ハイスクール・イマジネーション (秋宮 のん)
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プロローグ

読者参加型作品です。
作者のキャラでのプロローグです。ご参考になればと思います。
詳しい説明はhttp://www.tinami.com/view/697248をご覧ください。
投稿先はhttp://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=41679&uid=35209っとなっております。
また、注意事項などはhttp://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=93745&uid=35209に載せていく予定です。


ハイスクールイマジネーション

 

プロローグ00

 

 

 見渡す限りに大地と空しか存在しない平野。高度一千万メートルに届こうと言う空の彼方からでさえ、地平線の先を見通すが困難な大地。空には雲一つない完全快晴。太陽は頂点に高く上り、影を作る事無く大地を照らす。

 誰が信じるであろうか? この地が日本上空に作られた浮遊塔であり、よもや約三千ヘクタールっと言う小さな島の上だとは誰も思わないだろう。否、思える筈がない。この景観と数値は、明らかに矛盾している。数値上は沖縄と変わらぬ面積を示しておきながら、上空一千万メートルの高さから地平線しか望めぬなどと、地球の規模から考えて明らかにおかしい。

 だが、それは事実存在している。存在するこの島に、今、二つの影が空から舞い降りる。

 いや、舞い降りたと言うのは語弊だ。なんせその二つは、自由落下に任せ凄まじい音を立てて地面に落下したのだから。

 地響きでも起こしたのではないかと疑う程の爆音、上空高く巻き上げられる砂塵。

 煙となって立ち込める砂が、自然の起こす風に乗って払われるまで、しばしの時間を要した。

 やがて煙が晴れ、二つの落下地点から、小さな穴を開けた二つの影がむくりと体を起こす。

 

『ついにっ! ついにッ!! ついに~~~~~~ッ!!! やりました! 成し遂げました! この学園始まって以来の快挙!! 奇跡!! 神話の再現ッ!!! 我々は、歴史的瞬間を目の当たりにしたのですっ!!』

 

 続いて響いた男の声は、二つの影を映すモニターを観察するとある会場で発せられた物だ。会場はプロ野球ドームなどを軽く埋め尽くさんばかりの巨大ステージとなっていて、中心から多角面に配置されたモニターを取り囲むように出来ている。その人数は、都市一つ分の人口が一気に寄せ集まったのではないかと言う大人数となっている。

 モニターを観察する観衆達は、響き渡る実況の声に耳を傾けながら、モニターを取り憑かれた様に注視する。

 

『未だ嘗て誰もなす事が出来ないとされた一年間の壁………っ! 絶対不可能とされ、最弱と最強の打ち合いであっても、多対一であっても、その事実話す事が出来ないとされていた事実を………っ! 今この瞬間、二人の二年生がやってのけましたっ!! それも麗しき少女が二人、ついに三年生を打ち倒す快挙を見せたので~~~~~~すっっ!!!』

 

 モニターに二人の少女の姿が映し出された。

 瞬間、固唾を飲んで沈黙を守っていた観衆が一斉に割れた。

 空気振動だけで強化ガラスを粉砕するのではないかという大音量に、会場が熱く燃え上がる。

 モニターに映し出されたのは二人とも同じような少女だった。

 細かな違いはあれど、二人とも巫女装束を纏い、黒く長い髪をストレートに垂らしている。細かな違いと言えば、片方は髪を無造作に流していて、あまり装飾のされていない簡素な巫女装束なのに対し、もう片方は白い髪を片側だけ結い纏めていて、腰にはとぐろを巻いた龍の家紋と刀を帯びていると言う事だ。

 互いに満身創痍で、立っている事さえ億劫だと言わんばかりの疲労が見て取れる。服はボロボロになり、露出した肌が際どい所まで晒されている。恥部を隠すのも辛そうに、震える手で服を整えながら、二人は互いを見て弱々しく笑い合う。

 

『皆様どうか拍手を送ってください! そしてどうか二人の名前を心に刻んでいただきたいっ! 術と式神を巧みに使い、事象干渉にすら至った齢二十歳の彼女の名は、東雲神威ッ!! 対するは長年彼女と因縁のライバルであったと言い、この学園でもまた並び立つ双頭、同じく術と、退魔の剣技を取得した齢十八の少女の名は朝宮刹菜ッ!! 絶対不可能とされた上級生撃破を辛くも成し遂げた二人の名です!!』

 

 再び会場が拍手と歓声で沸く中、笑い合う二人、神威と刹菜は、隠しきれない疲労感を引きずりながら話し始める。

「刹菜、まだやれそうか?」

「上級生を相手にしたのよ? アナタに付き合う以上の疲労を抱えてまだやれると思うの?」

「はっははっ! その通りだな! ………私も見栄を張って前のめりに倒れ込むのがやっとだ。とてもこれ以上は続けられそうにないよ。まだ少し、試合は続いていそうだがな………」

「私達はこれ以上無理だと思いますよ? 下級生で残ったのは私達二人だけなんですし、よくやった方じゃないの? ………悔しい気持ちは一緒だけどね。それでも、もうこれ以上三年生を相手に戦えるなんて、見栄もはれないわ」

「私もだよ………。だから刹菜、最後に一回だけ付き合え」

「はいはい………。最後は私達の決着でしょ? こればっかりはどんなに疲れていても付き合うわよ」

「―――っとは言え、互いにもう一撃が精一杯といったようだがな?」

「一撃相手してあげるだけでも満足してよ。決着がつく前に撃ち合ってる最中に力尽きてシステムリタイアさせられるかもしれないんだから?」

「無論、解っているさ」

 二人が最後の一撃を宣言し、互いに構えを取ると、意外な行動に観衆達が更にヒートアップする。

 観衆達の存在を知る事も出来ない遥か彼方で、二人は互いの力を解き放つ。

「カムイラム!!!」

「夢幻鬼道流奥義・甕布都神(ふかみつのかみ)!!!」

 最後の激突を果たす二人の姿を目の当たりにする観客の中、多くの少年少女達が胸を躍らせ瞳を輝かせた。十八歳未満の彼等は心の昂りを抑える事も出来ず、ただ感動に震え上がっていた。

 一体、何人がこの瞬間に同じ思いを重ねた事だろう?

 

((((いつか、自分も―――ッッ!!))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ 01

 

 

「ちょっとぉ―――っ!? 本気なの弥生っ!?」

 滋賀県内、とある中学校、放課後の時間、三年生の教室にて、少女の声が木霊する。

 声の主である眼鏡に長髪の少女は、目の端を吊り上げ、未だ席に座り、帰り支度をしている友人に問いかける。

 その隣では、同じく心配そうに眉を顰める、長身、短髪、無表情の少女が見下ろしていた。

 叫ばれた本人、黒く長い髪をうなじの辺りで束ねた少女、甘楽弥生が苦笑いを浮かべる中、メガネの少女は更に続けて質問する。

「一般高校受けないって本気なのっ!? 調理系の高校からオファー来てたんでしょっ!?」

「一般高校受けないって事は………、何処の高校? 弥生、成績悪くは無いけど、専門校は家庭科以外は難しいでしょ?」

 友人二人に問いかけられ、弥生は苦笑いを消せないまま、素直に答える。

「うん、えっと実は………『イマジネーションスクール』に通ってみようかな? って思ってます?」

「「はぁっ!?」」

 二人の友人は同時に声を上げた。

 

 『イマジネーションスクール』

 それは、現在この世界に三つしか存在しない超オカルト技術により空に浮かぶ、浮遊都市にして、『イマジン』なる万能にして謎の力を研究する“学校”の総称である。

 入学基準がとても広く、下は物心ついていればいくら低くても許され、上限年齢は二十とされているが、それ以上であっても入学テストは基本的に許されている。国籍及び過去の履歴をまったく問わない、正に開いた門。

 しかし、これだけ候補者を広く募り、毎年一校だけでも数千規模の参加者があるにも係わらず、実際入学できた生徒はかなり上下差が激しい。たった一人しか入学できない時もあれば、参加者全員が入学できてしまえたなどと言うケースも良くある話だ。ただ、上限年齢を超えた参加者が入学できた試しは、未だに一度もないと言われている。

 

「正気なの弥生っ!? あそこはテレビでも有名な―――いいえっ! 今や世界的有名な超戦闘派学校なのよっ!? 確かに入学出来れば、生徒は皆、研究協力者扱いにされて、毎月お金も貰えるって話だし、全寮制なのに男女同棲している学生カップルもいたりするとか聞くけど―――っ!?」

「落ちつけ、最後のはわざわざ上げる必要があった?」

 長身少女の冷静なツッコミを無視し、メガネ少女は更に語気強く言い募る。

「弥生っ! アンタ足がちょっと速くて、体力が男子の平均に毛が生えた程度の、家庭科好き少女でしょうがっ!? そんなアンタがなんでバトルでスクールなスカイなタワーに上る必要があるのかっ!?」

「“スカイなタワー”?」

「気にするな弥生。コイツはせめて“スカイタウン”と言うべきところをわざと間違えてるんだ」

「シャラップ! ともかく納得のいく理由を提示してもらいたいのよ私は!」

 メガネ少女が眼鏡をキラリと光らせながら問いかけ、弥生は少々戸惑いがちに頬を掻く。テンションの上がるメガネ少女に対し、長身少女は落ち着いた様子で友人のフォローをする。

「まあ、それは私も気になってるんだよね? 弥生、栄養士になるのが夢だってずっと言ってたじゃない? それがどうして突然『イマスク(※イマジネーションスクールの略)』に入るなんて言い出したのさ?」

 友人の落ちついた質問で答え易くなった弥生は、一度くすりと笑ってから答える。

「きっかけは今年公開された日本の『イマスク』の『全校生徒最強王者決定戦』の会場に行った事かな?」

「ああ、アレ会場に行っても直接見られるわけじゃないから、ぼったくりじゃね? って噂の? 行ったの?」

「とんでもないよっ!? テレビ中継何かと比較にならない臨場感に、リアルタイム観戦! 解説者の細かい説明は、バトル中に素人にも解らない内容を的確に説明してもらってるし、いつどこでバトルが始まってるのか解らないのに、画面は常にバトルを見逃さず中継されているし! 何より迫力が違い過ぎるんだよっ!? ぼったくりなんて言う奴等は、直接見た事無い連中の妄言だね! 絶対ッ!」

 机に手を付き、身を乗り出して興奮気味に断言する弥生に、友人二人は呆気にとられる。

「おおっ!? 珍しく弥生が興奮してるわね………っ!?」

「それで? その迫力に呑まれて自分もやりたくなったの?」

「端的に言えばそう言う事になるかな?」

 長身少女の冷静な返しに、弥生も自分のペースを取り戻し椅子に座り直して返す。

「って言うかね? 元々僕が栄養士になりたかったの、僕が担当したスポーツ選手がオリンピック常連になるってジンクスを語られるくらいになりたいって言うのが理由だったんだけど………、自分で身体動かすのって、元々好きだったし何より―――」

 一瞬、弥生は言葉を途切れさせ、あの戦いの瞬間を思い出す。

 絶対不変と言われた上級生と下級生の壁を世界初成し遂げられた瞬間。

 贔屓目無しに歴史の目撃者となったあの名場面は、今でもニュースで何度となく取り上げられている。

 だが、弥生が最も心に残ったのは、三年生撃破の瞬間ではなく、その後すぐに行われた最後を振り絞った一騎打ちだ。満身創痍の身体に鞭打って、持てる最後の力を結集した好敵手との決着。あの時、弥生の胸の奥に燻っていた物が目覚めた。それは二度と眠りに付く事を許さぬほど、今も胸の奥で低い唸り声を上げ続けている。

 この何かを解き放ち、存分に暴れさせてやりたい。その欲求が、弥生に決断させる要因となっていた。

「………僕は、どうしてもあそこに行きたくなった」

 はっきりと決意を口にされ、友人二人は押し黙ってしまう。

 長く三人で付き合っていただけに、彼女の進路(決断)に、戸惑いを隠せない。

 二人の反応を感じ取った弥生は、ニッコリ笑って何でも無いように語る。

「大丈夫だよ? 『イマスク』って、怪我人も多いし、死者もかなりだって言うけど………蘇生率100%だし」

「それ逆に不安になる要因だろ?」

「何より、戦いばっか目立ってるけど、ちゃんと文化方面の大人しい研究課程もあるって話だし、向こうに行っても栄養士の勉強はできるみたいだしね?」

 笑う弥生に対し、友人二人はまだ不安そうな表情をする。

 ただ単純に進路が変わると言うだけではない。険しいと一言で語る程度の問題でもない。

 世界に三つしか存在しない『イマスク』の一つは日本上空をゆっくりと移動している。この浮遊の技術も、日本上空にとどまった移動も、全ては正体不明、研究中のイマジンによるものだ。その力を人間が使用するだけでも不安はある。単純な魔法技術と言うにはあまりにも万能が過ぎる力だ。正に神の力を盗み取っているに等しい。世界の理、物理法則、異世界間交流、新たな生命の誕生、法律的、研究段階的禁止事項は幾つもあるものの、それら全てが可能となる、万能の過ぎる力(、、、、)、そんな物に関わる事の恐ろしさと不安に、身近な者が関わる事でやっと認識した友人二人。彼女達の心中は穏やかな物であるはずもないだろう。

 それを長い付き合いから、なんとなく感じ取った弥生は、もう一度元気づける様に満面の笑顔を向ける。

「本当に心配しなくて大丈夫だって! 僕だって、個人的に色々調べた上で行くって決めたんだから、後悔なんてしたりしないよ? もし途中退学になっても、『イマスク』に在籍していたってだけでポイント高いから、別の高校に転入させてもらえるかもだし!」

 軽く両手の拳を握って、「がんばるっ!」っと言うポーズをとってみる弥生だが、友人二人の顔は浮かないままだ。内心焦りながら弥生は何かもっと『イマスク』を褒める所はなかっただろうかと模索し、思い付いた一言を伝えてみる。

「何より御飯がすごく美味しいらしいよっ!!(キラキラッ!」

 個人的には一番重要な内容だったと後に語る………。

 あまりにも瞳を輝かせてバカな事を言ってくるので、友人二人は彼女らしさに救われたかの様に笑いを零した。同時に噴き出されて、弥生の方が頭に?を作りながら、よく解って無い笑みを向ける。

 友人二人は、同時に頷き合うと、弥生に向けて笑顔を向けた。

「もう解ったよ。弥生がそう決めたって言うなら何も言わない。がんばって行ってきなよ! そしてどうせなら一番目指しておいでさっ!」

「私も止めない。でも、たまには連絡寄越しなよ? 一応は研究学校みたいだし、色々スケジュールが大変そうだけど、私らは応援してるからさ」

「………! ありがとう二人とも!」

 友人の声援を受けた弥生は嬉しそうに笑いを漏らすと、安堵の表情を浮かべた。

「これで僕も、心おきなくイマジン塾に通えるよ」

「「………は?」」

「ん? だからイマジン塾。『イマスク』に入学するために勉強できる塾の事だよ? 今日から放課後は、毎日通う事になってるの! 何しろ入試試験までもう日取りもないからね! 今日から死ぬ気で特訓しなきゃ!」

 捲し立てた弥生は、鞄を持って立ち上がると、片手を上げて、いそいそと帰路に付く。

「それじゃあ、二人ともまた明日ね~~♪」

「「ちょ………っ! ちょっと待ちなさ~~~いっ!?」」

 慌てる友人二人を余所に、弥生の疾走は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 プロローグ02

 

 

 ドバッシャアアァァンッ!!

 

 出雲のとある山にある神社にて、境内の池から大きな水音が鳴り響く。まるで飛び込みしようとした者が失敗して、お腹から水面に打ち透けてしまったかのような盛大な音に、驚く者は誰一人いない。唯一存在する人間は、その池の音を鳴らした本人だけだ。

「ぶは………っ!!」

 その本人であるところの少年、東雲カグヤは、浅い池から身体を起こし、息を荒げながら、自分を叩き落とした犯人を見上げる。

「………いい加減、諦めたらどうかしら? 無駄な努力を積み重ねると言うなら、その心が折れるまで相手をしても、こっちとしては何も困らないのだけれど?」

 ずぶ濡れの彼を見降ろす、黒い装束に身を包む少女は、煩わしそうに告げる。黒曜石を思わせる冷ややかな瞳はカグヤを見ていながら、まったく興味が無いと言わんばかりに空虚だ。

 その視線は生物は愚か、存在そのものを認めていないと言う様で、見られているだけで心が削られる眼差しだったのだが、見つめられている少年の方はあまり気に留めていない様に標準的な表情だ。

 男にしては長いセミロングの黒髪は、水に濡れた今は顔を隠し、女性的な雰囲気を見せてさえいる。前髪で隠れた瞳は青みを帯びた黒色で、顔立ちは丸みを帯びている。やはり女性的顔な上に、彼の身体つきも極めつけの様にほっそりしている。着ている服も青の袴を穿いた巫女装束。濡れてはり付いた胸元にはささやかながら膨らみがあるようにさえ見える。何も知らない人間に、彼の姿を見せれば100%が女性と答える事だろう。

 少年は身体を起こし、水を含んだ服と髪を軽く絞って身体を軽くする。池から出ながら黒い少女を見つめ返す。彼の眼差しは動じていない―――っと言うよりは普段から見下され慣れていると言う様に見える。だが、それでいて何故か卑屈さがまったく感じ取れない。まるで高次の存在と対した時の適切な態度を弁えていると言うかのように、まったくまったく意に介していない。

「文句言われても止めるつもりなんて無いぞ? お前は義姉様からのプレゼントなんだしな」

 態度を弁えていながら、不遜とも言える言葉使いで黒い少女を軽く睨めつける。しかし、その声もまるで声変わりする前の幼子の様で、やはり女性的だ。不遜ではあるが威圧感に乏しく、非難めいたセリフすら甘え事を言っているように聞こえる。

「それが気に入らないと言っているのよ。私が従うのは私の生みの親であり、主でもある神威ただ一人………。それをどうして弟と言うだけでアナタに譲られなければならないのかしら? 闇御津羽(クラミツハ)の名を与えられて生まれた私が、ただの人間如きに従えると思うの?」

 その声は静かで、とても透き通っている。侮蔑も嘲笑も無く、ただ事実を語っているという皮肉ささえ存在していない。目の前に存在している野球ボールとバスケットボール、どちらが大きいかを聞かれ、答えただけの様に、感情すら籠っていない声音だった。

 常人ならさすがに心労を覚えるか逆切れしたくなるような、まったく存在を確認していない声に、やはり少年は慣れていると言わんばかりの表情で普通に答えを返す。

「だから義姉様は『カグヤに屈服させる事が出来れば』っていう条件を付け加えたんだろ? それが今に至る状況なんだから、諦めるしかないって。恨み事や愚痴なら義姉様に言ってくれよ。イマジンも持たない俺に、『イマジン体』である君を力尽くで屈服させるなんて、無茶ぶりさせられているのはむしろ俺の方なんだからな」

 呆れたように呟きながら、少年は手に持っていた小太刀を構える。既に何度も打ち合った後なのか、既にははボロボロになっていて、いつ折れてもおかしくない。

「………、何かしら考えがあるのなら付き合うのも良いのだけれど、アナタは半年間、ただ私に体当たりしていただけに見えるのだけど?」

「とりあえず殺されないらしいからな? それなら我武者羅にやってみるしかないかと思って? 時間制限も特にないからゆっくりやらせてもらってるぜ?」

「この半年間で、アナタの人柄は良く解ったつもりよ。案外一筋縄ではいかないところも、神威に似ているわね。さすがに彼女に育てられただけの事はあるわ」

「そう思うか?」

 突然少年が満面の笑みを浮かべた。まるで自分の事を褒められた子供の様に無防備な笑みだ。その笑みも当然女性的ではあるが、黒い少女に比べればとても人間味溢れている。

 その笑みを受けた黒い少女、闇御津羽は、僅かに微笑を浮かべた。

「ええ、さすがは我が主。イマジンを未だ持たぬ人間に、ましてや全ての人間の中で最も才に恵まれていないであろう存在に対し、ここまでの逸材に仕上げた。感銘の意を言葉で表す事が出来ないほど」

「だよなっ!」

「ええっ!」

 ここにいない別の誰かに対して、何故か意思疎通した二人が胸を張って笑い合う。この瞬間ばかりは闇御津羽にも人間味を感じられた。

 だが、すぐに表情を消すと、少女は少し寂しそうにカグヤを見つめる。

「それでもアナタは私には勝てない。イマジンを使う者、『イマジネーター』に普通の人間が敵わない事は理解しているでしょう?」

「解ってるさ。今まで一番近くで見てきたんだからな。『イマジネーター』に人は絶対勝てない」

 認めた瞬間、唐突に少年の笑みが挑発的な物に変わる。

「でもお前には勝てる」

「っ」

 その笑みが浮かべられた瞬間、先程まで分を弁えていた少年の雰囲気は消え失せていた。そこにいるのには、何処までも他者を見下した愚者の顔だ。王座に付くでもなく、蛮行を振るうでもなく、ただただ相手を見下す愚か者の視線。

 闇御津羽の瞳が細められる。

 それがスイッチだったかのように、彼女の背に三対の黒い翼が出現した。その翼は影から現れたかのように黒く、一切の光を帯びず、柔らかそうな羽毛の気配すら全く見せていない。触れれば切れそうな鋭利な翼を広げ、腕組をしてカグヤを見据える。

「その言葉がはったりでない証明をしてみなさい」

 自分を見下す者に対しての怒りも無く、軽蔑も侮蔑も無く、ただ言葉の真意を判別してやろうと言うかのように彼女は迎え撃つ構えを取る。弱者に対する絶対強者の構えの様に。

「そんじゃ驚いてもらおうかねっ! オン・アミリタ・テイセイ・カラ・ウン!!」

 刀を地面に突き刺したカグヤは、両手の指を複雑に組み合わせ、印を結ぶと真言(マントラ)を口にした。

阿弥陀如来(あみだにょらい)の真言? しかし、イマジンも持たぬ身で唱えたところで、ただの言葉に過ぎないはず?)

 ―――っと、その時彼女は一瞬だけ浮かべた疑問が、確かな隙を作った。時間にして瞬きに等しい一瞬に、それは起こった。

 二人のいる庭には、山の中にあるにも拘らず壁による隔てりが存在せず、庭と森が一緒になっていて、境が全く解らない。そのため、二人のいる場所は境内の庭にも拘らず、幾つかの木々が彼らを取り囲んでいる。その囲んでいた木々に貼られていた数枚の札が、淡い光を燈し、光の線を伸ばす。線は闇御津羽へと集中し、彼女の体を束縛していく。

(っ! この札はこの半年の間に、彼が練習と称した一人遊びのために貼った物っ!? まさかこれを作るための布石………っ!? いや、それよりもこの光には微小ながらもイマジンを感じ取れる! 一体何処から術を発動できるだけのイマジンを―――っ!)

 尽きぬ疑問を一蹴したのは、思考の世界における一瞬。瞬きの間もなく彼女の頭はクリーンな状態へと落ち付き、冷静に判断する。

(どのみち、この程度の束縛でどうこうできるはずも―――っ!)

 束縛を破ろうと腕に力を込め、簡単に光の束縛を破ろうとした時、破られる一瞬早く、カグヤが次の手を打つ。

「オン・バサラ・ダトバンッ!!」

 印を組み変え、続く真言(マントラ)に導かれた札が輝きを持って光の輪を作り、彼女に新たな束縛を追加していく。

(今度は大日如来(だいにちにょらい)真言(マントラ)ッ!? しかし、まだ………っ!)

 新たな術に対し、鋭利な黒い翼で切り裂くべく、落ちついて対応しようとする闇御津羽に、もはや待った無しでカグヤの真言(マントラ)が綴られて行く。

「オン・アキシュビヤ・ウン! オン・アボキャシッデイ・アク! オン・アラタンナウサンバンバ・タラク!」

 次々と印を組み変え、真言(マントラ)を唱え、それぞれの札に呼びかけ、新たな束縛の術を組み上げていく。

阿閦如来(あしゅくにょらい)不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)宝生如来(ほうしょうにょらい)まで………? コレでは複数の術が絡み合って上手く力を制御できないのでは?)

 カグヤが使っているのは間違いなくイマジンを行使した仏教の神の言葉を再現した、呪的効果を持つ真言(マントラ)だ。カグヤが今口にしたのは、それぞれの如来の御力を借りるための言葉で、それぞれが役割の違う仏の力を一度に呼び寄せてしまっている。カグヤ自身がどのような意味を用いてこれらの術を行使しているのかは解らないが、既存の言葉と知識を用いている限り、それらは世界における常識から逸脱してはいない筈だ。

 イマジンは他者と自分のイメージにより、力の優劣が大きく左右される。

 

 

 例えば、『ロンギヌス』と『グングニル』を例に挙げると解り易い。

 『ロンギヌス』とは、その真実を辿って行くと、実は『ロング・ギヌス』と言う言葉がなまった物が由来とされている。『ロング・ギヌス』、つまり『長い槍』の意味だ。

 元々『ロンギヌス』は聖人キリストを処断した、ただの槍だった。だが、聖人の血を浴びた槍がただの槍であるわけがないと言う“イメージ”が、『ロンギヌス』の逸話と存在を創り出した。

 イマジンの仕組みとは、この原理をそのまま現実に存在する理の一部として認めた物。つまり『イメージ』を『本物』に変えるものだ。

 なら、より強いイマジンとは何か? っと言う疑問に戻る。

 先程述べた『ロンギヌス』、この名を聞いた者は『何でも切り裂く槍』っと言うイメージを持っている者が多い事だろう。それはつまり、相手と自分が同じイメージを持つと言う事になる。このイメージ、ひいては情報を共有している事がイマジンの強弱を決める。『ロンギヌス』程のビックネームなら、知らぬものは殆どいない。故に、この名を持つ能力は、名の由来に則る限り、その力を強力な物として維持できる。

 しかし、実はこの能力、簡単に弱体化させる落とし穴が存在する。それが逸話や歴史、伝承などに記される明確な“弱点”である。

 今述べた『ロンギヌス』で例えるなら、その正体、『ロング・ギヌス』こそが正にそれだ。『ロンギヌス』の由来を聞いた者の中には、こう思った者もいたのではないだろうか?

 

「あれ? じゃあ、『ロンギヌス』って、有名な偉人の血を浴びたってだけで、実はただの長い槍なの?」

 

 ―――っと。

 これが落とし穴である。

 伝承などに則り、その強力さを再現すると言う事は、同時にその弱点までも再現してしまう事に他ならない。一度「この能力は実は弱い」と思われてしまえば、その力は一気に激減してしまうのだ。

 ただし、相手と自分の間だけでイメージを共有する事で発動しているのがイマジン―――っと言うわけではない。なので、「この能力は弱い!」っと思い込む事で、相手の力を弱体化できるなどと言う事は無い。もしそんな事をしてしまえば、そいつは呆けた顔のまま、身体をバッサリと二分割されてしまう事だろう。

 これに対する対処としてあげられる例が………、ここでやっと挙げられる『グングニル』の例えだ。

 『グングニル』は、その逸話を辿れば、主神と名高いオーディンの持つ、神槍であり、絶対命中の力が宿った本物の神具だ。

 『ロンギヌス』とは違い、弱点らしい弱点も無く、深く探れば探る程、その力はより神話級の物として強化されていく。深く知り、広く知られる事。これこそがイマジンの力の源であり、強力な能力を誇示するコツだと言える。

 ならば、オリジナルの能力を作るよりも、既存の情報に則った能力を作るべきか?

 実はこれもそうだとは断言できない。

 能力向上の一手段として有効と言うだけだ。

 例えば『ロンギヌス』と『グングニル』、その再現された槍をぶつけ合えば、どっちが強いと感じるだろうか?

 先程の情報を持っていたとしても、人は次の様なイメージをしてしまうのではないだろうか?

 『ロンギヌス』=全てを切り裂く槍。破壊系。

 『グングニル』=絶対命中の槍。必中系の槍。

 このイメージでぶつかりあったら強いのは、どちらだろうか? 殆どの人間が『ロンギヌス』だと答えるのではないだろうか?

 こう言ったイメージの逆転により、『ロング・ギヌス』とまで貶められた存在は、神槍である『グングニル』を超える力を引き出す事が出来る。イメージの逆転が出来るのなら、完全に一から個人の創造で作り上げた能力であっても、上手くイメージさせられる名と、個人の強いイメージにより、オリジナルも相当の力を引き出す事が出来るのだ。

 

 

 さて、長く語ったところで話を戻そう。

 現状、カグヤが行ったのは、既に既存の能力、真言(マントラ)だ。この存在が既存の物である以上、“他者のイメージ”と言う影響を受ける事になる。それを無視して自分のイメージのみを優先すれば、忽ちイマジンは力を失ってしまう。『炎』と明言していた能力で『氷』を創り出そうとしている様なものだ。そんな物、誰もイメージとして認識する事は出来ない。故に誰もが『否定』をイメージし、その影響を受けた、自称『炎』は能力として完成する事無く消滅するのだ。

 『凍らせる炎』っと言う物なら例外だが、既存として存在していないわけではない。ただし、使用者本人の強固なイメージ力は必要とされそうではあるが………。

(つまり、彼が今作り出した能力は、身勝手なオリジナル―――いえ、魔改造品(失敗作)ではなく、既存の情報を元に作りだした『再現』であるはず。それをどうして邪魔になる様な術を次々と重ねたと言うの………?)

 冷静に視線を彷徨わせながら思案する闇御津羽。同時にただ増えただけの束縛術式を破壊しようと更に力を込める。

 だが、全てに於いて彼女は出遅れた―――否、カグヤが早かった。

 手を合わせ合掌の形に印を結ぶと、彼は束縛一つが破られるより早く、言葉を紡ぐ。

「金剛界に遍く如来を奉りて、邪なる者、(これ)を持って、呪縛せよっ!!」

 瞬間、幾つも束ねられていた束縛術式は、一瞬で纏まり、一つの強力な束縛結界へと変わった。まるで立体形の曼陀羅の中心にいるかのように、幾つも折り重なる薄い膜に閉じ込められた闇御津羽は、力を出す事が叶わず、地面にへたり込んでしまう。

(! 複数の如来の力を借りたのは、一つの大きな術を完成させるためっ!? そのために力を借りる如来を、全て金剛界の如来に限定していたっ!?)

 日本神話の神の名を与えられて生まれた少女は、同じく日本に渡った仏門にもある程度詳しい。

 カグヤが真言(マントラ)を唱え、力を借りた如来は、阿弥陀如来(あみだにょらい)大日如来(だいにちにょらい)阿閦如来(あしゅくにょらい)不空成就如来(ふくうじょうじゅにょらい)宝生如来(ほうしょうにょらい)の五柱。これらは全て金剛界の如来とされている。つまり、大きな括りとして見れば纏める事が出来ると考えられる。そのイメージが、術を融合させると言う発想を手助けし、能力として形作らせたのだ。

 さすがに闇御津羽の名を与えられた一柱の神を体現する少女でも、相手が五柱の如来の力を借りてくれば、僅かな隙を作ってしまう。その隙目がけ、カグヤは刀を持って飛びつく。

「………甘いわっ!」

 静かに発破を掛けた彼女は、強力な拘束空間の中で、手に持つ小さく黒い板きれから飛び出した赤黒い刃によって、カグヤの刀を両断した。

 構わずカグヤは飛び付く。手に持っていた刀を何の躊躇いも無く放り捨てながら。

 驚きで目を見開く彼女の眼前に、首に手を回したカグヤの顔がアップで映る。

 カグヤはそのままノンストップで近づき―――黒い少女の唇を奪った。

 全体重を掛けられて倒れ込む少女。同時に少ないイマジンで形成されていた術式が力を保てなくなったかのように霧散した。

 瞬時に翼を広げた闇御津羽は、その鋭利な黒翼によってカグヤを弾き飛ばす。

 背中が地面に付く前に体勢を整え、何とか足で着地した少女は、己に起きた異変に気付き、カグヤが何故イマジンを使用できたのかその答えに至った。

「いつから? 一体いつから、私のイマジンを奪っていたの(、、、、、、、、、、、、、)?」

「半年間ずっと………」

 地面を転がっていたカグヤは即答した。

 痛む身体をなんとか起こしながら、視界の邪魔をする前髪を軽く払いながら不敵な笑みを向ける。

「お前はイマジン体だ。お前の身体は義姉様がお前自身を形成するために大量のイマジンを使用しているらしいな? お前の肉体=イマジンだとするなら、逆に生きるためにイマジンを消費し続ける存在だとも言える。なら、もしかすると余分なイマジンを消化しきれず漏らしている可能性もあると考えたのさ」

「それが事実だとしても、さほど多くのイマジンは集められなかったはず。どうやって能力に至るだけの質量を得たの?」

「だから半年かけたって言っただろう? お前は攻撃する時にもイマジンを消費する。だが、攻撃時には消費しきれなかったイマジンが、僅かだが周囲に漏れ残る。それをその辺に張り巡らせた札に吸収させて力を溜めさせていた」

「言うは易し。それをするためにはイマジンを感じ取り操作しなければならない。今までイマジンを使った事の無いアナタが、それをどうやって成し遂げられたと言うの?」

「義姉様の仕込みを舐めんなよ? そんなのイマジンを自覚して一生懸命慣らして、なんとなく解るようにしたんだよ! 俺がこの半年間をただ遊んで暮らしていたと思ったのか? ………毎日お前の残り湯とか、身体を拭いたタオルとか、使用したお箸とか、お前の身体をミクロ単位でも削る要因になった物は全部回収して色々比較しまくって感覚に教え込ませたんだよっ!!! おかげで俺、お前の使ったタオルなら匂いだけで解るようになったぜっ!!」

「執念だけは認めても良いけど、私は軽蔑するわ」

 完全にやっている事がストーカーのそれと同じだと言うのに、カグヤはむしろ開き直った様に胸を張った。大声を出すのが苦手な闇御津羽は、冷やかな視線を送りながら、冷静に分析する。

「その変態行為が実を結んだ事に免じて通報はしないでおいてあげるけど、まさかこれで勝ったつもりじゃないでしょうね? 例え、先程の口付けで私から直接イマジンを奪っていたとしても(、、、、、、、、、、、、、、、、)、それでを私倒せるだけの力は取り込めなかったはずよ?」

臍下丹田(せいかたんでん)の総量の事を言ってるのか?」

 『臍下丹田』とは、へその下辺りに存在する、とある内臓器官である。人間がイマジンを使用するには、この臍下丹田にイマジンを蓄積し、そこから人間の使用し易いエネルギー体へと変換して能力として発動させている。ただし、人間が臍下丹田に溜められるイマジンの総量は決して多いとは言えない。

「強化に使えば五時間強、放出系に使えば二、三発が限界だってな? 義姉様から聞いてるよ。お前みたいなイマジン体は全身がイマジンだから例外だが、それでも攻撃に使用するだけの余分なイマジンは持ってないらしいじゃないか? ………まあ、お前は浮遊都市(ギガフロート)にいる義姉様から常にイマジンを送ってもらっているみたいだけどな?」

「解っているのなら―――」

「でも、俺の勝ちだ」

 言葉を遮り、カグヤは断言した。

「さっきのは外側のイマジンを裏技で使っただけだった。だから半年かけてもあの程度の手品しかできなかった。でも、今度は………」

 カグヤは己の下腹部辺りを撫でると、そこに感じる確かな熱を確かめる。

「今度は正真正銘の、『イマジネーター』としての能力だぞ?」

 瞬間、初めて警戒心を抱いた闇御津羽が翼を掲げて飛び出す。

 同時に動いたカグヤが必死の形相で術式を創り出す。

「ノウマク・サラバ・タタギャテイビャク・サラバ・ボッケイビャク・サラバタ・タラタ・センダ・マカロシャダ・ケン・ギャキギャキ・サラバ・ビギンナン・ウンタラタ・カンマン―――!!」

 カグヤの真言に応じ、溢れかえる炎が少女の周囲を包み込む。

五行相生(ごぎょうそうしょう)! 木生火(もくしょうか)!」

 新たな術式を挟み込まれた炎が、周囲の木々に燃え移り、更に激しく炎を燃え上がらせる。猛火となった炎が闇御津羽を包み込み、その動きを阻害する。

 闇御津羽は瞬時に翼を広げ、風圧で炎を簡単に払いのける。

 だが、その時には既に、カグヤは可能な限りの距離を取っていた。

「あまねき諸仏にきえし奉る。助祭の静粛に。東方降三世(とうほうこうさんぜい)夜叉明王(やしゃみょうおう)西方大威徳(せいほうだいいとく)夜叉明王(やしゃみょうおう)南方軍荼利(なんぽうくんだり)夜叉明王(やしゃみょうおう)北方金剛(ほっぽうこんごう)夜叉明王(やしゃみょうおう)。圧伏せよ、清めたまえ。砕破(さいは)したまえ。呪縛の鎖を打ち砕き、出でよ………っ! 高龗神(たかおかみのかみ)!!」

 カグヤの言霊に応じて、池の水が柱を上げた。水柱が割れ、中から青白くも神々しい一匹の龍が姿を現す。

 その龍の姿を目の当たりにした闇御津羽は、警戒の色濃い表情で龍を睨めつける。

貴船(きふね)の龍神が、祈雨(きう)でも願われ私の前に立ちはだかりますか?」

『確かに皮肉も良いところよな? 同一神として語られる我らが合い謁とは。………のう? 闇龗神(くらおかみのかみ)?』

 龍神の清んだ声が大気中に響く。龍神の声は清み過ぎていて男女の区別がつかない。そもそもそんな区別が無いのかもしれない。不遜な物言いは、神々しい姿に見合う、威厳を感じさせた。

「私を罔象女神(みつはのめのかみ)として呼ぶのは止めて頂戴。私は闇御津羽としてここにいるのだから。アナタでなければ今頃町一つくらいは道連れにしていたところよ?」

『おおっ、おおっ、余程今の自分を作った主が好きと見える。作られた身故に、主に依存するは仕方のない事かも知れんがな』

「? そうなのか?」

 話を聞いていたカグヤが、自分が召んだ龍に問いかけると、龍は頭を一度頷かせるだけで答えた。

『さて、闇龗神(くらおかみのかみ)よ? 未熟な主に呼び出されたこの身だ。長く付き合ってやる事が出来ぬ。品のない事心苦しいが………、行かせてもらうぞ?』

 鎌首を擡げた龍神に対し、闇御津羽の少女も翼を広げて応える。

 互いに間を置くなどと言う事はせず、僅かな反動を付けてから勢い任せにぶつかりあった。互いに纏う神格をぶつけ合っているのか、直接ぶつかっている訳でもないのに、互いの間で衝撃が反発し合い、周囲に風圧が巻き起こる。木々を倒し、池の水を巻き上げる暴風は、想像するより早く終了を見せた。闇御津羽の突撃に耐えきれず、貴船の龍神がその身を光の粒子へと綻ばせ始めたのだ。

『やれやれ、この身を精製するイマジンが決定的に足らなかったか………。少々癪ではあるが、闇龗神に対して、この程度の身で捨て駒役を担えたと思えば、良しとするか』

「捨て駒役?」

 黒く鋭利な翼を一気に広げ、高龗神を八つ裂きに伏した闇御津羽は、龍神の最後に残した言葉に疑問の言葉を漏らす。その答えは、思案するより先にやってきた。気付いた時には肩を掴まれ、眼前にカグヤの姿があったのだ。それも近い。先程唇を奪った時と全く変わらぬ距離に迫っていた。

(しまった………っ! 先程よりも隙が大きい………っ!)

 少女とて、カグヤの事を失念していた訳ではない。確かに人間が体内に収められるイマジンの総量は多くない。それでも、イマジン体が人間にイマジンを吸われれば、臍下丹田の分、解り易く言えば人間の器官一つ分のイマジンが奪われる事になる。それは大変な消費である。闇御津羽は主である神威より、常にイマジンを供給してもらっているが、それも決して多いとは言えない。戦闘状態と己の身体の安全を考えるなら、これ以上の消費は危険だと解っていた。だからカグヤへの注意を忘れていなかった。

 それでもカグヤは入り込んできたのだ。黒い少女の注意の隙間を掻い潜り、彼女の不意をついて見せた。

 再び押し付けられる唇。先程よりも高い位置に飛んでいた所為で僅かに浮遊感を感じる不安定さの中で、カグヤは少女の頭を片手で抑え付けて、無理矢理深く口付けしていく。

 創られたとは言え、彼女も女としての自我を持つ。多少なりの羞恥心はあったが、それ以上に戦闘における冷静さが強く反映される。例えここでイマジンを吸われても、戦えなくなるほどではないと判断し、高龗神と激突した衝撃から復活次第、反撃に移ろうと考えた。

「………っ。………っ!?」

 しかし、その考えは一瞬の内に吹き飛んだ。

 僅かな浮遊を終え、地面に落ちた二人だったが、カグヤは絶対に逃がすまいと、無理矢理少女を押し倒す。対する少女の抵抗は、実に弱々しいものであった。力の入らぬ手で、カグヤの腕を掴んだり、緩く握った拳で胸を叩いたりと、押し返そうとはしているようだが、あまりに弱々しい。抵抗する気が本当にあるのかさえ疑問に思えてくる光景だ。

 それも仕方のない事だ。現在彼女は、大量のイマジンを吸われ続けると同時に、自分を支配する術式か何かを体内に直接送り込まれているのだから。

 カグヤは口付けにより闇御津羽からイマジンを供給し、素早く臍下丹田に集め、それを瞬時に術式に変え、同じく口移しで送り込んでいるのだ。

 口で言うのは簡単だが、実際問題、これはかなりの難度の高い技術だ。カグヤは自分のからだの外にあるイマジンを操作できると言う、イマジネーターにも難しい技術を確立させる事で、口移しによるイマジンの吸収を行えるようになっている。だが、臍下丹田に集めたイマジンを使用する事自体は完全に初めてのはずだ。それでも先程のような龍神を呼び出せてしまえるのは、カグヤの技術ではなくイマジンの万能さ故だ。だが、臍下丹田に取り込んだイマジンを瞬時に術に変え、それを口移しすると言うのは、体内で術を完成させ、器官を通って口から放出しなければならない。つまり、高度な技術を必要とされると言う事だ。どれか片方だけなら、並みのイマジネーターでも練習すればすぐに使えるようになる。だが、それを同時に行うと言うのはかなり苦しい事になる。解り易く言えば、超ハイスピードで呼吸を繰り返しているような状況だ。それも限界一杯まで息を吸って、ギリギリまで吐く、それを繰り返すに等しい。

 実際苦しいのか、少女の顔を押さえるカグヤの表情には必死さが滲み出ている。傍から見れば、女の子の唇を強引に奪っている少年の図なのだが、その必死さにはそう言った色気が全く感じられない。

(腕に力が………っ! それに、妙に舌使いが上手い………っ!)

 気にする所はそこではないのだが、無視する事が難しいほどにカグヤは丹念に舌を使っていた。口の中を荒々しく蹂躙するかのように、だが、的確に急所となる部分を意識の隙を突く様に舐め上げたりと、時間が経つにつれ、そっちの方にばかり意識が吊られてしまう。

(私が………っ! 私の中が、彼に蹂躙されて………っ! 支配されていく………っ!!)

 術式の影響で抵抗する力をドンドン奪われ、同時に忠誠心を植え付けられていく。

 闇御津羽は、己の自爆覚悟でカグヤを突き離そうと考え、己の身体を形成するイマジン体を、元のイマジン粒子に分解し、爆発してやろう決断し―――書けたところで、思い止まる。

(彼は………、ただの人間だったはず………。イマジンもろくに使えず、それどころか才能や資質、素質までも持ち合わせていない凡人以下の存在だったはず………。いくらあの主の弟とは言え、それが簡単に出来てしまえるものなの………?)

 侵入してきた舌が、彼女の弱い所を全て知り尽くしたかのように蠢き、最早無視できない感覚が口内を駆け巡っている。

(イマジンを外側で感じることだって………、ましてや操ってしまえる事なんて………、普通できる筈がない………。そんな事、半年なんて短い期間で成し遂げられるはず………っ!?)

 少女は思い出す。この半年間の間、彼と交わしと言葉の中にあった決意。

 

「いつか、俺が義姉様を倒す。それが義姉様の願いだから」

 

 笑うつもりも呆れるつもりもなかった。彼が嘘をついているとも思っていなかった。

 彼はそういう人間だ。そう言う人間として育てられた。

 自分の義姉のためなら、己の命も、他人との友情でさえも、簡単に犠牲にできてしまえる。そんな風に育て上げられた。

 だから、彼が本気なのは解っていた。それでも不可能だと思っていた。

 東雲神威は世界に二人しか存在しない上級生破りを成し遂げた規格外の化け物だ。そんな人物を相手に、同じ上級生破りをしようなど、天地がひっくり返ったところで足元にも及ばない。出来る筈がない。そう思っていた。

(だけど………、彼は不可能だと私が判断した屈服を………、今私に()いろうとしている………っ! 少なくとも、私の予想を超える力を持っている………っ!)

 彼女の頬が上気する。それは与えられた感覚によるものだったのか、それとも支配の術式が(もたら)した錯覚だったのか? それでも彼女は己の動悸を受け入れた。

 抵抗を止め、カグヤの頬に両手を当て、逆にキスを受け入れる。彼女が受け入れた事により、カグヤは強引さを僅かに緩め、優しい動きで唇を味わう。

 少女も受け入れ応じる。

 それはまるで、キスを楽しむ恋人同士の様な、そんな光景だった。

 やがて、唇を放したカグヤは、マラソンでもしてきたかのような汗まみれの顔で彼女の表情を窺う。

 カグヤと同じように荒い呼吸を繰り返す黒い少女は、上気した頬のまま、カグヤを見上げていた。

「俺の物になるか?」

 カグヤの問いに、少女は僅かに逡巡する様に視線を逸らす。

「………とりあえず降りてください」

 その返答に訝しく思いながらも、カグヤは素直に従う。

 腰だけを起こし、座り込んだ体勢になった少女は、自分の中にあるイマジンをフル活用し、カグヤの支配術式を無理矢理打ち破って見せた。

 警戒したカグヤが、折れた刀を拾い構えるが、少女は座ったままカグヤを見つめるだけだ。

 カグヤは刀を再び捨てる。

 それを待っていたかのように、座り方を正した少女は、カグヤの前で跪いて見せる。

「我が主の試練を見事に乗り越え、私を屈服させた御方。主の命に従い、これよりは貴方様の下僕となりましょう」

 恭しく告げられ、カグヤはやっと肩の力を抜いた。

「おうっ、これからよろしくな」

 言葉は元気だったが、表情は軽く青ざめ、嫌な汗が巫女装束の重量を増やしている。

 最早多くを語るだけの余力が無いのか、少年はすぐに室内に戻ろうとするが、思い出したように立ち止る。

「闇御津羽? 今日からお前は俺の式神だ。今はイマジンが無いからちゃんとした主になってやれないけど、俺の(しもべ)である限り、お前には新しい名前を付けるからな?」

「新しい名前ですか?」

九曜(くよう)一片(ひとひら)。お前を最初に見た時、思い付いた名前だ。俺はこれからお前を九曜と呼び続ける。いいな?」

「承りました」

 (こうべ)を垂れる闇御津羽(あらた)め九曜一片。

 それに気を良くして笑顔で頷くカグヤは、再び部屋に戻ろうとする。

「カグヤ様、一つだけお訪ねしてもよろしいですか?」

「え? なに?」

 疲れている所を呼びとめられ、多少嫌そうな表情をする。

「カグヤ様は、普通に女性は好きでいらっしゃいますか?」

「それは何の質問だ? いや、大抵好きだけど………」

「もし私が男性であったとしても、同じ事をしたのでしょうか?」

「………」

 戻ってきたカグヤが(おもむろ)に九曜の胸へと手を伸ばす。さすがに一瞬躊躇を見せたが、九曜が逃げ出さないのでそのまま確認してみた。しっかりとした膨らみが手の平に返ってくる。しばらく真剣な表情でその膨らみを確認し続けるカグヤは、不安そうな声で呟いた。

「本物………だよな?」

「本物です。別に私が本当は男だったという落ちを言ったわけではありません………っ」

 さすがに多少恥ずかしいのか、僅かに頬を染めて言う少女に、カグヤは安堵したように手を放す。

「ってか抵抗しないのかよ? おかげで堪能できたけど?」

「主の為さる事ですから」

 九曜の忠誠心に下僕の鏡を見たかのような気がして、カグヤは多少慄いた。この少女が本当に自分の僕で収まってていいのだろうか? などと脳裏に過ぎらせたがすぐに自分で手に入れた物だと自己完結した。

「それで? さっきの質問の意図ってなんだよ?」

「いえ、もし私が男性だったなら、今の手が使えなかったので屈服できなかったというのではないかと思いまして」

「さっそく僕に疑われてる………?」

 表情に影を指して、軽い絶望を味わったカグヤは、すぐに表情を改めると、言い難そうに眉を曲げる。

 頬を掻きながら視線を逸らしたカグヤは、言葉と表情だけ何でも無さそうに装いながら告げる。

「別に、他にも手が無かったわけじゃねえよ。準備はしてたし。………まあ、義姉様がこの試練を“屈服させろ”じゃなくて“倒せ”だったとしても、俺は九曜を屈服させる事を選んだけどな」

「それはどうして?」

「………」

 ついに背を向けてしまったカグヤは、それでも声色だけは変えずに、出来るだけ淡々と答えた。

「お前が俺の一番の僕になってくれたらいいなぁ~~………って、思ったからだよ」

「////////」

 九曜の頬に朱が差した。

 カグヤが言った言葉の意味は、この半年間の付き合いからすぐに読み取れた。

 それは遠回しながらも、互いの関係性を変えるつもりはないと宣言しつつも、それでも最大限、彼の想いを込めて告げられた、告白だった。

 半年という月日の間、ずっと自分を見つめ、歯牙にもかけぬ相手に必死に挑み続け、ついに屈服させる事で覆した少年の、現状に於いての精一杯の口説きに、不覚にも、少女は胸を打ち抜かれていた。

 自分を屈服させた男が、その想い故に成し遂げたのだと思うと、僕としてそれほどに嬉しい事などない。そんな気持ちが湧いて来たのだ。

「これより幾世幾万の時が過ぎ去ろうと、私は一生カグヤ様に御仕え続けます。ああ、親愛なる、我が君………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ03

 

 

 東京、とある家の居間で、二人の親子がテレビにロボットヒーローをキラキラした瞳で眺めていた。

 ロボットは、子供向け番組にヒーローらしく、必殺技を叫んで長年の宿敵を打ち滅ぼした。

「やった~~~~っ!!!」

「おぅしっ!!」

 両手を上げて喜ぶ子供と、拳を握ってガッツポーズを取る父親。

 二人は一緒になって喜び、騒がしくはしゃぎ回る。

「父ちゃん! ロボットってスゴイねっ! 強いねっ!」

「おうっ! ロボットは男のロマンで出来てるんだ! 凄くて当たり前だぞっ!」

「うを~~~っ! マジでっ!? ロボットすげぇ~~~っ!」

「そして父ちゃんは今っ! ロボット開発スタッフの一員だからな! 本物のロボットを作ってんだぞっ!!」

「おを~~~~~~っっ!? 父ちゃんすげぇ~~~っ!!」

「そうだろう! そうだろう!」

 純粋な子供のキラキラした尊敬の眼差しを受け、父親は年甲斐もなく胸を張って笑った。何処にでもあるようで、だがとても幸せな家族の光景に、食事の準備をしていた母親は、呆れた様に、しかし微笑ましそうに笑っている。

「じゃあ、父ちゃんの作ったロボットが悪者と戦うのっ!?」

「え? ああ………、いや、それは無い………」

「ええ~~!? なんでぇ~~?」

 急にテンションが落ちて仏頂面になる息子に、父親は苦笑いを浮かべた。

「今の世の中は平和だからなぁ~~………。ロボットが戦う相手もいないんだよ。良い奴をぶん殴ったら、ロボットが悪者になっちゃうだろ?」

「そうだけどさぁ~~~………っ!」

 不服そうにブ~たれる子供に、父親はニッカリ笑って息子の頭に手を置いて撫でる。

「心配すんな! 例え戦わなくたって、ロボットが最強なのは変わんねえよ! ロボット最高~~~っ!!」

「おおぉっ!! ロボット最高~~~~っ!!」

 簡単に機嫌を直した子供が諸手を上げてはしゃぎ始める。

 ロボットの事で熱く語り合い、はしゃぎ回る姿は、子供が二人いる様で、母親は微笑みながらも半分呆れるばかりだった。

 

 

 だから、そんな幸せが急に断たれた事に、二人(、、)は衝撃を受けるしかなかった。

 突然仕事場から届いた一報に、母親は血の気が引いた。

 病院で冷たくなった父を見た時、息子は理解が出来なかった。

 墓前で、親戚達を招き、御経を耳にする間も、母は悲しみ、息子はどうして良いのか解らず呆然とするしかなかった。

 息子は泣かなかった。決して強かったわけではない。非情だったわけでもない。ただ父親が居なくなった事実をどう受け止めて良いのか解らなかった。彼が親の死を受け入れるには、あまりにも幼すぎたのだ。

 だから、彼は必死に考えた。自分は亡くなった父のために何をすればいいのだろうかと。子供の未熟な頭で、考えて考えて考え続け、やっと答えを見つけ出した。

 それは、幼いながらも確かな覚悟の元、決意した将来の目標だった。

 

 

 墓前、父が亡くなってから五年目の春。子供だった彼は十歳になっていた。幼くはあるが、もう少年と言って差し支えない年だ。彼は、父親の形見となった家族の写真の入ったロケットを首に下げ、それを手の中で握り締めながら墓の父に語る。

「父さん、俺『イマジネーションハイスクール』に入学する事にしたよ。塾にも通って、ちゃんと力の使い方も理解したし、先生もきっと合格できるって言ってくれた。俺、絶対入学してみせるよ。そして父さんの言った事を証明するんだ。ロボットは最強だって!」

 彼は跪くと、墓に花を添える。

「塾で友達もできたんだよ? カグヤさんって変な人と、弥生さんって言うすっごく強い人。カグヤさんはなんか色々隠してる感じで強いのか弱いのか、結局わかんなかったよ。でも、弥生さんは本当に強かった。戦う機会が一度しかなかったけど、すっげぇ印象に残ってるよ。まさか俺のガオングに生身で立ち向かってくるとか思わなかったし、“塾生最強”なんて言われてるだけあって、むちゃくちゃ苦戦したよ。だから、あの人に勝てた時は本当に嬉しかったなぁ~」

 少年は目を瞑り、塾生時代の半年間を思い出す。

 辛い事も、大変な事もあった。

 塾で真っ先に仲良くなれた女の子が、虐めにあって辞めて行った時は本当に悲しかった。でも、自分は負けずにここまで来た。ようやく来た。

 少年は眼を開くと、立ち上がり、父に別れを告げる。

「もう行くよ。母さんも待ってるし………。しばらく来れなくなるかもだけど、それは俺ががんばってるって事だと思って許してよ? また必ず、嬉しい報告をしに来るからさ」

 少年はそう言って踵を返した。父の言った事を証明するため。亡き父に、泣く事の出来なかった代わりを果たす為、彼は向かう。万能の力、『イマジン』を扱う浮遊都市学園、『ギガフロート』に………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロローグ04

 

 

 目の前に広がる光景。私はそれが何なのか、しばらく認識できませんでした。

 誰かが私に呼びかける声も、すぐには理解できず、音である事自体解らなかった。

 寝ている状態から上体だけ起こしたのも、意識してやったと言うより、半ば反射行動だったのかもしれない

「お姉ちゃん! お姉ちゃんっ!!」

 漠然と意識と言う物を掴み始めた私は、聞き覚えのある声がすぐ近くで私を呼んでいる事に気付く。半開きの視線を向けて相手を確認した瞬間、霞み掛っていた意識が急速に覚醒して行った。

空女(あきめ)………?」

「お姉ちゃんっ!!」

「えっと………?」

 目の端に涙を浮かべた少女が、泣き笑いの表情で私に飛びついてくる。

 私は咄嗟に両手で抱きとめながら、混乱する頭で周囲を確認する。

 真っ白の部屋に、真っ白のベット。その上で寝ていたらしい私に飛び付く妹………? それから男女四人の大人。男性の一人は白衣を着ているからお医者様? 女性の一人はスーツ姿をしている。何処かの会社の人? OLには見えませんけど………? 残りの二人は私服姿で、どこか見覚えのある顔立ち………、っと言うかもしかして―――?

「お父さん………? お母さん………?」

「ああっ! そうだよ凉女(すずめ)! 私達が解るか!?」

「凉女っ!! 凉女! 本当に、良かった………っ!」

「えっと………?」

 私はまだ状況が掴み切れない。もう一度周囲を見回して、自分の格好を確認したところで、ここが病院の病室だと言う事がやっと解った。私はなんでこんな所にいるのかしら?

 事態を上手く掴めない私は、とりあえず気になっている事を聞いてみる事にした。

「ねえ? 空女も、お父さんもお母さんも、なんだか雰囲気変わってないかしら? それとも、私が寝起きでおかしくなってるのかしら?」

「そう思うのも仕方がない! お前は三年間も眠り続けていたのだからな!」

 お父さん………だと思う人が泣き笑いをした顔で教えてくれる。

 三年間? 私が眠り続けた?

 どう言う事なのかしら?

 もしかして私………!

「い、いつの間に私は冬眠ができる体質になっていたのかしら………っ! 次からは、うっかり三年間も寝過してしまわないように気を付けなきゃ………!」

 むんっ! と、私は軽く拳を握って決意を固めていると、胸の中で何処か嬉しそうな抗議の声が上がった。

「お姉ちゃん何言ってるのよぅ~~! でも、この反応間違いなくお姉ちゃんだよぅ~~~っ!!」

「ええっと………? 見慣れない制服だけど………? もしかして空女?」

「そうだよ! 妹の空女だよぅ~~! 今気付いたのぉ~~~っ!?」

 ますます腕に力を込めて私に抱きつく妹の頭を撫でながら、私は両親に目を向ける。安堵したような表情で皆涙を浮かべている。皆に心配かけてしまったのかもしれない。でも、その事に付いて謝る前に、もう一つ確認しておきたい事がある。私は困った表情を作って、頬に片手を当てながら両親に訪ねる。

「私、全然お腹が減ってないの? 三年間も何も食べてないのに、大丈夫なのかしら? 痩せる時って、胸から痩せると言いますし………?」

「そんなところ、今はどうでも良いよぅ~~~っ! あと、お姉ちゃんの胸は相変わらずのメロンですぅ~~っ!!」

 不安を口にする私に、両親は何故か涙声で笑い始めてしまった。妹も泣きながら抗議するけど、何処か嬉しそうな響きの涙声。何だか皆変な感じなのだけれど、私が冬眠している内に宗旨替えしたのかしら? 私、流行りに追い付けるか不安だわ?

「お前は相変わらず、ズレた事を言う子だ。自分が三年間も眠っていた事や、その理由については考えないのかい?」

「あらぁ~~? 私はなんで寝てるのでしょう? お父さん、お母さん、私に何があったのかしら?」

「マイペースお姉ちゃんのバカぁ~~~~っ!! でも嬉しいよぅ~~~っ!!」

 あらあら………? 空女も何だか分からないけど大変ね?

 

 

 私はお父さんとお母さんに話を聞いて、自分が事故で頭を強く打ち、三年間の間、原因不明の植物状態になっていたのだと教えてくれました。どうして私が目覚める事が出来なかったのか、その原因は未だに解っていないそうです。

 でも、解っていないななら、なんで私は眼を覚ましたのかしら? そんな疑問を口にした時、ずっと黙っていたスーツの女性が初めて口を開いた。

「それについては私が説明します」

「まあ、ご親切にどうも。私、及川(おいかわ)凉女と申します」

「いえ………、名前はもう聞いているわ?」

「ですけど、名前を尋ねる時は、まず自分からと申しますし?」

「そ、そう………、律義なのね? 私は名前を名乗る事が出来ないのだけれど、とある学園都市の研究者をしている者です。現に不明の昏倒に状態にあったアナタは、現代の医学では目覚めさせる事が出来なかったの。そこで、アナタの担当医が私にコンタクトをとってきたのよ。名前だけは聞いたことあるんじゃないかしら? 『イマジン』の存在を?」

「『想像』ですか?」

「お姉ちゃん、英文じゃない」

 妹に訂正され、もう一度顎に指を当てながら、視線を上向きにして考える。

 確かに、何処かで聞いたことあるような単語だったような………?

 …………?

 …………?

 …………?

 …………!

「あっ、テレビでやってる漫画みたいな戦いをしている学校の………!」

 思い出して両手を合わせる私に、女性は頷きました。軽く、三十分くらい時間の経過した(、、、、、、、、、、、、、)時計を一瞥して、本当に安堵したように息を吐きました。もしかしてこのお仕事、とっても大変なのかしら?

「万能と言われた力『イマジン』。私達はそれを学生の協力の元、研究しています。その研究で判明したのですが、『イマジン』を投与された病人は、一時的に症状を回復させる可能性がある事が解りました。私は、アナタに『イマジン』を投与し、原因不明の植物状態から、覚醒させたのです」

「それはそれは、誠にありがとうございます」

「ですがっ!」

「あっ、よろしければこちらのリンゴなどいかがですか~~?」

「続きがあるので話を聞いてください! 割と真面目な話しです!」

 誠意をもってお礼申し上げたつもりだったのですが、何故か怒られてしまいました?

「先程も申しました通り、『イマジン』は依然研究段階にある未知の力です。例え医療関係とは言え、外部に無償で漏らすわけにはいきません。未知の力故に、暴走の危険性が無いとは言い切れません。そして、『イマジン』で治療された者も、体内の『イマジン』が尽きると、元の病状に戻ってしまいます」

「つまり私が目を覚ましていられるのは、とても短い間の話だと言う事でしょうか?」

「はい」

「今の内に勉強しましょう! 未来に持っていけるのは知識だけですし!」

「お姉ちゃん潔過ぎッ!? そして考え方が意外とシビアッ!? もっと女の子らしい事考えようよぅっ!?」

「子作りは、さすがに時間的に猶予が無いと思うんですよ~~?」

「女の子らしいけどぶっ飛んだぁっ!?」

「話を戻して良いですか………?」

 スーツの女性がとっっっても疲れた表情で溜息を吐かれました。

 まあ、どうやらお仕事の疲れが溜まっていらっしゃるようです。労わって差し上げないと。

「アナタに投与した『イマジン』が尽きるまで後一晩。それまでに、アナタには決めてもらいたい事があるの」

「なんでしょうか?」

「『イマジン』は外部の人間には提供できません。ですが、それが学生であったとしたら、その限りではありません」

「お母さん、入学手続き書って何処にありますか?」

「意外な理解力っ!?」

 女性が驚き、両親が戸惑う中、妹が慌てた様子で私に問いかけてきます。

「良いのお姉ちゃんっ!? あの学校に入学しちゃったら、ずっと戦い続ける事になるんだよ!? とっても痛いことしないといけないし、すっごく大変だよぅ!?」

「空女ったら、慌て過ぎよ? だって、まだ選択肢は貰ってない(、、、、、、、、、、、)じゃないですか?」

「へ?」

 呆けた顔をする家族。私が女性に微笑みかけると、女性は目を丸くしてから頷きました。

「その通りになりますね。学園に入学すれば研究協力者と見なし、合法的に『イマジン』を無料提供できます。ですが、出来なければこの話はなかった事となります。つまり―――」

 

「入学試験を受けて見ない事には、入れるかどうか解らないと言う事ですよね?」

 

 家族と、今度はお医者様まで一緒になって目を丸くしていらっしゃいます。皆なんでそんな可笑しい顔するのかしら? 思わず私の顔も弛緩して笑ってしまいます。

 女性が私にくれたチャンスとは、『イマジネーションハイスクール』に入学して、合法的に『イマジン』による治療をさせてもらえると言う物です。ですが、これには大きな落とし穴があるのですよね? だって、もし入学試験に落ちてしまえば、学園側としては私を招き入れる理由が無くなってしまいますもの。そうなれば選択肢なんて、最初からないのと同じ事です。

「もし私が受かったら、そのまま入学させていただくつもりではいますけど、せっかくなので今夜一晩、じっくり考えさせてもらいますね?」

「お、お姉ちゃん! そんな簡単に決めちゃっていいのぉ!?」

「では迷ってみましょうか? ………どうしましょうっっっ!!?」

 頭を抱えて本気で悩む私。不安要素ばかり頭の中に羅列した結果、何だかとんでもない事をしでかしてしまった様な気になってきます。………どうしましょうっっっ!?

「ごめんなさいお姉ちゃん! 私余計な事言ったっ! お姉ちゃんはお姉ちゃんの考えで行けばいいと思いますぅ!!」

「解りました♪」

 妹の助言に従っていつも通りの私に戻ります。とりあえず不安要素は忘れる事にしました。

「では、答えはYesと考えて良いのですね?」

「はい。でも、よろしいのですか?」

「?」

「私、結構やんちゃな方ですよ? もし、私や家族が、入学した所為で悲しむ様な事があれば、ちょっとお痛するかもしれません」

 そう言って微笑み掛けた私に、女性はむしろ好感的な表情の笑みを向けてきました。

「アナタはきっと合格しますよ。我が校に入学できる生徒には奇妙なジンクスがあるんです。過去にいくら戦闘経験を持っていようが、優秀な能力を想像できようが、落ちる者は落ちます。なのにどうした事か、我が校に合格する生徒は全員、自分の領域(、、、、、)を守ろうとする人間ばかりでした。試験には何も意図した細工をしていないと言うのにです? きっとあなたは合格する事でしょう。“家族”と言う、領域を持ったアナタは、絶対に………」

 言ってる事は良く解りませんでしたが、とりあえず私は微笑み返しておきました。

「テヘぺろっ♪」

「それ違うっ!?」

 




弥生「あとがき解説コーナー!」

弥生「このコーナーは、『ハイスクールイマジネーション』における、あらゆる疑問を解説するコーナーです! 主に能力面での詳しい解説を取り扱ってるんだよ!」

弥生「今回僕が解説するのは『イマジネーションスクール』についてです」

弥生「『イマジネーションスクール』、タイトルの順番を逆にしただけのこれは、世界に三つしか存在しない、万能の力『イマジン』を研究している学園都市です。物語の舞台となるのは、その一つ、日本上空を漂っている浮遊島、通称『ギガフロート』」

弥生「土地の大きさは三千ヘクタール、高さは約一万六千メートル。なんと沖縄くらいの大きさに、エベレストの二倍の高さになるよ!」

弥生「『ギガフロート』は学園の名前ではなく、あくまで浮遊島の事を指した名前なんだけど、このギガフロートが日本上空にあると、ちょうど真下の地域は影が差しちゃいそうだよね? ギガフロートは上空約一万五千メートル、積乱雲の頂にも上る高さにあるんだけど、それでもこの大きさの質量があると影が出来ちゃいそうだよね?」

弥生「ところが安心! ギガフロートの周囲には、イマジンによる膜で覆われていて、上空から受けた光を真下へと受け流す事が出来る仕組みになっているんだって! だから大きな影が出来る事はないだってさ! ………それでも薄い雲と同じくらいには光を遮ってしまうらしいよ。万能の力を使っているのに、なんでなのかな? やっぱり研究段階の力だから、謎なところも一杯あるってことなのかな?」

弥生「ギガフロートが日本上空にあるのは、ちゃんと理由があるんだよ。一つは、このギガフロートが日本の物であると言う事を解り易く他国にアピールするため。もう一つは、日本における他国に対する政治的な武器として牽制を行っているため。万能の力『イマジン』を所有している国は日本の他にも二つだけ。現在、政治的立場で劣勢に追い詰められ始めている日本は、その政治的戦力として、どうしてもギガフロートの存在を誇示しなければならないらしいんだ。詳しい内容は僕には解らないけど、ギガフロートが日本上空にある事が、日本の政治を守っているって事なんだろうね」

弥生「今回はこの辺にしとこうか? ギガフロートについて、また話す機会もあると思から、そろそろ次の相手にバトンタッチだよ!」




勇輝「はい、僕からは『イマジン塾』について解説させてもらいます」

勇輝「『イマジン塾』とは『イマジネーションハイスクール』がどんな学校かを知ってもらうために創設された塾校です。毎年入塾する生徒は後を絶たず、とんでもない人数が通っているそうです。残念ながら塾の数は日本全体で三十八カ所しか存在していません。その理由はギガフロートから送ってもらえる『イマジン』が限られているためです。例え塾であっても外部には違いないと言う事で、送ってもらえるイマジンは決められた質量分しか送ってもらえないそうです。塾生だった僕達も、イマジン不足で能力を模索出来なかった事は多々ありました」

勇輝「制限された状態でイマジンを使用しても、その本来の力を発揮できるものではないそうですが、『イマジネーター』としての素質がある人は他の塾生に対して圧倒的な戦力差を見せつける時があるそうです。弥生さんはその筆頭としてよく話に上がる人でした。カグヤさんも、そう言った噂の絶えない人だったそうですが、あの人は塾生時代目立った事は一つもせず、能力の開発にのみ全力を尽くしているようでしたよ? あと、ずっと傍に置いている九曜さんを維持するために、最低限のイマジンを欲していたのも理由だったみたいです」

勇輝「『イマジン塾』では、イマスクの入学上限年齢以上の人も入塾できるので、結構な年齢層の方がいらっしゃいました。中には現役の軍人さんや、特別なカリキュラムを受け、『イマジネーター』になるためだけにその人生を費やしている人もいたみたいです。ですけど、なんでかそう言う人がイマスクに入学出来たって話は聞かないんですよね? 入学生はもっぱら、根っからの一般人が殆どだって聞いてます。何か違いがあるんでしょうか?」

勇輝「以上、イマジン塾のレポートでした」






カグヤ「九曜、質問したい事があるんだが、良いか?」

九曜「何なりと、我が君」

カグヤ「俺が高龗神を召喚した時、お前の事闇龗神って呼んでたろ?」

九曜「ええ、私の名の闇御津羽乃神は、その名の由来を辿れば高龗神と同一視されている神ですから。高龗は祈雨や止雨(祈晴)、天候の水を操る神で、闇龗は地中蓄水や湧水など、地下の水を司る神とされていますが、どちらも同一の神で龗神っという水神として、全ての水を司るものだとも言われています。私は神威から井戸水の底に沈んだ黒曜石を媒介として闇御津羽乃神として創り出されました」

カグヤ「その辺の知識は俺にもあったけど………。俺、今までお前が水系統の能力を使ったところ見た事無いんだけど? むしろ、影みたいな黒い翼を刃みたいにしたり、赤黒い剣を創り出して切り裂いたりしてるけど、アレはなんなんだ?」

九曜「アレも私の、闇御津羽乃神としての由来から創り出している武器ですよ。軻遇突智乃神が十拳剣により首を切られ、その血から生まれたのが闇御津羽乃神となっています。赤黒い剣は、その色が表わす通り軻遇突智の血です。神の血を媒介にして刃を作っています。私は水を司る神ですから、液体である血を、まして自身の血ともなれば操れない事はないのです」

カグヤ「なんで刃なんだ? 血だから赤黒いのは解ったけど?」

九曜「別に刃である必要はなかったのですが、消費の少ない形状となると、やはり刃だと思ったので。無論、消費を考えなければ光線の様に射出する事も、盾として使用する事も出来ます」

カグヤ「でも、いくら水を操っても物を切ったりできるのか………?」

九曜「超高速で流動する水は鉄をも切り裂きます。私がそれを利用して刃を創り出しています」

カグヤ「つまり、あの剣は常に動いてたって事か? 振動剣かよ………」

カグヤ「それで、翼の方はどうなんだ?」

九曜「アレは本物の闇と、私の媒介となっている黒曜石を使用して創り出した物です。私は井戸の底、つまり、光も届かない暗き底の神として扱われていますから、闇をある程度使用する事が出来るのです。それを黒曜石と言う人類最初の神器としての“刃”の効果を得た物なのです」

カグヤ「なんで翼なんだよ?」

九曜「いえ、別に翼ではありません。飛べませんし」

カグヤ「飛んでたじゃんっ!?」

九曜「翼ではなく、神格で飛んでましたから。飛行ではなく自在移動ですから」

カグヤ「レベル高ぇな………!?」

カグヤ「それにしても、黒曜石が人類最初の神器って………、まあ、確かに原初の最強の武器として通じなくもないだろうが………、原始過ぎないか………?」

九曜「我が君、私も我が君にお尋ねしたい事があります」

カグヤ「なんだ?」

九曜「我が君は、何故私に勝てると思ったのですか? 『イマジネーター』が普通の人間に負ける事など絶対にないと知っていたはずですが?」

カグヤ「イヤだって、お前は『イマジネーター』じゃなくて『イマジン体』だろう? なら、工夫次第で勝てるとは思ったんだよ」

カグヤ「まあ、それでも義姉様が傍にいる時は、『イマジネーター』と対峙しているのと変わらないから、絶対手を出したりしないと決めてたけどな」

九曜「それで、神威が私の傍にいる時は神威の世話ばかりに執心だったのですね」

カグヤ「イヤ、アレは単に義姉様の世話焼きたかっただけだ」

九曜「我が君………、何処まで神威に調教されているのですか………?」

九曜「しかし、我が君? 『イマジネーター』が使用できる能力は初期限定で二つまで、その能力で使用できる技能が三つまでと聞き及んでいますが、真言、高龗神、そして私と、三つの能力をどうやって使用できるようにしたのですが?」

カグヤ「イマジンの能力には制限なんて無いぞ。本来はな。だが、万能過ぎる力は、時に本人達の意思に反して災厄を齎す事もある。だから、学園では使用能力のレベルに制限を付けてるんだよ。そもそも『能力』なんて限定するのも、半分はその意味が含まれてんだから」

カグヤ「それに、俺は能力を一つしか設定してないぞ?」

九曜「それは?」

カグヤ「『神威』日本に流出した神仏を限定で使用が可能になる能力だ。それで仏門の神を一時使役して使える範囲を限定する事で『真言』を使用したんだよ。正確には“一時使役”と言う技能を会得して、限定的に神の力を使用する技として使用してたんだよ。九曜の使役をしてからは、すぐに破棄した能力だけどな」

九曜「何故そのように?」

カグヤ「九曜を使役した後の戦術を考えたら、“一時使役”ではお前への負担が大きすぎるだろ? “一時使役”を覚えるのは後回しにして、今は完全使役型の能力を幾つか覚えて行こうと思ってな」

九曜「そうだったのですね。疑問にお答えしてくださってありがとうございました」

九曜「ところで、最後にもう一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」

カグヤ「能力の名前の由来か?」

九曜「予想できたと言う事は………、やっぱりそうなのですね………」

カグヤ「義姉様の名前から由来する物を思い付いた!」

九曜「なんと言う邪気の無い笑みでしょうか………」







当作品は読者参加型の作品です。
詳しい参加方法は:http://www.tinami.com/view/697248をご覧ください。
投稿先は:http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=41679&uid=35209です。


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キャラクター例題(後にキャラ紹介)

数が揃ったらクラス毎にキャラ紹介の場として作ろうと思っています。
キャラ投稿の際は、最低限これらの例題と似せた形で投稿してください。

【お詫び!!】
【キャラの例題を書き忘れていました申し訳ありません! お手数ですが、既に投稿した皆様は、この例題を確認した上で、もう一度送ってください。本当に申し訳ありません!!】
978


保護責任者:のん

名前:東雲 カグヤ(しののめ かぐや)   刻印名:――

年齢:17     性別:男         一年生Aクラス

性格:発言が素直で、真顔でエロイ。義姉を溺愛している。

 

喋り方:基本的に興味がなさそうな喋り方。

自己紹介   「東雲カグヤです。脳内記憶スペースが一ドットでも余分に残っていたら、一分くらいは憶えておいてください。『神威使い』―――『式神使い』なんで、後方支援で御協力。ああ、あと俺、弱いんで戦わなくて済むならその方向で」

勝負申し込み 「負けても恥をかかない奴だけ掛って来い」

ボケ     「いや、ここからだと女子の着替えが覗けて実に眼福だなぁ~っと?」

義姉対話   「はい義姉様っ! 義姉様のためなら疑問を浮かべる必要もなく行動に移しますともっ!!」

九曜使用   「行くぞ九曜………、『闇御津羽(クラミツハ)』」

カグラ使用  「こいっ、カグラ! 『軻遇突智(カグヅチ)』」

 

戦闘スタイル:式神。神様の名前を持つモノを召喚し戦う。日本の神様が主流。

 

身体能力3     イマジネーション430

物理攻撃力3    属性攻撃力50

物理耐久力3    属性耐久力3

術式演算能力300  霊力85

神格70       逆転率71

能力:『神威』

派生能力:『――』

 

技能

各能力概要

・『闇御津羽・九曜』

≪闇を司る黒き羽根を持つ神。カグヤが義姉、神威から誕生日に贈られた式神で、カグヤの僕。濡れ羽色の長い黒髪に、黒曜石の瞳、全身を黒い服で身を包む、麗しい少女の姿をしている。常にカグヤに仕え、手から血の様に赤黒い光の剣を創り出し戦う。カグヤの命あらば、自らを漆黒の刀に変え、主と共に戦う≫

 

・『軻遇突智(カグヅチ)・カグラ』

≪炎の神。元は、角を持った巨大な大蛇の姿をしていた殲滅用の式神だったのだが、神威の悪戯で、赤い髪をした羽衣衣装の幼女姿を持つようになった。普段はカグラと呼ばれ、カグヤに妹扱いされている。戦闘時は本来の姿を取り戻し、巨大ロボットとでも戦って見せる≫

 

・『迦具夜比売(カグヤヒメ)

≪己の名『カグヤ』を刻印名として一時的に献上する事で、式神と一体化して神格を得る似姿。竹取物語における『がぐや姫』の神格を得、これになっている間、構築された拠点に居る限り、その存在を認識されなくなる。また、『かぐや姫』の有名な逸話、求婚した男に条件を出すと言う物から、『仏の御石の鉢』(恥を捨てるの言葉の由来から、敵の加護による条件防御を何かを捨てることで無効化する)『蓬莱の玉の枝』(「偶(たま)さかに」稀にの言葉の由来から、完全に気配は消せないが、完全に見破られない気配遮断の能力)『火鼠の裘(かわごろも)』(敢え無くの言葉の由来から、大掛かりな条件を満たす術式を必ず失敗させる)『龍の首の珠』(堪え難いの言葉の由来から、理に反する力を受け付けない)『燕の産んだ子安貝』(甲斐無しの言葉の由来から、呪いや攻撃を受けても、相手が期待する程の効果を見込めないようにする)などの能力もデフォルトで備わっている。(Wiki参照)『迦具夜比売(カグヤヒメ)』発動中は、他の式神を呼び出せない。また発動条件として、多くの金品を術式に献上しなければならない。生活難のカグヤにはとてつもない出費で、出来る事なら一生使いたくない≫

(余剰数値:0)

 

人物概要:【黒いセミロングの髪に切れ長の瞳。クールな顔立ちに気だるげな態度が、真面目で暗く、影のあるクールキャラに見えるのだが、実はかなりの変態。義姉溺愛主義。真顔でエロ発言。覗きセクハラ上等。上品な女性みたいな笑顔で気に入った相手を苛めて見たりと、かなりの変人。いや、エロ。体質上、肉体的に脆く、動き回るのはあまり得意ではない。その変わり、頭を使う類の事はチート並みに完璧。忘れっぽいところを除けば、最強の頭脳の持ち主】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:のん

名前:九曜 一片(くよう ひとひら)  本名:闇御津羽(くらみつは)

年齢:18(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神

性格:クールで従順な僕。主以外には冷たい対応を取る

 

喋り方:クールな僕

自己紹介  「我が君の僕、九曜と申します」

下僕状態  「承知しました我が君。速やかに行動を開始します」

他人対応  「言いたい事は解ったわ。もう帰ってもいいかしら?」

戦闘時   「我が君の敵を、全て退けます!」

 

戦闘スタイル:射撃、剣、盾になる小型ユニット

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『黒曜石の式神』

技能

各能力概要

・『ユニット』

≪盾、剣、射撃の武装になる小型ユニットを、腰に6本、背中に6本、両脇に2本所持し、自由に扱う≫

 

・『闇の翼』

≪背中より黒い翼を生やし、飛行する事が出来る。翼を闇に変え、攻撃に使う事もできるが、主への負担が増してしまうので攻撃には使いたがらない≫

 

・『神実』

≪闇御津羽の剣となり、漆黒の刃として主の武器となる。意思を共有し合い、時には主の身体を勝手に動かす事も出来る≫

(余剰数値:0)

 

人物概要:【人の姿を持っているが、人ではない。闇御津羽と言う神であり、黒曜石の式神でもある。カグヤの五歳の誕生日に義姉から送られ、それ以来ずっと仕えているパートナー。主の命令を何よりも尊重し、彼のためだけに行動する。いつしか、彼の事を主以上に想うようになり、カグヤからも同じだけの愛情を注がれ、共に主従や恋愛を超えた特別なパートナーとなっている】

備考【闇御津羽神はその本当の名を罔象女神(みつはのめのかみ)と言い、軻遇突智の血より生まれた水の神である。それがどうして闇の神として力を振るえるのかと言うと、彼女は厳密な意味でカグヤの式神ではなく、神威の式神である。神威が闇御津羽を創造する時、彼女はカグヤの能力とは別の方法と法則で闇御津羽を創り出している。彼女は『闇御津羽』としてだけではなく『黒曜石』化身としてのスタイルを有している。そして、名前から察する他人のイメージを利用し、『黒』、『闇』の力を使う式神として顕現している。カグヤの能力は、厳密な意味で日本神話の神を再現してしまうが、神威のそれは、オリジナルを挟み込める、汎用性にとんでいた物だったようだ。現在の『九曜』が罔象女神としての力を発揮できていないのは、カグヤの力不足が原因である。イマジンの能力で作られた存在は、主のステータスに大きく左右されるのだ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:のん

名前:甘楽 弥生(つづら やよい)   刻印名:ベルセルク

年齢:16     性別:女       一年生Cクラス

性格:マイペースな僕っ子。バトルマニアの気質有り。

 

喋り方:少し男の子っぽく喋る。

自己紹介   「甘楽弥生です。武器は二刀流と知恵。趣味は料理。目標は神や魔王を倒せちゃうくらい強いと言われる事です!」

勝負申し込み 「僕と勝負しよう?」

勝負受諾   「いいよ。もちろんやるよ」

謝罪(軽)  「ごめんごめん! 悪かったってば~~~!」

戦士の権能  「 ≪我は言霊の技を持って世に義を表わす!≫ 」

戦闘スタイル:二刀流。物理攻撃。直接攻撃型。エース。

身体能力172     イマジネーション110

物理攻撃力116    属性攻撃力20

物理耐久力100    属性耐久力50

不屈200       能力看破250

能力:『戦神狂ベルセルク』(『獣の恩恵』を返上している)

派生能力:『勝者のウルスラグナ』(『戦士』繋がり)

 

技能

各能力概要

・『戦神狂の恩恵』

 ≪ベルセルクの能力。戦場に降り立った時、戦場に必要な力、技術、知識を、急速に理解し、会得していく。この能力で得た物は、戦場から遠ざかると失われる≫

・『戦士の権能』

 ≪ウルスラグナの能力。戦うべき敵と接触した時、相手の力を急速に理解し、最終的には看破してしまう。更に、その能力を切り裂く“黄金の剣”を精製出来る。敵の能力看破には、ある程度下地になる知識を必要とする≫

・『強風の加護』

 ≪ウルスラグナの能力。移動に対して風の能力を行使する事が出来る。風の力で、ダメージを緩和したり、空中戦を演じたりもできる。ただし、敵を押しのけたり攻撃として使用できる程の風は起こせない≫

(余剰数値:0)

 

人物概要:【Cクラスでは珍しい大人し目で良識のある少女。常識を理解し、他人と友好的な関係を築ける。栄養士の勉強をしており、毎日お弁当を作っている。マイペースだが、Cクラスの例にもれずバトルマニアの気質があり、戦闘を見ると自分も戦いたくなってきたり、戦っている最中に笑顔が漏れたりする】

 

能力概要:【刻印名を『ベルセルク』にする事で、戦神としての神格を得ている。だが同時に、ベルセレクの暴走思考『獣の恩恵』を返上し、暴走する可能性を避けた。そのため、獣に関係する能力を覚える事が出来ず、『ウルスラグナ』の獣の力を一つも使う事が出来ない。『ウルスラグナ』は『ベルセルク』と“戦士”繋がりで派生スキルとして習得した。刻印名を『ベルセルク』にしているので、“戦士”“剣士”“騎士”“獣”などに属する物にしか派生できない。『獣の恩恵』を返上しているので、現在は“獣”の派生はできても、“獣”の能力は使えない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:のん

名前:相原 勇輝(あいはら ゆうき)    刻印名:正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)

年齢:10     性別:♂         一年生Dクラス

性格:ロボット漫画の少年主人公の様な性格

喋り方:正義感に溢れる子供っぽい性格。

自己紹介        「相原勇輝! 愛と正義と勇気で勝利をおさめます!!」

ガオング発動      「いくぞっ! ガオングーーーーーーッ!!」

フェニクシオン発動   「来いっ! フェニクシオンッ!!」

ガオング必殺      「必殺ッ! ガオウブラスターーーーーーッ!!!」

合体          「合体ッ!! フェニクスガオング!!」

フェニクスガオング必殺 「フェニクシア・ブレイドバスターーーーーーッ!!!」

名乗り         「愛と正義に勇気を乗せて! 勇輝とガオング! 只今参上!!」

 

戦闘スタイル:巨大ロボットを呼び出し、彼等の肩などに載って一緒に戦う。

 

身体能力13     イマジネーション493

物理攻撃力153    属性攻撃力103

物理耐久力153    属性耐久力103

能力:『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)

派生能力:『―――』

 

各能力技能概要

・『ガオング』

≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。ライオン型の巨大ロボット。体長五メートル弱の巨体を持ち、牙や爪で戦う。二足歩行型の『ファイティングモード』に変形可能。腕の爪と、巨大な剣で戦える。必殺技は胸のライオンフェイスの口から放つ光線『ガオウブラスター』≫

・『フェニクシオン』

≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。ガオングをサポートする全長十メートル強の大鳥型巨大ロボット。脇に携えた二門の砲塔から高熱戦ビームを発射できる。空を飛べないガオングを背に乗せ飛び回る≫

・『合体フェニクスガオウング』

≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。フェニクシオンとガオングを合体させた二足歩行型巨大ロボ。フェニクシオンが換装パーツとなり、ガオングを強化した姿で、飛行を可能にし、パワーを三倍にする事が出来る。必殺技は、背中に背負った巨大な剣に炎を纏わせた一撃『フェニクシア・ブレイドバスター』≫

(余剰数値:0)

 

概要:【亡き父と共に憧れた正義の巨大ロボを実現させるため、勇気をもっとうに生きてきた少年。父は、いつか二足歩行型の巨大ロボットを作る事を夢見て、仲間達と研究していたのだが、実験中の事故で死亡してしまう。その後を継ぐため、万能の力、イマジンにより、巨大ロボットを創り出し、正義の巨大ロボットは存在するのだと言う事を証明しようとしている。 逆立ったツンツンヘアーに、瞳だけ凛々しい幼い顔立ち。半そで短パンに、ノンフィンガーグローブと、子供向けロボットアニメから出てきたような少年。子供らしい正義感に、時々周りと話がかみ合わない時もある。能力は凄まじいが、本人は普通の子供なので色々空回りが多く、また、面白いリアクションをするので、実にからかい甲斐のある少年。それなりに女性への興味はあるのだが、己の正義感から不謹慎だと思い込んで一人で恥ずかしがったりしている。同年代の女性の魅力に疎く、魅力的なお姉さんに惚れ易い。誰かのために戦える事がとてつもなく嬉しい。刻印名があるので、正義のロボットでない力には派生できない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:のん

名前:奏 ノノカ(かなで ののか)     刻印名:奏者

年齢:16     性別:♀         一年生Eクラス

性格:明るめだが、音楽系の事で集中し過ぎるタイプ。

喋り方:明るめ。ちょっと天然

自己紹介   「奏ノノカです。あまりさえ無い感じの女の子だけど、音楽には自信があります。私の演奏で、皆に力を与えちゃいますよ!」

ボケ     「~~~♪ …はっ!? いつの間にかこんな時間にっ!?」

戦闘     「『幻想曲』第一楽章:≪魔弾の射手≫」

名台詞    「バイオリンを弾けなくなる時、それは私が死んだ時です」

戦闘スタイル:バイオリンを弾き、奏でる音楽で魔法みたいな能力を操る。

身体能力103     イマジネーション403

物理攻撃力53    属性攻撃力153

物理耐久力53    属性耐久力153

集中力100

能力:『幻想曲』

派生能力:『―――』

 

各能力技能概要

・『幻想曲第一楽章:≪魔弾の射手≫』

≪『幻想曲』の能力。この曲を奏でている間は、魔法の矢を撃つ事が出来る。曲のスケールと長さに比例して、威力と数を増やす事が出来る≫

 

・『幻想曲第二楽章:≪幻迷の森≫』

≪『幻想曲』の能力。防御技。この曲を弾いている間だけ効果が発動。集中状態で自分の身を守る強固な音の障壁を球体上に創り出し、拡散状態で音の届く範囲全ての人間を惑わせる効果を持つ。曲のスケールと長さに比例して、効果を上げる事が出来る≫

 

・『幻想曲第三楽章:≪戦場の軍勢≫』

≪『幻想曲』の能力。この曲を弾いている間だけ、多数の味方を強化する事が出来る。曲のスケールと長さに比例して、効果を上げる事が出来る≫

(余剰数値:0)

 

概要:【短い茶髪に黒い瞳、明るく元気な女の子。過去、事故の後遺症で二度と指が動かせないと知り、絶望しかけたが、『イマジネーションハイスクール』の生徒になる事で、それらを克服できると知り、入学してきた。演奏中は別人の様に優雅な女性として振舞う。演奏とは役者にとっての舞台。己にとっての聖地と信じ、優雅な女性でありたいと思っている。日常と演奏時でのオンオフがある少女。直接戦闘は苦手だが曲による味方支援は大の得意。奏者の刻印名があるので、音楽に関する物にしか派生できない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:のん

名前:及川 凉女(おいかわ すずめ)    刻印名:武装創造(ウェイポンズ・クリエイター)

年齢:18     性別:♀         一年生Eクラス

性格:穏和で大人し目。大人の女性な雰囲気を持つが、見る物全てに新鮮な反応を示す。

喋り方:おっとり系

自己紹介   「及川凉女です。私は戦う事ができませんが、それ以外で何かお役に立てればと思っています。皆様、どうぞよろしくお願いします」

能力発動   「創造(クリエイション)―――。『バスターカノン』。リリース―――」

ボケ     「ええっ!? この携帯、画面を直接触れて操作できるのですかっ!?」

ボケ2    「げ、現代にはそのような作法が………っ!? な、なら、私はここで貴方に肌を晒さねばならないと言うのですか………? ///// なんと言う羞恥でしょう………。しかし、これも常識だと言うのなら………。くぅ~~………っ!! ///////」

 

戦闘スタイル:武装創造。あらゆる武器を作り、調整が可能。戦闘能力は無い。

 

身体能力13     イマジネーション483

物理攻撃力33    属性攻撃力53

物理耐久力43    属性耐久力53

必要情報検出340

能力:『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)

派生能力:『個別調整(パーソナル・ステータス)

各能力技能概要

・『武器創造』

≪『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)』の能力。如何なる武器でも創り出す事が可能。本人の深層心理上、近未来系の武装しか創造できず、刀や甲冑などと言った簡単な仕組みや、古いタイプの武器は作り出せない。やたらカノン系の設置型砲撃系の武装の出来が良い≫

・『防具創造』

≪『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)』の能力。防御能力を持つ装備を創造できる。ただし、上記同様、近未来系のデザインになってしまう≫

・『システム微調整』

≪『個別調整(パーソナル・ステータス)』の能力。創り出した武装を他人に合わせて出力調整する事が出来る。使い手が優秀なら、作り手の限界を超えた出力も出す事が可能。ただし、武装のポテンシャルは作り手の実力に影響される≫

(余剰数値:0)

 

概要:【ウェーブのかかった長い小麦色の髪をした線の細い少女。原因不明の植物状態に陥っていたところ、医者の伝手で『イマジネーションハイスクール』の教師に来てもらい、イマジンを投与してもらう事で一時的に目を覚ました。原因不明である以上完治には至れなかったが、イマジンにより覚醒状態に至れると知り、入学を決意する。イマジンにより、身体能力も上がり人並み以上の力も出るのだが、ずっと寝たきりの生活が続いていたため、体力だけが衰えてしまっている。そのため、普通に歩く事も出来るのだが、普段は自動操作の車椅子で移動をしている。この車椅子も自分の能力で作った物だが、現在の能力では同じタイプの物を瞬時に作りだす事が出来ない。能力派生内では可能だが、能力として得ていない以上、簡単に使う事が出来ないのだ。三年近く寝たきり生活が続いていたため、見る物全てが新鮮。自分一人では戦う事が出来ない為、自分の力を利用してくれるパートナーを探しています。刻印名があるので、武装創造系にしか派生できない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:のん

名前:ルーシア・ルーベルン(ルル)    刻印名:時間旅行者(タイム・ルーラー)

年齢:16     性別:♀        一年生Fクラス

性格:口数が少ないだけの普通の女の子。まとも過ぎて呑まれ気味。

喋り方:大人しめな少女。台詞が殆ど心の中。

自己紹介    「ルーシア・ルーベルンです。ルルと呼んでください。能力は時間制御です。限定的ではありますが、皆さんの足を引っ張らないよう、がんばります!」

金時計発動   「『金時計:黄金への時間(ゴールデン・タイム)』………時は金なり」

銀時計発動   「『銀時計:銀世界までの時間(シルバー・タイム)』………銀世界への加速」

戦闘スタイル:右手に金、左手に銀の懐中時計を使い、時間操作して戦う。大抵は援護。

身体能力70     イマジネーション150

物理攻撃力20    属性攻撃力200

物理耐久力70    属性耐久力200

時間支配力308

能力:『時の歯車(タイム・カウント)』

派生能力:『―――』

各能力技能概要

・『金時計(ゴールデン・タイム)』

≪『時の歯車(タイム・カウント)』の能力。自身に対して迫り来る対象の猶予時間を増やす事が出来る。例えば、己に攻撃を仕掛けてくる者に対して使えば、相手が自分に攻撃を当てるまでの時間を引き延ばせる≫

 

・『銀時計(シルバー・タイム)』

≪『時の歯車(タイム・カウント)』の能力。自身が老化するまでの時間を急加速させる、時間加速能力。ただし、言葉の通り、使った分だけ自分の時間だけが先回りし、シルバー:つまり老人への時間が早まる≫

 

・『休憩時間(ブレイク・タイム)』

≪『時の歯車(タイム・カウント)』の能力。10分単位、ランダムで最高一時間の間、時間の止まった異空間に閉じ込められる。ただし、閉じ込められる空間はかなり快適な物で、封印系と言うわけではない。正真正銘休憩時間を設ける能力。また、時間に外れた空間なので、この空間内では物の破壊や殺傷は不可能。主に『銀時計』使用時のペナルティー帳消しのために使っている≫

(余剰数値:0)

 

概要:【亜麻色、セミロングの髪をアップで纏めている。黒ぶちで大きなメガネがチャームポイントの普通ッ子。アメリカ人なのだが、日本で育ったので完全に日本人系の少女。前に出るのが苦手だが、友達と一緒にいるのが大好き。刻印名があるので、時間系の能力にしか派生できない】

 

 

 

 




投稿募集した時に同時に出すつもりだったのに、載せ忘れて申し訳ありませんでしたっ!!


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一学期 第一試験 【入学試験】

明日も仕事なのに、徹夜気味で頑張って書いてしまった………。
一番最初にキャラを詰め込みすぎなんじゃないかと、自分でも読み返して呆然………。この一話で、一体何人のキャラの名前を覚えてもらえるやらです。

そして、Cクラス候補生が一人も送られていない事実!? どうするよこれっ!?
まあ、とりあえず本編を楽しんでください♪


ハイスクールイマジネーション 01

 

一学期 第一試験 【入学試験】

 

 

  0

 

 イマジネーションハイスクール。略称『イマスク』。

 日本上空、日本領域国浮遊学園都市『ギガフロート』。

 学園名、『柘榴染柱間(ざくろぞめはしらま)学園』。

 想像を具現化し、現実へと再現する万能の力、イマジンを研究する世界に三つしか存在しない巨大建造物。

 2062年、4月1日。当学園の入学試験が開催され、この試験に合格した者は、そのまま三日以内にギガフロートへと移住する事となる。

 浮遊島であるギガフロートに行くには、特別な許可が下りた時のみ、日本国内全空港で、可能になる。

 

 とある空港、入学試験、イマスク候補生が、メモを片手に空港内をうろついていた。

「よ、弱ったな………、まさかギガフロート行きの便を見つけるのがこんなに大変だなんて………」

 片手に旅行用バックを転がし、肩にはバイオリンケースを背負った、齢16歳の少女はメモと空港内を何度も視線を往復させながら焦った様な声を漏らしていた。

 茶味がかったショートヘアーに、大きな黒い瞳。ドレスシャツに、黒のロングスカートを穿いた姿は、背負ったバイオリンケースもあって、音楽学生にも見える。幼さの残る顔立ちでオロオロしている姿は、実に不安そうで、誰の目から見ても困っているのは明らかだった。

「どうしようかなぁ~~? さっきから何度も職員の人に聞いてるのに、複雑すぎて解んないよぅ~~?」

 涙目でぼやき、彼女はついに肩を落として項垂れてしまった。

 彼女の弁明をするなら、決して彼女が方向音痴と言うわけではない。もちろん、本音を言えば誰かに案内してもらいたいところだったが、この日は何処の職員も忙しく、手が空いていそうな人がいないのだ。

(こんな事なら、結構遠くでも羽田空港に行けば良かったかなぁ?)

 イマスク入学試験当日は、何処の空港も大変な混雑を見せる。ギガフロート入場には、大変面倒で複雑な入国手続きが必要になる。日本国内にあり、便宜上は日本の領域と定められているギガフロートだが、この浮遊島は厳密な意味では“外国”の扱いを受ける。そのため、ギガフロート行きが可能なこの日のためだけに、幾つも面倒な手続きを、空港内を走り回る様になってしまうのだ。

 そのため、特に大きな空港である、関西国際空港、成田空港、羽田空港には、この手続きを速やかに行えるよう、時間制で何回かに分けた集団手続きを数人のガイドマンによって先導してもらえる。しかし、どの空港にも遠い地域から出てきた彼女は、地元近くの小さな空港を選んでしまい、自分一人の力で目的の便を探す羽目になってしまい………現在、迷子になってしまっていると言う事だ。

「うぅ………っ、もう一度バイオリンが弾けるかもしれないチャンスなのに、こんな所で躓くなんて嫌だよぅ~~………!」

 二度と取れる事の無い右手の指に巻かれた包帯を見つめ、悔しそうな涙を目の端に浮かべた時、声を掛ける者がいた。

「ちょぉっと良いかな君ぃ~~~?」

 軽薄そうな声に驚き、振り返った少女は、………顔以外の場所に目が行ってしまった。

 声を掛けたのは短い黒髪に、うっすら青がかった深緑の眼を持つ、およそ160前後と思われる背の低い男性だった。年齢は恐らく同い年くらいだろうと予想は出来たが、それ以上に気になる物があって、そっちにばかり目が言ってしまう。

 彼の着ている服は、特に珍しくもないキャンプ用のジャケットにズボンで、収納ポケットが一杯ある生地の厚い物だったのだが、そのポケットから、あるいはベルトに通した腰のケースからは、全てが全てトレーディングカードゲーム、通称TCGと呼ばれるカードの山だった。それも一種二種と言うレベルではない。カードの裏表紙が見えるものだけでも八種類はくだらない。彼の持つ旅行用ケースも、もしかしたら中身は全部カードなのではないかと疑いたくなるほどのTCGフル装備だった。

「あのさぁ~~? さっきから挙動不審だけど、もしかしてギガフロート行きの便探してる?」

「………カードすごっ」

 口にしてから少女ははっとして口を押さえた。

 あまりに凄過ぎて相手の言葉など碌に聞かず、思わず呟いてしまった。気を悪くしなかっただろうかと焦りを見せるが………。

「だろうぅ~~っ!? うわ~~っ! 解る!? このカードの素晴らしさ! これだけ集めるのにはさすがに苦労したさ! でもっ! やっぱカードは集めてこそだからね! 音を上げてなんかいられない! そして必死に集めたカードで、必死に練った戦術が決まって、勝った時の感激と言ったら………ッ!! もう、極上ッッ!!」

 物凄く食いつかれた。

 何やら感極まった様子で嬉しそうに、自分のカードコレクションの説明まで始めようとする少年に、少女は苦笑い気味にストップを掛けた。

「え、えっとっ! 私に何か用でした!?」

「あったけど、カード談義したい!」

「本来の目的をそんな簡単に捨てちゃダメェ~~!」

 彼女の必死の説得に折れた少年は、渋々と言った感じにカードを元の場所に仕舞い、軽薄そうな笑みを向けて尋ね直す。

「もしかして君、ギガフロートに行くつもりなのかなって?」

「え? はい、そのつもりですけど………?」

「審査手続きはもう終わった? 実は僕様もギガフロート行きでさ、何だか君が困ってたみたいだから、よかったら案内しようかと思ってねん? っつか一緒にどう?」

「ホントですかっ!?」

 少女は前のめりになって少年に問い返した。少年は、急に顔が近づいたので、「おおっ!? 近い………っ!」っと、ちょっと慌てながらも頷いて応える。

 大変軽薄で、怪しい感じのある少年だが、悪い人間ではない様にも思える。もちろん完全に信用したわけではないが、このまま放置されている方が彼女としてはマイナスだ。

「それじゃあ、せっかくなのでお願いします!」

「うん、よろしくぅ~~! ああ、僕様の名前は契。切城(きりき)( ちぎり)って言うの。よろしく?」

「はい、私はノノカです。(かなで)ノノカ」

 

 

 

 1

 

 

 

 別空港。

 濡れ羽色の長い髪に、黒の和装に身を包んだ少女、九曜(くよう)は、控え所で待つ主の元へと小走りに駆け寄っていた。

「遅くなって申し訳ありません。何分、私の審査は時間の掛る物が多いので………」

「いや、お前を消さずに連れ立ってるのは俺だから、謝る必要なんて無いんだがな………?」

 何の変哲もないシャツとジーンズに、千早を纏っていると言う、妙な出で立ちをした少年は、あまりに女性的な丸みのある顔をうんざりした表情へと歪めて、応じる。

「お前より俺の方が時間掛りそうだ………」

 そう呟く彼は、軽く溜息を吐く。

 言葉の意味を理解するため、彼の周囲にようやく目を向けた九曜は、冷やかな視線を向ける。

 そこにいたのは、金髪でガタイの良いアメリカ人らしき男と、黒人らしきスキンヘッドの男。そして同じく黒人のパーマにサングラスの男。三人が三人ともアンダーシャツに迷彩ズボンを穿いている所を見ると軍人か、もしくは元軍属、はたまた見た目倒しのミリタリーオタクか………?

 そんな彼等は口々に異国の言葉で騒がしく何かを言い合い、九曜の登場に歓喜してさえいるようだった。異国語を理解できない生粋の日本生れの九曜だが、どんな事を言っているのかは、なんとなく理解できるだけの理解力は持っている。どうやら彼等は人間の最も低俗な手段で求愛行動をしているようなのだが、九曜にはその意味がさっぱり解らず、己の主へと視線を向ける。

 セミロングの黒髪を、後ろで適当にまとめているだけで、その他は特に着飾りを考えていない簡素な格好。千早を纏っている事以外は特段珍しいとは言えない。だが、確かに見ようによっては女の子に見えない事もない。彼の僕である九曜には、主を女性的な姿として捉える事が少ないのだが、それでも彼の姿が同族からは女性種に見えてしまうのだろう事は、なんとなく解らないでもない。

「我が君はお伝えしたのですか?」

「したら、男でも良いってよ?」

 肩を竦めてうんざりする主に、さすがの九曜も悪寒を感じ取った。人間の趣味は解らないことだらけだが、これにはさすがに本能的な嫌悪感を感じ取れる。無意識に自分の体を抱き締め、男達から一歩離れる九曜。逆にその行動がしおらしい大和撫子の怯えた姿に見えたのか、男達はむしろ盛り上がっている様子だ。

「………我が君? もしやこれら(、、、)は、我が君だけでなく私にも求愛しているのですか?」

 怖気たっぷりに問いかける従者に、主はほとほと疲れたと言わんばかりに訂正する。

「いや、俺とお前を合わせた四人だ」

 言われた九曜は、視界から外していた(、、、、、)主以外の二人へと視線を向けた。

 片や、長い髪をツインテールにしている、可愛らしい顔立ちをしたフリルだらけの子供っぽい服を着た女性。片や、白い長髪を高い所で纏めて結わえ、真紅の瞳を持ち、小柄な体に大正風の着物を着ている少女が、それぞれ呆れた様な、疲れた様な表情で纏まっていた。

 なるほど、確かにこの三人が揃って立っていれば、声を掛けたくなるような美人が揃っていると言えなくもない。どうやら自分もその中の一人の様だが、その辺りは忘れる事にしようと決めた。

「このお二人は我が君のお知り合いですか?」

 主への質問だったが、それについては当人達が答えた。

「いいや、私達は自分達の乗る便を探してここから電光掲示板を見ていただけだ」

「ボクも同じだ。面倒な手続きをやっと終えて、後は飛行機に乗り込むだけで、掲示板を見て探していたら、声を掛けられてね………。しかも知り合いでもないただ一緒に掲示板を見ていた二人と同時にだ」

「そう」

 二人の少女に対して、そっけない一言で答える九曜のあからさまな態度変化に、二人は苦笑いを漏らしてしまう。

「ってか九曜? お前も突っ込まないのかよ?」

「何がでしょう?」

「いや、こっちのゴスロリ、明らかに声低すぎるだろ? 自分で言うのも悔しいが、コイツに比べれば俺の方が女声だぞああちくちょうっ! やっぱなんか納得いかねえっ!!」

 言葉の最後に男としての尊厳を刺激されたらしい主の叫びを無視し、九曜は“ゴスロリ”と呼ばれたフリル服の女性(?)へと視線を向けた。

 向けられた“ゴスロリ”は、不思議そうに首を傾げながら平然と答えた。

「どうした? 私は男だが何か問題でもあるのか?」

「特にないわね」

「そうか」

 会話終了。

「最初から解ってた俺はともかく、どうして俺の周囲の人間は動揺の声一つ上げんのか? なんかすげぇ俺が凡人に見えてくるぞ?」

 溜息を吐く主に、本当の女性である大正少女が薄ら笑いを浮かべながら慰めの声を掛ける。

「良い事だろ? ………人間、無駄に慌てない事だ」

「いや、俺は慌ててる女の子の顔とかすっげぇ見たいんだよ。羞恥心に染まって慌てふためく顔とか」

「まあ、うん………。君は凡人じゃないから安心しろ」

 真顔でふざけた事を言うので大正少女も興味を失った様子で視線を逸らした。九曜は一瞬、『類は友を呼ぶ』と言う言葉を思い浮かべ、なるほどと納得して頷いた。

 ―――っと、そこへ、完全に存在を忘れていた外国人男性の一人が、大正少女の腕を掴み、強引に引き寄せた。その拍子に荷物を落とし、バランスを崩した少女は、あまり抵抗出来ぬまま男の懐まで引っ張られてしまう。男は、何事か異国の言葉で荒げた声を放っている。どうやら散々自分達が口説いているのに、完全に無視され続け、怒り始めた様子だった。

「まったくっ、………今日はなんて厄日―――いた………っ!?」

 強引に腕を引っ張り上げられ苦悶の表情で喘ぎ声を漏らす少女。

 それを聞いたゴスロリ少年は、「やれやれ」と結わえた二つの髪を左右に揺らしながら、一歩前に出る。

「喧嘩は得意ってわけじゃないんだけどな」

 そう言って前に出ようとする少年を、遮る手があった。

 首を傾げる少年に。九曜の主は溜息交じりに、ただ一言―――。

「九曜」

 次の瞬間、九曜の姿は霞みと消え、それが合図だったかのように男達が力なくその場に頽れていく。男達が倒れた先で、胸に手を当て軽くお辞儀している九曜の姿があった。

「これでよろしいでしょうか?」

「おお、音もなく………っ!? 期待以上だ」

「お褒めに(あず)かり光栄です」

 何が起きたのか理解できなかったゴスロリと大正が、二人して顔を見合わせ、主と従者の二人へと視線を向ける。

「何者だいその娘? ………人じゃないっぽいけど?」

 大正少女の言葉に何度も頷いて同調するゴスロリ。そんな二人に多少なり驚きながら、先程散らばってしまった少女の荷物を拾い、彼は答えた。

「九曜が人間じゃないって解るのか?」

「これでも家が神社でね。ボクは巫女なんだ」

「私はなんとなく勘だ」

「逆に勘で解られる方が(こえ)ぇよ………」

 軽く呆れながら主たる少年は少女へと荷物を返す。

「お前らも目的地はギガフロートか?」

「そうだよ。君もかい?」

「それなら話が早いな。ギガフロートの外で見られる事なんてまずないからな。ありがたく見ておけよ」

 彼そう言うと、九曜の腰に手を回し、自分に寄せると、まるで自分の彼女を紹介するように誇らしげな、それでいて悪戯っぽい不敵な笑みで告げる。

「コイツは意思を持つイマジン。『イマジン体』だ。俺の名はカグヤ。イマスクに受かれば、正式な主従になる。よろしくな」

 その驚愕の事実に、ギガフロート以外で本物のイマジンを目にした二人は、大きく目を見開いて驚く。だが、すぐに二人とも友好的な笑みを作ると、それぞれ自己紹介を口にした。

浅蔵(あさくら)星琉(せいる)。………こんなんだが巫女なんかをしている。………まあ、暇でも見つけて家の神社にでも来てみたらどうだい? 何の御もてなしも出来ないけどね………」

水面(みなも)=N=彩夏(さいか)だ。これからよろしく頼むぞ」

 

 

 

 2

 

 

 

 ギガフロートは上空約一万五千メートルに存在していると言うのが一般人の常識だ。

 だが、それを聞いて誰がこんな事を想像しただろうか?

 “上空一万五千メートル”という数字は、日本の航空旅客機を向かい入れられる、浮遊島の地下フロア、その最下層を基準にして計られた高さだと………。

 まるでファンタジーの浮遊城の様に、下層部は氷柱上に伸びる岩の山。その最も大きく太い中心の一本。羽田空港が五個は軽く入ってしまうのではないかと言う超大型のスペースが口を開いていて、各旅客機はそこに着陸する。

 続々と日本の各空港から飛んできた飛行機が、候補生を連れてくる中、“地上部”の末端からそれを見降ろす三人の姿があった。

 一人は知的にメガネを輝かせる青年。柘榴染柱間(ざくろぞめはしらま)学園学園長、斎紫(いつむらさき)海弖(うみて)

 もう一人は赤銅色のロングストレートに赤茶色の瞳、背は低く、手足が細い、大きめの本を抱えた女性。柘榴染柱間学園図書館司書、比良(このら) 美鐘(みかね)

 最後の一人は、最も異彩を放っている。大正時代の教師の様に振袖に袴姿、日本人特有の黒く長い髪に黒の瞳。外見の全てが大和撫子の代表を表わすかの如く姿で―――しかし、彼女の体は僅かに透け、しかも脚は地面に付かず、文字通り崖から身を乗り出した空中を、重力を感じさせずに浮いている。柘榴染柱間学園柱女(はしらめ)役、日本史・古典担当、吉祥果ゆかり。幽霊教師である。

「おお~~、おお~~、今年もぎょ~さん来はりましたなぁ~~。毎度の事ながら、某国のスパイとか元軍人さんとか、性懲りも無く送られて来はてるみたいですけど? まあ、ほっといてもどうせ受からしまへん人ばっかやし、今年もスルーで良いんですかぁ?」

 身を乗り出し過ぎて、だんだん崖下まで下がっているゆかりに、海弖は眼鏡を中指で持ち上げながら、厭味ったらしい笑みを作る。

「君がそう判断している時点で奇跡もないような相手だよ。放っておきたまえ。未だ嘗て、君の入学試験脱落予想が外れた事が無いのは、大和(やまと)武丸(たけまる)の代から聞いてるからね~~!」

「武丸かぁ~~? 今思い出してもあの子は惜しい逸材やったなぁ~~? 『イマジネーター』の研究を正式作用させて、『イマジン』を一部の(もん)が独占せんように、ずっと働いとってねぇ~~………。あんのクーデター事件で亡くなってしまうんは早過ぎやったよぅ~~………。姫ちゃんとも結局ケンカしたまんまやったしなぁ~~………」

 昔を思い出し、実に哀愁を帯びた表情で空中を漂うゆかり。

 そんなゆかりに、僅かに危機感を感じながら美鐘が口を挟む。

「ゆかり様、その内容は生徒の前では禁句ですからね? 解ってますか? あと、身を乗り出し過ぎて何処まで降りるつもりですか? アナタは見なくても(、、、、、)見える(、、、)んですから」

「あら? いつの間にこんな遠くに? ごめんねぇ~~? つい嬉しくなってしもて。今年も沢山の子供達が来てくれて、しかもちょっと気になる子等(こぅら)もおるしでね? ついつい前のめりに………」

「だからって叫ばないといけない程離れないでくださいっ!? 私の声が聞こえてますか~~~っ!」

「あら? ややわ~~」

 のほほんとした態度で、軽く十メートルくらい下がっていた身体を上昇、美鐘の隣に足を地面に付け、やんわりした笑みを向ける。「相変わらずマイペースな人だ………」っと、溜息を吐く美鐘。それとは対照的に、気になる発言を耳ざとく聞き付けた海弖が質問を投げかける。

「ほほぅ? “気になる”っとは、今年も『人柱候補』が訪れたと言う事かね?」

「ええ、それも今の段階でもう二人も来はりました。昨年も二人やったし、ホンマ今期は豊作ですよ?」

 楽しそうにコロコロ笑うゆかりに、海弖も美鐘も、次々とやってくる眼下の飛行機を見降ろし、楽しそうに微笑むのだった。

 

「あ、そう言えば今日は某国からウナギとカニの賄賂が来ていたんだっけね? 今日はお昼と夜は御馳走だね」

「ちょっ!? 学園長ずるいっ! 私達にも分けてくださいよぅ~~!!」

「美鐘ちゃん~~? 素が出とるよう?」

 

 

 

 3

 

 

 

 ギガフロートに到着した旅客機が滞在していられる時間は長くても一時間と定められている。これには特別な理由も例外として認められる事はなく、故に到着した候補生達は、学園のガイドマンを務める教師の指示に従い、速やかに行動しなければならない。もし、遅れようものなら、荷物が残っていようが旅客機内に残っていようが問答無用で日本に戻されてしまう。

 っとは言え、さすがに一時間もあれば全員降りる事くらい簡単なわけで、飛行機はすぐにとんぼ返りする。日本中から飛行機が集まっても充分なスペースがあるエリアに、大量の飛行機が止まるのは滅多にない。この循環の速さは、ギガフロートが日本領土でありながら、便宜上“一国”つまりは“外国”の扱いになっているため、『イマジン』と言う、通常不出のエネルギーを扱う国に、特別な理由なく滞在する事を禁じているためだ。

 候補生である入学希望者ならともかく、旅客機やその操縦士達は、それに含まれない物とされている。そのため、空港では面倒な手続きを最初に済ませ、充分な準備を整えた上で送り出されるのだ。

 次々と到着しては去っていく旅客機から続々と増えていく候補生達。その中には、少々異質な存在も混じっていたりする。

 例えば、尖った耳を持つ者がいたり―――。

 例えば、服の下から獣の尻尾を覗かせる者がいたり―――。

 例えば、明らかに某国の女王と言いたくなるドレス衣装の者だったり―――。

 

 そう、例えば外見上は普通の人間に見える、人間外の者だったり―――。

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 その少女、ここまでの道のりを車椅子でやってきたウェーブのかかった長い小麦色の髪をした線の細い少女、及川(おいかわ)凉女(すずめ)は、人の群れに押され、何度目かのバランスを崩し、慌てた声を漏らす。

 何とかバランスを立て直し、改めて車椅子の取っ手部分に付いているレバーを傾け、車椅子を走らせる。

「こんなに人が多いと、私みたいな人はむしろ邪魔になりそうですねぇ~~?」

 審査員でもある教師の指示に従い、なんとか集会場へと向かうが、付いたら付いたで居場所が無い感じを受けた。

 集会場は、とてつもなく広いだけのドーム状の空間だった。広さは解らない。あまりに広大過ぎて、彼女の頭では予想も立てられない。

「てっきり、幾つかの施設に分けて審査すると思ったんですけど、皆まとめて審査しちゃうって事ですかねぇ~? 酸素濃度足りるのかしらぁ~? はっ!? 酸素ボンベが必須アイテムだった!?」

 相変わらずズレた予想をしているところ、彼女は周囲に視線を向ける。

 椅子があるわけでもなければロープや立て札があるわけでもなく、完全に何もない床と壁と天井の部屋。皆が思い思いの場所で突っ立っていたり、壁に寄り掛かったりとしているが、あまり奥の方に移動しようとしている者は少ない。何も聞かされず、ここで待てと言われ、出口から離れる事に軽い恐怖心を抱いているのかもしれない。

 自分もその一人ではあるが、車椅子では人ごみの多い所は邪魔になってしまう。仕方なく、人のいない場所を目指して移動させようとするが、統率されていない人間の集団は、中々に邪魔で、移動さえも容易にさせてもらえない。

「ちょっと、邪魔っ!」

 

 ガシャンッ!

 

 通りがかった女性が無造作に押しのけるように払った腕が、彼女の車椅子を横に薙ぐ。身体ごと車椅子が傾き、倒れそうになる凉女。

「ひゃあ………っ!?」

「あぶないっ!」

 あともう少しで倒れそうになったところを、誰かが車椅子の取っ手を掴み、支えてくれた。

「はっ! これは少女漫画における恋の予感を思わすシーンですかっ!?」

「はい………?」

 助けた少年は、凉女の言ってる事が解らず疑問を返してしまう。

 何処かで売っていそうな生地の厚いジャケットにジーンズ、髪も目も黒く、何処から見ても普通の日本人男性で、特徴と言えば少し目が細長い事くらい。だが、それ故に見た目から危機感を相手に与えず、気の良さそうな人だと思わせられる。そんな少年に、凉女は更に疑問を投げかける。

「この展開に従って、私は恋に落ちないといけないのかしらぁ? 私って自分の好みとか解ってないんですけどぉ~~?」

「いや、えっと………? よく解らないですけど、少女マンガのヒロインじゃないなら恋しなくても良いんじゃないですか?」

「私はいつからヒロインの座に―――っ!?」

「え~~っと………? すみません知りません」

「では、ヒロインの座はお譲りします」

「そ、それはどうも………。でも、出来れば僕も男なんで、遠慮したいかなぁ~~? なんて?」

「助けて下さりありがとうございましたぁ~」

「ここでお礼言われても反応に困るんだけど? え? なに? 今のありがとうはヒロインの座を受け取ってしまった事になったから? それとも車椅子支えたから?」

 なんだか変な人を助けてしまったかもしれないと考え、少年は苦笑いを浮かべる。とりあえず、彼女を人気のいない所まで運んで、自分はさっさと離れようと決め、移動する。

 っと、多少なり人が散らばった辺りに移動したところで、一人の少年が物凄い勢いで走り寄り、凉女の正面から車椅子の取っ手部分を捕まえる。

「な、なにこれっ!? これ何!? これなんて乗り物なのっ!? 座ったまま移動できるとかすげぇっ!!」

 急に飛びついた少年は黒髪に黒の瞳と、車椅子を押す少年と特に変わらない容姿をしている。だが、その服装はかなり際どく、ヘソの見えるピッタリアンダーシャツ。肘まである黒のロンググローブ、やはりぴったりサイズ。脚がむき出しの短パンは、唯一服としての厚みを持っている。穿いている靴は何処か機械チックで重々しい。身体のラインをまったく隠す事の出来ない服装で、筋肉の発達が乏しいのが見て取れる優男だ。これで顔が幼ければショタタイプの少年として一部から人気が出たかもしれない。そんな少年。

 不躾にも、いきなり車椅子の少女の進行を妨げる行為に、臆しながらも細めの少年が不快な顔をする。だが、少女の方はほんわかした顔で―――、

「及川凉女って言います」

 いきなり突拍子もなく自己紹介をした。

「『老いた雀』!? これが雀なんですかっ!? 雀は鳥だと聞いてたけど、老いるとこの様な姿になって人を乗せるんですかっ!? 雀凄いっ!?」

「私も今初めて知りましたぁ~~? ではダチョウさんが老いると普通車両の車になるのでしょうか?」

「なんですってっ!? 鳥類は老いると機械進化できる種族だったのですかっ!?」

「それじゃあ、クジラさんは飛行機になるのでしょうかぁ?」

「魚類が空にっ!? 生命の進化の終焉は、やはり機械化にあるのかっ!? ではっ! やはり機械の先は神に―――っっ!?」

「へ? 機械は老いませんよ?」

「機械の進化が終わったぁ~~~~~~~~~~ッッッ!!?」

 少年は地面に手を付き、項垂れると「神に辿り着けないのなら、この身の意味とは………?」っと一人で落ち込み始めた。細めの少年にはもうどうする事も出来ない。

 そしてやはりのほほんとした凉女は―――、

「ところで『「老いた雀」これが雀なんですかっ!雀は鳥だと聞いてたけど老いるとこの様な姿になって人を乗せるんですか雀凄いなんですって鳥類は老いると機械進化できる種族だったのですか魚類が空に生命の進化の終焉はやはり機械化にあるのかではやはり機械の先は神に機械の進化が終わったぁ~~~~~~~~~~ッッッ!!?』さん? 車椅子を見るのは初めてなんですか?」

「「今の名前じゃないからっ!!?」」

 二人の少年が同時に反論の声を上げた。凉女は「あらら~~?」っと笑顔で首を傾げている。

「ですけど、名前を聞く時はまず自分から名乗るのが礼儀と申しますしぃ~~?」

「自分が名乗れば相手も名乗った事になるわけじゃないですっ!?」

「それではお名前をお聞きしても~~?」

 なんだこのずれた女性は………?

 そんな気持ちが過ぎったが、口には出す気にはなれなかった。

 仕方なく、項垂れていた少年が立ち上がり、名前を名乗る。

「はじめまして! 生まれたてホヤホヤの新神機神の機霧(はたきり)神也(しんや)でーす! 気軽に神也って呼んでね!」

「よろしくお願いします。先程は助けていただいてありがとうございましたぁ~~」

「?? 何の事?」

 お辞儀する凉女に、疑問を浮かべる神也と名乗った少年。

 一拍の間を置き、気が付いたのは車椅子を押していた少年の方。

「それ、たぶん僕の事ですよね? 違いますよ。僕は宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)です」

「瓜生くん? 車椅子の人に急に飛びつくのはとっても怖い事ですよ?」

「ああ~~、違う違う。そっちが自分ね? 神也です」

「私は瓜生君と話していますよ?」

「あれぇっ!? あってたっ!? いや、あってないっ! 僕は怒られる様な事―――!」

「怖いので助けてほしいと言おうとして………?」

「「うわっ!? ややこしいっ!?」」

 凉女のあっちこっちに飛ぶ話題を瓜生と神也が交互にツッコミを入れながら必死に対応するが、この少女のフリーダム差には付いていけない気がした。

 瓜生少年は、この少女の相手を一人でする事にならなくてホッとしていたのだが………。

「まあいいや、それでっ!? この車椅子と言う画期的な機械はなんだっ!?」

「ボタン一つで唸り声を上げる機械でしょうか?」

「自動で動く椅子が唸り声をっ!? 一体何のためにっ!?(キラキラッ」

 訂正………。

 っと、瓜生は心の中で強く念じた。

 厄介者に巻き込まれたのは自分だけだったようだ。

 

 

 

 4

 

 

 

 会場が密かに湧くほど、多くの受験者が集まった頃、それを別室で確認していた学園長、海弖は、眼前に呼び出しておいたスクリーンの受験者名簿で、全員が揃っている事を確認したところで、笑みを浮かべる。

「全員集合を確認。そろそろ受験を始めるとしようかね?」

 そう言って壁を軽く指で叩くと、まるで粘土の様に歪んだ壁が左右に開き、受験者の集まる会場上へと繋がる。会場の受験者から見て、丁度バルコニーに居る様な位置から彼は進み出る。その後ろを、彼の補佐役でもある学園長代理、氷野杜(ひのもり)八弥(やや)が慌てた様子で追いかける。魅惑的な肉付きの良いプロモーションを持つ眼鏡の女性は、海弖の三歩後ろを必死に歩いている。そう、かなり必死に。たった数歩前に進む海弖の後ろを、歩幅の距離まで計り、忠実に三歩分を再現しようとして、小さい歩幅でパタパタと走り回っていた。

 相変わらず変なところで融通の効かない補佐を完全(、、)に無視して、海弖はバルコニーから受験生達を見降ろす。

「受験生諸君! よく集まってくれた! 私は当学園柘榴染柱間学園の学園長、斎紫海弖だ。ただいまを持って、受験開始時刻となった。これより受験生の受け入れを中止し、っと同時に、当学園への入学試験を始めるっ!!」

 学園長の言葉に声を上げて沸き立つ受験生達。

 その歓声を片手で制し、彼はさっそく切りだす。

「では、さっそく入学試験について説明させてもらう! 試験は三つ! 一つは、能力の発動の有無。既に諸君は、このギガフロートに満ちているイマジンを呼吸などによって体内に取り込んでいる。よって、君達は既にイマジンを発動できる状態にある。これを満たし、己の能力を開花させること。それが最初にして最大の試験! 二つ目の試験は、一つ目の試験をクリアした後、その能力を持って同参加者による制限時間三時間のバトルロイヤルに勝利すること!!」

「ん?」

 第二試験の内容を聞いた瞬間、東雲カグヤは訝しげに片眉を持ち上げる。

「九曜、退がるぞ」

「御意」

 カグヤと九曜が人知れず集団から離れる。だが、それは二人だけではない。

「これは………、なるほど」

 浅蔵星琉もその内容の意味を感じ取り、人知れず集団から離れる。

「ん、そう言う事か」

「うわ、えげつない内容………」

「これも試験の内って事か」

 他にもそれなりに察しの良い者達が次々、密かに集団から離れていく。

 それらを上方から見降ろし、確認しながら、海弖は密かに笑みを作る。

「三つ目の試験は、二つ目の試験を合格した後、『刻印の間』にて執り行う。以上が試験内容の全てだ。なお、当学園が『イマジン』による研究のため、戦闘を前提としている事は諸君も周知の事と思う。故に、この試験内でどのような事が起ころうとも、我々は責任を取るつもりはない。それが嫌なら、今すぐこの部屋から退場する事を進める。ああ、でも勘違いしないでくれたまえよ? この部屋には既に『リタイヤシステム』なる『イマジネート』、つまりは魔法みたいなものが組み込まれている。一定以上の怪我をすれば、瞬時に医療施設へと送られるシステムだ。更に言えば、死んでも十秒以内なら蘇生可能な手段も用意してある。存分にやりあってくれたまえよっ!?」

 学園長の言葉にぞっとする者や、冷や汗をかいて苦笑する者、今更危険な内容に気付き、慌てて集団から抜け出そうとする者が現れる。

 その中に退場者が居ない事を瞬時に見て取った海弖は、いっそ、胸を張って高らかに告げる。

 

「それではこれよりっ! 第一次試験及び第二次試験を同時に開始するっ!!」

 

「………え?」

「へ?」

「ん?」

 集団の一部から疑問の声が上がる。

 彼等が状況を理解するより早く、周辺から悲鳴や爆音などの戦闘音(、、、)が木霊する。

「どうしたお前らっ!? もう試験は始まってんだぜっ!?」

「そうぅらっ! 早くイマジンを発動しねーと、あっと言う間にリタイヤだぜぇ!?」

 状況を理解し、素早くイマジンの発動に成功した一部の者達が、未だに呆けている者、イマジンの発動に手こずっている者達を、次々に撃破していく。致命的な攻撃を受けた者達は、『リタイヤシステム』により、光の粒子となって消えていく。

 それを外側から観察していたカグヤは、億劫そうに表情を歪める。

「うわぁ………、あのままあそこにいたら乱闘騒ぎだったな………」

「それでも数が多くございます。決して近づかぬよう―――、何をしているのですか?」

「へ? いや、俺もイマジン発動中。考えて見たら、九曜は俺じゃなくて義姉様が創り出した『イマジネート』だからな? お前でバトルロイヤル勝ち抜いても、合格基準から漏れそうな気がするんだよな?」

 カグヤはそう言いつつ、危機管理は完全に九曜に任せ、自分は能力発動に全力で勤しむ。

(っと言っても、発動だけなら簡単だな? せっかく時間があるし、ちょっと凝った物作れないかな?)

 己の作業と真剣に向き合うカグヤは、その傍で、合格条件に満たされなかった事に軽いショックを受けている僕が居る事に気付かないのであった。

 

 

 距離を置いていた者はともかく、この罠に気付けず、集団のど真ん中に居てしまった者達は、波乱の中にあった。そんな状況にも拘らず、冷静に集団を見つめる事が出来る者もいた。

「この状況………、もしや試験が始まっているのでしょうか?」

 車椅子に座った少女、凉女が、今正に犯人を目の前にした探偵の様に真面目な顔で呟く。

「今更何言って―――うわあぁ~~~っ!! 危ない~~~っ!?」

「あ~~………、コレすごい状況?」

 瓜生と神也は、互いに凉女を庇いながら会場内を走り回り、何とか逃げ道を探そうとする。三人とも、イマジンの発動には成功している。いや、正しくはいつでも使える事が解ってしまう(、、、、、、、、、、、、、、、)。理由は不明だが、イマジン、否、『イマジネーター』になったと言う事は、そう言う事なのかもしれない。

 普通の人間とイマジネーターの違いは、単純な言い回しで、『普通の人間は、絶対イマジネーターには勝てない』っと言う言葉をよく聞く。しかし、この言葉の意味を正しく理解できている者は殆どイナイと言っていいだろう。それは、イマジンによる理すら捻じ曲げる絶対的な能力故に云われている事ではない。解られてしまう(、、、、、、、)のだ。勝利への道筋を。

 例えば、現在攻撃の嵐に曝されている三人だが、自分達のイマジンをすぐに使おうとはしなかった。これは、自分達の能力は、発動時に“条件”、もしくは“時間”を有する物だと理解しているからだ。今日この日まで、まったく使った事が無いのにだ。

 更に言えば、同じ受験生とは言え、集団のど真ん中で攻撃の嵐に曝されても、未だ三人は脱落していない。的確に逃げ場所を見つけ出し、協力して逃走ルートを見つけ出しているのだ。

 どんな状況に曝されようと、勝利への方程式を瞬時に頭の中から呼び出し、それに対応させる力。それがあるからこそ、イマジネーターは普通の人間には絶対に負けない。

 故に彼ら三人もまた、イマジネーターとしての素質があると言える。

 っとは言え、彼等がイマジンを発動させる事が出来なければ結局試験としては失格だ。自分達が生き残る事だけに執着し、反撃に出られないモノなど、それもまたイマジネーターとしては失格なのだから。

「もらったぁ~~~!」

 逃げ惑う彼等の横合いから、一人の少年が手に持つ鉄棒を振り上げ迫る。が、その少年は彼ら三人に気付いてもらう前に、何者かに後頭部を打ちつけられ、音もなく気を失った。

「イマジンを使えていれば素手で攻撃してもOKみたいだな?」

 日本人特有の黒い髪に強い癖毛、柔和な笑み顔に浮かべながらその少年は確認を取る。

 彼の視界には正面に『二次試験通過』の文字が映り込んでいた。これもイマジンによる効果だとするなら、イマジンの万能性が此処でも解らされる。

「ん?」

 合格に胸を撫で降ろしていた少年は、自分の周囲を囲み、襲いかかってきている影達に気付く。

「やれやれ………ですか?」

 瞬間、彼を襲おうとしていた数人が剣を、槍を、大鎚を振り降ろす。一斉攻撃を叩き付けられた床が大きな音を鳴らし抗議する。そう、()だ。彼等が狙っていた少年は何処にもいない。

「ど、何処に行ったっ!?」

 慌てて探し始める彼等を余所に、攻撃を躱していた少年は、溜息交じりに呟く。

「二次試験は合格条件を満たしたところで、失格条件を消し去れるわけじゃないと言う事か………。それじゃあ、仕方ない。さすがにこの人数が相手だ。悪く思わないでください」

 呟いた彼は、黒かった瞳を赤く染め、彼等と目を合わせた。

 いつの間にか接近され、瞳を除き込まれた彼等は、一人の例外もなく突然悲鳴を上げ、『リタイヤシステム』により光の粉となって消えた。

「おいおいっ、それえげつなくない?」

 少年に声を掛けたのは収納ポケットの多いジャケットにズボンを穿いた少年。ポケットにあるのは全てがTCG(トレーディングカードゲーム)用のカード。彼は、その一枚を指に挟んでぷらぷらと弄びながら赤目の少年へと告げる。

「今の良く解らんかったけど、目を合わせる事でなんかしたんだろ? 身体に怪我を負っていなかった所を見ると、直接殺傷系じゃないみたいだけど………?」

 言いながら少年は弄んでいたカードを宙へと放る。

召喚(コール)、焔征竜ブラスター」

 彼の言葉、命令(コマンド)によって能力が発動し、カードが光り輝く。幾何学模様の魔法陣の様な物がいくつも出現し、中心から少しずつ光の珠が巨大化していく。その光の球体が十メートル近くの巨大な物へと変わった瞬間、光が弾け、中から黒い鱗を持つ巨大な西洋竜が現れた。黒い鱗の間から真っ赤な光を称えるその竜は、まるで溶岩の竜だと言わんばかりの熱気を放っている。

「七つ星で、召喚までに五十秒………。こりゃ、融合や儀式系だったらもっと手間かかりそうだな? グレート3や、レベル3だと、どんな条件になるかな? まさかマジで僕様自身ダメージ受けないとダメとかじゃないですよね?」

 カード少年が言っている意味は解らなかったが、恐らくカードゲーム上のルールと、能力として制限(ルール)を照らし合わせ、差異の確認をしているのかもしれない。

(だったら、あの巨体を暴れさせる前に仕留めておきたいところだ)

 細目の少年は召喚されたドラゴンを見据えながら、そう結論付ける。ドラゴンはカード少年がなんと命令するか考えている間、周囲の喧騒を珍しそうに眺めつつ、しかし、自分に向けられる奇異の視線が煩わしそうに鼻息を鳴らしていた。そこには主の命令を待つ従順な僕の姿はない。呼び出されたから来ただけの、別世界のドラゴンだ。もしかするとドラゴン自体、彼の命令を聞かない可能性もある。

(そこまで楽観するのは危険だが、早めにマスターは叩いておかないと危ないよな?)

 あの巨大な竜が本気で暴れ出せば、周囲への被害は間違いなくシャレにならない。マスターであるカード少年を瞬殺して決めようと、腰を低くする。

 ………がっ、飛び出す事が出来ない。

 何かに妨害されているからではない。危機感を感じたからだ。

 先程まで、まったく主の事を意に介さなかったドラゴンが、突然気を引き締めた様にこちらを見据えてきた。理由は解っている。主であるカード少年の、更に後ろから、奏でられるバイオリンの音色。それがカード少年に何らかの能力強化を与えている。それがドラゴンにも伝わり、主として命令を聞くに値する相手と判断させたのだろう。

 少年は、奥を見据え、声を掛ける。

「アナタは?」

「奏ノノカって言います。この人には色々お世話になっちゃったのと、一人で戦うの怖いんで、お手伝い中です」

 そう言いながらバイオリンを弾く少女。楽器から奏でられる音楽は、旋律によって組まれた術、『イマジネート』だ。その効果を受ける対象を一人に絞り、能力の強化を行っているらしい。

 これによって強力なカードを自在に操れるようになった少年は、正に脅威として似つかわしい存在となった。故に、彼も諦めて口の端を笑みにするしかない。

「やれやれ、まさか入学初日が巨大竜との対決とは………。仕方ない。本気でやらせてもらうさ」

 そう言って彼は、瞳を赤く輝かせた。

遊間(あすま)零時(れいじ)、押して参る!」

「あっ!? ちょっと待って手札の確認したい―――うわぁああっ!? 来てる来てるっ!?」

「切城く~~ん!? 負けても私にシワ寄せしちゃいやだよ~~? ダメだよ~~? 無理だからね~~~!?」

 

 

 ノノカ契ペアと零時の戦いが始まる瞬間、もう一体の巨大物体が出現し、周囲にいたイマジン発動者達が吹き飛ばされていく。

 出現したのは全長十メートルはあろうかと言うライオン型のロボットだった。ロボットはまるで生きているかのように四肢を動かし、獣の方向を上げて威嚇する。その頭の上に、十歳ほどの髪を逆立てた男の子が掴まっていた。

「ガオング! まだ一次審査に通っていない人を守るんだ! 何もできずに失格なんて、そんなのあんまり過ぎる………! 皆さん! 僕達の後ろに! 発動するまでの間くらいなら守ってあげます!」

 少年の声に、未だ発動に至れなかった者達がわさわさと集まって行く。

「助かったぜ坊主!」

「良かった! 集中する暇がなかったのよ!」

「ありがとうな!」

 口々に礼を言って巨大ライオンロボットの背に隠れる受験生達。

 それを端で見ていたチャイナ服の少女は、少々呆れ気味に嘆息した。

「アア言うのって、ちょっとサービス過剰違うネ? 試験は皆平等ヨ?」

「ああ、まったくだ」

 その言葉に同意する者がいた事に驚き振り返る。

 腰ほどまである長髪、寝癖を何本も跳ねさせた、恐らくロ シア系の異人。彼女は見るからに面倒そうな表情で、大型ロボットを見ると、ホトホトうんざりしたような溜息を吐く。

「こっちは二次試験を楽にクリアしたいって言うのに、ああ言う偽善者ぶってるのがすっっっごく迷惑………! 弱った獲物を襲うのだって立派な兵法だろうが?」

 そう言う少女の周囲には、西洋甲冑の騎士達が剣と盾を構えて彼女を守る様に居並んでいた。どうやら彼女の作りだしたイマジン体の様だ。

 先程チャイナ少女が遠くで見たイマジン体。一次試験を無事終えた瞬間に、理解出来た黒い和装の少女、彼女と比べると、この西洋騎士達は幾分劣った存在にも見える。彼女にとっては別段脅威とは感じ取れそうになかった。ただ………、

「アナタ、なんでパジャマ?」

「あ、パジャマのままだ………まっいいか」

 その一言で、家から出てからずっと着替え忘れていると言う事が窺えた。

(エ? 何それ? 家カラずっと? 空港でモ、機内でモ、試験開始されるまでズット?)

 困惑を余所に、パジャマ少女は表情を改め、真剣な目をして片手を突き出す。

「全軍! 周囲に散開ッ! 能力を発動できていない者を速やかに打ちとるべしっ!」

 パジャマの主に従い、甲冑を纏った騎士達は一斉に走り始める。その動きに淀みはなく、まるで訓練された兵士の如し。動きの滑らかさだけで言えば、黒和装のイマジン体にも後れをとっていない。

 兵士の数はおよそ百。何処からそんなに溢れて来たのか解らないが、未だに身を守る事もできない弱者を探し、蜘蛛の子の如く散って行く。一体一体は弱そうに見えても、相手はイマジン体だ。イマジネートしていないただの一般人では、すぐにやられてしまう。しかも、百体の内、五十体は十体一組に分かれて行動し、まだイマジネートの甘い相手へと人海戦術で攻撃を仕掛けている。

(おまけに、アレだけ出してもまだマモリ堅いヨ………)

 甲冑騎士達が消えた後、変わりに主を守っているのは、銃で武装した米軍似の歩兵部隊だった。上下二段構えの射撃スタイルで主を囲み、銃に装着された銃剣の先を周囲に突きつけ威嚇する。これだけ守りが堅ければ、誰も容易に攻めれるとは思えない。彼女も間違いなく、合格者の一員だろう。

「ねえ? ナマエ聞いても良いカ? ワタシは陽凛(ヨウリン)言う。香港から来たヨ」

「ん………」

 チャイナ少女の質問に、パジャマ少女は兵隊の一体に顎で命令する。兵隊は黙って従い、名刺を手渡す。名刺には『オルガ・アンドリアノフ』とロシア語で記名されていた。………っと言うか本気で名前しか書いてなかった。他の情報は一切書かれていない。

「ぬふふ………っ! オルちん(、、、、)、中々に面白そうで、コンゴ期待できるヨ!」

オルちん(、、、、)………っ!? だと………っ!?」

 何かとてつもない嫌がらせを無防備に食らってしまったような表情をする、オルガ(パジャマ姿ロシア人少女)だった。

 

 

「お?」

 術式(イマジネート)を完成させたカグヤの元に、一体の西洋甲冑が迫って来ていた。

 瞬時九曜が反応し、それはばっさりと両断され、粒子片、すなわち光の粉となって虚空に消える。

「私より完成度の低いイマジン体です。ですがそれ故に、同じ個体を何度でも回収、再生を可能としているはず」

 言葉を言いきってからまたもや俊足。背後に周り、カグヤに襲いかかろうとした青年を蹴り付け、そのまま踏みつけると、逆手に持ち直した赤黒い刃を持つ剣で胸を突き刺す。容赦のない急所への一撃に、青年はすぐにリタイヤシステムによって消え去った。

 先程襲い掛かってきた騎士甲冑は、間違いなく本物のイマジネーターが創造したレベルだとカグヤには判断できた。だからこそ、気に止めてしまったが、乱戦状態で適当に仕掛けているだけだったらしく、抱いたほどの危機は訪れなかった。

杞憂(きゆう)で何よりだな………)

 頼もしい従者の背を誇らしく見つめ、カグヤは軽く息を吐く。同時に、九曜が蹴り技を使った時に、着物の裾が開き、何度も素足を御目にかかっているのだが、九曜自身が気に掛けているらしく、膝より上が見えない程度に上手くコントロールしている事に、内心安堵しての意味の『杞憂』も抱いていた。自分が見ても、他人に見せるのは(すこぶ)る嫌う独占欲の強い主だ。っと、そこに声が掛った。

「ヘイッ! ユウーーッ!!」

「んん?」

 英語とカタカナ読み日本語が混ざった様な声に振り返ると、三人のミリタリー迷彩ズボンを穿いた半裸の男が、最新式の重火器をフル装備状態でこちらに銃口を向けていた。

「アノ時ハ、ヨクモコケニシテクレタナッ!? タップリオ返シサセテモラウゾッ!?」

「………? ああ、イマジネーターは、言語中枢の理解力も高まってるのか」

 カグヤの耳には、汚らしい英語と、解り易くまとめ直された日本語が同時に聞こえていた。そのため軽い混乱を抱いたのだが、すぐに答えは導き出せた。イマジンにより活性化された脳が、効率良く回転し、相手の言語を素早く理解したのだ。それが、カグヤには同時に二つの言語で喋られているような錯覚を得るほど、高い理解力を有した状態にあると言う事だ。

 もし、これがカグヤにとって初めて聞く、未知の言語だったなら、理解するのにもう少し時間がかかったかもしれないが、幸い、カグヤは八カ国言語をマスターしているので、大した問題はない。そんな事より、カグヤは真っ先に知りたい情報がある。今、この男は聞き逃せない妙なセリフを口にしていた。

「“あの時”? 誰だこいつ等?」

 

 “そこにいたのは、金髪でガタイの良いアメリカ人らしき男と、黒人らしきスキンヘッドの男。そして同じく黒人のパーマにサングラスの男。三人が三人ともアンダーシャツに迷彩ズボンを穿いている所を見ると軍人か、もしくは元軍属、はたまた見た目倒しのミリタリーオタク………”。

 

誰だこいつ等(、、、、、、)?」

「空港でお会いした、とるに足らない存在です。忘れていて問題無いかと?」

「じゃあ、初めてで良いや」

 僕の発言に、あっさり思い出す事を放棄した主。向こうも言葉を解するようになっていたらしく、その発言に頭の血管を何本も浮き上がらせていた。

「何処マデモ舐メ腐リヤガッテ!? アノ時ハ俺達モ『イマジネーター』ジャナカッタガ、今度ハ同ジダ! ダガ俺達ニハ、オ前ニハナイ戦場ノ経験ガアル! 実戦経験ノ差ッテ奴ヲ教エテヤルッ!」

 そう言って三人は縦一列になって真直ぐ走り寄ってくる。九曜は瞬時に反応して先手を取って叩き潰そうと身を低くする。それをカグヤは手で制した。

「待った。俺も完成させたイマジネートを試しておきたい」

 その一言に頷いた僕は、恭しく首を垂れて、主のために道を開ける。

 それを一笑に伏しながら、ミリタリー三人が銃を構える。

 銃口から火花が迸る前、無造作に右手を突き出したカグヤは、ただ一言で、“それ”を呼び出す。

「こい、軻遇突智(カグヅチ)

 刹那迸った紅蓮の大蛇、それは顎を開くと、あっさりミリタリー三人を呑み込み、黒焦げに変えてしまう。『リタイヤシステム』が無ければ、一発で消し済みになっていたかもしれない高温の炎蛇は、未だ完全に顕現している訳ではないらしく、大量の炎を身体から噴出し、縦横無尽に戦場でとぐろを巻きながら、己の形を固定していく。カグヤのイメージした軻遇突智になるためには、発動から完成までに時間がかかってしまっている。そのために、炎蛇は必死に体をくねらせ、己の形を作ろうとしているようなのだが………。

 その途中で軻遇突智が見つけたのは、地上に炎のブレスを吐き付け、一人の少年と戦っている西洋竜。何故か軻遇突智は、それが気に入らなかったらしく、目ざわりと言わんばかりに西洋竜“焔征竜ブラスター”を背後から強襲、未完成の己の身体事焼き尽くした。

「あ、やべ………っ」

 焦るカグヤ、そして迸る絶叫。

「ぎゃあああぁぁぁ~~~~~~っ!!? 僕様の焔征竜ブラスターが~~~~~っ!? 何処のどいつだっ!? こんな不意打ちしやがった奴わっ!?」

 不意打ちされて涙を流す、焔征竜ブラスターの主、切城(きりぎ)(ちぎり)は、ポケットから大量のカードを取り出し、中空へと投擲する。

召喚(コール)! 『クリボー』+『増殖』! 『ブラスターダーク』! 『母を想うフェイト』×3にクライマックス『ファランクスシフト』の大コンボじゃあぁぁ~~~~っ!!」

 妖怪土転びの様な、毛玉に目と手足が生えたようなサッカーボールサイズのモンスター、クリボーが、『増殖』と書かれた魔法カードの効果に従い、次々と無限に数を増やしていく。しかも何かに触れる度に起爆するおまけ付き。そのクリボーを切り裂き、己の力の糧とした黒き剣士が、次々とハイパワーで周囲の人間を切り裂いて行く。さらに黒き洋装の金髪ツインテールの少女が三人、空中で幾つもの雷球を創り出し、文字通り雨の如く、地上に戦火の砲撃を見舞っていく。正に地獄絵図の光景が広がる。

「切城くん!? ちょっと、これやり過ぎじゃない!? って言うかこれ全部を援護するのちょっときついんだけど………? あれ? 聞いてる? ねえ聞いてる~~?」

 彼の補助をしていた奏ノノカは大慌てで叫ぶが、本人は聞こえていない様子だった。

 それを確認したカグヤは、内心かなり慌てながら、表情には一切出さず、己の僕へと向き直る。

「九曜、お前隠密系とかできるか?」

「影か水場があれば紛れ込ませる事は出来ます」

「よしっ、俺は今ので合格条件を満たした! 後は時間まで隠れてやり過ごすぞっ!」

「御意」

 犯人である事がバレる前に、加害者は逃走を計った。

 戦火の真っただ中に追いやられた被害者達の怒声と悲鳴を背に、カグヤは心中合掌しながら隠れるのだった。

 

 

 一方、増殖した機雷モンスターの被害を受けている不幸な三人組が此処にいた。いや、正確には、先程から被害を受けまくって、未だにイマジンの発動にすらこぎつけていない面々だろうか?

「だ~~るまさんが~~こ~~ろん、だ! ………動いたら反則ですよ~~?」

「え? 止まるのがルール?」

「止まっちゃダメですよ!? 止まるわけないですよ!? そっちは止まって~~~!」

 車椅子の少女が一人で勝手にだるまさん転んだをして、無視され、『反則』と言う言葉に慌てて従おうとした少年が立ち止まり、それら全てにツッコミを送る細目の少年。

 最早言わずもがな、及川凉女と機霧(はたきり)神也(しんや)宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)だ。

「では鬼ごっこで! タッチされれば今度は私達が追い回す番ですよね?」

「そうなのっ!?」

「やめてぇ~~っ!? 触った瞬間爆発するからぁ~~~っ!?」

 被害者はどう見ても瓜生一人だけにしか見えないが………。

「う~~~ん、でも、このままじゃ本当に何もできずに失格ですよね?」

 神也は少しだけ困った表情になると、足を止めて振り返るとクリボー集団に向けて右手を翳す。

「戦闘用プログラム、技術ノ創造主(テクノクリエイター)

 彼がそう呟いた瞬間、周囲に電流の様な物が迸り、透明な輪郭が浮き上がり始める。それは電流の迸りが激しくなるのに合わせ、より鮮明な物へと変わって行き、激しいスパークを放った。スパークの光が消えた後には、完全に姿を露わした、腕に装着する様な形の巨大な銃身があった。

「ファイアー」

 神也が呟き、銃身内のトリガーを引く。近代機械的なデザインを持つ銃は、トリガーが引かれた事により、内部の撃鉄を打ち付け、装填されていた十センチ砲弾を爆炎を上げて解き放つ。 その弾丸が一番近くのクリボーに命中し―――、次の瞬間、爆炎の放射光線が、直進十五メートル先まで貫き、強力な爆風を周囲に撒き散らした。

 暴力的なまでの砲弾の一撃。純粋な火薬による火力では説明のつかない被害に、一同は呆然としてしまった。周囲で生き残ったクリボー達も、増殖した互いを見合って「何が起きたの?」「やばくないアレ?」「アレに向かうの?」「え? マジ?」みたいな会話でもしていそうな戸惑いを表していた。

「パージ」

 腕を下ろし、その一言で腕の銃身を取り外し、地面に落とす神也。これだけの被害を創り出しておきながら、彼は舌打ち交じりに不満の表情を作った。

「チ………ッ、火力が全然足りない」

「ふざけろっ!!」

「まてまてまて!! どう考えても違うだろう!!」

「いや、ちょっ!? え? うわっ、む、無理! 色々無理だから止めてっ!?」

 恐ろしい一言を漏らす少年に、亜麻色、セミロングの髪をアップで纏めている、黒ぶちで大きなメガネをした少女が簡潔に抗議し、黒髪に黒目、背は長身のほうで、髪の長さは前髪が目にかかるほど、後ろ髪は首までのセミロングの少女が「リアルじゃねえ!」っと言わんばかりにかみつく。そしてもう一人は、身長160cmくらいの栗色セミロングをした可愛いタイプの少女がかなり焦った表情でオロオロしていた。

 つまるところ、誰もが彼に対して危機感を抱いていた。それはもう、『触るな危険』と書かれた爆発物でも見る様な目で。

「足りませんでした? でしたら………」

 しかし、ここに一人、まったく動揺していない少女が、車椅子から降りて(、、、、、、、、)、彼の隣まで歩むと、右手を掲げて厳かに―――、

創造(クリエイション)―――」

 能力発動の合言葉(コマンド)を呟き―――、

「『バスターカノン』リリース―――」

 新たな武装を呼び出す。

 彼女の足元に魔法陣の様な幾何学模様(きかがくもよう)が浮かび上がり、まるでそこから取り出すかのように巨大な砲身が飛び出す。

 先程神也が創り出した銃身が腕の延長線上に作られた大砲だとして、今度創り出されたのは、近未来的なデザインは一緒でも、その大きさを遥かに超えた“戦艦砲”だった。しかもデザインからして、肩から腕に掛けて人が(、、)装着して撃つようになっている。ゆうに十メートルに届きそうな巨大な砲身をだ。それを人が撃つ事を前提に創り出されている。

「あ、ありえない………」

 色んな意味を込めて呟いた瓜生の言葉を無視し、その戦艦砲を創り出した少女、凉女は、まるでお世話になっているおばあちゃんに蜜柑のお裾分けでもするかの様な笑顔で―――、

「はい、どうぞ♪」

 渡した。

「ありがとう凉女! ………よいっしょっ!」

 装着した。

 構えた。

「ふえ?」

「おい待て………」

「――――ッ!?」

 先程文句を言っていた三人の少女が、神也の向けた銃口の射線上に居る事に気付き、慌て始める。

 戦艦砲はビーム兵器らしく、内部の機械が動き始め、エネルギーを急速充電。僅か0.5秒で光を放ち始め、いつでも撃てる事を主に知らせる。

 慌てた誰かが必死に叫んだ。「止めてくれ」と。

 無視して神也は再び引き金を引いた。

 エネルギー砲故に反動はない。だが、圧縮されたエネルギーの解放により生じた急激な熱変化が、周囲に熱風を叩き付け、後ろにいた瓜生すらも吹き飛ばしてしまう。放たれた光の本流は、またたく間に参加者と増殖クリボーを一掃していき、空中で弾幕を続けていた黒服金髪の三人少女達をも一瞬で呑み込み―――、

「………え?」

 ―――その先でイマジン発動に苦戦している者達を守っていた大型ライオンロボットへと迫る。

「み、皆さん逃げてぇ~~~~~~~っ!!」

 慌てて少年はライオンロボットを変形させ、人型に変えると砲撃に背を向け、皆を庇うように膝を付かせる。それでもとても耐えられない。少年は自分の作りだしたロボットが粉砕される絶望を胸に過ぎらせた。

 そして、彼以外にもそれに巻き込まれる者は多く存在し、慌てて対処を試みる。

「ご、『金時計:黄金への時間(ゴールデンタイム)』………ッ!!」

「アーミーズ! 私を守れっ!!」

「幻想曲第二楽章:≪幻迷の森≫………っ!!」

「水面に映る私の檻! 水面故に干渉できぬが、故に封じ込める………。錬成『ミナモノオリ』!」

「我と契約し天を司りし二匹の龍よ! 我が身に宿りその力を我に貸し与えよ! 白き龍皇アルビオン!」

「ってうお………!? こっちに来た!? 九曜! 神実(かんざね)!」

「御意!」

「く………っ!? なんてとばっちりだ!?  天之狭霧神(あめのさぎり)!!」

発動(コール)! トラップカード『攻撃の無力化』+『聖なるバリアミラーフォース』+『閃光の盾、イゾルデ』で完全ガード!!」

 運悪く、偶然にも射線上に残ってしまった者達が、次々と(イマジネート)を発動し、砲撃から逃れようとする。放たれた破壊の光は遠くなればなるほど拡散していき、広範囲へと攻撃が及ぶ。しかし、いくら広い会場とは言え、遮蔽物の存在しない、距離に限界のある室内。拡散した光線は高い天井まで覆い尽くし、壁向こうまで着弾。砲撃の嵐に、対抗手段を行った者達をも、まとめて呑み込んでしまった。高熱量光線が床や壁、天井を急激に焼き尽くし、急激な温度変化と物質崩壊に合わせ、会場全てを呑み込む大爆発が轟いた。

 吹き荒れる風圧、立ち込める爆煙。長く落ちる静寂。

 射線外に居て、なおも風圧で吹き飛ばされた者達が、煙の間から零れる『リタイヤシステム』によって転移する光の粉を、呆然と見つめ、誰も行動が起こせなくなっていた。

「うんっ!! 大満足の大火力っ!! 今度は天井を貫くくらいの威力を希望!!」

「圧縮率が悪かったかしら? もう少し勉強しませんとぉ………。次は満足いく物を作りますねぇ♪」

 笑い合う神也()凉女(金棒)

 誰もがこの二人を見て思った。

 

(((((ま“混ぜるな危険”ッッッ!!!?))))

 

 知っておかないと危ない生活の知恵にしては、暴力的な被害ではある。

 なんて恐ろしい二人組だ。瓜生が呆然と二人を見つめる中、もっと驚愕の出来事が目の前に広がった。煙が晴れ、床が焼け爛れた地獄絵図に、立っている者達が居たのだ。

「あ、ははは………、生きてる? 生きてる! 時間の力って素晴らしい!!」

 両手に金と銀の時計を握った亜麻色の髪をした黒ぶち眼鏡の少女、ルーシア・ルーベルンが、光線の射程ギリギリ外で、座り込んで泣き笑いを―――、

「………お?」

「無事かなお嬢さん?」

 カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)を全て吹き飛ばされ、床に転がっていたオルガ・アンドリアノフを庇うようにして立っていた、金髪碧眼の両手持ち用の丈夫な剣を持つ男、ジーク東郷がオルガに笑い掛け―――、

「切城くん~~~っ!? 生きてる! 生きてるよ私達~~~っ!?」

「うおおおおぉぉぉ~~~っ!? ホント、ダメと思ったよマジでぇ~~~ッ!?」

 互いに手を取り合って涙ながらに生還を喜ぶ奏ノノカと切城契―――、

「アレだけ半減したのにこの威力とは恐ろしい………」

「まあ、防いだからよしだな」

 白き龍皇を呼び出し、光線の威力を削いでいた浅蔵星琉と、偶然近くにいたので、彼女ごと空間を断絶する壁に囲んで防御した、おそらくあの攻撃に曝され、最も余裕を持っていた水面=N=彩夏が星流を気遣い―――、

「た、助かった………! ありがとう………!」

「いや、俺達じゃないだろう? 半分はお前が何かしてなかったか? まあ、聞かないけど………」

 何故か、そこだけが攻撃に曝されなかったかのように、真新しい床が放射線状に残っている場所で、胸に手を当て礼を言う明菜理恵と、完全に偶然彼女を庇う位置に立っていた黒い刃の刀を握った東雲カグヤが、疲れた表情を見せ―――

「やれやれ、こんなとばっちりは二度とごめんにしてもらいたいな………」

「ひっく、ひっく………、あ、ありが、ありが………っ! ひっく………」

 カグヤ達と同じように、真新しい床の上で溜息を吐く遊間零時と、そんな彼に庇われるように抱きしめられ、お礼も言えないほどテンパって泣いている少女、雪白(ゆきしろ)静香(しずか)が―――、

「み、皆さん~~………? 無事ですかぁ~~………?」

 皆を庇ってロボットを操っていた子供、相原勇輝が、何とか庇った腰を抜かしている受験生へと震えた声で呼びかけている光景があった。

 中には、残骸の中から復活してくる者や、次元の壁が割れて、避難していた者が現れたりと、意外なほどに多い生存者の姿がドンドン溢れていく。

 その光景を見たある者は、顎を落とし、ある者は神や英雄を見たかのように跪き、ある者はもう笑うしかないと壊れた様に笑い声を上げていた。

 瓜生もまた、その光景に呆然とするしかなかった一人だ。

 

 ズバッ!

 

 故に彼は、背中に走った熱い感触の意味を知るのに、しばしの時間を有した………。

 

「え………?」

 振り返った彼が見たのは、いつの間にか自分の後ろに立っていた黒い剣士が、身の丈ほどの巨大な剣を振りきっている姿。そして、一拍遅れて飛び散る鮮血。更に遅れて迸ったのは、背中への激痛。

「主の攻撃命令がまだ終わっていなかったのでな」

 黒い剣士はそう言って剣を払った。

 此処に来てやっと、自分が斬られた事を自覚した瓜生。背中を袈裟掛けに切られ、あまりの痛みに膝を付く。

 少しずつ、少しずつではあるが、次第に身体が光の粉に覆われていく。自分が『リタイヤシステム』により、この場所から追い出されようとしているのが解る。

(そんな………!? もう終わり………? 何もしていない内から、終わりだって言うの………?)

 こんな終わりがあるだろうか? せっかくここまで生き残ったのに、一次審査を合格できる力は確かに感じているのに、そこに辿り着く事も出来ず終わってしまうと言うのだろうか?

(そんなの………、そんなの認めたくない………! 認められない………っ!!)

 終わりたくない。終わらせたくない。そんな気持ちが彼を突き動かす。

 そうだ、どうせ終わってしまうと言うのなら、最後まで足掻いて見せなくてどうするのかっ!?

 胸に弾ける想いのまま、彼は振り返り、黒い剣士に飛び付くと、その腕へと齧り付き―――“血を啜った”。

「!? 何のつもりだ!」

 黒い剣士は瓜生を突き飛ばし、その心臓目がけて剣を突き刺し、貫いた。

 血反吐を吐き、脱力した少年を地面に叩き付け、黒い剣士、ブラスターダークは訝しそうに見下ろす。

 “何故、『リタイヤシステム』の光が消えているのだろう?”っと………。

 

「………ったく、こんな時ばっかり、いつも呼び出しやがって………」

 

 呟き。

 起き上る瓜生。

 驚愕しながらも、ブラスターダークは、今一度剣を振り被り、瓜生へと叩き付ける。しかし、切り裂かれた瞬間、瓜生の身体は霧となってすり抜ける。霧はブラスターダークを通り過ぎ、背後で再び瓜生の姿へと変わる。ただし、最初の瓜生とは姿が違っていた。黒髪黒目の典型的な日本人男性だった彼は、その髪を金色に染め、瞳も怪しいほどに赤く染まっていた。ニタリと笑った口から覗く犬歯は、まるで獣の様に鋭く尖っている。

「き、貴様―――ッ!?」

 言い掛け、ブラスターダークは言葉を止めた。

 正確には発せられなかった。気付いた時、彼の胸を、瓜生の右腕が貫き、イマジン体を形成している核(純度の高いイマジンの集合した球体。人間で言うところの心臓)を握り潰していた。

 核を失い身体を維持できなくなったブラスターダークは、イマジン粒子へと爆散させ、主の元へ戻って行った。

「けっ! 人間相手じゃねえと少し物足りねえな………。まあいい、せっかく変わったんだ、少し楽しんで行くか?」

 瓜生は笑いながら周囲を見回し、次の目標を探る。

 ―――っと、そこで目に付いたのは、先程とんでもない破壊行動をした二人組だった。

「せっかくの火力なのに生き残り多過ぎだっ!? どうして!? 計算できない………っ!? はっ!? 火力が足りなかった………っっ!? 凉女! もう一発お願い!」

「へ? 二門(、、)ですか? わかりました。もう一門出しますね♪」

 危険物が大量に混ざり合う、化学反応を見せていた………。

 聞き付けた周囲の者達が、我先へと逃げていく中、瓜生は面白そうに顔を歪めた。

「まずはアイツ等から潰すか………っ!」

 あの二人が、誰の友人であったかを想像し、楽しそうに顔を歪める。

 彼が、一歩踏み出し、先程ブラスターダークから奪った力を使おうとした時―――突然、凉女の創り出した二門の戦艦砲がバラバラに切り裂かれた。

「きゃ………っ?」

「な、なにっ!?」

 驚く二人を余所に、今度は別の場所で悲鳴が上がる。悲鳴は続き、一人、また一人と、身体を切り刻まれて倒れて行く。

 武器を破壊され、身体を切り裂かれ、巨大物体を押しつぶされ、謎の現象が受験生を次々と失格に追いやって行く。

 瓜生は辛うじて捉える事が出来た。僅かに残った爆煙の隙間を縫うようにして、何者かの影が奔っている姿を………。

「くそ………っ!?」

 二匹の大型狼を使役していた男が命令を出して影を捕らえさせようとする。主の命に従い、影に飛びかかった狼は―――空中に居る一瞬で切り裂かれ、その身からイマジン粒子を鮮血の如く噴出させた。

 驚く間もなく、狼の主は影の疾走に巻き込まれ、その身を傷だらけにしてリタイヤした。

 走り抜ける影を見て、その正体を知っている二人が、呆然と呟く。

「暴れ出したか………、あのバトルマニア………」

「こんな乱戦状態………、今まで大人しくしてた方が不思議なくらいです………!」

 東雲カグヤと相原勇輝は、塾生時代を思い出しながら、その影に対し軽い畏怖―――っの様に見える呆れを表情に浮かべる。

 影の疾走は止まらず、次の標的としたのは、カソックを着た神父めいた格好をしている金髪の少年だった。

「? おや、私を御所望ですか? しかし、暴れん坊なアナタを相手にするのは些か―――」

 言いつつ彼は十字を切った。

 瞬間、彼に飛びかかってきた影が、目測を誤った様に通過し、地面を転がった。

「おやおや? 暴れ馬の正体は何とも可愛らしいお嬢さんでしたか?」

 皮肉気に彼が言う先、影として疾走していた者の正体、一人の少女を見降ろす。黒く艶のある長い髪を、うなじの辺りで纏めているオニキスの様な黒い瞳をした少女。両手には両刃の剣が握られている。

 少女は先程までの疾走が嘘のように動きを止め、しきりに自分の目の前で手を振っていた。まるで目でも見えなくなったかのように(、、、、、、、、、、、、、、、、、、)

目を失いましたか(、、、、、、、、)? 何とも運の悪い御方ですね?」

 そう語る神父に、はっきりと視線を向けた少女は………心底楽しそうに笑みを浮かべた。少女らしい愛らしさのある、しかし獣の様な爛々と輝く瞳で、彼女は地面を蹴り潰す勢いで奔り、両の剣で神父に襲い掛かる。

増加したのは欲望ですか(、、、、、、、、、、、)? つくづく運の悪い御方だ………」

 そう言って神父が再び十字を切ると―――、ガクンッ! っと、少女の身体が傾げ、踏み外したように地面を転がる。瞬時に立ち上がろうとするが、彼女の右足が言う事を聞かず、まったく動かない。怪我をしたと言うよりも、足その物が“動く”っと言う動作をしない物へと変わったかのように、完全に脱力しきっている。

「今度は脚ですか? 相当運の悪い御方ですね? これでアナタは先程のような俊足は出来なくなりました」

 暗に終わりだと告げた神父は、再び十字を切りながら、人の悪そうな笑みを向けて名乗る。

「クライドと申します。短い間かもしれませんが、お見知りおきを」

 そう言ってお辞儀するクライドに対して―――、ガツンッ! 床に剣を突き立て、片足で立ち上がった少女が、見えぬはずの目でしっかりと神父を捉え、名乗り返す。

甘楽(つづら)弥生(やよい)です。きっと長いお付き合いになります」

 そしてまた笑う。

 爆発。

 片足一つの力で跳躍した弥生は、床を破壊しながら物凄い速度でクライドへと迫る。

 慌てる事無く躱したクライド。剣は虚しく空を切り、前のめりの姿勢だった弥生は顔面から床に向かって疾走―――もう片方の腕が巧みに剣を操り、床に切っ先を突き立てる。床に固定された剣を中心に振り回される身体を巧みに操り、一回転、再び独楽の様に回転しながら神父に横切りを放つ。

 これも慌てず躱した神父。だが、今度は脚で床を捉えた弥生は、恐るべき俊足で瞬時クライドへと迫る。両手から繰り出される剣激をなんとか避け、左右に身体をずらして翻弄しようとする。

 だが追ってくる。それでも弥生は剣を、重心を、片足を、巧みに使って先程と変わりない速度でクライドを追い詰めていく。

 まるで右足が動かないのは、最初からそう言う生物だったからのように、振り回される右足を見事にバランスを取るための道具として扱いながら、揺れる髪の毛を獣の尻尾に見立て、“三本脚”の獣が神父を追い詰めていく。

 見えぬはずの目で、動かぬ足を一本引きずって、それでもなお、少女は狩る側()であった。

「く………っ! アナタは珍生物か何かですか………っ!?」

「普段なら文句言うところだけど………何だか今はそれでも良いかもっ!!」

「強欲を強めたのは裏目の相手だったかもしれませんね………ッ!!」

 歯噛みする神父は気付いていない。自分と戦いながらも弥生は隙を見つけては周囲の受験生達を攻撃し、確実に数を減らしている。それも、相手は必ず一次試験を通過している物に限りだ。まるで強者を求めるかのように、少女は攻撃の手を緩めず、しかし此処に至って未だに優雅さを損なう事無く、それでいて獣の如く邁進していく。

「………面白ぇ」

 瓜生は口の端を歪めた。

 此処にいるのは、誰一人として一筋縄ではいかない様な強敵ばかりだ。そんな相手を、もし自分が叩きのめす事が出来たら? そんな事を考えると、堪らなく楽しくて、居てもたってもいられなかった。

「俺にもやらせろ~~~~~っっ!!!」

 叫び飛び出した瓜生はが神父と獣少女を同時に攻撃する。いつの間にか握っていた、ブラスターダークの黒い剣を振り降ろし。

 同時に離れるクライドと弥生。床を切り裂き衝撃波が起こる。

 瓜生は楽しそうに剣を掲げ、誰から切り裂くかと吟味する。

 突然の乱入者に苦い顔をするクライドとは対照的に、弥生はますます表情を輝かせていく。

 ―――っと、その時、突然勝負は終わりを迎えた。

 

「タイムアップ!!! 全員戦闘中止!! 今現在の生き残りを二次試験通過者とする!!!」

 

 刹那、会場全体に襲い来る気配。例えるなら、広がってきた結界に閉じ込められたような、そんな感覚が受験生達を襲い、全てのイマジンが消滅する。

「九曜………!」

「大丈夫です、我が君」

 一瞬、イマジン体である九曜も消えてしまった事に焦るも、瞬時に現れた九曜が無事を知らせる。

「焦った………、消されたの形だけか………。これが噂の無効化能力一種『キャンセラー』か………、まあ、考えて見たら『イレイザー』の方なんか使ってきたりしないよな?」

 カグヤが一人で納得している中、バルコニーから受験生を見降ろす、学園長斎紫(いつむらさき)海弖(うみて)は、呆然とする受験生達を見降ろしながら告げる。

「これより君達は別室にて、三次試験を受けてもらう事になるが………、はっきり言ってしまおう。三次試験を通過できなかった者は、未だ嘗て、過去に一度の例もない! つまり、実質的に、ここに残った君達は、全員合格したと言う事になる! それは我々、試験管を務めた教師一同からも否の無い物となっている」

 海弖の言葉に、皆は呆然実施したまま、ポカンと口を開けた。

 合格? 二次試験終了と共に? アレだけの激戦を潜り抜けた結果、もうこれで合格?

 拍子抜けするような事実に、誰もが反応に困る中、海弖は続ける。

「三次試験を受ける前に、私から皆に伝えなければならない事がある。これは最終試験を合格できるか否かに関わる重要な事柄でもあり、未だ嘗て、誰もが本能的に理解していた内容だ」

 一拍の間を置き、生徒達が耳を傾けるのを待ってから、彼は始める。

「『イマジン』それは元々は自然界に発生する、極小規模な超常現象を引き起こす、“幻覚”の一種に過ぎなかった。この力が“万能”とされるようになったのは、この学園が設立される少し前、『イマジン』の人工精製が可能になってからだ。それは、皆も知っている通り、『イマジン』が万能足り得る力を発揮するためには、人工的に作られた純度の高い『イマジン』と、そのエネルギーの莫大な質量を要したからだ。そのため、未だ嘗て、自然発生で生まれた『イマジネーター』は存在していない。この学園の卒業生以外に、『イマジネーター』は存在していないのだ」

 海弖の言葉に、カグヤは姉から教えられた事を思い出す。

 イマジンが外部に流出しない原因の一つとして、あまりの需要の無さが存在する。いくら万能の力と呼ばれていても、その万能を振るうためには大質量エネルギーを要する。故に、実際にはギガフロートやイマジン塾から裏ルートで取り寄せるよりも、普通に弾薬を作った方が圧倒的に安価なのだ。また、イマジンを人工的に製造するには、それを可能にした『イマジネート』術式が必要となるため、結局のところで、イマジンと言うエネルギー頼みなのだ。無理してイマジンエネルギーを手に入れても、使えるかどうかも解らない人間に、本当に一瞬だけ夢を見せるのが精一杯。とても実用的ではないと言える。

 一般人にイマジンの事を良く解っていないのも、一般家庭にイマジネーターが存在できない事が由来している。

「故に、君達は理解してもらわなければならない。この言葉の意味を―――」

 海弖は一度息を吐き、もう一度息を吸って、受験生全員に届く様に声を張る。

 

「“イマジンは万能なれど、決して人は万能ではない”!!」

 

 その言葉に、誰もが固まって頭の中で反芻させた。

 イマジネーターになったが故に、活性化された彼等の理解力が、その言葉の真意を正確に読み取る。

 そう、イマジンは確かに万能の力だ。人の想像一つであらゆる力を引き出し、あらゆる建造物を創造し、あらゆる神秘を再現し、あらゆる生命を生み出す。正に万能、神の力。それを振るう事、すなわち神と見紛う力。

 だがそれでも、人は神には至れない。

 イマジンは万能であり、それは神の力と言っても相違はない。だが、それは人が万能と言う事には結びつかない。例え、万能に等しき力を振りまわしても、それは人が万能であることの証ではない。

 イマジンは万能だ。だが、元々不完全な存在たる人は、不完全故に不完全の領域までしかイマジンを使う事はできない。故に人は、万能たる神には届かないのだ。

 皆がその事実に行きついたであろうタイミングを見計らい、海弖はニヤリと口の端を笑ませる。

「さあ、正面の扉が開いた。その先に進み、祭壇に手を翳したまえ! それが君達の最後の試験、三次試験………『刻印の儀』だ!」

 海弖のいるバルコニーの下、受験生達の正面の壁が大きく口を開け、通路となる。

 一拍、戸惑う様な間を開けてから、彼等は自分達の足で歩み始める。

 約百八十人の受験生達は、暗い通路を通り、自分達が何故この学園に来たのかを思い出す。

 信念と覚悟、夢に希望、願いと悲願。もしくは特に何もなく、だが期待と不安を―――。

 あらゆる想いを胸に、彼等が辿り着いたのは、巨大な祭壇であった。赤塗りの和風式で作られた、近代的なデザインで作られた球体上のドーム。入口付近から壁沿いに、ズラリと並ぶのは、人一人が入れるスペースの小さい囲いがされたコンソールの様な物が窺える。腰ぐらいの高さに水晶らしき何故の球体が存在し、それが台座の上に嵌めこまれている。球体はバスケットボールくらいの大きさで、中で光の粒が蛍の大群のように動き回っている。受験生の一人が試しに軽く手を翳してみると、光の粒が慌ただしく動き始め、何やら文字らしき物が浮かんでいる様にも見える。知っている言葉としてはコンソールと以外表わすのが難しい。

 身も蓋もない言い方だと、デパートなどで見かける子供向けカードゲームの筐体だろうか?

 正面奥、高い壁に唯一ある広い階段が存在し、その上から何者かが下りてくる。現れたのは着物に身を包んだ半透明の女性。

「こんにちは~、皆さん、二次試験通過おめでとうございますぅ。私は吉祥果ゆかり言います。君等の教師になるんよ? 三次試験最後の説明をしたるから、よう聞いとってな?」

 ゆかりは柔和(にゅうわ)な表情で小首を傾げて笑う。

「っと言っても難しい事なんてなんもあらへんのよ? 受験生一人に付き一人、目の前にズラッと並んどる水晶玉、一応『魂祭殿(こんさいでん)』言うんやけどね? そこに立ってもらって、私が合図したら己の信念を強く心に抱きながら水晶に手を触れてくれればええ。もし水晶が全く反応せんかったら失格やけど、たぶん大丈夫やろう。信念に思い当たらん子は、ただ自分の中で強く引き出せる感情を引っ張ってくれればええからね? その心に善も悪も関係無いよ。ただ反応させられれば合格」

 言われた受験生達は、適当にバラつき、水晶、『魂祭殿』の前に立つ。隣とは壁で敷居がされていて、隣の様子すら窺えない。

「皆準備ええみたいやね? ………ほな、そのまま手を水晶に乗せ、心を込めて」

 言われた受験生達は、水晶に手を翳し、己の信念を心に強く抱く。

 

 及川凉女は強く望む。

(此処にいる限り、私は眼を覚ましていられる………。家族を、皆を心配させないためにも、私は此処に居たいです………)

 水晶は青く輝き、青い光の粒を渦巻く様にして巻き上げた。

 

 奏ノノカは望む。

(二度と動かないと言われた手が、ちゃんと動いた! またバイオリンが弾けた! だから………! これからも弾き続けさせて………!!)

 水晶の光が青く輝き、まるで旋律のように光の粒が渦巻く。

 

 相原勇輝は誓う。

(父さんとの約束を守るために、父さんの言葉を証明するために………! 僕は、正義の味方になる!)

 水晶から、僅かに赤みを帯びた光が溢れ、光の粒を真上へと吹き上げる。

 

 機霧神也は誓う。

(僕を作ってくれた皆の願い、本物の『デウス・エクス・マキナ』になるために、、ここで全てを学んで見せる)

 水晶から僅かに鋼色の光を帯び、幾条にも分かれた光の線が天へと延びる。

 

 ジーク東郷は望む。

(ここでならきっと、俺のブリュンヒルデと出会えるはずだ。必ず見つけて見せるぜ………!)

 水晶から僅かに赤みを帯びた光が溢れ、幾条もの光が天へと延びる。

 

 東雲カグヤは決意する。

「九曜」

「はい、私達の望みは、ただ一つ………」

 二人手を重ね、同時に声に出して表明する。

「「東雲神威を、この手で―――ッ!!」」

 水晶から激しく光が迸り、桜色の粒となって舞い上がる。さながら桜吹雪のように溢れる光の中、二人は重ねた手を強く握り合い、水晶の奥、目標とする者を強く睨みつけて。

 

 多くの光が湧きあがる中、ゆかりは着物の袖で口元を隠しながら上品に笑みを浮かべていた。

(桜色が三つ、『人柱候補』三人か………、ホンマに今年は豊作やね………。それに、他にも面白い光り方しとる子が居るねぇ?)

 クスクスッ、と笑いながらゆかりは袖を放し、高らかに受験生達へと告げる。

 

「これを持ってっ! この場にいる受験生全員を、合格と見なしますぅっ!!! おめでとう! そしてようこそっ! 柘榴染柱間学園へ!!」

 

 ハイスクールイマジネーションの物語は、こうして始まった。




あとがき

ゆかり「入学試験、無事終了したなぁ~~♪」

美鐘「ええ、こちらも難なく終了しました」

ゆかり「あれ? 美鐘ちゃん、今まで何してたん?」

美鐘「なんで知らないように言ってるんです! イマジネーションスクールの入学試験は外部の人間が容易く入り込める絶好の機会です。未だに各国の、特にギガフロートを有していない国のスパイが、イマジンエネルギーの情報、もしくはそれその物を得るため、学生に紛れてスパイを送り込む事が多いのです。それらを始末するのが、私達試験管役の教師の仕事だと教えてくれたのはゆかり様ですよ?」

ゆかり「そうやった? ごめんなぁ~? 長い事生きとると、物忘れする事が多くてなぁ~?」

美鐘「イマジンで再現されているとはいえ、幽霊って生きてるって言うんですか?」

ゆかり「なんや他にも忘れてる事あるかもぉ? ちょっと今回の試験についてお浚いしよか?」

美鐘「はあ、いいですけど………?」

ゆかり「ほなまず基本から………、なして一次試験と二次試験は同時に行われるんやった?」

美鐘「一次試験の内容は『イマジンを発動させること』です。このイマジンを発動させるための条件は、会場内に充満させておいたイマジンを呼吸によって取り込み、臍下丹田に吸収させる事で、イマジンエネルギーを術式、つまり『イマジネート』へ変える事が出来ます。そして、発動のキー、トリガーとなる部分は、追い詰められた状況と言うのが一番効果的であり、手っ取り早い。だから二次試験のバトルロイヤルを同時に行っているんです」

ゆかり「うん、その通り☆ ほな、学園側としては、被験者であり、研究対象でもある入学生を故意に削る様な試験内容な理由はなに?」

美鐘「この程度を生き残れなければ、イマジネーターとしての適性が無いからです」

美鐘「そもそも『イマジネーター』は、戦闘状況に於いて、勝利するための方法を本能的に直感します。それ故に、つい最近まで素人だった人間が、プロの軍人にさえ圧勝してしまえる能力を有するのです。ですが、イマジネートに至れた者がイマジネーターなのかと言えば、これは大きく勘違いです」

美鐘「ただイマジネートできる人間は、実は人類のほぼ100%が可能です。中には発動に戸惑う方もいるでしょうが例外はいません。万能な力故に、望めば望んだままに力を与える。それがイマジンですから。ですがそれ故に、イマジンは個人の想像力に大きく左右されてしまいます。この世界の多くの“現実”を目にしてきた者は、その“現実”に“想像”までもが浸食されてしまいます。その結果、イマジンはより“現実的にありえる力”として発動してしまう。そんな枠に嵌る程度の力が、常軌を逸した者同士の戦い、つまり『イマジネーター』同士の戦いに勝ち上がれるはずもありません故に、あの限られた時間内で生き残る事も出来なかった者達を合格者として認めるわけにはいかないからです」

美鐘「勝利への細い道筋を、刹那の直感で捉え、行動に移す。それが出来て初めて一人前の『イマジネーター』だと言えるでしょう」

ゆかり「はい、よく出来ました。ほな最後に質問? 三次試験は一体何のために行われてる?」

美鐘「アレはイマジネーターの特性を判断するための物であり、同時に『刻印名』を刻む儀式でもあります。あの時点で大体クラス、寮の部屋割りなどを決めているらしいですね? あの試験に不合格になるには………、どうすればいいんでしょうね?」

ゆかり「実はちゃんと不合格対象もいるんやけどね? あの儀式は、異世界から来た人等なんかも判別してるんよ?」

美鐘「私が学生時代の時もいましたね? チート転生をしてきたと語っていた少年が? 全然チートじゃなかったんですけど………」

ゆかり「この学園じゃ、皆が皆チートみたいなもんやしね~♪」

ゆかり「でも、そん中には、時たま悪い事考えてこの学校に来てる子もいるんよ? そう言う子は、あの儀式でまったく光を出す事が出来ず、その場で凄惨な最期を送る事になってもらうんやけど………、未だに一度も見た事無いわぁ~~☆」

美鐘「何よりです」

ゆかり「………うん、特に忘れてる事はないみたいやし、お浚いはここまでにしよか?」

美鐘「はい」

ゆかり「ほな、私は学園長に晩御飯呼ばれてるから~~♪」

美鐘「ちょっ!? それっ! 例のウナギですかっ!?  カニですかっ!? わ、私にも分けてよぉ~~~っ!」





弥生「カグヤ久しぶり~~~! 塾以来だから………一月ぶり?」

カグヤ「俺は途中で辞めたから二ヶ月半だ。入学試験まで半年しかなかったからな」

弥生「なんで最後まで塾にいなかったの? 僕、一度カグヤとやってみたかったのに?」

カグヤ「当時、塾生最強の名を欲しい侭にしていたお前に挑まれたら、俺は真っ先に逃げてたよ………。ってか、イマジン塾って、長く通う意味ないしな」

弥生「え? そうなの?」

カグヤ「『イマジネート』“発動の仕方”さえ、ちゃんと覚えれば殆ど問題はない。俺は九曜を維持するためのイマジン欲しさに通ってただけだ。あと、自分のイマジネートを完成させるための練習場としてかな? 一般でイマジンを手に入れるには塾に通うしかなかったからな」

弥生「あれ? じゃあ、九曜さんのために塾には最後まで通ってた方が良かったんじゃないの? なんで途中でやめちゃったのさ?」

カグヤ「いや………、単純に………金がなかった………」

弥生「おおぅ………」

カグヤ「ギガフロートは一応外国扱い、通貨もギガフロート仕様の電子マネー。だが、何処の国で課金しても、数字のままの額で交換できる最高のマネーだ! 入学しちまえば、生徒は研究協力者扱いで毎月お小遣いが入るからな。そんなにお金に困ったりはしないんだが………」

弥生「ああ、そう言えば入学試験だけは日本通貨で有料だったね? まさか空港で払わされるとは思わなかったけど………」

カグヤ「飛行機代と合わせて一体いくらすると思ってんだよ! 二月半の間、俺が一体どれだけ辛いバイトをしたと思ってんだっ!?」

弥生「参考までに、どんなバイトしたの?」

カグヤ「和風喫茶―――っと言う名で売ってる、和服少女のキャバ。俺はロリ少女の役だった」

弥生「………ぶふぅっ!」

カグヤ「噴き出すなっ!」

弥生「………見て見たかった!」

カグヤ「はあ………、まあ、お互い無事に入学できたわけだし、これから一層頑張らないとだな?」

弥生「うん、また勝負しようね………! お料理対決! 今度はリベンジだよ!」

カグヤ「俺は料理嫌いなんだよっ。もうやらねえ!」

九曜「(我が君の料理は特別美味しいのに、神威以外には作らない理由が料理嫌いだったとは………? 本当に美味しいのですけど………)」


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一学期 第二試験 【学生寮】

 書いてる途中で「あ、これは一つにまとめきれないな………」と判断したので先に前篇を出す事にしました。
 学生寮での決まり事や、同室になった両制などの話で、ちょっとつまらないかもしれませんが、次回は決闘でバトっているので、勘弁してください。
 この段階で皆様に楽しんでいただければ幸いと存じます。


 00

 

 浮遊学園都市≪ギガフロート≫。イマジネーションスクールでは、入学式が行われるのは入学試験、入寮式、三日間の休日を経てからの五日後になる。通常の学校行事から考えれば、物凄く早足な進行だ。

 入学試験が終了し、続々と新入生達が学園の敷地に入ってくる頃、上級生達は、通常通りの授業内容を終え、彼等を高い所から観察していた。

 3年Cクラスの教室の窓から覗き込んでいた一人の女性が、新入生の中から目当ての人物を見つけ、表情を笑みに変えた。

「カグヤの奴、ちゃんと合格してるな~? 歓心感心♪」

 二重の意味で“関心”の言葉を使いつつ、その女性、東雲神威(しののめかむい)は新入生達を見降ろす。

 その隣でもう一人、制服をぴっちり着た真面目そうな少女が神威の視線を追って覗き込む。

「気になるのは弟君だけ? 他にはいないの?」

 その少女の名は朝宮刹菜(あさみやせつな)。現在有名な、柘榴染柱間学園の最強の名を持つ二人の少女だ。

「私は義弟以外興味なんて無い。強いてあげるなら『人柱候補』と言う奴か? アレは私嫌いだから気にしない事にした」

「自分勝手な理屈は相変わらずなのね? 後輩達に対して挨拶の一つでもしに行ったらいいのに? きっと皆喜びますよ?」

「なら刹菜がいけよ? そもそも『学園最強』と言うなら私に勝ったお前が行くべきだろう?」

「知名度はアナタの方が高いんです」

「知名度で得た最強って飾りっぽいな………」

「そうは言いますけど? その後のフリーバトルで、アナタが私に三回分勝ち越してるんですよ? やっぱり最強は神威です」

「ヤ~~ダ~~! ヤァ~~~ダァ~~~ッ!! 私は最強の称号より刹菜が欲しいぃ~~~っ!!!」

「ちょ………っ!? アナタが言ったら冗談にならないんだから自重してくださいっ!! //////」

「冗談じゃないぞ?」

「そんな純粋な瞳でなに言ってるのよっ!!?」

 二人が騒いでいると、一人の少年が興味を持った様子で話しかけてくる。

「おお、どうした新入生か?」

「黙れ阿吾(あご)、死ね阿吾。話しかけるなもげろ」

「神威ッ!!!」

 突然不機嫌になって半眼で罵詈雑言を口にする神威に、刹菜が一喝して窘めるが、神威はそっぽを向いて聞く耳を持とうとしない。

 刹菜は、大きな溜息を吐きながら少年、阿吾(あご)明吾(あきご)へと向き直る。

「ごめんね阿吾君? 神威ってばホント他人に対して礼儀知らずで………」

「はっはっはっ! 気にしていない! いつもの事だからな! むしろこいつが誰かに甘えている所など、刹菜以外に見た事無い!」

「な~~んか、気に入られちゃってるのよ? 昔からずっと………」

 明吾はもう一度豪快に笑うと、窓の外へと視線を向け、話を戻す。

「新入生だな? お眼鏡にかなうのはいるかな?」

「カグヤッ!!」

 即答する神威に、刹菜が呆れ、明吾がまたも笑い声を上げる。

「弟君贔屓ですよね? 神威は………」

「なんだ? 何か問題か? 去年はお前だって自分の弟を隠し贔屓してただろう? ツンデレっぽく」

「だ、誰がツンデレッ!? わ、私は姉として龍斗(りゅうと)の事を信頼すると同時に厳しくしなければと考えての発言であって―――!」

「はっはっはっはっ! そう熱くなるな! さっきから神威がニヤニヤしてお前を見てるぞ?」

 明吾に指摘され、神威のニヤニヤ笑いを見た刹菜は、思いっきり頬を赤くしながら、何か言いたい物を必死にこらえた。

 その二人のやり取りに遠慮なく笑いながらも、明吾はしっかり助け船を渡す。

「それで? お前さんは誰が注目するべき相手だと思う?」

「もうっ!! ………私は、あそこにいる紫ショートヘアーの子かな? ほら、後ろ腰に四対(よんつい)、左腰に一本の太刀を()いてる―――?」

八束(やたば)(すみれ)、刻印名は剣群操姫(ソード・ダンサー)、年齢15、感情表現の苦手な性格をした、大人し目の女の子です」

 刹菜の少ない情報を元に、新入生の個人情報を羅列する声。

 三人が視線を向けると、蛍火の様な淡い緑色のショートヘアーをした少女が、優しげな表情で視線を返していた。

「もう新入生の情報をっ!? 刻印名まで特定しているなんて………! さすがは、現在最強の補助系能力者と名の高いミスラ・ラエルね」

 刹菜の絶賛に、ミスラは耳まで真っ赤にして俯いてしまう。相変わらずの照れ症に、明吾は笑いを上げる。

「いつまで経っても反応が初々しいな? 可愛くて良いんじゃないか?」

「や、やめてくださぃ………//////」

 照れ過ぎて尻すぼみになるミスラに、皆は笑いを漏らすしかない。

「そんなミスラは誰を一押しする?」

「あ、はい、えっと………」

 顔を赤くしたままのミスラは胸ポケットから生徒手帳を取り出し、手帳のシステムである映像スクリーンを呼び出す。スクリーンに映し出されているのは、彼女が取り入れた膨大な量の新入生生徒㊙情報だ。

「えっと………、私からは、桜庭(さくらば)啓一( けいいち)さんが押しだと思います? カッターシャツに黒ブレザーで………、ほら、腰に刀を二本佩いている………?」

「あそこの男子か? ミスラのタイプなのか?」

 神威のそっけない質問に、ますます顔を赤くし、煙を噴き出すミスラ。

「ち、違いますぅ………っ! ただ、ああ言う人は最初に伸びにくいだろうなぁって、思っただけでぇ………!?」

「? 伸び難いのなら、むしろお勧めではないのではないか?」

 明吾が疑問を口にすると、刹菜がそれについて簡潔に答えた。

「一年生の頃の神威」

「納得した」

「ふん………っ」

 頷く明吾に、鼻を鳴らして拗ねる神威。

 苦笑いを浮かべながら、ミスラは明吾へと水を向けた。

「明吾さんは、どなたかお勧めされないのですか?」

「俺か? 俺はだなぁ~~………?」

 明吾はざっと目を通し、適当な人物を指差す。

「あそこの男だな。ほら、眉の強い、噓くさい笑顔を浮かべてる奴だよ」

遊間零時(あすまれいじ)、刻印名は瞬身(しゅんしん)。入学試験時、たった一人で受験生150名近くを精神崩壊寸前にまで追いやっているみたいです? 情報と刻印名から分析するに、肉体から発生させるタイプの能力、“肉体固定概念系”の能力だと思われます。………あ、珍しいですね? この人、入学前から『血統秘伝』の瞳力持ち見たいです?」

()李空(りくう)の奴と同じだな?」

 ミスラの読み上げた情報に、神威は知っている人物の名を上げる。

 それに対して刹菜は苦笑いを浮かべつつ、一応訂正を入れる。

(マー)君は、先天的継承じゃなくて、後天的獲得だから、一概に一緒にしちゃいけないと思うんだけど………?」

「他にも目ぼしい奴等がいそうだな………? 飛馬(ひゅうま)、お前は誰を―――おらんかったか?」

 明吾が、誰かを呼ぼうと振り返るが、クラス内には目当ての人物はいない様子だった。

「真面目な飛馬君はBクラスで生徒会長ですから? 比較的真面目な人間の集まる傾向にあるBクラスの生徒が別のクラスに来るのは滅多にないんじゃないかしら?」

「っと、Bクラスの委員長である刹菜が、Cクラスで(のたま)っているわけだが………?」

「そ、それを言ってしまったら………、神威さんはAクラスですよね?」

「いや待て? ミスラはDクラスであろう?」

「そう言う阿吾君もBクラスよね?」

 Cクラスで騒いでいると言うのに、誰一人Cクラスの生徒がいなかった………。

 

 

 新入生達が通り過ぎた後、教室を後にした刹菜は、自分にくっ付いて来た神威に対し質問を投げかける。

「神威? 実際のところはどう思っているのかしら?」

「注目生徒はカグヤ一択だが?」

「それはもちろん嘘じゃないって解っているけど………、“だけ”って事じゃないでしょ?」

 東雲神威は入学前から異質の“天災”と呼ばれ、周囲の人間から忌み嫌われていた。優れ過ぎた人間は理解されず、逆にはみ出し者として扱われる。彼女はその差別を受けるだけの力が生まれつき備わっていた。

 だが、そんな彼女でさえ、イマジネーションスクールの入学試験に17歳の頃挑み、一度落ちている。その後一年待ち、刹菜と共に合格したものの、しばらくの間、上手くイマジネートする事が出来ず、Fクラスの最下位成績を一年間キープし続けた。

 その理由は既に神威には理解できている。その“理由”を知る彼女だからこそ、目の付けどころが他人とは違う事を、長年ライバルとして争った刹菜には理解できていた。だから聞いてみたかったのだ。彼女は新入生の誰を最も警戒しているのか?

「ほら? 弟君が一番の本命だとしても、彼を(おびや)かす存在くらい、見抜けない貴方でもないでしょう?」

「まあ、そうなんだが………」

 刹菜は言い渋る神威に答え易いように言葉を選び誘導する。

 簡単に乗ってしまった神威は一拍だけ間を置いて、視線だけで周囲を確認してから答える。

「お前が相手だから言うが、正直、お前が目を付けた剣群操姫(ソード・ダンサー)が一番厄介だと思っている」

剣群操姫(ソード・ダンサー)………、八束(やたば)(すみれ)ですか。何故そう思いました?」

 刹菜は自分が指名した相手と同じでありながら理由を尋ねた。彼女を気に掛けた理由が、神威と同じであるかを確かめるために。

「一つ目は、まあお前と同じだ。あの女の“色”が見えた。桜色、それも赤みの強い柘榴に似た色だ」

「『人柱候補』の上に『姫候補』ですかっ!? とんでもない素質を持った子ねっ!?」

「お前も同じ色なんだが………?」

 ジト目になる神威に刹菜は視線を逸らすしかできない。

 神威はすぐに諦めて溜息を吐いて流す。

「まあ、お前の色はもっと鮮やかで透き通った色だし、違うと言えば違うな」

「で、でしょっ!?」

「“色”はお前にも見えていたんじゃないのか?」

「私、神威みたいに変な感性してないもの! そんなはっきり見えたりしないわよ!」

「そ、そんなに変か? 私? 自覚はあるつもりなんだが………?」

 渋面になりながらも、神威は続ける。

「だが、それ以前に私があいつが一番ヤバいと思ったのは―――」

「な、なんですか?」

「アイツがカグヤとかなり相性が良い事だ………」

 神威は心底嫌悪する様な表情で吐き捨てる様に“拗ねて”みせた。

 そんな友の反応に、刹菜は一瞬掛ける言葉を失ってしまう。

「カグヤの奴は自分が強くなるより、他人を強くしちゃうタイプなんだよなぁ~~………? それも相性の良い奴だと上限無くドンドン強くしちゃうし………? アイツ等が親しい関係になるとそれこそ上級生破りの再来も夢ではない様な気がするしなぁ~~………? って言うか私のカグヤが誰かの物になるなんて嫌過ぎるしぃ~~…………?」

「………念のために聞いておくけど? 弟君が取られるかもしれないなんて理由だけで“ヤバイ”判断したわけじゃないわよね?」

「あん? ああ………、まあ、違うんだが、それの方が個人的には―――」

「後半聞かなかった事にするわね」

 刹菜は切り捨てると、もう一度尋ね直す。

「他に注意人物は?」

「ミスラから買った名簿を見るに、他にヤバいのは………」

 

機械ヨリ出デシ神(デウス・エクス・マキナ)

龍巫女(りゅうみこ)

戦神狂(ベルセルク)

正義の巨大ロボ(ジャスティスヒーロー)

 

「もちろん剣群操姫(ソード・ダンサー)にカグヤも私の考える目ぼしい人物だ。それと、後五人くらいか?」

「後五人は?」

「今は言わん。これは私も考えあぐねているからな。そもそも入学して始めでは、まだ真価を発揮する者も少なかろうて………」

 溜息交じりに言った神威は、最後に思い出す様に呟いた。

「まあ、詳しい事は生徒の私達より、教師………特に佐々木先生が一番解っているだろう? 詳しく知りたきゃ、後で研究棟に行けばいい」

 そう結論付けた神威はもう話す事はないと言わんばかりに話題を逸らす。

「ところで私は、今夜辺り、さっそくカグヤの部屋に侵入し、奴の作った料理に舌鼓(したづつみ)を打ちたいと考えて―――」

「私が作ってあげますから、部屋で大人しく待ってなさい」

「解った。刹菜の部屋で待ってる」

「もう………、ウチの同居人、また怒らせないでよ? ついでに貴方の所の子も、もう泣かせないでよ?」

「連れて行けば問題無しだ!」

「部屋が狭くなりそうです………」

 

 

 

 01

 

 

 

 イマジネーションスクール、浮遊都市、ギガフロート。その地上部分に出る事の出来た入学試験合格者達。彼等が『刻印の間』から階段を上がり、久しぶりの外気を味わう時、最初に目に映るのはしっかり整理された芝生の平原。その先に見える柘榴染柱間学園だ。

 柘榴染柱間学園、通称『柘榴園』は、イマジンと言う特別な力を扱っている学園には思えない、コンクリートで出来た普通の学校に思える。特別なところがあるとすれば、イマジンの力を使った増改築が度重なった所為か、所々、大きさの違う教室が、外からでも解ると言うところだろうが、景観を壊すほどではない。

 遠くて入学生の彼等には目視できないが、教室らしきところから、こちらを見下ろす上級生達の姿がチラホラと目に映る。

「はいはいぃ~~。皆さん入学おめでとうなぁ? 試験はこれにて無事終了。あとは寮に案内するから、自分の部屋に入ったら、後は三日間の自由行動や。詳しい内容は寮長に聞ぃてな?」

 身体が半透明に透けている大正風着物教師、吉祥果ゆかりは、入学生にそう説明すると、重力を感じさせない軽快な歩みで、皆を案内する。

 約時速30キロくらいで………。

「ちょっ!? おい待てっ!? おかしい! おかしいだろこの速度っ!? 入学試験終了早々、なんでいきなり全力疾走せにゃならんのだっ!?」

 黒髪ショートヘアーのちょっと男勝りな少女、明菜理恵が抗議の声を上げるが、教師は楽しそうなステップで速度を維持する。

「き、聞いてっ! 先生聞いてくださいっ!? 既に追いつけていない人が―――あぎゃっ!?」

 鮮やかな赤髪に金色の瞳持つ少年、叉多比(またたび)和樹(かずき)が、抗議に参加するが、速度に追いつけず途中でこけた。

 その他、必死に走る者や、既にギブアップしてぶっ倒れる者が続出するが、ゆかりは気にも留めない。むしろその光景を楽しんでいた。

 寮までの距離は、実は目視できる位置にある。遮蔽物の少ないこの位置からなら迷うことなく辿り着ける。そのためのお茶目だったのだが………、この光景を眺めている上級生達は思った事だろう。「またあの先生の御茶目被害を受けている入学生が………」っと。

「も………、無理………」

 

 バタリッ!

 

「我が君っ!? お気を確かにっ!」

 真っ先にリタイヤした、セミロングの黒髪をした、女性顔の少年、東雲カグヤを抱き起こし、主を抱えて走る僕、九曜。

「………メンドイ」

 その一言で、己の能力で呼び出した軍隊。『カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)』に神輿よろしく担いでもらっている銀髪寝癖のロシア人少女、パジャマ装備な、オルガ・アンドリアノフ。

「足腰の弱い人が多いな」

「鍛え方が足りんのだ」

 この状況を余裕で受け入れている。眉の強い柔和な笑みを浮かべた少年、遊間(あすま)零時(れいじ)と三白眼の少年、桜庭(さくらば)啓一(けいいち)は、ゆかりの思惑通り、『お茶目』とくらいしか思っていない事だろう。

 結局、寮に到着した時には、過半数の人間が、ツンツン頭の幼い少年、相原(あいはら)勇輝(ゆうき)の操る巨大ライオン型ロボット、ガオングの背に乗る事になっていた。

 最後にゆかりは楽しそうな笑みを浮かべるだけ浮かべ、全員の無事を確認してから幽霊のように姿を消した。生徒の文句一つも聞く事無く。

 

 

 彼等がこれから住み着く事になる学生寮は、男女別に分かれている事はなく、ともすれば男女同室になる事も多々あると言う噂がある。だが、不思議とそれが大事件になった事は未だに無いらしい。それはこのギガフロートが、日本であって日本ではない―――つまり一種の治外法権と言う事が原因なのかもしれない。

「どうも皆さん。学生寮一年生寮寮長を務めさせてもらっています、二年生、早乙女(さおとめ)榛名(はるな)です」

 寮の玄関口で待ち構えていたらしい三つ編みを前に垂らした薄亜麻色の髪をした少女、早乙女榛名が一礼して見せる。

「まずは、このギガフロートで最も大切な物、生徒手帳を皆さんに配布しますね?」

 そう言って配られた生徒手帳は、普通の生徒手帳と同じ、手の平サイズの手帳だった。違いがあるとすれば、手帳の中身が見開き一ページ分しかないと言う事だろう。

「生徒手帳には、イマジンのあらゆるシステムが内蔵されています。個人の情報、生徒間の通信機能、電子スクリーン表示で通常のメモ帳としても機能し、一定以内の重量であれば、あらゆる荷物を収納できます。何より重要なのは、このギガフロートでしか使えない通貨、『イマジン式電子マネー』、通称『イママネ』は、生徒手帳でしか管理できないシステムになっていますので注意してください。単位は『クレジット』、価格は日本円と同じと思っていただいてOKですが、ギガフロートの製品は物により物価が違うので、その都度確認していってください。入学生の皆様には、お小遣い手当、五十万クレジットが既に配布されていますが、学費や生活費もここから抜かれていくので、どうぞ計画的にお願いしますね」

 それを聞いた(くすのき)(かえで)は、素早く計算して表情を歪めた。

(確か学費は入学式の日に一学期分請求されるはず。ギガフロートの学費は一学期分が約三十五万クレジットでしたから、そこに生活費、一月約十万クレジットと考えると………、既に手元で自由に使えるお金は微々たるものですのね………)

 見た目は百六十前後の身長に、金髪碧眼のクォーター少女。家柄上、お金の動きについて触れる事も多かったため、すぐに計算できた。自由にできる金額が約五万クレジット。これから先、収入がいくらか次第で、この金額が安いか高いかが判断される。

(確か家具類は後で専用の引っ越し業者に頼めば、一日以内に届けてもらえるはずでしたし………、変に新しい家具類を買ったりせず、部屋にあった物を取り寄せた方が良いかもですわね? 嗚呼ッ! せっかく自分の部屋をアマリリスのようにコーディネイトできると思いましたのに………ッ!)

 花言葉を交え、一人かなしそうに額へと手の甲を当てる。

 ちなみにアマリリスの花言葉は『美しい』である。

「食堂エリアは一階の(エンジュ)の方向、大浴場は二階の椿(つばき)の方角ですよ。トイレは各部屋と食堂エリアにありますのでご心配なく」

 榛名の説明に、多くの生徒が首を傾げた。“エンジュ”? “ツバキ”? 方角とはどういう事か?

 皆の反応に気付いた榛名は、慌てた様子で補足説明する。

「このギガフロートは、低回転ではありますが、独楽のように自転運動をしているのです! そのため、東西南北が常に入れ替わってしまうので、方角を季節に置き換え、季節に合った花木の方向をギガフロートで使う固定方角として扱っているんですよ? っと言っても、実は生徒の間で決められた内容なんですけど、教師の人も使ってますから良いですよね?」

 なるほど、っと頷く者もいれば未だに首を傾げる者もいる。

 その一人である甘楽(つづら)弥生(やよい)は、首を傾げ、頬に手を当てながら独り言の疑問を述べる。

「方角を季節に置き換えるって出来るの?」

「四神、四聖獣の事だよ」

 弥生に答えたのは、未だ九曜に肩を借りてへばっている東雲カグヤだった。

「あ、カグヤ久しぶり。やっぱ受かってたんだ」

「ああ、当然だ」

「っで、四聖獣ってあの朱雀とか白虎だよね? アレがどうして季節?」

「四聖獣は方角と一緒に季節を表わす物でもあるんだよ。東の青龍が『春』、南の朱雀が『夏』、西の白虎が『秋』、北の玄武が『冬』ってな」

「ああ、なるほど! じゃあ、季節に合った花木って言うのは?」

「春なら『桜』、秋なら『楓』って言う、簡単なイメージで設定したんだろう?」

「楓は“葉”じゃないの?」

「細かい所は先輩か教師に聞けよ。俺が知るか。ってか、俺だって適当にイメージしただけだ。秋は楓じゃないかもだろ? 後で答え合わせしてもらえ」

 面倒臭そうに答えるカグヤに、「自分が説明し始めたくせに………」っと、不完全燃焼な知識欲を持て余し、弥生は更に訪ねる。

「じゃあ、(えんじゅ)とか椿(つばき)は何処の方角なのさ?」

「それはなぁ―――」

「槐は夏の花木だ。おそらく夏を表わす南の方角を露わしているんだろう」

 カグヤの言葉の途中、話が聞こえていたらしい桜庭啓一が親切心から弥生へと答える。

「―――ってをぉぃ………ッ!」

 説明を奪われたカグヤは若干不服そうに啓一の事を拗ねた目で見る。しかし、どう見ても自慢話をしていた所を逆に取られて膨れた女の子の拗ねた視線にしか見えない。もちろん啓一にもそんな風に映ったのだろう。軽く肩を鳴らし、カグヤの事を可笑しそうに笑い返した。

 そんな事お構いなしに、弥生は知識欲を満たす為に確認を取る。

「そうなの?」

「ま、まあな………。まあ、槐は縁起物の木として鬼門の方角に飾られる事の多い木ではあるが………」

 説明を奪われた腹いせなのか、若干蛇足の説明を付け加えるカグヤに、九曜は内心可愛い子供を見る様な気分になっていた。

「じゃあ、椿は? 季節柄だと………冬?」

「いや、椿はたぶん―――」

「椿は晩冬、早春に咲く花ですから、きっと冬と春の間、方角的に言えば北東を表わしているのだと推察されます♪」

「わきゃ………っ!」

 またもカグヤが答える前に、突然弥生の背後から飛びついて来た、金髪碧眼のクォーター少女、楠楓に説明を奪われ、カグヤはちょっとショックを受けた表情をする。

「ちなみに、私の見立てでは、春は『桜』、夏は『(えんじゅ)』、秋は『楓』、冬は『(ひいらぎ)』だと推察されます。季節の花に方角まで解って、面白いと思いませんか?」

「そ、そうだね? 教えてくれてありがとう。でもなんで僕に抱きついてるのかな?」

「うふふっ、それはアナタがオダマキの花の様だからですわ♪」

「花? ええっと………? ありがとう?」

「いいえ、くすくすっ♪ お二人もホウセンカの様に、私とお付き合いくださいね♪」

 楓はそれだけ言うと、楽しそうに何処かへと言ってしまった。

「えっと………? よく解んない人だけど、悪い人じゃないよね?」

 同意を求めた弥生が、カグヤと啓一に顔を向けるが、二人は同時にげんなりした表情で答える。

「「何処がだ………」」

 あまりに影のある反応に、驚く弥生。そんな弥生に対し、疲れて答えられない二人に変わって九曜が教えた。

「甘楽弥生さん。鳳仙花(ホウセンカ)の花言葉を知っているかしら?」

「え? なに?」

「『私に触れないでください』………よ」

 一瞬で弥生もブルーな気分になった。

 更に九曜は続けて教える。

「そして苧環(オダマキ)の花言葉は『のろま』」

「今度会ったら一発殴ろう」

 暗いオーラを放ち、弥生は涙目に拳を握るのだった。

 

 

 

 学生寮の部屋割は、かなり適当なシステムによって決められる。

 管理人室、つまり寮長室の手前に青透明な板がいつくもと並べられていて、それを生徒手帳に翳すと、まるでゲーム世界のオブジェクトだったかのように、ポリゴン片を散らしながら消滅する。生徒手帳には鍵ナンバーが登録され、ナンバー通りの部屋に行き、扉に生徒手帳を翳すと電子キーの要領で開け閉めできる様になる。そしてこの板は、誰もが適当に好きな物を早い者順に取って行けるようになっている。

 つまり、何処の鍵かも解らない鍵をバラ撒かれ、皆が解らないまま鍵を拾い集めていると、そう言う事だ。

(男女同室になるわけだな………。まあ、イマジン使ってある程度操作してるのかもだけど………)

 ぼやきつつ、東雲カグヤは四階、『楓』の方角に位置する部屋へ学生手帳を翳す。

 

 ピッ、パチンッ!

 

 簡単な音が鳴って鍵が開く。中に入って室内を見回したカグヤは感嘆の溜息を吐く。

 まず扉を入ってすぐ、人が二人分入れそうなスペースの広い玄関。右手奥にスペースが広がり簡単な台所が設けられている。それでも二人がかりで料理できそうなスペースに、満足感すら窺える。左手は壁だが、すぐに扉があり、その奥が脱衣所、トイレ、浴室となっているようだ。確認してみたがこちらも広い。浴室とトイレは脱衣所を跨いで別々になっているので、誰かが入浴中はトイレが出来ないと言う事はなさそうだ。

 戻って奥に入ってみると、左長に設けられた広い空間に、二つの窓が取り付けられている。大きな窓のおかげで光は充分入ってくるし、持って来るだろう家具の大きさを考えても、十二分なスペースが出来そうだ。部屋の左右の端にベットが一つずつあったが、それだけはガグヤにはあまりお気に召さなかった。根っからの和風暮らしが続いていた所為か、ベットで寝るのには慣れていない。あのベットは早々に解体し、布団と取り変えようと決める。

 ベットがあると言う事は、メインフロアはこの左長の部屋になりそうだ。しかし収納は長めに作られた左側、風呂やトイレなどのあった部屋に面している場所に引き出しがあるだけだ。この引き出しの収納次第では同居生活では色々困るのだが………。

 何の事はなかった。開いた収納スペースの中は、御屋敷にでもありそうな大きな木ダンスを持ってきても楽々収納できそうなスペースがある。これなら二人分の収納に問題はないだろう。

「後は同居人が来た時、荷物をどんな風に分けるか次第だな」

 結論付けたカグヤは、もう一度部屋を見回してから、ここまでずっと黙って付き従っていた己の僕を確認する。一瞬の逡巡を経て、カグヤは九曜の手を掴むとそのままベットに押し倒して覆い被さる。

「ん~~………、個人的にはやっぱり布団の方が雰囲気がある様な気も………、ホテルのベットとも思えば行けるか?」

「御望みでしたら先に布団を敷きますけど?」

 覆いかぶさる主に対し、少しだけ頬を染めながら笑い返す九曜。突然の事態に驚いている様子もない所を見るに、結構日常的な光景の様だ。

 反応に満足しながら、カグヤは九曜と一度キスをする。

「ちゅ………っ、いいよ。こう言うのは勢いだし。黒い着物姿の九曜は今日が初めてだしな」

「我が君が望んでくださるのなら、どのような装いも喜んでお受けします」

「じゃあ、今度巫女装束着てくれ! 好物だ」

「………最初に生まれた時、神威が私に着せた服ですか?」

「………、今初めて、俺は義姉様を本気で殴ってやりたいと思った」

 真顔で答える主が余程面白かったのか、九曜はクスクスッと笑いを漏らした。

 九曜は人差し指を自分の胸元、前掛けに引っかけると、鎖骨が見える様に首を斜め上に上げながら、前掛けをずらす。黒い装いとは裏腹に、女性らしい真っ白な肌が露わとなり、女性の象徴とも言える片方の膨らみが露出していく。

「我が君は、お義姉様相手でも独占欲が強い御方なのですね?」

 挑戦的な、しかし従順な色香を漂わせた瞳で主を見上げながら、九曜はゆっくりと焦らす様に前掛けをずらし………、その頂部分で引っかかる。

 思わず、カグヤが表情を硬くするのを見て、九曜はまたくすりと笑い、手を放してしまう。そのままカグヤの腕の中で寝返りを打ち、横向けになると、淫らに乱れた着物を整えようともせず、主へと好意の視線を向ける。

「攻めるのは得意ですが、攻められるのは戸惑ってしまいますか? “カグヤ様”?」

 普段とは違う呼び方。主従ではあるがその上で親しみを持った時に九曜がカグヤの事を呼ぶ、“親しみ深い従者モード”。カグヤはこっそりこの状態の九曜を“秘書プレイモード”などと呼んでいるが、これが案外カグヤのツボだったりする。

 なんと言うか、他の相手にこんな事をされると、突然一気に萎えてしまうタイプなのだが、九曜にやられると妙に扇情的で、魅力に満ち溢れて見える。九曜の方から攻められると、ちょっとだけたじろいでしまうのだ。

 気まずげに視線を逸らしてしまった一瞬を見逃さず、九曜は本当に可笑しそうに、だがとても愛おしそうに、カグヤへと手を伸ばし、その胸に手を当てる。

「よろしいのですよ? 私はアナタの僕として、独占されていたいのですから………。それとも、私では………不服でしょうか?」

 最後の瞬間、僅かに表情を悲しげに歪め、瞳の奥が隠しきれないほどの寂しさに潤まされた。

 限界を超えたカグヤが、九曜の唇を強引に奪い、そのまま彼女のはだけた服の中へと手を入れていく。彼女を僕として半年間、何かと彼女と肌を重ねてきたが、飽きる気配が全く出ない。自分に『義姉』と言う存在がいなければ、あるいは本気で彼女との情動のみに身を(やつ)していたかもしれない。そうとまで思えるほどに、カグヤは彼女の全てを味わっていく。

 あまりに激し過ぎ、息が続かなくなってしまい慌てて口を放す。イマジン体であるが故に、このイマジンの満ちたギガフロートに於いて、呼吸を殆ど必要としない九曜は名残惜しそうに、互いの引いた銀糸を見つめる。

 その魅力的過ぎる光景に目を奪われながら、すっかり出来上がっているカグヤは呟く。

「お前、どんだけ俺のツボを弁えてんだよ? MAX(マックス)の興奮ゲージが、軽く三週くらい振り切れたぞ?」

「我が君が望むままに、私はカグヤ様を愛しているだけです。アナタが私に向けてくれた愛情には、まだ足りないかもしれませんが………」

 それをこそが切ないと言わんばかりに、悲しげな表情を作る九曜。

 カグヤのゲージが更に六回分振り切れた。

 情緒を尊び、もう少し虐めてからおねだりさせるのが、カグヤとしての求める形なのだが、九曜相手では三割方上手くいかない。いつもは自分の方がエロエロなので、主導権を常に掴んでいられるのだが、九曜の心の準備が出来ていると、あっと言う間に向こうのペースになってしまう。それも驚異の誘い受け。一方的に攻めたいタイプのカグヤは、正に恰好の餌だ。

(ま、食われちゃっても良いんだけどね………)

 理性をふっ飛ばす事を受け入れつつ、カグヤはそのまま九曜へと、己の欲望を叩き込んで行く。

「あっ! カグヤ様………ッ! そのような所を、舐め―――ひゃあんっ!?」

「お? 今いい声出た?」

「んむ………っ!」

「なんで自分の口塞ぐんだよ? いつも聞いてるだろ?」

「カグヤ様以外に聞かれるかもしれないと思うと………」

「………すまん、今、ゲージが更に一週分振り切れたわ………。軽く興奮だけで死ねそうだ………」

「主を死なせたとあっては僕の恥………! どうぞ、私の()へ、愛しの我が君………」

 

「同居人の、人………? 先、来てる………?」

 

 鍵を閉めたはずの扉が開き、声と共に誰かが入ってくる足音。

八束(やたば)(すみれ)………、よろし、く………?」

 部屋に入ってきた紫色のショートヘアーに低めの身長でスレンダーな体形をした少女は、ベットの上で重なり合う二人を大きく見開かれていく茶色の瞳に、嫌という程写した。

 状況が理解できないまでも、何をしているのかは瞬時に悟ったらしく、ドンドン表情を赤く染め、口をわなわなと震えさせる菫と名乗った少女。入学早々目にする筈の無い光景に動揺し、一歩、二歩と、後ずさりしていく。

 一瞬、どうしたものかと悩んだ九曜が主へと視線を向ける。

 カグヤは菫を一瞥し―――、

「八束………」

 僅かに目を細める。だがそれも一瞬。すぐに九曜へと視線を向けて―――続き再開。

「んん………っ♡」

 咄嗟の事に声を殺し損ねそうになりながら、主の行為ならと、受け入れ態勢を全開で表す九曜。

 菫を無視して続行される状況に、再び混乱の波が押し寄せてくる。

「あ、あの………っ!? ///////」

「悪い八束。見てて良いから、先に済まさせて」

 簡潔に述べた無視発言に、菫はどうしていいのか解らず立ちつくし………。

 しばらくして、「見てて良いと言われたので?」っ的なノリで正座して状況を見守った。

 さすがに九曜はちょっと驚き、僅かに戸惑った表情を見せていたが、カグヤは相変わらずお構いなしだった。

 見られているという状況下でもお構いなしの年齢コード引っかかりまくりリアルブルーテープ映像に、菫は思わず問いかけずにはいられなかった。

「ド筋金入りの変態………ッ!?」

 抑揚のない声で、しかしはっきりとした発言で、最早問いなのかと聞きたくなる断言を口にした。

「………混ざるか?」

「超越した変態………ッ!?」

 二人が同居生活についてのルールなどを決めるため、話し合いの場を持つのは、菫が堪え切れなくなって一旦退出してから、更に三時間も後の話であった。

 

 

 

 02

 

 

 

 己の部屋を見つけ、中の確認を終えた(かなで)ノノカが真っ先にした行動は、持ってきたバイオリンを弾く事だった。

 荷物は愚か、楽譜すら出す手間も惜しみ、バイオリンを取り出したノノカは、簡単なチェックを済ませると、覚えている曲で最もテンポの速い曲を選び、感情のままに弾き始める。

 事故を起こし、取れる事の無い包帯を指に巻き、一生弾けないとまで言われたバイオリンを、今こうして弾く事が出来る。一次試験………、厳密には二次試験でそれを確かめる事の出来たノノカだが、あの時は能力としての(おもむき)が強かった。今の様に純粋な気持ちで曲を奏でる事で、やっとその実感を得る事が出来るようになる。

 嬉しい―――などと言う物ではない。それはまるで、片翼を()がれた鳥が、ついに片翼を取り戻した様な、そんな感動が全身を襲う。

 ふと、この部屋は防音が効いているのだろうかと心配になったが、最早構わないとさえ感じた。聞こえてしまっているならいっそ、聞こえてきた曲に見惚れさせてしまえと言わんばかりに、感情を込めた曲を奏でる。

 テンポの速い曲から静かな曲へ、静かな曲から楽しげな曲へ、リズムを変え、感情を変え、しかし、繋ぎをちゃんと合わせ、即席の組曲を完成させていく。

 身体中から汗が滲み始めるが、まったく止める気にはなれない。人生で最高の瞬間であるバイオリンを弾いていて、どうして飽きや疲れを感じられるのだろうか? そう言わんばかりに彼女は曲を奏で続けた。

 どれだけ曲を奏で続けたのか? さすがに腕が言う事を聞かなくなってきて、ノノカは曲の終わりを弾く。その終わりは、終わらせる事が名残惜しいと言わんばかりに寂しげな弾き終わりであったが、それ故に、彼女の音楽に対する愛情が染み渡っているようだった。

 曲を終え、弓を下ろしたノノカは、突然ドッと押し寄せてきた疲れに深い溜息を吐いた。

 物凄く疲れた。だが、心地の良い、とても充足した疲れだ。

 自然と笑みが漏れ出し、―――同時に送られて拍手に気付き、ハッとして我に返る。

 ノノカが視線を上げた先には、壁に寄り掛かってずっとノノカの演奏を聞いていたらしい少女が、楽しげな笑みを向けて拍手を送っていた。

 長い髪に、サイドに結わえられたリボンがチャームポイントになった可愛らしい少女だ。だが、その髪は七色に反射する光を見せたピンク色の髪をしている。普通ならありえない髪の色をしていた。

 『イマジン変色体』

 誰もが有するイマジンの影響を肉体的に受けやすい体質部分の事である。中には稀に、髪や瞳、肉体的な特徴に変化を(もたら)す事がある。

 例を上げるなら遊間(あすま)零時(れいじ)の瞳術使用時に瞳が赤く染まる物や、吉祥果ゆかりの幽体も、それに類する物だ。多少、異なるが、九曜の使用する剣の色も、それに該当する。

 また、完全に肉体を変化させてしまう事もあれば、異種族的な何かになってしまう事もある様だが、殆どの場合は外見上では解らない程度の変化が普通だ。これらを数値化し、解り易く表わした個性が、『ステータス』と言われる物の正体だ。

 こう言う意味に於いては、東雲カグヤが『神格』や『霊力』と言ったステータスを持っているのも、イマジン変色体を有していることの証明と言える。

 それでもノノカの前で笑っている少女の様に、解り易く髪が七色に変色しているのは、やはり珍しいタイプで、なによりギガフロートに訪れなければ見られない存在だ。

 そんなビックリポイントを持った彼女に、自分が演奏している所をずっと見られていたと言う事も加わって、なんと返して良いか解らないノノカに、少女はニッコリ笑って見せた。

「良い曲だったね! 聴いてて心が洗われるようだった♪ ………ああっ! 自己紹介遅れたね? 歌姫目指して16年! 七色(ナナシキ)異音(コトネ)でーす☆ 夢は世界中を楽しませるエンターテイナーよ♪」

 パチリと慣れた動作で可愛らしくウインクして見せる異音。

 まるでアイドルの様な仕草にノノカは不思議と警戒心を削がれていた。

「あ、はい、よろしく。奏ノノカです。あまりさえ無い感じの女の子だけど、音楽には自信があります。私の演奏で、皆に力を与えちゃいますよ!」

「わおっ! それ最高! 私も歌には自信があるの! よかったら今度デュエット組みましょうっ☆」

「わ、私歌は………、でも、伴奏(ばんそう)で良かったら!」

「OK~♪ じゃあ、二人で合う曲考えよう~~! 私曲作るの得意だから任せて☆」

 趣味の合う二人は、さっそく意気投合し、こうやってトントン拍子に話を進めて行った。間もなく部屋でのルールについても話し合いが始められるだろう。

 こう言った風に、巡り合わせの良い部屋割をしてもらった者達もいた。

 

 

 

 03

 

 

 

 一方、こんな部屋割をされた者もいた。

「ぎゃあああぁぁぁぁ~~~~~~~っっっ!!! もう嫌だ~~~~~~~っっっっ!!!!」

 四階、自室の部屋から飛び出した相原勇輝は、勢い任せに廊下を走り抜け、偶然その場にいた女性の胸へと飛び込んでしまった。

「わぷっ!?」

「ひゃあんっ!?」

 ぶつかった相手は短髪黒髪、鋭い目つきに、タンクトップとカーゴパンツを愛用した、意外と大きな胸をした女性、鋼城(こうじょう)カナミだった。

「え? なに? 子供?」

「た、たたたた、助けてくださいっ!? 手がッ! 手がこうわしゃわしゃぁ~~な人が………っ!!」

 涙目の勇輝が必死な様子で身振り手振りで何事かを説明しようとするのだが、その説明に使われた手が、思いっきりカナミの胸を鷲掴みにしていた。しかも巧みに指はわしゃわしゃと動かされているので、もう完全に正面から堂々と揉んでいる状態だ。

 瞬時に状況を悟った二人は同時に顔を赤くし―――、

「恐怖も変態も叩いて直すっ!!」

 カナミの鉄拳が、齢十歳の少年の顔面に容赦無くめり込み、「ぷぴゃんっ!?」などと言う悲鳴を上げさせながら何度も床に叩き付けられて吹き飛ばされた。

「す、すみま………せん」

 床に大の字になって倒れた勇輝がなんとかと言った様子で謝罪を述べるのだが―――。

「いいのよぉうん♪ 何処まで逃げたって、ちゃぁ~~んと、捕まえて、あ・げ・る・からぁん♡」

 答えたのは別の人物。やたらとクネクネした動きで迫る影が、倒れた勇輝へと迫る。

「―――っ!?」

 危険を察知した勇輝は、瞬時に飛び起き、何とか走って逃げだそうとするが、その影は瞬時に幼い少年の両肩を掴み、お人形の様に抱き抱えてしまう。

「い、イヤです止めてください~~~~っ!? よく解らないけど、これ以上苛めないで~~~~っっ!?」

 年相応に、本気で嫌がる子供が恐怖に顔を青ざめ、本気泣きしていた。

 入学試験で積極的に他人を庇っていた所を見ていたカナミは、この情けない少年に微妙な視線を送っていたのだが………、すぐにそんな場合じゃないとも判断できた。

 正直、子供とは言え、男子に正面から胸を揉まれて、見捨てる気マンマンだったカナミだが、クネクネ動く影が、なんか本気でヤバく感じられた。

「うふふふふふっ♪ そんなに嫌がっちゃって~♪ 本当に可愛いわね~~! 大・丈・夫。ちょっと脱ぎ脱ぎしてくれるだけで良いのよぉん? あとはお姉さんに、お・ま・か・せ♡ 優しくしてあげるわ~~~♪」

「いやぁ~~~~~~~~~~~っ!!!?」

 なんと言うか………このまま放っておくと、イタイケナ少年が、入ってはいけない扉を強制的に潜られそうな気がして、正直母性本能と言うか、大人の義務感的な何かが放っておく事を激しく拒否していた。っと言うかどう見ても変質者とその被害者にしか見えない。

「ちょっと、何だかよく解んないだけど―――」

 止めようと声を掛けた時。その言葉が制止の意味を紡ぐより早く、カナミは頬に手をあてられていた。

「―――っ!?」

 咄嗟に離れようとしたが、身体が動かない。気付いた時には眼鏡にウェーブの金髪グラマー女性が目の前に立っていた。大人びた妖艶な顔が近づけられ、超至近距離に迫った彼女は、カナミの耳元で一言―――、

「動いちゃ、だ~~めっ♪」

「~~~~~~ッッ!?」

 本能的に上げようとした声が声にならない。頭の中で上げている警報に、全力で従おうとするが全く言う事を聞かない。

 そんな恐怖の中、カナミは至近距離に迫った大人の女性の目を覗き込まされる。

 自分を見て、妖艶な笑みを浮かべる姿は、生娘(きむすめ)の反応を楽しむ妖婦(ようふ)さながらで、カナミは胸中で叫ばずにはいられなかった。

(く、食われる―――っ!?)

 そんな感想を抱いてる事などお構いなしに、彼女はカナミの顔を弄ぶように撫で、呟く。

「アナタのお顔、いただいてくわよん♪」

 次の瞬間、カナミの目の前に立つ女性が消え、変わりに鏡が出現した。

 しかし、それは妙な鏡だ。カナミは自分でも解る程引き攣った顔をしているはずなのに、鏡の中のカナミは見た事の無い妖艶な笑みで笑っている。

(って、違う! 鏡じゃないっ!?)

 気付いた瞬間、鏡と見違う程カナミと瓜二つになった謎の人物は、カナミの身体能力を活かし、十歳の少年を力付くで部屋へと連れ去っていった。

「この身体! 思いの外使えるわねん♪ 身体つきもまあまあだし、しばらく借りるわよぉ~~ん♪」

 そう言って消え去った二人を呆然と見過ごしてしまったカナミは、しばらくの混乱と沈黙を経て、重大な事実に気が付く。

「ちょっとっ!? カナミの姿で一体その子になにするつもりですか~~~~っ!?」

 慌てて追いかけたカナミだが、部屋には既に鍵がかけられている。さすがは『イマジネーター』を育成する機関の生徒寮だけあって、カナミがどんなに全力で殴ろうが蹴ろうが、能力を使って周囲に爆音を響かせても蹴破る事はできない。

 

「や、やめ………っ!? やめてくださいっ!? そんな他人の姿で………っ!?」

「あらあらぁん? 可愛い子ね~♪ 大きくなるどころか竦みあがっちゃうなんてぇ~~♪ もうっ♪ お・子・さ・ま♪」

「だ、ダメです~~っ!! それだけは勘弁してください~~~~っ!!?」

 

 その癖、扉越しに声だけ聞こえてきた。

 カナミは泣きそうな顔になって扉を蹴り続けた。

「人の姿借りて一体何やってるのっ!? 人権侵害だ~~~っ!?」

 そうやっていつまでも扉を蹴り続けるが、傷は愚か、衝撃が伝わっているかさえ怪しいありさまだった。

 さすがに二時間も続ければ不毛さから精神的に疲れて大人しくなったが、扉の向こうからは、放送コードに引っかかりそうな悲鳴が響き続けている。

「え~~っと………? カナミ? 気は済んだ?」

 涙目のままのカナミは、背後から掛けられる声に振り返る。そこには自分の部屋の同居人が、気まずげにこちらの様子を窺っていた。

 黒髪に紫色の瞳、髪は腰に届く程長いのをポニーテールにしている。背は高くもなく低くもなく、胸もそれなりのなんとなく女の子女の子してるっぽい子だ(あくまでカナミの私見)。名前は鹿倉(ししくら)双夜(ふたや)と言い、カナミを立てる形で話してくれたため、部屋でのルールがあっと言う間に決められた。女の子同士と言う事もあって同意見の内容も多かったのも原因の一つだろう。

 カナミは不毛な攻撃に疲れ、同居人の胸へと飛び込んで(むせ)び泣く。

「なんか変身能力持ってる奴が、カナミの姿で十歳児に自主規制を~~~………っ!?」

「ごめん、途中までしか解んないよ………? でもたぶん、その人は御飾音(みかざね)カリナさんじゃないかなって思う? 試験中に何度か話したから」

 双夜はカナミを抱きとめながら、意味の解らない状況にただ困惑するしかない。とりあえず、攻撃を受けていた扉の向こうで未だに聞こえる危うい声には耳を傾けない事にした。

「とりあえず、引っ越し手続きしてくる?」

「うん………」

 二人は手を繋いで仲良く廊下を歩く。

 どうやらこっちはそこそこ上手く行っているようだ。(扉越しの声から視線さえ逸らせば………)

 

 

 

 04

 

 

 

 オルガ・アンドリアノフが部屋を見つけて早々にした事は、自分の能力で呼び出した兵士達に、簡単な整理を頼み、自分はさっさとベットに突っ伏して寝る事だった。

 実の話、彼女は自分が使う能力のリスクを、この学園に入学して最初に体験した生徒となっていた。

 彼女の能力『カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)』は、大量の兵士を呼び出し、その兵士達が認識した情報を自分の情報として共有できるという優れた能力を持っている。だが、その反面、大量に送られてくる情報量に脳内を圧迫され、使用後に精神的な疲れが多大に掛る様なのだ。おかげで彼女は能力使用後、とてつもなく眠くなる。

 そもそも面倒臭がりな性格ではあるオルガだが、この就寝は能力による疲労だ。身の回りの整理もしない内から就寝してしまうのは、後々もっと面倒になるという考えを思考の端に残しながらも、彼女は夢の世界の誘惑に抗えなかった。

 そんな彼女が目を覚ましたのは、トントントンッ、っと言うまな板を叩く様なリズミカルな音に、鼻孔を(くすぐ)る美味しそうな匂いだった。

「………рис(リス)?」

 お昼頃に寝たのを思い出しつつ、匂いから『御飯』かとロシア語で呟き、未だに眠たげな身体を起こす。

 ベットに広がる長い銀の髪は、寝癖で飛び跳ねまくっているが、それでも美しさを損なう気配を見せていない。白い肌と相まって、まるで妖精めいた姿に、肌蹴たパジャマ姿と言うのは、見る者が見れば魅了されてしまいそうな扇情的な姿ではある。

 しかし、台所でトントンッとやっている人物には、あまりそう言うのには興味が無い様子であった。オルガの呟きに気付き、その人物は壁越しに声を掛ける。

「起きたの? ちょっと待ってね? 今軽食作ってるから」

 その言葉と共にオルガのお腹が鳴った。

 考えてみれば、朝食は軽く食べた様な気がするが、お昼はぶっ通しで寝てしまっていた。今が夕方くらいだと考えると、お腹が空いてもおかしくない。

 お腹が空いたのなら食堂に行く方が早いのだが、気だるげな今の気分ではいく気になれない。大人しく待つ事に決めたオルガは、その後すぐに御飯を乗せたお盆を持ってきた少女の姿に「本当に早いっ!?」っと、軽くショックを受けた。

 黒く長い髪を、うなじの辺りで纏めた少女は、その大人しめな髪型の所為もあって、少々大人びた印象を受ける。白のエプロンに柔和な笑みは、まるで落ちつきのある母親の様でさえあった。

 少女は、既に引っ越し業者に頼んでいたのか、数ある段ボールの中から小さい座卓を取り出し、それをオルガのいるベットの上に置き、続いてお盆を乗せる。オルガがわざわざベットから降りなくても良いようにという配慮だ。オルガは「まるで病室のベット見たい………」っと言う感想を浮かべながら、女の子座りで食卓に着く。

 軽食と言うだけあって、お盆の上にあったのはグラタンの様な物だった。オルガの事を外国人だと認識していたらしく、用意されたのも(はし)ではなく先の尖ったプラスチックのスプーンだった。

「いただきます………」

 ちゃんと日本語で合掌しながら言ったオルガは、試しに一口食べて見たのだが―――、

(お、美味しい………っ!? グラタンの様だけど、これってボルシチっ!? 寝起きでも食べ易いのかサクサク食べれるっ!)

