弾頭の団員、またはミュウツーと仲がとても良いわけでもない。

加えて俺の手持ちと一番親しそうなミュウは今日もサカキと外回りである。

 

 

「んん、二人で訓練するのも良いけど……。

 ひとまずは一旦街に戻ってあいつらを……───」

 

 

 

 

 

 

 

 

                   「行かせねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

「───ッ!?」

「ディァッ!?」

 

 

 

ズガガガガガガガガガガガッ!!

 

ガスッ

 

 

 

「! ……っグ」

 

 

森の何処からか声が聞こえたかと思った瞬間、俺が居た場所にポケモン達の攻撃が一斉に殺到した。

だが、一声あったおかげで全直撃こそ免れはしたが……不覚にも誰かの一発を貰ってしまう。

なんとかガードこそ出来たものの、やはり人間の体でポケモンの攻撃をガードするのは

耐久度的に非常に痛いものがある。右腕の手首から上がジンジンして痛みが止まない。

 

「……誰だ? 俺になんか用か?」

 

痛みによる憤怒を自覚しながら、姿を現したヤツを睨み付けて問い質す。

 

「……っへへ、そうだよ。テメェに用有りだ、このクソガキが」

「最もさっきの集中打で、完全に殺しきるつもりだったんだけど、ね?」

「まぁ……生き延びたなら生き延びたでいいやな。せいぜい苦しんでもらうだけだからよ……」

 

悪役全開なセリフと共に聞こえるのは、複数人からの返答。

セリフが終わると同時に姿が見えていなかった複数は、隠れていた森から姿を現す。

 

 

「……ドレディアさん、警戒しておいてくれ。

 一体こいつらがなんなのか俺にもわからんが、危険な感じだ」

「……。」

 

【言われるまでもねぇよ】と頼りになる返答を貰う。

こういうシーンで説明する暇もなく意思が伝わるのは、本当にありがたい。

 

「……こいつらがなんなのかわからん、か。随分とご挨拶なもんだなぁオイ」

「……ふん、まあテメェにとっちゃ、その程度の価値でしか俺等を見てなかったって事なんだろうな」

「あんたのせいで、ロケット団に戻る事も出来ずに

 放逐されてずっと苦しんでいたってのに、認知すらしてもらえてないなんてね……」

 

……ロケット団、だと!?

 

声を荒げつつ、どんどん茂みから出てくるやつら。

姿を良く見ればどこかしら、服が黒で統一されている。

 

 

ッ! ちっ、そういう事か……! こいつらは───

 

「気付けねえなら……教えてやらぁ。

 俺は……俺等は───テメェのせいでロケット団から……! ───追放処分を受けた団員だよッ!!」

 

「…………。」

「ディ……!」

 

 

こいつらは……弾頭の再生プロジェクトを開始するに至った上で

初期に見限った、ロケット団を隠れ蓑にしているどうしようもない犯罪者達だった。

 

本当に考えをひねり出せば、まだまだなんとかなる案はあったかもしれないが

内側から蝕まれているあの状況、手段を選んでいられなかったのもあり

そいつらの事後処理等も一切決めていなかったが……それがこんなしっぺ返しで帰ってくるとは。

 

 

森から出てきた元団員の数、首を切った15人そのままである。

そして奴らの周囲には二匹以上、多くて四匹以上のポケモンを携えている。

 

「お前等……ここに居たダグ達はどうしたんだ」

「あーあいつらな。一応ボスからテメェって存在がどんなのかも追放される前に聞いてたしな……

 実際相対しそうになっただけでも異常なのはよくわかったからよ」

「どうした、と聞いているんだッッ!!」

「まぁ、落ち着けや……。

 悔しいけどな……俺等じゃ本気で奇襲しても気付かれそうだからよ。

 テケトーに嘘を教えて街に一旦帰ってもらったんだよ」

 

……? 嘘を教えて街に帰すだと?

あいつらが知らないやつの言う事なんぞを聴くとは───

 

「俺等を放逐してからもロケット団に関わり続けたのが仇になったなぁ?

 ロケット団自体が変わったっつっても、俺らも元団員だからよ。

 前の制服着てりゃぁ団からの連絡だって信じてもらえたさ、へっへっへ」

 

 

…………これは、完全にしてやられたな。まさかそういう手段が残されていたとは。

さすがに徒党を組んでというのは若干想像してこそ居たが

状況をしっかり確認した上で、使えそうなもんに気付く奴らだったとは……。

 

 

周りを見るに、ニャルマーやらブニャットやら……

チョロネコにアブソル……ケンタロスも居やがるか。

ロケット団で使い手があまり居ないテッカニンまで確認出来る。

 

ほぼ全員かくとうタイプの攻撃が良く効くとはいえ……

周りに道具も無いし、道具としてぶち折った木を使うにしても『折る』という行程がどうしても必要だ……

範囲攻撃系列の技が存在しないドレディアさんでは、この状況はかなり厳しい。

 

…………。

 

「すまなかった、と一言詫びたら許してはもらえないかな?」

「ハッハッハァ! やってみたらどうだ? みんなは許してくれるかもしれねーなぁwww」

「ウフフ……」

「へへへ……」

 

…………ッチ、どうやら俺がこいつらを切ったのは絶対間違いじゃない、大正解だな。

俺と同じで……心の底まで外道のドチクショウだ。

謝った所で、その後にポケモン全部をけしかけるつもりなのが

今の会話のイントネーションでよくわかる。

 

完全に、不利でしかないな。

以前やりあった時に回想もしたが……俺等みたいなタイプは、予想外にとことん弱い。

今まさに何の準備も出来て居ない予想外の事態に直面しており

これを、この状況を今から改善出来るとは思えない。

 

 

「ドレディアさん───」

「 ! ……ディ」

 

そしてベストな選択を構想した結果。

 

 

ドレディアさんは俺を持ち上げる。

 

「ッ!? このガキ、なにかやらかすぞッ!! 全員油断すんなよッ!!」

『おうよっ!!』

 

「ディッ、アァーッ!!」

 

ぶぉんっ!

 

俺はドレディアさんに、『高く』投げられた。

 

 

「ハァ……?」

「んだぁ……?」

「……上?」

 

そして、木の枝に着地(●●●●●●)し、素早くボールにドレディアさんをしまう。

 

「なんだ、なにやらかすつもりだクソガキ……」

「上から降りてくる……?」

「飛び道具でもあるのか……?」

 

下の状況を無視し、俺は枝の上で再度ドレディアさんを横に出す。

地面にいるやつらはドレディアさんが出現したため、再び警戒をし

俺はドレディアさんに───

 

 

 

枝の上からまた違う枝に投げてもらう。少しバランスは崩すながらもしっかり着地し

再度ドレディアさんにボールのビームを当てて、ボールに仕舞い込む。

 

 

「……ッ! あのガキッ、上から逃げるつもりだッ!!

 全員追いかけろッ!! ぜってぇ逃がすなぁーーー!!」

「逃げ……!?」

「クッ、そういう事かよッ!!」

 

 

くっそ……思ったより早くバレた……!

もう少し黙っててくれりゃそのまま姿(くら)ませられたのに……!

 

 

「頼むぞ、ドレディアさん……!」

 

パシュゥンッ

 

「ドレディァ!」

 

 

 

そうして、突然の奇襲からの逃亡が始まった。

 

 

 




年始ののんびりした時間も終わっちゃったなぁ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

84話 ロケット団繁盛記 復讐鬼達の中で






 

 

なんとかあいつらに囲まれた状態からは逃げる事が出来たものの……逃げの采配として取ったこの手段は

どうしてもドレディアさんの出し入れに手間が掛かり、付かず離れず程度の速度しか出す事が出来ない。

 

「くそっ、さすがにこの限界じゃ逃げ方として限界があるか……!」

 

パシュゥン

 

「ディァ……!」

 

ブゥンッ

 

よし、次はあの枝……──

 

「───ッ!?」

 

しまっ……! 着地箇所と足にズレが……ッ!?

 

 

「うぉぉぁあぁあああーーーーッッ!?」

「ディァー!?」

 

いくら人を支える程度に頑丈な枝とはいえ

幹から飛び出た横っ面が支点である宙ぶらりんな足場では、微妙な反動の誤差が出る。

 

故に、そこまで想定しきれず足を滑らせてしまった。そしてかなりの高さから落下してしまう。

 

ッドスン。

 

 

「ぐ……おぉぉ……ッッ!」

「ディァー!? ドレーディァッ!?」

「……ッ、大丈夫……」

 

 

───こっちだー!! 上から落ちてんぞー!!

 

 

「……痛がってる暇も無いってか、クソッタレ!」

「……!」

 

100m程先にロケット団の一人が見える……あいつらは固まって行動してるはずだから

アイツを始点としてすぐにこちらにドッと押し寄せてくるだろう。

急いで逃げなくちゃ───

 

ッドゴォ!!

 

ギギギシギシギシ、ズーン  ……......

 

「ド、ドレディアさん……?!」

「─────。」

 

ドレディアさんは俺が落下した木を殴って折り、()ぎ取ってそれを持ち抱える。

 

「駄目だッ!! いくら武器を持ってもこれじゃ多勢に───」

「─────ディ……ァァァァァァアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーーーーーッッッ!!」

 

俺の説得を無視し、ドレディアさんは折った木をあいつらが居る方向へ槍投げの型でぶん投げた。

 

「なっ……」

「ちょっ……」

『ウァアアアアアァァァァァッッ!?』

 

 

向こうから木が木にぶつかる破砕音が聞こえてくる。

そして悲鳴を聞く限り数人+その手持ち単位には巻き込まれていると思われた。

 

「ドレディアさん……! よくやってくれた、今のうちに─────って、ちょ?!」

「ッディァ!」

 

あちらの阿鼻叫喚を確認した後、ドレディアさんは俺を抱え上げる。

俺の抗議から暇も与えず、投げ───る、と思ったらそのまま走り出した。

 

「ッ! そうか、よし……このまま頼む!」

「ディァッッ!!」

 

完全に動揺してしまっていたらしい。

あいつ等に遭った時点では、周囲が完全に囲まれていた。

故にこの方法も最初こそボツ案だったが……。

 

しかし一度包囲網から抜ければ、敵が居ない方向がある。

俺を抱え上げたとて、ドレディアさんが一人で走った方があいつらより速い。

 

だが後ろのあいつ等も、意外過ぎるほどに建て直しが早く

またこちらに向かってポケモンを繰り出してきた。くっそ、トラブルに手馴れてやがる……!

 

しかも素早さ重視の編成である。

マルマインを先陣に、ペルシアンにブニャットとどんどん獣っぽいポケモンがこちらへ殺到する。

 

 

「ドレディアさん、行けるか?」

「……、ディ、ア!」

「……!?」

 

いけると返答をもらったが、返答がいつも通りではない。

瞬時になんらかの異常を抱えている事がわかった。今までのを思い返すに……どこで何が……、ッ。

 

「そうか、俺が一撃貰ったところで……ドレディアさんも何発か貰ってたのか……!」

「ディッ……!?」

 

【なんで分かった】と返してくるドレディアさん。

 

そんなもん決まってんだろう……。

 

「───『相棒』、だからだよ」

「───。」

「……くそ、最善の策は確かにこれしかない……無理させて悪いけど、行ってくれ……!」

「ディァ……!」

 

俺の返答を聴き、ドレディアさんは俺を抱え上げ自慢の素早さを活かし、走り始めた。

しかし単独での早さとは比較にならないほど遅く、せいぜい俺が走る二倍程度の速さだ。

 

ペルシアンもブニャットも、素早さ的には一般ポケモンで考えてもトップクラスに入るはず。

加えて昔からの素早さ代表格、マルマインまでこちらに迫っている。

俺というお荷物を抱えた上では逃げ切るのはきつすぎるものがある。

 

しかし、俺が一緒に走ったところで速攻で追いつかれるのは目に見えている。

そして普段なら最後の賭けのひとつである、俺の時間稼ぎという案も……今ここでは役に立たないのだ。

 

 

何も出来ない自分が悔しいが……

今はこれしかない、突然の奇襲に備えていなかった自分の愚かさに腹が立つ。

今となっては全てが後の祭り……ここからどうすれば逃げ切れるだろうか。

 

 

 

 

~タマムシシティ~

 

歩行者用の通路を、一見すると何がなんだかわからない面子が歩いて行く。

 

ご存知、細マッチョダグトリオ達と地面から浮いているムウマージである。

 

先程弾頭の人員を名乗る人に

 

『急用が出来た、至急こちらに戻ってくれ。俺は手が離せないからこいつらをよこす』

 

との旨を受け、修行場から街に引き返してきたのだ。

 

本来なら彼等も、トレーナーすら周りにおらず

警察に野良ポケモンとしてしょっぴかれてもおかしくないのだが

さすがに二ヶ月近くも滞在していると、その風変わりな格好も相まって

誰が持ち主か、というのはタマムシシティでも周知の事実となっていた。

 

【しかし、我が主は何用であろうな?】

【うむ……皆目見当も付かぬ。主は構想からして突飛であるからな】

【△▲☆★~?】

【突飛と言うのは、あまりにもぶっ飛んでいる考え方や行動を指す言葉である】

【△▲☆★~……】

【うむ、言い得て妙だが……確かに我等が主を示す言葉としては的確であるな】

 

四人で会話しながら街を練り歩く彼等。

最近街に来た者がこれを見たら、別世界の光景にも見えるかもしれない。

 

しかし幸いな事に、そこらに居るのは元々のタマムシ住人達。

異常と感じられる事も無く、主が居ると思われるタマムシの中心部に位置する

地下施設の入り口へと普通にスタスタと歩いて行く。

 

そして不幸な事に、既に彼等の立ち位置は森の異常が耳に届く距離を越えてしまっていた。

ドレディアが決死の力で折った木の音も、投げた音も、破砕音も聞こえない。

 

【───あら? みんな御揃いでどうしたんですか?

 ムウマージさんはともかく、ダグトリオさん達は郊外で修行しているってお話では……】

【ぬ、ミロカロスの大女将(おおおかみ)か】

 

そろそろ施設の入り口に差し掛かろうとしたところで

今朝ポケモンセンターにて、泳ぎに行きたいという主張を通し

タマムシジムまで遊びに行っていたミロカロスが現れる。

 

【ええ、今朝方ぶりですね。おつかいか何かですか?】

【ああ、なにやら我等の主が、修行組の我等を呼んでいるとの事でな。

 今から主が居るであろうあの組織の地下施設に向かっているのだ】

 

代表して答えるダグONE。しかしそれを聴いたミロカロスは違和感を覚える。

 

【……? 私もタマムシジムから街まで戻った後に

 ご主人様が居ないかと思いまして、一度あの地下施設に行って

 今日はご主人様が地下施設に来ていないのを確認しているのですが】

【む……? ではあの組織の施設ではなく、人用の宿に居るのだろうか】

【でも……今日はドレディアちゃんと一緒に行動しているんですよね?

 あの快活なドレディアちゃんがポケモンセンターでご主人様と引き篭もっているとは思えませんが……】

【確かに、そう言われれば納得せざるを得ない。】

【なんせ、『あの』姐御だからなぁ】

【違いない、ハッハッハッハッハ】

 

ダグトリオが、本人達が聞けば殴り飛ばされない内容で笑い合っている中

ミロカロスは更なる違和感を覚える。

 

【…………貴方達は、呼ばれたのですよね?】

【うむ、そうであるな】

【ご主人様に、ですよね。】

【……? うむ、間違いない】

【誰からそれを伝え聞いたんですか?】

【今世話になっている、あの組織の構成員からだな。

 手が離せないから替わりの使いとして参ったとも言っていた】

【……今、私が施設の中にご主人様が居ないのを確認したのに?】

【【【【…………?】】】】

 

それを聞き、皆で顔を合わせる。言われてみれば話の内容が確かにおかしい。

 

手が離せないのに、施設にいない。

もしも施設以外で手が離せないなら、別の場所に居るわけだが

 

 

呼ばれた上で、その別の場所の指定も無い。

 

 

【……どういう事だ? 確かに矛盾があるぞ】

【△▲☆★~……?】

【何故主は我等を呼び出したのだ?】

【これは……どういう事なのでしょう?】

【わ、わからん。そもそも主は今どこにおるのだ?】

【……む、そういえば……?】

 

そこでダグTWOが何かに気付き、全員に質問を投げかけた。

 

【ぬ、どうした二型よ】

【我等に連絡をくれた組織の構成員達は、最近の組織の格好をしていなかったな?】

【……そう言われれば、確かに我等と船で相対した時の服装であったな】

 

ダグONEが思い返すと、何度か戦った際に着ていた黒ずくめの服だった。

TWOとⅢに比べ、ポケモンタワー外でも二度見ているために

ONEの中ではあの格好こそあの組織という概念が存在していた。

 

故に、構成員の格好をはっきりと覚えていたのである。

 

【しかしあの組織は、元の組織の更正という名目があったはずだが。

 その建前があるのに、何故に前の組織の服に固執したのだ?】

【そうだな、故に再編している地下施設では全員普通の人間が着る服に

 黒い色を混ぜたような服になっていたはず】

【……まさか。】

【ダグONEさん? ……まさか、とは?】

【我等に連絡を伝えた遣いは……[弾頭]という組織ではなく[ロケット団]という組織……!?】

【【【【ッ!!!!!!!】】】】

 

 

ここで漸く全員が気付く。連絡自体が『偽報』だったのだ。

 

 

【あ、主は何処だッッ?!】

【ち、地下施設には間違いなく居ません……!】

【ポケモンセンターはどうだッ!】

【そちらはまだ行っていません……。けど、居ない可能性の方が───】

 

 

                                 .........……──ォォ ーン ─......

 

 

【ッ?! まさか今のは爆発音か!?】

【爆発音かはわからんが……何かの破砕音なのは間違いない!】

【△▲☆★ーーー!! △▲☆★ーーーー!!】

 

そしてムウマージが何かに気付き、その手が指す先には……

 

【……ッ!! 二人共、我等に乗れッ!! 今すぐあそこへ向かうぞッッ!!】

【はいっ!!】

【△▲☆★ッ!】

 

自分達が訓練していた森から、鳥ポケモンが一斉に飛び立つ姿だった。

 

ダグ達は素早く他の面子を頭に乗せ

自分の主が襲われていると思われる、先程の修行場へと走り出した。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

85話 ロケット団繁盛記 追い詰められたタツヤ






 

「マルマイン、やれぇーーーッッ!!」

「ッガゴガーグォォォオンッ!!」

「 !? ドレディアさん、回避だッ!!」

「ッディ───」

 

慌てて指示を飛ばすが、予め相談してあったのかすぐさまマルマインがだいばくはつを起こしてしまう。

 

「ぬぉぁあああーーーっ!!」

「───ッ!!」

 

かなりの近距離でだいばくはつされてしまったせいか

俺は爆風の影響でドレディアさんから離れ落ちてしまう。

 

「う、ぐっ……!」

 

先程木から落下したダメージも踏まえ、かなりきっつい。

正直寝られるなら今すぐ寝てしまいたいが、そんな事をやってしまっては即がめおべら(GAME OVER)だ。

 

「ドレディアさん、大丈……───!?」

「……ッディ、アッ……」

 

直撃でこそないものの、もろに余波でも食らってしまったのか

少し見ただけでもドレディアさんはかなりダメージが蓄積されてしまっている。

 

「ちっ……運がいい奴らだ。マルマインのだいばくはつ喰らってもまだ動けるなんてな……」

 

その声に顔を上げてみれば、少し胸を上下させているロケット団員。

そいつの周りには追撃の次鋒だったブニャットやらペルシアンやらがいる。

 

どうやらマルマインのだいばくはつの影響で

足止めされている最中に追いつかれてしまったようだ。

 

「……ドレディアさん、まだ動けるか」

「……ディ、ァ」

「そうか……無茶だけはしないでくれよ」

 

互いの蓄積ダメージを確認した後、俺は団員と対峙する。

先頭集団が追いついたとはいえ、足が遅めの奴らはまだまだ後方のようだ。

 

「お前等の狙いが俺なのはわかる……俺をどうにかした後、お前等は一体どうするつもりだ」

「決まってんじゃねえか。テメェっつー異分子を排除したら、ボスに直訴してロケット団の復活だ!

 社会適応だかなんだか知らねーが、俺達は悪事をしてなんぼなんだよ」

「サカキさんの意思は無視か?」

「へっ、ばっかじゃねえの?

 俺等を見出して拾ってくれたサカキさんが、俺等のやる事に反対するわけねぇじゃねえか」

「サカキさんはお前等のせいで疲れ果てていたぞ……。また、その重荷を背負わせる気か」

「だーから言ってんだろうが、ボスが反対するわけが───」

「ッァァアアアァアアーーーーッッ!!」

 

俺等の会話の途中にドレディアさんが飛び出し

喋っているロケット団に鉄拳をぶち当て……ようとしてペルシアンに一撃を防がれた。

 

「ナォォォ……」

「ッディァ!?」

「なめんなよ。テメェが奇襲上等なのはクチバでバレてんだよ。

 知らなかったら危なかっただろうが……残念ながらこっちも対策済みよ」

「……っくそ、万事休すか」

 

まさかこの手の奇襲ですら対策を練られてたとは……まともにやりあうしかないのか……!

 

「ッハァ、ハァ、おい、どうだ! 殺したか!!」

「ざーんねん、まだお話の最中だ。どうやら簡単には殺されてくれないらしいぜぇ?」

「……っふ、っふー、まあどちらにしろ多勢に無勢だろ。

 油断はしないが、後ろからも遅いヤツラはどんどん辿り付くだろうしな」

 

打てる手は既に非常に少ない。4枚だけでポーカーしているようなものだ。

 

「……しばらく使っちゃ居なかったが、仕方ない。ドレディアさん、やれるか」

 

俺は常に懐に忍ばせているメリケンサックを指に嵌め、ドレディアさんに尋ねておく。

 

「……こいつらが狙ってんのは、俺だ。みんなに知らせに走るのも、手だぞ?」

「……ドレ、ディ」

 

【放っておけるわけ、ねえだろ】

 

「……そう、か。ありがとう。

 本当にすまないな、こんなわけのわからん逆恨みの処理をさせて」

「……ぁあ? んだとテメェ、もっかい言ってみろ」

「逆恨みの部分、か? まさにそうだと思うんだがね。

 お前等は呆れるほどに腐ってたから、組織の贅肉として首を切られたんだよ。

 その事ぐらい、理解出来ない訳じゃないだろう?」

「ッて、テメェ……!」

「おい、落ち着け。そういう挑発もコイツの手段なんだろうよ。

 動けなくなった後にぶちのめしゃ問題ねえだろ?」

「ッチ……わかったわかっ───」

 

ズォッ!!

 

ドレディアさんはまたも会話の途中に、2番目にここに来たやつへ攻撃を繰り出す。

そしてやはり、ブニャットが相殺に乗り出し攻撃は無効化されてしまった。

 

「ンニャォォオ……!」

「っへ……同じ事を繰り返さないとわからな───」

 

 

ッドムッ!!

 

 

「ぐっ!??! っご、ぁ……!?」

「ニャォゥ!?」

「───っふぅ」

「な……クソガキッ、てめぇーーー!!」

「お……ご、ぁ……」

 

ドレディアさんの影に隠れるように、一緒にドレディアさんと接近し

攻撃を防いで油断した団員に、『俺』が一撃を見舞わせる。

幸いストレートに横っ腹へ拳が吸い込まれてくれたおかげで

ワンパンK.Oに近いダメージを与える事は出来たようだ。

……まだ最初に来た団員も残っているが、

 

「あんた達っ! あのガキ仕留め────って、コラァ!!

 しっかりおしっ!! 子供の攻撃で情けないよ!!」

 

……さらに、どんどん追加されていってしまうか。

 

「ドレディアさん、駄目元だけどそいつ持ってきて」

「? ディァ」

 

俺はあいつらから少し距離を置きながらドレディアさんに頼み

まだまだ動けるらしいドレディアさんは、気絶寸前の2番目のヤツを持ってくる。

 

「なっ、ガキッ……そいつをどうするつもりだ!?」

「決まってんだろ、人質だよ」

 

こいつらに仲間を見捨てられないほどの団結力があるとは思えないが

ひとまずはやらないよりはマシであると判断し、即座に交渉カードにする。

 

「……っへ、俺ら一人一人が人質になる価値なんぞあるわけねえだろ。

 盾にするってんなら、そいつごとテメェを殺しにかかるだけだ!」

「だってよ、こいつの手持ちらしいブニャットよ」

「ッ?!」

「お前はご主人様がどうなってもいいのか。それならこちらも手段はいくらでもあるが」

「ニャ、ォォオォ……!」

 

 

 

 

 

「───ブ、ニャット……!」

「ニャォ!?」

「っ!?」

 

 

なんだ……!? 何を言うつもりだ!?

結構なダメージを負わせられる急所を殴ったのにまだ喋れるってか……!

 

 

「くそっ、だま───」

「俺のことは気にするなぁ……!! このガキ始末する事を一番に考えろぉ……!!」

 

っぐ、自分で自分の人質の価値を無くすとは……!

こいつら本気で肝据わってやがる……。

 

 

「……ドレディアさん、こいつを───」

「おぉ? なんだぁ?

 人質の価値がなくなったら返してくれるってか? そいつはありがてぇ話───」

「───武器にしろ。」

「───ディァ」

 

俺の言葉を聴き、ドレディアさんは俺が殴り倒した奴の足を握る。

そして場に居るロケット団とそのポケモンは俺の言葉を吟味し、意味を理解した上で戦慄する。

 

「クソガキが……てめぇの方がよっぽど悪人じゃねえか……!」

「なめ……んなよ……! 天下の、ロケット団が、そんな脅しに……───」

 

 

「ッディァアア゛ア゛ア゛ァァーーーーーーッッ!!」

「うぉぁぁぁあああーーーー!?」

「クッ、迎え撃てぇー!!」

 

武器にされたロケット団員の悲鳴をお供に連れて、ドレディアさんはロケット団に殴りかかる。

 

その動きはやはり、通常とは精彩を欠いているが……

それでもさすがのドレディアさんらしさ全開の、素早い動きで敵陣へと突っ込んで行く。

 

「ァァァァァァアアアアア゛ア゛ア゛ーーーッッ!!」

「ヴ、ヴモォォオオッッ?!」

「ぎゃぁぁああぁあああーーー!! やめっ、げふっ、おっぐぉぁ……!」

 

大乱戦の中、ドレディアさんは『武器』を振り回しながら

時には敵に『武器』を当て、時には『武器』を使い後ろめたさを与え、うまく立ち回る。

 

「っくそ、俺等の仲間を……!

 やれぇヘルガーッ!! あのガキに噛み付いてこいっ!!」

「ガルルルァァァーーー!!!」

「ッ───!」

 

ついにこちらにまで手を出し始めたロケット団。

進化前のミニマムなポケモンならまだしも、進化後にでかくなったやつは

さすがにこの体ではきつすぎるものがある。

 

 

 

……だが、『タダでやられる』だなどとは一言も言っていないッッ!!

 

 

 

「っるぁぁぁぁぁぁーーーーーッッ!!」

「───!?」

 

ッゴッシャァ!!

 

 

噛み付かれる前に俺はそのヘルガーの鼻の下目掛け、メリケンサックを用いた拳を繰り出した。

 

結果その狙いはジャストミートで入り、ヘルガーの前歯をへし折るに至る。

 

「ッグギャンッ!?」

「っふー……! 成功っ……!」

「クソが……噂通りだな……! このガキ本当にポケモン並にやりやがる……」

 

だが今回上手く行ったところで、次も上手く行く保障はどこにもない。

それでもこのまま突撃し続けてくれればいくらでも方法はあるが……!

 

「おら(ひる)んでんじゃねえヘルガー!!

 どうせそんな前歯なんぞポケモンセンター行けばいくらでも復元出来んだよ!!

 もっとだ! もっと攻めまくれ!!」

「ガルルルルッッ……!」

「……ッチ、少しは(おび)えてくれりゃいいのに……」

 

痛みはきついのかさすがにさっきほどの勢いは無いが

それでも激を飛ばされ、やる気満々なヘルガーが未だに俺の前に立ち塞がる。

 

「おら、行ってこいッッ!!」

「グァァァァーーーッッ!!」

「……ッ!」

 

どうする……?! 奇襲紛いの手を使ってもすぐさま復活される。

さっきの攻撃がまた入るとは考え難い……

加えて俺はカウンターなんぞという、技術がモノをいう上等技術だ。

狙ったところに攻撃を持って行くなんて出来ない。

 

駄目だ……ここで攻撃をまた出すのは愚策だ。

腕一本駄目になってもガードに───

 

 

「─────ぁぁぁぁぁぁああああーーーーっっ!!」

「っ?!」

「ッガルッ!?」

 

 

絶叫を共に連れ、こちらに『突撃』してきたのは、『武器』だった。

突然の突撃にヘルガーは、攻撃に蹈鞴(たたら)を踏まざるを得ず、一度勢いを止める。

 

偶然にも同時に、『武器』が投げ放たれた方向を見れば

全力でコイツをオーバースローしたと思われる、ドレディアさんが敵陣の中に突っ立っていた。

 

 

ッ! 駄目だっ……! ありがたいが、それは失策だ!

 

「ドレディアさんっ!! こっちに戻れぇーーーーーー!!」

「ッディ、ァ……ドォ、レディァーーーーッッ!!!」

 

振り回す獲物が無くなり攻撃範囲的にも不利になったシーンで、俺は慌ててドレディアさんを呼び戻した。

彼女もそれに答え、道を塞ぐポケモン達の攻撃をなんとか()(くぐ)りつつぶっ飛ばし

包囲網から脱出、俺の横まで息切れ切れに戻ってくる。

 

「ったくどっちもちょこまかちょこまかと……!」

「ふふ、でもそろそろ限界も近いみたいね?」

 

ドレディアさんは既に満身創痍であり

なおかつ後ろからはぞろぞろと人間とポケモンが合流してくる。

こちらとしても取れる手段が多いわけでもない。

 

……そうだな。さすがにこれ以上は、もう厳しいか。

 

 

 

最終手段を取るしかない、だろうな。

 

 

「───ドレディアさん。

 俺を上の枝に投げ捨てた後、ここから全力で走り去れ」

「ッ!? ッディ、……ディァ!?」

「駄目だ、もうそんな風体じゃ戦わせる事なんて出来ない。共倒れがオチだ……。

 俺を上にあげてくれたら全力で走って『あいつら』にこの状況を伝えてくれ……」

「…………、ッ…………!」

 

ドレディアさんは悔しそうに(うつむ)き、拳を握り締める。

しかし周囲の状況が、俺らの悩みを許さないのは気付いている。ドレディアさんは俺を持ち上げ───

 

 

「ッ! 今だッ!! てめぇら!!

 全員かえんほうしゃだのれいとうビームだのをぶちまけろぉーーーーーッッ!!」

『ッグギャルガァァアァァアアーーーーー!!!』

「っな!?」

「ッディ!?」

 

 

そんなっ、このタイミングでだと……!?

くそ、ドレディアさんも投擲タイミングに入っていて体勢が───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ホォァァァァァアアアーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに居ないあいつの声が響いたと思ったら、俺達の目の前に水柱が降り立つ。

それは太くも細くも無い、ハイドロポンプでもない、せいぜいが小さい滝。

 

しかしそれでも、その水柱は。

れいとうビームですぐに凍った後、炎に対する受け盾となり。

こちらに飛んでくる攻撃を和らげるには十分だった。

 

だが───

 

 

 

 

グゴォォォオオォォオオォオオオオオォォオ……!!

 

 

「ッディァー……!」

「っぐぅぉ……!」

 

 

完全な相殺ではなく、和らげる程度。

全部が直撃するよりは遥かにマシな威力ではあるものの

俺らに対して、れいとうビームの後に飛んできたかえんほうしゃが降り注ぐ。

 

……きっつい、きつすぎる。

本気で倒れてもおかしくないぐらいに、ダメージと疲労が蓄積する。

まず人間の身で、軽減されているとはいえポケモンのかえんほうしゃに耐えられるわけがない。

 

「だ、いじょうぶか、ドレディアさん……!」

「…………ァッ……!」

 

 

さすがのドレディアさんも気絶寸前である……これ以上は、持たないだろう。

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

「来て、くれたんだな……!」

 

 

 

 

俺の相棒達は

 

 

 

 

「ッ!」

「ッ!」

「ッ!」

『ッッッ!!!』

 

 

「△▲☆★~ッッ!!」

 

 

 

「ホァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーッッ!!!」

 

 

 

 

ちゃんと、駆けつけてくれた。

 

 

 

 

「っくそ……もうこっちに嗅ぎ付けて来やがったか」

 

悔しそうに呟くロケット団員。

 

「ミロカロス……ドレディアさんを頼む。彼女、もう瀕死寸前なんだ」

「ホ、ホァ!」

「…………ィ、ァ」

 

ミロカロスはすぐさまドレディアさんを背中に乗せ上げ

俺の風体を見直した後に俺も乗るように言ってくるが……

 

「俺は、残らなきゃ、な」

「ホァ! ホーァ!」

「だってよ……」

 

ミロカロスは、やはり俺の格好を気にして無理だと断定する。

しかし、俺にはここから立ち去れない理由がある。

 

 

 

そう、腐っても。弱っても。倒れそうでも。

 

 

 

「───あいつらに対して、指示飛ばさないと駄目だろ?」

 

 

 

俺は、ポケモントレーナーだ。

 

 

 

俺等の前に出て、ロケット団共を威嚇しながら守る壁を作り出しているダグトリオにムウマージ。

ムウマージの方は攻撃が超絶火力なためなのか、攻撃を行わずにひらりひらりと身を躱している。

 

こいつらを置いて、俺だけ下がるわけには行かない。

だから……指示を───飛ばすんだッ!!

 

 

「ダグトリオッ!! 三人で適度に連携してあっちを引っ掻き回せ!!

 ムウマージッッ!! なんとか火力を抑えて攻撃は出来ないかッ!?」

 

『─────ッッッ!!!』

「△▲☆★△▲☆★△▲☆★△▲☆★ーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っへ……まだまだ甘いな、ガキが。俺等がその合流を予想してないとでも思ったか?」

「……ッ!?」

 

 

突然こちらに声を掛けてくるロケット団員。

 

なんだ、今なんて言いやがった……!?

 

 

そしてダグトリオにムウマージは、俺の指示を聞き入れ敵陣へと───

 

 

 

 

 

 

 

「出番だッッ!! やったれぇーーーーーーーーーーー!!」

 

「おうっ!! テッカニン、バトンタッチだッ!!」

「ミィィィン」

 

「ッ!?」

 

 

ロケット団員が、俺等の方ではない上の方を向いて声を張り上げる。

釣られてそちらに目線を向けると、そこに居たのは木の枝に掴まり上から俺らを見下ろすロケット団員の一人。

 

さらにテッカニンを連れて、指示したのはバトンタッチ。

 

 

 

そういやなんでさっき俺を追っかける組にテッカニンが居なかった!?

テッカニンなんて、伝説ポケモンを入れても一匹の形態を除き、素早さがダントツなのに

あえてそれ以下のマルマインを先行させて、俺達を追い詰めて───

 

 

全部……こうなるまで、戦術に組まれてたのかッ!?

 

 

そしてバトンタッチで現れた敵は……最低、複数回の『かそく』が込められた……

 

 

 

 

 

─────ストライクッ……!!

 

 

 

 

 

「ギシャァァァァアァアアアッッ!!」

 

 

『───!?!??!』

「△☆ッ?!」

 

 

突然の新手にダグトリオとムウマージは戸惑い─────

 

 

「狙いはあのガキだッッ!! ストライク、きりさけぇーーーーーー!!」

「ッギッシャァアアーーーーッッ!!」

 

 

 

ストライクはこちらに狙いを定めて飛び、迫って───

 

や、やばいッ! 速過ぎッ─────

 

 

 

その速度は、とても俺の手持ちが反応しきれる速度ではなく

一直線にストライクは俺の胸元へと『かそく』付きの状態で飛び込んできて

 

 

本当にその一瞬、俺は世界が遅くなったような錯覚を受けた。

 

 

ストライクは躊躇することなく突撃してきて、その鎌を俺目掛けて振り上げ

 

ダグトリオとムウマージも慌てて俺に向かい

 

瀕死間近のドレディアさんですら、ミロカロスから降りて

 

俺のところに来ようとしているのが見えた。

 

 

 

だが

 

 

 

 

ザ シ ャ ァ ーーー ッ

 

 

 

テッカニンからのバトンタッチで

 

 

 

素早さフルバッフのストライクに追い付けるわけもなく

 

 

 

ひらけた視界に、ガッツポーズをする団員や

俺に向かうドレディアさん、ダグトリオやミロカロスを目に入れ、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の

 

 

 

胸元から

 

 

 

赤い花が、咲いた

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

86話 ロケット団殲滅記 『彼ら』の失策






 

私の、私のせいです。

私の力が、不甲斐無いばかりに

私の主様が、私の相棒が

あの不気味な緑の鎌を手に持つ虫に、切り裂かれた。

 

それに気付いて、慌てて手を伸ばしたところで

この傷付いてしまった体では、そこに間に合うわけもなく

実にあっさりと、私の相棒は奴に切り裂かれてしまったのです。

 

ようやく逢えた『相棒』なのに

ようやく逢えた『親友』なのに

また、私の前から居なくなってしまうのでしょうか。

 

どれだけ求めても、彼が切り裂かれた事実は変わらなく

どれだけ手を伸ばしても、誰も彼を守る事が出来ず

その中悠々と、緑の鎌虫は主を置き去りに通り過ぎ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 ガシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の主様は

 

 

 

 

 

 

 

 

動いた。

 

 

 

 

~推奨BGM 『DO OR DIE』~

 

 

 

 

 

「───ッグギャァ!?」

 

サックを嵌めていない手で、通り過ぎようとするストライクの首を掴む。

 

痛い。

 

「やって、くれんじゃねぇか……」

 

そして、胸元が裂けているせいで、力を振り絞れば振り絞るほど、そこから血が漏れていく。

 

いたい。

 

「グ、ギャ、ガギャァ───グゲァッッッ!!」

 

ッドン!

 

逃げようとするストライクを無理やり振りかぶって地面に叩き付け、俺はそいつの背中を上にして踏みつける。

 

イタイ。

 

「やるからには やり返される覚悟ぐらいは あるんだろ」

 

 

ストライクの背中から生える羽を掴み

 

 

背中の間接部から無理矢理引っこ抜く。

 

 

「ギャァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!」

 

その瞬間ストライクの絶叫が辺りに木霊(こだま)した。

俺はいらなくなった羽を、その辺に投げ捨てる。

 

痛い。いたい。イタイ。

 

「だからさ───あと少しぐらい   付き合えよ」

 

痛さの余り、もう一対の羽を力の限り羽ばたかせているが

俺はそれも掴み取り、先ほどと同じように引っこ抜いた。

先程より一層強い響きの悲鳴が俺の耳を打つ。

 

痛いいたいイタイ痛いいたいイタイ

 

「お前の覚悟、こんなもんじゃ、ないだろ」

 

痛みで地面を這いずり回るストライクの腕を取り

虫の間接らしく取れやすそうな部分を力の支点として、その鎌を捥ぎ取る。

 

「──━──━━───━──━━━───」

 

もはや声らしい声にもなっていないが、ストライクは相変わらず叫ぶ。

 

イタイって   なんだろう

 

捥ぎ取った鎌を一旦地面に刺し、もう一対の手も捥ぎ取っておく。

 

 

「─    ─  ─     ─    」

 

ストライクの声が聞こえにくくなってきた。

それとも俺の耳が遠くなってきたんだろうか。

 

まぁ、いい。

 

これだけ、やられてしまったんだ。

 

ご苦労だったな、ストライク。

 

 

 

 

 

武器をくれて、ありがとう。

 

 

 

 

 

俺は、刺した鎌を地面から引き抜き

最早自分の体がどうなっているのかすらわからなかったが、ロケット団員と再び対峙する。

 

 

「俺は、お前等に、これだけやられた」

 

 

全身の感覚がよくわからなくなってくる。視界すら良く分からない状態になってきた。

 

「だから、俺も、お前等にさ」

 

この体を動かす感覚は、本能でしかない。

どうして、ここまで痛みがあるはずの体を、俺は動かせるのか。

 

「同じ事をやっても、良いと思うんだ」

 

そんな事は俺も知らない。

動くからいいんだ。いいんだ。いいんだ。いたいんだ。痛いんだ。イタインダ。

 

 

「だからさ、やらせて───くれるよなぁぁぁぁぁァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 

俺の視界は、良く分からない事になってしまった。

 

二つの足で立っているヒトガタと、四つ足で立っているケモノにしか見えない。

 

表情も見えない、体の色も見えない。

 

だったらもう、気にすることなく          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   やってもいいんだよな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の主様が、再びロケット団と対峙した。

 

その全身は全てにおいて傷だらけであり、なおかつその胸にはとても濃い赤がナナメ線状に走っている。

どう考えても致命傷だ、どう考えても死にかけだ。

 

 

それでも、私の主様は

 

再び、立ち上がった。

 

 

ならば、私も寝てなんて居られない。

ミロカロスさん、私は大丈夫です。

 

 

 

彼がまだ立つ限り、私が先に倒れるなんて事は、あってはならない。

 

 

 

「使えよ、ドレディアさん」

 

 

そんな声が聞こえ、もう私の方に顔を向ける事も無く、ぽいっと無造作に投げてくる主様。

 

私はそれを掴み取る。

投げ渡されたそれは、あの虫の鎌。

その刃状の部分には、血がべっとりとついている。

 

 

この鎌が、この手が、このポケモンが、このポケモンに指示を飛ばした奴が

 

 

私の主様を、傷つけた。

 

 

 

瞬間、私は激しい怒りに襲われる。

 

全身から痛みが退いて行く感じがする。

 

いや、感覚がなくなっていってると言った方が正しいだろうか。

 

体の全身から、何かが漏れ出ているような錯覚が起きる。

 

 

 

許さない。

許せない。

許すわけには行かない。

許す事なんてあるわけが無い。

 

さぁ、彼らには地獄を見てもらいましょう。

私達がやられた分は、獄炎に焼かれてもらいましょう。

 

 

ダグトリオさん、ムウマージさん。

 

準備は、良いですよね?

 

 

もう、主様と言葉を交わす必要もありません。

 

彼らの体を

ポケモンを

プライドを

生きる価値を

存在意義を

輝かしい未来を

 

 

 

 

 

 

 

 

全て、壊します。

 

 

 

 

 

 

 

 

「に、逃げ、逃げろ!! 駄目だッ!! もう無理だっ!! こいつらは、異常すぎる!!」

「お前等! 撤退だ撤退!! このガキ頭イカれすぎだっ!!

 おい、お前等の中でえんまく使える奴は───」

 

ザシュァッ

 

「っぎゃぁああぁぁあーーー!? あ、足っ!?痛い、痛ぇーーーーーーーー!!」

 

手近に居たヒトガタの足を斬り付ける。

 

「お、おい大丈夫か!! ケンタロスに乗って早く逃げろ!」

「ひ、ひぃっ……! こんなっ、ここまでイカれてるなん───」

 

ザクッ。

 

「ヴモ゛ォォォオ゛オ゛オ゛ァァァァア゛ア゛ア゛ッッ!?!?」

「ケ、ケンタロ──! くそ、戻れケンタロスッ!!」

 

すぐ傍に寄って来ていたケモノの足を、縦に切り裂く。

すると、そのケモノは赤くなって消えてしまった。

その傍には、またヒトガタが居る。

 

「う、く、来るなッ!! 来る───」

「テッカニンッ!! あのガキにシザークロスだッ!!」

「ミィィィン」

 

上からなにやら、変なものが来た。

攻撃をされそうになったが、鎌を振って相殺した後

捕まえてあいつみたいに羽を引っこ抜いた。

 

「───    ──  ─ 」

 

妙な声が聞こえた後に、気絶したのか静かになった。

上に居るヒトガタもうるさい。

全力で上に居るヒトガタに鎌を投げる。

 

「あ    ぁ     痛    」

 

腕に鎌が刺さったヒトガタが、何かを叫びながら落ちてきた。

生きてはいるが、すぐには動けないだろう。

普通に歩いて近寄った後、その腕から鎌を引っこ抜いてまた手近にケモノを発見する。

 

「           」

 

今度は攻撃を交わされてしまった。

するととても大きいヒトガタが横から現れて

少し大きいケモノを蹴り飛ばした。

 

この大きいヒトガタは、きっと俺の味方だと思う。

 

少し距離が開いているが、ここから立ち去ろうとしているヒトガタとケモノがいる。

その二人が最も近いと思われるので、俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の主様が再び動き出してからは、完全にこちら側の流れになっていった。

黒いやつらは、主様のあまりにもあまりな状態に恐ろしさの限界線に触れたらしく

全員が漏れなく、ポケモンに逃げる指示を出している。

 

今まで私達に散々やってくれたのに、逃げるとはどういうことだろうか。

私も体が自由に動くとはとても言えない状態だが

やつらを同じ状態にするぐらいは、みんな許してくれると思う。

 

だから手当たり次第に殴り、鎌で切り裂いた。

呻いて地面に転がるポケモンもやつらも居るが

ひとまず戦力外になっているなら問題ない、そのまま捨て置く。

 

私の主様をあんな風にしたやつは、主様自身で倒しきってしまった。

それなら私は、力の限り敵を倒し、後悔させるだけだ。

 

ダグトリオさんは元々三つ子という位だ。

放っておいても勝手に連携してあいつらを倒してくれる。

 

ムウマージさんはやはり凄まじい実力者であるらしく

どうにかして攻撃力を極限まで抑えていると思われる攻撃を繰り出していた。

その火力は、主様が前に私に伝えていたものとは程遠い威力で

ひのこ、あわ、つるのムチとかそういう威力でしかなかった。

けれど、それでもその攻撃で怯ませて足を止めてくれているので

私も心置きなくやつらに対して攻撃を加えられる。

 

ミロカロスさんに手を出そうとする黒いやつが見えたので

自分自身が瞬時に助けに回れないと判断し、私は鎌を黒いやつにぶん投げる。

その鎌は吸い込まれるように黒いやつの肩口に刺さり、黒いやつは悲鳴を上げて転がりだす。

 

転がっている最中に鎌が抜けていたので、拾い上げ

まだ逃げあぐねているポケモンに対して、私は切りかかって行った。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

───そして、撤退戦の末の激闘は幕を閉じた。

タツヤがストライクに重い一撃を入れられながらも、そのストライクに対して逆にリベンジしてしまい

恐ろしさから戦線と気概を維持出来なくなったロケット団は、散り散りに逃げ出す事となった。

 

そして、この外道率いるパーティーがそのまま逃げる事を許すはずもなく

瀕死であったはずのドレディアまでもが攻勢に乗り出し

全員が手当たり次第に攻撃を加えて行き、逃げられない状態になるまでという手加減で

その場の戦場を凄まじい勢いで制圧していった。

 

【……こんなものか、さすがに数人と数匹には逃げ切られたか】

【まぁ、こんなもので十分だろう。我等の主も怪我をしているのだ】

【うむ……立っているので精一杯なのだろう、あの位置から全く動いて居ない】

【△▲☆★ー】

【……姐御、貴方もフラフラではないか。大丈夫か? 一人で立っていられるか?】

【ええ、私は大丈夫です……まだまだ、こんなものでは倒れませんよ】

 

本当に、満身創痍という言葉が似合う状態のドレディアだが

それでもしっかりと地面に足を下ろし、立ち上がっている。

 

【さぁ、ここは片付いたんですもの。私達の主様に報告に行きましょう?】

【うむ、然り。早く街へ連れて帰り、怪我を見て頂こう】

【△▲☆★ー!】

 

その会話にムウマージが元気に返事をして、タツヤが立っている所へふよふよと飛んで行った。

一足先にタツヤの下へ辿り付いたムウマージが、身振り手振りでタツヤに自分の大活躍を報告している。

 

戦場の外に居たミロカロスも、ゆっくりとタツヤに近寄っていく。

 

【ふぅ……でもさすがに疲れてしまいました】

【いやいや、姐御にとってはこの程度、朝飯前であろう?】

【何を失礼な事を抜かしているんですか……あぁ、でもお腹減ったなぁ。

 街に帰ったら、主様にはたっぷりご飯を食べさせてもら───】

 

 

 

 

 

 

「ホァッ!! ホアァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 ホアァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

 

【【【【【─────ッ!?!?】】】】】

 

 

全員でゆっくりとタツヤに向かって歩いている最中、突然ミロカロスが絶叫を上げる。

 

その声は今まで一度も聴いた事が無い悲鳴であり

全員は慌ててミロカロスの居る周辺、タツヤの元へと走って向かう。

 

【ど、どうしたんですか!? ミロカロスさんッ!!】

【あ、み、皆さんッ皆さんッ!! ご、ごしゅ、ご主人様がッッ!!】

【どうしたのだ大女将! 一度落ち着け!! 只事ではないのはわかった、何があった!!】

 

【△▲☆★~……?】

 

【ッ!? ムウマージ殿、一体我等が主殿はどうされたのだ……?!】

【今のミロカロスさんの悲鳴は……!?】

 

【△▲☆★ー……△▲☆★……】

 

【なッ……?!】

 

ムウマージの言葉を聴き、四人はタツヤの様子を伺う。

 

ムウマージは、彼らにこう伝えた。

 

 

 

タツヤ君が、自分に全然反応してくれない と。

 

 

 

鎌を握り締め、雄々しくその場に立ち

 

力強い瞳を携え、目を開けている。

 

その風体はボロボロでこそあるものの

 

目の前に敵が居れば即座に動き出して、屠りそうな姿勢である。

 

 

しかし、そんなことより何より。

 

 

 

 

 

彼は、動いていなかった。

 

 

 

 

 

目を開けているのに、目の前に居るムウマージにも

……ダグトリオにも───ドレディアにも気付かないのだ。

 

 

 

【ッ!! これは─── ダグONE!! すぐに主を連れて街へ戻れッッ!!】

【言われるまでも無いッ!】

 

会話が終わる暇すら勿体無いという体の動きをさせつつ

ダグONEと呼ばれる元ディグダは迅速な速さで自分の主を体に固定し

即座にこの場所へ来た道を引き返す。

 

 

【あ、あ、あ……】

【ご主人様が……ご主人様が……!】

【△▲☆★……?】

【……ムウマージ殿、我等はここに辿り着いた時点で方向性を間違っていたようなのだよ……】

【クソッ……そうだ……! 何故私達はあの状況で戦ってしまったのだ……!】

【何故……我等が主の傷の度合いを確かめる事すらしなかったのだ……!】

 

何が起こっているのかわからないムウマージに対し

ダグTWOとⅢは、自分が起こした行動を交互に悔やんでいく。

 

 

考えてみれば当然の話である。

彼は状況を巻き返す前に、既に致命傷を負っていた。

そしてそれを負った上で、逆襲に混ざって動いていたのだ。

 

治療もしていない致命傷を負ったまま動けば

傷も開いていくし、血も流れ出す。血小板が傷を塞ぐ事すら許さずに。

 

その状態で動き回れば、失血死すら目に見えてくる。

 

彼のあまりにも雄々しいその姿に、手持ち全員は忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の体は、ただの11歳児である事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タツヤの命の灯火(ともしび)

 

 

 

 

今、まさに尽きようとしていた───

 

 





タイトルにある『彼ら』とは、ロケット団であり、タツヤの手持ちです。

推奨BGMはメダロット4におけるラスボス曲であり
曲名の意味が英語の意味で「やるしかない」というものであったため
状況としてもしっかりと該当すると思い、この記載に至ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

87話 ロケット団繁盛記 *************






 

 

───ダグONEは疾走する。力の限り疾走する。

 

ダグONEが主として忠誠を誓う少年は、どう見ても既に手遅れである。

素人が見る限りでは、全員が異常に気付いたシーンで

既に彼が事切れていたと判断してもおかしくない位だったのだから。

 

しかし『ヒト』ではなく『ポケモン』という生物だった彼にそのような概念など欠片も無く

主の生存を信じ────ただひたすらに走る。

 

その疾走速度は世間一般のポケモンの最速すら凌駕していた。

そして……その速度を維持する分ダグONEも、手に抱えられている少年にも

ドップラー的にかなりの負担が掛かっているが、走るダグONEはそんな事など考えられない。

 

 

考える暇すらない。

 

 

───生物として、明らかに一分一秒を争う事態と察しているのだから。

 

 

そして普通に歩けば30分は掛かる戦闘場所から僅か10分足らずで街中に到達し

周囲の驚く声を一切無視し、彼の認識である人間用のポ(タマムシ市立)ケモンセンター(タマムシ病院)へ直行する。

全ての障害物を脚力とバネで走り、跳び越え。

 

しかし彼にはどこに人間用のポケモンセンターがあるのかわからない。

走りながら全力で人の動きに注意し、走り回ってそれっぽいのをなんとか発見した。

 

そして病院前に到着、ノンストップで玄関を駆け抜けようとすると

神懸りなタイミングで、丁度院内へ入ろうと入り口の扉を開けていた者がおり

絶技と言ってしまえるすれ違い技術を持って、院内へ突撃する。

 

 

「ッーーーーーーーーー!!!

 ッッーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

こういうシーンでよくある、扉を強引に開けつつの登場なども無く

比較的静かに病院の受付前へ現れたダグONE。尚且(なおか)つ、いつも通りに声が無音に近い。

 

一瞬凄まじい風が通ったような錯覚を受付付近に居た職員、患者に与えた程度で

彼が現れた事に関しては、そこまで大きい騒ぎにもなっていない。

しかし今回に限ってはその物静かさが、逆に気付いてもらえない原因に───

 

 

「あ、あなた……一体────って、ちょ、その抱えてる子ッ!!」

 

 

───原因にはならず、突然現れた茶色の長身を不気味に思った職員がおり

その長身が抱える少年の状態が、一刻を争う事態なのをすぐさま察知してくれた。

 

 

「ッーーーーーーー!!

 ッーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

ダグONEはその職員に、半狂乱気味に差し出す。

最早自分の主の危機を何とかしてくれるのはこの人しか居ない。

自分達の異変に一刻も早く気付いてくれる人間こそが、このシーンで一番重要なのだ。

偶然に偶然が重なり、一歩間違えば不幸のタイミングになりかねなかった状況で

居るかどうかも分からない天の神は、ひとまず彼ら一行に味方したらしい。

 

 

「受け付けさんッッ!! 応急処置道具と救急箱をッ!!」

「え!? は、はいッ!? えっと、こっ、これとこれっ!!」

「すぐに外科の先生を手術室で待機させてッッ!!

 非常に状態が悪い急患が来たと伝えてッッ!! すぐによッ!!」

「急患ッ!? わ、わかりました!!」

 

 

受付を担当していた職員からは、ダグONE達の死角になっていた様で

その座っていた位置からも、すぐにダグONE達に気付く事は出来なかったらしい。

 

受付職員はすぐさま内線の受話器を取り、病院にその報せが駆け巡る。

受付の死角というのも兼ね、偶然フロアに居たその職員の存在はまさに僥倖だった。

 

 

「……出血量が多すぎるッ……!!

 これを使っても場繋ぎすら無理かしら……──でも、やらないよりはマシッ!!」

 

素早く服を脱がせ、あまりの負い傷にドン引きするが

胸元を切り裂かれた服を1回だけ切れていない肌に巡らせ、大部分の血を(ぬぐ)い取り

救急箱に入っていた消毒液の蓋を外し、中身を傷口にぶちまける。

 

その際、少年の体がビクンッと動いた。

意識は無いものの痛覚は若干残っているらしく、傷が巨大な事もあり

アルコールに対する薬物反応が出たのだろうか。

 

傷口にそのまま清潔なガーゼを置き、とても大雑把にではあるが

胸のガーゼが落ちないよう包帯で即座にぐるぐる巻きにする。

そしてそれらの処置が丁度終わったところで

 

「───話にあったのはその子かッッ!?」

「あ、内科の先生ッッ!!」

「担架で運んでいる暇もなさそうだ、俺が連れて行くッ!」

「お願いしますッッ!!」

 

まるでバトンパスのような素早い連携で、少年の体が手渡され

内科の先生に彼の体が渡った瞬間、凄い勢いで廊下を駆け抜けて行った。

 

「ッ! そうだ、まだ─────」

 

何かに気付いたのか、対応してくれた職員さんはすぐさま受付へ駆け込み

内線を手に取り、電話の向こうの相手に何かを伝えている。

 

「──はい、そうです。明らかに失血症状─── なので、全血液の輸血準備───」

 

なにやら受付の中で必死に会話をしている職員が見える。

ダグONEは、その職員に対して何も協力する事が出来ない。

 

「貴方ッ! あの子の血液型を知らないッ!?

 あれは輸血をしないとまず助からない……一分一秒でも惜しいのよッ!」

 

その職員は鬼気迫る顔で、ダグONEに迫り来る。

しかし、ダグONEは蒼穹に答えが必要なその問いに答えられるわけがない。

 

そのような人間専用の治療や専門用語を、彼が知るわけがないのだ。

 

「やっぱり、わからないのね……」

「───」

 

親身に対応してくれた職員が、情報とも言えない情報を伝えに手術室へ行くのを確認した後

ダグONEはへなへなと壁に寄りかかり、そのまま腰を落として立ち上がれなくなり

顔を下に向けて俯いてしまった。

 

見る限り、彼も【運んだ際に付着してしまったタツヤの】血だらけであり

受付フロアに居た一般人は今の出来事を目の当たりにし

そして残ったダグONEの有様を見て、とてもザワついている。

 

 

───が、彼は……自分自身の体が起こした脱力すら押しのけ

ゆらゆらと全身に力を入れて、壁を背もたれにしてゆっくりと立ち上がる。

しかし、何とかそこまでは頑張れたものの……そこから先、歩き出す事が出来ない。

 

それはそうであろう。

戦闘場所があったあそこからここまでの距離はかなり長い方だ。

それを一切の休憩すらなく、さらには異物を抱え込んで走り続けたのだから。

精神的な要因まで重なった上で、何処の体の部分が言う事を聞くのか。

 

 

それでも彼は、行かなければならない。

自分はここまでの経緯を知るが、ここに辿り付いた後の経緯を知らない仲間が

まだ、森の方面にいるのだから……

 

 

そしてある意味良いタイミングで、対応してくれた職員が手術室から出てきた。

大きな溜息をついているが、その溜息にはどんな意味が含まれているのか───。

 

 

職員はダグONEのいる所へ歩いて行き、彼の前へと辿り付く。

そして彼の風体を見て、話しかけてきたためダグONEも顔をそちらに向ける。

 

「──えーと……貴方、ディグダで良いのかしら?

 色々と話を聞きたいけど……まずは貴方も傷の手当てから始めましょう?」

「────。(フルフル)」

 

必要は無い、という意思を示すためにダグONEは首を振り

血がべっとりと付いている腕と胸元を自分の手で拭う。

血の下にあるのが自分の傷ではないという証明をするために。

 

「ん、わかったわ。それじゃその血を拭き取っておきましょう」

「───。」

 

【すまぬ……職員殿、迷惑を掛ける】と感謝の意を込め目を瞑るが

やはりダグONEの主とは違い、それだけでは意思は伝わらないようだ。

あの少年の存在がどれだけ稀有なものなのかを、ダグONEは今更ながらに思い知る。

 

その意を汲み込めこそしないが、動かないダグトリオに

拭き取る事への同意と取り、職員は白いタオルで血を拭っていく。

 

「床に落ちている血とかは、私達が後で掃除しておくから気にしないで。

 ……それで、なんだけど。あの子は一体どうしてあんな目に……?」

「ッ!」

 

そう問われて、ダグONEは改めて思い出す。一旦迎えに行かなければいけない仲間が居る事に。

そして彼の言葉は一般人に伝わる事は無いため職員から書くものを借り、カリカリと8文字を書き上げる。

 

{仲間に知らせたい}

 

「そう、まだ仲間が居るのね。わかったわ……ここへ連れて来てくれるかしら?

 あの子があんな怪我を負うような事態はもう終わっているのよね?」

「(コクコク)」

「なら大丈夫ね、迎えに行ってらっしゃいな。

 あとはもう、結果が全てでしかないからね……いってらっしゃい」

「───。」

 

職員はまだやる事が残っているのか、また受付へと入り電話をかける。

【何から何まで感謝する、職員殿よ】と、その後姿を見つめて、一度頭を下げる。

ダグONEは来た道を───。

 

 

 

 

やや同時刻……

一本の電話連絡をキッカケに、とある会社も騒がしくなる事となる。

 

 

もちろんの事、現在タツヤが深く関わっている『有限会社弾頭』が、だ。

 

 

 

 

δ<ピョー ピョー ピョー

 

 

 

「ん……」

 

カチャ

 

「はいもしもし、お電話ありがとうございます。

 有限会社弾頭電話受付担当の~~~でございます」

 

『─────。』

 

「え、はい、タマムシ病院で御座いますか……?」

 

『─────、─────。』

 

「はい、ええ、え……な……!?

 は、はいっ!! 少々お待ちくださいッ!!」

 

突然の凶報に、受付担当の社員は慌てたものの

なんとか保留ボタンを押すまでの思考に至り、体裁を整え終えた。

 

「んだぁ? どうしたんよ。

 シルフカンパニーがうちの会社でも買い取りたいって来たのか~?」

「ち、ちがっ、それどころじゃ……! ボス、ボスは居る!? 今日居たっけ!?」

「……なんだ、どうした本当に? リーグがこっちの裏でも取りに───」

「違う! そっち方面じゃないわッ!! な、内線ッ、内線ッ!!」

「───?」

 

受付担当の慌て具合は尋常ではない。おぼつかない手付きで電話機をいじる。

 

つまり今の電話は、受付担当の価値観でしかないが

こんな状態になるほど、自分では対処しきれない何かが起こったと言う事だろう。

 

さっき呟きのように電話が来た場所の名前を喋っていたと思ったが

一体どこから電話連絡が来たのか───

 

 

「も、もしもしっ! ボス、ボスですかッ!?」

 

『ミュー?』

 

「あ、その声はミュウちゃんねっ!?

 ボスはっ、ボスは居るわね!? お願い、ボスをすぐに出してッ!!」

 

『ミューィ』

 

 

受話器越しから不思議系の音(ミュウの飛行音)が聞こえ

少しした後、たまたま外回りが午前の間で終わる日だったために

受付の希望通り、サカキが内線に応答する。

 

 

『電話、代わった。どうかしたのか』

 

「あ、ボ、ボスッ!! たいっ大変、ですっ!!

 タ、タツヤ君、タツヤ君がッ!! 今病院から連絡がッ!!」

 

『ッ!? ……大変で、タツヤ君が病院───!?』

 

「な、おまっ、タツヤさんがどうした!?」

「ちょっとあんた黙っててッ!! い、今タマムシ病院から連絡がありまして!」

「ッ……」

 

 

比較的会社規則が緩いとはいえ

ボスとの会話の最中に、横に居た同じ受付担当に怒鳴り散らす失態を犯してしまう。

しかし今回ばかりは本当にそんな些細な事を気にしていられない。

 

 

『どう言う事だ!? 彼が病院だとッ!?』

 

「は、ハイッ!! 今来た連絡だと……───生存が、絶望、的な状況だと……」

 

『ッ!?!?』

 

「び、病院の返答を保留してますが……、6番、です……!」

 

『わかった、すまない。あとはこちらで話をつける!』

 

ピッ。

 

小さい電子音がした後、サカキと受付の会話はそこで切れる。

 

「な、ど……どういう事だッ!? なんでタツヤさんが……あの子が病院で死に掛けてンだっ!?」

「わ、私も今の電話で詳しく聞いたわけじゃないけど……。

 今、緊急手術の真っ最中って言ってた……正直助かる見込みが薄い、って……」

「───。」

 

開いた口が塞がらない。

すぐにボスに内線を繋げてしまったため、情報が薄すぎる。

 

「一体……何が……?」

 

 

「はい、お電話代わりました……有限会社弾頭取締役、サカキと申します」

 

『お忙しい中申し訳御座いません。

 私はタマムシ私立タマムシ病院の者で、病院の受付からご連絡させて頂いております』

 

「ええ、……その、タツヤ君が死に掛けていると聞き入れたのですが?」

 

『はい……緊急の事態とこちらで判断し

 確か彼がこちらの会社の保護下であると噂をお聞きしたのでお電話させて頂く事に相成りました』

 

「一体……何があったのですか!?」

 

『申し訳ありません、現時点では証言者もおらず情報が足りていません。

 ただ、最近よく聞く【しなやかな体】を持ったディグダが彼をこちらに連れて来まして……。

 外傷は皮膚一部に軽い火傷、腕や膝、背中に打撲痕有り。

 そして───胸部にとても大きい裂傷が走っていまして……

 その傷が原因と思われますが、著しい出血が確認されています。

 一時、心臓も停止してしまったのですが、何とかこちらの処置が間に合い

 変わらず絶望的ではありますが、まだ亡くなってはおりません』

 

「なっ…………」

 

生存が絶望的な状況とは受付嬢から聞いた。しかし……まさかそこまで酷い状態だとは。

 

「わかりました、今すぐそちらに向かいます。血液の方は足りているのでしょうか?

 こちらから同型の会社員を複数名連れて行きますので、彼の血液型を教えて頂きたいのですが」

 

『はい。先程調べた限りではB型だったようなので、B型の方々をお願い致します。

 正直、事は一刻を争います。彼の親族が近くにいるなら───

 よろしければ、こちらの病院までご案内頂きたいのですが』

 

「……わかりました。では、連絡した後すぐにそちらに向かいます」

 

『お願い致します』

 

───ガチャ。

 

「……!? ……ミュッ!?」

「あぁ……君は人の考えが有る程度読めるのだったな───非常に、不味い事になった」

 

ミュウは頭の中を読み終えたのか、軽く二回転ほどすると共に消え去る。

おそらくは、病院へテレポートで向かったのだろう。

 

「…………監督責任者不行き届け的な感じで、師匠に殺されるだろうな」

 

しかし状況を聞いた限り嘆いている暇すら無いと判断。

これ以上の我が身の保全を考えるのを捨て置き

内線放送で直ちに施設内待機をしている全員へ通達するべくサカキは動く。

 

 

 

● オィーッス!!オィーッス!!

 

 

 

「取締役、サカキより連絡。取締役、サカキより連絡。

 血液型がBの者は直ちに施設入り口へ集まれ。

 繰り返す。血液型がBの者は直ちに施設入り口へ集まれ。

 緊急事態が発生した。明確にB型と判明している者は直ちに入り口に集まれッッ!!」

 

そして彼はさらに受話器を取り、尊敬と畏怖の象徴でもある『彼女』へ連絡を試みる。

 

が、しかし───いくらコールをしても、電話の聞き取り口は一切反応が無い。

出来る事なら、出るまでコールを続けていたいが……

 

「───後にするしか、無いな」

 

そこで時間を無駄にするわけに行かないと判断。

素早く思考を切り替え、外行きの上着を羽織りエレベーターへ向かう。

 

「ボ、ボス……今の放送は一体?」

「今、病院から連絡があった───タツヤ君が、今にも死にそうな瀕死の状態で運び込まれたそうだ」

「ッ、な……!?」

「……B1Fまで、頼む」

「は、はいッ!!」

 

 

~B1F~

 

 

先程のサカキが発した施設内全放送を聴き、10人ほどが入り口前へ集合している。

そしてその中に最近施設内を自由に動き回っているポケモンがいた。

 

「ミュウツー……」

【私も先程の放送を聞いたのだ。一体何が起こっ……ッ!? なんだとッ?! どう言う事だ?!】

 

サカキの頭の中のイメージがそのまま流れ込んだため

言葉にせずとも何が起きているかを即座に理解するミュウツー。

しかし彼も何が起こっているのかこそわかっても『どうしてそうなったか』まではわからない。

 

「君が私の頭の中を読んだ通りだ……今は私にも何故そうなったのか分からない」

【……あいつの手持ちは、病院に居るんだな?】

「そのはずだ。連絡では『しなやかな体を持ったディグダ』と言っていた」

【あの三つ子の片割れか。わかった……私も行ってやろう】

 

意外な事に同行を申し出るミュウツー。

サカキが思うにいつも浮かぶ彼らの姿はひたすら犬猿の仲であった。

 

「……? 私が見る限り君とタツヤ君にはそのような義理は無かったと思うが……。

 晩に馳走になっている食事は、ここで働いている事とで相殺なのだろう?」

【傍から見ればそうかもしれん。だが私はアイツの事を確かに認めている。

 主張こそ真っ向から反発していて違うモノの……

 アイツは多視覚を持ってしてこちらの意見にも納得している】

「……そう、だったのか」

 

完全に互いに同意した上での論争であったようである。

 

【それに私が居ればこのテレパスを用いて、その片割れの翻訳も出来るだろう。

 何があったのかはあいつらに聞けばすぐにわかる】

「わかった、事は一刻を争うようだ。

 すぐに病院へ出向くぞ。君は病院の位置はわかるか?」

【私にはその施設の場所はわからん、私も貴様達に同行させてもらう】

「よし。全員素早くて乗れるポケモンを出すんだ!!

 これよりタマムシ病院へ向かう! タツヤ君が瀕死の重傷で運び込まれたらしい!」

 

 

ザワッ……!

一瞬で喧騒が起きる入り口前。しかし───

 

 

「もう一度言おうッ!! 事は一刻を争うのだッ!!

 全 員 さ っ さ と 外 に 出 ろ ッ ッ !!」

『あ、アイ・サー!!』

 

 

サカキが怒鳴りつける事により、全員一斉に掛け声を上げて整列して入り口を上がっていった。

そしてサカキとミュウツーもその後を追い、外で出されたポケモンに乗り

タマムシ病院へ直行したのだった。

 

 

 

代わってこちら、タマムシ郊外に繋がるタマムシシティの入り口。

ダグONEが病院へ駆け込み、タツヤの緊急手術が開始された頃に三つの影が現れる。

ドレディア、ダグⅢ、ミロカロスである。

 

 

ステータス的に素早さが厳しいため、ミロカロスはダグⅢの上に乗っている。

そして素早いドレディアと、ミロカロスを乗せても素早く動けるダグⅢが

次鋒として郊外より街へと帰還し、さらに街に足を進め走っている。

 

現場に残ったダグTWOとムウマージは、地面に倒れ伏すポケモンと団員をかき集め

団員の服を引き裂いた後にそれを縄代わりとして、全員を捕縛する役目とされた。

 

 

【…………。】

【…………。】

【気持ちはわかるが……そう気負うな、姐御、大女将。

 我等の主なのだ、きっと無事にヒト用のポケモンセンターに運び込まれている】

【でも……でも……!】

 

 

あの傷では、どうしようも……。

 

【ドレディアちゃん……信じましょう】

【ミロカロスさん……】

【きっと、大丈夫です。日頃からドレディアちゃんのきつい一撃を受けても

 ひょっこりと回復しているじゃないですか、ご主人様は】

【でもッ……! あんな、あんな傷を受けてッ───】

 

 

 

「───んッ!? 君らはタツヤ君のポケモン達かッ!?」

 

 

主人の名を呼ばれ振り返ってみれば、

ここに来てからずっと付き合いがある色々なポケモンに乗ったサカキ以下弾頭の社員達と

その後ろを浮きながら追いかけるミュウツーが丁度メインストリートへ出ようとしているところだった。

 

「ディッ……ディァッ!」

【間違いないだろう、アイツの手持ちだ】

「そうか、話はすまんが走りながらで良いなっ!?」

「ホァーーー!」

 

素早く互いの認識を終え、彼らは再び走り出す。

この際、ドレディアは彼らに殴りかかりそうになったのだが

幸いながら、それが発生する前にダグⅢが力ずくで止めている。

 

その事にまだサカキは気付かない。だが───

 

【……なるほど、そう言う事か……!!】

 

この場には、人の、ポケモンの、頭の中を覗けるミュウツーが居た。

 

「何か分かったのかッ?!」

【アイツが瀕死の重傷で人用のポケモンセンターに運び込まれたのは……

 お前達が原因だ、サカキにロケット団よ】

『なっ……!?』

 

弾頭メンバーとサカキは、ミュウツーのその言葉に一様にして驚きつつも走り続け

タツヤの手持ち達は、全てをぐっと押さえた上で彼らの横を疾走している。

 

「───聞かせてくれ!」

【───わかった。アイツが襲われた原因の根本は逆恨みだ。

 今貴様達がやっている……会社経営、でいいのか? 

