デストリームアーカイブ (トマトーラス)
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プロローグ-01 「first death」

窓から差し込むのは暖かい陽の光か、それとも朽ち果てたビルから立ち上る赤黒い炎の光か。

 

もはや、その区別すらつかない。

 

そう、ヘイローを壊され、普通の人間と大差ない肉体へ成り果てた彼女にとっては。

 

その証拠に彼女の心臓は、本来掠り傷程度にしかならないたった一発の銃弾で容易く撃ち抜かれ、純白の連邦生徒会の制服には斑点のように血が滲み出ている。

 

もう、視界すらもぼやけ、身体もまともに動かせない。すぐ傍に置かれた自動拳銃で頭を撃ち抜き、自決することも出来ない。

 

「……すべては、私のミスでした」

 

ーーーこれから、最期に紡ぐ言葉は、決して序章(はじまり)を告げる高尚なものでは無い。

何もかも虚しく、(くう)へと帰す、無意味な行為だ。

 

そうとは分かっていてもーーー。

 

「結局、この結末に辿り着いて初めて……あなたの決断が正しかったことを悟るだなんて。……今更図々しいですが、お願いします」

 

向かい合う()()に語りかけるように、彼女は話す。

もう、一言一言を紡ぐ度に激痛が伴う程の身体へ劣化してもなお。

 

「……大事なのは、()()。あなたにしかできない数々の選択」

 

たとえ、虚しく(vanitas)とも、明日へ繋げなければならない。こことは違うどこかの明日へ。

 

「…責任を負う者に関して、話した事がありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……。今なら、理解できます」

 

もうーーー左目には何も映らない。

それどころか、左半身がまるで錆び付いたブリキの人形のようにびくともしない。

 

「大人として、子供を守る責任と義務。そして、その延長線上にあったあなたの選択」

 

「……それが意味する心延えも」

 

 

「………」

 

 

そう言い、彼女は静かに思念する。

たしかにーーーこの世界は最初から行き詰まり、滅ぶ運命だったのだろう。だが、それでも、そうだとしてもーーー

 

 

 

 

ーーー彼が、そして自分が愛した世界(キヴォトス)だ。

 

「ですから、先生」

 

「私が信じられる()()であるあなたになら、この捻れて狂い切った終着点とは違うトゥルーエンディングをーーー」

 

 

ーーーXXXX.XX.XX(不明)

ーーー有り得たかもしれない もうひとつの世界

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「……先生、起きてください」

 

ーーー鋭く凛と響く女性の声が鼓膜を揺さぶる。一体、誰が呼んでいるのか。

彼としては、もう少し寝させて欲しい一心である。

 

「先生!!」

 

「……………………へぇあ!?へ、ひゃぁい!!」

 

一際大きく響いた声にパチリと、彼は思わず目を見開く。

そして、まだ覚醒しきっていない目が写し出す景色は、どこかのビルの待合室のような所だ。

 

「……少々待っていてくださいと言いましたのに、起きないほどとは……。よほどお疲れだったようですね」

 

「へ、へ?ねて、寝てた……?えっ……?」

 

ペチペチと頬に触れ、いつの間にか着込んでいたスーツを見下ろし、彼ーーー五十嵐(いがらし)元太(げんた)は困惑しきった表情で反応する。

 

「……まずは自己紹介を。私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です」

 

目の前の女性が放った『キヴォトス』『学園都市』『連邦生徒会』という三つのキーワード。

 

元太はこの三つに何一つ心当たりがなかった。それどころかここに来る前ーーー正確には眠る前ーーーに何をしていたのかすら思い出せない。

だが、少なくとも自分自身の記憶に欠落は何もない、と言い切れる。

 

「そして貴方はおそらく、我々がここに呼び出した先生……の様ですが」

 

「え?せん、せい…………?なの……?俺……」

 

……自分はあくまで銭湯(しあわせ湯)の経営者だ。子供たちの授業参観に足を伸ばした覚えはあるが教師の仕事をしてきた覚えは少なくともない。

 

 

ーーーだが、さっきからやけにこの光景に見覚え(デジャブ)を感じていたというのは否定できない。

 

 

ここが、どこかも分からないのに。

 

 

たとえるなら、我が家にいるかのような感覚で、居心地の良さすら感じるほどだ。

 

 

 

まるで、脳髄の奥深くの本能が、自分自身に対して『思い出せ』と訴えかけているように。

 

 

 

いや、待てよ。なぜ、自分は()()()()()()()

 

 

 

ふと、そう意識した瞬間ーーー

 

 

 

「……ヴッ゛!?あ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!」

 

ーーー激痛が頭に迸った。まるで、薬漬けにされた脳に起きる禁断症状のように。

 

 

「!?先生!しっかり!!大丈夫ですか!?」

 

突然頭を抱え絶叫した元太の身を案じ、リンが駆け寄る。

元太は彼女の心配に聞く耳を持つ暇もなく、忙しなく激痛が流れる頭を掻き毟る。

 

 

彼が絶叫を挙げてる最中、彼の頭に流し込まれていたのはーーー

 

 

 

 

ーーービルが、家屋が、何もかも焼け、或いは火が燻る町

ーーービクとも動かない、まだ齢半ばの透き通った白い躰から滲み出る血によっててらてらと紅く彩られた通学路のアスファルト

ーーー無差別に、互いに互いを殺し合う少女たち

ーーー夕日か、或いは町が焼け落ちる炎の光が差し込む一室で滂沱の血を流しながら『自分』に話しかけるダレカ

 

 

 

そう、『地獄』であった。それも選りすぐりの吐き気を催すような、黝く、唾棄すべき、抹消しなければならないほどの、『地獄』。

自分が経験してきた『あの地獄(二十五年前)』が、生温く感じる程の。

 

 

 

だが、そんな地獄のような記憶の中でもーーー

 

 

 

 

ーーー子供たちと共に歩き、他愛のない話をして、一緒にバカをやり、行事(イベント)を楽しみ、彼女らの誕生日を盛大に祝う。

 

そういうありふれた日常を思いっきり、まるで子供みたいに楽しむ誰か(大人)のーー或いは自分かーー姿があった。

 

 

 

 

その光景を見て、彼は独りごちる。

 

 

 

 

あぁ、そうか。

 

きっと、この光景はホンモノの、自分などではなく本来()()にいるべきだった『先生()』の過去。恐らく何もかも、まやかしでも幻覚でもない、『彼』が歩んだ記憶。

 

行き詰まり、()()ならざるを得なかった、亡きもう一つのキヴォトス(らくえん)の結末。本来は何処にも届かなかったであろう記憶を、ダレカが自分に託したのだろう。

 

地獄だけではなく、ありふれた日常があったもう一つの世界のことを。

 

そうか。

 

そうと分かれば、自分が果たすべき役目は自ずと理解出来たーーー。

 

 

 

 

「…………ッハァ!!ハァ…ハァ…ハァ……ゲホッ!ゲホッ!!」

 

朦朧としていた意識が覚醒し、元太は思わず空気を求めるようにその場で咳き込んだ。彼を介抱(と言ってもほんの一分くらい)していたリンはその様子を確認すると、安心したかのように息を吐く。

 

「良かった……。いきなり頭をお抱えになってとても苦しんでいたので……」

 

「ゴホッゴホッ……。いらないしんぱいさせちゃってごめんね……、ゴホッ……。」

 

「いえ、お気になさらず。ところで先生、状況の説明は「大丈夫」…………はい?」

 

「俺が今、何をすべきか、なんとなくだけど理解出来た。

 

 

 

ーーーだから、大丈夫」

 

そう言う彼の目は、先程までオロオロしていた情けない大人の目では無い。覚悟を決めた、そんな目をしている。

 

その目を見たリンは野暮な事は聞かず、おそらく大丈夫なのだろうと判断し、彼をロビー近くのエレベーターまで案内し、共に乗り込む。

 

そして、彼女は行先を指定するボタンを押し、元太が乗り込んだのを確認するとドアを閉める。

目的地の最上階への短いようで長い道のりの最中、喩えるならキヴォトスの町並みを堪能出来る穴場の絶景スポットをバックに、柔らかく笑みを浮かべ、こう口を開いた。

 

「ーーーーキヴォトスへようこそ、先生」

 

「キヴォトスは数千もの学園が集まり構成されている巨大な学園都市です。これからあなたが働くところでもあります」

 

「おそらく先生がいらした所とは勝手が違い、最初は戸惑うかもしれませんがーーー」

 

「ーーーでも先生ならそんな心配も杞憂で済むと思います、なにせ()()連邦生徒会長がお選びになった方ですもの」




……えー、本当に申し訳ございませんでしたァァァァァァァ!!!!!!!!

プロローグ書き直すため削除しますって言って書き直そうとしたらあまりに手間取っててしかもリアルも立て込んでたのでこの有様だよ!!!!このクオリティだよ!!!!はい、もう本当に待っててくださった方々には本当に申し訳ない。

ちなみに、プロローグは文量がやばいので「せや!分割すればえぇんや!」という感じで3つくらいに分割して投稿する予定です。ちなみにこれが1つ目です。
タイトルは……某電ノコ悪魔が大暴れする作品に脳を焼かれた結果こうなりました。

とにかく、待っててくれた皆様、繰り返しになりますが誠に、本当に申し訳ございませんでしたァァァァァァァ!!!!!!!!!


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プロローグ-02 「Recapture Battle」

懺悔のプロローグ2発目、めオラァ!!!!


 

 

目的地であるレセプションルームに足を踏み入れると、リンに対して質問をぶつける四人の少女たちが元太の視界に飛び込んできた。だが、その四人は、元太にとっては初対面だがとても()()()のある面々であった。ーーーユウカ、スズミ、ハスミ、チナツ。そうだ、あくまで彼の受け売りに過ぎないがなんとなく『思い出した』。

 

「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!早く連邦生徒会長を呼んできて!」

 

「主席代行官、お待ちしておりました」

 

「トリニティ自警団です。連邦生徒会長は何処へ?直談判を頼みます」

  

「連邦生徒会長にお会いしに来ました。風紀委員長、及び万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)議長が現在の状況についての説明、及び回答の要求をされています」

 

「……面倒臭い方々に捕まってしまいましたね。ですが態々、暇を持て余す貴女方がこんな辺鄙な所まで足を伸ばす理由は想像がつきますが……」

 

矢継ぎ早な質問攻めにあい、あからさまに嘆息したリンは適当にあしらえばいいかと口を開こうとするが、それはユウカ達のクレームじみた報告に遮られることになる。

 

「あのねぇ…!そこまで分かってんなら何とかして!数千もの学校が混乱に陥ってるのよ!?この前なんてウチの学校(ミレニアム)のインフラ設備が荒らされて風力発電が止まりかけたんだから!」

 

「風紀委員にも、連邦矯正局にて停学中の生徒達の一部が脱走したとの情報が」

 

「スケバンや不良達が、登校中のうちの生徒達を襲う頻度、全体的な治安の悪化が見られています。自警団(我々)では抑え切れません」

 

「出所不明の弾薬、銃火器、戦車や装甲車などの不法流通が一〇〇〇%も増加しています」

 

リンはそんな現状報告に胃がキリキリと痛むのを感じた。うるさいわ、んな事こっちが一番分かってんだわ、テメーらは自分とこの自治区でやることやりゃあいいだろうが…………と、彼女らしくない893じみた暴言がすんでのところで飛び出そうだった。というか実はもう我慢の限界であった。

 

「こんな状況なのに連邦生徒会長は何してるの!?数週間も公の場に姿すら表さないなんて!先ずは早く会わせて!」

 

青髪のツインテールが特徴の少女ーーーたしか、ユウカだーーーが捲し立てる。

 

「……結論を申しましょう。連邦生徒会長は今現在席に就いておりません」

 

「……正確には『行方不明』に、ですが」

 

「「「「!!??」」」」

 

そう言いきったリンを見て、各々の顔には驚愕の感情が表れていた。連邦生徒会の長たる会長がまさかの行方不明。

それが意味することをーーー四人は自然と理解出来た。

 

「そう、お察しの通り『サンクトゥムタワー』の最終管理者ーーーー会長がいない為に現在の連邦生徒会は行政制御権が失効した状態です」

 

サンクトゥムタワー。連邦生徒会、否キヴォトスの腸とも言える管理施設。その管理者の失踪はキヴォトスの秩序の崩壊を意味する。なにしろ行政制御権ーーー連邦生徒会のあらゆる権利が剥奪され、白紙に戻っているようなモノだ。

 

「認証を迂回出来る方法を探していましたが……先程()()はそんな物は見つかっていませんでした」

 

「……と、申しますと現在はその方法が見つかったと?」

 

「えぇ、こちらの五十嵐先生がフィクサーになって頂けるハズです」

 

「「「「!?」」」」

 

「ちょ、ちょっと待って。この先生はどなた?そもそも何処からいらっしゃったの?」

 

どうやって来たかは実際、彼自身も皆目見当がついてない。なにしろ、半ば記憶喪失みたいな事になっているからだ。

 

「キヴォトスでは無い所からいらっしゃったとは思いましたが……先生だったのですね」

 

「はい。こちらの五十嵐先生はこれからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が行方不明になる直前に指名した方でもあります」

 

「連邦生徒会長が直々に……。それも直前に……?益々分からなくなってきたじゃない……」

 

元太は混乱する各々を一瞥し、徐に口を開く。

 