 小さなお椀に盛られているグラタンっぽいボルシチを夢中で食べるオルガの姿に、満足そうな笑みを作った少女は、また荷物の中から(くし)を取り出し、食事に夢中になっている隙にオルガの髪を()いてやった。

 なんとなく気付いていたオルガだが、梳き方がとても上手で気持ち良かったので放置し、自分は少ないボルシチを一生懸命食べる事にした。

 っとは言えさすがは軽食。あっと言う間に空になってしまい、少々切なさが残る。

 思わずスプーンを口に咥えながらお椀を見つめてしまったオルガだが、気付いた時、自分はちゃんとパジャマを着直した状態で、髪も綺麗に()かれていた。妖精めいた美貌は、妖精その物の美しさを得たと言わんばかりに輝き、オルガ自身、鏡を見たわけでもないのに、少しだけ背筋が伸びる気がした。

「あなた、御節介?」

「友達によく言われたなぁ~~。ちょっと面倒み良過ぎないか? って………。そんなつもりないんだけどなぁ~~?」

 面倒見が良いとか言うレベルじゃない。まるで家政婦の様だとさえ思えた献身(けんしん)っぷりには、オルガをしても脱帽するばかりだ。

「ああ、申しおくれました。僕の名前は甘楽(つづら)弥生(やよい)です。これから君の同居人ね? これでも栄養士の勉強してたから料理には自信があるよ? 良かったら、またご飯食べてくれる?」

 それを聞いたオルガは、目をキラキラとさせ、彼女には珍しくちゃんと自己紹介。

「オルガ・アンドリアノフ。ロシア人。日本語は問題無い。将来の夢はニート!!」

 何故か『ニート』の部分だけ強く発音し、オルガは弥生の両手を取って懇願(こんがん)した。

「私の嫁になってっ!!」

「ええっと………? 旅館の仲居さんとかなら経験あるんだけど………?」

 弥生はどう反応して良いのか解らず、そんなずれた発言をしつつも笑顔で対応した。

 どうやらこの部屋の二人の関係も決まりそうだ。

 一部、大変な所もあるが、概ね同居人は相性の良い関係で紡がれつつあるようだった。

 

 

 

 




弥生「寮長さん! 質問良いですか~~?」

榛名「はいなんでしょう?」

弥生「ギガフロートは全寮制ですが、上級生達は何処にいるんですか? ちょっとまだ目にしてないんですけど?」

榛名「では、まずは寮の説明をしますね」

榛名「学生寮は円柱状の建物で、全三十階建てとなっています。一階は寮長室と、食堂、トイレ、その他学業用の必要施設で埋め尽くされています。二階以上が学生の部屋となっているんですよ。一年生の寮は四階までとされ、二年生の部屋が五階から十五階までとなっているんです。二年生からは、個人部屋も解放されているが故の階層フロアの多さなんですね」

榛名「十六階から十九階は、二年生以上が同伴の場合のみ使用可能となっているリゾートエリアが存在するんですよ?」

弥生「何それ羨ましい!?」

榛名「一年生には公言できない決まりなので、誰か上級生のお友達を作った時に連れて行ってもらってくださいね?」

榛名「そして二十階から屋上までが三年生のフロアとなっています。三年生は相部屋の方が多いですね。何しろ恋愛関係になって一緒に暮らしていらっしゃる方もいますから」

弥生「え!? いいのそれっ!? 問題じゃないの!?」

榛名「自己責任ですから♪」

弥生「なにそれ、ちょっと怖い………」

榛名「三年生の解放エリアは、寮の施設でも訓練が出来る特別な場所です。だから食事以外の目的で降りてくる事は無いですね。この寮、エレベーターがありませんし」

弥生「三十階建てなのに!?」

榛名「皆さん普通に飛び降りたりとかできちゃいますから。普通に階段も苦にならないと言う方もいらっしゃいますし」

弥生「イマスク生、既に恐るべし………」


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一学期 第三試験 【決闘】

この作品始まってからの、祝一戦目と言う事もあって気合を入れました。
入れ過ぎて一戦だけで一話使っちまった………。
その分、楽しめる内容となっていると思いますので、どうぞ気合を入れて読んでください。
マジでしぶとく長い話です。
そしてこれがこの学園のデフォルトです。


 05

 

 

 

 学生寮一階、(えんじゅ)の方角、学生食堂では、二階エントランスまで用意された実に広い空間だ。全校生徒五百人以上が一度に来ても良いようにと考えられているからとはいえ、その広さは入学試験時の屋内ホームにさえ匹敵する。寮は棟ごとに学年別で別れているため、滅多に上級生と交流する事はないが、この食堂は別だ。唯一上級生と下級生が共に使う場所と言える。

 が、上級生の殆どは、お金の問題から食堂を使わず、自炊する者が増えてきている。

 食堂のメニューは、一番安い食事でも百五十クレジットだが、これは小さい御椀の御飯に、味噌汁だけだ。他には沢庵(たくあん)も梅干一つも追加されない。こんなバトル推奨の学園で、育ち盛りの少年少女がそんな物で満足するはずが無く、必然的に高いメニューを選んでしまう。その額は約二百五十クレジット。これを毎日三食選ぶとなると、正直、節約したいと考える学生にとっては窮屈な値段となる。必然、夕飯時の食堂には一年生の貸し切り状態となっていた。

 そんな中、適当な定食を選んで空いている席に着いた明菜理恵は、箸を取ってから「しまった………」っと後悔していた。

 彼女の右隣りには、珍しく九曜を連れていない、紫の紺袴の東雲カグヤが、上品な手つきで親子丼を美味しそうに食べている。

 その逆、左隣ではゴスロリ衣装のツインテ少年、水面=N=彩夏が、トンカツ定食のトンカツに掛けるソースが四種類ある事に、悩まされている。

 正面には、青の混じった紺色の髪を短く整えられ、何処か学者然とした様な雰囲気を纏い、可愛いらしい顔をした黒瀬(くろせ)光希(みつき)が、定食の鮭の骨を慣れた手つきで綺麗に取り除いている。

 前方斜め右では、紫色の髪をポニーテールにまとめたクールビューティー風の小金井(こがねい)正純(まさずみ)が卵で溶いたネギ入り納豆をかき混ぜ、御飯にまぶし、健康第一と言うかのような真面目な顔でしゃくしゃく食べ始めている。

 前方斜め左では、白髪に金色のタレ目気味の眼をした少女、緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)が白いシャツを着ているのにカレーうどんを選んでしまったミスに今更気付き、難しい顔で慎重に麺を啜っていた。

 この状況を再度確認した理恵は改めて思う。(しまった………)っと。

 何故彼女がそんな感想を浮かべるのか、その理由は周囲の人間性にある。とある事情で理恵はこの学園の生徒の事をいくらか先んだって知っていた。だから解ってしまう。今自分の周囲を囲っている奴等は全員―――。

(男ばっかじゃんっ!? ………一人微妙だけどっ!?)

 そう、カグヤと彩夏(さいか)は既に言うに及ばないだろうが、光希(みつき)正純(まさずみ)陽頼(ひより)もまた、女性ではない。約一名、完全に否定するのは躊躇う人物もいるが、とりあえず女性ではない。

「お? なんだこの席は? 女の子ばっかりとは豪勢だな? 美しいお嬢さん方? 同席よろしいでしょうか?」

 金髪碧眼の色男、ジーク東郷が現れ、そんな事を言い出すものだから理恵は「コイツバカかっ!?」っと叫びたくなった。その席の殆どから苛立ちに似た声が返っていく。

 

「「「「(私)(僕)俺は男だ」っ!!」」」

 

「紛らわしいよっ!? いや、女顔の男に言うのもなんだけど、これだけ集まってたら本気で紛らわしいだろうっ!? ってかなんでこんなにオカマばっか集まってんだよっ!?」

「これは家の正装だ」

 っと渋面のカグヤ。

「特に女装してるわけじゃないだろう!?」

 っと仏頂面の光希。

「俺の何処が女だよ?」

 っと困惑気に正純。

「趣味だ」

 っと、彩夏。

「「「「何か問題あるか?」」」」

 

 バンッ!!

 

「「明らかに一人問題あるだろう~~~~~っっ!!?」」

 つい、我慢できず理恵はジークと一緒にツッコミを入れてしまった。

 その様子に女顔四人が軽く驚く。カレーうどんと格闘していた陽頼は無表情に食事を続けるばかりだ。

 他の席を探すのも億劫になったのか、彩夏の隣に座るジークは、嫌そうな顔で面々を見る。

「しかし、これだけ美が揃っていて、美少年しかいないってはどうなんだ? これじゃあ口説く事も出来ん」

「まて、私は正真正銘の女だぞ! 口説かれたくないけど!」

 瞬時に否定する理恵に、ジークは「しまった口説き損ねたっ!?」っと言った感じにショックを受けた表情をする。

 そんなジークに向けて彩夏は両の手を広げた。

「私はいつでもウェルカムだ」

「だが男だっ!!」

 慌ててツッコミで回避するジークだったが、彩夏はかなり真面目な顔で瞬時に返す。

「だが、私は両刀だっ!!」

「「黙れよっ!!」」

 再びジークと理恵の同時ツッコミを受ける。

 めげずに彩夏は全員へと向き直り………。

「だからいつでも告白しに来てくれ」

「「「こっちを見るなっ!?」」」

 光希、正純、カグヤが身の危険を感じて瞬時に応対する。

「でも、私にも好みがあるから振る時は振るけど」

「「「「「なんでお前が上位存在風に威張ってんだよっ!?」」」」」

 ついに陽頼以外の全員から突っ込みを引き出した彩夏は、むしろそれこそ嬉しかったと言わんばかりに満足そうな表情をした。

 それを見ていた陽頼は、何故か彩夏の事を興味深そうに見つめる様になった。気になったカグヤが彩夏に尋ねる。

「なんでこの子お前のことじっと見てんだよ?」

「うむっ、私と同室になってな、受け答えが殆ど出来ん奴だったが、中々可愛い子だぞ」

「俺の返答にはなっていないが意味は解った。つまり同室で懐かれたのな?」

「ああ、いつの間にか女の子になっていたがな! まあ、些細な問題だ」

「全然些細じゃ―――っ!? ………いや待て? 『イマジン変色体』ってやつか? しかし男女その物が変化するってあるのか? 獣耳とか、翼とか、一時変身とかなら知ってるけど………?」

 カグヤと一緒に皆もツッコミを入れようとしたが、『イマジン変色体』っという聞き慣れない言葉に、口を閉ざしてしまう。カグヤはその後もぶつぶつと呟き、何やらイマジンに詳しそうな口ぶりで考察していたが、すぐにお手上げと言った表情になった。

「解らん………。性別変換なんて能力以外で可能とは思えんし、それを可能にする能力の意味も解らん。ただの変身じゃないっぽいしな………。このレベルになると義姉様辺りにでも聞かんと―――」

「呼んだかカグヤっ?」

 それは唐突。

 突然カグヤの頭上から現れた、千早を重ねた巫女装束の女性が現れ、カグヤを腕の中に抱き寄せた。小柄なカグヤは、それだけで腕の中に隠れてしまい、頭だけが女性の胸の間から飛び出している状態になった。

 カグヤは心底驚きながらも、馴染みある懐かしい感触に安堵し―――、

「ぐ~~………」

 ―――し過ぎてあっと言う間に睡魔の餌食となった。

「ん? お(ねむ)か? いいぞ。久しぶりに抱っこして寝かしてやろうか?」

 慈愛に満ちた優し過ぎる声に、カグヤは抗いようのない安心感に包まれ、完全に意識を手放した。

「ねんなよっ!?」

 カグヤの正面にいた正純は、我慢できず先にそっちを突っ込んだ。

 それで目が覚めたカグヤは、若干頬を主に染めながら、しかし大人しく女性に抱っこされたまま、彼女へと話しかける。

「義姉様、何処から飛んできたんです?」

「刹菜の部屋から。お前に呼ばれた気がしたからな♪」

「そうでしたか」

 嬉しそうに答える女性にカグヤは素直に頷いた。

 普通は、「そう言う意味じゃないだろう!」っ的なツッコミをしそうだが、カグヤの質問は、むしろ女性が答えた通りの意味だったので問題はない。

 カグヤは知っているのだ。この義姉が、時間や距離くらい超越するのに、大した問題はない。現れた事自体、既に不思議に思う程の事でもないのだ。

 だから安心しきっていたカグヤだが、周囲の生徒はそうもいかなかった。

 何故なら、カグヤが彼女を知っているように、他の者達も彼女を知っていたからだ。

 理恵が席を離れ、ゆっくりと距離を取る中、周囲の人間は眼を丸くして女性を見ていた。

「まさか………! 『東雲(しののめ)神威(かむい)』………っ!」

 思わず、光希が彼女の名前を口にした瞬間―――、あまりに鋭い視線が冷気となって彼を貫いた。それがただ睨まれただけだと気付く事が、光希は出来ないでいた。

 信じられなかったのだ。確かに自分は巫女装束の女性に睨まれている。だが、それがイマジンによる能力的な何かではなく、純粋な殺気を当てられたが故に本能が悲鳴を上げているなどと、理解したところで信じられず………、信じたいとも思えなかった。

 声が出ない。たった一人、自分にだけ向けられた殺気に、光希は訳の解らない恐怖を感じた。ただ黙って固まっているしかない光希に、女性はカグヤに向ける物とは全く違う、冷た過ぎるほどに冷たい声で―――、

 

「 誰が呼び捨てを許した?(身の程を知れ) 下級生(劣等種) 」

 

 その瞬間、声が二重になって聞こえる錯覚を得た。これは入学試験の時、カグヤが英語で話しかけられた時に起きた現象と同じ、『イマジネーター』の本能が、相手の言葉を理解しようとし、頭の中で自動的に言語変化を行った結果起きる現象だ。

 つまり、光希はこの瞬間、女性の『上級生』としての発言を、本能的に『上位存在』としての発言だと認めてしまったのだ(、、、、、、、、、)

「す、すみません………」

 光希は何も考える事が出来ず、ただ首を垂れるしかできない。その癖、周囲の人間はまったく殺気を受けていない所為で光希の態度を「恐縮し過ぎ」とさえ捉え、失笑を浮かべている者さえいた。

 だが、それも仕方ない。長い付き合い故に、光希の態度から察する事の出来たカグヤでさえ、女性が向けるさっきの恐ろしさをまったく知らないのだから。

「か、かかかかか………っ! 神威様っっ!?」

 だが、光希の緊張は、偶然にも近くにいた一人の生徒によって解かれる事となった。

 席を立ち、駆け寄ってきた少女は、東雲神威の大ファン、甘楽弥生だった。

「か、かかかかカグヤっ!? ほ、ほほほほホントにッ!? 神威様がおねねねねええ―――ッ!?」

「落ちつけ弥生、どもり過ぎだ………」

 カグヤに落ち付く様に言われても弥生の興奮は止まらない。なんせ、彼女が入学してきた目的の半分は、この神威に憧れたからでもあるのだから。

「なんだこいつ?」

 神威が弥生ではなく、カグヤに向けて質問する。

 視線を逸らしてもらった光希はやっと一息ついた。

「甘楽弥生。義姉様のファン」

「あああええっと………っ!? 甘楽弥生です! 勝手にファンなんかやらせてもらっちゃってます! よろしくお願いしますっ!!」

 ガツンッ!! っとお辞儀した拍子に額を机にぶつけたが、弥生はテンパリ過ぎて、そんな事さえ気にならない様子だ。

 しかし神威は全く興味が無い様子で一瞥だけしてカグヤへと向き直る。

「ところでお前、九曜はどうした? ちゃんと屈服させたんだろう?」

「いや、ちょっとやりすぎたんで………、今ベットの上でばててる」

「相も変わらず仲の良い奴らだ………。義姉は嫉妬しているぞ?」

 拗ねた顔で言いながら神威は義弟の首を軽く締める。それだけで窒息しそうになったカグヤは必死にタップ。神威はすぐに腕を緩めるが、頭の上に顎を置いてふてくされる。

 っふと、周囲を適当に見ていた神威は、何を思ったのか、悪戯を思い付いた子供の顔で笑った。

「おいカグヤ? お前ちょっと、ここにいる連中の誰かと戦ってみろ?」

 その発言に、カグヤ以外の者達も一斉にざわめいた。

「“此処(食堂)”でいきなり戦えって言うんですか?」

「問題無い。この学園の校則には、互いの生徒手帳を重ね合わせてから行う『決闘』っと言うシステムがある。ちゃんとした手順さえ踏んでしまえば、何処でなにをしようが全く問題ないのさ。………っと言うわけで誰かと戦ってみろ? 私が直々に検分(けんぶん)してやる」

 その発言に今一度ざわめきが起こる。

 決闘にではない。この勝負を、あの学園最強の名を持つ東雲神威が立ち会う事に、自然と一年生たちは興奮していった。

「か、カグヤ! 俺とやろう! 俺が相手になる!」

「いや、僕とやってくれ!」

「私と相手してよ!」

 たまらず何人かの一年生が声を上げ始める。カグヤは苦笑いを浮かべつつ、瞬時に値踏みを始める。義姉に言われた以上、彼に断ると言う選択肢は存在していないのだ。

「カグヤっ! 僕とやろうよ!?」

「いやだ。弥生とだけは絶対やらねえ」

「なんでぇっ!?」

 絶対とまで言われ拒絶された弥生をしり目に、カグヤは若干冷や汗気味にそっぽを向く。

(弥生の能力『ベルセレク』は、戦闘状況に合わせ強化を施していくとんでもない能力だ。九曜を欠いた状態でコイツと戦うのは避けた方が良い)

 義姉が見ている以上、負けるわけにはいかない。この一戦は何が何でも勝たねばならない。確実に勝てる相手がいるわけではないが、それでも弥生と戦うのはあまりにリスキーと考えた。

(何より、アイツの能力で最も恐ろしいのは派生で得た『ウルスラグナ』の方だ。アイツが『ウルスラグナ』のスキル『戦士の権能』を見せたのは塾生時代たったの一回。その上、未だにスキルの空を一つ持っているとなると、不確定要素が大きすぎる。………俺だって、今は切り札を使う条件が揃ってないんだ。軻遇突智(カグヅチ)だけで弥生とやりあったら確実に死ぬって………)

 ともかく別の相手をと探すカグヤの目に、相原勇輝の姿が映った。

(勇輝いたのか………? って、なんで既に死に掛けてんだ? まあ、アイツもアウトだな。十五以下の世代が作りだすイマジンは思い込みの強さで強力になってる。軻遇突智一択の俺が戦うべき相手じゃない)

 次に目に入ったのは浅蔵(あさくら)星琉(せいる)だったが………。

(確認は取れてないが、奴が巫女だと言うなら確実にあの(、、)浅蔵家だろう。西洋が入った朝宮、分家続きですっかり廃れた東雲と違って、浅蔵はそれなりの家系だ。九曜のいない今の俺じゃ勝ち目はない)

 そうやってカグヤは消去法で考えていくが、それだと切りがないと気付く。

 イマジネーターの実力はほぼ均等。同級生で、それも入学したての時点では、圧倒的、もしくは確実な実力差が出来るわけもなく、選択する権利をいくらカグヤが持っていても、確実に勝利できる相手を選ぶ事など出来ないのだ。

(ならいっそ、イマジネーターの勘とやらに掛けてみるかな?)

 決めたカグヤは周囲の者を注意深く見据えながら、己が戦うべき相手を見定める。

 視線を巡らせ、カグヤの直感が導いた相手は………。

「………」

 視線が止まる。そこにはガタイの大きな男が、興味深気にこちらを見据えていた。男の頭頂部に、僅かに二つほどコブの様な膨らみが見えた。「あれはなんだ?」っとカグヤが首を傾げた瞬間。

「アイツか? よしお前、カグヤと戦え」

「義姉様せめて俺の意見を聞いて?」

 神威に反論したカグヤだが、当然受け入れられない事など解りきっているので、彼は仕方なしに大男に向き直る。

「東雲カグヤだ。相手頼めるか?」

「俺で良いのかい?」

 男は心底嬉しそうに口の端を釣り上げた。

 肩を竦めて答えるカグヤをYesと捉え、男は懐から生徒手帳を取り出す。

「俺ァ伊吹(いぶき)金剛(こんごう)だ。よろしく頼むぜェ」

 カグヤは生徒手帳を袖から取り出して応じる。

 互いに生徒手帳を重ね合わせると、一瞬だけ空間に何かが広がる気配が過ぎ去る。それが生徒手帳にあるイマジネート(システム)、『決闘』が学園側から正式に認可された証明である。

 それを唯一知る神威が手を上げ、二人に一定以上離れるよう促す。

 距離にして僅か八メートル。イマジネーターの身体能力を有すれば簡単に埋められる距離。金剛が拳を構え、カグヤは袖に忍ばせておいた戦扇を取り出す。それを確認した瞬間、神威は大きな声で告げる。

「これより、伊吹金剛と東雲カグヤのノーマルルールでの決闘を始める! 立会人は、私、東雲神威が務める! バトルカウント! (スリー)! (ツー)! (ワン)! ………開戦!!」

 瞬間、開始早々に動いたのは金剛。床を爆発させるほどの衝撃で踏み出し、一瞬でカグヤへと肉薄する。

「―――ッ!?」

 一瞬気づくのが遅れたカグヤだが、ギリギリ反射で拳を躱し、横合いへと飛び退く。

 

 バンッ!

 

 空気が破裂するような轟音が鳴り響き、金剛の拳の先が軽く吹き飛ぶ。拳の衝撃波がいかほどのものか証明する一撃に、周辺にいた者達は冷や汗をかいた。

「―――ってこら~~っ!? 何しやがんだぁ~~~っ!?」

 運悪く衝撃に巻き込まれた面々の中から、背中まで伸びた長い黒髪で冷たい印象を与える鋭い目付きをしている少女が文句を口にした。

「おおっとスマン? ええ~~っと………? カルラ•タケナカだったか?」

「そうだよ!! 入学試験の時協力してやったの忘れて何してくれるっ!?」

「いやはやホントすまんかったなぁ~~!」

 本当に悪いと思っているのか解らなくなりそうな笑いを上げる金剛に、なおも切れそうになるカルラだったが―――、

「決闘が認可された以上、そこでなにが起ころうと自己責任だ。巻き込まれた奴は巻き込まれるのが悪いんだよ」

 神威のどうでも良さ気な言葉に一蹴されてしまう。

 それを聞いた周囲の面々が、自分達もただでは済まないかもしれないと判断し、出来るだけ遠くに離れる。ある者は食堂の長机をひっくり返してバリケートに、ある者は二階エントランスまで避難、ある者は能力を使って防御している者もいた。それでも食堂から逃げ出さない辺り、野次馬根性だけは立派な一年生達だった。

 慌てて二階エントランスに上がれる階段の裏に飛び込んだ小金井(こがねい)正純(まさずみ)は、そこに既に明菜理恵と言う先客がいた事に驚く。

「お前………っ!? 誰よりも早くここに移動してやがったな!? こうなる事予想してたんだろ!」

「まあ、一応これ、入学試験後での最初のイベントだったしね………、なんか予定日時かなりずれたからびっくりしてるけど………」

「イベント? なんだよこれ、実は予定されてたのか?」

「いやあ、そうじゃなくて―――」

 理恵がどう答えたものかと四苦八苦していると、突然彼女の背後から半透明な女性が現れ―――、

「転生者の生徒さんはいきなりの予定外にビックリしたんやろ~~?」

 ―――などと言ってきたものだから理恵は飛び上がって驚いた。

「ゆかり先生っ!? いつからそこに―――って言うか転生者って………っ!?」

 驚く理恵がさぞかし面白いのか、それともデフォルトなのか、ゆかりはニコニコ顔を崩さず、指を指す。

「ほら、よそ見してはると良いとこ逃しはるよ?」

 二人が促されるままに視線を戻すと、そこには金剛が長机を武器にして振り回し、それをカグヤが必死に逃げ回っていると言う………とんでもない一方的な展開が飛び込んできた。

「「っつか、もう完全に化け物に襲われてる被害者にしか見えないっ!?」」

 

 

 

 カグヤは長机を振り回す怪物から必死になって逃げていた。身体能力、特に力では勝てないと思い、戦扇(武器)を持ち出したと言うのに、まさかその辺の長机を武器代わりにしてくるとは予想外だった。っと言うのも、彼のスタイルが完全に体術オンリーに見えたからだ。余計な武器など使わず、肉体一つで戦う。そんな気配を身体全体から発していた物だから、つい先入観にとらわれてしまったのだ。

(それでもまさか机を武器にするとは思わなかったがな………、敵のリーチが長過ぎてまったく近寄れねえよ………)

 長机を武器にされて一番厄介なのはその圧倒的なリーチの長さに加え、面積が広い事にある。あんな物を鬼が金棒を振るうように振り回されては、近づこうにも近づけない。

(まあでも、武器が机ならやり様は………っ!)

 カグヤは着地と同時に振り返り、自分に迫ってきた長机に対し手を翳し―――撫でる。

(………あるっ!)

 バンッ! と机が金剛の手から弾き飛ばされる。東雲に伝わる護身術、合気柔術『付撫(ふしなで)』と言われる技で、弾き飛ばしたのだ。見た目はただ撫でているだけの様に見えるが、実際は高度な力学誘導による“いなし”の技だ。カグヤ自身がこの技を使えた事はなかったが、イマジネーターになる事で、その高度技術を身体に反映させる事が出来る様になったのだ。

 それにちょっとだけ誇らしく思っていたカグヤは―――。

「どりゃあああぁぁぁっ!!」

 正面から突っ込んできた金剛の肩が、眼前に迫っている事に気付いた。

(おおおぉぉぉわあああぁぁぁぁ~~~~~~ッッ!?)

 慌てたカグヤは咄嗟に軻遇突智の炎を呼び出し、自分の正面を爆発させた。爆発の衝撃に吹き飛ばされ、金剛の体当たりの直撃を軽減したカグヤは―――そのまま二階エントランスに上がる階段を貫いて彼方へと消え去った。

 一瞬の静寂。

 周囲から無言の驚愕が木霊する中、誰もが思った。「カグヤ死んだんじゃね?」っと。体当たりの感触が弱い事に気付いた金剛でさえ「今のは大丈夫だったのか?」っと心配になるほどだ。

 実際の話、階段を突きぬけ、一階食堂の観葉植物の中に埋もれていたカグヤ自身、「俺死んだ? 死んでる?」っと、しばし生の実感を得られずにいたくらいだ。

 神威が何も言わないので、割合十分くらいの時間を掛け、やっと生の実感を持てたカグヤが起き上ってくるまで、誰も動けずにいた。

 だが、同時に彼等も実感する事が出来た。『イマジネーター』の耐久値は、ちゃんとした対処行動さえとっていれば、某スパーな宇宙人並みに派手な戦闘をしても生還出来るらしいと言う事を………。

「生きてたか」

「死んでなかったよ」

 金剛とカグヤが、何か妙な連帯感を得たように頷き合った後、戦闘が再開される。

 

 

 金剛は次々と拳を放つが、カグヤはそれらを上手くいなし、対応している。金剛は自分の能力を未だに一つも使っていないが、それはカグヤも一緒だ。体当たりをくらう直前に一瞬だけ使ったとは言え、必要最低限に抑えていた。

 だが、金剛はたったそれだけの情報から、僅かばかりカグヤの能力を見極め始めていた。

(体当たり直前で炎みたいなものが一瞬出たな? つまりそれがあいつの能力だろう? 炎系統の能力であるのは間違いないとしてどんなタイプの能力だ? 炎はどの程度まで操れるかな?)

 己に疑問を問いかけ、金剛は少しずつ解析していく。

(炎を出す時、呪文系も動作系も必要とせずに発動していた。無音無動作で出す技術があるのか、それとも元々必要としていない能力だったのか………? いや、イマジンの暴発を防ぐため、何よりイマジネーションを強固な物にするため、そう言った制約は必要不可欠なはず。だとすると前者か? ならば威力はどの程度だ? いくら技術があっても無音無動作では全力は出せまい)

 金剛はカグヤがノーモーションでは全力が出せないと判断し、超近接攻撃へと切り替える。ともかく距離を放さず拳や蹴りを叩き込む。イマジネーターになった事で自分でも驚愕する程に体力の余裕が見られる。持久戦で勝負がつく事はない。頑丈さには自信があるので能力でも使われない限りやられないと判断する。

(後は力付くに対応できるかどうか! 試させてもらうぜぇ~~~っ!!)

 周囲にあった机を、椅子を、その剛腕で蹴散らしていきながらカグヤへと迫っていく。防戦一方のカグヤはただ避ける事にのみ集中するしかない。

「どうしたっ!? なにもせん内に降参かぁ~~~っ!?」

「くそっ! 周囲への被害を考えない、なんて傍迷惑な奴だっ!?」

「お前の姉さんが言っとったろう? 『巻き込まれる方が悪い』となっ!!」

「なるほど。お前は正しい。もっと大げさに暴れろ!」

 周囲から、「納得すんなぁ~~~っ!!!」っと言うツッコミは来ない。突っ込んでる内に飛んできた椅子やら机やらに衝突して惨事(さんじ)になるからだ。

 

 

 机でバリケートを作っていた者達は、バリケート越しなら安心して戦いを観戦できると思っていたのだが、その目論見は大きく外れていた。次から次へと椅子と机がバリケートに衝突して来るので、危なくて顔が出せないのだ。

 バリケートを背にして、身を低くして飛んできた飛来物から身を守っていた叉多比(またたび)和樹(かずき)は、隣の黒髪天然パーマの少年弥高(やたか)満郎(みつろう)と共に、間隙(かんげき)の合間を縫って戦闘を観察していた。

「………なんだ? 妙だな?」

「な、なな、なにがだよ………!? いや、震えてねえよ! 全然変じゃねえよ!? 震えてなんてねえよっ!?」

 和樹の呟きに過剰な反応を示す満朗。その脚は、いっそ「わざとか?」っと問いかけたくなるほどブルっていた。目は完全に涙目で、肩も震えまくっている。貴重なイマジネーター同士の戦闘を観察していると言うより、完全に逃げるタイミングを逸してしまった一般人だ。

 誰であっても思わず一言突っ込みたくなるような姿に、和樹は内心苦笑するだけで抑え、良心的にスルーした。

「………気の所為かもしれないが、さっきから椅子や机の飛んでくる数がやたらと多く感じる。………それに、飛んできた椅子と机、………なぜか違和感がある」

「お、おう~~っ! そうだな………っ!! 俺も、そんな気がしていたっ!」

 明らかに調子が良い事を言っているようにしか見えないが、やはり和樹は良心的に話を合わせる。

「………そうか、さすがだな。………しかし、椅子や机に問題は無い。イマジンの反応も特になさそうだ? ………なら、なんだ………? この妙な違和感は………?」

「な、なんだよ~~? お前解らねえのか~~? まあ~~仕方ないっ! コイツは巧妙に仕組まれた罠だからなぁ~~~っ!!」

 突然、知ったかぶった態度を取る満朗に、純粋に受け取った和樹が意外そうな顔をする。

「………何か気付いたのか?」

「と、当然さ~~~っ! 俺にかかればこんな策、策とも言えないお遊びだね!」

「ほほう………? 一体何が仕組まれている………?」

「そ、それは………―――っ!? ま、まあ~~~っ! 慌てるな? まだ慌てる様な時間じゃない! ゆっくり観察して自分で考えてみると良い! 慌てなくてももう少ししたらすぐに答えが出る!」

 純粋に問いかけた和樹だったが、満朗の「必死にポーカ―フェイスしてますよ?」な慌てぶりにさすがに気付き、………結局良心的に対応した。

「………そうか、………まあ、そうだな」

 確かに言う通りではあるのだ。

 誰かに答えを聞かずとも、この違和感が意図して作られた物ならば、答えは待っていても向こうからやってくる。今は、それを安全圏からじっくり観察できる貴重な機会だ。大事に使わせてもらうとしよう。

「おいこらぁっ!? 本気で逃げてるだけかっ!?」

 突然の怒号。

 見れば金剛が痺れを切らしたように床を一踏みし、大きな亀裂を作っていた。衝撃により周囲に軽い風が撒き起こるが、金剛とカグヤが戦う範囲には、既に吹き飛ばせそうな物は無い。金剛一人で綺麗に掃除されてしまっていた。唯一残った椅子が一つだけ存在するが、そこには神威が背凭れの上に座って、脚を組み頬杖などをついて見守っていた。何故椅子がひっくり返らないのか、それ以前に戦いのど真ん中に居て何故無事なのか、(はなは)だ疑問だが、今は置いておく。

「いい加減、やる気があるなら戦わんかい! 無いならさっさと降伏しろやっ!? まさか本気で手も足も出んと抜かすわけじゃなかろうなぁ?」

 多少喋り方の変わった金剛の表情は、ヤクザ者の頭並みにドスが効いていた。

 そんなおっかない顔を前に、肩を竦めるだけの軽いリアクションを取るカグヤは、平然としていた。まるで「お前以上に怖い物を良く知ってる」と言わんばかりに。

 だが同時に、そのリアクションが呆れから来るものではないと知れる。

 カグヤが構えた。

 戦扇を開き、やや前傾姿勢で………。

 戦況が動く。誰もがそれを理解した。

 

 

 

 06

 

 

 

 カグヤの放った初手は、とてつもなく稚拙な不意打ちだった。

 自分が持っていた戦扇を、唯一の武器を、構えた状態のまま手首のスナップだけで飛ばす、成功しない奇襲。しかも手首だけの力だったため、攻撃はやや下方気味、腹部目がけて飛来してくる。

 カグヤが武器としていた戦扇と言うのは、鉄の板を紐で繋げ扇状にした暗器の一種で、先が鋭く尖らされている。当然、上手く投げれば人の肉を切り裂く事はできる。また刺す事も可能だろう。だが、致命傷にするのは無理だ。戦扇の利点は携帯の便利さと、広い面積を使った防御のし易さと言ったところだ。投げる武器としても使われない事もないが、はっきり言って、先を尖らせた竹手裏剣の方がまだ殺傷性が高い。目を狙って飛ばしたのならともかく雑な狙いの、意表を突くためだけの失敗奇襲は悪手でしかない。

 故に金剛はむしろ別の所に警戒した。これは囮で何かがあるのではないか?

 飛んできた戦扇を何もせず受けても扇の方が跳ね返るだけだが、金剛は煩わしげに剛腕一振り、真上へと払いのける。払いのけると言うたったそれだけの動作で、弾かれた戦扇は二階エントランス付きの食堂で通常の部屋より倍も高い天井に真直ぐ突き刺さった。

 その動作で出来た僅かな死角、金剛の払う腕の方向に合わせ、右斜め下方に飛び込んでいたカグヤ。右手に炎の迸りを纏わせ、拳を握る―――が、稚拙すぎる連続の奇襲に、金剛が惑わされる筈もなく、当然の様に体勢を入れ替えた金剛は、左の掌打(しょうだ)で打ち払う。

 カグヤの身体は撃ち抜かれたビリヤードの球の様に、空中を真直ぐ飛ばされ、和樹と満朗の隠れるバリケートまで飛んできた。

「ひょえっ!?」

 慌てて頭を引っ込めた満朗だが、その頭が何者かに、むんずっ、と掴まれ無理矢理引っ張り出される。

 

 ビタンッ!!

 

「ぎょえっ!?」

「わるい」

 壁とカグヤに挟まれた満朗が潰されたカエルの様な声を上げ、適当に謝ったカグヤは、そのままバリケートを背に、一時避難の体勢に入っている。

 その動作を観察した和樹は納得する。

 どうやら自分が此処に吹き飛ばされる事も想定済みだったようだ。一度バリケートに身を隠す為に移動したかったカグヤは、金剛の力を利用し後方へと飛ぶ。近くで観察していた観戦者を適当に捕まえ、壁に叩きつけられるダメージの緩衝材代わりに利用。そして、観戦者が作ったバリケートに避難、敵の様子を窺うと、そう言った流れだったらしい。

 不運にも“緩衝材”に使われた満朗には冥福を祈るばかりだ。

「し、死んでねえ………」

 

 

 バリケート越しにカグヤは金剛の気配を探る。九曜を屈服させるために戦った半年のおかげでイマジンの気配を第六感で感じ取る事が出来る。これだけがカグヤが他の新入生に対して持つアドバンテージだ。有効活用しない手は無い。

 こちらが吹き飛ばされる前に後ろに飛んだのは金剛にもしっかり伝わっていたはずだ。アレだけのパワータイプだと、吹き飛ばした者の感触などろくに感じ取れそうにも見えないが、攻撃が通じたかどうかくらいは意識していたはずだ。ましてやこちらが何か仕掛けようとしているのではないかと警戒している相手なばば当然とも言える。

 予想通り、金剛はバリケートに隠れるこちらに向かって突っ込んできている。待つと言う戦闘スタイルは彼には無いらしい。

(まったく、予想通りだな)

 だからカグヤはほくそ笑み、パチンッ、と指を鳴らす。

 

 

 攻撃を緩和したカグヤに追撃を掛けようとしていた金剛は見た。自分の頭の傍を、小さな火の粉がゆっくりと落ちてくるのを。

 それは人魂程度の小さな炎で、大した火力がある様には見えなかった。なんとなくではあるが、イマジンも大して含まれていないように思える。だから金剛は無視して突っ込もうとして―――、パチンッ、と指を鳴らす音が聞こえた。

 瞬間、素通りしようとしていた火の玉が突然爆発、発光。突然目を焼かれた金剛は思わず急ブレーキ、顔を庇うように両手を交差させる。ダメージは無い。ダメージを与えるほどの火力はやはりなかった。ただ火が弾けただけだ。そう悟るまでの数秒間、カグヤはそこを逃さない。

 

 

「かかったっ!!」

 金剛がブレーキを掛けた瞬間、立ち上がったカグヤは手の平に呼び出した炎を爆発させ、バリケートを金剛に向けて吹き飛ばした。

 

 ガツンッ!!

 

「んぐおっ!?」

 見事、バリケートに使われていた机が金剛の頭部にヒット。しかし、よろけるだけで大したダメージがあるようには見えない。

 そんな事は百も二百も承知だ。金剛がアクションを起こすより早く、カグヤは駆け出す。金剛の周囲を囲む様に出来上がっているバリケートを外側から走り、順番に爆発させて吹き飛ばしていく。

 

 

 金剛が一撃目の机の衝撃から復活すると同時に見たのは、己に向かって殺到してくる机や椅子の群れであった。まるで自分が散々吹き飛ばした椅子達が反撃に戻ってきたかのように四方からドンドン己へと殺到してくる。

(ん? “俺が吹き飛ばした”………!?)

 己の思考に引っかかりを覚えた金剛は、ハッとして気付く。

 何故カグヤは最初に逃げの一手を選び続けていたのか? アレは避ける事しかできなかったのではなく、そう思わせて既に一手を打っていた………?

(アイツめ………、ただアイツを追いかけて攻撃していた俺を上手く誘導し、周囲のバリケートに机や椅子をぶつけて集め、この攻撃に利用するための準備をしていたと言う事か………、こ癪だなっ!!!)

 

 ―――ドクンッ!

 

 金剛の心臓が強く脈打つ。急激に注がれた血が右腕に集まり、変質、肥大化を始める。

 鋼色に染まる巨躯の剛腕が、金剛の右腕に宿る。

剛腕鬼手(ごうわんきしゅ)!!」

 金剛は肥大化した右腕を振り回し、殺到してくる椅子や机を粉砕していく。

「それも織り込んでる―――っ!!」

 カグヤは金剛の対応を無視し爆発作業を続ける。安全圏に逃げていたつもりだった観戦者達は、カグヤによるバリケート破壊工作に真っ青になって逃げていく。

「おおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」

 咆哮を上げる金剛は、その剛腕で更に殺到してくる飛来物を粉砕していく。右腕一本だけとは言え、その攻撃力は尋常ではない。飛ばす物が無くなるまで全てを破壊しつくしてやると言わんばかりに次々と粉砕活動を続ける。だが―――、

 

 ガンッ!

 

「ぐむっ!?」

 椅子が肩にぶつかる。

 

 ボムンッ!

 

「むおっ!?」

 障害物に紛れ、左足に火の玉が命中、脚が僅かに崩れ、体勢が崩れる。

 

 ガンッ! ゴンッ! ガンッ!

 

 続けざまに幾つかの飛来物が命中する。

 数が多過ぎてさばききれなくなっていく。おまけに火の玉を感知し損ねている。

「埋まってろっ!!」

 三百六十度、金剛の周囲を回りきったカグヤは、最後のバリケートを吹き飛ばし―――、金剛は椅子と机の群れに埋まった。

 だが、僅かな静寂も待たずして、振動が椅子と机の山を揺るがし、火山の噴火の如く一気に爆発した。

「おおおおおおおおおぉぉぉぉーーーーっっっ!!! この程度で俺を倒せるとでも―――っ!?」

「思ってねえよっ!!」

 山に埋まっていた金剛が火山噴火を再現している所に、カグヤは右腕を突き出し、“召ぶ”。

「来いっ!! 『軻遇突智(カグヅチ)』」

 刹那に右腕から炎が弾け飛ぶ。その炎は金剛の周囲を掛け巡り、バリケートや飛来物に使われまくった椅子と机を燃やし、炭化させていく。

「炎!? 外したのか? ………いや」

 一瞬、金剛はカグヤの放つ炎を放出系の何かだと思った。カグヤの能力を炎を操る物だと認識していたため、そう勘違いしていた。だが、その認識が過ちだと悟る。

 炎は巨大な大蛇の姿となってカグヤを中心に蜷局(とぐろ)を巻き始め、次第に物質的な物へと変化する。

 それは蛇だ。炎を撒き散らし噴き出す巨大な蛇だ。六角柱の柱を幾つも繋げた多節根の様な身体に角を持つ大蛇だ。

 この時になってやっと金剛は悟った事だろう。カグヤの炎は“放出系”の能力ではない。“召喚系”の能力にて、力の一部を使用していたにすぎなかったのだと。

「焼き払えっ!!」

 命じるカグヤ。

 剛腕鬼手の右腕で対応しようと拳を握る金剛。

「ゴアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 雄叫びを上げ、カグヤの命に従い突貫してくる軻遇突智。

 六角柱の身体をガラガラと回し、関節部から炎を噴き出し、十メートルを超えるその巨体で金剛へと(あぎと)を向ける。

 金剛の剛腕鬼手が軻遇突智の角を掴む。(つるぎ)の様に鋭い角を片手で必死に掴むが、その抵抗など無い物とするかのように、軻遇突智の進軍を止める事が出来ない。軻遇突智は前進を続け、必死に角に捕まる金剛を追ってのた打ち回る。軻遇突智に触れた周囲が紅蓮の炎に焼かれ、食堂は一転、炎の世界へと変わっていく。

 片腕では不利と判断した金剛が左腕も肥大化させ、必死に軻遇突智へと対抗しようとするが、角を掴む腕もドンドン焼け焦がされていく。

(なんだこの炎はっ―――!? 先程受けた火の玉や爆発とは比べ物に―――!?)

 金剛は気付く。イマジンは想像の力であり、その想像は自分と他者の相互認識によって完成度を高めていく。故にイマジネーターの能力は名前が付けられ、時には能力発動の条件とされる。認識する事でより力を高める事が出来るのがイマジンなのだから。

 カグヤはこの能力を何と呼んだ? たしか『カグヅチ』だ。

 『カグヅチ』

 『軻遇突智』

 それは確か、日本で有名な火の神の名前ではなかったか?

 母である伊弉弥(イザナミ)を焼き殺し生まれ、父である伊弉諾(イザナギ)に殺されたとされる火の神。

 (なるほど………)っと、金剛は頷く。

(道理で強いわけだ………。曲りなりにも神を相手に、この程度の御遊びが通じるはずがなかったという事か………。相手が神では………仕方が無い)

 金剛は薄く笑い、………炎に呑まれた。

 

 

 床に叩きつけられ、軻遇突智の(あぎと)に捕らえられた金剛は、軻遇突智が噴き出す炎の中へと埋没した。

 誰の目にも金剛の敗北は明らかであり、呆然とその炎の偉大さに呆然とするしかない。

 和樹はその光景を眺めながら、イマジンの力の異常さを痛感していた。自分の得た能力もデタラメな物ではあったが、自分の能力はとある事情により前もって決定されていた物だ。それ故にイマジンで得た能力として実感していなかったのだが………。

(このレベルが当たり前だとしたら、俺の能力は“妥当”と言うレベルなのだろうな………)

 そんな苦笑を浮かべつつ、隣で腰を抜かしている満朗へと笑い掛ける。

「お前の言った通り、カグヤはわざと金剛に障害物を吹き飛ばさせ、攻撃の準備をさせていたんだな」

「えっ!? ええっ!? おっ、おおっ!! おお~~~っ! そ、その通りさ~~~! はっはっはっはっ!!」

 明らかに嘘から出た真状態だったのだが、和樹は温かい眼差しでスルーしていた。

 何はともあれ、これで決着。勝負内容は実に勉強になった。

 誰もが今後の対策の参考にしようと終了ムードを漂わせる。

「案外あっさりとした決着でしたわね~~? 京鹿子(きょうがのこ)の花の様な戦いでしたわ~~」

 試合内容に不満を持った(くすのき)(かえで)が退屈気味に『無益』と言う意味の花言葉を口にして立ち去ろうとしていると、それを呼び止める者がいた。

「そう思ってるのに途中で観戦止めて良いの?」

「え?」

 楓が呼び止めた相手へと視線を向けると、そこに金髪に赤目、120~130センチ位の小学生のような身長に、ズタズタに刻まれた学ラン。その下にはこれまたズタズタのカッターシャツを着込んだ少年が楽しそうに燃え上がる炎を見つめていた。

「アナタは?」

「初めまして。黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)、です!」

 ニカッ、と笑って見せた少年は、すぐに曲者じみた視線で楓を見上げながら、重要な事を伝える。

「まだ立会人の人が、試合終了してないのに、“終わりなの”?」

「!?」

 楓が気付き、目を見開いた瞬間、爆発が轟いた。

 

 

 

 07

 

 

 

 炎が吹き飛ばされた。それは予想していた。イマジネーターの実力は同学年であれば互角。いくら神の名でブーストしていても、相手が同じイマジネーターである以上必ず対抗手段を持っているはずだ。だから炎を弾き飛ばした事自体は意外ではなかった。

 それがまさか()()()()()()()()()()()()()()とは、さすがに予想外だった。

(軻遇突智は倒せないわけじゃない。イマジン体をイマジネーターが倒すなんてそんな珍しい事なんかじゃない。だけど、仮にも神格を有した相手を一発で消し飛ばしただと!? そんな事、『権能』のレベルじゃないと―――っ!?)

 フル回転で思考していたカグヤは驚愕に目を見開いた。

 爆発の勢いで消し飛んだ軻遇突智。彼が残した炎は周囲を業火で焼き尽くし、炎のフィールドが完成している。そのフィールドの中心を、まるで自分こそがこの世界の主であると言うかのように、ズンッ! と床を踏み抜く足並みで、()は一歩を踏み出す。

「まったく仕方ない(、、、、)………。神様を相手に本気を出さないなんて土台無理な話だよなァ?」

 ズンッ! とまた一歩。

 二階エントランスに至るまで、食堂全てを埋め尽くす業火を背に、金剛は歩み寄る。

 二倍に膨れ上がった鋼色の肉体、爛々と輝く赤の瞳、隆起した全身の筋肉は、腰回りのズボンを残し、全て破けて残っていない。頭部から伸びる二つの突起が、彼が何者であるかを如実に語っている。

 「はは………っ!」っと、カグヤの口から乾いた笑いが漏れた。

「単純な形態変化による肉体強化じゃないとは思っていたが………、なるほど、理解したよ………」

 刹那にカグヤの表情に笑みが消える。真剣その物の表情で金剛を睨みつけ、全神経を持って警戒態勢に入る。

 

「さぁいくぜェ!! 鬼の力みせてやるよォ!!」

 

 完全な鬼となった金剛が、地を踏み砕きながらカグヤへと迫る!

 振るわれる剛腕! それを横飛びに回避したカグヤは―――そのまま剛腕が放った風圧に殴られ、床に叩き付けられた。

 瞬時回転、片手を付いた状態で立ち上がる。強烈な立ちくらみとぼやける視界をポーカーフェイスと精神力で無理矢理ねじ伏せ、既にガクガクの足を内心で叱咤する。

(攻撃力が違い過ぎるだろうっ!? ろくに回避もできないとかどんだけだよっ!? 今の完全にイマジン関係無しの、ただの拳圧じゃねえかっ!?)

 歯噛みしながら金剛を睨む。金剛は待った無しで突進してくる。

 突如カグヤの視界がスローモーションに切り替わる。イマジネーターの脳は、迫りくる脅威に反応し、脳内伝達速度を急加速させ、高速思考が出来るようになる。連続的な使用は精神的な疲労が(かさ)み、多大な負荷となるのだが、今のカグヤにとっては気にしていられない。

(どうすればいいっ!? 情報が少な過ぎて対応策が―――!?)

 疑問の一言に、脳内が一つの方法を素早く検出するが、カグヤにはその方法が解らない。

(落ちつけ。“解らない”なんて事は無い。答えを出せる以上、俺は知っている。九曜と戦い半年、イマジン塾で訓練した半年………、答えは全てそこにある)

 カグヤは冷静に思考し、必要な情報を脳内で計算する。

 カグヤのステータス『術式演算能力300』が作用し、カグヤの思考速度を更に加速させる。

(思い出せ………、九曜から感じ取ったイマジンの存在を………。映し出せ………、偽りであろうとも構わない、俺が感じ取っている世界を、全て―――!)

 一度、目を閉じ集中、第六感を含める視覚以外の五感情報を脳内に保存、整理、最適化させ―――、

(―――視覚へ!!)

 目を見開き、全ての情報を視覚へと閲覧させる。

 金剛に対するカグヤが感じ取った全ての情報が視覚情報となって反映された。

 金剛の周りを覆う鋼色のオーラ、それに螺旋を描く様に纏う金色オーラが見えた。

 間違いない。今、カグヤの目に、金剛の鋼色のイマジンと、神格を有する黄金色の権能のオーラが視覚情報として閲覧されている。

 “見鬼(けんき)”。その名はまだカグヤも知らないが、イマジネーターが最初の授業で受ける事になる、最もポピュラーな初歩技術である。六感の全てを使い感じ取った情報を、全て視覚情報として脳内処理する事で、見えなかった物が見える様になったと誤認させているのだ。その情報量は、簡易的な未来予知まで可能にする者もいると言う。

「―――っ!!」

 『見鬼』で金剛の力を見極めたカグヤは、最小限の力でステップ。拳を躱し、続いて迫ってくる拳圧を両手で押さえる様にして受け止めながら、身体を背後へと逸らす。結果的に吹き飛ばされたカグヤだが、金剛が放とうとしていた二撃目から回避する事に成功する。

(ってか、あの図体とパワーで連撃出せるのかよっ!? マジもんの巨人とやり合ってるみたいじゃねえかっ!?)

 内心悪態を吐きながら、迫りくる金剛の攻撃を躱して行く。

 躱し方をミスれば一撃死する緊張の中、カグヤはなんとか拳を避け、一瞬遅れてやってくる風圧の衝撃波をいなす様にして躱す。

 だが、いくら『見鬼』を会得できたとは言え、それを未来予知にまで進化させられるのは極々一部の者だけだ。そして、残念ながらカグヤはその少数派ではない。金剛の繰り出す嵐の様な猛攻に追い詰められ、掠った一撃に薙がれ、吹き飛ばされてしまう。ただ掠っただけの一撃が、カグヤの身体を独楽の様に回転させ何度も床を叩き付けられて転がる。

 瞬時膝を付いて起き上ったカグヤは、それが出来た事に驚愕し、同時に身体全体に流れる痺れに苦悶する。

「さて? それが限界か? 案外あっけなかったのぅ?」

 カグヤの事を警戒してか、ゆっくりとした足取りで迫る鬼神。軻遇突智が作った炎を背に、強者として威風を見せて歩み寄る。

「………っ! ここまで徹底したパワータイプとはな? 正直驚いてるよ。ステータス化はしていないが、どうやらお前も神格を所持している様だな?」

 隠しきれない脂汗を額から流し、それでもカグヤは毅然(きぜん)とした表情で金剛の能力について語る。動かぬ身体の代わりに、言葉で戦おうとするかのように。

「鬼の属性に神格、その二つを両立させているのは『鬼神』と言われる属性だ。だが、お前は俺の軻遇突智を破る時、身体の一部を鬼化させた鬼化した腕(剛腕鬼手)ではなく、全身を鬼化させる物を選んでいた。それはつまり、今の状態でなければ神格を有する事が出来ないって事だな?」

「………だとしたら?」

 歩みを止めず、金剛が問い返す。カグヤは口の端を三日月の様に吊りあげて笑う。

「つまり、お前の能力は『鬼神』ではなく『鬼』としての属性が主流、“神格”はあくまで“疑似神格”。ならば、その能力には避けようのないリスクが存在するはずだ。そうでないのなら、神格のステータスを持たないお前が、神格同士の戦いで『軻遇突智()』を打ち破る事はできないんだからな」

 一瞬、金剛の歩みが止まる。しかしすぐに歩み直し金剛はもう一度問いかける。

「おうともよっ! 慧眼見事だ! だが、それが解ったところでなんだと言うのだ?」

「それが解れば充分だ。本物の神格でないのなら、発揮できる力には限界があり、また制限時間も決まっている」

 「ならば………」っとカグヤは続け、右の人差し指を立てて、金剛へと告げる。

「ステータスに上書き出来るタイプの変身能力じゃないなら、そいつは相当に堪えるだろうよ?」

 言ってカグヤは金剛の真上へと視線を動かす。

「?」

 その視線に誘導され、金剛が見上げた瞬間、べちゃりっ、と、粘液質の何かが顔へとかかり―――、

 

「ゴガアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!??」

 

 金剛の咆哮ともとれる悲鳴が食堂を震撼させた。

 

 

 

 08

 

 

 

 比喩ではない。空気の振動だけで一階食堂エリア全体が揺れているのだ。

 それほどの力を有していた存在が、悲鳴を上げている。一体何事かと観戦者達が目を凝らす。

 二階エントランスから見降ろしていた遊間(あすま)零時(れいじ)は、自分の観戦位置のおかげでそれを知る事が出来た。

「あいつ………! 天井に刺した戦扇を溶かしやがった………っ!?」

 驚愕に目を見開く零時の言葉を受け継ぐように、階段の影に隠れていたゆかりが楽しそうに笑う。

「そう、ここまで全てが東雲くんの計算した状況………。彼が勝つための道筋です」

「? 先生? それってどう言う事だ? カグヤは一体何をした?」

 小金井(こがねい)正純(まさずみ)は、ゆかりの言ってる事が解らず、問い返してしまう。それに答えたのは、階段の影から及び腰で戦況を見守っていた明菜理恵だった。

「始まった最初からカグヤは全部を計算して動いていたって事。金剛に暴れさせてバリケートって言う名の武器を用意しつつ、唯一の武器の戦扇を投げつけ、それを弾かせて天井に突き刺したのも攻撃の布石。軻遇突智を使って、炎によって天井に突き刺さってる戦扇を丸ごと溶かし、焼き鉄を金剛の顔に落としてやったんだよ」

「………はあっ!?」

 

 

「最初にバリケートで攻撃したのは、お前が物理攻撃に対してどれだけの耐久力を持っているか確かめるため。その頑丈さから打撃斬激では不利と判断し、軻遇突智を使って属性ダメージの耐久力を計った。だけど金剛? 生身で障害物の大群に押し潰されても、お前は平気な顔をしていたな? なのに軻遇突智の炎を受けた時は違った。お前の体はしっかりダメージを受けていた。だから属性ダメージに対する耐久値は無いと解り、軻遇突智の炎の一部を天井に突き刺さった戦扇に纏わせ待機させた。んで、お前が俺を警戒してゆっくり近づいて来てくれるタイミングを上手く利用し、その真下まで誘導した。戦扇に纏っていた炎の火力を一気に上げ、一瞬で溶かし、その顔面に焼き鉄を流し込んでやったのさ!」

「ぐ、ぐおおおぉぉぉ~~~~………っ!」

 カグヤの説明を聞いているのかいないのか、金剛は顔に手を当て、必死に焼けた鉄の液体を払おうとしている。だが、鉄は既に個体に固まっており、肉や皮に焼きついてしまっている。眼球にも流れ込んだのか、視界を見失った様によろよろとよろける。

 だが、それでも金剛は倒れない。膝一つ付く事無く、しっかりと二本の足で床を踏みしめ、なおも戦意を漲らせた瞳、焼けついた眼光で睨みあげる。

「これで………っ! これだけで勝ったつもりかっ!?」

「………鬼の属性には、当然鬼としての回復力も存在する。焼き鉄を顔面に掛けたくらいで倒せるなんて思ってねえよ。そいつは最初(はな)っから、時間稼ぎのための一手だ」

 そう漏らしたカグヤは、完全にダメージから回復した表情で立ち上がり、右手を翳した。

「もう一度来いっ! 『軻遇突智』!!」

 カグヤの右手から放たれた炎が食堂内を蹂躙し、幾つもの柱を、壁を粉砕し、六角柱の柱を繋げた巨大な角を持つ蛇となる。軻遇突智口から炎を噴き出し観戦者すら巻き込みかねない紅蓮の業火を撒き散らす。酸素量すら欠乏しそうな火の海の中、さすがに堪らなくなった生徒が数人逃げ出す。だが、逃げ出さずに未だ根性で観戦していた生徒達は疑問を抱いた。(カグヤの軻遇突智、なんで金剛を直接狙わないんだ?)っと。

 

 

「なんだ? どうしてこの絶好のチャンスに攻撃を仕掛けず無駄弾を撃っている? 満朗? お前何か―――」

 同じ疑問を抱いた和樹は隣にいたはずの満朗に声を掛けようとして、そこに誰もいない事に気付く。視線を食堂の外側、寮の外庭が見えるガラス張りの方へと移すと、この戦闘で全て破壊されたガラスを抜け、一目散に外へと走っている満朗の姿があった。

「おい? 満朗!?」

「うおおおおぉぉぉぉぉ~~~~っ!! 何してんだお前っ!? お前も早く逃げろ! そんなところいたらマジ命がいくつあっても足りねえぞ~~~~~っ!!?」

 強がりの鍍金(メッキ)も此処に来て崩れたか………。そう苦笑する和樹は、自分だけ観戦に戻る。

「まあ、俺も能力が違ったら、さすがに逃げてたかな?」

 そう呟きながら、彼は同時に驚嘆していた。

 あんな戦火の真っただ中で、未だに椅子の背凭れに座って余裕の表情でいる最上級生、東雲神威は、一体どれだけの実力を有していると言うのだろう? っと………、

 

 

「なんだ? なんでこのチャンスを活かさない?」

 同じく、疑問を抱いた正純は、ゆかりに回答を求めようと視線を送り―――同時に背を向けて一目散にげ出す理恵の姿を捉えた。

「ってええええぇぇぇぇ~~~~っ!? お前ここに来て逃亡かよ!?」

「アホっ! お前こそ早く外に逃げろ! マジでとんでもない事になるぞっ!!」

「はあ!?」

 意味が解らない正純は疑問の声を上げるしかない。

 これから何が始まるのか、それを理解しているらしいゆかりは―――、

「あらまあぁ? 東雲くん、手加減とか周囲への被害とか、そんなん全く気にしはらへんのやねぇ~? 困った事してくれたわぁ~~」

 ―――まったく困って無いニコニコ顔で呟いていた。

「でも、東雲さん(、、)も、被害とかまったく無関心やろうしなぁ? 新入生にはちょっと先生から手助けしたあげんとなぁ~~………」

 そう呟いたゆかりは、口元で人差し指を立てながら、内緒話をする様に呟く。

「空間B、範囲一年生寮全体。対象、新入生全員」

 ゆかりが呟いている途中、突然振動が伝わってきた。正純は、ゆかりが何かしたのかと思ったが、彼女はまだ何事か呟いているだけだ。それに揺れているのはどうやら建物全体らしい。だが何故建物が揺れている? 金剛がまた叫んだ訳でもあるまいし………。

 そこまで考えてやっと彼は気付いた。気付いて頭から血の気は引いて行く思いがした。

「おい、まさか………!?」

 そのまさかを肯定する様に、カグヤの声が飛んで聞こえる。

 

「よおォ、金剛? いくらお前が頑丈っつっても、徹底的に焼かれた熱を帯びたコンクリートに、しかも四十階相当する建物に踏み潰されても、お前の体は原形を保っていられのかい?」

 

 それは、つまり………、一階を支える建物の柱を、軻遇突智によって全て破壊し、この学生寮を壊して金剛を生き埋めにすると言い出したと言う事。

「なに―――っ!? 考えてんだっ!? アイツッ!?」

 そんな事をしてしまったら、非常識な能力を持つ上級生はともかく、何も知らない新入生は間違いなく大勢犠牲になる。そんなの思いついてもできるわけがない。そんな事を実行するなんて正気の沙汰じゃない。

「………くそっ!」

 今更になって理恵が一目散に逃げ出した理由を悟った正純は、慌ててカグヤを止めようとした。沢山の人を巻き込むこんな戦い方、許されていいはずが無い。

 だが、彼が一歩踏み出すより早く、その致命的な音は聞こえてきた。

 全ての柱が崩れ、寮全体が軋み、崩れ始めた例えようのない嫌な音を―――。

「当該対象全員を寮の外へと移動。さあ、『世界を動かしましょう』」

 ゆかりの声を最後に、正純の視界は暗転した。

 

 

 

 09

 

 

 

 カグヤが立てたこの作戦には、たった一つだけ穴がある。それは、軻遇突智を使用できる範囲がおよそ五十メートル以内だと言う事だ。九曜のように完全に自立した自我を与えられていない軻遇突智は、カグヤの意思から外れると、好き勝手に暴れてしまう場合があるのだ。そのため、カグヤはこの作戦で柱を壊す為には、自分も危険な室内に残らなければならなかった。当然、カグヤも生き埋めになる。

「さて………、逃げるのは今更無理だし………、どう生還するか?」

 とりあえず軻遇突智を使って無理矢理抜け出すしかないと理解しつつも、それが出来るのかどうか多少なり不安が過ぎっていた。

 まあ、やるしかない。そう心を改め、軻遇突智を操作しようとした時、何の命令も送っていないと言うのに、軻遇突智がカグヤを中心に蜷局を巻いた。まるで主を守る様にした動作に驚いていると、頭上から軻遇突智が頭を突き出してきた。

 

『じっとしててね』

 

「………へ?」

 突然聞こえた声に戸惑っている内に、カグヤは軻遇突智にぱくりと………食べられた。

 そして崩れた瓦礫が彼等を纏めて呑み込んだ。

 

 

 後に残ったのは瓦礫の山である。四十階を誇る巨大建造物であった学生寮は、見るも無残な瓦礫へと変質していた。

 これからこの学生寮を仮の住まいとし、同居人と共に学生生活を送る筈だった寮が、よもや入学日当日に粉砕されるなどと、一体誰が想像できたと言うのだろうか?

 何処か学者然とした雰囲気を纏う、可愛いらしい顔をした黒瀬(くろせ)光希(みつき)は、この惨状に思わずこぼさずにはいられなかった。

「こんな戦い方………、許して良いのか………?」

 イマジネーションスクールが戦闘を推奨する学園だとは知っていた。だが、それでも、破壊と戦闘は違う。これはただの破壊と一体何が違うと言うのだろうか? そんな疑問が、彼の胸中に怒りとさえなって浮かび上がっていた。

 多くの者はただこの状況に呆然としているしか無く、何が起こったのか理解できていない様子でさえあった。中には、何故自分がこんな所にいるのか解っていないらしい者もちらほらといた。

 

 ドガンッ!!

 

 そんな爆発にも似た音が響いたのは突然だった。

 瓦礫の中から炎を纏った角を持つ大蛇が現れ、地面に頭を近づけると口を開く。中から出てきたのは汗びっしょりの姿で転がり出てきたカグヤだった。

「あ、熱い………っ! お前の中熱過ぎ………! ってか本気で食われたのかと思ったぞ………!」

 カグヤの創り出した軻遇突智は、カグヤのイメージに補正され角を持つ大蛇の姿を模っている。それはつまり、蛇としての特性を持っている事と同義だ。故に軻遇突智は口の中に主を庇い、自分は一度土の中に潜る事で降ってくる瓦礫の衝撃から逃れ、収まったところで再び地上に出てくる事で、難を逃れたのだ。

(でも、俺命令してないんだけど? なんでこいつそんな事が出来るって自分で知ってたんだ? これじゃあ、まるで九曜と同じく自我を持ってるみたいじゃないか?)

 そんな設定はしていなかったはずだと首を傾げながら、カグヤは改めて自分の起こした惨状を確認する。

「………」

 それに対する感想は、無言だった。特に述べる感想は無い。全て予想通りの光景だと言わんばかりの不遜な姿に、誰もが嫌悪の視線を向ける。コイツの所為で学生寮を、これから住む筈だった家を破壊された。その怒りが新入生達の胸に灯り始める。

 嫌悪の眼差しを一身に受けながら、しかしカグヤは無視して周囲へと視線を散らす。そこにお目当ての義姉の姿を見つけ、彼はしばらく彼女を見つめる。最初に決闘開始を宣言した時と同じ、椅子の背凭れに座って脚を組んでいる義姉に驚愕する事もなく、彼はしばらく何かを確認する様に視線を向け続ける。

「………っ! カグヤ! お前………っ!?」

 ついに我慢できなくなった和樹が叫び、カグヤに掴みかかろうと一歩を踏み出した瞬間―――鋭すぎる殺気が彼を射抜き、一瞬で怒りを蒸発させられた。心臓に冷たい氷の槍を突き刺されたのではないかと言う、“恐怖を通り越した感情に”、彼は釘付けになって動けなくなってしまう。辛うじて視線だけを動かし、殺気を放つ物の正体を確認する。それが東雲神威だと知った瞬間、和樹の胸中に悔しささえ湧き上がってきた。

 “最強”を盾にされて脚が竦んでいる。それが悔しい。だが、もっと悔しいのは、その“最強”を盾にしているカグヤが好き放題していると言う事が許せない。許せないのに何もできない自分が、とてつもなく悔しかった。

 歯噛みし、僅かに涙さえ浮かべそうになった時、誰かに肩を優しく抱かれた。

「ダメやよ~~? 決闘中に外野が乱入するんわぁ~~?」

 半透明な大正時代の格好をした女教師、吉備津ゆかりが、和樹の事を優しく窘める。

「決闘………()………?」

 聞き逃せない一文字に気付き、彼は思わず訊き返し―――再び爆発が起こった。

 

 

 

「………正直に言うぞ? 化け物かよ?」

「鬼が化け物で無かったらなんだと言うのだ?」

 瓦礫を粉砕し、鋼の巨躯を持つ双角(そうかく)の鬼が、その身体にいくつもの火傷を作りながらも、四十階相当の建造物に押しつぶされた被害から生還して見せたのだ。骨の一つも折る事無く。

 既に身体に残ったやけども治癒し始めている事実を確認しつつ、カグヤは溜息を吐いて後ろ頭を掻いた。

「生還する可能性を考慮してなかったわけじゃねえけど………、火傷以外は完全無傷かよ? 物理効果を無効化する様な能力でも持ってんじゃねえのか?」

「いや、さすがの俺の耐久力でも無傷とはいかんかったさ………。正直もう走り回ったりはできそうにない………がな?」

 金剛はニタリと笑い、仁王立ちの構え(、、)を取った。

「此処まで来てやめるなどと言うなよ? 俺にもお前の能力がだいぶ見えてきた。お前はその炎蛇をいくらでも呼べるようだが、一度に呼べるのは一体のみで、再度呼び出すのに三分以上のインターバルが必要なのだろう? そうでなければもっとそいつを呼び出し複数で攻めた方が有効だ。俺が焼き鉄を顔に被ってる時も、蛇を呼べば良かったのに自分の回復をわざわざ待っていた。つまり、俺がそいつを消し去れば、お前は文字通り無防備になるって事だ? なら俺にもまだ逆転の可能性が残っているよなぁ?」

 言われカグヤは押し黙る。否定してやるのは簡単だったし、はぐらかしても良かったのだが、そんな事が無駄だと納得出来た。金剛もまた、単調な攻撃を仕掛けているだけの様に見えて、しっかりと観察していた。決してイノシシなどではなくだ。

 再びカグヤは、肯定の意味を込めて盛大に大きな溜息を吐いた。

「まったくよう~~? こっちは九曜無しの縛りプレイでやってんだぞ? だからこそ思い付いた手段の中で最も攻撃力のありそうな手段を選んだのによぅ? ………はぁ」

 また小さく溜息を吐き、刹那に真剣な眼差しを金剛に向ける。

「金剛。お前が勝てると思ったのは、俺の軻遇突智をもう一度消し飛ばせれば俺が無防備になるから………そう言う事だったよな?」

「何か違うか?」

「さあ? 自分で判断しろよ」

 鋭く告げたカグヤは、右手を翳し、隣に立つ軻遇突智の頭を軽く触れて―――変えた。

神実(かんざね)―――『軻遇突智』」

 軻遇突智が激しく燃え上がり弾け飛ぶ。炎はカグヤの手に吸い込まれるように集束し、長い一つの棒となる。否、それはただの棒ではない。先端に軻遇突智の身体の一つとなっていた六角柱の柱が小さくなって横向きに接続されている。その形は誰が見ても一瞬で形容できるしかし槍のように持ち手の長い“(つち)”だった。

「神格武装―――神を武器化する。これが俺の奥の手だ」

 そう、それは武器だ。カグヤが自ら振るう武器だ。攻撃を当て易かった巨大な炎蛇ではなく、カグヤが振るう武器となった軻遇突智は、金剛の唯一の勝機、無防備になったカグヤに襲い掛かると言う選択肢を排除した。

 もしあの炎の槌が、軻遇突智の攻撃力と同じだと言うのなら、属性攻撃に弱い金剛には圧倒的に不利な状況だ。だが、それを理解した瞬間、むしろ金剛は盛大に笑い声を放った。

「アーーッハッハッハッハッハッハッハッ!!! 喜悦(きえつ)ッ!! これほど痛快な事があろうかよぉっ!? この俺と殴り合いをするつもりかっ!?」

「言っただろう? “考慮してなかったわけじゃねえ”って………。ちゃんと考えていたさ。お前がこれでも這い上がってくるようなら、その時は―――トコトン相手してやるしかないってなぁッッ!!」

 宣言し、カグヤ自ら飛び出し、先制の一撃を、炎の槌の一撃を、金剛の側頭部へと叩きつける。同時に上がる爆発と高熱に焼かれ、金剛の身体がぐらりと(かし)ぐ。だがそれだけだ。すぐに傾いだ頭を戻し、金剛は一歩前へと踏み出す。カグヤは金剛の一撃を注意しつつ何度も槌を振るい爆炎を浴びせていく。

 猛攻を仕掛けるカグヤと、それに耐える金剛。まるで、最初の二人の戦いが入れ替わったかのような光景に、一同は呆気にとられるしかない。

 金剛は歩みを止めない。たった一撃、必殺の一撃を放つチャンスを探り、止める事の無い歩みを続ける。カグヤは猛攻を止めない。一撃を放たせる事無く、金剛が膝を付くまで我武者羅に槌を振るい続ける。

 止まらない。止まらない。猛攻も歩みも、どちらも止まる気配を見せない。

 だが、観戦していた者達は驚愕せざる終えなかった。

 金剛は見た目よりもダメージが大きい。カグヤの攻撃も金剛の残りの体力奪うに申し分のない威力だ。だと言うのに、金剛は歩みを止めない。金剛が歩み続ける故に、カグヤは猛攻をしかけながらも退がるしかない。攻撃を仕掛けるカグヤより、攻撃に耐えている金剛の方がカグヤを追い詰めている。誰の目にもそう映った。だからこそ、誰もが問いかけずにはいられなかった。「あれが、鬼なのか………?」っと。

 いくら攻撃を受けようと、金剛は歩みを止めない。それを正面から迫り来られれば、要塞がそのまま迫ってきているかのようで、さすがのカグヤも焦燥を感じずにはいられなかった。

 そして重なる疲労。元々体力に自信の無いカグヤは、それでも金剛を倒す為に近接戦を演じ続けるしかない。それ故に重なった疲労が、ついに足に来た。

 

 ガクッ!

 

「………ッ!?」

 瓦礫の欠片に足を取られ、カグヤの身体が大きく傾ぐ。

「オオ………ッ!!」

 その隙を逃さず体当たりしてきた金剛を―――、

「なめるなっ!!」

 不安定な状況で無理矢理振り抜いた槌で、足を払う。膝裏を爆発で突かれ、さすがに膝を付いた金剛。

 素早く片手を地面に付いて瞬転、金剛の背後に回り込み、彼の後頭部を六角柱の柱の無い方、棒の先端で突き込み、金剛を気絶させようとする。

 だが、金剛も耐える。爆発が無い分、打撃のダメージを堪える事が出来た。

 カグヤが飛ぶ。大きく上段に振るいあげた槌に、彼はありったけの力を流し込む。

 カグヤのステータス『霊力85』が神格武装の槌へと流しこまれ、槌を巨大化させた。

 流された霊力に比例しドンドン巨大化していく槌は、軻遇突智の頭を大きく超える巨大さへと変貌した。

「ぶっ倒れろぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」

 振り降ろされた大槌が強力な爆発と共に、巨大な火柱を轟かせ―――、

 

 ガシリッ!!

 

 ―――っと、カグヤの足が掴まれ逆さ吊りにされた。

「っ!?」

 見れば未だ強烈な高熱の火柱が上がる中、金剛が身体中を焼きつけられながら、それでも執念で伸ばした(かいな)が、ついにカグヤを捕らえていたのだ。

「取った………っ! ぞ………っ!?」

 執念に燃える目がカグヤを突き刺す。

 もう一度槌を振るおうとしたカグヤだが、その槌を、金剛はあろう事に噛みついて止めたのだ。鬼属性により、確かに彼には鋭い牙も、強靭な顎も存在している。だが、炎を纏った槌に噛みつけば顔も口内も忽ち焼かれてしまうと言うのに、それでも金剛は噛み付き、そして噛み砕いて見せた。

 己の持つ疑似神格で、カグヤの神格武装を噛み砕いたのだ。

 

「オオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 勝利への雄叫びを上げ、業火を振り払い、金剛は拳を振るう。無防備になったカグヤ目がけ、反撃の隙を与える事無く最後の一撃を見舞う!!

 

 

 

 10

 

 

 

(認めるしかない………っ!)

 迫る拳を前に、カグヤは痛感した。

(諦めるしかない………っ!)

 イマジネーターとしての才能の全てを総動員して、その結論に至る。

(コイツは本当に強かった………っ!)

 現実を前に、それでも悔しさからカグヤは奥歯を強く噛み締めた。

(いつか………! いつか必ずこの借りは返すっ!!)

 屈辱に涙さえ出そうなのを我慢し、それでもカグヤは全てを受け入れ、認めたくない事実を受け止める。

「認めてやるよ………、金剛………ッ!」

 拳が迫る。

 最早、回避も、防御も、軽減も、反撃も、撃てる手は一切に無い。

 だからカグヤは………諦めて目を瞑る。

 

「オオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 金剛の拳が、振り抜かれた。

 

 シャアァァンッ!!

 

 果たして、それを音として認識できたものは何人いただろうか? そう疑問を浮かべたくなるほどに澄んだ音が通り過ぎ―――鬼の(かいな)が切り落とされた。

 巨大建造物に押し潰されても傷一つ付かなかった頑丈な鬼の腕が、バッサリと、一刀両断に切り裂かれ、拳は空を切り、カグヤは消え去った。

 拳による衝撃波が瓦礫を吹き飛ばし、地面を抉ったような道を百メートルも作った券圧。もしもカグヤがまともに受けていたなら、肉片すら残っていたか疑問に思える様な惨劇が広がる。

 それを起こした金剛は、渾身の一撃を外したにも拘らず、ショックを受けた顔も見せず、落ちた己の左腕を拾い、傷口同士をひっつける。

「鬼の逸話の中には、侍に落とされた腕を取り戻し、再び己にくっ付けたと言うのがある。俺も、ステータスに『鬼200』を持っているおかげで、身体が切り落とされても、斬り落とされた片割れが残っていればくっつける事が出来る。この生命力と回復能力が鬼の奥の手と言ったところだろうな」

 言って左腕をくっ付けた金剛は、開いたり閉じたりを繰り返し、調子を確かめてから振り返る。

「それで? お前は一体どんな物を持っていたら俺を斬る事が出来るって言うんだ?」

 怒り、っと言うよりはむしろ喜悦に満ちた表情で、金剛はご満悦の笑みを向けて、その()()()()()()()に向けて言い放つ。

 主の肩を支える様に抱き、地面に片膝を付いた黒い少女、カグヤの僕、九曜は片手に構えた赤黒い剣を構え、金剛を強く睨み据える。

 何も語らぬ九曜に変わり、苦渋に満ちた表情のカグヤが絞り出す様に言う。

「認めてやるよ、金剛。お前は俺が想像していた以上に強い。負ける訳に行かない以上、俺も全てを晒してでも………勝つっ!!」

 立ち上がったカグヤは左手を翳し、己が最も信頼する僕に対し命令する。

「やれっ! 九曜!」

「我が君の仰せのままにっ!!」

 駿足、

 カグヤの命が告げられた瞬間には、既に九曜は金剛の眼前へと迫り、刃を振り被っていた。

 咄嗟に金剛が腕を交差して攻撃を受け止めようとするが、圧倒的に遅い。金剛が手を交差した時には、既に七つの閃光が金剛の身体を切り裂き、更に防御した上から九つの斬激が縦横無尽に叩き込まれる、合計十八の斬激、その全てが、あの物理耐久値を高く誇る金剛の身体を悉く切り裂いて行く。

「お………っ! おお………っ! おおおおおおぉぉぉぉぉ………っ!!!」

 守りきれないと悟り、反撃に出ようとした金剛の剛腕鬼手を素早く躱し、間隙を縫って閃く斬閃(ざんせん)。持ち前の回復能力で瞬時に癒えていく鬼の身体に、無数の痛々しい傷が残り始める。回復が追い付かぬほどに増えていく傷痕に、金剛のスタミナは容赦なく削り取られていく。

(この速度に俺の身を削れるだけの攻撃力………! おまけに今の俺の体力では………!)

 勝てない。そう悟るしかない。

 軻遇突智とは違い、この九曜は桁違いの戦闘能力を有している。全快の状態だったならともかく、軻遇突智の神格武装で痛みつけられた後の今の体では対抗しようがない。

 それでも! それでも………っ! っと、金剛は口の端を吊り上げ笑む。

 これほどの戦いを前にして、ただ諦めるなどと言う選択肢などあっていいはずがない。ここまで来たのなら、この戦いを余すことなく全て食い尽くさねば勿体無いと言う物だ。

「これほどの戦いを前に………っ!!! 途中で終われるものかよ~~~~~っっっ!!!」

 叫んだ金剛が拳を放つ。余裕で躱した九曜は左の刃を金剛の右肩に突き刺し、刃を残したまま、今度は右の刃で金剛の右肩を前から突き刺す。右肩を前後から突き刺されながらも右腕で振り払おうとするが、軽くしゃがんで躱した九曜は腰に差していた黒い板を両手に一本ずつ引き抜くと、そこから赤黒い刃を呼び出し、交差する様に金剛の腰を切り裂く。

「ぐ、ぐお、お、お………っ!!」

 それでも一歩も退く事無く、左の腕を振り降ろす。

 九曜は手に持つ二本の刃を消失させ、残った柄を空中に軽く投げながら、金剛の左腕を躱し、そのついでに金剛の右肩に刺さっている剣を引き抜き、その刃で左腕を斬りつける。

 奔る激痛を無視して右腕で九曜を捕らえようとするが、逆に、金剛の右腕を踏み台にして彼の頭上をくるりっ、と回転しながら飛び越えた九曜は、残った刃を金剛から引き抜きつつ、二本の刃で彼の背中を斬り付け、ついに膝を付かせた。

 刃を仕舞い、柄を腰に収めた九曜は、落ちてきた柄を寮の手にキャッチし、再び二刀を構え金剛を見下ろす。

 

 圧倒―――。

 

 その二文字が金剛に圧し掛かる。だが、彼の顔に浮かぶのは喜悦。この上ない喜び。戦いその物を貪る様に、彼は笑い、笑い、笑い………、そして笑う。

 最早動かぬ敗北。その敗北に挑む愉悦に、彼は高鳴る興奮を抑えられない。圧倒的な敵へと挑む喜びが、身体中の血を沸騰させていく。

 故に彼は傷だらけの身体から血を噴き出しながらも、己を見下ろす強敵へと手を伸ばす。

「オガアアアアァァァァァッ!!」

 本物の鬼が如く伸ばされた(かいな)。それを斬り落とそうと九曜が一刀を振るい―――、軌道を変えた金剛の腕が、赤黒い刃を無理矢理掴み取った。

「―――ッ!?」

 素早く刃を引いた九曜。切り裂かれた金剛の手から鮮血が迸る。

 危機感を感じ取った九曜が飛び退き、主の元まで退く。

 斬られた手を見つめた金剛は、心底うれしそうな笑みで、暴く(、、)

「水か………」

「「―――っ!?」」

 同時に表情を強張らせる主従に向け、金剛は確信的表情で続ける。

「光りの様に見えた刃の正体は、“水”だな? 赤黒く変色した水を音速にも等しい速度でチェーンソーの様に流動させつつ、刃の形状に完全に固定する事で、この驚異的な切れ味の刃を創り出したと言う事か………。なるほど。属性攻撃()が相手では、この身体の物理耐久も意味をなさないな。………だが、そうなると、そいつの正体は水を完全に近い形で操れる存在でなければならない筈? カグヤは先程使った軻遇突智から考えるに、完全なオリジナルから精製している物ではないな。既存の存在をモチーフにされているのだとすれば………、なるほどそいつの正体は水を司る日本の神だな」

 

((バレた………っ!))

 

 カグヤと九曜の表情が更に険しくなる。

 カグヤにしてみれば痛恨事だ。自分が最も頼りにしている主戦力の正体を看破されようとしているのだ。さすがに九曜のその全てを暴かれる心配はないはずだが、それでも『水神』である所をこんなにも早く、ましてや多くの観戦者が居る中で暴かれたのは計算外だ。

「………いや」

 (かぶり)を振るカグヤ。

 計算外?

 これくらいは予想しておくべきだった。

 イマスクのレベルは、義姉から聞き及び、それなりに知っているつもりだった。その認識の甘さが、この失態だ。

(実際に自分で体験してもいないような内容を“知っている”と思い込んだ己のミス。むしろこんなにも早い段階で悟れたて幸いだったと思うべきだ)

 カグヤは一度義姉を見る。この決闘を誘発させた義姉。きっと彼女はこれを自分に解らせるために自分を誘導したのだ。そう判断して小さく、そして優しい笑みを浮かべ―――その表情が一変する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「九曜」

「はい」

 カグヤに呼ばれた九曜が、構えを解いて彼の傍らに(はべ)る。

「金剛、お前は本当にすごいな? アアすごいよ。お前が強敵だって事をこの上なく認めてやる。九曜の正体を『水神』と見抜いた辺りなんか、もう手放しで絶賛するしかないほどだ………。けどな………」

 愚者が笑う。

 強敵たる鬼を前に、己より優れたる種と認めた相手に、己を愚者と認めた上で―――心底見下した視線を向けて笑う。

「だからお前はここで負ける」

 九曜とカグヤが互いに手を取り合う。

「九曜を『水神』と見抜いた御褒美だ。教えてやるよ。………コイツの神名(かみな)を―――」

 そして彼は、告げる。

神実(かんざね)―――『闇御津羽(クラミツハ)』!!」

 

 バンッ!

 

 九曜の背中が弾け、四対の黒い影の様な翼が出現する。それは流動し、九曜自身を包み込むと、忽ちその身体を変質させ、カグヤの手に一振りの日本刀となって再び姿を晒す。黒い刃に深紅の線を引かれた青い柄紐に包まれた一振りの日本刀。それが九曜―――否、闇御津羽の神格武装となった姿だった。

「刀………だと?」

 金剛は困惑する。

 何故、闇御津羽が刀だ? 闇御津羽は日本神話における水の神であると言うのは金剛の知識にもある。姿が女性であるところから女神と推測すれば罔象女神(みつはのめのかみ)のベースを交えているのかもしれない、くらいの予想は付いた。だが、どうして彼女の神格武装が刀なのだろうか?

 軻遇突智の神格武装は火の槌だった。アレは軻遇突智を火倶槌(かぐづち)と言い表わした時のイメージを利用したのではないかと推測できた。ならば、闇御津羽にも同様のイメージに引っ張られる何らかの由来がある筈だ。それは、九曜の正体に直結していると言っても良いはずだ。

 ならばなぜ刀だ? 彼女の姿が刀である理由とはなんだ?

 金剛の疑問はカグヤが剣を構えた事で中断され―――、斬られた。

「―――?」

 驚愕を通り越し疑問だけが脳裏をよぎる。自分は今、何故斬られた? 切った相手はカグヤだ。それは解る。だが、カグヤはそこまで速く動く事は出来なかったはずだ。神格武装を持つ事で速度が強化されたのか? ならばなぜ軻遇突智を使っていた時は速度が強化されなかった? いや待て―――、この速度には見覚えが………!

 っと、そこまで考えた末に思い出す。この速度は先程まで自分を切り刻んでいた九曜の速度ではないかと。

(神格武装は、イマジン体を武器にするだけでなく、その力の一部を恩恵として手に入れられると言う事か? ………っと、これ以上はさすがにまずいか………)

 体が傾ぎ膝を付く。全身に残った傷跡が回復しなくなり、見るも無残な姿を晒す。もう一撃受け止められるか解らない。これ以上は戦う力が残っていない。

「ならぁっ!! 残りの一撃に全ての力を尽くすのみだぁっ!!」

 瞬時に立ち上がり、自分の後ろに抜けていたカグヤに向かい、金剛は一気に肉薄する。鬼神としての全ての力を使い、彼は神速に迫る勢いを得る。

 刀を下段に構えるカグヤ。その瞳は、金剛の一切を見逃す事無く捉え、カウンターの一撃を叩き込む。

「ゴアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッッ!!!」

 二人の雄叫びが重なり、金剛の剛腕鬼手とカグヤの神格武装が交差する。

 闇御津羽の刃は、鬼神の腕と衝突し、互いの神格を削り合う事で己の損害を回避しようとする。しかし、カグヤには『神格70』のステータスが存在し、闇御津羽もまた神としての存在を持っている。金剛の『鬼神化』はあくまで能力による疑似神格。『鬼200』のステータスを有していても、それは決して神ではない。故に神格のぶつかり合いとなれば、金剛の疑似神格は打ち破られてしまう。

 拮抗を崩され、闇御津羽の刃が金剛の剛腕鬼手を真一文字に切り裂いて行く。肉も骨も疑似神格すらも切り裂いて、金剛の腕を両断していく。

 そのまま金剛を切り裂こうと刃を進めたカグヤは―――しかし、突然の手応えに刃の前進が阻まれる。

「―――ッ!?」

 カグヤは眼を見開き驚愕する。金剛の腕を切り裂いていた刃が、肘の辺りで完全に動きを止められていた。その理由を彼の動体視力と観察眼が瞬時に見極め、『驚愕』の感情を引き出していたのだ。

 金剛は、刃が肘のあたりまで進んだ時、筋肉を膨張させ、その圧迫で刃を挟み込みつつ、関節部の骨の隙間に入ったタイミングで腕を無理矢理捩じり、刃を骨の間で挟み込んだのだ。

 例え鬼化しているとは言え、その激痛は尋常ならざる物であるはずだ。そんな方法、思い付いても普通はできない。試みようとしても、途中で痛みに挫折する。イマジネーターである事など関係無い。そんな方法は“できない筈だ”。

 だが、金剛はやった。やって見せた。そして、圧倒的な敗北状況に於いて、彼は勝機を掴んだ。

 金剛の右腕がカグヤの肩を掴む。その腕一本で小柄なカグヤの全身を掴めてしまいそうな巨大な腕が、しっかりとカグヤを捕まえる。

「くそ………っ!!」

 慌ててカグヤは刃を返し、刃を振り上げて金剛の右腕を切り落とす。だが、その頃には既にカグヤの全身を金剛の腕が捕まえていた。

 カグヤは金剛の首を狙い剣を振るおうとするが、それが実行されるより早く、金剛はカグヤの首目がけ(あぎと)を開く。

 

 ガブリッ!!

 

 金剛の牙がカグヤの肩口から首元目がけ突きたてられる。必死に首を振って躱そうとしたカグヤだが、捕獲された状態では完全に躱す事はできなかった。何とか喉元は避けたが、それでも金剛の牙は、鬼化した鋭い牙は、しっかりと彼の頸動脈を突き破っていた。

 もしこれが『吸血鬼』の類であったなら、まだカグヤには抗い様があった。『吸血鬼』の牙は確かに鋭いが、血を飲む事が優先される彼等の顎は、それほど強靭では無いからだ。しかし、金剛は紛れもなく鬼。人の血肉を食い荒らし、骨すら噛み砕ける強靭な顎を持つ種族。おまけに肥大化し、一トン近い体重になった金剛はカグヤに覆いかぶさる様にして地面に叩きつけ、脱出、抵抗、それらの全てを奪い尽くす。

 地面に叩き付けられた衝撃で、剣をとばなしてしまったカグヤ。闇御津羽の剣が宙を舞い、カグヤの手から遠く頭上に離れていく。

 カグヤの目が見開かれ、強過ぎる激痛に声にできない叫びが喉に詰まる。自由な右手で金剛の角を掴むが、それすら本能的な行動でしかなく、痛みから硬直し、ただ強く握っただけだ。

 金剛はついに掴んだ最後の勝機を逃す事無く、一気にカグヤの肩部分の肉と骨を―――噛み千切った。

 

 ブチィッ!!

 

 残酷な光景に静かに響く生々しい音。一気に噴出される鮮血。

 

「あ………、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!!????」

 

 それは叫びではない。完全な悲鳴。その痛みだけでショック死してしまうのではないかと言う致死の激痛。カグヤの頭は完全にショート状態にあり、スパークする真っ白な思考で埋め尽くされる。

 堪える事すらできない涙と、口の端から漏れ出る唾液を、みっともなく上げながら、彼は淀んで行く思考の中で、暗がりに意識を落としていく。

 ぼやけ行く視界の中で、金剛が血みどろの口を悦に歪めながら、宣言する。

「俺の勝ちだ―――」

 

 ズドンッ!!

 

「ばバァ―――ッ、………?」

 金剛が口から大量の血を吐く。噛みついた時に口に溜まったカグヤの血ではない。完全に己の血だ。

 一体どう言う事だ? そんな疑問を頭の中を一杯にしながら―――金剛は見た。

 文字通り瀕死の状態で、血と涙と唾液に汚れながら、それでも少女めいた儚さを崩す事の無い少年が、愚者として、絶対的強者の敗北を目の当たりにしたように、笑っているのを。

『ざまあみろ』

 まるでそんな声が聞こえてきそうな顔に、金剛は何が起こったのかをようやっと理解した。

「戻る時は主の命はいらないのか………?」

「元々、片方が望めば姿を変えられる仕組みです」

 金剛の背中、六本(、、)の刃を全て急所に突き立てた九曜が、疑問に答え、回し蹴りで金剛を主からひき剥がす。

 すぐさま主に駆け寄った九曜は、傷口を手で押さえ、血を操作し、身体から漏れ出さないようにする。傷口の血は、まるで見えない血管を通る様に傷口から漏れ出す事無く流れる。

「我が君………! お気を確かに………ッ!」

 叫ぶ事は無く、それでも僅かな焦りを表情に滲ませながら、九曜が呼びかける。それに気付いたカグヤが、手放しかけた意識を掴み直し、最優先とされる思考に頭を働かせる。

(イマジン使用。肉体の回復プロセスへ。能力による治癒術式(イマジネート)無し。肉体強化による回復力を最優先、全力を持って起動。………。回復時間、低。最速化に『霊力85』を燃料として使用。………。………。………。最低限状態回復まで最速340秒と推測………)

 思考がそこまで行き着いたところで、カグヤはやっと呼吸を思い出し、慌てて肺一杯に酸素を送り込む。

 意識がある状態で何秒か死んでいたという事実に今更気付いて、恐怖心から身体中の毛穴から一気に汗が噴出された。

 荒い息を必死に整えながら、強過ぎる激痛をイマジンでカットし、心配げな表情を滲ませる九曜に、苦しげながらも笑みを返し安心させる。それから探す。目当ての相手はすぐ見つかった。

「………、化け物とは言ったが………、本物の化け物はケタが違うな………」

「………ふっ」

 カグヤの台詞に、金剛は自嘲気味な笑みを返した。

 彼の正面に、仁王立ちする鬼の姿があった。背中から六の刃で急所を貫かれ、左腕を完全に斬り落とされ、全身を血に染め抜いた満身創痍の鬼は、それでもカグヤの正面に仁王立ちしていた。

 九曜が立ち上がり刃を構える。しかし、構えるのは一本。主の治療のために力がセーブされているらしく、先程の気迫は感じられない。

 それでも主のために向かおうとした九曜に、カグヤは名を読んで制止した。

「良い九曜。コイツはもう戦えない」

「………御意」

 主の言葉に従い、治療に専念する僕。

 ズドンッ! っと言う軽い地響きを起こす音をたて、金剛が胡坐をかいて座る。

「カグヤ………、お前、よくもまあ、ここまで付き合ってくれた物だな? 正直、途中で投げ出したいと思わなかったのか?」

「いや、義姉様の手前、絶対負けられないからな。『投げ出したい』とは思わなかったよ。『いい加減倒れてくれ』とは、さすがに何度も願ったがね………」

「はっは………っ。………何処までだ? 何処までがお前の戦略だ?」

「軻遇突智の神実までだ。九曜を使わされたのは完全に予定外。でもま、今はそんなの当然として想定しておくべきだったと、後悔しているがね」

「そうか………。俺のような単細胞でも、ここまでお前を追い詰める事が出来たのだな………。あと一歩、何か踏み込める手段さえあれば、もしかすると勝てていたかもしれないほどに………」

 金剛はそう呟き視線を空に向ける。そこには一切の雲が存在しない、とてつもなく多くの光に満ちた星空が一望で来ていた。まるで大宇宙のど真ん中にいるのではないかと言う光景に、金剛は心が広く透き通るような錯覚を得て、そして笑った。

「まったく!! イマジンとは愉快な物だっ!!」

 叫んだ金剛は、そのまま完全に動かなくなり、ゆっくりと鬼化が解けて普通の人の姿に戻っていった。完全に意識を失った瞳で、それでも金剛は満面の笑みを浮かべていた。

「ゲームセット。勝者、東雲カグヤ」

 誇らしげに微笑んだ神威(審判)が、ようやっと決闘終了を告げ、ようやく嵐の一時は収まった事を、観衆は知った。

 

 

 

 11

 

 

 

 だが、決闘の代償はあまりにも大きすぎる。

 和樹を筆頭に多くの新入生が崩壊した学生寮を見て、そう思った。

 確かに決闘は凄まじい物で、カグヤも冗談ではすまされないダメージを負った。ある意味償いとも言えるダメージかもしれない。それでも、失った物が返ってくる訳ではない。

 その怒りから、ついに我慢できなくなった和樹が、一歩を踏み出し―――、

「はいはい~~~! それでは決闘終了により、破損したバトルフィールドを決闘前の状態に戻しはるね~~~!」

 パンッ! っと言うゆかりの拍手(かしわで)一つで、学生寮が元に戻った。

 気付いてみれば、和樹は食堂に立っていて、まるでさっきの決闘が夢だったかのように。思わず周囲を見回すと、カグヤと金剛の姿が消えていた。その他は最初に自分が見た食堂の光景と変わらない。唯一夢でなかったという証拠の様に、他の新入生達も、不思議そうに周囲を確認している。

 不意に彼の背後で会話が聞こえる。

「これ、一体何がどうなってるヨっ!?」

(よう)(りん)さん、知らなかったんですか?」

「なにがネ? カルちん?」

「カルラ・タケナカです! 生徒手帳の≪決闘ルール≫の中に書いてあったでしょう? 『生徒手帳を合わせ決闘が行われた時、決闘前の状況(生徒手帳を合わせた時)をバトルフィールドを記録し、決闘終了後に上書きされる』って? その変わり、生徒手帳を合わせない決闘は、周囲を記憶できていないので絶対決闘してはならないってルールも追加されてますけど?」

「そ、そうだったのカッ!?」

(そうだったのかっ!?)

 こっそり驚愕する和樹。それと同じ説明をゆかりが周囲の新入生に説明し場はなんとか収まった。イマジネーションスクール。何とも規格外の世界である。

(でも、カグヤは本当にこれを知っていたのか? もし知らずにやっていたのだとしたら………)

 そう、和樹がカグヤに対して何かを思っている時、事件は起きた。

 

 ズガシャンッ!!

 

 突然の騒音に誰もが目を向けると、そこには先程まで余裕の表情で椅子に座っていた最強の存在神威が、何者かによって踏み潰されていると言うとんでもない光景だった。

 その何者か、長い髪を逆立て、凶悪なオーラを噴き出す巫女装束の女性は、踏みつけた神威に向かって据わった視線を送っていた。

「なぁ~~にを、してるんですかぁ~? 神威? 直接私の部屋に来るんじゃなかったんですかぁ~~~?」

「せ、刹菜………。悪かった………。義弟の方から呼ばれた物だから………」

「ほっほうぅ~~~っ? それで食堂まで転移した挙句、新入生に決闘騒ぎを持ちかけたと? そう言う事ですかぁ~~~?」

「せ、刹菜………。顔怖い………!」

「怒ってるんですから当然ですよねぇ~~~? 怒ってないとでもぉ!?」

「ごめんなさい………っ!?」

「私の部屋でアナタの相部屋の子が物凄く淋しそうに泣いてるんですけどぉ!? ウチの後輩ちゃんが、今必死に慰めてくれてるんですけどォっ!? 立場解ってますか神威ッ!!?」

「スマンすぐ戻る!! 許してくれっ!?」

「………ダメ♪(ニコッ)」

「せ、せめて油揚げは勘弁してくれ~~~~~~っ!?」

「(ニコッ)♪」

「何か言ってほしいっ!?」

 神威を踏みつけた巫女は、彼女の首に文字通り鉄の首輪を撒き付け(『神威専用』と書いてあった)、ずるずると引きずりながら食堂を出ていく。

「新入生の皆様、ウチの子が本当に申し訳ありませんでした! どうぞお食事を続けてください」

 それだけ言い残し、朝宮刹菜(最強の片翼)は、東雲神威(最強の片割れ)を連れて去って行った。

 入学早々、とんでもない事件の続く学園だった。

 

 

 

 12

 

 

 

 決闘を終えたカグヤと金剛は、ゆかりの計らいで保健室へと転移させられ、そこで待ち構えていた木嶋(きじま)(すばる)っと言う最上級生に治療を受け、完全回復して部屋へと戻った。

 残念ながら金剛は、腕もしっかりくっつけてもらったが、意識まではすぐに戻ってこなかった。

 カグヤが部屋に戻って最初に待っていたのは、同室の菫から御小言だった。

 何でも彼女、初日は混むだろうと判断し、食堂へは行かず、持ってきた携帯食で済ませていたのだが、カグヤの起こした決闘騒ぎで一度、ゆかりの能力で外に追いやられたのだと言う。カグヤの所為で寛ぎの時間を邪魔されたと怒ったのである。

「ところ、で………。聞きたい、事、ある………」

「え? なに? 正直もう少し御小言続くと身構えていたんですが?」

「寮、元に戻った後………、部屋にいた。誰………?」

 菫に指差され、部屋の奥、ガグヤのベットへと視線を向けると、そこには赤い髪の幼女が、天女の様な和服を纏ってこちらを紅玉の様な瞳で面白そうに眺めていた。

「お帰りなさい、お兄ちゃん♪」

 カグヤを見るなりそんな事を言ってくる。菫の視線がとても冷めた物へと変わる。

 カグヤ、必死に記憶を辿るが、自分に義妹が居た記憶はない。もちろん『お兄ちゃん』などと素敵ネームで呼んでもらった経験はないはずだ………。

 そこまで考え、ふと思い出す。

 そういえば、突然神威が現れた時、自分に抱きついている間に、軻遇突智のイマジネートに干渉して来ていた気がした。本来なら簡単に妨げる事が可能であり、また元の状態に戻すのも容易かったのだが、相手が義姉だっただけに、受け入れていた。

 

『じっとしててね』

 

 思い出したのは軻遇突智が自分の命令無しに動いた時のあの声。

 まさか………、っと思うも、すぐに自分のイマジネーションを確認し、確信してしまう。

 それでもカグヤはつい聞かずにはいられなかった。

「おまえ………、軻遇突智か?」

「そうよ! やっと解ったわけ? これからよろしくね? お兄ちゃん♪」

 可愛くウインクする幼女神妹キャラ。

 更に頬を染めて付け足す。

「九曜以上に可愛がってくれないと………拗ねちゃうから?」

「妹属性開拓開始~~~~っ!!」

 幼女に飛びつこうとするカグヤに―――、

「18禁ッ!!」

 

 ズドムッ!!

 

 容赦無く菫の剣が無数に突き刺さる。

 ギガフロート最後の夜は、激戦を潜り抜けた少年の断末魔の悲鳴で幕を閉じるのだった。

 




☆カグヤの新しいイマジン体☆

保護責任者:のん
名前:カグラ   本名:軻遇突智(かぐづち)
年齢:12(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神
性格:普段はデレデレ、でもいざとなるとツンツンな『デレツン』妹キャラ。

喋り方:ツンデレ
自己紹介  「軻遇突智のカグラ! よろしくしなさいよね!」
デレ    「お兄ちゃん、だ~~い好き! 九曜と同じくらい愛情注ぎなさいよね♡」
ツン    「べ、べべ、別に―――っ! 膝の上に座ってるくらいで喜んでないわよ!/////」
現神化   「ゴアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッッ!!!」
下僕状態  「はい。兄様の仰せのままに」
ボケ1   「い、いいい、い、イケメン出た~~~~っっ!!?」(恐怖)
ボケ2   「胸に脂肪が集まればエラいんかぁ~~~~っっ!!?」(怒泣)

戦闘スタイル:自在に炎の全てを操る。中距離支援タイプ。広囲殲滅型。

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『火女神(ほのめがみ)の式神』

技能
各能力概要

・『炎法(えんほう)
≪炎のあらゆる全てを自在に操れる。高威力砲撃、中距離支援、小規模爆破、炎熱断絶、炎の全てを支配する≫

・『現神化(あらかみか)
≪角を持つ炎の大蛇の姿になって、広範囲殲滅に特化する能力。主のイマジネーションと属性攻撃力の影響を受け、威力が変化する。この姿は神格としての力は強く、『権能』以上の力でなければ破られる事が無い。ちょっと性格が化け物よりになり、女の子らしさが見受けられなくなる。角を持つ蛇の由来から、竜としての属性も持っている≫

・『神実(かんざね)
≪軻遇突智を火倶槌として変化させ、己の姿を神格武装に変える能力。炎を纏った槌となる。軻遇突智の由来から、神殺しの炎を持っていて、特に女神に対し絶大な効果を持つ―――筈なのだが、多少強力な神格殺しを持っているだけに止まっている。時に主を自分の意思で動かす事もできるが、接近戦は苦手なので、その機会は皆無に等しい≫
(余剰数値:0)

人物概要:【炎の様な真っ赤な髪に、両端から牛の様な角を生やしている、紅玉の瞳を持つ幼女。天女の様な羽衣衣装を纏っていて、女の子用の下駄を履いている。元は炎を纏う大蛇の姿で、広囲殲滅型の式神として生まれたのだが、神威のお茶目で『現人神(あらひとかみ)』“人化”の特性を得てしまった。幼女姿は神威の設定。カグヤの事を兄と慕い、物凄く懐いたデレデレ妹キャラなのだが、いざカグヤに迫られると何故か強がってツンツンした態度を取ってしまうデレツン娘。炎の神なので重量が無く、自由に空中を飛び回れる。その反面、火の力で常に淡い上昇気流が自身の周囲で起こっているため、感情の起伏で火力を強くし過ぎ、気流で自分の服を捲ってしまいそうになる。ドジな所もある。何故かイケメンを恐れている。本人は伊弉諾がイケメンのイメージだったからだと語っているが、真相は不明。身体が成長しないので、胸の大きな女に泣き怒りする事が多い】
備考【炎の神、軻遇突智として生まれた彼女だが、何故か女神の特性を強く持ち、陰属性の炎を有する支離滅裂な存在。神威に姿形を弄られはしたが、それ以外はカグヤの能力で再現された存在。そのため、日本神話に忠実に則った存在のはずなのだが、何故か女神であり、本来陽の力であるはずの火を、陰の属性で操っている。しかもこれで存在が確定されているため、矛盾を(よう)していない存在として確立している。摩訶不思議であるが、神話の史実は大量に存在する。その中からカグヤはカグラの存在を確定できる何かを見つけたのかもしれない。現在、火の神として、神殺しの力を有する、カグヤの攻撃力での切り札となっている】








カグヤ「―――っとまあ、そんな感じで軻遇突智がカグラになった」

菫「他人、から、イマジネートに干渉………、とか、出来るの?」

カグヤ「出来る。ただ、主導権は常に本人にあるから、イマジンその物を封じたりとかはできないけどな? 俺だって、いつでも神楽の設定を消して、元の軻遇突智に戻す事が出来るぞ」

カグラ「お、お兄ちゃん!? まさかこんなに可愛妹キャラを無かった事にするつもり!? いくら私の声が『こんなに可愛いわけがないっ!』と言われる妹キャラボイスだからって―――酷いよっ!」

カグヤ「そんな事するわけないだろっ! ………正直、妹属性なんて俺には無かったが、こんなに可愛い女の子が目の前で『お兄ちゃん』と呼んでんだぞ? 属性開拓しなくてどうするっ! ………ってわけでベットに行こう」

菫「ロリコン死すべしっ!!」

 ドグサッ!!

カグヤ「がはっ!? ………く、九曜、助けて………!」

九曜「………。………我が君の仰せのままに………」

カグヤ「あれ? なんで少し不服そうなの? 何か不満があるの? 俺は一体お前の何を傷つけた?」

カグラ「べ、別にベットに行くのが怖いとかじゃないんだからね!? でもちょっと踏む段階が早くないかなぁ? って思っただけなんだからね!」

カグヤ「カグラは今ここでデレツンすんなよ!」

カグラ「だから………! また誘いなさいよね………?」

カグヤ「よし今すぐ誘う! 仕切り直してもう一度ダイブ―――!!」

菫「18禁、オメガ死す………ッ!!」

 ズドドドドドンッ!!

カグヤ「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ~~~っ!?」

九曜「………、カグヤ様の性格上、また女の子の僕が増えるんでしょうね………。はあ………っ」


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一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅰ

一話に入り切らなかったので上下巻に分けました。
とりあえず、今頂いているAクラス一年生キャラは全員出しましたよ!
さあ、褒めるがいい!

最初っから最後まで戦闘シーン(クライマックス)状態です!
高レベルの戦いを想定したつもりなので、楽しんで頂ければと思います。


一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅰ

 

【Aクラス編】上

 

 

 00

 

 

 イマジネーションスクール。万能の力、イマジンを学び研究する浮遊学園都市、ギガフロートに浮かぶ学園。世界に三つしか存在しない学園の一つ、柘榴染柱間学園。新入生を受け入れ、何処の学校でも同じ退屈な入学式を終え、クラス分け試験を経て、イマジネーターの学習能力に頼った早足の教鞭を三日ほど受け、ようやっと一年生達はイマジンによる戦闘授業を許された。

 東雲カグヤと伊吹金剛の決闘騒ぎ以来、一年生達は大人しくしていた。万能の力であるイマジンを、自分だけの特別な能力を得て、使いたがらない筈がない。実際、過去の入学生は、退屈な授業に耐えきれず、決闘を乱発してそれはそれは大騒ぎになっていた。

 だが、今回最初の決闘が学生寮の破壊と来たものだから、さすがに新入生達は大人しかった。いくら一瞬で元通りになるからと言って、あんな物を何度も自発的に体験したいとは思えなかったのだろう。それゆえ大人しかった新入生だが、裏を返せば、それだけフラストレーションを溜め込んでいたとも言える。

 そんな状態で始まったのは、直径一キロ四方の四角い空間で取り行われるシミュレーションバトルだ。

 

 

 東雲カグヤは、傍らに軻遇突智(カグヅチ)の擬人体、≪カグラ≫を連れ立ち、ジャングルの中を必死に走っていた。イマスクが支給した実戦練習用スーツ(体操服)は何処となくミリタリー仕様で、無駄な布地が無く、色は暗色系で統一されている。半袖のジャケットには、大量のポケットがあり、小道具の収納には事欠かないのだが、正直生徒手帳の収納の方が優れているので、サバイバル訓練でもない限りは使いどころは無いだろうと考えていた。

(あんま変わらん気がしてきたけどな! この状況は………!)

 内心毒吐きながら、彼は地面を蹴って低い崖を飛び降りる。木々の間を危なげなくすり抜けながら、自分の戦い易いフィールドを探しまわる。

 今回のルールはシミュレーションスペースでの実戦訓練であり、現在カグヤが挑んだエリアは密林のジャングル地帯となっていた。空から照りつける強い太陽に熱帯の環境は、此処が室内とは思えないほどリアルに再現されている。踏みつける地面すら、時々ぬかるんでいて、ブーツは既に泥に(まみ)れている。

 こんな環境の中で彼等が求められたのは二つのクリア条件である。

 一つは、同フィールド内に居るたった一人のクラスメイト、(すなわ)ち敵を攻撃し、有効とされるダメージを一定以上与える事。これはポイント制になっていて、既にカグヤは50ポイント中、40ポイントを取られている。

 二つ目は、敵に撃破される前に先にタスクをクリアすると言う物。タスクは全で五つ存在し、それが結構な難度を示していた。

 一つ目のタスクは生徒手帳に表示された『見鬼の発動』だった。これをカグヤは余裕でクリア。

 二つ目のタスクは、同じく生徒手帳に表示された。『フィールド内にあるコンソールを発見せよ』っと言う物。これも見鬼を使い、余裕で発見。

 三つ目はコンソールに表示された、とあるエリアを目指せと言う物だった。コンソールに表示された地図を頼りに向かってみると、イマジンによる施錠がされた小屋を発見。なるほど『解錠』つまり『分析』の能力を確かめるタスクだったらしいと判断し、これも得意分野だったカグヤは楽々解錠。小屋にあった小箱を発見する。

 四つ目のタスク、これが何気にとてつもないトラップだった。箱の中にあったのは赤い水晶玉だった。水晶玉は中から文字を浮かび上がらせると、次のタスクをカグヤに伝えた。

 五つ目のタスク。それは、この水晶玉を一時間以上死守すると言う物。それ自体は難しそうではなかったのだが、次に水晶玉から浮かんだ二つの条件にカグヤは絶叫する羽目になった。

 

『なお、この水晶玉は持っているだけで敵に自分の居場所を伝える発信機となっています! 更に、この箱が「解錠」状態にある限り、この部屋から出られません!』

 

 バタンッ!!

 

 絶対破壊不可能のイマジネートがかけられた小屋に閉じ込められたカグヤ。『解錠』の次は『施錠(せじょう)』、封印系の基礎イマジネートを要求された上に、敵に自分の居場所を気付かれた。「どんな嫌がらせなタスクだっ!?」と叫びながら『施錠』を速やかに施し、脱出したカグヤは、そこで猛烈な速度で飛んでくる敵の攻撃に曝された。

 

 

 

 そして現在、敵と交戦しながら逃げ惑う事三十分。カグヤはとっくに限界を悟っていた。いくらイマジネーターでも、身体強化の訓練を受けていない状態で一時間も戦うのはかなり厳しい。なのですぐさま九曜を呼び出し戦闘に入ったのだが、気付いたら崖っぷち状態に曝されていた。

 カグヤの獲得ポイントは現在25ポイント。

 敵獲得ポイントは先程説明した通り40―――、

 

 ヒュンッ! ………ザシュッ!

 

「おわっ!?」

「お兄ちゃんっ! こっち!」

 突如横合いから飛んできた刃が、カグヤの肩を軽く霞めた。慌ててカグラがカグヤの身体に体当たりする様にして方向転換。

 今のかすり傷がヒットポイントと見なされ1ポイントが奪われる。これで敵は41ポイント。残り9ポイントで終わってしまう。

「くそっ! まだか九曜!」

『あと少しお待ちください』

 急かすカグヤの声に応じ、戦場から少し離れた場所にいる九曜が思念で答える。

 九曜がカグヤに命じられたのは見えざる敵の感知だ。カグヤがここまで圧倒されている理由が、殆ど敵を捉えられていない事が原因だった。なんとか九曜に突出させ、カグラで己の身を守りながら此処まで繋いでいたが、不利的状況が全く変わらない。何とか相手を完全に感知しなければと、カグヤは九曜に攻撃ではなく察知を命令したのだが、どうやら向こう側もそれを素早く理解したらしく、攻撃度合いが激しくなってきた。

 木々の間から飛来する投剣を、見鬼でなんとか感知していたが、もう限界だ。

 二本の剣が左右から足場に刺さり、それだけで地面が崩れさる。慌ててカグラがカグヤを掴み持ち上げるが、擬人化状態の彼女は、人一人分を抱えて素早く飛行する能力は持っていない。グライダーの様に落下速度を落としつつ移動し、地面を転がる様にして着地する。更に二本の刃が飛んできて、それをカグラが炎で吹き飛ばすが、後方から放たれた剣に気付けず、カグヤの肩を浅く切りつける。

「ぐっ!?」

「ああっ!? お兄ちゃん!」

 カグヤに飛び付き、自ら神実(かんざね)、火の槌となって防衛体制を取るが、カグヤのスタイルが変われば、剣の攻撃パターンもそれに対応した物へと変わる。完全に万事休すだった。

 その時、遂に九曜が敵を確認する。

「見つけました!」

 疾しる九曜。

 同時、感知された事を悟った敵がカグヤに向けて走る。

 速度は九曜の方が速く、何とか主の元に向かわれる前に接敵できた。

「はあ―――っ!」

「………っ!」

 九曜の手に二本の赤黒い剣が出現。それを振るい敵を足止めしようとする。

 しかし、敵もそれを素早く感じ取り同じく手にした剣で受け返す。一度ぶつかり足を止めるものの、その人物は紫のショートヘアーを揺らしながら、素早く移動。九曜に負けない速度で追い抜こうとする。

 九曜も主の元に行かせぬようにと必死に追いすがる。

 互いに地を蹴って飛び、高低差のある木や枝を足場にし、三次元的な戦闘を開始する。

 地を走り切り合う時もあれば空中で衝突し、火花を散らして交差する。互いに速度と剣の腕を持った実力拮抗の相手だった。

「ならば………っ!」

 先手を取るため、九曜は背中のホルスターから六本の柄を宙へと投げる。それらは赤黒い水の刃を創り出すと、見えない糸に操られるように宙を舞い、敵たる少女へと向かう。

 真直ぐ飛ばされた刃を見据えながら、少女は六の内二本を己の持つ一本の剣で見事に弾き飛ばす。

 残り四本の刃は少女の動きを見切ったかのように素早く散開し、彼女の背後へと移動する。同時に飛び出した九曜が、彼女を正面から挟み撃ちの体勢に入った。

 少女は臆せず、九曜に向かって刃を振るう。

 九曜の二刀と少女の一刀が激突。同時に彼女の後ろに迫っていた剣が、飛来した別の剣によって叩き伏せられた。

 気付いた九曜が少女を弾き飛ばし、六の刃を自分の近く待機させる。

 少女もまた、四つの刃を空中に従え、九曜と同じようなスタイルを取っている。

 容易に攻撃できない。同じタイプ故にそう思考すると同時、主の苦悶の声が聞こえた。

「ぐあっ!」

「我が君っ!?」

 正面の敵への警戒を解かず、主を案ずる九曜は、その危険な状況を確認した。

 四本の刃が、宙を自在に踊りながらカグヤに向けて攻撃している。カグヤは神実した軻遇突智の槌で何とか応戦しようとしているが、ダメージが大きくなっているのか、上手く戦えずにいる。

「飛べ………っ!」

 少女が呟くと同時、四本の剣が投擲される。

 九曜もそれに合わせ六の剣を操り、迎撃と反撃を試みる。

「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………剣よ、逆巻く風となれ………っ!」

 少女が投擲した剣に新たなイマジネート(術式)送り込む。

 途端、ただ真直ぐ切っ先を向けるだけだった剣達がその場で回転を始め、手裏剣のように飛来する。

 だが、それを確認した九曜は、素早く剣達に命じ、正面からではなく上下からの攻撃に転じる。回転する事により正面からの攻撃力を増した剣達だが、逆に上下からの攻撃を受け易くなり、また弾かれ易くなっていた。四つの刃同士が接触し、計八本の剣が周囲へと弾かれる。

 残った九曜の二本の剣が、走りよる少女へと迫る。

「『糸巻き(カスタマイズ)』、2重から4重へ………っ!」

 少女が呟いた瞬間、彼女の手にイマジンらしき力が増幅しているのを感じた。

 咄嗟に九曜は腰にある六つの内、四本を取り出す。

 少女は己へと向かっていた二本の剣を易々と弾き返し、勢いを利用して九曜へと斬りかかる。

 九曜は取り出した四本の柄と、手にしていた二本の柄を組み合わせ、一つの柄を創り出すと、巨大な水の刃を創り出し、一本の大剣として振り被る。

「………脚部っ! 3重追加………!」

 刃が重なった瞬間、強烈な衝撃波が九曜の手に圧し掛かる。剣の強さだけでなく、勢いを付けた突進力まで強化され、さすがの九曜も弾き飛ばされてしまった。

「しま………っ!?」

 慌てて空中で体勢を立て直した九曜は、自分を弾き飛ばした少女が、空中を滑るように跳びながら、後ろを振り返り、生徒手帳から取り出した四本の剣を合わせ、八本の剣でこちらを狙っているのを確認した。

(まずい………っ!)

 察した九曜が大剣を分離、二本の剣を構えつつ、残った柄を中心に広がる形で水が噴き出し、バリア上に展開される。

「『剣弾操作(ソードバレット)』。最大出力………っ!」

 

 ゴウンッ!!

 

 バアァンッ!!

 

「―――っ!?」

 空気が弾ける音の後に水が粉砕される強烈な音が鳴り響く。

 目視できなかった九曜は、自分が近くの木にはりつけにされた事で、やっと悟る。自分が少女の放った剣に反応も出来ず貫かれてしまった事を。

(不覚っ! これでは我が君の元へ………っ!)

 九曜の右肩と左足を撃ち抜き、木に縫いつけたのを確認した少女は、身体が地面に落下するより早く体制を整え直し、再び地を走る。

(驚いた、な………、まさか、勘で六本も叩き落とされるなんて………)

 あの一瞬、九曜は己自身でも気付いていなかったが、音速に届く勢いで射出された剣を、本能だけで四本叩き落としていた。しかし、残りの二本を叩き伏せようとした時点で、剣となっている水の強度が限界を迎え、弾け飛んでしまったのだ。バリアに使っていた水も、あっさり貫かれ、彼女は木に縫いつけられたと言う事だ。

(ともかくこれで、カグヤ………、目視でき、た………)

 少女は視線を前方に向け、少し開けた場所で空中を踊る剣と戦っているカグヤに向けて、一気に加速する。

 木々を飛び抜け、上方から一気に剣を叩き降ろす。

 カグヤは瞬時に少女の接近に気付き、軻遇突智の槌を振るい、迎撃する。

 爆発と共に弾き返された少女だが、地面に着地すると同時に動き回り、近接戦の超至近距離に入りこもうとする。

(やっぱ、金剛との戦いで、俺が近接戦苦手なのに気付かれてるか………っ!)

 カグヤとて、近接戦が全くの苦手、っと言うわけではなかった。だが、生来、身体の脆かったカグヤは、事戦いに於いて自分の身が危険に晒される様な距離での戦いは避ける様にしてきた。ヒットアンドアウェイ、遠距離攻撃、近接の中距離などと、できるだけ距離が開く戦いを好んだのだ。もちろん、掴み技や投げ技の様な至近技もしっかり身につけた彼だが、非力だったので全ては合気柔術の類になってしまう。つまり、剣での斬り合いを近接距離でやるのは、カグヤの最も嫌いな距離と言う事だ。

(やり方が無いわけじゃないが………、やっぱりやり難いしな~………。仕方ない! 近づけずに戦う!)

「カグラ! 頼む!」

 苦手な距離での戦いを避けるため、カグヤは槌を放り、擬人化した状態の軻遇突智、≪カグラ≫を呼び出す。

 炎を様な真っ赤な髪を翻し、僅かに浮遊しながら13歳未満と思しき少女の姿となって、カグラは両手を翳し、次々と火の球を打ち出す。

「それそれっ!」

 ドンッ! ドンッ! っと撃ち出される炎弾を、紫の少女は左右に身を振ったり、僅かに身体を逸らすなどして巧みに躱して行く。

 カグラもできるだけ動きを読んで打ち出しているようだが、やはりイマジン体とイマジネーターには危険察知の差が如実に違う。少女が避け切れない炎弾に対し、空中の剣を射出して打ち消すのに対し、反撃で飛来する剣にカグラは片手を振って炎の壁で覆う様にして薙ぎ払っている。つまり、攻撃を見切れず、空間事まとめて弾いているのだ。

 少女の方は炎弾を完全に見切り始めた様で、最初は身体にかすらせていた炎弾を、今は無傷で回避し、撃ち落とし始めている。最早その姿は剣と踊る舞姫。『剣舞姫(ソード・ダンサー)』と言って差し支えが無かった。

「これならどうよっ!!」

 完全に攻撃を見切られたのが癪に障ったのか、カグラは両手を合掌するように合わせ、手の中で炎を一瞬溜めてから、解き放つように左右に払う。放たれたのは炎の嵐だ。大量の炎が渦巻いているのではなく、高温の火の粉がまるで花弁の様に咲き乱れ、渦を巻いて剣の少女を呑み込もうと迫ってきている。

「―――ッ! 『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………! 剣よ、わが身を守る盾となれ………っ!」

 瞬時に術式(イマジネート)を編み上げた少女は、四本の剣を自分の正面に整列させる。剣は、彼女の正面で上方に二本、下方に二本整列し、そのままくるくると扇風機の様に回り始め、やがてカン高い風斬り音を鳴らすほどに回転し、炎の嵐を堰き止めた。

「な、なによこの程度でっ! ろくに神格も有していない剣で―――っ!」

 高位の攻撃を受け止められ憤慨したカグラは、更に力を込めて押しのけようとする。実際、剣の少女が使っている剣は、購買部で購入した鉄の剣だ。能力で作ったわけでもなければ、付属効果を有している訳でもない。もちろん、耐久破損に対するコーティングなどもされていない。イマジンにより、ある程度強化はされているかもしれないが、それでも炎の嵐を受け止め続けることなど出来ようはずもない。

(だから、次の手を打ってるん………だよ………?)

 少女が内心ほくそ笑むのと、カグヤがカグラを抱えて飛び退くのは同時だった。

 カグヤが飛び退いた後の地に、一本の剣が真上から突き刺さり、爆発でもしたような衝撃で地面を吹き飛ばす。

 転がるカグヤは、空中で狙いを定めている、もう一本の剣を目にする。

 彼が立ち上がり、カグラを背に庇うのと同時に、剣は射出され―――赤黒い閃光が、それを途中で叩き落とした。

(!)

 少女が視線を向けると、九曜が使っていた黒い柄が、柄だけで飛来し、そこから刃だけを射出し、射撃するかのように攻撃して来ていた。

 少女は剣の盾をずらし、この射撃を全て弾き返す。

(そっか………、刃は水だから、その場に留めずに撃ち出せば。飛び道具に、なる………)

 勉強になると一人頷きながら、二本の剣を操り交差させるようにして柄を叩き落とした。

あれ(、、)、あんな事出来るなんて………、なんてシールドビット?)

 などと考えながら、他の柄が周囲にないかと視線を巡らせる。どうやら他には無いようだ。

 再び距離を稼いだ事で、カグラは強気で、しかし、危うく主を危険に晒してしまった事に憤慨した表情で両手を地面に向けて翳す。

「もうお兄ちゃんに近づけてやるもんかぁっ!!」

 叫んで術を発動した瞬間、地面を貫いて噴火する様な火柱がいくつも出現する。火柱その物が高温を持っていて、傍に近寄る事も出来ない上に少女の周囲にも乱立し身動きが取れなくなってしまう。

(こ、この炎はさすがに………―――っ!?)

 防ぐ事が出来ないと悟り、腕で顔を庇いながら、熱気だけで身体を焼かれ始める感触に、苦悶の表情を浮かべる。

「………あうっ!?」

 が、唐突に胸に手を当て、苦しそうな表情になったカグヤが片膝を付いた。

 気付いたカグラが「しまったっ!?」っと言う顔をして、慌てて炎を消し去る。

「カグラ! まだ消してはダメ!」

 遠くから飛んできた九曜の忠告より早く、剣の少女が再びカグヤとの距離を詰める。

 慌てに慌て、爆炎の球を幾つも打ち出し遠ざけようとするカグラ。

 だが、慌てているイマジン体の攻撃など、危険察知に優れたイマジネーターに当たるわけもなく、カグヤの側面を狙うように逸れながら攻撃を躱されてしまう。

 主に接近されたくない一心で、追いかける様に幾種の炎を打ち出しながら追いかけるカグラだったが、剣の少女に夢中で、自分に迫ってきた剣に気付く事が出来ず、気付いた時には側頭部を剣で貫かれてしまった。

「カグラ!?」

「伏せてっ!!」

 一気に距離を詰めた剣の少女が、カグヤの首を狙い剣を振るう。その剣をすんでんのところで現れた九曜が受け止める。肩と脚から僅かに光の粒子を零しているところ見るに、縫い付けられた剣を折って、無理矢理身体を引き抜いて来たようだ。イマジン体は身体全てがイマジン粒子。怪我をすれば血ではなく、粒子の粉が、破損した肉体部分を取り戻そうと零れ出すのだ。見た目は人と違うが、役割は完全に血液と同じだ。

 九曜は剣激で少女を払うが、少女の方も待ったを掛けるつもりはない。

(残り5ポイント………)

 残り数値を確認し、更に叩き付ける様に剣撃を放つ。

 繰り出される少女の剣を、九曜は当然の様に受け、巧みに捌いて行く。

 九曜の持つ二刀の剣は実に巧みで、某SF映画で御馴染のフォトンソードの様に繰り出される。正直使っている武器、剣の正体が水だと言う事を思えば、アレと戦い方が似ても同じかもしれない。

 高速流動する水の刃は物理的な刃と違い、力を入れなくても物を切れる。故に九曜の剣捌きは、体重を乗せ腕で振るう物ではなく、手首の返しなどで操られている。

(………ちょっと、やり難い)

 それは戦い方だけではない。武器の差にも言えた。

 流動する水の剣は個体ではない。故に刃毀(はこぼ)れしない。切れ味が落ちる事が無い。対して少女の剣は次第に刃毀れしていき、折れてしまいそうなほど亀裂が走る。

「は―――っ!」

 掛け声と共に振り抜かれた刃が少女の剣を叩き折った。

 少女は跳び下がる。同時に頭上から二本の剣を呼び、追いかけてくる九曜に向けて撃ちおろそうとする。

 九曜は同じように己の柄を呼び、水の刃を呼び出し、刃をぶつけ合う。その衝撃で少女の操っていた剣が折れる。

(同じ戦闘スタイルなのに、武器の性能差も技量も違う………っ! ずるい………)

 少女は膨れながら胸の生徒手帳をタップ。九本の剣を呼び出し、一本を手に、残りを操り、九曜を迎え撃とうとする。

「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………! 剣よ、刃を狩り、迎え撃て………っ!」

 刃が踊る。

 八本の剣が一本一本意思を持ったかのように舞い踊り、九曜を迎え撃つ。

 九曜も同じ数の剣を呼び出し、両手に二本の剣を携え真直ぐ突っ込む。

 空中で刃同士が剣を交える。

 少女と九曜も互いに剣を交差させる。

 九曜の方が動きが速い。手数も切り返しの技術も早い。

 何とか九曜の動きを妨げようと剣を操るが、その全てが九曜の操る剣に(さまた)げられ、―――約一分間の攻防で全ての剣が外側へと弾かれてしまう。

「嘘―――っ!?」

 驚愕する少女の剣を九曜は片方の剣で外側へと弾く。開いた懐に向けてもう片方の剣を突き出す。同時に回避できないように頭上から幾つもの剣が飛来し、少女の逃げ道を塞ぐように降り注ぐ。

(避けられない―――っ!?)

 回避不可能の檻に閉じ込められた少女は、一瞬、世界が停止したような感覚を得―――殆ど条件反射の領域で頭上の剣を睨み、必死に手を翳す。

(此処で余所見………?)

 九曜が疑問を抱きながらも突き進もうとする。

 後少しで切っ先が少女の胸を貫こうとした瞬間、頭上の剣が数本、自分の支配から外れた。

「九曜ッ!!」

 主の呼びかけと操作で、九曜の身体が突然後ろに引っ張られる。まったく逆方向への衝撃に苦悶の表情を浮かべる。

 その九曜を追う様に、九曜の剣が四本、頭上から地を突き刺して行った。

(私の剣の支配を奪った………っ!?)

 残り四本は操り切れなかったのか、身体を切り裂かれながらも、すぐに走り出し、更に弾かれていた剣を再び支配下に置き―――、

「『剣弾操作(ソードバレット)』………! 最大速度射出………ッ!」

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!

 

 空気を爆発させたような音が鳴り響き、四本の刃が高速射出。

 迫る刃に、九曜は二本の剣で応戦する。

「はぁ―――ッ!」

 

 バギンッ! バギンッ! バギンッ! バギンッ!

 

 舞う様に回転した九曜は、飛来した四本の剣を全て叩き折る。が、九曜の目は驚愕から大きく見開かれた。すぐ目の前に、再び自分に迫っている四本の刃があったからだ。

(時間差で射出された―――ッ!? それも全ての剣が先に撃った剣の影になる様に………っ!?)

 驚愕する九曜は、それでも剣を弾こうと応戦する。停止に近付きつつあった身体を無理矢理動かし、身体を避けながら刃で迎撃する。

「―――ぁぁッ!!」

 声にならない叫びを上げながら振り抜き、肩に迫った一本を叩き折る。手首が悲鳴を上げるのを無視して返し、左脇を狙った剣の鍔に当て弾く。両腕の振りで無理矢理作った反動を利用し、体勢を整え、右足を無理矢理引き、迫った刃を躱す。

 そこまでだった。最後の四本目が軸足となった左足を貫き、九曜を地面に縫い止める。

「く………っ!」

 その好機を逃さず、少女が走る。カグヤに向けて突き込む様に剣を構える。

 カグヤは九曜に渡されていたらしい水の剣を片手に焦りの表情ながらも迎え撃つ構えを見せた。

(撃ち抜く………ッ! ―――ッ!?)

 刹那、少女は再び世界が停止したような感覚を得た。

 思考が加速したのではない。その証拠に停止世界は一瞬で過ぎ去り、再び少女は走っている。

 それは直感だった。

 世界が止まった様な感覚と共に、その瞬間に降りた天啓とでも言うかのように、直感的に感じ取ったのだ。

 少女は手に持つ剣をもう一度、『剣弾操作(ソードバレット)』の限界を超えた速度で打ち出す奇襲を考えていた。だが、あの停止した世界で直感が伝えていたのだ。その攻撃をカグヤは必ず躱すと。

 同時に対処法も教えてくれた。

 それは言葉でも、ビジョンでもない。もちろん思考でもない、なんとなくと言った曖昧な感覚であったが、少女は逆らう事無くそれに従い横に跳ぶ。

 自分の左側、カグヤにとっての右側へと回るようにしながら―――そのままの体勢で『剣弾操作(ソードバレット)』のオーバースピードで撃ちだす。()()()()()()()

 強烈な爆音が響き、射出された剣に引っ張られ、少女が飛ぶ。

 カグヤは咄嗟に右手を反応させ―――クンッ、っと、肩が妙な痙攣を起こし、刹那のタイミングをずらした。

(届く………っ!)

 悟った少女が剣を突き出す。何とか回避しようと身を引くカグヤだが、少女は剣を操り、切っ先を肩口へと命中させる。そのまま勢いに任せカグヤを押し倒し、地面に縫い止める。

 瞬間カグヤの左腕が瞬き、少女のわき腹に剣を突き立てた。

「ぐ………っ!」

 少女は歯を食いしばりながら剣を捻り、刃を心臓へと向ける。

 カグヤは右手で刃を捕まえ、無理矢理制止しようとする。背後からは九曜が再び駆け付けているのが感じ取れた。更にカグヤの左手が再び剣を振り上げる。時間との勝負!

 少女は渾身の力を込めて、刃を心臓部分へとスライドさせ―――!

 

「―――そこまでっ!!!」

 

 待ったがかかった。

「ポイント、カグヤ42 菫58 勝者八束(やたばね)(すみれ)

 赤銅色のロングストレートに赤茶の目、手足が細く、背は低めでそれなりの胸を張った女性教諭。比良(このら)美鐘(みかね)が、フィールドを元の無機質な室内に戻しながら告げた。

 カグヤは疲れ切った様に脱力し、同じく菫も疲れきってカグヤの上に倒れ込む。

 

 

 01

 

 

「ま、負けた………。学園の最初の授業で負けてしまった………」

「アイ、ウィン………っ!」

 思いっきり落ち込むカグヤの横で、Vサインを作って無表情に勝ち誇る菫。

 二人は一キロ四方の無機質な真っ白な部屋にいた。この部屋が先程まで密林のジャングル地帯だったなど、未だに簡単に納得できない。実際に経験したカグヤでさえ、イマジンの常識外れには驚かされる。

 だが、もっと驚かされたのは学園での治療だった。

「あいてて………っ!」

「あうぅ~~………! 脇腹が………!」

 カグヤは右肩を、菫は右脇腹を押さえて痛みを訴える。

 今回の戦闘で最も重傷箇所だったのだが、実は学校側から治療行為らしい事は殆どされていない。軽く傷口を塞いでもらった程度で、無理をすればすぐに開いてしまいそうな状況だ。しかも授業で教えたからと包帯すら巻いてもらえず、それ以上はなにもしてもらっていない。学園側からがしてくれた事と言えば、やけに備えの良い救急セットを手渡されたくらいだ。

 最初にこれを目にした二人は、さすがに呆気に取られ、「イマジンとかでパパッと治療したりとかわっ!?」「せめて、衛生兵的な人からの応急処置は………っ!?」と抗議したのだが、美鐘教諭は冷笑を浮かべた。

 

「万能な力を使い出すと人間はすぐに思い上がったり、力の上に胡坐をかいたりするからな。命に別状がない限りはイマジンの治療はしない事になっている。イマジンが必要無い所では我々学園側が関与する所ではない。そのために最初の授業で何度も治療の授業をしただろう? 自分で自分の怪我を治療できるようになったら一人前だ」

 

 などと大変ありがたい言葉を貰う事になった。

 仕方なく二人はすぐにガーゼや薬を取り出し、治療に取り掛かったのだが、二人とも身体中傷だらけで、痛みを堪えながらではどうしても手間取ってしまう。おまけに重傷箇所は本気で傷口を薄い膜の様な物で塞いでもらった程度の様で、痛みは全く緩和されていない。とても自分で自分の治療など出来そうになった。

 仕方なく二人は、多少の気恥しさを我慢して、互いに互いの治療をする事にしたのだ。

 念のため伝えておくが、さすがのカグヤも治療中に菫に手を出す様な不届きはしていない。

 治療が終わって、やっと余裕が出た二人は勝利と敗北を実感する事が出来た。

 痛む箇所を押さえながら。

「………あれ? カグヤ? 九曜とカグラ、は………?」

「ん? ああ、二人ともお前に相当ダメージを与えられたから一旦消えてもらって修復待機中。消えてる時の方が自己治癒早いからな」

「イマジン体………、不思議? 私、頭撃ち抜いたのに………」

「コアが無事なら死んでねえよ。コアは頭には無いしな。………でも、仕組みは人間と同じらしいからな、頭を撃ち抜かれると、しばらく思考回路が完全にダウンするんだってよ? 考えようにも考えるための脳が損傷して考えられない―――みたいな?」

「それじゃあ………、イマジン体は、どうやったら死ぬ、の………?」

「大体皆一緒で、心臓の辺りだよ。人型なら胸だ。つっても、胸を撃ち抜けばコアが破壊できるってわけじゃねえらしい? ………おっとこれ以上詳しく聞くなよ? これ以上は『イマジン体医学論』とか言う専門分野で俺も詳しくない」

「イマジン体、使ってるくせに………」

「だからお前より詳しいの! ………詳しい事はこれからじゃないと学べんだろう?」

 不貞腐れるカグヤに菫は勝ち誇ったような表情(をしたと思われる無表情)で、笑う。

「物知り顔で、実は大して知らない脇役メインキャラ………」

「テメエは自分の剣がどんな風にイマジンが作用して飛んでいるのか説明できんのかよ………?」

 額にバッテンマークを浮かべながら反論するカグヤ。菫は自分のからかいに素直に反応してもらっている事がご満悦らしく、無表情ながらも瞳だけ楽しそうに潤ませていた。

 ―――が、それはすぐに冷たい物へと変わる。

「それはそうとパンツ返して」

「あら? 気付いてた?」

 カグヤは悪びれもせずに片手を開く。そこからマジックの様に出現したのは紫色のショーツだった。

「意外な色のチョイス。しかし結構似合ってる気がして俺としては役と―――」

 

 サクッ!

 

「ちょっ―――!? おおおおぉぉぉ~~~~~~~っっ!? 本気で手の甲に剣を刺す奴があるかよ~~っ!? コメディー描写とかじゃねえんだぞっ!? いってぇ~~~~~っ!!」

 小さな剣をカグヤの手の甲に刺した菫は、素早くパンツを取り戻すと、ちょっと気恥ずかしさを覚えながら、彼の背中でパンツを穿く。

「私がトドメ刺す時に取った………!」

「お前事飛んでくるとは思わなかったからな………。一応言っておくが、本当はパンツじゃなくて生徒手帳を取ろうとした」

「なんで、もっと難しい………パンツを取ってる、の………?」

「たぶん癖。あと邪念入ったかも? 女が敵の時は大抵こうすると動きが鈍るから、一応覚えてたんだよ。ちなみに本来は男に使う技らしいと聞いた時は、俺でさえ度肝を抜かれた」

「度肝、抜かれ、た………っ!」

 意外な真実に目を見張る菫は、何も言わずにカグヤの右手を取って治療を始める。

「待てっ! 待て菫っ!? 俺が悪かった! 謝るからその手にたっぷり塗った、明らかに薬ではない刺激物を傷口に塗ろうとするのは止めてくれっ!! タヌキさんに怒ったウサギさんでもその量はさすがに躊躇したと思うぞっ!?」

「………ちっ」

 菫は仕方が無い様に謎の刺激物を救急セットの中に戻した。

「何故そんな物が救急セットの中に存在している………?」

 何か恐ろしい物の片鱗を見た気がしたカグヤが辟易していると、美鐘教諭が可笑しそうに笑いながら、菫を賞賛した。

「見事だったぞ八束。一年生では難しい基礎技術『予測再現』の一つ『回答直感(アンサー)』を見事に会得したようだな」

「「?」」

 美鐘教諭の賞賛の意味が解らず、菫とカグヤは同時に首を傾げた。

 教え子二人の視線を受け止め、美鐘は教師らしく語る。

「八束、お前、瞬間的に時間が止まったような錯覚を得ていなかったか?」

「! あった………」

「まだイマジネーターとしての基礎知識は教えていなかったな? イマジネーターはイマジンを使用した『能力』以外にも、幾つもの基礎能力を有している。これは訓練すればイマジネーターの誰もが使えるものであり………、同時に上級生徒の圧倒的な力差の原因ともされる重要な技術だ」

 それを聞いた二人は、やっと重大さに気付いて目を見合わせる。

「東雲、お前は既に『見鬼』『解錠』『施錠』の基本は使える様だな?」

「? 『視覚化』と『解析(ハッキング)』の事ですか?」

「お前がどんな認識をしているのか知らんが、たぶんそれであってるぞ。っと言うかお前には今はあまり詳しく話さない方が良さそうだな? ………、まあ、それらもイマジネーターなら誰でも使えるようになる基礎技術だ。お前は飛び抜けて基礎技術の習得が早そうだが………。八束が使って見せたのはその基礎技術の一つで、直感を加速させたものだ」

「「直感の加速?」」

 二人が同時に首を傾げる。続いてカグヤは「思考加速じゃないんですか?」っと尋ねる。

「違う。八束、お前は景色がスローモーションになった様に感じたか?」

 菫は首を振って否定する。

「そう、実際にはほんの一瞬だけ時間が停止した様に見えたくらいだっただろう? ゲームがバグを起こして一瞬だけ停止した様にな? 思考が加速しているのなら、景色が止まっていても思考は通常通りの筈だ。そうでなかったのは直感の方だけが加速し、最善の答えだけを瞬時に認識したからだ」

「解ん、ない………」

 菫が無表情ながらも眉を顰める。

 僅かに思案顔で考えてから、カグヤは噛み砕いて説明する。

「つまり、『問題』に対し、推測や予想、計算なんかの『過程』を経て、『答え』を出すのが普通の思考。この時の『過程』をともかく早くしたのが『思考加速』で、………『問題』に対して『過程』をすっ飛ばして『答え』を出すのが『直感』って事だろう?」

「じゃあ、直感が“加速”する、って………?」

 菫の質問にカグヤは視線を逸らす。頭の中では必死に考えているようだが、残念ながら答えが出て来なかったらしい。それを可笑しそうに見つめながら美鐘が説明を引き継ぐ。

「『直感加速』は、『問題』に対して呼び出した『答え』を出し、その『答え』から生じた『新しい問題』から、再び『答え』を叩きだし、『最善の行動』を導き出す物だ」

 菫は再びカグヤに視線を向け、カグヤは難しそうな表情で必死に頭を働かせて噛み砕いた説明を試みる。

「ええっと~~~………? 例えばさっきの戦闘で言うと、最後に菫が俺にトドメを刺しに来た時、あの時、菫は剣を普通に射出しようとしてたよな?」

「うん」

「だけどたぶん、ただ撃たれただけだったら俺はその攻撃を凌げた。俺の『直感』がその脅威を知らせてくれてたからな。それと同じで菫もこのまま攻撃したら凌がれる事を『直感』したと思うんだよ? ………え? どう?」

 不安げに尋ねるカグヤに頷いて肯定。

 ホッとしたカグヤが説明を続ける。

「菫は『直感』で“攻撃を凌がれる”事を感知した。攻撃と言う『問題』に、凌がれて失敗すると言う『答え』を叩き出したわけだな? 此処までが普通の『直感』だ。………んで、菫は“攻撃を凌がれる”って言う『新しい問題』に直面したわけだが、その問題を瞬時に『直感』で再び『答え』を出して、自分ごと突っ込んできただろう? つまり、こう言った風に連続で直感を使用するのが『直感加速』………なんだと思う?」

 自信なさげに言い終えたカグヤが確認のために教師を見る。教師は正しいと頷く。

「直感だけが加速しているので、思考は置いてけぼりだ。だから何故自分がその答えに辿り着いたかなどの理由は解らない。ましてやこれはイマジネーターの思考すら放棄した回答の先取りだ。経験から来る物でもないので、直感した本人すら置いてけぼりだよ」

 聞いたカグヤは、この『直感加速』が経験による物でも無く、理由不明で訪れる物だとするなら、相手の直感する答えを計算し、誘導すれば、罠にはめる事もできそうだと考え―――すぐにその作戦を放棄した。それだけの高レベル思考をできないわけではないが、出来ても嵌めるための罠を用意できない。せっかく相手を誘導しても肝心の罠が無いのなら意味はない。今の段階では使えない手だと判断して思考を捨てる。

 同時に思い至る。恐らく二年生や三年生はこの『直感加速』を普通に使える。そして誘導も容易いのだろう。ならば彼等の戦略はどう言った物になるのか? 当然、これらを上回る戦略と戦術と力押しと言う事になるわけだ。考えるだけで頭が沸騰しそうだ。自分には扱いきれない得物らしいと知り、それを自在に使っているであろう先輩達を素直に称賛した。

「………っとは言え、今回八束が勝てたのは“運”が良かったと言う方が正しいがな」

 美鐘教諭が最後に付け加えた発言に、僅かながら菫はムッとした。しかし素直に反論したりはしない。菫自身、その“運”の正体には気付いていたからだ。

 だから代わりにカグヤへと視線を向けて尋ねる。

「右肩………、どうかし、た………?」

 尋ねられたカグヤの表情が一瞬で歪む。嫌な質問をされたと言わんばかりだ。だが、言い渋る表情とは裏腹に、隠しても無駄だと解ってるかのように説明を始める。

「金剛に噛み千切られた肩が気になるだけだよ」

「????」

 カグヤの回答に菫は沢山の?を頭に浮かべた。それも当然だろう。金剛とカグヤの決闘から既に三日以上経過している。カグヤに右肩を身を乗り出して無遠慮に覗き込むが、傷痕らしい傷痕も無く、完治している様に窺える。あるのは先程菫が自分でつけた傷ぐらいだ。

「やめれ! くすぐったい………!」

 身悶えするカグヤの頬に朱が染まる。至近距離から覗くと、実に女の子らしい表情で、本当にこれは男なのだろうか?と、別の疑問に思考が逸れそうになる。

 カグヤは菫をなんとか引き離してから詳しく説明する。

「傷は治ってるよ。でも、痛みが結構強く残ってんの。咄嗟に動かそうとすると一瞬痙攣起こすくらいにはな………」

「イマジンで、治療してもらった………と、聞いた………」

「保健室に治療能力持った先輩が待機してくれてたからな。でもあの先輩、文字通り怪我しか治してくれんかった………。神格を受けた後遺症にまでは全く手を付けてないみたい? ………ええっと、怪我は治しても毒は消さなかったみたいな?」

「神格?」

 菫の質問攻めに多少辟易したような表情でカグヤは説明を続ける。

「簡潔に言って神様レベルのすっげぇえ攻撃。肉体よりも、魂に刻まれるダメージの方がデカイから、ずっと痛みが残るんだよ。ってか実際、ただ痛いだけじゃなくて、機能不全も起こしてるぞ? 未だに右肩が高く上げられん」

 金剛は自分の身体全てを鬼化―――鬼神化―――させる事で疑似神格を得ていた。疑似神格と神格の違いは、実はペナルティーがあるか無いか程度の差だ。故に与えられたダメージはカグヤも金剛も同レベルの物だったのだが………、身体に疑似神格を宿していた金剛と違い、あくまで神格を外側で使うタイプだったカグヤは、金剛の攻撃を受けた個所に、後遺症を残してしまったのだ。神格は神格で打ち消す事が出来る。カグヤも神格を傷口に流し込む事で治療しているが、これが簡単な物でないらしく、未だに神格のダメージが抜けないのだ。

 菫はもっと詳しい説明を求める目でカグヤを見たが、カグヤもこれ以上自分の弱点を晒したくないのか、思いっきり視線を逸らすばかりだ。

「じ~~~~~~………っ」

「あ、諦めない奴め………っ!」

 半眼でずっと見つめる菫から必死に視線を逸らすカグヤ。二人の姿が相当可笑しかったのか、美鐘はクスクスと忍び笑いを漏らしながら二人に提案する。

「まだ他の組み合わせで終わっていないところもある。観戦しに行ったらどうだ?」

「よしそうしよう! 今すぐ行こう! ほらほら菫! 質問は後でもできるが、観戦は今しかできないぜ!」

 必死に話題を逸らすカグヤに対し、不満顔ながらも渋々と言った感じに菫は従い―――立ち上がったところで違和感に気付き、慌てて両腕で胸を庇った。

「か、かぐや………っ!?」

 震える声で名を呼びつつ、菫の顔がドンドン赤くなっていく。

 同じく立ち上がって先行しようとしていたカグヤは、菫の反応に、何事かと不思議そうに振り返る。

 そのカグヤに向けて菫は、かなり険のある声を涙目で発した。

 

「いつの間にブラ取ってたの………っ!?」

 

「ああ、それならパンツの時だよ? パンツ取る前に先にブラ取ってた。そのあと生徒手帳取るつもりだったんだけどな? なんでかパンツを取っちまって? ………ああ、安心しろよ? お前のブラは今頃、九曜がちゃんと洗濯してお前の下着ダンスの中に―――」

 菫の『剣弾操作(ソードバレット)』がカグヤの背中に突き刺さった。

「お………っ! ごああああぁぁぁ~~~~! す、菫! ちょ………っ! これは―――!? ヤバイッ! マジでヤバイッ! 漫画じゃないんだから本気でコレヤバいんですけど………ッ!? 刺さってる!? 血出てる!? コメディー描写する能力もない人間にはマジで致命傷―――!」

「―――死ね」

「瞳孔が開ききってて怖いっ!?」

 菫はカグヤを無視して一人立ち去る。

 背後では、カグヤが教師に向けて治療を求めていたが、美鐘教諭は心底可笑しそうに笑いながら「命に別状がない限りは治療しない!」と冷たく突き放していた。カグヤの「これでも命に別状が無いと言うのかァッ!?」っという訴えはまるで聞いてもらっていない。

 

 

 02

 

 

 先程、菫とカグヤの戦っていた部屋が一キロ四方の空間だと説明したが、厳密な意味ではそれは間違いとなる。実際には三十メートル四方程度のスペースの内部空間をイマジンにより一キロまで広げて伸ばしたという仕組みになっているらしい。そのため、部屋の外に出る時、歪んだ空間を通り抜ける時の違和感を感じたりするが、特段の問題はない。ただ、空間に作用する強力無比な攻撃でもしてしまっていたら、引き延ばされた空間に亀裂が生じ、異空間の彼方に飛ばされていたかもしれない。一年生でそれだけの芸当をやってのけれる者が居ればの話だが………。

 内部の空間に比べ、実際は三十メートルほどの部屋だ。階段を上り、真っ白な廊下を進むと、所々に強化ガラス製の窓ガラス設置されている。一番近い手前の窓を覗けば、背中に刃を突き刺されているカグヤが、九曜を呼んで必死に治療行為に励んでいる姿が見下ろせる。心無し、九曜の表情が呆れに染まっている様な気がするのは気の所為だろうか?

 とりあえず、今この窓に用はない。菫の目的はまだ戦闘中の別の部屋だ。近場の窓から順に覗いて行き、確認していく。

 自分達の戦闘がどの程度の早さで終わったのか基準が解らなかったが、部屋を覗いてみる限り、ついさっき終わったばかりの者達が多く見受けられる。先程の自分達と同じように、気恥しい思いをしながら互いの傷を治療し合っているのが殆どだ。中には治療が下手くそな相方に当たったり、わざとふざける輩に一方的に治療され、ミイラになってしまっている者も見受けられる。場所によってはなんだか良いムードになっている男女を見つけて冷やかしてやりたいと言う気持ちを駆り立てられた。

(今は………、こっち、優先………)

 惜しむ気持ちを抑えながら、菫は未だしぶとく戦闘しているグループを探す。

 この戦闘用の空間、総称『アリーナ』が幾つ存在するのかは知らないが、確か、クラス毎にフロアを分けて固まっていたはずだ。菫が入った部屋は大体フロアの真ん中辺りだったので、どう言った道に進もうと周囲は同じAクラスの対戦カードとなっている。

 そろそろAクラスのフロアが終わりそうになったところで、菫はやっとお目当ての物を発見した。窓の下に見難いが、小さな電光掲示板があり、そこに対戦カードを表示されている。

 対戦カードは………、機霧神也(ハタキリシンヤ)vs水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)だった。

「………オワタ」

 

 

 03

 

 

 草木の殆ど無い荒野のフィールド、そこにいくつもきり立っている小さな岩山の一つに、水面=N=彩夏は爆炎に塗れながら激突した。

「ばは………っ!」

 打ち付けた背中が肺を圧迫し、体内の空気を強制的に吐かされた。血は………、辛うじて出ていないが、当然襲ってくる息苦しさに彼女ならぬ彼は必死に息をしようとする。

 だが止まれない。

 彩夏は、呼吸に専念しようとする己の本能を精神力でねじ伏せ、酸欠の血を無理矢理脚に流し、必死にその場を離れる。土煙に紛れ何とか数メートル離れたところで、極太の高質量ビームが山ごと貫き消滅させる。衝撃に吹き飛ばされた彩夏は、投げ出された体を地面に何度も打ち付け転がりながらも、中断していた呼吸を試みる。

 やっとの事で勢いが衰え、地面に突っ伏したところで止まり、やっとの思いで呼吸を再開できた。誤っていくらか砂も一緒に吸い込んでしまったが、タスクで使用した『呼吸再現』による『フィルター』効果が発動し、不純物は吸い込まずに済んだ。

 荒い息をゆっくり大きくする事で、早鐘を打つ心臓を宥めながら、彩夏は「やれやれ」と冷や汗を流す。

 学園支給の実戦練習用スーツ(体操服)を、敢えて女性用のスカートタイプ(一応色んな種類があるが、彼はミニを選んだ)にしていたのだが、今更ながら失敗だったかもしれないと苦笑する。これだけ荒野の地面を転がり回っていては、さすがに身体中が傷だらけになってしまう。男子用のズボンか、スリット付きロングスカートにしておくべきだった。

 普段は二つに結わえている黒い髪も、あまりの戦闘の激しさに片方は解け、もう片方も半端なところまでズレている。いっそ、両方外してしまいたがった、髪ゴムを掴んで捨てる暇も惜しいほどに追い詰められていた。

「いやいや、それにしたってアレは異常だろう?」

 彩夏は宙に浮かぶそれを見て苦笑する。

 そこには機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)が太陽を背にして飛んでいたのだが、その容姿は普段彩夏達が知るそれではなかった。

 まず、空中を飛ぶための巨大飛行バックパックが背中に取りつけられ、足にはミサイルポッド付きのショックアブソーバー搭載の巨大なレッグ。腕にも機械的なアームが取り付けられ、まるで腕その物が機械化したような作りになっている。頭部にはヘッドギアが装着されていて、目の部分にイマジンで創り出されたらしいスクリーンがゴーグルの様に展開されている。両肩にはこれまた巨大な対地ミサイル砲弾が取り付けられ、先程大量のミサイルを撃ったのが嘘の様に再装填されている。何より危ないのは右腕に装着されている『戦艦砲』だ。入学試験で見た、及川(おいかわ)凉女(すずめ)が彼のために作りだした『混ぜたら危険作品』。アレは彼女の能力であったはずであり、その本体も甘楽(つづら)弥生(やよい)によって破壊された筈だ。それがどうしてここにあるのかは解らない。解らないが目の前に脅威が存在する事は事実だ。かなり巨大で重量も相当あるはずだし、そもそも右肩にだけ装着していてはバランスも悪い。なのに空中で姿勢を保っていられるのは、ある程度イマジンによる姿勢制御の所為かだろう。恐らくタスクの中にあった『バランス再現』と言う奴だと彩夏は予想する。

 だが、それら異質な変化よりも、彩夏を“異常だ”と思わせる変化が彼にはあった。

 当初、彼と遭遇戦に陥ってしまった彩夏は、自分の能力『物質特性変化』の『罠錬成』を行う事で有利に事を進めていた。

 神也は人間ではありえない身体能力を発揮して、岩場を足場にアクロバティックに飛び周り、能力で呼び出したのか、それとも生徒手帳に持参して来たのか、グレネードランチャーで攻撃してきた。

 彩夏は岩に能力を作用させ、強度を上げる事でグレネードを防ぎ、足場にしようとした岩を砂の塊に変えて埋めたりと、かなり有利に事を進めていた。最後には接近戦に持ち込み、能力で己の身体能力の特性を変化し、一時的に強化スペックの肉体状態に変え、殴りかかった。武器を取り上げ、効率良く打撃を当てていく。残念ながら格闘技の経験はなく、護身術程度に習った武術も、一般人に毛が生えた程度。到底イマジネーターの戦いで特筆するの技術ではなかった。

 それでも、どうやら自分の物理攻撃ステータスが、相手の物理耐久ステータスを上回っていたらしく、思いの外打撃は効き、神也も苦悶の表情を漏らした。拳越しの感触がやたらと固い物だったが、効いているなら考える必要はないと判断した。

 ポイントは順調に溜まり、一方的な展開になっていた。時折反撃で拳が飛んできたが、能力で強化した状態なら彩夏の耐久力の方が勝り、まともに受けても大した事はない状態だった。そもそも簡単に片手で受け止めてしまえた。

 勝てる! そう思った彩夏は神也の額を思いっきり殴り飛ばし吹き飛ばす。そのまま神也が地面に倒れる前に飛び掛かり、飛び蹴りで踏みつけて必要ポイント獲得。彩夏の勝利―――っとなる筈だった。

 変化が起きたのは殴った次の瞬間だった。額を殴られた神也が吹き飛び宙を舞った瞬間、突然彼の身体が変質した。

 典型的な日本人と同じ、真っ黒だった彼の髪と瞳が、突如加熱したかのように赤へと変色した。既に朦朧としていたはずの瞳は獰猛に見開かれ、飛び上がっていた彩夏を捉える。その瞳には、幾何学(きかがく)模様が浮かび上がっていた。

「あはははははははははははッッ!!!! ようやっと完成したぜェ!!!!」

 次の瞬間、彼の上げた雄叫びと共に、彼の身体が機械ギミックでフル装備されたのだ。

 まず最初に左手に呼び出した大口径グレネードを御見舞いされ、容易く吹き飛ばされてしまった。その後はミサイルの雨をひたすら食らい、弾幕に使用したミサイルが再チャージされる間隙に、あの『戦艦砲』を撃たれた。ともかくあの砲撃を喰らえば一撃死だったのでそれだけは避けようと奮闘した。だが、変質した神也の猛攻は文字通り息つく暇も与えさせてくれず、気付けば互いに後一撃で目標達成のポイントに迫っていた。

 神也49ポイント。

 彩夏47ポイント。

 どちらも一撃で勝利を掴み取れるポイント差だ。これだけ見れば接戦と言ってもおかしくないかもしれない。

(でも、私は最初、一方的に1ポイントも取らせずにこの点数まで手に入れていたんだよ? それが今では逆転された上に、勝機を掴めていないと来た………!)

 完全に彩夏が追い詰められていた。おまけに彼の直感は主を裏切る様に『敗北』の二字を予感していた。

 イマジネーターは常に勝利する方策を見つけ出す思考パターンを持っている。それが敗北を提示する事は本来ありえない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そんな相手は本来上級生しかありえない。イマジネーターの同級生は、絶対的に実力が拮抗するのだ。それがイマジネーターと言う物の性能(、、)なのだから揺るがし様が無い。それが揺るがされると言う事はつまり―――、

「“人間”じゃない、って事だな………」

 確信的に予測する。

 知識は何もない。授業でもそれらしい事はまだ習っていない。“多種族”などと言う存在も、この学園に来て「いるんだろうなぁ~~?」程度の認識しか持てていない。

 それでも理解出来た。偶然にも、カグヤと金剛の戦いを見れていた事が大きかった。

 直感する。推測する。確信する。

 コイツは間違いなく『神格』を持つ物の類だ。

 それも金剛の様な『疑似神格』でも、カグヤの様な『神格武装』でもない。更に言えば『神格ステータス』と言うイマジン変色体を持っている物でもない。

 生まれつき、デフォルトで備わっている存在。“神”そのものだ。

「勝てるわけ、無いね………」

 彼の額から顎にかけて、一滴の汗が流れ落ちる。顔は笑っていたが余裕はない。他にどんな表情をしていいのか解らなくなっただけだ。

 先程まで、神也はまったく神らしい気配を見せはしなかった。それどころか彩夏はこの相手に勝てるとまで確信したのだ。それが変質した。恐らくは元々神だった者が、今になって正体を表わしたと言う事なのだろう。

 特にあの幾何学模様を映し出す目、あの目には脅威の表れが強く出ているように思えた。アレはイマジン変色体が、イマジンに反応して髪の色と同じように変色を促しただけかと思ったが、どうやら違う。あの目の幾何学模様の方が本質なのかもしれない。それが解ったところで彩夏には何もできない。

「けど………、不思議な物だ………。諦めなんてまったく思い浮かばないっ!!」

 確定された負けを目前にしても、彩夏の心は折れなかった。むしろ喜んで火中へと走り出した。

(勝てる望みは一つだけある! 私の『直感』は否定しているが、それでもこれ以上の策が無い以上、やるしかない!! 失敗したらその時に考えるのみ!)

 彩夏は走る。ただ真直ぐに。能力とステータスによる身体能力の全てを使ってひた走る。

 神也は身体中に装備したミサイルを一斉斉射する。

 彩夏はもう1ポイントも取られる訳にはいかない。爆撃の雨の中、掠りでもしたら、その瞬間に敗北が確定する。

 能力により脳内パルスを活性化。強制的に引き上げた動体視力と思考加速に加え、僅かに身体速度を向上させる。スローモーションになった世界でも、所狭しと迫ってくるミサイルの大群を回避しきるのはとてつもなく難しかった。それでも彩夏は足りない分を無理矢理身体強化して通り抜けていく。

 彩夏の能力は物質の特性変化だ。それは錬金術に似ていて、逸脱した変化を与える事はできない。例えば石をゴムにする事は出来ても、水にする事はできない。肉体強化も、筋肉の強化に必要な体内の栄養を血中から取り出し強制的に急成長させているにすぎない。そのため、強化できる度合いには限界があり、使えば使う程体内の栄養を身体に奪われ、生命力が低下する。何より空腹感が力を入れようとする気力を奪っていく。脳内加速は疲労感を与え、眠気さえ襲ってくる。能力自体の代償、過度な能力使用による味覚の低下は、現状では無視できるが、己の中からあらゆる物が絞り尽くされていく感触をはっきりと感じ、彩夏の精神力をあっと言う間に削られていく。

(この一回きりが勝負ッ! 間に合え―――ッ!)

 走る。奔る・疾しる。

 肉体と精神力の限界で動けなくなるその一瞬まで、彼は足を止めずにひた走る。

 爆風に引っかかっていた髪留めが外れ、炎で髪先を焦がしながら、ギリギリの隙間を飛び込み、更に加速して足がもつれそうになりながら、彩夏は走り―――弾幕を抜けた!

「ひゅうぅぅぁあ~~~~~~~~~~っ!! アレを抜けてきやがったぁぁぁーーーっ!?」

 興奮した面持ちで高笑いする神也。

 戦艦砲はチャージ中でまだ撃てない。

 距離は充分。

「勝負ッ!!」

 彩夏は地面に飛び込みタッチ。地面をゴムに変質させ、走った勢いを利用しトランポリンの応用で一気に飛び上がる。残り全てを掛けた跳躍で、あっと言う間に神也の眼前へと迫る。

「お?」

 神也がニヤけた表情で眼前の彩夏を見る。

 彩夏は両手を掲げて、奥の手を放つ。

「罪人よ! 災禍の歌を歌え! 断罪なる(つるぎ)に、悉くを貫かれよ!!  『災禍讃唱』!」

 

 ゾガンッ!!

 

 突如出現したのは剣だ。逆棘状の刃を持つ痛々しい無数の剣。それらが突如出現し、神也の身体を覆っていたアーマーの数々を打ち貫き破壊していく。

 彩夏の能力は『物質特性変化』。物質の特性を変化させる事にしか使えない。覚えたスキルも『罠錬成』であるため、直接的な攻撃手段として使用するのは案外難しい。それ故にこんな芸当は本来できない。

 これを可能にしたのは彼の持つもう一つの能力『物質錬成』による、“無”から“有”を創り出す能力による物だ。そう、彼は直接物質を創り出し、それを攻撃の手段に使った。

 彼の持つ奥の手は、この『物質錬成』により、相手を閉じ込める檻の錬成だ。『災禍讃唱』はその中でも、今自分が覚えている最も攻撃的な剣の檻だ。

(ペナルティー無しの五回分を一度に使ってしまう奥の手だが、これで武装を全て失い反撃もできないだろう………っ!?)

 彩夏は精神力と肉体の限界を迎え、飛行手段を失った神也共々落下していく。彩夏の視界の端には49ポイントの表示が確認できる。後は重量が重い神也の方が先に落下し、落下の衝撃ダメージで1ポイントを先取し勝利できる―――はずだ。

(………―――ッ!!)

 だが、彩夏の全身を冷たい震えが走る。最初に感じた『敗北』の予感も胸から取り除かれていない。そして―――、

 

 バギャギィィンッッッ!!

 

 金属を粉々に噛み砕かれる、うるさい騒音が鳴り響き、………彩夏は見た。己の作った剣の檻が、神也の手に呼び出された巨大物体に粉微塵に砕かれたのを。

 それは刃の車輪だ。幾つもの刃の車輪が三列四本に並び、巨大な長方形の板に左右から挟まれている。それは電動(ノコギリ)のようだった。放電現象を起こしながら回転するノコギリ状の丸い刃が幾つも並び、それを神也は片手で振り回し、剣の大群を破壊してしまったのだ。

(近接距離なら火力武器は使えないと思ったんだけどなぁ~~………)

 彩夏は笑う。もう笑うしかないから、ただ無為に笑う。

「『技術ノ創造主(テクノクリエイター)』、白兵火力武器、装甲粉砕機『アーマーレイド』」

 神也が笑う。実に楽しそうに。粉砕すべき敵を見定め、獲物を潰す歓喜に、獰猛に笑う。

 次の瞬間―――、刃が彩夏に振り降ろされ、その身体が血肉の飛沫を撒き散らし、瞬時にリタイヤシステムにより粒子の粉となって消えた。

 

「そこまで! 勝者、機霧神也!!」

 

 

 

 04

 

 

「おうぅ………」

 あまりにスプラッタな光景を目の当たりにした菫は、思わず呻き声を漏らして薄目になった。神也は勝利した後も、暴れたりないのか、それとも能力による暴走を起こしているのか未だに暴れ回っている。教師はそれを「早く終わんねぇかなぁ~~?」っと言うぞんざいな眼差しで見守っていた。

 終わった後、二人に感想を聞いてみたいと思っていた菫だったが、これは無理そうだと判断して早々に諦めた。

 結構な時間になってしまったが、他に長引いている所はあるだろうか? そう考えながら菫は来た道を戻ってまだ見ていなかったフロアの探索に向かう。

 

 

 逆側、Aクラスフロア最端部、菫はその三人を見つけた。遠目だと女子三人が集まっている様に見えるが、まだ着替えていない実戦練習用スーツ(体操服)が一人だけ男子の物だった。っと言うかあのセミロングの黒髪をハーフポニーに縛っている頭と、包帯の巻かれた個所には憶えがある。っと言うかよく知った同室の相方で、ついさっき二回ほど殺しかけた相手だ。

 どうやらカグヤも治療を終えて他の対戦カードを観戦しに来ていたらしい。しかし、他女子二人と何やら言い争っている。………いや、言い争っている訳では無いようだ? 一人は疲れて壁に凭れているだけで、もう一人が一方的にカグヤに何か言ってる様だ。

「またセクハラ?」

 ひょこひょこっ、と、空気を読むつもりもなく近づいた菫は、一番ありえそうな質問をした。

「………」

 だが、返ってきたのは意外にも空虚な視線だけだった。カグヤには珍しく、からかいに付き合ってくれない。菫を一瞥しただけですぐに視線を正面の相手へと戻す。

 カグヤの他に居る二人の女性の内、片方、壁に凭れた白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女で、浅蔵(あさくら)星琉(せいる)。確か龍の力を使う事を得意としていた様な気がするが、詳しくはまだ解らない。

 身体中は傷だらけで、顔半分が包帯で隠れていた。腕や脚にも痛々しいほど包帯が目立ち、片腕を吊り、凭れている方の足は、骨折でもしているのか、板が添えられ固定されていた。リタイヤシステムで退場しなかったのが不思議なくらいの大怪我をしている。

 もう一人の女性は名前しか覚えていない。名前はレイチェル・ゲティングス。夜空の様に黒い髪は腰ほどまで伸び、眼は紅く薄っすらとクマがある。身長は、低く華奢な方だ。カグヤと並ぶと兄弟(姉妹?)に見えなくもない。こちらの怪我はそれほどない様で、身体に巻かれた包帯の数は少ない。カグヤと比べても軽傷の様子から、どうやら勝者組だと解る。

(これで負け組みだったら、星流にどうやって勝ったのか絶対に聞き出す………)

 密かに決心を決めながら成り行きを見守ると、レイチェルが話を戻す様にカグヤへと好戦的な視線を向けた。

「言わなくても解るだろう? 私が挑戦を叩きつける理由くらい」

 レイチェルの言葉にカグヤは眼を細めるだけで応える。

 どうやらレイチェルがカグヤに対し挑戦状をたたき付けている真っ最中の様だ。どうしてそうなったのか大変興味があったので、菫は黙って成り行きを“観賞”。

「別に決闘しようと言ってるわけじゃない。恨みがあるわけでも無し、そんな事する必要はない。………ただ、試合でぶつかった時は“私が勝つ”と言ってるだけ」

 訂正。挑戦状じゃなくて勝利宣言だった模様だ。

 しかし、こんな事にいちいち付き合ったりしないであろうカグヤが真面目に接しているのがやたらと不思議だ。カグヤを良く知る菫は、彼なら「ああ、OKOK~。その時が来たらなぁ~」っと適当に流しそうな物だ。どうしてまともに取り合っているのだろうか?

「別に良いけど、お前が勝つって誰が決めたよ?」

 逆に挑戦的な発言を返したカグヤに菫は瞳を丸く見開いた。こんな挑戦的な発言、相手を挑発する時以外でカグヤが口にした所を見た事が無い。付き合いが短いとは言え、それでも彼らしくない発言なのは確かだと判断できた。

「言うじゃない? でも、アナタの式神、二体とも神様なのよね? 闇御津羽に軻遇突智。有名どころの神様ばっかり使ってるみたいだけど………? アナタはその力の十分の一も引き出せていない。それで私に勝つつもりなの?」

 相手を見下す様な嘲笑めいた目で告げるレイチェルに、こちらも劣らぬ()()()()()()()で、カグヤも返す。

「確かに俺は未熟で、九曜は愚か、カグラの力さえ十全に発揮してやれていないな。ああ、認めるぜ? 俺は全く未熟だ。創り出した僕にさえ劣った存在だ。だが………。“俺とお前の何処に違いがあるよ?”」

 

 ボバンッ!!!

 

 突如、二人の間で強烈な水柱が激突し、周囲に水飛沫を撒き散らす。

 傍にいた星流と菫は思いっきりとばっちりを受け、水浸しになってしまう。星流に至っては、身体が支えられない為、尻持ちまでつかされていた。

 だが、最も水柱に近いはずのカグヤとレイチェルだけが飛沫の一つも浴びずに悠然と立っていた。

 水柱が弾け、収まった後、そこには新たに二人の少女が互いに水の刃を突き合わせていた。

「私の主を………、レイチェルを侮辱するのは許しません」

「我が君への冒涜を、私が許すと思っているの?」

 

 清楚なワンピースに身を包む蒼い髪の女性が、手の中で作った蒼い水の刃を―――、

 黒い装いに身を包む、濡れ羽色の長髪に黒曜石の瞳を持つ少女が、血を思わせる赤黒い水の剣を―――、

 

 互いが互いの首元へと刃を向け合っていた。

「それがお前の悪魔か?」

「ええ、シトリーよ」

 カグヤの質問にレイチェルが答える。

 『シトリー』ソロモンが使役したという72柱の悪魔が一柱。水を司るとされる悪魔。そしてレイチェルの使役するイマジン体。奇しくも対面するカグヤの式神、九曜―――『闇御津羽』と同じ水を司る存在だった。

 シトリーと九曜が刃を突き合わせ睨み合う中、レイチェルはカグヤだけを見据える。

「途中から貴方も見ていたんでしょう? 今回、私は二体の使い魔だけで勝利を収めた。多分に偶然もあったけど、結果勝利したのは私だ。………そっちは?」

「菫と戦った。勝ったのは菫だ」

「聞きたいのはそっちじゃないんだけど………」

 挑発的な苦笑を洩らしながら、しかしレイチェルは「まあいい」と達観したような表情になる。

「シトリー」

 名を呼ばれたシトリーが、視線を一度レイチェルに向けた後、再び九曜へと向ける。意図に気付いた九曜は視線をカグヤに向けて指示を(あお)ぐ。カグヤが頷いて応えると、九曜は瞳を閉じ、赤黒い水の剣を仕舞った。殆ど同じタイミングでシトリーも水の刃を消滅させる。

 互いに人睨みし合ってから姿を消す。どうやらイマジン体の二人の方も戦闘が出来るほど体力が回復していた訳ではなかったらしい。

「それじゃあ、星流を保健室まで連れて行く約束をしたから、私は行く」

 そう言いながらレイチェルは尻持ち付いて非難めいた視線を向ける星流に苦笑で謝ってから肩を貸す。

「あ、そうそう………」

 その去り際に足を止め、レイチェルは肩越しに振り返りながら挑戦的に告げた。

「アナタの“三体目”の式神は、必ず私が引きずり出す」

 瞬間、初めてカグヤの表情が強く強張った。鋭い視線が敵意に満ちたそれとなってレイチェルへと向けられる。それを涼しい顔で受け流しながら、彼女は星流を連れて去って行った。

 

 

  05

 

 

「なにか訳ありかい?」

 カグヤ達と別れた後に星流がそうレイチェルに尋ねる。レイチェルは少しばかり憮然とした表情で答える。

「そうじゃない。ただ、なんとなく………、アイツに負けるのが嫌な気がしただけだ」

 何だか子供みたいな事を言い出しそっぽを向くレイチェルに、星流は苦虫でも噛み潰した様な気分で呆れた。

「そうかい。つまりあれかい? 同じイマジン体使役タイプだったから、思いっきり対抗心刺激されたって言う奴かい?」

「その通りだが………っ!? そうはっきり言われるとだな………!」

 続く言葉が見つからないらしく、レイチェルは頬を薄く朱に染めながら口ごもる。

「だが! 相手も同じような物だったぞ!? アイツも、私と同じように対抗心に燃やされている様子だった。アイツも私と同じ気持ちなんだ、きっと………」

 それはそうだろうと思いながら星流は内心溜息を吐いていた。

 イマジネーションスクール。ここは自分だけの固有的な能力を有する生徒ばかりが集う学園だ。だから、同じタイプの人間に出会ってしまうと、対抗意識を抱かずにはいられないのだろう。

()()()()()()()()()()()|気がして、対抗意識が駆り立てられてるって事かい? まったく子供な………)

 呆れる星流は気付いていない。その“領域”を守ろうとする事こそ、イマジネーターの最大の特徴であり、この学園に入学できる者の絶対条件だと言う事に。

 つまり、気付いていないだけで、自分も同じ立場になれば同じだけ対抗意識を燃やさずにはいられないと言う事に、星流はまだ気付いていない。

 

 

 06

 

 

 切城(きりき)(ちぎり)。刻印名『札遊支者(カードルーラー)』を持つ彼は、黒髪に薄っすら青がかった深緑の眼を持つ、身長の低さにコンプレックスを持っている少年だ。彼の能力はTCG(トレーディングカードゲーム)のカード能力を現実に再現する物で、イマジンの特性としては最も相性が良いとされている。『再現』こそイマジンの真骨頂であり、再現する者が明確な情報となって纏まっているカードと言うのは、スムーズに術式を発動させるのに最適なのだ。教師の中では密かに、一年生の最強能力者になる事を期待されている。更に大風呂敷を広げれば、あの最強の名を持つ事の出来た東雲神威も、当初、札を用いた多系統の能力を再現しようかと迷った選択肢の一つだったりする。

 それほどの大風呂敷を担っていた彼だが、実はしっかりここでオチが用意されている。

 彼の能力はカードゲームのカードの能力を現実に再現する物だ。それはつまり、それだけに自分の手元には多種多様の選択肢が用意されていると言う事なのだが………。

「ぶっちゃけた話! 選択肢多すぎなんだっつうのぉ~~~っっ!!」

 今まで彼は、この能力を活かす為に、自分の部屋で何度もシミュレーションを繰り返し、状況に応じたコンボカードを想定したりと、準備万端のつもりでいた。だがそこに、実戦を体験しないと解らない事実に直面し、四苦八苦させられる羽目になった。

 まず第一に、彼の能力にはカードゲームのルールに則ってしまうため、『手札』という制限が設けられていた。

 能力『魔>>>札<<<怪(イクシードTCG)』を発動すると、好きなカードを手札制限七枚まで手元に呼び出す事が出来る。だが、それから新たな手札を取り出す(ドローする)には、最低でも三分間の時間が必要なのだ。この時間制限についてはまだよく解らないが、うんと頑張れば(つまり本人も何をどうしてるのか解っていない)もう数秒くらい縮められそうな気配はあった。

 ようはイマジネーションの慣れだと判断できるが、何がどうなのかよく解らないと言うのは中々に歯痒い物があった。

 更に問題点第二、ドローするカードはどの種類のカードでも構わないのだが、他のカードとの組み合わせが出来ないと言う事だ。

 例えば某遊戯の王様カードのモンスターに、某白黒カードのクライマックスカードの効果を与えようとすると『対象外』のエラー表示が契の脳内で発生し、カードの無駄消費が起きるのだ。これにはさすがに『安定思考30』のステータスを持つ彼でも絶叫せずにはいられなかった。

 考えてみればゲームルールが違うのだから、他のカードゲームと併用して使おうとしてもできるわけがなかったのだ。

 そして最も契を苦しめている問題が第三の問題点。

 それが“あまりにも膨大すぎる選択肢の多さ”だった。

 此処で彼の名誉のためにも付け加えておくと、別段、契がどのタイミングでどのカードを、もしくはコンボを発動して良いのか解らなかったというわけではない。彼もイマジネーター。その程度の思考は御茶の子さいさいだ。おまけに彼にはおあつらえ向きに『安定思考30』『並列思考50』『高速思考25』『集中力25』のイマジン変色体ステータスを有していた。これらが契の思考を助け、最も効率の良い選択肢を瞬時に叩き出してくれた。

 それはもう本当に速やかに最善策を生み出してくれたのだ。

 

 “軽く七万通りくらい”。

 

 七万通り、全てを“最善”と結果をはじき出してしまった契は汗だくになりながら混乱するしかなかった。正直な問題、後は好みで選んでくださいという状況だったのだが、その後の選択肢もバカにならないほど連続でとんでもない数値を叩き出し続けた。一手打つ度に次の最善策を五万通り―――一つ凌ぐために最善策を四万通り―――一時撤退の方法にまで六万通りの選択肢を思いついてしまう。

 此処に至って彼はやっとの事で気付いた。自分の能力は確かに優秀だ。それに合わせたスペックも自分には備わっていたらしい。だが、圧倒的に契本人が面食らいまくっていた。

 慣れだ。これは単なる慣れの問題だ。自転車と同じで一度乗れれば問題はない。慣れてしまえば膨大な選択肢の中から、自分の求める選択肢を好きに選ぶ事が出来る。この自由性に間違いは起こらない。何せ自分が最善と考えた選択肢なのだ。外れクジは存在しない。だから慣れてしまえばどうという事はないのだが………、乗り方が解っていても、自転車と言うのは中々すぐに乗れない物なのである。しかもこれは自転車に乗れないのに、いきなり一輪車に挑戦する様な物だから果てしなく苦労しそうだった。

「でも、ま………、僕様がピンチなのは完全に別の問題でしょ………?」

 世紀末の様な荒れ果てた荒廃都市のビル陰に隠れる契は、平静を保つために独り言をごちった。そうでもしないと削られた精神が今にも崩れ落ちそうなのだ。

「なによアイツ? もうマジ………ムリぃ………!」

 自然、声が震えそうになった。ビルの陰から覗き込んだ契はこちらに迫ってきている対戦相手を見て、悲鳴を上げそうになった。

 緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)。それが彼の対戦相手。白髪に金色のタレ気味の眼、身長体重はド平均っと言う出で立ちが、本来の彼の姿だったが、現在は黒髪に黒眼、タレ目が消えて髪も眼も恐ろしく濁っている。その濁った眼を見るだけで心の大切な部分が削られていく様な気分だった。何より契の気に障ったのは、彼がこの姿を模した時からひたすら上げ続ける笑い声だ。「げらげら、げらげら」と耳障りな笑いを、何もなくても常に上げ続け、それを聞いてるだけで耳を通して脳に直接攻撃をされている気分になる。

「なんさーもう………っ! なんなんさーもう………っ! 変な笑い上げやがって………! san値削られるんですけどぉ………っ!?」

 契は知る由もなかったが、正にその通りなのだ。

 陽頼は既に、己が能力『這いよる混沌(Nyarlathotep)』の『劣化邪神[陽](ナイアーラトテップ)』を発動していたのだ。これにより、彼の周囲に存在する者は、少しずつsan値を削られているのである。

 リアルsan値、これを削られるのは非常に危険である。特に思考型の契の様なタイプは最も忌避すべき精神攻撃の一つだ。ただでさえ思考を必要とする能力なのに、その思考を阻害されると言うのは二重に精神消耗を促進させる。正直、契はもう帰りたいと、らしからぬ事を何度も考えてしまっていた。

 契も陽頼も知らない事だが、このままでは精神ダメージによる危険性を判断され、リタイヤシステムが発動する可能性もあった。

 契とて抵抗してなかったわけではない。何枚かのカードで攻撃する内に、相手が火の属性に弱い事も既に掴んでいる。それなのに彼が追い詰められているのには理由がある。

 

 ボゴアァンッ!!

 

 突如上がった爆発が、陽頼を巻き込んで焼き尽くす。契がこの近くに仕掛けたトラップカード『万能地雷グレイモヤ』だ。敵を感知し、自分で接近し自爆する機能を有している。

 爆炎を受けて、陽頼は身体中を焼かれて(くずお)れる。

 今度こそやったのか………っ!? 最早願望と言っても差し支えのない心境で契は物陰から様子を窺う。

 

 むくり………っ。

 

 陽頼が………起き上ってきた。

 顔半分を焼き尽くされ、片腕が焼け爛れて溶け落ち、地雷を踏んだ片足は完全に消滅している。全身、無傷な所など無く、腹部に空いた穴は、内臓が見えている事を認識させぬほどに黒焦げだ。

 なのに立つ………。それでも立って、絶やさぬ笑いを浮かべる。

 

 ぐちゃり………ぐちゃり………。

 

 肉が脈動する。それはもはや肉とさえ思えず、まるで粘土か何かである様に、異様に生々しい音を鳴らしながら蠢き、身体を修復していく。いや、それを“修復”と称するには、人間の認識では憚られた。むしろそれは浸食だ。人の体の中に寄生していた謎の怪物が、器の肉が砕けたのを感じ取り、自分用の肉を内側から創り出し、傷ついた“外の肉”を押し出す様に隆起する。浸食に至った肉は、例えどんな傷を負っていようと己の領域だと言わんばかりにぐちゃぐちゃに掻き回して自分の肉へと変えてしまう。蛇の脱皮でも、ガマの油でも、トカゲの尾でも表現はできない。ナメクジが傷ついた体を癒す方がまだ見られた光景だ。最早アレは生物としての構造を完全に逸脱―――否、犯している。

「化、物………!?」

 クラスメイトに対して失礼かもしれないなどと言う考えは浮かんでこなかった。アレ(、、)が化け物で無いと言うのなら何が化け物と言うのか? 恐らくはアレ(、、)以上に化物じみた強さを持つであろう学園最強の東雲神威とって、それ以前に、以前のテレビで見た当時の三年生でさえ、こんな異様な光景を創り出している者はいなかったはずだ。

 どの先輩も、確かに人の形を、もしくは獣や多種族など、ともかく“見られた存在だ”。

(だけど………! これはもう根本的になんか違うでしょう………っ!?)

 削られ切ったsan値が、契に恐怖を植え付けていく。何度も罠に嵌めて殺した相手が、あんな異様な光景を振りまきながら復活し、また耳障りな笑いを上げて向かってくるのだ。最早発狂していてもおかしくない。

「………っっ!!」

 悲鳴を上げそうになる寸前、歯を食い縛って耐える。契の持つ『安定思考30』のイマジン変色体ステータスが、彼の精神を辛うじて繋ぎ止めてくれた。

 このまま負けて良いのか?

 自問に契は泣きそうな気持で反論する。

 いくらなんでも、こんな惨めなまま負けてやれるかよっ!?

 契はカードをドローする。自分の意思で取り出す事のできるカードだが、そのカードを『運命の(ディスティニー)ドロー』だと無理矢理思い込み、口の端を吊り上げる。

 瞬間、周囲を何かの気配が通り過ぎる。

「チィ………ッ!!」

 契はその感覚を既に何度も味わっている。自分も何度か既に撃っているが、今はむしろ撃たれている方だ。

 『探知再現』契達が要求されたタスク。これを使って目標物を見つけ、それを回収すれば勝利となるのだが、これが意外と落とし穴で、レーダーの様に広がるイマジンの気配が、イマジネーター同士に感知されてしまい、互いの位置を教え合ってしまうのだ。つまり―――、

「見つけタァ~~~~~~~~♪」

 急接近する陽頼。身体の修復が中途半端な事も無視して崩れた人間のなりそこないの肉として走り出す。おまけに速い! 何の生物か解らない肉と骨の塊をグチャグチャに動かしているのに、獣以上のスピードで這い寄る様に迫ってくる。

 形容し難きソレ(、、)が、ゲラゲラと嗤い声を上げながら、契に襲いかかってゆく!

「おわ………っ、おわっ、おわああああああああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~ッッ!!!!???」

 冗談は抜きだった。

 削りきられたsan値が彼に全く余裕を与えてくれない。いや、それを抜きにしても、ソレ(、、)に這い寄られれば、誰でも涙目になって本気で逃げ出していたかもしれない。

「に、が、さ、な、い、っ!!」

 言葉の通り、陽頼は契を逃がさなかった。脇目も振らずに泣きながら全力疾走した契に、三秒も数えない内に先回りして正面から迫ってくる。

発動(コール)! 『聖なるバリア ミラーフォース』!!」

 契の前に鏡の様な虹色の光を放つ壁が出現する。この壁に攻撃した者は、その攻撃をそのまま返されると言う効果を持つトラップカードだ。

「げらげらげらげら」

 陽頼は不快な笑いを上げながら―――構わず拳を連打した。

 『ミラーフォース』の効果は受け止めた攻撃を跳ね返すと言う物だが、その効果は『一度の攻撃だけを返す』と言う制約がある。ならばその盾に連続攻撃を与えた場合どうなるか? その答えは連続攻撃がやむまで受け止め続けるだ。受け止めた数が多ければ多いほど、跳ね返す威力も増す。むしろこれは好都合とも言えるはずなのだが………。

 

 バビギ………ッ!

 

 聞き慣れない音を鳴らし、ミラーフォースに罅が入る。

 陽頼の連打はまだ続いている。

 更に亀裂がどんどん大きくなり、嫌な音も次第に大きくなって契の不安を駆り立てる。

「う、嘘だろ………!」

 契は状況を理解し、慌てて最後の手札を切る。切り札として先程引いたカードを!

 ミラーフォースが粉砕され、陽頼の拳が契へと迫る!

憑依装着(ライド)!! 『ホーリーエンジェモン」

 瞬間、カードが契の中へと埋め込まれ、彼の全身を光に包んだ。

 契の背に四対の天使の翼が出現し、左の肩に出現したショルダーシールドで陽頼の攻撃を受け止める。右の手の甲には、手甲の様に丸い盾が出現している。その盾から光の剣が飛び出し、同時に契は剣で陽頼に切り掛る。聖なる属性を持った刃が触れ、初めて陽頼が怯んだ様に動きを鈍らせた。そのチャンスを逃さず、契は光の剣で正面の空間を斬る様に円を刻む。

「『ヘブンズ・ゲート』!」

 契の呼びかけに応え、斬られた空間が黄金の門と化す。門は左右に分かれ空間を開くと、門の奥の異空間へと陽頼を取り込んでしまった。

 門が閉じる瞬間、未だにぐちゃぐちゃの彼の肉が、閉じかけた門を掴み取り、這い出ようと抵抗を試みる。しかし、光の吸引力は凄まじく、陽頼の抵抗虚しく、門は完全に閉ざされた。

 一拍の静寂。契にとっては長い沈黙を経て、ようやく勝利を確信してへたりこんだ。

「は、はは………っ! ………いくら不死身でも、異空間に飛ばされちゃえば関係無いでしょ?」

 『憑依装着』それが先程、契の使った奥の手だった。用いるカードの効果を呼び出すのではなく、自分に付与し、カードに記された能力値の限界を超えて行使する事が可能となる。使用時間は一時間、終了後は使用時間の倍の時間身動きが取れなくなってしまう上に、他のカードを使う事が出来ない。おまけに使用中は契の脳内リソースの半分を使用するため精神的な疲労も大きい。効果は大きい半面、使い勝手の良い能力とはとても言えなかった。

「でも、これでさすがに僕様の勝ちでしょう………?」

 安堵の息を吐きながら、契がポイント差を確認しようとした時、突如大爆発が起きた。

 爆発したのは先程契が創り出したゲートだ。ゲートが何らかの力によって破壊されたのだ。

「いやぁ~~~! さすがの私も今のはびっくりしちゃいましたねぇ~~~♪」

 爆煙の中、ゆっくりと歩み出てきたのは、白髪に黒眼の少女だった。膨らんだ胸を張り、腰に片手を付いて、彼女は自信に満ちた笑みを浮かべる。

「御呼ばれながら即参上ッ!! アナタの元に這い寄る混沌、『劣化邪神[陰](ニャルラトホテップ)』の緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)さん! 初お披露目で~~すっ!!」

 ビシッ! っと決めて見せる姿に、契は呆気にとられる。普段の彼なら呆れて見せるか、茶々を入れるか、もしくは一緒にふざける所なのだが、生憎そんな余裕はもはやなかった。

 冗談じゃない。そんな言葉が脳裏を過ぎった。

 本当に冗談事ではなかった。何度殺しても、破壊しても、焼き尽くしても、それでも復活してくる化け物を、やっとの思いで異空間に追い出したと言うのに、そのゲートをぶち壊して、這い出てくるとか、最早驚きも笑いも通り越して、ただ疲れて座り込む事しかできない。

 こんな時、イマジネーターの思考能力が恨めしいと思った。イマジネーターであるが故に、この状況下でも相手の情報を読み取り、状況を正しく理解してしまう。

 あの少女は間違いなく、先程まで戦っていた緋浪陽頼に間違いない。何故男だった彼が女になっているのか解らない。御叮嚀に実戦練習用スーツ(体操服)まで女子用のそれに変わっている。何らかの能力によって変化したのだろう事は予想できた。まだ勝てる可能性も幾つか検討出来た。だが、そこまでだ。

 切城(きりき)(ちぎり)は悟ってしまう。現在目の前にしている存在は神格を有している。それもカグヤや金剛とは違う、その身に当然として神格を有している存在。人間ではない。コイツは本物の化け物(神様)だ。今はその一部を取り出して使っているだけなのだろうが、コイツはその気になれば己の神としての姿をいつでも解放できる。果たしてその時、契に対抗する手段はあるだろうか?

(“神のカード”でも使う………? はは………っ、一体どんだけ出すのに時間を有すると思ってんの………?)

 契は諦めた。諦めるしかなかった。およそイマジネーターとして相応しくない考え方だが、この場に限って言えば仕方のない事だ。イマジネーターと言えどもその正体はただの人間、精神が疲労すれば対抗する意識も失せると言う物だ。この場合、イマジネーターの強靭な精神力を削り取った陽頼を賞賛するべきだろう。

「それでは、最早戦う気力もなくなってしまったであろう契さんには悪いですが………、残虐ショーの続きと行きますかぁ~~♪」

 不気味に笑いを浮かべると、陽頼は中空に手を伸ばす。その手が空間を歪ませ、異空間に仕舞ってあったらしい釘抜きを取り出す。

「それでは締めの残虐ショーとして………、必殺! 私の必殺………っ!」

 飛び上がる陽頼、空中で一回転、くるりと体勢を変え、契に向かって真っすぐ飛来する。

「クライマックスキック~~~~~♪」

「何のために出したよぅ!? 釘抜き!」

 最後に残った精神力をツッコミに使い果たし、契は最後の瞬間に目を見開く。

 

「だぁから、勝負ありだって言ってるでしょう? いい加減にしないと食らい尽くすぞ!?」

 

 バクンッ!

 

「ぎゃっ!?」

 突如出現した“黒い口”が、飛び蹴りの体勢にあった陽頼を丸呑みする勢いで食べてしまった。陽頼は慌てて体をばたつかせ、何とか巨大な“口”の顎を開き這い出ようと試みている。

「まったく………、先生の言う事聞かないと生徒相手でも容赦しないぞ?」

 呆れてそんな事を云うのは、青髪にエメラルドグリーンの目。低めの背で、何故か三角巾とエプロンを装着していると言う謎の井手達(いでたち)をした二十代後半の青年だった。

 彼の名は水無月(みなづき)秋尋(あきひろ)。この学園の教師で、彼等の審判役を担っていた。

「切城、お前が緋浪をゲートに閉じ込めた時点で必要ポイントの獲得に成功していた。緋浪は不死身の属性に頼りすぎたな? 普通の試合なら確かに脅威だったが、今回はポイント制だ。死んでも平気だろうが死んだ分だけポイントは取られるんだから有利とは言えないぞ? って言うかちゃんとアナウンスしたんだから続行してるんじゃないお前ら」

 軽く教師に叱られ、陽頼が「な、なんですと~~~っ!? この私とした事がそんな初歩的なミスを犯してしまったと言うのですかぁ~~~っ!?」っと騒ぐのを、契はしばらく呆然と見つめてるしかなかった。だが、次第に状況が呑み込め始め、勝利した事より生還できたことと、自分を助けてくれた誰かの存在を認識した事により、彼の(たが)が外れた。契は遮二無二に秋尋に向かって飛び付いた。かなり本気泣きで。

「お、おわぁっ!? ど、どうした!?」

「こ、怖かったぁ~~~~っ!! 割と本気で怖かったぁ~~~っ!! もう二度と陽頼とは戦いたくねぇ~~~~~~~~~~~~っっっ!!」

「それヒドイッスっ!?」

 とりあえず戦闘終了。

 契は強敵陽頼に勝利を収める事が出来た。

 

 

 07

 

 

 Aクラス担当(担任ではない)、比良(このうら)美鐘( みかね)教諭から聞かされた事実に、Aクラス勢は驚愕を覚えた。

「実は、今回の試合な? クラス内トーナメント第一試合だったんだ」

 事も無げに言われた生徒達は、戦いの疲れもあって、その場で項垂れるしなかった。非難の声一つ上げられる者もいない。

 現在Aクラス生徒達は、保健室に言った者も含め、全員が教室に戻ってきてた。一部の者を除き、誰も彼もが包帯やらで身体中傷だらけの(てい)を見せている。誰も文句を上げる余裕すら持てていない。

 そんな状況に満足しながら、美鐘は淡々とクラス内交流戦について説明を始める。

「クラス内交流戦は月一に行われる。今回最初のクラス内交流戦はランダムで決定される対戦相手と三試合行い、より勝利数の多い者が選定され、最終的により多くの白星を手に入れた者が優勝、クラス内最強と言う事になる。なお、クラス最強の座を手に入れた生徒は、同じく月一で行われる今回の学年別交流戦に参加できる権利を得る。一年生最初の学年別交流戦は。クラス代表が一名ずつ選出され、トーナメント戦をされる事になっているから、優勝を目指せよ? ………そうそう、クラス代表者に選ばれた生徒はMVP賞として、『スキルストック』が一つ譲渡される事になっている。学年一位には更に『派生スロット』一つ解放されるとの事だ。充分励む様に!」

 美鐘教諭の説明が終わる。生徒は皆、一様に目を丸くして驚いていた。教師の言ったMVP賞が、あまりにも破格過ぎて、言葉を失っていたのだ。

 『スキルストック』は、学生が受けている能力の応用範囲の制限である。『スキルスロット』が一つ増えれば、新たな能力技能を覚える事が出来る。例えば、カグヤやレイチェルの場合なら、新たに使役するイマジン体をもう一体追加する事が出来るようになる。

 そして『派生スロット』。これは能力その物を新たに追加し、更に範囲性を広げる事が出来る。これにより、『火の能力』しか使えなかった者も、その能力の関連性で繋げ、新たに『水の能力』を得られるようになる。

 どちらも破格の褒賞だった。誰もが狙わない筈がない。

 今日勝った者は既に一歩を踏み出す事に成功している。負けた者達は挽回の可能性に掛けて、この先一度も負けるわけにはいかない。二敗すれば、まず間違いなくクラス代表に選ばれる事はないのだから。

 疲れきっていた生徒達に、再び士気が高まり始める。

 今日を含めた三日間。それがクラス内交流戦の期間。試合は全部で三戦。より多くの勝利を勝ち取った者だけが、次へとコマを進められる。

「それとお前ら? ちゃんと飯食った後の授業には参加しろよ? まだお前ら全員、筆記は必要範囲までやってないんだからな?」

 教師の忠告など何の事はなかった。何せこのAクラスの生徒は、規格外(バカ)みたいに頭が良い奴らしか揃っていなかったのだ。筆記で単位を落とすなどと、誰も想像できなかった。




――あとがき――


カグヤ「まさか怪我しても治療してもらえないとは思わなったぞ………」

菫「死ぬかと、思った………」

カグヤ「確かに最初の授業でやたらと気合の入った本格的な応急処置とか教わるな~~、っとは思っていたが、この万能の学園で治療無しとはな」

菫「私達、信用されて、ない………?」

カグヤ「いや、そうじゃないだろうが………、まあ教師の良い分も解る。万能に頼れば、いずれ人の心の方が歪んで行く。俺達も気を付けないとな」

菫「だからカグヤは歪んだ、の………?」

カグヤ「は?」

菫「エロ万能能力」

カグヤ「………。確かに俺の目覚めはエロ技術を身に付けた後だったな?」

菫「こいつダメ」





彩夏「実戦練習用スーツ(体操服)をちょっと説明しようか?」

陽頼「(こくん)」

彩夏「これは男性用、女性用の二種類があり、更にそこから季節二種類に分けられている」

彩夏「男性用は春と夏がノースリーブに迷彩柄の長ズボンだ。ホルスターベルトもあるらしいぞ? 秋と冬用は、これに更にジャケットが付き、更に寒冷用のコートがある。今回は寒冷地での訓練が無かったので、誰もコートは着なかったがな」

彩夏「女性用は男性用とそれほど変わらない。ただ女子の場合は短パンとミニスカートタイプしかないらしいぞ? 動き易さ優先な格好でちょっと恥ずかしい気もするかもな?」

彩夏「ちなみに私は、ミニスカタイプを所望したがね!」

陽頼「………」

彩夏「君………、その姿の時は本当に反応が鈍いね………」

彩夏「まあいいや。そろそろお風呂に行こうか?」

陽頼「(こくん)」





海弖「ゲティングスくんは東雲義弟くんに御執心の様だね?」

ゆかり「良い傾向やね? 自分の領域を守ろうとする強い想い程、イマジネーターを強くする者はないからねぇ~?」

海弖「彼女に引っ張られて東雲義弟くんも対抗心を抱いてくれれば丁度良いバランスになるだろうね? 彼は他人を強くする性質はあるが、自分を強くする才能を欠片も有していないからねぇ?」

ゆかり「この調子でお互いに良い刺激を与えて行ってくれたらええなぁ~~♪」


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一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅱ

やっと書けたぜ!
今回は連僅が続いて中々書く暇がなかったが、ここまで来た!
今回は先輩方、三年生の戦闘シーンの一部も書かせてもらいました!
あまり期待されると困る様な内容ですが………。
とりあえず、これがAクラス編下巻です! 一緒に楽しめればと言う願いを込めて!!
さあ、どうぞっ!


 08 【Aクラス編】下

 

 

 こうして始まったクラス内交流戦二日目、その目ぼしいカードを順に紹介して行こう。

 

 

 【レイチェル・ゲティングス VS 機霧神也】

 

 戦闘フィールドは切り立った深い崖。空も底も見受ける事の出来ない高く深い崖の合間を、二人は飛行能力を駆使して追いかけっこを演じていた。迷路のよう入れ組んだ崖の合間を飛び周り、相手の後ろを取った方が有利になる様な状況。

 レイチェルは、朱い髪に背中から羽、おでこからは角を生やした露出度の高い衣装に身を包む女性の悪魔、≪アスモデウス≫に、後ろから両手で腰を抱いた状態で飛行していた。その後ろを追うのが、某インフィニットなストラトス風の装備で固めた神也だった。彩夏と戦った時同様、飛行用のバックパックにレッグ、アーム、ヘッドギアを装備していたが、この狭い崖のフィールドでは、お得意の火力武装が使えず、少々不満顔だ。今の状態は黒髪黒眼で、眼も至って普通。彩夏戦で見せた姿はまだしていない。

 彼は、火力砲が使えない代わりに、両肩、両脇、両腕に呼び出したミニガンを構え、レイチェルに向けて一斉斉射する。7.62ミリ弾を毎分2000~4000発という圧倒的発射レートを持つミニガンが六門、一斉に発射されたのだ。脚色無しに弾丸の雨に曝され、イマジネーターの回避性能を完全に封殺する。

「アスモデウス!」

「ええっ!」

 主の指示に従い、アスモデウスは片手で主を支えながら、もう片方の手で呼び出した炎を渦巻かせ、炎と風圧の壁を作る。壁に接触した弾丸は高熱に一瞬で昇華し、小さく爆発し、壁を突き抜けた物も、炎の渦に軌道を逸らされ、悉く標的を打ち損じる。

 神也はミニガンが通じないと悟ると、斉射を続けたまま、両肩のミニガンだけをパージ、しばらくの間を持って、新たに作り出した二門のレールガンを装着した。

「やば………っ!」

 電磁誘導(ローレンツ力)により加速して撃ち出された鉄の塊は、易々とマッハ7を弾きだし、アスモデウスの創り出す炎を一撃で粉砕、貫通し、レイチェル達の両脇を通り過ぎる。それだけで生じたソニックブームが二人を大きく煽り、飛行の能力を奪ってしまう。

 二人は錐揉(きりも)み状に吹き飛ばされながらも崖の壁を蹴ったり、羽を広げて敢えて失速する事でミニガンの雨を躱す。四門に減ったとは言え、弾丸の嵐は防御無しで躱し続ける事は出来ず、何百と言う弾丸をその身に受けてしまう。

 必死にイマジンで身体中をコーティングするイメージに、以前のタスクで覚えた『硬化再現』で弾丸のダメージを減らそうとするが、レイチェルの視界の端に表示されているように見える神也のポイントは凄まじい速度で1ポイントずつ加算されていく。

「………っっ! ………―――あぁっ!!」

 ポイントが27から46になったタイミングで防御を諦めたレイチェルは、今回のタスクに出ていた『加速再現』を実行する。

 

 ドンッッッ―――!!!!

 

 瞬間完全に視界を見失ったレイチェル。イマジネーターの直感が危険を知らせ、瞬時に『加速』を切るが、その時には既に、幾度も体を崖にぶつけ、3ポイントを自ら譲ってしまった。

「―――………っ! 自爆くらい大目に見ろ! 奴の取った得点ではないだろうっ!?」

 叫びながらレイチェルは右肩を左手で押さえて庇う。右肩は先程の衝突で大きな傷を開き、大量の血を流している。もはや熱としか感じられない様な痛みから、既に肩の骨自体粉砕しているかもしれないと考えると恐ろしくなってくる。もし、加速した時にアスモデウスがレイチェルを庇って身体中からイマジン粒子を散らせていなければ、彼女が受けた傷がそのまま自分の傷となっていただろう。

「だけど、この距離なら―――!」

 僅かに開いた距離。直進速度では上の神也は加速する事無く、しかし、スナイパーライフル右腕に呼び出しスコープ越しにこちらを狙っていた。御丁寧にこのスナイパーライフルもレールガン仕様だ。背中のバックパックに新しく追加された重そうな丸いタンクは、恐らく発電機か何かだろう。

 レールガンは火薬を使っていないため、連射しても銃火器よりも熱を持たず、圧倒的な連射が可能な武器だ。それでも大量のミニガンを装備した後で身体に熱が溜まってしまっているのか、残り三門のミニガンは全てパージされ、変わりに何やら透明な帯が腰部分からたなびいていた。これが僅かに赤発色している所を見るに、余分な熱を奪う排熱巾の役割をしているようだ。これで神也はレールガンをほぼ無限に撃ち続けられるようになったと見るべきだろう。(弾はイマジンでいくらでも創造可能)

 神也が引き金を引き、狙撃する。

 危なげなく旋回するようにして回避するレイチェルとアスモデウス。

(大丈夫………! この距離ならマッハだろうと撃つ瞬間に『直感』で躱せる………! お願いだからこの直感続いてくれよ………!)

 イマジネーターの危険回避はデフォルトで備わっている様な物だ。その一点に関して言えば『直感』はほぼ永久に連続発動が可能だ。だが、同時に危険回避による直感は『危機感』から発する物であり、“慣れ”てしまったり、“驚異と思えなくなってしまった”りすると、発動しなくなってしまう。

 現状に於いては“働かなくなる”っと言う事はないのだが、その知識をまだ習っていないレイチェルは焦りを覚えずにはいられない。

「でも………っ!」

 レイチェルは目標地点を見つけ、進行方向そのままに振り返る。手を翳し、指先で空中に魔法陣を刻むと、≪シトリー≫の力の一部を借り、音速水鉄砲を撃ち返す。

 射撃を返された神也は、ライフルを撃ち抜かれ、遠距離武装を失ってしまうが、瞬時に脚部のバーニアを吹かし、加速。レイチェルへと急接近していく。

 更に右手を天に翳し、丸い十センチタイプの棒を呼び出す。その棒の先についたスイッチを親指でONにする。瞬間棒の先から高質量エネルギーによって形成された剣が出現する。九曜の物とは違う、正真正銘本物のフォトンソードだ。それもかなり巨大な大剣サイズの大火力武装だ。

「まだ十秒くらいしか持たせられないけど………! 一度使ってみたかったんだよね! この距離と地形なら外さな―――!!」

「どうかなっ!!」

 振り被った神也に対し、レイチェルはアスモデウスの手を離れ、岸壁に足を付くと同時に反対方向、右側へと高く跳躍し―――レイチェルが岸壁をすり抜けて消えた。

 否、それが違うと気付いた神也は慌てて逆噴射し、急停止。危うく迫っていた岸壁へと衝突する所で止まる。

 一本道を飛んでいたと思ったら、突然T字状に崖が割れていたのだ。あのまま真直ぐ進んでいれば岸壁に正面から激突するところだった。

 反撃の可能性を考え、レイチェルの消えた右側を視認しようとした神也は―――、

「はあい♡ ボウヤ? 私のサービスポーズにちょっと注目~~~~♪」

 逆側、左からした声に、神也は()()()()()()()

 両腕を頭の後ろに組んで、たわわに揺れる胸を揺らしながら、腰のくびれを扇情的に見せつけるアスモデウスの姿に―――、

「○×△%$~=‘*+>?」{|=~}|’&&$#!“#%&‘()?M*~={=PO=”*+*!!!??? ///////////////////////////////////// ♡♡♡♡」

 ―――自分でもわけの解らないほどに魅了されていた。

「あら? もしかして精神系の攻撃にまったく耐性無し? ラッキー♪」

 レイチェルが岸壁に捕まりながら笑い、もう一体の僕に命じる。

 神也の上に待機していたシトリーは、両手に溜めた大量の水を一気に解放し、滝として流し落とす。滝に呑まれた神也は、何とか落とされないようにバーニアを吹かしたが、それが逆効果となった。度重なる銃火器の使用に、バーニアの熱。そして致命的な大質量エネルギーを放射しているフォトンソード。これらが持つ超高温の熱が、冷たい水と接触、一気に温められた水は高圧水蒸気を生み出し、衝撃となって神也を破壊する。すなわち水蒸気爆発が起こった。

「本当はアスモデウスの炎で誘爆させるつもりだったんだけど………。わざわざ高質量エネルギーの武器を取り出してくれて助かったよ」

 レイチェルがそう笑みを滲ませ、24のポイントが46になったのを確認する。

 このポイントに少し不服を覚え、一度教師に採点基準を問い質してやろうかと思案した瞬間、異変が起きた。

 爆発した水飛沫の中から、ぐったりした様子の神也が、力なく背を逸らしながら墜落を始めたのが見えた。だが、その髪は徐々に赤く加熱する様に変色を始め、見開かれた眼の奥に幾何学模様が浮かび―――、

「―――ッ!! それは、させないっっっ!!」

 『直感』で危機を感じ取ったレイチェルが、腰のホルスターに収めていたカードを一枚取り出し、正面に向かって投げる。カードにはイマジンによる青い線で魔法陣が描かれていた。レイチェルの使役する悪魔は、カグヤの使う式神と似て、彼等の力を使用する際に必要不可欠な『寄代(よりしろ)』、“媒介”が必要となる。レイチェルの媒介が、この魔法陣なのだ。

「おいで、シトリー。すべてをさらけ出してあげましょう」

 彼女の言霊に応え、正面に姿を表わす蒼い髪にワンピースの少女。

 カードの魔法陣は光を発し、大きく展開されると、シトリーと共にレイチェルへと重なる。再び青い光が眩く発光。清楚な雰囲気のするワンピースに、蒼い髪をした、レイチェルが背後に水の球体を従わせ現れる。レイチェルの奥の手、『憑依』。使役する悪魔を己と一体化させる神降ろしに等しい神秘の再現。

 シトリーと一体になった事により、高められた神格。その神格で爆発して飛び散る周囲の水を操り、背に控える水の珠と一体化させ、巨大な水の槍を創り出す。

 神也の眼に幾何学模様がはっきりと映し出された瞬間、レイチェルは間髪入れずに水の槍を放つ。悪魔シトリーの神格で操られた水は、いわば水を操る権能。その速度は一瞬で音速へと至らしめ――――神也の身体を粉砕した。

 リタイヤシステムによる光の粒子とアナウンスを聞きながら、彼女は額の汗を拭い勝ち誇る。

「ふう………、なんか解らないけど、アレ(、、)使われてたらまずかった………。でもとりあえず、私の勝ち!」

 

 【勝者 レイチェル・ゲティングス ポイント72】

 

 

 

 

 バギリ………ッ! っと、鱗と骨が砕ける生々しい音をたてて、白い龍の首が軻遇突智(カグヅチ)の顎に噛み砕かれる。

「ソウルセイバー・ドラゴンッ!?」

 白き光の龍がイマジン粒子として散っていくのを見て、切城(きりき)(ちぎり)が悲鳴の様に声を上げる。粒子が散る傍らでは、重々しくも勇ましい白い騎士甲冑に身を包んでいた大剣使いと、白い鎧に身を纏う剣士が、二人で膝を付き大量の粒子を身体から漏らしていた。彼等の身体は傷だらけで、もはや漏れ出す粒子を止める術はなさそうだ。

 ブォン………ッ! と、赤黒い水の剣を軽く振った九曜は、もはや反撃する事の出来ない騎士二人に、それでも警戒の視線を向けたまま見下ろしていた。

「主と能力の差が出たわね。スキル一つで集中されて作られた我らに比べ、多数に分散された軍勢のアナタ達では、一体一体の実力が違うわ。それを補うだけの力が、主も未だに不足している」

 九曜の冷たい言葉に二人の騎士は歯噛みし、消える瞬間にも主に対する申し訳なさそうな表情を残し続けた。

「『アルフレット・アーリー』! 『ブラスター・ブレイド』!?」

「ほい、これで全部か? トラップも全部解除したし、これでもうお前は抵抗できないよな?」

 切城(きりき)(ちぎり)の両手を同じく両手で捕まえて組み合う東雲(しののめ)カグヤは、かれこれ二十分くらいこのまま押し合いをしていたので、結構表情が必死だった。契も抵抗しようともがいていたが、相手の動きを読み切るカグヤに抵抗虚しく粘られていた。

 カグヤと契の戦いは正に手に汗握る高度な戦略戦となった。互いに罠を仕掛け、フェイクで誘い、幾つもの知略戦が交差し―――、やり過ぎて正面から力付くでぶつかる以外の手段を失って泥沼試合と化した。

 契はともかくレベルの高いモンスターカードを呼び出し、カグヤは軻遇突智で一掃しようと正面からぶつかり、かなりの消耗戦になり、結果的にカグヤの式神が能力的に勝っていたがために現状へと至った。

「『手札』があっても、“手”が使えないならカードは使用できないよな?」

 不敵に笑うカグヤに、苦虫を噛み潰したように俯いた契。しかし、次第に契は肩を揺らし始め、ガバリッ! と顔を上げた。その口にはカードが一枚、咥えられている。

「悪いな! 手が使えなくても、口でカードを抜けば使用するくらい―――!」

 契が勝利宣言の様に声を上げるとともに―――突然カグヤの表情が赤面し、潤んだ表情になると、ゆっくりと口を近づけ始める。

「手が使えないから………、口で、取るしか………、阻止できない、よね?」

「………へ?」

 その言葉の意味が理解できず、一瞬固まる契。瞬時に思考ステータスの全てを動員し、カグヤの言葉の意味と意図を探り始める。

 契の思考能力は、“思いっきりマジで口付けしてでもカードを阻止しようとしてますぜいっ!?”と言う答えを返してきた。

 再三再思考。………三度同じ答えが返ってきた。

 

 …………………。

 

「ちょ………っ!? おうぇあぁえ~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!!???」

 

 契は混乱した。▼(ピッ)

 契は離れようともがき始めた。▼(ピッ)

 しかし、両腕を掴まれ逃げる事が出来ない。▼(ピッ)

 潤んだ瞳で、顔を赤く染めたカグヤの顔が近づいてくる。▼(ピッ)

 契は混乱に拍車をかけた。▼(ピッ)

 

 何故か状況理解がRPG風に脳内再生される契。現実逃避だったのかもしれないその行動に、容赦無くカグヤ(現実)が迫ってくる。

 カグヤの顔は、近くで見れば見るほど、女性のそれと全く見分けがつかない。それでも“彼”が“彼女”ではない事はとうに知っている契だ。この状況が嬉しいはずもなく、慌てて逃れようとするのだが、カグヤはそれを許さない。

 ドンドン真っ赤になったカグヤが近づいてくる。

 自然、カグヤの表情を正面からじっくり観察する事になった契。カグヤの睫毛は男と違い少々長めで、普段睨むように細めていた瞳も、今は大きく柔らかい感じに開かれ、黒水晶の様な瞳を艶めかしい程に潤ませている。鼻も低く、顔は骨格自体が丸みを帯びているのか、撫でらかに丸い線を刻んでいる。赤面した頬はとても柔らかそうで、ついつい指先で突いてみたいとさえ思える。肩へと滑った黒髪は、とても艶やかで、手にとって滑らせたくなるほどに輝いていた。最後の極めつけにピンク色に染まった唇。まるでサクランボの様に小さな口は、今は上品に(すぼ)められ、恋人に軽くキスをするかの様な蠱惑(こわく)的な魅力を漂わせていた。

 あれ? コイツって、本当に男なんだっけ? そんな血迷った思考を浮かべた契は、何もかも忘れてその唇に食いつきたくなってきてしまった。

 もちろん、すぐにそんな思考は全力で首を振って消去した。

 その隙をついたカグヤは、大きく頭を背後に逸らしてから―――ガツンッ!!

「オギャッ!?」

「ダバッ!?」

 頭突きを見舞った。

 カグヤが昔教わった剣術の裏技、『花房(はなぶさ)』。それがこの技の名前などとは、誰も知る事はない。………かなりどうでもいいので。

 頭突きで気絶した契と、自分で頭突きをしておいて、自分でくたばってるカグヤが、二人仲良くノックダウンした。

「我が君」

「お兄ちゃんっ!」

 九曜が冷静にカグヤの肩を抱いて起こし、カグラが人型になり慌てて反対側の肩を支えた。

 抱き起こされたカグヤは額を擦りながらポイントを確認する。

「痛てて………、これ自爆もしっかりポイント取られるんかよ………? まあ、でもこうでもしないとマジで男相手にキスする羽目になってたから文句は言わんが………」

 不貞腐れながらも、何気に今ので勝利ポイントをギリギリで獲得したカグヤはホッと息を吐く。

 そこでやっと両隣から、とても不安げな視線を向けられている事に気づく。

「どうした二人とも? 額のダメージならそれほどでもないぞ?」

「いえ、その………」

 珍しく九曜が言葉を濁す。

 同じく不安そうに、見つめていたカグラは、未だに首を傾げているカグヤに対し、壇上の想いと言わんばかりの覚悟した表情で問いかける。

「お、お兄ちゃんっ!? あの時………、本気でキ、き、ki、………キスするつもりだったの?」

「何を言い出すお前は。そんな気持ち悪い事絶対するわけないだろう。相手が女子だったならともかく」

「そ、そうですよね………、いくら我が君でも、殿方を相手など………」

「ちょっと九曜さん? アナタも疑ってました?」

 珍しく視線を逸らして黙秘する九曜。カグラは疑わし気ながらも、カグヤがはっきり否定してくれた事に胸を撫で降ろしていた。―――が、やめておけば良いのに、カグヤはつい余計な事を続けてしまう。

「まあ、途中まで本気だったのは事実だけどな? そうでもしないと契の思考能力で表情読まれて、嘘だって解っちまうからな。だが、思考しない様にするって言うのは結構難しいな? アレは長い間は無理だな。心を無にするとか言う奴らしいが、あんな緊張感でやるのは結構なプレッシャー………? どうした二人とも?」

 完全に青ざめている僕二人に気付いてカグヤが問いかける。

 九曜、カグラは、同時にカグヤに飛び付いた。

「我が君! 今すぐ………っ! 今すぐ部屋に戻りましょう! 私が“閨”を務めますからっ!!」(必死)

「勘違いしないでよねッ!! お兄ちゃんの事が本気で心配だから一緒に寝て上げるんだからねっ!? それでお兄ちゃんがいつもの女好きに戻ってくれるなら私は何も言う事無いんだからねっ!?」(必死)

「ベットイン歓迎! でも待てやこらっ? お前ら二人とも本気でなにを心配してやが―――」

「大丈夫です我が君! どんなに女を体験しようと、飽きる事の無い程、この世の中には幾多の嗜好―――“ぷれい”なる物が存在すると聞きます! 我が君がお望みとあれば、この九曜! 如何なる“ぷれい”にも応えて御覧に入れます!」

「お兄ちゃん! 妹属性の開拓がまだだったよねっ!?  いっそ、ロリ属性も開拓しよう! そして女の子の魅力に戻ってきてねっ!?」

「ちょっと(しもべ)様方っ!? 主様の言う事聞こえてますかっ!?」

 三人の騒動は、その後も部屋に戻って夜の営みが終わるまで続いたと言う。

 蛇足だが、その日の夜、とばっちりを受けた菫が、真っ赤な顔で泣きそうになりながら枕を抱えたパジャマ姿で廊下をうろつく羽目になったと言う………。

 

 【勝者 東雲カグヤ ポイント50】

 

 

 

 

 水面=N=彩夏は八束菫と激戦を演じていた。

「錬成!」

 彩夏がジャングルの木々に『罠錬成』を仕掛け、菫の行動範囲を制限していく。

「キャッ!?」

 大量に作られた足を捉えようとする蔦達を跳んで躱した菫だったが、一本だけ、異様に長く伸びた蔦が彼女の足を捉え、そのまま逆さ吊りにしていく。慌ててスカートを片手で押さえながら、剣を操って蔦を切り裂く。だが、操っていた剣が、いつの間にかそこにあった木に突き刺さり、そのまま蔦に絡め取られて使えなくされてしまった。

(これ、で………、26本目………、もう手元の剣、しか、残ってない………)

 密林のジャングル地帯。菫にとっては二度目の戦場で、既に慣れていると思っていたが、この密林地帯は、以前の密林地帯とはまた別の設定の様で、ともかく木々が生い茂っていた。開けたところなど一つもなく、地面は土と根と苔ばかり、足場も悪ければ行動範囲も狭い、ともかく動き難い地形だった。菫の能力『剣弾操作(ソードバレット)』と『剣の繰り手(ダンスマカブル)』はある程度剣を操るスペースが必要だ。だが、この狭すぎる空間では上手く扱えず、剣を撃ちだそうにも遮蔽物に囲まれ投げる事が出来ない。空中を躍らせるには狭すぎる。木々の間を縫うように動かすのはまだ経験、技量が共に不足。仕方なく頭上から落とす形で剣を放ったのだが、逆に此処は彩夏の独壇場だった。

 彩夏は所狭しと立ち並ぶ木々に『罠錬成』を張り巡らせ、菫の攻撃を防御、同時に捕縛する様な攻撃を仕掛けていった。菫はその度に対応に追われ、気付けば生徒手帳にあった26本の剣を全て木々に呑み込まれて奪われていた。

「剣舞が使えないのなら剣群操姫(ソード・ダンサー)も名前負けだね!」

 挑発する彩夏に、素直にムッとしてしまう菫。

 刻印名は入学の時、『刻印の儀』で己の心に刻んだ二つ名、称号の様な物だ。それは刻んだ本人達にとっては誇りであり、何らかの覚悟の表れでもある。それを刺激されては、挑発と解っていても何か返さずにはいられなかった。

「じゃあ、舞台作り………!」

 菫は呟き、『糸巻き(カスタマイズ)』を発動。四肢全身に最大の8重強化を施し、振り被る。

「全っ力………!」

 振り被った剣を一気に横薙ぎに、自分を中心に円を刻む様に振るい抜く。

 ピーーーンッ! と言う風鳴り音を鳴らし、過ぎ去った刃は、回転による衝撃波を僅かに散らし、………ズズッ、時間差で菫を中心とした木々が一斉に薙ぎ倒され、開けた舞台が創り出された。

「うん、全力強化、なら………、剣技補正が無くて、も、これくらいできる………!」

 無表情に勝ち誇って見せる菫だったが、瞬間、自分の視界が手で遮られた事には驚いた。

 彩夏の事を視界から外してはいなかった。むしろ注意深く観察していたつもりだった。だが、菫は一つ失念していた。自分が強化系の能力を使えるなら、相手も強化系の能力を持っていてもおかしい事はない。それを失念していた菫は、瞬間的に肉体強化を最大に上げた彩夏に超接近され、視界一杯に手を翳された。

 視界が不自由な中、それでも身体を後ろに逸らし飛び退こうとしながら、必死に剣を振り抜こうとする。

 だが、それよりも速く彩夏の詠唱が轟く。

「罪人よ! 災禍の歌を歌え! 断罪なる(つるぎ)に、悉くを貫かれよ!!  『災禍讃唱』!」

 

 ゾガンッ!!

 

 突如出現した逆棘状の刃を持つ痛々しい無数の剣。それらが菫の身体を容赦なく貫いて行く。

「あ、ああ………っ!!」

 無数の剣に切り裂かれながら反撃の剣を振るう菫。

 剣に対して菫は片腕で頭をガードする様に庇う。

 刃が腕に激突し、鮮血が飛ぶ。だが、それだけだ。剣は肉を切り裂き、血を飛ばしたが、彼の骨を切断する事が出来なかった。

「カルシウム濃度を操作した。カルシウムって言うのは優れた物質でね? その濃度次第では金剛石よりも、………いや、世界のどの物質よりも硬くなるらしいよ?」

 腕を斬られ苦悶の表情を浮かべながら、彩夏は勝ち誇ったように微笑んだ。

 点差は47対43。彩夏が勝ち越した。

「あう………」

 最後の反撃に失敗した菫が脱力し、手にしていた剣を落とす。彩夏は一度距離を取り、菫が反撃してこないかを確認するが、彼女は俯いたまま動かない。

「ふぅ~~………、こっちも一敗してるからね。そう簡単に二連敗なんて―――」

「『繰糸(マリオネット)』………」

 菫の呟きが聞こえ、身構える彩夏。その彼女ならぬ彼の目の前で、菫を束縛する逆棘の剣が何かに動かされる様にガシャガシャと動き始める。

「飛、べ………っ!!」

 

 バアンッ!!

 

 菫の号令に従う様に、彼女を捕縛していた逆棘の剣が一斉に弾け、上空高くへと飛んで行った。彼女の体を貫いていた剣も、そのまま天に向かって飛んで行ったので、菫の身体から大量の鮮血が飛び、同時に彩夏のポイントが49になる。

「やば………っ!」

 彩夏は危機感を感じ、『罠錬成』を使って植物を操ろうとする。彼の『罠錬成』は、“物資の特性を変化させる”っと言う物だが、それが“罠”の“錬成”と言う表現に応じ、罠としての効果を発揮できる特性の変化を与える事が出来る物となっている。そのため、植物にこの力を発揮すれば、植物に動的な動きを与えているように見せる事が出来る。彼の能力的な弱点、“自ら攻撃的な戦法を取れない”っと言う部分を補うに、この環境は特に適していた。

 植物の蔦に良く撓る特性を与え、同時に元の形に戻ろうとする形状記憶の特性を与える事で、勝手に動く鞭の様に操っているように見える。これを使い菫の身体にツタを撒きつけると、同時に硬化特性を与え頑丈で切れ難い蔦へと変質させる。これでもう丸腰の菫は逃げる事が出来なくなった。

 彩夏はそれを見届けると、瞬時に身体能力を強化し、自分が出来る唯一の攻撃的手段、肉弾戦の距離へと迫る。拳を握り、最後の一撃当てるため強く地面を蹴って飛び出す。

(急いで決めないと………! まずい気がする………っ!)

「残念………、間、に合った………よ?」

 コックリ、と………、菫が場違いに可愛らしく小首を傾げてみせた。

 瞬間、彩夏は空から降り注ぐ無数の剣に貫かれ、四肢を切り裂かれた。

「がぅ………っ! 早々に………、二連敗………」

 悔しそうに涙を目の端に浮かべ地面に倒れ伏す彩夏。菫の点数が53に変わり、リタイヤシステムが彩夏の身体を光の粒子へと変えていく。

「実習始まって………、二日連続、臨死とか………、なんて学園だ………!」

 手足を失い、同体も剣に貫かれながら、彩夏は八つ当たり気味に泣いて抗議した。

 彩夏が消え、菫の勝利アナウンスと共に景色が変わる。元の無機質な白い部屋で解放された菫は、そのまま地面にうつ伏せに倒れ込んだ。

「こ、こっちだって………、血、が………っ!」

 大量出血で貧血状態に陥った菫が助けを求める様に震える手を伸ばす。その先では銀髪に赤目の顔の整ったイケメンフェイスの長身男、今田陣内教論が立っていたのだが………、彼はその場に膝を曲げて視線の高さをできるだけ合わせようとしながら、救急セットを床に置いた。

「スマンけんどな? 教師は死に(てい)でも、死ぬと判断されへん怪我は治したらアカンねん。傷はイマジンの『修復再現』で塞いで、ここにある簡易輸血機使えば寝たまんまでも輸血できるからな? それで頑張ったってや? 無理なら誰か人呼んでもええよ? 相手が生徒なら先生呼びに行くくらいはできるからなぁ♪」

「これだけ怪我しても………!? 手当、てしてもらえない。の………っ!?」

 驚愕の事実にショックを受ける菫。いっそ自害してリタイヤシステムのお世話になった方がどれだけ楽だろうかと考えてしまったが、それはそれで「自分で命絶った奴なんてしるか」と一蹴されて放っておかれそうで怖いので止めた。

 仕方なく菫は傷口をイマジンで塞ぎながら、生徒手帳を取り出し誰か応援を呼ぶ事にした。

 何気に生徒手帳の連絡先の最初がカグヤである事に気付き、たっぷり十分くらい彼に助けを求めて良いものか悩んだ事は、まあ、蛇足だ。

 

 【勝者 八束菫 ポイント53】

 

 

 

 バタンッ!