 それを始める前に追放を言い渡された団員が居ただろう。

 その者達が徒党を組み、隙を付いて襲い掛かったようだ】

「……あいつらかッ……!」

 

確かに言われてみれば、いかにもやりそうな面子だ。

なんせ彼らはサカキに拾われた事を恩と感じず、後ろ盾と判断し

ロケット団の名を威光として、悪事を繰り返していたのだから。

 

その威光が使えなくなったとして恨みが噴き出し

小さいタツヤを恨んで狙うのはある意味道理に適っていた。

 

【相当甘やかしていたようだな。

『自分達は何をやっても許される』

『ボスが俺等のやる事に反対するわけが無い』───まさに屑だな。

 ……貴様等がそいつらに、今の内容を言われたのは間違っていないな?】

「…………ディァ」

「───ッ」

 

同意の返答があり、ここしばらくはなかった苦虫を噛み潰すかの如く厳しい顔になってしまうサカキ。

 

つまるところ要約してしまえば……組織改革のしわ寄せは、自分に来ないで

……元々が関係者ですらないタツヤへ行ってしまったのだ。

 

【───互いに色々言いたい事はあるだろうが、後回しだ。

 貴様等の病院と言うポケモンセンターとは、あれの事だろう?】

「ッッ! 全員入り口でポケモンをしまえよっ!!

 なるべく静かに院内へ入るんだッッ!!」

 

ミュウツーからの指摘で、自分達が病院の近くまで来ていたのに気付き

慌てながらも的確に指示を飛ばし院内へと入って行く。そして彼等の眼に映るのは───

 

「───ディァッ!!」

「ッ!」

「ダグトリオの片割れかっ?!」

 

今まさに院内から出ようとするダグONEだった。

ドレディアはすぐさまダグONEに駆け寄り、腰を掴み体を揺らしながら尋ねる

 

【ど、どうだったんですか?!

 主様はッ?! 主様はどうなったんですかッ!?】

【グッ、が……あ、姐───……】

「ド、ドレディア!! 一旦止まれ!! その状態では彼も喋れんぞ!!」

 

慌ててサカキが止めに入るが耳に入らないようだ。

 

【ええい面倒なッ……!! ムンっ……!】

「───ッディァ!?」

 

全方位からよくわからない不可視の力で固められ

無理矢理ダグONEから引き剥がされるドレディア。

 

【す、すまん……ミュウツー殿……世話をかける】

【───構わん、私とてアイツの心配はしていたのだ。

 今、貴様の思考を読ませてもらったが……全員に伝えても良いな?】

【……(かたじけな)い】

 

ポケモン同士のコンタクトが終わり、ミュウツーは代弁者としてサカキ達とタツヤの手持ちへ向き直る。

 

【今、こいつから思考を読ませてもらった。あいつがどうなったのかを伝えよう】

「…………頼む」

「…………ディァ」

「ホ、ホァ…………」

 

 

 

【あいつは……─────】

 

 

 











次回、最終回


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終回 命の結末












極限まで表現を抑えてますが、一部グロに近すぎる表現があります。
その手の表現が苦手な方は、閲覧しないほうがいいでしょう。
あとがきだけご覧ください。












 

【あいつは……─────】

 

ミュウツーがそう切り出すと同時に、入り口の奥からオペ用水色着衣の医者が現れた。

手術室へ入っていった職員が、入り口付近にしなやかな体のディグダが居ると聞いて、ここに来たのだ。

 

そして、その後ろにはミュウがふよふよと浮いており

医者・ミュウを見ても、ミュウツーの様子には一切変わりが無い。

 

入り口に集まっていたサカキ・弾頭の構成員・ポケモン達全ての視線を受ける中で

その場に現れた医者は、問いかける。

 

「……つい先程、緊急搬送されてきた少年の関係者でしょうか」

「───はい、この街において保護者的な立場におかせて頂いている者です」

「私事ですが、そのお顔……見覚えがあります。トキワジムリーダーのサカキさんでございますね」

 

サカキの表の顔は、カントーでは知らぬ者がほぼ居ない……それぐらい有名である。

自己紹介の必要はなさそうであると判断し、サカキはその医者に先を促す。

 

「タツヤ君は……無事、なのでしょうか」

「…………………」

 

その問いに、医者は何も話さない。

ミュウツーは医者の反応を見て、人知れず静かに目を瞑った。

 

「先生……タツヤ君は、無事ですね……!?」

「……………………」

 

サカキの二度目の問いに、医者は……

 

 

 

 

 

静かに、首を振った。

 

 

 

 

 

「そ、んな…………」

「申し訳ありません……僅かな可能性ながら……あと一分、いや……30秒早ければ……

 命を繋ぎ止められたのかもしれませんが、胸部の裂傷も、心臓に到達するほど深く……」

「んな、馬鹿な話が……」

「タツヤ、さん……が」

「死、んだ……?」

 

次々と構成員が絶望に呟く中、『それ』は動いた。

 

緑の姫君、ドレディア。

 

身長差をものともせず、医者の着衣の胸倉を引っ掴み───絶望の目を浮かべて医者を揺さぶる。

 

【冗談……冗談でしょうッ?! 嘘でしょうッ?!

 嘘だと、嘘だと言ってくださいッッ! 私達のご主人様が……私達を置いて……行く筈が……!】

「う、ぐッ……!」

 

そのドレディアの動きに、医者は何も抵抗せずなすがままにされている。

医者としても、彼等ほどではないにしろ悔しいのだろう。

 

もしかしたら助けられた命が、救えなかった事が。

 

【その辺にしておけ、ドレディア】

 

意外な事に、その図を制したのはミュウツーだった。

無理な力の無いサイコキネシスで、医者から静かにドレディアを引き剥がしていく。

 

【今、その医者を揺さぶった所で何にも成らん。

 事実、先程までミュウが居た部屋の様子を伺っても───

 部屋に居る影に対して、生命の波動がひとつ足りん……そういうことだ……】

 

他のポケモンより仕入れる事の出来る情報が格段に多いミュウツーは……

 

皮肉な事に、あの場でダグONEと相対した時点で

 

 

 

タツヤの『死』を、感じ取ってしまっていた。

 

 

 

それをその場に告げたミュウツーは、今までの変化の無かった表情から一転して

 

世界の全てを怨む様な強烈な顔へと変化する。

 

『人』という存在を嫌う中で、幾分マシな存在と触れ合い……

そしてそのマシな存在は、自分が嫌う存在の身勝手で淘汰された。

 

その事実が、心から憎い。

 

そんな表情に変わっていた。

 

全員何も言葉が浮かばない中で、ドレディアは───膝から崩れ落ちた。

 

 

 

【どうして……どう、して……こんな事に……

 主様…………、主様ぁぁァァーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!】

 

 

 

涙を流し、声を張り上げ叫ぶ……主への呼びかけは。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、彼には届かない。

 

 

 

 

 

 

「号外ーー!! 号外ーーー!」

 

セキチクシティのとある新聞社の前で、新聞を配っている者が見える。

 

「号外……?」

「ほぉ~、号外かぁ。なんやろね一体」

「私達も貰いに行きますか?」

 

どくタイプを扱うジムが街中にあるその都市で、三人の少女トレーナー達はその声に気付く。

タダなのを良い事に、何十人と配っている者の周りに集まり……

 

そして、その記事の内容を見て驚愕し、ザワザワと騒がしくしていた。

 

三人娘もその号外を貰いに行って、無事に受け取り

三人で一緒に顔を覗き込んで、その号外記事の内容を確認する。

 

そこに書かれていたタイトルは───『若き英雄、逝く』

 

「……マジかッ?! 誰か殺されたんかッ?!」

「そんな……」

「英、雄……?」

 

記事の見出しを確認して、全員が誰かが『殺された』事を認知する。

 

この世界では、人の『生き死に』に関して非常に厳重に取り扱われる。

生活レベルで、やり方によっては人をあっさりと殺す事が出来る力を持った生物が数多く存在しており

その事情から、人に対する致傷沙汰や殺人などは禁忌中の禁忌とされている。

 

その様な背景から人が『居なくなってしまう』事が、不慮の事故ですら稀であり

殺されたとなると、この通りの号外が出るような大騒ぎとなるのだ。

 

「なになに……三時間前にタマムシ郊外で15対1のトレーナー戦があって……

 その勝負は一方的な私怨から発生したルール無用のバトル……

 英雄、善戦するも力尽き、病院に運ばれたが治療の甲斐無く死亡……うわー、怖いわぁ……」

「じゅ、十五対一……? そんな、数の暴力なだけじゃないですか……」

「15人に怨まれるなんて……一体どんな人……ん、英雄、英雄……?」

 

 

三者三様にその記事の内容を吟味していくうちに、モモと呼ばれるトレーナーがそれに気付く。

 

 

「英雄、って……知名度がある人って事よねぇ。えーと……なになに……殺された少年は……?

 二ヵ月ほど前に起きた『サントアンヌ号事件』を単身で、解、決……?」

「身元の確認をした結果、その後の祭典で感謝状を、辞退……。

 ───ちょっ、これって……まさかっ……!」

「殺害された、少年の……!?」

 

その記事に載っていた名前は

 

彼女達にあまりにも近しい存在だった者の名前。

 

そこにあった名前は……

 

 

 

『ポケモントレーナー……───タツ、ヤ……』

 

 

 

 

 

 

『なんだ、これはッ?! 悪い冗談にも程があるぞッッ!!』

「ヒィッ!?」

 

また、別の港町にて号外を配っていた者に……新聞を握り締めて異国語で詰め寄る軍人がいた。

 

「……オゥ、ソーリィ……申し訳ありまセーン……

 ミーが、良く知ってるボーイのネームが載ってたですネ……」

「あ、いや……気にしないでください、マチスさん。

 そうですね……殺人事件というだけでも驚きなのに、それが知人だとしたら……」

「……センキューデース」

 

あまりにも大人気なかったその行動を、被害者に許され

そして憤慨して詰め寄ってしまったその内容を、改めて事実確認していく。

 

「これは……リアリーですカ……?」

「はい……間違いありません……タマムシシティの支社から伝わってきた正確な情報です」

「………………」

 

信じたくは無い。

つい二ヶ月ほど前まで、共に修行し、共に飯を食べ、共に談笑した……小さな友が。

 

既に、この世に居ないと

一体誰が信じられるというのか。

 

そして軍人は、自分が管理を任されているジムに向けて走る。

いくら情報で言われても信じられないその内容を自分の目で確認するために。

クチバジムを一度休業させて、タマムシへ行くために。

 

 

 

 

 

 

「レ、レンカさんッッ!! た、大変じゃッ! 大変じゃぁーーッッ!!」

「……あら?」

 

白衣を羽織った老年の男性が、とある一軒家の玄関の扉を叩いて騒ぐ。

その住居に住む年齢不詳の女性は、先程用事から帰宅して

家事に身を費やそうとした矢先の事だった。

 

「んもー、どうしたのオーキドさん。近所迷惑になっちゃうわよー」

「い、いや、近所迷惑とか、そ、そん……」

 

改めて注意されても、老年の男性は興奮と驚愕が冷め遣らぬ青褪(あおざ)めた表情をしており

その手には、ひとつの新聞が握り締められていた。

 

「レ、レンカ、さん……大変なんじゃ……! タツ、タツヤ君が……タツヤ君が……」

「んー? うちのタツヤがどうしたの?」

 

そして、握り締められた新聞を手と共に差し出され

女性はひょいっと取り上げて、その新聞を確認する……どうやら号外のようだ。

 

「ん、なになに……英雄、逝く……!? 誰か、殺されてしまったの……?!」

「そ、そう、そうなんじゃ……さっき街から帰ってきたワシんトコの所員が……

 この新聞を……持ってきて……」

 

いつまでも冷静になれない男性を尻目に、女性はその記事について考える。

 

大変、何が? タツヤが大変。

 

持ってきたものは、新聞。久方振りに聞く殺人事件。

 

大変、新聞、殺人、タツヤ……

 

 

「───ッッ?!」

 

 

ひとつの、信じたくない想像が頭を這う。

記事を流し読みして、現実であってほしくなかった名前を……確認してしまった。

 

 

 

「タツ、ヤ…………?」

 

 

 

 

 

 

その事件はカントーだけに留まらず、隣り合った地方のジョウトとトーホク地方にもすぐさま広がった。

 

この世界では、それこそ10年単位で起こらない殺人事件。

しかもその内容は一方的な私怨、人々が口々に噂するには十分なゴシップ性を持っていた。

 

さらには、殺された人物が……少し前に起きた大事件を単身で解決した『化け物』。

 

 

以前述べたように、この世界ではジムリーダーになるための労力が凄まじく

一度成れたからといって慢心すれば、すぐさまその座を追われる程に厳しい競争率であり

その地位を長く勤める者達が周りから集める尊敬は、英雄視にも匹敵する。

 

そして、その英雄達が一切手を出せなかった事件を単独で解決した少年。

彼が思っている意識と違い、感謝状を受け取らなかった事で顔と姿は広まらなかったものの

事件が起きたカントーでは、知らぬ者が居ない程の……まさに『突然現れた英雄』だったのだ。

 

 

その英雄が、逝った。

 

 

人々が騒がないわけが無い。

 

 

 

 

霊安室。

 

 

その部屋に置かれるベッドの上の小さな身体。

 

横には、ただ呆然とそこに立ち尽くす緑色の姫君が居る。

 

虹色の鱗を持った、美の化身も、健康そうな身体を持った、土竜も二人居る。

 

 

彼らは何も言わず、言えず……その部屋の中にいる。

供えられた線香の匂いが、嫌に鼻に付く。

 

サカキはミュウツーが知った一通りの事情を又聞きした後、元ロケット団員全てを回収しにいった。

そして警察が網を張る前に、全員を施設のとある部屋に「監禁」している。

 

人目に憚らず目的を達成させるため、サカキが考えていた内容に納得した上で

ダグTWOが凄い勢いで地下トンネルを掘りあげて行き、人目に触れることなく回収に成功した。

 

 

「───……」

 

 

自分達の仲間が、自分達の主を見ても……彼は一切動かない。

胸の傷が布で隠されているため、傷の殆ど無いその顔を見ると今にも動きそうだ。

 

しかし、この世界でこの身体が動く事は、永遠に無い。

 

 

「───…………リトル、ボーイッッ!!」

 

 

不意に部屋の外から駆け足の音と、ある人物が彼に使っていた呼称が聞こえた。

 

その声と共に現れたのは、やはりその人物であるマチス。

 

 

マチスが現れても、その中に居た彼の手持ちはピクリとも動かない。

 

「……ボーイ」

 

そのベッドに横にされている彼を見て、マチスは……ついに認めたくなかった事実を認識する。

 

『私の……ジムに、挑むと言っていたじゃないか……

 また……クチバシティに……寄ると言っていたじゃないか……!』

 

マチスは、自分の母国語で呟く。

その握り拳は、血が滲むほどに握り締められ、頬には一筋だけ水の線が描かれる。

 

あまりにも若い友の、あまりにも予想外な別れ。

それは、年齢など関係無く……ただひたすらに悲しいだけの、事実。

 

 

カッ、コッ、カッ、コッ、カッ、コッ。

 

 

複数人の足音が、外から響いてきた。

そしてその足音達が途切れたのは、この霊安室の前。

 

そこには、株式会社『弾頭』の代表取締役のサカキと……ベッドに居る骸の母親、レンカだった。

 

「 ! マチス、殿……?」

「……ミスター、サカキ」

 

部屋に居た予想外の人物に声を掛け、そしてその声にマチスは反応する。

新聞の記事に載っていた会社の名前は、一ヵ月程度前に速報で流れたので

マチスの方は、タツヤが現在居るタマムシにおいてサカキが近しい存在であるのを認知していた。

 

しかし、サカキ側からすればマチスがここに居る事に驚いてしまう。

 

クチバシティから、このタマムシシティは……いくら早い空を飛ぶポケモンでも

普通であれば5、6時間はかかるのだから。

 

「………………」

 

横で意外な顔との会合をしている中、ベッドの横に立っているポケモン達の横を抜けて

レンカは、自分の息子と対面を果たす。

 

「……あ、はははは。もう……タ~ツヤ。

 こんなところでな~に寝てるのよぅ。あんな新聞まで出して人騒がせなんだから~」

 

もう動き出す事の無い骸に対し、いつも話しかけていたように喋りかける母親。

 

「まったく……この子達も貴方のポケモンなんでしょ?

 心配掛けさせちゃ駄目じゃないのー。ほら、さっさと起きなさい?」

 

その声質は、悲壮感など微塵も感じさせないものであり

本当に寝ているだけにしか見えない少年に対して喋りかけるその構図は

 

 

あまりにも、残酷で。

 

 

「ほら、さっさと起きなさいって言ってるでしょ。

 ……起きなさい。起きなさいってば……ねぇ……

 起きなさいって……言 っ て る で し ょ う ッッ!?」

 

 

普通だった会話は、途中で懇願になり、大声になり……その声も、もはや彼には届かない。

 

そしてその遺体に勢い良く触れ───そうになったところで、彼の母親を引き止める手が現れる。

 

 

それは……レンカに顔を向けながら、静かに涙を流し続けている彼の『初めての相棒』だった。

 

 

「───。」

「あ、なた……」

 

その涙の意味するところを、元ではあるがトレーナーだったレンカも十分に(うかが)い知る事が出来る。

それほどまでに、彼は仲間に愛されていたのだ。

 

自分がかつて、そうであったように。

 

「……レンカ師匠」

「…………何? サカキ君」

「別室で、事情を説明させて頂きます……こちらへ、お越し願えますか」

「……ミスター・サカキ、ミーも……リスニング、オーケィ?」

 

そのサカキの様子から、何かを察するものがあったのか

形的には部外者ながら、マチスが同行を願い出た。

 

しかし、それを聞いて……サカキは改めて何かを覚悟したようだ。

 

「すまない、マチス殿……これから彼女に話す内容は……

 とても表に出せない裏事情もあるのだ……知る権利がある、母親のレンカ殿にしか話せない内容だ」

「……オーラィ、無理を言ってソーリィね」

 

やんわりと拒絶の言葉を述べ、それに同意するマチス。

レンカはサカキに促され、一旦は息子が眠る部屋を後にする。

 

「ミスター・サカキ……」

 

軍人をしていた彼には、その表情が何を決意していたのかわかっていた。

あれは……死ぬ前に漢が決心する顔そのものだった。

 

 

そして、擦れ違う様に……また、複数の少女による駆け足の音が廊下に響く。

 

 

 

 

職員に無理を言って空き部屋を借り受け、サカキとレンカは部屋で静かに対峙する。

その気迫は、『知る者』であればすぐに忌避してしまいそうな程の重圧。

 

「……それで、サカキ君……事情、というのは?」

「はい」

 

その質問に返事をして、サカキは……その場に静かに正座をして

ゆっくりと、形の整った土下座をするのだった。

 

「レンカ師匠……此度(こたび)の件、全てにおいて私の責任でございます。

 彼が亡くなるに至った事情、巻き込まれた事情……どちらも私の監督不行きからなる事態でした。

 説明が全て終わった後……私の存在をこの世から消し去って頂いて構いません。

 許して頂きたいからする発言ではありません。しかし、これしか言葉がありません……。

 この度は、取り返しの付かない事をしてしまい───誠に申し訳ありませんでした」

「……そう」

「そして、此度の事件に至った経緯をお伝えするまで

 もし許されるのであれば、その間だけ存命させて頂ければと思います」

「……わかる範囲で、全て話してくれるかしら?」

「はい……」

 

レンカに促され、サカキは説明を始める。

 

「まず、今回の犯行については……誰がやったかご存知ですよね」

「ええ……一ヶ月ぐらい前に解散したロケット団、よね?」

「はい、その通りです……───そして」

「そして?」

「そのロケット団のトップ、団長が……この私、サカキなのです」

「ッ!!!!」

 

その内容を聞き、レンカはすぐさま正座しているサカキの胸倉を持ち上げ

そのまま宙にサカキの身体を持ち上げ、襟首を締め始める。

 

「あ、なたッ……! 私の、私の弟子を名乗りながら……一体、何をッッ……!」

「っぐ……! し、師匠……い、や……レンカ、殿……!

 貴方の、感情が、私を……許せないなら……このまま殺して頂いても、構い、ません……!」

「サカキィッ……!」

「で、すが……お願い、します……!

 此度の件……まだ話せて、居ない……部分がある、ので、す……!」

「………~~~~ッッ!!」

 

サカキの言葉を聴き、先程話された通りに既に『死の覚悟』を持っているのを改めて窺い知る。

 

そして、全てを聴いた上で判断せねば……既に居ない自分の次男にも、呆れ顔をされると考え……

 

襟首に入る力を、理性全開で緩め……静かに静かに、サカキを床へと下ろす。

 

「……ッぐ、ゴホッ……本当に、すみません……レンカ殿……」

「……レンカ師匠で、良いわよ」

「……しかし」

「大丈夫、貴方の言葉は真摯に受け止めさせて貰うから。

 それに……まだ、破門を宣言してはいないわよ?」

「……わかり、ました。では……話の続きを」

「ええ、お願い」

 

どちらも互いに冷静になり、改めて聞く姿勢となった。

レンカに促され、正座の状態から部屋に備え付けられている机と椅子を挟んでの会話に変更される。

 

「まず、ロケット団は……元々が純正の犯罪組織ではなかったのです」

「……そう」

 

そこから、サカキの口から語られていく『事実』。

 

街に(あぶ)れてしまっていた若者達のために、何か出来ないかと誘い入れていき。

そして彼らを、気付いた時には囲いすぎてしまい、しかし見捨てる事も出来ず。

自分がジムリーダーとしてポケモンリーグから貰っている給料では彼らを賄い切れなくなった時に……

 

囲った彼らが選んだ道は……犯罪を犯してでも、ボスの為に動くという信念。

 

その形でいつの間にか民衆に認識され始めて。

それでも組織が立ち回らなくなってきてしまった……そして計画をして事を起こしたのが……

 

「サントアンヌ号占拠事件、です」

「…………確か、その事件での人質の中にあなたも居たのよね?」

「ええ、そこで初めて……『戦う覚悟を持った』タツヤ君に遭遇しました。

 師匠に一度言われていたのに、完全に不注意でしたよ……まさか彼一人で全てをひっくり返されるとは」

「ふふふ、そりゃそうよ。だって……私の、自慢の息子だったんだもの」

「……『だった』ですか……。続き、よろしいでしょうか」

「わかったわ、続けてくれる?」

「はい」

 

促され、さらにサカキはポツポツと語り出す。

 

このサントアンヌ号の件は、組織の中での大企画であり……

失敗すれば、ロケット団にはもう後がなくなるという程のモノだったのです。

事実、ロケット団構成員はこの件からさらに活発化してしまい……

『禁忌』として厳重に禁止させていた、ポケモン殺しまでするほどだったのです。

 

「───そして、シオンタウンで一匹のポケモンが殺害されてしまいました。

 その事件にタツヤ君が、深く関わるキッカケがあったそうです」

「…………」

「彼から聞いた限りだと、その事件を起こした構成員と留置所で話す機会があったそうで……

 私を尊敬する者達が語る組織の現状を聞き、ロケット団を変える決心をしたそうです」

「……さすが、自慢の息子ね。知らないところで、しっかりやっていたのね」

「本当に、彼には頭が下がる想いしかありません……。

 そこから一週間程度、今から丁度一ヵ月前辺りに……彼は、この町に現れた」

 

ここからは色々と、摩訶不思議な事情も出てきます。

彼は、何故か私達しか知らないロケット団本部の入り口を正確に知っており……

見張りをしていた者を的確に見分けて、『ロケット団のボス』である私に接触をしてきたのです。

彼の中で既に決めていた通りに、ロケット団という団体を改善するために……

 

「彼は単身で、私達の居た施設に来たのですよ」

「……なるほど、ね。そちらの事情は大体わかったわ。

 うちの息子が、あんな事になってしまった原因は……一体なんだったの?」

「簡単に述べさせて頂くと……彼はどこかから凄まじく(さと)いポケモンを連れてきまして……

 そしてそのポケモンはエスパータイプで、人間の思念を読み通す力を持っていたらしく

 彼が組織を改革する前に、『ロケット団を隠れ蓑にして犯罪を楽しむ連中』を選別したのです」

「………………そう、そいつらなのね……私の息子を……殺したのは……!」

「……その通りです」

 

レンカが激しい怒りに焼き尽くされかねない中で、サカキは座っていた椅子から立ち上がり

再度レンカの方へ向いて、深々と90度の角度で御辞儀をした。

 

「改めて……此度の件、構成員を管理しきれていなかった……

 そして、彼の力を過信して……彼の身に危険が迫る状況を放置した私の責任です。

 本当に……申し訳ありませんでした……」

「…………」

「師匠、既に覚悟は出来ています。先程、『弾頭』の簡易の引継ぎも済ませてきました。

 もしよろしければ、師匠の手で介錯をお願いしたく思います」

「…………」

 

全ての事情を話し終え、サカキは完全に決意した顔をしている。

あとは、目の前に居る『世界の異物』の手で逝く事だけが仕事と言わんばかりに。

 

レンカは、そのサカキの様子を見て───口を開いた。

 

「……『弾頭』代表取締役、サカキ」

「はい、師匠」

「───私は、貴方を───(ゆる)します」

「…………は?」

 

サカキは全く想像出来ない言葉を告げられ、その場で呆然としてしまう。

彼女の息子の完全なる死因である、自分を……赦す?

 

「私もね……今は暇な主婦でしかないから、ね」

「は、はぁ……」

「……最近、『弾頭』という会社がどれだけ頑張っているのかは知っているわ。

 あのロケット団を更正させるために、ロケット団の面子を社員として働かせている、ってね。

 今じゃしっかり会社でも黒字をあげているんでしょ?」

「ええ、はい……」

「……貴方の口から出る、『ロケット団』だった時代に折れ掛かっていた屋台骨が

 きちんと回復するぐらいに、頑張ってるんでしょう?

 ───貴方は、昔から……嘘をつくような子じゃないわ。

 きっと、今話した事も全部事実なのよね……それを聞いたら───私も、貴方を殺す事は出来ないわ」

「師、匠……」

 

全てを話した上で、赦されるとも思っていなかった。

しかし、自分が尊敬した師匠は、自分のやってきたことを認めてくれて。

 

彼と同じように、認めてくれて───

 

「けど」

「……はい」

「『そいつら』を赦す事は出来ないわ。

 新聞では、まだ捕まったという情報は無かった……貴方、隔離してるわね?」

「……推察の通りです。警察に捕まった所で……おそらく何も反省しないと思いまして。

 これより少し後に、現実を見せた上で『ロケット団』の暗部に『私刑』を与えるつもりでした」

「そこに連れて行きなさい。有無は言わせない」

「……ハッ、了解しました」

 

レンカが望んだ内容は、サカキに一瞬で受理され……話し合いは終わる。

レンカが席を立ち、サカキが戸を開け……向かう先は『弾頭』本社。

 

 

 

 

「こちらでございます」

「ええ」

 

入り口から地下へと下り、本社へと入ったサカキとレンカ。

その通路で受付件見張りをしている社員に労いと挨拶をして、本社の中へと入っていく。

 

そして、『15人』が監禁されている部屋へと静かに入った。

 

「っぐぅ……痛ぇ……あんのクソガキ……」

「くっそ、生きてたら次こそ絶対に殺して……って、ボスッ?!」

「え、な、ボスじゃないっすかッ!」

 

部屋の入り口に入ってきた二人に気付き、彼らは一斉に『ボス』に注目する。

口々に、自分が伝えたい事を述べていく。

 

「どうですか! あの子供に痛い目を見せてあげましたわッ!」

「ええ、これで俺らはもう一回立ち直って行けますッ!」

「……っへへ、俺等の邪魔すっからああなんだよ、あんのバケモンめが」

「…………」

「──────」

 

その内容に、サカキは理解されていなかった自分に涙を流し……

レンカはどれだけの屑に、自分の息子が───

 

「……ところで、ボス。その横の女はなんなんっすか?」

 

サカキに隣の人物について問いかける、犯行者の一人。

その声と同時に、レンカはゆっくりとその一団が蠢く所にゆっくりと近づいていく。

 

「……あん? んだぁオバハン」

「うん、こんにちわ」

「あ、あぁ……なんか用かよ」

 

気配は、まるで雑談でもするかのような空気。

レンカも目線が会話している一人に合う様に腰を下ろし、挨拶をする。

 

「私の息子が、お世話になったそうね」

「……は? 息子って……まさかあのクソガキかよ」

 

「ええ、そうよ。

 

 そして、さようなら」

 

「さっきから何わざわざ      いって         ん      だ    よ   」

 

会話している一人の言葉が言い終わらぬうちに

 

レンカは自分の右手を彼の顔に閃かせた。

 

 

 

 

 

そして

 

彼の頭は

 

身体から消えた

 

 

 

 

 

壁の方に何か音がしたのは、一体何が原因なのか。

 

サカキ以外の全員が何も理解出来ない中、レンカは緩やかにその場を動いた。

 

動く度に、壁に何かが激突する音が響く。

 

 

ものの10秒で、彼らは彼女の息子と同じく「この世から消えた」。

 

 

「ぁ~ぁ。なーんの得にもなりゃしなかったわ。本当に、世の中って理不尽よね……」

「……耳の痛い話です」

 

何事も無かったように、レンカは部屋の入り口へと戻り

サカキは来る彼女と共に部屋から退室するため、閉めていた扉を開ける。

 

「サカキ君、アレの処理はそっちでお願いね」

「元々私の不手際です、今から私も同じ様にしても構わないのですよ」

「いえ、貴方にまで手を出したら……きっと、枕元に立たれちゃうわ♪ ───けど、ね」

 

軽いノリで話し始めるレンカの語気が、最後だけ強くなる。

そして、レンカはサカキを真正面から見て、述べた。

 

「あの子と共に関わって、ここまで立ち直らせたこの組織……

 貴方の不手際で再び堕ち目になったら───それで終わりと思いなさい」

「肝に銘じるまでもありません……その時は、レンカ師匠の手で───お願いします」

「───えぇ……本当に、頑張ってね。お願いよ」

「……痛み入ります」

 

弟子と師匠の本社における会話は、これで終わりと相成った。

せめてもの救いは……この世界において、今交わされた約束が破られる事は無かった事だろうか。

 





と、いうわけで救いの無い最終回となりました。
この本筋で残る話はエピローグのみになります。

これが、にじファン時代に書き上げたかった内容です。
「奇跡は何度も起こらない」「現実は、現実であれ」
小説にありながら、そんなものを目指した終着点ですね。

批判もあろう事かと思います。ポイントとかもがっつり減るかもわからんね。
しかし全て覚悟の上だ。やりたい様にやって何が悪い。

実際、三ヶ月ほど前にこのシナリオは告知してます。
10月15日の活動報告をご覧ください。
7話前から一文字ずつ掲載していた「あさきゆめみし」と載っております。

この「あさきゆめみし」を検索して、それを「聴いて」、歌詞の意味を知れば
今回の終わりも認知出来ていた事かと思います。

※追記・どうやら「あさきゆめみし」というのが様々な形で世に登場している様なので
    完全に特定できるよう、「恋姫」と入れることをオススメします。

一人ぐらいはそこからこれを予想した人が居てくれるとこちらとしては本望です。



あ、それと最終回は別に最終話じゃねーから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

 

 

タツヤの葬儀は、慎ましやかに行われていった。

その規模は、彼がマサラタウンを出てから過ぎた三ヶ月と……似つかわしくないほどに、静かに。

 

あれだけ大騒ぎしながら旅をして、辿り着いたその先は……ひたすらの静寂。

ドレディアの目に映る、見知った顔も───全て、その表情は暗い。

 

 

「やぁ、ドレディアちゃん」

「───。」

 

人の声に反応する程度までは精神が回復したドレディアが向いた先に居たのは……

旅に出て初めて出来た知人、露店売りの青年だった。

 

「……今回の事は、言葉が無いよ」

 

本当にそう思っているのがわかるぐらいに、気落ちした声で青年は語りかける。

しかしそんな声を聴いても、ドレディアの表情には変化が現れない。

 

「……あ、ドレディア。こっちに居たんだね……って、え?」

「……へ? シン……君か?」

 

その二人の重い空間に現れたのは、金髪の女性を連ねた青年……タツヤの実の兄、シンだった。

 

「あ、あの……チャンピオン、さん……何故、弟の葬儀に……?」

「え、この人……この地方のチャンピオンなの……!?」

「はい、シロナさん……結構前に何度も対面してたので……」

「そういえばカントーでチャンピオンを倒して殿堂入りを果たしたって言ってたわね」

「久しぶりだね、シン君……まさか、こんな場所で再会することになるとは……

 そうか、タツヤ君はシン君の弟だったのか」

 

ドレディアの目の前で、嬉しいと思えない再会に少し会話する二人。

やはり場所と状況の都合上、何も歓迎出来る要素が無いようだ。

 

「タツヤ君とは、ちょっとだけ関わりがあったものでね。

 トキワシティに彼が来た時に、露店を彼女に手伝ってもらったり

 ポケモンリーグで不足してる人材を紹介してもらったり、何かと世話になってたから……」

「そうなんですか……あいつも、顔が広いなぁ」

「新聞で事件を知った時は……本気で驚いたよ……本当に、残念だ」

「……タツヤも、そう言ってもらえれば嬉しいと思います」

 

そうして語るシンの表情も、とてもつらい。

昔馴染みの弟が亡くなった……それは、胸にどれだけの空虚を生んでいるのか。

 

「それで、ドレディアちゃんを探してたんだっけか」

「あ、はい」

「わかった、僕も重要な話をしていたわけじゃないから連れて行ってあげてほしい。

 ……ドレディアちゃん、またあとでね」

 

露店売りの青年───カントーチャンピオンの青年は、静かにドレディアの傍を離れた。

そうして、顔見知りがいたのだろうか……人込みの中にまぎれていった。

 

「あ、それで……ドレディア、せめて君に逢いたいって人が何人か来てるから……

 付いてきてもらえるかな。その人達のところまで案内するよ」

「───」

「……大変だと思うけど、元気出してね」

 

連れ添っている金髪の女性から心配そうな声を掛けられつつ、ドレディアはシンに付いていった。

 

 

その3ヶ月の間に出会った様々な人間から、次々と声を掛けられていくドレディア。

工事現場の親方に、マサラ出身者の片割れ・レッドにピカチュウとセイリュウ。

嫌っているオーキドも話しかけてきたが、さすがに今回は前のように殴る気になれない。

 

他にも関わりが薄いところでは、シオンタウンのフジ老人に……

たまたま寄港していたサントアンヌ号の船長や、その事件の際に居合わせた様々なジムのリーダー。

 

タツヤが育て屋をしていた際に出会った、カズとコクランにも挨拶をされていた。

 

三人娘にも、あの霊安室でも今回の葬儀でも顔を合わせている。

そして、どちらも例外無く……ドレディアを含めて全員が泣いていた。

 

本来であれば、世を騒がせた殺人事件といえど……この世界の英雄、著名人達がここまで揃う事は無い。

 

今回の顔ぶれも、ひとえに……どれだけタツヤが濃い旅をしてきたのかを現している。

 

 

 

彼が亡くなったこの数日間で、色々な事が変わった。

株式会社弾頭は、丁度成長時期に入ったのか一気に黒字の数字が伸びた。

口コミで広がり続けたサカキの風評と仕事の内容が、ものの見事に的中した結果である。

 

しかし、そんな喜ばしい空気の中で……居なければならない一人が、もういない。

社員達にはタツヤが亡くなった事は周知の事実なため、今の業績を維持するだけでも一苦労している。

 

ミュウとミュウツーは、社員でこそ無かったが正式に辞令を出した。

あれだけの傑物が淘汰されてしまうこの人間社会に完全に嫌気が差した、と彼らは言っている。

 

ミュウが行っていたサカキの秘書に関しても、一番重要な時期は既に乗り切っているし

ミュウツーに関しては元々タツヤとの二人三脚であった点も大きい。

せめてもの義理ということで、サカキに一声かけてから居なくなっていた。

 

 

そして───ポケモン図鑑は……動かなくなった。

 

 

普通に、ポケモン図鑑として機能はする。

しかし、この世界において何故か喋るまでに進化していたポケモン図鑑は

タツヤが『消えてしまった』その翌日には───もう、喋る事はなくなっていた。

 

ポケモン図鑑が進化するという摩訶不思議な現象は

不思議の塊でしかなかったタツヤが消えてしまった事で、効力を消失したのだろう。

 

色々なものが変わった。

沢山の状況が変わった。

そして、ドレディアにとって一番変わった内容は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が、もうこの世のどこにも居ないという事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

タタン……タタン、トトン……

 

【…………え?】

 

謎の音が辺りに響き、ドレディアの意識はゆっくりと目覚め始める。

 

タツヤが居なくなり、葬儀も恙無(つつがな)く終了したその日。

全日程に置いて、一睡も出来ていなかったドレディアは

きっと今日も眠る事は無いだろうと思いながら寝床へと入り……五日振りに意識が落ちた。

 

しかしその後に目覚めるのであれば、そこは寝床のはずだった。

だが、今自分が寝ている場所は一体どこなのか。

 

【起きたか……姉御よ】

【ッ?!】

 

横から聞こえてきた『声』にドレディアは驚く。

その声は……その口調は、もちろんの事ダグ三兄弟の一人・ダグONE。

 

そしてドレディアはその違和に即座に気付く。

 

【え……何故……貴方の声が……?】

【……うむ、一体何が起こっているのか……】

 

彼が今までタツヤや自分に伝えてきた言葉は、全てが『意思』。

故に、目を見なければ彼らダグトリオの考えている事を組み込む事は難しい。

 

それが特徴であるダグトリオの声が、聞こえる。

 

【もちろん、私も居ますよドレディアちゃん】

【ミロカロスさんも……ですか】

 

ダグ達が座っていた左手から、真後ろの方を見やれば……

そこには、虹色の美姫が大きな体を長椅子に鎮座させていた。

この謎の空間に、ポケモン図鑑表示で親がタツヤと表示されている面子が完全に集合している。

 

【あの……ここは、一体……】

【わかりません……気付いたら私も、ダグトリオさん達も全員ここに居て……】

【どうやら、ここは何かの乗り物であるようだ】

【うむ、先程からどこを走っているのかはわからぬのだが……

 どうにもこれは自走しているらしいぞ、姉御】

 

ドレディアは彼らから状況を伝え聞き、さらに意味がわからなくなる。

自分が座っているその場所は、横に長く添え付けられた反発力のある椅子。

向かい側にはまるで進行方向に左右対称として作られたような、同じ長さと形の椅子がある。

 

彼ら、タツヤのパートナー達は……何故か地下鉄列車の中に居た。

 

一体ここがなんなのか調べようとドレディアは立ち上がろうとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅ、五日振りだけど元気してたかお前ら」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが、諦めて……望む事も出来なかった【言葉】が聞こえた。

 

「んーむ、ムウマージは居ないのか……まあ、あいつ母さんの一旦別れた手持ちっぽかったしな……」

【え、な……あ、主様ッ?!】

【あ、主殿なのかッ!? 一体どちらにいらっしゃるのだッ!?】

【……ご主人様?!】

 

聞こえた声に全員が面白いようにうろたえだして、キョロキョロと周りに目線を向ける。

その様子を見ているのか、声はとても楽しそうにくつくつと笑っている。

 

「ったく、お前らなにやってんだよ……ココだココ、正面だよ」

【え……?】

 

そして彼らが、左右対称に配置されている向こう側の長椅子を見ると……

 

 

一人の見覚えが無い『青年』がいつの間にか存在しており

肘を膝にあてながら顎を手に乗せて楽しそうにこちらを見ていた。

 

 

【あれ……え……?】

【す、すまぬが貴殿は……どちら様であろうか……?】

「ん……? あー。なるほどなぁ。

 魂的なモンだけは実年齢が反映されてんのか……てか精神年齢かな、これは」

 

彼らに問われて、青年は改めて自分の体を見比べ、その際に関して一人研究している。

 

「まぁ、ここまで色々変わっちまってりゃわかんないのも無理ないか。

 ほら、俺はお前らの……あれだよあれ、パートナー?」

【な……何を言っているのですかッッ!! 私達の……パートナーは……】

「だからタツヤだろ? 俺だって、俺。

 くやしいのう……くやしいのう……姿が変わっただけで信用されないなんてくやしいのう……」

 

真剣そのものであるドレディアの興奮も軽く受け流し、青年は飄々と答える。

 

「ってーかドレディアさんてそんな口調やったんやね。

 一瞬お前誰だよって思っちまったわ……声が聞こえると違うもんなんだなぁ」

【さっきから一体何を……】

【……あ……、ま……まさ、か…………?!】

 

そして、ミロカロスがその青年を見て何かに気付く。

ミロカロスが示した反応に、青年は『してやったり』といった顔を浮かべてニコニコし始めた。

 

【『あちらの世界』のご主人様の姿ッ?!】

「んむ、その通り! やっぱ一回話してるミロカロスはわかってくれたか!」

【……あっちの?】

【……世、界?】

【いやいや、まずは事実確認から行っていきたく思うぞ姉御に大女将】

【然り。青年……貴殿は……本当に、我等が主殿……なのか?】

「間違いないぞ、俺はタツヤだ」

 

あっけらかんという自称タツヤ。どうやらその裏事情はミロカロスだけ把握している様だが。

 

【どうして、そのお姿に……?】

「俺が知るわけないだろそんなもん。

 ……でもまぁ、あっちで俺が死んだってのはなんとなくわかるわ。

 居なくなったーってのが正確に五日とかわかってる辺りで矛盾してっしなぁ……

 案外ここに居る俺もお前らの夢かもわからんわな」

【あぁ……その、その訳のわからないところで投げやりな姿勢……!

 やっぱり、ご主人様……! ご主人様なのですね……ッ!】

「いや、うん……まあそうなんだけどさ。

 甘えたくて頭摺り寄せて来てる割にお前毒舌すぎだろミロカロス」

 

ある意味消える前の、ほぼいつも通りであるタツヤの様子そのままな青年を

ミロカロスは、完全に自分の主と認めたようだ。

そして、涙を流しながら青年タツヤの顔に頭を摺り寄せている。

 

「まぁ……とりあえずは、だ……色々なものの証明が難しいんだが……

 ここに居る『俺』は、間違いなく『俺』なわけで。

 でもってこの姿って事は……多分これで完全なお別れって事なんだろうな」

【え……】

【な……、ど、どうにかならぬのですか主殿ッ!】

【そんな……せっかく、せっかく再会出来たのに……】

「……まぁ、俺も悲しいんだけどさ……少しだけ考えてみろ、お前ら」

 

その言葉が意味するところを考えても、居合わせる五人は理解出来ない。

青年タツヤが少し暗い顔をしながら、『事実だけ』を述べていく。

 

「まず、お前達が居る世界で……俺はもう存在していないし、存在出来ないんだろう。

 人間として、完全に死亡判定だったからこそ、この状況なんだろうしな……」

【そ、そうですッ! 主様ッ……貴方は何故あのような体になってまで無茶をして戦ったのですかッ!!】

「あぁ……うん、まぁ、そこはすまん……ちょっと、アドレナリンが……

 ってそうじゃねぇわッ! こんなところで説教すんなッ!」

【うるさいですよ主様ッ! 貴方は普段からいつもいつも私達に対して心配ばかりかけさせて……】

 

「……ドレディアさん、一旦黙れ」

 

【嫌ですッ! 貴方にはこの際はっきりと私達の主という自覚を……】

 

「───最後、なんだからよ」

 

【……ッ】

 

一気に捲くし立てて説教を始めたドレディアを、ただの一言で押し留め

青年タツヤは目を瞑りながら、再びポツポツと客観的な事実を語り出していく。

 

「要するに、だ。俺はあっちに戻れる寄り代が既に存在してないわけだ。

 そんな状態でどうやってあっちに戻れるって話だな」

【ご主人様……】

「そして、挙句の果てにはこの姿だ。

 おそらくは───『俺』の、夢の終わりなんだろうよ」

【【【主殿……ッ!】】】

 

彼の辿り着いた結論を、彼の相棒達は認める事が出来ない。

こんな場で、姿形も声も違うけれども再会出来たのに……また、すぐさま別れる事になる。

 

「まぁ、俺も最後に逢えて嬉しかったさ。

 短い間だったのかも知れんけど、お前ら良い性格してたしなw

 ───ハリボテだらけの人間関係ばっかな元の世界よっか、よっぽど楽しかったよ」

【だったら……! だったら行かなければ良いではないですかッ!!

 貴方は以前ガラガラさんを、現世に留まらせたでしょうッ?!】

「それとこれとは事情が完全に違う。少し考えれば同じ原理が働かないのはすぐわかるだろ」

【けれど……!】

 

また押し問答になりそうになった会話だったが……

 

別の要因で、その会話は停止せざるを得なくなる。

 

 

 

 

列車が───『駅』に着いたのだ。

 

 

 

 

「さて、そろそろお別れか」

 

椅子から静かに立ち上がり、青年タツヤは乗車口へと歩き出す。

 

【嫌ですッ! 行かないでくださいッ!】

【主殿ッッ!】

【まだ……まだ、わからんでしょうッ!?】

【我等を───置いていくのですかッッ!】

【せっかく逢えたのに───また、居なくなるおつもりなのですか、ご主人様ッッ!】

 

一緒に旅で連れ添った仲間から引き止められながら、それを気にしないように青年タツヤは歩き出す。

その顔に浮かぶのは、本気で悔しかろう……歯を食いしばる様子。

 

しかし彼の歩みは止まらない。

全員が物理的に引き止めようと、タツヤの元へと走り寄ると……

 

先程のミロカロスは近寄れたのに、今は何故か誰もタツヤに近寄る事が出来ない。

見えない何かに阻まれて、列車の中から出る事が出来ない。

 

ドレディアは全力全開でのパンチを繰り出し。

 

ダグトリオ達は三人連携で同時に蹴りを繰り出し。

 

 

それでも、見えない壁は異変を起こさない。

 

 

まるで───運命の壁がそこにあるかのように。

 

 

ドレディアは必死に手を伸ばす。

 

ダグONE達は絶叫しながらもがく。

 

ミロカロスは涙ながらに突撃しようとする。

 

 

そのいずれも、彼には───もう、届かない。

 

 

そしてついに、彼は───相棒達に背を向けたまま列車から降りてしまう。

 

もう、どうしようもない位置。

このまま扉が閉まれば、タツヤを置いたまま列車は動き出すのだろう。

 

【どうしてッ……どうしてッ! どうしてッ! どうしてッ!】

【ある、じ、殿……】

【何故……何故に……!】

【どうしても、行かれるのですか……ッ!】

【ご主人、様…………】

 

彼はその声を背中に聴きつつ……ホームから去ろうとして───

 

 

 

 

 

列車から出られない、彼らに振り向いた。

 

 

「ドレディアァーッ! ダグトリオォーッ! ミロカロスーーッ!」

 

『ッッ!?!?』

 

 

その声は、今までより一際大きく。まるで咆哮の様に声を張り上げる。

 

 

「前を向けッ! 下を見るなッ!!」

 

「目の前の事を、楽しめッ!! 暗い気分で楽しさを無視するなッ!!」

 

「生きている事を楽しんで行けッ!! お前らの周りには……支えてくれる奴らが居るッッ!」

 

「それはお前等であって、弾頭の皆であってッ! 俺が支えられなくても、支えてくれる奴らが居るッ!」

 

「俺が居ない事を悲観するなッッ!! お前等がやりたい事をやっていくんだッッ!!」

 

「それでも納得出来ないなら……今回の様な悲しい事を二度と引き起こさせるなッッ!!」

 

 

ひとつひとつの声が、絶叫で───

 

同時に、自分がそれに付き合えない悔しさも滲み出ていて───

 

『相棒』達は、それを聞き入ってしまう。

 

 

 

 

列車の扉が閉まり始め……彼らからタツヤが見えなくなる寸前───

 

 

 

 

 

 

 

「お前らは……──」

 

 

彼は、最後に叫んだ。

 

 

「───俺の………誇りだァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

 

その叫びが終わると同時に、列車の扉は静かに閉まった。

 

これが、彼と……彼の相棒との───不思議な最後のひと時だった。

 

 

 

 

 

 

 

タタン、トトン……タタントトン……タタトトン……

 

扉が閉まった地下鉄の列車は、一体何処へ向かうのか。

その『駅』には、運命の壁により一人で残る事を余儀なくされた青年が一人。

 

何故、この様な事が起こったのか。

どうして、『俺』はここに存在出来たのか。

 

最後の最後ではあった、それは紛れも無く残念である……青年はそう痛感する。

そして最後に、彼らの本音をしっかりと聞けた。

意思を読み取るという事は、要は自分の頭の中で都合の良い翻訳機能が付いているのと同じ。

それも必要ないこの不思議な空間の中で、彼らと『会話』出来た事は、青年にとって至上の喜びだった。

 

 

トトタタン、タタタタン。

 

 

地下鉄の列車は加速していく。

僅かな空間しかないその場所は、列車が動く度に空気が風圧を生み……青年を撫でていく。

見る見るうちに加速して行き、肉眼で捉えるのも難しい程小さくなっていくその車両を

青年は万感の想いを抱きながら、見えなくなるまで見送った。

 

 

そして、車両が見えなくなった後……

 

 

 

「───あばよ…………『相棒』」

 

 

 

青年はぽつりと呟き、駅のホームから視線と体を背け『世界』から音も無く消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ホォ~ァ~~♪ ォォォォォァァ~~♪」

「ディァ~~♪ ド~レディァ~♪」

 

とある公園の大道芸広場。

そこでは虹色の水棲類と、緑色の歌姫が肩を並べて歌っている。

 

「───! ───!」

 

その後ろでは、細くはあるがしっかりと肉の付いた体を動かし

小さいドラムを事細かに刻むような感じで叩き続けるディグダの様な存在。

 

『ッ! ッッ! ッッッ!』

 

そして、歌姫達の横では……同じような体を持った二匹のディグダが

ドラムのリズムと歌声に合わせて、軽やかにステップを踏んでいく。

その動き、雄ではあるが……まるで『舞姫』の様に。

 

 

彼らは、タツヤの葬儀が終わった後───全員が同時に同じ夢を見た。

彼らが顔をあわせて話し合って見れば、語る内容は全員が全員、全て同じ。

 

 

故に、きっとあの夢は……『夢』ではなかったのだ、と。

 

その事実が、死に掛けていたドレディアを。

 

立ち直れなかったダグトリオを。

 

美しさが欠如していったミロカロスを。

 

彼は、最後に救っていったのだ。

 

 

そして彼らは、その夢で言われた事を忘れず……

少しも悲しさを世に広めないために、自らが歌い、踊り、刻み、人々に笑顔を届けている。

 

 

この世界において、大半の娯楽がポケモンの育成やバトルを占める世界観の都合上

彼らの動きと歌声は見ているだけでも一緒に歌いたく、踊りたくなるレベルであり

それこそ金を払ってでもその場に居る事すら躊躇わないモノだった。

 

広場は、半場熱狂に包まれている。

周りで芸をやっていた者達も、彼らが現れたと同時に芸をやめて見学者に混ざっていた。

コンサートでも、事前告知でも無いのに……公園は、彼らが届ける笑顔の為だけに存在していた。

 

 

 

 

このポケモンのみで構成される楽団の名は

 

 

 

 

 

 

 

 

             ~ うちのポケモンがなんかおかしいんだが ~

 

 

               TRUE END ①  ブレーメンの音楽隊 + 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        fin

 

 

 

 

 






というわけで、こんなエピローグ。
いかがでしたでしょうか。とりあえず奇跡なんぞそんなに起きません。
納得出来ない人は、むしろ奇跡が起こってあっさり主人公が助かっている、勝っている物語を検証してみましょう。


さて、そんなわけでBAD改めTRUEの①、お送り致しました。
あくまで最終回なだけで、連載はIFの形でまだ続きます。
挿絵機能がこの小説に登場した場合に乗せる事が出来るにじファンの本筋も
この物語のIFになるので、まあそんな感じです。

ほら、アニメで最終回あっても劇場版とかあるやん。なんかそんなのよ。

実は既に1発ネタを考えているので、投稿した際には失笑と共に、ご閲覧の程を宜しくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お茶請けのIF編
IF① あのシーンでBGMを間違えてみたら大変な事になった



~このIFの処方箋~

・テイク1だけ本来の場面を多様に引用しているので
 見比べながら閲覧すると面白さも増すかもしれません
・全体的に適当です。後半二つの元ネタは殆ど見たことがありません。
 ちょっとだけ見たことがある程度。


 

 

◇テイク1◇

 

 

「狙いはあのガキだッッ!! ストライク、きりさけぇーーーーーー!!」

「ッギッシャァアアーーーーッッ!!」

 

 

 

ストライクはこちらに狙いを定めて飛び、迫って───

 

や、やばいッ! 速過ぎッ─────

 

 

 

その速度は、とても俺の手持ちが反応しきれる速度ではなく

一直線にストライクは俺の胸元へと『かそく』付きの状態で飛び込んできて

 

 

本当にその一瞬、俺は世界が遅くなったような錯覚を受けた。

 

 

ストライクは躊躇することなく突撃してきて、その鎌を俺目掛けて振り上げ

 

ダグトリオとムウマージも慌てて俺に向かい

 

瀕死間近のドレディアさんですら、ミロカロスから降りて

 

俺のところに来ようとしているのが見えた。

 

 

 

だが

 

 

 

 

ザ シ ャ ァ ーーー ッ

 

 

 

テッカニンからのバトンタッチで

 

 

 

素早さフルバッフのストライクに追い付けるわけもなく

 

 

 

ひらけた視界に、ガッツポーズをする団員や

俺に向かうドレディアさん、ダグトリオやミロカロスを目に入れ、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の

 

 

 

胸元から

 

 

 

赤い花が、咲いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~推奨BGM 『ソーラ●節』~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ッグギャァ!?」

 

サックを嵌めていない手で、通り過ぎようとするストライクの首を掴む。

 

 

ヤァァ~。

 

 

「やって、くれんじゃねぇか……ソイヤッ」

 

そして、胸元が裂けているせいで、包丁を握り締めれば握り締めるほど、そこから血が漏れていく。

 

 

ァレン●ーランソー●ン。

 

 

「グ、ギャ、ソイヤッ───グゲァッッッ!!」

 

ッドン!

 

逃げようとするストライクを無理やり振りかぶって地面に叩き付け、俺はそいつの背中を上にして踏みつける。

 

 

ハイッハイッ!

 

 

「やるからには ソイヤッ、ハッ、ソイヤッ。覚悟ぐらいは あるんだろ」

 

 

ストライクの背中から生える羽を掴み

 

 

背中の間接部から無理矢理引っこ抜く。

 

 

「ギャァァァァァァァーーーーーーレンソーランソーランーーーーーーーーッッッッッ!!」

 

その瞬間ストライクの絶叫が辺りに木霊(おとっこーどっきょーなっらー)した。

俺は漁業で使う網を、その辺に投げ捨てる。

 

ヤァ~~~レン。ソーラ●、●ーラン。

 

「だからさ───あと少しぐらい   ソイヤッ」

 

痛さの余り、もう一対の網を引き上げて魚を収穫しようとしているが

俺はそれも掴み取り、先ほどと同じように引っ張った。

先程より一層強い水際の引きが俺の耳を打つ。今日も大漁です。

 

ハッ、ソイヤッ、ソイヤッ ソイヤッ ソイヤッ ソイヤッ ミ~、ミミミ~

 

「お前の覚悟、こんなもんじゃ、ないだろ」

 

痛みで網を引っ張り回るストライクの腕を取り

虫の間接らしく取れやすそうな部分を力の支点として、その刺身包丁を引き取る。

 

「──━──━━───━──━━━───」

 

もはや声らしい声にもなっていないが、ストライクは相変わらず叫ぶ。

 

ソイヤッて   なんだろう

 

捥ぎ取った包丁を一旦まな板に刺し、もう一対の包丁も取っておく。見事な文化包丁だ。

 

 

「─    ─  ─  はぁどっこいしょーどっこいしょー   ─    」

 

ストライクの声が聞こえにくくなってきた。

それとも俺の耳が遠くなってきたんだろうか。

 

まぁ、いい。

 

これだけ、やられてしまったんだ。

 

ご苦労だったな、ストライク。

 

 

 

 

 

今日も豊漁で、ありがとう。

 

 

 

 

 

俺は、綺麗に捌いた魚から包丁を引き抜き

最早自分の体が刺身になっているのかすらわからなかったが、ロケット団員と再び料理する。

 

 

「俺は、お前等に、これだけやられた」

 

 

全身の感覚がよくわからなくなってくる。刺身醤油の味すら良く分からない状態になってきた。

 

「だから、俺も、お前等にさ」

 

この体を動かす感覚は、本能でしかない。網を引っ張る辺りの。

どうして、ここまで痛みがあるはずの体を、俺は動かせるのか。

 

「同じ事をやっても、良いと思うんだ」

 

そんな事は俺も知らない。

動くからいいんだ。いいんだ。いいんだ。いたいんだ。ソイヤ。ハッ。ソイヤッ。

 

 

「だからさ、チョイヤサ───エッエエンヤぁぁぁぁぁァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 

俺の視界は、良く分からない事になってしまった。

 

二つの足で立っているヒトガタと、甲板でピチピチしてるブリしか見えない。

 

表情も見えない、体の色も見えない。もしかしたらマグロかもしれない。

 

だったらもう、気にすることなく          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   今年のマグロの初競りは、1億5500万

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇テイク2◇

 

 

 

「狙いはあのガキだッッ!! ストライク、きりさけぇーーーーーー!!」

「ッギッシャァアアーーーーッッ!!」

 

 

 

ストライクはこちらに狙いを定めて飛び、迫って───

 

や、やばいッ! 速過ぎッ─────

 

 

 

その速度は、とても俺の手持ちが反応しきれる速度ではなく

一直線にストライクは俺の胸元へと『かそく』付きの状態で飛び込んできて

 

 

本当にその一瞬、俺は世界が遅くなったような錯覚を受けた。

 

 

ストライクは躊躇することなく突撃してきて、その鎌を俺目掛けて振り上げ

 

ダグトリオとムウマージも慌てて俺に向かい

 

瀕死間近のドレディアさんですら、ミロカロスから降りて

 

俺のところに来ようとしているのが見えた。

 

 

 

だが

 

 

 

 

ザ シ ャ ァ ーーー ッ

 

 

 

テッカニンからのバトンタッチで

 

 

 

素早さフルバッフのストライクに追い付けるわけもなく

 

 

 

ひらけた視界に、ガッツポーズをする団員や

俺に向かうドレディアさん、ダグトリオやミロカロスを目に入れ、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の

 

 

 

胸元から

 

 

 

赤い花が、咲いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~推奨BGM 『キューピー3分間クッキング』~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、というわけでですね。

 今ストライクさんが俺の胸元で切り裂いたこのケチャップを隠し味としてフライパンに少し入れます」

「ディッ」

「あくまでも隠し味的な要素が強いので、入れ過ぎると酸味が少し強くなってしまうので注意です」

「グギャ」

 

俺は解説をしながら、火にかけたフライパンの中をゆっくりとヘラで混ぜて行く。

 

「ハンバーグソースは一般的にオニオンソースが有名ではありますが……

 ご家庭での手作りデミグラスソースなんかも、やはり絶品でございまして」

「ほぉー、そうなのかクソガキ」

「また、これが焦げ付かない様に火の勢いを調整しながらゆっくり作っていきます」

「ホァ~」

 

デミグラスソースを火にかけ始めてから少し時間が経った。

最早この時点で3分過ぎてるんじゃないかという意見はご勘弁願いたい。

 

「また、俺はよくわかりませんがフランス料理にはフランベという調理技術なんかもありまして……

 このハンバーグにも、フランス料理的な意味でワインの匂い付けなんかをすると

 高級レストランに出てくるような味を再現出来るのかもしれませんねぇ~」

「ァ、ァァ……ディッ、ディァッ……」

 

横でドレディアさんがよだれを流し始める。

こら、ちゃんと淑女で居なさい。

 

「そしてこの出来上がったデミグラスソースを、こちらで火にかけているハンバーグの上へとかけて……

 こちらもまた焦げ付かない様に注意しつつ……ハンバーグの全身をソースに絡めまして~」

「───(゚q゚)」

「添え物として、キャベツの千切りとミズナの和え物をハンバーグの横に乗せてぇ~……

 はぁい、かんせぇ~~~い!」

「ディァー!!」

「ホァ~!!」

「グギャーーー!!」

「おっしゃぁーーーーーー!!」

「───ヽ(゚∀゚)ノ!!」

 

そして俺は調理前に事前準備しておいた人数分のハンバーグを取り出し

 

「はい、ではさすがに3分間では人数分のデミグラスハンバーグを作るのは難しかったので

 番組の収録前に作っておいたこのハンバーグをみんなで食べていきましょうー」

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉおーーーーーーーー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

収拾が付かなくなったのでやり直し。

 

 

 

 

 

◇テイク3◇

 

 

「狙いはあのガキだッッ!! ストライク、きりさけぇーーーーーー!!」

「ッギッシャァアアーーーーッッ!!」

 

 

 

ストライクはこちらに狙いを定めて飛び、迫って───

 

や、やばいッ! 速過ぎッ─────

 

 

 

その速度は、とても俺の手持ちが反応しきれる速度ではなく

一直線にストライクは俺の胸元へと『かそく』付きの状態で飛び込んできて

 

 

本当にその一瞬、俺は世界が遅くなったような錯覚を受けた。

 

 

ストライクは躊躇することなく突撃してきて、その鎌を俺目掛けて振り上げ

 

ダグトリオとムウマージも慌てて俺に向かい

 

瀕死間近のドレディアさんですら、ミロカロスから降りて

 

俺のところに来ようとしているのが見えた。

 

 

 

だが

 

 

 

 

ザ シ ャ ァ ーーー ッ

 

 

 

テッカニンからのバトンタッチで

 

 

 

素早さフルバッフのストライクに追い付けるわけもなく

 

 

 

ひらけた視界に、ガッツポーズをする団員や

俺に向かうドレディアさん、ダグTWOやダグⅢにミロカロスを視界に入れ、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の

 

 

 

胸元から

 

 

 

赤い花が、咲いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~推奨BGM 『劇的ビフォーアフター 匠が仕事を終えた後の家屋内部の紹介BGM』~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、タマムシシティのとある地下施設。

そこでサカキは対面するダグONEに独白を続ける。

 

 

 

「ええ、はい。最近改めて知り合いとなった者が居まして。

 この施設の状態ではちょっと行かんと言われまして、応募に踏み切ってみたんです」

 

「─────」

 

「かといって大規模にリフォームするお金の余裕もあるわけではなかったので……

 そう、予算は6万円ほどでありまして……」

 

「─────b」

 

「はい、ええ、ご高名なタツヤ君のダグトリオに頼める事になるとは……

 出来上がりは、期待させて頂きます」

 

 

 

 

人は (ダグONE) をこう呼ぶ……

 

 

 

「迅速な特級地下建設師」

 

 

 

そして出来上がった地下施設のリフォームは……

 

今までスロットコーナーから上がり降りしなければならなかった出入り口は

もう一個の出入り口を作成する事により、人の流れと機密性を緩和させ

 

また、ダウジングマシンに反応しない箇所へ「きんのたま」を配置する気配り。

 

そして社員達が寝泊りする部屋には、四季折々の風景を楽しめるように風景を書き上げていた。

 

 

これには匠もご満悦。

 

 

サカキと弾頭の社員達は、住みやすくなったこの空間で

まるで家族のように触れ合いながら、会社を発展させていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タツヤは普通に散った。

 

 

 

 

 








ウー! ハー! 





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF② 続・あのシーンでBGMを間違えてみたら大変な事になった



※※※注意! 注意! 注意!※※※

今回のネタは原作の都合上ひっじょーーーーーにグロい表現が出てきます。
故にコレを投稿した後にタグに書き加えますが
この話は笑える様に仕上げましたが冗談抜きでグランドセフトオート真っ青かもしれません。

そこら辺で気分を害されても俺は責任を一切取らずピザポテトをのんびりと食すので
閲覧前に、この前書きの確認の徹底をお願いします。


「狙いはあのガキだッッ!! ストライク、きりさけぇーーーーーー!!」

「ッギッシャァアアーーーーッッ!!」

 

 

                                      [(SAVE)]

 

 

ストライクはこちらに狙いを定めて飛び、迫って───

 

や、やばいッ! 速過ぎッ─────

 

 

 

その速度は、とても俺の手持ちが反応しきれる速度ではなく

一直線にストライクは俺の胸元へと『かそく』付きの状態で飛び込んできて

 

 

本当にその一瞬、俺は世界が遅くなったような錯覚を受けた。

 

 

ストライクは躊躇することなく突撃してきて、その鎌を俺目掛けて振り上げ

 

ダグトリオとムウマージも慌てて俺に向かい

 

瀕死間近のドレディアさんですら、ミロカロスから降りて

 

俺のところに来ようとしているのが見えた。

 

 

 

だが

 

 

 

 

ザ シ ャ ァ ーーー ッ

 

 

 

テッカニンからのバトンタッチで

 

 

 

素早さフルバッフのストライクに追い付けるわけもなく

 

 

 

ひらけた視界に、ガッツポーズをする団員や

俺に向かうドレディアさん、ダグトリオやミロカロスを目に入れ、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の

 

 

 

胸元から

 

 

 

赤い花g

 

~推奨BGM 『I WANNA BE THE GUY 死亡時の無駄にカッコイイBGM』~

 

 

 

グシャァァァーーーン

 

ー♪    ー♪    ー♪    ー♪    ー♪

 

G  A  M  E     O  V  E  R

------------------

     PRESS 'R' TO TRY AGAIN

 

ー♪    ー♪    ー♪    ー♪    ー♪

 

 

「ッグギャッ?!」

「うぉぁッ?!」

「きゃぁぁぁーー!」

『───ッ?!』

「△▲☆★ッ!?」

「ホァッ?!」

「───……ア?」

 

 

それは突然だった。

超速で迫り、タツヤを切り払ったストライクだったが

あろう事か、自慢の鎌が触れるや否や……

 

『対象は切り裂いたはずなのに、人体が爆散して果てた』のだ。

 

そして全員の目から見て、全く関係ない空の背景に謎の英字が羅列されている。

しかも微妙になんかノリが良いBGMが脳内に響き渡った。

 

だが……完膚なきまでに、タツヤは死亡した……。

これは、どうあがいても揺ぎ無い事実。

 

攻撃を加えたストライク、タツヤの援護に向かおうとしていたダグとムウマージも

爆散した際に飛び散ったタツヤの血をモロに引っかぶり、真っ赤に染まる。

 

タツヤは、死んだ。

 

「……ァ、ディ、……ァ?」

 

自分の主人が、目の前で殺され───悲しみすらも即座に沸かないドレディア。

 

【そんな……な、ぜ……主様、が……?】

 

その事実を受け入れるのに少しだけ時間が掛かっているドレディア。

傍に居たダグトリオの三匹が一番先に立ち直り、怒りに身を任せて

ロケット団が指示を飛ばしていたポケモン達を撃墜していく。

 

ロケット団側のポケモン達もあまりにグロく

衝撃的なそのシーンが眼に焼きついて思考が完全にフリーズしているらしい。

棒立ちの状態から次々にダグトリオに吹き飛ばされていった。

 

そして、ドレディアは……爆散して果てたタツヤの一部だった『モノ』に近づき

それをじっと見詰めた後───事実を受け入れ、

 

 

 

『暴走』した。

 

 

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ーーーーーーーーッッッッ!!」

 

 

 

ダグトリオと同じく、主が殺されたその怒りを腕に込め

漸く意識が復活して動き出したロケット団側のポケモン達に

常識から逸脱した腕力を有する手から、悲しみの一撃を放っていく。

 

その拳を一度受けたポケモンは───

 

生物として凹んでは行けない部分が凹み。

 

曲がっては行けない方向に各部分が曲がり。

 

少し経てば命の灯火が尽きるのは間違いない。

 

タツヤの手持ちの全員が全員、狂気にあてられ暴走する中で

 

慌てて逃げ出そうとしているロケット団の人間が居た。

 

殆どのポケモン達を駆逐し終わったドレディアが、そのロケット団に向かう。

 

何故主様は殺されなければいけなかったのか。

 

何故主様を守れなかったのか。

 

そんな悲しみを背負いながら、手前に居るロケット団の命を刈り取るために

 

『全力全壊』で、そのロケット団の胸を豪腕で撃ち抜いた。

 

 

 

 

時が戻った。

 

 

 

 

「狙いはあのガキ───って、あれ!?」

「ギシャァーーーーー───アッ?」

 

時が『戻った』。

全員のその意識が、タツヤが殺されて怒り狂っていた『その状態』のまま。

 

そして時が『戻った』ので当然───

 

「……? あれ? ……って! ぉぉぉぉぉぉーーー!!」

 

タツヤは平然と復活していた。

さらにはストライクに狙われているのが丸わかりだったために

その立っている位置から慌てて動きだし、自分の手持ちの下へと戻っていった。

 

「……はぁ、なんだかよくわかんねーけど助かったな。

 あんだけ隙無く詰め寄っててもここ一番でミスってたらざまぁねぇなぁ!」

「え、いや、え?!」

『!?!?!?』

「△▲☆★?!」

 

一人平然と普通に行動しているが、他の全員は漏れなく『あの時』の意識のまま。

ロケット団側は自分達の置かれている状況が。

タツヤの手持ちは、あれだけ(むご)たらしく殺された自分達の主人が

何故にここまで普通に生存しているのかが理解出来ない。

 

「ディ……ア……?」

 

ミロカロスに乗っている状態まで巻き戻っていたため

ミロカロスから降りながら、自分の主の下へと歩み寄るドレディア。

その様子を見て、慌ててドレディアを止めようとしたタツヤだったが

ドレディアの雰囲気があまりにも懐疑心に満ちていたため、躊躇をした。

 

そう、まるで……自分が殺されたかの様に。

 

「アァァァァーーーーー!! ディァァァァーッッ! ドレディアァァーー!」

「な、なんっ……!? ど、どうしたんだドレディアさんッ?!」

 

自分へと向かいながら、大声を上げて泣きじゃくる相棒に

なにがなんだかわからないといった感じに、狼狽するタツヤ。

 

タツヤ以外の全員が全員、白昼夢を見ていたかの様な状態だった。

 

そしてその状態から真っ先に復活したのは───

 

都合が悪い事ながら、ロケット団Cだった。

 

「くそっ、何がなんだかわからねぇが……!

 マニューラァッ! あのガキ共にこおりのつぶてで応戦しろぉッ!!」

「ッニャァァァァーーーーーーッッ!!」

 

ロケット団のマニューラも、一体何が起きたのか全くわかっていなかったが

横から自分の相棒の声が聞こえたため、即座にその行動に移った。

 

その氷の弾は、通常の攻撃と比べてケタ違いに速く───

傷付いた二人が回避行動に移る前に到達してしまい……

 

瀕死間近のドレディアと、これまた瀕死間近のタツヤにちょくげk

 

~推奨BGM 『I WANNA BE THE GUY 死亡時の無駄にカッコイイBGM』~

 

 

 

グシャァァァーーーン

 

ー♪    ー♪    ー♪    ー♪    ー♪

 

G  A  M  E     O  V  E  R

------------------

     PRESS 'R' TO TRY AGAIN

 

ー♪    ー♪    ー♪    ー♪    ー♪

 

 

タツヤは再度、爆散して果てた。

 

自分がその旅の間、共にしてきた相棒を胸に抱いて。

 

 

「え、あれッ……!? さ、『さっき』と、同じ……!?」

「『さっき』って……お前もやっぱあの記憶あんのかッ?!」

「あ、あたしもっ! あの子さっきも爆発してたッ!」

「な、なん、なんじゃこりゃァッ?!」

 

その地獄絵図にロケット団の人間全員が反応して狼狽し

 

地獄絵図が目の前で繰り広げられたドレディアは

 

「……ァ、ディ、……ァ?」

 

やはり、現状を理解するのに数瞬かかっているようだ。

さっきの悪夢から開放され、主にその手が届いたのに……また、守れなかった。

 

再度、ドレディアを除くタツヤの手持ちが大暴れを始める中で

『先程』よりほんのちょっとだけ速く事実を受け入れたドレディアは

 

 

再び、全ての命の鼓動を止めんが為に。

赤い姿に染まったその体で───死の舞を、踊る。

 

 

「ディィィィィ…………ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァーーーーッッ!!」

「な、ぐっ……ここまで『さっき』と同じかよッ!

