ハリー・ポッターと千の花 (柊山節)
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凶悪な傍観者

「ねぇねぇ、桔梗チャン。僕は未だに自分が魔法使いだって信じられないよ」

 

 

 ホント、信じられないよ。

 

 目の前に座る桔梗チャンは僕を見て穏やかに笑った。見守っているようなその視線に背中がむず痒くなる。

 

 

「ハハン。彼是十年以上こちらにいるのです。諦めを持って魔法を受け入れるほかないでしょう」

 

 

 やっぱり諦めるしかないのカナ。はあ、諦めってこんな感情だっけなぁ……?

 

 

**

 

 

 僕達は魔法のない科学技術の世界から来た。うーん、その言い方は少し正しくないカナ?

 

 僕達は科学技術の発展していた世界で生きていて、そして魔法の発展した世界に転生したと言うのが正解。

 

 そんな僕達が伝承でしか広まってなかった魔法を使えるなんて今でも信じられない。魔法なんて考えが頭の片隅にもなかったんだよ? だというのに使えるとは中々面白いよね。

 

 理を理解しなくても扱える危険なモノ。それが魔法。

 

 頭が空っぽでも使える便利な殺人兵器が前世の世界にあったらすぐに戦争になっただろうね。この世界と違って僕達のいた世界は酷く物騒だったから。

 

 

 だから残念だと思うよ。こんな強大な力を、こんな弱い世界でしか使えないなんてと思うとね。できることなら、前世でこの力が欲しかったカモ。

 

 

「人生ってそう甘くできてないね~♪」

 

 

 ホント、甘くないな。マシマロのように柔らかくて甘い世界だったら良かったのに。柔らかいし美味しいし一石二鳥だよね♪

 

 あと、この力が前世にあったら正チャンに悪戯したり、綱吉君に悪戯したり、ユニチャンにとてもチャーミングな魔法をかけたりしたのに。

 

 ぶーぶー。

 

 

 桔梗チャンに不満をぶちまけていたら、不意にドアがスライドされた。

 

 

「車内販売よ。何かいら……あらっ」

 

 

 スライドされたドアから顔を出した知らないおばちゃんが僕達を見て何やら目を丸くした。顔を赤らめているのは桔梗チャンの顔がイケメンだからカナ?

 

 それにしてもノックしないのはいくらなんでも無礼だよ。僕を宿敵としているらしいムクロウ君でもノックはできるのに!

 

 敵でもできることが、関係ない赤の他人ができないなんておかしいよ! このおばちゃんには礼儀が欠けてる!

 

 ノックをしなくていいのは僕やXANXUS君にユニチャン、綱吉君みたいなトップに立つ人たちだよ。ユニチャンと綱吉君はちゃーんとノックするイイ子だけど♪

 

 

「な、何かいるかしら? おばちゃん、安くしちゃう!」

 

 

 上擦った声を上げるおばちゃんは桔梗チャンと僕の顔を交互に見ている。何やら気合の入った声だね。安くなるのは懐に優しいんだろうけど、その代わり顔を提供するのは嫌だなぁ。

 

 え、ちょっと違う?

 

 

「白蘭様」

 

 

 桔梗チャンが仲間に入りたそうにこちらを伺っている……じゃなくて、こちらを伺っている。僕が欲しいと言ったものを桔梗チャン自身のお金で買っちゃうつもりなんだろうな。僕はヒモになりたくないけど桔梗チャンが譲ってくれない。

 

 桔梗チャンにお金を使わせたくないとかではなく、別の理由から首を横に振った。桔梗チャンは直ぐに僕の意を汲み取り、おばちゃんへ視線を移した。心なしか視線が冷たい気がする。

 

 僕に向けられている訳じゃないから良いケド♪

 

 

「そうですか。申し訳ありませんが、何もいりません。どうかお引き取りを……願わくば、次はノックをして了承を得てから戸を開けて欲しいものです」

 

 

 最後にちゃっかり皮肉を言っちゃった桔梗チャンに思わず笑っちゃった。やっぱりサイコー♪

 

 おばちゃんは桔梗チャンの皮肉に気付いたのかな? 慌てて「失礼するわ!」と言ってドアを閉めちゃった。

 

 バイバーイ、と心の中で呟きながら手を振る。背中を向けているおばちゃんはこっちに気付かなかったけど、僕は満足だよ。

 

 

 おばちゃんがいなくなり、大好きなマシマロを頬張りながら再び愚痴ろうとする。その前に、桔梗チャンが質問してきた。

 

 

「しかし白蘭様。貴方様なら例え両親から命じられたとしても逆らった筈。一体何が白蘭様の御心を擽ったのでしょう?」

 

 

 僕が話す前に遮るのはあまり好きじゃない。でも、桔梗チャンだからというのと、その質問に答えるのに気分を害さないからプンプンしないでおこう。

 

 僕って心が広いなー。

 

 

**

 

 

 桔梗チャンの言う通り、僕は両親から半ば命じられてここに来た。命じられたら普通は従うよね? だけど僕は従って()()()んだよ。

 

 僕は魔法使いの両親の元で11年間育ってきた。両親は魔法使いで、自分の血筋に誇りを持っていた愚かな人達だった。

 

 自分達の血筋が最も尊いと考えている彼らは、なんて哀れな人達なんだろう。可笑しくて笑っちゃうよ。

 

 

 両親は僕にも同じように純血主義の考えを植え付けようとした。勿論、それで考えを改める僕じゃないよ!

 

 洗脳なんて僕の方がより得意だよ。魔法なしの、言葉だけでの洗脳なら僕の方がよっぽど上手さ。だから僕は彼らの洗脳に屈することなく、僕としてのびのびと育った。

 

 

 そんな時に、不思議な手紙が届いたんだ。

 

 

 一ヶ月以上前に届いた手紙。運んできたのがフクロウというのには今更なので驚かない。

 

 魔法使いってフクロウが好きなんだねぇ……フクロウって聞いたらムクロウ君を思い出すから変な気分になっちゃうよ。

 

 ムクロウ……じゃない、フクロウには驚いてないけど手紙の内容に僕は驚愕した。そして、この手紙の差出人の頭を疑った。

 

 魔法使いからしたら一般常識。だけど僕からしたら非常識。

 

 だってねぇ……いくらなんでも魔法学校なんて怪しい名前の学校への入学通知だったからね。厨二病もしくはイカれてるのかもって思っちゃった。

 

 

 でも、この手紙の差出人は正常だったようだ。何故なら、僕の両親が当然のことのように入学する準備を進めたから。

 

 僕の意思、どこに行ったんだろう。入学するよねというような確認も一切とられなかったんだけど。この時代の青少年って親に進路を決められるのカナ?

 

 両親が学用品を全て買ってくれたので、僕は魔法使い(笑)の杖とペットを買っただけだった。杖とペットについてはいずれ話すけど、中々面白かったなぁ。

 

 ムクロウ君がまさかいたとは僕も思わなかったよ!

 

 

 ムクロウ君のことは置いといて。準備を終えて、いざ入学!というときに両親からとある密命を帯びた。

 

 この密命が僕の心を擽っているんだよ、桔梗チャン。

 

 

「それは……如何なるものでしょう?」

「フフン♪ それはね、"ハリー・ポッターを手玉にとってあの方へ引き渡すのだ"ってさ!」

 

 

 フフッ、桔梗チャンはまだわからないみたいだね。楽しいことがだーい好きな僕が何を考えているか、大体わかると思ってたんだけど。

 

 それとも知っている上で僕を待っているのかな?

 

 なら、桔梗チャンの優しい心に免じて教えてあげなきゃ!

 

 

「彼らは僕のことを何も知らないんだよ? 僕が純血主義じゃないこと、桔梗チャンと一緒なこと、前世の記憶があること! そして、僕が彼らの命令をどうするのかもね!」

 

 

 人から命令を受けるなんて、前世では全くなかった。僕の上司にあたるユニチャンは僕に命令しなかったし、命令する立場でもあったから。

 

 生まれ変わって最初に言われた彼らの言葉「あの方の補佐に相応しい子になれ」を聞いたとき、僕はその時に思った。

 

 ユニチャン以外の誰かに従うなんて言語道断。あの子だからお願いも聞いたし、綱吉君を助けた。だけどどこの誰だか知らない、一歳児にしてやられたお偉いさんなんて従う価値もない。

 

 実際に一目見る機会があったのだけど、あんな弱々しいリーダーによく従えるよねって思ったもん。綱吉君でも片手で捻り殺せるくらいの弱さ。XANXUS君なら「カスが」って言って、直ぐに消しカスにしちゃうレベル。

 

 そんな人物に進んで従いたいと思うなんて、それこそ愚の骨頂だよね!