「ーーーうん。それで間違いないよ、なんで来たかは分からないけどね。とにかく、四人ともよろしくね」

 

「よ、よよよろしくお願いしますっ!私はミレニアムサイレンススクールの……って!今はそんな事やってる場合じゃなくて……!」

 

「そのうるさい方は気にしなくて結構です。続けますと……」

 

「う、うるさいは言い過ぎなんじゃない?」

 

「そうよ!誰がうるさいですって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいて下さい、先生!」

 

「そっか。ユウカちゃんか、よろしくね!」

 

「……ゴホン、先生は元々、会長が立ち上げたある部活の担当顧問としてこちら(キヴォトス)にいらっしゃる予定でした」

 

リンは右手で眼鏡を押し上げ、ジャケットのポケットから校章のようなマークが刷られた白いポストカードを見せ、言った。

 

「ーーーー連邦捜査部『シャーレ』。ただの部活の範疇には収まらない一種の超法規的機関」

 

「連邦組織の為、キヴォトスのありとあらゆる学園に在学している全ての生徒を無際限に加入させることができ、各学園の自治区で制約なしの戦闘活動を行う事も可能です」

 

「……部活、ですか。聞けば聞くほど、部活というよりもはや大規模な準軍事部隊(パラミリタリー)にしか聞こえませんね……」

 

「えぇ、ハスミさん。私も、何故連邦生徒会長がこのような特権を持つ組織を部活にしたかは分かりませんが……」

 

リンは一旦話を区切り、肝心の本題へと話を移行させる。

 

「シャーレの部室はここから約30km離れた外郭地区にあります。今は殆ど何も無い建物ですが、会長からの命令で地下室に()()()()を持ち込んであります」

 

「…まずは、そこに先生をお連れしなければなりません」

 

そう言い終え、リンはカードをしまい、携帯端末を取り出してどこかへ繋ぎ、話始める。

 

「モモカ、シャーレの部室に行くためにヘリが必要なんだけど……」

 

『シャーレの部室?あーあの外郭地区の?そこなら絶賛大騒ぎだけど』

 

「おお、騒ぎ?一体なにがあったというの」

 

『ちょうど矯正局を脱走した停学中の百鬼夜行の生徒がドンパチおっぱじめて戦場になってるよ、今』

 

「は?」

 

リンは思わず、虚をつかれたかのような間抜けな声をこぼした。余りの間抜けさに彼女はわざとらしく「ゴホン」と咳をし、気を取り直しモモカに事情を聞こうとする。

が、モモカはそんな気も知らずーーポテトチップスを片手にーーベラベラと勝手に喋り出す。

 

『生徒会に恨みマシマシで地域の不良とか引き入れて周りを焼け野原にしながら大暴れしてるし、オマケに巡航戦車まで引っ張り出してきたみたいだね、しかもちゃっかり違法改造されてるし』

 

「…………は?」

 

『まー、そんでシャーレの建物を占拠しようとしてる魂胆みたいね。……まるでそこに大事なものがあるかのような動きだけど、ねぇ?』

 

「…………」

 

『……ん?あ、先輩。お昼ごはんのデリバリー届いたからこの辺で。ま、また何かあったらまた連絡するよ!』

 

ブツッ

 

「…………………………」

 

リンは見てるこっちが真っ青になるほどの怒気を孕んだ蒼白な顔になっていた。あと、手に持ってる端末がピシリとヒビが入ったかのような音が聞こえる。

溜まりに溜まったストレスみたいなのが爆発寸前なのはもう誰の目にも見て取れる。その様子を見て、元太は思わず「大丈夫……?」と声を掛けた。

 

「え、えぇ……想定外の事態ですが、えぇ、なんのこれしき……」

 

声を震わせながらなんとか応対するリン。どうにか息を絞り出した彼女は、眼鏡を上げ、好都合なことにーーこれから起こることは彼女たちにとっては不都合だがーー今レセプションホールにいる他校の四人を死にかけた魚のような目で射抜くように見つめる。 

 

「……?」

 

「な、なに?どうしてそんなに私たちを見つめるの?」

 

あまりの嫌な予感に四人は後ずさるも、リンはあまりにドス黒い笑みを浮かべながら四人に詰寄る。

 

「ちょうど、ここに各学園を代表するお暇そうな方々が好都合なことにこんなにも……。ふふ、ふふふふふふふ。とても、とても嬉しいですよ?えぇ」

 

「……!?ま、待って!何するつもり!?」

 

「キヴォトスの正常化の為、無理矢理でもあなた達の力が必要です。行きましょう」

 

「はぁ……!?答えになってないわ!だからどこに行くつもり!?」

 

「あら、お話の流れで嫌でも理解出来たとお思いになっていたのですが。そんなの決まっていますーーー」

 

何を今更と、呆れを孕んだ声音の彼女はこう続ける。

 

「ーーーシャーレです」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

シャーレ付近の地域へやってきた……と言うより半ば強制的に放り込まれた五人は呆然としながら、秩序もクソもへったくれも無い、目の前に広がる惨憺たる地獄に呆然としていた。

 

「な!何これ!?」

 

「想定はしてたけども……これ、なかなかや……っば!!」

 

傍へ撃ち込まれた砲弾を咄嗟に避けるために、近くのコンクリートの壁へ逃げ込む元太。なんだかんだあの地獄のような日々、そしてベイルとの因縁の決着に至るまでに鍛えられて来た危機管理能力が何気に役に立った瞬間でもあった。

 

元太は遮蔽物に身を隠しながら、ちらりと視線を移す。どうやら、今のは無差別砲撃らしい。誰彼構わず巻き込むつもりだったのか。だが、隠れた途端に砲撃も銃声もパタリと止んだ。

 

「先生、大丈夫ですか!?……あれ?攻撃が止まった…?」

 

「おそらく、私たちの姿を見失ったから不良たちも攻撃のしようがないのでしょう」

 

と、チナツが冷静に意見を述べる。

 

「よ、よし!なら先生!このまま戦闘を避けーーー「それは無理だね」ーーーへ?」

 

ーーー喜色に満ちた声音のユウカは、そうバッサリと切り捨てた元太が指指す方向へ目を向け、凍りつく。

 

「は……!?囲まれてる!?ウソでしょ!?」

 

そう、道を塞ぐかのように別方向からも不良たちがやってきていたのだ。

 

「どこをどう行こうと、もう戦闘は避けられない。敵さんが最初から挟み撃ちにする気だったのかは知らないけどね」

 

「ーーー分かりました。ですが、先生はなるべく下がっていた方がいいかと思います。このまま戦闘になれば、銃火にその命までも晒される。皆さん、最優先事項は先生の安全、部室の奪還はその次です」

 

「ハスミさんのおっしゃる通りです。先生はキヴォトスでは無い場所からいらした方ですので……。私たちにとってはかすり傷でも、先生にとっては弾丸一発でも命の危険になります。その点にご注意を!」

 

「分かってるわ!先生、先生は戦場に出ないで下さい!私たちが戦ってる間は、安全な場所に……「その事なんだけど……指揮くらいはさせて貰えないかな?」……へ?」

 

元太は、自分でも何を宣ってるんだと感じた。だが、そんな意思に反し、口からはつらつらと言葉が出てくる。

 

「勿論、君たちの足手まといにはならないように安全な場所から、後方支援ってことで。……どう?」

 

もし、もしあの記憶が正しいのであれば、『彼』と同じことが出来るハズだ。幾度となく、死線を潜り抜け、研ぎ澄まされたキヴォトス最強の戦術指揮官たる『彼』と同じことが。

 

「……了解、これより先生の指示に従います」

 

「はい。生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」

 

「あはは……まぁお手柔らかに頼むね……」

 

「……もー!考えるのはやめ!じゃあ行ってみましょうか!」

 

 

 

 

「ーーーあぁ。想定状況『B-44459657』。戦闘準備開始。スズミちゃん。遮蔽物を用い、高所へ移動」

 

「へ?高所へ……?わ、分かりました」

 

瞬間。彼の声音はまるで無機質で抑揚のない色へと変わった。まるで、合理的に取捨選択する戦闘機械のように。

四人は豹変した目の前の先生に、動揺を隠せないが、意識を切り替えて眼前の敵へ視界を移し、交戦準備を整える。

 

ーーー極限環境下においてのまさかの初戦闘。

 

だが、この戦場にトリアージ・タグは必要ない。ならば、自ずと目の前の不良たち(てき)に対する手加減はーーー不要である。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

シャーレ前を占拠する十数人の不良たちは、辺りを哨戒し、異常がないか見て回っていた。

 

「……此方ズールー2、異常なし」

 

『此方ズールー・リーダー、了解。持ち場へ戻れ』

 

「了解」

 

ブラックマーケットで売られてた安物の無線機で報告し終えた一人の不良は、放棄された車輌の近くで休むことにした。

  

「…………ふぅ。にしても、大袈裟過ぎねぇか?風紀委員やら正義実現委員会が出しゃばるワケでもねぇのに……。いや、噂の見たこともねぇ装備の黒ずくめの部隊が出てきたらさすがに終わるか」

 

ーーーと、独りごちたその時。

 

 

カランカランーーー

 

「ーーーん?なんのお

 

 

 

 

バゴォォォオォォン!!!

 

 

 

 

ギャアアアアアアア!!!!!????」

 

 

突如として響いた轟音の直後、黒煙を巻き上げながら爆発した車輌。その衝撃に吹っ飛ばされた不良はごろごろとゴムボールのように転がり回った。

 

「!?大丈夫か!?」

 

「敵か!?何処だ!?何処にいーーー

 

 

 

ドゴォオオオオォン!!!

 

 

 

オ゛オ゛オ゛ァ゛!!!???」

 

異状を確認し、駆け寄ってきた幾人もの不良たちも次々と爆発に巻き込まれ為す術なく地に伏していく。

 

「……フェーズ1」

 

フェーズ1ーーースズミの閃光手榴弾(フラッシュバン)を廃棄車輌付近へ投擲し爆破。これにより遮蔽物を構成。及び、敵勢力の分断を謀る。

 

最初にして最後の難点であったが、ここさえ突破すれば後は此方のワンサイドゲームだ。

 

元太は混乱に陥る不良たち(てき)を高所から俯瞰しつつ、事前にリンに手渡されていたインカムをオンにし、次の指示を出す。

 

「……フェーズ2」

 

本来はヘリからの降下用に用いるファストロープ。それをビルの屋上に固定した簡易強襲装備でチナツ以外の三人は降下。不良たちの後ろへ回り込み拘束。

 

「がっ゛、あ゛っ゛!?は、離せーーーーー」

 

「チィッ!クソが!三人程度であたしらに勝てると思ってんのかァァァァ!!!」

  

ぐったりとし、身につけていた銃をガチャリと落とした不良を遮蔽物にし、真っ向から突撃してくる不良たちに向けてユウカはSMGを向け、スズミは先程も用いた閃光手榴弾(フラッシュバン)を投擲する。

 

「ぶべぇ!?」「おごァ!?」

 

マトモな断末魔も上げずに地へ伏す数人の不良たち。

 

「て、てめぇらぁ!なに盾にしやがっーー」

 

そして間髪入れずにハスミのインペイルメントが耳を劈くような金属音を周囲にブチ撒け、モロに直撃した不良は絶叫を挙げる暇もなく痙攣しながら倒れた。

 

「ワンターゲットダウン、援護射撃を継続します」

 

『了解。チナツちゃん、降下準備。適時回復剤を投与』

 

「分かりました!」

 

「よし……フェーズ3」

 

バラバラに分断された状態でじわじわと戦力を削られていく不良たち。残るは数人と指揮官だけ。それを見た元太は最後の指示を出す。

 

『ハスミちゃん、次弾準備。目標(ターゲット)は不良たちの銃』

 

「はい」

 

もはや痩せ細った猫のような心許ない攻撃しか出来ない不良たちはそれでも必死に銃弾をばら撒く。

 

「クソォッ!!くるな、くるな来るなくるなぁァァァァァァ!!!!」

 

最後のくいしばりとでも言うべきか、ユウカ達もなかなか前方へ進めず、遮蔽物へ身を隠すしかない。

 

だが、そんな無意味な抵抗もすぐに止んだ。

 

「はぁ、はぁ……クソッ!こんなの聞いてーー」

 

見事目標に命中したハスミの弾丸は、不良たちの銃を暴発。

 

「むごぉ!?」「いだいいだいいだい!!!いだだだだだだだ!!!!」「て、テメェらァ!銃狙うのはひきょーーーいだ、いだぁ!!??」

 

そこかしこに無造作にばら撒かれる弾丸のあまりの痛さにのたうち回り、隊長格の不良も間抜けな姿を晒しながらパタリと電池が切れたオモチャのようにたおれた。

 

その様子を見届けた元太は一息つくと同時にインカムをオンにし、労いの言葉をかける。

 

『作戦終了。ーーみんな、お疲れ様』

 

ふと、彼は額どころか全身にベタりと滲んでいた脂汗に気づいた。やはり、頭では理解できていても、身体は正直だったらしい。

なにしろ、自分にとっては初めての指揮だったからだ。というか元いたあっちでは、戦闘はそれこそ飽きるほどやってきたが指揮なんて無理な話であった。やはり、(先生)の記憶を捩じ込まれた影響なのだろうか、自然と指揮を取る事が出来た。

 