 おめぇら早く逃げ、ガボァッ?!」

 

ポケモン達のすぐ後ろにいたために、ドレディアに全力で顔を撃ち抜かれる団員。

錐揉みしながら凄い速度で吹っ飛び、樹にぶち当たり気絶する。

 

そしてそれより少し後ろに、逃げようとしている別の団員がドレディアの眼に映る。

 

 

逃がさない。絶対に。

 

 

持ち前の超越したすばやさで、素早く次の団員に近づき

手近にあった棒を拾って団員の足へと投擲した。

 

「おっぐぉぁっ!?」

 

上手い事脚の動きを阻害され、もんどりうって倒れるロケット団員。

こうなっては、尋常ではない動きをするドレディアから逃げる術も無い。

 

「た、たす、助けッ……!」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーッッ!!」

 

そしてドレディアは、倒れた団員の息の根を止めるべく

倒れて動けない団員の心臓目掛けて己の鉄拳を全力で振り抜く。

 

 

 

 

時が戻った。

 

 

 

 

「狙いはあのガキ───って、おいまたかッッ!?」

「ギシャァーーーーー───ア~~~?」

 

時が『戻った』。

全員のその意識が、タツヤが殺されて怒り狂っていた『その状態』ニ度目のまま。

 

そしてまた時が『戻った』ので当然───

 

「……? あれ? ……って! ぉぉぉぉぉぉーーー!!」

 

タツヤは再度、平然と復活していた。

全員、もはや何が起こっているのかわからない。

先程と同じようにストライクの射程から大急ぎで逃げ出すタツヤだったが

 

その様子は、もうシュールにしか映らない。

 

「……はぁ、なんだかよくわかんねーけど助かったな。

 ってか、なんだどうした。なんで全員そんな呆けた顔してんだ。

 ロケット団にまでそんな顔されると地味に傷付くんだが」

「……ディァ? ……ディーァー?」

「あん……? 本当にお前か、ってか?

 何がどう本当なのか良くわからんけど……まぁ、俺は俺だね」

 

タツヤは唯一、先程二回の記憶が全く無い。

この状況で記憶が抜け落ちているただ一人は、もう頭の可哀想な子である。

 

「……ッチ! 全員合流しちまったし、こっちも切り札使い切っちまってる……

 おめぇら、全員引くぞ……この図じゃ草のヤツが瀕死でも結果がわからん」

「くそ……覚えてやがれ、このクソガキが……!」

 

捨て台詞を吐いて、ゾロゾロとロケット団は引き上げていく。

潔いといえば潔いが、殆どの各関係者が彼らと決別された面子であったために

これ以上の戦場滞在に関して、明るい未来が見えなかったのだろう。

 

そして森に静けさが戻った時───

 

「───……っはぁー……なんとかなったぁー……」

 

タツヤは、樹に寄り掛かりながら体をずり下ろして行き

長く、ひたすら長く溜息を付くのだった。

 

「ァー……、ディ~ァ~……♪」

 

その様子を見て、ドレディア自身もその体がボロボロだった事に気付き

『こんな状態でよく乗り切ったものだ』と二人で顔を見せ合って笑う。

 

一息付いた後、タツヤはドレディアのところまで近寄り

疲れきった体に鞭を打ち、右手を軽く上げる。

 

それが一体なんなのか気付いたドレディアも、素直に右手を上げた。

 

「とりあえずは……やったな、『相棒』ッ!」

「ディアッ!」

 

二人は右手の掌同士を擦れ違いざまに叩き、ハイタッチを

 

~推奨BGM 『I WANNA BE THE GUY 死亡時の無駄にカッコイイBGM』~

 

 

 

グシャァァァーーーン

 

ー♪    ー♪    ー♪    ー♪    ー♪

 

G  A  M  E     O  V  E  R

------------------

     PRESS 'R' TO TRY AGAIN

 

ー♪    ー♪    ー♪    ー♪    ー♪

 

 

「ディァーッ!?」

『───ッ!?!?』

「△▲☆★ーーー!??!」

「ホァァァァぁーーーーッ!??!」

 

ハイタッチをしあった瞬間、タツヤの体はまた爆散した。

 

 

その後、今までの関連性から

風景になんか表示されてる'R'が、ロケット団の服のマークと気付き

逃げ出したロケット団達を、全員大慌てで探すのだった。

 

 

 

 [(SAVE)]

 





うまく表現出来てればいいんだが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF③ せかいの ほうそくが みだれる


時系列としては、襲われる前になります。



 

「ふぅ、まぁ……午前中の捺印はこんなもので良いか」

「お疲れ様です、ボス」

 

タツヤ君が、我等のロケット団を改革し始めてから幾分経った。

彼は我等の組織に属した所で、以前と変わらず彼らしくこの施設の中を歩き回っている。

 

たまに施設の一部が破壊される事もご愛嬌と言ったところだ。

修繕費がバカにならないので、未来投資も含めて節約の為に既に建設関連の会社も立ち上げた。

 

ポケモンがそこらに溢れ返っている関係上、頑丈といえども破損は目立つ。

私達の出費も減るし、仕事も舞い込む。一石二鳥とはこの事なのだろうか。

 

「ボス、急ぎの案件は今日はまだ無い様です。

 最近この社長室に篭りっきりですし、簡単に気分転換をなされてはいかがですか?」

「気分転換、か」

「秘書として手伝ってくれているミュウも、色々と気分転換を図っているみたいですし

 案外仕事の能率が良くなったりするかもしれませんよ」

「まぁ、そうだな……私も、あくまで人でしかないからな」

 

ミュウの代わりに秘書として動いている弾頭社員の提案を前向きに受け止め

余裕があるうちに休むだけ休み、いざという時にガス欠を起こさぬために

午後からは、一応の自由行動の時間とさせてもらった。

 

 

 

 

社長室から出て、廊下を歩く事しばらく。

適当に社内の施設や社員の様子を伺いながらうろついていると

廊下の向こうから、訳のわからない図が差し迫ってきた。

何故かリュックが、床をスィーッと動いているのだ。

一体何事かと思い、そのリュックに近づいてみると正体が判明する。

 

「おや、サカキさんですか」

「あぁ、そうだ……というか、見えているのかね」

「いやーまぁねぇ、私って高性能ですからー?」

 

そんな風に軽口を叩くのは、タツヤ君のポケモン図鑑である。

彼のポケモン図鑑は、何故か自立行動をすることが出来るのだ。

そのような機能聴いた事も無いのだが現実でこうなっているので、どうしようもない。

 

「っと、そうだ、マスターを見ませんでしたか?」

「ん、タツヤ君か。今日は確か研究室で会議をしているといってたが」

「はーい、ありがとうですー んじゃちょっとひとっ走りしてきます」

「あぁ、前方に気をつけてな」

 

私からタツヤ君の居場所を聞き、そそくさーっとリュックは消えていった。

何か持ってきてくれと言われていたのだろうか?

 

「……む?」

 

ポケモン図鑑が走り去った後を見てみると、ディスク状の何かが落ちていた。

わざマシンか……? 袋の口でも開いていたのだろうか……仕方ない、渡しに行こうか。

 

 

研究室に辿り付く前に、地下施設全体に物凄い揺れが発生した。

地震……などではなく、いつも通りにタツヤ君とミュウツー辺りが暴れているのだろう。

やれやれ、若いものだ。

 

多分、どちらが意識の無いレベルであってもいつも通りの事だろうし

とりあえず拾ったディスクを届けに行こう。

 

 

 

やはりというかなんというか、研究室周辺にはコンクリートの塊が散らばっている。

研究員も適当な位置に死屍累々と積みあがっていた。3名しかいないが。

 

惨状を確認した後に携帯電話で我等の建設子会社に連絡をして、後程修理に来るように伝える。

さて、タツヤ君はどこ……

 

「……ぬ」

 

元・研究室の残骸を見てみると、部屋の中央にどでかい穴が開いていた。

下層にまで行って暴れているのだろうか。

 

ふと、横を見てみるとミュウツーが瓦礫の上でノックアウトしていた。

……となると、今論議しているのは最近彼が連れてきたゲーム関連の外会社の社員か。

 

穴を覗き込んでみると、ちょっとした高さはありそうだ。

フィールドワーク派でも無い私が、スーツでここから飛び降りるのは少し難しそうだ。

 

「ふーむ……明日にでも届け───む?」

 

穴から顔を下げ、一度出直しておこうと思い体を振り向かせた時に

四角い箱が残骸から顔を出しているのが見えた。

 

どうやら金庫らしく、部屋の崩壊の衝撃は耐え切ったようだが

鍵が壊れてしまったらしく、扉は開いてしまってる様だ。

 

「……なんだ、これは。透明な靴下……? にしては、なにやら感触が……」

 

触り心地としては、なにやらグニグニしているといった感じだ。

ふむ、靴下なら……履いてみようか。

 

私は革靴を一度脱ぎ、瓦礫に腰を掛けてその靴下を履いてみる事にした。

 

 

 

 

ピピ・・・ピピピ・・・

 

「───む? なんの反応でしょう?」

 

崩壊した研究室の穴に飛び込み、マスターを探している私になにやら反応がありました。

これは……わざマシンを使った時の反応でしょうか?

 

「んー、おかしいですねぇ? マスターがこんな状況でわざマシンなんて使うでしょうか……?」

 

そうこう考えているうちに、私のデータに使用完了メッセージが届いてしまいました。

 

 

 

 

 

 

サカキは

 そらをとぶ を おぼえた!

 

 

この日から、たまにタマムシシティで空を飛躍する人間が目撃されるようになったそうである。

 




真タイトル サカキ、空を飛ぶ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

にじファン編
◇▲◎λΦωξ∬‰∵〒


69話 

 

side サンドパン

 

 

こんにちわ。ぼくサンドパンです。はじめまして。

なんかよくわかんないんだけど、ご主人様とそのお友達がわたわたしてる。

 

「その情報確かなんやろなッ?! 既にタツヤんは警察んとこにはおらんねんなッ?!」

「ま、間違いないですっ!!」

「んで、ポケモンセンターにも彼の手持ちの子達がおらん……

 まさかまたうちらに何も言わないで旅に出たんか!?」

「た、多分そうね、これは……

 私達もまだまだ、彼の中じゃ優先順位低いんでしょうねぇ……」

「落ち着いてる場合やないやろっ!! あのうンまい飯、食えなくなってまうやんか!!」

「多分何も伝えられないでまた旅に出て行かれたのって、そこら辺もあるんじゃないかなぁ……?」

「う……確かに食費ぐらいはたまに払っておくべきやったんやろうか……」

「はぁ、なんにしてもこれでまた探さなきゃならないわけか……」

 

はなしのないようから考えると、またぼくの親友のたつやさんが旅にでたんだって。

それで、その旅にでた原因をみんなではなしてるけど

たぶんたつやさんの事だし……たんに忘れてたんじゃないかなぁ?

 

「キュー、キュー」

「ギャゴーンッ」

 

さいきんいっしょに仲間になったゲンガーちゃんとも話してみたけど

ぜんぜんつきあいがないゲンガーちゃんですら、わすれてったんじゃない? といってた。

にんげんかんけいって、複雑だよね。

 

でも、あのごはんがたべられなくなるのはざんねんだなー。

また、あいたいな!

 

あ、でもごはんだけが目的じゃないからね?

ぼく、たつやさんはかわいがってくれるからだいすきなんだ!

またなでてもらいたい!

 

「よっしゃ、とりあえず旅荷物はすぐにまとめられるな?

 準備出来たらとっとと追いかけんでッ!!」

「で、でもどこに行くのかな?」

「んー私も今回はわからないわねー……」

「そんなん決まってるやん……セキチクシティや!!」

 

 

アレ? なんかいま、『しばらく』あえなくなっちゃう事が決定しちゃったような気がしてきちゃった。

でも、またきっとあえるよね。いつになるかわからないけど、きっとあえるよね。

 

 

 

83話 運命は動く

 

 

「健康診断、ですか」

「あぁ、こちらでも管理している者達が大部分働ける雇用は獲得出来たからね。

 ここら辺で、前回の状態では出来なかったモノを入れて

 自分達も相手方も一安心させて上げたいなといったところだよ」

「良い案ではありますね……そういう細かい配慮は大切だと思います」

 

これに関しては結構同意しておく。

人間の体の構造とは良くわからないもので、死に至るような病でもしばらく体内に潜伏するのだ。

そういうのが『もしものもしも』であった時に、事前に気付く事が出来るこの福利厚生の価値は

俺が前世で面倒くさげに受けていたのと全く印象が異なり、潜在的な得は計り知れない。

 

 でもまぁ、俺は必要ないか。

 僅かでしかないけど、いらない金なら金削りたいところだし。

 

「それでは、タツヤ君もコレに登録しておくから受けておいてくれ」

「あ、いやいいっすよ、どうせ頑健に決まってますし……。

 子供のこの体で生活習慣病やら肝臓やらから始まる潜伏的な病気があるとも思えませんし

 そんな事やってる暇があるならミュウツーと萌え絵でも作りますよ」

「……遠慮してもらっているのはわかるんだが……まぁ、たまには元ロケット団の威厳を使おうか。

 弾道社員タツヤよ、健康診断を受ける事を『命令』する。繰り返す、これは『命令』である」

「え、いやちょ何無駄なところでカリスマ出してんのオジサマ」

「そこの君、確かに私の言葉を聴いたな?」

「あ、はい。タツヤさんが健康診断受ける事ですよ……ね?」

 

サカキは俺の拒絶もなんのそので、社長室の入り口に居る社長室長に確認を取る。

やめてーちょっとやめてー、なんか一瞬で外堀を埋め固められたんですけどー。

 

「そういうことだ。たまにはまともな大人として、子供の心配ぐらいさせてもらうよ?」

「……めんどくせぇー」

「ちなみに当日居なかったら君のドレディアやダグトリオに頼んで

 街中、郊外問わず全部探させてもらうから覚えておいてくれたまえ」

「人のポケモン使ってまで強制する気満々!?」

 

そんなわけで俺も健康診断を受ける事になってしまった。

……今のうちにドレディアさんを飯で買収しておこうか?

 

 

 

 

 

 

───物語の内容が改変されました───

 

・タツヤ 死亡フラグ 消滅

・サカキ 僅かばかりにカリスマ度UP

・サンドパンの可愛さは据え置き

・最近の作者のお気に入り楽曲は『とんぼ/骨川スネ夫』

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

87話 ロケット団繁盛記 *************

 

───ダグONEは疾走する。力の限り疾走する。

 

ダグONEが主として忠誠を誓う少年は、どう見ても既に手遅れである。

素人が見る限りでは、全員が異常に気付いたシーンで

既に彼が事切れていたと判断してもおかしくない位だったのだから。

 

しかし『ヒト』ではなく『ポケモン』という生物だった彼にそのような概念など欠片も無く

主の生存を信じ────ただひたすらに走る。

 

その疾走速度は世間一般のポケモンの最速すら凌駕していた。

そして……その速度を維持する分ダグONEも、手に抱えられている少年にも

ドップラー的にかなりの負担が掛かっているが、走るダグONEはそんな事など考えられない。

 

 

考える暇すらない。

 

 

───生物として、明らかに一分一秒を争う事態と察しているのだから。

 

 

そして普通に歩けば30分は掛かる戦闘場所から僅か10分足らずで街中に到達し

周囲の驚く声を一切無視し、彼の認識である人間用のポ(タマムシ市立)ケモンセンター(タマムシ病院)へ直行する。

全ての障害物を脚力とバネで走り、跳び越え。

 

'幸いにも彼らのパーティーは、有限会社弾頭がスタートした1ヵ月後に

'全社員が受けた健康診断の際、自分達の主もそれに巻き込まれていたため

'病院の位置は、しっかりと把握出来ていた。

 

そして病院前に到着、ノンストップで玄関を駆け抜けようとすると

神懸りなタイミングで、丁度院内へ入ろうと入り口の扉を開けていた者がおり

絶技と言って問題無さそうな擦れ違い技術を持って、院内へ突撃する。

 

 

「ッーーーーーーーーー!!!

 ッッーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

こういうシーンでよくある、扉を強引に開けつつの登場なども無く

比較的静かに病院の受付前へ現れたダグONE。尚且(なおか)つ、いつも通りに声が無音に近い。

 

一瞬凄まじい風が通ったような錯覚を受付付近に居た職員、患者に与えた程度で

彼が現れた事に関しては、そこまで大きい騒ぎにもなっていない。

しかし今回に限ってはその物静かさが、逆に気付いてもらえない原因に───

 

 

「あ、あなた……一体────って、ちょ、その抱えてる子ッ!!」

 

 

───原因にはならず、突然現れた茶色の長身を不気味に思った職員がおり

その長身が抱える少年の状態が、一刻を争う事態なのをすぐさま察知してくれた。

 

 

「ッーーーーーーー!!

 ッーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

ダグONEはその職員に、半狂乱気味に差し出す。

最早自分の主の危機を何とかしてくれるのはこの人しか居ない。

自分達の異変に一刻も早く気付いてくれる人間こそが、このシーンで一番重要なのだ。

偶然に偶然が重なり、一歩間違えば不幸のタイミングになりかねなかった状況で

居るかどうかも分からない天の神は、【1】彼ら一行に味方したらしい。

 

 

「受け付けさんッッ!! 応急処置道具と救急箱をッ!!」

「え!? は、はいッ!? えっと、こっ、これとこれっ!!」

「すぐに外科の先生を手術室で待機させてッッ!!

 非常に状態が悪い急患が来たと伝えてッッ!! すぐによッ!!」

「急患ッ!? わ、わかりました!!」

 

 

受付を担当していた職員からは、ダグONE達の死角になっていた様で

その座っていた位置からも、すぐにダグONE達に気付く事は出来なかったらしい。

 

受付職員はすぐさま内線の受話器を取り、病院にその報せが駆け巡る。

受付の死角というのも兼ね、偶然フロアに居たその職員の存在はまさに僥倖だった。

 

 

「……出血量が多すぎるッ……!!

 これを使っても場繋ぎすら無理かしら……──でも、やらないよりはマシッ!!」

 

素早く服を脱がせ、あまりの負い傷にドン引きするが

胸元を切り裂かれた服を1回だけ切れていない肌に巡らせ、大部分の血を(ぬぐ)い取り

救急箱に入っていた消毒液の蓋を外し、中身を傷口にぶちまける。

 

その際、少年の体がビクンッと動いた。

意識は無いものの痛覚は若干残っているらしく、傷が巨大な事もあり

アルコールに対する薬物反応が出たのだろうか。

 

傷口にそのまま清潔なガーゼを置き、とても大雑把にではあるが

胸のガーゼが落ちないよう包帯で即座にぐるぐる巻きにする。

そしてそれらの処置が丁度終わったところで

 

「───話にあったのはその子かッッ!?」

「あ、内科の先生ッッ!!」

「担架で運んでいる暇もなさそうだ、俺が連れて行くッ!」

「お願いしますッッ!!」

 

まるでバトンパスのような素早い連携で、少年の体が手渡され

内科の先生に彼の体が渡った瞬間、凄い勢いで廊下を駆け抜けて行った。

 

「ッ! そうだ、まだ─────」

 

何かに気付いたのか、対応してくれた職員さんはすぐさま受付へ駆け込み

内線を手に取り、電話の向こうの相手に何かを伝えている。

 

「──はい、そうです。明らかに失血症状─── なので、全血液の輸血準備───」

 

'その会話がダグONEの耳に届き、パニックでありながら彼は素早く行動を起こす。

'受付にあった何かに使われた紙を取り、ひっくり返した後

'受付に居た一般人が呆然と一連の出来事を見ていたので

'その一般人が持っていたサインペンをふんだくって、鬼気迫る勢いで紙に字を書き始める。

 

'ガガガガガガガガガガッッ!!

 

'そして書き上がる頃に受付から先程の職員が出てきてダグONEに慌てて訪ねる。

 

'「貴方ッ!あの子の血液型を────って、え……」

 

'その職員にダグONEは鬼気迫る顔で、今しがた書き上げた紙を突き付けた。

 

 

 

'{我が主は先月に、この病院で何かしらの身体検査を受けている。

' 項目はダントウという一団の中で、主の名前はタツヤと言う。

' その中に、貴方達が必要とする血の情報は混ざっていないだろうか}

 

'「ッ!!」

 

 

'字を確認した職員の反応は素早かった。

'ポケモンである彼らの認識を病院の用語に当て嵌め、何を伝えたいのか当たりをつける。

'すぐに担当者に先月の健康診断を受けた会社のカルテ一覧を引っ張り出してもらい

'ダントウ=弾頭と該当するカルテ束を発掘、名前欄を素早く捲(めく)って見て行き

'ダグONEが伝える該当少年のカルテを発見。手術室へ駆け込んで行く。

 

 

「─────…………。」

 

 

親身に対応してくれた職員が、【2】手術室へ行くのを確認した後

ダグONEはへなへなと壁に寄りかかり、そのまま腰を落として立ち上がれなくなり

顔を下に向けて俯いてしまった。

 

見る限り、彼も【運んだ際に付着してしまったタツヤの】血だらけであり

受付フロアに居た一般人は今の出来事を目の当たりにし

そして残ったダグONEの有様を見て、とてもザワついている。

 

 

───が、彼は……自分自身の体が起こした脱力すら押しのけ

ゆらゆらと全身に力を入れて、壁を背もたれにしてゆっくりと立ち上がる。

しかし、何とかそこまでは頑張れたものの……そこから先、歩き出す事が出来ない。

 

それはそうであろう。

戦闘場所があったあそこからここまでの距離はかなり長い方だ。

それを一切の休憩すらなく、さらには異物を抱え込んで走り続けたのだから。

精神的な要因まで重なった上で、何処の体の部分が言う事を聞くのか。

 

 

それでも彼は、行かなければならない。

自分はここまでの経緯を知るが、ここに辿り付いた後の経緯を知らない仲間が

まだ、森の方面にいるのだから……

 

 

そしてある意味良いタイミングで、対応してくれた職員が手術室から出てきた。

大きな溜息をついているが、その溜息にはどんな意味が含まれているのか───。

 

 

職員はダグONEのいる所へ歩いて行き、彼の前へと辿り付く。

そして彼の風体を見て、話しかけてきたためダグONEも顔をそちらに向ける。

 

「──えーと……貴方、ディグダで良いのかしら?

 色々と話を聞きたいけど……まずは貴方も傷の手当てから始めましょう?」

「────。(フルフル)」

 

必要は無い、という意思を示すためにダグONEは首を振り

血がべっとりと付いている腕と胸元を自分の手で拭う。

血の下にあるのが自分の傷ではないという証明をするために。

 

「ん、わかったわ。それじゃその血を拭き取っておきましょう」

「───。」

 

【すまぬ……職員殿、迷惑を掛ける】と感謝の意を込め目を瞑るが

やはりダグONEの主とは違い、それだけでは意思は伝わらないようだ。

あの少年の存在がどれだけ稀有なものなのかを、ダグONEは今更ながらに思い知る。

 

その意を汲み込めこそしないが、動かないダグトリオに

拭き取る事への同意と取り、職員は白いタオルで血を拭っていく。

 

「床に落ちている血とかは、私達が後で掃除しておくから気にしないで。

 ……それで、なんだけど。あの子は一体どうしてあんな目に……?」

「ッ!」

 

そう問われて、ダグONEは改めて思い出す。一旦迎えに行かなければいけない仲間が居る事に。

そして彼の言葉は一般人に伝わる事は無いため職員から書くものを借り、カリカリと8文字を書き上げる。

 

{仲間に知らせたい}

 

「そう、まだ仲間が居るのね……わかったわ、ここへ連れて来てくれるかしら?

 あの子があんな怪我を負うような事態はもう終わっているのよね?」

「(コクコク)」

「なら大丈夫ね、迎えに行ってらっしゃいな。

 あとはもう、結果が全てでしかないからね……いってらっしゃい」

「───。」

 

職員はまだやる事が残っているのか、また受付へと入り電話をかける。

【何から何まで感謝する、職員殿よ】と、その後姿を見つめて、一度頭を下げる。

ダグONEは来た道を───。

 

 

 

 

やや同時刻……

一本の電話連絡をキッカケに、とある会社も騒がしくなる事となる。

 

 

もちろんの事、現在タツヤが深く関わっている『有限会社弾頭』が、だ。

 

 

 

 

δ<ピョー ピョー ピョー

 

 

 

「ん……」

 

カチャ

 

「はいもしもし、お電話ありがとうございます。

 有限会社弾頭電話受付担当の~~~でございます」

 

『─────。』

 

「え、はい、タマムシ病院で御座いますか……?」

 

『─────、─────。』

 

「はい、ええ、え……な……!?

 は、はいっ!! 少々お待ちくださいッ!!」

 

突然の凶報に、受付担当の社員は慌てたものの

なんとか保留ボタンを押すまでの思考に至り、体裁を整え終えた。

 

「んだぁ? どうしたんよ。

 シルフカンパニーがうちの会社でも買い取りたいって来たのか~?」

「ち、ちがっ、それどころじゃ……! ボス、ボスは居る!? 今日居たっけ!?」

「……なんだ、どうした本当に? リーグがこっちの裏でも取りに───」

「違う! そっち方面じゃないわッ!! な、内線ッ、内線ッ!!」

「───?」

 

受付担当の慌て具合は尋常ではない。おぼつかない手付きで電話機をいじる。

 

つまり今の電話は、受付担当の価値観でしかないが

こんな状態になるほど、自分では対処しきれない何かが起こったと言う事だろう。

 

さっき呟きのように電話が来た場所の名前を喋っていたと思ったが

一体どこから電話連絡が来たのか───

 

 

「も、もしもしっ! ボス、ボスですかッ!?」

 

『ミュー?』

 

「あ、その声はミュウちゃんねっ!?

 ボスはっ、ボスは居るわね!? お願い、ボスをすぐに出してッ!!」

 

『ミューィ』

 

 

受話器越しから不思議系の音(ミュウの飛行音)が聞こえ

少しした後、たまたま外回りが午前の間で終わる日だったために

受付の希望通り、サカキが内線に応答する。

 

 

『電話、代わった。どうかしたのか』

 

「あ、ボ、ボスッ!! たいっ大変、ですっ!!

 タ、タツヤ君、タツヤ君がッ!! 今病院から連絡がッ!!」

 

『ッ!? ……大変で、タツヤ君が病院───!?』

 

「な、おまっ、タツヤさんがどうした!?」

「ちょっとあんた黙っててッ!! い、今タマムシ病院から連絡がありまして!」

「ッ……」

 

 

比較的会社規則が緩いとはいえ

ボスとの会話の最中に、横に居た同じ受付担当に怒鳴り散らす失態を犯してしまう。

しかし今回ばかりは本当にそんな些細な事を気にしていられない。

 

 

『どう言う事だ!? 彼が病院だとッ!?』

 

「は、ハイッ!! 今来た連絡だと……───生存が、絶望、的な状況だと……」

 

『ッ!?!?』

 

「び、病院の返答を保留してますが……、6番、です……!」

 

『わかった、すまない。あとはこちらで話をつける!』

 

ピッ。

 

小さい電子音がした後、サカキと受付の会話はそこで切れる。

 

「な、ど……どういう事だッ!? なんでタツヤさんが……あの子が病院で死に掛けてンだっ!?」

「わ、私も今の電話で詳しく聞いたわけじゃないけど……。

 今、緊急手術の真っ最中って言ってた……正直助かる見込みが薄い、って……」

「───。」

 

開いた口が塞がらない。

すぐにボスに内線を繋げてしまったため、情報が薄すぎる。

 

「一体……何が……?」

 

 

「はい、お電話代わりました……有限会社弾頭取締役、サカキと申します」

 

『お忙しい中申し訳御座いません。

 私はタマムシ私立タマムシ病院の者で、病院の受付からご連絡させて頂いております』

 

「ええ、……その、タツヤ君が死に掛けていると聞き入れたのですが?」

 

'『はい……緊急の事態とこちらで判断し

' 彼のカルテがこちらにありまして、健康診断の企業名がありましたので

' お電話させて頂く事に相成りました』

 

「一体……何があったのですか!?」

 

『申し訳ありません、現時点では証言者もおらず情報が足りていません。

 ただ、最近よく聞く【しなやかな体】を持ったディグダが彼をこちらに連れて来まして……。

 外傷は皮膚一部に軽い火傷、腕や膝、背中に打撲痕有り。

 そして───胸部にとても大きい裂傷が走っていまして……

 その傷が原因と思われますが、著しい出血が確認されています。

 一時、心臓も停止してしまったのですが、何とかこちらの処置が間に合い

 変わらず絶望的ではありますが、まだ亡くなってはおりません』

 

「なっ…………」

 

生存が絶望的な状況とは受付嬢から聞いた。しかし……まさかそこまで酷い状態だとは。

 

「わかりました、今すぐそちらに向かいます。血液の方は足りているのでしょうか?

 こちらから同型の会社員を複数名連れて行きますので、彼の血液型を教えて頂きたいのですが」

 

『はい。【3】B型の方々をお願い致します。

 正直、事は一刻を争います。彼の親族が近くにいるなら───

 よろしければ、こちらの病院までご案内頂きたいのですが』

 

「……わかりました。では、連絡した後すぐにそちらに向かいます」

 

『お願い致します』

 

───ガチャ。

 

「……!? ……ミュッ!?」

「あぁ……君は人の考えが有る程度読めるのだったな───非常に、不味い事になった」

 

ミュウは頭の中を読み終えたのか、軽く二回転ほどすると共に消え去る。

おそらくは、病院へテレポートで向かったのだろう。

 

「…………監督責任者不行き届け的な感じで、師匠に殺されるだろうな」

 

しかし状況を聞いた限り嘆いている暇すら無いと判断。

これ以上の我が身の保全を考えるのを捨て置き

内線放送で直ちに施設内待機をしている全員へ通達するべくサカキは動く。

 

 

 

● オィーッス!!オィーッス!!

 

 

 

「取締役、サカキより連絡。取締役、サカキより連絡。

 血液型がBの者は直ちに施設入り口へ集まれ。

 繰り返す。血液型がBの者は直ちに施設入り口へ集まれ。

 緊急事態が発生した。明確にB型と判明している者は直ちに入り口に集まれッッ!!」

 

そして彼はさらに受話器を取り、尊敬と畏怖の象徴でもある『彼女』へ連絡を試みる。

 

が、しかし───いくらコールをしても、電話の聞き取り口は一切反応が無い。

出来る事なら、出るまでコールを続けていたいが……

 

「───後にするしか、無いな」

 

そこで時間を無駄にするわけに行かないと判断。

素早く思考を切り替え、外行きの上着を羽織りエレベーターへ向かう。

 

「ボ、ボス……今の放送は一体?」

「今、病院から連絡があった───タツヤ君が、今にも死にそうな瀕死の状態で運び込まれたそうだ」

「ッ、な……!?」

「……B1Fまで、頼む」

「は、はいッ!!」

 

 

~B1F~

 

 

先程のサカキが発した施設内全放送を聴き、10人ほどが入り口前へ集合している。

そしてその中に最近施設内を自由に動き回っているポケモンがいた。

 

「ミュウツー……」

【私も先程の放送を聞いたのだ。一体何が起こっ……ッ!? なんだとッ?! どう言う事だ?!】

 

サカキの頭の中のイメージがそのまま流れ込んだため

言葉にせずとも何が起きているかを即座に理解するミュウツー。

しかし彼も何が起こっているのかこそわかっても『どうしてそうなったか』まではわからない。

 

「君が私の頭の中を読んだ通りだ……今は私にも何故そうなったのか分からない」

【……あいつの手持ちは、病院に居るんだな?】

「そのはずだ。連絡では『しなやかな体を持ったディグダ』と言っていた」

【あの三つ子の片割れか。わかった……私も行ってやろう】

 

意外な事に同行を申し出るミュウツー。

サカキが思うにいつも浮かぶ彼らの姿はひたすら犬猿の仲であった。

 

「……? 私が見る限り君とタツヤ君にはそのような義理は無かったと思うが……。

 晩に馳走になっている食事は、ここで働いている事とで相殺なのだろう?」

【傍から見ればそうかもしれん。だが私はアイツの事を確かに認めている。

 主張こそ真っ向から反発していて違うモノの……

 アイツは多視覚を持ってしてこちらの意見にも納得している】

「……そう、だったのか」

 

完全に互いに同意した上での論争であったようである。

 

【それに私が居ればこのテレパスを用いて、その片割れの翻訳も出来るだろう。

 何があったのかはあいつらに聞けばすぐにわかる】

「わかった、事は一刻を争うようだ。

 すぐに病院へ出向くぞ。君は病院の位置はわかるか?」

【私にはその施設の場所はわからん、私も貴様達に同行させてもらう】

「よし。全員素早くて乗れるポケモンを出すんだ!!

 これよりタマムシ病院へ向かう! タツヤ君が瀕死の重傷で運び込まれたらしい!」

 

 

ザワッ……!

一瞬で喧騒が起きる入り口前。しかし───

 

 

「もう一度言おうッ!! 事は一刻を争うのだッ!!

 全 員 さ っ さ と 外 に 出 ろ ッ ッ !!」

『あ、アイ・サー!!』

 

 

サカキが怒鳴りつける事により、全員一斉に掛け声を上げて整列して入り口を上がっていった。

そしてサカキとミュウツーもその後を追い、外で出されたポケモンに乗り

タマムシ病院へ直行したのだった。

 

 

 

代わってこちら、タマムシ郊外に繋がるタマムシシティの入り口。

ダグONEが病院へ駆け込み、タツヤの緊急手術が開始された頃に三つの影が現れる。

ドレディア、ダグⅢ、ミロカロスである。

 

 

ステータス的に素早さが厳しいため、ミロカロスはダグⅢの上に乗っている。

そして素早いドレディアと、ミロカロスを乗せても素早く動けるダグⅢが

次鋒として郊外より街へと帰還し、さらに街に足を進め走っている。

 

現場に残ったダグTWOとムウマージは、地面に倒れ伏すポケモンと団員をかき集め

団員の服を引き裂いた後にそれを縄代わりとして、全員を捕縛する役目とされた。

 

 

【…………。】

【…………。】

【気持ちはわかるが……そう気負うな、姐御、大女将。

 我等の主なのだ、きっと無事にヒト用のポケモンセンターに運び込まれている】

【でも……でも……!】

 

 

あの傷では、どうしようも……。

 

【4】

 

「───んッ!? 君らはタツヤ君のポケモン達かッ!?」

 

 

主人の名を呼ばれ振り返ってみれば、

ここに来てからずっと付き合いがある色々なポケモンに乗ったサカキ以下弾頭の社員達と

その後ろを浮きながら追いかけるミュウツーが丁度メインストリートへ出ようとしているところだった。

 

「ディッ……ディァッ!」

【間違いないだろう、アイツの手持ちだ】

「そうか、話はすまんが走りながらで良いなっ!?」

「ホァーーー!」

 

素早く互いの認識を終え、彼らは再び走り出す。

この際、ドレディアは彼らに殴りかかりそうになったのだが

幸いながら、それが発生する前にダグⅢが力ずくで止めている。

 

その事にまだサカキは気付かない。だが───

 

【……なるほど、そう言う事か……!!】

 

この場には、人の、ポケモンの、頭の中を覗けるミュウツーが居た。

 

「何か分かったのかッ?!」

【アイツが瀕死の重傷で人用のポケモンセンターに運び込まれたのは……

 お前達が原因だ、サカキに『ロケット団』よ】

『なっ……!?』

 

弾頭メンバーとサカキは、ミュウツーのその言葉に一様にして驚きつつも走り続け

タツヤの手持ち達は、全てをぐっと押さえた上で彼らの横を疾走している。

 

「───聞かせてくれ!」

【───わかった。アイツが襲われた原因の根本は逆恨みだ。

 今貴様達がやっている……会社経営、でいいのか? 

 それを始める前に追放を言い渡された団員が居ただろう。

 その者達が徒党を組み、隙を付いて襲い掛かったようだ】

「……あいつらかッ……!」

 

確かに言われてみれば、いかにもやりそうな面子だ。

なんせ彼らはサカキに拾われた事を恩と感じず、後ろ盾と判断し

ロケット団の名を威光として、悪事を繰り返していたのだから。

 

その威光が使えなくなったとして恨みが噴き出し

小さいタツヤを恨んで狙うのはある意味道理に適っていた。

 

【相当甘やかしていたようだな。

『自分達は何をやっても許される』

『ボスが俺等のやる事に反対するわけが無い』───まさに屑だな。

 ……貴様等がそいつらに、今の内容を言われたのは間違っていないな?】

「…………ディァ」

「───ッ」

 

同意の返答があり、ここしばらくはなかった苦虫を噛み潰すかの如く厳しい顔になってしまうサカキ。

 

つまるところ要約してしまえば……組織改革のしわ寄せは、自分に来ないで

……元々が関係者ですらないタツヤへ行ってしまったのだ。

 

【───互いに色々言いたい事はあるだろうが、後回しだ。

 貴様等の病院と言うポケモンセンターとは、あれの事だろう?】

「ッッ! 全員入り口でポケモンをしまえよっ!!

 なるべく静かに院内へ入るんだッッ!!」

 

ミュウツーからの指摘で、自分達が病院の近くまで来ていたのに気付き

慌てながらも的確に指示を飛ばし院内へと入って行く。そして彼等の眼に映るのは───

 

「───ディァッ!!」

「ッ!」

「ダグトリオの片割れかっ?!」

 

今まさに院内から出ようとするダグONEだった。

ドレディアはすぐさまダグONEに駆け寄り、腰を掴み体を揺らしながら尋ねる。

 

【ど、どうだったんですか?!

 主様はッ?! 主様はどうなったんですかッ!?】

【グッ、が……あ、姐───……】

「ド、ドレディア!! 一旦止まれ!! その状態では彼も喋るに喋れんぞ!!」

 

慌ててサカキが止めに入るが耳に入らないようだ。

 

【ええい面倒なッ……!! ムンっ……!】

「───ッディァ!?」

 

全方位からよくわからない不可視の力で固められ、ドレディアは無理矢理ダグONEから引き剥がされる。

【す、すまん……ミュウツー殿……世話をかける】

【───構わん、私とてアイツの心配はしていたのだ。

 今、貴様の思考を読ませてもらったが……全員に伝えても良いな?】

【……(かたじけな)い】

 

ポケモン同士のコンタクトが終わり、ミュウツーは代弁者としてサカキ達とタツヤの手持ちへ向き直る。

 

【今、こいつから思考を読ませてもらった。あいつがどうなったのかを伝えよう】

「…………頼む」

「…………ディァ」

「ホ、ホァ…………」

 

 

 

【あいつは……─────】

 

 

 







以下、前回の世界と同じ時間軸での相違点

文章変更、挿入は ' を先頭につけた文です。

下記は単語か、もっちょい上程度の一文なのでスッパ抜いただけの単語です。

【1】ひとまず

【2】情報とも言えない情報を伝えに

【3】先程調べた限りではB型だったようなので、

【4】※何十秒単位ですが、彼等が街に着くのが早い時間軸なのでひとつの会話が削除されてます。
    従って彼らとの遭遇も、僅かながら早まってます。


……結構微妙に変えてたんだなぁ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

『88話』 ロケット団繁盛記 命の結末

何度も行ってますがPC閲覧向けに作られている小説です。
携帯などでの閲覧には対応していません。
それらで見られている方は、この件をご承知の上でご閲覧願います。


 

【─────あいつは……まだ、なんとか息があるようだ。

 ……未だ、予断を許さない状況であるようだがな】

 

 

ミュウツーが発したその言葉を聴き、自分達の主がまだ生きている事を知り

ダグONE以外の面子からは安堵の声が一旦聞こえる。

ドレディアに至ってはへなへなと座り込んでしまった。

 

 

【全員、安心するのはまだ早いぞ。

 どうやら奇跡か何かで、ミュウが何とか「繋いでくれた」ようだが……】

「……ミュウが、か? そういえば先に向かったはずなのに居ないようだが……」

【ミュウはおそらく我等用のポケモンセンターに担ぎこまれているのだろう。

 ……そうだな? そこのダグトリオの片割れよ】

 

ミュウツーが尋ねると、その内容を知っているダグONEは静かにうなずく。

彼はその経緯を全て、この病院で見ていたのだ。

 

【……まぁ、私よりも説明に適した者がこちらに来たようだな。

 私よりちゃんとした説明が出来るアレに聞いてみるが良い】

 

そういってミュウツーが顔を動かした先から、小走りでこちらに来ている人が見えた。

最初にタツヤの惨状を発見し、応急処置をしたあの職員である。

その姿をダグONEが確認し、最上級の敬礼を持って職員を出迎える。

サカキが団体を代表して、職員との対話を開始した。

 

「お騒がせして申し訳ありません。

 先程、こちらから私達の関係者が瀕死で運び込まれたとご連絡を受けまして……」

「あ、やっぱり貴方達があの子の関係者だったんですね。

 一旦こちらへお越し頂けますでしょうか、彼の容態をご説明させて下さい」

「わかりました。今……少しだけ状況を聞いたのですが、血液のほうはもう……?」

「聞いた、とは……誰に……? ええ……そうです、ね。

 念のために1人だけ同じ血液型の人に残って頂いてもよろしいですか?」

「わかりました。では君にお願いしたい。

 他の者は一旦地下施設の方へ戻ってくれ、仔細は帰り次第私から伝える」

『了解しました』

 

 

そして、サカキは会社から連れて来た社員の大部分と別れ

一同は職員に連れられ、とある部屋へと入っていった。

 

 

「えーと、ではまず手術開始からの説明でよろしいでしょうか?」

「わかりました。お願いします」

 

全員が位置に付き、職員の説明に耳を傾ける。

 

「とりあえず手術の結果に関しては、成功で大丈夫だと思います。

 ただ、あくまでも延命が成功したといった形でしかないのですが……」

「……どういう、事でしょうか」

 

一部分を強調する職員に疑問を投げかけるサカキ。

 

「順を追って説明しますね。まず私が弾頭様へ電話連絡を終えた後なんですが……

 突然こちらのディグダの横に、ピンク色のポケモンが現れたんです」

「それは私達と関係のあるミュウという子ですね。それで?」

「はい、その子は現れるなり突然手術室へ飛んでいってしまいまして。

 中に入ってしまったと思ったら、手術室が光り輝きまして……」

「ひ、光り輝く……?」

 

何故、ミュウが突撃して部屋が発光するのか。全員がその理由を予想出来ない。

 

「ここからは私達の予測でしかないのですが……

 その子は、おそらく【いやしのねがい】を発動させたのではないかと思われます」

「……? いや、ちょっと待ってください。確かその技や【ねがいごと】等は

 人間に使っても影響が出る事は無い、とポケモン学士達が既に証明をしていたはずでは?」

「ええ……なので予測なんです。私達もみんなその事は知っているはずですから。

 でも光り輝いた後の状況は、そのピンクの子が気絶していて……

 あの子の傷が全て治癒していたんです……やけども、打撲も、手術跡も……全部」

「……何が、起きたんだろうか……?」

 

証明された事すら覆す出来事。

おそらくは今すぐ死にそうな友のための限界突破とサカキは判断する。

 

【ふむ、まあ納得出来ない事も無いな】

「ッ?! え、貴方……喋っ─────」

【今はそんな事はどうでも良い。しかし妙だな……。

 私が覚えている限り、ミュウは『いやしのねがい』なんぞというのは使えなかったはずだが】

「では、それはいやしのねがいではないと?」

【いや、そこの人間が言う通り……おそらくはそれで間違いあるまい。

 アイツの周りはいつも何かしら不思議な事が付き纏うと聞いているからな】

「む……、それは聞いた事が無いな。どう言う事だ?」

【今回、ミュウがアイツと合流したのはタマムシデパートなのだが……

 一体どういう原理を使ったのかは全く分からないが

 そこのドレディアが言うには、清算レジで釣竿を使ってミュウを釣り上げたらしいぞ】

「すまない、もう一度言ってもらえるか? 意味が全く分からない」

【同じ事は二度も言わん。ともあれアイツの周りは何かしら異常だと言う事だ。

 ミュウもアイツのために、自分の中に眠る可能性からそれを引き当てて

 あの場面で技として使う事が出来た、といったところだろうな】

「ポケモンとはそんな事が可能なのか……!」

【違う、あくまで特例だ。私自身『やれ』と言われてもそんな事は出来んからな】

 

職員が呆然としている中、サカキとミュウツーの対話は進んでいった。

現状納得出来る理屈が存在しないため、何を言っても筋が通っているように聴こえる。

 

 

「え、えーと……それで、なんですが。

 そういう経緯があって、傷の手当てとかは完了しているんです。

 ……しているんですが、それでも────延命でしかないんです」

「…………お願いします」

 

言い淀む職員に、サカキは続きを促す。

此処から先が一番重要な内容なのだろう。

 

 

「まず……あの子が運び込まれた時点で、あの子の体からは大量の血液が失われていました。

 急いで輸血と傷の縫合をしたところまではよかったのですが……

 けど、その間にも心臓が2回ほど停止しています」

「…………。」

「そして体から血液が失われた上で、さらに心臓も一時とはいえ動いていなかった。

 医学的に考える限り、あの子の状況であれば脳に深刻な影響が出ているはずです」

「……確か、血液が酸素を体中に運んでいる、でしたか?」

 

うろ覚えでしかないが、そのような記述をどこかで見たことがあるサカキは

職員にその部分を尋ねてみる。そしてどうやらそれは間違ってはいないらしい。

 

「はい、脳は少しの間でも酸素が行き渡っていないとダメージを負います。

 そしてそのダメージはとても回復しにくいモノなのです」

「具体的には……?」

「おそらく、良くて体全体に障害……ですね。悪くて植物人間、最悪はそこから衰弱死───」

 

 

【─────嘘だッ!!】

 

 

突然ドレディアが腰掛けていた椅子から立ち上がり職員に詰め寄って服を掴みながら、叫ぶ。

 

 

【嘘だとッ……嘘だと言ってくださいッ……!! そんな……そんな事ってッ……!】

「……何を言っているのかはわからないけれど、貴方が伝えたい内容は予想が付くわ。

 ごめんなさい、今言った事は全部事実なのよ……。

 現に今も、あの子は目覚める素振りを一向に見せていないの……」

【そんな……そんな……】

 

受け入れ難いその事実に、ドレディアは職員の服から崩れ落ちて行く。

 

命が助かっただけでも儲けモノという状況だった。

それを頭に入れていても、やはり全員納得出来ない。

 

あまりに重い事実に、普段から冷静であるミュウツーですら顔に影が入り

一同と一緒に、気持ちが沈んでいる様子が伺える。

 

「…………職員さん、必要な手続きを、お願いします」

「───わかりました。」

「君達は、ドレディアを頼む……」

「…………ホァ。」

「…………。(コク」

「…………。(コクリ」

【こちらは任せておけ。お前は手続きとやらに行ってこい】

「あぁ、少し席を外すよ」

 

そうして、部屋からサカキ達が出て行きミュウツーとタツヤのポケモンだけが残される。

 

【……お前等は、これからどうするのだ?】

【どうする、と言われても……どうすれば良いのか……】

【…………。】

 

ミュウツーにこれからの指針を問われ、タツヤの手持ち達は言葉に詰まる。

 

暫く長く続いた沈黙の後、ミュウツーは呟く様に思念を飛ばした。

 

【───世の中、こんなものだ】

【……ッ!! 何もッッ、何もあの人の事を知らない癖にッ!!】

【なら貴様は一体何を知っているッ!! 一体何を知っていたッ!?

 この世の何を知っていたのだッッ!! ───答えろッ、ドレディアッッ!!】

【─────!】

 

ミュウツーに掴みかかり、逆に説教を受けてしまうドレディア。

タツヤに出会うまで、研究所という小さい世界にしか居なかった彼女には

未だ、この世界の理不尽全てを知り尽くすには至らない。

 

【もう一度言う……こんなものなのだ。                         (あの女が良い例だ。)

 良い奴と言われている奴ほど苦渋を飲み、抹殺され消えて行く。

 この世で生き残るのは狡賢(ずるがしこ)い、仲間すら陥れる事が出来る奴だ。

 今回も、その一例にしか過ぎないのだ……生きているだけ、まだマシなのだ。

 それを認めねば、二度と立ち上がれんぞ……】

【…………。】

【ドレディアちゃん……。】

【【姐御……。】】

 

静かな静寂が部屋を支配する。

その静寂は、無残な世の中を表しているようにすら思える。

 

 

 

【どうして……どう、して……こんな事に……

 主様…………、主様ぁぁァァーーーーーーーーーーーーーーーーー!!】

 

 

 

声を張り上げ叫ぶ、主への呼びかけは。

 

 

 

まだ、彼には届かない。

 

 

 





これ以後、前に連載していた時と同じく
にじファン時代に保存しておいたページから文章を引っ張り出していきます。

故に当時存在していたカラカラとガラガラが
どこかしらに混ざったまま掲載されるかもしれませんが
念入りにチェックしながら改稿していきますので
メッセージか何かで、ご一報願います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 15% ポケモン達

 

1日目 晴れ

 

今日から主様が起きるまで、日記というのを付ける事にしました。

さかきさんに、

 

『彼が起きた時、どれだけ心配させたかの見せしめにしてやるといい』

 

と、言われたので、そうしてみる事にします。

 

さかきさんとは、和解しました。

昨日あの後に、私はさかきさんに殴りかかってしまいました。

ダグ1さんや3さんも止めてくれたけど、抑えられなくて

そのまま彼らごと腕を振り抜こうとした時に、見てしまったんです。

 

さかきさんの顔から、覚悟と後悔が滲み出ている事に。

殴られても仕方が無いという覚悟を持って私の拳を待っていて

そして、巻き込んでいると知りながら今まで付き合わせてしまった後悔。

 

私がして欲しかった事を既にやられてしまっていたから

どうしても、殴る事が出来ませんでした。

 

本当に、私にも分かるぐらいに誠心誠意を持って謝ってくれて

私も、私達も。さかきさんがこんなことに引き起こすために

主様と一緒に頑張っていた訳じゃないのはわかっていましたから。

 

それに、ミロカロスさんが

 

『もしもご主人様がこの場に居たら、絶対にこの方を殴らせはしないでしょう』

 

といわれて、改めて考え直したんです。

 

1日経ってから見た主様は、とても穏やかに眠っていました。

昨日死に掛けていたなんて、まるで嘘みたいでした。

試しに声を掛けてみたら、起きてくれるんじゃないかなと思って

「あさですよー」って声を掛けてみたけど、主様は起きませんでした。

 

もしかしたら、すぐに動き出してくれるんじゃないかと思って

1日中、主様の前に居たけど、周りが暗くなった時にダグ2さんが迎えに来て

ポケモンセンターに帰らなきゃいけなくなりました。

出されたご飯はとてもおいしくなかったです。

主様のご飯が食べたいな。

 

はやく、起きてくださいね  主様

 

 

2日目 晴れ

 

帰った後に、ミロカロスさんとダグさん達3人に心配されて

気晴らしに何かをしたほうが良いと言われたので

元ぼうそうぞく?という人達と一緒に、またゴミ拾いをしてました。

たくさんの人から

 

『兄貴は……大丈夫っすよね? すぐに元気になりますよね?』

 

と、励ましの言葉をもらいました。

私の主様はとっても偉大です。こんな怖い人達に心配してもらえるんだから。

 

お昼までゴミ拾いをした後、病院に行きました。

主様は変わらず、穏やかに寝ていました。

今日はゴミ拾いをしてきたんだって、おしゃべりしたりもしました。

でも主様はずっと寝てて、涙が出てきたけど我慢しました。

 

また夜になって、ダグ3さんが迎えに来てポケモンセンターに戻りました。

出されたご飯は味気なかったです。

 

はやく、元気になってくださいね  主様

 

 

 

──────日記は、ところどころで涙の跡があるようだ。

 

 

 

 

我等が主殿が、お倒れになってしまわれた。

しかし全員が見ている『あの傷』である。命があるだけ儲けモノだろう。

 

姐御は毎日面会に行くつもりらしい。

昨日もⅢが迎えに行った時、涙を流しながら主殿に話しかけていたそうだ。

 

主殿が倒れてしまった日から、姐御の様子は見ていられないものがあった。

あの様子がずっと続くのでは、いつか姐御が壊れてしまいそうで心配だ。

 

医者から聞く話によれば、主殿には絶望しか残されていない。

現時点で判別するに『意識すらも維持出来ていない植物人間状態』との事。

 

我等が一日中傍に居ても一向に反応して頂けない。

体を動かす自由さえ与えられていない……いや、奪われた。

 

我等としては本当に、弾頭の連中が忌々しい。

我等が主殿を犠牲にして、日々ぬくぬくと生きている様は、憤怒を覚える。

 

しかし、あのさかきと呼ばれる人間は本物だ。

確かな感謝を内に秘め、主殿と接していたし

その下に付く弾頭の社員も、社会に馴染む機会を貰って

毎日主殿に感謝しながら日々を過ごしていた。

 

だが現実は非情だ。

主殿が身を粉にして働いたが故に、主殿は恨みの矛先となって─────こうなった。

 

だから、我等も我等也に動こう。

あの方に見出されたおかげで、今の我等は存在するのだ。

次に目を覚まし、我等を見てもらった時に驚いて頂ける様に

今を忘れて、次また話し合う日を信じて、ひたすら修行あるのみである。

 

それに、あの主殿ならこう言うはずだからな。

 

 

寝てる俺に構っている暇があるなら何かしら動け、と。

 

 

 

 

ご主人様が襲われて、倒れてからもう5日も過ぎようとしています。

アレから毎日ドレディアちゃんが見舞っているものの

ずっと穏やかに、眠り続けているだけなのです。

 

私もドレディアちゃんと一緒に、1日御傍(おそば)について様子を見てたのですが

やっぱり、起きてくれる事はありませんでした。

いつも泣きながら話しかけるドレディアちゃんを見て、私も泣きそうになってしまいますが

それでも、元レベル100という都合上……私まで泣いてしまったら

みんなの歯止めがなくなってしまいます。私は泣くわけには行きません。

 

ドレディアちゃんに気晴らしを進めた手前、私もお仕事がいくつかあったので

お仕事がある日はきちんとこなすようにしています。

お仕事をしている間は、難しい事を考えなくてもいいから。

ご主人様が起きてたら、今の私を褒めてくれるんでしょうか。

主様が倒れて以来、少し元気が無くなった弾頭の施設の中で

みんなを元気付ける歌を歌っている私を、誇りに思ってくれるでしょうか。

 

頭の中では分かっているけど。

絶望的だというのはちゃんと聞いたけど。

それでもやっぱり私は

 

 

貴方の声が、聞きたいです。

 

 

 

 

【つまらん。】

【ん……何がだい?】

 

私はミュウと、人間の街の地下施設で話している。

 

【つまらんのだ】

【だから、何がだよぅ】

 

先日ミュウは、あいつが倒れた際に自力で奇跡を起こしたは良いが

情けない事にそのまま力を使い果たして瀕死になっていた。

それでも我が血族か、貴様は。

 

【しっつれーな事考えてんねぇ、相変わらずー。

 あれ、本当に頑張ったし本当にきつかったんだよー?】

【……まあ、そこだけは褒めてやらんでもない】

 

真面目な話だが、街中を全力で疾走している弾頭の連中に付いていって

あいつの手持ちのやつらと遭遇し、頭の中を見させてもらったが

 

 

何故、人間如きがあれだけの傷を負って動けるのだ。

そもそも、何故アレだけの傷を負って、生きているのだ。

さらには、何故あれだけ小さな体で、全てを耐え切ったのだ。

 

 

理解し難い、度し難い……それが、あのタツヤという人間だ。

まあ、あの女の子供という辺りを踏まえれば

その事実を上乗せしてもお釣りすら来る気がしないでもないのだが。

 

【───……人間とは、なんなのだろうな】

【どしたのミュウツー、中の人でも入れ替わっちゃった?】

【いや、まあ……な。正直なところ、貴様にここに呼び出されてから

 人間という存在に対する価値観が、私の中で変わりつつあるとは思っている】

 

こちらに来てからそれなりに接した人間は

まずはこの地下組織を運用している者共、それに加えて組織の筆頭、サカキ。

呼び出した存在のタツヤに加え、あの女並の戦力を有していたどこかの会社の者。

 

それらは全て、私をこの世に生み出した腐れ外道共とは価値観も方向性も違う

良識……と断定していいのかはわからぬが……比較的、こちらの話も通じる者達だった。

 

 

【ふーむ、つまらん】

【変わる時って本当に変わるんだねぇ……ミュウツーみたいなあたまでっかちでも】

【ふん……貴様なんぞ常に暴走運転ではないか。聞いたぞ、シオンでは浚われかけたらしいな?】

【あーあれねー……あはは】

 

我等は学者という括りで考えれば非常に珍しい固体らしい。

故に、なりふり構わず行動を起こすものも少なからず居る。

そしてそういう者に限って記憶として頭の中にこびりつくのだから手に負えぬ。

 

【彼らと特訓した今なら、ミュウツーにも勝てちゃうかもね☆】

【……聞き捨てならんな。やるか?】

【へっへーん、僕が怖くないならかかって─────】

 

サイコショックを放つ。問答無用だ。

 

【ってちょ、おぉぉぉぉい!?

 

 

 ─────なんてね♪ あしゅらせんくうっ!!】

 

妙な掛け声を上げたと思ったら、なんとミュウは

多重かげぶんしんの様に横滑りで移動し、私の攻撃を回避した。

 

【一体なんだ、その不可思議な動きは。】

【これもあの子に修行をつけてもらった成果さー。

 とはいってもこれに関しては、その時に同じく修行してた子から

 教えてもらった回避技なんだけどもねー】

【……何処から突っ込めば良いのかわからん。そもそもいつ修行をつけてもらっていたのだ】

【さっき言ってたでしょ。シオンでさらわれた後だよ。

 自己防衛ぐらいすぐに出来るようにしなさい、って。】

 

気楽に言うが、聞いた事すらない技を実用出来るまでにするなど

どれ程の道のりなのかわかっているのだろうか?

しかもよく見てみれば部屋を飛び回るミュウの速度が若干速まっている気もする。

 

……もしや、あれは同時にすばやさまで上げるのか?

 

【まあ、彼には本当に世話になったからねー……

 少なくとも僕も君も、人間に関しちゃ良い思い出なんて殆どなかったでしょ】

【当たり前だ、あのクソ共と付き合って楽しい事などあるものか】

【でも彼とあってからは、人間なんて僕達以上に千差万別なんだなーって気付かされたよ】

【…………。】

 

ミュウの言う事は最もだ。

無理矢理すぎる形ではあるが、見解を広げられたのは納得せざるを得ない。

人間なんぞ所詮全部がカスとしか思ってなかったのが2ヶ月前の私だが……

此処に出入りしてからは、その基準から脱している者も数名居る。

 

加えて、あいつ自身が『人間なんぞカスばっか』とのたまっているからな……。

同族だろうとなんだろうと、あいつは思った以上は口に出すらしい。

だからこそ、同じ視点と勘違いして色々愚痴を零してしまったのかもだが……

 

 

───……ん? もしかして私はあいつに上手く乗せられてしまったのだろうか?

 

 

【…………プッ。】

【サイコキネシス。】

【うゃゃゃっ!? ちょ、ごめ、ごべんなさいっ!!

 ごめん謝るからねじるのはやめ、やめてぇー!?】

 

思考を上手く読まれたのが気に障ったので、とりあえずミュウを絞っておく。

しかし、それをやっても気が晴れることは無い。

 

また、あの社員を交えての熱弁談議をしたいものだ。

あの社員もなかなかな強敵だが、あいつ自身のイメージする可愛い画像は

本当に、洞窟から出てくる価値があると認められるモノなのだからな。

 

今現在、あいつが寝込んでいるため悪くは無い食事は食えぬ。

サカキに金を出させて食うモノもなかなかに良いが

私としてはやはり、あのポケモンセンターで食う食事が舌に合うのだ。

 

 

……全く、とっとと目覚めんか、タツヤめ。

 

 

 

 

 

        (ドクン)

 

 





元悪の団員や暴走族が11歳のガキをさん付けしたり、兄貴と呼んだりするのは
団員の方は弾頭設立演説時、暴走族は弾頭構成員になった後に
『あの子の中身は11歳どころじゃない、下手したら私より年上だ』
と、秘密裏にサカキに聞かされているからになります。

位置づけ的には男だけどロリババァな立ち位置です。相対的に言えばショタジジィ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 33% 当事者達

 

 

彼がタマムシの郊外で襲われ、致命傷を負ってから半月が過ぎた。

これだけ長い時間が経っても、タツヤ君は一向に目覚める気配が無い。

 

せめてもの償いとして、彼の入院費用一式は全て弾頭で持つ事にした。

当然といえば当然ではあるが、未だにレンカ師匠に連絡が付かないため

後々だと確実にややこしくなる問題であり

彼の作り出した金の流れに関しても、1週間ほど前から突然跳ね上がった。

そのため入院費用の圧迫を計算に入れても、お釣りが来る程度に耐えられる。

 

彼が意識を失ってから1週間後。

弾頭全体が彼の恩恵を受けていたのは間違いなく

弾頭の社員全員が寝泊りするこの地下施設の空気も、微妙に重くなっていた。

そしてその空気を払拭する切っ掛けとなったのが、人材派遣での大躍進だ。

 

私も地道に知り合いの社長やら人事などを尋ねて周り

人材派遣における特色やら利点を説明して、お試しで派遣させてもらっていたのだが

お試しで弾頭の派遣員を向かわせた会社の会長から、派遣員が大絶賛を受けたらしい。

そしてその会長から複数の経営者や監督者に話が周り

弾頭の人材派遣部門の知名度が跳ね上がった、との事だ。

 

彼は意識を失う前にこう言っていた、「人の口コミに勝る情報媒体は無い」と。

彼の言っていた内容は、まさにこれの事なのだろうな。

 

現在人材派遣部門の就労率は85%を超える。

無駄が無い、といった意味合いからすれば理想的な数字だと思う。

とはいえ全員が全員希望通りの職に付いたわけでもないので

その手の枠に関しては会社との話し合いで、なんとか若手育成枠として貸してもらう事となった。

やってみて、思っていたより楽しいと考えてくれるのが一番ベストだ。

そのまま働き続けてくれるでも良いし、もし完全に違っても社会経験は身に付けられる。

その代わり新人を大量に職場に入れる関係上、賃金の方は1/2だ。

 

 

そして開発部門の方でもついに利益が出始めた。

彼が発案した『主婦の味方の器具』を、研究員達が片手間で魔改造したいくつかの品々が

最近になってテレビで紹介され、生産ラインを1本増やすにまで至ったのだ。

こうしたところでの利益の発生は息が長い上に

生産工場も発注が入る分利益が生まれる。いい循環が現れるのだ。

しかも使い勝手と頑強度合いに力を入れて魔改造していたがために

今のところ会社に対してクレームは入っていない。スタートとしては理想だ。

 

だが、研究員達が本腰を入れて研究したい内容に関しては、行き詰りかけているようだ。

0から1を作り出すというのは、本当にきつい作業のようである。

専門的なことは余り分からないが、私が前に研究室を訪ねた際には

3人とも泥のように地面に倒れて眠っていた。

やつれてこそいたが、好きな事を研究出来ているため寝顔はとても幸せそうだった。

 

そんなこんなと急に有限会社弾頭が成長し始めたため

私も1日全てを知り合いへの顔見せに回さずとも良くなり

彼に前々から提言されていた、ロケット団として逮捕された者達の引き取りに

ようやっと動き出せる形が出来たのだ。

 

現在私とミュウは、シオンタウンへ来ている。

どうやらここで私達『ロケット団』との接触で、彼の中でやらなければならない何かが芽生えたらしく

此処で捕まってしまった3人の足取りを追ってくれ、と前々から頼まれていた。

 

「受付はここでよかったですかな?」

「はい、どういったご用件でしょうか?」

「私はポケモンリーグから、ロケット団構成員の引き取り、再教育を依頼されている

 トキワジムリーダーのサカキという者です」

「え、トキワッ……!っと、失礼致しました。

 そうなると、この街に捕まっているロケット団員の引き取りがご用件ですか?」

「ええ、まず面会からお願い出来ますか」

「わかりました。手続きを行いますのであちらへお掛けになって、お待ちください」

 

 

席に座り少しの間、ミュウと今後について話し合っていた。

その間にあちら側の準備が終わったらしく、面会の準備が整ったとの事だった。

私達は、署員の案内に従って刑務所へと歩いて行く。

 

 

 

 

「はぁー……俺らいつまでここに居れば良いんだろうなぁ」

「まぁいいじゃねえかよ、少なくともここじゃ飯も食えるし最低限だけど体も綺麗に出来るしよ」

「息苦しいってのは間違いないけどな」

 

 

俺等が此処に捕まってから既に2、3ヶ月ってところだろうか。

現在俺等は所員の手により頭を丸坊主にされている。

どこの犯罪者もこんなもん、との事だ。

 

一応はこの刑務所で大人しくして、機械部品作りを毎日やっている。

逃げ出す事も考えはしたんだが、ポケモンを交えた監視の目をあざむ()く自信は俺等には無く

話し合った結果で、拘留期間を普通にこなした方が

最終的にロケット団に早く戻る事が出来るんじゃないか? という事になった。

 

外の情報に関しては、新しくこの刑務所に入ってきた奴に聞く位しか手が無く

ロケット団自体がどうなったかはよくわからないが、多分存続しているのだろう。

 

一応はでかい犯罪組織だからな。

解散やら崩壊やらとなれば、確実に誰かしら耳に入れているはずだ。

 

「とか言っといて、本当は新入りに話しかけるコミュ力がないだけだろうがww」

「……るっせぇよ」

 

どっちにしろ情報が無い事にゃ変わりは無ぇんだ。

下手に動いちまって俺等がボロ出したら、それだけでも今のロケット団にゃ致命的なはずなんだ。

きちんとお勤めしておきゃ害にもならない。これでいいんだ。

 

 

「しっかし、あの大口叩いてたガキはどうなったんかね」

「知らねーよ、大方アジトに乗り込んでボコられてんじゃねえのか」

 

突然他の2人が、あのガキの事を話題に出し始める。

俺等が捕まった直後に、なにがどうなってああなったのかよくわからんが

俺等を捕まえたはずのガキまであそこの留置所に入ってきたんだから驚きだ。

同業者かなんかかと思ったが、数日で出ていっちまった。

しかも俺等の事情を根掘り葉掘りと聞いた上でな……

 

ま、どうせ2人が言う通りになってるに決まってんだ。

ガキ一人でロケット団が動くやら消えるやらなんて、なるはずも無い。

 

そうさ、決してあの時言ってた『約束』を信じてるわけじゃねえんだ。

 

「───おい、お前達」

「……んぁ?」

「あん?」

 

 

看守がいきなり尋ねて来やがった。

今日は別段何も起こしてないはずだが……なんだ?

 

「お前達に面会希望者が来てる、移動するから出て来い」

「……面会、だと?」

「お前、心当たりあるか?」

「いや、特にねぇな……誰だ?」

 

こういう時は親だのなんだのってのが来るってよく聞くが

少なくとも俺等3人にゃ親なんて呼べるもんはいねえ。

全員、施設から逃げ出した孤児だからな。

んだからよくつるんでて、気がつきゃこの有様なんだがな。

 

ああ、でも親って言っても良い人なら一人だけ居たな。

俺等のボスの─────

 

「面会を希望した人は、かの有名なトキワジムリーダーのサカキさんだ。

 期待はしていないが、失礼の無いようにしろよ」

「…………。」

「…………。」

「…………はい?」

 

え……なん、で、ボスが?

 

いや、待てよ、看守が言うには……表の権限で来てるって事か?

もしもその通りだってんなら、ロケット団のボスってのをバラすわけに行かない。

 

「……ボロ、出すなよ」

「おめーこそな」

「わーってらい、おめぇもだ」

 

この手の内容なら、看守の言う『失礼の無い』という部分に関しての会話としても不自然ではない。

日頃、俺らがここで表に出してる態度もやたらめったら悪く映るものではないはず。

言葉の裏に隠された本当の意味を全員で認識し終えて、俺等は面会室へ向かった。

 

 

「こんにちわ、君達がロケット団を名乗る者かな?」

「えっと、はい……」

 

面会に来たって人はやっぱり俺等のボスだった。横に変なピンクなやつも居るが。

あちらも他人行儀で合わせ、こちらも初対面としては問題ないレベルで対応する。

 

(おい、やっぱボスだぞ)

(なんだこれ、どうしたらいいんだ)

(とりあえず話し聞いてからだろ、上手く合わせろ)

 

もしかしたら、どういう方法かはまだ予想も出来ないが

俺等をここから出すために四方八方に手を尽くしてくれたのかもしれない。

 

「私は、トキワジムでジムリーダーを務めるサカキという。

 今回、ロケット団の崩壊にあたって団員がバラバラになり、各個で悪さをしない様に

 ポケモンリーグにロケット団残党の、再教育と監視を依頼されてね」

「は、はぁ」

「そうっすか」

 

ボスが目の前に居るのにロケット団が崩壊とはどんな笑い話なのだろう。

 

全部が全部作り話……だよな? 多分。

適当に話合わせてりゃ付いて行くって名目で、俺等もここから出られんのか?

