ハイスクール・イマジネーション (秋宮 のん)
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プロローグ

読者参加型作品です。
作者のキャラでのプロローグです。ご参考になればと思います。
詳しい説明はhttp://www.tinami.com/view/697248をご覧ください。
投稿先はhttp://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=41679&uid=35209っとなっております。
また、注意事項などはhttp://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=93745&uid=35209に載せていく予定です。


ハイスクールイマジネーション

プロローグ00


 見渡す限りに大地と空しか存在しない平野。高度一千万メートルに届こうと言う空の彼方からでさえ、地平線の先を見通すが困難な大地。空には雲一つない完全快晴。太陽は頂点に高く上り、影を作る事無く大地を照らす。
 誰が信じるであろうか? この地が日本上空に作られた浮遊塔であり、よもや約三千ヘクタールっと言う小さな島の上だとは誰も思わないだろう。否、思える筈がない。この景観と数値は、明らかに矛盾している。数値上は沖縄と変わらぬ面積を示しておきながら、上空一千万メートルの高さから地平線しか望めぬなどと、地球の規模から考えて明らかにおかしい。
 だが、それは事実存在している。存在するこの島に、今、二つの影が空から舞い降りる。
 いや、舞い降りたと言うのは語弊だ。なんせその二つは、自由落下に任せ凄まじい音を立てて地面に落下したのだから。
 地響きでも起こしたのではないかと疑う程の爆音、上空高く巻き上げられる砂塵。
 煙となって立ち込める砂が、自然の起こす風に乗って払われるまで、しばしの時間を要した。
 やがて煙が晴れ、二つの落下地点から、小さな穴を開けた二つの影がむくりと体を起こす。

『ついにっ! ついにッ!! ついに~~~~~~ッ!!! やりました! 成し遂げました! この学園始まって以来の快挙!! 奇跡!! 神話の再現ッ!!! 我々は、歴史的瞬間を目の当たりにしたのですっ!!』

 続いて響いた男の声は、二つの影を映すモニターを観察するとある会場で発せられた物だ。会場はプロ野球ドームなどを軽く埋め尽くさんばかりの巨大ステージとなっていて、中心から多角面に配置されたモニターを取り囲むように出来ている。その人数は、都市一つ分の人口が一気に寄せ集まったのではないかと言う大人数となっている。
 モニターを観察する観衆達は、響き渡る実況の声に耳を傾けながら、モニターを取り憑かれた様に注視する。

『未だ嘗て誰もなす事が出来ないとされた一年間の壁………っ! 絶対不可能とされ、最弱と最強の打ち合いであっても、多対一であっても、その事実話す事が出来ないとされていた事実を………っ! 今この瞬間、二人の二年生がやってのけましたっ!! それも麗しき少女が二人、ついに三年生を打ち倒す快挙を見せたので~~~~~~すっっ!!!』

 モニターに二人の少女の姿が映し出された。
 瞬間、固唾を飲んで沈黙を守っていた観衆が一斉に割れた。
 空気振動だけで強化ガラスを粉砕するのではないかという大音量に、会場が熱く燃え上がる。
 モニターに映し出されたのは二人とも同じような少女だった。
 細かな違いはあれど、二人とも巫女装束を纏い、黒く長い髪をストレートに垂らしている。細かな違いと言えば、片方は髪を無造作に流していて、あまり装飾のされていない簡素な巫女装束なのに対し、もう片方は白い髪を片側だけ結い纏めていて、腰にはとぐろを巻いた龍の家紋と刀を帯びていると言う事だ。
 互いに満身創痍で、立っている事さえ億劫だと言わんばかりの疲労が見て取れる。服はボロボロになり、露出した肌が際どい所まで晒されている。恥部を隠すのも辛そうに、震える手で服を整えながら、二人は互いを見て弱々しく笑い合う。

『皆様どうか拍手を送ってください! そしてどうか二人の名前を心に刻んでいただきたいっ! 術と式神を巧みに使い、事象干渉にすら至った齢二十歳の彼女の名は、東雲神威ッ!! 対するは長年彼女と因縁のライバルであったと言い、この学園でもまた並び立つ双頭、同じく術と、退魔の剣技を取得した齢十八の少女の名は朝宮刹菜ッ!! 絶対不可能とされた上級生撃破を辛くも成し遂げた二人の名です!!』

 再び会場が拍手と歓声で沸く中、笑い合う二人、神威と刹菜は、隠しきれない疲労感を引きずりながら話し始める。
「刹菜、まだやれそうか?」
「上級生を相手にしたのよ? アナタに付き合う以上の疲労を抱えてまだやれると思うの?」
「はっははっ! その通りだな! ………私も見栄を張って前のめりに倒れ込むのがやっとだ。とてもこれ以上は続けられそうにないよ。まだ少し、試合は続いていそうだがな………」
「私達はこれ以上無理だと思いますよ? 下級生で残ったのは私達二人だけなんですし、よくやった方じゃないの? ………悔しい気持ちは一緒だけどね。それでも、もうこれ以上三年生を相手に戦えるなんて、見栄もはれないわ」
「私もだよ………。だから刹菜、最後に一回だけ付き合え」
「はいはい………。最後は私達の決着でしょ? こればっかりはどんなに疲れていても付き合うわよ」
「―――っとは言え、互いにもう一撃が精一杯といったようだがな?」
「一撃相手してあげるだけでも満足してよ。決着がつく前に撃ち合ってる最中に力尽きてシステムリタイアさせられるかもしれないんだから?」
「無論、解っているさ」
 二人が最後の一撃を宣言し、互いに構えを取ると、意外な行動に観衆達が更にヒートアップする。
 観衆達の存在を知る事も出来ない遥か彼方で、二人は互いの力を解き放つ。
「カムイラム!!!」
「夢幻鬼道流奥義・甕布都神(ふかみつのかみ)!!!」
 最後の激突を果たす二人の姿を目の当たりにする観客の中、多くの少年少女達が胸を躍らせ瞳を輝かせた。十八歳未満の彼等は心の昂りを抑える事も出来ず、ただ感動に震え上がっていた。
 一体、何人がこの瞬間に同じ思いを重ねた事だろう?

((((いつか、自分も―――ッッ!!))))















プロローグ 01


「ちょっとぉ―――っ!? 本気なの弥生っ!?」
 滋賀県内、とある中学校、放課後の時間、三年生の教室にて、少女の声が木霊する。
 声の主である眼鏡に長髪の少女は、目の端を吊り上げ、未だ席に座り、帰り支度をしている友人に問いかける。
 その隣では、同じく心配そうに眉を顰める、長身、短髪、無表情の少女が見下ろしていた。
 叫ばれた本人、黒く長い髪をうなじの辺りで束ねた少女、甘楽弥生が苦笑いを浮かべる中、メガネの少女は更に続けて質問する。
「一般高校受けないって本気なのっ!? 調理系の高校からオファー来てたんでしょっ!?」
「一般高校受けないって事は………、何処の高校? 弥生、成績悪くは無いけど、専門校は家庭科以外は難しいでしょ?」
 友人二人に問いかけられ、弥生は苦笑いを消せないまま、素直に答える。
「うん、えっと実は………『イマジネーションスクール』に通ってみようかな? って思ってます?」
「「はぁっ!?」」
 二人の友人は同時に声を上げた。

 『イマジネーションスクール』
 それは、現在この世界に三つしか存在しない超オカルト技術により空に浮かぶ、浮遊都市にして、『イマジン』なる万能にして謎の力を研究する“学校”の総称である。
 入学基準がとても広く、下は物心ついていればいくら低くても許され、上限年齢は二十とされているが、それ以上であっても入学テストは基本的に許されている。国籍及び過去の履歴をまったく問わない、正に開いた門。
 しかし、これだけ候補者を広く募り、毎年一校だけでも数千規模の参加者があるにも係わらず、実際入学できた生徒はかなり上下差が激しい。たった一人しか入学できない時もあれば、参加者全員が入学できてしまえたなどと言うケースも良くある話だ。ただ、上限年齢を超えた参加者が入学できた試しは、未だに一度もないと言われている。

「正気なの弥生っ!? あそこはテレビでも有名な―――いいえっ! 今や世界的有名な超戦闘派学校なのよっ!? 確かに入学出来れば、生徒は皆、研究協力者扱いにされて、毎月お金も貰えるって話だし、全寮制なのに男女同棲している学生カップルもいたりするとか聞くけど―――っ!?」
「落ちつけ、最後のはわざわざ上げる必要があった?」
 長身少女の冷静なツッコミを無視し、メガネ少女は更に語気強く言い募る。
「弥生っ! アンタ足がちょっと速くて、体力が男子の平均に毛が生えた程度の、家庭科好き少女でしょうがっ!? そんなアンタがなんでバトルでスクールなスカイなタワーに上る必要があるのかっ!?」
「“スカイなタワー”?」
「気にするな弥生。コイツはせめて“スカイタウン”と言うべきところをわざと間違えてるんだ」
「シャラップ! ともかく納得のいく理由を提示してもらいたいのよ私は!」
 メガネ少女が眼鏡をキラリと光らせながら問いかけ、弥生は少々戸惑いがちに頬を掻く。テンションの上がるメガネ少女に対し、長身少女は落ち着いた様子で友人のフォローをする。
「まあ、それは私も気になってるんだよね? 弥生、栄養士になるのが夢だってずっと言ってたじゃない? それがどうして突然『イマスク(※イマジネーションスクールの略)』に入るなんて言い出したのさ?」
 友人の落ちついた質問で答え易くなった弥生は、一度くすりと笑ってから答える。
「きっかけは今年公開された日本の『イマスク』の『全校生徒最強王者決定戦』の会場に行った事かな?」
「ああ、アレ会場に行っても直接見られるわけじゃないから、ぼったくりじゃね? って噂の? 行ったの?」
「とんでもないよっ!? テレビ中継何かと比較にならない臨場感に、リアルタイム観戦! 解説者の細かい説明は、バトル中に素人にも解らない内容を的確に説明してもらってるし、いつどこでバトルが始まってるのか解らないのに、画面は常にバトルを見逃さず中継されているし! 何より迫力が違い過ぎるんだよっ!? ぼったくりなんて言う奴等は、直接見た事無い連中の妄言だね! 絶対ッ!」
 机に手を付き、身を乗り出して興奮気味に断言する弥生に、友人二人は呆気にとられる。
「おおっ!? 珍しく弥生が興奮してるわね………っ!?」
「それで? その迫力に呑まれて自分もやりたくなったの?」
「端的に言えばそう言う事になるかな?」
 長身少女の冷静な返しに、弥生も自分のペースを取り戻し椅子に座り直して返す。
「って言うかね? 元々僕が栄養士になりたかったの、僕が担当したスポーツ選手がオリンピック常連になるってジンクスを語られるくらいになりたいって言うのが理由だったんだけど………、自分で身体動かすのって、元々好きだったし何より―――」
 一瞬、弥生は言葉を途切れさせ、あの戦いの瞬間を思い出す。
 絶対不変と言われた上級生と下級生の壁を世界初成し遂げられた瞬間。
 贔屓目無しに歴史の目撃者となったあの名場面は、今でもニュースで何度となく取り上げられている。
 だが、弥生が最も心に残ったのは、三年生撃破の瞬間ではなく、その後すぐに行われた最後を振り絞った一騎打ちだ。満身創痍の身体に鞭打って、持てる最後の力を結集した好敵手との決着。あの時、弥生の胸の奥に燻っていた物が目覚めた。それは二度と眠りに付く事を許さぬほど、今も胸の奥で低い唸り声を上げ続けている。
 この何かを解き放ち、存分に暴れさせてやりたい。その欲求が、弥生に決断させる要因となっていた。
「………僕は、どうしてもあそこに行きたくなった」
 はっきりと決意を口にされ、友人二人は押し黙ってしまう。
 長く三人で付き合っていただけに、彼女の進路(決断)に、戸惑いを隠せない。
 二人の反応を感じ取った弥生は、ニッコリ笑って何でも無いように語る。
「大丈夫だよ? 『イマスク』って、怪我人も多いし、死者もかなりだって言うけど………蘇生率100%だし」
「それ逆に不安になる要因だろ?」
「何より、戦いばっか目立ってるけど、ちゃんと文化方面の大人しい研究課程もあるって話だし、向こうに行っても栄養士の勉強はできるみたいだしね?」
 笑う弥生に対し、友人二人はまだ不安そうな表情をする。
 ただ単純に進路が変わると言うだけではない。険しいと一言で語る程度の問題でもない。
 世界に三つしか存在しない『イマスク』の一つは日本上空をゆっくりと移動している。この浮遊の技術も、日本上空にとどまった移動も、全ては正体不明、研究中のイマジンによるものだ。その力を人間が使用するだけでも不安はある。単純な魔法技術と言うにはあまりにも万能が過ぎる力だ。正に神の力を盗み取っているに等しい。世界の理、物理法則、異世界間交流、新たな生命の誕生、法律的、研究段階的禁止事項は幾つもあるものの、それら全てが可能となる、万能の過ぎる力(、、、、)、そんな物に関わる事の恐ろしさと不安に、身近な者が関わる事でやっと認識した友人二人。彼女達の心中は穏やかな物であるはずもないだろう。
 それを長い付き合いから、なんとなく感じ取った弥生は、もう一度元気づける様に満面の笑顔を向ける。
「本当に心配しなくて大丈夫だって! 僕だって、個人的に色々調べた上で行くって決めたんだから、後悔なんてしたりしないよ? もし途中退学になっても、『イマスク』に在籍していたってだけでポイント高いから、別の高校に転入させてもらえるかもだし!」
 軽く両手の拳を握って、「がんばるっ!」っと言うポーズをとってみる弥生だが、友人二人の顔は浮かないままだ。内心焦りながら弥生は何かもっと『イマスク』を褒める所はなかっただろうかと模索し、思い付いた一言を伝えてみる。
「何より御飯がすごく美味しいらしいよっ!!(キラキラッ!」
 個人的には一番重要な内容だったと後に語る………。
 あまりにも瞳を輝かせてバカな事を言ってくるので、友人二人は彼女らしさに救われたかの様に笑いを零した。同時に噴き出されて、弥生の方が頭に?を作りながら、よく解って無い笑みを向ける。
 友人二人は、同時に頷き合うと、弥生に向けて笑顔を向けた。
「もう解ったよ。弥生がそう決めたって言うなら何も言わない。がんばって行ってきなよ! そしてどうせなら一番目指しておいでさっ!」
「私も止めない。でも、たまには連絡寄越しなよ? 一応は研究学校みたいだし、色々スケジュールが大変そうだけど、私らは応援してるからさ」
「………! ありがとう二人とも!」
 友人の声援を受けた弥生は嬉しそうに笑いを漏らすと、安堵の表情を浮かべた。
「これで僕も、心おきなくイマジン塾に通えるよ」
「「………は?」」
「ん? だからイマジン塾。『イマスク』に入学するために勉強できる塾の事だよ? 今日から放課後は、毎日通う事になってるの! 何しろ入試試験までもう日取りもないからね! 今日から死ぬ気で特訓しなきゃ!」
 捲し立てた弥生は、鞄を持って立ち上がると、片手を上げて、いそいそと帰路に付く。
「それじゃあ、二人ともまた明日ね~~♪」
「「ちょ………っ! ちょっと待ちなさ~~~いっ!?」」
 慌てる友人二人を余所に、弥生の疾走は止まらない。








 プロローグ02


 ドバッシャアアァァンッ!!

 出雲のとある山にある神社にて、境内の池から大きな水音が鳴り響く。まるで飛び込みしようとした者が失敗して、お腹から水面に打ち透けてしまったかのような盛大な音に、驚く者は誰一人いない。唯一存在する人間は、その池の音を鳴らした本人だけだ。
「ぶは………っ!!」
 その本人であるところの少年、東雲カグヤは、浅い池から身体を起こし、息を荒げながら、自分を叩き落とした犯人を見上げる。
「………いい加減、諦めたらどうかしら? 無駄な努力を積み重ねると言うなら、その心が折れるまで相手をしても、こっちとしては何も困らないのだけれど?」
 ずぶ濡れの彼を見降ろす、黒い装束に身を包む少女は、煩わしそうに告げる。黒曜石を思わせる冷ややかな瞳はカグヤを見ていながら、まったく興味が無いと言わんばかりに空虚だ。
 その視線は生物は愚か、存在そのものを認めていないと言う様で、見られているだけで心が削られる眼差しだったのだが、見つめられている少年の方はあまり気に留めていない様に標準的な表情だ。
 男にしては長いセミロングの黒髪は、水に濡れた今は顔を隠し、女性的な雰囲気を見せてさえいる。前髪で隠れた瞳は青みを帯びた黒色で、顔立ちは丸みを帯びている。やはり女性的顔な上に、彼の身体つきも極めつけの様にほっそりしている。着ている服も青の袴を穿いた巫女装束。濡れてはり付いた胸元にはささやかながら膨らみがあるようにさえ見える。何も知らない人間に、彼の姿を見せれば100%が女性と答える事だろう。
 少年は身体を起こし、水を含んだ服と髪を軽く絞って身体を軽くする。池から出ながら黒い少女を見つめ返す。彼の眼差しは動じていない―――っと言うよりは普段から見下され慣れていると言う様に見える。だが、それでいて何故か卑屈さがまったく感じ取れない。まるで高次の存在と対した時の適切な態度を弁えていると言うかのように、まったくまったく意に介していない。
「文句言われても止めるつもりなんて無いぞ? お前は義姉様からのプレゼントなんだしな」
 態度を弁えていながら、不遜とも言える言葉使いで黒い少女を軽く睨めつける。しかし、その声もまるで声変わりする前の幼子の様で、やはり女性的だ。不遜ではあるが威圧感に乏しく、非難めいたセリフすら甘え事を言っているように聞こえる。
「それが気に入らないと言っているのよ。私が従うのは私の生みの親であり、主でもある神威ただ一人………。それをどうして弟と言うだけでアナタに譲られなければならないのかしら? 闇御津羽(クラミツハ)の名を与えられて生まれた私が、ただの人間如きに従えると思うの?」
 その声は静かで、とても透き通っている。侮蔑も嘲笑も無く、ただ事実を語っているという皮肉ささえ存在していない。目の前に存在している野球ボールとバスケットボール、どちらが大きいかを聞かれ、答えただけの様に、感情すら籠っていない声音だった。
 常人ならさすがに心労を覚えるか逆切れしたくなるような、まったく存在を確認していない声に、やはり少年は慣れていると言わんばかりの表情で普通に答えを返す。
「だから義姉様は『カグヤに屈服させる事が出来れば』っていう条件を付け加えたんだろ? それが今に至る状況なんだから、諦めるしかないって。恨み事や愚痴なら義姉様に言ってくれよ。イマジンも持たない俺に、『イマジン体』である君を力尽くで屈服させるなんて、無茶ぶりさせられているのはむしろ俺の方なんだからな」
 呆れたように呟きながら、少年は手に持っていた小太刀を構える。既に何度も打ち合った後なのか、既にははボロボロになっていて、いつ折れてもおかしくない。
「………、何かしら考えがあるのなら付き合うのも良いのだけれど、アナタは半年間、ただ私に体当たりしていただけに見えるのだけど?」
「とりあえず殺されないらしいからな? それなら我武者羅にやってみるしかないかと思って? 時間制限も特にないからゆっくりやらせてもらってるぜ?」
「この半年間で、アナタの人柄は良く解ったつもりよ。案外一筋縄ではいかないところも、神威に似ているわね。さすがに彼女に育てられただけの事はあるわ」
「そう思うか?」
 突然少年が満面の笑みを浮かべた。まるで自分の事を褒められた子供の様に無防備な笑みだ。その笑みも当然女性的ではあるが、黒い少女に比べればとても人間味溢れている。
 その笑みを受けた黒い少女、闇御津羽は、僅かに微笑を浮かべた。
「ええ、さすがは我が主。イマジンを未だ持たぬ人間に、ましてや全ての人間の中で最も才に恵まれていないであろう存在に対し、ここまでの逸材に仕上げた。感銘の意を言葉で表す事が出来ないほど」
「だよなっ!」
「ええっ!」
 ここにいない別の誰かに対して、何故か意思疎通した二人が胸を張って笑い合う。この瞬間ばかりは闇御津羽にも人間味を感じられた。
 だが、すぐに表情を消すと、少女は少し寂しそうにカグヤを見つめる。
「それでもアナタは私には勝てない。イマジンを使う者、『イマジネーター』に普通の人間が敵わない事は理解しているでしょう?」
「解ってるさ。今まで一番近くで見てきたんだからな。『イマジネーター』に人は絶対勝てない」
 認めた瞬間、唐突に少年の笑みが挑発的な物に変わる。
「でもお前には勝てる」
「っ」
 その笑みが浮かべられた瞬間、先程まで分を弁えていた少年の雰囲気は消え失せていた。そこにいるのには、何処までも他者を見下した愚者の顔だ。王座に付くでもなく、蛮行を振るうでもなく、ただただ相手を見下す愚か者の視線。
 闇御津羽の瞳が細められる。
 それがスイッチだったかのように、彼女の背に三対の黒い翼が出現した。その翼は影から現れたかのように黒く、一切の光を帯びず、柔らかそうな羽毛の気配すら全く見せていない。触れれば切れそうな鋭利な翼を広げ、腕組をしてカグヤを見据える。
「その言葉がはったりでない証明をしてみなさい」
 自分を見下す者に対しての怒りも無く、軽蔑も侮蔑も無く、ただ言葉の真意を判別してやろうと言うかのように彼女は迎え撃つ構えを取る。弱者に対する絶対強者の構えの様に。
「そんじゃ驚いてもらおうかねっ! オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン!!」
 刀を地面に突き刺したカグヤは、両手の指を複雑に組み合わせ、印を結ぶと真言(マントラ)を口にした。
阿弥陀如来(あみだにょらい)の真言? しかし、イマジンも持たぬ身で唱えたところで、ただの言葉に過ぎないはず?)
 ―――っと、その時彼女は一瞬だけ浮かべた疑問が、確かな隙を作った。時間にして瞬きに等しい一瞬に、それは起こった。
 二人のいる庭には、山の中にあるにも拘らず壁による隔てりが存在せず、庭と森が一緒になっていて、境が全く解らない。そのため、二人のいる場所は境内の庭にも拘らず、幾つかの木々が彼らを取り囲んでいる。その囲んでいた木々に貼られていた数枚の札が、淡い光を燈し、光の線を伸ばす。線は闇御津羽へと集中し、彼女の体を束縛していく。
(っ! この札はこの半年の間に、彼が練習と称した一人遊びのために貼った物っ!? まさかこれを作るための布石………っ!? いや、それよりもこの光には微小ながらもイマジンを感じ取れる! 一体何処から術を発動できるだけのイマジンを―――っ!)
 尽きぬ疑問を一蹴したのは、思考の世界における一瞬。瞬きの間もなく彼女の頭はクリーンな状態へと落ち付き、冷静に判断する。
(どのみち、この程度の束縛でどうこうできるはずも―――っ!)
 束縛を破ろうと腕に力を込め、簡単に光の束縛を破ろうとした時、破られる一瞬早く、カグヤが次の手を打つ。
「オン・バサラ・ダトバンッ!!」
 印を組み変え、続く真言(マントラ)に導かれた札が輝きを持って光の輪を作り、彼女に新たな束縛を追加していく。
(今度は大日如来(だいにちにょらい)真言(マントラ)ッ!? しかし、まだ………っ!)
 新たな術に対し、鋭利な黒い翼で切り裂くべく、落ちついて対応しようとする闇御津羽に、もはや待った無しでカグヤの真言(マントラ)が綴られて行く。
「オン・アキシュビヤ・ウン! オン・アボキャシッデイ・アク! オン・アラタンナウサンバンバ・タラク!」
 次々と印を組み変え、真言(マントラ)を唱え、それぞれの札に呼びかけ、新たな束縛の術を組み上げていく。
阿閦如来(あしゅくにょらい)不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)宝生如来(ほうしょうにょらい)まで………? コレでは複数の術が絡み合って上手く力を制御できないのでは?)
 カグヤが使っているのは間違いなくイマジンを行使した仏教の神の言葉を再現した、呪的効果を持つ真言(マントラ)だ。カグヤが今口にしたのは、それぞれの如来の御力を借りるための言葉で、それぞれが役割の違う仏の力を一度に呼び寄せてしまっている。カグヤ自身がどのような意味を用いてこれらの術を行使しているのかは解らないが、既存の言葉と知識を用いている限り、それらは世界における常識から逸脱してはいない筈だ。
 イマジンは他者と自分のイメージにより、力の優劣が大きく左右される。


 例えば、『ロンギヌス』と『グングニル』を例に挙げると解り易い。
 『ロンギヌス』とは、その真実を辿って行くと、実は『ロング・ギヌス』と言う言葉がなまった物が由来とされている。『ロング・ギヌス』、つまり『長い槍』の意味だ。
 元々『ロンギヌス』は聖人キリストを処断した、ただの槍だった。だが、聖人の血を浴びた槍がただの槍であるわけがないと言う“イメージ”が、『ロンギヌス』の逸話と存在を創り出した。
 イマジンの仕組みとは、この原理をそのまま現実に存在する理の一部として認めた物。つまり『イメージ』を『本物』に変えるものだ。
 なら、より強いイマジンとは何か? っと言う疑問に戻る。
 先程述べた『ロンギヌス』、この名を聞いた者は『何でも切り裂く槍』っと言うイメージを持っている者が多い事だろう。それはつまり、相手と自分が同じイメージを持つと言う事になる。このイメージ、ひいては情報を共有している事がイマジンの強弱を決める。『ロンギヌス』程のビックネームなら、知らぬものは殆どいない。故に、この名を持つ能力は、名の由来に則る限り、その力を強力な物として維持できる。
 しかし、実はこの能力、簡単に弱体化させる落とし穴が存在する。それが逸話や歴史、伝承などに記される明確な“弱点”である。
 今述べた『ロンギヌス』で例えるなら、その正体、『ロング・ギヌス』こそが正にそれだ。『ロンギヌス』の由来を聞いた者の中には、こう思った者もいたのではないだろうか?

「あれ? じゃあ、『ロンギヌス』って、有名な偉人の血を浴びたってだけで、実はただの長い槍なの?」

 ―――っと。
 これが落とし穴である。
 伝承などに則り、その強力さを再現すると言う事は、同時にその弱点までも再現してしまう事に他ならない。一度「この能力は実は弱い」と思われてしまえば、その力は一気に激減してしまうのだ。
 ただし、相手と自分の間だけでイメージを共有する事で発動しているのがイマジン―――っと言うわけではない。なので、「この能力は弱い!」っと思い込む事で、相手の力を弱体化できるなどと言う事は無い。もしそんな事をしてしまえば、そいつは呆けた顔のまま、身体をバッサリと二分割されてしまう事だろう。
 これに対する対処としてあげられる例が………、ここでやっと挙げられる『グングニル』の例えだ。
 『グングニル』は、その逸話を辿れば、主神と名高いオーディンの持つ、神槍であり、絶対命中の力が宿った本物の神具だ。
 『ロンギヌス』とは違い、弱点らしい弱点も無く、深く探れば探る程、その力はより神話級の物として強化されていく。深く知り、広く知られる事。これこそがイマジンの力の源であり、強力な能力を誇示するコツだと言える。
 ならば、オリジナルの能力を作るよりも、既存の情報に則った能力を作るべきか?
 実はこれもそうだとは断言できない。
 能力向上の一手段として有効と言うだけだ。
 例えば『ロンギヌス』と『グングニル』、その再現された槍をぶつけ合えば、どっちが強いと感じるだろうか?
 先程の情報を持っていたとしても、人は次の様なイメージをしてしまうのではないだろうか?
 『ロンギヌス』=全てを切り裂く槍。破壊系。
 『グングニル』=絶対命中の槍。必中系の槍。
 このイメージでぶつかりあったら強いのは、どちらだろうか? 殆どの人間が『ロンギヌス』だと答えるのではないだろうか?
 こう言ったイメージの逆転により、『ロング・ギヌス』とまで貶められた存在は、神槍である『グングニル』を超える力を引き出す事が出来る。イメージの逆転が出来るのなら、完全に一から個人の創造で作り上げた能力であっても、上手くイメージさせられる名と、個人の強いイメージにより、オリジナルも相当の力を引き出す事が出来るのだ。


 さて、長く語ったところで話を戻そう。
 現状、カグヤが行ったのは、既に既存の能力、真言(マントラ)だ。この存在が既存の物である以上、“他者のイメージ”と言う影響を受ける事になる。それを無視して自分のイメージのみを優先すれば、忽ちイマジンは力を失ってしまう。『炎』と明言していた能力で『氷』を創り出そうとしている様なものだ。そんな物、誰もイメージとして認識する事は出来ない。故に誰もが『否定』をイメージし、その影響を受けた、自称『炎』は能力として完成する事無く消滅するのだ。
 『凍らせる炎』っと言う物なら例外だが、既存として存在していないわけではない。ただし、使用者本人の強固なイメージ力は必要とされそうではあるが………。
(つまり、彼が今作り出した能力は、身勝手なオリジナル―――いえ、魔改造品(失敗作)ではなく、既存の情報を元に作りだした『再現』であるはず。それをどうして邪魔になる様な術を次々と重ねたと言うの………?)
 冷静に視線を彷徨わせながら思案する闇御津羽。同時にただ増えただけの束縛術式を破壊しようと更に力を込める。
 だが、全てに於いて彼女は出遅れた―――否、カグヤが早かった。
 手を合わせ合掌の形に印を結ぶと、彼は束縛一つが破られるより早く、言葉を紡ぐ。
「金剛界に遍く如来を奉りて、邪なる者、(これ)を持って、呪縛せよっ!!」
 瞬間、幾つも束ねられていた束縛術式は、一瞬で纏まり、一つの強力な束縛結界へと変わった。まるで立体形の曼陀羅の中心にいるかのように、幾つも折り重なる薄い膜に閉じ込められた闇御津羽は、力を出す事が叶わず、地面にへたり込んでしまう。
(! 複数の如来の力を借りたのは、一つの大きな術を完成させるためっ!? そのために力を借りる如来を、全て金剛界の如来に限定していたっ!?)
 日本神話の神の名を与えられて生まれた少女は、同じく日本に渡った仏門にもある程度詳しい。
 カグヤが真言(マントラ)を唱え、力を借りた如来は、阿弥陀如来(あみだにょらい)大日如来(だいにちにょらい)阿閦如来(あしゅくにょらい)不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)宝生如来(ほうしょうにょらい)の五柱。これらは全て金剛界の如来とされている。つまり、大きな括りとして見れば纏める事が出来ると考えられる。そのイメージが、術を融合させると言う発想を手助けし、能力として形作らせたのだ。
 さすがに闇御津羽の名を与えられた一柱の神を体現する少女でも、相手が五柱の如来の力を借りてくれば、僅かな隙を作ってしまう。その隙目がけ、カグヤは刀を持って飛びつく。
「………甘いわっ!」
 静かに発破を掛けた彼女は、強力な拘束空間の中で、手に持つ小さく黒い板きれから飛び出した赤黒い刃によって、カグヤの刀を両断した。
 構わずカグヤは飛び付く。手に持っていた刀を何の躊躇いも無く放り捨てながら。
 驚きで目を見開く彼女の眼前に、首に手を回したカグヤの顔がアップで映る。
 カグヤはそのままノンストップで近づき―――黒い少女の唇を奪った。
 全体重を掛けられて倒れ込む少女。同時に少ないイマジンで形成されていた術式が力を保てなくなったかのように霧散した。
 瞬時に翼を広げた闇御津羽は、その鋭利な黒翼によってカグヤを弾き飛ばす。
 背中が地面に付く前に体勢を整え、何とか足で着地した少女は、己に起きた異変に気付き、カグヤが何故イマジンを使用できたのかその答えに至った。
「いつから? 一体いつから、私のイマジンを奪っていたの(、、、、、、、、、、、、、)?」
「半年間ずっと………」
 地面を転がっていたカグヤは即答した。
 痛む身体をなんとか起こしながら、視界の邪魔をする前髪を軽く払いながら不敵な笑みを向ける。
「お前はイマジン体だ。お前の身体は義姉様がお前自身を形成するために大量のイマジンを使用しているらしいな? お前の肉体=イマジンだとするなら、逆に生きるためにイマジンを消費し続ける存在だとも言える。なら、もしかすると余分なイマジンを消化しきれず漏らしている可能性もあると考えたのさ」
「それが事実だとしても、さほど多くのイマジンは集められなかったはず。どうやって能力に至るだけの質量を得たの?」
「だから半年かけたって言っただろう? お前は攻撃する時にもイマジンを消費する。だが、攻撃時には消費しきれなかったイマジンが、僅かだが周囲に漏れ残る。それをその辺に張り巡らせた札に吸収させて力を溜めさせていた」
「言うは易し。それをするためにはイマジンを感じ取り操作しなければならない。今までイマジンを使った事の無いアナタが、それをどうやって成し遂げられたと言うの?」
「義姉様の仕込みを舐めんなよ? そんなのイマジンを自覚して一生懸命慣らして、なんとなく解るようにしたんだよ! 俺がこの半年間をただ遊んで暮らしていたと思ったのか? ………毎日お前の残り湯とか、身体を拭いたタオルとか、使用したお箸とか、お前の身体をミクロ単位でも削る要因になった物は全部回収して色々比較しまくって感覚に教え込ませたんだよっ!!! おかげで俺、お前の使ったタオルなら匂いだけで解るようになったぜっ!!」
「執念だけは認めても良いけど、私は軽蔑するわ」
 完全にやっている事がストーカーのそれと同じだと言うのに、カグヤはむしろ開き直った様に胸を張った。大声を出すのが苦手な闇御津羽は、冷やかな視線を送りながら、冷静に分析する。
「その変態行為が実を結んだ事に免じて通報はしないでおいてあげるけど、まさかこれで勝ったつもりじゃないでしょうね? 例え、先程の口付けで私から直接イマジンを奪っていたとしても(、、、、、、、、、、、、、、、、)、それでを私倒せるだけの力は取り込めなかったはずよ?」
臍下丹田(せいかたんでん)の総量の事を言ってるのか?」
 『臍下丹田』とは、へその下辺りに存在する、とある内臓器官である。人間がイマジンを使用するには、この臍下丹田にイマジンを蓄積し、そこから人間の使用し易いエネルギー体へと変換して能力として発動させている。ただし、人間が臍下丹田に溜められるイマジンの総量は決して多いとは言えない。
「強化に使えば五時間強、放出系に使えば二、三発が限界だってな? 義姉様から聞いてるよ。お前みたいなイマジン体は全身がイマジンだから例外だが、それでも攻撃に使用するだけの余分なイマジンは持ってないらしいじゃないか? ………まあ、お前は浮遊都市(ギガフロート)にいる義姉様から常にイマジンを送ってもらっているみたいだけどな?」
「解っているのなら―――」
「でも、俺の勝ちだ」
 言葉を遮り、カグヤは断言した。
「さっきのは外側のイマジンを裏技で使っただけだった。だから半年かけてもあの程度の手品しかできなかった。でも、今度は………」
 カグヤは己の下腹部辺りを撫でると、そこに感じる確かな熱を確かめる。
「今度は正真正銘の、『イマジネーター』としての能力だぞ?」
 瞬間、初めて警戒心を抱いた闇御津羽が翼を掲げて飛び出す。
 同時に動いたカグヤが必死の形相で術式を創り出す。
「ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ・ボッケイビャク・サラバタ・タラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバ・ビギンナン・ウンタラタ・カンマン―――!!」
 カグヤの真言に応じ、溢れかえる炎が少女の周囲を包み込む。
五行相生(ごぎょうそうしょう)! 木生火(もくしょうか)!」
 新たな術式を挟み込まれた炎が、周囲の木々に燃え移り、更に激しく炎を燃え上がらせる。猛火となった炎が闇御津羽を包み込み、その動きを阻害する。
 闇御津羽は瞬時に翼を広げ、風圧で炎を簡単に払いのける。
 だが、その時には既に、カグヤは可能な限りの距離を取っていた。
「あまねき諸仏にきえし奉る。助祭の静粛に。東方降三世(とうほうこうさんぜい)夜叉明王(やしゃみょうおう)西方大威徳(せいほうだいいとく)夜叉明王(やしゃみょうおう)南方軍荼利(なんぽうくんだり)夜叉明王(やしゃみょうおう)北方金剛(ほっぽうこんごう)夜叉明王(やしゃみょうおう)。圧伏せよ、清めたまえ。砕破(さいは)したまえ。呪縛の鎖を打ち砕き、出でよ………っ! 高龗神(たかおかみのかみ)!!」
 カグヤの言霊に応じて、池の水が柱を上げた。水柱が割れ、中から青白くも神々しい一匹の龍が姿を現す。
 その龍の姿を目の当たりにした闇御津羽は、警戒の色濃い表情で龍を睨めつける。
貴船(きふね)の龍神が、祈雨(きう)でも願われ私の前に立ちはだかりますか?」
『確かに皮肉も良いところよな? 同一神として語られる我らが合い謁とは。………のう? 闇龗神(くらおかみのかみ)?』
 龍神の清んだ声が大気中に響く。龍神の声は清み過ぎていて男女の区別がつかない。そもそもそんな区別が無いのかもしれない。不遜な物言いは、神々しい姿に見合う、威厳を感じさせた。
「私を罔象女神(みつはのめのかみ)として呼ぶのは止めて頂戴。私は闇御津羽としてここにいるのだから。アナタでなければ今頃町一つくらいは道連れにしていたところよ?」
『おおっ、おおっ、余程今の自分を作った主が好きと見える。作られた身故に、主に依存するは仕方のない事かも知れんがな』
「? そうなのか?」
 話を聞いていたカグヤが、自分が召んだ龍に問いかけると、龍は頭を一度頷かせるだけで答えた。
『さて、闇龗神(くらおかみのかみ)よ? 未熟な主に呼び出されたこの身だ。長く付き合ってやる事が出来ぬ。品のない事心苦しいが………、行かせてもらうぞ?』
 鎌首を擡げた龍神に対し、闇御津羽の少女も翼を広げて応える。
 互いに間を置くなどと言う事はせず、僅かな反動を付けてから勢い任せにぶつかりあった。互いに纏う神格をぶつけ合っているのか、直接ぶつかっている訳でもないのに、互いの間で衝撃が反発し合い、周囲に風圧が巻き起こる。木々を倒し、池の水を巻き上げる暴風は、想像するより早く終了を見せた。闇御津羽の突撃に耐えきれず、貴船の龍神がその身を光の粒子へと綻ばせ始めたのだ。
『やれやれ、この身を精製するイマジンが決定的に足らなかったか………。少々癪ではあるが、闇龗神に対して、この程度の身で捨て駒役を担えたと思えば、良しとするか』
「捨て駒役?」
 黒く鋭利な翼を一気に広げ、高龗神を八つ裂きに伏した闇御津羽は、龍神の最後に残した言葉に疑問の言葉を漏らす。その答えは、思案するより先にやってきた。気付いた時には肩を掴まれ、眼前にカグヤの姿があったのだ。それも近い。先程唇を奪った時と全く変わらぬ距離に迫っていた。
(しまった………っ! 先程よりも隙が大きい………っ!)
 少女とて、カグヤの事を失念していた訳ではない。確かに人間が体内に収められるイマジンの総量は多くない。それでも、イマジン体が人間にイマジンを吸われれば、臍下丹田の分、解り易く言えば人間の器官一つ分のイマジンが奪われる事になる。それは大変な消費である。闇御津羽は主である神威より、常にイマジンを供給してもらっているが、それも決して多いとは言えない。戦闘状態と己の身体の安全を考えるなら、これ以上の消費は危険だと解っていた。だからカグヤへの注意を忘れていなかった。
 それでもカグヤは入り込んできたのだ。黒い少女の注意の隙間を掻い潜り、彼女の不意をついて見せた。
 再び押し付けられる唇。先程よりも高い位置に飛んでいた所為で僅かに浮遊感を感じる不安定さの中で、カグヤは少女の頭を片手で抑え付けて、無理矢理深く口付けしていく。
 創られたとは言え、彼女も女としての自我を持つ。多少なりの羞恥心はあったが、それ以上に戦闘における冷静さが強く反映される。例えここでイマジンを吸われても、戦えなくなるほどではないと判断し、高龗神と激突した衝撃から復活次第、反撃に移ろうと考えた。
「………っ。………っ!?」
 しかし、その考えは一瞬の内に吹き飛んだ。
 僅かな浮遊を終え、地面に落ちた二人だったが、カグヤは絶対に逃がすまいと、無理矢理少女を押し倒す。対する少女の抵抗は、実に弱々しいものであった。力の入らぬ手で、カグヤの腕を掴んだり、緩く握った拳で胸を叩いたりと、押し返そうとはしているようだが、あまりに弱々しい。抵抗する気が本当にあるのかさえ疑問に思えてくる光景だ。
 それも仕方のない事だ。現在彼女は、大量のイマジンを吸われ続けると同時に、自分を支配する術式か何かを体内に直接送り込まれているのだから。
 カグヤは口付けにより闇御津羽からイマジンを供給し、素早く臍下丹田に集め、それを瞬時に術式に変え、同じく口移しで送り込んでいるのだ。
 口で言うのは簡単だが、実際問題、これはかなりの難度の高い技術だ。カグヤは自分のからだの外にあるイマジンを操作できると言う、イマジネーターにも難しい技術を確立させる事で、口移しによるイマジンの吸収を行えるようになっている。だが、臍下丹田に集めたイマジンを使用する事自体は完全に初めてのはずだ。それでも先程のような龍神を呼び出せてしまえるのは、カグヤの技術ではなくイマジンの万能さ故だ。だが、臍下丹田に取り込んだイマジンを瞬時に術に変え、それを口移しすると言うのは、体内で術を完成させ、器官を通って口から放出しなければならない。つまり、高度な技術を必要とされると言う事だ。どれか片方だけなら、並みのイマジネーターでも練習すればすぐに使えるようになる。だが、それを同時に行うと言うのはかなり苦しい事になる。解り易く言えば、超ハイスピードで呼吸を繰り返しているような状況だ。それも限界一杯まで息を吸って、ギリギリまで吐く、それを繰り返すに等しい。
 実際苦しいのか、少女の顔を押さえるカグヤの表情には必死さが滲み出ている。傍から見れば、女の子の唇を強引に奪っている少年の図なのだが、その必死さにはそう言った色気が全く感じられない。
(腕に力が………っ! それに、妙に舌使いが上手い………っ!)
 気にする所はそこではないのだが、無視する事が難しいほどにカグヤは丹念に舌を使っていた。口の中を荒々しく蹂躙するかのように、だが、的確に急所となる部分を意識の隙を突く様に舐め上げたりと、時間が経つにつれ、そっちの方にばかり意識が吊られてしまう。
(私が………っ! 私の中が、彼に蹂躙されて………っ! 支配されていく………っ!!)
 術式の影響で抵抗する力をドンドン奪われ、同時に忠誠心を植え付けられていく。
 闇御津羽は、己の自爆覚悟でカグヤを突き離そうと考え、己の身体を形成するイマジン体を、元のイマジン粒子に分解し、爆発してやろう決断し―――書けたところで、思い止まる。
(彼は………、ただの人間だったはず………。イマジンもろくに使えず、それどころか才能や資質、素質までも持ち合わせていない凡人以下の存在だったはず………。いくらあの主の弟とは言え、それが簡単に出来てしまえるものなの………?)
 侵入してきた舌が、彼女の弱い所を全て知り尽くしたかのように蠢き、最早無視できない感覚が口内を駆け巡っている。
(イマジンを外側で感じることだって………、ましてや操ってしまえる事なんて………、普通できる筈がない………。そんな事、半年なんて短い期間で成し遂げられるはず………っ!?)
 少女は思い出す。この半年間の間、彼と交わしと言葉の中にあった決意。

「いつか、俺が義姉様を倒す。それが義姉様の願いだから」

 笑うつもりも呆れるつもりもなかった。彼が嘘をついているとも思っていなかった。
 彼はそういう人間だ。そう言う人間として育てられた。
 自分の義姉のためなら、己の命も、他人との友情でさえも、簡単に犠牲にできてしまえる。そんな風に育て上げられた。
 だから、彼が本気なのは解っていた。それでも不可能だと思っていた。
 東雲神威は世界に二人しか存在しない上級生破りを成し遂げた規格外の化け物だ。そんな人物を相手に、同じ上級生破りをしようなど、天地がひっくり返ったところで足元にも及ばない。出来る筈がない。そう思っていた。
(だけど………、彼は不可能だと私が判断した屈服を………、今私に()いろうとしている………っ! 少なくとも、私の予想を超える力を持っている………っ!)
 彼女の頬が上気する。それは与えられた感覚によるものだったのか、それとも支配の術式が(もたら)した錯覚だったのか? それでも彼女は己の動悸を受け入れた。
 抵抗を止め、カグヤの頬に両手を当て、逆にキスを受け入れる。彼女が受け入れた事により、カグヤは強引さを僅かに緩め、優しい動きで唇を味わう。
 少女も受け入れ応じる。
 それはまるで、キスを楽しむ恋人同士の様な、そんな光景だった。
 やがて、唇を放したカグヤは、マラソンでもしてきたかのような汗まみれの顔で彼女の表情を窺う。
 カグヤと同じように荒い呼吸を繰り返す黒い少女は、上気した頬のまま、カグヤを見上げていた。
「俺の物になるか?」
 カグヤの問いに、少女は僅かに逡巡する様に視線を逸らす。
「………とりあえず降りてください」
 その返答に訝しく思いながらも、カグヤは素直に従う。
 腰だけを起こし、座り込んだ体勢になった少女は、自分の中にあるイマジンをフル活用し、カグヤの支配術式を無理矢理打ち破って見せた。
 警戒したカグヤが、折れた刀を拾い構えるが、少女は座ったままカグヤを見つめるだけだ。
 カグヤは刀を再び捨てる。
 それを待っていたかのように、座り方を正した少女は、カグヤの前で跪いて見せる。
「我が主の試練を見事に乗り越え、私を屈服させた御方。主の命に従い、これよりは貴方様の下僕となりましょう」
 恭しく告げられ、カグヤはやっと肩の力を抜いた。
「おうっ、これからよろしくな」
 言葉は元気だったが、表情は軽く青ざめ、嫌な汗が巫女装束の重量を増やしている。
 最早多くを語るだけの余力が無いのか、少年はすぐに室内に戻ろうとするが、思い出したように立ち止る。
「闇御津羽? 今日からお前は俺の式神だ。今はイマジンが無いからちゃんとした主になってやれないけど、俺の(しもべ)である限り、お前には新しい名前を付けるからな?」
「新しい名前ですか?」
九曜(くよう)一片(ひとひら)。お前を最初に見た時、思い付いた名前だ。俺はこれからお前を九曜と呼び続ける。いいな?」
「承りました」
 (こうべ)を垂れる闇御津羽(あらた)め九曜一片。
 それに気を良くして笑顔で頷くカグヤは、再び部屋に戻ろうとする。
「カグヤ様、一つだけお訪ねしてもよろしいですか?」
「え? なに?」
 疲れている所を呼びとめられ、多少嫌そうな表情をする。
「カグヤ様は、普通に女性は好きでいらっしゃいますか?」
「それは何の質問だ? いや、大抵好きだけど………」
「もし私が男性であったとしても、同じ事をしたのでしょうか?」
「………」
 戻ってきたカグヤが(おもむろ)に九曜の胸へと手を伸ばす。さすがに一瞬躊躇を見せたが、九曜が逃げ出さないのでそのまま確認してみた。しっかりとした膨らみが手の平に返ってくる。しばらく真剣な表情でその膨らみを確認し続けるカグヤは、不安そうな声で呟いた。
「本物………だよな?」
「本物です。別に私が本当は男だったという落ちを言ったわけではありません………っ」
 さすがに多少恥ずかしいのか、僅かに頬を染めて言う少女に、カグヤは安堵したように手を放す。
「ってか抵抗しないのかよ? おかげで堪能できたけど?」
「主の為さる事ですから」
 九曜の忠誠心に下僕の鏡を見たかのような気がして、カグヤは多少慄いた。この少女が本当に自分の僕で収まってていいのだろうか? などと脳裏に過ぎらせたがすぐに自分で手に入れた物だと自己完結した。
「それで? さっきの質問の意図ってなんだよ?」
「いえ、もし私が男性だったなら、今の手が使えなかったので屈服できなかったというのではないかと思いまして」
「さっそく僕に疑われてる………?」
 表情に影を指して、軽い絶望を味わったカグヤは、すぐに表情を改めると、言い難そうに眉を曲げる。
 頬を掻きながら視線を逸らしたカグヤは、言葉と表情だけ何でも無さそうに装いながら告げる。
「別に、他にも手が無かったわけじゃねえよ。準備はしてたし。………まあ、義姉様がこの試練を“屈服させろ”じゃなくて“倒せ”だったとしても、俺は九曜を屈服させる事を選んだけどな」
「それはどうして?」
「………」
 ついに背を向けてしまったカグヤは、それでも声色だけは変えずに、出来るだけ淡々と答えた。
「お前が俺の一番の僕になってくれたらいいなぁ~~………って、思ったからだよ」
「////////」
 九曜の頬に朱が差した。
 カグヤが言った言葉の意味は、この半年間の付き合いからすぐに読み取れた。
 それは遠回しながらも、互いの関係性を変えるつもりはないと宣言しつつも、それでも最大限、彼の想いを込めて告げられた、告白だった。
 半年という月日の間、ずっと自分を見つめ、歯牙にもかけぬ相手に必死に挑み続け、ついに屈服させる事で覆した少年の、現状に於いての精一杯の口説きに、不覚にも、少女は胸を打ち抜かれていた。
 自分を屈服させた男が、その想い故に成し遂げたのだと思うと、僕としてそれほどに嬉しい事などない。そんな気持ちが湧いて来たのだ。
「これより幾世幾万の時が過ぎ去ろうと、私は一生カグヤ様に御仕え続けます。ああ、親愛なる、我が君………!」































プロローグ03


 東京、とある家の居間で、二人の親子がテレビにロボットヒーローをキラキラした瞳で眺めていた。
 ロボットは、子供向け番組にヒーローらしく、必殺技を叫んで長年の宿敵を打ち滅ぼした。
「やった~~~~っ!!!」
「おぅしっ!!」
 両手を上げて喜ぶ子供と、拳を握ってガッツポーズを取る父親。
 二人は一緒になって喜び、騒がしくはしゃぎ回る。
「父ちゃん! ロボットってスゴイねっ! 強いねっ!」
「おうっ! ロボットは男のロマンで出来てるんだ! 凄くて当たり前だぞっ!」
「うを~~~っ! マジでっ!? ロボットすげぇ~~~っ!」
「そして父ちゃんは今っ! ロボット開発スタッフの一員だからな! 本物のロボットを作ってんだぞっ!!」
「おを~~~~~~っっ!? 父ちゃんすげぇ~~~っ!!」
「そうだろう! そうだろう!」
 純粋な子供のキラキラした尊敬の眼差しを受け、父親は年甲斐もなく胸を張って笑った。何処にでもあるようで、だがとても幸せな家族の光景に、食事の準備をしていた母親は、呆れた様に、しかし微笑ましそうに笑っている。
「じゃあ、父ちゃんの作ったロボットが悪者と戦うのっ!?」
「え? ああ………、いや、それは無い………」
「ええ~~!? なんでぇ~~?」
 急にテンションが落ちて仏頂面になる息子に、父親は苦笑いを浮かべた。
「今の世の中は平和だからなぁ~~………。ロボットが戦う相手もいないんだよ。良い奴をぶん殴ったら、ロボットが悪者になっちゃうだろ?」
「そうだけどさぁ~~~………っ!」
 不服そうにブ~たれる子供に、父親はニッカリ笑って息子の頭に手を置いて撫でる。
「心配すんな! 例え戦わなくたって、ロボットが最強なのは変わんねえよ! ロボット最高~~~っ!!」
「おおぉっ!! ロボット最高~~~~っ!!」
 簡単に機嫌を直した子供が諸手を上げてはしゃぎ始める。
 ロボットの事で熱く語り合い、はしゃぎ回る姿は、子供が二人いる様で、母親は微笑みながらも半分呆れるばかりだった。


 だから、そんな幸せが急に断たれた事に、二人(、、)は衝撃を受けるしかなかった。
 突然仕事場から届いた一報に、母親は血の気が引いた。
 病院で冷たくなった父を見た時、息子は理解が出来なかった。
 墓前で、親戚達を招き、御経を耳にする間も、母は悲しみ、息子はどうして良いのか解らず呆然とするしかなかった。
 息子は泣かなかった。決して強かったわけではない。非情だったわけでもない。ただ父親が居なくなった事実をどう受け止めて良いのか解らなかった。彼が親の死を受け入れるには、あまりにも幼すぎたのだ。
 だから、彼は必死に考えた。自分は亡くなった父のために何をすればいいのだろうかと。子供の未熟な頭で、考えて考えて考え続け、やっと答えを見つけ出した。
 それは、幼いながらも確かな覚悟の元、決意した将来の目標だった。


 墓前、父が亡くなってから五年目の春。子供だった彼は十歳になっていた。幼くはあるが、もう少年と言って差し支えない年だ。彼は、父親の形見となった家族の写真の入ったロケットを首に下げ、それを手の中で握り締めながら墓の父に語る。
「父さん、俺『イマジネーションハイスクール』に入学する事にしたよ。塾にも通って、ちゃんと力の使い方も理解したし、先生もきっと合格できるって言ってくれた。俺、絶対入学してみせるよ。そして父さんの言った事を証明するんだ。ロボットは最強だって!」
 彼は跪くと、墓に花を添える。
「塾で友達もできたんだよ? カグヤさんって変な人と、弥生さんって言うすっごく強い人。カグヤさんはなんか色々隠してる感じで強いのか弱いのか、結局わかんなかったよ。でも、弥生さんは本当に強かった。戦う機会が一度しかなかったけど、すっげぇ印象に残ってるよ。まさか俺のガオングに生身で立ち向かってくるとか思わなかったし、“塾生最強”なんて言われてるだけあって、むちゃくちゃ苦戦したよ。だから、あの人に勝てた時は本当に嬉しかったなぁ~」
 少年は目を瞑り、塾生時代の半年間を思い出す。
 辛い事も、大変な事もあった。
 塾で真っ先に仲良くなれた女の子が、虐めにあって辞めて行った時は本当に悲しかった。でも、自分は負けずにここまで来た。ようやく来た。
 少年は眼を開くと、立ち上がり、父に別れを告げる。
「もう行くよ。母さんも待ってるし………。しばらく来れなくなるかもだけど、それは俺ががんばってるって事だと思って許してよ? また必ず、嬉しい報告をしに来るからさ」
 少年はそう言って踵を返した。父の言った事を証明するため。亡き父に、泣く事の出来なかった代わりを果たす為、彼は向かう。万能の力、『イマジン』を扱う浮遊都市学園、『ギガフロート』に………。




























プロローグ04


 目の前に広がる光景。私はそれが何なのか、しばらく認識できませんでした。
 誰かが私に呼びかける声も、すぐには理解できず、音である事自体解らなかった。
 寝ている状態から上体だけ起こしたのも、意識してやったと言うより、半ば反射行動だったのかもしれない
「お姉ちゃん! お姉ちゃんっ!!」
 漠然と意識と言う物を掴み始めた私は、聞き覚えのある声がすぐ近くで私を呼んでいる事に気付く。半開きの視線を向けて相手を確認した瞬間、霞み掛っていた意識が急速に覚醒して行った。
空女(あきめ)………?」
「お姉ちゃんっ!!」
「えっと………?」
 目の端に涙を浮かべた少女が、泣き笑いの表情で私に飛びついてくる。
 私は咄嗟に両手で抱きとめながら、混乱する頭で周囲を確認する。
 真っ白の部屋に、真っ白のベット。その上で寝ていたらしい私に飛び付く妹………? それから男女四人の大人。男性の一人は白衣を着ているからお医者様? 女性の一人はスーツ姿をしている。何処かの会社の人? OLには見えませんけど………? 残りの二人は私服姿で、どこか見覚えのある顔立ち………、っと言うかもしかして―――?
「お父さん………? お母さん………?」
「ああっ! そうだよ凉女(すずめ)! 私達が解るか!?」
「凉女っ!! 凉女! 本当に、良かった………っ!」
「えっと………?」
 私はまだ状況が掴み切れない。もう一度周囲を見回して、自分の格好を確認したところで、ここが病院の病室だと言う事がやっと解った。私はなんでこんな所にいるのかしら?
 事態を上手く掴めない私は、とりあえず気になっている事を聞いてみる事にした。
「ねえ? 空女も、お父さんもお母さんも、なんだか雰囲気変わってないかしら? それとも、私が寝起きでおかしくなってるのかしら?」
「そう思うのも仕方がない! お前は三年間も眠り続けていたのだからな!」
 お父さん………だと思う人が泣き笑いをした顔で教えてくれる。
 三年間? 私が眠り続けた?
 どう言う事なのかしら?
 もしかして私………!
「い、いつの間に私は冬眠ができる体質になっていたのかしら………っ! 次からは、うっかり三年間も寝過してしまわないように気を付けなきゃ………!」
 むんっ! と、私は軽く拳を握って決意を固めていると、胸の中で何処か嬉しそうな抗議の声が上がった。
「お姉ちゃん何言ってるのよぅ~~! でも、この反応間違いなくお姉ちゃんだよぅ~~~っ!!」
「ええっと………? 見慣れない制服だけど………? もしかして空女?」
「そうだよ! 妹の空女だよぅ~~! 今気付いたのぉ~~~っ!?」
 ますます腕に力を込めて私に抱きつく妹の頭を撫でながら、私は両親に目を向ける。安堵したような表情で皆涙を浮かべている。皆に心配かけてしまったのかもしれない。でも、その事に付いて謝る前に、もう一つ確認しておきたい事がある。私は困った表情を作って、頬に片手を当てながら両親に訪ねる。
「私、全然お腹が減ってないの? 三年間も何も食べてないのに、大丈夫なのかしら? 痩せる時って、胸から痩せると言いますし………?」
「そんなところ、今はどうでも良いよぅ~~~っ! あと、お姉ちゃんの胸は相変わらずのメロンですぅ~~っ!!」
 不安を口にする私に、両親は何故か涙声で笑い始めてしまった。妹も泣きながら抗議するけど、何処か嬉しそうな響きの涙声。何だか皆変な感じなのだけれど、私が冬眠している内に宗旨替えしたのかしら? 私、流行りに追い付けるか不安だわ?
「お前は相変わらず、ズレた事を言う子だ。自分が三年間も眠っていた事や、その理由については考えないのかい?」
「あらぁ~~? 私はなんで寝てるのでしょう? お父さん、お母さん、私に何があったのかしら?」
「マイペースお姉ちゃんのバカぁ~~~~っ!! でも嬉しいよぅ~~~っ!!」
 あらあら………? 空女も何だか分からないけど大変ね?


 私はお父さんとお母さんに話を聞いて、自分が事故で頭を強く打ち、三年間の間、原因不明の植物状態になっていたのだと教えてくれました。どうして私が目覚める事が出来なかったのか、その原因は未だに解っていないそうです。
 でも、解っていないななら、なんで私は眼を覚ましたのかしら? そんな疑問を口にした時、ずっと黙っていたスーツの女性が初めて口を開いた。
「それについては私が説明します」
「まあ、ご親切にどうも。私、及川(おいかわ)凉女と申します」
「いえ………、名前はもう聞いているわ?」
「ですけど、名前を尋ねる時は、まず自分からと申しますし?」
「そ、そう………、律義なのね? 私は名前を名乗る事が出来ないのだけれど、とある学園都市の研究者をしている者です。現に不明の昏倒に状態にあったアナタは、現代の医学では目覚めさせる事が出来なかったの。そこで、アナタの担当医が私にコンタクトをとってきたのよ。名前だけは聞いたことあるんじゃないかしら? 『イマジン』の存在を?」
「『想像』ですか?」
「お姉ちゃん、英文じゃない」
 妹に訂正され、もう一度顎に指を当てながら、視線を上向きにして考える。
 確かに、何処かで聞いたことあるような単語だったような………?
 …………?
 …………?
 …………?
 …………!
「あっ、テレビでやってる漫画みたいな戦いをしている学校の………!」
 思い出して両手を合わせる私に、女性は頷きました。軽く、三十分くらい時間の経過した(、、、、、、、、、、、、、)時計を一瞥して、本当に安堵したように息を吐きました。もしかしてこのお仕事、とっても大変なのかしら?
「万能と言われた力『イマジン』。私達はそれを学生の協力の元、研究しています。その研究で判明したのですが、『イマジン』を投与された病人は、一時的に症状を回復させる可能性がある事が解りました。私は、アナタに『イマジン』を投与し、原因不明の植物状態から、覚醒させたのです」
「それはそれは、誠にありがとうございます」
「ですがっ!」
「あっ、よろしければこちらのリンゴなどいかがですか~~?」
「続きがあるので話を聞いてください! 割と真面目な話しです!」
 誠意をもってお礼申し上げたつもりだったのですが、何故か怒られてしまいました?
「先程も申しました通り、『イマジン』は依然研究段階にある未知の力です。例え医療関係とは言え、外部に無償で漏らすわけにはいきません。未知の力故に、暴走の危険性が無いとは言い切れません。そして、『イマジン』で治療された者も、体内の『イマジン』が尽きると、元の病状に戻ってしまいます」
「つまり私が目を覚ましていられるのは、とても短い間の話だと言う事でしょうか?」
「はい」
「今の内に勉強しましょう! 未来に持っていけるのは知識だけですし!」
「お姉ちゃん潔過ぎッ!? そして考え方が意外とシビアッ!? もっと女の子らしい事考えようよぅっ!?」
「子作りは、さすがに時間的に猶予が無いと思うんですよ~~?」
「女の子らしいけどぶっ飛んだぁっ!?」
「話を戻して良いですか………?」
 スーツの女性がとっっっても疲れた表情で溜息を吐かれました。
 まあ、どうやらお仕事の疲れが溜まっていらっしゃるようです。労わって差し上げないと。
「アナタに投与した『イマジン』が尽きるまで後一晩。それまでに、アナタには決めてもらいたい事があるの」
「なんでしょうか?」
「『イマジン』は外部の人間には提供できません。ですが、それが学生であったとしたら、その限りではありません」
「お母さん、入学手続き書って何処にありますか?」
「意外な理解力っ!?」
 女性が驚き、両親が戸惑う中、妹が慌てた様子で私に問いかけてきます。
「良いのお姉ちゃんっ!? あの学校に入学しちゃったら、ずっと戦い続ける事になるんだよ!? とっても痛いことしないといけないし、すっごく大変だよぅ!?」
「空女ったら、慌て過ぎよ? だって、まだ選択肢は貰ってない(、、、、、、、、、、、)じゃないですか?」
「へ?」
 呆けた顔をする家族。私が女性に微笑みかけると、女性は目を丸くしてから頷きました。
「その通りになりますね。学園に入学すれば研究協力者と見なし、合法的に『イマジン』を無料提供できます。ですが、出来なければこの話はなかった事となります。つまり―――」

「入学試験を受けて見ない事には、入れるかどうか解らないと言う事ですよね?」

 家族と、今度はお医者様まで一緒になって目を丸くしていらっしゃいます。皆なんでそんな可笑しい顔するのかしら? 思わず私の顔も弛緩して笑ってしまいます。
 女性が私にくれたチャンスとは、『イマジネーションハイスクール』に入学して、合法的に『イマジン』による治療をさせてもらえると言う物です。ですが、これには大きな落とし穴があるのですよね? だって、もし入学試験に落ちてしまえば、学園側としては私を招き入れる理由が無くなってしまいますもの。そうなれば選択肢なんて、最初からないのと同じ事です。
「もし私が受かったら、そのまま入学させていただくつもりではいますけど、せっかくなので今夜一晩、じっくり考えさせてもらいますね?」
「お、お姉ちゃん! そんな簡単に決めちゃっていいのぉ!?」
「では迷ってみましょうか? ………どうしましょうっっっ!!?」
 頭を抱えて本気で悩む私。不安要素ばかり頭の中に羅列した結果、何だかとんでもない事をしでかしてしまった様な気になってきます。………どうしましょうっっっ!?
「ごめんなさいお姉ちゃん! 私余計な事言ったっ! お姉ちゃんはお姉ちゃんの考えで行けばいいと思いますぅ!!」
「解りました♪」
 妹の助言に従っていつも通りの私に戻ります。とりあえず不安要素は忘れる事にしました。
「では、答えはYesと考えて良いのですね?」
「はい。でも、よろしいのですか?」
「?」
「私、結構やんちゃな方ですよ? もし、私や家族が、入学した所為で悲しむ様な事があれば、ちょっとお痛するかもしれません」
 そう言って微笑み掛けた私に、女性はむしろ好感的な表情の笑みを向けてきました。
「アナタはきっと合格しますよ。我が校に入学できる生徒には奇妙なジンクスがあるんです。過去にいくら戦闘経験を持っていようが、優秀な能力を想像できようが、落ちる者は落ちます。なのにどうした事か、我が校に合格する生徒は全員、自分の領域(、、、、、)を守ろうとする人間ばかりでした。試験には何も意図した細工をしていないと言うのにです? きっとあなたは合格する事でしょう。“家族”と言う、領域を持ったアナタは、絶対に………」
 言ってる事は良く解りませんでしたが、とりあえず私は微笑み返しておきました。
「テヘぺろっ♪」
「それ違うっ!?」



弥生「あとがき解説コーナー!」

弥生「このコーナーは、『ハイスクールイマジネーション』における、あらゆる疑問を解説するコーナーです! 主に能力面での詳しい解説を取り扱ってるんだよ!」

弥生「今回僕が解説するのは『イマジネーションスクール』についてです」

弥生「『イマジネーションスクール』、タイトルの順番を逆にしただけのこれは、世界に三つしか存在しない、万能の力『イマジン』を研究している学園都市です。物語の舞台となるのは、その一つ、日本上空を漂っている浮遊島、通称『ギガフロート』」

弥生「土地の大きさは三千ヘクタール、高さは約一万六千メートル。なんと沖縄くらいの大きさに、エベレストの二倍の高さになるよ!」

弥生「『ギガフロート』は学園の名前ではなく、あくまで浮遊島の事を指した名前なんだけど、このギガフロートが日本上空にあると、ちょうど真下の地域は影が差しちゃいそうだよね? ギガフロートは上空約一万五千メートル、積乱雲の頂にも上る高さにあるんだけど、それでもこの大きさの質量があると影が出来ちゃいそうだよね?」

弥生「ところが安心! ギガフロートの周囲には、イマジンによる膜で覆われていて、上空から受けた光を真下へと受け流す事が出来る仕組みになっているんだって! だから大きな影が出来る事はないだってさ! ………それでも薄い雲と同じくらいには光を遮ってしまうらしいよ。万能の力を使っているのに、なんでなのかな? やっぱり研究段階の力だから、謎なところも一杯あるってことなのかな?」

弥生「ギガフロートが日本上空にあるのは、ちゃんと理由があるんだよ。一つは、このギガフロートが日本の物であると言う事を解り易く他国にアピールするため。もう一つは、日本における他国に対する政治的な武器として牽制を行っているため。万能の力『イマジン』を所有している国は日本の他にも二つだけ。現在、政治的立場で劣勢に追い詰められ始めている日本は、その政治的戦力として、どうしてもギガフロートの存在を誇示しなければならないらしいんだ。詳しい内容は僕には解らないけど、ギガフロートが日本上空にある事が、日本の政治を守っているって事なんだろうね」

弥生「今回はこの辺にしとこうか? ギガフロートについて、また話す機会もあると思から、そろそろ次の相手にバトンタッチだよ!」




勇輝「はい、僕からは『イマジン塾』について解説させてもらいます」

勇輝「『イマジン塾』とは『イマジネーションハイスクール』がどんな学校かを知ってもらうために創設された塾校です。毎年入塾する生徒は後を絶たず、とんでもない人数が通っているそうです。残念ながら塾の数は日本全体で三十八カ所しか存在していません。その理由はギガフロートから送ってもらえる『イマジン』が限られているためです。例え塾であっても外部には違いないと言う事で、送ってもらえるイマジンは決められた質量分しか送ってもらえないそうです。塾生だった僕達も、イマジン不足で能力を模索出来なかった事は多々ありました」

勇輝「制限された状態でイマジンを使用しても、その本来の力を発揮できるものではないそうですが、『イマジネーター』としての素質がある人は他の塾生に対して圧倒的な戦力差を見せつける時があるそうです。弥生さんはその筆頭としてよく話に上がる人でした。カグヤさんも、そう言った噂の絶えない人だったそうですが、あの人は塾生時代目立った事は一つもせず、能力の開発にのみ全力を尽くしているようでしたよ? あと、ずっと傍に置いている九曜さんを維持するために、最低限のイマジンを欲していたのも理由だったみたいです」

勇輝「『イマジン塾』では、イマスクの入学上限年齢以上の人も入塾できるので、結構な年齢層の方がいらっしゃいました。中には現役の軍人さんや、特別なカリキュラムを受け、『イマジネーター』になるためだけにその人生を費やしている人もいたみたいです。ですけど、なんでかそう言う人がイマスクに入学出来たって話は聞かないんですよね? 入学生はもっぱら、根っからの一般人が殆どだって聞いてます。何か違いがあるんでしょうか?」

勇輝「以上、イマジン塾のレポートでした」






カグヤ「九曜、質問したい事があるんだが、良いか?」

九曜「何なりと、我が君」

カグヤ「俺が高龗神を召喚した時、お前の事闇龗神って呼んでたろ?」

九曜「ええ、私の名の闇御津羽乃神は、その名の由来を辿れば高龗神と同一視されている神ですから。高龗は祈雨や止雨(祈晴)、天候の水を操る神で、闇龗は地中蓄水や湧水など、地下の水を司る神とされていますが、どちらも同一の神で龗神っという水神として、全ての水を司るものだとも言われています。私は神威から井戸水の底に沈んだ黒曜石を媒介として闇御津羽乃神として創り出されました」

カグヤ「その辺の知識は俺にもあったけど………。俺、今までお前が水系統の能力を使ったところ見た事無いんだけど? むしろ、影みたいな黒い翼を刃みたいにしたり、赤黒い剣を創り出して切り裂いたりしてるけど、アレはなんなんだ?」

九曜「アレも私の、闇御津羽乃神としての由来から創り出している武器ですよ。軻遇突智乃神が十拳剣により首を切られ、その血から生まれたのが闇御津羽乃神となっています。赤黒い剣は、その色が表わす通り軻遇突智の血です。神の血を媒介にして刃を作っています。私は水を司る神ですから、液体である血を、まして自身の血ともなれば操れない事はないのです」

カグヤ「なんで刃なんだ? 血だから赤黒いのは解ったけど?」

九曜「別に刃である必要はなかったのですが、消費の少ない形状となると、やはり刃だと思ったので。無論、消費を考えなければ光線の様に射出する事も、盾として使用する事も出来ます」

カグヤ「でも、いくら水を操っても物を切ったりできるのか………?」

九曜「超高速で流動する水は鉄をも切り裂きます。私がそれを利用して刃を創り出しています」

カグヤ「つまり、あの剣は常に動いてたって事か? 振動剣かよ………」

カグヤ「それで、翼の方はどうなんだ?」

九曜「アレは本物の闇と、私の媒介となっている黒曜石を使用して創り出した物です。私は井戸の底、つまり、光も届かない暗き底の神として扱われていますから、闇をある程度使用する事が出来るのです。それを黒曜石と言う人類最初の神器としての“刃”の効果を得た物なのです」

カグヤ「なんで翼なんだよ?」

九曜「いえ、別に翼ではありません。飛べませんし」

カグヤ「飛んでたじゃんっ!?」

九曜「翼ではなく、神格で飛んでましたから。飛行ではなく自在移動ですから」

カグヤ「レベル高ぇな………!?」

カグヤ「それにしても、黒曜石が人類最初の神器って………、まあ、確かに原初の最強の武器として通じなくもないだろうが………、原始過ぎないか………?」

九曜「我が君、私も我が君にお尋ねしたい事があります」

カグヤ「なんだ?」

九曜「我が君は、何故私に勝てると思ったのですか? 『イマジネーター』が普通の人間に負ける事など絶対にないと知っていたはずですが?」

カグヤ「イヤだって、お前は『イマジネーター』じゃなくて『イマジン体』だろう? なら、工夫次第で勝てるとは思ったんだよ」

カグヤ「まあ、それでも義姉様が傍にいる時は、『イマジネーター』と対峙しているのと変わらないから、絶対手を出したりしないと決めてたけどな」

九曜「それで、神威が私の傍にいる時は神威の世話ばかりに執心だったのですね」

カグヤ「イヤ、アレは単に義姉様の世話焼きたかっただけだ」

九曜「我が君………、何処まで神威に調教されているのですか………?」

九曜「しかし、我が君? 『イマジネーター』が使用できる能力は初期限定で二つまで、その能力で使用できる技能が三つまでと聞き及んでいますが、真言、高龗神、そして私と、三つの能力をどうやって使用できるようにしたのですが?」

カグヤ「イマジンの能力には制限なんて無いぞ。本来はな。だが、万能過ぎる力は、時に本人達の意思に反して災厄を齎す事もある。だから、学園では使用能力のレベルに制限を付けてるんだよ。そもそも『能力』なんて限定するのも、半分はその意味が含まれてんだから」

カグヤ「それに、俺は能力を一つしか設定してないぞ?」

九曜「それは?」

カグヤ「『神威』日本に流出した神仏を限定で使用が可能になる能力だ。それで仏門の神を一時使役して使える範囲を限定する事で『真言』を使用したんだよ。正確には“一時使役”と言う技能を会得して、限定的に神の力を使用する技として使用してたんだよ。九曜の使役をしてからは、すぐに破棄した能力だけどな」

九曜「何故そのように?」

カグヤ「九曜を使役した後の戦術を考えたら、“一時使役”ではお前への負担が大きすぎるだろ? “一時使役”を覚えるのは後回しにして、今は完全使役型の能力を幾つか覚えて行こうと思ってな」

九曜「そうだったのですね。疑問にお答えしてくださってありがとうございました」

九曜「ところで、最後にもう一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」

カグヤ「能力の名前の由来か?」

九曜「予想できたと言う事は………、やっぱりそうなのですね………」

カグヤ「義姉様の名前から由来する物を思い付いた!」

九曜「なんと言う邪気の無い笑みでしょうか………」







当作品は読者参加型の作品です。
詳しい参加方法は:http://www.tinami.com/view/697248をご覧ください。
投稿先は:http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=41679&uid=35209です。


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キャラクター例題(後にキャラ紹介)

数が揃ったらクラス毎にキャラ紹介の場として作ろうと思っています。
キャラ投稿の際は、最低限これらの例題と似せた形で投稿してください。

【お詫び!!】
【キャラの例題を書き忘れていました申し訳ありません! お手数ですが、既に投稿した皆様は、この例題を確認した上で、もう一度送ってください。本当に申し訳ありません!!】
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保護責任者:のん
名前:東雲 カグヤ(しののめ かぐや)   刻印名:――
年齢:17     性別:男         一年生Aクラス
性格:発言が素直で、真顔でエロイ。義姉を溺愛している。

喋り方:基本的に興味がなさそうな喋り方。
自己紹介   「東雲カグヤです。脳内記憶スペースが一ドットでも余分に残っていたら、一分くらいは憶えておいてください。『神威使い』―――『式神使い』なんで、後方支援で御協力。ああ、あと俺、弱いんで戦わなくて済むならその方向で」
勝負申し込み 「負けても恥をかかない奴だけ掛って来い」
ボケ     「いや、ここからだと女子の着替えが覗けて実に眼福だなぁ~っと?」
義姉対話   「はい義姉様っ! 義姉様のためなら疑問を浮かべる必要もなく行動に移しますともっ!!」
九曜使用   「行くぞ九曜………、『闇御津羽(クラミツハ)』」
カグラ使用  「こいっ、カグラ! 『軻遇突智(カグヅチ)』」

戦闘スタイル:式神。神様の名前を持つモノを召喚し戦う。日本の神様が主流。

身体能力3     イマジネーション430
物理攻撃力3    属性攻撃力50
物理耐久力3    属性耐久力3
術式演算能力300  霊力85
神格70       逆転率71
能力:『神威』
派生能力:『――』

技能
各能力概要
・『闇御津羽・九曜』
≪闇を司る黒き羽根を持つ神。カグヤが義姉、神威から誕生日に贈られた式神で、カグヤの僕。濡れ羽色の長い黒髪に、黒曜石の瞳、全身を黒い服で身を包む、麗しい少女の姿をしている。常にカグヤに仕え、手から血の様に赤黒い光の剣を創り出し戦う。カグヤの命あらば、自らを漆黒の刀に変え、主と共に戦う≫

・『軻遇突智(カグヅチ)・カグラ』
≪炎の神。元は、角を持った巨大な大蛇の姿をしていた殲滅用の式神だったのだが、神威の悪戯で、赤い髪をした羽衣衣装の幼女姿を持つようになった。普段はカグラと呼ばれ、カグヤに妹扱いされている。戦闘時は本来の姿を取り戻し、巨大ロボットとでも戦って見せる≫

・『迦具夜比売(カグヤヒメ)
≪己の名『カグヤ』を刻印名として一時的に献上する事で、式神と一体化して神格を得る似姿。竹取物語における『がぐや姫』の神格を得、これになっている間、構築された拠点に居る限り、その存在を認識されなくなる。また、『かぐや姫』の有名な逸話、求婚した男に条件を出すと言う物から、『仏の御石の鉢』(恥を捨てるの言葉の由来から、敵の加護による条件防御を何かを捨てることで無効化する)『蓬莱の玉の枝』(「偶(たま)さかに」稀にの言葉の由来から、完全に気配は消せないが、完全に見破られない気配遮断の能力)『火鼠の裘(かわごろも)』(敢え無くの言葉の由来から、大掛かりな条件を満たす術式を必ず失敗させる)『龍の首の珠』(堪え難いの言葉の由来から、理に反する力を受け付けない)『燕の産んだ子安貝』(甲斐無しの言葉の由来から、呪いや攻撃を受けても、相手が期待する程の効果を見込めないようにする)などの能力もデフォルトで備わっている。(Wiki参照)『迦具夜比売(カグヤヒメ)』発動中は、他の式神を呼び出せない。また発動条件として、多くの金品を術式に献上しなければならない。生活難のカグヤにはとてつもない出費で、出来る事なら一生使いたくない≫
(余剰数値:0)

人物概要:【黒いセミロングの髪に切れ長の瞳。クールな顔立ちに気だるげな態度が、真面目で暗く、影のあるクールキャラに見えるのだが、実はかなりの変態。義姉溺愛主義。真顔でエロ発言。覗きセクハラ上等。上品な女性みたいな笑顔で気に入った相手を苛めて見たりと、かなりの変人。いや、エロ。体質上、肉体的に脆く、動き回るのはあまり得意ではない。その変わり、頭を使う類の事はチート並みに完璧。忘れっぽいところを除けば、最強の頭脳の持ち主】










保護責任者:のん
名前:九曜 一片(くよう ひとひら)  本名:闇御津羽(くらみつは)
年齢:18(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神
性格:クールで従順な僕。主以外には冷たい対応を取る

喋り方:クールな僕
自己紹介  「我が君の僕、九曜と申します」
下僕状態  「承知しました我が君。速やかに行動を開始します」
他人対応  「言いたい事は解ったわ。もう帰ってもいいかしら?」
戦闘時   「我が君の敵を、全て退けます!」

戦闘スタイル:射撃、剣、盾になる小型ユニット

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『黒曜石の式神』
技能
各能力概要
・『ユニット』
≪盾、剣、射撃の武装になる小型ユニットを、腰に6本、背中に6本、両脇に2本所持し、自由に扱う≫

・『闇の翼』
≪背中より黒い翼を生やし、飛行する事が出来る。翼を闇に変え、攻撃に使う事もできるが、主への負担が増してしまうので攻撃には使いたがらない≫

・『神実』
≪闇御津羽の剣となり、漆黒の刃として主の武器となる。意思を共有し合い、時には主の身体を勝手に動かす事も出来る≫
(余剰数値:0)

人物概要:【人の姿を持っているが、人ではない。闇御津羽と言う神であり、黒曜石の式神でもある。カグヤの五歳の誕生日に義姉から送られ、それ以来ずっと仕えているパートナー。主の命令を何よりも尊重し、彼のためだけに行動する。いつしか、彼の事を主以上に想うようになり、カグヤからも同じだけの愛情を注がれ、共に主従や恋愛を超えた特別なパートナーとなっている】
備考【闇御津羽神はその本当の名を罔象女神(みつはのめのかみ)と言い、軻遇突智の血より生まれた水の神である。それがどうして闇の神として力を振るえるのかと言うと、彼女は厳密な意味でカグヤの式神ではなく、神威の式神である。神威が闇御津羽を創造する時、彼女はカグヤの能力とは別の方法と法則で闇御津羽を創り出している。彼女は『闇御津羽』としてだけではなく『黒曜石』化身としてのスタイルを有している。そして、名前から察する他人のイメージを利用し、『黒』、『闇』の力を使う式神として顕現している。カグヤの能力は、厳密な意味で日本神話の神を再現してしまうが、神威のそれは、オリジナルを挟み込める、汎用性にとんでいた物だったようだ。現在の『九曜』が罔象女神としての力を発揮できていないのは、カグヤの力不足が原因である。イマジンの能力で作られた存在は、主のステータスに大きく左右されるのだ】

























保護責任者:のん
名前:甘楽 弥生(つづら やよい)   刻印名:ベルセルク
年齢:16     性別:女       一年生Cクラス
性格:マイペースな僕っ子。バトルマニアの気質有り。

喋り方:少し男の子っぽく喋る。
自己紹介   「甘楽弥生です。武器は二刀流と知恵。趣味は料理。目標は神や魔王を倒せちゃうくらい強いと言われる事です!」
勝負申し込み 「僕と勝負しよう?」
勝負受諾   「いいよ。もちろんやるよ」
謝罪(軽)  「ごめんごめん! 悪かったってば~~~!」
戦士の権能  「 ≪我は言霊の技を持って世に義を表わす!≫ 」
戦闘スタイル:二刀流。物理攻撃。直接攻撃型。エース。
身体能力172     イマジネーション110
物理攻撃力116    属性攻撃力20
物理耐久力100    属性耐久力50
不屈200       能力看破250
能力:『戦神狂ベルセルク』(『獣の恩恵』を返上している)
派生能力:『勝者のウルスラグナ』(『戦士』繋がり)

技能
各能力概要
・『戦神狂の恩恵』
 ≪ベルセルクの能力。戦場に降り立った時、戦場に必要な力、技術、知識を、急速に理解し、会得していく。この能力で得た物は、戦場から遠ざかると失われる≫
・『戦士の権能』
 ≪ウルスラグナの能力。戦うべき敵と接触した時、相手の力を急速に理解し、最終的には看破してしまう。更に、その能力を切り裂く“黄金の剣”を精製出来る。敵の能力看破には、ある程度下地になる知識を必要とする≫
・『強風の加護』
 ≪ウルスラグナの能力。移動に対して風の能力を行使する事が出来る。風の力で、ダメージを緩和したり、空中戦を演じたりもできる。ただし、敵を押しのけたり攻撃として使用できる程の風は起こせない≫
(余剰数値:0)

人物概要:【Cクラスでは珍しい大人し目で良識のある少女。常識を理解し、他人と友好的な関係を築ける。栄養士の勉強をしており、毎日お弁当を作っている。マイペースだが、Cクラスの例にもれずバトルマニアの気質があり、戦闘を見ると自分も戦いたくなってきたり、戦っている最中に笑顔が漏れたりする】

能力概要:【刻印名を『ベルセルク』にする事で、戦神としての神格を得ている。だが同時に、ベルセレクの暴走思考『獣の恩恵』を返上し、暴走する可能性を避けた。そのため、獣に関係する能力を覚える事が出来ず、『ウルスラグナ』の獣の力を一つも使う事が出来ない。『ウルスラグナ』は『ベルセルク』と“戦士”繋がりで派生スキルとして習得した。刻印名を『ベルセルク』にしているので、“戦士”“剣士”“騎士”“獣”などに属する物にしか派生できない。『獣の恩恵』を返上しているので、現在は“獣”の派生はできても、“獣”の能力は使えない】























保護責任者:のん
名前:相原 勇輝(あいはら ゆうき)    刻印名:正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)
年齢:10     性別:♂         一年生Dクラス
性格:ロボット漫画の少年主人公の様な性格
喋り方:正義感に溢れる子供っぽい性格。
自己紹介        「相原勇輝! 愛と正義と勇気で勝利をおさめます!!」
ガオング発動      「いくぞっ! ガオングーーーーーーッ!!」
フェニクシオン発動   「来いっ! フェニクシオンッ!!」
ガオング必殺      「必殺ッ! ガオウブラスターーーーーーッ!!!」
合体          「合体ッ!! フェニクスガオング!!」
フェニクスガオング必殺 「フェニクシア・ブレイドバスターーーーーーッ!!!」
名乗り         「愛と正義に勇気を乗せて! 勇輝とガオング! 只今参上!!」

戦闘スタイル:巨大ロボットを呼び出し、彼等の肩などに載って一緒に戦う。

身体能力13     イマジネーション493
物理攻撃力153    属性攻撃力103
物理耐久力153    属性耐久力103
能力:『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)
派生能力:『―――』

各能力技能概要
・『ガオング』
≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。ライオン型の巨大ロボット。体長五メートル弱の巨体を持ち、牙や爪で戦う。二足歩行型の『ファイティングモード』に変形可能。腕の爪と、巨大な剣で戦える。必殺技は胸のライオンフェイスの口から放つ光線『ガオウブラスター』≫
・『フェニクシオン』
≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。ガオングをサポートする全長十メートル強の大鳥型巨大ロボット。脇に携えた二門の砲塔から高熱戦ビームを発射できる。空を飛べないガオングを背に乗せ飛び回る≫
・『合体フェニクスガオウング』
≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。フェニクシオンとガオングを合体させた二足歩行型巨大ロボ。フェニクシオンが換装パーツとなり、ガオングを強化した姿で、飛行を可能にし、パワーを三倍にする事が出来る。必殺技は、背中に背負った巨大な剣に炎を纏わせた一撃『フェニクシア・ブレイドバスター』≫
(余剰数値:0)

概要:【亡き父と共に憧れた正義の巨大ロボを実現させるため、勇気をもっとうに生きてきた少年。父は、いつか二足歩行型の巨大ロボットを作る事を夢見て、仲間達と研究していたのだが、実験中の事故で死亡してしまう。その後を継ぐため、万能の力、イマジンにより、巨大ロボットを創り出し、正義の巨大ロボットは存在するのだと言う事を証明しようとしている。 逆立ったツンツンヘアーに、瞳だけ凛々しい幼い顔立ち。半そで短パンに、ノンフィンガーグローブと、子供向けロボットアニメから出てきたような少年。子供らしい正義感に、時々周りと話がかみ合わない時もある。能力は凄まじいが、本人は普通の子供なので色々空回りが多く、また、面白いリアクションをするので、実にからかい甲斐のある少年。それなりに女性への興味はあるのだが、己の正義感から不謹慎だと思い込んで一人で恥ずかしがったりしている。同年代の女性の魅力に疎く、魅力的なお姉さんに惚れ易い。誰かのために戦える事がとてつもなく嬉しい。刻印名があるので、正義のロボットでない力には派生できない】






















保護責任者:のん
名前:奏 ノノカ(かなで ののか)     刻印名:奏者
年齢:16     性別:♀         一年生Eクラス
性格:明るめだが、音楽系の事で集中し過ぎるタイプ。
喋り方:明るめ。ちょっと天然
自己紹介   「奏ノノカです。あまりさえ無い感じの女の子だけど、音楽には自信があります。私の演奏で、皆に力を与えちゃいますよ!」
ボケ     「~~~♪ …はっ!? いつの間にかこんな時間にっ!?」
戦闘     「『幻想曲』第一楽章:≪魔弾の射手≫」
名台詞    「バイオリンを弾けなくなる時、それは私が死んだ時です」
戦闘スタイル:バイオリンを弾き、奏でる音楽で魔法みたいな能力を操る。
身体能力103     イマジネーション403
物理攻撃力53    属性攻撃力153
物理耐久力53    属性耐久力153
集中力100
能力:『幻想曲』
派生能力:『―――』

各能力技能概要
・『幻想曲第一楽章:≪魔弾の射手≫』
≪『幻想曲』の能力。この曲を奏でている間は、魔法の矢を撃つ事が出来る。曲のスケールと長さに比例して、威力と数を増やす事が出来る≫

・『幻想曲第二楽章:≪幻迷の森≫』
≪『幻想曲』の能力。防御技。この曲を弾いている間だけ効果が発動。集中状態で自分の身を守る強固な音の障壁を球体上に創り出し、拡散状態で音の届く範囲全ての人間を惑わせる効果を持つ。曲のスケールと長さに比例して、効果を上げる事が出来る≫

・『幻想曲第三楽章:≪戦場の軍勢≫』
≪『幻想曲』の能力。この曲を弾いている間だけ、多数の味方を強化する事が出来る。曲のスケールと長さに比例して、効果を上げる事が出来る≫
(余剰数値:0)

概要:【短い茶髪に黒い瞳、明るく元気な女の子。過去、事故の後遺症で二度と指が動かせないと知り、絶望しかけたが、『イマジネーションハイスクール』の生徒になる事で、それらを克服できると知り、入学してきた。演奏中は別人の様に優雅な女性として振舞う。演奏とは役者にとっての舞台。己にとっての聖地と信じ、優雅な女性でありたいと思っている。日常と演奏時でのオンオフがある少女。直接戦闘は苦手だが曲による味方支援は大の得意。奏者の刻印名があるので、音楽に関する物にしか派生できない】































保護責任者:のん
名前:及川 凉女(おいかわ すずめ)    刻印名:武装創造(ウェイポンズ・クリエイター)
年齢:18     性別:♀         一年生Eクラス
性格:穏和で大人し目。大人の女性な雰囲気を持つが、見る物全てに新鮮な反応を示す。
喋り方:おっとり系
自己紹介   「及川凉女です。私は戦う事ができませんが、それ以外で何かお役に立てればと思っています。皆様、どうぞよろしくお願いします」
能力発動   「創造(クリエイション)―――。『バスターカノン』。リリース―――」
ボケ     「ええっ!? この携帯、画面を直接触れて操作できるのですかっ!?」
ボケ2    「げ、現代にはそのような作法が………っ!? な、なら、私はここで貴方に肌を晒さねばならないと言うのですか………? ///// なんと言う羞恥でしょう………。しかし、これも常識だと言うのなら………。くぅ~~………っ!! ///////」

戦闘スタイル:武装創造。あらゆる武器を作り、調整が可能。戦闘能力は無い。

身体能力13     イマジネーション483
物理攻撃力33    属性攻撃力53
物理耐久力43    属性耐久力53
必要情報検出340
能力:『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)
派生能力:『個別調整(パーソナル・ステータス)
各能力技能概要
・『武器創造』
≪『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)』の能力。如何なる武器でも創り出す事が可能。本人の深層心理上、近未来系の武装しか創造できず、刀や甲冑などと言った簡単な仕組みや、古いタイプの武器は作り出せない。やたらカノン系の設置型砲撃系の武装の出来が良い≫
・『防具創造』
≪『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)』の能力。防御能力を持つ装備を創造できる。ただし、上記同様、近未来系のデザインになってしまう≫
・『システム微調整』
≪『個別調整(パーソナル・ステータス)』の能力。創り出した武装を他人に合わせて出力調整する事が出来る。使い手が優秀なら、作り手の限界を超えた出力も出す事が可能。ただし、武装のポテンシャルは作り手の実力に影響される≫
(余剰数値:0)

概要:【ウェーブのかかった長い小麦色の髪をした線の細い少女。原因不明の植物状態に陥っていたところ、医者の伝手で『イマジネーションハイスクール』の教師に来てもらい、イマジンを投与してもらう事で一時的に目を覚ました。原因不明である以上完治には至れなかったが、イマジンにより覚醒状態に至れると知り、入学を決意する。イマジンにより、身体能力も上がり人並み以上の力も出るのだが、ずっと寝たきりの生活が続いていたため、体力だけが衰えてしまっている。そのため、普通に歩く事も出来るのだが、普段は自動操作の車椅子で移動をしている。この車椅子も自分の能力で作った物だが、現在の能力では同じタイプの物を瞬時に作りだす事が出来ない。能力派生内では可能だが、能力として得ていない以上、簡単に使う事が出来ないのだ。三年近く寝たきり生活が続いていたため、見る物全てが新鮮。自分一人では戦う事が出来ない為、自分の力を利用してくれるパートナーを探しています。刻印名があるので、武装創造系にしか派生できない】

























保護責任者:のん
名前:ルーシア・ルーベルン(ルル)    刻印名:時間旅行者(タイム・ルーラー)
年齢:16     性別:♀        一年生Fクラス
性格:口数が少ないだけの普通の女の子。まとも過ぎて呑まれ気味。
喋り方:大人しめな少女。台詞が殆ど心の中。
自己紹介    「ルーシア・ルーベルンです。ルルと呼んでください。能力は時間制御です。限定的ではありますが、皆さんの足を引っ張らないよう、がんばります!」
金時計発動   「『金時計:黄金への時間(ゴールデン・タイム)』………時は金なり」
銀時計発動   「『銀時計:銀世界までの時間(シルバー・タイム)』………銀世界への加速」
戦闘スタイル:右手に金、左手に銀の懐中時計を使い、時間操作して戦う。大抵は援護。
身体能力70     イマジネーション150
物理攻撃力20    属性攻撃力200
物理耐久力70    属性耐久力200
時間支配力308
能力:『時の歯車(タイム・カウント)』
派生能力:『―――』
各能力技能概要
・『金時計(ゴールデン・タイム)』
≪『時の歯車(タイム・カウント)』の能力。自身に対して迫り来る対象の猶予時間を増やす事が出来る。例えば、己に攻撃を仕掛けてくる者に対して使えば、相手が自分に攻撃を当てるまでの時間を引き延ばせる≫

・『銀時計(シルバー・タイム)』
≪『時の歯車(タイム・カウント)』の能力。自身が老化するまでの時間を急加速させる、時間加速能力。ただし、言葉の通り、使った分だけ自分の時間だけが先回りし、シルバー:つまり老人への時間が早まる≫

・『休憩時間(ブレイク・タイム)』
≪『時の歯車(タイム・カウント)』の能力。10分単位、ランダムで最高一時間の間、時間の止まった異空間に閉じ込められる。ただし、閉じ込められる空間はかなり快適な物で、封印系と言うわけではない。正真正銘休憩時間を設ける能力。また、時間に外れた空間なので、この空間内では物の破壊や殺傷は不可能。主に『銀時計』使用時のペナルティー帳消しのために使っている≫
(余剰数値:0)

概要:【亜麻色、セミロングの髪をアップで纏めている。黒ぶちで大きなメガネがチャームポイントの普通ッ子。アメリカ人なのだが、日本で育ったので完全に日本人系の少女。前に出るのが苦手だが、友達と一緒にいるのが大好き。刻印名があるので、時間系の能力にしか派生できない】






投稿募集した時に同時に出すつもりだったのに、載せ忘れて申し訳ありませんでしたっ!!