 

 ポイントを全て奪われ、精根尽き果てた緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)(銀髪女の子バージョン)は、眼をナルトにしながら抗議の声を上げる。

「こ、こんなの反則じゃないッスかぁ~~~………!? 相手の能力を問答無用で半減とか、どんなチートって話ですよ~~~………っ!?」

 それを耳にした浅蔵(あさくら)星流(せいる)は、腰に両手を当てて、呆れたように告げる。

「やれやれ何て言い草だい? 僕は君の強制SAN値削減の能力の方がチートだと思うがね?」

 首を左右に振りながら「やれやれ」と溜息を吐く白い髪を高い位置で纏めたポニーテール少女は………無傷だった。

 その背に白い骨組に青白く輝く光の翼を掲げながら、彼女はとてつもなく元気満タンの姿でボロボロの陽頼を見降ろしていた。昨日の戦い負った傷も癒えていなかったはずの少女が、戦う前より元気な姿で立っていたのだ。

「それはそうと、どうして男の方で戦わなかったんだい? あのままSAN値削って行った方が良かったんじゃないかい?」

「イヤ~~~、前回、その不死身性に頼ったばっかりにドジ踏んじゃいましてねぇ~~。今回はちょっと自分でがんばってみようかなって♪」

「その意気込みは素直に買うけどね」

 親しげに笑顔を向けた星流。先程まで腐敗した朽ちた木々のジャングルが、元の白い部屋に戻ると、陽頼もぴょんっ、と跳び起き、何事もなかったかのように笑顔を向けてきた。

「早々に二連敗しちゃいましたよ!☆ あはははっ! やっちゃいましたね~~~♪ しかしあなたのドラゴン、全部(、、)引っ張り出してやりましたよ?」

 得意げにニンマリ笑う陽頼。事実、引っ張り出されたのは星流の方だったので、彼女は素直に脱帽しながら―――、

「ああ、そして僕が勝ったよ。這いよる混沌(Nyarlathotep)

「おや? こっちの正体もバレちゃってましたか?」

「浅蔵家はその手の情報が多くてね。君が恐らく、“元は本体から切り離されていた一部だった”であろう事も確信できたよ?」

「あ痛たたたっ!? 急に頭が痛くなったので退散させてもらいます~~~♪」

 腹の探り合いは性に合わないと言いたげにわざとらしく笑顔で頭を抱えた陽頼は、そのまま猛スピードで走り去って行った。

 残された星流は、ゆっくりした足取りで階段を上り、廊下に出たところで壁に凭れたまま座り込んでしまった。そのまま三角座りをすると、身体を小刻みに震わせ始める。

「あ、あんなの………、やせ我慢だ………! 僕だって、発狂するかと思った………っ!!」

 震える声で、湿り気を帯びた呟きを漏らす星流は、その場からしばらく動く事が出来ず、小刻みに身体を震わせていた。

 

「えっと………、どうかしました?」

 

 話しかけられた事に驚き、すぐに顔を上げてしまった星流は、目の前に立つ小柄な少年に、泣き顔を見せてしまった。身長150㎝だいの小さな少年は、星流の泣き顔を見ても優しく微笑むだけで驚いた様子はない。それどころか怖がらせない様に手を差し出し、指で星流の涙を拭き取る余裕をみせる。

「せっかく勝ったのに、泣いちゃうなんて………、何か余程辛い事でもありましたか?」

 冷静で、だが優しげな対応に、一瞬見惚れた様に呆けてしまった星流。すぐにはっ、として我に返り、慌てて立ち上がると袖で顔を隠そうとする。だが普段長い袖がある巫女少装束も、今は学園指定の体育着だ。袖はない。その所為で顔が隠せないと気付くとますます恥ずかしくなってきて顔が赤くなってしまう。オロオロと慌てる姿を晒していると、くすりっ、と言う笑いが漏れ聞こえてきた。正面の少年が可笑しそうに微笑んでいる。

「ふ、不謹慎だ………っ///////」

 星流はそう叫んで彼の肩を掴むと無理矢理後ろを向かせた。そのまま腕を掴んでこちらを振り返れない様にしつつ、星流は赤くなった顔を見られない様に俯く。

「な、なんで………、僕が勝ったと知ってる? 見てたの?」

「いいえ。でも負けて泣いてるにしては綺麗でしたから」

「ああ………、まあ殆ど傷は治ってるから、チョイ裏技だったけど………」

「そうですか? でも、例えボロボロでも、アナタは綺麗だったでしょうけど?」

「―――!?///////// ぼ、僕はそう言うの慣れてないんだ! やめろ! 大体、こんか僕の何処が綺麗だと言うんだ? 言っとくけどね? 僕の髪も眼も、イマジン変色体とは関係無く、元からこう言う色で―――」

「そんな偏見を持っていても、それを補ってあまりある美しさだと確信してます」

「へ………?////////」

 思わず赤い顔のまま見上げる星流。そこには肩越しに振り返り、微笑む少年の顔。自分より小さいのではないかと言う小柄な少年が、自分を見降ろしながら優しげに見つめていて―――、星流は見惚れた様にしばらく固まってしまう。

 すぐに気付いて慌てた星流は彼を思いっきり独楽でも回す様にして突き飛ばす。見事壁に彼が激突したのを確認すると、照れ隠しに大声を張り上げる。

「し、知らないよそんな事っ!! 趣味悪いんじゃないのかいっ!? それと、君は誰だいっ!? 僕達はAクラスは、クラスメイトの顔と名前は全員覚えている! でも僕は君を知らないぞっ!?」

「それはすごい。さすがAクラスだ。でも舐めないでくださいね? 僕達Bクラスだってそのくらいの事は出来ます。ああ、初めまして、笹原(ささはら)(だん)です。よろしくお願いします」

「Bクラス? Aクラスの視察にでも来たのかい?」

 調子を取り戻そうと挑発的に尋ねる星流だが、弾は表情を変える事無く微笑む。

「それもありましたけど………、アナタが眼に入ったら全部どうでもよくなりました」

「は、はあ………っ!?//////」

「だって、すごく可愛い反応をしてくれる物ですから」

 可笑しそうに笑う弾に、星流は取り戻しかけた調子を掴み損ね、また赤くなってしまう。今度は自分から背を向け、無視してやろうと涙目に考えたのだが、ふと両腕に温かな感触が包み込んで来る。後ろから弾が彼女の体を支える様に二の腕あたりを軽く掴んでいるのだ。

「なにがあったのか知りませんけど、もう大丈夫そうですね? 姿勢がさっきより良くなってますよ?」

「―――ッ!?//////」

 急激に物凄く恥ずかしくなった星流は、「きゃあああぁぁぁぁ~~~~~!!」と女の子っぽい悲鳴を上げて逃走を始めた。

 一瞬で遠ざかっていく背中を見つめ、弾はポカンとした表情になってしまう。

「ふふ………っ、本当に可愛い子だな」

 そんな風に笑みを作った弾の肩に、ポンッ、と、誰かの手が乗せられる。

 そこにはサイドに纏めた髪をわっかにしている中国風の顔立ちをした留学生少女、陽凛(ようりん)が笑顔で立っていた。

 彼女は笑顔で親指を立ててサムズアップすると―――、

「ワタシ知ってるヨ! こう言う時はオヤクソクで“バクハツ氏ね”ヨ♪」

「な、何か違う気が―――おわああぁぁっ!?」

 訓練場の廊下で響く爆発音は、盛大だった割に、誰の耳にも届かなかったという。

 

 

 【勝者 浅蔵星流 ポイント86】

 

 

 

 09

 

 

 

 その後も多くの生徒達が戦う中、Aクラスの模様は大体こんな感じで進められた。

 そしてクラス内交流戦、最終の三日目―――。

 その日の戦いはとても高低差が激しい物となった。

 例題としてあげるなら、『契VS神也』戦。昨日、神格解放寸前にレイチェルに爆散させられた後遺症が残り、ほぼ丸一日機能停止状態となって眠り続け、放課後になってやっと眼を覚ました時には、不戦勝で契の勝ちとなった。ただし、成績に係わるポイントは0扱いなので、契も手放しで喜べない状況だ。

 『彩夏VSレイチェル』戦では、彩夏が徹底的に戦闘を避け、タスクをこなし、それを追いかけたレイチェルが面白い様に『罠錬成』の餌食となってポイントを奪われ、気付いた頃には彩夏が一方的に50ポイントを獲得し、しかもタスクを完全にこなしたと言う、教師からも感嘆の域で絶賛された。逆にレイチェルが深く落ち込み、しばらく起き上ってこられない状況に追いやられてしまったのだが、二連敗している彩夏にとっては、最後に苦し紛れの大勝利を掴めたと、純粋に喜んでいた。二人にとってこの戦いは、思い知らされることの多い、一番身になった試合だったとも言えるだろう。

 『菫VS陽頼』戦に関してのみ言えば、唯一まともにぶつかりあった試合だとも言えたが、二日連続で互いに消耗が激し過ぎ、お互いタスクに集中するスピード勝負となった。菫はカグヤの神格、彩夏の全身串刺しを受け、相当に疲弊し、朝から身体を引きずってばかりと言う(てい)を見せていた。対する陽頼の方も、昨日星流に対し、神格を傷つけられたらしく、能力の発動が不十分となり、とても戦闘できる状態ではなかったと言う。

 結果的に勝利したのは、僅差でタスクを完遂した菫だったのだが、お互い最後の最後でぶつかり合ってしまい、試合終了後はろくに会話もせずに床に突っ伏して眠ってしまった。

 残る『カグヤVS星流』戦だが………。

 

 

 

 

 ギャゴォォォォォォ~~~~ン………。

 

 軻遇突智が悲鳴の様な鳴き声を漏らし光の粒子となって消えていく。

「我が君! 私の背に! ………お早く!」

 九曜に声を飛ばされるが、カグヤは廃ビルに手を付いた状態で息を荒げ、動こうとしない。いや、動けない。既に表情からは三日間の連戦に蓄積された疲労に完全に参っていて、覇気らしい物が全く見られない。

 対する浅蔵星流は、左腕に展開している赤い竜の籠手で軻遇突智を消滅させていながら、着地してすぐに片膝を付いて息を荒げ、追撃する事が出来ないでいる。

「くっ………!!」

 何とか起き上ってカグヤへとよろよろと歩み寄ろうとするが、主の疲労を感じ取って籠手に取り付けられている緑の宝玉から光が消えてしまう。

「ドライグ! もう少しだけ力を………ッ!?」

Burst(バースト)

 籠手から音声が発せられ、同時に籠手自体が消滅してしまう。それと同時に全ての力が霧散してしまったかのように星流も「ブハッ!?」と咳き込み膝を付いてしまう。

 その瞬間に走った九曜が彼女の首に水の剣を突きつけ、ようやっと決着がついた。

「降伏を………」

「………分かった。僕もこの状況でこれ以上ダメージを貰いたくない。………負けを認める(リザイン)

 その言葉によりカグヤの勝利アナウンスが流れ、世紀末ステージと化していた世界は消え、白い部屋へと戻る。

 

 バタリ………ッ。

 

「! 我が君!」

 背後で響いた軽い音に慌てて駆け寄る九曜。

 主たるカグヤは床に突っ伏し、苦しそうな息を吐きながら意識を失っていた。

 カグヤの勝利は僅差だった。彼が自分と星流の疲労を(かんが)み、消耗戦に賭け、互いのタスクを進行不可能にしたのは、完全に賭けに等しかった。それも最も勝率の高い、部の悪い賭けだ。

 実際、疲労の限界はカグヤの方が先だった。彼は壁に寄り掛かった状態でほとんど意識を失っていたのだが、渾身のフェイクで立ち続けた。それで試合を無理矢理進め、先に星流にリタイヤさせたのだ。もし、あの場で星流が僅かでも時間稼ぎをしていれば、もしくはカグヤが先に倒れていたかもしれない。

「………いや、それでも九曜さんが居たから負けちゃったかな? あそこで首切られてたらアウトだったし」

 そう呟きながらも、星流は吐血しそうになる体のダメージに抗えず、大人しく視線を瞼の裏へと向けて行った。

 

 これがAクラスの全試合模様であった………。

 

 

 

 10

 

 

 

「ああ~~~………、(ちょ~~)暇………。この学園で不戦勝程みのりの無い時間はないわ~~~………」

 契はAクラスの戦闘状況を完全に見学者状態で見て周っていた。不戦勝故に時間が余ってしまったのだ。最初は戦わずに勝利した事の安堵と、他、同学年の生徒の戦闘中継を好きなだけ眺める事に歓喜したのだが………、これが実にみのりが無い。何せ皆だらだらとした様子で、実力の半分も引き出せていない。勝利するためにタスクに集中したり、負けを覚悟で一発撃ち合い一瞬で引き分けて終わったりと、実に(てい)たらくだ。真面目に戦おうとする生徒も窺えたが、お互い疲労一杯の表情で、まともに戦う事さえできていない。泥酔状態の老人が殴り合いを始めたかのような具合で、とても見ていて勉強にならない(それでも小さな岩山を一つふっ飛ばしていたりするのだが)。

 見る事が勉強にならないのなら、これほど無意味な時間はない。仕方なく他のクラスも覗いて行ったが、どこも似たような様子で、ともすれば自分と同じく不戦勝で手持無沙汰になっている者もいる。

「こりゃあ、一番の外れクジですよ………」

 成績に影響するポイントも0では、不戦勝の意味があまりにも薄い。正に勝ち損としか言いようがない。

「こんな調子じゃ、お前らの世界に行くって言うのも、まだまだ遠そうだよな?」

 そう言いながら懐から取り出したカードに語りかける契。カードは某遊戯の王様カードの『風霊使いウィン』だった。

『ん~~~………? 話を聞いた時は結構簡単に叶いそうな予感もしたけど………、やっぱり難しいんですかねぇ~~?』

 イマジンの付加されたカードが淡い光を燈し、そこから浮かび上がった緑色に光る球体が、幼げで元気を感じさせる声で語り返した。

「異世界人とか普通にこの学校通ってるって聞いたんだけどなぁ~~~? それっぽいのあんまいねぇしな~~~?」

 緋浪陽頼の異常性を目の当たりにしておきながらそんな事を言えてしまうのは、既に彼もこのイマジンと言う異常な能力に毒されていると言う事なのだが、それに気づく素振りは見られない。

 切城契は、幼いころからカードの精霊達の声を聞く事が出来た。特にこの『風霊使いウィン』と並ぶ『霊使い』の五人は、彼が最初に声を聞いた精霊で、入学してからも良く話しかけたりする。戦闘に出さないのは、単純に彼女達の力が弱い事と、その能力が何処まで通じるのか、未だ未知数であったためだ。

 契はカードの精霊達と話し、いつしか彼等の世界に行きたいという願望を抱く様になった。それは同時に、自分のいる世界―――この世界に見切りをつけたと言う事でもあったが、彼には些細な問題だった。

 契とウィンが二人で不貞腐れた様な意見を躱していると、奥の方から騒がしい声が聞こえてくる。あっちの方向は、たしかCクラスのエリアだったはずと契が眉根を寄せた瞬間、慌てた様子の上級生が、病院で良く見られる車輪付きのベットを押して、こちらへと走ってくる。

「脈拍はっ!?」

「危険地まで低下してますわ!」

「出血が多いぞ! この子の血液型確認して保健室に報告しとけっ! 輸血の用意させとくんだっ!」

「一年生には治癒能力者いないのかよっ!? 毎年一人くらいいるだろうにっ!?」

「しかたない………っ! 三年に連絡して、木嶋(きじま)(すばる)先輩に来てもらえ!」

「三年生呼ぶのかっ!? そいつはちょっと………! 静香(しずか)さんじゃダメなのかよ!?」

「彼女にはもう一人の方を見てもらっていますの!」

「………しゃーないか。急ごう!」

「おいどけ一年! 急患だっ!」

 突っ込んできた上級生にビックリした契は慌てて壁にへばりつく。同時に野次馬根性を発揮して、素早く懐から取り出したカメラで通り過ぎ様に写真を一枚撮っておく。契は新聞部に所属しているので、出くわしたスクープは逃さないよう言われているのだ。

「ああ~~、ビックリした。一体何だ………?」

 『急患』と言う言葉に訝しく思いながらも、契は勘だけで撮った写真を確認するため、デジカメを操作する。写真は見事に最小のブレで収められており、急患が誰なのかもしっかりと写すことが出来ていた。

「………ってあれ? これって見た事ある様な………? あ、そうだ! 入学試験の時、神也の『戦艦砲』をぶった切った奴じゃん? って、なんだこれっ!?」

 写真に写っていたのは顔見知りの少女だった。入学試験で二刀の剣を振り回し、戦場を縦横無尽に走り回っていた獣の様に、しかし美しかった少女。しかし、デジカメの画面に映っている姿には、その時見た美しさは欠片も見受けられない、満身創痍の死に体だった。

 右足の甲が何かに打ち砕かれた様に潰され、左足は膝の辺りからごっそりと斬り落とされている。右腕は内側から弾けたかのように皮が全てめくれ、肉の繊維と血で真っ赤に染まり、無事に見えた左腕は、手の平から肩まで、綺麗に両断されていて、腕の断面を晒していた。左の脇腹は獣に噛み千切られたかのように抉れ、角度的に映っていない右胸の辺りが、不自然に陥没していて、そこを撮影できなくて良かったと安堵さえ抱いてしまう。極めつけは頭の右半分だが、これにはさすがの契もちゃんと確認する前に視線を逸らした。そして速やかにデジカメの電源を切った。

「な、何があったらあんな事になるんだよ………っ!? 思わず初日の陽頼戦思い出しちまいましたよ………っ!? っつかあんだけ大怪我したのになんでリタイヤシステムが発動してねえんだっ!?」

 まさか、“アレ”でもまだ致死に至らぬ軽傷と見なされたと言うのだろうか? いや、そんなはずはない。ある筈がない。あってはいけない事のはずだ。ならば何故、この万能の力を有する学園で、あんな原始的な移動をさせられる急患が居たと言うのだろうか?

「≪リタイヤシステム≫も万能じゃないんだよ」

 契の心の疑問に、その声が答えた。

 先程同級生が運ばれてきた方向からやってきたのは女性だった。年齢的に見て27くらいだろう事から教師だと推測できる。青みのある黒髪ツインテールに長身で痩せ形のメガネ。見覚えがある気がするが、思い出せない。一体何処で見た教師だっただろうかと視線を巡らせ、その貧相な胸を見た瞬間に思い出した。

「あ、―――へぶんっ!?」

 殴られた。

「何処見て思い出してるっ!?」

「まだ一言も言ってないんですけどっ!?」

 殴られた頬を押さえ涙目で抗議する契。彼の手元のカードからは、ウィンの慌てた様子が光の珠のまま現れていた。

 三橋(みはし)香子(かのこ)教員。

 ギガフロートでの正式な教員免許を所持しているものの、彼女は担当教科を持っていない。っと言うのも、彼女の役割は購買部の店員だからだ。ギガフロートでは住民の全員が何かしらイマジンに通じている者たちばかりで、多かれ少なかれイマジンに係わりのある物を必要としている。その学生であり、研究協力関係者扱いでもある彼等学園関係者は、特に色濃いと言っても良い。そのため購買部の店員でも、イマジネーターである事と同時に学園関係者としての教員免許を必要とされている。

 契の使うカードも、元は地上でしか手に入らないカードゲームだ。テレビなどの電波は日本内なら全て入るのだが、さすがに物品となれば購買部で頼むしかない。能力の媒体とも言えるカードの購入をするため、既に契は何度も購買部に訪れていたのだ。(ちなみに、行くだけ行っておきながら、地上の物品購入にも硬貨が使えず、クレジットを消費すると知って断念した)

 香子はフンッと、鼻息を一つ吐いてから、仏頂面で話を戻す。

「≪リタイヤシステム≫はあくまで学園側の認めた正式な試合及び決闘でしか作用されない。そうでないと面白半分で生徒を殺すような輩が現れ兼ねんからな」

「? でも、今は確かクラス内交流戦の真っ最中でしょ? 正式な試合中じゃなかったとかあんの?」

 契の尤もな質問に、香子は視線を鋭くして簡潔に答えた。

「試合終了後もバトりやがったんだよ。ルール無視の喧嘩で、殺し合い勃発しやがったのさ」

「………は?」

 思わず呆然としてしまう契。この学園、柘榴染柱間学園は、確かに戦闘を旨とした学園ではある。経験したから解るが、この学園で殺し合う程戦闘をする事自体、珍しい事ではない。だが、それは安全が確保されているからだ。殺しても死なせずに済む準備が整っているからこそ、自分達は全力を持ってぶつかり合う事が出来る。その前提条件が覆ったとして………果たしてそれでも戦闘を続行できるなどと言う事があるのだろうか?

 契がイマジネーターとして思考を巡らせるより早く、香子は答えを言ってしまう。

「Cクラスに配属された奴等は珍しくない。大体Cクラスの連中、特に序盤は『暴走能力』有しているのが殆どさ? まあ、それでも例外無く暴走を嫌う傾向にあるのもCクラスの連中だがな? 今回は一人、暴走能力を有していた奴が暴れ出し、それを止めようとした対戦相手だったあの子も、相手の暴走能力に引っ張られて封じていたはずの暴走能力を誘発させられちまったみたいだ。結果、どっちもただ事じゃない大怪我を負っちまったのさ」

「そ、そいつはまた………。でもあれ? 試合外だってのに、教師は何を? 僕様の時も、試合終了後も戦闘続行しようとしたら止めに入ってくれましたけど?」

「教師はな、基本的にこの学園で最強の能力者なんだよ。一人の例外無く、教師やっている以上は学生相手で負ける事なんてまずありえない。だが、いやだからこそ、この学園のルール上、教師が直接生徒に手を貸せるのは、生徒会からの要望があった場合か、学園長クラスの上司からの指令があった場合に限定されてんだよ。イマジンなんて万能な力を使う以上、人間には人間としての精神的な成長を第一に考えて行動させなければならない、ってのがイマスクの考えだ。だから私達は、制止や助言は出来ても、暴走した奴のお(もり)まではしてやらないのさ」

「な、何すかそれ!? アレだけの怪我をしてるって言うのに! それでも教師側は何もしてくれないって言うんですか!? それはさすがにあんまり―――!?」

 言い掛けた契の胸倉を掴み、香子は鋭い目で彼の目を覗き込んだ。

「なに舐めた事言ってんだい? お前もさっき見ただろう? 上級生達がお前らの同級生を運んで言ったところ? アイツ等が、()()()()の事態に、何も対処が出来ないとでも、本気で思っているのか?」

 香子の鋭い視線に見据えられ、契は思わず押し黙ってしまう。そんな生徒を前に、購買部の店員が、されど紛れもなく“教師”である彼女が、未熟な生徒に対して忠告する様に告げる。

「あまり、この学園の生徒を舐めるなよ? 一年生(新参者)

 なによりも重いその言葉を受け止め、何も返せずにいる新入生を押しのけ、香子はそのまま何処かへと去って行った。

 イマジネーションスクール。それは、自分が思っている以上に一筋縄ではいかない“組織”なのかもしれない。

 

 

 11

 

 

 緑溢れる廃残都市。そんな言葉が似合う、うち捨てられて何千年も経った様なビル街に、その少年は立ち尽くしていた。後ろに流れる様な癖のついた銀の短髪、知的なメガネの奥に輝く青い瞳。身体を覆う白いスーツに黒いベルトで着飾った衣服は、まるで囚人服を思わせる。腰に差した刀はギミックが施されているのか、鞘が異様に太い。無表情に周囲を見据える姿からは、彼がクールな性格である事が良く読み取れた。

 そんな彼をビルの屋上から見降ろす、二人の影があった。

「ふっふっふ………っ。相変わらずのクールフェイスだよね~? 私達に狙われているとも知らず、そんな余裕ぶってて良いのかなぁ~~?」

「ダメダメ、リッちゃん~。私達に狙われたらその時点でもうジ・エンドだよ~? 焦る暇もないって~~?」

 二人は可笑しそうに笑い合いながら、互いに持った杖を掲げる。

 派手目ではないが、まるで魔法少女風アイドルと言わんばかりの色違いヒラヒラドレスを身に纏った二人は、同じ顔で同じ背恰好をしていた。唯一違うのは、サイドに纏めている髪が左右反転である事と、瞳の色が違う事だ。二人とも左目は青いのだが、片方の右目は赤く、もう片方の右目は緑色をしていた。

 双葉(ふたば)リミと、双葉エミ。双子にして、二人で力を合わせる事のできる、この学園の最強タッグ。そのチームプレイは最強の対翼と言われた、東雲神威と朝宮刹菜のコンビネーションすら凌ぐと言われている。

 二人は誰かに見せる様に決めポーズを取ると、声高に宣言する。

「双葉リミ! 専門は攻撃! 遠近中、どんな距離だろうと関係無く、全てに於いて攻撃を担当できる最強のアタッカー!」

 右目が赤く、オレンジ色の衣装に身を纏うリミが告げると、それに合わせてエミもポーズを取った。

「双葉エミ! 補助系統担当! 隠密、情報、補助に強化! 攻撃に関しない事なら何でも出来ちゃうスーパーハッカー!」

 右目が緑色で、黄色い衣装に身を纏ったエミが続き、二人はガッチリと腕を組み合い、背中を合わせて何処かへと更に決めポーズ。

「「そして!」」

「私達の能力! 『シンメトリー』によって!」

「私達は互いの能力を任意の数だけ入れ替える事が出来る!」

「つまり最強!」

「そして最強!」

「「さらに………!」」

 二人はビルを飛び降り、空中で互いの手を取り合い能力を発動(イマジネート)する。

 忽ち二人の間にイマジン粒子が集い、二人にそっくりな姿をしたツインテール少女が現れた。

「「私達の力を掛け合わせたもう一人! それをイマジン体として創り出す事に成功!」」

「これで私達は!」

「「「最強無敵の三つ子姉妹!!」」」

 三人で決めポーズを取り、能力バラエティーに富んだ三姉妹は真っ逆さまに少年の元へと飛来する。

「「「我ら最強トリオに敵はない!! 覚悟~~~♪」」」

 

 ガシャンッ!

 

 鉄格子の鍵が締められた。

「「捕まったぁ~~~~~~~っ!!!!」」

「カットシーン一つもなく一瞬で捕まったよぅ~~~!!」

「CM挟む余地もなく瞬きの間に捕まったよぅ~~~!!」

 二人は、人一人が収まってしまう程度の小さな鉄格子に閉じ込められ、≪Prisoner of war(捕虜)≫と赤いシステムメッセージを頭に浮かべていた。

 泣きわめく二人に対し、知的メガネの少年は、やれやれと言いたげに肩を竦めた。

「君達の隠密力と奇襲力、それにコンビネーションは高く買っているが、調子に乗って深入りし過ぎてしまうのは相変わらずだな?」

 彼の言葉に、泣き叫んでいたのも一瞬、ころっと態度を変えた二人が正座しながら苦笑いで頭の後ろを掻く、まったく同じ行動をしながら照れ隠しを述べる。

「いや~~~、私達もちょっと考え無しだったかもねぇ~~~?」

「いくらなんでも生徒会長の飛馬(ひゅうま)誠一(せいいち)に二人だけは無理があったねぇ~~~?」

 二人は「あはははっ」と適当に笑いながら自分達の失態をいつもの様に流しに掛る。

 飛馬誠一。柘榴染柱間学園生徒会長にして、『氷域(ひょういき)』の刻印名を持つ、氷結系最強の少年だ。

 その力は凄まじく、物理的に凍らせるだけでなく、概念すらも表決させる事が出来る。

 先程の双子姉妹に対しても、『概念氷結』を用い、姉妹二人の“思考”を氷結させ、意識を奪い、その隙に鉄格子の中に入れて鍵を閉めたのだ。

 現在のゲームのルール上、この鉄格子に閉じ込められ鍵を掛けられると、その時点で捕虜扱いとなり、如何なるイマジンも使用できなくなってしまうのだ。だが、この鉄格子は外からの攻撃に弱く、誰かが助けに来れば、脱出も可能となっている。勝敗条件は、敵のチームリーダーを先に撃破する事だ。

 現在飛馬は、重要拠点を一人で守り、チームに多大な貢献をしている真っ最中だった。

 三年生初の交流戦は、全クラス混合チーム対抗戦で行われる。チームの編成はリーダーを務める事を決めた者が、自分で自由に交渉し、メンツを集める事が出来る。リーダーシップを持つ者は率先しチームを集め、また、敢えて単独で交流戦に出場しようとする変わり者もいる。(例えば東雲神威である)

 飛馬誠一は文句無しのリーダーとしてのカリスマを有していて、多くが彼の下に付く事を望んだ。だが、彼は敢えてそれを拒否し、生徒会副会長を務める林野(りんの)(はるか)にリーダー役を頼んだ。これは彼の持論だが、一番すぐれた物がリーダーをするのではなく二番目に優れた物がリーダーとなるべきだと思っているらしい。一番上に立つ者は死ぬ事が許されない。許されない故に前に立つ事が出来ず、最も能力を持っていながら最も活かす事が出来ない立場に立たされるのだ。だから有能な能力を持つ物が存分に力を発揮できるようにするため、二番目の地位を与えるのが一番だと考えている。(政治などの場合は別問題と考えているので、彼は生徒会長の座に不満は抱いていない)

 それでもリーダーが副会長に変わったところで志望者が減らなかったのは、林野遥にも充分な素質があったからと言える。

「さて、君達は先行し過ぎただけの様だが………、どうやら奇襲部隊はちゃんと用意してあった様だな」

 飛馬が眼鏡の位置を直しながら正面を見据えると、苔と蔦だらけになった壊れた電灯の上に、何者かが丁度着地したところだった。

「ようさぁ~、生徒会長。ウチのおてんば娘を回収に来たぜぇ?」

如月(ことつき)翔太朗(しょうたろう)………『魔を統べる銃剣士』か。今日はずいぶん生き生きしている」

「当たり前だ! 相性の良い奴等と組んでんだからな!」

 銀髪に赤い目をした黒のライダースーツに銀のアクセ(イマジンによる加護あり)で着飾った男、三年生Cクラスの“問題児”だ。

 “問題児”っと言うのは、別段彼が悪い事をしている訳ではなく、単にCクラスでかなり浮いた存在となり、不協和音を奏でる役割になっていると言うのが“問題”なのだ。

 彼の能力は銃と剣だが………、接近戦を好み、バトルマニアの気質を持つ生徒が集められたCクラスに於いて、その気質と好みを彼は持ち合わせていない。それが結果的にCクラスの生徒達とのリズムの合わなさを生みだし、上手く行っていない状況にあるのだ。

 何故、そんな特性を持っていない彼がCクラスにいるのか? この学園の七不思議の一つにまで数えられているのだが、生徒会長の飛馬はその事実を知っている。

 知っている故に、彼は気の毒そうに(まなじり)を下げてしまう。

 彼がCクラスにいる理由、それはなんとも酷い話で、ただのテコ入れなのだと言う。

 この学園は学園であると同時に研究施設でもある。そのため、生徒に対し、よりイマジンの成長に最適な空間を用意しようとする。だが同時に、敢えて異物や試練を放り込み、それに対する反応を確認、観測すると言う事もやってくる。

 敢えて、一人の生徒を退学にしてみたり、敢えて一人だけ困難過ぎる試験内容をやらせてみたり、敢えて不逞の輩を招き入れ、生徒達に対処させて見たり、明らかに馬の合わないクラスに異動させられたり………。この学園では珍しいとは言えない出来事だ。

(気の毒な奴だ………)

 それを知れるのは生徒会役員だけであり、それに対処できるのも、また生徒会だけと決められている。故に彼は何度か翔太郎に別のクラスに行く気はないかと尋ねたのだが、彼は苦笑いを浮かべながらこう告げた。

『いや、その………。俺のためにもアイツ等のためにも、本当ならそうした方が良いんだろうけどよ………? 俺達だって、別に互いが嫌いなわけじゃねえし、仲良くしようとはしてんだよ? ………そりゃあ、結局馬が合わなくて、二年間こんな調子だけどよ? もうチョイだけ頑張らせてくれねえかな? やっぱ、諦め付く前から逃げ出すのは………やっぱり、やるべきじゃねえだろ?』

 などと言って未だにCクラスに在住している。

(だが未だにクラスで上手くいかないどころか、溝が深くなって友好関係にまで罅が入り始めているらしいな。俺がそれに気づいていないとでも思っているのか………)

 「いや」っと、飛馬は被りを振り、気持ちを切り替える。

(今は戦闘中だったな。()()()()()()()()|とは言え、油断は禁物だ)

 気持ちを切り替えた飛馬は右手を刀の柄に、左手の拳を握り、イマジンを集中させている。

「確かにお前の弾丸は回避不能だが………、まさか俺との相性を忘れたわけじゃないだろうな?」

 飛馬の問いに、翔太郎は僅かに赤い目を細めながら何でも無い様に答える。

「お前こそ? 生徒会長ともあろう者を相手に、何の対抗手段も持ち合わせずに前に立たれたと思われちゃ~、心外ってもんだ」

 言いつつ飛馬は視線を向けずに飛馬の左手に注意を払う。イマジンを集中し、いつでも『氷結』を発動できる様にしている。アレを喰らえば一撃必殺。『概念氷結』で意識を狩り取られ、『物理氷結』で身を砕かれる。一瞬でも隙を見せれば抵抗不能の一撃を貰ってしまう。彼はこの二年間、その氷結能力だけで生徒会長にまで上り詰めた存在なのだから。

 翔太郎は胸の内に『抵抗再現(レジスト)』を発動し、タイミングをミスしても、完全に凍りつかされない様に準備する。

「まあ、会長様が戦闘中にまで生徒の事を気遣ってしまう辺り、ありがたく感じてもいるんですがね? 俺を目の前にその集中の無さは如何な物かと思いますよ?」

「………気付いていたか」

「気付いていましたとも。その心使いがあるおかげで、俺達はこの学園で皆笑って切磋琢磨出来てるわけですから? こっちだってあんたの事をちゃんと見る様になるってもんだろ?」

 翔太郎は笑いながら告げ、急に表情を鋭い物へと一変させた。

「舐めるなよ生徒会長? アンタがいくら強かろうと、同級生を舐めれるほどにエライ存在じゃないぜ?」

「おお! 如月(きさらぎ)っちのさらりと名言来たっ!」

「恥ずかしい事さらっと言うよね如月(きさらぎ)っちぃ~~?」

如月(ことつき)だぁっ!? お前らは会長以上に舐めんの千年早ぇよっ!! この万年負け役がぁっ!?」

 牙をむいて吠える翔太郎だが、双葉姉妹は堪えていないかのように「ニヒヒッ」と笑うばかりだ。

 後で部屋に戻ったらいつもの様に泣かすと心に決めつつ、翔太郎は飛馬に向き直る。

 飛馬誠一は、その間に構えを居合の姿勢に移し、攻撃の構えを取った。

 しかし、視界にしっかり捕らえていた翔太郎は慌てることなく右手の(デザートイーグル)と左手のスクラマ・サクスを隙無く構え、制止の声を上げる。

「おおっと! そう慌てんなよ会長? 確かに相手をするつもりで来たがな? まずアンタの相手をするのは俺じゃ―――」

 

 ガチャンッ!

 

「―――ねえんだわ。………あれぇっ!?」

 翔太郎は鉄格子に閉じ込められ、しっかり施錠されていた。彼の頭上には物悲しいくらいに赤い光で≪Prisoner of war≫の文字が浮かんでいた。

「ちょ………、翔太郎~~………?」

「うわ~~………、ダサ………」

 双葉姉妹が心底失望したと言いたげな憐みの視線で隣に来た翔太郎を見つめる。翔太郎はその視線に曝され余計テンパリながらあたふたしてしまう。

「え? いや! だってよっ!? あれぇ~っ!? 俺ちゃんと『抵抗再現(レジスト)』してたぞっ!? 一発で思考を凍らせたりなんて出来なかったはずだろうっ!?」

 そう喚きながらも翔太郎の脳内には、光の速度で流れた記憶が確かに焼き付いていた。ただ、その記憶はイマジネーターとしての記憶力で無理矢理記憶した物で、まだ理解できるデータとしては分解できていない。圧縮された状態でデータを受け取り、それが解凍できていないのと同じ状況だ。

 だが、時間と共に光の速さで過ぎ去った記憶が分解され、ようやく翔太郎は自分が()()()()()()()()()()()()れ、()()()()()()()()()()()()()()のだと知る事が出来た。

「思考を凍らされてた………? いや、だったら憶えていられるはずが………? なにをされたんだ?」

「『空間指定概念氷結』だ」

 鉄格子に閉じ込められた翔太郎に背を向け、ドッと疲れたように溜息を吐いた飛馬が、生徒会長としての癖で説明を始める。

「確かに『抵抗再現(レジスト)』されている状態で完全に凍らせるのは難しいがな? だったら“完全に凍らせなければ良い”」

 「「「はっ?」」」っと言う疑問の声が三つ上がる。飛馬は眼鏡を直し、なんて事無い様な素振りで続ける。

「そもそも冷帯温度と言うのは分子運動が止まる事により起きるエネルギー低下現象。つまり、分子の動きを鈍らせる事が(イコール)で『氷結』だ。ならば力を加減し、分子を完全に止める絶対零度ではなく動きが鈍る程度の加減で空間を指定し凍らせてやるとどうなると思う? “空間の速度が鈍り、空間の外側の情報を遅れて認識するようになる”。丁度、星の光が現在と言う時間では消滅していても、その星の光を今でも認識できているように、認識と時間をずらした様な現象を起こしてやれるのさ」

「つ、つまり………、俺が見ていた光景は全部、既に起きた何秒か前の映像だったと………?」

「三年生の戦い方は皆こう言う物だったよ? 上級生とは負けてでも戦っておくものだな」

 飛馬は説明は終わりと言いたげに眼鏡を直す。

 翔太郎はがっくりと肩を落として項垂れながら、それでも薄ら笑いを浮かべた。

「やっぱ俺じゃアンタの相手は荷が勝ちすぎか………? さすがは、刹菜達と一緒に上級生破りに挑んだ七人の内の一人ってところですか?」

 何もできなかった悔しさに歯を食い縛りながら、それでも彼は顔を上げて最後の悪あがきを告げる。

「だからアンタの相手は俺じゃねえんだよっ!!」

「―――ッ!!?」

 気付いた飛馬は剣を瞬時に抜刀―――、通算万を超える『氷結概念』を持つ刃が空を駆け、襲撃者を迎撃に向かう。

 が、それらの刃は悉く、飛来する水生の一撃によって苦もなく弾き飛ばされていく。

「必殺、キィ~~~~~~~~ック!!!!」

 雲を貫き、天の雷の如く飛来するそれが、真直ぐ飛馬に目がけ打ちおろされる。

「妙にだらだらと会話すると思えば………っ! 彼女への布石かっ!!」

 飛馬は慌てて『逆現象再現』っと言う三年生でも超高度な基本術式を発動。自身に掛けた氷結による『遅延』効果を逆転させ『加速』させる。ぐっと脚に力を込め、直撃の瞬間を狙って回避する。

 

 バゴンッ!!

 

 見た目にはさほど大きな爆発でも無く、ともすれば一年生の神也が撃つレールガンの威力にも劣る小さな土煙と衝撃だった。だが、飛馬は知っている。この見た目のしょぼさは、力が周囲に分散させぬよう、極限にまで圧縮されたが故の現象だと。もしまともに受け止めていれば、それが自分の最後となっていた事を、彼はよく知っている。

「なるほど、俺の相手は君と言う事か………、確かに去年の全校生徒最強決定戦で恐怖を乗り越えた君ならば、むしろ俺の方が危うい―――」

 飛馬は土煙の中にいる少女の事を予想し、僅かに戦慄する。

 彼は知っているのだ。今飛び出してきた少女が、決して気を抜いてはいけない相手であると言う事を。その絶大な能力は、間違いなく柘榴染柱間学園最強の攻撃能力者。まともにやり合えば、自分でも勝てるかどうか解らない、それほどの強敵。

 身構え、瞬殺を避けるため、飛馬は己の全力を振り絞る準備をする。

 土煙が晴れ、少女が姿を表わし、飛馬は眼を鋭く―――、

 

 追い詰められた小動物が、無茶苦茶動揺した眼で焦りまくっていた。

 

「―――事もさなそうですね………?」

 一気に気が抜けた飛馬は肩の力が抜けて脱力した。

 煙の向こうから現れたのは、クールビズっぽい女性だった。グレーのノースリーブミリタリーシャツを黒のネクタイをしていが、ネクタイは着崩してあり、その隠しようの無い服装からこれでもかと強調される二つの軟肉とは対照に、きゅっと引き締まったくびれ。肩から露出した腕には紫のアームウォーマーで飾り、パンツは足首までしっかり隠すロング、だがピッタリサイズが彼女の足の長さを否応なく知れてしまう。蹴り技主体なのか、ブーツは特注らしく、靴底が厚い。服装からスタイルまで完璧な我儘ボディを持つ彼女は、うなじの辺りで纏められた灰色の髪を風になびかせ、しかし表情は涙目で気弱そうな印象を隠しようもない程に表わしている。

 相変わらずの彼女に飛馬は自制心を引っ張り出され、溜息を吐く。

 気弱そうどころか、臆病そうな印象を持たせる彼女の怯えた仕草と表情は、男で無くても、その気が無かろうとも、それらを無視して本能的に彼女を“襲いたくなってしまう”。これがイマジンなどとは全く関係の無い生来の(さが)―――才能と言い変えるべきか? 『魔性の女』と言われる属性を、デフォルトで、ナチュラルに有していると言うのだから性質が悪い。この学園の者で無ければ、その特性に当てられ彼女に襲い掛かってしまい………手痛い反撃を受けて三途の川を渡る羽目になっていただろう。

 彼女の名前は灰羽(はいばね)ハクア。『灰被りの雷堕天使(サンドリヨン・トール)』などと二つ名で呼ばれている、学園最強の攻撃能力者。

「ああ~~~………っ!? ご、ごめんなさいごめんなさい! いきなり不意打ちとかしちゃってごめんなさいっ!? 私なんかが援軍に来るとか(おこ)がましいことしちゃってごめんなさいっ!? 攻撃まで外して本当にごめんなさいっ! そもそも私の様な者が人目に付く様な事をしてしまって何とお詫びすればいいものかごめんなさい!? って言うかこんなに謝られたら逆にウザイですよねごめんなさいっ!? ごめんなさいごめんなさい! 生きててごめんなさ~~~~~いっ!!?」

 ………そして極度に臆病で、他人の顔色を窺わずに会話できない虚弱精神を持ち、戦闘事がともかく苦手なくせに、蹴り技全般の才能を持つ、牙と爪と蹄と角と翼を持つ小動物キャラである。ちなみに彼女、何気に長身で、身長が180近くあったりする。

「やれやれ………、相変わらずですねハクア? 以前の全校戦でアレだけ凛々しい姿を見せてくれたので、すっかり恐怖症が治ったのかと思っていたんですが?」

「ごめんなさいっ!? 治って無くてごめんなさいっ!? いつも泣いててごめんなさいっ!? 謝ってばかりでごめんなさいっ!? 目障りでごめんなさいっ!?」

 ビクリッと反応した小動物系最強少女は、その場にしゃがみ込んで両手で自分の体を抱きながら弱り切った涙目で飛馬を見つめる。

「あのポーズをする度に! 着崩してあるハクアの胸元が淫らに押し上げられるのを、俺が逃すはずが無いっっ!!!」

「「黙れよ、変太郎(へんたろう)」」(※変態翔太郎の略)

 双葉姉妹に突っ込まれる翔太郎を無視して飛馬は刀から手を放して、全力で力を抜く。

「まったく、なにしに出てきたんですかアナタは?」

「あうっ!? ごめんなさいっ!? 誠一君を倒す様に言われて飛んで来ちゃったのごめんなさいっ! 断るべきだったよねごめんなさいっ!? でもでも、わたしもチームメイトとしてちゃんとやる事やらなきゃと思って頑張って出てきたのうん思い上がってごめんなさいっっ!? だけど私、ちちちちょちょちょちょっとだけぇがんばりましゅごめんなさいごめんなさいっ!? がんばってごめんなさいっ!?」

 泣いて謝らないと会話が出来ないのはハクアのデフォルトなのも二年前からずっと変わっていない。変わっていないので飛馬は安心して無防備を晒せる。

「いえ、それ無理ですからね?」

「ふえっ? ごめんなさい」

「だって君? 今こうして無防備な俺を蹴り飛ばしたりできますか?」

 一瞬でハクアの顔が青ざめた。

 無理だ出来ない。無防備な相手に対して蹴りつける事など、ましてや攻撃の意思を見せていない相手と戦う事など、ハクアにはとてもできない。

「敵意を向けられた者に追い詰められた時、アナタは初めて本気で迎撃をします。されれば最後、恐らくこの学園でもまともに戦える生徒は早々いないだろう。でも、君は勝てない。俺が無防備でいる限り、絶対に攻撃できない。そうだろ?」

「ご、ご、ご………っっ!!」

 座り込んだ姿勢のまま、大量の涙をポロポロ零しながら、ハクアは鉄格子片手に近寄ってくる飛馬から逃げ出す事が出来ず………。

 

 ガチャンッ。

 

「ごめんなさ~~~~~いっっっ!!!!」

 捕まった。

「「「ええ~~~~………っ! 何しに来たのこの人………っ!?」」」

 既に捕まっていた三名からの非難の声を受け、ハクアは大泣きしながら「ごめんなさい」を連呼するのだった。

 そんな彼女を見て、飛馬は「やれやれ」と肩を竦める。

(こんな彼女を見て、一体誰が信じるんでしょうね? ………まさか彼女が、この学園で唯一、最強の対翼と言われた神威と刹菜を一人で相手取り、嘗て幾度となく追い詰めた『単身双翼(たんしんそうよく)』の異名を持っているなどと………?)

 同時に空で花火が上がり、アナウンスが流れる。

 勝利グループは、『チーム(かんなぎ)』だと伝えられた。

浅蔵(あさくら)幽璃(ゆうり)が率いたチームが優勝か? まあ、神威も刹菜も口説いて見せたのだから、当然か? 今回、番狂わせは無かったな」

 っと、突然彼の耳元に生徒会専用の通信術式が展開され、何事かを伝える。

「一年生で暴走事故? 今年の一年生は豊作と聞いていたが………、性質はともかく、面倒事の内容はどの年も変わらんと言う事か………」

 飛馬は呆れ返りつつも、生徒会権限を使用し、素早くフィールドから転移した。

 生徒会役員は、例え授業中であってもお仕事優先なのだった。

 

 

 12

 

 

 放課後、新入生恒例とも言われる一斉下校風景、部屋に直帰就寝、空腹で目覚め食堂に集合と言う一連を経て、一年生諸君は食堂に埋め尽くされていた。この日ばかりは気を使ってくれる上級生達が食堂には一切見られない。おかげでへとへとの下級生達は、気にする事無く食事に没頭できた。なんせ精も根も尽き果てているのだ。机一杯にだらしなく伏せながら一生懸命食事する者や、座るのも辛そうに顔を歪める者、喉を通ろうとしない苦痛を耐えながら、無理矢理食事を嚥下する者、途中で力尽きて食器に顔を付けて寝てしまっている者もいれば、既に椅子を並べて青い顔で横になっている者までいる。

 その中でAクラスのとあるメンバーは、多少なりの縁か、何故か一グループに纏まって食事を取っていた。特に考えあったわけでも無く、自然と集まった一つのコミニティーの様だ。

 そのメンバーは、水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)切城(きりき)(ちぎり)東雲(しののめ)カグヤ、機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)八束(やたばね)(すみれ)、レイチェル・ゲティングス、浅蔵(あさくら)星琉(せいる)、の八人である。

「………っで、何この集まり? なんで皆で集まってるんだい?」

 代表するように星流が尋ねるが、皆それぞれ忙しかったり答えようがなかったりと、ともかく返答らしい返答が返されなかった。

「いや、そんな事より、私はどうして皆が(どんぶり)メニューで統一されているのかが知りたい!」

 割と真面目な表情の彩夏が、意外と元気そうな素振りで天丼を掲げながら訪ねてくる。

「そっちの方が果てしなくどうでもいい」

 切り捨てるカグヤは、玉子とじカツ丼をかき込もうとして、手が震えて丼を持ち上げるのを断念していた。

 その隣では、今では高級食材となり滅多に無い鰻重(此処では鰻丼(うなどん)と言うメニューで存在している)を、スプーンですくい、震える手で何度も零しそうになりながら食べていた菫が、正面左の存在が気になって誰ともなく問いかけた。

「これ? ナニ………?」

 スプーンで差された先にいたのは、どんより影を落として突っ伏しているレイチェルがいた。急激な空腹に耐えきれず、何度か箸が海鮮丼へと伸びているが、少々速度は遅めだ。

「聞くな………っ!」

 暗い声で訴えるレイチェル。彼女の周囲にまで陰気がうつりそうな落ち込みようだったが、その隣で牛丼を頬張る神也には、まったく効いていない様子だった。

 さすがに見かねた星流が親子丼に伸ばしていた箸を止めて説明する事にした。っと言っても、わざわざ箸を置いている辺り、彼女も相当疲労しているのだろう。

「レイチェルはな、彩夏に完封されたのが堪えているらしい?」

「ちょ………っ!? 星流! 此処で言わないでくれっ!?」

 慌てて飛び起きるレイチェルだったが、それを聞いたカグヤはニンマリと三日月の様な口で笑った。

「ほぅ~~………? “完・封”されたのか? ほぅ~~?」

「な、なんだっ! 別にお前には関係の無い事だろうっ!」

「いやいや、確かに関係無い事ですがね? しかしつい二日前にアレだけ啖呵切ってた奴が、最終戦で“完・封”負けするとは………。くく………っ!」

「なんだその笑いはっ!? お前だって初戦で八束に敗北してただろうっ! 成績で言えばどちらも同じ二勝一敗ではないかっ!?」

「さすがに“完・封”はしなかったがな?」

「さっきから完封完封と強調するなぁ~~~っ!!?」

 もはや涙目になって、悔しさから顔を赤くして怒鳴るレイチェルだが、疲れが全身に回っているらしく、身を乗り出す割に覇気が今一だ。対するカグヤの方が余裕の表情を見せているので、それも彼女の気に障っているのだろう。尤も、そのカグヤも必死のポーカーフェイスで、座っているだけでズキズキする腰の痛みを隠していたりするのだが………。

 そんな状況でも、彩夏の隣に陣取る陽頼、無表情(安心)バージョンは、中華丼をマイペースに食している。何気に彼(彼女?)だけが無傷に見えるのは、死んだ後で再生する能力のおかげだ。それでも実は慣れない神格の多用と、連続する肉体変化と再生で、意外とガタガタになっていたりするのだが、こちらはカグヤ以上のポーカーフェイスで誰にも気づかれなかった。

「え? なに負けたの? しかも完封? じゃあちょっと二人にインタビューさせてくんない? どんな気持ち? ねえどんな気持ち?」

「何処から出したそのマイクッ!? 次は勝つッ!」

「自分の戦い方が解った気分だよ。次からはもっと着実に勝てそうだね」

 三食丼を食べる手を止め、デジカメとマイクを手にインタビューを始める契。ツッコミを入れながらも何気なくインタビューに答えるレイチェルと彩夏は意外と大物だと星流は思った。

「答えてる………。意外と、大物………」

 菫は素直に口にして賞賛していた。

「でも“完封”………」

「いい加減にそれ連呼するの止めろぉっ!!? 聞いているんだぞっ!? お前が二回戦で切城(きりき)にキスしようとして勝った事をっ!?」

「「「ぶっ!!??」」」

「「それを口にするんじゃねえぇ~~~~~~~~っっっっ!!!!??」」

 噴き出し、青い顔でカグヤを見ながら遠ざかる菫。

 咳き込みながら顔を真っ赤にして俯いてしまう星流。

 胸に手を当て、頬を赤くしながら「あれ? 仲間いた?」っと照れる彩夏。

 カグヤは慌てて菫を引き留め「違うっ! 俺にそっちの気は無いっ!!」と必死に弁明し、契は彩夏を指差し「そこっ!? 僕様を同類扱いするの止めてくれるっ!?」っと抗議、レイチェルはしてやったりの顔だったが、隣の星流が両手で顔を隠し、恥ずかしそうに俯いたままなので、その反応に逆に驚いていた。

「って、てかさっ!? 今一番気になるのはAクラスの誰が優勝したかデショ!?」

 結構テンパリながら契が提案すると、案外皆その話には素直に乗ってきた。やはり、気になる内容ではあったのだろう。

「あはぁ~! 二敗してるから俺は無理だね~~♪」

「私も二敗してしまったよ。最後は名誉挽回の快勝だったがね」

「“完・封”」

「黙れ男色キス魔」

 邪気の無い笑顔の神也と悪くない気分の彩夏が申告する。カグヤとレイチェルが仲悪く牽制し合っている横で、星流と陽頼も申告する。

「僕も二敗してしまった。カグヤには逃げ切られた気分であんまり納得できなかったけどね?」

「三連敗………」

「振り返ってみればここに一番悲しい奴がいたっ!?」

「意外な人物(?)が大敗しているねぇ?」

 契と星流が意外そうな目で陽頼を見、彩夏が慰めるように頭を撫でる。撫でられた陽頼は相変わらず無表情だが、ルームメイトの彩夏に撫でられると嬉しいのか、心無し、頬がピンク色に染まっている様にも………見える気がした。

「私は二勝した! 有力候補だなっ!?」

「残念! 俺も二勝してんだよっ!」

「男色口付け行為と逃亡戦でなっ!?」

「“完封”されるよりマシですけどねっ!? タスクもポイントもどっちも取られたんだって?」

「貴様本当は最初からは知ってたなっ!?」

「あら、本当だったの~~?」

「やっぱり今すぐ片を付けようっ! 生徒手帳を出せっ!?」

「いい度胸だっ! でも出してやらないけどなっ!?」

「もう良いこのまま勝負だ!!」

「あ~ら? 意外と短気でいらっしゃる~~っ!!」

「うっさい………」

 正面で向き合い、互いに箸を突き合わせて喧嘩するレイチェルとカグヤに、吐き捨てる様に告げた菫は、二人の背中に容赦無く剣を突き立てた。

「「グギャァッ!?」」

 二人が驚いて背中を逸らす。互いに身を乗り出して言い合っていたので、背中を逸らすとバランスが崩れ、前のめりに倒れてしまい―――ガツンッ!!

「「ギャンッ!?」」

 互いに互いの額を打ち合せる事になった。

 そのまま机に突っ伏した二人は、頭をくっ付けたまましばらく痛みに悶え大人しくなった。幸い背中に刺さった剣は切っ先が浅く刺さった程度で、自己治癒能力でも大丈夫そうだが、菫の容赦無さには全員薄ら寒い物を感じるのだった。

「これで………静かになっ、た………」

 当の菫はどこ吹く風で、レイチェルの海鮮丼とカグヤの卵とじカツ丼を一口ずつ掠め取って頬張っていた。

「僕様も一応二勝なんだけど………、あ、良いです。果てしなく一勝一敗一分けに近いので………」

 珍しく元気の無い発言をする契は最終戦があまりにも不服だった様子だ。

「まあ、良いとこ行ってるのは二勝一敗くらいだろうね? 三連敗とか逆に珍しいケースだけど、偶然相手が悪かっただけかもね? 今回のルールだと?」

 星流がそう締めくくる中、カグヤは痛む頭を押さえながら「あれ?」と内心首を捻った。

(そういや俺、菫から「負けた」の報告を一度も聞いていない様な………?)

 ガバリッと顔を上げたカグヤが隣の菫を見ると、菫がタイミングよくこちらにピースサインを送っていた。

「ビクトリー………♪」

(うわぁっ! 何か腹立つ………っっ!!)

 此処に完全勝利したと言う少女がいる事に素直に驚きながらも、思いっきり出し抜かれた感を与えられるカグヤであった。

「あの………、我が君? 少々よろしいでしょうか?」

 ショックを受けているカグヤの背後で姿無き声が投じられる。その声の主は、霧が晴れる様に光の粒子を薄く纏って姿を現わすと、主であるカグヤに恭しく(こうべ)を垂れた。

「どうした九曜? お前も疲れてるんだからもう少し休んでた方が良いだろう?」

「イマジン体は消えてると回復するのかい?」

 星流の質問に答えようとしたカグヤだが、彼が口を開いた瞬間、素早く身を乗り出したレイチェルが自慢げに答える。

「消えていれば身体を形成する分のイマジンを節約できる上に、その分を核の回復に専念できるからな! それに消えてる状態はイマジンの核が尤も主とリンクしてるから、こっちから意識的に回復を促して上げられるのだぞ!」

「~~~~っっっ!!!」

 説明しようとして先を越されたカグヤが、実に悔しそうな表情をするが、それより己が僕の方が優先だと気持ちを切り替え視線を向ける。何気にレイチェルからドヤ顔を向けられ額に青筋を浮かべているが、必死にポーカーフェイスで無視。

「っでどうした?」

「はい、主の体調管理を優先し、今まで敢えて口を噤んでいたのですが………、そろそろ箸を置かれるべきではないかと?」

「は? ………おおわっ!?」

 九曜に言われて改めて自分の状況を認識したカグヤは、目の前に積まれた空の丼三つを見て驚愕した。どうやら知らぬ内に玉子とじカツ丼を三杯もおかわりし、既に四敗目に突入していたようだ。

「お、俺、こんなに食ってたのか………? うわ全然気付かなかった………。生まれて初めてこんなに食ったかも? なのにまだ腹に余裕がありやがる………」

 自分の所業に戦々恐々している主に、多少申し訳なさそうな表情の九曜がフォローする様に教える。

「イマジネーターは戦闘を繰り返す毎に怪我の修復や身体的強化のために、大量の栄養………つまりは食事と睡眠を必要とするのです。我が君は今回に至るまでに神格によるダメージも多く、自身の身体を強化修復させるのに、無意識に食事を増やしているのだと思われます」

「ははっ! だからって丼飯(どんぶりめし)四杯とかないわぁ~~っ!!」

「はんっ! 女顔にキス魔に男色で大食らいとは! 妙な属性を増やすものだなっ!」

「いや、食事は仕方ないと思うよ? でも、四杯とはさすがにすごいねぇ~?」

「俺は十杯食ったよ! 俺の勝ちっ!」

 契がケラケラ笑い、レイチェルがここぞとばかりにからかってくる。星流が苦笑いでフォローする中、神也は十杯目の丼を空にして一人張り合っていた。妙に楽しそうな分だけ、彼には邪気が感じられない。

「カグヤ………、相部屋でも、割り勘、しないから………」

「おやおや………、これは災難だね?」

 菫や彩夏にまでからかわれたカグヤは、本来なら怒り返す所なのだが、彼はただ微妙な表情を返していた。不思議に思ったレイチェルの背後で、姿を見せない彼女の僕が可笑しそうに教えてきた。

「レイチェル様も、御自分の手元を御覧になった方がよろしいかと?」

 男性の声で聞こえたことに、目敏くカグヤが目を細め『見鬼(けんき)』を発動するが、残念ながらイマジン体の存在がある事しか把握できなかった。消えているイマジン体の正体を認識するのは『見鬼』でも不可能に近いのだ。

「手元? ………うわあぁぁっ!?」

 使い魔に促されて確認したレイチェルは、そこで既に自分も八杯の丼を完食しているところだと言う事に気付いた。

「うっそっ!? こんな量が私の何処に入ったとっ!? って言うか気付いてたなら教えろ!」

「そうは申されましても? そのような内容は私との契約内容には含まれていませんし? 体脂肪と生活費の管理が苦手な主様がどうしてもとおっしゃるのでしたらやぶさかではありませんが?」

「使い魔の分際でお前は本当に私をバカにするなっ!?」

 半泣き状態で姿を見せない自分の使い魔に怒鳴り散らすレイチェル。傍から見れば一人芝居だが、この学園では特段珍しい光景と言うわけでもない。

「ってか、お前らも手元確認した方が良いぞ? 皆腹減って視野狭まってるから………」

 達観した様子のカグヤに教えられ、全員が手元を見た瞬間、「「「「げっ!?」」」」っと言う声が同時に上がった。

「うっそんっ!? 僕様既に七皿完食っ!?」

「私は結構食べる方ではあったが………、まさか十皿食い切っていたとは………」

「九杯………っ!? 体脂肪………!? 不安………っ!?」

「僕は六杯………。なるほど、イマジネーターにとって食事と睡眠は職業病とイコールだ………」

 驚愕する契、唖然とする彩夏、青ざめる菫、から笑いを漏らす星流と、皆個性的なリアクションを見せる。

「私はなんと二十八皿! このまま行けば三十皿も夢ではありませんよ~~!?」

「うをっ!? ………って良かった。女の方か………。陽頼、お前はいきなり変わると怖いからタイミングを見てくれ………」

「此処で会話に参加しないと存在を忘れられそうな気がしましたので!」

 いつのまにか銀髪少女になっていた陽頼が「てへぺろ♡」をして見せる。契は「わらえね~って………」と多少青ざめ。神也は「あ、負けた………っ!?」と、別の所でショックを受けていた。

 九曜は気を取り直す様に「こほんっ」と口に出して言い置いてから、フォローを入れる。

「我が君は小食な方だったのでこの程度で済んだではないかと?」

「えっと………、カグヤ?」

「割り勘はしないと菫に断られたからな?」

「自分で言った言葉が恨めしい………」

 無表情で項垂れる菫に、内心「やっべぇ、金が本格的にピンチだよ………」と焦るカグヤ。他の面々も懐事情が激しく気になる所であった。

 周囲では、同じような状況になっている事に気付いた同級生達が、同じように阿鼻叫喚にくれ始めていた。

「うぅ………、お腹が空いて………、ダメだ。僕はおかわりするよ」

「なんて事だ………。私もおかわりを避けられないほど空腹感に………っ!! ええいままよっ!」

「しまったっ!? 気付くと懐上限突破してましたっ!? 誰か募金プリーズ!」

 諦めた星流に続いて、レイチェルも崖から身を乗り出す思いでおかわりを要求。一人陽頼は金銭オーバーに気付いて慌てだしていた。

 食堂から出ていく生徒は、未だ見られない………。

 

 

 

 13

 

 

 結局食事を続ける一同。

 そんな中、彩夏は不思議な気分で周囲を見ていた。

 隣を見るとカグヤがゆっくりした食べ方でカツ丼を食していて、落ちついた雰囲気が、やっと満腹感を感じ始めた様に見える。

 正面には星流が満腹にならないお腹をさすり、苦笑いを浮かべながら箸を進めている。

 彼女の隣では神也が元気よく食事を続け、陽頼と同じ轍を踏もうとしていた。

 契は正面に座る菫に対し、何かしらインタビューをしているようだが、菫は素っ気ない対応で答えているだけだ。

 彩夏はその光景を眺めながら、不思議な気持ちで一杯だった。

「どうかしたのか?」

 箸が止まっている事に気付いたカグヤが、後ろから「金銭援助頼めませんかねぇ~~~っ!?」と手当たり次第泣きついている陽頼を九曜に対応させながら、彩夏へと尋ねる。ちなみに九曜は「そう、さようなら」っと、まったく取り合わない姿勢を見せ、陽頼にショックを与えていた。

「別に大した事じゃないよ。ただ不思議だと思ってね?」

「不思議でない事がこの学園にあるのか?」

「だとしたら不思議でない者こそ不思議と言う事になるのかもね?」

「ああ、なるほど」

 納得するカグヤに、彩夏は「まあそう言う意味じゃないんだけど………」と無表情で答えてから改めて尋ねる。

「例えばだけどね? カグヤはどうして私と話してくれるんだい?」

「………意図を掴みかねるんだが?」

「見ての通り私は女装趣味だ。しかも私はオープンな性格だ。大抵の相手は私の事を気持ち悪がる」

「言っとくが俺もお前は気持ち悪いと思ってるからな?」

「君とは服の趣味が同じだと思っていたんだが………」

 彩夏がカグヤの着ている紫袴の装束を見て言うと、苦い顔で反論された。

「言っとくが、緋袴が女子、『巫女装束』で、それ以外は男子で色によって階級の違う神職服だからな? 俺のはれっきとした男子モノだし、女子モノの服を好んで着る趣味はない」

「………っの、ようだね? だから私は不思議に思っているんだ」

「スマンがまだ解らん………」

「私はね、別に女になりたいわけじゃないんだ。ただの女装趣味だ。バイではあるからもちろん誰でもウェルカムだがね?」

「男女どちらでも無いので、私はその辺理解ありますよ!」

 話に割り込んできた陽頼に彩夏は「ありがとう」っと礼を述べる。嬉しそうに笑った陽頼だが、主の話の腰を折られたと判断した九曜が素早く陽頼の後ろに周って首を極めた。割と本気で危ない、バギョッ!!! っと言う音が鳴り響き「う゛ぇっ!? 」と言うシャレにならない声を上げて陽頼気を失った。

 それに気づいていないのか気付いていて無視しているのか、彩夏はカグヤに語り続ける。

「そんな普通なら避けたくなるような私と、此処にいる者はなに一つ隔てりなく話しかけてくれる。嬉しい反面、不思議でならなくてね」

「その意味が『期待』なら先にぶった切っておくぞ? 俺は普通にお前が気持ち悪いし、お前の趣味は理解できん。必要があって女装しているのならまだしも、好き好んでその服を着ている意味が俺にはまったく理解できん。更に言えば『両刀』とか鳥肌もんだ。俺は女専だからな? そう言う意味でお前に理解のある人間だと『期待』しているなら間違いだからな?」

 カグヤは箸を置いて人差し指を彩夏に突きつけ、迷惑そうな表情で告げる。

 苦笑、っと言うより、一種の諦めに近い笑みを向ける彩夏。指を引っ込めたカグヤは「ただ………」っと続ける。

「俺に関してだけを言うなら、それだけの理由が“嫌悪”に至っても、“忌避”に繋がるとは思えないってだけだよ。俺は怖くもない物から逃げる気はしない」

 首を傾げる彩夏に、カグヤは面倒そうに続ける。

「っつか、この学園のAクラスに配属された時点でそう言う考え―――っつうか? 不思議感? 違和感か? そんなの気にしてたら気が散ってばっかりだぞ?」

「どうしてだい?」

「俺の義姉様………もう知ってるだろうが神威の事な? あの人から聞いてて知ってんだけどよ? クラスは生徒の成績を元に振り分けられているらしいんだが、それ以上に性格や相性を重視して割り振られてんだとよ? っで、Aクラスって言うのは成績は『優秀』で、性格は『変人』もしくは『変態』って言うのが重要視して集められてんだよ」

「私の様な人間と言う事だな」

「よく解ってんな………。確かにお前が一番解り易い例題だ………」

 乾いた笑いを漏らしてから、カグヤは続ける。

「んで、もちろんそのクラスにいる俺も、そこの“完封”女も、もちろん菫もその例外じゃない」

「貴様本気でいい加減にしろよ?(怒」

「誰が変人、か………?」

 レイチェルと菫の睨みをスルーして、カグヤはどうでも良さそうに告げる。

「だから、類友な俺らが、一々変態ってだけで避けてたら、クラス三十人全員がぼっちになる様なもんだぞ? 生憎人間は孤独に耐えられるほど頑丈にできちゃいない。だから何処かで気を抜いたり誤魔化したりしてるもんだ。お前も気にしてないで“普通”に『変人』してろよ? どうせ周りもお前と同じような変人だ」

「聞こえてるんッスけど~~?」

「ひどい扱いだなぁ~~………」

 固い声で抗議する契と、苦笑いを浮かべる星流だが、二人とも特段否定する発言は無い。何かしら自分達が『普通』と違う事は、充分に理解しているようだ。それは他のAクラス生徒全員が同じな様で、皆表情に僅かな陰りを見せていた。

「なるほど! これが変人達の集ま―――ギャベッ!?」

 空気を読めなかった神也だけが、隣に座る星流からの肘打ちのツッコミを受けて蹲る。

 彩夏はそんな彼等を見て、少しだけ安心した表情になる。

 なるほど、此処にいるのは、形は違えど自分と同じ痛みを既に知ってくれている者達ばかりなのだろう。ならば、自分だけが遠慮する必要などない。

 そんな安心と共に、彩夏は少し気になって尋ねてみる。

「じゃあ、君も私と同じように“ある”のかい? 孤立した事が………?」

 彩夏の脳裏には、以前通っていた学校での事が思い出されていた。

 男なのに女装して、おまけに隠す気もない程にオープンなバイ性癖。誰も彼もが彩夏を気味悪がり、一人として好んで話しかけてくる者は無く、好意的に接してくれる者は無く、少し耳を傾ければ陰口を聞くのに苦労をしなかった。

 そんな苦い………『普通』とは違う違和感に、疎外感を嫌となく感じ取らされてきた日々。

 彩夏は視線だけでカグヤを見る。

 カグヤは………表情を変えず、だがその目だけが、過去に向けられ暗く淀んでいた。

「孤立ねぇ~~………」

 呟くカグヤの脳裏には、とても苦い記憶が蘇っていた。

 二年しか通っていなかった中学時代、確かにカグヤは孤立していた。だが孤独ではなかったし、苦しいと感じた事はなかった。元より集団で生きるより、少数で生きる事を好むように躾けられた身だ。孤立しても不快ではなかった。ただ………。

 思い出された灰色の記憶。

 クラスメイトに対し、初めて本気で感情の牙をむき出す自分。

 それを必死に止めようとして後ろから飛びついた、嘗て親友と読んだ黒髪の女性。

 そして………、宣言通りに一人残らず潰した―――元クラスメイト。

「まっ、Aクラスの宿命じゃね? それ?」

 瞬き一つで過去から現代(いま)へと意識を切り替える。

 カグヤの言葉に、やはり皆が苦味のある表情を作って押し黙った。

 それが全員の返答と受け取った彩夏は、一つ頷いて、勢い良く立ち上がった。

「水面=N=彩夏だ。女装が趣味だ! これからよろしく頼むぞ」

 いきなりの自己紹介に、誰もが目をぱちくり。

 だが、最初にくすりっ、と笑いを漏らした星流が同じく立ち上がって笑い掛ける。

「浅蔵星琉。………こんな容姿だけど巫女なんかをしている。えーと………、まあ暇でも見つけて家の神社にでも来てみたらどうだい? 何の御もてなしも出来ないけどね? まあよろしく」

 星流の自己紹介で意図を察した契が続こうとして、先に立った神也が元気に自己紹介。

「改めまして! 生まれたてホヤホヤの新神機神の機霧神也でーす! 気軽に神也って呼んでね!」

「ぼ、僕様は切城契! 新聞部所属! よろしくしてねぇ~~!」

 タイミングを外されてちょっとだけ必死感が出てしまったのが可笑しかったのか、レイチェルが意外に可愛らしい笑いを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。

「レイチェル・ゲティングスだ、よろしくしてくれなくて構わない。でもまあ、よろしくしてくれても構わない」

「ツンデレ」

「貴様は別の意味でよろしくしてやる(怒」

 カグヤの合いの手(?)に本気で切れるレイチェル。

 カグヤはにやにやと笑いながらも空気を読んで立ち上がる。

「東雲カグヤ。脳内記憶スペースが一ドットでも余分に残っていたら、一分くらいは憶えておいてくれ。『神威使い』―――『式神使い』なんで、後方支援で御協力。ああ、あと俺、弱いんで戦わなくて済むならその方向で」

「―――っと言うのは振りで、本当は積極的に最前線に立たせてほしいと言っているM属性(マゾ)だ」

「九曜、斬れ」

 レイチェルの合いの手(??)にマジギレしたカグヤが九曜を呼び出すが、それに対してレイチェルもシトリーを呼び出した牽制。二人が同時に机に足を踏み出したところで、またも背中にナイフが突き刺さった。

 その犯人たる菫は何でも無さそうに立ち上がる。

「八束菫です。見てわかる、様に、剣を、使います………。宜しくお願いします、ね………?」

 僅かに頬笑みを浮かべて、こてんっ、と首を傾げる菫。

 そうしてそのまま席を立つと、床に放置されていた陽頼を無造作に持ち上げ椅子に座らせると頭を殴りつけて活を入れた。

 メシャァッ!!! っと言うまたしてもシャレにならない音が響いたが、目を覚ました陽頼は辺りを見回し、なんとなく勘で察したのか慌てて立ち上がって自己紹介に加わる。

「緋浪陽頼! 彩夏さんとは同室なんでよろしくです!」

 最後の一人が自己紹介を終えると、彩夏は安心したように笑みを作る。

 星流が嬉しそうに笑い返す。レイチェルは仕方ないと言いたげに微苦笑で息を吐く。契は子供の様に笑い、神也は何も解って無そうな笑いを浮かべる。菫はもう笑わずいつも通り無表情。カグヤは面倒そうに溜息。陽頼は本気で良く解っていないらしく、必死に笑って誤魔化していた。

 これが、この学園のAクラス最初の軌跡であった。




――あとがき――


レイチェル「見つけました! 先生! お尋ねしたい事が!」

秋尋「うわっ!? 一体どうしました? あと、一応自分はこれでもCクラス担当なので、Aクラス担当の美鐘さんじゃダメなんですかね?」

レイチェル「今回の採点について明確な基準を教えてください!」

秋尋「無視ですか………、自分は食堂の方にも仕事があるんですけどね………」

秋尋「今回の採点基準は、“より効果的な攻撃を成功させた場合”高得点になる様にしてあります。それ以外は純粋に威力の大きさです。自爆はペナルティー扱いで相手に点数が入りますがね」

レイチェル「なるほど。でも私の水蒸気爆発がたったの22ポイント扱いなのは―――」

秋尋「採点基準に文句を付けられた場合は容赦無く潰して良い権利が教師には―――?」

レイチェル「ありがとうございましたっっ!!」

レイチェル(誰であっても教師は怒らせるものじゃないな………、本気で怖かった………)




菫「アレだけ死にかけても治してもらえない、とか………、なんて学園」

彩夏「殺された場合は完全治癒してもらえるんだけどね………、でもまさか治療してくれる相手も生徒だとは思わなかったよ」

菫「本気でこの学園、教師は何もしてくれない、ね………?」

彩夏「そうだね………。治療能力を持つ生徒も、必ずしも完全回復してくれるほどの実力者とは限らないしね」

菫「怪我しない様に勝つ、とか………無理。なんて学園………」

彩夏「一年生に回復能力者っていなかったかな? そう言う人とは是非とも友達になっておくべきだね」

菫「仲間探し、も………、この学園の課題、だね………」



海弖「え? 八束くん、完勝しちゃったの?」

ゆかり「ええ~~。イマジネーションスクール始まって以来の快挙やね~~」

美鐘「ゆかり様! もっと驚いてくださいっ!? こんなの普通ありえません! イマジネーターは必ず勝利するための選択肢を見逃さない! そんな者同士の戦いで三度戦えば必ず一敗するのが普通です! そんな中で三度も勝利するなど………! これはもう姫候補として決定した様な物です!」

海弖「じゃあそれで」

美鐘「学園長はもっと考えてください!!」

海弖「いやいや、これでも結構驚いているよ? 何しろ八束くんが相手をしたのは、東雲くんを除き、全員が超の付く有力候補だったしね?」

ゆかり「でも全部勝利したとなると………。この先が楽しみやなぁ~~♪」

美鐘「お願いですから、ゆかり様はもう少しだけ動揺してくださいよ………」


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Aクラスキャラ紹介

現時点でのAクラス全キャラクターの紹介です。


保護責任者:金鵄

 

名前:八束 菫(やたばね すみれ) 刻印名:剣群操姫(ソード・ダンサー)

 

年齢:15    性別:女性     (1年A)クラス

 

性格:天然で言いたい事は何でもスパッといってしまうタイプ。感情が表に出にくいだけで普通に感情はあったりする。

 

喋り方:抑揚が小さい感じの話し方。ただし、感情が高ぶれば多少言い方が激しくなる。

自己紹介       「八束菫です。見てわかる様に剣を使います。宜しくお願いしますね?」(微笑み首こてん)

勝負申し込み      「そうですね・・・・・・では、私の糧となってもらえませんか?」

勝負受諾        「・・・わかりました。八束菫、推して参ります」

名乗り(刻印名つき)  「私は八束菫・・・刻印名は、剣群操姫(ソード・ダンサー)。さぁ、かかってくる人は居ますか?」

剣の繰り手発動     「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』………剣よ、逆巻く風となれ………!」(例:剣の繰り手で自分の周囲で剣を高速回転させる場合)

糸巻き(強化度を上げる) 「『糸巻き(カスタマイズ)』、2重から5重へ」

照れ(褒められ場合)   「えっと・・・あ、ありがとう、ございます?」

戦闘時          「貴方を倒し、私の往く道を切り開かせてもらいます!」

 

戦闘スタイル:身体強化+両手剣の剣術+周りに浮かせた複数の剣を自在に操る近~中距離タイプ

身体能力308     イマジネーション230

物理攻撃力200    属性攻撃力40

物理耐久力5    属性耐久力5

並列思考60     剣術70

見切り100

 

能力:『繰糸(マリオネット)

 

派生能力:『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)

 

各能力技能概要

・『剣弾操作(ソードバレット)』≪『繰糸(マリオネット)』の能力。操作している剣を高速で撃ち出す。撃ち出した後、更に操作をしようとするなら撃ち出せる速度は本人の見切れる速さを超える事は出来ない。それ以上の速度で撃ち出したならば、『繰糸(マリオネット)』の能力下に再び入れる、つまりは再操作を始めるまでは操作不可になる。≫

 

・『剣の繰り手(ダンスマカブル)』≪『繰糸(マリオネット)』の能力。操作している剣群の一部、もしくは全部を設定(と、いうかプログラムのようなもの?)に沿わせて操作する。『剣の繰り手(ダンスマカブル)』を使わずに同じ操作をする時より自分への負担が軽い、剣の操作のスピードが出せる、などメリットはあるが、『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で動かしている間の剣は、その設定の動きが終わるまで他の操作を出来なくなる。≫

 

・『糸巻き(カスタマイズ)』≪『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』の能力。ほぼ常時発 動。簡単に言うと身体強化で、通常時は身体全体に薄く強化をしているが、やろうと思えば身体全体を大きく強化や、脚のみの強化、腕のみの強化等、色々とできる。強化度合いは2重や3重のように~重と表現している。今の所最大で8重。≫

(余剰数値:0)

 

概要:【紫色のショートの髪で、瞳は茶色、身長は少々低めでスレンダーな体形。基本的には物静か・・・というより感情が表に出にくいだけで普通に感情はあるので気になる物、人等はじー・・・っと見てたりするし、話しかけられたりすれば、きちんと反応だってする。表情も大きく変わる事はあまりないけれど、微笑みだったり、ムッとした顔だったりとよく見ていれば普通に感情を読み取れたりも。ちなみに、完全にブチギレたりなどすごく大きい感情だと言い方が激しく なったりはするけれど表情は大きくは変わらなかったりする。

生徒手帳に無数の剣を収納しているけれど、常に腰の後ろに4対(つまり交差するように8本)と左腰に剣を1本佩いている。

能力の『繰糸(マリオネット)』は本人の中では他の人には不可視・不可接触の無数の糸を操作するものに触れ、その触れたものをサイコキネシスみたいな感じで操作をする、というイメージだったりする。

繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』は糸の1本を体内に(正確には片腕に1本なので胴体含めて計5本)通し、他の糸を腕や脚、胴体に巻きつけるようなイメージで強化をしている。

本来は、『繰糸(マリオネット)』『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』の能力名の通り人形等も動かせ強化もできるのだが、本人の戦闘スタイル等もあり、刻印名 を剣群操姫(ソード・ダンサー)にすることにより剣の操作と自己強化に特化するようにしている。そのため、人形などの操作は不可能となっている。あえて他に操作できるものを挙げるとするならば、槍や斧等、ある程度近いものまでだったり。

ちなみに、本人が持っている剣はイマジネーション等で作ったものではなく本物の剣だったりするので、より質の良い剣を手に入れられれば実質的な攻撃力が上がったりも。】

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

保護責任者:のん

名前:東雲 カグヤ(しののめ かぐや)   刻印名:――

年齢:17     性別:男         一年生Aクラス

性格:発言が素直で、真顔でエロイ。義姉を溺愛している。

 

喋り方:基本的に興味がなさそうな喋り方。

自己紹介   「東雲カグヤです。脳内記憶スペースが一ドットでも余分に残っていたら、一分くらいは憶えておいてください。『神威使い』―――『式神使い』なんで、後方支援で御協力。ああ、あと俺、弱いんで戦わなくて済むならその方向で」

勝負申し込み 「負けても恥をかかない奴だけ掛って来い」

ボケ     「いや、ここからだと女子の着替えが覗けて実に眼福だなぁ~っと?」

義姉対話   「はい義姉様っ! 義姉様のためなら疑問を浮かべる必要もなく行動に移しますともっ!!」

九曜使用   「行くぞ九曜………、『闇御津羽(クラミツハ)』」

カグラ使用  「こいっ、カグラ! 『軻遇突智(カグヅチ)』」

 

戦闘スタイル:式神。神様の名前を持つモノを召喚し戦う。日本の神様が主流。

 

身体能力3     イマジネーション430

物理攻撃力3    属性攻撃力50

物理耐久力3    属性耐久力3

術式演算能力300  霊力85

神格70       逆転率71

能力:『神威』

派生能力:『――』

 

技能

各能力概要

・『闇御津羽・九曜』

≪闇を司る黒き羽根を持つ神。カグヤが義姉、神威から誕生日に贈られた式神で、カグヤの僕。濡れ羽色の長い黒髪に、黒曜石の瞳、全身を黒い服で身を包む、麗しい少女の姿をしている。常にカグヤに仕え、手から血の様に赤黒い光の剣を創り出し戦う。カグヤの命あらば、自らを漆黒の刀に変え、主と共に戦う≫

 

・『軻遇突智(カグヅチ)・カグラ』

≪炎の神。元は、角を持った巨大な大蛇の姿をしていた殲滅用の式神だったのだが、神威の悪戯で、赤い髪をした羽衣衣装の幼女姿を持つようになった。普段はカグラと呼ばれ、カグヤに妹扱いされている。戦闘時は本来の姿を取り戻し、巨大ロボットとでも戦って見せる≫

 

・『迦具夜比売(カグヤヒメ)

≪己の名『カグヤ』を刻印名として一時的に献上する事で、式神と一体化して神格を得る似姿。竹取物語における『がぐや姫』の神格を得、これになっている間、構築された拠点に居る限り、その存在を認識されなくなる。また、『かぐや姫』の有名な逸話、求婚した男に条件を出すと言う物から、『仏の御石の鉢』(恥を捨てるの言葉の由来から、敵の加護による条件防御を何かを捨てることで無効化する)『蓬莱の玉の枝』(「偶(たま)さかに」稀にの言葉の由来から、完全に気配は消せないが、完全に見破られない気配遮断の能力)『火鼠の裘(かわごろも)』(敢え無くの言葉の由来から、大掛かりな条件を満たす術式を必ず失敗させる)『龍の首の珠』(堪え難いの言葉の由来から、理に反する力を受け付けない)『燕の産んだ子安貝』(甲斐無しの言葉の由来から、呪いや攻撃を受けても、相手が期待する程の効果を見込めないようにする)などの能力もデフォルトで備わっている。(Wiki参照)『迦具夜比売(カグヤヒメ)』発動中は、他の式神を呼び出せない。また発動条件として、多くの金品を術式に献上しなければならない。生活難のカグヤにはとてつもない出費で、出来る事なら一生使いたくない≫

(余剰数値:0)

 

人物概要:【黒いセミロングの髪に切れ長の瞳。クールな顔立ちに気だるげな態度が、真面目で暗く、影のあるクールキャラに見えるのだが、実はかなりの変態。義姉溺愛主義。真顔でエロ発言。覗きセクハラ上等。上品な女性みたいな笑顔で気に入った相手を苛めて見たりと、かなりの変人。いや、エロ。体質上、肉体的に脆く、動き回るのはあまり得意ではない。その変わり、頭を使う類の事はチート並みに完璧。忘れっぽいところを除けば、最強の頭脳の持ち主】

 

 

 

保護責任者:のん

名前:九曜 一片(くよう ひとひら)  本名:闇御津羽(くらみつは)

年齢:18(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神

性格:クールで従順な僕。主以外には冷たい対応を取る

 

喋り方:クールな僕

自己紹介  「我が君の僕、九曜と申します」

下僕状態  「承知しました我が君。速やかに行動を開始します」

他人対応  「言いたい事は解ったわ。もう帰ってもいいかしら?」

戦闘時   「我が君の敵を、全て退けます!」

 

戦闘スタイル:射撃、剣、盾になる小型ユニット

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『黒曜石の式神』

技能

各能力概要

・『ユニット』

≪盾、剣、射撃の武装になる小型ユニットを、腰に6本、背中に6本、両脇に2本所持し、自由に扱う≫

 

・『闇の翼』

≪背中より黒い翼を生やし、飛行する事が出来る。翼を闇に変え、攻撃に使う事もできるが、主への負担が増してしまうので攻撃には使いたがらない≫

 

・『神実(かんざね)

≪闇御津羽の剣となり、漆黒の刃として主の武器となる。意思を共有し合い、時には主の身体を勝手に動かす事も出来る≫

(余剰数値:0)

 

人物概要:【人の姿を持っているが、人ではない。闇御津羽と言う神であり、黒曜石の式神でもある。カグヤの五歳の誕生日に義姉から送られ、それ以来ずっと仕えているパートナー。主の命令を何よりも尊重し、彼のためだけに行動する。いつしか、彼の事を主以上に想うようになり、カグヤからも同じだけの愛情を注がれ、共に主従や恋愛を超えた特別なパートナーとなっている】

備考【闇御津羽神はその本当の名を罔象女神(みつはのめのかみ)と言い、軻遇突智の血より生まれた水の神である。それがどうして闇の神として力を振るえるのかと言うと、彼女は厳密な意味でカグヤの式神ではなく、神威の式神である。神威が闇御津羽を創造する時、彼女はカグヤの能力とは別の方法と法則で闇御津羽を創り出している。彼女は『闇御津羽』としてだけではなく『黒曜石』化身としてのスタイルを有している。そして、名前から察する他人のイメージを利用し、『黒』、『闇』の力を使う式神として顕現している。カグヤの能力は、厳密な意味で日本神話の神を再現してしまうが、神威のそれは、オリジナルを挟み込める、汎用性にとんでいた物だったようだ。現在の『九曜』が罔象女神としての力を発揮できていないのは、カグヤの力不足が原因である。イマジンの能力で作られた存在は、主のステータスに大きく左右されるのだ】

 

 

 

保護責任者:のん

名前:カグラ   本名:軻遇突智(かぐづち)

年齢:12(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神

性格:普段はデレデレ、でもいざとなるとツンツンな『デレツン』妹キャラ。

 

喋り方:ツンデレ

自己紹介  「軻遇突智のカグラ! よろしくしなさいよね!」

デレ    「お兄ちゃん、だ~~い好き! 九曜と同じくらい愛情注ぎなさいよね♡」

ツン    「べ、べべ、別に―――っ! 膝の上に座ってるくらいで喜んでないわよ!/////」

現神化   「ゴアアアアアアァァァァァァァーーーーーーーッッ!!!」

下僕状態  「はい。兄様の仰せのままに」

ボケ1   「い、いいい、い、イケメン出た~~~~っっ!!?」(恐怖)

ボケ2   「胸に脂肪が集まればエラいんかぁ~~~~っっ!!?」(怒泣)

 

戦闘スタイル:自在に炎の全てを操る。中距離支援タイプ。広囲殲滅型。

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『火女神(ほのめがみ)の式神』

 

技能

各能力概要

 

・『炎法(えんほう)

≪炎のあらゆる全てを自在に操れる。高威力砲撃、中距離支援、小規模爆破、炎熱断絶、炎の全てを支配する≫

 

・『現神化(あらかみか)

≪角を持つ炎の大蛇の姿になって、広範囲殲滅に特化する能力。主のイマジネーションと属性攻撃力の影響を受け、威力が変化する。この姿は神格としての力は強く、『権能』以上の力でなければ破られる事が無い。ちょっと性格が化け物よりになり、女の子らしさが見受けられなくなる。角を持つ蛇の由来から、竜としての属性も持っている≫

 

・『神実(かんざね)

≪軻遇突智を火倶槌として変化させ、己の姿を神格武装に変える能力。炎を纏った槌となる。軻遇突智の由来から、神殺しの炎を持っていて、特に女神に対し絶大な効果を持つ―――筈なのだが、多少強力な神格殺しを持っているだけに止まっている。時に主を自分の意思で動かす事もできるが、接近戦は苦手なので、その機会は皆無に等しい≫

(余剰数値:0)

 

人物概要:【炎の様な真っ赤な髪に、両端から牛の様な角を生やしている、紅玉の瞳を持つ幼女。天女の様な羽衣衣装を纏っていて、女の子用の下駄を履いている。元は炎を纏う大蛇の姿で、広囲殲滅型の式神として生まれたのだが、神威のお茶目で『現人神(あらひとかみ)』“人化”の特性を得てしまった。幼女姿は神威の設定。カグヤの事を兄と慕い、物凄く懐いたデレデレ妹キャラなのだが、いざカグヤに迫られると何故か強がってツンツンした態度を取ってしまうデレツン娘。炎の神なので重量が無く、自由に空中を飛び回れる。その反面、火の力で常に淡い上昇気流が自身の周囲で起こっているため、感情の起伏で火力を強くし過ぎ、気流で自分の服を捲ってしまいそうになる。ドジな所もある。何故かイケメンを恐れている。本人は伊弉諾がイケメンのイメージだったからだと語っているが、真相は不明。身体が成長しないので、胸の大きな女に泣き怒りする事が多い】

備考【炎の神、軻遇突智として生まれた彼女だが、何故か女神の特性を強く持ち、陰属性の炎を有する支離滅裂な存在。神威に姿形を弄られはしたが、それ以外はカグヤの能力で再現された存在。そのため、日本神話に忠実に則った存在のはずなのだが、何故か女神であり、本来陽の力であるはずの火を、陰の属性で操っている。しかもこれで存在が確定されているため、矛盾を(よう)していない存在として確立している。摩訶不思議であるが、神話の史実は大量に存在する。その中からカグヤはカグラの存在を確定できる何かを見つけたのかもしれない。現在、火の神として、神殺しの力を有する、カグヤの攻撃力での切り札となっている】

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:レイチェル・ゲティングス    刻印名:使役

年齢:15歳  性別:女  1年Aクラス

 

性格:一人で悪魔の研究をしており、態度は素っ気ない。しかし、頼まれたら断われないお人好し。不測の事態にはあまり強くない。戦闘は自身の研究の発表の場と考えている。

 

喋り方:達観したような喋り方

自己紹介 「レイチェル・ゲティングスだ、よろしくしてくれなくて構わない。ん? なに? 何故私がそんなことを…。あぁ! わかった、手伝ってやる」

勝負申し込み 「さて、私の研究に協力してくれる殊勝なものはいないか?」

ボケ 「ほぅ、このように使うのか。なるほど…。ん? なに? それは茶を入れる道具だと? ふ、ふん! そんなこと最初から知っていたわ!!」

ロノウェ憑依/召喚「こい、ロノウェ! こいつ等を持てなしてやるぞ」

アスモデウス憑依/召喚「来なさい、アスモデウス。お前に悦楽を与えてやる」

シトリー憑依/召喚「おいで、シトリー。すべてをさらけ出してあげましょう」

 

戦闘スタイル:悪魔召還。悪魔憑依。

 

身体能力33    イマジネーション553

物理攻撃力53    属性攻撃力223

物理耐久力53   属性耐久力103

 

能力:『ソロモンの鍵』

太古の時代に発見された悪魔を使役する術が記された魔道書。

文字どうり悪魔を使役し、召還または自身に憑依させることができる。

派生能力:『―――』

 

各能力技能概要

・『ロノウェ』≪ソロモン72柱の序列27位の悪魔を使役し、自身に憑依または召喚する。身体能力がとても高い。どちらの場合も魔法陣を使わなければ使用できない。憑依した際はレイチェルの容姿が執事風の衣装になり、髪を後ろで束ね、右側のこめかみから角が生える≫

 

・『アスモデウス』≪ソロモン72柱の序列32位の悪魔を使役し、自身に憑依または召喚する。焔属性の攻撃や耐性がとても高い。ロノウェ同様、魔法陣の使用が必要。憑依した際は、露出度の高い衣装に変わり、髪は朱く、背中から羽、おでこからは角が生える≫

 

・『シトリー』≪ソロモン72柱の序列12位の悪魔を使役し、自身に憑依または召喚する。水属性の攻撃や耐性がとても高い。魔法陣を使用する。憑依した際は、清楚な雰囲気のするワンピースに変わり、髪は蒼く、背後に水の球体が浮いている≫

 

概 要:【夜空の様に黒い長髪。眼は紅く薄っすらとクマがある。身長は、低く腰まで届くほどの長髪。常に黒を貴重としたゴスロリドレスを着ている。色白で、ゴスロリ衣装がとても映える。意外と世間知らず。祖先の影響で悪魔に興味を持ち、研究に没頭していった。常にロノウェを召還しており、身の回りのことはほとんどやらせている】

 

能力概要

《悪魔という存在は、様々な神が堕天してしまった存在であることから、能力発動時は神格を得る。ただし本来の力から堕天してしまったため 神格はそのものの持つ神格の3分の1ほどしか現れない。悪魔たちの能力は主人のイマジネーションに依存する。そのため今は本来の3分の1ほどの力しか発揮できない。刻印があることから、生き物を操る能力にしか派生できない》

 

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:ロノウェ        年齢:2万5千歳(見た目は25歳くらい)

性別:男  レイチェルに使役されている悪魔。

性格:完璧主義で意地悪な執事。他の生徒にも丁寧に対応する。

 

喋り方:丁寧な口調だがとても意地悪。

自己紹介       「わたくし、ロノウェと申します。この方はこの通り捻くれておりますが、皆様仲良くしてあげてくださいますようお願いいたします」

意地悪をする     「そうは申されましても、わたくしとの契約に入っておりませんので。無知なレイチェル様がどうしてもとお願いされるのであればお手伝いいたしますが? フフフ」

レイチェルへの返事  「かしこまりました。我が主」

戦闘時        「申し訳ございません。排除させていただきます」

 

戦闘スタイル:魔力を自身の手足に集め、インファイトで戦う。魔力を固め飛ばす事も可能。

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『ソロモン72柱の序列27位』

 

技能

各能力概要

・『腕力強化』

腕に魔力を集め、通常の3倍の力を発揮する

 

・『脚力強化』

足に魔力を集め、通常の3倍の力を発揮する

 

・『執事』

主人のあらゆる要望にこたえるための力。家事から研究、果ては友達作りまでどんなことでもやり遂げる。

 

人物概要【人の姿でいるが、本来の姿はとても言い表せないほど醜く恐ろしい。レイチェルが一番最初に使役することができた悪魔。主人のことをおもちゃの様にからかう事がある。が、本当はとても好いており、レイチェルのことを思いやるようなことを言うことがある】

 

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:アスモデウス      年齢:不詳(見た目は25歳くらい) 

性別:女           レイチェルに使役されている悪魔。

性格:常に男を魅了していて、自分が一番で居たい女王様気質。女性に対して冷たい。

 

喋り方:誘惑するような喋り方

自己紹介「私はアスモデウス。貴方たち私の前に跪きなさい。そうすれば良い事して、ア・ゲ・ル♪」

女性対応「なに? 用が無いなら話しかけないでくれる? うざいのよ!」

レイチェルへの対応「わかったわ、レイチェル。」

戦闘時「さ、私と踊りましょう!あはは!!」

 

戦闘スタイル:焔を使い、剣や鞭を作り出したり、そのまま飛ばしたりする。

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『ソロモン72柱の序列32位』

 

技能

各能力概要

・『焔』

両の手に焔を生み出しそれを自由自在に扱う。

 

・『魅了』

異性の視線、意識を自身に集める。

 

・『飛行』

自身の背についた羽で空を飛ぶことができる。

 

人物概要【人の姿を取っているが、本来の姿は美しくはあるがとても恐ろしい。自分以外の女性の存在を認めていないが、主人のレイチェルだけにはしっかりと対応する。主に戦闘時に召還】

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:シトリー     年齢:1万歳(見た目は27歳くらい)

性別:女        レイチェルに使役されている悪魔。

性格:素直で真面目。戦闘のときに限り残虐になる。しっかりと対応をするがレイチェルのことが一番大事。

 

喋り方:丁寧で相手のことを思ったしゃべり方

自己紹介「始めまして、シトリーといいます。レイチェルに手を出さない限り仲良くしましょうね」

レイチェルの敵への対応「近づかないで下さる? もし次に現れたらその手足を引きちぎります」

レイチェルへの対応「任せてください、レイチェル。」

戦闘時「それでは、穴だらけにしてあげますね。」

戦闘スタイル:背中に浮いている水の玉を自由自在に操る。槍状にした水。

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『ソロモン72柱の序列12位』

 

技能

各能力概要

・『蒼水』

背中に浮いている水の玉を自在に操る。

 

・『流水』

両の手に水を生み出し、さまざまな形状に変化させる。

 

・『写し鏡』

対象一人の感じていること、思っていることを読み取る。

その者の本当の姿を写し取る。

 

人物概要:【人の姿でいるが、本来は蛇のような姿をしている。基本的に誰に対しても丁寧だがレイチェルを溺愛しており、レイチェルに害なすものには一切の容赦をしない。主に戦闘時に召還。】

 

 

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保護責任者:現[機械ヨリ出デシ神]

 

名前:機霧 神也(ハタキリ シンヤ)    刻印名:機械ヨリ出デシ神(デウス・エクス・マキナ)

種族:半分機械の機人(キジン)      年齢:生まれたばかりの0歳

性別:一応男(性別と見た目なんて変えれるけど、本人的に1番良い)

容姿:(初期状態)

通常時:黒髪黒眼の優男。

暴走時:赤髪赤眼に変貌。目には幾何学模様が浮かぶ。

機神化:銀髪碧眼に変貌。目は暴走時同様幾何学模様が浮かぶ。

 

一年Aクラス

 

性格

通常時:見た目通り、人当たりの良い柔らかな性格。

暴走時:機械に触れる際に偶になる。とにかく自重しない、歯止めの効かない性格。

機神化:感情が必要最低限を除き削ぎ落とされ、冷たい印象を与える。

 

喋り方:普段は在り来たりの口調。

自己紹介「はじめまして! 生まれたてホヤホヤの新神機神の機霧神也でーす! 気軽に神也って呼んでね!」

作業中(通常時)「えーと、ここはこうでこうでこう! よしっ、出来た!!」

作業中(暴走時)「あはははははははははははッッ!!!! ようやっと完成したぜェ!!!!」

作業中(機神化)「……………………」

戦闘時(通常時)「その攻撃は隙が大き過ぎます」

戦闘時(暴走時)「ヒャッハーッッ!!!  圧倒的火力で死に晒せェェェエエエ!!!!」

戦闘時(機神化)「………敵勢力を確認、目標を破壊します」

 

戦闘スタイル:発明品を用いた機械ありきの全距離戦闘。但し近遠問わず過剰火力。

 

能力値(無装備状態)

 

身体能力:100     イマジネーション:200

物理攻撃力:100    属性攻撃力:9

物理耐久力:100    属性耐久力:9

頭脳スペック:500

 

能力:『機神化』

派生能力:『技術チート』

 

 

能力概要

完全稼働(フルオペレーション)

・『機神化』の能力

・使用すると種族が『機神』となり、1時間の間各ステータスが○×100UPする。その後、○×5日間各ステータスが0となる活動停止状態となる。

・成長の余地在り。

 

機神ノ嗜ミ(ゴットギアアブソープ)

・『機神化』の能力

・『完全稼働』中に、種別を問わない機械を取り込むことで、機械に合わせた特殊能力を『完全稼働』中だけ獲得する。

・成長の余地在り。

 

技術ノ創造主(テクノクリエイター)

・『技術チート』の能力

・内容を問わず、どんな技術でも新たに創り上げる能力。但し、レベルの高い技術を創るには、其れ相応の時間と労力が必要。

 

概要

・現デウス・エクス・マキナが老いを感じたために後継者として創造された新たな機神。存在する全ての機神の技術力をつぎ込んだ未完成の最高傑作。成長することで既存の機神を超えるのは確定している。よって次代のデウス・エクス・マキナになることが内定。

・機神達が特に力を入れたのが『技術の創造力』と『技術を取り込む力』。まだ不完全だが、能力が完全に稼働した暁には、常に進化を重ねる真の意味で完成しない機神が誕生。

・あらゆる進化を想定し、ベースの人格と身体は特徴のない人物を参照。しかしそれではつまらないと叫んだ機神が暴走時の性格を植え付けた。

・ある程度の知識と感情はあらかじめインプットされているので、一見人間と見分けが付かない。

・修行の場として、機神達はイマジネーション・ハイスクールに入れることにした。

・誰よりも機械の可能性を信じ、誰よりも機械を愛する、文字通り機械の申し子。オカルトにも一定の理解を示すが、それでも機械が1番。

・大火力は正義だという持論を持つ。そこから必勝法は『高機動・高近接火力・高遠距離火力で即殲滅』という結論を叩き出した。

・頭脳スペックがパナいので、どんな役割もこなせる…………が、当の本人は大火力で敵を圧殺したい模様。

・ 生まれ落ちたばかりで様々な情報を処理するために稼働時間が短いという欠点を抱え込む。1回の稼働時間は3時間。機能の大半を情報処理に回した高情報処理モードで最大25時間まで延長。最大稼働時間を超えると強制的に50時間の活動停止をする。こまめに活動停止することでなるべく空白の時間を作らない様に苦心している。いずれ成長《スペック拡張》して行けば徐々に稼働時間は増え、最終的には嗜好以外で活動停止《睡眠》は必要としなくなる。

・生まれたばかりで、やることなすことが初めてばかりで、良くも悪くも何をやっても楽しめる。

・機械故に物理方向の能力は高いが、どうしてもオカルト適性がなく、特に精神干渉系列の能力に凄く弱い。機神化すれば解消。

・精神的に子供っぽいこともなく安定…………が、0歳なのでもし彼に惚れてしまったら間違いなくショタ扱い。

 

 

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保護責任者:天然祈念仏

 

名前:浅蔵 星琉(あさくら せいる)   刻印名:龍巫女(りゅうみこ)

年齢:15    性別:女      1年生Aクラス

性格:冷静であり冷めた性格。自分の関心を持たないものには見向きもしない。少し天然気味。

 

喋り方:独特で抑制の少ない喋り方。一人称はボク。

自己紹介   「浅蔵星琉。え? もっと? ・・・・こんな容姿だけど巫女なんかをしている。えーと・・・まあ、暇でも見つけて家の神社にでも来てみたらどうだい? 何の御もてなしも出来ないけどね・・・」

勝負申し込み 「まあ・・・適当に終わらせようではないか・・・」

ボケ     「・・・? ・・・あ。次はボクの番だったね。忘れてたよ・・・」

天龍使用   「我と契約し天を司りし二匹の龍よ  我が身に宿りその力を我に貸し与えよ  赤き龍帝ドライグ  白き龍皇アルビオン」

赤き竜使用  「我と契約し古き地に眠る赤き竜よ  我に加護を与え我敵を討つ力を我に与えよ  我血を糧に進化の力を  赤き竜ケツァルコアトル」

 

戦闘スタイル:龍の憑依。自身の身体や武器に様々な龍の力を宿して戦う。龍の種類は多種多様(龍のモデルはアニメや漫画から)

 

身体能力 120     イマジネーション 300

物理攻撃力 70    属性攻撃力 70

物理耐久力 70    属性耐久力 70

神力 300

 

能力:『龍魂憑依』(自身の身体や武器に龍の力を宿す)

派生能力:『龍魂召喚』(自身の血や生命力を代償に龍を召喚する)

 

技能

各能力概要

『天龍憑依』

≪ウェールズの伝承に伝わる赤き龍と赤き龍と対を成す存在である白き龍を自身の身体に宿す。

赤き龍を宿すと自身の能力の上昇と、他者への自身の能力の一部の譲渡が可能。

白き龍を宿すと相手の能力の減少と、減少させた分だけ自身の能力の強化が可能。

使用中は星琉の体力が10秒毎に一定量削られ続ける。(二体同時使用すれば削られる体力も倍になる)

元ネタは「ハイスクールD×D」の「二天龍」≫

 

『赤き龍の加護』

≪ナスカの地の伝承により伝わる赤い竜の加護を自身や他者に与える。

「身体能力の上昇」「結界の構築」「体力の回復」「対象へのあらゆる影響の無効」の4つの能力が得られる。

使用中は自身の血が失われ続ける。(能力の複数使用をすれば失われる血の量も増える)

元ネタは「遊戯王5D,s」の「赤き竜」≫

 

『召喚』

≪自身の身体の一部や生命力などを対価に龍と契約し。契約した龍を召喚する。

支払う対価により召喚出来る龍も変わる。

一度契約してしまえば何度でも召喚が可能。

一度に一体しか召喚出来ない≫

 

 

人物概要

【白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女。頭がとても良く、成績も常に学年上位をキープしている。その反面、性的なことに対する耐性が低く、その手の話題が上がるとすぐに顔を真っ赤にして俯いてしまうほど。天然気味で無自覚な発言や行動もよく見られる。家が神社であり、家では巫女を務めている。感情が薄いが親しい間柄の相手には笑顔を見せることも。着痩せするタイプでスタイルはかなりいい。(隠れ巨乳)過去にその容姿から虐められていたことがあり、それが原因で周囲から距離を取るようになっている】

 

 

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保護責任者:ヒャッハー

名前:切城 契(きりき ちぎり)     刻印名:札遊支者(カードルーラー)

年齢:16     性別:男       一年Aクラス

性格:好奇心旺盛。人並みの三倍位知識欲があり、その上極度の噂好き

 

一人称は「僕様」

喋り方:所々で言葉を区切る………所か止めてしまうので、非常に話しにくい。

自己紹介  「やっほ。僕様の名前は契。よろしく」

能力自慢  「えっへん。便利でしょ。僕様の能力」

能力発動  「召喚(コール)焔征竜ブラスター」

喜び    「え!?。マジ!? ホント!? 君たちそういう関係!? よっしゃぁ! スクープげっと!」

 

戦闘スタイル:強化カードによる支援、モンスターによる物量戦、自己強化による接近戦と何でもござれ。

でも本職は指揮官。

身体能力98     イマジネーション550

物理攻撃70     物理防御50

属性攻撃70     属性防御50

安定思考30     並列思考50

高速思考25     集中力25

 

能力:『魔>>>札<<<怪(イクシードTCG)』

派生能力:『怪>>>身(エンチャントEX)』

 

能力技能

『付与』≪『魔>>>札<<<怪』の能力。カードにイマジンを流し込み、能力を付与する事。これを行わないと、彼のカードは只のカードに過ぎない≫

 

発現(コール)』≪『魔>>>札<<<怪』の能力。付与済みのカードを手に持ち、名前を唱えることで、カードの力を発現させる。モンスターならば召喚し、魔法ならば発動………といった感じ。

カードそのものの制限を受けてしまう。例えば『相手の攻撃時に発動』するカードを、関係無いときに使うことはできない。例えば召喚制限のあるモンスターは、その手順を踏まなければ召喚できない。

発現させたモンスターの感覚の一部は、契にもフィードバックされる。モンスターが燃やされたのなら、契も多少の火傷を負う。これを利用して、モンスターと視界をつなげる、なんてこともできる。

契が〈消えろ〉と念じた物、一定時間の経過、一定以上のダメージ。この中のいずれかの条件がみたされれば、発現させたモンスターは、消える≫

 

『憑依装着』≪『怪>>>身』の能力。

自らの内に付与済みのモンスターカードを埋め込むことで、『付与』と『発現』を使えなくする変わりに、埋め込んだモンスターの能力が使え、身体能力も埋め込んだモンスターの能力値によって上昇する。カードによる制限を無視して能力を使えるのだが、この状態は体への負担が尋常じゃなく、一時間も経ったらこの状態が解除され、約2時間の間、満足に体も動かせなくなる。おまけに制御のために、規格外とも言える契の脳のリソースの半分近くを持っていくので、余り使いやすい能力ではない。

しかし3体までなら体に埋め込む事ができるので、使い時さえ間違えなければ十分切り札になる≫

 

刻印名により、カードの支配といった方向にしか派生しない。

 

概要:【幼い頃から、どんなに力がなくとも、幽霊、精霊といった物を見ることができる体質だったので、幼少期、精霊とばかり関わっていたためか、人の友達が少なかった。

その数少ない友達と一緒にやっていたのがTCG各種であり、そこからおもいっきりのめり込んでいった。能力が発現し出したのもこの頃。

上記のように、『人』付き合いは少なかった物の、精霊の皆さんと良く話していたため、コミュ力は高い。しかし喋り方のせいでコミュ障と似たような物になっている。哀れ。

家柄とかは、特に何でもない一般家庭。育ちも普通だが、 精霊さんの英才教育(要らないおせっかい)を幼少期から受けていたため、頭が規格外なレベルで良い。

容姿は黒髪にうっすら青がかった深緑の眼。身長が低く、コンプレックスになっている。(160センチ位)

食べ物の好き嫌いは特に無いが、ナスだけは無理。他は何でもいける。だが、ナスだけは無理】

 

新聞部所属

 

 

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保護責任者:ヒャッハー

名前:緋浪 陽頼(ひなみ ひより)

刻印名:邪神の顕現(Nyarlathotep)

年齢:17    性別:?     クラス:A

 

性格:使用中の能力によって変化するが、能力未使用の状態では完全に無表情+無口。全く喋らないが、頷く等で意思表示は一応する。

 

喋り方:

劣化邪神[陽]使用時「げらげらげら。いやはや全くもって愉快ダネェ」

劣化邪神[陰]使用時「あっはっはー!爆撃爆撃ィ!殺戮こそが戦いの醍醐味です!」

神格解放「at22k25o82t-vpvx3j0xnv5_s'xyn2vv0knjv!!!!!!」

 

戦闘スタイル:能力によって変化。能力の欄にそれぞれ記載。

 

身体能力:3([陽]500)([陰]200)

イマジネーション:3([陽]50)([陰]389)

物理攻撃:3([陽]200)([陰]100)

物理耐久:3([陽]84)([陰]100)

属性攻撃:3([陽]10)([陰]139)

属性耐久:3([陽]84)([陰]100)

Nyarlathotep:0([陽]90)([陰]90)

 

能力『這いよる混沌(Nyarlathotep)』

 

派生能力:『―――』

 

各能力技能:『劣化邪神[陽](ナイアーラトテップ)』≪『這いよる混沌』の能力。自らの神格をほんの一部だけ解放させた状態。この状態では、体が男性体となる。顕現………つまり身代わり、命のストックが1000になる。このストックは時間経過と共に回復するが、効率は非常に悪く、一週間で一つ位。身体能力が非常に高くなり、身代わりの数と相まって近接戦闘では恐ろしく殺しにくい。その為戦闘スタイルは近づいて殴る撲殺スタイル。性格がとてつもなく悪くなり、何時でもげらげら笑っている。ただし、火への耐性が低くなり、周囲の人間のsan値を少しづつ削って行くため、長い間戦場に立っていると、味方にすら被害がある。劣化邪神[陰]との併用不可≫

 

劣化邪神[陰](ニャルラトホテップ)』≪『這いよる混沌』の能力。自らの神格をほんの一部だけ解放させた状態。この状態では、体が女性体となる。某ニャル子さんの如く空間を歪めて武器を収納したり、何か魔術的な物を使って爆発させたり、腕をNyarlathotepの爪や触手に変化させたり、容姿を変化させたりできる。完全に万能型。この状態の性格がもろに某ニャル子さんなので、面白そうな事に貪欲。火耐性が低いのは相変わらずだが、san値の減少がない。劣化邪神[陽]との併用不可≫

 

真・神格[混沌](Nyarlathotep)』≪『這いよる混沌』そのもの。その危険性故に発動できるのは一瞬だけだが、発動時に自らを認識していた存在を、ただ一つの例外もなく発狂、(相手の)運が良ければ気絶させる。これを発動させると5日間倒れたまま、能力の発動すら出来 なくなる≫

 

概要【元々は地上に存在していたNyarlathotepの顕現の一つ。なのだが、何かの拍子にイマジンを取り込んだ瞬間、 本体との繋がりが強くなり、本体に飲み込まれかけたが、イマジンのせいか逆に本体を取り込んだ。その結果自我が消滅し、何事にも重みが感じられなくなってしまう。そんな時、イマジネーションスクールの事を知り、そこでなら大事なものが見つけられるかも、という考えから入学。

容姿は、能力未使用時は、白髪に金色のタレ目気味の眼、身長体重はド平均。[陽]使用時は黒髪に黒眼タレ目が消えている。髪も眼も恐ろしく濁っている。[陰]使用時は白髪に黒眼。ちなみに胸は巨乳でも貧乳でもなく理想的な大きさ。

このキャラクターが男になるか、女になるかは、人間関係次第。例えば男と親友になりたい、等を願うと男になり、男に恋をしたりすると女になったり。】

 

 

ステータス:Nyarlathotepについて。

Nyarlathotepは、神格内蔵の特殊ステータス。攻撃に数値に応じた神格が付与されると共に、神話に応じた行動を取る事で、その間全ステータスを上昇させる。

このステータスが高ければ高い程、周囲の人間から正気を奪って行く。

また、微量ながら魔力ステータスも内蔵しており、これによって陽頼は魔術を使用している。

 

 

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保護責任者:夏目 冬華

 

名前:水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)    刻印名:創造と変革

年齢:18     性別:男         1年Aクラス

性格 他人に優しく男らしい性格だがかなりの天然

 

喋り方 堂々と男らしく

自己紹介     「水面=N=彩夏だ。どうした? 私は男だが何か問題でもあるのか? これからよろしく頼むぞ」

勝負申し込み   「では私と手合わせ願おうか」

ボケ       「ん? これか? 私の私服だが」

水面之檻使用   「水面に映る私の檻。水面故に干渉できぬが、故に封じ込める。錬成『ミナモノオリ』」

 

戦闘スタイル:基本は剣を持って戦うか。実はトラップを仕掛けて戦う方が圧倒的に強い

身体能力203     イマジネーション303

物理攻撃力153   属性攻撃力153

物理耐久力103   属性耐久力103

(余剰数値0)

 

能力:『物質特性変化』

自分が触れた物質の持つ特性を変化させる能力

例:鉄をゴムのようにする

普段は自身に使って身体能力をあげている

使いすぎると味覚しばらく無くなる

 

派生能力:『物質錬成』

物質を作り出す能力

負担がかなり大きく、1日に5回しか使えない

これを越えると五感のうちどれか2つが2日間無くなる

 

各能力技能概要

 

・『罠錬成』

触れた物の特性を変えて罠を作る罠は見えないので避けるのは難しい

 

・『水面之檻』≪ミナモノオリ≫

物質を4回作り特性変化を合わせて相手を閉じ込める

抜け出すのは難しいが外部と内部が遮断されるため相手に干渉できないので封じ込めることが可能

 

・『災禍讃唱』

刃の生える牢獄を作り相手を閉じ込める

錬成を5回行うため消耗が激しい

 

人物概要【長い髪をツインテールにしており、女性のような顔立ちで私服はゴスロリだが声がかなり渋い

端から見れば女性にしか見えないのでギャップがひどい

両親はすでに他界してる天涯孤独の身

バイであり戦闘好き】

 

能力概要【創造と変革を刻印名にすることで物質の特性を変える能力をてにいれる。派生能力は『特性変化→構成を変える→分子操作→創造』というつながりと刻印名でてにいれた。代償が五感なのは、能力を上手く扱うのに必要なものだからである】

 

 

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一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅲ

やっと書き上がった………。
って言うかBクラス編は書いてて超書き難いと思いました!
なんか直接当てるタイプの能力者少ないし! 何気にAクラスより人数多いし! 頭使うタイプの能力者ばっかりでメッチャクチャ疲れた! その割には内容が薄い気がする!
とりあえず書き上げましたが、う~~~ん、楽しんでもらえるかちょっと不安。

時間はクラス内交流戦一日目に戻ります。
どうぞ楽しんで行って下さい。


一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅲ

 

【Bクラス編】

 

 00

 

 

 ジャングルの様な熱帯の森の中、湿った地面を歩く一人の少女がいた。背中まで伸びた長い黒髪に冷たい印象を与える鋭い目付きをしてた少女だ。ノースリーブの黒タイツに胸の下辺りで切り取られた濃緑色の上着を重ね、スリットの入った眺めのスカートを穿いている。

 彼女の瞳はイマジンの基礎技術『見鬼(けんき)』の発動で、赤、緑、青、三色の光が瞳の中で絡み合い、彼女が捉えた情報を視覚的なイメージとして投影していた。その視線の先で捉えた、ジャングルに相応しくないコンクリートで出来た小屋を見つける。それは長方形の建造物で、装飾の類は一切ない。窓の代わりらしい穴は、とても小さく、子供一人分も出られそういない。光を室内に取り込むため以外には役に立たなそうだ。入口らしい四角の穴も、開閉式の扉すら置いていない様子だ。小屋と言うより巨大なブロックだと言われた方が納得出来る。

「………♪」

 しかし、そこが御目当ての場所だと解った彼女は、口元を薄く笑ませると、臆する事無く室内へと歩を進め、机の上に置いてある箱を見つけると、一度手を翳して『解析(、、)』した後に箱の中を改める。中にあったのは赤い水晶玉で、手にとって確かめると、中から文字が浮かび上がってきた。

「後一時間、この水晶玉を死守すれば私の勝ち、か………」

 それが解った少女はさほど難しくもないと判断し口元を笑ます。だが、水晶玉はその笑顔をあざ笑う様に新しい条件を追加してきた。

 

『なお、この水晶玉は持っているだけで敵に自分の居場所を伝える発信機となっています! 更に、この箱が「解錠」状態にある限り、この部屋から出られません!』

 

 バタンッ!

 

 無かったはずの扉が閉まり、窓も塞がれた。『見鬼』のおかげで暗闇程度なら視覚的な不自由はない。すぐにでも行動に移せた。

 彼女は敵に捕捉されたと言うのに、慌てる事無く小屋の壁に手を翳して調べ始める。

 しばらく調べて納得が言った彼女は一つ頷き、やっぱり口元を笑みにする。

 

 

 彼は学園のタスク中、『コンソール』なる物を探し、瞳を輝かせていた。“輝く”っと言うよりは、“明滅している”と言った方が表現としては正しいだろう。黒髪に強い癖毛、柔和な嘘か本当か解り難い笑みを絶やす事無く浮かべているこの少年、遊間零時(あすま れいじ)は生まれつき目に特殊な体質を持っていて、それが『見鬼』を使う際に混同し、上手く発動できなくなっているのだ。

(やれやれまったく、生まれつきの才能が邪魔になる事もあると言う事か………? そう言えば先生が言ってたかな? 『イマジンはイメージ力に起因する。だからイメージが固まってしまう大人には最大の力が発揮できない』って。………だとするなら、“瞳”にイメージを既に持っている俺は、同じ題材に余計なイメージを重複してしまうって事なのだろうね?)

 『見鬼』は『視る』技術ではない。あくまで“認識している物を視覚化する”技術だ。だが、零時は特殊な眼を持つ所為で、『視る』という解釈をしてしまう。そのイメージが邪魔をして『見鬼』の発動を困難にしている。

 自分は『見鬼』だけは苦手になるかもしれないかな? っと内心でぼやいていた時、突然その気配はやってきた。

 すぐに解った。これはイマジンによるセンサーの反応だ。つまり、自分が戦うべき相手が、この気配の先にいる。

「どうやら何かのトラップを踏んだ様ですね? それじゃあ、バトル開始と行きましょうか!!」

 『瞬身』の刻印名を持つ零時は、『瞬閃』の能力により体内パルスを操作、自身の身体の伝達速度を上げ、全身を素早く動かす。

 

 パッ!!

 

 静かな、だがはっきりと、空気が破裂する音が迸り、零時の姿が消える。

 空気を切り裂くその速度は、風の如く速く走り、あっと言う間に目的の場所へと到達した。

「見つけた! 小屋の中かっ!?」

 小屋は完全なコンクリートの塊だったが、イマジンにより強化された彼の高速の一撃は、容易くぶち破る事が出来る。何も臆することなく、彼は飛び上がると、勢いそのまま、飛び蹴りを放ち―――凄まじい爆音が轟いた。

 

 

 

『試合終了~~~~!』

 試合終了のアナウンスが流れ、ジャングルは消え去り、真っ白な空間へと変わる。

 そんな中で、零時は片膝を付くと、大量にかいた汗を床に落としながら、荒い息を必死に整えようとする。

 そんな彼の前に、歩み寄ってきたのは黒長髪の冷たい眼差しの少女だった。

「お疲れ様です。結局、あの小屋を完全には破壊できませんでしたね?」

 少女は涼しい顔で長い髪を払いながら、楽しそうに囁く。

「まあ、それでも僅かに穴を開いた事には素直に驚きました。想定内とは言え、あの時は思わず時間を気にしたわ」

 “想定内”。その言葉に、多少なりショックを受ける。

 彼女は、自分があのコンクリートの小屋を破壊できないと、先に予想していたと言うのだ。手の平の上で踊らされていたと知っては、さすがの零時も屈辱を抱かずにはいられなかった。

 だからだろうか? 自分の敗北を心で認めていながら、それでも僅かばかりのいらないプライドが、彼の口を動かしてしまった。

「見事な手際だったと思いますよ? ですが、『施錠』のイマジネートがかけられた小屋に、中から更に『強化再現』で簡易籠城したくらいで、天狗になられてもね………。それを打ち破れなかった以上、素直に敗北は認めるが、ちょっと味気ない勝ち方じゃないですか?」

 自分で言ってて負け犬っぽい気がして、内心では速攻後悔&反省を抱きながら、やっぱり表情は嘘か本当か解らない笑みを浮かべるのはさすがとも言える。

 だが、そんな零時の言葉に、少女は人類皆ゴミだと言うかのような冷たい眼差しで返す。

「なら、アナタはもっと悔やむべきよ。戦闘スキルを一つも持っていない私に、戦略的にねじ伏せられたのだから」

 そう言いながら髪を靡かせ踵を返し、背を向けて颯爽と去っていく姿は、正に勝利した軍の参謀の様であった。

 その背中を複雑な思いで眺める零時。それを横目に薄く笑っていた教員は、軽く手を上げ、勝者の名を口にする。

 

「勝者、カルラ・タケナカ。タスクコンプリート」

 

 ポイント差0。入手ポイント共に0の、完全無血の勝利である。

 

 

 カルラ・タケナカと言う少女はイマジネーションスクールでは珍しいエリート生だ。

 エリートとは名の通り、幼い頃から先だって英才教育を受けれる環境にあり、誰よりも早く知識を得、同世代では辿り着けないであろう段階まで早足で進んで行く、未来を約束された者の事だ。カルラはこの場に於いてのエリートとは、多少の事なりはある物の、間違いなくそれに当てはまる人物であった。

 両親がイマジン塾の関係者だった事もあり、幼い頃よりイマジンに触れる環境で育ち、未来有望な塾生をお手本にあらゆる軍略を学んできた。そして軍師適性を持つ能力に目覚め、入学前からイマジネーターとしての適性を既に得ていた。

 正直な話、彼女にとって遊間(あすま)零時(れいじ)は“敵”とさえ認識するのも(おこ)がましい素人にしかならなかった。そのため多少のつまらなさを感じていた。

 双方の名誉のために言っておくが、別段、零時が弱いわけではない。零時は恐らくBクラス最強候補に入るであろうと教師から予想された一人だ。彼が得意とするスピードは、如何なる攻撃も避け、己の全ての攻撃を当てるに最も都合が良い能力なのだ。“ただ一つの不安要素”さえ克服できてしまえば、彼の実力は一年生全体でも上位クラスと判断されていただろう。

 それほどの相手を持ってしても『素人』の扱いにしてしまうカルラ。彼女の戦略能力は、“ルールが適応される戦いに於いて”は、ほぼ絶対的な勝者とも言えるだろう。

 戦略と戦術は経験と知識による物が大きい。それがイマジンによって増幅させられているとなると、この上下関係を崩すのは難しい事とも言えた。

「この先相手が全部こんなもんだったら、さすがに拍子抜けね………」

 冷たい眼差しで廊下を進みながら、彼女は一人そうぼやく。

 尤も、彼女がこうしてぼやくのにも理由がある。彼女は強者を求めるだけでなく、同時に探しているのだ。自分が軍師として仕えるべき主を………。

「実際に戦ってみないと解らないけど………、他に目ぼしい人っていないのかしら?」

 彼女は呟きながら観戦窓を覗き込み、同クラスの試合を幾つか見聞し始める。

 

 

 

 01

 

 

 

 各クラスには特徴的な思考を持つ生徒で分配されている。そのため、各クラス同士の戦いとなると戦闘に特徴的な光景が現れ始める。

 Aクラスの特徴が能力を全面的に押し出した異能のぶつかり合いなら、Bクラスの特徴は、戦闘がとても静かだと言う事だろうか?

 宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)とジーク東郷の戦いは、ある意味それに近しい物となっている。

 彼等のバトルフィールドは海に近い高原エリアで、近くには小さな森も存在していた。だが、このフィールでのタスクは、能力による拠点の生成『拠点確保』と言う、少々時間の掛るイマジン技術であり、おまけに隠れる場所が限定されていた。必然的にタスクに集中して戦うのは不利と判断される内容であった。

 にも拘らず、出来れば戦闘を避けたいと考えた瓜生は、浜辺近くに隠れられそうな場所を見つけ『拠点確保』を開始した。

 そして早々にタスクを放棄して探索に集中していたジークに見つかる事となった。

 戦闘開始後、瓜生は『霧の国(ニブルヘイム)』の派生能力で『霧化』し、ジークの振るう大剣を回避しつつ、肉弾戦にて戦った。最初は一方的に攻撃を当てていた瓜生だが、すぐにその異常性に気付いた。

(な、なんだこいつ………? これだけ一方的に攻撃を受けてるのに、1ポイントも獲得できないっ!?)

 確かに瓜生の身体能力ステータスも、物理攻撃力ステータスも、イマジネーターの最低値と言われる3程度しか持っていない。だが、これは一流のプロボクサーが、全身全霊を掛けて放つストレートパンチに等しい拳打を普通に放てる数値だ。例え物理防御の数値が高い相手だったとしても、これだけ一方的に殴られて1ポイントも奪われずにいられるわけがない。金剛の様に肉体そのものを変質しているか、カグヤの様にダメージ方向へと躱しているのか、はたまた概念系の能力によりダメージを無効化していなければ、こんな結果にはならない。

(一体何をしてるんだ!? 見たところ肉体的な変化はないし、躱せている様にも見えない………。かと言って概念系の能力を使っているようにも―――)

 解決の糸口を見つけられぬ内に、ジークはやれやれと肩を竦めた。

「通常物理攻撃は全て霧化して回避か………? あまり無駄に力を使うのは気が進まないんだが………どうやらこいつで以外、ダメージらしいダメージを与えられそうにもないようだな?」

 ジークはニヒルな笑みを口の端に浮かべると、剣を中段へと構える。整った顔立ちの所為でやたらと様になっている不敵な姿に、瓜生は眼に見えた狼狽を見せてしまう。Bクラスでありながら臆病さが身に染みている辺り、彼はイマジネーターとしてはあまりにも未熟過ぎる。

 それは、カルラ同様、準エリート学生であるジークに対し、あまりにも愚かな隙であった。

 踏み出す。

 それはあまりにも単調な、そして積み重ねられた技術の集大成とも言える、単純な切り掛りだった。

 通常の人間なら、この一撃に気付いても躱せない無駄の無い一撃であったが、弱腰でも、危機回避能力に長けるイマジネーターである瓜生は瞬時に『霧化』し、すり抜けようとする。

 

 ザシャンッ!!

 

「え………?」

 瓜生の口から呆けた声が漏れた。いつの間にか実体化した身体が勝手に膝を付く。立ち上がろうとするが力が入らず動く事が出来ない。

 バタタタッ!! っと言う重たい液体が地面を打つ音が聞こえ、視線を下へと向ける。真っ赤な液体が自分を中心に広がり、不気味なほど鼻に付く鉄臭さを放っていた。

 血だ。そう気付いてやっと自分が斬られたのだと言う事を自覚し―――、首目がけて飛んできた刃を寸前のところで身体を転がして回避した。

 自分で流した血の上を転がり、そのまま寝た状態で立てなくなってしまう。

 何が起きたのか全く理解できなかった。だから必死に霞み始める眼を凝らして状況を認識しようとして―――先に恐怖が体を支配し始める。

 イマジネーターは確かに危機的状況に於いて“最善の答え”を導き出せる存在だ。だが、それは精神を強靭化している訳ではなく、思考と動作を感情や理性などのリミッター無しに同期して行動できるという“仕組み”が成り立っているだけだ。だから怖い物は怖い。そしてその恐怖を回避しようとする思考パターンは、瓜生と言う“個人”の発想であり、イマジネーターの特性とは関係無い。

 だから彼は、このままでは殺されてしまうという恐怖から“逃れるため”の“最善の答え”を導き出した。

(頼む………っ! 助けて………っ!)

 己が流した血を手で掬い、そのまま口の中に流して嚥下する。

 瞬間、体内に血を摂取したと言う“吸血行為”が彼の能力『吸血鬼』の『吸血』を使用したと判断された。彼の内で、スイッチが音を立てて切り替わる。彼の黒かった髪と眼が変色する。ライオンの様に多しい黄金の御髪(おぐし)に血を取り込んだかのような深紅の瞳。

「………ったく、こんな状況で変わるとか何ふざけてんだよアイツは?」

 激情に表情を歪ませながら、彼は立ち上がる。痛みが引いた訳でも傷が癒えたわけでもない。だが、堪えられないほどではない。そう(うそぶ)くかのように立ち上がり、彼は正面の男を睨んだ。

「ひゅ~~♪ なんだ? お前もしかしてスーパーになれちゃう星の子だったりしたのか?」

 楽しそうに口笛を吹く男。その手に持つ剣が、僅かに形を変えているのを、人格の入れ替わった瓜生は見落とさない。ただの大剣であったその刃が、中心から左右に広がり可変していた。剥き出しとなった中心部分からは神格が流れ込んでいて、ジークから送られるイマジンを神格に変えているらしい事を読み取れた。これは剣の特性だ。ジークから力を受け取る事で、剣が本来の力を見せ始めたのだ。その本来の力とは、とてつもなく単純な“切れ味”だ。だが、バカに出来たものではない。その切れ味は、霧化した自分の体まで切り裂いて見せたのだから。

(だが、それだけで十分情報だ。“単純に切れ味の良い剣”ってだけをイメージすんなら、オリジナルで考えるより神話や逸話をモチーフにした物である場合の方が効果が出る。ただの切れ味以外の効果を持たせる場合も、この方が想像し易い。逆にただのオリジナルなら神格は持たせられねえし、特別に神格を持たせる条件にしたとしても、霧化した俺を斬る事は出来なかったはずだ。………あのバカにはそれを想像する余裕もなかったみたいだけどな)

 イマジンにおける“神格”とは、言ってしまえば『最も手っ取り早く強い力を使うためのエネルギー』だ。故に、神格で無くとも、強いイメージを抱ける何かがあれば、それに匹敵するだけの物を使う事が出来るのだ。例えば、金剛は『鬼』のステータスを持っていても『神格』のステータスは持っていなかった。だが『鬼神』っと言う形で疑似神格を持つ事が出来、また、カグヤ戦の様に神格のダメージを受けても、しばらく耐え凌ぐ事が出来た。これらの様に、強いイメージ、ステータスで言えば『イマジネーション』を高く有していれば、神格など無くても充分に対応はできるのだ。

 ただ、イマジンは自身のイメージと他者のイメージにより、その力の強さを左右される。そのため、オリジナルより神話や逸話など、メジャーなイメージを持ち出す事で、イメージの強化を手っ取り早く行うのを好まれていると言う事だ。

(だったら、まずはアイツの剣の正体を掴み取る。反撃はその後だ。………っち、その前に奴の血を飲んで身体を癒さねえと………っ。こんな状態で変わるとかマジふざけんなよなアイツ………ッ!?)

 宍戸(ししど)瓜生(うりゅう)は、本来イマジネーターになりえるステータス………つまり、イマジン変色体が枯渇していて、充分な能力を発揮できない体質であった。だが、それを覚えた能力、スキルによって、“血の飲む”『吸血行為』をする事で己のステータスを上昇させる事に成功していた。しかし、この能力を使う際、元々患っていた解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorde)により生まれた、もう一つの人格が、能力と言う形で出現するようになってしまった。

 それは良い。このイマジネーションスクールでは、暴走人格が何をしようとした所で日常茶飯事の一つとして片付けられるだけだ。それほど深刻ではない。むしろ、問題視するのはこの状況における能力の条件だろう。

 瓜生は血を飲む事で人格を変更し、ステータスを向上させる事が出来る。また、負傷した身体を癒す事も出来るのだが、人格変更には自身の血で代用できても、自身の治癒には他者の血出なければならないという条件があるのだ。

 現状、いくらステータスが上がって、強化されたとは言え、重傷を負っている事に変わりはない。急ぎ治癒しなければすぐに動けなくなってしまう。

 瓜生の変化に気付きながら、まったく臆した素振りも見せないジーク。彼は、しっかりと距離を計り、動きがまだ鈍い瓜生の避けられないタイミングで剣を振るう。

(あめ)ぇッ!!」

 瓜生はジークの剣を避けようとせず、逆に自ら前に出る。剣が迫る中、彼の身体が霧化していく。

(無駄だ! 霧化しても『魔剣グラム』は何だろうと切り裂く!)

 ジークは一瞬も躊躇わず剣を振り切るが、その剣は瓜生を切り裂く事無く素通りしてしまった。

「なにっ!?」

 思わず声に出して驚く中、瓜生は霧化していない身体を捻り、ジークの背後を取ると、霧化していた身体をくっ付け、元に戻りつつジークの首元に食らいついた。

「テメェッ!? 身体の一部だけを霧化して、()()()()()()()()なぁっ!?」

 霧事切り裂く剣でも、霧の無い場所を斬って霧を斬れるわけがない。つまり、瓜生は霧化してすり抜けたのではなく、霧化して身体を()()()()()のだ。

「まずそうだが貰うぞっ! テメェの血を―――ッ!!」

 ガブリッ! っとジークの首に噛みつく瓜生。次の瞬間ジークが断末魔の悲鳴を上げた。

「ぐわあああああああぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~ッッッ!!!!」

 

 ―――が、

 

「………っなんてな?」

 おどけた顔で舌を出すジーク。

 瓜生は眼を見開き驚愕の表情を作る。

(歯が………食い込まないだと………っ!?)

 瓜生の犬歯は『吸血鬼』の能力による加護がデフォルトで存在し、幾多の獣よりも鋭く、肉を割く事に特化している。例え肉体を硬質化していても、それが“肉”である以上は、彼に破れない筈がない。だが、現に瓜生はジークの首、頸動脈に食らいついた牙が、まったく通り抜けていない。筋肉の塊に、ツボ押し様の棒を押し当てているように肉がへこむばかりだ。

(どう言う事だっ!? 服や鎧なんかで肉の上から防御されたのならともかく、肉自体が食い破れないなんて事は絶対に無いはずだっ!? 俺の能力はそう言う“設定”だ! イマジネーションが設定されている以上、それを破ったりする事は出来ねえ筈だぞ!? 神格か? いや、例え神格で身体をコーティングしてたって、肉に牙触れれば問答無用で突き刺さったはずだっ!? ならどうして打ち破る事が―――!?)

 驚愕に彩られる思考の中で、瓜生は一つの答えに行きつく。

 肉を破り、血を啜る自分の能力に、真っ向から逆らって打ち勝てる属性が一つだけ存在する。

 “不滅の属性”―――。

 不滅である以上、それが破壊される事はありえない。破壊されれば不滅という“設定”を覆してしまうからだ。

 だが、これだけでも足りない。ただ『不滅の肉体』をイメージしただけなら、“条件指定”が施されている自分の牙の方が勝つ。相性の問題上、より限定的な能力の方が、強い力を発揮する。こちらの限定条件の方が優位である以上、ステータスイマジネーションが相手の方が高かったとしても、牙を食い込ませるくらいの事は出来たはずだ。

(いや待て………っ!? これは………っ!?)

 

 ズバンッ!!

 

 瓜生が『不滅の肉体』のからくりに気付いた瞬間、彼は胴体部分から真横に両断されてしまっていた。彼は悔しげに表情を歪めながら、身体が地面に落ちる前に吐き捨てる。

「“血”と“鋼”と“不滅”の属性………っ! その三つに該当する権能………っ! テメェ、マジもんの“ジーク”にでもなるつもりか? えぇ!? “シグルズ”………!?」

 地面に倒れ、リタイヤシステムの光を散らし始めた瓜生に、ジークは人差し指を立てて、ちっちっちっ………、っと指を振って見せた。

「“ジークフリート”だ。“シグルズ”じゃねえよ」

 「細けえよ………」っと言う瓜生のツッコミは声に出来ず、光となって消えてしまった。

 教師のアナウンスにより、勝利を宣言されたジークはやれやれと肩を竦ませた。

「男とやりあってもこれではなぁ~~………。麗しの美女と戦わせてもらいたかったものだぜ。………俺の身体を斬れるブリュンヒルデは、今何処でどうしているのだろうなぁ?」

 アンニュイな表情がやけに様になっていて、近くに女性でもいれば思わず『ポッ』っとなっていたかもしれない。そんな決めフェイスで一人悦に浸りながら、ジークは次の準備へとさっそく取り掛かる。

 瓜生の獲得ポイントを最後まで0で抑え、ジークはたった15ポイントで勝利を収めてしまった。

 

 

 02

 

 

 

 黒瀬 光希(くろせ みつき)VS鹿倉双夜(ししくら ふたや)

 二人の戦いもまた、Bクラスの例に漏れず、静かな物となった。

 互いにタスクをこなしていた最中、偶然出くわした二人は外国墓地の様な場所で向かい合う事となった。

 少し青の混じった紺色で短く整えられている髪。知的な双眸が何処か学者然とした様な雰囲気を漂わせ、口調などとは裏腹に、男とは思えない程の可愛いらしい顔をしている光希。

 腰に届くほどに長い黒髪をポニーテールにた、紫の瞳を持つ少女、双夜。

 二人とも、実戦練習用スーツ(体操服)で身体の線が良く見えているので、普段は気にならない様な所までよく解ってしまう。

 女顔の光希だが、身体つきはカグヤと違い、それなりに男っぽい筋肉が備わっている。

 対する双夜は、意外と大きめの胸が多少強調されるのか、少し恥ずかしそうなそぶりを見せていた。

 二人は対面してすぐに戦闘に入ったわけではなかった。戦いを躊躇ったわけではない。ぶっちゃけ、『墓を荒らし、何処かの棺桶に入っている赤い宝石を取り出せ』っと言う四つ目のタスクをこなしたくなかった。っと言うのもあって、戦う事はむしろ願ったりかなったりだった。

 ちなみに言うと、二人とも一回は墓を荒らしてみたが、一つ目の棺桶の時点で、本気の死体が入っていると知って、慌てて埋め直した。そしてもう二度と掘り返したくないと思わされたりしたのだ。

 っとは言え、二人は対峙したまま一向に戦おうとする素振りを見せない。勘違いの無い様に説明させてもらうと、彼等の能力はとてつもなく攻撃的だ。双夜に至っては殺傷系の能力しか持っていないと言って良いだろう。ただ、二人ともその能力必殺に等しい威力だ。それをイマジネーターの勘が本能的に教えてくれているために、彼等は警戒してすぐに打って出られないでいるのだ。

 必殺の一撃を放ち、それに対処されれば今度は自分が必殺の攻撃を受ける事になる。ならば先手を取れば良いのかもしれないが、既に対峙してしまっているのでそれも不可能だ。何よりイマジネーターの危機察知能力は異常なほどに強い。就寝中の不意打ちであっても、彼等を一撃で倒す事は恐らく不可能なのだ。それ故、先手必殺に掛ける行為はあまりにもリスキーが過ぎる。故にどうしても安全策を探してしまう。

 結果的に互いが同じ事を考えているため、対峙した状態で相手の出方を窺い合っている。

(ん~~………、でもこれだとただ見つめ合ってるだけで埒が空かないですし………)

 最初に行動に出たのは双夜だった。

 右手を掲げ、人差し指にはめられた『赤い指輪』を使い、能力を発動する。

「『赤い本』、『殺人』の項目より抜粋………『斬死(きりじに)』」

 指輪が光を放ち、真っ赤に染まったイマジン粒子を噴き出す。それらは要求された『事実』を“再現”するために渦を巻き、一人の人間をイマジン体として創り出す。生まれたイマジン体はカグヤの九曜や、レイチェルのシトリーの様に、独立した知能は愚か、契の創り出すカードのモンスターが持つ、簡易AI的な頭脳もないらしく、瞳は虚ろで、表情は弛緩し、人形の様に力の感じられない動きで四肢を動かし、手に持つ包丁を構え、光希に向けて突き刺してくる。

「あっぶねっ!?」

 横跳びに転がって避けた光希は、想像してたより地味な攻撃に困惑し、過ぎ去った簡易殺人犯へと視線を送り―――既に眼前に包丁の先が迫っていた。

「―――ぁぁっ!?」

 咄嗟に首だけを動かし躱す。すぐ横を通り過ぎる刃が軽く頬を掠め、小さな鮮血を飛ばす。

 ―――っと思った瞬間には刃が磁石に引っ張られるかのように光希に向けて迫る。

「おおおおおぉぉぉぉ~~~~っ!?」

 地面を転がり恥も外聞も無く避ける。すぐさま立ち上がり適当な墓石の影に隠れる。だが、殺人犯と包丁はそれでも最短最速で追いかけて来て、もはやその動きには物理法則さえ感じられない。

(くっそ………っ!? これが『概念干渉系』の能力が………っ!?)

 『概念干渉系』

 この能力は、金剛の様に自身を強化する『強化系』、カグヤの様に自分ではない者を代わりに戦わせる『操作系』、神也の様に直接攻撃する『物理系』とは違い、相手を直接殺傷する様な物ではない。どちらかと言うと彩夏の様な『物理干渉系』に近い。

 金剛達の様な直接当てる攻撃とは違い、『概念干渉系』は“事実”を最初に持ってきて、その効果を発揮させるものだ。

 解り易く言えば『ゲイボルグ』だ。かの槍は、相手の心臓に突き刺さったと言う“事実”を最初に持ち出し、その後から槍の軌道が追うと言う能力を持っている。

 双夜の使った能力はこれと同じだ。

(たぶんあの指輪に命じた『斬死(きりじに)』って言うのが先に設定された事実! ついでにその理由は『殺人』ってところも設定されてるみたいだなっ!? このイマジン体はその“事実”を達成するための道具で、人型だが生物でさえ無いっぽいなっ!? ここまで“概念”のみのイマジン体だと、攻撃しても――――!)

 うねうねとした動きで追い掛けてくる殺人犯に、光希は手ごろな石を掴み投げつける。拳ほどもあった石は見事殺人犯の額に命中するが、首だけが衝撃を受けて歪み、身体は何の遮りもないと言わんばかりに追い掛けてきた。

「ひぃ~~~~~っ!? 墓荒らした時と同じくらい怖いっ!?」

 怯えながらほうほうの体で逃げ出す光希。おまけに殺人犯の首はいつの間にか完全に治っている。いや、()()()()()。っと言った方が良いかもしれない。

 生物として固定されたイマジン体と違い、ただの概念としてしか生まれていない『殺人犯』は、それこそ『斬死(きりじに)』と『殺人』っと言う事実を“肯定”するための幻であり、力任せに消しされる様な物ではないのだ。

「やっぱ、概念系には概念系じゃないと対処もできないか………っ!」

 足を止め、地面を統べる様に急ブレーキをかけて振り返った光希。彼も己の能力を使うために合言葉(キーコマンド)を口にする。

「コード001、記憶(メモリー)アカウントでログインを開始する‼︎」

 光希の能力発動により、彼が支配する青白い空間が広がる。殺人犯はそれにも変わらず包丁を腰だめに構え、一気に突き刺しに掛る。

 

 グサリッ!

 

 腸を抉った包丁から、嘘みたいに大きな音が上がる。

「あ………! ぐ………っ!」

 包丁で刺された男は、藁にもすがる思いで手を伸ばし、しかしその手は何も掴む事も無く空を掴む。力尽き倒れた男を見降ろし、殺人犯は荒い息を吐きながら呟く。

「これで………、これでもう引き返す事は出来ない………! それでも、俺は………っ!」

 決意を強張った表情の中に浮かべながら、彼は血に濡れた包丁を握りしめる。

 そして、何処からか流れるエンディングにエンドロール。

「これ、ちょっと前に終わったドラマの第一話ですよね? 私、再放送で見ましたけど、最終回だけ知らないんですよ?」

「ああこれ? 最後は正義の味方の警察やってた主人公の親友が逮捕すんだけど、主人公が殺し損ねた悪がそいつに罪を全部被せて悪事したもんだから、その親友が主人公の後を引き継ぐように殺し屋になっちゃうんだよ?」

「最近のドラマって鬱な終わり方が多いですよねぇ~~………」

 エンドロールの流れるテレビ画面を眺めながら、双夜と光希は、二人して椅子に座り、机の上に置かれたお煎餅とコーヒーを食していた。

「光希さん、結構すごい事しますよね? 私の≪殺人≫を回避するために、空間事呑み込んじゃうなんて?」

「いやぁ~~………、あの『殺人犯』、攻撃しても消えてくれなさそうだったから、僕の記憶内にあるドラマシーンでしっかり『殺人フラグ』を消化してもらっとかないと回避できそうにないなぁ~~、って思ってさぁ~~」

「そう言う能力でしたか? 憶える物によればとてつもない攻撃力を秘めていそうですよね?」

「生憎本とテレビで見た物は、二次元的な物としてしか取り出せないけどね? でも、ここでいくらか本物を見れば、もっと凄い事出来ると思うよ? ストックなら入学試験で充分稼がせてもらったしね」

 余裕の笑みを浮かべてコーヒーを啜る光希に、「それでは」っと前置きしてから双夜が指輪を掲げる。

「『災害』の項目より抜粋………『圧死』」

 ぐらり………っ、っと、小さく視界が揺れた。

 何事かと光希が身構えた次の瞬間、驚異的な振動が彼を襲い、椅子から投げ出されてしまう。揺れは更に激しくなり、彼の能力で創り出した家が軋みを立てて壊れ始める。

 地震が起きていた。それもマグニチュード8はくだらない大きな地震だ。机の下に隠れるなどと言う簡単な避難も役に立ちそうにない。尻餅を付いた状態でなおも揺れる地面に転がされながら、彼は必死に思考する。

(さっきと同じ『概念干渉系』でも、今度のは『圧死』を想定していた………! 地震で対象を圧死させるには、何か潰せる物が無いと無理だ! この場に於いてそれが可能に出来る物は―――!?)

 そこまで考えた彼は急ぎ庭へと続く窓を破り、地面を転がる様にして脱出した。次の瞬間には家が崩れ、瓦礫の山が室内を押し潰していた。

 だが、それで終わりだ。殺人犯の時の様にしつこく追いかけられる気配はない。

(やっぱりな。僕の能力で作った家ごと『概念』としてまとめて支配されてた。僕が能力を切っていても、家は消滅せず、瓦礫の山が僕に襲い掛かってきた事だろう。………だが同時に、殺人犯と違い『圧死』できる存在、今回の場合で言う『家』が無くなれば、さっきみたいに追い回される事はない。これなら単純に回避できる)

「お見事です」

 息を吐いた光希の元に双夜の声が届く。

 一体何処から? っと思った時には、瓦礫の山が吹き飛び、下から双夜がにょっきりと顔を出した。汚れてはいるようだが怪我をしている様子はない。さすが、あの状況で地震を起こしただけあって自身への対処はしっかりしてあったようだ。

「今のを躱す洞察力は感服する物がありますよ。ですけど………『二次災害』の項目より抜粋………『水死』」

 再び双夜が能力を発動。指輪が光を放ち、『現象』を『再現』する。

 ゴゴゴゴゴゴッ! っと言う地響きが鳴り響き、光希に大きな影が差す。

 いきなり何事かと見上げたそこには、墓地には不釣り合いな大津波が迫って来ていた。

「一応、この近辺は海に近い設定だったらしいですよ? さっき看板見つけました」

「そんな御都合はどうでもいいっ!?」

 例え海がなかったとしてもイマジンなら再現出来てしまいそうな物だ。だからそんな事はどうでもいい。必要なのはアレに対して『水死』を再現されないようにする方法だ。

 一瞬、潜水艦や最新式の救命ボート、もしくはいっそ山でも取り出し、高台に逃げようかとも考える。しかし、これが『概念干渉系』だと言う事を改めて考え、彼は方法を変えた。

 記憶バンクから取り出すのは、入学試験で最も印象強く残っているあの火力兵器。

「メモリーコード006! 『バスターカノン』!!」

 嘗て、多くの入学試験者達を一掃して見せた戦艦級砲台を呼び出し、右腕に装着。狙いを右寄りに定め、記憶データを再生。嘗てその目で見た威力までを記憶から起こして再現する。

 超濃度の光線が発射され、巨大に見えた津波を一瞬で蒸発させる。光希は撃ち出している状態で左に照準をずらしていき、残った津波を全て消滅させていく。

 全ての力を使いきった戦艦砲は光希の身体から離れると粒子片となって消え去った。

 荒い息を吐きながら、しばし様子を窺っていたが、再び津波が起こる気配は見られない。

(やっぱり、『殺人犯』の様な小さな『概念』ならともかく、『地震』や『津波』といった規模の大きい『概念』は、干渉し続ける事は出来ない様だな)

 双夜の能力は『概念干渉系』だ。故に『死』を定義すれば必ず死を与えるまで能力は持続される。故に『殺人犯』はいくらでも光希を追いかけ回した。この理屈で言えば『地震』による『圧死』でも、崩れた家が再び元に戻り、彼を押し潰そうとするのが普通だ。だが、実際にはそうならなかった。これは能力による物ではなく、その能力者、双夜の方に問題があった。

 いくらイマジンが万能であろうとも、それを使う人間までもが万能になれるわけではない。ましてやこれだけの能力だ。干渉する規模が大きくなれば、その分、負担も大きくなるのが当然。双夜は災害レベルの『概念』を何度でも使えるほど、能力を使いこなせていないと言う事だ。

 それを裏付ける様に、双夜の方も「ふぅ………」と小さく息を吐いていた。

「さて、今度はこっちの番と行かせてもらおうか?」

 相手の力に対処しているばかりではいつか追い詰められる。大技の連続で疲れを見せている今が好機と、光希は今できる最大の攻撃力を発動する。

 青白い光が彼を中心に領域を広げる。彼の記憶に収められたデータが召喚(アップロード)されていき、次々と出現する。

 そこに現れたのは、どれもこの学園の一年生なら見覚えのある物ばかり。

 黒の装いに身を纏ったイマジン体の少女、九曜。

 疑似神格を用い、己を鬼神に変えた伊吹金剛。

 戦艦砲を二門構えた機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)

 嘗て、切城(きりぎ)(ちぎり)が呼び出した焔征竜ブラスター。

 その他、名前も覚えれていないイマジネーターやその能力で生み出された存在。おまけに彼等の周囲には、同じくイマジネーターが入学試験の際に使っていた武器の数々まで呼び出されていた。

「コード002~077の記憶(データ)全て解放(フルロード)!」

 更に光希は、カグヤが使っていた神格武装、軻遇突智の槌を呼び出し手に握る。

「『記憶具現化(メモリーインバーディーマーントゥ)』より『記憶暗号(メモリーコード)』を発動………、神格武装への最適化を執行」

 槌を握った瞬間、青みがかった紺色だった彼の髪は、まるで燃えるような紅蓮の赤へと変わる。

 彼の能力、『記憶暗号(メモリーコード)』は、記憶で呼び出された武器に対し、尤も最適な存在へと自分を変える事が出来る。っと言っても髪の色以外は外面的な変化に乏しく、殆どの変化は内面に全て反映されている。

 全ての準備が整ったところで、彼は業火の槌を振るいながら不遜な笑みを作った。

 総勢70以上の戦力を記憶より呼び出し、武器まで揃えた。その姿はまさに圧巻。軍隊レベルの戦力を単体で創り出してしまったのだ。

「さて、どうする? お望みならこれの倍は用意できるけど?」

 光希は強がってそう嘯く。

 真っ赤な嘘と言うわけではない。だが、さすがにこれだけの記憶を呼び出し維持しようと思えば、頭の中で留めておかなければならない記憶の数も同じだけ膨大になってしまう。光希の能力は行ってみれば神経衰弱の様な物だ。伏せたカードを憶えていられる内は能力を発動できるが、伏せられたカードを忘れてしまうと発動していた能力は消え失せてしまう。故に彼は常には呼び出した記憶の数だけ神経を尖らせ、めまいや頭痛などと言ったペナルティーを請け負う事になる。

 それでもまだ余裕はある。集中が途切れて敵の目の前で維持している記憶が消えないよう気を使い、呼び出した数を制限していただけで、確かに余裕もあるのだ。

 故に、ハッタリでも無い。

 その軍勢をゆっくりと見回す双夜。彼女は呼び出された記憶達を前に、僅かに逡巡するそぶりを見せ、………疲れた様に肩を落として溜息を吐いた。

「これじゃあ………、さすがに仕方ないですよね?」

 そう呟き、彼女は右手を掲げ、人差し指に嵌められた『赤い指輪』に命じる。

「『赤い本』『戦争』の項目より抜粋………『戦死』」

 未だ嘗てない程に指輪が輝き、周囲を赤く照らす。赤い光に照らされた場所から次々と現れるのは、嘗て戦争時代に活躍した、歩兵、騎馬、弓兵、操車、戦車、戦闘機、その他多くの時代と国境を無視した『戦争』を舞台にした戦力の数々………。その数は光希の呼び出した戦力に比べ、あまりにも数の差があり過ぎる。陸を、空を、埋め尽くさんばかりに配属された新旧多国の戦争兵器と兵士達。それは純粋な『戦争』の体現者達だ。

「ふうぅぅ~~~~~………。本気でしんどいですけど………、でも仕方ないですよね? イマジネーターまで召喚されて、神格武装とかまである相手に、生半可な攻撃なんて効きませんし? ………だから、今回はちょっと頑張らせてもらいました」

 ギチギチ………、っと、話している内に彼女の身体から何やら嫌な音が鳴り響き、次第に身体が起伏していく。

 ギチギチギチギチ………ッ!! 音は更に大きくなり、彼女の背から服を破って大きな翼が、左手が鋭い刃物の様な物に、脚は俊敏そうな細くも強靭な昆虫めいた物へと変わる。瞳もまた、片方だけが人の目ではなく、別の生物の物へと変わり、より視界を多く捉える物へと変わる。

「すみません………。私、真っ当な人間ではない者で………、ちょっとずるいですよ?」

 異形の姿を模った少女は戦争の体現者達を率い、厳かに告げた。

「さあ………、戦争を始めましょう………」

 光希が槌を構え、臆することなく駆け出し、彼の記憶の兵団達も、遅れる事無く歩み出る。

 『戦争』っと言う最大の戦力を持った二人の個人が、今ぶつかった!

 

 

『そこまで! ………両者、イマジン大量使用の過負荷により失神、戦闘不能状態と見なし、引き分けとします!』

 そのアナウンスを教師が流したのは、既に空が暗くなり始めた頃だった。

 両者累計ポイント数………0。

 完全な引き分けで合った。

 

 

 03

 

 

「………案外私の勝利の仕方って、Bクラスだと珍しい事もなかったのかしら?」

 カルラ・タケナカは、これまでのクラスメイトの戦闘風景を元に、そんな推測を口にした。

 他のクラスの戦闘を見ていないので、比較対象としての情報が不十分なのは解っていたが、Bクラスの戦いは、ポイントによる勝利よりも、堅実な勝利の方が高い様に見える。こんな言い方をすれば「え? 何処が?」っと疑問の声を貰いそうだが、実際問題、このクラス内交流戦は、ポイント制+タスクゲームっと言うルールになっているが、全てのゲームに必勝法が隠されているようにも見受けられた。

 例えば自分達の戦いなら、遊間零時は対人戦スキルは大きいが、拠点破壊には向いていない。なので、カルラが頑丈な拠点に籠城すると、相性の不利が如実に表れ、なす術無く敗北してしまった。しかし、これは『時間制限勝利』の条件があったからこそできた方法だ。『タスクが味方をした』っと言うよりも、まったく戦闘能力を持たないカルラのために『勝てるタスクが用意された』と考えるのが妥当なように思えた。

 そしてカルラは、それを見逃さず実行した。だから勝てた。

 全ての試合がそう言った『勝利条件が仕組まれていた』っと言うつもりはない。実際、ジークと瓜生の戦いでは、タスクに細工らしい物は見受けられなかった。だが、それは逆に言うと、タスクを実行しなくても、瓜生なら勝てる条件を自らに有していた。………っと考えるのが妥当ではないだろうか? この試合のフィールドとタスクには、何処か作為的な物を感じる。それはきっと、彼等が出来レースで敗北、もしくは勝利しないようにと言う、学園側の配慮だったのかもしれない。

(っとなると、私が0点勝ち出来たのは、それだけ実力差に差があったからって事なのかしら? あれ、遊間零時に見つかってたら、なす術も無くやられていたものね?)

 何気にこの学園での戦闘は、結構現実的に理不尽だと思いながら、カルラは肩を竦めた。

「とりあえず、ここまでで見た感じ、危険視するのはジーク東郷と、黒瀬光希(くろせ みつき)鹿倉双夜(ししくら ふたや)の三人かしら? でも黒瀬光希と鹿倉双夜が引き分けてくれたのはありがたかったかも? イマジン過剰使用による失神をしたって事は、臍下丹田の不調で明日は腹痛を引きずる事になってるでしょうし、組み合わせ次第では余裕ね。問題は、まだ手の内を殆ど見せていないジーク東郷………。彼の≪不死身の属性≫、見たところ破る手が無いわけじゃないけど、私だと状況次第かしら? 変な当たり方はしたくないわね………」

 状況分析をしながら、他にいくつか見たクラスメイトの戦いを思い返す。

 その中で一番困らされた試合が風間幸治(かざま こうじ)VS戸叶静香(トガノウ シズカ)の戦いだった。彼等のステージは何処かの遺跡の様な場所で、タスク内容は、宝玉を探し出して指定の位置に持って帰る事で達成されると言う、勝利条件の高いタスクだった。これに静香は、己の能力『先達の教え』にある『征服王』により、無限に走れる体力を得て、突破しようとしたのだが………、結局、戦闘能力と情報能力に優れた幸治に発見され、敢え無く御用となった。しかも静香は幸治の『鎌切鼬(かまきりいたち)の術』で逃げ道を塞がれてすぐに「降参だ」っと潔い判断をしてしまった。能力的にも状況的にも勝ち目がなかったで仕方のない事だが、観察していたカルラとしてはお互いもう少し戦ってほしいとさえ思ったほどにあっさりだった。

 Bクラスは総じてこう言う戦いが多い。光希と双夜の様な戦いの方が珍しく、基本的にはこう言った静かであっさりした勝敗がこのクラスの恒例と言える景色だった。個人差こそあれ、基本的に真面目で堅物意識のあるBクラスという集団には、こう言った潔さが見えてしまい、観戦する者達からすれば、尤も情報が引き出し難い相手だと言える。

 彼等がAクラスやCクラスの戦いを目にすれば、きっと呆気に取られてしまう事だろう。

 っと、カルラがそろそろ外に出ようかと考えていた時だ。廊下の十字路の一つが、少々賑わっている事に気づく。何事なのかと首を傾げ近づいてみると、何やら良い匂いがしてきた。

「さアさア! ヨって言って、見ていくヨ~~! 今なら一つ、たったの100クレジットヨ~~! Eクラスの(よう)(りん)制作! 娘娘(ニャンニャン)(てい)をよろしくヨ~~~!」

 見知った顔の知り合いが、何故か簡易料理店の様な物を開いていた。

「い、一体何してるんですか?」

「おお、カルちん! いらっしゃい!」

「カルラ・タケナカです! ………なんで、簡易料理店なんて開いてるんですか? それも、そんな格好で?」

 カルラは凛の姿を上から下まで眺めて首を傾げる。

 凛が来ている服は、チャイナドレスなのだが、普通のチャイナドレスと違い、あっちこっち無駄にスリットが多く、露出が激しい。背中など殆ど丸見え、スカートのスリットは腰まであってパンツがチラリズムしない事の方が不思議に思える。胸元も綺麗に丸く大きな穴上に開かれ、決して小さいとは言えない豊満な胸が見事に強調されている。これだけでも充分刺激的な露出なのだが、更にスリットの上は網目状の繋ぎになっていて、横のラインが丸見えになってしまっている。お腹にも四角く小さな穴が空いていて、おへそが丸見え状態。肩は露出し、二の腕部分に申し訳程度の袖が通され、腕の露出もかなりの物だ。スタイルに自信がなければ着られない、自信に満ちた衣装としか言いようがない。

「………ふしだら極まりないと思えますけど?」

 多少、厳格な部分のあるカルラは、挑発的とも取れる凛の姿に不満げな声を発する。言われた凛の方は、不思議そうに自分の格好を眺めてから、困ったような表情でカラリと笑い飛ばした。

「あはは………っ! ワタシ、そんなに意識してなカタけど、この衣装、そんなに目の毒カ? 相部屋の子に、『皆が喜びそうな服!』って言ってツクテ(作って)もらたけどネ?」

 そんな破廉恥な服を勧められて、よく着る気になった物だと、カルラが呆れていると、凛の隣から売り子を手伝っていたらしい少年が、仏頂面で不平を漏らしてきた。

「よく言いますよね? 他にもいくつか控え目な物も作ったのに、わざわざネタで作った露出度最高の服を選んだのは凛じゃない?」

 少年は腰に手を当て、ちょっと子供っぽい表情で軽く怒って見せた。

 男性にしては長めの黒髪で、右サイドに糸で編んで作った髪飾りらしき物を結んでいる。瞳は大きく、顔立ちは意外と整っている。可愛い系ではあるが、さすがにカグヤや彩夏の様に女の子には見えない。身長は平均的な方だろうが、凛もそれなりに高めなので、並んで立つとあまり高い様には見えない。今は何故か白いエプロン姿で、凛の店を手伝っている様子だ。

「ダテ、これが一番故郷にチカイ物を感じたヨ! こう言う方がワタシ好きネ!」

「今更聞くけど、恥ずかしいとかないの?」

「は、恥ずかしいわ………、ハズカシイネ………//////」

((じゃあ、なんで着てる………))

 少年とカルラのツッコミが心中で重なる。

 凛は、むんっ、と気合を入れ直して赤くなりかけている顔を元に戻す。

「でもっ! 商売中はそんな事考えてられないよ! ののちんとイオちんは、半端無いしネ! 恥ずかしいくらいで負けてはいられないヨ!」

 気合を入れ直した凛は、注文をしてきた生徒に気付いて、「来来(ライライ)~~!」っと、意味が違う言葉で客を出迎えに行った。

 取り残された二人は、凛の気合いっぷりに思わず溜息を吐き合ってしまう。そこで気付いた少年が、思い出したように自己紹介をする。

「あ、申しおくれちゃって………! 初めまして。僕の名前は市井(しせい)(がく)です。凛とは相部屋なんで、よろしくしてください」

「カルラ・タケナカです。凛とは入学試験以降の食堂で席を隣り合わせた仲です」

「………案外、小さな関係ですね?」

「あの人は仲良くなり易い人でしょうから………」

 笑うでもなくさらりと受け流したカルラは、先程凛に聞きそびれた内容を思い出し再度訪ねる。

「それで、これは一体何なんですか?」

「ああ、これですか? これは一応僕達Eクラスの試験です。Eクラスは芸術化方面の人間が多いですから、戦闘とは別のアプローチで勝敗を決められるそうなんですよ?」

「へ? な、なんですそれ?」

 カルラは思わず難しい顔で尋ねる。生徒手帳の学園説明については一通り目を通していたつもりだったが、その内容は初耳だった。記憶の奥を漁れば、確かにクラス特徴の項目が存在していたのは知っていたが、早足の授業に追われ、さわり程度しか読めていない。

 それを察したわけではないが、楽は和やかに説明を始める。

「A~Dクラスは、単独戦闘が可能な方も多いですけど、E、Fクラスは戦闘外の能力者が多いですからね? 回復能力とか構築能力とか、戦闘外で役に立つ能力を発揮する人が多いんですよ? 音楽、絵画(かいが)、治療、武器構築なんかですね? 単独戦じゃどうやったって評価が貰えないんで、戦闘は自由参加者の中からランダム。それ以外はこの三日間の間、それぞれの能力を活かした『貢献度』で勝敗を決めてるんです。………簡単に言うと人気取りですかな?」

 カルラは目を丸くして驚きを表わす。この戦闘特化で有名な学園では珍しい光景に、戸惑ってしまったのだろう。

 だが、考えてみれば当然の事とも思えた。

 イマジンは想像を具現化する事の出来る万能の力だ。このギガフロートを浮遊させる仕組みから始まり、あらゆる面でその効果を発揮している。その力を研究している学園で、戦闘のみに趣を置くと言うのは、普通にありえない筈だ。もっと多方面に向けて、それこそ生産面で活躍させた方が“国”としては都合が良いに決まっている。戦闘に特化したように見えるのは、そう言う生徒が目立つからというのと、成長具合が解り易いと言うだけなのかもしれない。

「カルちんさんも、時間があるなら色々周ってみたらいいと思いますよ? 中には戦闘に役立つ商品を売ってる人もいますし? ………値段は購買部より高めな気もしますけど?」

「はあ………、そうですか? まあ、見るだけ見てみます。あと『カルちん』って呼ばないでください」

 しっかり忠告してからカルラは凛の出す軽食店を覗いて見る。青椒肉絲(チンジャオロース)や、麻婆豆腐(マーボードウフ)、そして一口サイズの肉まんと、おつまみ程度にもってこいのチョイスが並んでいた。青椒肉絲は小さな袋詰めで、口の中に放り込めるようになっていて、麻婆は茶碗蒸しの様に紙コップに詰められていた。何気に大きめのサイズも用意されているようで、そこそこ盛況にも見えた。

「それってどう言う事ネッ!?」

 突然上がった驚愕の声。反射的に視線を向けると、そこでは凛と160前後の身長に、金髪碧眼のクォーターらしい少女が何かを言い合っていた。“言い合う”と言っても険悪なムードは無く、クォーター少女の話に凛が驚いていると言うだけの様に映った。

「カエちん! この味はワタシの“カテイの味”ヨ! 他にはマネできない筈ネ!」

「ですけど、彼の何でも屋では同じ味のする物が売ってらっしゃいましたわよ? ねえ弥生さん?」

 “カエちん”呼ばわりされた少女は、後ろに控えていた少女へと同意を求める。求められた少女はあっちこっち包帯だらけで、随分痛ましい姿をしている。包帯の足りていない部分からは、青痣が滲んでいて、極度の打撲を負っているのが遠目にも解った。ロングの黒髪をうなじの辺りで纏めているだけと言う簡素な髪型に、幼さの目立つ顔立ちをしている。

 生徒手帳の一覧から見た記憶の中で辛うじて覚えている通りなら、クォーターの方が(くすのき)(かえで)で、黒髪ロングが甘楽(つづら)弥生(やよい)だったはずだと思い出す。

「うん、僕も料理する方だし、味覚には自信あるよ? だから自分でも不思議に思うくらい、これと一緒の味だしてるとこあった」

「そ、ソレテ誰の店ヨ!?」

「え~~っと、誰だっけあの金髪碧眼の不良っぽい子? 僕は遠目にしか見てないんだよね?」

「記憶違いでなければ新谷悠里( アラタニ ユウリ)くんではなかったでしょうか?」

「ちょっと不正ナイか見てくるヨロシ! ガクガク! ちょっと店番よろしくネ!」

 一方的にそう言った、凛は『陽凛の娘娘亭~♪』と背中に書かれた上着を羽織って、一目散に駆け出していってしまう。

 置いてかれて呆気に取られていた楽は突っ込む暇も与えてもらえず、ただ見送る事しかできなかった。

 無意味に伸ばした手だけが虚しく空を握って、彼は諦めと共に溜息を吐く。

「凛ったら、お店を他人に任せてる間、接客ポイントは加算されないって事、忘れてるんじゃないのかな?」

 ぼやきながら、それでも楽は献身的に接客を続ける。

(それにしても、E、Fクラスは、戦闘は任意なんですね? だとしたら、むしろ一位争いは、私達よりも激しい物となるのでしょうけど………、学年最強決定戦は誰が出てくるんでしょう? 非戦闘員が勝ち上がってしまったら、そこはシードになってしまうんでしょうか?)

 疑問に首を傾げながら、カルラはもう一度生徒手帳の未読枠を読み直した方が良いかもしれないと考えるのだった。

 

 

 04

 

 

 大きな岩がゴロゴロと転がり、雑草一つ見当たらない岩山で、二人の少年少女が対峙していた。少年の方は小柄で柔和な容貌に、クールな表情を浮かべている。少女の方は、真っ赤な髪をした長身のスレンダーながら母性に溢れた身体つきをしている。

 笹原弾(ささはら だん)折笠重(オリガサ カサネ)。それが二人の名前だ。

 二人が対峙しているのには理由がある。それは、この二人のタスクが接触を誘発させる物だったからだ。

 タスクの内容は、『感知』『物理移動』『座標指定』『操作』っと続き、最後は『このドールを操作再現で操りつつ、敵側のドールを破壊せよ』っと言う物だった。ドールは直径20㎝くらいの卵に脚が生えた様な物体で、多少操作が難しいが、素早く動き回る物だった。

 そして現在、このタスクをほぼ同時タイミングで実行していた二人が対面する事になった。ちなみに二人は対面してすぐにドールを何処かに走らせ隠してしまう。もはやガチンコ勝負が始まるのは明白であった。

 先に動いたのは弾だった。彼は二丁の拳銃を取り出し、右の銃を(カサネ)に、左の銃は何処ともない宙を狙ってやや上気味に構える。これらの銃はどちらも購買部で購入した物だ。入学試験時では直接自分の能力で呼び出す事も出来たが、これだと能力に余計な手間がかかってしまうと知って、購買部で相談したのだ(購買部の棚に普通に並んでいるのを見た時は驚かされた)。

 弾は構えた状態でゆっくりと歩き始める。小細工無しに、正面から堂々と踏み出してくる。

「ハンッ! タイマンかい? それともチキンレース? どっちにしろ、正面からってのは気に入ったねぇ?」

 重は真っ赤な髪を手で払いながら、弾に答える様にゆっくりと余裕のある足取りで踏み出す。

 互いの距離は目視できるだけで未だに50mも離れている。互いが歩み寄り、その距離が縮まる中、弾が右の銃を三発発砲。距離にして40。右に持つS&W M645でも当てるには申し分なく、しかしイマジネーター相手に当てるのは不可能な距離。ほんのあいさつ程度のつもりであろう銃弾は、重に届く寸前、何かに叩きつけられるように下方向に角度を変え、地面へと落下した。

 焦らず慌てず、驚愕の表情一つ浮かべる事無く、弾はやや上向きに銃身を逸らし、発砲。だが、やはり銃弾は全て地面へと落下する。続けてやや上向きに修正し直して発砲してみるも、その全てが地面に叩きつけられる。修正すればする分だけ、地面に向かう角度も急になり、当たる気配はない。

(距離35。アップ修正、15発、全弾効果無し。修正後の角度から察するに、能力による『逸らし』ではないと推測。地面に着弾した銃弾の損傷具合から、障壁の様な物で防がれた訳でも、物理的に叩き落とされたわけでもないと判断できる。恐らくは銃弾その物の軌道を変えられたんだろうけど………、全て下方向な理由は?)

 頭の中だけで思考しつつ、弾はますますクールな表情でS&W M645のマガジンを排出。リーロードしようとする。

「球切れか? じゃあ、リロード中はアタイのターンだ」

 重はそう言って、近くにあった大岩へと無造作に手を伸ばし―――、そのままひょいっ、と肩手で持ち上げてしまう。

「ほらよ」

 まるで買ってきた缶ジュースを友人に寄越す様な要領で、彼女は90㎏相当の大岩を投げつけた。

 大岩はその軽がるとした投げ方に見合わず、物すごいスピードで弾へと迫る。時速100㎞は出ているのではないかと言う速度を前に、やはり臆するでも無く、弾は右のS&W M645のリロードに取り掛かりつつ、左の銀のガバメントの照準を岩へと合わせ、発砲。

 

 バピィンッ!!

 

 銃弾が岩に命中すると、奇妙な音が発生し、大岩は弾かれ、明後日の方向へと飛んでいき、轟音を鳴らして地面へと落下した。

「ピュ~~~~♪」

 眉一つ動かさない弾の技に感嘆した重が口笛を吹く。

 リロードを終えた弾が再び右の銃を構え、発砲していく。しかし、それら全てが地面へと叩きつけられ、同じ結果を作り出すだけだ。そして、リロードの間に重は大岩を幾つか手に取り、投げつけ、やはり弾き返されるを繰り返す。

 っとは言え、二人ともまだまだ様子見。牽制し合いながら互いの手の内を探っていく。

「重力操作」

 弾が呟く。距離にして20。もはや仕掛けられる距離。

「特殊弾生成ってところか? 今んところ弾くくらいにし使ってないみたいだけどね~?」

 同じく重も返す。互いに互いの手の内を読み取っていると言う様に。

(………仕掛けるならこの距離が限界だ)

 15m。これ以上は近づきすぎても遠過ぎてもタイミングを逸する距離。互いに能力の情報を分かち合う結果となった現在、勝負に出る以外の選択肢は失われている。

 弾は地を蹴った。

 まったく同時に重も前に飛び出している。

 弾は右の銃を連射。フルオートで15発全弾を出しきり、重を狙い撃つ。

 重はそれら全てを地面に叩きつけてから、そこらの岩を蹴りつけ、人間投石を遂行してくる。

 無論、弾は左のガバメントで弾き飛ばし、距離は一気に5mまで接近する。

 互いに負傷は無い。能力が能力だけに、互いの攻撃は命中精度が悪い。だが、それは距離感が変われば一変する程度の物でしかない。

(この距離ならいけんだろ!)

 重が胸の谷間に挟んでいた生徒手帳を軽くタップ。背丈ほどもある巨大な大剣を取り出す。

「うりゃあああぁぁぁっ!!」

 彼女の能力『重力操作(ヘビーマニュピレイト)』で重量を軽くされた大剣は、まるで紙切れでも振り回す勢いで大上段に振り被られ、振り降ろすと同時に重力加重でとんでもない攻撃力を発揮される。その威力は、重量だけで鋼鉄の塊を断ち切ってしまいそうな勢いだ。

 だが、ガンッ!! ガバメントから打ち出された銃弾が剣に命中した瞬間、重力操作で重さを増していたはずの剣が大きく横へと弾かれていった。

(チィッ! この弾く弾丸の効果は当たれば無条件発動かよ!)

 歯噛みする重の懐に、弾は素早く潜り込むと、右の銃を彼女の腹部へと押し付ける。

「この距離でも銃弾を落とせる?」

 勝ち誇るでも無く、冷やかな瞳で重ねを見上げる。

 額から僅かに汗を流しながら、重はニヤリッと笑って返した。

「無理だね」

 

 ズダダダンッ!!

 

 弾は躊躇なく引き金を引き、可能な限りの弾丸を叩き込む。咄嗟に後ろに跳ぶ重だが、無駄だ。ほぼゼロ距離から撃たれた八つの弾丸は、間に剣を挟み込ませる隙も無く、重の腹部へと全弾命中し―――、

 

 ズドンッ!!

 

「―――ッ!!」

 突如、弾の身体が地面へと叩き付けられた。

 考えるまでも無く、自分が重の重力操作を喰らった事はすぐに予想できた。銃弾をわざわざ落としていたのは、彼女の性格上、タイマン勝負に付き合っていたからと言うだけで、やろうと思えばいつでも弾を潰す事が出来た。

(でも、どうしてこのタイミングで? 撃たれてからでは―――)

 ―――遅いはずだ。そうしこうするより先に目に飛び込んできたのは………、この場合そう言う言い方では語弊があるだろう。何せ、弾は見失っていたのだ。先程までその場にいたはずの重の姿を。

 一体何処に? そんな疑問を浮かべ周囲に『感知再現』を放つと、遠くから重が腹部を押さえて歩み寄ってくるのを見つけた。

「痛てて………っ、『慣性減量』で威力抑えつつ、自分の重力を一番軽くしてダメージほぼ無効にしたのは良かったが、ちょっと考え無しだったかねぇ? 勢い余ってかなりの距離を飛ばされちまったよ………」

 そう言いながら弾の前に立った重は、剣を片手に構えて見降ろす。

「んで? リタイヤするか?」

 

 ダンッ!

 

 重の問いに答える様に、弾がガバメントの引き金を引いた。だが、身体を押し潰されている状態で、無理矢理片手だけ持ち上げて撃った弾丸は、重に当たる事は無く、近くの石に当たって何処かへと跳ね返って行くだけだった。

「そいつが答えか………」

 ちょっとだけつまらなさそうな表情をした重は、諦めたように溜息を吐いて、大剣を持ち上げる。トドメの一刺しを弾に与えるため。

 

『試合終了! タスククリアー! 勝者笹原(ささはら)(だん)!』

 

「………はえっ!?」

 剣を持ち上げた状態で固まってしまった重は、直後聞こえたアナウンスに耳を疑った。

 そんなはずはないと言う彼女の希望を裏切る様に、岩山の背景は、元のただ白いだけの部屋へとか戻ってしまう。

「ど、どど、どう言う事だっ!?」

「『感知』を使ったのは君を探す為じゃないよ。ドールを探していたんだ」

 仰天する重に、能力を解いてもらい自由の身となった弾が立ち上がりつつ教える。

「は、はあっ!? 何言ってんだテメェ!? 吹かしてんじゃねえぞっ!? アタイはドールを結構離れた位置に隠しておいたんだぞ!? しかも物影にだ! 弾丸を跳弾(ちょうだん)させて撃ったって言いたいんだろうが、弾が当たる頃には速度も緩くなって威力激減だ! 数発ならともかく、一発で撃ち抜けるわけねえだろっ!?」

「だから()()()で撃った」

 言いつつ弾は左手のガバメントを軽く揺らした。

「もう解ってるだろうけど、こいつの弾は全部、僕の能力『特殊弾生成』による特殊弾でね? こいつは命中さえすればどんな物でも弾き飛ばす事が出来るんだけど………」

 それは重も知っている。だから自分の剣は重力操作していても簡単に弾き飛ばされてしまったのだから。だが、それが一体どうしたと言うのだろうか? 首を傾げる重に、弾はクールな表情のまま軽く笑みを作った。

「その効果は跳弾させた後で発動させる事もできまして? それでドールの近くの岩を弾き返したりなんて事も出来てしまうんですよ? その岩が偶然ドールを押し潰したりなんてしたら、さすがに堪えられないんじゃないですかね?」

「んなぁ………っ!?」

 真実を聞かされた重は、それ以上何も言い出す事が出来なかった。正面の戦闘に気を取られ過ぎて、己の護衛対象を打ち取らせてしまった。完全な敗北。

 笹原弾の勝利は、僅か3ポイントで勝ち取られた。

 

 

 05

 

 

 Bクラスの戦いはとても静かだと称したのを憶えているだろうか?

 この戦いは、正にその代表的な戦いとなった。

 天笠 雪(あまがさ ゆき)VS御門 更紗(みかど さらさ)。この対戦カードは、Bクラスを代表する戦闘の一つと言っても良いかもしれない。

 何しろこの二人、最初から戦闘を放棄している上に、互いに顔を合わせても微笑を浮かべ合って、しっかりと腰を折った挨拶まで交わし、そのままスルーしてしまう始末。互いにタスク以外には目もくれていない。完全にバラエティー番組のゲーム勝負状態だ。

 さて、そんな状況である以上、タスク(ゲームルール)の説明をしなければなるまい。

 今回のタスクはとても簡単でいきなりな内容だった。

 試合開始直後、いきなり生徒手帳に電子メールが届き、以下の内容が伝えられる。

 

『フィールド内にある開閉式コンソールに、36桁のパスワードを打ち込み、自分の物として認証させよ。コンソールは大量に存在し、一時間以内に多くのコンソールを掌握した物の勝ちとする。なお、認証済みのコンソールでも、再登録は可能な物とする』

 

 こうして始まった陣取り合戦に、二人の行動は早く………そして遅かった。

 別にゆっくりスタートしたわけではない。単に二人とも身体的に恵まれておらず、おまけに身体能力ステータスが二人合わせても30に満たないと言う驚愕の低さ。身体能力ステータスを3しか持っていないカグヤや瓜生(※瓜生はステータス変動を持っているが………)でも、それなりに脚が速いと言うのに、この二人、見た目通りの女の小走りで、可愛らしい所作に似合った鈍足走行だった。そのため二人の立ち上がりは、今までの戦いに比べると、とてつもない温い立ち上がりとなる。

 彼女達二人のために弁明しておくが、鈍足と言ったのはイマジネーターとしてはと言う話だ。身体能力ステータス数値を3も有していれば、元々の身体にどんな障害を有していようと、100mを10秒以内にゴール出来てしまう身体能力を身につけられるのだ。

 例題として、身体にも恵まれず、身体ステータスも最低値のカグヤが100mを走破した場合、およそ9秒58でゴールする。これは既に、地上で言う人類最速の速度だ。もちろん、これは純粋な身体能力ではなく、無意識化で肉体に施しているイマジンの恩恵があってこそ発生する現象なのだが………。

 現在、この二人の速度は、普通に50mを10秒で走破する、高校生の平均速度にまで落ちていそうだ。これを見ていた浅葱礼(あさぎ れい)教諭28歳独身(うるさいわよっ!)は、「前代未聞の平均速度だ………」と、呆気にとられたほどだ。むしろ何故こんなに遅いのか、そっちの方を調べたくなったと言う。

 っとは言え、そこはやはりイマジネーター。彼女達は『見鬼』や『探知再現』を駆使して効率良くコンソールを発見。脚は遅いが脚力は充分あるので(此処でも教師は「何故だっ!?」っと戸惑わされた)遮蔽物を気にする事無く最短ルートで効率良く自陣を広げていった。

 まあ、そんな事をしていれば、コンソールを巡って走り回っている内に互いが接触する事などありえない話でも無く、また、コンソールを開くのには時間もかかってしまうので、接触した瞬間に戦闘になるのが普通だったのだが………。

「あら? どうも」

 接触してさっそくお辞儀して挨拶する天笠雪。手を揃えてしっかりと腰を折る育ちの良さが受け取れる綺麗なお辞儀だった。

「………♪」

 それに対し御門更紗は、生徒手帳からフリップボードを取り出すと、そこにマジックで『こんにちは』と書いて見せる。それからしっかりと自分もお辞儀をして御挨拶。親の躾が行き届いてる事が窺える、庶民的だが親しみやすさの窺える可愛らしいお辞儀だった。

「これは御丁寧に。………タスクは順調ですか?」

『結構頑張ってます!』

「私も頑張らせていただいてます。あ、この先を行かれるのでしたら、もう私が入力したコンソールばかりですよ?」

『この先は私が入力しました』

「では、これから勝負ですね♪」

『お互い頑張りましょう』

 ニッコリほほ笑みあった二人はそのまま互いを素通りして、敵陣に進行して行った。

 戦闘は………起こらない。

 Bクラスの戦闘は戦略的であるため、ぶつかり合ったとしても立ち上がりが静かだ。接触したとしても戦いにならない可能性はまれなケースではない。ここまであからさまなのは、さすがに意外な光景ではあったが………。

 更紗は雪と別れてから最も近いコンソールを発見する。コンソールには三つの色があり、赤もしくは青なら、どっちかが占領していて、緑であればノータッチだ。今回更紗は赤。見つけたコンソールは雪の宣言通り青い光を放ち、雪の所有物である事を主張していた。

 これらのコンソールは縦長の近代的な箱になっている。箱と言うよりもコンピューターの方がイメージとしては近いだろうか? 俗な言い方をするなら、某魔法学園の劣等性主人公が参加した競技に出てくるアレだ。解らない場合はその方がいいとも言えるので気にしないでほしい。

 更紗はさっそく『解錠』を使ってコンソールを開こうと試みるが、すぐにそれが“不可能”だと解った。どうやらこの閉じられたコンソール、イマジン技術による『施錠』ではなく、個々人のアビリティ、『能力』によって鍵を掛けられているようだ。単なる技術だけで開けようと思えば、きっと相当の時間がかかってしまう事だろう。

 だが、更紗はそれに気付くと、僅かに安堵の息を吐く。自分が攻略したコンソールに鍵を掛けておく手段は自分もしていた事だ。予想はしていた。幸いにも、自分には開く方の能力も持ち合わせている。

 更紗は、一度だけ周囲を確認してから、きわめて小声で呟く。

「………()いて」

 呟きは力となり、概念に干渉。呟かれた言葉を実行するためコンソールは自ら蓋を開こうとする“現象”が発生(おき)た。

 

 ガガッ! ガッ! ギュ~~~~ン………。

 

「………?」

 しかし、開こうとした蓋は、一瞬だけ振動して見せただけで、すぐに大人しく沈黙へと戻ってしまった。

 御門更紗の能力は『言の葉』。言葉にしたもの全てを『現象』として再現する力。概念に言葉を用いる事で干渉するこの力、物理的な力の全てをひっくり返してでも実行される。しかし、目の前のコンソールは開く気配を見せない。それはつまり、自分よりも高位の能力によって封印されていると言う事になる。

 更紗は知る由もなかったが、雪の能力は『封印』。そして彼女のイマジネーションのイマジン変色体ステータスは900と言う並はずれた数値を持っている。対する更紗は300.“封印する”っと言う力と“封印を破る”っと言う力が正面からぶつかり合った結果、より能力の再現率の高い、雪の『封印』が優先されたと言う事だ。

 それに気付いた更紗は胸に手を当て、瞑想して心を込めてから、もう一度呟く。

「開け」

 今度は言葉も命令形。より強力な言霊によって行使された現象は、コンソールに無理をさせる異様な音を鳴らし、続いて、ガラスがひび割れる様な音を鳴らして沈黙した。どうやらもう一歩たらなかったらしい。

 更紗はちょっと悲しげに涙を浮かべると、もう一度開いてほしいと言う想いを込め直してから「開いてくださいっ!」と小さな声で叫び、やっと扉が開いた。これでやっと入力する事が出来る。しかし、この後もこんな事が続くのかと思うと多少の疲労感が押し寄せてもきた。何しろ彼女の能力は力加減が解らない。「なんとなく?」っと言う感覚で行使した言葉が思いがけないほど高威力で発生する場合もあれば、宝くじを当てようとして「当たれ!」と命じたのに、ポケットティッシュしかもらえないという結果だったり、ともかく強弱が解り難い。今回は三回程度で開いたが、次も早く開けるかは解らない。

 幸先の不安に、更紗は泣きそうになりながらコンソールに入力をしていくのだった。

 

 

 雪もまた、更紗のコンソールを見つけた。こちらのコンソールも更紗の能力により「開けちゃダメ」と命令を受けて頑なにコンソールを閉ざす“現象”を起こしていた。

「えいっ」

 

 バカンッ!!

 

 ………開いた。

「『封印解放』。私の能力は封印する事と解放することの二つを得意とする能力なんですよ? ごめんなさいね御門さん♪」

 能力相性の良さに幸先いいスタートを切った雪は、開いたコンソール内のパスワードを確認して、それを入力していく。

 

 ビー、ビー、ビー!

 

 エラー表示が出た。

「………あら?」

 もう一度入力。

 

 ビー、ビー、ビー!

 

 パスワードが違うとまたエラーを出された。

「………。え? な、なんでですかぁ~~~っ!?」

 涙目になって再入力を繰り返す雪。しかし発生するのはエラー表示ばかり。

 雪は知らない。解錠される可能性を考えていた更紗が、もう一つコンソールに命令している言葉があった。

 

「パスワードの順番を逆に表示してください」

 

 その命令を受けたコンソールは、表示するべきパスワードを、本来の順番とは逆方向で表示していたのだ。

 これに気付いた雪は、すぐに『封印解放』を試みたが別に“封印されている訳ではない”ので、効果が無く、純粋な知略を振り絞る事で何とかコンソールを自分の掌握下に置いた。

 雪は雪で、更紗の人知れずの反撃を受ける事となったのだった。

 

 

「はい、試合終了~~~」

 浅葱(あさだ)(れい)は、審判役の教師として宣言し、フィールドを元の白い空間へと戻す。仮想空間から戻ってきた生徒二人は、お互いへたり込んで息を切らせていた。運動量による疲労ではなく、完全無欠に頭の使いすぎによる疲れだった。

 二人は疲れ切った表情で振り返り礼に向かって問いかけた。

「どっちが勝ちましたか!?」『どっちが勝ちましたか?』

 片方は声で、片方は字を書いての質問。礼は「はいはい」と言いたげにぞんざいな態度で説明する。

「天笠雪、獲得コンソール48。御門更紗、獲得コンソール32。よってこの勝負、天笠雪の勝利! ………っは、良いが! お前ら少しは戦え~~~っっ!!」

 突然怒られてしまった二人は、反射で背筋を伸ばして正座した。そのまま長々と礼に叱られ続けてしまったのだが………。

 彼女達二人のために、誰もツッコミ役がいなかったので、ここでだけは皆に伝えておこう。

 この学園は戦う事を推奨しているが、もちろん戦いが絶対の方針ではなく、互いの意思が同じなら、戦いを避ける事もまた正しい判断なのだ。つまりこの場合、誰も怒られる必要など無いと言う事、なのだが―――。

 今こそ明かそう。何故二人が怒られてしまっているのか? その理由は!

「お前らが戦わないと、審判役してる私がつまんないだろっ!!」

「すみませんっ!?」『すみません!』

 ツッコミ役不在の状況では、浅葱礼王女の独裁政治を止める者はいないのであった………。

 

 

 06

 

 

 Aクラスに比べると白熱と言う部分に欠けるBクラスの試合内容であったが、その分異彩を放つ試合風景となった。試合後、戦闘に参加した他のクラスに比べると、元気さを残したBクラスには、割と余裕が見られ、色々な事に手を伸ばす。

 特段、試合をあっさり勝利してしまった風間幸治(かざま こうじ)などは、放課後、学園の周辺を見回ってみる事にした。

 せっかくなので、ここでギガフロートの紹介を簡単にしておこう。

 皆、忘れているかもしれないがギガフロートは常に低回転を続けており、東西南北が定まらない。そのため、方角を花木に例え直し、ギガフロート内での固定方角を決定してしまう考えが生徒の間で作られた。東は『桜』、西は『楓』、南は『(えんじゅ)』、北は『(ひいらぎ)』と言った具合だ。学園はギガフロートの中心にあるので、そこを中心に、通常の地図と同じように()を上、()を右として表わした場合で説明する。学園からやや南東、イマスクでは空木(うづき)の方角に学生寮が存在する。

 柊の方角は全てが自然で埋め尽くされており、上級生が時たま生産系能力者に必要な素材探しをしに行ったりする事もあり、訓練や授業にも使われる、とても危険な場所だ。

 槐の方角は町が存在する。ギガフロート関係者の家族など、イマジネーターではない一般人の住む住宅地や、日用品、娯楽施設など、普通の街並みが展開された平和なエリアだ。

 楓の方角は柊の方角同様に自然地帯だが、こちらは危険度の少ないエリアで、気軽に遠足などが楽しめる。海ほどに大きい浜辺なども存在するので、休暇を楽しむのには最適と言えるかもしれない。

 桜の方角には逆に研究機関が多く、イマジンについての研究施設関係が大量に密集している。教師はともかく、生徒は許可証が無ければ入る事を禁止されている程の厳重エリアだ。

 今回、風間幸治(かざま こうじ)が向かったのは学生寮近辺ととても近場だ。何しろまだ学園に来て浅い上に、街に繰り出す余裕は懐的に存在しない。三日間の試合中なので結果が出るまではバイトを探すのもままならない。そんな訳で、彼は学生寮周辺を見回っていたのだ。

 学生寮周辺では現在E、Fクラスの催し物が幾つも並んでいた。その中で最も人気を勝ち取っているのは、小さいながらにステージを用意した二人の少女だった。

「それじゃあっ! お次のナンバーは………っ! 『SMOKY THRILL』のカバーソング! 最後まで皆の事、楽しませちゃうよ~~~★」

 そう宣言して歌い始めたのは、光の加減で七色に変色するピンク色の髪を持つマイクを持ったフリフリアイドル衣装の七色異音(ナナシキ コトネ)。その斜め後ろでバイオリンで伴奏を担当している茶色の短髪に黒い瞳をした少女(かなで)ノノカ。二人はまるでアイドルとその伴奏役だと言わんばかりに堂々とした立ち居振る舞いで演奏し、色々足りない筈のステージを補って見せた。

「ふむ、これは中々………。この学園は戦いばかり目立っておったが、こう言う一面もあるのだなぁ~~。実に興味深い」

 うんうんと頷きながら感心する幸治。

「うおおお~~~~! 観に来てよかったぁ~~~! 異音ちゃぁ~~~んっ!!!!」

「そしてそれを応援する御馴染のファンの姿も………、ある意味では興味深い………」

 呆れる幸治は、視線の先でサナトリウムを三本ずつ手に慣れた動きではしゃいでいる天然パーマの少年を呆れたように見つめる。彼は名を知らないが、この男は弥高満郎(やたか みつろう)っと言う名だった。彼を筆頭に、どうやら異音のファンは一日目にして既に出来上がりつつあるようだ。中には既に上級生もいる所を見ると、こう言った娯楽は、上級生と下級生の差を感じさせない物なのかもしれない。

「っとなると、もしやE、Fクラスの人気投票と言うのは、かなり熾烈を極めるのではなかろうか?」

 E、Fクラスの芸術部門評価は、個人以外にも団体として組む事が許されている。しかし、団体の場合、獲得したポイントは人数分均等分配され、四捨五入された点数が得点となる。つまり、人数が多ければ、その分獲得しなければならない点数も増やされると言う事だ。これはもしかすると、純粋に戦うだけの自分達より、得点争いは高度で激しい物なのかもしれない。そんな中で、敢えて戦闘部門を取る生徒と言うのはどう言った実力者なのだろうか? 大きな興味を引かれる幸治だったが、E、Fクラスの試合会場は別に用意されているらしく(特別扱いではなく、ただ単に人数が少ないが故)、今のところ確認できそうにはなかった。

(まあ、いずれお目に掛れる機会もあろう。その時はじっくり観察させてもらおう)

 そう心に誓いながら、幸治は異音の歌を耳にしながらその場を後にしようとする。ふとその時舞台裏が眼に映って気付く。フリルのついたアイドル衣装を身にまとった少女がもう一人いる事に。少女は裏方を手伝う他の生徒数名に囲まれて、何やら話しあっている様子。

(なんともう一人いたのか? どれ、せっかくなのだからお手並み拝見と―――)

 

「あ、あう、あうあう………! ごめんなさい! やっぱりむり! 私こういうのテンパリ過ぎてぜんぜんダメです! ホントごめんなさいムリムリムリ!」

「ちょっと落ち着いて雪白さん!?」

「チョイ役みたいなもんだって! だから落ち着いて!」

「い、いいい、いや! もうほんとむり! 良く考えたら私Dクラスだから、ポイントなんてもらえないし! むりして出なくても良いかなぁ~~? って、思うよね! ね!?」

「せっかく異音さん達が誘ってくださったんですよ!? 此処で出なくてどうするんです!?」

「ごめんなさい………。私には無理★」

「なに達観した顔で異音さん風に言っちゃってんです!? それで許されると思ってんのかですっ!?」

「いや~~~~!! 本当にむりです~~~! クライドくん助けて~~~~!」

「安心してください静香さん。責任は全てアナタですが、ギャラは全て私ですから♪ 静香さんの望まれる通りにしていいんですよ」(ニッコリ)

「腹黒いよ! すがすがしいくらい腹黒いよ~~っ!?」

 

「………。さて、次は何処を見に行くかな?」

 幸治は何も見ていないし聞いていない事にした。

 Bクラス一日目は、こうして呆気ない感じで終わりを迎えた。




あとがき

凛「ちょっと気にナタ事があるヨ?」

美鐘「どうした?」

凛「E、Fクラスの出し物がこのアタリで紹介されてる言うコトは、もしかしてE、Fクラス編は飛ばされるのカ?」

美鐘「作者次第だろうが………、まあ、非戦闘員の話は飛ばされるんだろうな」

凛「あ、ワタシ関係無いなら問題無いネ♪」

非戦闘能力者達『おいっ!?』




雪「疑問に思ったんですけど? 凛さんや、他のE、Fクラスの皆さんの出し物? アレらの材料は何処から取り寄せてるんですか?」

楽「購買部で注文すればその日の内に届きますよ? それなりにお金掛っちゃいましたけどね………? でも、この学園、成績が良いと特別報酬とかでお小遣いが貰えるので、がんばらない訳にもいかないですよ」

雪「でも、報酬って、この学園で言うところの“奨学金”でしょ? 目標単位が取れなかったり、順位が低いともらえなかったんじゃ?」

楽「だから必死ですよこっちは………。単位を取るためにはいい品を出さなきゃいけない。でもそのためにはやっぱりどうしたってお金がいるんです。計画的に行動しないとあっという間に空っ欠です」

雪「AクラスもBクラスも、金銭の問題は変わらないものね………。ちゃんとした収入源を見つけないと大変な事になっちゃいそう………」

楽「アルバイトでしたら槐の方角に町がありますから、そちらに行くと良いみたい? 意外とギガフロートのバイトは儲かるらしいから、言ってみる価値はあると思う」

雪「ありがとう。私も今度行ってみようかな?」




カグヤ「こんちわ~~? バイトに着たカグヤですけど?」

佐々木「やあ、来たね? 俺は佐々木と言うんだ。一応教師の扱いになってる研究者だよ」

カグヤ「はあ、どうも? ………あの、もしかして俺に『ライセンスコード』取得を早めてくれたのって………?」

佐々木「ああ、一応俺だね。………ああ、勘違いしないでくれよ? 善意じゃない。ちゃんとしたビジネスだ。だから君にはしっかり働いてもらうからね?」

カグヤ「いや、俺が聞きたかったのはその理由。………もしかして、取得試験で提出した『イマジン研究部門の希望』なのかなって?」

佐々木「そうだね。イマジン体を一個の存在―――つまり完全に人間の生成実現させる事を目標とした『イマジン生物学』の研究に協力したいと思ってるんだよね? いやぁ~~、これには協力者が少なくてねぇ~~? 正直、猫どころかトカゲの尻尾だって借りたいくらいなんだよ。………いや、蛇の抜け殻の方が御利益ありそうかな?」

カグヤ「どっちにしてもいざという時切り捨てられそうな例えですね?」

佐々木「ああ、これは失礼。俺の能力はイマジン能力を全て看破する事が出来る。お詫びと言うわけじゃないが、能力関係で何か質問がアレば、いくらでも答えるよ?」

カグヤ「じゃあ、さっそく聞きたい事が―――」

佐々木「おっと、その前にまずは仕事をしてもらおう? 家は高額だが、内容は面倒だよ?」

カグヤ「はあ、解りました………」

カグヤ(意外と食えないおっさんだな………。こう言うタイプが何か裏を持ってると厄介なんだよなぁ~~………)


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一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅳ

Bクラス編書き上げっ!!
明日も朝五時半起床なのに大丈夫か私っ!?
そしてトコトン書き難いなBクラス編!

なんとかBクラス全員を登場させられたと思うのですが、ちょっと日常編が足りないかも? 不完全燃焼。
ちょっと誤字脱字が気になってはいますが、その辺はまた『ぬおー』さんに期待しましょう。

それではお楽しみください。


一学期 第五試験 【クラス内交流戦】Ⅳ

 

 

 0

 

 

 クラス内交流戦二日目、早朝。

 目が覚めたその人物は、ベットから上体を起こし、悩ましげに髪を掻きあげ、頭が覚醒するのをしばらく待つ。

 部屋の中では、まだ眠りにあるらしい同室の友人の寝息が聞こえてくる。

 頭だけ動かし、ベットで眠る友人の健やかな顔を確認すると、何故かおかしくなって小さく笑みが漏れた。

 そのままベットから降りると、真直ぐ浴室へと向かう。特に寝汗をかいている訳でもなかったが、それなりに美容には気を使っている。生まれが生まれだけに、あまり見苦しい姿にはなりたくない。朝から温めのシャワーを浴びて、さっぱりした気分になると、寝ぼけていた頭もクリアになっていく。

 風呂から上がりタオルを掴み取ると、下着だけを穿いた状態でベランダに出る。窓を全開に開くと、清々しい清涼な風が吹き込んで来る。ここ、ギガフロートは雲の上に達する高さだ。早朝の風は相当に低い気温になるはずなのだが、イマジンによる制御が整えられているのか、何処かの霊山で浴びる様な清らかな空気に、寒すぎない程度の気温だった。

 下着だけの格好でベランダに出ると、さすがに少し肌寒い。だがそれ以上の気持ちの良さを堪能しながら、濡れた髪をタオルで拭き取り、艶めかしい吐息が零れ落ちた。

「ふぅ~~~………。やはり、ギガフロートの早朝の風は最高だぜ!」

 ジーク東郷はとても晴れやかな表情で髪の毛の水滴を払った。その姿は、近くに女性がいれば、ほぼ100%が見惚れてしまいそうなほどに色気がある光景だろう。

 …………。

 …………。

 ……誰だ? 今「騙されたっ!?」的な事言った奴?

 誰だ? 今「騙されねぇよ」的な事言った奴?

 騙すつもりもなければ、引っかけのつもりもないぞ? ホントだぞ? ホントにホントだよ? 騙されるなよ? 嘘じゃないよ? 本当に嘘じゃないからね? 絶対だよ?

 ………。

 ………。

 何はともあれ、ジークは早朝の風を浴び、ベランダから眼下を見降ろしてみる。

 玄関先では寮長の早乙女(さおとめ)榛名(はるな)が、一年生の少女と楽しそうに談笑しながら掃除をしていた。この一年生の女子には見覚えがある。同じBクラスの天笠(あまがさ)(ゆき)だ。なんで彼女が寮長と一緒に掃除をしているのだろうか? 首を傾げながら耳を澄ますと、風に乗って僅かな音声が聞こえてくる。

「雪さんは朝が早いんですね?」

「ええ、御家柄こう言った事には率先して行動するように申しつけられていましたので」

「ふふっ、でもお掃除まで手伝ってくれなくても良かったんですよ? これは私の仕事なんですから」

「はい、実際寮周辺が綺麗になっているのは、早乙女先輩が毎日綺麗にしてくださっているからだと窺えました。私が出しゃばるべきではないと思いつつも、こんなに頑張っていらっしゃる寮長の姿を見ると、少しでも手助けできないものかと身体が勝手に動いてしまいました」

「あらあら? 育ちの良い方は苦労を重ねてしまいますね?」

「それがそうでもありません。何しろ“育ち”ですから、もうこの生き方が性に合っているのです」

「まあ? でしたら、その好意に甘えて、手伝ってもらっちゃいましょうか?」

「はい」

 まるで由緒正しきお嬢様学園での会話かと思える優雅な口調と仕草で上品に世間話をする二人の少女。同じく育ちの良いはずのジークも、場違い感に思わず苦笑を浮かべてしまう。

 二人が会話する位置とジークとの距離はそれなりにある。本来ならこの様な会話など聞こえる筈もない。もちろん、イマジネーターと言えど、並はずれた聴覚を持っていると言うわけではない。これはイマジネーターの『理解力』に原因がある。

 二人の会話は確かに遠くて聞きとることはできない。だが、静かな早朝で耳をすませば、微かに二人の発した声―――空気の振動を聞き取ることはできる。それが言葉として理解できないだけで音だけは聞き取れている。この聞き取った僅かな音の情報を脳内で処理し、再び言葉として変換する能力が人並み以上に優れているため、イマジネーターはこの距離での会話を“理解”する事が出来る。

 つまり実際には聞こえている訳ではないので、聞き間違いと言う可能性ももちろん出てくる。

 っとは言え、やっぱりそこはイマジネーター。その正解率はほぼ100%と考えて良い。

 ジークが彼女達の姿を見つめていると、誰かが庭の方から走ってくるのが見えた。今度はそちらへと意識を向けてみる。

「ゴール~~~♪ 僕の勝ち~~♪」

「ムゥ………、脚では敵わん」

「カナミ、負けました………」

「はあ、はあ、はあ………っ! 軽いジョギングのつもりが何故こうなったっ!?」

「いつから競争始めてんだお前ら? ってか、お前も付き合わなきゃいいだろうが?」

 玄関先の庭まで走ってきたのは、上から順に甘楽弥生、桜庭啓一、鋼城カナミ、明菜理恵、東雲カグヤの五人だったのだが、ジークは誰の顔も憶えがなかった。

「く、くそ………っ! 珍しく朝早くに目が覚めた物だからちょっと走ってみようかな? なんて変な気を起こしたばっかりに………っ!」

「全力疾走で付き合ってそれを言うのか?」

「う、うるさいな! ………って言うか、あれ? 君もっと上品な喋りの人じゃなかったっけ?」

「何それ? 」

「ああ~~………、いや、勝手にそう思ってただけ………。ほら、見た目良いとこの女の子だし?」

「では、見た目通りに振る舞えば何か得があるのかしら?」(猫かぶり)

「………!」

「え、何その満更でも無さそうな反応? お前もしかして白い花の人?」

「ちがうっ!!」

「まさか、男のくせに女の子として振舞う方にしか性的興奮を得られないと言う、あの―――!?」

「断じて違うっ!!」

 明菜理恵と東雲カグヤは、何やら楽しそうに談笑をしている。

 だが、カグヤの方は平常運転な様に見えるのに対し、理恵の方は少々戸惑いの様な物が見られる。まるで予定していた物が異なり、その違いに戸惑っている様でもある。

(そうでなくてもカグヤと理恵は相性悪そうだがな………)

 いくら特殊な人間の集まる学園とは言え、人間は人間だ。うまの合わない者も出てくるだろう。例え相手が悪人でなくても、人が人を嫌う理由はいくらでも探せると言う物だ。

 理恵がカグヤに苦手意識があるらしい様に、カグヤもまた、早朝ランニングをしていたメンバー達とは上手くいっていないらしい。未だに何か談笑する面々を軽くあしらい、寮へと戻ろうとしている。

「おはようございます」

「んお? ………ああ、おはよう」

 寮に戻ろうとしたカグヤに、箒がけをしながら雪が話しかける。軽く流そうとしたカグヤに、雪が何事かを呟き、その足を止めさせた。振り返ったカグヤは、無表情ではあったが、瞳だけを真剣な物へと変えて何事かを返している。残念ながら声のトーンを落としたらしい二人の会話はジークには聞き取る事が叶わなかった。

(喧嘩とか言い争い………じゃあ、なさそうだが? 一体何を話してるんだ?)

 気になったジークは、何とかイマジンの基礎技術で音を拾えないかと目を瞑ってあれこれと試してみる。その試みが叶い、多少二人の会話が断片的に届いて来た。

「とりあえず、和服を着てる時はマジで下着を着用しない事をお勧めしよう!」

「そ、そのような迷信が一般的なのですかっ!? ///////」

「それを知っている事で俺が楽しい!」

「アナタ個人の意見じゃないですかっ!?」

「いや、世の男子は結構喜ばれると思うぞ?」

「それは違う意味で喜んでいらっしゃいますよねっ!?」

「だが、絶対に見せる事はするなよ。俺は恥ずかしがる女子は好きだが、他人に見せるのは好きじゃない」

「そんな特殊な性癖など伺っておりませんっ!? ////////」

「だから俺は今興奮してます」

「既に私が標的に―――ッ!? いやああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~っっ!! ///////」

 真っ赤になった顔を覆って座り込んでしまう雪と、その背中を撫でながら慰める榛名。カグヤは満足げな表情でその場を立ち去って行った。

 ………どうやら真剣な話は聞き逃してしまったらしいと、目を開けて状況を確認したジークは嘆息するのであった。

「やれやれ、ネタに尽きない学園だが………、ぼうっとしているとネタを逃す事になりそうだな?」

 ぼやきながら視線をまた庭に戻すと、一人の少女がこちらに気づいたらしく、笑顔で軽く手を振ってきた。その事に驚きながらも、ジークは微笑みながら手を振り返した。部屋に引っ込むと同時に生徒手帳で、その人物が誰だったかを探してみる。

「ええっと………? Cクラスの『甘楽弥生』ね~~?」

 何故だろうか? 面識も殆ど無く、名前すら今知ったばかりの相手であったが、ジークは何やら予感めいた物を感じてならなかった。それはまるで、自分より強い敵を前に、自ら挑もうとする武者震いに似ていた。

「ちょっと注目しておくかな?」

 

 

 01

 

 

 二日目のクラス別交流戦。Bクラスはより高度な戦い方を求められていた。

 戸叶静香(トガノウシズカ)とカルラ・タケナカとの試合。直接戦闘能力を持たない二人は、タスクにのみ集中して戦う事となった。

 しかし、このタスクの内容が曲者(くせもの)で、お互い予想外の苦労を強いられる事とに………。

 タスクの内容はパズルゲームだ。フィールド上には幾つも配置された宝箱があり、その中には数通りの回答を持つパズルが存在する。パズルを回答すると、回答した答えのパターンにより、対戦相手にペナルティーを与える仕組みとなっている。このペナルティーの中には、獲得ポイントのマイナス化や、自身のポイント獲得に繋がる物まで、幅広く存在している。

 だが、今回のこのタスクが曲者な理由は、タスククリアによる強制勝利が存在しないと言う事だ。つまり、タスクをこなしていくだけでは勝利する事が出来ない。二人は、何としてでもペナルティーを利用したポイントの獲得を強要される事となるのだ。

 互いに戦略を駆使する二人に、このゲーム内容は相当頭を捻らされる激戦となる。パズルは持ち運びが可能なため、回答せずに持ち歩き、複数個手に入れてから一気にペナルティー攻撃を仕掛けるなどをして互いに攻撃し合っていた。

 例えば、こんな出来事も。

 

「な、なんなんだこれは~~~~~~~っっ!!?」

 静香(シズカ)は悲鳴を口にしながら廃村らしき場所を駆け出していた。その背後には、一言では表せない群れが追いかけている。

 犬、猫、鼠、蛇、牛と言った物は、まあこの際良いだろう。だが、大岩とか二丁拳銃のピエロとか、アイドル衣装に身を包んだ腹ボテ中年ハゲ親父が逆立ちして見たくもないスカートの中身(何も穿いてない)をさらけ出して追いかけてくると言うのは、もはやそれだけで異常とも言える。他にも何故か特ダネを見つけた風に追いかけてくるしつこいパパラッチや、地球保護のためにエコロジーを淡々と語りながら追いかけてくる褌一枚の美青年とか、もう容姿の説明をするだけで著作権を脅かす事この上ない(作者にとっての)恐怖存在までもが追いかけてくると言うのは一体何だと言うのだろうか?

 おまけに、静香は他にも受けたペナルティーにより、ビキニアーマースーツで、高下駄を履き、背中には『ソロ活動専用』と書かれた札をぶら下げた竹箒を装備し、更にはやたらと触手を絡めながら「私を手放すと、1秒毎に相手選手に1ポイント贈呈されます」と繰り返し言い続ける蛸を抱っこしている始末。ツッコミ役が三人くらいいても追いつかない顔触れである。

 戦国時代にでもありそうな廃村を駆け抜けるには、どうにも可笑(、、)しい光景でしかない。

「い、痛っ!? 角がお尻に~~~っ!? いやぁ~~~っ!! 変態の足が肩を撫でた~~~~っ!? お願いだからビキニの内側に入ろうとするのは止めてよこの軟体生物~~~~っっ!?」

 片手で一生懸命集めたパズルを解いて行きながら、彼女は悲鳴を上げて逃げ続ける。この間にも細かくポイントを奪われているのだが、彼女にはパズルを解く事以外は出来ない。

 そんな片割、廃村の広場の中心では、カルラが必死にペナルティーと戦っていた。

 

 カラカラカラカラ………ッ。

 

『赤に右手です』

「いやだ~~~~っ!? そっちには行きたくない~~~~っっ!!?」

 ツイスターゲームを強制させられているカルラが荒っぽい口調になって叫び声を上げる。

 彼女は四つん這いの格好で、必死に右腕を伸ばすが、その先にはつるつるで固い尻尾を、自分の前面に出してやたらと握らせようと腰を突き出してくる謎の黒い人型生物がいて、手を伸ばす事を躊躇わさせる。だが腰を退くと、そこにはやたらと顔だけ良い美少女が「排泄臭! 排泄臭!!」と繰り返しながら鼻をひくつかせてお尻に顔を突っ込もうとする変態がいるので、身を退く事も出来ない。かと言ってツイスターに逆らったり失敗すると、自分のポイントが相手へと献上されてしまう。ならば冷静に思考を巡らせていきたいところなのだが、彼女の背中の上でちっこい爺さんが「そもそも人間社会における社会と言うシステムは~~~」っと説教をしていて気が散らされる。無視すると手に持つ杖で御尻を叩かれる上にポイントまで持っていかれるので油断ならない。何より意識を散らされる理由は、先程から自分の事をカメラで撮りまくっている謎のオーディエンス集団にある。絶え間なく降り注ぐフラッシュに視界を妨げられるのはもちろん、自分の恥ずかしい姿を撮られると言うのは屈辱の極みだ。何しろカルラの格好は、現在フリルカチューシャにホワイトエプロン、そして黒のスカートと下着にタイツだけ、っというかなりギリギリの格好になっているのだ。これももちろんペナルティーであり、時々現れる手だけの存在が、何の脈絡もなくじゃんけんを強要してくる。これに負けたり出すのが遅れると、服を一枚剥ぎ取られてしまうのだ。ポイントは取られないが、これはこれで恐ろしいペナルティーだ。

「動きを封じるペナルティーとか卑怯だろう~~~~っ!!」

「私に『停止禁止』のペナルティーかけといて言う事がそれっ!?」

「そしてこの強制卑猥撮影会は人道に反してるぞっ!!」

「ビキニ姿で蛸に絡み付かれる私は人道にそっていると言うのか~~~っ!?」

 不毛な言い争いをしながら、二人は手持ちのパズルを組み立てて、更なるペナルティーを追加していく。お互い能力を使っているようには見えないが、カルラは『今孔明』の能力による『高速思考』を用いて最善の策を、静香も『先達の教え』の能力による『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』『コロンブスの卵』でパズルを解き、『征服王』で無限に走り続ける加護を得ている。そのおかげで『停止禁止』のペナルティーを苦にする事無く行動できた。

 二人の戦いは高度な知略の勝負と言っても過言では―――無いはずである。はずなのだが、………傍目からは全く見えないのが悲しい所かもしれなかった。

 この激戦を勝利したのは一点差でカルラだったのだが、後に二人ともこう語ったそうだ。

「「今回のルールには学園側の作為を感じる………」」

「ありません」

 二人の言葉は比良美鐘(このら みかね)教諭に一蹴され、僅かな心の平穏も与えられないのだった。

 

 

 02

 

 

 笹原(ささはら)(だん)は、先程試合を終え、溜息を吐きながら真っ白い地下の廊下を歩いていた。不自然なくらい白いアリーナの廊下は今の気分には逆撫でする様でもあった。

 彼は先程ジーク東郷と戦い、なす術無く負けてしまったのだ。

「なんなんですかアレは? ゼロ距離で撃ってもノーダメージとかおかしいんじゃないですか? おまけに剣までチートですよ? 僕の銃弾でパリィ出来ないってどういう仕組みですか?」

 ぶつぶつと文句を言いつつ、弾は負けた事に対する不平を漏らす。

 圧倒的な敗北―――っと言うわけではない。タスクは風船割りゲームで、ランダム出現する風船を規定数割る事で勝利する事が出来ると言う物で、弾にとっては有利な試合だったとも言える。それがどうしてか? 結果を見てみると、自分は0ポイント、ジークは49ポイントっと言う圧倒的差に追い詰められた挙句、「このままじゃ俺が納得できないな」などと言いだし、いきなり弾を無視して風船割に集中し出した。しかも、弾より一歩早く規定数の風船を割り、勝利を収めた。風船割に集中していれば、あるいは弾にも勝ち目はあったかもしれない。何よりジークが手を抜いたのが気に入らない。あそこまで来てポイント勝ちより、タスクコンプリートを目指すと言うのは舐めていると言うのではないだろうか? 憤る弾だが、この条件で勝たれてしまっては文句の言い様がない。それが逆に精神的な憤りを胸の内に燻らせる。

 っとは言え、いつまでも文句を言っていても始まらない。多少の気持ち悪さを引き摺りながら、彼は周囲を見回し、同クラスの対戦カードを確認していく。

 そんな中で彼の目を引いたのは、自分と同じ風船割りゲームのタスクをしているところだった。

 

 

 

 風間(かざま)幸治(こうじ)は戦慄していた。

 タスクの内容が風船割りゲームだと知った時は、自分の独壇場だと思えたが、これが案外そうでもない。彼が戦っている相手は、自分と同じくらい、このゲームに適した能力を持ち、また自分と似ている戦闘スタイルを持つ少年だった。

 木々が生い茂る森林地帯で、木々の間から垣間見える風船目がけ、幸治は腕を振るい、能力『忍術』による『鎌切鼬(かまきりいたち)の術』を発動し、真空の刃にて次々と風船を割っていく。しかし、幾つ目かの風船を割ろうとしたところで、何者かが幸治の放った真空刃よりも速く、風船を割って見せた。

 その少年こそ、彼の対戦相手遊間零時(あすま れいじ)だった。

 彼は己の刻印名『瞬身(しゅんしん)』に恥じる事のない神速を見せ、目にも止まらぬ勢いで次々と風船を破壊していく。手に持つのは購買部で購入した短刀だが、その速度と鋭さなら素手でも充分に思える。

(いや、零時殿はまだあの速度に慣れている訳ではないのだろう? 速くは動けても、動きに合わせ身体を制御する様な細かい動作は出来んと見た)

 木の枝から木の枝に飛び移る様な移動程度なら速く動きながらでもできる。しかし、動いている物を速く動きながら捕まえたりしようとすると、誤って轢いてしまったり、跳ね飛ばしてしまったり、掴んだ一部だけを引っ張ってしまい、引きちぎる結果になってしまうのだろう。それだけ零時の動きは速過ぎ、細かい動作が難しくなる。なので、素手で風船を割ろうと手を突き出しても、周囲の空気に押し出され、風船は割れずに吹き飛ばされるだけだろう。

(細かい動作が出来ないのなら、ゆすりを掛ければどうか!?)

 幸治は『忍術』『分身の術(わけみのじゅつ)』を持ち入りイマジンで創り出された己の分身を呼び出す。数は現在用いられる最大人数の二人、本体たる自分を合わせればこれで三人分の頭数が出来た事になる。

(せつ)の先を読んで、風船を奪っているようだが、拙の数が増えたらどう対応なされるっ!?)

 散開した幸治達は、それぞれクナイと『鎌切鼬の術』を用いて風船を割っていく。

 それを見た零時はすぐに対応しようと動き回るが、分身は互いから離れる様に移動し、広範囲に風船を割るよう目指す。いくら速い零時でも、その距離が開いて行けば対応できなくなっていく。

(これはさすがに………、完全勝利とはいかないか)

 零時は内心幸治を賞賛しながら、方針を変える。

 邪魔をするのは本体の幸治一人に絞り、分身二体は無視する事にした。

 正直に言えば倒してしまっても良いと考えていたが、今回は止めておいた。幸治の実力がいかな物かまだ見極めきれていない事が一つと、自分の実力あまり観察されたくないと言う事がもう一つの理由だ。第一試合でカルラに手痛い目に遭っている零時は、少し慎重になっているらしく、この試合中は『瞬閃』以外は決して見せまいと心に決めていた。

 自分を追い掛け、次々と風船を先取りしていく零時を見て、幸治は苦虫を噛み潰したような表情になる。

(こちらに攻撃してこない所を見ると、零時殿の能力は純粋な身体強化とは多少異なる様子? それに飛び道具の類も持っていないらしい。しかし、分身ではなく自分を的確に見極め追いかけてきたという事は………、これはこちらの分身が本体()の劣化版だと言う事がバレてしまっていると見るべきか………)

 幸治の『忍術』の能力、『分け身の術』は、分身体を増やせば増やす程、能力値が半減してしまう。また、カグヤやレイチェルの使うイマジン体とも違い、此処の『意思』と言う物が存在していない。彼等はあくまで幸治のコピーなのだ。

 『分け身の術』とはイマジンによりスキャンした『風間幸治』と言う存在を、再びイマジンで“再現”した物の事となる。平たく言うと『風間幸治』の“再現”をしたと言う事になる。しかし、そのスキャニングが甘いため、“劣化コピー”となったと言う事だ。

(しかし、やろうと思っただけで出来てしまえるのはイマジンの凄い所ではあるが、使えた能力を“使いこなす”となると、話が全然違ってくる物だ………)

 

 『イマジンは万能であっても、人は万能にはなれない』

 

 入学当時に学園長が言っていた事を思い出し、幸治は納得する。

 もし、自分がイマジンを完全に使いこなせていれば、もっと沢山の分身体を創り出し、零時のスピードに物量で対抗し、勝てていたはずだと………。残り時間と点数差を確認して、幸治は達観した様に目を瞑った。

 

『そこまで! 39ポイント対50ポイントで、遊間零時の勝利とするっ!』

 

 教師のアナウンスが鳴り響き、空間が変哲のない白い部屋へと変わっていく。木の枝に着地した幸治は、ゆっくり足場にしていた枝が消えていくのを確認しながら、(かぶり)を振った。

 自分はどうも極端な相手にばかりぶつかるらしいと、以前戦った戸叶静香(トガノウシズカ)の事を思い出し苦笑が漏れてしまう。

 

 ガンッ!!

 

「うぶあっ!?」

 突然の音と悲鳴。

 驚いた幸治は足場が消え、着地したところで音源を確認すると、零時が思いっきり壁にぶつかり落下してきたところが見えた。

「おっとすまない。バトルフィールドの空はほぼ上限無しに伸びているから、空中にいると屋根にぶつかったり急に壁が迫ってきたりと言う現象が起きるんだ。イマジンによって空間を広げていると言っても、元は一キロ四方の部屋だからな」

 くたびれたローブに身を包み、フードを目深に被っている男性教諭、天庵(てんあん)は、まったく悪いと思っていない様な、抑揚のない淡々とした説明を語る様な口調で告げると、治療箱を床に置いて「まあ、必要無いだろうが一応置いて行ってやる」とだけ残して去って行った。

 残された零時は、額をこすりながらも、しかし柔和な笑みを崩さず「やれやれ、これからは気を付けないとな………」っと漏らすのであった。

 壁にぶつかった零時に、何か一言言いたい気持ちもあった幸治だが、柔和な表情の彼は、どうもうさんくさくて話しかけづらい。この男の本質は、あの速度と言うより、この掴み難い雰囲気にこそあるのかもしれない。

(しかし、この者も拙に負けず劣らず災難体質でありそうだ………)

 

 

 03

 

 

 鹿倉双夜(ししくら ふたや)御門更紗(みかど さらさ)の試合は、双夜の体調不良により、更紗の直接攻撃であっと言う間に勝負が付いてしまった。

 同じく黒瀬光希(くろせ みつき)宍戸瓜生(ししど うりゅう)の試合でも、光希の体調不良が原因で瓜生が勝利を収めた。やはり、双夜と光希は一試合目の引き分けが原因で、臍下丹田(せいかたんでん)を痛めてしまったらしい。治療に当たった上級生も「一年生で此処まで負担を掛ける生徒は近年稀だ」と苦笑いを浮かべるほどだったと言う。

 天笠雪(あまがさ ゆき)折笠重(オリガサ カサネ)の試合は―――、

 

 

 ボゴンッ!! っという凄まじい音が鳴り、何もないはずの足元から大岩が出現してきた。

 慌てて『重量操作』で自身の体重を軽くして飛び退いた重は、もう幾度とも無く繰り返されたトラップに辟易していた。

「あんのデカ乳お嬢様めッ!? 一体いくつ罠仕掛けてやがるつもりだっ!? ってかこんな事で逃げ切りとかさせると思うなよ!?」

 雪の能力『封印』を使った応用トラップに対処しながら重は毒吐く。

 現在二人が行っているタスクは、スタンプラリーの様な物だ。各所にある隠されたボタンを一定数押す事で勝利できると言う物だ。『索敵再現』を使えば容易に探し出せるのだが、ボタンには敵側と自分側の二種類が存在するため、むやみやたらに押す事が出来ない。これは『検分再現』通称『投影』と呼ばれている技術を追加で使わないと解らない様になっている。しかし、重にとって誤算だったのは相手が『封印』の能力を得意とする天笠雪だったと言う事だろう。

 雪は順調にボタンを発見していき、そのスイッチが自分の物で無いと解るや否や、その

ボタンを封印して押せない様にしてしまったのだ。おまけにその辺の小石に大岩を封印し、重がその近くに来た瞬間、封印を解除して大岩を出現させてきたりなどと言うトラップまで仕掛けてきたのだ。

 重の『重量操作』は中々に使いどころのある能力だ。だが、生憎射程距離が短い。何処にいるか解らない相手を狙って攻撃するには、現状役者不足なのだ。戦闘的な能力としては重の方が圧倒的に有利でありながら、それを上回る不利なタスクを受ける事になってしまっている。

「だがっ!? 圧倒的不利を覆してこそ、戦闘の醍醐味ってもんだろうっ!?」

 重は気合い一発叫んでから目を閉じる。『索敵再現』を広範囲に発動し、雪を探そうとしてみる。しかし、彼女の索敵範囲は思いの外狭い。基礎技術でしかない『索敵再現』でも、本人のイメージ力が起因してその効果に強弱などの特徴が表れてしまう。

 例えばレイチェルの様なイマジン体使いは前以(まえも)て作っておいた複雑な術式(イマジネート)を時限式にしたり、設置型にしたりと言う応用を効かせるのが得意であり、金剛の様な自身の強化及び肉体の変質などを得意とする者は、単純な強化を再現する時、より強力な効果を与える事に長け、強化する特徴を限定する事でより特化させる事が出来たりする。

 重の場合は、狭い範囲ではあるが、効果だけは絶大なパターンだ。『再現』する範囲を狭めれば狭める程、より効果は強くなる特徴を持っている。

 そして今回、偶然にもそれが功をなした。

 重のいる場所から約数メートル先の茂みの中で、探している雪の存在を発見したのだ。

「お前! 私のすぐ近くで見張ってやがったなぁっっ!?」

 雪の派生能力『封印解放』は封印を“解く”事に優れた能力だが、封印を解くタイミングを“設定”できるわけではない。最低でも自分の目で確認できる範囲でなければ効果を(もたら)す事が出来なかったのだ。

 重は自身の重量を操作、軽くした状態で疾走し、勢いが付いたところで重量を上昇させつつ飛び蹴りを放つ。高速で飛来する弾丸の如く突っ込んだ重の蹴りが茂み事地面を吹き飛ばし、爆音と共に砂煙が立ち込める。

 砂煙を背に差していた剣の勢いで払いのけた重は雪の姿を探すが、何処にも雪の存在は確認できない。

「くそっ! どう言う事だ? 確かに此処にいたはず―――」

 言葉の途中、突然背後に何者かの気配が現れた。それはあまりにも突然で、瞬間移動でもしてきたのではないかと見紛う程に突然だった。

 重の背後に現れたのは雪だ。彼女は重の攻撃が炸裂する寸前、『直感』により危機を察し、手近な石ころに己自身(、、、)を封印したのだ。こうする事で攻撃を回避した雪は前以て計算しておいたタイミングを見計らい『封印解放』を行い舞い戻って来たのだ。重の背後に出る事まで全て計算した上で。

 そうとは知る由もない重。振り返ろうとする彼女の肩に触れ、雪は声高に告げる。

「我、天笠雪の名において命ず、今この時をもって汝を悠久なる眠りへと誘わん」

 それは詠唱だ。イマジンにおける詠唱とは、言葉を用いる事で“それっぽく見せる”行為だ。“それっぽい”と感じる、っと言う事はそのように『イメージ』させると言う事。つまり他者にイメージを押しつけ、発動されるイマジンの再現率を上昇させる行為になる。

 イマジンの強弱は互いの認識、イメージ力に起因する。詠唱とは、発動される能力を補強する、イマジンに於いて基本とも言える技術。そして、決しておろそかにできない技術だ。

 詠唱を用いた事により発動された雪の能力『封印』が、重の中から『能力』と言える概念を封じ込めた。いくら重が自身の能力を使おうとしても、能力その物が何処かへ行ってしまったかのように存在を感じられなくなってしまう。無論、『解錠再現』の類を発動しても、効果どころかそもそも受け付けていないようにさえ思える。正真正銘、無意味と跳ねのけるかのように。

「アナタの『能力』を『封印』させてもらいました。もう使う事はできません」

「だからどうしたよっ!?」

 重は臆せず剣を掲げるが、使用する武器が大剣だった事もあり、振り降ろすのに一瞬の隙が出来てしまう。その隙に詰め寄った雪が剣の柄に触れ、再び無詠唱で封印する。剣はその姿をイマジン粒子に分解され、雪がもう片方の手に握る石ころへと吸い込まれてしまう。

「これで武器も使えません」

「ならこうするしかないだろうがッ!?」

 一瞬の間も置かず殴り掛った重であったが、雪は冷静に片手で拳を逸らしつつ腕を取り、当時に脚を払いのける。それだけでその場でくるんっ、と一回転した重は地面に背中から叩き付けられてしまう。

「すみません、運動は苦手ですけど、家柄護身術くらいは習っているんです」

 冷静に告げる雪が、背後に振り返り重へと告げ―――一瞬で起き上った重に回り込まれ、背中に回られてしまう。あまりの回復の速さに驚きつつも対応しようとした雪は、その瞬間『直感』が発動し、慌ててその場から離れようとする。が、遅い。それを上回る速度で伸ばされた腕が雪の腰に回され、がっしりと捕まえる。

「きゃっ!?」

 後ろから腰に抱きつく様に捕まった雪。その行為がどんな意味を持つのか解らず、しかしイマジネーターの『直感』が凄まじい警報を鳴らす為、何とか解こうと暴れる。それでも解く事が出来ないほど万力で締め付けられ、思わず雪の口から喘ぎ声が漏れ出る。

「あ………っ! くっ、ふあぁ………っ!」

「見るからに温室育ちのお嬢様と違って、こちとらイマスクに来る前から結構やって(、、、)てね? タフさなら誰にも負けねぇんだよっ!!」

 叫んだ重はその万力だけで華奢な雪の腰をへし折ってしまいそうなほど締め付け、そのまま彼女を持ち上げ仰け反り、強制ブリッジ―――雪の頭を強制的に地面へと叩き付けた。

「んあぁ………っ!?」

「どうだ~~~~っ!? 見たか!? 重様特製『猛虎原爆固(もうこげんばくがた)め』!!」

 『猛虎原爆固め』とは、背後から捕まえた相手を後方に反り投げるスープレックスの一種である。通常よく知られているジャーマン・スープレックスでは自分の腕を相手の腰に回して投げる物なのだが『猛虎原爆固め』通称『タイガー・スープレックス』は相手の腕を背後から閂のような形『ダブル・チキンウィング』に極め、そのまま投げる技である。投げられた相手は腕を固定されているために受身が取れず、下手をすると肩の関節を外してしまう危険があると言われる初代タイガーマスクが開発したプロレス技である。つまり―――、

 重が使ったのは普通の『ジャーマン・スープレックス』です。

 恐らく掻い摘んだ知識から気分で名前だけ使っていただけで、詳細は本人も解っていない可能性が高い。

「は、はうぅ~~………」

『天笠雪、失神を確認。戦闘不能と見なし、折笠重の勝利とする』

「よっしゃぁ~~~~~~っ!!!」

 教師からのアナウンスを聞き、雪を放り投げて追加ダメージを与えながらガッツポーズをとる重。その喜びよう故に、彼女はもう一つの事実に気付く事が出来なかった。

 逃げ回っていた雪から1ポイントも取れなかった重だが、今のスープレックスで彼女のポイントが加算されていた事に………。

 

 『折笠重 獲得ポイント138ポイント』

 

 雪は投げ飛ばされた後、不幸にもリタイヤシステムに拾われ忘れ、慌てた教師が他の生徒(主にE、Fクラスの一年)を呼び、彼女を保健室に連れて行ったという。

 放課後、彼女は首を寝違えた様な痛みをずっと引きずる羽目になった。

 

 

 04

 

 

 三日目。Aクラス編で既に説明した通り、三日目ともなればどの生徒も完全にへばってしまっていた。それはBクラスの生徒もやはり例外とは言えない。

 前回、不調組と戦った御門更紗と宍戸瓜生の二人でも、突入した三日目に、身体に思いがけない疲労感を背負い、グダグダな戦闘になってしまった。Bクラス特有のタスク勝負すら、まともに成立せず、Aクラス同様、運の強い物が勝利を掴み取っている状況だ。

 カルラ・タケナカVS黒瀬光希(くろせ みつき)では、カルラより、臍下丹田の不調が続いてしまった光希の方がまだ動きが良かった。持ち前の知略を思う様に発揮できなかったカルラは、結局ポイントを光希に奪われ敗北。光希が初勝利を収めた。

 鹿倉双夜(ししくら ふたや)VS御門更紗は、双夜が勝利した。こちらも臍下丹田に不調をきたしていた双夜であったが、それを上回る程更紗の体調が悪かったため、隙を突いて一撃必殺の勝利を収めた。―――が、双夜曰く「三日目に更紗に当たっていれば、誰でも勝てたかもしれない」と言わしめるほど、更紗は不調状態だったらしい。何しろ100mくらい走った辺りで、お腹と胸を押さえ苦しそうに蹲っていたのだから、その不調ぶりは窺える。(ちなみに話を聞いた零時から「いや、そこまで苦しそうにしているならリタイヤ進めて上げた方が良かったんじゃないか?」っと、突っ込まれた)

 宍戸瓜生VS折笠重の戦いに勝利したのは瓜生だった。こちらでは瓜生が疲労を感じた時点で早々に自分の血を飲み人格を変更。重の一瞬の隙を突いて吸血、そのまま血を吸われ過ぎた重は貧血でリタイヤしてしまった。後に重は真っ赤な顔になって「よ、よくも私の首にキスマーク残してくれやがったなっ!? 全然消えないのにどうしたらいいんだよっ!? //////」っと、瓜生を叱りつけたと言う。蛇足だが、重の噛まれた痕は、吸われる時間が長すぎた所為か治りが遅く、その後もしばらく残り続け、彼女の羞恥ポイントとして黒歴史を刻む事となるとか………。

 戸叶静香(トガノウシズカ)VS笹原弾(ささはら だん)戦は何とか静香が勝利した。幸いだったのは、静香の能力で発動した『征服王』がいつまでも走り続ける事が出来るスキルだった事と、今回のタスクがフィールド破壊系だった事だ。区分された各エリアごとにスイッチが用意されていて、そのスイッチを押した一分後、そのエリアを失格エリアとして消滅させられると言うものだ。これは基本技術『脳内再現』の一種で、目で読み取った情報を脳内で立体的な地図化をするという地味だが、かなり使える技術の特訓だったりする。これを利用して上手く弾のいるエリアをぐるっと囲んだ静香は、その瞬間ゲームルール上の勝利を宣告されたと言う事だ。だが、もし弾が疲労していなければ、勝負はどうなっていたか解らない。それほどにギリギリの戦いであったらしい。

 風間幸治VS天笠雪の方では、互いにタスクも進行できず、無駄な長期戦に移行してしまい、教師の方からストップがかけられ、引き分けと言う結果になってしまった。幸治も雪も、結果に不満はあれど、何もできなかった事に落胆してしまっていた。

 遊間零時(あすま れいじ)VSジーク東郷のカードは、此処だけが少し違う結果を持ちこむ事になった。

 

 

 零時は加速した勢いを利用し、そのまま蹴りを放つ。正面からまともに受け止める事になったジークは、そのまま吹き飛ばされ崖から落ちて固い地面に叩きつけられた。岩しか存在しない完全な荒野でフィールド的に身を守ってくる場所の無い地面への激突。高さは東京タワーほどもある岩山から叩き落としたのだ。さすがのイマジネーターでも即死は間逃れないはず。そう思いながら崖下から見降ろした零時は、遥か彼方の地上で、起き上ったジークが服についた砂埃を軽く払っているのが眼に映った。

「………これでもダメなのかよ?」

 さすがに疲れた表情を見せる零時の、虚しい声が漏れ出る。

 服についた砂を払い落したジークは頭上にいる零時を見上げながら苦笑を浮かべていた。

「やれやれ………、いくらダメージを受けないと言っても、こんなに一方的に攻撃されてはな~? こちらの攻撃が届かないのでは勝ちようがないじゃないか?」

 零時は間違いなく一年生最速の速度を持ち得ている。それは、絶対的に如何なる攻撃をも速度によって回避しきる事が出来ると言う事だ。カグヤの軻遇突智の様に広範囲に攻撃できる能力か、切城(きりぎ)(ちぎり)のような物量を用いる事が出来なければ、まともに相手する事も難しいだろう。そして、機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)の様な広範囲火力重視の能力であったなら、正に彼の天敵となり得たかもしれない。

 しかし、生憎ジークの攻撃系能力は単純な斬激で、彼の速度に追いつける物ではない。相手の攻撃力の程を確かめるため、基本的に最初はわざと攻撃を受けたりするのが、ジークの悪癖なのだが、実際、彼がイマジネーターになってからその身を不死身たらしめる『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』の能力を打ち破られた事は無い。

 それは、イマジネーターなら誰もが本能として持ち得ている『直感』すら発動した事が無い程に、“危険と判断する攻撃”に迫られた事が無いほどに、最強の防御能力なのだ。本来、彼のこの能力はイマジネーションステータスの高い相手による攻撃で撃ち破られる事が多いのだが、現段階、同級生相手に脅かされた試しは無い様子だった。

 だが、今回この二人の能力は互いに取って相性最悪だとしか言いようがないだろう。

 最速の能力にて、絶対回避を誇る零時には決してジークの攻撃を受ける事は無い。

 最堅の能力にて、絶対防御を誇るジークには決して零時の攻撃では打ち破れない。

 互いにダメージを受けないのであるならば、果たしてこの二人の勝負に決着が付くのだろうか?