でもそうなると表のボスに負担が掛かっちまうよな。

どうせ俺等は何かしら悪い事やらねぇと組織の役に立てねーし……

 

「それで、現在ロケット団構成員を全員社員として

 有限会社の弾頭と名乗り、色々な方面に手を出しているんだ。

 君達はここで色々と学んでもらいたいわけでね。

 納得してくれるのなら、私が釈放されるように動いておくよ。

 リーグからのお墨付きも既に得ている、『何も問題は無い』ぞ」

『!!』

 

最後の一言で理解した。

頭の悪い俺等にゃよくわかんねーが、少なくともボスは

表の顔を使っても比較的安全な「何か」を既に策に組み込んでいるんだ。

だからこそ、『何も問題は無い』と言ってきたんだ。

 

他の2人に目を合わせてみた。

……よし、これは全員理解出来ているな。

 

「わかりました。一度そちらに行ってみたいと思います」

「俺もです、よろしくお願いします」

「俺もだ、b……サカキさん、よろしくお願いします」

「うむ、快諾してくれて何よりだ……それでは看守殿。

 すまないが件の通りになったので、彼らの此処の出所手続きの更新をお願いします」

「はい、了解しました。サカキさん。

 こいつらはこの刑務所でも比較的大人しいやつらでしてね。

 きっと迷惑は掛けんと思います。のんびり見てやってください」

 

おっさんがボスに俺等の事をプッシュする。

あんた、俺等のことそんな目で見ててくれたのか……

内に腹黒いもんを携えながら虎視眈々と機会を伺っていただけだってのに……

少し罪悪感が出てきちまったな。

 

「では、少し失礼するよ。また後で、な」

「はい、わかりました」

「お待ちしてます」

 

そうして一旦俺等は牢へ戻り、ボスは俺等の出所手続きに向かっていった。

 

 

「お前等、もう戻ってくるんじゃないぞ」

「おう、わかった……おっさん、元気でな」

「世話んなったな」

「あぁ、しっかり(しご)かれて来い。お前等も元気でな」

「君達、挨拶はもう良いか? では看守さん、私達はこれで失礼します」

「ええ、こいつらの事、宜しくお願いしますな」

「はい、私の立場に賭けまして。」

 

互いに挨拶を交わし、俺等は刑務所を後にする。

しばらく進み、刑務所の門が見えなくなったところでボスが俺らに振り返った。

 

「色々と聞きたい事もあるだろう。

 だがこの場では君達も周りを気にして喋りづらい筈だ。

 一度我々の活動拠点であるタマムシに向かう。そこで今回の経緯を話す事になるが良いな?」

『了解しました。』

 

見えなくなったとはいえ、一体何処で監視の目やら何やらが動いているとも知れない。

あくまでも俺等は、最初にボスに言われた内容に矛盾しないレベルで返答をする。

そうして、そらをとぶポケモンを用いてタマムシまで飛んでいった。

 

 

 

 

そしてタマムシの地下アジトに付いた俺等は唖然とする。

 

別の入り口が出来ていて、そこから入りアジトに入ると……

顔見知りの団員が、黒っぽい制服……だがロケット団指定のものではない服を着て

バインダーを片手に廊下を歩いていた。こちらに気付き、挨拶をしてくる。

 

「お帰りなさいませ、ボス。

 今朝方、お電話があった会社様からの案件と内容を纏めたものを書類にしておきました。

 社長室に置いているので、よろしければこの後ご一読をお願い致します」

「うむ、わかった……留守中、何かあったかね?」

「いえ、特には……彼も、相変わらずです」

「……そう、か」

 

最後の方の会話で、どちらも少し沈んで空気が悪くなる。

2ヵ月半振りのアジトは、もはや俺等には事情すら分からなくなっていた。

 

「貴方達も久しぶりね……シオンでドジ踏んだんだって?」

「あーまぁな……やたら強ぇークソガキにぶちのめされた後に

 さらに待ち構えてたガキが居てな、お縄になっちまってたんだわ」

「そう……貴方達が居ない間にここも物凄く変わっちゃったけど、早く馴染む様にね。

 みんな、やる気満々でボスのために働いてるわよ」

「充実、だと……?」

 

犯罪に関して開き直ってるって事か?

 

「私が居る前でそれを言うな……恥ずかしいだろうが」

「あらあら、これは失礼致しました。それでは私は受付のほうへ戻りますので」

「うむ、了解した」

 

そうして見知った団員と別れ、前まで物置だった一室へと俺等は招き入れられる。

中はどうやら会議室の様に改造されたらしく、ボスに促されて俺らも席に座る。

 

「さて、どこから話したものかな……」

「えーと、では俺達から質問、いいですか?」

「わかった、何が聞きたいかね」

「刑務所で表の名前を出して俺等を釈放してましたが……その、大丈夫、なんですか?」

「その事か、全く問題ない。安心したまえ。

 ロケット団という組織は、文字通り既に崩壊したのだからな」

「なっ……!」

「その話、マジだったんっすか……!?」

 

 

てっきりあの場の凌ぎの会話と思って──……って、あれ?

 

「でも解散したのに、ボスはボスのまま……なんですよね?」

「うむ、まあ厳密に言えば代表取締役だがな」

 

さっきの顔見知りの団員もボスの事はボスと言っていた。

そんならロケット団が解散ってより……組織としての立ち位置が変わった───

 

 

 

─────!? ま、まさか……

 

 

 

「あのガキかッ?!」

「え、ど、どうした?」

「なんだよ、ガキって───え、いや、さすがに無いだろ……」

「……あるんだよ。お前達、正解だ。

 ロケット団は、お前達が言う『彼』のおかげで生まれ変わったんだ」

「あ─────」

 

 

やりやがった。

あいつ、マジでやりやがった。

本当に、約束を果たしちまいやがった。

あの時の俺等なんぞ、ただの一介の犯罪者でしかないのに。

あいつは俺等と交わした、たかが口約束を、立派に果たしやがったんだ。

 

どういう形で変わったのかは、わからない。

だがボスが言うには、代表取締役……つまり『会社』のTOPだ。

『犯罪組織』のTOPとは訳が違いすぎる。表にも堂々と顔を出していい肩書きだ。

 

 

「まさか、本当にやっちまうなんて─────」

「じゃあ、ボス……ロケット団は、どうなったんですか」

「まず、私の側近である幹部達が自主的に逮捕された。

 そして複数の口からの証言として、『ボス』の存在は

 幹部が作り出した、下を上手く操るための虚像という形にしてくれたんだ。

 結果、私は最初からロケット団には一切関わっていない事となり

 再教育係の位置に立つ事が出来たわけだ」

「な、なるほど……それならもう、ロケット団の肩書きが」

「ボスの足を引っ張る事も、ないわけなんですね」

「そう捉えてくれて問題ない」

 

 

そうか、あれはつじつま合わせの都合の良い言い訳じゃなく

正真正銘の、ボスの現在の立ち場を使ったモノだったんだ。だが……

 

「でも……俺等じゃ新しい組織でボスの役に立てません……」

「だな、俺等は自力で金を稼ぐ手段なんざねぇし……」

「そこについても心配は要らない。タツヤ君が良い道を示してくれているからな」

「良い道、ですか?」

 

そしてボスの口から、人材派遣部門の話を聞く。

社会に慣れる為にも、一旦は若手育成枠に入って

社会での労働経験を培わせる、という内容だった。

 

なるほどな……お試し期間ってことで長続きするかしないかを認識するってか。

上手い具合に出来てやがる。戦力にならない間は給料もガクっと下がるって事か。

 

「それに、短期間とはいえ君等は刑務所でも労働していたのだろう。

 ならば大丈夫だ。のんびりと自分に合った作業を探してみてくれ。

 その都度その都度、相談に乗ってくれる者は回りにいくらでも居るはずだ。

 私も余裕があれば相談を受けているからな」

「そう、っすか」

 

本当に変わってしまった。

 

本当にあのガキ、何者なんだ。

 

「で……その、タツヤってのは、どこにいるんですか?

 此処に来るまで全然見てないですけど」

 

俺が思考の海を泳いでいる間に素早く復活したのか、横の一人がボスに尋ね───……あれ?

なんだろう……ボスの顔がいきなり渋くなったような……?

 

 

「そうだな、これも伝えなければならないだろうな……。

 ……今、彼は───」

 

 

どう言う事だ。

 

なんっつー理不尽だよ、これは。

 

あのガキは……あいつは……!

俺等をここまで変えておいて、その代償で死に掛けてるってか……!?

いや、厳密には死に掛けてるわけじゃないらしいが……それでも半月の間意識不明。

どちらにしろ、自由を完全に奪われている事には変わりが無い。

 

そうか、さっきのあいつとボスの会話の最後は、この事だったのか……!

 

「彼をあんな目に合わせた愚か者達は、捕まえられた分だけ既に警察に引き渡した。

 しかし───そんな事をやったとて、この先彼がどうなるかはわからない。

 少なくとも、医者は絶望的だと診ているようだ。

 だが、それでも……彼が私達に示してくれたこの道を絶やすわけには行かない。

 彼は、合理的に、私達を、確かに『救ってくれた』のだ」

 

間違いない、元々俺らに関わっていることはボスにとってデメリットでしかなかった。

それを消した上に、ボスが捨て切れなかった俺らにまでテコ入れ。

 

 

これが救いじゃなくて、なんだってんだ。

 

俺等の悲願は、俺らと関係ないガキが一人で果たしちまった。

 

 

「───お前達も、これから彼に報いてもらうぞ」

 

ボスが発するその重い声も、今の俺等からすれば心地が良い。

……だが、一応筋だけは通しておかねぇとな。

 

「その前に、ひとついいっすかね」

「どうした?」

「そのタツヤってのに、礼を言いに行きたいんですよ……行っても、大丈夫でしょうか?」

「あ、俺も……行かせてください」

「俺も、言いに行きたいっす」

「───わかった。弾頭の構成員の服の予備はまだ幾らか有る。

 それに着替えて、病院へ向かおう。私も同席する」

 

 

例え、意識が無くて聞こえてなくても

 

 

言わなきゃなんねえ事って、あるよな?

 

 

 

             (ドクン)

 

                                            (ドクン)

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 58% 部外者達1

名前が出せませんでしたが、シオンで関わったあの人の視点です。


 

 

「Hey VOLTYッッ!! でんこうせっかでGO CRASHッッ!!」

「ゴウキィィーーーッッ!! 竜巻旋風脚で迎撃だぁー!!」

「ッヂュゥゥゥゥウッッ!!」

「メッサツ……!!」

 

 

現在俺は、クチバジムにてジムリーダーのマチスさんと戦っている。

ここを取って、残るはグレン島! 最後にトキワでGET、ポケモンリーグだーー!!

 

……なんて思っていた事が、俺にもありました。

タツヤ君から聞いた話の通り、クチバジムが……

というかジムリーダーのマチスさんの手持ちが凄まじい魔改造を受けたせいなのか

バッヂを獲得する難易度がむっちゃくちゃ上がっていた、なんだろうこの魔境は。

本当に、どうなってんだ……タツヤ君に修行を施された人ってのは……!

 

ライチュウの他にもレアコイルが2体出てきたんだが

俺等が知るわけも無い、兵隊仕込みっぽい戦術を取られて

たったの2匹にこっちの手持ち5匹のうち、4匹も倒されてしまった。

そして満を持して登場、俺の切り札……黒の破壊者・ゴウキッ!!

 

鋼属性の方で弱点をつけたのか、2度ほど攻撃を叩き付けたら倒せた。

んで、最後に出てきたのが……現在噂を総攫(そうざら)いにしている、ライチュウ……!

 

正直、俺はナメていたと思う……いくら噂が凄いとはいえ、所詮ライチュウ。

あの強さのダゲキがさらに進化してパワーアップした俺のゴウキ。

どう考えても俺の方に軍配が上がると思った。

 

でも蓋を開けてみれば、噂は噂通りであり

幸いな事に即効撃破で俺のプライドがへし折れる事はなかったけど

凄まじい強さのライチュウ相手に、俺のゴウキも攻めあぐねている。

 

 

「ユー……スゴーイネー。ミーとここまでヴァーサスしたの、今までナッシングだったネー」

「こっちも秘匿扱いの相棒使ってますからね。そう簡単に負けるわけには行かないっすよ……!」

 

クチバジム前で腑抜けまくっていたトレーナー達……敗れた者達の末路……

それが物々しくジム入り口風景に転がっていて、ここで負けたら俺も彼らの仲間入り。

 

ここがこうじゃ、今年のポケモンリーグ参戦者は著しく少ないはず。

そしてその中でコイツを混ぜて戦うなら、上位入賞も有り得る……!

 

俺のおいしい条件のため……皆が出来なかった事をやってやりたいプライド……

 

 

必ず、このライチュウをここで下してやるッ!!

 

 

「Volty……VOLT(ボル) TACKLE(テッカー)!!」

「ゴウキ、前あしゅらせんくう!!」

 

凄まじい電撃を纏いながら、俺のゴウキへ突撃して行くライチュウ。

その速度はポケモンリーグ四天王ですら出す事が難しい威力と速度を持っている。

 

だが……こちらにはチートな回避技があるのだ……!!

 

「ゴウキッ!」

「……ムンッ!!」

「チュッ?!」

 

爪先立ちで深く腰を落とした状態から、突然かげぶんしんのようにぬるりと移動。

ボルテッカーを終えたライチュウの後ろへ素早く回り込───

 

「Tail Swingッッ!!!」

「ッラーイチューーーーーッ!!」

「ムンッ……!?」

 

この行動を読んでたとでもいうのか、マチスさんはライチュウに即座にアイアンテール?を指示し、

後ろに(そび)え立つゴウキに、ちょっとしたダメージを入れてくる。

 

 

やっぱり今のこの人は噂通りなんだ。ゴウキでも突破出来るか難しいぞこれは……!

 

 

「ゴウキ……まだ行けるな?」

「……オッス!」

「ミーもまだまだ負けないヨー! Volty Go Fight!!」

「ッヂュゥウゥゥ!!」

 

マチスさんの合図と同時にライチュウは電撃を飛ばして──……あれは必中技のでんげきはか?!

 

「ッッ……!!」

「くっ……大丈夫かゴウキ?」

「オッス!!」

「ハッハー! クチバジムはもうイージーじゃないネー! ユーもビリビリしびれなサーイッッ!」

「チュゥ~チュゥ~!」

 

余裕が出てきたのか、マチスさんはこちらを挑発するように言葉を投げかけてくる。

ライチュウも目を釣り目気味にして、ゆらゆらとした動きで神経を逆撫でしている。

 

 

……駄目だ、ここで焦るな。

こういう時こそ、ゴウキが彼から習った教訓が生きるんだ。

 

 

それはすなわち、『自分で考えてベストな動きを出来るポケモン』であること。

 

「ゴウキ……!」

「オッス……」

「お前が『勝てる』と思う方策で戦え……

 あのドレディアとの厳しい修行を乗り越えたお前なら出来る……!」

「ッ……!」

 

あるいは指示放棄、あるいは試合放棄。

そう取られてもおかしくない発言を、俺はした。

しかしそれは信用の裏返し、こいつなら絶対にやり遂げてくれる。

例えそれがどれだけ『外道』であろうとも……!

 

「ゴウキ! 行けぇーーーー!!」

「オォォォッス!!」

「Volty、VOLT TACKLEッ!!」

「ヂュゥゥーーーーーーーーーー!!」

 

再度、ライチュウにボルテッカーを指示したマチスさん。

そのボルテッカーに対し、ゴウキは───待ち構えた!

どういう手なのかはわからない、でも俺は、あいつを信じる……!

見ればマチスさんも驚いた表情を作っているが、ここから先はアイツの舞台だ!

 

 

 

ライチュウがまさにゴウキに交錯して激突する瞬間─────

あしゅらせんくうを用いて上がった素早さを駆使し、ゴウキは動く。

 

 

 

ゴウキは、ライチュウスレスレな紙一重の体捌きで激突直線からズレて

なおかつライチュウを横っ面から払うようにぶん殴ったッ!!

元々のボルテッカーの速度も有り、軽快に吹っ飛んだライチュウ。

だがまあその代わりに、威力の方は先程のアイアンテールの様に

全力全開の大ダメージ、とまでは至らなかったようである。

 

「ッヂュゥ……!」

「oh……Boyのダゲーキ、やりまーすネー……!」

 

そこそこ痛かったのであろうか、片目を瞑りながら立ち上がるライチュウ。

だが、ゴウキも───

 

「……ッ───ッッ!」

 

どうやら不幸にもライチュウの『せいでんき』が発動し、麻痺状態になってしまったようである。

 

ゴウキは一度だけ、俺の方へと目を向ける。

その目に返す俺の意思は一言だけだ。例え麻痺状態になってしまっても──

 

【信じてる……! 諦めるな……!】

 

俺の目から意思を汲み取ってくれたのか

状態異常を負いながらも、ゴウキの目はさらに活きた眼になっていった。

そして、ゴウキは『あの技』への準備段階へ入る……

 

「ッ! Volty Fast Attackネ!! アレはWarning! やられる前にノックアウッ!」

「ラァ~~~イ……ッヂュゥゥーーーー!!」

 

動かなくなったゴウキに対し、真っ直ぐ突っ込んで行くライチュウ。

ここで出すのも、今まで直撃が無かったが故に反動が一切なかったボルテッカー。

まともに喰らえばアイアンテール等のダメージがあるゴウキは、頑丈が発動せずに終わる───

 

 

と、思ったところでゴウキが突然ある行動を取った。

 

 

「……─────ッッ!? メッサツ……!?」

「ッ?!チュッ?!」

 

その取った行動とは───何故か、マチスさんの方へ鬼気迫って振り向く事。

まるで『何事だッ!?』とアクシデントがあったかの様にマチスさんの方へ顔を向けた。

そしてゴウキに突っ込んでいったライチュウもその行動を垣間見て

自分の主に何かあったと思ったのか、マチスさんの方に急いで振り向いた。

 

 

だがそこに居たのはポカンとした顔のマチスさん。

突然2匹のポケモンにこちらを見られて『Do You 事ねー?』という感じ。

 

 

と、思ったら

 

 

ゴウキがすぐ手近で止まってたライチュウを瞬時に掴み取った。

 

「オゥッ!?」

「ヂュッ!?」

 

まさかこれは……『擬態』の余所見!?

 

そしてゴウキは既にライチュウを掴んでいる……すなわちその攻撃は……

 

 

 

突然試合の場が真っ白に光り

 

眼を押さえる俺達に聴こえるのは

 

丁度、15回の打撃音。

 

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

 

 

光が収まり、その中にあった光景は─────

 

俺の目の錯覚なのであろうか

効果線が背景にびっしり入ったような光のエフェクトの中、仁王立ちするゴウキと

その足元で、だらしなく地面でノビたライチュウだった─────

 

 

いちげき ひっさつ!

 

 

「アッハッハー、ついに負けちゃったネー!

 ユー、ヴェリーストロング! これオレンジバッヂねー!」

「あ、ありがとうございます!!」

 

ついに、ついに難攻不落のクチバジムを突破出来た。

俺は外に群がっていた有象無象が出来なかった事を、やってのけたんだ!!

 

「フー……ミーのラストデイは華々しく飾れなかったネ……ちょっと残念ネー」

「え、ラストデイって……マチスさん、やめちゃうんですか?

 あんなに強いのにどうして……俺が勝ったのは麻痺で行動が止まらなかった運ですよ」

 

ジムリーダーはトレーナー間でも憧れの職業だ。強ければ強いほどその象徴も輝く事になる。

 

今なおサカキさんのような最強とまでは行かないが、それでもここ最近の旅のトレーナーの噂じゃ

むしろクチバジムの方が攻略難易度が高くなってるとの話だった。

それもこれもあの異常に強いライチュウが原因だな。

 

「んー実はネー。ちょっと前にポケモンリーグから通達来たのーヨ。

 ミーがストロングMAXだかラー、トレーナー困ってるー言うネー。

 だから、ジムリーダークビになっちゃったのネー」

「な……そんなん有り得るんすか……!?」

「アハーハーww なんかミーがFirst Targetらしいヨー。

 他でこんな事例はナッシングって、テレフォンでスピーチされたネー」

 

それは光栄な事なのだろうか、不名誉な事なのだろうか。

まあ確かにここの鉄板具合は色々とおかしかった。

ジムリーダーが代わればトレーナーも今まで通りに、のんびりここを突破出来るだろう。

 

「マーせっかくだかラー。ミーがアメリカに帰る前にー、リーグに参戦してやろー思うネー」

「うわ何その鬼門。明らかに優勝候補者になっちゃうじゃないっすか」

「OKOKww どうせ他にヴェリーストロンガー沢山いるヨー。腕試しに丁度良いネー」

「あ、はは……まぁ、俺も挑戦するつもりなんでお手柔らかにお願いします……」

 

確かリーグの開始は2ヵ月半後ぐらいだったよな。

1ヶ月使ってバッヂ集めて、チャンピオンロードに篭れば

日を無駄にしないでポケモン達も鍛えられるだろ……っと、そうだ。それだったら───

 

「あのー、マチスさん」

「オゥ? ドナイシタノー?」

「これからジムリーダーやめて旅に出るってんなら、俺と一緒に行きません?

 旅の途中で本人に聞いたんですけど、一時期タツヤ君と一緒になにかしてたんすよね」

「ッ!? ユー、リトルボーイの知り合いなノ!?

 Oh……道理で最後のあのワンシーンな訳ネー……

 あれまるっきり、リトルボーイのタクティクスだったね……」

「ええ、まあ俺が指示したんじゃなくてこいつがやってくれただけなんすけど」

「メッサツ……!」

 

隣に控えてたゴウキの脇を軽くポフンと掌で叩いて主張させる。

 

「yesyes! リトルボーイが何してたかーも聞きたいネー!

 旅は道連レ世はG59(ジゴク)! これからよろしくお願いシマース!」

「ま、マチスさん……そこ地獄じゃなくて情けですよ……」

 

 

とまあ、そんなわけで。

俺は現在のトレーナー間で最もホットな話題の、最難関ジムリーダーを

期限終了間際に突破に成功出来たのだった。

そして新たに男二人の旅日記が始まる。

 

 

話題に上がったけど、タツヤ君は今頃どうしてんのかなぁ?

彼もやっぱり、チャンピオンロード辺りで頑張ってるんだろうな!

 

 

 

 

          ドクン

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 71% 部外者達2

 

きょうもポカポカ、いい気持ち。

ぼくらはおひるのひざしをあびて、のんびりと

 

 

水上ジェットスキー。

 

 

 

 

いま、ぼくたちはアカネさんのなみのりミルタンクさんが引っ張るばななぼーと?にのっかって

グレンしまっていうところに向かってまーす。

 

みんなでセキチクっていうばしょに向かったんだけど3人がもくてきにしてたタツヤさんは

セキチクってまちにはついていないみたいで、どこにもいませんでした。

 

それならっていうことで、ぼくのご主人様のモモちゃんのバッヂをあつめちゃおう。

そんなかんじになっちゃった。

 

「うぅ……タツヤんがおらんからってそないに責めんでもええやん……;」

 

しばらくアカネさんはへこんでたんだけど、まあ大丈夫なんじゃないかな。

 

 

そんなこんなで、セキチクシティでぼくも頑張ってジムリーダーさんからバッヂをもらったんだ!

つぎはグレン島ってところにいって、アカネさんいわく

「ハゲてるヅラのおっちゃん」って人をたおさないとだめみたい。

 

「しっかし、タツヤんどこ行ったんやろねぇ」

「まあ、あそこからイワヤマトンネルの方に行ったとは思えないし

 ヤマブキシティか地下通路の出口のタマムシシティじゃないの?」

「ですね~……でも、多分もう居ないですよね……」

「キュー」

 

セキチクシティで、けっこうながい間がんばったけど

けっきょくタツヤさんやドレディアちゃんはこなかった。

おともだちがへってつまらなかったけど、ゲンガーちゃんもいっしょだし

まだまだ大丈夫だと、ぼくはおもいます!

 

「ギャゴーン♡」

「キュー?」

 

ばななぼーどの上に一緒にのっかってるゲンガーちゃんが声をかけてくる。

つぎにいくばしょはどこなんだーって言ってる。

 

「キュー、キュー」

「ギャー?」

 

モモちゃんからきいたはなしだと、とってもあっつい火山がつめたくなっちゃった島なんだって。

どうしてつめたくなっちゃったんだろう? ぼく、よくわかんない。

 

「おーっしミルタンクー!! そこ、右に行ってやー!!」

「ンモォォーーーン♪」

 

うみのなかをザブザブとおよぎにおよいで進むミルタンクさん。

そして分岐てん? っていうところにさしかかったので

アカネさんがみぎにまがることを─────って、わぁぁぁあぁぁーー。

 

「っきゃーーーー!?」

「うわわあわわわわーーーーー!!」

「ギャゴーーーーーーン!?」

 

ばななぼーどっていうのにのっかってたみんなが、アカネさん以外全員海におちちゃった。

あんなにまがられたら、ぼくも自分の体もささえられないよぅ。

 

「え、ちょ、ミルちゃんストップストップ! みんなどないしてんっ!?

 これ海水浴とかとちゃうねんで?!」

「ケホッケホッ……あぁぁぁーーーもうっ!!

 こんな乗り物であんなカーブ、耐えられるわけないじゃないのよーーー!!」

「ひんひん……口の中がしょっぱいよう……」

「─────……」  ぷかぁ~

「キュ、キューーー!!」

 

いけない、ゲンガーちゃんがうみのうえで目をまわしてる。

あのままだと向こうにながされちゃうよっ。はやくたすけにいかないとっ!

 

「大体なんなのよこの乗り物……。

 海岸の小屋にこれしかなかったって言っても、街に戻って何か買えば……」

「ちょいストーップ。もっさんそれは自分言うたらあかんやろ。

 ミルちゃんにつけた時、もっさん目ぇ輝かせとったやん」

「う、確かにちょっと楽しそうって思ったけどって、あれ? サンドパンにゲンガー!?」

「あ、ああー! 沖に流されかけてますぅー!!」

「う、おっ! これはあかん!! ミルタンクゥ! あっちやー!!」

「ンモォォオオン!!」

「って、ちょ、いきなり加速ってきゃーーーーー!!」

「あ、ああーーー! もっさんーーーー!!」

 

ああー! ぼくのおよぎかたじゃぜんぜん追いつけないー!!

ゲンガーちゃん!待ってぇぇぇーーーー!!

 

 

 

「─────む? なんでゲンガーがこっちに浮いて……?」

 

 

 

あっ! ゲンガーちゃんが流されかけてる先に男の人がいる!!

 

「キュー!! キューーー!!」

「ぬ……サンドパンまで……って、おや、ミルタンクにバナナボート……?

 ははぁ……なるほど。よーし任せろサンドパン! 状況は理解した!」

 

おおっ! このおとこのひと凄い!!

ぼくに声をかけたとおもったら、すぐにすごいスピードでゲンガーちゃんの所まで!

 

 

そしておとこのひとはゲンガーちゃんをうまく引きつれ、ぼくのところまでおよいできてくれた。

 

「ふぅ……サンドパン、君の仲間のゲンガーはもう大丈夫だ。

 あっちに丁度良い岩場がある。あそこに上がっておこう。

 また流されちゃたまったもんじゃないだろ?」

「キュー、キュー!」

 

おとこのひとはとっても親切で、ぼくらのことを気づかって

モモちゃん達がさわいでいる岩場にちかいばしょに、ぼくたちをつれていってくれた。

 

「さ、上がりなさい」

「キューキュー!」

「──……ギャゴーン@@」

 

おとこのひとはぼくたちがうまく岩場にのっかれるようにぼくたちを補助してくれた。

やさしい人だなぁ、タツヤさんもこんなかんじだったよね。

 

「ふぅ……それじゃ、俺も体温上げるために上がっておこうか」

 

ぼくらが上がったあとに、おとこの人も岩場にあがってくる。

手をかさなくてもいいのかな? って思ったけど

上がりなれているのかな、ひとりですすいっとあがってきた。

 

「君達は、あそこで混乱してる子達のポケモンでいいんだよね?」

「キュー」

「ならまあ、こっちから手を振ってあげるといいよ。

 そろそろあっちも落ち着いてきてるみたいだからね」

「キュッ!」

 

おにいさんからアドバイスをもらった。

ぼくはモモちゃんたちがなにやら、わやわやしてるほうに向いて

手をふりながらいっしょうけんめい叫んだッ!

 

「キューーーーーーー!! キューーーーーーー!」

 

あっちもぼくの声に気づいてくれて、ミルタンクさんがこっちに寄ってきた。

ミルタンクさんの加速についていけず、みんなまた落ちかけるけど

なんとかがんばって、ばななぼーとから落ちないようにしてた。

 

「はっはっは、元気があっていいねぇ君達は。

 でも自分のポケモンが流されそうになってるのに

 自分だけを優先して、彼らを忘れちゃいけないよ?」

「はい……すみません、助けてくれてありがとうございました。

 おかげでこっちもなんとか……ふーぅ」

「ったくもー、もっさんあんまし手間かけさせたらあかんで? グレン島までまだ遠いんやし」

「あんたに言われたくないわよっ!!」

 

ゲシッ。

モモちゃんは器用にあしを上げて、せなかからアカネさんをぶっとばした。

 

「て、ちょ、あーーーーーーーー!!」

「アカネちゃーーーんっ!?」

 

だぷーん。

前面からうみにずぷんと落ちたアカネさん。

 

「ンモォォォン!!」

 

ミルタンクさんがちかくにおよいでいって、無事かいしゅうしてた。

どうしてぶっとばしちゃったのかな。

 

「うぇぇぇ、しょっぱい……もっさんなにすんねんな……」

「自業自得よッ!!」

「あっはっは、さて……もう大丈夫そうだし、俺はそろそろ行くかな」

 

おとこのひとが満足げにして、ふたたび目にごーぐるをあてがった。

 

「あ、すみません……本当に有難う御座いました」

「いいってことさ! よいしょっと……それじゃ、またいつかな!」

「─────? あ─────」

「あ─────」

「─────あ」

 

あれ? みんな立ち上がったおとこの人のすがたを見てる。

どうしたんだろう。パンツってのを履いてないのがきになるのかな?

 

 

『ッぎゃーーーーーーーーーーーーーー!! へんたいだーーーーーーーーーー!!!』

 

 

とつぜんすごい声を3人があげた。

あまりのこえに岩場にいたぼくらも耳をおさえる。ゲンガーちゃんに至ってはとびおきた。

 

「う、お……なんだなんだ、どうしたって言うんだ?

 俺が海パンを履いてないのがそんなに気になるかい」

「っていうか完全にわいせつ物ちんれつ罪やろ!!

 あ、いやっ!! こっち見ないで!! 汚されるっ!! 穢されるっ!!」

「きゃーーーーーーー! きゃーーーーーー!!!」

「せめて手で隠しなさいよーーーーーーーーーー!!

「……突然失礼な子だなぁ。君にはこの素晴らしさがわからないのかい。

 包み込む保険もなく、ひたすらに冷たい海流に飲まれるこの体……実に良いクールダウンなんだよ?」

「知った事かぁーーーー! ミルタンクはかいこうせんや! 5回やらんと許さん!!」

「って、ちょ……それはさすがに───」

「ンモォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ってマジでっ!? うわちょ、ギャァァァァァァァアアアーーーーー!!!」

 

ああー。しんせつな男のひとがぶっとばされちゃったー。

ミルタンクさんもようしゃがないなー。ぶっとんでった先にねらいうってはかいこうせん出してる。

まるで小石の水切りみたいに空中で男のひとがはねていった。

ぼくたちから見て点になったあたりで、海に向かってひるひるぽてりって落ちてった。

 

「ううっ……汚された……! うちもうお嫁に行けへんっ……!」

「なんであんな変態が世の中に放逐されてんのよっ……!!」

「ぅえぇぇ~~~~~ん、ふぇぇ~~~~~ん;;」

 

ああ、みんななきはじめちゃったー。これはなんということかー。

ぼくどうしたらいいんだろう、とりあえずモモちゃんをだきしめておこう。

ミルタンクさん、はやくグレン島ってところに向かいましょう。

 

 

タツヤさんだったらこういうとき、どうやってなぐさめるのかなぁ。

久しぶりにあって、なでなでされたいなぁ。

 

 

 

 

                 ド

                 ク

                 ン 

 

 






連載してた当時の気分

ヒャァッ! もう我慢出来ねえッ、ギャグだッ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 95% 身内の人達

 

「くっそ……間に合わなかったか……!!」

「ギィォァアアアアアァッ!!」

「ギュガガァァァァァァァッッ!!」

「さぁ、ディアルガ、パルキア……お前達の力で新しい銀河を作り上げるのだ……!

 私は、その世界で……新世界の神となるッッ!!!」

「さすが伝承に伝わるポケモンね……! 凄まじい力を肌で感じるわ……」

 

一足遅く、テンガン山にディアルガとパルキアを呼ばれてしまい

僕とシロナさんの前で、新たな銀河が作り出されてしまった。

 

「どうすれば良いんだ……こうなったら力ずくであの2体を止めるしかないか……!?」

「……それしかないかも知れないわね、私も一緒に戦わせてもらうわ。

 伝承クラスのポケモンにやすやすと勝てると思わないけど、ね!」

 

軽口を叩きながら、シロナさんは自分のエースであるガブリアスを繰り出す。

 

「ククク……この2匹を前にして、戦おうという気勢は褒めてもいいだろう。

 だが、世界を作り出すような力を持つこの2匹を相手に出来───」

 

──────────

 

「……あれ?」

「……む?」

 

今、妙な何かが聞こえたような。

その音に目の前の男、アカギも気づいたのか同じく不思議がる。

 

「……お前にも、聴こえたのか」

「え、どうしたのよ2人共……」

「ふ、だがそれがなんだとしても宇宙の───」

 

──────────ャッホォォォォォォ..............

 

──────────てい── かー なん─のよー、─の空の色はー............

 

「……ええ~?」

「……一体、なんなのだ?」

「あ、今のは私にも聞こえたわね……」

「ギィォァ?」

「ギュガガ……?」

「グギォォ……?」

 

一体何なのかはまだわからないけど、どうやら全員が異常? を感じ取ったらしい。

結構シリアスな場面だから出来れば邪魔しないで欲しいんだけども。

 

「……く、このような訳の分からん事象に気を引かれる私ではないッ!!

 今こそ、こころという愚かなものに縛られた世界に終わりを与えるのだッッ!!」

「そんなことは……させないッ!!」

 

そして僕のエースである、フシギバナのボールを投げ───

 

 

─────ってちょっとぉぉぉーー…………あんた達、邪魔ぁぁ…………......

 

 

「って、もう、なんなんだよ本当にッ! 何気に良いシーンなのになんで人の声が聞こえ……」

「…………──ッ!? シン君、上ッ!! 空よッ!!」

「は?」

「何?」

『ギュギィォガァ?』

 

シロナさんがどうやら何かに気付いたらしく、上に何かあると示唆してきた。

その言葉に僕やアカギ他、場に居るポケモン全員も、ふと上を見上げて───

 

 

────だヵら邪魔だってばぁぁぁッッ!! 死んでも知らないわよぉぉおおぉ!!

 

 

絶叫と共にここに、凄まじい勢いで突撃してくる何かが来たっ!?

って、速過ぎる! このままじゃ僕ら全員巻き添えに───

 

 

「───ガブリアスーーーーッ!!!」

「グッギォォォォオーーーーッ!!」

 

 

シロナさんの合図にガブリアスがいち早く我に返り

僕とシロナさんを素早く持ち上げ、速攻でこの場から離れる。

 

「な、なんっ、おいっ!! ディアルガ! パルキアッ!!

 あれをなんとか、なんとかッ───うぉぉおおおおおおおおおおおおッッ?!」

「ギュガガガァァァァァアアッッ!?」

「ギィォァアァァァァッッ!?!?」

 

 

そして音速、いや光速でその場に飛来した何かは

ダイナマイト、とでも例えられるような破砕音を上げ、このやりのはしらに突撃してぶち当たった。

 

ぼくらもその衝撃波に襲われたのだが、ガブリアスが距離を取ってくれたおかげで

せいぜいその衝撃波に乗って小石がこちらにぽこぽこ当たる程度であり

アカギ側の様に酷い事態にはならなかった。

 

そして今述べた通り、あちら側の惨状は酷い。

なんていうのかな、うん……マルマイン3匹の同時だいばくはつ?

トリプルバトル真っ青の現状になってしまっている。

 

あ、よく見たらディアルガのとげとげしい部分がはしらに刺さって宙に浮くオブジェ化してる。

さらにその棘とはしらに挟まれるように、まるでも●もじ君のような形で隙間にアカギが挟まっている。

よかった……グロ画像にならなくて……。

 

「い、一体……何が……?」

「わ、わからないわ……何かが凄い速さで飛んできたんでしょうけど……」

「っふー……ありがとうガブリアス、君のおかげで助かったよ。大丈夫かい?」

「グギォォン♪」

 

自分達が無事である事の証明と感謝として、ガブリアスの鼻先をやさしく撫でる。

ガブリアスもくすぐったそうに笑顔になっている。

結構凶悪な顔してる子だけど、やっぱりポケモンは笑顔になると全員可愛いよね。

 

さて……何がこの場に落ちてきたんだろう、人の言葉が聞こえたような気もしたけど……。

 

煙が晴れて行き、その爆発地帯の全容が明らかになっていく。

風が一瞬強く吹き、土埃が取り除かれたその先に居たのは───

 

 

なんか首長で金やら黒やらとゴテゴテした、なにかのポケモンが

爆心地の中央にある、亜空間っぽい所から顔を出していた。

しかもこめかみ辺りに2個の青筋が見える。

瞳の形を見るに、明らかに「てめぇらうっせぇんじゃコラ」と物語っていた。

えっと、あれ、ポケモン……だよね。あれが落ちてきたのかな?

 

 

「そんな……あれは伝承に隠されるように伝わってたギラティナ……!

 ディアルガとパルキアの力が新しい世界を引き起こそうとした事によって

 最後の防壁の役目を果たすために出てきてしまったのね……!」

「いや、えっと、待ってシロナさん。

 僕も弟ほどポケモンの意思が読めるわけじゃないけど

 あの目を見るからに絶対そんな感じじゃないよ。

 今起きた騒音を非常にうざったく思って、悪ガキ懲らしめるために出てきた顔してる」

「…………ええー?」

 

 

僕がそう述べると、シロナさんは

 

『せっかく格好良く説明が出来ると思ったのに……私歴史学者なのに……』

 

と、地面にいじいじと『ののの』を書き始めた。

 

「ギラァァァァ……#」

「あ、えーと……ごめんなさい?

 いや、このだいばくはつ現場自体は僕らじゃないんだけど……」

「……。」

 

ふー、やれやれ。とでも言いたいような感じで、ギラティナ? は首を振る。

どうやら僕らが騒がしくしていたわけではないのはなんとなく分かるらしい。

って、あれ。今会話してて妙な違和感が。

 

僕らはこのだいばくはつの惨状を作り出したのがこの子だと思った。

でもこの子はそのだいばくはつ自体を怒っている。

 

つまりこの子がこの惨状を引き起こしたわけではない? となるとこの爆発を作った原因は──

 

 

「ったたた……んもー、一体なんなのよ……

 空はなんか気持ち悪い色になってるし、発着場はなんか人がいて危ないし……

 タツヤもいきなりいなくなっちゃったし……もう散々だわ~;;」

 

 

え、あれ。今なんか、すっごい聞き覚えのある声がしたよ?

なんかこう、具体的に言うなら弟の名前まで出てきたよ?

 

首を少し巡らせてみると、シロナさんが爆発によって出来た瓦礫を見て唖然としてた。

僕もそちらの方に首を動かすと、『僕達』にとってはそこそこ常識的な風景があった。

 

 

そこには、色々と愚痴を垂れながら周りを埋め尽くしていた瓦礫を自力でぶん投げ……

あ、投げた瓦礫がパルキアに。

 

「フーちゃん大丈夫~? やれやれ……私もまだまだ若いと思ってたけど

 あの程度の勢いを相殺出来ないんじゃ、トレーナー引退して正解だったわねぇ」

 

 

そしてその常識的な風景の中にいたのは。

 

世界が間違って生み出した存在である、僕らの母親が瓦礫をぶん投げ続けていた。

 

 

「な、なんなの、あれ……。ねえガブリアス……私、さっきの爆発で死んじゃったのかしら」

「グッ?! グギォン!?」

 

僕らの母親を見てシロナさんは全てが信じられないかのように呆けている。

これも僕らの中ではある意味常識と化した風景だ。

 

旅に出てから、そんな風景が日常ではない事を知った。

 

「ちょっと母さん、一体どうしたんだよこんなところにッ!?」

「え、母さんッ!?」

「ん、あら? あらー? やだちょっとシンじゃないのっ!

 久しぶりねー! 元気してたの? そういえばシンオウに行くって言ってたわよね!!」

 

僕の言葉にドン引きするシロナさんと

再会を本当に、そこら辺のご近所のおばさんと変わらないノリで喜ぶ母さん。

 

「いや、うん久しぶりだけどさ?

 って、フーちゃん! すごい怪我してるじゃないかっ!!」

「フ、フリィ~~~……」  ぱたり

「あぁ、フーちゃんしっかり!! ちょっと母さん、かいふくのくすりとかないの!?」

「え、いや……大吟醸なら5本ぐらい持って来てるけど。

 あとおつまみ。えへへー、いいでしょ。柿の種だぞ! 柿の種!!」

「ああもう話にならないやっ! シロナさん、かいふくのくすりないかな!?」

「え、あ、はいっ!!」

「ありがとうっ! さ、フーちゃん……これを……」

 

 

シロナさんから奪う様にしてかいふくのくすりを借り、僕はフーちゃんに薬を与えて行く。

高級品なのも相まって、フーちゃんの体はどんどん回復していった。

 

「フリィ~~♪」

「あーよかったー……大丈夫かい? フーちゃん。

 ちょっと母さんッ! もっとフーちゃん大切にしてあげなきゃ駄目じゃないかッ!!」

「え、えっと……てへぺろ☆」

「ガブリアス。あれに地割れしてくんないかな」

「グギォ!?」

「えへへ、ご、ごめんなさい?」

 

もう話にならないから、僕からゲンコツをプレゼントしておいた。

久しぶりのゲンコツだったからちょっと手が痛いけど

この母親、少し痛い思いをしないと学習してくれないから困る。

 

「えっと、その、シン君のお母様、ですか?」

「え? あら! あらあら! 何よ~シン、この可愛いお嬢さんは!

 貴方も普段はぼんくらっぽい態度なのにこんな可愛いお嬢さん捕まえて!!」

「それ朴訥(ぼくとつ)じゃないの? なんだよぼんくらって、酷いなぁ」

「んもぅ、あなたなんてどうでもいいのよ!

 こんにちわ! 可愛いお嬢さん! 私はこの子達の母親のレンカっていうの。

 こんなところで奇遇だわね~!」

「あ、はい、えっと……シロナ、と申します。よろしくお願いします……?」

「あら~礼儀正しいわぁっ! これは将来が楽しみ……ウフフフ」

「いやもうそんなんどーでもいいからさぁ。一体こんなところに何しに───」

 

問いただそうと思ったところ。

先ほど埋まっていたギラティナという子が、バサリと空から降りてきた。

おっと……それでなくとも騒がしいとして怒ってたのに

母さんと僕らの邂逅でさらにうるさくなっちゃったから、それに怒ってしまったのかな。

 

「えっと、ごめんねギラティナ。すぐに退散─────」

「あら、貴方って……タクト君のポケモンかしら?」

「ギラッ!」

 

母さんの言葉を聴いて、ギラティナは僕の母親に(こうべ)を垂れる。

なんだ、なんだろう、なんだこれ。

なんでシンオウ地方の隠れ伝説的な存在と母さんが既に知己(ちき)なんだ?

 

「タクト君が『修行に行ってきます』って言って

 その前段階で、手持ちの殆どを逃がしたのは知ってたけど……

 あー、既にタクト君と一緒だったから

 貴方ってアルセウスと逢いに来た時にここにいつもいなかったのねー」

「ギラッ?!」

 

ギラティナは【何故そのお方の名をッ?!】とでも言う感じに仰け反っている。

いや、僕はタツヤ並にポケモンの洞察に優れてるわけじゃないから違うかもだけど。

 

「んっ♪ まあいいわぁ。あ、そうだ! シンとシロナさん!

 私これからお友達に会いに行くんだけど、よかったら来ない?」

「え、友達……? ここに来たのって間違って墜落したんだよ、ね?」

「は? いや、違うわよ? ここから友達んちに行けるのよ」

「友達のおうち、ですか……?」

 

僕もシロナさんも会話がよくわからない。なんだ、友達って……ポケモン、なのか?

でもディアルガはあそこでオブジェになってるし……

あ、アカギが何処に消えたかと思ったら、パルキアの下敷きになってる。

つまり風景として認知出来るパルキアも友達ではないよね……。誰の事だろう?

 

「んじゃまぁサッとお邪魔しましょっかね。えーとあれがここだから……あ、ここね」

 

僕らの疑問をおいてけぼりにして母さんは何かを見つけ出し、懐から取り出した笛を吹く。

なんでこんなところで笛を……?

 

と思った次の瞬間。

 

「あ、出てきた出てきた♪ ほら、みんな行くわよー♪」

 

なんやら天を突き抜けるような透明な階段が出てきた。

 

「          」

「……シロナさん、行こう。僕んちの母親がイカれてるのは今に始まった事じゃないんだ」

「え、ええ……」

 

シロナさんは僕の声で再起動に成功し、ひとまずガブリアスをボールに終い

ずんずん上がって行く母親に付いて行く事になった。

 

 

「……結構、長いね」

「ええ、私達は元々フィールドワーク派だから問題ないけど……ちょっとこれは、怖いわねぇ……」

 

 

そう、今も母親はズンズンと上に進んで行ってるんだが

それが初体験な僕らとしては現在進行形で寿命が縮みそうである。

階段自体が透明に近くて、その透明の下はもちろん広大なシンオウが広がってる。

 

僕もシロナさんも基本的に歩いて移動をしているため、スタミナはある。

というか一番バテてるのがついてきてるギラティナってのはどう言う事だろう。

 

「ギ、ギ、ラ……」

「あの……ギラティナ、大丈夫かい?」

「ギ、ラー」

 

んー、大丈夫って感じに返答してるけどなんかちょっと危なっかしいんだよな……

まあ、20分以上も上がり続けてるし、大丈夫かな?

フーちゃんも普通に母親の後ろをぴょんこぴょんこって1段ずつ上がってるし。

 

「さーてついたついたー! おーいアルセウスー!! ひっさしぶりに来たわよー!!」

 

母さんが頂上に辿り付いた的な発言をした後

ポケモンの名前だろうか、それを口にしてまたズンズン突き進む。

 

確かにその先は階段がなくなってる、どうやら本当に頂上のようだ。

 

「さ、ギラティナ。頂上みたいだよ。あと一歩だから、がんばろう?」

「ギ……ラァ」

 

まさに、ふーやれやれと言う感じに溜息を付くギラティナ。

こういう態度だけ見ると、ゴツくて格好良いけど、可愛く見えるなー。

 

『また来たのか……レンカよ。

 最近は、子育てがとても楽しいと述べておったのではなかったか』

「いやーそれがねー聞いてよもう……

 一番可愛がってる次男が私に何も言わないで出ていっちゃってさー。

 あ、コップとかお皿とか出してくるわねー。」

『好きにすると良い、それは元々妾のモノではない。

 汝が勝手に置いて行ったモノだろう』

「細かい事は気にしなーい。ほら、今日は良いお酒持ってきたんだから!

 大吟醸よ、大吟醸!! 今日は一緒に飲み明かしましょ!!」

『ふむ、酒の良し悪しは妾にはわからぬのだが……

 汝が良いというモノなら、少しは期待しても良いのか?』

「何言ってんのよー。このお酒はね……

 勘違いの日本かぶれアメリケン共を1発で意識改革出来る位おいっしーお酒なのよ!!

 超奮発したんだからねっ! 味わって飲みなさいよ!!」

『ふふふ、そうだな。1年振りの邂逅である。楽しく過ごさせてもらうとしよう』

 

なんだろう。一体何が起こっているんだ。

 

母親と一緒に、すっごいフレンドリー? な感じに喋ってるポケモンがいるんだけど

ぱっと見ただけで分かる。あれは伝説なんて生易しいもんじゃない。

 

明らかに創造神クラスの、偉大な御方である存在だ。

 

「あ、そうだ。ちょっとアンタあの子達3匹とも呼んでよ。

 可愛い子にお酒を注がれるのはたまらないのよ~♪」

『む、泉の守護者達の事か? 汝がそう望むなら呼びかけておこう』

「あ、ほらほら、シンにシロナさん♪ ギラティナちゃんも!

 そんなところで突っ立ってないでこっちこっち!

 一緒に飲みましょ! あ、でもシンはサイコソーダで我慢してネ☆」

「……えっと、うん、わかった」

「えと……いい、のかしら?」

 

ここまでになったらいつもの事だ。

思考を放棄した方が色々楽なのは昔からの事なんだよね。

母親がどこからか取り出したちゃぶ台の周りに僕らは座る。

ギラティナがアルセウスさんと目を合わせ指示をもらったのか

ちょっと奥に行って、座布団3枚を口にくわえて持ってきてくれた。

その座布団を僕らは貰い、座る場所に敷いて行く。

 

そのぐらいの頃合に、3匹のポケモンがここにテレポートしてきた。

ってちょ。泉の守護者って辺りで若干予想してたけど

さっきまでギンガ団に囚われてたユク・アグ・エムリじゃないか。

 

「はーい♪ 久しぶりねーみんな……あら? なんか心持ち弱ってる感じがするわね」

「あ、母さん。彼らは───」

「そーんなんじゃ駄目じゃないのー!

 ほら元気出して元気! 病は気からって言うんだから!!」

 

バシィー

 

「アグゥーーーーーーーーー!?」

 

あ、母さんが気楽に叩いたらアグノムが吹っ飛んでいった。

母さんも「あ、やっちゃった」って顔をしてる。

 

とりあえず仕方ないからゲンコツしてアグノムに謝っておいた。

 

「本当にごめんね……ってか君達、母さんと知り合いだったんだね」

「アグゥー……」

「ダメダメ、あんなので吹っ飛んでるようじゃサカキ君にも勝てないわよ?」

「母さんみたいな規格外と付き合える人たちと一緒にしたら駄目だよ!」

「あ、なにそれひどーい。ぶーぶー。アルセウスぅー、息子が酷いのよぉー……」

『……息子よ、汝も苦労しているのであるな』

「あ、わかってくれますか」

「ちょっとアルセウスまで!? シロナさん~;;」

「あ、えーと……よ、よしよし~」

 

場の殆どが敵に回った事で、余り自分を知らないシロナさんに救援を求める母さん。

 

「ええーーーーい! こうなったらもう自棄酒よッ!

 ほらほら、アルセウスもどんどん飲みなさい!!

 今日は無礼講よ! そこの守護者ちゃん達もたっぷり飲みなさいー!!」

『ユクアグムーッ!!!』

 

アカギ達にしてやられた鬱憤が溜まっていたのか

母親のその声に3匹は勢い良く乗って、配られたコップに注がれたお酒を一気に飲む。

ぶっはーーーーと口から出す息はとても親父臭いと思った。

一緒に旅したいなって思ったけど、彼らを連れて行くのはやめておこう。

 

「……せっかくだから、私たちも飲んじゃいましょうか」

「まあ、考えるだけ無駄なのは間違いないからね……

 注ぎますよシロナさん、普段からお世話になってますし」

「あら嬉しい、よろしくお願いしちゃおうかしら? フフフ」

「ほらちょっとギラティナちゃん!!

 あんたそんだけ体大きいだから一升瓶一気ぐらいしてみせなさいッッ!!」

「ギ、ギラァッ?!」

『ふふふ、ギラティナ……今日は無礼講だ。妾が許す故、存分に飲むが良い。』

「ギラ……ギラァァァァァァアアアアアッッ!!」

 

アルセウスさんの許可が出て覚悟が決まったのか

ギラティナは一升瓶の注ぎ口を自らの口でくわえ

ビンを逆さにしてゴッキュゴッキュと飲み干していった。

 

「お、いいわねーギラティナちゃん!

 ほれ一気! 一気! 飲んでのーんで飲んで! 飲んでのーんで飲んで!!」

 

母さんは既に酒が回り始めたのか、いやこれ元からだっけ?

手拍子を叩いてギラティナを応援し始める。

 

そして1分後、そこそこの度数を持つ大吟醸を1本一気飲みしたギラティナが

ふらふらに目をまわしつつも任務を達成。場が盛り上がる。

 

僕は酒を飲めないので、母さんが持ってきた柿の種を

ピーナッツ選別を繰り返しながらぽりぽり食っていた。

 

「一番ッ!! レンカッ!! シンオウにメテオを放ちますッッ!!」

『やめよっ?!』

「やめてっ!?」

「えー。ぶーぶー。」

「じゃ、じゃあ2番ッ! シロナ! ポケモンと一緒に歌いますッ! おいで、ミロカロス!!」

 

ペカァァァァンッ!!

 

 

「ホアァァァァァァァァーーーーーーー!!」

「さ、ミロカロス……準備は良い?」

「ホアァァーーー!!」

「へーい!!」

 

母さんが掛け声と同時にリズム良く手拍子を打ち始めた。

周りの守護者やアルセウス、ギラティナも

軽くちゃぶ台を叩いたり、飲んでいるビンを小突いたりしてリズムを取り始める。

 

 

「わたしはー! こんなにー! あなーたをーあいしているのーにー!

 あなたはーちっとも 気付いてくれなーいー!

 焦る恋心にー! くすぐるあなたの指先はー!!

 とても切なくてー! 目を逸らせないー!!」

「ホァ~~!! ホーアアァーーー!」

「なーぜー、いとしいあなたはー! わたしをー置いて その道を行くーのー!!

 こんなにもー、共に歩きたいーとー願ってやまないー、貴方の傍にー!

 寄りそう願いを、この手にー!!」

「ホーーーーァーーー!!!」

 

『良いぞー!』

「ヒューヒュー!」

「アッグゥーーー!」

「ギーラーーー!!」

 

 

こうして宴会は時と共に更けて行く。

 

タツヤ、こっちで出会った常識人のシロナさんまで僕たちの母さんのノリに染まっちゃったよ。

せっかくだから君もここに巻き込まれてしまえばよかったのに。

 

 

君は、元気にしてるんだろうね。

今日はどこの空の下にいるのかな?

 

 

 

 

       ド         ク          ン

 

 





一口メモ。シン16歳、シロナさん21歳。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 99% タツヤ

ついに問題作のお話に到達。
文字で表現出来ないがために、どうしても必要だった挿絵が入ります。
作者のへたくそな絵とかそういうのではないのでご安心ください。



64日目 晴れ

 

私達の主様が目覚めなくなってから、2ヶ月が経ちました。

 

毎日お見舞いに来ていますが、今日もいつも通りに健やかに眠っていました。

ずっと一定の強さの呼吸を繰り返しています。

きっと、とても楽しい夢を見続けているのだと思います。

 

お医者さんが言うには、容態が狂わない限り死ぬ事はないと言っていました。

でも、どうしてあんなに苦しそうな顔で仰ったのでしょう。

 

今日は、お部屋に飾っているお花を入れ替えました。

お花はサカキさんが買ってきてくれました。

私をモチーフとした感じの花を選んだと言っていました。

 

主様はいつ目覚めてくれるのかな。

今日は、気付いたら主様のお腹の上に頭と腕を乗せて眠ってしまいました。

迎えに来てくれたダグ3さんにゆっくり起こされて、ポケモンセンターに帰りました。

 

今日もご飯は食べる事が出来ませんでした。

最近、ご飯を食べなくなってからお腹が減らなくなりました。

ミロカロスさんにも心配されたけど、私は大丈夫です。

 

 

早く、主様の声が聞きたいな。

 

 

 

 

タツヤが意識不明になってから、65日目。

 

今日も午前中にドレディアが奉仕活動を済ませ、いつも通りの日課として病院へ向かう。

いつまでも目を覚まさない主のために、今日も主の顔を見に行く。

 

タツヤが倒れてからのこの2ヶ月、関係者の方はかなりの変化を遂げている。

 

ドレディアに関しては、とても懐いていた主が倒れてしまい現在進行形で覇気の欠片も無く

ドレディアに従事している元暴走族達もそれが不憫でならない様で、

自分達の姐御を元気付ける方法は無いだろうかと模索している。

 

タツヤがドレディアに慕われたのと同じく、元暴走族達もドレディアを慕っていた。

 

ダグトリオはあの決心した日から、ずっと修行漬けの毎日である。

自分の主であるトレーナーが倒れているため、トレーナー戦も出来ず

ひたすら自分達とムウマージを相手取り、満足が行くまでとことん修行。

たまに『ふたごじま』まで出張し、弱点属性相手に対しても奮起しており

結果、成長率1/3のハンデを背負った上で、Lv64まで上り詰めている。

残念ながらムウマージは元々の実力がおかしいため成長らしい成長は見られていない。

 

一方、彼が懇意にしていた弾頭の方はというと

ある時期を越えてから突然業務成績が跳ね上がり、サカキの負担はかなり軽減された。

現在もその勢いを維持しつつ、会社の報告を聞いたりトキワジムを再開したり

(せわ)しなく各地を動き回っている状況である。

 

人員整理の際にトレーナーとしてやりたいと言っていた者達は、サカキに連れられ

トキワジムにて徹底的に(しご)かれ、次期リーグの予選突破は確実と言われ始めていた。

 

そして業務を拡張した際に、当然外部の人間も会社に招き寄せるのだが……

会社への所属としての、人員登録の際の突破率の低さでも有名になりつつある。

最近他の地域でも、この弾頭と同じように人材派遣を行うところが出てきた。

真似されてしまうなら、せめてこちらは人材の質で勝負という方針を代表取締役のサカキ自身が打ち出し

仕事の質が悪くとも、とにかく仕事を放り出さない様な剛の精神を持つ者を優先して雇っている。

 

行き場の無い者達を拾い上げるのはいつもの事だが

それに相応しくないと思われる人員は、地下施設の管理に回されている状態である。

 

弾頭に寄り添いながら現在を過ごしているミュウとミュウツーに関しては

特に特筆すべき事も無いのだが、彼が復活する日を心待ちにしているため

彼が寝ている所で拠点として程近いこの弾頭に、未だ居付いている。

その影響は小さいながらも、確実に弾頭の利益には繋がっており

ミュウツー本人も、働き詰めでなまった社員達にポケモンバトルで活やらテコ入れを施している。

人間嫌いはどちらも随分改善してきたようである。

 

皮肉にも彼が倒れてから、彼が理想とする形で効率良く回り始めていた。

 

 

 

 

カチャ

 

今日もドレディアの短いようで長い一日が始まる。

昨日と、今までと変わらずタツヤは病室で寝続けるだけ。

 

「ディァ~」

 

その声は病院と言う事を考慮しても、あまり元気も感じられない。

ベッドの傍にある椅子に腰掛け、今日も静かにタツヤに語りかける。

 

「ディ~ア、ドレ~ディァ~」

 

その様子はさながら、長年連れ添った夫婦染みた空気を出しており

部屋の中を見た関係者はいつも揃って、深い嘆きを吐き出していた。

あまりにもその様子が痛々しくて、何とか出来ないのか……と。

 

話しかけても彼は相変わらず寝息を立て続けるだけ。

いつもと変わらない日常と化したこの日々、さしものドレディアも思い始める。

 

 

彼は、もう動く事はないのではないか、と……

 

 

そんな想いが突然()ぎり、思いがけずドレディアから涙が溢れる。

最近は泣く事も我慢出来るようになってきていた。

しかし、止める間もなくどんどん涙は溢れてくる。

 

「……ァ……アァァー……」

 

今まで我慢出来ていたのに、何故今になって溢れかえってくるのかが分からない。

しかし止める事すら出来ず、ついには声すら上げて泣き始めてしまう。

その嗚咽は、世の理不尽全てに対して上げるような声に似ていて──

 

 

その手から零れ落ちた涙が、床に落ちてピチョンと音を立てた時

 

 

突然事態は動き出す。

 

 

 

 

       ド         ク          ン

 

 

 

 

「──……ッ?! ド、レディァッ……!?」

 

突然、生々しい何かが音を立てる。

しかしその音の原因がなんなのか、ドレディアにはわからない。

涙すら拭かず、その顔をキョロキョロと回し、それに気付いた。

 

「…………ぅ……ぉ……」

「……ディァッ!? ディッ!! ディァーーッ!!」

 

なんと今までずっと沈黙を保ち続けていたタツヤに、ついに何かの反応が現れたのだ。

その声は、呻きにも似ていて、どこか苦しそうである。

 

しかしその傍に居るドレディアはあまりにも突然な主の反応に期待を抱かざるを得ず。

結果、苦しさも気にせず体を揺らす。

 

「ディッ! ドレディァッ! ドレディーーーーアッ!!」

「ぁ……ァァァァ……ァァァーーッッ!」

「ディァッ?!」

 

ここまで来てドレディアは漸く気付く事が出来た。

 

 

主様の様子がおかしい。

 

 

その顔色も、今まで無表情に寝ていたものと違い……歯を食いしばっており

自分の中に襲い来る何かに必死に耐えている様子だ。

 

───これは、私だけじゃ何も出来ない。

 

そう判断し、すぐさま部屋にあったナースコールスイッチを押す。

以前職員から説明を受けていたため、その行動は素早かった。

 

しかし押したところですぐに誰かが来るわけでもなく

その間にも自分達の主の顔色は一層悪くなっていき……誰かが来るまでの時間が非常にもどかしい。

 

「ディッ、ディァッ……!」

 

【私はここにいますよ】と主張するために、ドレディアは静かに主の手を握る。

どうか、無事でありますようにと、何かに願いながら。

 

 

【……つまらぬ】

【ん、何がだい。】

 

今日も変わらず、ミュウツーとミュウは地下施設にて時を過ごす。

 

【あいつが起きてこないから、やる事が少ない】

【君どんだけあの子に依存してんのさ……】

【違う、依存ではない。私が暇つぶしと思う事例の全てにあいつが関わっているだけだ】

【それが依存以外のなんだって言うんだいー?】

【ぬ、ぐ……】

 

日頃は社員の訓練やら、ときたまゲームフリー●の社員が来て

彼と一緒に熱弁を繰り広げている様子は見られはするが……

社員達も社員達で所詮バトルの錆びを取る目的、熱が入るバトルなどには発展しない。

フリー●の社員との会談は、実るものこそあるが

どうしてもタツヤを混ぜた会談とは見劣りしてしまうものがある。

 

【ふぅ……もうゆめくいでもして強制的に起こしてしまおうか】

【ダメージ負って寝てんのに、さらにダメージ与えてどうすんのさ……】

【そこはあれだろう、人間達も良く言っているではないか。

 マイナスとマイナスを掛けたらプラスに───】

 

 

───バタバタバタバタバタッ!

 

 

【───……む?】

【……んー?】

 

外が突然騒がしくなり始めた。

 

最近ではこのような事も滅多に起こらず、だからこそWM(ダブルミュウ)も暇をもてあましている。

ジムリーダーの仕事に関しては、何もすることが無いためミュウもサカキに付いていっていないのだ。

 

ミュウツーは部屋の扉を開け、外の様子を確認する。

 

【騒がしいぞ、一体何があったのだ】

 

走っていた弾頭社員を一人捕まえ、問い質す。

 

「あ、ミュウツーさんッ! 大変です! い、今からボスのッ……!」

【サカキなど知った事ではない。私は何があったのかを聞いているのだ。】

【こらミュウツー。君コワモテなんだから、そんな脅すように差し迫っちゃ駄目でしょ】

【人が少し気にしている事を言うな……!】

「あ、いや……私達も大分慣れましたから……って、違うッ!? タツヤさんっ、タツヤさんがっ!!」

【【ッッ!?!?】】

 

その社員の報告を聞いて驚く。

ここ2ヶ月の間一切変化が無かった、病院で寝ている彼に何か変化があったのだ。

 

【説明しろッ! あいつに一体何があったッ!!】

「は、はいっ! 今病院から連絡があって……病状が悪化しているかもしれない、とッ!」

【行くよッ! ミュウツーッ!!】

【言われずともッ!!】

 

職員の言葉を聴いてからの彼らの行動は、まさに血族。

一糸違わぬ様な流れる動きとタイミングでミュウのテレポートにミュウツーが付いていった。

 

「───私も、早く皆に知らせてこないと……!」

 

WMがテレポートしたのを確認した職員は

先に走っていった社員達に遅れ、再び施設内を走り出す。

タツヤの手持ちである彼らに、報を知らせるために。

 

 

一方こちらはトキワジム。

 

「まだまだ気合が足りんぞォ! ドサイドン、地割れで巻き込め!!」

「ゴォオオオオッ!!」

 

今日もトキワジムでは、サカキが日頃のストレス解消のために大暴れしている。

弾頭の経営も順調ではあるものの、やはり人と人の間で交渉する手前

悪態しか付く事が出来ないレベルで付き合いたくない人間が存在しており

その人間が『相手方のTOP』、つまりはお客様の最上級であるため手に負えない。

 

そんなストレスを、余り出回らずとも良くなった身を効率的に、として

以前より頻度を増したトキワジムの再開に、所属トレーナーが割に合わない目を喰っている。

 

 

「───今だマルマインッッ! その地割れ、飛び越えて突撃ッッ!」

「ガゴガーゴォオオオンッッ!!」

 

 

しかしその鬱憤の捌け口の所属トレーナーもがんばっているらしく

安易にオールキルをやられはしない、と気負っている。

 

「甘いわッ!! ドサイドン、マルマインを打ち上げろっ!!」

「ゴオォオオオオオォッ!!」

 

ドッゴォンッ!

 

まるでバレーボールのように、突撃してきたマルマインを両手で救い上げて

ジムの空中へとマルマインをぶち上げるドサイドン。

 

マルマインはその関係上、空中で放り出され身動きが取れない。

 

「ッ……!」

「落下地点を見定めろ!! ドリルライナーで突撃ッ!!」

「ゴォォォォォォォォオオオオッッ!!」

 

 

勢いよくドサイドンは踏み出して行き、突撃を繰り出す。その勢い──まさに戦車。

 

「───マルマイン、だいばくはつだッ!!」

「ガゴガァァァアアアーーーーーー!!!」

「なッ!?」

 

苦手な地面技、負けを確信したのかマルマインのトレーナーは

せめて相打ちに、と……最後に決死のだいばくはつを指示する。

 

 

すさまじい爆音の中、マルマインは自責ダメージで倒れ……同時にドサイドンも倒れ───

 

 

「ッゴ…………!」

 

 

倒れなかった。

 

元々ドサイドンは物理耐久だけであれば凄まじい性能を誇る。

いかなだいばくはつと言えど、元々の属性や耐久力もあって耐え切る事が出来た様である。

 

「ありがとう、マルマイン……戻ってくれ」

「よし、ドサイドンよくやった。マルマイン使いよ、お前も……強くなったな」

「ハッ! 光栄ですッ!」

 

マルマイン使い……彼はサントアンヌ号事件において人質部屋を管理していた団員だ。

あの件で逮捕され、刑務所でじっくりと更正生活を送っていたのだが

弾頭の経営が安定してきたところでクチバの刑務所の方にも出向き

件の襲撃事件の団員達を全員取り入れ、説得と組織への組み込みをしたのだ。

 

「今回はドサイドンの耐久力がひとつ上を行ったが、だいばくはつに耐え切れる者は少ない。

 せめて後に続くようにと考えたその判断は良いものだろう」

「ありがとうございますっ!」

 

そして、その中に居た彼は……あの時のマルマインと共に歩む事を決め

トレーナー志望としてトキワジムでジムトレーナーとしのぎを削りあっていた。

 

「ふむ、そうだな……一度トキワジムを出て、ジムバッヂを集めてみてはどうだ」

「え……」

「お前はこのジムで言うなら間違いなく新規精鋭だ。

 このジムだけではいずれその成長も頭打ちとなるだろう。

 色々なタイプと戦い戦略と戦術を研究してみるんだ、お前の柔軟性は私が保証する」

「あ……は、はいッ! ありがとうございますッ!」

 

勢い良く頭を下げ、サカキに例を告げるマルマインのパートナー。

その様子を見て、サカキもこう思わずにはいられない。

 

(後輩は……着実に育ってきている。

 私も今の地位に満足したままでは、いつか足元をすくわれそうだな)

 

今まではロケット団との二束草鞋(にそくわらじ)の生活でバトルの機会にも恵まれず

サカキ本人の腕は、全盛期よりめっきりと腕が落ちていったものだが

ここに来て、若者連中に勝ちあがりたい欲を刺激され始めている。

 

 

やはり───この空気、悪くない。

 

 

そう思わせる何かが、ここにはあった。

 

 

ッバン!!!!

 

 

「ッ?!」

「え!?」

 

突然バトルステージの入り口が音を立てて開かれ

その先には息を切らしたトキワジムの事務員(女)が居た。

彼女も弾頭構成員であり、人材派遣としてこちらに出向している。

 

「ボ、い、いえ……! サカキさんっ! 大変ですっ!

 タツヤさんの容態が悪化したと弾頭本社から連絡がッ!!」

「……──なんだとぉッ?!」

「び、病院から連絡があって、なにやら苦しみだしたとの事です!」

「ッ……すぐにタマムシへ向かう! すまないみんな、急用が出来たッ!!」

 

サカキはすぐさまトキワジムを飛び出し、用意していた弾頭所属のそらをとべるポケモンに乗り

すぐさまタマムシへ向かうように指示を飛ばす。

 

 

結局マサラの付近であるトキワに最近通い詰めているものの

タツヤの母親であり、自分の師匠でもあるレンカにはついぞ出会えていない。

彼女の家の近くにはオーキド博士の研究所があり、一度尋ねてみたところ……

 

「わしも一度彼女を訪ねてみたんじゃがのぉ。

 なんかアルセウスとかってポケモンに逢ってくるーとか言って

 前日に酒屋で大吟醸買いまくってたぞぃ。確かシンオウに住んでるとか……」

 

と、相変わらずぶっとんだ答えが返ってきた。彼女を縛れるものは何もないようである。

 

そして彼女が居ない間にタツヤ君に何かあれば……多分、サカキが死ぬだけでは済まされない。

彼女のタツヤへの溺愛っぷりは、タツヤが旅立った理由からして

『タツヤ達の朝食をほっぽってどっか行く事なんぞ有り得ない』というのが

世間があの家族を見る際の見解だったからだ。

 

「頼む、命に関わるような内容は勘弁してくれ、タツヤ君……!」

 

複雑な思いを乗せ、サカキは空へ舞う。

 

 

一方こちらはタマムシ病院。

現在も、タツヤは何かにうなされ続けている。

 

「う……ぁ、ァ……ァァッ……!」

「…………ディ……!」

「心拍は現在正常です。ただ……この汗は一体……」

「これは、多分……何か……」

「何か……なんですか?」

「悪い夢を見ている時と状態が似ている気がするよ」

「悪い、夢……ですか」

 

病院の看護士も、言われてみれば似ているような……と、ふと思った。

自分も寝覚めの悪い夢などを見ていたら、寝汗がびっしょりだったのを思い出した。

 

「……彼には悪いが、これはもしかしたら良い傾向かもしれない」

「ア゛ァッ?!」

「今まで、夢を見ることすらなくずっと寝ていたんだ。

 悪い変化では有るかもしれないが、彼の脳が再度活動を始めたのかもしれない」

 

医者が言う分にはどうやら、今まで無反応だった時よりマシではないか? との事だった。

確かに、そうであれば何かしらの内容があって突然目覚める可能性も無くは無い。

だが、今の時点では彼の状態が悪夢であると確定したわけでは───

 

 

キュゥゥウォン!!

 

 

「ッ!?」

「うおっ……なんだっ?!」

 

突然部屋の入り口が光りだす。

光が終わった先に居たのは、弾頭御用達のエスパーポケモン2体だった。

 

「ディァッ!!」

「あ、ああ……君達か。話を聞いてこちらに来たのかい?」

【そうだ……むぅ、なるほどな。悪夢の可能性がある、ということだな?】

「!、っと……君は人の心が読めるんだったね。

 その通りだ、反応が一切無いよりは何かしらの刺激になって良いと思ったんだが」

 

「う、ぁ……ぁぁぁっ……!」

 

タツヤは、うなされながらその虚空に手を伸ばす。まるで──何かを動かそうとするように。

 

【……お医者さん、本当に彼はこのままでいいのー?】

「正直なんとも言えない……悪夢を取り払ったら刺激はなくなるだろうし

 かといってこのままにしてたら体が付いていけない可能性すらある」

【……後者になっては目も当てられんな。仕方が無い、私が悪夢をなんとかしよう】

「え、そ……そんな事が、あ。そうか! 君は、心の中を……!」

【そういう事だ。少しどいていろ。ドレディアよ、お前もだ】

「ッ…………」

 

自分では何も出来る事が無いのを思い知らされ

握っていた手を離し、少し距離を開けたところでミュウツーがそこに入る。

 

【ついでの大盤振舞いだ……ミュウ、手伝え。

 全員にこいつの悪夢の現状を見せるぞ。何かしら解決法も思いつくかも知れぬ】

【あ、あれやるんだ。わかったよー】

「そ、そんな事まで……君達は一体何者なんだッ!?」

【ふ、さて……な? では息を合わせろよ、ミュウ……】

【うんっ!!】

 

そしてWMは静かに瞑想を始め……

数秒後に両者とも輝き始める。部屋は眩しい光で埋め尽くされ───

その光の中に、現在タツヤが見ていると思われる悪夢が晒け出された。

 

 

 

「ぁ、あぁぁぁ……だ、だめ、だ……そんなっ……ちが、違う……その、横だ……!

 そこじゃ、無いんだぁぁ……! あぁ、次のやつまで……!

