蝿とノコギリ (臓物暗刻)
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蝿とノコギリ

以下が苦手な人は閲覧を控えるようお願い致します。

 

・オリキャラ(男主人公)が登場する

 それに伴うオリキャラの設定の登場

 

・版権キャラクターの口調の若干の捏造

 

閲覧後の苦情は聞きかねますので、何卒ご了承下さい。

その他権利関係のご意見ご指摘は受けますので、コメント欄にてお願いいたします。

 

以上が許せる方、またはなんでもいける方のみ読んでいただけると幸いです。

 

 

 

 

 

 

「これって本当に金になる仕事なのかな」

 

目の前をふらふらと歩く金髪頭に聞いてみる。

 

「しらねー、俺、マキマさんから言われてきただけだし」

「『マキマさん』?え、じゃあアンタ、公安のデビルハンターなの?」

 

歳は16ぐらいだろうか。体躯がそう言ってる。

だが彼の言動やフラフラとした態度は自分よりも下だと思えた。

目の前の金髪男はこちらを全く気に留めないスピードで歩いていた足をとめて、くるりと振り返る。

べ、と赤い舌を見せて「そーだよ。だから生意気なクチ利くなよ」と言った。

 

「へぇ〜………意外」

 

なんかもっと、民間でも公安らしいデビルハンターたくさんいるのに。こんなヤンキーみたいな、頭悪そうな…それなら僕でもなれるかも。

 

「お前さっきから全部口から漏れてんぞ!」

「うそ、ごめん。嘘はダメって教えられてたから」

「ウッザ!…なんでこんなガキ連れて仕事なんだよォ〜……マキマさァ〜ん…」

 

金髪男は僕を一瞥して、大きなため息をついて、嘆かわしそうにマキマさんとぶつぶつ言い始めた。

それは僕だって同じ台詞なんだけどな、と思ったけどグッと堪えた。

 

話は3時間前に遡る。

先輩の吉田ヒロフミさんから直々にお仕事の話があるから来いって電話をもらった。

 

「え、でも今日弟の授業参観で…」

『その格好(なり)で行けるの?くるだけで時給発生する話と先生の話どっちが聞きたい』

「…お金の話です」

『駅前で待ってる』

 

…と、拒否権もなく強引に来る羽目になった。

帰りに弟の好物でも買って帰らないと。授業参観に来れなかったことで、ひどく駄々をこねるに違いない。

 

「遅いよ」

「時間とか、特に言われなかったので」

 

駅前と言われたので来てみたら、何を考えてるのか分からない黒い目をした吉田先輩が僕のことをジロリと見下ろした。

 

「まあいいや。早く中入って」

 

入れと促されて、駅前のハンバーガーショップに恐る恐る入る。仕事の話がここでされるって割にずいぶんとフランクだ。民間だしそんなものだろうか。

 

「失礼します」

 

とりあえず一礼して、指図された椅子のところに向かうと金髪頭で目つきの悪い男が、欠伸をしながら耳を指でほじり掻いていた。少し首元の緩んだパーカーと毛玉のついたパンツにサンダルを履いていた。

ガラス張りの店から外を歩く通行人を眺めているようで、つまらなそうにみているのかと思いきや、若くて肌を露出した女が通れば「お、タイプ…」とぼそぼそと呟いていた。

その男の隣には、真面目そうな黒縁の眼鏡をかけた男がスーツに身を包んで立っていた。

 

「手短に言う。最近子どもの行方不明事件が多いのは民間も把握しているだろう。それの目処が立った。ので、ここにいる男と君で一時的にバディを組み、討伐して欲しい」

 

手短も手短。簡潔な話はわかりやすくて好印象だが、有無を言わない態度は僅かばかり気に触る。

 

「あぁ…知ってます、けど。『民間も』ってことは、あなたは『公安』なんですか?」

「民間か公安かは仕事に何の関係もない。情報は後で共有する。さっさと仕事に行け」

「横暴ですね」

 