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一学期 第一試験 【入学試験】

明日も仕事なのに、徹夜気味で頑張って書いてしまった………。
一番最初にキャラを詰め込みすぎなんじゃないかと、自分でも読み返して呆然………。この一話で、一体何人のキャラの名前を覚えてもらえるやらです。

そして、Cクラス候補生が一人も送られていない事実!? どうするよこれっ!?
まあ、とりあえず本編を楽しんでください♪


ハイスクールイマジネーション 01

一学期 第一試験 【入学試験】


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 イマジネーションハイスクール。略称『イマスク』。
 日本上空、日本領域国浮遊学園都市『ギガフロート』。
 学園名、『柘榴染柱間(ざくろぞめはしらま)学園』。
 想像を具現化し、現実へと再現する万能の力、イマジンを研究する世界に三つしか存在しない巨大建造物。
 2062年、4月1日。当学園の入学試験が開催され、この試験に合格した者は、そのまま三日以内にギガフロートへと移住する事となる。
 浮遊島であるギガフロートに行くには、特別な許可が下りた時のみ、日本国内全空港で、可能になる。

 とある空港、入学試験、イマスク候補生が、メモを片手に空港内をうろついていた。
「よ、弱ったな………、まさかギガフロート行きの便を見つけるのがこんなに大変だなんて………」
 片手に旅行用バックを転がし、肩にはバイオリンケースを背負った、齢16歳の少女はメモと空港内を何度も視線を往復させながら焦った様な声を漏らしていた。
 茶味がかったショートヘアーに、大きな黒い瞳。ドレスシャツに、黒のロングスカートを穿いた姿は、背負ったバイオリンケースもあって、音楽学生にも見える。幼さの残る顔立ちでオロオロしている姿は、実に不安そうで、誰の目から見ても困っているのは明らかだった。
「どうしようかなぁ~~? さっきから何度も職員の人に聞いてるのに、複雑すぎて解んないよぅ~~?」
 涙目でぼやき、彼女はついに肩を落として項垂れてしまった。
 彼女の弁明をするなら、決して彼女が方向音痴と言うわけではない。もちろん、本音を言えば誰かに案内してもらいたいところだったが、この日は何処の職員も忙しく、手が空いていそうな人がいないのだ。
(こんな事なら、結構遠くでも羽田空港に行けば良かったかなぁ?)
 イマスク入学試験当日は、何処の空港も大変な混雑を見せる。ギガフロート入場には、大変面倒で複雑な入国手続きが必要になる。日本国内にあり、便宜上は日本の領域と定められているギガフロートだが、この浮遊島は厳密な意味では“外国”の扱いを受ける。そのため、ギガフロート行きが可能なこの日のためだけに、幾つも面倒な手続きを、空港内を走り回る様になってしまうのだ。
 そのため、特に大きな空港である、関西国際空港、成田空港、羽田空港には、この手続きを速やかに行えるよう、時間制で何回かに分けた集団手続きを数人のガイドマンによって先導してもらえる。しかし、どの空港にも遠い地域から出てきた彼女は、地元近くの小さな空港を選んでしまい、自分一人の力で目的の便を探す羽目になってしまい………現在、迷子になってしまっていると言う事だ。
「うぅ………っ、もう一度バイオリンが弾けるかもしれないチャンスなのに、こんな所で躓くなんて嫌だよぅ~~………!」
 二度と取れる事の無い右手の指に巻かれた包帯を見つめ、悔しそうな涙を目の端に浮かべた時、声を掛ける者がいた。
「ちょぉっと良いかな君ぃ~~~?」
 軽薄そうな声に驚き、振り返った少女は、………顔以外の場所に目が行ってしまった。
 声を掛けたのは短い黒髪に、うっすら青がかった深緑の眼を持つ、およそ160前後と思われる背の低い男性だった。年齢は恐らく同い年くらいだろうと予想は出来たが、それ以上に気になる物があって、そっちにばかり目が言ってしまう。
 彼の着ている服は、特に珍しくもないキャンプ用のジャケットにズボンで、収納ポケットが一杯ある生地の厚い物だったのだが、そのポケットから、あるいはベルトに通した腰のケースからは、全てが全てトレーディングカードゲーム、通称TCGと呼ばれるカードの山だった。それも一種二種と言うレベルではない。カードの裏表紙が見えるものだけでも八種類はくだらない。彼の持つ旅行用ケースも、もしかしたら中身は全部カードなのではないかと疑いたくなるほどのTCGフル装備だった。
「あのさぁ~~? さっきから挙動不審だけど、もしかしてギガフロート行きの便探してる?」
「………カードすごっ」
 口にしてから少女ははっとして口を押さえた。
 あまりに凄過ぎて相手の言葉など碌に聞かず、思わず呟いてしまった。気を悪くしなかっただろうかと焦りを見せるが………。
「だろうぅ~~っ!? うわ~~っ! 解る!? このカードの素晴らしさ! これだけ集めるのにはさすがに苦労したさ! でもっ! やっぱカードは集めてこそだからね! 音を上げてなんかいられない! そして必死に集めたカードで、必死に練った戦術が決まって、勝った時の感激と言ったら………ッ!! もう、極上ッッ!!」
 物凄く食いつかれた。
 何やら感極まった様子で嬉しそうに、自分のカードコレクションの説明まで始めようとする少年に、少女は苦笑い気味にストップを掛けた。
「え、えっとっ! 私に何か用でした!?」
「あったけど、カード談義したい!」
「本来の目的をそんな簡単に捨てちゃダメェ~~!」
 彼女の必死の説得に折れた少年は、渋々と言った感じにカードを元の場所に仕舞い、軽薄そうな笑みを向けて尋ね直す。
「もしかして君、ギガフロートに行くつもりなのかなって?」
「え? はい、そのつもりですけど………?」
「審査手続きはもう終わった? 実は僕様もギガフロート行きでさ、何だか君が困ってたみたいだから、よかったら案内しようかと思ってねん? っつか一緒にどう?」
「ホントですかっ!?」
 少女は前のめりになって少年に問い返した。少年は、急に顔が近づいたので、「おおっ!? 近い………っ!」っと、ちょっと慌てながらも頷いて応える。
 大変軽薄で、怪しい感じのある少年だが、悪い人間ではない様にも思える。もちろん完全に信用したわけではないが、このまま放置されている方が彼女としてはマイナスだ。
「それじゃあ、せっかくなのでお願いします!」
「うん、よろしくぅ~~! ああ、僕様の名前は契。切城(きりき)( ちぎり)って言うの。よろしく?」
「はい、私はノノカです。(かなで)ノノカ」



 1



 別空港。
 濡れ羽色の長い髪に、黒の和装に身を包んだ少女、九曜(くよう)は、控え所で待つ主の元へと小走りに駆け寄っていた。
「遅くなって申し訳ありません。何分、私の審査は時間の掛る物が多いので………」
「いや、お前を消さずに連れ立ってるのは俺だから、謝る必要なんて無いんだがな………?」
 何の変哲もないシャツとジーンズに、千早を纏っていると言う、妙な出で立ちをした少年は、あまりに女性的な丸みのある顔をうんざりした表情へと歪めて、応じる。
「お前より俺の方が時間掛りそうだ………」
 そう呟く彼は、軽く溜息を吐く。
 言葉の意味を理解するため、彼の周囲にようやく目を向けた九曜は、冷やかな視線を向ける。
 そこにいたのは、金髪でガタイの良いアメリカ人らしき男と、黒人らしきスキンヘッドの男。そして同じく黒人のパーマにサングラスの男。三人が三人ともアンダーシャツに迷彩ズボンを穿いている所を見ると軍人か、もしくは元軍属、はたまた見た目倒しのミリタリーオタクか………?
 そんな彼等は口々に異国の言葉で騒がしく何かを言い合い、九曜の登場に歓喜してさえいるようだった。異国語を理解できない生粋の日本生れの九曜だが、どんな事を言っているのかは、なんとなく理解できるだけの理解力は持っている。どうやら彼等は人間の最も低俗な手段で求愛行動をしているようなのだが、九曜にはその意味がさっぱり解らず、己の主へと視線を向ける。
 セミロングの黒髪を、後ろで適当にまとめているだけで、その他は特に着飾りを考えていない簡素な格好。千早を纏っている事以外は特段珍しいとは言えない。だが、確かに見ようによっては女の子に見えない事もない。彼の僕である九曜には、主を女性的な姿として捉える事が少ないのだが、それでも彼の姿が同族からは女性種に見えてしまうのだろう事は、なんとなく解らないでもない。
「我が君はお伝えしたのですか?」
「したら、男でも良いってよ?」
 肩を竦めてうんざりする主に、さすがの九曜も悪寒を感じ取った。人間の趣味は解らないことだらけだが、これにはさすがに本能的な嫌悪感を感じ取れる。無意識に自分の体を抱き締め、男達から一歩離れる九曜。逆にその行動がしおらしい大和撫子の怯えた姿に見えたのか、男達はむしろ盛り上がっている様子だ。
「………我が君? もしやこれら(、、、)は、我が君だけでなく私にも求愛しているのですか?」
 怖気たっぷりに問いかける従者に、主はほとほと疲れたと言わんばかりに訂正する。
「いや、俺とお前を合わせた四人だ」
 言われた九曜は、視界から外していた(、、、、、)主以外の二人へと視線を向けた。
 片や、長い髪をツインテールにしている、可愛らしい顔立ちをしたフリルだらけの子供っぽい服を着た女性。片や、白い長髪を高い所で纏めて結わえ、真紅の瞳を持ち、小柄な体に大正風の着物を着ている少女が、それぞれ呆れた様な、疲れた様な表情で纏まっていた。
 なるほど、確かにこの三人が揃って立っていれば、声を掛けたくなるような美人が揃っていると言えなくもない。どうやら自分もその中の一人の様だが、その辺りは忘れる事にしようと決めた。
「このお二人は我が君のお知り合いですか?」
 主への質問だったが、それについては当人達が答えた。
「いいや、私達は自分達の乗る便を探してここから電光掲示板を見ていただけだ」
「ボクも同じだ。面倒な手続きをやっと終えて、後は飛行機に乗り込むだけで、掲示板を見て探していたら、声を掛けられてね………。しかも知り合いでもないただ一緒に掲示板を見ていた二人と同時にだ」
「そう」
 二人の少女に対して、そっけない一言で答える九曜のあからさまな態度変化に、二人は苦笑いを漏らしてしまう。
「ってか九曜? お前も突っ込まないのかよ?」
「何がでしょう?」
「いや、こっちのゴスロリ、明らかに声低すぎるだろ? 自分で言うのも悔しいが、コイツに比べれば俺の方が女声だぞああちくちょうっ! やっぱなんか納得いかねえっ!!」
 言葉の最後に男としての尊厳を刺激されたらしい主の叫びを無視し、九曜は“ゴスロリ”と呼ばれたフリル服の女性(?)へと視線を向けた。
 向けられた“ゴスロリ”は、不思議そうに首を傾げながら平然と答えた。
「どうした? 私は男だが何か問題でもあるのか?」
「特にないわね」
「そうか」
 会話終了。
「最初から解ってた俺はともかく、どうして俺の周囲の人間は動揺の声一つ上げんのか? なんかすげぇ俺が凡人に見えてくるぞ?」
 溜息を吐く主に、本当の女性である大正少女が薄ら笑いを浮かべながら慰めの声を掛ける。
「良い事だろ? ………人間、無駄に慌てない事だ」
「いや、俺は慌ててる女の子の顔とかすっげぇ見たいんだよ。羞恥心に染まって慌てふためく顔とか」
「まあ、うん………。君は凡人じゃないから安心しろ」
 真顔でふざけた事を言うので大正少女も興味を失った様子で視線を逸らした。九曜は一瞬、『類は友を呼ぶ』と言う言葉を思い浮かべ、なるほどと納得して頷いた。
 ―――っと、そこへ、完全に存在を忘れていた外国人男性の一人が、大正少女の腕を掴み、強引に引き寄せた。その拍子に荷物を落とし、バランスを崩した少女は、あまり抵抗出来ぬまま男の懐まで引っ張られてしまう。男は、何事か異国の言葉で荒げた声を放っている。どうやら散々自分達が口説いているのに、完全に無視され続け、怒り始めた様子だった。
「まったくっ、………今日はなんて厄日―――いた………っ!?」
 強引に腕を引っ張り上げられ苦悶の表情で喘ぎ声を漏らす少女。
 それを聞いたゴスロリ少年は、「やれやれ」と結わえた二つの髪を左右に揺らしながら、一歩前に出る。
「喧嘩は得意ってわけじゃないんだけどな」
 そう言って前に出ようとする少年を、遮る手があった。
 首を傾げる少年に。九曜の主は溜息交じりに、ただ一言―――。
「九曜」
 次の瞬間、九曜の姿は霞みと消え、それが合図だったかのように男達が力なくその場に頽れていく。男達が倒れた先で、胸に手を当て軽くお辞儀している九曜の姿があった。
「これでよろしいでしょうか?」
「おお、音もなく………っ!? 期待以上だ」
「お褒めに(あず)かり光栄です」
 何が起きたのか理解できなかったゴスロリと大正が、二人して顔を見合わせ、主と従者の二人へと視線を向ける。
「何者だいその娘? ………人じゃないっぽいけど?」
 大正少女の言葉に何度も頷いて同調するゴスロリ。そんな二人に多少なり驚きながら、先程散らばってしまった少女の荷物を拾い、彼は答えた。
「九曜が人間じゃないって解るのか?」
「これでも家が神社でね。ボクは巫女なんだ」
「私はなんとなく勘だ」
「逆に勘で解られる方が(こえ)ぇよ………」
 軽く呆れながら主たる少年は少女へと荷物を返す。
「お前らも目的地はギガフロートか?」
「そうだよ。君もかい?」
「それなら話が早いな。ギガフロートの外で見られる事なんてまずないからな。ありがたく見ておけよ」
 彼そう言うと、九曜の腰に手を回し、自分に寄せると、まるで自分の彼女を紹介するように誇らしげな、それでいて悪戯っぽい不敵な笑みで告げる。
「コイツは意思を持つイマジン。『イマジン体』だ。俺の名はカグヤ。イマスクに受かれば、正式な主従になる。よろしくな」
 その驚愕の事実に、ギガフロート以外で本物のイマジンを目にした二人は、大きく目を見開いて驚く。だが、すぐに二人とも友好的な笑みを作ると、それぞれ自己紹介を口にした。
浅蔵(あさくら)星琉(せいる)。………こんなんだが巫女なんかをしている。………まあ、暇でも見つけて家の神社にでも来てみたらどうだい? 何の御もてなしも出来ないけどね………」
水面(みなも)=N=彩夏(さいか)だ。これからよろしく頼むぞ」



 2



 ギガフロートは上空約一万五千メートルに存在していると言うのが一般人の常識だ。
 だが、それを聞いて誰がこんな事を想像しただろうか?
 “上空一万五千メートル”という数字は、日本の航空旅客機を向かい入れられる、浮遊島の地下フロア、その最下層を基準にして計られた高さだと………。
 まるでファンタジーの浮遊城の様に、下層部は氷柱上に伸びる岩の山。その最も大きく太い中心の一本。羽田空港が五個は軽く入ってしまうのではないかと言う超大型のスペースが口を開いていて、各旅客機はそこに着陸する。
 続々と日本の各空港から飛んできた飛行機が、候補生を連れてくる中、“地上部”の末端からそれを見降ろす三人の姿があった。
 一人は知的にメガネを輝かせる青年。柘榴染柱間(ざくろぞめはしらま)学園学園長、斎紫(いつむらさき)海弖(うみて)
 もう一人は赤銅色のロングストレートに赤茶色の瞳、背は低く、手足が細い、大きめの本を抱えた女性。柘榴染柱間学園図書館司書、比良(このら) 美鐘(みかね)
 最後の一人は、最も異彩を放っている。大正時代の教師の様に振袖に袴姿、日本人特有の黒く長い髪に黒の瞳。外見の全てが大和撫子の代表を表わすかの如く姿で―――しかし、彼女の体は僅かに透け、しかも脚は地面に付かず、文字通り崖から身を乗り出した空中を、重力を感じさせずに浮いている。柘榴染柱間学園柱女(はしらめ)役、日本史・古典担当、吉祥果ゆかり。幽霊教師である。
「おお~~、おお~~、今年もぎょ~さん来はりましたなぁ~~。毎度の事ながら、某国のスパイとか元軍人さんとか、性懲りも無く送られて来はてるみたいですけど? まあ、ほっといてもどうせ受からしまへん人ばっかやし、今年もスルーで良いんですかぁ?」
 身を乗り出し過ぎて、だんだん崖下まで下がっているゆかりに、海弖は眼鏡を中指で持ち上げながら、厭味ったらしい笑みを作る。
「君がそう判断している時点で奇跡もないような相手だよ。放っておきたまえ。未だ嘗て、君の入学試験脱落予想が外れた事が無いのは、大和(やまと)武丸(たけまる)の代から聞いてるからね~~!」
「武丸かぁ~~? 今思い出してもあの子は惜しい逸材やったなぁ~~? 『イマジネーター』の研究を正式作用させて、『イマジン』を一部の(もん)が独占せんように、ずっと働いとってねぇ~~………。あんのクーデター事件で亡くなってしまうんは早過ぎやったよぅ~~………。姫ちゃんとも結局ケンカしたまんまやったしなぁ~~………」
 昔を思い出し、実に哀愁を帯びた表情で空中を漂うゆかり。
 そんなゆかりに、僅かに危機感を感じながら美鐘が口を挟む。
「ゆかり様、その内容は生徒の前では禁句ですからね? 解ってますか? あと、身を乗り出し過ぎて何処まで降りるつもりですか? アナタは見なくても(、、、、、)見える(、、、)んですから」
「あら? いつの間にこんな遠くに? ごめんねぇ~~? つい嬉しくなってしもて。今年も沢山の子供達が来てくれて、しかもちょっと気になる子等(こぅら)もおるしでね? ついつい前のめりに………」
「だからって叫ばないといけない程離れないでくださいっ!? 私の声が聞こえてますか~~~っ!」
「あら? ややわ~~」
 のほほんとした態度で、軽く十メートルくらい下がっていた身体を上昇、美鐘の隣に足を地面に付け、やんわりした笑みを向ける。「相変わらずマイペースな人だ………」っと、溜息を吐く美鐘。それとは対照的に、気になる発言を耳ざとく聞き付けた海弖が質問を投げかける。
「ほほぅ? “気になる”っとは、今年も『人柱候補』が訪れたと言う事かね?」
「ええ、それも今の段階でもう二人も来はりました。昨年も二人やったし、ホンマ今期は豊作ですよ?」
 楽しそうにコロコロ笑うゆかりに、海弖も美鐘も、次々とやってくる眼下の飛行機を見降ろし、楽しそうに微笑むのだった。

「あ、そう言えば今日は某国からウナギとカニの賄賂が来ていたんだっけね? 今日はお昼と夜は御馳走だね」
「ちょっ!? 学園長ずるいっ! 私達にも分けてくださいよぅ~~!!」
「美鐘ちゃん~~? 素が出とるよう?」



 3



 ギガフロートに到着した旅客機が滞在していられる時間は長くても一時間と定められている。これには特別な理由も例外として認められる事はなく、故に到着した候補生達は、学園のガイドマンを務める教師の指示に従い、速やかに行動しなければならない。もし、遅れようものなら、荷物が残っていようが旅客機内に残っていようが問答無用で日本に戻されてしまう。
 っとは言え、さすがに一時間もあれば全員降りる事くらい簡単なわけで、飛行機はすぐにとんぼ返りする。日本中から飛行機が集まっても充分なスペースがあるエリアに、大量の飛行機が止まるのは滅多にない。この循環の速さは、ギガフロートが日本領土でありながら、便宜上“一国”つまりは“外国”の扱いになっているため、『イマジン』と言う、通常不出のエネルギーを扱う国に、特別な理由なく滞在する事を禁じているためだ。
 候補生である入学希望者ならともかく、旅客機やその操縦士達は、それに含まれない物とされている。そのため、空港では面倒な手続きを最初に済ませ、充分な準備を整えた上で送り出されるのだ。
 次々と到着しては去っていく旅客機から続々と増えていく候補生達。その中には、少々異質な存在も混じっていたりする。
 例えば、尖った耳を持つ者がいたり―――。
 例えば、服の下から獣の尻尾を覗かせる者がいたり―――。
 例えば、明らかに某国の女王と言いたくなるドレス衣装の者だったり―――。

 そう、例えば外見上は普通の人間に見える、人間外の者だったり―――。




「きゃっ!?」
 その少女、ここまでの道のりを車椅子でやってきたウェーブのかかった長い小麦色の髪をした線の細い少女、及川(おいかわ)凉女(すずめ)は、人の群れに押され、何度目かのバランスを崩し、慌てた声を漏らす。
 何とかバランスを立て直し、改めて車椅子の取っ手部分に付いているレバーを傾け、車椅子を走らせる。
「こんなに人が多いと、私みたいな人はむしろ邪魔になりそうですねぇ~~?」
 審査員でもある教師の指示に従い、なんとか集会場へと向かうが、付いたら付いたで居場所が無い感じを受けた。
 集会場は、とてつもなく広いだけのドーム状の空間だった。広さは解らない。あまりに広大過ぎて、彼女の頭では予想も立てられない。
「てっきり、幾つかの施設に分けて審査すると思ったんですけど、皆まとめて審査しちゃうって事ですかねぇ~? 酸素濃度足りるのかしらぁ~? はっ!? 酸素ボンベが必須アイテムだった!?」
 相変わらずズレた予想をしているところ、彼女は周囲に視線を向ける。
 椅子があるわけでもなければロープや立て札があるわけでもなく、完全に何もない床と壁と天井の部屋。皆が思い思いの場所で突っ立っていたり、壁に寄り掛かったりとしているが、あまり奥の方に移動しようとしている者は少ない。何も聞かされず、ここで待てと言われ、出口から離れる事に軽い恐怖心を抱いているのかもしれない。
 自分もその一人ではあるが、車椅子では人ごみの多い所は邪魔になってしまう。仕方なく、人のいない場所を目指して移動させようとするが、統率されていない人間の集団は、中々に邪魔で、移動さえも容易にさせてもらえない。
「ちょっと、邪魔っ!」

 ガシャンッ!

 通りがかった女性が無造作に押しのけるように払った腕が、彼女の車椅子を横に薙ぐ。身体ごと車椅子が傾き、倒れそうになる凉女。
「ひゃあ………っ!?」
「あぶないっ!」
 あともう少しで倒れそうになったところを、誰かが車椅子の取っ手を掴み、支えてくれた。
「はっ! これは少女漫画における恋の予感を思わすシーンですかっ!?」
「はい………?」
 助けた少年は、凉女の言ってる事が解らず疑問を返してしまう。
 何処かで売っていそうな生地の厚いジャケットにジーンズ、髪も目も黒く、何処から見ても普通の日本人男性で、特徴と言えば少し目が細長い事くらい。だが、それ故に見た目から危機感を相手に与えず、気の良さそうな人だと思わせられる。そんな少年に、凉女は更に疑問を投げかける。
「この展開に従って、私は恋に落ちないといけないのかしらぁ? 私って自分の好みとか解ってないんですけどぉ~~?」
「いや、えっと………? よく解らないですけど、少女マンガのヒロインじゃないなら恋しなくても良いんじゃないですか?」
「私はいつからヒロインの座に―――っ!?」
「え~~っと………? すみません知りません」
「では、ヒロインの座はお譲りします」
「そ、それはどうも………。でも、出来れば僕も男なんで、遠慮したいかなぁ~~? なんて?」
「助けて下さりありがとうございましたぁ~」
「ここでお礼言われても反応に困るんだけど? え? なに? 今のありがとうはヒロインの座を受け取ってしまった事になったから? それとも車椅子支えたから?」
 なんだか変な人を助けてしまったかもしれないと考え、少年は苦笑いを浮かべる。とりあえず、彼女を人気のいない所まで運んで、自分はさっさと離れようと決め、移動する。
 っと、多少なり人が散らばった辺りに移動したところで、一人の少年が物凄い勢いで走り寄り、凉女の正面から車椅子の取っ手部分を捕まえる。
「な、なにこれっ!? これ何!? これなんて乗り物なのっ!? 座ったまま移動できるとかすげぇっ!!」
 急に飛びついた少年は黒髪に黒の瞳と、車椅子を押す少年と特に変わらない容姿をしている。だが、その服装はかなり際どく、ヘソの見えるピッタリアンダーシャツ。肘まである黒のロンググローブ、やはりぴったりサイズ。脚がむき出しの短パンは、唯一服としての厚みを持っている。穿いている靴は何処か機械チックで重々しい。身体のラインをまったく隠す事の出来ない服装で、筋肉の発達が乏しいのが見て取れる優男だ。これで顔が幼ければショタタイプの少年として一部から人気が出たかもしれない。そんな少年。
 不躾にも、いきなり車椅子の少女の進行を妨げる行為に、臆しながらも細めの少年が不快な顔をする。だが、少女の方はほんわかした顔で―――、
「及川凉女って言います」
 いきなり突拍子もなく自己紹介をした。
「『老いた雀』!? これが雀なんですかっ!? 雀は鳥だと聞いてたけど、老いるとこの様な姿になって人を乗せるんですかっ!? 雀凄いっ!?」
「私も今初めて知りましたぁ~~? ではダチョウさんが老いると普通車両の車になるのでしょうか?」
「なんですってっ!? 鳥類は老いると機械進化できる種族だったのですかっ!?」
「それじゃあ、クジラさんは飛行機になるのでしょうかぁ?」
「魚類が空にっ!? 生命の進化の終焉は、やはり機械化にあるのかっ!? ではっ! やはり機械の先は神に―――っっ!?」
「へ? 機械は老いませんよ?」
「機械の進化が終わったぁ~~~~~~~~~~ッッッ!!?」
 少年は地面に手を付き、項垂れると「神に辿り着けないのなら、この身の意味とは………?」っと一人で落ち込み始めた。細めの少年にはもうどうする事も出来ない。
 そしてやはりのほほんとした凉女は―――、
「ところで『「老いた雀」これが雀なんですかっ!雀は鳥だと聞いてたけど老いるとこの様な姿になって人を乗せるんですか雀凄いなんですって鳥類は老いると機械進化できる種族だったのですか魚類が空に生命の進化の終焉はやはり機械化にあるのかではやはり機械の先は神に機械の進化が終わったぁ~~~~~~~~~~ッッッ!!?』さん? 車椅子を見るのは初めてなんですか?」
「「今の名前じゃないからっ!!?」」
 二人の少年が同時に反論の声を上げた。凉女は「あらら~~?」っと笑顔で首を傾げている。
「ですけど、名前を聞く時はまず自分から名乗るのが礼儀と申しますしぃ~~?」
「自分が名乗れば相手も名乗った事になるわけじゃないですっ!?」
「それではお名前をお聞きしても~~?」
 なんだこのずれた女性は………?
 そんな気持ちが過ぎったが、口には出す気にはなれなかった。
 仕方なく、項垂れていた少年が立ち上がり、名前を名乗る。
「はじめまして! 生まれたてホヤホヤの新神機神の機霧(はたきり)神也(しんや)でーす! 気軽に神也って呼んでね!」
「よろしくお願いします。先程は助けていただいてありがとうございましたぁ~~」
「?? 何の事?」
 お辞儀する凉女に、疑問を浮かべる神也と名乗った少年。
 一拍の間を置き、気が付いたのは車椅子を押していた少年の方。
「それ、たぶん僕の事ですよね? 違いますよ。僕は宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)です」
「瓜生くん? 車椅子の人に急に飛びつくのはとっても怖い事ですよ?」
「ああ~~、違う違う。そっちが自分ね? 神也です」
「私は瓜生君と話していますよ?」
「あれぇっ!? あってたっ!? いや、あってないっ! 僕は怒られる様な事―――!」
「怖いので助けてほしいと言おうとして………?」
「「うわっ!? ややこしいっ!?」」
 凉女のあっちこっちに飛ぶ話題を瓜生と神也が交互にツッコミを入れながら必死に対応するが、この少女のフリーダム差には付いていけない気がした。
 瓜生少年は、この少女の相手を一人でする事にならなくてホッとしていたのだが………。
「まあいいや、それでっ!? この車椅子と言う画期的な機械はなんだっ!?」
「ボタン一つで唸り声を上げる機械でしょうか?」
「自動で動く椅子が唸り声をっ!? 一体何のためにっ!?(キラキラッ」
 訂正………。
 っと、瓜生は心の中で強く念じた。
 厄介者に巻き込まれたのは自分だけだったようだ。



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 会場が密かに湧くほど、多くの受験者が集まった頃、それを別室で確認していた学園長、海弖は、眼前に呼び出しておいたスクリーンの受験者名簿で、全員が揃っている事を確認したところで、笑みを浮かべる。
「全員集合を確認。そろそろ受験を始めるとしようかね?」
 そう言って壁を軽く指で叩くと、まるで粘土の様に歪んだ壁が左右に開き、受験者の集まる会場上へと繋がる。会場の受験者から見て、丁度バルコニーに居る様な位置から彼は進み出る。その後ろを、彼の補佐役でもある学園長代理、氷野杜(ひのもり)八弥(やや)が慌てた様子で追いかける。魅惑的な肉付きの良いプロモーションを持つ眼鏡の女性は、海弖の三歩後ろを必死に歩いている。そう、かなり必死に。たった数歩前に進む海弖の後ろを、歩幅の距離まで計り、忠実に三歩分を再現しようとして、小さい歩幅でパタパタと走り回っていた。
 相変わらず変なところで融通の効かない補佐を完全(、、)に無視して、海弖はバルコニーから受験生達を見降ろす。
「受験生諸君! よく集まってくれた! 私は当学園柘榴染柱間学園の学園長、斎紫海弖だ。ただいまを持って、受験開始時刻となった。これより受験生の受け入れを中止し、っと同時に、当学園への入学試験を始めるっ!!」
 学園長の言葉に声を上げて沸き立つ受験生達。
 その歓声を片手で制し、彼はさっそく切りだす。
「では、さっそく入学試験について説明させてもらう! 試験は三つ! 一つは、能力の発動の有無。既に諸君は、このギガフロートに満ちているイマジンを呼吸などによって体内に取り込んでいる。よって、君達は既にイマジンを発動できる状態にある。これを満たし、己の能力を開花させること。それが最初にして最大の試験! 二つ目の試験は、一つ目の試験をクリアした後、その能力を持って同参加者による制限時間三時間のバトルロイヤルに勝利すること!!」
「ん?」
 第二試験の内容を聞いた瞬間、東雲カグヤは訝しげに片眉を持ち上げる。
「九曜、退がるぞ」
「御意」
 カグヤと九曜が人知れず集団から離れる。だが、それは二人だけではない。
「これは………、なるほど」
 浅蔵星琉もその内容の意味を感じ取り、人知れず集団から離れる。
「ん、そう言う事か」
「うわ、えげつない内容………」
「これも試験の内って事か」
 他にもそれなりに察しの良い者達が次々、密かに集団から離れていく。
 それらを上方から見降ろし、確認しながら、海弖は密かに笑みを作る。
「三つ目の試験は、二つ目の試験を合格した後、『刻印の間』にて執り行う。以上が試験内容の全てだ。なお、当学園が『イマジン』による研究のため、戦闘を前提としている事は諸君も周知の事と思う。故に、この試験内でどのような事が起ころうとも、我々は責任を取るつもりはない。それが嫌なら、今すぐこの部屋から退場する事を進める。ああ、でも勘違いしないでくれたまえよ? この部屋には既に『リタイヤシステム』なる『イマジネート』、つまりは魔法みたいなものが組み込まれている。一定以上の怪我をすれば、瞬時に医療施設へと送られるシステムだ。更に言えば、死んでも十秒以内なら蘇生可能な手段も用意してある。存分にやりあってくれたまえよっ!?」
 学園長の言葉にぞっとする者や、冷や汗をかいて苦笑する者、今更危険な内容に気付き、慌てて集団から抜け出そうとする者が現れる。
 その中に退場者が居ない事を瞬時に見て取った海弖は、いっそ、胸を張って高らかに告げる。

「それではこれよりっ! 第一次試験及び第二次試験を同時に開始するっ!!」

「………え?」
「へ?」
「ん?」
 集団の一部から疑問の声が上がる。
 彼等が状況を理解するより早く、周辺から悲鳴や爆音などの戦闘音(、、、)が木霊する。
「どうしたお前らっ!? もう試験は始まってんだぜっ!?」
「そうぅらっ! 早くイマジンを発動しねーと、あっと言う間にリタイヤだぜぇ!?」
 状況を理解し、素早くイマジンの発動に成功した一部の者達が、未だに呆けている者、イマジンの発動に手こずっている者達を、次々に撃破していく。致命的な攻撃を受けた者達は、『リタイヤシステム』により、光の粒子となって消えていく。
 それを外側から観察していたカグヤは、億劫そうに表情を歪める。
「うわぁ………、あのままあそこにいたら乱闘騒ぎだったな………」
「それでも数が多くございます。決して近づかぬよう―――、何をしているのですか?」
「へ? いや、俺もイマジン発動中。考えて見たら、九曜は俺じゃなくて義姉様が創り出した『イマジネート』だからな? お前でバトルロイヤル勝ち抜いても、合格基準から漏れそうな気がするんだよな?」
 カグヤはそう言いつつ、危機管理は完全に九曜に任せ、自分は能力発動に全力で勤しむ。
(っと言っても、発動だけなら簡単だな? せっかく時間があるし、ちょっと凝った物作れないかな?)
 己の作業と真剣に向き合うカグヤは、その傍で、合格条件に満たされなかった事に軽いショックを受けている僕が居る事に気付かないのであった。


 距離を置いていた者はともかく、この罠に気付けず、集団のど真ん中に居てしまった者達は、波乱の中にあった。そんな状況にも拘らず、冷静に集団を見つめる事が出来る者もいた。
「この状況………、もしや試験が始まっているのでしょうか?」
 車椅子に座った少女、凉女が、今正に犯人を目の前にした探偵の様に真面目な顔で呟く。
「今更何言って―――うわあぁ~~~っ!! 危ない~~~っ!?」
「あ~~………、コレすごい状況?」
 瓜生と神也は、互いに凉女を庇いながら会場内を走り回り、何とか逃げ道を探そうとする。三人とも、イマジンの発動には成功している。いや、正しくはいつでも使える事が解ってしまう(、、、、、、、、、、、、、、、)。理由は不明だが、イマジン、否、『イマジネーター』になったと言う事は、そう言う事なのかもしれない。
 普通の人間とイマジネーターの違いは、単純な言い回しで、『普通の人間は、絶対イマジネーターには勝てない』っと言う言葉をよく聞く。しかし、この言葉の意味を正しく理解できている者は殆どイナイと言っていいだろう。それは、イマジンによる理すら捻じ曲げる絶対的な能力故に云われている事ではない。解られてしまう(、、、、、、、)のだ。勝利への道筋を。
 例えば、現在攻撃の嵐に曝されている三人だが、自分達のイマジンをすぐに使おうとはしなかった。これは、自分達の能力は、発動時に“条件”、もしくは“時間”を有する物だと理解しているからだ。今日この日まで、まったく使った事が無いのにだ。
 更に言えば、同じ受験生とは言え、集団のど真ん中で攻撃の嵐に曝されても、未だ三人は脱落していない。的確に逃げ場所を見つけ出し、協力して逃走ルートを見つけ出しているのだ。
 どんな状況に曝されようと、勝利への方程式を瞬時に頭の中から呼び出し、それに対応させる力。それがあるからこそ、イマジネーターは普通の人間には絶対に負けない。
 故に彼ら三人もまた、イマジネーターとしての素質があると言える。
 っとは言え、彼等がイマジンを発動させる事が出来なければ結局試験としては失格だ。自分達が生き残る事だけに執着し、反撃に出られないモノなど、それもまたイマジネーターとしては失格なのだから。
「もらったぁ~~~!」
 逃げ惑う彼等の横合いから、一人の少年が手に持つ鉄棒を振り上げ迫る。が、その少年は彼ら三人に気付いてもらう前に、何者かに後頭部を打ちつけられ、音もなく気を失った。
「イマジンを使えていれば素手で攻撃してもOKみたいだな?」
 日本人特有の黒い髪に強い癖毛、柔和な笑み顔に浮かべながらその少年は確認を取る。
 彼の視界には正面に『二次試験通過』の文字が映り込んでいた。これもイマジンによる効果だとするなら、イマジンの万能性が此処でも解らされる。
「ん?」
 合格に胸を撫で降ろしていた少年は、自分の周囲を囲み、襲いかかってきている影達に気付く。
「やれやれ………ですか?」
 瞬間、彼を襲おうとしていた数人が剣を、槍を、大鎚を振り降ろす。一斉攻撃を叩き付けられた床が大きな音を鳴らし抗議する。そう、()だ。彼等が狙っていた少年は何処にもいない。
「ど、何処に行ったっ!?」
 慌てて探し始める彼等を余所に、攻撃を躱していた少年は、溜息交じりに呟く。
「二次試験は合格条件を満たしたところで、失格条件を消し去れるわけじゃないと言う事か………。それじゃあ、仕方ない。さすがにこの人数が相手だ。悪く思わないでください」
 呟いた彼は、黒かった瞳を赤く染め、彼等と目を合わせた。
 いつの間にか接近され、瞳を除き込まれた彼等は、一人の例外もなく突然悲鳴を上げ、『リタイヤシステム』により光の粉となって消えた。
「おいおいっ、それえげつなくない?」
 少年に声を掛けたのは収納ポケットの多いジャケットにズボンを穿いた少年。ポケットにあるのは全てがTCG(トレーディングカードゲーム)用のカード。彼は、その一枚を指に挟んでぷらぷらと弄びながら赤目の少年へと告げる。
「今の良く解らんかったけど、目を合わせる事でなんかしたんだろ? 身体に怪我を負っていなかった所を見ると、直接殺傷系じゃないみたいだけど………?」
 言いながら少年は弄んでいたカードを宙へと放る。
召喚(コール)、焔征竜ブラスター」
 彼の言葉、命令(コマンド)によって能力が発動し、カードが光り輝く。幾何学模様の魔法陣の様な物がいくつも出現し、中心から少しずつ光の珠が巨大化していく。その光の球体が十メートル近くの巨大な物へと変わった瞬間、光が弾け、中から黒い鱗を持つ巨大な西洋竜が現れた。黒い鱗の間から真っ赤な光を称えるその竜は、まるで溶岩の竜だと言わんばかりの熱気を放っている。
「七つ星で、召喚までに五十秒………。こりゃ、融合や儀式系だったらもっと手間かかりそうだな? グレート3や、レベル3だと、どんな条件になるかな? まさかマジで僕様自身ダメージ受けないとダメとかじゃないですよね?」
 カード少年が言っている意味は解らなかったが、恐らくカードゲーム上のルールと、能力として制限(ルール)を照らし合わせ、差異の確認をしているのかもしれない。
(だったら、あの巨体を暴れさせる前に仕留めておきたいところだ)
 細目の少年は召喚されたドラゴンを見据えながら、そう結論付ける。ドラゴンはカード少年がなんと命令するか考えている間、周囲の喧騒を珍しそうに眺めつつ、しかし、自分に向けられる奇異の視線が煩わしそうに鼻息を鳴らしていた。そこには主の命令を待つ従順な僕の姿はない。呼び出されたから来ただけの、別世界のドラゴンだ。もしかするとドラゴン自体、彼の命令を聞かない可能性もある。
(そこまで楽観するのは危険だが、早めにマスターは叩いておかないと危ないよな?)
 あの巨大な竜が本気で暴れ出せば、周囲への被害は間違いなくシャレにならない。マスターであるカード少年を瞬殺して決めようと、腰を低くする。
 ………がっ、飛び出す事が出来ない。
 何かに妨害されているからではない。危機感を感じたからだ。
 先程まで、まったく主の事を意に介さなかったドラゴンが、突然気を引き締めた様にこちらを見据えてきた。理由は解っている。主であるカード少年の、更に後ろから、奏でられるバイオリンの音色。それがカード少年に何らかの能力強化を与えている。それがドラゴンにも伝わり、主として命令を聞くに値する相手と判断させたのだろう。
 少年は、奥を見据え、声を掛ける。
「アナタは?」
「奏ノノカって言います。この人には色々お世話になっちゃったのと、一人で戦うの怖いんで、お手伝い中です」
 そう言いながらバイオリンを弾く少女。楽器から奏でられる音楽は、旋律によって組まれた術、『イマジネート』だ。その効果を受ける対象を一人に絞り、能力の強化を行っているらしい。
 これによって強力なカードを自在に操れるようになった少年は、正に脅威として似つかわしい存在となった。故に、彼も諦めて口の端を笑みにするしかない。
「やれやれ、まさか入学初日が巨大竜との対決とは………。仕方ない。本気でやらせてもらうさ」
 そう言って彼は、瞳を赤く輝かせた。
遊間(あすま)零時(れいじ)、押して参る!」
「あっ!? ちょっと待って手札の確認したい―――うわぁああっ!? 来てる来てるっ!?」
「切城く~~ん!? 負けても私にシワ寄せしちゃいやだよ~~? ダメだよ~~? 無理だからね~~~!?」


 ノノカ契ペアと零時の戦いが始まる瞬間、もう一体の巨大物体が出現し、周囲にいたイマジン発動者達が吹き飛ばされていく。
 出現したのは全長十メートルはあろうかと言うライオン型のロボットだった。ロボットはまるで生きているかのように四肢を動かし、獣の方向を上げて威嚇する。その頭の上に、十歳ほどの髪を逆立てた男の子が掴まっていた。
「ガオング! まだ一次審査に通っていない人を守るんだ! 何もできずに失格なんて、そんなのあんまり過ぎる………! 皆さん! 僕達の後ろに! 発動するまでの間くらいなら守ってあげます!」
 少年の声に、未だ発動に至れなかった者達がわさわさと集まって行く。
「助かったぜ坊主!」
「良かった! 集中する暇がなかったのよ!」
「ありがとうな!」
 口々に礼を言って巨大ライオンロボットの背に隠れる受験生達。
 それを端で見ていたチャイナ服の少女は、少々呆れ気味に嘆息した。
「アア言うのって、ちょっとサービス過剰違うネ? 試験は皆平等ヨ?」
「ああ、まったくだ」
 その言葉に同意する者がいた事に驚き振り返る。
 腰ほどまである長髪、寝癖を何本も跳ねさせた、恐らくロ シア系の異人。彼女は見るからに面倒そうな表情で、大型ロボットを見ると、ホトホトうんざりしたような溜息を吐く。
「こっちは二次試験を楽にクリアしたいって言うのに、ああ言う偽善者ぶってるのがすっっっごく迷惑………! 弱った獲物を襲うのだって立派な兵法だろうが?」
 そう言う少女の周囲には、西洋甲冑の騎士達が剣と盾を構えて彼女を守る様に居並んでいた。どうやら彼女の作りだしたイマジン体の様だ。
 先程チャイナ少女が遠くで見たイマジン体。一次試験を無事終えた瞬間に、理解出来た黒い和装の少女、彼女と比べると、この西洋騎士達は幾分劣った存在にも見える。彼女にとっては別段脅威とは感じ取れそうになかった。ただ………、
「アナタ、なんでパジャマ?」
「あ、パジャマのままだ………まっいいか」
 その一言で、家から出てからずっと着替え忘れていると言う事が窺えた。
(エ? 何それ? 家カラずっと? 空港でモ、機内でモ、試験開始されるまでズット?)
 困惑を余所に、パジャマ少女は表情を改め、真剣な目をして片手を突き出す。
「全軍! 周囲に散開ッ! 能力を発動できていない者を速やかに打ちとるべしっ!」
 パジャマの主に従い、甲冑を纏った騎士達は一斉に走り始める。その動きに淀みはなく、まるで訓練された兵士の如し。動きの滑らかさだけで言えば、黒和装のイマジン体にも後れをとっていない。
 兵士の数はおよそ百。何処からそんなに溢れて来たのか解らないが、未だに身を守る事もできない弱者を探し、蜘蛛の子の如く散って行く。一体一体は弱そうに見えても、相手はイマジン体だ。イマジネートしていないただの一般人では、すぐにやられてしまう。しかも、百体の内、五十体は十体一組に分かれて行動し、まだイマジネートの甘い相手へと人海戦術で攻撃を仕掛けている。
(おまけに、アレだけ出してもまだマモリ堅いヨ………)
 甲冑騎士達が消えた後、変わりに主を守っているのは、銃で武装した米軍似の歩兵部隊だった。上下二段構えの射撃スタイルで主を囲み、銃に装着された銃剣の先を周囲に突きつけ威嚇する。これだけ守りが堅ければ、誰も容易に攻めれるとは思えない。彼女も間違いなく、合格者の一員だろう。
「ねえ? ナマエ聞いても良いカ? ワタシは陽凛(ヨウリン)言う。香港から来たヨ」
「ん………」
 チャイナ少女の質問に、パジャマ少女は兵隊の一体に顎で命令する。兵隊は黙って従い、名刺を手渡す。名刺には『オルガ・アンドリアノフ』とロシア語で記名されていた。………っと言うか本気で名前しか書いてなかった。他の情報は一切書かれていない。
「ぬふふ………っ! オルちん(、、、、)、中々に面白そうで、コンゴ期待できるヨ!」
オルちん(、、、、)………っ!? だと………っ!?」
 何かとてつもない嫌がらせを無防備に食らってしまったような表情をする、オルガ(パジャマ姿ロシア人少女)だった。


「お?」
 術式(イマジネート)を完成させたカグヤの元に、一体の西洋甲冑が迫って来ていた。
 瞬時九曜が反応し、それはばっさりと両断され、粒子片、すなわち光の粉となって虚空に消える。
「私より完成度の低いイマジン体です。ですがそれ故に、同じ個体を何度でも回収、再生を可能としているはず」
 言葉を言いきってからまたもや俊足。背後に周り、カグヤに襲いかかろうとした青年を蹴り付け、そのまま踏みつけると、逆手に持ち直した赤黒い刃を持つ剣で胸を突き刺す。容赦のない急所への一撃に、青年はすぐにリタイヤシステムによって消え去った。
 先程襲い掛かってきた騎士甲冑は、間違いなく本物のイマジネーターが創造したレベルだとカグヤには判断できた。だからこそ、気に止めてしまったが、乱戦状態で適当に仕掛けているだけだったらしく、抱いたほどの危機は訪れなかった。
杞憂(きゆう)で何よりだな………)
 頼もしい従者の背を誇らしく見つめ、カグヤは軽く息を吐く。同時に、九曜が蹴り技を使った時に、着物の裾が開き、何度も素足を御目にかかっているのだが、九曜自身が気に掛けているらしく、膝より上が見えない程度に上手くコントロールしている事に、内心安堵しての意味の『杞憂』も抱いていた。自分が見ても、他人に見せるのは(すこぶ)る嫌う独占欲の強い主だ。っと、そこに声が掛った。
「ヘイッ! ユウーーッ!!」
「んん?」
 英語とカタカナ読み日本語が混ざった様な声に振り返ると、三人のミリタリー迷彩ズボンを穿いた半裸の男が、最新式の重火器をフル装備状態でこちらに銃口を向けていた。
「アノ時ハ、ヨクモコケニシテクレタナッ!? タップリオ返シサセテモラウゾッ!?」
「………? ああ、イマジネーターは、言語中枢の理解力も高まってるのか」
 カグヤの耳には、汚らしい英語と、解り易くまとめ直された日本語が同時に聞こえていた。そのため軽い混乱を抱いたのだが、すぐに答えは導き出せた。イマジンにより活性化された脳が、効率良く回転し、相手の言語を素早く理解したのだ。それが、カグヤには同時に二つの言語で喋られているような錯覚を得るほど、高い理解力を有した状態にあると言う事だ。
 もし、これがカグヤにとって初めて聞く、未知の言語だったなら、理解するのにもう少し時間がかかったかもしれないが、幸い、カグヤは八カ国言語をマスターしているので、大した問題はない。そんな事より、カグヤは真っ先に知りたい情報がある。今、この男は聞き逃せない妙なセリフを口にしていた。
「“あの時”? 誰だこいつ等?」

 “そこにいたのは、金髪でガタイの良いアメリカ人らしき男と、黒人らしきスキンヘッドの男。そして同じく黒人のパーマにサングラスの男。三人が三人ともアンダーシャツに迷彩ズボンを穿いている所を見ると軍人か、もしくは元軍属、はたまた見た目倒しのミリタリーオタク………”。

誰だこいつ等(、、、、、、)?」
「空港でお会いした、とるに足らない存在です。忘れていて問題無いかと?」
「じゃあ、初めてで良いや」
 僕の発言に、あっさり思い出す事を放棄した主。向こうも言葉を解するようになっていたらしく、その発言に頭の血管を何本も浮き上がらせていた。
「何処マデモ舐メ腐リヤガッテ!? アノ時ハ俺達モ『イマジネーター』ジャナカッタガ、今度ハ同ジダ! ダガ俺達ニハ、オ前ニハナイ戦場ノ経験ガアル! 実戦経験ノ差ッテ奴ヲ教エテヤルッ!」
 そう言って三人は縦一列になって真直ぐ走り寄ってくる。九曜は瞬時に反応して先手を取って叩き潰そうと身を低くする。それをカグヤは手で制した。
「待った。俺も完成させたイマジネートを試しておきたい」
 その一言に頷いた僕は、恭しく首を垂れて、主のために道を開ける。
 それを一笑に伏しながら、ミリタリー三人が銃を構える。
 銃口から火花が迸る前、無造作に右手を突き出したカグヤは、ただ一言で、“それ”を呼び出す。
「こい、軻遇突智(カグヅチ)
 刹那迸った紅蓮の大蛇、それは顎を開くと、あっさりミリタリー三人を呑み込み、黒焦げに変えてしまう。『リタイヤシステム』が無ければ、一発で消し済みになっていたかもしれない高温の炎蛇は、未だ完全に顕現している訳ではないらしく、大量の炎を身体から噴出し、縦横無尽に戦場でとぐろを巻きながら、己の形を固定していく。カグヤのイメージした軻遇突智になるためには、発動から完成までに時間がかかってしまっている。そのために、炎蛇は必死に体をくねらせ、己の形を作ろうとしているようなのだが………。
 その途中で軻遇突智が見つけたのは、地上に炎のブレスを吐き付け、一人の少年と戦っている西洋竜。何故か軻遇突智は、それが気に入らなかったらしく、目ざわりと言わんばかりに西洋竜“焔征竜ブラスター”を背後から強襲、未完成の己の身体事焼き尽くした。
「あ、やべ………っ」
 焦るカグヤ、そして迸る絶叫。
「ぎゃあああぁぁぁ~~~~~~っ!!? 僕様の焔征竜ブラスターが~~~~~っ!? 何処のどいつだっ!? こんな不意打ちしやがった奴わっ!?」
 不意打ちされて涙を流す、焔征竜ブラスターの主、切城(きりぎ)(ちぎり)は、ポケットから大量のカードを取り出し、中空へと投擲する。
召喚(コール)! 『クリボー』+『増殖』! 『ブラスターダーク』! 『母を想うフェイト』×3にクライマックス『ファランクスシフト』の大コンボじゃあぁぁ~~~~っ!!」
 妖怪土転びの様な、毛玉に目と手足が生えたようなサッカーボールサイズのモンスター、クリボーが、『増殖』と書かれた魔法カードの効果に従い、次々と無限に数を増やしていく。しかも何かに触れる度に起爆するおまけ付き。そのクリボーを切り裂き、己の力の糧とした黒き剣士が、次々とハイパワーで周囲の人間を切り裂いて行く。さらに黒き洋装の金髪ツインテールの少女が三人、空中で幾つもの雷球を創り出し、文字通り雨の如く、地上に戦火の砲撃を見舞っていく。正に地獄絵図の光景が広がる。
「切城くん!? ちょっと、これやり過ぎじゃない!? って言うかこれ全部を援護するのちょっときついんだけど………? あれ? 聞いてる? ねえ聞いてる~~?」
 彼の補助をしていた奏ノノカは大慌てで叫ぶが、本人は聞こえていない様子だった。
 それを確認したカグヤは、内心かなり慌てながら、表情には一切出さず、己の僕へと向き直る。
「九曜、お前隠密系とかできるか?」
「影か水場があれば紛れ込ませる事は出来ます」
「よしっ、俺は今ので合格条件を満たした! 後は時間まで隠れてやり過ごすぞっ!」
「御意」
 犯人である事がバレる前に、加害者は逃走を計った。
 戦火の真っただ中に追いやられた被害者達の怒声と悲鳴を背に、カグヤは心中合掌しながら隠れるのだった。


 一方、増殖した機雷モンスターの被害を受けている不幸な三人組が此処にいた。いや、正確には、先程から被害を受けまくって、未だにイマジンの発動にすらこぎつけていない面々だろうか?
「だ~~るまさんが~~こ~~ろん、だ! ………動いたら反則ですよ~~?」
「え? 止まるのがルール?」
「止まっちゃダメですよ!? 止まるわけないですよ!? そっちは止まって~~~!」
 車椅子の少女が一人で勝手にだるまさん転んだをして、無視され、『反則』と言う言葉に慌てて従おうとした少年が立ち止まり、それら全てにツッコミを送る細目の少年。
 最早言わずもがな、及川凉女と機霧(はたきり)神也(しんや)宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)だ。
「では鬼ごっこで! タッチされれば今度は私達が追い回す番ですよね?」
「そうなのっ!?」
「やめてぇ~~っ!? 触った瞬間爆発するからぁ~~~っ!?」
 被害者はどう見ても瓜生一人だけにしか見えないが………。
「う~~~ん、でも、このままじゃ本当に何もできずに失格ですよね?」
 神也は少しだけ困った表情になると、足を止めて振り返るとクリボー集団に向けて右手を翳す。
「戦闘用プログラム、技術ノ創造主(テクノクリエイター)
 彼がそう呟いた瞬間、周囲に電流の様な物が迸り、透明な輪郭が浮き上がり始める。それは電流の迸りが激しくなるのに合わせ、より鮮明な物へと変わって行き、激しいスパークを放った。スパークの光が消えた後には、完全に姿を露わした、腕に装着する様な形の巨大な銃身があった。
「ファイアー」
 神也が呟き、銃身内のトリガーを引く。近代機械的なデザインを持つ銃は、トリガーが引かれた事により、内部の撃鉄を打ち付け、装填されていた十センチ砲弾を爆炎を上げて解き放つ。 その弾丸が一番近くのクリボーに命中し―――、次の瞬間、爆炎の放射光線が、直進十五メートル先まで貫き、強力な爆風を周囲に撒き散らした。
 暴力的なまでの砲弾の一撃。純粋な火薬による火力では説明のつかない被害に、一同は呆然としてしまった。周囲で生き残ったクリボー達も、増殖した互いを見合って「何が起きたの?」「やばくないアレ?」「アレに向かうの?」「え? マジ?」みたいな会話でもしていそうな戸惑いを表していた。
「パージ」
 腕を下ろし、その一言で腕の銃身を取り外し、地面に落とす神也。これだけの被害を創り出しておきながら、彼は舌打ち交じりに不満の表情を作った。
「チ………ッ、火力が全然足りない」
「ふざけろっ!!」
「まてまてまて!! どう考えても違うだろう!!」
「いや、ちょっ!? え? うわっ、む、無理! 色々無理だから止めてっ!?」
 恐ろしい一言を漏らす少年に、亜麻色、セミロングの髪をアップで纏めている、黒ぶちで大きなメガネをした少女が簡潔に抗議し、黒髪に黒目、背は長身のほうで、髪の長さは前髪が目にかかるほど、後ろ髪は首までのセミロングの少女が「リアルじゃねえ!」っと言わんばかりにかみつく。そしてもう一人は、身長160cmくらいの栗色セミロングをした可愛いタイプの少女がかなり焦った表情でオロオロしていた。
 つまるところ、誰もが彼に対して危機感を抱いていた。それはもう、『触るな危険』と書かれた爆発物でも見る様な目で。
「足りませんでした? でしたら………」
 しかし、ここに一人、まったく動揺していない少女が、車椅子から降りて(、、、、、、、、)、彼の隣まで歩むと、右手を掲げて厳かに―――、
創造(クリエイション)―――」
 能力発動の合言葉(コマンド)を呟き―――、
「『バスターカノン』リリース―――」
 新たな武装を呼び出す。
 彼女の足元に魔法陣の様な幾何学模様(きかがくもよう)が浮かび上がり、まるでそこから取り出すかのように巨大な砲身が飛び出す。
 先程神也が創り出した銃身が腕の延長線上に作られた大砲だとして、今度創り出されたのは、近未来的なデザインは一緒でも、その大きさを遥かに超えた“戦艦砲”だった。しかもデザインからして、肩から腕に掛けて人が(、、)装着して撃つようになっている。ゆうに十メートルに届きそうな巨大な砲身をだ。それを人が撃つ事を前提に創り出されている。
「あ、ありえない………」
 色んな意味を込めて呟いた瓜生の言葉を無視し、その戦艦砲を創り出した少女、凉女は、まるでお世話になっているおばあちゃんに蜜柑のお裾分けでもするかの様な笑顔で―――、
「はい、どうぞ♪」
 渡した。
「ありがとう凉女! ………よいっしょっ!」
 装着した。
 構えた。
「ふえ?」
「おい待て………」
「――――ッ!?」
 先程文句を言っていた三人の少女が、神也の向けた銃口の射線上に居る事に気付き、慌て始める。
 戦艦砲はビーム兵器らしく、内部の機械が動き始め、エネルギーを急速充電。僅か0.5秒で光を放ち始め、いつでも撃てる事を主に知らせる。
 慌てた誰かが必死に叫んだ。「止めてくれ」と。
 無視して神也は再び引き金を引いた。
 エネルギー砲故に反動はない。だが、圧縮されたエネルギーの解放により生じた急激な熱変化が、周囲に熱風を叩き付け、後ろにいた瓜生すらも吹き飛ばしてしまう。放たれた光の本流は、またたく間に参加者と増殖クリボーを一掃していき、空中で弾幕を続けていた黒服金髪の三人少女達をも一瞬で呑み込み―――、
「………え?」
 ―――その先でイマジン発動に苦戦している者達を守っていた大型ライオンロボットへと迫る。
「み、皆さん逃げてぇ~~~~~~~っ!!」
 慌てて少年はライオンロボットを変形させ、人型に変えると砲撃に背を向け、皆を庇うように膝を付かせる。それでもとても耐えられない。少年は自分の作りだしたロボットが粉砕される絶望を胸に過ぎらせた。
 そして、彼以外にもそれに巻き込まれる者は多く存在し、慌てて対処を試みる。
「ご、『金時計:黄金への時間(ゴールデンタイム)』………ッ!!」
「アーミーズ! 私を守れっ!!」
「幻想曲第二楽章:≪幻迷の森≫………っ!!」
「水面に映る私の檻! 水面故に干渉できぬが、故に封じ込める………。錬成『ミナモノオリ』!」
「我と契約し天を司りし二匹の龍よ! 我が身に宿りその力を我に貸し与えよ! 白き龍皇アルビオン!」
「ってうお………!? こっちに来た!? 九曜! 神実(かんざね)!」
「御意!」
「く………っ!? なんてとばっちりだ!?  天之狭霧神(あめのさぎり)!!」
発動(コール)! トラップカード『攻撃の無力化』+『聖なるバリアミラーフォース』+『閃光の盾、イゾルデ』で完全ガード!!」
 運悪く、偶然にも射線上に残ってしまった者達が、次々と(イマジネート)を発動し、砲撃から逃れようとする。放たれた破壊の光は遠くなればなるほど拡散していき、広範囲へと攻撃が及ぶ。しかし、いくら広い会場とは言え、遮蔽物の存在しない、距離に限界のある室内。拡散した光線は高い天井まで覆い尽くし、壁向こうまで着弾。砲撃の嵐に、対抗手段を行った者達をも、まとめて呑み込んでしまった。高熱量光線が床や壁、天井を急激に焼き尽くし、急激な温度変化と物質崩壊に合わせ、会場全てを呑み込む大爆発が轟いた。
 吹き荒れる風圧、立ち込める爆煙。長く落ちる静寂。
 射線外に居て、なおも風圧で吹き飛ばされた者達が、煙の間から零れる『リタイヤシステム』によって転移する光の粉を、呆然と見つめ、誰も行動が起こせなくなっていた。
「うんっ!! 大満足の大火力っ!! 今度は天井を貫くくらいの威力を希望!!」
「圧縮率が悪かったかしら? もう少し勉強しませんとぉ………。次は満足いく物を作りますねぇ♪」
 笑い合う神也()凉女(金棒)
 誰もがこの二人を見て思った。

(((((ま“混ぜるな危険”ッッッ!!!?))))

 知っておかないと危ない生活の知恵にしては、暴力的な被害ではある。
 なんて恐ろしい二人組だ。瓜生が呆然と二人を見つめる中、もっと驚愕の出来事が目の前に広がった。煙が晴れ、床が焼け爛れた地獄絵図に、立っている者達が居たのだ。
「あ、ははは………、生きてる? 生きてる! 時間の力って素晴らしい!!」
 両手に金と銀の時計を握った亜麻色の髪をした黒ぶち眼鏡の少女、ルーシア・ルーベルンが、光線の射程ギリギリ外で、座り込んで泣き笑いを―――、
「………お?」
「無事かなお嬢さん?」
 カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)を全て吹き飛ばされ、床に転がっていたオルガ・アンドリアノフを庇うようにして立っていた、金髪碧眼の両手持ち用の丈夫な剣を持つ男、ジーク東郷がオルガに笑い掛け―――、
「切城くん~~~っ!? 生きてる! 生きてるよ私達~~~っ!?」
「うおおおおぉぉぉ~~~っ!? ホント、ダメと思ったよマジでぇ~~~ッ!?」
 互いに手を取り合って涙ながらに生還を喜ぶ奏ノノカと切城契―――、
「アレだけ半減したのにこの威力とは恐ろしい………」
「まあ、防いだからよしだな」
 白き龍皇を呼び出し、光線の威力を削いでいた浅蔵星琉と、偶然近くにいたので、彼女ごと空間を断絶する壁に囲んで防御した、おそらくあの攻撃に曝され、最も余裕を持っていた水面=N=彩夏が星流を気遣い―――、
「た、助かった………! ありがとう………!」
「いや、俺達じゃないだろう? 半分はお前が何かしてなかったか? まあ、聞かないけど………」
 何故か、そこだけが攻撃に曝されなかったかのように、真新しい床が放射線状に残っている場所で、胸に手を当て礼を言う明菜理恵と、完全に偶然彼女を庇う位置に立っていた黒い刃の刀を握った東雲カグヤが、疲れた表情を見せ―――
「やれやれ、こんなとばっちりは二度とごめんにしてもらいたいな………」
「ひっく、ひっく………、あ、ありが、ありが………っ! ひっく………」
 カグヤ達と同じように、真新しい床の上で溜息を吐く遊間零時と、そんな彼に庇われるように抱きしめられ、お礼も言えないほどテンパって泣いている少女、雪白(ゆきしろ)静香(しずか)が―――、
「み、皆さん~~………? 無事ですかぁ~~………?」
 皆を庇ってロボットを操っていた子供、相原勇輝が、何とか庇った腰を抜かしている受験生へと震えた声で呼びかけている光景があった。
 中には、残骸の中から復活してくる者や、次元の壁が割れて、避難していた者が現れたりと、意外なほどに多い生存者の姿がドンドン溢れていく。
 その光景を見たある者は、顎を落とし、ある者は神や英雄を見たかのように跪き、ある者はもう笑うしかないと壊れた様に笑い声を上げていた。
 瓜生もまた、その光景に呆然とするしかなかった一人だ。

 ズバッ!

 故に彼は、背中に走った熱い感触の意味を知るのに、しばしの時間を有した………。

「え………?」
 振り返った彼が見たのは、いつの間にか自分の後ろに立っていた黒い剣士が、身の丈ほどの巨大な剣を振りきっている姿。そして、一拍遅れて飛び散る鮮血。更に遅れて迸ったのは、背中への激痛。
「主の攻撃命令がまだ終わっていなかったのでな」
 黒い剣士はそう言って剣を払った。
 此処に来てやっと、自分が斬られた事を自覚した瓜生。背中を袈裟掛けに切られ、あまりの痛みに膝を付く。
 少しずつ、少しずつではあるが、次第に身体が光の粉に覆われていく。自分が『リタイヤシステム』により、この場所から追い出されようとしているのが解る。
(そんな………!? もう終わり………? 何もしていない内から、終わりだって言うの………?)
 こんな終わりがあるだろうか? せっかくここまで生き残ったのに、一次審査を合格できる力は確かに感じているのに、そこに辿り着く事も出来ず終わってしまうと言うのだろうか?
(そんなの………、そんなの認めたくない………! 認められない………っ!!)
 終わりたくない。終わらせたくない。そんな気持ちが彼を突き動かす。
 そうだ、どうせ終わってしまうと言うのなら、最後まで足掻いて見せなくてどうするのかっ!?
 胸に弾ける想いのまま、彼は振り返り、黒い剣士に飛び付くと、その腕へと齧り付き―――“血を啜った”。
「!? 何のつもりだ!」
 黒い剣士は瓜生を突き飛ばし、その心臓目がけて剣を突き刺し、貫いた。
 血反吐を吐き、脱力した少年を地面に叩き付け、黒い剣士、ブラスターダークは訝しそうに見下ろす。
 “何故、『リタイヤシステム』の光が消えているのだろう?”っと………。

「………ったく、こんな時ばっかり、いつも呼び出しやがって………」

 呟き。
 起き上る瓜生。
 驚愕しながらも、ブラスターダークは、今一度剣を振り被り、瓜生へと叩き付ける。しかし、切り裂かれた瞬間、瓜生の身体は霧となってすり抜ける。霧はブラスターダークを通り過ぎ、背後で再び瓜生の姿へと変わる。ただし、最初の瓜生とは姿が違っていた。黒髪黒目の典型的な日本人男性だった彼は、その髪を金色に染め、瞳も怪しいほどに赤く染まっていた。ニタリと笑った口から覗く犬歯は、まるで獣の様に鋭く尖っている。
「き、貴様―――ッ!?」
 言い掛け、ブラスターダークは言葉を止めた。
 正確には発せられなかった。気付いた時、彼の胸を、瓜生の右腕が貫き、イマジン体を形成している核(純度の高いイマジンの集合した球体。人間で言うところの心臓)を握り潰していた。
 核を失い身体を維持できなくなったブラスターダークは、イマジン粒子へと爆散させ、主の元へ戻って行った。
「けっ! 人間相手じゃねえと少し物足りねえな………。まあいい、せっかく変わったんだ、少し楽しんで行くか?」
 瓜生は笑いながら周囲を見回し、次の目標を探る。
 ―――っと、そこで目に付いたのは、先程とんでもない破壊行動をした二人組だった。
「せっかくの火力なのに生き残り多過ぎだっ!? どうして!? 計算できない………っ!? はっ!? 火力が足りなかった………っっ!? 凉女! もう一発お願い!」
「へ? 二門(、、)ですか? わかりました。もう一門出しますね♪」
 危険物が大量に混ざり合う、化学反応を見せていた………。
 聞き付けた周囲の者達が、我先へと逃げていく中、瓜生は面白そうに顔を歪めた。
「まずはアイツ等から潰すか………っ!」
 あの二人が、誰の友人であったかを想像し、楽しそうに顔を歪める。
 彼が、一歩踏み出し、先程ブラスターダークから奪った力を使おうとした時―――突然、凉女の創り出した二門の戦艦砲がバラバラに切り裂かれた。
「きゃ………っ?」
「な、なにっ!?」
 驚く二人を余所に、今度は別の場所で悲鳴が上がる。悲鳴は続き、一人、また一人と、身体を切り刻まれて倒れて行く。
 武器を破壊され、身体を切り裂かれ、巨大物体を押しつぶされ、謎の現象が受験生を次々と失格に追いやって行く。
 瓜生は辛うじて捉える事が出来た。僅かに残った爆煙の隙間を縫うようにして、何者かの影が奔っている姿を………。
「くそ………っ!?」
 二匹の大型狼を使役していた男が命令を出して影を捕らえさせようとする。主の命に従い、影に飛びかかった狼は―――空中に居る一瞬で切り裂かれ、その身からイマジン粒子を鮮血の如く噴出させた。
 驚く間もなく、狼の主は影の疾走に巻き込まれ、その身を傷だらけにしてリタイヤした。
 走り抜ける影を見て、その正体を知っている二人が、呆然と呟く。
「暴れ出したか………、あのバトルマニア………」
「こんな乱戦状態………、今まで大人しくしてた方が不思議なくらいです………!」
 東雲カグヤと相原勇輝は、塾生時代を思い出しながら、その影に対し軽い畏怖―――っの様に見える呆れを表情に浮かべる。
 影の疾走は止まらず、次の標的としたのは、カソックを着た神父めいた格好をしている金髪の少年だった。
「? おや、私を御所望ですか? しかし、暴れん坊なアナタを相手にするのは些か―――」
 言いつつ彼は十字を切った。
 瞬間、彼に飛びかかってきた影が、目測を誤った様に通過し、地面を転がった。
「おやおや? 暴れ馬の正体は何とも可愛らしいお嬢さんでしたか?」
 皮肉気に彼が言う先、影として疾走していた者の正体、一人の少女を見降ろす。黒く艶のある長い髪を、うなじの辺りで纏めているオニキスの様な黒い瞳をした少女。両手には両刃の剣が握られている。
 少女は先程までの疾走が嘘のように動きを止め、しきりに自分の目の前で手を振っていた。まるで目でも見えなくなったかのように(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)
目を失いましたか(、、、、、、、、)? 何とも運の悪い御方ですね?」
 そう語る神父に、はっきりと視線を向けた少女は………心底楽しそうに笑みを浮かべた。少女らしい愛らしさのある、しかし獣の様な爛々と輝く瞳で、彼女は地面を蹴り潰す勢いで奔り、両の剣で神父に襲い掛かる。
増加したのは欲望ですか(、、、、、、、、、、、)? つくづく運の悪い御方だ………」
 そう言って神父が再び十字を切ると―――、ガクンッ! っと、少女の身体が傾げ、踏み外したように地面を転がる。瞬時に立ち上がろうとするが、彼女の右足が言う事を聞かず、まったく動かない。怪我をしたと言うよりも、足その物が“動く”っと言う動作をしない物へと変わったかのように、完全に脱力しきっている。
「今度は脚ですか? 相当運の悪い御方ですね? これでアナタは先程のような俊足は出来なくなりました」
 暗に終わりだと告げた神父は、再び十字を切りながら、人の悪そうな笑みを向けて名乗る。
「クライドと申します。短い間かもしれませんが、お見知りおきを」
 そう言ってお辞儀するクライドに対して―――、ガツンッ! 床に剣を突き立て、片足で立ち上がった少女が、見えぬはずの目でしっかりと神父を捉え、名乗り返す。
甘楽(つづら)弥生(やよい)です。きっと長いお付き合いになります」
 そしてまた笑う。
 爆発。
 片足一つの力で跳躍した弥生は、床を破壊しながら物凄い速度でクライドへと迫る。
 慌てる事無く躱したクライド。剣は虚しく空を切り、前のめりの姿勢だった弥生は顔面から床に向かって疾走―――もう片方の腕が巧みに剣を操り、床に切っ先を突き立てる。床に固定された剣を中心に振り回される身体を巧みに操り、一回転、再び独楽の様に回転しながら神父に横切りを放つ。
 これも慌てず躱した神父。だが、今度は脚で床を捉えた弥生は、恐るべき俊足で瞬時クライドへと迫る。両手から繰り出される剣激をなんとか避け、左右に身体をずらして翻弄しようとする。
 だが追ってくる。それでも弥生は剣を、重心を、片足を、巧みに使って先程と変わりない速度でクライドを追い詰めていく。
 まるで右足が動かないのは、最初からそう言う生物だったからのように、振り回される右足を見事にバランスを取るための道具として扱いながら、揺れる髪の毛を獣の尻尾に見立て、“三本脚”の獣が神父を追い詰めていく。
 見えぬはずの目で、動かぬ足を一本引きずって、それでもなお、少女は狩る側()であった。
「く………っ! アナタは珍生物か何かですか………っ!?」
「普段なら文句言うところだけど………何だか今はそれでも良いかもっ!!」
「強欲を強めたのは裏目の相手だったかもしれませんね………ッ!!」
 歯噛みする神父は気付いていない。自分と戦いながらも弥生は隙を見つけては周囲の受験生達を攻撃し、確実に数を減らしている。それも、相手は必ず一次試験を通過している物に限りだ。まるで強者を求めるかのように、少女は攻撃の手を緩めず、しかし此処に至って未だに優雅さを損なう事無く、それでいて獣の如く邁進していく。
「………面白ぇ」
 瓜生は口の端を歪めた。
 此処にいるのは、誰一人として一筋縄ではいかない様な強敵ばかりだ。そんな相手を、もし自分が叩きのめす事が出来たら? そんな事を考えると、堪らなく楽しくて、居てもたってもいられなかった。
「俺にもやらせろ~~~~~っっ!!!」
 叫び飛び出した瓜生はが神父と獣少女を同時に攻撃する。いつの間にか握っていた、ブラスターダークの黒い剣を振り降ろし。
 同時に離れるクライドと弥生。床を切り裂き衝撃波が起こる。
 瓜生は楽しそうに剣を掲げ、誰から切り裂くかと吟味する。
 突然の乱入者に苦い顔をするクライドとは対照的に、弥生はますます表情を輝かせていく。
 ―――っと、その時、突然勝負は終わりを迎えた。

「タイムアップ!!! 全員戦闘中止!! 今現在の生き残りを二次試験通過者とする!!!」

 刹那、会場全体に襲い来る気配。例えるなら、広がってきた結界に閉じ込められたような、そんな感覚が受験生達を襲い、全てのイマジンが消滅する。
「九曜………!」
「大丈夫です、我が君」
 一瞬、イマジン体である九曜も消えてしまった事に焦るも、瞬時に現れた九曜が無事を知らせる。
「焦った………、消されたの形だけか………。これが噂の無効化能力一種『キャンセラー』か………、まあ、考えて見たら『イレイザー』の方なんか使ってきたりしないよな?」
 カグヤが一人で納得している中、バルコニーから受験生を見降ろす、学園長斎紫(いつむらさき)海弖(うみて)は、呆然とする受験生達を見降ろしながら告げる。
「これより君達は別室にて、三次試験を受けてもらう事になるが………、はっきり言ってしまおう。三次試験を通過できなかった者は、未だ嘗て、過去に一度の例もない! つまり、実質的に、ここに残った君達は、全員合格したと言う事になる! それは我々、試験管を務めた教師一同からも否の無い物となっている」
 海弖の言葉に、皆は呆然実施したまま、ポカンと口を開けた。
 合格? 二次試験終了と共に? アレだけの激戦を潜り抜けた結果、もうこれで合格?
 拍子抜けするような事実に、誰もが反応に困る中、海弖は続ける。
「三次試験を受ける前に、私から皆に伝えなければならない事がある。これは最終試験を合格できるか否かに関わる重要な事柄でもあり、未だ嘗て、誰もが本能的に理解していた内容だ」
 一拍の間を置き、生徒達が耳を傾けるのを待ってから、彼は始める。
「『イマジン』それは元々は自然界に発生する、極小規模な超常現象を引き起こす、“幻覚”の一種に過ぎなかった。この力が“万能”とされるようになったのは、この学園が設立される少し前、『イマジン』の人工精製が可能になってからだ。それは、皆も知っている通り、『イマジン』が万能足り得る力を発揮するためには、人工的に作られた純度の高い『イマジン』と、そのエネルギーの莫大な質量を要したからだ。そのため、未だ嘗て、自然発生で生まれた『イマジネーター』は存在していない。この学園の卒業生以外に、『イマジネーター』は存在していないのだ」
 海弖の言葉に、カグヤは姉から教えられた事を思い出す。
 イマジンが外部に流出しない原因の一つとして、あまりの需要の無さが存在する。いくら万能の力と呼ばれていても、その万能を振るうためには大質量エネルギーを要する。故に、実際にはギガフロートやイマジン塾から裏ルートで取り寄せるよりも、普通に弾薬を作った方が圧倒的に安価なのだ。また、イマジンを人工的に製造するには、それを可能にした『イマジネート』術式が必要となるため、結局のところで、イマジンと言うエネルギー頼みなのだ。無理してイマジンエネルギーを手に入れても、使えるかどうかも解らない人間に、本当に一瞬だけ夢を見せるのが精一杯。とても実用的ではないと言える。
 一般人にイマジンの事を良く解っていないのも、一般家庭にイマジネーターが存在できない事が由来している。
「故に、君達は理解してもらわなければならない。この言葉の意味を―――」
 海弖は一度息を吐き、もう一度息を吸って、受験生全員に届く様に声を張る。

「“イマジンは万能なれど、決して人は万能ではない”!!」

 その言葉に、誰もが固まって頭の中で反芻させた。
 イマジネーターになったが故に、活性化された彼等の理解力が、その言葉の真意を正確に読み取る。
 そう、イマジンは確かに万能の力だ。人の想像一つであらゆる力を引き出し、あらゆる建造物を創造し、あらゆる神秘を再現し、あらゆる生命を生み出す。正に万能、神の力。それを振るう事、すなわち神と見紛う力。
 だがそれでも、人は神には至れない。
 イマジンは万能であり、それは神の力と言っても相違はない。だが、それは人が万能と言う事には結びつかない。例え、万能に等しき力を振りまわしても、それは人が万能であることの証ではない。
 イマジンは万能だ。だが、元々不完全な存在たる人は、不完全故に不完全の領域までしかイマジンを使う事はできない。故に人は、万能たる神には届かないのだ。
 皆がその事実に行きついたであろうタイミングを見計らい、海弖はニヤリと口の端を笑ませる。
「さあ、正面の扉が開いた。その先に進み、祭壇に手を翳したまえ! それが君達の最後の試験、三次試験………『刻印の儀』だ!」
 海弖のいるバルコニーの下、受験生達の正面の壁が大きく口を開け、通路となる。
 一拍、戸惑う様な間を開けてから、彼等は自分達の足で歩み始める。
 約百八十人の受験生達は、暗い通路を通り、自分達が何故この学園に来たのかを思い出す。
 信念と覚悟、夢に希望、願いと悲願。もしくは特に何もなく、だが期待と不安を―――。
 あらゆる想いを胸に、彼等が辿り着いたのは、巨大な祭壇であった。赤塗りの和風式で作られた、近代的なデザインで作られた球体上のドーム。入口付近から壁沿いに、ズラリと並ぶのは、人一人が入れるスペースの小さい囲いがされたコンソールの様な物が窺える。腰ぐらいの高さに水晶らしき何故の球体が存在し、それが台座の上に嵌めこまれている。球体はバスケットボールくらいの大きさで、中で光の粒が蛍の大群のように動き回っている。受験生の一人が試しに軽く手を翳してみると、光の粒が慌ただしく動き始め、何やら文字らしき物が浮かんでいる様にも見える。知っている言葉としてはコンソールと以外表わすのが難しい。
 身も蓋もない言い方だと、デパートなどで見かける子供向けカードゲームの筐体だろうか?
 正面奥、高い壁に唯一ある広い階段が存在し、その上から何者かが下りてくる。現れたのは着物に身を包んだ半透明の女性。
「こんにちは~、皆さん、二次試験通過おめでとうございますぅ。私は吉祥果ゆかり言います。君等の教師になるんよ? 三次試験最後の説明をしたるから、よう聞いとってな?」
 ゆかりは柔和(にゅうわ)な表情で小首を傾げて笑う。
「っと言っても難しい事なんてなんもあらへんのよ? 受験生一人に付き一人、目の前にズラッと並んどる水晶玉、一応『魂祭殿(こんさいでん)』言うんやけどね? そこに立ってもらって、私が合図したら己の信念を強く心に抱きながら水晶に手を触れてくれればええ。もし水晶が全く反応せんかったら失格やけど、たぶん大丈夫やろう。信念に思い当たらん子は、ただ自分の中で強く引き出せる感情を引っ張ってくれればええからね? その心に善も悪も関係無いよ。ただ反応させられれば合格」
 言われた受験生達は、適当にバラつき、水晶、『魂祭殿』の前に立つ。隣とは壁で敷居がされていて、隣の様子すら窺えない。
「皆準備ええみたいやね? ………ほな、そのまま手を水晶に乗せ、心を込めて」
 言われた受験生達は、水晶に手を翳し、己の信念を心に強く抱く。

 及川凉女は強く望む。
(此処にいる限り、私は眼を覚ましていられる………。家族を、皆を心配させないためにも、私は此処に居たいです………)
 水晶は青く輝き、青い光の粒を渦巻く様にして巻き上げた。

 奏ノノカは望む。
(二度と動かないと言われた手が、ちゃんと動いた! またバイオリンが弾けた! だから………! これからも弾き続けさせて………!!)
 水晶の光が青く輝き、まるで旋律のように光の粒が渦巻く。

 相原勇輝は誓う。
(父さんとの約束を守るために、父さんの言葉を証明するために………! 僕は、正義の味方になる!)
 水晶から、僅かに赤みを帯びた光が溢れ、光の粒を真上へと吹き上げる。

 機霧神也は誓う。
(僕を作ってくれた皆の願い、本物の『デウス・エクス・マキナ』になるために、、ここで全てを学んで見せる)
 水晶から僅かに鋼色の光を帯び、幾条にも分かれた光の線が天へと延びる。

 ジーク東郷は望む。
(ここでならきっと、俺のブリュンヒルデと出会えるはずだ。必ず見つけて見せるぜ………!)
 水晶から僅かに赤みを帯びた光が溢れ、幾条もの光が天へと延びる。

 東雲カグヤは決意する。
「九曜」
「はい、私達の望みは、ただ一つ………」
 二人手を重ね、同時に声に出して表明する。
「「東雲神威を、この手で―――ッ!!」」
 水晶から激しく光が迸り、桜色の粒となって舞い上がる。さながら桜吹雪のように溢れる光の中、二人は重ねた手を強く握り合い、水晶の奥、目標とする者を強く睨みつけて。

 多くの光が湧きあがる中、ゆかりは着物の袖で口元を隠しながら上品に笑みを浮かべていた。
(桜色が三つ、『人柱候補』三人か………、ホンマに今年は豊作やね………。それに、他にも面白い光り方しとる子が居るねぇ?)
 クスクスッ、と笑いながらゆかりは袖を放し、高らかに受験生達へと告げる。

「これを持ってっ! この場にいる受験生全員を、合格と見なしますぅっ!!! おめでとう! そしてようこそっ! 柘榴染柱間学園へ!!」

 ハイスクールイマジネーションの物語は、こうして始まった。



あとがき

ゆかり「入学試験、無事終了したなぁ~~♪」

美鐘「ええ、こちらも難なく終了しました」

ゆかり「あれ? 美鐘ちゃん、今まで何してたん?」

美鐘「なんで知らないように言ってるんです! イマジネーションスクールの入学試験は外部の人間が容易く入り込める絶好の機会です。未だに各国の、特にギガフロートを有していない国のスパイが、イマジンエネルギーの情報、もしくはそれその物を得るため、学生に紛れてスパイを送り込む事が多いのです。それらを始末するのが、私達試験管役の教師の仕事だと教えてくれたのはゆかり様ですよ?」

ゆかり「そうやった? ごめんなぁ~? 長い事生きとると、物忘れする事が多くてなぁ~?」

美鐘「イマジンで再現されているとはいえ、幽霊って生きてるって言うんですか?」

ゆかり「なんや他にも忘れてる事あるかもぉ? ちょっと今回の試験についてお浚いしよか?」

美鐘「はあ、いいですけど………?」

ゆかり「ほなまず基本から………、なして一次試験と二次試験は同時に行われるんやった?」

美鐘「一次試験の内容は『イマジンを発動させること』です。このイマジンを発動させるための条件は、会場内に充満させておいたイマジンを呼吸によって取り込み、臍下丹田に吸収させる事で、イマジンエネルギーを術式、つまり『イマジネート』へ変える事が出来ます。そして、発動のキー、トリガーとなる部分は、追い詰められた状況と言うのが一番効果的であり、手っ取り早い。だから二次試験のバトルロイヤルを同時に行っているんです」

ゆかり「うん、その通り☆ ほな、学園側としては、被験者であり、研究対象でもある入学生を故意に削る様な試験内容な理由はなに?」

美鐘「この程度を生き残れなければ、イマジネーターとしての適性が無いからです」

美鐘「そもそも『イマジネーター』は、戦闘状況に於いて、勝利するための方法を本能的に直感します。それ故に、つい最近まで素人だった人間が、プロの軍人にさえ圧勝してしまえる能力を有するのです。ですが、イマジネートに至れた者がイマジネーターなのかと言えば、これは大きく勘違いです」

美鐘「ただイマジネートできる人間は、実は人類のほぼ100%が可能です。中には発動に戸惑う方もいるでしょうが例外はいません。万能な力故に、望めば望んだままに力を与える。それがイマジンですから。ですがそれ故に、イマジンは個人の想像力に大きく左右されてしまいます。この世界の多くの“現実”を目にしてきた者は、その“現実”に“想像”までもが浸食されてしまいます。その結果、イマジンはより“現実的にありえる力”として発動してしまう。そんな枠に嵌る程度の力が、常軌を逸した者同士の戦い、つまり『イマジネーター』同士の戦いに勝ち上がれるはずもありません故に、あの限られた時間内で生き残る事も出来なかった者達を合格者として認めるわけにはいかないからです」

美鐘「勝利への細い道筋を、刹那の直感で捉え、行動に移す。それが出来て初めて一人前の『イマジネーター』だと言えるでしょう」

ゆかり「はい、よく出来ました。ほな最後に質問? 三次試験は一体何のために行われてる?」

美鐘「アレはイマジネーターの特性を判断するための物であり、同時に『刻印名』を刻む儀式でもあります。あの時点で大体クラス、寮の部屋割りなどを決めているらしいですね? あの試験に不合格になるには………、どうすればいいんでしょうね?」

ゆかり「実はちゃんと不合格対象もいるんやけどね? あの儀式は、異世界から来た人等なんかも判別してるんよ?」

美鐘「私が学生時代の時もいましたね? チート転生をしてきたと語っていた少年が? 全然チートじゃなかったんですけど………」

ゆかり「この学園じゃ、皆が皆チートみたいなもんやしね~♪」

ゆかり「でも、そん中には、時たま悪い事考えてこの学校に来てる子もいるんよ? そう言う子は、あの儀式でまったく光を出す事が出来ず、その場で凄惨な最期を送る事になってもらうんやけど………、未だに一度も見た事無いわぁ~~☆」

美鐘「何よりです」

ゆかり「………うん、特に忘れてる事はないみたいやし、お浚いはここまでにしよか?」

美鐘「はい」

ゆかり「ほな、私は学園長に晩御飯呼ばれてるから~~♪」

美鐘「ちょっ!? それっ! 例のウナギですかっ!?  カニですかっ!? わ、私にも分けてよぉ~~~っ!」





弥生「カグヤ久しぶり~~~! 塾以来だから………一月ぶり?」

カグヤ「俺は途中で辞めたから二ヶ月半だ。入学試験まで半年しかなかったからな」

弥生「なんで最後まで塾にいなかったの? 僕、一度カグヤとやってみたかったのに?」

カグヤ「当時、塾生最強の名を欲しい侭にしていたお前に挑まれたら、俺は真っ先に逃げてたよ………。ってか、イマジン塾って、長く通う意味ないしな」

弥生「え? そうなの?」

カグヤ「『イマジネート』“発動の仕方”さえ、ちゃんと覚えれば殆ど問題はない。俺は九曜を維持するためのイマジン欲しさに通ってただけだ。あと、自分のイマジネートを完成させるための練習場としてかな? 一般でイマジンを手に入れるには塾に通うしかなかったからな」

弥生「あれ? じゃあ、九曜さんのために塾には最後まで通ってた方が良かったんじゃないの? なんで途中でやめちゃったのさ?」

カグヤ「いや………、単純に………金がなかった………」

弥生「おおぅ………」

カグヤ「ギガフロートは一応外国扱い、通貨もギガフロート仕様の電子マネー。だが、何処の国で課金しても、数字のままの額で交換できる最高のマネーだ! 入学しちまえば、生徒は研究協力者扱いで毎月お小遣いが入るからな。そんなにお金に困ったりはしないんだが………」

弥生「ああ、そう言えば入学試験だけは日本通貨で有料だったね? まさか空港で払わされるとは思わなかったけど………」

カグヤ「飛行機代と合わせて一体いくらすると思ってんだよ! 二月半の間、俺が一体どれだけ辛いバイトをしたと思ってんだっ!?」

弥生「参考までに、どんなバイトしたの?」

カグヤ「和風喫茶―――っと言う名で売ってる、和服少女のキャバ。俺はロリ少女の役だった」

弥生「………ぶふぅっ!」

カグヤ「噴き出すなっ!」

弥生「………見て見たかった!」

カグヤ「はあ………、まあ、お互い無事に入学できたわけだし、これから一層頑張らないとだな?」

弥生「うん、また勝負しようね………! お料理対決! 今度はリベンジだよ!」

カグヤ「俺は料理嫌いなんだよっ。もうやらねえ!」

九曜「(我が君の料理は特別美味しいのに、神威以外には作らない理由が料理嫌いだったとは………? 本当に美味しいのですけど………)」


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一学期 第二試験 【学生寮】

 書いてる途中で「あ、これは一つにまとめきれないな………」と判断したので先に前篇を出す事にしました。
 学生寮での決まり事や、同室になった両制などの話で、ちょっとつまらないかもしれませんが、次回は決闘でバトっているので、勘弁してください。
 この段階で皆様に楽しんでいただければ幸いと存じます。


 00

 浮遊学園都市≪ギガフロート≫。イマジネーションスクールでは、入学式が行われるのは入学試験、入寮式、三日間の休日を経てからの五日後になる。通常の学校行事から考えれば、物凄く早足な進行だ。
 入学試験が終了し、続々と新入生達が学園の敷地に入ってくる頃、上級生達は、通常通りの授業内容を終え、彼等を高い所から観察していた。
 3年Cクラスの教室の窓から覗き込んでいた一人の女性が、新入生の中から目当ての人物を見つけ、表情を笑みに変えた。
「カグヤの奴、ちゃんと合格してるな~? 歓心感心♪」
 二重の意味で“関心”の言葉を使いつつ、その女性、東雲神威(しののめかむい)は新入生達を見降ろす。
 その隣でもう一人、制服をぴっちり着た真面目そうな少女が神威の視線を追って覗き込む。
「気になるのは弟君だけ? 他にはいないの?」
 その少女の名は朝宮刹菜(あさみやせつな)。現在有名な、柘榴染柱間学園の最強の名を持つ二人の少女だ。
「私は義弟以外興味なんて無い。強いてあげるなら『人柱候補』と言う奴か? アレは私嫌いだから気にしない事にした」
「自分勝手な理屈は相変わらずなのね? 後輩達に対して挨拶の一つでもしに行ったらいいのに? きっと皆喜びますよ?」
「なら刹菜がいけよ? そもそも『学園最強』と言うなら私に勝ったお前が行くべきだろう?」
「知名度はアナタの方が高いんです」
「知名度で得た最強って飾りっぽいな………」
「そうは言いますけど? その後のフリーバトルで、アナタが私に三回分勝ち越してるんですよ? やっぱり最強は神威です」
「ヤ~~ダ~~! ヤァ~~~ダァ~~~ッ!! 私は最強の称号より刹菜が欲しいぃ~~~っ!!!」
「ちょ………っ!? アナタが言ったら冗談にならないんだから自重してくださいっ!! //////」
「冗談じゃないぞ?」
「そんな純粋な瞳でなに言ってるのよっ!!?」
 二人が騒いでいると、一人の少年が興味を持った様子で話しかけてくる。
「おお、どうした新入生か?」
「黙れ阿吾(あご)、死ね阿吾。話しかけるなもげろ」
「神威ッ!!!」
 突然不機嫌になって半眼で罵詈雑言を口にする神威に、刹菜が一喝して窘めるが、神威はそっぽを向いて聞く耳を持とうとしない。
 刹菜は、大きな溜息を吐きながら少年、阿吾(あご)明吾(あきご)へと向き直る。
「ごめんね阿吾君? 神威ってばホント他人に対して礼儀知らずで………」
「はっはっはっ! 気にしていない! いつもの事だからな! むしろこいつが誰かに甘えている所など、刹菜以外に見た事無い!」
「な~~んか、気に入られちゃってるのよ? 昔からずっと………」
 明吾はもう一度豪快に笑うと、窓の外へと視線を向け、話を戻す。
「新入生だな? お眼鏡にかなうのはいるかな?」
「カグヤッ!!」
 即答する神威に、刹菜が呆れ、明吾がまたも笑い声を上げる。
「弟君贔屓ですよね? 神威は………」
「なんだ? 何か問題か? 去年はお前だって自分の弟を隠し贔屓してただろう? ツンデレっぽく」
「だ、誰がツンデレッ!? わ、私は姉として龍斗(りゅうと)の事を信頼すると同時に厳しくしなければと考えての発言であって―――!」
「はっはっはっはっ! そう熱くなるな! さっきから神威がニヤニヤしてお前を見てるぞ?」
 明吾に指摘され、神威のニヤニヤ笑いを見た刹菜は、思いっきり頬を赤くしながら、何か言いたい物を必死にこらえた。
 その二人のやり取りに遠慮なく笑いながらも、明吾はしっかり助け船を渡す。
「それで? お前さんは誰が注目するべき相手だと思う?」
「もうっ!! ………私は、あそこにいる紫ショートヘアーの子かな? ほら、後ろ腰に四対(よんつい)、左腰に一本の太刀を()いてる―――?」
八束(やたば)(すみれ)、刻印名は剣群操姫(ソード・ダンサー)、年齢15、感情表現の苦手な性格をした、大人し目の女の子です」
 刹菜の少ない情報を元に、新入生の個人情報を羅列する声。
 三人が視線を向けると、蛍火の様な淡い緑色のショートヘアーをした少女が、優しげな表情で視線を返していた。
「もう新入生の情報をっ!? 刻印名まで特定しているなんて………! さすがは、現在最強の補助系能力者と名の高いミスラ・ラエルね」
 刹菜の絶賛に、ミスラは耳まで真っ赤にして俯いてしまう。相変わらずの照れ症に、明吾は笑いを上げる。
「いつまで経っても反応が初々しいな? 可愛くて良いんじゃないか?」
「や、やめてくださぃ………//////」
 照れ過ぎて尻すぼみになるミスラに、皆は笑いを漏らすしかない。
「そんなミスラは誰を一押しする?」
「あ、はい、えっと………」
 顔を赤くしたままのミスラは胸ポケットから生徒手帳を取り出し、手帳のシステムである映像スクリーンを呼び出す。スクリーンに映し出されているのは、彼女が取り入れた膨大な量の新入生生徒㊙情報だ。
「えっと………、私からは、桜庭(さくらば)啓一( けいいち)さんが押しだと思います? カッターシャツに黒ブレザーで………、ほら、腰に刀を二本佩いている………?」
「あそこの男子か? ミスラのタイプなのか?」
 神威のそっけない質問に、ますます顔を赤くし、煙を噴き出すミスラ。
「ち、違いますぅ………っ! ただ、ああ言う人は最初に伸びにくいだろうなぁって、思っただけでぇ………!?」
「? 伸び難いのなら、むしろお勧めではないのではないか?」
 明吾が疑問を口にすると、刹菜がそれについて簡潔に答えた。
「一年生の頃の神威」
「納得した」
「ふん………っ」
 頷く明吾に、鼻を鳴らして拗ねる神威。
 苦笑いを浮かべながら、ミスラは明吾へと水を向けた。
「明吾さんは、どなたかお勧めされないのですか?」
「俺か? 俺はだなぁ~~………?」
 明吾はざっと目を通し、適当な人物を指差す。
「あそこの男だな。ほら、眉の強い、噓くさい笑顔を浮かべてる奴だよ」
遊間零時(あすまれいじ)、刻印名は瞬身(しゅんしん)。入学試験時、たった一人で受験生150名近くを精神崩壊寸前にまで追いやっているみたいです? 情報と刻印名から分析するに、肉体から発生させるタイプの能力、“肉体固定概念系”の能力だと思われます。………あ、珍しいですね? この人、入学前から『血統秘伝』の瞳力持ち見たいです?」
()李空(りくう)の奴と同じだな?」
 ミスラの読み上げた情報に、神威は知っている人物の名を上げる。
 それに対して刹菜は苦笑いを浮かべつつ、一応訂正を入れる。
(マー)君は、先天的継承じゃなくて、後天的獲得だから、一概に一緒にしちゃいけないと思うんだけど………?」
「他にも目ぼしい奴等がいそうだな………? 飛馬(ひゅうま)、お前は誰を―――おらんかったか?」
 明吾が、誰かを呼ぼうと振り返るが、クラス内には目当ての人物はいない様子だった。
「真面目な飛馬君はBクラスで生徒会長ですから? 比較的真面目な人間の集まる傾向にあるBクラスの生徒が別のクラスに来るのは滅多にないんじゃないかしら?」
「っと、Bクラスの委員長である刹菜が、Cクラスで(のたま)っているわけだが………?」
「そ、それを言ってしまったら………、神威さんはAクラスですよね?」
「いや待て? ミスラはDクラスであろう?」
「そう言う阿吾君もBクラスよね?」
 Cクラスで騒いでいると言うのに、誰一人Cクラスの生徒がいなかった………。


 新入生達が通り過ぎた後、教室を後にした刹菜は、自分にくっ付いて来た神威に対し質問を投げかける。
「神威? 実際のところはどう思っているのかしら?」
「注目生徒はカグヤ一択だが?」
「それはもちろん嘘じゃないって解っているけど………、“だけ”って事じゃないでしょ?」
 東雲神威は入学前から異質の“天災”と呼ばれ、周囲の人間から忌み嫌われていた。優れ過ぎた人間は理解されず、逆にはみ出し者として扱われる。彼女はその差別を受けるだけの力が生まれつき備わっていた。
 だが、そんな彼女でさえ、イマジネーションスクールの入学試験に17歳の頃挑み、一度落ちている。その後一年待ち、刹菜と共に合格したものの、しばらくの間、上手くイマジネートする事が出来ず、Fクラスの最下位成績を一年間キープし続けた。
 その理由は既に神威には理解できている。その“理由”を知る彼女だからこそ、目の付けどころが他人とは違う事を、長年ライバルとして争った刹菜には理解できていた。だから聞いてみたかったのだ。彼女は新入生の誰を最も警戒しているのか?
「ほら? 弟君が一番の本命だとしても、彼を(おびや)かす存在くらい、見抜けない貴方でもないでしょう?」
「まあ、そうなんだが………」
 刹菜は言い渋る神威に答え易いように言葉を選び誘導する。
 簡単に乗ってしまった神威は一拍だけ間を置いて、視線だけで周囲を確認してから答える。
「お前が相手だから言うが、正直、お前が目を付けた剣群操姫(ソード・ダンサー)が一番厄介だと思っている」
剣群操姫(ソード・ダンサー)………、八束(やたば)(すみれ)ですか。何故そう思いました?」
 刹菜は自分が指名した相手と同じでありながら理由を尋ねた。彼女を気に掛けた理由が、神威と同じであるかを確かめるために。
「一つ目は、まあお前と同じだ。あの女の“色”が見えた。桜色、それも赤みの強い柘榴に似た色だ」
「『人柱候補』の上に『姫候補』ですかっ!? とんでもない素質を持った子ねっ!?」
「お前も同じ色なんだが………?」
 ジト目になる神威に刹菜は視線を逸らすしかできない。
 神威はすぐに諦めて溜息を吐いて流す。
「まあ、お前の色はもっと鮮やかで透き通った色だし、違うと言えば違うな」
「で、でしょっ!?」
「“色”はお前にも見えていたんじゃないのか?」
「私、神威みたいに変な感性してないもの! そんなはっきり見えたりしないわよ!」
「そ、そんなに変か? 私? 自覚はあるつもりなんだが………?」
 渋面になりながらも、神威は続ける。
「だが、それ以前に私があいつが一番ヤバいと思ったのは―――」
「な、なんですか?」
「アイツがカグヤとかなり相性が良い事だ………」
 神威は心底嫌悪する様な表情で吐き捨てる様に“拗ねて”みせた。
 そんな友の反応に、刹菜は一瞬掛ける言葉を失ってしまう。
「カグヤの奴は自分が強くなるより、他人を強くしちゃうタイプなんだよなぁ~~………? それも相性の良い奴だと上限無くドンドン強くしちゃうし………? アイツ等が親しい関係になるとそれこそ上級生破りの再来も夢ではない様な気がするしなぁ~~………? って言うか私のカグヤが誰かの物になるなんて嫌過ぎるしぃ~~…………?」
「………念のために聞いておくけど? 弟君が取られるかもしれないなんて理由だけで“ヤバイ”判断したわけじゃないわよね?」
「あん? ああ………、まあ、違うんだが、それの方が個人的には―――」
「後半聞かなかった事にするわね」
 刹菜は切り捨てると、もう一度尋ね直す。
「他に注意人物は?」
「ミスラから買った名簿を見るに、他にヤバいのは………」

機械ヨリ出デシ神(デウス・エクス・マキナ)
龍巫女(りゅうみこ)
戦神狂(ベルセルク)
正義の巨大ロボ(ジャスティスヒーロー)

「もちろん剣群操姫(ソード・ダンサー)にカグヤも私の考える目ぼしい人物だ。それと、後五人くらいか?」
「後五人は?」
「今は言わん。これは私も考えあぐねているからな。そもそも入学して始めでは、まだ真価を発揮する者も少なかろうて………」
 溜息交じりに言った神威は、最後に思い出す様に呟いた。
「まあ、詳しい事は生徒の私達より、教師………特に佐々木先生が一番解っているだろう? 詳しく知りたきゃ、後で研究棟に行けばいい」
 そう結論付けた神威はもう話す事はないと言わんばかりに話題を逸らす。
「ところで私は、今夜辺り、さっそくカグヤの部屋に侵入し、奴の作った料理に舌鼓(したづつみ)を打ちたいと考えて―――」
「私が作ってあげますから、部屋で大人しく待ってなさい」
「解った。刹菜の部屋で待ってる」
「もう………、ウチの同居人、また怒らせないでよ? ついでに貴方の所の子も、もう泣かせないでよ?」
「連れて行けば問題無しだ!」
「部屋が狭くなりそうです………」



 01



 イマジネーションスクール、浮遊都市、ギガフロート。その地上部分に出る事の出来た入学試験合格者達。彼等が『刻印の間』から階段を上がり、久しぶりの外気を味わう時、最初に目に映るのはしっかり整理された芝生の平原。その先に見える柘榴染柱間学園だ。
 柘榴染柱間学園、通称『柘榴園』は、イマジンと言う特別な力を扱っている学園には思えない、コンクリートで出来た普通の学校に思える。特別なところがあるとすれば、イマジンの力を使った増改築が度重なった所為か、所々、大きさの違う教室が、外からでも解ると言うところだろうが、景観を壊すほどではない。
 遠くて入学生の彼等には目視できないが、教室らしきところから、こちらを見下ろす上級生達の姿がチラホラと目に映る。
「はいはいぃ~~。皆さん入学おめでとうなぁ? 試験はこれにて無事終了。あとは寮に案内するから、自分の部屋に入ったら、後は三日間の自由行動や。詳しい内容は寮長に聞ぃてな?」
 身体が半透明に透けている大正風着物教師、吉祥果ゆかりは、入学生にそう説明すると、重力を感じさせない軽快な歩みで、皆を案内する。
 約時速30キロくらいで………。
「ちょっ!? おい待てっ!? おかしい! おかしいだろこの速度っ!? 入学試験終了早々、なんでいきなり全力疾走せにゃならんのだっ!?」
 黒髪ショートヘアーのちょっと男勝りな少女、明菜理恵が抗議の声を上げるが、教師は楽しそうなステップで速度を維持する。
「き、聞いてっ! 先生聞いてくださいっ!? 既に追いつけていない人が―――あぎゃっ!?」
 鮮やかな赤髪に金色の瞳持つ少年、叉多比(またたび)和樹(かずき)が、抗議に参加するが、速度に追いつけず途中でこけた。
 その他、必死に走る者や、既にギブアップしてぶっ倒れる者が続出するが、ゆかりは気にも留めない。むしろその光景を楽しんでいた。
 寮までの距離は、実は目視できる位置にある。遮蔽物の少ないこの位置からなら迷うことなく辿り着ける。そのためのお茶目だったのだが………、この光景を眺めている上級生達は思った事だろう。「またあの先生の御茶目被害を受けている入学生が………」っと。
「も………、無理………」

 バタリッ!