 やめ、やめてくれ……俺に、その光景を……見せないでくれ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

その映像を見て、全員が別の意味で固まってしまう。

一体この画像がなんなのだろうか、これの何処が悪夢なのだ?

 

 

【……何これ。】

【……私に聞かれても、困る】

「……なん、だろう。この四角だらけの映像……? これが、彼の悪夢なのか?」

「もしかして……これ、パズルとかかしら?」

「ディァ…………」

 

 

あまりといえばあまりの謎な悪夢に、一同は一体どうしたら良いのかわからなくなった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 387% 悪夢の終わり

 

 

「うぅ……うぅぅ~……! 違う、そこじゃないんだっ……あ、が、ぁぁぁああぁ……!」

 

 

全員が呆けている中、タツヤの方は真剣に苦しんでいた。

しかしこの場における者達が、これをどう判断すればいいかわからない。

 

【……医者よ、この状態をどう見る】

「……おそらくは何かしらの謎解きなのではないか、と思う……

 今動いてた棒の様な形のモノが入れるように、隙間が開いているだろう?

 あそこに入れる事で、隙間を埋めたかったのではないかな……」

「そう……ですね、確かにそんな感じですね」

「ディァ……」

「じゃあ、いじってみて───」

【無駄だ。】

 

そこへ、ミュウツーがストップを掛ける。

 

「……どうして、かな? 君もやはりこのままの方が良い影響があると思うかい」

【いや……それ以前の問題だ、我々が触れて改変すること事態が無理なのだ。

 触れると思うのなら、何かやってみても良いぞ……どうせ何も起こらん】

「ディ……アァー」

 

ミュウツーに促され、自分達が見ている風景に手を入れようとしてみたが

どういう原理が働いているのかはわからないが、目の前に見えるモノは遥か遠くにあり

手をブンブンと振り回しても、彼の見ている図は……やはり一切の変化が見られなかった。

 

【元々が、うなされているなり何なりの理由で

 横から声を掛けたりしてアドバイスが出来ればという事で、こうしたのだが……

 これは予想外すぎる、一体私達に何を求めているというのだコイツは】

 

ミュウツーが言うには、今自分達が見ている映像は虚像でしかなく

触れる事の出来ない媒体であるとの事らしい。

 

「そ、そうか……まあ、確かに予想外なのは否定しないでおこう」

「まさか彼……2ヶ月間もこれだけのためにうなされてたんですかね」

【いや……おそらくそれは無いだろう。私達もたまにこいつを見に来ていたが

 頭の中を覗く限り、夢を見ている片鱗すら見られなかった】

「ということは、やはり脳が目覚めたと言う事か」

【だろうな……さて、ミュウにドレディアよ。

 何かこれに関してこいつに声を掛けてやれる事はあるか?】

【んん~、僕はちょっと夢の中までは専門外だからなー……】

「ディーァ───」

 

 

…………ダダダダダダダダダダダダダダダッッ!!

───ちょっと! 病院内では走らないでくださいッ!!

────む! も、申し訳ないッ!

 

 

【───ん? なんだ?】

「廊下、かな? 誰かが走ってきているようだね」

【ってか、あの声……取締役さんじゃないの?】

「ディ、ディァ」

 

どうやらサカキがようやっとタマムシについて

この部屋を目指して疾走していたところで、看護士に捕まり注意されたようだ。

今日もカントーは平和です。

 

「タツヤ君ッ!!

 タツヤ君はまだ無事かッ!!」

 

 

ガラッ!!

 

 

バキィッ!!

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「あっ」

「あっ」

【あっ】

【あっ】

「アッ」

「えっ?」

 

 

───まず先に状況の整理だが。

 

ミュウツーや医者達がいる場所はあくまでも室内である。

そしてここでミュウツー達が不思議な技を使い、タツヤの夢を映像化する。

 

映像化されている場所ももちろん、タツヤの病室であるわけだ。

 

故に外側の病室入り口も、この映像のどこかに合体する形で存在している。

小学校や中学校で見られた、OHPという影絵のようなものを壁に写しているのと同じだ。

 

そして、全員を悩ませていた映像の原因は

サカキがドアを勢い良くスライドさせた際、触れられないという話なのに

何をどうしたらこうなったのか、当たり判定が発生してちょうど四角1個分横にズレて

そのまま下段が無くなった縦の棒は、勢い良く隙間にストンと落ちた。

 

 

ぺろろろぉーーん

 

 

不思議な音がした後、縦列の4個分きっちりと横列まで消え

すぐさま上に積みあがってしまう緊急事態は脱したようである。

 

「「…………。」」

【【…………。】】

「ディァー……?」

 

そしてドレディアとサカキ以外、全員異口同音にこう述べる。

 

『『どういうことなの……』』

「な、どうしたのだね……一体、なんなのだ?」

「ドレ~ディァ。」

「なるほど、わからん」

 

 

そうしてサカキが病室へ乱入した数分後。

驚いた事にタツヤの容態は非常に落ち着き始め、ついにはいつも通りの睡眠状態に戻ったのだった。

 

どうやらあれは、彼にとっては本物の悪夢だったようである。

しかしそのゲームが存在しないこちらの世界の人間、ポケモンには

何故にあれが悪夢なのかはサッパリ不明である。

 

 

【……しかし、また元の木阿弥、か】

「そうだ、ね……このまま目覚めてくれればこちらとしても有り難かったけど

 やっぱり、うまくは行かないものだね……」

「刺激のためにも放っておいた方が良かったのでしょうか……」

「いや、結果オーライだろう……。

 ドレディアちゃん、いくらご主人様に良い話かもしれなくても

 あの姿を見続けるのは、君にとってはとても辛かったよね?」

「……(コクッ)」

 

素直に頷くドレディアに、少し笑顔を見せる医者。

 

「患者を治すために新しい患者を増やすようじゃ本末転倒さ……

 何より、一応は脳に刺激があったのは確認出来たんだ。

 もしかしたら、彼は意識を取り戻すかもしれないね」

「ッ!!」

【それはマコトかッ!? 嘘だったら捻じ切るぞ貴様ッ!】

「いやいやいやいやいや! 確定じゃないからね!?

 もしかしたら、だからねッ!? 物騒な事は嫌だよッ!?」

「冗談はさておき……彼は、元に戻る可能性が出てきたのですか?」

「はい、本当に未知数ですが……脳が完全に活動をしたと言うのなら

 目を覚ます可能性は、あるのではないかと思います」

「そう、ですか……」

 

まだ安心出来ない状況かもしれないが、それでもサカキは一息付く。

目を覚ましたところで、脳にダメージがあったのは間違いない。

どこかしらの体の部位に影響があってもおかしい事など無いのだ。

そこは彼が目覚めないと認識出来ないが……。

 

それでも、隣にいるドレディアや社内の空気を感じるに

サカキからすれば、やはり彼には起き上がってもらいたいのが本音である。

 

そして最後に、報告を遅れて受けたミロカロス、ダグトリオ、ムウマージが到着し

タツヤの容態を伝えた上で、全員一安心する。

 

この場に居続けても仕方が無いのは間違いないのだが、サカキ以外は

【せっかく来たんだし、このままご主人様・主殿・△▲☆と一緒に居る】と伝えてきた。

 

自分達の主人が心配なのもあるかもしれないが

やはりドレディアの様子に関しても、心配だったのだろう。

 

【では、私たちは地下施設へ戻る。】

【君達もあまり病院に迷惑かけちゃだめだからね♪】

「ディァー」

『ッッッbbb』

「△▲☆★~」

 

ミュウの問いかけに、5匹? は元気に頷く。

医者もサカキと一緒に部屋を出て、残されるのはタツヤの一行。

 

「……ディ~ァ♪」

 

よかったね、といった感じに寝ているタツヤの手を握るドレディア。

後ろでミロカロスが若干嫉妬の目線で見ているが、その光景はとても微笑ましい。

 

そして、ドレディアが手を握った際……気のせいかもしれないが。

 

 

タツヤが、微笑んだような気がした。

 

 

今日の面会時間も終わり、タツヤの手持ちの全員はみんなで一緒に

ポケモンセンターへ帰って行くのだった。

 

 

 

 

───その日の23時頃。

 

 

 

 

─────。

 

「……んぁ?」

 

ん、あれ……ここどこだ。

あぁ、ベッドだねぇ。やーらかくて清潔だ。

 

……あれぇ? 俺ここで寝る前って何してたっけ……?

 

んー。えーと。

 

まぁいいや。寝よう。おやすみなさい。

 

 

 





ぬっぺふほふ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 0% 0% 0%


まぁ、そんなわけで……一連の挿絵は御楽しみ頂けたでしょうか。
あれをどうしてもはずしたくないが故に、主人公殺しというENDまで引っ張り上げた訳です。
ただの個人のワガママですが、あれは付け合せたかったんだ。




なんとも言えない昨日の大騒ぎ。

蓋を開けてみれば病状悪化ではなくむしろ回復の兆し。

加えて有り得ないような症状の回復、そして回復した後のタツヤの行動……。

 

ある意味では、全てがタツヤらしいといえばタツヤらしかった訳だが……。

 

 

そうして、今日もタマムシで彼らの一日は始まる。

 

 

AM11:00頃。

 

 

ドレディアはいつものように清掃のボランティア活動を終え、病院のタツヤの個室へ足を運んでいた。

その足取りは昨日とは打って変わって、軽やかである。

 

共に行動するドレディアの舎弟達も、この変化には気付いており

彼等も一緒に心配していたタツヤの容態に、何か良い事があったのだろうと気付いていた。

2ヶ月も続いた彼女達の悪夢が、晴れるかもしれないと期待も寄せているのだ。

 

彼女はいつも通りにタツヤの部屋へと向かう。

本来であればこの足取りもそこまで軽いものではなかったが

回復の兆しが見える、と医者に言われてしまえば

医学なんぞ何も知らない彼女からすれば、ひたすらに希望が湧いてくる言葉だ。

昨日あの件で一緒だった看護士と顔をあわせ、挨拶をして部屋に向かった。

 

「先生もああ言っていたしね、きっと、回復してくれるわよ。

 いつかはわからないけど……笑顔で迎えられるように、構えてあげておきましょうね」

「ディァッ」

「それじゃ……私はこっちだから」

「ドレディ~」

 

互いに手を振り、お別れをする。

その会話でもあった通りに、どうしても期待してしまう自分が居る。

顔をにやけながら、頭の中ではどうやって迎えてあげようかなと思い───

 

そのせいで目の前に気を使えていなかったのか

 

トスン

 

軽くではあるが、誰かにぶつかってしまったようだ。

 

「っととと……すみません」

「ァィ」

 

この病院に来ている彼女としても、いつもどんよりしながら歩いていたため

他からすれば傍迷惑(はためいわく)な事この上ないのだが、人とぶつかり慣れている。

互いに軽く挨拶をして、深く突っ込まないのがいつもの事だった。

 

良く見てみれば、廊下に差し込む外の日差しも明るいものであり

そんな事も、昨日までは一切気にせず……いや、気付けなかった。

全てが変わっているような、と錯覚するぐらいに良い日である。

今日から、きっと何かが変わって行くに違いない……何故だかそう思ってしまった。

 

そしてドレディアは彼の病室へ到着し、いつも通り扉を静かに開ける。

 

「ディーァ~」

 

どうせ聞こえては居ないのだが、部屋に入って挨拶をする。

これもまた、いつも通りのことであり……部屋に入っても声が返ってこないのも毎日の事だ。

 

毎日の定例を終え、頭の中ではいつ自分の主が目覚めても良いように

色々とパターンを構築しながら、出迎えの準備をしていた。

そしてこれまたいつも通りに、彼女の定位置である椅子に着席し

主の顔を見てみると、とても白い顔をしていた。

 

 

 

ていうか、これ枕じゃん。

 

 

 

「──? ───?  ????」

 

まさかの事態にドレディアは思考がストップする。

なんでしょうかこれはどういうことでしょう。

主様の顔が白くてでも枕で、主様のぬくもりであれ、これはベッドです。

でぃすいずあぺん? ノゥ、あいあむあぼーず。

 

彼女はとりあえず思うがままに行動───枕を持ち上げ、掛け布団をめくって。

何を思ったか、ベッドを持ち上げてみたりしたのだが……彼の姿は何処にも無い。

ついには横にあった引き出しまで開けてみる。

 

「           」

 

えっと、これはどう言う事なのでしょうね?

そう思わざるを得ない状況になってしまった。

私の主様は何処に行ったのか、という発想にはまだ至らず───

 

 

「ッ!? ディッ?! ディァー?! アッー!」

 

───至ったようである。

事態をようやく把握し、ドレディアは慌て始めた。

なんだ、どうしてだ。既に起きている? でも職員さんは何も変哲が無かった。

では緊急手術とか? これはむしろ職員さんが教えてくれるはずだ。

 

色々な事が頭の中で出ては落ちて行き、最早何がどうなのかもわからない。

その中でとりあえず彼女が出した結論は。

 

「…………ディァッ!」

 

私だけではどうにもならないっ!

 

奇しくも昨日と同じ結論であったのだった。

 

そんなわけでドレディアはタツヤの病室を飛び出し

ナースコールを押したところで、緊急事態とは言いがたいため

そのまま自分の足で受付へと向かっていったのだった。

 

 

AM11:15頃。

 

ドレディアは院内に設置されているエレベーターを使い、1Fまで降りて受付の方へと走る───

 

「こらっ! 待ちなさい! 病院内で走っては行けませんッ!」

「ディッ!?」

「ここは体が一部不全な人達が集まる場所なんですからねっ!

 そっちが大急ぎで慌ててて、ぶつかりそうになっても

 よける事が出来ない人たちが沢山居るの。だから走っちゃ駄目……ね?」

「ディ、ディァ~……」

 

言われて気付き、反省するドレディア。

初期の頃の人見知りから思えば、おおよそ考え付かない態度の軟化である。

一緒に成長して行った証なのであろう。

 

軽いお説教を受け、早歩き程度の速度で急いで受付へ向かったドレディア。

そして辿り付いた所で紙とペンを頂戴し、用件を書き足して行く。

 

基本的にこの世界、ポケモンがそこそこ自由に闊歩しているため

何かしらの第一発見者にポケモンが上げられる事もあり

なおかつ病院だと緊急事態の内容が多いため、すぐさま意思を伝えられるように

ポケモンが書く用やら雑務用の紙が受付に置かれているのである。

 

「あらドレディアちゃん、こんにちわ♪ どしたの?

 珍しいわね、彼の病室に居ないなんて」

「ディッ……! ディァ……」

 

既に2ヶ月の間で常連客になっているドレディアはその美しい見た目からも相まって

病院の職員、果ては長期入院患者にまで、見た目的な意味で

あくまで見た目的な意味で目映りが良く、皆に姿を覚えられていた。

 

彼のように意思が伝わらないのをもどかしく感じつつ

ドレディアはなるべく急いで、受付への用件を書き足して行く。

 

「ディァー!」

「ん、なになに……」

 

{私の主様が何故か病室に居ません。

 どちらに向かわれたかご存知ありませんか}

 

「……あれ? 貴方のご主人様って……ずっと意識不明で寝たきりのあの子よね?」

「ドレディアー!」

「その子が、居ない?」

「(コクコクコクコク)」

「え……ってことは……起きたッ!?」

「ディーァ!」

 

この病院、セキュリティが頑強なわけではないが

患者に職員に医者にと合わせ、何かと人の目には付く施設である。

彼がこの病院に担ぎ込まれた経緯は、白と紫が目に映えるえらっそーなポケモンから

一部始終を伝えられているため、誘拐の可能性もあるにはあるが……

人目の多さから考えればそれは考え難い事である。

 

ならば彼が起き出して、勝手に出歩いていると判断出来る。

 

「え、ちょ、こういう場合どうすればいいんだっけ……?!」

「ん、どうしたのー?」

「いや、なんかほら、ずっと意識の無い子いるでしょ?」

「あ、あの子ねー」

「なんか病室に居ないらしいのよ」

「はぁっ!?」

 

そうして受付の内部にも情報が伝播(でんぱ)して行き、どんどん混乱が広がっていく。

2ヶ月も眠り続けているのであれば、筋肉の衰えやらなにやらも著しいはずであり

簡単に出歩けるような状態とは思いにくい訳であり

下手すればどこかで倒れて気絶している可能性まであるのだ。

 

「と、とにかく探しましょう! 一度病室にも戻った方がいいわよね!?」

「そうね、彼を見かけた人がいるかどうかも確認しなきゃならないわ」

「ディッ!」

「じゃあ、私行ってくるわね。ごめんなさい、ちょっとこっちお願い」

 

そうして受付から一人、職員を借り受ける事となったドレディア。

急いでまたエレベーターホールへと向かい、呼び出したエレベーターの中に入る。

この2ヶ月で手馴れたボタン操作を今日も繰り返し、上へと昇って行くのだった。

 

 

ドレディアと職員は、一旦タツヤの部屋へ向かうが……部屋は相変わらずの無人。

 

「本当に居ないわね……となると、何処に行ったのかしら……?」

「ディァ~……」

 

手がかりが何一つ無い状況なため、ドレディア達は次の行動に移りづらい。

一体何処に行ってしまったのか。

 

「あ、そうだ! 病院内に居る可能性が高いなら……

 受付で呼び出してみましょうか?」

「ッ! ディ! ディァッ!」

 

ドレディアは思わず【それだっ!】と指を差してしまう。

ここまで手がかりが無いとなると、最早お手上げなのだ。

 

「えっと……呼び出しは私一人でも出来るけど

 ドレディアちゃんはどうする? ここに残る?」

「ディ~……、ドレディァ!」

 

声をあげ、病室を出る形で動いていく。

職員もその行動でドレディアの意思を確認し、後ろに続く。

 

「これで呼び出しても来ないのなら……

 誘拐とかも疑って掛かった方が良いかも知れないわね」

「ッ…………」

「ま、まぁきっとそんなこともないから大丈夫よ~♪ すぐにご主人様も現れるわよ♪」

「……ディ~……」

 

そう励ましてくれる職員ではあるが、ドレディアには不安しか残らない。

今までの自分の主の行動を考えるに

 

・縛られて放置

・縛られて放置

・縛られて吊るされて半日放置

 

こんなのばっかりである。

むしろこれで、すぐに出てきてくれるなんて信用が置ける方がどうなのだろう?

 

しかしそんな信頼度であっても、ドレディアはしっかりと受付に向かう。

やはり、自分の主の事はとても大事らしい。

そうでなければ2ヶ月も通い詰めはしないだろうし、落ち込みもしないだろう。

 

 

【……主様を見つけて、早く見つけて、私の……私の……!!】

 

 

2人の間には確かな信頼が───

 

 

 

【……ご飯をッッッ!!】

 

 

 

なかった。

 

 

AM11:30   1F受付

 

受付でアナウンスを流してもらうべく、職員とドレディアは2人で受付まで戻って来ていた。

 

 

「あ、どうだった? やっぱり居なかった?」

「ええ、この子の言った通りだったわ……一体どこに行ったのかしら」

「ディァー……」

 

自分達が行った行動を受付に居る職員に伝え、やはりそこで思考はどん詰まりになる。

 

「こっちにも来た様子はないみたいだけど、どうしたのー?」

「えぇ、もう居場所も不明瞭だしアナウンスしちゃおうって話になって。」

「あぁなるほどねー……それじゃどうする? 私が言おうか? それとも貴方が言う?」

「じゃあ私が言っておこうかしら、ドレディアちゃん彼の所属とかってなんだったかしら?」

「ディーァ」

 

受付の横からまた紙とペンを取り、カリカリと書いて行く。

その紙を受け取り、病院にアナウンスが響く。

 

 

『お知らせ致します。

 有限会社弾頭所属のタツヤ様。有限会社弾頭所属のタツヤ様。

 いらっしゃいましたら、1F受付までお越しください。』

 

アナウンスを終え、一息付く職員。

ドレディアが不安そうな顔で見つめてくる

 

「多分これで来てくれると思うけど……

 逆に、これで来なかったら何かしらに巻き込まれてる可能性も……」

「ッ!」

「ああ、大丈夫大丈夫、あくまで可能性だからね?」

「~~~~ッ」

 

飯の事を思ってなのか、居ても立ってもいられないという様子のドレディアだった。

 

 

「……来ないわね」

「…………;;」

「これ、本当に捜索とかお願いした方が良いかしら……?」

「アナウンスでも来ないとなるとちょっとね」

「ディ、ディァ~……」

 

館内放送を流したにも拘らず、受付に一向に現れる様子が無い。

つまりは、館内に居ない可能性が圧倒的に高まったという事である。

 

「ちょっと私、皆に不審人物は居なかったか聴いてきてみるわ」

「わかった。じゃあ私はドレディアちゃん連れて彼の会社と警察に行ってみるわ」

「ディァ~;;」

 

こうして、ついに病院から外へ捜索網を広げる事と相成った。

 

 





にじふぁん掲載時と若干文章を変えてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

***話 -999% 貴方の価値

AM11:00頃。

 

 

「…………あ、ふぁ~~~~ぁぁああああ」

 

彼は、ついに目を覚ました。まあ深夜に一度目覚めてはいたのだが。

気だるそうに両手を挙げ、ノビをしながらあくびをする。

傍から見ればただの健康優良児でしかなかった。

これが2ヶ月も昏々と眠り続けていたなど、なんの冗談であろうか。

 

「んー……、ん? ……あーそういえばどこだかわからんがなんか寝てたんだっけ」

 

目覚めた時点で状況確認を一切していなかったので明るくなった今、改めて周りを確認してみた。

 

ちんまりとした部屋に、簡素な枠組みの、そして全体的に白いベッド。

横には花のバスケットも添えられている。

 

「病院……っぽい、かな? しかし、なんで病院なんかに……

 病院、びょう……─────ッ!」

 

うわ言のように病院と繰り返していた所で

彼はようやく、ここに居るであろう原因に気付く。

 

 

胸を切り裂かれ、体を激痛に支配され……立ち止まらずむしろ大立ち回り。

そして途中で突然途切れた記憶……おそらくそこで完全に意識を失ったのだろう。

 

 

「ッ! ……っふーぅ、傷は無いか……あれ、無い?」

 

あれだけの傷が綺麗サッパリ消えている、縫合跡も見られない……一体何故だ。

あれはただの夢だったのかと考えた方がよほど合理的であるぐらい、綺麗に消えていた。

 

むしろあれらを決定付ける証拠が彼の周りからは一切合財取り除かれていた。

あえて述べるなら、とても線の薄い可能性ではあるが……この病院? にいる事のみ。

 

「んん……なんともわからんなこれは。

 多分あいつらにさらわれたってわけでもないだろうし……

 夢にしちゃ現実感もありすぎるしなぁ。しかもボールはなし、と……」

 

周りを確認し終えたが、自分の手荷物は一切無し。

ならばもう、やる事は一つのみである。

 

「とりあえず部屋から出てみっか……」

 

幸いな事に周りからは人が居るような若干の話し声や喧騒が聞こえる。

外に出て色々確認した方がいいだろうと思い、彼は2ヶ月振りにこの部屋を出る。

 

しかし病院内に居る人からすれば、医者と職員以外はこの部屋の事情に疎く

2ヶ月もずっと眠っていた人間が居る等とは知る由も無い。

彼が出てきたところで普通に何も思わず素通りするだけ。

 

「一応回りに何か聞いて……、ぅ、おっ」

 

ぶるり。

 

彼の体を突然寒気が襲った。

 

 

 

 

ただの尿意である。

 

 

 

 

(……よし、まずはトイレだ。おしっこせんと一日が始まらんな)

 

そうして上に吊るされた案内掲示板を頼りに、彼は歩き出し───

 

 

トスンッ

 

歩いている所で誰かに、すれ違いざまに軽くぶつかってしまったようだ。

 

「っととと……すみません」

「ァィ」

 

互いに謝罪と同意を軽く済ませ、顔も確認する事もなかった。

タツヤはその後無事トイレへ辿り付き、小便専用器へ到達する。

 

 

「ぁぁぁ~~~~……この脱力感が溜まらんねぇ~……」

 

既に3分以上、用を足していた。

2ヶ月ずっと溜まりに溜まった体の影響なのだろうか、まだ止む気配が無い。

 

(ションベン長ぇっ……!)

(ションベン長ぇっ……。)

 

新しく入ってきた人たちが2人ほど来ており

その2人が思わず突っ込んでしまうほどに、どぼどぼと垂れ流していた。

 

ちょちょちょちょ……─────

そうしてようやく、彼の清茸(キヨタケ)が一仕事を終える。

このままストライキしなければよいのだが。

 

「や~れやれ……なんかやたら一杯出たなぁ……どんだけ溜まってたんだ」

 

圧倒的水量に若干驚きつつも、きちんと手を洗い

トイレから出ようとしたところで彼の目の前を高速で何かが横切った。

 

「あん……? なんだ今の」

 

どうやら誰かが走って行ったようである。

背丈は大体子供ほどのようであった、入院患者の子供だろうか?

病院で走っては行けないと誰かから教えられていないのだろうか。

 

そして目で追おうとしたところでT字路の見えない角度に入り込まれてしまい

その正体を最後まで確認出来ず終いで終わった。

 

「ったく、安静にしてなきゃ行けない人も居るんだから病院で騒いだら駄目だろ……

 一応俺の手持ちにも一度教えておかないとな」

 

と、一人ごちてタツヤは一旦病室へ戻るのだった。

 

 

AM11:15頃。

 

 

病室に戻ったはいいものの、タツヤは何も無いこの空間が暇に映った。

なんかジュースでも買いに行くかと思い、部屋を軽く探すも

彼の財布らしきものも一切見当たらず、このままではジュース1本買えやしない。

加えて暇すぎるのも間違いなく、彼をここに留められるわけもないのだった。

 

「あー、ここ病院なら売店ぐらいあるよな……立ち読みしてくっか~……」

 

そんなわけで、タツヤは売店を探すために再度部屋を出た。

 

エレベーターホールを探し出し、ボタンをぽちっと押したのだが

押しても全然上がってくる気配が無い。というか1階毎に止まってしまっている。

 

「……階段使うか」

 

十数秒を待つのが耐えられず、近場にある階段を利用し1Fまでタツヤは降りて行くのだった。

階段を降り始めた際に、エレベーターホールでバタバタと足音が聞こえたが

そんな事は微塵も気にせず、彼はトットットッと階段を下りていった。

 

そして売店に辿り付き、いつも読んでいた週刊漫画雑誌を発見。

小さな小さな売店で、すぐ目の前の店員の目も気にせず普通に立ち読みを開始する。

どれだけ意識を失っていようが、彼は彼のままであった。気にしろよ。

 

「ん、あれ?漫画展開が飛んでる……?」

 

前に見た内容と、今回の内容が繋がらない。

表紙が前に見た雑誌と違い新しかったため、翌週のが出ていると思い読んでみたのだが

タツヤの思い描いていた予測と違い、翌週どころではない感じである。

見ている漫画のうちの一つはなにやら新章突入っぽい。

 

(……俺、もしかして寝てたのって2、3日どころじゃないのか?)

 

ここでようやくタツヤは時間の入れ違いに気付き始める。

あの襲われた日、何月何日だった?

思い返し、目の前に店員が居るので尋ねてみる事にした。

 

「すみません、今日って何月何日ですかね」

「ん、今日は●月●日だよー」

 

どうやら店員はタツヤが立ち読みし始めた事も

風景の一部分と捉えているようで、言葉に剣呑さは一切感じられない。

だがそんな事よりタツヤは言われた日付に驚きを隠せない。

 

「●月……●日ッ!?」

「ど、どうかしたかい?」

 

思わず呟いてしまい、近くにあった今日の新聞を取り日付を確認する。

確かに店員が言った日付で間違いはなかった。

あれから2ヶ月近くも過ぎている……!

 

(てことは……それだけ寝てたって事か……!?)

 

この日付の差異は一体どうすれば良いのか。

病室で寝ていれば誰かしら来るだろうか? その時に元気な姿を見せればいいか?

 

「うむぅ……どうすりゃいいんだ? あっちの方でもこんな事例聞いたことねぇぞ」

 

実際の所、意識も無く担ぎ込まれてきたので、タツヤ自体はこの病院の人達に一切面識が無い。

故に、その人達=職員さん達に頼ればいいという発想が生まれず

読みたかった雑誌を置き、ひとまず病室に戻る事にしたのだった。

 

 

AM11:30頃。

 

タツヤは売店からエレベーターホールへ行き

部屋に戻るために上に待機しているエレベーターを呼び出す。

今回は各階ストップも無く、4Fから1Fへとスムーズへ来る。

 

「とりあえずは誰かが来るまで待ちだなぁ……やる事もないし、また寝るしかないかな」

 

個室であるというのもあり、何気にタツヤの部屋から見るタマムシシティは

絶景とまでは行かないものの百景程度になら混ざる位置取りであり

病室から街を見るのも結構オツなものがあるのだが

残念ながらタツヤはそんな感性は欠片もなかった。

 

エレベーターに乗り込み、上に行こうとしたところで

向こうからエレベーターに乗りたい感じの動きをしているばーちゃんが走って来た。

ひとまずすぐに扉を閉めず、一旦【開】ボタンをずっと押し続けておく。

 

「ありがとうねぇ、ボク」

「いえー、何階ですか?」

 

到着したばーちゃんに社交辞令で言葉を交わし、聴いたボタンを押した上で【閉】ボタンを押した。

そして徐々に扉が閉まって行く中、一瞬だけ緑の姿が横切ったのは気のせいだろう。

 

特に何事も無く指定された階に到着し、タツヤは自分が居た部屋へと戻って行く。

道中も特に呼び止められるでも気付かれるでもなく

彼にしては、至って平凡に病室へ辿り付いた。

 

「はぁ~、2ヶ月ねぇ……もうこのタマムシに来てから4ヶ月って計算になるのか。

 そういや俺が居ない間に弾頭ってどうなったんだ? まさか潰れてないよな……」

 

情報が一切入ってこない分、予想すら困難な状況である。

加えて室内には一切暇つぶしが無い。こうなれば……

 

 

「寝るか。」

 

 

寝る事しかない。

 

「……、Zzz……」

 

寝る子は良く育つようです。

寝付きも早いし、彼の未来は明るい。

 

 

AM11:45頃

 

「じゃ、そっちは任せたわね……行きましょ、ドレディアちゃん」

「ディァ」

 

職員はドレディアを引き連れ、病院から出て行く。

まずドレディアが向かうのは弾頭の地下施設。

下手をすればそちらに行っている可能性もあるからだ。

まず起きて、周りに何も無い状況であり、寝るまで懇意にしていた団体。

意識が覚醒してから、自然とこちらに足を運んでいるかもしれなかったからである。

 

 

「……、Zzz……おっし……テトリス棒、あ、ちょ……」

 

 

まあ、そいつは自分の病室でぐっすり寝ているのだが。

 

 

 

 

そんなこんなで、ドレディアからの報で弾頭社内が盛り上がり

加えて行方不明という続報にヒートアップしてしまい

捜索時間なんと5時間という凄まじい捜索網を広げられたのだが

結局外では見つからずじまい。後に自室でぐっすり寝ているのをダグⅢが発見。

当然ながら社員を除いた手持ち、サカキ、WM(ダブルミュウ)で病院へ出向いたのだが

あまりにもぐっすりと寝ていたがために

 

「……ふぁ……? あぁ~……みんなおはようー……

 やっと来てくれたか~、持ち物何もないもんだから暇で暇で───」

 

「──ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーーーーーッッ!!!」

 

「え、な、なん……っぶぉはぁー!?」

 

散々(飯の)心配をして探し続けた果てに、結果が病室での熟睡という内容。

この2ヶ月近く、抑えに抑え込んでいたドレディアの感情が爆発してしまい

再び3日ほど、タツヤが意識不明になったのは言うまでも無い。

 

WM、ダグトリオ、ムウマージ、果てはサカキまでも

殴っている最中にタツヤが危ういと思い、全員で体を張って

ドレディアの腕、脚、背中と各部分を固め、止めようとしたのだが

あまりの怒りのパワー(パゥワァ)に、全員がドレディアにくっついても全く止まらず

全員が引っ付いたまま攻撃を再開し、全員を唖然とさせた事を抜粋しておこう。

 

 

 

こうして、全く持って彼らしい復活を果たしたのであった。

内容も、相変わらずの彼である。

 

 

 

余談として……タツヤが再び意識を失ったがために

ドレディア本人が楽しみにしていた飯がさらに3日後に延び

割とガチ泣きしながらタツヤの体を揺すっていた事を追記しておこう。

 

 





処刑用BGM:凛として咲く花の如く



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

89話 旅立ち

最終章、突入。



 

 

「正座」

「ディ……!」

 

俺の言葉に、ドレディアさんはフルフルと首を振る。

 

「なぁ、ドレディアさん」

「ディ、ア……」

「貴様は、俺に、何をした」

「ァ、ァ……」

 

ドレディアさんは後ずさりをしながら俺から徐々に離れて行く。

 

「ダグONE、確保。」

「ッ!」

「ディッ?! アーッ! アーッ!」

 

俺の声を合図に、瞬時にドレディアさんを捕まえるダグONE。

捕まえられ、必死にドレディアさんは逃げようとするが

ダグ共に一度捕まえられてから脱出するのは非常に困難である。

 

「……次は無いぞ。正座、だ」

「…………ディァ」

 

2度目の問い掛けでようやく床に正座するドレディアさん。

 

「うん、まぁ……な? みんなから話は聞いたよ?

 意識不明で2ヶ月やら、そうなる前には既に死に掛けてたってのは、ね」

 

実際それらを聞いて、自分自身で驚いていたりする。

自分が気付かぬうちに、やたらと難易度が高い綱渡りをしていたそうなのだ。

何を好き好んで人生ハードモードで行かねばならんのよ。

 

「それに関しては本当、ごめんなさい。ご心配をおかけしました、謝ります」

「(コクコク)」

「けどよぉ……」

「ッ…………!」

 

そう、そこら辺は本当に悪いと思っている。

だがその後が問題なのだ。俺としては普通に寝ていただけなのに。

 

 

「なぁ……なんでそんな生死の境目から生還したのに

 俺はまた3日も意識失わなきゃならなかったんだい?」

「ディ~、ア~~♪」

「こ  っ  ち  を  見  ろ」

「ァィッ!!」

 

やましい事があるのだろう、目を逸らそうとしてきた。思わず言葉を荒げた俺は悪くない。

 

「で、まあねぇ。ドレディアさんに聴くまでも無く他のヤツラに話を聞いて

 あの件は裏が取れているんだわぁ」

「ッ! ディ……#」

「そこでダグONEとか他の連中に怒りを向けるのは筋違い。」

「…………ディァ」

「で、話を統合するとだな……」

 

とん、と正座しているドレディアさんの頭を軽く押し、後ろに倒れるよう仕向けた。

 

「ッ……、……?」

 

後ろに倒れ、なおその意図を理解出来ないドレディアさんに見られつつ

俺はドレディアさんの両足の付け根を両脇に抱え上げる。

 

そして─────

 

 

 

 

「俺なんも悪い事してねえじゃねえかぁぁぁぁぁぁぁオラァァァアアアアッッ!!!」

 

 

 

 

俺はドレディアさんに対し、盛大にジャイアントスイングをやり始めた。

 

「アアアァァアーーーーァァッッ!?!? ディァァアアァァァーーーーッ!?!」

 

そう、誤解が無いように述べておくが。

俺が『ドレディアさんに殴られた件』は俺側は一切不備が無かった。

起きて部屋を出るのは当たり前、トイレに行くのも当たり前。

暇になってうろつくのも当たり前だし、部屋に戻るのも当たり前。

そこら辺は大人の意見がちゃんとわかるサカキにも確認を取っている。

俺側には、一切の不慮や不備は無かったのだ。

 

なのになんで俺はドレディアさんに、再度意識をすっとばすほど殴られたか?

調べてみた結果、完全に彼女の八つ当たりだったのである。

そりゃまあ、アナウンスを聞き逃した俺も悪いと言えなくも無いが

聴く限りその時間はちょうど寝入った時間だった。どうしろってんだよ。

 

「八つ当たりされる身になりやがれコラァァァァーーーーーーーーーッッ!!!」

「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

幸いな事にドレディアさんは体重も16㌔程度と軽めなので

俺は気の済むまで、ぶぉんぶぉんとドレディアさんを全力で振り回し続けた。

 

「ぬぉぉぉおぉおぉおぉおおーーーーーーーーーーー!!」

「アァァーーーーッ!! アーーーーーーッ!!」

『───;;;』

「ホァ~……;」

「△▲☆★~……;」

 

地獄のメリーゴーランドは、ドレディアさんの悲鳴を伴い続いていく。

 

 

「ぉ、うぉぇぇぇぇ……は、吐きそうだ……」

「ォ、ウォェェェェ……ド、ドレディァ……」

 

気合を入れて振り回す事10分。

ついに振り回す側の俺がギブアップしてしまった。さすがにきつすぎる。

まだ飯食って無くてよかった……食ってたら間違いなくもんじゃやき屋に転職してた。

 

だが、根性を入れた甲斐があったのか

おしおきしたドレディアさんは完全なるグロッキー状態になった。

 

「……なかなか気合の入ったおしおきだね。2人共、大丈夫かな?」

「あぁ、サカキさん、すんません超無理っす、すっごい無理っす」

「ハハハハ、元気なようで何よりだ。本当に、な」

「……世話掛けました、みんなから話は聞いてます」

 

なんでもダグONEが言うには、病院に付いた後にも心臓が何回か止まったらしい。

加えて出血状態が著しかったため血圧も極限まで低下し

脳のダメージも心配されたそうだ。

 

まあ結果、ご覧の通り全く持って平穏無事なのだが。

 

「よければ朝食を食べながらでも、どうかね? 今後の事も決めて行きたいからね」

「ん、そういやまだ飯食ってないっすね……わかりました」

 

現在こちらは弾頭地下施設の元物置である。

病院で再び目覚めた後、暇すぎるので即座に退院手続きを取ってもらい

全員揃っているのもあるのでポケセンではなくこちらに来たのだ。

 

実に2ヶ月ぶりに胃の中に食べ物が入るわけである。

どんなことになるのか楽しみ───

 

「ディァッ!?」

「うぉぉっ!?」

 

飯という単語が出てきた途端にドレディアさんが立ち上がる。

と、思いきやまだまだダメージが残っているのかフラフラダンス化している。

しかしそんな中でも必死に俺ににじりよってきて

【飯、飯だなっ!? おい、飯だなッ?!】と伝えてくる。

うちの姫様は相変わらずでしたとさ。

 

「ドレディアさんは飯抜き。

 八つ当たりでマスターこんなにしてその程度で済むと思うなよ☆」

「アァァァーーーーッ!? ディァッ! ディァーーーーッ!!」

 

とりあえず制裁事項を、握りこぶしに親指を下に向けながら首を掻っ切る様に伝える。

するとドレディアさん、まさかのガチ泣きモードktkr。

そんなに腹減ってんのかよドレディアさん、それとも俺=飯かテメェは。

 

「ええい、女々しいぞドレディアさんッ! 一度決まった事を反故にするなど───」

『ッッ───!!』

「って、え? どしたダグトリオ……珍しいな、割って入ってくるなんて」

 

ドレディアさんをひっぺがしたところで突然3人が俺の目の前に割って入り

なんとそのまま土下座までやりだしてしまった。

 

「お、おいなんだ? どうした」

『─────ッ!! ッッ!!』

 

顔を上げて意思を返してくるダグトリオ達から

しっかりとその土下座の意図を読み取った。

 

1【主殿よッ! 姐御はここ1ヶ月近く、まともに食事を取っていないのだ!】

2【それもひとえに主殿がお作りになる食事をずっと夢見ていたが故に!】

3【我等も見ていて、姐御の衰弱ぶりは日に日に酷くなっていたのだ!】

 

【【【主殿、どうかお願い致す!! 今回だけは大目に見て頂けぬか!!】】】

 

そうして、ダグトリオは再び床に頭をぶつける。

 

「お前等……、自分のことでもないのに……」

 

ひたすらにドレディアさんを想い、俺に対立してくる3人。

ドレディアさん……あれだけ好きな食事すら、取ってなかったのか……。

 

「ミロカロス、本当なのこれ?」

「ホァ! ホーァ!」

「ドッ、ドレディァ!?」

 

【なんで俺に聞かねぇんだよっ!?】と批判の声が入るがとりあえず無視。

みんなのお母さんミロカロスに聴いたところ、ダグとそのままの内容を返す。

 

「……むー、そう、か」

『ッッッ!!!(ゴン、ガン、ゴン)』

「あーやめやめ、そこまでせんで良いっての」

 

【ではっ!?】と顔を上げてくるダグトリオ。

お前等の忠誠と、周りを気遣う心は前からちゃんと知っている。

それに加えて土下座頭突きをウェーブでやられてしまってはこっちも困ってしまう。

 

「だがそれとこれとは話が別だぁーっ!!」

「アッーーー!?」

『ッッッ!?!?』

 

【【【あるじどのーーー!?】】】と言われるが知った事ではない。

おしおきはおしおきなのです。痛みを伴わぬお仕置きなど意味が無い。

 

 

……だが、まぁ。うん。

1ヶ月も、あれだけ大好きなご飯食べてなかったのか……。

確かにそこで飯抜きなんて言われたら、獄門を超えているか。

 

……恩赦、下してやるか。

 

 

「被告人、ドレディア」

「ッ?! ドレーディ!」

 

俺に呼ばれ、素早く反応するドレディアさん。

 

「ドレディアさん、仕方が無いからほんの少しだけ大目に見てやる。

 ダグの3人に感謝しろよ、割とマジで」

「ド、ドレ、ディ、ア……!?」

「朝飯と昼飯だけはちゃんと食わせてやる。

 でも夜飯はしばらく食べさせてあげません、これで妥協出来ないならご飯抜きね」

「……アァァァァァァ~~~~;;」

 

そうしてドレディアさんは泣き始める。

雰囲気からしてこれは絶望の泣きではなく、歓喜から来る泣きの様だ。

 

そんなに、俺の飯は喜んでもらえてたのか。

 

 

「だぁ~が~……」

「ッ!?」

「しばらく夜飯だけ超豪華にしてやる……!

 それを手を(こまね)きながら横で見続けるが良い……!

 全ての晩に貴様の大好物を作り上げてやる……しかも無駄に力を入れて、だ……!」

「ア、アァア……!」

「喚き、絶望しながら食事を見ているが良い……。

 それが貴様の背負うべき業だ……! ハッハッハッハッハッ!!」

「ァァアアァァァァァ」

 

それを聴き、ぐにゃぁ~~ とくず折れて行くドレディアさん。

さすがに朝昼と出る条件まで譲歩されては、これ以上何も出来ないようで

周りからはドレディアさんに温情の声が上がっている。

 

「本当に、仲が良いなぁ君達は……」

「いやまぁ、それほどでもー?」

「なに、謙遜せずとも良いさ。話は付いたんだね? では、全員で食堂へ向かおうか」

 

サカキに促され、俺達は全員食堂へ脚を向ける事となった。

俺の隣は、やや憔悴しているがしっかりと歩を踏むドレディアさんが歩いていた。

今まで心配かけて本当にすまんね。

 

 

 

 

そんなわけで場面は食堂に移る。ここでサカキが社長権限を発動した。

これから社員全員が食べに来るこの食堂で、先にスタンバっていた調理員に無理を言って

俺等分の食事を無理矢理分けてもらう事となった。

俺等が食うために減った分は今からあちらがフルスロットルで作るそうだ。

ご迷惑をおかけしております。

 

なお今更だが、ここの調理員は俺がテキトーに大量製作のウマ味のコツを教えている。

俺の口からすれば、他の人が作ってくれたという調味料が利いているため

俺が作るモノ以上の腕と思うのだが、うちの子達からすればまだ猿真似レベルらしい。

失礼なやつらだ。

 

「……まずは『いただきます』の前に、私から伝えたい事がある」

「ん?」

「ディ?」

「タツヤ君、この度は本当に申し訳なかった。

 聴けば君を生死の境に追い込んだのは、元ロケット団だそうだな。

 私達のために良い方向で改変し、悪い方向で矛先になってしまい……

 君には本当に頭が上がらない、加えて君にどの様に恨まれても文句は言えん」

「…………」

「結局最後の最後まで、レンカ師匠とは連絡を取り次げなかったのだが

 君の口からこの事実を言ってくれても構わん、私達はそれだけの事を君に……」

 

「あい、そこでストップ」

 

「ッ!?」

 

喋っている途中で会話を止めてしまったのは悪いと思っているが

その先は予想するだけでネガティブな内容のモノしか出てこない。

確かにあの『ひとり人外魔境』の母さんが聞けば

カントーの都市を全て壊滅とかやりかねない気がしないわけでもない。

 

「はっきり言って今回の件、俺は全く気にしてないんでそちらも気にせんでください。

 別に俺が生きようが死のうが、俺自身はどーでもいいです」

「ディッ……!」

 

俺の発言が癇に触ったのか、机をドコッと殴りつけてドレディアさんがこちらをにらむ。

 

「あっと、悪い。

 まあ確かに死んだら今ドレディアさんが心配してくれたみたいに

 俺の手持ちの子達は悲しむかもしれませんが……

 少なくともその件だけは、俺個人の判断基準がモノを言う事になりますね?」

「う、む……」

「だから、気にしないでください。むしろ寝起きでそっち方面で動く苦労が面倒です」

「いや、しかしだね……」

「それに、これが一番重要なんですが……」

「な、なんだね」

 

 

「飯が冷えてしまいます。とっとと食いましょう」

「ディァーーーー!!」

「一応こっちはシリアスなんだがねーーーー!?」

「知るかぁーーー!! いただきまーす!!」

「ホァーーーーーー!」

「△▲☆★~~~~~~!!」

『ッッッ!!!』

 

 

なので、一応こちらから気にするなとの旨は出しておこう。

飯の方が大事だし。

 

 

「と、まあ君が意識を失っている間の会社の状況はこんなところだ」

「いや、なんかすごいっすねぇ。

 俺が寝始めた瞬間に会社の利益が伸びるとか、完全に俺疫病神やん」

「いやいや、何を言ってるんだね。

 利益が出ている部分はほぼ全て君がなにかしらで手を付けた部分だよ?」

「まーそうかもしんないですけどねぇ……」

「△▲☆★~♪」

 

俺の膝の上でご飯を食べるムウマージの頭を撫でつつ、サカキと会社内容の会話に興じている。

横では凄い勢いでドレディアさんがムシャパクやってるが、それはひとまず置いておこう。

 

「私もずっとおろそかにしていたジム業の方を、頻繁に再開出来るようになってね。

 全盛期には程遠いはずだが、それでもかなりカンは取り戻したよ」

「おー、いいっすねぇ。最強の全盛期ってのはどんなもんなのかな」

「ハハハ、所詮形式ばった内容でしかないさ。

 私からすれば20匹以上を相手取って勝利する君の方が恐ろしいがね」

「ただの運っすから」

「いや、それはまた君の手持ちに失礼じゃないのか?」

 

まあ俺はそう思っているのだからそれで良い。

勝負なんぞ時の運が9.6割で、残りの5割は実力だ。

あれ、合計14.6割になった。まあいいや。

 

「それ関連の話になるんだがね、もうそろそろカントーポケモンリーグの時期に入る。

 私達ジムリーダーも、大会に直接参加するわけではないが

 それでも色々と私が関わらなければならぬ事も増えてくる。

 一度弾頭は、取締役代理に任せてしまおうと思っていてね」

「へぇ、まあいいんじゃないっすかね」

「いや、君の事だよ?」

「じゃあお断りします」

 

即答を持って拒否権を発動。

社長代理なんぞという面倒な事などやってられるかい。

 

「……良い、のかね? ある意味では良い社会経験になると思うが」

「俺は気楽に旅してた方がいいですわ。

 それに元々の目的が、ドレディアさんの強化の旅ですし」

「おや、そうだったのか」

 

何気に全員忘れているような気がするが

元々の旅の理由は、ドレディアさんがシン兄ちゃんに勝つための旅なのだ。

今回はあいつらとの約束を果たすために長らく滞在してしまったが

代理に任せても良いほど安定してんなら、俺もそろそろ旅に出ていいだろう。

 

「そういうわけで、近いうちに弾頭からはお(いとま)させてもらいますかね」

「そうか……わかった。君の要望は所属会社の社長として受理しよう。

 タツヤ君、改めて言おう……本当に、ありがとう」

「はい、どう致しまして」

 

まぁ、これだけの状態ならシオンの留置所の約束も

きっと果たせているのと同じはずだ、俺も大手を振って旅に───

 

「……ん、旅……旅、か」

「どしました、サカキさん」

「いや、少し聞きたいんだが……その旅は『目的地』等はあるのかな?」

「んんー? いや、特にないですかね。ドレディアさんも無いだろ?」

「デュィ~ゥァー」

「口の中の物を飲み込んでから言わんかい。行儀悪いぞドレディアさん」

 

まあ意思は伝わってるから別に良いと言えば良いんだが。

 

「もし無いのであれば、ちょっと開発部門の連中が作った商品を

 人目に付くところでプロデュースしてもらえないかな?」

「商品っすか?」

「ああ、こちらとしてもその商品の知名度が上がればさらに安泰するだろうし

 先ほど暇は既に出した。その商品を売ろうと渡そうと君の自由だ。

 あくまで社外の人間として、君の範囲で構わないからアピールして欲しいんだ」

「なるほどねぇ……ちなみにその商品ってのは?」

「シルフカンパニーの方との連動で、新しい『きずぐすり』の開発などをしていてね。

 回復と同時に状態異常を直すモノとか……あとはポケモン全体に行き渡る回復薬だね」

 

……何気にそれ凄くねえ?

かいふくのくすりは全状態異常と全回復ではあるが

1個が3000円と非常にバカらしくなるお値段の薬だ。

ここの部分を小分けにして安く提供出来るのなら、需要はあると思う。

 

「ふーむ……なんだったら臨時屋台でも作って、仕入れと販売を直轄してみますか?」

「おや、良いのかね? そうすると君の目的が果たしづらくなると思うが……」

「いえ、1箇所だけ好都合な場所があります。さっき会話してて気付きました」

 

そう、あそこなら確実に需要が存在し

なおかつドレディアさんを鍛え上げるという意味でも非常にやりやすい場所のはずだ。

 

加えて俺の手持ちは色々と狂っている。

ダグトリオを使えば、3人に分かれて別行動出来る意味を考えても

バケツリレー形式にスムーズに仕入れが可能だと思う、マスコットも俺の膝の上に居るしな。

 

 

「……して、その場所とは?」

「もうすぐカントーポケモンリーグが開催されるんでしょう?」

「……あぁ、なるほど。そういうことか」

「ええ、そういう事です♪」

 

 

こうして次の目的地は決まったのだった。

 

 

「臨時屋台を作る場所は……───『チャンピオンロード』です」

 

 






最近、音ゲーの古い曲を聴いている。
今の時代の曲も素晴らしいんだが、やはりその時代に生きた者達にしか
GenomやDrunkMonkyの良さはわからないと思う。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

90話 戦場へ


活動報告を見て居ない人もいるかもしれないので一応明記。
IFに一話追加してます。


 

 

チャンピオンロード。

 

概要こそ既にうろ覚えだが、ポケモンリーグが開かれるための敷地がある。

カントー・ジョウトならセキエイ高原、シンオウならなんか滝の上の施設。

 

ここに行くまでに必ず通らなければならない野生の登竜門と化しているダンジョン。

そしてそのダンジョンを目指す者は全員が、ジムバッヂ8個を集めた猛者。

殆どのトレーナーがエリートトレーナーであり、互いにシノギを削りあっている。

 

野生のポケモンが強い上に、そこにいるトレーナーたちまでレベルが高い。

つまりはポケモン達が傷付く可能性が非常に高い場所である。

ここの迷路具合と、あまりに血気盛んなトレーナー達にキレた人も居た事だろう。

 

まあ大抵の人は物語最終場面というのもあり、融通が利きコストの安い回復アイテムを携えて

それをチリポリと消費しながら進んだために、全滅まではしていないと思うが。

 

そんな場所に、カントーポケモンリーグが開催されるとなれば

例え2ヶ月前だとしても、元々が訓練しながら進むには持って来いの場所なのだ。

きっと開催が先だとしても、回復アイテムの需要は必ずあるはずだ。

 

そして、何故に道中で休憩所やら販売店がゲームではないかと言えば

おそらくは最終ダンジョン故のご都合主義なのだろうが

俺の概念で考えれば、このダンジョンは人が多く入る関係上道も整備されており

野生のポケモンさえ何とか出来る腕があれば

粗末ではあるながらも、臨時のフレンドリーショップを開く事が出来る場所だと思っている。

 

 

 

「……一応聞くが、大丈夫なのかい? あそこは例えトレーナーを退けたとしても

 出てくる野性のポケモンもカントー屈指の強さを誇る場所だよ?」

「まあ、なんとかなりますよ。一応は考えもありますし」

「うむ、そうか……なら、みなまで言わんよ。弾頭の最後の一仕事、頑張って欲しいところだね」

「まあ、今の時点で成功するかどうかまでは保証しかねますがねー」

 

行き先を決めた後、サカキと最後の会話へ入る。

ついでに、ポケモンリーグ開催時期が近くなったらセキエイ高原の方まで出向き

大会を観戦してからこっちに帰ってきても良いと思う。

 

「それじゃ、ちゃっちゃと旅荷物を纏めてチャンピオンロードまで行きますかね」

「おや、随分急ぐんだね。別にあと2、3日位のんびりしていても構わんのだよ?」

「入院費用とかでも散々迷惑掛けてますからね。ちょっと申し訳ないかなと思ってたんで」

 

意識を失う前まで、俺がくいっぱぐれないようにくれていた謝礼も

業務内容がさらに良くなっているため、本来なら増えているのだが

上記の内容もあったため、相殺という事で話をつけている。

 

提示された金額で考えれば、それを引いてもお釣りが来るわけだが

下手な大金を持ち歩いて、それが癖になっては見るも無残である。

故に相殺とはいえ、無理矢理納得してもらった形である。

 

「分かった、詳しい話は開発室に行って研究員と話を詰めてくれ。

 取締役として、健闘を祈っているよ」

「了解しました、そちらもまた忙しくなるでしょうが頑張ってください」

 

最後は互いに少しだけピシッと決め、食堂でお別れとなった。

 

 

「なるほど、最初に撒き餌として小ぶりなサンプルを渡し

 効果を実際に味わってもらった上で、リピーターを募るのか」

「ええ、化粧品とかと同じ手法ですね」

「わかった、では適当に小型の入れ物を用いて試供品を作っておこう。

 すぐに終わると思うから少しだけ待っていてくれ」

「あいー」

 

今回はお店に卸すような、正規の製品というわけでもないので

外装やら入れ物はざっくばらんに適当でも良い訳だ。

研究室で使われている様な容器に適度に分け入れ、サンプルにしてもらう。

 

この2ヶ月の間に、開発部門もかなりパワーアップしていた。

俺が病院で寝る前までは100万か200万の資本金をむしりとっていた金食い虫だったが

俺が渡した主婦の味方的アイディアと彼らの魔改造が生んだ製品が根強く売れ始めているらしく

開発部門の営業利益も一気に黒字にまで周りきっていた。

徐々に徐々に増え、現在2500万辺りまで資本金が増えているそうだ。

 

こんな感じで開発室もさらに強化され、研究員は当時の倍である6人が携わっている。

ついでに言えば新しく入った人達もどっか狂ってて変態気味です。

他の会社の研究施設じゃ物足りないって人達だからな……その手の人材が集まるのも当然か。

 

「こんなもので良いかな? タツヤ殿」

「うん、効果さえ感じられれば十分です、下手に大目に仕込んでも無駄ですからね」

「わかったよ、明日以降はトキワの街まで商品の提供として誰かが出向き

 君の手持ちのポケモンに渡す手配でいいのだね?」

「ええ、多分ダグトリオに出向かせますんで、代金やらはそこでお願いします」

「了解だ。欲しい商品や個数はその時に手持ちのポケモンに渡してくれ」

 

弾頭で出来る事前準備はこんなところかな。

さて、これからはいよいよ(違う意味で)激戦区での商売だ。

ここで燃えねばどこで燃えるのか、どれだけ売れるか楽しみである。

 

「さて、と……それじゃ先にそらをとべるポケモンとかの借り受け準備しておきます。

 ちょっとしたら戻ると思うので、各アイテムのサンプル作成をお願いしますね」

「あぁ……これから少し寂しくなるだろうが、こちらも頑張るとしよう。

 私を含めたここの6人も、全員君には感謝しているんだ。

 まさかこんなに好き勝手に、研究する事が出来るなんて思っていなかったからね」

「そりゃよかった。これからも好き勝手に出来る様に、会社の利を損なわん程度に頑張ってくださいね」

「ククク、そうだな。このようなぬるま湯の如くの研究では行けない。

 そのうち君ですら驚くような研究成果を見せてご覧に入れよう。

 楽しみにしていてくれたまえ」

「……世の中ひっくり返すような研究だけはしちゃ駄目ですよ?」

「そうだな、心得ておこう……クククク……」

 

…………。

うん、サカキさん、心の中で謝っておこう。ごめんなさい。

俺もしかしたらこの会社に、核地雷持ち込んだのかもしんないわ。

まぁ、もう俺はここからおさらばするし知らん。あとは任せた。

 

ともあれ、地下施設の受付からポケモンの借受書を提出。

街間を移動する事が出来る飛行ポケモンを1匹借り出した。

その後、先程の会話の通り研究室まで戻り

今日1日で使うであろうサンプルを全てキャッシュバッグに詰めてもらった。

 

 

そして、長らく世話になった弾頭の地下施設から

新たな旅立ちに出向こうとしたところで──ちょっと嬉しいサプライズがあった。

 

 

弾頭地下施設入り口の、ちょっと広いフロアにて。

サカキが20人程度の社員を連れ、そこで待機していた。

施設から出ようとする俺等は必然、彼等と鉢逢う事となる。

 

「どうしたんすかサカキさん……この人数、施設管理の人員が殆ど居るんじゃ……」

「いや、何……有限会社弾頭の名誉社員の旅立ちなのだ。これぐらいはさせてもらわないと、ね」

「何を───」

「───全員、新たに旅立つ名誉社員・タツヤとその手持ちの友に……敬礼ッ!!」

 

そのサカキの一声に、まるで軍隊の如く足並みを揃え

全員が手を額の横にビシッと付け、最上級の敬礼を俺に向ける。

 

『『タツヤさん、有難う御座いましたッッ!!』』

「oh……」

「ディーァ……」

「ホァァァ……」

 

実は普通に出して歩いていたドレディアさん達もその光景に圧巻され、口から声を漏らしてしまう。

あんた達さ、確かにこういうの嬉しいけどさ……

その敬礼向けてんの、ただの11歳児やぞ? なんか違和感ありすぎじゃないか?

普通に頑張ってーとかのがもっと嬉しかったんだが……

 

まぁ、長らく滞在し続けていた関係者にこういう事をされて、嬉しくない奴も居るはずが無い。

 

「みなさん、ありがとうございます───行ってきます!」

 

『『行ってらっしゃいませ!!』』

 

これからも、俺の旅は順調に続けていけるはずだ。

 

 

 

 

 

 

6時間後。

 

 

俺は弾頭地下施設に半泣きで戻ってきていた。

 

「えぐ……えぐっ……」

「ディ、ディァ……」

「い、いや……まぁ、その……落ち込んでは行けないよ? 世の中こんなものだろう。

 うまく行く事のほうが少ないのだから、気にしないほうがいいと思うよ?」

「でも……あんなにサッパリした別れをしたのに……

 なんでまたここに戻って来なきゃならないんだッ……カッコ悪くて死にたい……!」

 

今生の別れでこそないものの、あんなに期待を込められてさようならってしたのに

どうして俺は1日も経たずにここに居るんだ……!!

 

「ま、まぁ……忘れていた私も盲点だったよ」

 

そう、盲点でしかなかった。

 

 

 

 

「まさか君がバッヂを1個すら所持していないなんて」

「穴があったら入りたい……!」

『───;;;』

 

 

そんなわけで、意気揚々とチャンピオンロードに繰り出そうとしたら

セキエイ高原入り口? に該当する所の警備員にグレーバッヂが無いと通せないヨ☆と述べられ

初代から引き継がれる鉄壁の守備を持ってして、俺を通してくれなかった。

 

どうしようもなくなったがために、サカキの権限を用いて何とか出来ないものか思い

大恥をかきつつ弾頭に戻ってきたのだ。社員さん達の生暖かい目で死にそうです。

 

「とりあえず、その件は私が一緒にそこまで同行しよう。

 その際に警備員に特別通行証を発行してもらえばいいさ」

「あれ、そんなのあるんすか」

「そうじゃないとバッヂを持っていないオーキド博士とかも

 セキエイ高原に出向けなくなってしまうだろう? 事情を説明すれば行けない事はないと思う」

「それならいいんですが……」

 

事前にそこに思い当たってれば恥を掻かずに済んだのに……!

 

【ぬ、貴様等……どうした? 今日は妙にアウトドア的な装備だが】

【また旅に出るのー?】

「お、WM(ダブルミュウ)か……んだよ、ずっとここに世話になるわけにも行かんしな」

 

フロアの方で恥ずかしい目に遭っていたところ、ミュウとミュウツーがそこに通りかかる。

そういえばこいつら俺がいなくなったらどうすんのかな。

ミュウはミュウで仕事的にも会社のプラスだし

ミュウツーもミュウツーで、人間不信はゲーフ●の社員然りで大分改善されているはずだし

今なら人間社会で暮らすのもそこまで苦ではないだろう。

 

【ほぉ……行き先はチャンピオンロードとか言うところか】

「おや、知ってんの?」

【前に貴様の母親とストレス解消の為に出向いた事があるぞ。

 今回の貴様の主目的とは違う目的だったがな】

「何してんだよ母さん……」

 

その言葉だけで、当時のチャンピオンロードがどんな惨状なのか簡単に想像出来た。

まさかあの地形トラップって、こいつと母さんが遊んだ結果じゃないのか?

 

【ふむ……よし、この私も同行してやろう。感謝するのだな】

「別に要らんけど」

【なんだとォッ!?】

【あ、僕も僕もー♡】

「お、ミュウはいいぞー」

【貴様ッ!! 差別かッ!! この扱いの差は何だッ!!】

「お前の気のせいだよ、多分」

【そうだよーミュウツー、被害妄想はいけないよー】

【貴様等は私が頭の中を見通せる事を忘れてないか!?

 口と頭の中身が一切かみ合っていないではないかッ!!】

 

そんな感じでギャンギャンと言い合いに発展した末

サカキも「基本、ただ飯喰らいだから引き取ってくれ」との事で(何気にひでえ)

ミュウツーも今回の旅路の供となる事になった。

 

 

というわけでその後サカキに同行して貰い警備員に事情を説明。

その事情にハクを付ける為に、ポケモンリーグの特別出場枠の権利まで与えられてしまった。

まあそこの点は適当にサボれば問題あるまい。

 

「では、君の旅路に幸あらん事を……。改めて言うが、期待させてもらうからね?」

「うへー、変にプレッシャーかけんでくださいよ……」

「ハハハ、頼んだぞ。社長代理さん」

「どこの子供店長ですか」

「ディーァ」

 

そんな感じに軽口を叩き合い、警備員詰め所でお別れをして

すぐにチャンピオンロードの入り口に辿り付く。。

 

「よし……それじゃあ栄光のチャンピオンロード……」

 

「ディッ……!」

 

「ホアァァ~」

 

『ッッッ!!!』

 

「△▲☆★~♪」

 

「ミュー♪」

 

【ふん……】

 

 

「行くぞぉぉぉぉおおぉおってうぉぉおおぉぉおおーーーーーーー?!?!」

「グガーォォォォォン!!」

 

 

あ! やせいの ゴーリキーが くうきをよまず とびだしてきた!

 

「ディ」

「グガオォォォォォォォォンッ!?!?」

 

いちげき ひっさつ!

 

 

「ディーァァー?#」

「ォォォン……;」

「ドレディアさん、その辺で良いから……俺はもう怒ってないから」

「ディーァ?」

「いや、すまんねゴーリキー。

 お前達からすりゃ縄張りに侵入してきた敵だろうに、いきなりシバき倒しちまって……」

「ォォォォン……」

「ホアァァ……」

 

1歩目を踏み出したところで、突然ゴーリキーが襲い掛かってきた。

そして横にスタンバっていたドレディアさんがこれを一撃粉砕。

かわいそうな子の代表例を作り上げてしまった。

ミロカロスもこれはさすがに、と思ったのか殴られた箇所に水を流して癒している。

 

「大丈夫か? 傷がきついならミックスオレ飲んでおくか?」

「ォーン;;」

 

【すんません;;】と申し訳なさそうに俺からミックスオレを受け取るゴーリキー。

まあ、ドレディアさんに肉弾戦で勝てる奴など殆どおらんだろうし

君が弱いわけでもないからな、元気を出して強く生きてくれ。

 

 

ててててーん♪

 

 

「ん?」

「ディァ」

 

なんか久しぶりに聞いた音だな、ポケズ(ポケモン図鑑)からだ。

 

「どうしたよ。ていうかお前本当に久しぶりだな」

「ええ、お久しぶりです。まぁ基本戦闘要員でもないですし出番はないですよね。

 2ヶ月間、バッグの中に放り込まれて何も出来ずにずっと暇でしたよマスター」

「命の危険だったんだ、文句言うなぃ」

「で、用件ですけど……ドレディアさんのレベルが上がりました」

「ディァ!」

 

おぉ、そうかそうか。そういやレベルアップ自体も久しぶりだな。

最近ずっと弾頭の施設でダベってるばかりだったからなぁ……

気付かんうちにダグトリオもレベル上がりまくってるし。

しょっちゅう修行だのなんだのって出かけてたしな、こいつら……。

 

「おめでとうございます、ドレちゃん。Lv36程度ですよ~」

「ディァ~ディァ♪」

 

ポケズからの報告を聞き、嬉しそうに頭を左右にゆらゆらさせるドレディアさん。

なんでこのファンタジーな可愛さを維持出来ないんでしょうか、この草人は。

 

「そういえばマスターも良いレベルな筈ですし、進化とかしないんですか?」

「出来るか阿呆!!」

【……貴様なら、案外出来るのではないか?

 あいつの息子というなら出来ても問題はない気がするが】

 

人の身に一体何を期待しているんだこいつらは。

っと、そんな事よりだ。

 

「んーゴーリキーさぁ、よかったらお前んとこの群れだけでもいいから

 俺等がしばらくここに居座るーっての伝えてくんねーかな」

「グ?」

「お前等んとこのだけでも、飛び掛ってこないんなら楽だし

 こっちもその上で襲い掛かられたら遠慮なくぶちのめせるしさ」

「グガーォン」

 

【了解っす】と気前良く同意してくれるゴーリキー。

野生のポケモンとて話せばちゃんとわかる───

 

「ディ~ァ? ドーレディァ」

「グ、グガォン……;;」

 

───話してわかってもらえたはず。

うん、そのはず。きっとドレディアさんの威圧は関係ない。

 

 

せっかくなので瞬殺されたゴーリキーにダンジョンの中盤まで道案内をしてもらう。

途中途中でエリートトレーナーに突っかかってこられたのだが

今回はアイテムを持参した上での合理性があるため

事情を説明して面倒なトレーナーバトルを引っ込めて貰う。

 

なお、融通を利かせない『あたまでっかち』トレーナーに対しては

出してきたポケモンをルール無用でドレ・ダグ3人を出向かせ、ついでに俺も出向き

瞬殺フルボッコにし、試合回避に同意しなかった事を後悔させたのを明記しておく。

 

話し合いは大事なのですよ。

 

 

「うん、まあここら辺でいいかな? 丁度ダンジョン的にも中腹辺りだし……」

「グガォン」

「よし、じゃあここに簡素な小屋的なモンでも立ててしまおう。

 ゴーリキー、道案内ありがとうな! 俺等しばらくここら辺にいるから

 よかったらたまには遊びに来てくれや。ジュースぐらいは出すぞ」

「グガーォーン!!」

 

道案内してくれたゴーリキーとお別れをして

俺等は臨時フレンドリーショップの準備に入る。

 

「よし、それじゃあミュウよ。悪いけど適当に石材作ってくんないかな」

「ミュィ?」

「んだーね、あのでっけー岩で良いか。

 こう、この位の大きさの四角にして切り取ってくれ」

「ミューィ」

 

俺の言葉を聞き届け

シオンの工事現場でやったような感じでズガガガガガッと大岩にカットエフェクトが入り

まるでドラゴン●ールのセルゲームの石材が如くに早代わり。

 

【ふ……その程度の技など造作もない。私も手伝ってやろう、光栄に思うが良い】

「あ、そ。じゃやってくれ」

【ッチ……相変わらず感謝の欠片も無い奴だな。】

 

そう呟きながらミュウツーもそこらの大岩にズガガガガッとした途端に岩雪崩が俺等を襲ってくる。

 

【なっ!? ぬ、ぐっ!】

 

自分で発生させた岩雪崩を自分の念力で全て受け止め、適当な位置に吹っ飛ばすミュウツー。

 

「…………。」

【…………相変わらず脳筋だねぇ】

【し、失礼な事を抜かすなッ!?

 こんな失敗、一度や二度ぐらい誰にでもあるものだろうっ!!】

 

そしてもう一度適当な大岩に切れ目を入れるが

今度は絹ごし豆腐が地面に落ちたかの如く、ぐしゃぐしゃな感じになった。

これはこれで恐ろしいが……これが一体なんの役に立つのだ。

 

「お前もう良いから座ってろ。な?」

【ぐぬぬ……!】

 

動かれて足を引っ張られたらたまったもんではない。

 

 

 

 

ミュウが作った石材ブロックを、ポケモン全員で組み込んで行き

大体8畳ほどの広さを備えた小屋が出来上がる。

屋根に関しては何かしら木材を持ってこなければ行けない気がするので

ダグトリオに仕入れに行ってもらう際にドレディアさんでも付けておこう。

ひとまずは屋根の無い壁のみの小屋だが、拠点としては丁度よかろう。

俺等が居なくなっても休憩所として使ってもらえるかもしれんしな。

 

あ、看板とか一切持ってきてねえや。

声を張り上げて客を呼ぶのも面倒だし、今日はお休みでいいか……。

 

「それじゃみんな、明日から頑張るぞー!」

『おーう!!』

「あ、ミュウツーは頑張らなくていいから」

【なんだとっ!?】

 

 

こうして、チャンピオンロードのとあるフロアの隅に

臨時のフレンドリーショップが出来上がったのだった。

頑張って営業するぞー。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

91話 商日記

 

 

やぁ諸君、タツヤだ。

 

現在どういう訳だか予定外の方向に物事が進み始めてしまっている。

と、いきなりそう言ってもよくわからないだろう。

 

幸い日記をつけていたので、こちらを読んで欲しい。

 

 

 

 

(あきな)い日記~

 

『1日目 外は晴れ

 

 昨日チャンピオンロードに辿り付き、急ごしらえではあるのだが、一息着ける様な居を構えた。

 モノ珍しさがあったのか、ズバットやらゴルバットに襲撃される。

 しかしそこは岩作りの壁である。3匹の子豚の様にゴルバットは壁にはじかれ

 

 なかった。

 

 どうやら本格的な工事と比べて接着的なものが無かったために

 当たり前といえば当たり前の如く、まるでジェンガのように壁は崩れ落ちた。

 

 その後頑張って作り上げたミュウやらドレディアさん達の手によって

 襲撃ズバゴルさん達が漏れなくリンチに遭ったのは言うまでもない。

 

 俺も若干イラ付いたので猿轡をした後に、その猿轡に紐を通し天井に吊るしておいた。

 例え自分の手持ちではなくともお仕置きは必要だと思う。

 1時間ぐらいした後に本気で痛がっているっぽかったので、とりあえず逃がしておいた。

 虐待に進化させてまでお仕置きを続ける気はさらさら無いのだ。

 

 その騒動と修復が若干騒がしかったせいか

 昨日挨拶して回ったトレーナーがこの住居を訪ねてきた、というか迷い込んでいた。

 光も差さない洞窟内部なため、どうやら体内時計が狂った上で迷いに迷ってここまで来たそうだ。

 苦労してんなぁ……。

 

 昼間辺りのズバゴル襲来のせいで全面的に修復中のため。若干うるさくはあるが

 とりあえずその人達には簡素な宿屋として、住居を貸し出しておいた。

 ……これ金取れるんじゃないか?