 

 

「彼らの命令に従うつもりなんて、1ピコ足りともない。だから僕は、ハリー君と交流しながら彼も、両親も、ヴォルデモート君も、みーんなハエのように叩き落すんだ♪ それが楽しみで楽しみで、僕の心は歓喜の声を上げて震えているよ」

 

 

 にっこりと微笑みかければ、桔梗チャンはゆっくりと笑みを浮かべた。前世でやっていたように手を顎の下に沿えて桔梗チャンは跪いた。

 

 

「白蘭様の御心のままに。私は貴方様の御命令ならどんなことでもしましょう」

 

 

 桔梗チャンの忠誠心は前世からのもの。僕も、桔梗チャンは信頼できると思ってる。だから今生もまた、桔梗チャンに頑張ってもらいたかったんだ。

 

 自分から進んで行動してくれる桔梗チャンは僕の右腕さ♪

 

 

 何を企んでいるか言わなくても、桔梗チャンはわかってる。ハリー君をヴォルデモート君に引き渡す事なんてしない。だからといって、ハリー君を助けるわけでもない。

 

 僕ってね、どちらとも敵に回して、それでも余裕で戦えるくらい強いんだよ。前世の力、まだ残ってるしね。

 

 何をするのか、もう予想出来てるんじゃないかな?

 

 僕は彼らを敵に回して思う存分、場を引っ掻き回すつもりなんだ♪ ハリー君がヴォルデモート君と戦う未来は確定している。

 

 フラグってあるでしょ? 彼らはまるで物語の登場人物みたいに設定がよくできてるんだ。僕と綱吉君の関係みたいに、彼らの関係も因縁深い。

 

 だから、いつか対立すると思ってるんだ♪

 

 ハリー君は11歳。対してヴォルデモート君は……何歳だろう? よくわかんないけど、本当に物語みたいだよね。何千歳の魔王と十代の勇者が戦う感じが特にそれを感じさせる。

 

 そこに僕の入る余地はない……と普通は思ってそうだけど、生憎と僕はそこまで空気を読める男ではない。空気は吸う為にあるからね、読むなんてことはしないんだよ!

 

 

 空気の読めないらしい僕がやることはただ一つ。この、小説のような面白可笑しい物語を粉々にすること。ムクロウ君がお望みらしい世界大戦を引き起こす……なんてのも、面白いよね。

 

 アハハ、面白いと言っているだけであってまだやろうとは思ってないよ?

 

 

「桔梗チャン、今生もまた楽しく生きよーねー♪」

「ハッ」

 

 

 ヴォルデモート君が力を取り戻すには時間がかかる。ハリー君が強くなるにもまだ時間がかかる。その間は、僕ものーんびりマシマロでも食べて待っておくつもり。

 

 魔法学校、ホグワーツのスイーツを制覇するのも面白いかも♪

 

 

 だけどね。ハリー君が強くなったり、ヴォルデモート君が復活したりしたら……僕も、動き出そうカナ? 保守派と革新派に対立する新たな組織……なーんて、響きが良いよね!

 




解説

白蘭
 前世はとあるマフィア「ミルフィオーレ」のボス。桔梗はその時からの部下。人をおちょくるのが好きで、敵が多い男。

桔梗
 前世でも今生でも白蘭の部下。

ムクロウ(骸)
 前世はマフィア嫌いのボンゴレファミリー霧の守護者。白蘭と一度戦い、負けたことから少し仲が悪い。ムクロウは前世では骸の匣アニマルである。

綱吉
 白蘭の前世ではボンゴレファミリーのボスをしていた。白蘭と戦い、勝ったことがある。

XANXUS
 白蘭の前世では独立暗殺部隊ヴァリアーのボスをしていた。綱吉と因縁がある。他者を「カス」と蔑み、容赦なく炎でカッ消す。

正チャン(入江正一)
 白蘭の前世の友人……の割には酷い目に遭っている。苦労性で胃痛に悩まされている。

ユニ
 白蘭の前世では最後の大空のアルコバレーノ且つミルフィオーレのボス。白蘭を唯一指揮できる、ある意味凄い存在。


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入学から大遅刻

英語の方の原作を読んでいるので、登場人物の話し方がおかしい場合があります。その場合はご指摘いただけると幸いです。直ちに訂正致します。


 僕がイイ感じの野望を桔梗チャンに聞かせていたら、ドアをノックをされた。返事をしようと口を開いたその時に、ドアがスライドされた。

 

 ……激おこだよ。ぷんぷんしても、良いカナ?

 

 

「突然ごめんなさいね。ネビルのヒキガエル、見なかったかしら?」

 

 

 ぷんぷん、知らない人に話す際には自分の所属を名乗るのが礼儀だよ! ヒバリチャンでもできるのに、なんでこの子はできないんだろう!

 

 この子はネビル君なの? それともネビル君の影武者的な代理人? 誰だかわかんない人に情報なんて教えられないよ! 信頼できないしね!

 

 僕だってまともなことは言うんだよ。そう言ったら、綱吉君に「え、嘘だろ」みたいな顔をされたけどね。

 

 

 さて、礼儀知らずの女の子になんて答えようカナ。ヒキガエルなんて探そうと思えば探せるけど、見ず知らずの人にそんなイイコトできないよね。

 

 興味ないから、桔梗チャンに任せよーっと!

 

 

 カバンの中からマシマロの袋を取り出して、頬張る。真っ白マシマロ、穢れのない純白! マシマロ、どうして君はマシマロなの?

 

 君が人間だったら……うん、食べられないや。ぶっちゃけどうでも良かった。

 

 

 一人で漫才しているうちに、桔梗チャンが追い払ってくれたようだ。訪問者にこりごりなのか、イイ笑顔で桔梗チャンが言った。

 

 

「人払いの魔法があったら直ぐにかけているのですが」

「あるんじゃないカナ? それに、なかったら作れば良いじゃない」

 

 

 使い勝手のいい魔法なんていくらでも作れるさ! 現代のアイディアのある僕達は、想像力においてはこの時代の人達にも負けないよ!

 

 僕の提案に桔梗チャンは感銘を受けたらしい。「流石です、白蘭様」と言って、早速教科書を読み漁っていた。

 

 ……それだけ突撃訪問者が嫌いなんだね。

 

 

 桔梗チャンは自分の作業に手一杯だし、これ以上は話さないでおこうカナ。桔梗チャンがもし人払いの魔法を作ったら、それで僕達は平穏に過ごせそうだよ。

 

 今後の期待の為に、しばらく無言の時間を耐えてみよう。耐えられるかわかんないけどね。

 

 

 あ~あ。こんな時に正チャンがいたら、何より楽しめたのに!

 

 

***

 

 

 無心にマシマロを頬張り続けてどれほどの時間が経ったカナ。何も考えずにただ機械的な動きでマシマロを手に取っていた僕の意識は突然覚醒した。

 

 どうやら眠りながらマシマロを食べていたらしい……ビックリ!

 

 床にはマシマロの袋が散乱している。この状態からして、僕はかなりのマシマロを無意識に胃の中に収めたみたい。

 

 だけどまだ物足りない。ご飯、じゃなくてデザートが食べたい。入学式とか早く終わらないカナ? 日本はかなり長いことで有名だけど、ここはどうだろう?

 

 それにしても、夜に行う入学式も中々ないと思うんだ。

 

 

「御目覚めになられましたか」

 

 

 起こすつもりのなかったらしい桔梗チャンが杖を片手にそんなことを言った。って、なんで杖持ってるの?

 

 僕の視線が杖に注がれているのに気付いたみたい。桔梗チャンは軽く杖を振って得意気に笑った。

 

 

「人払いの魔法を使っていました。元からあるようですが、それを使うのは癪でしたので再構成しました」

 

 

 ふむふむ。要するに、桔梗チャンは優秀だということだね! 一年生にもなってないのに、もう魔法を作っちゃってる!

 

 僕も嬉しいなぁ、鼻が高いよ。嬉しかったのでマシマロを一個贈呈したら桔梗チャンも嬉しそうに頬張っていた。

 

 桔梗チャンもマシマロ好きなのカナ?

 

 僕がそう思っていたら、桔梗チャンはドアをスライドさせて開き、僕の方を振り返った。

 

 

「白蘭様……実は、汽車は既に停車しています。他の者達は既に降りていますが……如何しましょうか」

「そうなの? アハハ、まだ着替えてもないや」

 

 

 桔梗チャンも着替えてない……着替えてる! 僕が眠っている間に着替えたのカナ?