「我が君っ!? お気を確かにっ!」
 真っ先にリタイヤした、セミロングの黒髪をした、女性顔の少年、東雲カグヤを抱き起こし、主を抱えて走る僕、九曜。
「………メンドイ」
 その一言で、己の能力で呼び出した軍隊。『カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)』に神輿よろしく担いでもらっている銀髪寝癖のロシア人少女、パジャマ装備な、オルガ・アンドリアノフ。
「足腰の弱い人が多いな」
「鍛え方が足りんのだ」
 この状況を余裕で受け入れている。眉の強い柔和な笑みを浮かべた少年、遊間(あすま)零時(れいじ)と三白眼の少年、桜庭(さくらば)啓一(けいいち)は、ゆかりの思惑通り、『お茶目』とくらいしか思っていない事だろう。
 結局、寮に到着した時には、過半数の人間が、ツンツン頭の幼い少年、相原(あいはら)勇輝(ゆうき)の操る巨大ライオン型ロボット、ガオングの背に乗る事になっていた。
 最後にゆかりは楽しそうな笑みを浮かべるだけ浮かべ、全員の無事を確認してから幽霊のように姿を消した。生徒の文句一つも聞く事無く。


 彼等がこれから住み着く事になる学生寮は、男女別に分かれている事はなく、ともすれば男女同室になる事も多々あると言う噂がある。だが、不思議とそれが大事件になった事は未だに無いらしい。それはこのギガフロートが、日本であって日本ではない―――つまり一種の治外法権と言う事が原因なのかもしれない。
「どうも皆さん。学生寮一年生寮寮長を務めさせてもらっています、二年生、早乙女(さおとめ)榛名(はるな)です」
 寮の玄関口で待ち構えていたらしい三つ編みを前に垂らした薄亜麻色の髪をした少女、早乙女榛名が一礼して見せる。
「まずは、このギガフロートで最も大切な物、生徒手帳を皆さんに配布しますね?」
 そう言って配られた生徒手帳は、普通の生徒手帳と同じ、手の平サイズの手帳だった。違いがあるとすれば、手帳の中身が見開き一ページ分しかないと言う事だろう。
「生徒手帳には、イマジンのあらゆるシステムが内蔵されています。個人の情報、生徒間の通信機能、電子スクリーン表示で通常のメモ帳としても機能し、一定以内の重量であれば、あらゆる荷物を収納できます。何より重要なのは、このギガフロートでしか使えない通貨、『イマジン式電子マネー』、通称『イママネ』は、生徒手帳でしか管理できないシステムになっていますので注意してください。単位は『クレジット』、価格は日本円と同じと思っていただいてOKですが、ギガフロートの製品は物により物価が違うので、その都度確認していってください。入学生の皆様には、お小遣い手当、五十万クレジットが既に配布されていますが、学費や生活費もここから抜かれていくので、どうぞ計画的にお願いしますね」
 それを聞いた(くすのき)(かえで)は、素早く計算して表情を歪めた。
(確か学費は入学式の日に一学期分請求されるはず。ギガフロートの学費は一学期分が約三十五万クレジットでしたから、そこに生活費、一月約十万クレジットと考えると………、既に手元で自由に使えるお金は微々たるものですのね………)
 見た目は百六十前後の身長に、金髪碧眼のクォーター少女。家柄上、お金の動きについて触れる事も多かったため、すぐに計算できた。自由にできる金額が約五万クレジット。これから先、収入がいくらか次第で、この金額が安いか高いかが判断される。
(確か家具類は後で専用の引っ越し業者に頼めば、一日以内に届けてもらえるはずでしたし………、変に新しい家具類を買ったりせず、部屋にあった物を取り寄せた方が良いかもですわね? 嗚呼ッ! せっかく自分の部屋をアマリリスのようにコーディネイトできると思いましたのに………ッ!)
 花言葉を交え、一人かなしそうに額へと手の甲を当てる。
 ちなみにアマリリスの花言葉は『美しい』である。
「食堂エリアは一階の(エンジュ)の方向、大浴場は二階の椿(つばき)の方角ですよ。トイレは各部屋と食堂エリアにありますのでご心配なく」
 榛名の説明に、多くの生徒が首を傾げた。“エンジュ”? “ツバキ”? 方角とはどういう事か?
 皆の反応に気付いた榛名は、慌てた様子で補足説明する。
「このギガフロートは、低回転ではありますが、独楽のように自転運動をしているのです! そのため、東西南北が常に入れ替わってしまうので、方角を季節に置き換え、季節に合った花木の方向をギガフロートで使う固定方角として扱っているんですよ? っと言っても、実は生徒の間で決められた内容なんですけど、教師の人も使ってますから良いですよね?」
 なるほど、っと頷く者もいれば未だに首を傾げる者もいる。
 その一人である甘楽(つづら)弥生(やよい)は、首を傾げ、頬に手を当てながら独り言の疑問を述べる。
「方角を季節に置き換えるって出来るの?」
「四神、四聖獣の事だよ」
 弥生に答えたのは、未だ九曜に肩を借りてへばっている東雲カグヤだった。
「あ、カグヤ久しぶり。やっぱ受かってたんだ」
「ああ、当然だ」
「っで、四聖獣ってあの朱雀とか白虎だよね? アレがどうして季節?」
「四聖獣は方角と一緒に季節を表わす物でもあるんだよ。東の青龍が『春』、南の朱雀が『夏』、西の白虎が『秋』、北の玄武が『冬』ってな」
「ああ、なるほど! じゃあ、季節に合った花木って言うのは?」
「春なら『桜』、秋なら『楓』って言う、簡単なイメージで設定したんだろう?」
「楓は“葉”じゃないの?」
「細かい所は先輩か教師に聞けよ。俺が知るか。ってか、俺だって適当にイメージしただけだ。秋は楓じゃないかもだろ? 後で答え合わせしてもらえ」
 面倒臭そうに答えるカグヤに、「自分が説明し始めたくせに………」っと、不完全燃焼な知識欲を持て余し、弥生は更に訪ねる。
「じゃあ、(えんじゅ)とか椿(つばき)は何処の方角なのさ?」
「それはなぁ―――」
「槐は夏の花木だ。おそらく夏を表わす南の方角を露わしているんだろう」
 カグヤの言葉の途中、話が聞こえていたらしい桜庭啓一が親切心から弥生へと答える。
「―――ってをぉぃ………ッ!」
 説明を奪われたカグヤは若干不服そうに啓一の事を拗ねた目で見る。しかし、どう見ても自慢話をしていた所を逆に取られて膨れた女の子の拗ねた視線にしか見えない。もちろん啓一にもそんな風に映ったのだろう。軽く肩を鳴らし、カグヤの事を可笑しそうに笑い返した。
 そんな事お構いなしに、弥生は知識欲を満たす為に確認を取る。
「そうなの?」
「ま、まあな………。まあ、槐は縁起物の木として鬼門の方角に飾られる事の多い木ではあるが………」
 説明を奪われた腹いせなのか、若干蛇足の説明を付け加えるカグヤに、九曜は内心可愛い子供を見る様な気分になっていた。
「じゃあ、椿は? 季節柄だと………冬?」
「いや、椿はたぶん―――」
「椿は晩冬、早春に咲く花ですから、きっと冬と春の間、方角的に言えば北東を表わしているのだと推察されます♪」
「わきゃ………っ!」
 またもカグヤが答える前に、突然弥生の背後から飛びついて来た、金髪碧眼のクォーター少女、楠楓に説明を奪われ、カグヤはちょっとショックを受けた表情をする。
「ちなみに、私の見立てでは、春は『桜』、夏は『(えんじゅ)』、秋は『楓』、冬は『(ひいらぎ)』だと推察されます。季節の花に方角まで解って、面白いと思いませんか?」
「そ、そうだね? 教えてくれてありがとう。でもなんで僕に抱きついてるのかな?」
「うふふっ、それはアナタがオダマキの花の様だからですわ♪」
「花? ええっと………? ありがとう?」
「いいえ、くすくすっ♪ お二人もホウセンカの様に、私とお付き合いくださいね♪」
 楓はそれだけ言うと、楽しそうに何処かへと言ってしまった。
「えっと………? よく解んない人だけど、悪い人じゃないよね?」
 同意を求めた弥生が、カグヤと啓一に顔を向けるが、二人は同時にげんなりした表情で答える。
「「何処がだ………」」
 あまりに影のある反応に、驚く弥生。そんな弥生に対し、疲れて答えられない二人に変わって九曜が教えた。
「甘楽弥生さん。鳳仙花(ホウセンカ)の花言葉を知っているかしら?」
「え? なに?」
「『私に触れないでください』………よ」
 一瞬で弥生もブルーな気分になった。
 更に九曜は続けて教える。
「そして苧環(オダマキ)の花言葉は『のろま』」
「今度会ったら一発殴ろう」
 暗いオーラを放ち、弥生は涙目に拳を握るのだった。



 学生寮の部屋割は、かなり適当なシステムによって決められる。
 管理人室、つまり寮長室の手前に青透明な板がいつくもと並べられていて、それを生徒手帳に翳すと、まるでゲーム世界のオブジェクトだったかのように、ポリゴン片を散らしながら消滅する。生徒手帳には鍵ナンバーが登録され、ナンバー通りの部屋に行き、扉に生徒手帳を翳すと電子キーの要領で開け閉めできる様になる。そしてこの板は、誰もが適当に好きな物を早い者順に取って行けるようになっている。
 つまり、何処の鍵かも解らない鍵をバラ撒かれ、皆が解らないまま鍵を拾い集めていると、そう言う事だ。
(男女同室になるわけだな………。まあ、イマジン使ってある程度操作してるのかもだけど………)
 ぼやきつつ、東雲カグヤは四階、『楓』の方角に位置する部屋へ学生手帳を翳す。

 ピッ、パチンッ!

 簡単な音が鳴って鍵が開く。中に入って室内を見回したカグヤは感嘆の溜息を吐く。
 まず扉を入ってすぐ、人が二人分入れそうなスペースの広い玄関。右手奥にスペースが広がり簡単な台所が設けられている。それでも二人がかりで料理できそうなスペースに、満足感すら窺える。左手は壁だが、すぐに扉があり、その奥が脱衣所、トイレ、浴室となっているようだ。確認してみたがこちらも広い。浴室とトイレは脱衣所を跨いで別々になっているので、誰かが入浴中はトイレが出来ないと言う事はなさそうだ。
 戻って奥に入ってみると、左長に設けられた広い空間に、二つの窓が取り付けられている。大きな窓のおかげで光は充分入ってくるし、持って来るだろう家具の大きさを考えても、十二分なスペースが出来そうだ。部屋の左右の端にベットが一つずつあったが、それだけはガグヤにはあまりお気に召さなかった。根っからの和風暮らしが続いていた所為か、ベットで寝るのには慣れていない。あのベットは早々に解体し、布団と取り変えようと決める。
 ベットがあると言う事は、メインフロアはこの左長の部屋になりそうだ。しかし収納は長めに作られた左側、風呂やトイレなどのあった部屋に面している場所に引き出しがあるだけだ。この引き出しの収納次第では同居生活では色々困るのだが………。
 何の事はなかった。開いた収納スペースの中は、御屋敷にでもありそうな大きな木ダンスを持ってきても楽々収納できそうなスペースがある。これなら二人分の収納に問題はないだろう。
「後は同居人が来た時、荷物をどんな風に分けるか次第だな」
 結論付けたカグヤは、もう一度部屋を見回してから、ここまでずっと黙って付き従っていた己の僕を確認する。一瞬の逡巡を経て、カグヤは九曜の手を掴むとそのままベットに押し倒して覆い被さる。
「ん~~………、個人的にはやっぱり布団の方が雰囲気がある様な気も………、ホテルのベットとも思えば行けるか?」
「御望みでしたら先に布団を敷きますけど?」
 覆いかぶさる主に対し、少しだけ頬を染めながら笑い返す九曜。突然の事態に驚いている様子もない所を見るに、結構日常的な光景の様だ。
 反応に満足しながら、カグヤは九曜と一度キスをする。
「ちゅ………っ、いいよ。こう言うのは勢いだし。黒い着物姿の九曜は今日が初めてだしな」
「我が君が望んでくださるのなら、どのような装いも喜んでお受けします」
「じゃあ、今度巫女装束着てくれ! 好物だ」
「………最初に生まれた時、神威が私に着せた服ですか?」
「………、今初めて、俺は義姉様を本気で殴ってやりたいと思った」
 真顔で答える主が余程面白かったのか、九曜はクスクスッと笑いを漏らした。
 九曜は人差し指を自分の胸元、前掛けに引っかけると、鎖骨が見える様に首を斜め上に上げながら、前掛けをずらす。黒い装いとは裏腹に、女性らしい真っ白な肌が露わとなり、女性の象徴とも言える片方の膨らみが露出していく。
「我が君は、お義姉様相手でも独占欲が強い御方なのですね?」
 挑戦的な、しかし従順な色香を漂わせた瞳で主を見上げながら、九曜はゆっくりと焦らす様に前掛けをずらし………、その頂部分で引っかかる。
 思わず、カグヤが表情を硬くするのを見て、九曜はまたくすりと笑い、手を放してしまう。そのままカグヤの腕の中で寝返りを打ち、横向けになると、淫らに乱れた着物を整えようともせず、主へと好意の視線を向ける。
「攻めるのは得意ですが、攻められるのは戸惑ってしまいますか? “カグヤ様”?」
 普段とは違う呼び方。主従ではあるがその上で親しみを持った時に九曜がカグヤの事を呼ぶ、“親しみ深い従者モード”。カグヤはこっそりこの状態の九曜を“秘書プレイモード”などと呼んでいるが、これが案外カグヤのツボだったりする。
 なんと言うか、他の相手にこんな事をされると、突然一気に萎えてしまうタイプなのだが、九曜にやられると妙に扇情的で、魅力に満ち溢れて見える。九曜の方から攻められると、ちょっとだけたじろいでしまうのだ。
 気まずげに視線を逸らしてしまった一瞬を見逃さず、九曜は本当に可笑しそうに、だがとても愛おしそうに、カグヤへと手を伸ばし、その胸に手を当てる。
「よろしいのですよ? 私はアナタの僕として、独占されていたいのですから………。それとも、私では………不服でしょうか?」
 最後の瞬間、僅かに表情を悲しげに歪め、瞳の奥が隠しきれないほどの寂しさに潤まされた。
 限界を超えたカグヤが、九曜の唇を強引に奪い、そのまま彼女のはだけた服の中へと手を入れていく。彼女を僕として半年間、何かと彼女と肌を重ねてきたが、飽きる気配が全く出ない。自分に『義姉』と言う存在がいなければ、あるいは本気で彼女との情動のみに身を(やつ)していたかもしれない。そうとまで思えるほどに、カグヤは彼女の全てを味わっていく。
 あまりに激し過ぎ、息が続かなくなってしまい慌てて口を放す。イマジン体であるが故に、このイマジンの満ちたギガフロートに於いて、呼吸を殆ど必要としない九曜は名残惜しそうに、互いの引いた銀糸を見つめる。
 その魅力的過ぎる光景に目を奪われながら、すっかり出来上がっているカグヤは呟く。
「お前、どんだけ俺のツボを弁えてんだよ? MAX(マックス)の興奮ゲージが、軽く三週くらい振り切れたぞ?」
「我が君が望むままに、私はカグヤ様を愛しているだけです。アナタが私に向けてくれた愛情には、まだ足りないかもしれませんが………」
 それをこそが切ないと言わんばかりに、悲しげな表情を作る九曜。
 カグヤのゲージが更に六回分振り切れた。
 情緒を尊び、もう少し虐めてからおねだりさせるのが、カグヤとしての求める形なのだが、九曜相手では三割方上手くいかない。いつもは自分の方がエロエロなので、主導権を常に掴んでいられるのだが、九曜の心の準備が出来ていると、あっと言う間に向こうのペースになってしまう。それも驚異の誘い受け。一方的に攻めたいタイプのカグヤは、正に恰好の餌だ。
(ま、食われちゃっても良いんだけどね………)
 理性をふっ飛ばす事を受け入れつつ、カグヤはそのまま九曜へと、己の欲望を叩き込んで行く。
「あっ! カグヤ様………ッ! そのような所を、舐め―――ひゃあんっ!?」
「お? 今いい声出た?」
「んむ………っ!」
「なんで自分の口塞ぐんだよ? いつも聞いてるだろ?」
「カグヤ様以外に聞かれるかもしれないと思うと………」
「………すまん、今、ゲージが更に一週分振り切れたわ………。軽く興奮だけで死ねそうだ………」
「主を死なせたとあっては僕の恥………! どうぞ、私の()へ、愛しの我が君………」

「同居人の、人………? 先、来てる………?」

 鍵を閉めたはずの扉が開き、声と共に誰かが入ってくる足音。
八束(やたば)(すみれ)………、よろし、く………?」
 部屋に入ってきた紫色のショートヘアーに低めの身長でスレンダーな体形をした少女は、ベットの上で重なり合う二人を大きく見開かれていく茶色の瞳に、嫌という程写した。
 状況が理解できないまでも、何をしているのかは瞬時に悟ったらしく、ドンドン表情を赤く染め、口をわなわなと震えさせる菫と名乗った少女。入学早々目にする筈の無い光景に動揺し、一歩、二歩と、後ずさりしていく。
 一瞬、どうしたものかと悩んだ九曜が主へと視線を向ける。
 カグヤは菫を一瞥し―――、
「八束………」
 僅かに目を細める。だがそれも一瞬。すぐに九曜へと視線を向けて―――続き再開。
「んん………っ♡」
 咄嗟の事に声を殺し損ねそうになりながら、主の行為ならと、受け入れ態勢を全開で表す九曜。
 菫を無視して続行される状況に、再び混乱の波が押し寄せてくる。
「あ、あの………っ!? ///////」
「悪い八束。見てて良いから、先に済まさせて」
 簡潔に述べた無視発言に、菫はどうしていいのか解らず立ちつくし………。
 しばらくして、「見てて良いと言われたので?」っ的なノリで正座して状況を見守った。
 さすがに九曜はちょっと驚き、僅かに戸惑った表情を見せていたが、カグヤは相変わらずお構いなしだった。
 見られているという状況下でもお構いなしの年齢コード引っかかりまくりリアルブルーテープ映像に、菫は思わず問いかけずにはいられなかった。
「ド筋金入りの変態………ッ!?」
 抑揚のない声で、しかしはっきりとした発言で、最早問いなのかと聞きたくなる断言を口にした。
「………混ざるか?」
「超越した変態………ッ!?」
 二人が同居生活についてのルールなどを決めるため、話し合いの場を持つのは、菫が堪え切れなくなって一旦退出してから、更に三時間も後の話であった。



 02



 己の部屋を見つけ、中の確認を終えた(かなで)ノノカが真っ先にした行動は、持ってきたバイオリンを弾く事だった。
 荷物は愚か、楽譜すら出す手間も惜しみ、バイオリンを取り出したノノカは、簡単なチェックを済ませると、覚えている曲で最もテンポの速い曲を選び、感情のままに弾き始める。
 事故を起こし、取れる事の無い包帯を指に巻き、一生弾けないとまで言われたバイオリンを、今こうして弾く事が出来る。一次試験………、厳密には二次試験でそれを確かめる事の出来たノノカだが、あの時は能力としての(おもむき)が強かった。今の様に純粋な気持ちで曲を奏でる事で、やっとその実感を得る事が出来るようになる。
 嬉しい―――などと言う物ではない。それはまるで、片翼を()がれた鳥が、ついに片翼を取り戻した様な、そんな感動が全身を襲う。
 ふと、この部屋は防音が効いているのだろうかと心配になったが、最早構わないとさえ感じた。聞こえてしまっているならいっそ、聞こえてきた曲に見惚れさせてしまえと言わんばかりに、感情を込めた曲を奏でる。
 テンポの速い曲から静かな曲へ、静かな曲から楽しげな曲へ、リズムを変え、感情を変え、しかし、繋ぎをちゃんと合わせ、即席の組曲を完成させていく。
 身体中から汗が滲み始めるが、まったく止める気にはなれない。人生で最高の瞬間であるバイオリンを弾いていて、どうして飽きや疲れを感じられるのだろうか? そう言わんばかりに彼女は曲を奏で続けた。
 どれだけ曲を奏で続けたのか? さすがに腕が言う事を聞かなくなってきて、ノノカは曲の終わりを弾く。その終わりは、終わらせる事が名残惜しいと言わんばかりに寂しげな弾き終わりであったが、それ故に、彼女の音楽に対する愛情が染み渡っているようだった。
 曲を終え、弓を下ろしたノノカは、突然ドッと押し寄せてきた疲れに深い溜息を吐いた。
 物凄く疲れた。だが、心地の良い、とても充足した疲れだ。
 自然と笑みが漏れ出し、―――同時に送られて拍手に気付き、ハッとして我に返る。
 ノノカが視線を上げた先には、壁に寄り掛かってずっとノノカの演奏を聞いていたらしい少女が、楽しげな笑みを向けて拍手を送っていた。
 長い髪に、サイドに結わえられたリボンがチャームポイントになった可愛らしい少女だ。だが、その髪は七色に反射する光を見せたピンク色の髪をしている。普通ならありえない髪の色をしていた。
 『イマジン変色体』
 誰もが有するイマジンの影響を肉体的に受けやすい体質部分の事である。中には稀に、髪や瞳、肉体的な特徴に変化を(もたら)す事がある。
 例を上げるなら遊間(あすま)零時(れいじ)の瞳術使用時に瞳が赤く染まる物や、吉祥果ゆかりの幽体も、それに類する物だ。多少、異なるが、九曜の使用する剣の色も、それに該当する。
 また、完全に肉体を変化させてしまう事もあれば、異種族的な何かになってしまう事もある様だが、殆どの場合は外見上では解らない程度の変化が普通だ。これらを数値化し、解り易く表わした個性が、『ステータス』と言われる物の正体だ。
 こう言う意味に於いては、東雲カグヤが『神格』や『霊力』と言ったステータスを持っているのも、イマジン変色体を有していることの証明と言える。
 それでもノノカの前で笑っている少女の様に、解り易く髪が七色に変色しているのは、やはり珍しいタイプで、なによりギガフロートに訪れなければ見られない存在だ。
 そんなビックリポイントを持った彼女に、自分が演奏している所をずっと見られていたと言う事も加わって、なんと返して良いか解らないノノカに、少女はニッコリ笑って見せた。
「良い曲だったね! 聴いてて心が洗われるようだった♪ ………ああっ! 自己紹介遅れたね? 歌姫目指して16年! 七色(ナナシキ)異音(コトネ)でーす☆ 夢は世界中を楽しませるエンターテイナーよ♪」
 パチリと慣れた動作で可愛らしくウインクして見せる異音。
 まるでアイドルの様な仕草にノノカは不思議と警戒心を削がれていた。
「あ、はい、よろしく。奏ノノカです。あまりさえ無い感じの女の子だけど、音楽には自信があります。私の演奏で、皆に力を与えちゃいますよ!」
「わおっ! それ最高! 私も歌には自信があるの! よかったら今度デュエット組みましょうっ☆」
「わ、私歌は………、でも、伴奏(ばんそう)で良かったら!」
「OK~♪ じゃあ、二人で合う曲考えよう~~! 私曲作るの得意だから任せて☆」
 趣味の合う二人は、さっそく意気投合し、こうやってトントン拍子に話を進めて行った。間もなく部屋でのルールについても話し合いが始められるだろう。
 こう言った風に、巡り合わせの良い部屋割をしてもらった者達もいた。



 03



 一方、こんな部屋割をされた者もいた。
「ぎゃあああぁぁぁぁ~~~~~~~っっっ!!! もう嫌だ~~~~~~~っっっっ!!!!」
 四階、自室の部屋から飛び出した相原勇輝は、勢い任せに廊下を走り抜け、偶然その場にいた女性の胸へと飛び込んでしまった。
「わぷっ!?」
「ひゃあんっ!?」
 ぶつかった相手は短髪黒髪、鋭い目つきに、タンクトップとカーゴパンツを愛用した、意外と大きな胸をした女性、鋼城(こうじょう)カナミだった。
「え? なに? 子供?」
「た、たたたた、助けてくださいっ!? 手がッ! 手がこうわしゃわしゃぁ~~な人が………っ!!」
 涙目の勇輝が必死な様子で身振り手振りで何事かを説明しようとするのだが、その説明に使われた手が、思いっきりカナミの胸を鷲掴みにしていた。しかも巧みに指はわしゃわしゃと動かされているので、もう完全に正面から堂々と揉んでいる状態だ。
 瞬時に状況を悟った二人は同時に顔を赤くし―――、
「恐怖も変態も叩いて直すっ!!」
 カナミの鉄拳が、齢十歳の少年の顔面に容赦無くめり込み、「ぷぴゃんっ!?」などと言う悲鳴を上げさせながら何度も床に叩き付けられて吹き飛ばされた。
「す、すみま………せん」
 床に大の字になって倒れた勇輝がなんとかと言った様子で謝罪を述べるのだが―――。
「いいのよぉうん♪ 何処まで逃げたって、ちゃぁ~~んと、捕まえて、あ・げ・る・からぁん♡」
 答えたのは別の人物。やたらとクネクネした動きで迫る影が、倒れた勇輝へと迫る。
「―――っ!?」
 危険を察知した勇輝は、瞬時に飛び起き、何とか走って逃げだそうとするが、その影は瞬時に幼い少年の両肩を掴み、お人形の様に抱き抱えてしまう。
「い、イヤです止めてください~~~~っ!? よく解らないけど、これ以上苛めないで~~~~っっ!?」
 年相応に、本気で嫌がる子供が恐怖に顔を青ざめ、本気泣きしていた。
 入学試験で積極的に他人を庇っていた所を見ていたカナミは、この情けない少年に微妙な視線を送っていたのだが………、すぐにそんな場合じゃないとも判断できた。
 正直、子供とは言え、男子に正面から胸を揉まれて、見捨てる気マンマンだったカナミだが、クネクネ動く影が、なんか本気でヤバく感じられた。
「うふふふふふっ♪ そんなに嫌がっちゃって~♪ 本当に可愛いわね~~! 大・丈・夫。ちょっと脱ぎ脱ぎしてくれるだけで良いのよぉん? あとはお姉さんに、お・ま・か・せ♡ 優しくしてあげるわ~~~♪」
「いやぁ~~~~~~~~~~~っ!!!?」
 なんと言うか………このまま放っておくと、イタイケナ少年が、入ってはいけない扉を強制的に潜られそうな気がして、正直母性本能と言うか、大人の義務感的な何かが放っておく事を激しく拒否していた。っと言うかどう見ても変質者とその被害者にしか見えない。
「ちょっと、何だかよく解んないだけど―――」
 止めようと声を掛けた時。その言葉が制止の意味を紡ぐより早く、カナミは頬に手をあてられていた。
「―――っ!?」
 咄嗟に離れようとしたが、身体が動かない。気付いた時には眼鏡にウェーブの金髪グラマー女性が目の前に立っていた。大人びた妖艶な顔が近づけられ、超至近距離に迫った彼女は、カナミの耳元で一言―――、
「動いちゃ、だ~~めっ♪」
「~~~~~~ッッ!?」
 本能的に上げようとした声が声にならない。頭の中で上げている警報に、全力で従おうとするが全く言う事を聞かない。
 そんな恐怖の中、カナミは至近距離に迫った大人の女性の目を覗き込まされる。
 自分を見て、妖艶な笑みを浮かべる姿は、生娘(きむすめ)の反応を楽しむ妖婦(ようふ)さながらで、カナミは胸中で叫ばずにはいられなかった。
(く、食われる―――っ!?)
 そんな感想を抱いてる事などお構いなしに、彼女はカナミの顔を弄ぶように撫で、呟く。
「アナタのお顔、いただいてくわよん♪」
 次の瞬間、カナミの目の前に立つ女性が消え、変わりに鏡が出現した。
 しかし、それは妙な鏡だ。カナミは自分でも解る程引き攣った顔をしているはずなのに、鏡の中のカナミは見た事の無い妖艶な笑みで笑っている。
(って、違う! 鏡じゃないっ!?)
 気付いた瞬間、鏡と見違う程カナミと瓜二つになった謎の人物は、カナミの身体能力を活かし、十歳の少年を力付くで部屋へと連れ去っていった。
「この身体! 思いの外使えるわねん♪ 身体つきもまあまあだし、しばらく借りるわよぉ~~ん♪」
 そう言って消え去った二人を呆然と見過ごしてしまったカナミは、しばらくの混乱と沈黙を経て、重大な事実に気が付く。
「ちょっとっ!? カナミの姿で一体その子になにするつもりですか~~~~っ!?」
 慌てて追いかけたカナミだが、部屋には既に鍵がかけられている。さすがは『イマジネーター』を育成する機関の生徒寮だけあって、カナミがどんなに全力で殴ろうが蹴ろうが、能力を使って周囲に爆音を響かせても蹴破る事はできない。

「や、やめ………っ!? やめてくださいっ!? そんな他人の姿で………っ!?」
「あらあらぁん? 可愛い子ね~♪ 大きくなるどころか竦みあがっちゃうなんてぇ~~♪ もうっ♪ お・子・さ・ま♪」
「だ、ダメです~~っ!! それだけは勘弁してください~~~~っ!!?」

 その癖、扉越しに声だけ聞こえてきた。
 カナミは泣きそうな顔になって扉を蹴り続けた。
「人の姿借りて一体何やってるのっ!? 人権侵害だ~~~っ!?」
 そうやっていつまでも扉を蹴り続けるが、傷は愚か、衝撃が伝わっているかさえ怪しいありさまだった。
 さすがに二時間も続ければ不毛さから精神的に疲れて大人しくなったが、扉の向こうからは、放送コードに引っかかりそうな悲鳴が響き続けている。
「え~~っと………? カナミ? 気は済んだ?」
 涙目のままのカナミは、背後から掛けられる声に振り返る。そこには自分の部屋の同居人が、気まずげにこちらの様子を窺っていた。
 黒髪に紫色の瞳、髪は腰に届く程長いのをポニーテールにしている。背は高くもなく低くもなく、胸もそれなりのなんとなく女の子女の子してるっぽい子だ(あくまでカナミの私見)。名前は鹿倉(ししくら)双夜(ふたや)と言い、カナミを立てる形で話してくれたため、部屋でのルールがあっと言う間に決められた。女の子同士と言う事もあって同意見の内容も多かったのも原因の一つだろう。
 カナミは不毛な攻撃に疲れ、同居人の胸へと飛び込んで(むせ)び泣く。
「なんか変身能力持ってる奴が、カナミの姿で十歳児に自主規制を~~~………っ!?」
「ごめん、途中までしか解んないよ………? でもたぶん、その人は御飾音(みかざね)カリナさんじゃないかなって思う? 試験中に何度か話したから」
 双夜はカナミを抱きとめながら、意味の解らない状況にただ困惑するしかない。とりあえず、攻撃を受けていた扉の向こうで未だに聞こえる危うい声には耳を傾けない事にした。
「とりあえず、引っ越し手続きしてくる?」
「うん………」
 二人は手を繋いで仲良く廊下を歩く。
 どうやらこっちはそこそこ上手く行っているようだ。(扉越しの声から視線さえ逸らせば………)



 04



 オルガ・アンドリアノフが部屋を見つけて早々にした事は、自分の能力で呼び出した兵士達に、簡単な整理を頼み、自分はさっさとベットに突っ伏して寝る事だった。
 実の話、彼女は自分が使う能力のリスクを、この学園に入学して最初に体験した生徒となっていた。
 彼女の能力『カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)』は、大量の兵士を呼び出し、その兵士達が認識した情報を自分の情報として共有できるという優れた能力を持っている。だが、その反面、大量に送られてくる情報量に脳内を圧迫され、使用後に精神的な疲れが多大に掛る様なのだ。おかげで彼女は能力使用後、とてつもなく眠くなる。
 そもそも面倒臭がりな性格ではあるオルガだが、この就寝は能力による疲労だ。身の回りの整理もしない内から就寝してしまうのは、後々もっと面倒になるという考えを思考の端に残しながらも、彼女は夢の世界の誘惑に抗えなかった。
 そんな彼女が目を覚ましたのは、トントントンッ、っと言うまな板を叩く様なリズミカルな音に、鼻孔を(くすぐ)る美味しそうな匂いだった。
「………рис(リス)?」
 お昼頃に寝たのを思い出しつつ、匂いから『御飯』かとロシア語で呟き、未だに眠たげな身体を起こす。
 ベットに広がる長い銀の髪は、寝癖で飛び跳ねまくっているが、それでも美しさを損なう気配を見せていない。白い肌と相まって、まるで妖精めいた姿に、肌蹴たパジャマ姿と言うのは、見る者が見れば魅了されてしまいそうな扇情的な姿ではある。
 しかし、台所でトントンッとやっている人物には、あまりそう言うのには興味が無い様子であった。オルガの呟きに気付き、その人物は壁越しに声を掛ける。
「起きたの? ちょっと待ってね? 今軽食作ってるから」
 その言葉と共にオルガのお腹が鳴った。
 考えてみれば、朝食は軽く食べた様な気がするが、お昼はぶっ通しで寝てしまっていた。今が夕方くらいだと考えると、お腹が空いてもおかしくない。
 お腹が空いたのなら食堂に行く方が早いのだが、気だるげな今の気分ではいく気になれない。大人しく待つ事に決めたオルガは、その後すぐに御飯を乗せたお盆を持ってきた少女の姿に「本当に早いっ!?」っと、軽くショックを受けた。
 黒く長い髪を、うなじの辺りで纏めた少女は、その大人しめな髪型の所為もあって、少々大人びた印象を受ける。白のエプロンに柔和な笑みは、まるで落ちつきのある母親の様でさえあった。
 少女は、既に引っ越し業者に頼んでいたのか、数ある段ボールの中から小さい座卓を取り出し、それをオルガのいるベットの上に置き、続いてお盆を乗せる。オルガがわざわざベットから降りなくても良いようにという配慮だ。オルガは「まるで病室のベット見たい………」っと言う感想を浮かべながら、女の子座りで食卓に着く。
 軽食と言うだけあって、お盆の上にあったのはグラタンの様な物だった。オルガの事を外国人だと認識していたらしく、用意されたのも(はし)ではなく先の尖ったプラスチックのスプーンだった。
「いただきます………」
 ちゃんと日本語で合掌しながら言ったオルガは、試しに一口食べて見たのだが―――、
(お、美味しい………っ!? グラタンの様だけど、これってボルシチっ!? 寝起きでも食べ易いのかサクサク食べれるっ!)
 小さなお椀に盛られているグラタンっぽいボルシチを夢中で食べるオルガの姿に、満足そうな笑みを作った少女は、また荷物の中から(くし)を取り出し、食事に夢中になっている隙にオルガの髪を()いてやった。
 なんとなく気付いていたオルガだが、梳き方がとても上手で気持ち良かったので放置し、自分は少ないボルシチを一生懸命食べる事にした。
 っとは言えさすがは軽食。あっと言う間に空になってしまい、少々切なさが残る。
 思わずスプーンを口に咥えながらお椀を見つめてしまったオルガだが、気付いた時、自分はちゃんとパジャマを着直した状態で、髪も綺麗に()かれていた。妖精めいた美貌は、妖精その物の美しさを得たと言わんばかりに輝き、オルガ自身、鏡を見たわけでもないのに、少しだけ背筋が伸びる気がした。
「あなた、御節介?」
「友達によく言われたなぁ~~。ちょっと面倒み良過ぎないか? って………。そんなつもりないんだけどなぁ~~?」
 面倒見が良いとか言うレベルじゃない。まるで家政婦の様だとさえ思えた献身(けんしん)っぷりには、オルガをしても脱帽するばかりだ。
「ああ、申しおくれました。僕の名前は甘楽(つづら)弥生(やよい)です。これから君の同居人ね? これでも栄養士の勉強してたから料理には自信があるよ? 良かったら、またご飯食べてくれる?」
 それを聞いたオルガは、目をキラキラとさせ、彼女には珍しくちゃんと自己紹介。
「オルガ・アンドリアノフ。ロシア人。日本語は問題無い。将来の夢はニート!!」
 何故か『ニート』の部分だけ強く発音し、オルガは弥生の両手を取って懇願(こんがん)した。
「私の嫁になってっ!!」
「ええっと………? 旅館の仲居さんとかなら経験あるんだけど………?」
 弥生はどう反応して良いのか解らず、そんなずれた発言をしつつも笑顔で対応した。
 どうやらこの部屋の二人の関係も決まりそうだ。
 一部、大変な所もあるが、概ね同居人は相性の良い関係で紡がれつつあるようだった。






弥生「寮長さん! 質問良いですか~~?」

榛名「はいなんでしょう?」

弥生「ギガフロートは全寮制ですが、上級生達は何処にいるんですか? ちょっとまだ目にしてないんですけど?」

榛名「では、まずは寮の説明をしますね」

榛名「学生寮は円柱状の建物で、全三十階建てとなっています。一階は寮長室と、食堂、トイレ、その他学業用の必要施設で埋め尽くされています。二階以上が学生の部屋となっているんですよ。一年生の寮は四階までとされ、二年生の部屋が五階から十五階までとなっているんです。二年生からは、個人部屋も解放されているが故の階層フロアの多さなんですね」

榛名「十六階から十九階は、二年生以上が同伴の場合のみ使用可能となっているリゾートエリアが存在するんですよ?」

弥生「何それ羨ましい!?」

榛名「一年生には公言できない決まりなので、誰か上級生のお友達を作った時に連れて行ってもらってくださいね?」

榛名「そして二十階から屋上までが三年生のフロアとなっています。三年生は相部屋の方が多いですね。何しろ恋愛関係になって一緒に暮らしていらっしゃる方もいますから」

弥生「え!? いいのそれっ!? 問題じゃないの!?」

榛名「自己責任ですから♪」

弥生「なにそれ、ちょっと怖い………」

榛名「三年生の解放エリアは、寮の施設でも訓練が出来る特別な場所です。だから食事以外の目的で降りてくる事は無いですね。この寮、エレベーターがありませんし」

弥生「三十階建てなのに!?」

榛名「皆さん普通に飛び降りたりとかできちゃいますから。普通に階段も苦にならないと言う方もいらっしゃいますし」

弥生「イマスク生、既に恐るべし………」


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一学期 第三試験 【決闘】

この作品始まってからの、祝一戦目と言う事もあって気合を入れました。
入れ過ぎて一戦だけで一話使っちまった………。
その分、楽しめる内容となっていると思いますので、どうぞ気合を入れて読んでください。
マジでしぶとく長い話です。
そしてこれがこの学園のデフォルトです。


 05



 学生寮一階、(えんじゅ)の方角、学生食堂では、二階エントランスまで用意された実に広い空間だ。全校生徒五百人以上が一度に来ても良いようにと考えられているからとはいえ、その広さは入学試験時の屋内ホームにさえ匹敵する。寮は棟ごとに学年別で別れているため、滅多に上級生と交流する事はないが、この食堂は別だ。唯一上級生と下級生が共に使う場所と言える。
 が、上級生の殆どは、お金の問題から食堂を使わず、自炊する者が増えてきている。
 食堂のメニューは、一番安い食事でも百五十クレジットだが、これは小さい御椀の御飯に、味噌汁だけだ。他には沢庵(たくあん)も梅干一つも追加されない。こんなバトル推奨の学園で、育ち盛りの少年少女がそんな物で満足するはずが無く、必然的に高いメニューを選んでしまう。その額は約二百五十クレジット。これを毎日三食選ぶとなると、正直、節約したいと考える学生にとっては窮屈な値段となる。必然、夕飯時の食堂には一年生の貸し切り状態となっていた。
 そんな中、適当な定食を選んで空いている席に着いた明菜理恵は、箸を取ってから「しまった………」っと後悔していた。
 彼女の右隣りには、珍しく九曜を連れていない、紫の紺袴の東雲カグヤが、上品な手つきで親子丼を美味しそうに食べている。
 その逆、左隣ではゴスロリ衣装のツインテ少年、水面=N=彩夏が、トンカツ定食のトンカツに掛けるソースが四種類ある事に、悩まされている。
 正面には、青の混じった紺色の髪を短く整えられ、何処か学者然とした様な雰囲気を纏い、可愛いらしい顔をした黒瀬(くろせ)光希(みつき)が、定食の鮭の骨を慣れた手つきで綺麗に取り除いている。
 前方斜め右では、紫色の髪をポニーテールにまとめたクールビューティー風の小金井(こがねい)正純(まさずみ)が卵で溶いたネギ入り納豆をかき混ぜ、御飯にまぶし、健康第一と言うかのような真面目な顔でしゃくしゃく食べ始めている。
 前方斜め左では、白髪に金色のタレ目気味の眼をした少女、緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)が白いシャツを着ているのにカレーうどんを選んでしまったミスに今更気付き、難しい顔で慎重に麺を啜っていた。
 この状況を再度確認した理恵は改めて思う。(しまった………)っと。
 何故彼女がそんな感想を浮かべるのか、その理由は周囲の人間性にある。とある事情で理恵はこの学園の生徒の事をいくらか先んだって知っていた。だから解ってしまう。今自分の周囲を囲っている奴等は全員―――。
(男ばっかじゃんっ!? ………一人微妙だけどっ!?)
 そう、カグヤと彩夏(さいか)は既に言うに及ばないだろうが、光希(みつき)正純(まさずみ)陽頼(ひより)もまた、女性ではない。約一名、完全に否定するのは躊躇う人物もいるが、とりあえず女性ではない。
「お? なんだこの席は? 女の子ばっかりとは豪勢だな? 美しいお嬢さん方? 同席よろしいでしょうか?」
 金髪碧眼の色男、ジーク東郷が現れ、そんな事を言い出すものだから理恵は「コイツバカかっ!?」っと叫びたくなった。その席の殆どから苛立ちに似た声が返っていく。

「「「「(私)(僕)俺は男だ」っ!!」」」

「紛らわしいよっ!? いや、女顔の男に言うのもなんだけど、これだけ集まってたら本気で紛らわしいだろうっ!? ってかなんでこんなにオカマばっか集まってんだよっ!?」
「これは家の正装だ」
 っと渋面のカグヤ。
「特に女装してるわけじゃないだろう!?」
 っと仏頂面の光希。
「俺の何処が女だよ?」
 っと困惑気に正純。
「趣味だ」
 っと、彩夏。
「「「「何か問題あるか?」」」」

 バンッ!!

「「明らかに一人問題あるだろう~~~~~っっ!!?」」
 つい、我慢できず理恵はジークと一緒にツッコミを入れてしまった。
 その様子に女顔四人が軽く驚く。カレーうどんと格闘していた陽頼は無表情に食事を続けるばかりだ。
 他の席を探すのも億劫になったのか、彩夏の隣に座るジークは、嫌そうな顔で面々を見る。
「しかし、これだけ美が揃っていて、美少年しかいないってはどうなんだ? これじゃあ口説く事も出来ん」
「まて、私は正真正銘の女だぞ! 口説かれたくないけど!」
 瞬時に否定する理恵に、ジークは「しまった口説き損ねたっ!?」っと言った感じにショックを受けた表情をする。
 そんなジークに向けて彩夏は両の手を広げた。
「私はいつでもウェルカムだ」
「だが男だっ!!」
 慌ててツッコミで回避するジークだったが、彩夏はかなり真面目な顔で瞬時に返す。
「だが、私は両刀だっ!!」
「「黙れよっ!!」」
 再びジークと理恵の同時ツッコミを受ける。
 めげずに彩夏は全員へと向き直り………。
「だからいつでも告白しに来てくれ」
「「「こっちを見るなっ!?」」」
 光希、正純、カグヤが身の危険を感じて瞬時に応対する。
「でも、私にも好みがあるから振る時は振るけど」
「「「「「なんでお前が上位存在風に威張ってんだよっ!?」」」」」
 ついに陽頼以外の全員から突っ込みを引き出した彩夏は、むしろそれこそ嬉しかったと言わんばかりに満足そうな表情をした。
 それを見ていた陽頼は、何故か彩夏の事を興味深そうに見つめる様になった。気になったカグヤが彩夏に尋ねる。
「なんでこの子お前のことじっと見てんだよ?」
「うむっ、私と同室になってな、受け答えが殆ど出来ん奴だったが、中々可愛い子だぞ」
「俺の返答にはなっていないが意味は解った。つまり同室で懐かれたのな?」
「ああ、いつの間にか女の子になっていたがな! まあ、些細な問題だ」
「全然些細じゃ―――っ!? ………いや待て? 『イマジン変色体』ってやつか? しかし男女その物が変化するってあるのか? 獣耳とか、翼とか、一時変身とかなら知ってるけど………?」
 カグヤと一緒に皆もツッコミを入れようとしたが、『イマジン変色体』っという聞き慣れない言葉に、口を閉ざしてしまう。カグヤはその後もぶつぶつと呟き、何やらイマジンに詳しそうな口ぶりで考察していたが、すぐにお手上げと言った表情になった。
「解らん………。性別変換なんて能力以外で可能とは思えんし、それを可能にする能力の意味も解らん。ただの変身じゃないっぽいしな………。このレベルになると義姉様辺りにでも聞かんと―――」
「呼んだかカグヤっ?」
 それは唐突。
 突然カグヤの頭上から現れた、千早を重ねた巫女装束の女性が現れ、カグヤを腕の中に抱き寄せた。小柄なカグヤは、それだけで腕の中に隠れてしまい、頭だけが女性の胸の間から飛び出している状態になった。
 カグヤは心底驚きながらも、馴染みある懐かしい感触に安堵し―――、
「ぐ~~………」
 ―――し過ぎてあっと言う間に睡魔の餌食となった。
「ん? お(ねむ)か? いいぞ。久しぶりに抱っこして寝かしてやろうか?」
 慈愛に満ちた優し過ぎる声に、カグヤは抗いようのない安心感に包まれ、完全に意識を手放した。
「ねんなよっ!?」
 カグヤの正面にいた正純は、我慢できず先にそっちを突っ込んだ。
 それで目が覚めたカグヤは、若干頬を主に染めながら、しかし大人しく女性に抱っこされたまま、彼女へと話しかける。
「義姉様、何処から飛んできたんです?」
「刹菜の部屋から。お前に呼ばれた気がしたからな♪」
「そうでしたか」
 嬉しそうに答える女性にカグヤは素直に頷いた。
 普通は、「そう言う意味じゃないだろう!」っ的なツッコミをしそうだが、カグヤの質問は、むしろ女性が答えた通りの意味だったので問題はない。
 カグヤは知っているのだ。この義姉が、時間や距離くらい超越するのに、大した問題はない。現れた事自体、既に不思議に思う程の事でもないのだ。
 だから安心しきっていたカグヤだが、周囲の生徒はそうもいかなかった。
 何故なら、カグヤが彼女を知っているように、他の者達も彼女を知っていたからだ。
 理恵が席を離れ、ゆっくりと距離を取る中、周囲の人間は眼を丸くして女性を見ていた。
「まさか………! 『東雲(しののめ)神威(かむい)』………っ!」
 思わず、光希が彼女の名前を口にした瞬間―――、あまりに鋭い視線が冷気となって彼を貫いた。それがただ睨まれただけだと気付く事が、光希は出来ないでいた。
 信じられなかったのだ。確かに自分は巫女装束の女性に睨まれている。だが、それがイマジンによる能力的な何かではなく、純粋な殺気を当てられたが故に本能が悲鳴を上げているなどと、理解したところで信じられず………、信じたいとも思えなかった。
 声が出ない。たった一人、自分にだけ向けられた殺気に、光希は訳の解らない恐怖を感じた。ただ黙って固まっているしかない光希に、女性はカグヤに向ける物とは全く違う、冷た過ぎるほどに冷たい声で―――、

「 誰が呼び捨てを許した?(身の程を知れ) 下級生(劣等種) 」

 その瞬間、声が二重になって聞こえる錯覚を得た。これは入学試験の時、カグヤが英語で話しかけられた時に起きた現象と同じ、『イマジネーター』の本能が、相手の言葉を理解しようとし、頭の中で自動的に言語変化を行った結果起きる現象だ。
 つまり、光希はこの瞬間、女性の『上級生』としての発言を、本能的に『上位存在』としての発言だと認めてしまったのだ(、、、、、、、、、)
「す、すみません………」
 光希は何も考える事が出来ず、ただ首を垂れるしかできない。その癖、周囲の人間はまったく殺気を受けていない所為で光希の態度を「恐縮し過ぎ」とさえ捉え、失笑を浮かべている者さえいた。
 だが、それも仕方ない。長い付き合い故に、光希の態度から察する事の出来たカグヤでさえ、女性が向けるさっきの恐ろしさをまったく知らないのだから。
「か、かかかかか………っ! 神威様っっ!?」
 だが、光希の緊張は、偶然にも近くにいた一人の生徒によって解かれる事となった。
 席を立ち、駆け寄ってきた少女は、東雲神威の大ファン、甘楽弥生だった。
「か、かかかかカグヤっ!? ほ、ほほほほホントにッ!? 神威様がおねねねねええ―――ッ!?」
「落ちつけ弥生、どもり過ぎだ………」
 カグヤに落ち付く様に言われても弥生の興奮は止まらない。なんせ、彼女が入学してきた目的の半分は、この神威に憧れたからでもあるのだから。
「なんだこいつ?」
 神威が弥生ではなく、カグヤに向けて質問する。
 視線を逸らしてもらった光希はやっと一息ついた。
「甘楽弥生。義姉様のファン」
「あああええっと………っ!? 甘楽弥生です! 勝手にファンなんかやらせてもらっちゃってます! よろしくお願いしますっ!!」
 ガツンッ!! っとお辞儀した拍子に額を机にぶつけたが、弥生はテンパリ過ぎて、そんな事さえ気にならない様子だ。
 しかし神威は全く興味が無い様子で一瞥だけしてカグヤへと向き直る。
「ところでお前、九曜はどうした? ちゃんと屈服させたんだろう?」
「いや、ちょっとやりすぎたんで………、今ベットの上でばててる」
「相も変わらず仲の良い奴らだ………。義姉は嫉妬しているぞ?」
 拗ねた顔で言いながら神威は義弟の首を軽く締める。それだけで窒息しそうになったカグヤは必死にタップ。神威はすぐに腕を緩めるが、頭の上に顎を置いてふてくされる。
 っふと、周囲を適当に見ていた神威は、何を思ったのか、悪戯を思い付いた子供の顔で笑った。
「おいカグヤ? お前ちょっと、ここにいる連中の誰かと戦ってみろ?」
 その発言に、カグヤ以外の者達も一斉にざわめいた。
「“此処(食堂)”でいきなり戦えって言うんですか?」
「問題無い。この学園の校則には、互いの生徒手帳を重ね合わせてから行う『決闘』っと言うシステムがある。ちゃんとした手順さえ踏んでしまえば、何処でなにをしようが全く問題ないのさ。………っと言うわけで誰かと戦ってみろ? 私が直々に検分(けんぶん)してやる」
 その発言に今一度ざわめきが起こる。
 決闘にではない。この勝負を、あの学園最強の名を持つ東雲神威が立ち会う事に、自然と一年生たちは興奮していった。
「か、カグヤ! 俺とやろう! 俺が相手になる!」
「いや、僕とやってくれ!」
「私と相手してよ!」
 たまらず何人かの一年生が声を上げ始める。カグヤは苦笑いを浮かべつつ、瞬時に値踏みを始める。義姉に言われた以上、彼に断ると言う選択肢は存在していないのだ。
「カグヤっ! 僕とやろうよ!?」
「いやだ。弥生とだけは絶対やらねえ」
「なんでぇっ!?」
 絶対とまで言われ拒絶された弥生をしり目に、カグヤは若干冷や汗気味にそっぽを向く。
(弥生の能力『ベルセレク』は、戦闘状況に合わせ強化を施していくとんでもない能力だ。九曜を欠いた状態でコイツと戦うのは避けた方が良い)
 義姉が見ている以上、負けるわけにはいかない。この一戦は何が何でも勝たねばならない。確実に勝てる相手がいるわけではないが、それでも弥生と戦うのはあまりにリスキーと考えた。
(何より、アイツの能力で最も恐ろしいのは派生で得た『ウルスラグナ』の方だ。アイツが『ウルスラグナ』のスキル『戦士の権能』を見せたのは塾生時代たったの一回。その上、未だにスキルの空を一つ持っているとなると、不確定要素が大きすぎる。………俺だって、今は切り札を使う条件が揃ってないんだ。軻遇突智(カグヅチ)だけで弥生とやりあったら確実に死ぬって………)
 ともかく別の相手をと探すカグヤの目に、相原勇輝の姿が映った。
(勇輝いたのか………? って、なんで既に死に掛けてんだ? まあ、アイツもアウトだな。十五以下の世代が作りだすイマジンは思い込みの強さで強力になってる。軻遇突智一択の俺が戦うべき相手じゃない)
 次に目に入ったのは浅蔵(あさくら)星琉(せいる)だったが………。
(確認は取れてないが、奴が巫女だと言うなら確実にあの(、、)浅蔵家だろう。西洋が入った朝宮、分家続きですっかり廃れた東雲と違って、浅蔵はそれなりの家系だ。九曜のいない今の俺じゃ勝ち目はない)
 そうやってカグヤは消去法で考えていくが、それだと切りがないと気付く。
 イマジネーターの実力はほぼ均等。同級生で、それも入学したての時点では、圧倒的、もしくは確実な実力差が出来るわけもなく、選択する権利をいくらカグヤが持っていても、確実に勝利できる相手を選ぶ事など出来ないのだ。
(ならいっそ、イマジネーターの勘とやらに掛けてみるかな?)
 決めたカグヤは周囲の者を注意深く見据えながら、己が戦うべき相手を見定める。
 視線を巡らせ、カグヤの直感が導いた相手は………。
「………」
 視線が止まる。そこにはガタイの大きな男が、興味深気にこちらを見据えていた。男の頭頂部に、僅かに二つほどコブの様な膨らみが見えた。「あれはなんだ?」っとカグヤが首を傾げた瞬間。
「アイツか? よしお前、カグヤと戦え」
「義姉様せめて俺の意見を聞いて?」
 神威に反論したカグヤだが、当然受け入れられない事など解りきっているので、彼は仕方なしに大男に向き直る。
「東雲カグヤだ。相手頼めるか?」
「俺で良いのかい?」
 男は心底嬉しそうに口の端を釣り上げた。
 肩を竦めて答えるカグヤをYesと捉え、男は懐から生徒手帳を取り出す。
「俺ァ伊吹(いぶき)金剛(こんごう)だ。よろしく頼むぜェ」
 カグヤは生徒手帳を袖から取り出して応じる。
 互いに生徒手帳を重ね合わせると、一瞬だけ空間に何かが広がる気配が過ぎ去る。それが生徒手帳にあるイマジネート(システム)、『決闘』が学園側から正式に認可された証明である。
 それを唯一知る神威が手を上げ、二人に一定以上離れるよう促す。
 距離にして僅か八メートル。イマジネーターの身体能力を有すれば簡単に埋められる距離。金剛が拳を構え、カグヤは袖に忍ばせておいた戦扇を取り出す。それを確認した瞬間、神威は大きな声で告げる。
「これより、伊吹金剛と東雲カグヤのノーマルルールでの決闘を始める! 立会人は、私、東雲神威が務める! バトルカウント! (スリー)! (ツー)! (ワン)! ………開戦!!」
 瞬間、開始早々に動いたのは金剛。床を爆発させるほどの衝撃で踏み出し、一瞬でカグヤへと肉薄する。
「―――ッ!?」
 一瞬気づくのが遅れたカグヤだが、ギリギリ反射で拳を躱し、横合いへと飛び退く。

 バンッ!

 空気が破裂するような轟音が鳴り響き、金剛の拳の先が軽く吹き飛ぶ。拳の衝撃波がいかほどのものか証明する一撃に、周辺にいた者達は冷や汗をかいた。
「―――ってこら~~っ!? 何しやがんだぁ~~~っ!?」
 運悪く衝撃に巻き込まれた面々の中から、背中まで伸びた長い黒髪で冷たい印象を与える鋭い目付きをしている少女が文句を口にした。
「おおっとスマン? ええ~~っと………? カルラ•タケナカだったか?」
「そうだよ!! 入学試験の時協力してやったの忘れて何してくれるっ!?」
「いやはやホントすまんかったなぁ~~!」
 本当に悪いと思っているのか解らなくなりそうな笑いを上げる金剛に、なおも切れそうになるカルラだったが―――、
「決闘が認可された以上、そこでなにが起ころうと自己責任だ。巻き込まれた奴は巻き込まれるのが悪いんだよ」
 神威のどうでも良さ気な言葉に一蹴されてしまう。
 それを聞いた周囲の面々が、自分達もただでは済まないかもしれないと判断し、出来るだけ遠くに離れる。ある者は食堂の長机をひっくり返してバリケートに、ある者は二階エントランスまで避難、ある者は能力を使って防御している者もいた。それでも食堂から逃げ出さない辺り、野次馬根性だけは立派な一年生達だった。
 慌てて二階エントランスに上がれる階段の裏に飛び込んだ小金井(こがねい)正純(まさずみ)は、そこに既に明菜理恵と言う先客がいた事に驚く。
「お前………っ!? 誰よりも早くここに移動してやがったな!? こうなる事予想してたんだろ!」
「まあ、一応これ、入学試験後での最初のイベントだったしね………、なんか予定日時かなりずれたからびっくりしてるけど………」
「イベント? なんだよこれ、実は予定されてたのか?」
「いやあ、そうじゃなくて―――」
 理恵がどう答えたものかと四苦八苦していると、突然彼女の背後から半透明な女性が現れ―――、
「転生者の生徒さんはいきなりの予定外にビックリしたんやろ~~?」
 ―――などと言ってきたものだから理恵は飛び上がって驚いた。
「ゆかり先生っ!? いつからそこに―――って言うか転生者って………っ!?」
 驚く理恵がさぞかし面白いのか、それともデフォルトなのか、ゆかりはニコニコ顔を崩さず、指を指す。
「ほら、よそ見してはると良いとこ逃しはるよ?」
 二人が促されるままに視線を戻すと、そこには金剛が長机を武器にして振り回し、それをカグヤが必死に逃げ回っていると言う………とんでもない一方的な展開が飛び込んできた。
「「っつか、もう完全に化け物に襲われてる被害者にしか見えないっ!?」」



 カグヤは長机を振り回す怪物から必死になって逃げていた。身体能力、特に力では勝てないと思い、戦扇(武器)を持ち出したと言うのに、まさかその辺の長机を武器代わりにしてくるとは予想外だった。っと言うのも、彼のスタイルが完全に体術オンリーに見えたからだ。余計な武器など使わず、肉体一つで戦う。そんな気配を身体全体から発していた物だから、つい先入観にとらわれてしまったのだ。
(それでもまさか机を武器にするとは思わなかったがな………、敵のリーチが長過ぎてまったく近寄れねえよ………)
 長机を武器にされて一番厄介なのはその圧倒的なリーチの長さに加え、面積が広い事にある。あんな物を鬼が金棒を振るうように振り回されては、近づこうにも近づけない。
(まあでも、武器が机ならやり様は………っ!)
 カグヤは着地と同時に振り返り、自分に迫ってきた長机に対し手を翳し―――撫でる。
(………あるっ!)
 バンッ! と机が金剛の手から弾き飛ばされる。東雲に伝わる護身術、合気柔術『付撫(ふしなで)』と言われる技で、弾き飛ばしたのだ。見た目はただ撫でているだけの様に見えるが、実際は高度な力学誘導による“いなし”の技だ。カグヤ自身がこの技を使えた事はなかったが、イマジネーターになる事で、その高度技術を身体に反映させる事が出来る様になったのだ。
 それにちょっとだけ誇らしく思っていたカグヤは―――。
「どりゃあああぁぁぁっ!!」
 正面から突っ込んできた金剛の肩が、眼前に迫っている事に気付いた。
(おおおぉぉぉわあああぁぁぁぁ~~~~~~ッッ!?)
 慌てたカグヤは咄嗟に軻遇突智の炎を呼び出し、自分の正面を爆発させた。爆発の衝撃に吹き飛ばされ、金剛の体当たりの直撃を軽減したカグヤは―――そのまま二階エントランスに上がる階段を貫いて彼方へと消え去った。
 一瞬の静寂。
 周囲から無言の驚愕が木霊する中、誰もが思った。「カグヤ死んだんじゃね?」っと。体当たりの感触が弱い事に気付いた金剛でさえ「今のは大丈夫だったのか?」っと心配になるほどだ。
 実際の話、階段を突きぬけ、一階食堂の観葉植物の中に埋もれていたカグヤ自身、「俺死んだ? 死んでる?」っと、しばし生の実感を得られずにいたくらいだ。
 神威が何も言わないので、割合十分くらいの時間を掛け、やっと生の実感を持てたカグヤが起き上ってくるまで、誰も動けずにいた。
 だが、同時に彼等も実感する事が出来た。『イマジネーター』の耐久値は、ちゃんとした対処行動さえとっていれば、某スパーな宇宙人並みに派手な戦闘をしても生還出来るらしいと言う事を………。
「生きてたか」
「死んでなかったよ」
 金剛とカグヤが、何か妙な連帯感を得たように頷き合った後、戦闘が再開される。


 金剛は次々と拳を放つが、カグヤはそれらを上手くいなし、対応している。金剛は自分の能力を未だに一つも使っていないが、それはカグヤも一緒だ。体当たりをくらう直前に一瞬だけ使ったとは言え、必要最低限に抑えていた。
 だが、金剛はたったそれだけの情報から、僅かばかりカグヤの能力を見極め始めていた。
(体当たり直前で炎みたいなものが一瞬出たな? つまりそれがあいつの能力だろう? 炎系統の能力であるのは間違いないとしてどんなタイプの能力だ? 炎はどの程度まで操れるかな?)
 己に疑問を問いかけ、金剛は少しずつ解析していく。
(炎を出す時、呪文系も動作系も必要とせずに発動していた。無音無動作で出す技術があるのか、それとも元々必要としていない能力だったのか………? いや、イマジンの暴発を防ぐため、何よりイマジネーションを強固な物にするため、そう言った制約は必要不可欠なはず。だとすると前者か? ならば威力はどの程度だ? いくら技術があっても無音無動作では全力は出せまい)
 金剛はカグヤがノーモーションでは全力が出せないと判断し、超近接攻撃へと切り替える。ともかく距離を放さず拳や蹴りを叩き込む。イマジネーターになった事で自分でも驚愕する程に体力の余裕が見られる。持久戦で勝負がつく事はない。頑丈さには自信があるので能力でも使われない限りやられないと判断する。
(後は力付くに対応できるかどうか! 試させてもらうぜぇ~~~っ!!)
 周囲にあった机を、椅子を、その剛腕で蹴散らしていきながらカグヤへと迫っていく。防戦一方のカグヤはただ避ける事にのみ集中するしかない。
「どうしたっ!? なにもせん内に降参かぁ~~~っ!?」
「くそっ! 周囲への被害を考えない、なんて傍迷惑な奴だっ!?」
「お前の姉さんが言っとったろう? 『巻き込まれる方が悪い』となっ!!」
「なるほど。お前は正しい。もっと大げさに暴れろ!」
 周囲から、「納得すんなぁ~~~っ!!!」っと言うツッコミは来ない。突っ込んでる内に飛んできた椅子やら机やらに衝突して惨事(さんじ)になるからだ。


 机でバリケートを作っていた者達は、バリケート越しなら安心して戦いを観戦できると思っていたのだが、その目論見は大きく外れていた。次から次へと椅子と机がバリケートに衝突して来るので、危なくて顔が出せないのだ。
 バリケートを背にして、身を低くして飛んできた飛来物から身を守っていた叉多比(またたび)和樹(かずき)は、隣の黒髪天然パーマの少年弥高(やたか)満郎(みつろう)と共に、間隙(かんげき)の合間を縫って戦闘を観察していた。
「………なんだ? 妙だな?」
「な、なな、なにがだよ………!? いや、震えてねえよ! 全然変じゃねえよ!? 震えてなんてねえよっ!?」
 和樹の呟きに過剰な反応を示す満朗。その脚は、いっそ「わざとか?」っと問いかけたくなるほどブルっていた。目は完全に涙目で、肩も震えまくっている。貴重なイマジネーター同士の戦闘を観察していると言うより、完全に逃げるタイミングを逸してしまった一般人だ。
 誰であっても思わず一言突っ込みたくなるような姿に、和樹は内心苦笑するだけで抑え、良心的にスルーした。
「………気の所為かもしれないが、さっきから椅子や机の飛んでくる数がやたらと多く感じる。………それに、飛んできた椅子と机、………なぜか違和感がある」
「お、おう~~っ! そうだな………っ!! 俺も、そんな気がしていたっ!」
 明らかに調子が良い事を言っているようにしか見えないが、やはり和樹は良心的に話を合わせる。
「………そうか、さすがだな。………しかし、椅子や机に問題は無い。イマジンの反応も特になさそうだ? ………なら、なんだ………? この妙な違和感は………?」
「な、なんだよ~~? お前解らねえのか~~? まあ~~仕方ないっ! コイツは巧妙に仕組まれた罠だからなぁ~~~っ!!」
 突然、知ったかぶった態度を取る満朗に、純粋に受け取った和樹が意外そうな顔をする。
「………何か気付いたのか?」
「と、当然さ~~~っ! 俺にかかればこんな策、策とも言えないお遊びだね!」
「ほほう………? 一体何が仕組まれている………?」
「そ、それは………―――っ!? ま、まあ~~~っ! 慌てるな? まだ慌てる様な時間じゃない! ゆっくり観察して自分で考えてみると良い! 慌てなくてももう少ししたらすぐに答えが出る!」
 純粋に問いかけた和樹だったが、満朗の「必死にポーカ―フェイスしてますよ?」な慌てぶりにさすがに気付き、………結局良心的に対応した。
「………そうか、………まあ、そうだな」
 確かに言う通りではあるのだ。
 誰かに答えを聞かずとも、この違和感が意図して作られた物ならば、答えは待っていても向こうからやってくる。今は、それを安全圏からじっくり観察できる貴重な機会だ。大事に使わせてもらうとしよう。
「おいこらぁっ!? 本気で逃げてるだけかっ!?」
 突然の怒号。
 見れば金剛が痺れを切らしたように床を一踏みし、大きな亀裂を作っていた。衝撃により周囲に軽い風が撒き起こるが、金剛とカグヤが戦う範囲には、既に吹き飛ばせそうな物は無い。金剛一人で綺麗に掃除されてしまっていた。唯一残った椅子が一つだけ存在するが、そこには神威が背凭れの上に座って、脚を組み頬杖などをついて見守っていた。何故椅子がひっくり返らないのか、それ以前に戦いのど真ん中に居て何故無事なのか、(はなは)だ疑問だが、今は置いておく。
「いい加減、やる気があるなら戦わんかい! 無いならさっさと降伏しろやっ!? まさか本気で手も足も出んと抜かすわけじゃなかろうなぁ?」
 多少喋り方の変わった金剛の表情は、ヤクザ者の頭並みにドスが効いていた。
 そんなおっかない顔を前に、肩を竦めるだけの軽いリアクションを取るカグヤは、平然としていた。まるで「お前以上に怖い物を良く知ってる」と言わんばかりに。
 だが同時に、そのリアクションが呆れから来るものではないと知れる。
 カグヤが構えた。
 戦扇を開き、やや前傾姿勢で………。
 戦況が動く。誰もがそれを理解した。



 06



 カグヤの放った初手は、とてつもなく稚拙な不意打ちだった。
 自分が持っていた戦扇を、唯一の武器を、構えた状態のまま手首のスナップだけで飛ばす、成功しない奇襲。しかも手首だけの力だったため、攻撃はやや下方気味、腹部目がけて飛来してくる。
 カグヤが武器としていた戦扇と言うのは、鉄の板を紐で繋げ扇状にした暗器の一種で、先が鋭く尖らされている。当然、上手く投げれば人の肉を切り裂く事はできる。また刺す事も可能だろう。だが、致命傷にするのは無理だ。戦扇の利点は携帯の便利さと、広い面積を使った防御のし易さと言ったところだ。投げる武器としても使われない事もないが、はっきり言って、先を尖らせた竹手裏剣の方がまだ殺傷性が高い。目を狙って飛ばしたのならともかく雑な狙いの、意表を突くためだけの失敗奇襲は悪手でしかない。
 故に金剛はむしろ別の所に警戒した。これは囮で何かがあるのではないか?
 飛んできた戦扇を何もせず受けても扇の方が跳ね返るだけだが、金剛は煩わしげに剛腕一振り、真上へと払いのける。払いのけると言うたったそれだけの動作で、弾かれた戦扇は二階エントランス付きの食堂で通常の部屋より倍も高い天井に真直ぐ突き刺さった。
 その動作で出来た僅かな死角、金剛の払う腕の方向に合わせ、右斜め下方に飛び込んでいたカグヤ。右手に炎の迸りを纏わせ、拳を握る―――が、稚拙すぎる連続の奇襲に、金剛が惑わされる筈もなく、当然の様に体勢を入れ替えた金剛は、左の掌打(しょうだ)で打ち払う。
 カグヤの身体は撃ち抜かれたビリヤードの球の様に、空中を真直ぐ飛ばされ、和樹と満朗の隠れるバリケートまで飛んできた。
「ひょえっ!?」
 慌てて頭を引っ込めた満朗だが、その頭が何者かに、むんずっ、と掴まれ無理矢理引っ張り出される。

 ビタンッ!!

「ぎょえっ!?」
「わるい」
 壁とカグヤに挟まれた満朗が潰されたカエルの様な声を上げ、適当に謝ったカグヤは、そのままバリケートを背に、一時避難の体勢に入っている。
 その動作を観察した和樹は納得する。
 どうやら自分が此処に吹き飛ばされる事も想定済みだったようだ。一度バリケートに身を隠す為に移動したかったカグヤは、金剛の力を利用し後方へと飛ぶ。近くで観察していた観戦者を適当に捕まえ、壁に叩きつけられるダメージの緩衝材代わりに利用。そして、観戦者が作ったバリケートに避難、敵の様子を窺うと、そう言った流れだったらしい。
 不運にも“緩衝材”に使われた満朗には冥福を祈るばかりだ。
「し、死んでねえ………」


 バリケート越しにカグヤは金剛の気配を探る。九曜を屈服させるために戦った半年のおかげでイマジンの気配を第六感で感じ取る事が出来る。これだけがカグヤが他の新入生に対して持つアドバンテージだ。有効活用しない手は無い。
 こちらが吹き飛ばされる前に後ろに飛んだのは金剛にもしっかり伝わっていたはずだ。アレだけのパワータイプだと、吹き飛ばした者の感触などろくに感じ取れそうにも見えないが、攻撃が通じたかどうかくらいは意識していたはずだ。ましてやこちらが何か仕掛けようとしているのではないかと警戒している相手なばば当然とも言える。
 予想通り、金剛はバリケートに隠れるこちらに向かって突っ込んできている。待つと言う戦闘スタイルは彼には無いらしい。
(まったく、予想通りだな)
 だからカグヤはほくそ笑み、パチンッ、と指を鳴らす。


 攻撃を緩和したカグヤに追撃を掛けようとしていた金剛は見た。自分の頭の傍を、小さな火の粉がゆっくりと落ちてくるのを。
 それは人魂程度の小さな炎で、大した火力がある様には見えなかった。なんとなくではあるが、イマジンも大して含まれていないように思える。だから金剛は無視して突っ込もうとして―――、パチンッ、と指を鳴らす音が聞こえた。
 瞬間、素通りしようとしていた火の玉が突然爆発、発光。突然目を焼かれた金剛は思わず急ブレーキ、顔を庇うように両手を交差させる。ダメージは無い。ダメージを与えるほどの火力はやはりなかった。ただ火が弾けただけだ。そう悟るまでの数秒間、カグヤはそこを逃さない。


「かかったっ!!」
 金剛がブレーキを掛けた瞬間、立ち上がったカグヤは手の平に呼び出した炎を爆発させ、バリケートを金剛に向けて吹き飛ばした。

 ガツンッ!!

「んぐおっ!?」
 見事、バリケートに使われていた机が金剛の頭部にヒット。しかし、よろけるだけで大したダメージがあるようには見えない。
 そんな事は百も二百も承知だ。金剛がアクションを起こすより早く、カグヤは駆け出す。金剛の周囲を囲む様に出来上がっているバリケートを外側から走り、順番に爆発させて吹き飛ばしていく。


 金剛が一撃目の机の衝撃から復活すると同時に見たのは、己に向かって殺到してくる机や椅子の群れであった。まるで自分が散々吹き飛ばした椅子達が反撃に戻ってきたかのように四方からドンドン己へと殺到してくる。
(ん? “俺が吹き飛ばした”………!?)
 己の思考に引っかかりを覚えた金剛は、ハッとして気付く。
 何故カグヤは最初に逃げの一手を選び続けていたのか? アレは避ける事しかできなかったのではなく、そう思わせて既に一手を打っていた………?
(アイツめ………、ただアイツを追いかけて攻撃していた俺を上手く誘導し、周囲のバリケートに机や椅子をぶつけて集め、この攻撃に利用するための準備をしていたと言う事か………、こ癪だなっ!!!)

 ―――ドクンッ!

 金剛の心臓が強く脈打つ。急激に注がれた血が右腕に集まり、変質、肥大化を始める。
 鋼色に染まる巨躯の剛腕が、金剛の右腕に宿る。
剛腕鬼手(ごうわんきしゅ)!!」
 金剛は肥大化した右腕を振り回し、殺到してくる椅子や机を粉砕していく。
「それも織り込んでる―――っ!!」
 カグヤは金剛の対応を無視し爆発作業を続ける。安全圏に逃げていたつもりだった観戦者達は、カグヤによるバリケート破壊工作に真っ青になって逃げていく。
「おおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
 咆哮を上げる金剛は、その剛腕で更に殺到してくる飛来物を粉砕していく。右腕一本だけとは言え、その攻撃力は尋常ではない。飛ばす物が無くなるまで全てを破壊しつくしてやると言わんばかりに次々と粉砕活動を続ける。だが―――、

 ガンッ!

「ぐむっ!?」
 椅子が肩にぶつかる。

 ボムンッ!

「むおっ!?」
 障害物に紛れ、左足に火の玉が命中、脚が僅かに崩れ、体勢が崩れる。

 ガンッ! ゴンッ! ガンッ!

 続けざまに幾つかの飛来物が命中する。
 数が多過ぎてさばききれなくなっていく。おまけに火の玉を感知し損ねている。
「埋まってろっ!!」
 三百六十度、金剛の周囲を回りきったカグヤは、最後のバリケートを吹き飛ばし―――、金剛は椅子と机の群れに埋まった。
 だが、僅かな静寂も待たずして、振動が椅子と机の山を揺るがし、火山の噴火の如く一気に爆発した。
「おおおおおおおおおぉぉぉぉーーーーっっっ!!! この程度で俺を倒せるとでも―――っ!?」
「思ってねえよっ!!」
 山に埋まっていた金剛が火山噴火を再現している所に、カグヤは右腕を突き出し、“召ぶ”。
「来いっ!! 『軻遇突智(カグヅチ)』」
 刹那に右腕から炎が弾け飛ぶ。その炎は金剛の周囲を掛け巡り、バリケートや飛来物に使われまくった椅子と机を燃やし、炭化させていく。
「炎!? 外したのか? ………いや」
 一瞬、金剛はカグヤの放つ炎を放出系の何かだと思った。カグヤの能力を炎を操る物だと認識していたため、そう勘違いしていた。だが、その認識が過ちだと悟る。
 炎は巨大な大蛇の姿となってカグヤを中心に蜷局(とぐろ)を巻き始め、次第に物質的な物へと変化する。
 それは蛇だ。炎を撒き散らし噴き出す巨大な蛇だ。六角柱の柱を幾つも繋げた多節根の様な身体に角を持つ大蛇だ。
 この時になってやっと金剛は悟った事だろう。カグヤの炎は“放出系”の能力ではない。“召喚系”の能力にて、力の一部を使用していたにすぎなかったのだと。
「焼き払えっ!!」
 命じるカグヤ。
 剛腕鬼手の右腕で対応しようと拳を握る金剛。
「ゴアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
 雄叫びを上げ、カグヤの命に従い突貫してくる軻遇突智。
 六角柱の身体をガラガラと回し、関節部から炎を噴き出し、十メートルを超えるその巨体で金剛へと(あぎと)を向ける。
 金剛の剛腕鬼手が軻遇突智の角を掴む。(つるぎ)の様に鋭い角を片手で必死に掴むが、その抵抗など無い物とするかのように、軻遇突智の進軍を止める事が出来ない。軻遇突智は前進を続け、必死に角に捕まる金剛を追ってのた打ち回る。軻遇突智に触れた周囲が紅蓮の炎に焼かれ、食堂は一転、炎の世界へと変わっていく。
 片腕では不利と判断した金剛が左腕も肥大化させ、必死に軻遇突智へと対抗しようとするが、角を掴む腕もドンドン焼け焦がされていく。
(なんだこの炎はっ―――!? 先程受けた火の玉や爆発とは比べ物に―――!?)
 金剛は気付く。イマジンは想像の力であり、その想像は自分と他者の相互認識によって完成度を高めていく。故にイマジネーターの能力は名前が付けられ、時には能力発動の条件とされる。認識する事でより力を高める事が出来るのがイマジンなのだから。
 カグヤはこの能力を何と呼んだ? たしか『カグヅチ』だ。
 『カグヅチ』
 『軻遇突智』
 それは確か、日本で有名な火の神の名前ではなかったか?
 母である伊弉弥(イザナミ)を焼き殺し生まれ、父である伊弉諾(イザナギ)に殺されたとされる火の神。
 (なるほど………)っと、金剛は頷く。
(道理で強いわけだ………。曲りなりにも神を相手に、この程度の御遊びが通じるはずがなかったという事か………。相手が神では………仕方が無い)
 金剛は薄く笑い、………炎に呑まれた。


 床に叩きつけられ、軻遇突智の(あぎと)に捕らえられた金剛は、軻遇突智が噴き出す炎の中へと埋没した。
 誰の目にも金剛の敗北は明らかであり、呆然とその炎の偉大さに呆然とするしかない。
 和樹はその光景を眺めながら、イマジンの力の異常さを痛感していた。自分の得た能力もデタラメな物ではあったが、自分の能力はとある事情により前もって決定されていた物だ。それ故にイマジンで得た能力として実感していなかったのだが………。
(このレベルが当たり前だとしたら、俺の能力は“妥当”と言うレベルなのだろうな………)
 そんな苦笑を浮かべつつ、隣で腰を抜かしている満朗へと笑い掛ける。
「お前の言った通り、カグヤはわざと金剛に障害物を吹き飛ばさせ、攻撃の準備をさせていたんだな」
「えっ!? ええっ!? おっ、おおっ!! おお~~~っ! そ、その通りさ~~~! はっはっはっはっ!!」
 明らかに嘘から出た真状態だったのだが、和樹は温かい眼差しでスルーしていた。
 何はともあれ、これで決着。勝負内容は実に勉強になった。
 誰もが今後の対策の参考にしようと終了ムードを漂わせる。
「案外あっさりとした決着でしたわね~~? 京鹿子(きょうがのこ)の花の様な戦いでしたわ~~」
 試合内容に不満を持った(くすのき)(かえで)が退屈気味に『無益』と言う意味の花言葉を口にして立ち去ろうとしていると、それを呼び止める者がいた。
「そう思ってるのに途中で観戦止めて良いの?」
「え?」
 楓が呼び止めた相手へと視線を向けると、そこに金髪に赤目、120~130センチ位の小学生のような身長に、ズタズタに刻まれた学ラン。その下にはこれまたズタズタのカッターシャツを着込んだ少年が楽しそうに燃え上がる炎を見つめていた。
「アナタは?」
「初めまして。黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)、です!」
 ニカッ、と笑って見せた少年は、すぐに曲者じみた視線で楓を見上げながら、重要な事を伝える。
「まだ立会人の人が、試合終了してないのに、“終わりなの”?」
「!?」
 楓が気付き、目を見開いた瞬間、爆発が轟いた。



 07



 炎が吹き飛ばされた。それは予想していた。イマジネーターの実力は同学年であれば互角。いくら神の名でブーストしていても、相手が同じイマジネーターである以上必ず対抗手段を持っているはずだ。だから炎を弾き飛ばした事自体は意外ではなかった。
 それがまさか()()()()()()()()()()()()()()とは、さすがに予想外だった。
(軻遇突智は倒せないわけじゃない。イマジン体をイマジネーターが倒すなんてそんな珍しい事なんかじゃない。だけど、仮にも神格を有した相手を一発で消し飛ばしただと!? そんな事、『権能』のレベルじゃないと―――っ!?)
 フル回転で思考していたカグヤは驚愕に目を見開いた。
 爆発の勢いで消し飛んだ軻遇突智。彼が残した炎は周囲を業火で焼き尽くし、炎のフィールドが完成している。そのフィールドの中心を、まるで自分こそがこの世界の主であると言うかのように、ズンッ! と床を踏み抜く足並みで、()は一歩を踏み出す。
「まったく仕方ない(、、、、)………。神様を相手に本気を出さないなんて土台無理な話だよなァ?」
 ズンッ! とまた一歩。
 二階エントランスに至るまで、食堂全てを埋め尽くす業火を背に、金剛は歩み寄る。
 二倍に膨れ上がった鋼色の肉体、爛々と輝く赤の瞳、隆起した全身の筋肉は、腰回りのズボンを残し、全て破けて残っていない。頭部から伸びる二つの突起が、彼が何者であるかを如実に語っている。
 「はは………っ!」っと、カグヤの口から乾いた笑いが漏れた。
「単純な形態変化による肉体強化じゃないとは思っていたが………、なるほど、理解したよ………」
 刹那にカグヤの表情に笑みが消える。真剣その物の表情で金剛を睨みつけ、全神経を持って警戒態勢に入る。

「さぁいくぜェ!! 鬼の力みせてやるよォ!!」

 完全な鬼となった金剛が、地を踏み砕きながらカグヤへと迫る!
 振るわれる剛腕! それを横飛びに回避したカグヤは―――そのまま剛腕が放った風圧に殴られ、床に叩き付けられた。
 瞬時回転、片手を付いた状態で立ち上がる。強烈な立ちくらみとぼやける視界をポーカーフェイスと精神力で無理矢理ねじ伏せ、既にガクガクの足を内心で叱咤する。
(攻撃力が違い過ぎるだろうっ!? ろくに回避もできないとかどんだけだよっ!? 今の完全にイマジン関係無しの、ただの拳圧じゃねえかっ!?)
 歯噛みしながら金剛を睨む。金剛は待った無しで突進してくる。
 突如カグヤの視界がスローモーションに切り替わる。イマジネーターの脳は、迫りくる脅威に反応し、脳内伝達速度を急加速させ、高速思考が出来るようになる。連続的な使用は精神的な疲労が(かさ)み、多大な負荷となるのだが、今のカグヤにとっては気にしていられない。
(どうすればいいっ!? 情報が少な過ぎて対応策が―――!?)
 疑問の一言に、脳内が一つの方法を素早く検出するが、カグヤにはその方法が解らない。
(落ちつけ。“解らない”なんて事は無い。答えを出せる以上、俺は知っている。九曜と戦い半年、イマジン塾で訓練した半年………、答えは全てそこにある)
 カグヤは冷静に思考し、必要な情報を脳内で計算する。
 カグヤのステータス『術式演算能力300』が作用し、カグヤの思考速度を更に加速させる。
(思い出せ………、九曜から感じ取ったイマジンの存在を………。映し出せ………、偽りであろうとも構わない、俺が感じ取っている世界を、全て―――!)
 一度、目を閉じ集中、第六感を含める視覚以外の五感情報を脳内に保存、整理、最適化させ―――、
(―――視覚へ!!)
 目を見開き、全ての情報を視覚へと閲覧させる。
 金剛に対するカグヤが感じ取った全ての情報が視覚情報となって反映された。
 金剛の周りを覆う鋼色のオーラ、それに螺旋を描く様に纏う金色オーラが見えた。
 間違いない。今、カグヤの目に、金剛の鋼色のイマジンと、神格を有する黄金色の権能のオーラが視覚情報として閲覧されている。
 “見鬼(けんき)”。その名はまだカグヤも知らないが、イマジネーターが最初の授業で受ける事になる、最もポピュラーな初歩技術である。六感の全てを使い感じ取った情報を、全て視覚情報として脳内処理する事で、見えなかった物が見える様になったと誤認させているのだ。その情報量は、簡易的な未来予知まで可能にする者もいると言う。
「―――っ!!」
 『見鬼』で金剛の力を見極めたカグヤは、最小限の力でステップ。拳を躱し、続いて迫ってくる拳圧を両手で押さえる様にして受け止めながら、身体を背後へと逸らす。結果的に吹き飛ばされたカグヤだが、金剛が放とうとしていた二撃目から回避する事に成功する。
(ってか、あの図体とパワーで連撃出せるのかよっ!? マジもんの巨人とやり合ってるみたいじゃねえかっ!?)
 内心悪態を吐きながら、迫りくる金剛の攻撃を躱して行く。
 躱し方をミスれば一撃死する緊張の中、カグヤはなんとか拳を避け、一瞬遅れてやってくる風圧の衝撃波をいなす様にして躱す。
 だが、いくら『見鬼』を会得できたとは言え、それを未来予知にまで進化させられるのは極々一部の者だけだ。そして、残念ながらカグヤはその少数派ではない。金剛の繰り出す嵐の様な猛攻に追い詰められ、掠った一撃に薙がれ、吹き飛ばされてしまう。ただ掠っただけの一撃が、カグヤの身体を独楽の様に回転させ何度も床を叩き付けられて転がる。
 瞬時膝を付いて起き上ったカグヤは、それが出来た事に驚愕し、同時に身体全体に流れる痺れに苦悶する。
「さて? それが限界か? 案外あっけなかったのぅ?」
 カグヤの事を警戒してか、ゆっくりとした足取りで迫る鬼神。軻遇突智が作った炎を背に、強者として威風を見せて歩み寄る。
「………っ! ここまで徹底したパワータイプとはな? 正直驚いてるよ。ステータス化はしていないが、どうやらお前も神格を所持している様だな?」
 隠しきれない脂汗を額から流し、それでもカグヤは毅然(きぜん)とした表情で金剛の能力について語る。動かぬ身体の代わりに、言葉で戦おうとするかのように。
「鬼の属性に神格、その二つを両立させているのは『鬼神』と言われる属性だ。だが、お前は俺の軻遇突智を破る時、身体の一部を鬼化させた鬼化した腕(剛腕鬼手)ではなく、全身を鬼化させる物を選んでいた。それはつまり、今の状態でなければ神格を有する事が出来ないって事だな?」
「………だとしたら?」
 歩みを止めず、金剛が問い返す。カグヤは口の端を三日月の様に吊りあげて笑う。
「つまり、お前の能力は『鬼神』ではなく『鬼』としての属性が主流、“神格”はあくまで“疑似神格”。ならば、その能力には避けようのないリスクが存在するはずだ。そうでないのなら、神格のステータスを持たないお前が、神格同士の戦いで『軻遇突智()』を打ち破る事はできないんだからな」
 一瞬、金剛の歩みが止まる。しかしすぐに歩み直し金剛はもう一度問いかける。
「おうともよっ! 慧眼見事だ! だが、それが解ったところでなんだと言うのだ?」
「それが解れば充分だ。本物の神格でないのなら、発揮できる力には限界があり、また制限時間も決まっている」
 「ならば………」っとカグヤは続け、右の人差し指を立てて、金剛へと告げる。
「ステータスに上書き出来るタイプの変身能力じゃないなら、そいつは相当に堪えるだろうよ?」
 言ってカグヤは金剛の真上へと視線を動かす。
「?」
 その視線に誘導され、金剛が見上げた瞬間、べちゃりっ、と、粘液質の何かが顔へとかかり―――、

「ゴガアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!??」

 金剛の咆哮ともとれる悲鳴が食堂を震撼させた。



 08



 比喩ではない。空気の振動だけで一階食堂エリア全体が揺れているのだ。
 それほどの力を有していた存在が、悲鳴を上げている。一体何事かと観戦者達が目を凝らす。
 二階エントランスから見降ろしていた遊間(あすま)零時(れいじ)は、自分の観戦位置のおかげでそれを知る事が出来た。
「あいつ………! 天井に刺した戦扇を溶かしやがった………っ!?」
 驚愕に目を見開く零時の言葉を受け継ぐように、階段の影に隠れていたゆかりが楽しそうに笑う。
「そう、ここまで全てが東雲くんの計算した状況………。彼が勝つための道筋です」
「? 先生? それってどう言う事だ? カグヤは一体何をした?」
 小金井(こがねい)正純(まさずみ)は、ゆかりの言ってる事が解らず、問い返してしまう。それに答えたのは、階段の影から及び腰で戦況を見守っていた明菜理恵だった。
「始まった最初からカグヤは全部を計算して動いていたって事。金剛に暴れさせてバリケートって言う名の武器を用意しつつ、唯一の武器の戦扇を投げつけ、それを弾かせて天井に突き刺したのも攻撃の布石。軻遇突智を使って、炎によって天井に突き刺さってる戦扇を丸ごと溶かし、焼き鉄を金剛の顔に落としてやったんだよ」
「………はあっ!?」


「最初にバリケートで攻撃したのは、お前が物理攻撃に対してどれだけの耐久力を持っているか確かめるため。その頑丈さから打撃斬激では不利と判断し、軻遇突智を使って属性ダメージの耐久力を計った。だけど金剛? 生身で障害物の大群に押し潰されても、お前は平気な顔をしていたな? なのに軻遇突智の炎を受けた時は違った。お前の体はしっかりダメージを受けていた。だから属性ダメージに対する耐久値は無いと解り、軻遇突智の炎の一部を天井に突き刺さった戦扇に纏わせ待機させた。んで、お前が俺を警戒してゆっくり近づいて来てくれるタイミングを上手く利用し、その真下まで誘導した。戦扇に纏っていた炎の火力を一気に上げ、一瞬で溶かし、その顔面に焼き鉄を流し込んでやったのさ!」
「ぐ、ぐおおおぉぉぉ~~~~………っ!」
 カグヤの説明を聞いているのかいないのか、金剛は顔に手を当て、必死に焼けた鉄の液体を払おうとしている。だが、鉄は既に個体に固まっており、肉や皮に焼きついてしまっている。眼球にも流れ込んだのか、視界を見失った様によろよろとよろける。
 だが、それでも金剛は倒れない。膝一つ付く事無く、しっかりと二本の足で床を踏みしめ、なおも戦意を漲らせた瞳、焼けついた眼光で睨みあげる。
「これで………っ! これだけで勝ったつもりかっ!?」
「………鬼の属性には、当然鬼としての回復力も存在する。焼き鉄を顔面に掛けたくらいで倒せるなんて思ってねえよ。そいつは最初(はな)っから、時間稼ぎのための一手だ」
 そう漏らしたカグヤは、完全にダメージから回復した表情で立ち上がり、右手を翳した。
「もう一度来いっ! 『軻遇突智』!!」
 カグヤの右手から放たれた炎が食堂内を蹂躙し、幾つもの柱を、壁を粉砕し、六角柱の柱を繋げた巨大な角を持つ蛇となる。軻遇突智口から炎を噴き出し観戦者すら巻き込みかねない紅蓮の業火を撒き散らす。酸素量すら欠乏しそうな火の海の中、さすがに堪らなくなった生徒が数人逃げ出す。だが、逃げ出さずに未だ根性で観戦していた生徒達は疑問を抱いた。(カグヤの軻遇突智、なんで金剛を直接狙わないんだ?)っと。


「なんだ? どうしてこの絶好のチャンスに攻撃を仕掛けず無駄弾を撃っている? 満朗? お前何か―――」
 同じ疑問を抱いた和樹は隣にいたはずの満朗に声を掛けようとして、そこに誰もいない事に気付く。視線を食堂の外側、寮の外庭が見えるガラス張りの方へと移すと、この戦闘で全て破壊されたガラスを抜け、一目散に外へと走っている満朗の姿があった。
「おい? 満朗!?」
「うおおおおぉぉぉぉぉ~~~~っ!! 何してんだお前っ!? お前も早く逃げろ! そんなところいたらマジ命がいくつあっても足りねえぞ~~~~~っ!!?」
 強がりの鍍金(メッキ)も此処に来て崩れたか………。そう苦笑する和樹は、自分だけ観戦に戻る。
「まあ、俺も能力が違ったら、さすがに逃げてたかな?」
 そう呟きながら、彼は同時に驚嘆していた。
 あんな戦火の真っただ中で、未だに椅子の背凭れに座って余裕の表情でいる最上級生、東雲神威は、一体どれだけの実力を有していると言うのだろう? っと………、


「なんだ? なんでこのチャンスを活かさない?」
 同じく、疑問を抱いた正純は、ゆかりに回答を求めようと視線を送り―――同時に背を向けて一目散にげ出す理恵の姿を捉えた。
「ってええええぇぇぇぇ~~~~っ!? お前ここに来て逃亡かよ!?」
「アホっ! お前こそ早く外に逃げろ! マジでとんでもない事になるぞっ!!」
「はあ!?」
 意味が解らない正純は疑問の声を上げるしかない。
 これから何が始まるのか、それを理解しているらしいゆかりは―――、
「あらまあぁ? 東雲くん、手加減とか周囲への被害とか、そんなん全く気にしはらへんのやねぇ~? 困った事してくれたわぁ~~」
 ―――まったく困って無いニコニコ顔で呟いていた。
「でも、東雲さん(、、)も、被害とかまったく無関心やろうしなぁ? 新入生にはちょっと先生から手助けしたあげんとなぁ~~………」
 そう呟いたゆかりは、口元で人差し指を立てながら、内緒話をする様に呟く。
「空間B、範囲一年生寮全体。対象、新入生全員」
 ゆかりが呟いている途中、突然振動が伝わってきた。正純は、ゆかりが何かしたのかと思ったが、彼女はまだ何事か呟いているだけだ。それに揺れているのはどうやら建物全体らしい。だが何故建物が揺れている? 金剛がまた叫んだ訳でもあるまいし………。
 そこまで考えてやっと彼は気付いた。気付いて頭から血の気は引いて行く思いがした。
「おい、まさか………!?」
 そのまさかを肯定する様に、カグヤの声が飛んで聞こえる。

「よおォ、金剛? いくらお前が頑丈っつっても、徹底的に焼かれた熱を帯びたコンクリートに、しかも四十階相当する建物に踏み潰されても、お前の体は原形を保っていられのかい?」

 それは、つまり………、一階を支える建物の柱を、軻遇突智によって全て破壊し、この学生寮を壊して金剛を生き埋めにすると言い出したと言う事。
「なに―――っ!? 考えてんだっ!? アイツッ!?」
 そんな事をしてしまったら、非常識な能力を持つ上級生はともかく、何も知らない新入生は間違いなく大勢犠牲になる。そんなの思いついてもできるわけがない。そんな事を実行するなんて正気の沙汰じゃない。
「………くそっ!」
 今更になって理恵が一目散に逃げ出した理由を悟った正純は、慌ててカグヤを止めようとした。沢山の人を巻き込むこんな戦い方、許されていいはずが無い。
 だが、彼が一歩踏み出すより早く、その致命的な音は聞こえてきた。
 全ての柱が崩れ、寮全体が軋み、崩れ始めた例えようのない嫌な音を―――。
「当該対象全員を寮の外へと移動。さあ、『世界を動かしましょう』」
 ゆかりの声を最後に、正純の視界は暗転した。



 09



 カグヤが立てたこの作戦には、たった一つだけ穴がある。それは、軻遇突智を使用できる範囲がおよそ五十メートル以内だと言う事だ。九曜のように完全に自立した自我を与えられていない軻遇突智は、カグヤの意思から外れると、好き勝手に暴れてしまう場合があるのだ。そのため、カグヤはこの作戦で柱を壊す為には、自分も危険な室内に残らなければならなかった。当然、カグヤも生き埋めになる。
「さて………、逃げるのは今更無理だし………、どう生還するか?」
 とりあえず軻遇突智を使って無理矢理抜け出すしかないと理解しつつも、それが出来るのかどうか多少なり不安が過ぎっていた。
 まあ、やるしかない。そう心を改め、軻遇突智を操作しようとした時、何の命令も送っていないと言うのに、軻遇突智がカグヤを中心に蜷局を巻いた。まるで主を守る様にした動作に驚いていると、頭上から軻遇突智が頭を突き出してきた。

『じっとしててね』

「………へ?」
 突然聞こえた声に戸惑っている内に、カグヤは軻遇突智にぱくりと………食べられた。
 そして崩れた瓦礫が彼等を纏めて呑み込んだ。


 後に残ったのは瓦礫の山である。四十階を誇る巨大建造物であった学生寮は、見るも無残な瓦礫へと変質していた。
 これからこの学生寮を仮の住まいとし、同居人と共に学生生活を送る筈だった寮が、よもや入学日当日に粉砕されるなどと、一体誰が想像できたと言うのだろうか?
 何処か学者然とした雰囲気を纏う、可愛いらしい顔をした黒瀬(くろせ)光希(みつき)は、この惨状に思わずこぼさずにはいられなかった。
「こんな戦い方………、許して良いのか………?」
 イマジネーションスクールが戦闘を推奨する学園だとは知っていた。だが、それでも、破壊と戦闘は違う。これはただの破壊と一体何が違うと言うのだろうか? そんな疑問が、彼の胸中に怒りとさえなって浮かび上がっていた。
 多くの者はただこの状況に呆然としているしか無く、何が起こったのか理解できていない様子でさえあった。中には、何故自分がこんな所にいるのか解っていないらしい者もちらほらといた。

 ドガンッ!!