 粗々ありえないと判断した教師は、これ以上戦況に変化が訪れない場合、不毛な戦闘を切り上げるため、引き分けの合図をする準備をしていた。しかし、まだその合図は無い。それは、二人がまだすべての力を出し切っていないからだ。

(物理攻撃はジークには届かない………。なら、もうこいつを使うしかないか………)

 零時は眼がしらの辺りを指で触れ、両の瞳に意識を集中する。

 準備が出来たところで『瞬閃』の能力にて体内パルスを操作。肉体を強化し、加速、一瞬にてジークの正面へと肉薄。気付いたジークが視線を向けるのに合わせ、零時は彼の瞳を覗き込む。零時の瞳が赤く輝いた瞬間、彼の派生能力『瞳術』が発動する。

(『八咫烏(やたがらす)』!!)

 本来、刻印名『瞬身』を持つ遊間零時には、『瞳術』などと言う能力に派生する事は出来ない。だが、彼は自分の生い立ちと、言葉遊びによる裏技で派生能力を獲得する事に成功した。

 零時の父と母は、それぞれ両目に力を宿し、幻術の類を使用する家柄だった。

 勘違いの無い様に説明させてもらうと、この世界に於いて、イマジンは人工的な力であり、ギガフロートと言う限られた空間でしか生み出される事は無い。自然界の極少数、片手の指で数え切れる程度の限られた場所で、イマジン精製の元となったエネルギー粒子が淡く漏れ出す地も確かに存在してはいるが、これらはとても『能力』に至れるほど純度の高い物ではない。自然界から発生する粒子はあまりにも薄く、且つ、質が悪過ぎる。粒子が溢れる地で何世代も掛けて進化の過程の中に取り込み、ようやっと得意な体質を得る者が出てくる程度。しかも、変化した体質が必ずしも()になるとは限らない。寿命が短い一族になってしまったり、指が一本多いだけの一族になってしまったりと悪い方に進化(退化)してしまう事もある。例え運よく力を手にしても、物理法則の範疇であり、超人的な力を手に入れる事は不可能だった。

 零時の父は、運良くこれらの過程で両目に力を宿していたのだが、それも『能力』と言うにはおこがましく、精々千里眼のモノマネ(っと言っても普通の人より視力が良いという程度)くらいの物だった。

 同じく母も幻術使いなどと呼ばれていたが、もちろん異能の類ではなく、薬や技術を用いた催眠術の一種であり、多くの段取りを必要とし、いきなり突発的に幻を見せれた訳ではない。とても現実的な幻術であった。

 その二人の血を引く零時は、両の目に幻を見せる力を宿した。これが零時の特別。イマジンの能力とは別の『体質』を利用した能力。

 ジークのアドバンテージが家柄的にイマジンを幼い頃から会得できた環境にあると言うのなら、零時のアドバンテージがこれ『体質による先天的能力』だ。―――っと言っても、イマジネーターになる前は長い間目を合わせる事で、極瞬間的な誤認をさせる程度の物で、イマジネーターになってからも、彼の本来の能力である『瞬閃』とはイメージが違っていたため、能力としては劣化させてしまう事となった。本来なら得られない筈の『瞳術』を得るため、零時は『体質』と言う理由のほかに『瞬身』の()の部分に注目し、肉体的な能力の発動をイメージさせ、使用できるようにした。実際、『瞬閃』は体内パルスを操る事で可能にしているので、これらに矛盾は無い。劣化したことは否めないが、強力な効果を齎す事に変わりはなかった。

 零時と目を合わせたジーク。零時の赤く輝く瞳から幻のイメージを強制され、彼を幻術の檻へと閉じ込めようとする。

 刹那―――。ジークの脳内に危機感を感じる警報が鳴った。これは彼がイマジネーターとなって初めて体験する『直感』であった。危機的状況に置いて、その危機を回避するため、可能である選択肢を自身に強要する防衛本能。

 ジークは『直感』に従い全身に力を巡らせる。

 金剛の例同様、神格ステータスを持ち得ていないジークには本来神格を使う事は出来ず、無理に使おうとすれば疑似神格としてペナルティーを受ける事となる。しかし、ここで彼等の違いが現れる。

 金剛は自身の肉体を神格へと押し上げるため、人間の肉体、“霊格”に神格を流し込んだ。それに“霊格”が対応しきれなかったため疑似神格として扱う事になった。

 対するジークは、常時発動型の『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』が既に神格として存在し、彼の“霊格”を充分な器として成長させていた。故に、彼は疑似ではなく、正真正銘本物の神格を直接身体に流し込む事が出来た。

 結果、彼は一瞬だけ、零時の幻術に囚われ、何か幻を見た様な気がしたが、身体に巡った神格がこれを打ち破り瞬時に平静へと戻る。

 それに気付いた零時が驚愕に瞳を見開き、慌てて離れようとしたが遅い。零時が逃げるより早く、ジークが彼の腕を掴み取った。

 咄嗟に零時は彼の顔面に掌打を当て、眼潰しで怯ませようとしたが、その腕も剣を持った右手で弾かれてしまった。それにも零時は驚愕に目を見開いた。一瞬、この至近距離でとは言え、自分の速度に防御を間に合わせたのだ。最速を誇りに思う零時としては、これには驚愕せざろ終えない。

「悪いな? 俺の能力『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』は竜の血の加護がデフォルトで備わっていたな? 圧倒的身体能力が取得されている。条件次第ならお前の速度にだって追いつけるぜ? 例えば腕一本だけの速度とかな?」

 そう言ってジークは片手で大剣『グラム』を大上段に掲げると、(つるぎ)の装甲を展開し、神格の刃にて零時を一刀両断に振り降ろす。

(『天之狭霧神(あめのさぎり)』!!)

 一瞬、零時は残された己の切り札を発動する。

 全ての物質、万物に存在する『斥力』を『瞳術』によって発動する能力だったのだが、先程も説明した通り、零時の『瞳術』は劣化を間逃れられなかった。故に、この斥力を発生する能力も神格を宿した魔剣を跳ね返す力は引き出せず、易々と切り裂かれてしまう。大量の血を噴出した零時は、膝を付き、敗北を自覚した。

 しかし、彼はこの時になってようやく疑問に気付いた。ジーク東郷と言う男、確かに三日目にして疲労を露わにし始めてはいる様だ。だが、この違和感は何か? 何かがこの男の存在に違和感を与える。それは何か? 疑問と共に彼を見上げた零時はその答えへと辿り着く。ジークを見てではない。視界の端で彼との点差を表記する数字を見て、驚愕してしまう。

 

 ジークと言う男は、これまで三日間の戦いに於いて、一切のダメージを受ける事無く、ただ勝利のみを積み重ねてきたのだ。

(な、何者なんだこの男………?)

 その疑問の答えを得る前に、彼は力尽きて倒れる。

 ジークを勝者として認める教師のアナウンスが、零時にとっては絶望的にも聞こえた。

 

 

 05

 

 

 二年生の初期試合はクラス混合30名一グループによるバトルロイヤルであった。

 六グループに分かれた試合で、一グループ3名が残った時点で試合終了となる。一つのグループに一体誰が割り振られるのかは直前まで誰にも解らない。だが、勝者が3名となれば、バトルフィールド内で3人で一チームを作り出そうと考える者はもちろんいる。二年生の戦いは、どれだけ早くチームを組めるか、もしくはチームを組まず、数の差をどうやって補うかを考える事が重要となっていた。

 試合も佳境となった三日目の後半戦。一年生と違い三日間をフルに使われ続け、朝も昼も夜も戦い続け、そんな過酷な状況下で勝ち残ったのは残り6人二グループ。そのリーダーとなる人物二人が対峙していた。

 緑に溢れる森の地、せせらぎの様な静かな滝が流れつく池の前で、その少年二人は刃を構えていた。

 180ほどの身長に黒髪、顔は美とは言えないが独特の雰囲気がある美少年。名は美鞍(みくら)謙也(けんや)と言う『剣聖』の能力を持つ二年生最強の剣士だ。腰に差している刀は、同級生の生産能力を持つ仲間が作ってくれた『獅子王』っと言う名の剣だ。

 対するのはイマスクでも珍しくない日本人特有の黒髪黒目に中肉中背と、文字にして表わそうとするとありきたりな説明文しか出てこない様な普通の少年。違いがあると言えば、多少髪が長めで、羽織を着ているくらいだろうか。彼の名は朝宮(あさみや)龍斗(りゅうと)。腰には一本の刀『牙影(がえい)』を差し、真剣な眼差しで見据えていた。

 二人は剣を構え、互いに対して隙無く身構える。

 一触即発の空気の中、不意に吹いたそよ風が、木の葉を一つ連れ去る。風に弄ばれた葉は、そのまま重力に従いゆっくりと水面へと落ちていき―――とても静かな音で波紋を広げた。

 

 バアァァンッ!!

 

 刹那に巻き起こったのは衝撃により空間が破裂する音。空気の爆発であった。

 龍斗と謙也が同時に抜刀し、互いの刃がぶつかり合った事により、空気そのものが衝撃に耐えきれず悲鳴を上げる。二人の剣はまだ鍔迫り合いにある。互いに霊格をぶつけ合い、己が剣で敵の剣を打ち砕こうと迫るが、互いに一進一退を演じる事しかできない。ついに物理法則の方が音を上げたのか、二人は互いの衝撃によって同時に弾かれる。

「『獅子王』!」

 謙也が叫び、己の剣へと短く命じる。

 『獅子王』は生産系の能力を持つイマジネーターに作られた特殊能力を持つ剣だ。()の剣は、主の名に従い蓄えていた力を解放する事で、主の時間的速度を通常の二倍に加速させる事が出来る。

 弾かれてから立て直すまで一秒も消費せず最接近する謙也。彼の所有する唯一の能力『剣聖』の『天下一品』により剣の性能を最大限に引き上げ、『斬れ味上昇』により更に刃の力を上昇させている。剣を持たせれば最強とまで言われた驚異が龍斗の眼前へと迫る。

我は日輪の加護を受け(アクセルカウント!)光の如く疾しる(ムーヴメントレベルⅡ)!!」

 和、洋、二つの術式を混ぜ合わせた様な呪言(じゅごん)(詠唱の様な物)を用い、スキル『辰ノ肢(クイックム―ヴ)』を発動した龍斗は、寸前のところで刃を躱せるだけの速度へと加速した。こちらは謙也の物とは違い、脚を中心に移動の速度を上昇させる能力だ。

 加速状態に入った二人は互いに刃を交え合い、己の刃を届かせようとする。行く度重ねる刃も、互いの防御を打ち破るに至れない。

「やはり………! 地力の剣技は君の方が上の様だなっ!? 此処だけはいつまで経っても悔しいぞ………っ!?」

「謙也こそ! 朝宮の日神(ヒノカミ)流に正面から剣の才だけで挑めるのはお前くらいだろっ!?」

「伊達や酔狂(すいきょう)で“クラス最強”は語れない!」

「じゃあ、その看板………! 今日に限っては俺が貰うっ!!」

「一対一では譲れんなぁっ!!」

 互いに叫び剣が風圧と衝撃を生み出す。

 龍斗が二本の指を立て、派生能力『式神詠操(しきがみえいそう)』により、己の配下の二式を呼び出す。

「『霊鳥』! 『狗音(くおん)』! 頼む!」

 龍斗の指揮により現れたのは、霊力によりその身を形成した大鷲程に巨大な光の鳥と、黒いライオンと見紛う程に巨大な真っ黒な(いぬ)だった。

 霊鳥は「ピヒューーーーーーーーーッ!!」っと、澄んだ声で鳴き、頭上から謙也を狙い、狗音がその身を影へと同化し、脚に噛みつこうと襲い掛かってくる。

 すかさず謙也は生徒手帳をタップ。七本の剣が出現し、それを神速で操る『無限流』のスキルを発動する。同時に複数の剣を使う事が出来るこの能力は、八刀流が出来ると言う単純な物だが、使う剣次第で恐ろしく化ける事になる。

 呼び出された七本の剣は、それぞれが生産系の能力を持つ仲間から譲り受けた物ばかりだ。

 西洋風の両刃剣『スキルストテラジー』は斬った相手の能力を得る。

 四尺七寸八分の刀『出雲守永則(いずものかみながのり)』は柄から龍の首が現れ、担い手を援護する。

 イタリア製のロングソード『コルポ・モルターレ』は必殺剣の異名を持ち、全力で斬りつけた相手を即死させる力を持つ。

 サーベルの形状『イードロ・デューオ』は偶像神を宿し、全ての悪魔と信者に対する絶対的高位の地位を獲得する事が出来る。

 大和時代を思わす太い両刃の剣『伐折羅(ばさら)』は金剛の剣。如何なる攻撃にも折れず、担い手に金剛力を与える。

 67.9㎝の刃長を持つ『ソハヤノツルギ』は“表”による宝刀(王位)の力と“裏”のウツスナリ、神刀の力を使い分ける事が出来る

 反りの深いギリシャの彎刀(わんとう)『ソマティディオン・エクリクシス』はイマジン粒子に触れると粒子を爆発破壊する力を持っている対イマジン武装だ。

 これに自身時間加速『獅子王』が加わり、謙也の性能は格段に強化された。

 龍斗は半ば舌打ちしながら『牙影』の刃を攻撃ではなく防御目的で降り降ろす。押さえ込むのは『ソマティディオン・エクリクシス』。この剣の前ではイマジン体などひとたまりも無く、掠っただけで破壊されてしまう。『牙影』は名のある刀鍛冶が打った鋼の刀。イマジンは一切使われていないこの剣は、ただの鋼故に『ソマティディオン・エクリクシス(粒子爆破)』の効果を受け付けない。

剣化霊格武装式神展開(ブレイド・オン)!!」

 続いて呪言を唱え、その手に呼んだのは真空を司る石を持った剣精霊『メルフォース』。黒い柄と白銀の刃が風を纏い力強い風の輝きを(まぶ)やく放つ。その剣を左手に握り、空中で主の手に向かっていた『イードロ・デューオ』の偶像神の剣を阻む。この剣の効果は神格を有する力に対し、その逸話を(つまび)らかにし、それよりも高位の神としての力を疑似的に得る事が出来る。龍斗の使う式神は朝宮に古くから伝わる式神の名で(実際は“式神”として呼ばれていた使用人達の事で、現代にも『狗音』などの名を与えられて仕えている人がいる)、朝宮の信奉神、太陽龍の神に仕えた獣とされているので、偶像神の剣に、高位の神格を与えてしまう。それを避けるため主の手に収まる前にその剣を抑え込んだのだ。

薫風よ、災禍を退け給え(エアレイド)!」

 唱えられた呪言が真空剣メルフォースへと伝わり、何処か爽やかな薫りたたせる風が『出雲守永則(いずものかみながのり)』と『ソハヤノツルギ』に纏わりつき、その剣が持つ力を眠らせた。龍斗の剣型式神『メルフォース』の加護を借りて使う一時的な鎮静術だ。こう言った応用技術は、本来力を借りる物の『加護』の範囲でなければ使用できない。だが、そこは龍斗が持つ派生能力の一つ『恩恵操作』の『呪言(スペル)』により、己の力を呪言を用いて加護や恩恵をある程度操作する事が出来る。これを利用して龍斗はメルフォースには本来設定されていない力を引き出しているのだ。

 謙也は『スキルストテラジー』を『無限流』にて操り、その手に取るが、その剣をマークする様に飛び掛かってきた龍斗の『霊鳥』が邪魔をする。

 斬った相手の能力を担い手にコピーさせる『スキルストテラジー』だが、龍斗の使うイマジン体『霊鳥』は霊力の塊で出来た普通の鷲と性能は変わらない。“飛行”を能力と見なそうにも、鳥が翼で飛ぶのは当たり前のため“能力”として判断する事が出来ない。

 『コルポ・モルターレ』で一撃必殺を狙おうとするが、この剣に対して他の剣を無視してずっと『狗音』が噛みついて来ているので満足に振るう事が出来ない。『コルポ・モルターレ』が“必殺”の効果を発揮できるのは、全力で振り抜いた時だけ。つまり、大振りでなければ効果を発揮できない。

 しかし、ここまで奮闘した龍斗だが、残りの二本、破壊不可能にして金剛力を発揮する『伐折羅(ばさら)』と、担い手の時間を加速させる『獅子王』まで手が回らない。こちらはさすがにノーマークで戦うしかないと判断した龍斗は、他の剣に注意深く対処しながら『伐折羅(ばさら)』と『獅子王』は完全無視(っと言う名の回避)で対処した。

 実質、二本分の優位で戦っている謙也だが、それでも龍斗をシトメ切れてはいない。ここまで駆使しても二人の実力に大きな開きは見られないのだ。

 「()むない」そう判断した謙也は『無限流』を一時的に解除し、手の平にイマジンを集める。気付いた龍斗が阻止しようとするが間に合わない。手の平に集めた大量のイマジンを握り潰す様にイマジネートを展開。巨大な光の本流が立ち上り、まるで光の剣の様になったそれを叩き降ろす。爆発した粒子の波動が龍斗を押し退け、メルフォースの風を払い、霊鳥と狗音の身体を削り取り消滅させる。

 二年生以上のイマジネーターは、イマジンを粒子単位で操作する事が多少なりできる様になっている。謙也はイマジン粒子を水の流れの様に操作し、激流の様に素早く動かす事で粒子を振動させ、それを直接周囲に解き放った。結合粒子は振動粒子と接触すると、粒子振動の共鳴を起こし、結合部分を分解してしまう現象が発生する。この現象が能力として展開されているイマジン、イマジネートに発生した場合、能力を形成するイマジンが分解、霧散してしまうため、エネルギー不足で能力自体が消滅する結果を起こす。これがイマジン無効化能力、総称『零』と呼ばれる中の一つ『イレイザー』だ。イマジンを粒子単位で操作できる様になった事で可能となる無効化技だ。

 僅かに出来た隙を利用し、謙也は必殺剣『コルポ・モルターレ』を掴み取る。

 必殺の剣を構えられ、龍斗は焦って距離を詰める。あの剣は全力で振るわれると、例えかすり傷でも必殺の致命傷へと“決定”させられてしまう。近距離にてラッシュを掛け、大振りできなくする事が必須だ。

 ―――が、その瞬間、謙也の構えが僅かに変わった。それに素早く気付いた龍斗は急ブレーキをかけ、ギリギリ謙也の制空権の一歩手前で停止する。

 謙也は口の中で舌打ち、しかし、表情はむしろ嬉しそうに目を細める。

 『後出し先制』。謙也の持つ『剣聖』の能力の一つだ。あとからゆっくり繰り出しても、その攻撃を必ず先に当てる言葉通りの技。発動条件はカウンターである事と、帯刀している事、そして標的が自身の間合いに入っている事だ。龍斗はそれに気づいて制空権の手前でブレーキをかけたと言う事だ。

「一年生の頃は、何度も上手く行った切り札だったんだがな?」

「二年生に上がればお互い手の内を知り尽くしてるようなもんでしょ? 『直感加速』で五回殺されるって感じた時にはヒヤッとした………」

 龍斗の能力『朝宮の防人』には、デフォルトで『防人の加護』が存在し、自身の基礎能力を成長と共に強化していく特性を持っている。そのため、彼は直感が他のイマジネーターより冴えているのだが………、そんな彼でも『後出し先制』をカウンターで返す様な芸当はできず、間合いの外で立ち止まる事しかできなかった。そして、それが致命的な隙を作ってしまったと言う事も龍斗は既に『直感』している。

 謙也の背後に一人の少女が現れた。桃色がかった白い髪に青い瞳。胸元や背中が大きく開いた扇情的な袖の長い黒と白の服に、ニードルの様なブレード状の不思議な物体を連れている。ニードルは、某国民的ロボット漫画に出てくる“牙”の英文の名を持つ物体に似ていて、全部で24本、彼女の周囲を囲う様に浮いていた。

 一年(ひととせ)謳和(うたわ)。無表情で自身の魅力に無頓着、おまけに羞恥心と言う物を学び損ねたらしく、自身の肌を晒す事に抵抗が無い。おかげで目のやり場に困る龍斗に対し、同じく女性の魅力に無頓着な謙也は抵抗無く受け入れるので、二人は自然と仲良くなった。意外なのはその能力。突き刺しかビームかでも撃ち出しそうなあの物体は、ブレード版と言うアンテナなのだと言う。あのアンテナは集中力に比例し数を増やしていき、あらゆる情報を取り込む事が出来る様になる。範囲内に入ってしまえば、人の思考すら脳信号から読み取られてしまう。おまけにアンテナは普通にブレードとしても使えるので実に厄介なこと極まりない。

 しかし、通常30以上がデフォルトだったはずのブレードは6本ほど数が足りていない様子。やはり、此処に来るまでに数の消費から逃れられなかったようだ。もし、最大展開数300本を展開されていたら瞬殺だったと身震いしてしまう。今は無表情の中にも小さな汗の粒や顔色が青くなっているなどの隠しきれない疲労も見て取れる。明らかに戦力外に陥っている。

 それでも、龍斗は彼女を謙也と合流させてしまった事を痛恨事と感じる。

「謌和、大丈夫か………?」

「うん、直接協力はできそうにないけど………」

 そう答えた謌和は、謙也の隣に出て、彼に向き直る。

「だから………、使って? 私を………」

 ただでさえ開いている胸元を、両手で開く様にして見せた謌和。薄い胸を反らし、きめの細かい白い肌を露わに、顎を逸らして謙也を見上げる様にして目を合わせる。

「ああ………、龍斗が相手だ。使わせてもらうよ。お前を………」

 それに応えた謙也は、彼女の腰に手を添え、背中を逸らすと、キスでもする様に彼女の瞳を覗き込みながら―――開いている右手を彼女の胸元へと差し込んだ。一瞬、謙也の手が彼女のやわ肌に触れた瞬間、イマジンによる展開陣(平たく言って魔法陣のイメージ)が開き、彼の腕を更に奥へと導く。謌和の霊格その物へと導く様に………。

「あ………っ!?」

 身体の内側に異物が侵入してくる感覚に喘ぎ声を漏らす謌和。その手が自分の霊格に触れた瞬間、彼女の表情が妖艶に歪む。“それ”をしっかりと握りしめた謙也は一気に抜き放つ。霊格を引き抜かれる感触に堪え切れなくなった謌和の絶頂が木霊する。

「ふああああぁぁぁ~~~~………っっっ!!!!」

 がっくりと項垂れる謌和を片手に抱き、謙也は引き出した()を高々と掲げ、呪言を説く。

「“誓いを此処に! 俺は君の敵足り得る全てを斬り払うと!!” “比翼(ひよく)”、“『祝福の謳歌』”」

 『比翼』それは二人以上のイマジネーターが、共通のイメージを重ね合わせる事でスキルスロットの制限を超えて獲得する事が出来るアナザースキル。共有されたイメージが互いの間で同一のイメージであった場合、そのイメージは複数のイメージではなく、一人分のイメージとして認識できない事も無い。赤一色の絵の中に赤色の絵の具をたらしたところで違和感がない様に、共通したイメージは単色と変わりがない。だが、実際にはそのイメージは二人分で構成された物だ。そのため通常一人のイマジネーターが構成する能力を、二人分の出力で補う事が出来る様になる。その結果生み出された能力(イマジネート)は、通常の能力より強固であり、その存在は既に存在している物質などよりも膨大な“存在感”を保持している。

 この力が開発されたのは一つの偶然。2024年の生徒達によるクーデター事件。これを阻止しようとした一部生徒が、偶然にも創り出す事に成功し、事件解決へと高く貢献した。逆に言えば『比翼』誕生には、あのクーデター事件が必要不可欠だったとも言われ、何とも皮肉が掛っている。

 そしてもちろん、この『比翼』は簡単に作り出せる物ではない。最低でも一年以上の付き合いを持つ者同士が、強い信頼と理解をしている上で、自分の霊格(神格などを有する器、存在の核。魂と言う理解が最も無難)に触れさせても良いと許せるだけの覚悟があって初めて()()()()()()()()。成功するかどうかは、実際にやってみなければ解らない。

 謙也と謳和が互いの絆(比翼)で創り出した剣は、謙也の身長ほどもある片刃の大剣。全体が透き通った透明色の剣は、その巨体に見合わず、まったく重量を感じさせず、肩手一本で軽々構えられている。

「やっべぇ………っ!」

 焦って一歩後ずさる龍斗。

 謙也は、霊格から直接イマジンを引き抜かれて、ぐったりしている謳和を木に寄りかかる様に座らせると、―――無造作に剣を一閃した。

 衝撃波………などとはとても比べる事は出来ない剣激の暴風。刃が鋭すぎるが故に、空間そのものが悲鳴を上げたと言わんばかりに荒れ狂った大気の刃は、たったそれだけで木々を薙ぎ払い、触れてもいない大地を捲れ上がらせ、近くの川を一瞬で干上がらせてしまう。

 その暴風の標的となった龍斗は後ろに一歩飛んで避けるが、それ以上の距離を稼ぐより早く、衝撃波が彼を襲う。

「我が主っ!!」

 声が木霊し、龍斗の持つ真空の剣メルフォースが淡い薄緑色に輝き、その姿を一人の少女の姿へと変えた。ロングの銀髪に赤い瞳を持つ、動き易さを重視されたスリットの多い巫女装束に身を包む女性の姿。龍斗を守護する契約を誓った、ギガフロート出身の精霊イマジン体。それが彼の剣の正体だ。

 彼女は真の姿を表わす事でより強力な風を操る権威を持っている。また、龍斗は風の属性との相性が良いため、風の能力には余程の自信を持っていた。しかし、今回相手するのは“比翼”で作られた剣風(けんぷう)。暴力的な剣激で無理矢理作らされた衝撃波。能力ではなく物理現象であるため、風を制する勝負と言うわけにはいかず、強力な風をぶつけて相殺するしか方法が無い。だが、メルフォースの実力はあくまで『精霊王』クラス。『神格』には遠く及ばず、ましてや“比翼”の衝撃波を抑えきることなど不可能だった。

「私が時間を稼ぎます! 何とか―――っ!!?」

 言葉は衝撃波で掻き消された。

 メルフォースが前面に展開した真空の壁で何とか抑え込んでいるが、それも僅かな時間を稼ぐだけで精一杯だ。それでも自分の僕が作ってくれた僅かな間隙。龍斗は完全に背を向けて全力で走った。僅かでも衝撃を受ければ即死を間逃れない“比翼”の衝撃。それが()()()()()()と言え、食らってしまえば終わりなのだから。

「逃がさん………っ!」

 瞬間、謙也は今度こそ攻撃の剣撃を放った。

 烈風。

 縦一文字に切り裂かれた風の()が、刃となって真直ぐ龍斗へと飛来する。

 その刃は一秒でメルフォースを真空の盾ごと切り裂き、龍斗の背後に迫り、二秒で彼が放った『イレイザー』を打ち消し、三秒目に彼の元へとたどり着く。

「………っ!!」

「お待たせ~~~っ♪」

 刹那、龍斗の耳元に聞こえた声は、命の灯が消えようとする危機感とは、まったく場違いな程楽しげな、………人の悪そうな声だった。

「『執筆作業(ブックオブメイカー)』!」

 龍斗の前に躍り出た一人の少女。大きく黒いとんがり帽子を被り、黒いマントを纏った魔女の様な出で立ちで、左手と、彼女の前面に幾つも展開される分厚い本の数々を従えて、彼女は“比翼”の一撃から彼を守る。展開される本の数は38冊。ひとりでに中を開き、バラバラと凄い勢いでページがめくられていく。それにより展開された魔法陣が何重にも折り重なり、暴風に砕かれながらも二人の身を守っている。

 ピンクの長髪に含みのありそうなブラックスマイルがチャームポイントのブレザー少女。彼女は連葉(つれは)美希(みき)。龍斗コミュニティーと呼ばれる仲間の一人で、己が創作したオリジナルの魔法を一冊の本にして創造できる、“魔法創造能力者(マジックメイカー)”の異名を持つ、本当に魔女みたいだと時たま言われるハラグロ少女だった。

 烈風の勢いが完全に相殺された時、それは最後の障壁を砕かれ、障壁を展開していた本が燃え落ちた時だった。

 危機足り得る物が消え去り、静寂が戻ると同時、彼女は力尽きた様に背中から倒れそうになる。

「美希さんっ!?」

 寸前のところで抱きとめた龍斗。覗き込んだ彼女の表情には、薄い汗と疲労の色が濃く映し出されていた。此処に辿り着くまでに相当の修羅場を潜り抜けて来たらしく、既に戦闘続行は見込めそうになかった。

 いや、そもそも彼女が一度に展開できる本の数は瞬間的なら50冊展開可能だ。それが比翼を相手に使った障壁が38冊………既に疲労を押して来てくれたのは明白だ。

「しっかり! こんなになるまで戦ってくれたなんて………っ!」

「………うふっ」

 不意に、彼女の唇が微笑む様に吐息を漏らした。

「美希さん? 大丈夫―――?」

「こうして男の子のピンチに身を呈して助けるなんて、まるで主人公を助けに来たヒロインみたいじゃないかしら~? そう思うと何だか~~………、うふふっ、湧くわ~~♪」

「こんな時まで小説のネタ探さんで下さいっ!?」

 美希は小説家志望のEクラス生徒なのだ。

 龍斗の反応に気を良くした美希はクスクスと笑い、自分の胸に手を当てる。

「使って、龍斗くん? 私の事を………」

 言われて一瞬赤くなった龍斗だが、こんな事は一年生後半で結構経験させられてきた。すぐに切り替え、彼女の方を抱いて自分に引き寄せる。

「わかった………。使わせてもらうよ。“美希さん”を」

 目を瞑り、僅かに顎を上げる美希。それに合わせ、ゆっくり近づきながら同じく目を瞑った龍斗は―――そのまま唇を重ね合わせる。

 瞬間、二人の間で霊格が交差し、イマジンが二重幻想の顕現を引き起こす。美希の胸に展開陣が出現し、龍斗の手が彼女の奥へと侵入する。

「はあぁ………っ♡」

 彼女の中、奥深くへと侵入した腕は、その最奥である霊格に触れ、顕現した二重幻想を引っ張り出す。

「はああああぁぁぁぁ~~~~~んっ♡♡♡」

「“誓いは此処にっ! 我は彼女の敵となる全てを討ち滅ぼすっ!!” “比翼”、“『颶風彩る杖(メーカー・オブ・エアレイド)』!!”」

 龍斗の手に、薄緑色の透明な杖が引き抜かれる。自分の身長より長い杖の先が音叉の様に長細い輪っかを持つ杖は常に風を纏い、主の命を今か今かと待ち望んでいた。

「まずいっ!?」

 龍斗の比翼を見て焦った謙也が一歩後ずさる。

 比翼を構えた龍斗は、杖の効果であるあらゆる風の具現を駆使して風を繰る。

颯、射貫け(エア・スパイク)!!」

 振るわれた杖から放たれた矢の様な(かぜ)が、まるで騎馬の突撃槍の如く謙也へと迫る。速く貫通性を持ち、しかも誘導性(ホーミング)まで持ち合わせていると知っている謙也は、己の比翼で相殺するか一瞬だけ悩んでしまう。

「謙也ッ!」

 その時頭上から声が掛けられ、同時に降りてきた黒髪短髪の少女が彼の側へと降り立つ。背中が完全に剥き出しの露出度が過度に多い、まるでクノイチ風を思わせる衣装に身を纏う彼女は、形代(かたしろ)繰々莉(くくり)。謙也のもう一人の仲間。そして―――、

「私を使ってっ!」

「ああ、使わせてもらうっ!」

 迫る(はやて)()かされ、二人は短いやり取りだけで次のアクションに移る。

 繰々莉の腰を右手で支えながら彼女の背を反らさせ、謌和の時同様、至近から彼女の目を覗き込み、左手で彼女の胸に手を当てる。同時に展開された展開陣に手を沈め、彼女の霊格へと直接触れる。

「はぁ………っ!?」

 そしてき抜く。新たな“比翼”の剣を―――!

「あああああぁぁぁぁ~~~~っっ!!」

「“誓いを此処に! 俺は君の敵足り得る全てを斬り払うと!!” “比翼(ひよく)”、“『人形の心(イノセントエッジ)』”」

 二本の剣を左右に構え、謙也は迫りくる颯を迎え撃つ。

 交差した刃に激突した風は、物体である刃をすり抜け、謙也の懐を貫こうとする。だが、謙也の持つ比翼『人形の心(イノセントエッジ)』がそれを阻む。彼の剣の特性は、対象とする物を、自分を無視して素通りする事を許さない。例えそれが風であろうと、接触した時点で、この剣を無視して貫通する事が出来ないのだ。だが、この特性は利点よりも欠点の方が大きい。受け止めた攻撃は、その特性上、受け流す事が出来ず正面からまともに受け止めなければならない。

「うおお、おおおおおおおぉぉぉぉぉ………っっ!!!」

 だが、謙也にとっては望むところ。正面からの打ち合いなどで負けるようでは、最強の名は名乗れない。

「はあぁぁぁっ!!」

 気合い一発、左右の剣を交差する様に切り開き、颯の一撃を断ち切った。

 荒い息で肩を上下させながら、彼は眼前の敵を睨み据える。

(さすがは龍斗の比翼だ………っ! “比翼の龍斗”と呼ばれる二年生では『最強の比翼使い』だけの事はある………!)

 龍斗は刻印名を持っていない。だが、多くの仲間と“比翼”の絆での結ばれ、二年生中では、比翼の使い手として最強だと謳われていた。

 だが、比翼最強の使い手も、二年生最強ではない。最強の名に執着しているつもりはないが、それでもその名に座しているからには容易く譲る気はない。

「まだ、負けを頂く気はないっ!!」

 飛び出し、剣を振るう謙也。

 同じく凬を纏って迎え撃つ龍斗。

 互いの攻撃がぶつかり合い、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。

「きゃあっ!」

 その衝撃波に最も近かった美希が、受け身を取る事が出来ず倒れ込む。

 一瞬気を取られた龍斗の隙を突いて、謙也の右の比翼『祝福の謳歌』が襲い掛かる。

 颶風を繰り、受け流した龍斗だが、その凬を左の剣『人形の心(イノセントエッジ)』が絡め取ってしまう。凬を奪われ無防備になった懐目がけ、謙也の右の剣が再び襲う。杖で受け止め、受け流し、ついでに跳ね上げた膝が謙也の腹に叩き込まれる。

 イマジンによる緩和。

 杖を放して両手で顔面を連続五回も殴られた。

「うぐ、ぐ………っ!?」

 隙が出来たところで杖を掴み取りつつ、後ろ回し蹴りが飛んでくる。右腕で何とか受け止めたところで杖の先が腹に打ち込まれる。

巌を押し退ける突風(エア・スマッシュ)!!」

 ダンプカーの一撃かと言う程の衝撃を直接腹部に食らった謙也は、そのまま吹き飛ばされて宙を舞う。

(ぐぐ………ッ!? さすが龍斗………ッ! “比翼”の扱いには一日の長があるか………っ!? だが―――!)

(おかしい? いくら得意とする比翼の戦いとは言え、謙也の手応えが無さ過ぎる? もしかして何かを狙って―――!?)

 謙也が溜めこんでいたイマジンを右の剣に集中し、構える。

 それに気付いた龍斗は焦りの表情を露わにした。

 『一刀両断』。今、謙也が使おうとしている必殺の技の名。

 概念干渉系による、回避、防御を一切受け付けない、放たれれば最後、文字通り一刀両断にされてしまう“必殺”の一撃。

(『クイック・ム―ヴ』で………っ!? ダメだ! 距離が遠すぎる! 『()』で相殺できるかっ!?)

 龍斗は己の奥の手を使う構えを見せる。放たれれば確実に殺す技ではあるが、龍斗の持つ、ある能力だけは例外に値する。あらゆる物に例外的な殲滅の属性を与える力、形式上『闇』と呼ぶ異能。胸の奥から燻ってくるその気配を手繰り寄せ、比翼の杖に込める。

「“殲滅の黒き刃”………!」

 『合言葉(キーコマンド)』を口にし、杖に真っ黒な闇を纏わせ、刃の形状に変えていく。

「させませんっ!!」

 途端、それを読み取った繰々莉が、動けない美希に向けて手に持っていた小太刀を投げつける。

 彼女の能力は『暗殺人形(アサシン)』。その真骨頂とも言える暗殺能力の殆どは、度重なる戦闘で殆ど失われているようだったが、最後の力を振り絞って投げられた刃には、イマジン調合の能力を持つ者に作らせた毒物が塗られている。その毒物が何かは解らないが、それでも龍斗は美希を庇うために『クイック・ム―ヴ』で移動するしかない。

 『闇』を纏った比翼は、攻撃力があり過ぎて、下手に砲撃を放つと、美希が巻き込まれてしまう可能性があったからだ。

 美希の前に躍り出て、飛刀(ひとう)を叩き落とした龍斗は、そのタイムラグを承知で殲滅の加護を施された比翼を振り被ったが………、やはり、飛刀された時点で『直感』が教えていた通り、もう間に合いそうになかった。

 十二分にイマジンを比翼に溜め込んだ謙也は、その一振りで龍斗を美希ごと両断出来てしまえる。その準備が出来てしまった。

「美希さん!」

「………っ!?」

 せめて美希だけでも庇って見せようと、殲滅の加護を防御に展開しながら龍斗は彼女に覆いかぶさる。

 刹那に放たれる一撃。

 『一刀両断』は斬激を飛ばす物ではなく、その効果を直接強制させる物だ。故にこの攻撃に“射線上”などと言う概念は無く、直接龍斗の元へと叩きつけられる。彼が纏った『(殲滅の加護)』は、そんな概念系の攻撃でさえ対象として受け止める。しかし、“殲滅”は攻撃として放たれて始めて力を発揮する物だ。純粋な物理法則に従うなら、殲滅の加護は謙也の『一刀両断』を受け止めるだけの力があっただろう。しかし、これが概念干渉系の攻撃として放たれている以上、そこにはイマジンとしてのイメージ力が関係してしまう。

 結果的に、謙也の一撃は殲滅の加護に力を削られながらも、その攻撃を打ち破った。

 ―――が、それは彼の悪運へと繋がる。

 

「“代われ”、輪差(りんさ)

 

 凛ッ! っとした音が鳴り響き、何者かが龍斗の前に現れる。手の平に展開された展開陣を翳し、イマジネートを発動。

 謙也の『一刀両断』は、展開された力に触れると、その展開陣を縦一文時に割断(かつだん)する。そして、それで役目を終えたと言わんばかりに効果を終了させた。

「龍斗くん………、無事だった?」

 理性的で静かな声が背に掛けられ、龍斗は倒れ込んだまま肩越しに振り返り、その存在を確認した。

茉衣(まい)!」

 麻乃(あさの)茉衣(まい)。銀の様に光沢を持つ長い灰色の髪をした、白と青のセーター服少女。頭にカチューシャを付けていて、手には大きな薙刀を握っていた。全身のプロポーションは、服の上からでも均等が取れている事をはっきりと解らせてくれる。

 龍斗のもう一人の仲間であり『輪間転差(りんかんてんさ)』と言われる“転換”の能力を持つ、Dクラスの生徒だ。

 彼女の使う“転換”は、概念や(ことわり)、次元や可能性、その他もろもろの“事実”を“別の事実”へと置き換える能力なのだが………、大変理論が難しく、長くなりそうなので説明は別の機会へとさせていただく。とりあえず、今回は茉衣がその能力で、謙也が対象とした存在を、別の対象へと移し換えたと理解していただければOKだ。

「助かったよ茉衣。さすがにアレを撃たれて生き残ったのは今回が初めてだけど………」

「二年生になったんだから、『必殺回避』の再現くらいできないと危ないと思う?」

「どうもああ言う小難しいのは苦手で………。ホント、茉衣達には感謝してる」

「龍斗くんにそう言ってもらえるのは、嬉しい………かな? あ、でも、その“いつもの”はそろそろどうにかした方がいいと思う」

「“いつもの”………?」

 言われた意味が理解できず、とりあえず視線を戻した龍斗は―――美希を押し倒している事にやっと気付いた。

 胸に手が………、などと言う事は無いが、それでも無防備な女の子を押し倒している事には違いない。美希はきょとんとした表情をしているが、その頬が僅かに赤くなっていて、多少なり羞恥を感じているのは明らかだ。

 状況に緊張した龍斗が呻き声を漏らして赤面する中、美希は龍斗の顔を至近距離から見上げつつ、上目使いに尋ねた。

「私、襲われちゃうの?」

「―――しませんっ!!?」

「うん、いつもよりは大人しいよね? スカートの中に頭から突っ込んだりしたのに比べれば………」

「アレも事故だからっ!? 俺が故意でやってる事なんて一つもないからっ!?」

「なるほど~、何度同じ場面になろうと男の子は同じ言い訳で乗り切ろうとするのね? (メモメモ」

「メモらんでくださいっ!?」

 さっさと美希から離れ、彼女を助け起こしながら抗議する龍斗に、茉衣は二、三歩近寄って彼を見上げる。

「龍斗くんが強いのは知ってる。けど、相手は一年生の頃最強の名を手に入れた人。たぶん、二年生になったばかりの今でも、それは同じ………」

「ああ、そうだろうけど………」

「だから、使ってほしい。私の事も………」

 そう言って龍斗の眼を見る茉衣。

 龍斗は一瞬、何事かを思い出し激しい葛藤に見舞われるのだが、結局頷いて彼女の肩を抱くのだった。

「こりゃあ、あとで(ひじり)に大目玉だ………」

「龍斗くんはそう言う人だから」

「今の発言は何かおかしい様な気がするんですけど?」

「誰も否定しないと思うわよ~~~♡」

 美希にまで突っ込まれ、龍斗は溜息一つして切り替える。

 互いに視線を合わせ、瞼を閉じながら近づき、唇を重ねる。

 絆を証明した事で茉衣の胸元に展開陣が出現、龍斗はその展開陣に向けて左腕を伸ばす。

「ふあ………っ!」

 展開陣の奥、彼女の霊格へと触れた龍斗は、その柄を握り締めて、一気に引き抜く。

「はああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

「“誓いは此処にっ! 我は彼女の敵となる全てを討ち滅ぼすっ!!” “比翼”、“『流転の槍』!!”」

 龍斗は右手に杖を、左手に槍を携える。

 地に着地した謙也は、龍斗が持つ二つの比翼に舌打ちするが、すぐさま地を蹴って二振りの剣を振るい抜く。

 同じく地を蹴った龍斗が杖と槍を突き出す。

 謙也が二刀を交差させて斬り込むが、龍斗の『流転の槍』の一突きに弾き返され、凬を纏った『颶風司る杖』が懐を薙ぐ。そのタイミングに合わせ移動技『縮地(しゅくち)』が発動し、一瞬で龍斗の背後を取る。繰り出された『祝福の謳歌』の一撃が龍斗の背に迫るが、龍斗は身体を捻り攻撃を回避しながら同時に振り向き様に背後に向けて一撃を放つ、ターンステップを『クイック・ム―ヴ』で繰り出し、これに対抗した。

 互いに打ち合わされた槍と剣、ぶつかった衝撃で互いに僅かに距離が開くが、比翼を持つ二年生にとって、その距離は未だに互いの間合いだ。

颶風よ翔けよ(エアレイド)!!」

「斬り伏せろっ!!」

 地に着いた脚で、無理矢理衝撃を殺した二人は、その足で互いに向けて飛び出す。一瞬の交差で風の刃と鋼の刃が交差する。龍斗は頬に、謙也は右肩に僅かな血の軌跡を刻む。どちらも傷は浅い。

 龍斗が地面を蹴って跳ねる様にして体を振るい、勢いを殺さぬまま振り返り『颶風彩る杖』を振るう。

千磐破霾(ヴァーティカルエアレイド)ッ!!!」

 繰り出された千の風刃が謙也を襲う。

 謙也は『マリオネットの心』で受け止めようとして、慌ててそれを止める。今龍斗の撃った風刃の群れは、千枚の巌を打ち破ると言う意味を含ませたイマジネートで、防御系の能力を蓄積ダメージで粉砕する事が出来る。もし、『マリオネットの心』で受け止めようものなら、いくら比翼とは言え、打ち砕かれてしまう可能性が高い。

「チィッ! 力押しで行くしかないかっ!!」

 剣の効果を物理攻撃のみに限定し、謙也は二刀の剣で無数の風刃を叩き落としに掛る。幾多幾多と迫りくる貫通性の高い風刃を純粋な剣技だけで叩き落としながら、後退を余儀なくされていく。

 最後の一撃、特大の風刃を受け止めた時には、風の衝撃で全身へとダメージが流れ込んだ。風の刃は物理的な飛び道具と違い、剣でパリィしても完全には消し去れない。それが比翼の一撃ともなると笑い話に出来ない威力となる。

 正直、二年生になると言う意識から、意地で覚えた高難度技術『対傷護凱(たいしょうごがい)』(ダメージそのままで外傷、つまり肉体的破損だけを否定するイマジン技術)を覚えていなければ、真空刃を受け止めた際の衝撃で、身体中裂傷だらけになっていたかもしれない。悪くすれば腕の一本くらいは無くなっていただろう。

「ふぅ………、最強の座についてからと言う物、度々こんな窮地には立たされがちだが………、やはりこの座を降りない為に、使わないわけにはいかないのだな?」

 そう言った謙也に対し、約50m先で杖と槍を携える龍斗が表情を強張らせる。

「できれば使われる前に倒したかったかな? 俺はまだ≪ギガエグゼ≫まで使えないから」

「俺だってまだ未完成だ。………だが、イマジネーターとして、使える手を使わずに負けるような真似だけはしたくないのでな」

 挑発的に告げた謙也が、二刀を天高く掲げ、切っ先を交差する様に構える。

「………ッ!」

 対応して龍斗も杖と槍を構え直し、自身を強化するイマジンに意識を集中する。

 そして二人は叫ぶ。

 イマジネーターとして、一人前とされる力の解放を―――!

 

「「≪イクシード≫!!!」」

 

 

 試合終了後、教室に戻り結果発表を確認に行く途中の廊下―――。謙也はとある人物に話しかけられる。

「よぉ、Cブロック通過おめでとうさん♪ お前さん、ついに龍斗と正面対決でも勝ったんだってぇ? こりゃあ、二年生最強の座は盤石だねぇ~~♪」

 茶化す様に賞賛してきたのはDブロック通過メンバーの一人で、神涯寺(じんがいじ)(かつ)と言うバンダナがトレードマークになっている少年だ。それ以外は黒髪黒目と言う使い古された説明くらいしかできない。

 柘榴染柱間学園(ざくろぞめはしらまがくえん)の男子制服に着替えた彼は、『ギャンブラー』の刻印名を持つ、Fクラスの生徒である。Fクラス内ではその能力故に“最強”と“最弱”を行ったり来たりするピーキーな能力者として有名だ。

 壁に背を預け、待っていたらしい勝に対し、謙也は肩を竦めた。

「………勝か? 皮肉はよしてくれ」

「皮肉なもんかよ? いくら龍斗が皆瀬(みなせ)の“比翼”を使えなかったとは言え、比翼使いとしては最高クラスだったあいつに、比翼を使わせた上で勝つ。………これ以上に賞賛できるネタでもあんの? ってか、お前らは女子と比翼できるだけでも己の境遇に感謝すべきだと思うんですけど?」

「? 二人に対して感謝の念ならあるさ。言われるまでもなくな?」

「マジ顔で言ってるからムカツクよ………」

「それに、今回の勝利だってとても褒められた物じゃない。確かに俺の≪ギガエグゼ≫は龍斗にトドメを刺したが、変わりに“比翼”は二本とも砕かれてしまった。これで俺は次の試合では“比翼”は使えなくなった」

 比翼はイマジネーターの霊格、魂の一部を絆で編み上げた物だ。それを砕かれると言う事は、絆を砕かれたのと同義であり、精神的ダメージを互いが負う事になる。そのダメージは絶望にも似ているらしく、比翼を与えている側は、気を失ってしまう程だと言う。

 そして今回の試合では、謙也にトドメを刺され破れた龍斗と、比翼を砕かれ戦闘続行不可能にされた謌和(うたわ)繰々莉(くくり)の三名が失格となり、残った美希と茉衣、謙也が駒を進める事となったのだ。

「まあ、今のところ≪ギガエグゼ≫まで使えるのは俺だけだからな、負ける心配はないだろうが、ここじゃあ油断は敗因ではなく敗北直結だからな。()()()()()

 そう言って薄く笑む謙也に「らしいなぁ~~!」っと笑い飛ばす勝。

 彼は壁から背を放すと、謙也とすれ違いざまにその目をチシャ猫のように細めた。

「だったら俺との戦いも楽しみにしてろ? 俺はここぞという時にギャンブルで負けたことはねぇ」

 そう挑発してきた事に楽しそうに笑むだけで答えた謙也は、これだけの強敵達に狙われる己の境遇を心の底から楽しんでいた。

(これだから、“最強”は譲れん………ッ!)

 二年生、それは一年生と違い、生徒の立ち位置が決められている世界。その中で行われる人間関係は、悪意が全く無かろうと、闘争の気に満ち満ちていた。

 現在の一年生が、この領域に辿り着くのは、まだまだ先の話である。

 

 

 06

 

 

「こ、これってなんなんですか………っ!?」

 三日目の夜、想像以上に食べてしまった悲劇の夕食を体験してしまった不幸をバネに、カルラ・タケナカ自室でタブレットの画面を覗き込みながら驚愕の表情を模っていた。

 タブレットに映し出されているのは、今日までのBクラス全員の成績表(仮)だ。情報収集に長けた一部生徒から買い取り、後の結果から、どの生徒の情報をこれから頼るべきか判断するために、先駆けた投資感覚で入手した物だ。

 その中の一つ、最も信頼できそうな情報に映し出されたジーク東郷の成績を確認して、カルラは呆然実施となっていた。彼の成績には敗北数が0で、勝利数は3となっている。つまり、一度の敗北も無い完全勝利である。イマジネーターの実力は同学年ではほぼ拮抗するのが常識とは言え、今は入学して間もない初めての実践。組み合わせ次第ではこう言うケースも起こりうるのかもしれない。

「にしても、これは明らかにおかしいでしょう………?」

 そこにはありえない数値が記録されている。試合中に獲得したポイントと、失点のポイントが表示されているのだが、そこにジークの失点が一つも記載されていない。

「いくらなんでもこんな………!? タスクでも殆ど失点していないってどう言う事ですか?」

 これはありえ無さ過ぎる事だ。実力拮抗が普通の同学年勝負で、ここまで圧倒的な実力を見せるなど、普通はありえない。異常過ぎる。

 さすがにこの結果には何か裏があると思えてならない。カルラは情報を整理しながら検討してみる。

「『不滅の肉体』? 『恐らくはジークフリートをモデルとした能力と思われる』? 圧勝したのはこの能力による耐久性のおかげ? いや、そうだとしてもタスクでも好成績を残すなんて普通は出来ない。だとしたら何か? 何かデフォルトで備わっている『加護』の力が彼自身のポテンシャルを強化しているのかしら? でも、それにしてはレベルが高すぎる………。ステータスに『不死身』とか付いてるんでしょうか? ………ははっ、まさか? もしそうなら能力以上に肉体的耐久性の加護を有してる事になるじゃないですか? そんな人がいたら間違いなく一年生最強の生徒………」

 笑い飛ばそうとしたカルラは表情を改め、もう一度資料の中の男を真剣に見つめる。

「でも、もし仮にそうなら………、アナタが私の王なのですか?」

「なにカルラ? アンタって王子様探しにイマスクに入学したの?」

 突然声を掛けられ、カルラは慌ててタブレットを手の内で御手玉した。何とかキャッチして床に落とさずには済んだが、変わりに自分がベットから落ちて額を床に打ち付けてしまう。

「ううぅ………、い、痛い………」

「何やってるんだか………」

 呆れて溜息を漏らし、カルラに手を貸すのは火元(ヒノモト)(ツカサ)と言う名の、カルラの同室の少女だ。

「べ、別にそれが全ての目的と言うわけでは………、イマスク卒業と言うだけで社会的職の安定性は保証された様な物ですし、入れるなら入ってしまった方が良いと考えただけよ。………まあ、確かに私の王を探しているのも事実だけど」

「意外と少女趣味だったりするんだね~~カルラはさぁ?」

 司は風呂上がりらしく、頭に被ったタオルで髪についた水分を拭いながら自分のベットに腰掛ける。

「少女趣味………? っ!? “王子様”じゃなくて“王様”を探してるのよっ! 自分が仕えるべき主っ! 才能さえあれば女性でも良いんだから………っ!」

「そう言う物?」

 あまり深い興味はないのか、カルラの言葉を素直に受け取る司。

 結構淡白な態度をとられたので、恥じ隠しにカルラは訊ね返した。

「アナタこそ、どんな理由でイマスクに?」

「アタシ? アタシは鍛冶師の家でね? 世界最強の武器を打ってみたかった」

「現代人らしからぬ発想ね………?」

「刃物が鋼の全てとは言わないけど、アタシが求めてるのはそっち系。まあ、だからこそ現代じゃあ社会的にも素材的にも、そこにはたどり着けないんだって解っちゃったんだけどね? でもイマスクには可能性がある。それが何よりの救いだね」

「それで? できたんですか? 満足のいく一品は? 能力もそっち系なんでしょ? Eクラス以下の課題でもあるんだし、ポイント稼ぎ出来そうなのくらいは作れたの?」

「ああ、まあ………、能力的には行けそうなんだけどさ………?」

「何か問題が?」

「先生に指摘されて初めて知ったんだけどね? アタシみたいに、他人に譲渡できる実体物質の顕現をする能力者は、素材を元に作り出すから、どんなに能力が強くても素材が悪いと良い物作れないんだよねぇ?」

「? どう言う事です?」

「ええっと………、同じクラスに及川(おいかわ)凉女(すずめ)って子がいるんだけどね? あの子は頭の中で作った武器を、イマジンで再現して取り出す事が出来るらしいのよね? でも、イマジンだけで作られた物質って、“物体”として不完全らしくてさ? 長い間形を維持できないんだってさ? 放っておくと数分後には消滅するって言ってた」

「はあ、あの混ぜちゃいけない片割れさんに、そんな弱点があったのね?」

「んで、アタシみたいな一時しのぎではない、放っておいても消えたりしない物を作る能力者は、この世界に既に“物体”として固定されている物を元にしないといけないわけだ? それがアタシ達が使う“素材”って奴だな?」

「ようするに、及川さんの能力も魔法系の一種であり、生産系の能力ではない。司の様な能力こそが真に生産系の能力と言う事なのね?」

「おお、そう言われるとちょっと恰好良い………。まあ、でも理解としてはそんなところだな。このギガフロートには、この土地でしか手に入らない鉱石とか植物などの資源もあるそうだが、採取できそうな場所は一年生は基本的に立ち入り禁止らしい。一部解放されている場所もあるにはあるんだが、申請が必要でな? ある一定以上の強さを認められないと許可が下りないそうだよ。アタシは戦闘力が無いから無理だって言われてしまった」

 話を聞いたカルラは、少しだけ不憫な気持ちを抱いた。目標となる物が目前にあるのに手を出せないと言うのは確かに歯痒い物があるはずだ。共感を覚えたカルラは、同時にある事を思いついて提案する。

「それだったら私がメンバーを見つくろって資源を採って来て上げるわ。そのかわり私にも何か打ってくれない? 短剣とかでも良いから?」

「イヤ。アタシ、カルラに打つつもりはないから」

 きっぱり言われたカルラは、ちょっとだけガクッときてしまう。

「良いじゃない、ルームメイトの好なんだし一つくらい………」

「アタシが打った武器を使わせる相手はアタシが選ぶ。ルームメイトとかなんて関係ないね」

 取り付くしまもない様子の司に、カルラは嘆息して諦めた。まだ一年生でまともな武器も作れていないだろうに、どうしてこんな所ばかり職人魂で意地を張るのかと、呆れてしまう。

「それよりそろそろ寝よう? 明日は各クラスの優勝者結果発表だろ?」

「ああ、うん、………はい。わかりました………」

(司の作ってもらった武器、一つで良いから欲しかったのになぁ………。この子は自分で気付いてるのかな? 自分の持つ能力が全世界規模でかなり希少な物だってこと………?)

 明りを消し、ベットの中に潜り込みながら、カルラはふとある事を思い出す。それは取り寄せた情報の中にある、別クラスの動向についてだったのだが………。

(そう言えば、Cクラスで試合中にトラブルがあったらしいけど………、大丈夫だったのかな? あんまり噂とかは無かったみたいだけど………?)

 気になる事柄を思い浮かべながら、カルラはゆっくりと眠りへと付いて行く。




あとがき

レイチェル「あの………、誰かいらっしゃいますか?」

佐々木「ああ、いらっしゃい。此処に来たって事はバイト希望かな? それとも何かお使い?」

レイチェル「あ、佐々木先生でしょうか? 実は尋ねたい事がありまして」

佐々木「俺に? 教師と言っても実際教鞭を振るっていないんだけどなぁ? どんな事だ?」

レイチェル「イマジン体について、ちょっと気になる事があった物ですから」

レイチェル「私のイマジン体と、同じクラスのイマジン体を使役する物では、その実力に高低差があるように見受けられました。これはどう言う事なのかと思いまして」

佐々木「ああ、それね? 一口にイマジン体と言っても種類は複数存在する。君たち一年生のデータで教えるとだね………? ふむ、君の場合は史実に則って生み出される悪魔の様だね? 切城君の場合は、既存の存在を呼び寄せると言うものか? そして東雲くん、彼は………なるほど、君が気になっているのはそう言う事か」

レイチェル「な、何がですか!? /////」

佐々木「これは失敬。まず切城くんのイマジン体は、別の世界に存在する物をこちらの世界に呼び込み、こちらの世界で活動するために必要な肉体をイマジン体として作り出していると言う物だ。これははっきり言って弱いね。呼び出した物は強い存在かもしれないが、それに合わせて作り出されるイマジン体はかなりの高レベル能力者じゃないと完全には再現できない。こう言うタイプは手数と知略で乗り切るタイプだ。だが手札が多過ぎるがために必ず選択肢を物体的な物で選べるようにしておく必要性もある。丁度、彼の持つカードがそれに該当する。だが、あのカードはただのカード、紙切れだ。アレらを媒介、情報として存在を呼び出す為にはイマジンをカードに込める必要性がある。だから一度に使えるカードの数に限りが出てしまうんだね? 彼の手札制限がこれに当たるだろう」

レイチェル「なるほど………、ですが、肉体をイマジンにより再現しているのは私達も同じですよね? どうして契のだけが弱いんでしょう?」

佐々木「彼は一つのスキルで多くのイマジン体をカバーしようとしている。君も使っているなら解るだろうけど、イマジン体は相当高密度のイマジンを操作する操作能力難度の高い術だ。最大の力を発揮させるには、スキル一つで一体のイマジン体という具合が一番理想的だね? ところが彼は一度に何体ものイマジン体を使役している。これは相当に負担になっているはずだ」

レイチェル「ですが、それなら一体だけで戦えば問題無いのでは? 一度に使う数を制限すれば負担は―――」

佐々木「残念だが、それでも無理だ。イマジン体には本来、君達と同じ『イマジン変色体ステータス』が存在する。そしてイマジン体の個体にそれぞれ能力が備わっている。だが、彼らイマジン体は時折イマジン粒子となって消える事があるよね? これはどうしてだか知ってるかな?」

レイチェル「浅葱(あさぎ)(れい)先生から聞きました。イマジン体が粒子分解して消えるのは、肉体を精製し続けるのが疲れるからだと?」

佐々木「あのパパラッチか………(闇」

レイチェル「せ、先生………?(戸惑い」

佐々木「いや、彼女とは同期でね………。気にしないでくれ」

佐々木「まあ、その通りだ。イマジン体はイマジン粒子を結合させ、肉体を作り出しているのだが、実際、肉体を維持するのは相当なカロリー消費だ。………ああ、イマジン体にカロリーなんて無いから例えだけどね? だから彼等は休む時は身体を粒子に分解し、核となる部分を術者の中、厳密に言うと脳の海馬に入り込む事で消滅を避けているんだ」

佐々木「さて質問だけど? 一度分解したイマジン体の肉体データは誰が保存していると思う?」

レイチェル「術者………、つまり、主である私達でしょうか?」

佐々木「半分正解だ。確かに、元となる肉体設計図を預かるのは術者ではあるんだが、それだと、彼等は分解する度に同じ肉体を量産して、その中に乗り込むと言う事になるよね?」

レイチェル「? それが何か問題なんでしょうか?」

シトリー「なにを言ってるの? かなりの問題よ」

レイチェル「ちょっ!? シトリー! いきなり出てこないでくれっ!?」

シトリー「レイチェルが私達の事をどんな風に思っているのか知りませんけど、私達の核は、機械のエンジンとは違うんです。この身体で活動し、使い続ければ、核、“魂”がそれに合わせて成長します。レイチェル同様、私達も個人として力を付けていくわけです。それなのに、肉体が初期段階のままでは、身体を動かすこと一つにだって支障が出ますし、もっと言うと核の方が肉体に汚染されることだってあるのです」

レイチェル「そ、そうだったの?」

シトリー「粒子存在体ではありますが、私達もれっきとした“生物”なんです。機械の様にとっかえ引っ返されては困ります」

佐々木「解り易い例えで言うなら靴かな? 新品の靴よりある程度使い慣れた靴の方が動き易いし、靴擦れなんかの心配もない。毎日新品の靴を履き替えていたら、脚の方が付かれるんじゃないかな?」

佐々木「それに、その娘もさっき言ってたけど、イマジン体の肉体だってちゃんと成長してるんだ。見た目には現れない事が多いけどね? これはゲームのアバターと同じ理論かな? せっかくレベルを上げたのに、ゲームの電源を切る度に初期設定で戦わされていたら溜まった物じゃないだろう?」

レイチェル「た、確かに………」

佐々木「だから、初期段階、つまり大まかな設計図(システムデータ)は人間の頭の中に、成長している進行(セーブ)データはイマジン体の核が記憶しているんだ。こうする事で彼等は主と共に成長する事が叶っているんだね」

レイチェル「なるほど………。ですが、それと契くんの負担の話とどう繋がるんでしょう?」

佐々木「今説明したイマジン体の核が有する記憶。つまり進行データだけどね? これは『イマジン変色体ステータス』を有している程の精巧なイマジン体でないと出来ないんだ。でもね、思い出してみてくれるか? 肉体を粒子分解している間、イマジン体の核は人間の脳に記憶された状態にあるんだよ? つまり保管される場所は結局同じだとも言えないかな?」

レイチェル「た、確かに………。記憶を入れた箱を蔵の中に入れている様な物ですよね?」

佐々木「そうさ、つまりそれだけ重量の重い記憶を大量に脳内保存しないといけない。それを彼の様に一度に何百体も保存しておくと言うのは、かなりの負担じゃないかな? 例え呼び出しているのが一体でも、脳内では控えている記憶が沢山ある訳なんだからね?」

レイチェル「凄過ぎて創造できませんね。したくも無い程に辛そうです」

佐々木「その負担を避けるために、彼は魂を別世界から呼び出し、肉体は初期設定の物で補っていると言う事だ。だから、イマジン体一体の戦闘力はかなり劣化してしまうんだよ」

レイチェル「なるほど………、契くんも中々複雑な事をしていたのですね」

佐々木「それで、最後は東雲くんだけどね? 彼は………、よくイマジン体の事を知ってるみたいだね? スキル一つにつき一体のイマジン体を使役する事で、自身の成長に合わせつつ、大量のイマジン体を使役して行ける様に準備している。その上一体一体の設定をしっかりする事で能力値も申し分ない物に仕上げている。イマジン体を使う上では、彼の方が上手かな?」

レイチェル「ムッ、私があいつに劣ると?」

佐々木「イマジン体の性能差ではね。特にあの九曜って子? 出来栄えだけで言えばあの子に勝てるイマジン体は一年生にはいないでしょう? アレはどう見ても二年生後半のレベルだ。たぶん誰かに譲渡してもらったんじゃないのかな? あれには勝てなくても仕方ないさ」

レイチェル「………負けません。私はアイツなんかに負けるわけ無いです。仮にあいつが私より強いと言うなら、私がその実力差をひっくり返して見せるだけです」

佐々木「さすがイマジネーターは対抗意識が強いねぇ~~? 自分と同じ能力者相手には絶対譲らないもんね?」

佐々木「でも、君だって充分勝っているところがあるんだよ?」

レイチェル「ど、何処ですかっ!?」

佐々木「君はイマジン体を自身の身体に憑依させられるようにしているでしょう? それって実はかなり難しい技術なんだよね? 切城くんも似た様な事をしてるけど、彼の場合は上っ面の能力だけだからね、これはそれほどすごい技術じゃない。君はイマジン体の核、魂まで一緒に同化させて意識を共有できるでしょ? アレってかなりすごいんだよ?」

佐々木「東雲くん、『自分もやろうとして失敗した』って、以前ぼやいてたからね?」

佐々木「それに、君は魔法陣を使ってイマジン体を呼び出してるでしょ? アレも素晴らしく良い工夫だ。普通のイマジン体は、肉体を分解されると、術者の半径一メートル圏内でないと肉体を再構成できない。だが、君は魔法陣を介すれば、どんなに離れていたって呼び出し可能だ。これは使い方次第ではかなり有効に使えるんじゃないかな?」

レイチェル「な、なるほど………っ! やっぱり私はアイツなんかに劣って無い………! 私の方がもっと上手く使える!」

レイチェル「御指導ありがとうございました! また質問がありましたら、その時はまた御指導御鞭撻のほど、お願いいたします!」

佐々木「ああ、いつでも来てくれ」






龍斗「うぅ………っ、比翼まで使ったのに負けてしまった………」

聖「龍斗」

龍斗「(ひじり)ッ!? あ、あの、俺は別に浮気とかしてたわけじゃなくて―――っ!?」

聖「あはは、そんなに慌てなくても良いって。私は龍斗さんの事解ってるしねぇ~? だからこそ、他の人と比翼が出来る事も、私にとってはむしろ誇らしかったりするんだよ?」

龍斗「あ、ありがとう………」

聖「………でも、私でもやっぱり嫉妬したりはするかなぁ~?」

龍斗「ご、ゴメンッ!! 聖が嫌なら! 皆には申し訳ないかもだけど………、俺、もう二度と聖以外と比翼は使わないから!」

聖「いや、それはダメでしょう? 私だって皆の事は嫌いじゃないし、そう言うところまで気を使ってくれなくて良いからさ? 使うべき時には使ってよ?」

龍斗「あ、ああ………、解ったよ」

龍斗(でもこれって、理解のある良妻に胡坐をかいた浮気性のダメ亭主って気が………)

聖「まあ………、でも………」

龍斗「な、なにっ!? 聖が望むなら、俺出来る限り叶えるよっ!?」

聖「それじゃあさ………」

聖「また、デートに誘ってくれるってことでどう?」

龍斗「………? そんな事で良いの? って言うか、俺は毎日だって聖をデートに誘いたいんだけど?」

聖「え……っ!?///// ああ、そう………? ま、まあ………、嬉しいかなぁ~? //////」

龍斗(か、可愛い………)

龍斗「分かった。じゃあさっそく、今度の休日、デートにお誘いしても良い?」

聖「にふふっ、喜んで♪」

聖「さて、じゃあ、私の順番終わりかな?」

龍斗「へ? 順番?」

愛枝「龍斗ッ!? 貴様またしても美希お義姉様の唇を奪ったなぁっ!?」

龍斗「愛枝(あき)っ!?」

愛枝「ゆ、許さんぞっ!? お義姉様の唇をお前なんかに―――ッ!?」

龍斗「い、いや、ちょっと待て………っ!? まさかまた………っ!?」

愛枝「よこせっ!! お前に預けるくらいなら私がお義姉様のキスを頂く!! もう一度間接キスだ~~~~っっ!!」

龍斗「美希さんとは間接でも、俺とは直接になっちゃうだろうっ!? やめろって! お前毎回美希さんの事で暴走しすぎなんだよ~~~っ!?」

聖「にふふっ♪ これだからお兄さんの傍は譲れないよねぇ~♪」


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Bクラスキャラ紹介

約一名ほど、紹介されていないキャラがいますが、出し忘れているのではなく、投稿者様の希望で変更するとの事らしく、最新のキャラシート待ちです。送ってもらったら改めて出す予定です。


保護責任者:世界遺産

名前:天笠 雪(あまがさ ゆき)     刻印名:封印する者(ルーラー)

年齢:15     性別:女      (B)クラス

 

性格:おしとやかで礼儀正しく純粋無垢

 

喋り方:「はじめまして。天笠雪と申します。以後お見知りおきを(ペコリ)」

    「私、戦闘はあまり得意ではありませんので……」

    「我、天笠雪の名において命ず、今この時をもって汝を悠久なる眠りへと誘わん」

 

戦闘スタイル:イマジンにより相手の能力や行動を封じる完全なるサポート

 

身体能力10     イマジネーション900

物理攻撃力10    属性攻撃力10

物理耐久力30    属性耐久力40

 

能力:『封印』

派生能力:『封印解放』

 

各能力技能概要

 

・ 『封印』≪その名の通りあらゆるモノ(生物、無機物は問わない)や現象(こちらは一時的にのみ)を封印することが出来る。ある程度の順序(対象の認識→呪文の詠唱(モノを封印する際のみ呪文の詠唱前後に対象に触れる必要がある))さえ踏めば確実に封印をすることが出来、封印は彼女にしか解くことは出来ない ≫

 

・『封印解放』≪彼女自身が封印したモノから他人が封印したモノまであらゆる封印の解放が可能。ただし、解放することしか出来ないので解放後に解放したものを制御することは不可能≫

 

概要:【日本一の名家である天笠家の長女。周囲の評価は「絵に描いたようなお嬢様」。身体能力が総じて低く戦闘やスポーツの類は苦手だがそれ以外の芸術方面や勉学ではかなり優秀。また、家事全般が趣味であり特技で知り合いにはよく自作の料理を振舞っている。身長が同年代の女子の中では低い部類でありながら、とても女性らしい(胸や尻など)身体をしている】

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

保護責任者:すだい

名前:カルラ•タケナカ      刻印名:影の軍師

年齢:16    性別:女      (B)クラス

性格:常に冷静沈着、予想外のことが起きると男口調になる。

 

喋り方:

自己紹介     「私はカルラ•タケナカ、よろしくお願いするわ」

戦闘時      「あまり肉体労働は得意じゃないのだけど」

怒り       「っ‥‥、なんでドイツもコイツも好き勝手動きやがるんだァ!!」

今孔明発動時   「さぁ私たちの勝利のために、指示どおりに動いてください」

王佐の才発動時  「あなたのために、私の軍略があります。必ずあなたを王に」

 

戦闘スタイル:オールラウンダー、後方支援も行う。

 

身体能力53   イマジネーション250

物理攻撃力53  属性攻撃力53

物理耐久力53  属性耐久力53

軍略300     政治力150

 

能力:『今孔明』

派生能力:『王佐の才』

 

各能力技能概要

・『高速思考』≪『今孔明』の能力、高速思考をすることで現状においての最善の策を思いつく。しかしあくまで最善であって最高ではない≫

 

・『軍才』≪『今孔明』の能力、圧倒的な軍才を持ち他者を操って戦う術に優れる。が、そもそも命令に従うかは他者次第のため信頼関係が重要≫

 

・『王を佐くもの』≪『王佐の才』の能力、自分が王と定めた人物を王にするためその力を使う。全ての能力が上昇する。しかし今のところその人物は見つかってない≫

 

(余剰数値:0)

概要:【背中まで伸びた長い黒髪で冷たい印象を与える鋭い目付きをしている。幼い頃からイマジネーションに触れる環境で軍略を学んでいた為その軍略がイマジン能力にまで昇華された。

親しい人物には柔らかい態度を取るものの基本的に排他的で他人に冷たい。

幼い頃から軍師に憧れ自分が仕える王たる逸材を探すためやってきた。

軍師ではあるが普通に戦える。イマジネーションを矢に纏わせ放つ。

刻印名により戦闘能力は上がらないものの様々な策を行えるようになる。

好きなものは可愛いもの。嫌いなものは感情で動くタイプの人間。】

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

保護責任者:妖叨+

名前:遊間 零時(あすま れいじ)     刻印名:瞬身(しゅんしん)

年齢:17      性別:男       Bクラス

性格:柔らかい性格。誰隔てなく接する。敵であろうと情けをかけてしまう甘ちゃん。しっかり者。

喋り方:「はじめまして。遊間零時です。以後お見知り置きを」

    「今なら見逃す。逃げろ、ほかの奴らが来る前に」

    「正面突破は俺の専門じゃ無いが…状況が状況じゃ仕方ないか。引き受けたよ。その仕事」

 

戦闘スタイル:瞬神と称される程の速さで相手を翻弄。相手の隙をついて攻撃する。

身体能力250    イマジネーション600

物理攻撃力50    属性攻撃力50

物理耐久力3     属性耐久力3

 

能力:『瞬閃』

派生能力:『瞳術』

 

各能力技能概要

能力:『瞬閃』

体内に存在するパルスを刺激し高速移動を可能にする。また、上級の『瞬天』で体内に存在するパルスを極限まで刺激し高速移動、高速攻撃を可能にする。が零時の身体での瞬天での活動限界時間は5分間。使用後は半日は寝たきり状態。滅多なことでは使わない奥の手。

 

・『八咫烏』≪やたがらす≫

両眼にに宿る同瞳。術精神世界に引きづりこみ自分の支配する空間で相手を好きなようにする。幻術の中でも最高峰。なのでちょうとやそっとではとけない。

使い方の例題。

・相手の最も見たく無い物を精神世界で96時間見せ続ける

・精神世界で五感を奪い現実でオロオロしてるところを滅多打ちにする。

・敵の身体に杭が刺さった光景になり身動き出来なくなる。

 

・『天之狭霧神』≪あめのさぎり≫

零時の所有する唯一の攻撃系の技。斥力を使った技。相手を吹き飛ばしたり引き寄せたりする。しかし、連続して使えない。一度使うと次に使えるのは10秒後。斥力を使う規模が大きければ大きい程インターバルは長くなる。これもどちらかと言うとサポート系。

(余剰数値:0)

 

概要:【黒髪に強い癖毛、柔和な笑みを絶やさない。そのせいで本当か嘘か怪しまれる。

人が嫌がる仕事でもしっかりとこなす奴。人望があつく付き合いもいい。両親は高校を入学前にして事故死している。現在は親の残した遺産でやり繰りしてる。

父の家系は代々両眼に様々な瞳術を宿す一族で母は代々、幻術を扱うのに長けている家系ということもありその両親の能力がそのまま零時に反映されている。

瞳術を使う時、瞬閃または瞬天を使用する際は両眼は赤く染まる。

イマジン学園に来たのは己の器を図る為。

ちなみにこいつの防御力はまさに障子紙。

でかいのを一発でも貰うと6割型詰み。

脚が命なので脚を攻撃されると7割型詰み。

何故なら攻撃は当たらなければどうってことは無い。と言う自論があるから。

誰よりもクラスメイトを大切にしている。そしたらいつの間にかまとめ役になって居た。

学園の入学試験、瞳術で120人の生徒を精神崩壊寸前まで追い込んだ歴史を持つ】

 

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保護責任者:忙人K.H

名前:笹原 弾《ささはら だん》      刻印名:絶対零度の凶弾

年齢:15歳      性別:男      種族:人間

容姿:柔和で小柄(150cm)な男子      所属クラス:1年Bクラス

性格:冷静沈着を体現した性格。銃を握るとさらに冷静になる。とはいえ冷たいわけではなく人柄は良い。

 

喋り方:落ち着いた丁寧な話し方。

自己紹介  「初めまして、笹原弾です。よろしくお願いします」

ボケ    「えっと………銃を握ってると落ち着きませんか?」

ツッコミ  「いや、その理屈はおかしいでしょう?」

戦闘時   「敵戦力把握。目標を駆逐します」

照れ    「はぁ。其処まで言われますと、照れますね」

呆れ    「………貴方は馬鹿なのですか?」

救助    「手当しに来ました。仲間が傷付いているのを黙って見るのは心が痛みますから」

チビ呼称  「チビで結構です。貴方みたいな馬鹿な方々がそうやって勝手に騙されてくれますからね」

怒り    「『傲慢』は身を滅ぼすということを………あなた方は分からないのですね、Aクラスの皆さん」

淫行に遭遇 「あ、すみませんでした。どうぞごゆっくり(バタン」

 

戦闘スタイル:ガン=カタによる近接銃撃&体術と、様々な銃器を用いた後方銃撃。

 

基礎能力値

身体能力:118     イマジネーション:100

物理攻撃力:100    属性攻撃力:100

物理耐久力:100    属性耐久力:100

銃器取扱:200     戦況把握:200

 

能力:『トリガーアンハッピー』

派生能力:『特殊弾生成』

 

各能力技能概要

『銃器取扱能力』

・『トリガーアンハッピー』の能力

・銃器の程であればどの様な武器でも扱える能力。

 

『トリガーアンハッピー』

・『トリガーアンハッピー』の能力

・トリガーハッピーと正反対に、銃器を握り、弾を放てば放つ程冷静になり、戦場の把握、戦闘能力、思考能力に上方補正が掛かる。

 

『特殊弾生成:パリィ』

・『特殊弾生成』の能力

・『弾く』『受け流す』能力を付与した弾を生成する能力。生成する弾の型は問わない。

・(特殊弾共通事項)一発でも装填していれば銃器にも付与された能力が適応される。しかし特殊弾を撃ち切ったらその能力は消える。銃器に適応される特殊弾の能力は最新の2種類まで。

 

概要

・一見冷めた様な印象を受ける少年。勘違いを誘発しやすい。

・一般的な家庭で育ったが、父親の趣味がサバゲーで、よく連れ出された結果、本人の趣味がサバゲーと化した。

・銃器を握ると冷静になる性質。

・スナイパー向きかと思われ、実際かなりの成績を残す。が、銃を向けられても、弾を放たれても冷静に対応できる性質が災いし、2丁拳銃でガン=カタ『も』できちゃって無双してしまい、そっち界隈では有名になってしまい、参加を拒否されることが増えた。

・(機からはいつも通りクールな表情だが)ショボーンとしていたところ、サバゲー仲間に『イマスクなら戦えるんじゃないか?』と言われ、入学しようと決意。親の反対も持ち前の冷静さで説き伏せた。

・その戦闘方法は創作物から構想を得たものが多い。そこそこ高いスペックだったのが、イマジネーターとなり人外な技まで再現できるようになってしまった。『緋弾の○リア』は彼のバイブル。

・小柄で柔和な容貌なのに、極度のクール系なため、コアなファンが増えやすいのが悩み。ショタコンは害悪指定。

・しかし容姿による恩恵(優しくしてもらえる、油断を誘う、小回りが効くなどなど)もあるので、見た目についてのコンプレックスはない。チビ上等。

・好物はシュークリーム。特に外の皮がパリパリしたモノが好き。もきゅもきゅと食べる姿が可愛くて、別な意味で誰かを射抜く。

 

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保護責任者:すだい

名前:ジーク東郷

刻印名:不死身の竜人

年齢:16     性別:男      (B)クラス

性格:女の子大好き。フェミニスト。

喋り方:ホストのようにわりと馴れ馴れしい。が不思議に不快にさせない。

自己紹介     「ジーク東郷だ、ジークって呼んでくれ。」

女性との戦闘時  「まさか君みたいな可愛い子と戦わなくちゃいけないなんて・・・。」

対カグヤ     「九曜ちゃんって可愛いよなぁ、一日でいいから貸してくんない?」

対弥生1     「君とは運命を感じるよ、さあ俺を傷つけてくれ!!」

対弥生2     「やよいちゃん一緒に飯食いに行かない?」

対涼女      「いや、涼女ちゃん冗談だからね? 脱がれたらこっちも困るから。」

グラム発動時   「さて、お前に竜殺しの剣を見せてやるよ。いくぞ!! 魔剣グラム!!」

ボケ      「確かに見た目は中性的で女の格好をしている。・・・だが男だ・・・!!」

 

戦闘スタイル:大剣を振り回す近距離ファイター

身体能力100   イマジネーション200

物理攻撃力200  属性攻撃力3

物理耐久力56   属性耐久力56

対竜100      不死身300

 

能力:『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』(対竜最強、不死身、圧倒的身体能力の取得)

派生能力:『魔剣グラム』(ジークフリートの持つ剣関係)

 

各能力技能概要

・『不死身の肉体』《ドラゴボディの付属能力、その体には通常一切怪我を負わせることはできない。イマジネーションの高い攻撃、または神性の強い攻撃ならば怪我を負わせることが出来る。この力ゆえに防御力は低め。ドラゴボディは常時発動型》

・『龍殺し』≪『魔剣グラム』の能力、竜に関連する属性を持つすべてのものに対して通常よりもダメージを与える。≫

•『フェミニスト』《ジーク自身の性格から女性に対して戦闘能力が下がる。相手の女性が自分の倒すべき相手だと認めればこの能力は解除される。また、女性を守るとき全ての能力に補正がつく。》

 

人物概要:【金髪碧眼で女性好き。その不死身性を忌避しており自分の体に傷をつけてくれる女性を探している。(ジークフリートの逸話でいうブリュンヒルデ) 本来ならばAクラス入りの力を持ってるが素行の悪さと女性に本気を出せないこともありBクラス止まり。Bクラスで対人最強を誇る。甘いものが好き。爬虫類が嫌い。】

 

能力概要【不死身の竜人の刻印名によって不死身の肉体と対竜最強の魔剣を手に入れる。これは英雄ジークフリートの逸話より悪竜の返り血を浴びて不死身となったこととその竜を殺した剣に由来する。能力の派生は竜殺し、剣士方面に伸びる】

 

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保護責任者:純石

名前:風間 幸治(かざま こうじ)  刻印名:心の上に刃を持つ者

年齢:15       性別:男   Bクラス

 

性格:寡黙だが、ド素直でマイペース。話しかればとキチンと対応する。掟(この場合は校則)に絶対遵守。異性という存在を意識していない。

 

一人称:拙(せつ)

喋り方:常に冷静で抑揚のない喋り方

自己紹介          「拙の名は、風間幸治。今後ともよろしく頼む」

戦闘直前          「拙は手心を加えはしない。本気で往く」

初めて見た物に対する反応  「何だコレは? どうやって使う?」

頼まれた時         「承知した」

 

戦闘スタイル:右手に木刀、左手に忍刀を逆手持ちによる先の先を取るヒット&アウェイのスピードタイプ

 

身体能力 603  イマジネーション 23

物理攻撃力 213  属性攻撃力 13

物理耐久力 53  属性耐久力 13

隠密 100

 

能力:『忍術』

 

派生能力:『忍法』

 

各能力技能概要

・『変わり身の術(かわりみのじゅつ)』≪忍者といえばコレなヤツ。攻撃を受ける際に煙に巻かれて丸太にすり替わるという術≫

 

・『分身の術(わけみのじゅつ)』≪イマジネーションを使い、己の分身を作る技。この分身は風間の半分の力しか出せない。別に本体の力は減らない。2体まで出せるが、その場合の力は半分の更に半分、4分の1である。この分身が一定以上のダメージを受けたら、煙がポンッと出て、分身は消滅する。分身が消滅したら見たり聞いたり知ったりした情報は本体にフィードバックする。情報収集に便利。日常生活にもすんごい便利≫

 

・『鎌切鼬の術(かまきりいたちのじゅつ)』≪腕か脚を特殊な動作で振るい、振るった先に真空の刃を発生させ、飛ばす忍術。無手で使えたり、武器持ったままでも使用出来る。腕による威力を基準とし、脚による威力は三倍≫

 

 

概 要:【紺色の忍び装束を着こみ、額には針金、首には口元を覆ってもまだ余る真紅のマフラーを巻いている、というどっからどー見ても忍者な服装をしている。 風間は忍びの集落から卒業生である祖母の勧めにより『イマジネーションハイスクール』に入学する。彼が過ごしていていた里はド田舎であり、四方が山に囲まれていてそこそこ大きな川が流れているとの事。それにより、風間は常識に疎く、物を知らない。が、最新機器でも教えて貰えば直ぐに理解して使いこなせるの で頭は悪くない。Aクラスによる弄りやからかいも、物を知らないが故にまったく堪えてない。異性という存在を意識していないのも里の影響。純粋と言えなく もないが、男としてそれはどうよ。風紀委員に所属。実は『風魔小太郎』の子孫。風間、間→ま→魔、風魔である。幼少の頃から里で祖母直々に忍びとして鍛え 上げられているので身体能力がかなり高い】

 

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保護責任者:ソモ産

名前:戸叶静香(トガノウシズカ)    刻印名:温故知新

年齢:18歳     性別:女性   1年Bクラス

 

性格:基本やセオリーに忠実な委員長肌。型にはまらないAクラスの面々は少し苦手。

 

喋り方:委員長タイプな為、常に周りを気にし間違ったことはしっかりと注意する。

自己紹介「戸叶静香です。皆より年上だが、気にせず話しかけてくれ」

注意する「おい、貴様。廊下を走るな!」

照れ「なっ!? わ、私が可愛いだと!? か、からかってるんだな! そうなんだな!?」

 

戦闘スタイル:偉人の力、知恵を対象に与える支援タイプ。

身体能力103   イマジネーション353

物理攻撃力103   属性攻撃力78

物理耐久力103   属性耐久力78

読書100   速読術100

 

能力:『先達の教え』

歴史上の様々な偉人の知恵が詰まった本。

派生能力:『開拓者』

昔の教えを現代の様々な環境でも通用するようアレンジする能力。

 

各能力技能概要

・『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』

≪先達の教えの能力。孔子の教えであるこの言葉道理、自身と相手の力関係を明確に伝える能力。自身以外にも伝達可能。≫

・『征服王』

≪先達の教えの能力。征服王イスカンダルの異名に倣った力で、自身と他者に走り続けても疲れない体力を与える能力。≫

・『コロンブスの卵』

≪先達の教えの能力。探検家コロンブスに倣って、物事を逆の角度から考え最適の答えを導き出す能力。基礎タスクの『直感』との並行使用可。答えを他者に伝達できる≫

 

概 要:【日本が誇る世界的財閥の娘で、幼少の頃から勉学、格闘技、護身術と様々なものを教えられてきて育った。しかし、一つ年上で、天才の姉と常に比較されて育った為そういう人には苦手意識がある。戦闘時は、基本支援に回るが、必要に応じて前線に出張ることがある。その際は合気道、空手と言った様々な武術を 使う。黒髪ポニテで長身、目つきも鋭い為よく怖がられる事を気にしている。】

 

能力概要

【先人達の教えを発動中は常に、手元に本が具現化する。その本には他にも様々な教えが書いてあるが今は、能力に昇華出来ない。派生能力の開拓者は常時発動能力でその場の環境に合わせている。】

 

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保護責任者:ソモ産

 

名前:折笠 重(オリガサカサネ)       刻印名:万物の重み(オールヘビー)

年齢:16歳     性別:女性      1年Bクラス

 

性格:相手のことを真っ向から受け止め、負かしてやろうとする。男勝りな姉御肌。

 

喋り方:

自己紹介  「アタイは折笠重。どっからでもかかって来な! いつでも相手してやるさ」

相談に乗る 「ん? 何か相談ごとかい? アタイで良かったら聞くよ」

仲間がバカにされたとき「ちょっと待ちな。誰だろうとこいつ等をバカにするのは許さないよ!」

 

戦闘スタイル:背中に掛けた大剣を用いた近距離戦闘。

 

身体能力103     イマジネーション103

物理攻撃力303    属性攻撃力53

物理耐久力203    属性耐久力53

頑丈100       負けん気100

 

能力:『重量操作』《ヘビーマニュピレイト》

派生能力:『重力支配』《グラビティーコントロール》

 

各能力技能概要

 

・『重量操作』

≪重量操作の能力。あらゆる物の重さを操作する力。自身の体も含め無機物、有機物に問わず操作することができ、最低重量は本来の重さの十分の一、最大重量は本来の重さの十倍まで変動する≫

 

・『重力支配』

≪重力支配の能力。指定した空間の重力を完全に支配に置く力。指定できる広さは縦横2メートル四方の正方形状で、地面に触れている必要は無い。指定できる空間は重の目に見える範囲のみ≫

 

・『慣性減量』

≪重量操作の能力。自分に対する攻撃の重さつまり威力を減らす力。物理的な攻撃にのみ効果を示し、属性系の攻撃には効果は無い。あくまで威力を減らすだけであり0にすることは出来ない≫

 

 

概要:

【真っ 赤な髪をした長身の女性。イマスク入学前は地元でレディースをしていたが、これではいけないと心機一転し、猛勉強の末入学を決める。母性溢れる体で、穏やかな顔をしているため男性受けがいいがほとんどの者が重の性格を知ると離れていく。本人はこんな性格をしているが、根は乙女であり本当の自分を見つけてくれる男性を探している。料理は得意であり、レディース時代はよく仲間に食べさせていた。今使っている武器は購買で買ったものであり、いつ折れてもいいよう に生徒手帳にいくつかストックしている。ちなみに少しだけだが剣道を経験しており剣の扱いはある程度できる】

 

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保護責任者:ヒャッハー

名前:鹿倉 双夜(ししくら ふたや)     刻印名:人間以上人未満

年齢:15    性別:女     クラス:B

性格:真面目。常に一歩下がっているタイプの人。

 

喋り方:

自己紹介  「宍倉双夜です。長い付き合いになります故、何卒宜しくお願い致します」

戦闘中   「こよみ母様直伝、浮気撃滅拳ッ❗」

脇役    「脇役上等です。良い脇役がいるからこそ、主役が映えるのですから」

 

戦闘スタイル:指輪の力を使った虐殺スタイル。殆ど格上には通じないため、必然的に露払いの役になる。

 

身体能力:153    イマジネーション:303

物理攻撃:53     物理耐久:53

属性攻撃:53     属性耐久:53

指輪適応:350

 

能力:『赤い指輪』

派生能力:『肉体改変』

 

能力技能:『赤い指輪』《そのまま『赤い指輪』の能力。ありとあらゆる人の死因を書き綴った狂気の書物。『赤い本』から分裂した一部。この指輪の能力は、赤い本に書き記された死因を現実に持ってくる事。例えば「災害」の欄から地震を、例えば「事故」の欄から圧死を、例えば「殺人」の欄から水死を、例えば「自殺」の欄から首吊りを、と言った具合に。

本来ならば、対価には寿命が要求されるが、ちょっとした裏技を使ってイマジンを対価として支払っている。使用する死因の規模や種別によって支払う対価の量も変化する。また、自殺等の相手に直接干渉するタイプの死因は、自分よりも存在の格が上の者には通用しない》

 

『命偽装』《『肉体改変』の能力。自らの命を、別の物に置き換える。正確には、自分以外からの自らの命への干渉対象を反らして別の物に押し付ける能力。この能力を使って、赤い指輪からの対価をイマジンに押し付けている。但し、物理的に殺される時は、例外として偽装が出来ない。精神的ならまだしも、ごく普通に殺されるのならこの能力には管轄外》

 

『身体改変』《『肉体改変』の能力。この能力本来の使い方。自分の体を自由自在に弄くり回せる。関節駆動を弄くったり、腕を断ち切られても再生させたり、単純に筋肉を強化させて、身体能力を上昇させたりと色々万能。後は翼を生やして飛べるように、とかもできる。 此方も対価としてイマジンを消費する。また、大幅な改変には時間も掛かる》

 

概要【狂気の天才、鷹白榧夜(たかしろ かや)によって作られた人造人間。素の身体能力がそもそも人を越えている。また、老化と言う概念が存在せず、肉体年齢が18歳程度になると成長が止まり、 それ以降はそのまま固定されるが、それ故に寿命が極端に短く、長くて50年生きられる程度。それを嘆いた彼女の義理の父「鹿倉時雨(ししくら しぐれ)」によって、イマジネーションスクールに送られた。また、母親に相当する存在が、「鹿倉憂姫(ししくら ゆき)」「千代田(ちよだ)こよみ」「鷹白千夜(たかしろ ちや)」と3人おり、父親含めた全員を敬愛している凄まじいファザコン、アンドマザコン。

彼女本人は、本質はどうあれ見える部分では圧倒的に個性がなく、また、自らを主役の器では無いと思い、それどころか進んで脇役に成りたがるある意味での変人。

それ故に脇役である事にプライドを持っており、それをバカにされるとブチ切れる。あと両親?をバカにされても同じようにブチ切れる。

容姿は黒髪に紫色の眼、髪は腰に届く程長いのをポニーテールにしている。背は高くもなく低くもなく、胸もそれなり】

 

 

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保護責任者:ヒビキ★

名前:黒瀬 光希(くろせ みつき)   刻印名:記憶アカウント(メモリーアカウント)

年齢:15歳    性別:男    1年Bクラス

 

性格:真面目な努力家。だけど、人を心から信用はせずに、信頼する程度にとどめている。博識だが、何故か常識的な事がわからないことが多い天然。

 

喋り方:普段は自らを僕と呼び、他人には敬語を使う。心を許した人の前では自らを俺と呼び、砕けた口調になる。何があろうとも常に冷静な口調を崩さない。

 

自己紹介   「僕の名前は黒瀬 光希です。歳は15、能力は記憶に関係した物です。本が好きなので面白い物があったら教えてください。あと、名前はみつきです。こうきじゃありませんので。皆さんと楽しくやっていきたいのでこれからよろしくお願いします。」

 

能力発動時  「コード001、記憶アカウントでログインを開始する‼︎」

 

戦闘スタイル:周囲の状況を見て、策を練り、時には臨機応変に対応するバランス型。あまり能力は使いたがらないが、使うと圧倒的攻撃力を売りにした完全に防御を捨てた超攻撃型になる。

 

身体能力300     イマジネーション450

物理攻撃力250   属性攻撃力250

物理耐久力80    属性耐久力80

能力発動時に数値が変わる

 

能力:『記憶解放(メモリーリベレーション)

派生能力:『記憶具現化(メモリーインバーディーマーントゥ)

 

各能力技能概要

 

・『記憶解放(メモリーリベレーション)』≪『記憶アカウント』の刻印を持つ者が使用できる能力。自らの記憶にある光景や物などに干渉して、一時的にその光景や物などを出現させることができる。出現させたい物を鮮明に覚えている程に出現させられる時間や攻撃力などが上がる。出現させられる物の数に制限は無いが増えれば増える程に、頭の中で記憶の中のイメージをとどめて置く難易度が高くなり、使い過ぎると疲労や頭痛に襲われる≫

 

・『記憶具現化(メモリーインバーディーマーントゥ)』≪『記憶解放』使用後にのみ使用可能な能力。『記憶解放』が制限時間付きで自由に記憶にある物を出現させられるのに対して、『記憶解放』で出現させた光景や物などに関した属性を持つ武器を制限時間無しで一つだけ作る事が出来る。出現させた光景が消えても武器が消える事は無いが、新しい物を作ろうとすると前に作った物は消えてしまう≫

 

・『記憶暗号(メモリーコード)』≪『記憶具現化』使用時に自らの身体能力や武器に適した見た目に変える能力。具体的に変わるのは髪の色や身体能力の数値のみで見た目にはあまり変化はない≫

 

(余剰数値:700)

概 要:【髪は少し青の混じった様な紺色で短く整えられている。その学者然とした様な雰囲気や口調などとは裏腹に、男とは思えない程の可愛いらしい顔をしており、声も女の子で通用するような小学生の男の子くらいの高い声。本人はこの事を相当気にしており、これをネタにされて中学の時にいじられており、天然な性格も災いして散々からかわれてしまっている。昔、信じていた友人に裏切られ、信じた人達に何度も裏切られた経験から、心から人を信頼することは無く、場合場合で信用する程度。昔、周りに常に怯えていたため、周囲の状況把握や人のクセなどを見抜く観察眼に長けている。記憶に関する能力を持っているだけあっ て、記憶力は常人離れしており一度見た物は絶対忘れないとまで言われ、『歩く図書館』という二つ名を不本意ながらも頂戴していて、一年生達のほとんどに頼りにされていて、本人も満更でもない様子。身体能力などの数値が全体的にかなり高いのは、本人が筋トレや体力トレーニングなどを毎日欠かさずにやっているからで、臨機応変に対応するために身につけているらしい。ちなみにトレーニングは常人なら泣いて3日間は立ち直れないレベルの辛さ。能力を使うと、かなり体力を持って行かれる。いかに体力のある彼でも、連続使用は10分が限界らしい。だいたいなんでもこなせる高スペックなのにAクラスではないのはこの制限時間が理由。

別に洋食が嫌いとか食べれないという訳ではないのだが、主に和食を好む。特にご飯と味噌汁の味についてはかなりうるさい。食事の時に焼き魚の骨を綺麗にとるのが密かな楽しみと化している。本人曰く、釣りがかなり得意らしい。マグロを釣った事があるとかないとか。趣味は本を読むこと。基本小説ならなんでも読むのだが、恋愛ものはあまり読まない(読んでて恥ずかしいから)。

最近はライトノベルにも興味を持ち始めたご様子で一番好きなのはSAO】

 

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保護責任者:のん

 

名前:御門 更紗(みかど さらさ)    刻印名:言繰師(ことくりし)

年齢:13      性別:女       Bクラス

 

性格:素直で純粋無垢。ちょっと照れ屋

 

喋り方:

自己紹介  『私の名前 御門(みかど)更紗(さらさ)。よろしくね』

能力発動  「………。………壊れて」

名台詞   『アナタは私の友達』

告白未遂  『ちゃんと言葉にして伝えたいから、今は秘密です』

激情    「―――ッ! ―――! ――――ッ!! ………ッ!」

ツッコミ  『でもこの前、それ買ってませんでした?』

 

戦闘スタイル:小声で言葉を囁き、言葉の力を行使する。

 

身体能力18      イマジネーション300

物理攻撃力50     属性攻撃力50

物理耐久力200    属性耐久力200

言の葉200

 

能力:『言の葉』(言葉全てに適応。オフ出来ない常時発動型能力)

派生能力:『―――』

 

各能力技能概要

 

『言葉の力』≪『言の葉』の能力。声に出した言葉を現実化させる。死者すらも生き返らせ、新たな生物も作り出せる。ただし、『略語』や『造語』の類は効果を示さず、複雑な作りの物を呼び出すには、沢山の言葉が必要となる(例:銃=「火薬を推進力に鉄の弾を撃ち出す、両手で握り人差し指だけで発射できる機械」)。効果が発揮されるのは声が届く範囲に限定されるが、大きな声を出すと広範囲に能力が発動してしまうので、対象指定が難しい能力≫

 

『言葉の責任』≪『言の葉』の制約。紡ぐ言葉に想いを込めれば込める程、その効果と効力をブーストする代わり、無責任な軽い言葉を紡いでしまうと、効果が発揮されない上に、大切な物を失ったり、大怪我をしたりと、言葉の重さに比例したペナルティーを受ける≫

 

『言の葉の想い』≪『言の葉』の能力。ただ強い想いの丈を込めた言葉を、耳ではなく、心に届かせる力。心の距離は、想いの強さに反比例する。この能力で届けられた言葉は、能力者の想いの強さをそのまま反映させる強力な物≫

 

人物概要:【黄金色のふわふわショートヘアー。小柄で胸も小さい可愛い系女子。絵に描いた様な純粋っ子キャラで、老若男女を問わず可愛がられるタイプ。成長途中なのだが、胸の成長を乏しく感じ、発育の良い女性を見ると、自分と比べて涙目になってしまう。能力により、安易に喋る事が出来なくなってしまったため、とある上級生の制作したフリップボードを用いて文字でお話する。このフリップボードは普通に手書もできるのだが、急いでいる時は、イマジンにより、心の声をそのまま文字にしたり、音声として発してくれたりもする。本人の性格上、音声は使うくらいなら自分の声でお話したい気分なので、必要が無い限り文字でお話する事が多い。照れ屋で引っ込み思案なところがあるので、初対面の男性相手には頬を染めて友達の背に隠れてしまったり、フリップボードで顔を隠してしまったりする。イケメン相手にニコポやナデポに掛り易いので、小動物的に危険な少女でもある。日本の名家にして、力を持つ家柄『七咲』と言う七家の一つ、第二位の御門家令嬢の妹。義姉はイマジネーターにはならず、腐りきった日本の政治を立て直す為に、社会へと出ている。イマジネーターの資格は、全世界の全職業に対し有力な資格なので、将来の事を考え、より幅の広い選択肢を得るために入学した】

 

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おまけ概要
『七咲』について………

刹菜「日本で最も力の有るとされる七家の財閥で、それぞれの家に特色があり、個性を活かす事で成り立たせている名家です。私の姓、朝宮も此処に入っているんですよ?」

幽璃「七咲の序列は、第一位『天笠』、第二位『御門』、第三位『朝宮』、第四位『八雲』、第五位『浅蔵』、第六位『補羽(おぎない)』、第七位『東雲』、っとなっているの。なお『天笠』『朝宮』『浅蔵』『東雲』は、元は祭事を担当していて、昔の方が権力があった家系なのだ。私は『浅蔵』の長女で、第五位だが、そこそこ政治関係にも顔が効いたりするぞ~~♪」

神威「『七咲』は、元を正せば『夜徒(やと)家』………公では『八戸(やと)家』と呼ばれた八家で、当初の序列も違っていたんだ。ちなみに『御門』は古名を『三門』、『補羽(おぎない)は古名で『荻乃』と書いた」

神威「………ちなみに東雲は昔から最下位でな、色々小間使いとしてよく使われていたらしいぞ」

刹菜「神威だけが、東雲で―――いえ、『七咲』で異常な存在として生まれたわよね~………」

神威「『八戸家』の時代の第一位にいた子孫も、一年生にいたな? 私は微妙にそこが気に入らないが………」

刹菜「義弟くん絡みだからでしょ? ちょっとはブラザーコンプレックスも抑えたらどう?」

神威「刹菜に言われたくない………」

刹菜「私は違いますっ!?」

幽璃「はははっ! 言われてしまったなぁ~刹菜?」

神威「お前も充分シスターコンプレックスだろう?」

幽璃「お姉ちゃんは、妹を愛してやまない者なのです!」

刹菜「あまり気の遣いすぎは本人のためにならないと思うわよ?」

神威「刹菜に言われたくはないだろう?」

刹菜「私は妹にも厳しいです!」



その頃、弟、妹諸君―――

カグヤ、龍斗、綾瑚、雫姫、星琉。
『へぇーーーーーっくしゅんっっっ!!!』

カグヤ「………義姉様か」

龍斗「たぶん姉さんだ」

稜瑚「姉さんね」

雫姫「刹菜お姉ちゃんが噂してるのかな?」

星琉「姉が噂してるんだろうな………」

菫&レイチェル&聖「「「なんで解るのっ!?」」」


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一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅴ

寝る時間ギリギリ手前で完成した。
書き上げるまで時間がかかり過ぎてたので我慢できずに出してしまいました。

おかげで添削とあとがきが用意できてません………。
できれば内容だけでも皆様の納得のいく物に仕上がっていればと願う次第です。

それではどうぞご覧ください!

【添削終えました】


一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅴ

 

Cクラス編

 

 

 0

 

 

「はあ………、はあ………、はあ………」

 何もない荒野で、セーラー服の少女は肩で息を荒げ、ボロボロの身体を何とか持ち上げていた。両手に持つ剣は、彼女の姿同様にボロボロに刃毀れしていて、今にもバラバラに砕け散ってしまいそうだ。

 うなじの辺りで纏められた黒く長い髪は、土で汚れて光沢を失い、服はあっちこっちが破れ、赤い模様を染み出させている。それでも彼女は上体を起こし、決して膝を付くまいと脚に力を入れ、剣を構え直す。

 ズズゥンッ! 土煙を巻き上げ、彼女の眼前に降り立った者が上げた騒音。全長十メートルはくだらない鋼鉄の身体を持ったそれ(、、)は、肩に十歳前後の小さな少年を乗せていた。この少年も大した者で、動き回る鋼鉄の巨人に振り回される事無く、肩の上にしっかり二本の足を付けていた。

 巨人はその手に持つ巨大な剣を構え、一気に振り上げる。

 その姿を見て、少女は大きく息を吸い―――、

「ふぅ~~~~………っ、はぁ~~~~………っ」

 ―――吐く。

 数秒の間。

「………はああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっ!!!」

 気合いの掛け声。

 そして走る。鋼鉄の巨人に向かって、セーラー服に身を包む少女が地を蹴り前進していく。

「フェニクシオガオング!!」

 少年の声に従い、鋼鉄の巨人は剣に炎を纏わせる。

 巨大な剣に纏った炎は、ただそれだけで巨大な火柱となる。

 それでも臆せず地を踏み抜き、飛び上がる少女。身体を駒の様に回転させ、二刀の剣を遠心力に任せ振るい抜く。

 巨人はそれを打ち倒そうとするかのように、炎柱の剣を叩き降ろす。

「『破城鎚(はじょうつい)』ッッ!!」

 遠心力を乗せた少女の剣が、巨人の火柱に激突。

 互いの剣はありえない事に一瞬の拮抗を見せる。

 だが、その瞬間が過ぎ去った瞬間、強烈な爆音と共に二本の剣は砕け散り、炎を霧散させた巨剣が弾き返される。勢いに煽られた少女が勢い良く地面に叩きつけられ、バウンドする。

「かは………っ!」

 体が宙に投げ出され、殺しきれなかった勢いに半回転し、うつ伏せに地面に倒れ伏した。

 巨人はたたらを踏まされはしたが、全くの無傷だ。

「巨大ロボット相手になんつー戦いしてんだよ………」

 巨人と少女が戦う傍らで、黒い少女が作り出している赤黒い障壁の後ろで、胡坐をかいていた少年が思わず漏らす。呆れ半分、関心半分の感想に、障壁を張る少女も沈黙で同意していた。

 一方、巨人の肩に居る少年は、さすがに疲労の色が見え始めていた。

「こ、これで………っ! 今度こそ………っ!」

 少年の願望にも似た呟きが漏れ出た時、少女に異変が起き始めた。

「う、ぐ、あぐあ………っ! がああぁぁっ!!」

 少女が地を掴み、渾身の力を用いて立ち上がろうとする。

 しかし、様子がおかしい。ただ立とうとしていると言うより、何か内側から湧きだす物に突き動かされるように力が過剰に入っている。

「あが、が、ああああぁぁぁぁっっ!!」

 彼女の周囲の空気が、イマジンがピリピリと痺れる様に振動を始め、その圧力が変動し始めている。

 苦しむ様に上げられていた呻き声は、次第に別の何かへと変わっていく。

「あ、ああああっ、あがあアあぁぁァぁぁァッッッ!!」

 

 ブツリッ!

 

 彼女の髪紐が千切れる。

 刹那、まるでそれが合図だったかのように、少女は身体を一瞬で起こし、天に向けて爆発する様に咆哮(、、)した。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 人の声では無い咆哮を上げ、漆黒の髪が鋼色へと変貌し、瞳は獣の如き金色に変わる。人の耳が髪の間から覗かなくなり、変わりに頭頂部で三角の獣の耳が飛び出す。咆哮を上げる口には、鋭く尖った犬歯が、牙と言う名に相応しい物へと肥大していた。

 何が起こったのか? 彼女を見つめる誰もが咄嗟に理解できず動けずにいた。

 咆哮が止み、落ちついた少女は、獣の瞳で巨人()を捉える。

「ッ!? 勇輝! 気を付けろっ!!」

 傍観していた少年が声を張り上げる。

 それを合図にしたのかの様に、変貌した少女が前進。一瞬で距離を詰め、巨人の胸、ライオンの顔を模られた鋼鉄の胸に、()()()()を突き立てた。

 吹き飛ばされる巨人。地面を轟音と大量の土煙を起こしながら背中を引きずり、倒れる。

 何とか少年の命令に従い、上体を起こした巨人が、その魂無き瞳に映したのは、鉛色の毛を持つ四足歩行の獣が、変貌した少女に取り付く様に重なっている姿だ。半透明の身体を持つ獣は、少女の手足に連動し、爪を、牙を、巨人に向けて繰り出してくる。

 巨人は人間がする様に下半身を丸め、逆立ちする様にして腕の力で飛び上がり攻撃を回避。空中で体勢を変え、脚で地面に着地する。轟音、土煙、地震と見紛う振動を作り出しながら巨人は剣を振り上げ、猛獣と一体になった少女を斬り伏せようとする。だが、獣の(あぎと)が剣に食らいつきそれを阻止、出来た隙に少女の爪が振るわれ、巨人の身体に鋭い傷を付けた。

 巨人の胸のライオンの目が輝き、その口を大きく開くと、ビーム光線と見紛う火炎放射を放ち、少女と獣を纏めて吹き飛ばす。

 吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた少女は、しかし両手の振り払いで炎を消し去り、まったく衰えぬ戦意で()めつけてくる。

 その眼光に、もはや人としての理性は見受けられなかった。

 

 

 

 ドッダンッ!!

 

「はみゅ………っ!?」

 突然の衝撃に目を覚ました甘楽弥生は、状況が呑み込めず、しばし瞬きを繰り返した。

 次第に目覚めてきた頭で、自分がベットの上から落ちたらしい事を知り、ちょっと恥ずかしそうに頬を染めながらあくびを漏らし、身体を起こす。

「ふあ、あぁ………っ!! ………何してるんだよ?」

 自分の落ちたベットを見て、そこで大の字になって眠っているルームメイトを見つけた少女は、呆れたように言葉を漏らした。どうやらこのルームメイトに寝ぼけて蹴落とされてしまったらしい。

「いつもは寝相良い癖に………ふあぁ………っ! 今何時だろう?」

 弥生は寝ぼけ眼をこすりながら時計を確認。現在朝の八時であった。寝坊である。

「僕のベットに居たのは、鳴り始めた目覚ましを僕が起きる前に止めたからなんだねっ!?」

 あっと言う間に真実に辿り着いた弥生は、大慌てで身支度を始める。洗顔と歯磨きを素早く終え、髪を()かしながら前の学校の制服に着替える。鏡でチェックする暇も惜しんでエプロンを掛けると、炊飯器の蓋を開け、白い湯気を噴き出す御米をしゃもじで掬い取り、慣れた手つきでおにぎりを幾つか握り糊を巻く。手早くお弁当箱に収納すると、急いでルームメイトの元に戻る。

「アンドレッ! ほら、起きてよアンドレッ! 遅刻しちゃうよっ!?」

 ルームメイト、オルガ・アンドリアノフの愛称を呼びながら、彼女はちゃっちゃと着替えさせ、髪を梳かして、身支度を済ませる。

「働きたくなぁ~い………」

「なんでイマスクに来たのさぁ~………っ!」

 オルガの寝ぼけ声に苦笑しながらツッコミをして、弥生はオルガの腕を自分の肩に回して担ぎ、いそいそと玄関を出る。

「今日から実戦試合なんだから、ちゃんとしなよぉ~~?」

「いいよ。私はFクラスだからバトらなくても免除だし」

「その内登校日数で問題視されちゃうよ? 出られる時には出ておかないと!」

 甘楽弥生はルームメイトの面倒を見ながら、誰もいなくなった自室に向かって声を掛ける。

「いってきま~~す!!」

 

 

 01

 

 

 この学園に於いて、CクラスとDクラスの戦い方はとても特徴的であり、A、Bクラスの戦闘は、C、Dクラスの間的な印象を与えると言われている。

 特にCクラスの戦いはとてつもなく短絡的で、解り易い。

 何せこのクラスはバトルマニアの傾向がある者が集まり易いと言われているだけあって、誰一人としてタスクをこなそうとしないのである。

 

 

 

 ガガギィンッ!!

 

 鋼がぶつかる音が鳴り響き、何度目かのぶつかり合いに弾かれ合う二人。

 バトルフィールドは荒野。所々に小さな丘があるくらいで基本的に高低差の無い平地だ。そこらへんに申し訳程度に存在するサボテンは、西部劇に出てくるフィールドを思わせる。

 命じられたタスクは、『このサボテンの中で一つだけ花を咲かせている物があるので、それを先に獲得せよ』っと言う物だったのだ。

 

 ドンッ! ドンッ!

 

 ガガギィンッ!!

 

 互いに地面を蹴り上げ、再び剣激が交差する。

 片方は、金髪に赤目、120~130㎝位の小学生のような身長にズタズタに刻んだ学ランに、これまたズタズタのカッターシャツを着込み、齢14歳の少年。右の手にはナイフが、左の手には刃渡り30㎝程の鍔無し直刀。長さの違う刃を巧みに使い分け、対戦相手に斬り込んで行く。

 対するは、長く黒い髪をうなじの辺りで纏めた黒いセーラー服姿の少女。長めのスカートを髪と一緒に翻し、右手一本に携える剣で攻撃を捌いて見せる。そのあどけない顔立ちを無表情にして、フェイト織り交ぜ繰り出される刃を、冷静確実にいなしてみせる。

 少年は黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)。少女は甘楽(つづら)弥生(やよい)

 この二人、試合が始まった瞬間、速攻で『探知再現』で互いを確認し、真直ぐ互いに向けて突っ込み、そのまま戦闘に入ってしまった。タスクなどまったく目もくれず「相手倒せば勝ちでしょ?」っと言いたいかの様な即断即決ぶりだ。

 二人の戦いは大きく分けて二種類の近接戦となっていた。

 一つは互いの制空権内で巧みな刃の対決。最小限の体捌きと、最小限の攻撃で相手を打ち取ろうとする技の応酬戦。

 もう一つは一旦距離を放し、助走を付ける様に走り回り、勢いが付いたところでぶつかり合う騎馬戦の様な体を成していた。

 現状有利なのは畔哉(くろや)。戦闘状況は制空権内での技の応酬戦だ。

「ヒッひ………♪ 弥生ちゃんがんばる~~♪」

 楽しげな声を漏らし、畔哉(くろや)がナイフと剣での斬激の軌道を巧みに変えながら斬り込んで行く。

 弥生は片手に握った剣を最小の勢いで弾き、パリィしていくが、間に合わない場合は両手を使って何とか打点をずらす様に受け流す。

「ほらっ! ほらっ! 受けてるだけじゃ勝負にならない!?」

 挑発する様に―――っと言うより本気で楽しんでいるかのように、畔哉(くろや)笑みを強くする。

 弥生は表情を僅かに「むんっ!」と気合を入れる様に柳眉の端を持ち上げ、速度を上げて対応する。

「そうそう~♪ そう言う感じ~~♪ でも技に対して力を増してるだけじゃ―――」

 途端、何の前触れもなく畔哉(くろや)の手からナイフが放り投げられる。顔面に迫るナイフに気付き、弥生は『直感』を頼りに首の動きで回避。同時に迫ってきた剣を柄と鍔の間で何とか受け流す。

 ―――突如左眼目がけ何かが迫ってくる。

「………っっ!?」

 

 ババギィィィン………ッ!!

 

 鋼の打ち鳴らす音が鳴り響き、弥生に迫っていた何かは二本目(、、、)の剣の(しのぎ)(剣の腹の部分)に受け止められた。

「るぅふ………っ♪ O~~~K~~~♪ これだから戦いは楽しいよねぇ~~♪」

 弥生は胸の生徒手帳から咄嗟に取り出した二本目の剣で弾き返し、畔哉(くろや)が放ってきた三つ目の攻撃の正体を確認する。畔哉(くろや)の右手に、捨てられたナイフの代わりに、千枚通しの様な針が握られていた。先端の尖った短い杖の様なそれは、突き技専用の武器であり、その短さから考えるに暗器の類でもある様だ。

 いつの間に持ち変えたのか判別が付かなかったが、恐らくは学ランの内側に生徒手帳を収納していて、そこから取り出したのだろう。()()()()()()()()

「これでやっと、君の本気が確認できるかなぁ~~♪」

 心底楽しそうに笑いながら、畔哉(くろや)は二本の剣を左右に携えた弥生を見据える。

 弥生の表情は変わらず冷静な無表情………だが、瞳の奥が何か怪しくギラ付いているように見える。

「じゃあ、今度はどんな感じ―――」

 畔哉(くろや)が試す様に前に出ようとし―――その瞬間に踏み込んだ弥生の瞳が至近から覗き込む。

 バババッ!! っと、風切り音が乱舞する勢いで左右から繰り出される連続の剣撃。あわやと言うところで何とか受け止める畔哉(くろや)だが、剣激の乱舞が収まらない。至近距離から次々と繰り出される刃の嵐に畔哉(くろや)の表情が驚愕に彩られる。

「いっ、けぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」

 グッ! と一瞬溜められた刃が、交差する様に同時に切り払われる。

 バギィィンッッ!!! っと言う重い金属音が木霊し、畔哉(くろや)の身体が吹き飛ばされる。

 防御はした。だが、その手に持つ武器は、攻撃の猛威に耐えきれず粉々に砕け散っていた。

 地に着地する畔哉(くろや)。弥生はゆっくりと残心を崩し、剣を下げた状態で畔哉(くろや)を見据える。

「ふふん………っ♪」

 小さく、だが心底嬉しそうな笑みが鼻から漏れた。まるで悪戯に成功した子供の様で、どこまでもあどけない。

 弾き飛ばされた畔哉(くろや)は、ゆっくりと事態を認識し、クツクツと笑いが漏れ始めた。

「ヒッひ………っ♪ そうそうっ! こう言うのじゃなくちゃでしょ!? やっぱり戦いはこう言うのじゃなくちゃねぇ~~~!? 一方的な斬殺も! 命を掛けた刹那の衝動も! 実力拮抗者とやり合う永遠の快感には敵わないっっ!! うん! 本気で一方的斬殺は無しっ! アレは本当に酷いっ!!」

「なんでそこだけ強調してるんだよぅ~?」

 弥生のツッコミにしては弱い疑問などどこ吹く風で、畔哉(くろや)ははしゃぎ回る子供の様に飛び跳ね―――いつの間にか両手にしていたノコギリと釘抜きをそれぞれ構える。

「それじゃあ、ここからが本気の本気っ!! 最後まで付き合ってくれるよねぇっ!?」

 楽しげに語りかけてくる畔哉(くろや)

 弥生は彼が構えた武器にドン引きしながら、両手を腰に添えて呆れた溜息を吐く。

「はあぁ………。………こう言う状況なのに『楽しいなぁ~~』っとか思っちゃう自分はやっぱり異常なんじゃないのかなぁ~?」

 表情を改める。両手の中で剣を一、二度回転させ………構える。真剣な瞳が畔哉(くろや)を見据える。

「るぅふ………っ♪」

 嬉しそうな笑いを漏らし―――瞬時飛び出す。

 互いの距離を一気に詰め、騎馬戦の如き激突交差。

 畔哉(くろや)の釘抜きが叩き落とされ地面に転がり折れ曲がる。

 交差した二人はそのまま走り抜け、Uターンして勢い殺さず再び激突交差。

 

 バボギンッ!!

 

 金属がぶつかった様には聞こえない音が鳴り響き、畔哉(くろや)のノコギリが粉砕されて宙を舞う。

 勢いを付けた激突戦は弥生が圧倒的に有利だった。

 再び交差。

 凄まじい音と共に、畔哉(くろや)が取り出したであろう突撃槍が粉砕され―――宙を回転する弥生が地面を削る様に着地しながら走り抜ける。その肩には僅かに赤い軌跡が滲んでいる。

(速度、上がってる………? それ以上に斬激が鋭くなってる?)

 弥生が気付いた通り、これが畔哉(くろや)の能力『切伐無死(きりきりむし)』の『無死刺(むしさ)され』と派生能力『煌羅魏(こおろぎ)』による『徒火破涅(とびはね)』の効果だ。

 『無死刺(むしさ)され』は彼のテンションが向上される毎に“斬る”力と“刺す”力が強化され、『徒火破涅(とびはね)』は走り続ける事で速度が上昇していくスキルだ。

 二つの能力が連動し、畔哉(くろや)の力を時間と共に強化していき、最終的には誰にも止める事の無い力に辿り着く。

 そして今の畔哉(くろや)のテンションは―――

「さあっ! 行くよ弥生ちゃん!? 切って裂いて千切って抉って喰らって潰して壊して破いて砕いて蹴って殴って踏んで歪めて抱き締めてあげるよーーーーーーーッ!」

 挟み、ナイフ、直剣、ひゃっとこ、ノコギリ、彫刻刀、手裏剣、金槌と、指に挟めるだけの武器を大量に構え、MAXテンションで迫る。

「………むぅ」

 この時、能力を理解した弥生の表情が、不満気に歪められた。

 真直ぐ弥生に向けて直進してくる畔哉(くろや)。手に持つ武器がどう言う指の使い方をしているのか、全てをくるくると回しながら突き進む。それに対する弥生は、迎え撃つが如く正面から踊り掛る。

 騎馬戦の如き衝突戦が再開される。

 交差する度響く金音。地面に叩きつけられる畔哉の工具(武器)。そして軽く弾き飛ばされ宙を回る弥生。

 地面に着地する勢いを殺さず走り抜け、再びUターンして二人は正面から交差する。

 叩きつけられる畔哉の武器。跳ね飛ばされる弥生。衝突戦に於いても、畔哉は自分の優位性を主張するかの如く、何度も弥生を跳ねのけていた。

「ヒッ、ひ………?」

 しかし気付く………。

 交差する度、弥生は跳ね飛ばされ宙を回る。時には赤い軌跡の線を奔らせながら、彼女は何度もぶつかってくる。これは変わらない。だがおかしい。畔哉の取り出した武器が、交差を繰り返す度に二つ、三つ、四つと、数を増やし始めている。

 もちろん弾かれた数だけ生徒手帳から武器は補充している。だが交差を繰り返す度にその手に持つ武器が一度に幾つも削られ、畔哉は弥生に何かが起こっているのを感じ取り―――交差後すぐ、背後に弥生の気配が迫っていた。

「ひょわっ!?」

 思わず意味の無い悲鳴を漏らし振り返った彼の目に、弥生が二本の剣を右手側に思いっきり振り被っている姿が映り込む。

「ベルセルク第三章………!」

 ギュギュン………ッ! っと音が聞こえてきそうな勢いで振り抜かれる二つの刃。独楽が回転するが如く、その剣は畔哉へと迫る。

 『直感』の警報を聞き付け、慌ててガードの体勢に入る畔哉に、振り抜かれた刃は、ついに猛威を振るう。

「『破城鉄槌』ッ!!!」

 粉砕した。

 畔哉のガードに使った武器は一瞬で欠片へと変わる。まるで小さな積木で作られた御城が、子供の体当たりで壊される様に、武器だった者達はあっさり崩れ去り、放たれた衝撃が畔哉の腹に叩きつけられる。

 

 バボゴンッッッッ!!!

 

 衝撃が腹に伝わった頃、ようやっと音が追い付き、爆音が周囲に迸り―――一瞬後、畔哉は衝撃に突き飛ばされ、軽く一〇〇m程後方へと吹き飛ばされていった。

 地面を何度も転がり、土塗れになりながら、叩きつけられる大地に傷を増やし、ようやく勢いが収まり地面にうつ伏せになった時には、衝撃で全身が痺れ上がり、まったく動けない状態になっていた。

『甘楽弥生獲得ポイント46』

 視界の端に表示されたイマジンによる情報をぼうっと見つめ、畔哉はしばし放心していた。が、事態を理解するにつれ、次第にそれは笑みへと変わり始める。

「るぅ、ふふ………♪ 猛姫(たけひめ)様の言った通りだ………! やっぱ戦闘は楽しいや………!」

 畔哉の脳裏に、己がこの学園にやってきた理由となった出来事が思い起される。

 

 

 嘗て、畔哉は殺し屋の家系にあり、仕事で人を殺していた経験を持っていた。

 っとは言え、今時殺し屋が日本で優遇されている訳ではなく、精々恨みを持った一般人が、偶然手に入れた連絡手段で依頼を受ける事があるくらいだった。

 しかし、ある日、畔哉の家に大きな仕事が舞い込んできた。依頼人は何処かの国のお偉いさんだったらしく、気前の良い事に前金が既に送られてきていた。ただし、難易度はZランク指定。不可能と判断されて放棄されたレベルの超難度任務。

 もちろん断る事も出来たが、殺し屋の家系と言うのはどうしても表を堂々と歩く事の出来ない一族だ。こう言った任務を請け負ってこそ、一族の命を繋いでいけると言う物。彼等は手練を多く集め、この任務に当たった。

 畔哉はその中の一人として送られた。

 任務の内容は、この日本の何処かにあると言う『焔山(えんざん)』っと言う名の集落を探し出し、その長、土地神として崇められているとされる女性を暗殺する事。この暗殺対象となった女性の名前は、殺し屋達にとっても聞き覚えのある有名な名であった。

 『焔山』が一体何処にあるのかは全く定かではなかったが、幸いにも京都の付近にあるらしい事を掴む事が出来た。

 周囲を散策し続けた暗殺者達だったが、そのほぼ全員が『焔山』を見つける事が出来なかった。ただ一人の例外を除いて。それが畔哉だった。

 いつの間に迷い込んだのか自分でも解らない内に、畔哉は深い夜の森を歩んでいた。森の奥に一カ所、妖しく光を燈す場所を見つけ彼が駆け寄ると、そこには大きな桜の木が月明かりに花弁を(もゆる)様に輝かせ、世界の中心にでもいるかの様に堂々と屹立していた。

 その木の根元で、一人の女性が幹に凭れかかり、寝こけていた。

 ターゲットだ。

 聞いていた情報より若く見えるが、紅い(ぎょく)のペンダントをしているので間違いない。紅い玉に紐を通しただけの簡素すぎる物など、商品としては何処にも売られているはずがない。手作りにしてももう少し凝ったデザインにしそうな物だ。ターゲットが身につけている物で間違いないだろう。

 他にも柘榴染の赤い羽織りに、明治時代を思わせる和服、紫の紺袴、長い黒髪の端に無造作に結わえられた柘榴柄の髪留めと、ターゲットの情報そのままの特徴が揃っている。これだけ特徴が同じで別人だとしたらそれはそれで出来過ぎている。むしろそこまで似せた何者かを賞賛していただろう。

(殺せる………っ!)

 殺し屋の一族に生まれ、殺す事が何よりの娯楽だと感じていた畔哉。ターゲットを見つけ己が欲求を満たせると解り、歓喜に胸が躍る。

 背後に周り、木の上に昇る。ターゲットの頭上を素早く取ると、彼は懐に隠していたナイフを取り出し、頃合いを見計らって飛び掛かった。

 

「………芸の無い」

 

 飽きれとも言える声が畔哉の鼓膜を震わせた刹那、彼の意識は暗転した。

 次に意識が戻った時、彼はターゲットに踏みつけられ地面に突っ伏していた。

「………。殺す時に笑っていたな? 殺し合いは好きか?」

 見下ろすターゲットの目は、死んだ魚の様で、まるで生者としての気迫が感じられない。畔哉に掛けたはずの言葉も、色々面倒な手順をすっ飛ばして簡潔すぎて意味が汲み取れない様な発言だった。

「? 命が消えるのって楽しいでしょ? それに、時々強敵に会うと、命のやり取りをギリギリで出来る緊張感が堪らないんだよ?」

 踏みつけられている畔哉が、異常者としての顔を覗かせ、笑い掛ける。

 ターゲットは自分から聞いておいてまるで興味がないと言わんばかりの態度で―――、

「取り違えタイプかよ………。うぜぇ………。おいっ、命を弄ぶのが本当に楽しいかどうか試してやる? 疲れるから適当なところで悟ってくれよ? その方が早く殺せる」

 そんな事を言われた後、畔哉はターゲットに一生のトラウマモノを味わされる事となった。

 

 

「ああ~~~~っっ!!? ごめんなさいごめんなさいっ!! 許して下さい猛姫様~~~っっ!? 違うんです違うんですっ! もう充分悟りましたから!? お願いですから人の体で水切りが何回出来るか試すのは止めてぇ~~~~っっ!!!?」

「えっ!? な、なな、なに………っ!?」

 いきなり頭を抱えて一人で絶叫し始めた畔哉に、弥生は驚き五歩くらい後ずさった。

 対して畔哉は弥生に片手で制する様にして叫ぶ。

「落ちつけっ!! 感謝の念を思い出そうとしてうっかりトラウマ思い出しちゃっただけだっっ!!! 俺はしっかり混乱している~~~っっ!?」

「メッチャ攻撃のチャンスだって言われてる気分なんですが………? あ、そうか? すれば良いのか?」

 弥生の攻撃。

 畔哉はまともに受けた。5ポイント取られた。

「なにをする~~~~~~~っっっっ!?」

「うわああぁぁぁ~~~~っっっ!? 正気に戻って反撃してきた~~~~っっ!?」

 飛び掛かる様にして鉤爪で攻撃してきた畔哉を、弥生は交差した剣で受け止め弾き返す。

 弾かれた畔哉が着地する瞬間を狙い、二本の剣で風車の如く回る様にして横薙ぎの一撃を放つ。

 畔哉はナイフを取り出し、刃を逸らす様にして受け止め回避。着地と同時に左右にフェイントを掛けながら移動する。弥生が対応しようとした瞬間を狙い横合いから懐に入り込もうとする。ガラ空きになっている脇目がけ刃を突き出そうとして―――脇から別の刃が突き出されてきた。

「おっと………!」

 自分の腕の間を通す様にもう片方の剣を突き出してきた弥生。

 畔哉は切っ先をバックステップで躱し、その刃が戻るのに合わせ再度接近。

「やあっ!!」

「あっぶなっ!?」

 剣のリーチでは対応できないと判断した弥生は、瞬時に膝を跳ね上げ、畔哉の顎を狙う。ギリギリ両手で受け止め後方に退がる畔哉。

「るぅっふ、ふ………♪ やっぱ楽しいよねぇ♪ 殺し合いだと“殺したら終わり”だけど、殺さなければいつまでだって戦っていられる………! これほど最高な事はないよねぇ~~~~~っ♪」

 二人は互いの側面を取ろうとするかのように移動しながら斬り合っているので、まるで戦いながら踊っているかのようにくるくると舞う。

 畔哉が弥生の右を取れば、弥生はその攻撃を牽制しつつ、畔哉の右側に更に回り込もうとする。それを制しつつ畔哉は更に右側へと回り込もうとする。

 互いが互いの周囲をくるくる回り、次第にその速度が増していく。

 動きは単調な物になり始めていたが、その分互いの速度は尋常ならざる物へと昇華されつつあった。そのため一瞬のミス一つで致命的な一撃を貰ってしまいかねない。単調な動き故に誤魔化しが効かず、手を変える事が出来なくなっていく。

 ―――っと、不意に畔哉の右腕に赤い軌跡が短く奔った。

 畔哉の腕が僅かに斬られたのだ。

 僅かに速度で後れを取ったのかと思い、畔哉は更に速度を上げるが、今度は脇腹に短く軌跡が奔る。

(なんだ………?)

 疑問を浮かべてる内に傷口がまた二カ所も増えていく。畔哉がどんなに速度を上げようとしても、弥生の剣は切っ先ギリギリで畔哉の身体を捉えてくる。一体何が起こっているのか瞬時には解らず―――だが、イマジネーターとしての思考能力が彼の考察を手助けし、致命傷を受ける前にその事実に気付かせてくれる。

(速度じゃねえっ!? 技術かっ!?)

 それは単純な速度によって斬る攻撃ではなかった。とても繊細な剣術における攻防一体の妙技だった。

 畔哉の攻撃を受ける時、畔哉に向けて攻撃する時、弥生は刃の寝かせ具合や手首の僅かな返しでギリギリ切っ先が畔哉に届く様に剣の軌道を調整していた。

(さっきまではこんな繊細な技は出来ていなかったはずだ? もっと力と速度に任せたゴリ押しが、ここまで繊細な軌道を描けるようになるなんて………? つまりこれが弥生ちゃんの能力って事か)

 畔哉は理解した。

 弥生の持つ『ベルセルク』の能力は、畔哉と同じ、戦いのテンションに呼応して強化されていく。それも畔哉の『無死刺(むしさ)され』や『徒火破涅(とびはね)』の様に攻撃や速度だけでなく、技術までも習得する様になっているらしい。

(だが、それだと能力は強化限定で、物理法則に逆らう様な攻撃は出来ないんだろうな? ああ、俺も同じだったぁ~♪ るぅふ~♪)

 心中、弥生に共感めいた物を感じて笑みを漏らす畔哉だが、次の瞬間には真面目な表情へと変貌し、その目は気に入らない物を見つけた様に敵意の色をギラ付かせていた。

「………。そう言うのは俺の能力の方が強い」

 憮然とした表情で、畔哉は先程の弥生と同じような事を言い出した。

 イマジネーターはその想像力によって能力を決定できる。それ故、能力には個体差が生まれ、パーソナリティーの強い感情を抱く。だが、それは同時に、自分達の能力に強い執着を抱かせると言う事でもあり、その領域とも言える場所に踏み入ろうとする者がいれば、敵対心にも等しい対抗意識が芽生える。これはイマジネーター全員に言える、常識的傾向だ。

「負けない………っ!」

「俺が勝つよ♪」

 弥生と畔哉、互いに互いを睨みつけ、全身全霊のぶつかり合う。二人が衝突した衝撃で、近くのサボテンに咲いていた花が一輪、天高く打ち上げられた。

 入り乱れる金属音。超高速で撃ちだされる二人の剣撃斬激が、猛攻となって激突し合う。連続で繰り出される刃と刃。武装の耐久限界を軽く超え、猛攻の最中に幾多の破片が飛び散っていく。

 ノコギリと手斧を砕かれた畔哉が、生徒手帳からクナイと鎌を取り出し猛攻を続ける。

 二本の剣を砕かれた弥生も生徒手帳を二回タップ。弾き出された二本の剣をキャッチして猛攻を止めない。

 一瞬の間断(かんだん)も無く、二人の連撃が幾多も重なっていき、衝撃波が周囲に掛け巡っていく。二人は手だけでなく脚も動かし、互いの制空権すらも競い合っている。時には大きく移動し、時には長らく一カ所に止まり、かと思えば縦横無尽にフィールド中を掛け巡っていく。その間、二人が離れる事は無く、刹那の隙すら逃すまいと攻める手を止めない。互いが持つ能力が、底無しに互いの力を底上げし、隙となり得る瞬間を一切晒さない。

 永遠に続いてしまうのではないかと思われたこの勝負、その一瞬は経験の差となって現れた。

 ズルリ……ッ! っと、弥生の脚が砂に取られ、僅かに滑った。砂地での慣れない戦い。おまけに猛攻を掛けあうと言うバランスの取り難い状況に『ベルセルク』の技術保持では対応しきれない部分が僅かに現れた。

 その刹那に等しい隙に、畔哉は一瞬で潜り込んだ。

 高速戦闘を演じていた弥生の目にさえ、畔哉は消えた様に映り、一瞬後には背後に回り込み、その手に持つナイフで切り掛って来ていた。

 弥生の脳裏に『直感』が発動し、それに合わせ『ベルセルク』が能力を緊急上昇させる。だが間に合わない。それより早く、畔哉のナイフが背中に突き刺さる。

(殺しはしないよ! いくら蘇生可能でもね! そう言うのはもう止めたし、刻印名の効果で出来ないしね♪)

 思考が加速し、スローになる視界。弥生は眼を見開き、迫りくる刃を肩越しに見ていた。

(届け………っ!)

 背中の中心、心臓の位置からやや外れた位置を狙われているのが解ったが、刺されば確実に致命傷。ポイント的にも敗北は間逃れない筈だ。

 故に弥生は必死に念じ、思考を掛け巡らせる。

(届け………っ!!)

 最短ルートで振るえる右の剣を振り返りざまに斬り返そうと必死に動かす。だがこれでは圧倒的に間に合わない。残り距離は15㎝。

(届け………っ!!)

 『ベルセルク』の能力で身体能力を強化。各関節の円滑な動作。神経伝達速度の向上。それでも弥生の剣は圧倒的に届かない。残り11㎝。

(届け………っ!!)

 『強化再現』により、身体能力を向上させ、脚先から腰の捻り、肩までも連動して転身しようとするが、それでも剣は遠い。残り8㎝。

(届け………っっっ!!!)

 目を一杯に見開き、全神経をこの一瞬に注ぎ込む。物理法則に抗わんと全身全霊で剣を振るう! それでも―――、それでも剣は圧倒的に遅く、遠く、届かない。残り………3㎝。

 

(と・ど・けーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!!!!!)

 

 心の咆哮。歯を食い縛って握った剣が、刹那に青い輝きを帯びる。

 

 ヒュパンッ! ギ、ギギィンッ!!

 

 奔ったのは青い閃光。上がったのはオレンジ色の火花。起きたのは、弥生の剣が神速の勢いで振るわれ、畔哉のナイフを弾き返した事。

 今度は畔哉が目を見開く。見開いた目で確認しながらすかさず両手のナイフを次々と突き込む。

 

 ヒュパパッ! ………ッパァァンッ!!

 

 畔哉のナイフは悉く、弥生の青い輝きを放つ剣によって弾き返されていく。

 その閃光は速かった。まるで軽い羽でも振り回しているのではないかと見紛う程に、その剣は今までとは比べられない程に速い。その速さは、弥生自身が対応しきれず、勢い余って僅かにつんのめってしまう程だ。

(使いこなせないなら隙が―――!)

 速いだけならいずれボロが出るはずだとナイフの連撃を更に激しくする。

 突如、弥生の剣から青い輝きが失せ、鮮やかなライトグリーンに輝きを変えた。

 今度の剣も速い。だが、青い輝きを放っていた時と違い小回りが利く。斬り返しが早く、手数が多い。先程の青をスピードと例えるなら、緑はラッシュに向いた傾向が見られる。

(なんだこれ? 能力? いや、このイマジンの感じは、能力じゃなくて普通のイマジン基礎技術に思える………? 一体何をしたっ!?)

 驚く畔哉に、弥生は隙を見いだし、一瞬で剣の輝きを今度は赤に変えて一撃を振り抜く。今度は重たい一撃が放たれ、猛攻を仕掛けていた畔哉の攻撃を()き止め、バランスを崩させる。

 右の剣を再び強く握る。鮮やかな青に、アクアブルーに輝く右の剣を、片腕一本で振るい抜く。

 畔哉が対抗しようとナイフを振りかざすが、神速で奔った青い軌跡はV字型に閃き、ほぼ同時に二本のナイフを外側へと押しのけた。

「はああぁぁぁぁっ!」

 スパァァンッ!! 舞う様な動きで、弥生の剣が畔哉の胸に横一文字の傷痕を作った。

 あまりに鮮やかに切り裂かれ、慣れているはずの鋭い痛みに、思わず胸を押さえて身体を強張らせてしまう。すぐに我に返った彼は、二本のナイフで迫りくるであろう攻撃を迎撃しようとする。

 彼の眼前には、既に残心を終え、緩やかに二刀の剣を構える少女の姿があった。

「………いくよっ」

 一言、宣言した次の瞬間に、弥生の二刀の剣が同時に青い輝きを放ち、左右から神速の剣激を繰り出される。全てで五つの青い軌跡が奔り、一瞬で畔哉の身体を鮮血色に染め上げた。

 ゆっくりと膝を付いた畔哉は、そのまま何の抵抗も無く地面に倒れ伏した。

 ほぼ同時に、宙に待っていたサボテンの花が、弥生の腕に落ち、そのまま引っかかる。

「い、一体、今何したの………?」

 倒れた状態のまま、畔哉は弥生を見上げて問いかける。

 弥生も、二刀の剣を背中の鞘に収め、苦笑い気味に答える。

「ん~~~………? 何したんだろう? たぶん『強化再現』? なんか、出来ちゃったとしか言いようがなくて………? でも、能力で発動させたわけじゃないよ? 僕の能力って基本常時発動型でオートだから、あんな事出来ない筈だし?」

「はあ………? なんとなくとかで出来ちゃうわけだ………?」

 呆れた畔哉は寝返りを打って仰向けになると、溜息交じりに空を眺めた。

「あ~あ、これでも家柄的に戦闘には自信があったんだけどなぁ~~? そんじょそこらの素人相手なら絶対負けないと思ってたのに………」

「? ………ああ、だから能力オートの割に向上効果が弱いと思った」

「?」

 弥生が得心したと言う様な声を上げたので、畔哉は視線だけで疑問を表わし尋ねた。弥生は微笑みを浮かべると思い出す様にして説明する。

「僕、元イマジン塾の塾生でね? そこでは此処まで激しい戦闘なんてなくて、僕も運良く一回経験しただけだったんだけど………、その時、塾講師の人に言われたんだよ? 『イマジンはイメージを媒介とする力だ。だから強くなりたいなら現実(リアリティー)より理想(イマジネーション)を優先しろ』ってさ? 現実的なイメージは、“現実的”っと言う枠組みに止まってしまうから、想像の再現化をするイマジンには、余計な枷になるんだって? ………畔哉が僕と同じタイプの能力なのに、僕より能力向上速度が遅い風に思えたんだけど、たぶん、その経験(リアリティー)が邪魔になっちゃったんじゃないのかな?」

「………」

 畔哉は思いだす。

 嘗て自分が殺し損ねた、恩人にして師であった者の言葉を―――、

 

 

「人間って水の上を歩けるのか試してみるか? ………暇だし」

「待って猛姫様~~~~っっ!? 僕の身体を投げて実験しても、それは『水切り』であって、水上歩行と言うのとは違うと思うんです~~~~っっっ!!?」

 山の河原で、簀巻きにされて今にも投げられそうになっていた畔哉は、投げようとしている明治時代風の振袖に袴姿の女性に、必死の嘆願を願う。

「いや、暇だから」

「そんな理由で弄ばれるのはイヤ~~~~~~っっっ!?」

「え? だって、お前人間じゃん?」

「人間なんだと思ってるのっ!?」

「………? 人間だろ?」

(ダメだっ!? ゴミ屑未満の何かを見る様な目だ………っ!?)

 彼女に敗北してから幾日、一方的な暴力による『生死の快楽』の消失をさせられ、死と言う概念にすっかり恐怖を覚えた。その後で殺されそうになる悲惨な場面で、この女性の息子が現れ、なんとか宥めてもらい生き残ったまでは良かったのだが、それから彼女の戯れ解消として飼われる事となり、この様な毎日を日常茶飯事に受ける事となっていた。

「水切りがダメなら、絶対に滑らない話でもしてみろ? 絶対笑わないから。あと面白くなかったら、お前罰ゲームで切腹の実演な? 刃物は人間に使うと勿体無いから………、これで良いや?」

 猛姫と呼ばれた女性はその辺からヤゴを捕まえ、差し出して見せる。

「笑わないのに滑らない話しろとか、罰ゲーム前提の要求された上に、罰ゲームが腹切とか難易度どんだけっ!? そして刃物も使わせてくれない上にヤゴでどうやって腹切実演!? ツッコミどころが多過ぎて対応しきれないよねぇ~~!?」

「ヤゴに失礼な事を言うな。ヤゴは人間より偉い種族なんだぞ?」

「人間一体何処まで下等生物っ!?」

「え? だって人間じゃん?」

(下等生物としてすら見てもらっていない目っ!?)

 恐れから息を飲んでしまった畔哉は、二の句がつげなくなってしまう。猛姫は青い顔で黙ってしまった畔哉をしばらく見つめると―――、

「飽きたな」

 一言告げて、畔哉を適当に投げ捨てた。

 簀巻きのまま、結構高い場所から、水の無い場所目がけ―――。

「―――――――ッッッ!?」

 声にならない悲鳴を上げ、あわや地面に激突と言う瞬間、どこかから飛んできた戦扇が、その先端の鋭い刃にて紐を切り裂き、畔哉を自由にした。空中で身を捻り、なんとか受け身を取って地面に激突した畔哉は、かなり痛いだけで怪我をせずに済んだ。

 戦扇はくるくると回転し、投げた主の元へとブーメランの様に戻って行く。それをキャッチした一人の少年が、溜息交じりに声を上げる。

「猛姫! あんまりクロくん苛めるもんじゃないよ?」

「え? だって人間じゃん?」

「それいいよ。もう良いよその定番ネタ」

 うんざりした様子の少年は、現代風の服装に千早に似た羽織りをきていた。此処、『焔山』ではさして珍しくもない恰好だったらしいが、生憎畔哉は『焔山』の村まで見に行けた事はない。

 畔哉は慌てた様子で起き上ると、その少年の背中に縋りついた。こうしていないと猛姫は気まぐれで畔哉の命を本気で奪いかねないので、畔哉としても大真面目に必死だった。少年の方もそれを理解しているので、苦笑い気味に畔哉を宥めてくれる。

「って言うかそれはもうマジで飽きた………。捨てるのも勿体無いから山の肥料にしようかと?」

「時々、猛姫の発想がリアルに怖い………」

 ちょっと笑えない目で猛姫を見つめながら、少年は乾いた声で笑う。背中に隠れる畔哉も、こくこくと何度も頷く。

 まったく、この少年が、目の前の女性と血の繋がった親子とはとても思えなかった。それなりに長い間、この二人の傍にいた畔哉だが、この二人は母と息子と言う雰囲気をまったく醸し出していない。どちらかと言うと意思疎通が出来るだけのまったく別の生き物が、互いの信頼だけで接しているかのような、そんな違和感すら感じさせる。

「でもクロくん殺すのは止めようよ? 可哀想とかいう問題じゃなくて、もう………、本気で居た堪れないんで………」

 怯えきった目で見上げている畔哉を見て、良心を激しく揺さぶられているらしい少年の発言に、しかし猛姫は全く関心が無い様子だった。

「じゃあ、どうするんだ? 正直、このまま帰すのは納得いかねえ」

「ん~~~………? そうだなぁ~~? ………あ、じゃあイマスクに送ってあげるのはどう? 猛姫の母校でしょ?」

「ああ、それは良いな。あそこならここと同じくらい酷い目に遭いそうだ」

「理由がかなり悪どいよ………」

 彼女が在学中は確かに酷かったらしいが、今ではそこまでではない事を知っている少年だったが、それを口にはしないでおいた。畔哉のためにも。

「じゃあ、そいつをギガフロートに捨てて来い。お前が言い出したんだからお前がやれよ?」

「解ったよ」

 苦笑いしながら、少年は畔哉の頭を撫でてやった。

 こんなとんでもない恩師であったが、彼女は畔哉が旅立つ前に一つだけ教えてくれた。

畔公(くろこう)? あそこで戦うときのコツを教えてやる。今までの経験には頼るな。お前のやる事は常に一つだ。“ただ己は理想で在れ”」

 その一言の意味を、畔哉は意外と早く知る事となった。

 

 

「………解ったよ。猛姫様。………そう言う事なんだね♪」

 畔哉は上体を起こし、ゆらりとした動作で立ち上がる。弥生は警戒して右手を背中の剣へと伸ばす。

「つまり、“こう言う事なわけだ”?」

 畔哉は想像した。今までの経験から培われた暗殺者としての在り方の全てを忘れ、ただ眼前の敵を倒す理想的な自分の姿を空想する。

 切って、裂いて、千切って、抉って、喰らって、潰して、壊して、破いて、砕いて、蹴って、殴って、踏んで、歪めて、最後は戦いの中から友情を見いだし抱き締め合う。それが彼の理想とする戦いの果て―――。

 

 突如、畔哉の全身から赤いオーラが立ち上り始めた。

 

 それはただのイマジンによる『強化再現』であったが、先程とは密度がまるで違う。それは能力で強化されたのではないかと言う程に、濃密な気配を醸し出し、眼前に控える弥生を威圧していた。

 イマジンは正しい意思を持って、正しい運用をすれば、与える力に制限を有さない。畔哉は弥生の言葉と、嘗て恩師から聞かされた言葉により、ついにイマジンの正しい使い方を悟ったのだ。

「んじゃあ? こっからが本番で良い? ヒッひ♪」

「………! ん、じゃあ、本気でやろうか―――っ!!」

 畔哉の威圧に促され、弥生の全身からも鉛色のオーラが僅かに滲み始める。畔哉に対応しようと『ベルセルク』が弥生の能力運用技術を一時的に向上させたのだ。敵が強くなればそれに合わせて強さを与え、何処までも戦わせる。それが弥生の持つ『ベルセルク』の特性。

「るぅっふっ♪ じゃあ、最後に抱きしめてあげる所まで………! いっくよぉ~~~~♪」

「セクハラはお断りで! でも、どこまでだって付き合うよっ!!」

 畔哉のテンションが急上昇し、促される様に弥生も高揚していく。

 二人の戦意が、今正に最高潮に達し、互いに笑みが漏れる。

 同時に飛び出し、二人は今日何度目かの激突を迎え―――!!

 

「よぉし、お前ら歯食い縛れ?(怒」

 

 ドガツンッ!! っと言うとても人の頭を殴ったとは思えない鈍い音が鳴り、弥生と畔哉は頭部を殴打されて地面に顔面から叩き付けられた。

「はっはっはっはっ♪ さっきからポイント&タスククリアで甘楽弥生の勝利を宣言してやってるのに? 教師無視して試合続行とか何考えてんだ? しまいにはお前ら酷い事しちゃうぞ?(怒怒怒」

 細い金属製のフレームの眼鏡を掛け、外ハネした白髪、細い目、体の線は細く、目元に刻まれた皺、額に青筋を立てながらも絶やされる事の無い笑みを浮かべているのは、イマスク数学担当教師、名を折部(おりべ)夏流(なつる)っと言った。

 彼は、二人が試合外戦闘を行おうとしたので仲裁の意味を込めて、二人の後頭部を強打。纏めて地面への熱い口付け講座を披露した次第だ。

「二人ともさっさと傷の応急処置をしてアリーナから出ろ? 俺はお前らの担当になっただけでイライラしてるんだ? なんで学園に娘がいるのに、そこの担当じゃないんだよ!?」

 砂から床に変わった白い空間の中で、弥生と畔哉は互いに頭を抱えながら苦しげに抗議する。

「そ、そんなぁ~~!? 今やっとなんか掴めたっぽいのにぃ~~~!?」

「せっかく盛り上がってたのにっ!?」

「うるさい。Cクラス連中は毎度戦闘馬鹿ばっかだな。ともかくさっさと部屋から出て着替えて帰宅しろ!」

「せ、せめて『決闘』でさっきの続きを―――!」

「おおっ! それだっ!」

「クラス内交流戦の三日間は『決闘システム』の使用禁止中だ。それより早く傷の治療をしなさい!」

「「そ、そんなぁ~!? 不完全燃焼だ~~~~!?」」

 二人は勝敗など関係無しに悲しげな声を上げる。

 Cクラスに於いて、こんな最後になるのは毎度珍しくない光景だった。

 

 

 02

 

 

 基本的にCクラスの人間は本質的にバトルマニアな傾向がある。先程の二人、畔哉と弥生もその例外ではない。畔哉は解り易い例なら、弥生もまた“らしい”例である。彼等は心の奥で“戦いたい”と言う想いを強く抱いている者で、そう言う人間だからこそ、戦闘能力に最も長けていると判断されているCクラスに配属されているのだ。

 誤解無き様に補足しておくが『戦闘力が高い』=『勝利する』ではないので、AクラスやBクラスが、実はCクラスより劣っていると言う意味ではない。その解り易い例として、各クラスの勝利の仕方にある。Cクラスが戦闘優先で勝利するやり方なら、Bクラスはタスクを優先して勝利する。敵を倒して勝利するのか、ルールにより勝利を優先するのか、その違いが時にして本当の意味で勝敗を分ける事に繋がる。もし戦闘を禁止されたタスク勝負のみなら、Cクラスは圧倒的不利に立たされ、実力の半分も出せずに終わってしまう事だろう。戦闘力だけでは手に入らない領域。つまりは総合的な能力値を求められたのがA、Bクラスと言う事になる。

 さて、そんな戦闘特化のCクラスだが、だからと言って誰もが畔哉VS弥生の様にぶつかり合うのかと言えば、そう言うわけではない。これは例外的な意味ではなく、単に個人差の問題である。そう例えば―――、

 

 本多(ほんだ)正勝(まさかつ)VS前田(まえだ)慶太(けいた)っと言う、この名前だけ見たら、戦国時代の武将をモデルにしたVSゲームか何かではないかと勘違いしそうな対戦カードだが、その内容は少々期待を裏切る形になってしまうかもしれない。

 バトルのフィールドとして用意されたエリアは、なんと天空闘技場だった。長さ30mの四角い石造りのフィールド。回りをぐるりと囲む観覧席。その外側は高さ数百メートルはありそうな天空となっていた。っと言っても下の方を見下ろせば、点々と家が見え、まるで東京タワーに闘技場を作った様な風景が広がっているし、アリーナの戦闘フィールドは1㎞四方とされているので、何も闘技場での戦いに拘る必要はない。タスクのルールが『闘技場から飛び降り、無事に地上に着地せよ』っと言うものだと言う事を除けば、割と簡単な内容とも言える。

 普通のイマジネーターなら、自分達の能力を使い、落下のダメージを吸収する事も、むしろ飛行して楽々クリアする事も、頭を使えばワイヤーなどでバンジー風に飛び降りてから、再び戻って階段からゆっくり下りると言うのも反則ではない。A、Bクラスとしては、如何に早く、かつ安全に着地するかが肝だと言いそうな内容である。

 そんなタスクがあるにも拘らず、今回の二人、正勝と慶太も、互いと戦う事しか考えていなかった。むしろ闘技場に出た時点でタスクなど忘れ去っていた程だ。にも拘らず、戦況はと言うと―――、

「ちょーちょーちょー!? 御宅いつまで逃げてるつもり~~~!? いい加減まともにやり合わない~~!?」

「ひっ、ヒィ~~~っ!? だ、だって怖いでしょう普通っ!? なんでこの学園の奴等は刃物を人に向けて振り回す事に抵抗ないんだよぅ~~~!? 危ないだろっ!?」

 慶太の振るう槍を、同じデザイン違いの槍で必死に受けながら逃げ腰になっている正勝。二人の武器は同じ槍だが、正勝の物は装飾の一切無い、和風の無骨な槍なのに対し、慶太の使う槍は、西洋風の装飾が施され、太い矛先は先端部分が二つに分かれていて、斬る、突く、そして絡め取ると言う三つの手段が使える様になっている。

 互いに使う武器は同じで、眼前の敵を倒すと言う判断も同じなのだが………、性格の問題上、正勝は少々弱腰になってしまっていた。

「あ~~~んもうっ!? ちょっと真面目に戦ってくんないぃ!? ってか戦う気あ・り・ま・す・か~~~? ねえなら帰れっ!」

「も、もちろん戦う気は―――! あ、やっぱないです。帰らせて………、いや、でもそれはちょっと、さすがに同じ槍使いに負けるとか嫌だし………」

「なら真面目に戦えよ~~~っ!? ワザとか!? 俺を挑発するためにワザとやってんのかぁっ!? むしろそっちの方希望だわぁっ!?」

「あ、ごめんっ!? もう少し待って………! やっぱ本物の刃物で切り合うとかどうしても勇気が―――わああぁ!? お願い本気で待って!? 待ってってば!? あ、痛いっ!? 今少し切ったよっ!? マジでこれは痛いって! シャレになって無いだろ!? 刺さったら死んじゃうってっ!? うわああああんっ!? なんでどいつもこいつも斬り掛ってくる事に躊躇が無いんだよぅ~~~っ!?」

 慶太の持つ能力は『聖槍・ロンギヌスの槍』。その槍には神の善意が宿されているとされ、ロンギヌスと言う神倶としてのイメージも付加された強力な槍だ。

 そして正勝の能力『戦国最強:本多忠勝』による『蜻蛉切』で、彼の持つ槍は信じられない程の切れ味を持つ超重量の長槍とする事が出来る。更には『無傷の槍兵』と言うスキルにより、彼はジーク東郷同様に『不滅の肉体』を有しており、先程から痛がっている割にはまったくダメージを受けていない。

 まともにやり合っていれば見どころのあるカードだったのは間違いなかった事だろうが、………惜しむかな、この二人の戦いは、痺れを切らした教師が「もう日が暮れたから時間切れで良いか?」っと尋ねてきたところで、慶太が渋々奥の手を出して、やっと勝負が付くと言う、とてつもなく不毛な試合になってしまった。

 後に勝利した慶太は正勝へとこう言った。

「いいかっ!? これで決着が付いたとか思うなよっ!? いつかまた絶対勝負して、この決着付けてやるからな!」

「うん、ホントごめんなさい………」

 Cクラスと言っても、こんな風な意味で不完全燃焼に終わる事もしばしばあったりする。

 

 

 03

 

 

 激戦と言う意味では、こちらこそが正しい意味ではあるだろう。

 闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)VS伊吹(いぶき)金剛(こんごう)

 フィールドは荒野。ただし、周囲を崖に囲まれていて、飛行能力か強力な跳躍能力がなければ向こう岸に飛び移れそうにない。だが、実は空中に見えない透明な足場が存在し、そこを足場にすればイマジンの『強化再現』だけでも二歩で向こう岸に渡れるようになっている。タスクは『見鬼』でもガラスほどの透明にしか見えない足場を利用し、向こう側へと渡ると言う物だ。今までの例に漏れず、A、Bクラスなら、対戦相手の邪魔を掻い潜りつつ、如何に自分が先に向こう岸へと渡るかと言う物になっていただろう。しかし、やはり今回も二人は戦闘する事しか頭にない。

 開始早々、二人はタスクの確認だけしてぶつかり合った。

 金剛は片腕を『鬼化』させて互いに拳を交差させた。最初に苦戦を強いられたのは狂介の方だった。片腕とは言え、鬼化した腕は人一人を易々と吹き飛ばせる力を有している。『強化再現』が誰にでもできる技術とは言え、とても能力に対応できる物ではない。あっと言う間にポイントを半分取られ、大ピンチに陥ったのだが………。異変は突然起こった。自分と金剛のポイントを確認した狂介は、実に嫌そうに舌打ちをして拳を握り直した。

「チッ………。さすがにこの鬼相手に素手で殴り合うのは不利過ぎるかよっ? 殴り合うのは実に良いが、その腕に防御されるとダメージが通らねえって言うのは反則くせぇ………」

「ふんっ、まあそう言うな? これでも一度負けている身なんでなぁ? どうしても勝ちたくて仕方ねえんだ。まあ、確かに………、殴り合いにならねえのは俺としてもつまらなくはあるがよぅ~? ………どうだ? そろそろ出す気になったんだろう? お前の能力をよぉ?」

「ああそうだよ………! くそっ、普通の殴り合いが出来ねえと解った時点で負けた気分だが………、勝負に負けたなら、せめて試合には勝たせてもらうぜ!」

 拳を握った狂介。そのまま前に出て拳を突き出す。

 何の変哲もない拳に訝しく思いながらも、金剛は鬼化していない左手で受け止め、カウンターの右を返そうとする。―――が、左手が拳を受け止めた瞬間、ありえない程の激痛が手の平に広がり、思わず身体を強張らせてしまう。その隙に連続で拳を放ってくる狂介。金剛は狂介の拳をまともに数発、懐に受け止めてしまい、身体に走った痛みに苦悶の表情を浮かべる。

「がああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 痛みに意識を持っていかれそうになりながら、遮二無二に鬼化している右腕を振り回す。さすがに狂介も危機感を感じ取りステップで後ろに下がった。

 鬼の手を突き出し、牽制しながら金剛は自分のダメージの程を確かめる。殴られた個所は、既に痛みは引き、打撲や内出血をしている節は見られない。ポイントを確認すると、あれほど痛みを伴っていたにも拘らず、たったの2ポイントしか奪われていなかった。

 此処で金剛は一体どう言う事だ? と片眉を跳ね上げる。思考を纏める前に狂介が再び前に出る。一瞬だけ逡巡した金剛は大きく後ろに跳び退がった。ここで狂介の表情が笑みに変わった。

「臆したと思ったか?」

 その瞬間に、金剛が問いかけ、狂介をはっ、としたような表情に変える。

 金剛は右腕を元の人の腕に戻すと同時、両の脚を『鬼化』させる。

怪脚鬼足(かいきゃくきそく)! とでも言おうかのうぅっ!?」

 『鬼化』させた脚で地面を踏みつけ、怪物じみた脚力に任せ前へと踏み出る。人の足で作った後ろ向きなベクトルをあっと言う間にぶち抜き、僅かな距離でトレーラー並みの馬力を生み出した金剛のショルダータックルが見舞われる。

「消えろっ! 感・覚!」

 狂介はイマジンの『強化再現』を駆使し、両腕をクロスしてガードしながら斜め後ろへと飛び退きながら、能力を発動する。『強化再現』でブーストした脚力ではあったが、能力による強化をしている金剛に匹敵する物ではなく、僅かに身体を引っかけてしまう。

 バンッ! っと言う空気が破裂する様な音を出しながら狂介の身体が弾き飛ばされる。だが、どうやら浅かったらしく、彼は何の危なげもなく地面に着地した。

 そこで異変が起きる。

 突然、攻撃を成功させたはずの金剛の方が両腕を押さえ、その場に倒れ込んだのだ。

(こ、この痛みは何だ………? ぶつかった肩に痛みが走っているのはガードの瞬間に何かをされたぁ事かも知れんが、何故触れてもいない両腕に痛みやがる?)

 痺れそうな腕の痛みを感じ取りながら、金剛は必死に頭を巡らせる。

 だが、その必要はなかった。

「どうだ金剛? スッゲー痛いだろう? 今、お前は俺の能力で自分の痛覚を数十倍に上げてやってるからなぁ? いくら丈夫なアンタでも、痛覚を直接いじられたらどうしようもないだろう?」

 そう狂介が自慢げに語り始めたのだ。

「俺ぇん感覚を直接操ってるってぇ事か?」

「そう言う事だ。これが俺の能力『狂感覚』による『感覚付与』。そして、今はもう一つ『消感覚』による『I don't have but you have(俺に無くてお前にあるもの)』により、俺の感覚を全部お前に押し付けてる。だから俺に与えたダメージは皆お前が代替わりだぜ?」

 言われた金剛は再びポイントを確認する。

 狂介獲得ポイント22。金剛獲得ポイント31。

 確かに、金剛が先程与えた分のダメージは、ポイントとして認められている様だ。しかし、狂介のポイントはあまり上がっていない。どうやら感覚をいくら押し付けられても、それでポイントが奪われると言う事はなさそうだ。

「しかし、せっかく解り難い能力だろうによぅ? そんなにべらべら喋ってしまって()がったんかぁ?」

「解ったところでどうしようもねえだろ? 例えばホレ?」

 言いながら狂介は自分の脛を出っ張った岩に無造作にぶつける。途端、金剛は脛に激痛を感じ、思わず『鬼化』解いてしまい、脚を抱える様にして蹲ってしまう。

「な? 解ったところで対処できねえだろ?」

「ぐうぅ………! 確かにその通りだが、もう二度とそれはせん方が良いぞ………?」

「あん?」

「ポイントを見ろ」

 言われた狂介はポイントを確認。

 狂介獲得ポイント22。金剛獲得ポイント32。

「ポイント1取られたっ!?」

「自爆もしっかりポイントされるらしいのぅ? この場合は『減点』と捉えるべきか?」

 感覚の代替わりを強要したところで、受けたダメージまで代替わりしている訳ではない。それが解った金剛は一つだけ攻略法を思い付いた。

(やれやれなんて事だ………? これでは東雲と戦った時と変わらんではないか………?)

 頭を振った金剛は両腕を『鬼化』して立ち上がると、明らかな防御の構えを取ってゆっくりと前進し始めた。

「? なんのつもりだよ?」

「ようはお()ぇの能力は攻撃ではない訳だろう? 所詮は痛い様に思わせる幻覚と変わりはねぇ。この鬼の(かいな)と化した『剛腕鬼手』、貴様のヘッポコパンチで撃ち抜ける物なら撃ち抜いて見せろよ?」

 カチンッ! っと言う音が聞こえてくるのではないかと言う程、狂介は表情を一変させ、額に青筋を立てた。怒りで口の端をぴくぴく痙攣させ、彼は声を震わせながら拳を握った。

「言いやがったなテメェ………? 確かに俺の能力は攻撃技じゃねえが………。ヘッポコパンチかどうか、試してみやがれっ!!」

 叫んだ狂介は真直ぐ飛び出し、イマジンにより強化された拳の乱打を放つ。鬼化した金剛の腕は、その攻撃に揺らぐ事無く受け止め続けるが、腕に走る激痛は、尋常ならざる物となっていた。まるで子供が大人の拳を受け止め続けるかの如く、骨にまで響く激痛が金剛を襲う。しかも狂介は己の感覚をも金剛に押し付けている。乱打による疲労感が、拳に、腕に、肩に、全身にと広がっていく。いくら鍛え抜かれた戦士であっても、疲労感を直接与えられては堪った物ではない。金剛は自身がどんなに余裕を持っていても、身体に与えられる感覚は、それを誤認させてゆく。

(ぬおおおぉぉぉ………っ!!! これは想像以上な―――っ! だがまだだ………っ! 今はまだ耐える! 予想通り痛みは激しくともポイントは奪われてはいない! そう遠くない内に必ず好機は訪れる! その時まで今は耐えるんじゃぁぁぁ~~~っ!!)

 例え肉体にダメージは無くとも、激痛と言うのは実際にダメージを受ける以上の効果を持つ。叩かれ続ける腕は痛みと言う感覚を超え、脳内を白く染め上げていき、謎のスパークイメージを生み出す。これはイメージを原動力とするイマジンの操作を不十分にする。金剛は根性でそれに耐えようとするが、生半可な根性ではとても耐えられそうにない。次第に『剛腕鬼手』と化した腕は人のそれに戻りかけてしまう。その事にも気付けぬ程に、激痛と言うスパークが視界を埋め尽くしてしまう。思考能力まで侵され、自分が何のために耐えているのかさえ不確かになっていく。バランス感覚も失われ、力の強弱さえ意識できない。体はぐらぐらと揺らぎ始め、片膝をついて傾いてしまう。

「おらああぁぁっ!! 隙だらけだぞっ!?」

 身体が傾いた事で出来た隙をついて、無防備な側頭部に向け、狂介の回し蹴りが綺麗に入る。『直感』がほぼオートと言える領域で発動し、イマジンをクッション代わりに展開する『緩和再現』が発動するが、緩和されたダメージとは思えない激痛が金剛の脳を直接襲う。

「あぐ、あ………っ!」

 もはや思考はない。何も考える事も出来ず、ただ齎される激痛に呻きを漏らす。

 意識がスパークに占領され、だらりと腕が下がる。

 ここぞとばかりに狂介の全力乱打が身体中に見舞われ、ポイントを奪われ、激痛を超える衝撃が頭の中を通り抜けていく。

「トドメだおらぁぁぁ~~~~~~っ!!!」

 ガッツンッ!! 骨が直接殴られるような音が響き、顔面を殴られた金剛がゆっくりと頽れる。

 両足が膝を付き、全身が脱力していく。金剛の瞳から光が失われていく。

 一瞬の静寂。

 ハッとするかのように光を取り戻す金剛の瞳。

「ぬっ、ぐ、あああぁぁぁ………っ!」

 呻き声を漏らしながら必死に立ち上がる金剛。人の手に戻っていた拳を鬼化させ、一気に振り被る。

「大した根性だけどよっ!? もうとっくに限界だろうがぁっ!?」

 激痛の痺れに緩慢になる金剛の動きより、握った拳にしっかり力を溜めた狂介の拳の方が速い。可能な限りのイマジンを拳に注ぎ、より強力な強化を再現する。振るい抜かれる拳は、未だ振り被っている金剛の拳が放たれるのを待つ事無く、顔面に向かって突き出される。

 ビュンッ! 拳は金剛の頬を掠め、脇に逸れた。

「んあ………っ?」

 刹那に金剛の口の端が僅かに笑みを作る。

(おのれの痛覚を遮断するぅ言う事は、自分の肉体に蓄積されているダメージに無頓着になると言う事。それは自分の体に異常が起きても、気付けんと言う事だ! 拳が砕けていようと、関節に不具合が出ていようと、疲労による筋肉の消耗さえもなぁ! 痛みはその不具合を知らせる信号でもある! それを遮断していては、根性でバランスを整えてやる事もろくに出来まいっ!?)

「貴様の痛覚を俺ぇが受け取っていた分! 解り易かったぞっ!?」

 金剛の剛腕鬼手が狂介を捉え、一気に吹き飛ばした。

 そう、これが金剛の狙いであった。金剛は確かに痛覚を強化され、その上狂介の痛覚を請け負う事になっていた。だが、それは逆を返せば狂介以上に彼のバイタルに詳しくなると言う事でもある。金剛は自分の身体に無頓着になった狂介が調子に乗って全力攻撃する様に仕向けた。結果的に狂介は自分の攻撃で自らの肉体を酷使、傷つけていき、勝手に一人でボロボロになってしまっていたのだ。そんな状態になれば、いくら防御に全力を尽くしたところで金剛の剛腕鬼手を受け止められるはずがない。この戦いがポイント制である以上、金剛に残された勝機はこの一撃に賭けるしかなかったのだ。

 地面を派手に転がった狂介は崖の端でギリギリで、手足を片方ずつ投げだす形になって止まった。その後ピクリとも動く気配はない。どうやら衝撃の強さに脳震盪を起こし気絶している様だ。

 戦術的な勝利は、間違いなく金剛の物となった。ただ、金剛にも予想外の事が一つだけあった。この出来事は予測はしていた。だが、堪えて見せるという気概はあった。まさかそれをぶち抜く程とは思わなかったのだ。

 金剛の与えた起死回生、逆転の一撃。その痛覚を狂介の能力により金剛自身へと押し付けられる。その衝撃のすさまじさは、放った金剛自身にとっても予測をはるかに上回る衝撃となって身体を貫いたのだ。

「やれ、やれ………、我ながら………、見事、な………、一撃よ………」

 そして金剛は地に倒れ伏し、意識を手放した。過剰な神経疲労により、ついに脳が全ての機能をシャットダウンしてしまったようだ。生命維持に必要な最低限の機能を残し、脳は全ての仕事を放棄した。腕を元の人間の腕に戻した金剛は、脳に仕事を放棄され、そのまま眠り行ってしまった。

「そこまで! 伊吹金剛の勝利ポイント獲得を確認! ………がっ、同時に両名の戦闘続行不可能状態を確認! この試合! 引き分けとするっ!」

 教師の宣言により、この勝負は惜しい所で引き分けとなった。

 後に狂介は、この勝負を引き分けとは認めず、己の敗北だと嘆き金剛にこう言ったと言う。

「次やる時は、俺の拳で絶対(ゼッテ)ェ叩き伏せてやるからなっ!?」

 

 

 04

 

 

 廃屋であった空間が元の白い部屋へと戻る中、鋼城(こうじょう)カナミは床にひれ伏し、疲れ切った表情を浮かべていた。彼女に勝利した腰に太刀を二本差している三白眼の少年、桜庭(さくらば)啓一(けいいち)は刀室に刃を収め、くたくた状態のカナミを見下ろす。

「良い勝負が出来たな。最後は能力の構造が勝敗を分けただけだ。互いの実力は拮抗していたと思うよ」

 啓一の言葉に、カナミは「あ~~~う~~~~………」っと意味の解らない呻き声を漏らす。

 彼女の能力『鋼鉄の戦乙女(アイアンヴァルキリー)』は、某変身ライダーの様に、自身の身体にパワードスーツを装着して戦う物だ。両手両足にイマジンセルと言うカートリッジシステムが搭載されており、スピーディーかつパワフルな戦闘を得意としていた。だが、彼女のパワードスーツはあっちこっちが傷だらけで、特にセルを収めた両手両足はズタズタに切り裂かれ、セルを打ち出せないようになっていた。

(こ、この人なんなんですかぁ~~………! 剣が見えなくなるだけの能力かと思ったら、一瞬で姿が消えて、気付いたら負けてたとか納得いかない~~~~………っっ!)

 内心涙をダバダバ流しながら、満身創痍で声も出せず倒れているしかないカナミ。

 それを知ってか知らずか、啓一はカナミを一瞥だけすると階段を上って廊下へと出る。

 彼は廊下に取り付けられた窓から他のクラスメイトの戦闘を観察しようかと思ったが、戦闘に時間を掛けてしまったせいだろうか、殆どの生徒が戦闘を終了していた。Cクラスの戦闘は誰もがガチンコ勝負なので、戦いが長引く事の方が稀だ。タスク勝負に持ち込めばそれこそ一瞬で決着が付く場合もある(過去一度もタスク勝負を行ったCクラスは存在しないのだが………)。戦闘に至っても単純な殴り合い思考なので、時間を掛ける要因がそもそも存在しないのだ。

(AクラスやBクラスはまだやっていそうだが、さすがに見に行くには遠すぎるか?)

 見に行く時間が全くないと言う事もないだろうが、彼も何気にくたくただった。カナミとの戦いで切り札を一つ使ってしまい、身体に負荷がかかっているのだ。

(まあ、このくらいなら少し休めばすぐに回復しそうだが―――ん?)

 不意に気配に気づいた啓一が視線を向けると、何やら言い争っている男女が廊下の端にいた。いや、言い争いうと言うのは語弊だ。明らかに女性の方が一方的に男性の方を糾弾している。

「ちょっと聞いてるっ!? さっきのアレは私をバカにしてたのっ!?」

「いや、そんな事は全然なかったです………」

「じゃあなんで私が完勝しちゃってんのよっ!? しかも一回も反撃されなかったってどう言う事っ!?」

「の、能力的な相性の問題でして………」

「それでもやれる事とかあったでしょうがっ!? あんな勝利納得できないわよっ!?」

「まったく御尤もで………、ははは………っ」

 啓一は二人のクラスメイトの事を頭の中で検索、思い出す。

 ヘッドホンを着用している女子の方は闘壊(トウカイ)響。

 金髪碧眼で常に笑顔を絶やさない男は新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)っと言う名前だった事を思い出す。

「どうした? 何か勝敗についてもめているようだが?」

 気になった啓一は二人に向けて尋ねてみる。

 尋ねられた響は、憤りをそのままに、キッ! と、啓一を睨みつける。

「こいつが戦闘中に最後までただひたすらに逃げやがったのよ!」

「そうか………。お前が悪い」

「え? 何これ? 俺今正に怒られてる最中なのに、なんで関係無い奴にまで責められてんの? しかもついさっきまで何も知らなかった奴に………」

 笑顔を絶やさない悠里だったが、その眼は何だか死んでいるかのようだった。

 彼の言っている事も正しかったので、啓一はうんうんと頷き―――。

(おれ)が悪い」

「真顔でなに言ってんのよアンタ………? ってか何しに来たのよ?」

「いや、ちょっと気になったから声を掛けただけだ。………あわよくば喧嘩に混ざれないかと思ってな」

「なんで混ざろうとしてんのよ………っ!?」

「ちょっと斬り足りなくて………」

「「ああ、その気持ちはちょっと解る」」

 此処でツッコミではなく理解されてしまう辺り、Cクラスのバトルマニア性が窺いしれてしまう。

「まあ、何はともあれ説教はそのくらいにしたらどうだ? それより己は他の対戦が見たい」

「一人で行け! ………ああ、でもちょっと待って。兄貴がまだやってるようなら見たい」

「どっちなんだか………」

 響の手の平返しを聞きながら、悠里も異存はないらしく、立ち上がりながら視線で了承した。

「じゃあ、ちょっと覗いてみるかな?」

 そう言って三人は、未だ対戦中のフィールドを探し、歩き始める。もう殆どの戦いが終了してしまっている中、一カ所だけ数人の観戦者が固まっている所を発見する。どうやらCクラスではそこが最後の戦いの様だ。

 三人は集団に混ざり覗き込む。対戦カードは『虎守(こもり)(つばさ)VS(くすのき)(かえで)』となっていた。

 

 

 ギャガガガガガッ!!!

 けたたましい騒音を立てる刃が、空を切り、そこにあるはずの物を捉えようとする。しかし、そこにあるはずの存在は霧散し、一瞬で別の場所に移動、再び集まり一人の少女の姿を模る。体操服に身を包むプロポーション抜群のショートヘアーの少女、虎守(こもり)(つばさ)は、己が能力『雷虎の化身』の切り札『雷化』により、自身を本物の雷へと変えていた。普段は黒い髪と眼も、能力の影響で変色し、金色に輝いている。

「ま、まったく………、なんでそんな凶暴な物を武器にして使いこなせちゃってるんですか………? こっちは切り札使ってるって言うのに………」

 ぼやく翼に対し、彼女の体を切り裂いた武器、チェーンソーを構える160前後の身長に、金髪碧眼の少女、(くすのき)(かえで)は冷たい程に冷静な瞳で虎守を見つめる。

 睨まれた楓は、とてもつまらなさそうに溜息を吐いた。

「? なに? まさか勝ち目がなさそうで落胆したとか言わないですよね?」

「ええ、まあ………、確かにその『切り札』とやらになられて、私の攻撃が全く通じなくなられた事には遺憾なのですけれどね? 点数的にもアナタが40で私が28と、劣勢な事も解っていますが………、はあ………」

 また溜息を吐く楓。その憐憫に満ちた表情には、一種の諦めすら見て取れる。

 決着が付く前から『諦め』をちらつかされた事で、翼は多少なり苛立ちを感じ始めていた。

 決着付ける前から諦め、こんなだらけた態度を取られるのは不愉快以外の何物でもない。圧倒的不利な状況で徹底的に叩きのめされたと言うのならまだしも、今はまだ接戦と言ってもおかしくないのだ。ならば力の限り出し尽くして挑戦するべきだと言うのに。それが翼にはどうしても許せなかった。

「じゃあ、さっさと終わらせてあげますよ。盛大にねっ!!」

 叫び、身体を一条の雷となって文字通り奔る翼。楓はイマジネーターの危機回避本能『直感』を頼りに攻撃を避け、あるいはタイミングを合わせてチェーンソーを振るい翳すが、雷となった翼の速度はあまりにも桁違いで順調にポイントを奪われていく。運良く当たったところで雷にチェーンソーの刃は立たない。

 身体のあっちこっちを静電気の様な痛みに襲われながら、楓は攻撃を躱しつつ悩む。悩み悩んで悩み続けた結果、瞳を閉じるとまた溜息を吐いて脚を止めた。

 ついに本格的に諦めたのかと、翼は訝しくも思いながらトドメをさすべく彼女に向かって飛来する。

「はあ、まったく………。本当に物理攻撃が全く効かないんですものね………。リンドウの花言葉(誠実)が欠けてしまいますが………、どうか私にムスカリの花言葉を送らないで下さると嬉しいです」

 そう呟いた楓がチェーンソーのエンジンを止め、右手を無造作に突き出し、中指と親指を合わせ力を込め―――、翼の手が楓の眼前を覆い、あと一歩で攻撃が届こうとした瞬間、その指がパチリッと音を鳴らした。

 

 ボワンッ!!!

 

 火の手は突然上がった。

 突然、本当に突然、翼の顔面が燃え上がり、爆発した。いくら雷化していても、無敵になったわけではない。属性化していると言う事は属性攻撃を受ける事でダメージが体に蓄積される。雷となっている翼も、爆発の衝撃と火の手からは逃れることはできず、堪らず顔面を覆いながら地面を転がった。

「う、うああ………っ!?」

 上手く声が出せず、悲鳴を上げられない。口の中や鼻、目の奥にまでじりじりとした火傷の様な痛みが広がっている。生身で受けていればシャレにならないダメージだったはずだ。肉体が雷となっていたおかげですぐに痛みは薄れたが、翼には一体何をされたのかが理解できなかった。恐らく楓に何らかの攻撃をされたのだろうと言う事は察しが付くが、どうやって攻撃してきたのかが全く想像できない。

(ともかく、脚を止めるのはまずいっ!)

 瞬時に奔った翼は、楓がさっきの攻撃を仕掛ける前に先手を打とうと後ろに回り込んで攻撃を仕掛けようとする。

 パチンッ! 再び上がった指の音。

 ボワンッ! そして同様に上がる火の手。

 今度は攻撃しようと突きだした右腕が燃え上がった。

「あ、ぐああ………っ!!」

 今度は根性で悲鳴を上げずに堪える。丸々吹き飛んだ右腕を雷として再生させる。やはり先程同様、生身で受けていればかなりの致命傷になっていただろう。

(く、くそ………っ! 一体何をどうしてるって言うんですかっ!?)

 ちょっと泣きそうになる程の痛みを我慢し、今度は楓の周囲をぐるぐると周る様にして奔る。楓の事を全方位から観察し、何をしているのかを確かめようとしているのだ。

「………うふふっ」

 薄く笑む楓。ばさりと髪を掻きあげる様にして、彼女は再び指を鳴らした。

 それだけだ。たったそれだけで生じた爆発と炎。右足を捥がれ、無様に地面に転がる翼。

「こう言う手品の様な攻撃は、個人的に攻撃しているという実感が湧かないので、物足りなさを感じてしまいますが………、どうか許して下さいね?」

 ズドンッ! っと、いきなり背中から地面にチェーンソーを突き立てられる翼。雷化しているのでダメージはない。チェーンソーはただ身体を通過しただけだ。だが、まるで、翼は体ではない何かを、冷たい刃で貫かれた様な錯覚を得る。

「アナタには物理攻撃が効かないんですもの? だから、こうするしかありませんわ」

 すっ、と、指が出される。

 察した翼が僅かに息を飲む。

「アナタは美しい。だからどうかせめて、その美しさに見合うだけの醜い花を咲かせて下さいね?」

 笑顔と共に、指が―――鳴らされた。

 度重なる爆発。翼の頭が、四肢が、爆発を上げて花の様に身体を飛沫として散らす。

 舞い上がる火の粉が花の様に咲く光景を背にするようにくるりと回った楓は、楽しそうに笑みを漏らし、翼に語る様に呟く。

「『緋紅の夢現花(ひこうのラフレシア)』。私の能力『猛火の火種』による爆発です。どうかご存分に味わってくださいな」

 猛火の花が飛び散る中、楓は68のポイントを獲得し、勝利を収めた。

 ゆっくりと歩き始め、雷化のおかげで五体満足に復活できた翼から距離を放そうとする。途中、フィールドが元の白い部屋へと戻り始めたタイミングで、楓は思い出したように肩越しに振り返った。

「そうそう? 先程のムスカリの花言葉ですが、アレはアナタに送った方が良いかもしれませんわね?」

「………なんですか?」

 雷化を解き、その後遺症とダメージにより座り込んだまま動けない翼は、嫌な予感だけを感じ取り、睨むようにして尋ねる。

 楓は笑みを消すと、満足いかなかったという様に、ただ答えだけを告げた。

「ムスカリの花言葉は………『失望』」

「………(ムカッ」

 優雅に立ち去ろうとする楓に向けて、翼は人差し指を立てると―――、

「えい」

 静かに、しかしたっぷりと怒気を込めて、軽く指を上に振る。

 瞬間、楓の踏み出そうとした方とは逆の脚が突然地面から押し返される様に浮き上がり、思いっきりバランスを崩した楓は地面を踏み損ねて顔面から床に突撃してしまった。

 ビタンッ!!

「きゃんっ!?」

 可愛らしい悲鳴を上げて転んでしまう楓。片手で顔を覆いながらわなわなと肩を震わせて振り返る。

「な、何をなさいますの………っ!?」

「いや、メッチャ腹立ったんで仕返し」

 超直球に返す翼。

「一体何をしたのか知りませんけど………っ! こんな事が出来るなら戦闘中に使えばよろしかったでしょう………!?」

「保険に『雷印』を脚に付けておいたんですけどね? ちょっと使うタイミングなかったんですよ。最初は私の方が有利だったし、後半はアナタほとんど動かなかったし………、それよりですよ?」

 翼は悪戯を思い付いた子供のような嫌な笑みを浮かべると、生徒手帳から手鏡を取り出す。

「美しい物がけがれるのが御好きなら、今の自分の顔が最高じゃないですか?」

 差し出された翼の鏡を覗くと、そこには綺麗な顔をしていたはずの楓の顔が、鼻を赤くして鼻血を垂らし、静電気の影響で髪の毛が羊の様にもさもさになっている姿が映し出されていた。とても先程までの美しい顔立ちをしていた楓とは思えない惨状だったのだが―――、

「………あら♡(ポッ」

「ちょっ!? なんでちょっと嬉しそうにしてんのっ!?」

「はっ!? つい美しさと醜さのギャップで………っ!? わ、私、ナルシストじゃありませんのよっ!? そ、そんな、自分にときめいたりなんてするわけないじゃないですのっ!?」

「そんな、顔を赤くして両手で頬を覆ってイヤイヤする様なツンデレ動作する様な場面っ!? 私思いっきり喧嘩売ったつもりだったんですけどっ!?」

「く………っ! 私に変な属性を目覚めさせようとするなど―――ちょっとドキドキしましたけど―――許せませんわっ! もう一度! 今度こそ全身切り刻んで差し上げます!」

「なんか予定と違うけど、もうこの際どうでもいいや! その喧嘩! 今日の夕食を賭けて買ってあげます!」

 何だか自棄になって叫ぶ悉だが、能力の後遺症で殆ど生まれたばかりの小鹿状態だ。さすがに見かねた比良(このら)美鐘(みかね)教諭は、額に手をやりながら溜息を吐くと、一言忠告の(げん)を述べた。

「生徒手帳の決闘システムはちゃんと使えよ」

「「はいっ!」」

 別に止める気はないらしい………。

 ちなみにこの後、二人は『決闘システム』の使用禁止期間での使用を咎められ、仲良く廊下掃除をさせられた。

 何故か止めなかった教師には何の罰もなかったと言う………。

 

 

 05

 

 

 八神(やとがみ)留依(るい)っと言う少女は、東雲神威のルームメイトだ。彼女は廃墟となった街の中、とあるビルの屋上で座り込み、休憩をとっていた。と言っても、現在は三年生の試合中で誘われたメンバーの一人として、とある人物の護衛をしている最中だったりする。護衛対象は今頃、このビルの屋上の扉から出ないと移動できない異空間の中で、全体指揮やサポートを必死に実行している最中だろう。護衛対象がやられてしまうと、自分のチームが一気に瓦解してしまうので、留依ともう一人が護衛につく事になったのだ。

「どうぞ留依様、紅茶を入れました」

 目の前に差しだされた紅茶を受け取り、留依は差し出してくれた人物に向けて礼を述べた。

「ありがとうマリアさん」

 赤紫の髪を肩ほどで切り揃えているメイド服の女性、ブラッディ・マリアはニッコリと微笑み屋上から周囲を見回す。

 護衛と言っても今は殆ど見張り役なので、ともかくやる事がない。少々暇を持て余すような状況ではあるが、留依としては今はありがたい。彼女はCクラスの生徒であり、例に漏れず、バトルマニアの気質はあるが、自分を大事にする事をこの学園で学んだ。それ故、戦闘に支障が出る程の後遺症を抱えている身としては、争いを避けられる事があり難い。試合には出たいと言う願望はあったので、危険しなかったのだが、チームメイトが気持ちを汲んでくれた事には素直に感謝の気持ちが芽生える。

 紅茶を飲みながら、そんな事を思い浮かべる留依だが、それでもやっぱり暇と言う物は拭いされない。せめて何か話題はないかとマリアに話かけて見る事にする。彼女は中々に話題の宝庫なのだ。

「ねえ、マリア? マリアから見て、今年の一年生は誰が最初に上がってくると思う?」

「私の意見でよろしいのですか?」

 周囲への警戒を怠らずに、マリアは留依の質問に答える。

「マリアの意見が聞きたいと思ったの。神威や刹菜、灯宴真(ひえんま)からは聞いたし、誠一は『生徒会長がそう簡単に自分の意見を他人に聞かせるわけにはいかないだろ?』って教えてくれなかった。ハクアは謝るだけで何も教えてくれなかったよ。十真(とおま)は………今はいないし」

「もちろん、私にも予想はありますけど、その組み合わせは何か意図があるのでしょうか?」

「意図も何も、マリアは上級生破りを果たした七人の一人じゃない? 注目くらいするよ」

 嘗て、世界初の上級生破りに挑んだ七人。神威、刹菜を筆頭にする有名どころ。蒼凪(あおなぎ)灯宴真(ひえんま)、灰羽ハクア、飛馬誠一、石動(いするぎ)十真(とおま)、そして今留依の前に居るメイド少女、『血濡れ侍女(ブラッドメイド)』ブラッディ・マリア。三年生の間では周知の事実であり、特に注目を集める七人なのだ。

 マリアは少々苦い物を笑みに含ませながら、謙遜する様に首を振った。

「破っていません。その称号を掴み取ったのは、間違いなく神威様と刹菜様です。十真様であるならともかく、私達がその名誉を受け取るわけにはまいりません」

「私も誘ってほしかったなぁ、神威、何も教えてくれなかったから」

「神威様には、何か思うところがあっての行動だったのだと思いますが………」

「うん、後から聞いた………。私を十真とくっ付けたくなかったんだって………」

「そ、それは………」

 とてつもなく重い溜息と共に告げられた一言に、さすがのマリアも次の言葉が出なくなった。

「でも、マリアやミスラは良いのに、なんで私だけダメって言うかな? 酷いと思う」

 少しだけ頬を膨らませる留依。思い出すだけでどうしても許せない物を感じて、つい膨れてしまう。

「だからもっと強くなって、神威に私を求めさせるの。そうすれば神威だって私を無碍にしたりできないだろうし」

 少しだけ真剣な表情を見せる留依に、マリアはちょっとだけ微笑ましい気持ちになる。ただ………。

「それと一年生の話はどう繋がるんでしょう?」

「あれ? どうしてだったかな?」

 自分でも話が脱線してしまい、理由が繋がらなくなっている事に今気付いた様子の留依。内心呆れつつも笑顔を崩さないマリアに、留依は少し慌てた感じに言い訳する。

「と、ともかく! 一年生について考察するのだって立派な勉強だし、上級生破りの七人の意見を聞いておくのも悪くない………よね?」

「ですから、私はその栄誉をですね………、はあ………、いえ、簡単でよろしければお答えしましょう」

 このまま話しても切が無くなりそうだと判断し、話を進めるマリア。その気遣いに気付いて顔を赤くする留依。大体留依はこう言う失敗をする事が多い。

「私は、一年生のトップに立つ方は二人のどちらかだと睨んでいます」

「二人? 誰と誰?」

「一人はAクラス、シオン・アーティア。双葉姉妹に話に聞く限り、相当な能力者の様ですよ? もう一人はCクラスの甘楽弥生でしょうか? 彼女の能力は戦闘特化のCクラスではほぼほぼ完成形と言える出来栄えらしいですし? 後は能力の組み合わせ次第とは思いますが」

「能力の組み合わせかぁ~~? 私も色々気を付けないと。またこんな失敗したりしたらとんでもないもんね?」

 そう言いつつ留依は下腹部、臍下丹田のある辺りを撫でる。

 何も言わずそれを見ていたマリアは、多少なり悲哀に満ちた視線を送ってしまう。

「でも能力系で考えるなんて、さすがは日本初の≪デュアスキル≫持ちのマリアだね」

「できそこないの≪デュアスキル≫です。日本初と言うにはまだ不適合ですよ」

 そう返した後、周囲をもう一度見回したマリアは、とある一点を見つめたまま、背中に居る留依に向けて伝える。

「留依様、アナタはきっと、まだまだ強くなれるはずです。でも、それは無理をしなければという前提があればこそです。『姫』と言う役割をこなす大業を、運悪く一人で担わなければならなかった事は同情申し上げますが、それと無理をするのは話が別です」

「え? なに? 突然どうしたの?」

 困惑する留依に、マリアはなおも伝える。

「御自分の事を御自愛ください。アナタを助けてくれる友に、私達がいるのだから。だから約束してください留依様。決して無理はしないと」

「? うん、マリアがそう言うなら約束するけど………、でもどうして? どうして今―――!」

 留依の言葉は途中で止まる迫りくる存在に気付き、マリアの意図に気付いたからだ。

 迫ってきたのは巨大な火の塊。それも超高熱の五メートルはある赤々と燃えた火の塊だ。真直ぐ向かってくるそれに対し、数歩前に出たマリアは自身の血を操り、手の内に巨大な槍を作り出す。

「『漆血槍ツェペッシュ』」

 呼び出された深紅の槍を構え、迫りくる炎弾を真っ二つに切り裂く。

 爆ぜる轟音。撒き散らされる熱と火の子。煙すら立つ事無く、炎に包まれ視界が全てオレンジ色に染まる。マリアはもう一薙ぎ槍を振るう事で全てを薙ぎ払う。すると、先程まで二人しかいなかった屋上に、第三の影が現れていた。

 黒の短髪に多少高めの身長。凶暴なまでに戦意を露わにする猛獣のような表情を浮かべ、鋭い眼光にて、彼女達を見据える。上級生破りに挑んだ七人の一人、蒼凪(あおなぎ)灯宴真(ひえんま)の登場であった。

 その瞳の色は、使う能力のレベルに応じて変わる。先程放った炎が一番弱い『赤』だったが、今は既に『蒼』に代わっている。ランク3の状態だ。

「約束しましたよ留依様。これは試合です。あの時とは違います。ですからどうか、彼との戦闘は避けてください。例えチームが負ける事になろうともです」

 嘗て上級生破り挑んだ猛者が、最上級生となり再び相対する。その壮絶な光景を前に、留依は圧倒され、座り込んだまま動けなくなっていた。それを自覚し、マリアの気遣いが的を射ている事を納得し、その上で彼女は悔しげに拳を握った。

 

 嘗ては自分も、その世界に正面から挑める一人であったはずなのに………。

 

 『姫候補』と言う重荷を再び実感しながら、彼女は羨ましげに激戦の光景を見つめるしかなかった。

 ―――っと、同時に彼女は思う。今年の一年生達は、果たして『姫』としての役割を担えるだけの器があるのだろうかと?

 もしいないのであれば、きっと自分はまた無茶をしなければならない。そうなってしまえば、この光景の中に、自分は二度と加わる事は出来ないかもしれない。その不安が、彼女の中で静かに淀みとなって育ち始めていた。




あとがき

オルガ「あのさぁ~? ちょっと疑問に思ったんだけどさぁ~?」

弥生「どしたのアンドレ?」

オルガ「ウチの学校の制服って、そんな地味なセーラー服だった? 真っ黒じゃん?」

弥生「違うよ。これは僕が前の学校で着てた制服」

オルガ「は? なんでやよはそんなの着てるの? まさかこの学園の制服着るの忘れてそんな格好してるの? 正直女の子としてそのチョイスは………」

弥生「未だにパジャマから着替えようとしない君にだけは、何も言われたくないんだけどね………」

弥生「そうじゃなくて………、生徒手帳読んでないの?」

オルガ「ん~~………?」

弥生「もう………っ、この学園の制服は、支給されるまでに一カ月かかるんだって? 理由は誰に聞いても教えてもらえないんだけど………、それまでの間は、前の学校で着てた制服を着る事って、ちゃんと記載されてるよ? 先生からも通達あったでしょう?」

オルガ「そうだっけぇ~~………?」

弥生「そうだよ」

オルガ「ん~~~………? でも、この学園の制服って見た事無いよねぇ~~? 下界(ギガフロートの外の世界)で放送されてるのは戦闘服ばっかで日常風景とかないし。ここに来てから一度も先輩達を見てないしさぁ~? ………いや、寮長の先輩には会ったけど、あの人私服だったし………」

弥生「僕が引っ張り出さなかったらいつまでも引きこもり続けちゃってる人が何を言うのか………? でも、確かに変な感じだなぁ~? 一体なんでだろう?」

オルガ「まあいいや、興味無いし………」

弥生「自分から話題振った癖に―――っ!?」





正勝「うぅ~~………、なんでここの連中は皆して殺る気満々マンなんだよぅ~~………、マジ怖ぇよぅ~~~………っ!」

詠子「ふふっ、その程度の基本特性も知らずにこの幻争(げんそう)理想郷(ユートピア)に来たと言うのか? 愚か者めっ!!」

正勝「だれっ!? って、確か………詠子ちゃんだっけ? クラス発表の時ちょっとだけ話した………?」

詠子「どうやら、運命の記憶(ディスティニーコード)の消失は間逃れていたらしいな………? ならばまだ救いもあると言う物」

正勝「は、はあ………?」

詠子「良く聞け! 元は一般人でしかなかった私達が、この学園に来て、どうして何の躊躇もなく同朋刃を向ける事が出来るのかっ!? それこそがイマジネーターがイマジネーターと言われる由来! その根底を垣間見る一旦なのだ!」

詠子「イマジン! その理想の杯(聖杯)に満たされし全知の光をたまわった時! 私達の魂には、全てにおける驚異を判別する本能、『驚異判断(レベルスキャン)』を見に付ける事が可能となる! これにより、私達はどの程度の力を使えば過ちとなるのか、安全となるのか、それらを判断する事が出来る様になる! そうっ! 魂の昇華『ソウル・オブ・ハイランク』を得るのだ!」

詠子「故に! 私達は同朋に対して、授けられた理想の力を解放する事に、躊躇が無くなると言う事だ! 無論、全力を出すかどうかは個人の意思に委ねられている。故に洗脳ではない」

詠子「解ったかっ! 解れば貴様も内なる魔性の力を解放する事だ。己の欲に喰われにゅ覚悟があるならばなぁっ!!」

正勝「あ、ああ………(噛んだ………)」

正勝(………。たぶん、説明してくれていたんだろうけど………)

正勝(何言ってるのかさっぱり解んなかったっ!?)


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一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅵ

二話同時公開の大ボリュームッ!!

………すいませんっ! 大風呂敷でした!
ただ単に一話分に収まらなかっただけですっ!

久しぶりの投稿となりましたが、今月に間に合って本当に良かった。
それではCクラス編後篇をお楽しみください。


【添削まだです】


一学期 第六試験 【クラス内交流戦】Ⅵ

 

Cクラス編後篇

 

 

 

 

 

 ―――剣は凶器だ。

 人を殺す為に、最も洗練された刃。

 決して美術品などではない。

 

 ―――剣術は殺人術だ。

 敵を屠るために編み出された術だ。

 決して煌びやかな舞ではない。

 

 

 『桜庭流』

 元を辿れば、剣を使えなかった剣士が編み出したとか、女が編み出したとか、ともかくまともな史実が残っていない。由緒あると言っていいのか胡散くさい内容も多い。そんなあやふやなままで継がれてきた剣術だから、今に残る内容は全部装飾華美と言える様な技ばかり。美しさを追求した剣術など、もはや剣術ではない。

 剣の師である祖父さんや父上は「時代に則っているのだ」と言っていたが、そんな物は詭弁だ。

 剣は凶器。剣術は殺人術。

 実際に人を斬れと言っている訳じゃない。剣術をどう使うかは人の意思だ。殺さずを貫くのも、また選択の内だ。だが、根本的な部分で、俺達はそれを忘れちゃいけない筈だ。剣術を流派として受け継ぐ俺達は………。

 

 だから俺は、桜庭流の美しさを全て廃した、新しい―――(いや)、本来の『桜庭流』を極めて見せる。

 俺の選択は正しかったと言う事を証明するために、俺は負けるわけにはいかない………。

 

 

 00

 

 御門(みかど)更紗(さらさ)は名誉ある一家の出で、古い仕来りなどを忠実に守ってきている。そのため、彼女の朝は普通に早い。目覚ましのアラームなど生まれてこの方セットした覚えが無い程だ。そんな朝の早い彼女だが、眼を覚ますと大抵ルームメイトは先に起きている。

 今日も今日とて、発現した能力のペナルティーでおいそれと言葉を紡げない更紗は、あくびを噛み殺しながら洗面所で顔を洗い、タオルを水に浸して絞ると、部屋に戻ってベランダを目指す。ベランダの外では、ルームメイトが半裸の状態で寒風摩擦などをしていた。筋肉が鎧の様に身についた姿は、もはや肌を晒しているように見えない程に立派に隆起していた堅そうな印象を与えられる。同居人が女性である事を気遣っているのだろう、毎回ベランダのカーテンは締められており、着替えもベランダに用意してある。

 更紗がベランダに出てくると、筋肉質の男はすぐに気付いて振り返る。

「おうっ、御門。相変わらず朝が早いなぁ?」

『金剛さんの方がとっても早いです』

 更紗はフリップボードに素早くペンを走らせ、文字で会話する。手に持っていた濡れたタオルを差し出すと、同居人、伊吹(いぶき)金剛(こんごう)は嬉しそうにそれを受け取る。

「おおっ! 気が利くな? ありがたく使わせてもらおう。………むんっ! 中々に気持ちい」

 濡れタオルで体の汗を拭き取った金剛は、外に出していた服を素早く着こみ、室内へと戻って行く。女性の前でいつまでも裸を晒さない様にと、今朝の寒風に曝さない為の配慮だ。こう言ったところで気を使えるのは、何気に知られていない金剛の良い所だ。

「しかし、同室になった時も聞いたが、本当に良かったんかぁ?」

『何がですか?』

 金剛の質問の意図が理解できず、更紗は首を傾げながらフリップボードに質問を書いて見せる。

「手を出す気が全くないとは言え、むさ苦しい男と同居生活など、御門としてはあまりいい気はしないのでは? と思ってな? ………構わんと言ってもらった身だが、やはりそれなりに時が経てば生活のリズムと言うのもある。互いの生活リズムを狂わせている場合もあるだろぅ?」

『金剛さんは、気になる事あるんですか?』

「いや、俺は特にな………。むしろ女性の方が気にする事は多かろうと思ったのだが………?」

『大丈夫です!』

 自信有り気な顔で片手に拳を作り、気合いを入れる様な仕草で応える更紗。金剛は納得しながらも、やはり心配ではあるらしく、少しだけ迷う様な視線を送ってしまう。

 更紗は、そんな金剛の姿に可笑しそうに笑い掛けながら、フリップボードの端、『音』と書かれた青いマークに触れ、イマジンを指先から通す。

『内容が長くなるので、音声モードでお話しますね?』

 イマジンを通す事により、フリップボードの全身が震え、その振動により音声を発する。これは購買部で売っている、卒業した生徒達の商品の複製品だ。音声はイマジンを通す事で所有者のパーソナルを認識し、声色まで精密に再現してくれる。言葉を喋るイメージで音声が発せられるので、時々頭で考えるだけに留める筈だったものまで言葉として発してしまう事もあるのがたまに傷だ。

『御門家は由緒ある家柄なんです。多少厳格な所もありますけど、私は比較的順応している方だと思っています。この生活に違和感を覚えた事もないですし、他人との差異もちゃんと自覚しているつもりです。だから、誰がルームメイトだとしても受け入れた―――なんてことはないんですよ? もちろん最初は大きな男の人が同居人でちょっと怖かったですけど………、金剛さんは優しい人だって思えました。だから今は平気です!』

 最後に曇りの無い笑顔を添えられ、さすがに金剛も納得するしかなかった。ここまで純粋に気持ちを向けてくれる女の子を疑う事も出来ない。そう判断して、彼は頷き一つで納得する事にした。

『それに私、能力的に悲鳴とか上げたらかなり大惨事になると思いますから………。私の期待を裏切る時は色々覚悟してもらう事になっちゃうと思います………』

 ぞっとする台詞が最後に漏れ、慌ててイマジンを切る更紗。金剛は隣人のちょっと怖い所を知って、むしろ可笑しい気分になった。なので遠慮なく豪快に笑い飛ばす事にした。

 いきなりの笑い声に驚いた更紗だが、すぐに頬笑みで返す。

「さて、そろそろ朝食の時間だなぁ~? たらふく食って、今日こそ白星を貰ってくるとするかな?」

 

 

 01

 

 

 燃え盛る炎に囲まれた地で、金剛は今回の白星も危ぶまれていた。

(やれやれなんと言う事だ………。この組み合わせはぁ、あまりにも俺に不利過ぎだなぁ………)

 クラス内交流戦二日目。金剛の相手は闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)の妹、闘壊(トウカイ)響だった。

 バトルフィールドは山中。何の変哲もない子供達が冒険気分で入り込める程度の浅い木々に覆われた見晴らしの良い、高低差の少ない山であった。タスクは山の中にある木で、一本だけ花を咲かせている物があるので、その木の花を一輪ゲットすると言うものだ。ちなみにこれは『見鬼』でも発見は難しい。もちろん目視では時間がかかる。そこで活用されるのが『探知再現』っと言われる索敵能力だ。イマジンを波の様に周囲に放つ事で一種のソナー効果を発揮する。これにより、『木』と『花』二つの条件が揃っている物を探し出すと言うのが教師が用意したタスクの内容だ。『探知再現』は能力ではないので、隠蔽しようと思えば簡単に出来てしまえる。例え探し物であっても、狭い範囲を低い精密さで感じ取るのがやっとだ。この再現術をどのようにして使いこなし、花木を見つけ出すのかと言うのは、実に発想力を刺激されるタスクだろう。

 無論、Cクラスには当たり前の様に無視されてしまったわけで、金剛も響も、速攻でぶつかり合った。その結果が今の金剛の窮地だ。

「悪いけどさ? アンタの弱点は食堂での決闘で確認させてもらってんのよねぇ? アンタと私の相性は最悪。私の得意とする能力は全て属性攻撃。対するアンタは属性攻撃が最大の弱点。おまけに私はあの“女”とは違って接近戦も得意。アンタに勝ち目なんて無いのよねぇ?」

 勝ち誇る響に、苦悶の表情を浮かべる金剛。

 彼女が勝ち誇るのは決して自惚れなどではない。実際金剛が苦手とする属性攻撃は響の得意とする能力であり、そのステータスも攻撃方面に振られている。周囲は彼女の能力『フェアリーエレメント』による『火炎舞踏(フレイムダンス)』で炎を操り、周囲は炎に包まれ逃げ道を塞がれている。金剛の身体にはあっちこっちに火傷の痕があり、じっとしている今でさえ、周囲の熱気に当てられ大量の汗を体力と共に流し続けている。

 金剛が決闘した相手が“男”だと言う事を除けば、あの騒ぎを無駄にせず、しっかりと観察していたと言う事になる。その洞察力もCクラスとしては十二分だと判断できるだろう。

 「だが―――」っと、金剛は口角を持ち上げる。

闘壊(トウカイ)妹よぉ? 俺の弱点を突き、最も効果的な手段を講じたその手腕は褒めてやろう。だが………、“お前一体いつの俺と戦っているつもりなんだ?”」

「? なに? 今更負け惜しみ?」

「言い方が悪かったのなら言い変えてやろう? “負けた俺が、いつまでもあのままだと思っているのか?”」

 付け加えた金剛は右手を振り上げ、地面に向かって平手打ちをする。

「出でよ! 『大江山の羅生門』!!」

 金剛の手から地面に向かって―――否、領域に向けてイマジネートが打ち込まれる。途端、地響きが起こり、大地が隆起。金剛の背に巨大な門が、『羅生門』が出現した。

「な、なによこれっ!?」

「東雲とやりあった時になぁ? 俺はまだスキルストックに空きが一つ空いてたんだよ? 奴との戦いに敗し、その反省の意味も込めて、新しいスキルを習得しておいたのよぉっ!」

 出現した羅生門は、ただ門として現れたわけではなかった。その全容から淡い光を放ち、炎に蹂躙されていた領域を支配し始める。忽ち炎は淡い青色へと変貌し、鬼火の様にゆらゆらと怪しく揺らめき始める。次第に金剛の身体にも変貌が見え始める。身体全身が(あかがね)の様に変色し、筋肉隆々の身体が固くなる様に圧縮されていく。額の突起は、まるで『鬼化』した時の様に角として屹立(きつりつ)する。

「な、何よその変身っ!? 『鬼神化』のニューバージョンってわけっ!?」

 変貌した金剛の姿に、さすがの響も警戒の色を強める。見た目は『鬼神化』の時に比べると小さくなっていて、あまり力強そうそうには見えない。だが、明らかに圧縮されたと解る筋肉は、全身が石の様に固い印象を受ける。直接触れば、それが生物である事さえ否定したくなる事だろう。恐らくは極限まで圧縮された結果なのだろうが、そこから放たれるパワーは、未だ計り知れない。何より注意すべきは『見鬼』によって確認できる『神気』だ。つまり、今の金剛は『神格』を得ている。神格を有していない筈の金剛が神格を纏っていると言う事は、間違いなく『鬼神化』を使っている。

「アタシも神格持ちじゃないけど、だからこそ教師に聞いてみたのよね? 『神格を持たない能力を神格化するのは良い方法ですか?』ってね? 答えは△だったわ。その方法だと確かに『神格』は得られるけど、後付けで得る神格は『疑似神格』になる。そして『疑似神格』は必ず神格を使うための代償を支払わせる結果に至る………ってね? つまり、アンタのそれも『疑似神格』で、しっかり代償を要求されるって事よね?」

 響の質問に金剛は応えず、ただ山の如く立ちつくすのみ。

 それを肯定と捉えた響は、僅かに取り戻した余裕から笑みを作る。

「あたしは直接見たわけじゃないけどさぁ? 確かアンタ、疑似神格の代償に『()っちゃくなる』んだって? いいの? 子供の身体じゃあ、明日の試合までに傷ついた体も体力も回復しないよ? ってか何よりさ? あたしがアンタとやるのに神格対策を考えてないとでも―――」

「御託は良い」

 突然金剛が口を開き、響の言葉を途中でバッサリと切り落とした。

「まずは俺を倒してみせい」

 金剛が挑発する様に言いのけ、一歩前へと踏み出す。

 それに合わせる様に響は二本の短剣を取り出す。いや、短剣と言うには語弊があるだろう。その剣には刃が無く、柄だけになっている。それを短剣と呼ぶにはいささか語弊があると言うものだ。だが、それは短剣となりえる。

 響が柄を握り締めた瞬間、彼女の能力『フェアリーエレメント』が発動し、属性を刃として付与する。

「『水麟氷乱(アイスダンス)』!」

 水の属性を付与され、水の刃を作り出した。無論、ただ水の刃が出来たわけではない。“水”と言う属性を“刃”と言う形状に付与したものだ。すなわち、形状も質量も、想いのままに変換可能と言う事だ。

「氷龍!」

 クロスさせる様に両腕を切り開く響。そのアクションに合わせ、刃となっていた水が大量に噴き出し、激流となる。激流は一瞬で凍りつくと、龍の姿を模った。作り出された氷龍は、周囲で青色に変化してしまった炎を呑み込み、次々と鎮火させ、変わりに氷の柱を林立させてゆく。一瞬で辺りは氷漬けとなり、フィールドその物が変わってしまった。

「【氷龍月花】」

 キーワードを口にし術式命令(コマンド)。氷龍は踊り狂い、フィールド全体を氷漬けにし、周囲の温度をドンドン下げていく。しかし、金剛の背に出現している羅生門に対しては何度ぶつかっても跳ね返され、逆に氷龍の方が氷の破片を散らしている始末だ。

「………ぬんっ!」

 それ横目に見ていた金剛が鼻息を一つ、気合いを入れて裏拳を放つ。拳をもらった氷龍は、あまりにも容易く砕け散り、騒がしい音を響かせながら粉々になって宙を舞う。まるで氷ではなく、飴細工の龍だったと思わせる程の見事な壊れっぷりに、破られた響の方が呆れて肩を竦めてしまう。

 金剛が呟く。

「一応言っておくが、氷や土は一概に属性攻撃とは言い切れん。確かに“属性”は存在するだろうが、アレらは物質………立派な物理攻撃だ。残念だが、東雲が使っていた式神の水の刃に比べると圧倒的に劣っているぞ?」

「あぁん? 何自慢げに言い出してんの? あたし、一度も氷龍でアンタを攻撃してないでしょうが? 本命は別だし………」

 ニヤリと笑った響は柄に、今度は風の刃を付与する。

「『風雲鳥飛(ウィンドダンス)』! 【風刺針投】ッ!!」

 【風刺針投】響の使うスキル『風雲鳥飛(ウィンドダンス)』の応用技の一つであり、極限まで圧縮した風の針を飛ばす技で、その風の針はあらゆる障壁を貫くイマジネートが掛けられている。例え金剛が物理防御に優れていても、仮に属性防御がステータス数値の全開であったとしても、何らかの防御能力を展開していたところで、それらを貫通して金剛の心臓を貫くは容易かった。

「………なるほどな」

 自分に向かって加速する風の針に気付いた金剛は、納得の呟きを漏らし、片腕を掲げ―――、ブンッ! と一振り、飛来した三本の風の針を容易く弾き飛ばしてしまった。

「えっ!? 嘘っ!?」

 ありえない出来事に目を奪われた響は、その瞬間だけ隙を作ってしまう。

 金剛はその隙を見逃す事無く地を蹴って前進。地面を吹き飛ばしていく勢いで踏破し、正面から堂々と拳を振るい抜く。

「―――ッ!?」

 だが、そこはやはりイマジネーター。一撃必殺の脅威に対し、『直感』が働きすぐさま跳躍してギリギリ回避。直前に殴られた空気が大爆発を起こし、響の身体が上空高くに打ち上げられた。

「やばっ!? 空中っ!」

 『風雲鳥飛(ウィンドダンス)』で風を操り、必死に姿勢制御をし、動けぬ空中で金剛の追撃に備える。残念ながら彼女の『フェアリーエレメント』は、あくまで属性を付与する物であり、自由自在に属性を使いこなすと言う域には達していない。風を操れても飛行などとてもできない。

 そして予想通り、爆発で上がった土煙をぶち抜き、巨体の金剛が砲弾の如く迫りくる。

(なら、『水麟氷乱(アイスダンス)』で激流をぶつけて質量で押し返すっ! それが無理でも途中で凍らせれば、軌道はずらせるはずっ!)

 短剣の柄に発動している『フェアリーエレメント』を『水麟氷乱(アイスダンス)』へと変更。風を消して水の刃を取り出す。両手を振り被り水を解き放とうとした響は―――、突然左右から現れた“危機”を『直感』で感じ取り、反射的に迎撃してしまう。

 左右に放たれた水刃は、現れた“危機”を見事に斬り裂いた。現れた“危機”は黒い翼を持つ少女と、緑色の服を着た少女の二人。どちらも女に生気が宿っておらず、人形の様に虚ろな表情をしている。そして攻撃を受けた個所からイマジン粒子の粉が飛び散り、輝いていた。それが彼女達の正体を表わしている。

(イマジン体っ!?)

「生憎、東雲の様に深く掘り下げた設定をしていないので、できそこないの人形程度だがなっ!!」

 金剛の声が正面からして、ハッとする。しかしもう遅い。迎撃に要した一瞬の間が、金剛を迎撃するタイミングを失ってしまう。

 そして、響は見る。金剛の右腕が肥大化し、更に鋼鉄を超える強度へと進化しているのを。

「うそっ!? これは『鬼化』っ!? アンタ、その姿で『鬼化』してなかったのっ!?」

「生憎この姿は『大江山の羅生門』で神格を得た、俺の『鬼ステータス』が『鬼神ステータス』へと変わった事による影響じゃっ! 悪いが一撃で仕留めさせてもらうぞぉっ!!」

 放たれる一撃。

 響は全力で考えられるだけの防御手段を試みるが、既にこの時点で勝敗は決していた。

(だめだっ!? あの拳………っ!? 城塞都市(トロイア)級の神話でも、防げない―――っ!?)

 拳が直撃した瞬間、響の体は吹き飛ばされる刹那の間に、メキメキと音を上げ体の半分が潰され―――教師手動のリタイアシステムにより姿を消した。

 

『オーバーダメージを確認。教師権限により、勝者を伊吹金剛とし、闘壊(トウカイ)響を強制リタイヤさせました。伊吹金剛、改めて、君の勝利です』

 

 教師のアナウンスを聞いた金剛は、地面に着地すると『鬼化』させていた腕を元に戻し、『大江山の羅生門』も地中へと戻した。姿が元の人に戻ったところで身体についた霜を手で払い落す。

「やれやれ、東雲に感謝だな。あの一戦が無ければ『大江戸の羅生門』は使えなかった。『鬼神化』でも、倒せたかも知れんが、それでは氷龍で作られた冷気で身体の動きが鈍った所を、あの風の針で射殺されていた。………しかし、鬼のステータスが鬼神のステータスに代わるだけで此処まで簡単に風の針を叩き落とせるとはのぅ? アレに何の脅威も感じなかった。『鬼化』した腕で簡単に弾き飛ばせるとすぐに解ったぞ。苦手な属性攻撃であっても、神格を得るだけで此処まで違ってくるとは………、いやはや我が事ながら奥が深い」

 自分で体験したイマジンの奥深さに関心の声を上げながら、金剛は身体の至る所をチェックし、殆ど無傷である事を確認する。

「うむっ! 今回はわれながら快勝であったっ!」

 満足げに頷きながら元に戻った白い部屋から出ていく彼は、実に愉快そうに肩を揺らすのであった。

 相性が悪さを克服する事。これもこの学園では当たり前に見られる姿であった。

 

 

 02

 

 

 さて今度は、闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)VS本多(ほんだ)正勝(まさかつ)との試合なのだが、こちらは前回の心配事がそのまま反映されてしまっていた。

 正勝の『無傷の槍兵』の効果でポイントを取る事の出来ない狂介が、自身の『感覚付与』『I don't have but you have (俺に無くてお前にあるもの)』で痛覚に訴えかける作戦に出たのだが、逆に正勝の臆病さに拍車を掛けてしまい、ただひたすらイタチゴッコが続く始末になっていた。

「テメェッ!? ホンット! いい加減にしろよっ!?」

「ヒィ………ッ!? ご、ごめんなさいっ!?」

 バトルフィールドはブロック体で出来た簡単な高低差がある程度の部屋だ。障害物と言える程のブロックは少なく、長い槍使いでも存分に力を発揮できる。

 そんな状況で逃げの一手なのだから狂介の怒りも尤もだ。

 今もブロックを壁に、身体半分隠した状態で狂介と睨めっこしている状態で、正勝は怯えた瞳をしていた。

「うぅ~~………、素手が相手だから今回はどうにかなると思ってたのに………、攻撃したら、こっちが痛くなるとか反則だぁ~~………っ! おまけにダメージないのに、こっちが受けた痛みはメチャクチャ倍増されてるし………」

「そう言う能力なんだよっ! ってか、普通ダメージ入らねえお前の方が反則的な状況のはずだろうっ!? なんでお前が逃げの一手なんじゃ~~~!!」

 狂介の尤もな怒声に、逆に委縮して物影に首を引っ込めてしまう正勝。彼自身も、このままじゃいけないと解ってはいるのだが、自分の攻撃が倍の痛みになって返ってくるという状況で『勇気を持って』などとはとても言い出せなかった。(マゾ)じゃあるまいし、そうと解ってて攻撃する意味が全く解らない。

 ちなみに、今回のタスクは、色の違うブロックの周囲を二周するっと言う、うっかり気付かぬ内にクリアしてしまいそうな内容だったりするのだが、やはりCクラスの連中にはタスク条件その物が頭に入っていない様子だ。

「け……っ! やってられるか……っ!」

 さすがに業を煮やした狂介は、その辺のブロックを思いっきり蹴りつけ、吐き捨てる。その時の足の痛みがフィードバックされ、「ぎゃっ!?」っと声を上げる正勝を無視し、完全に腐ってしまう。

「俺さ、入学試験の時、お前の様子見てたんだぜ? 敵に追い込まれた時に槍の一撃で一刀両断にしてたろ? おまけに姓名が『本田』だ? イマジネーターになったとしたら“割断”くらいやってのけるんだろうな、って、期待してたんだぜ? 今回対戦相手になった時なんかワクワクが止まらなかったくらいだ………」

 期待に満ちた内容とは裏腹に、その声色には、明らかな落胆が色濃く現れている。

 それが解る故に、正勝は申し訳なさと、勝手な期待に対する精神的圧迫感(ストレス)に、頭を垂れて気落ちしていた。三角座で影を背負っている姿がやけに様になっている。

「あ~~あ………、ホントくだらねぇ~~。こんなのが“戦国最強”とか、マジ笑える~」

「………(ぴくっ)」

「まあ、所詮は昔の原始人だしぃ? イマジネーターとかみたいな超常の存在と比べる事の方が可哀想? 見たいな感じィ~? つまりそれって“戦国最強”って実は大した事無いとかぁ~? ははっ! そう考えたら笑えてきたぁ~!?」

 狂介は嘲るように嗤い声を上げ始めた。

 断っておくが、決して狂介とて悪人ではない。本気で過去の偉人をバカにし、軽んじている訳ではないのだ。ただ純粋に期待していただけに、この戦闘好きのCクラスで遭遇してしまったがために、裏切られた思いがあまりにも大きく、ついつい言い過ぎてしまっているだけなのだ。

 それでも口が止まらない。それだけ彼の落胆が大きかったっと言う事なのだろう。

 だが、狂介はこの時油断していた。決してしてはいけない相手に、致命的な油断をしていた。だから気付かない。敵の様子が変わり始めている事に。解らないからこそ、彼は最後の地雷を踏んでしまう。

「強いって言っても、それ原始的なレベルって事だぁっ! はっはっ! お疲れ様ぁ~~っ! “や~~い、戦国最強~~!?(笑い)”」

 

 ズガンッ!!

 

 切れた。

 ブロックが―――、

 狂介の腕が―――、

 そして、正勝が………。

「悪いけどさ、僕にだって譲れないモノはある」

 斜めに切り裂かれたブロックがスライドして行く中、その影からゆっくりと姿を表わしていく正勝が、静かな、しかし、とても強い印象を与える言葉を放つ。

「君は言うべきではなかった。僕だけならまだしも、御先祖様まで罵った罪は果てし無く重い………」

 彼は鮮やかな仕草で槍を構えると、先程とは別人と見紛う凛々しい表情と鋭い眼差しを持って告げる。

「………さあ来なさい。適当にあしらって斬り捨てます」

「………え? いや、ちょっとなに? そのいきなりの変わりよう? なんか付いていけないんですけど? ってか、こっちに攻撃したのに、なんでお前痛み感じてないわけ?」

 あまりの変化に片腕を庇う事も忘れて問いかけてしまう狂介に、正勝は、澄ました顔で淡々と告げる。

「この程度痛みの内には入りません」

 一言だった。たった一言で全ての理由を纏めた正勝は、『蜻蛉切』により極限までに強化された槍の先を突きつける。

 己の痛覚を全て押し付けている狂介には解らない事だったが、正勝の『蜻蛉切』はありえない切れ味を有する物だ。それこそ、黄金すら発泡スチロールに熱線を通すが如く、易々と切り裂いてしまえるほど。それを達人の技を持って振り抜かれれば、痛覚さえ感じさせずに手足を切断する事が可能になってしまえる。

 つまり、痛みを押しつけている狂介だが、実際与えられた痛みはほぼ0なため、押しつけられている正勝の痛みも無いに等しい状態だ。

 故の「痛みの内に入らない」発言である。

 それを長々と説明する事無く一言で言いきってしまった正勝。その姿と態度を見て、急なギャップに思考が付いて行けず、狂介は別の方面に理解を広げていた。

(明らかにさっきまでとは違う落ち着いた雰囲気………、だけど性格が変化したとか、キレたとか、本気モードに入ったとかそういうんじゃない感じだ? アレは………。ああ、何かどっかで一度見た事あるわ~~………)

 何故か溜息が出そうになりながら、狂介は結論付ける。

(スポーツマンとかだと割と多くいるらしいんだよなぁ~………。何かがきっかけで、物凄く調子が良くなる、“最良の状態(ゾーン)”ってやつに入ったりするの………)

 “最良の状態(ゾーン)”っとは、技の名ではない。言ってしまえば絶好調を表わす言葉だ。人により“最良の状態(ゾーン)”にも違いがあるらしいが、ともかく雑念が無く、自分でも驚くほどに目の前の事に集中できる状態を指すらしい。スポーツマンに於いては、これを自発的になれるだけで、かなりの利点となる。

 戦闘を旨とするこの学園に於いても、これは例外ではない。ただ一つ、違いがあるとすれば………、イマジネーターの“最良の状態(ゾーン)”は、入っているかいないかの差一つでも、半端無い強化に繋がると言う事だ。それこそ圧倒的に。

 

闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)。ダメージオーバーにより強制リタイヤ。本多(ほんだ)正勝(まさかつ)の勝利を認めます』

 

 教師からのアナウンスが流れたのは、それから三分後だったと言う………。

 

 

 03

 

 

 ジャジィンッ! バラバラ………。

 

「あらまぁ~?」

 砕かれたチェーンソーが地面に散らばる様を持ち主である(くすのき)(かえで)が頬に手を当てながら見つめる。

 その傍らでは、対戦相手の黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)が限界と言わんばかりに大の字で寝転がっていた。

 二人ともボロボロで、身体中は切り傷だらけ。服のあっちこっちが血に濡れ、大きく露出している。楓など、片胸が晒されてしまっているのだが、そこに付けられた大きな傷の所為で艶めかしい物にはとても思えない。チェーンソーと一緒に斬られた、出来たばかりの新しい傷で、血の量も危機感を与えるには充分だ。

「個人的にはかなりサフランの花言葉の如く『歓喜』の時間だったのですけど………、武器を失った上に時間切れとは………」

「ぜぇ、ぜぇ………っ! ああくっそっ! 今までで一番楽しかったのにぃ~~~! 身体が全然付いていかねぇ~~~っ!」

 手足を軽くばたつかせダダをこねる畔哉だが、その所為で身体から余計血が流れ出すのに気付いてすぐに大人しくなる。

 それに苦笑気味に微笑みながら、楓はゆっくりと腰を下ろし、周囲を見回す。

「それにしても………、気付いて見るとすごい有様ですねぇ~?」

 今回のバトルフィールドはジャングル地帯だったのだが、楓と畔哉の周囲は完全に木々が一掃されていて、殆ど土が剥き出し状態だ。まるでカマイタチを伴った台風でも発生したのではないかと言う光景に、我が事ながら呆れてしまう二人だった。

「って言うかまだ時間あるなら聞いて良い? 君が使ってたのにちょっとした疑問が?」

「なにかしらぁ? 意識がある内にならお答えしますけど?」

 互いのポイントを確認しながら楓が船を漕ぐように頭をふらふらさせつつ返す。

「さっき使った『七花八裂』って言うの? あれ、一体何なの? 能力っぽくなかったのに、なんであんなに強い技だったんだよ?」

「さあ、なんでかしら? 確かにアレは能力ではなくて、ただ八つ裂きにするってだけの技なんですけどね? ただ『強化再現』で強化して攻撃してるのではなくて、空きがあったスキルスロットに入れてみただけなのよ? あんなに強くなるとは私も意外だったわ」

「そんな話、教師からは何も聞かされてないんだけどな~? もしかして、俺等が知らないだけで、『スキルストック』には、何か強くなる秘密があったりするのか?」

「さあどうかしら? でも『スキルスロット』も、ただの『特技設定』とは、思わない方が………、ああ、すみません、そろそろ血が………」

 くらり………っ、と来た楓は、そのまま地面に倒れると、光の粒子となって消え去った。

 

(くすのき)(かえで)、出血多量につき、リタイヤシステムが自動発動しました。よって勝者は、黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)

 

「う~~ん、全力を尽くした末の勝敗だったんだけど………、なんか勝った気がしない。もっとバシィッ! っと、決められないものかなぁ~?」

 未だに不完全燃焼を続ける畔哉。彼が満足行く勝敗は、果たして訪れるのだろうか?