(……いや、どうにか完勝したのはいいけど脂汗ヤバッ。すごいベタベタしてんなこれ……)

 

そんな元太の心境なぞつゆ知らず、四人の生徒は彼が待機する場所までやってきてじっと彼を見つめ、各々が口を開く。

 

「先生、素晴らしかったです。まさか無傷で戦闘を終えられるだなんて……」

 

「……そうよね?私も前に出るタンク()の都合上、多少の被弾は覚悟してましたが……本当にすごい」

 

「え、そ、そうかな?えへへ、それはよかった」

 

生徒達に口々に誉められ、元太自身も意外と満更でもない気分であった。例え中身も身体も三十路のハードルを軽々と飛び越えたおっさんであっても、嬉しいものは嬉しいのだ。

 

 




尚、本人はおっさんだと思ってるものの何故か若返ってる模様。なんでやろね(すっとぼけ)


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プロローグ-03 「starting from Zero」

残存敵勢力の無力化、そして違法改造クルセイダーをスクラップにしたことで、ひとまずシャーレ付近で起こった騒ぎは急速に収束しつつあった。

 

そのタイミングを見計らってなのか、元太の持つ携帯端末が震え、無機質な着信音が流れた。着信元は言わずもがな、別働隊として行動していたリンである。

 

『先生、そして皆さん。シャーレ部室の奪還お疲れ様でした。先生は先にシャーレの地下室へ向かっていてください。私も直ぐに合流します』

 

そう言い終えたリンはブツリ、と通信を切った。通信を終えた元太はポケットに端末をしまい、ここまで協力してくれた四人に向き直り改めて礼を言った。

 

「みんな、ひとまずお疲れ様。俺はまだ最後の一仕事が残ってるみたいだから、シャーレに向かうよ」

 

「はい、お疲れ様でした。先生」

 

「……あ、もし機会があれば是非ミレニアムに来てくださいね!先生!」

 

「お時間があれば、是非ゲヘナにもいらっしゃってくださいね」

 

そう、口々に一時の別れの挨拶を遠ざかっていく元太に告げる四人。それを見届けた元太は満面の笑みで四人に大きく手を振り、シャーレへと向かうのであった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「では……すこーし、失礼しますね」

 

ーーーシャーレの地下室。騒ぎの渦中に乗じて狐坂(こさか)ワカモは備品などでごちゃついた部屋を抜き足で進み、真ん中のテーブルに無造作に置かれたタブレットらしき端末を手に取り、いじくり回していた。

 

「あら?これは……んん?うんともすんとも言いませんねぇ……」

 

いじくり回してみたのはいいが、電源らしき背面のボタンを押しても液晶に画面が映る気配は全くと言っていい程にない。これじゃただのガラクタなのではないか?ワカモはそう思い始めていた。

 

「これが何なのかも分かりませんし壊そうにも……」

 

そう。実際問題このタブレットもどきが何なのかすら、彼女は分からない。

 

と、慣れぬ機械に彼女が珍しく四苦八苦してたその時ーーー

 

 

ーーーガチャン、と地下室のドアが開く音がした。

 

「……あら?」

 

「ん?んー……こんにちは!君は、どこの生徒かな?」

 

入ってきたのは、この学園都市(キヴォトス)では珍しい長身の男性であった。おそらく、この背なら俗に言う大人だろう。だが、彼は自分たち(生徒)とは違い、銃も何も持っていなかった。そう、あまりに無防備な丸腰であった。

 

普段のワカモであるなら、その手に持つ銃剣を向け、数秒も掛からずに物言わぬ肉塊にしていただろう。だが、今の彼女は違っていた。

 

まるで、時が止まったかのような、あまりの衝撃に言葉すら出ずに絶句しているようなものであった。

 

「あら、あら……、ら?」

ーーーそう。彼女はこの瞬間、初めて内から湧き上がった業火のような恋心に心を焼き焦がされていた。

そう、なにしろ初めてだったからだ。

あんなに優しい顔で、声音で、こんなにも魅力的な異性に、笑顔を向けられることが。

 

「し、しししし……」

 

 

 

「失礼いたしましたー!!!!」

 

「……?」

 

ワカモは紅潮し、だらしなく熔けた頬を必死にお面で隠し、脱兎の如く地下室から抜け出したのであった。ちなみにその様子を、元太は狐につままれたような顔で見送った。

 

「失礼します。……?どうかされましたか?」

 

入ってきたリンに問われるも彼は適当にはぐらかす事にした。

 

「いや…大丈夫」

 

大丈夫などと表面上では言ってるが、本音としては台風のような出来事だったので何が何だかさっぱりなのだが。

 

「そうですか。……あらためて、ここに連邦生徒会長が残したものが保管されています」

 

「……幸い、傷一つなく無事ですね。それに、()()も無事なようで何よりです」

 

そう言い、リンは暗く静まり返ったオフィスの机に置かれていたタブレット端末、そしてさらに()()()()()()()()()()()()()()()()()()を手渡した。

 

「……受け取ってください」

 

「これは……そうか。でも、このケースは……」

 

元太は受け取ったタブレットを傍のテーブルに置いてから、中身が不明瞭のジュラルミンケースを同じように置き、中身を確認する事にした。

 

「ん?……!?な、はぁ!?」

 

中に入っていたのはーーー

 

 

ーーー赤やオレンジと言った暖色を基調にしながらも、背面の青等といった寒色を基調にした装置が付けられている、アンバランスな異形のベルト。

 

そう、自身の変身アイテム『デストリームドライバー』であった。

 

「なんで、これが……」

 

「先生。その事なんですが明朝、シャーレのオフィスに来た際に『シッテムの箱』の隣に無造作に置かれてまして……。幸い、危険物では無いものの、それが一体なんの装置なのか我々には見当もつかず……」

 

リンはそう言い、気難しい思案顔になる。それを見た元太はとにかく都合の良さそうなでっちあげを数秒で構築させ、即興で話し出した。

 

「あ、あー……、これなんだけどさ、俺の私物なんだ!うん!いや、それでも……なんでここにあるかは分からないけどね……とにかく、俺の私物!うん!」

 

勿論(一部を除いて)嘘である。だが、時には嘘も方便だ。小狡いやり方ではあるが仕方ない。

 

「……」

 

それを聴いていたリンは一瞬眉を顰めるものの、まぁいいだろうと黙認した。この間、僅か0.5秒である。

 

「……先生の私物なら深くは触れません。まぁとにかく、そのみょうちきりんな装置はおいといてーーー本題に入りましょうか。先生、テーブルに置いてある『シッテムの箱』をお持ちになってください」

 

「(え?みょうちきりん?これ、みょうちきりんって言った?ちょっと?)」と言いかけそうになった元太はすんでのところで抑え、取り敢えずリンの言われた通りにする事にした。

 

「その『シッテムの箱』、見かけ自体は普通のタブレットなのですが、実は正体の分からない物です。製造会社、OS、システム構造、動く仕組み。全てがブラックボックスに包まれています」

 

それもそう。エンジニア部(マイスターたち)ですら匙を投げざるを得ず、ヴェリタスの元部長ーーーヒマリのハッキング能力をもってしても、ロックすら解除できない。そして、そのヒマリすらも凌駕するキヴォトス全土すらも覆うことの出来る大規模なハッキング能力。

 

キヴォトスでは技術の最先端を往くミレニアムのプロフェッショナル達でもマトモに太刀打ち出来ないレベルのオーバーテクノロジーがふんだんに使われてる、まさにオーパーツ紛いのシロモノである。

 

「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、これを先生が使えばサンクトゥムタワーの制御権を回復させられるハズだと仰っていました」

 

ーーーこれは俗に言う丸投げなのでは?ボブ、もとい元太は訝しんだ。いや、ここまでは脳みそに無理矢理捩じ込まれているあやふやな記憶と大体一致するので予想はできていたが。

 

「私たちでは起動すら困難な代物ですが、おそらく先生ならこれを起動させられるのでしょう。兎に角、先生に全てが懸かっています。……私は邪魔にならないように離れていますね」

 

(……)

 

タブレットに触れ、液晶に映し出されるのは、記憶にあったログイン画面。

ーーーここから先は朧気で霞がかかっている記憶ではあるが、きっとこれにパスワードを打ち込んだら、きっと自分は凄絶な戦いに身を投じなければいけないのだろう。

 

だが、彼にとってそんなものはとっくに慣れ親しんだものだ。

人の醜さも、優しさも、酸いも甘いも、なにもかも啜りながらただひたすらに我武者羅に生きてきた。だから、せめて良き大人として、紛い物の先生だとしても、彼には何も勝てなくとも、せめて、子供(生徒)たちの夢だけは、死んでも守りきってやる。

 

……我々は望む、七つの嘆きを。

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

そんな思いを抱きながら、元太はパスワードを打ち込む。……後になり、歳に似合わずクサいなこれはと、思わず少し苦笑が零れてしまったが。

 

接続パスワード、承認。

『シッテムの箱』へようこそ、五十嵐元太先生。

生体認証及び認証書作成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

 

ーーーー瞬間、元太の視界が暗転し意識が途切れた。

 

 




今回は短めです、クルセイダー戦かこうかとおもったんですが、泣く泣くカットしました…すいません許してください!何でもしますから!!後、いつもいつもお待たせしてしまってて申し訳ない…。

あと、プロローグ3話で終わらすなどとほざいてましたが、4話構成になってしまいました(無計画)

許し亭許して……。


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プロローグ-04 「urahoA」

どこまでも透き通る空、乱雑に散らかった机、足元に広がるコバルトブルーの水溜まり、そして吹き飛んだ壁から差し込む暖かな日差し。

漂う空気も、都会のあまり上質とは言えないモノとは違いとても清涼感がある。

 

眼科に広がる、信じられないような光景。例えるなら御伽噺の一ページを切り取ったかのような空間の中にてーーーー後ろ側の席に顔を突っ伏し、眠る少女が見えた。

 

「…………」

 

元太は無言でゆっくりと近づき、彼女の青空のような髪を一撫でし、白磁のようなまっさらな肌をふにふにと触った。

自他ともに認める程に馬鹿みたいなダメンズではあるが、腐っても三兄妹の父親だ。母性というか、父性というか、そんなものをこの少女に抱いていた。

 

「んっ、んんんっ………むにゃむにゃ……」

 

つつき回すと、(何故か)ノイズ混じりではあるが寝言を呟いている。

 

「う、うぅぅんっ……むにゃ……んもう……ありゃ?」

 

どうやら、ようやく少女は気づいたらしい。時間という概念から切り離されてるこの空間で言えることでは無いが、遅めのおはようである。

 

「やっ、おはよ。よく寝てたね」

 

「?あれ?あれ、れ

 

 

 

……も、ももももも、もしかして……この空間に入ってきたってことは……ま、ま、まさか先生……!?」

 

表情と頭上のヘイローをぐるぐる変えながら、少女は辛うじて言葉を絞り出した。

 

「へ…?あ、うわああ!もうこんな時間!?」

 

(時計なぞこの教室モドキにはないが何故か)ようやく真昼間だということに気付いたのであろう少女はあたふたとしながら頭を抱え、その場をぐるぐると回り始めた。

 

「ちょいちょい、落ち着いて、落ち着いて!とりあえず、まずは君の名前教えてくれないかな?」

 

元太は慌てふためく少女を落ち着かせ、まずは自己紹介をするよう誘導させることにした。

 

「……はっ!そ、そうですね!分かりました!

ーーーー改めて、私はアロナ!この『シッテムの箱』に常駐するシステム管理者であり、メインOS。そしてこの先、先生をサポートする秘書でもあります!本当に、やっと会うことができました!私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

()()()ーーー彼女は確かにそう言った。ということは必然的にアロナはこの世界にたった一人で居続け、先生を待っていたという意味になるだろう。

来るかすらも分からない相手をただひたすらに待ち続ける。それも誰もおらず、何も無い、どこまでも青く透き通ったこの教室(牢獄)に。

 

それは一体、どれほどの苦痛であったのか。……ただ、元太が来るまで彼女はぐっすりと夢の世界へ旅立っていた。なので、意外と快適に過ごせていたのかもしれない。

まぁ、部外者である彼があれこれ考えたところでどうにもならない。真実は本人のみが知るであろう。

 

「……うん、分かった。それじゃあよろしくね、アロナ!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

アロナは手を上にあげ、鼓舞するかのようなポーズを取った。擬音を付けるなら「えいえいおー」とでも付きそうである。

 

「……そうだ!まずは形式的なものになるのですが、生体認証をお願いします!」

 

「……え?触れ合うの?生体ってことは」

 

「あー……確かに少し恥ずかしいかもしれませんが、手続きだから仕方ないんです。こちらの方に来てください」

 

元太はそういうアロナに「うーん…」と苦笑を浮かべながら彼女に近付いた。

 

「えーっと、もうちょっと……」

 

「あ、遠かった?ごめんごめん」

 

するとアロナは元太の前で右の人差し指を上げた。なんだがここに指を重ねればあっという間に某SF映画の名シーンが完成しそうである。

 

「さぁ、この指に先生の指を当ててください。……ふふっ、まるで指切りしてるみたいでしょう?それで指に残った指紋を目視で確認するのですがすぐに終わります!こう見えて目はいいので!」

 

と、自信満々に(無い)胸を張るアロナ。大丈夫だろうか、お約束ではそういうとだいたい失敗するのか定石だが。さっきの居眠りと言い、ポンコツ臭がするなとボブ(元太)は訝しんだ。

  

「どれどれ…………」

 

……。

 

「うう……」

 

…………。

 

(うーん……あんまよく見えないかも。でもまあ……これでいいですかね?)