 

 あまり好きではないけど、制服だから着ないとダメだよね。制服なんて生徒たちの連帯感を自覚させるために身に着けるように命じているようなものだよね。だから僕はあまり好きじゃない。

 

 ローブなんてデザインが古すぎるよね。そんな後進的な服を制服だとは僕は認めないよ!

 

 制服ってね、肩から羽織っても決して落ちない服や、炎を受けても破れない服のことを言うんだよ!

 

 何だか制服談義になっちゃってるね。

 

 着替えよっと……いつか、ヒバリチャンに制服を改造してもらうんだ! そもそもヒバリチャンがいるかわかんないけどね!

 

 

 さて、いやーな制服を身に着けた僕は傍から見ても怪しい人間。つまり、魔法使い(笑)のことだよ。自分でも認めたくないけど、魔法が使えるから仕方ないんだよ。

 

 普段着はカバンに突っ込む……突っ込もうとしたら桔梗チャンに強奪された。綺麗に畳まれて、そっとカバンに入れていた。

 

 ……うん、何も言わないでおくよ。

 

 桔梗チャンはそのまま僕の散らかした袋を一つの袋に纏めていた。どうするんだろうと見守っていると、桔梗チャンはコンパートメントの隅に放置していた。

 

 自分で捨てないんだね。いいよ、それでいいと思うよ……だけど、何か違うような……んー? 気のせいカナ。

 

 

「白蘭様」

「んー。行こっか」

「ハッ」

 

 

 桔梗チャンと共に汽車を降りれば、早速駅長らしき人に見つかっちゃった。こっちを見て目を擦ってまたもう一度見ているのが凄く面白い。

 

 人を驚かせるのって、これだから快感があるんだよね。

 

 信じられないと言いたげに眉を上げた駅長は慌ててこっちに駆け寄ってきた。

 

 

「ホグワーツの学生ですか!?」

「はーい!」

 

 

 返事は大切だよね。元気よく返せば、桔梗チャンが微笑ましそうに僕を見ていた。

 

 その視線はやめてよ。背中に湿疹ができそうだよ!

 

 

「い、急いでホグワーツに向かわなければ……! えー、今から先生に連絡を入れるので、絶対に! いいですか、絶対にここから動かないでくださいよ!」

 

 

 唾を飛ばしながら言いたいことを言い終えた駅長はそのまま走り去った。彼に言われたことに従う謂れはないんだよねぇ……だけどここで動いたら僕は怒られるカナ?

 

 怒られるのはやだ。正座させられてガミガミ言われるのは退屈なんだ。正チャンみたいに言いたいこと言って終わらせるのは良いよ。ぼけーっとすればいいからね。だけど、ユニチャンみたいな優しい子に諭すように叱られたら泣きたくなっちゃうよ。

 

 

 桔梗チャンは僕が動かない限り動くつもりはないみたいだ。こちらを伺っている。

 

 

「如何しますか? この場所を離れるのは得策ではありません。教員側から何らかの罰が下る可能性があります」

「じゃあ、待つ。トイレ掃除なんてやだよー」

 

 

 学校で罰を下されるとしたらトイレ掃除なのがセオリーだってどこかで聞いたことがある。誰が言っていたか思い出せないなぁ……うん、わかんないからXANXUS君と言うことにしておこう。

 

 トイレ掃除を頑張るXANXUS君……シュールだなぁ。よし、待ち時間はXANXUS君が便器を磨いている光景を脳内で思い浮かべることで過ごすことにしよう。

 

 

***

 

 

「なんてこった! まさかイッチ年生が置いてけぼりをくらうなんて! すまねぇなぁ、心細かっただろう」

 

 

 ゴシゴシ……XANXUS君は便器をせっせと磨く。だけど、教師の綱吉君は便器を指して「ここ、何だか汚いよ」と言う。XANXUS君が指摘を受けるのはこれで10回目。彼是10時間ほど頑張ったXANXUS君だけど、もうスタミナ的に限界。

 

 XANXUS君は絶望に顔を染めて叫んだ……「もう散々だ」と。だけどそこで許すほど綱吉君はトイレ掃除において甘くはない。絶望的な台詞をホイホイ放り込む綱吉君。そんな彼のとっておきの言葉は「10月10日、お前の誕生日だろ? トイレを数字に直してみろ、1010だ。つまり、トイレとお前は会うべくして会ったんだ」という……

 

 

「お前さん、寂しすぎて意識がぶっ飛んどるのか!? バタービール買ってくるからな! ちょっと待っとれ!」

 

 

 もう、うるさいな。折角いい所まで来たのに。

 

 ぷんぷんしながら顔を上げれば、こちらに背を向けて走る大男がいた。ワォ、大きい……あ、ヒバリチャンの真似をしちゃった。まあいいか。今はいないし。

 

 さっき僕にやたら話しかけていた人はあの多きいい男の人かな。でも、背を向けてどっか行っちゃったけど。

 

 

「白蘭様。先程の教員が"迎え"のようです」

 

 

 桔梗チャンが背中しか見えない大男を手で示した。

 

 それはわかるけど、僕達をどこに置いてどこに行くんだろうね。桔梗チャンに聞いてみれば、困ったように僕を見た。何かを言いたげな顔をしているので話を聞いてみた。

 

 

「彼は白蘭様に頻りに話しかけていたのですが、白蘭様が反応しなかったので放心状態だと勘違いをしたようです」

 

 

 桔梗チャンが言うには、僕がXANXUS君がトイレ掃除をしている光景を思い浮かべておもしろーと思っている間、彼はずっと僕に話しかけていたらしい。だけど僕が何にも返さないから心配になって何かを買いに行ったようだ。

 

 何を買いに行ったんだろう。

 

 

 しばらく待っていたら、彼が戻ってきた。正面から見ると背中を見るのとはまた違った感じだ。もじゃもじゃしているけど、気にならないのかな? チクチクしていそうだけど。

 

 どすん!みたいな音を立ててそうなくらい大きい。失礼だと思うけど、この人は人間なのカナー?

 

 

「ほれ、バタービールだ。美味いぞ」

「ありがとーございまーす」

「ほれ、お前さんも」

「ありがとうございます」

 

 

 バタービールと言われる飲み物を受け取った。バターが入ってるのかなー? ジョッキを手に桔梗チャンをじっと見つめる。

 

 桔梗チャンは先に飲んで、僅かに目を見開いた。驚いているけど、どうしたんだろう?

 

 

「白蘭様がお好きになりそうな味ですね」

「そうなの?」

 

 

 頷く桔梗チャンは意味あり気に僕を見て頷いた。毒は入ってないみたいだ……この大きな人が僕達に薬を投与する意味なんてないと思うけど、桔梗チャンは慎重だからなー。

 

 教員が生徒に毒を飲ませたって広まったら、フツーに辞職だよねー?

 

 そんなことを考える人ってかなーり考えなしだよね。まあ、そういう考えを突いて毒を仕込むこともあり得るケド。

 

 

 ぐいっとジョッキを傾ければ、不思議な甘さが喉を通る。バタービールって聞いたからバター味のビールを創造していたけど、そんなことはないみたいだ。

 

 桔梗チャンの言う通り、好きになりそうだな。甘いモノは正義!

 

 

「美味しい~ありがとーございます♪」

「おう! 良かった良かった、何も反応しねぇから心配しとったんだ! それ飲んだらホグワーツに向かうぞ」 

「はーい」

 

 

 あぅ! 頭をぐりぐり撫でられた……痛い。力が強すぎるよ、頭が潰れるところだったじゃないか! 桔梗チャン、微笑ましそうに見てないで僕を助けてよー。

 

 ぶーぶー。

 

 

***

 

 

「遅かったですね、ハグリッド。組み分けの儀式は既に終わっていますよ」

 

 

 眼鏡をかけたいかにも厳しそうな先生がハグリッド先生を咎めるような目で見つめていた。ちなみにハグリッド先生とはさっき自己紹介し合ったよ!

 

 

 実は僕達はもうホグワーツにいたりする。

 

 あれから僕達は細い道を歩いたり、ボートに乗ったり、トンネルを抜けたりしてホグワーツに着いたんだよ。どうしてこんな遠回りをするのかいまいちわかんなかったけど、ハグリッド先生のドヤ顔を見て察したよ。

 

 新一年生にホグワーツの外観を見せたかったんじゃないかなって。

 

 ホグワーツは大きな城で、お金をかけたんだなって直ぐにわかった建造物だった。歴史を感じさせる造りは嫌いじゃないよ。

 

 素直に声を上げてはしゃいでいたらハグリッド先生がホグワーツの自慢をしていたからね。嫌でもわかっちゃうよ。

 

 愛校心のある人って嫌いじゃないよ。ヒバリチャンを思い出すからね。

 

 

「す、すいませんでしたマクゴナガル先生」

 

 

 鋭い視線にハグリッド先生は大きい体を縮こまらせた。物理的に強いのはハグリッド先生の方だろうに、あの女性の先生に遜るということは……つまり、彼女の方が強いんだね!