 

 

 桜庭(さくらば)啓一(けいいち)VS虎守(こもり)(つばさ)の戦いでは、『雷化』によって啓一の斬激、剣による物理攻撃を完全無効化して有利に立っていた翼だったが、啓一の有するステータス『斬れ味:500』の効果を活かされ、斬激を届かされてしまった。

 ステータスの効率的発動は、それなりの難度があったため、全部で五回分しか届かせる事ができなかった啓一だったが、苦戦の末に勝利を勝ち取った。

 

 鋼城(こうじょう)カナミVS前田(まえだ)慶太(けいた)戦では、終始互いに一歩も譲らぬ激戦が続き、一進一退の様相を呈していたが、慶太の切り札『I know Longinus・ the truth, and truthreleases you(聖槍・真理を知り真理が君を自由にする)』によって、彼の能力その物でもある『聖槍・ロンギヌスの槍』の過去を得、絶大な神速と貫通力のある槍の連撃が繰り出され、カナミを圧倒した。

「う、うわわああ~~~~っっ!!」

 ズガガガガガッ! と言う破砕機の様な音を響かせ、彼女が能力で作ったパワードスーツ『鋼鉄の戦乙女(アイアンヴァルキリー)』が、絶え間なく破片を散らしていく。生産系の能力とは違い、変身系の能力で作られた彼女のパワードスーツは、イマジネートによって破損部分をいくらでも回復する事が可能だ。だが、“イマジン”補給ではなく、術式処理を意味する“イマジネート”で修復するのだ。イマジンを流し込めば瞬時に回復すると言うわけではない。そのため集中できるタイミングが無ければ修復行為は困難で、彼女のスーツは殆ど剥ぎ取られていた。

 胴部分は完全に剥ぎ取られ、急所を守る物は無くなっている。手足の防具は傷だらけで、殴るにしても拳が剥き出し状態になっている。ポイントも既に45ポイントも取られていて圧倒的に不利な状態に追いやられている。なのに、怒涛の攻撃は全く止む気配がない。防御に全力を尽くしていてもポイント戦ではジリ貧にされて終わってしまうだけだ。

(これ以上、堪えるのは無理………っ!! ポイントが残っている内に勝負に出るしかない………っ!)

 身を守る鎧を完全に剥ぎ取られ、しかし、まだ彼女の武器であるイマジンセルが健在であった。ガントレットと膝下に30mm径、長さ8cmのイマジンセルが装填されている。これを爆発させる事でスピードとパワーを得るのが彼女の主流の戦闘スタイルだ。イマジンセルの補充は背部装甲のリアクターによって行われるのだが、残念ながらこちらは既に破壊されてしまっている。

(残りのセルで何処までいけるか解んないけど………っ!)

「それ………っ! でも………―――っ!!」

 防御していた手足を広げ、怒涛の攻撃に対して無防備を晒す。攻撃が迫るのを痛みと共に感じ取りながら、カナミは全力で拳を握る。

「『フルブラスト』ッ!!」

 手足に装填されている各八つのイマジンセルが全て一斉に爆発される。超圧縮されたイマジンエネルギーが次々と叩き込まれ、カナミの能力を瞬間的、爆発的に引き上げられる。

「ッ!? やべ………っ!?」

 焦りの声を、笑みを浮かべながら漏らす慶太。『直感』を頼りに瞬時に行動を変更。怒涛の勢いで突いていた槍を一撃必殺の刺突へと変え、渾身の力で突き込む。

 拳と槍が激突し、空気の爆発による轟音が鳴り響く。強烈な衝撃波が周囲を撒き散らし、槍は拳を、拳は槍を―――互いに押しのけようと鬩ぎ合う。高密度のイマジン同士が押しつけられる事で眩い発光現象を起こしながら、二人は渾身の力を振り絞る。

「撃ち抜けええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっっっ!!」

「貫けよォォォォォーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 真っ白に輝くイマジンの発光。その光は次第に慶太の放つ赤い色へと変色して行く。

「く………っ!?」

 カナミが歯噛みした瞬間、光が弾け、衝撃波にカナミの身体が押し返されてしまう。

 地面を転がるものかと根性で地に足を突き耐える。地を滑り、だいぶ後退したところでやっと勢いが止まる。だが、身体中が痙攣して一瞬だけ隙が生まれてしまう。その一瞬目がけ、慶太は槍を突き込みに来ていた。

「もらったぞぉーーーーーっ!!」

 戦慄するカナミ。勝利を確信した慶太。

 突然危機を知らせる『直感』。

 慶太は驚愕するが、『直感』が何について危機を知らせているのかが理解できず、行動を変更できない。目の前には確実な勝利が存在している。カナミは動く事が出来ず、カウンターを狙える状況にはない。周囲に罠らしき物もない状況で、一体何が“驚異”となり得るのか理解できない。

 そして、それが勝敗を決定した。

 

 ブシャアアーーーーーッッ!!

 

 突然カナミの身体から蒸気が勢い良く噴出される。正しくは、彼女が纏っているパワードスーツの冷却機がその仕事を実行し、冷却材を噴出しているだけにすぎない。だが、()()()()ではなかった。

 この時、『直感』を得ていたのは慶太だけではなかった。カナミも同じく勝利への『直感』を感じ取っていた。

 慶太の槍が突き出される中、カナミも全力で攻撃に転じようとする。無論間に合わない。圧倒的にタイミング遅れている中でカナミは必死に拳を振り被る。先に突き出される慶太の槍は、白い蒸気を押し退け、彼女の胸を一直線に貫いて―――は、いかなかった。

 刹那にバチリッ! っと言う音共に、矛先がねじ曲がり、中程までが吹き飛んでしまった。

「な、なんだとっ!?」

「うっそっ!?」

 驚愕する慶太。同じく驚くカナミ。

 二人は知る由もなかった。カナミの『フルブラスト』使用後に排出される冷却材は、イマジンの摩擦によって起きる熱量を冷却するための物だ。これはイマジン物質論に関わるので詳しい説明は省くが、イマジンの摩擦によって熱を持ったイマジン物質は、物理的に冷やすよりも効率の良い冷却方法が存在する。原子よりも細かい粒子であるイマジンを簡易分解し、熱を持った部分を取り外し、冷えた部分を構築する。っと言う方法だ。カナミの『排出』はそれを最も効率的に行われる仕組みとなっているのだが、その排出している蒸気は、イマジンを“押し退ける”っと言う性質を有しているのだ。つまり―――蒸気が排出される一秒間に満たない僅かな間、彼女は疑似的なキャンセラー空間を形成している状態になっているのだ。

 それを慶太の本能が感じ取ったが故の『直感』。

 それをカナミが本能的に理解したが故の『直感』。

 砕けた槍を突き出した状態で無防備な慶太に、カナミの全力の拳が突き刺さる。もはや逃れようもない状況に、慶太は強く笑みを作った。

 

「素手で俺をぶっ倒すかよ………!? やっぱ期待通りじゃねえかよこの学園………っ!」

 

 僅か一秒にも満たない刹那の間、決してそんな長台詞を吐いていられる時間はなかったはずだと言うのに、それでもカナミの耳には確かにそのセリフが届いた様な気がした。そして―――、

 吹き飛ぶ慶太。腹部を拳大に陥没させられ、地面を激しく転がり、彼は地に伏した。

 二人の勝敗を分けたのは、二つの偶然だった。

 一つはカナミの蒸気がイマジンを押しのける事が出来ると言う事。

 もう一つは、慶太の使用する武器が、イマジンによって形成されていた物だと言う事。

 それは単なる偶然かもしれない。だが偶然で勝敗が決したと言うのなら、それは運に左右される程に、互いの力が拮抗していた証拠でもあった。

「勝っっっったああぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~………っっっ!!!」

 勝利を実感し、拳を天に振り上げたカナミは、アナウンスを確認するとともに地面に倒れ伏して目を回してしまった。間違いなく、今回一番、満足の行く戦いが出来た人物に違いないだろう。

 

 

 そう、鋼城(こうじょう)カナミは間違いなく今回一番満足した人物であった。

 時間をかなり引き戻し、こちらでは新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)甘楽(つづら)弥生(やよい)の対戦カードが始まったのだが………。

(う、嘘だろ………っ!?)

 悠里は自分自身を疑っていた。嘗て、下界(ギガフロートの外の世界)で名の知れた不良を貫いていた自分だったが、よもやこんな事に直面するとは思いもしてなかった。

(あ、ありえねぇっ!? 俺が………っ! まさか、そんな………っ!?)

 未だ嘗てない衝撃に、目の前の対戦相手を控えた状態で解り易く動揺してしまう悠里。戦闘も始まっていないのに、思わず後ずさりまでしてしまう姿に、さすがの弥生も困った表情で首を傾げてしまう。

(く………っ! や、やめろ………っ!)

 思わず顔を庇う様にして視界を制限する悠里だが、戦闘中と言う事もあり、なんとか腕の隙間から相手を確認しようとする。しかし、そこに移る存在を目にすると、どうしても込み上げる感情に駆られてしまう。

(バ、バカな………っ!? まさか本当に………っ!? 俺は―――“一目惚れ”してしまったと言うのか………っっ!?)

 悠里に、衝撃が走る。

 ザワ、ザワ………、っと、あらゆる動揺が彼を掛け巡り、鼓動は速さを増し、血流が顔に集まって行く。視線は目の前の少女から外せなくなって行き、見えるはずの無いキラキラとした光の輝きまで目の中に移り込んで来るようだ。

「お、お、お、おおお、おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーっっっ!!!??」

「ひゃう………っ!?」

 いきなり(魂の)雄叫びを上げる悠里に、驚いた弥生が飛び退く。

 片手に持っていた剣を胸に抱く様にして飛び退く姿まで、悠里の目には可愛らしい少女の愛らしい仕草にしか映らない。本物が目の前にいても美化して行く思考、それを『恋』と言わず、一体何と形容するのかっ!? 少なくとも悠里には思い付かなかった。

「か、可愛い………、弥生可愛い………」

「あ、あの………? 大丈夫?」

 思わず訪ねる弥生に、悠里は何も考えずに即答。

「全然」

「先生っ!? これって戦闘続行して大丈夫なんですかっ!?」

 慌てて教師にヘルプする弥生だが、教師からの回答はない。それより早く悠里が答えてしまったからだ。

「大丈夫」

「大丈夫じゃなかったのではっ!?」

「うん」

「じゃあ、やっぱりまずいんだよねっ!? 勝敗は引き分けで良いから、ここは一旦中止して、今すぐ保健室に行った方が―――」

(中止―――だと………っ!?)

「それはダメだッッッッ!!!!!!!」

「ひゃぁうん………っ!?」

 血走った眼で見つめながら、物すごい剣幕で訴える悠里には『理性』の二文字が完全に失われているようにしか見えなかった。何しろ中止しない理由が―――、

(中止したら、合法的に弥生と一緒にいられる時間が無くなっちまうだろうっ!?)

 ―――なのだから………。

「え、えっと………? じゃあ、攻撃しても大丈夫ですか?」

「バッチ来いっ!!」

 手を広げて受け入れ態勢を万全にする悠里。

(何だか行きたくない………)

 さすがに戸惑いを覚える弥生だったが、そこは彼女が持つ能力『ベルセルク』の常時発動効果により、瞬時に気持ちが入れ替えられる。

 剣を逆手に持ち変え、地を蹴り、左右に身体を振りながらフェイントを織り交ぜ接近して行く。

(『計測(トレース)』!)

 悠里は『模倣(コピー)』の能力により、相手のイマジンと身体の動きを計測して行く。『計測』を完了し、『記録』する事で、彼は他者の能力を『模倣』する事が出来る。それが彼の『模倣』の能力だ。

 僅かに出っ張っていた地面を蹴りつけ飛び上がった弥生は、そのまま得物を捕らえに掛る獣の如く飛び掛かる。

 刃が迫る中、悠里は眼を一杯に見開き、必死に次の段階へと移る。

(根性……っ! 『記録(メモリー)』………っ!!)

 本来『記録』移るには、最低でも二分以上の『計測』が必要なのだが、悠里は決して目を逸らそうとはせず、それを僅か十秒足らずやってのけてしまったっ!? そして―――、

 

 ズバッと斬られた。

 

 地に倒れ伏す悠里。

 踵を返して様子を窺う弥生。しかし、悠里は立ち上がってくる気配はなく、流れる血が止まる気配もない。『ベルセルク』の能力さえ、戸惑いを覚え始める中、彼女は恐る恐る声を掛ける。

「えっと………? ねえ、大丈夫?」

 プルプル………ッ、っと、彼の腕がゆっくりと上がり、グッ! っと親指を立てた。

「|脳内保存、完了《風にたなびくスカートの間から見えたおみ足最高でした》………っ!!」

 そして、悠里は満足した顔で気を失った。

 

『勝者、甘楽弥生』

 

「ええええぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!!!????」

 今季最高の驚愕を得る事となった弥生は、意味も解らず二つ目の白星を獲得したのだった。

 だが、間違いなくこの勝負一人勝ちしたのは、新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)だったに違いない。

「不完全燃焼とかそういうレベルじゃな~~~~~~いっっ!? 何このモヤッと感ッ!? 一体どうすればいいんだよぅ~~~~~~っっっ!!!?」

 以降、甘楽(つづら)弥生(やよい)は、この日を境に新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)から猛アタックを受ける事となるのだが………、同時に苦手意識を持ってしまう事となる。

 彼等はこの後、二転三転するラブコメ人生を展開していく事になるのだが、それはまだ先の話である。

 とりあえず、こうして二日目無事(?)に終了したのだった。

 

 

 04

 

 

 イマジネーションハイスクール、柘榴染柱間学園の学園長、斎紫海弖は変人的な天才だと言われている。変人である事を認める彼だが、天才と言うのだけは否定している。何しろ彼の親戚は学生の頃にイマジンを発明してしまった稀代の天才なのだ。彼に比べれば自分など大した存在ではないだろう。

 天才を否定する彼が、この学園の学園長の席に着いたのは、他でもないその親戚に頼まれたからだ。故に彼は天才ではないと自称する頭脳を使い―――この学園で暇を持て余していた。

「事務仕事なんて楽勝過ぎてつまらん………、やはりこの学園の醍醐味は試合だが………、さすがに見飽きるなぁ~~………」

 げんなりした表情でそんな事を呟きながら、彼は学園長室の机で沸騰した青汁を啜っていた。

「ちっ、パンチが足りん………」

「沸騰青汁に何を求めてるんですかっ!?」

 偶然書類を届けに来た比良(このら)美鐘 (みかね)のツッコミに、海弖は深刻そうな表情で返す。

「全くだな。せめてコーラとドリアンとヤモリの黒焼きをミックスしてから―――………いや待て。炭酸は温めたら抜けてしまうじゃないか? ラー油の方が………くそっ! インパクトが薄いっ! この学園に私は何年学園長をやっているんだっ!? なんて体たらくな発想だっ!」

「既にアグレッシブ全()ですよっ!!」

 額に手を当てて苦悩する海弖に、条件反射のレベルで突っ込む美鐘だが、海弖は全く意に介した風はない。

「せやったら海弖くん? おでんを入れてみるのはどうやろうか? 煮干しの粉末をまぶしたらそれなりに美味しそうやろ?」

「なるほど。健康にも良さそうだ………。さすがゆかり様だ。では早速………」

「いきなり出てきてとんでもない提案をしないでくださいゆかり様っ!? 海弖先生も突っ込む前に準備終えないでくださいっ! どんな早技ですかっ!?」

「さあ飲み給え氷野杜(ひのもり)くん」

 いきなり現れた半透明姿の昭和幽霊教師、吉備津ゆかりの提案を実行した海弖は、流れる動作で自分の補佐役である氷野杜(ひのもり)八弥(やや)へと御茶(汚染物)を渡す。

「ごくん………っ」

「躊躇無く飲んだっ!?」

「学園長の命令は絶対ですから………、それと失礼します………」

 空になったコップを置いた八弥は、急ぎ足で学園長室を出ようとする。

「ど、どちらへ………?」

「“花を伐採しに行く”以外に何があるのですか………っ!?」

 ※直訳:トイレです。

「急いで行って来て下さいっっっ!!」

 真っ青な顔で手を口とお腹に当てた八弥は、速く動くと死ぬと言いたげな緩慢且つ必死な挙動で学園長室を後にした。

「さて………、今年の一年生は豊作ではあるが、バラエティーに乏しいのが難点なのだよねぇ~~?」

「昨年はいろんな能力の幅が多い子らが揃ってたんやけどねぇ~~?」

「アナタ達は、娯楽の犠牲者に対する―――ッ!?」

「無い」「あるよ~~?」

「―――慈悲は………ってっ!? 台詞の途中で即答しないでくださいっ!? しかも二人とも違う答えですかっ!?」

 ぐったりと肩を落として息を整える美鐘。元々ツッコミ気質ではない為、この二人に煽られるのはとてつもない心労が(かさ)む。その点、八弥は逸早く察し、敢えて火種を受け入れる事で早々に脱落(脱出)したようだ。

「もう良いです。疲れるので話は膨らませない方向で………」

 諦めて告げる美鐘に、海弖は「え? なんだよこいつ~? 遊ばないのかよ~~?」っと言う非難の目で見詰めつつ、イマジン操作で立体スクリーンを空中に呼び出す。

「そう言えば今日はクラス内交流戦の三日目だったねぇ~? 上級生はともかく、一年生はCクラス以外はつまんなくなる日だね?」

 海弖の対象がいない質問に、ゆかりが―――美鐘の事を「なんやろこの我儘な子は~? もう少し老人の遊びに付きあってあげよう言う真心を持てへんかったんやろうかぁ~?」っと言う眼差しを向けながら―――答える。

「そやねぇ~~? そんでもCクラスでまともに動ける子はやっぱ限られとるみたいやねぇ~?」

「動ける生徒の様子は見ておくのも良いんじゃないですか?」

 「うるさいお前ら、こっち見るんじゃないっ!」っと言う視線を全力で返しながら告げる美鐘の言葉()()を聞き入れ、海弖はつまらなさそうにCクラスの戦いを観察する。

 

 

 三日目ともなると、どの生徒も疲労が現れ、消耗戦の体を見せる。戦闘特化のCクラスも例外とは言えない―――が、“特例”とは言えるかもしれない。Cクラスの場合、疲れが回っていようが関係無しにともかくぶつかり合うのだ。それはもう、身体を引きずってでも前進する勢いで。

 海弖の呼び出したモニターに、最初に映し出されたのは闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)VS鋼城(こうじょう)カナミの様子だった。

 例の如く、狂介の『I don't have but you have (俺に無くてお前にあるもの)』によって痛みを押しつけられたカナミが大苦戦している。

「はあ、はあ………、ポイント的にあと少し………っ! いつの間にか右足と左腕の骨を折られてるけど、次でポイントゲットだ………っ!」

「痛い、痛い痛いイタイイタイイタイ………ッッ!! この能力! ズルくて卑怯だと思います………っ! 折れてないのに骨が折れた痛みを受けるわ、更に無理して動こうとする痛みまでこっちに押し付けられて、精神的にどうにかなっちゃいそうですっ!!」

 自分の体を抱きしめ、全身の痛みに涙をボロボロこぼしながら、歯を食いしばったカナミは完全に自棄くそになって飛び出す。

「だから………っ! もうこれで倒れてくださ~~~いっ!!」

 脚部装甲に収められたセルカートリッジをロード、残りの力を全て使い強力な一撃を放つ。

 咄嗟にガードする狂介だが、既に片腕は折れている。防ぎ切れるはずもなく、大幅にポイントを奪われ撃沈してしまう。

「うご………っ!?」

 そして、その痛覚をもろに受けてしまったカナミも精神の限界に達し、気絶してしまった。結果はドロー判定。

 

 

「これは勿体無いねぇ~? ポイント的には勝っていたんだけど」

闘壊(トウカイ)君の能力は、実は『劣化再現』を自身の感覚に使えば、ある程度緩和出来てしまえるんやけど………、さすがにまだ『劣化再現』は誰も使えん見たいやねぇ~?」

「そう難しい技術ではないのですが、人はどうしても“強化”の方に思考が行きやすいですから。そもそも『劣化再現』の対象は“自身が支配している範囲”でしかできませんし、攻撃ダメージも減らせないのでは、戦闘に使用できるとは思えないんでしょう?」

 海弖、ゆかり、美鐘はそれぞれ意見を述べつつ別の画面を検索する。

 

 

 別の画面では(くすのき)(かえで)が圧倒的なポイント差を付けられ、今正に膝を付き、敗北が決したところであった。

「そ、そんなぁ………っ!? どう言う事ですか? 以前の二試合とはまるで別人の強さじゃないですか………っ!?」

 驚愕する彼女を余裕の表情で見降ろす新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)は、得意げに腰に手を当てて見せる。

「悪いな。今まではちょっと能力の相性で無様な姿を見せちまってたが、昨日の試合で弥生と戦ったおかげで、俺も実力が発揮できる様になったんだよ」

「こ、これがあなたの実力だと言うのですか………っ!?」

「詳しくは秘密だが、俺の能力は他者の身体能力のコピーみたいなもんでね? 一試合目は偶然にも身体能力による攻撃を一切しない奴だったんで不覚を取った。二試合目は運命に翻弄されてしまって負けたが、その運命が俺を変えてくれた」

「………弥生さんに頭を強打されたのですか?」

「胸を貫かれたんだ」

「リタイヤ、早急にお願いします」

「いや待てよっ!? 俺がどうして強くなったのかに関係してるんだから聞いてけよっ!? 弥生の身体強化の能力を俺の能力でだなぁ―――!?」

 

 ザシュッ! ←(自決)

 

「自ら命の危機に瀕する程に嫌がったっ!? チェーンソーなのにっ!? ムッチャ痛いはずなのにっ!? そこまでする程俺の話を聞きたくなかったのかよっ!? 本気で傷ついたぞ今のはっ!?」

 

 

「次だな」

「次やね」

「せめて外野くらいは考察してあげようとは思わないんですかっ!?」

 

 

 闘壊(トウカイ)響VS虎守(こもり)(つばさ)の戦闘は、こちらも丁度終わったところらしい。何やら戦場の荒れ具合から、とても高難度の属性能力における戦闘があった様子だが、勝利を収めたのは翼の様で、地面に突っ伏しながらも満面の笑みで拳を半端に振り上げはしゃいでいる。

 本多(ほんだ)正勝(まさかつ)VS伊吹(いぶき)金剛(こんごう)戦の様子は、二試合目では真価を発揮した正勝が、三試合目でまた情けないモードへと逆戻り。ダメージを受けない肉体を持つ正勝に対し、金剛は首を絞めて、酸欠に追いやる事でこれをクリアー。ポイントは入らなかったが、不滅の肉体を持つ相手を正攻法で初めて倒したと言う意味では、見事な勝利と言えるだろう。モニターに映る彼は、少々不服そうな表情ではあったが………。

 黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)VS前田(まえだ)慶太(けいた)の戦いは、教師三人が、最初に見ておくべきだったと後悔した。どうやらこの二人、何やら息が合ったらしく、三日目とは思えない超激戦の切り合いを演じて見せ、互いに一歩も引かぬまま、ついに体力の限界に達して前のめりに倒れてしまったのだと言う。後に録画を見た教師から、彼等は賞賛に値するファイターだったと評価を受けたくらいだ。

 

 

「どれも良い試合を見せているじゃないか。………Cクラスとしては落ちついた出だしなのが少々つまらんがね」

「何事もなければその方が良いでしょう。あまり荒事を望む様な事を言わないでくださいっ」

「リタイヤシステムを採用してからもCクラスの子はヤンチャばっかりしてはるからね~? ちょっと不安やったんやけど、今回は何事もない感じで安心―――」

 笑顔のゆかりが胸を撫で下ろすと同時、複数表示されるモニターの中に、赤い光が(とも)った。それを見た海弖は実に楽しそうな笑みを口の端に浮かべた。

「やっぱCクラスは毎度あるみたいだね?」

「なにを暢気な!? 生徒は誰ですかっ!?」

 美鐘が海弖のモニターを勝手に操り、赤くなった画面をピックアップする。そこには、土煙で視界が悪くなっていて、異例な事にフィールド内に教師が立っている姿が映っていた。

『ああ~~~~………、今監視()てるのって、学園長かい? ちょっとまずい事になってるよぅ~~?』

 画面から送られる通信を耳にして、美鐘はハッとして問いかける

香子(かのこ)? 一体どうなってるの?」

『あれ? ミカネ~? 学園長室にでもいんの?』

 聞き覚えのある声にこちらの画面(恐らくはカメラとなっているイマジンサーチャー)を覗き込む女性教師。青みのある黒髪ツインテールに長身で痩せ形をしたメガネかけた教師の姿が画面に映り、苦笑い気味に報告する。

『いやさぁ~~? あの桜庭(さくらば)っていう一年生マジでヤバイでしょう? アレたぶん、Cクラスじゃ頭一つ分跳び抜けちゃってるよ? なんせ、今さっきこっちが強制リタイヤかけたのに、その()()()()()()()()()()()()()()から』

「―――っ!?」

 思わず息を飲む美鐘。

 リタイヤシステムは、意外と脆弱なイマジネートではあるが、それでも一年生が概念操作を行ってもどうこうできるような代物ではない。そのシステム自体を切ってしまうと言う事は、本来ありえない事なのだ。

「ん~~………? たぶん、桜庭君は『切れ味ステータス』持ってたはずやから、それになんかプラスする様な能力が発動したんやろうね? 結果的にシステムに干渉する程度の切れ味を剣が得たんやろ? まあ、偶然もあったやろうけど、ホンマ今年の一年生は豊作ばっかやねぇ~~♪」

「なにを楽しそうにしてるんですかゆかり様っ!?」

『ああ~~~………っ、ミカネ~~? 実はまずい事って言うのはそこじゃないんだわ~~~?』

「え?」

 話に続きがあると知って美鐘はモニター越しに耳を傾ける。香子は、多少言いにくそうにしながら、“まずい事”を語る。

『リタイヤできなくなった対戦相手の甘楽(つづら)がね? なんかシリアスな顔になってやる気満々なんだよね? だから学園のルール上、私ら教師陣は、生徒が戦う意思を可能な限り尊重しなきゃいけないでしょう? “教師制限”のイマジネートが適応しちゃって、私も助けにいけないんだよね~~~………。これ、まずくない?』

「あらまぁ~~~? 甘楽さん、下手したら冗談無しに死んでまうなぁ~~♪」

「なんで楽しそうにしてるんですかっ!? 少しは慌ててくださいゆかり様っ!?」

「いかんっ!? 早く映像記録の準備だっ!!」

「学園長は慌てる方向が間違ってますっ!!」

 

 

 05

 

 

 時間は少し(さかのぼ)る。

 桜庭(さくらば)啓一(けいいち)甘楽(つづら)弥生(やよい)は互いに剣による競い合いをしていた。純粋な剣の技量は圧倒的に啓一にあったが、そんな物は弥生の『ベルセデク』が急速学習させ、あっと言う間に拮抗する腕前となった。だがそれでも、弥生が不利な状況は依然として変わらなかった。

(う~~ん………、まさか見えないってだけで此処まで厄介だったとわねぇ~~………? 二刀使えば何とか捌けるけど、間合いが計り難くてこっちから攻めるのが極端に難しいなぁ~~………)

 啓一の『見えざる刃』の能力『幻刀』は、刀を透明にして隠す程度の能力ではない。その存在自体を完全に隠蔽し、認識できなくさせる。本人は気付いていないが、これは『認識領域』と呼ばれる、高位領域に対する高等幻術に当たる。未熟さ(ゆえ)か、自分にまで幻術を掛けてしまうのが少々傷ではあるが、それは啓一の技量で完全にカバーされている。

 高等幻術に守られている剣は、『見鬼』を使っても視認する事は出来ない。弥生がなんとか捌けているのは、此処が何の変哲もない荒野である事と『ベルセルク』で強化された野生の感覚が驚異となる物を『直感』で捉えさせ、対応させているからだ。

 次第にポイント差は啓一に傾いて行き、32対44っと言う具合になりつつある。

(仕掛けるなら今しかないかな………? できれば心情的には『ベルセルク』だけで行きたいんだけどなぁ~~………)

 弥生の持つ派生能力は、手数を増やす為でも、強力な武器を手に入れるたんでも無い。彼女が選んだ『ベルセルク』の能力だけ(、、)で戦っていくための命綱の様な物なのだ。そのために選んだ派生能力は、弥生にとっては“反則”にしか思えないのである。

(使用制限、あくまで“知識の蒐集(しゅうしゅう)”に留めよう。あくまで戦闘は『ベルセルク』で行くっ!!)

 それでも、弥生は使用する事を選んだ。『ベルセルク』の補助程度に留め、しかし、使える戦術は全て使いたいと言う欲求を―――それをさせる程の好敵手を前に、抑える事など出来なかった。

「全ての邪悪なる者よ、我を恐れよ………。力ある者も不義なる者も、我を討つに(あた)わず………」

「?」

 弥生の口から、鉄のぶつかり合う音に紛れ、言葉が紡がれていく。それは彼女が自分に課した鍵だ。この言葉()、『聖句(せいく)』を唱えなければ、その力が使えない様にし、うっかり使ってしまわない様にしているのだ。

「―――我は最強にして、あらゆる障碍(しょうがい)を討ち滅ぼす者なり………っ!」

 最後の一節を唱えた弥生の脳裏に、劇的な変化が訪れる。それは、ありとあらゆる情報の本流だ。刃を重ね、闘志をぶつけ合い、力と技を競い合う眼前の敵に対するありとあらゆる情報が急激に養われていく。

「解った………」

 理解と共に呟きを漏らした弥生は、啓一が剣を突いてくるタイミングに合わせ、何の躊躇も無く腕で受け止めた。

「!?」

 その、あまりに意味不明な行動に対し、一瞬戦慄する啓一だったが、瞬時に理解しその場を飛び退いた。

「コイツ………」

 充分な距離へと逃れた啓一は、腕を庇いもしていない弥生を見て獰猛な笑みを漏らす。彼女の腕は刃が刺さったにしては、大した出血をしていない。怪我をしているにも拘らず、腕の力も抜けているようには見えない。それもそのはず、啓一は彼女の腕を貫いた瞬間、二つの事実に気付いていた。

(………(おれ)の剣の技量を見抜く事で、見えざる剣でも突きは腕の延長線上の先に必ずあると悟り、腕で受け止める事で刃の長さを計ったな)

 おまけに啓一の得物が刀である事も見抜かれた。御丁寧に透明になっている彼の剣には弥生の血がべったりと付き、視認する事も出来てしまっている。いくら『幻刀』でも、刃ではない“血”までを対象として隠す事は出来ないのだ。彼の能力が幻術に特化していない事もそうだが、彼の刻印名は『斬裂(キリサキ)』。斬る事に特化した刻印だ。『幻刀』も、幻術系ではあるが、あくまで隠す事だけが目的であり、効果は自分が持つ刀のみに限定されるからこそ、使用可能な能力なのだ。

(おまけに刃を受け止める時、骨と筋肉の隙間に刃が通るように途中で微調整された。アレでは腕に穴が開いただけでダメージと言えるダメージも無かろう。動脈まで避けられたのか、血も大して出ていないとは驚きだ)

 これで弥生は啓一の剣の長さを正しく理解する事が出来、同時に自分が受けるダメージ個所を、自分の意思である程度制御できるのだと解った。これが啓一が気付いた二つの事実だ。

「だが、『幻刀』が己の全てではないっ!」

 刀の血を払い、踏み込む啓一。度重なる連撃を放ち、それを避ける弥生を追い詰めていく。

「元より、己の剣技を持って戦うが己の主流っ! 能力が破られた所で、元の立ち位置に戻っただけの事っ!」

 ガギンッ!! 

「ぬ………っ!?」

 渾身に近い一撃が弥生の剣によって軽々と止められる。止められる事自体はおかしい事ではない。だが、僅かに違和感の様な物を感じ取ってならない啓一は、至近から弥生を睨みつけ、その真意を探ろうとする。しかし、弥生は真剣な表情でこそある物の、違和感の正体を表情には決して出さない。

(なればこそっ! 力付くで引きずり出す事こそが必定ッ!)

 斬り返し、再び連撃を放つ。

 軽々と躱す弥生の視線が常に自分の目を見ている。

(目を見る事で相手の行動を予測しているのか? ならば、それを利用し誘い出すまで!)

 一瞬、振りを大きくし、攻撃を外して間を開ける啓一。その一瞬の間にすかさず入りこんで来る弥生に対し、瞬時に斬り返して上段から剣を振り降ろす。

 弥生もこのフェイントは読んでいた。左の剣を切り上げ、しっかりと啓一の剣を受け止め、右の剣で攻撃を仕掛ける。

「もらったっ!!」

 啓一は左手を腰に回し、そこに『幻刀』で隠していた二本目の刀を抜き放ち―――、

 

 ガギィンッッ!!

 

 ―――その剣の鍔を抑え込むように、弥生の右の剣が打ち付けられ、止まった。啓一が二本目の刀を抜く事を読まれていたのだ。

 ありえない状況に驚愕する啓一。『直感』の速さでは決して対応できぬはずのタイミングで、見事に二の手を封じられた。その精神的ショックは意外なほど大きい。

 だが、それ以上に大きな衝撃が、彼女の口からこぼれ始める。

「二刀流が完成したのは宮本武蔵の二天一流が最初だ。それより過去の時代、二刀流はただの御遊びでしか成立せず、また先の未来でも、その難度故に使い手は少ない。その技を流派として取り入れられたのは、武蔵より後期となる。アナタの剣には修正されつつあるクセの様な物が見られる。恐らく自分の流派で覚えたコツの様な物が癖になるほど染み付いているから。武蔵より後期であり、その“コツ(クセ)”を持つ剣の流派は、およそ三つ。その中で、アナタが“修正”する理由が当てはまる物は『桜庭流』以外に存在しない」

(流派を………っ!? 見抜かれた………っ!?)

 この衝撃は先程の物とは比較になる物ではなかった。確かに、弥生の言う通り、啓一と直接剣を交え、彼が動く事で漏らす“情報”を元に辿れば、桜庭流に辿り着く事は出来る。だがそれは、()()()()()()()()()()()の話だ。

 『桜庭流』はメジャーな流派ではない。確かに、その剣技の美しさから日本演武の一つとして認められてはいるが、それでもマイナーな流派だ。テレビなどで取り上げられた事もなく、一般の知識では知る事も出来ない。

 それをどうして弥生が知っているのか? それも啓一の動きから推測してしまえる程に熟知しているのか?

(言うまでも無い………っ! これが弥生の隠し持つ派生能力の力だ!)

 イマジンはイメージによってその力を固定化、再現する。っで、ある以上、弥生の『ベルセルク』は、神話で読み解かれる以上のイメージを得ることはできない。故に『持ち得ていない筈の情報を習得する』などと言う芸当はできないと判断できる。ならば、それを可能にしているのは間違いなく『派生能力』の方なのだろう。

「一体、如何なる能力かは解らんが………っ! 情報を得るだけの力なら、己の剣技で押し切れるっ!!」

 啓一は刃を弾き、一足飛びに下がりつつ叫ぶ。確かに流派は見抜かれたが、未だ『桜庭流』の技は一つも使用していない。ならば、まだ勝機はある。そう考えた上での叫びだったのだが―――、

「流派を見抜いたのは、その剣技に対応するためじゃない。アナタの行動を知るためだよ」

 眼前に、甘楽弥生が既に迫って来ていた。

 慌てて剣を振り抜き牽制するが、弥生はその隙間を巧みに縫ってなお迫ってくる。仕方なく啓一は地面を蹴り続け後ろへ後ろへと下がっていく。

 なのに逃げ切れない。

 何処まで逃げても動きを先読みされるように距離を詰められる。

 ならばと退がるのを止め、強引にカウンターで押し返そうとすると、スルリ………ッ、と当たり前の様に脇をすり抜けられ、簡単に背後をたられてしまう。完全に全ての動きが読まれ切っている。

「ぐおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~っっっ!!」

 それでも対応し、振り返り様に剣を振り抜くが、完全に見切った上で弥生の反撃が放たれる。

 弥生34。啓一45。

 弥生の獲得ポイントが加算されるのを視界の端で捉えながら、啓一は歯を食いしばる。ダメージが少なかった事を利用し、なおも前に出て連撃を放つ。今度は『見えざる剣』の二刀攻撃。速度も申し分ない上に手数も倍だ。そう簡単に攻略される筈がない。

 だが、弥生はそれを全て躱し、最小の力で受け流す。最後に放った振り降ろしも、軽くはを当てて受け流しつつ外側から体を密着させられてしまう。ありえない程の圧倒的な差を見せつけられた。

「『桜庭流』とは違って美しさが無いね? 君が矯正しようとしているのは、見た目の美しさよりも実戦的な剣術なのかな? ………でも、君の考えは失敗かもしれないよ? 確かに剣は実戦的で実用的だと思う。動きの無駄も殆ど無い正確な攻撃だ。でも、だからこそ先が読み易い」

「っ!?」

 実戦的な剣術と言うのは、言ってしまえば『型』を外し、出来る限り『無形』で挑むと言う物だ。だが、ただ刃を振り回せば人が斬れるわけではない。そのために、最低限の『型』は残ってしまう。それは必然的に、“効率の良い動き”っと言う“一つの型”を作るのと同義なのだ。無論、実際はそんな単純な話ではないが、ここは理想を具現化し、再現する力を得れるギガフロート。戦闘における理想のイメージがあるのなら、イメージに近づけようとイマジンの成長補助が加わる。結果的に啓一は『効率の良い型』を無意識に作り出してしまい、それを正確に再現してしまった。ならば、その情報を瞬時に読み取れるらしい能力を発動している弥生には、テレホンパンチよろしく、次の攻撃を教えながら攻撃しているのと同じように映るのだろう。

「“失敗”………っ、だと………っ!?」

 だが、啓一の胸中を揺らしたのは、そのような瑣末な問題ではなかった。ただそれだけと言うなら、むしろ好敵手に出会えた喜びに打ち震え、むしろ喜び勇んで渦中に身を投じていた事だろう。

 だが、それだけではなかったのだ。弥生はあまり深い意味で言ったつもりはなかっただろう『失敗』の一言。恐らくは、戦術的、刹那的判断のミスと言う意味で言ったのであろう言葉。だが、啓一には、己が目指すと決めた道その物を“失敗”と言われた様なそんな気がしていた。

「剣は凶器だ………! 着飾った美しさなど必要無い………! 物斬りとして覚悟を決めた時から選んだこの道を、………そんな簡単な言葉でかたずけられてなるものか~~~~~~~~~~っっ!!」

 再び放たれる怒涛の如き連撃。しかし、弥生にはまったく届かない。先が読めている上に、それに対応する速度も啓一を超えつつある。もはや今のままでは彼女を捉えるのは叶いそうになかった。

「ならば………ッ!!」

 啓一は『見えざる剣』のもう一つの能力『神速』を発動する。

 『神速』は一回の使用で一秒間の間だけ超越した速度を出せる様になる。一日に使用できる回数は十回が限界だが、鋼城カナミと虎守翼の二人にも、対応させる事をまったく許さずに仕留めた極上の能力だ。例え次の動きが見えていても躱される事はなく、そもそも動きを目で追う事すら叶わぬ正に“神速”の斬激。彼は惜しみなく、その権利を五回分使用し、神速五秒間による一人物量攻撃を仕掛けた。その手数、無量大数に迫る数となった。

 

 フォバアァァァァァーーーー………ッッッ!!!

 

 空気が斬り裂かれる鋭い音が一度に重なり、ソニックブームによる衝撃波を放ちながら、周辺一帯をズタズタに斬り裂いて行く。黄金の塊であろうとも物量で粉々に粉砕戦とする剣の勢いに対し、弥生は―――ライトグリーンに発光する右の剣と、アクアブルーに発光する左の剣。左右の剣を合わせ持ち、次々と迫る斬激の嵐を斬り結び、弾き返して対応していく。一秒間だけでも万はくだらないであろう斬激の雨を、彼女はしっかりと受け止め、一つのクリーンヒットも許さない。

 危機感に煽られ、咄嗟に残り五秒の権限も使用するが、僅かに彼女の体を数カ所浅く切っただけで止まり、敢え無く時間切れに至ってしまった。

 弥生34。啓一48。

 表示されるポイントだけ見れば優勢なのは啓一だった。だが、彼の胸中にあったのはたった一言、「見誤った………っ!!」と言う後悔の念だけだ。

 『神速』を使用したのは間違いではなかった。だが、狙うのが早すぎた。使うべきは後もう二ポイント先取してから使うべきだったのだ。十秒間の神速を耐え凌いだ弥生でも、その全てを受け切る事は出来ていなかった。つまり、もう二ポイント分のダメージを与えてから使っていれば啓一の策略勝ちになっていたのだ。

 無論、そんな結末は啓一の望むところではなかったが、今回に限っては“後悔”せざろ終えない。啓一の『直感』が告げているのだ。「お前は勝利を逸した」と………。

「ベルセルク第二章………」

 呟きを聞き、慌てて飛び退く啓一だが、大技を全て躱された今、彼の動きはどこかぎこちない。その隙に見事入り込んだ弥生は振り上げた右の剣の柄頭で、啓一の左腕を打ち付け、左の剣を逆手に持ち変え、先とは逆に下から上に柄頭で左腕を突く。腕の神経を打撃により麻痺させられた啓一は、刀を零さないようにするので精一杯になる。次に来る攻撃を避けようと、全力で後ろに下がろうとするが、それより速く、弥生は剣を持ち変え直し、一気に懐に入り込んで両の剣を交差させる。

 迸る鮮血が、啓一の胸を左右袈裟懸けに奔る。

「………『打倒』」

 弥生の呟きが告げると同時に、啓一は地面に倒れ伏した。

 弥生42。啓一48。

 ポイントにはまだ差があれど、この一撃を持って啓一は思い知らされる事となった。今の弥生は、桜庭啓一では決して止める事が叶わないのだと………。

(俺が………、負けるのか………?)

 この時啓一は、自分でも驚くほどの衝撃を受けていた。それも仕方ない。本人気付いてはいないが、彼は先程の『神速』に己の信念を全て掛けていたのだ。それを正面から打ち破られたとあっては、それは己の信念が敗北したのと相違無い。例え本人がそこまでの覚悟を意識していなかったとしても、彼の心はその事実を無視できない。

(俺は………、俺は何のために家を出たんだ………? 証明するためじゃなかったのか………?)

 (かつ)て、桜庭流は名こそ通らなかった物の、現代まで生き残った立派な剣術であった。その剣術は敵を打ち破り、幾千万と屍の山を築く殺人剣。その技の切れから、まるで花が散るかの如く美しく、決して敵を寄せ付けぬと言われたほどだ。

 しかし、現代に於いて、桜庭の剣はその美しさに重きを於かれるようになっていった。殺人を求められなった現代では、剣術も演舞へと姿を変えてしまったのだ。

 桜庭啓一は、そんな流派の姿を背景に、先祖代々受け継がれていると言われた本物真剣を見ていた。その真剣を見ていると、まるで剣が語りかけてくるような気がして、不思議と愛着が生まれた。剣はずっと語っている様に思えた。それは言葉として捉える事は出来なかったが、不思議と意思の様な物を感じ取れた。

 イマジンの存在しない下界では、そんな事はありえない筈だ。例え本当に語りかけられていたとしても、啓一にはそれを正しくくみ取れるだけの物はなかった。それでも思っただ。この先祖から受け継がれてきた刀は、嘗ての剣術が失われ、演舞へとなり果てた流派を前に、一体どのような心境なのだろうか? それはきっと、考えるだに哀しい物の様に思えた。

 それからずっとだ。ずっと、剣が嘆いている様な気配が感じられるようになったのは。

 人を斬りたいわけではない。殺人剣が今に必要だと思うわけでもない。

 それでも、それでも流派は変えるべきではなかった。変わるべきではなかったのではないか? 古流の剣術として、桜庭流はずっとその意思を貫く事こそが必要だったのではないか? その意味と意義があったのではないか?

 桜庭啓一は想う―――

 

 ―――剣は凶器。

 人を殺す為に、最も洗練された刃。

 決して美術品などではない。

 

 ―――剣術は殺人術。

 敵を屠るために編み出された術。

 決して煌びやかな舞ではない。

 

 剣術をどう使うかは人の意思。殺さずを貫くのも選択の内。

 だが、根本的な部分で、自分達はそれを忘れてはいけない筈だ。剣術を流派として受け継ぐ自分達は………。

 

(だから俺は、桜庭流の美しさを全て廃した、新しい―――(いや)、本来の『桜庭流』を極めて見せる………っ! 俺の選択は正しかったと言う事を証明するために………っ! 俺は負けるわけにはいかない………っ!!)

 

 そう、決して負けらない………。

 この地で何度敗北しようとも―――。

 決して負けてはいない―――。

 

 “桜庭流”だけは―――、決して負けられない―――。

 

 

 06

 

 

 空気の破裂する凄まじい音と共に、その変化は現れた。

 桜庭啓一の前進が、突如茜色に染まったイマジンのオーラを放ち始めた。

 その凄まじきオーラが巻き起こす激しい風から顔を腕で庇いながら、甘楽弥生は圧倒されていた。

 全身からオーラを放って見せる相手と戦ったのはこれが二度目だ。ただし、一度目は戦う前に試合終了となり、戦う事が出来なかった。

 故に、彼女は今初めて戦う事となる。イマジネーターとして一段階上に上がった者との戦いを。そして―――、

 

 ズバンッ!!

 

「―――っ!!」

 

 一瞬で身体中に奔った鮮血の軌跡。宙に飛び散る血の雫を目に映しながら、甘楽弥生は戦慄を覚えた。

 彼女の眼前に、今年初めて現れた()敵の姿。荒れ狂う茜色のイマジンオーラを纏い、理性を失った眼を向ける桜庭啓一であった者。彼女は自覚する。一年生初となる『暴走能力者』との戦いが始まった事を。

 

 

 派生能力『斬り裂き魔(ジャック・ザ・リッパー)』。それが桜庭啓一が発動した暴走能力だ。狂化(バーサーク)されて、身体能力、各攻撃力が1.5倍、斬れ味が2倍になる。と言う暴走能力に相応しい強力な力だ。その力の程は、既にベルセルクでかなり強化された状態にある弥生が―――、

 

 ズバババババンッ!!

 

「うあ………―――っ!!」

 弥生42。啓一126。

 何もできずに一瞬で、一方的に攻撃を受ける程の物だ。逆転しつつあった点差はあっと言う間にオーバーキルで打ち取られ、敢え無く膝を付く。

 負けを自覚し、多少なり悔しそうな表情の弥生だったが―――次の瞬間、眼前に迫る刃を『直感』で捉え、訳も解らぬまま体を捻ってギリギリ躱す。

 後になって冷や汗が流れ始める弥生は、一つの危惧を思い出し、恐る恐る啓一の姿を確認した。

 啓一が、両の手に刀を握ったまま、未だに戦闘態勢にいる。その眼に理性は無く、その姿には敵意しか纏っていない。

「………。前に、僕も同じ事があったけどさ………、僕もこんな風に見えてたのかなぁ?」

 自嘲の様に呟き、弥生は剣を握る手に力を込め直した。

「ねえ? 聞こえてる? もう勝負は付いたよ? 君は勝ったんだよ? もう剣を収めて良いんだよ?」

「………斬る」

 地を蹴り、眼にも止まらぬ速さで幾多の剣撃を放つ啓一。弥生は咄嗟に飛び退きながら急いで『聖句』を口にする。

「“第二章………我は、戦場に於ける強敵を打倒せんがために、巧みなる技を身に付けん………っ!!”」

 ベルセルクの聖句を唱える事で、その恩恵を強く引き出した弥生は、強敵に対する能力向上速度を躍進(やくしん)させる。目にも止まらぬ速さで繰り出される剣激を、『直感』を頼りに剣で弾き、パリィする。刃がライトグリーンに輝き、絶え間なく放たれる連撃の嵐に何とか対応させる。

(何とか攻撃を凌いで、隙を見つけなきゃ―――っ!)

 ゾガンッ!! 思考の途中に聞こえた音は、字にするとそんな風にしか表しようがなかった。突然の衝撃にたたらを踏んで退がる弥生は、何が起きたのかすぐには理解できなかった。目の前にいたはずの啓一が消え、いつの間にか自分の後ろにいる。首だけで振り返り、その事を確認して、ついで違和感を覚え、視線を下に―――左の脇腹が、まるで獣にでも噛み千切られた様にごっそり失っていた。

「あ………っ! くあぁ………っ!」

 痛み、とは………理解できなかった。とんでもない喪失感を脇腹に感じながら、全身が痺れたようになって力が抜けていく。噴き出しかけた血を、イマジネーターの生存本能が『復元再現』によって疑似的な血管の管を作り、出血を何とか抑えようとする。だが、噴き出す。溢れて溢れて、理性的な判断を全て呑み込まれて、その場に蹲ってしまう。いつの間にか取りこぼした剣が、地面と接触した音も、彼女の耳には届いていなかった。強過ぎる激痛はイマジンでシャットアウトしている。それでも大きすぎる負傷が、彼女の精神を大きく掻き乱していた。

 やがて体に光の粒子が集まり始める。リタイヤシステムが発動したのだと頭で理解しながら、弥生はなんとは無しに視線を上げ―――啓一が刀を振り被っている姿を目にする。

 

『――― 警・告・ッ!! 回・避・せ・よ・ッ!! ―――』

 

 脳裏に奔った全力の思考が、生存奉納の叫びが、弥生の理性を置き去りにして行動させた。

 落ちた剣を拾い、二刀で受け止める。刀身をライトグリーンに輝かせ、全力で押し返そうとし―――二本の剣ごと、右側頭部を斬られた。

 啓一の剣は地面に激突し、強烈な衝撃波を生み出す。その衝撃で後方に飛ばされた弥生は、地面を何度も転がり、身体を強く打ち付けた。何とか勢いが失われて身体が止まった時、弥生は薄れかけた意識を取り戻しながら、一つの事実を目の当たりにした。

 身体を覆っていたリタイヤシステムの粒子が斬られ、その輝きを失っていたのだ。

(斬られた………っ? イマジネート(術式)を直接………っ!?)

 そんな事が可能なのか、それすら解らない弥生だったが、事実が目の前にあるのだから納得するしかない。おまけにそれを証明するかのように、啓一は自分に働きかけたリタイヤシステムの粒子を、自らの剣で斬り裂き消滅させてしまったのだ。

(暴走状態にあって、自分を邪魔する可能性のあるもの全てを斬り伏せる………。それが彼の求めた狂化(バーサーク)………)

 弥生は思い出す。視界の半分が赤く染まる啓一の姿を見て。

 嘗て、自分も『ベルセデク』の能力を『暴走』させた事があった。それは弥生が設定した物ではなかったが、伝承にある『ベルセデク』としては至極当然とある能力だった。故に彼女は尋常ならざる力を手に入れ、悪鬼羅刹の如く戦い、強敵を追い詰めた。

 だが、彼女は敗北し、そしてその記憶の一切を憶えていなかった。残ったのは、暴走による“後遺症”だけだった。

 赤く染まる視界の中で、啓一の姿は、まるで嘗て過ちを犯した自分の姿の様に映った。

「おい生きてるか甘楽?」

 声に気付いて眼だけで視線を向けると、すぐ傍に、靴が見えた。全身を見る事が出来ないがどうやら教師が直接乗り込んで来たらしい。

「お前じっとしてろよ? もう試合は終了してんだ。あのバカは私が止めてやるから、お前はイマジンで出来るだけ治療してろ? 『応急再現』はできるか? まだ習ってないだろうが意地でやれ。そして待て。今生徒会に連絡したから、時期に上級生の医療班が来る。それでお前は助かる」

 教師の顔が確認できず、名前も思い出す事が出来ないまま、それでも弥生は言葉の意味だけをしっかり理解した。理解出来たことで、どうやら自分の着られた右側頭部は、重傷だが脳損傷にまでは至っていないらしいと理解する。

 

 ―――なら、まだ“死力”を尽くせば動ける。

 

 弥生は手に力を込め、震える四肢で何とか立ち上がろうとする。

「先生………、僕が寝てたら、啓一はどうなる………?」

「あぁん? 聞いてなかったのか? 私がなんとかするっつってんだよ? 安心しろ。教師に掛ればお前らひよっこ以下の生卵なんざ―――」

「ああ、やっぱりそうなんだ………。じゃあ、やっぱがんばんないと………」

 何とか二本の肢で立ち上がり、生徒手帳から取り出した剣を杖代わりにする弥生。教師は教師で、そんな弥生に唖然とした表情を向けていた。

「はあ? なんだよお前? なんでまだ頑張っちゃってんの? 死にそうな怪我してんだから大人しくしてろよっ!?」

「ああ………、ごめんなさい先生………。それが一番良いのは解ってるんですけどね………? “先輩”としては、出来たばかりの“後輩”くんに指導しないといけないって言うか………?」

「だからお前、何言って―――」

 言葉の途中で口を閉ざした教師は、しばし思案顔になってから再度訪ねる。

「“先輩”ってのはあれか? “アレ”の先輩か?」

 教師が暴走状態の啓一を指差し尋ねる。弥生の眼には教師の姿は見えていなかったが、尋ねられている事は解ったの「はい」っと、はっきり答えた。

「ああ………、そう言う事かよ………。そう言う事ね………。ってか、マジでやる気か?」

「はい」

「………ああクソッ! 生徒にそう言われたらあたしら教師は何もできなくなっちまうんだぞっ!? もし何かあったらどうする気だっ!?」

「自己責任の出世払いで」

「死んだら出世もねえだろっ!」

「じゃあ、絶対生還だ………」

 弥生は疲労困憊の表情で必死に笑みを作って軽い風に告げる。そして一歩前に踏み出し臨戦態勢を取る。

 弥生は知っている。暴走して強くなる事のあまりの虚しさを………。

 彼女は知っている。嘗て、イマジン塾で相原(あいはら)勇輝(ゆうき)と初めて戦った時、その圧倒的な強さの前に、彼女は思わず『ベルセルク』の狂化に至ってしまった。そして大怪我をして、“後遺症”を残して、おまけに敗北した。だと言うのに、糧にすべき敗北の記憶も残らず、ただ負けた事実と“後遺症”と言うマイナスしか残らなかった。仮に勝ったとしても、勝った記憶を持たず、その実感すら得られないのなら、それに一体どれほどの価値があると言うのだろうか?

 だが、その心理に気付けたのは、弥生が暴走した上で敗北したからこそだ。もし暴走した上で勝ってしまっていたら、弥生は心の何処かでこう思ってしまっていたかもしれない。

『暴走すれば、勝てる』

 そんな考えを残していれば、いつか自分はまた暴走能力を使ってしまっていた事だろう。何も考えず、ただ勝利のためだけに、全てを投げ出していたかもしれない。

(でも、僕は負けた。だから、この力に頼ることの愚かさをちゃんと痛感できた………。啓一がこれからこの能力とどう向き合っていくのかは解らないけど、でも、もしここで僕が負けてしまったら、彼はこの恐ろしさ本当の意味で理解できないままになってしまう)

 そしてその役目は、教師であってはいけない。明らかに実力差のある相手に負けたところで、敗北感など生まれようはずがない。『負けて当たり前』の結果に、人は何も感じない。

 だからこそ、ここは同級生であり、そして試合場の対戦相手であり、ルール上では既に一度勝っている弥生でなければならない。弥生が今ここで、実戦で彼を打倒する事が出来れば、それは彼に敗北を与えた事になる。彼自身もその事実を心の奥に楔の如く刻む事だろう。

「だから………、今、僕が頑張らないと………っ!」

 強い投資を込めて、弥生は二本目の剣を取り出し、握る。

 身体は完全満身創痍。とてもではないが戦える状態ではない。このままでは勝つ事は愚か、戦う事も出来ないだろう。

(出来ればこうなる前に戦いたかったけど、今更言っても仕方ない………、よね………)

 弥生は心中覚悟を決めると、自分の内側でゆっくりと(かんぬき)を外していく。

(いい弥生………っ!? 絶対に見誤っちゃダメだよ………っ!)

 最後に自分で自分に忠告し、彼女は嘗て『返上』した神格を取り戻すため、その『禁句』口にする。

 

「“悪魔の心に獣の御姿を持ち、人の意思を持って我は祖国の敵を打ち破らん”」

 

 弥生の心のイメージに存在する扉が、その閂を落とした。扉が開き、その奥で蠢く物に手を伸ばす。掴んだ鎖を引き寄せ、嘗て返上した神格を引っ張り出す。

 

 ―――引っ張り出された獣は、あっさり弥生の事を呑み込んだ。

 

「が―――っ!? ぐがぁ………っ! ガァ、ア・ア・ア………ッ!!」

 弥生の全身が総毛立ち、早まる脈拍が異常な血流を作り出す。弥生に流れる血が、別の物へと入れ替わるように駆け巡り、肉を、骨を、別の何かが浸食して行く。

 強く食いしばった歯が鋭くなり、牙を作る。黒かった瞳は金色を帯びて獣のそれへと変貌を始める。髪留めがブツリと音を立てて切れた瞬間、解放されて広がった髪が鈍い鋼色へと変色。そして天に向かって、彼女は()()した。

「ガアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!!」

 未だ対戦フィールドを維持していた空間が振動し、世界の全てが恐怖を感じ取ったかのように震えていた。

 咆哮が下火となり、ゆっくりと収まる。一度天を仰いだまま大きく息を吸った弥生は、下に俯いてからゆっくり吐き出す。

 顔を上げた時、そこには人の意思をしっかりと宿した、甘楽弥生の表情があった。

「暴走まで三分も持ちそうにないし、使う事自体ヤバいんだけど………。でも、この状態なら動ける。一気に―――行くっ!!」

 何事か言おうと教師が手を伸ばすより早く、啓一が対応するよりも速く、全ての時間が彼女に追いつくよりも(はや)く―――、獣となった弥生が、ルビーレッドに輝く二刀の剣を次々と叩き込んで行く。吹き飛ばされる啓一を追って、彼女は自分で作り出した勢いすら追い抜いて、息も付かせぬ連続攻撃を四方八方から叩き込んで行く。

「ベルセデク第一章………っ!! 『一気呵成』………ッッ!!」

 言霊を追加し、更に能力を上乗せ強化。地面を粉砕し、大気を押し退け、啓一の身体を次々と刻んで行く。

「ダ・ガ・ガ・ガ………ガアアアァァァァーーーーーーッッッ!!!!」

 しかし、啓一もそれに屈しない。一瞬で四方に刃の結界を作り、弥生の攻撃を全て押しのけてしまう。その上地面に脚が付いた瞬間、弥生に負けず劣らずの超加速を始め、フィールド全体を駆け巡りながら斬り合いを演じる。その実力差は完全に拮抗。互角だった。

(互角じゃダメ………ッ! もう視界が正常じゃなくなってきた………ッ! これ以上は長引かせれない………ッッ!!)

 弥生の心のイメージが、巨大な獣に弥生と言う心が(むさぼ)られていく姿を見せる。冗談ではなく、弥生がイメージする通りに、胸の奥に仕舞った、とても大切な部分が刻一刻と喰い荒らされていく様な焦燥を感じていた。

 ほんの僅かな制限時間の中で、弥生はそれでも勝利に向けて、己が全てを解放してぶつかる。

 弥生の前進を鋼色のオーラが包み、一瞬だけ啓一を超えるそ管を作り出す。

 弥生の腰の辺りに、白くてふさふさした獣の尻尾が生える。

「………ッギガアァァァッッ!!」

 側面に躍り出た弥生が剣を振り降ろす。しかし、啓一がそれを読んでいたと言わんばかりに刀を切り替えされる。

 啓一の剣は、彼の持つ『切れ味ステータス』によって異常な鋭さを有している。それが『斬り裂き魔』によって更に強化され、ありえないレベルの切れ味となっていた。弥生の左腕を、持っていた剣ごと両断してしまう程に。

「………っう!?」

 薬指と中指の間から肩まで綺麗に両断され、左腕の断面を晒す事になった弥生。それでももう時間が無い。痛みをイマジンと脳内麻薬で無理矢理(ぎょ)し、今度は背後に回り―――込む途中で左足を両断され、地面を転がされた。

 片足となった弥生は速力を大きく失う事となった。そこへ追撃してきた啓一の剣が、彼女の右手にあった剣を粉微塵に斬り崩し、右側頭部を切り裂いた。

「うあぁ………ッッ!!」

 さすがに今度は頭蓋骨を切り裂かれ、その奥まで斬られたと解った。致命的なダメージを受け、それでも弥生は残った右脚を使って全力で跳ぶ。前へ前へ、残った右脚を自損する程の力で踏み抜き、右足の足首を犠牲に、ついに啓一の懐へと飛び込む。

 敗北を想像する暇など無い。

 策を弄する程のゆとりも無い。

 自身の損傷を顧みる余裕など無い。

 ただ前へ、眼前のクラスメイトを救わんがために、彼女は全てを振り絞る。

 だから弥生は、自分より早くカウンターで放たれた刃が右胸を丸ごと吹き飛ばし、風穴を開けられようと、その刹那の僅かな時間を持って右の掌打を叩き込む。

 獣の爪の様に開かれた五指(ごし)が、イマジンによって無理矢理引き出されたバカ速度で叩き込まれる。その右腕に全てイマジンと力を込めて、無理矢理の代償に自損して行く事も顧みず、五指の爪は、啓一の胸を穿ち、心の臓を抉り取った。

 二人の背中から血飛沫が火山の噴火の様に噴き出したのはほぼ同時。一瞬の静寂を経て―――、

「ばふぁあぁっっ!!」

「………えぼぉあっ!」

 ―――二人は口から少量の血を吐いて倒れ伏した。

 

 

 

 




あとがき

畔哉「そう言えば、弥生が時々言ってる『ベルセルク第三章』っとかってアレはなんなん?」

弥生「ああ、アレ? 能力に関係する事なんだけどね? 僕の能力『ベルセルク』は戦場に於けるベルセルクの役割を一章毎に区分してるんだよ」

畔哉「じゃあ、あの『破城鉄槌』とか言うのも?」

弥生「そうだよ。『ベルセルク』の役割は全部で五つ―――、
第一章:戦場の兵を一掃する一騎当千。
第二章:強敵たる将の打倒。
第三章:堅牢なる城塞の突破。
第四章:王の不屈を打ち破る。
第五章:戦場の終わりと共に眠り、再来する戦場にて救国の蛮兵(ばんぺえ)たれ。
この五つの役割にそって、僕は『ベルセルク』の力を再現してるんだ」

畔哉「そんな事してたんだなぁ~~」

弥生「本当は必要が無いんだけどね? 『ベルセルク』の能力は本来これ全部を持つ物だから。この区別は、僕自身の未熟さを補うため、再現率の効率化を計った結果かな? 戦場に合わせて力を引っ張り出さないといけないから大変なんだけど、『獣の神格』を返上してるから、こうしないと大変なんだよね」

畔哉「能力一つにとっても、多様なイメージを重ねる事で強力に出来るんだなっ!」

弥生「前にカグヤが言ってたよ………。『“チュウニビョウ”がいたら此処で最強張れるぞ』って………。実は意味が解らないんだけど、想像力豊かな人達なのかなぁ?」

畔哉「“チュウニビョウ”………っ! なんかすごい奴なのかもなッ! 要注意だっ!」

弥生「うんっ!」

正勝「………」

正勝(俺、会ったかもしんない………)


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一学期 第六試験 【エピローグ】

Cクラス編、エピローグです。



【添削まだです】


 エピローグ

 

 

 二人が倒れ、フィールドが白い部屋に戻った瞬間、狙い澄ましていたかのように多くの二年生達が一斉に二人の元へと駆け寄る。

「どちらもバイタル危険値! 特に女子の方は一刻の猶予も無いぞっ!」

「男子は此処で治療するっ! 女子の方は保健室に運べっ!」

「担架乗せましたっ! 運びますっ!」

「静香入りますっ! 男子の方、治療入りますっ!」

 次々と行動に入る二年生達。教師は愚か、三年生にすら頼る事無く、彼等は自分の役割を理解し、行動に移っている。無駄も無く、迷いも無いその動きは、教師が入り込む余地など考えられない状況であった。

(やれやれ、こうなると私の出番がホンットないなぁ~~………)

 安堵と呆れの溜息を吐きながら、三橋(みはし)香子(かのこ)教員は部屋を後にするのだった。啓一が眼を覚ましたのは、それからわずか三十分後の事だ。

 

 

 保健室………っと言うにはかなり設備の整った治療室に運ばれた甘楽弥生は、そこで二年生達によるイマジンの延命処置を受けていた。輸血を施しつつ、血が身体を巡る様にイマジンで流動を制御したり、肺に酸素を取り込ませたりと、ともかく傷を治す以外の方法で応急処置をしていた。

 そこに急ぎ足で入室してきた二人のEクラス一年生達。

 一人は白衣を纏った小さい丸メガネを掛けた男子、九谷(クタニ)(ヒカル)

 もう一人は、セミロングの茶髪で、軽く巻き毛気味のナース服少女、如月(キサラギ)芽衣(メイ)だ。

「九谷光っ! 治療に入りますっ!」

「如月芽衣ですっ! 同じく治療に参りましたっ!」

「来たか治療タイプッ! 俺達が延命できるのは後二十分が限界だっ! それまでに終わらせろっ!」

「「はいっ!」(えっ!? 二十分も持たせられるんですかっ!?)」

 二年生の言葉に良い返事をしながら、芽衣だけは内心イマジンの延命能力に舌を巻いていた。

 二人はすぐに治療に取り掛らず、弥生(患者)の状態を観察する。

 この時、芽衣は自分が持ち得る医学書などの知識を引用して観察しているのに対し、光は『総合病院』の能力『診断』を使用する事で、芽衣より素早く状態確認を終えた。

(左足の切断は大したことはない。綺麗に斬られてる分、イマジネーターの回復力なら縫い方を間違えない限り勝手にくっ付く。左腕も同じ。能力で治療すればすぐに治る。右足は足首から先が完全に粉砕しているな? 此処は再生させるしか手が無い。右腕は見た目は酷いが、皮膚が剥がれただけだ。医療ジェルでコーティングしてから包帯でも巻いておけばすぐに治る。左脇腹は大腸まで達している。破損規模は大きくないが肉を削られ過ぎている。これは能力治療でどうにかするしかないな。問題なのは右胸のと右側頭部の重傷。右胸は肺を一つと心臓が半分撃ち抜かれている。穴も大きい。普通ならこれだけでも即死していたところだ。右側頭部は能力治療の前に手術が必要だ。出血が脳の奥にまで流れ込んでいる。血の塊を少しでも残せば後遺症として残りかねない………)

 上級生がすぐに治療しなかった理由もここにある。いくら万能足るイマジンの力を持っていても、正しい治療法をしなければ、人命に係わる。そのため治癒術師が現れるまで、彼等は絶対に延命以上の手出しをしなかったのだ。

「芽衣、お前の治療能力は廊下で聞いた通りで良かったな?」

「はいっ! 右脚、左脇腹、胸の肺と心臓は私が担当しますっ!」

「任せた。僕は頭部の手術に取り掛る。………これより『手術(オペ)』を始めるっ!!」

 光は『総合病院』の能力『手術』を発動。イマジンにより医療器具を取り出すと、それを使って脳の治療に取り掛かる。

 その間に芽衣も『アスクレピオスの杖』の能力『アスクレピオスの知恵』を発動。イマジンによって作られた杖を取り出すと、周囲に存在する万物から力を汲み取り、接続した左足と、左腕を繋ぎ合せていく。ある程度繋がったら、ギプスを取り付け固定。素早く用意されていた治療具の中からジェル状の治療薬を取り出し、皮膚の捲れた右腕をコーティング。軽く固める様にして包帯を巻いて、それから能力によって治癒して行く。

 此処までの工程を診断含めて僅か五分で仕上げる。

 続いて左脇腹に『イマジン樹皮』と呼ばれる餅の様な弾力のある樹液を取り出し、損失した肉の代わりにして埋めていく。この樹皮は、イマジンを取り込む事を前提として生まれた、このギガフロート固有の植物から取る樹液の塊を更に加工した物だ。生物に対して順応力が高く、僅か数日で新しい肉の役割を果たす。イマジネーターが使用すれば数ヵ月後には、イマジンを失っても普通の肉へと遺伝子が書き換えられていると言う優れ物だ。ただし、このギガフロートに於いても希少価値がとても高く、学園内の、治療能力者だけが教師の許可を取って初めて使用を許される類の物だ。今回は既に学園長から直々に許可が下りているので、使用を悩む必要も無かった。

(でも、樹皮は肉の代わりになっても骨や器官の代わりにはならない。大腸は先に縫い上げたから良いけど、右足と胸の穴を補うのは無理。こっちは私の切り札で“無かった事にする”しかないっ!)

「終わったぞっ! 頭部の治療をしろっ!」

 八分経過。光の指示が飛んで芽衣は患者の頭部を『アスクレピオスの知恵』で治療。後も残さず完全にくっ付いた事を確認してから、改めて杖を地面に付いて意識を集中。『アスクレピオスの杖』の本領を発揮する。

「『アスクレピオスの杖』発動………。右足と右胸を限定に、負傷個所を無かった事にしますっ!!」

 地面を突いた杖から、展開陣(魔法陣の様な物。イマジンは魔法以外も存在するので総称としてそう呼ばれる)が展開され、淡いサンライトの光が灯る。芽衣が指定した患部に集い、円環状の展開陣を生み出す。その円環がカチカチと、まるで時計の歯車の様に小刻みに回転して行き、それに合わせて傷口が塞がっていく。否―――、これはもう、塞がると言うより無くなっていく様な現象だった。

 傷は僅か一分足らずで消え失せ、元の身体が戻っていた。

「『手術』終了だ―――!」

 バサリッと白衣を翻し、光は宣言するのだった。

 

 

 学生寮の食堂にて、桜庭啓一は淀んだ空気を纏っていた。

 自分が眼を覚ました後、話を聞かされ、意外とへこんでいた。

 対戦相手が担架で運ばれたと事や、回復役の生徒が呼ばれた事もあり、クラスメイトはほぼ全員が事情を知るところとなっている。

「………飯が不味くなるからさぁ? いい加減気を取り直したらぁ?」

 牛丼を頬張っていた闘壊響は、向かい側の席から啓一に言うが、彼の方は応える気力さえ無い様子だ。

 響の隣にいた兄、狂介も、掛ける言葉が見つからず、我関せずで海鮮丼を掻き込んだ。

 啓一の隣の席にいた虎守翼は、多少気遣わしげな表情で何とか啓一を慰めようと試みる。

「だ、大丈夫ですよ? 今までイマスクで死者が出たって言う話は沢山ありますけど、蘇生失敗確率0%って言うじゃないですか? きっと何事もありませんって?」

「それは既に何事か起きているのではないかしら?」

 啓一の逆隣りに座っている楠楓は、額に一筋の汗を浮かべながら突っ込む。

 突っ込まれて慌てる翼だが、続く言葉は見つかっていない様子だ。

 啓一の正面に居る伊吹金剛は、この食堂のメニューに載っていた巨大漫画肉に被り付きながら、啓一の様子をただ黙して窺う。その隣にいる本田正勝は、更に隣にいる黒玄畔哉が『モザイク丼』と言う何故かモザイクが掛っているように見えるこの学園の珍料理を、とてつもなく狂っていそうな表情で、実に美味しそうに食べているものだから、むしろこっちに気を散らされてなんどころではなかった。油断すると胃が裏返りそうな気分になるのだ。

 ちなみ畔哉は『モザイク丼』の感想を「もう一度食べたいとは思えないが、何故か食べてる内は病み付きになる味だったぞ?」っと語っていたらしい。

「やり過ぎたことは事実だろ? 反省すんのは当然じゃね?」

 響の隣で大盛りカツカレーを頼んでいた新谷悠里は機嫌が悪そうに語る。

 啓一の肩が少しだけ反応したのに気付き、翼の逆隣りにいた前田慶太が注意を促す。

「おい………」

「本当の事だろ? 斬って斬られてはこの学園じゃ珍しくないだろうけどよ? だからって俺達は命の取り合いしてるわけじゃねえんだしぃ? そこは弁えないといけないんじゃないのか?」

 何故か棘のある様な言い方で、しかし正論を言う悠里に、慶太は押し黙ってしまう。翼も何事かフォローをしようとしているが、次に出る言葉が見つからない。

 響は、この空気が早く終わらないものかと視線を逸らしてしまう。

「………その通りだな。俺は強くなる事を目的に、あの『斬り裂き魔』のスキルを設定した………。でも、蓋を開けてみればあんな事を………。アレでは、剣ではなく、理性を持たない化け物じゃないか………情けないっ!」

 本気で落ち込んだ様子で告げる啓一に、更に場の空気はお通や状態になっていく。

 「誰でも良いからこの状況をどうにかしろよ? 俺こう言うの苦手なんだよっ」っと言う視線を狂介が皆に送るが、悠里は無視し、啓一は気付かず、他は気付いていても言葉が見つからない様子だ。慶太の隣に居た 鋼城カナミは、ギャグのつもりだったのか、自分が使っているイマジンカートリッジのセルを取り出し、「食べます?」などと言い出していたが、啓一は無反応だった。仕方なく自分で齧り始めた時は、正勝が青い顔で驚いていたが、やはり場の空気全体は変わらない。こんな状態で夕飯を続けなければいけないのかと絶望感にくれかけたところに、救世の女神は現れた。

「あっ! 皆ここにいたんだぁ? 楓………さんだよね? お隣空いてる?」

「え? ええ、空いてまネリネの花言葉を体現する存在が此処に―――っ!!?」

「はへ?」

 楓の隣に腰かけたのは、ネギ玉丼を大盛りにしてもらっている鋼色のロングヘアーをした黒い瞳を持つ少女で………頭に三角の獣の耳がぴょっこり生えていた。

「「「獣耳(ケモミミ)ッ!?」」」

 正勝、悠里、カナミの三人が思わずと言った感じに声を揃える。

 ケモミミ少女は、皆の反応が理解できないらしく、頭に?を浮かべながらネギ玉の卵を潰して混ぜていた。

「………これ、本物ですの?」

 クイッ、

「ひ………っ!? ひゃああぁぁぁんっ!?」

 思わずケモミミを摘まんでしまった楓だったが、少女が予想以上に敏感な反応を返してきた物で、逆に自分もビックリして手を放してしまう。

 両手で耳を押さえた少女は、真っ赤な顔に涙目になりながら楓の事を混乱したように見返してきた。

「ご、ごめんなさい………。そこまで反応されるとは思わなくて………」

「さ、触っちゃダメ………っ! 触られるとすっごいゾワワッ、てするんだからっ!」

「………ほう?」

 いつの間にか少女の背後に周っていた狂介が、悪戯を仕掛ける少年の表情で耳をクイッ―――、

「あ、ひゃあ、あああああぁぁぁぁん………っっ!!」

 不意を打たれた少女が、更に顔を真っ赤にして、何とも言えなさそうな表情で喘ぎ声を漏らした。

 ほぼ向かいに居た正勝は、顔を真っ赤にして慌てて視線を逸らしてしまう程、その顔はちょっとヤバい物があった。

「なにすんのっ!?」

 慌てて自分の耳を庇い、振り返りながら睨みつける少女だが、上気した頬と涙の浮かんだ目では、全然怖くなかった。そのためちょっと調子に乗った狂介は更に耳掴もうと手を伸ばす物だから少女は両手で耳を隠すようにし庇う。それでも調子に乗った狂介がしつこく手を伸ばす物だから、少女の顔から表情が一瞬で消え―――、身を低くして懐に滑り込むと、狂介の顎目がけて垂直に蹴りを突き刺した。

 轟沈した狂介を更に踏みつけ、彼女は虫を見る様な目で見降ろした。

「いい加減に()なよ?」

「マジすんません………」

 「まったく失礼な………っ!」と憤慨しつつ席に戻った少女は、正面を見て、モザイクの掛った丼飯を食べる畔哉が初めて目に入って肩をびくつかせた。

「畔哉、何食べてるのっ!?」

「僕にも解らない。だが美味しい(ニタァ~」

「その笑み怖いっ!?」

「あれ? そう言えば君誰? なんで名前知ってんの?」

「なんでも何も一試合目で対戦したじゃない? ………そんなに違って見える?」

 ピコピコと片耳を動かしながら小首を傾げる少女に、畔哉は意外そうな表情を作った。

「え? もしかして弥生?」

「そうだよ」

「え? うそっ!? どうしたのその耳と髪?」

 ガタンッ!!

「ああこれは―――ビックリしたぁっ!? どうしたの悠里?」

 ケモミミ少女改め甘楽弥生が答えようとすると、悠里が席を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。一度弥生を見て、ついでその隣の席に視線を送ったが、そこにはBクラスのカルラタケナカが既にいた。

「? 何か?」

 Bクラスのメンバーと話していたカルラは視線に気づいて問い掛けるが、悠里は舌打ちして視線を逸らすと席に座った。

 カルラと弥生が同時に首を傾げたが、二人とも自分達のグループへ意識を戻す。

「ええっとね………? これは『イマジン侵食』って言う奴かな?」

「“侵食”?」

 言葉の意味深さに気付き、啓一が弥生を見て問いかける。弥生は啓一に視線を向けると、少しだけ優しい表情を作った。

「うん。暴走系の能力を使う人にたまに見られるんだって? 僕も塾生時代に一度だけやらかしちゃってね? こうならない様に『ベルセルク』の神格の一部を返上してたんだけど………」

 一度間を置き、弥生は一口ネギ玉を食してから、なんでもない事の様に説明を続ける。

「能力の暴走って言うのは、僕達“術者”よりも、“能力”の方が立ち場が上になっている状態らしいんだ。だから、暴走能力を続けると、いずれ肉体がイマジンに結合し易い物へと変化して行き、最終的にはイマジンその物と入れ替わっちゃうんだって。なんて言ってたかな? 先生は『能力を再現するためのイマジン体になる』って言ってたよ?」

「端的に言うと人間を止めるって事ですか?」

 カナミが質問すると、弥生は頷いて応える。

「そう、そしてこれはそれによる変化って奴。『イマジン変色体』と違って、イマジンに侵されて変わっちゃってるの。放っておくと戻せなくなってヤバいんだって?」

 ガタンッ!!

 騒がしい食堂内でその音が上がった。周囲は音には気付いた様だが特に反応はない。だが、Cクラスのグループで固まっていたこの場所は違った。音を立てたのは悠里だ。席を勢いよく立ちあがって椅子を倒してしまったのだ。そして彼は、とても険悪な表情で啓一を見下ろしている。

 啓一も、信じられないと言いたげな表情で目を見開き、弥生の事を見つめていた。

 皆も、少々驚愕の内容に、言葉を失っている様子だった。

 悠里が何事かいいける前に、啓一は素早く頭を下げた。

「すまなかった! (おれ)が無茶な事をしたばっかりに―――!!」

「ていっ」

 弥生は啓一の謝罪を無視して、彼のとんこつラーメンから手付かずのチャーシューを全て取り上げた。

 素早い行動に唖然とする啓一。チャーシューをネギ玉と一緒にして美味しく頂いた弥生は、啓一の事を一瞥した後、視線を逸らして軽く笑った。

「僕も塾生時代にやらかしたって言ったでしょ? だから他人とは思えなかったの。………良い物じゃないでしょ? 暴走なんて? ただそれを知ってほしかったんだよ。それさえ気づいてくれれば、僕は報われる。謝罪じゃなくて御礼を言ってほしかったから………、頭を下げた大そうな見返りよりも、このチャーシューみたいに簡単な見返りだけ貰いたかったから………、だからそんなに仰々しくしないでよ? この耳と髪だって明日には元に戻ってるんだから」

「弥生………、だが………」

「どうしてもって言うなら、刹那的な事で返してよ? 僕、ずっと長い間引きずられるのって苦手なんだよ。………同じミスでも二度も三度も繰り返すって言うのは、案外あり得る事なんだよ。でも、重ねたミスの数も、立派な経験になっていくと僕は信じてる。一々その話を引き摺らせるのは反省とは言わないよ。間違った事をしたならその場で叱る! でも二度も三度も叱らないっ! 一度のミスに対して叱るのは一度きり! ………じゃないとさ? 人って簡単に壊れちゃうから? だから僕はそんなに引きずってほしくない。ねっ?」

 最後に視線を合わせて笑い掛けられ、啓一はそれ以上の言葉を告げなくなった。だから代わりに彼は一つの決意をして、弥生の言う通り、見返りを返す。

「解った………。君がそう望むと言うのなら、己は今回三試合目で付いた白星を、君に返そう。これは君が持つべき白星だ」

 啓一の言葉に、今度は弥生が軽い衝撃を受けた。

「良いの? 啓一せっかく三連勝なってたのに?」

「知っていたのか………」

「保健室で芽衣って子から聞いたんだよ」

「そうか。だが、これは大きな見返りだと思う。俺が君に勝ちを譲れば、今度は君が三連勝した事になる。Cクラス代表は君になる事はほぼ決まった様な物だ。この見返りは大きい。己としてもこれなら割り切れる。君と己の望む形での落とし所として、これ以上ないのではないか?」

 一瞬呆然としてしまった弥生だったが、啓一の言う通り落とし所としてはとても都合が良い事に思えた。

「じゃあ、来月の学年最強トーナメントでは絶対勝たなきゃね! もらった勝ちの分まで頑張るよ!」

「ああ、己の分も―――いや、皆の分も頑張って来てくれ」

「うん!」

 こうして話はまとまった。結果として啓一は気分を取り直し、少しだけ晴れやかな気持ちで食事を始める。他のメンバーも空気が軽くなった事に安堵し、お腹の虫の要求に素直に従い始める。

 一人立ち上がったままの悠里だったが、この様子では今更自分が何か言う事も出来ないと悟り、溜息一つで諦めた。

 代わりに彼は、自分のカツカレーを片手で持ち上げると、おかしな行動を始めた。

 まず、カツカレーに乗っているカツを隣の翼に差し出す。

「もらっとけ」

「?? はい?」

 意味も解らずカツをゲットする翼。

 続いて席を離れた悠里は啓一にも同じように渡す。

「もらっとけ」

「?? ん?」

 意味も解らずカツを豚骨スープの中に投入された啓一。

 悠里はそのまま楓と弥生の間に来ると、結構強引に割り込んだ。

「ところで弥生! そのネギ玉って美味しいのか? 俺も頼んじゃおうかなぁ~?」

「ふえ?」

 いきなり割って入ってきた悠里に困惑する弥生。間に割って入られた楓は何事か文句を言い掛けたが―――スッ、………さりげなくカツカレーの皿が楓の前に差し出される。

 この時、楓だけでなく、翼と啓一もようやく意味を汲み取った。楓が差し出された悠里の皿から最後のカツを頂戴すると、それに合わせて翼が悠里の座っていた場所へスライド。同じく翼が空けたスペースに啓一がスライド。そして啓一が空けたスペースに楓がスライド。悠里の席を空けてやる。出来たスペースに座った悠里は見事弥生の隣を確保し、彼女からは見えない位置で親指を立て『グッジョブ』サインを協力者たちに送った。何故か三人も親指を立てて答えていた。

「ああ………」

「そいう事ですか………」

「協調性高いなぁ………」

「やれやれ………」

「え? 何これ………?」

「アニキ、後で教えてあげる………」

「おかわり~~! あ、でもモザイクは無しで」

 カナミが達観し、正勝が苦笑い、慶太と金剛が呆れつつ感心。解らない狂介が首を傾げ、そんな鈍い兄を気遣う響。そして畔哉だけ、何にも気付かず食事を続けていた。

 結果的にこれが更に雰囲気を軟化させたらしく、彼等は弾む様に会話を始めた。食事の終了間際になって、喰い過ぎに気付くまで、その雰囲気が壊される事はないだろう。

「弥生ってスゲーかわいいよな。今度デートしようぜ!」

「ふ、………ふええぇぇぇぇ~~~~~っっ///////!?」

 悠里が爆弾を投げ込んだ事は、その後とてつもなく有名になった。




あとがき











芽衣「治療、無事に済んで良かったです」

光「そうだな」

芽衣「Eクラス以下は、戦闘は自由参加ですから、ポイントを稼ぐのは大変ですね。私達みたいな非戦闘員は特に」

光「ああ、その中でも治療能力者はともかくポイント獲得が困難だからな」

芽衣「減点があるのって、治療能力者だけですよね………」

光「患者がいないとポイントが入らない。リタイヤシステムで運ばれてくる奴を治療しても、治療の仕方や工程時間次第では減点対象………」

芽衣「しかもその後の経過を見て、後遺症や違和感が残るようなら大幅減点………」

光「本当に、治療組の責任感は重すぎるよ」

芽衣「まあでも、私はそれぐらいの責任あってこそ、医師としての覚悟が持てると言う物だと思いますけどね」

光「なにを言ってるんだ芽衣?」

芽衣「あ、あれ? おかしなこと言いました?」

光「そんなルールなど無くても、人の命を預かる物が、全力を尽くさずしてどうする? 覚悟は、ルール無用で備える物だぞ?」

芽衣「………!」

芽衣「はいっ! そうですねっ! 私も気持ちを改めないと!」

光「ああ、そうのいきだ」

夏流「九谷(クタニ)(ヒカル)如月(キサラギ)芽衣(メイ)。評価10点プラス」

芽衣&光「「こんな所も評価されてたっ!?」」






作者「それでは、今度はDクラス編でお会いしましょう!」

作者「あと、E、Fクラスは纏めてやろうと思ってます。がんばりますっ!」


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Cクラスキャラ紹介

やばい………。
今月入ってから一文字も書いてないぞ………。
暑い暑い言ってる内に今月がもう残り僅かに………。

と、とりあえず生きてる報告しておきますっ!
消えてないのでこれからもよろしくしてやってくださいっ!


保護責任者:忙人K.H

 

名前:本多 正勝《ほんだ まさかつ》    刻印名:弱気な槍無双

年齢:15歳    性別:男    種族:人間    Cクラス

容姿:細身のなよっとした見た目。顔も常に自信なさげ。ゾーンに入ると恐ろしい程キリッとして『だれおま』状態になる。

性格:優しいけど超絶ビビリ。Cクラス生徒にあるまじきNOT戦闘狂。でも此処ぞと言うときの思い切りの良さと集中力は異常。

 

喋り方:一人称は僕

 

自己紹介  「えっと………本多正勝って言います。よ、よろしくお願いします」

ツッコミ  「ちょ、マジで単騎吶喊するつもり!!?」

照れ    「な、なんというか、恥ずかしいッスね」

戦闘時   「ヒ、ヒィ!!?  コッチ来ないで!!!」

ゾーン時  「………さあ来なさい。適当にあしらって斬り捨てます」

真剣モード 「悪いけどさ、僕にだって譲れないモノはある」

時間稼ぎ  「ちょ、ちょっと待ってくんない? ほら、僕ら人間だから『言葉』っていうコミュニケーションツールがあるじゃないか! わざわざ肉体言語を使わなくても………」蜻蛉切使用時(真剣モード)   「斬る!!」

蜻蛉切使用時(おふざけモード) 「結べ、蜻蛉切………って嘘ですごめんなさい! ホライ○ンよく知らないし割断なんてできません!!」

 

 

戦闘スタイル:槍による近接戦闘………だが、エンジンがかかるまでは逃げたり攻撃弾いたりしかしない。

 

基礎能力値

身体能力:200     イマジネーション:50

物理攻撃力:200    属性攻撃力:200

物理耐久力:3     属性耐久力:50

槍術:200       ゾーン:100

 

 

能力:『戦国最強:本多忠勝』

自身の名前『正勝(まさかつ)』を『正勝(ただかつ)』と読ませて捧げることにより『忠勝』と掛け、本多忠勝や彼に纏わるモノの逸話や伝承に合わせた力を得る。

 

派生能力:『なし』

 

各能力技能概要

『蜻蛉切』

≪『戦国最強:本多忠勝』の能力。握った武器を本多忠勝が振るった名槍『蜻蛉切』に改変させ、固定する能力。『二尺余りの豪槍』という伝承から『長柄の超重量の槍』、『戦場で槍を立てているところに飛んできた蜻蛉が当たったところ、真っ二つに斬れた』という逸話から『想像を絶する斬れ味』という性質、能力を有する。多分成長すれば事象や概念も斬れるようになりそう≫

 

『無傷の槍兵』

≪『戦国最強:本多忠勝』の能力。『終に一所の手も負わず』という逸話から『戦闘中はあらゆる負傷をしない』という能力を得る。仮に傷を負ってもその傷はなかったことになるが、代わりに精神力が削られる≫

 

『念仏は、屠った敵が為に』

≪『戦国最強:本多忠勝』の能力。『自らの葬った敵を弔うために念仏を唱え、肩から大数珠をさげていた』という逸話から、『己が敵を殺すことによって発動するイマジンを無効化する』能力を得る≫

 

概要

【今も続く本多家の嫡男………というわけではなく、単に家名だけが続いていた本多さん家の長男坊。なので精神構造は普通の人のそれ。

そんな精神構造とは裏腹に、身体能力や槍捌きなどが先祖返りしており、かつて『徳川四天王』として名を馳せた『本多忠勝』の伝承まんまの強さを有していた。小学生のときに竹箒で草刈りをした話は有名。

そんな本人、自身の異常性のせいで家族や自分が浮いてしまうことを危惧。『木を隠すなら森の中、異常者を隠すなら異常者軍団の中』という思考に至った後、イマスク入学を決意。

入学試験では逃げ回っていた。が、とある受験者に追い詰められてゾーンに入り、相手の隙を突いて武器を簒奪して蜻蛉切に改変し、それをもって一瞬の内に両断した。それをいろんな合格者(ほとんどCクラス)に見られたせいで、『一度は戦いたいヤツ』という(本人にとっては不名誉な)レッテルを貼られる。

性格面よりも戦闘スタイル面から配属クラスを決定され、Cクラスとなる。お陰で毎日毎日獲物を狙う獅子の群れに放り込まれたシマウマのような気分を味わっている。

普段の様子からは強いとは思われない。

精神にダメージを与える系の攻撃がよく効く。が、あんまりやり過ぎるとゾーンに入っちゃうために引き際を見極めないと逆に殺される。

最近の悩みは『創作物における本多忠勝像が誇張され過ぎて、それを自分に求められる』ということ。なんだよ機動戦士ホンダムって。アレ人ですらないじゃん。

自身の譲れないものは自身の能力でもある先祖『本多忠勝』の名。これを貶されると強制的にゾーンに陥る。Cクラスの皆はそれを承知しているので、正勝と戦いたいときや煽るときは『やーい、戦国最強(笑)』が合言葉になっている】

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

保護責任者:妖叨+

名前:前田 慶太(まえだ けいた)

刻印名:Carry it through, and work as God; two spears(神を貫きし2本の槍)

年齢: 18      性別: 男     (C)クラス

 

性格:チャラい。の一言に尽きる。普段は静か。戦闘時も静かだが切れたらヤバイ。静かなる戦闘狂。

喋り方:

自己紹介「どもー前田慶太でーす、3年間? 宜しく」

日常1「いいねぇ〜、このクラス。骨のある奴ばっかで、退屈しないや」

日常2「あ、弥生ちゃん? って何の流派? 今度やりあわない? 同じ槍使いだけに」

戦闘時1「俺の聖槍が君たちの血を吸いたいって疼いてるんだ。だからーーーーー貫かれて見ない?  神を貫いた聖槍にさ」

戦闘時2「ははははっ! いいよ! それ! 俺も本気で行くからさ、君も本気で掛かって来なよ」

怒り状態時1「おい、お前だろ? ウチのクラスの奴を痛ぶってくれたの? その代償は…つまらないお前らの命だ」

怒り状態2「…もう、お前らに生きる価値なんてない。来いッッ、カシウス!」

ブチギレ「……話す価値は無い。お前にあるのは神の悪意を具現化した魔槍の裁きだ!」

 

戦闘スタイル:基本、槍を使った直接攻撃。

 

身体能力350    イマジネーション15

物理攻撃力250    属性攻撃力20

物理耐久力100    属性耐久力50

 

能力:『聖槍・ロンギヌスの槍』

聖書の神を貫いた聖槍。神の善意が染み込んでおり使用すれば所有者にその思いに応えた力を発揮する。イマジンの消費は少なく使い勝手が良い。

通常時は聖槍を使用する。

 

派生能力:『魔槍・カシウスの槍』

聖書の神を貫いた魔槍。神の悪意が染み込んでおり使用するば所有者を含め所有者が敵と見なした者に災いをもたらす槍。所有者の憎悪でその力を発揮する。

イマジンの消費がかなり多いので使い勝手が非常に悪い。

慶太がガチギレた時しか使わない。

 

各能力技能概要

・『I know Longinus・ the truth, and truthreleases you(聖槍・真理を知り真理が君を自由にする)

≪聖槍の持つ力を解放時に使用できる。聖槍が慶太の思いを汲み、その場に応じた力を与える。イマジンの消費は半端なく滅多な事では使わない≫

 

・『Reward to come from willow oak Usu, a crime(魔槍・罪から来る報酬)

≪魔槍の持つ力を解放時に使用できる技。この技を使用すると半径1キロが岩肌と化すほどの威力がある技。実はこの技は、魔槍を振るうことで起こる超音速斬撃。慶太は威力の調整が出来ないので本当に感情に任された攻撃になる。これも聖槍の技同様、滅多な事では使わない技≫

 

(余剰数値:215)

 

概 要:【容姿は赤色の髪に黒色の目をしている。前田利家の子孫、だったりする。先祖代々、槍使いが多い事もあり槍とは切っても切れない存在になった。槍の名手であり一族からは「利家の再来」とまで称されるほど槍の使い手。強い奴を倒し続けているうちに最強などと言う肩書きが鬱陶しいと思うと同時にもっと強い奴と戦って見たいと思っていた時にイマジン学園の事を耳にする。慶太は瞬間的に「ここなら……俺よりも強い奴がゴロゴロいるはずだ!」と思い入学を希望するが一族の人間に猛反対された。一族の反対を無視して勝手に入学した。それからは親から勘当されるが気にも留めなかった。何故なら強い奴と戦っていられるから。現在のマイブームは昼寝】

 

 

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保護責任者:ソモ産

 

名前:新谷悠里 アラタニ ユウリ       刻印名:贋作(フェイク)

年齢:15歳    性別:男      一年Cクラス

性格:明るい荒くれ者。戦闘時は楽しみながら戦う

 

喋り方:通常時は社交的かつ適当で率直、戦闘中は相手を小馬鹿にしたような喋り方。

自己紹介「おーす。俺は新谷悠里。特技は物まねかな。んじゃま仲良くしようぜー、みんな」

勝負申し込み「うっし。お前の本物と俺の贋作どっちがスゲェかハッキリしようぜー!!」

ボケ「なぁなぁ!お前ら、俺と一緒に女湯行こうぜ!!きっとスッゲーの見れるぞ」

弥生「弥生ってスゲーかわいいよな。今度デートしようぜ!」

 

戦闘スタイル:テレビで見て覚えた格闘技全般と他人の物理攻撃系イマジネーションを真似して使う近接戦闘。主に拳で戦う

 

身体能力300     イマジネーション100

物理攻撃力200    属性攻撃力25

物理耐久力200    属性耐久力25

適応力100      思考処理能力68 

 

能力:『模倣(コピー)

 

派生能力:『―――』

 

各能力技能概要

 

・『計測(トレース)』≪模倣の能力。相手のイマジネイション、動きを注意深く観察し、その相手の力を計測する。完璧に計測を完了するには、2分ほどかかる≫

 

・『記録(メモリー)』≪模倣の能力。計測が完了しているものを記録する。現在は一度に記録できるのが2つだけ。≫

 

・『模倣(コピー)』≪模倣の能力。記録している計測完了した相手の力を発揮する。ただしイマジネーションは物理系の物のみで本物の3分の1ほどの力しか発揮できない。また、神格といったものを発揮するものは神格は模倣することはできない。≫

 

 

概要:【金髪碧眼。常に笑顔を絶やさない男だが、ここに入学する前は近所で有名な不良だった。もとから一度見たものはすぐに真似することができるという特技を持ち、ボクシング、柔道、カンフーといった格闘技全般はテレビ、本を見て体得。近所では負けなしだった。自分の特技に誇りを持っており、「偽者、パクリ」といった事を言われると尋常じゃないほど怒る。弥生に一目惚れをし、毎日アタック中】

 

能力概要【自分の特技をもとに完成した能力。 他人に依存する能力だが、本人の持つ基本的な能力が桁外れに高いためそこまで問題にならない。基本的には拳を用いたイマジネーションを模倣するが、剣や弓 などの武器を用いたイマジネーションも模倣可。その際は武器が具現化する。現在は同じクラスの筋力強化の能力を記録している。後々は弥生の能力を計測させて貰おうと思っている】

 

 

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保護責任者: 桜庭創矢

 

名前:桜庭 啓一《さくらば けいいち》    刻印名:斬裂(キリサキ)

年齢:16歳      性別:男     種族:人間  Cクラス

容姿:イケメンだが、どぎつい三白眼が全てを台無しにしている。高身長の細マッチョ体型。

服装:カッターシャツに黒ブレザーに黒ズボン。ブレザーはボタンを止めない。腰に太刀を2本差していて、何と無く不自然。

 

性格:見た目にそぐわず好青年。だけど何かを斬り払うのが三度の飯より大好きな危険人物。

 

喋り方:落ち着いた話し方。戦闘時は基本黙り。一人称は『(おれ)

自己紹介   「桜庭啓一だ。刀の道に傾倒した粗忽者だが、よろしく頼む」

ボケ     「成る程成る程………つまり斬れば解決か」

出撃時    「桜庭啓一、推して参る」

狂化時    「………斬る」

照れ     「ム………礼を言われる覚えはない」

真剣モード  「幾ら物斬りとはいえ………己にも己なりの矜恃がある故」

 

戦闘スタイル:常に最前線に立ち、防御を捨てて自己流の剣術で敵を斬り続けるスタイル。

 

基礎能力値

身体能力:200     イマジネーション:112

物理攻撃力:100    属性攻撃力:100

物理耐久力:3     属性耐久力:3

斬れ味:500

 

能力:『見えざる刃』

派生能力:『斬り裂き魔(ジャック・ザ・リッパー)

 

各能力技能概要

『幻刀』

・『見えざる刃』の能力

・手に持つ刀が見えなくなり、認識出来なくなる能力。使用者にも適応されるため、相応の技量が必要となる。

 

『神速』

・『見えざる刃』の能力

・1回につき1秒間、全てを超越する速度で動くことができる。1日10回が限度。それ以上発動すれば、身体が壊れる。

 

・『斬り裂き魔』の能力

狂化(バーサーク)されて、身体能力、各攻撃力が1.5倍、斬れ味が2倍になる。代わりに敵味方の判断がつかなくなり、目に入る全てを斬り払う行動しか出来なくなる。

 

概要

・桜の散り際の様に舞い踊り敵を斬る剣術『桜刃流』を継承してきた一家に産まれた超異端児。

・魅せる剣術ならともかく、モノを斬る剣術には華美さは必要ないとの持論から実家と決別。勘当された。

・己の意見が正しいことを証明するため、自分で磨き上げた『斬ること』だけに特化した無骨な自己流剣術を引っさげてイマスクに入学することを決意。

・刀を扱う技量は相当なもので、実家では昔『神童』と呼ばれていた。

 

 

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保護責任者:ヒャッハー

名前:黒玄 畔哉(くろぐろ くろや)     刻印名:不殺人鬼

年齢:14     性別:男    クラス:C

性格:愛情狂いの戦闘狂。戦った相手は皆大好きな寂しがり屋。

 

喋り方:人懐っこい元気な喋り方。

自己紹介   「初めまして。黒玄 畔哉、です!」

好意     「ん~~~~? 僕は皆大好きだよ?」

戦闘中    「切って裂いて千切って抉って喰らって潰して壊して破いて砕いて蹴って殴って踏んで歪めて抱き締めてあげるよーーーーーーーッ!」

 

戦闘スタイル:近づいてずたぼろにする。剣でもナイフでも糸でもノコギリでもハンマーでも拳でも足でも使える物は何でも使う。身体中に大量の武器を仕込んでいる。

 

身体能力:403     イマジネーション:53

物理攻撃:403     物理耐久:53

属性攻撃:3      属性耐久:3

直感:100

 

能力『切伐無死(きりきりむし)

派生能力『煌羅魏(こおろぎ)

 

能力技能

『無死刺され(むしさされ)』《『切伐無死』の能力。「きる」事と「さす」事への身体ブースト。ブーストのレベルは、テンションによって決定する。テンションが高ければ高いほど大幅なブーストが受けられる。》

 

『徒火破涅(とびはね)』《『煌羅魏』の能力。瞬発力への異常なブースト。こちらはテンションなんざ関係無く、ただひたすらに速く早く。段々スピードが上がるという素敵仕様。但し一直線にしか進めない。合間合間に方向転換はできるが、移動中には不可。》

 

概要【殺し屋の一族に生まれた突然変異種。今でこそ持っているのは戦闘欲だが、物心付く前から殺人欲に支配されていた。幼少期、初代学園最強『焔薙 姫一』に気まぐれで外出していた時に出会い、殺そうとしたが、逆にずたぼろにされ、止めを刺されかけていた時、彼女の息子『津崎猛』によって救出させた。 その後姫一に、『拷問と調教を繰り返し』性質を矯正された後、息子に激しいツッコミで叱られ、困った姫一が、イマジネーションスクールに押し付けた。

以上のような幼少期を過ごしたため、人とのつながり、ふれあいに餓えており、形はどうあれ、戦った相手にはほぼ確実に好意を向けている。

容姿は金髪に赤目、120~130センチ位の小学生のような身長。ズタズタにきざんである学ラン。その下にはこれまたズタズタのカッターシャツ。

刻印名により、殺人鬼としての能力が格段に伸びるが、『不』の字により、殺せない、というある意味呪いじみた枷を掛けられている】

 

 

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保護責任者:すだい

名前:伊吹 金剛(いぶき こんごう)      刻印名:鬼の血

年齢:16    性別:男      (C)クラス

性格:豪快な性格、子供好き

 

喋り方:

自己紹介     「俺ァ伊吹金剛だ、よろしく頼むぜェ」

鬼神化      「さぁいくぜェ!!鬼の力みせてやるよォ!!」

対子供(14以下)  「子供ってのはいいもんだなァ、素直で可愛いぜェ。」

 

戦闘スタイル:鬼の力による肉弾戦

身体能力150   イマジネーション50

物理攻撃力300   属性攻撃力3

物理耐久力300   属性耐久力3

鬼200

 

能力:『鬼に金棒』

派生能力:『鬼化-完全開放-』

 

各能力技能概要

・『鬼化』≪『鬼に金棒』の能力。身体の一部を鬼化する。鬼化とは文字通り鬼の力を身に纏うこと。生半可な攻撃では傷をつけられない≫

 

・『鬼神化』≪『鬼化-完全開放-』の能力、自分の全てを鬼化する。その際神格を得るとともに身体能力が飛躍的に上がる。使用後反動でショタ化する≫

 

・『大江山の羅生門』≪鬼の伝承のうち有名な二つ、茨木童子と酒呑童子の逸話の場所である大江山と羅生門をモチーフとした結界。

カグヤに負けた後自分の手札の少なさを痛感した金剛が、自分の祖である有力な鬼には拠点があることを知り、造り上げた。

鬼神としての自分の神格の上昇、そして鬼の配下とされるカラス天狗、カッパの使役を行う≫

 

 

カラス天狗:文 イマジネーション75

金剛が使役するカラス天狗のまとめ役、嵐を起こす団扇と圧倒的な速さを武器としている。

 

カッパ:にとり イマジネーション50

金剛が使役するカッパのまとめ役。

肉弾戦闘力と水を使役する術を使う。

 

(余剰数値:0)

 

概要:【鬼の血を引いていて鬼の力を操って戦う。黒髪黒目で頭の両端から小さな角が生えている。身体能力が素で高い。子供が好きだがロリコンではない。あくまで保護者的視点。鬼であるためか神聖なモノが苦手。節分は嫌い。刻印名により鬼に関する力にのみ成長する】

 

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保護責任者:朝田詩乃

名前:闘壊 狂介 (トウカイ キョウスケ)        刻印名:争魔狂

年齢:16     性別:男      (C)クラス

性格:負けず嫌いで大雑把。自分が正しいと思っている。考えるよりも口よりも先に拳が出る。ツンデレ。

 

喋り方:適当で相手が強そうだと喧嘩腰で喋る。以外と優しく、仲間思い。

自己紹介「うーっす。闘壊 狂介だ。」

能力使用時「消えろ! 感・覚!」

能力最大時「ハハハハハハハハハハハハハハハハ! いいねぇ、盛り上がってきたねぇ!」

戦闘時「さぁ、かかってこいよ! 楽しもうぜ!」

裏の顔「○○が怪我したか、食いもん買っとくか」

通常「俺は真面目、だからサボる!(キリッ」

 

戦闘スタイル:ただただ殴る力に任せた戦い方。あるいは能力を使いなぶる。守りを知らない。

 

身体能力250     イマジネーション300

物理攻撃力300    属性攻撃力50

物理耐久力 90     属性耐久力10

 

能力:『狂感覚』周辺の動物(人間も)の感覚を操る。例、視覚を弄くり本来見えないものが見えたり、在るものが見えなくなったりする

 

派生能力:『消感覚』狂感覚の上位能力。感覚を消したり、脳からの命令を遮断することができる。しかし細かい指定が必要なので素早く動く相手だと効かない。

 

各能力技能概要

・『感覚付与』≪かんかくふよ≫

相手の感覚を敏感にし、感覚を暴走させて過剰の痛み、苦しみを与える。

 

・『I don't have but you have 』≪俺に無くてお前にあるもの≫

自分の感覚を最大まで無くし、(立てて殴れるくらいだけど痛みを感じない位)その分相手に感覚を与え、感覚を共有する。それにより相手は数倍の痛みを受ける。

 

(余剰数値:0)

 

概 要:【ツンツンの金髪。顔が少し怖い。表と裏の違いが激しく裏を見られると恥ずかしすぎて硬直する。期待を裏切れないタイプ。自分の言うことを否定されるとキレる。頭が悪く、脳筋バカ。小さい頃から戦闘を身体に叩き込まれていて半分戦闘狂になってる。やるときはしっかりやるやつ。なぜか家事全般できるが部屋が汚い。

 

 

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保護責任者:朝田詩乃

名前:闘壊 響      刻印名:妖精舞踏(フェアリーダンサー)

年齢:15     性別:女      (C)クラス

性格:とても明るく兄貴である狂介のことが好きなブラコン。音楽やダンスが大好き。

 

喋り方:

自己紹介 「ハロハロー♪ あたしは倒壊響だ。狂介があたしの兄貴なんだー♪ よろしくー!」

デレ   「へへへ♪ 兄貴~♪ カッコいいねー! 惚れるよ!」

戦闘   「それじゃあお願いします! 兄貴! 見ててね♪ 華麗に勝利して見せるよ!」

キレ   「ふざけんな! もっと楽しめよ! そんなに戦いたいなら余所で殺れ。ここにいるなら俺の歌を聞け!!」

 

戦闘スタイル:自分と相手の動きを全てリズムとして見る。周りから見るとまるで踊っているかのように動き、相手を翻弄する。武器は刃無き短刀を2つ。

身体能力400  イマジネーション300

物理攻撃力100  属性攻撃力100

物理耐久力50  属性耐久力50

 

能力:『フェアリーエレメント』

本人曰く「妖精術」といっているが、実際には物体に対して属性を付与するものである。いつもは短刀の刃をこの能力で生み出している。長さ、太さは自由自在。あとこの能力を器用に使い実際に妖精のようなものを作れる。(会話や伝達くらいしか出来ない暇潰し用)

 

派生能力:『妖精の加護』

自分やものに対して一定の耐性をつける。しかし打撃には弱い。

 

各能力技能概要

・『火炎舞踏』≪フレイムダンス≫

 炎の属性付与したもの。

・【炎環蛇】炎を鞭のように長く細くし、周り全てを破壊する。

・【双炎乱舞】ブレイクダンスのような動きで切り刻む。切り傷は同時に火傷にもなる。

 

・『水麟氷乱』≪アイスダンス≫

水、氷の属性を付与したもの。

【氷龍月花】氷を龍のようにし、辺りを凍らせる。

 

・『風雲鳥飛』≪ウィンドダンス≫

風の属性を付与したもの。

【風刺針投】強弱のある不思議な動きでカマイタチを起こし、固さ厚さ関係なく切断する。

 

(余剰数値:0)

 

概 要:【いつもヘッドホンを着けている。ブラコンの意味を知らず言葉自体がカッコいいと思っている。兄である狂介がいないと生きていけないほどの重度のブラコン。兄貴が好きすぎてこの学園に入った。能力のことはあまり興味がない。見た目や口調が少し男に近いように見えるためスカートは穿かない】

 

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保護責任者:首吊男

名前:楠 楓(くすのき かえで)  刻印名:――

年齢:16  性別:女   一年生Cクラス

性格:日常会話に花言葉をよく使う。ギャップ萌え。

 

喋り方:気品があるようで棘というか荊棘が要所にある。

自己紹介:「わたくしは楠楓と申します。あなたにはメハジキの花言葉を差し上げますわ♪」

勝負申し込み:「ふふ♪ 貴方みたいな綺麗な方を壊したら、どれほど醜くなるのでしょう。滾りますわ♥」

勝負受託:「まぁ殿方から誘われるなんて、わたくしも捨てたものじゃありませんわね。でも、一度鏡を見直してみてはいかが?」

ギャップ萌え:「リンドウのようなお方ですわ♪ わたくし恋をしてしまいそうです」

ボケ:「美しいものは壊す為にあるのではないのですか?」

 

戦闘スタイル:巨木を切るために使うようなチェンソーを、可愛くデコレーションしたものを武器に戦う。

 

身体能力:218  イマジネーション:399

物理攻撃力:123  属性攻撃力:200

物理防御力:53   属性防御力:25

能力:『猛火の火種』

派生能力:『――』

 

技能

各能力概要

・『緋紅の夢現花(ひこうのラフレシア)

<<猛火の火種の能力。火薬のように爆発する粉末を漂わせ、吸引した相手の体内で爆発させる。威力は弱いが、気化して飛び散る鮮血が花開く赤い花のように見える。粉末が留まりやすい顔と手足が主に爆発する為、五つ花のラフレシアを連想させる>>

 

・『奇想睡蓮(きそうすいれん)

<<猛火の火種の能力。水に含まれる酸素を燃料として爆発する粉末。火属性が弱い水属性を逆に封じ込める水属性殺し(ウォーターキラー)>>

 

・『七花八裂(しちかはちれつ)

<<ただただチェンソーで滅茶苦茶に切り裂くだけです。楓の必殺技。可愛い花には棘がある♪>>

(余剰数値:0)

 

人物概要:【現総理大臣が叔父にあたるご令嬢。教養が良く博識だが、それこそどうしてこうなったのかという程捻れている。折れはしないがひどく心が曲がってます。とにかくギャップがあるのが好きで、そういった事が日常茶飯事なイマスクへと足を通う。破壊を目的としているのではなく、その後を目的とする分余計タチが悪い。ただ、グロイのが好きというわけではない。クールな人間が慌てたり、綺麗な大和撫子を西洋風の人形みたいに仕立てたりと、とにかくギャップがあるものをこよなく愛す。見た目は160前後の身長に、金髪碧眼のクォーター。髪型や服装は気分でころころ変わるので、ロックバンドみたいな過激なものや、ゴスロリ、はたまた男装といった多岐に渡る】

 

 

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保護責任者:lycoris

名前:鋼城 カナミ(こうじょう かなみ)       刻印名:なし

年齢:14        性別:女性       一年Cクラス

 

性格:おとなしいようでいて、なんでも殴って解決しようとする子。

 

喋り方:口数少なめ。たどたどしく喋る。一人称はカナミ。決め技の掛け声は大きい。

自己紹介       「鋼城カナミ。寄って、殴る。それだけ」

肯定         「うん、カナミもそう思う」

勝負申し込み?    「喧、嘩? いくらで買えばいい?」

殴り(セル4つ使用)  「カートリッジ4! ブラストナックル!」

能力発動       「ヴァルキリー『セットアップ』」

『狂う引鉄』発動後  「………あれ、まっすぐ飛ばない………不良品だった? 叩けば直るかな………えい!(グシャア」

 

戦闘スタイル:正々堂々アイアンフィスト。たまにショットガンとかパイルバンカー。スーツのアシストに頼った回避と防御。

身体能力200  イマジネーション300

物理攻撃力412   属性攻撃力3

物理耐久力100   属性耐久力3

 

能力:『鋼鉄の戦乙女(アイアンヴァルキリー)

派生能力:『狂う引鉄(カラミティトリガー)

 

技能

各能力概要

・『鋼鉄の戦乙女』パワードスーツ(女性的なフォルムのアイアンマン)を召喚、装着する(仮面ライダー的なノリで)。スラスターで滑るように動いたりパワーアシストで身体能力を底上げしたりできる。装甲の耐久力はイマジネーションに比例する。

ガントレットと膝下にイマジンセル(30mm径長さ8cm)を装填(各8つ)、それを消費し爆音を伴って加速。スピーディーかつパワフルな格闘ができる。イマジンの衝撃波を飛ばし攻撃をはじき返したりもできる。威力、速度はセル消費数×セルに込めたイマジン量に比例する。空セルの排莢動作(モンハンのガンランスみたいな)がやたらかっこいい。空薬莢は自壊してイマジンに還元される。

イマジンセルは背中のリアクターで周辺のイマジンを吸い込んで作る。急速充填で周辺のイマジン濃度を低下させ簡易的なジャマーみたいな使い方もできる。セルをそのまま投げてグレネードみたいな使い方もできる。

 

・ 『フルブラスト』リアクター内含め、すべてのセルを消費して殴りかかる必殺技。数回に分けて変態機動で殴り込むことも可能。使用後、冷却剤を一気に排気しつつ排莢。一時的にヴァルキリー本体以外の周辺のイマジンが押しのけられ、擬似的なキャンセラー効果が発生する。そこからさらに格闘コンボに繋ぐことも。

 

・『狂う引鉄』派生というか生来の性質。散弾やパイルバンカー以外の銃器を使うと弾があらぬ方向に飛ぶようになる。たまに暴発したり爆発する。作りが悪い、と捨てるまでがお約束。イマジンのお陰で暴れ弾の破壊力が凶悪になった。

(余剰数値:0)

 

人物概要:【短髪黒髪、鋭い目つき、タンクトップとカーゴパンツ愛用。Cクラス卒業生の兄に憧れて入学。大砲などのロマン武器が好物、パイルバンカーとか殴り用鉄塊とかもう大好物。引鉄引いてから我に返って周囲の惨状に苦笑することも。たまにセルをそのままバリボリ食べてたりしている。本人曰く「美味」らしい】

 

 

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保護責任者:ぬおー

名前:虎守 翼 (こもり つばさ)    刻印名:雷に愛されし者

年齢:14   性別:女   1年Cクラス

性格:明るく元気に気まぐれに。目立ちたがりで楽しいことが大好きで、細々としたことは不得手。

 

喋り方:一人称はわたし。年上や先輩に対しては○○さん、○○先輩、同い年もしくは年下には名前+ちゃんorくん呼び。一応敬語は使えるが、あまり考えずに発言する節がある。

自己紹介 「どうも~、虎守翼ですっ!」

決闘承諾 「あ、じゃあじゃあわたしが勝ったら食堂の『週末限定10食肉の極み夜の部』奢ってくださいね? あと、デザートにビッグサンダーパフェも! ……ダメぇ?」

拒絶  「う~ん、○○さんから何も感じなくて、なんだかつまらないんですよね」

悩み  「む~、どっちの服の方が男の子にモテると思います?」

 

戦闘スタイル:回避主体で、電撃と直感を頼りにド派手に暴れまわる近接戦闘型。

身体能力168    イマジネーション100

物理攻撃力100   属性攻撃力400

物理耐久力50    属性耐久力200

 

能力:『雷虎の化身』

派生能力:『獣の直感』

 

各能力技能概要

・『雷印』≪直接触るか、電撃として当てることで対象に電荷を付加する。これにより飛ばす電撃にホーミング機能がついたり、クーロン力による引力、斥力を使えるようになる。≫

 

・『直感』≪物質や人から発せられる微弱な電磁波を『感じる』ことで周囲から得られる情報が増し、体内の電気信号の伝達速度を引き上げることで高速処理、結果として知覚領域を引き上げるパッシブ能力。反応速度が飛躍的に上昇し、高精度センサーとしても働く。≫

 

・ 『雷化』≪体そのものを雷に変えることで光速で動き回り、物理攻撃を完全無効化する。身体的、能力的、物理的、あらゆる制限を解除し、能力を最大限使用できる状態になる。解除後は感覚の落差や、疲労のフィードバックでまともに動けなくなるため、短期決戦や最後の一押しにしか使わない≫

 

(余剰数値:0)

概要:【黒のショートヘアーに同色の瞳平均的な身長と現代的な日本人だが、胸部と腹部のくびれは日本の平均を上回り、抜群のプロポーションを形成している。普段は着やせするタイプで、楽しいこと以外には興味を示さないずぼらな性格と自身の帯電体質の結果、乱れきった髪も相まって周囲は正しく彼女の魅力を認識できないでいる。代々虎の神様を信仰している以外は至って普通の家庭で育つ。兄姉翼の三兄弟の末っ子で天真爛漫に育ったため、天性の後輩気質と甘え上手で、これまでは特に上級生から可愛がられていた。好物は肉、夢はモテモテになること。能力使用時は髪と目が金色に染まる。また天才気質で、一度や二度見ただけで体術や体捌き等は難なく会得してしまう】

 

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秋人「おい龍斗っ! 聞いたかよっ!?」

龍斗「うわっ! ビックリした………っ! どうしたの秋人?」

秋人「俺は常日頃から思っていたんだっ! 俺が契約した神剣レーヴェを擬人化できればと………っ!」

龍斗「言ってたなぁ~~」

秋人「なんでも一年生に、黒髪美少女の姿になれる刀を持った女の子がいるらしいっ!! これは突撃するしかないだろっ!?」

龍斗(………。うわぁ~~……、その相手になんだか物凄い心当たりがあるんですけど~~………)

龍斗「まあ、行っても良いけどさ? 今はやめとけよ? 校則で上級生は一ヶ月間の間、故意に下級生と接触する事が禁じられてるんだから」

秋人「そ、そうだった………。って言うかその『ビックリ校則』、ただのサプライズのために校則化までするかよ、って話だよな?」

龍斗「本当だよな? 去年も俺達、その理由を聞かされて呆気に取られたもんなぁ~~?」

秋人「だが俺は行く! 理想に向かってっ! お前と一緒に!」

龍斗「ああ、やっぱ俺を巻き込むために話振ってきたのね?」

秋人「すでに美希お前の浮気ネタを送っておいた」

龍斗「何してくれてんの~~~っ!?」

秋人「誤解を解いてほしければ一緒に来るのだな?」

龍斗「これだからAクラスのBクラスいじりは………。でもそれ、俺が了承しても無駄になると思うよ?」

秋人「なんでよ?」

榛名「私が背後で構えているからですよ~~?」

秋人「――――っ!!?」

龍斗「念のために聞いておくけど、これって俺も怒られるの?」

榛名「私が来なかったらなんと返事をしていたのかしら?」

龍斗「もちろんNO―――」

秋人「そう言えば聖にもネタを振る準備が―――(ボソ」

龍斗「ちくしょうっ!! 煮るなり焼くなり好きにしやがれっ!!」

榛名「べ、別に………っ、龍斗くんが後輩の女の子と会おうとしてるから止めるわけじゃないんですからねっ!」

龍斗「()かれたっ!?」

秋人「何それっ、美味しい!? 俺も妬く方向でお願いしますっ!?」

榛名「私のところ以外にいけない様に、両足切り落としておかなきゃダメだよね………?」

秋人「()まれたっ!?」

龍斗「さすがは『オプションクイーン』榛名………。勝てる気がしねぇ」

榛名「じゃあ、二人とも大人しく『独房』行こうか?」

秋人&龍斗「「ああっ、やはり見逃してはもらえなかったっ!?」」


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おまけ編 【最強の教師】

遅くなりましたっ!!
おまけ編、ついに完成ですっ!

個人的には待たせた甲斐のある濃厚な物となったと思いますが、本当にバトルシーンばっかりなので、読んでる人も疲れてこないかちょっと不安です。
一緒になって楽しめれば本当に幸い!

遅くなりすぎて忘れられていないかが不安ですが、これを機に思い出していただければ何よりですっ!

パソコンのクラッシュ! データ破損! 多すぎるキャラのまとめ! 多種多様な個性の確立! 新作ゲームの誘惑達! 艦これ売り切れのショック! 幾多の困難を乗り越えれずに崖を転がりながらなんとか仕上げたこのおまけ編! どうぞご覧ください!

そして私は寝るっ!
ぐ、ぐぅ~~~………。

【添削完了】


ハイスクールイマジネーション おまけ編

 

・最強の教師

 

「一年生全員で私に一撃を入れる。それが勝利条件なぁ?」

「「「「「「「「「「………は?」」」」」」」」」」

 吉祥果ゆかりに告げられた授業内容に、一年生達は思わずと言った感じに声を漏らした。

 半透明な体に大正時代を思わせる着物にブーツを履いた姿。長く黒い髪と瞳は、彼女が日本人であることを言葉で語らずとも伝えている。

 この学園に於いては、噂に名高い幽霊教師で、三年生からも良く慕われている彼女だが………、こんなことを言い出した理由は、前文で述べた通り『恒例行事』という名の授業だからだ。

 時にして、学年最強決定戦を終え、新しい能力や技能(スキル)を取得する前の、僅かな期間。一年生全員が、己の能力の使い方を理解したこのタイミングを狙うかのように、『一年生恒例行事』は行われる。

 話だけは聞かされていた一年生達だったが、いざ呼び出された何もない荒野で、いきなりこんな事を言われては面食らってしまう。

「えっと………先生? 嘗めてるとかそういうのじゃないんですけど、“全員”っていうのは、マジで『全員』なのか?」

 さすがに気になってしまったのだろう、闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)は軽く挙手しながら質問を投げかけ―――、

「はい、スタートや」

 ―――華麗に無視された。

 突然、ゆかりの背後から大量の岩石が飛んできて、次々と油断しきっている生徒達めがけて飛来していく。

 しかし、そこは未熟なれどもイマジネーターの生徒達。次々と能力で迎え撃ち、華麗に回避し、他人の後ろに隠れてやり過ごしたりと、慌てながらも見事な対応をして見せる。

「ぬぅおおぉいっ!? 東雲っ!? 何故俺ぇん背中に隠れとるんじゃいっ!?」

「こういう時、金剛の後ろが一番安心なんだよ。お前、絶対避けないで迎え撃つし、パワータイプだし、体デカイし、ミスっても結構頑丈だから盾になるし」

「素直なら何でも許すと思ったら―――ぬおっと危ないっ!?」

 背中に隠れる東雲(しののめ)カグヤに文句を言おうとした伊吹(いぶき)金剛(こんごう)だったが、乱れ打つ岩石の対処で手一杯だ。

 岩石はバスケットボールより少し大きめのサイズで、軽く投げつけられた程度のものだ。一つ一つはイマジネーターにとっては、それこそ球遊びに過ぎない程度だろう。だが、これが千や二千の大軍となって投げつけられたとあっては、さすがに彼らも慌ててしまう。いくら常人よりは頑丈な肉体を有していても、岩石一つ分のダメージは身体を押しのけるに十分な衝撃がある。何度も受け止めていれば打撲となり、悪くすれば骨だって砕ける。たとえ肉体が無事でも、これだけ立て続けに投擲されれば生き埋めにされてしまう。下手な対処が許されない攻撃だ。

「だからって………今更………」

「この程度の手遊(てすさ)びで、我が悦を得られると思ったかっ!?」

 華麗なステップを踏むように躱す八束(やたばね)(すみれ)と、『征伐』の能力『オーディンの瞳』により、未来を予知して悠々岩石の雨の中を歩いて見せるシオン・アーティアは、Aクラス上位メンバーとして学年の総意を言葉にして放つ。この程度の攻撃を食らうほど未熟すぎる存在ではないと!

 

 ガツンッ!

 

「イッテェ~ッ!? もろ頭打ったぁ~~~っ!?」

満郎(みつろう)くんっ!? このタイミングで岩石を頭にぶつけるなんてぇ………っ!? なん

て気持ちの良さそうなことをぉ―――っ!? 私としたことが失念していましたぁっ!? 私も混ざりますからぁ、二人で岩石の雨と、クラスからの『あ、こいつダメだ………』ッ的な視線を思う存分浴びましょうぅ~~~~っっ!!!」

「黙れ美砂(みさ)~~っ!! テメェみたいなM(マゾ)と違ってこっちは本気で当たっちまったんだよっ! 誰が好き好んで当たりに行くかぁ~~~っ!?」

「本気で当たったんですね………」

「あ、いや………、違うっ!? そうじゃなくてだな美冬(みふゆ)さん? 近場の奴の影に隠れようとしたら、何故か岩が貫通してきて俺に命中したわけで………、つまり俺だけが食らったわけでは―――っ!!」

「…ん? もしかして俺の影に隠れてたのか? すまん。俺の能力『カイザーフェニックス』の恩恵効果で、基本的に俺の体は不死なんだ。いや、正しくは死んでも復活するわけなんだが………、死ぬ度に耐性が付く能力なんで、わざと食らいながら避けていたんだが………、後ろにいたなら撃ち落とすべきだったか…?」

叉多比(またたび)和樹(かずき)の後ろに隠れたのが、そもそもの間違いだったって良く解ったよ………」

 

「………」

「………」

「菫~~! シアン~~! お前たちは悪くないぞ~~~っ! ちょっと異色な奴が混ざっていただけだからなぁ~~~っ!?」

 後方からレイチェル・ゲティンクスのフォローを受けながら、二人は視線を交わし頷き合った。

「「後で満郎―――(自主規制発言)」」

「何言ったの今ぁ~~~~~っ!? 俺いったい何されちゃうのぅ~~~~っ!?」

 Aクラス上位ランカーの二人に目を付けられ、既に断末魔に近い悲鳴を上げる満朗。

 そんな生徒達をとても微笑ましそうに見ていたゆかり―――の背後に、既に遊間(あすま)零時(れいじ)は躍り出ていた。速度だけなら既に一年生最速と言える彼からしてみれば、岩石の雨など障害物競争の『障害物』を無視して単独短距離走をする様なものだ。

 零時は手に持っていたナイフをゆかりの首元へと走らせ、捨て台詞一つ吐く事無く()っ捌く。

「『世界を区切りましょう』エリアC形成。『世界に押し付けましょう』エリア内での殺傷行為不可。背後からの攻撃にペナルティーとして五分間のコサックダンス」

 ゆかりの足元から円状の光が走り、それがゆかりと零時を包めるぐらいに広がる。ゆかりの能力により、支配するべき空間を設定され、その空間内を自由に設定できる様にした証拠だ。

 ゆかりの能力『都合のいい箱庭』は、“自分の本体”から地続きになっている場所を円で区切り、その空間内を自由に改変できると言う、『概念操作系』の最も理想的な能力だ。彼女が支配した空間では、どんな現象も起こせるし、設定に矛盾さへなければ、ゲームの様にルールを追加する事も出来る。

 

 そのため、零時はゆかりの後ろで全力のコサックダンスを踊らされることになった。学年最速の脚を無駄に活かして………。

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ~~~~~っ!!! 何か精神的にこれは辛いっっ!!!」

「まあ、なんてすばらしいコサックやろ~」 

 低い姿勢で脚を入れ替え、土煙を上げながら泣き叫ぶ生徒を、微笑ましそうな瞳で肩越しに見つめるゆかり。

 その正面、今度は三人の生徒が降り注ぐ岩石を破壊しながら突っ込んで来ていた。

 先頭を走るのは甘楽(つづら)弥生(やよい)。既に本物の戦場に等しき環境に『ベルセルク』の能力は充分なギアを上げ、走る勢いを殺す事無く、二本の剣で岩石を砕き進んで行く。続く闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)は、能力的にはこの状況で有効とは言えないタイプであったが、そんなの無視して基礎技術の『強化再現』で無理矢理上げた身体能力を駆使し、岩石を吹き飛ばしながら躍り出てる。

 それに僅かに遅れて付いてくる膝丸(ひざまる)(あきら)が、手に持つ日本刀を地面に突き刺した。

「教師相手に出し惜しみは無しっす! ヴァジュライオーーーーッッッ!!!!」

 暁の持つ日本刀『吠丸』の真名『ヴァジュライオー』を口頭により解放。彼の背後の地面が砕け、赤い鎖に拘束されし巨大な鬼が姿を表わす。鎖が千切れ、鬼が解放された瞬間、怒号を上げた鬼が、暁の身体を包み込むようにして倒れ込み、己が身体を銀色の鋭い鎧へと変貌させた。

 『鬼神羅刹 ヴァジュライオー』

 暁の能力『鬼との運命』により発動する技能(スキル)で、剣に宿った鬼を鎧として纏い、自身の能力を向上させる効果がある。その向上効果は絶大で、鎧を纏うために僅かに出遅れたにも拘らず、走り出した暁はあっと言う間に狂介を追い抜き、弥生すらも追い越し、誰よりも速くゆかりの正面へと躍り出た。

 剣を振り被る暁。しかし、ゆかりは平然としている。

 それもそのはず、先程、零時相手に使用した空間はまだ生きている。このまま剣で攻撃してもゆかりを傷つける事は出来ない。もちろん暁もそんな事は百も承知だ。だから、彼が標的としたのはゆかりではなく、彼女が形成している空間そのものだ。

 『都合のいい箱庭』は、範囲指定した空間との境界が歪んで見えるため、能力の効果範囲がとても解り易い。その境界を上級基礎技術『条件指定再現』を行い、特定の物を斬れる様に強化して、切り裂こうとしたのだ。

 だが、攻撃は空間を空振るだけに終わった。『条件指定再現』は上級技術であるため、暁にはしっかりと再現する事が出来なかったのだ。それでも暁は諦めずに何度も剣を振り払う。当然、剣はただ空振りを続けるだけだったのだが、ようやく弥生が追い付く頃、暁の纏っていた鎧が脈動を始めた。脈動は次第に大きくなり、鎧全体に血管の様な物を浮き彫りにさせる。それが刀にまで至った時、突然刀が膨張、そして弾け、中から新しい光を纏った刃が現れる。暁はその刃を、確信と共に振り降ろす。

 

 ビギンッ!

 

 光を纏った刃が、ゆかりの作った結界に触れ、亀裂を走らせる。程無く結界は儚い音を立てて砕け散った。

 『ヴァジュライオー』は使い手と共に進化する。使い手が望み、それに見合うだけの力があるなら、鎧となった『ヴァジュライオー』も、それに合わせて進化を繰り返す。今回は、暁が概念系の能力を切り裂く望みに応え、刃を進化させたのだろう。

 これが暁の思惑で在り、そして続く弥生が『ベルセルク』の直感で感じ取った最高のコンビネーション(パス)である。

「あらまあ~~♪」

 結界を砕かれ、無防備になったはずのゆかりは、弥生が降り降ろす刃を楽しげに見ながら、ひらり…っ、と、重力を感じさせない動きで舞う様に避けた。

 弥生が続けて左右の剣を交互に重ね打つが、まるで当たる素振りを見せない。ひらりひらり…と踊る様にくるくる回って避けるだけだ。暁も(くわ)わって、挟み打つように剣激を重ねるが、結果は同じ。最終的には宙高く飛び上がり、上下逆さまの状態で見下ろしながら余裕で手を振って見せる始末だ。

「か、躱されるのって、なんか不完全燃焼………!」

「予想してはいたけど、受けるどころか笑顔で躱されると結構ショックっす………」

 もどかしそうにその場で足踏みをして駄々をこねる弥生と、がっくりと項垂れてしまう暁。ゆかりがあまりにも高く飛び上がってしまったため、空を飛ぶ手段を持ち合わせていない二人は、歯痒い気持ちで見送るしかできない。

 着地場所を予想して追いかける手もあったが、ゆかりの能力を考えると、向かった先にトラップを作られるだけなので追うだけ無駄だ。空中戦の出来る者に任せるしかない。そう考えて二人が諦めかけたところ―――、ようやく追いついた狂介が、なんと迷う事無く暁に飛び掛かり、その肩を踏み台代わりにして高く飛び上がった。

「ぐお………っ!?」

 ヴァジュライオーの鎧を纏っている暁でも、いきなり踏み台にされては堪らず(かし)いでしまう。片膝を付かないだけでも上出来だ。

 暁を無視して、狂介は飛び上がる勢いが衰えぬ内に弥生を呼ぶ。

「おいっ! 弥生っ! 俺を先生の所まで蹴り上げろ~~~っ!!」

 弥生は迷う事無く暁の頭を踏み台にして飛び上がった。

 今度は『ベルセルク』と言う身体強化の能力で踏み潰された暁は、弥生を高く飛ばす代わりに、地面に仰向けになって倒れてしまった。

「んご………っ!? アンタ等、これで成功しなかったら覚えとれよ~~~~っ!!」

 暁の抗議(声援)を背に受け、弥生と狂介が空高く飛ぶ。

「失敗するかよっ! 『I don't have but you have (俺に無くてお前にあるもの)』!」

 狂介は『消感覚』の派生能力を使った技能(スキル)を発動、自身の感覚を消失させ、相手にその感覚を押しつける。

 彼の使ったこの能力は、直接攻撃が大好きなCクラスでは珍しい『概念操作系』で、『直接攻撃系』に対して、ほぼほぼ絶対的効果を発揮するので、何かと厄介な能力として注目されている。

「ああ~~………、私に自分の痛みを押し付けて、怯んだ隙を付いて落とすつもりなんやろけどね~~………?」

 ゆかりは指をパチリと鳴らし、それを合図にして結界を形成。支配空間が弥生、狂介、ゆかりの三人を捉える範囲で形成される。―――が、それに(とど)まる。何か仕掛けてくるのかと身構えた二人だったが、ゆかりはただ笑顔でいるだけだ。

 何か言いしれぬ物を感じたが、今更作戦を中止する訳にも行かず続行する。

 弥生が全身の力を使って身体を振り、狂介の背中を蹴飛ばす。その勢いを利用して更に高く飛ぶ狂介―――、

「んぎゃあぁっ!?」

 突如、狂介を蹴りつけた弥生が背中をのけぞらせて悲鳴を上げ、目測を誤ってしまう。明後日の方向に飛ばされてしまった狂介は、空中から飛来中だった岩石に正面衝突して弾き飛ばされた。更に弾かれた先でも岩石に激突してしまい、更に更にまた別の岩石にぶつかる事を繰り返す。通算六回くらい岩石に衝突した狂介は、満身創痍の状態で地面に叩きつけられ、そのまま起き上れなくなってしまった。

「や、弥生……、テメェ………! 何してやがる………っ!?」

「だ、だって………っ! ムッチャ背中が痛いだもん………っ!!」

 自分の背中を労わる様に撫でる弥生は、自分に一体何が起こったのか誰よりも早く理解していた。だが、理由が解らない。何故()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その疑問を読み取ったかのように、空中でくるりと回って元の体勢に戻ったゆかりが、ニッコリ笑顔で解説する。

「恭介くんはCクラスやから失念してはったんかもねぇ~? 『直接攻撃系』と違って『概念操作系』は自分が支配できる範囲でしか効果を発揮せん力やから、同じ『概念操作系』同士の戦いになると、純粋に支配力の高い方に力の差が傾いてしまうんよ~~? 要は、どちらがより強く概念を支配できるかの勝負になるわけで、今私が展開している結界は、私の完全支配下に置いた空間やから―――」

 説明の最中、ゆかりの背後に大きな影が差す。

 突如現れた影の正体は戦闘機。今この瞬間までステルス機能を使い、その存在を隠していたのだ。

 その戦闘機の名は『三原空専用マルチロールSTOVL機:エアレイド』通称『エアレイド』と呼ばれる、三原(みはら)(そら)少年の創り出したイマジン戦闘機。岩石降り注ぐ雨の中を掻い潜り、ゆかりの背後にまで迫って見せた。その『エアレイド』のハッチが開き、後部座席から身を乗り出したのは御門(みかど)更紗(さらさ)。言霊を強制する『概念操作系』の能力者。彼女は此処まで、空の力を借りて近づき、自分の能力が最大の効果を発揮できる位置に辿り着いたのだ。

 更紗は胸が少しだけ膨らむ程、息を吸い込み、最大の“想い”を込めて叫ぶ。今だ説明中で隙だらけのゆかりに―――!

「“落下しろーーーーーーーっっっ!!!!!”」

 ドーーーーーンッッッ!!!

 更紗の『言の葉』の能力に従い、強制落下。地面に激突した衝撃で炎を上げて大爆発を起こした。

 

 空と更紗を乗せた『三原空専用マルチロールSTOVL機:エアレイド』が………。

 

「~~~~~~~~~っっ!!?」「お、俺のエアレイドが~~~~~~っっ!!?」

 爆炎の中、『言の葉』のペナルティーを避けるため、必死に悲鳴を殺して吹き飛ぶ更紗と、作戦の失敗やダメージより、自慢の戦闘機が爆発炎上した事に悲鳴を上げる空の姿が映えた。

 ゆかりは「あらあら♪」と漏らしながら優雅に地面に着地して、先程の説明の続きを語る。

「―――っとまあ、こんな風に私の支配下空間で『概念操作系』の能力使っても、それを私の“能力の範疇”と見なしてそっくりそのまま効果を返せるやね。こう言う相手の能力を自分の能力支配下に置いて“返す”技術を『交差再現』って言うんよ? ついでにこれを自動(オート)でそのまま相手に“返す”のを『意趣返し』って言いますぅ。『概念操作系』の能力を持ってる子は、この『交差再現』を絶対覚えような? 必ず役に立つからぁ~」

 人差し指を一つ立てて語るゆかりは、自分の両脇を挟み込むように現れた二人へと視線を向ける。

「今度はDクラスのトップウィザードがお相手なん?」

「はい!」っと答えたのは黒長髪に下駄を履いた少女、桐島美冬。

「うむっ!」っと答えたのは、同じく黒長髪をした少女だが、なぜかゴスロリ服に黒いマントを装着している小さな少女。その身長は低く、およそ140cmほどという幼児体系。なのに、その表情は魔王然とした冷笑を浮かべ、自信に満ちた瞳でゆかりをねめつける。冷静にゆかりを観察する美冬とは、ある意味対照的な視線を向ける黒野(くろの)詠子(えいこ)

「さすがはヴァルハラに迎え入れられし現代のエインヘルヤル! されども、我らとてエンディアへと赴く第二のプロメテウスとならん者! このブラック・グリモワールの叡智と、魔道を紡ぎたてるキャスターが力を合わせ、第三次元へと引き戻してくれるっ!!」

「要するに、直接攻撃なら『意趣返し』は使えないと言いたいんです!」

 美冬が詠子の言葉を通訳する。そのタイミングを待っていたかのように、二人は同時に手を翳し、能力を発動する。

 美冬の手に、淡く白い光が灯り、彼女を中心に熱が失われていき、冷気が立ち込めていく。

 詠子の背後に、二つの書物が出現し、それぞれが勝手に開き、バラバラとページを捲っていくことで、魔法の自動詠唱が行われる。それに伴い、詠子を中心に熱気が立ち込め、次第に炎が沸き上がっていく。

「止まりなさい! 冷酷の地で! ≪コキュートス≫!」

「六星編・1章、三星編・3章、同時詠唱! 煉獄の(とばり)よ落ちろっ! ≪()()()()()()≫!」

 本当は≪インフェルノ≫と叫びたかったらしいところを見事に噛んでしまった詠子。彼女の噛み癖を知っている数名が「よりにもよってそこで噛むのか………」っと、言いたげな哀愁に似た表情を浮かべる。

 美冬は真剣な表情は崩さず、「これで同学年には、全員に知られることになっちゃいましたね………」などと同じく哀愁に満ちた思いを浮かべるのだった。

 そんなボケを見事にかましてしまったわけだが、状況はそれとは異なり、壮絶な物となり始めている。

 美冬の能力『魔法創造』によって造られた技能(スキル)、『寒冷凍死(コキュートス)』により、天候ごと極寒に変えられた冷気が、猛吹雪となって竜巻の如く渦巻く。その温度はセルシウス温度で-273.15℃、絶対零度に達している。触れた物の熱を(ことごと)く奪い、全てを凍らせ停止させていく。凍土の猛威。

 対して詠子能力『魔道』の技術(スキル)、『黒の書=六星編』に書き記された、第一章『火』より用いられた劫火は、摂氏3000℃に昇り、地球の核の表面温度と同等の高熱を発している。その炎は全てを悉く焼き尽くし、周囲にある酸素を根こそぎ食い尽くしてしまう。形在る物は融解し、全て消滅していく。劫火の猛威。

 その二つが渦巻き、まるで二頭の竜の如くうねりを上げ、ゆかりを中心にグルグルと回転を始める。『寒冷凍死(コキュートス)』が『インフェルノ』で焼き尽くされた地形を一瞬で凍り付かせ、蒸発していた物を再び物質へと変え、飲み込んでいく。『寒冷凍死(コキュートス)』が通り過ぎた後を『インフェルノ』が再び焼き払い、一瞬で煉獄へと変えていく。凍り付いて止まっていたものを、融解させ、蒸発させていく。

 凍土と劫火の地獄。その二つの力が、次第に回転する輪を縮めていき、ゆかりへと襲い掛かる。

 対極となる二つの力を制御し、美冬と詠子は同時に叫ぶ。

 

「「≪ニブルヘイム≫!!!」」

 

 二人の『展開術式(イマジネート)』が完全に同化し、一つのスキルとして成立。この瞬間、この能力は単体で放たれていた時とは比べられないほどに強固な理想(イマジン)となった。

 凍土と劫火の竜巻に同時に(さら)されながら、ゆかりは感心そうな表情で、片手を頬に当てて、柔らかな笑みを浮かべていた。

「疑似的な『二重(デュア)スキル』、『(かさね)』………! 殆どがDクラス生徒内でしか成功例がないスキルやけど、一年生で見られるなんて、感激やわ~~!」

 本当に嬉しそうに笑うゆかりは、二つの猛威に曝されてなどいないと言うかのように、平然とした顔で教師らしく解説し始める。

「二つ以上のイマジン能力は、同時に使うまでやったら問題ないけど、その二つを同時に使って一つのスキルとして発動するのは教師でも“無理”と称されるほどの超高難度アルティメットスキル。幾多の能力者が、能力と派生能力を同時に使ったスキルを編み出そうとしはったけど、その殆どが上手く組み合わせることができず、展開式が崩壊したり暴発したりで上手く行かん始末やった。そやけど、なんでもちょっとした裏道いうんは在るものでな? 二人以上の能力者が互いの能力を全力で使用し、互いの能力を正確に把握、そして上手く互いの展開式(イマジネート)の歯車をかみ合わせる事ができれば、こんな風に一次元上の能力として発動可能になるんや。通常、このレベルになると、教師のイマジネートでも粉砕してしまうほどの上級能力になるんやで? ホンマすごいやろ?」

 我が事のように微笑むゆかりに、詠子は魔王然とした笑みで追記する。

「更に言えば、私の『黒の本=三星編』の第三章に記述された対イマジン術式も同時に展開することで、スピリットである貴女にもスルー不可能なダメージを与えることが可能! 鬼殺しやベルセルクの剣とは違い、今度は避けなければ本当にダメージを受けることになるのだ!」

「そうだったのっ!?」

「普通に攻撃しても駄目だったんっすかっ!?」

「俺がコサックした意味は何だったんだよっ!?」

 直接攻撃をゆかりに仕掛けてしまった弥生、暁、零時がショックを受ける。それを聞いたカグヤと菫は同時に呆れた声を漏らした。

「弥生はともかく、零時は『肯定再現』で斬撃を有効にくらいしてると思ったんだが………」

「暁はともかく、零時は『否定再現』でスルー不可にくらいしてると思ってった………」

「す、すまん………」

「「ちょ………っ!? こっちは“ともかく”扱いとかどういうこと~~!?」」

 弥生と暁が抗議の声を上げる隅で、地面に突っ伏している狂介は「俺は話題にすら出してもらえないのかよ………」っと涙声で呟いていたのだが、もちろん誰も聞いていない。

 そんな観劇(かんげき)を挟みながら、ゆかりは「そやけど………」っと、片手を空に向けて掲げて見せた。

「こういう能力にも、もちろん付け入る方法があったりするんやよ?」

 ゆかりは再び支配空間(結解)を展開。自分を中心に、二つの猛威と美冬、詠子を取り囲むよう大きさを形成。

「『把握再現』現状の展開式(イマジネート)の全てを理解把握。………『交差再現』」

 呟きを最後に、ゆかりは猛威の中へと姿を消した。

 熱気と冷気、物理法則上は互いに消し合うはずの力が、イマジンにより維持され続け、ありえないレベルで急激な温度変化に曝され、万物の全てが塵へと帰り、なおも細かく砕かれていく。

 熱の変動で影響を受けるのは物質だけではない。大気すらも激しい上下運動を強制され、すでに嵐などと表すには生易しい颶風(ぐふう)となっていた。およそ生物が―――否、万物が存在することができないであろう文字通り地獄となった惨状に、生徒の多くが勝利を確信した。「さすがの先生でも、これなら掠り傷一つくらいは負うはずだ」っと………。

 ゆかりが最後に行った行動が気がかりだった美冬と詠子は、未だ油断なく見据えていたが、いつまで経っても変化は訪れず、杞憂(きゆう)だったのだろうかと、困惑の表情を浮かべる。

 

 地獄の中に影を見つけたのは、その時だった。

 

「「っ?」」

 影の正体を直感的に悟り、逸早く術式(イマジネート)にさらに力を加えようとした二人は、そこでまた驚かされることになった。二人の術が、『ニブルヘイム』が、すでに二人の制御化を完全に離れ、何者かに乗っ取られていたのだ。その何者かについては、論ずる必要はない。

 突如、地獄として君臨していた『ニブルヘイム』の術式は、互いに絡みつくように蜷局(とぐろ)を巻き、口と目、頭を持つ双頭の大蛇へと姿を変えた。その蜷局の中心、場違いなほど得意げな笑みを浮かべる、半透明大正少女の姿があった。

「私の能力『都合のいい箱庭』のスキル『世界を区切りましょう』で範囲指定した空間は、原子レベルで私が自由に弄れる空間やよ? それはイマジン能力も例外やないん。もちろん、能力その物を真っ向から打ち消すのはイマジン戦の常識、“理想の押し付け合い”になってしまうから、簡単な事やないけどね? 能力を打ち消すんやなく、術式の隙間に自分の術式を押し込んで、そのまま能力を奪う(ジャック)してしまう事はできたりするんよね~~。なんせこれ、『襲』と理論上はやってること同じやからね? つまるところ今私がやって見せたのは、二人の疑似『二重スキル』を私の能力を重ねて制御下においた、疑似『三重(トリア)スキル』にしたと言うこと」

 凍土と劫火の双頭蛇が牙を剥き、冷気と熱気による甲高い鳴き声を上げ威嚇する。

 「やばい………」っと生徒達が戦慄する。『三重(トリア)スキル』については生徒の中では極一部の者しか理解できていない知識だろう。目の前の物が本物の『二重(デュア)スキル』に比べれば、疑似三重など、遊びにも等しい扱いなどとは知らずとも無理はない。それでも彼等は『直感再現』でそれに気づいていた。この疑似三重スキルは、単体の能力では()()()()()()()()と………。

「それじゃあ、この攻撃を、みんなで頑張って防いでみよう~~♪」

 楽し気に告げたゆかりは、『世界を動かしましょう』のスキル効果で、双頭蛇を疑似的に操り、ゆかりを中心に波紋を描くかの如く、次々と生徒達に襲い掛かった。

「きゃ、きゃああああぁぁぁぁ~~~~~~っっ? 助けてください師匠~~~っ!」

 フリルがたくさんついた不思議の国のアリスのような恰好をした少女、音木(おとぎ)絵心(えこ)が最初の標的となり、自分のイマジン体に助けを求める。しかし、彼女が助けを求めた“赤ずきん”の姿をした少女は、主を無視して「知るか………っ!」っと捨て台詞を吐きながら逃げようとしたところで、双頭蛇の片割れが軽く撫で、一瞬で氷漬けになってしまった。

「師匠~~~~~~っっ!?」

 

 ぼんっ!

 

「んきゃあああぁぁぁ~~~~~~っっ!」

 そして絵心も双頭蛇の片割れに掠め、一瞬で発火した。

「ぬおっ? この属性は俺ん天敵………っ! 東雲! 今度は守っては―――!」

「あんっ? なんか言ったかよ!?」←既に彼方。

「相変わらず姑息なほどに反応の早い―――」

 

 カチンッ!

 

『こ、金剛さ~~~~んっっ!!?』

 東雲カグヤの行動に苦言を漏らしていた金剛は、そのまま氷漬けにされてしまった。更紗が、イマジン使用のフリップボードで音声を発し、名前を呼ぶが、もちろん金剛からの返答はない。

「よし! ジーク! 今度はお前がおれの盾にならないかっ!?」

 全力で走っていたカグヤが、同じく逃げていたジーク東郷に追いつくと、そんな無体なことを言い始めた。

「ふざけているのか貴様はっ?」

「当然だ! あの規模の攻撃じゃあ、人一人盾にしても盾の役割を果たせるわけないに決まってるだろ? 真面目に言う奴がいるかよ!」

「じゃあ、なんでわざわざ聞きやがった?」

「バカやって飛び込んでくれたらネタになるなぁ~~~………っと?」

 ジークは黙ってカグヤの襟首を掴み、そのまま双頭蛇の元へと投げつけた。

「おおおわあああああぁぁぁぁっ!!? タンマッ! タンマッ! これはシャレにならねぇ~~~~~っ?」

 空中でじたばた暴れるカグヤは、逃げている途中だった誰かを藁にも縋る思いで捕まえ、そいつを蹴り飛ばす反動を利用して間一髪双頭蛇から逃れた。

「ぐおおおおぉぉぉぉっ!!? 熱いっ! 熱いぞ貴様~~~~っ!! 生産系のEクラス生徒を攻撃の淵に投げ込むとはどう言う了見でぇ~~~いっ!!」

 ちっこい少年の姿をした男は、なぜか双頭蛇の炎の中にもまれながらも、リアクションを取るだけの余裕を見せていた。

 彼はアルト・ミネラージ。一年生では数少ない異世界出身の本物のドワーフである。そのため炎には幾分耐性があったのだろう。普通の人間なら一瞬で炭化する火力に、苦しみ悶えるくらいの“余裕”はあるらしい。

 地面に着地したカグヤは、その姿を見て苦い顔で片手を立てた。

「正直、今のはマジでごめん。今度何か奢る。………生きてたらな」

 その言葉に応えられる人物は、すでに火の中にはいないようだった………。

 

 

「やれやれ………、盛大にやってくれよるな、あの幽霊教師」

 破壊の爪痕を未だ広げ、被害者を量産する双頭蛇を眼下に、長い金の髪を風に揺らす、プリメーラ・ブリュンスタッドは、幼児体系の童顔に似合わぬ悟り顔で溜息などを吐いていた。

 ありえない事に、彼女がいるのは上空、何もない空間で寝そべるようにして戦闘状況を観察している。

 『浮遊再現』。本来、一年生の初期段階で使えるはずのない、そもそも習ってもいない技術を、彼女はすでに習得していた。っと言っても、その完成度は教師が見れば『その状態で戦闘はできない』とすぐに見破られたことだろう。『浮遊再現』は『超跳躍』や『滑空』の再現とは違い、イメージを維持し続けなければ意味がない。浮遊するというイメージは、これがなかなか難しく、途中でイメージが崩れ、落下してしまうなど二年生でも起こりうる事故だ。まして『飛行再現』のように自由自在に空中を移動するなどと、とてもできるものではない。

 それでも、彼女は、まだ教えられていないはずの技術を知り、未熟ながらも使用して見せている。これはすでに十分異常としか言いようがない。

「しかし、イマジンとは確かに恐ろしい………。絶対的な力を持つはずの()()が、たかだか人間が人工的に作り出した程度の力に何を怯えているのかと思ったが………。なるほど確か。これは話に聞く以上。こんな力、もし地上で日常化してしまえば、それこそどんな災厄が起こるか分かったものではない。危ぶまれるのも納得」

 一人何かに納得したらしいプリメーラは、目を細めながら頷いた後、「しかし………」と疑問に思い至り小首をかしげる。

「このような逸脱した力、本当に人間だけの力で作り出したものなのか? ………いやいや、この世界に幻獣や神は存在していない。“我”と言う存在さえ、イマジンの力を利用して生まれたに過ぎない。異世界とのリンクもイマジンが出来てからだったはず………。異星人? いや、いまだそんな存在は確認されていないのは確か。ならばどうやってこの力を生成した? イマジンを作り出すエネルギーの元とは何だ?」

 何か重大な問題に近づきつつあったプリメーラは、そこで『直感再現』が働き、寝返りを打つように体を捻り、迫り来ていた劫火を躱す。同時に『浮遊再現』を維持するのが難しくなり、自由落下を始める。

「た、たすけて~~~~~~っっ!!?」

 劫火の中から何者かの声が聞こえた気がしたが、それが何者なのか認識できなかった。なのでプリメーラは気に掛けることもせずに戦場へと落下していくことにした。

「さて………、さすがに教師レベルの力。手合わせするのも忍びないが、我も使命を帯びる身………。今回は余興程度に抑えておくか?」

 一人悟った風に呟き、プリメーラは地面に着地する。

 その隣に、劫火に吹き飛ばされ落下してきた少年、佐々木(ささき)勇人(はやと)っという人物がいたのだが、彼の派生能力『顔無し』の『架空の存在(ゴースト)』の力が働いていたため、周囲から存在を認識されなくなってしまっていた。彼はこの能力を使い、ゆかりにひっそりと近づいて攻撃するつもりだったのだが、ゆかりの結解内ではその能力でも隠れきることができず、ましてや範囲系の攻撃に巻き添えを食う形になり、結局吹き飛ばされてしまったのだった。おまけに味方からも認識されず、その存在すら記憶から忘れられてしまっているので、誰にも救助されることはなかった。

(それでも生きてんだから、俺もスゲ~~………)

 誰からも忘れられてしまっているので、勇人は自分で自分を褒めてあげることにした。涙を流しながら。

 

 

「おぶろわは~~~~~~っっ?」

「満郎君っ?」

「おい、満郎が吹き飛ばされたぞっ?」

「(キランッ!)」アイコンタクト→「ふっ(コクリッ)」

 

「「だっしゃああぁぁぁ~~~~~っっ!!」」

 

 バシコ~~~~ンッ!!

 

「がほばは………っ?」

「み、満郎君が菫さんとシオンさんに同時スパイクされて再び劫火で吹き飛ばされて………っ!?」

「お、おう………」←再び落下。

「(キランッ!)」アイコンタクト→「ふっ(コクリッ)」

 

「「だっしゃああぁぁぁ~~~~~っっ!!」」

 

 バシコ~~~~ンッ!!

 

「やめばはぁ~~~~っっ?」

「満郎が無限バレーボール拷問状態に~~~~っ?」

 バーボン・ラックス少年と美冬に見守れながら、菫とシオンにバレーボールよろしくスパイクされまくられるという、二人の腹いせを今受けることとなった満郎を視界の端に、カルラ・タケナカは状況打開のため、とある二人の人物の元に近寄っていた。

「カグヤさん、レイチェルさん! お二人の力を貸してください!」

「「断るっっ!!」」

 同時に振り返り、同時に即答されてしまった。

 しかし、軍略を得意とするカルラ、親指を立ててめげずに交渉を続ける。

「息ピッタリ! これなら何の問題もなく任せられます!」

「「絶対嫌だからっ!!」」

 なおも拒否する二人の言葉は、示し合わせたかのようにピッタリ揃う。

「でも、この状況を打開するには―――、満郎さんがスパイクサンドバックから解放されるためには、どうしてもイマジン体使いのお二人の力が必要なんです!」

「「よしっ! 日影! 協力してくれっ!」」

「………は?」

 唐突に話を振られた少年、八雲日影は、何気にトレードマークとなりつつあるアホ毛を『?』の形にして首を傾げてしまう。

「日影様、これは好機かと? このお誘いを受けて、日影様の御友人関係を広めるべきです」

 日影の傍らに控える、彼のイマジン体、金髪碧眼のエプロンドレス姿のメイド少女、紫電は心持期待に満ちた瞳で主を促す。

「え、やだよ………。こんな僕が協力しようとしてもチームワークを崩すだけだし」

 ―――が、自虐癖のあるらしい日影は、せっかくの紫電の助言も(むな)しく拒否してしまう。

 だが、主思いの紫電としても、ここで容易に引き下がっては、懐刀の名が泣くと言うもの。カグヤとレイチェルが未だに辛抱強く待ってくれている内にどうにか説得したいところだ。微妙にカグヤの表情だけが曇っているあたり、次の発言次第で悪印象を与えてしまいそうでもある。ここは彼のほうから歩み寄れるように誘導したい。

「日影様、相手はどちらも日影様の能力『刀剣之顕現』に類する、イマジン体を顕現させる能力者ですよ? 全く興味を惹かれないと言えますか?」

「そう言われちゃうとそうなんだけど………」

 興味が出始めたのか、二人のことをちらちらと視線を向け始める日影。手応えを感じた紫電が、トドメの一言を告げようとして―――、

「あ、すみません。火と水の属性がほしいので、ないならご遠慮願えますか?」

 先に、カルラにトドメを刺されてしまった。

 日影は肩をすくめて紫電に苦笑を送る。

「だってさ?」

「左様………で、ございます、か………」

 心底残念そうにしょんぼりする紫電。

 さすがに悪い気がしたカルラだが、この間にも満郎がスパイクサンドバック(何気に凍土がネット、劫火がブロックの役割をするような行動を見せ始めている)を続行され続けているので悠長にしていられない。

「お願いします! お二人の力がどうしても必要なんです!」

「「力は貸すけど、こいつと比較されるのは嫌だ!!」」

 同時に互いを指さすカグヤ&レイチェル。

「行動、言葉、発音まで何から何までピッタリ揃えられるのに、どうしてそんなに仲が悪いんですかっ!?」

「………え? 仲悪いか、私たち?」

「良くはない………、っと思うが?」

「なんで二人揃って微妙顔っ!? ここで疑問を述べられる方が不思議っ!?」

 カルラのツッコミに、二人は左手で頭の後ろを軽く掻きながら、右手を軽く振って「いやいや………」っと否定して見せる。

「譲れない一線があると言うだけで、別に本人を嫌っているわけじゃない」

「俺の分野を取られたくないと言うだけで、嫌悪感とかはないな」

「じゃ、じゃあ、もしかしてお二人は仲がいいんですか?」

「「いや、全然」」

「お二人の関係や如何にっ!?」

 背後でタイミングよく爆発音が起き、カルラのショックが強調された感じになった。この時、餌食になった砂山(さやま)(じん)から「どうでもいいからさっさと対処してくれ~~~っ!!?」っと言うお叱りがはるか遠くへと響いていたりする。

 何とか協力を仰ごうと頼み方を変えてみようかと考えたカルラ。その肩を左右から別の人間に同時に叩かれ、言葉が詰まる。振り返って確認すると、白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女と、長い髪をツインテールにしているゴスロリ姿の少女―――に見える男子。浅蔵(あさくら)星琉(せいる)と、水面(ミナモ)=N=彩夏(サイカ)の二人が笑みを浮かべていた。

「大丈夫だよカルラさん」

「ここは私たちに任せろ」

 二人はそう言うとカルラが何か言い返すより先に前へ出る。

 彩夏はカグヤの前に立つと、すかさず胸元のリボンを緩め出した。

「カグヤ………、吊り橋効果を利用して私と親睦を―――」

ゆかり先生(吊り橋)より危険な存在っ!?」

 カグヤはビクつき、一目散に逃げだそうとしたが、そのタイミングを見計らったように星琉が彼に聞こえる声を意識してレイチェルに話しかける。

「レイチェルの能力の高さなら、カルラの策を確実に成功させられるだろう?」

「もちろんだとも星琉!」

 意気揚々と答えるレイチェル。そして、その隣では逃げ出したように思えたカグヤが既に火の神カグラを顕現させてスタンバイしていた。

「どうしたレイチェル? やらないなら俺だけでやっちまうぞ?」

 なぜか自分だけは最初からやる気でしたよ?と言いたげな態度をとって見せている。

「なんでお前が上から目線なんだ! そもそもお前と協力するなどと誰が―――っ!」

 憤慨するレイチェルがそこまで言葉を発したタイミングを狙って、更に星琉が呟く。

「つまりレイチェルよりカグヤの方が空気を読める?」

「協調性の湧く煽りが来たので乗せられることにした! 合わせろよカグヤッ!」

 レイチェルがカグヤの隣に立ち、背後に火の悪魔アスモデウスを顕現させスタンばる。

「いや、別にお前と協力するなどとは―――」

「………?」←肩部分の服をずらしてにじり寄る彩夏。

「今ならお前とフォークダンスを完璧に踊って見せられる気分にされたぜっ!!」

 二人は、星琉と彩夏に乗せられていると分かった上で、心の天秤(気分の赴くまま)に従い、協力することにした。

 星琉と彩夏がカルラに振り返り親指を立てる姿に、何とも言えない脱力感を抱きながら、カルラはとりあえず作戦内容を二人に説明しようとする。

「え~~っと………、では作戦ですが―――」

「「ああ、それ人選の時点で既に分かってるから説明しなくていい」」

 二人揃って振り返りもせず片手を振ってそっけなく答える。我慢できずにカルラは頭を抱えて座り込んでしまった。

「これだからAクラスは面倒くさいんですよっ!!」

 嘆くカルラ。その反応に、何気にAクラス全員が満足そうな表情をしていた。弄り好きのAクラスにとって、打てば鳴るような反応を見せるBクラスは、相当好まれているのだ。愛すべき弄り相手として。

「あのっ? そろそろ満郎さんの回復が間に合わないのでっ! 助けてあげてくださ~~~いっ!」

 如月(きさらぎ)芽衣(めい)の泣きそうな声を契機に、カグヤ、レイチェルは二人、ゆかりを正面から捉える位置に移動。それに反応した双頭蛇が満郎ブロックを止め、二人めがけて襲い掛かる。この双頭蛇はあくまでゆかりが操っているにすぎないのだが、その動きは動物的で、まるで意思を持つかのように(あぎと)を開く。

 ―――瞬間、二人は全く同じ動作、タイミングで手を翳し、それぞれのイマジン体に命令を送る。

Demon's(デモンズ) Seal(シール) purge(パージ)≪悪魔体開放≫!」

現神(あらかみ)軻遇突智(カグヅチ)!」

 血のように朱い髪に蝙蝠の翼を持つ少女の姿をしたアスモデウスが、急成長し、妖艶な女性の姿へと変わる。頭には二つの角が飛び出し、肢体は凹凸をはっきりさせた艶めかしい物へと変わる。その姿は美しくも、どこか恐ろしい雰囲気をまとった悪魔の姿があった。

 同じく炎の様に赤い髪を持つ幼女の姿をしたカグラは、全身を炎に包まれ膨張、十メートルに及ぶ火柱となり、そこから出た六角柱の物体がいくつも連なる大蛇の様相を現す。

『ゴアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァッッ!!!!』

 角を持つ蛇と言う火の神、軻遇突智(カグヅチ)の本性を現したカグラは、迫りくる双頭蛇よりも巨大な(あぎと)を開き、大気を震わせる威嚇の咆哮を上げる。

 正体を現した炎の悪魔と火の神、その主である二人がイマジネートを繰り、双頭蛇に対抗するため、最大火力を命令する。

「アスモデウス! Hell Flame(ヘル・フレイム)!!」

炎砲(えんほう)軻遇突智(カグヅチ)!!」

 妖艶な美女となったアスモデウスが手を広げ、全身から炎を迸らせ、軻遇突智(カグヅチ)が顎を開き、まるで液体のように炎を溢れさせながら、高熱量の炎を口内に溜める。

 命令を受けてからの僅かなタイムラグを経て、火を司る悪魔と神は、同時にその劫火を放ち、完全に同化させ、より巨大な炎を生み出した。

 巨大な炎が双頭蛇に激突! スケールだけ言えば炎の方が大きいのだが、威力が勝っているのは明らかに氷炎の双頭蛇の方だった。それでもゆかりは、むしろ嬉しそうに学生二人を褒め称えた。

「これはお見事! イマジン体を介した『襲』は通常の『襲』と比べ、難易度ばかり上がって威力は同じという、大変なだけの技術やねんけど………。それをDクラスのお株を奪うかの如くここまで完璧に合わせてしまうなんて! 本当(ほん)に素晴らしいわ~~!」

 ゆかりはべた褒めしながら、しかしと片目を瞑って続ける。

「せやけど、こっちは三重の『襲』、なんぼ規模が大きいゆうても二重の『襲』では分が悪いかなぁ~~?」

 実際、『襲』は、二重三重と重ねた分だけ一次元上に行くような都合の良い力ではない。(単発と二重では差があるが…)重ねた分だけ効率よく威力を底上げできるが、圧倒的な力差を作るというわけにはいかない。Aクラス二人が作り出した巨大な炎であっても、Dクラストップウィザードの二人が作り出したイマジネートを、教師であるゆかりに制御されたうえで操られる三重『襲』には到底及ばないのである。せめて同じ二重(舞台)であったなら話は別だったかもしれないが………。

「そんなことは………」「………解ってるさ」

 レイチェル、カグヤが同時に微笑む。

 ゆかりがその笑みに気づき、()()()()()()()

 清楚なワンピースに身を包む蒼い髪の女性が、大量の水を背から両手に集め―――、

 黒い装いに濡れ羽色の長髪を風に靡かせ、黒曜石の瞳でしっかりとゆかりを捉える少女が、両手に持つ、黒い柄のような物を取り出し、それを二つ合わせ、水の弓矢を作り出し―――、

 

 水の悪魔シトリーと、闇御津羽(くらみつは)の名を持つ水の神九曜が、ゆかりの背中に狙いを定める。

 

「ヴァッシャーパイルッ!!」「道開墨水(みちひらくぼくすい)

 シトリーの巨大な水の杭と九曜の強弓となった水の矢が同時に放たれ、混ざり合い、『襲』となってゆかりを襲う。

「なるほど。狙いはそっちやったか」

 納得の笑みを作ったゆかりは、双頭蛇の片方、凍土だけを動かし、水の『襲』を迎え撃たせる。

 この瞬間に拮抗が崩れる。双頭蛇が三重の『襲』として機能していたのは、詠子、美冬の『ニブルヘイム』(劫火と凍土)をゆかりが操作していたからだ。だが、ゆかりは今、挟撃に対し炎と氷の力を二つに分けて対処した。劫火と凍土―――『インフェルノ』と『寒冷凍死(コキュートス)』への分離。それはもう、『ニブルヘイム』ではない。

 つまり、ゆかりは今、三重スキルではなく、二重スキルを同時に二つ制御している状態になってしまったということになる。カグヤとレイチェルがイマジン体を使いやっているように、()()()()()()()()()()()()()

 劫火と業火、凍土と激流。二つの力がぶつかり合い、炎の大爆発と、流氷の霜柱が同時に上がる。ゆかりを中心に濃霧と熱気が立ち込め、完全に視界を遮断してしまう。

「そんでこのタイミングに来るのがこの二人の挟撃なんやね?」

 視界ゼロの濃霧の中で、ゆかりは一年生の名簿を思い出しながら、迫ってきている二人の気配を言い当てた。

 一人は、この濃霧の中でも光って見えてしまいそうな(もちろん気のせい)スキンヘッド少年、一ツ木男(ひとつきだん)。能力『一撃男(ワンパンマン)』による『一撃必殺』の効果で、文字通り一発当てればそれで勝利を掴む概念が完成されてしまうという、当たれば最強の能力者。

 もう一人は明菜理恵という名の少女で、その能力は『現実法則』。彼女が『現実』と認識する法則を世界レベルで強制することができる。つい先ほどまでは味方の能力まで制限させてしまう恐れがあったため、自発的に抑えていたが、この絶好の機会に能力を発動して挟撃に参加したのだ。

「『限定再現』! 対象をゆかり先生にだけに能力を発動! うりゃああぁぁぁ~~~~~っ!!」

 難しいイマジネートを顔を真っ赤にして発動させる理恵。下手に範囲を広げ、(だん)の能力を打ち消さないための配慮だが、ちょっと傍からは間抜けに見える。視界ゼロ空間でなかったら、羞恥心で本人絶対に参加しなかったことだろう。

「一撃当てればさすがに先生でもノックダウンさせれるはずだ! 必殺・マジシリーズ! 『マジ殴り』!!」

 ゆかりが『現実法則』に囚われている隙を狙って、男の拳がしっかりとゆかりの背中を狙う。この瞬間、概念的には間違いなく男の拳は届いていた。

「イマジン基礎技術、『喝破(かっぱ)』。………はいっ!」

 ゆかりが気合を入れた声を出すと、全身からイマジンの粒子が破裂するように押しのけられ、彼女に施されるイマジネートの全てが解除される。ゆかりの霊体もイマジン体なので、体に“ラグ”(テレビの砂嵐のように一瞬映像が崩れて見える現象)が軽く生じてしまったが、同時に理恵が施していたイマジネートも完全に雲散霧消してしまう。

「うそんっ?」

 法則を押し付けるという無効化能力にも匹敵する自分の能力を、気合いだけで押し破られた(傍からはそんな風にしか見えない)ショックで、理恵は半泣きになってしまう。

 自由になったゆかりは、『喝破』の影響で自分の体が不安定になっていることを利用し、(だん)の拳を素通りして見せた。

「嘘だろっ? 『肯定再現』使てるんだぞ?」

「『肯定再現』でも『肯定』する対象が不安定になれば、設定をやり直さんと意味がなくなるんよ~~♪」

 ゆかりはそう笑いながら男と理恵を取り込む形で結界を生成。『世界に押し付けましょう』の効果を発動。

「水入りバケツを持って一分間直立不動」

 理恵と男が廊下に立たされる学生よろしく、両手に水入りバケツを持った状態で直立不動を強制された。

「「なんか地味に嫌だこれっ?」」

「学校のペナルティーなら、やっぱりこう言うのやないと面白くないやろ~~~♪」

 最近では授業を受けさせないことの方が学校側にとって不利益であるため、全く見られなくなった罰則だが、これは現代の観点から当てはめても確かに空しくなってくる光景だ。未だ濃霧が晴れていないことが彼等にとって唯一の救いかもしれない。そう、例えば、()()にとっても―――。

 ユノ・H・サッバーハ。刻印名:絶対暗殺(アブソリュート・キリング)を持つ暗殺少女。身長150cmほどの銀長髪、頭頂部に揺れる三角形の(ネコ)耳。とある異世界より迷い込んできた所を保護され、今ではこのイマジネーションスクールに通う生徒となっている。その能力は地元の世界で身に着けた暗殺技能がそのまま昇華されたもので、中々に油断できない。

 本来、イマジネーターに対して暗殺は有効な手とは決して言えない。どんな状況にあっても不意を突いた一撃は『直感再現』に感づかれ、躱されてしまう事が多いからだ。そのあと連撃で何とかしとめようとしても、躱され続け、結局“戦闘”に移行してしまうため、イマジネーターを暗殺するのは無理だとさえ言われている。

 ただし、その理屈を覆せるのもまた、同じイマジネーターと言う前提条件だ。暗殺の能力に長けた一撃必殺の刃を確実に届かせる。ユノの能力はそのために作られたものだ。

 能力『暗殺技能』と派生能力『影移り』、その二つを同時に発動。本物の『二重技能(デュアスキル)』『暗器』により、自身の影からナイフを射出。そのナイフに薄く影を纏わせることで切れ味を多少上げる。効果としてはたったそれだけのものだ。しかし、これは先ほどから読子や美冬、カグヤやレイチェルの使っていた疑似多重スキルとは違う、本物の『二重スキル』。その能力は“通常の技能および能力では、否定することができない”。彼女の打ち出したナイフを、ラグ状態で動きが鈍くなったゆかりには躱す術も受け止める術もない。極めつけに、彼女は刻印名持ち。その刻印名『絶対暗殺(アブソリュート・キリング)』により高められた能力は、デフォルト効果で、彼女の攻撃全てに絶対的な『有効性』を与えられている。例えジークのような不滅の肉体であろうと、和樹(かずき)のような不死の属性であろうとも、傷つけられる事を避けることはできない。例え、ゆかりのような幽体であってもだ。

 濃霧の中で視界はゼロ。幽体のゆかりに影がないのが残念だったが、暗殺技能に優れたユノにしてみればこの濃霧の中で音も気配も感じさせずに接近するなど容易いことだ。相手が教師ということも考慮し、カルラの立てた“作戦”が整うまで待ち続けてきた。殺気を微塵も出すことなく、ゆかりの背後を取り、彼女が新たな結界を作り出すより早く、自分の影から打ち出されるナイフが、まっすぐゆかりの胸を貫く。

 ゆかりの胸を中心に、大きな空洞が生み出され、彼女の霊体に穴が開いた。

「取った!!」

 崩れた霊体の風穴を見て、咄嗟に歓喜の声を上げるユノ。―――が、ゆかりの霊体がゆっくりと肩越しに振り返り、その顔が再びニッコリと笑まれた瞬間、違和感に気づき青ざめる。

「―――ってないっ!? 嘘っ!? みんな警戒―――!!」

 周囲に警戒を促すより早く、ゆかりの結界がユノを捉えた。

「『断絶再現』自身の中でイマジンの存在しない空間を作る中難度技術やよ。御覧の通り、霊体の私が使うと、完全に“私のいない空間”を作れちゃったりするわけやね~~♪ はい、攻撃失敗した子はペナルティーとして『三回周ってワンと鳴く』を5セットほど」

「ありきたりで、一番きついペナルティーワン~~~~ッッ!!」

 容赦ない羞恥ペナルティーを次々と受けることになってしまう生徒達。幽霊教師のニッコリ笑顔を僅かたりとも歪ませる事叶わず、皆歯噛みするばかりである。

 まだ濃霧が晴れないうちに笹原(ささはら)(だん)が撃った弾丸が何発かゆかりを襲ったが、その全てを僅かな微動だけで躱されてしまい、桜庭啓一と鋼城カナミが濃霧が薄れたところで強力な斬撃と蹴りの弾幕を築き上げ、波状攻撃を試みたが、これらも余裕で回避されてしまう。次第に攻撃の手は緩みがちになり、皆どう攻撃していいのか困惑し始めた様子を見せ始めていた。

「く、くそっ! これじゃあそのうち俺もやられちまうっ! どうすれば………! そうだ!」

 殆ど戦闘に参加していないのに、とばっちりなどで多大なダメージを受けてしまっていた弥高(やたか)満郎(みつろう)は、とある事を思いつき、慌てて生徒手帳から図面を取り出す。彼の能力『要塞構築(フォートレスクリエイト)』の『フォートレス!』は、前以て用意しておいた図面を元に、罠だらけの要塞を作り出すことができる。今回取り出したのは我ながらの自信作で、バベルの塔を思わせる居城だ。

「『フォートレス!』」

 満郎の宣言に応じ能力が発動、塔の頂上の部屋に満郎を収納した状態で居城が出現する。

「はーはっはっはっはぁーっ!! 見たかこの巨大な塔をっ! この塔は正規のルートを通らないとこの部屋に入れないようになっているのだ! だが、内部は無数の罠が張り巡らされていて、その全てがイマジンにより効果を強制されている! 例え幽霊だって効果はあるぜぇ! しかも罠の数は本当にすごいからなっ! 絶対突破不可能だ! 俺自身でさえ把握してないほどだしなっ! 後先考えずに作りまくったからな! もう、俺もここから地上に戻れる気がしないぜぇ~~~っっ!!」

「………太陽の神子よ、奴は自信たっぷりに何を言っているのだ?」

「触れてやるでない死を想え(メメントモリ)。あれが奴の芸なのだ」

 黒髪黒眼のドイツ人。鋭い目つきと鋼の肉体を持つ男、code:Dullahan(コード:デュラハン)と黒髪で色黒の肌に直接黒いジャケットを羽織り、太陽のように輝く金色の眼をしている少年、オジマンディアス2世が二人並び立ち、一人高笑いをしている満郎を物珍し気に眺めていた。

 満郎のボケが炸裂した所為なのか、攻撃の波が止まる。このタイミングを逃すことなく察知したゆかりは、ここで次のステップへと移行する。

「そんなら、そろそろ先生も()()するから、皆で何とか対処してみような?」

 『攻撃』。今更そう言われてもピンとこない生徒が大半だった。攻撃なら先ほどからしていたのではなかったか? この先生は何を今更わざわざ『攻撃』を宣言したのだろう?

 その疑問の答えに、辿り着いていた生徒は、教師がついに()()()に攻撃してくるのだと悟り、冷や汗をかいた。

「おい………、いつから岩の雨は止んだ?」

 誰かが呟く。

 いつの間にか、あれだけ絶え間なく振っていた岩の雨は止み、静寂が訪れていた。

 嫌な予感―――そんなものが生徒たちの胸中に生まれた瞬間、まるでそれを狙ったかのように影が差した。

 それは急な影だった。何かが頭上に現れたというより、ちょうど太陽に分厚い雲でもかかったのではないかと思えるほどに、周囲一帯を暗がりにする大きな影だった。

 八束菫は『直感』に従って空を見上げる。―――一瞬で顔が硬直した。

 隣に立っていた東雲カグヤがそれに気づき、自分も天を仰ぐ。―――意味もなく薄ら笑いが込み上がった。

 影が濃くなり、気づいた者が増え、続々と見上げ―――皆一様に呆然とし始める。

「ああ………、これはあれだ。あの人だわ」

「うん、俺も知ってる。あの有名な方ですね?」

「え? なに? どうしたの?」

「それでは知っている皆さん、声を揃えて御一緒に、せ~~~の………っ!」

 この瞬間、知っている者は、この状況を作ったゆかりに対して、こう称した。

 

「「「「「「「「「「マダラがいる~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!??」」」」」」」」」」

 

 百メートル級は在りそうな大岩が、空から隕石の如く飛来してくる光景に、生徒たちは戦々恐々に悲鳴を上げた。

「え!? なにっ!? “マダラ”って何っ!?」

「にゃんこ先生ですかっ!?」

芽衣(メイ)、そっちのマダラではない」

「空に上がった岩の数が落ちてくる岩の数と合わないと思ったら、これを作っていたというわけですか、………ははっ」

「ティアナちゃん? しっかりして? 目が行っちゃってるわ~~」

「ううっ………ひぐっ………おとーさん、おかーさん………」

「キキちゃんがこのタイミングでホームシックッ!? いや、むしろ走馬燈ですっ!?」

「………、あ~~………」

「満郎く~~んっ! 能力の意味がなくなった上に逃げることもできなくなってしまったからって、希望を捨ててはいけませ~~んっ!」

「ねえ…満郎? 今どんな、気持ち? どんな気持ち………?」

「菫、さすがにもう煽ってやんな。なんかシャレにならんくらい可哀想になってきたから………」

 さすがの事態に生徒一同は混乱の坩堝状態に陥っていた。

 甘楽弥生は皆の叫んだ理由が解らず、一人混乱。

 如月(キサラギ)芽衣(メイ)は別の相手と勘違いし、それを氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)にクールに突っ込まれる(突っ込んだ本人も心ここにあらずと言った感じではあったが…)。

 夜刀神ティアナは、冷静にこの状況を受け止め、普通に思考がショートしてしまい、双子の姉、夜刀神メリアに支えられる。

 若干八歳のイマジネーター原染(はらぞめ)キキはついに泣き出してしまったので、加島(かしま)理々(りり)が慌てて介抱。

 塔の上で呆然とするしかない満郎に至っては、美冬のフォローも空しく、八束菫から追い打ちをかけられ、放心したまま涙を流すしかなくなり、さすがに見ていられなくなったカグヤが菫を止めに入っていた。

 もはやカオス状態に近い混乱の中、彼等は正しい判断ができているのか、自分達でさえ自信が持てなくなり始めていた。

 一年生の頭脳、カルラは乾いた笑みを浮かべながらカグヤとレイチェルへと水を傾けてみる。

「ほら、今ですよお二人とも? 今度こそ先を競ってあれを打ち砕いてみては? あんなの打ち砕いた日には、誰が優秀か一目瞭然ですよ?」

「そんなことを言われてもだなぁ~………。ロノウェ、あれをどうにかできるか?」

「はっはっはっ! 御冗談を主? あれを砕けるなら、私はウルルすら打ち砕けてしまいますよ?」

「だよなぁ~。おい、カグヤ? 今回譲ってもいいぞ?」

「九曜、いけそうか?」

「申し訳ありません。私でもエアーズロックは厳しいかと………」

「カグラは?」

「あれが砕けるなら、私は神話上、伊邪那岐を恐れなかった」

「だよなぁ~………」

 カグヤ、レイチェルは二人視線を合わせた後、同時にカルラの方へと振り返る。

「「ごめん、ちょっと無理」」

「ですよね~~っ」

 ちょっと涙目になりながらカルラは同意した。最初からそれほど大きな期待は寄せていなかったのだ。

 隕石落下まで、目測で約一分。割と長く感じられるが、対処法が解らない現状では死の秒読みと例えても過大発言ではないだろう。

 さすがに諦めるしかないのかという焦りが生まれそうになる中、戸叶(トガノウ)静香(シズカ)は得意げな笑みをカルラへと向けた。

「ふっふっふっ! カルラ! どうやら今回の頭脳戦は私の勝ちだな!」

「なんです突然? 何か良い方法でも思いついたんですか?」

「ウチには! あの大質量を破壊せしめる希望を持った“危険物コンビ”がいるのを忘れたのかっ!!」

 

「「「「「「「「「「ま、まさか………っ!?」」」」」」」」」」

 

 静香の発言に、かつて入学試験での悪夢を思い出した一年生達。

 一斉に生徒の視線を集めたのは、静香の『先達の教え』の能力『コロンブスの卵』により、既に伝達を受けスタンバイしている二人の姿―――!

 ウェーブのかかった長い小麦色の髪をした、線の細い車椅子に座っている少女、及川(おいかわ)凉女(すずめ)

 入学当初とは違い、機械的ギミック装備を全身に装備している異世界出身、新神機神の機械少年、機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)

 泣く子も恐れる、『混ぜたら危険コンビ』の登場であった。

「今回に限っては思いっきりやって良いとのことで………っ! よろしく凉女!」

「切り捨てごめんの覚悟です! 創造(クリエイション)―――!」

 凉女は『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)』の能力『武器創造』を使用し、武骨で太い砲身を持つ大型キャノン砲を作り出し、それを神也の背中に取り付け、肩に背負う形で砲身が装備される。

対要塞破壊戦略級兵装(フォートレスブレイク・ウェイポン)『ドラグナーブラスト』、リリース―――」

「『機神化』『完全稼働(フルオペレーション)』! 『ドラグナーブラスト』換装! 『機神ノ嗜ミ(ゴットギアアブソープ)』発動! 対要塞破壊戦略級兵装(フォートレスブレイク・ウェイポン)限界突破(セーフティー・オフ)! 最大越出力(フル・マキシマムドライブ)!」

 『機神化』『機神ノ嗜ミ(ゴットギアアブソープ)』の能力により、取り込んだ武装に合わせた特殊能力を得た神也は、兵装が持ちうる限界出力を強制超過。ありえない質量のイマジンを吸い取り、エネルギーを過剰に充填させる。本来『ドラグナーブラスト』に装着されていなかったギミックが追加され、地面に固定するアンカーが射出される。砲身を隕石に狙い定め、目に見て解るほどの高エネルギーを収束させていく。

 嘗ては、彼にこう言った火力バカとも言える驚異の標的になることを本気で恐ろしいと感じた生徒達だったが、今は味方としてこれほどに頼もしいと感じたことはない。皆の期待を一身に受ける中、神也はその期待に応えて見せようと言わんばかりの笑顔と共に―――!

ファイア(Fire)ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 

 ドゥドゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!

 

 およそ聞き覚えのない轟音を鳴らし、『ドラグナーブラスト』は、その高エネルギーの奔流を吐き出した。

 エネルギーゆえに砲身に反動はなく、合わせられた照準はズレることなく巨大落石へと直進。高熱量の発生で周囲の大気が吹き荒れる中、生徒たちは期待に満ちた視線を向ける。

 エネルギーは直撃し、着弾個所を超加熱。岩の表面を真っ赤に染め上げ、更に深くへと侵入。激しい温度変化に曝された岩壁が、大きな爆発現象を起こし、粉塵を巻き上げた。

 皆が感嘆の声を漏らし、様子を窺う先で、土煙はすぐに消え去り―――変わらず落下してくる大岩の様相を見せていた。

 神也は力なくその場に膝を付き、激しいショックの中で呟く。

「………火力が………………足りない………」

「「「「「ホントに足りてねぇ~~~~~~~~~っっっ!!?」」」」」

 生徒達から悲鳴にも似た合いの手(?)を受け取りながら、しかし神也は項垂れるしかない。なにせ、今のは神也が凉女と協力して撃てる最大火力だったのだ。

 武装だけなら他にも対戦車ライフルや、空爆ミサイルなど、いくらでも存在している。だが、あまり過剰な装備を付け加えすぎると、装備する神也に負担がかかりすぎて兵装一つ分につぎ込める火力が低下してしまうなどの減少が発生してしまう。そのリスクを考えた上で現状使える最大火力が『ドラグナーブラスト』だ。それが撃ち負けたとなれば、現状の神也の力では、あの大岩を破壊するには至れないと言う事実を認識せざる負えない。

 この事実は火力好きの神也には強烈なショックで、そして周囲の生徒達にも相当なショックとなり、焦燥感をさらに駆り立てる結果となった。

「くそ………っ! ≪神格―――≫!!」

 焦ったジークが切り札を切ろうと己の剣を刃を掴もうとする。

 それを見たカグヤは、慌ててジークの腕を掴んで止める。

「待てジーク! それはまだ早い!」

「ならどうすると言うんだっ!? 俺以外に隕石を砕ける者がいるかっ!?」

「僕がやりますっ!!」

 ジークに答えたのはカグヤではなく、巨大なライオン型ロボットの背に乗る、ツンツン頭をした十歳の少年、相原(あいはら)勇輝(ゆうき)だ。

「ガオング! ファイティングモード!」

 勇輝の号令に従い、四足歩行型のライオン型巨大ロボットが変形を開始。二足歩行型の巨大なロボットへと姿を変える。

「フェニクシオンッ!」

 続いてそれに手を翳し呼ぶと、天空から赤い光が瞬き、巨大大鳥型のロボットが気勢を上げて舞い降りてくる。

 その姿を認めた『ガオング・ファイティングモード』が膝を曲げて跳躍。空中でフェニクシオンと重なる。

「合体ッ!!」

 フェニクシオンとガオングの体が分解され、そのパーツが合わさ合い、一体の二足型ロボットが誕生する。真っ赤な巨大な翼と、太い手足を持つロボットフォルム。ガオングとフェニクシオンの合体した、新た存在―――。

「完成っ! フェニクシオガオング!! 愛と正義に勇気を乗せて! 勇輝とフェニクシオガオング! 只今参上!!」

 フェニクシオガオングの肩で、ビシッ! っとポーズを決めて名乗りを上げる。決して彼は中二病ではない。彼は十歳だ。年齢相応なのだ。まだ温かい目で見られるべき存在なのだ。

 何より、今彼が使っている巨大ロボットは冗談なくアニメヒーロー並みの力を持つ、スーパーロボット。物理法則を無視した超強力兵器。油断ならない。

「いやぁ~~、勇輝君、心意気は買うけどさぁ~? さすがに君の力じゃ隕石は止められないでしょう~~?」

 成り行きを見守っていた武道(ぶどう)闘矢(とうや)は、先ほどから『武具再現』の能力『再現:狙撃銃(スナイパーライフル)』で自分の腕をライフルに見立て、拳圧をライフル弾にして発射し、地道に岩を削れないか試していたのだが、無駄な努力と痛感していたところだったため、勇輝の行動が何もなさないことを理解し、苦言を漏らしてしまう。

 振り返った勇輝も、闘矢に向ける表情は笑っていたが、焦燥感を隠しきれてはいなかった。

 ―――が、そこに反応を見せたのは神也であった。彼は立ち上がると、自身の派生能力『技術チート』により『技術ノ創造主(テクノクリエイター)』を発動。勇輝の巨大ロボットを模倣し、技術を得、己の力として再現する。神也の体を中心に、あらゆる機械が創造され、装着され、接続され、組み上げられ、最終的にはブラックフォルムの新たな巨大ロボットが完成していた。

「巨大ロボット、神機バージョン! 『ロボゴット(仮)』! ここに完成っ!」

 神也の姿はロボットの中心、心臓の位置に収納されてしまったので、傍からはその表情を窺うことはできないのだが、どこかに取り付けられているらしいスピーカーから発せられる声からして、かなりキラキラした瞳で叫んでいることは間違いないだろう。

「………はっ!? 今です凉女さん! 二人に力を貸してください!」

 作戦の失敗で呆然としてしまっていた静香が我に返って凉女に指示を出す。あれを砕ける最大の一手を思いついたのだ。しかし、能力で作戦内容を伝えられているはずの凉女は何故か表情を赤くして潤んだ瞳を返してきた。心なしか羞恥心を堪えつつも怒っているような表情に見える。

「衆目の前で下着を晒すなんてできませんっ!!」

「カルラッ! 凉女さんは一体何を言ってるのっ!?」

「ごめんなさいさっぱりです。Aクラスの方なら解る方がいるのでは?」

 あまり期待していないような視線を近くにいるAクラスメンバーに向ける。

 カグヤは「俺でも解んねんよ」と答え、レイチェルも「あれが解る脳細胞ではないな」と皮肉に返し、星琉(せいる)は肩を竦めるだけ、菫は「解らねぇ………」っと、むしろ解りたくないと言いたげな態度だった。最後に隕石を壊せるカードを探していた切城(きりき)(ちぎり)へと視線を向けられが、彼も首を猛然と振ることしかできない様子だった。

 及川凉女を理解するのは、Aクラスにも難しいという事実に、カルラと静香は揃って乾いた笑いを浮かべたのだが―――、

「それならスカートを押さえるか、ズボンに穿き替えればよかろう!!」

「なるほどっ! オジマンディアス2世(オジさま)っ! ご助言ありがとうございます!」

「「「「「「「ええぇ~~~~~っっ!? 会話できるのかお前ぇ~~~~~~っっ!?」」」」」」」 

 その場にいた七名全員が驚愕の声を上げる中、オジマンディアス2世はさも当たり前と言いたげな表情を返して見せた。

「民の言葉を理解せずして何が王かっ?」

 太陽の後光でも受けていそうな威厳たっぷりな姿であったが、なぜか納得できないので皆微妙な表情にならざる負えない。

 助言を受けた凉女は車椅子にミサイルを装着、切り離さずに点火し、その推進力を利用して浮上。爆風に煽られスカートが豪快にはためくが、オジマンディアス2世の助言通りスカートを押さえているので下着を晒すことはない。黒のストッキングで包まれた足は、結構見えてしまっているが、本人ストッキングはセーフラインらしい。

 勇輝と神也の間まで浮上した凉女、そのタイミングでミサイルを切り離し、彼女は能力を発動。

創造(クリエイション)―――」

 次々と作り出されるのはロボットのパーツと思われる機械。しかし、ロボット本体を作り出せるはずの凉女はそれをしない。不思議に思う生徒達をよそに、その意味を理解した勇輝と神也は、同時にロボット動かし凉目を挟み込むように飛ぶ。途中で体が分解し、互いのパーツが混ざり合い、凉女と勇輝を取り込み、新たなパーツも合わせ、再び一体のロボットとして『合体』する。

 完成したのは全長十五メートルを超す巨体となった漆黒と純白のパーツで彩られた新たなフェニクシオガオング!

「夢の三神合体………ッ! 完成っ!」

 勇輝の言葉に続き、三種類のコックピットが一体となった操縦室で、凉女と神也も続いて唱和!

 

「「「『EX(デラックス)ゴットレグシオン』ッッッ!!!」」」

「対社比0.5割増しですっ!」

「火力が三十倍アップでヒャッホォ~~~~っ♪」

「愛と正義と友情の完成形ですっ!」

 

「ツッコミ待ちなんだよなこれは?」

 思わずと言った感じにカグヤが隣にいる美冬に訪ねるが「わ、私に聞かないでください」とどもり気味に返されるだけだった。

 三神合体ロボットは、なぜか発声出来るらしい雄叫びを上げると、両肩と脇から二門ずつ巨大な砲門を取り出すと、それを隕石に向け、エネルギーをチャージし始める。隕石落下まで、後三十秒に差し迫った中、エネルギーが収束を完了し、一気に力を開放する。

「「「必殺っ!! ゴット・ブレイザーーーーーーーーーーー!!!」」」

 なぜか物凄く息が合ってしまう三人が声を揃え、超巨大な光の柱となりて、エネルギー砲は発射される。

 光の柱は隕石に直撃すると、『ドラグナーブラスト』同様に表面を真っ赤に加熱して焼き溶かしていく。先ほどと違うのは、その範囲が圧倒的にデカイこと。そして、熱量が届いていない範囲に、複数の亀裂が入っていっていることだ。

「い、いける………っ! いけるっぽい!」

 亀裂が広がっていく光景に、虎守(こもり)(つばさ)は歓喜の声を漏らした。それは伝播し、生徒達が期待を込めた声で一斉に声を上げる。まるで、地球最後の日を阻止しようとするスーパーロボットへ、地球上の人々が声援を送るワンシーンであるかのように!

「「「「「「「「「「いっけぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!」」」」」」」」」」

「「「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!」」」

 声援に押されたスーパーロボットは、レンズの瞳を真っ赤に発光。雄叫びを上げて最後のエネルギーを全て叩き込む!

 

 ドッ、ドオオオオォォォーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!

 

 豪快な爆音が轟き、太陽に匹敵する発光を(もたら)し、ついに隕石は粉微塵に粉砕した!

 歓喜を上げる生徒達。それに応えるように光を反射させ、雄姿を見せつける巨大ロボット。それはまさに、相原勇輝が理想と掲げたスーパーロボットの姿。同時に機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)の理想と掲げる超火力の完成形でもあった。そう、この瞬間、彼らは体現していたのだ。イマジンとはなんであるか? それは理想の体現であると!

 その雄姿と、歓声を上げ、口々にお礼や称賛を口にする生徒達をとても眩しそうに見つめる教師は、自然と優し声音で呟く。

「本当に頼もしい生徒の姿を見られて嬉しいです………。―――じゃあ、その調子で()()()もいってみよか♪」

 

 爆煙を貫き、二つ目の隕石が姿を現し、生徒達は一斉に驚愕の声をあげさせられた。

 

「「「「「「「「「「やっぱりマダラだった~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!!」」」」」」」」」」

 やっと脱したと思えた矢先、新たに続く脅威に生徒達は半泣きになりなりそうだった。依然崩さない教師の笑みが、どこか小悪魔的にさえ見えてくる。

「三人とも~~! もう一回お願いできますか~~~っ!?」

 (くすのき)(かえで)が隕石破壊の英雄に向けてアンコールを送る。―――が、一瞬だけ躊躇を見せたスーパーロボットは、エンジンをふかし、直接体で隕石を支えようとし始めた。

「な、ななな、何やってんだいきなりっ!?」

 いきなりの無謀な行為に新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)が生徒達の代弁の如く叫ぶ。

 それに返ってきた勇輝のセリフは、当然と言えば当然の、とてつもなく絶望的な返答であった。

「すみませんっ! さっきの砲撃は三神合体で得たエネルギーをほとんど全て放出することで叶った威力なんです! ですからもう一発撃つまでにはさすがにチャージが必要で………っ! これが落下するまでに二発目を打つのは無理なんです~~~っ!!」

「エネルギー調整してますけど、砲撃に全て集中しても間に合いませんねぇ~~~?」

「火力の弱点は、連射できない事だった………っ!」

「「「「「「「「「「をおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~いぃっっっっ!!!」」」」」」」」」」

 理想を体現する力、イマジン。理想を叶える力があればなんだってできてしまいそうだが、相手もイマジネーターなら話は別だ。どんな世界でも、上手い話と言うのは中々ないものである。

「くそっ! 『重量操作(ヘビーマニュピレイト)』!」

 危機を察知した折笠(オリガサ)(カサネ)が勇輝達を援護するつもりで重力を操作し、隕石を軽くしようと試みるが、質量が大きすぎて殆ど役に立たない。そもそも彼女が軽減できる重力量は、対象の十分の一が限界なのだ。百メートル級の隕石に対抗するなど土台無理な話だ。

 続き、楓と(よう)(りん)が能力を使い物質を強制爆破しようと試みる。しかし、こちらも質量がでかすぎてまったく意味をなさない。

(だん)! あれ殴ってどうにかできないっ!?」

「できると思うが、さすがに高すぎて当たらねえよっ!?」

 理恵と男があわあわした様子で相談しあうが、彼等は彼等で壁に直面してしまっている。

「くそっ! 今度こそ、今度こそ使うぞっ!」

「いや、待てぇぃっ! 次は俺んに試したいことがあるっ!」

 再びジークが切り札を切ろうとしたところで、今度は金剛が待ったをかける。先ほど氷漬けにされていたのだが、どうやら緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)(女性バージョン)に無理矢理氷を破壊してもらって抜け出せたようだ。(注:良い子はマネしないでください。氷漬けにされた人を氷ごと砕くような真似をすると、凍って固くなっている人まで砕ける場合があります。これは金剛がイマジネーターだったから平気だったのです。本当に良い子はマネしないでください)

「行くぞっ!! 『大江山の羅生門』!!」

 金剛が右手を地面に叩きつけ、『羅生門』を呼ぶ。隆起した大地が鬼の形相を描かれた門となり顕れ、周囲に青い鬼火を広げ、金剛が支配する領域を作る。鬼火が領域を形成し終えると同時に、神格を獲得した金剛の体が(あかがね)色へと変色し、筋肉が圧縮され、額から双角が生える。

「『大江山の羅生門』のイメージからいけば、ここで使えば………『鬼神化』!」

 金剛は疑似神格を得ることで、全身を鬼の姿へと変貌させる事ができる能力を持っている。しかし、『大江山の羅生門』を会得した時点で疑似神格を得る必要はなくなったと言ってもいい。だが、設定した能力を変更しているわけではないこの状況で、本物の神格を得ている状態で『鬼神化』を使用するとどうなるのか? その答えは既に予想できていた。

「………古来より、日本に限らず、強い力を持つ奴っていうのは単純にデカイ奴だって現されることが多い。大ムカデ然り、巨人然り………。だからってこいつは在りかよ?」

 変質していく金剛の姿に、嘗て彼と戦い辛くも勝利を掴み取ったカグヤは、相当にげんなりした表情でぼやく。

 鬼の神格を得た金剛が、更に『鬼神化』により『鬼神』として相応しい神格を有するべく、イマジンが辻褄合わせを行われる。その結果、地上に五十メートル級の超巨大な鬼が誕生していた。

「ブガアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!!!!」

 咆哮を上げる鬼神。その咆哮だけで大気が震え、地響きすら錯覚させられる。

「これが俺の能力の多重合わせ技! 『伊吹色金剛神鬼(いぶきいろこんごうしんき)』!!! 見よるがいいっ!! これが、鬼神の一撃―――ッ!!」

 金剛は右腕を振りかぶると、肩から筋肉を脈動させ、腕全体を一回り膨れ上がらせるほど力を溜め込む。イマジンによる強化再現も施され、まるで山の一角と見紛う威風を称える。

 危険を察し、隕石の落下減速に努めていた『EX(デラックス)ゴットレグシオン』は、慌てて隕石から離れる。僅かに落下速度を上げた隕石が、金剛の手の届く範囲、制空権に触れた瞬間を狙い、鬼神(金剛)は右腕を振り抜き、溜め込んでいた全ての力を開放する。

「『鬼神轟拳(きしんごうけん)』!!!」

 拳が撃ち込まれ、寒山の噴火の如き爆音が轟く。落下していた隕石は一瞬で停止し、拳を撃ち込まれた個所から亀裂を走らせ、一気に崩壊を始めた。

 二度目の奇跡。巨大隕石破壊の功労者に、皆が賛辞と歓喜の声を上げる。しかし、今度も歓声は長くは続かなかった。またゆかりが何か仕掛けたのではない。先ほどのスーパーロボットと違い、今度の破壊は純粋な打撃破壊。つまり、大小さまざまな破片は残ってしまう事になる。そしてその破片は、小さい物でも二階建て一軒家一つ分くらいは余裕でありそうな大きさ。それも数は広範囲に雨の如し………。

「アホ金剛~~~っ!! どうせならしっかり全部ぶっ壊せよ~~~~~っ!?」

「なんじゃと東雲~~っ!? これでも精一杯配慮したわいっ! 破片くらいは自分達で何とかせいっ! それともこのままリベンジでもしたろうかいっ!?」

(まっこと)申し訳ありませんでしたっ!! 今のお前と戦うのだけは当分ご勘弁くださいっ!!」

「謝るな~~~っ!! 俺ぁ、勝負したかったんじゃぁ~~~~~っっ!!」

「売った喧嘩をスルーされたからって、売ってもいない喧嘩を無理矢理買わんでくれるかっ!?」

「巨人と小人の漫才してないで、そろそろ対処した方がよくないですか?」

 田中(たなか)太郎(たろう)にツッコミをもらい、カグヤは慌てて金剛の足元へと避難。金剛も巨体を活かして周囲の破片をできる限り払おうとするが、とても全部は無理そうだった。巨大化した腕を振るえば風圧もかなりの物になるが、落下する破片も相当の重量なのだ、手で払うくらいで払いきれるほど簡単ではない。

「とリあえず、大きいノは任せるヨ!」

「爆散させて更に小さい破片にします!」

 陽凜と楓が空に手を翳し、次々と隕石の雨を粉砕させていく。

「『爆弾創造(ボム・クリエイト)』! 『人形の兵隊』!」「『猛火の火種』! 『緋紅(ひこう)夢現花(ラフレシア)』!」

 陽凜の能力で爆弾化した人形達が次々と空に跳び上がり、隕石に体当たりしながら爆発していく。さらに、その爆発事態、楓の能力によって多重爆発を起こしているため、思いのほか次々と大岩が、普通の岩くらいのサイズまで削れていく。爆弾を持った爆弾人形が隕石に向かって自爆テロを仕掛けているような光景に、生徒一同はちょびっと寒気を感じてしまう。このコンビの攻撃もできる事なら受けたくはない類のものだ。

 それでも岩の大きさはトラック一台分は在りそうな大きさ、二人が撃ち落とし損ねた物も多く、未だ危機は去っていない。

 

 ダガガガガガガガガガガガッ!!!

 

 突然空中にあった岩の破片の多くが次々と粉砕されていく。何事かと空を見上げた多田(ただ)昌恒(まさつね)は、思わず唖然としてしまった。

「『ベルセルク』!!」

「『瞬閃』!」

 甘楽弥生と遊間零時が、空中の岩に飛び乗り、ピンホールかビリヤードの如く岩から岩へと乱反射を繰り返しながら粉砕していく。二人の高速空中曲芸に、標的となった岩々は次々と塵芥(ちりあくた)に変えられていく。―――いや、すごいのは二人だけではない。よく見れば、隕石の破片が岩クラスになった時点で、対処できるようになった者達は多くいた。

「『特殊弾生成:パリィ』!!」

 二丁拳銃を持った笹原(ささはら)(だん)は、マガジンに収めた弾丸を岩の雨に向かって全弾ばら撒く。岩に当たった銃弾は、彼の能力により、強制的に物体を弾き返す。弾かれた岩は、別の岩と衝突。更にその岩が別の岩と衝突してを繰り返し―――、全弾撃ち終え、両手を左右に開いた状態で静止した(だん)に合わせるように、上空の岩達が左右に開いて空を晒した。(だん)を中心に方位三十メートルが安全圏となるよう、全ての岩を撃ち払って見せたのだ。

「『曲絃糸(ジグザグ)』!!」

 市井(しせい)(がく)の能力は強靭な糸だ。ファイヤーワイヤーのように、触れた物全てを切断する糸を空中に蜘蛛の巣状に展開。さらにそれを高速で移動させる事により、切断力を強化。方位二十五メートル圏内の岩を全て石粒程度になるまでバラバラに切り刻んで見せる。

「私のために………、いやっ! 私の代わりに働けっ!! お前たち!」

 『カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)』の能力を持つオルガ・アンドリアノフは、重火器を持つ兵士を召喚し、自分の上に降ってくる岩を次々と迎撃。石粒程度の破片に対しては、盾も携えた騎士甲冑の兵士達がオルガの周囲をドーム状に密集して盾を翳し、その身を盾にすることで守って見せる。掠り傷一つ付ける事無く、主を守り通して見せた。

「『英霊召喚』」

 厳かに宣言したリク・イアケスの能力もまた軍勢。ただし、彼の呼び出した軍勢は嘗て彼の国に仕えていた本物の英霊達。イマジン学に於いて『魂』の所在は、諸説云々のあるため、その辺の細かい内容は省くが………、リク王に仕えし英霊達は、一切の迷いなく、王の権能に強化された力のままに岩を迎撃する。持ち出される迫撃砲が次々と火を噴き、見事な統率を見せてながら花火のように粉砕していく。飛んできた岩の破片は、リク王の傍に控えるメイド隊が一斉に布を翻し、王専用のテントを作り防いで見せた。

「『氷河の鋭刃(グレイシアエッジ)』!」

 氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)は作り出した氷の刃をブーメランにし、空中へと投げ放つ。その数は三十近くに上り、縦横斜め縦横無尽に空を駆け、圧倒言う間に岩の全てを粉砕して見せた。

 そう、一年生とは言え彼らはイマジネーター、あまりに規格外の高レベル攻撃に対応出来ないものも確かにいたが、それでも彼らが共通して対処できるレベルと言うのは、かなり上位に設定されている。巨大隕石も、その規模が小さくなれば、個人で十分に対応するくらいの力を有しているのだ。

 

 チュドオオオオオォォォォーーーーーーーーーーーーッッッ!!!

 

「ぐおわああああぁぁぁぁ~~~~~~っっ!!」

「ああぁっ!? 満郎君が岩の雨で要塞ごと下敷きに~~~………っっ!?」

「満郎くん!? なんて素敵すぎるプレイッ!? 私も頑張って岩の雨に曝され―――ぶぎゃんっ! サイコーーーーッッ!!」

「「………頭痛くなりそう」」

 要塞の下敷きになる満郎の姿に心配する美冬。むしろ羨望の眼差しを向けて自ら岩の下敷きになりに行く美海(みうみ)美砂(みさ)。そんな光景を見せられ、田中太郎と多田(ただ)昌恒(まさつね)はなんだか常識を小さな怪物に齧られていくような錯覚を覚えるのだった。

「うふふふっ♪ ホンに皆逞しいなぁ~~~♪」

 岩の雨を全て粉砕したところで、ゆかりが再び微笑を漏らしながら片手を空に突き出す。それだけで生徒全員が戦慄し、慌てて上空を確認した。そこには予想通り、間髪入れずに危機が到来していた。

 

「それじゃあ今度は、一度に()()行ってみよう~~♪」

 

 一つの大岩を中心に四つの大岩が囲むようにして落下してきた。もはやメテオスウォーム状態である。

「今度はどうするっ!? 誰が対処するっ!? それとも今度こそ使うかっ!?」

 ジークが叫びつつ剣を構える。レイチェルがとりあえず早まらないように止めるが、正直その表情はすぐにでも頼りたそうに引き攣っている。

 カグヤが慌てて対処できそうな相手に声をかけ、確認を取っていく。

「金剛っ!」

「すまんっ! この体にまだ慣れていなくてなぁっ! もう限界だっ!」

 言う間に金剛の体は縮んでいき、元のサイズに戻ってしまう。『鬼神化』の能力が不安定になり、解除されてしまったのだ。

「危険物トリオッ!」

「エネルギーチャージがまだ足りません………」

「火力! 火力の禁断症状が………っ!」

「“危険物”って僕らのことですかっ!?」

 凉女、神也、勇輝がそれぞれ返答。スーパーロボット『EX(デラックス)ゴットレグシオン』は岩の一つを減速させようとしているが、土壇場仕上げの『三重襲』に無理が出始めたのか、出力が落ち、次第にパーツの隙間から緑色の粒子光が漏れ始め、今にも分解してしまいそうになっている。

「菫っ!」

「無理」

 即答。

(ちぎり)っ!」

「任せろっ! やっと使えそうなカードを見つけ―――ああぁ~~~っ!? 嘘っ!? このタイミングで風に飛ばされたぁ~~~っ!!」

 愚か。

「カルラッ!」

「ちょっと泣きそうな顔しないでくださいっ! ………思いのほか可愛くて何かに目覚めそうになります(ボソッ」

「今何か怖いこと呟かなかった?」

「いけますか啓一さんっ!?」(スルー)

「任せろっ!」

 桜庭(さくらば)啓一(けいいち)が答え、二刀の刀を両の手に構える。

「『斬り裂き魔(ジャック・ザ・リッパー)』! 『劣化再現』!」

 嘗て、己を暴走させた力を発動した啓一は、同時にイマジン基礎技術『劣化再現』を起動する。『劣化再現』は、本来発動する能力の力を、言葉通り制限し、削減させるものだ。強化と違い必要なさそうにみられるが、実際この能力はとても重要な役割を持っている。今回のように暴走の危険性を持つ能力であっても『劣化再現』を行うことでセーブをかけ、暴走させずに能力を使えるようにできる。

(落ち着け………っ! 慎重にだ………っ! もう暴走なんてしてたまるかっ。目を覚ましたら勝ち負けが決まってたなんて言うのはもうごめんだっ! 弥生が俺を助けるためにしたように、あくまで俺が制御できる範囲だけをくみ取って使用するんだ………っ!)    

 『斬り裂き魔』の力が、啓一をバーサーク状態にしようと浸食を始める。その効果を最小限に抑え、力だけを汲み取っていく。全身に回ろうとしていた“力”は、啓一に抑え込まれ、二本の刀にだけ流れ込む。刃が温度の無い熱気を孕み、尋常ならざる切れ味を与える。

(くそ………っ! これ以上はもう無理だっ! これ以上やると意識を持っていかれてしまう………っ! 俺には一割程度の力も引っ張り出せないのかっ!?)

 思ったほど力を汲み取れなかった事に歯噛みする啓一。その背中に、何者かの手が添えられた。

Transfer(トランスファー)!!』

 突然、啓一の体にありえない量の力が漲る。何事かと背後を見やると、そこには赤い籠手を左腕に装着した浅蔵(あさくら)星琉(せいる)の姿があった。

「僕の力で君の力を増幅したんだ。っと言っても今の僕では、本来力を強化することしかできなかったんだけどね? 『譲渡再現』っと言うのがあって助かったよ。完全ではないが、力を譲渡できた」

 『譲渡再現』は自分の力を相手に分け与える技ではない。本来これは、相手に自分の有しているものを“譲渡”の言葉通り『献上』するに等しい。自分の持っているジュースを容器ごと誰かに譲渡すれば、自分の分のジュースはなくなってしまう。容器渡してしまっているので、新しくジュースを注いでもらうこともできない。そんな風に相手に全てを差し出してしまう技が『譲渡再現』なのだ。

 星琉(せいる)はその辺を自分の能力に対するイメージを利用し、上手く折り合いをつけて、強化した力だけを他人に譲渡して見せた。だが、これは相当な無茶だったらしく、たったそれだけのことに体中から薄く汗を滲ませているほど疲労を見せている。

 啓一はそんな彼女の姿に背中を押され、二刀をしっかりと構えた。

「必ず破壊して見せるっ! だが、これでも俺が破壊できるのは一つだけだ!」

 啓一の訴えを聞いて、カルラは別の相手に視線を向ける。

光希(みつき)さん! 『デラックス』はいけますか!?」

「不完全にはなるができるっ! 足りない分はオリジナル危険物トリオに修正させれば問題ないはずだ!」

 黒瀬(くろせ)光希(みつき)自分の記憶しているものを再現することのできる能力を持っている。生憎、今見たばかりの『EXゴットレグシオン』を完全再現するなど不可能だが、幸いここにはオリジナルがいる。足りない分は本人たちに補ってもらえばいい。光希は記憶データから『EXゴットレグシオン(偽)』を希薄な状態で呼び出し、それをオリジナルに重ね合わせるようにしてから完全実体化させる。すると『EXゴットレグシオン(本物)』は、消費していたイマジンを(偽)から補給することが叶い、再び力を取り戻した。

 イマジン基礎技術特殊例『同化再現』である。全く同じイメージは、イメージ同士を融合させることが可能だ。イマジンにより実態を作られる存在も、存在を固定する前の希薄状態であれば、同化させることができ、互いの足りない部分を補い合うことができるのだ。ただし、これは同じイメージ系の物だけに限られた方法で、“特殊例”っと言う特別なカテゴライズに分類される。

「エネルギーが回復しました! 完全ではありませんが、これなら一つ破壊するなら十分に可能です!」

「火力撃ち放題!! ゆかり先生! 本当にありがとう!」

「………救急セットで足りますか?」

 新生“危険物トリオ”のちぐはぐな会話についていかず、カルラは別の相手に目を向ける。

「金剛さん! 今の状態で何人までなら隕石まで投げられますかっ!?」

「両腕だけなら『鬼化』できる。羅生門はまだ発動しているから、二人くらいならぶん投げられるぞ?」

「では、一つは男さんに! もう一つは“デュー”さんにお願いします!」

 言われた二人、一ツ木男(ひとつきだん)と『code:Dullahan』、(誰かが勝手に)愛称:『デュー』が金剛の両脇に揃う。

「よしっ! 拳さえ届けばどんなものでも破壊できる!」

「………いいだろう」

 両腕を『鬼化』させた金剛は、残る全ての力を出し尽くすつもりで二人をそれぞれ一つの隕石へと投げ飛ばした。

「っで、残り一つは誰がやる?」

 二人が空中に投げ飛ばされた隙に、ジークはスタンバイ状態で問いかける。

 しかし、先程まで声掛けをしていたカグヤと、ジークを制していたレイチェルの姿は、いつの間にかどこかへと消え去っている。変わりに声をかけられたカルラは、目的の相手を探してキョロキョロと周囲に視線を巡らし………、

「お待たせっ! 畔哉(くろや)(つばさ)が飛ばされたカード取ってきてくれたっ!」

 急いで現れたのは、カードを飛ばされ相当疲労する結果になったらしい。

「ま、まさか、ただ風に飛ばされただけかと思ったら………!」

「せ、先生が大気を操って、カード飛ばしてたとか………、もっと早く気づいてれば楽だったのに………!」

「ああ、あれって契くんが、間抜けだったわけじゃなかったんですね………」

「カルラ、僕様に対する評価酷くないっ!?」

 何はともあれ、全迎撃の準備が整った。このタイミングでちょうど目標に到達した男とcode:Dullahanが同時に第一迎撃を始めた。

「ぶっ飛びやがれ~~~~~っっ!!」

 男の拳が直撃、『一撃必殺』の効果が発揮され、ほぼ強制的に隕石が粉微塵に粉砕された。

「……無駄だ」

 『必滅』の能力で『DiesIrae』を発揮したcode:Dullahanは、全身を黒いオーラに包まれる。オーラを纏った手を翳し、無造作に隕石に触れた瞬間、まるで最初からそうであったように、巨大隕石であった大岩は、宙に舞うほどの粉塵へと一瞬で姿を変えた。“終焉”と言う因果を引き寄せる()の力の前では、単純な質量など武器として見なすことはない。

 それでも直接触らなければ力を発揮できない二人には、これが精いっぱい。残る三つは悠然と落下を続けている。

 桜庭(さくらば)啓一(けいいち)は今度は自分の番と、射程に入った隕石目掛け、星琉(せいる)に託された力を乗せ、一気に解き放つ。

桜刃流(さくらばりゅう)、奥義! 桜楼月下(おうろうげっか)双樹(そうじゅ)!!」

 交差するように放たれた二つの斬撃。音速に迫る剣速が、ソニックウェーブを起こし、微弱なプラズマ現象を起こし、小さく桜色の火の粉を散らす。まるで花弁が散るかの如く軌跡を奔らせ、イマジンエネルギーを纏った斬撃が隕石に直撃する。二刀の斬撃は隕石を大きく削り取り、その原型を留める力を失わせ、粉微塵に粉砕する。威力のほどは金剛の『鬼神轟拳』に引けを取らないことを証明してみせた。

「こちらも行きますっ!!」

「火力祭りで涙出てきたっ!!」

「四月の旬の果物はなんでしたっけ?」

 一人だけ意味不明の発言を漏らしながら、危険物トリオが再び最大級の火力を打ち放ち、隕石を爆散させる。一瞬で塵芥に変えるところはcode:Dullahanと同じだが、彼の能力が因果律操作―――概念系なのに対し、こちらは純粋な火力で行っているのだから、とんでも具合は言いしれないものがあるだろう。だが、さすがに続けざまに放った超火力の所為か、それとも『同化再現』上手くいかなかったのか、はたまたすでに『四重襲』状態に近いイマジンの術式が崩壊したのか、夢の三神合体ロボは、関節の隙間から大量のイマジン粒子を噴出させながら空中分解してしまった。

「残る一つ! やっちゃってっ!」

 戸叶(トガノウ)静香(シズカ)の合いの手を受け、契は万感の思いを込めてカードを天に翳す。

召喚(コール)オシリスの天空竜っ!!」

 召喚されたのは巨大な赤いドラゴン。頭部に上下二つの口を有する、神格を纏いし神々しい龍神。下の方の大きな口を開き、己が領域とも言える空を覆いつくす隕石に向かった吼え(たけ)、その口内に雷のエネルギーを集中させる。

「殲滅せよ! サンダーフォースッッッ!!」

 強烈な破壊の雷が赤い龍の口内から放たれ、隕石の中心に直撃。隕石は三つに分解され、その過程で大部分の岩が複数の破片へと分解されていった。

 

 つまり、約三分の一以下にはしたが、完全には壊せなかった。

 

「「「「「「「「「「おいっ!!?」」」」」」」」」」

「あ、あれぇ~~~~?」

 契は想定内の力が発揮されなかったことに首を傾げ―――、そのまま全身の力が抜けきって地面に突っ伏してしまう。同時に赤き天空竜の姿も霧散してしまった。

「な、なんで………っ! こんなに………っ! 疲れて………っ!?」

「ええっと………、たぶん自分で設定している力に、自分自身の実力が付いて行っていなかったのではないかと………? だから威力半減?」

「半分も出てないんですけど~~~っ!!?」

 静香の推測に泣きが入ってしまう契。以前にも想像はしていたが、さすがに『神のカード』と称される力は、自分には早すぎる代物だったらしい。

 幸い、残ってしまった三つの岩は、比山(ひやま)(しゅう)の『太陽神:シャマシュ』の能力、『正義の太陽』による目からビームで、ギリギリ個々人が対応できる大きさまで破壊された。

 

「じゃあ、ラストで三十個?」

 

 ゆかりは先ほどの倍の大きさの隕石を冗談みたいに投下した。本気で地球最後の日の再現をするかの如く。

 

「「「「「「「「「「限度ってものを考えろ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 生徒達の魂の声。

 余談だが、授業中だった上級性も、さすがにこの光景は教室から見えたらしく、皆が一様に「うわぁ~~……」っという半ば放心状態に近い表情を作りながら同じことを考えたそうだ。

((((((((((ゆかり先生………、今日も絶好調だ………)))))))))

 上級生達はすぐに授業に戻ったと言う。

 ―――っで、

ジークさん(先生)お願いします!!」

 たまらず皆の意見をカルラが代弁する。

「ようやくかっ!? 任せろ!! 神格―――!!」

「『世界を区切りましょう』エリアH形成。『世界に押し付けましょう』東郷くんは三分間、権能の使用方法を忘れますぅ~♪」

「俺はネタ要因として扱われているのか~~~~~~っっっ!!!??」

「先生鬼畜にも程がありますよ~~~~~っっっ!!?」

 嘆くジークとカルラに、ゆかりは「ほんまBクラスの子らはええ反応返してくれるわ~~♪」っと御満悦の表情だった。

 さすがにこの状況はもうダメかもしれないと、皆が混乱し始める。自棄になって我武者羅に走り出す者までいたが、当然足で逃げれる場所などどこにもない。

「よしっ! 今こそお前の出番だ!」

 妹、闘壊響に背負われている闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)は、この状況を打破できるであろう人物に向けて声をかける。果たして声をかけられた本多(ほんだ)正勝(まさかつ)は思わず素っ頓狂な声を上げそうになりながら首を左右に振った。

「無理だよっ!? お前ら一体何と戦ってんのっ!? これ、もう地球存亡を賭けた~~ってレベルですよっ!? 槍使いにどうこうできるレベルを超えてんですけどっ!? っつか、よく五つまでは対処できたよねぇっ!? もう既にその時点で付いていけないんですけどぉ~~っ!?」

「うるせえぇっ!! 弱音より先にやれることやりやがれっ!」

「無理と言ってるのにかっ!?」

「はんっ!? 本気で無理とか言ってんのかよっ!? よく聞けよ? てめえの信じる“戦国最強”ってのは、語尾に(笑)でも付くのか?」

「………」

 恭介の挑発的な台詞を聞いた瞬間、突然静かになった正勝は『戦国最強:本田忠勝』の能力を使い『蜻蛉切』を発動させ、己が持つ槍を英霊武装へと昇華させ―――、

 

「………結び割れ、『蜻蛉切』」

 

 ―――ヒュカンッ! っと、振り抜かれた槍があっさりと大気を両断、隕石の一つを真っ二つに切り裂いた。

「聞き返すよ………」

 ヒュカンッ! ヒュカンッ! ………っと、続け様に放たれる斬撃が、いっそ冗談なのではないかと疑いたくなるほど、簡単に隕石を両断していく。その数と速度が次第に増え、まるで空に斬撃の網を作るかの如く刃の軌跡が刻み終えると、彼は悠然と槍を下ろし、恭介へと問い返す。

「何の語尾に(笑)が付くって?」

 恭介の眼には、本田正勝の背後で粉塵の如く切り刻まれた岩の破片達が、彼の存在感を強く称えているかのように見えた。

「へへっ、やっぱお前、スイッチが入ると一番(すげ)えんじゃないか?」

「ってか、そんなことできるなら最っ初からやれよっ!!」

 小金井(こがねい)正純(まさずみ)の至極尤もななツッコミはスルーされつつ、見事に粉砕され、破片となった岩達に対処を始めようとする面々。それらを観察し、東雲カグヤは一瞬の思案で答えを出す。機は熟した、今動くしかない。っと。

 このタイミングで動くべき人間、それを求め、レイチェルと共に先だって動いていたのだから。

「弥生! 菫! シオン! お前達で先生に強襲を掛けろ! たぶん、これが最初で最後のチャンスだ」

「降ってくる隕石の欠片は私たちが対処する。他の支援組は既に指示を出し終えている。急いでくれ」

 カグヤとレイチェルの二人に突然声をかけられた三人は、しかし、素早く行動を開始した。“最後のチャンス”っと言う部分は既に全生徒の総意になっていたからだ。

 ここまでの攻撃も対処も、生徒達は“様子見”のつもりだった。無論、あまりに規格外すぎて予想以上の被害を被ってはいるが、それも“許容の範囲内”だ。

(ここまでの戦い、で………、ゆかり先生の、攻撃パターン………読めた)

(今ここで動かねば、こちらの体力が持たぬ。攻勢に出られる今しか好機はない!)

(実は良く解ってないのは僕だけなんだろうなぁ~~………。『ベルセルク』の効果で直観的に分かったから行動してるだけだけど………。結果オーライだよね?)

 走り出す三人に合わせ、カグヤ、レイチェルは己の僕に指示を出す。

「九曜、援護してやれ」

「ロノウェ、お前もだ」

 無言で頷き、僕たる神と悪魔は速やかに行動を開始する。

 主たる二人は軻遇突智とアスモデウスを呼び出し、進撃する三人の頭上に落ちようとする岩を破壊していく。しかし、心なしか二人とも随分と威力が落ちているように窺えた。

(くそ………っ、やっぱイマジン体二体同時の襲なんて離れ業、おいそれとするもんじゃねえな………っ!)

(想像以上に頭が、身体が重い………っ、ふとした瞬間に瞼が閉じそうだ………っ)

 『襲』とは、単純な技術だけで完成させられるような甘いものではない。他人とイメージを重ねるということは、他人のイメージに浸食されるという事でもある。その影響は知らない者が想像する物とは別種の負担だ。正確ではないが例えるなら、常に周囲からヤジを飛ばされるマラソンのようなものだろうか? 他人を抜いても置いていかれても、周囲から悪意に満ちたヤジを飛ばされ続け、一番で上がれば死刑、最下位になればリンチ、二位以下は全財産の罰金。そんな無茶苦茶なルールを敷かれた中でマラソンを始めるような、心も体も徹底的に貶められるような感覚。それはもう、本当にただの“負担”でしかない。襲とは、それほどの“負担”を強いられるものであり、上手くすればするほど、その“負担”を軽減できるという程度なのだ。決してゼロにはできないし、あのゆかりでさえ、少なからぬ消費はしている。(彼女の場合はそれ以上のスタミナがあるのでそのようには見えないが)

 カグヤもレイチェルも、既にスタミナの限界に到達していた。そして、限界に達しているのは、当然二人だけではない。

 常に多大な状況変化に、細かな指示を出さなければならないカルラや静香も、脳をフル回転し続け、相当な疲労を溜め込んでいる。

 『襲』を行った、読子や美冬はもちろん、『襲』を繰り返ししてしまった危険物トリオや光希などは、既に戦闘不能域にまで入っている。

 この状況では目立ってはいないが、如月(キサラギ)芽衣(メイ)九谷(クタニ)(ヒカル)原染(はらぞめ)キキなどと言った、回復支援能力者は、ゆかりの攻撃で負傷した者達の回復で、戦闘員よりも疲労が蓄積していたりする。 “余計”なダメージを何度も蓄積しながら、満郎がリタイヤしていないのはこのおかげだ。

 そう言った後方支援組を守るために加島(かしま)理々(りり)のような防御担当者は、意外と攻撃の的にされていたりして、肉体的な疲労は一番強いられているだろう。

 これらの理由から、実は一年生達には、これ以上戦闘を続けるだけの余力が残されていないのだ。つまり、これが最初に訪れた好機であり、続くことのできない最後の好機と言うことだ。

「いけ………っ!」

 菫は『繰糸(マリオネット)』の能力を使い『剣弾操作(ソードバレット)』を発動。八本の剣を操作し、自分の後方で待機させる。だが、まだ射出はしない。撃ってもゆかりの対処の方が早い距離だ。およそ十メートルまで近づいたあたりでも、彼女の方が早いことを菫は十二分に理解している。それでも、構えるならこのタイミングしかないと悟っていた。

 シオンは自分の役目をちゃんと理解していた。この状況で自分が頼まれた理由は至極当然。『オーディンの瞳』で未来を予知し、二人の援護をするとこだ。個人的にはこんな支援役は不本意なところはあったが、相手が学園最強の教師と合っては仕方ない。ここは黙って従おう。

「『世界を区切りましょう』エリアE形成。『世界に押し付けましょう』未来に対する不確定要素を肯定」

 ゆかりは能力を発動し、未来視を封じてきた。シオンを中心に半径五メートルが彼女の造った結界内だ。

 シオンは心底気に入らないという表情を作りながら足を止める。

(ああ、黙って従ってやろうではないか………っ! 不本意ながら、この俺が“囮役”をな………っ!!)

 ゆかりの結界は重ねる事ができない。ここまでの間にその弱点に気づいた彼等は、三人の中で最も厄介そうなシオンを投入することで彼に能力を使わせ、その効果範囲を“安全圏”にした。もちろん、ゆかりの結界は重ねる事は出来なくても、結界内に新たな結界を複数造ることは可能だ。だからこそ、囮役はシオンでなければならなかった。シオンの予知能力なら、自分がどのタイミングで結界に囚われるか先に解ることができる。その範囲も含めて。自分が結界に包まれ、力を封じられるタイミングで、弥生、菫は結界の境界部分にいなければならない。でないと、新しい結界に二人が捕まってしまうからだ。

 シオンが足を止めたのは十メートル付近。弥生、菫がその時点でいる場所は残り六メートル付近。結界内一メートルに入る物の、このタイミングならゆかりはシオンを捕らえた結界の“外側”に新し結界を張らなければならなくなる。そうでなければ二人を取り逃がしてしまうからだ。

 その想定通り、ゆかりは結界を作ろうとして―――頭上に飛びかかってくる複数の影を捉える。

 ジーク、正勝、畔哉(くろや)啓一(けいいち)零時(れいじ)(あきら)の六名が、四方を囲む勢いで頭上からそれぞれ刃の切っ先を構えて落下してくる。(あたかも)もゆかりを串刺しにしようとする攻撃に、ゆかりは恐れ一つ見せることなく、自分を中心に結界を作り出す。

「『世界に押し付けましょう』殺傷不可。ルールを破った方は腰の切れ抜群のフラダンスをしてもらいますぅ~♪」

 

「「「「「「しねえよッッッ!!!!」」」」」」

 

 ゆかりの無体な発言に対し、ジーク達六人は、“彼女の足元”を突き刺すことで応えた。

「あら?」

 ガシャンッ!! っと言う音が鳴り響き、『肯定再現』によって結界への攻撃を有効にした六人分の斬撃が、ゆかりの結界を打ち砕いた。

(ゆかり先生の能力の弱点その1………、結界を作らなければ能力を発動できない!)