 そんな爆発にも似た音が響いたのは突然だった。
 瓦礫の中から炎を纏った角を持つ大蛇が現れ、地面に頭を近づけると口を開く。中から出てきたのは汗びっしょりの姿で転がり出てきたカグヤだった。
「あ、熱い………っ! お前の中熱過ぎ………! ってか本気で食われたのかと思ったぞ………!」
 カグヤの創り出した軻遇突智は、カグヤのイメージに補正され角を持つ大蛇の姿を模っている。それはつまり、蛇としての特性を持っている事と同義だ。故に軻遇突智は口の中に主を庇い、自分は一度土の中に潜る事で降ってくる瓦礫の衝撃から逃れ、収まったところで再び地上に出てくる事で、難を逃れたのだ。
(でも、俺命令してないんだけど? なんでこいつそんな事が出来るって自分で知ってたんだ? これじゃあ、まるで九曜と同じく自我を持ってるみたいじゃないか?)
 そんな設定はしていなかったはずだと首を傾げながら、カグヤは改めて自分の起こした惨状を確認する。
「………」
 それに対する感想は、無言だった。特に述べる感想は無い。全て予想通りの光景だと言わんばかりの不遜な姿に、誰もが嫌悪の視線を向ける。コイツの所為で学生寮を、これから住む筈だった家を破壊された。その怒りが新入生達の胸に灯り始める。
 嫌悪の眼差しを一身に受けながら、しかしカグヤは無視して周囲へと視線を散らす。そこにお目当ての義姉の姿を見つけ、彼はしばらく彼女を見つめる。最初に決闘開始を宣言した時と同じ、椅子の背凭れに座って脚を組んでいる義姉に驚愕する事もなく、彼はしばらく何かを確認する様に視線を向け続ける。
「………っ! カグヤ! お前………っ!?」
 ついに我慢できなくなった和樹が叫び、カグヤに掴みかかろうと一歩を踏み出した瞬間―――鋭すぎる殺気が彼を射抜き、一瞬で怒りを蒸発させられた。心臓に冷たい氷の槍を突き刺されたのではないかと言う、“恐怖を通り越した感情に”、彼は釘付けになって動けなくなってしまう。辛うじて視線だけを動かし、殺気を放つ物の正体を確認する。それが東雲神威だと知った瞬間、和樹の胸中に悔しささえ湧き上がってきた。
 “最強”を盾にされて脚が竦んでいる。それが悔しい。だが、もっと悔しいのは、その“最強”を盾にしているカグヤが好き放題していると言う事が許せない。許せないのに何もできない自分が、とてつもなく悔しかった。
 歯噛みし、僅かに涙さえ浮かべそうになった時、誰かに肩を優しく抱かれた。
「ダメやよ~~? 決闘中に外野が乱入するんわぁ~~?」
 半透明な大正時代の格好をした女教師、吉備津ゆかりが、和樹の事を優しく窘める。
「決闘………()………?」
 聞き逃せない一文字に気付き、彼は思わず訊き返し―――再び爆発が起こった。



「………正直に言うぞ? 化け物かよ?」
「鬼が化け物で無かったらなんだと言うのだ?」
 瓦礫を粉砕し、鋼の巨躯を持つ双角(そうかく)の鬼が、その身体にいくつもの火傷を作りながらも、四十階相当の建造物に押しつぶされた被害から生還して見せたのだ。骨の一つも折る事無く。
 既に身体に残ったやけども治癒し始めている事実を確認しつつ、カグヤは溜息を吐いて後ろ頭を掻いた。
「生還する可能性を考慮してなかったわけじゃねえけど………、火傷以外は完全無傷かよ? 物理効果を無効化する様な能力でも持ってんじゃねえのか?」
「いや、さすがの俺の耐久力でも無傷とはいかんかったさ………。正直もう走り回ったりはできそうにない………がな?」
 金剛はニタリと笑い、仁王立ちの構え(、、)を取った。
「此処まで来てやめるなどと言うなよ? 俺にもお前の能力がだいぶ見えてきた。お前はその炎蛇をいくらでも呼べるようだが、一度に呼べるのは一体のみで、再度呼び出すのに三分以上のインターバルが必要なのだろう? そうでなければもっとそいつを呼び出し複数で攻めた方が有効だ。俺が焼き鉄を顔に被ってる時も、蛇を呼べば良かったのに自分の回復をわざわざ待っていた。つまり、俺がそいつを消し去れば、お前は文字通り無防備になるって事だ? なら俺にもまだ逆転の可能性が残っているよなぁ?」
 言われカグヤは押し黙る。否定してやるのは簡単だったし、はぐらかしても良かったのだが、そんな事が無駄だと納得出来た。金剛もまた、単調な攻撃を仕掛けているだけの様に見えて、しっかりと観察していた。決してイノシシなどではなくだ。
 再びカグヤは、肯定の意味を込めて盛大に大きな溜息を吐いた。
「まったくよう~~? こっちは九曜無しの縛りプレイでやってんだぞ? だからこそ思い付いた手段の中で最も攻撃力のありそうな手段を選んだのによぅ? ………はぁ」
 また小さく溜息を吐き、刹那に真剣な眼差しを金剛に向ける。
「金剛。お前が勝てると思ったのは、俺の軻遇突智をもう一度消し飛ばせれば俺が無防備になるから………そう言う事だったよな?」
「何か違うか?」
「さあ? 自分で判断しろよ」
 鋭く告げたカグヤは、右手を翳し、隣に立つ軻遇突智の頭を軽く触れて―――変えた。
神実(かんざね)―――『軻遇突智』」
 軻遇突智が激しく燃え上がり弾け飛ぶ。炎はカグヤの手に吸い込まれるように集束し、長い一つの棒となる。否、それはただの棒ではない。先端に軻遇突智の身体の一つとなっていた六角柱の柱が小さくなって横向きに接続されている。その形は誰が見ても一瞬で形容できるしかし槍のように持ち手の長い“(つち)”だった。
「神格武装―――神を武器化する。これが俺の奥の手だ」
 そう、それは武器だ。カグヤが自ら振るう武器だ。攻撃を当て易かった巨大な炎蛇ではなく、カグヤが振るう武器となった軻遇突智は、金剛の唯一の勝機、無防備になったカグヤに襲い掛かると言う選択肢を排除した。
 もしあの炎の槌が、軻遇突智の攻撃力と同じだと言うのなら、属性攻撃に弱い金剛には圧倒的に不利な状況だ。だが、それを理解した瞬間、むしろ金剛は盛大に笑い声を放った。
「アーーッハッハッハッハッハッハッハッ!!! 喜悦(きえつ)ッ!! これほど痛快な事があろうかよぉっ!? この俺と殴り合いをするつもりかっ!?」
「言っただろう? “考慮してなかったわけじゃねえ”って………。ちゃんと考えていたさ。お前がこれでも這い上がってくるようなら、その時は―――トコトン相手してやるしかないってなぁッッ!!」
 宣言し、カグヤ自ら飛び出し、先制の一撃を、炎の槌の一撃を、金剛の側頭部へと叩きつける。同時に上がる爆発と高熱に焼かれ、金剛の身体がぐらりと(かし)ぐ。だがそれだけだ。すぐに傾いだ頭を戻し、金剛は一歩前へと踏み出す。カグヤは金剛の一撃を注意しつつ何度も槌を振るい爆炎を浴びせていく。
 猛攻を仕掛けるカグヤと、それに耐える金剛。まるで、最初の二人の戦いが入れ替わったかのような光景に、一同は呆気にとられるしかない。
 金剛は歩みを止めない。たった一撃、必殺の一撃を放つチャンスを探り、止める事の無い歩みを続ける。カグヤは猛攻を止めない。一撃を放たせる事無く、金剛が膝を付くまで我武者羅に槌を振るい続ける。
 止まらない。止まらない。猛攻も歩みも、どちらも止まる気配を見せない。
 だが、観戦していた者達は驚愕せざる終えなかった。
 金剛は見た目よりもダメージが大きい。カグヤの攻撃も金剛の残りの体力奪うに申し分のない威力だ。だと言うのに、金剛は歩みを止めない。金剛が歩み続ける故に、カグヤは猛攻をしかけながらも退がるしかない。攻撃を仕掛けるカグヤより、攻撃に耐えている金剛の方がカグヤを追い詰めている。誰の目にもそう映った。だからこそ、誰もが問いかけずにはいられなかった。「あれが、鬼なのか………?」っと。
 いくら攻撃を受けようと、金剛は歩みを止めない。それを正面から迫り来られれば、要塞がそのまま迫ってきているかのようで、さすがのカグヤも焦燥を感じずにはいられなかった。
 そして重なる疲労。元々体力に自信の無いカグヤは、それでも金剛を倒す為に近接戦を演じ続けるしかない。それ故に重なった疲労が、ついに足に来た。

 ガクッ!

「………ッ!?」
 瓦礫の欠片に足を取られ、カグヤの身体が大きく傾ぐ。
「オオ………ッ!!」
 その隙を逃さず体当たりしてきた金剛を―――、
「なめるなっ!!」
 不安定な状況で無理矢理振り抜いた槌で、足を払う。膝裏を爆発で突かれ、さすがに膝を付いた金剛。
 素早く片手を地面に付いて瞬転、金剛の背後に回り込み、彼の後頭部を六角柱の柱の無い方、棒の先端で突き込み、金剛を気絶させようとする。
 だが、金剛も耐える。爆発が無い分、打撃のダメージを堪える事が出来た。
 カグヤが飛ぶ。大きく上段に振るいあげた槌に、彼はありったけの力を流し込む。
 カグヤのステータス『霊力85』が神格武装の槌へと流しこまれ、槌を巨大化させた。
 流された霊力に比例しドンドン巨大化していく槌は、軻遇突智の頭を大きく超える巨大さへと変貌した。
「ぶっ倒れろぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」
 振り降ろされた大槌が強力な爆発と共に、巨大な火柱を轟かせ―――、

 ガシリッ!!

 ―――っと、カグヤの足が掴まれ逆さ吊りにされた。
「っ!?」
 見れば未だ強烈な高熱の火柱が上がる中、金剛が身体中を焼きつけられながら、それでも執念で伸ばした(かいな)が、ついにカグヤを捕らえていたのだ。
「取った………っ! ぞ………っ!?」
 執念に燃える目がカグヤを突き刺す。
 もう一度槌を振るおうとしたカグヤだが、その槌を、金剛はあろう事に噛みついて止めたのだ。鬼属性により、確かに彼には鋭い牙も、強靭な顎も存在している。だが、炎を纏った槌に噛みつけば顔も口内も忽ち焼かれてしまうと言うのに、それでも金剛は噛み付き、そして噛み砕いて見せた。
 己の持つ疑似神格で、カグヤの神格武装を噛み砕いたのだ。

「オオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 勝利への雄叫びを上げ、業火を振り払い、金剛は拳を振るう。無防備になったカグヤ目がけ、反撃の隙を与える事無く最後の一撃を見舞う!!



 10



(認めるしかない………っ!)
 迫る拳を前に、カグヤは痛感した。
(諦めるしかない………っ!)
 イマジネーターとしての才能の全てを総動員して、その結論に至る。
(コイツは本当に強かった………っ!)
 現実を前に、それでも悔しさからカグヤは奥歯を強く噛み締めた。
(いつか………! いつか必ずこの借りは返すっ!!)
 屈辱に涙さえ出そうなのを我慢し、それでもカグヤは全てを受け入れ、認めたくない事実を受け止める。
「認めてやるよ………、金剛………ッ!」
 拳が迫る。
 最早、回避も、防御も、軽減も、反撃も、撃てる手は一切に無い。
 だからカグヤは………諦めて目を瞑る。

「オオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 金剛の拳が、振り抜かれた。

 シャアァァンッ!!

 果たして、それを音として認識できたものは何人いただろうか? そう疑問を浮かべたくなるほどに澄んだ音が通り過ぎ―――鬼の(かいな)が切り落とされた。
 巨大建造物に押し潰されても傷一つ付かなかった頑丈な鬼の腕が、バッサリと、一刀両断に切り裂かれ、拳は空を切り、カグヤは消え去った。
 拳による衝撃波が瓦礫を吹き飛ばし、地面を抉ったような道を百メートルも作った券圧。もしもカグヤがまともに受けていたなら、肉片すら残っていたか疑問に思える様な惨劇が広がる。
 それを起こした金剛は、渾身の一撃を外したにも拘らず、ショックを受けた顔も見せず、落ちた己の左腕を拾い、傷口同士をひっつける。
「鬼の逸話の中には、侍に落とされた腕を取り戻し、再び己にくっ付けたと言うのがある。俺も、ステータスに『鬼200』を持っているおかげで、身体が切り落とされても、斬り落とされた片割れが残っていればくっつける事が出来る。この生命力と回復能力が鬼の奥の手と言ったところだろうな」
 言って左腕をくっ付けた金剛は、開いたり閉じたりを繰り返し、調子を確かめてから振り返る。
「それで? お前は一体どんな物を持っていたら俺を斬る事が出来るって言うんだ?」
 怒り、っと言うよりはむしろ喜悦に満ちた表情で、金剛はご満悦の笑みを向けて、その()()()()()()()に向けて言い放つ。
 主の肩を支える様に抱き、地面に片膝を付いた黒い少女、カグヤの僕、九曜は片手に構えた赤黒い剣を構え、金剛を強く睨み据える。
 何も語らぬ九曜に変わり、苦渋に満ちた表情のカグヤが絞り出す様に言う。
「認めてやるよ、金剛。お前は俺が想像していた以上に強い。負ける訳に行かない以上、俺も全てを晒してでも………勝つっ!!」
 立ち上がったカグヤは左手を翳し、己が最も信頼する僕に対し命令する。
「やれっ! 九曜!」
「我が君の仰せのままにっ!!」
 駿足、
 カグヤの命が告げられた瞬間には、既に九曜は金剛の眼前へと迫り、刃を振り被っていた。
 咄嗟に金剛が腕を交差して攻撃を受け止めようとするが、圧倒的に遅い。金剛が手を交差した時には、既に七つの閃光が金剛の身体を切り裂き、更に防御した上から九つの斬激が縦横無尽に叩き込まれる、合計十八の斬激、その全てが、あの物理耐久値を高く誇る金剛の身体を悉く切り裂いて行く。
「お………っ! おお………っ! おおおおおおぉぉぉぉぉ………っ!!!」
 守りきれないと悟り、反撃に出ようとした金剛の剛腕鬼手を素早く躱し、間隙を縫って閃く斬閃(ざんせん)。持ち前の回復能力で瞬時に癒えていく鬼の身体に、無数の痛々しい傷が残り始める。回復が追い付かぬほどに増えていく傷痕に、金剛のスタミナは容赦なく削り取られていく。
(この速度に俺の身を削れるだけの攻撃力………! おまけに今の俺の体力では………!)
 勝てない。そう悟るしかない。
 軻遇突智とは違い、この九曜は桁違いの戦闘能力を有している。全快の状態だったならともかく、軻遇突智の神格武装で痛みつけられた後の今の体では対抗しようがない。
 それでも! それでも………っ! っと、金剛は口の端を吊り上げ笑む。
 これほどの戦いを前にして、ただ諦めるなどと言う選択肢などあっていいはずがない。ここまで来たのなら、この戦いを余すことなく全て食い尽くさねば勿体無いと言う物だ。
「これほどの戦いを前に………っ!!! 途中で終われるものかよ~~~~~っっっ!!!」
 叫んだ金剛が拳を放つ。余裕で躱した九曜は左の刃を金剛の右肩に突き刺し、刃を残したまま、今度は右の刃で金剛の右肩を前から突き刺す。右肩を前後から突き刺されながらも右腕で振り払おうとするが、軽くしゃがんで躱した九曜は腰に差していた黒い板を両手に一本ずつ引き抜くと、そこから赤黒い刃を呼び出し、交差する様に金剛の腰を切り裂く。
「ぐ、ぐお、お、お………っ!!」
 それでも一歩も退く事無く、左の腕を振り降ろす。
 九曜は手に持つ二本の刃を消失させ、残った柄を空中に軽く投げながら、金剛の左腕を躱し、そのついでに金剛の右肩に刺さっている剣を引き抜き、その刃で左腕を斬りつける。
 奔る激痛を無視して右腕で九曜を捕らえようとするが、逆に、金剛の右腕を踏み台にして彼の頭上をくるりっ、と回転しながら飛び越えた九曜は、残った刃を金剛から引き抜きつつ、二本の刃で彼の背中を斬り付け、ついに膝を付かせた。
 刃を仕舞い、柄を腰に収めた九曜は、落ちてきた柄を寮の手にキャッチし、再び二刀を構え金剛を見下ろす。

 圧倒―――。

 その二文字が金剛に圧し掛かる。だが、彼の顔に浮かぶのは喜悦。この上ない喜び。戦いその物を貪る様に、彼は笑い、笑い、笑い………、そして笑う。
 最早動かぬ敗北。その敗北に挑む愉悦に、彼は高鳴る興奮を抑えられない。圧倒的な敵へと挑む喜びが、身体中の血を沸騰させていく。
 故に彼は傷だらけの身体から血を噴き出しながらも、己を見下ろす強敵へと手を伸ばす。
「オガアアアアァァァァァッ!!」
 本物の鬼が如く伸ばされた(かいな)。それを斬り落とそうと九曜が一刀を振るい―――、軌道を変えた金剛の腕が、赤黒い刃を無理矢理掴み取った。
「―――ッ!?」
 素早く刃を引いた九曜。切り裂かれた金剛の手から鮮血が迸る。
 危機感を感じ取った九曜が飛び退き、主の元まで退く。
 斬られた手を見つめた金剛は、心底うれしそうな笑みで、暴く(、、)
「水か………」
「「―――っ!?」」
 同時に表情を強張らせる主従に向け、金剛は確信的表情で続ける。
「光りの様に見えた刃の正体は、“水”だな? 赤黒く変色した水を音速にも等しい速度でチェーンソーの様に流動させつつ、刃の形状に完全に固定する事で、この驚異的な切れ味の刃を創り出したと言う事か………。なるほど。属性攻撃()が相手では、この身体の物理耐久も意味をなさないな。………だが、そうなると、そいつの正体は水を完全に近い形で操れる存在でなければならない筈? カグヤは先程使った軻遇突智から考えるに、完全なオリジナルから精製している物ではないな。既存の存在をモチーフにされているのだとすれば………、なるほどそいつの正体は水を司る日本の神だな」

((バレた………っ!))

 カグヤと九曜の表情が更に険しくなる。
 カグヤにしてみれば痛恨事だ。自分が最も頼りにしている主戦力の正体を看破されようとしているのだ。さすがに九曜のその全てを暴かれる心配はないはずだが、それでも『水神』である所をこんなにも早く、ましてや多くの観戦者が居る中で暴かれたのは計算外だ。
「………いや」
 (かぶり)を振るカグヤ。
 計算外?
 これくらいは予想しておくべきだった。
 イマスクのレベルは、義姉から聞き及び、それなりに知っているつもりだった。その認識の甘さが、この失態だ。
(実際に自分で体験してもいないような内容を“知っている”と思い込んだ己のミス。むしろこんなにも早い段階で悟れたて幸いだったと思うべきだ)
 カグヤは一度義姉を見る。この決闘を誘発させた義姉。きっと彼女はこれを自分に解らせるために自分を誘導したのだ。そう判断して小さく、そして優しい笑みを浮かべ―――その表情が一変する。
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「九曜」
「はい」
 カグヤに呼ばれた九曜が、構えを解いて彼の傍らに(はべ)る。
「金剛、お前は本当にすごいな? アアすごいよ。お前が強敵だって事をこの上なく認めてやる。九曜の正体を『水神』と見抜いた辺りなんか、もう手放しで絶賛するしかないほどだ………。けどな………」
 愚者が笑う。
 強敵たる鬼を前に、己より優れたる種と認めた相手に、己を愚者と認めた上で―――心底見下した視線を向けて笑う。
「だからお前はここで負ける」
 九曜とカグヤが互いに手を取り合う。
「九曜を『水神』と見抜いた御褒美だ。教えてやるよ。………コイツの神名(かみな)を―――」
 そして彼は、告げる。
神実(かんざね)―――『闇御津羽(クラミツハ)』!!」

 バンッ!

 九曜の背中が弾け、四対の黒い影の様な翼が出現する。それは流動し、九曜自身を包み込むと、忽ちその身体を変質させ、カグヤの手に一振りの日本刀となって再び姿を晒す。黒い刃に深紅の線を引かれた青い柄紐に包まれた一振りの日本刀。それが九曜―――否、闇御津羽の神格武装となった姿だった。
「刀………だと?」
 金剛は困惑する。
 何故、闇御津羽が刀だ? 闇御津羽は日本神話における水の神であると言うのは金剛の知識にもある。姿が女性であるところから女神と推測すれば罔象女神(みつはのめのかみ)のベースを交えているのかもしれない、くらいの予想は付いた。だが、どうして彼女の神格武装が刀なのだろうか?
 軻遇突智の神格武装は火の槌だった。アレは軻遇突智を火倶槌(かぐづち)と言い表わした時のイメージを利用したのではないかと推測できた。ならば、闇御津羽にも同様のイメージに引っ張られる何らかの由来がある筈だ。それは、九曜の正体に直結していると言っても良いはずだ。
 ならばなぜ刀だ? 彼女の姿が刀である理由とはなんだ?
 金剛の疑問はカグヤが剣を構えた事で中断され―――、斬られた。
「―――?」
 驚愕を通り越し疑問だけが脳裏をよぎる。自分は今、何故斬られた? 切った相手はカグヤだ。それは解る。だが、カグヤはそこまで速く動く事は出来なかったはずだ。神格武装を持つ事で速度が強化されたのか? ならばなぜ軻遇突智を使っていた時は速度が強化されなかった? いや待て―――、この速度には見覚えが………!
 っと、そこまで考えた末に思い出す。この速度は先程まで自分を切り刻んでいた九曜の速度ではないかと。
(神格武装は、イマジン体を武器にするだけでなく、その力の一部を恩恵として手に入れられると言う事か? ………っと、これ以上はさすがにまずいか………)
 体が傾ぎ膝を付く。全身に残った傷跡が回復しなくなり、見るも無残な姿を晒す。もう一撃受け止められるか解らない。これ以上は戦う力が残っていない。
「ならぁっ!! 残りの一撃に全ての力を尽くすのみだぁっ!!」
 瞬時に立ち上がり、自分の後ろに抜けていたカグヤに向かい、金剛は一気に肉薄する。鬼神としての全ての力を使い、彼は神速に迫る勢いを得る。
 刀を下段に構えるカグヤ。その瞳は、金剛の一切を見逃す事無く捉え、カウンターの一撃を叩き込む。
「ゴアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッッ!!!」
 二人の雄叫びが重なり、金剛の剛腕鬼手とカグヤの神格武装が交差する。
 闇御津羽の刃は、鬼神の腕と衝突し、互いの神格を削り合う事で己の損害を回避しようとする。しかし、カグヤには『神格70』のステータスが存在し、闇御津羽もまた神としての存在を持っている。金剛の『鬼神化』はあくまで能力による疑似神格。『鬼200』のステータスを有していても、それは決して神ではない。故に神格のぶつかり合いとなれば、金剛の疑似神格は打ち破られてしまう。
 拮抗を崩され、闇御津羽の刃が金剛の剛腕鬼手を真一文字に切り裂いて行く。肉も骨も疑似神格すらも切り裂いて、金剛の腕を両断していく。
 そのまま金剛を切り裂こうと刃を進めたカグヤは―――しかし、突然の手応えに刃の前進が阻まれる。
「―――ッ!?」
 カグヤは眼を見開き驚愕する。金剛の腕を切り裂いていた刃が、肘の辺りで完全に動きを止められていた。その理由を彼の動体視力と観察眼が瞬時に見極め、『驚愕』の感情を引き出していたのだ。
 金剛は、刃が肘のあたりまで進んだ時、筋肉を膨張させ、その圧迫で刃を挟み込みつつ、関節部の骨の隙間に入ったタイミングで腕を無理矢理捩じり、刃を骨の間で挟み込んだのだ。
 例え鬼化しているとは言え、その激痛は尋常ならざる物であるはずだ。そんな方法、思い付いても普通はできない。試みようとしても、途中で痛みに挫折する。イマジネーターである事など関係無い。そんな方法は“できない筈だ”。
 だが、金剛はやった。やって見せた。そして、圧倒的な敗北状況に於いて、彼は勝機を掴んだ。
 金剛の右腕がカグヤの肩を掴む。その腕一本で小柄なカグヤの全身を掴めてしまいそうな巨大な腕が、しっかりとカグヤを捕まえる。
「くそ………っ!!」
 慌ててカグヤは刃を返し、刃を振り上げて金剛の右腕を切り落とす。だが、その頃には既にカグヤの全身を金剛の腕が捕まえていた。
 カグヤは金剛の首を狙い剣を振るおうとするが、それが実行されるより早く、金剛はカグヤの首目がけ(あぎと)を開く。

 ガブリッ!!

 金剛の牙がカグヤの肩口から首元目がけ突きたてられる。必死に首を振って躱そうとしたカグヤだが、捕獲された状態では完全に躱す事はできなかった。何とか喉元は避けたが、それでも金剛の牙は、鬼化した鋭い牙は、しっかりと彼の頸動脈を突き破っていた。
 もしこれが『吸血鬼』の類であったなら、まだカグヤには抗い様があった。『吸血鬼』の牙は確かに鋭いが、血を飲む事が優先される彼等の顎は、それほど強靭では無いからだ。しかし、金剛は紛れもなく鬼。人の血肉を食い荒らし、骨すら噛み砕ける強靭な顎を持つ種族。おまけに肥大化し、一トン近い体重になった金剛はカグヤに覆いかぶさる様にして地面に叩きつけ、脱出、抵抗、それらの全てを奪い尽くす。
 地面に叩き付けられた衝撃で、剣をとばなしてしまったカグヤ。闇御津羽の剣が宙を舞い、カグヤの手から遠く頭上に離れていく。
 カグヤの目が見開かれ、強過ぎる激痛に声にできない叫びが喉に詰まる。自由な右手で金剛の角を掴むが、それすら本能的な行動でしかなく、痛みから硬直し、ただ強く握っただけだ。
 金剛はついに掴んだ最後の勝機を逃す事無く、一気にカグヤの肩部分の肉と骨を―――噛み千切った。

 ブチィッ!!

 残酷な光景に静かに響く生々しい音。一気に噴出される鮮血。

「あ………、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!????」

 それは叫びではない。完全な悲鳴。その痛みだけでショック死してしまうのではないかと言う致死の激痛。カグヤの頭は完全にショート状態にあり、スパークする真っ白な思考で埋め尽くされる。
 堪える事すらできない涙と、口の端から漏れ出る唾液を、みっともなく上げながら、彼は淀んで行く思考の中で、暗がりに意識を落としていく。
 ぼやけ行く視界の中で、金剛が血みどろの口を悦に歪めながら、宣言する。
「俺の勝ちだ―――」

 ズドンッ!!

「ばバァ―――ッ、………?」
 金剛が口から大量の血を吐く。噛みついた時に口に溜まったカグヤの血ではない。完全に己の血だ。
 一体どう言う事だ? そんな疑問を頭の中を一杯にしながら―――金剛は見た。
 文字通り瀕死の状態で、血と涙と唾液に汚れながら、それでも少女めいた儚さを崩す事の無い少年が、愚者として、絶対的強者の敗北を目の当たりにしたように、笑っているのを。
『ざまあみろ』
 まるでそんな声が聞こえてきそうな顔に、金剛は何が起こったのかをようやっと理解した。
「戻る時は主の命はいらないのか………?」
「元々、片方が望めば姿を変えられる仕組みです」
 金剛の背中、六本(、、)の刃を全て急所に突き立てた九曜が、疑問に答え、回し蹴りで金剛を主からひき剥がす。
 すぐさま主に駆け寄った九曜は、傷口を手で押さえ、血を操作し、身体から漏れ出さないようにする。傷口の血は、まるで見えない血管を通る様に傷口から漏れ出す事無く流れる。
「我が君………! お気を確かに………ッ!」
 叫ぶ事は無く、それでも僅かな焦りを表情に滲ませながら、九曜が呼びかける。それに気付いたカグヤが、手放しかけた意識を掴み直し、最優先とされる思考に頭を働かせる。
(イマジン使用。肉体の回復プロセスへ。能力による治癒術式(イマジネート)無し。肉体強化による回復力を最優先、全力を持って起動。………。回復時間、低。最速化に『霊力85』を燃料として使用。………。………。………。最低限状態回復まで最速340秒と推測………)
 思考がそこまで行き着いたところで、カグヤはやっと呼吸を思い出し、慌てて肺一杯に酸素を送り込む。
 意識がある状態で何秒か死んでいたという事実に今更気付いて、恐怖心から身体中の毛穴から一気に汗が噴出された。
 荒い息を必死に整えながら、強過ぎる激痛をイマジンでカットし、心配げな表情を滲ませる九曜に、苦しげながらも笑みを返し安心させる。それから探す。目当ての相手はすぐ見つかった。
「………、化け物とは言ったが………、本物の化け物はケタが違うな………」
「………ふっ」
 カグヤの台詞に、金剛は自嘲気味な笑みを返した。
 彼の正面に、仁王立ちする鬼の姿があった。背中から六の刃で急所を貫かれ、左腕を完全に斬り落とされ、全身を血に染め抜いた満身創痍の鬼は、それでもカグヤの正面に仁王立ちしていた。
 九曜が立ち上がり刃を構える。しかし、構えるのは一本。主の治療のために力がセーブされているらしく、先程の気迫は感じられない。
 それでも主のために向かおうとした九曜に、カグヤは名を読んで制止した。
「良い九曜。コイツはもう戦えない」
「………御意」
 主の言葉に従い、治療に専念する僕。
 ズドンッ! っと言う軽い地響きを起こす音をたて、金剛が胡坐をかいて座る。
「カグヤ………、お前、よくもまあ、ここまで付き合ってくれた物だな? 正直、途中で投げ出したいと思わなかったのか?」
「いや、義姉様の手前、絶対負けられないからな。『投げ出したい』とは思わなかったよ。『いい加減倒れてくれ』とは、さすがに何度も願ったがね………」
「はっは………っ。………何処までだ? 何処までがお前の戦略だ?」
「軻遇突智の神実までだ。九曜を使わされたのは完全に予定外。でもま、今はそんなの当然として想定しておくべきだったと、後悔しているがね」
「そうか………。俺のような単細胞でも、ここまでお前を追い詰める事が出来たのだな………。あと一歩、何か踏み込める手段さえあれば、もしかすると勝てていたかもしれないほどに………」
 金剛はそう呟き視線を空に向ける。そこには一切の雲が存在しない、とてつもなく多くの光に満ちた星空が一望で来ていた。まるで大宇宙のど真ん中にいるのではないかと言う光景に、金剛は心が広く透き通るような錯覚を得て、そして笑った。
「まったく!! イマジンとは愉快な物だっ!!」
 叫んだ金剛は、そのまま完全に動かなくなり、ゆっくりと鬼化が解けて普通の人の姿に戻っていった。完全に意識を失った瞳で、それでも金剛は満面の笑みを浮かべていた。
「ゲームセット。勝者、東雲カグヤ」
 誇らしげに微笑んだ神威(審判)が、ようやっと決闘終了を告げ、ようやく嵐の一時は収まった事を、観衆は知った。



 11



 だが、決闘の代償はあまりにも大きすぎる。
 和樹を筆頭に多くの新入生が崩壊した学生寮を見て、そう思った。
 確かに決闘は凄まじい物で、カグヤも冗談ではすまされないダメージを負った。ある意味償いとも言えるダメージかもしれない。それでも、失った物が返ってくる訳ではない。
 その怒りから、ついに我慢できなくなった和樹が、一歩を踏み出し―――、
「はいはい~~~! それでは決闘終了により、破損したバトルフィールドを決闘前の状態に戻しはるね~~~!」
 パンッ! っと言うゆかりの拍手(かしわで)一つで、学生寮が元に戻った。
 気付いてみれば、和樹は食堂に立っていて、まるでさっきの決闘が夢だったかのように。思わず周囲を見回すと、カグヤと金剛の姿が消えていた。その他は最初に自分が見た食堂の光景と変わらない。唯一夢でなかったという証拠の様に、他の新入生達も、不思議そうに周囲を確認している。
 不意に彼の背後で会話が聞こえる。
「これ、一体何がどうなってるヨっ!?」
(よう)(りん)さん、知らなかったんですか?」
「なにがネ? カルちん?」
「カルラ・タケナカです! 生徒手帳の≪決闘ルール≫の中に書いてあったでしょう? 『生徒手帳を合わせ決闘が行われた時、決闘前の状況(生徒手帳を合わせた時)をバトルフィールドを記録し、決闘終了後に上書きされる』って? その変わり、生徒手帳を合わせない決闘は、周囲を記憶できていないので絶対決闘してはならないってルールも追加されてますけど?」
「そ、そうだったのカッ!?」
(そうだったのかっ!?)
 こっそり驚愕する和樹。それと同じ説明をゆかりが周囲の新入生に説明し場はなんとか収まった。イマジネーションスクール。何とも規格外の世界である。
(でも、カグヤは本当にこれを知っていたのか? もし知らずにやっていたのだとしたら………)
 そう、和樹がカグヤに対して何かを思っている時、事件は起きた。

 ズガシャンッ!!

 突然の騒音に誰もが目を向けると、そこには先程まで余裕の表情で椅子に座っていた最強の存在神威が、何者かによって踏み潰されていると言うとんでもない光景だった。
 その何者か、長い髪を逆立て、凶悪なオーラを噴き出す巫女装束の女性は、踏みつけた神威に向かって据わった視線を送っていた。
「なぁ~~にを、してるんですかぁ~? 神威? 直接私の部屋に来るんじゃなかったんですかぁ~~~?」
「せ、刹菜………。悪かった………。義弟の方から呼ばれた物だから………」
「ほっほうぅ~~~っ? それで食堂まで転移した挙句、新入生に決闘騒ぎを持ちかけたと? そう言う事ですかぁ~~~?」
「せ、刹菜………。顔怖い………!」
「怒ってるんですから当然ですよねぇ~~~? 怒ってないとでもぉ!?」
「ごめんなさい………っ!?」
「私の部屋でアナタの相部屋の子が物凄く淋しそうに泣いてるんですけどぉ!? ウチの後輩ちゃんが、今必死に慰めてくれてるんですけどォっ!? 立場解ってますか神威ッ!!?」
「スマンすぐ戻る!! 許してくれっ!?」
「………ダメ♪(ニコッ)」
「せ、せめて油揚げは勘弁してくれ~~~~~~っ!?」
「(ニコッ)♪」
「何か言ってほしいっ!?」
 神威を踏みつけた巫女は、彼女の首に文字通り鉄の首輪を撒き付け(『神威専用』と書いてあった)、ずるずると引きずりながら食堂を出ていく。
「新入生の皆様、ウチの子が本当に申し訳ありませんでした! どうぞお食事を続けてください」
 それだけ言い残し、朝宮刹菜(最強の片翼)は、東雲神威(最強の片割れ)を連れて去って行った。
 入学早々、とんでもない事件の続く学園だった。



 12



 決闘を終えたカグヤと金剛は、ゆかりの計らいで保健室へと転移させられ、そこで待ち構えていた木嶋(きじま)(すばる)っと言う最上級生に治療を受け、完全回復して部屋へと戻った。
 残念ながら金剛は、腕もしっかりくっつけてもらったが、意識まではすぐに戻ってこなかった。
 カグヤが部屋に戻って最初に待っていたのは、同室の菫から御小言だった。
 何でも彼女、初日は混むだろうと判断し、食堂へは行かず、持ってきた携帯食で済ませていたのだが、カグヤの起こした決闘騒ぎで一度、ゆかりの能力で外に追いやられたのだと言う。カグヤの所為で寛ぎの時間を邪魔されたと怒ったのである。
「ところ、で………。聞きたい、事、ある………」
「え? なに? 正直もう少し御小言続くと身構えていたんですが?」
「寮、元に戻った後………、部屋にいた。誰………?」
 菫に指差され、部屋の奥、ガグヤのベットへと視線を向けると、そこには赤い髪の幼女が、天女の様な和服を纏ってこちらを紅玉の様な瞳で面白そうに眺めていた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん♪」
 カグヤを見るなりそんな事を言ってくる。菫の視線がとても冷めた物へと変わる。
 カグヤ、必死に記憶を辿るが、自分に義妹が居た記憶はない。もちろん『お兄ちゃん』などと素敵ネームで呼んでもらった経験はないはずだ………。
 そこまで考え、ふと思い出す。
 そういえば、突然神威が現れた時、自分に抱きついている間に、軻遇突智のイマジネートに干渉して来ていた気がした。本来なら簡単に妨げる事が可能であり、また元の状態に戻すのも容易かったのだが、相手が義姉だっただけに、受け入れていた。

『じっとしててね』

 思い出したのは軻遇突智が自分の命令無しに動いた時のあの声。
 まさか………、っと思うも、すぐに自分のイマジネーションを確認し、確信してしまう。
 それでもカグヤはつい聞かずにはいられなかった。
「おまえ………、軻遇突智か?」
「そうよ! やっと解ったわけ? これからよろしくね? お兄ちゃん♪」
 可愛くウインクする幼女神妹キャラ。
 更に頬を染めて付け足す。
「九曜以上に可愛がってくれないと………拗ねちゃうから?」
「妹属性開拓開始~~~~っ!!」
 幼女に飛びつこうとするカグヤに―――、
「18禁ッ!!」

 ズドムッ!!

 容赦無く菫の剣が無数に突き刺さる。
 ギガフロート最後の夜は、激戦を潜り抜けた少年の断末魔の悲鳴で幕を閉じるのだった。



☆カグヤの新しいイマジン体☆

保護責任者:のん
名前:カグラ   本名:軻遇突智(かぐづち)
年齢:12(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神
性格:普段はデレデレ、でもいざとなるとツンツンな『デレツン』妹キャラ。

喋り方:ツンデレ
自己紹介  「軻遇突智のカグラ! よろしくしなさいよね!」
デレ    「お兄ちゃん、だ~~い好き! 九曜と同じくらい愛情注ぎなさいよね♡」
ツン    「べ、べべ、別に―――っ! 膝の上に座ってるくらいで喜んでないわよ!/////」
現神化   「ゴアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッッ!!!」
下僕状態  「はい。兄様の仰せのままに」
ボケ1   「い、いいい、い、イケメン出た~~~~っっ!!?」(恐怖)
ボケ2   「胸に脂肪が集まればエラいんかぁ~~~~っっ!!?」(怒泣)

戦闘スタイル:自在に炎の全てを操る。中距離支援タイプ。広囲殲滅型。

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『火女神(ほのめがみ)の式神』

技能
各能力概要

・『炎法(えんほう)
≪炎のあらゆる全てを自在に操れる。高威力砲撃、中距離支援、小規模爆破、炎熱断絶、炎の全てを支配する≫

・『現神化(あらかみか)
≪角を持つ炎の大蛇の姿になって、広範囲殲滅に特化する能力。主のイマジネーションと属性攻撃力の影響を受け、威力が変化する。この姿は神格としての力は強く、『権能』以上の力でなければ破られる事が無い。ちょっと性格が化け物よりになり、女の子らしさが見受けられなくなる。角を持つ蛇の由来から、竜としての属性も持っている≫

・『神実(かんざね)
≪軻遇突智を火倶槌として変化させ、己の姿を神格武装に変える能力。炎を纏った槌となる。軻遇突智の由来から、神殺しの炎を持っていて、特に女神に対し絶大な効果を持つ―――筈なのだが、多少強力な神格殺しを持っているだけに止まっている。時に主を自分の意思で動かす事もできるが、接近戦は苦手なので、その機会は皆無に等しい≫
(余剰数値:0)

人物概要:【炎の様な真っ赤な髪に、両端から牛の様な角を生やしている、紅玉の瞳を持つ幼女。天女の様な羽衣衣装を纏っていて、女の子用の下駄を履いている。元は炎を纏う大蛇の姿で、広囲殲滅型の式神として生まれたのだが、神威のお茶目で『現人神(あらひとかみ)』“人化”の特性を得てしまった。幼女姿は神威の設定。カグヤの事を兄と慕い、物凄く懐いたデレデレ妹キャラなのだが、いざカグヤに迫られると何故か強がってツンツンした態度を取ってしまうデレツン娘。炎の神なので重量が無く、自由に空中を飛び回れる。その反面、火の力で常に淡い上昇気流が自身の周囲で起こっているため、感情の起伏で火力を強くし過ぎ、気流で自分の服を捲ってしまいそうになる。ドジな所もある。何故かイケメンを恐れている。本人は伊弉諾がイケメンのイメージだったからだと語っているが、真相は不明。身体が成長しないので、胸の大きな女に泣き怒りする事が多い】
備考【炎の神、軻遇突智として生まれた彼女だが、何故か女神の特性を強く持ち、陰属性の炎を有する支離滅裂な存在。神威に姿形を弄られはしたが、それ以外はカグヤの能力で再現された存在。そのため、日本神話に忠実に則った存在のはずなのだが、何故か女神であり、本来陽の力であるはずの火を、陰の属性で操っている。しかもこれで存在が確定されているため、矛盾を(よう)していない存在として確立している。摩訶不思議であるが、神話の史実は大量に存在する。その中からカグヤはカグラの存在を確定できる何かを見つけたのかもしれない。現在、火の神として、神殺しの力を有する、カグヤの攻撃力での切り札となっている】








カグヤ「―――っとまあ、そんな感じで軻遇突智がカグラになった」

菫「他人、から、イマジネートに干渉………、とか、出来るの?」

カグヤ「出来る。ただ、主導権は常に本人にあるから、イマジンその物を封じたりとかはできないけどな? 俺だって、いつでも神楽の設定を消して、元の軻遇突智に戻す事が出来るぞ」

カグラ「お、お兄ちゃん!? まさかこんなに可愛妹キャラを無かった事にするつもり!? いくら私の声が『こんなに可愛いわけがないっ!』と言われる妹キャラボイスだからって―――酷いよっ!」

カグヤ「そんな事するわけないだろっ! ………正直、妹属性なんて俺には無かったが、こんなに可愛い女の子が目の前で『お兄ちゃん』と呼んでんだぞ? 属性開拓しなくてどうするっ! ………ってわけでベットに行こう」

菫「ロリコン死すべしっ!!」

 ドグサッ!!

カグヤ「がはっ!? ………く、九曜、助けて………!」

九曜「………。………我が君の仰せのままに………」

カグヤ「あれ? なんで少し不服そうなの? 何か不満があるの? 俺は一体お前の何を傷つけた?」

カグラ「べ、別にベットに行くのが怖いとかじゃないんだからね!? でもちょっと踏む段階が早くないかなぁ? って思っただけなんだからね!」

カグヤ「カグラは今ここでデレツンすんなよ!」

カグラ「だから………! また誘いなさいよね………?」

カグヤ「よし今すぐ誘う! 仕切り直してもう一度ダイブ―――!!」

菫「18禁、オメガ死す………ッ!!」

 ズドドドドドンッ!!

カグヤ「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ~~~っ!?」

九曜「………、カグヤ様の性格上、また女の子の僕が増えるんでしょうね………。はあ………っ」


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一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅰ

一話に入り切らなかったので上下巻に分けました。
とりあえず、今頂いているAクラス一年生キャラは全員出しましたよ!
さあ、褒めるがいい!

最初っから最後まで戦闘シーン(クライマックス)状態です!
高レベルの戦いを想定したつもりなので、楽しんで頂ければと思います。


一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅰ

【Aクラス編】上


 00


 イマジネーションスクール。万能の力、イマジンを学び研究する浮遊学園都市、ギガフロートに浮かぶ学園。世界に三つしか存在しない学園の一つ、柘榴染柱間学園。新入生を受け入れ、何処の学校でも同じ退屈な入学式を終え、クラス分け試験を経て、イマジネーターの学習能力に頼った早足の教鞭を三日ほど受け、ようやっと一年生達はイマジンによる戦闘授業を許された。
 東雲カグヤと伊吹金剛の決闘騒ぎ以来、一年生達は大人しくしていた。万能の力であるイマジンを、自分だけの特別な能力を得て、使いたがらない筈がない。実際、過去の入学生は、退屈な授業に耐えきれず、決闘を乱発してそれはそれは大騒ぎになっていた。
 だが、今回最初の決闘が学生寮の破壊と来たものだから、さすがに新入生達は大人しかった。いくら一瞬で元通りになるからと言って、あんな物を何度も自発的に体験したいとは思えなかったのだろう。それゆえ大人しかった新入生だが、裏を返せば、それだけフラストレーションを溜め込んでいたとも言える。
 そんな状態で始まったのは、直径一キロ四方の四角い空間で取り行われるシミュレーションバトルだ。


 東雲カグヤは、傍らに軻遇突智(カグヅチ)の擬人体、≪カグラ≫を連れ立ち、ジャングルの中を必死に走っていた。イマスクが支給した実戦練習用スーツ(体操服)は何処となくミリタリー仕様で、無駄な布地が無く、色は暗色系で統一されている。半袖のジャケットには、大量のポケットがあり、小道具の収納には事欠かないのだが、正直生徒手帳の収納の方が優れているので、サバイバル訓練でもない限りは使いどころは無いだろうと考えていた。
(あんま変わらん気がしてきたけどな! この状況は………!)
 内心毒吐きながら、彼は地面を蹴って低い崖を飛び降りる。木々の間を危なげなくすり抜けながら、自分の戦い易いフィールドを探しまわる。
 今回のルールはシミュレーションスペースでの実戦訓練であり、現在カグヤが挑んだエリアは密林のジャングル地帯となっていた。空から照りつける強い太陽に熱帯の環境は、此処が室内とは思えないほどリアルに再現されている。踏みつける地面すら、時々ぬかるんでいて、ブーツは既に泥に(まみ)れている。
 こんな環境の中で彼等が求められたのは二つのクリア条件である。
 一つは、同フィールド内に居るたった一人のクラスメイト、(すなわ)ち敵を攻撃し、有効とされるダメージを一定以上与える事。これはポイント制になっていて、既にカグヤは50ポイント中、40ポイントを取られている。
 二つ目は、敵に撃破される前に先にタスクをクリアすると言う物。タスクは全で五つ存在し、それが結構な難度を示していた。
 一つ目のタスクは生徒手帳に表示された『見鬼の発動』だった。これをカグヤは余裕でクリア。
 二つ目のタスクは、同じく生徒手帳に表示された。『フィールド内にあるコンソールを発見せよ』っと言う物。これも見鬼を使い、余裕で発見。
 三つ目はコンソールに表示された、とあるエリアを目指せと言う物だった。コンソールに表示された地図を頼りに向かってみると、イマジンによる施錠がされた小屋を発見。なるほど『解錠』つまり『分析』の能力を確かめるタスクだったらしいと判断し、これも得意分野だったカグヤは楽々解錠。小屋にあった小箱を発見する。
 四つ目のタスク、これが何気にとてつもないトラップだった。箱の中にあったのは赤い水晶玉だった。水晶玉は中から文字を浮かび上がらせると、次のタスクをカグヤに伝えた。
 五つ目のタスク。それは、この水晶玉を一時間以上死守すると言う物。それ自体は難しそうではなかったのだが、次に水晶玉から浮かんだ二つの条件にカグヤは絶叫する羽目になった。

『なお、この水晶玉は持っているだけで敵に自分の居場所を伝える発信機となっています! 更に、この箱が「解錠」状態にある限り、この部屋から出られません!』

 バタンッ!!

 絶対破壊不可能のイマジネートがかけられた小屋に閉じ込められたカグヤ。『解錠』の次は『施錠(せじょう)』、封印系の基礎イマジネートを要求された上に、敵に自分の居場所を気付かれた。「どんな嫌がらせなタスクだっ!?」と叫びながら『施錠』を速やかに施し、脱出したカグヤは、そこで猛烈な速度で飛んでくる敵の攻撃に曝された。



 そして現在、敵と交戦しながら逃げ惑う事三十分。カグヤはとっくに限界を悟っていた。いくらイマジネーターでも、身体強化の訓練を受けていない状態で一時間も戦うのはかなり厳しい。なのですぐさま九曜を呼び出し戦闘に入ったのだが、気付いたら崖っぷち状態に曝されていた。
 カグヤの獲得ポイントは現在25ポイント。
 敵獲得ポイントは先程説明した通り40―――、

 ヒュンッ! ………ザシュッ!

「おわっ!?」
「お兄ちゃんっ! こっち!」
 突如横合いから飛んできた刃が、カグヤの肩を軽く霞めた。慌ててカグラがカグヤの身体に体当たりする様にして方向転換。
 今のかすり傷がヒットポイントと見なされ1ポイントが奪われる。これで敵は41ポイント。残り9ポイントで終わってしまう。
「くそっ! まだか九曜!」
『あと少しお待ちください』
 急かすカグヤの声に応じ、戦場から少し離れた場所にいる九曜が思念で答える。
 九曜がカグヤに命じられたのは見えざる敵の感知だ。カグヤがここまで圧倒されている理由が、殆ど敵を捉えられていない事が原因だった。なんとか九曜に突出させ、カグラで己の身を守りながら此処まで繋いでいたが、不利的状況が全く変わらない。何とか相手を完全に感知しなければと、カグヤは九曜に攻撃ではなく察知を命令したのだが、どうやら向こう側もそれを素早く理解したらしく、攻撃度合いが激しくなってきた。
 木々の間から飛来する投剣を、見鬼でなんとか感知していたが、もう限界だ。
 二本の剣が左右から足場に刺さり、それだけで地面が崩れさる。慌ててカグラがカグヤを掴み持ち上げるが、擬人化状態の彼女は、人一人分を抱えて素早く飛行する能力は持っていない。グライダーの様に落下速度を落としつつ移動し、地面を転がる様にして着地する。更に二本の刃が飛んできて、それをカグラが炎で吹き飛ばすが、後方から放たれた剣に気付けず、カグヤの肩を浅く切りつける。
「ぐっ!?」
「ああっ!? お兄ちゃん!」
 カグヤに飛び付き、自ら神実(かんざね)、火の槌となって防衛体制を取るが、カグヤのスタイルが変われば、剣の攻撃パターンもそれに対応した物へと変わる。完全に万事休すだった。
 その時、遂に九曜が敵を確認する。
「見つけました!」
 疾しる九曜。
 同時、感知された事を悟った敵がカグヤに向けて走る。
 速度は九曜の方が速く、何とか主の元に向かわれる前に接敵できた。
「はあ―――っ!」
「………っ!」
 九曜の手に二本の赤黒い剣が出現。それを振るい敵を足止めしようとする。
 しかし、敵もそれを素早く感じ取り同じく手にした剣で受け返す。一度ぶつかり足を止めるものの、その人物は紫のショートヘアーを揺らしながら、素早く移動。九曜に負けない速度で追い抜こうとする。
 九曜も主の元に行かせぬようにと必死に追いすがる。
 互いに地を蹴って飛び、高低差のある木や枝を足場にし、三次元的な戦闘を開始する。
 地を走り切り合う時もあれば空中で衝突し、火花を散らして交差する。互いに速度と剣の腕を持った実力拮抗の相手だった。
「ならば………っ!」
 先手を取るため、九曜は背中のホルスターから六本の柄を宙へと投げる。それらは赤黒い水の刃を創り出すと、見えない糸に操られるように宙を舞い、敵たる少女へと向かう。
 真直ぐ飛ばされた刃を見据えながら、少女は六の内二本を己の持つ一本の剣で見事に弾き飛ばす。
 残り四本の刃は少女の動きを見切ったかのように素早く散開し、彼女の背後へと移動する。同時に飛び出した九曜が、彼女を正面から挟み撃ちの体勢に入った。
 少女は臆せず、九曜に向かって刃を振るう。
 九曜の二刀と少女の一刀が激突。同時に彼女の後ろに迫っていた剣が、飛来した別の剣によって叩き伏せられた。
 気付いた九曜が少女を弾き飛ばし、六の刃を自分の近く待機させる。
 少女もまた、四つの刃を空中に従え、九曜と同じようなスタイルを取っている。
 容易に攻撃できない。同じタイプ故にそう思考すると同時、主の苦悶の声が聞こえた。
「ぐあっ!」
「我が君っ!?」
 正面の敵への警戒を解かず、主を案ずる九曜は、その危険な状況を確認した。
 四本の刃が、宙を自在に踊りながらカグヤに向けて攻撃している。カグヤは神実した軻遇突智の槌で何とか応戦しようとしているが、ダメージが大きくなっているのか、上手く戦えずにいる。
「飛べ………っ!」
 少女が呟くと同時、四本の剣が投擲される。
 九曜もそれに合わせ六の剣を操り、迎撃と反撃を試みる。
「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………剣よ、逆巻く風となれ………っ!」
 少女が投擲した剣に新たなイマジネート(術式)送り込む。
 途端、ただ真直ぐ切っ先を向けるだけだった剣達がその場で回転を始め、手裏剣のように飛来する。
 だが、それを確認した九曜は、素早く剣達に命じ、正面からではなく上下からの攻撃に転じる。回転する事により正面からの攻撃力を増した剣達だが、逆に上下からの攻撃を受け易くなり、また弾かれ易くなっていた。四つの刃同士が接触し、計八本の剣が周囲へと弾かれる。
 残った九曜の二本の剣が、走りよる少女へと迫る。
「『糸巻き(カスタマイズ)』、2重から4重へ………っ!」
 少女が呟いた瞬間、彼女の手にイマジンらしき力が増幅しているのを感じた。
 咄嗟に九曜は腰にある六つの内、四本を取り出す。
 少女は己へと向かっていた二本の剣を易々と弾き返し、勢いを利用して九曜へと斬りかかる。
 九曜は取り出した四本の柄と、手にしていた二本の柄を組み合わせ、一つの柄を創り出すと、巨大な水の刃を創り出し、一本の大剣として振り被る。
「………脚部っ! 3重追加………!」
 刃が重なった瞬間、強烈な衝撃波が九曜の手に圧し掛かる。剣の強さだけでなく、勢いを付けた突進力まで強化され、さすがの九曜も弾き飛ばされてしまった。
「しま………っ!?」
 慌てて空中で体勢を立て直した九曜は、自分を弾き飛ばした少女が、空中を滑るように跳びながら、後ろを振り返り、生徒手帳から取り出した四本の剣を合わせ、八本の剣でこちらを狙っているのを確認した。
(まずい………っ!)
 察した九曜が大剣を分離、二本の剣を構えつつ、残った柄を中心に広がる形で水が噴き出し、バリア上に展開される。
「『剣弾操作(ソードバレット)』。最大出力………っ!」

 ゴウンッ!!

 バアァンッ!!

「―――っ!?」
 空気が弾ける音の後に水が粉砕される強烈な音が鳴り響く。
 目視できなかった九曜は、自分が近くの木にはりつけにされた事で、やっと悟る。自分が少女の放った剣に反応も出来ず貫かれてしまった事を。
(不覚っ! これでは我が君の元へ………っ!)
 九曜の右肩と左足を撃ち抜き、木に縫いつけたのを確認した少女は、身体が地面に落下するより早く体制を整え直し、再び地を走る。
(驚いた、な………、まさか、勘で六本も叩き落とされるなんて………)
 あの一瞬、九曜は己自身でも気付いていなかったが、音速に届く勢いで射出された剣を、本能だけで四本叩き落としていた。しかし、残りの二本を叩き伏せようとした時点で、剣となっている水の強度が限界を迎え、弾け飛んでしまったのだ。バリアに使っていた水も、あっさり貫かれ、彼女は木に縫いつけられたと言う事だ。
(ともかくこれで、カグヤ………、目視でき、た………)
 少女は視線を前方に向け、少し開けた場所で空中を踊る剣と戦っているカグヤに向けて、一気に加速する。
 木々を飛び抜け、上方から一気に剣を叩き降ろす。
 カグヤは瞬時に少女の接近に気付き、軻遇突智の槌を振るい、迎撃する。
 爆発と共に弾き返された少女だが、地面に着地すると同時に動き回り、近接戦の超至近距離に入りこもうとする。
(やっぱ、金剛との戦いで、俺が近接戦苦手なのに気付かれてるか………っ!)
 カグヤとて、近接戦が全くの苦手、っと言うわけではなかった。だが、生来、身体の脆かったカグヤは、事戦いに於いて自分の身が危険に晒される様な距離での戦いは避ける様にしてきた。ヒットアンドアウェイ、遠距離攻撃、近接の中距離などと、できるだけ距離が開く戦いを好んだのだ。もちろん、掴み技や投げ技の様な至近技もしっかり身につけた彼だが、非力だったので全ては合気柔術の類になってしまう。つまり、剣での斬り合いを近接距離でやるのは、カグヤの最も嫌いな距離と言う事だ。
(やり方が無いわけじゃないが………、やっぱりやり難いしな~………。仕方ない! 近づけずに戦う!)
「カグラ! 頼む!」
 苦手な距離での戦いを避けるため、カグヤは槌を放り、擬人化した状態の軻遇突智、≪カグラ≫を呼び出す。
 炎を様な真っ赤な髪を翻し、僅かに浮遊しながら13歳未満と思しき少女の姿となって、カグラは両手を翳し、次々と火の球を打ち出す。
「それそれっ!」
 ドンッ! ドンッ! っと撃ち出される炎弾を、紫の少女は左右に身を振ったり、僅かに身体を逸らすなどして巧みに躱して行く。
 カグラもできるだけ動きを読んで打ち出しているようだが、やはりイマジン体とイマジネーターには危険察知の差が如実に違う。少女が避け切れない炎弾に対し、空中の剣を射出して打ち消すのに対し、反撃で飛来する剣にカグラは片手を振って炎の壁で覆う様にして薙ぎ払っている。つまり、攻撃を見切れず、空間事まとめて弾いているのだ。
 少女の方は炎弾を完全に見切り始めた様で、最初は身体にかすらせていた炎弾を、今は無傷で回避し、撃ち落とし始めている。最早その姿は剣と踊る舞姫。『剣舞姫(ソード・ダンサー)』と言って差し支えが無かった。
「これならどうよっ!!」
 完全に攻撃を見切られたのが癪に障ったのか、カグラは両手を合掌するように合わせ、手の中で炎を一瞬溜めてから、解き放つように左右に払う。放たれたのは炎の嵐だ。大量の炎が渦巻いているのではなく、高温の火の粉がまるで花弁の様に咲き乱れ、渦を巻いて剣の少女を呑み込もうと迫ってきている。
「―――ッ! 『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………! 剣よ、わが身を守る盾となれ………っ!」
 瞬時に術式(イマジネート)を編み上げた少女は、四本の剣を自分の正面に整列させる。剣は、彼女の正面で上方に二本、下方に二本整列し、そのままくるくると扇風機の様に回り始め、やがてカン高い風斬り音を鳴らすほどに回転し、炎の嵐を堰き止めた。
「な、なによこの程度でっ! ろくに神格も有していない剣で―――っ!」
 高位の攻撃を受け止められ憤慨したカグラは、更に力を込めて押しのけようとする。実際、剣の少女が使っている剣は、購買部で購入した鉄の剣だ。能力で作ったわけでもなければ、付属効果を有している訳でもない。もちろん、耐久破損に対するコーティングなどもされていない。イマジンにより、ある程度強化はされているかもしれないが、それでも炎の嵐を受け止め続けることなど出来ようはずもない。
(だから、次の手を打ってるん………だよ………?)
 少女が内心ほくそ笑むのと、カグヤがカグラを抱えて飛び退くのは同時だった。
 カグヤが飛び退いた後の地に、一本の剣が真上から突き刺さり、爆発でもしたような衝撃で地面を吹き飛ばす。
 転がるカグヤは、空中で狙いを定めている、もう一本の剣を目にする。
 彼が立ち上がり、カグラを背に庇うのと同時に、剣は射出され―――赤黒い閃光が、それを途中で叩き落とした。
(!)
 少女が視線を向けると、九曜が使っていた黒い柄が、柄だけで飛来し、そこから刃だけを射出し、射撃するかのように攻撃して来ていた。
 少女は剣の盾をずらし、この射撃を全て弾き返す。
(そっか………、刃は水だから、その場に留めずに撃ち出せば。飛び道具に、なる………)
 勉強になると一人頷きながら、二本の剣を操り交差させるようにして柄を叩き落とした。
あれ(、、)、あんな事出来るなんて………、なんてシールドビット?)
 などと考えながら、他の柄が周囲にないかと視線を巡らせる。どうやら他には無いようだ。
 再び距離を稼いだ事で、カグラは強気で、しかし、危うく主を危険に晒してしまった事に憤慨した表情で両手を地面に向けて翳す。
「もうお兄ちゃんに近づけてやるもんかぁっ!!」
 叫んで術を発動した瞬間、地面を貫いて噴火する様な火柱がいくつも出現する。火柱その物が高温を持っていて、傍に近寄る事も出来ない上に少女の周囲にも乱立し身動きが取れなくなってしまう。
(こ、この炎はさすがに………―――っ!?)
 防ぐ事が出来ないと悟り、腕で顔を庇いながら、熱気だけで身体を焼かれ始める感触に、苦悶の表情を浮かべる。
「………あうっ!?」
 が、唐突に胸に手を当て、苦しそうな表情になったカグヤが片膝を付いた。
 気付いたカグラが「しまったっ!?」っと言う顔をして、慌てて炎を消し去る。
「カグラ! まだ消してはダメ!」
 遠くから飛んできた九曜の忠告より早く、剣の少女が再びカグヤとの距離を詰める。
 慌てに慌て、爆炎の球を幾つも打ち出し遠ざけようとするカグラ。
 だが、慌てているイマジン体の攻撃など、危険察知に優れたイマジネーターに当たるわけもなく、カグヤの側面を狙うように逸れながら攻撃を躱されてしまう。
 主に接近されたくない一心で、追いかける様に幾種の炎を打ち出しながら追いかけるカグラだったが、剣の少女に夢中で、自分に迫ってきた剣に気付く事が出来ず、気付いた時には側頭部を剣で貫かれてしまった。
「カグラ!?」
「伏せてっ!!」
 一気に距離を詰めた剣の少女が、カグヤの首を狙い剣を振るう。その剣をすんでんのところで現れた九曜が受け止める。肩と脚から僅かに光の粒子を零しているところ見るに、縫い付けられた剣を折って、無理矢理身体を引き抜いて来たようだ。イマジン体は身体全てがイマジン粒子。怪我をすれば血ではなく、粒子の粉が、破損した肉体部分を取り戻そうと零れ出すのだ。見た目は人と違うが、役割は完全に血液と同じだ。
 九曜は剣激で少女を払うが、少女の方も待ったを掛けるつもりはない。
(残り5ポイント………)
 残り数値を確認し、更に叩き付ける様に剣撃を放つ。
 繰り出される少女の剣を、九曜は当然の様に受け、巧みに捌いて行く。
 九曜の持つ二刀の剣は実に巧みで、某SF映画で御馴染のフォトンソードの様に繰り出される。正直使っている武器、剣の正体が水だと言う事を思えば、アレと戦い方が似ても同じかもしれない。
 高速流動する水の刃は物理的な刃と違い、力を入れなくても物を切れる。故に九曜の剣捌きは、体重を乗せ腕で振るう物ではなく、手首の返しなどで操られている。
(………ちょっと、やり難い)
 それは戦い方だけではない。武器の差にも言えた。
 流動する水の剣は個体ではない。故に刃毀(はこぼ)れしない。切れ味が落ちる事が無い。対して少女の剣は次第に刃毀れしていき、折れてしまいそうなほど亀裂が走る。
「は―――っ!」
 掛け声と共に振り抜かれた刃が少女の剣を叩き折った。
 少女は跳び下がる。同時に頭上から二本の剣を呼び、追いかけてくる九曜に向けて撃ちおろそうとする。
 九曜は同じように己の柄を呼び、水の刃を呼び出し、刃をぶつけ合う。その衝撃で少女の操っていた剣が折れる。
(同じ戦闘スタイルなのに、武器の性能差も技量も違う………っ! ずるい………)
 少女は膨れながら胸の生徒手帳をタップ。九本の剣を呼び出し、一本を手に、残りを操り、九曜を迎え撃とうとする。
「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………! 剣よ、刃を狩り、迎え撃て………っ!」
 刃が踊る。
 八本の剣が一本一本意思を持ったかのように舞い踊り、九曜を迎え撃つ。
 九曜も同じ数の剣を呼び出し、両手に二本の剣を携え真直ぐ突っ込む。
 空中で刃同士が剣を交える。
 少女と九曜も互いに剣を交差させる。
 九曜の方が動きが速い。手数も切り返しの技術も早い。
 何とか九曜の動きを妨げようと剣を操るが、その全てが九曜の操る剣に(さまた)げられ、―――約一分間の攻防で全ての剣が外側へと弾かれてしまう。
「嘘―――っ!?」
 驚愕する少女の剣を九曜は片方の剣で外側へと弾く。開いた懐に向けてもう片方の剣を突き出す。同時に回避できないように頭上から幾つもの剣が飛来し、少女の逃げ道を塞ぐように降り注ぐ。
(避けられない―――っ!?)
 回避不可能の檻に閉じ込められた少女は、一瞬、世界が停止したような感覚を得―――殆ど条件反射の領域で頭上の剣を睨み、必死に手を翳す。
(此処で余所見………?)
 九曜が疑問を抱きながらも突き進もうとする。
 後少しで切っ先が少女の胸を貫こうとした瞬間、頭上の剣が数本、自分の支配から外れた。
「九曜ッ!!」
 主の呼びかけと操作で、九曜の身体が突然後ろに引っ張られる。まったく逆方向への衝撃に苦悶の表情を浮かべる。
 その九曜を追う様に、九曜の剣が四本、頭上から地を突き刺して行った。
(私の剣の支配を奪った………っ!?)
 残り四本は操り切れなかったのか、身体を切り裂かれながらも、すぐに走り出し、更に弾かれていた剣を再び支配下に置き―――、
「『剣弾操作(ソードバレット)』………! 最大速度射出………ッ!」

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 空気を爆発させたような音が鳴り響き、四本の刃が高速射出。
 迫る刃に、九曜は二本の剣で応戦する。
「はぁ―――ッ!」

 バギンッ! バギンッ! バギンッ! バギンッ!

 舞う様に回転した九曜は、飛来した四本の剣を全て叩き折る。が、九曜の目は驚愕から大きく見開かれた。すぐ目の前に、再び自分に迫っている四本の刃があったからだ。
(時間差で射出された―――ッ!? それも全ての剣が先に撃った剣の影になる様に………っ!?)
 驚愕する九曜は、それでも剣を弾こうと応戦する。停止に近付きつつあった身体を無理矢理動かし、身体を避けながら刃で迎撃する。
「―――ぁぁッ!!」
 声にならない叫びを上げながら振り抜き、肩に迫った一本を叩き折る。手首が悲鳴を上げるのを無視して返し、左脇を狙った剣の鍔に当て弾く。両腕の振りで無理矢理作った反動を利用し、体勢を整え、右足を無理矢理引き、迫った刃を躱す。
 そこまでだった。最後の四本目が軸足となった左足を貫き、九曜を地面に縫い止める。
「く………っ!」
 その好機を逃さず、少女が走る。カグヤに向けて突き込む様に剣を構える。
 カグヤは九曜に渡されていたらしい水の剣を片手に焦りの表情ながらも迎え撃つ構えを見せた。
(撃ち抜く………ッ! ―――ッ!?)
 刹那、少女は再び世界が停止したような感覚を得た。
 思考が加速したのではない。その証拠に停止世界は一瞬で過ぎ去り、再び少女は走っている。
 それは直感だった。
 世界が止まった様な感覚と共に、その瞬間に降りた天啓とでも言うかのように、直感的に感じ取ったのだ。
 少女は手に持つ剣をもう一度、『剣弾操作(ソードバレット)』の限界を超えた速度で打ち出す奇襲を考えていた。だが、あの停止した世界で直感が伝えていたのだ。その攻撃をカグヤは必ず躱すと。
 同時に対処法も教えてくれた。
 それは言葉でも、ビジョンでもない。もちろん思考でもない、なんとなくと言った曖昧な感覚であったが、少女は逆らう事無くそれに従い横に跳ぶ。
 自分の左側、カグヤにとっての右側へと回るようにしながら―――そのままの体勢で『剣弾操作(ソードバレット)』のオーバースピードで撃ちだす。()()()()()()()
 強烈な爆音が響き、射出された剣に引っ張られ、少女が飛ぶ。
 カグヤは咄嗟に右手を反応させ―――クンッ、っと、肩が妙な痙攣を起こし、刹那のタイミングをずらした。
(届く………っ!)
 悟った少女が剣を突き出す。何とか回避しようと身を引くカグヤだが、少女は剣を操り、切っ先を肩口へと命中させる。そのまま勢いに任せカグヤを押し倒し、地面に縫い止める。
 瞬間カグヤの左腕が瞬き、少女のわき腹に剣を突き立てた。
「ぐ………っ!」
 少女は歯を食いしばりながら剣を捻り、刃を心臓へと向ける。
 カグヤは右手で刃を捕まえ、無理矢理制止しようとする。背後からは九曜が再び駆け付けているのが感じ取れた。更にカグヤの左手が再び剣を振り上げる。時間との勝負!
 少女は渾身の力を込めて、刃を心臓部分へとスライドさせ―――!

「―――そこまでっ!!!」

 待ったがかかった。
「ポイント、カグヤ42 菫58 勝者八束(やたばね)(すみれ)
 赤銅色のロングストレートに赤茶の目、手足が細く、背は低めでそれなりの胸を張った女性教諭。比良(このら)美鐘(みかね)が、フィールドを元の無機質な室内に戻しながら告げた。
 カグヤは疲れ切った様に脱力し、同じく菫も疲れきってカグヤの上に倒れ込む。


 01


「ま、負けた………。学園の最初の授業で負けてしまった………」
「アイ、ウィン………っ!」
 思いっきり落ち込むカグヤの横で、Vサインを作って無表情に勝ち誇る菫。
 二人は一キロ四方の無機質な真っ白な部屋にいた。この部屋が先程まで密林のジャングル地帯だったなど、未だに簡単に納得できない。実際に経験したカグヤでさえ、イマジンの常識外れには驚かされる。
 だが、もっと驚かされたのは学園での治療だった。
「あいてて………っ!」
「あうぅ~~………! 脇腹が………!」
 カグヤは右肩を、菫は右脇腹を押さえて痛みを訴える。
 今回の戦闘で最も重傷箇所だったのだが、実は学校側から治療行為らしい事は殆どされていない。軽く傷口を塞いでもらった程度で、無理をすればすぐに開いてしまいそうな状況だ。しかも授業で教えたからと包帯すら巻いてもらえず、それ以上はなにもしてもらっていない。学園側からがしてくれた事と言えば、やけに備えの良い救急セットを手渡されたくらいだ。
 最初にこれを目にした二人は、さすがに呆気に取られ、「イマジンとかでパパッと治療したりとかわっ!?」「せめて、衛生兵的な人からの応急処置は………っ!?」と抗議したのだが、美鐘教諭は冷笑を浮かべた。

「万能な力を使い出すと人間はすぐに思い上がったり、力の上に胡坐をかいたりするからな。命に別状がない限りはイマジンの治療はしない事になっている。イマジンが必要無い所では我々学園側が関与する所ではない。そのために最初の授業で何度も治療の授業をしただろう? 自分で自分の怪我を治療できるようになったら一人前だ」

 などと大変ありがたい言葉を貰う事になった。
 仕方なく二人はすぐにガーゼや薬を取り出し、治療に取り掛かったのだが、二人とも身体中傷だらけで、痛みを堪えながらではどうしても手間取ってしまう。おまけに重傷箇所は本気で傷口を薄い膜の様な物で塞いでもらった程度の様で、痛みは全く緩和されていない。とても自分で自分の治療など出来そうになった。
 仕方なく二人は、多少の気恥しさを我慢して、互いに互いの治療をする事にしたのだ。
 念のため伝えておくが、さすがのカグヤも治療中に菫に手を出す様な不届きはしていない。
 治療が終わって、やっと余裕が出た二人は勝利と敗北を実感する事が出来た。
 痛む箇所を押さえながら。
「………あれ? カグヤ? 九曜とカグラ、は………?」
「ん? ああ、二人ともお前に相当ダメージを与えられたから一旦消えてもらって修復待機中。消えてる時の方が自己治癒早いからな」
「イマジン体………、不思議? 私、頭撃ち抜いたのに………」
「コアが無事なら死んでねえよ。コアは頭には無いしな。………でも、仕組みは人間と同じらしいからな、頭を撃ち抜かれると、しばらく思考回路が完全にダウンするんだってよ? 考えようにも考えるための脳が損傷して考えられない―――みたいな?」
「それじゃあ………、イマジン体は、どうやったら死ぬ、の………?」
「大体皆一緒で、心臓の辺りだよ。人型なら胸だ。つっても、胸を撃ち抜けばコアが破壊できるってわけじゃねえらしい? ………おっとこれ以上詳しく聞くなよ? これ以上は『イマジン体医学論』とか言う専門分野で俺も詳しくない」
「イマジン体、使ってるくせに………」
「だからお前より詳しいの! ………詳しい事はこれからじゃないと学べんだろう?」
 不貞腐れるカグヤに菫は勝ち誇ったような表情(をしたと思われる無表情)で、笑う。
「物知り顔で、実は大して知らない脇役メインキャラ………」
「テメエは自分の剣がどんな風にイマジンが作用して飛んでいるのか説明できんのかよ………?」
 額にバッテンマークを浮かべながら反論するカグヤ。菫は自分のからかいに素直に反応してもらっている事がご満悦らしく、無表情ながらも瞳だけ楽しそうに潤ませていた。
 ―――が、それはすぐに冷たい物へと変わる。
「それはそうとパンツ返して」
「あら? 気付いてた?」
 カグヤは悪びれもせずに片手を開く。そこからマジックの様に出現したのは紫色のショーツだった。
「意外な色のチョイス。しかし結構似合ってる気がして俺としては役と―――」

 サクッ!

「ちょっ―――!? おおおおぉぉぉ~~~~~~~っっ!? 本気で手の甲に剣を刺す奴があるかよ~~っ!? コメディー描写とかじゃねえんだぞっ!? いってぇ~~~~~っ!!」
 小さな剣をカグヤの手の甲に刺した菫は、素早くパンツを取り戻すと、ちょっと気恥ずかしさを覚えながら、彼の背中でパンツを穿く。
「私がトドメ刺す時に取った………!」
「お前事飛んでくるとは思わなかったからな………。一応言っておくが、本当はパンツじゃなくて生徒手帳を取ろうとした」
「なんで、もっと難しい………パンツを取ってる、の………?」
「たぶん癖。あと邪念入ったかも? 女が敵の時は大抵こうすると動きが鈍るから、一応覚えてたんだよ。ちなみに本来は男に使う技らしいと聞いた時は、俺でさえ度肝を抜かれた」
「度肝、抜かれ、た………っ!」
 意外な真実に目を見張る菫は、何も言わずにカグヤの右手を取って治療を始める。
「待てっ! 待て菫っ!? 俺が悪かった! 謝るからその手にたっぷり塗った、明らかに薬ではない刺激物を傷口に塗ろうとするのは止めてくれっ!! タヌキさんに怒ったウサギさんでもその量はさすがに躊躇したと思うぞっ!?」
「………ちっ」
 菫は仕方が無い様に謎の刺激物を救急セットの中に戻した。
「何故そんな物が救急セットの中に存在している………?」
 何か恐ろしい物の片鱗を見た気がしたカグヤが辟易していると、美鐘教諭が可笑しそうに笑いながら、菫を賞賛した。
「見事だったぞ八束。一年生では難しい基礎技術『予測再現』の一つ『回答直感(アンサー)』を見事に会得したようだな」
「「?」」
 美鐘教諭の賞賛の意味が解らず、菫とカグヤは同時に首を傾げた。
 教え子二人の視線を受け止め、美鐘は教師らしく語る。
「八束、お前、瞬間的に時間が止まったような錯覚を得ていなかったか?」
「! あった………」
「まだイマジネーターとしての基礎知識は教えていなかったな? イマジネーターはイマジンを使用した『能力』以外にも、幾つもの基礎能力を有している。これは訓練すればイマジネーターの誰もが使えるものであり………、同時に上級生徒の圧倒的な力差の原因ともされる重要な技術だ」
 それを聞いた二人は、やっと重大さに気付いて目を見合わせる。
「東雲、お前は既に『見鬼』『解錠』『施錠』の基本は使える様だな?」
「? 『視覚化』と『解析(ハッキング)』の事ですか?」
「お前がどんな認識をしているのか知らんが、たぶんそれであってるぞ。っと言うかお前には今はあまり詳しく話さない方が良さそうだな? ………、まあ、それらもイマジネーターなら誰でも使えるようになる基礎技術だ。お前は飛び抜けて基礎技術の習得が早そうだが………。八束が使って見せたのはその基礎技術の一つで、直感を加速させたものだ」
「「直感の加速?」」
 二人が同時に首を傾げる。続いてカグヤは「思考加速じゃないんですか?」っと尋ねる。
「違う。八束、お前は景色がスローモーションになった様に感じたか?」
 菫は首を振って否定する。
「そう、実際にはほんの一瞬だけ時間が停止した様に見えたくらいだっただろう? ゲームがバグを起こして一瞬だけ停止した様にな? 思考が加速しているのなら、景色が止まっていても思考は通常通りの筈だ。そうでなかったのは直感の方だけが加速し、最善の答えだけを瞬時に認識したからだ」
「解ん、ない………」
 菫が無表情ながらも眉を顰める。
 僅かに思案顔で考えてから、カグヤは噛み砕いて説明する。
「つまり、『問題』に対し、推測や予想、計算なんかの『過程』を経て、『答え』を出すのが普通の思考。この時の『過程』をともかく早くしたのが『思考加速』で、………『問題』に対して『過程』をすっ飛ばして『答え』を出すのが『直感』って事だろう?」
「じゃあ、直感が“加速”する、って………?」
 菫の質問にカグヤは視線を逸らす。頭の中では必死に考えているようだが、残念ながら答えが出て来なかったらしい。それを可笑しそうに見つめながら美鐘が説明を引き継ぐ。
「『直感加速』は、『問題』に対して呼び出した『答え』を出し、その『答え』から生じた『新しい問題』から、再び『答え』を叩きだし、『最善の行動』を導き出す物だ」
 菫は再びカグヤに視線を向け、カグヤは難しそうな表情で必死に頭を働かせて噛み砕いた説明を試みる。
「ええっと~~~………? 例えばさっきの戦闘で言うと、最後に菫が俺にトドメを刺しに来た時、あの時、菫は剣を普通に射出しようとしてたよな?」
「うん」
「だけどたぶん、ただ撃たれただけだったら俺はその攻撃を凌げた。俺の『直感』がその脅威を知らせてくれてたからな。それと同じで菫もこのまま攻撃したら凌がれる事を『直感』したと思うんだよ? ………え? どう?」
 不安げに尋ねるカグヤに頷いて肯定。
 ホッとしたカグヤが説明を続ける。
「菫は『直感』で“攻撃を凌がれる”事を感知した。攻撃と言う『問題』に、凌がれて失敗すると言う『答え』を叩き出したわけだな? 此処までが普通の『直感』だ。………んで、菫は“攻撃を凌がれる”って言う『新しい問題』に直面したわけだが、その問題を瞬時に『直感』で再び『答え』を出して、自分ごと突っ込んできただろう? つまり、こう言った風に連続で直感を使用するのが『直感加速』………なんだと思う?」
 自信なさげに言い終えたカグヤが確認のために教師を見る。教師は正しいと頷く。
「直感だけが加速しているので、思考は置いてけぼりだ。だから何故自分がその答えに辿り着いたかなどの理由は解らない。ましてやこれはイマジネーターの思考すら放棄した回答の先取りだ。経験から来る物でもないので、直感した本人すら置いてけぼりだよ」
 聞いたカグヤは、この『直感加速』が経験による物でも無く、理由不明で訪れる物だとするなら、相手の直感する答えを計算し、誘導すれば、罠にはめる事もできそうだと考え―――すぐにその作戦を放棄した。それだけの高レベル思考をできないわけではないが、出来ても嵌めるための罠を用意できない。せっかく相手を誘導しても肝心の罠が無いのなら意味はない。今の段階では使えない手だと判断して思考を捨てる。
 同時に思い至る。恐らく二年生や三年生はこの『直感加速』を普通に使える。そして誘導も容易いのだろう。ならば彼等の戦略はどう言った物になるのか? 当然、これらを上回る戦略と戦術と力押しと言う事になるわけだ。考えるだけで頭が沸騰しそうだ。自分には扱いきれない得物らしいと知り、それを自在に使っているであろう先輩達を素直に称賛した。
「………っとは言え、今回八束が勝てたのは“運”が良かったと言う方が正しいがな」
 美鐘教諭が最後に付け加えた発言に、僅かながら菫はムッとした。しかし素直に反論したりはしない。菫自身、その“運”の正体には気付いていたからだ。
 だから代わりにカグヤへと視線を向けて尋ねる。
「右肩………、どうかし、た………?」
 尋ねられたカグヤの表情が一瞬で歪む。嫌な質問をされたと言わんばかりだ。だが、言い渋る表情とは裏腹に、隠しても無駄だと解ってるかのように説明を始める。
「金剛に噛み千切られた肩が気になるだけだよ」
「????」
 カグヤの回答に菫は沢山の?を頭に浮かべた。それも当然だろう。金剛とカグヤの決闘から既に三日以上経過している。カグヤに右肩を身を乗り出して無遠慮に覗き込むが、傷痕らしい傷痕も無く、完治している様に窺える。あるのは先程菫が自分でつけた傷ぐらいだ。
「やめれ! くすぐったい………!」
 身悶えするカグヤの頬に朱が染まる。至近距離から覗くと、実に女の子らしい表情で、本当にこれは男なのだろうか?と、別の疑問に思考が逸れそうになる。
 カグヤは菫をなんとか引き離してから詳しく説明する。
「傷は治ってるよ。でも、痛みが結構強く残ってんの。咄嗟に動かそうとすると一瞬痙攣起こすくらいにはな………」
「イマジンで、治療してもらった………と、聞いた………」
「保健室に治療能力持った先輩が待機してくれてたからな。でもあの先輩、文字通り怪我しか治してくれんかった………。神格を受けた後遺症にまでは全く手を付けてないみたい? ………ええっと、怪我は治しても毒は消さなかったみたいな?」
「神格?」
 菫の質問攻めに多少辟易したような表情でカグヤは説明を続ける。
「簡潔に言って神様レベルのすっげぇえ攻撃。肉体よりも、魂に刻まれるダメージの方がデカイから、ずっと痛みが残るんだよ。ってか実際、ただ痛いだけじゃなくて、機能不全も起こしてるぞ? 未だに右肩が高く上げられん」
 金剛は自分の身体全てを鬼化―――鬼神化―――させる事で疑似神格を得ていた。疑似神格と神格の違いは、実はペナルティーがあるか無いか程度の差だ。故に与えられたダメージはカグヤも金剛も同レベルの物だったのだが………、身体に疑似神格を宿していた金剛と違い、あくまで神格を外側で使うタイプだったカグヤは、金剛の攻撃を受けた個所に、後遺症を残してしまったのだ。神格は神格で打ち消す事が出来る。カグヤも神格を傷口に流し込む事で治療しているが、これが簡単な物でないらしく、未だに神格のダメージが抜けないのだ。
 菫はもっと詳しい説明を求める目でカグヤを見たが、カグヤもこれ以上自分の弱点を晒したくないのか、思いっきり視線を逸らすばかりだ。
「じ~~~~~~………っ」
「あ、諦めない奴め………っ!」
 半眼でずっと見つめる菫から必死に視線を逸らすカグヤ。二人の姿が相当可笑しかったのか、美鐘はクスクスと忍び笑いを漏らしながら二人に提案する。
「まだ他の組み合わせで終わっていないところもある。観戦しに行ったらどうだ?」
「よしそうしよう! 今すぐ行こう! ほらほら菫! 質問は後でもできるが、観戦は今しかできないぜ!」
 必死に話題を逸らすカグヤに対し、不満顔ながらも渋々と言った感じに菫は従い―――立ち上がったところで違和感に気付き、慌てて両腕で胸を庇った。
「か、かぐや………っ!?」
 震える声で名を呼びつつ、菫の顔がドンドン赤くなっていく。
 同じく立ち上がって先行しようとしていたカグヤは、菫の反応に、何事かと不思議そうに振り返る。
 そのカグヤに向けて菫は、かなり険のある声を涙目で発した。

「いつの間にブラ取ってたの………っ!?」

「ああ、それならパンツの時だよ? パンツ取る前に先にブラ取ってた。そのあと生徒手帳取るつもりだったんだけどな? なんでかパンツを取っちまって? ………ああ、安心しろよ? お前のブラは今頃、九曜がちゃんと洗濯してお前の下着ダンスの中に―――」
 菫の『剣弾操作(ソードバレット)』がカグヤの背中に突き刺さった。
「お………っ! ごああああぁぁぁ~~~~! す、菫! ちょ………っ! これは―――!? ヤバイッ! マジでヤバイッ! 漫画じゃないんだから本気でコレヤバいんですけど………ッ!? 刺さってる!? 血出てる!? コメディー描写する能力もない人間にはマジで致命傷―――!」
「―――死ね」
「瞳孔が開ききってて怖いっ!?」
 菫はカグヤを無視して一人立ち去る。
 背後では、カグヤが教師に向けて治療を求めていたが、美鐘教諭は心底可笑しそうに笑いながら「命に別状がない限りは治療しない!」と冷たく突き放していた。カグヤの「これでも命に別状が無いと言うのかァッ!?」っという訴えはまるで聞いてもらっていない。


 02


 先程、菫とカグヤの戦っていた部屋が一キロ四方の空間だと説明したが、厳密な意味ではそれは間違いとなる。実際には三十メートル四方程度のスペースの内部空間をイマジンにより一キロまで広げて伸ばしたという仕組みになっているらしい。そのため、部屋の外に出る時、歪んだ空間を通り抜ける時の違和感を感じたりするが、特段の問題はない。ただ、空間に作用する強力無比な攻撃でもしてしまっていたら、引き延ばされた空間に亀裂が生じ、異空間の彼方に飛ばされていたかもしれない。一年生でそれだけの芸当をやってのけれる者が居ればの話だが………。
 内部の空間に比べ、実際は三十メートルほどの部屋だ。階段を上り、真っ白な廊下を進むと、所々に強化ガラス製の窓ガラス設置されている。一番近い手前の窓を覗けば、背中に刃を突き刺されているカグヤが、九曜を呼んで必死に治療行為に励んでいる姿が見下ろせる。心無し、九曜の表情が呆れに染まっている様な気がするのは気の所為だろうか?
 とりあえず、今この窓に用はない。菫の目的はまだ戦闘中の別の部屋だ。近場の窓から順に覗いて行き、確認していく。
 自分達の戦闘がどの程度の早さで終わったのか基準が解らなかったが、部屋を覗いてみる限り、ついさっき終わったばかりの者達が多く見受けられる。先程の自分達と同じように、気恥しい思いをしながら互いの傷を治療し合っているのが殆どだ。中には治療が下手くそな相方に当たったり、わざとふざける輩に一方的に治療され、ミイラになってしまっている者も見受けられる。場所によってはなんだか良いムードになっている男女を見つけて冷やかしてやりたいと言う気持ちを駆り立てられた。
(今は………、こっち、優先………)
 惜しむ気持ちを抑えながら、菫は未だしぶとく戦闘しているグループを探す。
 この戦闘用の空間、総称『アリーナ』が幾つ存在するのかは知らないが、確か、クラス毎にフロアを分けて固まっていたはずだ。菫が入った部屋は大体フロアの真ん中辺りだったので、どう言った道に進もうと周囲は同じAクラスの対戦カードとなっている。
 そろそろAクラスのフロアが終わりそうになったところで、菫はやっとお目当ての物を発見した。窓の下に見難いが、小さな電光掲示板があり、そこに対戦カードを表示されている。
 対戦カードは………、機霧神也(ハタキリシンヤ)vs水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)だった。
「………オワタ」


 03


 草木の殆ど無い荒野のフィールド、そこにいくつもきり立っている小さな岩山の一つに、水面=N=彩夏は爆炎に塗れながら激突した。
「ばは………っ!」
 打ち付けた背中が肺を圧迫し、体内の空気を強制的に吐かされた。血は………、辛うじて出ていないが、当然襲ってくる息苦しさに彼女ならぬ彼は必死に息をしようとする。
 だが止まれない。
 彩夏は、呼吸に専念しようとする己の本能を精神力でねじ伏せ、酸欠の血を無理矢理脚に流し、必死にその場を離れる。土煙に紛れ何とか数メートル離れたところで、極太の高質量ビームが山ごと貫き消滅させる。衝撃に吹き飛ばされた彩夏は、投げ出された体を地面に何度も打ち付け転がりながらも、中断していた呼吸を試みる。
 やっとの事で勢いが衰え、地面に突っ伏したところで止まり、やっとの思いで呼吸を再開できた。誤っていくらか砂も一緒に吸い込んでしまったが、タスクで使用した『呼吸再現』による『フィルター』効果が発動し、不純物は吸い込まずに済んだ。
 荒い息をゆっくり大きくする事で、早鐘を打つ心臓を宥めながら、彩夏は「やれやれ」と冷や汗を流す。
 学園支給の実戦練習用スーツ(体操服)を、敢えて女性用のスカートタイプ(一応色んな種類があるが、彼はミニを選んだ)にしていたのだが、今更ながら失敗だったかもしれないと苦笑する。これだけ荒野の地面を転がり回っていては、さすがに身体中が傷だらけになってしまう。男子用のズボンか、スリット付きロングスカートにしておくべきだった。
 普段は二つに結わえている黒い髪も、あまりの戦闘の激しさに片方は解け、もう片方も半端なところまでズレている。いっそ、両方外してしまいたがった、髪ゴムを掴んで捨てる暇も惜しいほどに追い詰められていた。
「いやいや、それにしたってアレは異常だろう?」
 彩夏は宙に浮かぶそれを見て苦笑する。
 そこには機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)が太陽を背にして飛んでいたのだが、その容姿は普段彩夏達が知るそれではなかった。
 まず、空中を飛ぶための巨大飛行バックパックが背中に取りつけられ、足にはミサイルポッド付きのショックアブソーバー搭載の巨大なレッグ。腕にも機械的なアームが取り付けられ、まるで腕その物が機械化したような作りになっている。頭部にはヘッドギアが装着されていて、目の部分にイマジンで創り出されたらしいスクリーンがゴーグルの様に展開されている。両肩にはこれまた巨大な対地ミサイル砲弾が取り付けられ、先程大量のミサイルを撃ったのが嘘の様に再装填されている。何より危ないのは右腕に装着されている『戦艦砲』だ。入学試験で見た、及川(おいかわ)凉女(すずめ)が彼のために作りだした『混ぜたら危険作品』。アレは彼女の能力であったはずであり、その本体も甘楽(つづら)弥生(やよい)によって破壊された筈だ。それがどうしてここにあるのかは解らない。解らないが目の前に脅威が存在する事は事実だ。かなり巨大で重量も相当あるはずだし、そもそも右肩にだけ装着していてはバランスも悪い。なのに空中で姿勢を保っていられるのは、ある程度イマジンによる姿勢制御の所為かだろう。恐らくタスクの中にあった『バランス再現』と言う奴だと彩夏は予想する。
 だが、それら異質な変化よりも、彩夏を“異常だ”と思わせる変化が彼にはあった。
 当初、彼と遭遇戦に陥ってしまった彩夏は、自分の能力『物質特性変化』の『罠錬成』を行う事で有利に事を進めていた。
 神也は人間ではありえない身体能力を発揮して、岩場を足場にアクロバティックに飛び周り、能力で呼び出したのか、それとも生徒手帳に持参して来たのか、グレネードランチャーで攻撃してきた。
 彩夏は岩に能力を作用させ、強度を上げる事でグレネードを防ぎ、足場にしようとした岩を砂の塊に変えて埋めたりと、かなり有利に事を進めていた。最後には接近戦に持ち込み、能力で己の身体能力の特性を変化し、一時的に強化スペックの肉体状態に変え、殴りかかった。武器を取り上げ、効率良く打撃を当てていく。残念ながら格闘技の経験はなく、護身術程度に習った武術も、一般人に毛が生えた程度。到底イマジネーターの戦いで特筆するの技術ではなかった。
 それでも、どうやら自分の物理攻撃ステータスが、相手の物理耐久ステータスを上回っていたらしく、思いの外打撃は効き、神也も苦悶の表情を漏らした。拳越しの感触がやたらと固い物だったが、効いているなら考える必要はないと判断した。
 ポイントは順調に溜まり、一方的な展開になっていた。時折反撃で拳が飛んできたが、能力で強化した状態なら彩夏の耐久力の方が勝り、まともに受けても大した事はない状態だった。そもそも簡単に片手で受け止めてしまえた。
 勝てる! そう思った彩夏は神也の額を思いっきり殴り飛ばし吹き飛ばす。そのまま神也が地面に倒れる前に飛び掛かり、飛び蹴りで踏みつけて必要ポイント獲得。彩夏の勝利―――っとなる筈だった。
 変化が起きたのは殴った次の瞬間だった。額を殴られた神也が吹き飛び宙を舞った瞬間、突然彼の身体が変質した。
 典型的な日本人と同じ、真っ黒だった彼の髪と瞳が、突如加熱したかのように赤へと変色した。既に朦朧としていたはずの瞳は獰猛に見開かれ、飛び上がっていた彩夏を捉える。その瞳には、幾何学(きかがく)模様が浮かび上がっていた。
「あはははははははははははッッ!!!! ようやっと完成したぜェ!!!!」
 次の瞬間、彼の上げた雄叫びと共に、彼の身体が機械ギミックでフル装備されたのだ。
 まず最初に左手に呼び出した大口径グレネードを御見舞いされ、容易く吹き飛ばされてしまった。その後はミサイルの雨をひたすら食らい、弾幕に使用したミサイルが再チャージされる間隙に、あの『戦艦砲』を撃たれた。ともかくあの砲撃を喰らえば一撃死だったのでそれだけは避けようと奮闘した。だが、変質した神也の猛攻は文字通り息つく暇も与えさせてくれず、気付けば互いに後一撃で目標達成のポイントに迫っていた。
 神也49ポイント。
 彩夏47ポイント。
 どちらも一撃で勝利を掴み取れるポイント差だ。これだけ見れば接戦と言ってもおかしくないかもしれない。
(でも、私は最初、一方的に1ポイントも取らせずにこの点数まで手に入れていたんだよ? それが今では逆転された上に、勝機を掴めていないと来た………!)
 完全に彩夏が追い詰められていた。おまけに彼の直感は主を裏切る様に『敗北』の二字を予感していた。
 イマジネーターは常に勝利する方策を見つけ出す思考パターンを持っている。それが敗北を提示する事は本来ありえない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 そんな相手は本来上級生しかありえない。イマジネーターの同級生は、絶対的に実力が拮抗するのだ。それがイマジネーターと言う物の性能(、、)なのだから揺るがし様が無い。それが揺るがされると言う事はつまり―――、
「“人間”じゃない、って事だな………」
 確信的に予測する。
 知識は何もない。授業でもそれらしい事はまだ習っていない。“多種族”などと言う存在も、この学園に来て「いるんだろうなぁ~~?」程度の認識しか持てていない。
 それでも理解出来た。偶然にも、カグヤと金剛の戦いを見れていた事が大きかった。
 直感する。推測する。確信する。
 コイツは間違いなく『神格』を持つ物の類だ。
 それも金剛の様な『疑似神格』でも、カグヤの様な『神格武装』でもない。更に言えば『神格ステータス』と言うイマジン変色体を持っている物でもない。
 生まれつき、デフォルトで備わっている存在。“神”そのものだ。
「勝てるわけ、無いね………」
 彼の額から顎にかけて、一滴の汗が流れ落ちる。顔は笑っていたが余裕はない。他にどんな表情をしていいのか解らなくなっただけだ。
 先程まで、神也はまったく神らしい気配を見せはしなかった。それどころか彩夏はこの相手に勝てるとまで確信したのだ。それが変質した。恐らくは元々神だった者が、今になって正体を表わしたと言う事なのだろう。
 特にあの幾何学模様を映し出す目、あの目には脅威の表れが強く出ているように思えた。アレはイマジン変色体が、イマジンに反応して髪の色と同じように変色を促しただけかと思ったが、どうやら違う。あの目の幾何学模様の方が本質なのかもしれない。それが解ったところで彩夏には何もできない。
「けど………、不思議な物だ………。諦めなんてまったく思い浮かばないっ!!」
 確定された負けを目前にしても、彩夏の心は折れなかった。むしろ喜んで火中へと走り出した。
(勝てる望みは一つだけある! 私の『直感』は否定しているが、それでもこれ以上の策が無い以上、やるしかない!! 失敗したらその時に考えるのみ!)
 彩夏は走る。ただ真直ぐに。能力とステータスによる身体能力の全てを使ってひた走る。
 神也は身体中に装備したミサイルを一斉斉射する。
 彩夏はもう1ポイントも取られる訳にはいかない。爆撃の雨の中、掠りでもしたら、その瞬間に敗北が確定する。
 能力により脳内パルスを活性化。強制的に引き上げた動体視力と思考加速に加え、僅かに身体速度を向上させる。スローモーションになった世界でも、所狭しと迫ってくるミサイルの大群を回避しきるのはとてつもなく難しかった。それでも彩夏は足りない分を無理矢理身体強化して通り抜けていく。
 彩夏の能力は物質の特性変化だ。それは錬金術に似ていて、逸脱した変化を与える事はできない。例えば石をゴムにする事は出来ても、水にする事はできない。肉体強化も、筋肉の強化に必要な体内の栄養を血中から取り出し強制的に急成長させているにすぎない。そのため、強化できる度合いには限界があり、使えば使う程体内の栄養を身体に奪われ、生命力が低下する。何より空腹感が力を入れようとする気力を奪っていく。脳内加速は疲労感を与え、眠気さえ襲ってくる。能力自体の代償、過度な能力使用による味覚の低下は、現状では無視できるが、己の中からあらゆる物が絞り尽くされていく感触をはっきりと感じ、彩夏の精神力をあっと言う間に削られていく。
(この一回きりが勝負ッ! 間に合え―――ッ!)
 走る。奔る・疾しる。
 肉体と精神力の限界で動けなくなるその一瞬まで、彼は足を止めずにひた走る。
 爆風に引っかかっていた髪留めが外れ、炎で髪先を焦がしながら、ギリギリの隙間を飛び込み、更に加速して足がもつれそうになりながら、彩夏は走り―――弾幕を抜けた!
「ひゅうぅぅぁあ~~~~~~~~~~っ!! アレを抜けてきやがったぁぁぁーーーっ!?」
 興奮した面持ちで高笑いする神也。
 戦艦砲はチャージ中でまだ撃てない。
 距離は充分。
「勝負ッ!!」
 彩夏は地面に飛び込みタッチ。地面をゴムに変質させ、走った勢いを利用しトランポリンの応用で一気に飛び上がる。残り全てを掛けた跳躍で、あっと言う間に神也の眼前へと迫る。
「お?」
 神也がニヤけた表情で眼前の彩夏を見る。
 彩夏は両手を掲げて、奥の手を放つ。
「罪人よ! 災禍の歌を歌え! 断罪なる(つるぎ)に、悉くを貫かれよ!!  『災禍讃唱』!」

 ゾガンッ!!

 突如出現したのは剣だ。逆棘状の刃を持つ痛々しい無数の剣。それらが突如出現し、神也の身体を覆っていたアーマーの数々を打ち貫き破壊していく。
 彩夏の能力は『物質特性変化』。物質の特性を変化させる事にしか使えない。覚えたスキルも『罠錬成』であるため、直接的な攻撃手段として使用するのは案外難しい。それ故にこんな芸当は本来できない。
 これを可能にしたのは彼の持つもう一つの能力『物質錬成』による、“無”から“有”を創り出す能力による物だ。そう、彼は直接物質を創り出し、それを攻撃の手段に使った。
 彼の持つ奥の手は、この『物質錬成』により、相手を閉じ込める檻の錬成だ。『災禍讃唱』はその中でも、今自分が覚えている最も攻撃的な剣の檻だ。
(ペナルティー無しの五回分を一度に使ってしまう奥の手だが、これで武装を全て失い反撃もできないだろう………っ!?)
 彩夏は精神力と肉体の限界を迎え、飛行手段を失った神也共々落下していく。彩夏の視界の端には49ポイントの表示が確認できる。後は重量が重い神也の方が先に落下し、落下の衝撃ダメージで1ポイントを先取し勝利できる―――はずだ。
(………―――ッ!!)
 だが、彩夏の全身を冷たい震えが走る。最初に感じた『敗北』の予感も胸から取り除かれていない。そして―――、

 バギャギィィンッッッ!!