僕もそれ以上言うのはやめた。なんだか暖簾に腕押しで、この鉄の塊のような人に何を言っても時間の無駄なような気がしたからだ。そして何より、この話をオシャカにしてしまうと後が怖い気がした。具体的に言えば僕の雇用主だ。

 

そしていまに戻る。

攻略対象は『子供の悪魔』だそうで、強いのか弱いのか分からない。

子供は純真潔白な存在だ。それ故に数々の宗教で子供という存在は生贄としての意味を持っていたりする。

つまり悪魔に乗り移られやすい媒体となり得る。

それだけじゃない。子供の純粋さゆえの悪意や狂気ほど恐ろしいものもなかったりする。だから『子供の悪魔』は、捉えようによっては強いのかもしれない。

 

僕が駆り出された理由は、その見た目にあったらしい。『子供の悪魔』は現れる時期や場所はランダムだが、ある一定の共通点があった。

単純明快、『子供の現れる場所』だった。

保育園、学校、遊園地などなど。そしてその場所で孤独な子供を誘うという。ようは親が迎えに来ない子供だったり迷子だ。

 

公安からの仕事話なのだから、やはり公安のデビルハンターらしい金髪男…も、見た目は子供らしいかどうか分からないが、頭が幼いらしいので派遣されたという。そして今回は公安の制服は脱いで、子供らしくをイメージに、よれた服を着ていたそうだ。

 

「そりゃ分かんないわけだ」

 

公安らしくない。というか人間らしさもない。

変なヤツだ。

 

「てめ、さっき全部聞こえてるって言ったよな?」

「あ、ごめんごめん」

 

見た目の幼い僕と、中身の幼い彼で釣られた悪魔を叩くというのが作戦らしい。作戦内容まで幼い。

 

「つかよ〜、『金髪男』ってやめろよな」

「え?それも漏れてた?」

「デンジってちゃんと自己紹介したろーが!」

「でんじ」

 

聞いたような、聞いてなかったような。

あんまり追求する気もなくて。どうせこの仕事が終わればそれだけだし。そういう気持ちだった。

 

「なんか…見た目のわりに老けてんな」

 

そういうこと言うのも、これで何人目だっけ。

それのせいで親から嫌われちゃったんだっけ。

別にどうでも良い。『なんで捨てたの?』『なんで嫌いになったの?』なんて、聞いたところで今更僕の中の何が満たされるのかも分からない。

 

「…あれ?」

 

気が付けば僕は知らない道にいた。

目の前を歩いていたはずの金髪男もいない。通学路の人気のない住宅街を歩いていたはずなのに、夕方の田んぼの道だった。蜩が迷子になった子供のように鳴いていた。

 

(あぁ…これが『子供の悪魔』か)

 

僕の見た目、かつ、あの金髪男の言葉のせいで余計なことを思い出したからだ。忘れていたはずの僕の『孤独心』に漬け込んで来たのだろう。

 

『──ちゃん』

 

田んぼの道の向こう、遠い道の先で聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

『───ぃちゃん』

 

弟だった。小さい弟は、“にいちゃん”と呼んで泣いているようだった。しゃくり上げる声が聞こえてくる。

本当の子供相手なら、きっと自分を心配して探す父親や母親の姿を見せるのだろう。孤独な子供にとってそんな安心できる幻想を見せられるのは残酷でならない。

 

「悪いけど、僕はそんなんじゃ解されないよ」

 

僕はとっくに『孤独』というものを追うのに疲れたから。

そう言うと弟だったソレが水風船のように膨れ上がり、限界値まで膨れたのか、弾けて血飛沫を上げた。

人間の中に入っていた小さな内臓達があたりに散らばっている。

 

『デビルハンターか…』

 

中から姿を表したのは醜い老人のような姿をした悪魔だった。腰に泣き顔のまま死んだ子供の生首をぶら下げ、子供の顔の皮を剥がした手袋をつけていた。

 

「悪趣味」

『穢れた子供は嫌いだ』

「ダサい」

『品のない子供はもっと嫌いだ』

「あ、また全部漏れてた?」

 

老人のような見た目をしながら、『子供の悪魔』は俊敏に動いてこちらへ襲い掛かろうとした。

 