 

 ふふぅん……こうして見ていると、彼女は確かに強そうだ。意志の強い瞳は自分より大きいハグリッド先生を臆することなく射抜いている。

 

 でも、僕の方が物理的に強いよ!

 

 

 じっと彼女を見つめていると、目が合った。

 

 

「一体何をしていたら列車から降りるのが遅くなったのですか?」

 

 

 あわわ、今度は僕を責めてきた! えっと、素直に答えちゃおうかな。マシマロ食べていたら眠っていて、起きたら既に着いていたって。

 

 でも怒られそうだ。どうしよう。怒られるのやだ。怒られるのは嫌だけど、嘘だとバレたらさらに怒られちゃう。ここは……正直に言っちゃおう!

 

 

「寝ながらマシマロ食べてて、起きたら皆がいなくなってました」

 

 

 あう! ギロッて音が付きそうなほど睨まれた。初日から怒られるのー? 確かに寝たのは僕が悪かったけど、だからといってトイレ掃除はやだよー!

 

 女性、確かマクゴナガル先生が僕に何かを言おうとしたとき。桔梗チャンが僕を庇うように前に出た。

 

 

「この御方は普段なら人の気配がある中では眠れません。しかし、私が人払いの魔法をかけて人の気配を遠ざけていたので、家の中だと誤認してしまったのかもしれません。咎めるは、その環境を作りだした私にお願いします」

「人払いの魔法? まだ入学してもない貴方が、それをかけたと?」

 

 

 マクゴナガル先生は信じられないようだ。有り得ないと首を横に振っている。ハグリッド先生も後ろで「なんてこった!」と驚愕している。

 

 桔梗チャンは信じてもらえないことを悟ったみたいだ。杖を取り出して、早速自分の作った魔法をかけた。桔梗チャンが杖を向けた先はすぐ下の地面。

 

 桔梗チャンのかけた魔法の効果は絶大だった。

 

 なんと! 扉の向こう側の気配が何一つ感じられないんだ。魔法って凄い! この空間以外の人の気配が全く感じられないや。桔梗チャン、ちゃっかり魔法使いになってるじゃないか。

 

 マクゴナガル先生も僕と同じように驚いていた。ずれたメガネを何度も直している。

 

 

「なんということでしょう……地面に魔法を放っただけで辺りの気配が全て消えるのですか……? これは今までの魔法にはない、つまり貴方が作ったんですね?」

「はい」

「貴方が優秀なのはわかりました。しかし規則は規則です……入学してもない貴方達に適用できるかは会議をする必要がありますが。ハグリッド、ダンブルドアに伝言をお願いします。"残りの生徒二名が来たので、組み分けを再開します"と」

「へい」

 

 

 ハグリッド先生は、ダンブルドアという人に伝言を伝えるためにどこかへ行った。目の前に扉があるのに行かないということは、別の入り口があるのかな?

 

 これだけ広いと入り口が10以上あっても疑問に思わないよね! 探検したいなぁ……裏口とか、秘密の通路とかありそうだよね。

 

 わくわく♪

 

 

「マクゴナガル先生……でしたか? 人払いの魔法は解除しますね」

「ええ、お願いします。中が静かになったら入りますよ」

 

 

 あ、そういえばまだ人払いの魔法をかけていたんだっけ。律儀に確認を取る桔梗チャンは偉いなぁ……マクゴナガル先生も丁寧な桔梗チャンに好印象持ってるみたいだしね!

 

 偉い偉い! 後でマシマロを一個贈呈しよう。

 

 

 許可をもらった桔梗チャンは杖をぴょいと振った。すると、あれだけ静かだったこの空間が一気に騒がしくなった。それだけこの扉の先が騒がしいということがわかると思う。

 

 笑い声、話し声……色々な声が耳に入る。扉を開いたらもっと騒がしくなるんだろうね。騒がしいのは嫌いじゃないけど、知らない人に騒がれると鬱陶しいよね。

 

 僕はだーい好きな人達と騒ぐのがだーい好き!だから、嫌いな人とか知らない人と一緒にいたらぷんぷんしちゃう。ぷんぷんしたらどうするって?

 

 勿論、白龍を転がすの♪

 

 ころころ転がった白龍は炎を噴き出しながら、この城を一瞬で炎で包んじゃうカモ! でも、魔法使いなら直ぐに直せるよね!

 

 んふふ~♪ 早くしないと、甘いモノ欠乏症で暴れちゃうよ~!

 




解説

ヒバリチャン(雲雀恭弥)
 愛校心の強い、ボンゴレファミリーの雲の守護者。口癖は「ワォ」と「咬み殺す」

白龍
 前世の白蘭の匣兵器。白い龍。
 白龍転がし→詳細不明。白龍を転がす遊びらしい。


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組み分けは予想通り

「中が静まりましたね。それでは、行きましょう」

 

 

 僕がこっそりと杖を出した時、マクゴナガル先生が僕達に声をかけてきた。僕の手の動きに気付いたわけではないようだ。

 

 惜しい、あと30秒遅かったら白龍を転がしてるのに! 

 

 だけどそれ以上に組み分け儀式が楽しみだから今回は許してあげよう。僕ってなんて心が広いんだろう。桔梗チャンもそう思うよね!

 

 

 扉を開け放ったマクゴナガル先生は、僕達を一度だけ振り返ってから歩き始めた。僕達も彼女に続いて大広間に足を踏み出す。

 

 視線、視線、視線。

 

 みーんなが僕達を見てる。視線で殺せるなら、僕は今頃死んでいるよ。まあ、それだけで死んじゃうほど僕は弱々しくないケド♪

 

 

 大広間の天井は夜空を映していた。何かの映像かと思っちゃうくらい精巧にできている。だけど僕の目はごまかせないよ。あれは天井だよ、空じゃあない。

 

 夜空って聞いたら僕に酷いことした人達を思い出しちゃう。でも、過ぎたことだし今更ぷんぷんすることはない。僕は大人なんだよ。

 

 宙にロウソクが浮いているなんて危ないよね。だけどそこも何とかなるのが魔法クオリティ。重力なんて目でもないと言いたげに重力に逆らっている。重力といえば綱吉君のお友達にいたね、使い手が。

 

 

「名前を呼ばれたら、椅子に掛けなさい。私が組み分け帽子を乗せます――カーティス・フロイス!」

 

 

 あ、桔梗チャンの名前が呼ばれたよ。僕はあまり何とも思わなかったんだけど、桔梗チャンは半純血なんだって。カーティス家は非魔法族……マグルらしいけど、母親が魔女だったんだっけ?

 

 本人もどうでも良さそうだったから余りわかんないんだよね。

 

 名前を呼ばれた桔梗チャンは椅子に腰を下ろした。緊張なんて一切していない顔をした桔梗チャンの頭の上に帽子が乗っかった。帽子が中々大きいのか、桔梗チャンの顔が半分くらい隠れた。

 

 

 ……何も変化がない。

 

 直ぐに決まらないものなのカナ? 桔梗チャンの口元は動いていないし、特別変わったことはないけど……そもそもどうやって組み分けしているんだろう。

 

 はーやくしてくれないかなー。

 

 

「……スリザリン!!」

 

 

 わぁ! 帽子が叫んだよ! 見た? 見ちゃった?

 

 魔法使いの帽子って絶叫するんだね! 今日は凄いことを学んだ気がするよ。魔法使いの帽子は喋るんだ。これでぼっちでも寂しくないね。

 

 ヒバリチャンにとても優しい世界だね!

 

 桔梗チャンは僅かに頭を下げて僕に礼をした後、スリザリン生が集まっている席に向かった。桔梗チャンはスリザリンかぁ……意外じゃないけど、レイブンクローでも合うと思うんだよ。

 

 僕がこんな雑学紛いのことを知っているのは珍しいと思うでしょ? 僕もそう思うよ。だけどね、学校が始まる前からスリザリンの良い所について話す人達が周りにいたら嫌でも覚えちゃうよ。

 

 しかも、他の三種類の寮は悪口ばっかり。僕じゃなかったら洗脳されていたね。

 

 

 次に、マクゴナガル先生は長い羊皮紙に書かれているらしい僕の名前を読み上げた。今度は僕の番だよ!