 金属を粉々に噛み砕かれる、うるさい騒音が鳴り響き、………彩夏は見た。己の作った剣の檻が、神也の手に呼び出された巨大物体に粉微塵に砕かれたのを。
 それは刃の車輪だ。幾つもの刃の車輪が三列四本に並び、巨大な長方形の板に左右から挟まれている。それは電動(ノコギリ)のようだった。放電現象を起こしながら回転するノコギリ状の丸い刃が幾つも並び、それを神也は片手で振り回し、剣の大群を破壊してしまったのだ。
(近接距離なら火力武器は使えないと思ったんだけどなぁ~~………)
 彩夏は笑う。もう笑うしかないから、ただ無為に笑う。
「『技術ノ創造主(テクノクリエイター)』、白兵火力武器、装甲粉砕機『アーマーレイド』」
 神也が笑う。実に楽しそうに。粉砕すべき敵を見定め、獲物を潰す歓喜に、獰猛に笑う。
 次の瞬間―――、刃が彩夏に振り降ろされ、その身体が血肉の飛沫を撒き散らし、瞬時にリタイヤシステムにより粒子の粉となって消えた。

「そこまで! 勝者、機霧神也!!」



 04


「おうぅ………」
 あまりにスプラッタな光景を目の当たりにした菫は、思わず呻き声を漏らして薄目になった。神也は勝利した後も、暴れたりないのか、それとも能力による暴走を起こしているのか未だに暴れ回っている。教師はそれを「早く終わんねぇかなぁ~~?」っと言うぞんざいな眼差しで見守っていた。
 終わった後、二人に感想を聞いてみたいと思っていた菫だったが、これは無理そうだと判断して早々に諦めた。
 結構な時間になってしまったが、他に長引いている所はあるだろうか? そう考えながら菫は来た道を戻ってまだ見ていなかったフロアの探索に向かう。


 逆側、Aクラスフロア最端部、菫はその三人を見つけた。遠目だと女子三人が集まっている様に見えるが、まだ着替えていない実戦練習用スーツ(体操服)が一人だけ男子の物だった。っと言うかあのセミロングの黒髪をハーフポニーに縛っている頭と、包帯の巻かれた個所には憶えがある。っと言うかよく知った同室の相方で、ついさっき二回ほど殺しかけた相手だ。
 どうやらカグヤも治療を終えて他の対戦カードを観戦しに来ていたらしい。しかし、他女子二人と何やら言い争っている。………いや、言い争っている訳では無いようだ? 一人は疲れて壁に凭れているだけで、もう一人が一方的にカグヤに何か言ってる様だ。
「またセクハラ?」
 ひょこひょこっ、と、空気を読むつもりもなく近づいた菫は、一番ありえそうな質問をした。
「………」
 だが、返ってきたのは意外にも空虚な視線だけだった。カグヤには珍しく、からかいに付き合ってくれない。菫を一瞥しただけですぐに視線を正面の相手へと戻す。
 カグヤの他に居る二人の女性の内、片方、壁に凭れた白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女で、浅蔵(あさくら)星琉(せいる)。確か龍の力を使う事を得意としていた様な気がするが、詳しくはまだ解らない。
 身体中は傷だらけで、顔半分が包帯で隠れていた。腕や脚にも痛々しいほど包帯が目立ち、片腕を吊り、凭れている方の足は、骨折でもしているのか、板が添えられ固定されていた。リタイヤシステムで退場しなかったのが不思議なくらいの大怪我をしている。
 もう一人の女性は名前しか覚えていない。名前はレイチェル・ゲティングス。夜空の様に黒い髪は腰ほどまで伸び、眼は紅く薄っすらとクマがある。身長は、低く華奢な方だ。カグヤと並ぶと兄弟(姉妹?)に見えなくもない。こちらの怪我はそれほどない様で、身体に巻かれた包帯の数は少ない。カグヤと比べても軽傷の様子から、どうやら勝者組だと解る。
(これで負け組みだったら、星流にどうやって勝ったのか絶対に聞き出す………)
 密かに決心を決めながら成り行きを見守ると、レイチェルが話を戻す様にカグヤへと好戦的な視線を向けた。
「言わなくても解るだろう? 私が挑戦を叩きつける理由くらい」
 レイチェルの言葉にカグヤは眼を細めるだけで応える。
 どうやらレイチェルがカグヤに対し挑戦状をたたき付けている真っ最中の様だ。どうしてそうなったのか大変興味があったので、菫は黙って成り行きを“観賞”。
「別に決闘しようと言ってるわけじゃない。恨みがあるわけでも無し、そんな事する必要はない。………ただ、試合でぶつかった時は“私が勝つ”と言ってるだけ」
 訂正。挑戦状じゃなくて勝利宣言だった模様だ。
 しかし、こんな事にいちいち付き合ったりしないであろうカグヤが真面目に接しているのがやたらと不思議だ。カグヤを良く知る菫は、彼なら「ああ、OKOK~。その時が来たらなぁ~」っと適当に流しそうな物だ。どうしてまともに取り合っているのだろうか?
「別に良いけど、お前が勝つって誰が決めたよ?」
 逆に挑戦的な発言を返したカグヤに菫は瞳を丸く見開いた。こんな挑戦的な発言、相手を挑発する時以外でカグヤが口にした所を見た事が無い。付き合いが短いとは言え、それでも彼らしくない発言なのは確かだと判断できた。
「言うじゃない? でも、アナタの式神、二体とも神様なのよね? 闇御津羽に軻遇突智。有名どころの神様ばっかり使ってるみたいだけど………? アナタはその力の十分の一も引き出せていない。それで私に勝つつもりなの?」
 相手を見下す様な嘲笑めいた目で告げるレイチェルに、こちらも劣らぬ()()()()()()()で、カグヤも返す。
「確かに俺は未熟で、九曜は愚か、カグラの力さえ十全に発揮してやれていないな。ああ、認めるぜ? 俺は全く未熟だ。創り出した僕にさえ劣った存在だ。だが………。“俺とお前の何処に違いがあるよ?”」

 ボバンッ!!!

 突如、二人の間で強烈な水柱が激突し、周囲に水飛沫を撒き散らす。
 傍にいた星流と菫は思いっきりとばっちりを受け、水浸しになってしまう。星流に至っては、身体が支えられない為、尻持ちまでつかされていた。
 だが、最も水柱に近いはずのカグヤとレイチェルだけが飛沫の一つも浴びずに悠然と立っていた。
 水柱が弾け、収まった後、そこには新たに二人の少女が互いに水の刃を突き合わせていた。
「私の主を………、レイチェルを侮辱するのは許しません」
「我が君への冒涜を、私が許すと思っているの?」

 清楚なワンピースに身を包む蒼い髪の女性が、手の中で作った蒼い水の刃を―――、
 黒い装いに身を包む、濡れ羽色の長髪に黒曜石の瞳を持つ少女が、血を思わせる赤黒い水の剣を―――、

 互いが互いの首元へと刃を向け合っていた。
「それがお前の悪魔か?」
「ええ、シトリーよ」
 カグヤの質問にレイチェルが答える。
 『シトリー』ソロモンが使役したという72柱の悪魔が一柱。水を司るとされる悪魔。そしてレイチェルの使役するイマジン体。奇しくも対面するカグヤの式神、九曜―――『闇御津羽』と同じ水を司る存在だった。
 シトリーと九曜が刃を突き合わせ睨み合う中、レイチェルはカグヤだけを見据える。
「途中から貴方も見ていたんでしょう? 今回、私は二体の使い魔だけで勝利を収めた。多分に偶然もあったけど、結果勝利したのは私だ。………そっちは?」
「菫と戦った。勝ったのは菫だ」
「聞きたいのはそっちじゃないんだけど………」
 挑発的な苦笑を洩らしながら、しかしレイチェルは「まあいい」と達観したような表情になる。
「シトリー」
 名を呼ばれたシトリーが、視線を一度レイチェルに向けた後、再び九曜へと向ける。意図に気付いた九曜は視線をカグヤに向けて指示を(あお)ぐ。カグヤが頷いて応えると、九曜は瞳を閉じ、赤黒い水の剣を仕舞った。殆ど同じタイミングでシトリーも水の刃を消滅させる。
 互いに人睨みし合ってから姿を消す。どうやらイマジン体の二人の方も戦闘が出来るほど体力が回復していた訳ではなかったらしい。
「それじゃあ、星流を保健室まで連れて行く約束をしたから、私は行く」
 そう言いながらレイチェルは尻持ち付いて非難めいた視線を向ける星流に苦笑で謝ってから肩を貸す。
「あ、そうそう………」
 その去り際に足を止め、レイチェルは肩越しに振り返りながら挑戦的に告げた。
「アナタの“三体目”の式神は、必ず私が引きずり出す」
 瞬間、初めてカグヤの表情が強く強張った。鋭い視線が敵意に満ちたそれとなってレイチェルへと向けられる。それを涼しい顔で受け流しながら、彼女は星流を連れて去って行った。


  05


「なにか訳ありかい?」
 カグヤ達と別れた後に星流がそうレイチェルに尋ねる。レイチェルは少しばかり憮然とした表情で答える。
「そうじゃない。ただ、なんとなく………、アイツに負けるのが嫌な気がしただけだ」
 何だか子供みたいな事を言い出しそっぽを向くレイチェルに、星流は苦虫でも噛み潰した様な気分で呆れた。
「そうかい。つまりあれかい? 同じイマジン体使役タイプだったから、思いっきり対抗心刺激されたって言う奴かい?」
「その通りだが………っ!? そうはっきり言われるとだな………!」
 続く言葉が見つからないらしく、レイチェルは頬を薄く朱に染めながら口ごもる。
「だが! 相手も同じような物だったぞ!? アイツも、私と同じように対抗心に燃やされている様子だった。アイツも私と同じ気持ちなんだ、きっと………」
 それはそうだろうと思いながら星流は内心溜息を吐いていた。
 イマジネーションスクール。ここは自分だけの固有的な能力を有する生徒ばかりが集う学園だ。だから、同じタイプの人間に出会ってしまうと、対抗意識を抱かずにはいられないのだろう。
()()()()()()()()()()()|気がして、対抗意識が駆り立てられてるって事かい? まったく子供な………)
 呆れる星流は気付いていない。その“領域”を守ろうとする事こそ、イマジネーターの最大の特徴であり、この学園に入学できる者の絶対条件だと言う事に。
 つまり、気付いていないだけで、自分も同じ立場になれば同じだけ対抗意識を燃やさずにはいられないと言う事に、星流はまだ気付いていない。


 06


 切城(きりき)(ちぎり)。刻印名『札遊支者(カードルーラー)』を持つ彼は、黒髪に薄っすら青がかった深緑の眼を持つ、身長の低さにコンプレックスを持っている少年だ。彼の能力はTCG(トレーディングカードゲーム)のカード能力を現実に再現する物で、イマジンの特性としては最も相性が良いとされている。『再現』こそイマジンの真骨頂であり、再現する者が明確な情報となって纏まっているカードと言うのは、スムーズに術式を発動させるのに最適なのだ。教師の中では密かに、一年生の最強能力者になる事を期待されている。更に大風呂敷を広げれば、あの最強の名を持つ事の出来た東雲神威も、当初、札を用いた多系統の能力を再現しようかと迷った選択肢の一つだったりする。
 それほどの大風呂敷を担っていた彼だが、実はしっかりここでオチが用意されている。
 彼の能力はカードゲームのカードの能力を現実に再現する物だ。それはつまり、それだけに自分の手元には多種多様の選択肢が用意されていると言う事なのだが………。
「ぶっちゃけた話! 選択肢多すぎなんだっつうのぉ~~~っっ!!」
 今まで彼は、この能力を活かす為に、自分の部屋で何度もシミュレーションを繰り返し、状況に応じたコンボカードを想定したりと、準備万端のつもりでいた。だがそこに、実戦を体験しないと解らない事実に直面し、四苦八苦させられる羽目になった。
 まず第一に、彼の能力にはカードゲームのルールに則ってしまうため、『手札』という制限が設けられていた。
 能力『魔>>>札<<<怪(イクシードTCG)』を発動すると、好きなカードを手札制限七枚まで手元に呼び出す事が出来る。だが、それから新たな手札を取り出す(ドローする)には、最低でも三分間の時間が必要なのだ。この時間制限についてはまだよく解らないが、うんと頑張れば(つまり本人も何をどうしてるのか解っていない)もう数秒くらい縮められそうな気配はあった。
 ようはイマジネーションの慣れだと判断できるが、何がどうなのかよく解らないと言うのは中々に歯痒い物があった。
 更に問題点第二、ドローするカードはどの種類のカードでも構わないのだが、他のカードとの組み合わせが出来ないと言う事だ。
 例えば某遊戯の王様カードのモンスターに、某白黒カードのクライマックスカードの効果を与えようとすると『対象外』のエラー表示が契の脳内で発生し、カードの無駄消費が起きるのだ。これにはさすがに『安定思考30』のステータスを持つ彼でも絶叫せずにはいられなかった。
 考えてみればゲームルールが違うのだから、他のカードゲームと併用して使おうとしてもできるわけがなかったのだ。
 そして最も契を苦しめている問題が第三の問題点。
 それが“あまりにも膨大すぎる選択肢の多さ”だった。
 此処で彼の名誉のためにも付け加えておくと、別段、契がどのタイミングでどのカードを、もしくはコンボを発動して良いのか解らなかったというわけではない。彼もイマジネーター。その程度の思考は御茶の子さいさいだ。おまけに彼にはおあつらえ向きに『安定思考30』『並列思考50』『高速思考25』『集中力25』のイマジン変色体ステータスを有していた。これらが契の思考を助け、最も効率の良い選択肢を瞬時に叩き出してくれた。
 それはもう本当に速やかに最善策を生み出してくれたのだ。

 “軽く七万通りくらい”。

 七万通り、全てを“最善”と結果をはじき出してしまった契は汗だくになりながら混乱するしかなかった。正直な問題、後は好みで選んでくださいという状況だったのだが、その後の選択肢もバカにならないほど連続でとんでもない数値を叩き出し続けた。一手打つ度に次の最善策を五万通り―――一つ凌ぐために最善策を四万通り―――一時撤退の方法にまで六万通りの選択肢を思いついてしまう。
 此処に至って彼はやっとの事で気付いた。自分の能力は確かに優秀だ。それに合わせたスペックも自分には備わっていたらしい。だが、圧倒的に契本人が面食らいまくっていた。
 慣れだ。これは単なる慣れの問題だ。自転車と同じで一度乗れれば問題はない。慣れてしまえば膨大な選択肢の中から、自分の求める選択肢を好きに選ぶ事が出来る。この自由性に間違いは起こらない。何せ自分が最善と考えた選択肢なのだ。外れクジは存在しない。だから慣れてしまえばどうという事はないのだが………、乗り方が解っていても、自転車と言うのは中々すぐに乗れない物なのである。しかもこれは自転車に乗れないのに、いきなり一輪車に挑戦する様な物だから果てしなく苦労しそうだった。
「でも、ま………、僕様がピンチなのは完全に別の問題でしょ………?」
 世紀末の様な荒れ果てた荒廃都市のビル陰に隠れる契は、平静を保つために独り言をごちった。そうでもしないと削られた精神が今にも崩れ落ちそうなのだ。
「なによアイツ? もうマジ………ムリぃ………!」
 自然、声が震えそうになった。ビルの陰から覗き込んだ契はこちらに迫ってきている対戦相手を見て、悲鳴を上げそうになった。
 緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)。それが彼の対戦相手。白髪に金色のタレ気味の眼、身長体重はド平均っと言う出で立ちが、本来の彼の姿だったが、現在は黒髪に黒眼、タレ目が消えて髪も眼も恐ろしく濁っている。その濁った眼を見るだけで心の大切な部分が削られていく様な気分だった。何より契の気に障ったのは、彼がこの姿を模した時からひたすら上げ続ける笑い声だ。「げらげら、げらげら」と耳障りな笑いを、何もなくても常に上げ続け、それを聞いてるだけで耳を通して脳に直接攻撃をされている気分になる。
「なんさーもう………っ! なんなんさーもう………っ! 変な笑い上げやがって………! san値削られるんですけどぉ………っ!?」
 契は知る由もなかったが、正にその通りなのだ。
 陽頼は既に、己が能力『這いよる混沌(Nyarlathotep)』の『劣化邪神[陽](ナイアーラトテップ)』を発動していたのだ。これにより、彼の周囲に存在する者は、少しずつsan値を削られているのである。
 リアルsan値、これを削られるのは非常に危険である。特に思考型の契の様なタイプは最も忌避すべき精神攻撃の一つだ。ただでさえ思考を必要とする能力なのに、その思考を阻害されると言うのは二重に精神消耗を促進させる。正直、契はもう帰りたいと、らしからぬ事を何度も考えてしまっていた。
 契も陽頼も知らない事だが、このままでは精神ダメージによる危険性を判断され、リタイヤシステムが発動する可能性もあった。
 契とて抵抗してなかったわけではない。何枚かのカードで攻撃する内に、相手が火の属性に弱い事も既に掴んでいる。それなのに彼が追い詰められているのには理由がある。

 ボゴアァンッ!!

 突如上がった爆発が、陽頼を巻き込んで焼き尽くす。契がこの近くに仕掛けたトラップカード『万能地雷グレイモヤ』だ。敵を感知し、自分で接近し自爆する機能を有している。
 爆炎を受けて、陽頼は身体中を焼かれて(くずお)れる。
 今度こそやったのか………っ!? 最早願望と言っても差し支えのない心境で契は物陰から様子を窺う。

 むくり………っ。

 陽頼が………起き上ってきた。
 顔半分を焼き尽くされ、片腕が焼け爛れて溶け落ち、地雷を踏んだ片足は完全に消滅している。全身、無傷な所など無く、腹部に空いた穴は、内臓が見えている事を認識させぬほどに黒焦げだ。
 なのに立つ………。それでも立って、絶やさぬ笑いを浮かべる。

 ぐちゃり………ぐちゃり………。

 肉が脈動する。それはもはや肉とさえ思えず、まるで粘土か何かである様に、異様に生々しい音を鳴らしながら蠢き、身体を修復していく。いや、それを“修復”と称するには、人間の認識では憚られた。むしろそれは浸食だ。人の体の中に寄生していた謎の怪物が、器の肉が砕けたのを感じ取り、自分用の肉を内側から創り出し、傷ついた“外の肉”を押し出す様に隆起する。浸食に至った肉は、例えどんな傷を負っていようと己の領域だと言わんばかりにぐちゃぐちゃに掻き回して自分の肉へと変えてしまう。蛇の脱皮でも、ガマの油でも、トカゲの尾でも表現はできない。ナメクジが傷ついた体を癒す方がまだ見られた光景だ。最早アレは生物としての構造を完全に逸脱―――否、犯している。
「化、物………!?」
 クラスメイトに対して失礼かもしれないなどと言う考えは浮かんでこなかった。アレ(、、)が化け物で無いと言うのなら何が化け物と言うのか? 恐らくはアレ(、、)以上に化物じみた強さを持つであろう学園最強の東雲神威とって、それ以前に、以前のテレビで見た当時の三年生でさえ、こんな異様な光景を創り出している者はいなかったはずだ。
 どの先輩も、確かに人の形を、もしくは獣や多種族など、ともかく“見られた存在だ”。
(だけど………! これはもう根本的になんか違うでしょう………っ!?)
 削られ切ったsan値が、契に恐怖を植え付けていく。何度も罠に嵌めて殺した相手が、あんな異様な光景を振りまきながら復活し、また耳障りな笑いを上げて向かってくるのだ。最早発狂していてもおかしくない。
「………っっ!!」
 悲鳴を上げそうになる寸前、歯を食い縛って耐える。契の持つ『安定思考30』のイマジン変色体ステータスが、彼の精神を辛うじて繋ぎ止めてくれた。
 このまま負けて良いのか?
 自問に契は泣きそうな気持で反論する。
 いくらなんでも、こんな惨めなまま負けてやれるかよっ!?
 契はカードをドローする。自分の意思で取り出す事のできるカードだが、そのカードを『運命の(ディスティニー)ドロー』だと無理矢理思い込み、口の端を吊り上げる。
 瞬間、周囲を何かの気配が通り過ぎる。
「チィ………ッ!!」
 契はその感覚を既に何度も味わっている。自分も何度か既に撃っているが、今はむしろ撃たれている方だ。
 『探知再現』契達が要求されたタスク。これを使って目標物を見つけ、それを回収すれば勝利となるのだが、これが意外と落とし穴で、レーダーの様に広がるイマジンの気配が、イマジネーター同士に感知されてしまい、互いの位置を教え合ってしまうのだ。つまり―――、
「見つけタァ~~~~~~~~♪」
 急接近する陽頼。身体の修復が中途半端な事も無視して崩れた人間のなりそこないの肉として走り出す。おまけに速い! 何の生物か解らない肉と骨の塊をグチャグチャに動かしているのに、獣以上のスピードで這い寄る様に迫ってくる。
 形容し難きソレ(、、)が、ゲラゲラと嗤い声を上げながら、契に襲いかかってゆく!
「おわ………っ、おわっ、おわああああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~ッッ!!!!???」
 冗談は抜きだった。
 削りきられたsan値が彼に全く余裕を与えてくれない。いや、それを抜きにしても、ソレ(、、)に這い寄られれば、誰でも涙目になって本気で逃げ出していたかもしれない。
「に、が、さ、な、い、っ!!」
 言葉の通り、陽頼は契を逃がさなかった。脇目も振らずに泣きながら全力疾走した契に、三秒も数えない内に先回りして正面から迫ってくる。
発動(コール)! 『聖なるバリア ミラーフォース』!!」
 契の前に鏡の様な虹色の光を放つ壁が出現する。この壁に攻撃した者は、その攻撃をそのまま返されると言う効果を持つトラップカードだ。
「げらげらげらげら」
 陽頼は不快な笑いを上げながら―――構わず拳を連打した。
 『ミラーフォース』の効果は受け止めた攻撃を跳ね返すと言う物だが、その効果は『一度の攻撃だけを返す』と言う制約がある。ならばその盾に連続攻撃を与えた場合どうなるか? その答えは連続攻撃がやむまで受け止め続けるだ。受け止めた数が多ければ多いほど、跳ね返す威力も増す。むしろこれは好都合とも言えるはずなのだが………。

 バビギ………ッ!

 聞き慣れない音を鳴らし、ミラーフォースに罅が入る。
 陽頼の連打はまだ続いている。
 更に亀裂がどんどん大きくなり、嫌な音も次第に大きくなって契の不安を駆り立てる。
「う、嘘だろ………!」
 契は状況を理解し、慌てて最後の手札を切る。切り札として先程引いたカードを!
 ミラーフォースが粉砕され、陽頼の拳が契へと迫る!
憑依装着(ライド)!! 『ホーリーエンジェモン」
 瞬間、カードが契の中へと埋め込まれ、彼の全身を光に包んだ。
 契の背に四対の天使の翼が出現し、左の肩に出現したショルダーシールドで陽頼の攻撃を受け止める。右の手の甲には、手甲の様に丸い盾が出現している。その盾から光の剣が飛び出し、同時に契は剣で陽頼に切り掛る。聖なる属性を持った刃が触れ、初めて陽頼が怯んだ様に動きを鈍らせた。そのチャンスを逃さず、契は光の剣で正面の空間を斬る様に円を刻む。
「『ヘブンズ・ゲート』!」
 契の呼びかけに応え、斬られた空間が黄金の門と化す。門は左右に分かれ空間を開くと、門の奥の異空間へと陽頼を取り込んでしまった。
 門が閉じる瞬間、未だにぐちゃぐちゃの彼の肉が、閉じかけた門を掴み取り、這い出ようと抵抗を試みる。しかし、光の吸引力は凄まじく、陽頼の抵抗虚しく、門は完全に閉ざされた。
 一拍の静寂。契にとっては長い沈黙を経て、ようやく勝利を確信してへたりこんだ。
「は、はは………っ! ………いくら不死身でも、異空間に飛ばされちゃえば関係無いでしょ?」
 『憑依装着』それが先程、契の使った奥の手だった。用いるカードの効果を呼び出すのではなく、自分に付与し、カードに記された能力値の限界を超えて行使する事が可能となる。使用時間は一時間、終了後は使用時間の倍の時間身動きが取れなくなってしまう上に、他のカードを使う事が出来ない。おまけに使用中は契の脳内リソースの半分を使用するため精神的な疲労も大きい。効果は大きい半面、使い勝手の良い能力とはとても言えなかった。
「でも、これでさすがに僕様の勝ちでしょう………?」
 安堵の息を吐きながら、契がポイント差を確認しようとした時、突如大爆発が起きた。
 爆発したのは先程契が創り出したゲートだ。ゲートが何らかの力によって破壊されたのだ。
「いやぁ~~~! さすがの私も今のはびっくりしちゃいましたねぇ~~~♪」
 爆煙の中、ゆっくりと歩み出てきたのは、白髪に黒眼の少女だった。膨らんだ胸を張り、腰に片手を付いて、彼女は自信に満ちた笑みを浮かべる。
「御呼ばれながら即参上ッ!! アナタの元に這い寄る混沌、『劣化邪神[陰](ニャルラトホテップ)』の緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)さん! 初お披露目で~~すっ!!」
 ビシッ! っと決めて見せる姿に、契は呆気にとられる。普段の彼なら呆れて見せるか、茶々を入れるか、もしくは一緒にふざける所なのだが、生憎そんな余裕はもはやなかった。
 冗談じゃない。そんな言葉が脳裏を過ぎった。
 本当に冗談事ではなかった。何度殺しても、破壊しても、焼き尽くしても、それでも復活してくる化け物を、やっとの思いで異空間に追い出したと言うのに、そのゲートをぶち壊して、這い出てくるとか、最早驚きも笑いも通り越して、ただ疲れて座り込む事しかできない。
 こんな時、イマジネーターの思考能力が恨めしいと思った。イマジネーターであるが故に、この状況下でも相手の情報を読み取り、状況を正しく理解してしまう。
 あの少女は間違いなく、先程まで戦っていた緋浪陽頼に間違いない。何故男だった彼が女になっているのか解らない。御叮嚀に実戦練習用スーツ(体操服)まで女子用のそれに変わっている。何らかの能力によって変化したのだろう事は予想できた。まだ勝てる可能性も幾つか検討出来た。だが、そこまでだ。
 切城(きりき)(ちぎり)は悟ってしまう。現在目の前にしている存在は神格を有している。それもカグヤや金剛とは違う、その身に当然として神格を有している存在。人間ではない。コイツは本物の化け物(神様)だ。今はその一部を取り出して使っているだけなのだろうが、コイツはその気になれば己の神としての姿をいつでも解放できる。果たしてその時、契に対抗する手段はあるだろうか?
(“神のカード”でも使う………? はは………っ、一体どんだけ出すのに時間を有すると思ってんの………?)
 契は諦めた。諦めるしかなかった。およそイマジネーターとして相応しくない考え方だが、この場に限って言えば仕方のない事だ。イマジネーターと言えどもその正体はただの人間、精神が疲労すれば対抗する意識も失せると言う物だ。この場合、イマジネーターの強靭な精神力を削り取った陽頼を賞賛するべきだろう。
「それでは、最早戦う気力もなくなってしまったであろう契さんには悪いですが………、残虐ショーの続きと行きますかぁ~~♪」
 不気味に笑いを浮かべると、陽頼は中空に手を伸ばす。その手が空間を歪ませ、異空間に仕舞ってあったらしい釘抜きを取り出す。
「それでは締めの残虐ショーとして………、必殺! 私の必殺………っ!」
 飛び上がる陽頼、空中で一回転、くるりと体勢を変え、契に向かって真っすぐ飛来する。
「クライマックスキック~~~~~♪」
「何のために出したよぅ!? 釘抜き!」
 最後に残った精神力をツッコミに使い果たし、契は最後の瞬間に目を見開く。

「だぁから、勝負ありだって言ってるでしょう? いい加減にしないと食らい尽くすぞ!?」

 バクンッ!

「ぎゃっ!?」
 突如出現した“黒い口”が、飛び蹴りの体勢にあった陽頼を丸呑みする勢いで食べてしまった。陽頼は慌てて体をばたつかせ、何とか巨大な“口”の顎を開き這い出ようと試みている。
「まったく………、先生の言う事聞かないと生徒相手でも容赦しないぞ?」
 呆れてそんな事を云うのは、青髪にエメラルドグリーンの目。低めの背で、何故か三角巾とエプロンを装着していると言う謎の井手達(いでたち)をした二十代後半の青年だった。
 彼の名は水無月(みなづき)秋尋(あきひろ)。この学園の教師で、彼等の審判役を担っていた。
「切城、お前が緋浪をゲートに閉じ込めた時点で必要ポイントの獲得に成功していた。緋浪は不死身の属性に頼りすぎたな? 普通の試合なら確かに脅威だったが、今回はポイント制だ。死んでも平気だろうが死んだ分だけポイントは取られるんだから有利とは言えないぞ? って言うかちゃんとアナウンスしたんだから続行してるんじゃないお前ら」
 軽く教師に叱られ、陽頼が「な、なんですと~~~っ!? この私とした事がそんな初歩的なミスを犯してしまったと言うのですかぁ~~~っ!?」っと騒ぐのを、契はしばらく呆然と見つめてるしかなかった。だが、次第に状況が呑み込め始め、勝利した事より生還できたことと、自分を助けてくれた誰かの存在を認識した事により、彼の(たが)が外れた。契は遮二無二に秋尋に向かって飛び付いた。かなり本気泣きで。
「お、おわぁっ!? ど、どうした!?」
「こ、怖かったぁ~~~~っ!! 割と本気で怖かったぁ~~~っ!! もう二度と陽頼とは戦いたくねぇ~~~~~~~~~~~~っっっ!!」
「それヒドイッスっ!?」
 とりあえず戦闘終了。
 契は強敵陽頼に勝利を収める事が出来た。


 07


 Aクラス担当(担任ではない)、比良(このうら)美鐘( みかね)教諭から聞かされた事実に、Aクラス勢は驚愕を覚えた。
「実は、今回の試合な? クラス内トーナメント第一試合だったんだ」
 事も無げに言われた生徒達は、戦いの疲れもあって、その場で項垂れるしなかった。非難の声一つ上げられる者もいない。
 現在Aクラス生徒達は、保健室に言った者も含め、全員が教室に戻ってきてた。一部の者を除き、誰も彼もが包帯やらで身体中傷だらけの(てい)を見せている。誰も文句を上げる余裕すら持てていない。
 そんな状況に満足しながら、美鐘は淡々とクラス内交流戦について説明を始める。
「クラス内交流戦は月一に行われる。今回最初のクラス内交流戦はランダムで決定される対戦相手と三試合行い、より勝利数の多い者が選定され、最終的により多くの白星を手に入れた者が優勝、クラス内最強と言う事になる。なお、クラス最強の座を手に入れた生徒は、同じく月一で行われる今回の学年別交流戦に参加できる権利を得る。一年生最初の学年別交流戦は。クラス代表が一名ずつ選出され、トーナメント戦をされる事になっているから、優勝を目指せよ? ………そうそう、クラス代表者に選ばれた生徒はMVP賞として、『スキルストック』が一つ譲渡される事になっている。学年一位には更に『派生スロット』一つ解放されるとの事だ。充分励む様に!」
 美鐘教諭の説明が終わる。生徒は皆、一様に目を丸くして驚いていた。教師の言ったMVP賞が、あまりにも破格過ぎて、言葉を失っていたのだ。
 『スキルストック』は、学生が受けている能力の応用範囲の制限である。『スキルスロット』が一つ増えれば、新たな能力技能を覚える事が出来る。例えば、カグヤやレイチェルの場合なら、新たに使役するイマジン体をもう一体追加する事が出来るようになる。
 そして『派生スロット』。これは能力その物を新たに追加し、更に範囲性を広げる事が出来る。これにより、『火の能力』しか使えなかった者も、その能力の関連性で繋げ、新たに『水の能力』を得られるようになる。
 どちらも破格の褒賞だった。誰もが狙わない筈がない。
 今日勝った者は既に一歩を踏み出す事に成功している。負けた者達は挽回の可能性に掛けて、この先一度も負けるわけにはいかない。二敗すれば、まず間違いなくクラス代表に選ばれる事はないのだから。
 疲れきっていた生徒達に、再び士気が高まり始める。
 今日を含めた三日間。それがクラス内交流戦の期間。試合は全部で三戦。より多くの勝利を勝ち取った者だけが、次へとコマを進められる。
「それとお前ら? ちゃんと飯食った後の授業には参加しろよ? まだお前ら全員、筆記は必要範囲までやってないんだからな?」
 教師の忠告など何の事はなかった。何せこのAクラスの生徒は、規格外(バカ)みたいに頭が良い奴らしか揃っていなかったのだ。筆記で単位を落とすなどと、誰も想像できなかった。



――あとがき――


カグヤ「まさか怪我しても治療してもらえないとは思わなったぞ………」

菫「死ぬかと、思った………」

カグヤ「確かに最初の授業でやたらと気合の入った本格的な応急処置とか教わるな~~、っとは思っていたが、この万能の学園で治療無しとはな」

菫「私達、信用されて、ない………?」

カグヤ「いや、そうじゃないだろうが………、まあ教師の良い分も解る。万能に頼れば、いずれ人の心の方が歪んで行く。俺達も気を付けないとな」

菫「だからカグヤは歪んだ、の………?」

カグヤ「は?」

菫「エロ万能能力」

カグヤ「………。確かに俺の目覚めはエロ技術を身に付けた後だったな?」

菫「こいつダメ」





彩夏「実戦練習用スーツ(体操服)をちょっと説明しようか?」

陽頼「(こくん)」

彩夏「これは男性用、女性用の二種類があり、更にそこから季節二種類に分けられている」

彩夏「男性用は春と夏がノースリーブに迷彩柄の長ズボンだ。ホルスターベルトもあるらしいぞ? 秋と冬用は、これに更にジャケットが付き、更に寒冷用のコートがある。今回は寒冷地での訓練が無かったので、誰もコートは着なかったがな」

彩夏「女性用は男性用とそれほど変わらない。ただ女子の場合は短パンとミニスカートタイプしかないらしいぞ? 動き易さ優先な格好でちょっと恥ずかしい気もするかもな?」

彩夏「ちなみに私は、ミニスカタイプを所望したがね!」

陽頼「………」

彩夏「君………、その姿の時は本当に反応が鈍いね………」

彩夏「まあいいや。そろそろお風呂に行こうか?」

陽頼「(こくん)」





海弖「ゲティングスくんは東雲義弟くんに御執心の様だね?」

ゆかり「良い傾向やね? 自分の領域を守ろうとする強い想い程、イマジネーターを強くする者はないからねぇ~?」

海弖「彼女に引っ張られて東雲義弟くんも対抗心を抱いてくれれば丁度良いバランスになるだろうね? 彼は他人を強くする性質はあるが、自分を強くする才能を欠片も有していないからねぇ?」

ゆかり「この調子でお互いに良い刺激を与えて行ってくれたらええなぁ~~♪」


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一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅱ

やっと書けたぜ!
今回は連僅が続いて中々書く暇がなかったが、ここまで来た!
今回は先輩方、三年生の戦闘シーンの一部も書かせてもらいました!
あまり期待されると困る様な内容ですが………。
とりあえず、これがAクラス編下巻です! 一緒に楽しめればと言う願いを込めて!!
さあ、どうぞっ!


 08 【Aクラス編】下


 こうして始まったクラス内交流戦二日目、その目ぼしいカードを順に紹介して行こう。


 【レイチェル・ゲティングス VS 機霧神也】

 戦闘フィールドは切り立った深い崖。空も底も見受ける事の出来ない高く深い崖の合間を、二人は飛行能力を駆使して追いかけっこを演じていた。迷路のよう入れ組んだ崖の合間を飛び周り、相手の後ろを取った方が有利になる様な状況。
 レイチェルは、朱い髪に背中から羽、おでこからは角を生やした露出度の高い衣装に身を包む女性の悪魔、≪アスモデウス≫に、後ろから両手で腰を抱いた状態で飛行していた。その後ろを追うのが、某インフィニットなストラトス風の装備で固めた神也だった。彩夏と戦った時同様、飛行用のバックパックにレッグ、アーム、ヘッドギアを装備していたが、この狭い崖のフィールドでは、お得意の火力武装が使えず、少々不満顔だ。今の状態は黒髪黒眼で、眼も至って普通。彩夏戦で見せた姿はまだしていない。
 彼は、火力砲が使えない代わりに、両肩、両脇、両腕に呼び出したミニガンを構え、レイチェルに向けて一斉斉射する。7.62ミリ弾を毎分2000~4000発という圧倒的発射レートを持つミニガンが六門、一斉に発射されたのだ。脚色無しに弾丸の雨に曝され、イマジネーターの回避性能を完全に封殺する。
「アスモデウス!」
「ええっ!」
 主の指示に従い、アスモデウスは片手で主を支えながら、もう片方の手で呼び出した炎を渦巻かせ、炎と風圧の壁を作る。壁に接触した弾丸は高熱に一瞬で昇華し、小さく爆発し、壁を突き抜けた物も、炎の渦に軌道を逸らされ、悉く標的を打ち損じる。
 神也はミニガンが通じないと悟ると、斉射を続けたまま、両肩のミニガンだけをパージ、しばらくの間を持って、新たに作り出した二門のレールガンを装着した。
「やば………っ!」
 電磁誘導(ローレンツ力)により加速して撃ち出された鉄の塊は、易々とマッハ7を弾きだし、アスモデウスの創り出す炎を一撃で粉砕、貫通し、レイチェル達の両脇を通り過ぎる。それだけで生じたソニックブームが二人を大きく煽り、飛行の能力を奪ってしまう。
 二人は錐揉(きりも)み状に吹き飛ばされながらも崖の壁を蹴ったり、羽を広げて敢えて失速する事でミニガンの雨を躱す。四門に減ったとは言え、弾丸の嵐は防御無しで躱し続ける事は出来ず、何百と言う弾丸をその身に受けてしまう。
 必死にイマジンで身体中をコーティングするイメージに、以前のタスクで覚えた『硬化再現』で弾丸のダメージを減らそうとするが、レイチェルの視界の端に表示されているように見える神也のポイントは凄まじい速度で1ポイントずつ加算されていく。
「………っっ! ………―――あぁっ!!」
 ポイントが27から46になったタイミングで防御を諦めたレイチェルは、今回のタスクに出ていた『加速再現』を実行する。

 ドンッッッ―――!!!!

 瞬間完全に視界を見失ったレイチェル。イマジネーターの直感が危険を知らせ、瞬時に『加速』を切るが、その時には既に、幾度も体を崖にぶつけ、3ポイントを自ら譲ってしまった。
「―――………っ! 自爆くらい大目に見ろ! 奴の取った得点ではないだろうっ!?」
 叫びながらレイチェルは右肩を左手で押さえて庇う。右肩は先程の衝突で大きな傷を開き、大量の血を流している。もはや熱としか感じられない様な痛みから、既に肩の骨自体粉砕しているかもしれないと考えると恐ろしくなってくる。もし、加速した時にアスモデウスがレイチェルを庇って身体中からイマジン粒子を散らせていなければ、彼女が受けた傷がそのまま自分の傷となっていただろう。
「だけど、この距離なら―――!」
 僅かに開いた距離。直進速度では上の神也は加速する事無く、しかし、スナイパーライフル右腕に呼び出しスコープ越しにこちらを狙っていた。御丁寧にこのスナイパーライフルもレールガン仕様だ。背中のバックパックに新しく追加された重そうな丸いタンクは、恐らく発電機か何かだろう。
 レールガンは火薬を使っていないため、連射しても銃火器よりも熱を持たず、圧倒的な連射が可能な武器だ。それでも大量のミニガンを装備した後で身体に熱が溜まってしまっているのか、残り三門のミニガンは全てパージされ、変わりに何やら透明な帯が腰部分からたなびいていた。これが僅かに赤発色している所を見るに、余分な熱を奪う排熱巾の役割をしているようだ。これで神也はレールガンをほぼ無限に撃ち続けられるようになったと見るべきだろう。(弾はイマジンでいくらでも創造可能)
 神也が引き金を引き、狙撃する。
 危なげなく旋回するようにして回避するレイチェルとアスモデウス。
(大丈夫………! この距離ならマッハだろうと撃つ瞬間に『直感』で躱せる………! お願いだからこの直感続いてくれよ………!)
 イマジネーターの危険回避はデフォルトで備わっている様な物だ。その一点に関して言えば『直感』はほぼ永久に連続発動が可能だ。だが、同時に危険回避による直感は『危機感』から発する物であり、“慣れ”てしまったり、“驚異と思えなくなってしまった”りすると、発動しなくなってしまう。
 現状に於いては“働かなくなる”っと言う事はないのだが、その知識をまだ習っていないレイチェルは焦りを覚えずにはいられない。
「でも………っ!」
 レイチェルは目標地点を見つけ、進行方向そのままに振り返る。手を翳し、指先で空中に魔法陣を刻むと、≪シトリー≫の力の一部を借り、音速水鉄砲を撃ち返す。
 射撃を返された神也は、ライフルを撃ち抜かれ、遠距離武装を失ってしまうが、瞬時に脚部のバーニアを吹かし、加速。レイチェルへと急接近していく。
 更に右手を天に翳し、丸い十センチタイプの棒を呼び出す。その棒の先についたスイッチを親指でONにする。瞬間棒の先から高質量エネルギーによって形成された剣が出現する。九曜の物とは違う、正真正銘本物のフォトンソードだ。それもかなり巨大な大剣サイズの大火力武装だ。
「まだ十秒くらいしか持たせられないけど………! 一度使ってみたかったんだよね! この距離と地形なら外さな―――!!」
「どうかなっ!!」
 振り被った神也に対し、レイチェルはアスモデウスの手を離れ、岸壁に足を付くと同時に反対方向、右側へと高く跳躍し―――レイチェルが岸壁をすり抜けて消えた。
 否、それが違うと気付いた神也は慌てて逆噴射し、急停止。危うく迫っていた岸壁へと衝突する所で止まる。
 一本道を飛んでいたと思ったら、突然T字状に崖が割れていたのだ。あのまま真直ぐ進んでいれば岸壁に正面から激突するところだった。
 反撃の可能性を考え、レイチェルの消えた右側を視認しようとした神也は―――、
「はあい♡ ボウヤ? 私のサービスポーズにちょっと注目~~~~♪」
 逆側、左からした声に、神也は()()()()()()()
 両腕を頭の後ろに組んで、たわわに揺れる胸を揺らしながら、腰のくびれを扇情的に見せつけるアスモデウスの姿に―――、
「○×△%$~=‘*+>?」{|=~}|’&&$#!“#%&‘()?M*~={=PO=”*+*!!!??? ///////////////////////////////////// ♡♡♡♡」
 ―――自分でもわけの解らないほどに魅了されていた。
「あら? もしかして精神系の攻撃にまったく耐性無し? ラッキー♪」
 レイチェルが岸壁に捕まりながら笑い、もう一体の僕に命じる。
 神也の上に待機していたシトリーは、両手に溜めた大量の水を一気に解放し、滝として流し落とす。滝に呑まれた神也は、何とか落とされないようにバーニアを吹かしたが、それが逆効果となった。度重なる銃火器の使用に、バーニアの熱。そして致命的な大質量エネルギーを放射しているフォトンソード。これらが持つ超高温の熱が、冷たい水と接触、一気に温められた水は高圧水蒸気を生み出し、衝撃となって神也を破壊する。すなわち水蒸気爆発が起こった。
「本当はアスモデウスの炎で誘爆させるつもりだったんだけど………。わざわざ高質量エネルギーの武器を取り出してくれて助かったよ」
 レイチェルがそう笑みを滲ませ、24のポイントが46になったのを確認する。
 このポイントに少し不服を覚え、一度教師に採点基準を問い質してやろうかと思案した瞬間、異変が起きた。
 爆発した水飛沫の中から、ぐったりした様子の神也が、力なく背を逸らしながら墜落を始めたのが見えた。だが、その髪は徐々に赤く加熱する様に変色を始め、見開かれた眼の奥に幾何学模様が浮かび―――、
「―――ッ!! それは、させないっっっ!!」
 『直感』で危機を感じ取ったレイチェルが、腰のホルスターに収めていたカードを一枚取り出し、正面に向かって投げる。カードにはイマジンによる青い線で魔法陣が描かれていた。レイチェルの使役する悪魔は、カグヤの使う式神と似て、彼等の力を使用する際に必要不可欠な『寄代(よりしろ)』、“媒介”が必要となる。レイチェルの媒介が、この魔法陣なのだ。
「おいで、シトリー。すべてをさらけ出してあげましょう」
 彼女の言霊に応え、正面に姿を表わす蒼い髪にワンピースの少女。
 カードの魔法陣は光を発し、大きく展開されると、シトリーと共にレイチェルへと重なる。再び青い光が眩く発光。清楚な雰囲気のするワンピースに、蒼い髪をした、レイチェルが背後に水の球体を従わせ現れる。レイチェルの奥の手、『憑依』。使役する悪魔を己と一体化させる神降ろしに等しい神秘の再現。
 シトリーと一体になった事により、高められた神格。その神格で爆発して飛び散る周囲の水を操り、背に控える水の珠と一体化させ、巨大な水の槍を創り出す。
 神也の眼に幾何学模様がはっきりと映し出された瞬間、レイチェルは間髪入れずに水の槍を放つ。悪魔シトリーの神格で操られた水は、いわば水を操る権能。その速度は一瞬で音速へと至らしめ――――神也の身体を粉砕した。
 リタイヤシステムによる光の粒子とアナウンスを聞きながら、彼女は額の汗を拭い勝ち誇る。
「ふう………、なんか解らないけど、アレ(、、)使われてたらまずかった………。でもとりあえず、私の勝ち!」

 【勝者 レイチェル・ゲティングス ポイント72】




 バギリ………ッ! っと、鱗と骨が砕ける生々しい音をたてて、白い龍の首が軻遇突智(カグヅチ)の顎に噛み砕かれる。
「ソウルセイバー・ドラゴンッ!?」
 白き光の龍がイマジン粒子として散っていくのを見て、切城(きりき)(ちぎり)が悲鳴の様に声を上げる。粒子が散る傍らでは、重々しくも勇ましい白い騎士甲冑に身を包んでいた大剣使いと、白い鎧に身を纏う剣士が、二人で膝を付き大量の粒子を身体から漏らしていた。彼等の身体は傷だらけで、もはや漏れ出す粒子を止める術はなさそうだ。
 ブォン………ッ! と、赤黒い水の剣を軽く振った九曜は、もはや反撃する事の出来ない騎士二人に、それでも警戒の視線を向けたまま見下ろしていた。
「主と能力の差が出たわね。スキル一つで集中されて作られた我らに比べ、多数に分散された軍勢のアナタ達では、一体一体の実力が違うわ。それを補うだけの力が、主も未だに不足している」
 九曜の冷たい言葉に二人の騎士は歯噛みし、消える瞬間にも主に対する申し訳なさそうな表情を残し続けた。
「『アルフレット・アーリー』! 『ブラスター・ブレイド』!?」
「ほい、これで全部か? トラップも全部解除したし、これでもうお前は抵抗できないよな?」
 切城(きりき)(ちぎり)の両手を同じく両手で捕まえて組み合う東雲(しののめ)カグヤは、かれこれ二十分くらいこのまま押し合いをしていたので、結構表情が必死だった。契も抵抗しようともがいていたが、相手の動きを読み切るカグヤに抵抗虚しく粘られていた。
 カグヤと契の戦いは正に手に汗握る高度な戦略戦となった。互いに罠を仕掛け、フェイクで誘い、幾つもの知略戦が交差し―――、やり過ぎて正面から力付くでぶつかる以外の手段を失って泥沼試合と化した。
 契はともかくレベルの高いモンスターカードを呼び出し、カグヤは軻遇突智で一掃しようと正面からぶつかり、かなりの消耗戦になり、結果的にカグヤの式神が能力的に勝っていたがために現状へと至った。
「『手札』があっても、“手”が使えないならカードは使用できないよな?」
 不敵に笑うカグヤに、苦虫を噛み潰したように俯いた契。しかし、次第に契は肩を揺らし始め、ガバリッ! と顔を上げた。その口にはカードが一枚、咥えられている。
「悪いな! 手が使えなくても、口でカードを抜けば使用するくらい―――!」
 契が勝利宣言の様に声を上げるとともに―――突然カグヤの表情が赤面し、潤んだ表情になると、ゆっくりと口を近づけ始める。
「手が使えないから………、口で、取るしか………、阻止できない、よね?」
「………へ?」
 その言葉の意味が理解できず、一瞬固まる契。瞬時に思考ステータスの全てを動員し、カグヤの言葉の意味と意図を探り始める。
 契の思考能力は、“思いっきりマジで口付けしてでもカードを阻止しようとしてますぜいっ!?”と言う答えを返してきた。
 再三再思考。………三度同じ答えが返ってきた。

 …………………。

「ちょ………っ!? おうぇあぁえ~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!!???」

 契は混乱した。▼(ピッ)
 契は離れようともがき始めた。▼(ピッ)
 しかし、両腕を掴まれ逃げる事が出来ない。▼(ピッ)
 潤んだ瞳で、顔を赤く染めたカグヤの顔が近づいてくる。▼(ピッ)
 契は混乱に拍車をかけた。▼(ピッ)

 何故か状況理解がRPG風に脳内再生される契。現実逃避だったのかもしれないその行動に、容赦無くカグヤ(現実)が迫ってくる。
 カグヤの顔は、近くで見れば見るほど、女性のそれと全く見分けがつかない。それでも“彼”が“彼女”ではない事はとうに知っている契だ。この状況が嬉しいはずもなく、慌てて逃れようとするのだが、カグヤはそれを許さない。
 ドンドン真っ赤になったカグヤが近づいてくる。
 自然、カグヤの表情を正面からじっくり観察する事になった契。カグヤの睫毛は男と違い少々長めで、普段睨むように細めていた瞳も、今は大きく柔らかい感じに開かれ、黒水晶の様な瞳を艶めかしい程に潤ませている。鼻も低く、顔は骨格自体が丸みを帯びているのか、撫でらかに丸い線を刻んでいる。赤面した頬はとても柔らかそうで、ついつい指先で突いてみたいとさえ思える。肩へと滑った黒髪は、とても艶やかで、手にとって滑らせたくなるほどに輝いていた。最後の極めつけにピンク色に染まった唇。まるでサクランボの様に小さな口は、今は上品に(すぼ)められ、恋人に軽くキスをするかの様な蠱惑(こわく)的な魅力を漂わせていた。
 あれ? コイツって、本当に男なんだっけ? そんな血迷った思考を浮かべた契は、何もかも忘れてその唇に食いつきたくなってきてしまった。
 もちろん、すぐにそんな思考は全力で首を振って消去した。
 その隙をついたカグヤは、大きく頭を背後に逸らしてから―――ガツンッ!!
「オギャッ!?」
「ダバッ!?」
 頭突きを見舞った。
 カグヤが昔教わった剣術の裏技、『花房(はなぶさ)』。それがこの技の名前などとは、誰も知る事はない。………かなりどうでもいいので。
 頭突きで気絶した契と、自分で頭突きをしておいて、自分でくたばってるカグヤが、二人仲良くノックダウンした。
「我が君」
「お兄ちゃんっ!」
 九曜が冷静にカグヤの肩を抱いて起こし、カグラが人型になり慌てて反対側の肩を支えた。
 抱き起こされたカグヤは額を擦りながらポイントを確認する。
「痛てて………、これ自爆もしっかりポイント取られるんかよ………? まあ、でもこうでもしないとマジで男相手にキスする羽目になってたから文句は言わんが………」
 不貞腐れながらも、何気に今ので勝利ポイントをギリギリで獲得したカグヤはホッと息を吐く。
 そこでやっと両隣から、とても不安げな視線を向けられている事に気づく。
「どうした二人とも? 額のダメージならそれほどでもないぞ?」
「いえ、その………」
 珍しく九曜が言葉を濁す。
 同じく不安そうに、見つめていたカグラは、未だに首を傾げているカグヤに対し、壇上の想いと言わんばかりの覚悟した表情で問いかける。
「お、お兄ちゃんっ!? あの時………、本気でキ、き、ki、………キスするつもりだったの?」
「何を言い出すお前は。そんな気持ち悪い事絶対するわけないだろう。相手が女子だったならともかく」
「そ、そうですよね………、いくら我が君でも、殿方を相手など………」
「ちょっと九曜さん? アナタも疑ってました?」
 珍しく視線を逸らして黙秘する九曜。カグラは疑わし気ながらも、カグヤがはっきり否定してくれた事に胸を撫で降ろしていた。―――が、やめておけば良いのに、カグヤはつい余計な事を続けてしまう。
「まあ、途中まで本気だったのは事実だけどな? そうでもしないと契の思考能力で表情読まれて、嘘だって解っちまうからな。だが、思考しない様にするって言うのは結構難しいな? アレは長い間は無理だな。心を無にするとか言う奴らしいが、あんな緊張感でやるのは結構なプレッシャー………? どうした二人とも?」
 完全に青ざめている僕二人に気付いてカグヤが問いかける。
 九曜、カグラは、同時にカグヤに飛び付いた。
「我が君! 今すぐ………っ! 今すぐ部屋に戻りましょう! 私が“閨”を務めますからっ!!」(必死)
「勘違いしないでよねッ!! お兄ちゃんの事が本気で心配だから一緒に寝て上げるんだからねっ!? それでお兄ちゃんがいつもの女好きに戻ってくれるなら私は何も言う事無いんだからねっ!?」(必死)
「ベットイン歓迎! でも待てやこらっ? お前ら二人とも本気でなにを心配してやが―――」
「大丈夫です我が君! どんなに女を体験しようと、飽きる事の無い程、この世の中には幾多の嗜好―――“ぷれい”なる物が存在すると聞きます! 我が君がお望みとあれば、この九曜! 如何なる“ぷれい”にも応えて御覧に入れます!」
「お兄ちゃん! 妹属性の開拓がまだだったよねっ!?  いっそ、ロリ属性も開拓しよう! そして女の子の魅力に戻ってきてねっ!?」
「ちょっと(しもべ)様方っ!? 主様の言う事聞こえてますかっ!?」
 三人の騒動は、その後も部屋に戻って夜の営みが終わるまで続いたと言う。
 蛇足だが、その日の夜、とばっちりを受けた菫が、真っ赤な顔で泣きそうになりながら枕を抱えたパジャマ姿で廊下をうろつく羽目になったと言う………。

 【勝者 東雲カグヤ ポイント50】




 水面=N=彩夏は八束菫と激戦を演じていた。
「錬成!」
 彩夏がジャングルの木々に『罠錬成』を仕掛け、菫の行動範囲を制限していく。
「キャッ!?」
 大量に作られた足を捉えようとする蔦達を跳んで躱した菫だったが、一本だけ、異様に長く伸びた蔦が彼女の足を捉え、そのまま逆さ吊りにしていく。慌ててスカートを片手で押さえながら、剣を操って蔦を切り裂く。だが、操っていた剣が、いつの間にかそこにあった木に突き刺さり、そのまま蔦に絡め取られて使えなくされてしまった。
(これ、で………、26本目………、もう手元の剣、しか、残ってない………)
 密林のジャングル地帯。菫にとっては二度目の戦場で、既に慣れていると思っていたが、この密林地帯は、以前の密林地帯とはまた別の設定の様で、ともかく木々が生い茂っていた。開けたところなど一つもなく、地面は土と根と苔ばかり、足場も悪ければ行動範囲も狭い、ともかく動き難い地形だった。菫の能力『剣弾操作(ソードバレット)』と『剣の繰り手(ダンスマカブル)』はある程度剣を操るスペースが必要だ。だが、この狭すぎる空間では上手く扱えず、剣を撃ちだそうにも遮蔽物に囲まれ投げる事が出来ない。空中を躍らせるには狭すぎる。木々の間を縫うように動かすのはまだ経験、技量が共に不足。仕方なく頭上から落とす形で剣を放ったのだが、逆に此処は彩夏の独壇場だった。
 彩夏は所狭しと立ち並ぶ木々に『罠錬成』を張り巡らせ、菫の攻撃を防御、同時に捕縛する様な攻撃を仕掛けていった。菫はその度に対応に追われ、気付けば生徒手帳にあった26本の剣を全て木々に呑み込まれて奪われていた。
「剣舞が使えないのなら剣群操姫(ソード・ダンサー)も名前負けだね!」
 挑発する彩夏に、素直にムッとしてしまう菫。
 刻印名は入学の時、『刻印の儀』で己の心に刻んだ二つ名、称号の様な物だ。それは刻んだ本人達にとっては誇りであり、何らかの覚悟の表れでもある。それを刺激されては、挑発と解っていても何か返さずにはいられなかった。
「じゃあ、舞台作り………!」
 菫は呟き、『糸巻き(カスタマイズ)』を発動。四肢全身に最大の8重強化を施し、振り被る。
「全っ力………!」
 振り被った剣を一気に横薙ぎに、自分を中心に円を刻む様に振るい抜く。
 ピーーーンッ! と言う風鳴り音を鳴らし、過ぎ去った刃は、回転による衝撃波を僅かに散らし、………ズズッ、時間差で菫を中心とした木々が一斉に薙ぎ倒され、開けた舞台が創り出された。
「うん、全力強化、なら………、剣技補正が無くて、も、これくらいできる………!」
 無表情に勝ち誇って見せる菫だったが、瞬間、自分の視界が手で遮られた事には驚いた。
 彩夏の事を視界から外してはいなかった。むしろ注意深く観察していたつもりだった。だが、菫は一つ失念していた。自分が強化系の能力を使えるなら、相手も強化系の能力を持っていてもおかしい事はない。それを失念していた菫は、瞬間的に肉体強化を最大に上げた彩夏に超接近され、視界一杯に手を翳された。
 視界が不自由な中、それでも身体を後ろに逸らし飛び退こうとしながら、必死に剣を振り抜こうとする。
 だが、それよりも速く彩夏の詠唱が轟く。
「罪人よ! 災禍の歌を歌え! 断罪なる(つるぎ)に、悉くを貫かれよ!!  『災禍讃唱』!」

 ゾガンッ!!

 突如出現した逆棘状の刃を持つ痛々しい無数の剣。それらが菫の身体を容赦なく貫いて行く。
「あ、ああ………っ!!」
 無数の剣に切り裂かれながら反撃の剣を振るう菫。
 剣に対して菫は片腕で頭をガードする様に庇う。
 刃が腕に激突し、鮮血が飛ぶ。だが、それだけだ。剣は肉を切り裂き、血を飛ばしたが、彼の骨を切断する事が出来なかった。
「カルシウム濃度を操作した。カルシウムって言うのは優れた物質でね? その濃度次第では金剛石よりも、………いや、世界のどの物質よりも硬くなるらしいよ?」
 腕を斬られ苦悶の表情を浮かべながら、彩夏は勝ち誇ったように微笑んだ。
 点差は47対43。彩夏が勝ち越した。
「あう………」
 最後の反撃に失敗した菫が脱力し、手にしていた剣を落とす。彩夏は一度距離を取り、菫が反撃してこないかを確認するが、彼女は俯いたまま動かない。
「ふぅ~~………、こっちも一敗してるからね。そう簡単に二連敗なんて―――」
「『繰糸(マリオネット)』………」
 菫の呟きが聞こえ、身構える彩夏。その彼女ならぬ彼の目の前で、菫を束縛する逆棘の剣が何かに動かされる様にガシャガシャと動き始める。
「飛、べ………っ!!」

 バアンッ!!

 菫の号令に従う様に、彼女を捕縛していた逆棘の剣が一斉に弾け、上空高くへと飛んで行った。彼女の体を貫いていた剣も、そのまま天に向かって飛んで行ったので、菫の身体から大量の鮮血が飛び、同時に彩夏のポイントが49になる。
「やば………っ!」
 彩夏は危機感を感じ、『罠錬成』を使って植物を操ろうとする。彼の『罠錬成』は、“物資の特性を変化させる”っと言う物だが、それが“罠”の“錬成”と言う表現に応じ、罠としての効果を発揮できる特性の変化を与える事が出来る物となっている。そのため、植物にこの力を発揮すれば、植物に動的な動きを与えているように見せる事が出来る。彼の能力的な弱点、“自ら攻撃的な戦法を取れない”っと言う部分を補うに、この環境は特に適していた。
 植物の蔦に良く撓る特性を与え、同時に元の形に戻ろうとする形状記憶の特性を与える事で、勝手に動く鞭の様に操っているように見える。これを使い菫の身体にツタを撒きつけると、同時に硬化特性を与え頑丈で切れ難い蔦へと変質させる。これでもう丸腰の菫は逃げる事が出来なくなった。
 彩夏はそれを見届けると、瞬時に身体能力を強化し、自分が出来る唯一の攻撃的手段、肉弾戦の距離へと迫る。拳を握り、最後の一撃当てるため強く地面を蹴って飛び出す。
(急いで決めないと………! まずい気がする………っ!)
「残念………、間、に合った………よ?」
 コックリ、と………、菫が場違いに可愛らしく小首を傾げてみせた。
 瞬間、彩夏は空から降り注ぐ無数の剣に貫かれ、四肢を切り裂かれた。
「がぅ………っ! 早々に………、二連敗………」
 悔しそうに涙を目の端に浮かべ地面に倒れ伏す彩夏。菫の点数が53に変わり、リタイヤシステムが彩夏の身体を光の粒子へと変えていく。
「実習始まって………、二日連続、臨死とか………、なんて学園だ………!」
 手足を失い、同体も剣に貫かれながら、彩夏は八つ当たり気味に泣いて抗議した。
 彩夏が消え、菫の勝利アナウンスと共に景色が変わる。元の無機質な白い部屋で解放された菫は、そのまま地面にうつ伏せに倒れ込んだ。
「こ、こっちだって………、血、が………っ!」
 大量出血で貧血状態に陥った菫が助けを求める様に震える手を伸ばす。その先では銀髪に赤目の顔の整ったイケメンフェイスの長身男、今田陣内教論が立っていたのだが………、彼はその場に膝を曲げて視線の高さをできるだけ合わせようとしながら、救急セットを床に置いた。
「スマンけんどな? 教師は死に(てい)でも、死ぬと判断されへん怪我は治したらアカンねん。傷はイマジンの『修復再現』で塞いで、ここにある簡易輸血機使えば寝たまんまでも輸血できるからな? それで頑張ったってや? 無理なら誰か人呼んでもええよ? 相手が生徒なら先生呼びに行くくらいはできるからなぁ♪」
「これだけ怪我しても………!? 手当、てしてもらえない。の………っ!?」
 驚愕の事実にショックを受ける菫。いっそ自害してリタイヤシステムのお世話になった方がどれだけ楽だろうかと考えてしまったが、それはそれで「自分で命絶った奴なんてしるか」と一蹴されて放っておかれそうで怖いので止めた。
 仕方なく菫は傷口をイマジンで塞ぎながら、生徒手帳を取り出し誰か応援を呼ぶ事にした。
 何気に生徒手帳の連絡先の最初がカグヤである事に気付き、たっぷり十分くらい彼に助けを求めて良いものか悩んだ事は、まあ、蛇足だ。

 【勝者 八束菫 ポイント53】



 バタンッ!

 ポイントを全て奪われ、精根尽き果てた緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)(銀髪女の子バージョン)は、眼をナルトにしながら抗議の声を上げる。
「こ、こんなの反則じゃないッスかぁ~~~………!? 相手の能力を問答無用で半減とか、どんなチートって話ですよ~~~………っ!?」
 それを耳にした浅蔵(あさくら)星流(せいる)は、腰に両手を当てて、呆れたように告げる。
「やれやれ何て言い草だい? 僕は君の強制SAN値削減の能力の方がチートだと思うがね?」
 首を左右に振りながら「やれやれ」と溜息を吐く白い髪を高い位置で纏めたポニーテール少女は………無傷だった。
 その背に白い骨組に青白く輝く光の翼を掲げながら、彼女はとてつもなく元気満タンの姿でボロボロの陽頼を見降ろしていた。昨日の戦い負った傷も癒えていなかったはずの少女が、戦う前より元気な姿で立っていたのだ。
「それはそうと、どうして男の方で戦わなかったんだい? あのままSAN値削って行った方が良かったんじゃないかい?」
「イヤ~~~、前回、その不死身性に頼ったばっかりにドジ踏んじゃいましてねぇ~~。今回はちょっと自分でがんばってみようかなって♪」
「その意気込みは素直に買うけどね」
 親しげに笑顔を向けた星流。先程まで腐敗した朽ちた木々のジャングルが、元の白い部屋に戻ると、陽頼もぴょんっ、と跳び起き、何事もなかったかのように笑顔を向けてきた。
「早々に二連敗しちゃいましたよ!☆ あはははっ! やっちゃいましたね~~~♪ しかしあなたのドラゴン、全部(、、)引っ張り出してやりましたよ?」
 得意げにニンマリ笑う陽頼。事実、引っ張り出されたのは星流の方だったので、彼女は素直に脱帽しながら―――、
「ああ、そして僕が勝ったよ。這いよる混沌(Nyarlathotep)
「おや? こっちの正体もバレちゃってましたか?」
「浅蔵家はその手の情報が多くてね。君が恐らく、“元は本体から切り離されていた一部だった”であろう事も確信できたよ?」
「あ痛たたたっ!? 急に頭が痛くなったので退散させてもらいます~~~♪」
 腹の探り合いは性に合わないと言いたげにわざとらしく笑顔で頭を抱えた陽頼は、そのまま猛スピードで走り去って行った。
 残された星流は、ゆっくりした足取りで階段を上り、廊下に出たところで壁に凭れたまま座り込んでしまった。そのまま三角座りをすると、身体を小刻みに震わせ始める。
「あ、あんなの………、やせ我慢だ………! 僕だって、発狂するかと思った………っ!!」
 震える声で、湿り気を帯びた呟きを漏らす星流は、その場からしばらく動く事が出来ず、小刻みに身体を震わせていた。

「えっと………、どうかしました?」

 話しかけられた事に驚き、すぐに顔を上げてしまった星流は、目の前に立つ小柄な少年に、泣き顔を見せてしまった。身長150㎝だいの小さな少年は、星流の泣き顔を見ても優しく微笑むだけで驚いた様子はない。それどころか怖がらせない様に手を差し出し、指で星流の涙を拭き取る余裕をみせる。
「せっかく勝ったのに、泣いちゃうなんて………、何か余程辛い事でもありましたか?」
 冷静で、だが優しげな対応に、一瞬見惚れた様に呆けてしまった星流。すぐにはっ、として我に返り、慌てて立ち上がると袖で顔を隠そうとする。だが普段長い袖がある巫女少装束も、今は学園指定の体育着だ。袖はない。その所為で顔が隠せないと気付くとますます恥ずかしくなってきて顔が赤くなってしまう。オロオロと慌てる姿を晒していると、くすりっ、と言う笑いが漏れ聞こえてきた。正面の少年が可笑しそうに微笑んでいる。
「ふ、不謹慎だ………っ///////」
 星流はそう叫んで彼の肩を掴むと無理矢理後ろを向かせた。そのまま腕を掴んでこちらを振り返れない様にしつつ、星流は赤くなった顔を見られない様に俯く。
「な、なんで………、僕が勝ったと知ってる? 見てたの?」
「いいえ。でも負けて泣いてるにしては綺麗でしたから」
「ああ………、まあ殆ど傷は治ってるから、チョイ裏技だったけど………」
「そうですか? でも、例えボロボロでも、アナタは綺麗だったでしょうけど?」
「―――!?///////// ぼ、僕はそう言うの慣れてないんだ! やめろ! 大体、こんか僕の何処が綺麗だと言うんだ? 言っとくけどね? 僕の髪も眼も、イマジン変色体とは関係無く、元からこう言う色で―――」
「そんな偏見を持っていても、それを補ってあまりある美しさだと確信してます」
「へ………?////////」
 思わず赤い顔のまま見上げる星流。そこには肩越しに振り返り、微笑む少年の顔。自分より小さいのではないかと言う小柄な少年が、自分を見降ろしながら優しげに見つめていて―――、星流は見惚れた様にしばらく固まってしまう。
 すぐに気付いて慌てた星流は彼を思いっきり独楽でも回す様にして突き飛ばす。見事壁に彼が激突したのを確認すると、照れ隠しに大声を張り上げる。
「し、知らないよそんな事っ!! 趣味悪いんじゃないのかいっ!? それと、君は誰だいっ!? 僕達はAクラスは、クラスメイトの顔と名前は全員覚えている! でも僕は君を知らないぞっ!?」
「それはすごい。さすがAクラスだ。でも舐めないでくださいね? 僕達Bクラスだってそのくらいの事は出来ます。ああ、初めまして、笹原(ささはら)(だん)です。よろしくお願いします」
「Bクラス? Aクラスの視察にでも来たのかい?」
 調子を取り戻そうと挑発的に尋ねる星流だが、弾は表情を変える事無く微笑む。
「それもありましたけど………、アナタが眼に入ったら全部どうでもよくなりました」
「は、はあ………っ!?//////」
「だって、すごく可愛い反応をしてくれる物ですから」
 可笑しそうに笑う弾に、星流は取り戻しかけた調子を掴み損ね、また赤くなってしまう。今度は自分から背を向け、無視してやろうと涙目に考えたのだが、ふと両腕に温かな感触が包み込んで来る。後ろから弾が彼女の体を支える様に二の腕あたりを軽く掴んでいるのだ。
「なにがあったのか知りませんけど、もう大丈夫そうですね? 姿勢がさっきより良くなってますよ?」
「―――ッ!?//////」
 急激に物凄く恥ずかしくなった星流は、「きゃあああぁぁぁぁ~~~~~!!」と女の子っぽい悲鳴を上げて逃走を始めた。
 一瞬で遠ざかっていく背中を見つめ、弾はポカンとした表情になってしまう。
「ふふ………っ、本当に可愛い子だな」
 そんな風に笑みを作った弾の肩に、ポンッ、と、誰かの手が乗せられる。
 そこにはサイドに纏めた髪をわっかにしている中国風の顔立ちをした留学生少女、陽凛(ようりん)が笑顔で立っていた。
 彼女は笑顔で親指を立ててサムズアップすると―――、
「ワタシ知ってるヨ! こう言う時はオヤクソクで“バクハツ氏ね”ヨ♪」
「な、何か違う気が―――おわああぁぁっ!?」
 訓練場の廊下で響く爆発音は、盛大だった割に、誰の耳にも届かなかったという。


 【勝者 浅蔵星流 ポイント86】



 09



 その後も多くの生徒達が戦う中、Aクラスの模様は大体こんな感じで進められた。
 そしてクラス内交流戦、最終の三日目―――。
 その日の戦いはとても高低差が激しい物となった。
 例題としてあげるなら、『契VS神也』戦。昨日、神格解放寸前にレイチェルに爆散させられた後遺症が残り、ほぼ丸一日機能停止状態となって眠り続け、放課後になってやっと眼を覚ました時には、不戦勝で契の勝ちとなった。ただし、成績に係わるポイントは0扱いなので、契も手放しで喜べない状況だ。
 『彩夏VSレイチェル』戦では、彩夏が徹底的に戦闘を避け、タスクをこなし、それを追いかけたレイチェルが面白い様に『罠錬成』の餌食となってポイントを奪われ、気付いた頃には彩夏が一方的に50ポイントを獲得し、しかもタスクを完全にこなしたと言う、教師からも感嘆の域で絶賛された。逆にレイチェルが深く落ち込み、しばらく起き上ってこられない状況に追いやられてしまったのだが、二連敗している彩夏にとっては、最後に苦し紛れの大勝利を掴めたと、純粋に喜んでいた。二人にとってこの戦いは、思い知らされることの多い、一番身になった試合だったとも言えるだろう。
 『菫VS陽頼』戦に関してのみ言えば、唯一まともにぶつかりあった試合だとも言えたが、二日連続で互いに消耗が激し過ぎ、お互いタスクに集中するスピード勝負となった。菫はカグヤの神格、彩夏の全身串刺しを受け、相当に疲弊し、朝から身体を引きずってばかりと言う(てい)を見せていた。対する陽頼の方も、昨日星流に対し、神格を傷つけられたらしく、能力の発動が不十分となり、とても戦闘できる状態ではなかったと言う。
 結果的に勝利したのは、僅差でタスクを完遂した菫だったのだが、お互い最後の最後でぶつかり合ってしまい、試合終了後はろくに会話もせずに床に突っ伏して眠ってしまった。
 残る『カグヤVS星流』戦だが………。




 ギャゴォォォォォォ~~~~ン………。

 軻遇突智が悲鳴の様な鳴き声を漏らし光の粒子となって消えていく。
「我が君! 私の背に! ………お早く!」
 九曜に声を飛ばされるが、カグヤは廃ビルに手を付いた状態で息を荒げ、動こうとしない。いや、動けない。既に表情からは三日間の連戦に蓄積された疲労に完全に参っていて、覇気らしい物が全く見られない。
 対する浅蔵星流は、左腕に展開している赤い竜の籠手で軻遇突智を消滅させていながら、着地してすぐに片膝を付いて息を荒げ、追撃する事が出来ないでいる。
「くっ………!!」
 何とか起き上ってカグヤへとよろよろと歩み寄ろうとするが、主の疲労を感じ取って籠手に取り付けられている緑の宝玉から光が消えてしまう。
「ドライグ! もう少しだけ力を………ッ!?」
Burst(バースト)
 籠手から音声が発せられ、同時に籠手自体が消滅してしまう。それと同時に全ての力が霧散してしまったかのように星流も「ブハッ!?」と咳き込み膝を付いてしまう。
 その瞬間に走った九曜が彼女の首に水の剣を突きつけ、ようやっと決着がついた。
「降伏を………」
「………分かった。僕もこの状況でこれ以上ダメージを貰いたくない。………負けを認める(リザイン)
 その言葉によりカグヤの勝利アナウンスが流れ、世紀末ステージと化していた世界は消え、白い部屋へと戻る。

 バタリ………ッ。

「! 我が君!」
 背後で響いた軽い音に慌てて駆け寄る九曜。
 主たるカグヤは床に突っ伏し、苦しそうな息を吐きながら意識を失っていた。
 カグヤの勝利は僅差だった。彼が自分と星流の疲労を(かんが)み、消耗戦に賭け、互いのタスクを進行不可能にしたのは、完全に賭けに等しかった。それも最も勝率の高い、部の悪い賭けだ。
 実際、疲労の限界はカグヤの方が先だった。彼は壁に寄り掛かった状態でほとんど意識を失っていたのだが、渾身のフェイクで立ち続けた。それで試合を無理矢理進め、先に星流にリタイヤさせたのだ。もし、あの場で星流が僅かでも時間稼ぎをしていれば、もしくはカグヤが先に倒れていたかもしれない。
「………いや、それでも九曜さんが居たから負けちゃったかな? あそこで首切られてたらアウトだったし」
 そう呟きながらも、星流は吐血しそうになる体のダメージに抗えず、大人しく視線を瞼の裏へと向けて行った。

 これがAクラスの全試合模様であった………。



 10



「ああ~~~………、(ちょ~~)暇………。この学園で不戦勝程みのりの無い時間はないわ~~~………」
 契はAクラスの戦闘状況を完全に見学者状態で見て周っていた。不戦勝故に時間が余ってしまったのだ。最初は戦わずに勝利した事の安堵と、他、同学年の生徒の戦闘中継を好きなだけ眺める事に歓喜したのだが………、これが実にみのりが無い。何せ皆だらだらとした様子で、実力の半分も引き出せていない。勝利するためにタスクに集中したり、負けを覚悟で一発撃ち合い一瞬で引き分けて終わったりと、実に(てい)たらくだ。真面目に戦おうとする生徒も窺えたが、お互い疲労一杯の表情で、まともに戦う事さえできていない。泥酔状態の老人が殴り合いを始めたかのような具合で、とても見ていて勉強にならない(それでも小さな岩山を一つふっ飛ばしていたりするのだが)。
 見る事が勉強にならないのなら、これほど無意味な時間はない。仕方なく他のクラスも覗いて行ったが、どこも似たような様子で、ともすれば自分と同じく不戦勝で手持無沙汰になっている者もいる。
「こりゃあ、一番の外れクジですよ………」
 成績に影響するポイントも0では、不戦勝の意味があまりにも薄い。正に勝ち損としか言いようがない。
「こんな調子じゃ、お前らの世界に行くって言うのも、まだまだ遠そうだよな?」
 そう言いながら懐から取り出したカードに語りかける契。カードは某遊戯の王様カードの『風霊使いウィン』だった。
『ん~~~………? 話を聞いた時は結構簡単に叶いそうな予感もしたけど………、やっぱり難しいんですかねぇ~~?』
 イマジンの付加されたカードが淡い光を燈し、そこから浮かび上がった緑色に光る球体が、幼げで元気を感じさせる声で語り返した。
「異世界人とか普通にこの学校通ってるって聞いたんだけどなぁ~~~? それっぽいのあんまいねぇしな~~~?」
 緋浪陽頼の異常性を目の当たりにしておきながらそんな事を言えてしまうのは、既に彼もこのイマジンと言う異常な能力に毒されていると言う事なのだが、それに気づく素振りは見られない。
 切城契は、幼いころからカードの精霊達の声を聞く事が出来た。特にこの『風霊使いウィン』と並ぶ『霊使い』の五人は、彼が最初に声を聞いた精霊で、入学してからも良く話しかけたりする。戦闘に出さないのは、単純に彼女達の力が弱い事と、その能力が何処まで通じるのか、未だ未知数であったためだ。
 契はカードの精霊達と話し、いつしか彼等の世界に行きたいという願望を抱く様になった。それは同時に、自分のいる世界―――この世界に見切りをつけたと言う事でもあったが、彼には些細な問題だった。
 契とウィンが二人で不貞腐れた様な意見を躱していると、奥の方から騒がしい声が聞こえてくる。あっちの方向は、たしかCクラスのエリアだったはずと契が眉根を寄せた瞬間、慌てた様子の上級生が、病院で良く見られる車輪付きのベットを押して、こちらへと走ってくる。
「脈拍はっ!?」
「危険地まで低下してますわ!」
「出血が多いぞ! この子の血液型確認して保健室に報告しとけっ! 輸血の用意させとくんだっ!」
「一年生には治癒能力者いないのかよっ!? 毎年一人くらいいるだろうにっ!?」
「しかたない………っ! 三年に連絡して、木嶋(きじま)(すばる)先輩に来てもらえ!」
「三年生呼ぶのかっ!? そいつはちょっと………! 静香(しずか)さんじゃダメなのかよ!?」
「彼女にはもう一人の方を見てもらっていますの!」
「………しゃーないか。急ごう!」
「おいどけ一年! 急患だっ!」
 突っ込んできた上級生にビックリした契は慌てて壁にへばりつく。同時に野次馬根性を発揮して、素早く懐から取り出したカメラで通り過ぎ様に写真を一枚撮っておく。契は新聞部に所属しているので、出くわしたスクープは逃さないよう言われているのだ。
「ああ~~、ビックリした。一体何だ………?」
 『急患』と言う言葉に訝しく思いながらも、契は勘だけで撮った写真を確認するため、デジカメを操作する。写真は見事に最小のブレで収められており、急患が誰なのかもしっかりと写すことが出来ていた。
「………ってあれ? これって見た事ある様な………? あ、そうだ! 入学試験の時、神也の『戦艦砲』をぶった切った奴じゃん? って、なんだこれっ!?」
 写真に写っていたのは顔見知りの少女だった。入学試験で二刀の剣を振り回し、戦場を縦横無尽に走り回っていた獣の様に、しかし美しかった少女。しかし、デジカメの画面に映っている姿には、その時見た美しさは欠片も見受けられない、満身創痍の死に体だった。
 右足の甲が何かに打ち砕かれた様に潰され、左足は膝の辺りからごっそりと斬り落とされている。右腕は内側から弾けたかのように皮が全てめくれ、肉の繊維と血で真っ赤に染まり、無事に見えた左腕は、手の平から肩まで、綺麗に両断されていて、腕の断面を晒していた。左の脇腹は獣に噛み千切られたかのように抉れ、角度的に映っていない右胸の辺りが、不自然に陥没していて、そこを撮影できなくて良かったと安堵さえ抱いてしまう。極めつけは頭の右半分だが、これにはさすがの契もちゃんと確認する前に視線を逸らした。そして速やかにデジカメの電源を切った。
「な、何があったらあんな事になるんだよ………っ!? 思わず初日の陽頼戦思い出しちまいましたよ………っ!? っつかあんだけ大怪我したのになんでリタイヤシステムが発動してねえんだっ!?」
 まさか、“アレ”でもまだ致死に至らぬ軽傷と見なされたと言うのだろうか? いや、そんなはずはない。ある筈がない。あってはいけない事のはずだ。ならば何故、この万能の力を有する学園で、あんな原始的な移動をさせられる急患が居たと言うのだろうか?
「≪リタイヤシステム≫も万能じゃないんだよ」
 契の心の疑問に、その声が答えた。
 先程同級生が運ばれてきた方向からやってきたのは女性だった。年齢的に見て27くらいだろう事から教師だと推測できる。青みのある黒髪ツインテールに長身で痩せ形のメガネ。見覚えがある気がするが、思い出せない。一体何処で見た教師だっただろうかと視線を巡らせ、その貧相な胸を見た瞬間に思い出した。
「あ、―――へぶんっ!?」
 殴られた。
「何処見て思い出してるっ!?」
「まだ一言も言ってないんですけどっ!?」
 殴られた頬を押さえ涙目で抗議する契。彼の手元のカードからは、ウィンの慌てた様子が光の珠のまま現れていた。
 三橋(みはし)香子(かのこ)教員。
 ギガフロートでの正式な教員免許を所持しているものの、彼女は担当教科を持っていない。っと言うのも、彼女の役割は購買部の店員だからだ。ギガフロートでは住民の全員が何かしらイマジンに通じている者たちばかりで、多かれ少なかれイマジンに係わりのある物を必要としている。その学生であり、研究協力関係者扱いでもある彼等学園関係者は、特に色濃いと言っても良い。そのため購買部の店員でも、イマジネーターである事と同時に学園関係者としての教員免許を必要とされている。
 契の使うカードも、元は地上でしか手に入らないカードゲームだ。テレビなどの電波は日本内なら全て入るのだが、さすがに物品となれば購買部で頼むしかない。能力の媒体とも言えるカードの購入をするため、既に契は何度も購買部に訪れていたのだ。(ちなみに、行くだけ行っておきながら、地上の物品購入にも硬貨が使えず、クレジットを消費すると知って断念した)
 香子はフンッと、鼻息を一つ吐いてから、仏頂面で話を戻す。
「≪リタイヤシステム≫はあくまで学園側の認めた正式な試合及び決闘でしか作用されない。そうでないと面白半分で生徒を殺すような輩が現れ兼ねんからな」
「? でも、今は確かクラス内交流戦の真っ最中でしょ? 正式な試合中じゃなかったとかあんの?」
 契の尤もな質問に、香子は視線を鋭くして簡潔に答えた。
「試合終了後もバトりやがったんだよ。ルール無視の喧嘩で、殺し合い勃発しやがったのさ」
「………は?」
 思わず呆然としてしまう契。この学園、柘榴染柱間学園は、確かに戦闘を旨とした学園ではある。経験したから解るが、この学園で殺し合う程戦闘をする事自体、珍しい事ではない。だが、それは安全が確保されているからだ。殺しても死なせずに済む準備が整っているからこそ、自分達は全力を持ってぶつかり合う事が出来る。その前提条件が覆ったとして………果たしてそれでも戦闘を続行できるなどと言う事があるのだろうか?
 契がイマジネーターとして思考を巡らせるより早く、香子は答えを言ってしまう。
「Cクラスに配属された奴等は珍しくない。大体Cクラスの連中、特に序盤は『暴走能力』有しているのが殆どさ? まあ、それでも例外無く暴走を嫌う傾向にあるのもCクラスの連中だがな? 今回は一人、暴走能力を有していた奴が暴れ出し、それを止めようとした対戦相手だったあの子も、相手の暴走能力に引っ張られて封じていたはずの暴走能力を誘発させられちまったみたいだ。結果、どっちもただ事じゃない大怪我を負っちまったのさ」
「そ、そいつはまた………。でもあれ? 試合外だってのに、教師は何を? 僕様の時も、試合終了後も戦闘続行しようとしたら止めに入ってくれましたけど?」
「教師はな、基本的にこの学園で最強の能力者なんだよ。一人の例外無く、教師やっている以上は学生相手で負ける事なんてまずありえない。だが、いやだからこそ、この学園のルール上、教師が直接生徒に手を貸せるのは、生徒会からの要望があった場合か、学園長クラスの上司からの指令があった場合に限定されてんだよ。イマジンなんて万能な力を使う以上、人間には人間としての精神的な成長を第一に考えて行動させなければならない、ってのがイマスクの考えだ。だから私達は、制止や助言は出来ても、暴走した奴のお(もり)まではしてやらないのさ」
「な、何すかそれ!? アレだけの怪我をしてるって言うのに! それでも教師側は何もしてくれないって言うんですか!? それはさすがにあんまり―――!?」
 言い掛けた契の胸倉を掴み、香子は鋭い目で彼の目を覗き込んだ。
「なに舐めた事言ってんだい? お前もさっき見ただろう? 上級生達がお前らの同級生を運んで言ったところ? アイツ等が、()()()()の事態に、何も対処が出来ないとでも、本気で思っているのか?」
 香子の鋭い視線に見据えられ、契は思わず押し黙ってしまう。そんな生徒を前に、購買部の店員が、されど紛れもなく“教師”である彼女が、未熟な生徒に対して忠告する様に告げる。
「あまり、この学園の生徒を舐めるなよ? 一年生(新参者)
 なによりも重いその言葉を受け止め、何も返せずにいる新入生を押しのけ、香子はそのまま何処かへと去って行った。
 イマジネーションスクール。それは、自分が思っている以上に一筋縄ではいかない“組織”なのかもしれない。


 11


 緑溢れる廃残都市。そんな言葉が似合う、うち捨てられて何千年も経った様なビル街に、その少年は立ち尽くしていた。後ろに流れる様な癖のついた銀の短髪、知的なメガネの奥に輝く青い瞳。身体を覆う白いスーツに黒いベルトで着飾った衣服は、まるで囚人服を思わせる。腰に差した刀はギミックが施されているのか、鞘が異様に太い。無表情に周囲を見据える姿からは、彼がクールな性格である事が良く読み取れた。
 そんな彼をビルの屋上から見降ろす、二人の影があった。
「ふっふっふ………っ。相変わらずのクールフェイスだよね~? 私達に狙われているとも知らず、そんな余裕ぶってて良いのかなぁ~~?」
「ダメダメ、リッちゃん~。私達に狙われたらその時点でもうジ・エンドだよ~? 焦る暇もないって~~?」
 二人は可笑しそうに笑い合いながら、互いに持った杖を掲げる。
 派手目ではないが、まるで魔法少女風アイドルと言わんばかりの色違いヒラヒラドレスを身に纏った二人は、同じ顔で同じ背恰好をしていた。唯一違うのは、サイドに纏めている髪が左右反転である事と、瞳の色が違う事だ。二人とも左目は青いのだが、片方の右目は赤く、もう片方の右目は緑色をしていた。
 双葉(ふたば)リミと、双葉エミ。双子にして、二人で力を合わせる事のできる、この学園の最強タッグ。そのチームプレイは最強の対翼と言われた、東雲神威と朝宮刹菜のコンビネーションすら凌ぐと言われている。
 二人は誰かに見せる様に決めポーズを取ると、声高に宣言する。
「双葉リミ! 専門は攻撃! 遠近中、どんな距離だろうと関係無く、全てに於いて攻撃を担当できる最強のアタッカー!」
 右目が赤く、オレンジ色の衣装に身を纏うリミが告げると、それに合わせてエミもポーズを取った。
「双葉エミ! 補助系統担当! 隠密、情報、補助に強化! 攻撃に関しない事なら何でも出来ちゃうスーパーハッカー!」
 右目が緑色で、黄色い衣装に身を纏ったエミが続き、二人はガッチリと腕を組み合い、背中を合わせて何処かへと更に決めポーズ。
「「そして!」」
「私達の能力! 『シンメトリー』によって!」
「私達は互いの能力を任意の数だけ入れ替える事が出来る!」
「つまり最強!」
「そして最強!」
「「さらに………!」」
 二人はビルを飛び降り、空中で互いの手を取り合い能力を発動(イマジネート)する。
 忽ち二人の間にイマジン粒子が集い、二人にそっくりな姿をしたツインテール少女が現れた。
「「私達の力を掛け合わせたもう一人! それをイマジン体として創り出す事に成功!」」
「これで私達は!」
「「「最強無敵の三つ子姉妹!!」」」
 三人で決めポーズを取り、能力バラエティーに富んだ三姉妹は真っ逆さまに少年の元へと飛来する。
「「「我ら最強トリオに敵はない!! 覚悟~~~♪」」」

 ガシャンッ!

 鉄格子の鍵が締められた。
「「捕まったぁ~~~~~~~っ!!!!」」
「カットシーン一つもなく一瞬で捕まったよぅ~~~!!」
「CM挟む余地もなく瞬きの間に捕まったよぅ~~~!!」
 二人は、人一人が収まってしまう程度の小さな鉄格子に閉じ込められ、≪Prisoner of war(捕虜)≫と赤いシステムメッセージを頭に浮かべていた。
 泣きわめく二人に対し、知的メガネの少年は、やれやれと言いたげに肩を竦めた。
「君達の隠密力と奇襲力、それにコンビネーションは高く買っているが、調子に乗って深入りし過ぎてしまうのは相変わらずだな?」
 彼の言葉に、泣き叫んでいたのも一瞬、ころっと態度を変えた二人が正座しながら苦笑いで頭の後ろを掻く、まったく同じ行動をしながら照れ隠しを述べる。
「いや~~~、私達もちょっと考え無しだったかもねぇ~~~?」
「いくらなんでも生徒会長の飛馬(ひゅうま)誠一(せいいち)に二人だけは無理があったねぇ~~~?」
 二人は「あはははっ」と適当に笑いながら自分達の失態をいつもの様に流しに掛る。
 飛馬誠一。柘榴染柱間学園生徒会長にして、『氷域(ひょういき)』の刻印名を持つ、氷結系最強の少年だ。
 その力は凄まじく、物理的に凍らせるだけでなく、概念すらも表決させる事が出来る。
 先程の双子姉妹に対しても、『概念氷結』を用い、姉妹二人の“思考”を氷結させ、意識を奪い、その隙に鉄格子の中に入れて鍵を閉めたのだ。
 現在のゲームのルール上、この鉄格子に閉じ込められ鍵を掛けられると、その時点で捕虜扱いとなり、如何なるイマジンも使用できなくなってしまうのだ。だが、この鉄格子は外からの攻撃に弱く、誰かが助けに来れば、脱出も可能となっている。勝敗条件は、敵のチームリーダーを先に撃破する事だ。
 現在飛馬は、重要拠点を一人で守り、チームに多大な貢献をしている真っ最中だった。
 三年生初の交流戦は、全クラス混合チーム対抗戦で行われる。チームの編成はリーダーを務める事を決めた者が、自分で自由に交渉し、メンツを集める事が出来る。リーダーシップを持つ者は率先しチームを集め、また、敢えて単独で交流戦に出場しようとする変わり者もいる。(例えば東雲神威である)
 飛馬誠一は文句無しのリーダーとしてのカリスマを有していて、多くが彼の下に付く事を望んだ。だが、彼は敢えてそれを拒否し、生徒会副会長を務める林野(りんの)(はるか)にリーダー役を頼んだ。これは彼の持論だが、一番すぐれた物がリーダーをするのではなく二番目に優れた物がリーダーとなるべきだと思っているらしい。一番上に立つ者は死ぬ事が許されない。許されない故に前に立つ事が出来ず、最も能力を持っていながら最も活かす事が出来ない立場に立たされるのだ。だから有能な能力を持つ物が存分に力を発揮できるようにするため、二番目の地位を与えるのが一番だと考えている。(政治などの場合は別問題と考えているので、彼は生徒会長の座に不満は抱いていない)
 それでもリーダーが副会長に変わったところで志望者が減らなかったのは、林野遥にも充分な素質があったからと言える。
「さて、君達は先行し過ぎただけの様だが………、どうやら奇襲部隊はちゃんと用意してあった様だな」
 飛馬が眼鏡の位置を直しながら正面を見据えると、苔と蔦だらけになった壊れた電灯の上に、何者かが丁度着地したところだった。
「ようさぁ~、生徒会長。ウチのおてんば娘を回収に来たぜぇ?」
如月(ことつき)翔太朗(しょうたろう)………『魔を統べる銃剣士』か。今日はずいぶん生き生きしている」
「当たり前だ! 相性の良い奴等と組んでんだからな!」
 銀髪に赤い目をした黒のライダースーツに銀のアクセ(イマジンによる加護あり)で着飾った男、三年生Cクラスの“問題児”だ。
 “問題児”っと言うのは、別段彼が悪い事をしている訳ではなく、単にCクラスでかなり浮いた存在となり、不協和音を奏でる役割になっていると言うのが“問題”なのだ。
 彼の能力は銃と剣だが………、接近戦を好み、バトルマニアの気質を持つ生徒が集められたCクラスに於いて、その気質と好みを彼は持ち合わせていない。それが結果的にCクラスの生徒達とのリズムの合わなさを生みだし、上手く行っていない状況にあるのだ。
 何故、そんな特性を持っていない彼がCクラスにいるのか? この学園の七不思議の一つにまで数えられているのだが、生徒会長の飛馬はその事実を知っている。
 知っている故に、彼は気の毒そうに(まなじり)を下げてしまう。
 彼がCクラスにいる理由、それはなんとも酷い話で、ただのテコ入れなのだと言う。
 この学園は学園であると同時に研究施設でもある。そのため、生徒に対し、よりイマジンの成長に最適な空間を用意しようとする。だが同時に、敢えて異物や試練を放り込み、それに対する反応を確認、観測すると言う事もやってくる。
 敢えて、一人の生徒を退学にしてみたり、敢えて一人だけ困難過ぎる試験内容をやらせてみたり、敢えて不逞の輩を招き入れ、生徒達に対処させて見たり、明らかに馬の合わないクラスに異動させられたり………。この学園では珍しいとは言えない出来事だ。
(気の毒な奴だ………)
 それを知れるのは生徒会役員だけであり、それに対処できるのも、また生徒会だけと決められている。故に彼は何度か翔太郎に別のクラスに行く気はないかと尋ねたのだが、彼は苦笑いを浮かべながらこう告げた。
『いや、その………。俺のためにもアイツ等のためにも、本当ならそうした方が良いんだろうけどよ………? 俺達だって、別に互いが嫌いなわけじゃねえし、仲良くしようとはしてんだよ? ………そりゃあ、結局馬が合わなくて、二年間こんな調子だけどよ? もうチョイだけ頑張らせてくれねえかな? やっぱ、諦め付く前から逃げ出すのは………やっぱり、やるべきじゃねえだろ?』
 などと言って未だにCクラスに在住している。
(だが未だにクラスで上手くいかないどころか、溝が深くなって友好関係にまで罅が入り始めているらしいな。俺がそれに気づいていないとでも思っているのか………)
 「いや」っと、飛馬は被りを振り、気持ちを切り替える。
(今は戦闘中だったな。()()()()()()()()|とは言え、油断は禁物だ)
 気持ちを切り替えた飛馬は右手を刀の柄に、左手の拳を握り、イマジンを集中させている。
「確かにお前の弾丸は回避不能だが………、まさか俺との相性を忘れたわけじゃないだろうな?」
 飛馬の問いに、翔太郎は僅かに赤い目を細めながら何でも無い様に答える。
「お前こそ? 生徒会長ともあろう者を相手に、何の対抗手段も持ち合わせずに前に立たれたと思われちゃ~、心外ってもんだ」
 言いつつ飛馬は視線を向けずに飛馬の左手に注意を払う。イマジンを集中し、いつでも『氷結』を発動できる様にしている。アレを喰らえば一撃必殺。『概念氷結』で意識を狩り取られ、『物理氷結』で身を砕かれる。一瞬でも隙を見せれば抵抗不能の一撃を貰ってしまう。彼はこの二年間、その氷結能力だけで生徒会長にまで上り詰めた存在なのだから。
 翔太郎は胸の内に『抵抗再現(レジスト)』を発動し、タイミングをミスしても、完全に凍りつかされない様に準備する。
「まあ、会長様が戦闘中にまで生徒の事を気遣ってしまう辺り、ありがたく感じてもいるんですがね? 俺を目の前にその集中の無さは如何な物かと思いますよ?」
「………気付いていたか」
「気付いていましたとも。その心使いがあるおかげで、俺達はこの学園で皆笑って切磋琢磨出来てるわけですから? こっちだってあんたの事をちゃんと見る様になるってもんだろ?」
 翔太郎は笑いながら告げ、急に表情を鋭い物へと一変させた。
「舐めるなよ生徒会長? アンタがいくら強かろうと、同級生を舐めれるほどにエライ存在じゃないぜ?」
「おお! 如月(きさらぎ)っちのさらりと名言来たっ!」
「恥ずかしい事さらっと言うよね如月(きさらぎ)っちぃ~~?」
如月(ことつき)だぁっ!? お前らは会長以上に舐めんの千年早ぇよっ!! この万年負け役がぁっ!?」
 牙をむいて吠える翔太郎だが、双葉姉妹は堪えていないかのように「ニヒヒッ」と笑うばかりだ。
 後で部屋に戻ったらいつもの様に泣かすと心に決めつつ、翔太郎は飛馬に向き直る。
 飛馬誠一は、その間に構えを居合の姿勢に移し、攻撃の構えを取った。
 しかし、視界にしっかり捕らえていた翔太郎は慌てることなく右手の(デザートイーグル)と左手のスクラマ・サクスを隙無く構え、制止の声を上げる。
「おおっと! そう慌てんなよ会長? 確かに相手をするつもりで来たがな? まずアンタの相手をするのは俺じゃ―――」

 ガチャンッ!

「―――ねえんだわ。………あれぇっ!?」
 翔太郎は鉄格子に閉じ込められ、しっかり施錠されていた。彼の頭上には物悲しいくらいに赤い光で≪Prisoner of war≫の文字が浮かんでいた。
「ちょ………、翔太郎~~………?」
「うわ~~………、ダサ………」
 双葉姉妹が心底失望したと言いたげな憐みの視線で隣に来た翔太郎を見つめる。翔太郎はその視線に曝され余計テンパリながらあたふたしてしまう。
「え? いや! だってよっ!? あれぇ~っ!? 俺ちゃんと『抵抗再現(レジスト)』してたぞっ!? 一発で思考を凍らせたりなんて出来なかったはずだろうっ!?」
 そう喚きながらも翔太郎の脳内には、光の速度で流れた記憶が確かに焼き付いていた。ただ、その記憶はイマジネーターとしての記憶力で無理矢理記憶した物で、まだ理解できるデータとしては分解できていない。圧縮された状態でデータを受け取り、それが解凍できていないのと同じ状況だ。
 だが、時間と共に光の速さで過ぎ去った記憶が分解され、ようやく翔太郎は自分が()()()()()()()()()()()()れ、()()()()()()()()()()()()()()のだと知る事が出来た。
「思考を凍らされてた………? いや、だったら憶えていられるはずが………? なにをされたんだ?」
「『空間指定概念氷結』だ」
 鉄格子に閉じ込められた翔太郎に背を向け、ドッと疲れたように溜息を吐いた飛馬が、生徒会長としての癖で説明を始める。
「確かに『抵抗再現(レジスト)』されている状態で完全に凍らせるのは難しいがな? だったら“完全に凍らせなければ良い”」
 「「「はっ?」」」っと言う疑問の声が三つ上がる。飛馬は眼鏡を直し、なんて事無い様な素振りで続ける。
「そもそも冷帯温度と言うのは分子運動が止まる事により起きるエネルギー低下現象。つまり、分子の動きを鈍らせる事が(イコール)で『氷結』だ。ならば力を加減し、分子を完全に止める絶対零度ではなく動きが鈍る程度の加減で空間を指定し凍らせてやるとどうなると思う? “空間の速度が鈍り、空間の外側の情報を遅れて認識するようになる”。丁度、星の光が現在と言う時間では消滅していても、その星の光を今でも認識できているように、認識と時間をずらした様な現象を起こしてやれるのさ」
「つ、つまり………、俺が見ていた光景は全部、既に起きた何秒か前の映像だったと………?」
「三年生の戦い方は皆こう言う物だったよ? 上級生とは負けてでも戦っておくものだな」
 飛馬は説明は終わりと言いたげに眼鏡を直す。
 翔太郎はがっくりと肩を落として項垂れながら、それでも薄ら笑いを浮かべた。
「やっぱ俺じゃアンタの相手は荷が勝ちすぎか………? さすがは、刹菜達と一緒に上級生破りに挑んだ七人の内の一人ってところですか?」
 何もできなかった悔しさに歯を食い縛りながら、それでも彼は顔を上げて最後の悪あがきを告げる。
「だからアンタの相手は俺じゃねえんだよっ!!」
「―――ッ!!?」
 気付いた飛馬は剣を瞬時に抜刀―――、通算万を超える『氷結概念』を持つ刃が空を駆け、襲撃者を迎撃に向かう。
 が、それらの刃は悉く、飛来する水生の一撃によって苦もなく弾き飛ばされていく。
「必殺、キィ~~~~~~~~ック!!!!」
 雲を貫き、天の雷の如く飛来するそれが、真直ぐ飛馬に目がけ打ちおろされる。
「妙にだらだらと会話すると思えば………っ! 彼女への布石かっ!!」
 飛馬は慌てて『逆現象再現』っと言う三年生でも超高度な基本術式を発動。自身に掛けた氷結による『遅延』効果を逆転させ『加速』させる。ぐっと脚に力を込め、直撃の瞬間を狙って回避する。

 バゴンッ!!