「この場所って、なんか意味があるの?」

『あぁ?』

「死体に集る蝿を見てたんだ。そこでぐるぐると回って、何の意味もなく…」

『何言ってる?』

 

首をかしげた老人の鼻先に一匹の蝿が止まる。蝿は不愉快な音を立てて老人の周りをブンブンと飛び始めた。気付くと一匹だけじゃなく、何匹かがブンブンと老人の周りを飛んでいた。

 

『な、何だこれは、鬱陶しい』

 

老人が腕を振って蝿をどこかへやろうにも、何度も何度も老人の顔に止まろうとする。次第に蠅の数は老人の姿を覆い隠すまでに増えた。不協和音な羽音が老人の声を掻き消すほど大きく喚く。

蝿の数は一向に増え続ける。まさに死体から沸いた蛆が蝿に成長したかのように。太陽が西から射して赤く染まった空を黒い影が蠢いていく。

 

『老いぼれを俺に食わせるな』

 

無数に思えた蝿は、大きな形を作ると、やがて一匹の巨大な蝿となった。巨大な蝿は僕を見下ろして一言そう言うと、ペッとこちらに向かって何かを吐き出す。

『子供の悪魔』の首だった。

 

「残さずに全て食べて下さい」

『要らん。気分が悪い』

 

そう言うと一匹の巨大な蝿は頭上から小さな蝿となって夕方の空にゆっくりと消えて行った。

地面に転がった首を掴んで、どうしたものかと悩んでいると、後ろから犬の鳴き声がした。

また幻覚か、と思って振り返る。そこには犬…という犬なのか、分からないものが僕に向かってワンワンと威勢よく吠えていた。

 

「…何あれ?チェンソー…?」

 

ほかに行くアテもない夢の中で、今度はその犬もどきの生き物の方へと向かう。犬はワンワンとずっと僕に向かって吠えていた。

 

 

 

 

「あ、起きた」

 

視界いっぱいに金髪男がいた。

 

「デンジだって言ってんだろ。チェンソーとか呼ぶヤツらの次は金髪男かよ」

「あれ…あれ?」

「なんかお前、よく分かんねぇジイさんに連れてかれそうになってたから『子供の悪魔』のヤツが釣れたんかと思って、試しに殺してみたら死んだ!」

「え?」

 

キャハハ!と品悪く笑う金髪男は、「仕事終わり〜!」とスキップしながら帰ろうとしていた。

僕は思わず右手を見る。しかし握っていたはずの『子供の悪魔』の生首はどこにもなかった。

 

「全部倒したの?」

「うん」

「僕も倒した」

「嘘つけ、お前はただ寝てただけですぅ」

「本当だもん」

「見苦しいぞ〜〜〜」

 

じゃああれは夢の中なのか。『子供の悪魔』は夢を見せて、現実で違和感がないように子供を誘拐するということなのか。

 

「だって僕、頭にチェンソーの生えた犬を見たんだ」

 

デンジの背中にそう言うと、デンジはぴたりと足を止めた。

 

 

 

 

「お疲れさま。明日には振り込んでおくって」

「あ、ありがとうございます」

 

駅前のバーガーショップに戻ってみれば、吉田さんはまだそこにいた。ノートを広げて、ペンをくるくると回しながら頬杖をついて僕にねぎらいの言葉をかけてくれた。

 

「明日小テストあるの忘れてた。分かんない?」

「だってもう、僕はとっくに卒業してるので。微分とか積分とか──」

 

吉田さんの書いてるノートを横から見て、数学らしい公式やxだの aだの書かれたそれを見てふとそう言うと、「は?」と大きな声が響いた。

デンジが僕を指差して、「は?」と言ったようだった。

 

「え?は?」

「…あれ。言ってないの」

「…別に言う必要もないかなと」

 

吉田さんは冷めてるね、と言ってデンジに対して僕を指差しながら説明した。

 

「契約の代償で成長を奪われてるんだ。見た目はずっと契約した時のまま。本当はいくつになるんだっけ?」

「21です」

 