 

凡そ秘書と言うにはあまりに適当すぎる思考である、それでいいのかシステム管理者。

というかAIの癖して妙に人間臭い。中にめんどくさがり屋のおっさんでもインストールされてるのだろうか。

 

「はい!確認終わりました♪」

 

「……おっ、ありがとね」

 

ちょっと腑には落ちないものの、これくらい別にいいかとスルースキルを発揮し、元太はアロナから指を離した。

 

「ーーーさて、では先生。まずは其方の事情というか、外で何が起きてるのかを話してもらってもいいでしょうか?」

 

茶番は終わり、ようやくここから本題に入る。やっとこさ、情報交換の時間だ。

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「……なるほど、先生の事情はだいたい分かりました。

連邦生徒会長が行方不明、そのせいでタワーを御する手段がなくなった……」

 

ある程度話し終えると、アロナは頬に手を当て思案を巡らせる。

 

「所でさ……その連邦生徒会長って誰なの?」

 

元太は一番疑問に感じていたことを投げかけた。それはなぜか、キヴォトスを知り尽くした目の前の少女なら、何か知っているかもしれないという希望的観測である。

ーーー後、なぜか夢の中で垣間見た連邦生徒会長(らしき人物)に目の前のアロナがなぜか似ているというのもある。

 

「うーん……私はキヴォトスについては数多くの知識を持ち合わせていますが、連邦生徒会長については殆ど知りません。彼女が何者なのかさえ……」

 

「分からない……か」

 

やはり、彼女でさえ何も知らないらしい。ここまで情報がないとは予想出来なかった。とにかく、彼女に関しては少しずつ調べていけばいいかと割り切り、まずは目の前の問題をどうにかせねばと思ったがーーー

 

「はい……お役に立てずすみません。……ですが、サンクトゥムタワーの問題は解決できそうです!」

 

ーーーどうやら目の前の彼女が解決の一手を担ってくれるらしい。これは頼もしい限りだ。彼の中に芽生えてたポンコツお嬢ちゃんという称号が、少しはマシになった瞬間であった。

 

「じゃあお願いするね。アロナ」

 

「はい!分かりました!それではサンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!少々お待ちください!」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「……サンクトゥムタワーのadmin権限の取得完了。先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事取得できました。今、タワーは私アロナの統制下にあります。

今のキヴォトスは先生の支配下にあるも同然です!先生が指示さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管出来ますが……大丈夫ですか?連邦生徒会に渡しても……」

 

(え!?はやっ!二分も経ってなくない!?)と声を荒らげて元太は言いかけそうになった。想定よりも速すぎる。

そして目の前の少女、とんでもない提案をしてきた。この学園都市の支配者になれる片道切符をさも当然のように渡してきた。

 

もちろんただの一般市民である元太はあまりそういうのは要らない。そんな力持ってようが自分じゃ宝の持ち腐れである。 

 

「……多分現状これが一番安全な選択だからね。うん、承認で」

 

元太は今の所一番信用出来るであろう連邦生徒会に全てを委ねることにした。

 

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!……では、先生。お疲れ様でした。一旦ここでお別れですね」

 

「へ?どういうこーーー」

 

 

 

 

ーーー瞬間、元太の意識はブツリと途切れた。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ーーーーへ?こ、こは……?」

 

ぱちくり、と元太が目を開けるとそこは明かりの灯ったシャーレの地下室であった。

 

「……はい。分かりました」

 

「サンクトゥムタワーの制御権の確保を確に「うわぁ!?」……先生?」

 

「あ、君か……。ごめんごめん……」

 

元太は突然入ってきたリンに驚き、飛び上がってしまった。

 

「……?とにかく先生、改めて。これからは連邦生徒会長がいた頃のように行政管理を進められます。本当にお疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝します」

 

「……あ!そういえばここを襲った生徒たちって……」

 

「それならご心配なく。停学中の生徒たちについは、警察学校(ヴァルキューレ)の公安局と連携し、追跡して討伐いたしますので」

 

「そっ……そっか」

 

元太は内心で驚いていた。学生による警察組織もあるとは。

いや、無ければこの世の終わりのような治安のキヴォトスで犯罪を取り締まる事は出来ないだろうから当然と言えば当然なのだろうが。

 

「それでは『シッテムの箱』は渡しましたし、私の役目は終わったよう……いえ、最後に一つだけ」

 

 

「ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』を紹介します」

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

リンに連れられ、辿り着いたのは『近々始業予定』と扉の前に雑に貼られた貼り紙が目立つオフィスであった。

 

「ここがシャーレのメインロビーです。……長い間伽藍堂でしたが、ようやく主人を迎えることが出来ましたね」

 

リンはそう言い、ガチャリと扉を開け、それに元太も続く。

 

「そして、ここがシャーレの部室です」

 

「……おお」

 

目の前に広がるのは様々な備品が置かれ、棚には銃や様々な小物がしっちゃかめっちゃかに置かれた広々としたオフィスのような一室。

 

「ここで先生のお仕事を始めるといいでしょう」

 

「仕事……ね。具体的に何をすればいいのかな?」

 

そう。先生としてここに放り込まれたのはいいとして何をすべきなのか。

 

「……シャーレは、権限だけはありますがこれといって目標がないので特に何をやらなければならない……といった強制力はありません」

 

「キヴォトスのどんな学園のどんな自治区にも出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入することも可能です。……捜査部とは呼ばれていますが、その部分に関しては会長もこれといって触れていませんでした」

 

「……本人に聞きたくとも、行方不明のまま」

 

「……だよ、ね」

 

「私たちは彼女の捜索に全力を尽くす為、キヴォトスで起こる問題に対応できるほどの余力がありません」

 

「リアルタイムで送られる連邦生徒会へのクレーム・苦情、部への支援要請、落第生の補習授業などなど……。」

 

「もしかしたら、時間の有り余ってる『シャーレ』なら解決出来るかもしれませんね。一応、書類はデスクに置いてありますので、時間があれば目を通してみてください。全ては先生の自由ですので」

 

(……先が……先が思いやられる……。でもまぁ、頑張るしかないか……)

 

「それではごゆっくり。必要な時にはまたご連絡いたします」

 

バタン

 

 

ーーーそう言い、リンは退室した。

 

「………………」

 

それを見届けた元太は、ジュラルミンケースからデストリームドライバーを取りだし、これからどうすべきか物思いに耽った。

 

「…………あー!とにかく仕事だ仕事!いつまでも湿気た気分でいても気持ち悪いだけだしな!」

 

何故ベルトがあるのか、何故キヴォトスにいるのか。疑問は尽きないがとにかく今は前を向いて自分の出来る事をするしかない。そう吹っ切れた元太は早速デスクに置いた『シッテムの箱』を起動させようと思ったーーーその時。

 

「……え?」

 

彼は、自身の体に起きていた異変にようやく、気づいたのであった。

 

「な、ぇ、は……………

 

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!??????

 

目の前のタブレットの液晶に反射する自身の顔は、見違えるほどに()()()()()()。そう、それもこの顔、よりにもよって白波純平時代ーーー幸美と出会った二十五年前(当時)の顔だ。

 

端的に言って意味がわからない。何故こうなっているのか、訳が分からない。何度もぺちぺちと自身の頬に触れても、それは嘗ての自分の顔そのものである。

 

「は、はは……。う、ウッソだろオイ……もう、何が一体…どうして……ワケわかんねぇよこんなん……」

 

ぐらりと、椅子に倒れ込んだ元太(純平ボディ)。もう、頭の処理が追いついておらず、出来るものなら寝落ちを決め込みたいものだがとにかく、まずはデスクに置かれたシッテムの箱を起動させるだけでもしよう、そうしよう、無謀な現実逃避のために。

 

『……んん?あ!』

 

タブレットに映るのは先程不可思議な空間で出会った可愛らしい秘書、アロナ。

 

『……あはは。なんだかとても慌ただしい感じでしたが……ある程度落ち着いたようですね。改めてお疲れ様で…………って、えぇ!?先生!だ、だだだだ大丈夫ですか!?』

 

数分ぶりにこちらの顔を見たアロナは、先程までの優男フェイスが消し飛び、亡者の如くげっそりとした彼の顔に驚愕と恐怖心を抑えきれなかった。一体、自分(アロナ)がいない間に何があったというのか。

 

「あは、ハハハ……。キニシナイデ……うん、頼むから。まぁ、俺のことはどうでもいいとしてそれより、アロナもお疲れ様」

 

『……え、あ、はい。ほ、ほんとに大丈夫なのかな……?でも、本当に大変なのはこれからですよ?これから先生と共にキヴォトスの生徒たちが抱える様々な問題をビシバシと解決していくのです……!』

 

『単純なようで決して簡単ではない……とっても重要なことです』

 

アロナは目をキラキラとさせながらそう言った。まさか小市民である自分が学園都市で先生になるとは予想だにしてなかった。気が重いが、子供たちの夢を守るライダーとして、成すべきことを成すだけだ。

 

『それではキヴォトスを、シャーレをよろしくお願いします、先生!』

 

「うん。こちらこそよろしくね!アロナ!」

 

倒れそうな体を叱咤しながら、元太はどうにかアロナに元気よく声を返した。

 

『はい!では、これより連邦捜査部『シャーレ』とし最初の公式任務を始めましょう!』

 

 




これにて長かったプロローグも終わり!閉廷!

ようやくほんへに入ります。長く待たせてしまい、申し訳ない……。


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対策委員会編
第1話 Aでの初日/出会いは突然に


投稿遅れて申し訳ない……。今回大変だったのだ。


 

 

 

『おはようございます、先生!』

 

「お!おはよう、アロナ」

 

キヴォトスに来て数日、元太は我武者羅にデスクに山積みにされていた書類を処理したり、シャーレのオフィスを掃除したりなどして過ごしていた。ひとまず昨日、デスクに置かれていた書類は片付けたので、今はすこし暇を持て余していた。そんな彼に、アロナから思いがけない朗報が入った。

 

『ここ数日間、SNSなどでシャーレに関する噂も広まって、助けを求める生徒たちからの手紙も届いています。これはいい兆候です!ズバリ私たちの活躍が始まるということですから!』

 

 

『ですがその中に……ちょっと不穏な、こんな手紙がありまして……。これは先生に一度読んでもらった方がいいかなと』

 

「どれどれ……」

 

元太は届いていた手紙の中で『アビドス対策委員会』と描かれたのを手に取り、読み始めた。

 

 


連邦生徒会の先生へ

 

こんにちは、私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。

 

今回どうしても先生にお願いしたいことがあり、こうしてお手紙を書きました。

単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。

 

それも、地域の暴力組織によってです。


 

「…………」

 

元太は手紙を捲り、2枚目を読んだ。

 


こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが……。

 

どうやら私たちの学校の校舎が狙われてるようです。

 

今はどうにか食い止めているのですが、

 

そろそろ弾薬などの補給が底をついてしまいます……。

 

このままでは、組織に学校を占拠されてしまいそうな状況です。


 

「…………………………………………」

 

元太はさらに捲り、3枚目を読んだ。

 


それで、今回お願いできればと思いました。

 

先生、どうか私たちの力になって頂けませんか?


 

『アビドス高校……。昔はとても大きい自治区でしたが、砂漠化や砂嵐などの気候変動により街が苦境に立たされていると聞きました。どれくらいの大きさかと言うと、街のど真ん中で遭難する程……らしいのですが、あはは……さすがにそんなこと有り得るんでしょうか、ど真ん中で遭難だなんて……』

 

『それはさておき。一体何があったんでしょう……。学校が暴力組織に襲げ「アロナ」……んぇ?』

 

ここ(シャーレ)の地下駐車場に、バイクが停めてあったよね?」

 

『は、はい……。たしか、先生がシャーレの建物内を周っていた時に見つけた物でしたよね?』

 

そのバイクは、ジョージ・狩崎から贈与された仮面ライダーデストリームの専用マシン『マシンデストリーマー』だ。流石に駐車場にポツンと置かれてた時は仰天したらしい、とても都合が良すぎて。

 

「あれで、アビドスに出張する。今すぐにね」

 

『お!出張ですか!ならば私も……って、今すぐ!?』

 

「善は急げ、って言うだろ?一刻も早く、アビドスの子達を助けてやりたい」

 

『分かりました!それでは早速出発しましょう!』

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「…………来たのはいいけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処だココォォォォォォォォ!?」

 

マシンデストリーマーを疾駆させ、辿り着いたアビドス自治区でマシンをスタンプモードにして収納し、徒歩で歩き始めた元太……であったが、彼は絶賛ピンチであった。

 

アロナが零してた街のど真ん中で遭難状態の状況に、彼自身がなっていたのである。因みに思いっきり道端にぶっ倒れてる。

 

 

(あれ?何時間彷徨ったんだ俺……?)