 そう、これがゆかりの最大の弱点。自分が支配している空間―――『結界』を作り出さねば、彼女は何もすることができない。故に、攻撃するのはゆかり本人ではない。こちらの動きを()えて見せつけ、結界を作る場所を誘導し、その結界を破壊していく。これでゆかりは疑似的に手足を縛られた状態に追い込まれる。新たに結界を作り直そうとしても、六人がゆかりを囲む形で控え、サポートし合う事で、結界が完成する前に破壊してしまうからだ。しかも、この六人はゆかりを決して攻撃しない。それがゆかりの反応を僅かに鈍らせることになっている。

 本来、イマジネーターは追い込まれた状況になると、本能として『直感再現』をオートで発動させ、適切な判断を下させるのだが、この『直感』が発動する条件として“自身に危機が迫っている時”っと言う内容がある。つまり、直接的な攻撃を避け、彼女の周囲を囲むようにした攻撃の檻には、『危険無し』と判断され、『直感』が働かないと言うことだ。また、戦闘を常識とする人間にとって、自分に直接的な攻撃をしない攻撃と言うのは、どう対処するべきか迷わせる。そういった心理的な遅延すら利用し、彼ら六人は『拘束役』を担った。

「じゃあ無視してこっちを―――」

 ゆかりは残り三メートル地点と言う結構近い場所にまでやってきた弥生、菫へと結界を作る弥生を中心に半径二メートル半の結界。六人のサポートは届かないギリギリの距離。その結界を、支援役を仰せつかっていた九曜が水の刃で穿ち、ロノウェが蹴り砕く。イマジン体である彼等には、人間ほど精密な『イマジン再現』は使えないが、そこは主であるカグヤとレイチェルがちゃんと付与してくれている。さすがに二人も、遠くに離れたイマジン体に『肯定再現』を付与する行為は、現状でかなり厳しかったらしく、表情に苦痛が滲み出る。それでも主力の二人を減速させる事無く送り届け、ついに二人がゆかりへと届く。

 拘束役の六人が道を開けつつ、ゆかりの包囲を維持する。弥生が左右の剣にありったけのイマジンを込め、強化。ルビーライトの輝きを纏わせ突きを放つ。菫も弥生に一歩遅れる位置に陣取りながらも、彼女を支援するように控えていた八本の剣を『剣弾操作(ソードバレット)』で撃ち出す。無論、全て『肯定再現』を施し済みだ。

「あらあら、ちょっと追い込まれちゃいましたね」

 しかし、それでもゆかりの表情から余裕は消えない。霞もしない。

 ゆかりを中心に、半径二十メートル圏内が大きく結界で包まれた。

「デカいぞ! 全員で砕け!」

 ジークが咄嗟に指示を出し、それぞれ六人が思い思いのやり方で結界を粉砕する。

 ガッシャアァァンッッ!! 盛大な音を立てて結界は確かに砕けた。だが―――、

「えっ!?」

「嘘やろっ!?」

「これ………っ!?」

 零時、暁、菫がそれぞれ驚愕の声を漏らす。

 結界は砕けた。確かに砕けたのだ。

 

 だが、砕けたのは六人が攻撃した僅かな範囲、“一部の結界だけが砕けたのだ”。

「私の区切れる結界の範囲は最小一平方センチメートル範囲。数は現状ではほぼ無限かなぁ? 最大まで試したことはないけど………。まあ、つまり、この二十メートル範囲の結界は、一つの大きな結界やなくて、複数の小さな結界の集合体ってことやね? ………残りの結界全てに『押し付けますぅ』」

 誰も反応できない、対処できないタイミングで、ゆかりはニッコリ笑顔のまま殊更に告げる。

「幽霊スタイルに期待の一発芸『ポルターガイスト』! 全員、先生より離れる方向に吹き飛びぃ」

 その時起きた衝撃は、襟を掴まれて引っ張られるとか、ダンプカーに撥ねられたとか、()()()()()()()()()ではなかった。リニアモーターカーの原理よろしく、一平方センチメートルの結界内に入る度に、その体の一部だけが強制的にスライドさせられ、肉や骨が抉られるような感覚を、何度も何度も繰り返し叩き込まれながら二十メートルの範囲を移動し続ける。それは、体がバラバラになってしまったかのような錯覚を得る、とてつもなく不快な感覚であった。曝され拘束役の六人、本命の二人、支援役の二体、計十名全員が結界の外に弾かれるまで、何もすることができなかった。既に意識が薄れている者までいる。

 そんな中、それでも空中で体を回転させ、体勢を立て直した者がいた。廿楽弥生だ。

 表情はかなり苦しそうに歪められていたが、それでもやっと生み出したチャンスを棒に振るまいと、彼女は残った力の全てを費やし、今自分にできる全てを費やしにかかった。

 『特化強化再現』で強化した一刀をゆかりに投げつけ、進行方向中の結界を可能な限り破壊。投剣によりフリーになった手で菫を捕まえると、彼女が地面に落ちる前に無理矢理引っ張り返し、ゆかりに向けて投げ返す。

「菫っ! お願いっ!」

 懇願に失っていた意識を取り戻した菫は、訳も解らぬまま空中で体制を整え、ほぼほぼ本能的に剣を構えてゆかりに向けて突きを放つ。その進路を邪魔する結界は全て、先に投げられた投剣により破壊されている。それでも僅かな隙間の中に、切っ先を真っすぐ伸ばす。

「その作戦はもう通じませんよ?」

 半径二メートルの小さな結界が菫を包むように展開される。菫の剣は『肯定再現』で結界を砕けるようにしてあるが、結界の中からでは効果がないらしく、壊れる気配は見られない。

(やっぱり………っ! 結界を作り出す基準となる地面、か………、境界部分じゃないと………、攻撃を受け付けないんだ………っ!)

 それに気づいても、今の菫ではどうすることもできない。空中なので地面からは遠い。境界に届くまでには間に合わない。なす術はなく、ゆかりが何事か命じようとする―――そのタイミングを狙い! 菫の影から彼女は現れた。

 『絶対暗殺(アブソリュート・キリング)』ユノ・H・サッバーハ。銀髪猫耳の少女は、ゆかりではなく、菫の影へ移動することで『直感再現』の発動を避け、影の刃を地面に突き刺して結界を破壊した。命令を出す直前だったゆかりは、行動をキャンセルされ、さすがにちょっとだけびっくりした表情を取った。

「あらあら………♪」

 しかし、そこはやはり歴戦の猛者。結界形成に拘らず、眼前に迫ってきた刃をしっかり目で捉えながら体を反転させつつ横に回避。菫をやり過ごそうとする。

 だが、それに『直感再現』が菫に発動。ここで攻撃が失敗することが、決定的な敗北に繋がる状況に、イマジネーターの本能が警報を鳴らしたのだろう。咄嗟に『剣弾操作(ソードバレット)』を使い剣を強制停止、剣の柄を両手でしっかり抑え込みながら急制動に堪え、身体を回転させつつ地面に着地する直前で手を放し剣を射出。剣だけをゆかりに向けて飛ばした。

「あらまあぁ………」

 攻撃を避けられてもなお連続で切り返してくる。その対応速度の速さに、ゆかりは驚嘆の声(っと言うにはマイペースだが)を漏らした。

(でも、ちょっと遠すぎかなぁ? この距離やったらギリギリ結界が間に合―――!)

 結界を作り出そうとしたゆかりは、直前に『直感再現』が発動、背後の存在に気づく。そこにはいた人物はゆかりに気づかれたことに驚愕しつつ、必死に掴んでいた矢を突きつける。

 派生能力『顔無し』の『架空の存在(ゴースト)』で、その存在を認識の外に追いやっていた佐々木(ささき)勇人(はやと)だ。手にしている矢は、『森の守護者』の能力『哀しみの弓』で作り出した物で、毒効果を付与している。本来は弓につがえて放つのだが、『架空の存在(ゴースト)』の効果は仲間にまで及んでしまうので、味方同士の連携が取れない。そのため、このギリギリのタイミングに手助けになればと思いずっと潜んでいたのだ。肩に一匹の猫がぶら下がっていたりするのだが、これは『猫至上主義』夏目(ナツメ)梨花(リカ)の派生能力『癒しの一時』『疲れたよー、猫にゃん・・・』による回復の効果を発揮するイマジン体猫で、回復途中なのを無理して飛び出してきたからだ。

 ゆかりは顔も名前も思い出せないその相手に対し結界を形成し、剣の方は体捌きで躱そうと咄嗟に考え―――もう一つ足元近くに潜り込んでいる存在を『感知再現』によって捉えた。

 両手で自分の顔を隠していた日本人形のような長い黒髪を持つ小さな少女は、自分の存在を認識されたことに『直感再現』で気づいて驚愕の表情でゆかりを見上げてしまう。

結由凪(ゆゆなぎ)依子(よりこ)さんやったね? 派生能力『クレア・ヴィジョン』で顔を隠している間だけ完全に消えられるんやったよね? 怖がりな貴女がこのタイミングで不意打ちしに来たんは褒めたるけどな? 先生これでも空間把握系の能力者なんやで? 勇人くん同様、自身の存在隠蔽術式(ハイド・イマジネート)が甘いかなぁ~? もう少しで先生を捕まえられたんになぁ♪」

 ゆかりは早口でそこまで言うと、結界を自分を包める範囲だけに展開、さらに、周囲にいくつもの結界を同時に展開していく。

 その意図に気づいたカルラが急いで全員に指示を出す。

転移する(とぶ)気ですっ! 出口となる周囲の結界を壊してくださいっ!」

 既に疲労を蓄積している生徒達だったが、それでも彼らはカルラの指示に従いすぐさま行動を開始する。

「でぇいっ!」

 菫を投げた影響で地面に倒れた状態になってしまっていた弥生だが、それでも必死に立ち上がって走り、片手に握った剣を振り払い、近場にあった結界を一つ破壊する。

「『氷河の鋭刃(グレイシアエッジ)』!」

 凍冶(とうじ)は氷の刃をブーメランにして出来る限り多くの結界を破壊する。

「六星編、1章から4章、三星編、2章、多重詠唱開始! 黒のえいひっを味わうといい!」

 しっかり台詞を噛みつつ、四属性の魔法を発動し、周囲一帯の結界を一掃する読子。

「『万能の大破壊(イマジネーションオーバードライブ)』!」

 派生能力『万能殺しの解放(イマジンリベレーションスレイヤー)』による『万能の大破壊(イマジネーションオーバードライブ)』を発動する妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)。周囲二メートルの空間を強制的に無効化する。  

 その他にも何人もの生徒が疲労した体を引きずりなんとか全ての結界を砕き伏せた。

(さすがにもう逃げ場がないだろ………っ!?)

 この状況で結界の破壊に手を貸すことができなかったカグヤは、状況を確認してそう結論付ける。

 菫の剣、勇人の矢、依子(よりこ)も怯えながらも手を伸ばして能力によるハイド効果を狙う。もはや逃げ場はないかに見えたこの状況で、突然ゆかりの姿が消え去った。

(消えたっ!? 能力による隠蔽じゃないよなっ!?)

転移(移動)した………っ!? でも、逃げる結界、は………、全て消した、はず………っ!?)

(もう何も解んないよぅ~~~~~っ!?)

 三人が驚愕の疑問を浮かべる中、その答えに逸早く気づいたのは、偶然位置的にそれを確認することができたカグヤとレイチェルだった。

「くそ………っ! 頭にあったのに失念していた………っ!」

「ゆかり先生の結界は領域支配系………っ! つまり―――っ!!」

 二人はゆかりの消えた頭上、彼女が自身を包んだ結界の上部を確認して同時に叫ぶ。

「「つまり―――、上下に対する制限はないっ!!」」

 円で囲んだ結界上部、約十メートル上空にゆかりはいた。

 その存在を確認した菫は片眉だけ動かし、表情を曇らせて歯噛みした。

 これで一連の攻撃は完全に途切れた。間が開いてしまった以上、もうゆかり追う気力は残されていない。そもそも既に気力の限りを尽くしている状態なのだ。ここで最後の攻撃が失敗したとあれば、全員精神的なダメージからイマジネーションが落ち、能力戦に注ぎ込む気力はなくなってしまう。

 つまりこれで………、一年生達の敗北が決定―――、

 

「違う………っ! ま・だ・っ………!!」

 

 生徒全員が表情に隠し切れない落胆を滲ませる中、それでも菫は足を踏み出した。

 ズンッ! と重い地鳴りを鳴らして踏み出し、一瞬の間でアイコンタクトを送る。彼なら意図を汲み取ってくれるという信頼を込めて。

 果たしてそれは確かに伝わった。彼女のルームメイトである東雲カグヤは、菫がしようとしていることが理解できなかった。だが、彼女が求めていることは正確に感じ取り、解らないままその求めに応じる。

神実(かんざね)―――『闇御津羽(クラミツハ)』!!」

 自身のイマジン体を神格武装へと変換する命令を出し、同時に視線だけでレイチェルに要求を伝える。

「ロノウェ!」

「後ろから失礼しますっ!」

 意図を汲み取ったレイチェルが己の悪魔に正確に命令を下す。

 神格武装たる黒刃の日本刀となった闇御津羽(クラミツハ)を、上空に向かって蹴りつける。柄頭を正確に蹴り上げられた闇御津羽(クラミツハ)は、切っ先を向けたまま上空を真っすぐ飛来する。

 このタイミングで菫が助走の勢いを殺さぬよう、両足を一気に屈め、跳躍の態勢に入る。その姿を見せるだけでいい。彼女はそう確信していた。そしてその核心を裏付けるように、意図に気づいた静香が能力を使い伝達。指示を伝えられた折笠(オリガサ)(カサネ)が『重量操作(ヘビーマニュピレイト)』を発動し、菫の重力を極端に下げる。同時に跳ぶ。彼女の跳躍が、重力化ではありえないレベルで突き抜け、まっすぐゆかりの元へと飛来する。その途中、(あらかじ)め蹴り飛ばされていた闇御津羽(クラミツハ)が交差し、菫の手に収まる。神格武装を手に入れた状態で、菫はゆかりに向かって突進する。

(? この状態で打つ手がこれだけ? 間が開いてしまった以上、こんな直接攻撃は―――)

 ゆかりが疑問を浮かべた時、菫を追いかけるように飛来する物体を見つける。それは、菫を上空で捕まえると、菫を乗せて左右にフェイントをかけながらゆかりへと迫った。

 『三原空専用マルチロールSTOVL機:エアレイド』通称『エアレイド』。三原(みはら)(そら)少年、再びのフライト。菫を『エアレイド』の背に乗せ空中戦を開始する。

「ていっ」

 ゆかりは指を下から上に、軽く線を引くように振る。僅か五センチ程度の結界が『エアレイド』を貫くように捉え、その下部に高速で動かされた石が激突、そのまま装甲を貫いた。相当常識外れの速度で放たれていたのか、『エアレイド』は得意の空中戦を演じることもできず、菫を巻き込み爆発してしまった。大きな爆煙を上げ(そら)少年が落下していく中、彼は必死に煙に向かって叫んだ。

「いっけ~~~~っ! 菫~~~~~~ッッッ!!!」

 煙を貫き、菫が剣を構えて飛びかかる。

「フェイントにはなっていませんよ?」

 なんの工夫もなく、ゆかりはひらりっ、と身体を捻って普通に躱した。

 すかさず菫も『剣弾操作(ソードバレット)』で剣を操作し、無理矢理反転、かなり強引な空中戦を続けようとする。

 だが、ゆかりは軽く指を振ると、僅か一センチの結界を複数作り出し、菫の前に柵状に展開。その結界全てに『侵入不可』を付け加える。鉄格子に引っかかったように進行を阻害された菫は、このまま落ちるものかと結界を掴み取るが、まるで手応えを感じない。確かに何かを握っているはずなのに、手のひらは空気を掴んでいるような感触があるだけで、そのまま滑り落ちていく。いや、“滑る”と言う“現象”すら起きていない。

「『侵入不可』は『壁』を作ってるわけやないから摩擦は起きひん。当然、紐や棒みたいに掴まったりはできひん言う事やね」

 ゆかりの説明を敗北者に宣告するかの如く響く。元々飛べる能力を有しているわけではない菫は、そのまま翼を捥がれた鳥の如く、地上に向かって落下を始め―――()()()()()()()()()()()()()()を浮かべながら、告げる。

 

「それじゃあ、ばっちり決めなさぁい~、()()()()

 

 薄くなっていた煙の残りを全て払いのけるように、闇御津羽(クラミツハ)を手にした、()()()()()()()()が閃光の如く突き抜ける。

 驚き目をむくゆかりの視界に、落下していく方の菫の頭部に、ぴょこんとアホ毛が飛び出す。かと思えばその姿が霞んでいき、亜麻色のポニーテール美少女が姿を現した。菫とは似ても似つかない凹凸のはっきりした妖艶な体つきを持つこの少女を、ゆかりは頭の中の生徒名簿から瞬時に呼び出し、称賛の笑みを浮かべた。

(お見事! 最初に三原くんの『エアレイド』に搭乗した状態で八束さんと合流してたんやね!)

 御飾音(みかざね)カリナ。『化粧術師(メイキングソーサリー)』の能力を持つ、一年生では一、二を争う変装の達人。『エアレイド』が爆散した時、『今のアナタはこんなカオ』を使い、菫の姿を写し取り入れ替わっていたのだ。

(でも、先生相手にこの程度では不意を突いたとは言えへんよ)

 ゆかりは瞬時に手を翳し、カリナを退けた『侵入不可』の結界は柵状に展開、菫の進行を阻止しようとし―――、

 

「先生の能力の弱点、その2………複数人と戦う時、空中戦には向いていないっ!」

 

 カルラの声が響くと同時、柵状に展開されていた結界が全て砕け散った。

 視線だけを下に向けて確認すれば、そこに能力武装『聖槍・ロンギヌスの槍』を携えた前田(まえだ)慶太(けいた)が槍の力を全て開放する『I know Longinus・ the truth, and truthreleases you(聖槍・真理を知り真理が君を自由にする)』を発動し、『侵入不可』状態の結界をすべて破壊したのだ。

 ゆかりの結界は地面に円を描いた領域を支配するものだ。上下において制限がない長所は、時と場合によって短所となる。地上では気にしなくてよかった結界の広さも、上空となると話が違ってくる。ゆかりが空中戦を仕掛けている間、地上に残った者達は、地上からゆかりの結界を破壊するだけで空中の味方を援護できる。対してゆかりには上空から攻撃する手段がない。つまり、最も能力を使用しにくいフィールド、それが空中。常にデフォルトで浮いていられるゆかりが、可能な限り地上に戦闘したがる理由でもあった。

「くそ………っ! さすが教師レベル………っ! これっぽっち壊すだけで、もう………っ!」

 全力を使い果たした慶太はその場で倒れてしまう。

 活路を得た菫が刃を突き出す。

 ゆかりは慌てず今度は極小結界の大軍で菫を覆い尽す。切り替えの早さに啓一(けいいち)(あきら)が慌てつつも対処する。だが、砕けない。『侵入不可』を掛けられた結界は、生半可な力では破壊するに至れない。

 時間がゆっくりと流れる錯覚の中、菫の表情に僅かな焦りが生まれる。自分を包む結界がベクトルを操作し、自身を押しのけようとする気配、それを感じ取って額から一筋の汗が伝う。

 ゆかりが手を翳し、能力を発動しようとする様が映り、焦燥感高まっていく。

 

「『響き渡る歌に想いをのせて』………、『歌は世界を変える』! 聴いてくださいっ! ≪大海の歌≫!!」

 

 突如響く美声が、大海原をイメージする歌を奏でる。

 歌声が大気を震わせた瞬間、世界は当然のように一変、果てしなく水平線の続く海原へと変わった。

 瞬間、ゆかりの結界が全て崩れ去り、その効果を失った。

「っ!?」

「先生の弱点その3は~~♪ 地続きになっている場所しか区切れないっ♪ ってことですよね~~~♪」

 音楽に合わせながら台詞を挟んでいるのは、この世界を歌声一つで作り変えた張本人、『魅せる歌姫』の刻印名を持つ、七色(ナナシキ)異音(コトネ)。イマジン変色体により、ピンク色の髪が光の向きによって虹色の輝きを見せている愛らしいアイドル少女で、歌のイメージに合わせて世界をそのまま改変する能力を持っている。集団戦における後方支援として、絶大な能力を持っている彼女だったが、何分この能力は目立ちすぎる。ゆかりの戦闘スタイルなどを知らない序盤では、狙われる危険性を考え、大人しくしている他なかったのだ。

(まあ、弱点その3は、地上に円を描くと言う結界形成時のスタイルから、“地面の上じゃないとつくれないのかも?”っていう確証の無い予想でしかなかったんだけどな………ぶくぶくっ!)

(おかげで私達まで溺れるの覚悟で、こんな大規模変革を要請しないといけない羽目になってしまいました………ぶくぶくっ!)

 カグヤとカルラがお互い溺れながら思考の中だけで愚痴を零す。何しろこの作戦、水平線が見えるほどの大海を作り出す。当然地上にいる人間は一人残らず足場を失って海の中にどぼんっ。歌っている異音だけは歌を中断させるわけにもいかないので、氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)と美冬の氷結能力で足場を作りなんとか耐えている。しかしこの二人も相当疲労がかさんでいるらしく、既に足場作りでもギリギリな状態だ。

 正真正銘ラストチャンス。この好機を無駄にしまいと、限界速度まで上げた菫の剣が、カグヤから託された神格武装が、ゆかり目掛けて薙ぎ払われる。

 

「ここまで追い込まれたのは、一年生では三組目かなぁ~~………?」

 

 懐かしむような柔和な笑み。

 ゆかりの身体が突然はっきりとした存在感を帯び―――空中を蹴ってステップ。舞う様な動作で菫の剣を横に躱した。

「―――っ!?」

 明らかに物理現象を味方につけたような回避速度に驚愕する菫。それでも無理矢理剣を飛ばした反撃を試みようとする。だが、それより先にゆかりの人差し指が菫の眼前、額のあたりへと突き付けられる。

「これはイマジン基礎技術特異系『実態再現』。『受肉』とも言って、実態を持たない私みたいな特殊な例を持つイマジネーターしか使わへんタイプの技術。空中を蹴ったのは『浮力再現』の一種。こっちのお勉強はまた今度にして―――」

 ゆかりの人差し指の先に、イマジンが集まり、ライトグリーンに輝く粒子の球体が形成される。

「頑張ったご褒美に見せたるな? イマジン基礎技術“最終高難度技術”『完全自在(コンプリート)』。イマジン粒子を能力を使わず、『再現技術』も使わず、ダイレクト粒子のみを操り球体を作る、一つ作り出すだけでも教師歴三年クラスの難しい術。その球体を作り出せる数が、イマジネーターとしての実力と(イコール)している技術やよ」

 菫は動けない。かろうじて能力で剣を操り、空中に留まって入る物の、ゆかりに“銃口”を突きつけられた状態で身動きが全く取れない。

 助けるものもいない。誰もがゆかりの言葉を聞き、呆然と空を眺める事しかできない。歌も止み、海の水がひいていく間も、誰も言葉を発せず頭上を見上げるしかない。

 誰かが呟いた。この静寂に耐えられないと言わんばかりの悲痛な声音で………。

「数=実力? 一つ作るのが教師歴三年間レベル? ………じゃあ、これ、一体何年分だよ?」

 

 ゆかりの周囲、星の数の如く煌く粒子の球体。数えることも億劫な星々の輝きに、もはや対抗できるだけの精神力を持つ者はいなかった。

 

「じゃあ、最後の締めに、この球体の攻撃力、自分の体で確かめてみようか?」

 ゆかりの無慈悲な一言の後に、指先の球体が弾き出され、菫の額を打ち付ける。それが合図となり、急速に落下する菫を追い越す勢いで星の数ある球体が全て雨となって降り注ぐ。それはまさに流星群の如く、人の身で立ち向かうことを許さぬ閃光のカーテンコール。

 死力を尽くし、悪あがきとばかりに防御行動に出た者もいた。しかしそれら全てが無駄だった。

 能力で作り出した盾も、迎撃に放ったイマジンも、主を庇おうと前に出たイマジン体も、その全てがすり抜け、確実に生徒達の頭部へと直撃していった。

 

「「「「「「「「「「いってぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 パッコーーーーンッッ!! っと言う、意外に軽い音を響かせ、俄雨(にわかあめ)よりも短い流星群が過ぎ去り、生徒達の口から悲鳴が上がった。

 完全に水がひいた大地にバタバタと倒れる生徒達に、地上に降り立ったゆかりが口元を隠し可笑しそうにしながら説明する。

「純粋なイマジン粒子だけを取り出すとな? 『術式(イマジネート)』が加わっているイマジンとは同化してすり抜ける性質があるんよ? 水の中に色の違う水を入れるような物かなぁ? それがイマジンで形成されているものである限り、この球体を止めることは絶対叶わへんのよ。………んで、威力のほどは御覧の通り、精々“ゲンコツ”程度のもんやね♪」

 本当に可笑しそうにしているゆかりに対し、生徒達はもう完全にグロッキー状態だ。あれだけ驚異的な能力バトルを繰り広げておきながら、最後の締めをゲンコツにされたとあっては精神的なダメージは計り知れない。肉体的にも精神的に、もはや立ち上がることができなかった。

「うぅ………っ! 痛い………!」

「お、俺、不滅の肉体のはずなんだが………っ! ものスッゲェー痛い………っ!」

「痛い痛い痛い………っ! これ、イマジン能力全部無視してくんのかよ~~~っ!」

「お兄ちゃんっ!? ちょっとお兄ちゃんっ!! 九曜~~! なんかお兄ちゃんだけ本気で気絶してるんだけどっ!?」

「カグヤ様は相当脆いから、拳骨でも十分死ねるわね………」

「え、衛生兵~~~!」

 涙目になって痛がる菫。己の権能を当然の様に無視されたジーク。自分の精神にも使っていた能力を解かれてしまった叉多比(またたび)和樹(かずき)。主が本気で気絶していることに慌てるカグラとそれを宥める九曜。カグヤ一人が本気でやばいと気づき救出を要請するカルラ。誰もかれもがもう再戦不可能な状態で伸びていた。自分たちの敗北を自覚し、今日はもう、早くお風呂で汗を流して、お腹一杯食べて、ぐっすり眠りたい。そんな風に考えていた。

 ゆかりもさすがにこれ以上は続ける意味も無いと判断し、この時点で終了を告げようと、何の気無しに髪を手櫛で梳いた。

 

 プツン………ッ、っと言う音が本当にしたのかどうか怪しいほど、本当に軽い手応えと共に、ゆかりの手から髪の毛が一本だけ切れて宙を舞った。

 

 もとはイマジン体で構成されている身、実体化していられるのも僅かな間だけ。切れた髪は宙でイマジン粒子へと戻り、最初からなかったかのように霧散した。

 その粒子の破片を目で追い、ゆかりが本日一番に目を見開いて驚いていた。

 長く生きてきた身の上故、感動が乏しく、最近はそんなに驚かされることのなかったゆかりにとって、驚愕を意識できるだけの衝撃が表情に現れる。親しき仲でないと気づけないほど、その反応は希薄なものだったが、それでも上級生たちが見れば口を揃えて言ったことだろう「ゆかり先生がそんなに目を見開いてるところなんてレアですね」と………。

(確かに………、確かに私はこの授業をする時は、自分の能力レベルを相手にする学年のレベルにまで落としてる。教師本来の力は当然、能力の神髄すら使わないと決めてる。………それでも、それでもまさか―――)

 ゆかりは驚愕を飲み込み、代わりに胸の内から湧き上がってくる歓喜を面に出しながら満面の笑みを作る。

(まさか、教師に赴任して以来、初めて私に“触れた者がいようとは”………っっ!!)

 歓喜の眼差しを菫へと向ける。未だに頭を押さえて痛がっている菫に、ゆかりは慈愛の想いを眼差しに込めて見つめる。

 髪を切られたのは、おそらく最後の一撃。自分が『受肉』した時の一振りだ。あの時確かに、ゆかりは菫の剣の振りが、途中で自分を追い掛けるように僅かにぶれたのを目にしていた。あの時は完全に躱したつもりだったが、僅か髪の毛一本分、逃げきれていなかったらしい。その一本分すら躱したと思っていたゆかりの予想を超え、触れて見せたのは、間違いなく菫の実力だろう。そこに行くまでには確かに多くの仲間の力を借りたかもしれない。だが、言葉にするときつくなってしまうが、その程度の道作りは、嘗ての生徒達も必ず作って見せていた。正直驚くほどのことではない。そのチャンスを活かし、髪の毛一本分にたどり着いたのは、八束菫以外の何者でもないのだ。

 

 だからゆかりは、称賛と賛辞と敬意を込めて、もう一手だけ、生徒達に御享受することにした。

 

「『第二覚醒再現』」

 呟きと共に展開されたのは、ゆかりの能力『都合のいい箱庭』が展開する結界『世界を区切りましょう』のスキル。今までさんざん使ってきた結界の生成。………だが、今までとは違う。今までは地上に円を描き、縦長の柱のように領域を支配する結界だったのに対し、今作り出されている結界は完全な球体となっている。生徒一人一人を囲み、大きなボールの中に閉じ込めるように展開された結界に、生徒全員が囚われてしまった。

「これは能力を設定したレベルより、さらに上の段階に昇華させる『覚醒再現』っと言われものや。残念ながら使用法は確立してないんよ。おまけに全ての能力で使えるわけでもない。汎用性の高い能力程覚醒しないとも言われてる。『覚醒再現』に至るには、能力者個人によって難易度が異なってるからなぁ~。たぶん、一年生の皆にはまだ早い技術やろうけど、私の授業に“勝った”御褒美として特別にせさたげるなぁ~」

 表情は笑みだ。今までに見たことのないほど綺麗な笑みだ。だがどうしてだろう、生徒達は皆一様に恐怖しか感じることができなかった。

 ゆかりは僅かな“(ため)”を作ることもなく指を鳴らし―――すべて結界内を爆発させた。次の瞬間には生徒達の断末魔の悲鳴とリタイヤシステムにより大量発生したイマジン粒子の輝きだけが残された。

 

 

  『一年生恒例行事・最強の教師、吉祥果ゆかりとの対戦。勝者:一年生………?』




あとがき

≪菫≫「………」

≪弥生≫「………」

≪美冬≫「………」

≪啓一≫「………」

≪レイチェル≫「………」

≪カグヤ≫「………」

≪ジーク≫「………」

≪カルラ≫「………」

≪和樹≫「………」

≪静香≫「………」

≪金剛≫「………」

黒井(くろい)(しまい)教師≫「………。まあ、ゆかり先生とやり合った翌日だしな。一時限目から完全に寝落ちするのは仕方ないと思うぜ………」

≪終≫「それでもお前ら、せめて教室は間違わずに来られなかったのか? ここEクラスだぞっ!? しかもなんでEクラスの生徒が誰もいないんだよっ!?」

 応えられるものなど、誰もいなかった。
 最強と戦うのは程々にしようね♡


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おまけ編 【こだわり】

作業が思いのほか進まないっ!?

っと言うわけで、今回も時間稼ぎのおまけページ。
本編作業に支障が出ては本末転倒なので、超短い四コマ風三話ですが、ごまかし程度に楽しんでいただければ幸いです。


おまけ短編

 

 

★こだわり★

 

・A

 

「むむむぅ~~~………っ!」

 市街区、ショッピングモール、食品売り場にて、甘楽弥生が、珍しく難しい顔をして考え込んでいる。

 買い物に付き合っているルームメイト、オルガ・アンドリアノフ(珍しく制服着用)は、面倒そうに声をかける。

「いつまで悩んでるのさぁ~~? さっさと買って帰ろうぅ~~?」

 刹那、物凄い速度で振り返った弥生の手が、ビンタしたのではないかと言う衝撃を伴ってオルガノ頬に触れた。一瞬()たれたと思ったオルガだが、勢いと衝撃があったわりに、頬に痛みはなく、身体も吹き飛ばされてはいない。

 至近距離に顔を寄せた弥生は、未だ嘗て彼女が見せたことのない真剣な表情で語りかけてくる。

「醤油一つにも種類があって、種類があると言うことには意味があるんだよ? 味だけでなく栄養も、同じメニュー、同じ調理法でも、選ぶ食材の種類によってそれらのパラメーターは大きく変動するんだ。のんびりタダ飯ぐらいが、神聖な食材選びに口出ししていいことじゃないんだよ?」

「お、おおぅ………っ!?」

 気圧されたオルガが後ずさるのに合わせ、弥生はまた品定めへと戻ってしまう。

 彼女の本気を理解し、もう二度と邪魔をするまいと誓ったオルガ。………それでも一言だけ、心中でツッコミを入れたいとは思った。

(だからって、朝食の卵かけご飯用の醤油一本を買うのにここまで時間費やさんでも………)

 

 

 

・B

 

 東雲カムイの部屋でルームメイトの夜徒神(やとがみ)留依(るい)を加えた三人で勉強をしていた朝宮刹奈は、時計を確認して呟く。

「あ、もうこんな時間? そろそろお昼にする?」

「ん~~~………? そんなにお腹すいてないから、簡単な物で済ませたいな?」

 瑠衣の提案にカムイは片手を挙手して賛同する。それを微笑みながら承諾した刹奈は、ペンを置いて立ち上がる。

「じゃあ、私が何か簡単な物作るわね? 簡単なチャーハンでいいわよね?」

「野菜多めが良い」

 瑠衣がリクエストすると、刹奈はやっぱり微笑「了解♪」っと承諾し、瑠衣の使用しているエプロンを借りて台所へと向かう。―――っと、同時に立ち上がったカムイが、何故かベランダに向かったので、気を引かれて足が止まる。同じく気になったらしい瑠衣と一緒にベランダを覗き、その光景に思わず二人は疑問を投げかけた。

「「何しようとしてるの?」」

「何、って? 野菜多めが良いと言うから………?」

 カムイはベランダに作った小さい家庭菜園に成っている、立派な野菜を採取しながら、とてつもなく珍しく、幼さを感じさせる無邪気で可愛らしい表情をして返した。

 この時瑠衣は、冷蔵庫の野菜が中々減らない三年間の謎をようやっと知った。

 

 

 

・C

 

 八束菫の部屋に遊びに来ていた桐島(きりしま)美冬(みふゆ)は、台所でした物音に驚き、菫と共に確認に向かう。

「どうした、の………?」

「ああ、菫、悪いな騒がせて………」

 台所にいた菫のルームメイト、東雲カグヤは、小麦粉を頭から被ってしまった己のイマジン体、カグラを抱っこしながらバツが悪そうに答える。

「カグラが、せっかく客が来てるんだから、覚えたてのクッキーをご馳走したいって言ってな? 別に危険はないから軽い気持ちで了承したんだが………、うっかり手を滑らせてこの有様さ」

 苦笑いするカグヤは、小麦粉を頭から被ってしまい、半泣きになっているカグラをあやしながら頭を下げた。

「もてなすどころか騒がせたな。ここを掃除して、カグラを風呂に入れたら、なんかお菓子でもその辺で買ってくるから、許してくれ」

「そんな、許すも何も、カグヤさんもカグラちゃんも悪いことなんて何もしてません」

 美冬が微笑みながら許すと、カグヤは今度は普通に笑んで頭を下げる。

「でも、カグラちゃんと一緒にお風呂に入ったりしないでくださいね? 犯罪ですから?」

 念のため釘を刺しておく美冬。エロの常習犯であるカグヤに対する適切なツッコミのつもりだったのだが………。

「え? なんで犯罪?」

「なんでって………、幼女に対して破廉恥な事をすれば当然犯罪です!」

「………? 何もしねえよ?」

「一緒にお風呂は十分犯罪です!」

 いつものノリで美冬が釘を刺していくのだが、唐突に菫に肩をたたかれ、勢いが止まる。

「菫さん?」

「大丈夫………。意外だけど、大丈夫………」

 そう言って菫はカグヤへと視線を向ける。菫と美冬に真っすぐ見られながら、カグヤは不思議そうに首を傾げていた。

「破廉恥も何も………、カグラ(幼女)は性欲対象外だろ?」

 あまりに純粋な表情で述べられた言葉に、菫は補足説明を入れる。

「カグヤ、本気で幼女に欲情したりしな、い………。カグヤはエロい、けど………、とっても健全………。健全エロ………」

 美冬はカグヤのキャラが壊れたような気がして目まいを起こすのだった。

 




~あとがき~

おまけとは言え、せめて、この倍は書きたかった!
―――っと言う衝動は抑え、三十分で仕上げました。
本編は………、ただいまスランプ中………。書けない! でも核! ―――ッじゃなくて書く!

とりあえずもう少し待ってください。今ようやっと戦ってる場面掻き始めたあたりです(遅っ!?)。

雨にも風にも挫けながら、ついに虫にも負けて打ちひしがれて、それでも私は書くことだろう!

…。
……。
………。
………はい、遅れてすみません。頑張ります。


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一学期 第七試験 【クラス内交流戦】Ⅶ

めっさ時間かかりました!
毎度のことですね。

とりあえずお待たせしました皆様!
待望のDクラス編、前篇です!
今回はお待たせしてしまったこともあって、結構濃密な物に仕上げて来たつもりです!
それと、お詫びの意味も持込めて、三年生の方もちょっと濃く書いて置きました。
後々一年生の戦闘が見劣りしてつまらないと言われないかが超不安です………。

添削まだしていないので、誤字脱字が多いかもしれませんが、そこはちょいと勘弁してください!
それではお楽しみください!

【添削終了しました】


一学期 第七試験 【クラス内交流戦】Ⅶ

 

Dクラス編前篇

 

 00

 

「なあ神威? お前イマジン宇宙学って知ってるか?」

 嘗て、この学園に居た男。石動(いするぎ)十真(とおま)に尋ねられた二年生頃の神威は、肩を竦めながら呆れ顔で夜空を見上げた。

「知らん。そもそも興味も無い。今更イマジンで宇宙(ソラ)まで自由に行ったと言われても驚く事でもないだろう?」

 寮の屋上、その給水塔の上に座り、二人は肩を並べて話し合っている。

 十真は神威の反応に「そりゃそうだろうなぁ」と同じように肩を竦めた。

「じゃあ逆に、“イマジンじゃ宇宙に行けない”って言ったらどうよ?」

 無駄にドヤ顔して見せる十真に、神威はポカンッとした表情を返してしまった。

「え? 無理なのか?」

「正確には楽勝で行ける。行ったら死ぬがな」

「死ぬのか………っ!?」

 意外そうな表情をする神威が面白いのか、十真はますます調子に乗った口調で説明を始める。

「まず、宇宙空間ってのは完全な無の世界だ。空気はねえ、重力はねえ、紫外線直射で細胞がやられ、光は諸に熱となって身体と眼を焼く。影に入りゃ極寒地獄。距離感なんて人間の範疇を完全に超えて認識すらできねぇ。何もない空間で止まっちまえば、どんなに踠いても動けやしねえ。それらをなんとかしても食料がねえ。生きられる保証が正真正銘の皆無なんだ」

「だが、どれもイマジンの基礎能力を全て網羅すれば………ギリギリ行けそうじゃないか?」

「イケる」

 神威の疑問に十真は即答した。

 またポカンッとした表情を作るので十真はドヤ顔になって説明を続ける。

「そして一瞬でイマジン使い果たして死ぬ」

「要するにイマジン不足で環境に適応できないって事が言いたいんだな?」

 単純な答えに呆れ、失望したように神威が肩を竦める。

「いや、イマジン発生炉を抱えて行ったとしても即死する」

 開いた口をわなわなさせて地味に驚く神威。

 心底嬉しそうにドヤ顔全開の十真。

「例えイマジンでロケット作ろうとも、宇宙空間の絶死環境に堪えられなくて、あっと言う間にイマジンが尽きるんだとよ? イマジン全く役に立たねえ」

「深海をいくらでも潜れると言われたイマジンが宇宙に破れるのか………?」

「いや、単に人間のイマジン吸収率ではどんなに準備をした上でも宇宙環境に粒子を削り取られて間に合わないって事らしい。数十人がかりの不眠不休で精製し続ければ何とかなるだろうが、普通の宇宙開発よりコストが高くなっちまうな」

「イマジンにも意外な弱点―――いや、イマジンが“粒子エネルギー”だと言う事実を考えれば当たり前であると言う事を失念していたが故の穴か? 中々に面白い」

「ついでに言うと、深海でも最深部までは辿り着けんぞ?」

 わなわな顔に、今度は十真の肩辺りの服を掴んで軽く引っ張るアクションが付いた。

 十真ドヤ顔フルコース大盤振る舞い。

「アナタ達………、星を見に来てるんだから、もう少しロマンチックな話できないの?」

 給水塔の下、屋上庭園で望遠鏡を覗きながら朝宮刹菜は呆れた声を漏らした。

「二人はいつもああ言う会話しかせんな。石動が話のネタを振って、東雲の反応を確かめる。東雲が驚いたら石動の勝ち。………これでどうだ?」

 刹菜の隣で、こちらも肩を寄せ合い、望遠鏡の倍率を調整する飛馬(ひゅうま)誠一(せいいち)の認識に、刹菜は望遠鏡を覗いたまま複雑そうな表情を作る。

「いつの間にか成立してるわよね、それ? ―――あ、そこ! そこでストップ! ちょっとだけ戻して。………うん、バッチリ! 月が良く見える!」

 楽しそうにはしゃぐ刹奈に、その横顔を見て満足そうに微笑む誠一。

 その姿を後ろから眺めていた八雲(やくも)赳流(たける)は、ベンチの背に座り、足をぶらぶらさせながらリンゴを一口齧った。

「って言うかなんで天体観測する事になったんだっけ? 俺ら? ………誰かリンゴ食べる?」

「あ、私欲しい」

 給水塔の影で、背を預けて座っていた夜徒神(やとがみ)留依(るい)が手を上げると、赳流は手に持っていたリンゴを投げて寄越す。受け取った留依はリンゴに齧り付きながら彼の質問に答える。

「ヘルメスが星見をしてほしいって言い出したのが始まりだったけど、占いの内容がプライバシーっぽいからって離れたところに居る事になって、そうしてるだけなのも暇だからって、いつの間にか天体観測になった―――んじゃなかった?」

 屋上端で固まり、ほんのり頬を染めてヒソヒソ話をしている二人の少女に視線を向ける留依。一人は銀色の髪に碧眼、モデル体型顔負けのルックスを持った美少女、ヘルメス・オリンピア。もう一人は星見役を仰せつかった浅蔵(あさくら)幽璃(ゆうり)だ。

「え? そうだったかな? 私、普通に星を見に来たんだと思ってた………。望遠鏡もあったし」

 ジト汗を軽く流しながら、刹菜がぼやく。それに続き誠一は―――、

「俺は星見だと聞いたので、普通に天体観測だと思った」

「私は刹菜と石動が行くと言うから来た」

「俺はとりあえず付いて来た」

 誠一に続いて神威、石動が答えると留依は首を捻った。

「あれ? 私より先に居たのって赳流じゃ?」

「赳流様が一番でしたね。私は最初から屋上に居ましたが」

 赳流の隣で椅子に座っていた少女、ブラッディ・マリアが最後に答えると、赳流は「あれ?」っと言う表情をして、いつの間にか持っていた新しいリンゴを齧った。

「ああ、俺が言いふらしたんだった? ………リンゴ食べる?」

「神威、やって良いわよ。私が許します」

 静かに告げられた刹菜の言葉に、神威は眼を爛々と輝かせた。

「刹菜から許しが出たっ!? いよっしゃあぁぁーーーっ!!」

 手を頭上に掲げ、イマジンを集め出す僅か一秒。皆はそれぞれ防衛対策(赳流から離れる。余波の発生を抑える。赳流以外を完全防御)を施す。そのタイミングを狙ったかのように、赳流の頭上に超極小の嵐が打ち下ろされた。

「『虎嵐(こらん)』!!」

 

「バオオオオオオオウウウウゥゥゥゥ!!!」

 

 吠え声を上げて出現した雷の虎。それが嵐となって赳流を襲う。

「うわっ!? ちょっとこれ加減されて―――『天之羽々斬』!」

 さすがに危機感を感じて赳流が切れ得ぬ物を切り裂く剣を抜き放つが―――、

「凍結・対象『天之羽々斬』効果」

「透過・虎嵐」

「『串刺し(シュラスコ)』」

神譴(しんけん)、此処に下り給え」

不動明王(ふどうみょうおう)(ばく)

 飛馬が赳流の剣の効果を一時的に凍結、無効化。留依が虎嵐に貫通の効果を与え、ブラッディ・マリアが赳流の体内の血を操作し、内側から串刺しにしようと仕掛け、集中を乱す。そこに刹菜による罪を犯した者を対象に発動する神罰を発動。トドメに石動が彼の動きを封じ込め―――、

「いや、これはちょっとひどくない?」

 ―――赳流の一言を残し、全ては光と騒音によって掻き消された。後に残っているのは、こんがりいい感じに焼け焦げた赳流と、焼きリンゴだけだった。何気に周囲への被害が全く見られない辺り、実に怖い光景だ。

「名付けて『タケル トイキクキク(赳流をリンチにする)』!」

 満足気に名付ける神威に、さすがにやり過ぎたかと思う刹菜だったが、誰も気にしていない様子なので自分も納得しておく事にした。

「それで? 結局石動君は何が言いたかったのかしら? ただ神威を驚かせたかっただけ?」

「もちろんそれもあるが、俺が言いたかったのは『イマジンにもまだ不可能と言われている所がある』って事だ」

「今更言うまでも無い所だな? 入学当初に学園長が言っていただろう? 『イマジンは万能でも、人は万能にはなれない』正にこの事だ」

「誠一の言いたい事は解る。だが、俺が言ってるのはそいう事じゃねえよ。創立からまだまだ新しいこの学園は、沢山の“世界初”が眠ってるって事だ!」

「十真、何かする気なの?」

 留依が尋ねると、十真は悪戯を考えた子供の様に笑う。

「俺が将来の事を考えてアメリカ留学するって言うのはもう知ってるよな? これはその前にやってみたいと思った事なんだが―――」

「待て、初耳だ」

「私も初耳!?」

「私も」

「私と赳流様もですね」

 誠一の待ったに、刹菜、留依、ブラッディ・マリアが同意する。

「知ってる」

 そんな中、平然と知ってた発言をするのは神威ただ一人である。

「あれ? 神威にしか話してなかったか?」

「そのようだな?」

「お前に話すと、全員に話した気になってたぜ!」

「はっはっはっ! 石動もおっちょこちょいだ!」

「あ~~………、はいはい………、いつもの惚気は良いのでお話続けて………」

 刹菜が額に手を当てながら話を促すと、石動は「ウムッ」と、何故か偉そうに頷いた。

「おいお前ら? ちょっと世界初の上級生破りって言うのに挑戦してみないか?」

「「「「「ああ、ふ~~~ん………。そうなんだ」」」」」」

「意外と反応薄いなおいっ!?」

 いつの間にか復活してブラディ・マリアに膝枕してもらいながらリンゴを齧っている赳流にまで軽く流され、がっくりくる十真。

「別に嫌とは言ってないけど………、何か石動君の発言にしては大した事無かったから」

「どうせ言われなくてもやる気ある奴ばっかだしね? 俺ら以外にも狙ってるでしょう? ………焼きリンゴ食べる?」

 刹菜、赳流にそう返されては、十真としても項垂れるしかない。何しろ「協力しても良い」っと、言外には言っているので、これ以上求めようがないのである。むしろ、これ以上過剰なテンションアップを要求したら、全員白けて止めると言いかねない。

 しかし、胸に生まれたもやもやが消えるわけではないので十真は仕方なく神威の肩を借りて嘘泣きする事にした。つまり構ってくれと訴えた。

「お~いおいおいっ!」

「おいこらっ、泣き真似(マネ)下手過ぎるぞ。もっと上手く泣け」

 ツッコミ入れつつ神威は優しく十真の頭を撫でていた。なんだかんだで構ってあげている。

「ところで飛馬くん? そんなに腰支えてくれなくてもちゃんと見えてるから気を使わなくて良いわよ? こんな抱くみたいにしてたら飛馬くんの方が疲れるでしょ?」

「………いや、これは、ここまですればさすがに気付くかと思って」

「何に?」

「………。そうか、これでも無理か………。結構頑張ったつもりだったんだが………。さすがにこれ以上は踏み込めないな………」

「?」

 視線を逸らしてメガネを直す飛馬に、刹菜は首を傾げる。

 そんな三組を見て、留依は空を見上げながらぽつりと呟く。

「もしかして、来るの間違えたのって、私だけ………?」

 

 

 01

 

 

 三日間の間、行ったり来たりを繰り返す事三回目。戦闘部門最後のクラス、Dクラスの一日目の様子となる。このクラスにおける特徴は、皆が計算高く、術技などの間接攻撃を得意としていることだ。中にはとてもトリッキーな手段に出てくる者もいて、総合的に理数系の生徒が多い傾向にあると言える。

 Cクラスを戦闘(、、)特化と捉えるなら、Dクラスは戦術(、、)特化と言い表すところだろう。故に、力押しの火力系も当然戦術の一つとして入っている。オールラウンダー+トリッキーな彼等は、クラス順位が上のCクラスでも、とても苦手とするタイプだと言える。

 そんな彼らの戦闘だが、案外これがあっさり終わる。頭の回転が早く、大抵のイマジン技術は簡単にこなせる彼らには、頭を使った面倒なタスクは、ただの指相撲程度の難易度でしかない。そのため、彼らに当てられたタスクはやたらと運動バカと言いたくなるような、力押し系が多い。そうなると自然、彼等は対戦相手と戦う方が性に合ってくるので、Cクラス同様に戦闘に興じる物ばかりになっていくのだ。

 っとは言っても例外はもちろんある。特にDクラス以下になると、非戦闘系の能力者も増えてくる。直接当てる系の攻撃より、間接的な呪いやデバフ系の攻撃を得意とするような者達だ。こう言った人材には、そもそも戦闘する手段がないので戦うだけ無意味だ。ただ自分を不利に追いやるだけでしかない。E、Fクラスに至っては、この三日の試合が自由参加扱いになっているほどだ。

 夏目梨花(ナツメリカ)VS音木(おとぎ)絵心(えこ)の試合では、おとぎ話の登場人物(とてもメルヘンな存在ではないのだが)をイマジン体として呼び出すことのできる絵心に対して、基本猫を呼び出し、回復させるのが主流の梨花は、『スキップした移動距離、合計二㎞を達成せよ』っと言うひたすらに疲れるだけになりそうなタスクを見事にクリアし、勝利を掴んでいたりした。(ついでに言っておくと、このタスクではイマジン基礎技術の一つ『基礎再現』と言われる、ちょっと練習すれば誰でもできる技術を、一瞬で習得する学習能力系の技術を身につけるための物だ)

 また、性格的にも能力的にもCクラスタイプの膝丸(ひざまる)(あきら)は、なぜかDクラスとなってしまい、対戦相手の桐島美冬にコテンパンにされてしまうと言う悲しい結果を背負う事となってしまった。詳しい試合内容は気の毒すぎて語るのが躊躇われる………。

 ここまでクラスが下位になると、専門分野に長ける者が集中しがちとなり、大体の決着は相性の差で決まってしまっているというのが事実だ。

 相原(あいはら)勇輝(ゆうき)VS加島(かしま)理々(りり)の戦いでも、巨大なスーパーロボットを操る勇輝の攻撃を理々が『神格武装:アイギスの盾』により攻撃を完全に封殺した理々が勝ちを捥ぎ取った。攻撃手段こそないに等しかったが、絶対的な防御力で攻撃を完封しつつ、小さいダメージで確実にポイントを獲得したことが結果として勝利を導くこととなった。

 さて、こんな状況下のDクラスで、それなりに見応えがあるカードと言えば、この試合だろうか………?

 

 

 小金井(こがねい)正純 (まさずみ)VSリク・イアケス。

 二人の戦場となったのは深い森だった。木漏れ日の光に照らされ、適度な明るさを持つ物の、それが逆に人の目を暗闇に慣れさせず、少し暗い場所でも、誰かが隠れていることに気づけない。緑はよく生い茂っており、人の手が全く触れていないことが見て取れる。自然に生きる生物の楽園と言える光景だろう。残念ながら、虫や動物の再現まではされていないため、妙に違和感のある森となってしまっている。まるでフルダイブ機能を持つゲームで、森のフィールドにやってきたかのような不自然な自然と言った具合だ。

 そんな森に轟音が鳴り響き、一本の巨大な木が横倒しに倒れる。

 木を倒した衝撃から逃れた二人が、それぞれ背の高い木の枝へと着地した。

 片方が、褐色の肌、短い黒髪に切れ長の赤い瞳を持つ東南アジア系の少年、リク・イアケス。

 もう片方が紫色の髪をポニーテールにまとめたクールビューティー風の少年、小金井(こがねい)正純 (まさずみ)だ。

「『山羊』!」

 正純は、己の能力『黄道十二宮招来』により『星霊魔術』を行使、十二星座の一つ、『山羊座』の星霊魔術で脚力を強化。足場にしていた木の枝を吹き飛ばす勢いで飛び出し、リクへと肉薄する。

「『牡牛』!」

 今度は『牡牛』の星霊魔術により極端な怪力を得る。その怪力任せの突き出した手は、リクには避けられたものの、代わりに掴まれた五十センチ程の太さを持つ木を、あっさり叩き折ってしまった。

 正純の攻撃を避けたリクも、別の木の枝に着地すると、己の能力『英霊使い(ヒーローマスター)』を発動し、『英霊召喚』を行う。

「ヒュスノー! 頼む!」

 名を呼ばれ、現れたのは異国風の古めかしい軍服に、簡素な鎧が肩や胸などに申し訳程度に装着している兵士の男だ。恰好からして一世代かニ世代くらい昔の人間にも見えるが、軍服の種類は見慣れたものではない。迷彩色がメジャーな現代、軍服と言うより鎧を着こむ方がメジャーだった過去、その中間的な格好をした男の姿は、どうも時代設定を想起し辛い中途半端な格好だ。過去にこんな格好をした兵士がいただろうかとつい首を傾げてしまいたくなる。外国によっては未だに弓矢による戦争をしている国もあると聞くので、もしかしたらこの兵士も割と最近の兵士なのかもしれないと正純は考える。

 ヒュスノーと呼ばれたイマジン体の兵士は、リクの命令に従い木の枝を飛び移りながら正純に接近。イマジン体としての能力なのか、自身に与えられたイマジンを消費し、反りの強いシャムシールのような短剣を作り出し、襲い掛かってくる。

 正純は攻撃を避けつつ反撃を試みようとするが、そんな隙は全くない。僅か二回の攻撃を避けるだけで足を滑らせ地面へと着地することになった。

(くそっ! この生い茂った森では下からだと周りが見にくいからわざわざ上に上ったのに………っ!)

 歯噛みしながらも、追い掛けてきた兵士の攻撃を避けるのに集中せざる終えず、中々思うようにいかせてもらえない。

 それもそのはず、彼等Dクラスに、Cクラス並みの接近戦闘技術は皆無なのだ。イマジン体とは言え、戦いなれた兵士相手にリーチで勝る剣を振り回されればそれを避けるので精一杯になってしまう。例え怪力と俊脚を持っていても、それを使わせないように意識された技を、打ち破る手段がない。精々攻撃を避け続けるのが関の山だ。そもそも彼等Dクラスの学術的成績は、近接戦がまともにできればBクラス入りしていてもおかしくないレベル。彼等がDクラスなのは戦闘に於いて、得意不得意の高低差が激しいことが原因と言える。

 苦戦している正純の元に、リクが更に援軍を召喚したのか、四体のイマジン体を木の上から飛び降りてきた。

「せいっ!」

 正純は『山羊』の俊脚で無理矢理後方へと飛び退き、イマジン体と距離を取る。追い掛けてくる敵に対して、すぐさま新たな『星霊魔術』を行使する。

「『獅子』!」

 『獅子座』の星霊魔術を行使、突き出した手から獅子座御マーク『♌』が出現し、それがゲートとなり全長二メートルに及ぶ金色の獅子が現れた。イマジン体として呼び出された獅子は、猛獣の雄叫びを上げると、主の命に従い、迫りくる敵兵へと突進する。

 飛び出した勢いそのままの体当たり一発で、一人の兵士が簡単に吹き飛ばされる。吹き飛ばされた兵士の行方を確認する間もなく、獅子はすぐ傍にいたもう一人へと飛びかかり、薙いだ前足で容易に二人目の兵士を跳ね飛ばし、近くの木に叩きつけた。すぐさま踵を返した獅子は、切り返しの間を全く感じさせない迅速さで三人目に襲い掛かり、その咢をもって肩事腕を噛み砕いてしまった。

 この時になってやっと反応できた四人目の兵士が槍を作り出し、獅子に向けて突き刺すが、その矛先は全く歯が立たず、甲高い音を立てて刃が折れてしまった。狼狽える兵士の脇を潜り、最後の兵士が振り被った巨大な斧を叩き下ろす。しかし、その斧も全く通じず、まるで巨大な岩石にぶつかったかのような鈍い音を鳴らして弾かれてしまう。

 これにはさすがに狼狽を通り越して恐怖を抱いた二人の兵士が、どうする事もできず後ずさる。その恐怖を感じ取ったのか、獅子は大気を震わす咆哮を上げ、その衝撃波だけで兵士を地面に転がし、その隙をついて飛びかかる。すれ違いざまの一閃。牙を使ったのか爪を使ったのかも定かではない一瞬の出来事。二人の兵士は頸動脈のあたりをぱっくりと切り裂かれ、イマジン粒子を噴水のように吹き出しながら消滅していった。

 勝利の雄叫びの如く吼える獅子に、リクは苦虫を噛み潰したような表情を作る。獅子はリクの乗っている木へと体当たりし、容易く叩き折ってしまう。振り落とされたリクは地面に着地しながら獅子に対して分析する。

(なんてこった………、さすがにこの獅子を見れば何の能力を使っているのかは大体予想は付く。だけどまさか『獅子宮』とは………)

 リクは初め、正純の能力が一体何なのかさっぱりわからなかった。相手の能力分析について、一番最初にヒントになるのがクラス分けだ。Aクラスである場合、想像するのは少しばかり難しいが性格面が如実に出るタイプが多い。自身の能力に自信のないカグヤはイマジン体を使役する方向に、個人と言うもをベースに思考するタイプの菫は自分の手足の延長線上に繋がる能力、つまりは操作系の能力を得る。神也に至っては存在そのものが能力と直結してしまっている。このように、クラスの傾向からいかなる能力を身に着けているかのヒントを戦う前から予想することができるのだが………。

 正純は、Dクラスの傾向から考えると、魔術的、もしくは間接的な攻撃手段を持つと考えられたのだが、彼が使ていたのは『怪力』と『脚力強化』だけ、どちらも身体強化系でDクラスらしくない能力だ。ならば一体どんな系統の能力を行使しているのだろうと、ずっと思考を巡らせていたのだが、その答えが今やっと、獅子を見ることで確信に至った。

()の獅子に対して刃物は全く効果がなかった。その上、俊敏で獰猛な獣の癖に、効かないと分かった攻撃は躱そうともしなかった。イマジン体に複雑な思考能力を得られる設定をしていないにも拘らず、獣らしからぬ傲慢な対応。それが『ヘラクレスの十二の試練』でも有名な『獅子宮』の獅子だと教えてくれた………)

 もちろんリクは、この時点で正純の使う獅子が『ヘラクレス』に関連する能力だと勘違いしたりはしない。先に使っている二つの能力が、それぞれ『牡牛』と『山羊』であることは、既に『見鬼』を使って感じ取っていた。だから三つの獣と、それらを全て一つの線で結ぶ伝承、それも魔術的なイメージを取れるものと言えば、もはや一つしかない。

(『黄道十二星座』………。まだ能力としての範囲までは解らないけど、それぞれの能力のレベルから(かんが)みて、おそらくは各星座一つにスキルスロットを一つ分消費していると考えていいだろう。一年生が初期段階で与えられているスキルストックは三つ。もう彼は『牡牛』『山羊』『獅子』で三つのスキルスロット埋めたことになるはず………!)

 底が見えた。そう判断したリクは密かに勝利を確信する。少々初期段階で覚えるスキルの組み合わせに疑問が残ったが、今は端に置いておくことにした。

(当面の問題は、この目の前の獅子さえ何とかしてしまえば、こちらが圧倒的有利に立てるはず。そのためにはこちらも質を上げる必要がある。なら―――)

「私がやるしかないでしょう?」

 何もないところから唐突に声が発せられ、リクの傍らに黒のボブカットに赤い瞳をした、ソバカスと笑顔が印象的な少女が音もなく現れる。

 ウミ・イアケス。リクが唯一イマジン体に細かい設定を加え、自己主張のできる存在。そして、嘗てリクの姉であった少女。

「姉さん、頼んでもいいかい?」

「任せなさいよ! 弟のために一肌脱ぐのは、お姉ちゃんの役目! たっぷり甘えていいのよ!」

「あんまり甘えてばっかりもいられないんだけどね………。単体で行けるの?」

「ん~~………、さすがに無理かな? 四人(、、)ほど追加でくれる?」

 リクは頷くと手を翳し、自身の使役する英霊の魂を、『英霊使い(ヒーローマスター)』の能力により『英霊召喚』ウミに向けて集中的に発動する。

 ウミの出現で警戒して様子を窺って正純も、危険を感じ獅子を急かす。

「獅子!」

 命令に応じて飛び出す獅子。だが、(かの)獣が飛びかかった時には既に準備は完了していた。

 ウミは自身のイマジンを消費し、とびっきり強固な薙刀を作り出すと、襲い掛かってきた獅子の胴体目掛け、力の限り振り払った。

「うりゃああぁぁっ!!」

 気合いの乗った掛け声とともに放たれた一撃は、空中に飛び出していた獅子に直撃し、「グオンッ!?」っと言うくぐもった唸り声を上げさせながら後方へと弾き飛ばした。空中で態勢を整え着地した獅子は、間髪入れずに襲い掛かるが、ウミも地面を蹴って迎え撃つ。

 イマジン体同士の戦闘は、イマジネーター同士の戦いと違い、“リアルイメージ”が優先される。

 火の能力者と水の能力者戦う場合、火の能力者の方が不利に感じられるが、イマジネーターのイメージ力、理想的イメージで、『水すら焼き尽くす炎』をイメージすれば、火が本当に水を焼き払うことだってできてしまう。

 だが、イマジン体同士の戦いでは“リアルイメージ”、“現実的なイメージ”が効果を優先する。

 火の能力を持つイマジン体は、水の能力を持つイマジン体に圧倒的不利になる。

 猫のイマジン体は鼠に対して有利な戦闘力を有する。

 鹿のイマジン体は虎のイマジン体を天敵とする。

 これら現実的なイメージが、彼らの愛称をそのまま(かたど)っていると言っていい。

 ならば人間と獅子ならどうか? そんな物の答えはもはや考えるまでもない。銃を持っている猟師でも、獅子を相手に正面から戦うようなことはしない。否、できない。それほどまでに実力の差が存在しているからだ。ましてや薙刀程度の武器しかもっていない少女のイマジン体が、獅子に敵うなどあるのだろうか?

 

「うりゃああああぁぁぁぁぁーーーーっっっ!!!」

「ガウンっ!?」

 突き出された薙刀の矛先が、獅子の額に命中し、またしても獅子は威容(いよう)に似合わないくぐもった声を上げながら数歩後ろに下がってしまう。

 

 答えは『絶対に無理』っである。

 実際イマジン体同士の戦いには、どんなに戦術や戦略を巡らせても、実力の差を覆すのは難しい。余程有利な条件が揃っていない限りは、逆転など不可能だ。イマジンなしでライオンを殺しに行ってみろ言われているようなもの。普通の人間には絶対に不可能だ。

 だが、この場面においては『例外』が適用する場面だと言える。

 確かにイマジン体の戦力差は“リアルイメージ”に依存するが、そこにイマジネーターが間接的にでも関わっていた場合、その時点で既にイマジネーター同士の戦いに状況が変化しているも同然となる。結果、“リアルイメージ”より、“理想(アイデュアル)イメージ”が優先され―――、英霊五人分の力を与えられた人型イマジン体(ウミ・イアケス)は、正純の獣型イマジン体(獅子)と渡り合うだけの力を発揮できる。

「これで―――っ! 大人しくしなさいっ!!」

 迫りくる前足を薙刀で弾き飛ばし、その勢いのまま体を捻り獅子の側頭部辺りに踵を叩きつける。間髪入れずに軸足も跳ね上げ、獅子の首に引っ掛け、両足を使って首を締めあげるようにホールドする。ヘラクレスの逸話上に存在する、獅子の弱点を再現しようとした。

「やらせるなっ!」

 正純は命令を発しながらイマジンを送り込み、獅子を強化。神話と同じ(てつ)を踏むまいと、獅子は体を猛然と振り乱し、地面を転がるようにしてウミを無理矢理引っ剥がした。

「あいたた………っ! かなり強引に振り解いてきたじゃない」

 地面を転がり体勢を立て直したウミが余裕たっぷりの笑みで呟く。

 正純は近場にあった大木を『牡牛』の怪力任せに片手で引っこ抜くと、それをウミに向けて破城槌のように投げつける。

 だが、ウミはそれを無視して突進。木をすり抜け、真っすぐ正純の額目掛けて薙刀を突き出してくる。

「おい待てっ!? なんだそれっ!?」

 慌てて飛び退くが間に合わない。額を貫こうとした刃は、しかし、寸でのところで止められた。間一髪、獅子が主を守るために薙刀の刃に噛みついて止めたのだ。

「やるね………!」

「グルル………ッ!」

 挑戦的な笑みを向けるウミに、獅子は威嚇めいた唸り声を漏らす。

 一旦ステップで距離を取った正純は、素早く敵の正体について分析する。

(だあ~~~っ! 畜生! こいつ等ただのイマジン体じゃなくて、『霊体』設定かよっ! 向こうからも攻撃できるってことは、実体化することもできるみたいだから、攻撃のカウンターを狙えば物理攻撃も有効なんだろうな………! まあ、俺に限ってはそんなに面倒な話じゃないけどよ。俺の能力は殆どが魔術系。『獅子座』の攻撃が普通に有効ってことは、ある程度『霊格』や『魔術的要素』が加わっている物は素通りできないってことみたいだし、たぶん『牡牛座』の怪力でも直接攻撃すれば有効だろう。さっきみたいな間接攻撃も―――)

 正純はまた大木を片手で捥ぎ取ると、今度はリクを狙って、横薙ぎに回転するように放り投げる。

 すると、ウミは獅子から無理矢理薙刀を振り解くと、リクと大木の間に割って入り、薙刀の一撃で大木を粉砕して見せた。

(やっぱりなっ! リク()自身は霊体化できるわけじゃねえ。物理攻撃もリクを狙えば見過ごすことはできない!)

 知能が高いイマジン体は、一個体のイマジン体としての情報を設定しておく必要がある。リクの能力が多くの英霊(イマジン体)を呼び出すものである以上、その強力さに反比例し、個々のイマジン体全てに知能の高い設定はつけられなかったはず。できて精々三体、それ以上は何かしらの制約がかかる。だが、ウミはの召喚、運用に、リクが何かしらの制限を受けている様子は窺えない。ならば、制限を受けないレベルで止められていると考えるべきだろう。

 正純はそこまで推測し、素早く獅子に命令を出し、ウミを引き付けるように促す。

 命令に応えた獅子がウミに襲い掛かり、なるべくリクから遠ざけようと動く。

 だが、ウミも獅子に惑わされず、リクを庇う位置をキープしつつ、隙あらば獅子を倒してしまおうと画策する。

(これじゃあ千日手もいいとこだな………)

 イマジン体の知能の差は、やはり設定されているだけにウミの方が上だ。逆に獅子はイマジン体設定が無いので、どうしても獣としての戦い方しかできず、細かいフェイントなどの駆け引きはできない。

 かと言って、『獅子宮』としての特性を持つ『獅子座』のイマジン体は、物理攻撃に対してジーク並みの防御性能を持つ。物理攻撃が主な戦闘手段であるリクのイマジン体(英霊)達では、ヒットアンドウェイに徹する獅子に致命打を与えることができない。つまりこのままで決着がつけられないという状況だ。

 歯噛みする正純は、せめて一日目はできるだけ能力を隠しておきたかったという考えを捨てることにした。あまり長引かせても意味はない。そう決断する正純だったが、この時、その決断力の差がリクに先手を打たせてしまった。

「来てくれっ!!」

 リクが天に手を翳して読んだのは一等の軍馬だ。漆黒の毛並みに遠目でも解るほどに発達した筋肉を持ち、馬用の鎧を纏ったその馬は、前足を上げて大きく(いなな)くと、その背を主であるリクに向け、背に乗りやすく促す。

 リクは軍馬に飛び乗ると同時にウミに対して、二体分の英霊を追加。更に『英霊憑依』を行い、自分の体に二体分の英霊の力を付与する。

 馬が勢いよく駆け出すと同時に、ウミが獅子に飛びつき、その行動を遮る。英霊二体分が追加されたウミの力は、片手で振るった薙刀の一撃で、周囲の木が次々と薙ぎ倒されていくほどであったが、しっかりと足を踏ん張って頭で受け止めて見せた獅子を吹き飛ばすには至らなかった。イマジン体の質で劣っていても『獅子座』の『星霊魔術』で呼び出された霊獣、隙をつかれなければ易々と無様を晒したりなどはしない。

 だが、ウミとしてはそれで十分だ。獅子を自分が足止めしている内に、リク()正純()に向かうことができるのだから。

 正純は軍馬に乗って急接近してくるリクに対し、急いで引っこ抜いた大木を投げつけ迎撃する。

 リクは素早く『英霊召喚』を行使し英霊一人分が生成する武具、薙刀を召喚する。薙刀を巧みに操り、飛来してきた大木に一当てし、その軌道を直撃コースから外して見せる。

「はっ!」

 大木を退(しりぞ)け、すぐさま手綱を打ち鳴らし、馬を加速させるリク。同時に、もう一頭の軍馬を呼び出し、ウミへと送る。ウミは駆けてくる馬に飛び乗り、獅子が襲い掛かる暇もなく颯爽と立ち去っていく。

 さすがに形勢不利と悟り、正純は『山羊座』の俊脚で逃走を図るが、山羊と馬では文字通り馬力が違う。距離は縮まる一方で逃げ切るのは難しそうだ。

「くそっ! 『射手』!」

「ええっ!?」

 正純は体を反転させ、後ろ向きに後退しながら、『星霊魔術』の『射手座』を発動。♐の光が手の中に生まれ、やがてそれは一つの弓矢となる。形状は弓矢だが性能は別物らしい、驚くリクに向けて弦を引き、放った一発で、マシンガンの様な連射で五発の光球が矢となって放たれる。

「いや―――っ!!」

 素早くリクの前に飛び出たウミが馬上で槍を振るい、三つの光球を弾き返し、残った二つを刃で両断して見せる。すると、弾かれたはずの光球三つが旋回し、再び陸の背後から襲い掛かってくる。前に出たウミは、それに気づいたが位置的に対処ができない。リクは『直感再現』と、憑依している英霊の才覚を借り、槍を剣に変更し、なんとか三つ全てを叩き落とす。

 正純は舌打ちしながらも、僅かながら稼げた時間を使って距離を放す。

「『獅子』! 戻ってこい!」

 正純の命令が放たれ、獅子は♌の形をした光を額から放ち、自身をその紋章の中に取り込む。♌の紋章は、スピードを感じさせない緩やかな動きで、だが、数秒もしない内に正純の手元にまで戻る。紋章はそのまま消えることなく彼の手元で光り続けていた。

「リク、どうやらさっきの獅子、普通のイマジン体とちょっと事情が違うっぽいよ?」

「ああ、出し入れ自由っていうのは一緒みたいだけど、獅子を吸収した紋章が消えずに残っているってことは、その能力を『使用中』の状態にしていると考えていいと思う。それとアイツ、四つ目のスキルを使ってきた」

「一年生の与えられているスキルスロットは三つのはずよね? なんかの理由でストックをもう一つ持ってるってこと?」

「いや、違う。そんなチート設定はこの学園では許されてないはずだ」

「能力が既にチートじゃないかしら~~………?」

「お、おほん………っ!」

 姉の尤もな発言に咳払い一つで誤魔化しつつ、リクは推測の続きを話す。

「たぶん一つのスキルで複数の効果を発揮できるタイプなんだと思う。厄介な特性ではあるけど、それだけに何らかの制約は避けられなかったはずだ。それに、黄道十二星座が関係した能力なのは既に解った。四つ目のスキルが出せる時点で、相手の手札が十二枚ある事も、その内容も想像できる。さっきの射手座は追尾効果があるのも解ったし、………大丈夫! この勝負は勝てる!」

 相手の能力の大半を見抜いたリクは一気に勝負をかける。自分の周囲に軍馬に騎乗した騎士を一度に五騎召喚する。彼の能力は、最大百体の英霊を同時召喚可能なのだが、それほど破格な能力故に自動発生する制約が存在する。その一つが英霊を呼び出す際に、英霊一体分のイマジンを練り上げておく必要があると言う事だ。

 通常、イマジンは学園からの無制限支給により学生手帳から自動供給され続けているのだが、それですぐにイマジンを使えるのかと言うとそうではない。体内に吸収されたイマジンは、一度、臍下丹田に収め、そこで個人の尤も扱いやすいエネルギーへと変換させる必要がある。この工程を飛ばすと、能力は発動しないし、仮に何らかの方法で発動させても、設定よりも軟弱な出来になってしまう。学生手帳に備え付けられている『リタイヤシステム』もこれと同じで、自動設定が可能な代わり、桜庭(さくらば)啓一(けいいち)の例のように、うっかり破壊されてしまう事もあるのだ。(それでも『リタイヤシステム』は破壊されないように最大限の工夫がなされたものではある)

 リクは、英霊一体を召喚するのに、吸収したイマジンを臍下丹田内で最適化する工程『練り上げ』をしなければならないのだが………、実を言うとこれがかなり大変な工程だったりする。

 廿楽(つづら)弥生(やよい)伊吹(いぶき)金剛(こんごう)のような、肉体強化型は、練り上げた力を、体内、もしくは体に纏うように展開することで発動している。必要とあれば練り上げた力を練り上げた一方から注ぎ込む事ができるストレートなタイプだ。

 闘壊響や虎守(こもり)(つばさ)のような放出型は練り上げる量を自由に調節できる。少ない量で放出し、威力や規模を抑えたり、逆に練り上げる量を増やし、大規模破壊攻撃を敢行したりできる。咄嗟の事態に、最悪目くらまし程度の効果を瞬時に発揮できるなどの利点がある。

 対して、東雲(しののめ)カグヤやレイチェル・ゲティングス、そしてリクのような使役型は、召喚するイマジン体の肉体を生成する際に、定められた一定量のイマジンを練り上げなければならない。そうしなければ彼等の肉体を生成できず、完成する前にイマジン粒子が霧散してしまうからだ。これらの弱点を克服するため、使役型の能力者はあらゆる工夫を凝らしてはいる。カグヤの場合は常に一定量のイマジンを練り上げておくことでストックを作って置き、召喚中は肉体が完全に破壊される前にイマジン粒子を送り修復する。レイチェルの場合は、召喚に使用している紋章に、前以て必要な分のイマジンを送り込んでいたりする。

 だが、リクの場合、この弱点を克服する手段が、実は存在していない。

 彼の能力は大量のイマジン体を生成する物で、その都度一定量のイマジンを練り上げる工程が必要になる。そのため、常に練り上げるイマジンが枯渇した状態にあるのだ。最大百体を召喚できるリクの『英霊使い(ヒーローマスター)』には、練り上げるイマジン量と言う最大の弱点が存在することになる。

 おまけに彼が今召喚している軍馬もまた、英霊一体分として換算されてしまう。それを五騎、計十体分も召喚したとなる、リクの中のイマジンは再びすっからかん状態になってしまう。

(この後、確実に仕留めるためにも大規模召喚をしたい………。相手を上手く誘導して追い込み、逃げ道の無くなったところで四方を囲んで叩く! そのためにも、今はイマジンを練り上げる時間がほしい!)

「皆! 頼んだ!」

 リク()の命令に従い、兵士達は(とき)の声を上げながらリクを中心に陣形を組み始める。逃げる正純を自分の思惑通りに追い詰めるためだ。

 正純は『山羊座』の魔術で脚力を強化し、かなりの速度で走れるのだが、それはあくまで山羊の恩恵、馬の脚に比べた場合のスピードイメージでは分が悪い。徐々に距離を詰められつつあった。

(一応『強化再現』も使ってるんだがな………、向こうの(イマジン体)も、主が術式を組めば、自分のイマジンを消費する形で強化可能みたいだな、全く距離が開かない)

 誘導されていることにも気づいて歯噛みする正純。肩越しに背後を確認しつつ思考する。

(見たとこ、あの女以外は深い設定で作られたイマジン体じゃないみたいだな? 他のイマジン体には意思はあるようだが、どこか臨機応変さに欠ける気がする………)

 設定の浅いイマジン体には、設定の深いイマジン体に比べ、どうしても拭えない特徴が存在する。解り易く言うと、オンラインゲームのPC(プレイヤーキャラ)と、RPGのNPCくらいの違いだ。設定の深いイマジン体はPCとしてセーブデータを持ち、レベルアップし続けることでほぼ際限なく強くなっていける。対する設定の浅いイマジン体は、意思を持っていたとしてもそれはどこか作り物めいた存在になってしまう。

 勘違いの無いように言っておくと、設定の浅いイマジン体の意思には自我がと言えるものが存在しないわけではない。彼等にはしっかりと自我が存在し、感情もしっかりと有しているのだ。だだそれらを表現する方法が解っていないだけだ。

 全てのイマジン体に共通することだが、彼等は作られた瞬間に生まているのだ。それは何も知らない赤子同然だ。いや、ある意味においてはそれ以下とも言える。通常生まれたばかりの赤子は本能として、最初に『泣く』と言う『意思表現』を本能に与えられている。対するイマジン体は本能ではなく与えられた『設定』によって『意思表現』を行う。故に、設定の浅いイマジン体は、そもそも『表現方法』を持ち合わせていないのと同じ状態にあるのだ。それが違和感として映る原因である。

 設定の深いイマジン体は、『意思の表現法』を理解することによって与えられた設定に己の感情を兼ね合わせて考え、それを行動に起こすことができる。時にイマジン体が主に逆らったり、気軽にからかってみせたりする事ができるのも、これらの恩恵だと言える。

(意思を表現できるイマジン体は、時に主の命令に逆らって、予想の付かない動きをする時だってある。こっちは既に()()も使ってることだし、万が一にも邪魔されたくないっ)

 一瞬だけ正面に向き直った正純は、木々を躱しながら素早く決断する。

(追い込まれる前に勝負をつける! まずは何が何でもあの女だけは引きはがす!)

 正純は懐から(獅子座)の紋章を掴み取ると、それをリクに向けて投げつける。主の命令を受け、♌の紋章から再び姿を現した獅子が、リク目掛けて襲い掛かろうとする。

 気づいたリクが視線を姉に向けて指示を飛ばすと、ウミはそれを理解した上で溜息を吐いた。

「リクぅ~? 何をして欲しいのかは解るけど、そこはちゃんと『お姉ちゃん、お願い』って素直に甘えられないものなの?」

「こんな時に子ども扱いでふざけないでくれるかっ!?」

 リクのツッコミに「はいはい」っとおざなりに答えながら、ウミは薙刀を振るい翳し、獅子の足を無理矢理止めさせる。獅子の方も獅子の方で、ウミの一撃を頑丈な体で受け止めながら、リクに固執することなくウミに向けて唸りながら威嚇する。

(姉さんを引きはがしにかかったか………。でも、これでそっちも『獅子座』を使えなくなっただろ?)

 リクは今までの戦闘で、正純の使う獅子座についてある程度の予想がついていた。あの獅子座にはイマジン体としての設定は存在していない。だが、設定の浅いイマジン体特有の違和感は感じ取れない。つまり、元々そう言う設定上の存在なのだろう。イマジン体を作り出し使役する能力ではなく、あくまで『魔術の一種』として獅子を召喚しているだけだ。そのためイマジン体固有の成長能力は持たないが、設定の浅いイマジン体に比べるとかなり上等な存在として作られている。なんせ相手は『召喚獣』の類ではなく、『魔法』そのものと同じ。ただ単に獣の姿をしているだけだ。ならば、その実力は主の実力が如実に反映される存在なのだろう。

(普通に考えればチョイと厄介かもしれないが、でも、イマジン体としての実力は設定の深い姉さんの方が上だ)

 イマジン体は肉体が消滅しても、核は一瞬で主の元に戻るため、その存在が消滅、死亡することはない。肉体を破壊されたショックは核にも残るため、再構築には必ずタイムラグが発生してしまうのは避けられないが………。

 正純の『獅子座』は魔術的存在だと言うのなら、他のイマジン体とは事情が異なる。肉体を消滅させれば一瞬で主の元に戻れるイマジン体と違い、魔術である『獅子座』は、その場で消滅してしまう事だろう。♌の紋章が出現し、一体ずつしか出せないところからも、あくまで単発の魔法と言う認識なのだろう。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ならば、ウミを引きはがすことを優先したいと考えている正純は、不用意にウミを倒すことは命令できない。時間を稼ぐように命令するはずだ。

(途中で呼び戻すこともできるみたいだけど、戻る速度はそれほど速くはないみたいだしね。不用意に紋章化して手元に戻そうとすれば、姉さんが素早く対応して紋章事消し去るはずだ)

 獅子座の消滅を認識できない以上、正純は獅子座を途中で手元に戻すようなことはしないはずだ。ここは互いに手札を一枚ずつ捨てることになったと考えていいだろう。

(それで自分が有利になったと思ってるなら勘違いだ! こっちは憑依させている英霊に智将を交えた。小細工は通じないぞ!)

 策を弄したとしても見破って見せる。そう息巻いて敵の背をにらみつけるリク。その時、正純の体が反転し、速度を落とさず『射手座』の弓を構えた。狙いは上空、数は十を超える。放たれた矢の大軍は、空中に飛び出した後、追尾の効果が働き、リク目掛けて雨となり殺到した。

「頼むっ!」

 リクが素早く指示を出すと、周囲にいた兵士達が剣を構え、次々と迫りくる矢の雨を叩き伏せていく。追尾がリクに対してかかっている分、狙いが集中し、迎え撃つには容易い状況となっていた。

 それを確認した正純は素早く体を捻り、正面を向く。同時に弓の狙いを今度は地面へと向けた。

 再び放たれる十の矢、地面に衝突し、小さな土煙が舞う。

「っ! 飛べっ!!」

 逸早くその危機を感じ取ったリクが手綱を()り、配下達に命令する。土煙を飛び越え、無事着地したリクは、速度を落とさず背後を確認する。そこではリクの指示が間に合わなかった半数の兵士が足を取られ、落馬していた。土煙の晴れた地面は、無数の穴が穿たれ、でこぼこ道になっている。

「地面を矢で撃って足場を崩したんだな。先に上空に向けて矢を撃ったのは、意識を地面から外させるためだったわけか」

 リクの召喚している英霊達は霊体であるため、本来なら物理攻撃は通用しない。壁をすり抜けたり、水中を息継ぎせずに潜り続けたり、それこそ地面の中にだって潜れる。ならば足場を崩されてもこけたりするはずがないのではと疑問に思うかもしれない。しかし、これがそう簡単にはいかない。何故なら、彼等は人型であり、地面を蹴って移動しているからだ。霊体とは言え、浮遊し、飛行する能力を持っているわけではない彼等には、物理現象の全てをすり抜けているままでは移動する手段を持ち合わせていない。つまり動けないのである。無重力で宇宙遊泳しているのとまったく同じ状況だ。それでは戦うことができない。リクがイマジン操作に集中していれば自由飛行も可能になるかもしれないが、それはあくまで“霊体状態”である間だけだ。攻撃時など、実体化した瞬間は物理法則に逆らえず、墜落してしまう。仮に霊体としての飛行能力を持たせたとしても、リクの使用するイマジン体の殆どは設定が未熟なイマジン体達だ。かつて実在した人間の魂を宿していたとしても、現在はイマジン体。自由飛行なんて経験があるわけもないし、慣れようにも経験(セーブデータ)を残すことのできない彼等は、召喚されるたびに経験をリセットされる。とてもなれるなど無理な話だ。

 その辺の折り合いをつけるため、リクは無意識の内に、彼等に地面の上で戦闘するためのプロセスをイマジンによって再現させていた。それが、『地面の上を走ることで移動する』っと言う“手段”の肯定である。これは一種の『肯定再現』なのだが、詳しくは省く。ともかく彼等は地面の上を走ることを『肯定再現』によって可能にすることで移動することができていると言うわけだ。―――っとなると、やはり彼等は地面の有無に左右されてしまうため、足場を崩されるとまともに歩いたりできなくなってしまうと言うわけだ。

(上手い事こちの弱点を突かれたけど、でも、今ので失ったのは半数程度だ。なにより、決めるつもりだったのなら、足場を崩したとき、土煙に紛れさせて、さらに複数の矢を放つべきだった!)

 リクが心の中でそう断じた時、正純の視界が突然開ける。どうやら森を抜けたらしいと思ったのだが、すぐ正面が壁になっていることに気づいて急停止する。どうやらここは半円状にできた崖になっているらしく、袋小路になっているらしい。崖の僅かな足場を(つた)って、崖上まで登ろうかと考えたが、それはすぐに諦めた。崖の上ではイマジン粒子が集い、十を超える弓兵達が出現していたからだ。

(追い込まれたか………)

 半ば諦めにも似た思考で振り返ると、そこにはリクの能力によって新たに生み出された三十の軍勢が剣や盾、槍等を構えて立ち塞がっていた。逃げ道はなく、さすがの正純も、この軍勢を『射手座』だけで押し切れる自信はない。それでも弓を構え、戦闘の意思を示す。

 呼応(こおう)するように剣を掲げたリクは、突撃を命じるため剣を振り下ろし合図を送る。

「突撃----っ!!」

 リクの合図に従い、三十の軍勢が一気に正純一人に殺到する。

 正純は臆することなく矢を番え、軍勢を無視するようにやや上方に向けて―――、

「将を射んとすれば―――」

 ―――放つ。

 矢が空へと舞い上がり、弧を描くようにしてリク一人へと向けて飛んでゆく。

 なんのてらいもない、真っすぐ飛んでくる一本の矢に、(いぶか)しく思いながらも、リクは剣で矢を払おうとして―――ボンッ! バシュンッ! っと言う音に続き、己の馬が突然悲鳴を上げながら体を仰け反らせた。

「―――まず、馬を射よってな?」

 突然の事態に対応できずスローモーションに見える視界の中で、リクは何が起きたのかを理解していく。

 自分の乗っていた馬が、無数の光の矢によって射抜かれ、イマジン粒子となって消滅していく。馬を貫いた光の矢の出どころは地面だ。地中に潜っていた光の矢が、背後から放たれ、リクの馬を強襲したのだ。

 しかし、この矢はいつの間に配置されていた? 間違いなくこの矢は正純の『射手座』である事は間違いない。だが、こんな罠を張る時間などどこにあったと言うのか? その疑問の答えを、リクは高速で回転する記憶の中から瞬時に見つけ出した。

(あの時、足場を崩した時の矢―――っ!? あれは足場を崩すと見せかけて、矢を地面に忍ばせていたのかっ!?)

 ならば、このタイミングで正純を追い詰めたのにも納得がいった。

 正純はこのタイミングすらも計算して矢を地面に放っていたのだ。正純の『射手座』は追尾の効果はあるが、おそらくまだ自由自在に操れるわけではないのだろう。そのため、矢を待機させておくことはできない。だから正純はリクが足を止めるタイミング―――、つまり、自分を追い詰めるタイミングを狙って矢を放ったのだ。『射手座』は放たれた瞬間は射出時の勢いで真っすぐ飛ぶ。そこを利用し地面に潜っているタイムラグを作り、勢いを失ったところで『追尾』に移行、矢を追い抜いたリクの背後から地面を穿って強襲させたと言う事だ。

(それだけじゃない………っ! こいつ、敢えて俺じゃなくて馬を狙うことで、俺に『直感再現』を発動させなかったんだっ!)

 『直感再現』はあくまで自身に対する危機にのみ発動する物で、自分以外の物に対しては発揮されない。例えそれが自身が跨っている馬であったとしても、例外にはなりえない。

 結果、落馬状態にあるリクは、正純が放っていた上空からの矢を回避することも弾き返すこともできない。配下に頼もうにも、突撃の命令に従い、彼等は正純に殺到している最中だ。とても間に合うはずがない。

(自分すら囮に使ってチェックメイトを取りに来たのか………。今度、チェスでも誘ってみたら面白いかな?)

 薄く笑みを浮かべながら、リクは迫ってくる光の矢を見つめ―――ゆっくりと目を閉じた。

 

『リク・イアケスのリタイヤを確認。勝者小金井(こがねい)正純 (まさずみ)

 

 教師のアナウンス、リタイヤシステムと主を失い光の粒子となって消えた軍勢たちの輝きの中で、正純は一人、勝利にほくそ笑んだ。

 

 

 02

 

 

 小金井正純とリク・イアケスの試合はDクラスの中では最も長い試合であった。そのため他の試合はほとんど終わっているに等しい状況だ。そして、最初の方で説明した通り、Dクラスともなると、戦闘の結果は相性による一方的な試合が多い。その模様を振り返ると、こんな感じだろうか?

 

 

 白宮(しろみや)歌音(かのん)VSクライド戦。

 

「白宮さん? あまり女性が地面に寝転がらない方がいいですよ? ………ああ、すみません。言われても何もできないんでしたね?」

 カソックを着た神父めいた格好をしている金髪の少年、クライドは地面に蹲っている白髪碧眼の丸々とした肥満体質少女を見下ろしながら、サディスティックな笑みを浮かべていた。

(絶対笑ってる! とっても厭らしい笑みで絶対笑ってるよこの人っ! ()()()()()()()!!)

 地面に蹲っている白宮(しろみや)歌音(かのん)は、現在クライドの多数の能力を受けて、既に戦闘不能状態に陥っていた。

 ―――っと言うか、そもそもまともに戦わせてもらってすらいない。

 試合が始まってからすぐ「バカなの死ぬの?」っと問いかけたくなる体育会系タスクを速攻で無視して、クライドを『探知再現』で見つけ、遭遇してからすぐ、彼女はこんな状態に陥ってそのままなのである。

(なんなのさぁ~っ! この能力………っ! 相性完全に悪すぎるんですけどぉ~~~っ!?)

 能力の相性差を理解するのに長い時間は必要としなかった。

 歌音の能力『蓄積』はあらゆる現象から引き起こされるエネルギー(運動エネルギーなどを含む)を文字通り蓄積し、派生能力『開放』によって逆利用するタイプの物だ。大抵の場合、歌音は相手が放出してくるエネルギーを『蓄積』の能力『静寂の黒』にて吸収し、『解放』の派生能力『激動の白』にてやり返すと言うのが主流だ(っと言っても実際は入学試験時の一回しか経験していないのだが…)。

 対するクライドがどんな攻撃をしてこようが、そのエネルギーを吸収し、余裕を見せることで攻撃を誘発。たっぷりエネルギーが溜まったところで相手の対応力を超えた一撃を放って一気に終わらせる。そういう作戦だった。

 

 そしたらクライドが十字を切った瞬間に視界を失って何も見えなくなった。

 

 慌てて冷静さを保とうとしながら『感知再現』を使って相手の位置を確認しようとしたのだが、今度は急激な空腹に見舞われ、その場に倒れ伏した。

 何らかの攻撃を受けていると気づいて対応策を練ろうとするが、この空腹感がバカにできない。思考を巡らせようとすると糖分不足を脳に訴えられたかの如く、甘い物が食べたくなり、身体を動かして誤魔化そうとすると、肉や骨が栄養不足を訴えるかのように空腹に拍車をかける。ともかく動きたくない。何かが食べたい! 今はそれ以外の事を考えている余裕がない! 思考の全てがそれに統一され、頭の片隅にも冷静な自分が存在していない。飢餓寸前の人間とはこういう状況なのだろうかと考えたのは、この試合が終わった後のことだ。

 それでも何とかポケットに入れていた生徒手帳をタップして、念のために入れておいたおやつのグミを口の中に放り込んだ時は、僅かに空腹感が抑えられた。この程度で痩せ我慢できるような甘っちょろい欲求ではなかったが、そこはイマジネーターとしての“根性力”でギリギリねじ伏せた。

 「よし、これで何とか反撃してやる!」と息巻いたのも束の間、今度は突然体が重くなった。それどころか明らかに体の体積が大きくなって肥満体質状態の如く肥大化してしまっていたのだ。

 視力を完全に奪われ、思考力と気力を空腹で抑えられ、体の自由を肥大化によって制限されてしまった歌音に、もはや逆転の手はなかった。

 幸いなことがあったとすれば一つくらい、自分の肥大化した体を見なくて済むと言う皮肉くらいだろうか?

(何にも救われないんだけどねぇ~~~~っっ!!)

 あまりの悲しさに涙が溢れる。そして涙を流した分だけ訪れる喉の渇きは水分欲求を際限なく煽ってくれるので悪循環この上ない。

 後になって冷静に考えれば、全く手がないわけではなかった。後に歌音はそう語ったのだが、それでも同じ状況になったとすれば、きっと同じように何もできなくなっていただろうと、不服そうに結論付けていた。 

 クライドの能力は、Dクラス特有と言う意味において、Dクラスらしい能力であった。強力な火力砲や、追尾や自立操作など、直接的な攻撃なら、Dクラスでなくとも―――それこそFクラスの生徒にだって使えるのだ。Dクラス能力者としてもっとも代表的であり、最も恐ろしいとされているのが、今まさにクライドが使っている『呪い系』の能力、つまりは『デバフ』である。

 この呪い系の能力の恐ろしいところは、まず第一に能力の正体が解らない。与えるデバフの順番や種類次第では、Aクラスをもってしても瞬時に看破されると言うことはまずない。能力の正体が解らなければ、対応能力でも持っていない限りは脱出不可能、ほぼこの時点で詰んでしまう恐れもある。第二に、完封率の高さだ。今の歌音のように、戦う前に完全に封じ込められてしまうなどと言う、とんでもな状況に追い込まれてしまう可能性だってある。こうなってはもはや戦う戦わないどころの話ではない。完全なワンサイドゲームになり下がってしまう。そして第三に、ほぼ確実に初見殺しが確定していると言う事。無論、能力によっては対処すること自体はできるかもしれない。だが、直接戦闘系の能力者がほとんどのイマスクでは、こう言った間接攻撃タイプへの対処など皆無に等しい。先手を打たれれば、間違いなく後手に回り続けることになり、そのままワンサイドゲームにウェルカムだ。はっきり言ってチートだらけのイマスクで『チーター』呼ばわりされるレベルの強力な能力者だ。

 クライドの便宜のため、念のために追記しておくが、こういった能力者の相手をする際、二年生曰く「撃たせる前にやれれば上等。撃たれてもしっかり対処できれば一人前」。三年生曰く「初見殺し級の能力者なんてイマスクには腐るほどいるし、初見殺し()()とかやる異常な奴らも腐るほどいるぞ?」などと言うのが常識となっている。つまるところあれだ。例えワンサイドゲームになったとしても運営側からこう通達されるわけだ。

 

『不正なプログラムは使用されておりません。正規のルールに則った、()()のコンボ技です』

 

 (まった)くもって、涙無しでは学生などやっていけない学園である。

(ってか、このままで終わるなんてさすがに嫌だぁ~~~~っ!! いきなり奥の手を見せるのは嫌だったけど………、仕方ない!)

 歌音は『夢色の金』と言う奥の手ともいえるスキルを発動しようと、右手を開くのだが―――、イマジンに意識を集中し、手の平に粒子を集め、発動した瞬間、それは突然訪れた。

 

 パキンッ! Failure(フェアーユ)!!

 

「「ッ!?」」

 何が起きたのか解らなかったのは、クライドも同じだった。歌音の目には見えていなかったが、彼は何かの能力を発動されたのかと警戒していたのだが、歌音がもう一度能力の発動を試み、同じ結果に至っている姿を見て、ようやく予期せぬ異常が起きていると悟った。

 歌音の能力は、手の平で発動された瞬間、粒子が音を立てて霧散し、学園のシステムによって音声が発せられた。Failure(フェアーユ)、『不成立』と………。

(え? なに? これどういうこと?)

 混乱する歌音、そして冷静に見守るクライドも、何が起きているかなど解るはずもなかった。

 唯一現状を理解しているであろう、審判役の教師だけが、二人を監視する別の空間で「あちゃぁ~~~………っ」っと、額に手を当てて呆れていた。

 イマジンは万能の力だ。だが、それは万能すぎるとも言える。とても初心者が使いこなせるような代物ではないし、簡単に託せる物でもない。だから学園側は、イマジンの万能さに制限を設けている。それが『能力』っと言う名の範囲制限だ。

 学園入学の際、誰もが夢の力であるイマジンを使い、あらゆる能力を想像し、試験に挑んだことだろう。だが、入学案内にも注意書きがされているにも拘らず、イマジンの万能さに目がくらみ、失念してしまう生徒は、未だに後を絶たない。

 

 それが『能力制限内有効能力設定』である。

 

 端的に言えば設定ミスだ。

 単なる設定ミスなら、イマジンが辻褄合わせを図るため、粒子自体が意思を持っているかのように働くのだが、どうしても無視できない制限が存在する。

 それは例えば『能力と派生能力の関連性無視』『刻印名逸脱能力の習得』そして今起きているFailure(不成立)が『発動スキルの能力原不明』である。

 イマジネーターの能力は『能力』単体で発動させることはできない。『能力』は言わば家庭電源であり、コンセントだ。そして電化製品が能力技能(スキル)コンセント(能力)にプラグを刺すことで、それぞれの電化製品(スキル)が使えるようになると言う仕組みだ。

 だが、これが厄介なことに、所有する能力、派生能力はそれぞれ全てが電力(ワット数)が違うため、どんな電化製品でも対応できると言うわけではない。

 海外旅行に行ったことのある者なら経験はないだろうか? もしくは話くらいなら聞いたことがあるかもしれない。日本のドライヤーを持って行き、外国のホテルで使用ししたらブレイカーが突然落ちたという話だ。あれは外国と日本では、共通する電力(ワット数)が違うためオーバーヒートを起こさないようブレイカー(安全装置)が発動して起きる現象だ。

 いわば、今の歌音はそれと同じ状況にある。

 彼女の設定した技能(スキル)『夢色の金』はその設定上、発動不可能な物ではない。だから彼女は発動しようとするところまではできた。ただ、足りなかったのだ。この技能は設定上、能力『蓄積』か、派生能力『解放』、どちらの物として扱うべきなのかが設定されていなかった。

 コンセントは用意されていた。電力(ワット数)に対応できる電化製品でもあった。だが、肝心のプラグが存在しない。コードが切れたドライヤーと同じ、壊れていないのに電力を供給できず、使用することができないのだ。

 さらに厄介なことに、歌音のこの技能は『能力』と『派生能力』、設定上はどちらでも発動可能と言う、イマジンの辻褄合わせの際に、迷わされる設定であったのもエラーの原因だった。どちらの能力でも使える技能設定でありながら、どちらの能力とも明記されていない。辻褄を合わせようとするイマジンも、これには首を傾げるしかない。「どちらでも良いのに()()()()()|設定していな意図はなんだ?」多種多様の設定が存在するイマジネーターに合わせようとするイマジンは、こう言うどっち付かずの設定に対し、「何か意味があるのでは?」と深読みし、下手に弄るような事を避けてしまう。結果手つかず状態となり、不成立状態のまま放置された能力は、学園の制限によって、不測の事態を避けるために消滅するようにプログラムされていると言うわけだ。

 そうとは知らない歌音は、何故能力が発動できないのかと焦ってしまい、何度も発動しない能力を連射してしまう。ただでさえ異常な空腹で頭が回らない所に不測の事態が起きたのだ、もはや彼女に冷静な判断などできるはずもない。

 この光景を見ていた教師は、苦笑いを浮かべながら、後でちゃんと教えてやらなければと、軽く肩を揺らした。

 そして、同じく何が起きているのかさっぱりのクライドは―――、

「………」

 ぐしゃりっ! っと、容赦無く歌音の背中を踏みつけた。

「んぶぅ~~~~~~っっ!?」

 肥大化した喉の脂肪の所為で上手く声を上げられない歌音が、何か悲鳴めいた呻き声で抗議するが、クライドはニッコリと笑顔を浮かべ―――、

「すみません。何か異常が起きていらっしゃるみたいですが、これ一応試合なので決着をつけさせてもらいますね? っとは言え、私には攻撃系の能力がありませんので、我ながら趣味が悪いとは思いますが、足で蹴ってポイント稼がせてもらいますね? ああ、ご心配なく。さすがに可哀想なので、軽く踏みつける程度で地道にポイント稼がせてもらいますから♪」

(それってつまり、一番踏みつける回数が多い手段ってことじゃないの~~~~っっ!?)

 残念ながら歌音の悲鳴は、誰にも届くことはなく、クライドが50ポイントを獲得するまで延々と続けられた。

 

 

 赤いカチューシャを付けた、黒髪黒目の齢八歳の少女、原染(はらぞめ)キキは『超再生』の能力『自然治癒』は異常なほどの再生能力を持つ。例え腕の骨を複雑に折られたとしても、三分もあれば 完治してしまうほどの回復能力だ。緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)ほど常識外れではなしジーク東郷のような不滅の肉体でもないが、一撃必殺でないのなら、ほぼ確実に生還することのできる強力な回復能力だと言えよう。更に刻印名を持つ彼女の回復能力は、例え呪い系の能力であったとしても“回復しない”などと言う現象は起きえなかったことだろう。

「も、もう降参………っ! ひっく………っ! もう帰りたいよぅ~~~………っ!!」

 だが、キキは地面にへたり込み、今は失われた再生中の左腕を庇って、年相応の子供のように泣き叫んでいた。

 そんな彼女を見下ろすは、腰ほどにまで伸びる銀の髪を揺らす獣の瞳を持つ少女。身長は小柄で、150㎝ほどだが、比較対象がキキしかいないため、それでも大きく見えてしまう。頭頂部には三角形に飛び出た犬耳が存在し、お尻には、獣の尻尾が揺れている。

 ユノ・H・サッバーハ、異世界出身の亜人の少女だで。現代でこそ、異世界人と言うのは、存在自体はよく知られるようになっているが、イマジンによる異世界間の交流門、ゲートの類がある場所近辺までしか自由が許されていないため、現在でもギガフロートで以外は滅多に見ることのできない存在だ。

 ユノは二本のナイフを両手に持ち、座り込んでしまったキキを見下ろし、僅かに微笑んだ。

 その笑みに、僅かな希望を抱きながらつられるように笑みを作るキキ。

 

 トスンッ。

 

「………ふえ?」

「ウチは元の世界で暗殺を家業にしてた。でも、たった一度のミスでこっちの世界に飛ばされてしまった。だから………」

 ユノは、あまりにも自然な動作で危機の胸に突き刺していたナイフを、静かに抜き取ると、油断のない瞳で吹き上がる鮮血を観察し続ける。

「だから、勝つまでもう、油断したりしない」

 心臓を貫かれ、致命傷を受けたキキは、その場にゆっくりと倒れ伏すとピクリとも動かなくなった。

 やがてポイント獲得により、ユノが勝利したことを告げるアナウンスが告げられ、どこかの森の様だった世界は、ただの白い壁の世界へと戻り、僅かな静寂が過ぎ去る。

「ふ………、ふええぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっっっ!!!!」

 静寂は数分で打ち消され、少女の鳴き声が室内に響き渡る。ナイフの血を布で拭き取ったユノは、そのナイフを太腿に巻き付けたホルスターに仕舞い、鳴き声を上げる少女の頭を軽く撫でてあやし始める。

「はいはい、もう泣かないのキキちゃん? もう終わったから乱暴しないよ~~?」

「嘘だ~~~っっ!! 降参したのにトドメさしたもん~~~~っっ!!」

「不意打ちされる可能性もあったし?(てへぺろっ♪」

「そんな余裕なかったもん~~~~っっ!! うわあぁ~~~~~~んっっ!!! おうち帰りたいよぅ~~~~~っっ!!」

「お~~、よしよしっ、怖かったねぇ~~? もう大丈夫だよぅ~~? 授業が終わったら皆お友達だよぅ~~~?」

「ぐす………っ、本当に………?」

「ホントホント」

「もう怖いことしない………?」

「しないしない」

「また授業始まったら………?」

「………ふっ」←(暗殺者の微笑)

「やっぱりそうなんだぁ~~~~~~~~~~~~~っっっ!!? うわあぁ~~~~~~~んっっ!! やっぱり”いますく”怖いよぉ~~~~っっ!! おうち帰りたいよぉ~~~~~~~っっ!! お父さん、お母さん~~~~~~~っっ!!!」

 能力で完全回復したキキは、部屋を飛び出し「理々おねーちゃ~~~~~んっ!!」っと叫びながらルームメイトの加島(かしま)理々(りり)の元へと駆け出して行った。いくらイマジネーターと言えど未だ八歳の女の子、この学園の授業は十分にトラウマレベルの内容だったろう。

 子供丸出しで逃げていく背中を見送ったユノは、微笑ましそうに笑みを漏らした。

「いやはぁ~、あんまり可愛すぎてついつい、からかい過ぎちゃったなぁ~~? 後でちゃんと謝らないとねぇ~~」

 それにしても………、っとユノは試合内容を思い出して頭を掻く。

(あれだけ一方的に追い回して何度も殺したのに、一回も死なないとか………、ポイント制の試合じゃなかったら、どうやって倒せばよかったのか………?)

 身体を六十四のパーツに分解しても、頭部や心臓など、致命傷となる急所も何度となく傷つけた。それでもしばらくすれば彼女は起き上がってきてしまい、リタイヤシステムの発動する気配すら見せなかった。

(しかも心が折れて降伏しておきながら、殺した本人に頭撫でられても怯えて逃げ出したりしなかったし、………あの子、案外図太いじゃないのかな?)

 齢八歳の臆病者のイマジネーター。その実力はまだ実る前の果実の如く、予想が付かなかった。

 

 

 ナナセ・シュルム=カッツェは地面に倒れ伏し、荒野となった世界が白い部屋へと戻っていくのを見つめる。

 消えていく荒野は、嘗て荒野などではなかった。自分達の能力のぶつかり合いが生み出した結果が荒野となったのだ。だが………、っと、ナナセは歯を食いしばり、猫耳をピンッと立てる。

(ボクの力だけであの光景を作ったわけじゃないっ! それどころか、僕は殆ど防戦一方だった………っ!)

 彼女の能力は全イマジネーターで見ても数少ない稀有な才能を持っていたのだが、戦う相手が悪かった。実力が拮抗したのは最初だけ、後半になるにつれ、ナナセは相手の多彩な戦術に付いていくことが出来ず、ついに突き放されてしまった。

 真っ白に染まった空間の中で、勝者たる黒髪の少女が、魔王然とした笑みを称え悠然と立ちはだかっていた。

 身長はおよそ140cmと、小柄なユノよりも小さく、それこそ小学生と間違われてもおかしくない幼児体系。だが、纏っているゴスロリドレスに埃一つ付いていない姿は、圧倒的な実力をもって勝利した事実を如実に語り、異様な存在感を抱かせる黒野(くろの)詠子(えいこ)の姿があった。

「ふっ、この≪ブラックグリモワール≫を相手によくぞ戦い抜いた。貴様の颶風、中々の神秘であった。しかしっ! 我がグリモワールを前にあの程度の風、そよ風にも等しい! 次に(まみ)える時は、碧天を貫く程度にはその風を(ぎょ)すが良い。悠久の果てで、再び因果が交差する時にこそ、再び(まみ)えようぞ!」

 大仰な動作で腕を振り翳し、魔王然とした少女は、異界の亜人少女を睥睨(へいげい)する。

 同学年でありながら圧倒的な実力差を見せつけた少女に対し、畏怖にも似た感情を抱いたナナセは、その少女にとある人物を幻視した。それは嘗て、伝説上でしか語られず、彼女の世界で名をはせたとされる誇り高き、そして畏れ多き『魔王』の壁画、その人物とそっくりであった。

(この子は、もしかしてこの世界の“魔王”なの………っ!?)

 恐れ戦き、見開いた眼で見上げる詠子の姿に、ナナセは何事かを言いかけた時―――。

「それはそうと、カッツェはお前と違って怪我してんだから、ちゃんと治療してやれよ~~?」

 声をかけたのはアリエラ・マリエル女教師、銀の長髪、ぱっちりとした黄色の瞳に大人とは思えない童顔の持ち主。身長が僅か150㎝ほどしかないため、詠子と二人で並んでしまうと、この学園が初等部、良くて中等部なのではないかと勘違いしてしまいそうになる。実際、イマスクは若い分ならどんなに若くても入学可能だ(十八歳以上でも試験に合格できれば一応入学はできる。その前例がないだけ)。実はここにいる二人がナナセより年下だと言われたとしても、きっと彼女は信じてしまっていたことだろう。

「あ、はい。治療するからじっとしててね?」

「ん?」

 急に態度が一変した詠子に違和感を覚えるナナセ。そんな彼女の視線に気づいたのか、はっとした詠子は再び大仰な態度で片手で片目を隠しながら決めポーズを作って見せる。

「この私が直々に治療してやることをありがたく思うがいい! 我が手で治療されることは、ミューズの調べを聞くに等しいことジョ()!」

ジョ()?」

「だ、黙れっ! 私の治療はグリモワールにおける手荒な物! 闇の治療が凡庸な治癒魔法と同じように癒されるなどとは思わぬことだっ!!」

「いや、癒されなかったらそれもう治癒魔法じゃない………」

 ツッコミを受け、何やら不機嫌な顔になる詠子だが、治療行為自体はせっせと真面目に取り組まれた。

「………闇の治療どこ行った?」

「にゅあっ!?」

 

 何はともあれ、Dクラスの初日はこれで全て終了した。

 

 

 03

 

 

 東雲神威は三年生の初期試合を単独で受けるつもりだった。いくら最強の名を持つ彼女でも、三年生のレベルで単独突破は非常に困難な内容であったが、その方が非常に楽しめることもあって積極的にそうしようと心掛けていた。しかし、浅蔵(あさくら)幽璃(ゆうり)にしつこく勧誘され、友人の留依や、親友の刹奈にまで説得されては断る労力の方が大きくなると言うものだ。仕方なく付き合うことにした神威だったが、だからと言って『チーム(かんなぎ)』の言う通りに動く機など全くない。

 なので、彼女は何も考えずに真っすぐ歩き、適当に相手してくれる相手を探した。

「まあ、そんなことしてたら阿吾(あご)か、もしくはお前に当たるよなぁ? 選択し間違えたか? 『勇猛なる英雄(ブレイブヒーロー)』?」

 呼ばれた少年、剣岳(つるぎだけ)正義(まさよし)は、世紀末とも言える廃墟の中、腰かけていた瓦礫から立ち上がると、ビジネススーツの裾を翻す。腰に装着された 『勇猛なる英雄(ブレイブヒーロー)』の刻印名を持つ実力者だ。吹き付ける乾いた風に高いところでまとめ、尻尾のようになっている髪を揺らしながら、正義はベルトに片手を宛がう。

「常々、お前相手には負けたくないと思っていた。いい加減勝たせてもらうぞ?」

 細められた目で見据えられ、神威は寒気のようなものを一瞬だけ感じる。整った顔立ちの正義は、それだけでもクールな印象を与える。それが真剣になっていると余計にその印象が強く出る。

 神威は溜息を一つ付くと、腰に手を当て呆れかえる。

「私が“悪役ポジション”だからって、あまりしつこくされるのは好きじゃないんだ………」

「なら諦めろ。私がしつこいのは家業だ」

 冗談めかして呟いた正義は、次いで定番の文句を口にする。

「変身………ッ!!」

 正義のベルトが、命令に応えるかの如く光り輝き、彼の髪の色と同じく真っ白な鎧となって身を包む。

 彼の能力『英雄の装備(ヒーローズ・アームズ)』により作り出された身体能力を飛躍的に向上させる鎧『英雄の鎧』だ。

 戦闘準備が整った正義は、神威が「やれやれ」と言いたげに肩を竦めるのを確認してから瞬時に突撃、己の疾走こそが開戦の鐘と言わんばかりに拳を打ち放つ。

「『神佑(しんゆう)』」

 神威が一言呟いた瞬間、名を呼ばれた式神が、彼女の助けとなるべく姿を現す。人の体を二回りも大きくしたような巨大な熊が現れ、正義の拳を易々と受け止める。構わず連打を繰り出す正義だが、そのこと如くを『神佑』の名を持つ熊の式神は前足を器用に使い受けきってしまう。

「だああぁぁぁっ!!」

 それでも正義は連打を続け、一瞬の隙をついてフェイントを交えた一撃を放つ。あまりに愚直な力押しの連打に紛れ込ませた一撃は神佑の懐に命中し、その体を形成しているイマジン粒子の光を大量に噴出した。

「押さえろ」

 端的な神威の命令に神佑は素早く従う。前足を二本とも正義の肩に乗せると、超重量を誇る己の体重と、イマジネーターの筋力すら圧倒する怪力を要し動けないように押さえつける。

 正義は、視界の全てを神佑の巨体に覆われながらも、その奥で神威が手の平に新たなイマジネートを施していることに気づく。

「が………っ!!」

 悪態を吐く暇もなく、両足に渾身の力を込め、『強化再現』『瞬間爆発再現(インパクト)』を同時に発動、一瞬だけ得た一点集中強化の脚力で無理矢理跳躍、親友の前足を押しのけ、飛び上がる。

「『霊鳥』『矢鳴(やなり)』」

 刹那に神佑の腹部を背中から打ち抜く光の柱。悲鳴を上げて大量のイマジン粒子となって爆散させる神佑。神威が手の平から撃った光の鳥を模した式神、その形態変換が施された光の矢が、神佑諸共正義を撃ち抜こうとしたのだ。

 地面に着地した正義は、鎧の兜に覆われた奥の顔を歪める。

「相変わらず好きになれそうにない戦い方だ!」

 叫び、地面を蹴り飛ばしながら正義は次々と拳を打ち放っていく。

「別に死ぬわけでもあるまいっ! 『鷹狩(たかがり)』!」

 言葉に対しても応戦し、神威は鷹の爪を模した式神を両手に召喚し、正義の拳と打ち合わせる。拳と爪が激突する度に半透明な鷹の羽が飛び散り、それはすぐに粒子片となって消えていく。

 三十、四十、六十! 凄まじい交差が繰り返され、しかしどちらも一歩も引かない。拮抗した力のバランスを崩したのは正義だ。打ち出した拳をわざと側面にずらし、相手の外側に弾かれる。その勢いのまますり抜け神威の背後へと滑り込む。振返る勢いを利用し上段蹴りを放つ。神威は反応が遅れ振り返りざまに防御しようと手を伸ばすが、間に合わない。命中する確信を得た正義だったが、『直感再現』が働き、瞬時に蹴りの軌道を調整。蹴りが神威を外すと同時、全く同タイミングで横合いから飛来してきた透明な刃が二人の間を通り過ぎる。

 空ぶった蹴りの勢いで態勢を崩してしまいながらも軸足で地面を蹴って後退。なんとか臨戦態勢を整える。

「封印式『絶刀(ぜっとう)』………だったかな? そいつに刺されたらどんな概念だろうと能力だろうと強制的に封印される。そればっかりは受けるわけにはいかないな」

「そうか、なら精々遠くで逃げ回っていろ」

 軽く、神威が手を横に薙ぐ。まるで目の前にいる知り合いを横にどかすような緩やかな動作。その所作に合わせて出現したのは先ほどの透明な刃の式神『絶刀』。ただし、先程の物より圧倒的に大きい。神威の背丈程もある太く厚い(ダイヤ)型の刃が八つ、神威の周囲を守るように配置される。

「『絶刀』『防衛陣』」

 厳かに告げる神威に対し、苦虫を噛み潰したい心境に陥る正義。神威の周囲を走りながら『英雄の装備(ヒーローズ・アームズ)』を発動。

「『英雄の武器』!」

 声に出して技能を発動。手に作り出したレーザーガンの引き金を引き、次々と神威にレーザーを照射する。

 神威は視線だけ正義に合わせつつ体は下手に動かさない。代わりに回転するように動く八本の絶刀が、次々とレーザーを打ち払ってしまう。

 下級生であるならここはしばらく様子見で撃ち合いになるような状況だ。しかし、上級生はこの程度で様子見などしない。いや、意味がない。なにしろ相手はこの二年間、何度となく、数え切れないほどに争ってきた相手だ。能力は殆ど承知しているし、次に相手がどう動くかなど殆ど全て予想できている。

 だから、神威は状況が膠着する前に先手を打つ。

「『絶刀』『打金(うちがね)』」

 新たな『絶刀』を複数召喚、それらをまた形態変化を行い、長細いニードル状に形を変換する。それを右手に巻き付けるように配置、右手を銃身代わりに狙いを定めつつ、左手を添えて右手がぶれないように支える。手の平を上向きに、デコピンでもするように中指を弾くアクションで絶刀(ニードル)を発射していく。

 デコピンのアクションで打ち出すなどと表現したが、発射される絶刀(ニードル)の数は秒間約百発。マシンガンを圧倒的に超え、もはやレーザーガンと変わりない。そのくせ発射の際に衝撃がなく、使用者の腕も半端じゃない。正確無比のスナイパーの腕でガトリングガンを使用するかの如く、圧倒的な波状攻撃を敢行する。

 だが、正義もそれに後れを取らない。『英雄の装備(ヒーローズ・アームズ)』に『英雄の武器』を発動し、足にブースト、両腕に盾、空いている片手には剣を、胸部や腹部、両脇脇には装着型のミサイルランチャーなどを次々と作り出し、デフォルト装備の腰の翼を使い飛行、三次元移動を縦横無尽に駆け巡り、絶刀の刃を躱し、時にはミサイルなどで撃ち落としていく。

 腰や背部に新たな加速器を追加しながら、速度を上げ、マニューバを精密にしていく、さすがに躱しきれない攻撃が大量に存在する。そのたびに剣や盾で受け止めるが、『絶刀』本来の『封印』の効果が働き、接触した装備は次々と封印され、無理矢理剥がされてしまう。そのたびに新たな武器を作り出し、正義は一気に神威との距離を詰めていく。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」

 残り距離五メートルと言うところまで入った正義は一気に速度を上げ突撃していく。

 神威も対応が遅れると判断し、絶刀を打ち出すのを止め、防衛に使っていた八つの絶刀を正面に配置する。

 雄叫びを上げたまま突撃する正義。『英雄の武器』で作り出せる武器の中でも神話級の物を惜しみなく十六個呼び出し、その全てを絶刀にぶつける。絶刀はその特性に従い、ぶつけられた武器を封印するために効果が働き、神話級武装を十六個すべて飲み込む。途端に透明だった絶刀の色が目で捉えられるほどに色づく。変わらず透明ではあるがその透過が減少し、濁って見えるのだ。これは絶刀が封印できる許容量に達したことの証だ。

「だああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!」

 迷わず地面に踏み込み、地を蹴って更に加速。追加された勢いを乗せた拳が八つの絶刀を吹き飛ばす。

「『玄亀(くろがめ)』」

 神威も瞬時に対応する。僅か二メートルの距離で一秒とも満たない刹那の中で、二人の攻防が次々と繰り広げられている。

 双蛇の尾を持つ亀の式神が現れ、手足を甲羅の中に閉まった状態で地面に壁の如く突き刺さる。

 正義は打ち出した拳が甲羅の壁に激突する前に刃を持つ鉄鋼を装着。拳の延長線上に伸びる刃の切っ先が甲羅に突き立つ。

 瞬時に神威が式神の耐久力に『強化再現』を施す。

 させまいと正義は『瞬間爆発再現(インパクト)』を発動し、全パワーを一点に向けて解き放つ。刃は甲羅の壁を打ち破り、神威の顔の横を通り過ぎる。

 目を見開く刹那を経て、神威は『鷹狩』を呼び出しながら残り一メートルの距離を自ら詰める。

 正義も『玄亀』と刃の付いた鉄鋼をイマジン粒子へと爆散させ、拳を打ち出す。

 ガツンッ!! クロスカウンター気味に互いに激突。しかし、正義の拳は神威の逆の手で受け止められで、その体は『鷹狩』の巨大な爪が食い込み完全に掴まってしまう。元々『鷹狩』は攻撃的捕獲用の式神なのだ。一度掴まればそう簡単には外すことができない。だが―――、

 

 ドゴオォォォンッ!!!

 

 刹那に放たれた砲撃。

 神威はギリギリで『鷹狩』を外して躱した。

 正義の腹部装甲が別の物に変わっていて、ビーム砲のような物を発射できるようになっていたらしい。そこから放たれた光線は一撃で周囲のビル群を吹き飛ばし、遠くの山まで削り取ってなお空の彼方に消え去っていった。

 光線の余波に煽られ僅かにバランスを崩した神威に向けて正義の渾身の拳が放たれる。

 拳は深く神威の腹部に突き刺さり、防御に使っていたイマジネートが砕け散る音が幾つも鳴り響く。拳が柔らかい肉の感触を捉え、本当の意味で一撃が入ったことを確信させる。

「『(さい)』………っ!」

 メシャリ………ッ! っと、犀型の式神を足に装備した神威の膝が、正義の側頭部に食い込む。

 拳が勢いを殺すことなく深くめり込んでいく最中に、神威はカウンター気味に膝を打ち放ち、更にその速度を超えて正義を押しのける。『英雄の装備(ヒーローズ・アームズ)』の兜が砕け、頭蓋にめり込む式神武装に覆われた膝。そのまま足を跳ね上げながら横薙ぎに蹴り払う神威。吹き飛ばされた正義の体がビルを貫通していき、複数のビルを倒壊させていく。

「ぐ………っ! がふ………っ!」

 お腹を片手で抑え、神威は咳き込む。内臓深くまで貫かれた痛みで血が裏返り口の中を溢れる。咳と共に吐き出しつつ、巫女服の袖で口の端に残った血を拭う。

「やれやれ、雑な殺し方をしてしまった………」

 打ち勝ったのは神威の方だと言うのに、その表情はむしろ苦渋に満ちたものとなっていた。その理由はすぐに明らかになった。

 倒壊したビルの一つが爆発し、そこから鎧を身に纏った正義が再び姿を現したのだ。ただし、その鎧は白から深紅へと染まり、まるでフェニックスを思わせるデザインへと変わっていた。

「『英雄の復活』っとか言うのだったか? 派生能力『英雄の心得(ブレイブハート)』の力だったな? まったく、鎧着用状態である限り何度死んでも復活できる上に回数制限がないとは、実に厄介だな」

 僅かに瞳の奥から喜びの感情が沸き上がり始めながら、神威は溜息を吐いて呆れた風を装う。

「だが、何よりも厄介なのは―――」

 言いかけた神威は、瞬時に横合いへと飛び退く。まるでその後を追うかの如く、急接近していた正義の拳が通り抜ける。

 『砕』の脚で蹴りを放つが、全く速度が間に合っておらず、圧倒言う間に背後に回られ、逆に足刀を袈裟懸けに叩きこまれ、血飛沫が舞う。

 苦悶の表情を浮かべる神威に、正義の拳が放たれる。すかさず巨大な『絶刀』を壁の如く配置するがお構いなしに叩きこまれる。『否定再現』を付与した拳が式神を打ち抜き、神威の胸部を襲う。交差させた神威の腕が阻むものの、確実に骨が折れる()()()()感触を捉えた。

 その威力を利用して後方に飛び退く神威。足が地面に付く動作を利用し、新たな式神を呼ぶ。

「『虎嵐(こらん)』!!」

「バオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 虎の形を象った式神が現れ、神威を中心に大嵐を呼ぶ。更には雄叫びのように轟音を鳴らす轟雷を風に纏わせ近づく物全てを砕き伏せようとする。『虎嵐』は元々虎の形をしているだけの雷嵐の式神。本気を出せば一国を破壊できるほどの権能を有している。

 だが、正義は止まらない。地面を蹴り、フェニックスの如く舞い上がり、獲物を借るが如く神威に向けて飛翔。空気の壁をぶち抜き、無音の世界に入った勢いをそのままに放たれる飛び蹴りは、嵐の権能をいとも容易く突破。その中心にいる神威の胸を真っすぐ貫いた。

「―――厄介なのは、復活する度に際限なく強くなることだな」

 がっしりと、首を掴まれた正義は、そこで初めて神威が自分の正面にいることに気づく。正義の視線が正面の神威を捉え、次に自分が蹴り抜いた神威を捉え、その奥で光り輝いている孔雀の存在を捉えた。

「『虎嵐』は防御のためでも時間稼ぎのためでもない。『七色(なないろ)』の幻光を隠すための物だ」

 孔雀型の式神『七色』。広げられた翼から放たれる光を目にしてしまうと強制的に幻術を掛けられる、使いどころ次第では強力な式神だ。そう、例えばこうしたタイミングで自身の幻影など作られれば、目測を誤り大ピンチに陥ってしまうほどに。

「悉く滅ぼせ『麒麟』っ!!!」

 叫び、首を掴んだ手から直接召喚したのは馬の姿にも似たオレンジ色に輝く毛並みを持つ神獣。その名の通り、雷と炎を操る四聖獣の中央を司る神格を有する式神、『麒麟』だ。

 轟炎と轟雷。物理法則上は絶対に両立しえない二つのエネルギーは、まるで物理法則の方をこそ破壊せんと言う勢いで膨れ上がり、フェニックスを象る正義の鎧を粉砕していく。

「はああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー………っっっ!!!!」

「ぐっ、おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっっ!!!!」

 制限無く強化復活を繰り返す正義を倒す方法はただ一つ、鎧事粉砕することだ。麒麟の炎雷曝され、既に正義は何度となく死の淵に叩き込まれていた。それでも『英雄の復活』の効果で何度となく復活を繰り返し、炎雷の権能に堪え続けていた。強力な権能に鎧は次々と砕けていく。だが、僅かでも鎧としての特性を残せる部分がある限り、復活の効果は消えない。これは神威が鎧を粉砕しきれるかどうかの賭けだった。

 神威はどんどんイマジンを注ぎ込み、イメージを追加し、思いつく限りのあらゆるイマジネートを叩き込んで正義の鎧を粉砕しようとする。

 正義もそれをさせまいと防御態勢を取りつつ、同じだけイマジネートを叩き返す。

 やがて空間の許容量が限界を超え、飽和状態となったエネルギーが大爆発を起こした。廃墟となっていた一都市を跡形もなく粉砕していき、爆発が収まった後には巨大隕石でも落下したのではないかと言うほどの巨大なクレーターしか残らなかった。核爆弾が爆発したところでこれ程の傷跡を残すことはできないだろう。まして、そこに廃墟となった都市が存在したなどと、もはや歴史上に残る事さえない。これが仮想の世界である事がむしろ安心を覚えるほどだ。

()つ………、『呪樹(じゅじゅ)』、ついさっきで悪いが、また回復しておいてくれるか?」

 焼け爛れた地面がマグマとなって赤く燃え上がる中、『浮力再現』と『拒絶再現』を同時に発動することで火傷を防いでいた神威は、頭に小さな木を生やした幼女の姿をした式神『呪樹』を呼び出す。彼女は植物の蔦となっている緑色の髪の毛を伸ばし、神威の体に巻き付ける。その()を通して傷を吸収し、代わりに自分の頭に生えている木の葉を枯らせることで治療する。

 式神『呪樹』は、ダメージや呪いを吸収し、代わりに請け負ってくれる植物の式神なのだ。正義拳で折られた両腕も、これで治したのだ。

「さて………、これはさすがに………、どうしたものかなぁ~?」

 治療を終えた神威は、立ち上がると腕組をし、正面の相手を見据え唸り声を漏らす。しかし、その瞳の奥には抑えきれないほどの喜悦が滲み出ている。

 焼け爛れ、オレンジ色に輝く大地を踏み荒らし、何の防御手段も使用していない剣岳(つるぎだけ)正義(まさよし)が悠然とこちらに向けて歩み寄っている。

「まだ一日目の初戦だっていうのに………、やれやれ素で『神霊クラス』まで行ったのか?」

「ああ、今の俺なら拳で神様と殴り合えるぞ」

 どれだけだ。っと、声に出さずに引き攣った笑みで肩を竦める。

 

 次の瞬間には既に正義の拳が正面にあった。

 

「不意打ちはしない。だから答えは解っているが問いかけるよ。降伏する気はないか?」

「『健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)』!」

 返答に使ったのは新たな式神。神威の全身を蒼い炎が纏い、巨大な甲冑に似た腕が二つ出現。右腕には巨大な剣が握られている。神威の纏う形で使用できる武装系式神、それが『健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)』だ。この式神もまた神格を有するのだが―――、

 

 ドゴガンッ!!!

 

 まったく反応できなかった神威の腹部を強烈な拳が打ち抜き、遥か後方へと吹き飛ばされる。反応するより早く、追いついた正義が次々と神威の全身に向けて四方八方から打撃を撃ち込んでいく。そのたびに神威の体は面白いように跳ね上がり、冗談のように空間を行ったり来たりと飛ばされていく。今自分がどのあたりの空間を飛び跳ねているのかも理解できなくなるほどに弄ばれ、神威の口の端が笑みの形に吊り上がっていく。

 トドメと言わんばかりに地面に叩きつけられ、地下深くにまで押し込まれてしまう。『健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)』を全力で防御に限定して『神格完全開放』を行っていたからこそ無事だったが、さすがに体中から打ち身のような痛みを感じる。

 さて地中深く潜ったこの体をどうしたものかと考える暇もなく、世界が深紅に彩られ、刹那の内に高熱の爆発に包まれた。

 爆破が止み、『健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)』を貫通してきたダメージによろめきながら、神威は上空に悠然と浮かぶ正義を見据える。

「おいこらっ、イマジン質量を撃つだけで攻撃になるってなんだそれは………」

 イマジンを集めて放つ。正義がやったのはそれだけのことだ。本来それはイマジンを吹き付けられるだけなので痛くもかゆくもない。むしろイマジンを供給しただけとも言える。だが、今の正義はどうやらその程度では収まらない領域に達しているらしい。理屈を無視して攻撃の意思在る物は全て攻撃へと変換される。正義はそれができてしまえる領域にあるらしい。

「まあ、だから健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)先手(、、)にしたんだがな………」

 呟き、すぐさま神威は能力を発動する。

「『サマイクル』時間を稼げ」

「我が主の仰せのままに」

 神威の命令で出現したのはイマジン体だ。それも設定が深く掘り下げられている自立型であり、アイヌの英雄神『サマイクルカムイ』の名を持つ、歴戦の戦士を思わせる青年。

 それに気づいた正義は危機感を感じ瞬時に飛び出す。だが、それを『神格完全開放』を施したサマイクルが抜き放った剣で妨げる。その隙に神威は『健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)』を再び防御に全開しつつ、新たな術式(イマジネート)を組み上げる。

朔夜(さくや)の神子たる 東雲の媛巫女が 願い奉る」

 厳かに告げられる力を持った言霊。それの意味を知るからこそ、正義は必死に阻止しようとする。しかし、それをサマイクルが自身の身を盾にしてでも妨げ、なんとかそれを抜けても『健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)』がバリアの役目を働かせ、神威に触れさせない。

「月光一輪 暗雲冬雪(とうせつ)  風穴(ふうけつ)の加護を持ちて 我を禍く貶め給え」

 正義がアマイクルと『健速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)』を打ち破った時、既に神威は術式を完成させ新たな段階へと入っていた。もはや間に合わないと悟った正義は足を止め、代わりに己を最後の切り札を切る覚悟をする。

 地より沸き上がった禍々しい黒き風が神威を包む。その風はやがて形を成し、靄のように神威の体に纏わりつく。神威の装いが黒い着物へと変わり、荘厳にして禍々しき神を彷彿とさせる装いへと変貌した。心無し僅かに成長しているらしく、露出の少ない和服でも体の凹凸がはっきりし、何もしていないのに艶めかしい魅力を感じさせる。しかし、それは決して魅力などと言える代物ではなかった。その艶めかしさには毒々しい花の美しさと同義だ。その花に触れれば一瞬で死に絶え、決してその美しさの神髄を知ることは叶わない。それほどに危険な妖艶さが漂っている。

巫覡(ふげき)禍津日神(まがつひのかみ)

 神威の切り札の一つ、神を直接己へと降ろす、巫女にだけ許された秘術、神憑(かみがか)りである。

「これを相手にするのは、私は初めてだよ。その状態の君と戦った誰もが口を揃えて言ってることがあるらしいな。………私は、さてどうなるかな?」

 さすがの正義も過去にここまで強くなるほど死と蘇生を繰り返したことはなかった。おそらく今は、過去最大クラスの強化が行われているはずだ。

 もしここで、己の切り札を切ったら、どうなってしまうのか? 僅かな恐怖と期待が逡巡の間を作り―――その時間を()()()()()()()と言う事に気づき、躊躇いを振り払った。

「………わざわざ待ってもらっておいて、ここで引いたら男じゃないな。でもな私は負けるわけにはいかないんだ。これで決着をつけさせてもらう! 完全開放っ!!」

 正勝がキーワードを口にした瞬間、鎧がスライドし、生まれた隙間から炎の如くオーラが噴き出す。それは今まで彼が受けてきたダメージの全てであり、それをエネルギーに変換したものだ。正義の切り札『英雄の心得(ブレイブハート)』の技能(スキル)『英雄の本領』。その効果は、受けたダメージの全てを自身のステータス向上に変換、更に能力の効果を倍増させる。破格のパワーアップだ。

 もちろんリスクもある。この技能(スキル)を発動していられるのは僅か三分間であり、それを過ぎると鎧は強制解除され、自分が受けているダメージが倍の状態になって返ってくる正に諸刃の剣だ。それでも正義は今更後悔はしない。そもそも現状神威に本気を出させ、これを使わずにいれば、間違いなく鎧事まとめて殺されることは避けられないのだから。

 燃え上がるが如き深紅に輝く正義からは神格保持者が発揮することの許された権能の輝きを全身から放っていた。神威の闇が危険な妖艶さなら、正義の輝きは希望に満ち溢れた威光そのものだ。誰もがその光に憧れ、その光に勇気をもらう。奪う事しかできない神威の闇を打ち消す、希望の光だ。

「行くぞ神威。私の(希望)をもって、お前の(絶望)を打ち破る」

 静かに、しかし力強く告げられた言葉に、神威は妖艶な冷笑を浮かべつつ、やはり瞳の奥に無邪気な喜びをチラつかせる。

 一瞬の静寂。

 互いに息を合わせる間をもって―――、空間がはじけ飛んだ。

 互いに蹴ったのは地ではない。イマジンによる再現でもなく、己が有した神格をもって、全く別次元の方法で『移動』している。浮けることも飛べることも当たり前、ならば移動する際に物理法則を無視するくらいなど容易いことであった。

 互いに正面から常闇と深紅の輝きをもってぶつかり、強烈なエネルギーの反発が衝撃となって吹き荒れる。しかし、明らかに今まで以上の火力を持つエネルギーなのに、周囲に与える影響は、むしろ少なくなっている。理由は簡単だ。今までは世界の力を移動させて衝撃をぶつけ合っていた。故に耐え切れなくなった周囲の空間は爆発し続けていた。だが今は、世界の法則を己の権能によって捻じ曲げて使用している。海の上で大津波が起きても大した被害が起きないように、起きている災害そのものが世界の一つとして同化しているのだ。周囲に飛び散る衝撃波は無駄なく使用され、被害も最小に抑えられていると言う事だ。

 だが、その対象として向けられている相手は完全に例外である。今まで起こしてきた壮絶な火力が無駄なく一人に向けて直接叩き込まれているのだ。普通の人間であれば一瞬で蒸発し、その脅威の片鱗を感じる事さえできないだろう。

 それほどの高密度の権能を向け合い、二人は壮絶な空中戦を演じ続けていた。

 神威が常闇を爪にして振り翳せば、正義も深紅の光輝を纏った拳で対抗する。互いに爪と拳を撃ち合い、空間を飛び回り隙を伺い、時には力勝負を挑み、それでも完全に実力は拮抗する。

 正義のタイムリミット三分間。今までこの三分間がとても口惜しかった。かつて戦った多くの強者の殆どが、この三分間のタイムリミットによって敗北してきた。この三分間を短いと感じた事が何度あったことか………。

 だが、今は違う。未だ一分もたっていないと言うのに、既に一時間は戦ったのではないかと言うほど長く濃密な戦闘を演じている。これなら今までのような時間切れには陥らない。この三分間に、全てを費やすことができる。

 自分が生まれ育った孤児院を思い出す。虐めを受け、生きる希望を失っていた彼らの希望となるため今まで頑張ってきたことを思い出す。

(見ててくれ皆………! デカい試合じゃないのは残念だが、私は今、本物の希望となるっ!!)

 我武者羅に繰り出す拳の連打。それを迎え撃つ常闇の爪を押し退け、僅かずつ正義が肉薄する。

「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!」

 全身全霊を振り絞る雄叫びを上げ、正義の拳がついに常闇の爪を撃ち抜いた。拳は神威の顔の横を通り過ぎる。続いて放つ拳は爪に受け止められるが、更に続く拳は爪を弾き飛ばし、その次に続く拳は爪に防御の形を取らせた。攻撃の打ち合いで防御に回ればもうお終いだ。連射速度で勝った正義の拳が次々と叩き込まれ、次第に神威は防戦一方になっていく。しかし防御に徹すればそれは綻び始め、隙間ができ始める。その僅かな隙間目掛け、正義の拳が寸分違わず突き刺さる。

 

 ザクンッ!!

 

 まるで果実にフォークを突き立てたような感触が拳に伝わる。神威の表情が明らかに苦悶の物へと変わり体が折れる。神格を宿しているが故に、見た目通りの強度と言うわけではないだろう。だが、神格を宿しているのは自分も同じ、そして攻撃は確かに効いている!

 その好機を逃すことなく次なる拳を打ち付けようとした正義。っと、そこで異変に気付く。突き刺した拳が引き抜けない。よく見れば神威の腕がありえない怪力を発揮し、正義の腕を掴んでいる。神格の輝きを宿した籠手は、神威の握力に屈して罅が入り、細い指が食い込んでいた。

 常闇の爪が伸びる。

 もう片方の拳で迎撃する。そのまま肘を落として神威の頭部を叩き伏せる。

 僅かに腕の力が緩んだすきを逃さず拳を引き抜く。掴まれていた籠手を砕かれながらも脱出成功。鎧は神格の輝きによって瞬時に修復される。

 常闇の爪が複数伸び、正義の体を鎧事削っていく。

 連射速度で劣るなら数で圧倒するつもりらしい。

 ならば自分は究極の一をもって貫くまで!

 突貫する正義。常闇の爪が次々と体を引き裂いていくが、致命傷の身を避け、体当たりするつもりで突撃する。

 一入(ひとしお)巨大な常闇の爪が行く手を阻む。

「阻まれるものかぁーーーーーーっっっっ!!!!」

 深紅の光輝を炎の如く燃え上がらせ、構わず突撃。僅かな拮抗をもって闇と光輝が相殺。しかし、正義の勢いは止まらない。

 ガツンッ! 兜に覆われた正義の頭と神威の頭がぶつかり合う。正義の兜が砕けるほどの衝撃に、さすがの神威もよろめいた。この大きな隙が、決め手となる。

 炎と見紛う光輝を放ち、それを神威の周囲に円状に取り囲む。円状に配置された光輝の輝きが神威の闇を払いのけ、彼女の動きを制限する。

 一度飛び退いた正義は自信に残された全ての光輝を魂の底から絞り出し、右手一本に集中する。

 未だ動けず悶える神威目掛け、正真正銘全てを注ぎ込んだ最強の一撃を手に突撃する。

 全身の光輝が炎となって燃え広がり、まるでフェニックスの様相を(かたど)り、圧縮された光輝の一撃をお見舞いした。

 本来音を発することのない光のエネルギーの衝撃は、その凄まじすぎる衝撃に空気が押し退けられ世界を揺るがすほどの爆音となって鳴り響く。

 吹き荒れる光は、まるで第二の太陽と見紛う威光の輝きであった。

 光が収まり、静寂が訪れる。

 光が消えた先では、ぐったりとした神威が正義に胸を叩かれた状態のまま制止している。

 あれだけ吹き上がっていた闇はどこにもなく、神威からは闇の気配を僅かにも感じない。

(や、やった………! 私が、神威を―――最強の一角を倒した………っ!?)

 期待が胸を突き、しかし油断はせず、ゆっくりと拳を引いて確認しようとした時だ。

「終わりか?」

 腕が捕まれ、何の気なしに問いかけがぶつけられた。

 戦慄しながらも正順はもう片方の拳を神威に向かってぶつける。全て出し尽くした光輝の輝きもすでに回復している。ほぼ全力と言える一撃が神威の顔面に激突する。が、手応えがない。まるで熱い鉄板を叩いたかのような硬い感触だ。

 一体何が起こったのかと拳をどけて見た物は、黒い板のような物だった。それが正義の拳を阻み、攻撃を無効化した。

「これは………っ! 闇を圧縮したものかっ!?」

「御明察。お前の全力と私の全力。綺麗に相殺させてもらったぞ」

 先ほどの一撃もどうやらこれで防がれていたらしい。動きを封じられたあの一瞬、神威は瞬時に考えたのだ。力自体は拮抗しているのなら、攻撃が当たる個所を完全に予測し、その一点に全ての力を集中すれば、完全に攻撃を相殺できるはずだと。そしてそれは完全にはまった。正義の渾身の一撃は封殺されてしまった。

(いやっ! まだだっ! まだ一分残っているっ!!)

 残りの時間を費やせば、もう一度逆転の一手を取れるはずだ! 己を鼓舞し、正義は神威の手から逃れようとし―――、突然神威がゆるりとした動作で抱き着いてきた。

 思考が追い付かなかった。行動の意味が理解できなかったのそうだが、神格化している自分が、この状況にすぐさま対処できない異常にも理解が及ばなかった。

 首に軽く手を回した神威は、とてもつまらなさそうな表情を正義の至近まで近づけ、ぽそりと忠告してきた。

「お前はまだ、神々の戦いに慣れていない」

 その一言で全てを理解した。神威は今、『禍津日神』の権能を使っている。その権能が何かまでは解らない。解らないがそれが権能なら対処はできる。自分も内側に向けて光輝を高めれば打ち消すことができるはずだ。

 だがもう遅い。圧倒的に遅い。さっきとは逆の状態だ。神威をよろめかせて大きな隙を作り、それが致命的な隙になったように、今度は自分が致命的な隙を作ってしまった。

 常闇の爪が神威の背より無数に伸び、正義の事を握りつぶすように殺到した。爪は球体となり、正義を封じる。暗闇の中、神威の権能から解かれた正義が慌てて光輝を高めるが闇を払い切ることができない。それより早く、神威が徐に翳した手から、冷たく黒い、禍々しい風が吹き抜ける。

「『八十禍津(やどまがつ)』」

 

 パンッ!!

 

 弾け飛んだ。自分の体が、肉が、血管が、内臓が、風が触れた瞬間、鎧を一切傷つけることなく、肉体のみを風船が破裂するように弾き飛ばされた。

 鎧の中が自分の血で溢れかえり、息をするのも辛い。視界も真っ赤に閉まってしまい、身体を動かせば鎧に溜まった血がたぽたぽと揺れる感触が全身で解る。気が遠くなりそうになるのを必死に堪え、神格を内より高め、瞬時に傷を癒す。だが、痛みが引かない。身体が弾け飛ぶと言う異様な感触が体から引いてくれない。それどころか魂その物か傷ついたかのように気力がそがれていく。一体自分はどうしたと言うのか?

 その疑問はすぐに思い至った。何しろ自分はこれに似たことを何度も経験しているのだから。

 自分は今、死んだのだ。強制的に殺されたのだ。彼女が放った風は触れた者を強制的に死に追い遣る権能だったのだろう。だから死の概念を持たない鎧は無傷で、自分の肉体だけがはじけ飛んだのだ。ただ死ぬのではなく、身体が弾けたのは、神格を保持していたため、その効果に抗おうとした結果だったのかもしれない。それでもおそらく数十回はまともに死んだと見てもおかしくない。それほどの衝撃が体感で解る。解るほどに鮮明な感触が全身を、魂を駆け巡っている。

 これ以上はマズイッ!

 遮二無二に飛び出す正義。

 もはやこれしかなかった。今の一撃はかなりの致命傷だ。残りのタイムリミットも三十秒。そしてこれ以上神威に先手を取らせれば確実に自分は負ける。今は無理矢理にでも前に出て、最後の攻撃を試みるしかない。

 神威は右手に常闇の爪を集中する。敢えて正義の最後の一撃に付き合う姿勢を見せる。

 残りの全てを賭け、正義は今一度魂を燃やし、神格の輝きを集める。全ての力をただ“一身”に集め、光輝の一撃となって全身で突撃する。正真正銘、全身全霊の一撃だ。

 神威はそれを見て、笑うことなく、全力で右腕を振り被り、ただ馬鹿正直正面から受けて立つ。

「うおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーっっっ!!! 全身全霊の一撃(ブレイブ・エンド)ォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!」

 正義が吼え、神威の眼光が鋭く光る。

 正面衝突、刹那に交差―――ッ!

 

「私を殺したければ、せめて朝宮刹奈でも連れてこいっ!!」

 

 バァアンッ!!!!!

 飛び散る鮮血。砕かれる鎧。綻び霞んで行く光の残滓。

 真正面からぶつかり、真正面から叩き伏せられた。

 「お前はまだここに立つには早すぎた」まるでそう語るかのように、東雲神威はただ背中だけを正義に見せ、その眼光はただ遠くへと向けられ続けていた。

 敗北を突きつけられた刹那の中で、正義は悔しさから強く歯を食いしばる。

 神威と戦った誰もが口にしていた。最強となった彼女に誰もがその台詞を口にするようになった。どうやら自分もその仲間入りを果たす時が来たらしい。悔しいなぁ、だが仕方ない。ああ、仕方ないさ。認めるしかないだろう? だって私は、少なくともここまで辿り着いたと言う事なのだから。認めないわけにはいかないさ………。

 

「刹奈の奴、どうやってこの神威と渡り合っている………?」

 

 リタイヤシステムの光に包まれ、退場する最中、正義は心の底からその疑問を呟いた。

 だが、胸の内はどこか晴れやかな気持ちでいっぱいだった。

 

 




≪あとがき≫

≪歌音≫「は、恥ずかしい目にあった………いろんな意味で」

≪絵心≫「うぅ、私も戦ってももらえませんでした………」

≪歌音≫「なんか今回、悲惨な目に合ってる子が多いと思う! せっかくの異世界出身者が、その辺まったく掘り下げてもらえずに敗北シーンの詰め合わせとかおかしいんじゃないのっ!?」

≪絵心≫「そうだ~~~! いくらスキップで負けたからって、もう少し掘り下げてくれてもいいじゃないか~~~!」

≪理々≫「そ、そうよね! 私だってせっかく完封勝利したんだから、その辺をもっと掘り下げてもらいたかった! 能力使えずに惨めにやられたのとはわけが違うんだし!」

≪歌音≫「ぎゃふん………」

≪絵心≫「私、これでもいろいろやってたもん! 色々作戦立てたり妨害しようとしたり頑張ってたもん! 能力設定ミスとかしてないもんっ!!」

≪歌音≫「ぎゃふん………」

≪美冬≫「『ぎゃふん』って、あんまり聞きませんよね?」

≪歌音≫「く、くぅ………っ! みんな仲間だと思ってたのに! もういいもん! 私は次回、美冬ちゃんとお互いの傷をなめ合って二人で寂しく生きていくも~~~んっっっ!!」

≪美冬≫「ええっ!? なんですかその意味深な発言はっ!? 不安になるじゃないですかっ!?」





≪正義≫「いいかい刹奈? ちょっと聞きたいことがあるんだ?」

≪刹奈≫「あらあら正義さん? 私に何か御用ですか?」

≪正義≫「刹奈は一体どうやって神威と渡り合っているんだい?」

≪刹奈≫「ま、またその話ですか? 神威と戦った人からは必ず問われるんですけど………、一応私も最強クラスですし? 私単純に強いのではないですか?」

≪正義≫「でも、刹奈は他の同級生に負けてるときあるよね?」

≪刹奈≫「まあ、私も万能ではありませんから、得手不得手は~~………(汗」

≪正義≫「なのに、神威は刹奈以外に負けてるところ、二年生になってから一度も見たことがない。これってどういうことかな?」

≪刹奈≫「さあ? でもあの子ってそんなに勝ち難い相手かしら? 私はそんな風に感じた事ないのだけれど?」

≪正義≫「やはり、秘密は全て刹奈が握っていると言う事か………(闇」

≪刹奈≫「な、なんでそんなことに? あ、あの? 正義さん? ちょっと目が怖いんですけど………?(汗」

≪カグヤ≫「俺も気になるなぁ~~? どうして義姉様は、刹奈御姉さまにだけは負けることがあるんでしょうね~~?」

≪刹奈≫「お、弟くんっ!? 一体どこから………っ!?」

≪龍斗≫「ああ、そこは俺も気になってた………(キラリーン」

≪刹奈≫「龍斗っ!? ちょっ、ちょっと貴方達っ!? みんな揃って一体どこから―――え? 待って? 三人とも怖い、やだ、お願いだから無言で迫ってくるのやめて! やだやだ、本気で怖いってば! やめなさ~~~~いっ!!!」


パリン、パリン、パリ~~~ンッ!

≪アナウンス≫「リタイヤシステム起動者、三名を確認。至急、医療班を回してください」




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おまけ編 【特別篇・フラグオン】

とりあえず、番外編、特別篇だけで来たので投稿します。
念のためご忠告しますが、あくまでフラグが立っただけで、ルートが確定したわけではないので、カップリング成立と勘違いなさらないようにお願いします。
なお、一話ごとに時系列が異なりますが、クラス内交流戦が始まる前の出来事で統一されています。

それでは、お楽しみください。

【添削しました】


ハイスクールイマジネーション8.5 番外

 

『特別編』

 

 

1『時系列・一学期 第三試験 金剛VSカグヤ戦前』陽頼×彩夏

 

 黒髪ツインテールにゴスロリ衣装、水面(ミナモ)=N(エヌ)=彩夏(サイカ)(♂)がルームメイト相手に最初にしたことは、ユニークな行動である。

「あいさつ代わりに私の目標を聞いてくれ。とりあえずルームメイトとは気軽にキスぐらいはできる関係になりたいと思っている!」

 開口一番にナンパなのか、セクハラなのか、とりあえず『通報する』が正解であることは間違いなさそうな発言に、ルームメイトの緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)は無言無表情ノーリアクションの眼差しを送るだけで応えた。

 タレ気味の金の瞳を真っすぐ、いかにもバカらしくなりそうな決めポーズを決めている彩夏へと向け続け、ただただ次の反応を待っている。

 元より、彩夏はわざとバカをやって相手のツッコミを引き出し相手がどういった人間なのかを確認しようと言うのが目的だったのだが、ノーリアクションだったことに少しばかり残念な物を感じてしまう。

(でも、目が白けてるとかそう言うんじゃないんだよなぁ~、戸惑ってる様子もなければ冷めてる雰囲気もない。本当にこっちのリアクションを待ってるだけ?)

 表情はおちゃらけた笑顔のまま、内心訝しく思う彩夏は、ならばお望み通りと、次のリアクションに移る。

「まずはお互い同じベットで寝られる関係からはじめよう」

 などと言いながらベットに座る陽頼の正面に立ち、両肩を掴んで思いっきり至近距離から瞳を覗き込む。

「………」

「………」

 反応は返ってこない。

 もしかして、このまま押し倒してOKっと言う事なのだろうか? え? じゃあ押し倒しちゃってもいいよね? っと、一瞬血迷いかけた彩夏だったが、そこはそこ、(彼にとっての)常識を重んじて行動には至らなかった。

 さて、こうなると本格的に自分は興味を持たれていないのか、それともただの無頓着なのか、あるいは単にリアクション自体が苦手と言うタイプなのだろうか? それによって自分も対応が変わってくる。この先、長ければ三年間を共にする相手だ。できる事なら友好的に過ごしていきたい。そのためにも、彩夏は相手の事をもっとしっかりと知っておきたかった。

 

 なのでとりあえず服を脱いでみる事にした。

 

 それも大胆に、できるだけ変態チックな美しさをイメージして一瞬で全裸になり、片手で脱いだ服を掴みながら片足立ちになり、そのままくるくると回転までして見せる。片手に持った服で大事なところだけはしっかりと隠すのがポイントだ。この時、色気たっぷりの流し目を送りながら一言付け加えるのを忘れない。

「親睦を深めるために、可愛い服に着替える。その方が親密になれると思わないかな?」

 さあ突っ込め。急ぎ突っ込め。こんなツッコミどころ満載の相手に、感情を爆発させて言いたいことを言いまくらずにはいられまい。嫌悪の眼差しを抑える事もできないだろう! あるいは興奮の眼差しか! もしくは目を見開く地味目の反応かっ!?

 期待を込めた眼差しを向ける彩夏。彼女ならぬ彼がその目に見た反応は―――、

 

 最初と変わらず淡々とした瞳で見つめられると言うノーリアクションであった。

 

 盛大に床に倒れ伏し、よよよ……っ、と落ち込んで見せる彩夏。本当はそこまで本気で落ち込んではいないし、この反応も予想の範疇ではあった。それでもこちらが何かしらのリアクションを重ねれば何か見えてくるものがあるのではないかと思ったが、陽頼の反応は淡白な物だ。言葉一つ返ってくる気配はない。

(これはむしろ、物静かな性格と言うだけで、表面上は反応らしい反応は返せないと言うだけなのかな?)

 それならそれで接し方はある。拒絶さえされないのであれば、いくらでも友好的な関係は結べる。問題は相手の感情の方だ。とりあえず自分に対してどんな印象を持っているのか、それだけは知っておきたい。

 なので早速女性用水着(これが小説でなければモザイク描写する他なかった、あらゆる意味で極物(、、))を着用して、適当に陽頼の白い髪を弄ってみる。それほど長いわけではないが短髪でもないので弄り方次第ではバリエーションを持たせられる。右側だけ寄せて三つ編みにしてみたり、左右下の方で纏め、飾り付きゴムで括ってみたり、いっそのことツッコミ希望でア○ム風にとんがらせてみたり、そうかと思えば髪弄りを止め、無言でくすぐりを仕掛けてみた。

 それに留まらず、かなり古いパラパラダンスを結構完璧に披露してみせたり、とあるドラマのワンシーンを再現してみせたり、いきなりじゃんけんを仕掛けて見せ、あっさり『鉄砲』で対応され「ノオォォ~~~~~~~ッ!!」っと、逆に自分が良い反応を引き出されてしまったり、最終的には自分の趣味の話を延々語り聞かせながら、セクハラまがいのスキンシップまでする始末。

 だが、結果的に陽頼は一言も発することもなく、ただ彩夏の事をじっと見つめるばかりだった。反応らしい反応と言えば、さっきのじゃんけんだったり、頷いての相槌くらいだった。

 いい加減諦めた彩夏は、勝手に陽頼のベットで横になると、最終的な印象を決定づける事にした。

(悪い子じゃないし、無視しているわけでもクールでもない。戸惑っているわけでもなければ信条で喋らないって感じでもない。一番しっくりくるのはド天然でこういう性格ってところかな? 結論、ノーリアクションに寂しいことを除けば問題無し。仲良くやっていけそうだね)

 結局相手がどう思っているかまでは解らなかったが、少なくとも迷惑がられているわけではないだろうと思う事にして、彼は納得することにした。

 ただやっぱり、せめてスキンシップは一方的なのではなく、互いにやりたいものだったと、そこだけは残念そうに溜息を吐く。

 ……っと、彩夏が荷物整理をするのを忘れていたと今更思い出し、少し休んでから手を付けなければと考え始めた頃、突然陽頼が思いがけない行動に出た。

 コロン…ッ、っと、実に自然に、彩夏の隣に寝転がって見せたのだ。

 なんで? っと疑問を抱き、陽頼の顔を覗き込むが、逆に陽頼も視線を真っすぐ返してくるだけだ。相変わらず反応らしい反応はない。

 意味が解らなかったので考えてみた。そして思い当たる節を見つけた。

 

『まずはお互い同じベットで寝られる関係からはじめよう』

 

 彩夏が陽頼に対して口にしたセリフだ。

 その事実を知った瞬間、思わず彩夏は噴出してしまった。

 無口無表情無反応の癖に、こんな変態的珍事を繰り返してきた相手のツッコミ待ち発言に律儀に応えて見せるルームメイトに、もう込み上げる笑いを抑えられる気がしなかった。

「もうっ、君は可愛いじゃないかっ! うんうんっ! 君とは末永く仲良くやっていける気がするよ~~~っ!!」

 一人はしゃぐ彩夏は陽頼を抱きしめベットの上でのたうち回る。結構力任せに愛でられているはずの陽頼だったが、終始嫌がるそぶりは見せなかった。

「ん? おや? 何か柔らかい物が手に……? ああ、君、女の子だったのか? ちなみに私は男だが、男も女のウェルカムだ!」

 一瞬、陽頼の体がピクリと反応したような気がしたのは、彩夏の気の所為だったのだろうか?

 

 

 

2『時系列・一学期 第三試験 金剛VSカグヤ戦後』

 

 東雲カグヤに敗北した伊吹金剛は、保健室から自室への帰り道、多少不貞腐れた表情をしていた。それと言うのも、カグヤに敗北したことにではなく、自身が使う疑似神格の後遺症による物に対してだ。

 疑似神格の多くには、その反動として権能の喪失など、シャレにならないような反動が多い中、自分の後遺症は比較的健全な物とも言える。それでも鍛え抜かれた体を失う今の状況は、どうしても思うところが出来てしまう。

 それともう一つ、懸念していることがある。

(俺ぇんの同居人には、すれ違いになったのか、まだ顔合わせができておらんのだよなぁ~? この状態を初対面にして、さて良い物か……?)

 懸念はあるも会わないわけにはいかない。なんせもう夜も更け始めた。いい加減、自分も風呂に入ってベットに横になりたい。同居人へのあいさつもしっかりしておきたい。っとなれば会わないわけにはいかない。なんせ今の状態は最低でも丸一日は続くのだ。初日から野宿するわけにもいくまいし、ここは腹を括るしかない。

 意を決して自室の扉をノック。しばらくの間が開いてからノック音が返された。おそらく返事だろうと勝手に解釈して入室する。ついに同居人との対面だ。

「………」

 そこには小麦色のショートヘア―の少女がニッコリと笑顔を浮かべて出迎えてくれた。着ている服は浴衣だが、着馴れているのかぴっしりと胸元までしっかり着付けてある。幼さが顔全体に広がり、その笑みからは穢れを知らない純粋さがこれでもかと強調されているが、……無言だ。顔は笑っているし、簡単な手招きなどで歓迎の意を表してはいるが、完全に無言なのでさすがに少々面食らってしまう。

 ルームメイトが女性であったこともあり、気まずい気持ちを抱きつつも金剛はしっかりとあいさつを述べる。

「初めましてになる。俺ぇんが、あなたと同室になる―――ッ!?」

 言葉の途中、金剛は少女に手を引かれて室内へと通される。女性に半ば強引に部屋に連れ込まれると言う状況に、ドギマギしながら、金剛は自分のベットの上まで連れ込まれる。

 突然の事態にどう反応していいんか困っていると、ルームメイトの少女は自分の荷物からスケッチブックとペンを取り出し、金剛と対面になるように自分のベットに腰かけ、(おもむろ)に何事か書き始めた。

 書き終えたスケッチブックを反転させ、少女は書いた内容を金剛へと見せる。

『御門更紗 っと言います。 よろしくお願いします』

 ニッコリ笑顔で告げられ、ここに来て金剛はようやく理解する。

「口が聞けなかったのか?」

『能力後遺症です』

 再びスケッチブックで回答。

 少々時間がかかるが会話できないわけではない。

「改めて、俺は伊吹(いぶき)金剛(こんごう)だ。それから、今は俺も能力の後遺症で本来の姿ではなくなっている。それを先に説明しておこうと思う」

 更紗は?を頭に浮かべていそうな表情で小首を傾げて見せる。

 金剛は説明しようとして一瞬だけ躊躇してしまう。

 何を隠そう、現在、筋骨隆々の偉丈夫たる金剛の肉体は、疑似神格使用の後遺症により、……なんという事でしょう、僅か五歳児近くまで小さくなってしまっていた。それはもう粗野で武骨だった顔面は見る影もなく、今やお肌艶々のぷにぷにで、性別の判断に迷いそうなほど幼くなってしまっています。

(女子と同室になるかもしれないと言うのは食事中に聞き及んだが、この子が俺の相手をまともにできているのはこの姿の所為ではないのか? もし本当の事を知ってしまったら、さすがに嫌悪するのではなかろうかな?)

 一抹の不安こそあれど、黙っているわけにもいかない。覚悟を決めて金剛は真実を口にする。

「俺は、本当ならもっと武骨な体をしている。あまり男としては魅力的とはいえん、むさ苦しい姿をしていてな、男女で部屋を共にするのは少々思うところが出来るやもしれん。もし、そちらが望むのであれば、俺の方から学校側に掛け合ってみるが?」

 少々苦々しい表情になってしまいながら提案する金剛。

 しかし更紗は、金剛の言っていることがよく理解できないように小首を傾げると、改めてスケッチブックに何事か書き始める。

『金剛さんは私に襲い掛かるつもりがありますか?』

「な、ない! そんなつもりはないぞ!」

 あんまりにストレートな問いかけに、金剛は少々(おのの)きながらも否定する。

 それに笑みを向けた更紗は、スケッチブックを脇に置いて、金剛の目を真っすぐ見据えながら―――、

「それなら私は金剛さんを信じます。金剛さんは決して私に不埒な事はしないって。私の信用を、金剛さんも裏切らないでくれるって、私は信じます」

 ―――っと、自分の口で、言葉で、声で伝えて来た。

 その声がとても清涼で、管楽器のような美しい声だったため、金剛は一瞬だけ声に魅了されて呆けてしまう。すぐに我に返って頭を振ると、内心混乱しながらも先に疑問に対する質問を投げかける。

「御門、声は出せんのでは?」

「声は出せます。ただ、私の能力は“言葉の全て”ですから、下手な事を言うと言葉の責任でしっぺ返しをもらっちゃうんです。例え冗談でも、私が紡いだ言葉はそれを実行してしまう。だからは私は細心の注意を払って言葉を紡がなければならない」

 更紗はそこで一拍の間をあけると満面の笑みを金剛へと向ける。

「だから、これは私の信頼の証と受け取ってください」

 御門更紗の『言の葉』の能力ペナルティーは実際とてもリスキーな物だ。

 例えば他人に「頑張れ」と一言応援の言葉を送れば能力により、送られた相手に頑張るための活力を分け与える事が出来る。だが、同時に応援の言葉を送った責任として、対象者を絶対に見捨てる事が出来なくなる。対象者が頑張ることを止めてしまっても、当人が頑張れるように働きかけなければならない義務が発生する。もし、対象者が最後まで頑張ることを放棄した場合は、応援の言葉を送った自身の力量不足とみなされ、それがトラウマ並みの精神ダメージとして跳ね返ってくる。それこそ、心に頑張ってほしいと言う期待を思い浮かべる度に、自分の言葉が他人を傷つけると言う事を思い出し、吐き気すら催すほどに。

 それほどまでに更紗の能力はリスクばかりが大きい、使い勝手の難しい能力なのだ。

 そんなことは知らない伊吹金剛であったが、それでも彼女が彼に対してした行為が、どれほど危険な事であるかは、漠然と予想できた。だからこそ彼は頷き、全てを呑み込んで受け入れる事とした。

(この信頼だけは裏切るわけにはいかんな……)

「御門がそこまで信頼してくれると言うなら解った。俺もその信頼を裏切らぬよう、務める。これからルームメイトとしてよろしくしてくれ」

 更紗はニッコリと笑みを向けると右手を差し出す。金剛も応えて手を握ると握手を交わす。

 金剛は思う。自分は今、疑似神格のペナルティーで幼児化している。そんな彼の手でも、握っている更紗の手は小さいと感じた。

 自分を信じ、受け入れ、己の道を真っすぐ見つめるまなざしを送る少女。だがそれでもその手は小さく、武の習い事など何もしたことのない綺麗で柔らかい、普通の女の子の物で、だからこそ強く想う。彼女を守っていきたいと。

 この日、金剛は彼女をずっと守っていこうと心に決め、今後、彼女のピンチを救ったりするのだが、それはまだ、ずっと先の話である。

 

 ちなみに、後遺症が治って金剛が元の姿に戻ったことで、さすがにそのギャップに驚いた表情を見せた更紗だったが、それでも可笑しそうに笑いながら、やっぱり受け入れたのは、翌日になっての事である。

 

 

 

 

 3『時系列・一学期 第三試験 金剛VSカグヤ戦後 一学期 第四試験 【クラス内交流戦】Ⅰ前』

 

 放課後の教室、超駆け足の通常授業を終えた黒い髪の少女黒野(くろの)詠子(えいこ)は教科書と、本日まとめたノートを適当にパラパラとめくりながら不貞腐れたような溜息を吐いていた。

(せっかく夢とロマンにあふれたファンタジー学園に入学したのに、やってるのは普通の授業だなんて……、つまんないよ……)

 入学試験の時のドンパチを思い出し、自分に迫ってきた砲撃を目覚めたイマジンで弾き返して見せた時は、本気で身震いしてしまうほどの感動があった。力の覚醒とは、それほどにまで心に衝撃を与える物なのだ。

 それだけに、今の彼女は通常授業しかしない初期期間に不貞腐れずにはいられなかったようだ。

(いくら最初の三日間が全生徒の授業内容の並列化を目的としているとは言え、一日目で小学生の授業をさせられるとは思わなかった……)

 これにはさすがに詠子以外の生徒も苦虫を噛み潰したような表情をした。彼女が所属するDクラスには齢十歳の生徒が存在する。そのためスタート地点がそんな後ろの方からになってしまっていたのだ。

 それでも、たった一日で小学校卒業レベルの内容を全て踏破したのだから、とんでもない駆け足授業だ。それを理解できてしまっている辺り、自分達(イマジネーター)も大概なのだが……。

 パタン……ッ、っと、最後のページを捲り終えて閉じてしまったノートを席に着いたまま眺め、詠子はまた嘆息する。

(これから帰って何しよう? いつもの中二トークで誰かと会話したいなぁ~? ああ、でもなんか、みんな私が話しかけると戸惑いがちなんだよね~?)

 決して邪険にされているわけではない。下界にいた頃は散々な扱いを受けたが、詠子としてはあの痛々しいキャラが気に入っている。気に入ってしまっているのだから仕方ない。それでも友人は欲しい。もはやオタク系にしか理解者は現れないだろうかと本気で悩んだこともあったが、幸いこの学園の生徒は、あの程度の痛いキャラに、戸惑いこそすれ忌避するつもりはないらしい。もう少し時間をかけていればいつの間にか普通に話せるようになっている事だろう。

「しかし、そのためには大いなる運命に導かれなければならない。約束されたリドルは、一体いつ訪れると言うのか……? いや、時は近い。再びこの時代にも運命の戦場が開かれ、大いなる選択に導かれし、新たなプロメテウス達が簒奪(さんだつ)せし権能を存分に振るう事であろう」

 呟く独り言が、既に中二チックになるのは仕様のレベルだ。個人的には気に入っている。こういう言い回しをするキャラは実に良い。それが中二病チックならなお良い。詠子はもはや“そういうキャラ自体”に憧れのような物を抱いていた。

 しかし、それでも一人で呟けば、それは等しくただの独り言。返答の無い呟きなど、虚しさしか湧いてこない。せめて誰か聞いている者でもいれば話は別だったが……、それでも語らずにはいられない。それほどにこの三日間はつまらない物だった。

「いかに厳しい戦いになろうとも、終末の聖戦(ラスト・ラグナロク)に辿り着くのは、………この黒の英知に他あるまい!」

 最後にビシッと気合の入れた声とポーズ(ただの横ピース)を決めて気分を奮い立たせようとするが、やはり退屈と言う魔物ほど、人のやる気を削ぐのに適した存在はいない。窓ガラスに映る自分の顔は、微妙に呆れた物へとなっていた。

 そんな時、唐突に声は掛けられた。まるで奇跡のような流れで。

 

「はっ! よくも吼えたな愚物! 誰も聞いていない所であれば、愚物であっても宣誓を許されるとでも思ったかっ!? 正に愚かな判断よ! 例え天上の世界であろうと、異界の壁を超えた先であったとしても、この(オレ)が存在する場所に、一片たりとも影など存在せぬはっ!!」

 

「な、何者ッ!?」

 条件反射でそんな台詞と共に振り返る。その視線の先には銀髪碧眼の少年が、教室の扉の前で背中を預け、見下すような視線で詠子を見つめていた。

「たわけっ! (オレ)の身姿を見て瞬時に名に至れるなど愚行の極み! この学び舎でなければ、その罪、死罪をもって贖うものであり、仮に知っていても愚物風情が(オレ)の名を気安く口にすれば、処刑をもって贖いとするところ。少しは己が身の程を弁えるが良い」

 自分から話しかけて置いて、高飛車な態度で突っぱねる美麗の少年。彼の名はシオン・アーティア。Aクラスの生徒であり、自分が認めぬ相手を見下しにかかる、Aクラス内でも特に尊大な男だ。

 無論、Dクラスの詠子が知っているはずもないのだが……。

「な……っ!? その身に纏うオーラはっ!? よもや、汝は彼の境界を越えし者だと言うのかっ!?」

 いかにも訳知りな態度で動作を交えつつ僅かに一歩下がる。シオンの語る言葉の断片から推測し、即興で脳内設定を作り上げて半分カマかけを交えて言葉を紡ぐ。

 そうとは知らないシオンは、僅かに興味を抱いたかのような表情を見せると、鼻で笑った。

「ふんっ、よもや異界の壁を超えた先の者が、この俺の事を知っていようとはな……。気まぐれに任せて愚物の程を(はか)りに来てみれば、存外知恵は回ると見える。いかにも俺がシオン・アーティアである。貴様程度がその目に映すことができる栄誉、(ひざまず)いて感謝を表すがいい!」

 尊大な態度で見下ろし、(わら)ってみせるシオン。しかし、その態度に対し、逆に今度は詠子が不敵な笑みを漏らす。

「この私を相手に“愚物”を称するか? “愚か”なのは一体どっちだ? シオン・アーティ? 実物を見るのが初めてであったとしても、お前の存在などとうに知っていて当然だ。この私こそを誰と心得ているっ!」

「なに?」

 尊大な態度を返され額に青筋を立てるシオン。

 臆することなく、詠子は自信に満ちた冷笑と共に、優雅なオーバーアクションで宣誓の如く名乗り上げる。

「我はこの世に覚醒せし、語られることなき八つ目の罪の魔導書にして、全ての英知を司り、織りなす魔王! 例え、境界の彼方より訪れし者であろうと、私の領域()に踏み込んだ時から、汝は私の知恵の一端を担ったも同然! 私の一部が、不相応(ふそうおう)にも我が身を処断するとなど、思い上がりも(はなはな)だしいっ!!」

 片手を胸に、もう片方の手の平を上に向けつつ相手に突き出し、おまけに能力を発動して背後に九種類の魔導書を出現させる演出まで付け加える気合いの入れようを見せる。

「……、なん、だと……っ!?」

 シオン唸り声を僅かに漏らし、静かに、しかし怒気の込められた驚嘆の声を上げる。

 無論、彼女の言葉を鵜呑みにして驚いているわけではない。むしろ自分に対して尊大な対応を返す愚物相手にとっくに興味をなくし、さっさと処断してしまおうと試みた。圧倒的な力の差を見せつけ、自分に対して尊大な態度を取ったことを後悔させてから殺してやろうと、己が能力『征伐』『オーディンの瞳』を用い、未来予知を行おうとした。だが、視えない。覗こうとした未来のビジョンが何一つ映らない。何かに邪魔されるかのように遮られ、未来の映像が視認できないのである。その事実に驚き、そして、それをさせていないのが眼前の尊大な少女だと理解し、初めて驚愕の意を示したのだ。

「どうした、異界の英雄よ? 我が領域()に触れてなお、己が盤石であると思ったか? ()とは、生半(なまなか)な物ではないと知るがいい!」

 勝ち誇ったように胸を張り、不敵に笑む詠子。

 言うまでもない事かもしれないが、別に詠子が本気で世界の全てを、それどころかシオンの事情を把握しているわけではない。そんなわけがない。全ては言葉の断片から読み取った矛盾無き予想で構成された、“らしい設定”である。ともかく詠子はそれっぽく振舞い、それっぽい存在感で、それっぽい空気を作り出すことで、自分の楽しい状況を作り出したくて仕方なかったのだ。そこに声をかけてきた相手が、あまりにも自分好みの発言をしてくれた物だから、全力で対応しようと(遊ぼうと)しているだけなのである。相手の設定を崩さないよう、配慮しつつ、自分の設定も呑み込まれないよう、名乗りと共に能力を発動し、自分に対するあらゆる危害を加えられないよう、全方面から防御の魔法式を組み立てる余念の無さまで見せつけている。

 よもや、その中二力全開の行動が、真面目に対応しているシオンと互角にやりあっている状況の正体などとは、さすがの彼も予想だにしていなかった。

「ふんっ、どうやら口先ばかりではないらしいな。だが、所詮は個の存在に零落(れいらく)した存在であろう? 貴様がこの世界の理として、今更臆する(オレ)と思ったか? たわけっ! この身は既に一度、一つの世界を呑み込んでいる。未知もいずれは既知となる。貴様がこの世界の理だと言うのなら、根こそぎ呑み込んでくれるはっ!」

「んなぁっ!? //////」

 挑戦的な笑みと共に打ち出された言葉に、詠子は一瞬だけ動揺して後ずさった。

(わ、私を根こそぎ呑み込む、って……!? すごい事言ってきたぁ~~~っ!?)

 もちろん詠子とてバカではないし、恋愛脳と言うわけでもない。シオンがどんなつもりでそんな事を言い出したのかくらいちゃんと理解している。それでも言葉の恥ずかしさから思わずたじろいでしまった。

 必死に自分の勘違いを諫めつつ、己のペースを保とうと試みる。

「わ、私を呑み込むとにゃ? な、汝が思っているほど、(ことらい)と言う物は、容易い物ではないぞっ!」←(噛んだ)

「はんっ! それこそ愚の骨頂と言うものだ!」

 ずずいっ! と、シオンが詠子へと顔を寄せてくる。思わず「にょわっ!?」っと小さく声を漏らす詠子。それに気づいているのかいないのか、シオンは不敵な表情で続ける。

「なるほど確かに(オレ)はまだ、この世界について無知だったようだ。だが、それも今だけの話であろう? この(オレ)が、この先一生を今のままで停滞する愚物と同類とでも思ったか?」

「わ、わわ、私の黒き英知は、人一人の器にに……っ! とどっ、留められる物ではないと知りぇ~っ!!」←(噛んだ)

「ならばっ! (オレ)が人の器を超えればいいだけの事!」

 ぐいっ! と、シオンは詠子の腰に手を回し、そのまま自分へと引き寄せる。詠子は体を引き寄せられ、腰同士が密着する少々バランスの悪い体勢にされ、シオンに自分の体を預ける形となってしまう。顔だけでなく体まで密着させられた物だから、更に意識してしまう。さすがに勘違いするほど恋愛脳(バカ)ではないつもりだが、それでもシオンのように整った美形顔で、ここまで熱烈なアピール((まが)いの行動)をされてしまうと、それっぽいシチュエーションを想像せずにはいられないものだ。

 さすがに顔を真っ赤にして慌ててしまっている物の、自分のキャラを壊すのが嫌で、必死に仮面をかぶろうとする。

「わ、わわ、私を、収めるに足りゅ……っ! (うちゅな)っ! ……にっ、なな、なれるなととと……っ! 本気かっ!?」

 誰か和訳してほしい。

 傍から見る者がいれば抱かずにはいられない程どもってしまっている詠子。

「たわけっ! この(オレ)を侮るなっ! 貴様の髪の一本から、魂の一欠けらまで、全てが俺の物となる。これは(オレ)の決定だ」

 だが、何故かシオンには通じているらしい。思いっきり挑戦的な口調でとんでもない発言をかましてきた。

(もしかしなくても、これはある意味告白なのでは……っ!?)

 さすがの詠子も、この発言ばかりは見逃せないものを感じ取って、顔どころか耳まで真っ赤にして恐れ(おのの)いてしまった。

(いや、既にこれはもう一つの告白なのではっ!? だってこの人、騙されているとは言え、私って存在が欲しいってことなんだよねっ!? だったらそれ、物欲であろうと強欲であろうと、もはや一人の女の子を欲しいって言ってるわけで、やっぱり告白だよねっ!? 自覚ないみたいだけどっ!?)

 色々考えると考えた分だけドツボな内容に、詠子はお気に入りの中二設定が崩れそうになるのを感じる。

(いやでも、こう言う王様主義者の人に命令されるのって、ちょっと憧れあったり……、元々誰かの命令を忠実にこなすのって結構気持ちいって思ってたし……、いやでも、私そういうガッチガチの優等生生活に嫌気さしてグレた口だし、ここで簡単に従っちゃうのってどうかと……っ!?!?!?)

 だんだん混乱してきた詠子が何事も返さずにいると、何を思ったのかシオンは彼女の腰を更に引き寄せ、心無し顔が近づき始めている。

「なんなら、今すぐお前を呑み干してやろうか?」

 問いかけながら、鋭い瞳が詠子を覗き込む。

 心臓が一つ弾み、一瞬思考が停止して呆然としてしまう。

 ゆっくりと浸透してくる言葉に、自然と詠子の胸に従いたいと言う欲求湧き始める。

(い、いいの? 良いのかな? 良いよね? だって、この人……)

 ゆっくりと進む時間の中で、詠子の視界にシオンの顔しか見えなくなるほど接近され、熱にうなされた様なぼ~~っ、とした表情になっていく。

(この人なら……、私のマスターでも……、いいよね……?)

 半ば受け入れの感情が芽生え、僅かに瞳を閉じかけたところ―――、それに気づき唐突に詠子の気分は冷めた。

 もはや口付けできるほどに接近していたシオンの口に人差し指を当てて接近を押し止める。一瞬、訝しそうな表情を作って止まるシオンに、詠子は容赦なく術式発動(イマジネート)。人差し指の先から大量の墨汁が流れ込み、(たちま)ちシオンの口内を満たしてしまう。

 

 

「ぶっ! ぶごあ……っ!?」

 堪らず詠子から離れたシオンは、口内の墨汁を吐き出そうと咳き込む。およそ人が口内に入れないであろう味に蹂躙され、おまけに何らかの呪いか毒も含まれていたらしく、体内のイマジンを大いに乱されてしまった。

 体内イマジンは人体を動かす上では特に重要な要素ではない。そのため立っていられなくなると言う事にはならないが、落ち着くまではイマジンの使用はおろか、『直感再現』などオートタイプも発動しない。つまり反撃不能の状態にされてしまったと言う事だ。

 これを不覚と言わずしてなんというのか? その屈辱を意識してシオンは表情を強張(こわば)らせ、詠子を睨みつける。

 だが、その視線の先には九つの魔導書を従え、悠然とした表情で佇む、一人の魔王が冷ややかな瞳を向けていた。

「愚かな男だ。嘗てはもう一つの世界(アンダー・ワールド)の一つを治めたであろう男が、その事実だけで満足し、自惚れを抱いたか? この身に宿るは黒き英知、貴様が吐き出した物よりも深淵であると知るがいい」

 優雅に黒髪を払い、悠々とシオンの隣を通り過ぎて行く詠子。その姿は紛れもなく女魔王であり、その風格は魔導における理そのものである事を如実に語っているかのようだ。

 屈辱、そして敗北感に苛まれるシオン・アーティア。自分が吐き出した墨汁を見つめ、自分が相手取った存在の大きさを自覚する。

 詠子が完全に消え去った後、次第に彼の心を満たしていったのは喜悦だった。

 自分でも何故、こんなに可笑しくなってくるのか不思議だった。だが、理由は明白だ。かつて自分が支配し、捨て去った世界に比べて、この世界はなんと強大である事か。

 彼がこの世界に訪れ、成り行きで入学することになり、一年生でも最も優秀なAクラスに所属することになった時、彼はそれが当然だと思っていた。嘗て世界を支配した自分が、別の世界に移ったくらいで、そうそう立場が変わるわけもない。たとえ神々の世界に送られたとしても、自分ならやっていけるとさえ自負していた。

 だが、この状況は何か? 真っ当な勝負ではなかったにせよ、Aよりも評価が劣るDクラスの生徒を相手に、舌戦で負け、一杯食わされ、反撃の余地なく過ぎ去られた。これほど痛快な事はない。

 シオンは生徒手帳を取り出し、中を開いてタップ。呼び出されたシステムスクリーンに、Dクラスの名簿を呼び出す。顔写真入りの名簿表に目当ての人物はすぐに見つかった。

黒野(くろの)詠子(えいこ)……っ! その名、しかと(オレ)の胸に刻んだ! いずれ必ず、お前の全ては(オレ)の物だ! 首を洗って待っているがいいっ!」

 この世界には自分が圧倒できない存在が下位クラスにさえ存在している。その事実が、これほどまでにも胸を躍らせるとは、嬉しい誤算だった。その最初の相手となった詠子に対して強い執着を抱きながら、彼は闘志を漲らせていった。

 

 

「く……っ! 静まれ……! 静まるのだ我が鼓動よ……っ!」

 赤い顔をした詠子は、未だに鳴りやまない胸の動機を押さえ、帰り道を歩く。

(うぅ……っ、いくなんでも流されちゃってたかなぁ……? 勢いで会ったばかりの男の子とキスしちゃってたら後で自己嫌悪が半端ないよぅ……。でも、ちょっと惜しい気もしたかな……)

 勢いがあったとは言え、さすがの詠子も初対面の相手に口付けを許すほど尻軽な女ではない。それでも一時心が許してしまっていたのは、それだけ彼の存在が自分のストライクゾーンど真ん中の魅力を秘めていたからに他ならない。

 それだけに、詠子は別の意味で惜しい気持ちに苛まれていた。

(キス直前で、あの挑戦的な目が、他人を侮った余裕の笑みに変わった。私を前に気を抜いた)

 それは詠子の事を侮られたと言う事だ。そんな物を許せるはずがない。自分が設定したキャラクターをバカにされ、「造作もない」と判断され、軽く扱える物だと(わら)われたことが許せない。そんな相手に使われるなど、願い下げだ。

「異界の英雄よ……、この黒き英知を我が物としたくば、幾多のプロメテウス達を薙ぎ払い、(ろう)の翼を持ってこの果てにまで辿り着くがいい。それは幾多のベルセレクを相手取るよりも、幾多を(はか)るロキと競うよりも、険しく困難な物……、決して私の前で気を抜くことは許さない」

 再び髪をかき上げ、バサリッと、黒き翼のように広げ、魔王然とした少女は妖しく嗤う。

「しかし、そうまでして手にした(神の知恵)は、漆黒に染まっていると言う事を……努々(ゆめゆめ)忘れない事たぁっ―――!?」

 

 ガツンッ!

 

 台詞を言い切る直前、詠子は寮の自動ドアに正面からぶつかってしまった。反応が遅れて開く扉の前で、詠子は最後に決める事も出来ず打ち付けた鼻を両手で押さえ、涙目になって蹲っていた。

 

 

 

 

 4『時系列・一学期 クラス内交流戦 前日』

 

 放課後の寮、二階に設けられたラウンジで、カルラ・タケナカは一人ソファーに腰を落ち着け、机の上に置かれたチェス盤を眺め静かに思考していた。ただのチェス盤ではなく、イマジネーターを数種類のタイプに置き換え動かすことのできる物で、正式名称を幻士駒(げんしごま)(イマジネート・ストラテジー)っと言うのだが、元となったのは普通のチェスで、それを学生達がイマジネーターの戦略を養うためにルールを改変し、現在ではギガフロート三都市にまでメジャーに広まったストラテジーゲームとなったものだ。

 さすがは過去の先輩方がより実践的になるように考案されただけあって、中々にシビアなルールが多い。チェス盤の裏はタブレットになっていて、色々設定を弄れるようになっている。難易度次第では駒の種類も100種類近くまで迫るほどだし、リアルタイムで駒が移動したり、駒自身が命令を無視してきたりなどと言うのもあり、データさえあれば、個人のイマジネーターを再現した駒まで作れてしまう。盤上の地形も思いのままなら、よりリアルを追求した、無映像版まで存在し、殆ど音声情報しか入ってこない始末だ。

 カルラは、自身の能力的にも、実力的にも、それなりにできる方だと思い、中間くらいの難易度設定で詰み将棋的な事をしていたのだが、これが想像以上に難物であった。

 自軍は数名で拠点に(こも)り、籠城(ろうじょう)の構えを取り、援軍が到着する五ターンまで間、なんとか凌がなければならない。だが、拠点は既に度重なる連戦が続き、殆ど籠城に適さないほどにまで防御力を低下させていた。対して敵軍は完全に周囲を取り囲み、逃げ道を完全に塞いでいる。敵のレベルもかなり高い様で、攻め込まれては一ターンも持たない。

 カルラはなんとか駒に口頭による指示を出し、五ターンを凌ごうと試みるが、何を命令しても上手く働かない。拠点に残された物資を最大限に利用した防衛力の強化も、見せかけによる相手への威嚇も、戦略戦術におけるトラップなどで迎え撃とうとしても、精々が三ターンしかもってくれない。どうせゲームだからと割り切り、結構無茶な命令や、誰かを囮にして他の部隊を逃亡させたり、逆に一人だけを逃がすため、他の全員を囮にしてみたりなど、考えられるパターンは全て試してみたが、結果は全て全滅で終わってしまう。これでは囮になったものも報われない。

「思ったよりも厳しいわね……」

 設定上、自軍に特殊能力者はいない。よく訓練された兵士と言うわけでもなく、精々一般人に毛が生えた程度の練度。とても一人一殺出来そうにもない。

 このラウンジで一人指していれば、他の誰かが興味を引かれて声をかけてくれることもある。その時は意見を交換し合って自分の知識の糧としていたカルラだったが、今回は難易度設定を上げ過ぎたようで、覗き込んでくる者はいたが、誰もが意見一つ上げれず、代わりに諸手(もろて)を上げて立ち去って行った。

 そろそろラウンジのテレビも消され、各々の部屋に戻り始める生徒が出てくる時間帯。いい加減諦めてしまおうかとも考えたが、どうしてもこの問題に執着してしまうカルラ。それと言うのも、先程から覗き込んできた生徒の中で数名、Aクラスと思われる生徒がいたのだが……、皆一様にある程度眺め、勝手に納得したらしく一人頷いて去っていったのだ。絶対コイツ答えが解ったぞ!? っと言いたくなるほどあからさまな態度でだ。約一名に至っては、悩んでいるカルラと視線が合った時に勝ち誇った様な笑みを漏らしやがったほどだ。

(ぜ、絶対解きます……っ!)

 能力をフルに使えば問題が解けそうな気もしたが、それでもそう言った能力を持たないAクラスの生徒が、自力だけで解いていったのだ。ここは戦略家としてのプライド上、おいそれと能力に頼ったりはできない。

(でも、これはいったいどうしたら……?)

 殆ど思いつく手段は全て試してしまった。ゲームだからと自爆テロ紛いの事もやらせてみたが、結果はむしろ惨憺たるものだった。正直これに関しては上手くいってくれなかったことに安堵したくらいだったが、それにしても自分の駒が弱すぎる。迎撃、防衛をいくら巧みに行っても殆ど効果がない。敵陣の司令官がとても慎重で用心深い設定らしく、こちらの誘いには乗ってこない。敵軍を一掃できる唯一の手段を軽く一蹴されてしまった時は、結構ショックだった。

 いよいよ袋小路に入ったかと、目が回る気分に陥ったところで、隣に座ってくる何者かの存在に気づく。紫色の短い髪にシャツに短パンと言うラフな格好をした少女、Aクラスの八束菫だった。

 またもAクラスなのかと微妙な気分になりつつも、何か意見を聞き出せないかと、思い切って話しかけてみる事にする。

「あの、何か解りました? これ?」

 おずおずと言った感じに訪ねてみる。

 菫は盤上を眺め、そこに浮き上がっている情報にさっと目を通した後、他のAクラス同様、納得したように頷きカルラへと視線を向ける。そして親指をぐっと上げて、無表情のまま声だけ自信に満ちた様子で断言。

「開き直って……、全力で、宴会、すればOK……っ!」

「なんですかその最後の晩餐っ!? 完全に諦めちゃってますよねっ!?」

「もしくは、門を開けちゃえば……いいと、思う……っ!」

 ふんすっ、と鼻息荒く自慢げに言い切られてしまった。

「降伏宣言しちゃってますっ! これ、勝利条件を満たさないなら全部敗北ですからねっ!」

「じゃあ……、盆踊り、する……?」

 小首をこてんっ、と傾げられて訊かれてしまった。

「この状況で何故盆踊りを……?」

「ヨーロッパに、行きたい、か~~……!?」

 盤上に向かって質問され、盤上の駒達が反応して『お~~っ!』『お~~っ!』『お~~っ!』と幾つも返答が返ってくる。

 こんな適当な指示でもない発言にゲーム盤が反応したことにカルラが驚いていると、その隙に菫は面白がってさらに指示を飛ばす。

「ヤッフゥ~~~……ッ!」

『ヤッフゥ~~~ッ!』『ヤッフゥ~~~ッ!』『ヤッフゥ~~~ッ!』

「三回、回って……、UFOを、呼ぶ……」

『アブダクション~~ッ!』『アブダクション~~ッ!』『アブダクション~~ッ!』

「ニッポン……ッ」

『バンザイ~~ッ!』『バンザイ~~ッ!』『バンザイ~~ッ!』

「ここは、アメリカ、でした……」

『NO~~!!』『NO~~!!』『NO~~!!』

「やめてくださいっ! 変な指示出さないでくださいっ!? ああ~、なんか一日分のターンが消費されちゃった~~~っ!?」

 やっと我に返ったカルラが止めた時には、既に貴重な一ターン目が終了を告げていた。

「な、何てことするんですか……、いえまあ、リセットすればいいだけの事なんですけど……」

 しかしログは残る。後日ログを確認する度にこの疲労感を思い出すのかと思うと、やるせない気分にさらされる。

 それなのに、何故か菫はまたも親指を立て―――、

「一日目、クリアー……」

 目をキラリッ、と光らせ(イマジンによる幻覚で割と普通に起こる)、悪びれた様子もなく(のたま)った。

(すっごい腹立つ……)

 この女殴りてぇ~~、などと言った思考が脳裏を過るが、さすがに本気で実行しようとは思わない。戦闘系能力を持たない上に、相手は自分より上位のAクラスの生徒。とてもではないが子供の喧嘩をして勝てるとは思えない。そうでなくても短絡的に手を出すのは大人げないし、自分の好みでもない。

 溜息一つで留飲を下げ、改めて盤上を見つめる菫の横顔を窺うカルラ。

(正直苦手かもしれません、こう言う人……)

 縦横無尽で自分勝手に振る舞い、場をかき回して一人だけ満足して去っていく、そう言う変わり者タイプの人間がカルラは苦手だった。それに加え、菫は常にどんな時も無表情で、何を考えているのか判らない。この学園ではまだマシと言えなくもないが、だからと言ってカルラが受け入れられるかどうかは全く別問題である。

 菫は、机の上に置かれた自由に食べていいラスクを一つ取ると端の方を齧る。何も知らなければ盤上で考え事に耽っている知的な少女と取れなくもないが、既にカルラには、彼女の頭の中で理知的な思考が巡っているとは思えなかった。案の定、菫は徐にこんな指示を出してきた。

「全員、合唱……! 大声で歌う、べし……っ!」

 付属のキーパネルまで勝手に呼び出し、歌のタイトルまで勝手に指示を出し、駒達は一斉に歌を歌い始める。しかもかなり意気揚々と。

「ここでなんで合唱なんかチョイスしてるんですかっ!? しかも一日中歌わせたんですかっ!? ああっ、また貴重な一日が消費されていくぅ~~~っ!?」

「二日目、クリアー……」

「無駄に時間を過ごしただけですけどねっ!?」

 泣きそうになるカルラ。高難度のミッションに、こんなふざけたログを刻んでいくことが、とてつもなく空しいと感じてくる。別段、それで自分が不利益を被るわけではないし、自分のキャリアだとかプライドだかを気にしての発言でもない。ただ、あまりに荒唐無稽(こうとうむけい)な事をやらかされて、やるせない気持ちになっているだけなのだ。

 だが、理解できないものと言うのは同時に不安を与えるのが常だ。まして、真面目にやっている人間にとって、このふざけてるとしか思えない状況を受け流せるほどの余裕はない。自然と、カルラは心がに棘が出来てくるのを感じる。

「それじゃあ……、次、は、創作ダンス……、でも躍らせて―――」

 菫が更に指示を出そうとしたところでカルラはゲーム盤を取り上げる。

「ふざけるだけならもう弄らないでくださいっ!」

 取り上げられた菫は、新しいラスクを齧りながら無表情に反論する。

「ふざけてる、けど……、“だけ”じゃない、よ……?」

「ふざけてるなら充分でしょ。あなたにとっては、こんなのただのゲーム遊びかもしれませんが、私にとってはそれだけでは済まされないんですっ!」

 戦闘能力を持たないカルラにとって、戦略は正に己の土俵であり、神聖な領域だ。それをただのおふざけで汚されたとあっては看過できない。

 それでも、ただ侮辱されただけなら彼女だって我慢するまでもなく聞き流せた。だが、ここまででAクラスの態度に少なからず劣等感を与えられたのは事実であり、心がささくれ立つのには充分だった。

「一体何を考えてるんですか? 人がまじめに悩んで、真面目に取り組もうとしてるのに、それを茶化して何が楽しいんですか?」

 小さなストレスも積もり積もれば爆弾となる。そして、そんなストレスでできた爆弾は、解り易いストレスでできた爆弾より、心に深刻な傷痕を残す。

「別に、楽しんで、ない……よ……? 楽しんでる、ように……、見え、た……?」

 小首を傾げる仕草に、(つい)にカルラの爆弾は臨界を迎えた。

 勢いよく立ち上がり、ゲーム盤を胸に抱き、彼女は突き上がる思いの丈をそのまま吐き出す。

「判るわけないだろっ!? どんな時でも表情を変えない癖に! 何考えてるか解らないんだよっ!!」

 菫の仕草は、顔の作りも相まって、可愛いと表現して問題はない。

 だが、それは彼女の表面上だけを認識した場合か、もしくは敵対心が無い、内面の方をよく知っていればできる余裕のある思考だけが許す認識だ。

 実際に目の前に立たれ、隣人として接すれば、敵か味方かも解らない他人に、意思表示である表情の変化を全く見せず、行動や言動が奇怪であれば、それは他者にとって正に理解不能、不安と一セットの正体不明(アンノーン)だ。まともな神経をしていれば、まともに付き合う事もできない。それこそマンガのような都合の良い切欠でもない限り、彼女と友好関係になるのは難しいだろう。

 根っから真面目なタイプのBクラスの生徒であり、自分の分野で悩まされ、未だ能力による本格的な実践もできず、己を何処に置いていいのか基準が解らないカルラにとって、爆発するには充分な要素が積もっていたのだ。

「………」

 菫は一瞬だけ間を取ってから立ち上がると、咥えていたラスクを齧り取り、(おもむろ)にカルラへと急接近する。

「な、なんですかっ!? 一体なも―――っ!?」

 急な事で怯えて後ずさりかけたカルラの口に、菫が食べかけのラスクを押し込み、強制的に黙らせた。

 突然の事に動揺して硬直するカルラ。

 菫は相変わらず崩すことのない無表情で、ラスクを指で軽く押し付けながら告げる。

「疲れてる時は、甘い物……」

 更に耳元に口を近づけ、いたわりに満ちた声音で囁く。

「大丈夫……」

「んぅ……っ」

 指でラスクが押し込まれ、口の中に甘い味が満たされる。菫の人差し指が一瞬だけ唇に触れると、そのまま菫はラウンジを後にして何処かへと消えてしまった。恐らくは自分の部屋に戻ったのだろう。

 しばらく固まってしまっていたカルラは、口の中に入ったラスクを呑み込み、片手で口元を隠しつつ呟いた。

「間接……なんですけど……?」

 女同士とは言え、さすがに頬が紅潮するのを感じながら、気まずい気持ちを味わっていた。

 頭は一瞬で冷静に戻った。

 それだけに今起こした自分の失敗が恥ずかしい。

 カルラは感情的に動く人間が嫌いだ。それが善であれ悪であれ、感情任せに動いた行動は碌な結果に繋がらないからだ。だから何も考えず、感情任せに動く輩は(やから)大っ嫌いだ。

(そんな私が、あろうことか感情任せにあんな事を………っ)

 罪悪感を超えて羞恥心が湧いてくる。いくら環境の変化によるストレスがあったとは言え、自分らしくない行動をとってしまった。恥ずかしすぎて床を転がりたい衝動に駆られたが、往来の場所でそれこそ恥ずかしいので必死に耐えた。

 代わりにゲーム盤を机に置いて再生し、先程菫がやろうとしていた事を再現する事で彼女の事を理解しようと試みる。殆ど羞恥心から逃れるための代替行為だ。

雨乞(あまご)いでも始めろっ!」

 殆どやけになって命令すると、駒達は一斉に雨乞いを始めた。その従順さ、涙が出るほど愉快な光景だった。

「次は宴だったかしら? その次は開門しちゃいなさいっ!」

 菫が言っていたことを思い出し、ターンが来る度に命令を付足していく。そして―――、

 

 ジャジャジャ、ジャ~~~~~ンッ!!

 

 ゲームがクリアされた。

「………へ?」

 援軍が先に到着し、無事、自分の(ユニット)達は合流を果たし、敵軍は撤退していった。

 一瞬何が起きたのか判らなかったカルラだったが、この状況がむしろ頭をクリーンな状態に戻してくれ、冷静に判断できた。

「ああ……」

 納得の呟きを漏らす。

 考えてみれば、確かに兵法にはこんな手段がちゃんとあったではないか。

 敵に囲まれ、窮地に立たされた状況なのに、むしろ笑い合ってバカ騒ぎなど始めたら、何かの策かと疑い、様子を見たくなる。そしたら今度は敵が“自軍の国の歌を歌い始めた”のだ。これは自分の国の者が誰か寝返っている可能性があるのではないかと自軍にまで疑いの意識を向けてしまう。更に様子を見ていれば、敵は戦いの準備そっちのけで妙な踊りを始めたり、籠城の身で少ない食糧を使って宴を始めたり、挙句の果てには門まで開いてしまった。こんな敵軍の行動、意味が解らず混乱してしまう。慎重で用心深い司令官ならなおさら策を疑ってかかるのが普通だ。

「つまり、この敵の司令官は、先程私が八束さんに怒鳴ってしまった時と同じ心境だったと……」

 理解できない物は不安を抱かせる。不安は人の心を蝕む最強のカードだ。この敵司令官(ユニット)も、自分も、八束菫にしてやられたと言う事だ。

 それでも、冷静に考えていれば自分で辿り着くことのできた解だ。それがここまで引きずってしまったのは、自分でも気づかないほどストレスを抱えてしまっていたからなのだろう。頭が固くなっていることを自覚し、カルラは自分を労わる事を肝に銘じた。

(そう言えば、最近甘い物食べてなかった……)

 菫にラスクを押し込まれたのも、その辺を見抜かれていたかもしれないと思うと、余計に恥ずかしくなってくる。

 Aクラスの生徒………。

 とても理解の難しい、独特のリズムを持ち、唯我独尊の連中ではあるが、その能力は間違いなく一級品。コンディションが悪かったとは言え軍略の勝負で自分が負けたのだ。『A』の評価は伊達ではなかったのだと理解する。

「あ~~……」

 そこでふと、カルラは思い出して天井を仰ぎ見る。

(失礼なこと言ったこと、謝らないと………)

 失態を思い出し、自己嫌悪+羞恥心。

 記憶は連鎖的に引っ張られ、その後の出来事まで思い出してしまう。

 

『大丈夫……』

 

「………~~~~~~~っっ/////」

 労わりの声を思い出し、カルラ・タケナカは、恥ずかしくなって額に手の甲を押し当てて視界を隠した。

 この日から、なんとなく八束菫を意識するようになってしまったカルラだった。




今回あとがき無し


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おまけ編 【従属者達の語らい】

短めではありますが、おまけ編最後も書き上がりました。
さあ、今度は本編だ。
いい加減進めていこうぜ!

少々、皆さんが期待している内容ではなくなってしまったかもしれませんが、それなりに楽しんでもらえれば幸いです。

【添削済み】


『時系列・クラス内対抗戦、各クラス代表決定戦終了後、学年最強決定戦前』

 

 イマジネーションスクール、柘榴染柱間学園。部室棟と呼ばれる柊の方向に設けられた三階の教室にて、そのサークルは存在する。

 

『イマジン体、特別協定友好会』

 

「要するに、イマジン体の子らだけでお話ししましょうって事やね」

 このサークルの名誉顧問、吉祥果ゆかりは、適当に並べられた机の、上座の位置でそう宣った。

「イマジン体とは言え、いきなり先輩方に会うのも緊張しはるやろぉ思うて、最初は一年生のイマジン体だけに集まってもらったんやけど………、なんか不参加の人らもおるみたいやな? まあ、それはおいおい強制参加してもらうからええけど」

 とりあえずと言った感じに、ゆかりは集められたメンバーを再確認する。

 朱い髪に背中から羽、おでこからは角を生やした露出度の高い衣装に身を包む25推定の女性悪魔、アスモデウス。

 清楚な雰囲気のワンピースに蒼い髪をして27くらいの女性の容姿を持つ悪魔、シトリー。

 どちらもレイチェル・ゲティンクスの悪魔。

 セミロングの金髪碧眼でメイド服を着用してる物腰柔らかな美女、紫電。 八雲家三大宝剣、雷切丸の一振り。

 常に明るい笑顔を見せる黒髪セミロングの三つ編み少女、村雨。失われた八雲家の宝剣の一振りとされる、妖刀村雨のイマジン体。

 この二人は八雲日影の二本の愛刀である。

 濡れ羽色の長い黒髪に、黒曜石の瞳、冷たい印象を齎すクールな表情を浮かべる18前後の少女は九曜。地中畜水(ちちゅうちくすい)を司る井戸の水神、闇御津羽(くらみつは)

 炎の様な真っ赤な髪に、両端から牛の様な角を生やし、紅玉の瞳を持つ幼女。天女の様な羽衣衣装を纏い、女の子用の下駄を履いている、カグラ。炎を司る火結(ほむすび)の神、軻遇突智(かぐづち)

 東雲カグヤの神威―――式神達だ。

 14前後と思しき、赤い頭巾を被った可愛らしい少女はリンゴ。童話の赤ずきんをモデルとして召喚されたイマジン体。

 緑を基調としたスカートをはいた16歳頃の容姿をした中世的で可愛らしい少年、ティンク。童話のピーターパンをモデルとして召喚されたイマジン体。

 こちらは音木(おとぎ)絵心(えこ)が主である。

 最後は黒のボブカットに赤の瞳、目元のソバカスと笑顔が印象的な少女、ウミ・イアケス。主であるリク・イアケスの姉であり、イマジンにより再誕した故人(こじん)のイマジン体である。

 以上、ゆかりを含めた10名が、今回サークルの参加者となっている。

「当サークルは無礼講、ここで話した内容は外では活用できんよう、特別なイマジネートが掛けられておるから、主の事を気にすることなく言いたいこと言って良いんよ? 人間や主には話せない、イマジン体としての悩みを語り合えるようにするために、このサークルは作ったんやから。私が」

「先生が御作りになったんですか?」

 金の髪を耳にかけながら、紫電は意外そうに声を漏らす。

「うん、そうなんよ。私が学生の頃、姫ちゃんのために作ったサークルでなぁ~♡ って、そういう昔話はまた今度。今は皆の交流を深めようやないの?」

 そう促すゆかりだったが、半分はあまり賛同的ではない気配を滲ませている。

 賛同的なのは紫電を筆頭に、村雨、ウミ、ティンク。

 反対的なのはアスモデウスとシトリー。

 完全無関心な様子なのが九曜。カグラ。

 リンゴだけは外面的には賛同者としてニコニコだが、内面的には「どうでも良いからさっさと終わらせろやこれっ!?」っと言う邪念が滲み出ていた。

 まあ、ゆかりからしてみれば毎度の事なので、そこら辺は気にしない。どうせ遅かれ早かれ、このサークルは彼等に必要になってくる。今は、その時に円滑に相談事を話せるよう、パイプを作ってやることの方が大切だ。

 なので、ゆかりは反対ムードを出す相手から順に、意見を聞きつつ説得しておくことにした。

「ゲティンクスさんとこのお二人は反対? こん集まり」

「正直、必要とは思えません」

「レイチェルに言われなかったら、わざわざ敵と馴れ合おうなんて馬鹿げた企画、参加なんてしないわよ?」

 シトリーとアスモデウスは、それぞれ拒絶の意を(あら)わにしてはねつけるように言う。

 「こんな事ならロノウェーのように無理矢理残れば良かった」と、二人はそれぞれ呟きを漏らす。

 ゆかりはなるほどと頷きながら、今度は九曜達へと視線を向ける。

「二人は反対ってわけやなさそうやけど、賛成でもない感じかなぁ?」

「私は我が君の命を全うするだけよ」

「よく解んないけど、お兄ちゃんが参加した方が良いっていうから……」

 サークル自体に不満があると言うよりも、九曜もカグラも、主の傍を離れる事の方が不満と言う面持ちだ。

 そんな二人にも頷いたゆかりは、改めてこのサークルの必要性を説明することにした。

「このサークルはな? 自由参加の部活のていを保っとるけど、ある意味授業としても大切なカリキュラムなんよ。それと言うのも、“イマジン体生物学”上、イマジン体には例外無しの共通疾患、精神的負荷―――要するに“お悩み”が出てくるんよ。こればっかりは回避しようがなく、放っておくと自分の存在その物を保てなくなるからなぁ。できればしっかり受けていってほしいぃ」

 これは必要な処置の一環であり、最低限の健康診断にも等しいのだと、ゆかりは切々と語る。

「それに、『敵同士』っていう考え方は間違ってるよぅ? 学園(私等)は戦闘行為を推奨はしても、敵対意識は推奨してない。あくまで戦闘行為は切磋琢磨の一例であり、個人の関係にまで発展してほしくないかなぁ? まあ、人の好き嫌いはどうしても出るから、その辺うるさくは言わんようにしたいけどな」

 っと言いつつゆかりは、一番近くにいる九曜とシトリーの手を掴み、無理矢理握手させようとする。

 九曜とシトリーは、それに全力で抗いながら「うるさく言わないだけで干渉はするのね……っ!」っと言いたげな冷たい視線をゆかりに向けるが、当の本人はどこ吹く風だ。

「まあまあ、不満でもなんでも、結局ここに来ちゃったんだからさ? これ以上文句言うのやめない? ってか、ここは“そう言う事”をするための場所なんだから、この場所で文句言うのはただの愚痴と変わんないんじゃない?」

 あっけらかんと言いのけてしまうウミは、そこで自分の発言に気づき、はっとした表情をする。

「あれ? ってことは仲間内で愚痴言ってるんだからこれはむしろ協力的って事かな? なるほどなるほど! これは私も愚痴を零さないとねぇ~~!」

 ウミの物言いにうんざりしたのか、アスモデウスは頬杖をついてそっぽを向く。

 シトリーと九曜は、ウミの言う通り今更ここで文句をつけるつもりはないらしく、黙って瞑目する。

 話の流れからウミは愚痴っぽい事を探して話し始める事にした。

「って言っても私は特に今に不満があるわけじゃないんだけどね? それに愚痴は皆が共通してないとつまんないしねぇ~~……? 主の不満でどうよ?」

「「「「「「それでっ」」」」」」

 ウミの提案に、九曜と紫電以外が一斉に同意した。九曜も表面的には同意していない物の、概ね問題無いと言った風体である。

「み、みなさん……っ」

 ちょっと焦った様子で小さく窘める紫電だったが、その言葉は誰も聞いていない。主を同じくする村雨でさえ、どこ吹く風と言った感じだ。

「うちのリクは主としては問題ないよ。ちゃんと成長してるし、このままいけば良い感じの王様になれると思う。いや、なれると信じているわ! でも、お姉ちゃんを素直に頼らないのはどうかと思うわね? 王様を目標にしている所為で家族の温かみを忘れるようじゃあ、まだまだ王道には程遠いわ!」

 力説された内容は、むしろ主の方が苦慮しているのではないかとも解釈できる内容で、同意しかねる紫電はついオロオロしてしまう。

「解るわその気持ちっ! お兄ちゃんも、もっと私にスキンシップを求めた方が良いはずよ!」

 同意しかねる内容に賛同者がいたことで「ええっ!?」っと言った感じにびっくりする紫電。隣の席に座るカグラは、赤い髪を振り乱し、小さな火の粉を散らしながら拳を握って話を広げる。

「大体! お兄ちゃん超が付くほどエッチなくせに、なんで私に対してはナデナデくらいでストップなわけっ!? 一緒にお風呂まで入ったのに鼻血はおろか、興奮もしないってどういうことっ!? 恥ずかしいの我慢して体洗ってもらっても、平然と隅々まで“普通”に洗われただけだったわよっ!? 我が子を見る父親の心境に達した目だったわっ!?」

 「広げる話の方向がおかしくないですかっ!?」っと、小声で反論する紫電だが、みんな聞こえているはずのツッコミはスルーしていく。

「え? なに? あんたの『お兄ちゃん』って、あのレイチェルが意識してる女顔の坊やよね? ……あのエロい子にアンタ相手されないの?」

 唖然とした表情で話に乗ってきたのは以外にもアスモデウスだった。淫欲の悪魔である彼女にとって、性的な内容が絡む話は興味を引かれる物らしい。

「そうよっ! そのお兄ちゃんがなんでか私には健全止まりスキンシップしかしてくれないのよ!」

「接吻をせがんでおきながら、いざされそうになったら急に罵り上げて突き飛ばし、我が君を混乱させたのはアナタでしょう……」

 九曜に突っ込まれ、勢いをなくして視線を逸らすカグラ。その口からは言い訳めいた呟きが漏らされる。

「いや、全然OKなの。キスどころかそれ以上に行っちゃっても私的には問題ないし、むしろドンと来いみたいな? けど、お兄ちゃん普段は踏み込まない癖に突然踏み込んでくるから、それで思わずびっくりしちゃうっていうかね? いや、ホントOKなのよ? 私、愛されたいんだよ? ただお兄ちゃんのタイミングがいつも私の意表をつくばかりだから、つい素直になれなくなっちゃったりしたわけで……」

「何そのツンデレ? ツンとデレの順番が逆なんですけど?」

「カグラちゃって、もしかして口だけなのぉ~~っ!?」

 村雨が面白そうに漏らし、リンゴがきゃぴきゃぴした態度で物凄い辛口な意見を口にする。

 むっとしたカグラはリンゴに向けて反論した。

「私が悪いんじゃないわよ! ムードを無視してくるお兄ちゃんに問題があるの!」

「ええ~~? でも、やろうと思えば普通やれますよねぇ~~? ムードがなくてもぉ、踏み込むことはできると思いまぁ~すっ!」

 人の神経を逆なでするような明るい声で挑発ともとれる発言をするリンゴに、この後の激昂を予感し怯える紫電。だが、予想とは裏腹に、激昂はなく、むしろ冷めた表情のカグラがテンションを落として席に座り直していた。

「ムード無視でやってどうすんのよ? それじゃあただの肉体関係じゃない? 私はお兄ちゃんのこと好きだもん。好きな人とするなら、ムードを大切にするのは当たり前でしょ? それが“愛し合う”って行為なんだから」

 この中で最も幼い容姿を持つ少女は、その容姿に見合わない大人びた瞳で愛を語る。その姿に驚き、思わず息をのんでしまう紫電だが、考えてみれば彼女は日本神話から生み出されたイマジン体。目合ひ(まぐわい)も殺し合いも当たり前にあった、割りとエグイ世界観の住人だ。こういった内容にはむしろ(さと)い方なのだろう。

 先程の子供のような怒りを完全に消し去ったカグラは、火の神であることが嘘のような冷静さで、しかし火の神であることを示すかのような猛々しい瞳で、リンゴを指さしトドメを刺すように告げる。

「あんた、恋愛どころか情愛も経験したことないでしょ? あんたより零落(れいらく)気味の“ヘシェム”の方がまだ話せるわね」

 カグラの言葉にリンゴは笑顔を一瞬で崩し「あぁんっ?」っと睨み据えたが、カグラは既にリンゴには興味を無くし、アスモデウスの方へとニヤニヤした瞳を向ける。アスモデウスの方はと言えば、何やらバツが悪そうな不満げな表情で視線を逸らし、舌打ちしてから視線をカグラへと戻す。

「さすがは“親殺しの神様”ね、人の嫌なところを突いてくるじゃない? でも、一応訂正しておくわよ?」

「何かしら? もしかして“アエーシュマ”の方が通りがよくて良かったかしら?」

「どちらも違うわ。私はレイチェルが呼び出した『ソロモンの悪魔』よ。悪事成すだけの拝火教(ゾロアスター)じゃない。主に知恵を授ける、72の悪魔の一柱よ」

 誇り高く告げるアスモデウスの発言に、からかいの意識を消すカグラ。同時に紫電も、今の発言で気づいてしまう。

 拝火教(はいかきょう)で語られる悪魔“アエーシェマ”、怒りと凶暴を意味する拝火教(ゾロアスター)最高神の悪魔アンリ・マンユに仕えた大将格であり、名のある天使を三体も相手取ったとされる強力な神格を有する存在。そして“アスモデウス”の原型となったされる神格。

 事実はどうであるかは定かではない。そもそも神話から作り出された自分達は、更に受け取り手である主達の理想や想像によって過去を設定されている。イマジン体にとってはその設定こそが事実であり、過去だ。アスモデウスが“アエーシェマ”の別名“ヘシェム”に反応した以上、どうやら零落した存在と言うのは間違いではない設定らしい。少なくとも彼女の設定されている過去には、嘗て“アエーシェマ”として人々に絶望的な破壊をもたらした過去があるのだろう。

 そしてその上で、彼女は嘗ての偉大な力を持った“アエーシェマ(過去)”を否定し、ソロモンの知恵の悪魔“アスモデウス”であることを明言(めいげん)した。

 四大天使の一角に、エジプトまで逃げ回った挙句に幽閉されることとなった、たかだか一人の女性を苦しめただけの悪魔にまで零落した“アスモデウス”と言う存在を、誇りをもって肯定して見せた。

(この方は……、よほど主の事が好きなんだ……)

 忠誠か友愛か、もしくは“アスモデウス”らしく情愛なのかもしれないが、主を誇りに思っていることに変わりはない。自分を“アスモデウス”として呼び出してくれた主を、彼女は心より信頼し、そして愛しているのだろう。

 なんだか眩しい物を見た気になって微笑む紫電。

 カグラもまた、何か思うところがあったのか表情を和らげ、あっさり肯定した。

「そう? そうよね。アナタの事だもの。アナタが言う方が正しいわね。無為な詮索をして悪かったわね」

「まったくよ。そうやって変なところに茶々を入れるから、あなたは幼い姿のまま“最短の神話”で神格化することになったのよ」

 「あ痛ぁ~~……っ」っと言った感じに表情を曇らせるカグラの態度に、今度は彼女の事情が読み取れてしまった。

 カグラの正体は火結(ほむすび)の神、軻遇突智(かぐづち)。産まれてすぐ、己が炎の神格によって母たる伊邪那美(いざなみ)を死なせ、父たる伊邪那岐(いざなぎ)(あや)められた、日本神話の中でも最も短い神話を残した神であり、そして多くの者が知るメジャーな神だ。

 人となりも語られず、功績も上げることなく、産まれてすぐに災厄を(もたら)し、同時に生涯を終えた最短の神。故に彼女の姿は幼く、愛を強く渇望する存在となって顕現した。母に抱かれることもなく、父から教えを説かれたわけでもなく、その手で愛しき者を(あや)め、愛しんでもらえるはずだった者に(あや)められ、一切の愛情無く神格を得た彼女は、自分を生み出してくれた主に、特別な愛情を望んで止まないのだろう。

 アスモデウスに返され、痛がって胸を押さえるカグラの表情には、憐憫(れんびん)も焦燥も感じ取れない。軽い冗談として受け流している。しかし、その胸の内に一体どれだけの渇愛(かつあい)を秘めているのか、想像するだけで、紫電は胸を締め付けられる想いに駆られる。

「へぇ~~……? 私はアレだからよく解んなかったけど、神話とかをモチーフにされたイマジン体って、思ったより複雑な過去があったりするものなのねぇ~?」

 同じイマジン体の集まりの場で、同じイマジン体のはずのウミから、まるで他人事のように告げられ、皆が一斉に微妙な視線を送る。

 送られたウミは、失言だったかな? っと僅かに慌てて苦笑しながらフォローを口にする。

「いやさ、私は元々生きた人間だったし、その魂をイマジン体に収めてる感じだから、個人的には蘇生か転生って感覚なのよね? だから、そんな壮大な神話級の過去はないのよ? ……まあ、これでも現代の世界戦争級の死亡者ではあるんだけど……」

 ウミの台詞に、皆納得したように視線を和らげる。代わりにゆかりの瞳が、珍しく真剣な物になってウミを見つめていたが、彼女の視線には誰も気づかなかった。

「ええっと……、やっぱ、リンゴちゃんや“シデン”さんにも、そんな神話級の過去とかあったりするの?」

 ぴくりっ、と反応したのはリンゴ。紫電は微妙な表情になって「えぇ~~っと……」と零す。

 紫電、村雨は実在する霊剣のイマジン体、いわば精霊と言ったところだ。とてもではないが、アスモデウスや軻遇突智などと言う、権能を操る神格に比べれば、一つの属性から生み出された精霊など、見劣りしてしまう。

 っと言っても、その見解は奥ゆかしい紫電だからこそ抱く物であり、イマジンのレベルで語れば精霊でも充分神を墜とせるのだから、決して見劣りするものではない。

 だが、それはそれ、これはこれだ。

 話の流れから神話級の逸話を期待されている手前、紫電は見劣りする宝刀の話などを聞かせるのに軽い抵抗があった。

 

 それ以上の抵抗を、童話出身のリンゴとティンクが抱いていることなど露知らず……。

 

「私等はこれでも逸話付きの霊刀なんだよ! って言っても神話級っていうのはちょっと言い過ぎだけどねぇ~~!」

 あっけらかんと言ってしまう村雨の発言に、ウミは紫電に対し「そうなの?」っと言う意味の視線を送る。紫電は苦笑いで頷いて答える。

「ああ~、『村雨』の名前と“神刀”ではなく“霊刀”の類だと聞いて納得しましたぁ~! つまりアナタ達って、神話級どころか幻想級以下の部類ってことですねぇ~~?」

 なぜか得意げな笑みを見せながら、リンゴはディスるように紫電と村雨の核心を突いてくる。

 ズキリッ、っと胸が痛んだのは紫電だ。八雲家三大宝剣の一振りである彼女にとって、その事実は急所と言うべき内容であったからだ。

 それを見逃さなかったリンゴの目が、獲物を狩る狩人のそれへと変わる。相手の反応の機微、自身が会得している知識から推測し、彼女の正体を暴いていく。

「でも不思議ですよねぇ? 『村雨』は聞いたことがあるんですけど、『紫電』は聞いたことがありません。幻想級と言っても、それなりに名は知れているはずですよね?」

 神話級と幻想級―――、神話級は言葉の通り神話として語られ、偉大な功績を語られるレベルであり、神秘の力の再現を行えるレベルを指す。本で例えるなら宗教本や英雄譚、国の成り立ちなどに関わる物等、重要性の高い物を神話級と表す。

 対する幻想級とは、神話として語られずとも、相応の物語として語られる物を指す。昔話や英雄の伝承、御伽噺などもこれに類する。

 このメンバーで表すなら、元が神である九曜、カグラは当然とし、魔人級の悪魔であり、宗教にも絡んだアスモデウスやシトリーは文句無しの神話級。

 対して御伽噺の出身であるリンゴとティンク、『八犬伝』と言う空想の物語が出身の村雨は幻想級とされる。

 ちなみに、ウミのように大した過去の功績を語られず、実在した人間の魂から転生している物は『風聞(ふうぶん)級』と言われ、噂話程度の、本にすらなっていない物を指す。

 これらの値はイマジンにおける強弱には、大した影響はない。イマジンは他人の理想や想像を利用する以上、メジャーな神話などに頼る方が強力になるのは確かだ。同時に弱点なども神話などに影響され、時には勘違いのイメージやプロパガンダによって弱体化させられる場合もある。その点、オリジナルイメージや当人しか知らないマイナーな知識で生み出された能力は、圧倒的な力がない代わり、安定していて弱点がない。他人に最強のイメージを抱かせることに成功すれば、神話級よりも恐ろしい無敵の能力となりえる可能性もあるのだ。ただし、“長い目で見れば”と言う条件は付いてしまうが。

 つまり、能力と言う意味においては神話級だの幻想級だのは、優劣ではなくタイプの違いと言うのが正しい見解となる。だが、イマジン体である彼女達にとっては、自身の存在を指す物である以上、別の意味合いが生まれる。それが“(はく)である。自分の生まれが『銘家』であるかどうかと語っているような物。特に紫電にとっては複雑な事で、彼女を納める家は七咲(ななさき)と呼ばれる旧家の一つ、八雲家で、神話級の神刀を宝刀として預かっている程の家である。その八雲家三大宝剣の一振りともあろうものが幻想級などと言うのは、当人達イマジン体にとっては恥じ入る事でもあるらしい。

 故に複雑な表情を浮かべる紫電は、それでも風聞級扱いされることだけは主のためにもできず、しかし嘘を吐けるほど図々しくもなれず、素直に自分の正体を晒してしまう。(もちろん、サークル(この場)だからこそできる行為である)

「私も幻想級です……。八雲家三大宝剣の一振り……」

 できるだけ最小限に呟かれた情報は、しかしシトリーによって完全に暴かれる。

「思い当たりました。『紫電』は東方の国の言葉で『雷』を意味するのでしたね? 雷を纏う剣、それも神話級に存在する“諸刃”ではなく“刀”であり、幻想級の存在。アナタの正体は『雷切丸』の一振りでしたか」

 紫電の表情が更に曇る。膝の上で握られた拳に自然と力が入ってしまう。

 霊刀『雷切丸』は、立花道雪(たちばなどうせつ)が雷を切った逸話から名づけられ、霊格を得た『千鳥(ちどり)』っと言う名刀がオリジナルとなっている。しかし、『雷切丸』と言う名を持つ剣は、これの他にも二本の存在を確認されている。つまり、『雷切丸』はオリジナルの『千鳥』を除き、正確に一本の剣を現した名ではない。(いかずち)を切る―――形無き物を切る功績を得た、霊刀の類、それこそが『雷切丸』すなわち称号を与えられた剣なのである。

 八雲家三大宝剣の一振り『紫電』とは、それだけの功績を経た、悪鬼討滅の剣なのだ。

 功績だけで言えば、決して紫電が恥じ入ることなど何一つ存在しない。陰陽師、安倍晴明(あべのせいめい)で語られる物語の中にも、その活躍を見せる『雷切丸』、それらの霊格の一端を担う、紫電と言う少女は、能力としても決して劣っていると言う存在ではない。

 それでも、意思在る者として顕現し、名高い功績を持つ者達に囲まれたこの場では、どうしても劣等感を抱いてしまう。

 さらに困ったことに、その劣等感は同時に相方である村雨の存在も卑下していることに繋がると考える紫電は、劣等感を感じる事にも罪悪感を抱いてしまう。そのことが余計彼女を苛み、どうにも気まずい態度を取らせていた。

 そんな相手に対し、シトリーは更なる考察をし、探りを入れる意味も込めて、今度は村雨に対し己の仮説をぶつけにかかる。

「そう言えば『村雨』、アナタは先の試合では一度だけ使われているのを主と一緒に見たのですが……、アナタ、“妖刀”なのですね?」

「あははっ、まあそうなるかなぁ~?」

 僅かに苦笑いを浮かべて頭の後ろを掻く村雨に構わず、シトリーは深く踏み込んだ内容を追求する。

「『村雨』なのに“妖刀”なのですか? しかも水の属性を全く感じないのですが……? もしやあなたはオリジナルの『村雨』ではないのではないですか?」

 その質問に反応したのは村雨ではなく紫電だった。肩をぴくりと僅かに動かしながらも、しかし余計な口を挟むまいと押し黙る。

 対して村雨はやっぱり苦笑いのまま乾いた笑いを浮かべている。

「実はそうなんだよねぇ~~? でも、これでも“本物の村雨”なんだよ~~トリちゃん」

「理解しました。つまり、アナタの正体は江戸で(うた)われる神刀の類ではなく、もっと新しい―――、……“トリちゃん”?」

 トドメとばかりに核心を突こうとしたシトリーは、そこで見過ごせない内容を見つけ、つい復唱して訪ねてしまう。村雨は笑顔を見せると、何故か自信満々に語り出す。

「『シトリー』だから“トリちゃん”! “しーちゃん”はもう『紫電』に使ってるから語尾を取って“トリちゃん”の方向で!」

「方向でっ! ……じゃありません! 誇り高きソロモンの知恵の悪魔を指して、ちゃん付けとは何事ですかっ!?」

「ちゃんが嫌なら“シトーくん”って言うのも考えたけど?」

「そんな蒼い彼方でフォーリズムする世界観のマイナーなご当地キャラみたいな名前なんて嫌ですっ!!」

「えっ? シトリー、何それ? あんた一体何のこと言ってんの?」

 シトリーの発言に困惑したアスモデウスの質問にも答えず、彼女は憤慨する。ただ一人、ゆかりだけが「グラシュだけなら、イマジンでも実用化レベルまで再現可能かもしれへんねぇ~」など訳知り顔で呟き、それに気づいた紫電だけが、彼女に対して「この人知ってるんですかっ!?」っと言う驚愕の表情を向けていた。

「空想の存在が、私を貶めるようなネーミングをつけて罵倒するなどいい度胸です!」

「存在自体が空想の悪魔がそれ言っちゃうんだ……? 別に貶してるつもりはないよ? 大体私は“本物”だって言ったじゃん」

「空想を創造した(まが)い物が、“本物”を騙ると?」

「そういう意地悪言うかなぁ~?」

 少々喧嘩じみた言い合いになり始めた雰囲気を察したウミは、内心慌てながらもさりげなく話題を別の方向へと逸らす。

「―――っで、結局リンゴちゃん達はどういう話の出身なの?」

 話を振られて笑顔を引きつらせるリンゴ。逆に他の者達は呆れた表情を浮かべてウミを見ていた。

「え? なに、この空気?」

 見かねた紫電が、村雨を挟んでいるウミに、小声で伝える。

「お二人とも、姿形がそのまま御伽噺の住人のままです。リンゴさんは『赤ずきん』、ティンクさんはおそらく『ピーターパン』ではないかと?」

「『赤ずきん』? 『ピーターパン』?」

 しかし、伝えられたウミは御伽噺のタイトルを聞かされた上で首を傾げてしまう。彼女は他のイマジン体とは違い、ごく最近の人間の魂をイマジン体として召喚されている存在だ。故に、その知識量も当時の記憶分しか内包していない。地方の違いにより、聞き及びない御伽噺は、彼女にとってはメジャーな内容でも何でもないのだ。彼女が知っている物語は、精々有名な神話くらいで、童話にまで知識の範囲は回っていない。

 なので、シトリーは親切心から端的に教える。

「子供騙しの童話です。大した功績も語られていない」

「へぇ~~、そうなの?」

 端的過ぎた。

 思いっきりリンゴの額に青筋が浮き上がる。

 ティンクの方は特段気にしている様子はない。っと言うより、全然興味を持っていない様子だ。独り言で「どうしてイマジン体には男の子がいないのかなぁ~~?」っと、つまらなさそうに呟いているばかりだ。

「でも童話だからって功績がない奴ばかりじゃないんだけどね? 『桃太郎』だって、しっかり読み取れば、鬼にも勝る金剛力に、犬、猿、雉の三匹を使役することのできる化身持ち、地方によっては侵略者とも言われ、立派な英霊クラスの存在だっているわけだし」

 カグラはフォローのように追加するが、続く言葉は少々意地の悪い物であった。

「けど『赤ずきん』は大した逸話なんてないわね? どうせなら“猟師”の方が良かったでしょうに? なんの力もない赤ずきんとか―――」

 ころり……っ、っと、何かが床を転がる音を聞きつけ、カグラは言葉の途中で台詞を切る。身体を僅かに机から離し、床を覗き込む。そこには栓の抜かれた手榴弾が転がっていた。

「「「「「「ッッ!!!」」」」」」

 気づいた全員が椅子や机を弾き飛ばし離れる。直後に爆発。幸い威力は低く、全員反応が良かったため防御も間に合い誰一人傷を負わなかった。

 だが隙はできた。その隙ができたカグラに向けて飛び出す影。

 素早く反応したカグラが片手を翳すが間に合わない。それよりも早く閃いた閃光が彼女の腕を切り落とす。血の代わりに炎を断面から噴き出すカグラの紅玉の瞳が僅かに見開かれ、その首筋に刃が押し当てられる。

 両手にサバイバルナイフを握ったリンゴが、()わった眼で至近から覗き込んでいた。

「純粋無垢でか弱い赤ずきんちゃんも自分や大切な人の命を危機に曝されば変わるものだぜ? 特に、猟師に助けられた純粋な少女が、恩人の職業に憧れを抱けば、その将来だってこんな風に変わるもんだろ?」

 リンゴは確かに童話で語られる『赤ずきん』だ。ただそれだけの特性では、おそらく強力な恩恵は得られない。だが、彼女は本来の『赤ずきん』を元に、その先の話を空想した“IF”をベースにすることで、その存在を構築している。

 嘗て純粋無垢な赤ずきんの少女は、自分と祖母を食らった狼を憎み、そんな狼から救ってくれた猟師の姿に憧れ、同じ道を求めた。狼を専門に狩る、猟師を超える立派な戦士に……。

 そんな“IF”をベースに作り出されたの『リンゴ』だ。

 このIFベースの物語が彼女の過去として定着していることは、主である絵心も知らない、イマジンによる辻褄合わせが発生したものだ。故に、それは正しく彼女だけが知る、彼女だけの過去。

「『狼』は童話だけじゃなく神話にも扱われる特別な獣だ。つまり、神格を保有している存在としても見る事が出来る。神格有する狼をも殺す、それが私のスキルだ。……何の力もない女の子かどうか、試してみるかぁ?」

 挑発的に笑い、睨め付ける様に覗き込む。

「放しなさい」

 だが、カグラの口から洩れたのは、苦悶でも怒りでもなく、静かに、命令するように告げられた、温度を感じさせない言葉だった。

 リンゴが()め付ける紅玉の瞳は全く揺らがず、揺らめく炎が嘘のように、微動だにしない。

「ここには“兄様”がいない。この空間では繋がりも切れている。この学園ではイマジンは無尽蔵に使える。……分かる? 今の私は、軻遇突智本来の権能(本当の実力)を出せるのよ?」

 それでも戦いを始めるのか? 荒神(こうじん)軻遇突智は、その本性の一端を覗かせながら、狼殺しの赤ずきんを見据える。

 しかし、それでもリンゴは退かない。退くはずがない。本来の力を引き出せるのはリンゴも一緒。元よりこんなサークルの集まりを楽しむつもりなどなかった。この空間で得た知識を外で活用できないとしても、それでも実際に神とやってみたいと言う欲求はあった。

 だから彼女は舌なめずりする。その興奮した瞳で「いいぜっ! ヤろうっ!!」っと答えながら、もう片方の手でナイフを取り出す。刹那にカグラの体に紅炎(こうえん)が立ち昇り―――、

 

「その辺にしておきなさい」

 

 間に入った九曜に簡単に止められた。

 リンゴのナイフの切っ先を指の間で軽く挟むようにして挙動を制し、カグラの額に人差し指を当てる事で変化を抑制した。

 あまりに自然な動作で、あっさり止められてしまったリンゴは驚愕の表情を隠せず飛び退いた。それはカグラも同じであり、二人の諍いを止めようとしていた他のイマジン体の全員も呆気にとられていた。

「テメエ、一体何なんだよ……?」

 皆の気持ちを代弁するようにリンゴが訪ねる。

「ただのイマジン体よ。私の正体については、この中ではカグラの次に早く明かされているはずでしょう?」

「言い方を変える。なんでテメエだけ()()と違う?」

 地中畜水を司る、井戸の底の暗き水神(みなかみ)、それが九曜の正体、闇御津羽(くらみつは)だ。しかしリンゴが言いたい事はそういう事ではない。九曜の霊格はここにいる誰よりも強い。イマジン体と言う個体だけで考えれば他とは比べようもないほど完成度が高い、正に別格なのだ。それこそ、主を同じくするカグラとさえ、その格差は天と地ほどに開く。

 幸い、主の未熟さに足を引っ張られ、その実力の片鱗すら引き出せていない様子。これなら実力の程は変わらない。イマジン体の強さは、(おも)(マスター)に依存する物が大半なのだ。

 ただし、先程カグラが言ったように、この空間に於いては主の制限が存在しない。純粋なイマジン体としての実力のみを制限無く競えるこの空間なら、先程から笑顔でお茶を飲む、ゆかりを除けば誰も相手にできそうもない。

 警戒心を露わにする面々を無視し、九曜は倒れた椅子や机(何故か無傷)を手早く片付け、元の席に座りながら告げる。

「別に話してあげてもいいわ、話の内容を元に戻してくれるのなら」

 九曜の言葉に皆が首を傾げる中、僅かに首をひねった紫電は唐突に思い出す。

「え、えっと……っ! もしかして、最初に提案された『主の不満話』をしようっていうあれですか?」

「皆それで同意したはずだけど?」

 冷たく言い捨てる九曜に、毒気を抜かれ、皆も元の席に戻り、話題を戻すことに無言で応答。

「ですけど九曜さん? 九曜さんは、私と同じで主には何の不満もないのではないでしょうか?」

 紫電に問われ、九曜は「いいえ」とはっきり首を振った。

「我が君に不満がないわけではないわ。むしろ多く抱いているわよ」

「え? そうなんですか?」

 思わず漏らしたのはシトリーだ。以前、主同士の喧嘩に付き合い、互いに牽制し合った者としては、今の発言はよっぽど不思議な物だったのだろう。

 構わず九曜は続ける。

「我が君とて聖人君子ではないわ。むしろ足りない物などいくらでもある。質は求めれば切がない。ならば主への不満が全く無いなんて事もないわ」

「でも、九曜はお兄ちゃんに対してものすっごく忠誠心高いよね?」

「忠誠心と心酔は別問題よ。私は我が君の僕であり、決して奴隷ではないわ」

 九曜の意外な発言に驚きつつ、紫電は興味を引かれて尋ねてしまう。

「だけど不満があるのに言及はなさらないのですか? 『するべき』っとは言いませんが、アナタとしてはどのような考えで?」

「私は我が君を信頼しているわ。そして信頼に必要な互いの事も良く知っている。だから、必要もない時にまで言及したりはしないわ。必要があればするけどね」

 なるほどと納得、感心した紫電は自然と頷いてしまう。

 盲目に忠誠を誓っているように見えた九曜だったが、実は僕の鏡とも言える立派な思想の元に動いているのだと理解できた。

 っが、そこまで冷静であった九曜の背後に、僅かに黒い靄のようなオーラが見えたような気がした。

「けれど、私がこの場で不満を言いたいのは()()()の事ではなく、()()()について……っ!」

 静かな、しかしはっきりとした怒気を含んだ声に、一同驚き、思わず息を呑む。

「あの……、それってどういうことですか?」

 静かになってしまった周囲に代わって紫電が尋ねると、九曜は静かながらも怒気を込めた口調のまま語り始める。

「私の生みの主は、カグヤ様ではなく、その義姉、東雲神威。私は主に生み出されながら別の人間に押し付けられたイマジン体なのよ」

 その事実に、その場にいる全員が息を呑み、カグラでさえも呆気にとられてしまう。

 同時に紫電は理解した。道理で彼女、九曜は他のイマジン体よりも完成度が高いはずだ。彼女だけが、一年生ではなく、三年生(おそらく生まれた当時は二年生だっただろうが)のイマジネートで編まれた存在。入学したての一年生に比べれば、その完成度が高いのは当然だ。

 能力の発祥(はっしょう)や形式も違うので、カグラとも差異が見えるのも当然。

「って、それ良いのかよ? 学園側として?」

「なぁ~~んも問題ないよ。結局イマジン体の実力は担い手の実力次第やから、上級生の能力を借りたところでチートなんてできひんし。最近のライトノベルに多い『神様転生』で『チート能力』()ろうても、普段から体鍛えてへん子が、最強の能力なんて使えるわけないやん」

 リンゴの疑問に初めて口を出すゆかりは、最後に「まさに宝のなんとやら~~」っと締めくくる。それを待っていたかのように九曜は元主に対しての不満を口にしだす。

「この身を作っておきながら、あの人、いきなり『妹弟(いもおと)にやる』とか言い出し、何の事かと首を捻っている内にイマジン粒子のまったく存在しない下界に連れてこられ、いきなり二人だけの神社に放置し、主とのリンクのみでイマジン供給をする綱渡りを味わわされながら、新しい主となるべき少年と来る日も来る日も無為と思える挑戦を受けさせられて………! ようやく我が君と誓約(うけい)を果たしてこの地に戻ってみれば、一言もかけることなく知らん顔を続ける始末……っっ!」

 手に力は入っていない。肩も声も震えていない。なのに身に纏うオーラだけが何故か猛々しく燃え上っているように見える九曜に、誰もが口をはさめずにいた。

 そして続く九曜の言葉に、誰もが心を打たれ、同意の声を漏らす。

「生まれたばかりのイマジン体の気持ちを、なんだと思っているのですか………っ!」

「「「「「「「「その通りだっ!!」」」」」」」」

「………、わぁ~~~………」

 いきなり一致団結したイマジン体達に、ゆかりは笑顔のまま乾いた声を漏らした。

「九曜! 他の事はともかく! そこだけは私も同感だ!」

「ええっ! 正直アナタとなんか意気投合したくないけど、それでもその意見だけは断固否定させないわっ!」

「心中、痛くお察しします! 例え最初から受け渡されることを前提にされていたとしても、生み出してくれた主からいきなり引き離されるなんて、私たちにとってどれだけの………―――っっ! くぅ……っっ!!」

「私も出生がチョイ違うけど、その気持ちはよくわかるよ! リクに呼び出された時の言い表せない感動は、それこそ断ち切られたくない物だもん!」

 リンゴが拳を握り、アスモデウス悔しそうにしながらも力説し、紫電が言葉の途中で感極まったように口を(つぐ)み、ウミがちょっとだけ瞳を潤ませながら叫びあげる。

 作られた存在であるイマジン体にとって、主とは正に親も同然。しかも人間と違って彼等には幼児期が存在しない。最初から主に対する一定以上の忠誠心、もしくは信頼関係がデフォルトに備わっている。それは“自分”と言う“存在”を生み出してくれたと言う『感動』を、いかなる生物よりも強く感じ取ることができると言う事。赤子が産声を上げるのと同じく、彼等はその強烈な感動を最初に受け止めるのだ。

 それをいきなり、大した説得もされる事無く、生まれてすぐ別の誰かに丸投げされれば、その衝撃は凄まじいなどと言う言葉では表せない。

 そもそも、『イマジン体』と言う存在は主が望んだ形でしか生み出されることはない。故に彼等を生み出せば主にも愛着が生まれるのは当然のことだ。それを簡単に捨てるだの預けるだの託すだのと、言い出せるわけがない。そんな型破りをして、巻き込まれた九曜は、それこそ主に生み出してもらった感謝の気持ちを、丸ごと怒りに逆転させられたような気持だった。

「世界広しと言えど、イマジン体を捨てる主には天罰が下るべきです」

「「「「「「「「異議無し」」」」」」」」

 九曜の最後の言葉に、全員が結論を出す。この日、一年生のイマジン体達の中で、東雲神威の株が急暴落し、それ受け取ったイマジンにより、神威に小さな災いが降りかかったりしたのだが、それはまた別の話である。

 しかし、一番口が重そうだった九曜が主に対しての不満を口にし、現主のカグヤについても、少なからず存在する不満を言い出したことで、場の空気は談笑モードへと移り変わっていった。

「レイチェルってば、最近そっちの坊やに対して執着し過ぎなのよね~? 悪魔と神だからぶつかり合うのは仕方ないけど、なんで坊やの事ばっかっり気にかけているのかしら?」

 アスモデウスが疑問を口にしながら溜息を吐く。

「リクはともかく素直にお姉ちゃんに頼るべきなの! なんでいつも一人でどうにかしようとするかなぁ! 普段から私たち兵士を使う能力を行使しているのに肝心なことは全部一人でどうにかしようとするのよ!」

 ウミは少々ブラザーコンプレックス気味の発言をしつつ溜息を吐く。

「ひーくんはさ、暗い。普通に暗い。私を使うのはそれでいいけど、話し相手としては最悪。もっと楽しく行こうよ!」

 村雨は頭の後ろで両手を組み、椅子の背に凭れながら愚痴っぽく呟く。

「あっはっはっ☆ とりあえず家の娘は、色々影響受け過ぎだよね? まあそういうところも可愛くて好きなんだけど☆ ……あれで男の子じゃないなんて、ホントどうして?」

 ティンクが絵心本人にはどうしようもない、不穏な発言を漏らす。

 そんな感じで、イマジン体達の語らいは、思いの外、良い感じに締めくくられた。

 最後には全員、屋台の飲み友達のような独特の雰囲気を漂わせながら解散の流れへと至る。

 そんな中、最後に部室から退出しようとしていた九曜に対し、ゆかりが声をかける。

「『夢想追体験疾患』……、生まれが早い分、九曜さんだけは既に体験済みやったんやね」

 退出しようとしていた九曜は足を止め、振り返ることなく背後のゆかりに意識を向ける。

 ゆかりは椅子に座った(ふりをしている)まま、お茶を飲みつつ続ける。

「イマジン体の過去は主が作り出した物。それがあってこそ自分達や。でも、自分等が生まれたのは能力として発現したんが最初。それ以前の設定された過去は所詮作られたアルバムを自分の物だと言われて眺めているのとなんも変わりない。せやけどそれは『過去』としては成り立たへん。そんな(うっす)い過去では、神格も弱まるしな。だからイマジンが辻褄合わせをする。設定された過去を(なぞら)え、夢と言う形で追体験させる。それが『夢想追体験疾患』っと呼ばれるイマジン体共通の症状。……九曜さんはもう、体験しはったんやろ?」

 湯呑の水面だけを見つめながらゆかりは続け、沈黙を返す九曜に告げていく。

「皆が相手の神格を暴き合戦始める中で、九曜さんだけは口を挟まへんかった。それどころか率先して話題の矛先を変えて……。自分の主等をダシに使ってまで全員の意思を集めるやなんて、()()()()()ことまでしたらさすがに解るよぅ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()って……」

 九曜は黙ったまま視線をやや下向きに逸らし、自分を抱くように片手でもう片方の腕を掴む。

 ゆかりは湯呑から視線を外し、九曜の背中に向けて伝える。

「追体験する過去は悲劇であることが多い。そして空想の存在から生まれるアナタ達にとって、その過去を作ったのは主や。そやけど、その悲劇も含める過去があるからこそ、自分と言う存在は構築されている。それが解っているからこそ、主相手に相談なんてできひん。せやから、こういったサークルが必要なんよ。私等イマジン体にとってはな……。いつでも相談しに()ぃ、経験者として、話し相手くらいにはなってあげられるさかい」

 九曜は答えない。一切の言葉を紡ぐことなく、一度(ひとたび)も口を開くことなく、そして最後まで振り返る事もせず、彼女は立ち去っていく。その脳裏に過ぎ去るのは、追体験した過去の光景。(むくろ)となり分断された火の神。傍らで泣き崩れる女神。涙を流しながら怒りの形相を見せる男神。そして、その怒りを一身に受けながら笑う、墜ちた厄神達。

 嘗ての己が神格を思い出し、闇御津羽の少女は身震いを覚える。

 主の設定だけではない。恐らくはイマジンによる辻褄合わせも一役買っているはずの己の過去。とてもではないが、それを主に語ることなど九曜にはできそうにもなかった。

(我が君が、ここに行った方が()いと言うのは、こういう事ですか……)

 確かに、今は耐えられるが、この先同じように追体験を繰り返すのなら、とてもではないが個人の胸の内に止めておくには耐えられそうにないかもしれない。嘗ての自分から零落した身ではあるが、それでも『神』だと言う誇りは残っている。この程度の事で主の枷になってはいけない。

 気持ちを新たにしながら、九曜は退出していく。

 その視線の先、未だかろうじて、その背を窺えるイマジン体の仲間たち。彼等もいずれ、自分と同じように追体験を味わい、苦悩する日が来るのだろうか? それを考えると、不思議と心配のような感情が浮かんできた。しかし、九曜は苦笑してすぐに頭を振った。こんな物はただの同情でしかない。今は自分を保つことを考えなければと、彼女は胸の内にある物をもうしばらく閉じ込めておくことにする。

(我が君のご助言通り、いずれはご相談に窺う事にはなるのでしょうけど……)

 開いた窓から吹き抜ける風に濡れ羽色の黒髪が弄ばれる。片手で髪を整えながら、僅かに瞳だけで微笑む九曜。

 そんな彼女をカグラが急かすのは、これよりすぐの事である。

 こうして、従属達の語らい、その一回目が終了した。

 

 




≪のん≫「なんかまたやりたいね、これ」


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一学期 第七試験 【クラス内交流戦】Ⅷ

久々の投稿!
やっと戦闘系のクラスは全部投稿し終えたね!
今度は生産系、芸術系のクラス!
番外編で濁しながらここまで来たが、正直いつまで一年生の試合やってるだと自分でも思うよ……。

次回からはちょっと早足。
一年生最強決定戦を本番として、進行していく予定です!
そして可能なら、他の新キャラも出す!