 

 

「フォスター・マーヴィン!!」

 

 

 全然気に入らない名前を呼ばれちゃった。名字も名前も嫌い。大嫌い。僕の名前は白蘭で、それ以外の名前はない。

 

 大体、嫌いな人達に付けられた名前なんて好きになれないよね? 改名出来たら名字も名前も変えちゃってるよ!

 

 てくてくと椅子まで歩いてぴょんと座る。マクゴナガル先生が帽子を持った手を僕に近付ける。

 

 帽子が頭に触れる前から、帽子が叫んだ。

 

 

「スリザリン!!!」

 

 

 ……え? 終わり?

 

 一瞬、全ての雑音が消えた。みんなの視線が僕に集中している。その顔に浮かぶのは驚愕と驚愕と驚愕……つまり、驚愕。

 

 やっぱり一瞬で組み分けが決まるのは中々ないのかなぁ? まあ、決まっちゃったなら仕方ないよね。僕は他の寮の気風に当て嵌まらないし、スリザリンしかない。

 

 椅子から降りてスリザリン生のいる席に足を踏み出せば、マクゴナガル先生に呼び止められた。

 

 

「帽子に触れてもいないのに組み分けが決まったのですよ? もう一度、帽子を被って話を聞いてみては……」

「アハハ、大丈夫ですよ先生。組み分け帽子は当たってますよ♪」

 

 

 心配してくれてありがとうね、マクゴナガル先生♪ やっぱり良い先生だ! 僕も前世の大学で彼女みたいなイイ教授が当たればもう少し楽しく過ごせたかもねぇ……まあ、正チャンいたしあんま変わんないかな?

 

 マクゴナガル先生にバイバイと手を振って桔梗チャンの元に小走りで向かう。桔梗チャンの隣にいる赤毛の子が僕を見て感極まったように叫んだ。

 

 

「白蘭様!」

「あ、ザクロ!」

 

 

 驚いたことに、赤毛の子はザクロだった。うわぁ! 前世の部下達に会えるなんて、僕は幸せ者だね♪

 

 桔梗チャンとザクロの間が開いているので、そこに座ることにする。多分、二人が開けてくれたんだね。ふふん♪ 感謝感謝♪

 

 

 僕が椅子に座ったのを確認して、今まで僕達をじっと見つめていた老人が声を上げた。

 

 

「残りの生徒も無事組み分けを終えたことだしの、楽しい食事に戻ってくれ」

 

 

 老人(なんか偉そうだから校長のダンブルドア先生かな?)が杖を一振りすると、いつの間にか空の更にたっくさーんの食事が乗っていた。

 

 他の人達は大分食べ終えていたのか、デザートの乗った皿がいっぱい。僕達は来たばっかりだからか、メインディッシュばかり。

 

 魔法って対象者も選べるんだねぇ……僕等にはメインディッシュ、彼らにはデザートって。使い勝手が良いよね、正チャンが見たら羨ましがるカナ?

 

 

 イギリス料理はあんまり好きじゃないし、そもそも僕はデザートが好きなので目の前にある皿から取ることはない。桔梗チャンはふっつーに食べているけど、僕は食べないよ!

 

 欲しい物を食べる。食べたくないのは食べない。これ、常識だよ!

 

 

「白蘭様、何か欲しいものでもありますか?」

「あ、ザクロはもう食べちゃってたんだ。これとね、これと、これとこれとこれ!」

 

 

 僕が注文したモノ全部を取っていくザクロ。たまたま誰かと選ぶモノが同じだったら殺気を視線に籠めて威圧していたのが面白い。

 

 さっすがザクロ! にしてもどうして今まで会えなかったんだろう。イギリスって広いかと思いきや狭いからね。会おうと思えば会えたと思うんだよ。僕と桔梗チャンも偶然会ったし。

 

 僕の近くに僕が欲しいと思ったデザートが並べられていく。アイクリーム、エクレア、たっくさんのイチゴなどなど……。

 

 たっくさんのスイーツがあるのは良いけど、現代風のパフェがないのは残念だよね。自分で作らないとダメなのカナ。

 

 もぐもぐ。

 

 

「ふぇふぇ、ファフロ(ねぇねぇ、ザクロ)」

「白蘭様。呑み込んでからお話をして下さいませ」

 

 

 ザクロに今まで何をしていたのか尋ねようとしたら、桔梗チャンにやんわりと叱られちゃった。でも、確かにごもっともな指摘なので呑み込んでから話そう。

 

 ごっくりと呑み込んでからザクロに向き直る。

 

 

「で、ザクロは今までどこで何してたの?」

 

 

 ザクロはマグルだとは思えない。だって、マグルだったらこの光景にはしゃいでそうだもの。ザクロは意外にそういうところは子供っぽいからね。

 

 でも、ザクロはどこか見慣れた様に魔法を見ている。だから、ザクロはマグルじゃないわけ。

 

 えへん、名探偵ビャクランだよ!

 

 

「あー……実はですねぇ、純血は純血でも変わり者のトコなんですよ~。ウィーズリーっていう……ったく、呑気な甘ぇトコに生まれ変わって反吐が出る毎日だったぜ、バーロー」

 

 

 最後辺りは独り言というより桔梗チャンに聞かせてるんだよね。桔梗チャンはウィーズリーという家柄を知っているみたい。何だか「ああ、あのウィーズリーですか」と頷いている。

 

 ダレるザクロの肩に手を置いた桔梗チャンは一言。

 

 

「まあ、これも運命ですよ」

「バーロー!! 諦めて堪るかぁ!!!」

 

 

 んふふ~♪ だーい好きな人が騒ぐのって心地いいなぁ♪ 周りの人達の騒がしい声も聞こえなくなるから僕の耳にも優しいよ。

 

 にこにこしながら二人の会話を聞いていたら、目の前に座っている男の子が僕に話しかけてきた。

 

 

「あの赤毛のウィーズリーって知っているだろう? 兄弟が沢山いて服も学用品も全部お下がりらしい。まったく、そんなウィーズリーがスリザリンに来るって信じられないくらいだ。君もそう思うだろう?」

 

 

 やたらと馴れ馴れしい子だね。一体どこの子だろう。この鼻にかけたような感じが典型的な純血主義者を感じさせる。僕、純血主義者は両親を思い出させてイラつくんだよね。

 

 じっと見つめていたら、男の子は思い出したように手を出した。

 

 

「僕はドラコ。ドラコ・マルフォイだ。君の名前を聞いても良いかい?」

 

 

 語尾は上がっているけど、その目は「答えてくれるよな。ってか答えろ」と言っている。こういう拒否を許さない言い方とかってホントに典型的なお坊ちゃん思考だね。

 

 前世では見ることがなかったのに、今生ではずーっと見ているよ。左見ても右見ても、家から出てもお坊ちゃんだよ。

 

 ある意味凄いよね!

 

 

 差し出された手を握る。折角差し出した手を無碍に扱ったら恥をかくのはこの子だからね。僕は子供には優しいからまだ恥をかかせないんだよ。

 

 女の子と子供には優しくする。これ、マフィアの常識だよ!

 

 

「マーヴィン・フォスターだよ。ヨロシク♪」

 

 

 親しい人には「白蘭」って呼ばせるけど、そんなの彼には関係ないよね。こーんな典型的なお坊ちゃんと僕は仲良くなれる気がしない。

 

 本当の御坊ちゃまってね、血筋じゃなくて心に高貴さがある人のことを言うんだよ。

 

 そうだね……例を挙げたら……うーん……綱吉君とかXANXUS君かな? 二人とも違った意味合いの高貴さがあるよね。どっちもカリスマ性高いし、僕は嫌いじゃないよ!

 

 何だか苦手視されてるけどね!

 

 

 あ、そうだ。自己紹介の前に言わなきゃいけないことがあったのに。子供に優しくしてたら忘れてたよ。彼には訂正してもらわないといけない言葉があるんだよね。

 

 

「ねぇ、ドラコ君。ザクロを他のウィーズリーと比べないでくれるカナ? よーく見てみたらわかるさ……ザクロの服装、お下がりなんかじゃないだろう? 家系に振り回されないで本人をじーっくりと見なきゃ。それじゃあ、高貴な血筋も濁っちゃうよ♪」

 

 

 ふふん、イイこと言ったよ!

 

 僕達の会話を聞いていたらしい桔梗チャンとザクロが感動していた。特にザクロは感極まった顔で嬉し涙を流している。

 

 ちょ、ちょっと! 困るからやめてよ!