 

およそ19時間である。その間水も飲めていない。

 

(いや……嫌だって!?ここに来て死因が餓死とか!せめて寿命で死なせてくれよ!せっかく若返ったのに……なんか、こう……損しかないってそんな死に方……。いや、でもこのままだと本当に餓死しちまうって……)

 

 

 

(ホントに……どうしよう……)

 

色々と憐れで見ていられない絵面である。

ーーーと、そんな時であった。

 

 

チリリリンーーー

 

「……ん?」

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「「……………………」」

 

 

ロードバイクに跨り汗を垂らしている少女ーーー砂狼シロコが、ぶっ倒れてる元太を覗き込んでいた。

 

「……大丈夫?」

 

(こくこく)

 

元太は首が千切れるレベルで必死に頷いた。それは傍から見たら大の大人が自分より体の小さい生徒に助けを求めるひどく憐れな絵面である。多分ここに彼の子供たちが居たら三人中三人はドン引きするだろう。

 

「なにか……めぐんでくだされ……」

 

「……ホームレス?」

 

「へ?

 

 

いやいや違う違う違う違う!そんなんじゃないの!遭難してて、しかも飲食店も何も無いから死にそうだったの!!ホームレスじゃないから!!」

 

あらぬ誤解をされてしまった元太は、死に物狂いで上半身を起き上がらせ必死に弁明した。

 

「あー……ただの遭難者だったんだね。ここは元々そういう所だから。飲食店なんてとっくになくなってるよ。こっちじゃなくて、もっと郊外なら住宅街があるけどね」

 

(……確か街が苦境に、か。アロナの言ってた事はあながち間違ってなかったんだな…)

 

「……実は、土地勘がなくてね。そのせいで遭難しちゃってたんだ。ハハ……ダサいだろ?」

 

「……なるほど。ここに来るのは初めてなんだね」

 

「……ちょっと待って」

 

そう言うと彼女は、鞄を漁ってその中から水筒を取り、元太に差し出した。

 

「はい、これ。エナジードリンク。ライディング用なんだけど……今はそれくらいしか持ってなくて。プロテインバーよりは心許ないけど、少しはお腹の足しになると思う。えっと……コップは……」

 

元太は水筒を受け取り、思いっきり()()()()()()()エナジードリンクを乱暴に流し込んだ。

 

「んぐっ、んぐっ。ぁ゛あ゛、生き返った……」

 

「…………」

 

「ふぅ……いやー、ありがとね!……って、どうしたの?………………………………あ゛」

 

元太は赤面してるシロコに疑問を感じた。

が、直ぐその理由に辿り着いた。

 

 

 

 

「……ゴメン!ほんっとにゴメン!!(ヤバイヤバイヤバイヤバイやっちまった死にたい寧ろ誰か殺してェェ!!)」

 

「……ん、大丈夫。気にしないで」

 

(……ん?大丈夫!?大丈夫なの!?)

 

元太は心配になった。この子、将来変な男に引っ掛からないのかと。……いや、引っ掛かったとしてもキヴォトスの住民だから何とかなりそうな気がしなくもないが。

 

「「…………」」

 

(……気まずい。空気が気まずい)

 

「……見た感じ、連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど、お疲れ様。もしかして学校になにか用?」

 

「この近くだと、うちの学校しかないけど……もしかして……『アビドス』に行くの?」

 

「そうだね。アビドスに用があって出張して来たんだけどそれで遭難しちゃって……」

 

「……そっか。なら久しぶりのお客様だ。なら私が案内してあげる、すぐそこだから」

 

「あー……実は交通手段(バイク)はあるにはあるんだけどねぇ……。如何せん体が全然動けなくて……」

 

元太は苦笑いしながら顔を搔いた。不甲斐ないが事実なのだ。一応、辛うじて上半身は起き上がってるが。

 

「……なら、私のロードバイクに乗って。大丈夫、大人一人くらいならおんぶして漕げるから」

 

「へ?今なんt「よいしょっ……と」おぶっ!?は?え!?待って、待って!!」

 

「それじゃあ……しっかり捕まってて」

 

「は?ちょっと!?ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇええええーーーーーーーーー!!!!」

 

 

「ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 

ーーーその日。閑静なアビドスの住宅街に一人の成人男性の悲鳴が響き渡った。……何があったかは個人個人の想像にお任せしよう。

因みにこれは蛇足だが、後に元太は『三途の川の向こうで父さん母さんが思いっきり‪✕‬作ってました。こっちに来ちゃダメだ的なニュアンスで』と語った。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「ただいま」

 

部室の扉をガラガラと扉を開け、シロコは一足早く学校に来ていた面々に挨拶をした。

 

一回り大きい成人男性をおんぶしながら。

 

「おかえ……って、シロコ先輩!?そのおんぶしてるの誰!?」

 

「わぁ☆シロコちゃんが大人を拉致してきました!」

 

「ら、拉致!?もしかして死体!?遂に……先輩が犯罪に手を!?」

 

「みんな落ち着いて!先ずは死体を埋めるわよ!確か体育倉庫にシャベルとツルハシが……」

 

「んぁ…………へ?ちょ、ちょっと待って!?俺生きてるから!大丈夫だかーー」 

 

とさっ

 

「ぐべっ」 

 

優しく地べたに降ろされた元太は潰れたカエルの様な声をあげた。

 

「いや……普通に生きてる大人だから。うちの学校(アビドス)に用があるんだって」

 

と、シロコが補足する。

 

「えっ?死体じゃ、なかったんですか?」

 

「それじゃあ……お客さん?」

 

「ん。そうみたい」

 

「だから死体じゃ無いってば……。まぁとにかく、こんにちは!」

 

元太は初対面の子達に死体扱いされるという待遇に傷つくも、空回りするかのような元気な挨拶をした。

 

「わぁ、びっくりしました!お客様がいらっしゃるだなんて、久しぶりですねぇ〜」

 

「そ、そうですけど……今日って来客の予定は無かったような……」

 

「あー……『シャーレ』の顧問の五十嵐元太って言えば分かるかな?」

 

そういった途端、彼女らの顔には驚愕が現れる。

 

「えっ……?えぇ!?」

 

「連邦捜査部『シャーレ』の先生!?」

 

「わあ☆なら支援要請が受理されたのですね!よかったですね、アヤネちゃん!」

 

「はい!これで弾薬や補給品の補助が受けられます!あ、ホシノ先輩にも伝えないと……」

 

「委員長なら隣の教室で寝てるから、起こしてくるね」

 

一先ず安心……とアビドスの面々が思った矢先。

 

 

タタタタタタタッ!!

 

外から銃声が響く。その音に気づいた元太は窓から様子を確認すると、ヘルメットを被り武装した集団が学校を襲撃しに来ていた。

 

「わあ!?武装集団が学校に接近!装備からしてほぼ間違いなくカタカタヘルメット団です!」

 

「あいつら……!!性懲りも無く!」

 

各々が身構える中、先程部室の外へ出て件の「ホシノ先輩」を探してたセリカがドタドタと慌ただしく帰ってきた。おそらく「ホシノ先輩」であろう人物を引きずりながら。

 

「よーし!連れてきたわよ、ホシノ先輩!ほら、起きて!」

 

「むにゃあ……そんなに揺らさなくても〜……。んぁ?そこの爽やかイケメンさんは先生?よろしくぅー、むにゃ」

 

ぐでんぐでんのホシノに業を煮やしたセリカは彼女を揺すりながら呼びかける。

 

「先輩!しっかりして!出動だってば!装備持って!学校守らなきゃ!」

 

「ふぁぁー…………なるほど、ヘルメット団か。これじゃおちおち昼寝もできないねぇー」

 

「先輩、寝起きで悪いけど直ぐに出るよ。先生のおかげで弾薬と補給品は十分」

 

「はーい☆みんなで出撃です!」

 

そう言い四人は銃器を携えながら部室を退室した。

 

「私がオペレーターを担当します。先生はこちらでサポートをお願いします!」

 

「了解!各員、戦闘準備!」

 

 

ーーーアビドスでの初日、元太達が迎え撃つはカタカタヘルメット団。この前は状況が状況だった為に変身したが、今回は仮面ライダーとしてではなく、指揮官として彼は戦う。




《オリジナル設定》

マシンデストリーマー : フェニックスの常用バイク(ホンダ XR250モタード)をベースに、ジョージ・狩崎がスタンプモードに変形する機構を加えた仮面ライダーデストリーム専用マシン。最高時速は400km/h。



Q.なんでパパさん指揮できんの?

A.元々そういう才覚があったのをヒロミさんが勘づき、試しにデモンズトルーパー部隊の指揮を少し担当してもらったらクッソ上手く、それから更に部隊の指揮経験を積むうちに原作先生以上の指揮能力になっちゃってました(捏造なのであしからず)


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第2話 Aでの初日/血路を開け

一ヶ月以上もお待たせさせてしまい申し訳ございませんでした!!!!!!


「チッ……!CP、CP!こちらヘルメット団第一小隊!任務遂行能力喪失(NMC)により一時退避する!オーバー!!」

 

『こちらCP了解!残存部隊を連れ、速やかに撤退せよ。以上(アウト)

 

 

 

 

『ーーーカタカタヘルメット団、作戦展開地域(AO)より撤退中!撃退に成功しました!』

 

「わぁ☆私たち、勝ちましたねぇ〜!」

 

「はっはっは〜!どうよ!思い知ったか!ヘルメット団め!」

 

カタカタヘルメット団を見事撃破し、残党が撤退する様子を見届けたアビドスの面々は自分たちが白星をあげれらたのを素直に喜んでいた。

 

『みんなお疲れ様。とりあえず学校に帰還してくれ』

 

 

 

ーーーーーー

 

 

「いやぁ〜まさか勝っちゃうとはねぇ。ヘルメット団も結構な覚悟で仕掛けてきたみたいだけど」

 

「まさか勝っちゃうだなんて……じゃありませんよ、ホシノ先輩……。負けたら学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか……」

 

欠伸をしながらぼやいたホシノのジョークにセリナは苦笑いをしながらツッこむ。

 

「先生の指揮が良かったね。まるで私たちだけの時とは段違い。これが大人の力……すごい量の資源と装備、それに戦闘の指揮まで……。ほんとに大人ってすごい」

 

それもそうだ。的確に与えられる指示、たとえばどこに隠れるべきか、火力や後方支援のタイミングetc…、一歩間違えば何もかも破綻しかねない程に精緻な指揮でスムーズに動くことが出来、いつもの倍以上の戦果を叩き出せたたのだから。

 

「あははは……まー、ありがとう?」

 

「おぉ、パパがいなくて寂しかったんだねシロコちゃん。これでママはゆっくり眠れまちゅ」

 

ホシノは元太を褒めちぎるシロコを見て、そう揶揄った。まぁ、普通なら軽く受け流す程のジョークなのだがーーー

 

 

「……ぱ、パ?あっ、はは……いや、なんでもないよ……うん」

 

ーーー彼には少し刺さったらしい。その証拠に指で頬を掻きながら宇治抹茶を口に放り込まれたが如くな苦笑いを浮かべている。

 

「いやいや、変な冗談はやめて!先生困ってるじゃないの!……っていうか委員長はそこかしこで寝てるでしょーが!」

 

「そうそう。可愛そうですよ」

 

「あははー……ごめんなさい先生、うちの先輩が。……では、少し遅れちゃいましたけど、改めて自己紹介しますね、先生」

 

元太のように苦笑いを滲ませるアヤネは、ヘルメット団の襲撃によりやりそびれてしまっていた各々の自己紹介をし始めた。

 

「私たちはアビドス対策委員会です」

 

「私は、書記とオペレーターを担当する一年のアヤネ……こちらは同じく一年のセリカ」

 

「どうも!」

 

快活そうな黒髪猫耳の少女ーーーセリカはヒラヒラと手を上げる。

 

「二年のノノミ先輩とシロコ先輩」

 

「よろしくお願いします、先生〜」

 

「ん。さっき抱っこして運んだのが私。……あ、別にマウントを取ってるわけじゃない」

 

おっとりとしていながら、自身の身長の何倍のミニガン(機銃)を持つノノミ。そして狼耳を生やし、無表情だが誰よりもアクティブで行動力の化身であるシロコもそれぞれ元太に挨拶した。

 

「そして三年。対策委員会の委員長、ホシノ先輩です」

 

「いやぁ〜よろしくぅー、先生」

 

欠伸をしながらだらりとしている小柄な少女ーーーホシノも挨拶を他のメンバーと同じようにーーー惰眠を貪りかけているがーーー零す。

 

「それじゃあ俺も。ーーー五十嵐元太、よろしくね!」

 

「はい!よろしくお願いします!ーーーでは本題に。ご覧になった通り、我が校は現在危機にさらされています……。そのため『シャーレ』の支援要請を受理して先生がいらしてくれたことで、その危機をひとまず乗越えることができました」

 

「そう、か。……ところでー、対策委員会ってなにかな?」

 

元太はおざなりにされてた疑問をぶつけた。

 

「あ、そうですよね!ご説明します。対策委員会はこのアビドスを蘇らせる為に有志が集った部活なんです」

 

「うんうん!全校生徒で構成される、校内唯一の部活なのです☆あ、全校生徒といっても、私たち五人なんですけどね」

 

(へぇー五人かぁ〜……………………ご、五人!!??)