 

 修復が終わった後はダグ共3人に指令を飛ばす。

 ひとまず各回復剤を20個ずつと、食料と木の板を発注しておく。

 サンプルのモノはそれぞれ5個程度残っているが

 本当に欲しがられた時に商品がその場に無くては目も当てられない。

 

 ついでだからダグONEだけ残し、トキワ=チャンピオンルートで

 あなぬけのヒモ代わりの通路の確保をお願いしておいた。

 

 一応セキエイ高原に入る前に一般トレーナーがそれに気付いてしまい

 裏技的にこちらに来て頂かない為に、細工を施しておいてくれと伝えておく。

 今回のTWOとⅢは完全に仕入れ要員だ。

 

 時差ボケ的なモノで、夜の8時ぐらいにトレーナーさん達が続々と起きて来る。

 起きて来る可能性も考慮して多めに作っていたので、飯を分けて食べさせた。

 久しぶりの美味い飯だと、トレーナーの手持ちのポケモン共々感動していた。

 ドレディアさんに見せびらかして食って、例の如く殴られて、1日が終わった。』

 

 

 

『2日目 外は槍

 

 迷いこんだトレーナーが元気良く出発した。

 

「また来てもいいかな!?」と言われ「次は金取りますよ」と伝えると

「それでも来る」と言っていた。なんか俺らの目的違って来てねえか?

 

 こんな人の住める環境じゃない場所で人並みの寝床や食事が出るのは

 エリートトレーナーさん達にとってはかなりの精神安定剤になるそうである。

 

 まあ、これから1泊700円としておこうか。

 金を取る事に決めた為、ミュウとドレディアさんには建設に回ってもらう事に。

 

 建設途中にダグTWOとⅢが仕入れから帰ってきた。

 どうやらサカキから手紙を1通もらっているらしい。

 

[試供品ではお金にもならぬだろう。

 今回の仕入れに関する金額のみ、弾頭の経費として回しておく。

 別に私達はこれからも弾頭持ちでも良いのだが、それでは君が納得しないだろう。

 次回からはそれらの売上等も考慮し、上手く出店を回してくれ]

 

 ちゃんとこちらを考えた提案をしてくれるからうれしいものだ。

 その手紙を読み終えた後、木の板を1枚細工して店名を描いた看板に仕上げておいた。

 ここは念写が出来るミュウツーが役に立つ。

 

 そして本日いよいよ開店!! 今日から頑張るぞ!!

 

 

 

 店名・「なぞのみせ Lv98」

 出張店舗なのでちょっとお高いです☆

 

 

 

 チャド(チャンピオンロード)に入った際、すぐに出会ったゴーリキーが開店祝いに駆けつけてくれた。

 多分ただ普通に逢いに来ただけの偶然だと思う。

 でもお土産にほしのかけら持って来てたし許す。

 

 おもてなしとしてミックスオレを振舞っておいた。

 横から出てきたミュウツーまで欲しがったため、仕方が無いので飲ませておく。

 そろそろミックスオレの在庫が厳しいな。明日行って貰う仕入れの品目に混ぜておこう。

 

 そうして看板を外に出して、適当にゴーリキーとダベる事30分……お客さん第1号が来店した。

 

 ファイヤーだった。

 

 店にかえんほうしゃを仕掛けてきそうだったので、本来のタイプ相性は最悪のドレディアさんに任せる。

 攻撃を喰らう前に即座に轟沈していたファイヤーが哀れだった。

 

 決まり手:ネックブリーカードロップ 

 

 とりあえず扱いが面倒なのでダグONEに頼んで、仕入れ用通路から外に逃がしておいた。

 お前一応伝説の鳥なんだからこんなとこに引きこもってないで空飛んで来い。

 

 

 ファイヤーを片付けて通路から店に戻り20分ほどしたところで、お客様第2号が来店。

 今度は普通にトレーナーだった。チャドに初めて来た時にすれ違った人だ。

 

 話を聞いてみると、どうやら試供品が気に入ったらしい。

 先に地獄の沙汰も金次第と言う事を説明し、回復薬の関係は全部が

 こちらで買い取る額も含めて3割増である事を説明しておく。

 

 値段を聞いたら、トレーナーさんもさすがに少し怯んではいたが

 弾頭作成の回復薬は、他の薬と比べてもそこまで割高ではないので

 それぞれの回復薬を2個ずつ購入して頂けた。さすがに全体回復薬は1個だが。

 

 ついでに宿的なもんもやってる事を伝えると「あとで来るわね!」と言ってた。

 

 それからはちらほらとお客とゴルバットが訪れ、売ったり買ったりボコッたり。

 お客さんは少ないながらも、売上自体はかなり良かった。

 

 お客さんにアンケートをとってみると「三色の状態治し+回復が便利かな」と言っていた。

 ここがあくまでも出店であり、本来の値段が3割増じゃない事を考えた上で

 いいきずぐすりが700円と考えると、ここで売られてる方に軍配が上がるそうだ。

 

 今日の売上は25000円程度だった。純利益としてはこれで10000円程度か?

 最後に宿予約の人達が3人訪れ、飯を振舞って終わった。

 ドレディアさんの滝のようなヨダレが哀れに思えてしまったので

 明日から夜飯を解禁、と伝えておいた。

 発狂してた。』

 

 

 

『3日目 外はきあいだま

 

 昨日のように、泊まった人達を見送って1日がスタート。

 

 さぁ、商売だ! と思ったら件のゴーリキーが大量に同族と子供(ワンリキー)を連れて来た。

 なんでもドレディアさんに一族を鍛えて欲しい、との事だ。

 初日のあの完封っぷりに恐れ(おのの)くと同時に惚れ込んだそうだ。

 建設係を俺とミロカロスでバトンタッチし、ドレディアさんには好きにしていいよと伝えておいた。

 

 ゴルバットがまた喧嘩を売りに来た、どうやら縄張りに俺等が居る事が本当に気に食わないらしい。

 ミロカロスに突っ込んでいった所で、店の周りを警備していたダグONEが素早く捕まえ

 これ以上来られると面倒なので、脚に鎖を繋げて番犬化させておいた。

 

 暇なのかミュウツーがドSッぷりを発揮し、ゴルバットを色々いじっていた。

 だからお前はアホなのだ。

 

 今日はお昼頃にも、泊まったトレーナー達が2人ほど来訪してきた。

 昼飯も作ってもらえないかとの事だった。

 

 幸いながら1日に3食分の食材は面倒かなと思い、ダグTWOには余分に仕入れさせてたのが幸を奏し

 材料は足りそうだったので、そのまま作って一緒に飯を食い、雑談しながらお昼を過ごした。

 トレーナー曰く、昨日ここで泊まったおかげで自分もポケモンも調子が上向きらしく

 今のところ連戦連勝との事だ、良い方向に動いているようで何より。

 

 午後からまた何人もお客さんが訪れ、物珍しそうに商品を眺めてた。

 初日に試供品を渡していない方々と判断し、残っていた試供品を提供しておく。

 

 それが過ぎ去った後は、一度見た人達が訪れて商品を買って行った。

 ま、値段が値段なので小口ではあるが確かに売れている。

 

 ふと気になったのでドレディアさん達の様子を見に行った。

 ゴーリキーとワンリキーが山積みになっていた、ドレディアさん強ぇ……

 ケツポケットに入れてたポケズ(ポケモン図鑑)から音が流れ

 取り出してみたところ、ドレディアさんのレベルが40になっていたそうだ。

 なんなんだろう、このパワーレベリングに近い現象は。

 

 それから店に戻ったところ、一度見た顔の人が来店していた。

 シオン辺りで遭遇して、ダークライを殴り飛ばした際のワカメの人だ。

 

 突然の遭遇に身構えられたが、こちらは今回は商売目的と伝えると安心される。

 弱りきってる人に喧嘩売るあんたほど物騒じゃねーっつーの、こっちは。

 

 最後に残っていた試供品を手渡し、こう言う事をしていると説明したところ

「なんで眠りを回復するものはないんだ?」と聞かれる。

 研究員から何も聞かされていないのであせってしまうがとりあえず

「そんなもん殴って叩き起こせ」と伝えた所ドン引きされた。

 失礼な。

 

 ワカメの人が去った後は極々平穏な時間が過ぎていった。

 なんか住居の裏手からゴルバットの悲鳴が聞こえたが気のせいだろう。

 

 本日の売上は17000円程度。純利益は7000円ぐらいかな?

 ダグTWOに食材を余分にと、足りなくなったアイテムの補充を頼み

 仕入先合流地点のトキワへ走らせておいた。

 

 今日は5人も泊まりにきやがった。

 追加の2人のうち一人は、泊まった人と対戦した際にここの存在を聞いて尋ねてきたらしい。

 もう一人はさっきの件のワカメの人だ、しばらく旅ばかりで人恋しいそうだ。

 ワカメの人の手持ちはダークライ1匹らしい、チャレンジャーだなぁ。

 他にも居たのだが一旦逃がしたと言っていた。

 

 他の宿泊客から「見せて見せて!」とせがまれ、ダークライを出していた。

 しばらくその威圧感やらなんやらを出していたところ、ドレディアさんが

【おまえなんかムカつく】といきなり言い出しバトルに発展してしまいそうになる。

 騒ぎになる前にドレディアさんの頭を掴んで、外に放り出しておいた。

 

 今日も平穏な一日だった。おやすみなさい。』

 

 

 

『4日目 外はりゅうせいぐん

 

 昨日泊まったワカメの人に

 

「君のポケモン達はどの程度戦えるんだい?」

 

 と尋ねられる。

 確かに前遭遇した時は問答無用で俺がシバき倒してたしなぁ……。

 

 ミロカロス以外は結構狂った性能、と伝えると「やらないか」としつこく迫られる。

 他の宿泊客達にまでバトルをせびられ、仕方が無いので合意してしまった。

 思えばここが俺の運の尽きだったのかもしれない……まさかあんなことになるとは。

 

 休業するという程のことでも無いなと思い、ドレディアさんとダグ共には

「今日は彼等と戦ってて良い」と伝えて、俺は一人で店の準備に取り掛かる。

 

 ついでに良い案を思いついたので、ミュウに持たせっぱなしのスピーカーもあるので

 ミュウに戦闘BGMでも流しておいて貰うことにした。

 ミュウも乗り気だったので、全員普段よりバトルに励める事だろう。

 BGMはホウエン地方の四天王戦でいいか。なんでこの神曲BW2にないんだろう。

 

 店の方は相変わらず来店客が少ない、まあ街中でもないし仕方ないのだが。

 それでも新商品の謡い文句には惹かれるものがあるのか、誰かしら1個は回復薬を買って行く。

 高いといえば高いが、用心に越した事は無いと言っていた。

 

 適当なところで人もいなくなり、ドレディアさん達の様子を見に行く。

 俺が辿り付いた時点で、ダークライは宿泊客の手持ちに倒されていた。

 倒される攻撃に関しても、一撃がでかいようなものではなかったため

 経緯を聞いてみたところ、無双し続け力尽きた感じらしい。

 見てみればドレディアさんとダグ共も横でくたばっていた。

 

 乱取り4人目にして漸くダークライ撃破になったそうである。ダークライ強ぇー。

 

 ゴルバットの方へ様子を見に行く。

 やはりミュウツーがぴちぴちいじめていた。かわいそうだろお前……

 

 どうやら反省したようなので、鎖を外した後サイコソーダを飲ませて解き放っておいた。

 これで来たら次はどうしよう。

 

 そうしてまた1日の終わり───と思ったら、宿泊客がとんでもない事を言い出した。

 

「ここの宿泊客同士で戦ってれば

 ポケモンが強くなる上に、1日をここで過ごせるんだからすっごい合理的じゃね?」

 

 俺の負担を考えやがれクソッタレ。

 正直そう思ったのだが全員が全員同調してしまい

 俺の店は強化合宿場になってしまったのだった。

 

 まあ、商売しながらの片手間でいいなら許可しておこう。

 順調に売れる事も確認出来たからな。』

 

 

 

 

こんな感じで大体日々が過ぎていき、そして現在。

 

急いでポケモンリーグに向かう必要も無いトレーナーがこぞってここに泊まっているため

無駄にダンジョン大所帯となってしまっている、その数20人。

さすがに収容しきれなくなり、追加で住居の建築を行いなんとかなっているという感じである。

 

「ダークライ、ふいうちだ!」

「なっ!しまっ───」

 

今日も商店の横では過激にバトルが繰り広げられています。うざってぇ。

 

「ディー! ディーア!」

「あー? 嫌だよ面倒な……なんでわざわざやられにいかなあかんのじゃ」

「ディー……」

 

ドレディアさんもしきりに一緒にやろうと言ってくるが

あんなダークライとか、不意打ちしないと勝てる気しない化けモンに

正攻法じゃ負け率ハンパねぇ俺が、何をどうやって立ち向かえっつーんだよ。

 

「バトルなんてそんな楽しむもんじゃない。な、ミロカロス」

「ホ、ホァ」

「ディァー……」

 

がっくりしながら対戦場へ戻って行くドレディアさん。

このチャドに住んでいるゴーリキーに喧嘩を吹っかけ、一撃でしばいていた。

そんなに不満なのか……やりたくないんだか俺の事は放っておいてくれよ……。

 

【ふん……大多数の意見に流されない事は評価点として認めてやらんでもない。

 まぁ、やはりバトルよりは可愛いポケモンについて語る方が生産的であろうな】

「どこがだ阿呆。そんなに可愛いポケモンが好きなら家でも構えて飼え」

【無理を言うな……! そんな事が出来るなら当の間にしている!】

「じゃあなんでやらんのよ」

【可愛いポケモンが私の姿を見たら怖がって逃げて行くからに決まっているだろうッ】

 

…………。

 

「ごめんなさい」

【ふん、判れば良い。ヤツラめ……私の悲しみも知らん癖に一目散に逃げおって……】

 

なんだろう、俺の中でミュウツーの像がどんどん壊れて行くよ。

お前あずまんがの榊さんかよ。

 

【でもまあ、君的には若干満足してるんじゃないの?

 人が沢山泊まってて、その分お金にもなるんだし】

「お前、俺の初期の目的忘れてねえ?

 俺のそもそもの目的は新商品のPRなんですけど」

【あっ】

「……まあ、何も言わんでおこう」

 

どうやら金稼ぎが第一目的と思われていたらしい。

断じてそんな事は無いぞ。単に稼げるなら出来るだけ稼ぎたいだけだ。

 

「ったく……まあ商品も地味に売れてるから良いけどさぁ……

 なんかこう、俺の思ってたのと違うんだよなぁ。なして合宿なんかになっちまってんのか」

【それだけ供給が少なかったんじゃないの?

 読みが正しかったって事だし、いいんじゃなーい?】

「そうかもしれんけど納得行かんわ本当に……俺が求めていたのはこんなもんじゃない……!」

 

なんでなんだ、どうしてこうなってしまったんだ。

やはりあのワカメの人にどれだけ戦えるか尋ねられたところで変わったのか。

 

「くそ、もういいや……おいミュウ、ミュウツー、人生ゲームやるべ!

 バトルなんざしてられん!! 今日こそ1位になってやる!」

【ほほぅ……この完璧な人生設計を持つ私を下すとでも?】

【おーいいねいいね、2人でミュウツーボコっちゃおう♪】

【なっ、貴様等……! 連携は卑怯だぞッ!!】

「卑怯? ──素晴らしいじゃないか。

 さぁ、ミュウ! 準備は良いな!?」

【おーぅ!】

「ホァ、ホーァー」

「お、ミロカロスも混ざる? よっしじゃあ4人で対戦だー」

 

さぁ、みんなでミュウツーをぶっ飛ばすぞー!

でもミロカロスは平和主義者だからな……混ざってくれなさそうだな。

よし、一緒にぶっ潰す。

 

 

 

 

「へっへっへ……どうだよミュウツー、後1歩で俺はゴールだぜ……!」

【ぬ、ぐ……まだだ、まだ終わらんよ!!】

「ホ、ホ~ァ……」

【ぷくく……♪ ミュウツーあんだけ大見得切っといてドンケツだもんね♡】

 

今回は途中で客が来訪する事も無く(まあチャドのトレーナー殆どここにいるみたいだし

最後まで人生ゲームをやりきれている。

 

そしてミュウと俺は裏でタッグを組み、ミュウツーをボコボコにしていた。

ミロカロスも何気にTOPを走っており、その差は僅差。

先にゴールすれば、俺がトップで逃げ切る事も可能かもしれない。

 

「さぁ、ルーレットを回すぜ……!」

【……外れろ、ハズレろ……!】

【頑張れー! 後1歩だよ!】

「ホ、ホァー」

 

そして運命のルーレットが回転ッ!!

それが示す数字は─────[1]!

 

「っしゃぁぁぁぁっ!! 俺の勝ちが見えt───」

「ハクリュー! ドラゴンテールよっ!!」

 

ズバァンッ!

 

「───ーーー!」

「ダ、ダークラーーーーーーイッ!!」

「あん?」

 

なんかがこっちに高速で迫るような風切り音がしたので、横手に振り返ってみると……

 

 

 

ダークライがふっとばし技を喰らってこっちに飛んできて─────

 

 

 

ドシャァァァァンッ!!

 

「あ」

【あ】

【あ】

「ァ」

 

 

 

人生ゲームのお金とコマと盤面がダークライに巻き込まれて

 

バラバラの粉々に……

 

 

「て、てめ何してくれとんじゃこのガングロがァァァァァーーーーーーッ!!!」

「ッ─────!?」

 

苛立ち紛れに、転がってきたダークライに馬乗りになり、全力で顔面をぶん殴る。

 

「あぁっ!? ちょ、やめ、やめてくれ店主君っ!!」

「うるせぇぇぇぇ!! ゴール出来たのに!!

 トップで勝てそうだったのにッ!! てめぇのせいでええええええ!!」

「─────ッ! ─────;;」

「お願いっ、お願いやめてあげてくれえええええっ!!

 ダークライは悪くないんだぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

【……ふふん、これはさすがにノーコンテストだな。

 やはり世界に愛されている私は、運命が私の負けを許さんらしいな】

【何寝言言ってんの。ほら、僕らの念力で修理してもっかいだよ。

 しっかり地べたに~()(つくば)ってもらわないと、ね♪】

【ふ、よかろう。運命が味方した私に敵など居ないのだッ!!】

「ホァ……」

 

 

 

怒りが収まらなかったので、瀕死になるまでダークライを殴り続けてしまった。

俺は悪くない。きっと悪くない。

 

 






品揃えは

・まひきずなおし  900円+3割  まひ回復ついでに40ほどHPを回復
・やけどきずなおし 900円+3割  やけど回復ついでに(ry
・こおりきずなおし 900円+3割  こおり回復ry(
・リカバリーボトル 5,000円+3割 全員のHPを70程回復

他、買い取ることになる薬

となっております。

全員回復するものは高い気がするかもしれませんが
全員が削りに削られ危ない場面で一気に全員回復出来る有用性を考えると
このぐらいでも安い気がしたのでこうなりました。

最近更新欲が減退中、まあ仕方ないといえば仕方ないか。反応あんまし無いし……
ま、多分完結はさせますからご安心を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

92話 居た。

 

 

ダークライを怒りに任せてシバき倒してから5日ほど経った。

リーグの開催までまだ1ヶ月以上あるせいか、トレーナー達もここから動く気配が無い。

というか今となってはむしろ宿屋のほうがメインになりつつある。

お前等バトル脳すぎるだろ……ちょっとは生産的な事しやがれ。

 

 

宿屋がメインになったとは言っても、別段新製品の売上が落ちたワケでもなく

単に宿屋での純利益が、毎日安定して稼げているだけの事だ。

 

20人×700円-そいつらに掛ける経費(食事)として

1日の純利益がここだけで7000円程度は稼げているのだ。

 

一応この件で予定外の出費となっている人も一部いるらしく

開催期間までまだ日がある+ここに宿があるという事から

ダグ達が使っている搬入通路からチャド(チャンピオンロード)からの脱出を求める人も一部居た。

当然金は取っておく、まああなぬけのヒモの半額が妥当だろう。

またのお越しをお待ちしておりません。はよリーグ行けお前等。

 

 

実際のところの話なのだが、このチャド(チャンピオンロード)では周り全員が敵なのである。

せいぜいアニポケみたく集団で旅をしている人達以外は、他のトレーナーも漏れなく敵であり

最低限度のマナーこそ守られているが、どちらにしろ信用はならない者とされている。

寝てる間に財布取られたりとかね。

 

この不安材料を考えて、例え寝具が持参の寝袋やら毛布だったとしても

集団で寝泊りしていると、周り全員が監視者なので不安材料が解消されているそうだ。

ぐっすりと眠れるらしく1日の始まりがすっきりしているとの事で

まあ確かにそう聞くと、1日1日寝づらいもんがあるよなー。

 

なお「その不安って集団で寝るほうが危なくね?」との意見だが

そんだけ固まっていると、誰かがゴソゴソと大きく動けばすぐわかるとの事である。

ついでに言えばそこら辺を鑑みて、寝ずの番を置いた倉庫も作っており

財布以外のちょっとかさばる荷物は、そこでお預かりしている。

 

番人は、ご存知こちらの居住のゴーリキーである。

1日ミックスオレ2本で(うけたまわ)ってもらってます、適材適所である。

一応こんなんでいいのか? と聞いたのだが、やはり野生のポケモンからすると

ミュウツーの前例があるように、ジュース類は非常に美味らしく。

 

ま、それぞれで物の価値が違うって事なんだろうね。

 

現在収容人数は23人。

まあ、掃除とかする必要ないから面倒もあまりないんだが

それでもなんていうか、なんていうかさ……違くね?

 

「─────」

「ん、おぅダークライ」

 

最初の方針との違いに思い悩んでいると、2回もボコってしまった子が傍に来た。

今日はどうやら、既に一度K.Oされた後らしい、ちょっとボロボロである。

 

「────?」

「あーうん、まあ……贅沢な悩みってところ。

 おかしいよなぁ、こんな予定なかったんだけどなぁ、なんでみんなここに住み着いてんだろ」

 

利便性は上記の通りで判るのだが……

俺、ここに居るのって新商品をPRするためなんですけどね? どういう事ですかショチョォ!

 

「ま、お前に愚痴ったところで何にもならんよなー……ほれ、飴ちゃんやる。食いなさい」

「────♪」

 

最近芋から水あめを作れる事を知ったので、色々と凝って飴を作り始めた。

水あめから水分を抜いて適当に舐めれるサイズに纏めれば「あめ」は『飴』になってくれた。

いや、現実でそんなんあったか知らんけど、俺の手持ち(?)のヤツラが出来たから仕方ない。

具体的に言えばミュウが念力パゥワァでなんとかしてしまった、あいつチートすぎる。

 

味もそんなに悪いものではないらしく、

たまに顔を見せに来るこいつや、ときたま名も知らん宿泊者のポケモンに与えてみている。

評判は上々、なんだろうかね? まあタダでもらう飴だし。

 

「───お、ダークライ。ここにいたか」

「あぁ、どうもタクトさん」

「─────」

 

ご主人が来たので、ピョーとご主人の後ろに付くダークライ。

 

「すまないね、また飴玉をもらってたのか」

「いや、気にせんでいいっすよ。所詮趣味の領域のもんですし」

 

まあ俺が食って美味いとまで思えないもんから、金を取るわけにもいかないからな。

 

「タクトさんも食います?」

「じゃあ、頂いておこうかな」

「今日はトレーナーバトルはもうおしまいですか」

「そうだね、確かにこいつは強いけど……無理をさせては育つものも育たないからね」

「────♪」

 

そう言いながら、タクトさんは横で浮いているダークライの頭を優しく撫でる。

しかしまぁ、ダークライなんつー明らかな厨ポケ使ってんのに、真っ当な(こころざし)持ってんなぁこの人。

一撃で屠れれば全て良し的な、母さんの発想と似たようなタイプと思ってたんだが。

 

まあ、それは彼に限らず伝説系を平然とバトルに参加させる人全員に対してだが。

 

「しかし、本当に凄い企画をしたものだね……

 明らかに発想が11歳の子供のものではないけど、一体どうやってこんな発想に?」

「いや、元々こんなことしようとしてこうなったわけじゃないですからね。

 初日に新商品のPR場所として立てたこの住居に、一人迷い込んで来て……」

 

俺がこんな宿屋になってしまった経緯を説明すると

タクトさんは声を軽く上げて笑っている。

 

「ハッハッハ、なるほど。流れに身を任せてしまったわけか。

 それでも凄い事だとは思うよ」

「そーですかねぇ」

「少なくとも僕はそう思う。

 他の地方のチャンピオンロードもだけど。やたらと無意味に難易度が高いからね……

 君が作ったこの施設は、精神的な負担が減った上でバトルに集中出来るからありがたい」

「いや無意味に難易度高いって……それがチャドの存在価値じゃないんすか?

 ここを越えれんような軟弱な人達を全員相手にしてたら

 今回みたいなリーグの管理者も、開催してない時期の四天王さんも大変でしょう」

「だが、中には野営が苦手ながらも

 戦いでは突出した才能を持っている人が居るかもしれないだろう?」

「んんー……」

 

そう考えれば、確かに救いにはなっている……の、か?

 

「まあ、深く考える必要は無いと思う。

 必要とされてなかったらここまで人が膨れ上がる事は無かっただろうし」

「利用されているだけありがたい、って事ですかね?」

「それで、いいんじゃないかな?

 さてダークライ、今日はもうバトルは出来ないが

 観戦位なら体力も使わず出来るだろう、戦略を研究しに行こうか」

「─────」

「では、邪魔したね。また夜においしいモノを期待させてもらうよ」

うぇーい(めんどくせぇー)

「……本音が漏れてるよw」

「ハッ!?」

 

苦笑しながら、アイテム売り場からタクトさんが離れて行く。

戦略の研究、ねぇ……俺も見に行こうかなぁ?

 

「! ホーァッ!」

「うぉっとぉ?! どうしたミロカロスさん」

【サボりはいけませんっ、初志貫徹ですっ!】

「えぇー、別にいきなりお客さんが現れるわけでも───」

「……? ここは一体、なんなんだ?」

「…………いらっしぇーぃ」

 

ち、出鼻をくじかれるとはこのことか。

 

適当に理由つけて暇が潰せそうなあっちの会場に行こうと思ったのに。

横に居るミロカロスが、予想が的中した事に対してドヤ顔をキメている。

ちょっとうざかったので両こめかみに握りこぶしを設置しウメボシをしておいた。

 

「アッー!」

 

悲鳴を上げて泣きが入ったミロカロスはトイレに置いといて。

今回来訪した人は、俺自身顔も見た事が無い人だ。おそらく新規入場者だろう。

 

そして話を聞けば案の定、大会前の最後の追い込みで鍛えに来たのに

チャドの全域にトレーナーが殆ど居ない異常事態が起こっているとの事である。

どう見てもここが原因です、本当にありがとうございました。

 

「……一応裏手で野生ポケモンも混じって大バトルやりまくってますよ。

 すりつぶされそうじゃなけりゃ見てくるのも手じゃないですかね」

「……そうか、やっと鍛えられるんだな。

 わかった、ありがとう。行ってきてみるよ」

 

ついでに全体回復以外の3種と、俺が買い取ったすごいきずぐすりを買って行き

とても楽しそうな笑みを顔に浮かべて激戦区に突撃していった。

 

 

20分後、その人の手持ちが全滅した事が休憩で戻ったドレディアさんによって報告された。

しかたないね。

 

 

 

そしてこの後意外すぎる人物が来訪してきた。

 

 

 

「あれ、タツヤ君じゃねーか。何してんだこんなところで」

「あ、カズさんじゃないっすか。こんにちわー」

「オーゥ!? リトルボーイヤンケー!!」

「うぉ?! マチスさんやんけっ! え、なんでや、どういう事だこれは。

 なんでカズさんとマチスさんが一緒?」

「いやねぇ、君と別れた後クチバに行ったんだけどさ。そこで色々あってね」

 

 

             ~~~~~少年説明中~~~~~

 

 

「なるほど……痴漢の冤罪を吹っかけられてジムをクビになったと……」

「ノーゥ?! 違う、チガーウよー!? アイムノットギルティー!! 冤罪ヤー!!」

「あれ?」

「君は一体何を聴いてたんだ……さっき言ったばかりじゃないか。

 強すぎたからジムをクビになったんだよ」

「なるほど……ジムの会計の流用がばれてジムをクビになったと……」

「VOLTY。リトルボーイにサンダーSHOーーーーーCKねー」

「ライッチュゥウウウ!」

「うびぼぉぉぉお?! ぶぉ、ぶぉるティティティ!?

 お、おまままま、お前も前もまもえも、ひささしさ久しさぶりだぁぁぁああぁ!?」

 

おばばばばばばばばばば、やめ、やめてやめやめ

しびびしびしびびびびびびびばばばばば

 

「ホー……アァァァァァ!!!」

 

ばっちぃーーん

 

「ッヂュッーーーーーー?!」

「ォーウVOLTYーーーーーー!?」

 

どうやら俺が攻撃されたされされさたれさ事を俺のきき危ききき機きと見なして

ミロカカカカが尻尾っぽぽっぽっぽでVVVVOLTTTTTを撃墜してくれたれたようだれた。

 

「あ、あり、がとう、ミロ、ス」

「ホ~ァァァ~♡」

 

体にまだじゃじゃっかん痺れが残っているるが

お礼としてミロロロスの頭を撫でておおおおおお

 

「……よく耐え切れるなー。

 普通人間がポケモンの技喰らったらひとたまりもないもんだが」

「ドレディアさんに殴られ続けてりゃ、こんなもん軽いですよ。

 良かったらカズさんも是非、どうでしょうか」

「やめておくよ、一撃目で死ぬような攻撃貰ったんじゃ後に続かない」

 

まあそうですねと苦笑を返し、久々の会合に花を咲かせる。

 

そして出会った経緯を聞いて若干驚く、まさかマジでマチスさんを抜くとは。

しかもそれが最後の試合だったそうで……なんともはや、感慨深い。

下手すれば原作のラストバトルに勝る感動的な状況だ。

時期限定でしか挑めないLIVE_A_LIVEの隠しボスみたいである。

 

「キングマンモーやばかったよなぁ……」

「は?」

「ホワィ?」

「あ、いやなんでもないっす、なんでもないっす。

 んじゃ2人ともリーグに出場するためにここに来たんですね」

「そうネー、でも今回はクエスチョンヨー。トレーナー全然ノッスィング。

 まるでステイツ達、鍛えられナーイ」

「まぁ、そりゃそうでしょうねぇ」

「え、なんか知ってんの?」

「ここに居るトレーナー、ほぼ全員裏に居ますよ。ある意味ジム化してます」

『はぃ?』

 

ハテナマークを浮かべる2人を無視し、俺は住居件販売所を出る。

どうしようもない2人は俺についてくる。

 

 

「なんぞこれ……」

「oh……」

 

俺が2人を無視して進み、到着した場所で唖然とする。

 

ちょっと開けた場所で戦い、大騒ぎしている様はまさにジム。

一応は、この場所はチャンピオンロード……カントー屈指のトレーナーが

 

全て集まっていて、なおかつ全員がそれぞれやりたいようにバトルしているのだ。

普通のトレーナーであればこれは感動モノなのかもしれない。

俺は普通のトレーナーじゃないのでうざったいだけである。

 

あ、ドレディアさんが殴り飛ばしたゴーリキーが

見学してたタクトさんとダークライ巻き込んで壁に激突していった。

まあいいか。ドレディアさんと一緒に居るならあんなもん日常茶飯事である。

 

「おい、ちょ……なん、これどういうこっちゃ?」

「いやぁ、俺も理由話されるまで意味わかんなかったんですけど

 宿屋的なもんもついでに始めたら全員居ついちゃいまして……」

「アイドントノーゥ……どういうことデスカー……」

「あー。俺わかった」

 

ん、やけに理解が早いな。カズさんは話を聞く限りここは初見だと思うが。

 

「飯だろ、絶対。こんな狭ッ苦しいところであれ食えるんなら確かに居つくわ」

「あぁ、そういやカズさんは俺の飯の事も知ってましたっけ」

 

殆どが野営の時に作ってるのと同じモノだ、って。

 

「そんなにおいしいノー……?」

「普通に美味いですよ、リーグ開催まで時間あるし俺等も泊まっちゃいましょうよ」

「ふーム。

 まぁここのトレーナー、ここにALLならマイペースでバトル出来るネー、リトルボーイ、OK?」

「あーはい、いいっすよ。なんかもう諦めも付いたんで。

 でもまあ出来ればその代わり、新商品も買ってくださいね」

『新商品???』

 

 

 

合計で各種6つお買い上げ、マコトに有難う御座います。

身内だし3割増は撤廃してあげといた。

 

 

 

出来ることならこれ以上増えないで欲しいなー。

 

 

 






タツヤに平和はおとずれなぁーーーい!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

93話 あれー

 

 

 

「最近ここを管理するのが面倒になってきました。

 誰か日給1000円ぐらいでここの従業員でもやりませんか」

『『『『『『『『『嫌です。』』』』』』』』』

「ひどい」

「ディ……」

 

 

そんなジョーク……いや本音を飛ばしながら、男は一人静かに飯を作り続ける。

うん、なんかこう表現するとちょっと格好良いかな?

 

「ディ(フルフル)」

「うるせーバーカ! そんなのわかってたわ! 11歳のガキがなぁ!

 一人で大量の飯作ってる図なんてただの労働ドレーイでしかないのなんて

 とっくの間に気付いてたわ! バーヤバーヤ!」

『…………;;;』

「ええい泣くぐらいならテメーラ手伝いやがれ! ずっとバトルばっかしくさってからにッ!!」

 

早く終わったんだか力尽きたんだか知らんが

全員既に飯広場でそれぞれのお椀と皿を持ってスタンバってやがる。

金いらねーからココで働け貴様等、売り上げなんて薬の売上で十分だっての。

だがまあ、ダグ共だけは俺の言葉に一定の理解を示してくれたらしく

ドレディアさんと違って、多少の手伝いはしてくれた。

 

ちなみに緑の草姫さんは既にお椀とお皿と箸まで持ってスタンバってますよ。しねよもう。

 

「へいへーい、出来ましたよー。適当に持って適当に食ってください。

 俺疲れたから適当に中で横になってます」

「っしゃーごつ盛りGET!!」

「てめ、卑怯だぞっ!! 他の皆の事も考えやがれ!!」

「勝負なんざやったもん勝ちだー」

「おい明日全員でこいつボコろうぜ」

『了解。』

「ちょ、全員は酷いww」

「飯の恨みってなぁな……恋人の仇みたいなもんなんだよ……」

「先生、さすがにそれは恋人がかわいそうだと思うわ。」

「うるせー恋人なんざいなかったからそんなん知らねーよ!! リア充撃滅しろ!!」

「もう個人攻撃になってへんかそれ?!」

「こ、怖いよアカネちゃん……この人達怖い……!」

「アハーハー! 飯の恨みも三度までーってネー!」

「キュー!」

「どうでもいいけどあなた達ー、喋ってると自分の分なくなるわよー」

「あ、はーい」

「おっと、出遅れちゃ不味いな……マチスさん、俺等も盛りに行こう」

 

後ろでそんな会話を聞きつつ、俺は中で横になりながら

ダグトリオに仕入れてもらってきた週刊漫画誌に目を通して

飯の煮込みの間に出来る、束の間の暇つぶしを楽しんでいた。

 

何、火元から目を離すな?別にいいんだ、ダグ共が見てくれてるし。

 

 

とりあえず前回、カズさんとマチスさんが合流してから1週間程経つが

なぞのみせLv98の難易度と破壊活動は一層酷くなってしまった事をここに書き記しておく。

 

まずレベル的に、そしてトレーナー的にも抜群に優れている2人が

裏手に集まっているトレーナー達と戦うと、こっちが頑張って作った住居部分にまでダメージが来る。

主にゴウキがぶっ飛ばすポケモンのせいで。

 

ついには昨日、ゴウキのぶっぱなしたきあいだまが避けられ

その避けられた先にあったのは、俺等が頑張って建てた住居の壁。

そしてその裏に居てのんびり客を待っていた俺。

 

絶望フラグは全て片付いた。突然崩れる壁。下敷きになる俺。キレた俺。

 

なんか極限までイラっと来てしまい、ゴウキではなくカズさんをぶっ飛ばした。

そのせいで3Fから1Fまで転がっていったそうだが自業自得である。知ったことか。

 

マチスさんもマチスさんで、現在リーグ用にVOLTYことライチュウ以外を鍛えに鍛えている。

レアコイル2匹の後ろにスーパーサブとしてエレキブルが控え

終いにはライコウまで控えていたから驚きだ。

 

なんか旅の最中に突然草むらから出てきたところをタイミングよくVOLTYがシバいたそうで

そのまま捕まえて使ってみているそうである。

 

ま、そんなわけで基本暇であるVOLTYは

もう片方の存在で暇な俺と一緒に、よく店番をやって時間を潰している。

超ぷにぷにでモフいです。

 

ぶっちゃけここでアイテムショップを開いて、よかったなーって思うのはこの部分だけである。

そんぐらい暇だし盛り上がりにも欠ける。何度でも言う、この部分だけである。

 

いやまあ結構売れ始めてはいるんですけどね? 特に全体回復薬が、ぷち左団扇(ひだりうちわ)層に。

 

簡単に概念を説明するとだな、こうなるわけだ。

最終的に一日の終わりは、ここで飯食って安全に寝て癒す事が出来る。

しかしそれまでにK.Oされたらげんきのかけらを使わない限り1日ストップしてしまうわけであって。

 

そんな事になるなら、と……アイテムを使ってでも勝ちたいって人はやっぱり居る。

 

金が無い人はもちろんそんな事はしないし、その方向でお財布の厚みがやばすぎる人は

ディグダ搬入通路から外に出てもらっても良いので

一度お金を引き落としたりだのなんだのした上で、再びこちらに来て泊まる登録をしている。

さすがにATMまで完備してません。

 

金の力はその所持者の軍事力でもあるわけだが、よくもまあそんな発想に行き着くもんだ。

俺なんてエリクサーですら1個も使わずクリアしているのに。

 

ま、好みは人それぞれか……金なんぞ大事にしてたら何も得られんしな……

ぷち左団扇も、きっとそのうち気付いて慌てるだろう。

 

本来は、そんな人達こそ良い金ヅルなのだが……ここの世界は、ポケモンは当たり前の事として

何故か人間までもがそれなりに強いため、必要とされるシーンは余り思い浮かばない。

 

人間が強い理由はシバさんとシジマさんを参照してください。

あと逢った事は無いが、レンブさんとかスモモさんもそれに当たるのか? ※

 

そんなにタフな生物どもなのにそれなりに捌けているのは本当に謎である。

お前等自己治癒で十分やろ。

 

「おーいちょっとタツヤ君ー!! なんか飯足りないぞー!!」

「は?」

 

あれ? 

結構……とまではいかずとも、鍋の1/10程度余るように作ってるんだが。※

まあ余るように作っても大飯喰らいが何人か居る上に

泊まってる人のポケモンでも結構食う子が多いため、多めに作ったところで御代わり出来ないのだが。

 

それが行き渡らない程度に少ない……?

最初のごつ盛りフルボッコの人とドレディアさんにやられたんだろうか、飯の残量。

 

「足りないって、完全に行き渡ってないんすよね」

「見に来た方が早いんじゃねーの?」

「あいー、今そっち行きます」

 

ふーむ、場合によってはもう一度適当な鍋で作らないと駄目だろうな。

俺とした事が……しくじってしまっただろうか。

 

「あぁ、鍋はマジで空ですね……行き渡ってないのって何人分すか?」

「あ、はーい。俺んとこー」

「ミーのトコにもノットカミングネー!」

「チューゥ!」

「あ、あと私だわー」

「キュー!」

「ギャゴーン!」

 

ふむ、3PT分か。そんならそこまで手間も掛からんし作っておこうか。

 

「わりぃミュウとムウマージ、ちょっと芋の皮向きを手伝ってくれ」

「ミューィ」

「ドレディアさんはその山盛りポテト、マチスさんに渡しといて」

「ディァーーー!?」

「うるせーーーお前自重しろッッ!! しかもなんだよその量ッ!!

 とりあえずお客様優先だ、渡しておきなさいッ!!」

「アアァァァァ……」

「オーゥ……フラワーレディ、ソーリィ……。もらっちゃうヨー」

 

比較的穏便に山ポテの譲渡が成され、沈んでいるドレディアさん以外で調理広場へ向かう。

厨房? そんなもんあるかい。ここは天然の洞窟ん中やぞ。

 

まあむっさい調理場なんぞ見たくも無いだろうし、調理風景はスルーしておく。

 

追加の料理が完成し、全員が集まってるフロアへ普通鍋ごと持って行く。

ちょっと重いからダグONEに頼んでおいた、俺等もここから飯取って一緒に食うかねー。

 

「はーい、おまちどーでござーます。今度こそ足りてるだろうしとっとと食えぃ野郎共ー」

「はーい」

「ディァー!」

「おーう。」

「メッサツ……!」

「キュー!」

「ギャゴーン!」

 

当然の事として、鍋の一番近くに居た俺等はさっさと自分等で食う分を取り

飯が届かなかった人達も、俺等の後に続いて鍋から飯を持って行く。

 

「うむ、今日もそこそこ美味い。でもやっぱり誰かに作って欲しい。」

「アァァ~~~~ァァ~♡」

『──。──。──。』

「キュッキャー♪」

「ゴッ」

「ホァァ~~」

「おう、ほれミロカロス」

「♡♡♡」

 

うちの手持ちの子達は今日もいつも通りご満足いただけているようだ。

飯は日々のモチベーションを保つためにも大事な物だ。

これからも、出来るだけ手は抜かないようにせねばな。

 

「キューキュー!」

「ん? おぉ、なんか可愛いサンドパンだな。どうしたお前、頭でも撫でて欲しいのか?」

 

体を乗り出してきたので、ぐりぐりと手で撫でてやる。

 

うむ、サンドパンの割には頭の部分のトゲトゲしさも落ち着いており

トゲが無い分だけ、手の形にジャストフィットして撫でやすい。

目元も俺の記憶にあるサンドパンより鋭さが少なく、というか全く無く。

サンドの可愛いところを全て総取りしたようなサンドパンが───

 

 

 

「あれ?」

「キュ~?」

 

 

 

こんな、サンドの可愛いところを総取りしたサンドパンなんて……

もっさんの進化途中にいじったサンドだけなんじゃ……?

俺みたいな形で進化の方向性を捻じ曲げるなんて技術は聞いたことも無いぞ。

 

てことは……え、あれ?

 

「お前……もっさんのサンドパン、だよなぁ?」

【そうだよー?】

 

オウフ、首をかしげながら答えるな。鼻血が出そうではないか。

くそ、やっぱハナダの東でサンドGETすればよかった。行った事ないけど。

 

いや、まあそれは置いといてだ。

 

「なんでこんなとこにいんのよお前、ご主人様どうしたんよ、もっさんは?」

「私がどうかしたー?」

 

横手から声がしたので、そちらに振り向いてみるとなんかもっさんっぽい人が居た。

 

「…………。」

「…………?」

「キュゥ?」

 

とりあえず頭頂部から足元まで見下ろしてみる。どう考えてもガールスカウトさんですね。

 

「いや……何よ」

 

顔の作りを確かめてみる。

俺より少し年上なだけなのに若干化粧めいたメイクが見える。大人になりかけの少女って所ですかね?

 

「一体なんなのよ……私の顔になんか付いてる?」

 

もう一度足元を見てみる。あのサンドパンがいる。

 

「キュ~、キュ~」

「お、おう……」

 

サンドパンが俺の脚に寄ってきて、そのままガシっと抱きついてくる。

 

 

「……もっさんだぁぁぁぁあああああーーーッッ?!?!」

 

 

「姿やら顔やらまで確認してるのに

 なんで最後にサンドパンを見た上で認識するのよーーーーーッ!!」

 

な、なんでだ!? 何故貴方がここにいらっしゃるナリか!?

あんた確か逢った時点でバッヂひとつだけだったやん!!

 

「ん……?」

「……何よ、まだ何かあるの? タツヤ君」

「もっさんがここに居るって事は……?」

「いや、もっと早く気付いてくれないかしら。

 というか前にあった時も確かそんな感じだったわよね?」

 

もっさんの文句を受け流し、食事の場に目を向けてみると……

目立つピンクと公式でおっぱお丸出しのポケモンに

何気に見るのは初であるハ・ガ・ネィー!と、

横でちょっとずつモソモソと、俺が作った食事を食っている謎ツインテール? のミカンさんが居た。

 

……。

 

「えーと、もっさんで1。」

「は?」

「アカネさんで2……」

「……?」

「ミカンさんで3……」

「いや、だから何がよ」

 

いつの間にか居る3人。

 

足りなかった飯は3PT分。

 

いつの間にか居たのだから俺が人数に加味するわけもなし。

 

つまりは───

 

 

「犯人はお前だァァァーーーーーーーーーーーーー!!!」

「え、えぇぇえー?! な、何がっ!!」

 

俺が大声を2度も上げたため、必然注目がこちらに向いてしまう。

全員がなんだなんだと言わんばかりにこちらに注視してきた。

 

「おいおい、どうしたんだタツヤ君」

「なんかあったのかー? 子供店主さんよー」

「どしたネー?」

「なんやあったんかー?」

「あんた自然にガヤに混ざってんじゃねェ!!

 飯が少ない件での犯人が判明しましたッッ!! この人達のご一行様ですッ!!」

「え゛っ?! なんや、うちなんもしてへんよっ!?」

「いーや、間違いなく犯人は関西弁の人達の一行だっ!!

 ただ飯喰らいだぞーーーーっ!! 全員叩き潰せぇーーー!!」

「え!? アカネちゃん、払ったんじゃないの?!」

「え、えええー!? いやちょ、うちらちゃんとお金払ったで?!」

「なん……だと……!?」

 

 

     ざわ……                            ざわ…… 

 

ざわ……               ざわ……       だわ……

       ざわ……

                           おざわ……

   ざわ……

              やざわ……         ざわ……     ざまぁ……

 

 

「い、一体いつだっ!? さすがに顔見知りが訪れて反応しない程、俺も鈍くないぞッ!?」

「え、えーと、それ君が言っていいの?」

「過去は振り返らないッ!!」

「ええ加減にせんとしばくどホンマにっ!!」

『ていうか関西弁ってどこの言葉……』

 

あぁ、どうでもいいことだけど、この世界じゃコガネ弁ってなってんだっけ。

 

「で、お金だけど……なんでか知らないけど君が店内、でいいのよね? あそこは。

 そこに居なかったから、待機してたミロカロスちゃんに一人2000円ってことで

 渡しておいたはずなんだけど……私じゃなくてアカネさんがやったんだけどね」

「そやでー?」

「えっ」

「アッ」

 

事情を聞き、ミロカロスに振り返ると思い出したように店内に走って(?)行き

千円札を数枚、クチに咥えてこちらに来た。

 

「フゥォゥァー」

「無理して鳴かんでいいっつーに……うん、6枚ありますね。

 えーと……すいません、3人の誰かで100円玉は1枚無いっすか?」

「え、ああ、はい。」

「あ、どうももっさん。それじゃお釣りの4000円になります」

「え?!」

「ここはただ単に飯の提供料金程度しか貰ってないんで1泊700円になってるんすよ。

 今6100円頂いてたので余分な4000円を、ね?」

「あ、うん……

 はい、ミカンさんとアカネさん、1000円とりあえず返しておくわね。

 この1000円はどこかで小銭にすればいいわよね」

「うちはオッケーや~」

「私も大丈夫です」

「んじゃこれで問題はなくなったな、よし俺等も飯を───ん?」

 

 

─────……。

 

 

なんか周りからすっごいジド目で見られてる。

しかも誰も言葉を一切発しない、何これ怖い。

 

「えーと……つまりは……」

「え、なんすかカズさん」

「この騒ぎの犯人って……」

「リトルボーイネー……?」

 

 

ええー? あれ? これ俺なの? 俺が悪いの?

 

・お金はミロカロスが受け取っていた。

・普通に目立つ風貌とポケモンなのに、3人が混ざってて気付かない俺。

・よく考えたら飯がなーいと言っていた時に飯が来てない面子に混ざってたもっさん。

 

 

 

あれ、これ悪いの俺だ。

 

 

 

「てへぺろ★ミ」

 

とりあえず誠意ある謝罪をみんなにしておくことにした。

人間、悪い事をしたらちゃんと謝るのが大切───

 

『ふざけんなぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!』

「ギャァーーーーーーーーーーーーーー?!」

「ドレディァーーーーーー!?」

「ホァァァァーーーーーー!?」

『ッッッ─────ーーーー!!!』

「△▲☆★~……;;」

 

 

 

そうしてその場で全員からフルボッコにされてしまった俺だった。

飯の恨み、恐ろしすぎる……マジすんませんでした……

 

 

【相変わらずだねぇ、あの子達も、彼も……】 もぐもぐ

【……我、出番……なかった】 もぐもぐ

【どんまい、僕も殆どなかったんだから。】 もごもご

「メッサツ……」 もごもご

「僕もだね……」 ぱくぱく

「───……」 もむもむ

【あぁ、そういえばワカメさん達もだったね……ま、強く生きて行こうよ、うん。】

 

 





最後が誰々なのかは、想像にお任せします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

94話 集合。


~ ぶっちゃけトーク ~


「はぁい、こんにちわぁ」
「どうも、こんにちわ」
「ムウマージで~す」
「ポケモン図鑑Ver2.0です」

「あまりにも出番が無いという事でぇ、こんな場をもらいましたぁ」
「このテのノリ、きっぱり言ってしまうと作者の意見を小説の登場人物に言わせるのが
 恥ずかしい一人芝居にしか見えないくてキモいって人もかなり居るとは思うのですが
 よろしければこの脇役劇場にお付き合いください、というか切実に、うん」
「うん、こんなところぐらいでしかお話も出来ませんのでぇ……
 まぁ私達、本当出番無いですよねぇ図鑑ちゃん」
「仕方が無い部分があるというのが、作者さんの意見らしいのですけどもね~」
「……どういうこと?」
「まず第一にぃ~、この小説はプロットという物がなかったらしいのですよ~。
 小説というより~、物語を書く上ではとても大切な物ですね~」
「行き当たりばったり、という事ですね?」
「ですね~、元々連載していたものをちょくちょく手直ししてここでも連載としてる訳ですが~
 一応あれでも誤字の確認とか手直しはしているようです~、経験『地』は仕様だそうですけどもね~」
「というより、ムウマージちゃんってカラカラちゃん達の代打での登場なのに
 なんでカラカラちゃん達より出番少なくなってるんですかね?」
「キャラ設定のミスとしか言えないそうです~」
「キャラ設定って……」
「プロットが無いというのは先程話した通りですが~……
 ドレディアちゃんは一応のヒロイン枠ですし~、ダグさん達は小説の基盤ですから~……
 行き当たりばったりでも、キャラと役目がしっかり出来ちゃった訳ですね~。
 ミロカロスさんに関しては、年上・弱体化・綺麗・華麗と
 いくらでもネタが作れる要素てんこもりですからねぇ、ただの偶然らしいですけども~」

「そこから考えると私達のキャラは、えーと?」
「私はただの無駄火力、謎の存在というぐらいですね~。
 戦場だと何もさせられないし、逆に扱いに困るという事らしいです~。
 カラカラちゃんとかだと、まだ調整された戦力でしたからね~ネタに走った結果がこれだよっ!」
「まぁ、ムウマージちゃんの場合はその可愛さもあるから『俺の嫁』な人も居るだけマシですね?
 私なんて、ポケモン図鑑ですよポケモン図鑑。芸人で例えるなら一発屋ですよ」
「流行語大賞を取っちゃうと、8割の人が居なくなっちゃうあれですか~」
「そう、そのあれです。私なんてそもそも戦闘要員ですらないし
 一応今のパートでは店舗における『喋る電卓』要員になる予定はあったんだそうですけど……
 作者の個人都合で、自分自身が暗算に苦労しない=電卓いらなくね? でこれも降板になりました」

「そうなると~、もう活躍とか全く期待出来ませんねぇ?」
「悲しいまでにその通りです……、ムウマージちゃんは、まだその可愛さがあるから
 情景としてちょくちょく名前と一言が出ているのに……
 私なんて基本的にずっとリュックサックですからね!」
「これもプロットを考えてキャラ設定をしなかったが故の悲劇なのですかねぇ~……」
「多分そのはずではないか、と作者も言っています。
 周りに小説を書いている趣味の人が居なくて、検証のしようがないらしいですけど」
「だから正当な小説が好きな人達には嫌われちゃってるんですねぇ」

「でも、小説の中身で描写されてなくても周りには私達もちゃんと居ます~」
「私はリュックの中ですけどね。ゲームで言うシステムメッセージ的なものは
 一応私の画面で確認している感じのイメージで成り立っているそうです」
「ので、出番が無くても私達が傍に居る光景を思い浮かべてもらえると、嬉しいです☆★」
「私はリュックの中から出してもらえると嬉しいです」

『これからも、完結に向けて頑張りますッ』


「って、言っとけって言われました~」
「私もです、解せぬ」


~ ぶっちゃけトーク 終 ~




 

 

「ん、む、ぅぅうぅぅぅ……ん」

 

朝が来た。

 

とはいっても洞窟内部の住居なので日の光が差すとかそういった事もないのだが、とにかく朝だ。

 

「どれ、よっこいせ……」

「ァァー……」

 

いつもながらいつの間にか布団に忍び込んでいるドレディアさんを横に退け

自分が掛けていた肌掛け布団をドレディアさんに掛け直し、布団から起きる。

 

『─────。』

「おう、ダグ達……おはよう」

「ホー」

「ミロカロスもおはよう……さ、今日も適当に過ごすか……」

 

他の面子にも挨拶を済ます、ムウマージは……

……天井に張り付いて寝てやがる、いくらゴーストタイプで元から浮いているとはいえ、どういう事だ。

 

「ふぅ……」

 

今日も1日の最後に35人分の飯を作る事から1日が始まるお……。

 

 

 

 

チャド(チャンピオンロード)でモノを売り始めてから1ヶ月近く経った。

結構長い事洞窟に居るが、体調不良などは今のところ一切出ていない。なんなんだろうこの謎のタフさ。

 

そして、(出番がなかった)タクトさんがダークライを引き連れて、リーグに先行出発をしていった。

とある懸念があり、バトルの専攻も重要だが後々の手間で本番で実力を出せないのも嫌だ、との事だ。

 

まあ元々実力派の人達は考える事がよくわからん。

ダークライも強すぎる領域だし問題あるまいさ、ご利用ありがとうございました。

 

 

そして商売の方も超小振りながら順調であり、ここを店として考えるなら赤字は1日も出ていない。

まあ、保存が利く薬がメインだしな……時間掛ければそりゃ売れます。

 

とりあえずバトルジャンキーの宿泊客が、薬を何度も買って行くので

幾度か薬自体も、数量を調整して仕入れ直したりもした。

 

それぞれの属性薬が50個程度、全体回復に至っては100個以上売れている。

現在の純利益が30万円以上になっている上に初回の仕入れが無料だったため

薬部門だけで『550,000円』とか、わりとすっ飛んだ内容になっている。暴利過ぎワロタ。

 

まぁ……従業員が俺一人しか居ないために人件費削減どころの話ではないのに加えて

本来の前世であれば、搬入に交通費やらガス代やら掛かるはずなのだが、ここはポケモンの世界だ。

ダグ共がチョー頑張っておられます。キャーダグサーン。

 

 

「さて、とりあえず朝飯作るか……」

『bbb』

「ホァー」

【む、タツヤか……貴様もなかなか早く起きるモノだな】

「ミュウツーか、ミュウはどうしたんよ」

【あやつは未だ起きぬ……精神も子供染みているし、仕方ないという所だな】

 

のっそりと俺らのところへ現れたミュウツーへと声をかける。

どうやらミュウツーも、そこそこ朝は早いらしい。

そういやこいつ、忘れてたけど元々洞窟暮らしだからなぁ……ラストダンジョンの。

 

【これから作るのか。当然、私のも用意するのだろうな?】

「いちおーお前とミュウは俺の一行って事になってっしなー。

 飯を抜くなんて事は、お仕置き以外の差別ではしないさ」

【ふ、良い心掛けだ……】

 

朝飯に関しては希望する人のみ作ることとなっている、まぁそれでも15人分以上だが……

元々こんな場所があるなんぞ欠片も思ってない人達なので

突破するための保存食料を持参している人が多く、勿体無い様子。

 

保存食料とはいえ、さすがに消費期限が持つのはここの突破期間程度だろうしなー。

リーグが終わってまた別のところを旅する際に、痛んでいないとは思えん。

 

そんな理由から、浪費癖が激しいと思われるぷち層の人々が

朝飯の方まで依頼を出している感じになっている。

 

「ァー……」

「ん、おはようドレディアさん」

 

俺等が住居を出た後すぐに起きたのか、ドレディアさんが調理場の方まで来る。

まだまだ眠いのか、半目に加えて右手で瞳をぐしぐしと擦って

左手には枕をぶらさげ、ぶらーんとさせている。

 

【……なかなか見れん痴態だな……緑の姫君でもこんな一面があるのか】

「お前の言う通りあまり見れないけどな。ドレディアさんなんか食いたいもん、あるかい」

「アー……、ディァー……、Zzz……」

 

調理場に置かれている簡易テーブルと椅子に座り

テーブルの上に枕を置いた後、再びすぴょすぴょ眠り始めた。

寝る子は育つというし、まぁ、育ちきってる感はあるが……放置しておこう。

 

……。

 

「……ミロカロス、ドレディアさんの鼻ちょうちん割っていいよ」

「……♪」

 

おちゃめないたずらごころ(優先度+1)が働き

ミロカロスもちょっと楽しそうにドレディアさんの傍に近寄って行く。

そして、そーっとドレディアさんの出している鼻ちょうちんをパチンと割る。

 

だがしかし。

 

「……Zzz、Zzz、(ぷく、ぷわー、しゅるるる)、Zzz、アー……」

「……♡」

 

うちらの無敵草姫ドレディアンが、鼻ちょうちんを割られる如きの事で起きる筈も無かった。

そしてその癒し系の光景に、可愛い物LOVEな横の白紫が大いに反応する。

 

【う、お、ぉぉ……いかん、鼻血がッ……!】

「ハハハ、あんまり見れんシーンだけど……やはり黙っていると可愛らしいお嬢様だなー」

 

ドレディアさんもディグダも暇があればトレーナーバトルに乱入しているため

最近では珍しい日常のひとコマである……いつも一緒に居るとはいえ、これは俺でも癒されるなぁ。

 

ミロカロスもいつも一緒のこの子の可愛い一面を見れて悶えている。

ダグの3人は精神的に大人すぎるのか、傍らで3人揃って笑顔で場を見つめていた。

 

今日も良い一日になりそうである。

 

 

 

 

「あー! お前、タツヤじゃねえかッッ!!」

「そんな風に思っていた時期が、俺にもありました」

 

俺は先ほど良い一日になりそうだと言ったな。

すまん、ありゃ嘘だ。そんなことはなかったぜ。

 

「うぜぇの来たこれ……、どうしようかなぁ」

「お前いくらなんでも本人の目の前でウザいとか言うなよっ! 酷すぎるだろっ!!」

「ホ、ホァ~;」

「だったら鏡見て自分と喋ってみてくださいよ……グリーンさん」

「はぁ? 何言ってんだよお前、鏡見て喋った所で俺が喋ってるだけじゃん」

「もうやだなんなのこの人」

 

そんなわけで、テキトーに店の中でゴロゴロと暇潰しをしていたところ

原作順所とでも言うのか、レッドさんより先にグリーンがチャドに登場した。

相変わらずのテンションで、こちらとしては扱いにくい上に非常にうざったい。

 

ああ、そうだ。良い事考えた。

 

「いらっしゃいませ! 何かご入用で?」

「え? あ、えーと……? じ、じゃあこのきんのたま、売ってもいいか……?」

「はい! きんのたまですね! 5,000円になります!」

 

どうせ外に出た時にフレンドリーショップに持ち込めば5,000円ジャストになる。

薬じゃないので増額こそしないが、まあ問題ないだろう。

 

「これ、本当に効くのか……? やけど治療と同時に体力も少し回復か……、便利そうだな」

「はい、ではまたお越しくださいませ!」

「えっ?! ちょ、売ってくれよ! なんで追い出そうとしてんだよッ!」

「うるせーとっとと帰れくださいませ!」

「お前ふざけんなーー! なんだよその扱いはー!!」

 

やばい! やっぱりいつも通りしつこい!

まるで1日放置した油汚れの如く! こいつ本当に後のトキワジムリーダーなのか!?

 

「ああもうわかりましたよ。わかりまーしーたー。

 ここの抜け方も教えますし、やけどプラスも1個持ってっていいっすから……」

「お、マジでか?! サンキュー! お礼に、今度どっかで逢ったら飯奢ってやるよ!」

「ぁーぃ、期待しねーで待ってます」

 

とりあえずなんとか供物を2つほど捧げ、グリーンを流せそうである。

ここはさっさと紙にここの抜け方の地図を描いて───

 

「あれ、お客さんですか?」

「ん?」

「あれ、ミカンさん。どうしたんですか?」

「ええ、全員回復するアイテムが欲しくて……手持ちの子が殆どボロボロなんです」

「まだ午後になってないよっ!? どんだけハードスケジュールっすか!

 しかもミカンさんジョウトのジムリーダーでしょうに! リーグ出られないじゃんよ!」

「なにっ?! この人、別の地方のジムリーダーなのかっ!?」

「あ、やべ」

 

一応はこいつも強くなりたい願望は凄まじいんだっけか。

そうじゃなきゃ原作でも我先にとチャンピオンなんて目指さないよな。

 

「もしよければ相手をしてもらえませんかっ!」

「あ、えーと……回復したあとで、なら?」

「よしっ、俺はなんて運が良いんだッ! ポケモンリーグ参戦前にこんなに良い相手に恵まれるなんて!」

「ぶっちゃけていいですかね」

「ん、なんだタツヤ?」

「  帰  れ  ♡  」

 

売るものを売って、とっととここから離れて欲しかったのに

他のトレーナーと同じくココに居座る気満々くさい、宿の設備を知らず早く歩を進めて欲しい。

 

「お、ぉぉお、ぉぉぉ、し、シンプル過ぎるのが逆に心を抉ってくる……!」

「た、タツヤ君、そんな風に言わなくても……」

「……じゃあ、この人の世話全部ミカンさんに任せちゃいますよ?」

「え、えっと、大丈夫ですっ!!」

「ですってよ、グリーンさん……いつもみたいなハイテンションで迷惑かけんでくださいよ。

 環境破壊とかしたら俺が直々にぶち殺した上で罪を擦り付けて警察に通報しますから」

「お、お前だったらマジでやりかねないな……(今までも酷かったし

 わかった、ここで戦ってる間は大人しくしておく」

 

なんか珍しくグリーンに関連した内容で丸く収まった。

基本的に無自覚のうざったさがあったんだが……現状、目上の立場であるミカンさんのおかげかな?

 

 

 

 

ミカンさんがグリーンをバトルフィールドに連れて行って20分程度。

俺は店に残り、バトルフィールドを遠目から見ていたのだが

どうやらドレディアさんがぶっとばしたゴルバットがグリーンにクリーンヒットしたらしく

手持ちであるカメックスと共に空中を錐揉み回転しているのを確認した辺りで

個人的にはとてつもなく意外なお客様が参上した。

 

「ん、あれ……? 君……タツヤ君かい?」

「え?」

 

俺が見ている位置は店ではない、適当な外の岩に座って眺めている。

そしてそこに後ろから声を掛けられ、振り向いてみると

トキワシティで食いモン売ってる露店のお兄さんが居た。

 

「あ、れ? 露店のお兄さん……お兄さんもリーグの出場を?」

「いや、ちょっと違うかな? まあそれでもポケモンリーグに行くのは間違いないんだけど」

「リーグ観戦目的ですか……それでも珍しいですね?

 観戦目的の人はこんな苦難のルートからは来ないと思いますけど……」

「ああ、まあ近場だしねぇ。勝手知ったるなんとやらだよ。ところで……君は何をしているんだい?」

「あー、懇意にしている会社が開発した薬のPRです。

 まだ市場に出回ってない先行販売なんですが、少量だけこちらで売ってるんです」

「新薬、か……ちょっと興味あるなぁ、どんなの売ってるんだい?」

「あ、よかったら中にどうぞ、あそこです」

 

そんな感じにお兄さんを店先へと案内する。

 

「な、なぞのみせ……しかもLv98なのか……ww」

「ええ、いつの間にか宿屋になってたって意味も踏まえてちょうどいいかと。

 レベルはまあ、ぶっちゃけ適当です」

「安易に100にしないあたりがセンス良いなぁ。もうちょっと全力出せよって感じがそそるねぇ」

「よくお分かりで。流石で御座る」

 

一緒に店の中に入り、商品の説明をしていたところでふとお兄さんが視線を変える。

 

「そういえば、今年に限ってここに野生のポケモンもトレーナーも極端に少ないけど……

 もしかしてその理由って、さっきのあれかい?」

「ええ、なんか全員居付いちゃいましてねー…… 開催間近までここで皆と鍛えあうーとかで」

「……そうなのか。これは……今年は期待出来る、かな?」

「ん」

 

なんぞや期待って。あー試合内容のレベル的なもんかな。

白熱した試合!(笑)みたいな。

 

「しかし君も良い商売してるねー……ダンジョンだから3割増での販売、かぁ」

「いや、本当にセレブばっかなんですね、強豪層って。

 ここで一番売れてるのがこの6500円の全体回復薬ですから……。

 もう手持ちが60万円近くになってますよ」

「       」

 

アレ、止まった。

ここは芝生付きで笑い飛ばして欲しいんだが。

 

「60万って……僕の5か月分の稼ぎ……orz」

「あ、いや、えーと、えと」

 

そうだった、しまった……! 初めて逢った時にも

 

・遊んでいるほど暇ではない、仕事に戻らないと

・従業員を雇う余裕は無い

 

とか言ってたっけ……。人材派遣の件でも雇う余裕無いって言ってたし。

 

「ま、まぁ……たまたまですよ、たまたま。

 どうせ人間お金だけじゃないんですし、元気出して行きましょうよー」

「う、うん……そうだよ、ね……お金だけじゃないよね、きっと……;;」

 

うわーい完全に地雷踏み抜いたぁーー!!

やばいもうこれどうしたらいいかわからない!!

カズさんみたいに3Fから1Fに落としてなかった事にしようかな!

 

「───ま、いいか。

 タツヤ君、僕もこの全体回復薬を1個買わせてもらおうかな。

 話を聞く限りじゃ本当に便利そうだ、他の人が緊急事態に陥っている時に持って来いだね」

「え、あ、はい、そうっすね? とりあえず3割増はなしでOKです、5,000円になります」

「わかった、ありがとう。それじゃ、これでお願いね」

「ええ、確かに。それじゃ、これを……」

 

なんやら、やたら復活が早いな……まあ面倒が無い分、ありがたいけど……

 

「それじゃ、僕はこの辺で失礼させてもらうよ」

「了解です。

 まあ、大会参加者でもないのにここに留まる理由も少ないでしょうしね。

 よかったらリーグで一緒に観戦しましょうよ」

「そうだね、あっちで逢ったら是非ご一緒させてもらおうかな」

「ドレディアさんも喜ぶと思います」

「あれ、そういえば……ドレディアちゃんはどこに?」

「ああ、えっと、こっちへどうぞ」

「?」

 

説明するより見せた方がインパクトあるだろうし。

 

「えーと、そろそろかな?」

「……どうしたんだい? ドレディアちゃんは一体───」

 

 

ッドォォォン!!

 

 

お、出た出た。

 

「あ、ほら、あそこでカメックスとトレーナー、一緒にぶっ飛んでるでしょう。

 あれをぶっ飛ばしたのが多分ドレディアさんです。

 あそこまでの高度は何人居てもドレディアさんしか出来る子いませんでしたから」

「…………!」

 

ハッハッハ、やはり唖然としているか、あんな光景普通起こらないもんなー。

ポケモンだけならいざしらず、ここに来てから彼女は何故かトレーナーまで軌道直線に乗せ

そのまままとめてポケモンと一緒にぶっ飛ばしている。

 

「これは、本当に、楽しみだな」

「は?」

 

あれ? なんか気のせいかもだが思ったより唖然としてないぞ? なんか変につぶやいてるし。

 

「うん、ありがとう、タツヤ君! おかげでとても良い物が見れた

 今年のポケモンリーグの試合内容が、もう今からすっごく楽しみだよ」

「えー、あー、はい。なんか思ったより驚いてくれてませんねぇ、つまんねえ」

「アハハ、まあ彼女の身体能力は知ってるから、さ?」

「むー。」

 

まあ、いいか。良い物見れたって事は楽しんでもらえたんだべ、きっと。

 

「それじゃ、また会場で会おうね!」

「はい、あっちで逢うのを楽しみにしてます」

 

去って行くお兄さんに手を振り、俺は見送る。

 

あ、今更考え付いたけどもしかしてお兄さんって見学目的もあるけど

あっちで屋台開いて食いモン売りたいんじゃなかろうか? そっち方面のほうがしっくりと来る───

 

【おい、タツヤ】

「んぁ? なんだミュウツー。珍しいな……お前から話しかけてくるなんて」

【あいつは、一体、何者だ】

「? 以前俺が世話になったお兄さんだよ。

 ドレディアさんに社会常識身につけるのに一肌脱いでくれた頼りになる人さ」

【……いや、あの男は、   ……まあ、良いか。お前は知らないらしいな、あの男の事を】

「おめーよりは知ってるっつーの。何日も顔合わせてんだからよー」

【……まぁ、良い。───世の中は、広いのだな】

「さて、夜飯の仕込みでもしとくか」

【おい無視するな貴様ッ!! 何気に格好良いシーンだぞ今のはッ!!】

「どーでもいいっつの。どうせだから仕込みちょっと手伝ってくれや。

 鍋を沸かす火ぐらいなら、さすがにお前でも出せるだろ?」

【ふん……感謝の心を忘れるなよ】

「へいへーい、ありがとうございませんでしたー」

 

 

なんやら妙にミュウツーが過敏になっている気がするが

基本的にこいつなんぞ気にしたところで人外の領域だし、とっとと俺の仕事を納めて夜飯の準備に入ろう。

 

 

あ、しまった。どうせならお兄さんに調理場貸してあの食いモン作ってもらうのも手だったなぁ。

 

 

【……本当に、広いモノだな】

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間4 教え技

 

「はぁ? 技を教わりたい……?」

「グガーォン!」

 

なんかやたら久しぶりに、何にも巻き込まれず店番をしていたら

しばらくしてからゴーリキーが一族の一部(ワンリキーとかメスのゴーリキー)を引き連れて俺の元に来た。

そして、上記の内容を俺に求めて来たのである。

 

「お前何言ってんだ、俺はお前等みたいな屈強な生物(ナマモノ)ちゃうねんぞ。

 お前等に教えてやれることなんてせいぜい四則演算ぐらいしかないだろ」

「グガッ!」

 

横に居るミロカロスの頭のテッペンをクリクリしながら否定すると

なんとゴーリキーはダグトリオの前身・ディグダの例を出してきた。

誰から聞きやがったコイツ。

 

 

そして話を聞いてみると、一族全員がここに滞在するトレーナーの手持ちに全然勝てなくなったらしい。

確かに四六時中バトルしているやつらだ、恐らくゲームデータ的には平均Lv70とか行っているだろう。

 

その中でも一際大暴れが目立つドレディアさんに、土下座して話を聞いたそうだ。

確かに彼女は、トレーナー戦といえど一般ルールと掛け離れているここでの試合において

かなりの確率で無双を行なっている、最早ドレディアとは呼べないナニカであった。

ゴーリキー達の希望の星になるのも無理は無い。

そして今、この瞬間面倒事を持ち込んだ元凶として今晩の飯無しが決まった。

 

「…………はー、なるほどねぇ~まぁそのプライドもわからん訳じゃないけどなぁ」

「グガーォーン!」

 

正直面倒でしかない……しかも彼女に話を聞いてこちらに来たということは

彼らゴーリキーワンリキーはこの体格と姿でありながら、プロレスわざを習得出来なかったという事だ。

 

基本的に俺は、ポケモンに技を教えている時には大体姿形から入っている。

スマートな体格が目立っていた旧・ディグダはあの漫画から技を教えた。

そしてこいつらの姿で最も近しいプロレスラーの技が使えないとか、俺は何を教えればいいのだ。

 

「ホーァ、ホァ~」

「ん……逆に考えて、姿から想像出来ない技を教えこんでは、とな」

「ホォァー!」

 

ふーむ、つまりミロカロスにからてチョップとかそらをとぶとかってことか。

それで教え込んでいる最中に適正があればそれを、ということなんだろうな。

 

今も尚、目の前にはダンジョンのマッスル(筋肉)のポケモン達が土下座をしている。

ここまで頼み込まれて断るのも、確かになんというか、なぁ…………

 

「んー、ぶっちゃけ覚えられなくても面倒見切れんぞ。

 それでもいいなら俺も暇つぶし程度に頑張ってみるけど、大丈夫か?」

「!!!」

 

ゴーリキー一派が一斉に顔を上げた。

その顔と言ったらそれはもう輝いていて、古腐った俺の精神ではその時点で心が折れてしまいそうな程だ。

 

横で話を聞いていたミロカロスが、笑顔を浮かべてゆるりと巻き付いてきた。

んー、少し前が懐かしくてこいつも嬉しいのだろうか。

 

 

 

 

「と、いうわけで。特別講師のミュウさんとミュウツーさんですー」

『よろしくねー♡』

『宜しく頼む…………って、なんで私はこんな所に連れだされているのだッ!!』

 

突然開催された『タツヤの肉体言語教室』に呼び出されたミュウツーはかなり不機嫌だった。

相変わらず安定のタダ飯喰らいである。この子の将来、大丈夫だろうか?