 

 

「うぅ……白蘭様、俺は今ほど生きてて良かったと思ったことはないです……あんなボロクソな野郎共の元で11年ほど過ごす拷問を耐えきった甲斐があります……!!」

「ああ、ザクロ……あなたはこれほどまで……」

「あんな奴らを燃やし尽くさなかった俺の精神的な耐久力、どんなモンってんだ! バーロー!」

 

 

 桔梗とイイ友情を育んでいるザクロ。何だか二人の周りだけ青春漫画の1ページだね。

 

 ドラコ君もビックリだよ。ね、ドラコ君。

 

 

「あ、ああ……俄かに信じがたいが、どうもあのウィーズリーと違うようだな……というか、双子じゃないのか?」

「双子だぜ、バーロー。だけどよぉ、誰が双子は必ず似てるって言ったんだよ! なわけねぇだろうが!!!」

 

 

 大きく机を叩いて声高に自分の考えを述べるザクロにドラコ君はたじたじ。桔梗チャンと思わず顔を見合わせて笑った。

 

 

 それから僕達は他愛のない話で盛り上がった。僕にとっての驚きは、ザクロが割と真面目にアルバイトしていたことカナ?

 

 あの、直ぐにダラけるザクロがバイトを五年間も続けていたって言うんだ! 全ては自分の学費を稼ぐためなんだって。ザクロが言うには、あの両親に借りを作るのが嫌だったんだって。

 

 だからお金はアルバイトで稼いだのだそう。ちなみに夏休み毎にアルバイトするつもりなんだって。

 

 

「なら、僕のトコで働く? 前みたいにさ♪ お給料も前と変わらないようにするし、どうカナ?」

「白蘭様の下にいられるなら、金なんていらねーですよ」

「んん~それじゃダメだよ! ちゃーんとお仕事あげるから給料も受け取らなきゃダメだよ!」

 

 

 僕が「めっ!」と言えばザクロはようやく頷いてくれた。やったね。

 

 ドラコ君は僕等の会話に「??」状態だけど、気にしないことにしたらしい。こういうところはちょっぴり紳士だよね。それとも、親がそう言う関係なのカナー?

 

 そういう関係というのは、聞かなかったことにしなきゃいけない系の人ってコト。まあ、言ってしまえば死喰い人のコトだけどね!

 

 死喰い人。デスイーターというんだよ。「例のあの人」として知られるヴォルデモート君の配下の人達のこと。彼らはヴォルデモート君がいなくなったとき、魔法使いの牢獄に閉じ込められた人と色々言って逃げて普段と変わらない生活を送っている人とかいる。

 

 その、色々変わらない生活を送っている一族がドラコ君の「マルフォイ家」だよね。とっても有名なんだよ……まあ、僕の場合は両親が「裏切者」とか頻りに言っていたからわかるんだけど。

 

 

 僕の所は特殊だったからねぇ……ヴォルデモート君が死んでから直ぐに助けを求めたのが僕の家だったことから、その特殊さがわかると思う。だから気になるんだよね。

 

 ヴォルデモート君は僕の家に何を求めたんだろうって。

 

 大した力のない両親と、赤ん坊の僕しかいない家に突然来てさ。普通はもっと頼りになる人達の元に身を寄せる筈だよねぇ……うん、調べなきゃいけないな。

 

 あれ? なんで僕の家とヴォルデモート君の話になったんだろう。

 

 首を捻っていると、桔梗チャンに声をかけられた。

 

 

「白蘭様。寮に向かうそうですよ」

 

 

 そっと僕の肩に手を置いた桔梗チャンは手で辺りを示した。あれれ? いつの間にデザート、なくなってる。それに、生徒達もみーんな移動を開始している……え、これって……何も知らずに終わった系?

 

 寮への道のりを歩きながら、桔梗チャンから話を聞く。

 

 

「森には行かないこと。廊下で魔法は使わないこと。あと、三階の廊下には立ち入らないこと……以上の点について校長は述べていましたよ」

「立ち入り禁止かぁ……なんだかわくわくする響きだね」

 

 

 うん、ホントーにわくわくしちゃう♪ 誰にもバレないようにこっそりと抜け出すのが楽しいんだよね。ユニチャンに見つかってお説教されるときが多いけど。

 

 僕が抜け出す時間を予知して待ち伏せなんて中々エグイよ、ユニチャン。

 

 

 しばらく歩いていると、僕達の寮に辿りついた。合言葉があるみたいで「高貴なる血」という合言葉で入って行った。ちなみに、たまーに変わるらしい。といっても、似たようなものらしくてわからなくても当てずっぽうでもイケるらしいよ。

 

 これなら、慌てん坊のザクロでも大丈夫だね!

 

 

 監督生(なんか生徒の中で結構偉いらしいよ)に寮の説明をされて解散となった。僕と桔梗チャンとザクロは同じ部屋だったよ。やったね!

 

 寮の部屋に顔を出したら、見覚えのある真っ白なフクロウがベッドの上を転がっていた。

 

 翼をバタバタを上下に振りながら転がっているフクロウは、傍から見ても異様だ。これをフクロウだと断定できる人はちょっと頭がイカれてる。

 

 

「クフフフフ……クハハハハハ!!!」

 

 

 一羽だけで笑い声を上げるのは凄く不気味だと思うよ、ムクロウ君。

 




解説

カーティス・フロイス
 →カーティス:礼儀正しいという意味
 →フロイス:Platycodon grandiflorus(桔梗の学名)の最後を取った

フォスター・マーヴィン
 →フォスター:刃物職人
 →マーヴィン:美しい海

ザクロ
 前世の白蘭の部下。口癖は「バーロー」。よくダレる。


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新学期第一週目の授業

イイ感じのタイトルが思いつかない……orz


「クフフ、クフフフフ♪ ……おや、白蘭ですか」

 

 

 ノリノリで翼を振った後、何故だかがっかりしたような顔をするムクロウ君。一体何か嬉しいことがあったのカナ?

 

 ちょっと聞いてみた所、ムクロウ君は楽しいことがあったみたいだ。曰く、「小説の魔法使いのいる世界にいるような生物と一戦交えてきた」のだそう。

 

 そりゃあ、機嫌も良くなるよね。

 

 

 そんなムクロウ君は桔梗チャンとザクロにくりっくりの目を移して一言。

 

 

「おやおや。お久しぶりですね」

 

 

 寝転がっていた体勢から起き上がり、毛繕いをしながらムクロウ君はじっと僕等を見つめる。そして、片足を出してせがんだ。

 

 

「僕のご飯はないのですか」

「ネズミは?」

「バカなこと言わないでくださいよ」

 

 

 アハハ、まあそうだよね。人間だったムクロウ君がネズミなんて食べられるわけがない。中々グルメなムクロウ君は、ネズミよりよっぽど美味しいモノをたっくさん知ってるもんね。

 

 そういえばムクロウ君は僕が籠をコンパートメントの中に入れるとき、「こんなとこにいたくありません」と言ってどこかに飛んで行ったよね。だとしたらおかしい。

 

 なーんで、いつの間にか地下の寮にいるの?

 

 

 ムクロウ君の差し出した足に懐にあったチョコレートを近づける。直ぐにチョコレートを奪い取ったムクロウ君は器用にラップを開けて食べ始めた。

 

 この際、フクロウがチョコレートを食べていいのか否かという疑問は置いておく。

 

 

「ムクロウ君、どうやってここに来たの? 地下牢には飛んで入れないよ」

「僕はただ、誰もいないホグワーツの中を歩いて、中に入っただけですよ」

 

 

 歩いた……ということは、有幻覚で人間の姿になったんだね。幻覚ってすっごく便利だよねぇ……魔法の世界でも通じるなら、ムクロウ君は無敵じゃないか!