 

「ん。他の生徒は転校したり、学校を退学して町を出て行った。前提として学校がこのありさまだから、学園都市の住民もほぼいなくなってカタカタヘルメット団みたいな三流のチンピラに学校を襲われてる惨状なの」

 

ーーー彼女らの事情は蓋を開ければそれはもう惨憺たる様相であった。元太は頭の中で簡単な仮説を組み立てるがどう足掻いても胸糞悪い結論にしか行き着かない。

バカげた話だが、この町がそうなるように仕向けた奴らがいるに違いない。それはどこぞの大企業か、それとも()()()()()()。……彼はたまーにヘンな所で勘がいい。実はこの時点で真相の約七割を当てていたのだがそれは後のお話。

 

(……やっぱどこか寂れてたりってのは気の所為じゃなかった、か。にしても、この子たち心が強すぎないか?たった五人とか普通絶対に心が折れそうなのに諦めないとか……)

 

「現状、私たちだけじゃ学校を守りきるのが難しいの。ほんとに在校生としては赤っ恥ものだけど……」

 

「シロコ先輩の言う通り……もし『シャーレ』の支援がなかったら今度こそ万事休すってところでした……」

 

「だねー。補給品も空っぽだったし、さすがに今回ばかりは覚悟したね。んま、なかなかいいタイミングに現れてくれたよ、先生」

 

ホシノは欠伸をしながらそう言った。

 

「うんうん!これならもうヘルメット団なんてへっちゃら、大人の力ってすごいです☆」

 

「でも……かといって攻撃をやめるようなヤツらじゃない」

 

「あー……確かに、なかなかしつこいよね。連中」

 

「はい。ここまで不毛な消耗戦を続けてたら、キリがありません……」

 

がくりと、項垂れる元太と対策委員会の面々。だが、彼らに光明を示すかのように、だらりとしていたホシノが突然人が変わったように案を出した。

 

「それについて私からみんなに提案なんだけどさ」

 

「へ?ホシノ先輩が、案を……!?」

 

「へ?いやいやいや〜、さすがにその反応はおじさんでも傷ついちゃうな〜、おじさんでもやる時はやるんだよ?」

 

「……で、何?続けて」

 

「ヘルメット団は数日経てばまた襲撃する。ま、この数週間そんな負のサイクルがギコギコ回ってるわけだけどーーーーーこのタイミングで、奴らの前哨基地ぶっ壊しちゃわない?」

 

「は?それって……今から!?」

 

「だって先生のおかげでさっきの奴らは撃退して少なからず消耗させてるし、補給があるからこっちの装備の消耗は気にしないでトコトンやれるからねぇ〜。ど〜う?妙案でしょ?」

 

「えっと……先生?どうしますか?」

 

いきなり饒舌になり的を得た作戦立案をしてきたホシノに一同は困惑の目を向け、その中でも一番困惑していたアヤネは思わず元太に助け舟を出した。

 

「うーん。いいんじゃない?少しでも戦力とか物資を削げばこの先ヘルメット団とかち合うときも楽になるだろうし、理にかなってると思うよ」

 

元太は賛同の意を示す。……彼は知らないが対策委員会はヘルメット団だけでなく他の問題も山積みだ。ホシノは委員長として『手近な問題は早めに終わらせるべきだ』という意図も含めて発言したのである。

 

「うへへ〜。よぉし、そうとなれば善は急げー。早速乗り込むとしますかぁ〜」

 

元太の賛同を確認し、ホシノは手に持ったショットガンを怠く掲げながら、出撃の合図をし、各自がえっさほいさと忙しなく武装のチェックを始めようと……

 

 

 

 

 

「……じゃあ、今回は俺も行こうかな」

 

「「「「「……!?」」」」」

 

……した矢先、元太はとんでもない発言をかました。

 

「うへぇ!?先生、正気を疑うよー。だって、外から来たんなら、弾が一発でも当たったら死んじゃうんじゃないの〜?」

 

「先輩の言う通り。私達はかすり傷で済むけど、先生はダメ」

 

ーーーと、口々に先生を諭そうとホシノですら比定意見を出す。

 

だが、彼も考え無しに『一緒に行く』などと酔狂なことを口走った訳でも無い。

 

「だ、大丈夫だって!ちゃんと、策があるんだ!それに……君達生徒に戦わせてばっかりなんて、いい歳した大人として、ダサいでしょ?」

 

 

 

ーーー元太のその発言を聞いていたホシノは、誰にも見られないようにひっそりと歯軋りをした。近くにいるシロコにすら聞こえないほどの音量で。

 

 

 

そう、彼女は知っている(覚えている)。ドス黒い欲と悪意を振りかざして何もかもを奪った大人を。

 

そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

ーーー何も出来なかった、愚鈍で、愚かで、哀れな程に無力であった()()()姿()を。

 

 

 

 

 

「ーーーー先輩。ホシノ先輩!」

 

「……んへぇ!?し、シロコちゃん?どうしたのさ〜、おじさんに何か用?」

 

黝い感情が雪崩出てきそうな寸前、ホシノはシロコの呼び声で正気に引き戻された。対するシロコは一瞬、ホシノの瞳に()()()()()()宿っていたのに気づいたが、触れない方がいいかと判断し押し黙った。

 

 

 

「……いや、なんでもない。とにかく、先生と一緒に、行くよ」

 

 

 

□■□■□■

 

 

アビドス郊外の市街地区エリア。ここはホシノが言っていたヘルメット団の前哨基地エリア、つまり敵の腸ど真ん中。一行は各々の銃を構え、戦闘態勢を整える。

 

『ヘルメット団、前哨基地エリアに到着。半径15km圏内に敵反応多数!恐らく敵もこちら側に気付いています!皆さん、迎撃の準備を!……ですが、先生はあまりを無茶をしないでください。私たちと違ってパラベラム弾でも致命傷になりかねませんから。危険だと思ったら即、作戦展開地域(AO)から撤退を!』

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーーー

 

 

 

オペレーターであるアヤネの声に続き、前方から数台の戦車がけたたましくキャタピラを唸らせながら現れる。

 

「うへぇ……ただの前哨基地って割にはあっちもやる気満々だねぇ……」

 

「何言ってんの先輩!戦車だろうが知ったこっちゃないわ!とっちめてやる!」

 

ーーーセリカの鼓舞を合図に、元太はデストリームドライバーを腰元へ装着する。

 

「?先生……?」

 

「へぁ!?先生、それは……!?」

 

対策委員会は突然元太が取り出し、彼の腰に自動装着されたベルトに目を剥く。

 

「…………!?」

 

「なんだ、ありゃあ……?」

 

ーーー対するヘルメット団側も、ベルトに奇異な視線を向ける。

 

 

そんな様々な感情が孕んだ視線を意にも介さず、彼は天面の『アクティベートノック』を押しバイスタンプを起動させる。

 

カブト!

 

そして、バイスタンプパッドに押印。

 

Deal…

 

待機音を轟かせ、多色発光する『アーキオーインジェクター』に押印。

 

Bane Up!

 

「……変身」

 

彼の声に応えるかのように空へ舞い上がる金のカブトムシ。そして背後から漏れ出る赤黒い霧が戦車すらも貪り喰らいそうな程の異形の‪相貌を象り、彼の身体を呑み込んだ。

 

「「「「『!!?!?』」」」」

 

その光景に遠方からモニターしているアヤネを含めた対策委員会の面々が絶句する。

 

 

 

 

破壊!(Break)

 

世界!(Broke)

 

奇々怪々!(Broken)

 

仮面ライダーベイル!

 

 

 

ーーーそして霧が晴れ、顕れたのは異形の戦士。

 

 

悪魔を()()()()に、悪魔の力で創られた原初の兵器(ライダーシステム)

 

 

仮面ライダーベイルが、キヴォトスに顕現した。

 

 

「ひっ、ヒイイイィイイイイィ!!」

 

その姿に不良たちは恐怖のあまり泡を吹いて倒れたり、絶対的な恐怖に脳を支配され、錯乱したかのように逃げ惑う。

 

「ど、どうせ安物のオートマタみてぇに見かけ倒しだ!撃て!撃ちまくれェェ!!」

 

だが、全身から滲み出る脂汗を必死に拭いそう啖呵を切った隊長の声に正気を取り戻し、何人もの団員たちはアサルトライフルやサブマシンガンをベイルへ向け、乱射する。

 

「ーーーっ!先生、逃げて!!」

 

いち早く危険を察知したシロコが元太にそう声をかけるも一足遅く、彼はヘルメット団が作り出した銃弾の雨を容赦なく浴びせられてしまった。

 

 

   

 

「……はぁ、はぁ。どうだ、これで、これでくたばーーーーーーーーは???」

 

ゼェゼェと肩で息をするヘルメット団員。だが、硝煙が作り出した煙幕が晴れ、現れたその姿に団員だけでなく、対策委員会すらも絶句する羽目になる。

 

 

 

「あー……いたたた」

 

彼自身、多少は痛がってるもののそのスーツは何処も壊れていない。というか傷すらも付いていない。それもそう、全身に展開された強化スーツ『アーキゲノミックスーツ』によって、悪魔か同じライダーの攻撃でも喰らわない限り、傷など付かない仕様になっているのだから。

 

「あ、あはは、はははは…………どう勝てばいいんだよあんなバケモン……」

 

そう零した団員の一人はへたりと、地面へ倒れる。

 

 

 

ーーーそんな敵も味方も放心状態の最中、真っ先に動いたのはホシノであった。

 

折り畳まれた携帯式防弾(シールド)を即座に展開。予めショットガンに装填されていたスラッグ弾を排莢し、盾の側面にあるシェルホルダーに補填されていたバッグショット弾を選択、装填。そして、予め事前説明(ブリーフィング)で言われていた所までスライディングで滑り込みーーーそこに固まっていた幾人の団員をショットガンで吹き飛ばした。

 

「!?」「ぶふぅっ!?」「ぐぁぁああっ!?」

 

それを見たベイルーーー元太はニヤリと仮面越しに笑みを浮かべ、ホシノにサムズアップ。気を取り直しインカムをオンにしてから、指示を出した。

 

「さぁ、総員!彼女に続けぇ!!」

 




まえがきにも書いた通り、待たせすぎて本当に申し訳ない。言い訳をさせてもらうと、この小説ほんへに出てくる新たな設定とか、イベントは書くかどうとか色々考えてたらこのザマだよ!!!!

…………とにかく、これ以上失踪せずに物語完結させるよう死にもの狂いで頑張るのでゴミのような目で見守っててください。


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第3話 交わらぬS/苦悩のバイト戦士

大変お待たせしました。


 

 

ーーー数時間前。

 

『……え?先生、正気!?自分から囮役を買って出るとか自殺でもしたいの!?バッカじゃないの!!??』

 

『どうどうどうどう!大丈夫だって!一応ちゃんと策はあるから……落ち着いて落ち着いて』

 

『んへぇ〜先生、流石にその作戦はおじさんも同意できないかもなー。だって銃弾一発で容易く死ぬような身体なのに態々囮になるとか狂気の沙汰だよ』

 

『ん、これに関しては私もホシノ先輩に同意。危険すぎるよ』

 

『……気持ちはとても分かるけれども、とにかく!ちゃんと策はあるから大丈夫だよ!心配しなくても…………多分』

 

 

『『『『『…………………』』』』』

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

老朽化と自治区そのものの縮小と砂漠化の影響により閉鎖された旧アビドス商店街。現在はカタカタヘルメット団の前哨基地へと様変わりしたこのシャッター街では現在、もはや一方的と言ってもいいほどの蹂躙が行われていた。

 

「ひっ、や、やめ」

 

恐怖に悶え、咄嗟にその場から逃走を図る不良(ヘルメット団員)は瞬速で此方に迫るナニカに襟首を掴まれ、そのまま無造作に放り投げられる。そして近くの車輌にアクション映画もびっくりなダイブをかまし、車輌に大きなクレーターが出来ると同時に、彼女は拭えぬ恐怖心と困惑に溺れながらブツリと意識を失った。

 

「……ひぇ〜、底冷えしちゃうなぁ。まるであれじゃ蹂躙だよぉ」

 

そんな元太ーーー仮面ライダーベイルの戦闘スタイルをこっそり観察していたホシノは欠伸をしながら自身を狙う銃火をすんなりと避け、AKを我武者羅に乱射する不良をシールドバッシュで蹴散らしつつ、溝に愛用するショットガンを滑らせて固定し、コッキングレバーを引き絞る。

スラッグ弾の薬莢を排莢し、バックショット弾を装填。トリガーを引き、二時方向にいた二人組の団員を吹き飛ばした。

 

「おらおらおらぁ!!百人だろうが千人だろうがかかってきなさぁぁぁぁい!!」

 

「全弾発射、いきますよ〜♣︎」

 

それに続き、セリカとノノミも後方からアサルトライフルとミニガンのトリガーを引き、銃弾をありったけ叩き込む。

 

「ーーードローン、作動開始。ターゲット設定完了」

 

シロコは遮蔽物に身を隠しながら多連装ミサイルポッドを搭載したドローンを起動させ、セリカとノノミが蹴散らし数を減らした不良たちへ更に追い打ちと言わんばかりに爆撃をお見舞いする。

 

左の頬を殴られたら、右の銃を撃ちなさい。やられたら(弾丸で)やり返す、それがキヴォトスのやり方である。

 

「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」

 

弾丸(とミサイル)のゲリラ豪雨を叩きつけられた不良達は多くがアスファルトに伏し、泡を拭きながら気絶した。

 

「ひっ、か、勝てっこない!アタシは逃げてやーーー」

 