 

「まぁまぁ、そう言わんでそう言わんで。

 ほら、ゴーリキーもお前の事頼りにしてんねんで。

 今こそ、ポケモンとして一枚上手のステータスを使うべきと思わないか?」

『う、む…………ぬぅ』

『いいじゃんミュウツ~、君もまんざら悪い気してるわけじゃないんでしょー?

 ハナダの洞窟でもリーダー張ってるんだから、ここでもそれを証明しないとー』

 

話を聞いている限り、心底嫌がっているわけでは無い。

ゴーリキー達も目を爛々と輝かせて二人を見つめている。

俺が呼び出したという事実に、否応なく期待が高まりまくっているらしい。

よって、俺が巻き込む基準クリアと見なす。

 

『ま、まぁ私も貴様らに教える事は吝かではない。せいぜい感謝するが良い』

「「「グガーォーン!」」」

『んで、タツヤくんは僕等を呼び出して何するつもりなんだい~?

 ドレディアちゃんがここにいないって事は殴り合いではないんでしょ?』

「うむ」

 

うちの暴れ草姫は、今も元気にトレーナーフロアで絶賛大暴れ中である。

そのうちポケモンずかんから勝手に「ててててーん♪」となりそうな気がする。

 

で、俺が何をするかというと…………

 

「見て、お勉強をする」

『見る?』

『お前等2匹揃ったら、なんか頭ん中のイメージを現実に焼きだせんだろ?

 それを使って、俺の頭の中を映像化して映画の上映会をします』

『…………あの頭の中を?』

『…………あの頭の中を、か?』

「な、なんだよ……人の頭の中がおかしいみたいに言うなよ」

『戯言を抜かすな、あんな人外魔境を想像出来る貴様の中身なんぞ

 機会が訪れないのなら二度と見たいと思わん』

『僕等は、君の頭の中身を一度見てるけどさ~……

 君があっちでは普通の一般人とか、こんなの絶対おかしいよ』

「もう何も怖くないってか。まあその意見は受け止めておこう」

 

多分なんか食生活とか食材事情とかその辺が隔絶しすぎてて

こいつらの頭では情報がパンクしてしまうとか、多分そんなのだろう。

この世界も少数ながら新幹線っぽいのや車にフェリーとあるからな。

 

 

と、いうわけで現実のゲームやら漫画やらアニメやら……

そういうものを俺の頭に思い浮かべて、2匹が映像化という作業をしていた。

ゴーリキー達は人間がロボットが斬新な技を使う映像を見て、ひとしきり関心を持ち

一番納得していない風を装っていたミュウツーも、一部の内容を見て泣いたり猛ったりしている。

ミュウは元々色んな物を楽しむ感性があるのか、全部が全部を楽しんでいた。

途中でダグトリオまで上映会に参戦し、全員体育座りで大人しく観覧していた。

 

他にも概念の酷似性やパクり気味な状態を作り出す事において知識を出し

きあいだまを自力で習得した末に、そのきあいだまを打ち出さずに手足に纏わりつかせ

いわゆる「気」を使える状態まで持って行かせた。

 

 

その結果……

 

 

「よし……ゴーリキー、お前たちの想いが創りだした技を魅せつけてやるぞ!!」

「グガーォーーーン!」

「フフフ、俺だってここでエリートトレーナー張ってる人間だからな。

 そんな簡単にゃやられてやんないぜ、店長!」

 

俺が擬似トレーナーとしての役割を受け持ち、編み出した技の数々をやってもらう。

相手はここの宿泊客のゴローニャさんである、硬さに定評のある子です。

 

「あれ、こども店長今日は闘うの?」

「てかあれここによく来てる野生リキだな、モンスターボールでゲットしたのか?」

「いや、違います。なんか彼らがあなた達に負け続けるのが甚だ我慢出来ないとかで

 新技教えろー言われて、それの模倣演技みたいなもんですよ。バトルはガチですけど」

「へぇー、ちょっと興味あるわねぇ…………こども店長はどんな技を──」

「お、なになに? タツヤんバトルするんか?」

「ほぉ、君がバトルをするのは久しぶりに見るね」

「あ、グリーン君、タツヤ君がバトルするみたいですよ」

「おぉ、それは珍しいな」

 

と、対戦が決定してから何やらギャラリーが集まりだした。

というか内容が「俺がバトルすること」に関して一番注目集めてるとか、この世界的にどうなのよ。

なにやらアカネさんとかタクトさんまでいらっしゃっとるし。

 

まぁ、いいか。

 

「ではまぁ、始めましょうか。よろしくお願いしまーす」

「おう、負けねぇぜ!」

 

元々野良試合みたいなものだったので審判らしき人間もおらず

とりあえず攻撃を仕掛けようとした所で、相手のゴローニャが指示を受けて突撃してきた。

 

「ゴローニャ、まずは ころがる で様子を見るんだ!」

「グーゴォーン!」

 

ズバッとちっちゃくジャンプをしたと思ったら、即座にズゴゴゴゴとすごい勢いで大回転。

その回転の先にはもちろん我らがパンツマンのゴーリキーが居る。

 

しかしこの世界、ころがる自体がクソ技だとしても結構油断ならないから困る。

そのクソに何かしらを二乗して掛けるととんでもない技が完成したりするのだ。

相手を掴んで転がれば、生身ロードローラーとか普通に有り得る訳で……人外魔境すぎる。

 

というわけで、そういうのは交わすに限る。

 

「ゴーリキー、ジャンプ」

「グガッ!」

 

俺の指示に従い、ゴーリキーは垂直にスターンとジャンプをする。

そのジャンプ力たるや、スマブラDXのファルコに優るとも劣らないジャンプだ。

しかし相手のトレーナーも、ひこうタイプを持っていないポケモンが『飛ぶ』事の意味は知っていた。

 

「ゴローニャ! 着地を狙って突っ込め!」

「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」

 

狙いどころは素晴らしい、常套手段である。

だが、彼らはこの世界に住んでいるからこそ、忘れている事実がある。

 

ポケモンに常識なんぞ通用するわけねーだろ。

 

「ゴーリキー、二段ジャンプ」

「ゴッ!」

「「「ええええええええーーーーーーーー!?」」」

 

指示通りに、ゴーリキーは空中で再度ジャンプし、その勢いを使って体勢を整える。

一方周りは不可思議な現象にブーイングの嵐だった。

 

ちなみに二段ジャンプは、「気」の応用である。

足の裏に纏わせた気を小爆発させて、Gに逆らっているのだ。

 

着地地点を正確に狙ったゴローニャのころがるは、もちろんスカってしまう。

その勢いをなんとか殺し、壁に激突することもなく体勢を整えて「着地」しようとしている。

 

つまり常套手段である。

 

「ゴーリキー! サンライズ・ボンバーッッ!!」

「グガァアァァァァーーーーーッッ!!!」

「いっ!?」

 

相手が着地した瞬間に当たるタイミングで、ゴーリキーは足を光らせながらゴローニャに突っ込む。

その勢いたるや、まさに電撃・イナヅマレベルの速度である。

 

ゴーリキーの持つ体重、フィジカル、速度、そしてトドメにきあいだまを纏った脚。

ゴローニャの体重300キロを持ってしてもその場で耐える事が出来ない威力が発生した。

 

「ゴ、ゴローニャ! なんとか体勢をッ───」

「とあぁぁぁぁぁーーーーーーーーッッ!!」

「ゴ、ゴゴゴゴゴゴゴッッッ………」

「うわぁぁぁあーーーーーッッ!? そんなんアリかぁーーー!!」

 

俺のCv.井上和彦に似せた掛け声と共にゴーリキーは瞬時に駆け寄り

きあいだまの気を纏わせた拳で体勢を整えようと頑張っていたゴローニャに

無情にもパンチラッシュを繰り出し続ける。

 

練習しといてよかった。ゴーリキーだと「グゴァー!」としかならんからね。

さぁ、トドメの演出だ!

 

「奥義を受けろッッ! ゴットハンド・スマッシュッッ!!」

「ガァァァァァァーーーーーーーーーッッ!!」

 

ドッグォッッ

 

その硬い岩肌に生えている顔の下に

俺の掛け声と同時に気合の入ったボディーブローが突き刺さった。

その手には元ネタがご存知の人が想像出来る通り、気合を纏わせている。

パンチラッシュよりも破壊力を秘めた、完全な溜めパンチであった。

 

いくら硬いとはいえ、属性的には二倍攻撃のかくとうである。

しかもゲームとしてはそれってどうなのという位の連続攻撃。

一撃一撃にもちろん威力が恐らく100は行っているような一撃であり、なおかつきあいだま入り。

むしろこれで耐えれたらタダのバケモノ(ドレディアさんに似たナニカ)である

 

さすがに爆発させるわけには行かないため

オーバーキルによって完全にグロッキーのゴローニャが地に伏せるのに合わせ、決め台詞を。

 

「 成 敗 ッ ! 」

「 グガォーン ! 」

 

勝利ポーズとして、二人で同時にゴローニャと相手のトレーナーさんを指差す。

厨二病だが、これは完全に決まった……俺、意外とコイツと相性いいかもしれん。

 

「………………」

「ゴォー……ン……」

 

相手のトレーナーさんも、あまりの展開に呆然とその場に突っ立っている。

ゴローニャの小さな呻きが、静かになった戦場に響き渡った。

 

ん、あれ。静か?

 

周りを見渡してみると、ギャラリーが全員静まり返っており

元々戦っていた人達(ドレディアさん含む)までこちらをガン見していた。

あれ、俺もしかしてやりすぎた? ポケモン虐待に入っちゃう?

 

「な、なにあの動き…………」

「空中で軌道変化してたぞ」

「ていうかなんか手と脚が所々で光ってたんですけど」

「相変わらずねぇ、タツヤ君は……」

「なんであんなのを人間が教えられるんやろなぁ、ホンマに」

「あれ、ちょっと待てよ……僕のダークライも彼から何か教わればもっと強く……?」

「ドレディアー!」

 

ギャラリーからの囁きを耳で探ってみたところ、どうやらそういうわけではないらしい。

というよりやっぱり、俺の変態的な立案をそのまま全部吸収してしまったゴーリキーに

周りの話題はもちきりという感じだった。ドレディアさんはなんかこっちに笑顔で挨拶しただけだけど。

まぁなんか本当、火力だけで言えば雨カイオーガにも優るモンありそうだしなぁ。

カイリキーに進化して手が4本になったらどーなんのよこれ。

 

「んじゃ俺店番に戻るわ。頑張れよゴーリキー」

「グガォンッ!」

 

そこに居直るとなんか面倒な事になりそうな雰囲気を感じ取り

店番という正当な理由を持ちだして、その場からそそくさと立ち去る俺だった。

 

 

 

 

もちろんの事、他の全員が技を教えろ教えろと立て込んできて

周りが一層うるさくなってしまったのは、言うまでもない事だ。

とりあえず他のワンリキーとかゴーリキーには心山拳を教えておいたので

そいつらに教えてもらえ、とまるなげしておいた。

 

ダンジョンにやたら割れた大岩が設置されまくってしまい

後続の人間が、岩を落とせず詰みかけたのも余談である。

 

ダグトリオは旋牙連山拳まで覚えてた。

 

 

 

 





ゴーリキーの使った技については、スパロボ バイカンフーとでも検索してください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

95話 出発だ

 

 

 

「あれから結構経ちましたねぇ」

「そーだネー」

「チュゥー」

 

ある日の薬販売用店舗で、ボルティを迎えに来たマチスさんと話す。

 

「マチスさん達にあってから……3、4週間ですかね?」

「まーさカ居ると思ってなかったヨー」

「俺だって来ると思ってませんでしたよ、強すぎてジムをクビになるとかどんなレジェンドですか」

「あー……まあステイしてた場所が悪かったネ、グレンランドならまだ良かったかも知れなかったネー」

「バッヂの取得ランク的な感じで、ですかね」

「そーだネー」

「チュー」

 

まあ実際んトコ、3番目に取得するのが一般的なバッヂだもんなぁ。

マチスさんやらここに来ているエリートトレーナーに話を聞く限りだが

ここ最近でマチスジムを突破出来たのは、カズさんだけらしいのだ。

 

加えて、マチスさんが名誉の退職をした後に取得したところで

距離的にリーグ参戦は、よほどの高速でそらをとぶポケモンが居なければ

確実に到着出来ないというオマケつきだったのだ。

ある意味でリーグ新規参戦者は、非常に限定されていると言える。

 

「お前だってご主人様のために頑張っただけなのになー、人間ってひどいよなー」

「チュー♡♡♡」

「滅べばいいのになー」

「チュッ?!」

 

膝に抱きかかえるボルティのアゴの辺りをこちょこちょしてやりながら

ボルティに対して労いの言葉を掛ける、最後だけなんかビビられたけど。

 

「そいやリーグの開催日って後どのぐらいっすか?」

「ンー? あと6日ってトコだネー」

「……あれ? 開催が6日後って……受付締め切りってそれよりもっと日浅いっすよね」

「そだネー」

「……やばくねえ?」

「ハッハー! アイドントゥノーゥ!」

 

駄目だアメリケン役に立たねぇ、今までジムに引き篭もってたが故に時間にルーズになってる。

これは今日の夜飯の時にでも話さねばならないだろうか?

 

 

 

 

「て、わけで。みなさんそろそろやばいんではないかな、と」

「あー、そういえばそうだな……」

「忘れてたんすか、カズさん……」

「まーうちとミカンちゃんは元々参戦でけへんしなー」

「やっぱり忘れがちになっちゃいますよね」

「二人は参戦者ってよりむしろ開催側ですしねぇ……」

 

やっぱり全員脳筋化していました。

そんなに強くなりたいならもうずっと滝にでも打たれてればいいじゃない。

 

「けどまぁ、そろそろ動く時期って事だなッ!」

「グリーンさんも結局ここに留まってますけど……俺遅れても知らんぞ?

 俺別にリーグなんて出ねえし知らん」

「何ッ!? あんだけ戦えるドレディアやダグトリオ抱えてるのにかッ!?」

「だって俺バッヂ1個も持ってないっすもん」

『えええーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?』

 

俺の発言に他の宿泊客達が驚いた。確かにチャド(チャンピオンロード)でそれは、異常事態だろうなぁ。

 

「じゃ、じゃあなんで子供店長はここに……!?」

「んー、最近弾頭って会社について聞いた事はないですか?」

「いや……聞いた事ない、かな?」

「あれ、もしかしてその会社ってあれじゃないの?

『主婦の心強い味方!!』 みたいな家事用品出してる、あの……」

「あーそれです。で、そこの社長さんに付いて知ってる人ー」

『…………。』

 

どうやら誰も知らぬようである。

ま、会社名知ってたって社長の名前まで知ってる人はなかなかおらんよな。

 

「その弾頭の会社取締役は、トキワジムリーダーのサカキさんなんですよ」

「え゛っ?!」

「……本当に?」

「大マジですよー」

 

そんな感じにタネ明かしをしていく。

んで、最終的に特別出場枠的なモノを貰い、ここに入場出来た事を伝える。

 

「え、あれ?! それじゃあ子供店長もリーグに出れるのか!?」

「うっわ……あんだけおかしいドレディアちゃんとかダグちゃん達相手にしなきゃならないの……?」

「大丈夫、そこについては抜かりは無いッッ!!」

 

俺はわざと大げさに手を振り、そして声高らかに堂々と宣言した。

そう、みなまで言う必要すらない、俺がここに居る理由、それは……ただのおくすりPRのためだから!!

 

「見る方に専念したいので大会はサボります。」

 

全員ずげぇーっとずっこける。

その中でも食べている飯はしっかりと軌道上から回避しているのは

全員エリートトレーナーの貫禄持ちというところであろうか?

 

「タツヤんはホンマに相変わらず過ぎやなぁ……」

「リーグに出場出来るだけでも凄く名誉なことなのにねぇ」

「ミーはフラワーレディとTHREE(スリー)ディグダと戦わなくて済むし、そっちの方がありがたいネー」

「ちぇ……ゴウキでリベンジしたかったのに……」

「俺も普段からカンチョーされたり海に突き落とされたりしてんの

 リベンジしてやりたかったのに……」

「おいグリーンさん、アンタしばくためだけに出場してやろうかコノヤロウ」

「うぉっ!? 聞き取ってんじゃねーよっ!!」

 

やかましいわボケ、んだったらもっと離れたところで小声で言いやがれ。

 

「ま、そーいうわけで俺は観戦目的です。戦う事はまずないからご安心くださいー」

『ふーーー……』

 

そんな全員で一斉に溜息付く事ないじゃないか。俺は疫病神か何かだってのか?

 

「ディーア」

『─────。』

「△▲☆★~♪」

 

……まあ、こんな見た目ごっつくもないやつらがあんだけ無茶苦茶な破壊活動してたら

そりゃ戦いたくもなくなるか、SUMOUで言うYOKODUNAと戦うようなもんだし……。

 

「ホァー#」

「おぅ、オオゥ、大丈夫、大丈夫ですミロカロスさん。ちゃんとお前の事も忘れてないから」

「♪」

 

うちにだって、ちゃんと見た目通りの子もいるんです。

 

 

 

 

そんなわけで、リーグ開催までの残り日数も少ないと言う事で

新商品PRの本来の目的は果たしたため、店も閉める事と相成った。

 

実際んとこ、これでまたトキワに帰って、またのんびりと旅に出る形でも良いと言えば良いのだが

旅の最終目的が(一応は)シン兄ちゃん撃破となっているので

リーグなんぞという大規模な戦いが繰り広げられる場所ならドレディアさんも学ぶ事が多かろうし

祭り気分も相まって、リーグの観戦は外せない案件となったのだった。

 

よし、それじゃ荷物も纏め終わったし……さて、行くか!

 

「それじゃ、みんな! ポケモンリーグに向けて出発だー!」

 

 

『  オ           』

『    オ         』

『      オ       』

『        オ     』

『          オ   』

『            ー!』

 

 

あれ? なんか人数多くねえ?

 

ドレディアさん達の後ろに、俺の知り合い全員含めたトレーナーさん達が40人は居るんですけど。

 

 

「え、だって。子供店長さんが居なくなるんならここに居る意味もうないじゃん」

「そうよねぇ。1日の最後に気楽に休めるって言うからみんな居たわけだし」

「そうなりゃ必然、こんなところでバトルしてる暇も留まる価値も無いよな」

「うんうん、日数自体もやばいですからねー」

「ま、そういうわけで……」

 

『『『全員一緒にレッツゴーってお話になったのさっ!』』』

 

なるほど、やはりそういうことか。ドウシテドンドコド。

まあそういうことならそれでいいんじゃないかな? だが……

 

「皆さんはそれで良いんですか?

 確かここの醍醐味ってトレーナーの潰し合いも含まれていたと思いますけど」

「いやーもう今更って感じになっちまってるよ、皆。」

「そーよねぇ……ずーーーーっと顔付き合わせてたわけだしねぇ」

「んだったらもう本選で堂々と遣り合おうぜって事でな」

 

ふーむ、長らく顔も合わせてりゃ、そうなってくるのも必然なのかね。

やかましくしない上で、必要以上にいじられないなら別にいいか。

されたら手持ち全員開放して俺も纏めて暴れればいいだけだ。

 

「ま、こんなところで止まってたってしゃーないやん」

「そうだぞタツヤッ! とっとと行こうぜ!」

「ハリアーッ! レッツ、ハリアーッ! 全軍突撃せヨー!!」

「どこに行こうとしてんじゃッ!! 

 一応ここ洞窟なんですから、他の人達に迷惑掛からんように行きますよー。

 あと野生ポケモンの迷惑も考えてくださいねー」

『はーい、子供店長ー』

「あいおー、そいじゃ……んぉ?」

 

こちらに向かって歩いてくるポケモンがいらっしゃる。

いつも番人の人材を提供してくれていたゴーリキーの群れの長のようだ。

 

「おっす、今まで騒がしくして悪かったな」

「グガ?」

「お前はずっとここに住んでんだっけか。

 ほら、このぐらいの時期に洞窟の向こう側で人間達が大騒ぎしてないか?

 そろそろそれが始まるから、俺等も行くのさ」

「グガーォーン」

 

【なるほど】とコクコクうなずいてくるゴーリキー。

お前もたまにここで戦ってたけどやっぱレベル上がってんのかねぇ?

 

「グガーォーン」

「ん」

 

ほほう……【ついてきてください。出口までご案内しましょう】と言っているようだな。

野生ポケモンと付き合ってるとこんな利点もあるのか、まさに街中ご当地情報と言った所である。

 

「みなさんー、このゴーリキーが出口まで案内してくれるそうです。

 余り迷惑掛けないようにして付いていきましょうー」

『『はーーーーーーーい』』

 

 

そんなわけで、チャドの住民によるチャド最短攻略法により

俺達合計41人だか42人は、無事最難関の鬼門を抜け出る事が確定した。

こうなってくると、むしろ洞窟内の全員が宿泊していたあそこの方が

チャドの一番の鬼門になってしまうのではないだろうか。

 

途中でなんか「ピカチュゥー!」やら「ギエピー!」やらと聞こえていた。

ピカチュウっぽい鳴き声は多分、レッドさんが丁度チャドに到着したと思われるから良いとして

ギエピーって、まさか……この世界、アイツが居るのか?

 

 

 

 

そんなこんなで歩く事6時間程度。

下手なギミックだのなんだのが一切無いルートを紹介され、俺等は案内の通りにひたすら歩き続けた。

さすがにマサルさんのネタのように遭難したってオチは無い、何故なら───

 

 

「───うおっ、まぶしっ。」

「グーギャ」

 

 

無事、チャドの最終地点へ到達したからである。

 

なお、ここまで一人も脱落が無い事を明記しておこう。

まあ、元々全員が全員、野良バトルにやりなれている程のアウトドアの猛者共だ。

 

ミカンさんとかジムリーダー連中はどうなんだ、と思ったんだが

マチスさんは元軍人、森だのなんだので基本的なサバイバル術は当然持っている。

ミカンさんもミカンさんで、意外な事に凄まじいタフネスを持っていた。

おそらくあの街の灯台に居るアカリちゃんに逢いに行くために

しょっちゅう階段を上り下りしていたからなんだろうねー。

 

アカネさんが一番疲れていたが、声を掛けたところ

 

「こんなもん気合でカバーやッ!! いざとなったらカズやんにおぶさってもらうから!」

「おいちょっと待てよそれ!!」

 

といった具合です。あんたら仲良いよね。

 

 

まだまだリーグまでは距離がありそうだが、これで漸くチャドの突破完了!!

原作で何時までも迷いに迷ったあの苦悩はなんだったのだろうか!

 

まぁ、それもこれも───

 

「ゴーリキー、ありがとうな。おかげで手早く出口に付けたよ」

 

こいつとの関係がチャドで生まれたからである。本当に、世話になったなぁ。

 

「グガォーン」

 

【姐御共々、またいつでもお越しください】

 

「うん、そのうち暇を見つけたらまた行かせて貰うよ。それじゃ、またな!」

 

互いに手を振り、一緒に居るトレーナー達もゴーリキーに向けて手を振り

俺等は無事チャドを攻略したのだった。

 

 

さってと、こっからはただのお祭り気分でGO出来る、ひっさしぶりの休日の始まりだな!!

 

「あっち行ったらみんなで遊ぼうか、しばらくはのんびり出来るからな!」

「ディァー!!」

『bbb』

「ホァ~♪」

「△▲☆★~!」

 

待ってろよポケモンリーグ!! 俺達の暇つぶしのために犠牲に成るが良いッ!!

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

96話 祭騒ぎ

 

さて、あれからしばらく歩き続けて16:00頃にポケモンリーグに到着したわけだが。

 

 

ガヤガヤ。ガヤガヤ。

 

ガヤガヤ、ガヤガヤ、

 

ガヤガヤ。ドヤガヤ。

 

 

「お祭り騒ぎだなぁ」

「地方リーグっちゅーたら、年に2度しかない行事やしな~」

「まあ、大騒ぎも当然って事だな……俺もじーさんに連れられてよく来たけど」

 

俺のつぶやきにアカネさんとグリーンが反応を示す、そういやグリーンてオーキド博士の孫だったな。

 

ドレディアさんの前だと無力なおじーちゃんだったが、あんなんでもポケモン界の最高権威だしなー……。

真面目な話だが、チャンピオンなんぞとは比較にならん権力を持っているのがオーキド博士です。

 

やっぱ博士もここに来てんだろーなぁ、ダグ共見られたらちょっとやばいかな?

突然変異の事とか何も言って無いし……まあ見られたら見られたで良いか。

 

「俺は初めてだからすっげーわくわくするわ……! ゴウキ、わた菓子食いに行こーぜ!!」

「メッサツ!」

「あ、うちも食べたい!! カズやん奢って♡」

「お、おう……? おうっ!」

「あいあい、二人でデートいってらっしゃい。リア充しね」

「え、ちょ……! 俺はリア充なんかじゃ───」

「はいはい、みんな行きましょ行きましょ」

 

アツアツの2人をとっととその場に残し、俺やマチスさん達はそそくさとその場を後にする。

 

「ウーン! やっぱりリーグのフェスタは空気がいいネー!!」

「あぁ、マチスさんも元々リーグの関係者ですもんね……何回か来てたりするんですか?」

「毎回毎回ヨー! オールラウンドイヤッフー!

 やきそーヴぁ! わたガーシ! バッナーナ! ファンタスティック!」

「…………。」 よだれー

「こらドレディアさん、はしたないぞ。あとで食わせてやるからよだれを拭け」

「アッ?!」

 

今気付いたように、ぐしぐしとドレディアさんは口元を手で拭う。

少し和んでいる所に、グリーンが俺の前を通り過ぎてミカンさんのまん前に出る。

 

「ミカンさん、よかったら祭り一緒に回りませんかっ!」

「へ? えーと……まぁ、ポケモンセンターでお部屋を登録した後でなら」

「よしっ! もしよければ対トレーナー戦とかのコツもっと聞かせてもらえませんかっ!?

 これからリーグ出場もあるし、経験重ねてる人の意見を参考にしたいんですっ!」

「ふふ、いいですよー」

 

こっちも気合が入ってんなぁ。

まあこれぐらいの情熱がなければリーグの頂点になんぞ立てないって事なのだろう。

 

「んじゃ俺等もポケモンセンター行って部屋登録してくっかー」

「はーい」

「キュー」

「ギャゴーン」

「ヒヤウィゴーゥ!」

【騒がしすぎる……とっととそのポケモンセンターとやらに行くぞ】

【あ、僕このままお祭り見て来て良いー?】

「いいぞミュウ。あの時の金はまだ持ってんだろ?」

【うんっ! まだ色んなお金があるよ!】

 

色んなお金、とな……? ああ、多分万札崩した時に貰ったお釣りの1000円札と5000円札の事か。

ならまあ、まだまだ遊べる金があるってことだろう。

 

ともあれ、とっととポケセンに行かなくては。

 

 

 

 

「…………。」

「オーゥ。」

「…………これ、は。酷すぎるわね……」

「キュー……」

「…………まぁ、予想は出来なかった、かな?」

【……私は人が居なくなるまでハナダの洞窟へ戻っている。

 ミュウ、居なくなったら適当にテレパスをよこしてくれ】

【えーめんどーい】

 

 

現在俺等はポケモンセンターの入り口辺りで固まっている。

ついでにミュウは、俺達と別れた一瞬の間に人込みにもみくちゃにされ

半泣きで俺等のところへ戻ってきていた、情けないのう。

 

 

さて、なんで入り口で固まってるのかに関してだが……

人が溢れすぎてて中に入れないからである。そして原因は多分俺。

 

 

これだけの人数がびっちり溢れている件の、あくまでも予想でしかないのだが……。

 

 

元々カントーポケモンリーグが開かれる、として

色んなトレーナーが各地から集まり、ここで宿の登録をするわけである。

つまりはこの時点でポケモンセンターは大回転を起こしていると思われる。

それに加えて、俺はチャンピオンロードから脱出したわけで……。

 

つまり、は。

 

俺が留めていた40人が一気にこちらに雪崩れ込み、

受付が順当に処理している結果、こうなったのではないかと予想する。

事が事だけに、流れ作業で登録するわけにも行かない。

自分達【泊まる側】はトラブルがあったところで

自分が関わっていなければ大して関心も寄せず、『へー、ほー』で終わらせるが

運営側としてはその1件が致命的な事にも成りかねない場合がある。

故にここで、人数差に圧倒されて適当な作業をしようものなら

後々に、自分達の首を絞める事にも繋がったりするかもしれないのである。

 

だからこそ手抜きは一切許されない。1件1件丁寧に処理して行く……が。

そのスピードはお世辞にも速いとは言えず、待つ側はストレスが溜まって行く。

 

 

……あれ? もしかしてタクトさんが先行出発した意味ってこれを想定していたからなのだろうか?

待ってれば待っている分だけ休めないわけだし……これもう間違いねぇな。

ちくしょう、教えてくれてもよかったのに。

 

「こーりゃ時間掛かりそうだ」

「そうですね……どうしましょう?」

「ンー、ミーが並んで起きまショーカ?」

「ああ、一人だけ並んで集団登録かぁ」

 

ここまで受付がごった返しているのは、

そもそもトレーナー自体、ソロ活動の方が圧倒的に多いからである。

故にこういう件を同時に捌いてもらう協力者がゼロなため

一人一人が並ぶしかないという手段しか残されないわけだ。

 

「でもいいんですか? マチスさんもお祭り楽しみたいでしょうに」

「ダイジョーブダイジョーブ! 科学の進歩に犠牲は付き物デース!」

『科学の進歩?』

『(なんでそのフレーズ知ってんだマチスさん……)』

「開催日までまだ6日もあるんだヨー! タイムはまだまだたっぷりあるネ、オーライオーライ!」

「うむ、まあそう言えばそうなるかな……」

 

前世の現代日本だと、祭りは続いても3日程度と思ったが……あ、雪祭りは別かな?

ここじゃ残りの5日間までずっと祭り騒ぎなのか、恐ろしいなぁ。

母さんなんで今までここに連れてきてくれなかったし。

 

「それじゃぁ、お願いしちゃいましょうかね。

 せっかく利点があるんだし、使わない手も無い。マチスさんよろしく頼みます」

「あーいオッケーヨー、チルドレンは楽しんでらっしゃいナー。

 リトルボーイに、ミー、アカ、モッサン、アーンド、カズにミドーリでOKね?」

「じゃ、それでお願いしますね」

 

今頃リア充ってるあの2人も最終的にはここに来るだろう。

だったらついでに取っておいたところで問題も無い、後で殺せば良いだけだ。

 

 

 

 

「んで、どうするべ」

「ディーァ」

『─────。』

「ホーァ」

「ミュィ」

「△▲☆★~」

 

一応金はあるし、出店で遊んでくるのもアリだろうし

ドレディアさん関連で確実に食い歩くってのはわかりきっているのだが……

まぁ、急ぐ必要も無いしなぁ……

 

なお、他の面子は既に各々祭りを楽しみに出かけていっている。

俺達は翌日以降でいいやーと面倒くさがって、ポケセンの外の木陰で座っていた。

俺の手持ち&ミュウもそれに付き合う形で横に居る形だ、皆あの人ごみのせいで一気に疲れたのだろう。

 

【あ。】

「ん、どしたよミュウ」

【ねえねえ! 久しぶりに音楽でもやろうよ! 暇つぶしには持って来いだと思わない?】

「あーうん、でもなー……」

 

俺はミュウの提案を聞きながら、周りを見渡してみる。

良い提案だとは思うんだが、いかんせん人が多い。

この世界では意外性抜群すぎる曲ばかりなせいで

日頃から集客率が凄まじい上に、一度集まられるとただのパクリでしかない罪悪感で精神的にきつい。

 

「ホアァァ~! ホアァ!!」

「えぇー?」

「─────。」

「おいコラ、ダグONE!てめぇ静かに荷物ほどいてドラムセット出してんじゃねえ!」

「b」

「何サムズアップしてんだおいッ!?」

 

全員が全員、とんでもなく乗り気なせいでどんどん追い詰められていく俺。

こうなったら最後の味方はドレディアさんだけ───

 

ポン。

 

「ん?」

 

肩を叩かれる。振り向いてみるとドレディアさんが居るわけなのだが。

 

「ディァ。」

「…………。」

 

ドレディアさんが、あるモノを俺に差し出してくる。

 

持ち歩きピアノでした。凄く……やる気です……。

 

 

「味方なし……か。よし、逃げ───」

 

ガッシ!

 

「ぉおぉう!?」

「フォァー♪」

 

既に後ろに忍び寄っていたミロカロスに襟首を咥えられ、逃げる事すら出来なくなってしまった。

あぁんッ……。

 

「……俺の流す曲とか音楽、ほぼ全部パクリだから流したくないんだけど」

『『『…………。』』』

「流していると、曲を作った人達に凄く申し訳なくなるんだよね」

『『『…………。』』』

 

うぬ、ぅ……無言で見つめられると、心が痛い……!

これだから多数決制度の国民は……! って、こいつら一応野生動物の範囲だっけ。

 

「……あんまり長くまでやらないからな」

「ディァ!」

「ホォァー!」

「ミューゥ!」

『(カチャカチャ、ガチャ、ドスッ)』

「△▲☆★~♪」

 

何気に一番乗り気なのがダグ共なのが見て取れる。既にドラムがSTAND BY。

ちくしょう、普段自己主張しない分チャンスがあったらとことんまでやりやがる。

  

 

 

 

まあ、そんなわけで音楽時間と相成ったわけだが……元々予定もしていなかった音楽会である。

今から何かしら練習した上で流すと時間が掛かるので

既にやった事のある『Love is Eter●ity』と『MAXX』の演奏と相成った。

 

俺の手持ち達とミュウはとっても楽しそうに演奏や踊りを混ぜていくんだが

本当に俺としては、作曲者さん達に申し訳なくなる。精神がガリガリ削れていく……

 

そしてやっぱり1曲目が終わる頃には

ポケセンで並んでいた人まで出てきて俺等を包囲している始末である。

こうなりたくなかったから拒否してたのに……今迄で一番多いよ、もうやめて。

 

ああ、でも……ほぼミュウ頼りの機械音源といえど……改めて弾くと、本当に楽しいなぁ。

やっぱり音楽って文化は大事なもんだよね、人が居ないところでまた演奏しまくりたいなー。

トキワシティの森に居たあいつらは元気にしてんだろうか。

 

2曲目を終わらせる頃にはポケセンの中身が大分少なくなるほど施設内から人が出てきており

そのおかげで残っていたマチスさんがわりかしスムーズに、全員分の宿泊部屋を確保していた。

 

ていうか、長い間並んでいたのを放棄してまで聞きたいとか、どうやねん。

 

ま、とりあえずは手持ち全員目的は果たせて満足しているし

俺も俺でとっとと荷物を置いて寝たいが故に、マチスさんの登録高速化は利に適っていた。

とりあえず適当に愛想笑いをしてその場をそそくさと立ち去りマチスさんと合流。

部屋の番号を教えてもらい自分達の荷物を置く。

 

 

「さて、ドレディアさんは祭りの出店で食い歩きたいってのはわかるが

 他の皆は何かしたい事あるか? もう部屋も登録したし寝てたいやつは寝ていいぞ」

「ホァ」

『───。』

「ミューィ」

「△▲☆★~」

 

ふむふむ、全員特に眠いわけでもないらしい……みんな目の前にある祭りが新鮮なのかね?

 

「んじゃ、俺は寝てたいから寝てるわ。ちゃんと適度な時間になったら戻って───」

「#」

「#」

『;』

「……;」

 

 

 

まぁ、その後いつもの2人にボコられた後、ずるずると祭りまで拉致されたのは言うまでもなかろうな。

 

「ちくしょう、俺の睡眠が……!」

「ディ~ァ~♪」

「ホ~ァ~♪」

「△▲☆★~」

 

主犯格二人+αが非常に楽しそうに祭りを闊歩している。

別に俺おらんでもええやんけ……何故連れて来たし。

 

俺一人だけテンション低いのも皆に対してどうかと思い、気を持ち直す。

改めて祭りの方に目を向けてみれば、色々な出店や催し物があった。

 

定番の食べ物系のお店にジュース売り。ヨーヨーに輪投げ。

こちらの世界では『金魚すくい』は金魚自体が存在していないため、

それ自体は無いみたいだが代わりに『vsトサキント』という謎の出店が存在していた。

 

非常に興味深かったが、まあドレディアさんがそれを確認させてくれるはずもなく

わたがしのお店へ暴走機関車の如くGOされる。やれやれ……

 

全員分の綿菓子を買って、手渡してみんなで食べる。

うーむ懐かしい味だ……祭りなんぞせいぜい高校生で卒業しちまったからな。

甘くてふわふわでもっちりとしてそれでいてソツがなく……あえて言おう───綿菓子であると!

 

「アァァァアァァ~~~♡」

「ァァァァァァアア~~♡」

『ッッッ~~~♪』

「ミュゥゥゥゥゥ~~~~~~~~!!」

「△☆△☆▲★▲★~♪」

 

うむ、全員とても満足しているようである。さすがのわたがしパワー。

 

その後は祭りの会場で意外にエスコート出来ているグリーンを見たりもした。

オーキド博士の関係で、あいつ常連らしいしな……しかも客側の立場で。

 

開催側の立場で常連であるジムリーダーとはまた違った情報を持っていて

ミカンさんも楽しめているようである。案外相性良いんだろうな、あとで殺しておこう。

 

道端で見つけたカズさん&アカネさんは、2人で仲良く焼きそば食ってて

なんか俺だけボッチで、よくわからんうちに腹が立ったから

カズさんに膝カックンを仕掛け、驚かせて焼きそばを落としてやった。

ドレディアさんに【無粋な真似すんな#】って殴られたが、後悔なんてしない。

 

他にも、突発開催的なトレーナーバトルのぷち大会とかもあり

そちらでもっさんがなんと優勝をもぎ取っていたり。今回はゲンガー無双だった。

 

マチスさん=元軍人vs俺=元FPSプレイヤーで、射的を鬼の様に荒らしたり。

 

※出店の裏事情は大体知っているし、景品なんぞ要らんのであとでこっそり返しておいた。

 

ビンゴ大会で、ドレディアさんがまさかの玉4つで最速ビンゴが発生したり

 

のど自慢大会で試しにミロカロスを出したら審査員特別賞を貰ったり……

 

ムウマージの愛らしさで緊急ハロウィンが企画されたり……

 

たくましいポケモンコンテストでダグトリオが一切違和感なかったり……

 

地味に空をフーちゃんらしきフリーザーが滑空していたり……

 

なんだかんだでとても楽しく、開催日までを過ごせた。

 

 

そんなこんなで、ついにカントーポケモンリーグ当日である。

今日からいよいよ、アニメ順所っぽい大会が始まる。

熱い試合を期待したいものである。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

97話 リーグ

 

 

「それじゃ、頑張って来るぜ!」

「私だって負けないんだからね……!」

「ミカンさん、試合が終わったらアドバイスください!」

「ンッフッフッフー、今回どーなるのかネー?」

「ライチュッ」

 

こちらは大会参加組、気合も入って十分である。

参加人数もシード選手の俺を抜いて127人居るらしいし、この面子が初戦で当たる可能性は少ないだろう。

 

「マチっさんもカズやんもえーとこ見せてくるんやでー!」

「みなさん頑張ってくださいねー!」

「対戦相手ボコりすぎんようにねー。」

 

こっちは大会不参加組、もちろん最後の発言は俺である。

適当に観客席に居れば場内でも不戦勝アナウンスが流れる事だろう。

何が悲しくて名誉なんてくだらんモノの為に戦わねばならんのか。

賞金100万とかならまだ、テレビ的なノリでやる気も出ますけどね?

 

 

 

 

と、言うわけでいよいよ本選が始まる時間だ。リーグ会場は人でごった返している。

 

席らしい席は全て埋まってしまっており、俺等が入る隙は無さそうだ。

なお、ミュウとミュウツーはそれぞれが祭りで楽しく、ポケセンでのんびりって感じだ。

 

どちらも大会自体には全く興味が無いらしく

【遊んできたーい♡】

【この人込みの中うろつくのも面倒だ、寝る。あとでしっかり私の食事を持ってくるのだぞ】

と好き勝手に述べていらっしゃいました。ミュウツーそのままハナダに帰宅してろよ。

 

 

「ディ~ァ~……」

「はいはい、君も【だりぃー】じゃないからね。

 多分良い試合内容とかも沢山あるんだから、しっかり見なさい。」

「ァ~~」

 

そしてこちら側のドレディアさんも、やる気の無い事やる気の無い事……

まぁ、ドレディアさん的にゃ戦いたいのがでかいのかもしれんがね。

そんなもん一人でやってくれという話である、それが出来ないなら諦めてくれ。

 

「ほれ元気出せ元気。ポップコーン買ってきてやるから」

「ッ! ディッ!」

「やっぱ買わないわ」

「アァァァァァァァ……」

「タツヤん……上げて落とすとかえげつない真似やめよーや……」

「そうですよっ、ドレディアちゃんが可哀想じゃないですかっ!」

「普段殴られまくってる俺は可哀想ではない、と?」

「えっ!? え、えっと……自業、自得?」

「俺の心は深い悲しみに包まれた」

 

 

いつも通りの日常が、騒がしい会場の中にあった。

でっけぇ大会の最中でも俺等はそこまで変わらんらしい。

 

 

「さて、結局何処で試合見ましょうかね?」

「うーん、もうこれ……上の方に行って立ち見ぐらいしか手ぇ無いんとちゃうか?」

「そうですね……上だったら試合が終わった4人も、多分見つけやすいと思いますから……」

「ま、使える椅子が無いなら仕方ないですよね……のんびり上で立ち見でもしますか」

「そやね、どうせ一回戦は1:1で勝負決まるし手早く済むやろ」

 

こんな事なら茣蓙(ござ)かパイプ椅子のちっこいやつでも買っとけばよかったな。

ま、今更悔やんでも仕方が無い……のんびり階段に胡坐でも掻きながら試合を見よう。

 

 

 

 

「───選手宣誓ッ! 我々参加トレーナーは! 正々堂々と戦い抜く事をここに誓いますッ!!」

 

 

パチパチパチ

       パチパチパチ

 

 

大会の開始によくある挨拶が代表選手によって行われ

いよいよ持ってして、会場のボルテージが上がって行く。

 

「今年はどうなるんやろねー!」

「やっぱり前年優勝者の人が順当に勝ち上がって行くのかな?」

 

横の2人も会場と一緒にボルテージが上がりまくりである。

トトカルチョ、とかやってたら結構真剣に考えたんだけどもなー。

 

ちなみに前年優勝者は、リーグ勝ち抜き戦で勝った人である。

シン兄ちゃんは開催時期とは違う時にチャンピオンを下した為、こういう場には呼ばれない。

 

「では、これよりAブロックの試合を執り行います! Aブロックの人は前に出てきてくださいっ」

 

係員のその呼び声に答え、何十人も控え室に繋がっているであろう通路から出てくる。

どうやらトーナメントの前に、会場の殆どを使って乱取り的にやるようである。

人数が8人なのは、おそらく開催側が用意したシード選手枠の関係なのだろう。

 

 

 

「おっ! ほら2人共あそこあそこ! マチっさんおるで!

 マチっさーーーーん!! がんばれーーーー!!」

「まーちーすーさーーーーーんっ!!」

 

何気に気合が入った応援だ。

特に大人しいはずのミカンさんまでどう言う事だこの声の張りは。

 

「ほら、タツヤんも応援しぃな!! しっかり声出さな届かへんでっ!!」

「えー喉痛くなるからダリぃ」

「ちゃんと応援してあげなきゃ駄目ッ!! ほらっ! ほーらっ!!」

「おぉう……そんなプッシュせんでもいいじゃないですか」

 

やたら気合が入ってきた2人の押しに負けてしまい、とりあえず一声叫ぶ事へと相成ってしまった。

どう喋ってやろうかなー。……うん、もうこれでいいや。

 

 

「ボルティィィィーーーーーーー!! 愛してるぅーーーーーーーーーーー!!」

 

 

いきなりの愛の告白に横で聞いていた2人とドレディアさんやミロカロスまでずっこけた。

あ、でも試合会場で気付いたボルティとマチスさんがこっちに手を振ってくれてる。

 

「タツヤん……ふざけるのも大概にせんとあかんで」

「なんでここでボルティに告白してるんですか……w」

「えーだってむさいおっさん応援してもなんかこう、アレじゃん。

 だったらペアで可愛げがあるライチュウの方を応援したくなって……」

 

その論を聞いた全員が、深く深~~く溜息をつきやがった。

何これ軽いイジメ? 俺もう帰っていいかな?

 

 

ま、試合結果の方は順当にマチスさんが勝ちあがった。

マチスさんの使用ポケモンはライコウだった。あいつもチャドで結構訓練してたしなー。

順当勝ちといったところであろうか。貫禄もあったしなー。

 

Aブロックの試合終了時間はアナウンスの限りでは歴代最速だったようである。

まぁ、あのマチスさんだし。うん。リーグもとんでもねぇ刺客を放ったもんである。

 

残念な事に、さすがに宿泊組同士でぶつかりあってしまったブロックは

相性で軍配が上がっている試合が2、3個あったが……

 

みんなでマチスさんが勝利したのを喜び、Eブロックの試合が始まる。

ほう、こちらはグリーンが出場しているのか……。

 

 

「まあ、グリーンさんなら順当に勝ち上がるでしょうね。ウザったいけど腕は確かですし」

「まあそやねー、グリーんが早々と消えるような内容でもないしー。

 ミカンちゃんも一安心やねー? クフフフ♪」

「え? えっと……私のアドバイスもちゃんと聞いてくれてたみたいだし

 よほどのミスをしなければ勝ち上がってくれると思ってるよ?」

 

…………。

 

「あまり、脈はなさそうですね」 ヒソ

「んー、線薄そうやな」 ヒソ

「えっと、2人でなんでヒソヒソ話をして───」

 

 

ッパァァァァァァン!!

 

 

『ん!?』

 

音に反応して会場に振り向いてみると、凄まじいジェット水流が高々とリーグの空へ舞い上がっていた。

あー、あの勢いは……多分グリーンのカメちゃんのハイドロポンプだろーなぁ。

 

喰らったポケモンが試合会場の方へ ひるひる~~、ぽてり。

広告掲示板の上部に丁度着陸した。無論ぴくりとも動かない。

チャド宿泊施設参加組もぽつぽつ混ざっていたが、見せ場もなくリタイアとはいと悲し。

 

グリーンは順当に勝ち上がったようである。原作パワーってチートダナー。

 

 

「ひゃー……相変わらずごっついハイドロやなぁ、グリーんのカメっちゃん……」

「これなら良い順位まで行くかもしれませんね!」

「まー行くんじゃないっすかねぇ?」

 

ゲームの方だとこういうリーグ形式じゃないものの普通に主人公より早くチャンピオンになってたしなー。

俺の中では優勝候補の筆頭、その中で№1である。

 

 

さて、続いてはFブロックか……ここは……

お、カズさんが居るなぁ……しっかし皆、上手い具合にブロック分かれて──

 

「ッ!?」

「ん、どしたんタツヤん?」

「ど、どうしたんですか?」

「あー……これは、カズさん運悪いなぁ……」

「えッ!? 何!? ど、どういう事や!?」

 

 

 

カズさんのブロックにいる相手の中には……───

 

 

 

原作主人公の、レッドさんが混ざっていたのだ。

 

 

 

「このブロックは、かなりやばいです……」

「え、えー? そんなにヤバイ相手って……あれ?

 あの人、シオンで逢ったレッドさんやないか?」

「レッドさんっていうと、あの……ポケモンタワー破壊事件の主犯だよね?」

 

 

嫌な方向に覚えられているwwww

まあ、そのレッドさんである。そういえばこの2人もあそこで逢ったんだっけ。

 

「んーでもここでセイリュウちゃんは無いんやないか?」

「そうだね……あの子で逃げたのは警察にも連絡行っていると思うし

 この狭い会場じゃ、2回戦からの1:1にならないと配置的にも無理が……」

 

 

2人は見当違いな方向で心配しているが、俺は知っている……彼は、この世界の───主人公だから。

きっとご都合的なものや、世界の強制力やらが働いて……必ず勝ち上がる筈だ。

 

 

そして彼等は、互いにポケモンを試合会場へと登場させる。

カズさん側はもちろん、エースのゴウキ。

 

「メッサツッ!!」

 

『おぉっと! 選手の一人が見慣れないポケモンを登場させているぞー!?

 ニビシティ出身、カズ選手ッ! 使用ポケモン、ゴウキッ!』

 

公式の大会では、やはり一切姿が確認されていないのか

雑多な戦いであるはずなのに、わざわざアナウンスが流されている。

 

会場も自然とアナウンスが行われた人物に注目して、ざわざわと喧騒が立ち始めている。

目新しいものはやはり注目の的なんだな。

 

 

「……どんなポケモンが出てきても関係ないさ……さぁ、行ってくれ……俺の相棒──!」

 

 

ん、レッドさんは、ピカチュウではないのか……?

いつも連れ歩いている(気がする)ピカチュウが一切出てきてないが。

 

 

 

 

「ゴリチュウーーーーーーー!! 君に決めたぁーーーーーー!!」

 

 

 

 

ペカァァン

 

 

 

 

光が収まった後、そこに居たのは……ある意味有名度がとても高いポケモン。

 

 

ピカチュウが完全に懐くと、進化系に新たに登場するポケモン……

 

 

可愛いピカチュウの顔を維持しておきながら

 

 

その首から下の、ただの黄色いゴーリキーでしかない逞しい体を所持し

 

 

可愛らしさを全て台無しにした上で、至上の強さを身に着けたポケモン。

 

 

 

 

「ゴォォゴォォゥオォオオオォーーーー!!」

 

 

 

ゴリチュウが、そこに居た。

 

 

 

 

『『なにぃーーーーーーー!?』』

 

ゴウキの件で、良い意味で注目が集まっていた試合会場の片隅にさらなる核弾頭が投下され

会場の参加者、観戦者全員の気持ちが一つになったような、そんな叫びが響き渡った。

 

『こ、これはなんという事でしょうか……!

 まさかのまさか、レッド選手まで新種のポケモンを繰り出してきました……!

 し、しかし、その……あれは……なんと言うか……』

『この場合は、気持ち悪い……で良いのかな?』

『あ、解説のサカキさん、代弁どうもありがとうございます。

 手持ちの資料の登録名では、ゴリチュウとされています……

 顔に残るピカチュウのあどけなさからして、あれはピカチュウの進化系なのでしょうか』

 

俺は有る意味ダグ共で見慣れているから問題ないんだが

横の二人もあまりのキモさに戸惑いを隠せないようである。

 

「ちょ、ちょ、な、なんなんあれ……」

「い、いやっ……! 存在がもう……、えっちなのはいけないと思いますッ……!」

「てーか、しれーっとサカキさんがアナウンスに混ざってたなー。全然気付かなかったわ……」

 

アナウンスなんぞどうでもいいしなー。

耳に入ったところで右から左でございます。

 

『さ、さぁ……この新種同士のバトルは一体どうなるのでしょう!

 意外な期待を膨らませてくれるFブロック、スタートです!』

 

アナウンサーの声に釣られたのか、試合会場内に居る審判兼係員の合図が行われる。

Fブロックの戦いが、今始まった───!

 

「ゴリチュウ、まずは様子見だ……ビルドアップッ!」

「ゴォオォォォォッ─────」

 

 

「─────ゴウキィィィーーーーーーーッッ!!」

「ムンッ……!」

 

ギャォッ!

 

ッ!? あれは……瞬獄殺だが───動速度が凄まじく速いぞッ?!

いや、早いなんてもんじゃない。あれは……RareAkumaのッ!?

 

 

会場全員がおそらく、その瞬間にゴウキを見失った事だろう。

次に彼を見た姿は、誰しもがゴリチュウを後ろから掴む彼の姿。

 

そして会場は───一切の予兆すらなく、真っ白になった。

 

 

ズガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

 

白い風景の中、響き渡る打撃音……この時点で既に決着が付いているに等しい。

予想通り、次に風景が直った時には───

 

 

ただ一文字、背中に天と光り輝く文字を背負い───仁王立ちするゴウキ。

その足元には、完全にノックアウト状態のゴリチュウが倒れ伏していた。

 

会場は何が起こったのかわからず、シーンと静まり返っている。

 

そんな中、俺は……場違いな事を考えていたりした。

 

 

 

 

 

(なーんだ……黒い画面と同時に愉快な音楽が流れて

 999hitの後に巨大化して踏み潰すK.Oじゃないんだ……)

 

 

 

 

 

ついでにちっちゃいゴウキが出なかった事にも不満がある。

期待させやがって……スピードだけRareAkumaかぁ。

 

 

 

マサラタウン出身、レッド───予戦、敗退。

 

 

 




RareAkumaというのは、mugenというネットの格闘ゲームで
豪鬼をベースに作られたおふざけキャラです。
知らない人は一度ご覧になってください。マリオのキノコ食べたりして楽しいですよ。
何を言っているのかわからねーと思うが、見ればわかる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

98話 ちょw

 

 

Fブロックにて(ゲーム原作知ってる意味では)まさかの大波乱が起き、会場のボルテージもMAXに近い。

 

さすがの最速は、速攻で一撃必殺技を決めたレアアクmげふんげふんゴウキだが

他にもやはり参戦している『なぞのみせ』組が、大体他の人のポケモンを一撃で粉砕しているため

大会はとてもスムーズに進行していった。トイレへ行く暇を俺にくれ。

 

 

Hブロックの試合が終わりかけといったところで

一番最初にAで試合を終わらせたマチスさんがこちらにやってきた。

 

「フォーゥ、リトルボーイパーティーゲーッツ! どうだったネー? ミーのライコウ頑張ったーヨ」

「さっすがマチっさんやな! その子が強いのもあるけど

 やっぱりしっかりと鍛え上げている所が、他と一線を駕す内容なんやな!」

「ピギャーゥン!」

「おうライコウおめでとう。ボルティ超す日も近いかもなぁ」

 

マチスさんと一緒に歩いてきたライコウの髭を適当にもみもみふさふさしつつ、労いの言葉を交わす。

 

横では【僕だって全然余裕で倒せるのに……】と、ぶーたれたボルティも居ます。お前ホント可愛いな。

 

「おめーはしょうがなかろうが。マチスさんの切り札なんだから自重しなさい。

 うちんとこの草姫様と同じようになっちゃ駄目だぞ」

「ア゛ァッ?!#」

「ちゅー♡」

「だ、駄目だよタツヤ君……;ドレディアちゃんだって好きで自重して無いわけじゃないんだから……」

「だからって殴られるのは理不尽です」

 

そんな具合に上手い事ドレディアさんからの怒りをスルーしながらボルティの頭を撫で回していると

Eブロックで試合を終えたグリーンがこちらに───

 

 

「失礼致します」

「ん」

「へ?」

「え?」

「ホワィ?」

 

 

突然見知らぬ人が現れる。背格好からしてこの会場の係員だろうか?

 

「タツヤ様と御見受け致しましたが、間違い御座いませんでしょうか?」

「えっと、はい、俺はタツヤです」

「オーキド博士がタツヤ様にお話がある、と言伝を頼まれましてご参上させて頂いた次第です。

 少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか」

「え、あー……」

「うちらは気にせんでええよー。

 博士に呼ばれるなんて凄いやん、何か協力事でもやっとったんか?」

「いや、そんなのはして無いはずなんですが……」

「うちのじーさんが呼んでるってかー……碌な事じゃねーのは間違いねーだろうな」

「あ、グリーンさん」

 

話している間にこちらに到着したグリーンが

話の内容を途中からながらも聞いていたのか、的確に答えてくる。

 

「まぁ、行かないとわかんねーだろうし仕方ないんじゃないか。

 とっとと行ってきてとっとと戻ってくりゃいいだろ」

「んー……もっさんの試合には間に合いそうにないが、しょうがないかな」

「うちらでちゃんと教えてあげるから、しっかり済ませてきぃな」

「あーはい、そうしますか」

「では、こちらへ……」

「うし、んじゃみんな行くか」

「ディッ!」

「ホ~ァ~♪」

『─────。』

「△▲☆★~」

 

 

そうして俺は彼等に拉致(・・)られた。

 

 

 

 

んで、係員の人に付いていってしばらく歩き回り……俺達は全員とある部屋へと入って行った。

 

 

んんん……? 仮にも最高権威が話をするために用意する部屋じゃないぞ?

そこら辺にロッカーがあって、なんというかこう……まるで試合前の待機室みたいな……

 

「あ、あのー……それでオーキド博士はどちらに?」

「それについてですが、誠に申し訳御座いません」

「……ええー?」

 

突然、係員に謝られる。意味がよくわからな────ッ!?

 

まさかこの人、ロケット団残党かッ!?

喋り出しがサントアンヌ号のあの尻尾出しにそっくりだぞ……!?

 

俺は無意識にズバッと距離を取り、警戒心を強める。

 

「な、何が目的だ……!?」

「え、えーと……? どうされましたか?」

「ディ?!」

「ホァ!?」

 

突然の俺の行動に、係員らしき者とドレディアさんとミロカロスが

一緒に驚きの言葉を放つ。くそ、2人はまだ気付けて居ないのか……。

とりあえず目配せで全員に『警戒しろ』と呼びかけ───

 

「目的と言われましたのでお伝え致しますが……

 まず突然の無礼、申し訳御座いません。私は今大会のスタッフでございます」

「…………あれ?」

 

警戒してもこちらの行動をあまり気にせず、係員らしき者は話し出す。

 

「今大会、タツヤ様はサカキ様の権限により

 特別出場権を所持していらっしゃる事を確認させて頂いております」

「は、はぁ」

「特別出場権を所持していらっしゃる上で、もしタツヤ様が

 別の地方などにおられる場合はもちろん無効化されるのですが……

 今回……大会前に情報収集をした限り、タツヤ様が会場内にいらっしゃるのを

 複数人のスタッフが確認をしておりました」

 

テキパキと、まるで執事のようにスタッフさんは俺に喋りかけてくる。

んーこれは完全にただの思い違いらしい、バイオレンスな世界に居すぎた弊害だろうか?

 

「そしてサカキ様を始めとした色々な方々に聞き回ったところ

 タツヤ様はこの手のイベントを、非常に鬱陶しがるとの情報を得ておりまして……

 スタッフ内で検討したところ、確実に会場内に居る上で

 出場アナウンスを無視しそうだという結論に達しまして……」

「うっ……」

 

まさに図星過ぎる、自分の名前を呼ばれたところで

ガン無視でポップコーンでも食べながら続きを観戦する気満々でしたごめんなさい。

 

「それで、情報収集をした際に重要どころの情報を頂いた方々にご助言を頂いた所

 偽の情報で連れ出して試合前まで監禁した方が

 出場せざるを得ないと諦めてくれる、と伝えられまして……」

「───それでこれかぁっ!? ちょ、待て誰だそれっ!?

 理不尽でござるっ! 理不尽でござるっ! 人権もクソもねえじゃねぇかぁーーーーー!!」

「も、申し訳御座いません! しかし情報提供者の言葉では

『その用件で呼び出しても絶対に逃げ出す。何か言うなら私が責任を取る』

 と伝えられてしまっていますので……!」

「よっし、今すぐその人教えてくれ。

 社会的に抹殺してくる。恥ずかしい情報偽造しまくってバラまいたらぁ。」

「え、と……その、そんなことしちゃだめですからね?

 情報提供者は……トキワジムリーダーのサカ───」

「全員突撃ィィィィィィイッッ!!!!」

「ディァーーーーーーッ!!」

『─────!!』

「△▲☆★……;」

「ホーァ~;」

 

こんなところで止まっていられん! やはりあいつは原作でも大物のボスだった!

まさか原作と一切関わりの無い俺をこんなハメた状態にするなんて! ぶち殺してくれるわー!

 

「お、お待ちくださいっ! 今ここから出られてはタツヤ様の試合に間に合いませんッ!!

 出来る事ならサカキ様に対する仕打ちも抑えて頂きたいですが

 何より不参加という状況が一番困ってしまうのですッ! どうか、どうかお願いしますッ……!」

「え、いやちょ……」

 

体を張って出口を固めていた係員さんが、静々と土下座をかましてきた。

ここまでされてしまうと、さすがに俺も躊躇せざるを得ない。

 

「スタッフ一同を代表して、どうかお願いします……!

 伝統のあるこの大会で欠席者という不名誉をなるべく発生させたくないんです……!」

「あー……」

 

もしかしてこれは気楽に特別出場枠なんてのを受託した時点で詰んでいたくさいか?

あちらにはあちらの事情があるからこそ、俺をここまで引き止めているわけだ。

 

過去に一切事例がないわけではないだろうけど……

確定的なサボりは大会運営の沽券に関わるとかそんな感じだろうか。

 

……まぁ、仕方ないよな。ここまでされちゃぁ……。

 

「……わかりました、不本意ですが受託しちまってる以上仕方がありません。

 大人しく出場する事にします」

「お、おぉぉ……!(本当に言った通りになってくれた……!)ありがとうございますっ!」

「今なんかボソっと言わなかった? ねえ、言わなかった?」

「き、気のせい、ですっ!」

 

なーんか不快な言葉が聞こえた気がすんだがなぁー。

まあ、どーでもいいか……サカキは後で殺しに行こう。

 

「とりあえずさっき俺と一緒に居た人達には説明しておいてください。

 スタッフさんの話を聞く限り、次のブロックが終わった後にすぐに俺の試合組まれるんすよね」

「はい、そうです」

「じゃ、俺も適当に作戦立ててますんで、連絡の方はお願いします」

「わかりました、では私はこれで……」

 

そうしてスタッフは控え室から出て行った。

 

本気で面倒なら俺もここでこっそり抜け出すという手はあるが……

土下座までしてきたあの人の誠意は、出来れば踏みにじりたくはない。

そんな事をするぐらいなら大人しく参戦して、善戦するだけである。

さすがに優勝とかはなかろうが、俺等は俺等で善処すればいい話だな。

 

「そーいう事になりました。全員、いきなり試合になるけど準備は良いか?」

『bbb』

「△▲☆★~♪」

 

うむ、4人とも良い返事だ。ムウマージ出すわけにはいかんけども。

ていうかドレディアさんの声が聞こえない。あの子なら張り切ると思ったんだが。

ふと部屋を見渡すために首を回してみたら───

 

 

 

既にミロカロスとボクシングのように打撃練習をしていたドレディアさんが居た。

コイツ頼りになりすぎる。

 

 

 

 

『さぁー今大会もAブロックから白熱した試合内容が繰り広げられました!!

 毎度毎度この大会にて実況させていただいている私でも、今回は思います!

 レベルがひっじょーに高い! 一体トレーナーの間で何があった?!』

 

やたらテンションが高いアナウンスが響き渡る。

まあどこの会場でもこんなものなんだろーかな。

逆に原作のエリカ嬢みたいなのんびりボイスでアナウンスされてたら、そっちの方が違和感が残る。

ゆっくりボイスェ……などが↑ございましたらー↓

 

『そんな今大会もついに本戦の始まりとなります!!

 本戦の開始より、大会側で定められたシード選手も混ざり

 さらに白熱したバトルを繰り広げてくれる事となるでしょう!』

『そうですね、非常に楽しみです』

『解説のサカキさんから見て、今大会はどうでしょうか?』

『ええ、今回は私が推した選手もシードに一人入っていますし

 大会全体を盛り上げる意味でも、その選手だけではなく全員が頑張って欲しいところです』

『と、言うわけで……今回はあのトキワジムリーダー、サカキさんの秘蔵ッ子が戦う事になります!

 それではさっそく出て頂きましょう!』

 

うっわ、やらせくせぇー。

ていうかしらじらしすぎるサカキぶッ殺してぇー。

 

「マサラタウン出身、タツヤ選手! 前へ!」

「へぇ~い」

 

まあ、やるからには出来るだけ勝ち進ませて頂きますけどもね。

 

『おっとぉ!? Aサイドから出てきた少年はとてものんびりしているぞ!?

 見る限りはやる気の無い……いえ、失礼。この大舞台にも関わらず全く緊張していないようです!

 そしてこの少年こそ、今サカキさんが仰ったイチオシの選手、タツヤ選手でーす!』

 

 

オォォォォオオォォォォオッッ!!!

 

 

そんなアナウンスで大いに会場が盛り上がる。

 

『さぁタツヤ選手の経歴ですがー……なんと、バッヂの個数はゼロッ!?』

 

ドォォォッ!?

 

どよどよどよどよ……

 

まあ、そうなるわな。なんでそんなのがここにいるんだ、ってねぇ。

 

『確かに彼はバッヂの数こそ0個です。

 しかし当人は自覚していないかもですが……とても非凡な才能を有しております』

『と、推薦をした解説のサカキさんは仰っておられます!

 果たしてどういった試合を見せてくれるのか期待が高まるところです!』

 

ドレディアさんやらダグ共が頑張ってくれるだけなんですがね。

俺本人で指示出来ることなんぞ公式の試合じゃ殆ど無い。

 

『さぁ、タツヤ選手はこの内容でも全く緊張して………あれ?

 タツヤ選手、タツヤ……タツ、ヤ……!?』

 

ん、あれ? なんかアナウンサーがいきなり戸惑いだしたぞ。

なんで俺じゃなくてそっちが緊張してんだ。

 

『ッ! サカキさんッ!』

『な、なんでしょうか』

『私、個人的なことになるのですが……彼の名前に聞き覚えがありますッ!

 ひとつご質問をさせて頂いてもよろしいでしょうかッ?!』

 

え、なんだこの展開。俺の事なのになんでサカキに……?

 

『私、半年ほど前に、とある街で仕事をしていた事があるのです。

 その際、皆様も知っていると思いますが……大事件が一つ発生しました。

 私がいた街は───クチバシティ。事件の名は……サントアンヌ号事件……!』

 

ちょ、ここでそれが引っ張られんのか?! おいアナウンサーやめろ!!

 

『おぉ……よく覚えておられますな……』

『ということはやはり……!? あの時に表彰される予定だったタツヤという少年と

 今あそこに居るタツヤ選手は同一人物ですかッ!?』

『本人は余り誇りたがらないので黙っていましたが──その通りです。

 彼こそ、我々のあの窮地をたった一人でひっくり返してくれた少年、その人です。』

 

 

ドォォォォォォォーーーーーーーーーーッ!?!?

ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ

 

 

あー……頭痛い……まさかトドメをサカキが刺すとは。

あとでシンダゲキに瞬獄殺頼んでおこう。うん。

 

『こ、これは突然大変なゲストが登場する事になりましたっ! ご存知の方は非常に多いと思いますっ!

 彼は……その名誉表彰をかなぐり捨てて普通に旅に出ていた、正体不明の大物!!

 それが今、我々の目の前に居るのですっ!』

『あの時に参加していたジムリーダー一同は、皆彼に感謝しています。

 それでも本人はただ普通であろうとしていた……。

 その状況を壊してしまったのは、私としても忍びないですが……

 そろそろ彼は世間に認められるべきだ、と思っています。』

 

…………#

 

ブチッ

 

 

「っ せ ぇ や ゴ ル ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ー ー ー ー ー!!」

『『ッ!?』』

「てめぇらの都合なんざ知ったこっちゃねえわアホンダラァァァッ!!

 俺は俺でそんなもんいらねぇから拒否してたんじゃァァァァァッ!!

 それを俺の意思全部マルっと無視してなんで世間様に晒してんじゃァァァーーッ!!」

『す、すまんタツヤ君……私もよかれと思い……』

「サカキテメェこのやろぉぉぉォォォッッ!!

 あんただって世間に知られていい事なんぞ殆ど無いの知ってんだろうがァァァァァッ!!」

『ッッ!』

『え、な、えーと、ど、どういう事ですか? サカキさん』

『あ、いや……その』

 

腹立たしいから思わず出してしまったが、今のは【ロケット団】を指した隠語だ。

立場から開放されかけてるからそう考えたのかもだが、重荷も存在する事を思い出して欲しかった。

 

「だーもうちくしょう、なんだこれ! 頼むから、マジで頼むから会場全員今の茶番劇忘れてくれっ!!

 本当お願いしますっ!! 俺をそっとしておいてくれ! 終いにゃ帰るぞくそったれぇーーーーッ!!

 おいドレディアさん、やめだやめっ! やる気なくなった! 帰るぞッ!!」

「ディァー!?」

「るっせーもうやってられんわこっちはっ! なんで黒歴史暴露大会になってんだよ!

 帰って寝るッ! ほら、さっさと───」

 

 

───パチパチ。

 

「……あん?」

 

なんかちっさくパチパチと聞こえてきた。

その音の方へ振り返ってみると会場客席の最上階で、俺の知り合い面子が全員集合していた。

そして彼等が、俺に対して拍手をしているようである。なんでそんな事を……

 

 

パチパチパチパチ。

パチパチパチパチパチ。

パチパチパチパチパチパチ。

 

 

と思っていたら、その拍手がどんどん他の人に伝播していく……!?

ちょ、な、なんだこの現象はッ!? なんでここで拍手がッ!?

 

 

パチパチパチパチパチパチ!

パチパチパチパチパチ!

パチパチパチパチパチパチ!

 

最終的には会場全体から拍手を送られる事になってしまった。

なんぞこれどう言う事なんやッ!? 誰かアテクシに説明してたもれ!

 

『───どうやら、会場に居る皆様方も、こちらのタツヤ選手の功績を認めているようでございます。

 あの時、あの式典で祝われるはずだった彼の名誉を

 代わりにこの会場で、全員が祝福しているかのように、拍手がされております!』

 

あー……これそういう方向性なんですか……

おかしいな、俺あの時ダグに渡した手紙にも、しっかりと「めんどい」と書いたはずなんだけど。

 

『本当に悪かった、タツヤ君。私が考え無しだった、許してはくれないか……』

 

「いやそんなこの大舞台のアナウンスを私用で使われても俺が困るんですけど」

 

『さぁさぁ、本人自体はこのように祝われる事は慣れていない様子!!