 

 色んな人を杖なしで騙せるなんて魔法使いたちが知ったら、それこそムクロウ君の大嫌いな実験体になっちゃうよ。

 

 寝る準備をしながら、ムクロウ君の話を聞くことにした。ホグワーツの中を、皆がいない時に歩いているのならそれこそ面白いことを知っているかもしれないしね。

 

 

 最初はあまり話したがっていなかったムクロウ君も、チョコレートを増やしたら饒舌に語ってくれたよ。

 

 

「三階の廊下は中々面白かったですよ。禁じられていた場所でしたか? あそこには三頭犬……ケルベロスがいましたよ。全力を出さずとも勝てましたが、実際にケルベロスを見るのは中々見物でした」

 

 

 愉快そうにクフクフ笑いながらチョコレートを齧るムクロウ君。どうやらいつの間にか、僕達より探検していたみたいだ。ちょっと、いやかなり羨ましい。

 

 ムクロウ君が言うには、禁じられていた廊下の所にはケルベロスのいる部屋があるらしい。そのケルベロスは足元の扉を守っていたので、見ていてわかりやすかったとのこと。

 

 まあ、そうだよね。なんでこんなとこに堂々と扉があるのって感じ。

 

 僕等ならまず、幻覚で扉の存在すら消すけどね! そうしたら万が一ケルベロスがやられても見つからないよね。

 

 ん、やっぱり幻覚は使い勝手が良いね、体術が求められないこの世界でなら、マーモンチャンは頂点に立てると思うよ。

 

 

 寝る準備が整い、ベッドの中に潜り込む。中々ここのベッドってふかふかだね。ちょっとばかりこの学校を見直したかもしれない。

 

 たかが寝具如きって思う? そんなことないよ、寝る場所ってどの世界でも重要視されるんだよ!

 

 

「羨ましいなムクロウ君。僕も探検するもん。ね、桔梗チャン、ザクロ」

「白蘭様の仰せのままに」

「俺も白蘭様が行くなら良いぜ~」

 

 

 二人から了承ももらって、ハッピーだよ。じゃあ、おやすみ。

 

 それにしても、夜になっても探検できる、フクロウと言う身分を持つムクロウ君がちょっと羨ましいよ。

 

 

***

 

 

 新学期が始まり、僕達は早速授業を受けていた。前世で習ったようなモノとは全く違っていたので、僕達は特別優秀と言うわけではなかった。理系科目だったら負けない自信、あるんだけどなぁ……。

 

 妖精の呪文とか。ホントなにそれって感じ。

 

 できなかったわけじゃないよ? できたけど、やり辛かったってこと。桔梗チャンは呪文系に長けているみたいで、よく褒められていたよ。

 

 僕はまあまあ、ザクロは爆発ばっかり。いい感じにランク付けされているのがこれはまた面白い。

 

 

「クフフ……魔法使いですか。僕も杖を持ちたいです。というより、前世の僕の武器は杖と槍でしたよ」

 

 

 僕の膝の上に乗って授業を参観しているムクロウ君がぼそりと呟く。その気持ちもわからなくはない。だけど、ムクロウ君はフクロウなんだよ。

 

 フクロウでも、有幻覚で人間になればできるかもしれないけどさ。

 

 

「じゃあ、それを使って魔法をぽぽぽーって出せば良いじゃん」

「有幻覚の杖から出した魔法は有幻覚なのですよ、白蘭。つまり、独りで有幻覚で遊んでいるようなものです……やっていて虚しくなりました」

「あ、やったんだ」

 

 

 うーん……現物の杖があればムクロウ君は魔法が使えるのかな? もし使えるのならムクロウ君に杖を買ってあげよう。使えないのに渡しても意味ないからね。まずは確認を取らなきゃ!

 

 そう思っていた時、近くでまたもや爆発が起きた。僕の髪とムクロウ君の羽毛が大いに乱れた。

 

 爆発の犯人は勿論、ザクロだ。

 

 

「だぁ~! また失敗かよ、バーロー!!!」

「ウィーズリー、力みすぎではないですか? もう少し、力を抑えなければ杖が吹き飛びますよ」

 

 

 マクゴナガル先生の指摘にザクロは口を尖らせる。その傍らで桔梗チャンはマッチを針に変えていた。マクゴナガル先生は「流石です、カーティス」と言って点数をあげた。

 

 ザクロはブツブツと桔梗チャンを恨めしげに見ながらぼやく……かと思いきや、机に突っ伏した。

 

 

「あ~だりぃ……できねーのにやる必要あるのかよ」

「ザクロ、授業中ですよ」

「白蘭様……サボっていいですか~」

「んー? 後ろにいる先生に許可を取ったら?」

 

 

 僕がそう言った瞬間、ザクロは勢いよく起き上がった。ゆっくりと、ガチガチになった身体を振り向かせる。

 

 ザクロの背後に無言で佇むマクゴナガル先生。丁度座っている僕達を見下ろすように立っているのがポイントだね。ほら、ザクロの顔が真っ青!

 

 マクゴナガル先生は至って静かに尋ねた。

 

 

「ウィーズリー、減点されたいですか?」

「……イエ、ケッコウデス」

 

 

 片言で答えたザクロは再び杖を振り、爆発を起こした。

 

 

***

 

 

 そんなこんなで新学期の最初の週はあと一教科で週末となる。魔法使いの授業ってなーんかあまり合わないよ。特にニンニク臭いのが何より嫌だったね!

 

 クィレル先生という人の授業はやたらニンニク臭い部屋で行われた。本人は吸血鬼に怯えているとか言っているけど、そんなの僕等には関係ないじゃないか。

 

 そうそう、嘘吐きな先生から教わる事ってないよねー?

 

 

 実はクィレル先生、嘘吐きなんだよ! 吸血鬼に会ってから云々言っていたけど、そーんな感じがしないんだよね。

 

 だってさぁ……先生の頭、何だか腐敗臭に近い臭いがするんだよねぇ。

 

 

 ムクロウ君に言わせれば「死に掛けた人間か何かの臭い」らしいからね。つまり、死に掛けているモノがクィレル先生の頭にあるってこと。

 

 普通なら頭が腐ってるのか、で終わりそうだけど僕はそうは思わない。いや、思ってるけどそれを結論付けることはしないってこと。あの人の頭は腐ってる、でも部分点は採れるよ!

 

 

 正解は、「憑依されている」だよ! こういうことに詳しいムクロウ君が「二重の魂を感じました」と言っていた。

 

 一つはクィレル先生本人の魂。そしてもう一つがクィレル先生の頭に寄生している弱り切った魂。

 

 ……ぶっちゃけると、これだけで答えがわかっちゃったよ。僕、誰よりも弱っている人を小さい頃に見たし。

 

 

 そんなわけで、今年は中々騒がしい一年になりそうだ。まあ、動く気はないんだけどねー♪ 

 

 

 んで、話を戻して。あと一つ! あと一つ受けるだけで、輝かしい週末がやって来るよ! 週末は皆で探検に行こうって話になってる。

 

 どんな意味の分かんない科目でもぼけーっと受けとけばいいよね!

 

 そう思っていた僕だけど、どうやらそれは思い違いのようだ。なんていうか……有名人って辛いんだねぇ。やっかみとか受けたり、嫉妬を一身に引き受けちゃったり。

 

 まあ、一介の教師が嫉妬するのもどうかと思うケド。

 

 

「ポッター!! アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを加えると何を得る?」

 

 

 ポッター。ハリー君のことだ。この学年にはポッターは一人しかいないからね。有名人なハリー君のことだよ。みんな大好きハリー君、今日も大変だね。

 

 ハリー君はわからないらしい。友人と顔を見合わせている。って、あの友人ってザクロの双子の弟君カナ?

 

 友人の助けも得られないとわかったらしい、ハリー君は嫌そうな顔で答えた。

 

 

「わかりません」

「チッチッ……有名だけでは何もならんな」

 

 

 そりゃそうだね。まだ新一年生だよ。過剰に期待する方がバカみたいなんだけど。この先生って頭が良いのか弱いのかよくわかんないや。教授の位置にいるくらいだから頭は良さそうだけどね。

 

 

 今、僕達が受けている科目は魔法薬学。呼ばれた名前から察してほしいけど、ハリー君達グリフィンドール生と一緒に授業を受けているよ。

 

 僕の隣に座る子は懐かしきメガネの子。ムクロウ君を膝に乗せて授業に参加する僕にお腹を押さえていたな。懐かしいや、そういう体質♪

 

 正チャンという名前の正チャンは、正チャンなんだよ! え? わかんない? なら、理解してみよう!

 

 

 正チャンは前世の僕の親友。とーっても神経質だけど、弄り甲斐のある良い子♪ 正チャンとは廊下でばーったり会っちゃったんだ。互いに前世そっくりの顔をしていたから直ぐにわかったよ。

 

 まあ、正チャンは僕が入学の際に悪目立ちしていたから直ぐにわかったみたいだけど。でも、話しかけてくれなかったのは悲しいな。巻き込まれるのが嫌だからと言って無視は嫌だよ。

 

 というわけで。正チャンには罰として僕と一緒に授業を受けてもらうことになったんだ!