実年齢を言えば、デンジは目を丸くして「キモッ!」と大きな声でそう一言言った。

確かにキモいと吉田さんも言う。僕自身もそう思う。

 

「僕は『蝿の悪魔』と契約しているので…」

「キモッ、だからめちゃくちゃ爺さんに蝿集ってたのかよ!」

 

デンジはズケズケとそう言う。

まあ確かにと吉田さんも言う。

 

「…それにしてもさ、“チェンソーの生えた犬”見たって、ホントなの?」

 

吉田さんはノートを閉じて、僕に聞いてくる。

 

「ワンワンって吠えた犬、らしきものでした。初めて見た、あんな生き物…悪魔だったのかな」

「ふ〜ん」

 

吉田さんは僕の返答を生返事で返すと、じゃあさと付け足した。

 

「しばらく彼の世話になれば」

「え?」

「はっ?」

 

今度は素っ頓狂な声を出して不可解をあらわにしたデンジの方を見て吉田さんは言う。

 

「だって“ポチタ”が人間の、それも初対面の、話したことすらない奴の夢に現れるなんて変だって思ったんだろ」

「…パワーはあるって言ってたケド、まあ…アイツは魔人だし…」

「それって何か理由があるかもしれないしさ。それ正直に説明すれば、出世できるかもよ。そうしたら給料の良い公安デビルハンターにもなれる」

 

とっくに成人もしてるわけだし。

吉田さんは名案だろと言わんばかりにそこまで一気に言ってしまうと、帰るねと手を振ってバーガーショップに僕もデンジを置いて消えていってしまった。

 

「え、は…いや…ここに置いていかれても…」

 

と嘆いた僕の言葉に返事するようにバーガーショップの扉が再び開く。

その扉から現れた人物にデンジは黄色い声を出した。尻尾が生えているんじゃないかと思えるほど、何か振っているのが見えた。

赤髪を三つ編みにした綺麗な顔の女性、特徴的な瞳に見入られたら彼女のことしか考えられなくなる。

 

「マキマさん!」

「デンジ君。お仕事頑張ったらしいね」

「ご褒美くれます?ゴホービ!」

「うーん……明日のランチを一緒に食べる、でどう?久しぶりにうどんが食べたいかも。君も伸びてないうどんは食べたことないよね?」

「はい最高!最高っス!」

 

彼女がマキマ。噂に聞いていたが、目の当たりにすると圧がある。

それにしてもまるで話を聞いていたかのようなタイミングでやってくるものだ。吉田さんが手配したのだろうか?

蝿を飛ばして見てもいいけれど、何か妙な動きをしたらこの目の前のマキマから何をされるか分からない。

 

「君、口から漏れてるよ」

「あー!!またテメ、失礼なこと言ってんじゃねーだろーな!」

「ねえ。君は夢の中でデンジ君の親友に触れることはできた?」

 

マキマの目が僕の心を見透かすようにじっと見て問う。

 

「触れ……てない、です」

「でも確かに君にハッキリと聞こえる声で吠えていた。そうだね?」

「は…はい」

 

マキマは満足したのか、真っ直ぐで綺麗な背筋をピンと伸ばして、顎に手を当てて少し考えるような素振りを見せた。

 

「デンジ君になんの縁もない人の夢に、意味もなく現れるわけ無さそうだもんね」

 

だからこれは何か意味があるのかも。

何を考えてるのかわからない目と表情で、美しくにっこりと笑うと、

 

「この子も早川君の部隊に入れよう。生活を共にして、また夢に現れるか実験してみよう」

「えっ?は?マキマさん?」

 

デンジがワタワタと慌てていた。

マキマはそれを気に留めることもなく、僕に向かって手を差し出し──

 

「ようこそ公安特異4課へ。君を歓迎します」

 

と笑った。

 

 

 

 

 

早川家、と呼ばれる家で。

わんぱくな血の魔人と食パンに色んなジャムを塗りたくり泥色になった何かを食べて汚すデンジと、それに悩まされて煙草の本数が増えた早川アキから煙草の買い出しを頼まれるようになるのは、また別の話。

 



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