 見た目にはさほど大きな爆発でも無く、ともすれば一年生の神也が撃つレールガンの威力にも劣る小さな土煙と衝撃だった。だが、飛馬は知っている。この見た目のしょぼさは、力が周囲に分散させぬよう、極限にまで圧縮されたが故の現象だと。もしまともに受け止めていれば、それが自分の最後となっていた事を、彼はよく知っている。
「なるほど、俺の相手は君と言う事か………、確かに去年の全校生徒最強決定戦で恐怖を乗り越えた君ならば、むしろ俺の方が危うい―――」
 飛馬は土煙の中にいる少女の事を予想し、僅かに戦慄する。
 彼は知っているのだ。今飛び出してきた少女が、決して気を抜いてはいけない相手であると言う事を。その絶大な能力は、間違いなく柘榴染柱間学園最強の攻撃能力者。まともにやり合えば、自分でも勝てるかどうか解らない、それほどの強敵。
 身構え、瞬殺を避けるため、飛馬は己の全力を振り絞る準備をする。
 土煙が晴れ、少女が姿を表わし、飛馬は眼を鋭く―――、

 追い詰められた小動物が、無茶苦茶動揺した眼で焦りまくっていた。

「―――事もさなそうですね………?」
 一気に気が抜けた飛馬は肩の力が抜けて脱力した。
 煙の向こうから現れたのは、クールビズっぽい女性だった。グレーのノースリーブミリタリーシャツを黒のネクタイをしていが、ネクタイは着崩してあり、その隠しようの無い服装からこれでもかと強調される二つの軟肉とは対照に、きゅっと引き締まったくびれ。肩から露出した腕には紫のアームウォーマーで飾り、パンツは足首までしっかり隠すロング、だがピッタリサイズが彼女の足の長さを否応なく知れてしまう。蹴り技主体なのか、ブーツは特注らしく、靴底が厚い。服装からスタイルまで完璧な我儘ボディを持つ彼女は、うなじの辺りで纏められた灰色の髪を風になびかせ、しかし表情は涙目で気弱そうな印象を隠しようもない程に表わしている。
 相変わらずの彼女に飛馬は自制心を引っ張り出され、溜息を吐く。
 気弱そうどころか、臆病そうな印象を持たせる彼女の怯えた仕草と表情は、男で無くても、その気が無かろうとも、それらを無視して本能的に彼女を“襲いたくなってしまう”。これがイマジンなどとは全く関係の無い生来の(さが)―――才能と言い変えるべきか? 『魔性の女』と言われる属性を、デフォルトで、ナチュラルに有していると言うのだから性質が悪い。この学園の者で無ければ、その特性に当てられ彼女に襲い掛かってしまい………手痛い反撃を受けて三途の川を渡る羽目になっていただろう。
 彼女の名前は灰羽(はいばね)ハクア。『灰被りの雷堕天使(サンドリヨン・トール)』などと二つ名で呼ばれている、学園最強の攻撃能力者。
「ああ~~~………っ!? ご、ごめんなさいごめんなさい! いきなり不意打ちとかしちゃってごめんなさいっ!? 私なんかが援軍に来るとか(おこ)がましいことしちゃってごめんなさいっ!? 攻撃まで外して本当にごめんなさいっ! そもそも私の様な者が人目に付く様な事をしてしまって何とお詫びすればいいものかごめんなさい!? って言うかこんなに謝られたら逆にウザイですよねごめんなさいっ!? ごめんなさいごめんなさい! 生きててごめんなさ~~~~~いっ!!?」
 ………そして極度に臆病で、他人の顔色を窺わずに会話できない虚弱精神を持ち、戦闘事がともかく苦手なくせに、蹴り技全般の才能を持つ、牙と爪と蹄と角と翼を持つ小動物キャラである。ちなみに彼女、何気に長身で、身長が180近くあったりする。
「やれやれ………、相変わらずですねハクア? 以前の全校戦でアレだけ凛々しい姿を見せてくれたので、すっかり恐怖症が治ったのかと思っていたんですが?」
「ごめんなさいっ!? 治って無くてごめんなさいっ!? いつも泣いててごめんなさいっ!? 謝ってばかりでごめんなさいっ!? 目障りでごめんなさいっ!?」
 ビクリッと反応した小動物系最強少女は、その場にしゃがみ込んで両手で自分の体を抱きながら弱り切った涙目で飛馬を見つめる。
「あのポーズをする度に! 着崩してあるハクアの胸元が淫らに押し上げられるのを、俺が逃すはずが無いっっ!!!」
「「黙れよ、変太郎(へんたろう)」」(※変態翔太郎の略)
 双葉姉妹に突っ込まれる翔太郎を無視して飛馬は刀から手を放して、全力で力を抜く。
「まったく、なにしに出てきたんですかアナタは?」
「あうっ!? ごめんなさいっ!? 誠一君を倒す様に言われて飛んで来ちゃったのごめんなさいっ! 断るべきだったよねごめんなさいっ!? でもでも、わたしもチームメイトとしてちゃんとやる事やらなきゃと思って頑張って出てきたのうん思い上がってごめんなさいっっ!? だけど私、ちちちちょちょちょちょっとだけぇがんばりましゅごめんなさいごめんなさいっ!? がんばってごめんなさいっ!?」
 泣いて謝らないと会話が出来ないのはハクアのデフォルトなのも二年前からずっと変わっていない。変わっていないので飛馬は安心して無防備を晒せる。
「いえ、それ無理ですからね?」
「ふえっ? ごめんなさい」
「だって君? 今こうして無防備な俺を蹴り飛ばしたりできますか?」
 一瞬でハクアの顔が青ざめた。
 無理だ出来ない。無防備な相手に対して蹴りつける事など、ましてや攻撃の意思を見せていない相手と戦う事など、ハクアにはとてもできない。
「敵意を向けられた者に追い詰められた時、アナタは初めて本気で迎撃をします。されれば最後、恐らくこの学園でもまともに戦える生徒は早々いないだろう。でも、君は勝てない。俺が無防備でいる限り、絶対に攻撃できない。そうだろ?」
「ご、ご、ご………っっ!!」
 座り込んだ姿勢のまま、大量の涙をポロポロ零しながら、ハクアは鉄格子片手に近寄ってくる飛馬から逃げ出す事が出来ず………。

 ガチャンッ。

「ごめんなさ~~~~~いっっっ!!!!」
 捕まった。
「「「ええ~~~~………っ! 何しに来たのこの人………っ!?」」」
 既に捕まっていた三名からの非難の声を受け、ハクアは大泣きしながら「ごめんなさい」を連呼するのだった。
 そんな彼女を見て、飛馬は「やれやれ」と肩を竦める。
(こんな彼女を見て、一体誰が信じるんでしょうね? ………まさか彼女が、この学園で唯一、最強の対翼と言われた神威と刹菜を一人で相手取り、嘗て幾度となく追い詰めた『単身双翼(たんしんそうよく)』の異名を持っているなどと………?)
 同時に空で花火が上がり、アナウンスが流れる。
 勝利グループは、『チーム(かんなぎ)』だと伝えられた。
浅蔵(あさくら)幽璃(ゆうり)が率いたチームが優勝か? まあ、神威も刹菜も口説いて見せたのだから、当然か? 今回、番狂わせは無かったな」
 っと、突然彼の耳元に生徒会専用の通信術式が展開され、何事かを伝える。
「一年生で暴走事故? 今年の一年生は豊作と聞いていたが………、性質はともかく、面倒事の内容はどの年も変わらんと言う事か………」
 飛馬は呆れ返りつつも、生徒会権限を使用し、素早くフィールドから転移した。
 生徒会役員は、例え授業中であってもお仕事優先なのだった。


 12


 放課後、新入生恒例とも言われる一斉下校風景、部屋に直帰就寝、空腹で目覚め食堂に集合と言う一連を経て、一年生諸君は食堂に埋め尽くされていた。この日ばかりは気を使ってくれる上級生達が食堂には一切見られない。おかげでへとへとの下級生達は、気にする事無く食事に没頭できた。なんせ精も根も尽き果てているのだ。机一杯にだらしなく伏せながら一生懸命食事する者や、座るのも辛そうに顔を歪める者、喉を通ろうとしない苦痛を耐えながら、無理矢理食事を嚥下する者、途中で力尽きて食器に顔を付けて寝てしまっている者もいれば、既に椅子を並べて青い顔で横になっている者までいる。
 その中でAクラスのとあるメンバーは、多少なりの縁か、何故か一グループに纏まって食事を取っていた。特に考えあったわけでも無く、自然と集まった一つのコミニティーの様だ。
 そのメンバーは、水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)切城(きりき)(ちぎり)東雲(しののめ)カグヤ、機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)八束(やたばね)(すみれ)、レイチェル・ゲティングス、浅蔵(あさくら)星琉(せいる)、の八人である。
「………っで、何この集まり? なんで皆で集まってるんだい?」
 代表するように星流が尋ねるが、皆それぞれ忙しかったり答えようがなかったりと、ともかく返答らしい返答が返されなかった。
「いや、そんな事より、私はどうして皆が(どんぶり)メニューで統一されているのかが知りたい!」
 割と真面目な表情の彩夏が、意外と元気そうな素振りで天丼を掲げながら訪ねてくる。
「そっちの方が果てしなくどうでもいい」
 切り捨てるカグヤは、玉子とじカツ丼をかき込もうとして、手が震えて丼を持ち上げるのを断念していた。
 その隣では、今では高級食材となり滅多に無い鰻重(此処では鰻丼(うなどん)と言うメニューで存在している)を、スプーンですくい、震える手で何度も零しそうになりながら食べていた菫が、正面左の存在が気になって誰ともなく問いかけた。
「これ? ナニ………?」
 スプーンで差された先にいたのは、どんより影を落として突っ伏しているレイチェルがいた。急激な空腹に耐えきれず、何度か箸が海鮮丼へと伸びているが、少々速度は遅めだ。
「聞くな………っ!」
 暗い声で訴えるレイチェル。彼女の周囲にまで陰気がうつりそうな落ち込みようだったが、その隣で牛丼を頬張る神也には、まったく効いていない様子だった。
 さすがに見かねた星流が親子丼に伸ばしていた箸を止めて説明する事にした。っと言っても、わざわざ箸を置いている辺り、彼女も相当疲労しているのだろう。
「レイチェルはな、彩夏に完封されたのが堪えているらしい?」
「ちょ………っ!? 星流! 此処で言わないでくれっ!?」
 慌てて飛び起きるレイチェルだったが、それを聞いたカグヤはニンマリと三日月の様な口で笑った。
「ほぅ~~………? “完・封”されたのか? ほぅ~~?」
「な、なんだっ! 別にお前には関係の無い事だろうっ!」
「いやいや、確かに関係無い事ですがね? しかしつい二日前にアレだけ啖呵切ってた奴が、最終戦で“完・封”負けするとは………。くく………っ!」
「なんだその笑いはっ!? お前だって初戦で八束に敗北してただろうっ! 成績で言えばどちらも同じ二勝一敗ではないかっ!?」
「さすがに“完・封”はしなかったがな?」
「さっきから完封完封と強調するなぁ~~~っ!!?」
 もはや涙目になって、悔しさから顔を赤くして怒鳴るレイチェルだが、疲れが全身に回っているらしく、身を乗り出す割に覇気が今一だ。対するカグヤの方が余裕の表情を見せているので、それも彼女の気に障っているのだろう。尤も、そのカグヤも必死のポーカーフェイスで、座っているだけでズキズキする腰の痛みを隠していたりするのだが………。
 そんな状況でも、彩夏の隣に陣取る陽頼、無表情(安心)バージョンは、中華丼をマイペースに食している。何気に彼(彼女?)だけが無傷に見えるのは、死んだ後で再生する能力のおかげだ。それでも実は慣れない神格の多用と、連続する肉体変化と再生で、意外とガタガタになっていたりするのだが、こちらはカグヤ以上のポーカーフェイスで誰にも気づかれなかった。
「え? なに負けたの? しかも完封? じゃあちょっと二人にインタビューさせてくんない? どんな気持ち? ねえどんな気持ち?」
「何処から出したそのマイクッ!? 次は勝つッ!」
「自分の戦い方が解った気分だよ。次からはもっと着実に勝てそうだね」
 三食丼を食べる手を止め、デジカメとマイクを手にインタビューを始める契。ツッコミを入れながらも何気なくインタビューに答えるレイチェルと彩夏は意外と大物だと星流は思った。
「答えてる………。意外と、大物………」
 菫は素直に口にして賞賛していた。
「でも“完封”………」
「いい加減にそれ連呼するの止めろぉっ!!? 聞いているんだぞっ!? お前が二回戦で切城(きりき)にキスしようとして勝った事をっ!?」
「「「ぶっ!!??」」」
「「それを口にするんじゃねえぇ~~~~~~~~っっっっ!!!!??」」
 噴き出し、青い顔でカグヤを見ながら遠ざかる菫。
 咳き込みながら顔を真っ赤にして俯いてしまう星流。
 胸に手を当て、頬を赤くしながら「あれ? 仲間いた?」っと照れる彩夏。
 カグヤは慌てて菫を引き留め「違うっ! 俺にそっちの気は無いっ!!」と必死に弁明し、契は彩夏を指差し「そこっ!? 僕様を同類扱いするの止めてくれるっ!?」っと抗議、レイチェルはしてやったりの顔だったが、隣の星流が両手で顔を隠し、恥ずかしそうに俯いたままなので、その反応に逆に驚いていた。
「って、てかさっ!? 今一番気になるのはAクラスの誰が優勝したかデショ!?」
 結構テンパリながら契が提案すると、案外皆その話には素直に乗ってきた。やはり、気になる内容ではあったのだろう。
「あはぁ~! 二敗してるから俺は無理だね~~♪」
「私も二敗してしまったよ。最後は名誉挽回の快勝だったがね」
「“完・封”」
「黙れ男色キス魔」
 邪気の無い笑顔の神也と悪くない気分の彩夏が申告する。カグヤとレイチェルが仲悪く牽制し合っている横で、星流と陽頼も申告する。
「僕も二敗してしまった。カグヤには逃げ切られた気分であんまり納得できなかったけどね?」
「三連敗………」
「振り返ってみればここに一番悲しい奴がいたっ!?」
「意外な人物(?)が大敗しているねぇ?」
 契と星流が意外そうな目で陽頼を見、彩夏が慰めるように頭を撫でる。撫でられた陽頼は相変わらず無表情だが、ルームメイトの彩夏に撫でられると嬉しいのか、心無し、頬がピンク色に染まっている様にも………見える気がした。
「私は二勝した! 有力候補だなっ!?」
「残念! 俺も二勝してんだよっ!」
「男色口付け行為と逃亡戦でなっ!?」
「“完封”されるよりマシですけどねっ!? タスクもポイントもどっちも取られたんだって?」
「貴様本当は最初からは知ってたなっ!?」
「あら、本当だったの~~?」
「やっぱり今すぐ片を付けようっ! 生徒手帳を出せっ!?」
「いい度胸だっ! でも出してやらないけどなっ!?」
「もう良いこのまま勝負だ!!」
「あ~ら? 意外と短気でいらっしゃる~~っ!!」
「うっさい………」
 正面で向き合い、互いに箸を突き合わせて喧嘩するレイチェルとカグヤに、吐き捨てる様に告げた菫は、二人の背中に容赦無く剣を突き立てた。
「「グギャァッ!?」」
 二人が驚いて背中を逸らす。互いに身を乗り出して言い合っていたので、背中を逸らすとバランスが崩れ、前のめりに倒れてしまい―――ガツンッ!!
「「ギャンッ!?」」
 互いに互いの額を打ち合せる事になった。
 そのまま机に突っ伏した二人は、頭をくっ付けたまましばらく痛みに悶え大人しくなった。幸い背中に刺さった剣は切っ先が浅く刺さった程度で、自己治癒能力でも大丈夫そうだが、菫の容赦無さには全員薄ら寒い物を感じるのだった。
「これで………静かになっ、た………」
 当の菫はどこ吹く風で、レイチェルの海鮮丼とカグヤの卵とじカツ丼を一口ずつ掠め取って頬張っていた。
「僕様も一応二勝なんだけど………、あ、良いです。果てしなく一勝一敗一分けに近いので………」
 珍しく元気の無い発言をする契は最終戦があまりにも不服だった様子だ。
「まあ、良いとこ行ってるのは二勝一敗くらいだろうね? 三連敗とか逆に珍しいケースだけど、偶然相手が悪かっただけかもね? 今回のルールだと?」
 星流がそう締めくくる中、カグヤは痛む頭を押さえながら「あれ?」と内心首を捻った。
(そういや俺、菫から「負けた」の報告を一度も聞いていない様な………?)
 ガバリッと顔を上げたカグヤが隣の菫を見ると、菫がタイミングよくこちらにピースサインを送っていた。
「ビクトリー………♪」
(うわぁっ! 何か腹立つ………っっ!!)
 此処に完全勝利したと言う少女がいる事に素直に驚きながらも、思いっきり出し抜かれた感を与えられるカグヤであった。
「あの………、我が君? 少々よろしいでしょうか?」
 ショックを受けているカグヤの背後で姿無き声が投じられる。その声の主は、霧が晴れる様に光の粒子を薄く纏って姿を現わすと、主であるカグヤに恭しく(こうべ)を垂れた。
「どうした九曜? お前も疲れてるんだからもう少し休んでた方が良いだろう?」
「イマジン体は消えてると回復するのかい?」
 星流の質問に答えようとしたカグヤだが、彼が口を開いた瞬間、素早く身を乗り出したレイチェルが自慢げに答える。
「消えていれば身体を形成する分のイマジンを節約できる上に、その分を核の回復に専念できるからな! それに消えてる状態はイマジンの核が尤も主とリンクしてるから、こっちから意識的に回復を促して上げられるのだぞ!」
「~~~~っっっ!!!」
 説明しようとして先を越されたカグヤが、実に悔しそうな表情をするが、それより己が僕の方が優先だと気持ちを切り替え視線を向ける。何気にレイチェルからドヤ顔を向けられ額に青筋を浮かべているが、必死にポーカーフェイスで無視。
「っでどうした?」
「はい、主の体調管理を優先し、今まで敢えて口を噤んでいたのですが………、そろそろ箸を置かれるべきではないかと?」
「は? ………おおわっ!?」
 九曜に言われて改めて自分の状況を認識したカグヤは、目の前に積まれた空の丼三つを見て驚愕した。どうやら知らぬ内に玉子とじカツ丼を三杯もおかわりし、既に四敗目に突入していたようだ。
「お、俺、こんなに食ってたのか………? うわ全然気付かなかった………。生まれて初めてこんなに食ったかも? なのにまだ腹に余裕がありやがる………」
 自分の所業に戦々恐々している主に、多少申し訳なさそうな表情の九曜がフォローする様に教える。
「イマジネーターは戦闘を繰り返す毎に怪我の修復や身体的強化のために、大量の栄養………つまりは食事と睡眠を必要とするのです。我が君は今回に至るまでに神格によるダメージも多く、自身の身体を強化修復させるのに、無意識に食事を増やしているのだと思われます」
「ははっ! だからって丼飯(どんぶりめし)四杯とかないわぁ~~っ!!」
「はんっ! 女顔にキス魔に男色で大食らいとは! 妙な属性を増やすものだなっ!」
「いや、食事は仕方ないと思うよ? でも、四杯とはさすがにすごいねぇ~?」
「俺は十杯食ったよ! 俺の勝ちっ!」
 契がケラケラ笑い、レイチェルがここぞとばかりにからかってくる。星流が苦笑いでフォローする中、神也は十杯目の丼を空にして一人張り合っていた。妙に楽しそうな分だけ、彼には邪気が感じられない。
「カグヤ………、相部屋でも、割り勘、しないから………」
「おやおや………、これは災難だね?」
 菫や彩夏にまでからかわれたカグヤは、本来なら怒り返す所なのだが、彼はただ微妙な表情を返していた。不思議に思ったレイチェルの背後で、姿を見せない彼女の僕が可笑しそうに教えてきた。
「レイチェル様も、御自分の手元を御覧になった方がよろしいかと?」
 男性の声で聞こえたことに、目敏くカグヤが目を細め『見鬼(けんき)』を発動するが、残念ながらイマジン体の存在がある事しか把握できなかった。消えているイマジン体の正体を認識するのは『見鬼』でも不可能に近いのだ。
「手元? ………うわあぁぁっ!?」
 使い魔に促されて確認したレイチェルは、そこで既に自分も八杯の丼を完食しているところだと言う事に気付いた。
「うっそっ!? こんな量が私の何処に入ったとっ!? って言うか気付いてたなら教えろ!」
「そうは申されましても? そのような内容は私との契約内容には含まれていませんし? 体脂肪と生活費の管理が苦手な主様がどうしてもとおっしゃるのでしたらやぶさかではありませんが?」
「使い魔の分際でお前は本当に私をバカにするなっ!?」
 半泣き状態で姿を見せない自分の使い魔に怒鳴り散らすレイチェル。傍から見れば一人芝居だが、この学園では特段珍しい光景と言うわけでもない。
「ってか、お前らも手元確認した方が良いぞ? 皆腹減って視野狭まってるから………」
 達観した様子のカグヤに教えられ、全員が手元を見た瞬間、「「「「げっ!?」」」」っと言う声が同時に上がった。
「うっそんっ!? 僕様既に七皿完食っ!?」
「私は結構食べる方ではあったが………、まさか十皿食い切っていたとは………」
「九杯………っ!? 体脂肪………!? 不安………っ!?」
「僕は六杯………。なるほど、イマジネーターにとって食事と睡眠は職業病とイコールだ………」
 驚愕する契、唖然とする彩夏、青ざめる菫、から笑いを漏らす星流と、皆個性的なリアクションを見せる。
「私はなんと二十八皿! このまま行けば三十皿も夢ではありませんよ~~!?」
「うをっ!? ………って良かった。女の方か………。陽頼、お前はいきなり変わると怖いからタイミングを見てくれ………」
「此処で会話に参加しないと存在を忘れられそうな気がしましたので!」
 いつのまにか銀髪少女になっていた陽頼が「てへぺろ♡」をして見せる。契は「わらえね~って………」と多少青ざめ。神也は「あ、負けた………っ!?」と、別の所でショックを受けていた。
 九曜は気を取り直す様に「こほんっ」と口に出して言い置いてから、フォローを入れる。
「我が君は小食な方だったのでこの程度で済んだではないかと?」
「えっと………、カグヤ?」
「割り勘はしないと菫に断られたからな?」
「自分で言った言葉が恨めしい………」
 無表情で項垂れる菫に、内心「やっべぇ、金が本格的にピンチだよ………」と焦るカグヤ。他の面々も懐事情が激しく気になる所であった。
 周囲では、同じような状況になっている事に気付いた同級生達が、同じように阿鼻叫喚にくれ始めていた。
「うぅ………、お腹が空いて………、ダメだ。僕はおかわりするよ」
「なんて事だ………。私もおかわりを避けられないほど空腹感に………っ!! ええいままよっ!」
「しまったっ!? 気付くと懐上限突破してましたっ!? 誰か募金プリーズ!」
 諦めた星流に続いて、レイチェルも崖から身を乗り出す思いでおかわりを要求。一人陽頼は金銭オーバーに気付いて慌てだしていた。
 食堂から出ていく生徒は、未だ見られない………。



 13


 結局食事を続ける一同。
 そんな中、彩夏は不思議な気分で周囲を見ていた。
 隣を見るとカグヤがゆっくりした食べ方でカツ丼を食していて、落ちついた雰囲気が、やっと満腹感を感じ始めた様に見える。
 正面には星流が満腹にならないお腹をさすり、苦笑いを浮かべながら箸を進めている。
 彼女の隣では神也が元気よく食事を続け、陽頼と同じ轍を踏もうとしていた。
 契は正面に座る菫に対し、何かしらインタビューをしているようだが、菫は素っ気ない対応で答えているだけだ。
 彩夏はその光景を眺めながら、不思議な気持ちで一杯だった。
「どうかしたのか?」
 箸が止まっている事に気付いたカグヤが、後ろから「金銭援助頼めませんかねぇ~~~っ!?」と手当たり次第泣きついている陽頼を九曜に対応させながら、彩夏へと尋ねる。ちなみに九曜は「そう、さようなら」っと、まったく取り合わない姿勢を見せ、陽頼にショックを与えていた。
「別に大した事じゃないよ。ただ不思議だと思ってね?」
「不思議でない事がこの学園にあるのか?」
「だとしたら不思議でない者こそ不思議と言う事になるのかもね?」
「ああ、なるほど」
 納得するカグヤに、彩夏は「まあそう言う意味じゃないんだけど………」と無表情で答えてから改めて尋ねる。
「例えばだけどね? カグヤはどうして私と話してくれるんだい?」
「………意図を掴みかねるんだが?」
「見ての通り私は女装趣味だ。しかも私はオープンな性格だ。大抵の相手は私の事を気持ち悪がる」
「言っとくが俺もお前は気持ち悪いと思ってるからな?」
「君とは服の趣味が同じだと思っていたんだが………」
 彩夏がカグヤの着ている紫袴の装束を見て言うと、苦い顔で反論された。
「言っとくが、緋袴が女子、『巫女装束』で、それ以外は男子で色によって階級の違う神職服だからな? 俺のはれっきとした男子モノだし、女子モノの服を好んで着る趣味はない」
「………っの、ようだね? だから私は不思議に思っているんだ」
「スマンがまだ解らん………」
「私はね、別に女になりたいわけじゃないんだ。ただの女装趣味だ。バイではあるからもちろん誰でもウェルカムだがね?」
「男女どちらでも無いので、私はその辺理解ありますよ!」
 話に割り込んできた陽頼に彩夏は「ありがとう」っと礼を述べる。嬉しそうに笑った陽頼だが、主の話の腰を折られたと判断した九曜が素早く陽頼の後ろに周って首を極めた。割と本気で危ない、バギョッ!!! っと言う音が鳴り響き「う゛ぇっ!? 」と言うシャレにならない声を上げて陽頼気を失った。
 それに気づいていないのか気付いていて無視しているのか、彩夏はカグヤに語り続ける。
「そんな普通なら避けたくなるような私と、此処にいる者はなに一つ隔てりなく話しかけてくれる。嬉しい反面、不思議でならなくてね」
「その意味が『期待』なら先にぶった切っておくぞ? 俺は普通にお前が気持ち悪いし、お前の趣味は理解できん。必要があって女装しているのならまだしも、好き好んでその服を着ている意味が俺にはまったく理解できん。更に言えば『両刀』とか鳥肌もんだ。俺は女専だからな? そう言う意味でお前に理解のある人間だと『期待』しているなら間違いだからな?」
 カグヤは箸を置いて人差し指を彩夏に突きつけ、迷惑そうな表情で告げる。
 苦笑、っと言うより、一種の諦めに近い笑みを向ける彩夏。指を引っ込めたカグヤは「ただ………」っと続ける。
「俺に関してだけを言うなら、それだけの理由が“嫌悪”に至っても、“忌避”に繋がるとは思えないってだけだよ。俺は怖くもない物から逃げる気はしない」
 首を傾げる彩夏に、カグヤは面倒そうに続ける。
「っつか、この学園のAクラスに配属された時点でそう言う考え―――っつうか? 不思議感? 違和感か? そんなの気にしてたら気が散ってばっかりだぞ?」
「どうしてだい?」
「俺の義姉様………もう知ってるだろうが神威の事な? あの人から聞いてて知ってんだけどよ? クラスは生徒の成績を元に振り分けられているらしいんだが、それ以上に性格や相性を重視して割り振られてんだとよ? っで、Aクラスって言うのは成績は『優秀』で、性格は『変人』もしくは『変態』って言うのが重要視して集められてんだよ」
「私の様な人間と言う事だな」
「よく解ってんな………。確かにお前が一番解り易い例題だ………」
 乾いた笑いを漏らしてから、カグヤは続ける。
「んで、もちろんそのクラスにいる俺も、そこの“完封”女も、もちろん菫もその例外じゃない」
「貴様本気でいい加減にしろよ?(怒」
「誰が変人、か………?」
 レイチェルと菫の睨みをスルーして、カグヤはどうでも良さそうに告げる。
「だから、類友な俺らが、一々変態ってだけで避けてたら、クラス三十人全員がぼっちになる様なもんだぞ? 生憎人間は孤独に耐えられるほど頑丈にできちゃいない。だから何処かで気を抜いたり誤魔化したりしてるもんだ。お前も気にしてないで“普通”に『変人』してろよ? どうせ周りもお前と同じような変人だ」
「聞こえてるんッスけど~~?」
「ひどい扱いだなぁ~~………」
 固い声で抗議する契と、苦笑いを浮かべる星流だが、二人とも特段否定する発言は無い。何かしら自分達が『普通』と違う事は、充分に理解しているようだ。それは他のAクラス生徒全員が同じな様で、皆表情に僅かな陰りを見せていた。
「なるほど! これが変人達の集ま―――ギャベッ!?」
 空気を読めなかった神也だけが、隣に座る星流からの肘打ちのツッコミを受けて蹲る。
 彩夏はそんな彼等を見て、少しだけ安心した表情になる。
 なるほど、此処にいるのは、形は違えど自分と同じ痛みを既に知ってくれている者達ばかりなのだろう。ならば、自分だけが遠慮する必要などない。
 そんな安心と共に、彩夏は少し気になって尋ねてみる。
「じゃあ、君も私と同じように“ある”のかい? 孤立した事が………?」
 彩夏の脳裏には、以前通っていた学校での事が思い出されていた。
 男なのに女装して、おまけに隠す気もない程にオープンなバイ性癖。誰も彼もが彩夏を気味悪がり、一人として好んで話しかけてくる者は無く、好意的に接してくれる者は無く、少し耳を傾ければ陰口を聞くのに苦労をしなかった。
 そんな苦い………『普通』とは違う違和感に、疎外感を嫌となく感じ取らされてきた日々。
 彩夏は視線だけでカグヤを見る。
 カグヤは………表情を変えず、だがその目だけが、過去に向けられ暗く淀んでいた。
「孤立ねぇ~~………」
 呟くカグヤの脳裏には、とても苦い記憶が蘇っていた。
 二年しか通っていなかった中学時代、確かにカグヤは孤立していた。だが孤独ではなかったし、苦しいと感じた事はなかった。元より集団で生きるより、少数で生きる事を好むように躾けられた身だ。孤立しても不快ではなかった。ただ………。
 思い出された灰色の記憶。
 クラスメイトに対し、初めて本気で感情の牙をむき出す自分。
 それを必死に止めようとして後ろから飛びついた、嘗て親友と読んだ黒髪の女性。
 そして………、宣言通りに一人残らず潰した―――元クラスメイト。
「まっ、Aクラスの宿命じゃね? それ?」
 瞬き一つで過去から現代(いま)へと意識を切り替える。
 カグヤの言葉に、やはり皆が苦味のある表情を作って押し黙った。
 それが全員の返答と受け取った彩夏は、一つ頷いて、勢い良く立ち上がった。
「水面=N=彩夏だ。女装が趣味だ! これからよろしく頼むぞ」
 いきなりの自己紹介に、誰もが目をぱちくり。
 だが、最初にくすりっ、と笑いを漏らした星流が同じく立ち上がって笑い掛ける。
「浅蔵星琉。………こんな容姿だけど巫女なんかをしている。えーと………、まあ暇でも見つけて家の神社にでも来てみたらどうだい? 何の御もてなしも出来ないけどね? まあよろしく」
 星流の自己紹介で意図を察した契が続こうとして、先に立った神也が元気に自己紹介。
「改めまして! 生まれたてホヤホヤの新神機神の機霧神也でーす! 気軽に神也って呼んでね!」
「ぼ、僕様は切城契! 新聞部所属! よろしくしてねぇ~~!」
 タイミングを外されてちょっとだけ必死感が出てしまったのが可笑しかったのか、レイチェルが意外に可愛らしい笑いを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。
「レイチェル・ゲティングスだ、よろしくしてくれなくて構わない。でもまあ、よろしくしてくれても構わない」
「ツンデレ」
「貴様は別の意味でよろしくしてやる(怒」
 カグヤの合いの手(?)に本気で切れるレイチェル。
 カグヤはにやにやと笑いながらも空気を読んで立ち上がる。
「東雲カグヤ。脳内記憶スペースが一ドットでも余分に残っていたら、一分くらいは憶えておいてくれ。『神威使い』―――『式神使い』なんで、後方支援で御協力。ああ、あと俺、弱いんで戦わなくて済むならその方向で」
「―――っと言うのは振りで、本当は積極的に最前線に立たせてほしいと言っているM属性(マゾ)だ」
「九曜、斬れ」
 レイチェルの合いの手(??)にマジギレしたカグヤが九曜を呼び出すが、それに対してレイチェルもシトリーを呼び出した牽制。二人が同時に机に足を踏み出したところで、またも背中にナイフが突き刺さった。
 その犯人たる菫は何でも無さそうに立ち上がる。
「八束菫です。見てわかる、様に、剣を、使います………。宜しくお願いします、ね………?」
 僅かに頬笑みを浮かべて、こてんっ、と首を傾げる菫。
 そうしてそのまま席を立つと、床に放置されていた陽頼を無造作に持ち上げ椅子に座らせると頭を殴りつけて活を入れた。
 メシャァッ!!! っと言うまたしてもシャレにならない音が響いたが、目を覚ました陽頼は辺りを見回し、なんとなく勘で察したのか慌てて立ち上がって自己紹介に加わる。
「緋浪陽頼! 彩夏さんとは同室なんでよろしくです!」
 最後の一人が自己紹介を終えると、彩夏は安心したように笑みを作る。
 星流が嬉しそうに笑い返す。レイチェルは仕方ないと言いたげに微苦笑で息を吐く。契は子供の様に笑い、神也は何も解って無そうな笑いを浮かべる。菫はもう笑わずいつも通り無表情。カグヤは面倒そうに溜息。陽頼は本気で良く解っていないらしく、必死に笑って誤魔化していた。
 これが、この学園のAクラス最初の軌跡であった。



――あとがき――


レイチェル「見つけました! 先生! お尋ねしたい事が!」

秋尋「うわっ!? 一体どうしました? あと、一応自分はこれでもCクラス担当なので、Aクラス担当の美鐘さんじゃダメなんですかね?」

レイチェル「今回の採点について明確な基準を教えてください!」

秋尋「無視ですか………、自分は食堂の方にも仕事があるんですけどね………」

秋尋「今回の採点基準は、“より効果的な攻撃を成功させた場合”高得点になる様にしてあります。それ以外は純粋に威力の大きさです。自爆はペナルティー扱いで相手に点数が入りますがね」

レイチェル「なるほど。でも私の水蒸気爆発がたったの22ポイント扱いなのは―――」

秋尋「採点基準に文句を付けられた場合は容赦無く潰して良い権利が教師には―――?」

レイチェル「ありがとうございましたっっ!!」

レイチェル(誰であっても教師は怒らせるものじゃないな………、本気で怖かった………)




菫「アレだけ死にかけても治してもらえない、とか………、なんて学園」

彩夏「殺された場合は完全治癒してもらえるんだけどね………、でもまさか治療してくれる相手も生徒だとは思わなかったよ」

菫「本気でこの学園、教師は何もしてくれない、ね………?」

彩夏「そうだね………。治療能力を持つ生徒も、必ずしも完全回復してくれるほどの実力者とは限らないしね」

菫「怪我しない様に勝つ、とか………無理。なんて学園………」

彩夏「一年生に回復能力者っていなかったかな? そう言う人とは是非とも友達になっておくべきだね」

菫「仲間探し、も………、この学園の課題、だね………」



海弖「え? 八束くん、完勝しちゃったの?」

ゆかり「ええ~~。イマジネーションスクール始まって以来の快挙やね~~」

美鐘「ゆかり様! もっと驚いてくださいっ!? こんなの普通ありえません! イマジネーターは必ず勝利するための選択肢を見逃さない! そんな者同士の戦いで三度戦えば必ず一敗するのが普通です! そんな中で三度も勝利するなど………! これはもう姫候補として決定した様な物です!」

海弖「じゃあそれで」

美鐘「学園長はもっと考えてください!!」

海弖「いやいや、これでも結構驚いているよ? 何しろ八束くんが相手をしたのは、東雲くんを除き、全員が超の付く有力候補だったしね?」

ゆかり「でも全部勝利したとなると………。この先が楽しみやなぁ~~♪」

美鐘「お願いですから、ゆかり様はもう少しだけ動揺してくださいよ………」


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Aクラスキャラ紹介

現時点でのAクラス全キャラクターの紹介です。


保護責任者:金鵄

名前:八束 菫(やたばね すみれ) 刻印名:剣群操姫(ソード・ダンサー)

年齢:15    性別:女性     (1年A)クラス

性格:天然で言いたい事は何でもスパッといってしまうタイプ。感情が表に出にくいだけで普通に感情はあったりする。

喋り方:抑揚が小さい感じの話し方。ただし、感情が高ぶれば多少言い方が激しくなる。
自己紹介       「八束菫です。見てわかる様に剣を使います。宜しくお願いしますね?」(微笑み首こてん)
勝負申し込み      「そうですね・・・・・・では、私の糧となってもらえませんか?」
勝負受諾        「・・・わかりました。八束菫、推して参ります」
名乗り(刻印名つき)  「私は八束菫・・・刻印名は、剣群操姫(ソード・ダンサー)。さぁ、かかってくる人は居ますか?」
剣の繰り手発動     「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………剣よ、逆巻く風となれ………!」(例:剣の繰り手で自分の周囲で剣を高速回転させる場合)
糸巻き(強化度を上げる) 「『糸巻き(カスタマイズ)』、2重から5重へ」
照れ(褒められ場合)   「えっと・・・あ、ありがとう、ございます?」
戦闘時          「貴方を倒し、私の往く道を切り開かせてもらいます!」

戦闘スタイル:身体強化+両手剣の剣術+周りに浮かせた複数の剣を自在に操る近~中距離タイプ
身体能力308     イマジネーション230
物理攻撃力200    属性攻撃力40
物理耐久力5    属性耐久力5
並列思考60     剣術70
見切り100

能力:『繰糸(マリオネット)

派生能力:『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)

各能力技能概要
・『剣弾操作(ソードバレット)』≪『繰糸(マリオネット)』の能力。操作している剣を高速で撃ち出す。撃ち出した後、更に操作をしようとするなら撃ち出せる速度は本人の見切れる速さを超える事は出来ない。それ以上の速度で撃ち出したならば、『繰糸(マリオネット)』の能力下に再び入れる、つまりは再操作を始めるまでは操作不可になる。≫

・『剣の繰り手(ダンスマカブル)』≪『繰糸(マリオネット)』の能力。操作している剣群の一部、もしくは全部を設定(と、いうかプログラムのようなもの?)に沿わせて操作する。『剣の繰り手(ダンスマカブル)』を使わずに同じ操作をする時より自分への負担が軽い、剣の操作のスピードが出せる、などメリットはあるが、『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で動かしている間の剣は、その設定の動きが終わるまで他の操作を出来なくなる。≫

・『糸巻き(カスタマイズ)』≪『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』の能力。ほぼ常時発 動。簡単に言うと身体強化で、通常時は身体全体に薄く強化をしているが、やろうと思えば身体全体を大きく強化や、脚のみの強化、腕のみの強化等、色々とできる。強化度合いは2重や3重のように~重と表現している。今の所最大で8重。≫
(余剰数値:0)

概要:【紫色のショートの髪で、瞳は茶色、身長は少々低めでスレンダーな体形。基本的には物静か・・・というより感情が表に出にくいだけで普通に感情はあるので気になる物、人等はじー・・・っと見てたりするし、話しかけられたりすれば、きちんと反応だってする。表情も大きく変わる事はあまりないけれど、微笑みだったり、ムッとした顔だったりとよく見ていれば普通に感情を読み取れたりも。ちなみに、完全にブチギレたりなどすごく大きい感情だと言い方が激しく なったりはするけれど表情は大きくは変わらなかったりする。
生徒手帳に無数の剣を収納しているけれど、常に腰の後ろに4対(つまり交差するように8本)と左腰に剣を1本佩いている。
能力の『繰糸(マリオネット)』は本人の中では他の人には不可視・不可接触の無数の糸を操作するものに触れ、その触れたものをサイコキネシスみたいな感じで操作をする、というイメージだったりする。
繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』は糸の1本を体内に(正確には片腕に1本なので胴体含めて計5本)通し、他の糸を腕や脚、胴体に巻きつけるようなイメージで強化をしている。
本来は、『繰糸(マリオネット)』『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』の能力名の通り人形等も動かせ強化もできるのだが、本人の戦闘スタイル等もあり、刻印名 を剣群操姫(ソード・ダンサー)にすることにより剣の操作と自己強化に特化するようにしている。そのため、人形などの操作は不可能となっている。あえて他に操作できるものを挙げるとするならば、槍や斧等、ある程度近いものまでだったり。
ちなみに、本人が持っている剣はイマジネーション等で作ったものではなく本物の剣だったりするので、より質の良い剣を手に入れられれば実質的な攻撃力が上がったりも。】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


保護責任者:のん
名前:東雲 カグヤ(しののめ かぐや)   刻印名:――
年齢:17     性別:男         一年生Aクラス
性格:発言が素直で、真顔でエロイ。義姉を溺愛している。

喋り方:基本的に興味がなさそうな喋り方。
自己紹介   「東雲カグヤです。脳内記憶スペースが一ドットでも余分に残っていたら、一分くらいは憶えておいてください。『神威使い』―――『式神使い』なんで、後方支援で御協力。ああ、あと俺、弱いんで戦わなくて済むならその方向で」
勝負申し込み 「負けても恥をかかない奴だけ掛って来い」
ボケ     「いや、ここからだと女子の着替えが覗けて実に眼福だなぁ~っと?」
義姉対話   「はい義姉様っ! 義姉様のためなら疑問を浮かべる必要もなく行動に移しますともっ!!」
九曜使用   「行くぞ九曜………、『闇御津羽(クラミツハ)』」
カグラ使用  「こいっ、カグラ! 『軻遇突智(カグヅチ)』」

戦闘スタイル:式神。神様の名前を持つモノを召喚し戦う。日本の神様が主流。

身体能力3     イマジネーション430
物理攻撃力3    属性攻撃力50
物理耐久力3    属性耐久力3
術式演算能力300  霊力85
神格70       逆転率71
能力:『神威』
派生能力:『――』

技能
各能力概要
・『闇御津羽・九曜』
≪闇を司る黒き羽根を持つ神。カグヤが義姉、神威から誕生日に贈られた式神で、カグヤの僕。濡れ羽色の長い黒髪に、黒曜石の瞳、全身を黒い服で身を包む、麗しい少女の姿をしている。常にカグヤに仕え、手から血の様に赤黒い光の剣を創り出し戦う。カグヤの命あらば、自らを漆黒の刀に変え、主と共に戦う≫

・『軻遇突智(カグヅチ)・カグラ』
≪炎の神。元は、角を持った巨大な大蛇の姿をしていた殲滅用の式神だったのだが、神威の悪戯で、赤い髪をした羽衣衣装の幼女姿を持つようになった。普段はカグラと呼ばれ、カグヤに妹扱いされている。戦闘時は本来の姿を取り戻し、巨大ロボットとでも戦って見せる≫

・『迦具夜比売(カグヤヒメ)
≪己の名『カグヤ』を刻印名として一時的に献上する事で、式神と一体化して神格を得る似姿。竹取物語における『がぐや姫』の神格を得、これになっている間、構築された拠点に居る限り、その存在を認識されなくなる。また、『かぐや姫』の有名な逸話、求婚した男に条件を出すと言う物から、『仏の御石の鉢』(恥を捨てるの言葉の由来から、敵の加護による条件防御を何かを捨てることで無効化する)『蓬莱の玉の枝』(「偶(たま)さかに」稀にの言葉の由来から、完全に気配は消せないが、完全に見破られない気配遮断の能力)『火鼠の裘(かわごろも)』(敢え無くの言葉の由来から、大掛かりな条件を満たす術式を必ず失敗させる)『龍の首の珠』(堪え難いの言葉の由来から、理に反する力を受け付けない)『燕の産んだ子安貝』(甲斐無しの言葉の由来から、呪いや攻撃を受けても、相手が期待する程の効果を見込めないようにする)などの能力もデフォルトで備わっている。(Wiki参照)『迦具夜比売(カグヤヒメ)』発動中は、他の式神を呼び出せない。また発動条件として、多くの金品を術式に献上しなければならない。生活難のカグヤにはとてつもない出費で、出来る事なら一生使いたくない≫
(余剰数値:0)

人物概要:【黒いセミロングの髪に切れ長の瞳。クールな顔立ちに気だるげな態度が、真面目で暗く、影のあるクールキャラに見えるのだが、実はかなりの変態。義姉溺愛主義。真顔でエロ発言。覗きセクハラ上等。上品な女性みたいな笑顔で気に入った相手を苛めて見たりと、かなりの変人。いや、エロ。体質上、肉体的に脆く、動き回るのはあまり得意ではない。その変わり、頭を使う類の事はチート並みに完璧。忘れっぽいところを除けば、最強の頭脳の持ち主】



保護責任者:のん
名前:九曜 一片(くよう ひとひら)  本名:闇御津羽(くらみつは)
年齢:18(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神
性格:クールで従順な僕。主以外には冷たい対応を取る

喋り方:クールな僕
自己紹介  「我が君の僕、九曜と申します」
下僕状態  「承知しました我が君。速やかに行動を開始します」
他人対応  「言いたい事は解ったわ。もう帰ってもいいかしら?」
戦闘時   「我が君の敵を、全て退けます!」

戦闘スタイル:射撃、剣、盾になる小型ユニット

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『黒曜石の式神』
技能
各能力概要
・『ユニット』
≪盾、剣、射撃の武装になる小型ユニットを、腰に6本、背中に6本、両脇に2本所持し、自由に扱う≫

・『闇の翼』
≪背中より黒い翼を生やし、飛行する事が出来る。翼を闇に変え、攻撃に使う事もできるが、主への負担が増してしまうので攻撃には使いたがらない≫

・『神実(かんざね)
≪闇御津羽の剣となり、漆黒の刃として主の武器となる。意思を共有し合い、時には主の身体を勝手に動かす事も出来る≫
(余剰数値:0)

人物概要:【人の姿を持っているが、人ではない。闇御津羽と言う神であり、黒曜石の式神でもある。カグヤの五歳の誕生日に義姉から送られ、それ以来ずっと仕えているパートナー。主の命令を何よりも尊重し、彼のためだけに行動する。いつしか、彼の事を主以上に想うようになり、カグヤからも同じだけの愛情を注がれ、共に主従や恋愛を超えた特別なパートナーとなっている】
備考【闇御津羽神はその本当の名を罔象女神(みつはのめのかみ)と言い、軻遇突智の血より生まれた水の神である。それがどうして闇の神として力を振るえるのかと言うと、彼女は厳密な意味でカグヤの式神ではなく、神威の式神である。神威が闇御津羽を創造する時、彼女はカグヤの能力とは別の方法と法則で闇御津羽を創り出している。彼女は『闇御津羽』としてだけではなく『黒曜石』化身としてのスタイルを有している。そして、名前から察する他人のイメージを利用し、『黒』、『闇』の力を使う式神として顕現している。カグヤの能力は、厳密な意味で日本神話の神を再現してしまうが、神威のそれは、オリジナルを挟み込める、汎用性にとんでいた物だったようだ。現在の『九曜』が罔象女神としての力を発揮できていないのは、カグヤの力不足が原因である。イマジンの能力で作られた存在は、主のステータスに大きく左右されるのだ】



保護責任者:のん
名前:カグラ   本名:軻遇突智(かぐづち)
年齢:12(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神
性格:普段はデレデレ、でもいざとなるとツンツンな『デレツン』妹キャラ。

喋り方:ツンデレ
自己紹介  「軻遇突智のカグラ! よろしくしなさいよね!」
デレ    「お兄ちゃん、だ~~い好き! 九曜と同じくらい愛情注ぎなさいよね♡」
ツン    「べ、べべ、別に―――っ! 膝の上に座ってるくらいで喜んでないわよ!/////」
現神化   「ゴアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッッ!!!」
下僕状態  「はい。兄様の仰せのままに」
ボケ1   「い、いいい、い、イケメン出た~~~~っっ!!?」(恐怖)
ボケ2   「胸に脂肪が集まればエラいんかぁ~~~~っっ!!?」(怒泣)

戦闘スタイル:自在に炎の全てを操る。中距離支援タイプ。広囲殲滅型。

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『火女神(ほのめがみ)の式神』

技能
各能力概要

・『炎法(えんほう)
≪炎のあらゆる全てを自在に操れる。高威力砲撃、中距離支援、小規模爆破、炎熱断絶、炎の全てを支配する≫

・『現神化(あらかみか)
≪角を持つ炎の大蛇の姿になって、広範囲殲滅に特化する能力。主のイマジネーションと属性攻撃力の影響を受け、威力が変化する。この姿は神格としての力は強く、『権能』以上の力でなければ破られる事が無い。ちょっと性格が化け物よりになり、女の子らしさが見受けられなくなる。角を持つ蛇の由来から、竜としての属性も持っている≫

・『神実(かんざね)
≪軻遇突智を火倶槌として変化させ、己の姿を神格武装に変える能力。炎を纏った槌となる。軻遇突智の由来から、神殺しの炎を持っていて、特に女神に対し絶大な効果を持つ―――筈なのだが、多少強力な神格殺しを持っているだけに止まっている。時に主を自分の意思で動かす事もできるが、接近戦は苦手なので、その機会は皆無に等しい≫
(余剰数値:0)

人物概要:【炎の様な真っ赤な髪に、両端から牛の様な角を生やしている、紅玉の瞳を持つ幼女。天女の様な羽衣衣装を纏っていて、女の子用の下駄を履いている。元は炎を纏う大蛇の姿で、広囲殲滅型の式神として生まれたのだが、神威のお茶目で『現人神(あらひとかみ)』“人化”の特性を得てしまった。幼女姿は神威の設定。カグヤの事を兄と慕い、物凄く懐いたデレデレ妹キャラなのだが、いざカグヤに迫られると何故か強がってツンツンした態度を取ってしまうデレツン娘。炎の神なので重量が無く、自由に空中を飛び回れる。その反面、火の力で常に淡い上昇気流が自身の周囲で起こっているため、感情の起伏で火力を強くし過ぎ、気流で自分の服を捲ってしまいそうになる。ドジな所もある。何故かイケメンを恐れている。本人は伊弉諾がイケメンのイメージだったからだと語っているが、真相は不明。身体が成長しないので、胸の大きな女に泣き怒りする事が多い】
備考【炎の神、軻遇突智として生まれた彼女だが、何故か女神の特性を強く持ち、陰属性の炎を有する支離滅裂な存在。神威に姿形を弄られはしたが、それ以外はカグヤの能力で再現された存在。そのため、日本神話に忠実に則った存在のはずなのだが、何故か女神であり、本来陽の力であるはずの火を、陰の属性で操っている。しかもこれで存在が確定されているため、矛盾を(よう)していない存在として確立している。摩訶不思議であるが、神話の史実は大量に存在する。その中からカグヤはカグラの存在を確定できる何かを見つけたのかもしれない。現在、火の神として、神殺しの力を有する、カグヤの攻撃力での切り札となっている】


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保護責任者:ソモ産
名前:レイチェル・ゲティングス    刻印名:使役
年齢:15歳  性別:女  1年Aクラス

性格:一人で悪魔の研究をしており、態度は素っ気ない。しかし、頼まれたら断われないお人好し。不測の事態にはあまり強くない。戦闘は自身の研究の発表の場と考えている。

喋り方:達観したような喋り方
自己紹介 「レイチェル・ゲティングスだ、よろしくしてくれなくて構わない。ん? なに? 何故私がそんなことを…。あぁ! わかった、手伝ってやる」
勝負申し込み 「さて、私の研究に協力してくれる殊勝なものはいないか?」
ボケ 「ほぅ、このように使うのか。なるほど…。ん? なに? それは茶を入れる道具だと? ふ、ふん! そんなこと最初から知っていたわ!!」
ロノウェ憑依/召喚「こい、ロノウェ! こいつ等を持てなしてやるぞ」
アスモデウス憑依/召喚「来なさい、アスモデウス。お前に悦楽を与えてやる」
シトリー憑依/召喚「おいで、シトリー。すべてをさらけ出してあげましょう」

戦闘スタイル:悪魔召還。悪魔憑依。

身体能力33    イマジネーション553
物理攻撃力53    属性攻撃力223
物理耐久力53   属性耐久力103

能力:『ソロモンの鍵』
太古の時代に発見された悪魔を使役する術が記された魔道書。
文字どうり悪魔を使役し、召還または自身に憑依させることができる。
派生能力:『―――』

各能力技能概要
・『ロノウェ』≪ソロモン72柱の序列27位の悪魔を使役し、自身に憑依または召喚する。身体能力がとても高い。どちらの場合も魔法陣を使わなければ使用できない。憑依した際はレイチェルの容姿が執事風の衣装になり、髪を後ろで束ね、右側のこめかみから角が生える≫

・『アスモデウス』≪ソロモン72柱の序列32位の悪魔を使役し、自身に憑依または召喚する。焔属性の攻撃や耐性がとても高い。ロノウェ同様、魔法陣の使用が必要。憑依した際は、露出度の高い衣装に変わり、髪は朱く、背中から羽、おでこからは角が生える≫

・『シトリー』≪ソロモン72柱の序列12位の悪魔を使役し、自身に憑依または召喚する。水属性の攻撃や耐性がとても高い。魔法陣を使用する。憑依した際は、清楚な雰囲気のするワンピースに変わり、髪は蒼く、背後に水の球体が浮いている≫

概 要:【夜空の様に黒い長髪。眼は紅く薄っすらとクマがある。身長は、低く腰まで届くほどの長髪。常に黒を貴重としたゴスロリドレスを着ている。色白で、ゴスロリ衣装がとても映える。意外と世間知らず。祖先の影響で悪魔に興味を持ち、研究に没頭していった。常にロノウェを召還しており、身の回りのことはほとんどやらせている】

能力概要
《悪魔という存在は、様々な神が堕天してしまった存在であることから、能力発動時は神格を得る。ただし本来の力から堕天してしまったため 神格はそのものの持つ神格の3分の1ほどしか現れない。悪魔たちの能力は主人のイマジネーションに依存する。そのため今は本来の3分の1ほどの力しか発揮できない。刻印があることから、生き物を操る能力にしか派生できない》



保護責任者:ソモ産
名前:ロノウェ        年齢:2万5千歳(見た目は25歳くらい)
性別:男  レイチェルに使役されている悪魔。
性格:完璧主義で意地悪な執事。他の生徒にも丁寧に対応する。

喋り方:丁寧な口調だがとても意地悪。
自己紹介       「わたくし、ロノウェと申します。この方はこの通り捻くれておりますが、皆様仲良くしてあげてくださいますようお願いいたします」
意地悪をする     「そうは申されましても、わたくしとの契約に入っておりませんので。無知なレイチェル様がどうしてもとお願いされるのであればお手伝いいたしますが? フフフ」
レイチェルへの返事  「かしこまりました。我が主」
戦闘時        「申し訳ございません。排除させていただきます」

戦闘スタイル:魔力を自身の手足に集め、インファイトで戦う。魔力を固め飛ばす事も可能。

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『ソロモン72柱の序列27位』

技能
各能力概要
・『腕力強化』
腕に魔力を集め、通常の3倍の力を発揮する

・『脚力強化』
足に魔力を集め、通常の3倍の力を発揮する

・『執事』
主人のあらゆる要望にこたえるための力。家事から研究、果ては友達作りまでどんなことでもやり遂げる。

人物概要【人の姿でいるが、本来の姿はとても言い表せないほど醜く恐ろしい。レイチェルが一番最初に使役することができた悪魔。主人のことをおもちゃの様にからかう事がある。が、本当はとても好いており、レイチェルのことを思いやるようなことを言うことがある】



保護責任者:ソモ産
名前:アスモデウス      年齢:不詳(見た目は25歳くらい) 
性別:女           レイチェルに使役されている悪魔。
性格:常に男を魅了していて、自分が一番で居たい女王様気質。女性に対して冷たい。

喋り方:誘惑するような喋り方
自己紹介「私はアスモデウス。貴方たち私の前に跪きなさい。そうすれば良い事して、ア・ゲ・ル♪」
女性対応「なに? 用が無いなら話しかけないでくれる? うざいのよ!」
レイチェルへの対応「わかったわ、レイチェル。」
戦闘時「さ、私と踊りましょう!あはは!!」

戦闘スタイル:焔を使い、剣や鞭を作り出したり、そのまま飛ばしたりする。

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『ソロモン72柱の序列32位』

技能
各能力概要
・『焔』
両の手に焔を生み出しそれを自由自在に扱う。

・『魅了』
異性の視線、意識を自身に集める。

・『飛行』
自身の背についた羽で空を飛ぶことができる。

人物概要【人の姿を取っているが、本来の姿は美しくはあるがとても恐ろしい。自分以外の女性の存在を認めていないが、主人のレイチェルだけにはしっかりと対応する。主に戦闘時に召還】


保護責任者:ソモ産
名前:シトリー     年齢:1万歳(見た目は27歳くらい)
性別:女        レイチェルに使役されている悪魔。
性格:素直で真面目。戦闘のときに限り残虐になる。しっかりと対応をするがレイチェルのことが一番大事。

喋り方:丁寧で相手のことを思ったしゃべり方
自己紹介「始めまして、シトリーといいます。レイチェルに手を出さない限り仲良くしましょうね」
レイチェルの敵への対応「近づかないで下さる? もし次に現れたらその手足を引きちぎります」
レイチェルへの対応「任せてください、レイチェル。」
戦闘時「それでは、穴だらけにしてあげますね。」
戦闘スタイル:背中に浮いている水の玉を自由自在に操る。槍状にした水。

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『ソロモン72柱の序列12位』

技能
各能力概要
・『蒼水』
背中に浮いている水の玉を自在に操る。

・『流水』
両の手に水を生み出し、さまざまな形状に変化させる。

・『写し鏡』
対象一人の感じていること、思っていることを読み取る。
その者の本当の姿を写し取る。

人物概要:【人の姿でいるが、本来は蛇のような姿をしている。基本的に誰に対しても丁寧だがレイチェルを溺愛しており、レイチェルに害なすものには一切の容赦をしない。主に戦闘時に召還。】


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保護責任者:現[機械ヨリ出デシ神]

名前:機霧 神也(ハタキリ シンヤ)    刻印名:機械ヨリ出デシ神(デウス・エクス・マキナ)
種族:半分機械の機人(キジン)      年齢:生まれたばかりの0歳
性別:一応男(性別と見た目なんて変えれるけど、本人的に1番良い)
容姿:(初期状態)
通常時:黒髪黒眼の優男。
暴走時:赤髪赤眼に変貌。目には幾何学模様が浮かぶ。
機神化:銀髪碧眼に変貌。目は暴走時同様幾何学模様が浮かぶ。

一年Aクラス

性格
通常時:見た目通り、人当たりの良い柔らかな性格。
暴走時:機械に触れる際に偶になる。とにかく自重しない、歯止めの効かない性格。
機神化:感情が必要最低限を除き削ぎ落とされ、冷たい印象を与える。

喋り方:普段は在り来たりの口調。
自己紹介「はじめまして! 生まれたてホヤホヤの新神機神の機霧神也でーす! 気軽に神也って呼んでね!」
作業中(通常時)「えーと、ここはこうでこうでこう! よしっ、出来た!!」
作業中(暴走時)「あはははははははははははッッ!!!! ようやっと完成したぜェ!!!!」
作業中(機神化)「……………………」
戦闘時(通常時)「その攻撃は隙が大き過ぎます」
戦闘時(暴走時)「ヒャッハーッッ!!!  圧倒的火力で死に晒せェェェエエエ!!!!」
戦闘時(機神化)「………敵勢力を確認、目標を破壊します」

戦闘スタイル:発明品を用いた機械ありきの全距離戦闘。但し近遠問わず過剰火力。

能力値(無装備状態)

身体能力:100     イマジネーション:200
物理攻撃力:100    属性攻撃力:9
物理耐久力:100    属性耐久力:9
頭脳スペック:500

能力:『機神化』
派生能力:『技術チート』


能力概要
完全稼働(フルオペレーション)
・『機神化』の能力
・使用すると種族が『機神』となり、1時間の間各ステータスが○×100UPする。その後、○×5日間各ステータスが0となる活動停止状態となる。
・成長の余地在り。

機神ノ嗜ミ(ゴットギアアブソープ)
・『機神化』の能力
・『完全稼働』中に、種別を問わない機械を取り込むことで、機械に合わせた特殊能力を『完全稼働』中だけ獲得する。
・成長の余地在り。

技術ノ創造主(テクノクリエイター)
・『技術チート』の能力
・内容を問わず、どんな技術でも新たに創り上げる能力。但し、レベルの高い技術を創るには、其れ相応の時間と労力が必要。

概要
・現デウス・エクス・マキナが老いを感じたために後継者として創造された新たな機神。存在する全ての機神の技術力をつぎ込んだ未完成の最高傑作。成長することで既存の機神を超えるのは確定している。よって次代のデウス・エクス・マキナになることが内定。
・機神達が特に力を入れたのが『技術の創造力』と『技術を取り込む力』。まだ不完全だが、能力が完全に稼働した暁には、常に進化を重ねる真の意味で完成しない機神が誕生。
・あらゆる進化を想定し、ベースの人格と身体は特徴のない人物を参照。しかしそれではつまらないと叫んだ機神が暴走時の性格を植え付けた。
・ある程度の知識と感情はあらかじめインプットされているので、一見人間と見分けが付かない。
・修行の場として、機神達はイマジネーション・ハイスクールに入れることにした。
・誰よりも機械の可能性を信じ、誰よりも機械を愛する、文字通り機械の申し子。オカルトにも一定の理解を示すが、それでも機械が1番。
・大火力は正義だという持論を持つ。そこから必勝法は『高機動・高近接火力・高遠距離火力で即殲滅』という結論を叩き出した。
・頭脳スペックがパナいので、どんな役割もこなせる…………が、当の本人は大火力で敵を圧殺したい模様。
・ 生まれ落ちたばかりで様々な情報を処理するために稼働時間が短いという欠点を抱え込む。1回の稼働時間は3時間。機能の大半を情報処理に回した高情報処理モードで最大25時間まで延長。最大稼働時間を超えると強制的に50時間の活動停止をする。こまめに活動停止することでなるべく空白の時間を作らない様に苦心している。いずれ成長《スペック拡張》して行けば徐々に稼働時間は増え、最終的には嗜好以外で活動停止《睡眠》は必要としなくなる。
・生まれたばかりで、やることなすことが初めてばかりで、良くも悪くも何をやっても楽しめる。
・機械故に物理方向の能力は高いが、どうしてもオカルト適性がなく、特に精神干渉系列の能力に凄く弱い。機神化すれば解消。
・精神的に子供っぽいこともなく安定…………が、0歳なのでもし彼に惚れてしまったら間違いなくショタ扱い。


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保護責任者:天然祈念仏

名前:浅蔵 星琉(あさくら せいる)   刻印名:龍巫女(りゅうみこ)
年齢:15    性別:女      1年生Aクラス
性格:冷静であり冷めた性格。自分の関心を持たないものには見向きもしない。少し天然気味。

喋り方:独特で抑制の少ない喋り方。一人称はボク。
自己紹介   「浅蔵星琉。え? もっと? ・・・・こんな容姿だけど巫女なんかをしている。えーと・・・まあ、暇でも見つけて家の神社にでも来てみたらどうだい? 何の御もてなしも出来ないけどね・・・」
勝負申し込み 「まあ・・・適当に終わらせようではないか・・・」
ボケ     「・・・? ・・・あ。次はボクの番だったね。忘れてたよ・・・」
天龍使用   「我と契約し天を司りし二匹の龍よ  我が身に宿りその力を我に貸し与えよ  赤き龍帝ドライグ  白き龍皇アルビオン」
赤き竜使用  「我と契約し古き地に眠る赤き竜よ  我に加護を与え我敵を討つ力を我に与えよ  我血を糧に進化の力を  赤き竜ケツァルコアトル」

戦闘スタイル:龍の憑依。自身の身体や武器に様々な龍の力を宿して戦う。龍の種類は多種多様(龍のモデルはアニメや漫画から)

身体能力 120     イマジネーション 300
物理攻撃力 70    属性攻撃力 70
物理耐久力 70    属性耐久力 70
神力 300

能力:『龍魂憑依』(自身の身体や武器に龍の力を宿す)
派生能力:『龍魂召喚』(自身の血や生命力を代償に龍を召喚する)

技能
各能力概要
『天龍憑依』
≪ウェールズの伝承に伝わる赤き龍と赤き龍と対を成す存在である白き龍を自身の身体に宿す。
赤き龍を宿すと自身の能力の上昇と、他者への自身の能力の一部の譲渡が可能。
白き龍を宿すと相手の能力の減少と、減少させた分だけ自身の能力の強化が可能。
使用中は星琉の体力が10秒毎に一定量削られ続ける。(二体同時使用すれば削られる体力も倍になる)
元ネタは「ハイスクールD×D」の「二天龍」≫

『赤き龍の加護』
≪ナスカの地の伝承により伝わる赤い竜の加護を自身や他者に与える。
「身体能力の上昇」「結界の構築」「体力の回復」「対象へのあらゆる影響の無効」の4つの能力が得られる。
使用中は自身の血が失われ続ける。(能力の複数使用をすれば失われる血の量も増える)
元ネタは「遊戯王5D,s」の「赤き竜」≫

『召喚』
≪自身の身体の一部や生命力などを対価に龍と契約し。契約した龍を召喚する。
支払う対価により召喚出来る龍も変わる。
一度契約してしまえば何度でも召喚が可能。
一度に一体しか召喚出来ない≫


人物概要
【白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女。頭がとても良く、成績も常に学年上位をキープしている。その反面、性的なことに対する耐性が低く、その手の話題が上がるとすぐに顔を真っ赤にして俯いてしまうほど。天然気味で無自覚な発言や行動もよく見られる。家が神社であり、家では巫女を務めている。感情が薄いが親しい間柄の相手には笑顔を見せることも。着痩せするタイプでスタイルはかなりいい。(隠れ巨乳)過去にその容姿から虐められていたことがあり、それが原因で周囲から距離を取るようになっている】


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保護責任者:ヒャッハー
名前:切城 契(きりき ちぎり)     刻印名:札遊支者(カードルーラー)
年齢:16     性別:男       一年Aクラス
性格:好奇心旺盛。人並みの三倍位知識欲があり、その上極度の噂好き

一人称は「僕様」
喋り方:所々で言葉を区切る………所か止めてしまうので、非常に話しにくい。
自己紹介  「やっほ。僕様の名前は契。よろしく」
能力自慢  「えっへん。便利でしょ。僕様の能力」
能力発動  「召喚(コール)焔征竜ブラスター」
喜び    「え!?。マジ!? ホント!? 君たちそういう関係!? よっしゃぁ! スクープげっと!」

戦闘スタイル:強化カードによる支援、モンスターによる物量戦、自己強化による接近戦と何でもござれ。
でも本職は指揮官。
身体能力98     イマジネーション550
物理攻撃70     物理防御50
属性攻撃70     属性防御50
安定思考30     並列思考50
高速思考25     集中力25

能力:『魔>>>札<<<怪(イクシードTCG)』
派生能力:『怪>>>身(エンチャントEX)』

能力技能
『付与』≪『魔>>>札<<<怪』の能力。カードにイマジンを流し込み、能力を付与する事。これを行わないと、彼のカードは只のカードに過ぎない≫

発現(コール)』≪『魔>>>札<<<怪』の能力。付与済みのカードを手に持ち、名前を唱えることで、カードの力を発現させる。モンスターならば召喚し、魔法ならば発動………といった感じ。
カードそのものの制限を受けてしまう。例えば『相手の攻撃時に発動』するカードを、関係無いときに使うことはできない。例えば召喚制限のあるモンスターは、その手順を踏まなければ召喚できない。
発現させたモンスターの感覚の一部は、契にもフィードバックされる。モンスターが燃やされたのなら、契も多少の火傷を負う。これを利用して、モンスターと視界をつなげる、なんてこともできる。
契が〈消えろ〉と念じた物、一定時間の経過、一定以上のダメージ。この中のいずれかの条件がみたされれば、発現させたモンスターは、消える≫

『憑依装着』≪『怪>>>身』の能力。
自らの内に付与済みのモンスターカードを埋め込むことで、『付与』と『発現』を使えなくする変わりに、埋め込んだモンスターの能力が使え、身体能力も埋め込んだモンスターの能力値によって上昇する。カードによる制限を無視して能力を使えるのだが、この状態は体への負担が尋常じゃなく、一時間も経ったらこの状態が解除され、約2時間の間、満足に体も動かせなくなる。おまけに制御のために、規格外とも言える契の脳のリソースの半分近くを持っていくので、余り使いやすい能力ではない。
しかし3体までなら体に埋め込む事ができるので、使い時さえ間違えなければ十分切り札になる≫

刻印名により、カードの支配といった方向にしか派生しない。

概要:【幼い頃から、どんなに力がなくとも、幽霊、精霊といった物を見ることができる体質だったので、幼少期、精霊とばかり関わっていたためか、人の友達が少なかった。
その数少ない友達と一緒にやっていたのがTCG各種であり、そこからおもいっきりのめり込んでいった。能力が発現し出したのもこの頃。
上記のように、『人』付き合いは少なかった物の、精霊の皆さんと良く話していたため、コミュ力は高い。しかし喋り方のせいでコミュ障と似たような物になっている。哀れ。
家柄とかは、特に何でもない一般家庭。育ちも普通だが、 精霊さんの英才教育(要らないおせっかい)を幼少期から受けていたため、頭が規格外なレベルで良い。
容姿は黒髪にうっすら青がかった深緑の眼。身長が低く、コンプレックスになっている。(160センチ位)
食べ物の好き嫌いは特に無いが、ナスだけは無理。他は何でもいける。だが、ナスだけは無理】

新聞部所属


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保護責任者:ヒャッハー
名前:緋浪 陽頼(ひなみ ひより)
刻印名:邪神の顕現(Nyarlathotep)
年齢:17    性別:?     クラス:A

性格:使用中の能力によって変化するが、能力未使用の状態では完全に無表情+無口。全く喋らないが、頷く等で意思表示は一応する。

喋り方:
劣化邪神[陽]使用時「げらげらげら。いやはや全くもって愉快ダネェ」
劣化邪神[陰]使用時「あっはっはー!爆撃爆撃ィ!殺戮こそが戦いの醍醐味です!」
神格解放「at22k25o82t-vpvx3j0xnv5_s'xyn2vv0knjv!!!!!!」

戦闘スタイル:能力によって変化。能力の欄にそれぞれ記載。

身体能力:3([陽]500)([陰]200)
イマジネーション:3([陽]50)([陰]389)
物理攻撃:3([陽]200)([陰]100)
物理耐久:3([陽]84)([陰]100)
属性攻撃:3([陽]10)([陰]139)
属性耐久:3([陽]84)([陰]100)
Nyarlathotep:0([陽]90)([陰]90)

能力『這いよる混沌(Nyarlathotep)』

派生能力:『―――』

各能力技能:『劣化邪神[陽](ナイアーラトテップ)』≪『這いよる混沌』の能力。自らの神格をほんの一部だけ解放させた状態。この状態では、体が男性体となる。顕現………つまり身代わり、命のストックが1000になる。このストックは時間経過と共に回復するが、効率は非常に悪く、一週間で一つ位。身体能力が非常に高くなり、身代わりの数と相まって近接戦闘では恐ろしく殺しにくい。その為戦闘スタイルは近づいて殴る撲殺スタイル。性格がとてつもなく悪くなり、何時でもげらげら笑っている。ただし、火への耐性が低くなり、周囲の人間のsan値を少しづつ削って行くため、長い間戦場に立っていると、味方にすら被害がある。劣化邪神[陰]との併用不可≫

劣化邪神[陰](ニャルラトホテップ)』≪『這いよる混沌』の能力。自らの神格をほんの一部だけ解放させた状態。この状態では、体が女性体となる。某ニャル子さんの如く空間を歪めて武器を収納したり、何か魔術的な物を使って爆発させたり、腕をNyarlathotepの爪や触手に変化させたり、容姿を変化させたりできる。完全に万能型。この状態の性格がもろに某ニャル子さんなので、面白そうな事に貪欲。火耐性が低いのは相変わらずだが、san値の減少がない。劣化邪神[陽]との併用不可≫

真・神格[混沌](Nyarlathotep)』≪『這いよる混沌』そのもの。その危険性故に発動できるのは一瞬だけだが、発動時に自らを認識していた存在を、ただ一つの例外もなく発狂、(相手の)運が良ければ気絶させる。これを発動させると5日間倒れたまま、能力の発動すら出来 なくなる≫

概要【元々は地上に存在していたNyarlathotepの顕現の一つ。なのだが、何かの拍子にイマジンを取り込んだ瞬間、 本体との繋がりが強くなり、本体に飲み込まれかけたが、イマジンのせいか逆に本体を取り込んだ。その結果自我が消滅し、何事にも重みが感じられなくなってしまう。そんな時、イマジネーションスクールの事を知り、そこでなら大事なものが見つけられるかも、という考えから入学。
容姿は、能力未使用時は、白髪に金色のタレ目気味の眼、身長体重はド平均。[陽]使用時は黒髪に黒眼タレ目が消えている。髪も眼も恐ろしく濁っている。[陰]使用時は白髪に黒眼。ちなみに胸は巨乳でも貧乳でもなく理想的な大きさ。
このキャラクターが男になるか、女になるかは、人間関係次第。例えば男と親友になりたい、等を願うと男になり、男に恋をしたりすると女になったり。】


ステータス:Nyarlathotepについて。
Nyarlathotepは、神格内蔵の特殊ステータス。攻撃に数値に応じた神格が付与されると共に、神話に応じた行動を取る事で、その間全ステータスを上昇させる。
このステータスが高ければ高い程、周囲の人間から正気を奪って行く。
また、微量ながら魔力ステータスも内蔵しており、これによって陽頼は魔術を使用している。


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保護責任者:夏目 冬華

名前:水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)    刻印名:創造と変革
年齢:18     性別:男         1年Aクラス
性格 他人に優しく男らしい性格だがかなりの天然

喋り方 堂々と男らしく
自己紹介     「水面=N=彩夏だ。どうした? 私は男だが何か問題でもあるのか? これからよろしく頼むぞ」
勝負申し込み   「では私と手合わせ願おうか」
ボケ       「ん? これか? 私の私服だが」
水面之檻使用   「水面に映る私の檻。水面故に干渉できぬが、故に封じ込める。錬成『ミナモノオリ』」

戦闘スタイル:基本は剣を持って戦うか。実はトラップを仕掛けて戦う方が圧倒的に強い
身体能力203     イマジネーション303
物理攻撃力153   属性攻撃力153
物理耐久力103   属性耐久力103
(余剰数値0)

能力:『物質特性変化』
自分が触れた物質の持つ特性を変化させる能力
例:鉄をゴムのようにする
普段は自身に使って身体能力をあげている
使いすぎると味覚しばらく無くなる

派生能力:『物質錬成』
物質を作り出す能力
負担がかなり大きく、1日に5回しか使えない
これを越えると五感のうちどれか2つが2日間無くなる

各能力技能概要

・『罠錬成』
触れた物の特性を変えて罠を作る罠は見えないので避けるのは難しい

・『水面之檻』≪ミナモノオリ≫
物質を4回作り特性変化を合わせて相手を閉じ込める
抜け出すのは難しいが外部と内部が遮断されるため相手に干渉できないので封じ込めることが可能

・『災禍讃唱』
刃の生える牢獄を作り相手を閉じ込める
錬成を5回行うため消耗が激しい

人物概要【長い髪をツインテールにしており、女性のような顔立ちで私服はゴスロリだが声がかなり渋い
端から見れば女性にしか見えないのでギャップがひどい
両親はすでに他界してる天涯孤独の身
バイであり戦闘好き】

能力概要【創造と変革を刻印名にすることで物質の特性を変える能力をてにいれる。派生能力は『特性変化→構成を変える→分子操作→創造』というつながりと刻印名でてにいれた。代償が五感なのは、能力を上手く扱うのに必要なものだからである】


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一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅲ

やっと書き上がった………。
って言うかBクラス編は書いてて超書き難いと思いました!
なんか直接当てるタイプの能力者少ないし! 何気にAクラスより人数多いし! 頭使うタイプの能力者ばっかりでメッチャクチャ疲れた! その割には内容が薄い気がする!
とりあえず書き上げましたが、う~~~ん、楽しんでもらえるかちょっと不安。

時間はクラス内交流戦一日目に戻ります。
どうぞ楽しんで行って下さい。


一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅲ

【Bクラス編】

 00


 ジャングルの様な熱帯の森の中、湿った地面を歩く一人の少女がいた。背中まで伸びた長い黒髪に冷たい印象を与える鋭い目付きをしてた少女だ。ノースリーブの黒タイツに胸の下辺りで切り取られた濃緑色の上着を重ね、スリットの入った眺めのスカートを穿いている。
 彼女の瞳はイマジンの基礎技術『見鬼(けんき)』の発動で、赤、緑、青、三色の光が瞳の中で絡み合い、彼女が捉えた情報を視覚的なイメージとして投影していた。その視線の先で捉えた、ジャングルに相応しくないコンクリートで出来た小屋を見つける。それは長方形の建造物で、装飾の類は一切ない。窓の代わりらしい穴は、とても小さく、子供一人分も出られそういない。光を室内に取り込むため以外には役に立たなそうだ。入口らしい四角の穴も、開閉式の扉すら置いていない様子だ。小屋と言うより巨大なブロックだと言われた方が納得出来る。
「………♪」
 しかし、そこが御目当ての場所だと解った彼女は、口元を薄く笑ませると、臆する事無く室内へと歩を進め、机の上に置いてある箱を見つけると、一度手を翳して『解析(、、)』した後に箱の中を改める。中にあったのは赤い水晶玉で、手にとって確かめると、中から文字が浮かび上がってきた。
「後一時間、この水晶玉を死守すれば私の勝ち、か………」
 それが解った少女はさほど難しくもないと判断し口元を笑ます。だが、水晶玉はその笑顔をあざ笑う様に新しい条件を追加してきた。

『なお、この水晶玉は持っているだけで敵に自分の居場所を伝える発信機となっています! 更に、この箱が「解錠」状態にある限り、この部屋から出られません!』

 バタンッ!

 無かったはずの扉が閉まり、窓も塞がれた。『見鬼』のおかげで暗闇程度なら視覚的な不自由はない。すぐにでも行動に移せた。
 彼女は敵に捕捉されたと言うのに、慌てる事無く小屋の壁に手を翳して調べ始める。
 しばらく調べて納得が言った彼女は一つ頷き、やっぱり口元を笑みにする。


 彼は学園のタスク中、『コンソール』なる物を探し、瞳を輝かせていた。“輝く”っと言うよりは、“明滅している”と言った方が表現としては正しいだろう。黒髪に強い癖毛、柔和な嘘か本当か解り難い笑みを絶やす事無く浮かべているこの少年、遊間零時(あすま れいじ)は生まれつき目に特殊な体質を持っていて、それが『見鬼』を使う際に混同し、上手く発動できなくなっているのだ。
(やれやれまったく、生まれつきの才能が邪魔になる事もあると言う事か………? そう言えば先生が言ってたかな? 『イマジンはイメージ力に起因する。だからイメージが固まってしまう大人には最大の力が発揮できない』って。………だとするなら、“瞳”にイメージを既に持っている俺は、同じ題材に余計なイメージを重複してしまうって事なのだろうね?)
 『見鬼』は『視る』技術ではない。あくまで“認識している物を視覚化する”技術だ。だが、零時は特殊な眼を持つ所為で、『視る』という解釈をしてしまう。そのイメージが邪魔をして『見鬼』の発動を困難にしている。
 自分は『見鬼』だけは苦手になるかもしれないかな? っと内心でぼやいていた時、突然その気配はやってきた。
 すぐに解った。これはイマジンによるセンサーの反応だ。つまり、自分が戦うべき相手が、この気配の先にいる。
「どうやら何かのトラップを踏んだ様ですね? それじゃあ、バトル開始と行きましょうか!!」
 『瞬身』の刻印名を持つ零時は、『瞬閃』の能力により体内パルスを操作、自身の身体の伝達速度を上げ、全身を素早く動かす。

 パッ!!

 静かな、だがはっきりと、空気が破裂する音が迸り、零時の姿が消える。
 空気を切り裂くその速度は、風の如く速く走り、あっと言う間に目的の場所へと到達した。
「見つけた! 小屋の中かっ!?」
 小屋は完全なコンクリートの塊だったが、イマジンにより強化された彼の高速の一撃は、容易くぶち破る事が出来る。何も臆することなく、彼は飛び上がると、勢いそのまま、飛び蹴りを放ち―――凄まじい爆音が轟いた。



『試合終了~~~~!』
 試合終了のアナウンスが流れ、ジャングルは消え去り、真っ白な空間へと変わる。
 そんな中で、零時は片膝を付くと、大量にかいた汗を床に落としながら、荒い息を必死に整えようとする。
 そんな彼の前に、歩み寄ってきたのは黒長髪の冷たい眼差しの少女だった。
「お疲れ様です。結局、あの小屋を完全には破壊できませんでしたね?」
 少女は涼しい顔で長い髪を払いながら、楽しそうに囁く。
「まあ、それでも僅かに穴を開いた事には素直に驚きました。想定内とは言え、あの時は思わず時間を気にしたわ」
 “想定内”。その言葉に、多少なりショックを受ける。
 彼女は、自分があのコンクリートの小屋を破壊できないと、先に予想していたと言うのだ。手の平の上で踊らされていたと知っては、さすがの零時も屈辱を抱かずにはいられなかった。
 だからだろうか? 自分の敗北を心で認めていながら、それでも僅かばかりのいらないプライドが、彼の口を動かしてしまった。
「見事な手際だったと思いますよ? ですが、『施錠』のイマジネートがかけられた小屋に、中から更に『強化再現』で簡易籠城したくらいで、天狗になられてもね………。それを打ち破れなかった以上、素直に敗北は認めるが、ちょっと味気ない勝ち方じゃないですか?」
 自分で言ってて負け犬っぽい気がして、内心では速攻後悔&反省を抱きながら、やっぱり表情は嘘か本当か解らない笑みを浮かべるのはさすがとも言える。
 だが、そんな零時の言葉に、少女は人類皆ゴミだと言うかのような冷たい眼差しで返す。
「なら、アナタはもっと悔やむべきよ。戦闘スキルを一つも持っていない私に、戦略的にねじ伏せられたのだから」
 そう言いながら髪を靡かせ踵を返し、背を向けて颯爽と去っていく姿は、正に勝利した軍の参謀の様であった。
 その背中を複雑な思いで眺める零時。それを横目に薄く笑っていた教員は、軽く手を上げ、勝者の名を口にする。

「勝者、カルラ・タケナカ。タスクコンプリート」

 ポイント差0。入手ポイント共に0の、完全無血の勝利である。


 カルラ・タケナカと言う少女はイマジネーションスクールでは珍しいエリート生だ。
 エリートとは名の通り、幼い頃から先だって英才教育を受けれる環境にあり、誰よりも早く知識を得、同世代では辿り着けないであろう段階まで早足で進んで行く、未来を約束された者の事だ。カルラはこの場に於いてのエリートとは、多少の事なりはある物の、間違いなくそれに当てはまる人物であった。
 両親がイマジン塾の関係者だった事もあり、幼い頃よりイマジンに触れる環境で育ち、未来有望な塾生をお手本にあらゆる軍略を学んできた。そして軍師適性を持つ能力に目覚め、入学前からイマジネーターとしての適性を既に得ていた。
 正直な話、彼女にとって遊間(あすま)零時(れいじ)は“敵”とさえ認識するのも(おこ)がましい素人にしかならなかった。そのため多少のつまらなさを感じていた。
 双方の名誉のために言っておくが、別段、零時が弱いわけではない。零時は恐らくBクラス最強候補に入るであろうと教師から予想された一人だ。彼が得意とするスピードは、如何なる攻撃も避け、己の全ての攻撃を当てるに最も都合が良い能力なのだ。“ただ一つの不安要素”さえ克服できてしまえば、彼の実力は一年生全体でも上位クラスと判断されていただろう。
 それほどの相手を持ってしても『素人』の扱いにしてしまうカルラ。彼女の戦略能力は、“ルールが適応される戦いに於いて”は、ほぼ絶対的な勝者とも言えるだろう。
 戦略と戦術は経験と知識による物が大きい。それがイマジンによって増幅させられているとなると、この上下関係を崩すのは難しい事とも言えた。
「この先相手が全部こんなもんだったら、さすがに拍子抜けね………」
 冷たい眼差しで廊下を進みながら、彼女は一人そうぼやく。
 尤も、彼女がこうしてぼやくのにも理由がある。彼女は強者を求めるだけでなく、同時に探しているのだ。自分が軍師として仕えるべき主を………。
「実際に戦ってみないと解らないけど………、他に目ぼしい人っていないのかしら?」
 彼女は呟きながら観戦窓を覗き込み、同クラスの試合を幾つか見聞し始める。



 01



 各クラスには特徴的な思考を持つ生徒で分配されている。そのため、各クラス同士の戦いとなると戦闘に特徴的な光景が現れ始める。
 Aクラスの特徴が能力を全面的に押し出した異能のぶつかり合いなら、Bクラスの特徴は、戦闘がとても静かだと言う事だろうか?
 宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)とジーク東郷の戦いは、ある意味それに近しい物となっている。
 彼等のバトルフィールドは海に近い高原エリアで、近くには小さな森も存在していた。だが、このフィールでのタスクは、能力による拠点の生成『拠点確保』と言う、少々時間の掛るイマジン技術であり、おまけに隠れる場所が限定されていた。必然的にタスクに集中して戦うのは不利と判断される内容であった。
 にも拘らず、出来れば戦闘を避けたいと考えた瓜生は、浜辺近くに隠れられそうな場所を見つけ『拠点確保』を開始した。
 そして早々にタスクを放棄して探索に集中していたジークに見つかる事となった。
 戦闘開始後、瓜生は『霧の国(ニブルヘイム)』の派生能力で『霧化』し、ジークの振るう大剣を回避しつつ、肉弾戦にて戦った。最初は一方的に攻撃を当てていた瓜生だが、すぐにその異常性に気付いた。
(な、なんだこいつ………? これだけ一方的に攻撃を受けてるのに、1ポイントも獲得できないっ!?)
 確かに瓜生の身体能力ステータスも、物理攻撃力ステータスも、イマジネーターの最低値と言われる3程度しか持っていない。だが、これは一流のプロボクサーが、全身全霊を掛けて放つストレートパンチに等しい拳打を普通に放てる数値だ。例え物理防御の数値が高い相手だったとしても、これだけ一方的に殴られて1ポイントも奪われずにいられるわけがない。金剛の様に肉体そのものを変質しているか、カグヤの様にダメージ方向へと躱しているのか、はたまた概念系の能力によりダメージを無効化していなければ、こんな結果にはならない。
(一体何をしてるんだ!? 見たところ肉体的な変化はないし、躱せている様にも見えない………。かと言って概念系の能力を使っているようにも―――)
 解決の糸口を見つけられぬ内に、ジークはやれやれと肩を竦めた。
「通常物理攻撃は全て霧化して回避か………? あまり無駄に力を使うのは気が進まないんだが………どうやらこいつで以外、ダメージらしいダメージを与えられそうにもないようだな?」
 ジークはニヒルな笑みを口の端に浮かべると、剣を中段へと構える。整った顔立ちの所為でやたらと様になっている不敵な姿に、瓜生は眼に見えた狼狽を見せてしまう。Bクラスでありながら臆病さが身に染みている辺り、彼はイマジネーターとしてはあまりにも未熟過ぎる。
 それは、カルラ同様、準エリート学生であるジークに対し、あまりにも愚かな隙であった。
 踏み出す。
 それはあまりにも単調な、そして積み重ねられた技術の集大成とも言える、単純な切り掛りだった。
 通常の人間なら、この一撃に気付いても躱せない無駄の無い一撃であったが、弱腰でも、危機回避能力に長けるイマジネーターである瓜生は瞬時に『霧化』し、すり抜けようとする。

 ザシャンッ!!

「え………?」
 瓜生の口から呆けた声が漏れた。いつの間にか実体化した身体が勝手に膝を付く。立ち上がろうとするが力が入らず動く事が出来ない。
 バタタタッ!! っと言う重たい液体が地面を打つ音が聞こえ、視線を下へと向ける。真っ赤な液体が自分を中心に広がり、不気味なほど鼻に付く鉄臭さを放っていた。
 血だ。そう気付いてやっと自分が斬られたのだと言う事を自覚し―――、首目がけて飛んできた刃を寸前のところで身体を転がして回避した。
 自分で流した血の上を転がり、そのまま寝た状態で立てなくなってしまう。
 何が起きたのか全く理解できなかった。だから必死に霞み始める眼を凝らして状況を認識しようとして―――先に恐怖が体を支配し始める。
 イマジネーターは確かに危機的状況に於いて“最善の答え”を導き出せる存在だ。だが、それは精神を強靭化している訳ではなく、思考と動作を感情や理性などのリミッター無しに同期して行動できるという“仕組み”が成り立っているだけだ。だから怖い物は怖い。そしてその恐怖を回避しようとする思考パターンは、瓜生と言う“個人”の発想であり、イマジネーターの特性とは関係無い。
 だから彼は、このままでは殺されてしまうという恐怖から“逃れるため”の“最善の答え”を導き出した。
(頼む………っ! 助けて………っ!)
 己が流した血を手で掬い、そのまま口の中に流して嚥下する。
 瞬間、体内に血を摂取したと言う“吸血行為”が彼の能力『吸血鬼』の『吸血』を使用したと判断された。彼の内で、スイッチが音を立てて切り替わる。彼の黒かった髪と眼が変色する。ライオンの様に多しい黄金の御髪(おぐし)に血を取り込んだかのような深紅の瞳。
「………ったく、こんな状況で変わるとか何ふざけてんだよアイツは?」
 激情に表情を歪ませながら、彼は立ち上がる。痛みが引いた訳でも傷が癒えたわけでもない。だが、堪えられないほどではない。そう(うそぶ)くかのように立ち上がり、彼は正面の男を睨んだ。
「ひゅ~~♪ なんだ? お前もしかしてスーパーになれちゃう星の子だったりしたのか?」
 楽しそうに口笛を吹く男。その手に持つ剣が、僅かに形を変えているのを、人格の入れ替わった瓜生は見落とさない。ただの大剣であったその刃が、中心から左右に広がり可変していた。剥き出しとなった中心部分からは神格が流れ込んでいて、ジークから送られるイマジンを神格に変えているらしい事を読み取れた。これは剣の特性だ。ジークから力を受け取る事で、剣が本来の力を見せ始めたのだ。その本来の力とは、とてつもなく単純な“切れ味”だ。だが、バカに出来たものではない。その切れ味は、霧化した自分の体まで切り裂いて見せたのだから。
(だが、それだけで十分情報だ。“単純に切れ味の良い剣”ってだけをイメージすんなら、オリジナルで考えるより神話や逸話をモチーフにした物である場合の方が効果が出る。ただの切れ味以外の効果を持たせる場合も、この方が想像し易い。逆にただのオリジナルなら神格は持たせられねえし、特別に神格を持たせる条件にしたとしても、霧化した俺を斬る事は出来なかったはずだ。………あのバカにはそれを想像する余裕もなかったみたいだけどな)
 イマジンにおける“神格”とは、言ってしまえば『最も手っ取り早く強い力を使うためのエネルギー』だ。故に、神格で無くとも、強いイメージを抱ける何かがあれば、それに匹敵するだけの物を使う事が出来るのだ。例えば、金剛は『鬼』のステータスを持っていても『神格』のステータスは持っていなかった。だが『鬼神』っと言う形で疑似神格を持つ事が出来、また、カグヤ戦の様に神格のダメージを受けても、しばらく耐え凌ぐ事が出来た。これらの様に、強いイメージ、ステータスで言えば『イマジネーション』を高く有していれば、神格など無くても充分に対応はできるのだ。
 ただ、イマジンは自身のイメージと他者のイメージにより、その力の強さを左右される。そのため、オリジナルより神話や逸話など、メジャーなイメージを持ち出す事で、イメージの強化を手っ取り早く行うのを好まれていると言う事だ。
(だったら、まずはアイツの剣の正体を掴み取る。反撃はその後だ。………っち、その前に奴の血を飲んで身体を癒さねえと………っ。こんな状態で変わるとかマジふざけんなよなアイツ………ッ!?)
 宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)は、本来イマジネーターになりえるステータス………つまり、イマジン変色体が枯渇していて、充分な能力を発揮できない体質であった。だが、それを覚えた能力、スキルによって、“血の飲む”『吸血行為』をする事で己のステータスを上昇させる事に成功していた。しかし、この能力を使う際、元々患っていた解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorde)により生まれた、もう一つの人格が、能力と言う形で出現するようになってしまった。
 それは良い。このイマジネーションスクールでは、暴走人格が何をしようとした所で日常茶飯事の一つとして片付けられるだけだ。それほど深刻ではない。むしろ、問題視するのはこの状況における能力の条件だろう。
 瓜生は血を飲む事で人格を変更し、ステータスを向上させる事が出来る。また、負傷した身体を癒す事も出来るのだが、人格変更には自身の血で代用できても、自身の治癒には他者の血出なければならないという条件があるのだ。
 現状、いくらステータスが上がって、強化されたとは言え、重傷を負っている事に変わりはない。急ぎ治癒しなければすぐに動けなくなってしまう。
 瓜生の変化に気付きながら、まったく臆した素振りも見せないジーク。彼は、しっかりと距離を計り、動きがまだ鈍い瓜生の避けられないタイミングで剣を振るう。
(あめ)ぇッ!!」
 瓜生はジークの剣を避けようとせず、逆に自ら前に出る。剣が迫る中、彼の身体が霧化していく。
(無駄だ! 霧化しても『魔剣グラム』は何だろうと切り裂く!)
 ジークは一瞬も躊躇わず剣を振り切るが、その剣は瓜生を切り裂く事無く素通りしてしまった。
「なにっ!?」
 思わず声に出して驚く中、瓜生は霧化していない身体を捻り、ジークの背後を取ると、霧化していた身体をくっ付け、元に戻りつつジークの首元に食らいついた。
「テメェッ!? 身体の一部だけを霧化して、()()()()()()()()なぁっ!?」
 霧事切り裂く剣でも、霧の無い場所を斬って霧を斬れるわけがない。つまり、瓜生は霧化してすり抜けたのではなく、霧化して身体を()()()()()のだ。
「まずそうだが貰うぞっ! テメェの血を―――ッ!!」
 ガブリッ! っとジークの首に噛みつく瓜生。次の瞬間ジークが断末魔の悲鳴を上げた。
「ぐわあああああああぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!」

 ―――が、

「………っなんてな?」
 おどけた顔で舌を出すジーク。
 瓜生は眼を見開き驚愕の表情を作る。
(歯が………食い込まないだと………っ!?)
 瓜生の犬歯は『吸血鬼』の能力による加護がデフォルトで存在し、幾多の獣よりも鋭く、肉を割く事に特化している。例え肉体を硬質化していても、それが“肉”である以上は、彼に破れない筈がない。だが、現に瓜生はジークの首、頸動脈に食らいついた牙が、まったく通り抜けていない。筋肉の塊に、ツボ押し様の棒を押し当てているように肉がへこむばかりだ。
(どう言う事だっ!? 服や鎧なんかで肉の上から防御されたのならともかく、肉自体が食い破れないなんて事は絶対に無いはずだっ!? 俺の能力はそう言う“設定”だ! イマジネーションが設定されている以上、それを破ったりする事は出来ねえ筈だぞ!? 神格か? いや、例え神格で身体をコーティングしてたって、肉に牙触れれば問答無用で突き刺さったはずだっ!? ならどうして打ち破る事が―――!?)
 驚愕に彩られる思考の中で、瓜生は一つの答えに行きつく。
 肉を破り、血を啜る自分の能力に、真っ向から逆らって打ち勝てる属性が一つだけ存在する。
 “不滅の属性”―――。
 不滅である以上、それが破壊される事はありえない。破壊されれば不滅という“設定”を覆してしまうからだ。
 だが、これだけでも足りない。ただ『不滅の肉体』をイメージしただけなら、“条件指定”が施されている自分の牙の方が勝つ。相性の問題上、より限定的な能力の方が、強い力を発揮する。こちらの限定条件の方が優位である以上、ステータスイマジネーションが相手の方が高かったとしても、牙を食い込ませるくらいの事は出来たはずだ。
(いや待て………っ!? これは………っ!?)

 ズバンッ!!