 そうであるならちゃっちゃと試合の内容を進めてしまいましょう!!

 さーこの英雄に相対する選手やいかにっ!?』

 

「うっわ勢いでスルーしやがってるし」

 

……まぁ、俺としてもこの話題で引きずられて変に大騒ぎされんの嫌だしな。

この際だから乗るしかないか。このビックウェーブに。

 

『では登場して頂きましょう!!

 シード選手と相対するは、Cブロックででなかなかな戦略で勝ちを捥ぎ取った

 前衛的なバトルコマンダー、テツオ選手!! 前へどうぞッ!!』

 

「ヤマブキシティ出身、テツオ選手、前へッ!」

「はいっ!!」

 

審判のコールがされ、俺の対戦相手が試合会場へと出てくる。

うむまあ、例に漏れずエリートトレーナーさんですね。

やっぱこういう伝統的な大会に出てくる人等は肝が据わってんだなぁ。

ついでに言うなら、なぞのみせの宿泊組の人ではないようだ。顔を見たことが無い。

 

『前回のCブロックの総当たり戦にて、地味ながらも卓越したポケモンへの指示にて

 しっかりとした勝ちを捥ぎ取っているテツオ選手!

 対戦相手はきついかもしれないが、どのような戦いを見せてくれるのでしょうか?!』

『彼に関しても、ポケモンの知識はかなり熟達していますね。

 強いポケモン、人の言う事を聞くポケモン。彼の手持ちからはこれを1匹で兼ね備えています』

 

ほーう、ある意味では同じ土台の選手と言う事だろうか。

元々俺は直情的な戦い向けの正確はしていない。

相手の揚げ足を取り続けてナンボというスタイルが一番染み渡っている。

 

「さて、シード選手と当たるなんて不幸に見舞われちゃったけど……

 こっちも色々と考えてきているからね、ただでは負けないよ!」

「あーはい、一応俺もこの舞台にあがっちまったし

 やるからには優勝するつもりで行きますんで、こっちも出来る限りの事はやらせてもらいますよ」

 

2人で睨み合いを効かせ、試合会場に冷たい空気が流れる。

 

「では、両者準備は良いね? 試合……───開始ィィーーーー!!」

 

審判の合図とともに、会場は再び観客の熱狂に包まれる。うーん、うるさいデース……

 

「じゃ、頼むよ。ドレディアさん!」

「行ってこい! ラプラス!!」

 

ふむ、相手側はラプラスか……

草単体のドレディアさんでは氷技を喰らうとかなりきつかろうが

相手に氷のタイプがあるならこちらの格闘属性攻撃もかなりきついはず。

どういう戦いを仕掛けてくるかな。

 

『さぁ、タツヤ選手は後ろに控えていたドレディアを選び

 テツオ選手は弱点を突けるラプラスを放ってきた! 相性的にはテツオ選手が圧倒的に有利だがッ!?』

『あのドレディアは通常のドレディアと思ってかかると絶対に痛い目を見ますからね……

 総当たり戦で手の内を見せる事が無かったタツヤ君に対してテツオ選手がどう当たるのか見物です』

 

ちょ、おいサカキコノヤロー。

わざわざ初見殺し匂わせる様なネタ晴らししてんじゃねー。

 

「……ま、いいか。

 さァ、ドレディアさん……ここが俺等の大会のスタート地点だ……! 行くぞッ!!」

「ディァァァァアアアァーーッッ!!」

 

こうして、俺のカントーポケモンリーグ本選は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

「……ふぅ~」

「おーっすタツヤん、お疲れやー」

「お疲れ様、タツヤ君」

 

試合が終わり、最上階へと再び戻った俺。

係員さんは本当にロケット団でもなんでもなく、しっかりと俺側の事情を伝えてくれたようである。

 

「ようタツヤ、どうだったよ? 公式戦の初めては」

「あーまぁ、なんていうかー……あんなもんなんですねー」

「ハハッ、まああの内容じゃそういう感想になっても仕方ないかもしれねーな」

 

問いかけてくるグリーンに対し、少し形式ばった返答を返しておく。

 

「まーさかあんな手を繰り出すとは、ね……まあ良いもん見せてもらったよ」

「メッサツ……」

「あはは、まあ今後の参考になればいいんですけどね」

 

俺はシード選手という関係上トーナメントで対戦位置があらかじめ決まっていた。

だから予選総当りが終わって速攻で試合となったわけだが……次はカズさん辺りが戦う番である。

 

「で、感想としては結局どうだったの?」

「お。もっさん……予選突破、おめでとうございます。このまま勝ち上がり続けられるといいっすねぇ」

「あはは、まあこっちはうまく型にハマってくれた感じねー」

「まあ、俺もですかね? バッチリ型にハマりましたよ。

 展開も予想通り過ぎて、楽勝って感じだったんじゃないかな? 対戦相手が。」

 

うん、あれは素晴らしい流れだったな。さすがだ……って思っちまった。

 

「ハッハー、リトルボーイもでっかく言うネー。

 確かにー、あの内容はミーもやられたらベリーきついけどネー?」

「ま、私達も全員頑張るからね。 次当たる時はきっと負けないんだから!」

「あーまあ俺はこういう場にはもう出ないつもりですけど……

 当たるなら当たるで、その時は全力でお相手しますよ」

 

そんな感じで、みんなの横に腰を下ろし試合会場を改めて眺める。

 

俺、あんな場所で戦ったんだな───。

 

こんだけ大人数が収容されてその視線に晒される中で、よくあそこまで啖呵をキレたもんだと思う。

 

「ま、これ以後はのんびりとさせてもらいますかね」

「ええんちゃう? なんなら誰が優勝するか賭けようやw」

「んもー、そういう事しちゃ駄目なんだよ? アカネちゃん」

「こんな場で堅苦しい事言わんでええやん~。もっと気楽にやっちゃおうや~」

「よし、なら俺は……マチスさんに3000円だ!」

「あー、だったら俺グリーンさんに1000円でー」

「お、タツヤお前見る目あんじゃんかよ。んなら俺は……一応もっさんに2000円賭けておくか」

「何よ一応って、失礼ねー……」

 

そうして、次の試合まで俺等は盛り上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マサラタウン出身、タツヤ─────初戦、『敗退』。

 

 

 

 

 

 





と、言うわけで出場しておきながら彼も初戦敗退です。

優勝すると思ったか? 残念、初戦敗退でした!
最後の方の文は《負けた》という前提で読んでみてください。
矛盾はしていないはず。

しかし、にじふぁん時代と色々と変えた内容があるため、どっかで矛盾しているかもしれません。
それは設定ミスなので、メッセージとかで報告してもらえるとうれしいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

99話 ッ!?


連投しています。話がつながらないな?と思った方は一度目次まで戻ってみてください。

タツヤ戦以降、戦いの描写は殆ど無いに等しいですが
元々そういうタイプの小説じゃないと思って諦めてくれると助かります。
言い訳ですけど。


 

 

俺が1回戦でシードでありながらまさかの大敗北を喫してからは

大会の方もやや盛り下がり(すんませんマジで)順調に消化されている。

結論から言えばだが、1回戦を突破したのは俺と対戦したテツヤ選手を除き

全員が全員、なぞのみせで鍛え上げたトレーナーだった。

 

いやはや、なんともなんとも……

まああれだけ野生・トレーナー問わず戦い続けてれば、こうなるのも明白だったのだろうか?

原作主人公のレッドさんまで負けてっし。

 

 

ちなみに俺が負けた内容は本気で初見殺しな感じだった。

 

一言で言うなら ねむる→ねごと→ぜったいれいど→1発で命中

 

この運ゲーをどう解決すればよかったのか。

 

格闘技を用いても一撃K.Oは若干きつかったらしく

耐え切られた所で上記の内容である。参考になるわー本当に。

がんじょう持ちとか、みがわり駆使しないとまず逃れられん。

 

かませ犬も良いトコだった。(泣 そしてドレディアさんは速攻ポケセン行き。

周りを固める相棒達が1人減ってしまって寂しいものです。

ついでに、負けが成立した時の話ではあるが

トキワのお兄さんの声で「あれぇーーー?!」と聞こえたが多分幻聴だろう。

あの大歓声に近い中であの人の声だけ拾えるとか、多分有り得ん。

 

 

『さぁー2回戦・第4試合、モモ選手対タクト選手!

 次の試合に進む権利を賭けた勝負、白熱してまいりました!』

 

「ギャゴーーーンッ!」

「─────ッ!」

「頑張るのよ、ゲンガーッ!!」

「ぐぅ……まさかこんなに早い段階で彼女に当たるとは……!」

 

一方こちらは試合が続く第4回戦。

アナウンスが熱を入れて喋り、その都度会場が盛り上がる。

 

大会の本場と言える本戦に入った試合内容は、アナウンスの通りもっさんvsタクトさんである。

2回戦の試合内容は3vs3……数的にタクトさんが不利ではあるが……

そんな雰囲気は微塵も感じさせないダークライの使いっぷりである。

 

もっさんも1回戦を勝ち上がってから大会の空気に慣れたのか

今大会の優勝候補、タクトさんを相手にかなり頑張っている。

 

というかタクトさんがやりすぎといったほうが正しいだろうか。

今更思い出したのだがこの人、アニメに登場してDPverを強制的に終わらせた人だ。

あの時期はベストウィッシュが始まる境目に当たってしまい

話を無理矢理終わらせるような感じに仕上げてしまったアニメスタッフに

ネットユーザーが批判を浴びせていたのが印象に高いが……

 

だが! そんなタクトさんも何処で間違ったのか、凄まじい進化を遂げていた。

まず何処に関しても話す内容は、やはり『伝説級ゆえのごり押し』に頼っていない事。

ダークライの持てるポテンシャルをほぼ全て活かしきっているその手腕は凄いと思う。

アニメだとただ単に固有技無双といったイメージでしか無いが

なるほど、これならダークライ1匹のみでこの本戦に挑んだのもうなずける。

 

 

……が、同時にタクトさんも相手が悪すぎた。

相手も相手で、あのなぞのみせで遭遇してから

タクトさんともあの短期間でかなりやりあったもっさんである。

 

なんでも滅多に対戦出来るポケモンじゃないってのがアタックの理由らしいが。

 

そしてそのタクトさんに対し、事前に知っている『1匹しか居ない状況』をフル活用し

解決出来ない策をふんだんに盛り込んで戦っていた。

 

1発喰らってよろけたところに、なんともっさんはこごえるかぜをぶつけて

ダークライの素早さを無理矢理下げに来たのだ。

凄まじい素早さを見せていたダークライもこれにはたまらず足を鈍らせ

そして1匹であるが故に交代などの手を用いて、その素早さ低下を消せないのだ。

 

現在、もっさんの手持ちは1匹が敗れ去りサンドパンと場に出ているゲンガー。

ゲンガーが敗れた場合にサンドパンで注意したいのは、やはり高威力のふぶきだろうか。

タイプ一致とはいわずとも、やはりあの威力の抜群効果はあの子にはきつかろう。

 

「むむー、これどうなるやろなー……

 同じ釜の飯を食べた仲ではあるけど……やっぱり付き合いからしたら

 もっさんに勝って欲しいかなー、うちは」

「でもタクトさんも本当に負けてませんよね。たった1匹で3vs3をここまで戦っているんですから」

「ふームー。やっぱりあのダークライ、ベリーストロングネェ……

 よくトレーニングされてるヨー。Mossan、きついでショー?」

 

こちらでもどちらが勝つかと判らない議論を繰り広げている。

うーん、ダークライも順調にモノを仕込み終えた感じだし……これはどうなる───あっ。

 

「あー決まった。もっさんの勝ちだ」

『えっ?!』

 

さっきの一瞬、ボソボソとゲンガーに言っているのが見えた。

……あの状況なら、選ばれる技は『あれ』しかない。

 

 

そして試合会場に目を移してみれば……案の定。

ダークライのシャドーボールがゲンガーにぶちあたり、オーバーキルダメージが叩き出される。

が、そのダークライにシャドーボールをチャンスと見て仕掛けたタクトさん本人は

 

「その手があったか……!」

 

と呟き、がっくりと項垂(うなだ)れる。

 

『おぉーっと!? 試合では謎のやり取りが行われているぞー!!

 シャドーボールが完全に入ったのに、つらそうなのはタクト選手だーーーッ!!』

 

そんなアナウンスが響き、事実ゲンガーはゆっくりと倒れていった。

が、ゲンガーが倒れたと同時に、ゲンガーからは黒い怨念のようなモノが噴出した。

そしてそれは高速でダークライに襲い掛かり、対応が遅れたダークライもまた倒れ伏す。

 

そう……ゲンガーが仕掛けたそれは───

 

 

『─────みちづれかっ!!』

「ですねー。もっさんやるなぁ……試合外の内容にも目をしっかり向けてんだな」

 

 

おそらくタクトさんは、既にゲンガーが先制出来る状況であるにも拘らず

ダークライに対して何もしなかったところで、みちづれに感づいたのだろうな。

 

今回の内容、もっさん何気に完全に狙ってやってないか?

まずこごえるかぜですばやさを下げた点は見逃せない。

みちづれってのは確かソーナンスでも無い限り、先手を取れないと

決めるのがひじょーーーーに難しい部類の技のはずなのだ。

 

そして本来のレベル内容からしてゲンガーが素早さで勝てていたかは疑問符が漂う。

事実負けていただろう、あのダークライの素早さは大したモノである。

俺個人はドレディアさんやダグトリオのあれで速いモノに見慣れているから大丈夫だが

他の人はみちづれの指示まで聞き取れなかったのだろう。

 

 

「りょ、両者引き分けッ! 試合は2回戦過程が終了後に再試合───」

「待ってッ! 私のポケモンは『倒れては居ない』わっ!」

「そうです……この試合、ボクの負けです……。」

 

ざわっ

 

おや、みんな気付いていないらしいな……

もしかしてダークライが「あもりにもかっこよ過ぎるでしょう?」現象でも起こったのか?

だって、もっさんにはまだ───

 

「さぁ、勝利を確定させるわよ! ───出てきて、サンドパンッ!!」

 

ペカァァァン

 

「ッキューーーーッ!!」

 

 

俺の相棒が残っているんだから。

 

 

 

「────私の相棒よっ!!」

 

ッ!?  なぜバレたし?!

 

 

 

オ……

 

 

オオォオオオオォォォォオォォォーーーーー!!

 

『な、なんとなんとなんとぉー!!

 モモ選手、あまりにも強すぎるダークライに対して取った作戦は自爆戦術ッ!!

 確かに、今回のタクト選手の登録はダークライ1匹のみッ! これを上手く利用したッ!!

 従いまして、ルール上ポケモンが生き残っているモモ選手、ベスト8進出だぁーーー!!』

 

 

「うっはー、もっさんしたたかやなぁ~……」

「うん、凄いねぇ……私もハガネールと一緒に戦う時、ああいうのには気をつけなきゃ」

「なんにせよ、これで彼女も優勝候補か」

「ですねぇ、ってかどうなってんのこのチート軍団……」

「oh、チート? マスの事ですカー? カタカナで チ と ト を繋げるのよネ、リトルボーイ?」

「なんでアメリケンのマチスさんがそんな小ネタ知ってんすかww」

 

チとトをつなげるとこうなります。 チト 升 お分かり御分かり頂けただろうか。

 

んで、今更なんだが。

もっさんを最後に、こちらの仲間は全員3回戦に進出している。

うまーく全員当たらなかったのだ、なんというご都合主義か。

 

まあ、それでもさすがに第3回戦からは苦戦していたが。

なんせ全員が全員、なぞのみせ出身者だったため手の内が互いにバレまくってたのだ。

 

 

1回戦で消えた俺にゃ関係ないけどなー。

 

 

と、話していると急いで駆け上がってきたのか、もっさんがこちらに突撃してくる。

 

 

「やったーーーーーー!! やったわよーーーーーー!!

 私もベスト8まで勝ち残ったわーーーーー!!」

「もっさん見てたでー! ようやった!」

「おめでとう! もっさん!」

「ありがとう! 本当にありがとうっ!」

 

プリキュア3姉妹、友情の契り再び。

ならば俺等も漢の友情を再び契ってくれようか、カズさん、グリーンさん。

 

「お、おう? よし、わかった!」

「お、俺もか?! よし、それなら……」

 

さぁ、準備は良いな!? 行くぞ!

 

「サンドパァーーーーンっ!!」

「キュゥーーーーーーーーー!!」

『俺等じゃねえのかよっ!?』

 

うっせー知るかバーカ!! 俺とサンドパンの友情は永遠だッ!!

 

「キューーーー♡」

 

 

 

 

さてまあ、こんな感じで試合は進んでいった。

 

 

しかしこれ以上は特段描写する必要も無く順当に試合が進んで行く。

ベスト8にて、もっさんvsマチスさんがあったが……

タイプ相性的にもっさんが、まさかの優勝候補№1を撃破に至る。

メイン電気技、全部無効だからなサンドパン……

 

もちろんの事、ジムにて不敗神話を築きかけていたマチスさんである。

地面タイプの対抗策的に色々とやっていたのだが、これまたもっさんの交わし方が上手い事上手い事。

相手が微妙な変化技をしようとしたところで強烈な一撃。

マチスさんがこれまたそれを警戒してカウンター系を用意しようものなら上手い具合に積み技を発動。

でんこうせっかまでゲンガー交代で無効化、そしてでんじはをやろうものなら即座にサンドパン。

 

マチスさん、どんまい。

 

というわけで、もっさんなんとベスト4に進出……だがしかし。

 

ベスト4の相手は順当に原作パゥワァで勝ち抜いてきたグリーンに語るべくも無く敗れ去ってしまった。

まあ主要攻撃が全部はずれてたらどうしようもありませんね。

 

とはいえ決まってても勝てたかどうか怪しかったが。

いやー本当、俺戦った事なかったけど相棒のカメックスがやりすぎなぐらい強いのだ。

硬い上に水を噴射する勢いを使って素早さも底上げしているっぽく

攻守のバランスがイカれた方向に突出しているカメなのだ。

 

一度見て判るあの絶望具合。アレは勝てねえ。何故かハイドロポンプも100発100中だし。

 

 

あれ止められるのレッドさんのゴリチュウぐらいなんじゃねーの?

 

 

そして同じくベスト4の準決勝。

もっさんと一緒にトトカルチョ的なモノに大穴を空け続けているカズさん登場。

相手はもちろんなぞのみせ出身者。ゴウキのやばさを存分に知っていた。

 

かなりの苦戦の末にカズさんは破れ去ってしまった。

やはり主要技の瞬獄殺が予選から既に警戒されまくってたのは痛すぎたか。

まさかのRareAkuma化したホーミング性能を用いても

内容まではRareAkuma化しておらず、後ろに攻撃が来たら無防備に叩き落される。

かなりタイミングを計って打っても、どうしても技の特性上わかりやす過ぎた。

頑張って他の技でも削りまくってはいたが、残念ながらそこまでである。

 

最後に強烈なタイミングで、ワンダールームだかなんだかを発動させた後

しんかのきせき持ちであろうラッキーを出され、地味にやられ続けてK.Oである。

 

 

「くそっ……! あと少しで準優勝だったのに……!」

「私も、さすがにあのカメックスちゃんは抜けないわ……」

「フッフッフ、これでもじーさんの孫と評価されるのが嫌で、鉄の意志を持って鍛えてたからなっ!」

「ガメェー!」

「キャーカメサーン」

「ガメェー!?」

「フゥ、ミーも良い経験になったヨー。

 Mossanに敗れる日がカミングするとは思ってなかったけどネー!」

「アレは私も嬉しかったです。けど、どこかで歯車が狂ったらきっと負けてたでしょうね……」

「ダーイジョウブ! Mossan、自信持ってクーダサーイ!

 YOU、ベリーストロング! ジムリーダー行けマース!」

「そ、そうかな? えへへ……」

 

普段褒められる機会もなかなか無いのか、とてもうれしそうなもっさんである。

まあ、今の力量ならサンドパン、ゲンガーの強さを鑑みても

属性を一切持たないジムリーダーなら、確実にこなせるであろうことは間違いない。

 

 

そして、決勝は予想通りと言ったところか。

 

 

『決まったぁぁぁぁーーーーーーーー!! カメックスの鬼のようなハイドロポンプッ!!

 堪らずラッキーもダウーーーン!! 回復のタマゴのPPが切れてしまったかぁ!?』

 

 

おそらくは原作強制力的なものが働き

しんかのきせき持ちラッキーを、特殊攻撃でごり押し続けるという

ある意味でとんでもない内容をグリーンさんが繰り広げ続けて勝ってしまった。

現代で策略とかを頑張って考えている人達に真っ向から喧嘩を売る内容で優勝。

これには匠もご満悦、なわけは無い。

 

 

「むーん、やっぱ最後は力がモノを言うねんなぁ……」

「私のハガネールも、あれはやり続けられるとさすがに無理かな……」

「まぁ、水のカッターでも鉄って切れますしね」

 

何気に水って万能なんです。

 

飲めば癒しの潤いになり。

激流なら生物を殺すうねりになり。

速度を出せば全てを貫くビームになり。

水蒸気になって広がれば天気にも影響を及ぼしたり。

 

「ディーァー;」

「おぉぅ、ドレディアさんおかえり。体、大丈夫かい?

 さすがに草タイプにぜったいれいどはきつすぎたよね……」

「アー;」

 

ポケセンでの治療が終わったのか、ドレディアさんが一人でここに来る。

野良ポケモンと間違われたらどうするつもりだったんだアンタ。

 

しかし、治療が終わったといえどやはりクリティカルすぎたのか、動きはとってもけだるそうである。

 

 

『おめでとうございます!! 第24回カントーポケモンリーグ優勝者は……!

 マサラタウン出身……グリーン選手ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

 

 

ウォォォォオオオォォォォッッ!!

 

既に時間も夜に差し掛かっているのに、全員異様なテンションである。

ここに陛下が現れたら「おまえたち、もうねなさい」って言ってるぞきっと。

 

「ホンマに優勝してもうたなー……すごいわぁ」

「うん、これで私達の地方に来られたら、きっとあっさりやられちゃうよね」

「全方向のバランスが凄まじいもんなー、グリーンさん」

「アーでもネー? BOYスカウトにGIRLスカウトなMossanにカーズが

 2人共イッショにベスト4に残ってるのもスゴーイヨー?」

「あーそれは確かにうちも思うー。    □

 本職でも無いのに凄い事やで? 2人のメインて野営のほうやろ?」

「ああ、そういえばそうだったわね……」

「そういえば、確かにそうだったよな……」

『普通に忘れてたわ。』

「あんたらもう付き合えばええやん……」

「カズさんちん●もげろ」

「おいタツヤ君それは酷すぎるぞっ!?」

「も、もげちゃえ……!」

「ミカンさんまでひでぇーーー!! 神などおらぬぅーーーー!!」

 

『さぁ会場のボルテージが最高潮まで高まって参りました!!

 今大会、とてつもないほどの大波乱ばかりの内容で勝ち上がったグリーン選手!

 エキジビジョンマッチで一体どういう内容を見せてくれるのかッ!?』

 

…………え? エキジビジョンマッチ?

 

「え、何それ」

「あれ、なんやタツヤん知らんの?」

 

いや普通に聞いた事もないんすけど。

優勝して表彰されて終わりなんじゃねーの?

 

「えっとですね、エキジビジョンマッチって言うのは□

 リーグの優勝者と、公式の現チャンピオンと戦う試合の事ですよ」

「そんなんあるのっ!?」

 

おおう、なんつーボーナストラックだ……そりゃぁこのボルテージもうなずける。

 

「あ、そういえば俺……今のカントーチャンピオンって知らないな。丁度見れる良い機会なのか」

「へー、タツヤん知らんかったんか。

 うちらは地方が隣り合ってる関係もあって、リーグ関連でよく顔合わせてたけどなぁ」

「そーネー。ミーは同じ地方担当だし、よーく知ってるネー」

「どんな人なんですか?」

 

結構純粋に興味がある……赤・緑順所だと、金銀チャンピオンだったワタルもまだ四天王止まりだ。

つまりはここでワタルが出る事は有□得ない。では、一体誰が? 原作に居なかった誰かなのだろう。

 

「えーと、普通のお兄さんっていう感じです」

「ほうほう」

「でもって、バトルに関してはえっらい強いねん」

「なるほど、さすがのチャンピオンか」

「最近でチャンプが負けたのは聞いた事ないネー。

 確か2年前にー、シンっていうBOYがナントカ倒したのよネー?」

 

あれ、それは……どこかで聞いた名前ですわよ?

 

「あ、俺もそれ見た見た! ひっさしぶりに四天王が突破されたーって特集で!

 2回負けたけど諦めずに期間置いて挑戦して、生放送で勝った人だよな!」

 

あぁ、間違いねぇわこれ。

 

「やっぱりか……それ俺の兄ちゃんだわ」

『え』

 

意外と思われるかもし□ないが。

この話に上がっていたのは紛れも無くうちの兄ちゃんだ。

 

「し、知り合いなん?」

「いや、ていうか実の兄貴です。シン兄ちゃんですよね」

 

『ええええええええーーーーーーーーー!?』

 

あれ、そんなに驚くところかなこれ。

俺としてはむしろ大会における出オチすぎた俺に対し□向けられるものな気がするんだが。

 

 

「な、何気にタツヤん、凄い□の弟やったんやな……」

「ミーもサスガにびっくりネー……」

「んー、まあ家族自体はそんなに実感無いもんですよ。本人も全然誇ってませんでしたし」

「そ、そういうものなんですか?」

「まぁ、そういうもんです」

 

『おっとチャンピオン、ついに準備が完了したようです!!

 歴代カントーチャンピオンの中でも特に強いと言われている現チャンピオン!

 そして圧倒的な試合内容で□ち進んできたマサラ出身、グリーン選手!

 一体、どういった試合を我々も魅せてくれるのかぁー!!』

 

 

そんな話を□ていると、アナウンスが会場に響く。

どうやら双方の戦いのセットアップが終わったよ□だ。

 

「おー、ついにお目見えか□どんな人だろう」

「見た目だけはごっつい普通やか□なー、でも試合内容は凄いんやで!」

「そーネ! ミーも未だに勝てる気しないヨー!」

 

うーん、凄まじ□気になるなぁ。

そんなに凄い人なんだ……こ□はグリー□がゲーム補正あってもきつ□だろうか?

 

『では登場して□きましょう!!

 現チャン□オン、どうぞーーーー□ーーーー!!』

 

会場の特設□な入り(ぐち)が、ド派手なエフェクトと火薬や□水蒸気を出し

静かに静か□会場に歩いて□き、その姿がい□いよあらわになる。

 

って、□あれ……? なん□、おか□いな?

□れぇ? □んか、視界が歪ん□来□……

 

 

そんな妙な光景の□、俺□目に映っ□いたそのチャ□□オンは

ど□かで見た感じの□俺□□話になったお兄さ□っぽ□て

 

というか、トキワ□お兄さんその人だった。

 

 

□□□□

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「何ぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

 

思わず俺はガバァッと掛け布団を跳ね除け、勢い良く起き上がる。

まさか、まさかのチャンピオンが……あの露店のお兄さん───

 

 

───掛け布団?

 

 

「……え、あ、あれ?」

 

ひとたび視線を卸してみると、パジャマ姿でベッドの中に居る自分。

あぁ、なんだこれ。夢だったのか。

 

「はぁ、ハハハ……あーびっくらこいた。まあそらそーだよなぁ

 そんな身近な知り合いが、最強クラスのチャンピオンなわけが───」

 

 

「直哉ぁーーーーーーーー!! 何一人で叫んでんだいっ!!

 とっとと下に降りて来てご飯食べなさいーーーーー!!」

 

「あーーーー。はいよーーーーーーーー」

 

 

下に居る母親から怒鳴られ、ベッドからのそりと体を出す俺。

 

……俺?

 

「え…………え?」

 

改めて自分を見下ろしてみる。

いつも見慣れていた手が、無いんだが、有る。

丁度、シン兄ちゃんやらトキワのお兄さんみたいな、少し無骨な手。

青年のような感じの手である。

 

 

小学生に上がった程度と思われる小さな掌は、俺の視界になかった。

 

 

「ッ?! !?!? なっ?!」

 

な、なん、どう、いう事だこれはッ?! 俺は、俺は誰だッ!?

 

 

俺の名前は……タツヤ───いや、違うッ!

 

俺の……俺の名前は……!

 

───田島……直哉、だ。

 

 

夢、か?

 

 

……夢、だな。そっか、夢だったのか……。

 

なんか、随分長い夢見てた気がすんな……。今日は日曜、か。

バイトも講義も休みの日だな……適度に真面目な学生やってるおかげで追われるモンも無い。

 

ああ、そうだ。部屋にある鏡を見て─────わかった。

間違いねぇや。アレは夢だった。

鏡の中を覗く顔は、『20年間』ずっと付き合い続けた顔が居たんだから。

 

 

ぁーぁ、全部夢だったのか……すっごい楽しかったんだけどな……。

ありえねー手持ちに、個性豊かなみんなに……。

初代の仕様を無視して、ガラガラまで幽霊としてだが、現世に留まらせたなぁ。

なんでかLv100のヒンバスまで釣り上げてたし。

 

そーだな、そりゃーそうだ。ありえねぇもん、全部が全部。

あれはポケモンの世界に似た、ただのユメのセカイだった。

 

 

 

 

 

─────そういう事、なんだな。

 

 

 

 

 




と、いうわけで。
誰しもが納得しないであろう結末になってますが
60話程度から構想していたラストストーリーがこれです。

ゲームのラストイベントが終われば、ゲーム自体にも終わりが来ます。
それは、当たり前のことです。


にじファン編最終話は0:00に予約投稿されます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

00話 おわり



このお話は最終話です。
もしもお気に入りからこの小説にすっ飛んできた方で
なおかつ前話を見ていない方は、速やかに一度お戻りください。












 

 

 

「───ふぅ」

 

思わず、一人溜息を付く。

 

「はー、なんつーか……」

 

妙に、現実的なユメだったような気がすんなぁ。

たったの一晩寝ていた間に見た夢だってのに……。

 

本当に、あの世界で生まれてから11年、か?

しっかりとすごした記憶が、はっきりと思い出せる。

 

夢なんておぼろげなモンは、普通起きたらどんどん内容を忘れて行くモンなんだが。

ごく一部に例外は確かにある。やたら記憶にこびりついた夢は存在する。

 

が、しかし……あんなに年代ジャンプ的なモノも無く

現実的な感覚を持った夢ってーのは、なかなか無いだろう。

 

「───ま、夢は夢だ」

 

こんな呟きも、見る人から見れば厨ニ病のそれでしかない。

 

俺はとっととパジャマを着替え捨て、普段着に着替えてしまう。

今日も一日、適当な日が始まるのだ。

 

 

トントントン、と階段を下りていき……台所に行く前に通るリビングへと向かった。

 

そしてリビングへの扉を開けば、見間違う事も無いほどに見飽きた

田島家の、ちょっと狭い気もするリビングがあった。

 

───マサラタウンの俺んちの方が、広かったなー。

 

そんな贅沢な内容を思い浮かべ───

 

「あら、やっと降りてきたかい」

「おう、母、さん。おはよう」

 

母さんだ。

 

見間違う事すらない、母さんだ。

 

───生まれてくる種族を間違えた、母親じゃない。

本当に普通の、平々凡々とした……何処にでも居る普通の母親だ。

 

「……? 何、どうしたの。私の顔になんかついてんの?」

「─────いや、うん、なんでもない。なんでもない、さ」

 

そうさ、なんでもない。

 

ただ単に、普通に夢だっただけだ。

 

はー……本当に、本当に楽しい、夢だったんだけどな───

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで直哉、あの子達なんなのよ?」

「ん、何が」

 

リビングのソファーに置いてあったリモコンを取ってテレビのチャンネルを操作。

いつもの日曜の朝に見ているランキング番組に変える。

 

「だからあの子達よ。なんなのあれ? なんかペットの割には人間みたいに二足歩行してるけど」

「一体何の話をして───」

 

母親の声がするキッチンの方へ目を向けて───

 

 

 

 

???

 

 

「あれぇ?」

 

俺の目、おかしくなったかな。

 

うーん、いや……どんだけ目をこすっても、それが見える。

 

もう一度じーっと見てみるが、間違いなく俺の目に映っている。

 

なんか、台所のすぐ傍にあるテーブルにラーメンを置いて

 

 

 

 

 

 

 

勢い良くズゾゾゾゾゾゾゾゾッ!!とラーメンを食ってるドレディアが居るんだが。

 

 

 

 

 

 

あちらも俺に気付いたのか、ラーメンをすすりながらこちらに左手を上げてくる。

 

「デュゥィッ(ディッ)!」

 

おい全部口の中のもん片付けてから喋れ。行儀わりぃな。ん、あれ?

 

 

 

なんで俺の家のキッチンに、ポケモンが居るの?

 

 

 

俺の疑問も一切気にせず、ドレディア……ドレディアさんは

ラーメンどんぶりから器に残った汁を全力でゴッキュゴッキュと飲み干し

 

「ディアッ!」

 

【おかわりっ!】と叫び、母親にどんぶりを渡す。

 

「んもーこの子は……もう4杯目じゃないのよ!

 直哉! あんたのバイトの給料からちゃんと出しなさいよ!」

「えー、あー、うん。うん? あれぇ?」

 

 

なんだこれ?

 

しかも良く見れば部屋を仕切るガラス扉の奥にも、なにやらうごめく巨大な影が沢山見える。

 

 

「しっかしあんた達良い体にいい格好してるわねぇ。

 何食ったらそんなに細いマッチョになるのよ?」

「ッb」

「ッd」

「dッb」

『ッッッbbb』

「ホァァ~~♪」

 

…………。

なんか、なんか……さ?

夢の中ですっげーよく聞いた覚えのある声、今したんだけど。

あの美声は一度聞いたらなかなか忘れないだろ。しかも一度どころじゃねーし。

 

 

トストスとリビングからキッチンに歩み寄り、ガラス戸をスパンと開けてみる。

 

 

 

「ったく、ほら。直哉もとっとと食べなさい。

 この子達に食べられても昼まで作らないからね」

「あ、ああ、うん……」

 

そして開けた扉の先に広がっていた光景は。

 

 

広さ的に8畳も無いキッチン件食事処で、所狭しと座り、控え。

俺の母親が出した飯を黙々と食っている、夢の中に居た俺のポケモン達だった。

あ、ドレディアさんがラーメン6杯目に入る。

 

 

 

 

 

俺は、思わず言葉を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                           「なんだこれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                   うちのポケモンがなんかおかしいんだが

 

 

 

                              『完』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~おまけ~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

【お、起きたか。貴様が寝こけているから、母君の説得には苦労したぞ。

 とっととこの世界にある萌え絵のなんたるやを私に説明しろ】

【あ、起きたんだね! ねぇねぇ!! テレビゲームやろうテレビゲーム!!

 あの黒い四角い奴、凄い気になるんだ!! 早くやろう!!】

 

 

「おめーらもかよッッッ!!」

 

 

 

 






~あとがき~


個人的な趣向なのですが、俺はA●Bが大ッ嫌いです。
CMですら、出てくるたびに嫌悪感を覚えます。
そんなA●Bが、俺の趣味であるスロットにまで殴りこんで来た事は、本気でイライラしてました。

2週間程前。
10時半辺りに、馴染みの店へ、碌に金も無いのにスロットをやりに行き(予算3~4000円
たまたま座った台の隣にA●Bの台がありました。
なるべく気にせずペチペチと自分のスロット(5スロ)を打っていたところ
こっちは特に期待大なモノも何も来ないのに
となりのA●BをやってるおっさんはART中だわ、結構出して終了したと思ったら
すぐにREGでARTを引き戻したと思ったら、ボーナスやら+100Gやら+300Gやら。

A●Bじゃなくても殺意の波動に目覚めたダゲキになること請け合いの状態。

しかもトドメに、超絶チームサプライズコンボ?だかで なんと + 8 6 0 G

なるべく表に出さず、俺の中身で限りなく黒い何かが渦巻き始めたところで……
おっさん、なんかチラチラ腕時計を見てる……?

「……?」と思いながら、自分の台を打ってたら
おっさん、時間が無いらしく、ARTが1260Gも残ってる状態で俺に譲ってくれた。

うん、まあ、金欠だしね?うれしいにはうれしいさ。
でも……A●Bは……あかんやろ……

そして座ってやりつづけ、結局そこから俺自身も合計で+2200G位の上乗せ+復活で繋げて
表示上9896枚でARTをフィニッシュ。文無し覚悟から+42,000円という驚愕の結果に。


ここまで来たら話のオチも予想できるかもだが……
貴方の予想はハズレましたー!!


ものの見事にA●Bがさらに嫌いになったんだ。

金を俺にくれたのはいい、全然良い。

でもさ、ベルナビGETのところまで棒読みで。
いろいろな演出でも棒読みで、「うれしいんでしょ」とかってセリフまでも棒読みで。
寒気すらしたわ。まだゆっくりボイスのが感情あるんじゃね?って思うぐらい。

こいつら俺の趣味に対して手抜きしすぎじゃね?
いや、パチスロとてパチンカスと世間じゃ呼ばれる様なもんですが……いくらなんでもひどくね?

しかもおっさんが+860Gも上乗せした演出で、俺たったの+260Gとか、本気で腹が立ったさ!

最終的には700Gハマりでガッツリ削れた後、さらに当たらずART終了後に出るストック300Gに
終了した後の復活ARTすら食い尽くして、1400Gでボーナス1回フィニッシュさ!笑えよ!


コインを流している時に店員さんに言われた。
「A●B48であんなに出てるの、初めて見ましたよ。
 出してて楽しかったでしょう(笑顔」
俺はその発言に対して、こう断言した。
「俺、実はA●B大ッッッッ嫌いなんですよ。やってて本気で吐き気がしてました。
 出来る事なら、どんな機会であっても 二 度 と やりたくないですねッ!」

店員さん、唖然としてた。
そんな作品の内容とまったく関係ないあとがきな夏の日。


あ、例のごとく最終話は最終回ではありませんので。
エピローグ残ってます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ


ご都合主義です。



 

 

・世間一般への対応

 

タツヤ=直哉が世間の反応を舐めていた事もあり

手持ちの5匹+2匹のWMの存在はあっさりと世間にバレてしまう。

 

というか直哉が普通にコンビニやらスーパーやらに連れ回して人目に付く。

 

速攻でネットの某掲示板やら画像掲示板に彼等の写真が掲載され

 

・コスプレだろwww

・だとしてもやりすぎだろwww

・CGだべ?

・いや、画像いじった跡がねぇぞこれ

 

と半場お祭り騒ぎになったところで、任テーンDOW!に連絡が回り

まさかのゲーム製作者と現実に出てきたポケモンとで、未知の会合を果たす。

 

この会合が忍天ドーン!経由で日本どころか世界に掲載、放映され

本人達が知らぬところでポケモンユーザー子供大人問わずお祭り騒ぎ。

なお、その中でも特に賑わったのは、Pixivにおける「いつものディグダ」タグとそれに関する絵の投稿数。

 

 

とはいえ本人達が騒がしくして欲しくないという意思を表明したため

ずっと弱火のまま、静かにお祭りが続く事となる。

 

まあ現実にドレディアが本当に現れたとなったら、誰でも会いに行きたいと思うのは直哉もわかるので

一応手持ちの全員に対して物騒な事件解決禁止法(例外有り)を発動、以後日本はそれなりに平穏となった。

 

ついでに言うとドレディア、ダグトリオは人権が与えられ

戸籍登録までDoー!の協力があり、法的にしっかりと済まされた。

 

 

・ダグONE

 

一番最初にタツヤと出会い、真っ先に格闘術を教えてもらっていた事もあり

騒動が落ち着いた後、総合格闘技に殴り込みを掛ける。

ダグトリオ3匹全員のステータスだとさすがに洒落にならなかったが

バラけたダグONEのみだと、かなり強さも現代の人間とバランスが取れているらしく

色々と善戦、または優勝し、格闘家としてその名を轟かせて行く事になった。

 

その中でも特に有名となった試合は、K-1におけるNAGASHIMA★自演乙★Uーイチロー選手とのカード。

任TENドゥー!もこれに限りコスプレの許可を出し、なんとシロナの格好をして入場。

大きいお友達によるえっらい殺意が、日本中から集まったらしいが

試合内容は開幕から壮絶なダウンの奪い合いとなり、ダグONEの伝説の試合とされた。

 

 

・ダグTWO、ダグⅢ

 

ダグONEが格闘界へ参戦したため、ダグTWOはスポーツ界へ進出する。

元々彼等3人は体格バランスが凄まじく、かつ特性により実力が倍化しており

全てのスポーツにおいて万能を誇る事になった。

 

とはいえルールもコツも全く知らなかったがために

素人レベルであれば楽しくやれていたのたが、本腰を入れるとなると1本に絞らねばならなかった。

 

結果、ダグTWOはオリンピック方面にて水泳を学び

Ⅲの方はサッカーの世界で生きる事となる。

 

両者共、人に対してとても紳士でなおかつ礼儀もあったので

コーチ、同僚達からも評判は非常に高いようである。

 

ダグTWOは現実世界へ出現した後に来たオリンピックにも出場したが

皮肉な事に同じ日本代表であるKITAZIMA選手に破れ、金メダルを逃した。

 

Ⅲは某大阪の青くない方のチームにてFWのポジションを獲得。

レギュラー争いにしばらく負け続けていたが、ある時ついにその姿を試合に表す。

 

その試合からずっとレギュラーを張り続けシーズン途中出場ながら9得点をマーク、頭角を伸ばす。

 

FIFAワールドカップにて、日本代表にも選出されたのだが

予選の中国戦においてハードチャージの餌食となり、肋骨を骨折。

Wカップではあまりチームの力になれなかったが、その後もきちんと活躍を続けていった。

 

 

 

・ミロカロス

 

ステータスこそゲーム基準ではカスだったが、やはりその姿における美しさが際立っており

加えて何故かその方面に特化された歌声を用いて、歌えるアイドルとして色々な歌番組へ姿を表す。

 

とはいえその姿からして人間ではなく動物に近いため

レギュラーを獲得した番組は動物番組であったのだった。

 

SHIMURAケェンさんと非常に仲が良く、同時にケェンさんが仲の良いPAN君とも親友となり

番組企画として、色々な町へ練り歩く事と相成った。

 

本人はまんざらでも無いようである。

 

 

・ドレディア

 

問題は彼女だった。

 

彼女だけは(有る意味ディグダもなのだが)ポケモンを知っている人から見て

異常に性格がぶっ飛んでいたため、メディアに姿を現し続ける事はなかった。

 

最初こそ、直哉の母ちゃん+直哉=タツヤと家でのんびり過ごしていたのだが

直哉がバイト帰りにパチンコ屋に入って行く所を、お使いしていたドレディアが目撃。

追いかけてコインをご主人様から強奪した後、軽くやった大都技研の台にて5時間で10000枚の超爆発。

 

これが彼女のギャンブラー生活の幕開けとなる。

 

そこで得た19万を軍資金として(1万だけ直哉=タツヤに没収された)

スロットと競馬を中心に賭け事にのめり込んで行く。

 

普通であれば、のめり込んだ時点で後は奈落の底に一直線なのだが

元々天運に懐かれているドレディアさんは、大敗する事無くコンスタントに勝ち続けて行く。

 

赤字で5,000円等に終わる日なども多かったが

勝つ時は必ず6桁にして帰ってくるため、収益的には社会人並のレベルとなった。

 

なおフィーバーしている際のご機嫌具合はとても可愛いものがあったため

スロット・競馬場にて、老若男女問わず人気者となる。

よく横顔を携帯の写メにて撮影されたりしていたが、その程度は気にならない様だ。

 

 

そして、その(姿だけは)可愛らしさから

何度か不届き者の自己中心的なオタクに浚われかけたりしたのだが

全て、鉄拳制裁という過剰防衛にて難を乗り切っている。

 

元々タツヤ=直哉もそれに関しては心配していないため

たまに帰ってこない日は、警察でお世話になっているんだろうと考えている。

 

 

~ある日の情景~

 

 

大学での講義が終わり、帰りの電車を待っていたらメールが来た。

携帯を買い与えたドレディアさんからのメールのようである。

 

「ふむ……またスロットだろうか。今日は競馬の日じゃないしな」

 

そうしてメールを開いてみると、一文だけのメールだった。

 

 

・警察なう

 

 

俺は無言でメールを消去した。

今日はダグトリオにプロテインを買っていってやろうと思う。

 

 

~ある日の情景・終~

 

 

 

・タツヤ=直哉

 

何故か再びポケモン世界のエメラルド時間軸に降臨してしまう。

今度の相棒は全長3cmのバチュル。彼の物語がまた始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

               GOOD END ③  エイリアン(ポケモン)の日本侵略

 

 

 

 

 





エメラルド編はやりません。



真・あとがき

なにやらネットでガチポケ廃人が「嫁ポケ対戦で使うヤツはオワコン」という感じで
ツイッターに投稿したところ、良識ユーザーが「お前は楽しみながら向上するって意識がねぇのか」と反論。
ガチポケ廃人がその論に関して一笑した後
「その論へし折ってやるからバトルなwww負けたら嫁ポケ差し出して引退しろks」
と、マジでこのレベルの発言をした後バトル。

ガチポケ廃人、ものの見事に敗北。

そして、ガチポケ廃人「2セット先取な。1回だけじゃ運要素強すぎる」
これに対し嫁ポケ良識人「眠いんだが」

結局対戦は行われ、ガチポケ廃人敗北wwwwwwwww


まぁこう書くと腹筋崩壊なんだけど、確かにドレディアさんとか出てきたらぜってー勝てないよなぁ。
俺だったらこの対戦に確実にダグトリオ出すだろうし。


なおガチポケ廃人はそれなりに世間で名前が出ていた人だったもよう



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

呪いが解けたタツヤ編
EX1 ポケモンとトレーナーでは互いのやる気が違う時もある。



一応前もって考えていたifのひとつという位置付けにはなりますが
既に連載していたのが1年も前であり、当時の文章力は無いか激変しています。
違和感バリバリかもしれませんがご容赦ください。

場面は98話中盤からの続きになります。

9/15 19:58 タイトル普通に入れ忘れてた。


「……わかりました、不本意ですが受託しちまってる以上仕方がありません。

 大人しく出場する事にします」

「お、おぉぉ……!(本当に言った通りになってくれた……!)ありがとうございますっ!」

「今なんかボソっと言わなかった? ねえ、言わなかった?」

「き、気のせい、ですっ!」

 

なーんか不快な言葉が聞こえた気がすんだがなぁー。

まあ、どーでもいいか……サカキは後で殺しに行こう。

 

「とりあえずさっき俺と一緒に居た人達には説明しておいてください。

 スタッフさんの話を聞く限り、次のブロックが終わった後にすぐに俺の試合組まれるんすよね」

「はい、そうです」

「じゃ、俺も適当に作戦立ててますんで、連絡の方はお願いします」

「わかりました、では私はこれで……」

 

そうしてスタッフは控え室から出て行った。

 

本気で面倒なら俺もここでこっそり抜け出すという手はあるが……

土下座までしてきたあの人の誠意は、出来れば踏みにじりたくはない。

そんな事をするぐらいなら大人しく参戦して、善戦するだけである。

さすがに優勝とかはなかろうが、俺等は俺等で善処すればいい話だな。

 

「そーいう事になりました。全員、いきなり試合になるけど準備は良いか?」

『bbb』

「△▲☆★~♪」

 

うむ、4人とも良い返事だ。ムウマージ出すわけにはいかんけども。

ていうかドレディアさんの声が聞こえない。あの子なら張り切ると思ったんだが。

ふと部屋を見渡すために首を回してみたら───

 

 

 

既にミロカロスとボクシングのように打撃練習をしていたドレディアさんが居た。

コイツ頼りになりすぎる。

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

『さぁー今大会もAブロックから白熱した試合内容が繰り広げられました!!

 毎度毎度この大会にて実況させていただいている私でも、今回は思います!

 レベルがひっじょーに高い! 一体トレーナーの間で何があった?!』

 

やたらテンションが高いアナウンスが響き渡る、まあどこの会場でもこんなものなんだろーな。

この世界でここまでテンションが低い俺がおかしい自覚はあるんだが

試合出場ってなるとどうにもなぁ……今までの経験上、現代世界での対戦狂と例えても可笑しくない戦術を駆使するトレーナーにコテンパンにやられるのが目に見えていて、正直きつい。

 

『そんな今大会もついに本戦の始まりとなります!!

 本戦の開始より、大会側で定められたシード選手も混ざり

 さらに白熱したバトルを繰り広げてくれる事となるでしょう!』

 

しかもそんな状況でシード枠でこの場に居る俺ってどないやねんな。

この大会が終わったら、サカキの部屋に侵入して4箇所ぐらいから雨漏りしちまう部屋にしてやる。

地下の密閉空間で湿気と一緒に書類作業してもらおう。

 

「あ~もう本当になんだろうなぁこれ……どう思うよドレディアさん」

「ディ?」  ←とてもキラキラした笑顔

「うん、聞く相手を素で間違えたわ。どう思うよダグ達よ」

『───! bbb』

「だめだここ脳筋しかいねぇ」

 

どうやら俺の手持ち達は戦う機会が得られた事が非常に嬉しいらしく

かたや植物類はテンションMAXであり、かたや漢字だけは格好いい土竜類は『我等に任せろ、主!!』状態。

もう好きにしてください。

 

「──手! タツヤ選手、早く!!」

「──? あっと、もう出ないとイカンのか……」

 

何も心の準備が出来ていないのに、もう恥を掻く事が決定している時間が訪れる。

 

「……俺、もうこの大会終わったらテンガン山でにも隠居しようかな」

「ディァ?」

「…………まぁ、そうねぇ。人じゃない君等にゃ世間体なんてもんも、わからんよね」

『? ? ?』

 

ダグ共も全員「Why?」とでも言いたげな顔をこちらに向けてくる。

……シン兄ちゃん、まだシンオウうろついてんのかな?

なんかあったらシン兄ちゃんを頼ろう。

 

そんなことを思いながら、フィールドのトレーナーサークルへと俺は歩いていく。

 

『…………おっとぉ? なにやらAサイドから出てくる選手はとても気怠そうだぞ?

 何かあったのでしょうか? 加えて手持ちのポケモンも周りに出しているようですが……』

『…………? 確かに、いつもの彼の様子ではないですね』

 

ふと、アナウンサーの声とサカキの声が場に響き渡る。

あぁそうか、公的な立場もあるから対戦における解説者役でもやってんのかあの人。

しかもいつもの彼の様子とか、さらりと身内バレしないでくんないかな。

 

※登場前アナウンスで既に思いっきり秘蔵っ子扱いされてたけど彼には聞こえていません。

 

「ぁ~もう本当にやってられねぇ……なぁもう俺帰っていいか?

 戦うってだけならお前らチャンピオンロードでやってただろ」

「ディーァ(ブンブン)」

『;;;』

「ホ、ホァ……」

「~~☆★……」

 

あ、そうですか、ダメですかちくしょう。

さすがポケモン、戦う遺伝子なんたらと言われているだけある。

後ろではアナウンサーとサカキがなにやらグダグダ述べているが、正直どうでもええわそんなモン。

 

 

『さぁ、タツヤ選手はこの内容でも全く緊張して………あれ?

 タツヤ選手、タツヤ……タツ、ヤ……!?』

「すいませーん、さっさと始めたいので試合したいんすけどー」

『え、あ、いや、でもタツヤって……えっと───失礼致しました、どうやら色々熱が入りすぎてしまったようで、試合開始を長引かせてしまいましたか』

「うん、もう帰って寝たいんだわ俺」

『ハッハッハ、相変わらずだねタツヤ君、でも君の力を見せるチャンスだよ? 頑張ってくれたまえ』

「………………」

 

うんもう色々と突っ込みたいけど、どうでもいいです。

アナウンサー席にいるのに普通に選手に話しかけてるとか、押し付けられたチャンスになんの意味があるのかとか、色々あるけどさ。

 

『それではサカキさんの秘蔵っ子と相対する選手もご紹介致しましょう!!

 Dブロックにて意外すぎる一手を用いて相手を完封した猛者、常在戦場タクティクス、ユウジ選手だぁーー!!』

 

「ハナダシティ出身、ユウジ選手──前へ!!」

「フッ……」

 

審判のコールがされ、俺の対戦相手が試合会場へと出てくる。

うむまあ、例に漏れずエリートトレーナーさんですね。ややキザ掛かっているけど。

ついでに言うなら、なぞのみせの宿泊組の人ではないようだ。顔を見たことが無い。

 

『前回のCブロックの総当たり戦にて、地味ながらも卓越したポケモンへの指示で勝利を引っ張り込んだ叩き上げ! 相手は現役最強リーダーの秘蔵っ子で少しきついでしょうが、果たしてどのような戦略の花を我々に見せてくれるのかーーーー!!』

『ユウジ選手が総当たり戦の最後で見せた指示は、お互いをしっかり理解していないと出来ないモノでした。

 ある意味では、この戦いも予想外の決着となるかもしれませんね』

 

これはもう100%現実世界での絡め手タイプの人でござるwwwww アカン(白目

……うん、もう諦めた★

 

「あのサカキさんの秘蔵っ子だかなんだか知らないが……僕の戦略の前では全て無力さ。

 総当たり戦で戦った記録も、ジム戦の記録もないようだが……生半可な手であれば、全て無効化させてもらうよ?」

「……あぁ、はい。サクっと楽にしてください」

「おや、僕のオーラの前にもう諦めてしまったのかな?

 フフン、まあそれも仕方がないか……なんせ君の周りの子達は対戦にはあまり向かない子ばかりのようだしね」

 

ピキッ

 

ん、なんか今変な音聞こえたぞ。

それにうちの子達が対戦向けじゃないってのは無い気がするんだが……

観客席のマチスさん達も苦笑しとるやん。

 

「サカキさんの名を借りて出た大会で申し訳ないが……君にはここで退場してもらおう。

 僕の目指す先は、リーグの頂点だけでは物足りないんでね……遠慮なく、踏み台になってくれ」

「ねぇジャッジさん、あの人暴言で訴えていいっすか?

 なんか聞いてて発言イラついて来るんすけど、訴えて勝ちますよ?」

「なっ!?」

「あ、えーと……すまない、試合前のやり取りもこちら側としては一種の論戦と認めててね……。

 今まで見逃してきた事例も多くあるし、ここで退場させるのは難しい、かな?」

「ホッ……フ、フフン、実力で勝てないと思って別の手を使ったのかな?

 君はそれで勝ってうれしいの───」

 

「ぁーぃ試合開始ねー、いけー、ドレディアさ~ん(棒)」 

 

「───って、聞けよッッ!!」

 

うるせーわい、そんなに戦いたいなら勝手に始めて勝手に終わらせれ。

アナウンサーもサカキも、なんかテキットーな事を後ろで喋ってるし。

うちの子もなんかやる気になってたし痛い責任俺には追求しねぇべさ。

 

「ま、まぁいいさ……この場は僕の通過点に過ぎないんだからね。

 この僕に対して草単体のタイプでしかないドレディアを出した事を後悔してもらおう!!」

「はい」

「……───」

 

なんかまだネチネチとグダグダ述べているなぁ、早くやっちゃえばいいじゃないのさ。

とりあえずドレディアさんには慰めとして、夜のおかずにポテトサラダでも加えてあげようか……。

何故か対戦に弱い俺のポケモンになったばかりに、こんな大舞台でこれだもんなぁ……本当にスマン。

 

「しかしドレディア、君も不幸な子だね……対人戦の右左もわからない馬鹿な主にこんな場に出されて……。

 まぁ、すぐに楽にしてあげよう、安心して散ると───」

 

 

 

  ブ  チ  ン

 

 

「──ん? 今なんか音が……なんだ?」

「……確かに、僕にも何か聞こえたが……とりあえず、僕のポケモンにも出てきてもらおうかな。

 さぁて、素早く終わらせるんだぞ──行けっ、マニューラッ!!」

 

個人的には音の方が気になるんだが、とりあえず対戦相手のユウジはモンスターボールをフィールドへと投げた。

ペカァァァァンという音と共に現れるは、宣言通りにおっきい爪のマニューラちゃんでした。

 

「ニャァァァーーーーー…………ッッ!?」

「な、なんだ、どうしたんだマニューラ?」

「へ……?」

 

そして登場の鳴き声と共に何故かいきなり体をビクーンと震わせたマニューラ。

……って、あぁそうか、あれだ。ドレディアさん、特性『いかく』だし……。

 

「つーかそんなコトよりさっきの音はなんなんだよマジで。

 負け戦なんぞハナっからなんでもいいっての、ダグ達も聞こえたべ?」

『───(((';ω;`)))』

「え、なんでお前らそんな震えてんの……って、ミロカロスもかいっ」

「ホ、ホアァァ~~;;」

 

ダグ共にさっきの件で訪ねようとしたら、三人とも(細マッチョの)体を縮こませて身を寄せ合っている。

そして視界に映ったミロカロスまでダグの後ろで震えていて何が何やら。

ムウマージだけはやや平然としているみたいだが、それでもフィールドを見てるな……。

 

これは、怖がってるのとあの音に共通性でもあったのだろうか。

 

「では、両者準備は良いね? 試合……───開始ィィーーーー!!」

 

ジャッジさんの声と共に会場のボルテージは極限まで高まり、試合は開始される事となった。

 

 





一応ダグトリオ戦まで構想はありますが、連載が続くかは微妙なところです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX2 会場全員がドレディアの行動を見た時のコレジャナイ感UC


あまり必要のなさそうな視点移動と
第三者視点でお話が進行します。

あと改行も多いわ。


 

 

 

「では、両者準備は良いね? 試合……───開始ィィーーーー!!」

 

ジャッジの掛け声により、祭の試合は開始された。

掛け声と同時に、周りにいる観客は当然のように盛り上がり始める。

 

さぁ、今回はどんな試合が展開されるか、どんなワクワクが待っているのか。

しかも選手の片方は奇策で勝ち上がったトレーナーで、更には片方も最強のジムリーダーの肝入り。

全員が全員期待しない訳がない好カードだったのは否めなかっただろう。

何故か一方のやる気が非常になかったが、周囲にはそんな事など関係無い。

 

「では、僕のステージの開幕だ……マニューラ、"まもる"!」

「ニャ、ニャ……」

 

相変わらず自分のマニューラに何かの異変は起こっているようだが

指示通りには動けているので、ユウジは気にせず試合に集中する事にする。

 

『おおぉっとォッ!? なんとここでユウジ選手、初手でまもるを選択してきましたッ!!』

『ふむ、マニューラといえば攻撃と素早さが特徴のアタッカーです。

 草単体故に弱点が多いドレディアには攻撃の選択がベストの様に感じますが……』

(あぁ、確か『まもみが耐久』だかってやつか、あれ)

 

ある意味、種族特性の常識をぶち破って指示を出すユウジだが、タツヤには覚えがひとつあった。

マニューラのとくせい『プレッシャー』を用いて、ゲームで言うPPを削って弱体化させるという

『まもみが耐久型マニューラ』という存在である。

 

「ゲームの方じゃPPって表されてたけどこっちじゃどうなんかねぇ、それ」

『~~~~;; ;; ;;』

 

未だに怯えているダグ達を後ろに控え、タツヤは顎に手を当てて思案する。

ともあれ、実際のところどう足掻こうがこんな大舞台で勝てると思っていない彼は

ドレディアさんに対し、素直な指示を出してみた。

 

「ドレディアさん、気にしないでやっちゃっていいよ~」

「─────。」

「…………ん?」

 

いつもなら気楽に返事をしてくれるドレディアさんだが、今回はこちらに軽く振り向いただけで返事が来なかった。

そこの部分に違和感を感じて、ドレディアさんを見るタツヤだったが……

 

「ん~~~。なんも変わった様子は無いなぁ……なんの違和感だろう?」

「ホァ~;; ホ、ホァ;;」

「……まぁ、いいや。大怪我さえしなきゃそれでいいわ別に。

 終わったらとりあえず屋台回って何かしら食い歩きてぇし……金はまぁ、大丈夫か」

 

既に負けが確定していると勝手に錯覚しているタツヤは、その場を全く無視して自分のおこづかいの勘定を始めた。

 

『ユウジ選手のまもる指示に対してタツヤ選手は──…………?

 あれ、なにか懐をゴソゴソしてますね……おっと、出てきたのは…………あれ? 財布?』

『…………何をしているんだ、タツヤ君……一応ここ、かなり厳粛な試合の会場なのだが…………』

 

試合そっちのけで自分がしたい行動をするタツヤにアナウンサーとサカキは頭を悩ませる。

サカキに至っては「あちゃー」とでも言いたげに、額に手を当ててうなだれている。

 

しかしそこで、試合が少しだけ動いた。

 

『おぉぉ!? なにやらよくわからない動きをしているタツヤ選手を置いて彼のパートナードレディアが動きましたァッ…………って、あれぇぇぇ…………』

「…………!? なんだ……?! 一体何をやらせる気だ……!?」

 

アナウンサーが目ざとく試合の変化を見つけるが、それの内容がまた問題だったために言葉が詰まってしまった。

対戦相手のユウジも、対戦では全く見たことがないその動きに疑問を持たざるを得ない。

 

ドレディアさんは、タツヤを除く会場全員が注視する中で───

 

 

 

ただ  ゆっくりと  悠然に  歩をマニューラに進めるだけだった。

 

 

 

ここはポケモンバトルにおいても格式高い『ポケモンリーグ』である。

そんな中で期待されるのは技の応酬にトレーナーの読み、意思による連携、熱い掛け合いである。

 

なのに、彼女が動くは変化も乏しく歩いて近寄るだけ。

技らしい技もせず、ただ歩いてマニューラに近づいていくだけだった。

 

そしてその対象であるマニューラは───何故か可哀想になってくるぐらいに涙目になっていた。

"まもる"で絶対の防御を展開しているのに、体がガクガクと震えている。

 

 

 

◇sideマニューラ◇

 

 

(こ、こ、こわい、恐い、怖い、コワイ、こワい…………!!)

 

なんで、どうして、どうなって、なんなの……!?

僕は、ユウジさんにまた場を任されて出てきただけなのに

なんだかこわい、こわくてたまらないドレディアがこっちに歩いてくる……!!

 

僕がここにいるってことは試合なんだよね?

なのになんであの子はまるで僕を殺さんとばかりにこっちに歩いてくるの?

 

僕は殺されるの? どうして? 

指示通りに"まもる"をしたんだよ? どうして? どうして!?

 

頭の中がぐちゃぐちゃに掻き乱されて前も後ろもわからない。

 

ただひとつだけわかるのは、目の前にある濃厚な"死"。殺される ころされる コロサレル

 

(ま、まもってる、ぼくまもってる、だから大丈夫? あれ? ぼくまもれてる? まもれてるよね? あれ?)

 

 

◇side out◇

 

 

会場内はザワザワしっぱなしである。

それはそうだ、これは試合とは言えないものだ。

 

ジャッジが試合開始を宣告して既に1分半、その間に行われた行動はマニューラの"まもる"のみ。

そしてドレディアが普通に、ゆらりと歩いてマニューラに向かうだけである。

 

「何を狙っているのかわからないが……"まもる"は絶対の防御だ、何をしようとしているんだい?」

「んー、まぁ……4万あればなんとかなるか? 祭屋台のモンって基本たけーしなぁ」

 

トレーナー同士も全く会話がかみ合っていない。

加えてタツヤの発言は呟きに近く、マイクすらその音を拾えていない。

 

『しょ、初手から悪い意味での驚きの連続ですが……おっと、ついにドレディアがマニューラの前へと……ォォ?』

 

そんな状況の中、普通に歩いていたドレディアは、その歩行速度に従いマニューラの前へと辿り着く。

 

正面に立たれたマニューラから彼女を見れば、顔全体に影が差し込み、表情が全く伺えない。

圧倒的な威圧と圧倒的な暴力の予感を用いて迫る彼女に、今にも逃げ出したい想いだった。

 

目の前に佇む暴力の権化は、少しマニューラの前に立ち止まった後、会場全員が改めて注視する中で───行動に移った。

 

 

 

マニューラに対して、まるで気遣うかの様に二の腕辺りを、ポンポンと軽く叩いた。

 

その行動だけを見るなら、ドレディアを知る者が見るなら、見た目通りの可憐さも相まって

 

この会場にはそぐわない、相手を気遣う優しさ溢れる行動だった。

 

 

 

だが、目の前のマニューラはその行動の意味を知った。

 

声も無い、ただ左右の二の腕をポンポンと叩かれただけだった。

 

 

 

しかし、影からキラリと出た左目から感じる恐怖は本物だったのだ。

 

 

 

あなたはね 何も悪くないのですよ?

 

ただね あなたが あそこにいるゴミムシのポケモンであることが 不幸だったのです

 

あれが わたしの ごシュジンサマを侮辱なさったことが 不幸だったのです

 

あなたは なにも気にしなくていいですからね?

 

次に逢える時は お互いに笑顔である事を 信じましょう?

 

 

 

マニューラは、彼女の瞳から、その意思が伝わったのだ。

目は口ほどにモノを言う──タツヤと彼のパートナー間で行われる、いつもの事だ。

 

 

そして怯え続けるマニューラに、何も知らぬものが見る限り綺麗な笑顔をマニューラに残し

 

 

 

 

 

 

だから 今はね 

 

 

 

 

 

ごシュジンサマのために  シ ネ ───

 

 

 

 

 

 

もはや言葉に表すことすら難しい、自我が崩壊しそうな怒りの意思を叩きつけられ

マニューラは更に体を震わせる事となる、辛うじて"まもる"が発動しているのは流石のバトルベテランポケモンといったところか。

 

 

そしてドレディアは、観客全員が見守る中で───

 

 

ゆっくりと拳を、そして上半身を後ろに振りかぶり、力を溜める。

 

 

『な、なんだァーーー?! なにやら顔見知りの様にマニューラに触れたと思ったら、ドレディア今度は物理的な攻撃をする構えでマニューラと対峙しているぞ!?』

『…………これは、緊急搬送の準備もした方が良いか?』

『は、い、今なんと?』

「ドレディアが物理攻撃だと……? フッ、なんという無駄な育成方針か……。

 まぁいい、"まもる"が発動している時点で攻撃は何も効かないんだ、せいぜい無駄にあがいてくれ!」

「だからさっきからなんなんだっつーのお前ら!

 ムウマージだけは怯えてねぇみたいだけど何がそんなに……ぉ?」

 

その謎の行動で、会場のざわめきは最高潮となる。

ドレディアといえば、"はなびらのまい"を代表とした特殊攻撃の強さである。

そんな存在のドレディアが、マニューラに対して、パンチをする構えを取っている。

しかも、その対象であるマニューラは絶賛"まもる"中であり、誰の目から見てもそれは奇異に映る。

 

それはそうだ、これだけ"まもる"に対して認知する時間がありながら

あのドレディアはその行動をとっているのだ、しかもこれは公式な「大会」である。

タツヤの旅のツレを除くほぼ全員が、この行動に関して理解が追いつかない。

 

 

しかしドレディアは

 

そんなことも気にせず

 

ただひたすらに、拳を撃つ際に発生させることが出来る力を

 

腕力を 遠心力を 放つ為の 最適の体勢を 力を貯めながら整えた。

 

 

「一体"まもる"に対してなにやってんだあの子は……。

 まあ、怪我さえなきゃぁ別に構わんけどなぁ」

 

自分のトレーナーですら、理解が追いつかないその行動だったが

ついにその全員の疑念は、ここに晴れる事になる。

 

 

 

 

 

では 行きますね

 

しっかりと "まもる"んですよ?

 

シんでも、シらないですからネ───

 

 

 

 

マニューラは、最期に見たその瞳から、ドレディアのメッセージを受け取った。

本当に、きっちりと、守らなければ、ポケモンの、僕であろうと、シヌ。

それが完全な錯覚だったとしてもそう思わざるを得ない迫力に

 

今すぐ逃げ出したかったマニューラは、確かに彼女の意思通りに"まもる"を堅め───

 

 

 

ギ ゥ ン ッ

 

 

 

会場全体に、よくわからない音が響いた。

 

それは、一撃のために、全力で、準備を整えたドレディアの拳から発せられた

 

 

 

音速を突き破る 音 。

 

 

もしもスロー映像が会場に投影されたなら、全員が見ただろう。

本来であるなら、ぶつかったあとに出る衝撃波と思わしきものが

何故かマニューラの"まもる"防御に当たる前から発生したのを。

 

そしてその拳の威力そのままに、マニューラに突撃した音速の拳は

 

 

"まもる"に当たった瞬間に 盛大な 『本物』の 衝撃波が会場を襲った。

 

 

ッダァァァァァンッッッ!!

 

 

タツヤ、ユウジ、アナウンサー、サカキ、そして観客全員が全く予測出来なかった波動と音は、全員に等しく混乱を与えたのだった。

 

 

『…………な、何、が──?』

『……今度は、一体何をやらかしたんだ、ドレディアよ』

「な、なん、だ……? 一体、何がどうなった……!?」

「…………ハハッ、ありえねー。ドレディアさん」

 

ドレディアはそんな混乱の中で、全力で拳を振り切ったが故の見慣れないポーズで体勢を固めている。

 

一応、タツヤだけはいつもの彼女に振り回されている分、理解が早かった。

かといってそれを説明するわけでもないため、会場全体は未だざわつきに満ちているが──

 

──お、おいッ! あそこッ!!

 

観客の一人が、とある点に気付いて指を差す。

全員がそこに着目すると、バトルフィールドの壁から土煙が上がっていた。

 

その様子に試合のジャッジもそこへと駆け付ける。

煙が晴れて、漸く見えたその様子に、ある意味予想通りであり、そしてとことんまで常識外な図を見て卒倒仕掛ける。

 

 

 

マニューラが、"まもる"状態のマニューラが、壊れた壁に埋まる様にめり込んでいたのだ。

そして、絶対防御は伊達ではないらしく、めり込んだマニューラに傷らしいものは何一つとして無かった。

 

 

 

そのマニューラは───白目で、さらに涙目で、口から泡を吹いて、完全に──気絶していた。

 

 

 

図を確認したジャッジは、来度起こったこの現象に理解が追いつかず

ルールブックを頭の中で確認している最中、彼の前を横切る者が居た。

 

 

その体から想像できない威力でパンチを解き放った、あのドレディアである。

 

 

そして、壁にギッチリと埋まったマニューラの足を掴み、こともなげにぐいっと引っ張り出す。

凄まじい膂力故に、マニューラの意識があるならかなりの悲鳴が上がったであろうが───どうやら完全に失神してしまっているらしく、ピクリとも動かなかった。

 

そのままジャッジを無視して、ざわざわする会場の中でマニューラをズルズル引き摺って行く。

傍目から見ても何が目的かわからないその行動だったが、ユウジを前にして彼女は止まる。

 

困惑一色のユウジは、自分のマニューラと顔にまだ影が差しているドレディアを見比べて

い、一体何を、と口を開く前に、ドレディアは気絶したマニューラを彼の足元に無造作に置いて場を離れた。

 

「な、な……お、おいマニューラ! 起きろ! お前無傷だろうが!!

 おい起きろ! ダメージ無いのになんで気絶してんだよお前はッッ!!」

 

気付けにガクガクとマニューラの肩を掴んで頭を揺さぶるユウジだったが

ついに、その会場の中でマニューラが意識を取り戻す事はなかった。

 

 

そして試合の裁定が下る───

 

 

 

「ユウジ選手のマニューラ、戦意喪失ッッ!!

 よってこの試合、タツヤ選手のドレディアの勝利ッッ!!!」

 

 

 

ジャッジのその声に、しばし遅れて会場の大歓声とアナウンサーの大興奮した声が響き渡る。

 

 

 

タツヤ、公式戦初勝利。一回戦突破。

 

 





というわけで、ノーダメージK.Oという訳の分からない現象が発生しました。
ポケモンってなんだっけ?


趣味で書いているためクオリティはお察しください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。