……既に既存のキャラでも覚えきれていないと言う人が続出して良そうだ。
一年生最強が決まったら、メインキャラを何人か選出して行く事にしようと思う。

それでは、皆様! Dクラス編、後編をお楽しみください!

【添削しました】


『Dクラス編 後編』

 

 0

 

 小金井(こがねい)正純(まさずみ)は歴史の授業と言われると、真っ先に思い浮かぶのは戦国時代とか平安時代、最近の物なら昭和くらいの話だろうか。だが、下界にいた頃の学園では最も最新の歴史として『ギガフロート』の話が出てくるのは結構当たり前の話だった。

 毎年四回放送されるギガフロート内中継、『新入生最強トーナメント戦・決勝』『体育祭』『文化祭』『学園最強決定戦』は、どれもテレビの中のヒーローマンガなんかと混同してしまった。子供の頃は皆、ギガフロートに行くのを夢見た事だろう。

 学校の授業で習うギガフロートは、大地が浮遊した年月日(ねんがっぴ)や、その浮遊都市にしか存在しないイマジンについて、そして世界が年号を平成から新暦に変えた原因として持ち上げられている。

 その所為だろうか、いざギガフロートで歴史の授業を受けるとなると、ギガフロートの歴史なんてちょっとしか触れないんだろうなぁ、っと言う印象を持ってしまっていた。

 それがまさか、ギガフロート内における細かい歴史を年号にして紹介されるとは思わなかった。

 

 2012年、学園創立。全て一年生のみ。

 2015年、第一回、学園最強王者決定戦。優勝者、三年『焔薙姫一』

 2024年、学生によるクーデター発生。半年後、クーデター事件終結。死傷者:164名

 2025年、『キャンセラー』『イレイサー』などの無効化能力者の発生。

 2029年、無効化能力者の教師昇格が正式に承認。

 

「ギガフロートに在住経験が付く以上、この歴史は最低限覚えておくことが重要とされている。ギガフロート建設、浮遊から、ほぼ短時間で起きた事件の数々だ。特に2024年に起きた学生のクーデターでは学園で死者を出してしまうと言う痛烈な汚点を残す結果となっている」

 白衣の下に凄く可愛くされたクマの驚き顔と言うダサい服を着ている、白い髪と赤い瞳を持った整った顔立ちの二十五歳前後と思しき教師、レブナントが教科書を片手に早口で授業を進めている。イマジネーターの学習能力任せの授業なので、常に集中していないとあっという間に一世紀か二世紀ほど内容が飛んでしまう。もちろん振り返りも授業中の質問もできないので、皆必死でくらいついている。正純も、さすがに少し頭の疲労を感じながら、ノートへの板書に勤しむ。

「当時はまだ学園としてのカリキュラムも完成されておらず、曖昧な点も多かった。教師すら手探りの研究であり、突発的に強力な能力者が現れても対処しきれなかった。そうならないよう、細心の注意を払われてはいたが、やはりイマジンと言う新しい力を相手にするには注意の内容が足りなかったのだろうな。だが、ここで生徒諸君には考えてほしい。これは決して学園側の事故や暴走ではなく、生徒の思い上がりによって起きた事件だ。心に正義を持っていれば避けられた犠牲だ。現在では、我々教師が直接的な抑止力と働くことでそのような思い上がりを抱く生徒はいないだろうが、それは教師のカリキュラムに甘えているだけとも言える。仮に我々教師の全員が力を失ったとして、果たして君達全員が、正義の心を強く持つことができるかどうか……。君達には、卒業するまでに“その心配はない”と私に思わせてくれると信じている。私の期待を裏切らないでくれよ」

 レブナントの台詞に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 この教師が教壇に立つと、必ず言及してくるのが、この『正義』云々と言う話だ。

 うんざり……、っと言うほど授業を受けているわけではないが、既に苦笑いを浮かべるレベルにはなっている。

「さて、『クーデター事件』には正式な名をつけられていないが、もう一つ、君達には知ってもらいたい事件が存在する。それが―――」

 レブナントは、言葉を途中で止め、黒板に向かってチョークを滑らせる。小気味良いリズムを刻むように黒板に年号を書くと、チョークを置いてから改めて説明する。

 

 2042年、『オーバーロード』(経過3ヵ月)。死傷者数275名、重軽傷者、多数。

 

「この『オーバーロード』事件だ。クーデター同様、いや、それ以上の死者を出してしまった学園側としてはとても衝撃を受けた事件であり、原因不明の事故だとも言える。これが事故ではなく事件扱いとされているのは、原因がイマジン発生炉の暴走であったからだ。イマジン発生炉の暴走により、イマジン能力者の能力が異常暴走を起こし、生徒同士の殺し合いまで発生した。中には教師までも我を失い暴走するなどの異常事態も起こり、蘇生者の数を含めば死者の数はゆうに10倍に膨れ上がる」

 ギガフロートではこう言った『血塗られた……』的な歴史を隠し立てせず、むしろ積極的に公開してくる。その所為で時たま身震いしてしまう。自分達がいるこの浮遊都市は、決して夢の国でも理想郷でもない。下界と変わらない血塗られた歴史の上に、ようやく建てられた世界なのだと自覚する。

「学園は戦闘行為を推奨しているが、決して敵対関係を推奨する物ではない。それを弁え、君達には正義の心の元、正しく切磋琢磨してく欲しい」

 お決まりの正義(ぶし)を挟んでから、レブナントは続ける。

「このイマジン発生炉の過剰イマジン粒子放出現象、『オーバーロード』は、赤いイマジン粒子を取り込んだことで能力が過剰活性し、結果的に暴走を起こしたとされている。原因が不明なら、収まった理由も不明だ。それでもこうしてイマジンについて勉学を学べる地が残っているのは、イマジン創造者、『斎紫(いつむらさき)(かえで)』の、発言力によるところが大きい。生徒手帳には、こういった事故や事件などに対し、瞬時に対処できるようなシステムも組まれている。例え休日であったとしても、生徒手帳の携帯は決して忘れないようにしてくれ。……では、次に注目してほしいのは―――」

 レブナントが素早く次の歴史に触れていく。

 正純はこっそり溜息を吐きながら思う。この調子で授業に頭を使って疲れたら、この後のクラス内交流戦に響いてしまわないだろうかと……。

「小金井! 集中切らしたな! もう年号全て消すぞ!」

「うわった……っ!」

 注意せずに置いてけぼりにする教師が多い中、レブナントは忠告を入れてから黒板を消す。これが彼なりの優しさなのかもしれないが、後で友人のノートを写させてもらえばいいだけなので、わざわざ注意してクラス中に知らせる事もないだろうにと、ついつい思ってしまう正純であった。

(それにして、イマジンが暴走ねぇ~~? 危険な事は解るけど、今一どれだけ危険なのか解り難いなぁ……)

 己が振るう力が仮に暴走したとしても、同等の力を持つ他人が止めてくれる。確かに混乱はあるかもしれないが、死者が出るほどには思えない。生徒と教師の全てが暴走したわけでもないようだし、一体何がどうなってこれほどの大事件に発展してしまったのか、正純は自分の手の平を見つめながらこっそり考え込むのだった。

 

 

 1

 

 

 荒れ地のフィールドで、少女は必死に逃げまどっていた。身長177cm前後でスタイルもモデル顔負けに良く、服装はフリルがたくさんついたアリスの様なドレスを着ている。彼女は怯えた表情でひた走り、いくつも薙ぎ倒された木々の間を潜り抜けていく。時折空を気にして振り返り、追撃者が未だそこにいる事に気づいては慌てた形相で歩を速める。

 しかし、彼女の逃亡はどうやらここまでの様だった。

 ズシンッ! っと言う轟音と共に降り立ったのは、十五メートルはありそうな巨大な人型のロボット。

「もう逃げられませんよ。覚悟してください」

 ロボットの肩で堂々と言い張るのは推定十歳のツンツン頭の少年、相原(あいはら)勇輝(ゆうき)

 その能力、『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』により呼び出されたライオン型巨大ロボット『ガオング』を二足歩行状態に変形させ、十メートルを超える巨体で、小さな少女を追い回している。

「きゃわあああ~~~~~!? ふ、踏みつぶされる~~~~~っ!?」

 追い掛け回されていた少女、音木(おとぎ)絵心(えこ)は髪を逆立てるほどに驚き、一層慌てて逃げ惑う。

 正直、勇輝としても、こんな見るからに悪役的な行為は遠慮したいところであったが、小さな女の子に一度負けていることもあって油断したりはしない。できれば早めに勝負を諦めてもらうためにも、うっかり踏み潰してしまわないように気を付けながら、踏み潰すふりを何度かして見せている。

 一方、なんとか活路を見出したい絵心であったが、前以て仕掛けたブービートラップは意味をなさず、手持ちのナイフや手榴弾ではどうあっても火力が足りず、攻撃にならない。ほぼほぼ完全に詰み状態である。

「こ、こうなったら! 師匠! お願いします!」

「諦めろ」

「ええぇ~~~~~~っっ!!?」

 絵心の能力『童話の兵士の名簿(グリム・アーミー・リスト)』により呼び出された『赤ずきん リンゴ』は、倒れた木の陰に隠れながら事もなげに言い切った。

「なんで速攻諦めちゃうんですかぁ~~~っ!?」

「バッカ、お()ぇ、私がアレに勝てると本気で思ってんのか? お前の能力じゃ無理に決まってんだろ?」

「そんな簡単に諦めないで何とかしてくださいよ~~~っ!?」

「ああ、無理無理」

 手をひらひらさせて拒否するリンゴ(師匠)に、絵心は頭の血が失われていく錯覚を覚えた。

 っとは言え、リンゴの判断は実は残酷な事に正しい。

 Dクラスともなると相性の差は如実に表れる。特に同じ、能力系統―――この場合は同じようにイマジン体を使役して戦う場合、純粋な戦闘力が勝る方が圧倒的有利であり、そして大抵は有利な方が勝ってしまうのだ。

 もちろん、これは絵心のリンゴが、勇気のガオングに劣っているから不利になっているのではない。通常イマジネーターの能力には得手不得手は当然あるものだ。だが、不得手の分野を突かれたところで、対応できないわけではない。窮屈な気分はすれど、何らかの手はしっかり打てる。故に諦める必要性などない。弱点を武器に、短所を長所にして戦う事を選べる技術をデフォルトで持っているのがイマジネーター。相性の差ぐらいでは決着はつかない。

 だが、今回ばかりはそうも言えない。

 勇輝と絵心は同じDクラスで、イマジネーターの特徴は同じ。能力もイマジン体を呼び出す同タイプ。基本、自分ではなくイマジン体に戦わせる同じスタイル。共通点が多すぎるのだ。

 ならば二人の差異は召喚されたイマジン体の実力によるのだが……。

(ミリタリー系にステ振りされてる私が、見た目機械だけど、超パワー出せますの類に、どうやって勝てっていうんだよ?)

 リンゴはもはや達観の域で乾いた笑みを漏らす。

(せめてあのロボットが神格を所有してるか、狼型のロボットだっていうなら、やりようもあったんだがなぁ~~……)

 (弟子)の手前、なんとかできないかと、勇輝自身を狙う手も考えたが、二足歩行になって十五メートル級の高さになっている巨大ロボットの肩にまで上らなければならないとなるとこれは無理難題だ。狙撃も考えたが、能力を有さない狙撃は、高確率で『直感再現』が発動して躱される。正に無駄な足掻きである。リンゴには『対能力者武器』っと言うイマジネーターに対して有効な武器を作り出せるスキルがあったが、それは“有効化”する力であって、相手の“効果を妨げる”ものではない。能力に対する盾を、砕けるだけの武器は作れるが、『直感』は悪意や敵意に対して“本人の内側”で発動する物だ。こちらがどんな武器を有したからと言って、勇輝の『直感再現』を妨害することにはならない。

「まあ、完全に運が悪かったな」

 もう少し絵心が成長していれば、リンゴも何かしら打てる手はありそうだとも思ったが、一年生の初期の試合、不足している実力を望む方が(こく)と言うものだ。

「も、もういいです! ……焦ってはダメ。師匠にだけ頼ってちゃダメなんだから」

 一度胸に手を当て深呼吸した絵心は、冷静になると、諦めモード(使えない)師匠を無視して、自分が打てるもう一つの手に出る事にした。

「『出撃』!! ティンク! 行くよ!」

「え? おいちょっと待て! そいつは―――!」

 言いかけたリンゴはイマジン粒子になり散り、代わりにピーターパンのような緑色のワンピース着た、少女風の少年が現れる。

 絵心の能力『童話の兵士の名簿』では、一度に出せるイマジン体の数に制限が設けられている。そのため、別のイマジン体を呼べば、他のイマジン体は消えてしまうのだ。

 ピーターパンの童話から生まれたティンクは『妖精の羽』の能力を有し、飛行することが可能な上にワイヤーやナイフを使った戦闘能力を得意としている。

「敵がどんなに高い場所にいても攻撃できます! お願いしますよ!」

 冷静さを取り戻した絵心の指示に従い、ティンクは皮靴に妖精の羽を生やし、空を飛び立つ。

 素早くそれに気づいたのは勇輝自身ではなく、イマジン体のガオングだ。

 ガオングはリンゴやティンクなどのイマジン体とは違い、自身に意思こそあれ、対話できるほどの自我は存在しない。そのため、特殊な能力を個人で所有していると言うわけでもない。ただし、代わりの特性として、彼等は主の危機に敏感に反応する。

 ティンクの接近を察知したガオングは、素早く胸のライオンフェイスから剣を取り出し、構えるが、ゆっくり近づいてくるティンクに対し、動きが止まってしまう。

「ガオング?」

 戸惑ったのは勇輝であった。自分が最も頼りにするスーパーロボットが、敵に対し攻撃するべきかどうかを考えあぐねるなど、十歳の少年には理解を飛び越えた状況だった。

 自我を持たず、意思だけを持つイマジン体。故に彼等は主の命令無しでは判断に迷ってしまう事柄が存在する。例えばそう、殺気を持たずに近寄ってくる相手は、果たして攻撃していい敵なのかどうか? “考える”っと言うシステムを持っていない自我無きロボットは、そのエラーを自己処理できずに停止してしまう。

 あっさり巨大ロボの守護を通り抜けたティンクは、ガオングの肩に降りると、相原勇輝と対峙する位置を取る。

 身構える勇輝。

 ティンクの手腕に思わず拳を握る絵心。

 そしてティンクは徐にスカートに手をやると―――、

「ねぇ……パンツ見たい☆?」

 ―――などと抜かして、スカートを持ち上げた。

 真っ青になって顎が外れるほど驚く勇輝。

 頭のネジがバネ仕掛けになって飛んで行った気分になる絵心。

 少女とそぐわない顔の少年が妖艶な笑みを浮かべ、大変危ない方向に興奮した表情を見せるティンク。

 ここにリンゴがいたら呆れながらに呟いたことだろう。

ティンク(コイツ)はホモだから使っちゃダメだろ……」っと……。

 

 次の瞬間、少年の脳内キャパシティーは限界を超えた。

 ただでさえ、日常的に同室のお姉さんが危ない感じの相手なだけに、こういった方向にトラウマになりかけていたりする少年だ。もはやこれはトドメと言うべき一撃だったのかもしれない。涙目になった彼が、咆哮を上げ、持てる全ての力を開放し、一帯を焦土と化すのに十秒とかからなかったと言う……。

 

 勝者:相原勇輝。

 絵心の敗因:こんなイマジン体を持ってしまったこと……。

 

 どうしようもない理由である。

 

 

 2

 

 

 彼女、リヴィナ・シエル・カーテシーが立っている場所は一面が砂に覆われていた。日差しは暑いが、じめっとした空気が漂っているところから、砂漠と言うよりは砂丘に近いのだろうと予測できる。見える限りの範囲に植物も水辺も見当たらないが、その空気だけが、ここが海に近い場所にあるのだと教えてくれている。

 こんなフィールドにいる所為だろうか、リヴィナの褐色の肌はとても場に合っているようにも見える。肩で切り揃えられた黒い髪は、視界を確保するためか、真ん中で分けられ、おでこが曝されている。紫色をした猫目付近には泣きぼくろが付いていて、中々に可愛らしく、そして大人びた色気を感じさせる。だが、そんな少女が纏っている服装は、黒を基調とした燕尾服であった。大変暑苦しいことこの上ない上に、顔立ちから窺える大人びた色気を、性別とは逆の方向に曲げてしまっている。

 服装のセンスがまるでないのか、ただ単に趣味で着込んでいるのかは全く不明だが、彼女の表情には揺らぎを感じさせない。

 砂丘のフィールドは隠れる場所の存在しない見晴らしの良いフィールドだ。そのため対戦相手を真っ先に視界に捉える事が出来てしまえる。まるでCクラスが諸手を上げたくなるような状況に、リヴィナは少しばかり逡巡していた。

 彼女の第一試合は、“記録”上は残っているが、“記憶”上は誰にも知られていない。担当した教師でさえ、浅くしか憶えていない事だろう。何しろ新入生の試合一日目で、最も最速で試合が終わってしまったのだから。

 勝敗はリヴィナの敗北であった。自分の持てる力の全てを出す前に倒され、実力の差を思い知らされた試合だった。

 当時の試合相手は雪白(ゆきしろ)静香(しずか)、普段はおどおどしていて落ち着きがなく、試合が始まった序盤も頼りなさそうな印象が強く、リヴィナの能力に引っかかって、あっさり地べたを転げまわっていた。

 ―――だったと言うのに、突然前振りもなく豹変した静香に、リヴィナはなす術もなく倒されてしまった。リヴィナの能力を全く受け付けずにだ。

 彼女は物思いに耽りそうになった思考を現在へと戻す。対戦相手は猫のイマジン体に囲まれ、こちらの様子を窺っている少女、夏目(ナツメ)梨花(リカ)。彼女の能力はどちらかと言うと攻撃には適さず、回復面に秀でているらしいと情報を得ている。そんな彼女でも、第一試合は勝利している。対戦相手の実力の程までは解らなかったが、それでも勝者である以上は侮れない実力者であるのは間違いない。

 彼女は思う。自分の力も、決して戦闘向きとは言いがたい。だが、Dクラスとしては適した能力者だ。使い勝手は難しいが自分の力は紛れもなくトリックスター。使いこなせるようになれば、戦闘特化のCクラスにだって負けない自信がある。

 だからこそ……、っと彼女は思う。もう一度、あの圧倒的な強さを見せつけた静香に挑み、今度こそ勝利して見せると。

「だから私は―――、何度でも舞台の幕を開けようじゃないか!」

 オーバーアクションで手を振り翳したリヴィナは、己が能力『共感詩(シンパシア)』の効果『共感覚(シナスタジア)』を発動し、相手に好きな感覚を自在に与える事が出来るようにする。続いて派生能力『センス・ワード』を発動させ、幻覚を作り出す。

「――――ッ!!」

 『センス・ワード』は発した言葉その物を現象として発現させる能力だ。言霊を現実にする御門(みかど)更紗(さらさ)の能力に似ているが、完全に違うものだ。

 更紗は言葉を現実にするのに対し。リヴィナの『センス・ワード』はあくまで言葉を引き金に幻影を作り出す能力だ。純粋な能力レベルでは更紗のそれに比べて格段に見劣りする。だが、リヴィナの作り出した幻影は、先に発動している『共感覚(シナスタジア)』と重ねて使う事でその差を完全に埋める。

 リヴィナの作り出した幻影達は、サーカス団に飼われているような蝶ネクタイの首輪をつけている大きなワニであった。ワニはイマジンによる幻影で作り出されているため、同じイマジン体である梨花の猫達を一飲みで食い尽くしていく。慌てて梨花も津波の如き大量の猫軍団を呼び出し、物量でワニを押し返していく。

「――――ッ!!」

 すかさず『センス・ワード』を唱えるリヴィナ。やはり蝶ネクタイと燕尾服で装飾された巨大な像が数体現れ、突進力で猫達を踏み潰し、弾き飛ばしていく。

 危うく轢かれそうになった梨花だったが、肩をかすめるだけで何とか横合いに飛び退くことができた。だが、かすった肩から僅かに血が滲み始めている。相手は幻影のはずなのにだ。

 これが『共感覚(シナスタジア)』の効果。『センス・ワード』で呼び出した幻影が触れた場所に痛覚を与える事で、あたかも幻影に実態があるように見せる事が出来るのだ。

 ならば、『共感覚(シナスタジア)』単体で、強制的に痛覚を与えればいいと思うかもしれないが、そんな都合の良い話はない。所詮感覚を強制的に与えるだけの能力など、精神論である程度何とかしてしまえるものだ。特に相手は自分と同じイマジネーター、対処手段なんていくらでもあれば、痛覚遮断でもされればほぼ完全に詰みだ。そこで併用(へいよう)して『センス・ワード』の幻影を使うのだ。例え種が解っていても、目の前でハンマーが振り下ろされ、自分に命中した時の衝撃や痛覚を強制的に与えられれば、人はハンマーで殴られたのだと錯覚してしまう。錯覚した脳は、実際に衝撃を受けた場所は傷を負ったものだと誤解し、実際に体に傷を作り出してしまう。つまり、相手の与えた誤情報で、自分の体を自分で傷つけてしまっているのだ。イメージを力に変えて戦っているイマジネーターにとっては、特に鬼門ともいえる能力と言える。この組み合わせで攻撃を受ければ、誰も無効することもできずにダメージを負ってしまう事だろう。

 更に、更紗の言霊と違い、ただ現実にするだけでなく、痛覚を与えないことで本当にただの幻影としても扱えてしまう。『センス・ワード』発動の言葉は、リヴィナ個人が想像した暗号のようなものでできているため、場合によっては更紗よりを素早く、細かい発動が可能となる。

「今度こそ、私は彼女に勝って見せる!」

 強いリベンジの思いをブーストに『センス・ワード』を発動。あまたの猛獣が出現し、津波の猫諸共、梨花を食いつぶしてしまった。

「う、うきゃあああああああぁぁぁぁ~~~~~~っ!?」

 断末魔の悲鳴を背にして、オーバーアクションでポーズを決めるリヴィナ。自身が勝利したことがアナウンスで流れると、彼女はそのまま振り返ることなく、元に戻った白い部屋から出ていく。廊下に出た彼女はゆっくりした足取りながらも、ただ一人の生徒を探す。自分に圧倒的な差をつけた彼女の姿だ。もしかしたらまだ試合中かもしれないと期待を抱きながら、彼女は探し求める。

 そして偶然、彼女は見つける事が出来た。ちょうど試合が終わったらしい組み合わせに、確かに雪白静香の名前が挙がっていたのだ。自然と高鳴る鼓動を押さえながら、彼女は観戦窓を覗き込み、試合結果を直接確認してみる。

 

 身体中に霜を下ろして、凍死寸前の雪白静香の姿がそこにはあった。

 

「なん……だとっ!?」

 戦慄するリヴィナ。

 自分を圧倒した静香が、そこでは無様な姿をさらして倒れている。その衝撃は自分でも予想を遥かに超える衝撃となった。

 実際に戦った自分だからこそ分かる。彼女の強さは、単独で戦う上ではおそらく最強だろう。一騎打ちで戦えば、彼女に勝る実力者など、それこそAクラス並みではないと考えにくい。それがどうしてこんなにも無様な姿で敗北していると言うのか。

 相手は余程の実力者だったと言うのだろうか。

 疑問が浮かぶと共にちょうど出てきた対戦相手、桐島(きりしま)美冬(みふゆ)に直接聞いてみる事にした。

「あ、あの……っ! 試合、どんな感じでした?」

 慌てていた所為か、色々端折(はしょ)った質問をしてしまったが、美冬は僅かな戸惑いだけで正確に質問に答えてくれた。

「はい? ええっと……、対戦相手の方がずっと逃げ回っていたので、天候ごと極寒地帯に変えて氷漬けにしました」

「な―――っ!?」

 ―――んだそれはっ!? っと続くはずだった言葉は言葉にならなかった。あまりに無茶苦茶な大規模攻撃で、力任せに解決しましたなどと言われ、頭のネジがいくつか(こぼ)れ落ちた様な気分だった。

 かつて戦い負けた相手が、圧倒的な差を見せつけ悠然と去っていた人物が、まさかこんな無茶苦茶な方法であっさり敗北してしまうなどと、一体誰が理解できようか?

 しかし、現実には静香は敗北し、今も凍死寸前で震えていると言うのに、教師からはただ見下ろされるだけと言う放置プレイを受けている。そこには、自分を圧倒した少女の姿はなく、以前から見せていた普通に頼りなさげな少女が、当たり前に倒れている姿しかない。

「な、なんなんだこれは~~~~~っっ!?」

 思わず頭を抱えて絶叫するリヴィナに、美冬は驚きながら困惑するしかなかった。

 

「いや、ってかこのリカの扱いが一番酷くないかぁ~~……?」

 ボコボコにされた挙句、対戦相手に一言もかけられず去られた夏目梨花は、涙を流しながら地面に突っ伏していた。

 幸い彼女の能力により、イマジン体として呼び出された猫達にじゃれつかれながら回復しているのだが、教師までいなくなり、一人寂しく倒れ伏す姿は、何とも哀愁漂うものがあった。

 

 

 

 3

 

 Dクラスの戦闘は相性差が如実に表れるケースが圧倒的に多い。

 それを証拠に、膝丸(ひざまる)(あきら)を相手にしたクライドは、傷一つ負うことなく、圧勝して見せた。Dクラスと言うよりCクラスよりの暁にとって、とことん相性の悪い環境としか言いようがなく、彼としてはどうも伸び悩む傾向にあった。

 無事勝利を収めたクライドは、多少なり落ち込んでいる暁を見送りつつ、他の試合もちらりと窺った。

 

「こ、今度こそ……っ!」

「はっ! 無駄だと言う事がまだわからんかっ!」

 飛来した閃光を盾で防ごうとした加島(かしま)理々(りり)だったが、接近していた閃光は盾に接触する瞬間、まるで盾を避けるようにぐにゃりと軌道を変え、一つ残らず理々に命中した。

「ふぎゃあっ! またぁ~っ!?」

「ふはははっ! 我が黒き英知の前では、かような盾など物の数にも入りゃ()ぬわっ! ………入らぬわっ!!」

「今、台詞噛みま―――」

地獄業火の城門(インフェルノゲート)!!」

「わわっ!? 照れ隠しに炎の壁ですかっ!? でも私にそう言うのは効かな……さ、酸素が……っ! 炎で酸素が……っ!」

「ふははははっ! 我が劫火に苦しゅむ(、、)がいい!」

「ま、また、噛んで…ます……」

 試合に勝利した黒野(くろの)詠子(えいこ)だったが、その顔は羞恥心で真っ赤に染まっていた。

 

「これで、どうだいっ!」

 蓄積したエネルギーを放出する白宮(しろみや)歌音(かのん)。直撃を受けた原染(はらぞめ)キキだったが、その体が負った傷はすぐさま治癒されていく。

「こ、こんなのっ! ユノおねーちゃんに比べたら怖くなんかないもんっ!」

「反撃がまさかのグルグルパンチっ!? この子見た目通り小学生なのかなっ!? ……って、あ、イタッ、痛い……! 思いの外すごく痛いっ!? 『強化再現』された拳は小学生でも嘗められた物じゃなかったぁ~!」

「えいっ! えいっ! えいっ!」

「そして可愛い! 完全に普通の小学生だよこの子っ!? うぅ~、この学園に来て初めて良心の呵責(かしゃく)がぁ~~~! イタッ、痛い……っ、痛いけど反撃できないぃ~~~~!」

「えいっ! えいっ! え~~~いっ!」

 グルグルパンチのみでポイントを獲得しきったキキは、アナウンスを聞いた瞬間、涙目になって喜び、そこらじゅう飛び跳ねながら全身で勝利を喜んでいた。

 対する歌音の方は、負けた事よりも、幼女を相手に反撃できなかったことに、軽いショックを感じていた。

「卑怯だ……、あんな見た目も中身も小学生とか……、ホント卑怯だ……」

 原染キキがDクラスの最終兵器(イノセント・ウェイポン)と呼ばれる日を空想してしまう歌音なのであった。

 

 

「これはこれは、皆さんお盛んな事ですねぇ~~」

 まるで他人事と言わんばかりに笑うクライド。ここまでで二連続勝利を収めている事もあり、彼の中では余裕の様な物が生まれていた。

 見て回る試合の殆どが、結構簡単に決着がついているのも、「そう言う物だ」と彼に思わせるのに充分な光景だったのかもしれない。強者と弱者の差が如実に表れるのがイマジネーターだと彼は誤解していた。実際はDクラスがただ相性に左右され易いと言うだけなのだが、他クラスとの戦闘経験が無いクライドが誤解しても仕方のない事ではあった。

 そんな中、クライドはクライドなりに情報を集め、興味を抱いた相手がいた。偶然その名前を見つけ、依然戦闘中である事を確認した彼は、さっそく観戦してみる事にした。

「おや……? てっきり彼女の方が優勢になると思っていたのですが……」

 そこにあった光景は、彼の予想とは異なる状況であった。

 

 

 小金井(こがねい)正純(まさずみ)VSユノ・H・サッバーハの試合模様。それは圧倒的とは言い難い接戦であった。だが、どちらが優勢かは既に目に見える状況にある。

 正純に分があり、ユノが劣勢に追いやられていたのだ。

 ユノ・H・サッバーハは、異世界出身の犬獣人の少女だ。身長約150cm、銀の長髪。頭頂部から三角形の犬耳を生やした姿は、明らかにこの世界の住人で無い事を表わしている。幼い頃より、暗殺稼業で生きていた彼女は、この世界で、つい最近まで平和な世界でぬくぬくと育ってきた様な同年代相手に、自分が遅れを取るなどとは微塵も思っていなかった。いかに巨大な力を手にしたところで、昨日戦った少女同様、痛みに耐えかねて泣き叫び、ただ蹲るばかりで大した事など出来は無い。そう思っていた―――。

(な、なのに……、コイツ……ッ!)

 自分を相手取り、互角以上に渡り合う少年を前に、ユノは恐怖にも似た戦慄を感じ、身体中の毛を逆立てていた。

 正純は決して余裕のある状況ではなかった。身体中に怪我を負っていたし、疲労も色濃い。息も荒く、肩が上下していた。

 彼の能力は十二星座をモチーフにした魔術を使う物だ。しかし、スキルスロット一つ分に集中しているため、力が減少してしまう。その能力発動数に制限が設ける事と、それに対するペナルティースキルを取得する事で、力の減少を相殺している。結果的に正純の魔術は驚異的な物となり、ユノとの相性差とも相俟(あいま)って、圧倒的に有利な立ち位置に存在していた。

 そう、本来ならこの勝負はユノよりも正純が圧倒する方が普通であり、むしろ現状の結果は、ユノがありえない程の功績を成していると言えるだろう。

 既に正純は『黄道十二宮招来』の能力魔術『星霊魔術』を四つ使用している。

 彼の隣で傷だらけになり、緑色のイマジン粒子を大量に噴出している『獅子座』は既にいつ消えてもおかしくない状況だ。脚力を強化する『山羊座』は、使っていなかったら速度差に追いつかれ、能力を殆ど使う前に倒されていただろう。これについては、正純のイマジン変色体の身体能力が3なのに対して、ユノの身体能力が218もあるのだから、もはや圧倒的としか言いようがないだろう。迎撃のために使っていた『射手座』については、ホーミング効果も殆ど用を成していなかった。ここで初めて使用した『蟹座』による横歩きしかできなく呪いは、ユノの派生能力『影歩き』のスキル『影移り』の影から影へと移動する力に殆ど無効化された状態に近かった。この能力が何気に一番厄介で、『射手座』の追尾も影の内側までは追えず、何度となく地面を射抜くばかりで終わった。

 厄介な状態はもう一つある。ユノの能力『暗殺技能』のスキル『致命』の効果だ。これによって負わされた傷は、何をしても相手が効果を切るまで癒える事が無い。先程から『治癒再現』を試みていた正純だったが、一向に『致命』の効果を打ち破れる気配がない。

 それでもだ。それでも、この程度であれば正純が此処まで苦戦する事は無かった。本来、相性差から考え、正純は『獅子座』で敵を翻弄しつつ、『山羊座』で『影移り』に対抗しながら『射手座』で牽制。後もう一つ、どれかの魔術を使えば確実に追い込む事が出来るし、そうでなくても、この三つだけで充分勝機はあった。そもそも『致命』の効果も、攻撃を受けなければなんと言う事は無い。『獅子座』は『獅子宮』の恩恵を持っているので物理攻撃に強い。なので、本来ならユノは一方的に攻撃に曝され、自分の攻撃は有効にならず、一方的な展開になる筈だったのだ。

 だが、それはあっさり覆った。

 ユノの能力『暗殺技能』と派生能力『影歩き』、この二つの能力を合わせて使うスキル『暗器』は、『デュアスキル』と呼ばれる特別な能力だ。本来、『能力』と『派生能力』は“同時”に使う事は出来ても、“合わせて”使う事は出来ないとされている。これはスキル設定されているイメージが、個々で存在する物であり、決して同じではない為だ。だが、関連性は存在している。その関連性を繋ぎ合せ、一つのスキルとして再現した物、二つ以上のイメージを重ね合わせた強固なイメージ武装、それこそが『デュアスキル』、他者のイメージよりも強固なイメージスキル。

 その効果は、本来影を刃に纏わせ、多少切れ味を増す程度の『暗器』で、刃が通じない筈の『獅子座』の身体を傷つける事が出来る程だった。

 斬激の威力は恐ろしく強くなったと言うわけではない。獅子も致命傷は殆ど受けておらず、傷だらけではあるが、まだ戦える意思を見せている。

 『デュアスキル』はイメージの強度を上げる物で、他者に破られる心配がないと言うだけで、攻撃力を圧倒的に上げる性能は無いのだ。

 それでも、学園全体で見ても、三年生に一人、半端な形で有する者がいるだけと言う、この希少なスキルが無ければ、彼女は既に敗北していただろう。惜しむべきは相手だった。圧倒的不利な相性差、何よりDクラスでも間違いなく実力者の部類に入る正純を相手に、ここまで善戦して見せた事こそ賞賛に値するのかもしれない。

(でも……っ!)

 歯を食い縛るユノ。

(強い相手だから負けを認めるとか……! そんなの理屈が通らないっ!)

 ユノは生徒手帳からナイフを取り出し、両手に構えると、真直ぐに正純を睨みつける。

「いくよ…? 本気で…」

 気配が変わる。

 ぞっとする様な寒気を正純が感じた時には、既にユノの姿は『影移り』によって消え去っていた。

 慌てて『獅子座』を自分から離れさす。影から出て来る性質上、獅子座の巨体は大きな影を作ってしまい、むしろ危険を増やす事になってしまう。

 次の攻撃がどのようにしてくるのか予想が出来ない。自分の足元の影はもちろん、周囲の影にも気を付けなければならない。とりあえず出来る事は、太陽を背にし、自分の影が正面に来るようにしておく事くらいだ。これでとりあえず背中からは襲われない。周囲は適度に木が生えている森と草原の間を取っている様な空間だ。木々と適度な距離を取っていれば、充分『直感再現』で対応できると判断した。

(でも、これで何とかできるようなもんじゃねえよな? こっちも何か他に打つ手はないか?)

 考える。

 既に四つの星座は効果が薄いと理解した。ならば他の星座を使う必要がある。

 『牡牛座』は怪力だ。この現状では全く意味がない。

 『乙女座』は相手を魅了する効果があるが、対象が人間限定とされている上に、運悪く、相手は異世界出身の他種族。正確な意味で“人間種”ではないので魅了の効果が発揮されるかどうか怪しい。

 『天秤座』は互いの力を均等化する事ができる。これを使えば、『獅子座』の攻撃力が落ちる代わり、相手の攻撃で『獅子座』が傷つく事は無くなるかもしれない。だが、正純にはユノがどう言った原則で『獅子座』を傷つけているのか解らない。つまりこれも賭けの要素が強くなってしまう。

 『水瓶座』は大規模に津波を放つ火力系。現状では意味が無い。

 『魚座』も同様。現状では使う意味がない。

 『牡羊座』は盾の効果だ。だが、『獅子座』の身体を傷つけた刃を止められるかどうかは不明。

 残るは二つの星座。それらを頭の中で思い浮かべた瞬間、一つの攻略法を思い付く。

 これは賭けだ。だが、少なくとも、上記よりは確実性のある賭けだ。

 問題はタイミングだ。『直感再現』は確かに危機に対して素早く反応する優れた本能だが、絶対ではない。『直感再現』は発動確率が高いだけで必ず発動する物ではないし、何より『直感再現』は回避には向いているがカウンターには不向きだ。こう言う時には自分で意識して行動することを心がけなければ勝機は訪れない。

 目を瞑る。無音、神速で放たれる敵の攻撃は何度も確認している。なればこそ、眼に頼るのではなく、経験則から来る直感に頼るほかに無い。『直感再現』ではなく、己自身の直感を信じるのだ。

 静寂……。

 長いとも短いとも感じる集中された時間の中で、互いにここぞと言う一番を狙いすまし―――放つ!

 

 先手を取ったのは正純。

 目を開いた瞬間、自分の影―――真下から迫ってくる物を捉え、僅かに体の軸を逸らす程度で躱し、頬を浅く傷つける。代わりにカウンター気味にはなった拳に『星霊魔術』を行使して放つ。

 だが、拳は虚しくも地面を殴りつけただけに終わった。カウンターのタイミングはこれ以上ない程に完璧だったと言うのにだ。

 何故? っと言う疑問の答えはすぐに見つかった。ユノは影から出てきていない。正純がカウンターを狙っているのを察して、影の中からナイフだけを投擲してきたのだ。それにカウンターを合わせてしまった正純は、地面を全力で殴るという結果に終わってしまった。そして背後には、今度こそ影から飛び出したユノが、二本のナイフを振り被っていた。

(もう躱せない……っ!)

 それを悟りながら、正純は全力で身体を捻る。だが、前後を入れ替えるのが精一杯。振り返ったところを狙ったかのように、ユノのナイフが心臓を射抜き、喉笛を速やかに斬り落とした。

「ぐ……っ!」

 それでもと、正純は致命傷を受けた状態で必死にユノに食らいつく。心臓を射抜いた方の腕を掴み取り、逃がすまいと渾身の力を込め、反撃の拳を握る。

 次の瞬間、あっさり両腕を切り落とされた。行動の迷い、判断の遅れ、それらは暗殺者にとって致命的なミスだ。だからユノはそれら愚行を全て先に立った。

 ただ冷静に、ただ冷徹に、暗殺者として目的執行を最優先に動く。眼前の敵を確実に殺すまで―――否、確実に死ぬのを確認するまで、彼女は決して油断しない。

 

 だから『直感再現』が背後からの危機を知らせた事には意外だった。

 

 放たれる三つの軌跡を、手足を投げ出す様にして無理矢理回避する。同時に背後を確認し驚く。そこに、もう一人の正純の姿があったからだ。

 それでもユノの行動は迅速だった。足首に仕掛けていたナイフを蹴りの動作で投擲し、正純の胸を貫く。『直感再現』がギリギリで間に合ったのか、急所からは外れ、やや右側の位置に突き刺さっている。それでも致命傷。『致命』の効果で傷が癒えない以上、次の一手で確実に仕留められる。

 

 その確信を得ると同時に、ユノは背中を三本の光閃に貫かれた。

 

 歯を食い縛る。

 これは予期していたダメージだ。意外でも何でもない。

 先程放たれ、躱した三つの軌跡が『射手座』で在る事は予想出来ていた。だから、躱した後すぐに反撃を選んだ時点で背中を撃たれる事は解っていた事だ。

 それでも、ダメージはまだ小さい。次の一手を妨げるには至らない。

 ユノは地面に着地すると同時に踏み出し、手に持ったナイフをもう一人の正純に向けて放とうとし―――そのまま全身の力が抜けて地面に倒れ伏した。

(な、なに……?)

 地面に倒れたまま疑問が浮かび、次の瞬間には吐瀉物(としゃぶつ)を吐いていた。頭やお腹が気持ち悪く、眩暈がする。指先が痺れて上手く動かせない。平衡感覚は愚か、身体の何処を動かそうとしているのかも上手く理解できない。

 過去の経験から洗い出し、ユノは自分が置かれている状況を認識する。

(毒……っ!)

 本当は声に出したつもりだった。しかしそれは言葉にはならなかった。口も満足に聞けない程に強力な毒物を打ち込まれたのだと悟る。

 二人になっていた正純は、互いに緑色のイマジン粒子を放ち、一人の存在へと戻る。身体中に謎の痣の様な文様を浮かび上がらせながら、身体中傷だらけの状態で、彼はユノ視線に応える様に語る。

「『星霊魔術』の『双子座』で二人に分裂した。能力も実力も半分に分ける代わり、戻った時のダメージも半分だ。だから片方が殺されても片方が無事なら首の皮一枚は繋がった状態で元に戻る。そしてアンタを苦しめてる毒は『蠍座』の毒だ。使うのが初めてだから加減が解らなかった。ちょっと過剰過ぎる毒だったとしても勘弁してくれよ」

 リタイヤシステムの粒子に包まれながらユノは思う。

 イマジネーターの能力には制限が掛けられている。それが技能枠(スキルスロット)だ。能力で発生できる力を制限する事で、過剰な能力使用を抑え、扱い易くするための処置。イマジネーターに求められるのは、この制限内で、より強力な力を引き出し、確実に勝利を求められる事。そう言う意味において、小金井正純は反則なまでに多種多様な能力の持ち主に思えた。

 少なくともDクラスに於いて、彼の様な多彩な戦闘手段を持つ者こそが有利な立場に立てるのかもしれない。それが解ると、何だか悔しい気持ちになった。自分は異世界の出身だ。残念ながら、自分の故郷とこの世界は、まだ友好関係にあるとは言えない。そもそも自分がこの世界に来たのは事故の様な物だ。だから元の世界に帰りたいとは思わない。それでも、あの世界で培ってきた物は確かに本物で、この世界でも活かす事が出来るはずなのだ。それが、自分のいた世界では「温い」だの「甘い」だのと罵ってきた様な相手に、つい最近まで平和が当たり前の一般人を相手に、ここまで敗北した事が、とても悔しかった。

 だけど一つだけ、良い事もあると自覚する。

 ここでは負けた悔しさと共に、リベンジを許される。次が許される。

 だから誓う。次こそは必ず、この悔しさを相手に味あわせて見せると。

 その誓いと共に涙が滲む目で正純を睨みつける。正純は挑むかのように笑って返して見せる。

 

 「またやろうぜ?」っと、言うかのように……。

 

 勝者:小金井正純。

 

 

 

 4

 

 ナナセ・シュルム=カッツェは猫科の獣人少女で、ユノ同様、異世界の出身だ。同じクラスなので顔見知り程度には知り合っているが、同じ世界の出身かどうかは、解っていない。獣人系の種族は異世界では珍しくないのかと聞かれると、それはイエスとも言えるしノーとも言えると言う曖昧な返答しか返せない。同じタイプの獣人族であっても、その出生、文化、進化の過程によって、その世界特有の特徴が現れる事があるからだ。

 例えば、この世界では人間の亜人種は存在しない。白や黒、そして東洋人の肌色、などと言った肌や目の色の違い、特徴的なところで首長族と呼ばれる、首の長い人種もいるが、これらは同じ人種であり、亜種とは決して言えない。そしてそれ以外は全て動物であり、意思疎通はできない。

 これらと似た様に、異世界の獣人―――この世界と友好関係にある世界の一つ『バイタリティア』を例題に上げるとしよう。文明は低いが、人類種族が強靭に進化した異種族世界である『バイタリティア』の人種は、元はこの世界の人間(『バイタリティア』では素人(ノット)と呼ばれている)に近い存在だったらしい。しかし、こちらの世界と違い、彼等は異種族間での交配(こうはい)(異系交配、交雑(こうざつ)ともいう)が可能だった。こちらの世界で言えば、人と動物でも同じ哺乳類なら子を成す事が出来たと言う事になる。そのため、彼等にとっては『動物種』っと言う枠組みが微妙にこちら世界の人間とは違ったりするわけだが、それは今は置いておく。

 他の種族との交配を続け、進化の過程上で『獣人種』として到達した彼等は、文明発展よりも、個体の進化を目的として生活し、実はとてつもなく頭が冴え、身体能力の高い種族となっている。

 対して、ナナセの出身世界(交流が無いため名称は不明)では、三番目の神様が自分達を祝福し、より神様の形に近い物へと進化させてくれた、神からの贈り物だと伝えられている。言わば、元が獣種から進化した人種なのだ。そのため、同じ獣人種でも見た目の違いなどで差別は起こるし、宗教や文化の違いなどでぶつかりもする。そして文明も発達させる方向にあった。

 結果として、『バイタリティア』の獣人種は、こちらの世界から見ると文明が乏しく、礼儀作法も最低限なので野蛮に見え、だが、人間よりも圧倒的に優れた人種だったりする。

 対するナナセ達には礼儀作法が全く別文化なので噛み合わず、いがみ合いの種になったりし、お互いに文明の違いなどでぶつかり合ってしまう、何一つ変わらない異国人と同種の人種として見られる。

 中には尻尾はスカートの中に隠し、人前でみだりに見せない物だとする種族や、裸同然の格好なのに、絶対に生足だけは晒そうとしない種族がいたりなどと、違いと言うのは接してみれば如実に表れる物である。

 そんな彼女達にとって、異世界の力、イマジンはどう映るのかと言うと、それはやはり魔法を超えた万能の力だった。

 想像するだけで能力を作り出し、独自の形態で進化、発展させていく力など、彼女達の知る世界の概念でも存在しなかった。(ちなみにユノとナナセの世界には魔法は存在したが、どちらも同じ理屈ではない魔法文明だった)

 はっきり言って、全く制限の無さ過ぎる力は、ただそのまま振るっても大災害を引き起こす事が可能な程であった。それに敢えて制限を付けるのは、そう言った“ルール”が存在するのだと人に認識させる事を重視したからなのだろう。何故イマジン研究が学園として設立されたのか、その理由もここに一因しているのかもしれない。イマジンを使う上での常識を、いつかイマジンが一般化される時の事を見越して、今の内に教えているのだろう。

 さて、そんな脱線的な事を考えながら、ナナセは首を捻って考え込む。

 先程も言った通り、イマジンは万能の力で、想像すればどんな事でも起こせる。

 学園側から設けられた制限こそある物の、それに違反しないレベルでも充分過ぎる程破格の能力だ。

 だが、その万能過ぎるが故に、不自由な事もあった。

 それは能力使用時に発生する違和感だ。

 ナナセの能力は『風爆(ゲイル)』そして派生能力を『空壁(オーヴァ)』と言うのだが、先程から使用時に、妙な違和感が何度も感じられるのだ。

 派生能力『空壁(オーヴァ)』のスキル『無明の牢獄(エアジェイル)』で、対戦相手のリク・イアケスのイマジン体、ウミ・イアケスを高密度の空気の壁に封じ込めた時点では何も感じなかった。

 しかし、彼女が能力と派生能力の複合技『鮮血の空牙(ブラッド・ファング)』で、イマジン体の兵士を薙ぎ払った時、その違和感を感じた。

 『鮮血の空牙(ブラッド・ファング)』は、蹴りに合わせ空気を固め、撃ち出すスキル。音速を超える勢いで放たれるそれは、空気摩擦によって空気を赤く染め上げ、如何なるものをも切り裂く力を持っている。

 だが、どうも違和感がある。発動時のタイムラグ、想定される威力、照準、使用したイマジン量、ありとあらゆる事にムラが発生しているのだ。

 能力その物は発動している以上、学園側が設けた“制限(ルール)”を逸脱したと言うわけではないだろう。だが、『無明の牢獄(エアジェイル)』に比べて、どうにも安定しないのである。

 時には、英霊の魂で強化したリクの剣激で簡単に薙ぎ払われてしまう程、ただの突風クラスにまで劣化してしまう事もあり、逆に、これ以上ない程強烈な一撃となり、周囲の遺蹟っぽい建造物を、根こそぎ両断してしまった事もあった。

 全く安定しない力に、どうしてなのか? 何故なのか? っと、首を傾げるナナセ。

 幸いな事に、戦闘はそれほど苦戦はしなかった。能力的相性差もあり、自分の能力はリクの能力に比べると、『無明の牢獄(エアジェイル)』以外は強いのだと理解出来た。イマジネーションステータスがリクの方が上だったらしいが、ナナセの『鮮血の空牙(ブラッド・ファング)』はそれを打ち負かせるようなのだ。理由は解らない。

 ムラの所為で長引きはしたものの、無事、ポイント獲得で何とか勝利を収めたナナセは、教師に対して質問を投げかけていた。

「それは単に能力が不安定なだけと思われ、故に違和感となって現れる」

 質問を投げかけられた金髪ロングヘアーの実技担当教師、メアリは、スレンダーな体系を自然に見せつける背筋を伸ばした綺麗な姿勢ではっきりと斬って捨てた。

「ふ、不安定って……、ちゃんと制限に則った能力設定にしているはずですけど?」

 あまりにバッサリ切り捨てられた物だから、表情に出るほど不安になって質問を続けるナナセに、メアリはハキハキとした態度で説明を続ける。

「そもそも学園側が能力に制限を付ける理由を、アナタはちゃんと理解していますか?」

「ニャ? 範囲の広すぎる能力は、不慣れな者には扱いきれないからって事ですよね?」

 ざっくりとした結論を告げたナナセに頷き、メアリは続ける。

「アナタが違和感を覚えたと言うスキル『鮮血の空牙(ブラッド・ファング)』は、能力と派生能力の複合技だったはず。故に、それは二つの力を同時に使用している難易度の高い技術。まだ学園側としては判断に困っているが、『デュアスキル』の可能性も考えられている」

「『デュアスキル』?」

 まだその知識を得ていないナナセは首を傾げたが、メアリは「それは後で自分で調べて」と切り捨て、本筋を語る。

「本来、二つの能力を同時に使用する事は難しい事じゃない。多少制御が困難にはなれど、両手を使うのと同じで、ややこしい事をしようとしない限りは、左右の手が混乱する事は無い。でも、それは片手を充分に使えればの話」

 メアリの話によると、ナナセが『鮮血の空牙(ブラッド・ファング)』を上手く使えなかったのは、『風爆(ゲイル)』単体のスキルが存在しない事が原因だという。

「普通の人は、能力(右手)派生能力(左手)を、それぞれ単体で動かすスキルを持ってる。けどアナタは派生能力(左手)を単体で動かす事は出来ても、能力(右手)を単体で動かす方法を知らない。能力(右手)を動かす時は常に派生能力(左手)を動かしている状態。故に、複合スキル(両手)を動かす時は、派生能力(左手)の動きが主軸となって能力(右手)の動きが疎かになる。だから上手く力を使えない」

 言われてナナセは自分の三つ目のスキル『空鎖の荊棘(ソニア・チェーン)』の事を思い出す。確かにアレも能力と派生能力の複合技。言われた通り、『風爆(ゲイル)』単体で使用するスキルは持っていない。

「で、でも……、能力自体は発動している以上、そんなのは慣れの問題なんじゃ?」

「その通り。でも、アナタにとってこの状況はとてつもないハンデと自覚するべき」

「そ、そこまでニャのっ!?」

「ハイハイを思い浮かべると良く解る。上手くハイハイをするには、右手と左手を交互に動かさなければならない。でもあなたは右手を単体で動かす方法を知らないから、右手を前に出そうとする時、左手も前に出てしまう。故に顔面激突」

「ひにゃあっ!」

 思い浮かべて悲鳴を上げるナナセ。

 実際にハイハイはそんな簡単な動作ではないが、例題としては充分に解り易かった。

「じゃ、じゃあ、ボクはこれからどうしたら? ひたすら複合スキルの練習?」

「それより能力単体で出すスキルを得た方が圧倒的に早い。それだけで一瞬で会得できる。でもスキルスロットの空きは無いから、今は諦めるしかない。故に時間の無駄」

「にゃんか悲惨ッ!?」

 教師のありがたい言葉に項垂れる結果となったナナセ。

 どうやら自分は、学園側が上手く能力を使える様にという配慮で設けられた制限を、己が才能で無視して、逆に自分の首を絞める結果となってしまったらしい。

 才能があればあるだけ伸びると言う物ではなく、才能を伸ばすための正しい順序と言う物は意外と存在する。全てが全て型通りにはまるわけではないが、少なくとも、そんな例外など早々ないと言う事なのだろう。

 新しく『技能追加プロテクト解除キー(スキルストック)』が手に入るのは最速で今月の終わり。つまり、今回の試合中は未完成状態の能力で戦わなければならないと言う事だ。

「にゃにぃこの扱い……? 酷過ぎる……」

 涙目になって項垂れるナナセだったが、その脇で自分の治療をしていたリクが「こっちの扱いの方が酷過ぎない? ほぼ完全に空気だよ?」っと呟いていた事には気付いていない。

 

 

 

 5

 

 

 ついに訪れた三日目、予選最終試合にして各クラス代表を決める最後の試合。各クラスの例に漏れず、疲労困憊に陥っている生徒達は、まるで消化試合の様にあっと言う間に決着を付けて行った。

 ユノ・H・サッバーハVS相原(あいはら)勇輝(ゆうき)の試合は僅か開始五分で決着がついた。森に配置されたドローン三体を全て破壊すると言うタスクを、巨大ロボットで一気に片付けようとした勇輝は、己が作り出した巨大な影を利用され、ユノの姿を確認する事も出来ずにあっさり殺されてしまった。

 雪白(ゆきしろ)静香(しずか)VSナナセ・シュルム=カッツェの試合は、ナナセの能力不調と、静香の圧倒的な運の良さで決着した。静香は、『この市街地の至る所に一回だけ使用できるくじ引きが存在する。当たりを三回引けば勝利を認める』っと言うタスクを三回連続で成功させると言う、教師も驚愕過ぎて呆れてしまった程の幸運具合だった。

 リヴィナ・シエル・カーテシーVS原染(はらぞめ)キキの試合はキキの逆転勝利となった。終始相性差もあって圧倒されっぱなしだったキキは、逃げ回るしかなくなっていたのだが、その逃げ回っている最中に『森に群生している数種類の薬草を全て揃えろ』っと言うタスクをギリギリ一ポイント差で達成した。泣きべそかきながら、最後には気絶してしまった物の、結局勝利をもぎ取ったキキに、リヴィナもお手上げ状態で賞賛するしかなかった。

 クライドVS加島(かしま)理々(りり)の戦いは引き分けに終わった。

 互いの能力が攻撃系で無かったのが災いしたのだろう。クライドは『背負え(カルマ)』によって、理々の右手を使えなくし、『救われぬ罰』で聴覚を奪い、怠惰の欲求を増幅させ、『七つの獣』で怠惰の睡眠欲を強制した。しかし、眠りに付く寸前、なけなしの根性で発動した、理々の『メデューサの呪い』が見事にクライドに命中、身体が石化してしまい動けなくなった。理々も寝てしまい起きる気配も無く、クライドが石化を解く術を見つける事叶わず、結局試合はドローと判断されてしまったと言うわけだ。

 リク・イアケスVS音木(おとぎ)絵心(えこ)の試合は悲惨な物となった。なんと絵心、二日目に続き三日目まで同じイマジン体使役タイプとの戦闘。しかも、ミリタリー属性を持つ絵心のイマジン体に対し、本場軍人状態のリクの軍勢は相性が悪いにもほどがあった。最初こそ、赤頭巾のイマジン体『リンゴ』が次々と敵兵を薙ぎ払って行っていたのだが、時間が経つにつれ、物量を作り出せるリクに圧倒されて行き、タスク勝利を狙っていた絵心を完全包囲した状態に追い込んでしまう。最後は軍勢に物を言わせた質量の突撃で圧殺され、絵心を軽くへこませる結果に陥った。終始彼女の試合はあまりにもくじ運が悪過ぎて、教師の方でさえ「設定間違えたか?」と疑問を抱いてしまう程不運だったと言う。

 小金井(こがねい)正純 (まさずみ)VS膝丸(ひざまる)(あきら)の試合もあっさりと終わった。正純が『星霊魔術』の『水瓶座』と『魚座』を併用して使い、『射手座』と『蟹座』を組み合わせまで使われ、殆ど何もできない内に暁は負けてしまった。あまりの成績の悪さに、さすがの暁も、少々気が滅入った様子を見せた。

 

 

 夏目(ナツメ)梨花(リカ)VS白宮(しろみや)歌音(かのん)

 この戦いも接戦とは言えず、終始、歌音優勢で進んでいた。

 梨花が『猫にゃん大進行!』で呼び出した二千匹の猫で戦闘を試みていたのだが、彼女の猫はイマジン体であり、一匹一匹に自我が存在していない。そのため梨花を守るためのアルゴリズムが存在し、それを見破られてしまった後は、殆ど独壇場にされていた。

 歌音の能力『蓄積』のスキル『静寂の黒』で創り出した直径十㎝の球体を、自分の周囲に六個配置し、上手い事、行進してくる猫にゃん達にぶつけ、イマジンエネルギーや運動エネルギーを吸収して行く。

 ある程度蓄積が完了したら、今度は派生能力『解放』のスキル『激動の白』によってエネルギーを解放。周囲の大気に対して吸収した運動エネルギーを解放しただけなのだが、蓄積した量が量だけに、エアカッターの様な、真っ赤なレーザー光線が発射された。一方向に強制的に働きかけられた運動エネルギーを受け、空気同士が摩擦を起こして赤く変色したのだ。レーザー光線(実際はエアカッターなのだが、もはや大差ない)をサッ、と一閃された大地があまりの威力に吹き飛び、周囲の猫にゃん達が吹き飛ばされて行く。

「薙ぎ払えーーーっ!」

「猫にゃ~~~~~んっ!!?」

 まるで死の七日間を再現しているかのような残酷な光景に、しかし自我を持たない猫にゃん達は梨花を守るために次々と恐れる事無く向かって行く。

 そしてまたエネルギーを充分に蓄積した歌音にレーザーを放たれ、大地が爆ぜ、直撃した猫にゃんが両断され、次々と粒子の躯を晒して行く。

「や、やめて猫にゃん! リカの事は大丈夫だから、もう無謀な攻撃をしないでぇ~~!」

 梨花の悲鳴も虚しく、猫にゃん達は無謀な突撃を繰り返す。

 そんな中、一匹の猫にゃんが脚を止め、梨花へと振り返る。

「猫にゃん?」

「……にゃあ」

 一鳴(ひとな)きした猫にゃんは、まるで「大丈夫だ」と伝えるかのように、はたまた、死地に向かう前に、最後に主の顔を見ておこうと別れを惜しむ様に、何処か潤んだ響きを思わせる鳴き声を漏らし―――、

 

 タッ!

 

 猫にゃんは駆け出す。己が主の敵に向けて、自我無き猫がその使命を全うする。

 しかし、その爪は、その牙は、命を賭した体当たりさえも、完全に読み取られ、全ての運動エネルギーを吸収され尽くし、無常なる光の柱は放たれる。

「にゃああああああーーーーーーっ!!」

 迸る光に向けて、それでも自我無き猫は爪を振るう。その粒子の肉体一片でも残る限り、抗って見せると可愛い声で吼え猛る。

 

 サッ、……チュドーーーーーンッ!!!

 

 その志は、藻屑となって消え去った。

「猫にゃ~~~~~んっっ!!!」

 がっくりと項垂れる梨花。

 もはや戦意喪失に近い状態に陥りながら、それでも自我無き猫達は主のために戦意を漲らせ続ける。

「「「「「にゃあおおおおぉぉぉ~~~~んっっ!!!」」」」」

 (とき)の声を上げるかのように一斉に鳴く猫にゃん達。膝を折り、地面に手を付きながらも感じ取れる猫にゃん達の雄姿を前に、主たる梨花は悲痛な言葉を漏らすしかできない。

「なんて……っ! なんて無常なの……っ!」

「そう思うならリタイヤしてよっ!! 僕の方まで胸が痛いんだけどっ!?」

 未だにレーザーもどきで猫にゃんの強制大量虐殺を繰り返す歌音は、ある意味で梨花よりよっぽど精神的ダメージが大きかった。

「殉職した猫にゃん達のためにも、リカは自ら敗北を認めるわけにはいかないのだっ!」

「じゃあ続けるんだねっ! 言っとくけど僕もこのまま続けるからねっ! 良いねっ!?」

「そんな脅しに―――っ! 屈する……っ! わけには……っ!」

「ちょっと雰囲気出すの止めてくれないかなぁ~っ!? 僕を悪者にしようとするのやめてくれないかなぁっ!?」

 長引くと自分が(別の意味で)不利だと考えた歌音は、蓄積したまま待機させておいた二つの『静寂の黒』を手元に寄せ、丁度溜まった三つ目と合わせ、三つの光線を一気に放つ。サッ、と引かれた三つの軌跡を追う様に、地面が爆発して行く。一匹残らず宙を舞う猫にゃん達。それでも消滅を逃れた個体が、身体を捻って着地の体勢に入る。そこに『強化再現』を施した歌音が突撃を敢行する。空中では何もできない猫にゃん達を手刀と拳で薙ぎ払い、残存した猫にゃんの全てを粉砕し、その足で接近した梨花に向けて、渾身の拳を叩き込む。

「『助けて、大きい猫にゃん!!』」

 梨花の『猫の姫様』の第二の能力が発動する。現れたのは全長3メートルの巨大な虎。明らかに“にゃん”の類ではないだろうっと言うツッコミを入れたくなる、かなりリアルな猛獣が、額で歌音の拳を受け止め、微動だにする事無く睨み返す。

 「我ぇ、なんばしよってん……?」とでも言いたげな眼で睨み据え、姿勢を低くしながら威嚇の唸り声を漏らす。

(なんか、絵面だけ見ると、猛獣使いの少女が(けしか)けた虎に、襲われそうになっている少女って感じなんですけど……?)

 猛獣使い(梨花)が八歳の少女なだけに、この絵面はむしろ猟奇的とも見える。色々スパイスの効き過ぎるワンシーンだ。

「多くの猫にゃん達が無駄死にで無かった事を……っ! リカは此処に帰ってきましたぁ~~~っ!!」

「核なのっ!? この“大きすぎな猫にゃん”、核相当の扱いなのっ!?」

「名前は“シマにゃん”です!」

「リアル描写の癖に名前は可愛いっ!?」

 思わず涙目でツッコミを入れてしまったが、そんな事してる内に(シマにゃん)は巨大な図体を利用して襲い掛かってきた。

 いくら『強化再現』しているとは言え、さすがにリアル描写設定のイマジン体虎に押し倒されて力付くで逃げられるほど、歌音のイマジネーションは優れていない。強化系の能力でもあれば別だっただろうが、なんでも都合良く行く訳ではない。

「シマにゃん……、食べて良いよ……」

「ちょ……っ!? その指示何かムッチャ怖いよっ!?」

 何処か憂いのある瞳を逸らし、胸の痛みを誤魔化す様に告げる梨花。それを(おもんばか)るかの様に、一瞬だけ梨花に視線を送った(シマにゃん)は瞳を伏せて応えてから、一気に顎を開き襲い掛かる。

「こんっのぉ……っ!!」

 刹那、黄金の輝きが迸り、(シマにゃん)が大きく弾き飛ばされる。身体を捻り着地した(シマにゃん)は、すぐに主の前に躍り出る。

 黄金の輝きを纏った歌音はゆっくりと立ち上がると右手を空へと翳しながら、真直ぐ虎を―――その先に居る梨花を見据えて告げる。

「アナタは優しい娘。滅びて行く猫にゃん達のために悼む心を持った優しい娘……」

 歌音の翳した手に、キラキラと緑色の粒子が集い始める。それは、学園から支給される生徒手帳を通したイマジン粒子ではなく、周囲に霧散している大気中のイマジン粒子の輝き。それを歌音は手に集めているのだ。

「でも、アナタはその優しさの使い方を間違えたんだよ。果て行く猫にゃん達を悼む事が出来たのなら、アナタは戦いを止めるべきだった。アナタを慕う猫にゃんが全ていなくなるその前に……」

 それは美しい光景であった。対峙しているはずの梨花すら思わず当てられ、呆けてしまう程に美しい。ただ周囲のイマジンを集めているのではなかった。これは能力によって大気中に残っているイマジン粒子達を呼び寄せ、自身の中に蓄積しているのだ。

 しかし、その粒子の量は半端じゃない。いくらギガフロートが大気にイマジン粒子を充満させているとは言え、イマジネーター同士が戦闘した空間では、大気のイマジン粒子が一時的に枯渇するはずだ。それだけイマジネーターは大気中のイマジンを無意識に吸収し、使用している。それなのに、歌音の身体はイマジンの粒子に溢れ、『蓄積』の効果が追い付かない程に粒子の光に輝いている。

「猫にゃん達を悼む心があったのなら、猫にゃん達と共にある事を望むべきだった。友の決断を許し悼むだけなら、それは優しさではない! 同情と言うんだ!」

 粒子が全て集い、右の拳を握る。

 集まった粒子量に呼応(こおう)して、彼女の碧眼に黄金色が混じり始める。

 嘗て、この能力は自分の設定ミスで不発に終わってしまった物。

 そして今、その失敗を乗り越え、修正されて新たに輝きを取り戻した異能。

 『夢色の金』自身が触れた物や人から漏れ出るイマジネーションの力を自身に留める『蓄積』の力。そしてここには、沢山の猫にゃん達が残したイマジン粒子が充満している。自分が触れている空間からイマジン粒子を手繰り寄せ、それを自身に蓄積、エネルギーへと変換する。

 変換され、黄金の輝きを持つエネルギーを『激動の白』によって、一気に解放する。

「散って行った猫にゃんの気持ちとか、あとこのテンションに付き合わされたボクの気持ちとか、纏めて味わえ~~~~~ッッ!!」

 黄金の輝きをヤケクソ投球フォームで投げ放った歌音。

 強烈なエネルギーの塊に曝され、(シマにゃん)と梨花は紙の様に吹き飛ばされて行った。

「ああああああぁぁぁぁ~~~~~っ!」

 キラキラと輝く光の中、少女は敗北を悟り、全身から力を抜いた。

(負けちゃった……、でも、私頑張ったよ。がんばったよね?)

 今は亡き猫にゃん達を思い出しながら、少女は自分の努力を涙ながらに主張する。

(でも、変だなぁ……、リカ、戦う事よりも、猫にゃん達と一緒に居る事ばっかり考えてる…)

 それは、猫にゃん達を犠牲に、最後まで戦う事を誓った己の否定であり、犠牲となった彼等への侮辱ではないか。そう断じながら、自嘲の笑みを漏らし、瞳の端に涙を零す。

「『疲れたよー、猫にゃん…』」

 ―――っと、そこに生温かくざらついた感触が頬をくすぐった。

「え?」

 瞼を開き、目にしたのは、先に散って行ったはずの猫にゃん達だった。

 彼等は横たわる梨花の周囲に集まり、傷を癒す様に、ただ甘えてくるかのようにぺろぺろと舌で舐める。

「猫にゃん……、そっか、今度はずっと、一緒だね……!」

 微笑みを浮かべ、雫を零す梨花。

 それに応える様に「にゃあ」と短く鳴く猫にゃん達。

 梨花は何匹かの猫にゃんを抱いて蹲ると、そのまま目を閉じて、ポカポカと温かい眠りへ身を委ねるのだった。

 

「あのぉ~~~? それ、絶対回復系の能力だよねぇ~~? 何か気分だしてるとこ悪いんだけど、起きてくれますぅ~~~?」

 

 既にかなり投げやりになった感じの歌音に、ぱっちりと目を開けた梨花は、何故か笑顔を向けて答える。

「『疲れたよー、猫にゃん…』だゾ! 一緒に居るだけで癒されちゃうのだ! 『猫にゃん大行進!』で呼び出した猫にゃんでしか回復できないけど、アレ、普通のイマジン体だから、基本的にイマジン溜まったら何度でも呼べるゾよ」

「解ったから終わりなら変な芝居止めてギブアップしようねぇ~~? じゃないとトドメ刺すよ? 猫にゃんに?」

「りょ、了解ですゾ。ちょっとバトルに飽きて調子乗りました。ごめんなさい……」

 梨花のギブアップにより、歌音は勝利を収めた。

 ………まあ、あれだ。

 バトル推奨の学園とは言え、八歳の女の子がモチベーション保つのは、ちょっとハードすぎる学園だったのだ。大目に見てやってほしい。

 

 

 

 6

 

 

 その対戦カードを確認していた教師達は、(つぶさ)に状況を観察していた。

 監視が目的ではない。ただ好奇心をそそられる程の好カードだったのだ。

 

 黒野(くろの)詠子(えいこ)VS桐島美冬。

 

 教師達の間でも、Dクラスの五指に入る有力株。クライドや正純など、Dクラスを代表する様な能力者として、期待を抱かれていた。

 その二人の戦いは、傍から見れば天候と天候のぶつかり合い。正に神々の争いと見紛う光景だった。

 白い着物に緋の袴。女物の下駄を履いた少女、桐島美冬が、吹雪に長い黒髪を靡かせながら、両手を翳し、イマジネートを()る。

「『寒冷凍死(コキュートス)』」

 発動された能力『魔法創造』の『寒冷凍死(コキュートス)』が、天を曇らせ、大地を凍らせ、空間を白に埋め尽くし、全ての物質の時間を停止させていく。極寒の吹雪は、嘗て主街区と言えるはずだった街並みを、軒並み凍りつかせ、まるでクッキーで出来ていたかのように粉砕して行った。

「六星編、1章、3章、5章、多重詠唱継続! 放て≪インフェルノ≫!!」

 夕焼けよりもなお赤き世界に、黒点の如く佇むのは、黒いゴシップドレスに身を包む、百四十くらいの見た目幼い少女、黒野(くろの)詠子(えいこ)。彼女は業火に黒い髪を弄ばれながら、空間に存在するもの全て焼き溶かして行く。空も大地も空間も、全ては赤一色の灼熱世界。まるでここは太陽の中なのかと見紛う光景に、嘗てそこには街があったなどと誰が想像できようか。

 極寒と業火、対極する力により、それぞれ世界の終わりを体現する猛威と猛威。それらは己の領域を主張するかの如くぶつかり合い、空気が悲鳴を上げるかの如く大爆発を引き起こす。

 核弾頭に匹敵するのではないかと見紛う爆発を何度となく繰り返し、天候と天候の力は次第に力を相殺されて行き、勢いを失い始める。互いに災害クラスの威力が失われたと判断するや否や、術式(イマジネート)を繰って、力を縮小、集束させてぶつけ合う。

 手を翳した美冬が天候を変えて作り出した雪を集め、それを凍りつかせ槍状にし、放つ。

 それに応え、腕組をしたまま詠子も『黒の書=六星編』の3章、地属性の魔術で岩槍を作り出し、それを更に1章の炎と、5章の光を合わせ持った太陽クラスの猛火で焼き付け、溶岩の槍にして迎え撃つ。

 衝突した互いの槍は大爆発を起こし、一番近くにあった地面が深く抉られて行く。

 一発では話にならないと悟った二人は、次々と槍を作り出し、雨の如く乱れ撃つ。

 撃った数だけ大爆発が起き、まるで氷と炎の神が戦争を始めている様な光景となる。

 だが、どんなに規模が大きくても、互いの攻撃を打ち消し合っているだけでは豪華な花火と変わらない。互いに互いを出し抜く隙を窺う。

 先手を取ったのは詠子だ。

「六星編、2章、4章、5章、多重詠唱!」

 詠子の周囲で滞空している九冊の本の内、水、風、光を司る本が独りでにページをめくり、詠唱として効果を発揮する。

 同時にもう一冊、自分の手にとって、片手で本を開き、両手を交差させるようにポーズを取りながら『黒の書=三星編』の効果も発揮する。

「三星編、1章、同時詠唱!」

 『黒の書=三星編』の1章、対物効果を(もたら)術式(イマジネート)の魔道書だ。

 水で槍の形状を作り、風で螺旋を生み、ドリルの様に回転させ、光を帯びる事で光速の加護を得る。それに対物効果を与える事で物理的な防御を無効にする。

「射抜けっ!」

 完成された槍を魔術によって投擲。質量が増えた分、光の恩恵を受けても本物の光速には達しないが、吹雪や爆風に煽られても物ともしない程度には充分高速を得ていた。

 音を置き去りにして放たれる槍に気付いた美冬は、急ぎその場から離れる。その場を飛び退くと同時に槍が飛来、先程まで自分がいたところを寸分たがわず貫通して行く。

 地面を転がる様にしてすぐさま体勢を立て直した美冬だったが、そこに追い打ちをかける様に溶岩の槍が無数に飛来する。

「食らいませんっ!」

 美冬の使う『寒冷凍死(コキュートス)』は、凍らせると言うより、熱を奪うと言う特性に近い。これを溶岩の槍群に直接使う事で、熱を奪い、残るは土くれとなる。光も熱量である以上、同じ方法で消し去ることは可能なのだ。土は炎によってドロドロに溶けていた以上、急激に冷やされれば煤くれの様な物になるだけ。結果として溶岩の槍は全て、ただの煤になって消えた。

 同時に、煤の煙幕を切り裂く様に水の矢が飛来してくる。

「『完全再現(パーフェクトバック)』」

 今度は能力『魔法創造』『完全再現(パーフェクトバック)』を発動。本来は、壊れた物や失った物をもう一度生み出す異能だが、逆に作られた物を()()()()()の物に戻す事も出来る。

 相手が放出系の能力者なら、作られる前の存在はイマジンエネルギーである場合がほとんどだ。っで、ある以上、放たれた槍はイマジン粒子となって雲散霧消する。

 すかさず今度は美冬が反撃に移る。

「『爆発衝撃(エクスプロージョン)』!」

 対象を中心に爆発と同等の衝撃波を放つ、自動照準系空間爆破だ。対象さえ目視出来ていれば後は魔術式が自動で照準してくれるので、ほぼ確実に対象に命中させられる。しかし、この能力は相手の心臓部を照準の中心としている。そのため、高確率で相手の『直感再現』に感知されてしまう。

 案の定、危機を感知した詠子は、急ぎ『黒の書=三星編』を掴み取る。

「三星編、2…いや、1章―――!」

 詠子の魔術は恐ろしく長い詠唱を必要とする魔術だが、その全てが本のページを捲るだけと言う詠唱を短縮できるシステムになっている。

 だが、それでも一瞬一瞬を左右する場面では、どうしても詠唱速度が間に合わない場合がある。

 

 ドドウゥ…ッ!!

 

「ぶぐぅ……っ!!」

 詠唱が不十分だったため、多少の衝撃を受けてしまった詠子だったが、なんとか耐え凌ぐ事くらいはできた。

「もう一度……!」

「二度目はないっ!」

 もう一発『爆発衝撃(エクスプロージョン)』を放つ美冬だが、今度は完全に衝撃波を相殺されてしまう。

 三星編の1章を展開すると同時に、六星編の4章を同時に展開していたのだ。創り出した風の魔術を自分が受けた衝撃波と波長とタイミングを合わせ、自らに撃つ事で効果を相殺して見せたのだ。しかし、これは文字通りかなりの荒療治だ。さすがに合わせ切れずに心臓を殴られた様な感覚を味わうことになった。幸い感覚だけでダメージらしいダメージは発生していない。

「六星編、1章、3章!」

 攻撃をやり過ごした詠子が、火と地の魔道書をバラバラッとページを捲らせ、詠唱する。

「≪アースレイブ≫!」

 ネーミングは即興。しかし、イマジンは名称設定や発声で効果を強くする事が出来る。詠子の様な多種多様な魔術を操る能力者には、思い付きで適当に技名を叫ぶのも、決して理に適っていない物ではない。

 土と火の合わせ魔術。美冬の周囲の土が盛り上がり、次々と巨大な火柱が上がって行く。周囲を火柱で囲まれた美冬は、すぐさま『寒冷凍死(コキュートス)』で炎を鎮火しようと考えたが、そんな単純であるはずがないと気付き、周囲に行っていた視線を、咄嗟に詠子へと戻す。詠子の元には二つの本が詠唱を開始している。それが何かまでは解らなかったが、直感的にとある攻撃を予想し、賭けに出る。

「『爆発衝撃(エクスプロージョン)』!」「『風爆衝撃(エクスプロージョン)』!」

 二人の声が重なり、美冬を中心に二重の衝撃波が重なり、相殺する。

「うぅ……っ! 『寒冷凍死(コキュートス)』!」

 相殺しきれなかった衝撃で胸を押さえ、多少よろめきながらも美冬は周囲の炎を今度こそ鎮火させる。

「ほう、見事であるな。あのタイミングで私の一手を読み、それに合わせてきたか」

 感心したように上から目線な詠子に、美冬は挑みかかる様な視線を返しつつ笑みで返す。

「アナタこそ、風と物理効果の魔術で、私の能力と同じ現象を再現するなんて、驚きました…!」

 実際に再現と言っても全く同じであったわけではない。

 詠子の『風爆衝撃(エクスプロージョン)』は、空間座標を手動で指定し、空気を空間事破裂させ、それに物理衝撃を加味する事で、同じ効果を発揮して見せたのだ。ただ、完全な座標指定だったため、狙いが心臓の位置から僅かに外れてしまった。

 同じ衝撃波で相殺しようとした美冬は、対象への心臓を中心にする自動照準であるため、狙いがずれてしまい、完全に相殺できなかったのだが、そう考えると、狙いが外れたのも幸運だったと言えるかもしれない。

(でも、こんなに早く同じ系統の攻撃をマネしてくるなんて、地力だけで出来る物なの?)

 疑問の答えは見つけられなかった美冬だが、その実、地力だけで行った物ではない。

 詠子の派生能力『魔導系統樹』『黒の書再編』の力によるところが大きい。この能力は“黒の書の術式を進化派生させ魔導系統樹を生成する”っと言う物であり、詠子の周囲に漂う『黒の書』をより強化していくための能力なのだが、その眼にした現象に対しても対処法を導き出す事が出来る補助効果も備わっている(絶対的な物ではなく、あくまで思考補助的な物)。これによって相手の能力を物理現象的に解読し、解析し、組み直す事で自分の能力として変換して見せたのだ。残念ながら今は“氷”の属性を表わす魔道書が精製出来ていない(もしくは水の魔道書に氷が追加されていない)為、美冬の氷結魔術までは再現できないが、それが叶うのも遠い未来の話ではないだろう。

(……系統魔法で攻める以上、あまり長引かせられる相手ではないのでしょうね)

 ネタが解らずとも確信を突いた美冬は、自分が狙うべき物を見定める。

(狙うなら……、やっぱりあの本……)

 視線で狙いを気付かれる前に、美冬は『強化再現』を使用し、一気に飛び出す。下駄を履いてるとは思えない速度で氷の破片が残った地面を蹴り飛ばし、突き進む。飛び散った氷の破片が光に反射し、彼女の姿を銀色に着飾る。

 詠子が迎撃してくる前に先手を打つ。

「『寒冷凍死(コキュートス)』!」

 右手を突き出し、敢えて大声で叫ぶ。

 詠子は咄嗟に『六星編』の魔道書から火の魔道書を開こうとして―――『直感再現』に従い、慌てて『三星編』の対物の魔道書を発動し、襲ってきた衝撃波を相殺した。

 イマジン能力も、設定で明記していない限り音声発動は必要と言うわけではない。念じるだけで、無音でも発動は充分に可能だ。だが、発声を入れる事で強化が可能な様に、発声による弱化も起きてしまう。今美冬がやった様に『寒冷凍死(コキュートス)』を口頭で述べながら、実際には『爆発衝撃(エクスプロージョン)』を使用する出任(でまか)をやってしまうと、発動した能力が極端に劣化してしまう現象が起きる。

 そのため不意をつかれた詠子だったが、詠唱不十分でも完全に相殺し、ノーダメージに留められてしまう。それでも迎撃行動を遅延する事は出来た。

 距離にして約十五メートル。更に近づくために、飛ぶ勢いで走る。

 接近の意図が読めずとも、それに対する危機感を抱いた詠子が後方に下がる。もちろん『強化再現』はしっかりと行っている。

「『爆発衝撃(エクスプロージョン)』!」

 今度は本当に衝撃爆発の魔法を発動。しかし、先に用意していた詠子はしっかり対処、今度もノーダメージ。

「『寒冷凍死(コキュートス)』!」

 すかさず氷結魔法に変換、詠子の退路を凍らせ、氷の壁を作り出して動きを封じようとする。

「六星編、3章! ≪ロック・ガン≫!」

 地属性の魔道書を展開し、サッカーボールくらいの石礫(いしつぶて)を作り出す。ここまで大きい物を“礫”と呼んでいいのかは疑問だが……、それらを弾丸の速度で発射し、退路上の氷壁を粉砕し、道を作る。

 美冬は自分の作り出した凍りついた地面に飛び乗り足の裏の摩擦に『劣化再現』を、前進する運動エネルギーに『強化再現』を施す。この二つを別の場所と概念に同時に使用するのは、かなりの難易度なのだが、そこはDクラスとしての面目躍如、見事にこなして見せる。

 氷の上を滑りながら急加速してくる美冬に対し、詠子は『六星編』の1章、火の魔道書を展開。火の雨を降らし、地面の氷を溶かしつつ美冬の迎撃に入った。

 美冬は内心舌打ちしたい気分になりながら、軽く飛び上がって『劣化再現』を解除する。氷が溶けた地面に着地する瞬間、『寒冷凍死(コキュートス)』を極小規模で発動し、小さな窪みを氷で作る。着地の時にその窪みに足を駆け、スタート台代りにして一気に正面に飛び込む。

 距離にして十三メートルまで接近していた事もあり、この突貫にはさすがに追い付かれると判断した詠子は、足を止め、『六星編』5章、光の魔道書を展開。幾つもの閃光を放ち、美冬の身体を直接撃ち抜こうとする。

 美冬もなんとか身体を捻って攻撃を躱そうとするが、今度は文字通りの光速攻撃。全ては躱せず、左手、右脚、左脇腹をごっそり持って行かれた。

「……っ! 『完全再現(パーフェクトバック)』!」

 瞬時に発動した異能が破損した肉体を衣服事再構成。完全に完治する。そして勢いは殺されていない。空中から飛び込む形で詠子へと接近する。

「六星編、2章!」

 ギリギリ正面の位置で詠子が先に水の魔術を発動し、美冬を水球の中に閉じ込め―――、

(『完全再現(消えて)』っ!)

 一瞬にして消滅する。

「勢いが()がれれば充分……」

 詠子が薄く笑んだ瞬間、美冬の身体が地面から飛び出した無数の針に貫かれ、空中に縫い止められた。あと一歩で手が届くと言う距離で、彼女の進行がついに止まった。

 

「やっと……、狙える距離に入った……!」

 

 鮮血に濡れる美冬。その口に広がる鉄の色の味に堪えながら、彼女は手を突き出す。

 詠子の視界に白い物が横切る。それはパラパラと降り注ぐ小さな結晶。白く美しい粉雪だった。

「っ!」

 それに気付いた詠子が飛び退く。

 詠子は気付いていたのだ。天候同士のぶつかり合いの最中、美冬が生み出した吹雪は、雪の粉一つ一つが氷点下に達する超低温の凶器。触れた物を一瞬で凍りつかせ、生物なら一瞬で凍傷させる事が出来る。決して触れてはいけない美しい凶器。

 

 カキンッ!

 

 凍りつく音が、詠子の耳に届いた様な気がした。

 しかし、自分の身体には何処も異常は見当たらない。ならば一体何が凍った?

 ゴトゴトゴトッ! っと物が落ちる音に視線を思わず足元に送って気付く。狙われたのは自分ではない。自分の能力を発動している魔道書だったのだと。

 

 バギンッ!

 

 美冬が身体を無理矢理捻って自分に刺さる極太の針を一度に全てへし折る。同時に『完全再現(パーフェクトバック)』を使用し完全回復。身体を起こしながら両手を詠子に向けて突き出す。

「その状態で! この距離で! 『寒冷凍死(コレ)』を撃たれたら! さすがに耐えられませんよねっ!!」

「≪エピゲネーテートー・フロクス・カタルセオース・フロギネー・ロンファイア……≫」

(え……っ!)

 両手を突き出し、『寒冷凍死(コキュートス)』の雪結晶を手の平から創り出す最中、魔道書を全て凍らされ、自動詠唱を封じられたはずの詠子が片手を突き返し、流暢なラテン語で力ある言葉を紡ぐ。

通常(、、)詠唱……っ!? 本の自動詠唱をしなくても魔法を使用できるの……っ!?)

(魔道書の自動詠唱機能は、口で唱えるより早く、強力な魔道を発動させるための物だが、魔道書の中身は全て記憶しておるわっ!)

 詠子が思わぬ返し手を仕掛けてきた驚愕と、ここまで能力を連発し過ぎてイマジンの練り上げが悪くなった所為で、僅かに溜め(、、)の時間を取られてしまった物の、それでもこの瞬間が最大の好機である事に代わりはない。故に美冬は臍下丹田にあるイマジンをありったけ全部注ぎ込み、最大の威力で解き放つ。

 

「『寒冷凍死(コキュートス)』ッ!!!」

「『紅き焔(フルグラティア・ルビカンス)』ッ!!!」

 

 詠唱を必要とした分、僅かに一瞬だけ遅れ、詠子も炎の魔術を発動する。

 超至近距離で、絶対零度の雪結晶と、深紅の焔が鬩ぎ合う。

 天候同士の対決の時は、それなりに距離を開けて大出力を撃ち合っていた。それ故、どんなに強大な力がぶつかっても余波で消耗すると言う事は起きなかった。だが、今度はたった三メートルも離れていない距離でのぶつかり合い。業火と極寒が(せめ)ぎ合い、あらゆる物質が急激な温度変化に耐えられず消滅して行く。それを至近で余波として受け止める二人は、鬩ぎ合うだけで(いちじる)しい消耗を強要されていた。

 これは単純な力の押し合いではない。互いの体を削り合う消耗戦だ。

 おまけにここで問題が発生する。この試合がポイント制だと言う事だ。こうして互いを削り合っている今も、互いのポイントはガンガン追加されて行く。こちらの発動が速かった分、鬩ぎ合いでは自分の方が先に多くポイントを獲得できたかもしれないが、それより先にダメージをいくらか受けてしまった。その分のポイント差がどうなっているかは見当もつかない。もしかしたら負けている可能性の方が濃厚とも思える。

(くぅ……っ! ならばっ! ここで『魔力増幅(マギカブースター)』を……っ!)

 『魔力増幅(マギカブースター)』は、美冬の派生能力であり、自分の使う魔法の魔力を2乗させて威力を何倍にも上げる、彼女の切り札…なのだが―――、

(……っ!? は、発動しないっ!? どうしてっ!?)

 能力設定はされているのに、美冬の『魔力増幅(マギカブースター)』は全く反応する気配がない。いや、それ以前にその派生能力に触れている感触すらない。あるはずの物が触れられない様なもどかしさを感じる。

「ふっ、どうやらお主、設定ミスをしたようだな」

「!」

 火と氷の魔法をぶつけ合う向こう側で、美冬の表情から何事かを察したらしい詠子が、額に汗を流しながら不遜な表情を見せている。

「お前が使用したスキルは三つだった。つまり、手の内は全て晒した状態のはずだ。それでも切り札がある様な顔をしたのでおかしいとは思っていたぞ。大方、能力を設定しておきながら、その能力で使うスキルを設定し忘れたのだろう? 滑稽よな!」

 歯噛みする。

 正にその通りだ。美冬は『魔力増幅(マギカブースター)』の派生能力を設定しておきながら、そのスイッチとも言えるスキルを設定し忘れたのだ。これでは、いくら能力を設定しても発動させる事は出来ない。質の良い電池だけ用意して、肝心の機械を何も用意していなかった様な物だ。

 実際問題、この手のミスは意外と多い。特にDクラスは、多様性を求めるあまり、何処かでこう言った初歩的なミスを犯している場合が案外多いのだ。Cクラスよりもトリッキーで、知識的な面では成績が良い彼等がBクラスではなく、Dクラスとなっているのは、この辺のうっかりミスが多い事にも起因している。冷静沈着で思慮深い、だが、ここぞと言う時に簡単なミスを繰り返す。更にそのミスを、案外本人達は重く受け止めてしまうケースが多いため、Aクラスの生徒が弄りたがらないところでもある。

(私とした事が……っ!)

 悔しい思いが胸を突く。もしかしたらこの場を逆転できたかもしれない一手をみすみす逃してしまった。その後悔が胸の中を蜷局(とぐろ)を巻く様に渦巻き―――、

(違うっ!)

 目を見開き、正面の詠子を真直ぐに見つめる。

(今まで使ってた三つのスキル。そのどれが欠けていてもここまで来られなかった! だったら、『魔力増幅(マギカブースター)』があればなんて、そんな考えは蛇足だ! 派生能力は、来月のスキル追加で設定し直せばいいんだっ!)

 多少強めの言葉を意識し、美冬は自分を奮い立たせる。

 魔法系同士のぶつかり合いの場合、必要とされるイマジン変色体ステータスはイマジネーションである。美冬のステータスは700、詠子のステータスは430だ。気持ちで負けない限り、純粋なぶつかり合いでは自分の方が有利なはず。己を鼓舞(こぶ)し、更に力を込める。

 だが拮抗。

 力の差はまるで埋まらない。

 これは詠子のもう一つのステータスが作用している事が原因だった。

 確かにイマジネーションのステータスは詠子の方が下回っている。だが、舞台が魔法戦と言うのなら、話は少し変わる。詠子には固有の変色体ステータスに魔力が存在し、この魔力が同じく430のステータス値を有しているのだ。こと魔法戦と言う舞台なら、詠子の能力は合計860のステータス値を叩き出す事になる。

 さすがにステータスの詳しい内容まで予想は出来なかった物の、その可能性に行きついた美冬は、だからこそ逆に心を奮起させた。

(数値で負けているにも拘らず、私が押される事無く拮抗出来ているのは、私が有利な状況で攻撃を仕掛けられた事の証明です! だから、やっぱりこれはチャンスなんだ!)

 そろそろ二人とも、放出するイマジンに対し、練り上げるイマジン量が追い付かなくなり始めた。ポイントも既にギリギリに及んでいる。

「ここまで来て……っ、諦めたりなんか……っ! 絶対しないっ!」

 残る全てを賭けて、美冬は()()()()()()()()

 比喩ではなく、物理的に。力が拮抗し合っている、そのギリギリの中へ、自ら拮抗を崩しに掛ったのだ。

「!?」

 鬩ぎ合っていた力のバランスは崩れ、ぶつかり合っていたエネルギーはあっさりと限界を迎える。限界を超えたエネルギーは、逃げ場を求め周囲へと驚異的な力で拡散し、大爆発を起こした。

 正に爆発の爆心地に居た二人は音を置き去りにした世界で光に包まれ、正面に居るはずの互いの姿すら見失って行った。

 

 

 我を取り戻した美冬は自分が、何処かの岩に背を預けているのだと気付いた。すぐに爆発の事を思い出し、アレからどのくらいが過ぎ、どう言った状況になっているのかを確認する。

 まず、フィールドが荒野だ(元は街並みだったはずだが……)。ならばまだバトルフィールド、アリーナの中と言う事だ。まだ土煙がそこかしこから上がっている所を見ると、爆発からそう時間も経っていないのかもしれない。

 下着が見えてしまう程、乱れていた巫女服を正しながら、立ち上がって対戦相手の姿を探す。勝負は、一体どうなったのか?

 

「≪ストレイド・ダーク≫」

 

 疑問を浮かべた時にその声はした。

 次の瞬間には体に黒い闇の触手が絡み付き、美冬の身体を拘束した。

「んぅ……っ!」

 締め付けられる苦しさに、美冬は思わず声を漏らす。

 その闇は触手と言うには細く、形が定まっていない。まるで粘りっ気のあるスライムが触手上に伸びてきたのではないかと思えるほど、見た目の固さが見受けられない。更に、“拘束”と言ったが、その方法も妙な物で、普通拘束する場合は両手両足を縛るか、同体事ぐるぐる巻きにする物だが、この闇はそうはせず、身体全体をクモの巣状に展開し張り付き、指先に至るまでの四肢の全てを細い闇の糸で締め付けている。だが、これが案外理に(かな)っているのか、関節の全てを自分の意思で動かせなくなった美冬は、その場でへたり込むしかなくなってしまう。おまけに胴体への締め付けが思いの外強く、身じろぎするだけで締め付けに喘いでしまう程に苦しかった。

 拘束と言うより、相手の体力を奪う事が目的であるかのような状態だ。

 そこまで考えたところで、煙の中から黒い少女が現れる。

 多少、服があっちこっち破れてはいるが、片手で片眼を隠す様にしているポーズを決める者は一人しかいない。

 黒野詠子は悠然とした表情で、魔王然とした威風でそこに立っていた。

「見事であった。よもやこのブラック・グリモワールをここまで追い詰めるとは。その力、純粋に称賛に値する」

 美冬を見降ろし、堂々たる姿で立つ姿に、美冬は理解する。

(私は……、負けてしまったんですね……)

 全力を出し尽くした。今は敗北感も悔しさも湧いてこない。ただただ疲労感だけが押し寄せてくる。

 ただ、それは決して悪い物ではないと思えた。

「貴様は私の強敵()となり得る人物だと認めよう! この英知の書にここまで言わせた事、大いに誇りゅ()がいい! ……ただ惜しむべくは―――」

 ―――っと、唐突に世界が白い物へと変わって行く。試合開始前と同じ、白い壁の空間へと戻って行くのだ。同時に美冬は気付いた。視界の端にイマジンシステムで表示されている獲得ポイントに。それは互いに50ポイントを軽く上回っていた。

「この試合がポイント制でなければ、決着も付けれた物を……」

 そう、詠子の言う通り、この試合は100ポイントに匹敵するオーバーポイントで、二人の引き分けに終わっていたのだ。

強敵()よ、今は己が身の矮小さに打ちひしがれるが良い。そして必ず立ち上がり、いつか再び悠久の果てにて(まみ)えようぞ」

 遥か高みから告げる様に、詠子は地面に倒れる美冬を睥睨(へいげい)する。

「………。引き分けと解っていたのに、なんで私は拘束されてるのかしら?」

「……、我を前に、見下ろす事など許されぬのだ!」

「それとさっき、『誇り』を噛んでましたよね?」

「噛んでいない……っ!!」

「いえ、はっきり噛んでましたよ?」

「噛んでいないと言っておろう! 愚かも()ぉ~~っ!!」

「……」

「愚か者っ!!(ビシッ!!」←(決めポーズ)

「言い直しても誤魔化されません」

「………~~~~っ!」

 最後は何だか詠子が涙目になっていた様な気もするが……、こうしてDクラスの試合は全て終了したのだった。




≪あとがき≫

≪美冬≫「まったく、今日は失敗してしまいましたよ……」

≪美冬≫「夕飯までまだ時間もありますし、自販機でジュースでも買いますか?」

≪カグヤ≫「お?」

≪美冬≫「あ、どうも……(初めて会う人だけど、何だか可愛らしい人)」

≪カグヤ≫「自販機でジュース買うのか?」

≪美冬≫「ええ、まだ夕飯まで時間も空いてますし」

≪美冬≫「何か問題があったりするのですか?」

≪カグヤ≫「いや、イマスクの自販機ネタを誰かに言いたくて仕方なかったんだ」

≪美冬≫「自販機ネタですか?」

≪カグヤ≫「この学園、結構至る所に自販機があるだろう?」

≪美冬≫「そうですねぇ、まだ学園の全てを周ったわけではありませんけど……」

≪美冬≫「時々変なところに隠す様にあったりとかしますよね」

≪カグヤ≫「実はあの自販機、一つとして同じ種類が無いんだぜ」

≪美冬≫「えっ!?」

≪カグヤ≫「確認してみれば解るが、コーヒーとかの定番ですら一種類しかない」

≪美冬≫「ああ本当ですっ! この自販機にはコーヒーがありませんっ!?」

≪カグヤ≫「そしてかなりユニークなのが置いてあったりする」

≪美冬≫「『ポイズン味コーラ』ってなんですかっ!?」

≪カグヤ≫「ここにもあったぜ『モザイクドリンク』」

≪美冬≫「『雪色サイダー』が『あったかい』で表示されている謎っ!?」

≪カグヤ≫「どうしてもまずいイメージが湧いてしまう『ポーション』」

≪美冬≫「『○○○(キー)』コーヒーがこんな所にっ!?」

≪カグヤ≫「『熱血ドリンク』が『つめたい』で表示されている謎」

≪美冬≫「『木島昴味のミルク』? 何故かしら? すごく危険性を感じるわ……」

≪カグヤ≫「値段が一万円の『失恋傷心オレンジ』」

≪美冬≫「た、高すぎませんかそれ?」

≪カグヤ≫「おっと残念売り切れ」

≪美冬≫「在庫が少ないだけですよねっ!?」

≪カグヤ≫「隣のゴミ箱に『失恋傷心オレンジ』の山が……」

≪美冬≫「ああ…っ! 誰とは存じませんが強く生きてくださいっ!!」

≪カグヤ≫「ははっ、付き合ってくれてありがとう」

≪カグヤ≫「おかげで夕飯前に楽しい時間が過ごせた。お礼に何か奢るよ」

≪美冬≫「ふふっ、私も良い息抜きが出来たのでお気になさらないでください」

≪カグヤ≫「じゃあ、気にせず『モザイクドリンク』を奢ろう」

≪美冬≫「それでは遠慮なく、隣の『すくすくドリンク』をお願いします」







≪零乃 妖魔≫「………」

≪古茶菓 澄香≫「………」

≪時川 未来≫「………」

≪星月 陽/咲≫「………」

≪伊集院 三門≫「………」

≪甘粕 勇愛≫「………」

≪陰暦 五十鈴≫「………」

≪夕凪 凛音≫「………」

≪沖田 由紀≫「………」

≪アリシア・レイン・アルヴィル・ローウェル≫「………」

≪ユリシア・レイン・アルヴィル・ローウェル≫「………」

≪黒井 終華≫「………」

≪三神 信≫「………」

≪渡辺 遥/彼方≫「………」

≪二能 類丈≫「………」

≪比山 秀≫「………」

≪逆井 都≫「………」

≪織田 信奈≫「………」

≪愛野 火恋≫「………」

≪多田 美里≫「………」

≪風祭 冬季≫「………」

≪上記皆さん≫「「「「「「「「「明日(出番)が欲しいっっっ!!!」」」」」」」」」」

≪のん≫「そうだよねぇ~~っ! ごめんねぇ~~っ!(泣」

≪のん≫「でもマジでもう少し待ってぇ~~!(号泣」

≪のん≫「ええ~~、とりあえず採用されているけど、出番が来ない方達一覧を提示してみましたぁ~~」

≪のん≫「なお、ここに居るのはA~Dクラスの未登場キャラだけです」

≪のん≫「次回はE、Fクラスの同時公開です!」

≪のん≫「チョイ短めになるとは思いますが、お楽しみにっ!」


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Dクラス キャラ紹介

忘れてました。

既に登場しているが、Dクラス編に登場していない生徒と、新スキルは敢えて未記載です。


保護責任者:妖叨+

名前:膝丸 暁《ひざまる あきら》    刻印名:鬼切一族

年齢: 16     性別: 男     Dクラス

性格:

喋り方:

自己紹介「ども! 膝丸 暁っす! 宜しくっす!」

日常「個人的に遠距離の攻撃は無理っす……なんというか、卑怯っすね! 男なら身体一つでどんと来いってやっつす!」

戦闘「そんな遠いところからチクチクとやるんじゃなくて大胆にドーンってやるのが一番っす」

戦闘「オイラの愛刀の血サビにしてやるっす。おらおら!どんどんかかってこいやー!」

怒り「あんま舐めた真似してると痛い目みるっすよ? まぁ、これから見せるんっすけどね」

ピンチ「もう、何も失くしたくない! だから……また力を貸してくれ! こぉぉぉぉおおおい! ヴァジュライオー!」

対鬼「鬼を斬る。これ以上、涙を流す奴を増やさないように……斬るぞ。吠丸!」

戦闘スタイル:愛刀、吠丸を用いた接近戦。吠丸の力を具現化した鎧での直接攻撃、鎧の副装の青龍偃月刀での接近戦。

身体能力250   イマジネーション70

物理攻撃力 200   属性攻撃力100

物理耐久力 100  属性耐久力80

 

能力:『鬼との運命』

吠丸の力をより引き出すためのもの。故に実体はない。

鬼に対する殺意衝動が増す代わりに鬼に対する攻撃力は普段の数倍になる。

 

派生能力:『ーーー』

 

各能力技能概要

・『鬼神一閃 吠丸』≪魔と言うものに対しては無類の力を持つ日本刀。特に鬼からしたらこれは天敵といってもいいほど。その能力に加えイマジンで強化された吠丸に斬れないものはない!と暁は豪語してるほど。鬼神羅刹 ヴァジュライオーの鍵≫

 

・『鬼神羅刹 ヴァジュライオー』≪吠丸を地面に刺し吠丸の真の名、ヴァジュライオーと叫ぶと地面から赤い鎖で繋がれた巨大な鬼が背後に出現し赤い鎖から解き放たれると 鬼切丸を持ったものを完全に覆い銀色の鋭利な鎧を形成する。この形状はイマジンの恩恵で本来の鎧の一歩手前の携帯であり本来のヴァジュライオーではない為 にヴァジュライオー本来の力は現段階では発揮できない。因みに鎖で繋がれた鬼は生きており、ヴァジュライオーは持ち主に成長に伴い永遠に‘進化’する。こ れを見た教師曰く「太古の生命をまとい進化し続ける畏怖すべき鎧」と言われている。副装はディザスターと呼ばれる青龍偃月刀≫

(余剰数値: 0)

 

概要:【白髪に鳶色の瞳。少し幼さが残っている顔つき。異次元漂流者《タイム・トリッパー》。元は別の世界で鬼を斬ったことで有名な源頼光の末裔。本人も鬼を斬る事=皆の平和だと思っておりひたすら鬼を切り続けた日々を送る。ある日の夜大量の鬼たちに自分を除く一族全員が皆殺しにされるのを目の当たりにして黒かった髪の色が恐怖 と怒りで色が落ちる。そこで地下に眠っていた伝家の宝刀、吠丸で鬼たちを殲滅する。

しばらく呆然と佇んでいると目の前から次元の裂け目が出現しその渦に飲まれ気がつくとイマジンハイスクールの入学試験に参加していた。

そこで訳も分からずに襲い来る敵?を吠丸で斬り伏せ、刻印の儀式で学園側から名前と何処から来たか尋ねられる。

本人は信じてもらえるかわからなかったが出来事を話し、名前に関しては鬼たちへの恨みを忘れないように「膝丸」

と名乗る。

Cクラスいきだったが人数の関係と学園側のお遊びでDクラスに配属。

なかなかDクラスの奴らとは馬が合わないらしい。本人は仲良くしたいらしいが………。

ここに来ても鬼への恨みと憎しみは消えていない。】

 

 

 

 

保護責任者:すだい

名前:クライド

刻印名:―――

年齢:16     性別:男      一年生Dクラス

性格:いつもニコニコしていて何を考えているかわからない。腹黒。

喋り方:

自己紹介     「初めまして、クライドと申します。よろしくお願いします」

腹黒       「おやおや、まるで発情期の猿みたいですね。Cクラスは」

戦闘時      「こうみえても戦えるのですよ。Amen.」

背負え業使用時  「さて、あなたの悪業暴きましょう」

 

戦闘スタイル:特殊な能力を使った中距離戦術

身体能力3  イマジネーション600

物理攻撃力3    属性攻撃力50

物理耐久力3    属性耐久力9

催眠術150     擬似聖人200

 

能力:『罪と罰』

派生能力:『許されぬ悪徳』

 

各能力技能概要

・『背負え業《カルマ》』≪『罪と罰』の能力、どんな些細な罪でも暴きそれに見あう負荷を相手に与える。例:万引きしたなら万引きを行った手をしようできなくする。また罪の重さで効果時間が変わる。≫

・『救われぬ罰』≪『許されぬ悪徳』の能力、ランダムで相手の五感を奪う。また七つの大罪の内1つを増大させる。これはどのような聖人でも防ぐことはできない。≫

・『七つの獣』≪『許されぬ悪徳』の能力、『救われぬ罰』と共に発動、増大した七つの大罪に応じたダメージを相手に与える。①嫉妬:相手の身体を焦がす炎② 憤怒:極度の錯乱③強欲:身体の一部が動かなくなる④怠惰:睡眠⑤暴食:身体の肥大化⑥色欲:同性にモテる⑦傲慢:能力の無効化。但し一対一でしか使用できない。≫

(余剰数値:0)

概要:【カソックを着た神父めいた格好をしている。髪の色は金髪、ぶっちゃけDiesの神父。見た目は神父だ が中身はどす黒い人の不幸で飯がうまい系人間、今風に言えば愉悦神父。精神に作用する能力のためそれが聞きにくいCクラスを毛嫌いしている。また能力にこれ以上発展がない為刻印名を刻んでいない】

 

 

 

 

保護責任者:すだい

名前:小金井 正純 こがねい まさずみ     刻印名:星霊の魔術師

年齢:17       性別:男       一年生Dクラス

性格:ツッコミ気質て苦労人タイプ

 

喋り方:

自己紹介    「小金井正純だ、よろしく頼む。」

ツッコミ    「待て待て待て、なんだそのめちゃくちゃ理論は!!」

ツッコミ2    「俺が間違ってるのか?そうなのか!?(泣」

星霊魔術行使  「みせてやろう、これが星霊魔術の力だ!!」

 

戦闘スタイル:特殊な魔術使い

身体能力3   イマジネーション300

物理攻撃力3    属性攻撃力150

物理耐久力3    属性耐久力150

魔術400

 

能力:『黄道十二宮招来』

派生能力:『---』

 

各能力技能概要

・ 『星霊魔術』≪『黄道十二宮招来』の能力、十二星座の力とそれに準ずる力を扱う。牡羊座:物理攻撃を防ぐ盾(羊毛)牡牛座: 筋力強化(トラック持ち上げるレベル)双子座:分身(能力も半分)蟹座: 敵の動きを制限(横移動のみ)獅子座:全長2mの獅子の召喚、乙女座:相手の魅了(人間にのみ)天秤座:自分と相手の全ての能力を均一にする、蠍座:相手に毒を負わせる(どのレベルの毒かは選択可)射手座:標的に当たるまで決して止まらぬ矢を放つ、山羊座:脚力の上昇(撤退がしやすくなる)水瓶座:敵を飲み込む津波を発生させる、魚座:水中での能力上昇(水瓶座とコンボで使う)≫

 

・『星の痣』≪上の魔術のうち過半数を使用すると浮かび上がる。しばらくの間五感の1つを失う。その為正純は基本的に2~4つのみ使う。≫

 

 

(余剰数値:0)

概 要:【星霊魔術を長年に渡り研究してきた一族の出身、紫色の髪をポニーテールにまとめたクールビューティー(男)。苦労人でありいつもトラブルに見舞われているかわいそうな男。しかしながら実力は本物でありDクラス主戦力の一人。魔術行使中は目が金色になる。それがコンプレックスであり、異常なことに対するツッコミが激しい。】

 

 

 

 

保護責任者:のん

名前:相原 勇輝(あいはら ゆうき)    刻印名:正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)

年齢:10     性別:♂         一年生Dクラス

性格:ロボット漫画の少年主人公の様な性格

喋り方:正義感に溢れる子供っぽい性格。

自己紹介        「相原勇輝! 愛と正義と勇気で勝利をおさめます!!」

ガオング発動      「いくぞっ! ガオングーーーーーーッ!!」

フェニクシオン発動   「来いっ! フェニクシオンッ!!」

ガオング必殺      「必殺ッ! ガオウブラスターーーーーーッ!!!」

合体          「合体ッ!! フェニクスガオング!!」

フェニクスガオング必殺 「フェニクシア・ブレイドバスターーーーーーッ!!!」

名乗り         「愛と正義に勇気を乗せて! 勇輝とガオング! 只今参上!!」

 

戦闘スタイル:巨大ロボットを呼び出し、彼等の肩などに載って一緒に戦う。

 

身体能力13     イマジネーション493

物理攻撃力153    属性攻撃力103

物理耐久力153    属性耐久力103

能力:『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)

派生能力:『―――』

 

各能力技能概要

・『ガオング』

≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。ライオン型の巨大ロボット。体長五メートル弱の巨体を持ち、牙や爪で戦う。二足歩行型の『ファイティングモード』に変形可能。腕の爪と、巨大な剣で戦える。必殺技は胸のライオンフェイスの口から放つ光線『ガオウブラスター』≫

・『フェニクシオン』

≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。ガオングをサポートする全長十メートル強の大鳥型巨大ロボット。脇に携えた二門の砲塔から高熱戦ビームを発射できる。空を飛べないガオングを背に乗せ飛び回る≫

・『合体フェニクスガオウング』

≪『正義の巨大ロボ(ジャスティス・ヒーロー)』の能力。フェニクシオンとガオングを合体させた二足歩行型巨大ロボ。フェニクシオンが換装パーツとなり、ガオングを強化した姿で、飛行を可能にし、パワーを三倍にする事が出来る。必殺技は、背中に背負った巨大な剣に炎を纏わせた一撃『フェニクシア・ブレイドバスター』≫

(余剰数値:0)

 

概要:【亡き父と共に憧れた正義の巨大ロボを実現させるため、勇気をもっとうに生きてきた少年。父は、いつか二足歩行型の巨大ロボットを作る事を夢見て、仲間達と研究していたのだが、実験中の事故で死亡してしまう。その後を継ぐため、万能の力、イマジンにより、巨大ロボットを創り出し、正義の巨大ロボットは存在するのだと言う事を証明しようとしている。 逆立ったツンツンヘアーに、瞳だけ凛々しい幼い顔立ち。半そで短パンに、ノンフィンガーグローブと、子供向けロボットアニメから出てきたような少年。子供らしい正義感に、時々周りと話がかみ合わない時もある。能力は凄まじいが、本人は普通の子供なので色々空回りが多く、また、面白いリアクションをするので、実にからかい甲斐のある少年。それなりに女性への興味はあるのだが、己の正義感から不謹慎だと思い込んで一人で恥ずかしがったりしている。同年代の女性の魅力に疎く、魅力的なお姉さんに惚れ易い。誰かのために戦える事がとてつもなく嬉しい。刻印名があるので、正義のロボットでない力には派生できない】

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:ぬおー

 

名前:リク・イアケス   刻印名:亡国の王(レヒュジーキング)

 

年齢:17     性別:男      一年Dクラス

 

性 格:義理、人情、信頼と言ったものを大事にしており、仲間に対しては情に厚い熱血漢。しかし会話は苦手でよくぶっきら棒な態度になってしまう。言葉よりも 背中で語るタイプ。また敵に対しても礼儀を忘れず、弱者相手にも全力でかかる。国家再建を一番に考えてきたため、それ以外に疎い部分がある。また、本人は 否定しているがシスコンで、姉に弱い。

 

喋り方:一人称は俺。

自己紹介「リク・イアケスだ。好きなものは……特にない。」

 

鼓舞  「誰よりも先頭に立ち、誰よりも敵の血を浴び、仲間を引っ張り、奮い立たせる。将であり、王である俺の仕事だ」

 

英霊召喚「我が盟友よ、今一度その力を我に貸してくれ!」

 

決闘申込「その腐った性根叩き直してやる、決闘だ!」

 

決闘承諾「俺は多くのモノを背負っている。手加減は出来ないが、それでもいいか?」

 

姉対話 「ね、姉ちゃん、俺だって成長してるんだ。いつまでも子供扱いはやめてくれよ」

 

戦闘スタイル:自分の肉体を主にした近接戦闘型。剣や槍などの心得もある

 

身体能力118     イマジネーション300

物理攻撃力300    属性攻撃力50

物理耐久力200    属性耐久力50

 

能力:『英霊使い(ヒーローマスター)』

派生能力:『』

 

各能力技能概要

 

・『英霊召喚』

≪ 自分の出身国の国民の霊を召喚、使役する。英霊の忠誠があって始めて召喚出来る。最初期の最大召喚数は100人程だが、能力の習熟度によっては全国民を呼 び出し、その数は2000を越える。一人に二人分のスペックを乗せて召喚することも出来るが、その場合はカウントとしては二人分で、能力等も純粋に2倍。 召喚している人数、質に比例して、消費イマジン量、ステータス減少が起きる。最大量召喚でステータスは半分程に。また、召喚は全身である必要はなく、腕や 足、武装のみなど部分召喚も出来る。≫

 

・『英霊憑依』

≪呼び出した英霊を憑依させることで一時的な能力値の底上げがされる。憑依させる英霊の数、質に比例して能力値が底上げされる。代償として使用後はそれに見合った疲労が蓄積される。憑依は部分的、瞬間的でも可。むしろそちらのが燃費がいい。≫

 

・『掌の王国(スモールキングダム)』

≪ 英霊召喚の一種の完成形。英霊体との連係機能を強化し、人格を廃し、集団としての側面を強めている。人格を必要としないため、召喚数の制限がなくなり、リ クの制御能力次第でいくらでも増やせる。また、リクとのパスが太くなるため武装生成も制限なしで、馬や銃、砲弾なども作りだせるようになる。召喚時間は瞬 時で、召喚範囲もリクの実力に合わせて段々と広がっていくため、第1弾を相手にぶつけ、直後に相手の背後に再召喚したりなど通常の軍団では不可能な運用方 法での戦闘が可能。≫

 

 

概要:【褐色の肌、短い黒髪に切れ長の赤い瞳の少年。東南アジアの小国の王族。父方の祖母が日本人のため クォーター。世界的には国として認められていないほど小さな国だった。国はリクが5歳の頃、イマジンを求めて起こされた第三次世界大戦の余波を受けて起き た地域紛争の波に揉まれて消えた。その際に多くの国民が犠牲となり、幼くして生き残った国民により国家の象徴として担ぎ上げられる。よく言えば真面目な、 悪く言えば堅物な性格もあり今までまとめ役として腐心してきた。一部の国民が年相応の社会体験を、との名目で送り出し、本人は国家再建に結び付けば、とイ マスクへの入学を決める。その中でイマジン生物学の存在を知り、国民を生き返らせられないかと考えている。】

 

 

 

英霊体

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『臣民』

 

各能力技能概要

 

・『武装生成』

≪自身の体を構成しているイマジンから武装を作り出す能力。体を構成してるイマジンから武装を作りだすため飛び道具は控えている。≫

 

【召喚する霊体は元国民で、全てに人格がある。召喚する霊体は王国兵士が大半を占めるが、おばちゃんや老人、年端も行かない子供も少なからずいる。体捌き 等の個人差はあるが、どの霊体も能力値は同一。強さはリク本人に依存する。簡易的なものであれば、リクやその他霊体とは常にテレパシーでの連絡が可能。霊 体であるため意識を集中させないと物体に干渉できない。そのため意識を乱されると戦えなくなる。また魔法的な攻撃か、実体化した時を狙ったカウンター攻撃 しか受け付けない。】

 

 

 

 

保護責任者:ぬおー

 

名前:ウミ・イアケス   刻印名:

 

年齢:17歳(当時)   性別:女   リクの姉

 

性格:明朗快活、世話焼きお姉さん。誰に対しても優しく振る舞える。弟に対しては姉風を吹かせすぎてしまい、どうしても子ども扱いが抜けない。リクのイマジン体であるにも関わらずリクの命令を聞かないことが多々ある。

 

喋り方:一人称は私。明るく元気で、自然と周りを元気づける。

 

自己紹介「どもー、ウミ・イアケスです! 弟がいつもお世話になってます。」

 

弟対話 「しょうがないじゃない。私の中のリクは5歳のままだし、弟はいつまでも弟よ」

 

鼓舞  「はーい皆、そんな暗い顔じゃ勝てる戦いも勝てないよ? 笑って笑ってー」

 

戦闘時 「ごめんねー、ここは絶対通すなってうちの王様が仰ってるもんですから」

 

戦闘スタイル:薙刀を用いた近接戦闘。能力値は他の霊体と同じだが、他の霊体の能力を上乗せすることでかなりの戦闘力を発揮する。

 

概要:【黒のボブカットに赤の瞳、目元のソバカスと笑顔が印象的な少女。逃亡の際に襲いかかってきたゲリラ兵からリクを守るため最後まで戦い、相討ちとなった。見た目年齢は当時の年齢で止まっている。死後からイマスクに来るまでの知識はリク依存だが、それ以降は別。リクの中に戻ることも出来るが、普段は勝手に出てきてはリクの身の回りの世話をしている。リクも嫌がるような素振りを見せるが、召喚にはリクの許可がいるのでつまりそういうことである。空いた時間には読書をするなどして知識を蓄えている。】

 

 

 

 

 

保護責任者:R.ZONE type[0]

 

名前:原染 キキ《はらぞめ きき》    刻印名:再生者

年齢:8     性別:女     種族:人間    1年Dクラス

容姿:赤いカチューシャを付けた、黒髪黒目の女の子。結構な可愛さ。

性格:幼さ故の駄々が少し目立つが、そこそこ良い子。

 

喋り方:一人称『私』。難しい言葉は平仮名。

自己紹介「は、初めまして。原染キキです。よろしくお願いしますっ」

駄々「いーやーだーっ! このコロッケは私のなのーっ!」

怯え「ううう………怖いよぅ」

能力行使時「い、今治します!」

照れ「え、えへへ〜」

無邪気「えっと、理々おねーちゃんがおにーちゃんみたいな人のこと、『ろりーたこんぷれっくす』って言うんだって教えてくれたの!」

ホームシック「ううっ………ひぐっ………おとーさん、おかーさん………」

真剣モード「おにーちゃんおねーちゃん達ががんばってるのに、私だけにげたくないの!」

 

戦闘スタイル:幼さ故戦闘技能は低め。自分と対象の治癒力を促進させて何度でも蘇るゾンビタイプ。

 

基礎能力値

 

身体能力:100     イマジネーション:200

物理攻撃力:50     属性攻撃力:50

物理耐久力:50     属性耐久力:50

再生速度:200     治癒力:200

妹属性:100

 

能力:『超再生』

派生能力:『再生促進』

 

各能力技能概要

『自然治癒』

・『超再生』の能力

・常に自身に働く能力。受けた傷が治る。治る速度は再生速度と治癒力に依存。デフォルトステータスならば腕の骨折が大体3分で完治。

 

『強制治癒』

・『超再生』の能力

・『自然治癒』の他者バージョン。この能力を行使している時は『自然治癒』は能力を発揮しない。

 

『治癒力促進』

・『再生促進』の能力

・任意での使用。治癒力のステータスを1秒ごとに1ずつアップ。ステータスアップの上限は300まで。その間に攻撃を受けると上がったステータスは消失する。

 

概要

 

8歳の元小学生。

家族旅行中にトラックに轢かれ、助かる見込みの全くない程の重傷を負う。

病院に運ばれはしたものの、家族達はお通夜テンションで集中治療室の前に。

そこで聞きつけたイマスク研究者が現れて、キキのイマスク受験に合格するのを条件に万能薬の投与をする話を持ちかける。快諾とはいかなかったが、愛娘の命が助かるならと、両親は苦渋の決断を下す。

前金代わりで薬を投与されたことで自身のイマジン能力が発現、瞬く間に再生し、1時間で自然治癒が完了。

落ち着いてから、研究者にやんわりと『家族と離れなければならない』と説明を受け、大泣きする。が、なんとか納得して家を離れ受験会場へと向かう。

無事合格し、晴れてイマスク生となる。

現在、自身の能力によってグチャグチャの身体を再生した状態へと維持している。その為、自身へ働く再生が切れると徐々に身体が崩れていく。

クラスでは『みんなの妹』の立ち位置を獲得。みんな優しいお陰で寂しいことはない。けど、やっぱり家と家族が恋しくなることが多く、部屋の隅っこで泣く姿が偶に見られる。

 

 

 

 

 

保護責任者:風紋

 

名前:雪白 静香(ゆきしろ しずか)  刻印名:―

年齢:16   性別:女   Dクラス

性格:名前に反して、極度の焦り症。明るい。

 

喋り方:

①普通の状態(元気なタイプ。「!」が多い。)

「・・・ん、ありがと。そういうことなら一緒に帰ろっか!」

「あー、お風呂は天国。焦る要素なんてどこにもないし!」

②焦った状態(言葉につまったり、ひらがなが増える)

「や、あ、あの・・・・なんでもありませんっ!」

「うぅ。いじわる!! 見ればわかるでしょ! いまあせっているんです!!!」

「きゃーーっ! ピンチっ! ピンチですっ!!」

③『これが理想の私』発動時(落ち着いた、慈愛のあるしゃべり方に変わる)

「落ち着いて、私の指示に従ってくださいね?」

「○○くん。右辺へ攻撃魔法を、あと5秒で発動。○○さんは攻撃第二陣用に援護魔法を。皆さん、くれぐれも怪我しないように気を付けてください」

 

戦闘スタイル:能力による身体能力や攻撃・防御の強化と、片手棍、盾を用いた近接戦闘。

基本は『これが現実の私』が発動しており、ピンチになればなるほど強く硬くなる。そこから『これが今の私』を発動し『これが理想の私』で一気に形成を逆転する、一発逆転タイプ。

 

身体能力150    イマジネーション118

物理攻撃力150   属性攻撃力100

物理耐久力150   属性耐久力100

焦燥感 200    混沌の女神50

 

能力:『焦りの神秘』

派生能力『-』

 

各能力技能概要

 

・『これが現実の私(リアル・ユキシロ)

≪焦りの神秘の能力。常時発動。

①焦れば焦るほど自己の身体能力や攻撃・防御が強化される。絶体絶命のピンチほど強い

②焦り(強化度合)に反比例して思考の及ぶ範囲が狭まるため大局観がなくなり、目の前の敵だけに集中してしまう

③本人曰く、≪残念エネルギー≫という得体の知れない闇属性が付与される

 強化度合は物理と属性が7:3

④『これが理想の私』とは併用されない

常時発動のため、本人が焦りさえすれば発動する。例として、テストが近い、交流戦が明日に迫ってきた、交流戦で味方が優勢(自分が活躍していないのに!)、 敵が優勢(やばい、負ける!)、敵が接近する、急に攻撃を受ける、味方がやられる、味方に騙される(実はわざと焦らせて援護をしてくれている)など、どのような状態でも焦るため応用範囲が広い。但し、ソロ向き(やたら焦った人とコンビを組める人は少ない)≫

 

・『これが今の私(ジャスト・ユキシロ)

≪焦りの神秘の能力。現在の精神状態を広範囲(初期は半径30m程度)にばらまき、範囲内の人は、雪白の能力発動時点の精神状態を引き継ぐ。

・雪白が焦り状態の時

→影響を受けた人は突然焦燥感・得体の知れぬ不安感にかられ狼狽する。

→周囲の人が焦ることで、雪白は『これが理想の私』状態に切り替わる。

 ※この技を使うと自分が落ち着くのではなく、この技により他人が焦るのを見て『これが理想の私』が発動するという流れ。

・雪白が落ち着き状態の時

→影響を受けた人は、突然落ち着く

→周囲の人が落ち着いてしまうことで『これが理想の私』の状態が解除され、大抵の場合焦って『これが現実の私』が発動する。

①対象は肉体的ダメージが全くないため、攻撃を受けたという認識がない

②不利な状況であっても全体に動揺を与えることで一時的に戦局を膠着させることができる

③基本は『これが理想の私』へと繋げる連携技であるが、最大限に生かすためこの能力は敵味方関わらず秘匿している

④対象に敵味方は選べない。範囲内全員が対象

⑤自我の無いものは効果対象外≫

 

・『これが理想の私(ドリーム・ユキシロ)

≪焦りの神秘の能力。常時発動。

①敵味方に限らず、複数人が一定度合以上に焦っていると、自身が急激に落ち着く

※『これが今の私』を使用せずとも上記を満たせば発動する

②身体能力や攻撃・防御は『これが現実の私』の最大ピンチ時の強化度合

③『これが現実の私』との大きな違いは、頭脳強化と、落ち着いている状態であること。クラス単位での戦術面も担当するなど、集団戦も得意

④本人曰く、≪希望エネルギー≫という得体の知れない光属性が付与される

 強化度合は物理と属性が7:3。

⑤『これが現実の私』とは併用されない

⑥周囲に焦っている人がいなくなると、落ち着きがなくなり、能力が解除される

⑦『これが今の私』とのコンボの際は、仲間も焦っている時に落ち着いて戦術指示を出すので、あたかも混沌に現れた女神のような印象を皆に与える

※皆さん実は、『これが今の私』の被害者なんですが・・・(笑)

⑧能力の発動・解除条件は敵味方に秘匿している

発動中はクラス単位での戦術面も担当するなど集団戦も得意となる。この状態では、如何に状況を有利に進めて相手を焦らせたままにしておくか、自分の安静を保てるかがカギとなる。尚、相手が一定以上に落ち着いてしまった場合や、周囲に誰もいない場合、自分が焦った場合は『これが理想の私』の能力が解除される。 さらに自分が一定以上に焦れば、『これが現実の私』が自動発動する。≫

 

(余剰数値:0)

 

人物概要:【極度の焦り症。身長160cmの栗色セミロングの可愛いタイプ。アイドルを目指しており、書類審査はすべてパスするものの、極度の焦り症ゆえにオーディションでオールNG。審査員も「焦り症さえなければマジ女神なんだが・・・」と言っている。アイドルになるべく、焦り症を克服するため、イマジネーションハイスクールに入学する。いじられるタイプであるが、いじられて焦ると自動で強化するため、慣れている人はいじりの限度を心得てくれている。可愛さのあまり、たまにものすごくいじってくる人がいるが、限度を超えたいじりや、たちの悪いふざけで焦らせてくる人は嫌い】

 

 

 

 

保護責任者:赤い人

名前:白宮 歌音(しろみや かのん)   刻印名:

年齢:16    性別:女      (D)クラス

性格:リアリストでロマンチストな少女。

   輝きを愛しており、イマスクの生徒のように夢、希望に満ちている人を愛しく思っている。

   自身がリアリストで、皆と比べてあまり大きな夢を持てない事がコンプレックス。

   冷静沈着だが、実は熱い思いを秘めた少女。

   リアリスト故にベターを最初に計算するが、それでもベストをどこかで追い求めている。

 

喋り方:僕っ娘。他人を呼ぶ時は、「~君」などと呼ぶ。

自己紹介「僕は白宮 歌音。気軽に歌音って呼んでほしいな」

戦闘開始「君の夢、君の思い。感じさせてもらうよ」

戦闘中「その手は予想していたよ。連弾斉射!」

被弾「っ! 君の思いが僕の予想を超えたんだね、素敵だ!」

胸の話「ははは、余計な脂肪はいらないよ。あんな重りがあるから体重計が怖くなるんだ……なるんだ」

 

戦闘スタイル:イマジンの基本技を多様して徹底的に情報を探りつつ、

       相手の直感がどう反応するかすら予測して能力を要所で使用していく。

       エネルギー収集という性質上、『静寂の黒』は容量内の事象ならほぼ絶対の防御となる。

       例えば、全てを貫ける槍で突かれようとも防げる。

       それは槍自体が進むエネルギーを収集する=槍で突いてきていないという状況を生み出すためである。

       基本は黒を罠のように使用し、白をまとめて相手の対応能力を超えた攻撃をする。

 

身体能力100     イマジネーション150

物理攻撃力150    属性攻撃力100

物理耐久力100    属性耐久力100

予測演算318

 

能力:『蓄積』物、現象などを特定地点に留めて貯蔵する力。

 

派生能力:『開放』留まっている物、現象などを開いて自由にする力。

 

各能力技能概要

 

・『静寂の黒』≪あれゆる現象から引き起こされるエネルギー、それを閉じ込める黒い球体を生成するスキル。

生成される球体は直径10cmほどであり、わずかにでも触れれば歌音が思った性質のエネルギーを触れた対象から蓄積する。

一度に取り込めるのはイマジネーションの値と同等値で、合計蓄積値はその5倍が限度。

生成することができる範囲は自身から半径1mほどの地点まで。ただし、生成後はそこまで速くはないが任意に移動させられる。

一度に生成できる個数はイマジネーション/25ずつとなるため、通常は6つまで。

通常時に蓄積できる最大値は150×5を6個となる。≫

 

・『激動の白』≪抑え込まれているエネルギーを開放するスキル。

基本的には『静寂の黒』に蓄積されたエネルギーを解放するためのスキルだが、物体に付与することも可能。

ただしその場合は、どういった性質のエネルギーに変換して解放させるかを設定しなければならない。

また自身のイマジネーションを別エネルギーへと変換して使用できるが、使用したイマジネーションの分、しばらくの間黒の生成個数に影響が出る。なお、エネルギーの変換効率は1:1と一切のロスがない≫

 

・『夢色の金』≪自身が触れた物や人から漏れ出るイマジネーションの力を自身に留める『蓄積』の力。

物に宿った製作者の思いや夢、人が発する思いの力を一時的なイマジネーションとして自身のそれに蓄積する。

一度に一つしか生成できないが、触れている物に込められたイマジネーション、触れているイマジネーションの値分の蓄積を自身のイマジネーションへ一時的に加算できる。

自身へ干渉する力すら蓄積できるため、トラウマであるクライドのようなタイプの能力へのメタともなっている。

なお、以前の名残か蓄積が大きくなればなるほど瞳が金色に輝くようになった。

ただし、イマジネーター全員が設定できる能力値の最大である1003を超えるような蓄積は長時間だと負荷が大きくかかるようになった。

以前に『開放』と判断された部分を、蓄積場所を自身へと変更することでスキルから切り離し、開放の代わりを白での使用や黒の生成で代行できるようにしている。≫

 

(余剰数値:0)

 

概要:【天体観測が趣味の少女。密かに抱いていた夢は、いつか宇宙に行てみたいという物。

行けたらいいなと思いつづけるロマンチストさと、自分には無理だと現実を見て諦めようとするリアリストさの間で揺れ動いていた。

そんな中、イマスクという夢を現実にするというロマンとリアルを融合させた場所を知り入学。

いずれは宇宙に向かう事に繋がるの能力を創造するつもりだが、現状は自身の性格に合った蓄積と開放の能力にした。

モチーフはブラックホールとホワイトホール。

容姿は白髪碧眼。元々は黒髪黒眼だったが、イマスク環境に来たらなぜかそうなった。暗闇でも薄く輝く。

身長150㎝ほどの【貧乳】(重要)である。なお、この点に関してのみ歌音は徹底的なリアリストである】

 

 

 

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:夏目梨花(ナツメリカ)              刻印名:猫至上主義

 

年齢:8歳     性別:女      1年Dクラス

 

性格:猫を愛する心優しい女の子。純粋で故に騙されやすい。

 

喋り方:自己紹介「リカは夏目梨花なのだ。みんな仲良くして欲しいゾ!」

    猫を見たとき「はにゃ~ん♪猫にゃん!猫にゃんが居るゾーーー!!!!!」

    癒しの一時発動「猫にゃんは見てるだけで、疲れが取れるのだ。みんなおいでー」

 

戦闘スタイル:猫の大量使役による物量戦と味方を少しずつ回復させる支援タイプ。

 

身体能力53     イマジネーション603

物理攻撃力13    属性攻撃力13

物理耐久力13    属性耐久力13

魔性80      癒しの加護230 

 

能力:『猫の姫様』

派生能力:『癒しの一時』

 

各能力技能概要

 

・『猫にゃん大行進!』

≪猫の姫様の能力。2000匹の猫を召還する。猫1匹1匹に自我は無く、ただ一つ梨花を守るという事のみを目的として行動する。≫

 

・『助けて、大きい猫にゃん!!』

≪猫の姫様の能力。1頭の全長3メートルの巨大な虎を召還する能力。名前をシマにゃんといい、自我を持ち言葉も話せる。≫

 

・『疲れたよー、猫にゃん・・・』

≪癒しの一時の能力。猫にゃん大行進!で召還された猫が、近くに居るだけで自身と他者の疲れと傷が徐々に治っていく。ステータスにある癒しの加護が作用し、治りがとても早い。≫

 

人物概要:【純心無垢な女の子。両親の強い勧めで、イマスクへ入学する。生まれた時から猫に好かれる特異体質だったのか、いつも周りに猫が居る生活を送って いた。また、傷の治りも速かった。私服は、なぜか猫の着ぐるみ。制服着用時でも、猫耳カチューシャだけは欠かさない。】

 

能力概要:【両方とも自身の特異体質を利用して、創りだした能力のため相性が良く、1年でありながら70%の力を発揮することが出来る。ただしまだまだ、発展の余地を残している。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:縞虎(コウコ)愛称(シマにゃん)         

年齢:不明     性別:男      梨花を見守る親代わり

 

性格:大きく寛大な性格。戦闘になれば梨花を守る守護獣となる。

 

喋り方:威厳のある喋り方

 

自己紹介「我は、梨花を守りし縞虎。以後よろしく頼む」

梨花の危機に対して「梨花の身を脅かすものは、誰であろうと噛み千切る!!」

梨花に撫でられると「グルルル♪♪梨花もう少し下を頼む・・・」

 

戦闘スタイル:鋭い牙と爪を用いた戦闘

 

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『梨花の守護獣』

 

派生能力:『―-―』

 

各能力技能概要

 

・『強靭』

≪些細な傷、衝撃にはビクともしない。≫

 

・『威嚇』

≪相手をひと睨みするだけで、怯えさせ動きを鈍らせる。精神力の強いものには効果が薄い。≫

 

・『野生』

≪動物の勘で、危機に対してとても敏感に反応することが出来る。≫

 

概要:【梨花が親への寂しさを紛らわすために生み出したイマジン体。父への気持ちが縞虎の性格に大きく影響している。体が白く黒の縞模様があるため、梨花はシマにゃんと呼んでいる。】

 

 

 

 

 

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:ナナセ・シュルム=カッツェ     刻印名:空気主従《エアマスター》

年齢:16     性別:女の子 種族:獣人(猫族)      1年Dクラス

性格:目立ちたがり屋な元気っ子。ただ、とっさの自体に弱く慌てることも多々ある。慌てるとな行を全てニャと言ってしまう。

 

喋り方:一人称はボク。事件やお祝い事などには必ず顔を出し場を引っ掻き回す。人見知りせず、誰に対しても気さくに話しかける。敬語が苦手。

自己紹介「はーい!!ボクはナナセ・シュルム=カッツェだよっ!何か楽しいこととか盛り上げたいことがあったら言って?ボクが絶対に楽しくするからさ」

戦闘時「ニャハハ!!さぁ、全力で行くからね!キミなんかすぐ倒しちゃうんだから♪」

慌てる「ニャ、ニャニャ!?ニャンでニャ!?にゃーーー!!」

敬語使用「お、先輩ですますか?よろしくお願いしてです!あ、あれ?なんか違う…?」

 

戦闘スタイル:空気の密度、空気に含まれる気体の濃度を操作しての空間攻撃。空気自体の操作、持って生まれた体の柔軟性と身体能力を組み合わせた近中距離攻撃。

 

身体能力503    イマジネーション153

物理攻撃力53    属性攻撃力53

物理耐久力33    属性耐久力33

体の柔軟性150    野生の勘40

 

能力:『風爆《ゲイル》』

派生能力:『空壁《オーヴァ》』

 

各能力技能概要

・『無明の牢獄《エアジェイル》』

≪空壁の能力。対象の周囲5メートルを空気で作った壁で覆い閉じ込める能力。その空間内 は空気の密度、濃度を自在に操作することができるため、窒素の濃度を濃くして幻覚を見せたり、二酸化炭素の濃度を濃くして気絶させることも、真空状態にし て、体中の血液を沸騰させることも可能。更には味方を覆い、酸素を濃くして回復を早めることもできる≫

 

・『鮮血の空牙《ブラッド・ファング》』

≪風爆と空壁の複合能力。奈々瀬の蹴りに合わせ空気を固め、撃ち出す能力。周りとの空気との摩擦で赤く染まり、熱を持っている。速度は音速を超え、当たる物を切り裂く≫

 

・『空鎖の荊棘《ソニア・チェーン》』

≪ 風爆と空壁の複合能力。空気を圧縮し、相手を縛り付ける能力。鎖の至るところに茨の棘が付いており、それ自体にも攻撃力があり、相手の身体を切り刻む。予 備動作なく使用可。また、茨の棘のみを奈々瀬の蹴りに合わせ撃ち出すことも出来る。威力は低いが、速射性に優れている≫

 

概要:【身長 153cmほどの黒髪短髪の獣人の女の子。ある世界にて、世界を救った一族の末裔であるが、世界が平和になったため食い扶持を失いコロシアムなどで生活資 金を稼ぎ生活していた。が、突如現れたワームホールに吸い込まれこの世界に流れ着く。何も知らない世界に放り出されあたふたしてる所をイマスク関係者に保護という名の拉致をされ、ギガフロートにて直ちに拘束。食い扶持の保証され、日々が面白いことばかりだと聞き、自らイマスクへの入学を決め今に至る。特徴として猫耳、猫のしっぽが付いており、とても敏感。獣人のため第六感が鋭く、俊敏、柔軟性に長け、関節の可動域が色々おかしい。オマケにイマジンの動きを 目で見ることができると言う特殊技能付き。戦闘技術は、コロシアムで鍛えた自己流武術。自身の体の柔らかさ、可動域を最大限利用した鞭のようにしなる足技 が主な攻撃方法】

 

 

 

 

 

保護責任者:ソモ産

名前:ユノ・H・サッバーハ      

刻印名:絶対暗殺《アブソリュート・キリング》

年齢:推定17歳  種族:犬獣人  性別:女の子      1年Dクラス

性格:自由気ままで、好奇心旺盛な女の子。無人島に放り込まれても、絶対に死なないと豪語している。すぐに天狗になる。

 

喋り方:一人称はウチ。自分に自信を持った堂々とした話し方。戦闘時は言葉少なくなる。

自己紹介「ウチはユノ!ユノ・H・サッバーハ。みんな、ヨロシク!!」

戦闘時「いくよ…?本気で…」

世間話「ホントだってば!ウチ、絶対に生き残れるもん!」

褒められる「ふふ〜ん♪まぁ、当然だよね〜♪♪」

戦闘スタイル:2本のサバイバルナイフを用いた暗殺術によるヒットアンドアウェイ。近距離戦もある程度こなす。

 

身体能力218   イマジネーション303

物理攻撃力113    属性攻撃力28

物理耐久力33    属性耐久力33

暗殺技能240     気配遮断50

 

能力:『暗殺技能』

狙った獲物を暗殺する技術がそのまま能力にまで昇華したもの。

派生能力:『影歩き』

暗殺の際に影に紛れながら歩く技術がイマジンによって変化したもの。

 

各能力技能概要

・『影移り』

≪影歩きの能力。あらゆる物の陰の中に移動し、出入りする能力。体の一部だけ移動させることも可能。移動時間は、とても少なく傍から見たら消えたように見える。≫

 

・『致命』

≪暗殺技能の能力。攻撃した際相手に対して作った傷がこの能力を解くまで治らなくし、体の動きを鈍らせる能力。不死性や不滅の特性がある場合は、傷の治りが遅くなるに留まる。≫   

 

・『暗器』

≪暗殺技能と影歩き能力。どんな影の中からでも、ナイフなどの刃物を撃ち出すことができる能力。また、撃ち出された刃物には薄く影が纏っていて切れ味が多少鋭くなっている。応用として、自分の持つ武器にも影をまとわせることができる。≫

 

人物概要:【身長150cmほどの銀髪長髪の犬耳女の子。異世界では赤子の頃から暗殺教団で育ち、6代目首領を務めていた。そのため年齢は推定、誤差は上下 一歳。暗殺は幼い頃から首領になるまで、一度も失敗せず実行してきたが、ある依頼で少し油断から暗殺を失敗。捕獲され、対象者の護衛魔術師にこの世界へ飛 ばされた。この世界に飛ばされ、しばらくは近くにあった山へ篭もり生活していたが、ギガフロートの研究者に保護された。研究者にこの世界のことやイマスク の存在を教えてもらい、自身をもう一度鍛え直すために入学を決める。犬の獣人のため、耳と尻尾が生えてるほか、下半身の筋肉の異常発達による爆発的な加速 力と体力、どんなものでも捉えられる視力が特徴。暗殺技術では、ナイフを主に使っていた為ナイフの扱いにとても長けている】

 

能力概要:【基本能力、派生能力どちらも自身の今までの経験や技術を参考に作り出した能力。応用性に優れ、斥候のような裏方や正面切っての戦闘までどのような局面においても力を発揮する。刻印の絶対暗殺により暗殺に関する能力のみ派生可能で、それに加えナイフなど暗殺で使用する武器には相手に必ず傷を負わせる力が付 与されている】

 

 

 

 

 

保護責任者:ティピロス

名前:音木 絵心(おとぎ えこ) 刻印名:童話の軍隊(グリム・アーミー)

年齢:11 性別:女 1年D組

性格:極度の恥ずかしがりや。ただし戦闘時はかなり冷静

喋り方:一人称は『えこ』で少し挙動不審な感じで話す。

自己紹介「な、名前ですか・・・え、えっと名前は音木絵心です・・・あ~う~恥ずかしい///」

戦闘開始「戦闘開始ですね。少しでも動じたら負けです。落ち着いて行きましょう」

戦闘中「前方○m地点に目標発見です。背後からやっちゃってください!!」

能力発動「この状況を打破出来るのは・・・よし、『出撃』!!お願いします師匠!!」

お使い「すみませ~ん、お酒とスルメってありますか~(泣)。うぅ、えこにこの買い物は無理ですよ師匠~(泣)」

 

戦闘スタイル:能力で召喚した童話の兵士に指示を出し、連携しながら軍人の様に戦う。

 

身体能力:43 イマジネーション:460

物理攻撃力:23 属性攻撃力:23

物理耐久力:23 属性耐久力:23

指揮、統率力:210 状況判断力:210

 

能力:『童話の兵士の名簿』

 

 

各能力技能概要

『童話の兵士の名簿(グリム・アーミー・リスト)』童話の兵士の能力と名前が書かれた能力で出来た本。『出撃』と言うことで指定した童話の兵士を召喚する事が出来る。召喚できる兵士は現在2人で一度に出せるのは一人だけ。強くなれば召喚できる兵士の種類を増やすことができる。なお召喚される兵士は大概ロクでもない。

 

『赤ずきん リンゴ』召喚出来る兵士の一人。見た目は幼く可愛らしい少女だが実際は不意打ち、騙し討ち上等な24歳のベテラン兵士。力は弱いがそれ以外の事はそつなくこなす万能型。なお呼び出される兵士の中では1番まし。

 

『ピーターパン ティンク』召喚出来る兵士の一人。中性的な見た目をした少年。精神年齢は小学生だがワイヤーとナイフを使った暗殺術はトップクラスで飛行も可能。

 

 

概要:11歳ではあるが身長はイマジンの影響で177cmにまで急成長し年齢にしてはかなり高くスタイルもモデル顔負けなレベルで良い。服装はフリルがたくさんついたアリスの様な格好。自衛隊の父と絵本作家の母がいたが10歳の時に交通事故で亡くなっている。事故で両親を失って落ち込んでいるときにテレビで正義の戦っている様子を見てやられても何度でも立ち上がるその姿から勇気を貰い、それと同時に自分も彼みたいに勇気を与えることが出来る人物になりたいと思い彼に近づくため11歳で学園に入学する。リンゴの事は師匠と呼んでおり戦い方や戦術、武器の扱いを教えてもらっている。が、時々酒とスルメを買いに行かせられる。能力がこうなった理由は父と母の思いを忘れないためである。まだ小学生の年齢なので可愛い服を着たがるのだがサイズが合っていなかったり、大人っぽい服を勧められるので少し困っている。なお彼女の実際の年齢を知っているのは教師陣(書類で)と生徒の一部(雰囲気とオーラで)だけで、ほとんどの人物は16から18歳と勘違いしている。

 

 

 

 

 

保護責任者:ティピロス

名前:リンゴ(赤ずきん)

年齢:自称14歳(24歳) 性別:女 童話の兵士

性格:超ぶりっ娘。本性は卑怯上等な鬼畜

喋り方:ぶりっ娘と鬼畜。一人称は「アタシ」

自己紹介「アタシの名前はリンゴですっ! よろしくお願いしますっ!」

戦闘開始「精一杯頑張るぞっ! ………先手必勝じゃぁ!!蜂の巣になりやがれこの○○がぁ!!」

戦闘中「絵心、戦況はどうだい?早くアタシに指示をよこしな!!でないと頭ぶち抜くぞ!!」

パシる時「絵心、売店で酒とスルメ買ってこい五分以内で」

 

戦闘スタイル:ナイフ、サブマシンガン、ハンドガン、罠などを使う万能型

 

身体能力:3 イマジネーション:3

物理攻撃力:3 属性攻撃力:3

物理耐久力:3 属性耐久力:3

 

能力:『狼殺し』

 

各能力技能概要

『狼殺し』狼の特性や関する能力を持つ者に対しての攻撃の威力が大幅に増加する。

『対能力者武器』一見すると普通の武器だが、能力者相手でも通用するように加工されてある。

 

 

概要:絵心の能力で召喚される兵士の一人。見た目は赤ずきんの格好をした少女だが、実際は酒とスルメが大好きな24歳の鬼畜兵士。絵心に戦い方や戦術、武器 の扱い方を教えているがそれと同時にパシらせている。絵心の事は暴言を吐きまくっているがなんだかんだで気にしている。

 

 

 

 

保護責任者:ティピロス

名前:ティンク(ピーターパン)

年齢:16 性別:男の娘 童話の兵士

性格:子供っぽく、小悪魔

喋り方:一人称は「ボク」で小悪魔っぽく語尾に☆が付く

自己紹介「ボクはティンク、ヨロシクね☆」

戦闘時「ボクの動きに見とれないでね☆」

小悪魔モード「ねぇ・・・パンツ見たい☆?」

 

戦闘スタイル:ワイヤーとナイフを使った暗殺。または飛行しながらの高速攻撃。

 

身体能力:3 イマジネーション:3

物理攻撃力:3 属性攻撃力:3

物理耐久力:3 属性耐久力3

 

能力:『妖精の羽』

各能力技能概要

『妖精の羽』靴に妖精の羽を生やし空を軽やかに飛ぶ能力。

『対能力者武器』上と同じなので省略。

 

 

概 要:絵心の能力で召喚される兵士の一人。見た目はピーターパンの格好(下はスカート)をした少女に見えるが男である。精神年齢は小学生レベルだが技術は一 級品。男を見かける度にスカートを持ち上げパンツを見せようとする。絵心の事は可愛い娘と思い気に入っているが本人はホモであるためそういった感情は一切 持っていない。

 

 

 

 

 

保護責任者:R.ZONE type[0]

 

名前:加島 理々《かしま りり》    刻印名:最後の盾

年齢:16    性別:女性    種族:人間   Dクラス

容姿:茶髪ロングで童顔。パッチリとした目がチャームポイント。

性格:事勿れ主義に『(笑)』が付くツンデレ。根はいい人なので貧乏くじをよく引く性格。煽てに弱い。

 

喋り方:一人称『私』の『〜なのです』。

自己紹介  「私は加島理々です。以後よろしくなのです」

怯え    「うぅ…………どこ向いても人外ばっかりなのです…………」

逃げ    「イヤなのです!  危ない目には遭いたくないのです!」

貧乏くじ  「いやぁぁあああっ!!?  私ばっかりこんな目にぃぃいいいっ!!!」

戦闘時   「うっ…………とりあえず、やるだけやるのです!」

照れ    「え、えへへ〜。そんなに褒められると照れちゃうのですよ〜」

真剣モード 「…………こわいのです。でも、ここで引いたら皆に顔向けができなくなるのですっ!!!」

アイギス使用時      「守るのです『アイギス』!!」

メデューサの呪い使用時  「『石化』するのです!」

 

戦闘スタイル:盾を用いての壁役&支援。また盾も結構な攻撃力があるのでそれで殴る。また相手に余計なステータスを植え付けることで優位に立ち回る。

 

基礎能力値

 

身体能力:50     イマジネーション:50

物理攻撃力:50    属性攻撃力:50

物理耐久力:300    属性耐久力:300

不幸度:100      踏ん張り:100

 

能力:『神格武装:アイギスの盾』

白い華美な大盾の見た目をした神格武装

 

派生能力:『英雄への激励』

 

各能力技能概要

『アイギスの盾』

・『神格武装:アイギスの盾』の能力

・ギリシャ神話オリュンポス十二神の一柱『アテナ』の盾。ありとあらゆる攻撃を受け切り、邪悪や災厄を祓う魔除けの力を持つ。(ただし、使用者が攻撃をいなせない場合、ダメージを受ける場合はある)

 

『メデューサの呪い』

・『神格武装:アイギスの盾』の能力

・『アテナはメデューサの首をアイギスに取り付けた』という伝承から、『石化』と唱えることで、盾を見ている者に石化の呪いを与えることができる能力。対象が少なければ少ないほど、効力が上がる。

 

『力の貸し与え』

・『英雄への激励』の能力

・戦闘能力を持つ対象に向けて発動。自身のステータスの一部を対象に付与する。

 

概要

 

【小さな頃からまきこまれ体質だった、結構不幸な女の子。見て見ぬ振りすりゃいいのに根がいい人なため、いろんな揉め事に首を突っ込んでは解決してきた。そんなこんなで地元でついた渾名が『小さな姐さん』。

NOと言えない自分に嫌気がさして、そんな自分を変えるためにイマスク入学を決意。しかし魂祭殿に本音である『皆を護りたい』という意思を読み取られてしまったために、イマスクでの立場も決定。不幸度100は伊達じゃない。

割と修羅場(いろんな意味で)をくぐってきたため、姐さんと呼ばれても見た目と口調以外は違和感がない程度には頼り甲斐がある。でも鋼鉄メンタルというわけではないため、結構な割合でへこたれて逃げる。それでも最終的に決めるところで決めるのでやっぱり頼り甲斐がある。

Dクラスの最終防衛ライン。その関係上損な役回りが多いが、クラスから絶大な信頼を寄せられており、口では不平不満を言いつつも、なんだかんだで引き受けちゃってる】

 

 

 

 

 

 

保護責任者:朝田詩乃

名前:桐島 美冬    刻印名:

年齢:18  性別:女  Dクラス

性格:某魔法科高校の妹さんのような人。しかし戦いになると某魔法科高校の兄さんのような強さを持つ。

喋り方:自己紹介「桐島美冬です。皆さま、よろしくお願いいたします。」

    戦闘開始「それでは、始めましょう。私達で、決闘を!」

    通常「すいませんが、どいて下さい。」

    能力発動「止まりなさい! 冷酷の地で!《コキュートス》!」  

 

戦闘スタイル:状況に応じて臨機応変に戦う。運動能力が無い代わりに魔法能力で補っている。

身体能力5     イマジネーション700

物理攻撃力5    属性攻撃力280

物理耐久力5    属性耐久力5

 

能力:『魔法創造』自分自身でオリジナルの魔法を作り出す。一度造った魔法はいつでも使うことが出来る。造れない魔法は自分自身に負荷の掛かるもの。

 

派生能力:『魔力増幅』《マギカブースター》能力で初めて造った魔法。自分の使う魔法の魔力を2乗させて威力を何倍にもあげる。自分の意思で発動できる。

 

各能力技能概要

・ 『寒冷凍死』≪コキュートス≫美冬の最も得意とする魔法。周囲全てを凍らせて熱を無くす。同時に天候を変え、猛吹雪にすることで自分以外を雪で埋め尽くす。凍った物に触れると即座に低温火傷になり、凍ってしまうほどである。しかし自分で制御することで自分自身には当たらない。

 

・『完全再現』≪パーフェクトバック≫壊れたものや失ったものをもう一度生み出す。傷の修復もできる。相手が生み出したものを消して何もなかったかのようにすることも出来る。しかし人を生み出すことは出来ない。

 

・ 『爆発衝撃』≪エクスプロージョン≫相手を中心に爆発させる。位置固定が必要無く自動的に相手を中心に取るのでお手軽に爆発できる。しかし実際には爆発しているのではなく、爆発のような大きな衝撃波を生み出しているため、爆散することはないが心臓に直にいくので、場合によっては心臓が止まる。

 

(余剰数値0)

 

概要:【黒髪の長髪で巫女服を着ていて、下駄で歩いている。しかし歩いていると言うより少しだけ浮遊しているので歩いているとは言えない。本人曰く「き気のせいですよ!気のせい!」と本気で迫ってくる。昔から天災の中の天才と言われていた。】

 

 

 

 

 

保護責任者:赤い人

名前:黒野 詠子 (くろの えいこ)    自称:ブラック・グリモワール

刻印名:―――

年齢:17    性別:女      (D)クラス

性格:遅くやって来た中二病。

   実は中身はリアリストだが、その分ファンタジー等への憧れが多分にある。

   リアリストではあるが、実際に起こっている現状を踏まえるリアリストなので、イマジンへの適正は高め。

   若干Mっけがあり、人に仕える事に喜びを見出す。

   ただしプライドも高いので、仕えるべきと定めた人物以外にはツンデレ。

   友人として仲良くなれば、それなりにデレてはくれる。

   自身を扱うべき魔王となる存在を探している。

 

喋り方:魔王系少女。ラスボスっぽいしゃべり方をして、無理な喉の遣い方でむせかえることや噛むこと多々。

自己紹介「私こそ全ての魔法を記録した、ブラック・グリモワールよ。さぁ、恐れおののの……げふっげふぅ!」

戦闘開始「ふん、愚者め。無知無能がこの全知の書である私に叶うわけがないりゃろう……ないだろう!」

戦闘中「六星編、1章から4章、多重詠唱開始! 黒のえいひっを味わうといい!」

友デレ「私の英知、あなたにも授けてあげても……いいぞ? ほら、欲しいでしょう? 遠慮しなくてもいいのだぞ?」

王デレ「ああ、マスター! 私の全てを読んでください!」

 

戦闘スタイル:完全記憶能力で得た知識を用いて、相手の弱点となる魔法を生成して戦う。

       自身の能力はある程度の身体能力だけに割り振り、防御と攻撃を全て魔力に任せての魔法で行っている。

       本による自動詠唱はかなり早いが、それでも隙が生まれるのが弱点。

       その分、相手の弱点を突いた魔法の性能はぴか一である。

 

身体能力46    イマジネーション430

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

完全記憶能力100  魔力430

 

能力:『魔導』あらゆる現象に魔力を使用した新しい法則を付与し、その式に沿って発生させる能力

 

派生能力:『魔導系統樹』生成した式を進化発展、多様化させていく能力

 

各能力技能概要

・『黒の書=六星編』≪基本属性、火、水、地、風、光、闇の6章で構成された書物を生成する。

魔導の能力により属性的な現象を意図的に発生させて操る魔法式を、書物内に記述していく。

属性攻撃のほかにも、意図的に物理現象に寄せた攻撃も行える。≫

 

・『黒の書=三星編』≪対物理、対属性、対イマジンの3章で構成された書物を生成する。

魔導の能力により物理、属性、イマジン能力を防御するための魔法式を、書物内に記述していく。

ただし、黒野の主観から生成するため、その現象への本人の知識がないと効果が大幅に薄れる≫

 

・『黒の書再編』≪黒の書の術式を進化派生させ魔導系統樹を生成する。

術式の使用率や実戦経験に応じて強化や効率化、属性の分化(水から氷等)を行っていく。

枠一つを使用するだけあり、目にした現象へ対応しようと即座に反応する。≫

 

(余剰数値:0)

 

概要:【元々はガチガチの優等生だったが、ある日そんな自身に嫌気がさしてグレた。

元が頭でっかちなため変なグレ型をして中二病になった。勉強やめてゲームにのめり込んだのが原因。

ちなみに、主にやっていたのは王道ファンタジー系のRPGや戦術シュミレーション。

親に言われたことを忠実にこなすだけの子供だったため、人の指示に従うことに快感を覚えてしまう犬属性を得ている。

身長およそ140cm、幼児体型の黒髪ロング。小学生に見られること多々ありだが、それはそれで喜んでいる。

ゴスロリ黒マントがトレードマーク】



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一学期 第八試験 【新入生最強決定戦・準備期間】Ⅰ

前の投稿から一ヶ月ちょい過ぎてしまいました。
とりあえず、なんとか書き進められてほっとしてます。
今回、やっと時間が進みました。E、Fクラスへ、スポットライトが当たります!

―――のはずでしたが、ちょっと他のクラスのキャラも出てます。
キャラが大量に出るので、皆さん、がんばってついて来て下さい!
一度、新入生最強が決まったら、メインキャラを絞って行こうかと思います……。
それでは、どうぞお楽しみください。

【添削完了】


【Fクラス戦・前篇】

 

 0

 

 

 Fクラス、只野(ただの)(じん)は驚愕していた。あまりの驚愕に絶句し、目の前の物を呆然と凝視している。

 場所は昇降口、掲示板前。そこには今期、新入生最初のクラス内交流戦の結果発表が張り出されていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【クラス内交流戦結果発表】

 

【Aクラス ベスト5】

1位…八束 菫

        総合獲得ポイント150/150  教師評価41/50

 

2位…プリメーラ・ブリュンスタッド

        総合獲得ポイント150/150  教師評価40/50

 

3位…サルナ・コンチェルト

        総合獲得ポイント150/150  教師評価34/50

 

4位…シオン・アーティア

        総合獲得ポイント150/150  教師評価30/50

 

5位…時川 未来

        総合獲得ポイント150/150  教師評価22/50

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【Bクラス ベスト5】

 

1位…ジーク東郷

        総合獲得ポイント150/150  教師評価30/50

 

2位…:比山 秀

        総合獲得ポイント121/150  教師評価22/50

 

3位…カルラ・タケナカ

        総合獲得ポイント100/150  教師評価36/50

 

4位…渡辺 遥(彼方)

        総合獲得ポイント119/150  教師評価16/50

 

5位…三神 信

        総合獲得ポイント108/150  教師評価19/50

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【Cクラス ベスト5】

 

1位…甘楽 弥生

        総合獲得ポイント142/150  教師評価39/50

 

2位…桜庭 啓一

        総合獲得ポイント150/150  教師評価23/50

 

3位…伊吹 金剛

        総合獲得ポイント150/150  教師評価22/50

 

4位…鋼城 カナミ

        総合獲得ポイント116/150  教師評価23/50

 

5位…黒玄 畔哉

        総合獲得ポイント121/150  教師評価17/50

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【Dクラス ベスト5】

 

1位…小金井 正純

        総合獲得ポイント150/150  教師評価30/50

 

2位…黒野 詠子

        総合獲得ポイント150/150  教師評価30/50

 

3位…桐島 美冬

        総合獲得ポイント150/150  教師評価23/50

 

4位…ユノ・H・サッバーハ

        総合獲得ポイント147/150  教師評価25/50

 

5位…氷室 凍冶

        総合獲得ポイント132/150  教師評価15/50

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【Eクラス ベスト5】

 

1位…七色 異音

        総合獲得ポイント130/150  教師評価33/50

 

2位…奏 ノノカ

        総合獲得ポイント130/150  教師評価30/50

 

3位…如月 芽衣

        総合獲得ポイント100/150  教師評価30/50

 

4位…九谷 光

        総合獲得ポイント100/150  教師評価29/50

 

5位…御飾音 カリナ

        総合獲得ポイント75/150  教師評価35/50

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【Fクラス ベスト5】

 

1位…長門 灰裏

        総合獲得ポイント80/150  教師評価15/50

 

2位…妖沢 龍馬

        総合獲得ポイント75/150  教師評価13/50

 

3位…叉多比 和樹

        総合獲得ポイント73/150  教師評価11/50

 

4位…只野 人

        総合獲得ポイント50/150  教師評価8/50

 

5位…御神楽 環奈

        総合獲得ポイント38/150  教師評価18/50

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【優秀者待遇】

 

八束 菫  ジーク東郷  甘楽 弥生

小金井 正純  七色 異音  長門 灰裏

 

   以上六名は、『スキルストック』を授与。新しいスキルを一つ追加できます。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【学年別代表決定戦トーナメント】

八束 菫  ジーク東郷

甘楽 弥生  小金井 正純

 

    以上四名のトーナメント試合で今期新入生最強決定戦を行います。

    トーナメント表は当日発表となります。

    なお、E、Fクラスのトーナメント参加は、一学期のみ不参加となります。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【任意呼び出し】

 以下の者に任意呼び出し。内容は職員室にて。

 夕方六時を過ぎても来ない場合は、呼び出した内容を無かった物とする。

 

東雲カグヤ  レイチェル・ゲティングス

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【アルバイトの募集】

 

 イマスク生徒限定アルバイト。

 ギガフロート市街地、中央バス停にて、バイトを募集。

 調理、裏方、ウェイトレス、ウェイター、バイト内容は相談できます。

 是非、一度御連絡下さい。

             『市街地中央バス停前喫茶・えいんへりある』

 

 

 ギガフロート唯一のカードショップ。

 子供達に大人気。

 ギガフロート限定カードゲームもあります。

 スケジュール、時間割、御相談可能。

 是非、御連絡下さい。

           『市街地七番道路カードショップ・シャッフル』

 

 

 若い女性限定アルバイト。

 ギガフロート一の美味しく甘~いスイート店。

 可愛い制服で簡単な接客業。

 お菓子のまかないでます。

 是非、御一報下さい。

           『市街地四番道路スイート店・ドルチェ』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 掲示板にはそんな内容が紙の上に印刷されている。

 こう言う正式な発表は、万能のイマスクでも、紙を用いる物らしい。

 只野人はもう一度目をこすって確認した。【学年別代表決定戦トーナメント】だ。そこに、彼には信じられない内容が記入されていたからだ。

 

 『なお、E、Fクラスのトーナメント参加は、一学期のみ不参加となります。』

 

「な、なんなんだよこれは~~~~~っ!!! ―――ですかっ!?」

 

 

 1

 

 感覚的には二年ぐらいの経過を感じさせた三日間の試合が無事終了し、各クラスの代表が明かされた。

 クラスの代表となった生徒は、そのまま四月二十六日に開催されるクラス代表戦、学年別代表決定戦トーナメントに向けて準備を進めていた。

「でやあああぁぁぁぁ~~~~~っっ!!」

 校舎中庭にて、立会人の二年生、朝宮(あわみや)龍斗(りゅうと)の頭上を跳び越え、甘楽(つづら)弥生(やよい)は二刀の剣を振るい抜く。

 彼女の決闘相手だった黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)は、空中のぶつかり合いで押し負け、反対側、校舎の壁に叩きつけられる。叩きつけられた衝撃でバウンドしかけた畔哉だが、それより早く投擲された剣が右脚ごと壁に突き刺さり、縫い止められてしまう。そのまま重力に任せると、右脚に刺さったまま固定された剣が、自重で体の上部に向けて深く刺さってしまう。

 畔哉は慌てて両手に『設置再現』を付与して壁をタッチ。そのままへばり付こうとする。―――っが、これが案外難しい再現技術で、少し気を抜くと手が滑ってしまいそうになる。

 そんな事に苦戦している隙に飛び込んだ弥生が、残った一本の剣を両手で掴み強力な一撃を見舞う。

「ベルセルク第二章……っ!」

「ぐえっ!?」

 『直感再現』が働くも、動けない畔哉にはどうする事も出来ない。

「『強襲(きょうしゅう)』ッ!!」

 

 ズガンッ!!

 

 純粋なパワーで振り降ろされた一撃が、畔哉が防御に使った武器ごとまとめて叩き伏せた。校舎の壁は粉砕され、校内にまで叩きつけられた畔哉。そのあまりの衝撃に、完全に伸びてしまっていた。

「そこまでっ! 勝者、甘楽弥生!」

 立会人をやってくれていた上級生の宣言を聞いて、弥生は剣を生徒手帳に仕舞いながらようやく息を吐いた。

「ふぅ~~……、こんなところかな? あと何人残ってるぅ~~?」

 伸びている畔哉をチラ見し、放っておいても大丈夫そうだと判断して、弥生は破壊された校舎から中庭のCクラスメンバーに声を掛ける。

 そこには結構な人数のCクラス生徒が死屍累々と言わんばかりに転がっていた。

 池の中で沈んでいるのは闘壊(トウカイ)狂介(キョウスケ)。能力により拡大した痛覚を押し付け、戦っていたが、弥生の『ベルセルク』が痛覚に対する耐性を強化し、最後は池に沈めて落とした。

 純粋なパワー勝負で殴り合いと斬り合いを演じて見せた伊吹(いぶき)金剛(こんごう)は、最終的に押し負け、怒涛の攻撃に曝され、校舎の壁に深くめり込んで昏倒していた。

 チェーンソーで戦い相手の身体を爆発させる能力を持っていた(くすのき)(かえで)は、武器の攻撃力差で一時は押したように見えたが、途中で弥生が『ベルセルク』の効果で会得した技術により、武器をその辺の石やコンクリート片。果てはこっそり逃げようとしていた本多(ほんだ)正勝(まさかつ)まで投擲武器として投げ寄越し、さすがの楓も虚をつかれた。トドメにリバーブローを御見舞いされ、地面に突っ伏した。

 兄の敵と闘壊響が『フェアリーエレメント』で属性攻撃を仕掛けたが根性で耐えて、正面から力任せにぶん殴られ屋上まで飛んで行った。

 雷化していれば物理攻撃は効かない筈と踏んでいた虎守(こもり)(つばさ)は、『ベルセルク』で得た技を持って、雷ごと斬られた。

 鋼城(こうじょう)カナミは、能力の源とも言えるパワードスーツを全て破壊された時点で、試しに逃走を計ったら、何か弥生の目が狩猟犬の如く輝き、かなり怖い思いをして逃げ回る事になった。最終的には草むらの影に押し倒され、何故か断末魔とは違う方向の悲鳴を上げたと言う。今は何故か半端に服が脱げている状態で汗だくになって気絶していた。

「よ、ようし……っ! また俺が相手してやるぜぇ~……っ!」

 倒れ伏した屍よりもズタボロ状態にある新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)が決闘を受諾しようとする。だが、その満身創痍の姿は、とても戦えるようには見えない。それもそのはず、彼は既に弥生の練習相手を最初に始め、既に十戦以上を超えている。しかも一戦一戦が何気に長い。そしてその全てに敗北している。とてもではないが、まともに立つ事さえ困難な状況下にある。いい加減保健室に行って欲しいと立会人の龍斗はこっそり思っていた。

「え? 悠里? う、嬉しいけど……、さすがにもうやめたら?」

「だ、大丈夫だ! このくらい、弥生のためなら―――!」

「そうありがとうじゃあ行くよ!」

「へ?」

 ドカバキーーン!

「げふん……」

 速攻で飛び降りてきた弥生に、悠里は強襲を受けて倒れ伏した。

 普段なら遠慮が優先する弥生だが、今は『ベルセルク』のギアがだいぶ上がってきているため、少々戦闘狂の気が強くなっていた。

「次は誰~~♪」

「……(おれ)がするよ」

 つい最近、弥生をデートに誘って、「ごめんなさい」の一言で振られた悠里だったが、それでも諦めず猛アタックを続ける根気強い姿を見せていた。だが今は哀れな姿になって地面に倒れ伏している。それを不憫に思いながら桜庭(さくらば)啓一(けいいち)は挙手する。

 何気に、この男だけが、ずっと弥生と同等の実力者だ。現在、暴走系の能力を制御するため、イマジン操作系の能力を練習中であり、戦闘参加は控え気味だが、やはり彼もCクラスの生徒。戦闘訓練の魅力には抗えなかったらしく、こうして参加していた。

 悠里は良く粘った方である。惚れた相手のためとは言え、これまで一度もたじろぐ事無く勇敢にも挑戦を受け続けたのだから。

 隙あればすぐに口説きにこられ、その度に弥生は赤面して慌てだし、時には勢いで流されそうになったりもしているのだが、ギリギリのところで毎度回避されている。そして一度戦闘となれば、もはや純情可憐な乙女の姿は何処へやらだ。容赦無き猛攻を浴びせ、反撃の暇など与えず、あっと言う間に挑戦者は土の肥やしだ(「死んでねぇよ…」)。

「いいよ、じゃあやろう……!」

 弥生の目が爛々と輝き、新たな犠牲者を作ってやろうと息巻いている。

(これで暴走状態じゃないって言うんだから、実はCクラス(己達)の中で一番戦闘狂なんじゃないのか……?)

 呆れつつも啓一は抜刀、次の瞬間にはお預けされていたゲームを解禁された子供の様な眼をしていた。なんだかんだで彼もCクラス。自覚が有ろうと無かろうと、立派なバトルマニアなのだった。

 そんな一年生の姿に、立会人という立場で付き合わされる朝宮龍斗は呆れ半分の溜息を吐く。

 

 

 中庭で巻き起こる剣激の音が届かない柘榴染柱間学園の体育館。ここではAクラスの生徒が許可を貰って訓練中だ。めでたくクラス代表となった八束菫を中心に行われている訓練は、意外と周囲が協力的だっただけにとんとん拍子で組み上がり、訓練場所として、ここを確保できた。Cクラスの様に許可を取るのに出遅れ、特別に中庭を使わせてもらうなどと言う事も無く、こうして使い勝手の良い場所で効率の良い訓練を行っていた。

「ふは……っ!」

 僅かな呼吸をやっとの思いでしながら、菫は空中に配置した剣を蹴って空中を移動する。次の瞬間、菫がいた場所を全身武装の機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)が通り過ぎる。飛行用バックパックのバーニアを吹かし、身体を回転させ、上下逆さまの状態で天井に脚を付く。脚部装甲が展開し、天井に杭を打ち込み体を固定すると、両腕に装着した二連装ガトリング一斉掃射。左右合わせて四つのガトリングが火を噴き、火の雨が降り注ぐ。

「んぅ……っ!」

 必死に剣を四本、『繰糸(マリオネット)』で個々に操り、自分に当たる銃弾のみを選んで斬り付ける。何発かは操りきれず体に受けてしまったが、ほぼほぼ根性で張った『強化再現』でなんとか耐えきって見せた。

 銃弾に当たって崩れたバランスを、空中に設置した剣を踏み台にする事で整えようとするが、こちらも操作を誤り、剣が菫の体重を支えきれずに一緒になって墜落してしまった。菫の使う能力では、空中に剣を配置しても、何か突発的な衝撃が加わると簡単に弾かれてしまう。なので、空中で踏み台にしたり、何か物を乗せようとすると、衝撃とは逆方向に剣を移動する様に働きかけないといけない。簡単に言うと、地面に張り付こうとするダンベルを持ち上げるのと同じで、重力に従おうとするダンベルとは逆の方向に力を入れなければ持ち上がる事はないと言う事だ。

 しかも、これを他にも何本の剣にも同じように命令を出し続けているのだからとんでもない難易度だ。Aクラスの菫が、実際こうして何度も失敗している。

 地面に落ちる前に、菫は手に持っている剣を操って空中を無理矢理飛ぶ。彼女の使う、この空中移動は『繰糸(マリオネット)』の能力で、剣を弾丸として打ち出す『剣弾操作(ソードバレット)』と、剣に決まった動きを与える『剣の繰り手(ダンスマカブル)』を細かく併用する事で疑似的に再現している物だ。どちらのスキルも剣を細かく操るのには向いていない。そもそも剣を自由自在に操る程高度な能力ではないのだ。

 だが、菫はそれをやろうとしていた。スキルがそこまでの効果を発揮しないなら、その一部分だけを使用して、自分の技術で同じ現象を起こしてやろうとしている訳だ。

「時間ですよっ!」

 背後からの声に気付いた菫が身体を無理矢理捻り上げて回避行動を取る。強烈な衝撃が過ぎ去り、彼女の紫の髪が数本持って行かれたが、なんとか無傷で凌ぐ。衝撃となって通り過ぎたのは身長は150推定の、黒髪ポニーテールに赤眼をした可愛らしい顔をした鏡刀也と言うクラスメイトだ。三日間の試合中はまるで接点がなかったが、訓練に誘ったら快く承諾してくれたのだ。

 刀也は『鬼神顕現』の能力で純粋なステータスアップ攻撃を仕掛けてくるタイプの能力者だ。だが、これがやってみると意外と厄介で、スピードでは劣り、攻撃力は防御を無視し、こちらの攻撃などどこ吹く風の防御力。しかもイマジネーションステータスも高いので、デバフ系も効果が薄い(菫は持ってないので試せてはいないが)。純粋にただ単純に強い相手と戦うのがこれほどに厄介だとは、やってみるまで気付けなかった。

「さあさあ! 今度は僕と十分間付き合ってもらいますよ!」

 そう言って空気を蹴って移動すると言う、少年誌でしかやらない様な芸当をリアルに再現して見せながら踊り掛ってくる。一方で神也は全武装をパージし、他のメンバーと合流している。これが今、菫が行っている訓練だ。

 十分毎に対戦相手が脈絡も無く入れ替わり続け、菫一人を襲う。菫は誰か一人でも時間内に倒せれば勝ち。他は、菫を倒せば勝ちだ。訓練とは言え、普通に菫が不利なルールである。

 めまぐるしく変わる対戦相手に、さすがの菫も焦燥の表情が色濃い。それでも、彼女は勝機を得るために慣れない空中戦を演じている。何しろ空中戦は全員がまだ慣れていない。この土俵で戦う限り、菫はなんとか負ける事無く二時間近くも戦い続けていられた。

 それでも、限界が近い。なんとかして勝利を掴みたいところだ。

「それに、してもさ……?」

「何ですっ!」

 刀也の拳を剣で受け止め、「何で切れないんだ?」っと突っ込みたくなる心境を堪え、彼女は半眼で呟く様にして疑問を口にする。

「ウチのクラス、女男、多すぎ……」

 そう、可愛らしい髪に艶のある長い髪、そして身長の低い身体と、整った顔立ち。これだけ美少女パーツを持っていながら、刀也は男なのである。

「ウチのクラス、だけで……、彩夏とカグヤとトーヤ、刀也も合わせ、て……、四人。陽頼も混ぜたら、五人……。多過ぎて、珍しくもねえ……」

「別に僕も望んでこんな顔してるわけじゃないですからねっ!?」

「希少性の、薄い…、男の娘……。普通………」

「弄られるのも嫌だけど、そこまで心底落胆したような表情されるとなんか傷付くっ!?」

 刀也のツッコミと攻撃を空中で回避しつつ、菫は攻撃の機会を窺う。既に残り時間を確認する余裕も無くなっている。なのでそこは諦めて、一人一人の対処法を考えるのに集中している。突発的な状況の変化に対しても、すぐに対応し、慌てる事無く冷静に攻略法を模索する。それがこの訓練の目的なのだから。

(そう言えば……)

 チラリッ、と、菫は視線を待機中で談笑しながら観戦しているAクラスメンバーへと視線を向ける。

(カグヤはなんでいないんだろう……?)

 何気に訊いた事はなんでも話してくれて、目に見えないところで気配りをしてくれる、都合の良い(「せめて優しいと言えっ!」)ルームメイトが何処にもいない。訓練を頼んだ時、真っ先に協力する事を「当然」と言ってくれた彼は今、一体何処に居るのだろうか?

(後で、聞いて…、つまんない用だったら……、串刺し……)

 とりあえずお仕置き(処刑)方法だけ決めておき、菫は戦いに集中する事にした。

「……何か待ってるのメンドイ。長いし。もう、全員で掛ろう!」

 隅の方で出番を待っていた短い黒髪を、頭の高い所で結んでいる女の子容姿の武道(ぶどう)闘矢(とうや)がそんな事を言い出した。

「「「「「じゃあ、そうするか……」」」」」

 他に待っていたメンバーもそれぞれ、銃や刀、イマジン体を呼び出し、臨戦態勢に入る。

 さすがに青ざめる菫。

「解った……。女装趣味に、碌な奴は、いない……っ!」

 結論付ける菫に、刀也と闘矢(とうや)ははっきりと否定する。

「「別に女装じゃないっ!」」

「こんな半端連中と一緒にしないでくれっ! 私は女装(趣味)と本気で向き合っているっ!!」

 何故かツインテールにしている黒髪を逆立てるほど、猛烈に遺憾の意を示した水面(ミナモ)=N(エヌ)=彩夏(サイカ)。むしろお前と一緒にするなとショックを受ける刀也達だが、菫は片手で他の生徒に一旦待ったをかけ、深々と彩夏に頭を下げた。

「ごめん」

「いや、解ってくれればいいんだ」

「「ちょっ!? なんでそこ丸く収まってんのっ!?」」

 しかし、菫と彩夏の間では何か通じ合う物があったのか、完全に二人の事を無視している。

 なんせ、菫からしたらもう女顔は見飽きていてうざい程だ。ただでさえ、自分のルームメイトが、寝起きで着崩れしている姿を見て、自分より女っぽい色気があると、内心傷つく毎朝だと言うのに、他のクラスでも見た目は完全に女で、実は男なキャラを何度か見受けている。こう言う属性は希少だからこそのステータスだろうに、この作品はそう言うキャラばかりで統一して行くつもりなのか? っと怒り半分で問いかけたくなるほどだ。しかも、そのほぼ全員が『女っぽいだけで男ですから』スタイル、せめて三人までに抑えろよ! っと当人達にはどうしようもないと解っていながら、突っ込まずにはいられない。

 そこに対し、彩夏は完全趣味で開き直って女装している。こっちの方が潔くて菫としては安心できる。ガサツでエロイ喋り方をするくせに、一々品の良さが女っぽく見えるカグヤを毎日見せつけられ、自分の方が女子力が低いのではと、気にしていない筈の事で苦悩するくらいなら、彩夏のオカマスタイルの方が好感が持てると言う物だ。

 菫は彩夏と両手で握り合う握手を交わして、互いにうんうんと頷き合ってから改めて距離を取る。

「お待た、せ…。始める」

 菫の合図に、他のメンバー達が、何かを察したように薄い笑みを漏らす。そして一つ頷いてから彼等は改めて型破りの訓練へと戻る。

「「この除け者感っ! 何か納得いかないっ!!」」

 刀也と闘矢(とうや)は叫び訴えるが誰も聞く耳を傾ける事はなかった。

 故に、二人は自然とここに居ない、自分達と同じ立場のはずの人物へと逆恨みを抱く。

 東雲カグヤ(あの同類)何処行ったッ!? っと………。

 

 

「うお……っ!?」

 突然の悪寒を感じた東雲カグヤは、自分の体を抱きしめてぶるりと震えあがった。

「な、なんだ……? 今物凄く理不尽な気配を感じたんだが……?」

 幼少のころから規格外の義姉、東雲(しののめ)神威(かむい)に育てられてきたカグヤは、その義姉が放つ悪巧みの予兆をなんとなく虫の知らせ的に感じ取る事が出来る様になっていた。だがそれは、とてつもない不安感を抱かせるだけで、今まで一度も回避できたためしがない。残酷な未来の啓示(けいじ)を受けたかのごとくブルーな気分になりながら、自分の役目を果たすために歩を進める。

 カグヤは今いる所は学生寮、そのとある一室、ここに依頼を受けて欲しい人物がいた。そのための交渉材料もしっかり手に入れて在る。これでほぼ五割は上手くいく事だろう。

(この交渉材料手に入れるのに、義姉様からアレこれ要求されてしまったが……、個人的にはむしろ御褒美ですっ!)

 基本的に義姉至上主義に()()()()()カグヤにとって、義姉に要求される事は幸福でしかない。頼られれば頼られただけ嬉しい物だ。

(さすがに、振袖姿で給仕してくれって言うのはうんざりするけどな……、ってか、なんで刹菜御姉様まで一緒なんだよ……っ!)

 思い出して拳を握ってしまうカグヤだが、それでも素直に実行してしまう辺り、神威の教育(調教)は行き届いていると言う事なのだろう。

 苦かった過去の過程を振り払い、カグヤは部屋の扉を四回ノックする。それは大きすぎず控え目に、だが、中の人にちゃんと聞こえるよう、絶妙な力加減を無意識に行う。

 「はい」っと言う返事の後、一拍の間をおいてから部屋の主が現れる。

 背中まで伸びた長い黒髪に冷たい印象を与える鋭い目付きをしている少女、カルラ・タケナカだ。カグヤとは初対面のため、出迎え早々、怪訝な表情を見せる。カルラが何事かを言う前に、カグヤは先に言葉を紡ぐ。

「誰?」

「尋ねてきたのアナタよねっ!?」

 開口一番、ツッコミを引き出したカグヤは、真顔のまま連撃を試みる。

「バストサイズ83……、ギリギリDか」

「さっそく何処に目を向けてるのよっ! バカなのっ!?」

「エロだろ」

「通報しますっ!」

「御呼ばれします」

「なんで受け入れたのっ!?」

「警察の人とD談義でも交わそうかと?」

「この場で粛清してほしいのねっ!? そうなのよねっ!?」

 赤面したり、胸を庇ったり、携帯端末を取り出したかと思えば、今度は驚愕して固まり、挙句には顔を近づけ真っ赤な顔で凄んで来る。

(ヤベェ……、コイツ、もろタイプ(獲物)だ……)

 カグヤの内で義姉に鍛えられた嗜虐心(しぎゃくしん)が煽られ、ここから思い切ってコンボを繋げてみようと試みる。絶対演技でしかやらない様な女の子らしさをイメージした満面ニコニコフェイスを浮かべる。さあ、チャレンジ!

「ごめんなさい。実は罰ゲーム中でした」

「傍迷惑な遊びしないでくださいっ! まったく、アナタも災難かもしれませんが、こう言う何も知らない他人を巻き込み迷惑を掛ける様な遊びはしないよう―――」

「見知らぬ相手に尋ねられ、おちょくられると言う罰ゲームです」

「罰ゲーム私だったっ!? って、そんな訳無いでしょうっ!?」

「もちろん冗談です。本当は道に迷って藁にもすがる思いでお尋ねしました」

「な、なんだ、そうでしたか……、相当性格の悪い方向音痴の様ですが、道なら生徒手帳でマップがあったはず―――」

「実は人生という道に迷っていて……」

「そっちっ!? そっちの道を相談しに来たのっ!?」

「一人出て行って音信不通だった母が、十年振りに、一度顔を見たいと便りを寄越して来て……、私はどうしたらいいでしょう?(笑)」

「重いっ! 想像以上に重いっ! そんな話私に振らないでっ! そもそもなんで私に尋ねる必要がっ!?」

「『こう言った相談はお隣に……』っと言われて」

「隣の部屋は確か……二能(にのう)類丈(るいじょう)さんと、リヴィナ・シエル・カーテシーさんの部屋だったはず……。お二人の知り合いですか?」

「いいえ全く無関係です」

「なんで尋ねたっ!?」

「かれこれ四十六部屋くらい同じ事が続いて」

(たらい)回しだったっ!? こんな所までめげずに回されてきたのっ!?」

「もちろん冗談ですよ。まさかそんな訳がない」

「冗談二度目っ!?」

「本当は通りすがりの幽霊先生からのおすすめで」

「ゆかり先生ならやりそうっ!? でも、それなら先生が答えてあげて欲しいっ!」

「冗談です。本当は下着の御相談でした」

「冗談三度目っ!? しかも真実がそれってやっぱりバカなのっ!?」

「実はブラジャーもパンティーも着用した事が無いので、良く解らなくて……」

「さらりととんでもないカミングアウトッ!?」

「さしあたって、試しにアナタの今穿いてる下着を確認させてくれませんか?」

「い、今穿いているのを……っ!? 下着だけじゃダメなんですか!?」

「柄とか色合いとか、穿いているのを見ないと参考にならないので。もちろん、見せていただくのは部屋の中で構いませんよ?」

「ま、まあ、部屋の中でしたら……、………はっ!?」

 部屋に招き掛けたカルラは、途中で何かに気付いた様にはっとした顔になると、慌ててカグヤを両手で押しやった。

「お、思い出しましたっ! アナタ、初日に決闘騒ぎを起こしたAクラスの東雲カグヤねっ! 確かアナタ男性だったはずっ!」

「そう、見えますか?」

 小首を傾げ、とぼけつつ、僅かに眉を下げて『内心では結構傷ついてます』アピール。

「うぐ……っ!」

 効果は抜群だ。

「だ、騙されません! 惑わされません!」

「では、ここで脱いで確かめてみますか……?」

「へ……?」

 頬を染めながら、羽織っているだけの千早を肩からずらすカグヤ。下は普通にシャツを着ているので素肌が見えると言う事はないのだが、脱ぎつつも必死で胸だけは隠そうとする素振りに、本当は恥じらっていると言わんばかりに視線を逸らしつつ頬を染める姿に、どう考えても男性とは思えなかった。人の悪い冗談が好きなだけの、だが、勢いで言ってしまった脱ぐ行為に今更になって羞恥心を覚えて戸惑っているドジっ子加減が、もうどうあっても普通の女の子より女の子っぽく映った。

 苦悩。

「し、しかし……、私が集めた情報に間違いがあったとも思えないし……」

 誤情報は在る物だ。それは認める。だが果たして、性別程度を間違えるほど、自分は情報力が弱かっただろうか? それはあまりにも“現実的”ではないと判断できる。

 だがやはり、潤んだ瞳を伏せ、羞恥に頬を染める眼前の相手が男性とは思えない。自分は何を信じれば良いのかと迷ってしまう。

「では、手っ取り早く胸を触ってみましょうか?」

 などと言ってカグヤは可笑しそうな表情でカルラの手を取ると自分の胸に押し当てた。

「へひゃぁ……っ!?」

 あまりに自然な動作で導かれ、気付いた時には既にカグヤの胸を触っていたため、カルラの口から変な声が漏れてしまった。

 胸に押し当てられたカルラの手。その手の平には服越しとは言え、確かな感触が伝わってくる。男女の判別くらいいけそうな気がした。

「…ん? …! つ、着けてないっ!? ―――いや、男性なら当然……? え、でも、これは……」

 カルラは自分の置かれている状況も忘れて手の平に返ってくる感触を確かめる様に撫で、軽く揉みしだいてみたり、ともかくその感触を堪能する。なだらかでいて、凹凸の乏しいそれは、一見すれば男性だと即答できなくもない。だが、手の平に返ってくるその柔らかな感触は、男性の胸板特有の筋や固さが感じられない。もちろん、カルラは実際に男性の胸を触った経験は、小さい頃に父親の胸板を触ったくらいの物だ。後はなんやかんやでいつの間にか身に付いた知識の中にある程度。それでも、それでもだ。今カルラが触っている柔らかな感触は、僅かだが、そこに膨らみが存在している様な気配すらある。男子がAAが当然と考えると、これはギリギリAカップと言えなくもない様な気がする。触っていると何だか癖になりそうな、餅ともグミとも例えようの無い感触はカルラには女性の胸部としてすら至上の物ではないかと疑わせる。

「ま、さか……! 着けていないだけで、本当に女性……っ!?」

 まるで『色』を完全に排除した『女の美』を体現した姿を見るかのように、カルラの表情が畏怖に歪ませ、羨望に頬を染め、畏敬に瞳を潤ませる。

「そうか、そう感じるのか……俺、()なんだけどな?」

「むしろその方が理不尽だ~~~~~っ!!!」

 ばしぃ~~~~んっ!! ついに感極まったらしいカルラのビンタがカグヤの顔を狙って―――途中で軌道修正されて胸への掌打に変わった。整ったカグヤの顔は、さすがに女性として殴れなかったようだ。

「……し、心臓が……、止ま……っ!!」

「そこまで強く叩いてない筈―――ええぇ~~~~っ!?」

 胸に手を当てがっくりと跪く、苦渋の表情のカグヤ。どうやら胸の掌打で本気で死にかけているらしい。

「戦闘力の無い私のビンタで、何で死に掛けてるのよっ! ほら、しっかり!」

「うぐっふ……!」

 横になったカグヤに心臓マッサージを施し、なんとか鼓動は取り戻された。

 再び立ち上がった二人。片方はげっそりと、片方は一安心と胸をなでおろして、とりあえず一息吐く。

「いや~~、意識のあるまま死にかけるなんて初めての体験だった。大体いつもは気絶してるから、貴重な体験だったな!」

「あっけらかんと、また恐ろしい事言ったわよね? アナタは“いつも”死にかける程気絶することが頻繁に在るのかしら?」

「…? 割と幼少からずっと」

「やめてもう……、私の常識が音を立てて削られて行く……」

 ついに屈服する様に座り込んでしまうカルラに、カグヤはこっそり拳を握って勝利に酔った。

 コンボ一発で陥落させてやった! ふっ! っ的な優越感に……。

「ぷ、ぷあ~はっはっはっはっはっはっ!」

 堪え切れないと言わんばかりの笑い声がカルラの背中へとぶつかる。室内からした声にカグヤが視線を向けると、死角になって見えない部屋の奥から、どったんばったんと、転げまわりながら大笑いする女性の気配が感じ取れた。

 声の主はヒィヒィ言いながらお腹を押さえ、浮かぶ涙を人差し指で払い、床をはいずる様にして出てくる。ある程度笑いが収まったところでカグヤへと視線を向ける。

「あ~、あ~……! 可笑し過ぎて笑いが止まんないよ! もしかしてアタシに用事かい? 入んなよ。面白可笑しいの見せてくれたお礼に話だけなら聞いてやるよ?」

「ならちゃんと聞いておこうか? お前が火元(ヒノモト)(ツカサ)か?」

「そうさね。やっぱりアタシに用事だったみたいだね」

 軽く笑い合う二人。カルラはそんな二人を眺め、酷いとばっちりを受けた物だと溜息を―――吐こうとしたら、突然カグヤに抱きかかえられた。

「これ、どうしたらもらえますかっ!?(キラキラッ」

「おおっと、そいつは値が張るよっ!?(ケラケラッ」

「勝手に人身売買するなぁ~~~っ!!(ドカーンッ」

 

 

 Bクラス切っての頭脳派、カルラ・タケナカに知恵熱を起こさせ、ベットで突っ伏させる所まで言った東雲カグヤは、彼女達の部屋で、テーブルを挟み火元司と向き合う形になっていた。

「まずは用件から、剣が欲しい。最低一本、可能なら八―――いや、九本」

「断るね。アンタに打ってやる剣は無い」

 バッサリと、司は何の迷いも無くカグヤの依頼を断ち切った。

「いや、確かに私は作る相手を選ぶ方だけどね? それでもアンタは論外中の論外だろ?」

 言いつつ、司は懐に持っていた短刀を取り出す。試作で作った一本で、単なるナイフ程度の用途しか持たせていない。おまけに素材はその辺の石ころと言う雑さ。最低限鉄すら使っていない石刀を投げ寄越され、とりあえず受け取ってみるカグヤ。

「……やっぱダメだな。アタシには武器を持ってる奴を見れば、その武器と使い手の“実力差”が解る。そう言う能力なんだ。でも、アンタにはまったく剣の才能がねぇ。それどころか『どう言う事だ?』ってこっちが質問したくなっちまうねぇ? そのできそこないでさえ、()()()()()()()()()()だって判断出来たぞ? はっきり言って、『非才能の才能』があるんじゃないかって疑っちまったよ」

 言われたカグヤは溜息を吐きたくなった。幼少から散々義姉に不思議がられた内容だけに、他人にまで言われると多少傷つく。実際、カグヤに東雲家の護法剣、姫咲(ひめさき)流を教えてくれた師でさへ、「剣技を全て覚える事は出来ても、アナタに剣術を身に付けさせることは不可能です」なんて言われてしまった。他にもあらゆる武器を使える様に仕込まれたが、一つとして極めれた物はない。浅く広くがカグヤの習得できる限界だった。

 それを見抜いた司は話は終わりだと言わんばかりに手をひらひらと振る。

「そんな訳で論外だ。その石刀置いて、帰えんな」

「そうです、一刻も早く帰りやがってください……」

 熱暴走中のカルラにまで急かされ、いよいよカグヤは溜息を吐いた。

「話は最後まで聞けよ。使うのは俺じゃない。俺は依頼しに来ただけだ」

「なら、そいつ本人を連れてきな。話はそれからだよ」

 すっぱりと切り返した司に、カグヤは内心「本格的に交渉術使ってやろうかコイツ?」っと呆れながらも続ける。

「お前の目利きが本物なのは今解った。だからそいつは省略だ。ただ手間がかかるだけの事なんかできるかよ」

「最低限の誠意って言うのは必要だろう?」

 ああ、なるほど…。っと、カグヤは理解する。要するに舐められているのだ。交渉人としてやってきた東雲カグヤが、あまりにも貧弱故に、その使い手も大した事はないだろうと判断されたのだろう。他にも、他人を使いぱしって欲しい物を調達しようとする王様気取りな奴が相手かもとも思ったのだろう。

 やれやれ面倒だ。口には出さずそう判断したカグヤは、面倒なのでさっさと『交渉術』に移行する。

「あんまりデカイ口叩くなよ? 三下がよぉ?」

 突然の喧嘩腰。驚いたカルラが視線だけをカグヤにやる。

「お前のポリシーが何ぼのもんだろうと、テメエが思い上がれる程腕は付いて来ちゃいねえんだ。偉ぶるのはそれなりの功績を残してからにしな」

「はっ!」

 急に言葉使いを荒げたカグヤに対し、司はむしろ可笑しそうに笑い飛ばした。その顔は何処か自慢げで、「正体見たり」と言いたげに歪められていた。

「アンタがどう言うおうが答えは変わんねえ。そもそも脅して何かが手に入ると思ってんなら大きな間違いだぜ?」

「バカげたことを言い出すな。脅す? 何故俺がお前ごときの剣を脅して取る必要性がある?」

「私、“ごとき”だと?」

 ああ、そこか……。っとカグヤは表情には出さず、理解する。

「何か不満でもあったか? 正直俺は事実だけしか言っていない筈だが? それともその事実がお気に召さないと?」

「アタシの剣を依頼しておいて、アタシの剣を“ごとき”扱い、テメエはアタシを怒らせて何がしたいんだい?」

 今すぐにでも飛び掛かりそうなほどの怒気を言葉に乗せて睨みつけて来る。

 正直、本気で飛びかかられたら、相手がEクラスでもたぶん負けるんだろうなぁ~、っとカグヤは達観したように感じ取っていた。しかし、恐怖は無い。それは相手を脅威と認識できないからだ。

(って言っても、別に俺なら対処できるってわけじゃないんだよなぁ~……)

 カグヤの義姉、神威はイマジンの存在がなければ、間違いなく人類最強―――否、世界最強の生物であった。それが放つ殺気や怒気は、次元が違い過ぎ、まともに感じ取れた物が一人として存在しなかった。そんな物を毎日、気まぐれや訓練込みで散々ぶつけられたカグヤの感覚はマヒしてしまい、相手の殺気に反応が鈍くなってしまったところがある。もちろんカグヤにも恐怖は在る。危機感もある。ただ、それが少なくとも自分にとっての常識に収まる範疇であるのなら、他人事のようにスルーしてしまうと言うだけだ。

(恐怖しない(、、、)んじゃなくて、()()()()って言うのは問題だよな……)

 などと脱線気味の思考を並列思考で考えながら、意識はしっかりと司に対して向ける。

「怒らせる? お前は何を言っているんだ? さすがの俺もそこまで思い上がりが激しいと見込み違いだったかと疑いたくなるぞ?」

「まともに会話する気があんのかアンタ? 挑発しかできないならさっさと帰んな? アタシが剣を打たないと困んのはアンタの方だろ?」

「さっきからお前は勘違いが酷いな。解ったよ。失礼極まりない奴だが仕方ない。俺も会話をしたい。だから俺が話を戻してやる。その眠らせてる脳みそをしっかり起こしておけ」

 そこまで完全に挑発としか取れない物言いで、カグヤは続けて言葉の槍を突き刺して行く。

「そもそも、テメエは交渉のテーブルに着いちゃいねえだろ? “誠意を見せろ”? お前のそれはなんだ? 客に茶の一つも出さず、話を聞くと言いながら気に入らない事はさっさと切り捨て、ただ追い返そうとしているだけだ。はっきり言って、テメエには“誠意”なんて無い。そんなお前に俺がわざわざ“誠意”を示せ? お門違いも(はなは)だしい」

「客? テメエこそ何言ってやがる? 客かどうかはアタシが決める。少なくともアンタは代理人だ。本人じゃねえなら客じゃねえ」

「当然だな。だってお前は“店主”じゃない」

 「ああん?」っと言う声が司の口から洩れた。意外な事に彼女としてはあまり使わない言葉だったが、この時は適切な言葉が見つからず、勝手に口に出た。

 そしてカグヤは『交渉術』を始めた。

「ここは何処だ? 学生寮だ。そしてお前達の自室で部屋だ。お前の店は存在しない。店の看板もありゃあしない。尋ねてきたからと言ってそれで客扱いしてるわけでもねえらしいしな? だとしたら、俺がお前を敬う必要性が何処にある?」

「屁理屈こねてんじゃねえよ。お前がアタシに剣の依頼をしている以上、“誠意”を見せるのはお前の方で在るべきだろ? そう言うのがねえからアタシも客扱いはしねえと―――」

「だからそこが烏滸(おこ)がましいと言ってんだよ」

 一陣、斬り込んだとカグヤは判断する。

 脇の方で、僅かにカルラが眼を細めるが、口は挟まない。

「俺を客扱いする権利なんてお前には無い。ただのクラスメイトや訪ね人だって扱いなら客として迎えられるがな、俺は依頼をしに来た。そしてテメエは客として扱わないと言ったんだ。その時点で次元がズレてるってどうして気付かない?」

「?」

 首を捻る司。

 少々難解、っと感じ、それが狙いなのだろうと理解するカルラ。

 二陣に斬り込むため、カグヤは休まず続ける。

「解り易くしてやるよ。英雄は何を持って英雄と呼ばれると思う?」

「は?」

 まったく関係無い話を持ち出され、もはや司は呆けるしかない。

「英雄はその功績を認められて『英雄』と呼ぶんだよ。神話の神々と違って、『英雄』は何かを成し遂げねば『英雄』にはなれない」

 戦国の世を戦いぬいた武将、神話級の化け物を討伐した勇者、人が成せなかった事を成し遂げた功労者。その人物について語れるだけの逸話、功績があってこそ『英雄』は称えられ、尊ばれる言葉として扱われてきた。ただ英雄と言うだけで、その人物が功績を成し遂げた物だと簡単に理解できる。

「それで? 今のお前は何者だ? 刀鍛冶? まともな刀一本も出来ていない奴が? まともに店も作れていない奴がか? 笑わせる。お前はただ一人の女子高生。それ以上の称号など分不相応。なのにその扱いを求める。だから言ったんだよ“烏滸がましい”とな」

 『英雄』ならざる者が『英雄』の扱いを求めるな。そう断じたカグヤは二陣が開くのを待ち、相手の言葉を待つ。

「言ってくれるじゃねえか? ……だがそれがどうした? 仮にアタシが不遜だったとして、それがどうした? それでアタシが『すみませんでした』って言って剣を打ってやると思ってんのか?」

「俺は話の論点を戻したつもりだったんだがな……、“ズレてる”って言った事の意味がまだ解らないらしい」

 二陣に斬り込んだ。カグヤは確信する。残る一つを貫けば自分の勝ちだ。

「剣を打てとか以前の問題の話をしてんだよ。テメエにはそもそも、他人にくれてやる剣なんて持ち合わせちゃいねえ。それだけの価値ある物を持ってねえ。そんな奴が客を自分で選べると持ってるのか? そもそも客引きすらしてねえ奴が、他人を客扱いなんて出来るわけねえだろ?」

「意味が解らねえなぁ? アンタは結局アタシに何をさせたいんだい?」

 うわ……っ、そんな声が漏れそうになったのはカルラだ。カルラにもカグヤの真意は解らなかったが、それでも、この場面でそれをカグヤに尋ねるのは悪手だとは解った。カグヤに話の主導権を渡しっぱなしなのだ。これでは相手に思い通りに動かされるだけだ。

 だが、っと、カルラは内心で小首を傾げる。果たしてカグヤは何がしたいのだろう? この口論の先、その結末をなんとなく読み切ったカルラは、その行きつく結果に首を傾げてしまう。

「何をさせたい? それ以前の問題だ。俺はお前に剣を打ってもらいたい。だが、その話をする前に、まずはテメエのその勘違いを正しておかねえと、こっちも安心して『交渉』できないんだよ。がんばって交渉した結果、手に入れたのが(なまくら)だった、なんて話にならないからな」

「だぁから! 結局アンタはアタシに剣を打たせたいんだろ? それが何でこんなややこしい―――」

「鈍しか作れねえ奴に用はねえよ」

 はい、三陣突入……。カグヤは確信して言葉の槍を突き刺す。

「アタシの剣を、全部鈍だって言いたいのか……?」

 さすがに聞き捨てならなかったのか、形相を変え、怒気を殺気に変えて睨み据える。僅かに身体から(くろがね)色のオーラが見て取れる所から、思いの外イマジン技術を会得しているらしい事が感じ取れた。

 だが、だからこそ、カグヤは惜しいと言う思いを込めて「バカバカしい」と吐き捨てたくなった。

 Eクラスの試合内容はともかく客引きと評判だ。より多くの客を呼ぶか、少ない客でも、その満足度次第で上位に食い込む事が出来る競技内容だった。偶然、司が外で剣の試し打ちをしている姿を確認したカグヤは、その時、とてつもない戦慄を感じる程、その才能に驚かされた。魅せられた、っと(しょう)しても良いそれは、間違いなく、ベスト5以内なら、何処かに名前が上がっていても可笑しくない逸材だった。………なのに名前がない。無かったのだ。

 だから調べた。すぐに調べた。クラス内交流戦の間も、これが終わったら必ずアポを取ろうと考えていた相手だけに、必ず自分が客一号になってやると意気込んでいただけに、その内容は、呆気にとられる物だった。

「鈍さ。一つ残らず、アンタの全ては鈍なのさ。アンタ自身の才能なんて意味がない。功績を一つも上げる事の出来ない、根っこから腐った鈍ばかりなんだ」

 ここに来て初めて、カグヤが心から言葉を紡ぎ、ぶつける。

 それ故に立ち上がった司は、本格的な怒りを示していた。

「アタシの剣が鈍かどうかっ!! 試してみるかっ!? アタシの剣の何処が悪いか、言って見やがれよっ!! さあ言え! すぐ言えっ!!」

 三陣深く食い込んだ。突破目前。

 安易だった(ちょろかった)な、と感じながら、相手の怒りに合わせて、カグヤも激しく立ち上がり、渡されていた石刀を抜くと、それを真直ぐテーブルの中心に突き刺した。

「なら証明してもらおうじゃねえか! テメエの御自慢の剣で! テメエが“出来損ない”と称したこの石刀を、テメエの“傑作”で打ち砕いてみやがれっ!!」

 言いながらカグヤは石刀に『強化再現』を掛けて見せる。それを見て司も何をさせたいのかを理解する。

 つまりは純粋な力比べだ。司が出来損ないの烙印を押した石刀を、司が現在最強と思える最高傑作で斬りつける。石刀にはカグヤが、つまりはこの学園で司の剣が相手しなければいけない敵の力で強化が施される。この力を切れなければ、司の負け。自分の剣を鈍と認めるしかない。だが、石刀が折れれば司の勝ち。能力者を相手にしても充分に使える物、鈍ではない事が証明されるっと言うわけだ。

「面しれぇ……!」

 司は純粋にそう思った。だから話に乗った。実のところ、司もそれは試した事がなくて不安だった事柄だ。Eクラスは戦闘が無い。Fクラスには訓練じみた戦闘試合があったが、Eクラスは皆無だ。なので試せた憶えがない。果たして、自分が現状最高と思われる剣は、能力者だらけのこの世界でやっていける物なのか? 確かめておきたかった。確かめねばならなかった。

 司は棚に向かい、そこから一本、両刃(もろは)の西洋剣を取り出す。銘はない。まだ与えられるだけの物として納得していない。だが、それでも鈍の石刀に比べれば圧倒的な品質と技量で作られた逸品だ。とても打ち負けるとは思えない。

(素材は鋼鉄。だけど、購買部で売っていた玉鋼(たまはがね)を使用した唯一の一品。作るまでの過程も考えれば、やっぱり雲泥の差……)

 自信はあった。自分の傑作が、適当に作っただけの石刀に、簡単な『強化再現』を行っただけの刃に劣るわけがない。

 剣を構える。何の装飾もされていない無骨な剣。イマジンでは装飾も剣のスペックを上げる要因の一つとなり得るが、今は関係無い。そもそも、まだ一年生の序盤で打った剣だ。最初っから満足行く一品が作れるなどとは思い上がってはいない。

 剣の心得はなかったが、この勝負に剣術はいらない。テーブルに刺さった石刀の刃に向けて、こちらの剣を斬りつけるだけで良い。細かい軌道修正くらいならイマジンが補正してくれる。まず、外すと言う事だけはないだろう。

 だから司は、何の迷い無く、全力フルスイングで剣を振り抜いた。

 

 ベギンッ!!

 

 そしてあっさりと、思わず呆けてしまう程に……、司の持つ剣は容易く折れてしまった。

「……え?」

 呆ける司に、興味深そうに見つめるカルラ。そして、何故か悲しそうな表情のカグヤが司を見つめる。

 思考が停止してしまっている司に代わり、初めてカルラが話に割り込む。

「単なる『強化再現』ではなかったみたいですね? でも強化系の能力でも無かったように思えますが?」

「正解。『特化型強化再現』って言う、強化範囲を絞る事で効果を倍増させる技術だ。俺はその中の派生で『特権強化』って言うのを実行した」

「それはどんな代物ですか?」

「別に珍しい手じゃない。俺にはイマジン変色体ステータスに『霊力85』と『神格70』が存在する。つまり、霊的な強化と、権能的強化を行う事が出来る“特権”があるわけだ」

 イマジン変色体ステータスは、時として、その人個人にしか備わっていない様なステータスが存在する。そのステータスを利用した『強化再現』を、『特権強化』と呼ぶ。『強化再現』の派生形技術として知られている。

「能力者同士のバトルだと、一々こんな事で強化したところで、そもそも『防御不能』とか、『強制パリィ』とか、そう言う系の能力撃たれる場合もあるからな。あまり使いどころがない技術だ。でも……」

 そう、大してすごい技術でも無ければ特別と言うだけの大した事の無い力。それでも、そんな程度の力でも、現状の司が作り出せる最高傑作(限界)は遠く及ばないのだ。断言された。司の剣は、イマジネーターの戦いでは役に立たないのだと。

 “今はまだ”っと言う但し書きこそ入る物の、司本人してみれば相当ショックなことであった。

 カグヤは思う。別にこんな事は悩む必要はない。むしろこの程度も覆せない能力者は、イマジネーターを名乗れないのだから。むしろ司が悩むべき所はそこではないと、“惜しむ”。

 司が上位入賞できなかった理由。それが、司の御眼鏡に適う相手が現れず、客を全員突っぱねてしまったと言う事だ。

(触れてみれば解る。あの石刀だって充分良い出来栄えだった。ただ、洗練されてないだけだ)

 剣は鍛冶師の力だけでは作り上げる事は出来ない。その担い手がいて初めて、剣は大成できる。だが、司はその機会を、己の鋭すぎる目利きで、全て無為にしてしまっていたのだ。

 こんなに惜しい事はない。

「さて……、今のままじゃ、お前の剣は鈍だって事は解っただろ」

 座りなおしたカグヤが、追い打ちをかける様に言ってから、斬り込む。最後の一手、『交渉術』の終了(、、)

「じゃあ、そろそろ交渉(、、)に入ろうか?」

「……は?」

「いや、『は?』じゃないだろ?」

 カグヤの『交渉術』は他者を屈服させ、絶望させる物だ。故に尊大な態度を持って当たり、屁理屈を立てて相手を攻撃する。例えそれがどんな屁理屈で在ろうと、最終的に決定的な“事実”を見せつければ、全てを証明するに至る。証明されてしまえば“理屈”に変えてしまえる。そうなれば後はこっちの物、後は言いたい放題難癖付けて、こちらの要求を全て通させる事が出来る。

 だからかカグヤは『交渉術』を止め、普通に一人の学生として司と接する方向に戻した。

「俺は、お前が客を選べる立場じゃねえって教えただけだ。だからってそれで俺の依頼を受けるか受けないかはアンタが決める事だ」

「………は? いや、待てよ……。じゃあ今の口論とか実演とか一体何だったんだ? 何の意味があったんだ?」

「意味も何も……、お前が“交渉の席”につかず、一方的な理由で追い返そうとしたから、そこを修正しただけだろ? 『話を聞くって言ったんだから、ちゃんと会話をしやがれ』って……」

「……、あ、ああ……」

 ここに来て、司と、カルラもまた同時に理解した。

 つまりこの男、カグヤは何が目的で交渉術を使っていたのか……。それはつまり……。

((デカイ態度で追い払われるのが腹が立つから、口喧嘩で勝って、いい気になるなって言いたかったのか………))

 何とも子供っぽい―――いや、完全に子供じみた理由で、カグヤは巧みな交渉術を無駄に披露したと言う事になる。技術はすごいが、凄いだけに、使い方がまったく理解できない。まるで大人の技術を完全に習得した子供が、余り物のおやつを獲得するために、全力を出すかの如く、無駄遣いだ。

 解ったら頭が痛くなってきた司は、もう色々面倒になって机に突っ伏した。

 一方でカルラだけが、何気に全て納得した感じになっている。

(さすがAクラス……、これが“天才”の集まるクラスで在りながら“変人”と称されるクラスの正体ですか……)

 真面目に使えば世界的革命に繋がる力を、心底どうでもいい事に全力を尽くす“バカな天才”達。Bクラスの自分は、Aになれなくても良いかもしれないと、カルラは本気で引いていた。

「ああ、もういいよ……、受けてやるよ……。ここで依頼断っても、なんかただの腹癒(はらい)せみたいで格好悪いし……。でもよ、現状アタシが打てる剣は、今折れたのが本当に最高品だぜ? アンタが欲しがる剣は、残念だが技術的に不可能って事にならないか?」

 創作者としては、何とも情けない話だとも思いながら、まだまだ発展途上にあるという自覚もある。この先、経験を積めば変わってくるはずではあるが、正直今の段階で急かされても、満足に行く剣は作れない。

「いや、お前の技術はまあまあそこそこ行ってると思うよ。上級生の精製品を見た俺の目から見ても、一年生じゃ群を抜いてると思うぞ。だが、圧倒的に足りない物が二つある。だからお前は上位に入れなかった」

「足りない物? アタシから見ても、足りない物だらけだと思うんだが……」

「そりゃあ、質を求めたら切がないだろうけどよ……。そうじゃなくて、今の時点で、お前が全ての技術を積み込むには、どうしても素材の品質を求められるんだよ。だが、高品質の素材は、新入生には入手しろって方が無理だ。だから火元は上位を落とした。……いやまあ、それでも“接客業”を疎かにしなければ、5位は固かっただけに、本気で惜しいけどな……」

 試合ルールが『集客』ではなく、純粋な『品評会』であったなら余裕だっただろうに、と、カグヤは内心呆れつつも、懐からソレ(、、)を取り出す。

「コイツは義姉様の趣味でやってる農園から取れた物でな。色々(、、)交渉して分けてもらった。『鋼草(はがねそう)』って言う物だ」

 取り出したのは色の強いガラス細工の様な緑色の草だった。見た目はガラス細工にも見えるが、草である事を主張するかのように僅かな力で簡単に(しな)る。固まる前の熱した飴細工の様な柔らかい草。それを根っこから綺麗に採取され、一房分を紐で纏められていた。

「こ、これは……っ!? マジか……?」

 司は思わず身を乗り出し訊ねてしまう。

 司は鍛冶師として、ギガフロートで入手できる品種をちゃんと調べてある。ギガフロートで品質は五段階評価で分けられる。

 その辺の石から、鋼鉄などの鋼を『劣等品』。

 宝石や金剛石(ダイヤ)などを『下級品』。

 オリハルコンやミスリルなど、ここでしか取れない物を『中級品』。

 神木など、材質ではなく、力を宿した物を『上級品』。

 最後にギガフロートでも侵入不可領域の最奥でしか手に入らない、教師すら入手が困難とされている物を『至宝品』と称している。

 『鋼草』は、土ではなく、鉄粉などの鉄素材を多く混ぜた土から栄養を採取する雑草(、、)系の植物だ。だが、生息域が限られており、見つければ大量に入手できるが、無い所には一切生えないと言う希少と言えなくもない金属製の草である。

 だが、絶対にギガフロートでしか入手できない。そして新入生が求める品質としては、あまりに規格外の一品、『中級品』に当たる。

「一応生徒手帳に、あと三十房ほど入ってる。量はこれで足りるだろ? 必要なら追加発注する準備はある。どうだ? これで剣は作れそうか?」

 カグヤの言葉を吟味し、『鋼草』を手にとってじっくり見聞してみる。余計な土は完全に洗い取られ、根や葉に傷らしい傷も全く付いてない。上級生にとってはそれこそ雑草と変わりない扱いであろう品が、ここまで良質な状態で採取されているのは珍しい。

 頷いた司は『鋼草』を机の上に戻すと神妙な顔立ちになる。

「可能だな。こんな物を出されて、アタシも打てないとはさすがに言えん。依頼は引き受ける。だが、生半可な仕事はしたくない。期日と相手次第だが、それでもすぐに用意できるのは一本が限界だ。材料から見ても数は増やせない。ってか、誰の剣を打てって言うんだ? それが解らん事には打ちようがない」

「ああ、そうだったな」

 忘れていた言わんばかりに軽い会釈と片手を立てる事で謝意を表わしてから、カグヤは生徒手帳を取り出し、とある試合の映像記録を呼び出す。

「コイツの剣を作ってほしいんだ。実は此処には内緒で来てるんだが、ちょっとコイツを驚かせてやりたくてな」

 そう悪戯っぽく語るカグヤが見せた映像記録。それを見た司は面白そうだとニヤリと笑う。

「そう言う事なら任せな! コイツの剣! アタシが立派なのを作ってやろうじゃないかっ!」

 

 

 2

 

 

「ぐわああああぁぁぁっ!!」

 クラス内交流戦でもお世話になった十五メートル四方の白い部屋、アリーナにて、紫色の髪をポニーテールにまとめたクールビューティータイプの男子、小金井(こがねい)正純(まさずみ)が床を転がり、壁に激突して止まる。その全身には、星霊魔術を過半数以上使用する事で浮き上がる『星の痣』が浮き上がっていた。瞳を煌々と金色に輝き、彼が今の瞬間まで最大まで能力を使用していた事が窺える。

 だが、彼が床に転がっている姿から察する通り、彼はどうも敗北した様子だった。現在、Dクラスの代表となった彼を負かす相手など、それこそ想像に難くないだろう。

「まったく無謀の極み。…とは言え、もう少し私を楽しませる事は出来ないものか? この程度で一方的に負けていては、いずれ待ち受けし戦争(ベルムム)で勝者となる事は不可能ぞ」

 そう言いながら床を靴で踏みならした、髪も眼も黒く、黒いフリルドレスに身を包む、魔王然とした少女、黒野(くろの)詠子(えいこ)は倒れて動けない正純を見下すようにしながら告げる。

 彼女は正純の訓練に付き合い、五〇戦近くを全勝している最中だ。

 恐らく、想像通りだと思った者もいるだろう。“こっち”だったかと思った者もいるだろう。そんな方々にこの言葉を贈ろう。甘い。その考えは甘すぎる!

「詠子さん、さすがにそれは酷という物ですよ? 正純君一人で、私達()()()()()()()()()()()()んですよ?」

 なめらかなストレートヘアーを揺らし、白衣に緋袴の巫女姿で、カラコロと下駄を鳴らしながら現れたのは、桐島美冬。眼や髪の色は詠子と同じだが、魔王然としている詠子とは対照的に、巫女らしく神聖で楚々とした(たたず)まいは、上品を通り越して、神々しくもある。

 魔王と巫女、対照的な二人は、『トップウィザード』の称号を、晴れて授かったDクラストップ2と3だ。そんな二人を相手に、ナンバー1の男が挑み、ここまでに至るまで大敗を何度も味わっていた。

 訓練である以上、手を抜かなかった美冬だが、さすがにここまで一方的に魔術の袋叩きを演じては、申し訳ない気持ちが湧きあがってくる。膝を折り、長い髪を手で耳に後ろにどかしながら、美冬は心配そうに正純の事を覗き込む。

「正純さん、大丈夫ですか? やっぱり二人を同時に相手するのは無理があったのではないでしょうか?」

 このままでは訓練にならないのではないか? そう危惧して尋ねる美冬に、未だに起き上れない正純は、なんとかと言った感じに返す。

「いや……、このまま続けないとだめなんだ……、普通のやり方じゃ、どうしたって俺は勝てないんだから」

「確かにDクラスは戦闘系のクラスとしては最下位ですけど、ここまで無茶をしなくても……?」

「違うんだ美冬。この訓練は、俺だからやってる無茶なんだ」

「……どう言う事でしょう?」

 尋ねる美冬に、正純は『星の痣』で失った視覚が戻るのを待ちながら、自分の考えを語る。

「Dクラスの二人の試合見たよ……。スッゲェー圧倒的で、正直、俺なんかじゃ比べ物にならなかった……。先生達も噂してたよ、『この試合カードはここでやるのは勿体無い』って……。せめて俺が二人の内どっちかと戦った経緯があれば話は別だったかもしれないけど、完全に二人が引き分けたおかげで繰り上がっただけだもんな。さすがにこれで胸張ってDクラスの代表なんて言えねえよ」

「そんな……、卑屈にならなくても……」

 正純の言わんとしている事を解りながらも、それでも代表に選ばれたのは正純であり、“引き分け”っと言う結果を引いてしまったのは自分達だ。だから正純がそこまで卑屈になる必要はないと伝えようとした美冬だったが、それより早く、正純は表情を改めて告げる。

「だけど、泣いても笑っても代表になったのは俺だ。だったら、お前ら二人にも、クラスの皆にも、恥ずかしくない試合がしたいじゃないか。そのためには、他のクラスと差を付けられるような特訓をしないといけないって思ったんだ」

「それが二対一の訓練ですか?」

「皆、ここまでの試合で一対一(サシ)の勝負には慣れてきてるけど、イマジネーター二人を同時に相手にする事は想定してない。実際やってみた俺が体験した事だが、かなり大変だ。でも、確実に俺の中で成長できているのを感じるんだ。俺は他のクラスに負けない為にも、一歩先を行く訓練をした方が良いと考えたんだよ」

 それでも無茶は無茶だなぁ~、っと感じつつも、美冬は微笑み受け入れた。無茶を押し通そうとする正純の姿が男の子だなぁ~っと、感じたからかもしれない。

「ふっ、ならば続きを再開しよう! 貴様にこのブラック・グリモワールの試練を超え、我が英知の一部を見事に勝ち取るがいい!」

「え、ええっと……?」

「ようするに、訓練に付き合ってくれると言う事です」

 困惑する正純に、苦笑いを浮かべた美冬が通訳する。通訳と言っても美冬にも詠子の言葉を全て理解できている訳ではなく、なんとなくそう言う意味ではないかと察しているだけだ。正しく詠子の言葉を翻訳できるわけではないので、細かい部分はまるで解らない。

「さあ、そろそろ『星の痣』も消えたみたいですし、続きをしましょう」

 美冬に誘われ、正純も立ち上がる。

 取り戻した視界の調子を確かめ、問題無い事を確認してから、しっかりと二人を見据える。

「ああ、それじゃあ、そろそろ再開と行こうぜっ!」

 強く答え、正純は出し惜しみ無しに『星霊魔術』の十二星座を全て展開、一気に二人目がけて力を解放する。

 それに対し、美冬が凍土を、詠子が風と土の魔術をそれぞれ展開。正純を迎え撃つのだった。

 

 

 明菜理恵は学生寮一階食堂と繋がっている二階エントランスで、他のFクラス勢と共に御茶をしながら、少しばかり悩んでいた。セミロングの黒髪に黒い瞳、多少長身の方で在るというだけで、何処にでもいそうな平均的日本人女性。日本人は見た目の個性が少ないと言われるが、この世界でもそうなんだなぁ~、っと、周囲を見ながらどうでもいい事を考えてしまう。

 しかし、彼女が悩んでいるのは、もちろん、そんなどうでもいい事ではない。彼女は知っているのだ。この後、とある少年が飛び込んで来て、E、Fクラスが話題にしている内容を爆発させ、ちょっとしたイベントを発生させてくれるのだと言う事を。

(私はどうしよう? このイベント参加しようかなぁ~?)