 瓜生が『不滅の肉体』のからくりに気付いた瞬間、彼は胴体部分から真横に両断されてしまっていた。彼は悔しげに表情を歪めながら、身体が地面に落ちる前に吐き捨てる。
「“血”と“鋼”と“不滅”の属性………っ! その三つに該当する権能………っ! テメェ、マジもんの“ジーク”にでもなるつもりか? えぇ!? “シグルズ”………!?」
 地面に倒れ、リタイヤシステムの光を散らし始めた瓜生に、ジークは人差し指を立てて、ちっちっちっ………、っと指を振って見せた。
「“ジークフリート”だ。“シグルズ”じゃねえよ」
 「細けえよ………」っと言う瓜生のツッコミは声に出来ず、光となって消えてしまった。
 教師のアナウンスにより、勝利を宣言されたジークはやれやれと肩を竦ませた。
「男とやりあってもこれではなぁ~~………。麗しの美女と戦わせてもらいたかったものだぜ。………俺の身体を斬れるブリュンヒルデは、今何処でどうしているのだろうなぁ?」
 アンニュイな表情がやけに様になっていて、近くに女性でもいれば思わず『ポッ』っとなっていたかもしれない。そんな決めフェイスで一人悦に浸りながら、ジークは次の準備へとさっそく取り掛かる。
 瓜生の獲得ポイントを最後まで0で抑え、ジークはたった15ポイントで勝利を収めてしまった。


 02



 黒瀬 光希(くろせ みつき)VS鹿倉双夜(ししくら ふたや)
 二人の戦いもまた、Bクラスの例に漏れず、静かな物となった。
 互いにタスクをこなしていた最中、偶然出くわした二人は外国墓地の様な場所で向かい合う事となった。
 少し青の混じった紺色で短く整えられている髪。知的な双眸が何処か学者然とした様な雰囲気を漂わせ、口調などとは裏腹に、男とは思えない程の可愛いらしい顔をしている光希。
 腰に届くほどに長い黒髪をポニーテールにた、紫の瞳を持つ少女、双夜。
 二人とも、実戦練習用スーツ(体操服)で身体の線が良く見えているので、普段は気にならない様な所までよく解ってしまう。
 女顔の光希だが、身体つきはカグヤと違い、それなりに男っぽい筋肉が備わっている。
 対する双夜は、意外と大きめの胸が多少強調されるのか、少し恥ずかしそうなそぶりを見せていた。
 二人は対面してすぐに戦闘に入ったわけではなかった。戦いを躊躇ったわけではない。ぶっちゃけ、『墓を荒らし、何処かの棺桶に入っている赤い宝石を取り出せ』っと言う四つ目のタスクをこなしたくなかった。っと言うのもあって、戦う事はむしろ願ったりかなったりだった。
 ちなみに言うと、二人とも一回は墓を荒らしてみたが、一つ目の棺桶の時点で、本気の死体が入っていると知って、慌てて埋め直した。そしてもう二度と掘り返したくないと思わされたりしたのだ。
 っとは言え、二人は対峙したまま一向に戦おうとする素振りを見せない。勘違いの無い様に説明させてもらうと、彼等の能力はとてつもなく攻撃的だ。双夜に至っては殺傷系の能力しか持っていないと言って良いだろう。ただ、二人ともその能力必殺に等しい威力だ。それをイマジネーターの勘が本能的に教えてくれているために、彼等は警戒してすぐに打って出られないでいるのだ。
 必殺の一撃を放ち、それに対処されれば今度は自分が必殺の攻撃を受ける事になる。ならば先手を取れば良いのかもしれないが、既に対峙してしまっているのでそれも不可能だ。何よりイマジネーターの危機察知能力は異常なほどに強い。就寝中の不意打ちであっても、彼等を一撃で倒す事は恐らく不可能なのだ。それ故、先手必殺に掛ける行為はあまりにもリスキーが過ぎる。故にどうしても安全策を探してしまう。
 結果的に互いが同じ事を考えているため、対峙した状態で相手の出方を窺い合っている。
(ん~~………、でもこれだとただ見つめ合ってるだけで埒が空かないですし………)
 最初に行動に出たのは双夜だった。
 右手を掲げ、人差し指にはめられた『赤い指輪』を使い、能力を発動する。
「『赤い本』、『殺人』の項目より抜粋………『斬死(きりじに)』」
 指輪が光を放ち、真っ赤に染まったイマジン粒子を噴き出す。それらは要求された『事実』を“再現”するために渦を巻き、一人の人間をイマジン体として創り出す。生まれたイマジン体はカグヤの九曜や、レイチェルのシトリーの様に、独立した知能は愚か、契の創り出すカードのモンスターが持つ、簡易AI的な頭脳もないらしく、瞳は虚ろで、表情は弛緩し、人形の様に力の感じられない動きで四肢を動かし、手に持つ包丁を構え、光希に向けて突き刺してくる。
「あっぶねっ!?」
 横跳びに転がって避けた光希は、想像してたより地味な攻撃に困惑し、過ぎ去った簡易殺人犯へと視線を送り―――既に眼前に包丁の先が迫っていた。
「―――ぁぁっ!?」
 咄嗟に首だけを動かし躱す。すぐ横を通り過ぎる刃が軽く頬を掠め、小さな鮮血を飛ばす。
 ―――っと思った瞬間には刃が磁石に引っ張られるかのように光希に向けて迫る。
「おおおおおぉぉぉぉ~~~~っ!?」
 地面を転がり恥も外聞も無く避ける。すぐさま立ち上がり適当な墓石の影に隠れる。だが、殺人犯と包丁はそれでも最短最速で追いかけて来て、もはやその動きには物理法則さえ感じられない。
(くっそ………っ!? これが『概念干渉系』の能力が………っ!?)
 『概念干渉系』
 この能力は、金剛の様に自身を強化する『強化系』、カグヤの様に自分ではない者を代わりに戦わせる『操作系』、神也の様に直接攻撃する『物理系』とは違い、相手を直接殺傷する様な物ではない。どちらかと言うと彩夏の様な『物理干渉系』に近い。
 金剛達の様な直接当てる攻撃とは違い、『概念干渉系』は“事実”を最初に持ってきて、その効果を発揮させるものだ。
 解り易く言えば『ゲイボルグ』だ。かの槍は、相手の心臓に突き刺さったと言う“事実”を最初に持ち出し、その後から槍の軌道が追うと言う能力を持っている。
 双夜の使った能力はこれと同じだ。
(たぶんあの指輪に命じた『斬死(きりじに)』って言うのが先に設定された事実! ついでにその理由は『殺人』ってところも設定されてるみたいだなっ!? このイマジン体はその“事実”を達成するための道具で、人型だが生物でさえ無いっぽいなっ!? ここまで“概念”のみのイマジン体だと、攻撃しても――――!)
 うねうねとした動きで追い掛けてくる殺人犯に、光希は手ごろな石を掴み投げつける。拳ほどもあった石は見事殺人犯の額に命中するが、首だけが衝撃を受けて歪み、身体は何の遮りもないと言わんばかりに追い掛けてきた。
「ひぃ~~~~~っ!? 墓荒らした時と同じくらい怖いっ!?」
 怯えながらほうほうの体で逃げ出す光希。おまけに殺人犯の首はいつの間にか完全に治っている。いや、()()()()()。っと言った方が良いかもしれない。
 生物として固定されたイマジン体と違い、ただの概念としてしか生まれていない『殺人犯』は、それこそ『斬死(きりじに)』と『殺人』っと言う事実を“肯定”するための幻であり、力任せに消しされる様な物ではないのだ。
「やっぱ、概念系には概念系じゃないと対処もできないか………っ!」
 足を止め、地面を統べる様に急ブレーキをかけて振り返った光希。彼も己の能力を使うために合言葉(キーコマンド)を口にする。
「コード001、記憶(メモリー)アカウントでログインを開始する‼︎」
 光希の能力発動により、彼が支配する青白い空間が広がる。殺人犯はそれにも変わらず包丁を腰だめに構え、一気に突き刺しに掛る。

 グサリッ!

 腸を抉った包丁から、嘘みたいに大きな音が上がる。
「あ………! ぐ………っ!」
 包丁で刺された男は、藁にもすがる思いで手を伸ばし、しかしその手は何も掴む事も無く空を掴む。力尽き倒れた男を見降ろし、殺人犯は荒い息を吐きながら呟く。
「これで………、これでもう引き返す事は出来ない………! それでも、俺は………っ!」
 決意を強張った表情の中に浮かべながら、彼は血に濡れた包丁を握りしめる。
 そして、何処からか流れるエンディングにエンドロール。
「これ、ちょっと前に終わったドラマの第一話ですよね? 私、再放送で見ましたけど、最終回だけ知らないんですよ?」
「ああこれ? 最後は正義の味方の警察やってた主人公の親友が逮捕すんだけど、主人公が殺し損ねた悪がそいつに罪を全部被せて悪事したもんだから、その親友が主人公の後を引き継ぐように殺し屋になっちゃうんだよ?」
「最近のドラマって鬱な終わり方が多いですよねぇ~~………」
 エンドロールの流れるテレビ画面を眺めながら、双夜と光希は、二人して椅子に座り、机の上に置かれたお煎餅とコーヒーを食していた。
「光希さん、結構すごい事しますよね? 私の≪殺人≫を回避するために、空間事呑み込んじゃうなんて?」
「いやぁ~~………、あの『殺人犯』、攻撃しても消えてくれなさそうだったから、僕の記憶内にあるドラマシーンでしっかり『殺人フラグ』を消化してもらっとかないと回避できそうにないなぁ~~、って思ってさぁ~~」
「そう言う能力でしたか? 憶える物によればとてつもない攻撃力を秘めていそうですよね?」
「生憎本とテレビで見た物は、二次元的な物としてしか取り出せないけどね? でも、ここでいくらか本物を見れば、もっと凄い事出来ると思うよ? ストックなら入学試験で充分稼がせてもらったしね」
 余裕の笑みを浮かべてコーヒーを啜る光希に、「それでは」っと前置きしてから双夜が指輪を掲げる。
「『災害』の項目より抜粋………『圧死』」
 ぐらり………っ、っと、小さく視界が揺れた。
 何事かと光希が身構えた次の瞬間、驚異的な振動が彼を襲い、椅子から投げ出されてしまう。揺れは更に激しくなり、彼の能力で創り出した家が軋みを立てて壊れ始める。
 地震が起きていた。それもマグニチュード8はくだらない大きな地震だ。机の下に隠れるなどと言う簡単な避難も役に立ちそうにない。尻餅を付いた状態でなおも揺れる地面に転がされながら、彼は必死に思考する。
(さっきと同じ『概念干渉系』でも、今度のは『圧死』を想定していた………! 地震で対象を圧死させるには、何か潰せる物が無いと無理だ! この場に於いてそれが可能に出来る物は―――!?)
 そこまで考えた彼は急ぎ庭へと続く窓を破り、地面を転がる様にして脱出した。次の瞬間には家が崩れ、瓦礫の山が室内を押し潰していた。
 だが、それで終わりだ。殺人犯の時の様にしつこく追いかけられる気配はない。
(やっぱりな。僕の能力で作った家ごと『概念』としてまとめて支配されてた。僕が能力を切っていても、家は消滅せず、瓦礫の山が僕に襲い掛かってきた事だろう。………だが同時に、殺人犯と違い『圧死』できる存在、今回の場合で言う『家』が無くなれば、さっきみたいに追い回される事はない。これなら単純に回避できる)
「お見事です」
 息を吐いた光希の元に双夜の声が届く。
 一体何処から? っと思った時には、瓦礫の山が吹き飛び、下から双夜がにょっきりと顔を出した。汚れてはいるようだが怪我をしている様子はない。さすが、あの状況で地震を起こしただけあって自身への対処はしっかりしてあったようだ。
「今のを躱す洞察力は感服する物がありますよ。ですけど………『二次災害』の項目より抜粋………『水死』」
 再び双夜が能力を発動。指輪が光を放ち、『現象』を『再現』する。
 ゴゴゴゴゴゴッ! っと言う地響きが鳴り響き、光希に大きな影が差す。
 いきなり何事かと見上げたそこには、墓地には不釣り合いな大津波が迫って来ていた。
「一応、この近辺は海に近い設定だったらしいですよ? さっき看板見つけました」
「そんな御都合はどうでもいいっ!?」
 例え海がなかったとしてもイマジンなら再現出来てしまいそうな物だ。だからそんな事はどうでもいい。必要なのはアレに対して『水死』を再現されないようにする方法だ。
 一瞬、潜水艦や最新式の救命ボート、もしくはいっそ山でも取り出し、高台に逃げようかとも考える。しかし、これが『概念干渉系』だと言う事を改めて考え、彼は方法を変えた。
 記憶バンクから取り出すのは、入学試験で最も印象強く残っているあの火力兵器。
「メモリーコード006! 『バスターカノン』!!」
 嘗て、多くの入学試験者達を一掃して見せた戦艦級砲台を呼び出し、右腕に装着。狙いを右寄りに定め、記憶データを再生。嘗てその目で見た威力までを記憶から起こして再現する。
 超濃度の光線が発射され、巨大に見えた津波を一瞬で蒸発させる。光希は撃ち出している状態で左に照準をずらしていき、残った津波を全て消滅させていく。
 全ての力を使いきった戦艦砲は光希の身体から離れると粒子片となって消え去った。
 荒い息を吐きながら、しばし様子を窺っていたが、再び津波が起こる気配は見られない。
(やっぱり、『殺人犯』の様な小さな『概念』ならともかく、『地震』や『津波』といった規模の大きい『概念』は、干渉し続ける事は出来ない様だな)
 双夜の能力は『概念干渉系』だ。故に『死』を定義すれば必ず死を与えるまで能力は持続される。故に『殺人犯』はいくらでも光希を追いかけ回した。この理屈で言えば『地震』による『圧死』でも、崩れた家が再び元に戻り、彼を押し潰そうとするのが普通だ。だが、実際にはそうならなかった。これは能力による物ではなく、その能力者、双夜の方に問題があった。
 いくらイマジンが万能であろうとも、それを使う人間までもが万能になれるわけではない。ましてやこれだけの能力だ。干渉する規模が大きくなれば、その分、負担も大きくなるのが当然。双夜は災害レベルの『概念』を何度でも使えるほど、能力を使いこなせていないと言う事だ。
 それを裏付ける様に、双夜の方も「ふぅ………」と小さく息を吐いていた。
「さて、今度はこっちの番と行かせてもらおうか?」
 相手の力に対処しているばかりではいつか追い詰められる。大技の連続で疲れを見せている今が好機と、光希は今できる最大の攻撃力を発動する。
 青白い光が彼を中心に領域を広げる。彼の記憶に収められたデータが召喚(アップロード)されていき、次々と出現する。
 そこに現れたのは、どれもこの学園の一年生なら見覚えのある物ばかり。
 黒の装いに身を纏ったイマジン体の少女、九曜。
 疑似神格を用い、己を鬼神に変えた伊吹金剛。
 戦艦砲を二門構えた機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)
 嘗て、切城(きりぎ)(ちぎり)が呼び出した焔征竜ブラスター。
 その他、名前も覚えれていないイマジネーターやその能力で生み出された存在。おまけに彼等の周囲には、同じくイマジネーターが入学試験の際に使っていた武器の数々まで呼び出されていた。
「コード002~077の記憶(データ)全て解放(フルロード)!」
 更に光希は、カグヤが使っていた神格武装、軻遇突智の槌を呼び出し手に握る。
「『記憶具現化(メモリーインバーディーマーントゥ)』より『記憶暗号(メモリーコード)』を発動………、神格武装への最適化を執行」
 槌を握った瞬間、青みがかった紺色だった彼の髪は、まるで燃えるような紅蓮の赤へと変わる。
 彼の能力、『記憶暗号(メモリーコード)』は、記憶で呼び出された武器に対し、尤も最適な存在へと自分を変える事が出来る。っと言っても髪の色以外は外面的な変化に乏しく、殆どの変化は内面に全て反映されている。
 全ての準備が整ったところで、彼は業火の槌を振るいながら不遜な笑みを作った。
 総勢70以上の戦力を記憶より呼び出し、武器まで揃えた。その姿はまさに圧巻。軍隊レベルの戦力を単体で創り出してしまったのだ。
「さて、どうする? お望みならこれの倍は用意できるけど?」
 光希は強がってそう嘯く。
 真っ赤な嘘と言うわけではない。だが、さすがにこれだけの記憶を呼び出し維持しようと思えば、頭の中で留めておかなければならない記憶の数も同じだけ膨大になってしまう。光希の能力は行ってみれば神経衰弱の様な物だ。伏せたカードを憶えていられる内は能力を発動できるが、伏せられたカードを忘れてしまうと発動していた能力は消え失せてしまう。故に彼は常には呼び出した記憶の数だけ神経を尖らせ、めまいや頭痛などと言ったペナルティーを請け負う事になる。
 それでもまだ余裕はある。集中が途切れて敵の目の前で維持している記憶が消えないよう気を使い、呼び出した数を制限していただけで、確かに余裕もあるのだ。
 故に、ハッタリでも無い。
 その軍勢をゆっくりと見回す双夜。彼女は呼び出された記憶達を前に、僅かに逡巡するそぶりを見せ、………疲れた様に肩を落として溜息を吐いた。
「これじゃあ………、さすがに仕方ないですよね?」
 そう呟き、彼女は右手を掲げ、人差し指に嵌められた『赤い指輪』に命じる。
「『赤い本』『戦争』の項目より抜粋………『戦死』」
 未だ嘗てない程に指輪が輝き、周囲を赤く照らす。赤い光に照らされた場所から次々と現れるのは、嘗て戦争時代に活躍した、歩兵、騎馬、弓兵、操車、戦車、戦闘機、その他多くの時代と国境を無視した『戦争』を舞台にした戦力の数々………。その数は光希の呼び出した戦力に比べ、あまりにも数の差があり過ぎる。陸を、空を、埋め尽くさんばかりに配属された新旧多国の戦争兵器と兵士達。それは純粋な『戦争』の体現者達だ。
「ふうぅぅ~~~~~………。本気でしんどいですけど………、でも仕方ないですよね? イマジネーターまで召喚されて、神格武装とかまである相手に、生半可な攻撃なんて効きませんし? ………だから、今回はちょっと頑張らせてもらいました」
 ギチギチ………、っと、話している内に彼女の身体から何やら嫌な音が鳴り響き、次第に身体が起伏していく。
 ギチギチギチギチ………ッ!! 音は更に大きくなり、彼女の背から服を破って大きな翼が、左手が鋭い刃物の様な物に、脚は俊敏そうな細くも強靭な昆虫めいた物へと変わる。瞳もまた、片方だけが人の目ではなく、別の生物の物へと変わり、より視界を多く捉える物へと変わる。
「すみません………。私、真っ当な人間ではない者で………、ちょっとずるいですよ?」
 異形の姿を模った少女は戦争の体現者達を率い、厳かに告げた。
「さあ………、戦争を始めましょう………」
 光希が槌を構え、臆することなく駆け出し、彼の記憶の兵団達も、遅れる事無く歩み出る。
 『戦争』っと言う最大の戦力を持った二人の個人が、今ぶつかった!


『そこまで! ………両者、イマジン大量使用の過負荷により失神、戦闘不能状態と見なし、引き分けとします!』
 そのアナウンスを教師が流したのは、既に空が暗くなり始めた頃だった。
 両者累計ポイント数………0。
 完全な引き分けで合った。


 03


「………案外私の勝利の仕方って、Bクラスだと珍しい事もなかったのかしら?」
 カルラ・タケナカは、これまでのクラスメイトの戦闘風景を元に、そんな推測を口にした。
 他のクラスの戦闘を見ていないので、比較対象としての情報が不十分なのは解っていたが、Bクラスの戦いは、ポイントによる勝利よりも、堅実な勝利の方が高い様に見える。こんな言い方をすれば「え? 何処が?」っと疑問の声を貰いそうだが、実際問題、このクラス内交流戦は、ポイント制+タスクゲームっと言うルールになっているが、全てのゲームに必勝法が隠されているようにも見受けられた。
 例えば自分達の戦いなら、遊間零時は対人戦スキルは大きいが、拠点破壊には向いていない。なので、カルラが頑丈な拠点に籠城すると、相性の不利が如実に表れ、なす術無く敗北してしまった。しかし、これは『時間制限勝利』の条件があったからこそできた方法だ。『タスクが味方をした』っと言うよりも、まったく戦闘能力を持たないカルラのために『勝てるタスクが用意された』と考えるのが妥当なように思えた。
 そしてカルラは、それを見逃さず実行した。だから勝てた。
 全ての試合がそう言った『勝利条件が仕組まれていた』っと言うつもりはない。実際、ジークと瓜生の戦いでは、タスクに細工らしい物は見受けられなかった。だが、それは逆に言うと、タスクを実行しなくても、瓜生なら勝てる条件を自らに有していた。………っと考えるのが妥当ではないだろうか? この試合のフィールドとタスクには、何処か作為的な物を感じる。それはきっと、彼等が出来レースで敗北、もしくは勝利しないようにと言う、学園側の配慮だったのかもしれない。
(っとなると、私が0点勝ち出来たのは、それだけ実力差に差があったからって事なのかしら? あれ、遊間零時に見つかってたら、なす術も無くやられていたものね?)
 何気にこの学園での戦闘は、結構現実的に理不尽だと思いながら、カルラは肩を竦めた。
「とりあえず、ここまでで見た感じ、危険視するのはジーク東郷と、黒瀬光希(くろせ みつき)鹿倉双夜(ししくら ふたや)の三人かしら? でも黒瀬光希と鹿倉双夜が引き分けてくれたのはありがたかったかも? イマジン過剰使用による失神をしたって事は、臍下丹田の不調で明日は腹痛を引きずる事になってるでしょうし、組み合わせ次第では余裕ね。問題は、まだ手の内を殆ど見せていないジーク東郷………。彼の≪不死身の属性≫、見たところ破る手が無いわけじゃないけど、私だと状況次第かしら? 変な当たり方はしたくないわね………」
 状況分析をしながら、他にいくつか見たクラスメイトの戦いを思い返す。
 その中で一番困らされた試合が風間幸治(かざま こうじ)VS戸叶静香(トガノウ シズカ)の戦いだった。彼等のステージは何処かの遺跡の様な場所で、タスク内容は、宝玉を探し出して指定の位置に持って帰る事で達成されると言う、勝利条件の高いタスクだった。これに静香は、己の能力『先達の教え』にある『征服王』により、無限に走れる体力を得て、突破しようとしたのだが………、結局、戦闘能力と情報能力に優れた幸治に発見され、敢え無く御用となった。しかも静香は幸治の『鎌切鼬(かまきりいたち)の術』で逃げ道を塞がれてすぐに「降参だ」っと潔い判断をしてしまった。能力的にも状況的にも勝ち目がなかったで仕方のない事だが、観察していたカルラとしてはお互いもう少し戦ってほしいとさえ思ったほどにあっさりだった。
 Bクラスは総じてこう言う戦いが多い。光希と双夜の様な戦いの方が珍しく、基本的にはこう言った静かであっさりした勝敗がこのクラスの恒例と言える景色だった。個人差こそあれ、基本的に真面目で堅物意識のあるBクラスという集団には、こう言った潔さが見えてしまい、観戦する者達からすれば、尤も情報が引き出し難い相手だと言える。
 彼等がAクラスやCクラスの戦いを目にすれば、きっと呆気に取られてしまう事だろう。
 っと、カルラがそろそろ外に出ようかと考えていた時だ。廊下の十字路の一つが、少々賑わっている事に気づく。何事なのかと首を傾げ近づいてみると、何やら良い匂いがしてきた。
「さアさア! ヨって言って、見ていくヨ~~! 今なら一つ、たったの100クレジットヨ~~! Eクラスの(よう)(りん)制作! 娘娘(ニャンニャン)(てい)をよろしくヨ~~~!」
 見知った顔の知り合いが、何故か簡易料理店の様な物を開いていた。
「い、一体何してるんですか?」
「おお、カルちん! いらっしゃい!」
「カルラ・タケナカです! ………なんで、簡易料理店なんて開いてるんですか? それも、そんな格好で?」
 カルラは凛の姿を上から下まで眺めて首を傾げる。
 凛が来ている服は、チャイナドレスなのだが、普通のチャイナドレスと違い、あっちこっち無駄にスリットが多く、露出が激しい。背中など殆ど丸見え、スカートのスリットは腰まであってパンツがチラリズムしない事の方が不思議に思える。胸元も綺麗に丸く大きな穴上に開かれ、決して小さいとは言えない豊満な胸が見事に強調されている。これだけでも充分刺激的な露出なのだが、更にスリットの上は網目状の繋ぎになっていて、横のラインが丸見えになってしまっている。お腹にも四角く小さな穴が空いていて、おへそが丸見え状態。肩は露出し、二の腕部分に申し訳程度の袖が通され、腕の露出もかなりの物だ。スタイルに自信がなければ着られない、自信に満ちた衣装としか言いようがない。
「………ふしだら極まりないと思えますけど?」
 多少、厳格な部分のあるカルラは、挑発的とも取れる凛の姿に不満げな声を発する。言われた凛の方は、不思議そうに自分の格好を眺めてから、困ったような表情でカラリと笑い飛ばした。
「あはは………っ! ワタシ、そんなに意識してなカタけど、この衣装、そんなに目の毒カ? 相部屋の子に、『皆が喜びそうな服!』って言ってツクテ(作って)もらたけどネ?」
 そんな破廉恥な服を勧められて、よく着る気になった物だと、カルラが呆れていると、凛の隣から売り子を手伝っていたらしい少年が、仏頂面で不平を漏らしてきた。
「よく言いますよね? 他にもいくつか控え目な物も作ったのに、わざわざネタで作った露出度最高の服を選んだのは凛じゃない?」
 少年は腰に手を当て、ちょっと子供っぽい表情で軽く怒って見せた。
 男性にしては長めの黒髪で、右サイドに糸で編んで作った髪飾りらしき物を結んでいる。瞳は大きく、顔立ちは意外と整っている。可愛い系ではあるが、さすがにカグヤや彩夏の様に女の子には見えない。身長は平均的な方だろうが、凛もそれなりに高めなので、並んで立つとあまり高い様には見えない。今は何故か白いエプロン姿で、凛の店を手伝っている様子だ。
「ダテ、これが一番故郷にチカイ物を感じたヨ! こう言う方がワタシ好きネ!」
「今更聞くけど、恥ずかしいとかないの?」
「は、恥ずかしいわ………、ハズカシイネ………//////」
((じゃあ、なんで着てる………))
 少年とカルラのツッコミが心中で重なる。
 凛は、むんっ、と気合を入れ直して赤くなりかけている顔を元に戻す。
「でもっ! 商売中はそんな事考えてられないよ! ののちんとイオちんは、半端無いしネ! 恥ずかしいくらいで負けてはいられないヨ!」
 気合を入れ直した凛は、注文をしてきた生徒に気付いて、「来来(ライライ)~~!」っと、意味が違う言葉で客を出迎えに行った。
 取り残された二人は、凛の気合いっぷりに思わず溜息を吐き合ってしまう。そこで気付いた少年が、思い出したように自己紹介をする。
「あ、申しおくれちゃって………! 初めまして。僕の名前は市井(しせい)(がく)です。凛とは相部屋なんで、よろしくしてください」
「カルラ・タケナカです。凛とは入学試験以降の食堂で席を隣り合わせた仲です」
「………案外、小さな関係ですね?」
「あの人は仲良くなり易い人でしょうから………」
 笑うでもなくさらりと受け流したカルラは、先程凛に聞きそびれた内容を思い出し再度訪ねる。
「それで、これは一体何なんですか?」
「ああ、これですか? これは一応僕達Eクラスの試験です。Eクラスは芸術化方面の人間が多いですから、戦闘とは別のアプローチで勝敗を決められるそうなんですよ?」
「へ? な、なんですそれ?」
 カルラは思わず難しい顔で尋ねる。生徒手帳の学園説明については一通り目を通していたつもりだったが、その内容は初耳だった。記憶の奥を漁れば、確かにクラス特徴の項目が存在していたのは知っていたが、早足の授業に追われ、さわり程度しか読めていない。
 それを察したわけではないが、楽は和やかに説明を始める。
「A~Dクラスは、単独戦闘が可能な方も多いですけど、E、Fクラスは戦闘外の能力者が多いですからね? 回復能力とか構築能力とか、戦闘外で役に立つ能力を発揮する人が多いんですよ? 音楽、絵画(かいが)、治療、武器構築なんかですね? 単独戦じゃどうやったって評価が貰えないんで、戦闘は自由参加者の中からランダム。それ以外はこの三日間の間、それぞれの能力を活かした『貢献度』で勝敗を決めてるんです。………簡単に言うと人気取りですかな?」
 カルラは目を丸くして驚きを表わす。この戦闘特化で有名な学園では珍しい光景に、戸惑ってしまったのだろう。
 だが、考えてみれば当然の事とも思えた。
 イマジンは想像を具現化する事の出来る万能の力だ。このギガフロートを浮遊させる仕組みから始まり、あらゆる面でその効果を発揮している。その力を研究している学園で、戦闘のみに趣を置くと言うのは、普通にありえない筈だ。もっと多方面に向けて、それこそ生産面で活躍させた方が“国”としては都合が良いに決まっている。戦闘に特化したように見えるのは、そう言う生徒が目立つからというのと、成長具合が解り易いと言うだけなのかもしれない。
「カルちんさんも、時間があるなら色々周ってみたらいいと思いますよ? 中には戦闘に役立つ商品を売ってる人もいますし? ………値段は購買部より高めな気もしますけど?」
「はあ………、そうですか? まあ、見るだけ見てみます。あと『カルちん』って呼ばないでください」
 しっかり忠告してからカルラは凛の出す軽食店を覗いて見る。青椒肉絲(チンジャオロース)や、麻婆豆腐(マーボードウフ)、そして一口サイズの肉まんと、おつまみ程度にもってこいのチョイスが並んでいた。青椒肉絲は小さな袋詰めで、口の中に放り込めるようになっていて、麻婆は茶碗蒸しの様に紙コップに詰められていた。何気に大きめのサイズも用意されているようで、そこそこ盛況にも見えた。
「それってどう言う事ネッ!?」
 突然上がった驚愕の声。反射的に視線を向けると、そこでは凛と160前後の身長に、金髪碧眼のクォーターらしい少女が何かを言い合っていた。“言い合う”と言っても険悪なムードは無く、クォーター少女の話に凛が驚いていると言うだけの様に映った。
「カエちん! この味はワタシの“カテイの味”ヨ! 他にはマネできない筈ネ!」
「ですけど、彼の何でも屋では同じ味のする物が売ってらっしゃいましたわよ? ねえ弥生さん?」
 “カエちん”呼ばわりされた少女は、後ろに控えていた少女へと同意を求める。求められた少女はあっちこっち包帯だらけで、随分痛ましい姿をしている。包帯の足りていない部分からは、青痣が滲んでいて、極度の打撲を負っているのが遠目にも解った。ロングの黒髪をうなじの辺りで纏めているだけと言う簡素な髪型に、幼さの目立つ顔立ちをしている。
 生徒手帳の一覧から見た記憶の中で辛うじて覚えている通りなら、クォーターの方が(くすのき)(かえで)で、黒髪ロングが甘楽(つづら)弥生(やよい)だったはずだと思い出す。
「うん、僕も料理する方だし、味覚には自信あるよ? だから自分でも不思議に思うくらい、これと一緒の味だしてるとこあった」
「そ、ソレテ誰の店ヨ!?」
「え~~っと、誰だっけあの金髪碧眼の不良っぽい子? 僕は遠目にしか見てないんだよね?」
「記憶違いでなければ新谷悠里( アラタニ ユウリ)くんではなかったでしょうか?」
「ちょっと不正ナイか見てくるヨロシ! ガクガク! ちょっと店番よろしくネ!」
 一方的にそう言った、凛は『陽凛の娘娘亭~♪』と背中に書かれた上着を羽織って、一目散に駆け出していってしまう。
 置いてかれて呆気に取られていた楽は突っ込む暇も与えてもらえず、ただ見送る事しかできなかった。
 無意味に伸ばした手だけが虚しく空を握って、彼は諦めと共に溜息を吐く。
「凛ったら、お店を他人に任せてる間、接客ポイントは加算されないって事、忘れてるんじゃないのかな?」
 ぼやきながら、それでも楽は献身的に接客を続ける。
(それにしても、E、Fクラスは、戦闘は任意なんですね? だとしたら、むしろ一位争いは、私達よりも激しい物となるのでしょうけど………、学年最強決定戦は誰が出てくるんでしょう? 非戦闘員が勝ち上がってしまったら、そこはシードになってしまうんでしょうか?)
 疑問に首を傾げながら、カルラはもう一度生徒手帳の未読枠を読み直した方が良いかもしれないと考えるのだった。


 04


 大きな岩がゴロゴロと転がり、雑草一つ見当たらない岩山で、二人の少年少女が対峙していた。少年の方は小柄で柔和な容貌に、クールな表情を浮かべている。少女の方は、真っ赤な髪をした長身のスレンダーながら母性に溢れた身体つきをしている。
 笹原弾(ささはら だん)折笠重(オリガサ カサネ)。それが二人の名前だ。
 二人が対峙しているのには理由がある。それは、この二人のタスクが接触を誘発させる物だったからだ。
 タスクの内容は、『感知』『物理移動』『座標指定』『操作』っと続き、最後は『このドールを操作再現で操りつつ、敵側のドールを破壊せよ』っと言う物だった。ドールは直径20㎝くらいの卵に脚が生えた様な物体で、多少操作が難しいが、素早く動き回る物だった。
 そして現在、このタスクをほぼ同時タイミングで実行していた二人が対面する事になった。ちなみに二人は対面してすぐにドールを何処かに走らせ隠してしまう。もはやガチンコ勝負が始まるのは明白であった。
 先に動いたのは弾だった。彼は二丁の拳銃を取り出し、右の銃を(カサネ)に、左の銃は何処ともない宙を狙ってやや上気味に構える。これらの銃はどちらも購買部で購入した物だ。入学試験時では直接自分の能力で呼び出す事も出来たが、これだと能力に余計な手間がかかってしまうと知って、購買部で相談したのだ(購買部の棚に普通に並んでいるのを見た時は驚かされた)。
 弾は構えた状態でゆっくりと歩き始める。小細工無しに、正面から堂々と踏み出してくる。
「ハンッ! タイマンかい? それともチキンレース? どっちにしろ、正面からってのは気に入ったねぇ?」
 重は真っ赤な髪を手で払いながら、弾に答える様にゆっくりと余裕のある足取りで踏み出す。
 互いの距離は目視できるだけで未だに50mも離れている。互いが歩み寄り、その距離が縮まる中、弾が右の銃を三発発砲。距離にして40。右に持つS&W M645でも当てるには申し分なく、しかしイマジネーター相手に当てるのは不可能な距離。ほんのあいさつ程度のつもりであろう銃弾は、重に届く寸前、何かに叩きつけられるように下方向に角度を変え、地面へと落下した。
 焦らず慌てず、驚愕の表情一つ浮かべる事無く、弾はやや上向きに銃身を逸らし、発砲。だが、やはり銃弾は全て地面へと落下する。続けてやや上向きに修正し直して発砲してみるも、その全てが地面に叩きつけられる。修正すればする分だけ、地面に向かう角度も急になり、当たる気配はない。
(距離35。アップ修正、15発、全弾効果無し。修正後の角度から察するに、能力による『逸らし』ではないと推測。地面に着弾した銃弾の損傷具合から、障壁の様な物で防がれた訳でも、物理的に叩き落とされたわけでもないと判断できる。恐らくは銃弾その物の軌道を変えられたんだろうけど………、全て下方向な理由は?)
 頭の中だけで思考しつつ、弾はますますクールな表情でS&W M645のマガジンを排出。リーロードしようとする。
「球切れか? じゃあ、リロード中はアタイのターンだ」
 重はそう言って、近くにあった大岩へと無造作に手を伸ばし―――、そのままひょいっ、と肩手で持ち上げてしまう。
「ほらよ」
 まるで買ってきた缶ジュースを友人に寄越す様な要領で、彼女は90㎏相当の大岩を投げつけた。
 大岩はその軽がるとした投げ方に見合わず、物すごいスピードで弾へと迫る。時速100㎞は出ているのではないかと言う速度を前に、やはり臆するでも無く、弾は右のS&W M645のリロードに取り掛かりつつ、左の銀のガバメントの照準を岩へと合わせ、発砲。

 バピィンッ!!

 銃弾が岩に命中すると、奇妙な音が発生し、大岩は弾かれ、明後日の方向へと飛んでいき、轟音を鳴らして地面へと落下した。
「ピュ~~~~♪」
 眉一つ動かさない弾の技に感嘆した重が口笛を吹く。
 リロードを終えた弾が再び右の銃を構え、発砲していく。しかし、それら全てが地面へと叩きつけられ、同じ結果を作り出すだけだ。そして、リロードの間に重は大岩を幾つか手に取り、投げつけ、やはり弾き返されるを繰り返す。
 っとは言え、二人ともまだまだ様子見。牽制し合いながら互いの手の内を探っていく。
「重力操作」
 弾が呟く。距離にして20。もはや仕掛けられる距離。
「特殊弾生成ってところか? 今んところ弾くくらいにし使ってないみたいだけどね~?」
 同じく重も返す。互いに互いの手の内を読み取っていると言う様に。
(………仕掛けるならこの距離が限界だ)
 15m。これ以上は近づきすぎても遠過ぎてもタイミングを逸する距離。互いに能力の情報を分かち合う結果となった現在、勝負に出る以外の選択肢は失われている。
 弾は地を蹴った。
 まったく同時に重も前に飛び出している。
 弾は右の銃を連射。フルオートで15発全弾を出しきり、重を狙い撃つ。
 重はそれら全てを地面に叩きつけてから、そこらの岩を蹴りつけ、人間投石を遂行してくる。
 無論、弾は左のガバメントで弾き飛ばし、距離は一気に5mまで接近する。
 互いに負傷は無い。能力が能力だけに、互いの攻撃は命中精度が悪い。だが、それは距離感が変われば一変する程度の物でしかない。
(この距離ならいけんだろ!)
 重が胸の谷間に挟んでいた生徒手帳を軽くタップ。背丈ほどもある巨大な大剣を取り出す。
「うりゃあああぁぁぁっ!!」
 彼女の能力『重力操作(ヘビーマニュピレイト)』で重量を軽くされた大剣は、まるで紙切れでも振り回す勢いで大上段に振り被られ、振り降ろすと同時に重力加重でとんでもない攻撃力を発揮される。その威力は、重量だけで鋼鉄の塊を断ち切ってしまいそうな勢いだ。
 だが、ガンッ!! ガバメントから打ち出された銃弾が剣に命中した瞬間、重力操作で重さを増していたはずの剣が大きく横へと弾かれていった。
(チィッ! この弾く弾丸の効果は当たれば無条件発動かよ!)
 歯噛みする重の懐に、弾は素早く潜り込むと、右の銃を彼女の腹部へと押し付ける。
「この距離でも銃弾を落とせる?」
 勝ち誇るでも無く、冷やかな瞳で重ねを見上げる。
 額から僅かに汗を流しながら、重はニヤリッと笑って返した。
「無理だね」

 ズダダダンッ!!

 弾は躊躇なく引き金を引き、可能な限りの弾丸を叩き込む。咄嗟に後ろに跳ぶ重だが、無駄だ。ほぼゼロ距離から撃たれた八つの弾丸は、間に剣を挟み込ませる隙も無く、重の腹部へと全弾命中し―――、

 ズドンッ!!

「―――ッ!!」
 突如、弾の身体が地面へと叩き付けられた。
 考えるまでも無く、自分が重の重力操作を喰らった事はすぐに予想できた。銃弾をわざわざ落としていたのは、彼女の性格上、タイマン勝負に付き合っていたからと言うだけで、やろうと思えばいつでも弾を潰す事が出来た。
(でも、どうしてこのタイミングで? 撃たれてからでは―――)
 ―――遅いはずだ。そうしこうするより先に目に飛び込んできたのは………、この場合そう言う言い方では語弊があるだろう。何せ、弾は見失っていたのだ。先程までその場にいたはずの重の姿を。
 一体何処に? そんな疑問を浮かべ周囲に『感知再現』を放つと、遠くから重が腹部を押さえて歩み寄ってくるのを見つけた。
「痛てて………っ、『慣性減量』で威力抑えつつ、自分の重力を一番軽くしてダメージほぼ無効にしたのは良かったが、ちょっと考え無しだったかねぇ? 勢い余ってかなりの距離を飛ばされちまったよ………」
 そう言いながら弾の前に立った重は、剣を片手に構えて見降ろす。
「んで? リタイヤするか?」

 ダンッ!

 重の問いに答える様に、弾がガバメントの引き金を引いた。だが、身体を押し潰されている状態で、無理矢理片手だけ持ち上げて撃った弾丸は、重に当たる事は無く、近くの石に当たって何処かへと跳ね返って行くだけだった。
「そいつが答えか………」
 ちょっとだけつまらなさそうな表情をした重は、諦めたように溜息を吐いて、大剣を持ち上げる。トドメの一刺しを弾に与えるため。

『試合終了! タスククリアー! 勝者笹原(ささはら)(だん)!』

「………はえっ!?」
 剣を持ち上げた状態で固まってしまった重は、直後聞こえたアナウンスに耳を疑った。
 そんなはずはないと言う彼女の希望を裏切る様に、岩山の背景は、元のただ白いだけの部屋へとか戻ってしまう。
「ど、どど、どう言う事だっ!?」
「『感知』を使ったのは君を探す為じゃないよ。ドールを探していたんだ」
 仰天する重に、能力を解いてもらい自由の身となった弾が立ち上がりつつ教える。
「は、はあっ!? 何言ってんだテメェ!? 吹かしてんじゃねえぞっ!? アタイはドールを結構離れた位置に隠しておいたんだぞ!? しかも物影にだ! 弾丸を跳弾(ちょうだん)させて撃ったって言いたいんだろうが、弾が当たる頃には速度も緩くなって威力激減だ! 数発ならともかく、一発で撃ち抜けるわけねえだろっ!?」
「だから()()()で撃った」
 言いつつ弾は左手のガバメントを軽く揺らした。
「もう解ってるだろうけど、こいつの弾は全部、僕の能力『特殊弾生成』による特殊弾でね? こいつは命中さえすればどんな物でも弾き飛ばす事が出来るんだけど………」
 それは重も知っている。だから自分の剣は重力操作していても簡単に弾き飛ばされてしまったのだから。だが、それが一体どうしたと言うのだろうか? 首を傾げる重に、弾はクールな表情のまま軽く笑みを作った。
「その効果は跳弾させた後で発動させる事もできまして? それでドールの近くの岩を弾き返したりなんて事も出来てしまうんですよ? その岩が偶然ドールを押し潰したりなんてしたら、さすがに堪えられないんじゃないですかね?」
「んなぁ………っ!?」
 真実を聞かされた重は、それ以上何も言い出す事が出来なかった。正面の戦闘に気を取られ過ぎて、己の護衛対象を打ち取らせてしまった。完全な敗北。
 笹原弾の勝利は、僅か3ポイントで勝ち取られた。


 05


 Bクラスの戦いはとても静かだと称したのを憶えているだろうか?
 この戦いは、正にその代表的な戦いとなった。
 天笠 雪(あまがさ ゆき)VS御門 更紗(みかど さらさ)。この対戦カードは、Bクラスを代表する戦闘の一つと言っても良いかもしれない。
 何しろこの二人、最初から戦闘を放棄している上に、互いに顔を合わせても微笑を浮かべ合って、しっかりと腰を折った挨拶まで交わし、そのままスルーしてしまう始末。互いにタスク以外には目もくれていない。完全にバラエティー番組のゲーム勝負状態だ。
 さて、そんな状況である以上、タスク(ゲームルール)の説明をしなければなるまい。
 今回のタスクはとても簡単でいきなりな内容だった。
 試合開始直後、いきなり生徒手帳に電子メールが届き、以下の内容が伝えられる。

『フィールド内にある開閉式コンソールに、36桁のパスワードを打ち込み、自分の物として認証させよ。コンソールは大量に存在し、一時間以内に多くのコンソールを掌握した物の勝ちとする。なお、認証済みのコンソールでも、再登録は可能な物とする』

 こうして始まった陣取り合戦に、二人の行動は早く………そして遅かった。
 別にゆっくりスタートしたわけではない。単に二人とも身体的に恵まれておらず、おまけに身体能力ステータスが二人合わせても30に満たないと言う驚愕の低さ。身体能力ステータスを3しか持っていないカグヤや瓜生(※瓜生はステータス変動を持っているが………)でも、それなりに脚が速いと言うのに、この二人、見た目通りの女の小走りで、可愛らしい所作に似合った鈍足走行だった。そのため二人の立ち上がりは、今までの戦いに比べると、とてつもない温い立ち上がりとなる。
 彼女達二人のために弁明しておくが、鈍足と言ったのはイマジネーターとしてはと言う話だ。身体能力ステータス数値を3も有していれば、元々の身体にどんな障害を有していようと、100mを10秒以内にゴール出来てしまう身体能力を身につけられるのだ。
 例題として、身体にも恵まれず、身体ステータスも最低値のカグヤが100mを走破した場合、およそ9秒58でゴールする。これは既に、地上で言う人類最速の速度だ。もちろん、これは純粋な身体能力ではなく、無意識化で肉体に施しているイマジンの恩恵があってこそ発生する現象なのだが………。
 現在、この二人の速度は、普通に50mを10秒で走破する、高校生の平均速度にまで落ちていそうだ。これを見ていた浅葱礼(あさぎ れい)教諭28歳独身(うるさいわよっ!)は、「前代未聞の平均速度だ………」と、呆気にとられたほどだ。むしろ何故こんなに遅いのか、そっちの方を調べたくなったと言う。
 っとは言え、そこはやはりイマジネーター。彼女達は『見鬼』や『探知再現』を駆使して効率良くコンソールを発見。脚は遅いが脚力は充分あるので(此処でも教師は「何故だっ!?」っと戸惑わされた)遮蔽物を気にする事無く最短ルートで効率良く自陣を広げていった。
 まあ、そんな事をしていれば、コンソールを巡って走り回っている内に互いが接触する事などありえない話でも無く、また、コンソールを開くのには時間もかかってしまうので、接触した瞬間に戦闘になるのが普通だったのだが………。
「あら? どうも」
 接触してさっそくお辞儀して挨拶する天笠雪。手を揃えてしっかりと腰を折る育ちの良さが受け取れる綺麗なお辞儀だった。
「………♪」
 それに対し御門更紗は、生徒手帳からフリップボードを取り出すと、そこにマジックで『こんにちは』と書いて見せる。それからしっかりと自分もお辞儀をして御挨拶。親の躾が行き届いてる事が窺える、庶民的だが親しみやすさの窺える可愛らしいお辞儀だった。
「これは御丁寧に。………タスクは順調ですか?」
『結構頑張ってます!』
「私も頑張らせていただいてます。あ、この先を行かれるのでしたら、もう私が入力したコンソールばかりですよ?」
『この先は私が入力しました』
「では、これから勝負ですね♪」
『お互い頑張りましょう』
 ニッコリほほ笑みあった二人はそのまま互いを素通りして、敵陣に進行して行った。
 戦闘は………起こらない。
 Bクラスの戦闘は戦略的であるため、ぶつかり合ったとしても立ち上がりが静かだ。接触したとしても戦いにならない可能性はまれなケースではない。ここまであからさまなのは、さすがに意外な光景ではあったが………。
 更紗は雪と別れてから最も近いコンソールを発見する。コンソールには三つの色があり、赤もしくは青なら、どっちかが占領していて、緑であればノータッチだ。今回更紗は赤。見つけたコンソールは雪の宣言通り青い光を放ち、雪の所有物である事を主張していた。
 これらのコンソールは縦長の近代的な箱になっている。箱と言うよりもコンピューターの方がイメージとしては近いだろうか? 俗な言い方をするなら、某魔法学園の劣等性主人公が参加した競技に出てくるアレだ。解らない場合はその方がいいとも言えるので気にしないでほしい。
 更紗はさっそく『解錠』を使ってコンソールを開こうと試みるが、すぐにそれが“不可能”だと解った。どうやらこの閉じられたコンソール、イマジン技術による『施錠』ではなく、個々人のアビリティ、『能力』によって鍵を掛けられているようだ。単なる技術だけで開けようと思えば、きっと相当の時間がかかってしまう事だろう。
 だが、更紗はそれに気付くと、僅かに安堵の息を吐く。自分が攻略したコンソールに鍵を掛けておく手段は自分もしていた事だ。予想はしていた。幸いにも、自分には開く方の能力も持ち合わせている。
 更紗は、一度だけ周囲を確認してから、きわめて小声で呟く。
「………()いて」
 呟きは力となり、概念に干渉。呟かれた言葉を実行するためコンソールは自ら蓋を開こうとする“現象”が発生(おき)た。

 ガガッ! ガッ! ギュ~~~~ン………。

「………?」
 しかし、開こうとした蓋は、一瞬だけ振動して見せただけで、すぐに大人しく沈黙へと戻ってしまった。
 御門更紗の能力は『言の葉』。言葉にしたもの全てを『現象』として再現する力。概念に言葉を用いる事で干渉するこの力、物理的な力の全てをひっくり返してでも実行される。しかし、目の前のコンソールは開く気配を見せない。それはつまり、自分よりも高位の能力によって封印されていると言う事になる。
 更紗は知る由もなかったが、雪の能力は『封印』。そして彼女のイマジネーションのイマジン変色体ステータスは900と言う並はずれた数値を持っている。対する更紗は300.“封印する”っと言う力と“封印を破る”っと言う力が正面からぶつかり合った結果、より能力の再現率の高い、雪の『封印』が優先されたと言う事だ。
 それに気付いた更紗は胸に手を当て、瞑想して心を込めてから、もう一度呟く。
「開け」
 今度は言葉も命令形。より強力な言霊によって行使された現象は、コンソールに無理をさせる異様な音を鳴らし、続いて、ガラスがひび割れる様な音を鳴らして沈黙した。どうやらもう一歩たらなかったらしい。
 更紗はちょっと悲しげに涙を浮かべると、もう一度開いてほしいと言う想いを込め直してから「開いてくださいっ!」と小さな声で叫び、やっと扉が開いた。これでやっと入力する事が出来る。しかし、この後もこんな事が続くのかと思うと多少の疲労感が押し寄せてもきた。何しろ彼女の能力は力加減が解らない。「なんとなく?」っと言う感覚で行使した言葉が思いがけないほど高威力で発生する場合もあれば、宝くじを当てようとして「当たれ!」と命じたのに、ポケットティッシュしかもらえないという結果だったり、ともかく強弱が解り難い。今回は三回程度で開いたが、次も早く開けるかは解らない。
 幸先の不安に、更紗は泣きそうになりながらコンソールに入力をしていくのだった。


 雪もまた、更紗のコンソールを見つけた。こちらのコンソールも更紗の能力により「開けちゃダメ」と命令を受けて頑なにコンソールを閉ざす“現象”を起こしていた。
「えいっ」

 バカンッ!!

 ………開いた。
「『封印解放』。私の能力は封印する事と解放することの二つを得意とする能力なんですよ? ごめんなさいね御門さん♪」
 能力相性の良さに幸先いいスタートを切った雪は、開いたコンソール内のパスワードを確認して、それを入力していく。

 ビー、ビー、ビー!

 エラー表示が出た。
「………あら?」
 もう一度入力。

 ビー、ビー、ビー!

 パスワードが違うとまたエラーを出された。
「………。え? な、なんでですかぁ~~~っ!?」
 涙目になって再入力を繰り返す雪。しかし発生するのはエラー表示ばかり。
 雪は知らない。解錠される可能性を考えていた更紗が、もう一つコンソールに命令している言葉があった。

「パスワードの順番を逆に表示してください」

 その命令を受けたコンソールは、表示するべきパスワードを、本来の順番とは逆方向で表示していたのだ。
 これに気付いた雪は、すぐに『封印解放』を試みたが別に“封印されている訳ではない”ので、効果が無く、純粋な知略を振り絞る事で何とかコンソールを自分の掌握下に置いた。
 雪は雪で、更紗の人知れずの反撃を受ける事となったのだった。


「はい、試合終了~~~」
 浅葱(あさだ)(れい)は、審判役の教師として宣言し、フィールドを元の白い空間へと戻す。仮想空間から戻ってきた生徒二人は、お互いへたり込んで息を切らせていた。運動量による疲労ではなく、完全無欠に頭の使いすぎによる疲れだった。
 二人は疲れ切った表情で振り返り礼に向かって問いかけた。
「どっちが勝ちましたか!?」『どっちが勝ちましたか?』
 片方は声で、片方は字を書いての質問。礼は「はいはい」と言いたげにぞんざいな態度で説明する。
「天笠雪、獲得コンソール48。御門更紗、獲得コンソール32。よってこの勝負、天笠雪の勝利! ………っは、良いが! お前ら少しは戦え~~~っっ!!」
 突然怒られてしまった二人は、反射で背筋を伸ばして正座した。そのまま長々と礼に叱られ続けてしまったのだが………。
 彼女達二人のために、誰もツッコミ役がいなかったので、ここでだけは皆に伝えておこう。
 この学園は戦う事を推奨しているが、もちろん戦いが絶対の方針ではなく、互いの意思が同じなら、戦いを避ける事もまた正しい判断なのだ。つまりこの場合、誰も怒られる必要など無いと言う事、なのだが―――。
 今こそ明かそう。何故二人が怒られてしまっているのか? その理由は!
「お前らが戦わないと、審判役してる私がつまんないだろっ!!」
「すみませんっ!?」『すみません!』
 ツッコミ役不在の状況では、浅葱礼王女の独裁政治を止める者はいないのであった………。


 06


 Aクラスに比べると白熱と言う部分に欠けるBクラスの試合内容であったが、その分異彩を放つ試合風景となった。試合後、戦闘に参加した他のクラスに比べると、元気さを残したBクラスには、割と余裕が見られ、色々な事に手を伸ばす。
 特段、試合をあっさり勝利してしまった風間幸治(かざま こうじ)などは、放課後、学園の周辺を見回ってみる事にした。
 せっかくなので、ここでギガフロートの紹介を簡単にしておこう。
 皆、忘れているかもしれないがギガフロートは常に低回転を続けており、東西南北が定まらない。そのため、方角を花木に例え直し、ギガフロート内での固定方角を決定してしまう考えが生徒の間で作られた。東は『桜』、西は『楓』、南は『(えんじゅ)』、北は『(ひいらぎ)』と言った具合だ。学園はギガフロートの中心にあるので、そこを中心に、通常の地図と同じように()を上、()を右として表わした場合で説明する。学園からやや南東、イマスクでは空木(うづき)の方角に学生寮が存在する。
 柊の方角は全てが自然で埋め尽くされており、上級生が時たま生産系能力者に必要な素材探しをしに行ったりする事もあり、訓練や授業にも使われる、とても危険な場所だ。
 槐の方角は町が存在する。ギガフロート関係者の家族など、イマジネーターではない一般人の住む住宅地や、日用品、娯楽施設など、普通の街並みが展開された平和なエリアだ。
 楓の方角は柊の方角同様に自然地帯だが、こちらは危険度の少ないエリアで、気軽に遠足などが楽しめる。海ほどに大きい浜辺なども存在するので、休暇を楽しむのには最適と言えるかもしれない。
 桜の方角には逆に研究機関が多く、イマジンについての研究施設関係が大量に密集している。教師はともかく、生徒は許可証が無ければ入る事を禁止されている程の厳重エリアだ。
 今回、風間幸治(かざま こうじ)が向かったのは学生寮近辺ととても近場だ。何しろまだ学園に来て浅い上に、街に繰り出す余裕は懐的に存在しない。三日間の試合中なので結果が出るまではバイトを探すのもままならない。そんな訳で、彼は学生寮周辺を見回っていたのだ。
 学生寮周辺では現在E、Fクラスの催し物が幾つも並んでいた。その中で最も人気を勝ち取っているのは、小さいながらにステージを用意した二人の少女だった。
「それじゃあっ! お次のナンバーは………っ! 『SMOKY THRILL』のカバーソング! 最後まで皆の事、楽しませちゃうよ~~~★」
 そう宣言して歌い始めたのは、光の加減で七色に変色するピンク色の髪を持つマイクを持ったフリフリアイドル衣装の七色異音(ナナシキ コトネ)。その斜め後ろでバイオリンで伴奏を担当している茶色の短髪に黒い瞳をした少女(かなで)ノノカ。二人はまるでアイドルとその伴奏役だと言わんばかりに堂々とした立ち居振る舞いで演奏し、色々足りない筈のステージを補って見せた。
「ふむ、これは中々………。この学園は戦いばかり目立っておったが、こう言う一面もあるのだなぁ~~。実に興味深い」
 うんうんと頷きながら感心する幸治。
「うおおお~~~~! 観に来てよかったぁ~~~! 異音ちゃぁ~~~んっ!!!!」
「そしてそれを応援する御馴染のファンの姿も………、ある意味では興味深い………」
 呆れる幸治は、視線の先でサナトリウムを三本ずつ手に慣れた動きではしゃいでいる天然パーマの少年を呆れたように見つめる。彼は名を知らないが、この男は弥高満郎(やたか みつろう)っと言う名だった。彼を筆頭に、どうやら異音のファンは一日目にして既に出来上がりつつあるようだ。中には既に上級生もいる所を見ると、こう言った娯楽は、上級生と下級生の差を感じさせない物なのかもしれない。
「っとなると、もしやE、Fクラスの人気投票と言うのは、かなり熾烈を極めるのではなかろうか?」
 E、Fクラスの芸術部門評価は、個人以外にも団体として組む事が許されている。しかし、団体の場合、獲得したポイントは人数分均等分配され、四捨五入された点数が得点となる。つまり、人数が多ければ、その分獲得しなければならない点数も増やされると言う事だ。これはもしかすると、純粋に戦うだけの自分達より、得点争いは高度で激しい物なのかもしれない。そんな中で、敢えて戦闘部門を取る生徒と言うのはどう言った実力者なのだろうか? 大きな興味を引かれる幸治だったが、E、Fクラスの試合会場は別に用意されているらしく(特別扱いではなく、ただ単に人数が少ないが故)、今のところ確認できそうにはなかった。
(まあ、いずれお目に掛れる機会もあろう。その時はじっくり観察させてもらおう)
 そう心に誓いながら、幸治は異音の歌を耳にしながらその場を後にしようとする。ふとその時舞台裏が眼に映って気付く。フリルのついたアイドル衣装を身にまとった少女がもう一人いる事に。少女は裏方を手伝う他の生徒数名に囲まれて、何やら話しあっている様子。
(なんともう一人いたのか? どれ、せっかくなのだからお手並み拝見と―――)

「あ、あう、あうあう………! ごめんなさい! やっぱりむり! 私こういうのテンパリ過ぎてぜんぜんダメです! ホントごめんなさいムリムリムリ!」
「ちょっと落ち着いて雪白さん!?」
「チョイ役みたいなもんだって! だから落ち着いて!」
「い、いいい、いや! もうほんとむり! 良く考えたら私Dクラスだから、ポイントなんてもらえないし! むりして出なくても良いかなぁ~~? って、思うよね! ね!?」
「せっかく異音さん達が誘ってくださったんですよ!? 此処で出なくてどうするんです!?」
「ごめんなさい………。私には無理★」
「なに達観した顔で異音さん風に言っちゃってんです!? それで許されると思ってんのかですっ!?」
「いや~~~~!! 本当にむりです~~~! クライドくん助けて~~~~!」
「安心してください静香さん。責任は全てアナタですが、ギャラは全て私ですから♪ 静香さんの望まれる通りにしていいんですよ」(ニッコリ)
「腹黒いよ! すがすがしいくらい腹黒いよ~~っ!?」

「………。さて、次は何処を見に行くかな?」
 幸治は何も見ていないし聞いていない事にした。
 Bクラス一日目は、こうして呆気ない感じで終わりを迎えた。



あとがき

凛「ちょっと気にナタ事があるヨ?」

美鐘「どうした?」

凛「E、Fクラスの出し物がこのアタリで紹介されてる言うコトは、もしかしてE、Fクラス編は飛ばされるのカ?」

美鐘「作者次第だろうが………、まあ、非戦闘員の話は飛ばされるんだろうな」

凛「あ、ワタシ関係無いなら問題無いネ♪」

非戦闘能力者達『おいっ!?』




雪「疑問に思ったんですけど? 凛さんや、他のE、Fクラスの皆さんの出し物? アレらの材料は何処から取り寄せてるんですか?」

楽「購買部で注文すればその日の内に届きますよ? それなりにお金掛っちゃいましたけどね………? でも、この学園、成績が良いと特別報酬とかでお小遣いが貰えるので、がんばらない訳にもいかないですよ」

雪「でも、報酬って、この学園で言うところの“奨学金”でしょ? 目標単位が取れなかったり、順位が低いともらえなかったんじゃ?」

楽「だから必死ですよこっちは………。単位を取るためにはいい品を出さなきゃいけない。でもそのためにはやっぱりどうしたってお金がいるんです。計画的に行動しないとあっという間に空っ欠です」

雪「AクラスもBクラスも、金銭の問題は変わらないものね………。ちゃんとした収入源を見つけないと大変な事になっちゃいそう………」

楽「アルバイトでしたら槐の方角に町がありますから、そちらに行くと良いみたい? 意外とギガフロートのバイトは儲かるらしいから、言ってみる価値はあると思う」

雪「ありがとう。私も今度行ってみようかな?」




カグヤ「こんちわ~~? バイトに着たカグヤですけど?」

佐々木「やあ、来たね? 俺は佐々木と言うんだ。一応教師の扱いになってる研究者だよ」

カグヤ「はあ、どうも? ………あの、もしかして俺に『ライセンスコード』取得を早めてくれたのって………?」

佐々木「ああ、一応俺だね。………ああ、勘違いしないでくれよ? 善意じゃない。ちゃんとしたビジネスだ。だから君にはしっかり働いてもらうからね?」

カグヤ「いや、俺が聞きたかったのはその理由。………もしかして、取得試験で提出した『イマジン研究部門の希望』なのかなって?」

佐々木「そうだね。イマジン体を一個の存在―――つまり完全に人間の生成実現させる事を目標とした『イマジン生物学』の研究に協力したいと思ってるんだよね? いやぁ~~、これには協力者が少なくてねぇ~~? 正直、猫どころかトカゲの尻尾だって借りたいくらいなんだよ。………いや、蛇の抜け殻の方が御利益ありそうかな?」

カグヤ「どっちにしてもいざという時切り捨てられそうな例えですね?」

佐々木「ああ、これは失礼。俺の能力はイマジン能力を全て看破する事が出来る。お詫びと言うわけじゃないが、能力関係で何か質問がアレば、いくらでも答えるよ?」

カグヤ「じゃあ、さっそく聞きたい事が―――」

佐々木「おっと、その前にまずは仕事をしてもらおう? 家は高額だが、内容は面倒だよ?」

カグヤ「はあ、解りました………」

カグヤ(意外と食えないおっさんだな………。こう言うタイプが何か裏を持ってると厄介なんだよなぁ~~………)


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一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅳ

Bクラス編書き上げっ!!
明日も朝五時半起床なのに大丈夫か私っ!?
そしてトコトン書き難いなBクラス編!

なんとかBクラス全員を登場させられたと思うのですが、ちょっと日常編が足りないかも? 不完全燃焼。
ちょっと誤字脱字が気になってはいますが、その辺はまた『ぬおー』さんに期待しましょう。

それではお楽しみください。


一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅳ


 0


 クラス内交流戦二日目、早朝。
 目が覚めたその人物は、ベットから上体を起こし、悩ましげに髪を掻きあげ、頭が覚醒するのをしばらく待つ。
 部屋の中では、まだ眠りにあるらしい同室の友人の寝息が聞こえてくる。
 頭だけ動かし、ベットで眠る友人の健やかな顔を確認すると、何故かおかしくなって小さく笑みが漏れた。
 そのままベットから降りると、真直ぐ浴室へと向かう。特に寝汗をかいている訳でもなかったが、それなりに美容には気を使っている。生まれが生まれだけに、あまり見苦しい姿にはなりたくない。朝から温めのシャワーを浴びて、さっぱりした気分になると、寝ぼけていた頭もクリアになっていく。
 風呂から上がりタオルを掴み取ると、下着だけを穿いた状態でベランダに出る。窓を全開に開くと、清々しい清涼な風が吹き込んで来る。ここ、ギガフロートは雲の上に達する高さだ。早朝の風は相当に低い気温になるはずなのだが、イマジンによる制御が整えられているのか、何処かの霊山で浴びる様な清らかな空気に、寒すぎない程度の気温だった。
 下着だけの格好でベランダに出ると、さすがに少し肌寒い。だがそれ以上の気持ちの良さを堪能しながら、濡れた髪をタオルで拭き取り、艶めかしい吐息が零れ落ちた。
「ふぅ~~~………。やはり、ギガフロートの早朝の風は最高だぜ!」
 ジーク東郷はとても晴れやかな表情で髪の毛の水滴を払った。その姿は、近くに女性がいれば、ほぼ100%が見惚れてしまいそうなほどに色気がある光景だろう。
 …………。
 …………。
 ……誰だ? 今「騙されたっ!?」的な事言った奴?
 誰だ? 今「騙されねぇよ」的な事言った奴?
 騙すつもりもなければ、引っかけのつもりもないぞ? ホントだぞ? ホントにホントだよ? 騙されるなよ? 嘘じゃないよ? 本当に嘘じゃないからね? 絶対だよ?
 ………。
 ………。
 何はともあれ、ジークは早朝の風を浴び、ベランダから眼下を見降ろしてみる。
 玄関先では寮長の早乙女(さおとめ)榛名(はるな)が、一年生の少女と楽しそうに談笑しながら掃除をしていた。この一年生の女子には見覚えがある。同じBクラスの天笠(あまがさ)(ゆき)だ。なんで彼女が寮長と一緒に掃除をしているのだろうか? 首を傾げながら耳を澄ますと、風に乗って僅かな音声が聞こえてくる。
「雪さんは朝が早いんですね?」
「ええ、御家柄こう言った事には率先して行動するように申しつけられていましたので」
「ふふっ、でもお掃除まで手伝ってくれなくても良かったんですよ? これは私の仕事なんですから」
「はい、実際寮周辺が綺麗になっているのは、早乙女先輩が毎日綺麗にしてくださっているからだと窺えました。私が出しゃばるべきではないと思いつつも、こんなに頑張っていらっしゃる寮長の姿を見ると、少しでも手助けできないものかと身体が勝手に動いてしまいました」
「あらあら? 育ちの良い方は苦労を重ねてしまいますね?」
「それがそうでもありません。何しろ“育ち”ですから、もうこの生き方が性に合っているのです」
「まあ? でしたら、その好意に甘えて、手伝ってもらっちゃいましょうか?」
「はい」
 まるで由緒正しきお嬢様学園での会話かと思える優雅な口調と仕草で上品に世間話をする二人の少女。同じく育ちの良いはずのジークも、場違い感に思わず苦笑を浮かべてしまう。
 二人が会話する位置とジークとの距離はそれなりにある。本来ならこの様な会話など聞こえる筈もない。もちろん、イマジネーターと言えど、並はずれた聴覚を持っていると言うわけではない。これはイマジネーターの『理解力』に原因がある。
 二人の会話は確かに遠くて聞きとることはできない。だが、静かな早朝で耳をすませば、微かに二人の発した声―――空気の振動を聞き取ることはできる。それが言葉として理解できないだけで音だけは聞き取れている。この聞き取った僅かな音の情報を脳内で処理し、再び言葉として変換する能力が人並み以上に優れているため、イマジネーターはこの距離での会話を“理解”する事が出来る。
 つまり実際には聞こえている訳ではないので、聞き間違いと言う可能性ももちろん出てくる。
 っとは言え、やっぱりそこはイマジネーター。その正解率はほぼ100%と考えて良い。
 ジークが彼女達の姿を見つめていると、誰かが庭の方から走ってくるのが見えた。今度はそちらへと意識を向けてみる。
「ゴール~~~♪ 僕の勝ち~~♪」
「ムゥ………、脚では敵わん」
「カナミ、負けました………」
「はあ、はあ、はあ………っ! 軽いジョギングのつもりが何故こうなったっ!?」
「いつから競争始めてんだお前ら? ってか、お前も付き合わなきゃいいだろうが?」
 玄関先の庭まで走ってきたのは、上から順に甘楽弥生、桜庭啓一、鋼城カナミ、明菜理恵、東雲カグヤの五人だったのだが、ジークは誰の顔も憶えがなかった。
「く、くそ………っ! 珍しく朝早くに目が覚めた物だからちょっと走ってみようかな? なんて変な気を起こしたばっかりに………っ!」
「全力疾走で付き合ってそれを言うのか?」
「う、うるさいな! ………って言うか、あれ? 君もっと上品な喋りの人じゃなかったっけ?」
「何それ? 」
「ああ~~………、いや、勝手にそう思ってただけ………。ほら、見た目良いとこの女の子だし?」
「では、見た目通りに振る舞えば何か得があるのかしら?」(猫かぶり)
「………!」
「え、何その満更でも無さそうな反応? お前もしかして白い花の人?」
「ちがうっ!!」
「まさか、男のくせに女の子として振舞う方にしか性的興奮を得られないと言う、あの―――!?」
「断じて違うっ!!」
 明菜理恵と東雲カグヤは、何やら楽しそうに談笑をしている。
 だが、カグヤの方は平常運転な様に見えるのに対し、理恵の方は少々戸惑いの様な物が見られる。まるで予定していた物が異なり、その違いに戸惑っている様でもある。
(そうでなくてもカグヤと理恵は相性悪そうだがな………)
 いくら特殊な人間の集まる学園とは言え、人間は人間だ。うまの合わない者も出てくるだろう。例え相手が悪人でなくても、人が人を嫌う理由はいくらでも探せると言う物だ。
 理恵がカグヤに苦手意識があるらしい様に、カグヤもまた、早朝ランニングをしていたメンバー達とは上手くいっていないらしい。未だに何か談笑する面々を軽くあしらい、寮へと戻ろうとしている。
「おはようございます」
「んお? ………ああ、おはよう」
 寮に戻ろうとしたカグヤに、箒がけをしながら雪が話しかける。軽く流そうとしたカグヤに、雪が何事かを呟き、その足を止めさせた。振り返ったカグヤは、無表情ではあったが、瞳だけを真剣な物へと変えて何事かを返している。残念ながら声のトーンを落としたらしい二人の会話はジークには聞き取る事が叶わなかった。
(喧嘩とか言い争い………じゃあ、なさそうだが? 一体何を話してるんだ?)
 気になったジークは、何とかイマジンの基礎技術で音を拾えないかと目を瞑ってあれこれと試してみる。その試みが叶い、多少二人の会話が断片的に届いて来た。
「とりあえず、和服を着てる時はマジで下着を着用しない事をお勧めしよう!」
「そ、そのような迷信が一般的なのですかっ!? ///////」
「それを知っている事で俺が楽しい!」
「アナタ個人の意見じゃないですかっ!?」
「いや、世の男子は結構喜ばれると思うぞ?」
「それは違う意味で喜んでいらっしゃいますよねっ!?」
「だが、絶対に見せる事はするなよ。俺は恥ずかしがる女子は好きだが、他人に見せるのは好きじゃない」
「そんな特殊な性癖など伺っておりませんっ!? ////////」
「だから俺は今興奮してます」
「既に私が標的に―――ッ!? いやああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~っっ!! ///////」
 真っ赤になった顔を覆って座り込んでしまう雪と、その背中を撫でながら慰める榛名。カグヤは満足げな表情でその場を立ち去って行った。
 ………どうやら真剣な話は聞き逃してしまったらしいと、目を開けて状況を確認したジークは嘆息するのであった。
「やれやれ、ネタに尽きない学園だが………、ぼうっとしているとネタを逃す事になりそうだな?」
 ぼやきながら視線をまた庭に戻すと、一人の少女がこちらに気づいたらしく、笑顔で軽く手を振ってきた。その事に驚きながらも、ジークは微笑みながら手を振り返した。部屋に引っ込むと同時に生徒手帳で、その人物が誰だったかを探してみる。
「ええっと………? Cクラスの『甘楽弥生』ね~~?」
 何故だろうか? 面識も殆ど無く、名前すら今知ったばかりの相手であったが、ジークは何やら予感めいた物を感じてならなかった。それはまるで、自分より強い敵を前に、自ら挑もうとする武者震いに似ていた。
「ちょっと注目しておくかな?」


 01


 二日目のクラス別交流戦。Bクラスはより高度な戦い方を求められていた。
 戸叶静香(トガノウシズカ)とカルラ・タケナカとの試合。直接戦闘能力を持たない二人は、タスクにのみ集中して戦う事となった。
 しかし、このタスクの内容が曲者(くせもの)で、お互い予想外の苦労を強いられる事とに………。
 タスクの内容はパズルゲームだ。フィールド上には幾つも配置された宝箱があり、その中には数通りの回答を持つパズルが存在する。パズルを回答すると、回答した答えのパターンにより、対戦相手にペナルティーを与える仕組みとなっている。このペナルティーの中には、獲得ポイントのマイナス化や、自身のポイント獲得に繋がる物まで、幅広く存在している。
 だが、今回のこのタスクが曲者な理由は、タスククリアによる強制勝利が存在しないと言う事だ。つまり、タスクをこなしていくだけでは勝利する事が出来ない。二人は、何としてでもペナルティーを利用したポイントの獲得を強要される事となるのだ。
 互いに戦略を駆使する二人に、このゲーム内容は相当頭を捻らされる激戦となる。パズルは持ち運びが可能なため、回答せずに持ち歩き、複数個手に入れてから一気にペナルティー攻撃を仕掛けるなどをして互いに攻撃し合っていた。
 例えば、こんな出来事も。

「な、なんなんだこれは~~~~~~~っっ!!?」
 静香(シズカ)は悲鳴を口にしながら廃村らしき場所を駆け出していた。その背後には、一言では表せない群れが追いかけている。
 犬、猫、鼠、蛇、牛と言った物は、まあこの際良いだろう。だが、大岩とか二丁拳銃のピエロとか、アイドル衣装に身を包んだ腹ボテ中年ハゲ親父が逆立ちして見たくもないスカートの中身(何も穿いてない)をさらけ出して追いかけてくると言うのは、もはやそれだけで異常とも言える。他にも何故か特ダネを見つけた風に追いかけてくるしつこいパパラッチや、地球保護のためにエコロジーを淡々と語りながら追いかけてくる褌一枚の美青年とか、もう容姿の説明をするだけで著作権を脅かす事この上ない(作者にとっての)恐怖存在までもが追いかけてくると言うのは一体何だと言うのだろうか?
 おまけに、静香は他にも受けたペナルティーにより、ビキニアーマースーツで、高下駄を履き、背中には『ソロ活動専用』と書かれた札をぶら下げた竹箒を装備し、更にはやたらと触手を絡めながら「私を手放すと、1秒毎に相手選手に1ポイント贈呈されます」と繰り返し言い続ける蛸を抱っこしている始末。ツッコミ役が三人くらいいても追いつかない顔触れである。
 戦国時代にでもありそうな廃村を駆け抜けるには、どうにも可笑(、、)しい光景でしかない。
「い、痛っ!? 角がお尻に~~~っ!? いやぁ~~~っ!! 変態の足が肩を撫でた~~~~っ!? お願いだからビキニの内側に入ろうとするのは止めてよこの軟体生物~~~~っっ!?」
 片手で一生懸命集めたパズルを解いて行きながら、彼女は悲鳴を上げて逃げ続ける。この間にも細かくポイントを奪われているのだが、彼女にはパズルを解く事以外は出来ない。
 そんな片割、廃村の広場の中心では、カルラが必死にペナルティーと戦っていた。

 カラカラカラカラ………ッ。

『赤に右手です』
「いやだ~~~~っ!? そっちには行きたくない~~~~っっ!!?」
 ツイスターゲームを強制させられているカルラが荒っぽい口調になって叫び声を上げる。
 彼女は四つん這いの格好で、必死に右腕を伸ばすが、その先にはつるつるで固い尻尾を、自分の前面に出してやたらと握らせようと腰を突き出してくる謎の黒い人型生物がいて、手を伸ばす事を躊躇わさせる。だが腰を退くと、そこにはやたらと顔だけ良い美少女が「排泄臭! 排泄臭!!」と繰り返しながら鼻をひくつかせてお尻に顔を突っ込もうとする変態がいるので、身を退く事も出来ない。かと言ってツイスターに逆らったり失敗すると、自分のポイントが相手へと献上されてしまう。ならば冷静に思考を巡らせていきたいところなのだが、彼女の背中の上でちっこい爺さんが「そもそも人間社会における社会と言うシステムは~~~」っと説教をしていて気が散らされる。無視すると手に持つ杖で御尻を叩かれる上にポイントまで持っていかれるので油断ならない。何より意識を散らされる理由は、先程から自分の事をカメラで撮りまくっている謎のオーディエンス集団にある。絶え間なく降り注ぐフラッシュに視界を妨げられるのはもちろん、自分の恥ずかしい姿を撮られると言うのは屈辱の極みだ。何しろカルラの格好は、現在フリルカチューシャにホワイトエプロン、そして黒のスカートと下着にタイツだけ、っというかなりギリギリの格好になっているのだ。これももちろんペナルティーであり、時々現れる手だけの存在が、何の脈絡もなくじゃんけんを強要してくる。これに負けたり出すのが遅れると、服を一枚剥ぎ取られてしまうのだ。ポイントは取られないが、これはこれで恐ろしいペナルティーだ。
「動きを封じるペナルティーとか卑怯だろう~~~~っ!!」
「私に『停止禁止』のペナルティーかけといて言う事がそれっ!?」
「そしてこの強制卑猥撮影会は人道に反してるぞっ!!」
「ビキニ姿で蛸に絡み付かれる私は人道にそっていると言うのか~~~っ!?」
 不毛な言い争いをしながら、二人は手持ちのパズルを組み立てて、更なるペナルティーを追加していく。お互い能力を使っているようには見えないが、カルラは『今孔明』の能力による『高速思考』を用いて最善の策を、静香も『先達の教え』の能力による『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』『コロンブスの卵』でパズルを解き、『征服王』で無限に走り続ける加護を得ている。そのおかげで『停止禁止』のペナルティーを苦にする事無く行動できた。
 二人の戦いは高度な知略の勝負と言っても過言では―――無いはずである。はずなのだが、………傍目からは全く見えないのが悲しい所かもしれなかった。
 この激戦を勝利したのは一点差でカルラだったのだが、後に二人ともこう語ったそうだ。
「「今回のルールには学園側の作為を感じる………」」
「ありません」
 二人の言葉は比良美鐘(このら みかね)教諭に一蹴され、僅かな心の平穏も与えられないのだった。


 02


 笹原(ささはら)(だん)は、先程試合を終え、溜息を吐きながら真っ白い地下の廊下を歩いていた。不自然なくらい白いアリーナの廊下は今の気分には逆撫でする様でもあった。
 彼は先程ジーク東郷と戦い、なす術無く負けてしまったのだ。
「なんなんですかアレは? ゼロ距離で撃ってもノーダメージとかおかしいんじゃないですか? おまけに剣までチートですよ? 僕の銃弾でパリィ出来ないってどういう仕組みですか?」
 ぶつぶつと文句を言いつつ、弾は負けた事に対する不平を漏らす。
 圧倒的な敗北―――っと言うわけではない。タスクは風船割りゲームで、ランダム出現する風船を規定数割る事で勝利する事が出来ると言う物で、弾にとっては有利な試合だったとも言える。それがどうしてか? 結果を見てみると、自分は0ポイント、ジークは49ポイントっと言う圧倒的差に追い詰められた挙句、「このままじゃ俺が納得できないな」などと言いだし、いきなり弾を無視して風船割に集中し出した。しかも、弾より一歩早く規定数の風船を割り、勝利を収めた。風船割に集中していれば、あるいは弾にも勝ち目はあったかもしれない。何よりジークが手を抜いたのが気に入らない。あそこまで来てポイント勝ちより、タスクコンプリートを目指すと言うのは舐めていると言うのではないだろうか? 憤る弾だが、この条件で勝たれてしまっては文句の言い様がない。それが逆に精神的な憤りを胸の内に燻らせる。
 っとは言え、いつまでも文句を言っていても始まらない。多少の気持ち悪さを引き摺りながら、彼は周囲を見回し、同クラスの対戦カードを確認していく。
 そんな中で彼の目を引いたのは、自分と同じ風船割りゲームのタスクをしているところだった。



 風間(かざま)幸治(こうじ)は戦慄していた。
 タスクの内容が風船割りゲームだと知った時は、自分の独壇場だと思えたが、これが案外そうでもない。彼が戦っている相手は、自分と同じくらい、このゲームに適した能力を持ち、また自分と似ている戦闘スタイルを持つ少年だった。
 木々が生い茂る森林地帯で、木々の間から垣間見える風船目がけ、幸治は腕を振るい、能力『忍術』による『鎌切鼬(かまきりいたち)の術』を発動し、真空の刃にて次々と風船を割っていく。しかし、幾つ目かの風船を割ろうとしたところで、何者かが幸治の放った真空刃よりも速く、風船を割って見せた。
 その少年こそ、彼の対戦相手遊間零時(あすま れいじ)だった。
 彼は己の刻印名『瞬身(しゅんしん)』に恥じる事のない神速を見せ、目にも止まらぬ勢いで次々と風船を破壊していく。手に持つのは購買部で購入した短刀だが、その速度と鋭さなら素手でも充分に思える。
(いや、零時殿はまだあの速度に慣れている訳ではないのだろう? 速くは動けても、動きに合わせ身体を制御する様な細かい動作は出来んと見た)
 木の枝から木の枝に飛び移る様な移動程度なら速く動きながらでもできる。しかし、動いている物を速く動きながら捕まえたりしようとすると、誤って轢いてしまったり、跳ね飛ばしてしまったり、掴んだ一部だけを引っ張ってしまい、引きちぎる結果になってしまうのだろう。それだけ零時の動きは速過ぎ、細かい動作が難しくなる。なので、素手で風船を割ろうと手を突き出しても、周囲の空気に押し出され、風船は割れずに吹き飛ばされるだけだろう。
(細かい動作が出来ないのなら、ゆすりを掛ければどうか!?)
 幸治は『忍術』『分身の術(わけみのじゅつ)』を持ち入りイマジンで創り出された己の分身を呼び出す。数は現在用いられる最大人数の二人、本体たる自分を合わせればこれで三人分の頭数が出来た事になる。
(せつ)の先を読んで、風船を奪っているようだが、拙の数が増えたらどう対応なされるっ!?)
 散開した幸治達は、それぞれクナイと『鎌切鼬の術』を用いて風船を割っていく。
 それを見た零時はすぐに対応しようと動き回るが、分身は互いから離れる様に移動し、広範囲に風船を割るよう目指す。いくら速い零時でも、その距離が開いて行けば対応できなくなっていく。
(これはさすがに………、完全勝利とはいかないか)
 零時は内心幸治を賞賛しながら、方針を変える。
 邪魔をするのは本体の幸治一人に絞り、分身二体は無視する事にした。
 正直に言えば倒してしまっても良いと考えていたが、今回は止めておいた。幸治の実力がいかな物かまだ見極めきれていない事が一つと、自分の実力あまり観察されたくないと言う事がもう一つの理由だ。第一試合でカルラに手痛い目に遭っている零時は、少し慎重になっているらしく、この試合中は『瞬閃』以外は決して見せまいと心に決めていた。
 自分を追い掛け、次々と風船を先取りしていく零時を見て、幸治は苦虫を噛み潰したような表情になる。
(こちらに攻撃してこない所を見ると、零時殿の能力は純粋な身体強化とは多少異なる様子? それに飛び道具の類も持っていないらしい。しかし、分身ではなく自分を的確に見極め追いかけてきたという事は………、これはこちらの分身が本体()の劣化版だと言う事がバレてしまっていると見るべきか………)
 幸治の『忍術』の能力、『分け身の術』は、分身体を増やせば増やす程、能力値が半減してしまう。また、カグヤやレイチェルの使うイマジン体とも違い、此処の『意思』と言う物が存在していない。彼等はあくまで幸治のコピーなのだ。
 『分け身の術』とはイマジンによりスキャンした『風間幸治』と言う存在を、再びイマジンで“再現”した物の事となる。平たく言うと『風間幸治』の“再現”をしたと言う事になる。しかし、そのスキャニングが甘いため、“劣化コピー”となったと言う事だ。
(しかし、やろうと思っただけで出来てしまえるのはイマジンの凄い所ではあるが、使えた能力を“使いこなす”となると、話が全然違ってくる物だ………)

 『イマジンは万能であっても、人は万能にはなれない』

 入学当時に学園長が言っていた事を思い出し、幸治は納得する。
 もし、自分がイマジンを完全に使いこなせていれば、もっと沢山の分身体を創り出し、零時のスピードに物量で対抗し、勝てていたはずだと………。残り時間と点数差を確認して、幸治は達観した様に目を瞑った。

『そこまで! 39ポイント対50ポイントで、遊間零時の勝利とするっ!』

 教師のアナウンスが鳴り響き、空間が変哲のない白い部屋へと変わっていく。木の枝に着地した幸治は、ゆっくり足場にしていた枝が消えていくのを確認しながら、(かぶり)を振った。
 自分はどうも極端な相手にばかりぶつかるらしいと、以前戦った戸叶静香(トガノウシズカ)の事を思い出し苦笑が漏れてしまう。

 ガンッ!!

「うぶあっ!?」
 突然の音と悲鳴。
 驚いた幸治は足場が消え、着地したところで音源を確認すると、零時が思いっきり壁にぶつかり落下してきたところが見えた。
「おっとすまない。バトルフィールドの空はほぼ上限無しに伸びているから、空中にいると屋根にぶつかったり急に壁が迫ってきたりと言う現象が起きるんだ。イマジンによって空間を広げていると言っても、元は一キロ四方の部屋だからな」
 くたびれたローブに身を包み、フードを目深に被っている男性教諭、天庵(てんあん)は、まったく悪いと思っていない様な、抑揚のない淡々とした説明を語る様な口調で告げると、治療箱を床に置いて「まあ、必要無いだろうが一応置いて行ってやる」とだけ残して去って行った。
 残された零時は、額をこすりながらも、しかし柔和な笑みを崩さず「やれやれ、これからは気を付けないとな………」っと漏らすのであった。
 壁にぶつかった零時に、何か一言言いたい気持ちもあった幸治だが、柔和な表情の彼は、どうもうさんくさくて話しかけづらい。この男の本質は、あの速度と言うより、この掴み難い雰囲気にこそあるのかもしれない。
(しかし、この者も拙に負けず劣らず災難体質でありそうだ………)


 03


 鹿倉双夜(ししくら ふたや)御門更紗(みかど さらさ)の試合は、双夜の体調不良により、更紗の直接攻撃であっと言う間に勝負が付いてしまった。
 同じく黒瀬光希(くろせ みつき)宍戸瓜生(ししど うりゅう)の試合でも、光希の体調不良が原因で瓜生が勝利を収めた。やはり、双夜と光希は一試合目の引き分けが原因で、臍下丹田(せいかたんでん)を痛めてしまったらしい。治療に当たった上級生も「一年生で此処まで負担を掛ける生徒は近年稀だ」と苦笑いを浮かべるほどだったと言う。
 天笠雪(あまがさ ゆき)折笠重(オリガサ カサネ)の試合は―――、


 ボゴンッ!! っという凄まじい音が鳴り、何もないはずの足元から大岩が出現してきた。
 慌てて『重量操作』で自身の体重を軽くして飛び退いた重は、もう幾度とも無く繰り返されたトラップに辟易していた。
「あんのデカ乳お嬢様めッ!? 一体いくつ罠仕掛けてやがるつもりだっ!? ってかこんな事で逃げ切りとかさせると思うなよ!?」
 雪の能力『封印』を使った応用トラップに対処しながら重は毒吐く。
 現在二人が行っているタスクは、スタンプラリーの様な物だ。各所にある隠されたボタンを一定数押す事で勝利できると言う物だ。『索敵再現』を使えば容易に探し出せるのだが、ボタンには敵側と自分側の二種類が存在するため、むやみやたらに押す事が出来ない。これは『検分再現』通称『投影』と呼ばれている技術を追加で使わないと解らない様になっている。しかし、重にとって誤算だったのは相手が『封印』の能力を得意とする天笠雪だったと言う事だろう。
 雪は順調にボタンを発見していき、そのスイッチが自分の物で無いと解るや否や、その
ボタンを封印して押せない様にしてしまったのだ。おまけにその辺の小石に大岩を封印し、重がその近くに来た瞬間、封印を解除して大岩を出現させてきたりなどと言うトラップまで仕掛けてきたのだ。
 重の『重量操作』は中々に使いどころのある能力だ。だが、生憎射程距離が短い。何処にいるか解らない相手を狙って攻撃するには、現状役者不足なのだ。戦闘的な能力としては重の方が圧倒的に有利でありながら、それを上回る不利なタスクを受ける事になってしまっている。
「だがっ!? 圧倒的不利を覆してこそ、戦闘の醍醐味ってもんだろうっ!?」
 重は気合い一発叫んでから目を閉じる。『索敵再現』を広範囲に発動し、雪を探そうとしてみる。しかし、彼女の索敵範囲は思いの外狭い。基礎技術でしかない『索敵再現』でも、本人のイメージ力が起因してその効果に強弱などの特徴が表れてしまう。
 例えばレイチェルの様なイマジン体使いは前以(まえも)て作っておいた複雑な術式(イマジネート)を時限式にしたり、設置型にしたりと言う応用を効かせるのが得意であり、金剛の様な自身の強化及び肉体の変質などを得意とする者は、単純な強化を再現する時、より強力な効果を与える事に長け、強化する特徴を限定する事でより特化させる事が出来たりする。
 重の場合は、狭い範囲ではあるが、効果だけは絶大なパターンだ。『再現』する範囲を狭めれば狭める程、より効果は強くなる特徴を持っている。
 そして今回、偶然にもそれが功をなした。
 重のいる場所から約数メートル先の茂みの中で、探している雪の存在を発見したのだ。
「お前! 私のすぐ近くで見張ってやがったなぁっっ!?」
 雪の派生能力『封印解放』は封印を“解く”事に優れた能力だが、封印を解くタイミングを“設定”できるわけではない。最低でも自分の目で確認できる範囲でなければ効果を(もたら)す事が出来なかったのだ。
 重は自身の重量を操作、軽くした状態で疾走し、勢いが付いたところで重量を上昇させつつ飛び蹴りを放つ。高速で飛来する弾丸の如く突っ込んだ重の蹴りが茂み事地面を吹き飛ばし、爆音と共に砂煙が立ち込める。
 砂煙を背に差していた剣の勢いで払いのけた重は雪の姿を探すが、何処にも雪の存在は確認できない。
「くそっ! どう言う事だ? 確かに此処にいたはず―――」
 言葉の途中、突然背後に何者かの気配が現れた。それはあまりにも突然で、瞬間移動でもしてきたのではないかと見紛う程に突然だった。
 重の背後に現れたのは雪だ。彼女は重の攻撃が炸裂する寸前、『直感』により危機を察し、手近な石ころに己自身(、、、)を封印したのだ。こうする事で攻撃を回避した雪は前以て計算しておいたタイミングを見計らい『封印解放』を行い舞い戻って来たのだ。重の背後に出る事まで全て計算した上で。
 そうとは知る由もない重。振り返ろうとする彼女の肩に触れ、雪は声高に告げる。
「我、天笠雪の名において命ず、今この時をもって汝を悠久なる眠りへと誘わん」
 それは詠唱だ。イマジンにおける詠唱とは、言葉を用いる事で“それっぽく見せる”行為だ。“それっぽい”と感じる、っと言う事はそのように『イメージ』させると言う事。つまり他者にイメージを押しつけ、発動されるイマジンの再現率を上昇させる行為になる。
 イマジンの強弱は互いの認識、イメージ力に起因する。詠唱とは、発動される能力を補強する、イマジンに於いて基本とも言える技術。そして、決しておろそかにできない技術だ。
 詠唱を用いた事により発動された雪の能力『封印』が、重の中から『能力』と言える概念を封じ込めた。いくら重が自身の能力を使おうとしても、能力その物が何処かへ行ってしまったかのように存在を感じられなくなってしまう。無論、『解錠再現』の類を発動しても、効果どころかそもそも受け付けていないようにさえ思える。正真正銘、無意味と跳ねのけるかのように。
「アナタの『能力』を『封印』させてもらいました。もう使う事はできません」
「だからどうしたよっ!?」
 重は臆せず剣を掲げるが、使用する武器が大剣だった事もあり、振り降ろすのに一瞬の隙が出来てしまう。その隙に詰め寄った雪が剣の柄に触れ、再び無詠唱で封印する。剣はその姿をイマジン粒子に分解され、雪がもう片方の手に握る石ころへと吸い込まれてしまう。
「これで武器も使えません」
「ならこうするしかないだろうがッ!?」
 一瞬の間も置かず殴り掛った重であったが、雪は冷静に片手で拳を逸らしつつ腕を取り、当時に脚を払いのける。それだけでその場でくるんっ、と一回転した重は地面に背中から叩き付けられてしまう。
「すみません、運動は苦手ですけど、家柄護身術くらいは習っているんです」
 冷静に告げる雪が、背後に振り返り重へと告げ―――一瞬で起き上った重に回り込まれ、背中に回られてしまう。あまりの回復の速さに驚きつつも対応しようとした雪は、その瞬間『直感』が発動し、慌ててその場から離れようとする。が、遅い。それを上回る速度で伸ばされた腕が雪の腰に回され、がっしりと捕まえる。
「きゃっ!?」
 後ろから腰に抱きつく様に捕まった雪。その行為がどんな意味を持つのか解らず、しかしイマジネーターの『直感』が凄まじい警報を鳴らす為、何とか解こうと暴れる。それでも解く事が出来ないほど万力で締め付けられ、思わず雪の口から喘ぎ声が漏れ出る。
「あ………っ! くっ、ふあぁ………っ!」
「見るからに温室育ちのお嬢様と違って、こちとらイマスクに来る前から結構やって(、、、)てね? タフさなら誰にも負けねぇんだよっ!!」
 叫んだ重はその万力だけで華奢な雪の腰をへし折ってしまいそうなほど締め付け、そのまま彼女を持ち上げ仰け反り、強制ブリッジ―――雪の頭を強制的に地面へと叩き付けた。
「んあぁ………っ!?」
「どうだ~~~~っ!? 見たか!? 重様特製『猛虎原爆固(もうこげんばくがた)め』!!」
 『猛虎原爆固め』とは、背後から捕まえた相手を後方に反り投げるスープレックスの一種である。通常よく知られているジャーマン・スープレックスでは自分の腕を相手の腰に回して投げる物なのだが『猛虎原爆固め』通称『タイガー・スープレックス』は相手の腕を背後から閂のような形『ダブル・チキンウィング』に極め、そのまま投げる技である。投げられた相手は腕を固定されているために受身が取れず、下手をすると肩の関節を外してしまう危険があると言われる初代タイガーマスクが開発したプロレス技である。つまり―――、
 重が使ったのは普通の『ジャーマン・スープレックス』です。
 恐らく掻い摘んだ知識から気分で名前だけ使っていただけで、詳細は本人も解っていない可能性が高い。
「は、はうぅ~~………」
『天笠雪、失神を確認。戦闘不能と見なし、折笠重の勝利とする』
「よっしゃぁ~~~~~~っ!!!」
 教師からのアナウンスを聞き、雪を放り投げて追加ダメージを与えながらガッツポーズをとる重。その喜びよう故に、彼女はもう一つの事実に気付く事が出来なかった。
 逃げ回っていた雪から1ポイントも取れなかった重だが、今のスープレックスで彼女のポイントが加算されていた事に………。

 『折笠重 獲得ポイント138ポイント』

 雪は投げ飛ばされた後、不幸にもリタイヤシステムに拾われ忘れ、慌てた教師が他の生徒(主にE、Fクラスの一年)を呼び、彼女を保健室に連れて行ったという。
 放課後、彼女は首を寝違えた様な痛みをずっと引きずる羽目になった。


 04


 三日目。Aクラス編で既に説明した通り、三日目ともなればどの生徒も完全にへばってしまっていた。それはBクラスの生徒もやはり例外とは言えない。
 前回、不調組と戦った御門更紗と宍戸瓜生の二人でも、突入した三日目に、身体に思いがけない疲労感を背負い、グダグダな戦闘になってしまった。Bクラス特有のタスク勝負すら、まともに成立せず、Aクラス同様、運の強い物が勝利を掴み取っている状況だ。
 カルラ・タケナカVS黒瀬光希(くろせ みつき)では、カルラより、臍下丹田の不調が続いてしまった光希の方がまだ動きが良かった。持ち前の知略を思う様に発揮できなかったカルラは、結局ポイントを光希に奪われ敗北。光希が初勝利を収めた。
 鹿倉双夜(ししくら ふたや)VS御門更紗は、双夜が勝利した。こちらも臍下丹田に不調をきたしていた双夜であったが、それを上回る程更紗の体調が悪かったため、隙を突いて一撃必殺の勝利を収めた。―――が、双夜曰く「三日目に更紗に当たっていれば、誰でも勝てたかもしれない」と言わしめるほど、更紗は不調状態だったらしい。何しろ100mくらい走った辺りで、お腹と胸を押さえ苦しそうに蹲っていたのだから、その不調ぶりは窺える。(ちなみに話を聞いた零時から「いや、そこまで苦しそうにしているならリタイヤ進めて上げた方が良かったんじゃないか?」っと、突っ込まれた)
 宍戸瓜生VS折笠重の戦いに勝利したのは瓜生だった。こちらでは瓜生が疲労を感じた時点で早々に自分の血を飲み人格を変更。重の一瞬の隙を突いて吸血、そのまま血を吸われ過ぎた重は貧血でリタイヤしてしまった。後に重は真っ赤な顔になって「よ、よくも私の首にキスマーク残してくれやがったなっ!? 全然消えないのにどうしたらいいんだよっ!? //////」っと、瓜生を叱りつけたと言う。蛇足だが、重の噛まれた痕は、吸われる時間が長すぎた所為か治りが遅く、その後もしばらく残り続け、彼女の羞恥ポイントとして黒歴史を刻む事となるとか………。
 戸叶静香(トガノウシズカ)VS笹原弾(ささはら だん)戦は何とか静香が勝利した。幸いだったのは、静香の能力で発動した『征服王』がいつまでも走り続ける事が出来るスキルだった事と、今回のタスクがフィールド破壊系だった事だ。区分された各エリアごとにスイッチが用意されていて、そのスイッチを押した一分後、そのエリアを失格エリアとして消滅させられると言うものだ。これは基本技術『脳内再現』の一種で、目で読み取った情報を脳内で立体的な地図化をするという地味だが、かなり使える技術の特訓だったりする。これを利用して上手く弾のいるエリアをぐるっと囲んだ静香は、その瞬間ゲームルール上の勝利を宣告されたと言う事だ。だが、もし弾が疲労していなければ、勝負はどうなっていたか解らない。それほどにギリギリの戦いであったらしい。
 風間幸治VS天笠雪の方では、互いにタスクも進行できず、無駄な長期戦に移行してしまい、教師の方からストップがかけられ、引き分けと言う結果になってしまった。幸治も雪も、結果に不満はあれど、何もできなかった事に落胆してしまっていた。
 遊間零時(あすま れいじ)VSジーク東郷のカードは、此処だけが少し違う結果を持ちこむ事になった。


 零時は加速した勢いを利用し、そのまま蹴りを放つ。正面からまともに受け止める事になったジークは、そのまま吹き飛ばされ崖から落ちて固い地面に叩きつけられた。岩しか存在しない完全な荒野でフィールド的に身を守ってくる場所の無い地面への激突。高さは東京タワーほどもある岩山から叩き落としたのだ。さすがのイマジネーターでも即死は間逃れないはず。そう思いながら崖下から見降ろした零時は、遥か彼方の地上で、起き上ったジークが服についた砂埃を軽く払っているのが眼に映った。
「………これでもダメなのかよ?」
 さすがに疲れた表情を見せる零時の、虚しい声が漏れ出る。
 服についた砂を払い落したジークは頭上にいる零時を見上げながら苦笑を浮かべていた。
「やれやれ………、いくらダメージを受けないと言っても、こんなに一方的に攻撃されてはな~? こちらの攻撃が届かないのでは勝ちようがないじゃないか?」
 零時は間違いなく一年生最速の速度を持ち得ている。それは、絶対的に如何なる攻撃をも速度によって回避しきる事が出来ると言う事だ。カグヤの軻遇突智の様に広範囲に攻撃できる能力か、切城(きりぎ)(ちぎり)のような物量を用いる事が出来なければ、まともに相手する事も難しいだろう。そして、機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)の様な広範囲火力重視の能力であったなら、正に彼の天敵となり得たかもしれない。
 しかし、生憎ジークの攻撃系能力は単純な斬激で、彼の速度に追いつける物ではない。相手の攻撃力の程を確かめるため、基本的に最初はわざと攻撃を受けたりするのが、ジークの悪癖なのだが、実際、彼がイマジネーターになってからその身を不死身たらしめる『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』の能力を打ち破られた事は無い。
 それは、イマジネーターなら誰もが本能として持ち得ている『直感』すら発動した事が無い程に、“危険と判断する攻撃”に迫られた事が無いほどに、最強の防御能力なのだ。本来、彼のこの能力はイマジネーションステータスの高い相手による攻撃で撃ち破られる事が多いのだが、現段階、同級生相手に脅かされた試しは無い様子だった。
 だが、今回この二人の能力は互いに取って相性最悪だとしか言いようがないだろう。
 最速の能力にて、絶対回避を誇る零時には決してジークの攻撃を受ける事は無い。
 最堅の能力にて、絶対防御を誇るジークには決して零時の攻撃では打ち破れない。
 互いにダメージを受けないのであるならば、果たしてこの二人の勝負に決着が付くのだろうか?
 粗々ありえないと判断した教師は、これ以上戦況に変化が訪れない場合、不毛な戦闘を切り上げるため、引き分けの合図をする準備をしていた。しかし、まだその合図は無い。それは、二人がまだすべての力を出し切っていないからだ。
(物理攻撃はジークには届かない………。なら、もうこいつを使うしかないか………)
 零時は眼がしらの辺りを指で触れ、両の瞳に意識を集中する。
 準備が出来たところで『瞬閃』の能力にて体内パルスを操作。肉体を強化し、加速、一瞬にてジークの正面へと肉薄。気付いたジークが視線を向けるのに合わせ、零時は彼の瞳を覗き込む。零時の瞳が赤く輝いた瞬間、彼の派生能力『瞳術』が発動する。
(『八咫烏(やたがらす)』!!)
 本来、刻印名『瞬身』を持つ遊間零時には、『瞳術』などと言う能力に派生する事は出来ない。だが、彼は自分の生い立ちと、言葉遊びによる裏技で派生能力を獲得する事に成功した。
 零時の父と母は、それぞれ両目に力を宿し、幻術の類を使用する家柄だった。
 勘違いの無い様に説明させてもらうと、この世界に於いて、イマジンは人工的な力であり、ギガフロートと言う限られた空間でしか生み出される事は無い。自然界の極少数、片手の指で数え切れる程度の限られた場所で、イマジン精製の元となったエネルギー粒子が淡く漏れ出す地も確かに存在してはいるが、これらはとても『能力』に至れるほど純度の高い物ではない。自然界から発生する粒子はあまりにも薄く、且つ、質が悪過ぎる。粒子が溢れる地で何世代も掛けて進化の過程の中に取り込み、ようやっと得意な体質を得る者が出てくる程度。しかも、変化した体質が必ずしも()になるとは限らない。寿命が短い一族になってしまったり、指が一本多いだけの一族になってしまったりと悪い方に進化(退化)してしまう事もある。例え運よく力を手にしても、物理法則の範疇であり、超人的な力を手に入れる事は不可能だった。
 零時の父は、運良くこれらの過程で両目に力を宿していたのだが、それも『能力』と言うにはおこがましく、精々千里眼のモノマネ(っと言っても普通の人より視力が良いという程度)くらいの物だった。
 同じく母も幻術使いなどと呼ばれていたが、もちろん異能の類ではなく、薬や技術を用いた催眠術の一種であり、多くの段取りを必要とし、いきなり突発的に幻を見せれた訳ではない。とても現実的な幻術であった。
 その二人の血を引く零時は、両の目に幻を見せる力を宿した。これが零時の特別。イマジンの能力とは別の『体質』を利用した能力。
 ジークのアドバンテージが家柄的にイマジンを幼い頃から会得できた環境にあると言うのなら、零時のアドバンテージがこれ『体質による先天的能力』だ。―――っと言っても、イマジネーターになる前は長い間目を合わせる事で、極瞬間的な誤認をさせる程度の物で、イマジネーターになってからも、彼の本来の能力である『瞬閃』とはイメージが違っていたため、能力としては劣化させてしまう事となった。本来なら得られない筈の『瞳術』を得るため、零時は『体質』と言う理由のほかに『瞬身』の()の部分に注目し、肉体的な能力の発動をイメージさせ、使用できるようにした。実際、『瞬閃』は体内パルスを操る事で可能にしているので、これらに矛盾は無い。劣化したことは否めないが、強力な効果を齎す事に変わりはなかった。
 零時と目を合わせたジーク。零時の赤く輝く瞳から幻のイメージを強制され、彼を幻術の檻へと閉じ込めようとする。
 刹那―――。ジークの脳内に危機感を感じる警報が鳴った。これは彼がイマジネーターとなって初めて体験する『直感』であった。危機的状況に置いて、その危機を回避するため、可能である選択肢を自身に強要する防衛本能。
 ジークは『直感』に従い全身に力を巡らせる。
 金剛の例同様、神格ステータスを持ち得ていないジークには本来神格を使う事は出来ず、無理に使おうとすれば疑似神格としてペナルティーを受ける事となる。しかし、ここで彼等の違いが現れる。
 金剛は自身の肉体を神格へと押し上げるため、人間の肉体、“霊格”に神格を流し込んだ。それに“霊格”が対応しきれなかったため疑似神格として扱う事になった。
 対するジークは、常時発動型の『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』が既に神格として存在し、彼の“霊格”を充分な器として成長させていた。故に、彼は疑似ではなく、正真正銘本物の神格を直接身体に流し込む事が出来た。
 結果、彼は一瞬だけ、零時の幻術に囚われ、何か幻を見た様な気がしたが、身体に巡った神格がこれを打ち破り瞬時に平静へと戻る。
 それに気付いた零時が驚愕に瞳を見開き、慌てて離れようとしたが遅い。零時が逃げるより早く、ジークが彼の腕を掴み取った。
 咄嗟に零時は彼の顔面に掌打を当て、眼潰しで怯ませようとしたが、その腕も剣を持った右手で弾かれてしまった。それにも零時は驚愕に目を見開いた。一瞬、この至近距離でとは言え、自分の速度に防御を間に合わせたのだ。最速を誇りに思う零時としては、これには驚愕せざろ終えない。
「悪いな? 俺の能力『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』は竜の血の加護がデフォルトで備わっていたな? 圧倒的身体能力が取得されている。条件次第ならお前の速度にだって追いつけるぜ? 例えば腕一本だけの速度とかな?」
 そう言ってジークは片手で大剣『グラム』を大上段に掲げると、(つるぎ)の装甲を展開し、神格の刃にて零時を一刀両断に振り降ろす。
(『天之狭霧神(あめのさぎり)』!!)
 一瞬、零時は残された己の切り札を発動する。
 全ての物質、万物に存在する『斥力』を『瞳術』によって発動する能力だったのだが、先程も説明した通り、零時の『瞳術』は劣化を間逃れられなかった。故に、この斥力を発生する能力も神格を宿した魔剣を跳ね返す力は引き出せず、易々と切り裂かれてしまう。大量の血を噴出した零時は、膝を付き、敗北を自覚した。
 しかし、彼はこの時になってようやく疑問に気付いた。ジーク東郷と言う男、確かに三日目にして疲労を露わにし始めてはいる様だ。だが、この違和感は何か? 何かがこの男の存在に違和感を与える。それは何か? 疑問と共に彼を見上げた零時はその答えへと辿り着く。ジークを見てではない。視界の端で彼との点差を表記する数字を見て、驚愕してしまう。

 ジークと言う男は、これまで三日間の戦いに於いて、一切のダメージを受ける事無く、ただ勝利のみを積み重ねてきたのだ。
(な、何者なんだこの男………?)
 その疑問の答えを得る前に、彼は力尽きて倒れる。
 ジークを勝者として認める教師のアナウンスが、零時にとっては絶望的にも聞こえた。


 05


 二年生の初期試合はクラス混合30名一グループによるバトルロイヤルであった。
 六グループに分かれた試合で、一グループ3名が残った時点で試合終了となる。一つのグループに一体誰が割り振られるのかは直前まで誰にも解らない。だが、勝者が3名となれば、バトルフィールド内で3人で一チームを作り出そうと考える者はもちろんいる。二年生の戦いは、どれだけ早くチームを組めるか、もしくはチームを組まず、数の差をどうやって補うかを考える事が重要となっていた。
 試合も佳境となった三日目の後半戦。一年生と違い三日間をフルに使われ続け、朝も昼も夜も戦い続け、そんな過酷な状況下で勝ち残ったのは残り6人二グループ。そのリーダーとなる人物二人が対峙していた。
 緑に溢れる森の地、せせらぎの様な静かな滝が流れつく池の前で、その少年二人は刃を構えていた。
 180ほどの身長に黒髪、顔は美とは言えないが独特の雰囲気がある美少年。名は美鞍(みくら)謙也(けんや)と言う『剣聖』の能力を持つ二年生最強の剣士だ。腰に差している刀は、同級生の生産能力を持つ仲間が作ってくれた『獅子王』っと言う名の剣だ。
 対するのはイマスクでも珍しくない日本人特有の黒髪黒目に中肉中背と、文字にして表わそうとするとありきたりな説明文しか出てこない様な普通の少年。違いがあると言えば、多少髪が長めで、羽織を着ているくらいだろうか。彼の名は朝宮(あさみや)龍斗(りゅうと)。腰には一本の刀『牙影(がえい)』を差し、真剣な眼差しで見据えていた。
 二人は剣を構え、互いに対して隙無く身構える。
 一触即発の空気の中、不意に吹いたそよ風が、木の葉を一つ連れ去る。風に弄ばれた葉は、そのまま重力に従いゆっくりと水面へと落ちていき―――とても静かな音で波紋を広げた。

 バアァァンッ!!