そんな惨状を目の当たりにし、前後不覚になり逃走を図ろうとした不良もいた。

だが時すでに遅し。不良のヘルメットには拳がめり込み、その余波で彼女は近くのシャッターが降りたビルに吹き飛ばされる。

 

刹那、鳴り響く轟音。

あまりの衝撃で、シャッターどころか壁すらも突き破り、周囲には噎せ返るような粉塵と瓦礫の山が形成された。

 

「!?お、おい!大丈ーーーー」

 

心配して助けに行こうとした不良も憐れなことに、腹に(威力10%の急所を外した)パンチを叩き込まれる。元太からすればデコピン程度の威力だがそれでも約7tもの破壊力。当然不良の身体は吹っ飛びーーー

 

 

「な!?よ、よりにもよってこっち来るnぶべぇ!!??」

 

 

ーーー傍にいた不良がクッション代わりとして巻き込まれてしまった。

 

 

「……クソッ、逃げるぞ!拠点は放棄して今は逃げるぞ!!」

 

その様子を物陰から見ていたヘルメット団員は、全身から吹き出る脂汗を拭い、撤退することを選択する。

 

「で、でもまだ……「仲間を手に取るように潰したバケモノ(ライダー)にアタシらが勝てるって言うのか!?えぇ!?」……わ、わわ分かりました!」

 

当然っちゃ当然の考えである。あまりに彼と戦うには一端のチンピラである彼女らでは分が悪すぎた。

 

「な!?アイツら逃げるつもりぃ!?こーノーヤーロー!!逃げんなぁぁぁぁ!!」

 

その様子を見ていたセリカは愛銃をギリギリと握りしめ、追おうとするが優しくアヤネに宥められる。

 

『セリカちゃん落ち着いてください……。とりあえず当初の目的は果たしましたから』

 

「ーーーえ?ってことはもしかして……」

 

『はい!カタカタヘルメット団の補給所、アジト、弾薬庫の破壊の完了が確認できました!』

 

アヤネは通信越しでまるでガッツポーズをしてるかの如く上擦った声を挙げる。やはり先生のサポートがあったものの、崖っぷちであったアビドス(母校)を守ることが出来て嬉しい気持ちが溢れてるのだろう。

 

「ん、これで少しは大人しくなるはず」

 

「よーし、さくせんしゅーりょう。じゃ、学校に戻ろうか」

 

「……へ?あ、終わったのか。ちょっと待ってね」

 

一瞬ボーッとしていた元太もすぐさまベルトに手を掛け、変身を解除する。

 

「…………一体それ、どんな仕組みなのよ」

 

それを見ていたセリカは怪訝そうにボヤいた。

 

 

「あはは……まぁ、それはおいおいってことで」

 

 

 

(…………………………)

 

そんな、まるで人が変わったかのように朗らかな笑いを浮かべる元太に対し、ホシノは内心底冷えするような思いであった。

 

もし、不良たちに振りかざされたあの暴力が、自分たちに降り掛かったらーーーーそんな良からぬ妄想をしてしまうほどには。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

「お帰りなさい。みなさん、お疲れ様でした!」

 

対策委員会・教室にて。

無事に任務を終え、帰ってきた五人にアヤネは労うように声をかけた。

 

「うへぇ〜ありがとうアヤネちゃん……。おじさんはもうくたくただよぉ」

 

「あーもうホシノ先輩そんなところでねーなーいーのー!……あ、アヤネちゃんもお疲れ!」

 

帰還して早々、気怠そうに床に突っ伏しそうになってる先輩をセリカは引きずるように椅子へと誘導してアヤネに労いの言葉をかけた。

 

「とにかく、火急の事案だったカタカタヘルメット団の案件は片付きましたね!これで一息つけそうです☆」

 

「そうだね。これでやっと、目の前の重要な問題に集中出来る」

 

「うんうん!それも先生のおかげだね!ありがと、これでやっと借金返済に取り掛かれるわ!」

 

対策委員会にとって、ヘルメット団の襲撃祭りは一つの壁に過ぎない。だが、それでもここ数日の悩みの種が解決したのは大きい前身だ。

 

「いやいやいや!俺は別に大したことはしてないよ。あくまで指揮官としてあれこれ指示出してただけだからね。最終的にあの勝利をもぎとったのは、間違いなくみんなの力の賜物さ」

 

元太は笑みを浮かべながらそう言う。

 

少しライダーに変身して自分も戦いはしたが、あれはあくまでちょっとした支援。だからあの勝利は自分の力ではなく、対策委員会の面々が勝ち取ったものだ。

 

「で……借金返済、って?」

 

「あ

 

 

 わ、わわっ!!」

 

元太がそう疑問符を浮かべると、セリカは分かりやすく狼狽し始めた。だが、既に口を滑らせてしまってる時点で手遅れとしか言いようが無い。

 

「……そ、それは」

 

「ま、待ってアヤネちゃん!!それ以上は……!」

 

慌てて話そうとするアヤネを必死に止めようとするセリカ。

ーーー自分は知るべきでないことを知ってしまったのか?彼女(セリカ)の疑心暗鬼に満ちた目を見てそう元太は思った。

 

「いいんじゃない?別に先生が知ってもさ」

 

「……へ?ホシノ先輩、何言ってるの!?先生は部外者!態々事情を話す必要なんてーーーー」「確かにパワードスーツ紛いのアレはおじさんだって何も分からないけどさ、先生は私たちを助けてくれた大人でしょー?別に罪を犯した訳でもないんだから、信頼してもいいとおじさんは思うけどなぁ〜。参考までに、シロコちゃんはどう思う?」

 

「先輩の言う通り、先生は信頼して大丈夫だと思うよ」

 

 

「そ、そうだけどーーーーッ!」

 

ホシノの述べた意見はご尤もだ。なにしろ目の前の先生(大人)はなんの対価もなしに指揮をし、囮役を買って出るなどして対策委員会(自分たち)を窮地から助けてくれた。

 

だから信頼しても大丈夫だろう、信頼するに足るだろう。全くもってその通りだ。

だがそうだとしても、セリカは今日来たばかりの大人ーーーー部外者が自分たちの抱える問題に首を突っ込むのはどうも納得がいかない。

 

「そうだけど……結局先生だって部外者でしょう!?何も知らない!!部外者でしょう!!!???」

 

「確かに先生がちょちょいのちょいと解決できる問題ではないと思うけどさ、先生以外に耳を傾けてくれる大人がいるとはおじさん思わないんだよねぇ〜」

 

必死に叫ぶセリカをホシノはあくまで優しく諭す。ホシノだってセリカの言わんとしてる事は分かる。だが、問題解決をするならば猫の手だろうがなんだろうが借りたいと思ってた矢先にやってきた千載一遇のチャンス。

 

誰も差し伸ばそうとしなかった救いの手を差し伸べようとしてくれる先生(大人)が目の前にいるのだ。これを逃したら、アビドスは今度こそ()()()

 

「悩みを打ち明けてみれば何か解決法が見つかるかもよ〜?それともーーー何か他にいい方法があるのかな、セリカちゃん?」

 

「うっーーーうぅ……!」

 

セリカはギリギリと歯軋りをして、スカートの端を跡が出来るほどに握り締める。

 

もう何も反論のしようがない。ホシノが言ったことは尽く正論だ。だが、それでも、理屈では分かっていて何も知らない部外者の大人風情に自分たちの苦労が分かってたまるか。手を差し伸ばそうとしなかったくせに今になって都合よく助けてくれるなぞーーー

 

「でも、さっき、さっき来たばっかの大人でしょ!今まで大人たちがこの学校を気にかけたことなんてあった!?私たち(アビドス)の問題は私たち(対策委員会)がどうにかしてきた!!それを、今になって関係の無い大人が首を突っ込むだなんて……」

 

 

 

「……認めない。私は認めないッ!!」

 

そう、血を吐きそうな程に悲痛な思いの丈をぶち撒けたセリカは、荷物を手に取り部室を飛び出した。

 

 

 




次回はようやっと対策委員会と元太の事情を深掘りできるかもしれません。


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第4話 交わらぬS/それぞれの事情

「セリカちゃん!!」

 

教室を飛び出してどこかへ行ってしまったセリカを引き留めようとアヤネは叫ぶ。その様子を見て、心配そうな顔をしたノノミがそっと廊下を見る。

 

「……私、ちょっと様子を見てきます」

 

ノノミはそう言い、セリカの後を追うかのように部室を後にした。

 

「……分かってはいたけれど。そりゃ今日来たばっかの素性もよく分からない大人だし、信用されないよね……はは……はぁ……」

 

元太はその一連の流れを見て、悲しそうに溜め息を吐く。ただ、これに関しては無神経にデリケートな話題に触れた自分(元太)にも責任があるなと痛感した。

 

「……ごめんね。ウチの可愛い後輩が、あんな失礼なこと言っちゃって」

 

「いや、全然大丈夫だよ。寧ろあれに関しては空気読まずにデリケートな話題に触れた俺に非があるから」

 

元太は自分の至らなさに酷く腹が立っていた。一人の大人として、子供たちの意思を尊重するのは当然のことなのに。

 

 

 

■□■□■□

 

 

  

「えーと、簡単に説明するとね……この学校、借金があるんだ。んまぁ、ありふれた話だけどさ」

 

重苦しく沈んだ空気を拭う為か、ホシノはぽつりぽつりと事情を話し始める。どこか軽薄なのは先生と後輩たちを気遣うためだろうか。

 

「……どれくらい?」

 

「…………ざっと、9億くらい?「9億6235万円です。先輩」……うげぇ〜、前より増えてない?」

 

ホシノが述べたおおよその値段。それを上塗りするかのようにアヤネが正確な値段を述べる。その金額を聞いてホシノも思わず、げんなりとした嘆息が口から漏れ出た。

 

「これが私達、アビドス……いえ『対策委員会』が返済しなくてはならない借金の総額です。もし返済できない場合、学校は銀行の手に渡って廃校手続きをしなければならなくなります……」

 

「ですが、実際に完済できる可能性はゼロに等しく……ほとんどの生徒たちは諦め、()()()()()()()()()、去ってしまいました」

 

「そして、私達が残った」

 

シロコはことも無さげにそう付け足した。ーーーーまるで、さも当然であるかのように。

  

「……なんだよ、それ」

 

元太は思わず苦虫を潰したかのような顔となる。明らかに、彼女たちが背負うべきモノじゃないだろうーーーいや、子供達が背負うべきものではない、背負ってはいけない、そんな重荷を。

 

「学校が廃校の危機に陥り、生徒がいなくなって街がゴーストタウンと化したのも、全てこの借金のせいです」

 

「……そう、か。でも、なんでそんなことになっちゃったんだ?なにか事情があるとは思うんだけど……」

 

何故、彼女たちが借金を背負わなくてはいけなくなってしまったのか。元太はアヤネへそう質問をなげかけた。ーーーあまりに残酷なことを聞いてるのは彼が一番理解している。だが、事情が分かれば自分でも少しでは彼女達の力になれるのでは無いかと元太は考えたのだ。

 

「……数十年前、この学区の郊外で大規模な砂嵐が発生しました。元々この地域では砂嵐が頻繁に起きてたのですが、それはあまりに規模が大きく……学区の至る所が砂に埋もれ、砂嵐が去っても砂が埋もり続け、俗に言う砂漠化現象が引き起こってしまったんです。」

 

「……そうか、だから至る所に砂が積もってたのか」

 

元太が呟いた言葉に同意を示すよう首肯したアヤネは再び話を続ける。

 

「そして、その復興のために我が校は多額の資金を投入せざるを得なかったんですが……このような片田舎の学校に、しかも巨額の融資をしてくれる銀行なぞ当然見つからず……」

 

「結局、悪徳金融業者に頼るしか無かった」

 

「……最初からどん詰まりだった、ってワケか」

 

「はい……。ですが、最初は直ぐに返済できるほどの金額だったんです。しかし砂嵐は年を重ねる程に規模も大きくなり……学区の半分以上が砂漠化し、借金も返済できないほどにみるみる膨れ上がりーーー毎月の利息を返済するので手一杯で弾薬すらも底をつく寸前だったんです」

 

膨れ上がり、増え続ける借金と止まらない砂漠化。もはや嘗ての華々しいマンモス校としての姿はなく、いつ砂に埋もれても可笑しくない。いや、砂に埋もれる寸前だったのだ。もはや、弾薬すら底をつきかけていたのだから。

 

「きっと、セリカが神経質になってるのはこれまで誰もこの問題に誰もまともに向き合おうと()()()()()()()。話を聞いてくれたのは先生が初めてだよ」

 

「……ま、そういう面白みの欠けらも無いつまらない話だよ。で、先生のおかげでヘルメット団っていう厄介な問題が無事に解決したからこれからは借金返済にしっかりと腰を据えて向き合えるってわけー」

 

ーーー彼女達は、理解はしているのだろう。もはや借金返済なぞ無駄な足掻きであると。茶番じみたことをしてるのだと。だが、それでも自分達の母校(アビドス)を、見捨てたくは無いのだろう。

 

「…………まぁ、もし、もしもこの委員会の顧問になってくれるなら借金のことは気にしなくていいから。正直こんなに親身になって話を聞いてくれただけでもおじさんは有難いからさぁ〜」

 

「ん、そうだね。先生はもう十分力になってくれた。もうこれ以上迷惑をかけられ「……見捨てる訳、ないだろ」……え?」

 