 

 懐かしの正チャンと一緒に授業を受けるのは何年振りだろう? 久しぶりだからわくわくドキドキ。だから僕の機嫌は今はすっごく良いんだ。

 

 例え先生がねちっこくてもね!

 

 

「ではポッター。ベゾアール石を探せと言われたらどこを探す?」

 

 

 ハリー君のちょっと近くにいる女の子が真っ直ぐに手を上げているのが目に入る。嫌でも目に入るのに意識しない先生って中々鈍いね。

 

 どこぞの主人公でもあるまいし、その顔と年齢でそんなこと考えたら気色悪いよ。

 

 ね、そう思うでしょ? 正チャン。

 

 

「なわけないじゃないですか……それに、先生に無礼ですって。あと白蘭サン、骸さんはどこかに置いて来てください」

「えー」

「えー、じゃないですよ! 万が一、骸さんが鍋の中に落ちたりでもしたらどうするんですか!」

 

 

 ひそひそと僕達は会話をする。ちなみに先生はハリー君をねちねちといびっているので問題ない。注意されても僕なら大丈夫だよ!

 

 何かあったら、ぜーんぶ正チャンのせいにするんだ! ……嘘だよ?

 

 

「入江正一。僕はムクロウです。骸なんて名前は今は関係ないですよ」

「そっちこそ、そんなの今は全然関係ないじゃないですか!」

 

 

 ちなみにこの会話もひそひそしながら行われている。正チャンって静かに怒鳴るの得意だよね。訓練でもしたのかな? それとも、僕を怒っているうちにそうなったとか?

 

 これって正チャンの数少ない特技の一つなんだよ! その内の一つを僕が育てたのかと思うと鼻が高いよ。んふふ~♪

 

 鼻歌を歌いそうになるけど、流石に先生に気付かれそうなのでやめておく。

 

 

「一人と一羽は仲良しだねぇ! 僕も嬉しいよ」

「そんなこと言ってる場合ですか!」

「白蘭、今日の夕飯はカボチャが食べたいです」

「今度は何ですか!?」

 

 

 正チャンがぐっと拳を握りしめた。おっ、耐えてる耐えてる。正チャン、偉いなぁ。

 

 

「白蘭様。あまりお戯れが過ぎませんよう……」

 

 

 桔梗チャンの控えめな発言が後ろから聞こえる。後ろに座る桔梗チャンとザクロからすれば僕らの会話は丸聞こえ。恥ずかしいなんて思わないよ、別にそんな際どいことを話してないからね。

 

 そうそう。桔梗チャンの言う「お戯れが過ぎませんよう」というのは、先生に気付かれちゃうから少し小さくやったらいいってことだよね。なら、正チャンに声を小さくしてもらわないと。

 

 

「正チャン、声を小さくしないと聞かれちゃうよ」

「わかってますよ!」

「ほう、今の答えがわかるのかね?」

 

 

 あっ……正チャン終わった。

 

 正チャンはいつの間にか目の前に立つ魔法薬学の教授、スネイプ先生を呆けたように見上げた。何度も目を擦って現実だと認識すると、一気に蒼白へとなった。

 

 ニヤリ……スネイプ先生が陰気そうな不気味な笑みを浮かべた。あれはお墓を見つけた墓荒らしの目だ。

 

 

「え、えっと……」

「では聞こうか、ラッセル。モンクスフンドとウルフスブランの違いは何かね?」

 

 

 正チャンは頭に「?」が浮いた状態で僕を見た。僕はただにこにこと見上げるだけ。だけど正チャンは僕を見てハッとしたように目を大きく開いた。

 

 僕、というより僕の膝にいるムクロウ君だけどね。

 

 

「……お、同じです」

 

 

 ムクロウ君が幻術で出した小さな黒板には「モンクスフンド=ウルフスブラン」と書かれている。それを読んだ正チャンは答えることができたってわけ。

 

 ちなみにムクロウ君が答えられたのは、僕が羊皮紙に答えを書いたからだよ。

 

 これが……コンビネーションアタック!

 

 

 スネイプ先生は正チャンをじろりと見下ろして、「宜しい、座りなさい」と告げた。緊張から解き放たれたのか、正チャンはがくりと椅子に倒れ込むように座った。

 

 今まで出した問題の解説を行うスネイプ先生の傍らで、正チャンはお腹を押さえて呻いていた。

 

 

「し、死ぬかと思った……」

「お疲れ様♪」

 

 

 僕が正チャンを労わっている間に、おできを治す薬を作ることになった。おできを治す薬って……僕達の時代でも薬一つで治せるけど……こんなグロいモノを入れなかった気がするよ。

 

 ザクロと桔梗チャンが顔色変えずにナメクジを茹でていたのが凄く印象的だった。その代わり、正チャンは今にも死にそうだったけど。

 

 

「前世の製薬技術ってこんなものじゃなかった筈……」

「うんうん。物質を幾つもの触媒で化学反応を起こすことで物質を作ったのにねぇ……流石にこれは酷い」

「白蘭サンは薬品関係に詳しかったですよね。どんな感じですか?」

「ん? 最悪だよ最悪。僕には絶対合わないね。ポリジュース薬とか真実薬とかは興味深いケド♪」

 

 

 えいっと気合を入れてナメクジを鍋に突っ込む。正チャンは今にもマーライオンになりそうだったので、ムクロウ君に少し対処を施してもらう。

 

 臭いとかを幻覚を使って感じさせないようにすることで随分と楽になれると思うよ。ムクロウ君がいてラッキーだったね、正チャン。

 

 ほらやっぱり、ムクロウ君は正チャンのためにもいた方が良いんだよ!

 

 

 僕が無事に薬を作り終えた時、グリフィンドールの子達の悲鳴が聞こえた。地下牢に響き渡る悲鳴に耳を押さえる。

 

 誰かが試薬で遊んだのかな? 僕も遊びたいよー!

 

 

「グリフィンドール、一点減点」

 

 

 最初辺りの言葉は聞こえなかったけど、最後の減点を告げる重い言葉だけは耳に入った。ハリー君ばっかり減点だなんて、少し不公平だよね。

 

 何かと理由をつけて減点をしたいのはわかるよ。子供だね~とかおちょくりたいけどこの際は置いておく。だけどね、そうしてばかりいると周りの反感を買ってアッディーオしちゃうよ!

 

 僕ならね、ハリー君の周りの人を減点するね。ハリー君は一回の授業に付き、一回減点して。その後はランダムに減点するの。あ、ハリー君が問題を間違えるたびに他の人達に白龍転がしをしてもらうってのも良いかも♪

 

 

 ふんふん♪ 楽しいな、楽しみだな♪

 

 

「楽しそうだな、フォスター。作業は終えているのかね?」

「はーい!」

 

 

 ずいっと僕と正チャンで作った薬を先生に押し付ける。どうだ! 製薬技術に関しては未来でもトップを走る僕が作ったんだよ!

 

 僕のことが好きな人も嫌いな人も、僕が薬を作れば毒物でも一億円以上払ってまでも買おうとするんだよ。それくらい価値が高いんだよ、僕作の薬。それを無料でくれてやるんだからねっ!

 

 持ってけ、ドロボー!

 

 

 じっくりと、舐めまわすように薬を観察するスネイプ先生。先生の性格って執念深いと言うか、粘着質じゃないカナ? こんな風に欠点もとい粗捜しをする人間だよ? ぜーったいに、学生時代は碌なことがなかっただろうねぇ。

 

 ほら、身近にいる例を挙げればXANXUS君とかが主な例だよ。彼だって、周りの人間の欠点を見つけては優越感に浸っているんだよ。ヒバリチャンの言っていた通り、猿山のボス猿なんだ♪

 

 僕はそんなことなかったよ? 青春時代は輝いていたさ!

 

 

 スネイプ先生が僕の作品の観察もとい評価を終えたらしい。何かを言おうとして口を開いたその瞬間に、授業終わりのベルが鳴った。

 

 残念! あと少し先生が来るのが早かったら評価をもらえたのに!

 

 だけど僕はそれ以上に嬉しいよ、だって今週の科目がぜーんぶ終わったんだもん♪

 

 

「わーい! 休みだー!!!」

「待て、フォスター!」

 

 

 わーいわーい! 早く寮に帰って探検の準備をしよっと!

 

 何だかいやーな感じの地下牢教室から出て、寮に一直線。桔梗チャン達と計画は練ってあるから、後は準備だけでオッケーなんだよ。

 

 正チャンも加わる予定だよ。あ、嫌がってたけど拒否権ないよね。だって、楽しい楽しい探検だよ! 男の子のロマンだよ!

 

 

 週末は探検に勤しむぞー!

 



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