 刹那に巻き起こったのは衝撃により空間が破裂する音。空気の爆発であった。
 龍斗と謙也が同時に抜刀し、互いの刃がぶつかり合った事により、空気そのものが衝撃に耐えきれず悲鳴を上げる。二人の剣はまだ鍔迫り合いにある。互いに霊格をぶつけ合い、己が剣で敵の剣を打ち砕こうと迫るが、互いに一進一退を演じる事しかできない。ついに物理法則の方が音を上げたのか、二人は互いの衝撃によって同時に弾かれる。
「『獅子王』!」
 謙也が叫び、己の剣へと短く命じる。
 『獅子王』は生産系の能力を持つイマジネーターに作られた特殊能力を持つ剣だ。()の剣は、主の名に従い蓄えていた力を解放する事で、主の時間的速度を通常の二倍に加速させる事が出来る。
 弾かれてから立て直すまで一秒も消費せず最接近する謙也。彼の所有する唯一の能力『剣聖』の『天下一品』により剣の性能を最大限に引き上げ、『斬れ味上昇』により更に刃の力を上昇させている。剣を持たせれば最強とまで言われた驚異が龍斗の眼前へと迫る。
我は日輪の加護を受け(アクセルカウント!)光の如く疾しる(ムーヴメントレベルⅡ)!!」
 和、洋、二つの術式を混ぜ合わせた様な呪言(じゅごん)(詠唱の様な物)を用い、スキル『辰ノ肢(クイックム―ヴ)』を発動した龍斗は、寸前のところで刃を躱せるだけの速度へと加速した。こちらは謙也の物とは違い、脚を中心に移動の速度を上昇させる能力だ。
 加速状態に入った二人は互いに刃を交え合い、己の刃を届かせようとする。行く度重ねる刃も、互いの防御を打ち破るに至れない。
「やはり………! 地力の剣技は君の方が上の様だなっ!? 此処だけはいつまで経っても悔しいぞ………っ!?」
「謙也こそ! 朝宮の日神(ヒノカミ)流に正面から剣の才だけで挑めるのはお前くらいだろっ!?」
「伊達や酔狂(すいきょう)で“クラス最強”は語れない!」
「じゃあ、その看板………! 今日に限っては俺が貰うっ!!」
「一対一では譲れんなぁっ!!」
 互いに叫び剣が風圧と衝撃を生み出す。
 龍斗が二本の指を立て、派生能力『式神詠操(しきがみえいそう)』により、己の配下の二式を呼び出す。
「『霊鳥』! 『狗音(くおん)』! 頼む!」
 龍斗の指揮により現れたのは、霊力によりその身を形成した大鷲程に巨大な光の鳥と、黒いライオンと見紛う程に巨大な真っ黒な(いぬ)だった。
 霊鳥は「ピヒューーーーーーーーーッ!!」っと、澄んだ声で鳴き、頭上から謙也を狙い、狗音がその身を影へと同化し、脚に噛みつこうと襲い掛かってくる。
 すかさず謙也は生徒手帳をタップ。七本の剣が出現し、それを神速で操る『無限流』のスキルを発動する。同時に複数の剣を使う事が出来るこの能力は、八刀流が出来ると言う単純な物だが、使う剣次第で恐ろしく化ける事になる。
 呼び出された七本の剣は、それぞれが生産系の能力を持つ仲間から譲り受けた物ばかりだ。
 西洋風の両刃剣『スキルストテラジー』は斬った相手の能力を得る。
 四尺七寸八分の刀『出雲守永則(いずものかみながのり)』は柄から龍の首が現れ、担い手を援護する。
 イタリア製のロングソード『コルポ・モルターレ』は必殺剣の異名を持ち、全力で斬りつけた相手を即死させる力を持つ。
 サーベルの形状『イードロ・デューオ』は偶像神を宿し、全ての悪魔と信者に対する絶対的高位の地位を獲得する事が出来る。
 大和時代を思わす太い両刃の剣『伐折羅(ばさら)』は金剛の剣。如何なる攻撃にも折れず、担い手に金剛力を与える。
 67.9㎝の刃長を持つ『ソハヤノツルギ』は“表”による宝刀(王位)の力と“裏”のウツスナリ、神刀の力を使い分ける事が出来る
 反りの深いギリシャの彎刀(わんとう)『ソマティディオン・エクリクシス』はイマジン粒子に触れると粒子を爆発破壊する力を持っている対イマジン武装だ。
 これに自身時間加速『獅子王』が加わり、謙也の性能は格段に強化された。
 龍斗は半ば舌打ちしながら『牙影』の刃を攻撃ではなく防御目的で降り降ろす。押さえ込むのは『ソマティディオン・エクリクシス』。この剣の前ではイマジン体などひとたまりも無く、掠っただけで破壊されてしまう。『牙影』は名のある刀鍛冶が打った鋼の刀。イマジンは一切使われていないこの剣は、ただの鋼故に『ソマティディオン・エクリクシス(粒子爆破)』の効果を受け付けない。
剣化霊格武装式神展開(ブレイド・オン)!!」
 続いて呪言を唱え、その手に呼んだのは真空を司る石を持った剣精霊『メルフォース』。黒い柄と白銀の刃が風を纏い力強い風の輝きを(まぶ)やく放つ。その剣を左手に握り、空中で主の手に向かっていた『イードロ・デューオ』の偶像神の剣を阻む。この剣の効果は神格を有する力に対し、その逸話を(つまび)らかにし、それよりも高位の神としての力を疑似的に得る事が出来る。龍斗の使う式神は朝宮に古くから伝わる式神の名で(実際は“式神”として呼ばれていた使用人達の事で、現代にも『狗音』などの名を与えられて仕えている人がいる)、朝宮の信奉神、太陽龍の神に仕えた獣とされているので、偶像神の剣に、高位の神格を与えてしまう。それを避けるため主の手に収まる前にその剣を抑え込んだのだ。
薫風よ、災禍を退け給え(エアレイド)!」
 唱えられた呪言が真空剣メルフォースへと伝わり、何処か爽やかな薫りたたせる風が『出雲守永則(いずものかみながのり)』と『ソハヤノツルギ』に纏わりつき、その剣が持つ力を眠らせた。龍斗の剣型式神『メルフォース』の加護を借りて使う一時的な鎮静術だ。こう言った応用技術は、本来力を借りる物の『加護』の範囲でなければ使用できない。だが、そこは龍斗が持つ派生能力の一つ『恩恵操作』の『呪言(スペル)』により、己の力を呪言を用いて加護や恩恵をある程度操作する事が出来る。これを利用して龍斗はメルフォースには本来設定されていない力を引き出しているのだ。
 謙也は『スキルストテラジー』を『無限流』にて操り、その手に取るが、その剣をマークする様に飛び掛かってきた龍斗の『霊鳥』が邪魔をする。
 斬った相手の能力を担い手にコピーさせる『スキルストテラジー』だが、龍斗の使うイマジン体『霊鳥』は霊力の塊で出来た普通の鷲と性能は変わらない。“飛行”を能力と見なそうにも、鳥が翼で飛ぶのは当たり前のため“能力”として判断する事が出来ない。
 『コルポ・モルターレ』で一撃必殺を狙おうとするが、この剣に対して他の剣を無視してずっと『狗音』が噛みついて来ているので満足に振るう事が出来ない。『コルポ・モルターレ』が“必殺”の効果を発揮できるのは、全力で振り抜いた時だけ。つまり、大振りでなければ効果を発揮できない。
 しかし、ここまで奮闘した龍斗だが、残りの二本、破壊不可能にして金剛力を発揮する『伐折羅(ばさら)』と、担い手の時間を加速させる『獅子王』まで手が回らない。こちらはさすがにノーマークで戦うしかないと判断した龍斗は、他の剣に注意深く対処しながら『伐折羅(ばさら)』と『獅子王』は完全無視(っと言う名の回避)で対処した。
 実質、二本分の優位で戦っている謙也だが、それでも龍斗をシトメ切れてはいない。ここまで駆使しても二人の実力に大きな開きは見られないのだ。
 「()むない」そう判断した謙也は『無限流』を一時的に解除し、手の平にイマジンを集める。気付いた龍斗が阻止しようとするが間に合わない。手の平に集めた大量のイマジンを握り潰す様にイマジネートを展開。巨大な光の本流が立ち上り、まるで光の剣の様になったそれを叩き降ろす。爆発した粒子の波動が龍斗を押し退け、メルフォースの風を払い、霊鳥と狗音の身体を削り取り消滅させる。
 二年生以上のイマジネーターは、イマジンを粒子単位で操作する事が多少なりできる様になっている。謙也はイマジン粒子を水の流れの様に操作し、激流の様に素早く動かす事で粒子を振動させ、それを直接周囲に解き放った。結合粒子は振動粒子と接触すると、粒子振動の共鳴を起こし、結合部分を分解してしまう現象が発生する。この現象が能力として展開されているイマジン、イマジネートに発生した場合、能力を形成するイマジンが分解、霧散してしまうため、エネルギー不足で能力自体が消滅する結果を起こす。これがイマジン無効化能力、総称『零』と呼ばれる中の一つ『イレイザー』だ。イマジンを粒子単位で操作できる様になった事で可能となる無効化技だ。
 僅かに出来た隙を利用し、謙也は必殺剣『コルポ・モルターレ』を掴み取る。
 必殺の剣を構えられ、龍斗は焦って距離を詰める。あの剣は全力で振るわれると、例えかすり傷でも必殺の致命傷へと“決定”させられてしまう。近距離にてラッシュを掛け、大振りできなくする事が必須だ。
 ―――が、その瞬間、謙也の構えが僅かに変わった。それに素早く気付いた龍斗は急ブレーキをかけ、ギリギリ謙也の制空権の一歩手前で停止する。
 謙也は口の中で舌打ち、しかし、表情はむしろ嬉しそうに目を細める。
 『後出し先制』。謙也の持つ『剣聖』の能力の一つだ。あとからゆっくり繰り出しても、その攻撃を必ず先に当てる言葉通りの技。発動条件はカウンターである事と、帯刀している事、そして標的が自身の間合いに入っている事だ。龍斗はそれに気づいて制空権の手前でブレーキをかけたと言う事だ。
「一年生の頃は、何度も上手く行った切り札だったんだがな?」
「二年生に上がればお互い手の内を知り尽くしてるようなもんでしょ? 『直感加速』で五回殺されるって感じた時にはヒヤッとした………」
 龍斗の能力『朝宮の防人』には、デフォルトで『防人の加護』が存在し、自身の基礎能力を成長と共に強化していく特性を持っている。そのため、彼は直感が他のイマジネーターより冴えているのだが………、そんな彼でも『後出し先制』をカウンターで返す様な芸当はできず、間合いの外で立ち止まる事しかできなかった。そして、それが致命的な隙を作ってしまったと言う事も龍斗は既に『直感』している。
 謙也の背後に一人の少女が現れた。桃色がかった白い髪に青い瞳。胸元や背中が大きく開いた扇情的な袖の長い黒と白の服に、ニードルの様なブレード状の不思議な物体を連れている。ニードルは、某国民的ロボット漫画に出てくる“牙”の英文の名を持つ物体に似ていて、全部で24本、彼女の周囲を囲う様に浮いていた。
 一年(ひととせ)謳和(うたわ)。無表情で自身の魅力に無頓着、おまけに羞恥心と言う物を学び損ねたらしく、自身の肌を晒す事に抵抗が無い。おかげで目のやり場に困る龍斗に対し、同じく女性の魅力に無頓着な謙也は抵抗無く受け入れるので、二人は自然と仲良くなった。意外なのはその能力。突き刺しかビームかでも撃ち出しそうなあの物体は、ブレード版と言うアンテナなのだと言う。あのアンテナは集中力に比例し数を増やしていき、あらゆる情報を取り込む事が出来る様になる。範囲内に入ってしまえば、人の思考すら脳信号から読み取られてしまう。おまけにアンテナは普通にブレードとしても使えるので実に厄介なこと極まりない。
 しかし、通常30以上がデフォルトだったはずのブレードは6本ほど数が足りていない様子。やはり、此処に来るまでに数の消費から逃れられなかったようだ。もし、最大展開数300本を展開されていたら瞬殺だったと身震いしてしまう。今は無表情の中にも小さな汗の粒や顔色が青くなっているなどの隠しきれない疲労も見て取れる。明らかに戦力外に陥っている。
 それでも、龍斗は彼女を謙也と合流させてしまった事を痛恨事と感じる。
「謌和、大丈夫か………?」
「うん、直接協力はできそうにないけど………」
 そう答えた謌和は、謙也の隣に出て、彼に向き直る。
「だから………、使って? 私を………」
 ただでさえ開いている胸元を、両手で開く様にして見せた謌和。薄い胸を反らし、きめの細かい白い肌を露わに、顎を逸らして謙也を見上げる様にして目を合わせる。
「ああ………、龍斗が相手だ。使わせてもらうよ。お前を………」
 それに応えた謙也は、彼女の腰に手を添え、背中を逸らすと、キスでもする様に彼女の瞳を覗き込みながら―――開いている右手を彼女の胸元へと差し込んだ。一瞬、謙也の手が彼女のやわ肌に触れた瞬間、イマジンによる展開陣(平たく言って魔法陣のイメージ)が開き、彼の腕を更に奥へと導く。謌和の霊格その物へと導く様に………。
「あ………っ!?」
 身体の内側に異物が侵入してくる感覚に喘ぎ声を漏らす謌和。その手が自分の霊格に触れた瞬間、彼女の表情が妖艶に歪む。“それ”をしっかりと握りしめた謙也は一気に抜き放つ。霊格を引き抜かれる感触に堪え切れなくなった謌和の絶頂が木霊する。
「ふああああぁぁぁ~~~~………っっっ!!!!」
 がっくりと項垂れる謌和を片手に抱き、謙也は引き出した()を高々と掲げ、呪言を説く。
「“誓いを此処に! 俺は君の敵足り得る全てを斬り払うと!!” “比翼(ひよく)”、“『祝福の謳歌』”」
 『比翼』それは二人以上のイマジネーターが、共通のイメージを重ね合わせる事でスキルスロットの制限を超えて獲得する事が出来るアナザースキル。共有されたイメージが互いの間で同一のイメージであった場合、そのイメージは複数のイメージではなく、一人分のイメージとして認識できない事も無い。赤一色の絵の中に赤色の絵の具をたらしたところで違和感がない様に、共通したイメージは単色と変わりがない。だが、実際にはそのイメージは二人分で構成された物だ。そのため通常一人のイマジネーターが構成する能力を、二人分の出力で補う事が出来る様になる。その結果生み出された能力(イマジネート)は、通常の能力より強固であり、その存在は既に存在している物質などよりも膨大な“存在感”を保持している。
 この力が開発されたのは一つの偶然。2024年の生徒達によるクーデター事件。これを阻止しようとした一部生徒が、偶然にも創り出す事に成功し、事件解決へと高く貢献した。逆に言えば『比翼』誕生には、あのクーデター事件が必要不可欠だったとも言われ、何とも皮肉が掛っている。
 そしてもちろん、この『比翼』は簡単に作り出せる物ではない。最低でも一年以上の付き合いを持つ者同士が、強い信頼と理解をしている上で、自分の霊格(神格などを有する器、存在の核。魂と言う理解が最も無難)に触れさせても良いと許せるだけの覚悟があって初めて()()()()()()()()。成功するかどうかは、実際にやってみなければ解らない。
 謙也と謳和が互いの絆(比翼)で創り出した剣は、謙也の身長ほどもある片刃の大剣。全体が透き通った透明色の剣は、その巨体に見合わず、まったく重量を感じさせず、肩手一本で軽々構えられている。
「やっべぇ………っ!」
 焦って一歩後ずさる龍斗。
 謙也は、霊格から直接イマジンを引き抜かれて、ぐったりしている謳和を木に寄りかかる様に座らせると、―――無造作に剣を一閃した。
 衝撃波………などとはとても比べる事は出来ない剣激の暴風。刃が鋭すぎるが故に、空間そのものが悲鳴を上げたと言わんばかりに荒れ狂った大気の刃は、たったそれだけで木々を薙ぎ払い、触れてもいない大地を捲れ上がらせ、近くの川を一瞬で干上がらせてしまう。
 その暴風の標的となった龍斗は後ろに一歩飛んで避けるが、それ以上の距離を稼ぐより早く、衝撃波が彼を襲う。
「我が主っ!!」
 声が木霊し、龍斗の持つ真空の剣メルフォースが淡い薄緑色に輝き、その姿を一人の少女の姿へと変えた。ロングの銀髪に赤い瞳を持つ、動き易さを重視されたスリットの多い巫女装束に身を包む女性の姿。龍斗を守護する契約を誓った、ギガフロート出身の精霊イマジン体。それが彼の剣の正体だ。
 彼女は真の姿を表わす事でより強力な風を操る権威を持っている。また、龍斗は風の属性との相性が良いため、風の能力には余程の自信を持っていた。しかし、今回相手するのは“比翼”で作られた剣風(けんぷう)。暴力的な剣激で無理矢理作らされた衝撃波。能力ではなく物理現象であるため、風を制する勝負と言うわけにはいかず、強力な風をぶつけて相殺するしか方法が無い。だが、メルフォースの実力はあくまで『精霊王』クラス。『神格』には遠く及ばず、ましてや“比翼”の衝撃波を抑えきることなど不可能だった。
「私が時間を稼ぎます! 何とか―――っ!!?」
 言葉は衝撃波で掻き消された。
 メルフォースが前面に展開した真空の壁で何とか抑え込んでいるが、それも僅かな時間を稼ぐだけで精一杯だ。それでも自分の僕が作ってくれた僅かな間隙。龍斗は完全に背を向けて全力で走った。僅かでも衝撃を受ければ即死を間逃れない“比翼”の衝撃。それが()()()()()()と言え、食らってしまえば終わりなのだから。
「逃がさん………っ!」
 瞬間、謙也は今度こそ攻撃の剣撃を放った。
 烈風。
 縦一文字に切り裂かれた風の()が、刃となって真直ぐ龍斗へと飛来する。
 その刃は一秒でメルフォースを真空の盾ごと切り裂き、龍斗の背後に迫り、二秒で彼が放った『イレイザー』を打ち消し、三秒目に彼の元へとたどり着く。
「………っ!!」
「お待たせ~~~っ♪」
 刹那、龍斗の耳元に聞こえた声は、命の灯が消えようとする危機感とは、まったく場違いな程楽しげな、………人の悪そうな声だった。
「『執筆作業(ブックオブメイカー)』!」
 龍斗の前に躍り出た一人の少女。大きく黒いとんがり帽子を被り、黒いマントを纏った魔女の様な出で立ちで、左手と、彼女の前面に幾つも展開される分厚い本の数々を従えて、彼女は“比翼”の一撃から彼を守る。展開される本の数は38冊。ひとりでに中を開き、バラバラと凄い勢いでページがめくられていく。それにより展開された魔法陣が何重にも折り重なり、暴風に砕かれながらも二人の身を守っている。
 ピンクの長髪に含みのありそうなブラックスマイルがチャームポイントのブレザー少女。彼女は連葉(つれは)美希(みき)。龍斗コミュニティーと呼ばれる仲間の一人で、己が創作したオリジナルの魔法を一冊の本にして創造できる、“魔法創造能力者(マジックメイカー)”の異名を持つ、本当に魔女みたいだと時たま言われるハラグロ少女だった。
 烈風の勢いが完全に相殺された時、それは最後の障壁を砕かれ、障壁を展開していた本が燃え落ちた時だった。
 危機足り得る物が消え去り、静寂が戻ると同時、彼女は力尽きた様に背中から倒れそうになる。
「美希さんっ!?」
 寸前のところで抱きとめた龍斗。覗き込んだ彼女の表情には、薄い汗と疲労の色が濃く映し出されていた。此処に辿り着くまでに相当の修羅場を潜り抜けて来たらしく、既に戦闘続行は見込めそうになかった。
 いや、そもそも彼女が一度に展開できる本の数は瞬間的なら50冊展開可能だ。それが比翼を相手に使った障壁が38冊………既に疲労を押して来てくれたのは明白だ。
「しっかり! こんなになるまで戦ってくれたなんて………っ!」
「………うふっ」
 不意に、彼女の唇が微笑む様に吐息を漏らした。
「美希さん? 大丈夫―――?」
「こうして男の子のピンチに身を呈して助けるなんて、まるで主人公を助けに来たヒロインみたいじゃないかしら~? そう思うと何だか~~………、うふふっ、湧くわ~~♪」
「こんな時まで小説のネタ探さんで下さいっ!?」
 美希は小説家志望のEクラス生徒なのだ。
 龍斗の反応に気を良くした美希はクスクスと笑い、自分の胸に手を当てる。
「使って、龍斗くん? 私の事を………」
 言われて一瞬赤くなった龍斗だが、こんな事は一年生後半で結構経験させられてきた。すぐに切り替え、彼女の方を抱いて自分に引き寄せる。
「わかった………。使わせてもらうよ。“美希さん”を」
 目を瞑り、僅かに顎を上げる美希。それに合わせ、ゆっくり近づきながら同じく目を瞑った龍斗は―――そのまま唇を重ね合わせる。
 瞬間、二人の間で霊格が交差し、イマジンが二重幻想の顕現を引き起こす。美希の胸に展開陣が出現し、龍斗の手が彼女の奥へと侵入する。
「はあぁ………っ♡」
 彼女の中、奥深くへと侵入した腕は、その最奥である霊格に触れ、顕現した二重幻想を引っ張り出す。
「はああああぁぁぁぁ~~~~~んっ♡♡♡」
「“誓いは此処にっ! 我は彼女の敵となる全てを討ち滅ぼすっ!!” “比翼”、“『颶風彩る杖(メーカー・オブ・エアレイド)』!!”」
 龍斗の手に、薄緑色の透明な杖が引き抜かれる。自分の身長より長い杖の先が音叉の様に長細い輪っかを持つ杖は常に風を纏い、主の命を今か今かと待ち望んでいた。
「まずいっ!?」
 龍斗の比翼を見て焦った謙也が一歩後ずさる。
 比翼を構えた龍斗は、杖の効果であるあらゆる風の具現を駆使して風を繰る。
颯、射貫け(エア・スパイク)!!」
 振るわれた杖から放たれた矢の様な(かぜ)が、まるで騎馬の突撃槍の如く謙也へと迫る。速く貫通性を持ち、しかも誘導性(ホーミング)まで持ち合わせていると知っている謙也は、己の比翼で相殺するか一瞬だけ悩んでしまう。
「謙也ッ!」
 その時頭上から声が掛けられ、同時に降りてきた黒髪短髪の少女が彼の側へと降り立つ。背中が完全に剥き出しの露出度が過度に多い、まるでクノイチ風を思わせる衣装に身を纏う彼女は、形代(かたしろ)繰々莉(くくり)。謙也のもう一人の仲間。そして―――、
「私を使ってっ!」
「ああ、使わせてもらうっ!」
 迫る(はやて)()かされ、二人は短いやり取りだけで次のアクションに移る。
 繰々莉の腰を右手で支えながら彼女の背を反らさせ、謌和の時同様、至近から彼女の目を覗き込み、左手で彼女の胸に手を当てる。同時に展開された展開陣に手を沈め、彼女の霊格へと直接触れる。
「はぁ………っ!?」
 そしてき抜く。新たな“比翼”の剣を―――!
「あああああぁぁぁぁ~~~~っっ!!」
「“誓いを此処に! 俺は君の敵足り得る全てを斬り払うと!!” “比翼(ひよく)”、“『人形の心(イノセントエッジ)』”」
 二本の剣を左右に構え、謙也は迫りくる颯を迎え撃つ。
 交差した刃に激突した風は、物体である刃をすり抜け、謙也の懐を貫こうとする。だが、謙也の持つ比翼『人形の心(イノセントエッジ)』がそれを阻む。彼の剣の特性は、対象とする物を、自分を無視して素通りする事を許さない。例えそれが風であろうと、接触した時点で、この剣を無視して貫通する事が出来ないのだ。だが、この特性は利点よりも欠点の方が大きい。受け止めた攻撃は、その特性上、受け流す事が出来ず正面からまともに受け止めなければならない。
「うおお、おおおおおおおぉぉぉぉぉ………っっ!!!」
 だが、謙也にとっては望むところ。正面からの打ち合いなどで負けるようでは、最強の名は名乗れない。
「はあぁぁぁっ!!」
 気合い一発、左右の剣を交差する様に切り開き、颯の一撃を断ち切った。
 荒い息で肩を上下させながら、彼は眼前の敵を睨み据える。
(さすがは龍斗の比翼だ………っ! “比翼の龍斗”と呼ばれる二年生では『最強の比翼使い』だけの事はある………!)
 龍斗は刻印名を持っていない。だが、多くの仲間と“比翼”の絆での結ばれ、二年生中では、比翼の使い手として最強だと謳われていた。
 だが、比翼最強の使い手も、二年生最強ではない。最強の名に執着しているつもりはないが、それでもその名に座しているからには容易く譲る気はない。
「まだ、負けを頂く気はないっ!!」
 飛び出し、剣を振るう謙也。
 同じく凬を纏って迎え撃つ龍斗。
 互いの攻撃がぶつかり合い、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
「きゃあっ!」
 その衝撃波に最も近かった美希が、受け身を取る事が出来ず倒れ込む。
 一瞬気を取られた龍斗の隙を突いて、謙也の右の比翼『祝福の謳歌』が襲い掛かる。
 颶風を繰り、受け流した龍斗だが、その凬を左の剣『人形の心(イノセントエッジ)』が絡め取ってしまう。凬を奪われ無防備になった懐目がけ、謙也の右の剣が再び襲う。杖で受け止め、受け流し、ついでに跳ね上げた膝が謙也の腹に叩き込まれる。
 イマジンによる緩和。
 杖を放して両手で顔面を連続五回も殴られた。
「うぐ、ぐ………っ!?」
 隙が出来たところで杖を掴み取りつつ、後ろ回し蹴りが飛んでくる。右腕で何とか受け止めたところで杖の先が腹に打ち込まれる。
巌を押し退ける突風(エア・スマッシュ)!!」
 ダンプカーの一撃かと言う程の衝撃を直接腹部に食らった謙也は、そのまま吹き飛ばされて宙を舞う。
(ぐぐ………ッ!? さすが龍斗………ッ! “比翼”の扱いには一日の長があるか………っ!? だが―――!)
(おかしい? いくら得意とする比翼の戦いとは言え、謙也の手応えが無さ過ぎる? もしかして何かを狙って―――!?)
 謙也が溜めこんでいたイマジンを右の剣に集中し、構える。
 それに気付いた龍斗は焦りの表情を露わにした。
 『一刀両断』。今、謙也が使おうとしている必殺の技の名。
 概念干渉系による、回避、防御を一切受け付けない、放たれれば最後、文字通り一刀両断にされてしまう“必殺”の一撃。
(『クイック・ム―ヴ』で………っ!? ダメだ! 距離が遠すぎる! 『()』で相殺できるかっ!?)
 龍斗は己の奥の手を使う構えを見せる。放たれれば確実に殺す技ではあるが、龍斗の持つ、ある能力だけは例外に値する。あらゆる物に例外的な殲滅の属性を与える力、形式上『闇』と呼ぶ異能。胸の奥から燻ってくるその気配を手繰り寄せ、比翼の杖に込める。
「“殲滅の黒き刃”………!」
 『合言葉(キーコマンド)』を口にし、杖に真っ黒な闇を纏わせ、刃の形状に変えていく。
「させませんっ!!」
 途端、それを読み取った繰々莉が、動けない美希に向けて手に持っていた小太刀を投げつける。
 彼女の能力は『暗殺人形(アサシン)』。その真骨頂とも言える暗殺能力の殆どは、度重なる戦闘で殆ど失われているようだったが、最後の力を振り絞って投げられた刃には、イマジン調合の能力を持つ者に作らせた毒物が塗られている。その毒物が何かは解らないが、それでも龍斗は美希を庇うために『クイック・ム―ヴ』で移動するしかない。
 『闇』を纏った比翼は、攻撃力があり過ぎて、下手に砲撃を放つと、美希が巻き込まれてしまう可能性があったからだ。
 美希の前に躍り出て、飛刀(ひとう)を叩き落とした龍斗は、そのタイムラグを承知で殲滅の加護を施された比翼を振り被ったが………、やはり、飛刀された時点で『直感』が教えていた通り、もう間に合いそうになかった。
 十二分にイマジンを比翼に溜め込んだ謙也は、その一振りで龍斗を美希ごと両断出来てしまえる。その準備が出来てしまった。
「美希さん!」
「………っ!?」
 せめて美希だけでも庇って見せようと、殲滅の加護を防御に展開しながら龍斗は彼女に覆いかぶさる。
 刹那に放たれる一撃。
 『一刀両断』は斬激を飛ばす物ではなく、その効果を直接強制させる物だ。故にこの攻撃に“射線上”などと言う概念は無く、直接龍斗の元へと叩きつけられる。彼が纏った『(殲滅の加護)』は、そんな概念系の攻撃でさえ対象として受け止める。しかし、“殲滅”は攻撃として放たれて始めて力を発揮する物だ。純粋な物理法則に従うなら、殲滅の加護は謙也の『一刀両断』を受け止めるだけの力があっただろう。しかし、これが概念干渉系の攻撃として放たれている以上、そこにはイマジンとしてのイメージ力が関係してしまう。
 結果的に、謙也の一撃は殲滅の加護に力を削られながらも、その攻撃を打ち破った。
 ―――が、それは彼の悪運へと繋がる。

「“代われ”、輪差(りんさ)

 凛ッ! っとした音が鳴り響き、何者かが龍斗の前に現れる。手の平に展開された展開陣を翳し、イマジネートを発動。
 謙也の『一刀両断』は、展開された力に触れると、その展開陣を縦一文時に割断(かつだん)する。そして、それで役目を終えたと言わんばかりに効果を終了させた。
「龍斗くん………、無事だった?」
 理性的で静かな声が背に掛けられ、龍斗は倒れ込んだまま肩越しに振り返り、その存在を確認した。
茉衣(まい)!」
 麻乃(あさの)茉衣(まい)。銀の様に光沢を持つ長い灰色の髪をした、白と青のセーター服少女。頭にカチューシャを付けていて、手には大きな薙刀を握っていた。全身のプロポーションは、服の上からでも均等が取れている事をはっきりと解らせてくれる。
 龍斗のもう一人の仲間であり『輪間転差(りんかんてんさ)』と言われる“転換”の能力を持つ、Dクラスの生徒だ。
 彼女の使う“転換”は、概念や(ことわり)、次元や可能性、その他もろもろの“事実”を“別の事実”へと置き換える能力なのだが………、大変理論が難しく、長くなりそうなので説明は別の機会へとさせていただく。とりあえず、今回は茉衣がその能力で、謙也が対象とした存在を、別の対象へと移し換えたと理解していただければOKだ。
「助かったよ茉衣。さすがにアレを撃たれて生き残ったのは今回が初めてだけど………」
「二年生になったんだから、『必殺回避』の再現くらいできないと危ないと思う?」
「どうもああ言う小難しいのは苦手で………。ホント、茉衣達には感謝してる」
「龍斗くんにそう言ってもらえるのは、嬉しい………かな? あ、でも、その“いつもの”はそろそろどうにかした方がいいと思う」
「“いつもの”………?」
 言われた意味が理解できず、とりあえず視線を戻した龍斗は―――美希を押し倒している事にやっと気付いた。
 胸に手が………、などと言う事は無いが、それでも無防備な女の子を押し倒している事には違いない。美希はきょとんとした表情をしているが、その頬が僅かに赤くなっていて、多少なり羞恥を感じているのは明らかだ。
 状況に緊張した龍斗が呻き声を漏らして赤面する中、美希は龍斗の顔を至近距離から見上げつつ、上目使いに尋ねた。
「私、襲われちゃうの?」
「―――しませんっ!!?」
「うん、いつもよりは大人しいよね? スカートの中に頭から突っ込んだりしたのに比べれば………」
「アレも事故だからっ!? 俺が故意でやってる事なんて一つもないからっ!?」
「なるほど~、何度同じ場面になろうと男の子は同じ言い訳で乗り切ろうとするのね? (メモメモ」
「メモらんでくださいっ!?」
 さっさと美希から離れ、彼女を助け起こしながら抗議する龍斗に、茉衣は二、三歩近寄って彼を見上げる。
「龍斗くんが強いのは知ってる。けど、相手は一年生の頃最強の名を手に入れた人。たぶん、二年生になったばかりの今でも、それは同じ………」
「ああ、そうだろうけど………」
「だから、使ってほしい。私の事も………」
 そう言って龍斗の眼を見る茉衣。
 龍斗は一瞬、何事かを思い出し激しい葛藤に見舞われるのだが、結局頷いて彼女の肩を抱くのだった。
「こりゃあ、あとで(ひじり)に大目玉だ………」
「龍斗くんはそう言う人だから」
「今の発言は何かおかしい様な気がするんですけど?」
「誰も否定しないと思うわよ~~~♡」
 美希にまで突っ込まれ、龍斗は溜息一つして切り替える。
 互いに視線を合わせ、瞼を閉じながら近づき、唇を重ねる。
 絆を証明した事で茉衣の胸元に展開陣が出現、龍斗はその展開陣に向けて左腕を伸ばす。
「ふあ………っ!」
 展開陣の奥、彼女の霊格へと触れた龍斗は、その柄を握り締めて、一気に引き抜く。
「はああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
「“誓いは此処にっ! 我は彼女の敵となる全てを討ち滅ぼすっ!!” “比翼”、“『流転の槍』!!”」
 龍斗は右手に杖を、左手に槍を携える。
 地に着地した謙也は、龍斗が持つ二つの比翼に舌打ちするが、すぐさま地を蹴って二振りの剣を振るい抜く。
 同じく地を蹴った龍斗が杖と槍を突き出す。
 謙也が二刀を交差させて斬り込むが、龍斗の『流転の槍』の一突きに弾き返され、凬を纏った『颶風司る杖』が懐を薙ぐ。そのタイミングに合わせ移動技『縮地(しゅくち)』が発動し、一瞬で龍斗の背後を取る。繰り出された『祝福の謳歌』の一撃が龍斗の背に迫るが、龍斗は身体を捻り攻撃を回避しながら同時に振り向き様に背後に向けて一撃を放つ、ターンステップを『クイック・ム―ヴ』で繰り出し、これに対抗した。
 互いに打ち合わされた槍と剣、ぶつかった衝撃で互いに僅かに距離が開くが、比翼を持つ二年生にとって、その距離は未だに互いの間合いだ。
颶風よ翔けよ(エアレイド)!!」
「斬り伏せろっ!!」
 地に着いた脚で、無理矢理衝撃を殺した二人は、その足で互いに向けて飛び出す。一瞬の交差で風の刃と鋼の刃が交差する。龍斗は頬に、謙也は右肩に僅かな血の軌跡を刻む。どちらも傷は浅い。
 龍斗が地面を蹴って跳ねる様にして体を振るい、勢いを殺さぬまま振り返り『颶風彩る杖』を振るう。
千磐破霾(ヴァーティカルエアレイド)ッ!!!」
 繰り出された千の風刃が謙也を襲う。
 謙也は『マリオネットの心』で受け止めようとして、慌ててそれを止める。今龍斗の撃った風刃の群れは、千枚の巌を打ち破ると言う意味を含ませたイマジネートで、防御系の能力を蓄積ダメージで粉砕する事が出来る。もし、『マリオネットの心』で受け止めようものなら、いくら比翼とは言え、打ち砕かれてしまう可能性が高い。
「チィッ! 力押しで行くしかないかっ!!」
 剣の効果を物理攻撃のみに限定し、謙也は二刀の剣で無数の風刃を叩き落としに掛る。幾多幾多と迫りくる貫通性の高い風刃を純粋な剣技だけで叩き落としながら、後退を余儀なくされていく。
 最後の一撃、特大の風刃を受け止めた時には、風の衝撃で全身へとダメージが流れ込んだ。風の刃は物理的な飛び道具と違い、剣でパリィしても完全には消し去れない。それが比翼の一撃ともなると笑い話に出来ない威力となる。
 正直、二年生になると言う意識から、意地で覚えた高難度技術『対傷護凱(たいしょうごがい)』(ダメージそのままで外傷、つまり肉体的破損だけを否定するイマジン技術)を覚えていなければ、真空刃を受け止めた際の衝撃で、身体中裂傷だらけになっていたかもしれない。悪くすれば腕の一本くらいは無くなっていただろう。
「ふぅ………、最強の座についてからと言う物、度々こんな窮地には立たされがちだが………、やはりこの座を降りない為に、使わないわけにはいかないのだな?」
 そう言った謙也に対し、約50m先で杖と槍を携える龍斗が表情を強張らせる。
「できれば使われる前に倒したかったかな? 俺はまだ≪ギガエグゼ≫まで使えないから」
「俺だってまだ未完成だ。………だが、イマジネーターとして、使える手を使わずに負けるような真似だけはしたくないのでな」
 挑発的に告げた謙也が、二刀を天高く掲げ、切っ先を交差する様に構える。
「………ッ!」
 対応して龍斗も杖と槍を構え直し、自身を強化するイマジンに意識を集中する。
 そして二人は叫ぶ。
 イマジネーターとして、一人前とされる力の解放を―――!

「「≪イクシード≫!!!」」


 試合終了後、教室に戻り結果発表を確認に行く途中の廊下―――。謙也はとある人物に話しかけられる。
「よぉ、Cブロック通過おめでとうさん♪ お前さん、ついに龍斗と正面対決でも勝ったんだってぇ? こりゃあ、二年生最強の座は盤石だねぇ~~♪」
 茶化す様に賞賛してきたのはDブロック通過メンバーの一人で、神涯寺(じんがいじ)(かつ)と言うバンダナがトレードマークになっている少年だ。それ以外は黒髪黒目と言う使い古された説明くらいしかできない。
 柘榴染柱間学園(ざくろぞめはしらまがくえん)の男子制服に着替えた彼は、『ギャンブラー』の刻印名を持つ、Fクラスの生徒である。Fクラス内ではその能力故に“最強”と“最弱”を行ったり来たりするピーキーな能力者として有名だ。
 壁に背を預け、待っていたらしい勝に対し、謙也は肩を竦めた。
「………勝か? 皮肉はよしてくれ」
「皮肉なもんかよ? いくら龍斗が皆瀬(みなせ)の“比翼”を使えなかったとは言え、比翼使いとしては最高クラスだったあいつに、比翼を使わせた上で勝つ。………これ以上に賞賛できるネタでもあんの? ってか、お前らは女子と比翼できるだけでも己の境遇に感謝すべきだと思うんですけど?」
「? 二人に対して感謝の念ならあるさ。言われるまでもなくな?」
「マジ顔で言ってるからムカツクよ………」
「それに、今回の勝利だってとても褒められた物じゃない。確かに俺の≪ギガエグゼ≫は龍斗にトドメを刺したが、変わりに“比翼”は二本とも砕かれてしまった。これで俺は次の試合では“比翼”は使えなくなった」
 比翼はイマジネーターの霊格、魂の一部を絆で編み上げた物だ。それを砕かれると言う事は、絆を砕かれたのと同義であり、精神的ダメージを互いが負う事になる。そのダメージは絶望にも似ているらしく、比翼を与えている側は、気を失ってしまう程だと言う。
 そして今回の試合では、謙也にトドメを刺され破れた龍斗と、比翼を砕かれ戦闘続行不可能にされた謌和(うたわ)繰々莉(くくり)の三名が失格となり、残った美希と茉衣、謙也が駒を進める事となったのだ。
「まあ、今のところ≪ギガエグゼ≫まで使えるのは俺だけだからな、負ける心配はないだろうが、ここじゃあ油断は敗因ではなく敗北直結だからな。()()()()()
 そう言って薄く笑む謙也に「らしいなぁ~~!」っと笑い飛ばす勝。
 彼は壁から背を放すと、謙也とすれ違いざまにその目をチシャ猫のように細めた。
「だったら俺との戦いも楽しみにしてろ? 俺はここぞという時にギャンブルで負けたことはねぇ」
 そう挑発してきた事に楽しそうに笑むだけで答えた謙也は、これだけの強敵達に狙われる己の境遇を心の底から楽しんでいた。
(これだから、“最強”は譲れん………ッ!)
 二年生、それは一年生と違い、生徒の立ち位置が決められている世界。その中で行われる人間関係は、悪意が全く無かろうと、闘争の気に満ち満ちていた。
 現在の一年生が、この領域に辿り着くのは、まだまだ先の話である。


 06


「こ、これってなんなんですか………っ!?」
 三日目の夜、想像以上に食べてしまった悲劇の夕食を体験してしまった不幸をバネに、カルラ・タケナカ自室でタブレットの画面を覗き込みながら驚愕の表情を模っていた。
 タブレットに映し出されているのは、今日までのBクラス全員の成績表(仮)だ。情報収集に長けた一部生徒から買い取り、後の結果から、どの生徒の情報をこれから頼るべきか判断するために、先駆けた投資感覚で入手した物だ。
 その中の一つ、最も信頼できそうな情報に映し出されたジーク東郷の成績を確認して、カルラは呆然実施となっていた。彼の成績には敗北数が0で、勝利数は3となっている。つまり、一度の敗北も無い完全勝利である。イマジネーターの実力は同学年ではほぼ拮抗するのが常識とは言え、今は入学して間もない初めての実践。組み合わせ次第ではこう言うケースも起こりうるのかもしれない。
「にしても、これは明らかにおかしいでしょう………?」
 そこにはありえない数値が記録されている。試合中に獲得したポイントと、失点のポイントが表示されているのだが、そこにジークの失点が一つも記載されていない。
「いくらなんでもこんな………!? タスクでも殆ど失点していないってどう言う事ですか?」
 これはありえ無さ過ぎる事だ。実力拮抗が普通の同学年勝負で、ここまで圧倒的な実力を見せるなど、普通はありえない。異常過ぎる。
 さすがにこの結果には何か裏があると思えてならない。カルラは情報を整理しながら検討してみる。
「『不滅の肉体』? 『恐らくはジークフリートをモデルとした能力と思われる』? 圧勝したのはこの能力による耐久性のおかげ? いや、そうだとしてもタスクでも好成績を残すなんて普通は出来ない。だとしたら何か? 何かデフォルトで備わっている『加護』の力が彼自身のポテンシャルを強化しているのかしら? でも、それにしてはレベルが高すぎる………。ステータスに『不死身』とか付いてるんでしょうか? ………ははっ、まさか? もしそうなら能力以上に肉体的耐久性の加護を有してる事になるじゃないですか? そんな人がいたら間違いなく一年生最強の生徒………」
 笑い飛ばそうとしたカルラは表情を改め、もう一度資料の中の男を真剣に見つめる。
「でも、もし仮にそうなら………、アナタが私の王なのですか?」
「なにカルラ? アンタって王子様探しにイマスクに入学したの?」
 突然声を掛けられ、カルラは慌ててタブレットを手の内で御手玉した。何とかキャッチして床に落とさずには済んだが、変わりに自分がベットから落ちて額を床に打ち付けてしまう。
「ううぅ………、い、痛い………」
「何やってるんだか………」
 呆れて溜息を漏らし、カルラに手を貸すのは火元(ヒノモト)(ツカサ)と言う名の、カルラの同室の少女だ。
「べ、別にそれが全ての目的と言うわけでは………、イマスク卒業と言うだけで社会的職の安定性は保証された様な物ですし、入れるなら入ってしまった方が良いと考えただけよ。………まあ、確かに私の王を探しているのも事実だけど」
「意外と少女趣味だったりするんだね~~カルラはさぁ?」
 司は風呂上がりらしく、頭に被ったタオルで髪についた水分を拭いながら自分のベットに腰掛ける。
「少女趣味………? っ!? “王子様”じゃなくて“王様”を探してるのよっ! 自分が仕えるべき主っ! 才能さえあれば女性でも良いんだから………っ!」
「そう言う物?」
 あまり深い興味はないのか、カルラの言葉を素直に受け取る司。
 結構淡白な態度をとられたので、恥じ隠しにカルラは訊ね返した。
「アナタこそ、どんな理由でイマスクに?」
「アタシ? アタシは鍛冶師の家でね? 世界最強の武器を打ってみたかった」
「現代人らしからぬ発想ね………?」
「刃物が鋼の全てとは言わないけど、アタシが求めてるのはそっち系。まあ、だからこそ現代じゃあ社会的にも素材的にも、そこにはたどり着けないんだって解っちゃったんだけどね? でもイマスクには可能性がある。それが何よりの救いだね」
「それで? できたんですか? 満足のいく一品は? 能力もそっち系なんでしょ? Eクラス以下の課題でもあるんだし、ポイント稼ぎ出来そうなのくらいは作れたの?」
「ああ、まあ………、能力的には行けそうなんだけどさ………?」
「何か問題が?」
「先生に指摘されて初めて知ったんだけどね? アタシみたいに、他人に譲渡できる実体物質の顕現をする能力者は、素材を元に作り出すから、どんなに能力が強くても素材が悪いと良い物作れないんだよねぇ?」
「? どう言う事です?」
「ええっと………、同じクラスに及川(おいかわ)凉女(すずめ)って子がいるんだけどね? あの子は頭の中で作った武器を、イマジンで再現して取り出す事が出来るらしいのよね? でも、イマジンだけで作られた物質って、“物体”として不完全らしくてさ? 長い間形を維持できないんだってさ? 放っておくと数分後には消滅するって言ってた」
「はあ、あの混ぜちゃいけない片割れさんに、そんな弱点があったのね?」
「んで、アタシみたいな一時しのぎではない、放っておいても消えたりしない物を作る能力者は、この世界に既に“物体”として固定されている物を元にしないといけないわけだ? それがアタシ達が使う“素材”って奴だな?」
「ようするに、及川さんの能力も魔法系の一種であり、生産系の能力ではない。司の様な能力こそが真に生産系の能力と言う事なのね?」
「おお、そう言われるとちょっと恰好良い………。まあ、でも理解としてはそんなところだな。このギガフロートには、この土地でしか手に入らない鉱石とか植物などの資源もあるそうだが、採取できそうな場所は一年生は基本的に立ち入り禁止らしい。一部解放されている場所もあるにはあるんだが、申請が必要でな? ある一定以上の強さを認められないと許可が下りないそうだよ。アタシは戦闘力が無いから無理だって言われてしまった」
 話を聞いたカルラは、少しだけ不憫な気持ちを抱いた。目標となる物が目前にあるのに手を出せないと言うのは確かに歯痒い物があるはずだ。共感を覚えたカルラは、同時にある事を思いついて提案する。
「それだったら私がメンバーを見つくろって資源を採って来て上げるわ。そのかわり私にも何か打ってくれない? 短剣とかでも良いから?」
「イヤ。アタシ、カルラに打つつもりはないから」
 きっぱり言われたカルラは、ちょっとだけガクッときてしまう。
「良いじゃない、ルームメイトの好なんだし一つくらい………」
「アタシが打った武器を使わせる相手はアタシが選ぶ。ルームメイトとかなんて関係ないね」
 取り付くしまもない様子の司に、カルラは嘆息して諦めた。まだ一年生でまともな武器も作れていないだろうに、どうしてこんな所ばかり職人魂で意地を張るのかと、呆れてしまう。
「それよりそろそろ寝よう? 明日は各クラスの優勝者結果発表だろ?」
「ああ、うん、………はい。わかりました………」
(司の作ってもらった武器、一つで良いから欲しかったのになぁ………。この子は自分で気付いてるのかな? 自分の持つ能力が全世界規模でかなり希少な物だってこと………?)
 明りを消し、ベットの中に潜り込みながら、カルラはふとある事を思い出す。それは取り寄せた情報の中にある、別クラスの動向についてだったのだが………。
(そう言えば、Cクラスで試合中にトラブルがあったらしいけど………、大丈夫だったのかな? あんまり噂とかは無かったみたいだけど………?)
 気になる事柄を思い浮かべながら、カルラはゆっくりと眠りへと付いて行く。



あとがき

レイチェル「あの………、誰かいらっしゃいますか?」

佐々木「ああ、いらっしゃい。此処に来たって事はバイト希望かな? それとも何かお使い?」

レイチェル「あ、佐々木先生でしょうか? 実は尋ねたい事がありまして」

佐々木「俺に? 教師と言っても実際教鞭を振るっていないんだけどなぁ? どんな事だ?」

レイチェル「イマジン体について、ちょっと気になる事があった物ですから」

レイチェル「私のイマジン体と、同じクラスのイマジン体を使役する物では、その実力に高低差があるように見受けられました。これはどう言う事なのかと思いまして」

佐々木「ああ、それね? 一口にイマジン体と言っても種類は複数存在する。君たち一年生のデータで教えるとだね………? ふむ、君の場合は史実に則って生み出される悪魔の様だね? 切城君の場合は、既存の存在を呼び寄せると言うものか? そして東雲くん、彼は………なるほど、君が気になっているのはそう言う事か」

レイチェル「な、何がですか!? /////」

佐々木「これは失敬。まず切城くんのイマジン体は、別の世界に存在する物をこちらの世界に呼び込み、こちらの世界で活動するために必要な肉体をイマジン体として作り出していると言う物だ。これははっきり言って弱いね。呼び出した物は強い存在かもしれないが、それに合わせて作り出されるイマジン体はかなりの高レベル能力者じゃないと完全には再現できない。こう言うタイプは手数と知略で乗り切るタイプだ。だが手札が多過ぎるがために必ず選択肢を物体的な物で選べるようにしておく必要性もある。丁度、彼の持つカードがそれに該当する。だが、あのカードはただのカード、紙切れだ。アレらを媒介、情報として存在を呼び出す為にはイマジンをカードに込める必要性がある。だから一度に使えるカードの数に限りが出てしまうんだね? 彼の手札制限がこれに当たるだろう」

レイチェル「なるほど………、ですが、肉体をイマジンにより再現しているのは私達も同じですよね? どうして契のだけが弱いんでしょう?」

佐々木「彼は一つのスキルで多くのイマジン体をカバーしようとしている。君も使っているなら解るだろうけど、イマジン体は相当高密度のイマジンを操作する操作能力難度の高い術だ。最大の力を発揮させるには、スキル一つで一体のイマジン体という具合が一番理想的だね? ところが彼は一度に何体ものイマジン体を使役している。これは相当に負担になっているはずだ」

レイチェル「ですが、それなら一体だけで戦えば問題無いのでは? 一度に使う数を制限すれば負担は―――」

佐々木「残念だが、それでも無理だ。イマジン体には本来、君達と同じ『イマジン変色体ステータス』が存在する。そしてイマジン体の個体にそれぞれ能力が備わっている。だが、彼らイマジン体は時折イマジン粒子となって消える事があるよね? これはどうしてだか知ってるかな?」

レイチェル「浅葱(あさぎ)(れい)先生から聞きました。イマジン体が粒子分解して消えるのは、肉体を精製し続けるのが疲れるからだと?」

佐々木「あのパパラッチか………(闇」

レイチェル「せ、先生………?(戸惑い」

佐々木「いや、彼女とは同期でね………。気にしないでくれ」

佐々木「まあ、その通りだ。イマジン体はイマジン粒子を結合させ、肉体を作り出しているのだが、実際、肉体を維持するのは相当なカロリー消費だ。………ああ、イマジン体にカロリーなんて無いから例えだけどね? だから彼等は休む時は身体を粒子に分解し、核となる部分を術者の中、厳密に言うと脳の海馬に入り込む事で消滅を避けているんだ」

佐々木「さて質問だけど? 一度分解したイマジン体の肉体データは誰が保存していると思う?」

レイチェル「術者………、つまり、主である私達でしょうか?」

佐々木「半分正解だ。確かに、元となる肉体設計図を預かるのは術者ではあるんだが、それだと、彼等は分解する度に同じ肉体を量産して、その中に乗り込むと言う事になるよね?」

レイチェル「? それが何か問題なんでしょうか?」

シトリー「なにを言ってるの? かなりの問題よ」

レイチェル「ちょっ!? シトリー! いきなり出てこないでくれっ!?」

シトリー「レイチェルが私達の事をどんな風に思っているのか知りませんけど、私達の核は、機械のエンジンとは違うんです。この身体で活動し、使い続ければ、核、“魂”がそれに合わせて成長します。レイチェル同様、私達も個人として力を付けていくわけです。それなのに、肉体が初期段階のままでは、身体を動かすこと一つにだって支障が出ますし、もっと言うと核の方が肉体に汚染されることだってあるのです」

レイチェル「そ、そうだったの?」

シトリー「粒子存在体ではありますが、私達もれっきとした“生物”なんです。機械の様にとっかえ引っ返されては困ります」

佐々木「解り易い例えで言うなら靴かな? 新品の靴よりある程度使い慣れた靴の方が動き易いし、靴擦れなんかの心配もない。毎日新品の靴を履き替えていたら、脚の方が付かれるんじゃないかな?」

佐々木「それに、その娘もさっき言ってたけど、イマジン体の肉体だってちゃんと成長してるんだ。見た目には現れない事が多いけどね? これはゲームのアバターと同じ理論かな? せっかくレベルを上げたのに、ゲームの電源を切る度に初期設定で戦わされていたら溜まった物じゃないだろう?」

レイチェル「た、確かに………」

佐々木「だから、初期段階、つまり大まかな設計図(システムデータ)は人間の頭の中に、成長している進行(セーブ)データはイマジン体の核が記憶しているんだ。こうする事で彼等は主と共に成長する事が叶っているんだね」

レイチェル「なるほど………。ですが、それと契くんの負担の話とどう繋がるんでしょう?」

佐々木「今説明したイマジン体の核が有する記憶。つまり進行データだけどね? これは『イマジン変色体ステータス』を有している程の精巧なイマジン体でないと出来ないんだ。でもね、思い出してみてくれるか? 肉体を粒子分解している間、イマジン体の核は人間の脳に記憶された状態にあるんだよ? つまり保管される場所は結局同じだとも言えないかな?」

レイチェル「た、確かに………。記憶を入れた箱を蔵の中に入れている様な物ですよね?」

佐々木「そうさ、つまりそれだけ重量の重い記憶を大量に脳内保存しないといけない。それを彼の様に一度に何百体も保存しておくと言うのは、かなりの負担じゃないかな? 例え呼び出しているのが一体でも、脳内では控えている記憶が沢山ある訳なんだからね?」

レイチェル「凄過ぎて創造できませんね。したくも無い程に辛そうです」

佐々木「その負担を避けるために、彼は魂を別世界から呼び出し、肉体は初期設定の物で補っていると言う事だ。だから、イマジン体一体の戦闘力はかなり劣化してしまうんだよ」

レイチェル「なるほど………、契くんも中々複雑な事をしていたのですね」

佐々木「それで、最後は東雲くんだけどね? 彼は………、よくイマジン体の事を知ってるみたいだね? スキル一つにつき一体のイマジン体を使役する事で、自身の成長に合わせつつ、大量のイマジン体を使役して行ける様に準備している。その上一体一体の設定をしっかりする事で能力値も申し分ない物に仕上げている。イマジン体を使う上では、彼の方が上手かな?」

レイチェル「ムッ、私があいつに劣ると?」

佐々木「イマジン体の性能差ではね。特にあの九曜って子? 出来栄えだけで言えばあの子に勝てるイマジン体は一年生にはいないでしょう? アレはどう見ても二年生後半のレベルだ。たぶん誰かに譲渡してもらったんじゃないのかな? あれには勝てなくても仕方ないさ」

レイチェル「………負けません。私はアイツなんかに負けるわけ無いです。仮にあいつが私より強いと言うなら、私がその実力差をひっくり返して見せるだけです」

佐々木「さすがイマジネーターは対抗意識が強いねぇ~~? 自分と同じ能力者相手には絶対譲らないもんね?」

佐々木「でも、君だって充分勝っているところがあるんだよ?」

レイチェル「ど、何処ですかっ!?」

佐々木「君はイマジン体を自身の身体に憑依させられるようにしているでしょう? それって実はかなり難しい技術なんだよね? 切城くんも似た様な事をしてるけど、彼の場合は上っ面の能力だけだからね、これはそれほどすごい技術じゃない。君はイマジン体の核、魂まで一緒に同化させて意識を共有できるでしょ? アレってかなりすごいんだよ?」

佐々木「東雲くん、『自分もやろうとして失敗した』って、以前ぼやいてたからね?」

佐々木「それに、君は魔法陣を使ってイマジン体を呼び出してるでしょ? アレも素晴らしく良い工夫だ。普通のイマジン体は、肉体を分解されると、術者の半径一メートル圏内でないと肉体を再構成できない。だが、君は魔法陣を介すれば、どんなに離れていたって呼び出し可能だ。これは使い方次第ではかなり有効に使えるんじゃないかな?」

レイチェル「な、なるほど………っ! やっぱり私はアイツなんかに劣って無い………! 私の方がもっと上手く使える!」

レイチェル「御指導ありがとうございました! また質問がありましたら、その時はまた御指導御鞭撻のほど、お願いいたします!」

佐々木「ああ、いつでも来てくれ」






龍斗「うぅ………っ、比翼まで使ったのに負けてしまった………」

聖「龍斗」

龍斗「(ひじり)ッ!? あ、あの、俺は別に浮気とかしてたわけじゃなくて―――っ!?」

聖「あはは、そんなに慌てなくても良いって。私は龍斗さんの事解ってるしねぇ~? だからこそ、他の人と比翼が出来る事も、私にとってはむしろ誇らしかったりするんだよ?」

龍斗「あ、ありがとう………」

聖「………でも、私でもやっぱり嫉妬したりはするかなぁ~?」

龍斗「ご、ゴメンッ!! 聖が嫌なら! 皆には申し訳ないかもだけど………、俺、もう二度と聖以外と比翼は使わないから!」

聖「いや、それはダメでしょう? 私だって皆の事は嫌いじゃないし、そう言うところまで気を使ってくれなくて良いからさ? 使うべき時には使ってよ?」

龍斗「あ、ああ………、解ったよ」

龍斗(でもこれって、理解のある良妻に胡坐をかいた浮気性のダメ亭主って気が………)

聖「まあ………、でも………」

龍斗「な、なにっ!? 聖が望むなら、俺出来る限り叶えるよっ!?」

聖「それじゃあさ………」

聖「また、デートに誘ってくれるってことでどう?」

龍斗「………? そんな事で良いの? って言うか、俺は毎日だって聖をデートに誘いたいんだけど?」

聖「え……っ!?///// ああ、そう………? ま、まあ………、嬉しいかなぁ~? //////」

龍斗(か、可愛い………)

龍斗「分かった。じゃあさっそく、今度の休日、デートにお誘いしても良い?」

聖「にふふっ、喜んで♪」

聖「さて、じゃあ、私の順番終わりかな?」

龍斗「へ? 順番?」

愛枝「龍斗ッ!? 貴様またしても美希お義姉様の唇を奪ったなぁっ!?」

龍斗「愛枝(あき)っ!?」

愛枝「ゆ、許さんぞっ!? お義姉様の唇をお前なんかに―――ッ!?」

龍斗「い、いや、ちょっと待て………っ!? まさかまた………っ!?」

愛枝「よこせっ!! お前に預けるくらいなら私がお義姉様のキスを頂く!! もう一度間接キスだ~~~~っっ!!」

龍斗「美希さんとは間接でも、俺とは直接になっちゃうだろうっ!? やめろって! お前毎回美希さんの事で暴走しすぎなんだよ~~~っ!?」

聖「にふふっ♪ これだからお兄さんの傍は譲れないよねぇ~♪」


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Bクラスキャラ紹介

約一名ほど、紹介されていないキャラがいますが、出し忘れているのではなく、投稿者様の希望で変更するとの事らしく、最新のキャラシート待ちです。送ってもらったら改めて出す予定です。


保護責任者:世界遺産
名前:天笠 雪(あまがさ ゆき)     刻印名:封印する者(ルーラー)
年齢:15     性別:女      (B)クラス

性格:おしとやかで礼儀正しく純粋無垢

喋り方:「はじめまして。天笠雪と申します。以後お見知りおきを(ペコリ)」
    「私、戦闘はあまり得意ではありませんので……」
    「我、天笠雪の名において命ず、今この時をもって汝を悠久なる眠りへと誘わん」

戦闘スタイル:イマジンにより相手の能力や行動を封じる完全なるサポート

身体能力10     イマジネーション900
物理攻撃力10    属性攻撃力10
物理耐久力30    属性耐久力40

能力:『封印』
派生能力:『封印解放』

各能力技能概要

・ 『封印』≪その名の通りあらゆるモノ(生物、無機物は問わない)や現象(こちらは一時的にのみ)を封印することが出来る。ある程度の順序(対象の認識→呪文の詠唱(モノを封印する際のみ呪文の詠唱前後に対象に触れる必要がある))さえ踏めば確実に封印をすることが出来、封印は彼女にしか解くことは出来ない ≫

・『封印解放』≪彼女自身が封印したモノから他人が封印したモノまであらゆる封印の解放が可能。ただし、解放することしか出来ないので解放後に解放したものを制御することは不可能≫

概要:【日本一の名家である天笠家の長女。周囲の評価は「絵に描いたようなお嬢様」。身体能力が総じて低く戦闘やスポーツの類は苦手だがそれ以外の芸術方面や勉学ではかなり優秀。また、家事全般が趣味であり特技で知り合いにはよく自作の料理を振舞っている。身長が同年代の女子の中では低い部類でありながら、とても女性らしい(胸や尻など)身体をしている】


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

保護責任者:すだい
名前:カルラ•タケナカ      刻印名:影の軍師
年齢:16    性別:女      (B)クラス
性格:常に冷静沈着、予想外のことが起きると男口調になる。

喋り方:
自己紹介     「私はカルラ•タケナカ、よろしくお願いするわ」
戦闘時      「あまり肉体労働は得意じゃないのだけど」
怒り       「っ‥‥、なんでドイツもコイツも好き勝手動きやがるんだァ!!」
今孔明発動時   「さぁ私たちの勝利のために、指示どおりに動いてください」
王佐の才発動時  「あなたのために、私の軍略があります。必ずあなたを王に」

戦闘スタイル:オールラウンダー、後方支援も行う。

身体能力53   イマジネーション250
物理攻撃力53  属性攻撃力53
物理耐久力53  属性耐久力53
軍略300     政治力150

能力:『今孔明』
派生能力:『王佐の才』

各能力技能概要
・『高速思考』≪『今孔明』の能力、高速思考をすることで現状においての最善の策を思いつく。しかしあくまで最善であって最高ではない≫

・『軍才』≪『今孔明』の能力、圧倒的な軍才を持ち他者を操って戦う術に優れる。が、そもそも命令に従うかは他者次第のため信頼関係が重要≫

・『王を佐くもの』≪『王佐の才』の能力、自分が王と定めた人物を王にするためその力を使う。全ての能力が上昇する。しかし今のところその人物は見つかってない≫

(余剰数値:0)
概要:【背中まで伸びた長い黒髪で冷たい印象を与える鋭い目付きをしている。幼い頃からイマジネーションに触れる環境で軍略を学んでいた為その軍略がイマジン能力にまで昇華された。
親しい人物には柔らかい態度を取るものの基本的に排他的で他人に冷たい。
幼い頃から軍師に憧れ自分が仕える王たる逸材を探すためやってきた。
軍師ではあるが普通に戦える。イマジネーションを矢に纏わせ放つ。
刻印名により戦闘能力は上がらないものの様々な策を行えるようになる。
好きなものは可愛いもの。嫌いなものは感情で動くタイプの人間。】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

保護責任者:妖叨+
名前:遊間 零時(あすま れいじ)     刻印名:瞬身(しゅんしん)
年齢:17      性別:男       Bクラス
性格:柔らかい性格。誰隔てなく接する。敵であろうと情けをかけてしまう甘ちゃん。しっかり者。
喋り方:「はじめまして。遊間零時です。以後お見知り置きを」
    「今なら見逃す。逃げろ、ほかの奴らが来る前に」
    「正面突破は俺の専門じゃ無いが…状況が状況じゃ仕方ないか。引き受けたよ。その仕事」

戦闘スタイル:瞬神と称される程の速さで相手を翻弄。相手の隙をついて攻撃する。
身体能力250    イマジネーション600
物理攻撃力50    属性攻撃力50
物理耐久力3     属性耐久力3

能力:『瞬閃』
派生能力:『瞳術』

各能力技能概要
能力:『瞬閃』
体内に存在するパルスを刺激し高速移動を可能にする。また、上級の『瞬天』で体内に存在するパルスを極限まで刺激し高速移動、高速攻撃を可能にする。が零時の身体での瞬天での活動限界時間は5分間。使用後は半日は寝たきり状態。滅多なことでは使わない奥の手。

・『八咫烏』≪やたがらす≫
両眼にに宿る同瞳。術精神世界に引きづりこみ自分の支配する空間で相手を好きなようにする。幻術の中でも最高峰。なのでちょうとやそっとではとけない。
使い方の例題。
・相手の最も見たく無い物を精神世界で96時間見せ続ける
・精神世界で五感を奪い現実でオロオロしてるところを滅多打ちにする。
・敵の身体に杭が刺さった光景になり身動き出来なくなる。

・『天之狭霧神』≪あめのさぎり≫
零時の所有する唯一の攻撃系の技。斥力を使った技。相手を吹き飛ばしたり引き寄せたりする。しかし、連続して使えない。一度使うと次に使えるのは10秒後。斥力を使う規模が大きければ大きい程インターバルは長くなる。これもどちらかと言うとサポート系。
(余剰数値:0)

概要:【黒髪に強い癖毛、柔和な笑みを絶やさない。そのせいで本当か嘘か怪しまれる。
人が嫌がる仕事でもしっかりとこなす奴。人望があつく付き合いもいい。両親は高校を入学前にして事故死している。現在は親の残した遺産でやり繰りしてる。
父の家系は代々両眼に様々な瞳術を宿す一族で母は代々、幻術を扱うのに長けている家系ということもありその両親の能力がそのまま零時に反映されている。
瞳術を使う時、瞬閃または瞬天を使用する際は両眼は赤く染まる。
イマジン学園に来たのは己の器を図る為。
ちなみにこいつの防御力はまさに障子紙。
でかいのを一発でも貰うと6割型詰み。
脚が命なので脚を攻撃されると7割型詰み。
何故なら攻撃は当たらなければどうってことは無い。と言う自論があるから。
誰よりもクラスメイトを大切にしている。そしたらいつの間にかまとめ役になって居た。
学園の入学試験、瞳術で120人の生徒を精神崩壊寸前まで追い込んだ歴史を持つ】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

保護責任者:忙人K.H
名前:笹原 弾《ささはら だん》      刻印名:絶対零度の凶弾
年齢:15歳      性別:男      種族:人間
容姿:柔和で小柄(150cm)な男子      所属クラス:1年Bクラス
性格:冷静沈着を体現した性格。銃を握るとさらに冷静になる。とはいえ冷たいわけではなく人柄は良い。

喋り方:落ち着いた丁寧な話し方。
自己紹介  「初めまして、笹原弾です。よろしくお願いします」
ボケ    「えっと………銃を握ってると落ち着きませんか?」
ツッコミ  「いや、その理屈はおかしいでしょう?」
戦闘時   「敵戦力把握。目標を駆逐します」
照れ    「はぁ。其処まで言われますと、照れますね」
呆れ    「………貴方は馬鹿なのですか?」
救助    「手当しに来ました。仲間が傷付いているのを黙って見るのは心が痛みますから」
チビ呼称  「チビで結構です。貴方みたいな馬鹿な方々がそうやって勝手に騙されてくれますからね」
怒り    「『傲慢』は身を滅ぼすということを………あなた方は分からないのですね、Aクラスの皆さん」
淫行に遭遇 「あ、すみませんでした。どうぞごゆっくり(バタン」

戦闘スタイル:ガン=カタによる近接銃撃&体術と、様々な銃器を用いた後方銃撃。

基礎能力値
身体能力:118     イマジネーション:100
物理攻撃力:100    属性攻撃力:100
物理耐久力:100    属性耐久力:100
銃器取扱:200     戦況把握:200

能力:『トリガーアンハッピー』
派生能力:『特殊弾生成』

各能力技能概要
『銃器取扱能力』
・『トリガーアンハッピー』の能力
・銃器の程であればどの様な武器でも扱える能力。

『トリガーアンハッピー』
・『トリガーアンハッピー』の能力
・トリガーハッピーと正反対に、銃器を握り、弾を放てば放つ程冷静になり、戦場の把握、戦闘能力、思考能力に上方補正が掛かる。

『特殊弾生成:パリィ』
・『特殊弾生成』の能力
・『弾く』『受け流す』能力を付与した弾を生成する能力。生成する弾の型は問わない。
・(特殊弾共通事項)一発でも装填していれば銃器にも付与された能力が適応される。しかし特殊弾を撃ち切ったらその能力は消える。銃器に適応される特殊弾の能力は最新の2種類まで。

概要
・一見冷めた様な印象を受ける少年。勘違いを誘発しやすい。
・一般的な家庭で育ったが、父親の趣味がサバゲーで、よく連れ出された結果、本人の趣味がサバゲーと化した。
・銃器を握ると冷静になる性質。
・スナイパー向きかと思われ、実際かなりの成績を残す。が、銃を向けられても、弾を放たれても冷静に対応できる性質が災いし、2丁拳銃でガン=カタ『も』できちゃって無双してしまい、そっち界隈では有名になってしまい、参加を拒否されることが増えた。
・(機からはいつも通りクールな表情だが)ショボーンとしていたところ、サバゲー仲間に『イマスクなら戦えるんじゃないか?』と言われ、入学しようと決意。親の反対も持ち前の冷静さで説き伏せた。
・その戦闘方法は創作物から構想を得たものが多い。そこそこ高いスペックだったのが、イマジネーターとなり人外な技まで再現できるようになってしまった。『緋弾の○リア』は彼のバイブル。
・小柄で柔和な容貌なのに、極度のクール系なため、コアなファンが増えやすいのが悩み。ショタコンは害悪指定。
・しかし容姿による恩恵(優しくしてもらえる、油断を誘う、小回りが効くなどなど)もあるので、見た目についてのコンプレックスはない。チビ上等。
・好物はシュークリーム。特に外の皮がパリパリしたモノが好き。もきゅもきゅと食べる姿が可愛くて、別な意味で誰かを射抜く。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

保護責任者:すだい
名前:ジーク東郷
刻印名:不死身の竜人
年齢:16     性別:男      (B)クラス
性格:女の子大好き。フェミニスト。
喋り方:ホストのようにわりと馴れ馴れしい。が不思議に不快にさせない。
自己紹介     「ジーク東郷だ、ジークって呼んでくれ。」
女性との戦闘時  「まさか君みたいな可愛い子と戦わなくちゃいけないなんて・・・。」
対カグヤ     「九曜ちゃんって可愛いよなぁ、一日でいいから貸してくんない?」
対弥生1     「君とは運命を感じるよ、さあ俺を傷つけてくれ!!」
対弥生2     「やよいちゃん一緒に飯食いに行かない?」
対涼女      「いや、涼女ちゃん冗談だからね? 脱がれたらこっちも困るから。」
グラム発動時   「さて、お前に竜殺しの剣を見せてやるよ。いくぞ!! 魔剣グラム!!」
ボケ      「確かに見た目は中性的で女の格好をしている。・・・だが男だ・・・!!」

戦闘スタイル:大剣を振り回す近距離ファイター
身体能力100   イマジネーション200
物理攻撃力200  属性攻撃力3
物理耐久力56   属性耐久力56
対竜100      不死身300

能力:『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』(対竜最強、不死身、圧倒的身体能力の取得)
派生能力:『魔剣グラム』(ジークフリートの持つ剣関係)

各能力技能概要
・『不死身の肉体』《ドラゴボディの付属能力、その体には通常一切怪我を負わせることはできない。イマジネーションの高い攻撃、または神性の強い攻撃ならば怪我を負わせることが出来る。この力ゆえに防御力は低め。ドラゴボディは常時発動型》
・『龍殺し』≪『魔剣グラム』の能力、竜に関連する属性を持つすべてのものに対して通常よりもダメージを与える。≫
•『フェミニスト』《ジーク自身の性格から女性に対して戦闘能力が下がる。相手の女性が自分の倒すべき相手だと認めればこの能力は解除される。また、女性を守るとき全ての能力に補正がつく。》

人物概要:【金髪碧眼で女性好き。その不死身性を忌避しており自分の体に傷をつけてくれる女性を探している。(ジークフリートの逸話でいうブリュンヒルデ) 本来ならばAクラス入りの力を持ってるが素行の悪さと女性に本気を出せないこともありBクラス止まり。Bクラスで対人最強を誇る。甘いものが好き。爬虫類が嫌い。】

能力概要【不死身の竜人の刻印名によって不死身の肉体と対竜最強の魔剣を手に入れる。これは英雄ジークフリートの逸話より悪竜の返り血を浴びて不死身となったこととその竜を殺した剣に由来する。能力の派生は竜殺し、剣士方面に伸びる】

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保護責任者:純石
名前:風間 幸治(かざま こうじ)  刻印名:心の上に刃を持つ者
年齢:15       性別:男   Bクラス

性格:寡黙だが、ド素直でマイペース。話しかればとキチンと対応する。掟(この場合は校則)に絶対遵守。異性という存在を意識していない。

一人称:拙(せつ)
喋り方:常に冷静で抑揚のない喋り方
自己紹介          「拙の名は、風間幸治。今後ともよろしく頼む」
戦闘直前          「拙は手心を加えはしない。本気で往く」
初めて見た物に対する反応  「何だコレは? どうやって使う?」
頼まれた時         「承知した」

戦闘スタイル:右手に木刀、左手に忍刀を逆手持ちによる先の先を取るヒット&アウェイのスピードタイプ

身体能力 603  イマジネーション 23
物理攻撃力 213  属性攻撃力 13
物理耐久力 53  属性耐久力 13
隠密 100

能力:『忍術』

派生能力:『忍法』

各能力技能概要
・『変わり身の術(かわりみのじゅつ)』≪忍者といえばコレなヤツ。攻撃を受ける際に煙に巻かれて丸太にすり替わるという術≫

・『分身の術(わけみのじゅつ)』≪イマジネーションを使い、己の分身を作る技。この分身は風間の半分の力しか出せない。別に本体の力は減らない。2体まで出せるが、その場合の力は半分の更に半分、4分の1である。この分身が一定以上のダメージを受けたら、煙がポンッと出て、分身は消滅する。分身が消滅したら見たり聞いたり知ったりした情報は本体にフィードバックする。情報収集に便利。日常生活にもすんごい便利≫

・『鎌切鼬の術(かまきりいたちのじゅつ)』≪腕か脚を特殊な動作で振るい、振るった先に真空の刃を発生させ、飛ばす忍術。無手で使えたり、武器持ったままでも使用出来る。腕による威力を基準とし、脚による威力は三倍≫


概 要:【紺色の忍び装束を着こみ、額には針金、首には口元を覆ってもまだ余る真紅のマフラーを巻いている、というどっからどー見ても忍者な服装をしている。 風間は忍びの集落から卒業生である祖母の勧めにより『イマジネーションハイスクール』に入学する。彼が過ごしていていた里はド田舎であり、四方が山に囲まれていてそこそこ大きな川が流れているとの事。それにより、風間は常識に疎く、物を知らない。が、最新機器でも教えて貰えば直ぐに理解して使いこなせるの で頭は悪くない。Aクラスによる弄りやからかいも、物を知らないが故にまったく堪えてない。異性という存在を意識していないのも里の影響。純粋と言えなく もないが、男としてそれはどうよ。風紀委員に所属。実は『風魔小太郎』の子孫。風間、間→ま→魔、風魔である。幼少の頃から里で祖母直々に忍びとして鍛え 上げられているので身体能力がかなり高い】

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保護責任者:ソモ産
名前:戸叶静香(トガノウシズカ)    刻印名:温故知新
年齢:18歳     性別:女性   1年Bクラス

性格:基本やセオリーに忠実な委員長肌。型にはまらないAクラスの面々は少し苦手。

喋り方:委員長タイプな為、常に周りを気にし間違ったことはしっかりと注意する。
自己紹介「戸叶静香です。皆より年上だが、気にせず話しかけてくれ」
注意する「おい、貴様。廊下を走るな!」
照れ「なっ!? わ、私が可愛いだと!? か、からかってるんだな! そうなんだな!?」

戦闘スタイル:偉人の力、知恵を対象に与える支援タイプ。
身体能力103   イマジネーション353
物理攻撃力103   属性攻撃力78
物理耐久力103   属性耐久力78
読書100   速読術100

能力:『先達の教え』
歴史上の様々な偉人の知恵が詰まった本。
派生能力:『開拓者』
昔の教えを現代の様々な環境でも通用するようアレンジする能力。

各能力技能概要
・『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』
≪先達の教えの能力。孔子の教えであるこの言葉道理、自身と相手の力関係を明確に伝える能力。自身以外にも伝達可能。≫
・『征服王』
≪先達の教えの能力。征服王イスカンダルの異名に倣った力で、自身と他者に走り続けても疲れない体力を与える能力。≫
・『コロンブスの卵』
≪先達の教えの能力。探検家コロンブスに倣って、物事を逆の角度から考え最適の答えを導き出す能力。基礎タスクの『直感』との並行使用可。答えを他者に伝達できる≫

概 要:【日本が誇る世界的財閥の娘で、幼少の頃から勉学、格闘技、護身術と様々なものを教えられてきて育った。しかし、一つ年上で、天才の姉と常に比較されて育った為そういう人には苦手意識がある。戦闘時は、基本支援に回るが、必要に応じて前線に出張ることがある。その際は合気道、空手と言った様々な武術を 使う。黒髪ポニテで長身、目つきも鋭い為よく怖がられる事を気にしている。】

能力概要
【先人達の教えを発動中は常に、手元に本が具現化する。その本には他にも様々な教えが書いてあるが今は、能力に昇華出来ない。派生能力の開拓者は常時発動能力でその場の環境に合わせている。】

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保護責任者:ソモ産

名前:折笠 重(オリガサカサネ)       刻印名:万物の重み(オールヘビー)
年齢:16歳     性別:女性      1年Bクラス

性格:相手のことを真っ向から受け止め、負かしてやろうとする。男勝りな姉御肌。

喋り方:
自己紹介  「アタイは折笠重。どっからでもかかって来な! いつでも相手してやるさ」
相談に乗る 「ん? 何か相談ごとかい? アタイで良かったら聞くよ」
仲間がバカにされたとき「ちょっと待ちな。誰だろうとこいつ等をバカにするのは許さないよ!」

戦闘スタイル:背中に掛けた大剣を用いた近距離戦闘。

身体能力103     イマジネーション103
物理攻撃力303    属性攻撃力53
物理耐久力203    属性耐久力53
頑丈100       負けん気100

能力:『重量操作』《ヘビーマニュピレイト》
派生能力:『重力支配』《グラビティーコントロール》

各能力技能概要

・『重量操作』
≪重量操作の能力。あらゆる物の重さを操作する力。自身の体も含め無機物、有機物に問わず操作することができ、最低重量は本来の重さの十分の一、最大重量は本来の重さの十倍まで変動する≫

・『重力支配』
≪重力支配の能力。指定した空間の重力を完全に支配に置く力。指定できる広さは縦横2メートル四方の正方形状で、地面に触れている必要は無い。指定できる空間は重の目に見える範囲のみ≫

・『慣性減量』
≪重量操作の能力。自分に対する攻撃の重さつまり威力を減らす力。物理的な攻撃にのみ効果を示し、属性系の攻撃には効果は無い。あくまで威力を減らすだけであり0にすることは出来ない≫


概要:
【真っ 赤な髪をした長身の女性。イマスク入学前は地元でレディースをしていたが、これではいけないと心機一転し、猛勉強の末入学を決める。母性溢れる体で、穏やかな顔をしているため男性受けがいいがほとんどの者が重の性格を知ると離れていく。本人はこんな性格をしているが、根は乙女であり本当の自分を見つけてくれる男性を探している。料理は得意であり、レディース時代はよく仲間に食べさせていた。今使っている武器は購買で買ったものであり、いつ折れてもいいよう に生徒手帳にいくつかストックしている。ちなみに少しだけだが剣道を経験しており剣の扱いはある程度できる】

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保護責任者:ヒャッハー
名前:鹿倉 双夜(ししくら ふたや)     刻印名:人間以上人未満
年齢:15    性別:女     クラス:B
性格:真面目。常に一歩下がっているタイプの人。

喋り方:
自己紹介  「宍倉双夜です。長い付き合いになります故、何卒宜しくお願い致します」
戦闘中   「こよみ母様直伝、浮気撃滅拳ッ❗」
脇役    「脇役上等です。良い脇役がいるからこそ、主役が映えるのですから」

戦闘スタイル:指輪の力を使った虐殺スタイル。殆ど格上には通じないため、必然的に露払いの役になる。

身体能力:153    イマジネーション:303
物理攻撃:53     物理耐久:53
属性攻撃:53     属性耐久:53
指輪適応:350

能力:『赤い指輪』
派生能力:『肉体改変』

能力技能:『赤い指輪』《そのまま『赤い指輪』の能力。ありとあらゆる人の死因を書き綴った狂気の書物。『赤い本』から分裂した一部。この指輪の能力は、赤い本に書き記された死因を現実に持ってくる事。例えば「災害」の欄から地震を、例えば「事故」の欄から圧死を、例えば「殺人」の欄から水死を、例えば「自殺」の欄から首吊りを、と言った具合に。
本来ならば、対価には寿命が要求されるが、ちょっとした裏技を使ってイマジンを対価として支払っている。使用する死因の規模や種別によって支払う対価の量も変化する。また、自殺等の相手に直接干渉するタイプの死因は、自分よりも存在の格が上の者には通用しない》

『命偽装』《『肉体改変』の能力。自らの命を、別の物に置き換える。正確には、自分以外からの自らの命への干渉対象を反らして別の物に押し付ける能力。この能力を使って、赤い指輪からの対価をイマジンに押し付けている。但し、物理的に殺される時は、例外として偽装が出来ない。精神的ならまだしも、ごく普通に殺されるのならこの能力には管轄外》

『身体改変』《『肉体改変』の能力。この能力本来の使い方。自分の体を自由自在に弄くり回せる。関節駆動を弄くったり、腕を断ち切られても再生させたり、単純に筋肉を強化させて、身体能力を上昇させたりと色々万能。後は翼を生やして飛べるように、とかもできる。 此方も対価としてイマジンを消費する。また、大幅な改変には時間も掛かる》

概要【狂気の天才、鷹白榧夜(たかしろ かや)によって作られた人造人間。素の身体能力がそもそも人を越えている。また、老化と言う概念が存在せず、肉体年齢が18歳程度になると成長が止まり、 それ以降はそのまま固定されるが、それ故に寿命が極端に短く、長くて50年生きられる程度。それを嘆いた彼女の義理の父「鹿倉時雨(ししくら しぐれ)」によって、イマジネーションスクールに送られた。また、母親に相当する存在が、「鹿倉憂姫(ししくら ゆき)」「千代田(ちよだ)こよみ」「鷹白千夜(たかしろ ちや)」と3人おり、父親含めた全員を敬愛している凄まじいファザコン、アンドマザコン。
彼女本人は、本質はどうあれ見える部分では圧倒的に個性がなく、また、自らを主役の器では無いと思い、それどころか進んで脇役に成りたがるある意味での変人。
それ故に脇役である事にプライドを持っており、それをバカにされるとブチ切れる。あと両親?をバカにされても同じようにブチ切れる。
容姿は黒髪に紫色の眼、髪は腰に届く程長いのをポニーテールにしている。背は高くもなく低くもなく、胸もそれなり】


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保護責任者:ヒビキ★
名前:黒瀬 光希(くろせ みつき)   刻印名:記憶アカウント(メモリーアカウント)
年齢:15歳    性別:男    1年Bクラス

性格:真面目な努力家。だけど、人を心から信用はせずに、信頼する程度にとどめている。博識だが、何故か常識的な事がわからないことが多い天然。

喋り方:普段は自らを僕と呼び、他人には敬語を使う。心を許した人の前では自らを俺と呼び、砕けた口調になる。何があろうとも常に冷静な口調を崩さない。

自己紹介   「僕の名前は黒瀬 光希です。歳は15、能力は記憶に関係した物です。本が好きなので面白い物があったら教えてください。あと、名前はみつきです。こうきじゃありませんので。皆さんと楽しくやっていきたいのでこれからよろしくお願いします。」

能力発動時  「コード001、記憶アカウントでログインを開始する‼︎」

戦闘スタイル:周囲の状況を見て、策を練り、時には臨機応変に対応するバランス型。あまり能力は使いたがらないが、使うと圧倒的攻撃力を売りにした完全に防御を捨てた超攻撃型になる。

身体能力300     イマジネーション450
物理攻撃力250   属性攻撃力250
物理耐久力80    属性耐久力80
能力発動時に数値が変わる

能力:『記憶解放(メモリーリベレーション)
派生能力:『記憶具現化(メモリーインバーディーマーントゥ)

各能力技能概要

・『記憶解放(メモリーリベレーション)』≪『記憶アカウント』の刻印を持つ者が使用できる能力。自らの記憶にある光景や物などに干渉して、一時的にその光景や物などを出現させることができる。出現させたい物を鮮明に覚えている程に出現させられる時間や攻撃力などが上がる。出現させられる物の数に制限は無いが増えれば増える程に、頭の中で記憶の中のイメージをとどめて置く難易度が高くなり、使い過ぎると疲労や頭痛に襲われる≫

・『記憶具現化(メモリーインバーディーマーントゥ)』≪『記憶解放』使用後にのみ使用可能な能力。『記憶解放』が制限時間付きで自由に記憶にある物を出現させられるのに対して、『記憶解放』で出現させた光景や物などに関した属性を持つ武器を制限時間無しで一つだけ作る事が出来る。出現させた光景が消えても武器が消える事は無いが、新しい物を作ろうとすると前に作った物は消えてしまう≫

・『記憶暗号(メモリーコード)』≪『記憶具現化』使用時に自らの身体能力や武器に適した見た目に変える能力。具体的に変わるのは髪の色や身体能力の数値のみで見た目にはあまり変化はない≫

(余剰数値:700)
概 要:【髪は少し青の混じった様な紺色で短く整えられている。その学者然とした様な雰囲気や口調などとは裏腹に、男とは思えない程の可愛いらしい顔をしており、声も女の子で通用するような小学生の男の子くらいの高い声。本人はこの事を相当気にしており、これをネタにされて中学の時にいじられており、天然な性格も災いして散々からかわれてしまっている。昔、信じていた友人に裏切られ、信じた人達に何度も裏切られた経験から、心から人を信頼することは無く、場合場合で信用する程度。昔、周りに常に怯えていたため、周囲の状況把握や人のクセなどを見抜く観察眼に長けている。記憶に関する能力を持っているだけあっ て、記憶力は常人離れしており一度見た物は絶対忘れないとまで言われ、『歩く図書館』という二つ名を不本意ながらも頂戴していて、一年生達のほとんどに頼りにされていて、本人も満更でもない様子。身体能力などの数値が全体的にかなり高いのは、本人が筋トレや体力トレーニングなどを毎日欠かさずにやっているからで、臨機応変に対応するために身につけているらしい。ちなみにトレーニングは常人なら泣いて3日間は立ち直れないレベルの辛さ。能力を使うと、かなり体力を持って行かれる。いかに体力のある彼でも、連続使用は10分が限界らしい。だいたいなんでもこなせる高スペックなのにAクラスではないのはこの制限時間が理由。
別に洋食が嫌いとか食べれないという訳ではないのだが、主に和食を好む。特にご飯と味噌汁の味についてはかなりうるさい。食事の時に焼き魚の骨を綺麗にとるのが密かな楽しみと化している。本人曰く、釣りがかなり得意らしい。マグロを釣った事があるとかないとか。趣味は本を読むこと。基本小説ならなんでも読むのだが、恋愛ものはあまり読まない(読んでて恥ずかしいから)。
最近はライトノベルにも興味を持ち始めたご様子で一番好きなのはSAO】

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保護責任者:のん

名前:御門 更紗(みかど さらさ)    刻印名:言繰師(ことくりし)
年齢:13      性別:女       Bクラス

性格:素直で純粋無垢。ちょっと照れ屋

喋り方:
自己紹介  『私の名前 御門(みかど)更紗(さらさ)。よろしくね』
能力発動  「………。………壊れて」
名台詞   『アナタは私の友達』
告白未遂  『ちゃんと言葉にして伝えたいから、今は秘密です』
激情    「―――ッ! ―――! ――――ッ!! ………ッ!」
ツッコミ  『でもこの前、それ買ってませんでした?』

戦闘スタイル:小声で言葉を囁き、言葉の力を行使する。

身体能力18      イマジネーション300
物理攻撃力50     属性攻撃力50
物理耐久力200    属性耐久力200
言の葉200

能力:『言の葉』(言葉全てに適応。オフ出来ない常時発動型能力)
派生能力:『―――』

各能力技能概要

『言葉の力』≪『言の葉』の能力。声に出した言葉を現実化させる。死者すらも生き返らせ、新たな生物も作り出せる。ただし、『略語』や『造語』の類は効果を示さず、複雑な作りの物を呼び出すには、沢山の言葉が必要となる(例:銃=「火薬を推進力に鉄の弾を撃ち出す、両手で握り人差し指だけで発射できる機械」)。効果が発揮されるのは声が届く範囲に限定されるが、大きな声を出すと広範囲に能力が発動してしまうので、対象指定が難しい能力≫

『言葉の責任』≪『言の葉』の制約。紡ぐ言葉に想いを込めれば込める程、その効果と効力をブーストする代わり、無責任な軽い言葉を紡いでしまうと、効果が発揮されない上に、大切な物を失ったり、大怪我をしたりと、言葉の重さに比例したペナルティーを受ける≫

『言の葉の想い』≪『言の葉』の能力。ただ強い想いの丈を込めた言葉を、耳ではなく、心に届かせる力。心の距離は、想いの強さに反比例する。この能力で届けられた言葉は、能力者の想いの強さをそのまま反映させる強力な物≫

人物概要:【黄金色のふわふわショートヘアー。小柄で胸も小さい可愛い系女子。絵に描いた様な純粋っ子キャラで、老若男女を問わず可愛がられるタイプ。成長途中なのだが、胸の成長を乏しく感じ、発育の良い女性を見ると、自分と比べて涙目になってしまう。能力により、安易に喋る事が出来なくなってしまったため、とある上級生の制作したフリップボードを用いて文字でお話する。このフリップボードは普通に手書もできるのだが、急いでいる時は、イマジンにより、心の声をそのまま文字にしたり、音声として発してくれたりもする。本人の性格上、音声は使うくらいなら自分の声でお話したい気分なので、必要が無い限り文字でお話する事が多い。照れ屋で引っ込み思案なところがあるので、初対面の男性相手には頬を染めて友達の背に隠れてしまったり、フリップボードで顔を隠してしまったりする。イケメン相手にニコポやナデポに掛り易いので、小動物的に危険な少女でもある。日本の名家にして、力を持つ家柄『七咲』と言う七家の一つ、第二位の御門家令嬢の妹。義姉はイマジネーターにはならず、腐りきった日本の政治を立て直す為に、社会へと出ている。イマジネーターの資格は、全世界の全職業に対し有力な資格なので、将来の事を考え、より幅の広い選択肢を得るために入学した】

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おまけ概要
『七咲』について………

刹菜「日本で最も力の有るとされる七家の財閥で、それぞれの家に特色があり、個性を活かす事で成り立たせている名家です。私の姓、朝宮も此処に入っているんですよ?」

幽璃「七咲の序列は、第一位『天笠』、第二位『御門』、第三位『朝宮』、第四位『八雲』、第五位『浅蔵』、第六位『補羽(おぎない)』、第七位『東雲』、っとなっているの。なお『天笠』『朝宮』『浅蔵』『東雲』は、元は祭事を担当していて、昔の方が権力があった家系なのだ。私は『浅蔵』の長女で、第五位だが、そこそこ政治関係にも顔が効いたりするぞ~~♪」

神威「『七咲』は、元を正せば『夜徒(やと)家』………公では『八戸(やと)家』と呼ばれた八家で、当初の序列も違っていたんだ。ちなみに『御門』は古名を『三門』、『補羽(おぎない)は古名で『荻乃』と書いた」

神威「………ちなみに東雲は昔から最下位でな、色々小間使いとしてよく使われていたらしいぞ」

刹菜「神威だけが、東雲で―――いえ、『七咲』で異常な存在として生まれたわよね~………」

神威「『八戸家』の時代の第一位にいた子孫も、一年生にいたな? 私は微妙にそこが気に入らないが………」

刹菜「義弟くん絡みだからでしょ? ちょっとはブラザーコンプレックスも抑えたらどう?」

神威「刹菜に言われたくない………」

刹菜「私は違いますっ!?」

幽璃「はははっ! 言われてしまったなぁ~刹菜?」

神威「お前も充分シスターコンプレックスだろう?」

幽璃「お姉ちゃんは、妹を愛してやまない者なのです!」

刹菜「あまり気の遣いすぎは本人のためにならないと思うわよ?」

神威「刹菜に言われたくはないだろう?」

刹菜「私は妹にも厳しいです!」



その