たとえどんな理由があろうと、子供達が犠牲になる世界なぞ、自分が許せない。そんなこと、許してたまるか。

 

「ーーーーーーシャーレの先生(一人の大人)として、絶対に助ける。アビドスを、砂に埋もれさせはしない」

 

「そ、それって……」

 

 

「これからは顧問としてよろしく!……ってところかな?」

 

一瞬見せた不慣れな畏まった口調をすぐさま引っ込め、彼は朗らかにそう言ってみせた。その言葉を聴いた対策委員会の面々は、先程までの沈んだ空気から打って変わって喜色と驚愕に満ちていた。

 

「あっ、は、はいっ!よろしくお願いします!!」

 

「……へぇ?相当な面倒事なのに自分から首を突っ込もうだなんて、だいぶ変わり者だねぇ〜先生は」

 

「よかった……。まさか『シャーレ』ーーー先生が助けになってくれるだなんて。これで私たちも、少しは希望を持っていいんですよね?」

 

「そうだね、希望が見えてくるかもしれない」

 

「とにかく先生として、みんなの力になれるよう頑張るよ。

 

 

……あ、そうだ」

 

「「「?」」」

 

突然、何科を思い出したかのような気の抜けた声を出した元太に、三人は頭上にクエスチョンマークを出す。

 

「対策委員会の事情は聞かせてもらったのに俺の事情はまだ何も話してなかったね。じゃあ…………あのベルトと、()()姿()……うーん、何から話せばいいんだか、ハハ……」

 

元太は乾いた笑みを浮かべながら頬をかいた。その姿は、先程まで見せてた快活そのものの彼からは程遠かった。

 

少なくとも、三人からはそう見えた。

 

「とにかく……まぁ、荒唐無稽だろうし、俺からも全部信じろだなんて大それたことは言えない。

 

 

 

 

……話半分で聞いてくれれば充分なほどに、くだらなくて、救いようのない、過去の話さ」

 

彼はそう前置き、ぽつりぽつりと語り出した。

 

 




大変遅れてしまい申し訳ない……今回は難産でした……。

それはそうと、お気に入りが160件………160!!!????こんなクソ小説に!?!???しかも赤バー!!!!!????正気か!!!!!????

………とにかく!お気に入り&評価してくれた読者の皆様、本当にありがとうございます!これからも遅筆でございますが、元太と生徒たちの物語を見届けてくれれば幸いです。


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第5話 回顧の過去と葛藤と謎のメダル

互いに愛し合うことの他は、誰にも借りがあってはならない。人を愛する者は法を全うする。


 

 

「きっかけはありふれたものさ。バイク事故で意識不明の重体。そこからは、あちこちの病院をたらい回しにされた」

 

 

そう彼が始めると、部屋の空気はセリカが出ていった時よりも重苦しいものへ様変わりしていた。だが、彼女たちはすぐに思い知るであろう。

 

これは()()()()()()()()のだと。

 

 

「そんな時さ。俺に目をつけた政府の軍事研究組織があった。

 

 

 

 

それが『ノア』。奴らは俺に悪魔の始祖『ギフ』ってバケモノの細胞を移植させ、悪魔の力をもって悪魔を狩る―――デビルハンター、『仮面ライダーベイル』として俺を蘇生させた」

 

 

ギフ、仮面ライダー、デビルハンター、悪魔。

確かに、少しばかり常識離れしたキヴォトスであっても聞かないような荒唐無稽で馬鹿げた話だ。信じる信じない以前に、普通であれば聞き流す程度の無価値な法螺話にしか聞こえないだろう。

 

だが()()姿()を――――彼女たちは目の前で見せられたのだ。本来であれば信じないであろう与太話も、アレを見せつけられれば否が応でも信じるしかあるまい。

 

 

「俺は、目覚めた時には事故の衝撃で記憶喪失になっていた、もう自分の名前すら思い出せなかっんだ。そこからノアの連中は俺を実験体として使い潰す一方で、俺に悪魔狩りの仕事を課した。…………選択権はなかった。変に歯向かいでもすれば、いつ()()()されても可笑しくなかったからね」

 

「そんな……」

 

 

全てを忘れ、残されたのは実験体として使い潰される道と、ノアの言いなりになりデビルハンターとして生きる道だけ。

もはや目覚めた時から彼に自由の道は残されてなどいなかった。

 

 

 

「……そうして俺は悪魔狩りをする日々の中で、両親を殺した『赤い悪魔』の記憶を取り戻した。そこからはその悪魔への復讐を誓って、更に悪魔狩りを続けた。

 

 

 

  

 

…………もう、この頃の俺は自分の記憶のことなんざどうでもよかったんだと思う。家族を、記憶を、自分から全てを奪った悪魔を殺せれば、たとえ民間人がどうなろうと」

 

「「「……………………」」」

 

 

あまりにも重々しすぎる言葉を聞いて、三人は思わず顔を歪める。もう、借金に苦しむ自分たちが霞むほどに壮絶過ぎる彼の過去。特にホシノが沈痛な面持ちになっていた。もはや、自分と同じ――――否、そんな比ではない。

 

絶望で埋め尽くされ、一片の救いすら許されない最初からバッドエンドの彼の物語と自分(わたし)の物語を比べるなぞ――――

 

 

 

 

――――おこがましいにも程がある。

 

 

「そんな終わりのない戦いに明け暮れる日々で、俺は気が狂いそうだった。

 

いつになったら終わるんだ、いつになったら失った記憶が戻るんだ、いつになったら日常へ戻れるんだ、いつになったら仇の赤い悪魔をこの手で殺せるんだと――もう、限界だったんだ」

 

 

自由を奪われ、悪魔退治に明け暮れる日々。ついこの前まで日常を謳歌してた青年であれば、とっくのとうに発狂していても可笑しくないであろう。

 

 

「そんな時さ、俺はある女性と出会った。

彼女――――幸美はわざわざ俺を保護して、マトモな食事を摂らせてくれて、風呂も貸してくれた。……暖かった、彼女の温もりは荒みに荒んでた俺の心を癒してくれたんだ。本当に、嬉しかったんだ」

 

 

幸美との出会い、そして彼女との短いながらも長い触れ合い。アレが無ければ、自分はとっくに戻れない所まで行ってしまっていた。

 

 

「俺は次第に幸美と打ち解けていって、彼女も俺と同じように両親を亡くして悲しんでたことを打ち明けてくれた。それがきっかけで、俺は少しずつ惹かれていって……しまいにはこの人と家族になれば幸せだろうなとも思った」

 

「「「…………」」」

 

 

いつの間にか三人の目からはボロボロと滂沱の涙が溢れていた。というより泣かない方がおかしいだろう。

 

 

 

「普通ならここで終わってハッピーエンド!無事に物語は大円団を迎えました〜!ってなるんだけれども――

 

 

 

 

 

 

――現実はそうはいかない。ノアは武装部隊を差し向けて、脱走した俺を幸美ごととっ捕まえに来た。

ま、結果はお察しの通りさ、逃避行をしようにも生身でのステゴロは素人に等しい俺がその道のプロに勝てる訳もない。抵抗虚しく、幸美と共に連行されて軟禁生活に逆戻りさ」

 

「幸美はノアの最重要機密――――仮面ライダーの正体を知ってしまった。だから奴らは彼女をみすみす見逃す訳にはいかないから俺と一緒にとっ捕まえて殺処分する腹づもりだったらしい」

 

 

彼女は触れてはならない秘密に触れてしまった。そうともなれば、ノアは『政府公認の科学組織』の体裁すら取り繕うことは出来なくなる。ある意味奴らにとっても死活問題であったのだ。

 

 

「その後色々と紆余曲折あって、幸美ともどもノアから抜け出すことには成功したんだ。そこからは心機一転、幸美との逃亡生活が始まった。そんな逃亡生活の最中、俺は連中(ノア)の追手を薙ぎ払うため、『声』に従ってベルトの力を解放した。そうして出てきたのは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――俺が探し続けていた仇、『赤い悪魔』だった。皮肉な話だろ?ずっとベルトの内から聴こえてた、復讐を手伝うパートナーがあろう事か仇だったなんて」

 

「その赤い悪魔、ベイルはこう言った。両親を殺したのは自分、そして奴を生み出したのは他ならぬ俺自身、それを全て仕組んだのは――

 

 

 

 

――ノアだ……ってね」

 

「…………は?」

 

 

ホシノは思わず呆けたような声を漏らす。なんだそれは、いや、まさか、そうだとするならば――

 

 

「それに奴は知りたくもない真実を俺にプレゼントしてくれた。バイク事故すらもノアが仕組んだモノだったということ。そして俺が今まで殺してきた悪魔は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして俺の戦いは、データ収集と事実隠蔽のための裏工作に過ぎなかったということ」

 

 

――マッチポンプである。全てがノアによる自作自演だったというあまりにグロテスクで冒涜的で黝い真実。

なんだそれは、狂っている。一体どうしたらあるべき最低限の倫理観も何もかもをかなぐり捨てた行為をできるというのだ。

 

 

「真実を知った俺は当然怒り狂ったさ。その時の俺はもう『赤い悪魔』への復讐心なんざかなぐり捨てて、心中はノアへの憎悪でいっぱいいっぱいだった。

そうして悪魔の囁きに呑まれ、ベイルに身体を乗っ取られた俺は変身してノアを襲撃。無我夢中で何もかもを破壊し尽くして、ノアの所長もこの手で嬲り殺した。もう、正気すら定かじゃない、傀儡に成り果てていた」

 

「だけれども、幸美の体を張った必死の説得でどうにか正気を取り戻すことが出来たんだ。それをベイルは『裏切り行為』と見なして憤慨していたけれども――――もう心は決まっていた。俺は再び変身してベイルを相討ちになりながらもどうにか撃破して封印した」

 

 

「…………まぁ、こんなところかな。タハハッ、だいぶ長話だし語るのもヘタだしで、申し訳ない限りだけれど、これが俺の過去――――いや、罪の原典だ。

 

本当に、最後まで聴いてくれてありがとう」

 

 

――――実際は、戦いの後に再び記憶を失い、二十五年間も幸美と共に過ごした逃亡生活、忌々しい戦いの日々も忘却していたのだが、そこら辺に関しては伏せることにした。

 

 

(…………こんなに喋ってよかったのかな。いや良くねぇよな常識的に考えて。

 

 

……あ、俺やらかした?え、やっちゃった?嘘だろおい!?助けて!ママさん助けて!!一輝に大二にさくらァァァァァ!!!誰でもいいからどうすりゃいいか教えてェェェェェェェ!!!!)

 

 

――――完全なる蛇足ではあるが、彼は内心このように酷く後悔してた模様。だが後悔先に立たず。やってしまったことはどう思おうが訂正不可である。ここにはいない家族に助けを求めるという現実逃避は諦めて、目の前の現実を直視するべきだろう。

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

「……………………」

 

隣の部屋で壁越しに話を聞いていたセリカは、うなだれていた。

 

「……セリカちゃん、先生は少なくとも、悪い大人なんかじゃないと思いますよ?」

 

「……分かってる、分かってるわよ」

 

そんな彼女を見兼ねて、気遣うように声を掛けるノノミであったが、逆効果のようでセリカの声音は更にどんよりと澱んでいた。ノノミの言う通りだ。命懸けで誰かを守った先生が、悪人なわけがないだろう。

 

そんなのはセリカでも分かる。だけれど、だけれども――――。

 

「…………でも、それでも、今更虫が良すぎること言われても、私は……」

 

ギリギリと拳を握りしめ、苦々しく歯噛みするセリカは、いたたまれなくなったのか背中を向け、空き教室から立ち去った。

 

「セリカ、ちゃん…………」

 

その様子をノノミは、引き止めることなぞできずにただただ、見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

□■□■□■

 

 

 

 

「――なるほど。()()仮面ライダー、ですか」

 

静まり返った夜のアビドス郊外、ある高層ビルの屋上にて。黒いスーツと眼鏡を着用し、左腕に()()()()()()()()()男性が事も無げにそう呟いた。

 

「であれば、試す価値があるかもしれませんね。……所詮紛い物、不完全な複製(ミメシス)ではありますが仕方ありません」

 

彼がポケットから取り出したのは恐竜らしき絵柄が刻印された()()()()()()

 

「…………仮面ライダーベイル、否デストリーム。五十嵐元太、果たして最新鋭のライダーシステムがどれほどのものか。試してみる価値は大いにありそうです」

 

そう言い、メダルをポケットにしまった男性――――真木清人ことドクター真木は、音もなくその場から姿を消した。

 

 

 

 

――――元太はまだ何も知らない。本来いるはずも、あるはずもないイレギュラー(不確定な要素)は、自分だけではないということに。

 

彼は、まだ何も知らない。

 

 

 

 




……正直言いましょう。今回は上手く書けたのか自分でもよく分かりません!!!分かるかァ!!!

いや、一応精一杯努力はしましたが私の文才ではここらが限界ですチクショウ!!!!


まぁ、そんな与太話はおいといて、今回はかなり賛否が別れる話だと思います。……とりあえず、今話を読んでも「うるせぇ!行けるところまでついていくぜ!」という酔狂な方だけついてこい。……投稿ペース上げたりと、努力はします。






余談ですが、ドクター真木はオーズのあのドクター真木です。そしてキヨちゃんも変わらず登場です。

一体いつから、リバイスだけをクロスオーバーすると言った?


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