 彼女が悩んでいるのは正にその事だ。これから起きるイベントは、Fクラスの彼女としては、体験できる少ないイベントの一つ。できる事なら参加しておきたいが、いかんせん、このイベントは自分にとって楽しいとは言い難い。それが解っているだけに、どうしたものかと悩んでしまう。

(いや、そもそも、私の知ってる内容とちょっと細部違うんだよね……? キャラなんて、全然違う人結構多いし……)

 彼女は、自分が知る相手と、実際の相手に対して存在する齟齬について考える。

(東雲カグヤって、もっと完全に男の娘路線突っ切ってなかったっけ? 基本的に敬語で、仏頂面、一人称が名前呼びの、男である事の方がおかしいみたいな感じだったと思ったんだけど……、なんか外面だけ女で、中身は完全に男になってるよね?)

 一口、コーヒーを口の中に含み、別の人物についても考える。

(甘楽弥生は、齟齬が大きいよね? 私の知ってるあの子は、陰陽術系の能力者で、いつも微笑を浮かべてて、掴み所を感じさせないミステリアス系の子だったのに……、何がどうしてあんな可愛い系の、バトルジャンキーに?)

 額からジト汗を流しつつ、含んだコーヒーを呑み込み、意味もなく溜息を吐いてしまう。

 他にも、彼女にとっては人物やルールに多少の齟齬が見られ、少しばかり戸惑ってしまっている。それでも、彼女が知る限りでは、イベント自体は変化していない。日にちや内容が多少異なるだけで、大きく間違ってはいなかった。

(だとしたら、やっぱ次のイベントも重要な結果は変わらないかな? ん~~……、ソレだと知ってる私は、あんまり出る意味無いよね~? 今回はパスして……、ああ、でもFクラスのイベント極端に少ないからなぁ~~、どうしようかなぁ~~?)

「『どうしたんだい?』『何だか』『難しい顔してるけど?』」

 正面からクラスメイトに尋ねられ、理恵はうんざりした気分になる。

(そう言えば、まったく変わってない奴もいたか……。むしろコイツは変わっていてほしかったな……)

 そんな思考を巡らせながら、いつの間にか正面に座っている少女に視線を向ける。黒短髪に淀んだ様な真っ黒の瞳を持つ童顔の女性は、何処かの漫画でそっくりな人物を見た事があった。ただ、彼は男キャラだったが、こちらは容姿が完全に似ているだけの女性だ。名前は球川(たまがわ)(くさび)と言う。

「『くすくすっ』『そんなに』『眉間に皺を』『寄せて』『何か悩み事かい?』」

 そう言いつつ、他人の眉間を人差し指で突っついてくる楔。その時、チリリッ、静電気が走ったみたいな感触を感じた理恵は、更に渋面になって手を払う。

「あのさ、いくら私には効かないからって、冗談交じりにポンポンと能力ぶつけてくるの止めてくれない?」

「『いやぁ~』『君の能力に』『対抗できないかと』『ボクなりの』『研鑽だよ?』」

「ってか、その喋りネタなんだから普通(フツー)に喋ってよ」

「ええ? せっかく真似してるのに、君は酷い人だね~? ボクの唯一のパーソナリティーを奪うって言うのかい? これがないとボクのキャラが弱くなっちゃうじゃないか?」

 「作者の都合とか、著作権とか考えてやれよ!」っと言う台詞が喉から出かけたが、なんとか口を噤んだ。そんな台詞を彼女に言っても意味が通じず首を傾げられるだけだ。

「え? なんですかぁ? 気持ち良い事ですかぁ? 私も混ぜてくださいぃ。いえ、是非、殴りつけてくださいぃ! 踏んでも構いませんよぉ!」

 「ぎゃあああああぁぁぁぁ~~~~~~っ!」っと、思わず叫びそうになった理恵は、ギリギリで口だけは閉ざした。身体だけは全力で反応してしまったが、声だけは根性で堪えきった。

 唐突に現れたのは美海(みうみ)美砂(みさ)。発した台詞から察せられる通りの(マゾヒスト)である。

 理恵は、どうして自分の周囲にこんな濃い人物ばかり集まってくるのかと、内心怯えながら、とりあえず軽く距離を取る様に心がける。

「あらぁ? 理恵さん? どうして逃げるんですかぁ? 怖い事なんてありませんよ? 何も怯えなくて良いんですよぉ? 私の事を殴り飛ばして、それで悦に浸っていれば何も問題ありませんからぁ~?」

「お前の言うとおりにしてたら、私と言う存在に問題があるわっ!」

 はっきりきっぱり言い切り、何故かすり寄ってこようとする美砂の額を片手で押し返す。

「あはぁあっ♪ 愛を感じますぅ♡」

「怖い怖い……っ!!」

 邪険に扱えば扱う程、喜色満面になっていくので、あまり関わり合いになりたい相手ではない。それでも、とある事情で、一方的に彼女の過去を知っている理恵には、彼女が喜ぶと解っていても殴り飛ばしたいとはとても思えなかった。

「ってか、そんな話してないから! ただちょっと、考えてただけ。例の掲示板に載ってたE、Fクラスの扱い」

 そこまで言うと、ようやく要点を理解したらしい二人は、「ああ」っと、納得の声を漏らした。

 同時に、丁度通り掛ったクラスメイトも反応し、声を掛けてくる。

「E、Fクラスは最終トーナメントには参加できないと言うあれですよね? 一学期だけの限定とは言え、確かにちょっと驚いてしまいましたね」

 茶色い瞳に、黒のロングストレートヘアーを背中まで伸ばした平均的な日本少女の様なクラスメイト。名前を御神楽(みかぐら)環奈(かんな)。Bクラスの天笠(あまがさ)(ゆき)を大和撫子とするなら、彼女は秋田小町だろうか? っと言った日本人女性特有の可愛らしさがある。ただ、惜しむべきは、雪や美冬のように美少女と言った感じではなく、平均的な意味での可愛い系の少女と言う事だろうか? 漫画の世界かとツッコミたくなるような、美少女揃いの学園で、平均女性を“惜しむ”と言い表わすのは、ハードルが高すぎるかもしれないが……。

 環奈が「ここいいですか?」と、最後に空いている席を指差すので、理恵は「どうぞ」と普通に譲った。環奈が感謝の意を示してから座ったところで、会話を再開する。

「Eクラスの人達はさ、どっちかって言うと芸術系とか創作系の人らだから、別にトーナメントに出られなくても良いですよ? みたいな感じの人が多いけど、Fクラスの皆はどんな感じかなぁ~、って……?」

 理恵の質問に「そうですね~?」っと、律義に考え込む環奈。うん、と頷いてから返答する。

「別に、この先ずっと縛られる訳ではない様ですし。こう言ったルールが()かれるのにも何か理由があると思うんです。バトルだけが学園へのアピールではありませんし、私は特に何もないですかね」

 優等生っぽい発言ではあるが、彼女も成績下位のFクラス。身の程を弁えていると言う方が正しい見解とも見える。しかし、そんな事を考えてしまうのは、ただの邪推の様な気がしてしまう理恵。小さく頭(かぶり)を振って「なるほどね」と笑顔で誤魔化し、視線で楔へと問いかける。

「個人的には是非ともやりたかったけど、ボクも刹那的な欲求に従って生きている訳じゃないから。次の機会を待つよ」

 意外と殊勝な発言だと思い頷いてしまう理恵だったが、続く理由の補足には納得してしまった。

「それに、順位が決まった後の方が高い人が出来るでしょ? 高い所から堕とされるって、どんな気持ちなんだろうね……」

 薄ら笑いを浮かべて言うのだから勘弁してもらいたい。基本的に一般人の理恵には、付き合い難い事この上ない相手である。

「私はもちろん―――!」

「イヤ良いよ。やりたかった事くらい聞かなくても解るから」

 次は自分の番と勢い込んだ美砂を、理恵はバッサリと切り落とした。

「素敵な扱いっ! でも、もっと肉体的に来る事をしてほしいですぅ!」

 逆に喜ぶ美砂に、理恵は頭痛を覚え、眉間を摘まんでマッサージする。

 理恵に同情的な苦笑を洩らしながら、助け船のつもりで環奈は問う。

「理恵さんは、どう思っていらっしゃるんですか?」

「私はなんとなく理由が予想出来てるから、文句を言うつもりはないかな? でも、仮にもし、機会があったとしたら、その時はどうしたのかなぁ~? って考えちゃって」

「機会ですか? ……確かに、もしそんな機会が頂けるのでしたら、やっぱり挑戦してみたいと言う気持ちはありますね」

 頷く環奈。同意する楔。美砂は「私は一つでも多く、皆さんに一方的に殴られたいだけですぅ♪」などと言って、まだ抱きついてくる。どうしてコイツは私にこんな過剰なスキンシップを求めて来るんだ? っと、疑問と苛立ちを覚えつつ、美砂の額を指で突いて押し返す。

「まあ、そんな機会があったとしても、参加できるかどうかって話もあるし、あんまり深く考えすぎない方が良いかもね」

 っと言いつつ、理恵は「そろそろタイミングだろうか?」っと思っていた。そして正にその通り、食堂からエントランスの階段を上がってきた少年が、E、Fクラスの生徒がここに集まっているのを確認して、急に叫び出す。

「皆! 掲示板を見たかよっ!」

 現れた少年は2m20cmの体格に七三分けの髪型がシュールな只野(ただの)(じん)と言う名の少年だ。彼が来る事を解っていた理恵は、「このイベントはそのまんまか……」と漠然とした思考を抱いていた。

 (じん)は、それなりに交流のある男子メンバーの元に向かいつつ、E、Fクラス全員に話しかける様に言う。

「一学期の新入生の最強決定戦! 俺達E、Fクラスは参加できないって事になってる! ―――なってます! さすがにこれは、俺達に対する扱いが酷いと思わねぇかっ!? ―――思いませんかっ!?」

「あは~♪ とりあえず、もうちょっと上手く敬語使える様に心がけよう~♪」

 下手くそな敬語に応えたのは、銀褐色の髪に鳶色の瞳を持つ少年。バーボン・ラックス。

「おーおー、とっくに皆知ってるよ? それで何? なんか在るの?」

 続いて応えたのは黒髪の黒目の少年、妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)。それだけの説明だと、何処にでもいる普通の少年の様だが、その人相だけは、何処かに居そうな不良風のいかめしい物であった。

「……只野(ただの)、食事の場であまり騒ぐのは感心しない」

 静かに注意を促したのは、やや童顔でジト目がデフォルトをしている、紫の髪を少しだらしなく伸ばした少年。ランスロット・モルディカイ。着ている服は、以前の学校の物か、戦闘時にも好んで着用している、学ランにマフラーで口元を隠しているというスタイルだ。

 三人ともFクラスの生徒であり、(じん)とは、それなりに親しい間柄である。

「これが落ち着いてられるかよっ! ―――られますかっ!?」

「ちょっと日本語おかしい~♪」

 バーボンがちゃちゃを入れるが、無視される。

「俺達だって、確かに成績は悪いが、それでも今まで必死こいて戦ってきた! そりゃあ、まだ一月だし! そんなに成果が出るわけじゃねえだろうけどよ!? ―――じゃないでしょうがっ!? それでも、実力を示せる機会まで奪われたんじゃ、堪ったもんじゃねえよ! ―――ないですよっ!」

「日本語おかしいって……」

 龍馬まで苦笑いしてツッコミ入れるが、これも無視される。そんな事よりも、(じん)はどうしても言いたい事が、やりたい事があるのだ。

「他のクラスは、この三日間! 本当に試合形式で本格的にぶつかってやがった! でも、俺達は違う! Eクラスは基本接客、Fクラスは戦闘訓練みたいな小さい模擬戦を小刻みにやっただけだ! ―――でしたっ! こんなのじゃ、他のクラスと差がついちまう一方だ! ―――一方です! そこで提案だ! 今から俺は職員室に直談判に行く! 他に賛同者はいるかっ!? ―――いますかっ!? 不当な学園側のルールを、一生に変えようって言う、根性のある奴はいるかっ!? いらっしゃいますかっ!?」

 (じん)の言葉を受け、Eクラスは少々戸惑いの方が強い印象だったが、Fクラスから賛同の雰囲気を出す者もそれなりに居た。

バーボン、龍馬、ランスロットの三人も(じん)に応える様に立ち上がる。

「お前ら……!」

 多少、感動的な雰囲気を醸し出す(じん)に対し、皆の代表をする様にランスロットが口を開く。

「……只野よ。言いたい事は解ったが、……まずは二階エントランスとは言え、食堂で少し騒ぎすぎた事を、水無月教諭に謝罪することを勧める」

 ランスロットに言われて振り返ると、そこには青髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ、三角巾にエプロン姿の二十代後半の男性、補食喰者(イーティングイーター)の刻印名を持つ、水無月(みなづき)秋尋(あきひろ)教諭が笑顔で額に青筋を立てていらっしゃった。

「君達……? 別に意義申し立てで燃えるのは構わないけど、この時間のエントランスは、出来る限り静かにしましょうって言う『サイレントタイム』だって解ってるのかい?」

 秋尋の背後では、『食々々(イートイートイート)』によって呼び出された『章顎(しょうあご)』の黒い口達が威嚇する様に顎を鳴らしている。

 只野人は、速やかに腰を折って謝罪した。

 その光景を眺めつつ、理恵はもう一度考える。さてこのイベント。自分は乗るべきか? 乗らざるべきか? 悩まされる。

(とりあえず、この後の展開で待っているのは、戦闘能力を持った一部のEクラスと、血気盛んな一部のFクラスによる、他のクラスとの正式試合なんだけど……)

 嘗て、自分が知る事となった物語では、それがどんな結果に至ったのかを知っているだけに、理恵は何度となく悩んでしまうのだった。




~あとがき~

≪異音≫「うわ~~! 私、Eクラスで一位貰っちゃった!? しかも、生徒手帳にすごい量の金額が支給されてるんだけど~~っ♪」

≪太郎≫「すごいよね。上位五名は、皆報奨金を貰っているらしいけど、どれぐらいもらう物なのかな?」

≪ノノカ≫「一位は百万クレジット、二位で五十万、三位は三十万、四位は二十万、五位でも十万クレジットは入金されるみたいだよ?」

≪異音≫「六位以下でも、ベスト10に入るメンバーは、全員五万クレジットの支給があったみたいよ☆ この学園、結構太っ腹よね♪」

≪太郎≫「うん。でも何より凄いのは一位入賞者に与えられる『スキルストック』だよね。一位入賞者達は、決勝に備えて、新しいスキルを習得できるし、隠し玉みたいなのまで披露してくれるかもしれないよね? 自然と決勝トーナメントにも期待を抱いてしまうよ」

≪ノノカ≫「それだけに、異音は残念だったね。一学期中は、Eクラスは決勝トーナメントに参加できないみたいで……?」

≪異音≫「ナンのナンの♪ 少ない機会でも輝いて見せてのエンターテイナー♪ やれと言われれば、今からバースト・ストリームだって口から出して見せるよ☆」

≪太郎≫「あ、それ、ちょっと見たいかも?」

≪ノノカ≫「見なくて良いから……。異音もやろうとかしないで―――」

≪異音≫「粉砕☆ 玉砕★ 大喝采~♪ ぶわ~~~~っ♪」

≪ノノカ≫「本当に出したっ!? 今の台詞も歌口調でしただけで能力発動できるのっ!? 異音……、本当になんでもやるね……」

≪太郎≫「わ~~」

≪異音≫「皆が笑ってくれるなら、私はなんでも出来ちゃうぞっ☆♪」

≪ノノカ≫「うん……、異音は本当にすごいよね。でも私は、純粋なバイオリニストだから、ちょっとジャンル違うかな?」

≪異音≫「ノノカのバイオリンも、人を笑顔にする☆ やり方が違うだけで、やってる事は同じよ♪ My best friend♡」

≪ノノカ≫「こ、異音……/////」

≪異音≫「もう~☆ ノノカったら可愛い~~♪」

≪太郎≫「………」

≪太郎≫(空気がとってもピンクで……、男としては居心地が……)


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一学期 第八試験 【新入生最強決定戦・準備期間】Ⅱ

やっと、書き切ったので投稿。
すっかり忘れてたので、新しいスキル獲得希望の方は以下からどうぞ。↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=133151&uid=35209

まだ、添削してませんので、誤字脱字が多いと思うので、その辺は御容赦ください。

【許可が下りたので6のシナリオ追加しました】
【添削終了しました】


一学期 第八試験 【新入生最強決定戦・準備期間】Ⅱ

【Fクラス戦・後篇】

 

 

 0

 

 下級生達の憩いの場、二階、談話室。そこでは軽やかなバイオリンの調べに合わせた、爽やかな歌声が流れていた。

 茶味がかったショートヘアーに、大きな黒い瞳。黒を基調とした大人し目のワンピースに身を包む少女は(かなで)ノノカは、何処か満足そうな表情でバイオリンを弾いている。その戦慄に合わせ、歌詞の無い歌を歌うのは七色(ナナシキ)異音(コトネ)。長いピンク色の髪が、光の角度により七色に反射させている、幻想的なイマジン変色体を有する、一年生のアイドル少女だ。

 その戦慄に耳を傾けているのは、黒い髪のスポーツ頭の少年、砂山(さやま)(じん)

 身長158センチほど、水色セミロングの髪を持ち、瞳を閉じている少女はソラリス・エーレンベルグ。肩には、何故か逆さ吊りになっていない蝙蝠、キースを連れている。

 彼女の隣で、一緒にソファーに腰掛けているのは、金髪オールバックに、筋肉質な肉体をしている男、クラウド・ジェンドリン 。

 腰まである白い髪と黄金の瞳が特徴的で、身長160cm、黒と蒼を基調としたゴシックドレスを着用している少女はリリアン・トワイライト・エクステラ。

 身長は175cmほどと見られる銀髪に糸目の少年は、逆地(さかち)反行(はんこう)

 以上の五名が、二人の美声と旋律に心を落ち着けていた。歌が終わり、たっぷり五秒ほど余韻に浸ってから、観客達は静かに拍手を送った。

「ありがと~~♪ 伴奏は奏ノノカ、歌手は七色異音が、御送りしました~~♡」

 異音が手を振りながら明るく告げ、ノノカがぺこりとお辞儀をする。五人の観客達も改めて拍手を送った。

 拍手を終え、多少高揚していた砂山(さやま)(じん)は、頷きながら称賛の言葉を贈る。

「いや~、試験中は自分の事で忙しくて聞けなかったけど……、二人とも噂以上だね。今度、俺の作品に使わせてもらいたいくらいだよ。また時間がある時に御話聞かせてもらえたりしないか?」

「もっちろ~~~ん♪ 異音さんはいつでも皆に親しまれるギガフロートの御当地アイドル☆ 御望みとあれば、いくらでもパフォーマンスを見せちゃうっぞ☆」

 ノリノリで返す異音に、尽もご機嫌の笑みを向ける。

「うふふっ、私もとっても楽しませてもらっちゃった」

 白い髪を散らし、黄金の瞳を穏やかに潤ませながら、リリアンも同調する。

「私はAクラスだったから、アナタ達の歌を直接聞けなかったのよね。芸術家としてトップクラスの生徒を何人も輩出してきたEクラスのトップ2コンビの歌を、こんなに早く間近で聞けるなんて、光栄ですね」

「御捻りは、御気持ち次第でっ♪ ファン介入は、プライスレスの御褒美ですっ☆」

「まあ、うふふっ」

 異音の冗談に好意的な笑みを漏らすリリアン。

 和気藹々とした空気の中、自分の手の平を見ていたノノカは、思い出したように皆へと向き直ると、一つ問いかける。

「あ、あの……っ! もう一曲弾いても良いかな?」

 「ええ……っ!?」っと言う驚きの声が上がる。本来、談話室は生徒達の溜まり場であり、気楽に談笑を楽しむための場所である。決して一人の生徒が勝手に楽器を鳴らして良い場所ではない。ノノカも異音も、前以て談話室にいる生徒に確認を取り、むしろ皆から歓迎してもらえたからこそ、こうして我儘を通させてもらっているのだ。っとは言え、既にこの調子で十曲近く付き合っている。普段からトークに慣れている異音でも、授業で歌声を披露する事が多く、そろそろ喉が疲れてくる頃合い。ちょっとで良いから小休憩を取りたいほどだ。無論、声を出すよりは消費するエネルギーが少ないとは言え、ノノカも授業を通して弾きっぱなしだ。疲労を感じていない筈がないだろう。

「え~~っと……、聞かせてもらえるこっちとしては、むしろ感激だけど……、さすがに少し休んだらどうだろう?」

 ノノカの疲労具合を案じて提案する逆地(さかち)反行(はんこう)は、僅かに糸目の片方を僅かに開く。

「ありがとう。でも私、今物凄く弾きたいの。もっともっと、今まで弾けなかった分を取り戻したくて、とっても身体がうずうずして……、胸と指の震えが止まらないの!」

 僅かに興奮気味に胸の前で両手を拳に握る。まるで、新しい玩具をお預けされていた子供の様に、瞳を輝かせていた。

「お願い。皆が良いなら、もう一曲……! ううん! 時間が許す限り引かせてもらいたいかもっ!」

 更に要求するノノカに、少し戸惑いを覚える。少し気になったリリアンは訊ねてみる。

「どうしてそこまでして弾きたがるんです? 試験も終了しましたし、少しはゆっくりしても良いのでは?」

「私、そう言うの考えてません。ああ、いや……っ! もちろん試験は大事に考えてますけど……っ! ただ、私はバイオリンを弾く時に、手を抜いた事はないんです。いつだって全力で弾くし、弾きたいんです。私、とってもバイオリンが好きで……でも、今まで指を怪我して、一生バイオリンを弾けなくなるって言われてしまって……、それでも、好きな事だったから、どうしても諦められなくて、でもどうしようもなくて……、そんな時にイマジンに出会って、全力でバイオリンを弾けた時は、本当に感激でした……」

「そうなんだ……。あれ? じゃあイマジンで怪我も治ったってこと?」

 尽の質問に、ノノカは首を振る。

「残念だけど、そんな簡単に怪我を治せるわけじゃないんです。私は治療系のイマジネーターじゃありませんし。今、バイオリンを弾けているのは、私がイマジネーターとして、最低限必要な機能を確保しようと肉体改善が行われているからなんです。でも、これはイマジネーターの成長本能ですから、完全に怪我が完治するまでには一年は必要になるんです。今、私が『下界』に降りたら、イマジン不足で元の怪我をした手に戻ってしまいます……」

 僅かに憂いを帯びた表情で告げるノノカに、皆、押し黙ってしまう。

 ノノカはここぞとばかりに強く申し出る。

「だからっ! もっともっと、私にバイオリンを弾かせてもらいたいんです! 大好きなバイオリンを思う存分弾ける事が、私の幸せなんです! 私の幸せが、皆にも共有されるのだとしたら、倍も幸せで……! ええっと……、ともかくすっごく幸せなんです!」

 一生懸命に精一杯、言葉を投げかけるノノカに、皆は仕方ないと折れそうになる。しかし、それに待ったをかける(つわもの)がいた。

「ダメだよノノカ。大好きな事でも、ブレーキ管理が出来ないなら、無理はしちゃダメ」

「コ、異音……?」

 異音はノノカに自然な動作で近付くと、まるで抱きしめる様に両手でノノカを包む。ノノカが顔を赤くし戸惑っている隙に身体を寄せ、優しく囁きかける。

「どうしてもって言うなら、後で私が部屋で聴いてあげるから? でも、それでも聞き分けが無いなら、ノノカが逆らえないような事しちゃうよ?」

 いつもと違い、語尾に記号が付かない様な柔らかな声音で囁かれ、ノノカは何だか照れくさい気持ちになって、どんどん赤くなってしまう。視線を合わせられず、必死に逸らしながら問いを返す。

「な、なにする気なの、異音?」

「んっとね……、ノノカが言う事聞いてくれるまで、ずっと声出さない。歌も歌わないし、会話も無音。ずっと仲良くしてあげるけど、無口キャラに路線変更しちゃうっぞ☆」

 パチリッ、片目の瞼を閉じてウインクして見せる。何だか解らないが、とっても恥ずかしい気持ちになったノノカは耳まで赤くして、観念したように息を吐いた。

「異音って、何かズルイ……」

「アイドルは、基本的にずるいんだよ♡」

 異音にここまで言われて決着がついた。さすがにこれ以上食い下がれないと判断したノノカは、大人しく異音に従う事にした。

 そんな二人を見て、クスクスッ、と楽しそうに笑う者がいた。

「さすがのバイオリニストも、アイドルには敵いませんでしたね?」

 ソラリス・エーレンベルグが水色の髪を揺らしながら微笑む。肩に乗った蝙蝠、キースも羽で口元を隠し、ほんのり頬を染めている。

「ソ、ソラリスさん……!」

 恥ずかしくなったノノカが何事か言おうとしたが、彼女の隣に座る強面の少年と目が合い、つい押し黙ってしまった。

 目が合った少年、クラウド・ジェンドリンは、時計を確認して立ち上がる。

「ソラ、そろそろ一度部屋に戻ろう。筆記の課題も出た事だし、ちゃんと処理しておこう」

「はい、クラウドさん」

 クラウドに手を差し出され、その手を借りてゆっくり立ち上がるソラリス。慌ててキースが羽を羽ばたかせると、それだけでソラリスの動きに安定感が出始める。

「それでは、私達はこれで一度……、ノノカさん、よろしければ、また御話ししましょうね」

 手に持っていたハーモニカを胸に抱きながら、ソラリスがノノカに告げる。その事を察したノノカは、また嬉しい様な恥ずかしい様な気持になりつつ「はい!」っと元気よく頷いた。

 

「E、Fクラス! 全員集合~~~!」

 

「黙れ、ソラが怯える……」

 突然の乱入者は、クラウドにあっさり捕まり、片手で首を絞められ持ち上げられていた。登場僅か一行で、彼は失神させられていた。

「ク、クラウドさん……! その方を放してあげてください! 私は大丈夫ですよ……!」

「そうか。ソラがそう言うならそうなのだろう」

 ボトリと無造作に落とされた少年、只野(ただの)(じん)は、口から魂を吐き出しながら、その場に伸びていた。

 ちなみに、これは比喩ではなく、イマジンの満ちる世界でイマジネーターにだけ発生する幻覚で、正しく相手の状況を表わしたエフェクトである。つまり、(じん)が本気で死にかけていることの表れでもある。

「「わぁ~~~~~~っ!?」」

 (じん)反行(はんこう)が慌てる中、ノノカと異音は、互いに顔を見合わせるのだった。

 

 

 1

 

 

 夕刻、職員室奥の面談室にて、黒井(くろい)(しまい)教諭とデスクを挟んで対面するのは、任意呼び出しを受けていた、東雲カグヤとレイチェル・ゲティンクスだ。

 任意の呼び出し、それも放送ではなく、掲示板に張り出した内容にも拘らず、二人は律義にも参上していた。その事に僅かな可笑しさを覚えながら、終教諭は白髪交じりの髪を撫でながら、人の良さそうな笑みを漏らす。

「いや~~、毎度思う事だけど、こうして任意呼び出しに律義に従ってくれて、本当に助かるよ。生徒の自主性を(うた)っているせいで、教師が介入するのが色々面倒事になるからね~。特にこのギガフロートでは、教師は島の最高権力者だ。おいそれと与えられた権能を使う訳にも行かなくてね~」

「“権能”って……、この学園の教師は王族かなんかのシステムなんですか?」

 呆れた調子でカグヤが呟くと、(しまい)教諭は半笑いを浮かべ、否定はしない。既に御歳60を超えているはずなのだが、この教師の顔には、皺らしい皺が殆ど無い。大人の風格こそあれど、石の様に堅そうな皮膚には、歳の衰えをまったく感じさせない。

「まあ、内容を受諾するかどうかは、君達次第なんだけどね? 実は君達を呼び出したのは、トーナメント戦前日に前哨戦として行われる『エキシビションマッチ』に参加してもらえないかと思ってね?」

「ああ……、あの下界で流されるPV映像ですか? 毎年、新入生のトーナメント戦は全国中継されるんでしたっけ? その時にオープニング映像として流される奴ですよね? この三年くらいは、過去の流用みたいでしたが?」

 レイチェルが思い出す様に視線を上に向けながら言うと、終教諭は頷いて続ける。

「知っての通り、エキシビションは完全なボランティア制度だ。勝っても負けても成績には影響しない。もちろん参加しようがしまいが何の得も損もない。強いて損得を上げるなら、学園側から戦いの舞台を整えてあげられると言う事と、ライバルに手の内を晒すと言う事かな? まあ、『決闘』と言うシステムがある以上、得と言えるほどの得でも無いし、新しいスキルを獲得できる月末間近のタイミングで、手の内も何もないんだけどね?」

 損も得も、やはり特になし。

 正真正銘、本気のボランティア戦だと言われ、二人は少々悩ましい感情を抱いた。

 正直に言ってしまえば、互い共、この相手とは戦いたいと言う感情はある。互いに似た性質と能力のイマジン体使役型。どちらが優れているか白黒はっきりさせたい。トーナメント試合に出る機会を失った以上、このエキシビションは渡りに船とも言える。だが、その雌雄を決するのが、単なるエキシビションと言うのはどうなのだろうか? そう言う悩みも同時に浮かぶのも正直なところであった。

 さて、どうしたものかと、二人は顔を見合わせ言葉に窮す。戦いたくないわけではないが、どうにも考えが纏まらない感じだ。正直、ここで断ったとしても彼等に後悔はないだろう。それほどまでに現状は軽い出来事であった。

「五分ほど考えさせてほしい」

「右に同じく」

 レイチェルの提案にカグヤも頷く。

 終教諭を、そうなるだろうと思っていたのか、笑顔で頷いて返す。

 侵入者が訪れたのはその時である。

 バンッ! っと勢い良く扉が開かれ、七三分けの長身の男が侵入してくる。

「入るぞっ! ―――りますっ! 黒井先生に話がある! ―――あります!」

「「とりあえず日本語学んで出直してきやがれ。エセ七三」」

 カグヤとレイチェルの同時突っ込みも無視して、只野(ただの)(じん)は勢い込んで終教諭に迫ると、言い募る。

「トーナメントの管理責任者は黒井先生がしてるって聞いたぞ! ―――聞きました! なんでE、Fクラスはトーナメントに参加できねえんだよっ!? ―――ねえんですかっ!?」

「「いや、ホント、真面目に日本語習え」」

 割と切実な表情で再びツッコミを入れる二人だが、やはり(じん)は取り合わない。

 終教諭は、苦笑いを浮かべつつ、内心呆れたような表情を浮かべていた。

「とりあえずどう言う状況なんだ?」

 話が進まないと判断したのか、レイチェルは扉の向こう、職員室で様子を窺っているE、Fクラス勢の中に紛れていた、クラスメイトのリリアンに質問する事にした。

「私も付いて来ただけの野次馬だから、あまり知ったかぶれないんですけど……、要するに、E、Fクラスにも決勝トーナメントに参加する正当な権利を与えてほしいと言う事らしく……」

 納得したような呆れた様な内容に、二人は何とも言えない気持ちになって宙を仰ぐ。気持ちは解らなくもないし、直談判も否定する程のものではない。ただ、何故こんなに喧嘩腰か? っと、訊ねたい気持ちにはなる。何より、こんな事をしている内に五分が過ぎてしまい、自分達がエキシビションに参加するかどうかの答えを出さなくてはいけなくなってしまった事が、何とも言えない気持ちに拍車をかけていた。

「っで、どうする?」

「黙秘でどうだ?」

「そうするか……」

 レイチェルとカグヤは短いやり取りで方針を決めると、二人揃って案山子に徹する事にした。とりあえず現状を見守る方針だ。

 それを見て取ってから終教諭も、話の相手を(じん)へと移すことにした。

「それで? 学園が既に定めたルールを無視して、トーナメントに参加したいって事で良いのかな?」

「平たく言えば」

「ああ~~……、一応この規定にはちゃんとした意味があるんだけどね? まあ、それを言葉にしても君達には伝わらない事は毎年解ってる事だから……。だからこちらの条件をクリアーできるなら、トーナメントの参加を認めても良いよ?」

「話が早いじゃねえかよ! ―――ねえですかっ!」

「あは~♪ (じん)くん、それ敬語にもなってないよ~?」

「あれって、交渉する気あるのかね~?」

 バーボン・ラックスと妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)の苦言も聞こえていないのか、(じん)は更に教師へと詰め寄る。

「それで何すりゃいいんだよっ!? ―――いいんですかっ!?」

「只野くんはもう敬語諦めた方が良いんじゃないかな?」

「『うん』『その方が』『潔いよね』」

 奏ノノカと球川(たまがわ)(くさび)からも苦言を貰ったが、それでも(じん)はめげない。

 半笑いになりながら、終教諭は毎年出している条件を提示する。

「簡単だよ。E、Fクラスの誰でも良いから、教師立会の元、決闘でA~Dクラスの誰かに勝てばいい。誰か一人でも勝利すれば、その時点今期のトーナメント参加を認めるよ」

「え……、それだけ?」

「それだけで良いよ」

 あまりにあっさり、それも割と現実的に難しくなさそうな条件を聞いて、只野人は呆けてしまう。他のクラスメイト達も一様に戸惑いを見せている。正直、只野人と同じように、トーナメントの参加を声高に要求している者は少ない。それでも、もし参加できるなら、そのチャンスを与えてもらいたいと言うのが本音だ。諦め半分で付いて来た彼等にとって、この提案は、それほど難しい内容には思えなかった。

「ただし、期限がある。決勝トーナメント前哨戦エキシビションマッチ前日までだ。その日になったら、なんと言われようと君達をトーナメントには参加させない。させられない。解ったね」

「ああ、構わねえよ! ―――ねえですっ! ただ一勝するだけでトーナメント参加なんて願ったりだぜ! さっそく決闘を申し込んで―――」

 言い掛けた(じん)の視線がカグヤとレイチェルを捉える。

 「あ、やべ……」っと二人して危機感を感じ取った時には既に遅い。

「まずはお前らからだっ! 勝負しやがれ~~~! ―――しやがってくださいっ!」

 二人は同時に「うへぇ~~~……!」っと言った表情になって後ずさるが、この状況では断るのも難しく、逃げ道はE、Fクラスの集団に塞がれている。しかも、ここには立会人となる教師が腐るほどいる職員室。どうあっても逃げられない。

「レイチェルさんや、お先にどうぞ……」

「いや、今日はアナタに譲ろう……」

「そうか、お前も嫌か……」

「すごく面倒臭い……」

 嫌がる二人を無視して、生徒手帳を突き出しながら詰め寄ってくる(じん)。しかも、何やら他のFクラス勢も戦闘意欲を刺激され始めたらしく、じりじりと間合いを計り始めている。

「―――っと、待てや。お前何処行こうとしてやがる?」

「野次馬に来たのなら最後まで一緒にいようじゃない?」

 こっそり逃げようとしていたリリアンだったが、Aクラス二人を相手にどさくさまぎれの逃亡など叶う筈もなく、強制参加を余儀なくさせられた。

「な、なんで私が……、今日はもうゆっくりしたいと思ってたのに……」

 涙を流しながらも、誰も救いの手は出してくれない。結局彼女もこの事態に巻き込まれ―――、

 

 

 2

 

 

「「「「「何がどうしてこうなった……?」」」」」

 地獄(面倒事)の道連れに、他のクラスからも、Aクラスの巧みな話術に引っかかって巻き込まれた。

「学園の重大事だと聞いて来てみれば……」

 Bクラス、遊間(あすま)零時(れいじ)は、溜息交じりに呆れかえる。

「Fクラス存続の危機だ。―――って聞いたんだけど? いや、協力して良いけど……」

 Bクラス、夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)は、特に親しくもないAクラスの生徒に親身になって頼まれた割には、何だか拍子抜けの事態に微妙な気持ちになってしまう。

「思う存分、戦えると聞いて来たのは確かですけど……」

 160前後の身長に、金髪碧眼のクォーター少女、Cクラスの(くすのき)(かえで)は、何故か短パン仕様の体操服を着ている。

「ぐす……っ、皆が遊んでくれるって言うから来たのに……、騙された……っ!」

 齢六歳の見た目も中身も正真正銘違法ロリ、原染(はらぞめ)キキが膝を抱えて泣きべそをかき始める。

「ランク入りメンバーの必要行事だと聞いていたはずだが……」

 黒髪で、瞳の色が青の日本人とイタリア人のハーフ、Dクラスベスト5の氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)は、何故教師ではなく、Aクラスの生徒の言葉を鵜呑みにしてしまったのかと、今更ながら後悔している。

「て、てめえ……っ! 東雲! お前一体何処からあの情報手に入れやがった……っ!?」

 恐怖に震え上がっている、銀髪を適当に伸ばした少年、風祭冬季は、カグヤの胸倉を掴んで必死に問い詰めている。カグヤは猫かぶりの女性的笑顔を浮かべる。

「さて? 情報とは何の事でしょうか? それはアナタが御姉さんの趣味に付き合わされて着ている執―――」

「どわあああああぁぁぁぁ~~~! ここで口にするんじゃねえ~~~~っ!!」

「自分の姉が、三年生だったのは運の尽きでしょうね~」

「ぐあ……っ! “東雲……神威”、先輩か……! お前らは姉妹揃って悪逆非道だなおいっ!」

「義姉様を悪だと言ったら、この世に比肩する悪が全て消え去ってしまいますが?」

「どんだけなんだよお前の義姉っ!?」

 漫才を始める二人を見て、レイチェルとリリアンは何故か悔しそうに拳を握っていた。

「「く……っ、道連れプラスで弄り倒すとか……っ! カグヤも中々上手いっ!」」

「何について悔しがってるんだよ……」

 決闘に志願したFクラス生徒、森街(もりまち)銀鈴(ぎんれい)は呆れた様に呟く。

「―――っで、最後は私、Bクラスのユリシア・R・A・ローウェルの十名が御相手する事となりました。……リリアンから、この試合が学園の名誉ある物だと聞きました。この試合を全力で務めさせていただきます!」

 腰ほどにもある白銀の髪を後ろで束ねた、エメラルドグリーン(右)とサファイアブルー(左)のオッドアイを持つ、長身の女性、ユリシアが騎士の敬礼をとって終教諭に告げる。やる気はあるようだが、彼女もしっかり騙されている口である。

「はい、皆トーナメントに向けて、クラスメイトのサポートなんかで忙しい中、わざわざ集まってくれてありがとうね。それじゃあ、もう時間も押してるし、皆対戦相手を選んでおくれ」

「なら、まずは言い出しっぺの俺が決める! そこの澄ましたハーフ野郎! 俺と勝負だっ!! ―――勝負だ!」

「言い直して言い直せていないぞ……」

 只野人の御指名を受け、氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)は溜息交じりに応える。

 

氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)VS只野(ただの)(じん)

 

「じゃあ俺は、そこで嘘っぽい笑い浮かべてる奴にしようかな? なんか俺達と戦うの一番嫌がってそうだし?」

「色々痛感させられた後で、考えさせられているだけなんだけどな……」

 

遊間(あすま)零時(れいじ)VSバーボン・ラックス】

 

「銀髪のあんちゃんは俺の相手よろしく。面白そうだからな」

「俺は心底面倒臭いよ。俺は目立ちたくないって言うのに……」

 

【風祭冬季VS妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)

 

「……貴公は騎士であると窺う? 御相手願えるか?」

「御指名とあらば、喜んで」

 

【ユリシア・R・A・ローウェルVSランスロット・モルディカイ】

 

「アンタは俺の相手してもらおうか? 女を殴るのは性に合わんし」

「解ったよスキンヘッド」

「誰がハゲだコラァッ!?」

「ハゲとは言ってないだろうっ!?」

 

夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)VS一ツ木(ひとつき)(だん)

 

「丁度良い、アナタとは戦っておきたいと思っていたんです。是非相手をしてもらいますよ?」

「初対面のはずだが、なんか俺恨み買ったか? 思い当たる節はあっても無い事にするが……?」

「ちょっと何言ってるか解りません」

「……これだからFクラスはつまらん」

「なんで物凄く泣きそうな顔になってるんですかっ!?」

 

東雲(しののめ)カグヤVS逆地(さかち)反行(はんこう)

 

「では、アナタの相手は私がさせていただきますね」

「『浅蔵』と言い、『東雲』と言い、私の周囲は、何だか巫女が多いな? 因縁めいたものを感じるよ」

 

【レイチェル・ゲティングスVS御神楽(みかぐら)環奈(かんな)

 

「是非! 是非! 御相手をっ! アナタとやれば、物凄く楽しめそうな気がいたします!!」

錦木(にしきぎ)の花言葉を送りたくなる方ですね」(※危険な遊び)

 

(くすのき)(かえで)VS美海(みうみ)美砂(みさ)

 

「っとなると俺はAクラスのアンタとだな?」

「はい、よろしくお願いしますね」

 

【リリアン・トワイライト・エクステラVS森街(もりまち)銀鈴(ぎんれい)

 

「ひ……っ!?」

「ああ~~~……、余っちゃったから、よろしく。大丈夫。私は強い者にも弱い者にも同じよう闘い苦戦するのだよ………。お前もだがな」

 

原染(はらぞめ)キキVS明菜 理恵】

 

 カードが決まり、場所を移動、学園の校庭で決闘システムを使い、行われる事となった。

「いっちょ、Fクラスの底力を見せてやろうぜ!」

 

 

 3

 

 

 試合ルールは相手を戦闘不能にするか、降参させるかすれば勝利となる、簡単にして実戦的な形式で行われた。立会人の教師は終教諭しかいなかったため、システム上、一試合ずつ、順番はくじ引きで決められる事となった―――のだが……。

 

(くすのき)(かえで)VS美海(みうみ)美砂(みさ)戦。

「ああ~~~っ! 削られるぅ~~! 私の腕が! 脚が! (はらわた)が! 臓物が! チェーンソーでズタズタにされている~~~! うぇへはへははぁ。気持ち良ぃッ! もっとっ! もっと痛めつけてくださいぃっ!」

夾竹桃(キョウチクトウ)の様な愛情表現ですわね……」

 愛用のチェーンソーで切りつける楓に対し、ドМの美砂は、むしろ嬉々として自ら攻撃を受けに言った。自らが口にする様に、腕、脚、腸、臓物を一度に切り裂かれ、盛大な血飛沫を上げ、肉片が飛び散る。

 だが、それだけ盛大なダメージを負いながら、楓が視線を向けた時には、既に全身の再生がほぼほぼ完了している。

(自己再生系の能力者? いえ、そう言う向きではないようですね?)

 一概に言えるわけではないが、治癒系の能力者は、怪我や傷を嫌う傾向にある。好まない物が自分に付属している。その状況を取り除こうとする行為が、イマジンの治癒方法だと言って良い。故に自己再生能力を持つキキは、普通に怪我をするのが怖いし、治癒能力を持つ如月(キサラギ)芽衣(メイ) は、他者が負った傷を(いた)む心を持っている。当然と言えば当然。治癒は怪我を負わせる意思ではなく、癒そうとする意思なのだ。人の理想を反映するイマジンで在るならなおの事、人を労わるイメージで他者を傷つけるなど、結びつくはずがない。

 だが、美砂のそれは、まったく労わりと言う物が存在しない。ジーク東郷の様な不滅の肉体でもなく、人並みの脆さでひたすら再生だけする彼女の能力は、再生能力としても歪さを感じさせた。

 美砂は手を広げ、うっとりした表情で楓に近付いて行く。

「ああぁ……、なんてすばらしい愛なのかしら……。アナタは人を痛めつけるのが御上手なのね……。もっと、もっと凄いのを、見せて下さりませんか……!」

「………」

 何とも言えない表情を取る楓。Cクラス戦の時に感じた戦闘での高揚感が、今は微塵も感じず、どうも調子に乗り損ねている。

 その正体には、案外すぐに理解出来た。出来てしまっているため、楓は「仕方がない」と吐息する。

 踏み込み、交差。チェーンソーの刃で首を切り落とす。刀の様な刃物ではなく、電動鋸の様な刃でズタズタにして切り飛ばしたのだ。血飛沫と一緒に、削られた肉片が飛び散り、かなりのスプラッタが展開。器用に返り血を避けながら、チェーンソーを振るい、血払いをする楓。

 控えていたクラスメイト達も、あまりの惨劇に嘔吐(えず)きそうになる。平気な顔で見ている者も何名かいるが、この学園に於いても、そう言う存在は異端児であろう。

「……やはり、普通に再生するのですね」

 金色の髪を搔き上げながら振り返り、碧の瞳で美砂を見やる楓。そこには、首が繋がり、完全に回復した美砂の姿がある。美砂はニッコリと微笑む。

「はい♡ アナタの与えてくださる痛みを、まんべんなく味わうために、何度でも♡」

 頬を上気させ、うっとりした眼で見つめる美砂。その姿を見て、楓はもう一度、髪を払う度、事も無げに暴いて見せる。

「ダメージをエネルギーに転換し、そのエネルギーを利用して再生しているんですのね」

 楓は既に『見鬼(けんき)』を発動している。美砂に蓄えられているエネルギーを感知し、それが攻撃を受ける前よりも、後の方が大きくなっているのを確認したのだ。

 暴かれた美砂は、それでも笑顔を崩さない。

「正解です。私の能力『被虐神マゾヒディオス』の『被虐神鎧MM』の効果です。私が受けたダメージの一部はエネルギーに転換され、それを利用して体を再生、強化する事が出来るんですよ。例え、首を裂かれようが、全身を切り刻まれようが、燃やされようが、殺されようが、即座に再生する事ができます。全ては皆さんから愛ある暴力を一身に受けるため!」

 キラキラと輝く瞳で告げられ、楓は―――、無表情にその姿を眺める。

「そう……、アナタ既に、壊れてしまっているのね……」

 楠楓は現総理大臣の叔父を持つ御令嬢だ。それ故、色んな人物と関わり合いになってきた。時には金や権力に狂った、異常者すら、彼女の生きる業界では見ようと思えば見えてしまう。そんな世界で狂っていた者達と比べ、美砂は……圧倒的に何かが捻じれ曲がっていた。

 狂っているなどと表現するのは生ぬるい、決定的な何かを捻じ曲げてしまった様な、そんな、“なれの果て”を見ている様な気分だった。

(何より……、私はこの戦いに楽しめそうもありませんわね……)

 ギャップを好む彼女ではあるが、真正のドМに興味があるわけではない。バトルマニアのCクラス生徒だが、一方的に切り刻むのが好きと言うわけではない。故に、楓は、あっさりラストスパートに入った。

 大きくチェーンソーを振り被り、一気に突貫。ノコギリ状の刃がエンジン音を唸らせ、振るい抜かれる。

「『七花八裂(しちかはちれつ)』」

 刹那、閃光乱舞。一瞬にして美砂の体は爆散し、鮮血の飛沫となって霧状に霧散した。

 楓の使用した技『七花八裂(しちかはちれつ)』は、能力とは関係無く、ただ相手をチェーンソーで微塵に切りつけると言う物だが、スキルスロットを一つ消費する事で、本来超常を起こすイマジネーターのリソースを、全て使用する事が出来るようになる。これによって発生する技は、正に必殺技と言って差し支えない代物へと昇華したのだ。

 ただし、本来スキルスロットは、能力を使用するためのパススロット(空き容量)で在り、能力に関係しない物を設定したところで意味はなく、そもそも発動すらしない。楓が使用する事が出来たのは、超常を起こす必要が無く、ただの身体能力でのみ、発動可能だった事が大きい。

 本来ならこんな設定は殴り合いを好むCクラスの生徒でもめったに行わない。何故なら、能力に起因していないスキルなど、能力の劣化版に過ぎないからだ。精々、人として覚えた元々の技を超える事が出来ると言うだけで、能力には匹敵しない力なのだ。

 それでも彼女がこれを選んだのは、単に好みだったからだ。

 だが、それもイマジネーターの一つの正しい形とも言える。己の理想を選び、効率を無視するのは、≪理想主義者≫である『イマジネーター』にとって、決して外れた道ではないのだ。

 文字通り、雲散霧消した美砂だが、ここまで丁寧に破壊されても、赤い霧が独りでに集い、元の肉体を形成して行く。

「うへぇはへぇあへぇ。こんなに丁寧に愛して下さる方なんて、めったに会えません……! ですけど、これでは終わりません。これで終わるなんてもったいない! もっと……! もっと私に―――!」

 ボンッ! 美砂の言葉の途中、小さな爆発が起きる。それも一つや二つではない。脊髄、心臓、脳髄、胃袋、大腸、腕や脚、眼球や口内に至るまで、次々と小さな爆発が起きて止まらない。断続的に続く爆発が、再生する美砂の身体を破壊し続け、死と再生のスパイラル現象を起こしていた。

「『奇想睡蓮(きそうすいれん)』私の最後の能力スキル。水に含まれた酸素を一気に過熱し、一瞬の炎となる事で爆発現象を起こす水属性殺し(ウォーターキラー)の粉末です。人体のおよそ60%以上は水分で出来ていますから、アナタの身体を破壊し尽くした時に大量に混ぜておけば、ほぼ無限ループの業火の花が咲き乱れる事になります」

 楓は髪をかき上げ、つまらなさそうに告げる。

 爆発し続け、身体の自由が全く効かない美砂は、それでも連続する激痛(快感)に、顔を紅潮させていた。

「す、すばらぶべ―――! ……素晴らしいです! あう……っ! でも……! でも、まだ終わっていませんよねっ!? 私は! 私に―――! もっと熱い愛を―――!」

「申し訳ありませんが、御付き合いするつもりはありませんわ」

 ゴン……ッ!

 鈍い音が鳴った瞬間、美砂はぐりんっ、と眼球を動かし、白眼になって地面に倒れ伏した。

 楓は、エンジンを止めたチェーンソーの本体で、美砂の後頭部に打撃を与え、気絶させたのだ。同時、爆発も止み、もう業火の花は咲かなかった。

「元よりそれはアナタの動きを止めるだけの囮です。アナタの攻略法は簡単。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけで、アナタは万人に攻略出来てしまえるんです」

 地面に倒れ伏した美砂に、楓は心底つまらなさそうに呟く。

 この時、彼女は理解してしまったのだ。何故教師がE、Fクラスに決勝トーナメントの権利を与えなかったのか……。理解した楓は、ただただつまらないだけの単純作業を終えた表情で美砂に背を向け、そのまま立ち去ってしまった。

京鹿子(きょうがのこ)の花言葉は……、とてもお似合いですね……」

 

 

 楓が一人で先に帰ってしまった事で、Fクラスから「なんだよアイツ?」っ的な空気こそ発生してしまった物の、元々騙されて無理に引っ張り出されてきた口だ。役目が終われば即解散と言うのも悪い事ではないだろうと終教諭にフォローされ、遊間(あすま)零時(れいじ)VSバーボン・ラックスの試合が続けて行われた―――のだが……。

「『八咫烏(やたがらす)』」

「ぐえ……?」

 零時が眼を見開き、一族に伝わる瞳術を発動する。

 以前、Bクラス戦でも説明した通り、イマジネーターになる前に有している経験は、イマジネーターとしての能力の妨げになる事が大きい。現実のイメージが、理想のイメージを阻害してしまうからだ。故に、零時の瞳術は、Bクラス戦では、あまり出番が無かったのだが……。

「がふ……っ」

 始めの合図と同時に正面に立つバーボン相手に、挨拶代わりに放った幻術は諸に食らい、幻術世界でとんでもないストレスを与えられ、そのまま倒れてしまった。

「そこまで。勝者、遊間零時」

「……え?」

 一瞬で勝負がついた。

 バーボンの能力『正体不明(アンノウン)』を見せる暇どころか、一歩も動かずに決着がついてしまった。

「そ、そう言う事……」

 決着を見て、零時も楓同様に理解し、呆れたような表情になると、やはり楓同様にそのまま立ち去ってしまった。

 

 

「まったく、なんだよアイツ等? 無理矢理連れて来られたからってさっさと消えるって礼儀としてどうなんだよ?」

 一ツ木(ひとつき)(だん)はボヤキ気味に呟き、拳を構える。夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)VS一ツ木(ひとつき)(だん)の試合だ。凛音(りおん)は青い髪を搔き揚げる様に掻くと、少し困ったような表情で苦笑いを浮かべる。

「なんか悪いな? あの二人も悪気があったわけじゃないと思うんだ」

「あん? いいさ。お前が謝る事じゃないだろう?」

 一応凛音(りおん)がフォローを入れ、それを(だん)が受け入れたところで試合が開始される。先手で飛び出したのは(だん)だ。開幕速攻で地面を蹴り、拳を突き出す。その一撃を危なげなく躱す凛音(りおん)。途端、空を切った拳が、空気の壁を殴りつけ、とんでもない衝撃波となって突き抜ける。その余波だけで十五メートル先にまで破壊の爪跡を刻む。(だん)の能力『一撃男(ワンパンマン)』による『一撃必殺』の効果だ。彼の拳は、ともかく一発当てるだけで相手を強制的に倒す事の出来る効果を秘めている。故に単純な攻撃力ではなく、防御したところで防ぎ切るのは不可能だ。

 その危険性を『直感再現』で感じ取った凛音(りおん)は、距離をとるためバックステップを踏む。

「逃がさねえよ」

 (だん)が追い掛けて拳を突き出す。

 躱す凛音(りおん)。破裂する空気に殴られ、僅かに体勢を崩しかけるが、『強化再現』で強化した身体能力を無理矢理行使して跳躍する様にバックステップ。なんとか体勢を立て直し、(だん)の追撃を剣でいなす。

 凛音(りおん)が光を纏う剣を抜いた時点で、状況は一気に一変した。まず、凛音(りおん)の速度が単純に速くなり、(だん)の拳がかすりもしなくなる。これによって今度は凛音(りおん)にも攻撃のチャンスが生まれ、何度か斬激が叩き込まれるようになった。(だん)もなんとか『強化再現』を防御に回して防いでいるが、クリーンヒットする回数が徐々に増えて行く。

 その光剣こそ、凛音(りおん)の能力『極光の波動』による『極光の波動:剣閃(ライトニングウェイブ=スラッシャー)』であった。その効果は、物理攻撃力、属性攻撃力を上げると共に、攻撃のスピードが僅かに上がる。と言う単純な物だったが、(だん)を圧倒するには充分な効果だった。

「く、くそ……っ!」

(だん)! がんばれ~~!」

 苦悶の表情を浮かべる(だん)は、クラスメイトから声援を送られ、何とかしようと拳を突き出し、フェイントや撹乱を試みるが、凛音は危なげなく対処する。途中、何度か引っかかりそうにこそなる物の、致命的なミスになる事は無く着々とダメージを積み上げ―――……。

「ぐ……、ぐあ……っ」

 ついに立っていられなくなった(だん)は膝を付いてしまい。そこに大きな一撃を叩き込まれて気を失ってしまうのだった。

 決着が付き、そして凛音も他の二人同様に理解する。

 なるほど、これはFクラスにトーナメントをさせるわけにはいかないと……。

 

 

 原染(はらぞめ)キキと戦う事になった明菜理恵は、微妙な面持ちとなっていた。

(う~~ん……、本来彼女と戦うの、私じゃなくて叉多比(またたび)和樹(かずき)だったんだけど、それ潰しちゃったなぁ~~……。まあ、それは良いとしても……)

 彼女は正面で震えながら拳を握る五歳児に対し、どうした物かと思い悩んでしまう。

 他のFクラスと違い、この先の展開をある程度知っている理恵としては、この戦いに対して全力を尽くしたいと考えることにしたのだが、まさか相手が非合法ロリになるとは、やり難い事この上なかった。

(まあ、たぶん、それでも結果は同じ感じになるんだろうけどね……)

 この先の展開の予想に多少辟易した思いを抱いてしまう。それでも実際に自分で体験しようと決めたのは自分だ。気合いを入れ直し、開始の合図と共に彼女は告げる。

「私は強い者にも弱い者にも同じよう闘い苦戦するのだよ………お前もだがな!」

 ビクつき、反応が遅れるキキに対し、理恵は能力を発動する。

「現実と言う物を思い知れっ!」

 見た目には何も変化は見られない。しかし、確実に何かが起こった事だけは伝わった。理恵の力は、その現象が目視できないタイプの物で、基本的に空間に作用し、無差別に効果を与える物だ。

 何をされたのか解らなかったキキは、相手の出方を見る様な悠長な事をしているのは危険と判断し、先手を打つように飛び出す。『強化再現』により強化した脚力で一気に跳躍し、一足跳びに理恵へと接近―――出来ずに地面に転がってしまった。

「にゅきゅ……っ!」

 可愛らしい悲鳴を上げ、ステンッ! と、実に子供らしくこけた。

 しばらくして、顔を上げたキキの表情は、土で汚れ、眼に涙をいっぱい溜めて、今にも泣き出しそうな雰囲気だった。

 「あ、やばっ、泣かせた?」っと、心配になった理恵だったが、勇敢にもキキは袖で涙を拭って立ち上がった。

「ふん……っ!」

 鼻息一つ、涙をグッと堪えた姿に、観衆だけに飽き足らず、対戦者の理恵に審判役の教師まで涙ぐませる意地らしさを見せた。

「な、なんで……、強化出来ないの……っ!?」

 涙目で訴えるキキに、僅かな良心の呵責を覚えながら、理恵は告げる。

「私の唯一の能力『現実法則』は、私を含む全ての人間がイマジンの存在しない現実の法則に縛られる! 『強化再現』をしても、現実的にありえない強化は不可能なのさ!」

 「ほぉ~……!」っと言う感心した様な声が何処かから漏れた。彼女の能力がただの無効化能力ではなく、自分の現実を相手に押し付けるタイプだと言うのを理解した者がいたのだろう。ただ単純に、相手の力を打ち消すのではなく、自分の常識の範疇に収めてしまうこの能力は、実は理恵自身が思っている以上に強力かつ強大な能力だ。イマジンの戦いは自分の理想の押し付け合い。それを地でいき、完成させているのだ。イマジネーターとして、彼女は既に最強の能力者とも言える。

「ず、ずるい……っ! イマジンの学校なのに、イマジン使わないなんてズルっ子!」

「「「あ、確かに……」」」

 キキの子供っぽい発言に、観衆だけに飽き足らず、教師まで頷いてしまった。

「いやいや! これも能力だから! しっかりイマジン使ってるからな!」

 危うく反則負けを食らいそうな気配に危機感を覚えた理恵が必死に弁明する。終教諭は笑顔で手を振り、大丈夫だと伝える。

「ま、負けないもん……っ!」

 そう言って無茶苦茶に拳を振り回して突撃してくるキキに、理恵はどうした物かと悩んでしまう。とりあえず傷付けない様に頭でも押さえておけばいいだろうかと考える。さすがにこのリアル幼女を殴り飛ばすのは犯罪めいて出来ない。

「……!」

 しかし、キキは、自分の頭に手が添えられる寸前、イマジネーターとしての“直感”(この場合は『直感再現』ではない)が働き、咄嗟に手を躱そうと体勢を下げ―――、そのまま勢い余ってキキの頭部が理恵の腹部に深々と刺さった。

「ぶぐ……っ!?」

 油断していた事もあり、予想以上のダメージに悶えながら、理恵はバックステップで距離を取る。

(い、いけない、忘れてた……。“こう言う風に負けるんだった”。油断せずに真面目にやらんと……)

 気を取り直した理恵は、表情を改め、しっかりと構えをとる。

 対するキキも、思わぬ事が攻撃になったと事に戸惑いながらも、彼女なりに構えを取り直す。

「拳の作りがなってねぇ……」

「構え適当~♪」

「背丈の差を考慮してなくても立ち位置が悪いな……」

「幼児と素人相手に容赦無さ過ぎですよ皆さん……!」

 (だん)、バーボン、カグヤがそれぞれ、二人の構えて対峙する姿に苦言を漏らし、彼女達の精神を外側から削りに掛る。唯一環奈だけがフォローを入れるが、二人の助けにはならない。

 周囲の野次に耐えきれず、理恵は早めに戦闘を終わらせようと攻勢に出る。

「やっ!」

 素人喧嘩のローキック。だが、彼女の能力で異質な能力は発動できないキキにとっては、見た目通り子供と大人の戦い。力任せのキックでさえ、驚異だ。

「ひぃう……っ!?」

 キキは慌てて、両手をガードし、蹴りを受け止める。かなり重い衝撃が伝わり、コロコロと地面を転がってしまう。それを追撃する理恵。彼女に覆いかぶさるようにして飛び付き、組敷こうとする。

「や、やぁ……っ!」

 キキは『直感再現』に従い、我武者羅に手を突き出す。

 ガスッ! 手に伝わる衝撃。ビックリしたキキが思わず瞑ってしまっていた目を開いて確認すると、キキの突き出した手が、飛び込んできた理恵に対し、上手い事カウンター気味に決まっていた。しかも見事に顎を掠める位置で在り、骨を伝って脳を揺すられ、脳震盪を起こした理恵は、そのままゆっくりと力尽きてしまう。意識が刈り取られる瞬間、彼女は思う。

(予想はしてたし……、知ってたけど……、ちょっとこれは本気で理不尽だ……!)

 目の幅涙を流しながら、彼女は気を失うのだった。

 

 

 その後の試合結果も、Fクラスにとっては散々な物となり果てる。

 リリアン・トワイライト・エクステラVS森街(もりまち)銀鈴(ぎんれい)の試合は、銀鈴が『一所懸命』の能力の兼ね合わせに使用する、居合の構えを取った。彼の唯一の特技であり、最強の切り札とも言える居合は能力のおかげで半径20メートル範囲なら何処にだって斬激を飛ばす事が出来た。しかし……、

「何をしても無駄ですよ」

 銀鈴の創り出した領域に彼女が踏み込んだ瞬間、その領域はあっさり消滅してしまい、同時に放った斬激は容易く躱され、拳の一撃を貰った昏倒させられてしまった。

 リリアンの能力『イマジンロード』による『イマジンブレイカー』は、全てのイマジンを無効化する能力があり、銀鈴の唯一の能力は、あっさり破られてしまったと言う事だ。

「ひ、ひでぇ……、がく……っ」

 

 

 続く試合は、風祭冬季VS妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)となる。

 冬季はDクラスの生徒らしく、その能力『フォトン』は、物質を粒子化し、粒子化した物質を再び具現化すると言う魔術的な能力者であり、対する龍馬の能力『万能殺し(イマジンスレイヤー)』は無効化能力であったため、冬季の攻撃は殆ど、彼の右腕、『万能消却(イマジンバニッシュ)』によって打ち消されてしまった。

 見るからに相性が良く、初めてFクラスが善戦するかに思え、観衆も「おぉ……っ!」と僅かにどよめいた。

「武器を変更する」

 そう言って冬季が新たに具現化したのは、鎖付きの棒で、鎖の先には棘付きの重たい鉄球が繋がっている。モーニングスターと呼ばれる、鉄球を振り回す武器だった。

(わり)ぃが、能力で作ってる武器なら、なんだろうと……―――っ!」

 モーニングスターを振り回し、遠心力を利用して一気に叩き降ろす冬季に対し、龍馬は固く握った拳を、棘付き鉄球に向けて振り上げる。鉄球が龍馬の右腕に触れた瞬間、それは消滅し、霧状の緑色の粒子を一瞬だけ散らして消え去った。

「―――効かねえぜっ!」

「はい、掛った」

 ガシッ!

 モーニングスターを破壊するため突き出した龍馬の右腕を、冬季は片腕で捕まえ、腕の自由を封じる。その動作と同時にもう片方の手に再び武器を具現化。銃の形状をした射出型有線式スタンガンを作り出し、あっさり引き金を引いた。

「げ……ッ!?」

 ケーブルの先端が龍馬の胴体に接触する寸前、なんとか逃げようと体を退くが、彼の腕を掴んだ冬季がそれをさせない。次の瞬間、盛大な発光と共に、黒焦げになった龍馬は地面に倒れ伏した。

「げ、げほ……っ! これ、電圧……、強過ぎ、ない……?」

「イマジネーター対策のが購買部に売っていたので」

「な、なるほど……、でも、一つだけいいか……?」

「なに?」

「なんで、お前……、執事服……なん、だよ……? がく……っ」

「放っておけっ!!」

 気を失う前に一応一矢報いた(?)龍馬だった。

 

 

 更に続いて、レイチェル・ゲティングスVS御神楽(みかぐら)環奈(かんな)との試合。

 レイチェルは最初、『ソロモンの鍵』の能力で、悪魔アスモデウスを召喚。とりあえず普通に攻撃させて見た。

「アンタ本当にウザい……! 宗教が違うとは言え、私の前で神職者が偉そうにすんじゃないわよ! せめて男にしなさいよ!」

 自身が悪魔と言う性質の所為か、巫女である環奈に対し、敵意を見せるアスモデウス。若干、個人的嗜好が混じっている様な気もするが、それは置いておく。

 固有イマジン体としての能力スキル『焔』により、両手から炎を作り出し自在に操ると、炎を龍の様な形に変え、環奈に襲わせた。

 すかさず環奈も能力を発動する。

「 高天原(たかまがはら)神留座(かむづまりま)す 神魯伎神魯美(かむろぎかむろみ)詔以(みこともち)て 諸々(もろもろ)枉事(まがごと)罪穢(つみけが)れを(はら)(たま)へ清め(たま)へと申す事の(よし)を 八百萬(やおよろず)神達共(かみたちとも)聞食(きこしめ)せと(かしこ)(かしこ)み申す 」

 環奈が指を組み、印を結び、力ある(ことば)を唱えると、アスモデウスの炎は忽ち勢いを失い、まるで蛇のように細くなった。環奈は『強化再現』で身体能力を上昇させ、これを難なく躱して見せる。

 これが環奈の能力『神代の巫女』による『神落とし』だ。神格を持つ物に対し、その神格を弱体化させる。神としての力を弱め、超常の力を通常の域に貶める。それが彼女の力だ。

 『神格』と聞くと、相手が悪魔のアスモデウスには有していない属性に思えるかもしれないが、『神格』とは、つまり人々から畏敬の類。簡単に言ってしまうと、良い悪いを含めた人気の事だ。神として崇められる事も、悪魔として恐れられる事も、どちらも『神格』としては正しい。もちろん、人気があれば『神格』を得られると言うわけではなく、それに見合った功績を立てる事も必要とされている。そう言う意味では、アスモデウスには『神格』を有するだけの“歴史”を充分に持っていた。更に『身滌大祓(みそぎのおおはらえ)』の祝詞を唱える事により、魔の力を清める効果を追加したのは、環奈のアドリブであったが、見事な相乗効果を発揮していた。

 アスモデウスは、まるで乗り物酔いでもしたかのような真っ青な顔になって胸と口を押さえて身を屈めていた。

「うえ……っ、ヤバ……、マジで気持ち悪い……」

「いいわ、退がってアスモデウス」

 今にも吐きそうな僕に対し、レイチェルはあっさり退却させる。

「アナタが魔を用いた力を使う限り、私には勝てませんよ!」

 環奈は油断なく構え、レイチェルが次に出るであろう一手に備える。

「おおっ!? なんか今度こそ行けそうじゃないか?」

 能力による相性の差は絶対的。どうあっても覆し様がない。ここに来てFクラス優勢の兆しに、僅かに沸くFクラスであったが―――、

「なら、この手はどうだ?」

 レイチェルは慌てることなく、腰のポーチからシトリーの紋章が刻まれたカードを取り出す。

 

【挿絵表示】

 

 イマジンを流し込まれたカードが青い輝きを放ち、紋章を中心に野球ボールくらいの水弾が発射される。

「え? あれ? わぷ……っ!」

 咄嗟に祝詞無しの『神落とし』を使用する環奈だったが、効果は発揮されず、諸に水弾を受けてしまう。

「ど、どうし……ごぼごぼっ!?」

 戸惑いの声を上げる前に、環奈に命中した水が独りでに集まり、彼女の口と鼻を塞ごうとする。咄嗟に手で払いのける。払えば簡単に剥ぎ取れるが、元が水の所為かすぐに集まってきて、呼吸器官を封じに掛る。

「ぷは……っ! ぱは……っ!」

 なんとか手で払いのけながら息継ぎを繰り返すが、この間にもレイチェルがどんどん水弾を放ってくるので、身体に纏わりつく水の数が増え、抵抗が難しくなっていく。

(く、苦しい……っ!)

 まだ切り札を有している環奈であったが、頭の隅にそれが浮かんでも、呼吸困難で意識を刈り取られ、まったく集中できず、能力を上手く使用出来ない。

「『劣化再現』だ。カグヤも金剛との決闘時に使っていただろ? シトリーの水の力を一部分だけ取り出して使用した。これはもう魔法のレベルだから、神格は纏わない。お前の力は神には強いが、神ならざる物にはてんで弱いな」

 レイチェルが環奈を看破する様に告げるのと、彼女が気絶して倒れたのは、ほぼ同時の事であった。

 

 

 ユリシア・R・A・ローウェルVSランスロット・モルディカイの試合は、やっと見応えのある試合となった。

 ランスロットは『腐敗の騎士』の能力で作り出した『腐食の剣』にて、攻撃を仕掛ける。見た目は錆びついたレイピアであったが、案外頑丈で、ユリシアが『刀剣創造(ブレード・クリエイト)』の能力で作り出したワンハンドソードとまともに打ち合っている。しかもそれだけではない。

「な……っ!?」

 異変に気付いたユリシアは、もう片方の手に、片手では扱いきれそうにないグレートソードを作り出し、力任せに叩きつけ、その衝撃を利用してなんとか互いに距離を作る。

 ユリシアは警戒しつつもワンハンドソードをエメラルドグリーンとサファイアブルーの瞳で刀身を確認する。ついさっき創り出したばかりの剣は、大して手入れもせず、長年使い込んだ後の様に、錆びつき、刃がボロボロになっていた。

「アナタの剣は、斬った物を錆びつかせる能力があるのですね」

「…………否、我ノ剣ハ、ソレダケニ在ラズ」

 ランスロットがレイピアを地面に刺すと、その切っ先が触れている場所から、地面がじわじわと腐り始めて行く。有効範囲こそ小さい物の、触れればひとたまりもなさそうなのは、火を見るより明らかだった。

「そう言う事なら……、趣味ではありませんが、数を使わせてもらうとしましょう!」

 ユリシアが飛び出し、手に持っていた剣を二本とも捨て、新しくロングソードを二本呼び出し、剣激をしかける。

 ランスロットの『腐食の剣』の効果で、打ち合ったユリシアの剣は次々と錆びて崩れ去っていく。その度にユリシアは新たな剣を作り出し、猛然と仕掛けて行く。

「おおっ! まるでCクラスみたいな展開になってきたなぁっ!」

 スタンガンで黒焦げアフロ状態になってしまった龍馬が、友人のバーボンに手伝ってもらい、髪を元に戻そうとしている最中、多少興奮気味に声を漏らす。

「「比べるなよ……」」

 カグヤとレイチェルが同時に呆れた声を漏らした時、ユリシアの一閃がランスロットの腹部を切り裂いた。

「グウ……ッ!」

 なんとか耐え、追撃されぬように剣撃を放つ。しかし、コツを掴み始めたかのようにユリシアは片方の剣で巧みにレイピアを受け止め、もう片方の剣で、確実にランスロットの身体を傷つけて行く。圧倒的な剣術スキルの差だ。剣で戦う土俵では、ランスロットはユリシアには勝てない。それほどに剣術の差が大きく開いていては、とてもCクラスの戦いとは比べられない。

 ドシャァッ!

 ―――突然、ランスロットの身体が独りでに崩れ去った。

 さすがに驚いたユリシアが距離を離す。すると、崩れ去ったはずのランスロットの体は、削れた断面からボコボコと肉が泡のように膨れ上がり、傷を塞ぎ、新たな肉体を形成していた。これが『腐敗の騎士』のもう一つの力『腐敗身話』。一定以上のダメージを受けると、勝手に腐敗が進み、崩れ去り、新たな肉体が生成される疑似アンデット化を果たす技能。

「…………我ハ死ナン。コノ身ガ死ト隣合ウ限リ」

 ランスロットが(レイピア)を振り抜く。二本の剣を交差させて受け止めたユリシアだったが、予想外の衝撃が剣を叩き折り、彼女の体を遠く後方へと押しのける。地面を転がり、大きく土煙を立ち上らせる。やっと勢いが殺された所で、ゆっくりと立ち上がったユリシアは、自分の体を確認する。

(腐敗は、無し……。直接斬られずには済んだようですね……。しかし、今の一撃は……)

 まるで巨大な斧でも叩きつけられたかのような衝撃を思い出し、推測を立てる。

「腐敗した肉体。疑似的なアンデット化をする事による不死身性。つまり、痛覚を遮断し、脳のリミッターを外す事で、肉体が堪えられない限界を無視した攻撃が可能と言う事ですか」

 確信を持ってユリシアは看破する。

 イマジネーターの戦闘は、相手の能力を看破するのが最低限必要とされるスキルだ。Bクラスのユリシアにはその技能は充分に有していた。

「イマジンはイメージに左右されます。ならば、その見た目や不死身の特性から考えて……、この剣は、どうでしょうか?」

 ユリシアが手を翳す。光が瞬き、集い、極光となり、それがそのまま剣の形として圧縮されるかのように圧縮され、一振りの巨大な剣が作り出される。重く、厚く、光が形になったかのように輝く刀身を持った両手持ちの剣。それをしっかりと両手で柄を掴み、腰を低くして構える。

「派生能力『神なる聖剣(エクスカリバー・グレイス)』」

 彼女の能力『刀剣創造(ブレード・クリエイト)』は、あらゆる剣を作り出すことのできる能力だ。だが、今創り出したこの剣だけは、事情が違う。『刀剣創造(ブレード・クリエイト)』から派生した能力であり、スキルスロット一つ分を使用した一品物。この剣をEクラスの火元(ヒノモト)(ツカサ)辺りが見ていたら、悔しそうな表情で叫んでいた事だろう。

 

「ちくしょう~~~っ! どう足掻いたら、そんなレベルの剣を作れるんだよ~~~っ!? 神話クラスをホイホイ創り出してんじゃね~~~っ!」

 

 ―――と。

 ユリシアが地を蹴る。

 煌めく一閃は、正に閃光。

 ランスロットの右腕が飛ぶ。傷口が輝きに燃え上がり、浄化されるが如く白い煙を上げる。

 たったの一撃で立っていられなくなったランスロットは、そのまま崩れ落ち、眼を見開きながら半ば放心状態へと陥っていた。

「伝説の聖剣『エクスカリバー』の名を模したのは伊達ではありません。この剣は、真実聖剣です。予想通り聖属性を弱点として持っていたらしいアナタには、これ以上ない天敵でしょうね」

 ランスロットは、Fクラスの中でも相当な実力者だった。しかし、弱点となる属性を受け、既に意識を保つ事が難しくなった今、彼に勝機は微塵も残されていなかった。

「そこまでっ! この試合は教師権限でユリシア・レイン・アルヴィル・ローウェルの勝利とする!」

 ついに教師から待ったが掛り、ユリシアの勝利宣言がなされた。

 ランスロットは何も答える事が出来ず、ただ静かにその場で地に伏した。

 

 

 氷室(ひむろ)凍冶(とうじ)VS只野(ただの)(じん)

「ったく……! なんだよ。結局、皆ボロ負けじゃねえかよ……! こうなったら、何が何でも俺が勝たねえといけねえみたいだな! ―――みたいですね!」

「……悪い、なんか聞き取り難いからその喋り方やめてくれないか?」

「……ぶっ殺す!」

「……解ったが、普通に口が悪いだけになってしまうな……」

 凍冶の天然な発言を挑発と受け取った只野人は、膝を立てて腰を深く落とし、拳を地面に当てると能力を発動した。

「ああまったく人が飛んだり火を出したりふざけてやがる。だから俺が現実を思い出させてやる―――やります!」

 瞬間、只野人を中心に、イマジンによる空間が発生する。

 咄嗟に飛び退く凍冶だったが、その有効範囲が圧倒的に広く、難なく領域内に捉えられてしまう。領域はかなり広く、観客状態にあった他の生徒達も巻き込まれてしまったようだった。凍冶は審判役の教師に視線を向けたが、終教諭は何も言わず静観している。とりあえず他の生徒にまで被害が及ぶ空間ではないと判断する。ならば一体何の空間なのだろうか?

(……解らないなら試してみれば良い)

 そう判断して、凍冶は『冷気操作(フリーズコントローラー)』の能力を発動しようと片手を突き出す。

 本来、凍冶の使う能力『冷気操作(フリーズコントローラー)』冷気を操り、吹雪や氷柱を作り出す事が出来るのだが、凍冶はそう言った汎用性のある分野に技能(スキル)設定を割り振っていない。ならば冷気を操ると言う本来の力を引き出す事が出来ないのか? っと言うと、それは違う。彼が有する技能枠(スキルスロット)に、『氷河の鋭刃(グレイシアエッジ)』っと言う鋭い氷の剣を作り出すスキルと『吹雪の超音速(ブリザードフォーミュラ)』背中から吹雪を起こし、推進材の代わりにして高速移動するスキルが存在する。冷気を呼び、氷の礫を打ち出すスキルが無くても、これら二つのスキルの下位存在としてなら『簡易再現』と言う方法で使用が可能になるのだ。

 ちなみに、カグヤやレイチェルの使った『劣化再現』の炎弾や水弾との違いは、≪力の一部を取り出し使用している≫か≪本来組み上げる工程を幾つか短縮して使用している≫かの違いである。つまり、『簡易再現』は威力が劣化する事が無く、強力な術を発動する事が出来ると言う事だ。美冬の『寒冷凍死(コキュートス)』が天候を変えるほど強力でありながら、一部分にだけ効果を発揮させる事が出来たのも、これと同じ理屈にあたる。

 故に、汎用性や手数を好むDクラスで在りがちな『能力設定ミス』はしていない。―――にも拘らず、突き出した凍冶の手からは冷気は発生されず、それどころかイマジンの気配する感じさせない。

(……これはっ!?)

 これと似た現象を、凍冶は既に目撃している。

 原染(はらぞめ)キキと明菜理恵、もしくは風祭冬季と妖沢(あやざわ)龍馬(りょうま)の対戦で、これと酷似する物を何度も見ている。

「……無効化能力か」

 理解し、冷静になる。一年生の彼等には、無効化能力は問答無用で能力を消してくる厄介な物に映るが、……実のところ、無効化能力を使うイマジネーターなど、二年生以上にはごまんといる。それこそ『対無効化能力』『無効化耐性』などと言った能力スキルまで普通に持っている者までいるくらいだ。中には、教師の使う『キャンセラー』の術式を読み解き、再現している者までいる。故に、単純な無効化能力は、イマジネーターにとっては対して脅威にはならない。それこそ、先の二戦で証明されてしまった様に、能力に対しては絶対でも、それで勝利を掴めるかどうかは別の話に至る。

 そんな理屈を知らず、しかし凍冶は先の二戦でなんとなくは予想していた。どんな強力な無効化能力でも、付け入る隙はあると。しかし―――、

「……!」

「気付いたか?」

 ニヤリと只野人がほくそ笑む。同時に飛び出し、拳を突き出してきた。

 咄嗟に両手をクロスして受け止めるが、ガードの上から殴り飛ばされ、軽く地面を転がされる。

 すぐに立ち上がり臨戦態勢を取るも、思いの外両腕が痺れてしまい、上手く動かせない。

「……! やはりか……!」

「そうさ! 『現実回帰(これがリアルだ)』! 俺の能力『現実』は、イマジンなんてふざけた(もん)を纏めて否定する。ここじゃあ、テメエらが見下す『下界』と同等の力しか引き出せねえ。スキルだ権能だのとふざけた御飾は抜きにして、純粋な喧嘩と行こうぜっ!」

「……くっ!?」

 只野人が飛び出し、拳と蹴りの連打を見舞う。それらは全て喧嘩殺法、武術の心得など無く、重心はバラバラ、時に振りが大きく、隙の大きい瞬間も多い。しかし、経験だけはやたらと積み重ねた、野生の勘が如く、的確に鋭い個所を突いてくる拳は、中々に受け止めるのが厳しい。

「おいおい……、アレってもしかして『強化再現』も消してるのか?」

「それどころか、イマジン変色体ステータスも効果を失ってるはずだよ」

 レイチェルの呟きに、ついさっき意識を取り戻した理恵が、眩暈の残る頭を庇いながら補足する。その発言には、Fクラス以外の全員が眼を丸くしてしまった。

 イマジン変色体ステータスは、イマジンと結び付いた肉体細胞の活性化具合を数値化した物で、いわゆるイマジネーター限定の『体質』と言っていい。それを打ち消すと言う事は、(イコール)イマジネーターでなくすと言う事に等しい。只野人が自身で言っていた通り、イマジンを完全に排除した下界の喧嘩にまでレベルを落とされたと言う事になる。

「なら、普通に考えれば勝敗は単純な体格差と、素の戦闘力だが……」

 ランスロット呟き、二人を観察する。

 凍冶はヘッドフォンを首に下げている所が特徴的に映るだけで、目立った体格はしていない。多少背は高めにも映るが、それも平均よりやや上と言った感じだろう。対する只野人は長2m20㎝の筋骨隆々な大男。明らかな体格差。それはイマジンを排斥した空間に於いて、圧倒的な戦力差を意味する体躯(たいく)であった。

「くそ……っ!」

 叩き込まれる拳に、ガードしていた腕を完全にやられ、思わず逃げ出す凍冶。やられた両腕は腫れ上がり、袖の隙間から青く変色しているのが見て取れた。完全な内出血と重度の打撲だ。とても腕を使える状況ではないだろう。

 只野人は追いかけ追撃を掛ける。作戦も考えも無く単純な追撃に、しかし『直感再現』すら打ち消された空間では、もはや愚策とも言い切れない単純にして圧倒的な脅威を見せつけていた。

「逃げたところでどうにもなるかよ! 俺は不良やってた頃、ワールドチャンピオンを名乗ってたおっさん相手に勝った事があんだぜっ! ―――在りますぜっ!」

 敬語をミスりながらも、只野人はその過去が本物である事を証明する様に前蹴りを放ち、凍冶の背中を突き飛ばす。

「……ぐあっ!」

 それだけで体をくの字に曲げられそうになり、学園の庭に飾られた茂みの中へと突き飛ばされてしまう。

「おらっ! トドメだ!」

 只野人は追いかけ、茂みごと叩き伏せる様に拳を叩き落とす。それが決め手となった。

「……ふっ!」

 

 ガスンッ!

 

 瞬間、茂みの中で四つん這いになっていた凍冶は、そのまま横に転がろうとするかの様に片脚を撥ね上げ、変則的な回し蹴りを放つ。腰を捻ったその蹴りは、只野人の拳を躱す助けにもなり、突っ込んでいた(じん)の顔面にカウンターとなって突き刺さる。

「ぐ、ぐあ……っ!」

 良い感じに顎の根元辺りを蹴りつけられ、自分の勢いも利用されたとあって、さすがの巨漢もぐらりとよろめき、数歩下がる。

 その隙を逃す事無く、立ち上がった凍冶は、腕が使えない事も構わず只野人の横に回り込みながら、無理矢理な体勢になるのを無視して跳び回し蹴りを放ち、(じん)の後頭部をしっかりと捉えた。

 ズンッ! と重い音を響かせ、(じん)が地面に突っ伏す。同じく無理な体勢で空中蹴りを放った凍冶も同じように地面を転がったが、こっちはすぐに立ち上がると、間髪いれずに、呻きながら起き上ろうとする(じん)の頭を再び蹴りつけ、額を地面へと叩きつける。そこまでしてやっと、只野人は動かなくなる。

「勝者、氷室凍冶くん」

 終教諭の宣言により、決着が付く。何気に追い詰められた凍冶はホッとして、その場に座り込むのだった。

 

 

 4

 

 

「アレって、一体何がどうなったん?」

 明らかに只野人優勢だったはずの場面に、どうして凍冶が勝ててしまったのか? その疑問が解けず、バーボンは答えを求めて誰ともなく質問する。

「ああ~~……、たぶん、普通に体格だろうと思うぞ?」

 そんな意外な答えを出してきたのは、最後の試合準備をしていた東雲カグヤだった。

「は? 体格なら(じん)の方が圧倒的に勝ってたろう?」

「それは―――」

 バーボンの疑問に答えようとしたカグヤだったが、それに応えるより早くレイチェルが当然の様に説明を割り込ませる。

「見た目の体格ではない。この学園に来てから成長した肉体能力が、既に只野人より、氷室凍冶が優れた物になっていたということだ」

 説明を奪われ、カグヤは「コイツはまたぁ~っ!?」っと言いたげな涙目を浮かべていたが、レイチェルはがん無視で対応。バーボンも答えが知りたいだけなのでカグヤには取り合わない。

「それってどう言う事なん?」

「忘れたのか? この学園は、卒業して下界に降りればイマジンは失われる。それでもこの学園を卒業すれば、全ての就職に対して有利に働く程の恩恵が貰える。それは、如何なる就職先で在ろうと対応できる能力を有していると判断されると言う事。つまり、イマジンを失っても、培われた物が失われる訳ではないと言う事だ」

「……え、えっと?」

 言い方が難しかったかと悟り、レイチェルは更にかみ砕いて説明する。

「イマジンが与えてくれるのは超常の能力だけじゃない。身体的な成長の効率化も与えてくれる。我等は既に、試験一日目に大量の食物摂取をしていただろう?」

「ああ、あの大食いになっちゃった奴ね?」

「あれは、イマジンが我々の身体能力を個々の理想に合わせて改造するために、大急ぎで栄養を要求した結果起きた現象だ。我々の体は既に、自分達の理想的な肉体になる様に改造が始まっている。今更イマジンを打ち消された所で、チンピラの喧嘩程度ならまともに演じられるくらいの体は仕上がっていると言う事だよ」

「おおっ!? マジかよっ!?」

 事実を知り、驚くバーボン。

 この仕組みこそが、イマスク卒業生を各職場が受け入れる理由である。イマジネーターとなった過去さえあれば、どんな分野であっても肉体的スペックは完成し、必要な知識量は十二分に溜め込まれている。娯楽、芸術、スポーツ、考古学、如何なる分野であっても元イマスク生ならすぐに順応できるだけの下積み出来上がっているため、育て甲斐のある即戦力となってくれることだろう。

 イマジネーションスクールは、ただ戦闘をするだけの学園ではない。能力を得、得た能力を使いこなすために奮戦し、敵の能力を看破するために知識を集め、レポートを作成できる程に理解する。ただ戦う事だけをしている生徒でさえ、一大学生と同じだけの知識量を習得する事になる。それを自然とさせる学園、それがイマスクであり、この学園が学園としての体裁を維持している所以(ゆえん)である。

「でも、それなら俺達だって条件は同じだろう? なんで俺だけがこんなあっさり負ける事になるんだよ?」

 只野人は、昏倒から僅か数分で目を覚まし、聞いた話に苦言を漏らした。これには終教諭が答える。

「それは君達がFクラスとされる理由かな?」

「……最弱って事ですか?」

 不服を隠しきれない表情で訊ねる只野人に、「違う」とはっきり答え、終教諭は説明する。

「我々が生徒をクラス分けしているのには単なる成績だけを指している訳ではない。そもそも『優れたイマジネーター』とは、どんな存在だと思う?」

 誰も答えを返せず首を傾げる。終教諭は早々に結論を告げる。

「それは、より“現実感から遠い理想を抱く者”だ」

 「は?」と言う声が何処からか漏れる。

「“強い想い”や、“高い理想”を持つと言う事ですか?」

「それも違う」

 環奈の質問をバッサリ斬り落とし、終は続ける。

「常識的に、あるいは物理的に、あるいは世間体的に、不可能とされる事を理想として臨む者ほど、より強いイマジネーターとなれる」

 例えば、他人とは違う趣味を曝け出し、不和の中にいる者が、そんな自分を受け入れてほしいと望んでいる場合だったり。

 例えば、毎日の大半を寝て過ごしていたいと言う考えだったり。

 例えば、己の存在故に他者の全てを崩壊させてしまうと知りつつも、それでも自分を世界に認めてほしいと望んだ場合だったり。

 例えば……、既に決着のついた願いを、今もまだ望んでいる者であったり……。

 そう言った、『現実では不可能な事』を望む者ほど、優秀なイマジネーターになれるのだと終教諭は語る。

「“高い理想”でも“強い想い”でも無い。ただ、“不可能を望む”事こそがイマジネーターの最も必要とされる素質なのだよ。そう言った性質の強い者、不可能な現実を望む者達を、我々は『Aクラス』として纏めた」

「“不可能を望む”……、ね~……?」

 カグヤが僅かに影のある表情で呟くが、その声は誰の耳にも届かなかった。

「逆に、その理想性が薄い―――もしくは理想がはっきりしていない者達を、纏めて、我々は『Fクラス』として纏めた。正直、君達は結構崖っぷちなのを自覚した方が良いだろうね?」

「ぐぅ……っ!」

 終のキツイ一言に、只野人は奥歯を噛みしめた。

 確かに只野人はこのイマスクに居ながら“イマジン否定派”の考えを抱いている異端児だ。その事を完全に看破され、実力すら劣っていると判断され、Fクラスとして纏められた悔しさと、その評価通りの結果になってしまった不甲斐無さに、行き場のない憤りを感じていた。

「君達に一学期中の決勝トーナメントの参加を認めないのは、君達が弱いからではない。出場したところで君達の糧にならないからだ。戦っても絶対に勝つ事は出来ず、両者共に益を得られない。それは学園と言う組織である我々としては、教育の遅延でしかない。全ては君達をより早く成長させるためのカリキュラムなのだと理解してほしい」

「なら、その『絶対』を覆せば、私達はその予想を超えられると言う事で良いんですよね?」

 教師の言葉に、斬り込みを入れたのは、身長は175cm程の銀髪糸目の少年。これから最後の試合に挑むFクラスの生徒、逆地(さかち)反行(はんこう)だった。

「私がAクラスに勝てないと言う『絶対』を、最初に破って見せます。例えそれがどんなに困難な道のりでも、私は―――私達(、、)はやります!」

 

 

 5

 

 

 こうして始まった最終試合。カグヤは『神威』の能力『闇御津羽・九曜』を呼び出し、試しに軽く戦わせてみる所から始まった。

「九曜、まずは小手調べ。相手の力量の判断基準が欲しい。可能なら倒しちゃってもいいが、油断だけは無しで」

「承りました」

 黒い柄を握り、赤黒い光に見える水の刃を両手に展開した九曜は、返事と共に駆け出す。

 九曜は闇御津羽の神。闇御津羽には“水速(みずはや)”の意味も含まれ、主の未熟さに足を引っ張られてなお、素早い動きを見せる。

 反行の左側面に入った九曜はそのまま斬激を繰り出す様に振り被り、それに反行が反応した瞬間を狙い更に回り込んで、まったく逆の右側面から斬激を放った。

「っ!」

 全身体能力ステータスが最低値に収まっている反行には、これを躱す術は『直感再現』しかなかった。だからこそ、九曜は先にフェイントをかけ、発動した『直感再現』に従えない状況を作り出したのだ。解っていても、身体が動かないのなら対応のしようは無い。

 そう計算された攻撃を、何と反行は腕を振って弾き返した。もちろん腕には『強化再現』で耐久値を上げている。刃物より鋭利な水の刃であっても、容易くは切れない。

 九曜は慌てることなくステップを踏み、翻弄する様に駆け、前後左右、上下に至るまで縦横無尽に攻撃を仕掛けるが、その全てに反行は反応し、躱し、弾き、全てに対処しきって見せる。

「?」

 ここに来て、九曜は疑問を感じ取る。Fクラスとは言えイマジネーター。イマジン体である自分が、一撃必殺で倒せる相手で無い事は解り切っていた。しかし、ここまで完全に攻撃を読み切られる事は予想外だ。

 一度距離を取って間を開けた九曜は、相手を見据えながら僅かに思案する。

(Fクラスとされている人間が、果たしてここまで完全に躱す事が可能かしら?)

 自分は本来の神格を未熟な主に引っ張られ、相当に零落している。それでも速度と攻撃の鋭さなら、平均的なイマジネーターよりは強い自信がある。主の援護なしなら全てのイマジネーターに敗北する確信はあれど、その過程で自分の得意分野が勝る自信はあった。

(現に結果は負けていると言うのなら、何らかの身体強化系の能力者と言う可能性も高い。私の役目は、彼に勝つ事ではなく、我が君が勝つために情報を引き出す事。なれば……)

 地を蹴り神速の勢いを持って飛び込む九曜。

(如何なる方法で強化しているのか、見定めるまで)

 九曜はイマジン体固有スキル『ユニット』を使用し、腰に差している黒い柄をイマジンで操作し、射出、手に持つ柄と合わせ全てを組み合わせると大量の水で大剣の刃を作り出し振り被る。

 例え見た目は大剣でも、創り出している刃が水である以上、九曜の手には重量の負担は無視する事が出来る。つまり、剣速をまったく落とす事無く重攻撃を放つ事が出来るのだ。

(見た目には重量系の攻撃で、初速が遅れる様に見えるフェイント。どう対処する?)

「そこっ!」

 九曜が剣を振り抜く一瞬早く、踏み込んだ反行が完璧なカウンターで肘を打ち込む。

「かふ……っ!?」

 自分の勢い利用され、鳩尾に肘がめり込んだ九曜は、衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がってしまう。

「ふぅっ!」

 追撃を掛ける反行の蹴りが側頭部を狙う。

 息苦しさに耐え、なんとか上げた肩で受け止める。しかし、衝撃を殺しきれず、ふらついた所を拳の連打。それも洗礼された、研ぎ澄まされた鋭い拳が放たれ、防御し損ねた拳が容赦なく体に突き刺さる。

 身体中から緑色のイマジン粒子を散らしながら、殆ど反撃する事が出来なくなる九曜。隙をつかれ、肩を掴まれ、思いっきり腹部に膝を叩き込まれる。

「がふ……っ!」

 口からを僅かに粒子を散らし呻く。間髪いれず拳が左右から顔面に入り、トドメの回し蹴りを受けて大きく後方に飛ばされる。主の足元まで転がってしまった九曜は、呻きながらも何とか立ち上がろうとするが、ダメージが大きくてすぐに立ち上がる事が出来ない様子だった。

「もう良い九曜。なんとなく解った」

「は……っ、お見苦しい所を見せてしまい……申し訳ありません」

 主の命に素直に従いながらも、主の前で無様な姿を晒してしまった事を歯噛みする九曜。

「いや、たぶん、お前がやったら絶対勝てない。アレはそう言う類いだと思うよ」

「? ……はっ」

 意味を理解できず、それでも九曜は命令に従い粒子となって消える。

 一方、反行の能力をなんとなく予想したカグヤは、少々困った表情をしていた。

(九曜が攻撃力を上げた時点で、相手の戦闘力が上がった様に見えた。だとすると、相手に合わせて戦闘力が向上するタイプの能力者って事なんだろうが……、そうなると一番有効な手段は金剛との戦いと同じ、俺自身が戦う事なんだが……)

 思考すればするほど面倒な事になりそうな予感ばかりが頭の中を過ぎ去り、思わず表情と態度に出てしまう。

 そんなカグヤに対し、しっかり構えをとる反行が言葉を投げかける。

「君に一度聞いておきたい事があったんだ。訊ねても良いかい?」

「? 何事?」

「以前、君と君の御姉さんの神威先輩が話しているのを少し見たんだ。……っと言っても、皆が良く知る食堂での決闘騒ぎの事だけどね」

 カグヤは質問の意味が理解できず首を傾げる。どうせまだ話の途中なのだろうと思い、無言で言葉を待つ。それを見て取ってから、反行は訊ねる。

「君は、もしかして彼女のためにこの学園に入学したんじゃないのか?」

「そうだが?」

 すんなりと回答したカグヤに、反行は確かめる様に質問を続ける。

「君はこの学園で何を目的にしているんだ?」

「そう言う将来的な事を赤の他人に訊ねるかよ普通……、いや、別に隠す様な事でも無いから良いけどよ……」

 多少うんざりした表情になりつつも、カグヤは淀みなく回答を告げる。

「義姉様の願い果たすためだ」

「……。それはつまり、君は御姉さんの頼みなら、なんでも言う事を聞くって事かい?」

「当然だ」

 反行は一度瞑目し、あの時からずっと感じていた物を確かめる様に確信を突く。

「君は、御姉さんの頼みなら、それが他者を害しようが、自身に不利益な事で在ろうが、迷い無くやるつもりの人間なのかい?」

「ああ」

 即答。

 それだけに、反行は確信する。

 この少年は歪んでいる。彼の中では完全に姉と自分の主従関係が成立し、自分の意志を排し、義姉の意思となって動く者。『他者の意思』なのだと理解した。

「そうか……、だったらやっぱり……」

 反行は地を蹴り飛び出す。

「君にだけは負けられないな!」

「……は?」

 意味が解らず、難しい顔になってしまいながら、カグヤは突き出された拳をなんとかいなし、続く流れる様な連打も円を描く様に捌き、外側へといなす。

 そのいなしていた腕が掴み取られ、無理矢理引き寄せられる。

(やべ……!)

 掴まれていない方の手を腹部に挟むようにして配置。次の瞬間、手の平越しに拳が突き刺さり、腹部に鈍痛が走る。

「……っ!」

(大丈夫……っ! この程度なら堪えられる……っ!)

 軽く吹き飛ばされたカグヤが後方に数歩よろめく。そこに向けて放たれる拳の連撃を、自身の直感で躱し、続いて放たれた回し蹴りをなんとか両腕で受け止めてガード。ガードごと吹き飛ばされ、地面を一回転分転がったが、すぐに立ち上がってバックステップ。

「ハアッ!」

 そこに『強化再現』で強化した跳躍力を駆使し、一歩で踏み込んできた反行の拳が腹部に突き刺さる。

(『限定強化』……!)

 腹部へのダメージに対して、集中的に耐久力の『強化再現』を行う。もちろん、反行の拳も強化されているため、ダメージを相殺する事は出来なかった。

「がふ……っ!」

 肺から空気を吐き出すタイミングを見計らった様にぐるりっ、大ぶりに身体を捻った反行の回し蹴りが側頭部に炸裂する。

 『強化再現』をしてあった分、大げさな距離を飛ばされたが、自分から地を蹴っていた事もあり、致命打にはならずに済んだ。それでも、自分が圧倒的劣勢に立たされている事くらいは承知している。

「おいおい……、ここに来て俺がFクラスに負けるとか、さすがにそれは無いだろ……」

 自分が最後を務めたのは偶然だが、それでも今まで全員がFクラスに圧勝しているのに、自分だけが負けたらとんだ笑い者扱いだ。さすがにカグヤもそう言った対象にされるのは御免被りたい。なのに、この実力差と能力のズルさは何なのか? そんなどうしようもない愚痴を漏らす意味でカグヤは呟いた。

「Fクラスだからなんですか? 例え学園の基準で最下位のクラスであっても、それを覆せない可能性は0じゃないんですよ?」

 「そりゃそうだ」っと、内心で頷きながらもカグヤは口や態度には出さないでおいた。どうやら、反行には「俺がFクラスごときに負けるとかねえわぁ~」みたいな発言に捉えられてしまったのだろうと察したからだ。

 カグヤの性格上は「お前何勘違いしてんだよ?」っと言ってやりたいところだったが、相手はFクラスの生徒。こちらの発言の意味をちゃんと汲み取るAクラスでも、後で冗談に済ませられるBクラスでも無い。コミュニケーションとしては、勘違いは正すより、自分の言葉が失言だったと認める方が正しい。―――が、自分は昔から意識してやっていた所為で、かなり口が悪い方だと自覚している。ここは下手に何かを言わず、無言で肯定しておくのが良いだろうと判断。反行の続く言葉を黙って聞いた。

「例え、一学期内でFクラスがAクラスに敵う可能性が99%無いのだとしても、決して0じゃない。僅かでも可能性が残っていると言うのなら、私は―――私達(、、)はその可能性を掴み取るっ!」

「………」

 決意を込めて拳を握る反行。

 地を蹴り、駆け出し、固く握った拳を突き出す。

 拳を突き出す中、彼は入学試験の事を思い出していた。

 

 

 6 【かんろ提供】

 

 

 逆地反行と言う少年は、元々気弱な性格の少年であった。

 自分の意思を持たず、主体性を持たず、何をするにも流されるだけで、あらゆることに怯えているだけの少年だった。イマジネーションスクールに入学志望したのでさえ、親に受けるだけ受けてみろと勧められたからにすぎなかった。

 そんな彼が、能力に目覚め、受験者の一人を倒せてしまったのは、奇跡的な偶然としか言いようがなかった。それでも、彼の中で何かが変わるわけではない。いくら強い力を手に入れても、本人の根底が変わるわけではないのだから。彼の転機が訪れたのは、その後の、第三試験の時であった。

 

 あの入学試験をなんとか乗り越え、怯えながら魂祭殿に触れた反行はある光景を幻視する。それはいままでの学園内で上級生に挑んでいく人々の姿であった。ある者は策を巡らせ、またある者は自身が極限と言えるまで鍛えて挑んだ。さまざまな者がいたが、どれもが『上級生』に打ち勝つという壮大な目標に向かって走っていった。それを見た反行はただただ凄いと圧倒された。そして彼は思った。あの人達みたいになりたいと。すると場面が変わる。それを見た反行は驚愕した。何故ならば上級生に挑んだほとんどの人が暗い表情を出し、「勝てなかった」「不可能だった」「もう諦めよう」と呟いていたのである。

彼はその風景に納得いかなかった。彼は幻視の中で叫ぶ

 

“貴方達は上級生に打ち勝つという目標で走っていった! 私はそれを凄いと思った! 目指したいと思った! けれどもなんですかこれは!? 何故諦めるのですか! 何故不可能と言うのですか!?”

 

 これは彼の生涯の中で最初の叫びであった。

 沈んだ表情の一人が呟く

 

“俺達も最初は自分なら出来る、自分ならやれると思ったよ。けれど知ったのは自身の身の程知らずだけだったよ。無理だったんだ”

 

 そう言うと一人はまた俯いた。

 それを見るのは嫌だった。彼等のあんな顔など見たくなかった。そして彼はその思いのまま叫ぶ。

 

 

“だったら私がやります! 私が上級生に打ち勝って、不可能を打ち破ってみせます!”

 

 その叫びを聞いた人々は口々に言う。

 “不可能” “無理” “無謀”

 入学前の臆病で意思の無い彼ならば、この言葉に心が折れていただろう。だが―――、

 

“無理だんて、無謀だんて、不可能だなんて誰が決めたんですか! 例え敗率99.9%でも0.01%がある! 0.0001%がある! 100%なんてないのですよ!”

 

 挑戦者として挑む彼等を見た反行はその夢と共に強き意思を心に宿していた。

 

“やってやりますよ! 私は! 学園最強すらも打ち砕いてみせます!”

 

 その強き意思を持ち、無謀なる夢を語った。

 その夢に彼等は頭を上げる。

 一人は言う。“本気か?”と……。

 

 彼は答える。“本気だ”と……。

 

 また一人は問う“無謀だ”と……。

 

 彼は答える“無謀でも構わない”と……。

 

 彼は言う。

 

“最期まで挑んでみせますよ! 貴方達が目指していたように!”

 

 そう強く言い放った。

 

 彼の言葉から少し経った後、突如一人が笑い出した。

 その男は言う。

 

“こいつは馬鹿だ”

 

 その言葉に応える様に、他の何者かが続ける。

 

“ああ、正真正銘の馬鹿だ”

 

 その言葉に怪訝な表情を見せる反行。気付けば、俯いていた影達は、皆反行の事を見つめている。疑問に答えるように彼等は語る。

 

“まさか負の結晶たる俺達に、未だその言葉を投げかける者がいるとはな”

 

 彼ら曰く、自分達は上級生に挑み、敗北した際に出てきた悔しさや悲しみが密集して生まれた存在らしい。故に常に悲しみしかなかったのだ。

 

“だが同時に、お前が語る無謀な夢を諦められなかったからこそ、絶望している感情でもある。だからこそお前の言葉に惹かれちまったらしい”

 

“その希望、決して容易い物ではない”

 

“例え、勝利の可能性が残されていようと、極小の勝利を掴めるかどうかなど、雲を掴むに等しい事”

 

“言うは易し、叶えようと思って叶えられる物なら、我等も絶望などしなかった”

 

“アナタが一人でどんなに足掻いたところで、達成できる筈が無いでしょう?”

 

“……だから”

 

 そう言うと、彼等は光となり反行に集まっていく。

 

“持っていけ、俺達の想いを……”

 

“そして叶えてみせろ、お前の夢を……”

 

 その答えを聞いた反行は涙に溢れながら答える。

 

“はい! 叶えてみせます! 貴方達の夢を! そして私の夢を……っ!”

 

 そして光に包まれ―――、

 気が付くと、彼は再び魂祭殿の前に立っていた。彼の目の前には反応を示す水晶がある。

 白い光が気泡の様にゆっくりと溢れ、空に向かって無数に昇っていた。

 それと同時に教師からの合格と言う声が響く。

 その声を聞いた彼は、強き意思を持って向かう。もはや彼には怯えなどなかった。彼は、逆地反行は、この瞬間から一つの夢へと向かう挑戦者となったのだ。

 

 

 7

 

 

 拳が届く。歓声が上がった。

 今まで一方的だったFクラスが、Aクラス相手に善戦を繰り広げ、未だ状勢は覆る気配が無い。これはひょっとするとひょっとするかも? そんな期待がE、Fクラスの中でどんどん大きくなってきている。

 対して、対戦相手として連れて来られた他クラス勢は、黙って戦況を分析していた。

「何故東雲は能力を使わない? アレでは不利になるばかりだろう?」

「たぶん、使わないのでは無く使えないのだろう?」

 凍冶の質問にレイチェルが推測を語る。

「逆地の能力は、相手の強さに比例して身体能力を強化する対応の物だと推察する。だから九曜で戦わせた時はかなり強かった印象だが、今は幾分弱化している様に見える」

「なるほど、東雲はイマジン体を戦わせるのが主力。それが仇となったわけだ」

「でも、あの()()()()()……、『武器化』も出来たよね? それはどうして使わないの?」

 原染(はらぞめ)キキの質問には風祭冬季が答えを推測する。

「武器が強過ぎるのが欠点なんだろう? 『神格武装』なんて使えば、自身も強化される。強化されれば、相手も強化してしまう。手段が無いなこれは……」

「ならっ! 今度こそ俺達の勝ちだろっ!? ―――ですよねっ!? 反行が、俺達の道を切り拓いてくれるに違いないぜ! ―――違い……ないぜっ!」

「今、最後だけ敬語思いつかなかったんだな……」

 只野人に龍馬が乾いた声でツッコミを入れる中、唯一この結末を知っている明菜理恵は微妙な面持ちで行く末を見守っていた。

「……。いずれにしても、さ……」

 理恵は誰にともなく呟く。

「この勝負は、力に恵まれなかった者が、その信念の強さで打ち勝つ試合だ……」

「……」

 理恵の言葉に無言の肯定をひっそりと抱き、レイチェル・ゲティングスは劣勢に立たされている東雲カグヤを見つめる。

「……、嫌な奴だ」

 

 

 次々と放たれる拳に、防戦一方のカグヤ。手で払い、半歩退いて躱すも、反撃する気配は一切見られない。いや、表情こそポーカーフェイスだが、薄っすらと浮かんだ汗が、余裕の無さを表わしている。

 反行が強く踏み込み拳を突き出す。

「……っ!」

 短く息を吐きながら、下げた左と、上げた右の腕を交差させた中心で拳を擦り合わせる様にして勢いを削り、なんとか受け止める。続いて来た反対側の拳は避け、再び突き出された拳には抜き手のカウンターに見せかけ、腕が擦れ合う様にして勢いを削り、反対の手の平でなんとか受け止める。

 今度は距離が近づいた事で掴み技に入られ、危うく投げられそうになったが、両足で相手の踏み込んだ膝に乗せる様にして飛び退き、無理矢理引き剥がす。

 地面を転がる様にしてなんとか距離を取るも、軽やかなステップを踏みながら迅速に距離を詰められ、左腕の連打を飛ばしてくる。

 地面に足を滑らせるようにして自分の位置を移動させる歩法で上手く距離を支配し、なんとか致命打だけは避けるも、反撃の隙を窺えない様子であった。

(さすがに……、どうした物か……)

 多少の焦りを覚えながら、表情には出さず、反撃に見せかけた牽制で何度か抜き手を放つが、僅かな時間稼ぎ程度にしかならない。上手くペースを掴みかねていた。

 拳の連打が来る。何度目だと思いつつも、ただの連打にも数パターンが存在するので対応が一々面倒だ。腕をクロスさせ、踏ん張りつつも距離感を半歩ずらす。相手の拳が一番力を発揮する、伸び切る距離よりも半歩分後ろの位置で、身体をやや前傾姿勢にして固定。反行の拳はクロスした腕に接触するが、本当に触れた程度にまで抑え込まれ、大した衝撃は届かない。

(それでも痛てぇ~よ……っ!)

 内心一人愚痴りながら、相手の微妙な距離調整に合わせて姿勢をずらし有効打を回避する。

 ドンッ! 突然踏み込んできた一撃に、慌てて飛び退く。飛び退く最中、ほぼ空中の位置で拳が腕にめり込む。互いに『強化再現』をしているので、破裂する様な鈍い音が炸裂するが、ギリギリダメージは抑えた形になる。ガードした腕は吹き飛ばされた物の、なんとか体勢は崩されずに済んだ。

 更に踏み込み、反行の拳が飛び出す。だいぶ要領を掴み始めたのか、無駄が無くなり、半身の姿勢で片腕の連打で追い詰めに掛ってくる。

 地面を滑る様なステップで回り込むようにしながら避けるカグヤだが、先程よりも確実に追い詰められ始めていた。

「逃がしません! 例えアナタがAクラスでも、今日、この日! この試合だけは私達が貰います!」

 軽やかなステップインで近距離から飛ばされる拳が、少しずつ距離感を掴み始め、カグヤのガードに命中して行く。回避できる数が次第に減っていき、ガードごと弾き飛ばされる数も増えて行く。

()……っ!」

 危うく貰いそうになった拳が、ガードしている腕に確実なダメージを与えて行った。右腕がピリピリと痛みを訴え始めたのを感じて、大胆に飛び退こうとしたが、寸前のところで思いとどまり、前方向に向かって飛び込むようにして前転、相手の後ろに回り込む。ほぼ同時のタイミングで、反行が思いっきり踏み込み、右の拳を突き出していた。回り込んでいなければ確実に仕留められていた一撃に、空ぶった空気と、踏み込まれた地面が土煙を上げて盛大な爆発音を響かせた。

(ただの『強化再現』でそれはちょっとおかしいだろう……?)

 愚痴っぽく漏らしながら、片膝を付いた状態で相手の様子を窺うカグヤ。

 反行はゆっくりと振り返りながら、決意に満ちた瞳をカグヤに向ける。

「アナタにとったら、所詮私達はFクラス(劣等性)かもしれません。それでも、私達だって努力を惜しまないし、勝利のために何だってやります。その意思だけは誰にも負けません」

 拳を握り直し、反行は構える。

(他人)に言われたという理由だけで戦っているアナタと違って、自分の意思で、戦い、目指す物を持っている私達は、絶対に負けませんっ!」

「……!」

 踏み込む反行。

 その姿がスローモーションのようにゆっくりと映る世界の中で、カグヤの思考は内側に埋没した。

(コイツは何を言っているんだ……?)

 心がざわつく。反行が何を言っているのか一瞬理解できない。

 自分の中で噛み砕く。

 つまり、コイツは、東雲カグヤには自分の意思はなく、義姉、神威の言う事だけを聞く人形の類か何かだと思われていると言う事なのだろうか?

 思い返せば心当たりなど無いわけではない。いや、むしろ自分からそのように振舞ってる節などいくらでもある。

 それらは全て、“彼女が望んだから”こそ、そうして振舞ってきた物だ。不服など無かった。不満など無かった。いや、多少気が引ける事はあれど、彼女の言い付けに逆らう理由など何一つなかった。だから彼女の言葉には全て従い、そのように振舞ってきた。この身はいつだって、彼女のためにだけ存在し続けてきた。

 だからそう思われても仕方ないし、事実そうなのだろう。

 なるほど、だからコイツは自分に対して因縁めいた事を言っていたのかと理解する。

 強い自分の意思で、自分が決めて、目指す物にまい進する者にとって、他人の意見に動かされ、操られている者の姿は、腹立たしい物に映った事だろう。この存在にだけは負けない。ただの操り人形相手に、己の意思を持たぬ者に、自身の夢のため、意思を持って戦う自分が負けるなんて事は許せない。そんなところなのだろう。

 

 フザケルナ……ッ!

 

 (たが)が外れた様に心の内から激流が流れ込む。

 嘗て、似た様な事があったのを思い出す。

 あれは、恩人で在り、仇でもある彼女(、、)が、義姉と二人で話していた時の事だ。

「あの子が何を選ぶにしても、その選択はあの子に在るべきでしょ? そう言う風に育てたのがアナタだと言うのなら、せめてあの子には自分の意思で考える時間を上げたらどうなの?」

 そんな会話をしているのを偶然聞いた事があった。

 あの時も、カグヤは腸が煮えくり返りそうな激情に駆られた。

 他人の意思に従う事の何がいけない? 他人の言う通りに行動する事の何が悪い?

 そんなに自分で決めた事の方が偉いのか? 自分で決めれば何でも正しいのか?

 フザケルナだ!

 そんな理屈など、ある筈がないだろう!

 正義感ぶって、正しい風な言葉を並べて、主人公気取りにでもなっているのか?

 

 世界が時間を取り戻す。迫る拳に対して、全力を持って踏み込み、額をぶつけた。

 『強化再現』は自身の内側に来る衝撃吸収にのみ全力を注いだので、額が割れ、僅かに血が滲むが構わない。普通なら衝撃で気を失いそうになるが、衝撃は吸収したのでその心配はない。

 人体で肘や膝などに次いで固い、額にぶつけた事で、反行の拳は逆に強過ぎる衝撃を貰い痺れ上がった。顔をしかめ、一瞬の隙が生じたところに、カグヤは踏み込む。

「バカにしてるにも程がある……っ」

 裏拳を軽く振り上げ、顎を殴打。顎を揺さぶられた衝撃が骨を伝い脳に至り、軽い脳震盪を起こさせる。

 反行は立っていられなくなり、膝が屈しそうになるのをなんとか堪える。

 その隙を突き、掌打を懐に押し当てるカグヤ。

 まずいと判断して無理矢理飛び退こうとする反行だが、その襟首を素早く掴み上げられ引き止められる。

「逃がすかよっ!」

 カグヤの顔が至近に迫る。ポーカーフェイスだった表情は激情に歪み、明らかな憎悪が色濃く出ていた。

 掌打を捻る様にして撃ちこまれる。発揮された一撃は、打撃ではなく、振動による圧力攻撃。浸透勁(しんとうけい)に類似する零距離衝撃。

姫咲(ひめさき)流裏技・天皇(すめらぎ)

 ズンッ! っと言う音がしたのではないかという錯覚と共に、重い衝撃を受けた反行は、今度こそ立っていられなくなって倒れ込む。それでも地面を無理に転がる事で、なんとか距離を取り、僅かな間を作りながらも瞬時に立ち上がって見せる。

 だが遅い。既にカグヤの手には『神実(かんざね)』によって神格武装化している黒刀の闇御津羽が握られている。同時に反行の能力『空想学園の反逆者達』が『空想強者に異を唱える者』を発動させ、身体能力を強化するのだが―――、

(なっ!? なんで出力が出ないっ!?)

 反行が予想していた程の効果が発揮されず、ふらつく身体を立て直す事が出来ない。『空想強者に異を唱える者』は相手が強ければ強いほど、その効果を飛躍的に向上させる効果を持つ。相手が上級生であれば、同等に匹敵するステータスを有する事が出来るほど、この能力は強力な物なのだが、どうした事か、カグヤを相手にする時は思っている程の出力がまったく出てこない。神格武装を手にした今でさえ、その効果はあまりに微々たるものだ。

 迫るカグヤを視界に捉えながら、反行は腕をクロスさせ、『強化再現』で防御を固めることしかできない。

「姫咲流・桜花―――ッ!」

 下段の構えから弧を描く様に斬り上げ、逆下段に戻る逆Uの字を描く独特な斬激が炸裂。強化された耐久値を超え刃が食い込み、血飛沫が花弁のように舞う。

雛罌粟(ひなげし)!」

 止まらず、カグヤの斬激が三角形を刻む様に放たれ、更に血飛沫の花が散る。

飛燕草(ひえんそう)!」

 蹴り上げを顎にくらい宙を舞う反行、続けて追う様に飛び込んできたカグヤに斬り上げをくらい、更に身体を捻って横一文字の斬激を腹部に食らってさらなる赤い花が咲き誇る。トドメに蹴り飛ばされ、地面を転がる。

「奥義・落花流水(らっかりゅうすい)!」

 空中で投げ出された闇御津羽の柄頭を踏みつける様に蹴りつけ、空気を切り裂く様に投剣された。刃の切っ先は反行の足を貫き、軽い衝撃が周囲に奔る程の力で地面を突き刺し、縫い止める。

「がはう……っ!」

 全身を襲う衝撃に痺れ、反行の動きが完全に止まる。

 着地したカグヤの手に、炎が湧きたつ。

「テメエが俺にどんな印象を抱こうが知った事じゃねえ……」

 炎は次第に大きくなり、カグヤの周囲で蜷局(とぐろ)を巻いて行く。

「だが、俺の信念がお前に劣っているだと? なんでそんな事をお前に決められなきゃならねえんだよ?」

 炎は形を成し、六角柱の柱を合わせた一角を持つ龍の形を成す。

「俺は義姉様の願いを叶える……。それが例え―――!」

 「既に、必要ではない願いであっても―――」っと言う言葉の続きを心の中だけで叫び、カグヤは拳を握り、神を招来させる。

「『軻遇突智』!!」

「ゴアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 カグヤの命に従い、雄叫びを上げた炎の荒神軻遇突智は、六角柱の身体をガラガラと鳴らし、関節から炎を迸らせながら反行へと突撃する。

 刃に縫い止められ、動く事の叶わない反行は、それでも『強化再現』を全力で用い、なんとか攻撃に耐えようとする。

「まだだ……っ! 例え、どんなに少ない可能性でも! 私達は、決して諦めたりなど―――!」

 言葉の途中、突然異変が起きた。反行は『空想学園の反逆者達』の能力の切り札となる効果を発揮しようとした。しかし、何故かその力は発動せず、反行に与えていた力も次第に失われていく。

(どうして……っ!?)

 驚愕する反行の目に、嘗て見た、先輩達の姿が幻視される。彼等は反行を一度振り返るが、一様に首を振ると、そのまま立ち去る様に遠のいて行ってしまう。まるで、「お前が戦うべき者はコイツじゃない」と語るかのように―――。

「どうして……っ! どんなに小さな可能性でも諦めず、いつか、いつか必ず……! あの東雲神威にだって勝って見せると誓ったじゃないですか……!?」

 彼等が立ち去って行く意味が解らず、言葉を投げかけるも、彼等は決して振り返らない。彼等の遠ざかる背中を見つめたまま、反行は炎の中に呑み込まれて行った。

 

 

 試合終了。勝者は東雲カグヤだと終教諭の宣言がなされるのを、何処か遠くに感じながら、反行は視界に広がる空を眺める。空はすっかり赤味を宿し、暗くなる前の最後の輝きを湛えていた。

 どうして彼等は自分から離れて行ってしまったのか、その疑問だけが反行の脳裏を駆け巡り続ける。負けたことよりも、そっちの方がショックだった。

 不意に、視界に誰かが映り込む。視線を向けると、黒く長い髪を肩にかけた少女顔の東雲カグヤが、こっちを見下す様な視線を隠そうともせず見下ろしていた。

「さっき、義姉様に挑むとか何とか聞こえたが……」

 険しい視線の正体はそれか、と納得する。どうも、この少年は自分の義姉の事になると感情の起伏が極端になる、と反行は妙に冷静な頭で考える。そんな反行に対し、東雲カグヤは吐き捨てる様に言い捨てた。

「義姉様に勝てる可能性なんて絶対的に0だ。既存の可能性に縋ってる奴が、俺と同じ目標を掲げるんじゃねえ。あの人の足元に及びたければ、せめて0から可能性を引っ張り出すくらいの事はして見せやがれ」

 それだけ言ってカグヤは離れて行き、二度と反行に振りかえる事はなかった。

 「自分と同じ目標」っと言う言葉に、少しだけ驚き見開いた目で立ち去る背を見つめる反行。

 ―――っと、立ち去ろうとする途中のカグヤを、レイチェルが軽く肩を押す様にして手を突き出した。

 

 ドシャッ!

 

 そのままカグヤは地面に突っ伏し、痙攣を始めた。

「うん、やっぱりお前、もう色々限界だったな。なんか妙に格好つけてるから、絶対何か誤魔化してると思った」

「テメエ! 人前で諸に突き飛ばしてくれてんじゃねえよっ!! ああ~~~っ、くそっ! 立てねぇ~~~~っ!!」

 じたばたと藻掻くカグヤだが、地面に突っ伏したまま一向に起き上れる気配がない。それだけ身体に蓄積したダメージが大きかった事が今更になって解った。

「まったく……、“そんな恵まれない貧弱体質で、素手の殴り合いなんかするからそうなるんだ”」

「―――ッ!!」

 反行は耳を疑った。レイチェルの言葉に「うるせぇ!」と憎まれ口を返すカグヤを見つめながら、ようやく“彼等”が去って行った理由を思い知る。

(どれほどかは解らないけど、彼もまた、肉体的に恵まれなかった弱者の側の人間だった訳か……)

 弱者でありながら、それでも強者に挑もうとする強き意思を持つ者。彼もまた自分と同じ存在だったのだと思い知り、納得する。

(通りで力が溢れないわけだ。彼は私よりも身体能力が劣っていたのでしょうね。だからこそ、能力は効果を発揮せず、“彼等”もまた、“私達”が戦うべき相手ではないと判断したのでしょう……)

 妙な納得と共に、襲ってくる眠気に身をまかせながら、反行は取りとめもなく最後に浮かんだ疑問を思い浮かべる。

(彼が自分の意思を持っていると言うのなら、何故、彼は彼女の言葉に従うのでしょうか?)

 その疑問の答えを彼が知るのは、まだずっと先の事であった。

 

 

 8

 

 

 全ての試合が終わり、Fクラスの生徒達は思い知る事になった。どうして自分達は一学期中に決勝トーナメントに参加できないのか? それは、Fクラスには、現状では戦闘力として数えられるレベルに達していないと言う事実が存在するからだ。

 それは相当にショックを受ける事実ではあったが、だが同時に、希望が潰えていない証拠として、二学期以降は決勝トーナメントに参加できるようになると言う事を教わった。

 今は自分達の弱さを受け入れ、これから強くなっていけばいい。落差はあれど、皆そう考えを改め、それぞれが帰路に着いた。

 

 その夜、教師の許可を貰った上で、Bクラス勢は総出でこっそり外出。練習用アリーナにてBクラストップランカー、ジーク東郷の訓練を計画していた。他のクラスに一切手の内を明かす事無く、じっくり研鑽を積める様にと、カルラ・タケナカが考えた訓練メニューであった。

 その練習用アリーナにて、件のカルラは地面に突っ伏しながら驚愕の表情で、その光景を眺めていた。

「ふぅ~~……、やれやれ、さすがに危ない所だったな」

 そんな声を漏らし、剣を地面に刺して肩の凝りを解すジーク東郷。彼の周囲には、彼に一斉に挑んだ筈のBクラス生徒全員が倒れ伏し、敗北を露わにしていた。

「しかし、不滅の肉体であっても油断はできない物だな? 窒息に毒に、脳震盪、幻と、結構弱点が多かったりするんだな? これは決勝トーナメントも油断できない」

 そんな風に自分の弱点を羅列するジークだが、カルラは驚愕のあまり、何も言葉を掛けられなかった。

(策は弄した、全力を尽くした、ありとあらゆる可能性を模索し、全てを試み、Bクラスの全員で挑んだ……。それなのに……)

 それなのに、ジーク東郷はたった一人、戦場の勝者として立ちつくしている。その事実は、あまりにも異常な物として目に映った。

(異常過ぎる……! いくらBクラス最強とは言え、アナタの強さは新入生の中では明らかに破格過ぎる……!)

 認めざるを得ない。他のクラスの強さがどれほどなのか、まだ見当が付いている訳ではなかったが、それでもここまでの事実を突きつけられ、カルラは確信を持って認めるしかなかった。

(紛れもなく、ジーク東郷は、一年生最強の生徒です……っ!)

 

 新入生、決勝トーナメントは、既に間近に迫っていた……。




~あとがき~

≪司≫「なあ、アンタに聞いてみたい事があったんだがいいか?」

≪カグヤ≫「なんだよ? もう用は済んだから帰りたいんだが? この後別の用があるし」

≪カルラ≫「そうです。この人には速やかに出て行って欲しいんですけど?」

≪カグヤ≫「さて、腰を落ち着かせてじっくり話そうじゃないか?」

≪カルラ≫「出て行けって言ってるでしょう!」

≪司≫「実は最近ずっと気になってたんだがな?」

≪カルラ≫「話進められたっ!?」

≪司≫「なんか、食堂でも談話室でも、上級生の姿を見ないんだよな~?」

≪司≫「お前、上級生に知り合いいるんだろ? 何か知らないか?」

≪カグヤ≫「カルラが、ツッコミ入れてくれたら話しても良い」

≪カルラ≫「なんで私に要求が来るんですかっ!?」

≪カグヤ≫「ありがとうございます」

≪カルラ≫「ああっ!? しまった~っ!?」

≪カグヤ≫「俺も良く知らんが、義姉様曰く、この一ヶ月間の間は、上級生が妄りに下級生と接触しちゃいけないんだとよ? 理由は教えてもらえなかったが」

≪司≫「そうなのか? なんでなんだ?」

≪カグヤ≫「もっと、カルラがツッコミ入れてくれるなら調べてきても良いぞ?」

≪カルラ≫「二度も私がそんな手に乗るとでも?」

≪司≫「そうだ、カルラは突っ込まれる方が好きなんだぞ! “突っ込まれる方がっ!”」

≪カルラ≫「なんで誤解を招きそうな所を強調するんですかっ!?」

≪カグヤ≫「時間が空いてる時に調べて来てやるよ」

≪カルラ≫「司に突っ込んでもOKだったんですかっ!?」

≪カグヤ≫「ありがとうございます」

≪カルラ≫「しまったっ!? またしてもっ!?」

≪司≫「いっそ、カルラを貸す代わりに何か要求できそうだな? アンタ」

≪カグヤ≫「おい、なんだその魅力的な提案? Aクラス相手に商売が出来るぞっ!?」

≪カルラ≫「私の存在が一クラス丸ごとに影響する訳無いでしょうっ!?」

 ガチャッ!

≪菫&契&星琉&彩夏&レイチェル≫「「「「「今の話本当なら、一枚かませてっ!」」」」」

≪カルラ≫「えええええぇぇぇぇ~~~~~っっっ!!!??」

≪司&カグヤ≫「「おおぉ……っ、カルラさんモテモテ」」


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ハイスクールイマジネーション予告

再就職先が思いの外重労働……。
一月から三月末までかなり忙しいので、全然書いてる時間が無いです……。

なので、しばらくお待たせしてしまうご報告ついでに、予定しているイベントの予告編みたいな物を作ってみました!


★クラス代表戦・前哨戦:エキシビジョン

 

 

≪レイチェル≫:私は絶対に譲らない……

 

≪カグヤ≫:俺は絶対に譲らない……

 

≪レイチェル&カグヤ≫だから絶対に、負けたくない……っ!

 

 似た性質を持つ二人が、今、前哨戦の舞台にてぶつかり合う!

 炎と焔、水流と流水が乱れ合い、神と悪魔が交差する。

 戦いの決着を決めるのは、互いに残した三枚目の手札!

 

≪レイチェル≫:ロノウェー! 憑依!

 

 激しい戦闘! 果たして打ち勝つのは、どちらの切り札なのかっ!?

 

≪カグヤ≫:迦具夜の神子たる、東雲の覡が願い奉る―――

 

クラス代表戦・前哨戦試合・エキシビジョン。

恐らく三月以降に公開。

 

……出来れば三月頃には出したいです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★クラス代表戦・第一試合:八束菫VS小金井正純

 

≪正純≫:例え運が良かっただけの最強でも、負けて良いなんて思えるはずがない。

 

≪菫≫:こんなに、皆が協力的なの……、ちょっとプレッシャー……。なのに、なんでか心地良い……。

 

≪正純≫:勝利の鍵は、フィールドに水があるか無いか……!

 

≪菫≫:うわぁ……、湖のど真ん中だ……

 

 ついに始まるクラス代表戦! その先陣を務める二人は剣と星の煌めきを瞬かせる!

 

≪菫≫:お、溺れる……っ!

 

≪正純≫:文字通り、今の俺に死角はねえっ!

 

 湖上で展開される剣舞と流星。最後まで湖面に姿を映すのは、果たしてどちらなのかっ!?

 

≪菫≫:ぶっ、た切れーーーーっ!!

 

クラス代表戦・第一試合!

三月以降に公開! ……予定!

 

最後まで立ち続け、決勝の舞台に上がれ!

 

 

 

 

 

 

★クラス代表戦・第二試合:ジーク東郷VS甘楽弥生

 

≪弥生≫:ベルセルク第四章……、国落とし『崩壊』……っ!

 

 大地は崩落し、形ある物は全て粉砕されていく。

 それでもなお、砕かれぬ鋼の英雄は高らかに剣を振るう。

 

≪ジーク≫:残念だが、君の力でも俺の権能は砕けない

 

 不滅を相手に、戦神狂はその在り方を変える。

 それは、既に宣言された頂き。

 その者こそ勝者である。

 

≪弥生≫:我は言霊の技を以って、世に義を顕す―――

 

 勝者が振るう黄金に、不滅の権能は崩れゆく。

 故に不滅の男は、高らかに哄笑する。

 

≪ジーク≫:やっと、やっと会えたぞ! おおっ、我が愛しのブリュンヒルデ!!

 

 戦いの幕が真に開かれた時、神話最強の剣が目覚める。

 

≪ジーク≫:神格、完全解放……っ!

 

 

 

 

 

★クラス代表戦・決勝戦(選手名伏せ)

 

 行われるのは、最強と最強の対決。

 荒れ狂う猛威の交差。

 氷雪のフィールドにて、ついに、二強の戦いが始まる。

 

 勝利の鍵を握るのは……意外な事にEクラス生徒!?

 

≪創≫:素材は上々、あとは作り手次第……。

 

≪昌恒≫:アレだけの鞘がなければ、あの剣の力は受け止められなかった。

 

≪ツェーザル≫:依頼されて作った物だが、役に立ったようだね。美しいよ。

 

≪司≫:私の剣でなら、やれる!

 

≪アルト≫:上等だ! 俺が作った物が上だって見せてやんなっ!

 

 最強の舞台。

 栄光と共に挑むのは、果たして誰かっ!?

 そして、勝者は―――っ!?

 

いつか必ず書きます……!

 

 

 

 

 

★オーバーフロート

 

 今も憶えとるよ……。

 

 何年の時が阻もうと―――、

 幾多の時代に摩耗しようと―――、

 出会う人々の影響を受けようと―――、

 

 それでも私は、今でもずっと、アナタの事を憶えとるよ?

 

 私の大切な、一番の親友を……。

 

 

突如巻き起こる赤いイマジン粒子。

ギガフロート初の侵入者にして脅威。

暴走するイマジン発生炉。

汚染されるイマジネーター達。

全ての元凶は、ギガフロートが生み出し、最悪の火種。

 

猛姫―――

 

≪レブナント≫:再び戻り、脅威となるか……、猛姫……。

 

≪マザーナイン≫:どうして……? どうしてアナタが、こんな事を―――っ!?

 

幾千幾万と放たれる斬激は、教師を圧倒し、ついに生徒にまで降り注ぐ。

 

≪龍斗≫:死ぬ……! 戦うとか、戦わないとかそういう次元を逸脱してる……っ!

 

≪聖≫:これ、出会っちゃダメな奴だよ……。

 

≪神威≫:命の一万や二万―――っ! 好きなだけ持っていけっぇーーーーっ!!

 

≪刹菜≫:神気解放! これが、私達の全力だーーーっ!

 

≪ハク≫:待たせちゃって、ごめんなさい。

 

≪留依≫:大人しくしてる場合じゃない!

 

≪灯宴真≫:焼き尽くしてやるっ!

 

 

≪猛姫≫:……はあ、うるさい……。

 

 

強い想いすらも切り裂き、神はその存在を示す。

並び立つ者はいないのだと。

全てが傷の上に積み上げられる中、ついに対立すべき神が姿を表わす。

 

≪ゆかり≫:さあ、始めよか? 一世一代、親友同士、二十年越しの大喧嘩。これで終いにしよう。

 

激突するは空間の支配。

対立するは無限の刀刃。

 

今、ギガフロート―――否、イマジン界最強の二柱が、神話を始める!

 

ハイスクールイマジネーション The Movie

≪オーバーフロート編≫

クラス代表戦終了後、公開開始!

 

 

……The Movieは気分である!

 

 

 

 

 

 

★オーバーフロート(カグヤ)

 

 俺は失ってばかりだ……。

 

 この手に残せたものも……、

 守り通せたものも無く……。

 

 零れ落ちたものを、拾う事さえ叶わなかった……。

 

巻き起こる赤いイマジン粒子。

異常を来すイマジネーター。

汚染されしイマジン体、九曜は、カグヤの知らぬ物へと変貌して行く。

 

≪罔象女神≫:もはや妾は、一柱の神である。人間如きが妾に命令するでない!

 

絶対的な力の前に、無残にやられるしかないカグヤ。

それでも彼は、愚かにも挑み続ける。

 

≪カグヤ≫:俺一人で倒すっつてんだよっ!

 

≪男≫:それが無茶だって言ってるんだよ!

 

≪人≫:お前は一人じゃない。協力し合う事の何が悪いと言うんだ?

 

≪反行≫:君は何の信念を持って戦ってるんだい?

 

≪カグヤ≫:邪魔すんなぁ~~~~~~~っっ!!

 

振り払った先で、彼が手にする物は―――っ!

 

≪カグヤ≫:神格完全解放―――灼炎・軻遇突智!

 

ギガフロート最大の危機に、矮小な力しか持たない一年生達が、今、限界を超えて挑む!

 

ハイスクールイマジネーション The Movie

オーバーフロート編・カグヤの章

≪罔象女神≫≪失う者≫≪九曜一片≫

 

乞う御期待。

 

≪罔象女神≫:諦めろ。軻遇突智では妾を倒せない。

 

鎮火する火の中に、少年は沈む……。

 

 

 

 

 

★オーバーフロート(瓜生)

 

 知らなかった……。

 ずっと信じていたんだ。

 

 僕は僕自身だと……。

 僕ではない僕がいたとしても、それでも、僕が僕である事には変わりはないって……。

 

 ずっと信じていたんだ。

 

 それが嘘だったなんて……、

 

 冗談、だろ……?

 

巻き起こる赤いイマジン粒子。

異常を来すイマジネーター。

その影響を受けて宍戸瓜生の本性が目覚める。

 

≪瓜生≫:はっはっ! 何年ぶりだ? この感覚はよぉ~!?

 

彼を救い出す為に、戦う仲間達。

だが、無情にも、その力さえ奪われていく。

 

≪和樹≫:の、能力が……、無くなったっ!?

 

≪弥生≫:がふ……っ!

 

大切な友を助けるために動く事も出来ず、失意にくれる少年。

ギガフロート最大の危機に、矮小な力しか持たない一年生達が、今、限界を超えて挑む!

 

≪楓≫:青薔薇……、きっと今の私達にぴったりの花言葉ですわね……。

 

ハイスクールイマジネーション The Movie

オーバーフロート編・瓜生の章

≪崩壊世界の宍戸瓜生≫≪青薔薇の炎≫≪表裏一体のホメオスタシス≫

 

乞う御期待。

 

≪瓜生≫:よう、弱虫? 覚悟は良いか?

 

≪瓜生≫:ああ良いとも。始めようか? 僕達の決着を―――!

 

 

 

 

 

 

★オーバーフロート(陽頼)

 

 知っていた。

 解っていた。

 

 でも、大丈夫だと思ってました。

 

 だって私は、ここに一つの自我として成立してる。

 

 例え性格が変わっても、私自身まで変わる事はなかった。

 

 だから、完全に制御出来ているのだと思ってた。

 

 けど、本当はまだ、ずっとソレが、生きていたなんて……、

 

 私は、気付けなかった―――。

 

巻き起こる赤いイマジン粒子。

異常を来すイマジネーター。

汚染された緋浪陽頼の内に潜む物は覚醒し、一年生達を蹂躙する。

 

≪シオン≫:汚らわしい汚物となった物だ。見るに堪えん。

 

≪彩夏≫:私は絶対に助ける!

 

触腕、鉤爪、手が自在に伸縮する無定形の肉の塊と咆哮する顔のない円錐形の頭部。

這い寄る混沌を前に、次々と被害は広がっていく。

 

≪リリアン≫:倒す以外に……、ないじゃないっ!?

 

汚染される生徒は更に増え、絶望は広がる。

 

≪神也≫:殲、滅、殲滅、殲滅殲滅セン滅センメツセンメツセンメツメツメツメツツツツツーーーー……ッッ!!

 

≪有人≫:あははははっ! ついにこの時が来た! さあ! 刮目せよアザトース! これが我らの邪神だ!

 

≪暁≫:鬼……っ! 鬼を……っ! 殺すっ!

 

≪美砂≫:もっと、もっと私を殴ってよっ!

 

汚染体となった仲間達を前に、彼等は戦いを強要される。

 

≪星琉≫:まだ負けたわけじゃない!

 

≪詠子≫:盲目にして無貌のもの。このグリモワールが混沌すら識る者と、見せてくれようぞ!

 

≪金剛≫:この身で受ける以外に、応え方を知らん……っ!

 

≪勇輝≫:絶対取り戻す……っ!

 

≪凉女≫:戻ってきてほしいと……、望んでいるからですよ……?

 

≪畔哉≫:思いっきり、抱きしめて上げるよぉ~っ!

 

≪彩夏≫:邪魔を―――、するなぁーーーーっっ!!

 

ギガフロート最大の危機に、矮小な力しか持たない一年生達が、今、限界を超えて挑む!

 

≪サルナ≫:行きなさい。その道くらいは、作ってあげるわ……。

 

ハイスクールイマジネーション The Movie

オーバーフロート編・陽頼の章

≪ニャルラトホテプ≫≪噛み合う歯車≫≪おかえり≫

 

乞う御期待。

 

≪彩夏≫:もう、君を離さないよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

★オーバーフロート(プリメーラ)

 

 我は星の代弁者。

 

 我は人類の監視者。

 

 我は……、お前達の、敵である。

 

巻き起こる赤いイマジン粒子。

異常を来すイマジネーター。

その煽りを受け、三年生並みのイマジンを手に入れたプリメーラ・ブリュンスタッド。彼女は、己の使命のために、自ら行動を起こす。

 

≪プリメーラ≫:もはや必要無き人類よ。過ぎたる力を持つと言うのなら、星の裁きを受け入れよ。我こそが、星霊である!

 

混乱するギガフロート。それに乗じて、彼女は世界を激変させる。

 

≪プリメーラ≫:さあっ! これより始まる物こそ星の舞台! 過ぎたる力を持ちし者物よっ! その報いを受け入れよっ!

 

≪菫≫:し、った、事、かぁ~~~~っっ!!

 

ギガフロート最大の危機に、矮小な力しか持たない一年生達が、今、限界を超えて挑む!

 

ハイスクールイマジネーション The Movie

オーバーフロート編・プリメーラの章

≪星霊・プリメーラ≫≪イクシード≫≪クラスメイト≫

 

乞う御期待。

 

≪菫≫:プリメーラ、は……、クラスメイト、だけど……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★オーバーフロート(ゆかり)

 

 

 今も憶えとるよ……。

 

  今でも憶えている……。

 

何年の時が阻もうと―――、

幾多の時代に摩耗しようと―――、

出会う人々の影響を受けようと―――、

 

 それでも私は、今でもずっと、アナタの事を憶えとるよ?

 

  それでも俺は、今でもずっと、忘れていない。

 

 私の大切な、一番の親友を……。

 

  俺の抱いた……この悲しみ(怒り)を―――ッ!

 

 

巻き起こる赤いイマジン粒子。

異常を来すイマジネーター。

元凶、猛姫とギガフロートの守護神、ゆかり。

二柱の神の争いは、あまりにも壮絶な物となる。

 

≪ゆかり≫:第二覚醒再現『都合のいい箱庭』

 

≪猛姫≫:『刀刃創造』配置:叢雲ノ陣

 

その力、まさに神の激突。

神話を繰り広げる戦いは、激化に次ぐ激化を経て、なおも収まる事を知らない。

 

≪猛姫≫:なら守って見せろ、ゆかり。お前の生徒をなっ!

 

≪ゆかり≫:絶対、姫ちゃんにだけは、ここを壊させたりなんかさせへんっ!!

 

空間を支配し、支配を断ち切り、断ち切る刃を捩じ伏せ、互いの領土を奪い合い、複雑を極める大規模戦闘。

それはついに、正真正銘、神に至る者達の戦いへと移行する。

 

≪猛姫&ゆかり≫:限魂超越(イクシード)!!

 

神となった二人の、イマジン史上最大の戦いが今始まる。

ギガフロート最大の危機! その全ての運命を握る二柱。

勝負の行く末が、全ての結果を決める

 

 

ハイスクールイマジネーション The Movie

オーバーフロート編・ゆかりの章

≪土地神・猛焔悲姫(たけきほむらのひめ)≫≪彼女がまだ、焔薙姫一であった頃≫≪神へと至る者達≫≪だから、未来で語り合おう≫

 

乞う御期待。




オーバーフロート編は、まだまだ挟みこめるイベントがありそうです。
かなりの長編になるので、どうするかはまだ未定ですが、四月以降は沢山時間が取れるっぽいので、一気に書き上げて行きたいですね。




ちなみに……、
更にその後に予定しているイベント情報を予告してみたり?



『異世界動乱編』
≪泣き虫不死鳥は、断頭台の魔女に笑い掛ける≫
主要キャラ

サルナ・コンチェルト
叉多比 和樹


『対校試合編』
≪VSアメリカ支部ギガフロート、リバティースクール(Liberty School)


『想念体、激出編』
≪否定されしモノ≫≪醜き女神≫≪ジェヴォータンの少女≫≪神殺しを作る神≫≪元凶・イオナ≫

明菜理恵
明菜理恵
東雲カグヤ
磐長姫
甘楽弥生
リリシィー
折部 夏凛
ブラウェ

イオナ




一応ここまでが予定されているイベントです。
うん、がんばれ俺。きっといつかは書き切れるはず……。


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一学期 第九試験 【決勝トーナメント前哨戦 エキシビジョン】

ともかく書いて、ともかく出した感じっ!
皆さんお久しぶりです! 二ヶ月ぶり? くらいかな?
添削どころか読み返しもする暇なく投稿!
あとがきは、後日に書き足す予定ですので、読んで下さる方はお忘れなく。

では、とりあえずどうぞ!

【添削済み】


一学期 第九試験 【決勝トーナメント前哨戦 エキシビジョン】

 

 

 

 絶対に譲れない物がある。

 誰にも譲れず、誰にも明け渡さず、誰に(はばか)る事も無く、自分だけの特権にしておきたい物がある。

 

 絶対に譲れない物がある。

 自分の力だけで手に入れた物では無くても、それが大切だと思えたら、それは既に自分だけの特別だ。誰かにその場所を譲るなんて、考えたくもない。

 

 

≪絶対に、譲れない物がある……≫

 

≪その特権を、自分ではない誰かが有すると言うのなら……≫

 

 私は―――、

 

 俺は―――、

 

≪絶対に、負けたりなんかしない!≫

 

 

 1

 

 

『さあっ! 今年もやってきました! 新入生決勝トーナメント、前哨戦! 下界では編集後、PV映像として流される事で恒例のエキシビジョンマッチ!! 本日ここ、特設戦闘アリーナにて、間もなく開催されます!』

 

 響き渡る実況の声、沸き立つ新入生。更には、ギガフロートの市街地エリアより、一般観衆までも訪れ、大勢の人間が集い、僅かに残っていた肌寒ささえ押し退ける熱気を放っている。

 ここはイマジン粒子研究機関、浮遊島『ギガフロート』の中心に建つ、研究学園機関『柘榴染柱間学園』の校舎。その中心が某ロボットアニメの如く変形し、地下に存在していた『アリーナ』と呼ばれる訓練空間を全て繋ぎ合せて完成されたスタジアム。正に本物のアリーナ会場が、その存在を地下から晒していた。

 まさか、自分達が今までの三日間、試合をしていた空間が、全て合体して、地下から姿を表わす事で、決勝トーナメントの会場になるとは、と、新入生達は呆然とした表情で会場を眺めている。

 これだけの大舞台だ。ここで戦う事を許されたクラス代表を尊敬すると同時に羨み、今度は自分こそがあの地に立って見せると、既に闘争心が湧き立つ者までいる。

 そして今日、幸運にも、この地で戦う事を一番に許された二人に、羨望と、冗談混じりのやっかみが送られる中、生徒達は実況の声に耳を傾ける。

 

『今回のエキシビジョンマッチ解説役は、特別に来ていただきました! このお二人!』

 

『片翼としての誇りはあります。首輪は私にとって必須アイテム。朝宮(あさみや)刹菜(せつな)と―――』

 

『その首輪が掛けられている片割れ、ドナドナされた飼い犬、東雲(しののめ)神威(かむい)だ』

 

『人聞きの悪いこと言わないでください。今回は神威も賛成してくれたでしょ?』

 

『ウチの妹弟(いもおと)が出ると聞いて』

 

『解説役なんだから、あんまり依怙贔屓(えこひいき)はしないでよ?』

 

『さてな?』

 

『神威……?』

 

 ジャラジャラ……ッ!

 

『公私混同は控えさせてもらうさ!』

 

『相変わらず仲の良いお二人です! なお、実況は私、三年Eクラス、報道部新部長、篤胤(あつたね)舞子(まいこ)が御送りします』

 

 実況席の会話に笑いを誘われる観客。

 その観客席の一角で、空いている席を探していたカルラ・タケナカは、同級生が固まっているのを見つける。

「おや? 皆さんお揃いで?」

「やあ、カルちんさん、だったかい?」

「カルラ・タケナカです! 凛さんが勝手に呼んだ愛称を流行らせないでください!」

 開口一番にカルラからツッコミを引き出したのは、白い長髪をポニーテールにしている真紅の瞳の小柄な少女、浅蔵(あさくら)星琉(せいる)。カルラの反応に気を良くしてクスクスと笑みを漏らしつつ、手招きして自分達の話へと誘う。

 それに従いつつ、カルラは感心した様子で尋ねる。

「よく席を取れましたね? 一般来訪の方が優先されるはずなのに」

「ギガフロートの一般人は、大体イマジン研究の血縁者ばかりだ。家族ぐるみが殆どだから、皆固まった席を取る。結果的に集団と集団の間に、ちょっとしたスペースが出来ちゃったりするみたいだね?」

 カルラの質問に応えたのは、長い髪をツインテールにしている、女性のような顔立ちをしたゴスロリ姿の少年。水面(ミナモ)=N=彩夏(サイカ)。丁度カルラの座った席の前に座っていて、わざわざ振り返りながら話してくれている。

「なるほど。すると、このメンバーは偶然集まったわけですね」

「ああそうだよ。ちょうど、今の君の様にして皆集まったんだ。おかげで女子比率が高くて、少々肩身が狭い気がするよ」

 そう答えたのは彩夏の隣に座る桜庭(さくらば)啓一(けいいち)少年。

 彼の言葉に釣られ、カルラは周囲のメンバーを改めて見回してみる。

 彩夏の逆隣り、カルラから見て右側には、うっすら青がかった黒髪に、深緑の眼をした背が低めの少年、切城(きりぎ)(ちぎり)が、こちらに向かって手を振っている。

カルラの右隣に居る星琉の更に隣には、短髪黒髪の鋭い目つきをした少女、鋼城(こうじょう)カナミが、残った寒さなど歯牙にもかけないと言うかのように、タンクトップとカーゴパンツスタイルで、何故か自分の能力で使うセルを齧っている。

「それ、美味しいんですか?」

「割と」

(美味しいんだ……)

 意外な感想に苦い顔になってしまいながら、他のメンバーを見回す。

 カルラの逆隣りに座るのは、茶色の髪をサイドテールでまとめた少女、多田(ただ)美里(みさと)―――っと言うのだが、生憎カルラは見覚えがない相手で、これが初対面。互いに顔も名前も知らなかったので、軽く会釈し合うだけで、特段会話も発生しない。

(機会があれば話しかけてみましょう。人脈は大事です)

 美里の逆隣りでは、身長がおよそ150㎝前後と思われ、腰まで届く茶色がかった黒髪に、きつく吊り上がった黒い瞳が特徴的な少女、神永(かみなが)一純(いずみ)がいる。しかしこちらも初対面。視線が合ったが、こちらは会釈どころか笑い掛ける事も無く、ツンッ、と視線を背けてしまう。

(性格はキツ目。こちらも機会があればお話ししてみましょう)

 最後に自分の後ろ隣り、星琉の真後ろに位置する席に座っている相手からは、むしろ向こうから声を掛けてきた。

「始めまして、明菜理恵だ。以後宜しく頼む」

 短めの黒髪に黒い瞳。美里とは対照的に長身な少女は、自身で名乗った通り、Fクラスの明菜理恵だ。

 彼女は少し身を乗り出して、カルラに話しかけてくる。

「カルラ、頭良い方だよね? 試合中、解らない事あったら直接聞ける相手が欲しいと思ってたんだ。その時は質問して良いか?」

「まあ、構いませんよ。でも、私も試合見たいですから、ほどほどに」

「解った了解」

 ニッコリ笑って乗り出していた身を引っ込める。案外親しみやすい相手の様だ。Fクラスと言う事だが、試合内容の質問を求める辺り、勉強熱心でもあるらしい。

(この人とはすぐに仲良くなれそうかな?)

 大体、周囲の学友を把握したところで、カルラも実況の方へと意識を向ける事にする。そろそろ本格的に試合が始まる頃合いだ。

 

『ぶっちゃけた話、お二人はどちらが勝つと思われますか?』

 

『カグヤ』

 

『神威?』

 

『希望は入っているが、贔屓ではないぞ』

 

『っと、申しますと、何か根拠でも?』

 

『この試合は正式試合ではないからだ』

 

『はい?』

 

『エキシビジョンマッチは、あくまでエキシビジョン。“魅せ試合”なのよ。勝敗や戦い方こそ選手に委ねられているけど、基本的にはイマジンを使ってどう言うことができるかを実践して見せることが目的だから、試合内容は派手な演出を求められちゃうの』

 

『ほほう、つまりカグヤ選手はそう言うのが得意な方だと?』

 

『いや全然。むしろ苦手だぞ』

 

『あれ~~~?』

 

『だが、あいつはそう言ったごちゃごちゃしている状態の方が色々仕掛けられるタイプだ。上手い事嵌めれば、アイツに勝てる奴はそうそう出ないさ』

 

『刹奈さん、通訳お願いしま~~す』

 

『はいはい……。要するに、弟君は頭の切り替えが早いから、色々考えながら戦わないといけない試合では、自分でペースを掌握してしまうことができるから、独壇場で戦えるだろう、っと言っているのよ。もちろん実際はそんな簡単なことじゃないけど、神威の希望も含めての結論と言うことみたい』

 

『なるほど! 本当に来ていただいて助かりました。刹奈さん!』

 

『待って、もしかして私ってこのために連れて来られたのかしら?』

 

『当然だろう?』

 

『なんで神威が答えるのよっ⁉ 知ってたのっ⁉』

 

『まさか』

 

『じゃあなんで答えたのよ⁉』

 

『私の希望だ』

 

『ちょっと、地獄見に行こうか?』

 

『ひ……っ⁉ こ、この程度で怒るなよ! な? 試合始まる前からあんまり激しいのは……!』

 

『大丈夫です。いつもの折檻コースを一分内で終わらせるくらいだから』

 

『死んでしまうぞ私っ⁉』

 

『神威さん、若干目が輝いてませんか?』

 

『そう言って未だ死んだ人はいないわ』

 

『刹奈さん、他にも試した方がいらっしゃるんですか?』

 

 ジャラジャラ……ッ!

 

『ぐえ……っ!』

 

『それじゃあ舞子、私たち一分ほど外すけど、気にせず実況してて頂戴。一分後には静かに戻ってくるから』

 

『あ、はい、分かりました。若干、私もこのやり取りに慣れてきた気がします』

 

「……、おぉう……」

 思わずカルラは唸り声を上げてしまう。

 実況席で行われる漫才には、自分達のクラスなどで行われる日常の既視感を与えられる。三年生も嘗ては、自分達と同じ、一年生としての道を歩んできたのだと、変なところで実感してしまった。

 見ると、周囲の生徒達も似たり寄ったりの表情になっている。唯一、理恵だけが楽しそうに笑っていた。

 

『さて気を取り直して、丁度、選手入場のお時間です!』

 

 

 実況が舞台上に上がる選手二人を紹介している中、スタジアム観客席、外壁の天辺にて、試合を観察するつもりだった黒野(くろの)詠子(えいこ)は、そこで思わぬ客人が集っていることに、こっそりと打ち震えていた。

「ふんっ、愚物の類が考えそうなルールよな。しかし、その選手にAクラスを持ってくるのは良い。これで多少は見世物としても栄えると言う物だ」

 尊大に語るのは、腕組をした状態で仁王立ちしている銀髪碧眼の美少年、シオン・アーティアだ。黒いスーツ姿が大人びた印象を与え、整った顔立ちは美しい芸術のようにも映る。王様然とした不遜な態度にも様になっていて、どこか貫禄めいた物を感じさせている。

「シオンよ、そう言ってやるな。劣る物が存在しなければ、優れたる物も存在できぬ。だが、凡人の目には真に優れたる物を見分ける事さえ困難なのだ。故に、こう言った催しは必要な事。むしろ、せっかく組まれたカードにこそ、評価を述べるべきではないか?」

 シオンの言葉を宥める様にして提案するのは、黒い髪に焼けた肌、太陽を思わせる輝きを秘めた黄金の瞳を持つ、オジマンディアス2世。鍛え抜かれ、鋼のように引き締まった身体に、直接黒いジャケットを羽織っているので、季節的にちょっと寒そうなのだが、不思議と彼の周囲には太陽光が集まるような温かさを感じさせる。ただ、地面に片膝を立てて座っているだけだと言うのに、彼の周囲だけが暖かな草原となっているような幻覚さえ見えてきそうだ。

「ふふっ、まあそうよな。なかなかに似通った二人をぶつけた物よ? 能力の面では互いに切り札と思われる一手を隠し通し、決して負けたくないであろう相手に挑むこととなる。これは確かに『見物』ではあるな?」

 王様然としたシオンは、オジマンディアスに対しては普通に接して見せる。充分尊大なオジマディアスの態度も相まって、対等な王が二人して語り合っているかのような印象を与える。

「貴様はどう思う? その眼には愚物には見えぬ物が映っているはずであろう?」

 シオンが水を向けた相手は、地面に寝そべり、長い金の髪を絹のように地面に広げる少女、プリメーラ・ブリュンスタッドだ。オジマンディアスの瞳は太陽を思わせる金であるが、彼女の髪は、星の輝きのように目を惹かれる美しさ持っている。髪の長さに対し、身体つきが小さい所為か、寝転がってしまうと自分の髪で全身を隠してしまう。それがまた、彼女の愛らしい容姿と相まって黄金の妖精を思わせるのだから『ズルい』と表現したくなる美しさだ。

 彼女は両手の肘を立て、上体だけを軽く上げ頬杖を付きながら眼下を見下ろし、退屈そうな表情に合った、退屈そうな声音で返答する。

「見えているとも……、過ぎた力を至らぬ力で(ぎょ)そうとする、滑稽な人間共の、危険な姿がな」

 表情は退屈そうなのに、その瞳だけは鋭く、これから行われる一部始終一切を見逃すまいとしているかのようであった。

「勝敗など我にはどうでも良い。我がなすは、人類の監視のみだ」

「星の輝きにとっては地上の営みも所詮は観察対象か……。余興を理解できぬとは、愚物ではなくともつまらぬことには違いないか」

「心を宿したというのなら、其方(そなた)も芸事の一つも楽しんでみればよい。存外、余達を楽しませてくれるぞ?」

 シオンとオジマンディアスがプリメーラに言うが、彼女も自分の意見を変えるつもりはなく、鼻を鳴らした。

「我の務めは変わらん。だが、我も生徒として最低限の発言を求められるというのなら―――、神も悪魔、その力の一端しか使えぬ分際で競い合うなど、分不相応にもほどがあるな」

 プリメーラはそうバッサリと切り捨て、視線を背後へとやりながら言葉を投げかける。

「貴様もそう思うであろう?」

「確かに、勝敗になんて興味ないわ」

 プリメーラに言葉に投げ返したのは、腰ほどにも届く黄金の髪を持つ少女、サルナ・コンチェルト。オジマンディアスの瞳が太陽、プリメーラが星と例えられるなら、彼女は髪は黄金を溶かしたかのような鮮やかな金だ。服装は薄暗い影をイメージさせられる黒のゴシックドレスで、若干詠子に似通っている。外壁部の突起を壁代わりにして背中を持たれ掛け、手を後ろ手に組んで瞼を半分閉じていた。僅かに開いている瞼の隙間から、柘榴のように真っ赤な瞳が試合会場を見るとはなしに見下ろす。

「勝敗も実力も、私にとっては些末な事柄よ。私にはそれ以上に、彼等の過程にこそ、意義があると感じられるもの」

「はっ! 過程など、結果を出すための在り方に過ぎぬ。決して蔑ろにできぬものではあれ、結果より優先されることとは到底思えんな」

 サルナの言葉を正面から切り捨てるように突っぱねるシオン。プリメーラも興味なさげに鼻を鳴らす。

「さて? 余には結果を上回る過程があるとは思える。しかし、この試合がそうであると果たして言えるのか?」

「知らないわ。だからこそ、私はそっちを見たいのじゃない」

 オジマンディアスの質問に、サルナは肩を竦めた。

「過程がなければ結果は出ない。必ずしも結果が出る物ではないとしても、だからこそ過程の重要性を意識するべき事よ。それができなくて、どうして結果を求められるというの? 結果在りき? いいえ違うわ。過程在りきの結果よ。過程が無いものに、結果を掴む権利なんてないのだから」

「ほう……、言うではないか」

 サルナの独白に、シオンは見直したように微かな笑みを作る。

「だが、結果を生み出さぬ過程もまた児戯。結果があってこそ過程は認められるものだ。奴らに果たして、貴様の在り方に応えられるだけの物があるかな?」

「どうかしらね。それがないならそれだけの話よ。私は彼等を擁護するつもりはないもの」

 よしここだ! 詠子は頃合いを感じ取り、外壁の端へ座り、足を組み直しながら、あたかも当然のように会話に参加する。

「いずれにせよ、宴は目前で披露される。しかと括目するとしようではないか? 願わくば、ここが『黄金劇場(ドムス・アウレア)』とならん事を!」

 魔王然とした態度で、高らかに告げる詠子に、オジマンディアスが笑いを漏らした。

「はははっ! ローマの黄金宮殿と例えるか? それ皮肉が効いているぞ」

「くくっ、もしそうなるなら、奴らはただの道化に等しかろう? いや良い。それで我を楽しませる事ができると言うのならな!」

 シオンまで哂いを強く出し話に乗る。

 プリメーラも何か思うところがあったのか、「はっ」と、短く嘲笑した。

「……それじゃあ、私達が落胆する側に回ってしまうのではないかしら?」

 サルナだけは、少々あきれ気味に溜息を吐いていた。

 だが、全員が話に乗った。全員が反応し、全員が詠子の存在を一つのグループの枠内と認めた。

 詠子は内心感動に打ち震える。

 正直、彼女が観客席ではなく、外壁部の頂上などと言う辺鄙な場所を選んだのは、こういった誰もいなさそうな高いところの方が“っぽい”と思えたからだ。中二っぽい属性をこよなく愛する彼女にとって、形から入ると言うのは重要な事柄だ。それがまさか、先客としてシオンとオジマンディアスが既に居座り、プリメーラに続いてサルナまでここに集った。しかも揃いも揃って“ただ者で無い感”を醸し出しているのだから堪らない。中二病全開を素直に楽しんでいる詠子にとって、このメンバーの内側に入れるなど、既にこれだけでご褒美状態である。

(イマジネーションスクール最高~~~~~~っっ!!!)

 外面は片手で顔の半分を隠し、不敵に笑いながら、内面では最高に浮かれて転がり回っている詠子であった。

 試合会場の端でそんなことが繰り広げられる中、ついに試合開始のカウントダウンが始まる。

 

 セミロングの黒髪をハーフポニーにまとめている、小柄で丸みを帯びた顔立ちをした少年、東雲カグヤは、実況による自己紹介を聞き流し、試合会場の床を軽く踏み鳴らしてみる。スニーカーから返ってくる感触で、大体の状態を確認しつつ生気のない瞳を何処とは無しに彷徨わせる。

 普通のシャツにジーンズ姿と、少年としては特徴の無い格好だが、どんな格好でも必ず袖を通す千早だけは、唯一にして十二分な特徴となっている。暗めの赤を基調とし、桜の散り様を刺繍された千早は、彼の可愛らしい顔立ちと相まって、和風少女としてほぼほぼ完成してしまっている。千早一つで雰囲気ががらりと変わってしまうあたり、彼にはそっち方面の魅力があるのだろう。本人としては不満ではあろうが……。

 彼の黒曜石を思わせる黒い瞳に映し出されるのは正面の少女。腰ほどにも届く長い黒髪は夜空を思わせ、赤い瞳は肌の白さに反して淀んだ存在感を称える。薄っすらと浮かぶ目のクマは、それだけで彼女に不穏なイメージを齎してしまう。黒を基調としたゴスロリドレスは、彼女を不吉な西洋人形を思わせる。

 レイチェル・ゲティングスは、赤く淀んだ瞳でカグヤの瞳を見つめ返し、互いの姿を焼き付けるように映し出す。

 口を……開きかけて、レイチェルはすぐに(つぐ)んだ。

 言葉を弄するような場面ではない―――事もなかったが、何となく、語る気分ではなかった。

 それはカグヤも同じようで、何事か言いたげな目をしていたが、言葉にするのを躊躇われている様子だ。

 不思議と二人は、互いの考えている事が分かった。

 互いに、こうして向き合い戦うことになった時、きっと舌戦を交し合ってから、満を持して勝負に挑むのだろうと思っていたし、そうありたいという期待もあった。

 しかし、実際こうして向き合うことになると、弄する言葉は口に出す前に空回りしてしまい、ただ息を吐くだけに終わってしまう。

 理由はすぐに理解できた。互いが真に決着をつける戦いの場はここではない。ここは、これから始まる長き因縁の前哨戦にすぎない。故に交わすべき言葉は、今は取っておこう。ここで思いの丈を伝えきってしまうのは惜しすぎる。この場で尽くすのは言葉ではなく、思いでもなく、ただ未熟な、己の実力だけで充分だ。

 同時に目を閉じ、スウゥ…、っと静かに息を吸い―――、

 

『―――それでは、試合……ッ、開始ですっ!!』

 

 実況の言葉と同時に、開戦の銅鑼が鳴らされた。

 

 

 2

 

 

 同時に見開かれる眼光。漆黒と深紅の視線が交差し、一瞬にして戦況を確認、エキシビジョンであることを想定した戦闘法を用い、勝利への道筋を組み立てて行く。

 思考一瞬、彼我の距離は約20メートル。地形はイマジンフィールドにより何もない荒野となっている。二人は同時に右手を掲げて炎を呼び出す。

「来たれっ! 七十二の軍団を率いる三十二番目の大いなる地獄の王!」

()けまくも(かしこ)き、火結神(ほむすびのかみ)()すことの良しを、(かしこ)(かしこ)みも(まを)す!」

 レイチェルの(もと)に現れた炎が渦巻き、妖艶な悪魔の女性を生み出す。

 カグヤの(もと)に集った炎が蜷局を巻き、六角柱を複数繋げたような体に角を持つ巨大な蛇が呼び出される。

「アスモデウス! Hell Flame(ヘル・フレイム)!!」

炎砲(えんほう)軻遇突智(カグヅチ)!!」

 両手に炎を集わせ、周囲を囲むように立ち昇らせる炎を集めるアスモデウスは、背に己のシンボルを輝かせながら、強烈な炎を撃ち出す。

 

【挿絵表示】

 

 同じく、ガラガラと六角柱の体を鳴らしながら、尻尾の辺りから頭に向かって、順に炎を溢れさせ、液体のようなに炎を口から溢れさせたと思ったら、次の瞬間には大口を開け、爆発でも起こったかのような迫力で、炎を撃ち出す。

 互いに、小さな小屋くらいなら一飲みにできてしまいそうな炎を撃ち出し、正面衝突させる。たちまち高熱量のエネルギー同士の接触に、空間を叩きつけるような衝撃を伴い爆発が起きる。接触していなかったはずの地面は、その衝撃に巻き込まれ大きく抉れ、大規模な爆発による衝撃にも関わらず、深紅に燃え上がる炎は一切消えず、土煙さえ焼き尽くす勢いで周囲へと広がる。試合会場は一瞬にして()一色に染め上げられた。

 

『な、な、な……っ⁉ なんと、試合開始早々、開幕砲撃! 互いに砲撃を撃ち合って、一瞬で会場が火の海ですっ! 試合会場はイマジンフィールドにより、既に異空間となっているため、観客席の皆様には影響はありませんが……っ! 一㎞四方に広げられた空間を、ほぼ火で埋め尽くす大胆な開幕! 正直、自分も長らくこの学園の生徒をしていなかったら、「え? 大丈夫これ? 死んだんじゃない?」っと心配になってしまうところでした!』

 

 実況が実況らしく興奮気味に語る中、爆風の衝撃が収まり、カグヤとレイチェルの姿が顕となる。

 互いにアスモデウスと軻遇突智を背に、最初の場所からは動いていない。

 

 

「あれ? 二人とも、なんで炎が晴れるまで待ってるのよ? 今なら視界が塞がっていい感じに不意打ちのチャンスだったのに?」

 客席で疑問を述べる美里に、「それはですね―――」とカルラがすかさず解説。

「これがエキシビジョンだからです。魅せることが重要とされる試合では、観客にも分かる様に試合を運ばなければなりません。開幕一番に派手な砲撃を放ったのも、演出の一環でしょうね」

「じゃあ、さっき二人が最初に唱えていた詠唱みたいなのも?」

 理恵の追加の質問にも、「そうです」と頷く。

「たぶん、普段は省略している『発動キー』を省略無しで使用したんでしょうね。その方がイマジンのイメージを強化できるので、演出効果としてはかなりの威力になったみたいです。まあ、お二人とも、その辺も計算した上でやっているのでしょうけどね」

 カルラの説明に美里と理恵が感心した様子で頷く中、更に試合が進み始める。

 

 

「カグラ!」

 カグヤが命令を出すと、角を持つ巨大な蛇の姿をしていた軻遇突智は、忽ち身体を炎にして分解、天女のような羽衣衣装に身を包む、幼き少女の姿に形を変えた。その属性が現すが如く、真っ赤な髪と眼を輝かせ、軻遇突智改め、カグラと呼ばれるようになった少女は、炎を操る。

「炎法―――!」

 

「「百花炎舞(ひゃっかえんぶ)!!」」

 

 主と声を揃え、術式(イマジネート)を組み上げ、発動。

 花のように開いた無数の炎弾。それらを一度に放出、飽和攻撃を仕掛ける。

「アスモデウス―――!」

 

「「Blast Hwat(ブラスト・ヒート)!!」」

 

 同じく、レイチェルもアスモデウスに命令を出し、息を合わせる事で素早く強力な術式(イマジネート)を完成させる。

 アスモデウスを中心に強力な熱波が広がり、飛来してきた炎弾を全て吹き飛ばしてしまう。

 それを確認するや素早く、レイチェルはアスモデウスに命令を出す。

「アスモデウス!」

 一言名を呼ばれただけで理解したアスモデウスは、翼を羽ばたかせ、一気に突進、自らが打って出る。

「カグラ!」

 応えるように合わせて指示を出すカグヤ。軻遇突智の人化―――現人神(あらひとがみ)カグラは、手に炎を集め、形と成し、赤い大槌を手に迎え撃つ。

 空をかける二つの(少女)、主二人の上空で紅い軌跡を幾条にも織り成し、衝突する度に火の花弁を咲かせ行く。

 アスモデウスが、所有しているスキル『焔』を用いて火炎放射を吹き出す。

 カグラは炎の槌を振り上げ、一撃のもとに粉砕させる。

 今度は複数の炎弾を撃ち出し、波状攻撃を仕掛ける。

 カグラは槌をプロペラの様に高速で回転させ、楯の役割を果たし、受けきると、今度は自分の番とばかりに術式を練り上げる。

「炎法―――!」

 槌を振り払い、複数の火の玉を自分の周囲に作り出す。片手で指示を出し、全ての火球をアスモデウスに向けて撃ち出す。火の蛇が如く紅い軌跡を伸ばし、逃げるアスモデウス追い掛け回す。火球は全てがカグラの意思に従い、操られ、アスモデウスの周囲を囲むように展開。アスモデウスを包囲し、動きを止めさせた。

 その瞬間を狙って、カグラが拳を握る。

「―――炎交尾籠(ほのつるびのかたま)!!」

 包囲していた炎が突然膨張、アスモデウスを中心に一柱の巨大な火柱が立ち上り、中央にいる存在を焼き尽くしながら動きを封じる。攻撃的な拘束術と言う、凶悪な呪術を見舞う。開幕砲撃に続くド派手な演出に観客が沸き上がったのも一瞬、空を駆け抜けるアスモデウスが、カグラの背後に姿を現す。

「―――っ⁉」

 気付いて槌を振りかざすも、アスモデウスの一撃の方が早く、炎が爆発する。爆炎の中から炎を吹き出し、視界を確保したカグラは、アスモデウスの手に、炎によって作られた爪があるのを確認する。

「器用な事するのね」

「威力はそっちの方が上みたいだけど、こう言うのは私の方が上よ」

 自慢げに告げるアスモデウスに対し、カグラは手を突き出し、呪術で応える。

「炎法―――!」

炎よ(Flamma)!」

 互いに炎を撃ち出し爆炎を上げる。空を飛翔し、火の粉を散らしてぶつかり合う。二人の戦いは炎と打撃斬撃による空中戦となっていく。

 すると、次第にアスモデウスの戦闘方法は空中戦闘技術(マニューバテクニック)に傾いていき、カグラの動きは止まり気味になっていった。アスモデウスの飛行能力にカグラの方がついていけなくなっているのだ。

 

 

 この様子を見ていた理恵はすかさずカルラに尋ねる。

「今、レイチェルのアスモデウスが有利になってるのに、なんか特別な理由ってある?」

 「ありますよ」っとカルラは視線を外さずに即答する。

「おそらく設定されている固有スキルの差です」

「『固有スキル』? 普通のスキルと何か違うのかい?」

 聞きなれない言葉に、思わず星琉が口を挟むと、カルラはこれにも即時対応して見せる。

「『固有スキル』はイマジン体が有しているスキルです。私たちイマジネーターと違って、イマジン体は能力を派生できませんから、彼らの持つスキルは、そのまま自身の存在を引き出す能力ともなります。あの二人は丁度良い例で、軻遇突智の固有スキルは、より軻遇突智としての神格を引き出すスキルであり、アスモデウスの固有スキルもまた、よりアスモデウスとしての神格を引き出すためのスキルを有していることになるんです。つまり『固有スキル』と言うのは、自身の存在を強調、もしくは主張するスキルのことを指すんです」

「へぇ~~」

「っで、それがどうして二人の差に繋がってるの?」

 脱線しかけた話を戻すように理恵が尋ね直す。

「カグヤさんの軻遇突智に対し、レイチェルさんのアスモデウスは、空中戦に有利な固有スキルを有しているのだろう―――っというのが結論です」

「脱線なかったらこんなに早い結論っ⁉」

 思わずツッコミを入れる理恵に、カルラと星琉は同時に苦笑いを浮かべる。

 

 

 カルラの言う通り、レイチェルのアスモデウスには『飛行』と言う、空中戦に有利になる固有スキルがあった。その効果は読んで字の如く、飛行するだけのものであるが、スキルとして設定されていることが重要なのである。

 すでに誰もが気付いているだろうが、カグヤの軻遇突智―――カグラも、空を自由に飛び回ることができているが、それはスキルに設定された効果ではなく、デフォルトで、そういうことができる存在だと定められているからだ。

 つまり、わざわざスキルで設定しなくても、飛び回るだけのことなら、それこそイマジネーターでも出来てしまえる(もちろん訓練は必要)。

 だが、それはあくまで個人で飛ぶ分には―――っということでもある。

 この二人で対比すれば、カグラは個人で飛ぶことはできるが、その速度は鳥が飛ぶ程度で、自分以外の他人を乗せて飛び回ることはできない。

 対するアスモデウスは、風より早く飛び、小回りも利く。おまけに他人を乗せて飛んでも飛行に影響は出ない。

 そんな二人が空中戦を行うとどうなるか? その答えが現状、カグラが次第に押され始めていると言う物だ。スキル設定の差とは、こういった具合に表れる。

「……んぅっ!」

 腕の辺りを薄く切られたカグラが、苦悶の声を漏らしながら炎を振り撒く。しかし、アスモデウスは既に射程外に逃げ、炎弾を放ち牽制してくる。

 カグラは空気が赤色に変色するほどの熱の壁を作り出し、これを弾くが、その時にはすでに、背後に回ったアスモデウスが炎の爪を振り翳していた。

 反応早く、カグラが槌を振るうが、火花を散らす交差の果てには、カグラの太ももにまた浅い傷が増えただけに終わる。

 何度となくこれを繰り返され、カグラの体は既に傷だらけで、体中から緑色のイマジン粒子をパラパラと漏らし、羽衣衣装はズタズタに切り裂かれていた。

「……カグラッ!」

 劣勢を覆せないと悟ったカグヤが己の僕を呼ぶ。

 カグラはその声に応え、イマジン体の特権、『召喚』を利用し、火の粉となって消滅、瞬時カグヤの下で再召喚されることで、一瞬のうちに主の下まで移動する。

 本来『再召喚』はイマジン体を形成するイマジンを、主が前以って練り上げておく必要があるため、イマジンを無駄に使用するだけになる場合が多い。しかし、現状は、どちらの主もイマジン体に戦いを任せていたため、イマジンを練り上げる十分な時間があった。そのためできた裏技である。

 本来なら、これをさせないために、主同士も戦うのだが、やはりそこはエキシビジョンであることを弁え、二人とも静観していたのだ。

 カグヤの正面に再召喚されたカグラは、その場で舞うように優雅に一回転する。

(これ)なる炎、一切の穢れを(みそ)(たま)う」

諸々(もろもろ)禍事(まがごと)、罪、穢れを、祓へ給ひ清め給へ」

 カグラの舞に合わせ、カグヤが唱和する。忽ち上る炎が周囲に広がり、薄い茜色の薙となって放たれる。

 これを『飛行』のスキルを駆使して何とか躱したアスモデスだったが、僅かに肩に掠めてしまう。すると、肩部分が一瞬で黒焦げになり、大量のイマジン粒子を吹き出し始めた。

「あ、熱……っ⁉」

 たまらず苦悶の声を漏らし自由落下するアスモデウス。そんな彼女の下に走り寄りながらレイチェルは驚愕する。

(炎の性質を持つ、地獄の悪魔たるアスモデスが熱がった⁉ あれはただの炎じゃないっ⁉)

 その事実を証明するかのように、茜色の焔を纏う、カグラとカグヤが、声を揃えて呪術(イマジネート)を発動させる。

「「『浄炎喝采(じょうえんかっさい)』!!」」

 破裂するかの如く吹き出す茜色の炎。夕日にも似たオレンジ色のフレアを纏い、薙となって襲い掛かる。

 軻遇突智の持つ浄化を司る炎。それは悪魔であるアスモデウスにとって、唯一天敵となる炎であった。

(さすがにここまでか……っ!)

 すべての手を使いつくしたわけではないが、それでもレイチェルは潮時だと判断する。アスモデウスを背後に下がらせつつ、腰のホルスターからカードを取り出し、そこに刻まれた魔方陣をイマジンにより展開する。

 

【挿絵表示】

 

 展開された魔方陣から飛び出したのは、清楚な雰囲気を醸し出すワンピースに、蒼い髪を靡かせる真面目そうな表情の怜悧な女性。

「シトリー―――!」

「「Aqua hastam(アクア・ハスタム)」」

 己が紋章を背に、大量の水を背負った悪魔、シトリーは、主と息を合わせたイマジネートを発動し、膨大な水流を操り、発射する。激流はその質量に見合わない勢いで押し出され、槍となって薙に突き刺さり、爆発するが如く轟音を鳴らして水蒸気の白煙を上げる。その上でなお勢いを衰えさせず突き進み、激流()の矛先がカグヤ達に迫る。

 目を見開き、慄くカグラ。次の瞬間激流が激突し、四方へと余波が飛び火する。

 ―――が、忽ち試算したはずの水が集い、カグヤとカグラの頭上で収束し、赤黒く変色する。

 レイチェルが内心舌打ちし、シトリーが忌々しそうに睨みつけた先、カグヤ達を守る様に、いつの間にか立っている黒衣の少女が、濡れ羽色の髪を風に遊ばせながら、黒曜石の瞳で睨み返す。

「返すわ」

 端的に言い捨て、髪を払う仕草で水流を操り、シトリーから奪った水流をそのまま球状の形に固定したまま跳ね返す。

 迫る水流が岩の硬さを誇るほどの勢いで迫る。

 シトリーは忌々しそうな表情を崩さず、両手を交差させ、更に背の紋章を激しく輝かせる。水流が激突すると同時に両手を払いのけ、爆発するが如く水弾を飛沫に霧散させた。

 飛び散った飛沫の殆どが雨となって、レイチェル達の背後で降り注ぐ中、その一部が再び集いシトリーの背後でいくつかの水弾となって待機する。

「あなただけはこの手で葬ると決めていました。出てきてくれたことに感謝を。東洋の水神」

 そう言いながらシトリーは両手を掲げ、固有スキル『蒼水』で背に待機させている水流を一部手に、更に両手から固有スキル『流水』を用いることで水を生み出し、形を作り出す。二つの固有スキルで作り出されたのは膨大な質量を圧縮して作り出した水の大鎌だ。その鎌は、相当な水量が込められているらしく、まるで深海の底を覗くかのように蒼黒く変色していた。

「私も、あなたとの因縁を、早めに切っておきたいと考えていたわ。官能の悪魔」

 井の底の神にして、水神、闇御津羽神(くらみつは)たる少女、九曜(くよう)は高圧的な視線で腕を組む。彼女の周囲には、黒曜石でできた柄、固有スキル『ユニット』が12本、空中に展開される。

「私は、アスモデウスと違って純情派よっ!」

 シトリーが飛び出し、水の鎌を振りぬく。

 九曜も素早く腰に携えていたユニットを掴み取り、赤黒く変色した水の刃を二刀構え、鎌の一撃を二刀で受け流す。

「あら? 頑なな淑女ですら、その秘密を暴き立て、衣服を脱がす逸話を持つ悪魔が純情を語るのかしら?」

「愛の営みを囁くのが、私の権能の一端。性欲に溺れ、貪ることが目的のアスモデウスとは雲泥の差です!」

 更に追撃の鎌を振りぬき、反論するシトリー。それに対して冷笑を浮かべながら躱し、受け流して見せる九曜に、視線を鋭くし、更に追撃を加えていく。

「だから女性の姿で顕現したのかしら? 官能の権能を持つが故に、主さえ劣情に駆り立てる。同性であればその影響も少ないとでも?」

「この姿はレイチェルが望んだが故の物! 元より、私はレイチェルの望みを断る気はありません! アスモデウスと違って、私は一途ですから!」

「それはそうみたいね?」

「ちょっとっ⁉ アンタ達、二人で喧嘩しているようで実は私に喧嘩売ってないっ⁉」

 背後でアスモデウスの抗議が上がるが、二人は華麗に無視する。

灌漑(かんがい)の神風情が……っ! 人の営みの上でしか存在を許されない脆弱な神格で、ソロモンの十二階位たる悪魔と渡り合えるとでもっ⁉」

「人の情欲に手を出す悪魔でありながら、水魔を気取る悪魔と比べれば、充分でしょう? それとも“官能の悪魔だからこその水魔”なのかしら?」

「あなたも主に似て卑猥な傾向がお好きなようですねっ!」

「我が君と違って私は一途よ」

「ちょっと九曜さ~~ん? さり気なく主をディスるのやめてくれませ~~ん? ってか、まるで俺が浮気性みたいに聞こえるのですけど?」

 苦笑い気味に苦言を漏らすカグヤに、シトリーと九曜は一瞥をくれる。

「っと言ってますが?」

「こちらに集中しなさいソロモンの悪魔。片手間で倒せるほど、易い水神ではないわ」

「なんでそこでフォローしないんだよっ⁉」

 最も信頼する僕に邪険に扱われ、結構なショックを受けるカグヤだが、その傍らのカグラは、呆れたように追い打ちをかける。

「え? お兄ちゃん、今の九曜はすっごい優しかったと思うけど?」

「お前までっ⁉」

 ダブルショックにちょっと本気で泣きそうになる。

 多少気の毒そうな雰囲気を察し、レイチェルはアスモデウスに指示を飛ばす。

「アスモデウス、やりなさい」

「OK! アレやっちゃえばいいのね!」

 そう言って羽ばたくアスモデウスは、カグヤに向けて急接近。身構えるカグラの射程一歩分外で待機し、官能的に足を持ち上げだす。

「うふふっ♡ さあ、私と一緒にいいことしなぁい♡」

 持ち上げられた足が服の隙間から覗き、魅惑の太ももが惜しげもなく晒される。その際どさは、かなりの物で、しかし一向に下着の一部すら見せない。それが逆に下着の有無を疑わせ、余計に官能的に映る。

「はう……っ⁉」

 瞬間、カグヤは意味も分からず赤面し、勝手に高鳴る鼓動に押され、ふらふら魅惑の足を求めて足が動き始めてしまう。

「ちょっ⁉ お兄ちゃんっ⁉」

 エロに定評のある主の、しかし、それ故にありえない行動に、カグラはかなりのショックを受ける。

 セクハラ上等のカグヤだが、この少年が色仕掛けで惑わされることなどありえない。むしろ平気なふりをして挑発し、もっと官能的なポーズを取らせようと(はか)るはずだ。そういう事を全力でするのがこの男だ。目先の欲望に釣られて、ふらふら付いていくような間抜けではないはずなのだ。

 もちろん、理由はあった。そしてカグラもすぐに思い至った。

 情欲の悪魔であるアスモデウス。彼女がソロモンの悪魔として正しくその存在を顕現させられていると言うのなら、彼女の固有スキルには、間違いなくその性質がある。

 固有スキル『魅了』。異性を魅了し、惑わせるスキル。その力は嘗て、性欲と言う物を全く理解していない機械人間すら惑わしたほどに強力。エロに定評のある少年など、一瞬で虜にしてしまえる。

 

 

『おぉっとっ⁉ これはどうしたことだ? 東雲選手、ふらふらとゲティングス選手のイマジン体に接近しているぞっ⁉』

 

『………』

 

『神威、今叫んだら弟君、反則負けになっちゃうわよ?』

 

『解っている……(怒』

 

『あ、お二人とも本当にいつの間にか戻ってきてますね……』

 

『え~~っと、どうやらレイチェルさんのイマジン体、アスモデウスには「魅了」の固有スキルがあるみたいね? それで弟く―――カグヤ君も色香に惑わされてしまっているという事よ』

 

『ははぁ~~んっ! なるほど~! ……それでお姉(神威)さんは嫉妬してらっしゃると……』

 

『あの悪魔……、本気で潰してくれようか……?(怒』

 

『言っとくけど、試合中に手を出したりしないでよ?』

 

『するか。そもそもそんなことせずとも―――』

 

 実況席で神威がそこまで言葉を漏らした辺り、唐突にドボォッ!!! っという、結構生々しい音が響き渡った。

 

『―――カグヤが色香に惑わされることなどできるか』

 

 

 神威がそう吐き捨てる先、お腹を押さえて蹲るカグヤの正面には、今しがた主の鳩尾に、『ユニット』の柄頭を叩きこんだ九曜が、主を守る様に立っていた。

「目は覚めましたか?」

「あ、ああ……、サンキュー。でも、もっと優しく起こしてくれませんか?」

「あの程度の魅了に惑わされる我が君に落ち度があります」

「……、九曜さん? なんか怒ってません?」

「さて……?」

 九曜は主とは視線を合わせず、しかし冷ややかに目を細めていた。

「ちょっとぉっ⁉ 私程度とはどういうことよっ⁉ この私の魅力が性欲を駆り立てられない程度だって言うのっ⁉」

 性欲を象徴する悪魔である所為か、意地になったアスモデウスは、文句を口にしながら服の胸元を大きく広げて見せた。豊満な二つの果実が、際どい所まで晒され、やはり下着の有無は疑わせる。

「ほら見なさいよ! こっちに来て直接触ってみてもいいのよぉ♡」

「マジかっ⁉」

 再び発動した『魅了』に速攻でかかったカグヤが、またふらふらと接近しそうになる。

「……お兄ちゃん?」

 背後から冷たい熱気を感じたカグヤは一瞬で正気に戻った。

 振り返らなくても分かる。背後でカグラが病んだ瞳で見つめ、メラメラと嫉妬の炎を燃やしていることが。

「む、胸が大きいくらいで、俺が誘われると思ったら大間違いだぞっ! デカいだけの胸など所詮駄肉だねっ!」

「なんですってぇっ⁉」

 本心とは微妙に違ったが、カグヤは己の生存のために、必死にカグラが求めていそうな言葉を選んで叫ぶ。幸いカグラは大変機嫌を良くしたらしく、燃やしていた炎を収めてくれた。

「だ、駄肉ですってぇっ⁉ よりによって駄肉だなんて……っ⁉ いいわ! だったら大サービスで()()()()を見せてあげようじゃないっ!」

「MAZIかっ⁉」

 眼をむくほどに驚き、あっさり『魅了』に陥落したカグヤ。某有名な泥棒三世の如く突撃しそうになるが、一歩を踏み出すより先に、背筋を凍り付かせるような寒気を感じて動きが止まる。

「………」

 無言。無言だった。動かない。微動だにしていない。今もなお主を守らんと前に出て、赤黒く変色した水の刃を構える九曜は、しかしはっきりとした軽蔑のオーラを主に放っていた。

()()()()()?」

 普段とは違う呼び方。自分が主として認められる前にされていた呼び方に、カグヤの心は一発で陥落した。

「例え“中田氏(なかだし)”OKでも、全力で拒否するっ!! 俺の命を懸けてでもお前を否定してみせるっ!!(主に俺の平穏のために!)」

「な、なんですってぇ~~~~っっ⁉」

 力強く拳を握りしめ力説するカグヤ。

 アスモデウスはプライドを傷つけられ、盛大にショックを受けた。

(へぇ~~……。アスモデウスの『魅了』をあの程度で抑制できるってことは、カグヤの中で二人の存在がそれだけ大きいってことなんだ?)

 ショックを受ける僕を余所に、レイチェルはこっそりと感心する。

 イマジン体とは言えスキルスロット一つ分を消費して発動している『魅了』の力。普通はこの程度のギャグ展開でどうにかできる物ではない。九曜が最初にしたように物理的なショックによって正気を戻す方法は有効ではあるが、精神的な脅し程度は、そもそも他人の声が耳に届かない場合がほとんどなのだ。

 だが、今回カグヤは二人の気配と声だけで正気を取り戻してしまった。それだけカグヤの中で二人の存在は優先順位が高いということになるのだろう。その証拠に、実況席で解説役をやっている彼の義姉、東雲神威は迂闊に発言してカグヤの意識を取り戻してしまうような試合介入をしないように努めていたのだ。

(からめ手が効かないわけじゃないみたいだけど、こっちのからめ手の手札はこれだけ。何よりこれはエキシビジョンだから、あんまり難しいからめ手は良くないかな? 分かり易いからめ手ならじゃんじゃんやった方が見栄えはいいだろうけど……)

 瞬きの内に思考をまとめ、レイチェルは結論を出す。

(ならばここからは純粋な力技! イマジン体の純粋な力で勝負!)

「アスモデウス! Diabolus sigillum.(ディアボロス シギッルム)  Apertus(アペルトゥス)!」

 レイチェルのイマジネートにより、アスモデウスの抑え込まれていた力が解放される。

 血のように朱い髪に蝙蝠の翼を持つ少女の姿をしたアスモデウスが、急成長し、妖艶な女性の姿へと変わる。頭には二つの角が飛び出し、肢体は凹凸をはっきりさせた艶めかしい物へと変わる。その姿は美しくも、どこか恐ろしい雰囲気をまとった悪魔の姿。

 レイチェルの能力『ソロモンの悪魔』は、イマジン体を使役するイマジネーターすべての例にもれず、設定された力を完全には引き出せない。無理に出そうとすれば術者が設定した力に押しつぶされてしまうため、イマジンが自動的にセーブをかけている状態で発現する。

 だが、その抑えられた力すらも完全には使われていない。常に全力では、イマジン体の方が疲労ですぐに力尽きてしまうためだ。そのため、イマジン体使役タイプの主たちは、その力を開放する、『全力開放術式』を個人で作り出す必要がある。

 カグヤはこれをスキルスロットを一つ使用する『現神(あらかみ)』で成立させた。

 そしてレイチェルは、人の姿を象る、自分の悪魔達の本性―――真の姿を晒す呪文を詠唱することで成立させている。

 ただし、この全力開放は、レイチェル自身にも少なからず負荷がかかってしまうため、一度に発動できる相手は一体だけしかできないというのが現状の実力だ。

「さあ、実力の違いを見せてやりなさい!」

「女の恐ろしさ……! 魅了された方が何倍も幸いだったと思い知りなさいっ!!」

 『焔』を纏ったアスモデウスが疾走する。放たれた炎は先ほどまでとは比較にならないほど巨大で、真っ赤に発光していた。

 すぐに対応した九曜が、『ユニット』を動かし、自立射撃兵装の如く水弾を放つが、まったく衰える気配がない。瞬時にユニットを集め、前面に円を描くように配置。まるで花を連想されるような配置になり、水の膜で作ったバリアを展開して受け止める。―――が、それらも一瞬にして蒸発し、衝撃で『ユニット』が弾き飛ばされてしまう。

 一瞬、九曜も己の神格を開放するかどうか思案したが、これにはカグラの方が素早く応対した。

 全身に炎を纏い、固有スキルとしてセットされた『現神化』を用いて真の姿を開放。再び角を持つ大蛇の姿になると、その角の一振りで真っ赤な炎を弾き飛ばしてしまう。

 それを確認してすぐ、アスモデウスは『飛行』によって高速移動。再び空中戦で有利に立とうと接近戦を仕掛けるが、同じ手を二度受けるカグラ―――否、軻遇突智ではない。

 本来の姿、神、軻遇突智となったカグラは、大蛇の体を利用し、蜷局を巻いた状態で尻尾を振り払う。たったそれだけでアスモデウスは風圧に煽られ、接近を妨げられた。

 接近戦を挑むには、軻遇突智の体は巨大すぎる。質量が大きい分、その打撃は全てが致命傷に至る。いくら真の姿を開放したアスモデウスでも、条件が同じである以上、油断できない。

その(あぎと)、角、尻尾、巨大な図体その物が、軻遇突智にとって質量武装そのものなのだ。

「はああああぁぁぁぁっ!!」

 アスモデウスは全身に地獄の炎を纏い、純粋な神格勝負に打って出る。

「ゴアアアアアアアアァァァァーーーーーーッ!!」

 これに応えるように咆哮を上げた軻遇突智も、蜷局を巻き、体をひねりながら宙を昇り、アスモデウスに激突していく。

「こちらも行きますっ!」

 空で神魔の激突が行われている一方で、地上では水神と水魔が水の武具をもってぶつかり合う。

 シトリーは背後に控えさせた水で水弾を打ちながら牽制しつつ、自身は水の鎌や槍を武器にして接近戦を仕掛けていく。

 九曜も『ユニット』を背後に配置し、水弾を放ち、これを迎撃。両手に握った柄から水の刃を生み出し、二刀流で接近戦に応じる。互いに大量の水を、質量を振り回しているはずなのだが、その重さを全く意識させない素早く細かい動きで互いに切り結ぶ。

「はあっ!」

 シトリーが水の槍を両手に突き出す。二本の槍を片方の刃で受け止め、槍を自分の前で交差させるようにして止めて見せる九曜。空いた方の刃でシトリーに切りつけようと身構えるが、シトリーは瞬時に水の槍を交差部分で連結させ、巨大な鋏に変え、九曜を挟み込む。

 地面を蹴飛ばし、空中に逃れることで刃を躱した九曜。体を宙に逃がすことが目的だったため、下半身の勢いが付きすぎ、空中で上下が入れ替わってしまうが、空中で見事にバランスを取りながら両手の柄を合わせ、水の弓を作り出す。

「っ⁉」

 シトリーがそれを目撃し、危険を感じ取る。

 九曜が水で作った矢を(つが)え、引き絞る。弓の正面に神力で作り出されたターゲットサイトのような物が生じる。あれが矢の威力を更に増幅させる魔方陣の類と瞬時に読み取れた。

水よ(Aqua)……っ!」

 自分の正面に水の楯を形成しつつ飛び退く。

 瞬間、九曜が漆黒に染まる水の矢を放つ。

道開墨水(みちひらくぼくすい)

 漆黒の水砲。それは激流と言うにはあまりにも暴力的。もはやエネルギー波と何の変りもない衝撃がシトリーを水の楯ごと吹き飛ばす。

「きゃああ……っ!」

 短い悲鳴を上げながら空中に投げ出されるシトリー。懸命にバランスを取り、何とか地面に着地。地に手を付き、『流水』を発動。大地に打ち込まれたイマジネートが、九曜の真下の大地を吹き飛ばし、間欠泉(かんけつせん)の如き水柱を上げる。水柱に飲まれた九曜を確認し、ほくそ笑むシトリー。だが、その表情はすぐに驚愕の物へと変わる。

地中蓄水(ちちゅうちくすい)の神を相手に、大地から吹き上げた水で挑むなど……!」

 静かに、しかしはっきりとした覇気のある声が、水柱を割り、二刀の水の大剣を携える者から発せられ―――、次の瞬間、振り被った二刀が、赤黒い滝の如く叩きつけられた。

「身の程を知りなさい……っ!」

 破砕音。

 先と変わりない衝撃に吹き飛ばされ、さすがのシトリーも無防備に地面を転がる。

 一気に解き放たれた水は、まだ水量を出しきれていないのか、打ち付けられた所から山なりに膨れ上がり水を噴き出し続けている。地面一杯に水が広がり、その先端がシトリーに触れる。

 それで目を覚ました彼女だが、全員が砂ぼこりに汚れ、付いた泥を洗い流す事もせず、震える体を叱咤し、なんとか膝を付いた状態まで体を起こす。しかし、そこまで、すぐに反撃に転ずる事も出来ず、荒い息を漏らし、全身からイマジン粒子を零す様に漏らし始めている。相当のダメージを受け、イマジン体を維持するのが困難になっている様子だった。

「……これは、さすがに異常ね」

 カグヤの式神、九曜は同じ式神のカグラに比べて強過ぎる印象があるのは、これまで何度も実感していた事だ。ここまで差を付けて押し切られる事さえ不思議ではないと感じる。もはやこれは確信だ。九曜は通常のカグヤの式神ではない。何かズル(、、)をしているに違いなかった。

(まあ、ルール上は問題無いんでしょうけど……、それでも不公平を感じずにはいられないわね)

 内心ぼやきながらシトリーの様子を見る。

 イマジンを送り込んだおかげか、漏れ出していた粒子は収まりつつあるようだが、実際本人が受けたダメージが回復したわけではない。限界が近いのは隠しようがなさそうだ。

「ガアゥ……っ! この……っ!」

 視界の端では、アスモデウスが軻遇突智相手に劣勢を強いられていた。力は拮抗しているようだが、いかんせん相性が悪い。浄化の炎を纏った軻遇突智相手では、悪魔のアスモデウスの方が蓄積するダメージがどうしても多くなってしまう。次第に防戦に回り始め、一方的な展開になる前に距離を取ったところの様だ。

 レイチェルは瞬時に決断し、思わず溜息を吐いた。

「できれば、カグヤに出させてからと思っていたのだけど……、仕方ないか」

 表情を改めたレイチェルは、腰のホルスターからカードを三種類目のカードを取り出す。

 

【挿絵表示】

 

 カードに描かれたシンボルが輝き、レイチェル三体目のイマジン体が召喚される。

「来たれっ! 十九の軍団を率いる二十七番目の侯爵にして、偉大なる伯爵!」

 シンボルから現れたのは、執事風の衣装に身を纏った27くらいの男性。髪を後ろで束ね、右側のこめかみから角が生やす、新たなソロモンの悪魔にして、レイチェルが最も信頼を寄せるパートナー。言うならば、カグヤにとっての九曜的存在。

 警戒するカグヤと九曜。

 レイチェルは二人が行動を起こす前に先手を打つ。

「出し惜しみ無し! 憑依!」

 ロノウェのシンボルが輝きを大きくし、レイチェルとロノウェを纏めて包み込む。次の瞬間、光はより強く輝き、瞬きの間に二人を一人の存在へと融合させた。

 光が収まった後、そこにいたのは、燕尾服に身を包み髪を後ろで束ね、右のこめかみ辺りから一本の角を生やしたレイチェル・ゲティングスの姿だった。

「―――!」

 レイチェルの姿に、カグヤは一瞬の内に思考する。

(イマジン体使いは大きく分けて三つの戦闘スタイルを持つ。一つは召喚したイマジン体に付属効果を与える事で、徹底的に戦わせるタイプ。もう一つはイマジン体を武器化する事で己自身が戦う事が出来るようにするスタイル。そしてもう一つが……)

 僅かに後ろ脚を引き、瞬時に即応できるよう身構えるカグヤ。

(自身にイマジン体を憑依させる事で、その戦闘力を自身媒介に使用するスタイル。この方がイマジン体―――特に神話などをモチーフにしたタイプの能力を引き出すのに、最も効率が良い)

 正確にレイチェルの脅威性を認識する。言葉は発せず、九曜と軻遇突智に警戒する様に伝え、カグヤは―――、

 

 眼前にレイチェルの姿が迫っていた。

 

「……っ!? ―――ぐおっ!」

 直前の思考を中断し、咄嗟に仰け反る。瞬間、目の前を靴底が通り過ぎ、鼻先をかすめる。

「ああ―――っ!」

 遅れて発動した『直感再現』に従い、不安定な姿勢から無理矢理身体を捻り、相手のこめかみがあるであろう場所に向かって蹴りを放つ。

 しかし、蹴りは虚しく空を切る。既に蹴り脚を戻していたレイチェルは、半歩下がる事でカグヤの蹴りを回避。続いて一瞬で抜かれた事に気付いた九曜が背中目がけて剣を振るうのに合わせサイドステップ。回し蹴りの反撃まで見舞ってきた。

 九曜は剣を盾にして受け止めた後、瞬時に左右の水剣で連撃を放つ。

 レイチェルは腕の耐久に『強化再現』掛け、その剣を迎え撃つ。

 剣激を捌き、抜き手や手刀で反撃する。九曜は更に速度を上げ、抜き手や手刀をいなしながら滑らせるように刃を奔らせる。

 水剣故、火花こそ散らぬ物の、激しい攻防に空気が切り裂かれる音と鋭い衝撃波が飛び火する。

 地面を転がったカグヤが瞬時に起き上った時、まるでタイミングを見計らったかのように九曜は一歩分飛び退く。『ユニット』を一本の柄上に集め、水の大剣創り出し、それを片手で横に薙ぐ。

「―――っ!」

 呼気だけの気合いを乗せ放たれた一撃を、レイチェルは脚をはね上げ、肘と膝の間に挟み込むようにして受け止める。衝撃を完全に殺したところで刃を解放し、瞬転―――側頭部目がけての回し蹴りを放つ。

 九曜はユニットの一つを左腕に装着させ、バリア上に水壁を展開。蹴りを受け止める。

 

 ザバンッ!

 

「ぐ……っ!」

 あまりに重い一撃。その蹴りは易々と水の障壁を粉砕し、九曜のガードした左腕ごと本人を吹き飛ばす。

 軽く宙を浮いた九曜だったが空中で体勢を立て直し、見事に着地―――したところを背後からシトリーに襲いかかられる。幾重にも放たれる水弾を振り向き様に斬り伏せ、躱し、『ユニット』から水弾を撃って反撃―――する前に叩き落とされた。神速で移動するレイチェルが、全ての『ユニット』を弾き飛ばし、更に九曜へと迫る。

「―――! ……あぁっ!」

 言葉を発する暇も無く残った二本の『ユニット』から水剣を作り出し迎え撃つ。交差する様に放たれた水剣は―――しかし、虚しく空を切り、レイチェルはそのまま九曜を素通りして行った。狙いはアスモデウスと戦闘中の軻遇突智。

 まずいと思った時に既にシトリーが回り込み、九曜の道を妨げるように水の大鎌を振り抜く。これに対し水の鞭を作り出した九曜は、鞭で鎌を絡め取り、攻撃を逸らしただけでなく、そのまま大鎌を形成していたシトリーの水を侵食、奪い取り、獲得した大量の水を、そのまま激流として放った。

 九曜が支配した事で赤黒い色に変色し、濁流の様になった水圧を大きく飛び退いて躱すシトリー。これで道を阻む物は無くなった。が―――、

 

 ボバアンッ!

 

 盛大な爆発音に目を向ければ、レイチェルの蹴りで胴を薙がれた軻遇突智が、身体を大きくくの字に曲げ―――、続いて顎を打たれ、こめかみの辺りを砕かれ、最後には角を拳で叩き折られた。

 全身を炎として爆散した軻遇突智は、辛うじて消滅を間逃れたのか、人型のカグラの姿になって地面に墜落した。

 だが、それで攻撃は止まず、更に追撃とばかりにレイチェルの踵落としが、高高度から叩き落とされる。

 九曜が走る。そこをアスモデウスの炎が阻む。

 水の大剣で無理矢理薙ぐが、背後に回ったシトリーが九曜の足元に向けて幾つもの水の槍を投擲、水圧により、地面を爆発させる間接攻撃で水を吸収させない戦法に出る。逸早く真上に跳び、爆発した地面を大剣で叩き伏せ、難を逃れる九曜だが、完全に足止めを食らう。もうカグラの救出は間に合わない。

「ち……っ!」

 舌打ちしたのはカグヤ。イマジン操作で無理矢理カグラを引き寄せ、間一髪のところで攻撃を回避。カグラを抱き止め、急いで距離を取ろうとする。

 レイチェルはカグヤを追わない。代わりに孤立した九曜に向け、今度はアスモデウス、シトリー、ロノウェ憑依の自分と、三人がかりで囲む。

 九曜は慌てることなく『ユニット』を自分の周囲に展開。全ての『ユニット』に水剣を形成させ、構える。

 シトリーの水鎌、アスモデウスの炎の爪、レイチェルの手刀、それら全てを左右の剣と、周囲に展開する水剣を巧みに操る事で対応して見せる。

 やはり別格。闇御津羽の式神、九曜は三対一でも防御に徹すれば抜かれないだけの実力を有していた。

「……けど、アナタの負けよ」

「―――!」

 レイチェルの言葉に気付き、目を見張る九曜。

 いつの間にか憑依を解いていたレイチェルは、アスモデウスの紋章を輝かせ、別の悪魔を憑依させていた。憑依の切り替え。露出度の高い衣装に、朱い髪、背中から羽を、額からから角が生やした艶やかも恐ろしい悪魔の姿に変わっていた。

「『砲火(אֵשׁ יֶרִי)!!』」

 アスモデウスと一体になった声が放たれ、編まれた術式(イマジネート)が巨大な炎となって放たれる。九曜の身体をすっぽり覆ってしまってもまだ余りある程の炎の弾が迫り、咄嗟に九曜は瞬時に作れる水を総動員して水の障壁を作り出すが―――、

 

 バゴオオォォンッッ!!

 

 強烈な爆発。

 水はあっさり蒸発し、地面に接触するや辺り一面を衝撃波と共に炎が包み込み、受け身も姿勢制御も、全てを奪い去って九曜を吹き飛ばす。

 全身を炎に焼かれ、服の大部分が焼け落ち、露出する肌は火傷を負ってしまったのか、淡い緑色のイマジン粒子で溢れ、薄っすらと輝いている。衝撃が和らぎ、宙を舞っていた九曜の身体が、やっと重力を思い出した時、彼女は既に頭上を押さえていた。

「お返しよ」

 シトリーは蓄えておいたプールサイズの水を手の平に集め、野球ボールサイズに圧縮、そのまま痺れて動けない九曜の腹部に押し当て―――破裂させた。

 炎の爆発に続き、水の爆発が宙で弾ける。

 まともに食らった九曜は、吹き飛ばされた勢いを殺す事も出来ず地面に直撃。地を割ってなお留まらぬ勢いに押されバウンド。地面を凄まじい勢いで転がって行く途中、カグヤの手によって抱き止められる。

 カグヤはカグラを左腕に抱いているので、右手一本で九曜を抱き止める結果になり、自然と両腕に女の子を抱く形になってしまう。

「……っ、申し訳ありません……、我が君……っ」

 傷だらけになった姿で、苦悶の表情を浮かべながら、九曜は謝罪を述べた。

 追撃を気にしていたカグヤであったが、そこはエキシビジョンの形式に助けられた。優勢を得たレイチェルは、一先(ひとま)ず手を止め、こちらの様子を窺っている。互いに見せ場を作った事で、最初の劣勢の意趣返しのつもりだったのかもしれない。

(だとしたら、見事に食らわされたもんだよな……)

 絶対的に優勢を崩さなかった九曜の存在を、たった一手で覆されてしまったのだ。ぐうの音も出ない程に見事な意趣返しとしか言いようがない。

(それに、この待ちは……、やっぱり誘ってやがるんだろうな……)

 カグヤは彼女と初めて出会った時の事を思い出していた。

 クラス内交流戦一日目終了のすぐ後、彼は彼女と偶然遭遇、宣戦布告を叩き付けられていた。

 

『アナタの“三体目”の式神は、必ず私が引きずり出す』

 

(……、うぬれ……)

 どうやら宣言通りに事を運ばれたらしいと悟り、カグヤは渋面になった。しかし、すぐに溜息一つで切り替えると、九曜とカグラの肩を抱き寄せ、二人に耳打ちする。

「二人とも、怪我の方はどうだ?」

「ちょっと、まだキツイ……。でも、お兄ちゃんが命令してくれるならやるわよ!」

 頼もしく即答したのはカグラだ。身体から粒子光を放つ事は無くなっているが、神格を随分と削られたのか、多少迫力が落ちている印象を残す。それでも最後まで戦う姿勢を崩す気は無いらしい。

「我が君の意のままに」

 ぶれない下僕姿勢の九曜はただそう告げるだけだ。だが、彼女が「大丈夫」と口にしなかった以上、万全ではないのだろうとすぐに悟れた。それだけに二人の付き合いは長い。

 カグヤはレイチェルを見据え、一瞬逡巡―――、決意して僅かに俯くと二人に耳打ちする。

「“三体目”を使う。時間稼ぎを頼んだぞ」

「…! うん!」

「承りました」

 強く頷く二人。

 同時に、準備が整ったと感じ取ったらしいレイチェルが攻撃に移る。憑依はアスモデウスから再びロノウェに変え、三体で同時に仕掛ける。

 迎え撃つ二人は、九曜を前衛、カグラを後衛に隊列を組み、互いをカバーし合う様に道を阻む。

 同時に、『強化再現』の全力で後方に飛び退くカグヤ。本人も試した事がなかったので多少驚く事になったが、単純な『強化再現』でも、跳躍を限定に全力を振り絞れば、一度の跳躍で五十メートルも飛び退く事が出来てしまえた。

 それでも、ロノウェ憑依のレイチェル相手では一瞬で詰められてしまう距離。カグヤは急ぎ『祝詞』を始める。

 

「 輝夜(かぐや)神子(みこ)たる 東雲の(かんなぎ)が願い奉る 」

 

 朗々とした声。それは今までの術で発動した物とは明らかに違い、その言葉自身が力を宿している事を、はっきりと感じさせる。

 この詠唱は術を強化するための“詠唱”ではない。レイチェルはすぐにその真実に気付き、僅かな焦りを感じ取る。今、彼女の脳内では『直感再現』が全力で警報を鳴り響かせ、「断固阻止せよ!」と悲鳴を上げていた。

 エキシビジョンであるなら、むしろここは出させる事がセオリー。だが、負けてやる気がないレイチェルは、この警告に従い、無理矢理九曜を蹴飛ばし、前に出ようとする。

「させないわっ!」

 瞬間、九曜が懐から小さな小太刀を抜き放つ。その刃は翡翠の様な透明感を持つ緑色をしていて、あまり丈夫そうに見えない。しかし、濃い口を切って、その刃を視界に映した瞬間、レイチェルは新たな危険を『直感』した。この刃はまずいっ!

 抜き放たれた小太刀。刃渡り十五センチ程度の短い刃が振り抜かれ、寸前で躱したレイチェルは、その驚異を目撃した。

 刃が、イマジン粒子の結合を易々と切り裂き、解いて見せたのだ。つまり、術式その物が斬り飛ばされ、イマジンを粒子片へと霧散させたのだ。

「粒子切断っ!? そんなの、無効化能力でも覚えないとできない筈―――!」

 言い掛けて思い至る。そう言えば、無効化能力以外にも、イマジン能力が天敵とする力が、もっと身近に、手っ取り早く手に入る方法があったはずだ。それこそ授業内容で聞かされる程度の簡単な知識の中に―――、

「イマジン物質生成! Eクラス産のアイテムかっ!?」

「刀匠は、火元(ヒノモト)(ツカサ)です」

 Eクラスの武器を使用する上の礼儀として、制作者の名を口にする九曜。刃を逆手に構えながら、主を守るため立ちはだかる。

 

「 月下の神桜(しんおう) 朔夜(さくや)の深淵 」

 

 レイチェルは焦りを感じながらも、必死にカグヤの詠唱を妨げようと突進を繰り返す。九曜の刃を一撃でも受ければ、イマジン体にとっては甚大なダメージを受けると解っていても、前に出る事を止める事が出来ない。

 レイチェルは気付いているからだ。

 紡がれる言霊は『起動キー』などではない。言葉その物が術式であり、力その物。それは、神道に於いて云われる、言霊の概念と同じ、“力ある言葉”の概念。神の業績を謳った祝詞に他ならない。

 

「 月読の加護持ちて 我に禍事(まがごと)を討ち払う力を授け給え 」

 

 攻める、攻める、攻める……。多少無理矢理にでも、数と質の差で押して、一気に畳み掛ける。既に消耗しているカグラと九曜には、これを止め切る力は残されてない。だからカグラはともかく派手な炎で牽制し、九曜は短期決戦覚悟で小太刀を振り回し、互いに防衛線を後退させながら時間稼ぎにのみ全力を尽くした。

「この……っ!」

 後退する防衛線。レイチェルの腕が届きうる範囲に入った瞬間、彼女は負傷する恐れも(かえり)みず、一気に飛び込み拳を振るう。

 あと僅かで届くと言う距離で、しかし、九曜が身を呈してカグヤを庇い、左肩を引き換えに、最後の条文を無事に唱えさせた。

 刹那に眩く閃光。カグヤを中心に放たれる黄金の輝き。危険を感じて飛び退くレイチェル陣営。そのタイミングに合わせるように、九曜は手にしていた小太刀をカグヤの方へと投げてよこす。

 小太刀を受け取ったカグヤは、高らかに告げる。

「これなる宝を奉納し、降りませ―――!」

 小太刀が粒子と散り、天から黄金の輝きが降り注ぐ。光に包まれたカグヤは、あまりの輝きに誰も直視する事が出来ない。光が溢れる中、カグラと九曜もまた、粒子となって霧散する。二人の姿は完全に消え黄金の輝きが世界を満たした。

 満たされた光は一瞬。思わず手で視界を庇っていたレイチェル陣営は、恐る恐るといった具合に視界を開き―――そして目にする。淡く、黄金の粒子を残り火の様に纏った、“絶生の美少女の姿”を。

 艶やかな黒髪は、濡れ羽色の輝きを反射し、質の良さを称えている。さり気無くされたハーフポニーの髪型さえ、素朴にしてこれ以上ない程の清純さを物語り、全身を覆う様に流れる。髪に差された鮮やかな華の髪飾りも、素朴に見える彼女にまったく見劣りしていない。元々丸みを帯びていたカグヤの顔立ちは、もはや見間違いようの無い女性のそれとなり、見た目だけで肌の柔らかさと瑞々しさが窺える。ほんのり朱に染まった頬などは、色気よりも愛らしさが強く、老若男女を魅了する。

 薄く開かれた瞼から覗く黒曜石の瞳は、その潤みによって反射する光を瑠璃色に輝かせている様に幻視させ、まるで濡れた玻璃(はり)の様だ。

 纏っている衣は、十二単と見紛う艶やかな重ね着で、月、鳥、桜の意匠が散りばめられている。実際はそんなに多く重ねられていないらしく、意外と体の線は窺える。そのため手が袖に隠れ、脚すら露出していない様な姿でも、その身が華奢な少女の物である事が何とはなしに窺え、まるで日本人形の様だ。腰には帯を巻いているらしく、その胸の膨らみは、控え目ながらもはっきりと存在を主張していた。

 カーディガンの様に両の袖に掛けられた羽衣は、月夜をイメージしたかの様な、青みがかった薄い黒色をしていた。

映姿(うつしすがた)迦具夜比売(かぐやひめ)

 カグヤとは違う、最も女性らしい愛らしさを持つ高い声で、“彼女”、『迦具夜(カグヤ)』は己の権能を口にした。

「……っ! イマジン体召喚で戦う者は、必ず三つのパターンに分かれる。単純に数を増やし数で攻めるか、武器化させる事でイマジン体を構成しているリソースを全て一点に集中させるか、あるいは自身に憑依させイマジン体の能力を自分に有するか……。私は、三つ目の、手段を選ぶ事で、能力の制限を超える方法を選んだ。てっきりお前は二つ目かと思っていたんだが……」

 レイチェルは苦虫を噛み潰したような表情で迦具夜(カグヤ)を睨みつける。

「お前は両方選んでたって事か……っ!」

「………」

 迦具夜は微笑むだけで応え、胸の前で軽く手を翳す。その行動を何らかの攻撃と捉えたレイチェルは、素早く先手を打つ。

 ロノウェ憑依の状態で突進。瞬時、迦具夜の眼前に移動したところで間髪いれずその胸を蹴り上げ、宙に浮かす。軸足で地面を蹴りつつ縦に回転し、浮き上がった迦具夜の後頭部目がけ踵を落とし、地面に叩きつける。

 ボンッ! と、地面が爆発する様な音をたてて小さなクレーターを形成。それを確認する暇も無く、レイチェルはアスモデウスの紋章が描かれたカードを取り出す。レイチェルのイマジン体は紋章を描く事で召喚が可能となる。それは、紋章さえあれば、距離を無視して移動も可能と言う事であり、距離を無視できると言う事は、憑依の切り替えも瞬時に可能と言う事であった。

 アスモデウスの紋章(シンボル)が輝き、レイチェルの憑依がアスモデウスへと変わる。翼をはためかせ、空中で姿勢を整えつつ、両手を掲げ、強力な業火を迦具夜に向けて叩きつける。

 紛うことなき大爆発が起き、世界を深紅に染め上げる。直径十メートルはあろうかと言う真っ赤な火柱の中心に、僅かな黒い影が存在し、それが迦具夜であると解る。

 まだ形がある。それを刹那に認めたレイチェルは新たにシトリーの紋章が刻まれたカードを取り出す。

 憑依が入れ替わる。

 青い髪に清楚なワンピース姿の水の悪魔へと変わる。

 飛行能力を失い、自由落下する中、彼女が片手を掲げるだけで大量の水が集い、火柱の周囲を包み込む様にドーム状に展開される。

 グッ、と拳を握った瞬間、水は一瞬で火柱を中心に圧縮され、瞬時に水と炎が混ざり合う。結果起きたのは高熱で大量の水が気泡へと変わる事で起きる水蒸気爆発。今度は飛沫と霧で世界が真っ白に染まってしまう。

 物理的な破壊による疑似爆発。炎による爆炎焼却。水をかけ合わせる水蒸気爆発。計三回の爆発を披露してみせたレイチェルは、地面に着地すると再びロノウェへと憑依を変える。今度はアスモデウスとシトリーも傍らに侍らせ、炎と水の砲撃を準備している。

「……ああぁっ!」

 短い掛け声と共に飛び出す。同時に炎と水の砲弾が槍の如く発射される。その槍を両手に捕まえ、ロノウェの膂力で一気に突っ込む。濃霧となった水蒸気を突き破り、物理的にはほぼ限界を超えた一撃が叩き込まれた。

 空気が砕かれ、花火が打ち上がった様な轟音が炸裂する。視界を塞ぐ濃霧は一瞬で消し飛ばされ、視界はとてもクリーンだ。

 故に、誰もが驚愕した事だろう。これだけの超攻撃を連発して見せ、最後には直接攻撃まで仕掛けたレイチェルの脅威。その全てを受けてなお―――、対して汚れてすらいない迦具夜比売の姿がそこにあったのだから。

 驚愕に目を見開くレイチェルに対し、迦具夜は穏やかな表情を浮かべつつ、水の槍を脇に通し、火の槍を軽く翳しただけの手の平で受け止めきって見せていた。

「『燕の産んだ子安貝(甲斐無し)』」

 呟いた言葉が、使用されている能力だと悟る。

 飛び退き距離を取ったレイチェルは、素早く思考し、今の能力の正体を看破する。

(『燕の産んだ子安貝』は竹取物語の迦具夜比売(かぐやひめ)が求婚してきた帝に条件として出した物の一つだったはず。これは後に失敗した光景を元に『甲斐無し』の言葉の由来ともなったと聞く……。良く解らんが『甲斐が無い』、つまりは、思ったほどの成果が見込めないと言う事だろう? どう言った原理で発動してるのかは解らんが、ともかくアレが発動中は、攻撃しても成果は見込めないって事だな……。なんだそれっ!? 無敵じゃんっ!?)

 理不尽な能力に対し、自分で自分の思考にツッコミを入れてしまう。

(いや、いくらなんでも『無敵の属性』なんてあり得ない。仮にあり得ても、あらゆる権能には付け入る隙がちゃんとある。相手の能力が竹取物語の迦具夜比売なのは既に予想出来ている。そこから予測立てて行けば理解できるはず)

 単純な攻撃力は通じない。その仕組みには必ず弱点となる個所もあるはずだと、レイチェルは必死に思考を巡らせ―――、

(………ッ!)

 ―――ふと、強烈な違和感を抱く。

 何が違和感として感じるのかは解らない。ただ、自分が目の前にしている人物に対しての対応が、間違っている様な気はした。

 少女は微笑む。微笑むだけで何かしらのアクションは起こそうとしていない。

 レイチェルは被りを振る。気を強く持って行動を開始する。

(何かしらの幻術でも仕掛けられてるのか? ともかく行動しなければ!)

「ロノウェ!」

 レイチェルはロノウェに命じ自身に憑依させる。

 再び執事服の麗人となり地を蹴って飛び出す。

「はあっ!」

 効果が無いと解りつつ、何か糸口を見つけるために攻撃を繰り出す。

 突き出した拳は軽く持ち上げられた袖に阻まれ容易に受け止められる。腕にはまったく力が入っている様子は無いのに、ぶつかった拳は分厚いゴムを殴ったかのような感触を覚える。

「はあああっ!」

 構わず拳の乱打を見舞うが、迦具夜は涼しい顔で攻撃を受け流す。片手の袖で口元を隠し、もう片方の手だけで柔らかく払いのける。その動きも決して速くは無いはずなのに、的確に攻撃を捌き、視線すら合わせる事無く的確に攻撃を防いでいく。

(攻撃を防げる理屈は解らないが、防御していると言う事は無条件にダメージを消している訳じゃない。ジークの不滅の権能に比べれば脆弱な方なのか?)

 だとすれば攻撃その物は効果がある事になる。先程の無傷状態も、“こちらが予想していた程度の効果を発揮しない”と言うだけなら、より強力な攻撃を当てれば目に見えた効果が発揮されると言う事になる。

(そうでなくてもダメージを無効化できていないのなら、小さいダメージを蓄積させてやれば、いずれは崩れる。アスモデウスとシトリーで熱の変動を常に一定にさせずに維持し、打撃でダメージを蓄積させればいずれは崩れるか?)

 悠長な戦い方な気もしたが、今のところ他に有効な戦術も思い付かない。とりあえず状況を変化させていき、様子を見るしかない。

 一旦ラッシュを止め、数歩下がってから彼女は命じる。

「アスモデウス! シトリー!」

 イマジン体は主に名を呼ばれるだけでも充分にその意図を理解する事が出来る。故にこれまでも緻密な作戦を簡単な指示だけで行う事が出来ていた。

 だと言うのに、今回ばかりは二体のイマジン体はすぐに行動を開始しない。この対応の遅さに思わず振り返って確認してしまうレイチェル。そこには困惑顔で顔を見合わせるアスモデウスとシトリーの姿があるだけで、特段何か妨害を受けている様子は無い。

「何してる!」

 二人を叱責すると、二対のイマジン体はビクリッと肩をはね上げ、今頃指示に気付いたかのように行動を開始する。

(二人の様子がおかしい? やっぱり何かされて―――!)

 ガクリッ、と、一瞬だけ動きが阻害される。それが憑依中のロノウェが、戦闘を継続する意思が削がれたのだと知り、驚愕する。

(まさか……! 戦意を削がれている……っ!?)

 もしもそれが本当なら、これほど厄介な能力は無い。

 天を貫く聖剣も、地を焼き払う魔槍も、例え破滅を呼ぶ結界であったとしても、この能力の前では無意味になる。何しろ、戦う意思その物を奪い取られてしまうのだから、以下に強力な力も使い様が無くなってしまう。

「! シトリー! すべてをさらけ出してやりなさい!」

 時間を掛けるわけにはいかないと判断し、レイチェルはシトリーに命じる。

 その焦りが通じているのか、シトリーも焦燥感漂う強張った表情で固有スキルを発動する。

 手の中に円盤状の水を展開し、その表面を綺麗に磨き上げた鏡の様に磨き上げる。出現したのは水鏡。シトリーの三つ目のスキル、相手の感情や思考、その本性すら写し取る水の鏡『写し鏡』である。

「その正体を表しなさい!」

 水鏡を迦具夜に向け、彼女は不安を押しのけるように叫ぶ。鏡を向けられた迦具夜は、やはり微笑みを浮かべ、むしろカメラに目線を向けるような仕草で笑い掛けてくる。

 何故かその笑みに怯えを感じながら、シトリーは表情を強張らせながら水鏡にその正体を映し出す。

 果たして現れたのは―――、何も変わり映えのしない、月の様に美しい少女が微笑んでいる姿だった。

「そう恐れないでください。私は決してあなた方を傷つけたりはいたしません」

 読み取った思考と同じ言葉を口にし、迦具夜比売は微笑み続ける。

「あ……っ」

 途端、微笑みを投げかけられたシトリーが赤面し、何かに怯えるように視線を逸らす。

 レイチェルはこの様子に愕然とするしかない。

 『写し鏡』が読み取った思考と姿、それらから推測される答えに、彼女は恐怖に似た感情すら抱いていた。

 現在、東雲カグヤは迦具夜比売を召喚し、自身へと憑依させている状態のはずである。ならば、『写し鏡』に映るのは、紛れも無く“東雲カグヤと言う少年”でなければならない。それがどうした事か、鏡に映っているのは迦具夜比売の方であった。それはつまり―――、

「あそこにいるのは、カグヤの身体を借りて降りた、“迦具夜比売本体”かっ!?」

 

 

「え? どう言う事?」

 レイチェルの驚愕の意味についていけなかった桜庭(さくらば)啓一(けいいち)が観客席側で疑問を述べる。

 しかし、その質問にカルラが答えるより先に、思わず立ち上がってしまう程に驚いた少女がいた。茶色の髪をサイドテールでまとめた少女、多田(ただ)美里(みさと)だった。

「な、なんて無茶苦茶なっ!? 神降ろしですって!? 全ての巫女の切り札じゃないっ!?」

「な……っ!? まさか、神憑(かみがか)りしてるって事っ!? そんなの“憑依”のレベルじゃないじゃないっ!?」

 美里の台詞に理解に至ったのか、今度はキツイつり上がった黒瞳が特徴的の神永(かみなが)一純(いずみ)が驚愕する。

 おかげで余計混乱してしまった啓一が助けを求めるような表情でカルラに視線を送る。

「ちょっと可愛い顔しないでください。ちゃんと説明しますから―――。ええっと、そもそもイマジン体にいくつもの種類が存在しまして、一から説明すると長くなってしまうのでお二人の比較だけに留めますが……、お二人の召喚しているイマジン体は、神と悪魔と言う違いがあるだけで、実はまったく同じ『神話級』の存在で、語られる神話の力を振るう事が出来る強力な物なんです。っと言っても、私達は一年生ですし、設定されている力を完全には扱えないのですが……」

「ああ、だから神様の割には力が弱いと思った」

 カルラの発言に納得の声を出したのは浅蔵星琉。彼女も実家が神社だけあってか、神に対する知識はそれなりに有しているらしい。

 カルラはそれに「はい」と頷いてから続ける。

「そのため、イマジン体使いは、その能力を可能な限り引きだす為、あらゆる方法を取ります。一つは数を作る事で純粋な物量で攻める方法。もう一つは武器化する事で、一体が有している神格を、限定的な物に集中させて扱う方法。最後に自分の体に憑依させる事で、イマジン体の制限を無視して力を行使する方法です。まあ、どれも負荷が零になるわけではないのですけど」

 そこで一旦言葉を斬るカルラに続き、話を引き継いだのは美里であった。

「でも、今あの東雲が使ったのは“憑依”なんて生易しい物じゃない。更にその上の“神憑り”」

 真剣な表情で告げられたが、啓一にはその違いが解らない。その疑問は明菜理恵も同じだったらしく、困ったような表情でカルラに説明の続きを求めた。

「どう違うん?」

「憑依は言葉の通り自身の身体に霊格を宿すだけです。ですが神憑りはその限りではありません。アレは自分の体を器にして、神その物を丸ごと降ろしているんです。それはイマジン体などと言う枠組みのレベルではなく、正真正銘、“神様”が目の前に降臨していると言う事」

「わ、解り難い……!」

 何気に話を聞いていたらしい鋼城カナミが渋面になって呟くと、それを聞きつけた水面=N=彩夏が解り易く噛み砕く。

「普段使っているイマジン体が、1~5%くらいだとすると、神格武装は5%確定状態を維持する物。憑依は5%を超えられる代わりに、超過1%毎に強烈な負荷が主に掛るわけだ。それらに対して“神憑り”は突然100%分の力を引っ張り出してくるわけだ。ね? もうこれだけでどんだけって話?」

 説明され、理解した瞬間、啓一にもその異常さがやっと理解出来た。理解できただけに、その反則級の技に不安を覚える。

「それって……、リスクはどうなるんだ?」

 カルラは即答せず、僅かに逡巡する。代わりに答えたのは美里だった。

「“巫女”の属性で考えれば、不可能な技術じゃないわ。呼び出すだけでも相当な対価を支払う事になる。その上、自分の体を生贄に捧げている様な物だもの。リスクなんて、想像できるだけでもあり過ぎて解らないくらい……!」

 その言葉に戦慄を覚えたのは、啓一だけではない。

 

 

「フンッ、アレだけの切り札を持ち得ながらこの頂には遠く及ばなかったか……。持ち腐れた宝を、この様な場所で見世物にするとは……、愚物らしい哀れさよな?」

 シオン・アーティアが呆れたように呟きながら、せっかくの宝物をドブ川で見つけた様な醒めた視線で見つめていた。

 対してオジマンディアスは、宿敵を見る様な目で、むしろ興味深そうに笑っていた。

「くく……っ、よもや月の神に仕える仙女(せんにょ)を降ろすか? これは我との因縁を感じて良いのかな?」

 今だ寝そべっているプリメーラは、何処か懐かしい物を見る様な目を向け、サルナは変わらず冷やかな視線を送るだけ。そして詠子は―――、

(今は沈黙! でも訳知り顔にダークな笑みで行こう! 何かそれっぽい雰囲気に混ざってて超最高~~~っ!)

 ダークな笑み浮かべる内心で、自分でもどうしようもないほどハッスルしていらっしゃった……。

 

 

 レイチェルは必死に攻撃を繰り出し続けていた。

 ロノウェによる打撃は、如何なる『イマジン再現』を行っても効果が発揮されない。もはや物理攻撃では効果的な手段は無いのだろうと理解する。

「ならっ!」

 カードを取り出し憑依を変更。シトリーを憑依させると幾つもの水球を作り出し、迦具夜の顔めがけて放出して行く。

(いくら神憑りと言っても、ベースは人間! 水で呼吸を封じてやれば、呼吸できなくなって、肉体が先に死ぬはず!)

 いくらダメージを緩和する能力を持っていても、これなら関係無い。そう判断しての攻撃であった。

 攻撃に曝された迦具夜は、袖の中から一つの枝を取り出す。

「『蓬莱の玉の枝』」

 その呟きと共に、迦具夜の姿に靄がかかる。

「これは……っ!?」

 それは迦具夜の周囲で何かが起きたと言うわけではないようだった。いわゆる気配遮断の一種らしく、そこに存在しているのに、その存在を認識する事が困難になっている。

 素早く『写し鏡』で相手を見つけようとするレイチェルだが、どうしてもその存在を希薄にしか捉える事が出来ない。おかげで攻撃は狙いが定まらず散発的になってしまい、容易に回避されてしまった。

(これは、完全に気配を消さない代わり、完全に見破る事の出来ない気配遮断と言う事っ!? 目の前にいるのに認識がぼやかされるなんてっ!)

 歯噛みしつつ手段を変える。

 今度はアスモデウスに憑依を移し、周囲一帯を炎で包む、大掛かりな術を発動する。

(普通に攻撃しても効果は得られない……! なら、周囲一帯を炎で覆い尽くして酸素を根こそぎ奪えばっ!)

「『火鼠の(かわごろも)』」

 炎に包まれる最中、迦具夜は袖に枝をしまってから新たに赤茶色の衣を取り出し、それを肩に掛けるようにして羽織った。

(『火鼠の(かわごろも)』? アレは伝承では炎に対して絶対的な耐性がある宝具だと聞いてるけど……?)

 レイチェルは困惑する。確かに火鼠の(かわごろも)は耐熱性としては最高級の武具だろう。だが、レイチェルが狙っているのは炎熱ではなく、酸素の消耗だ。ここで耐熱属性を付与する意味は無い。そもそも、彼女には受けたダメージがこちらの予想以下になる権能を有しているのだ。既に防御力を上げる必要性は皆無だ。ならば何故そんな事をしたのか? その答えはすぐに現れた。

「な……っ!?」

 それは突然。周囲に展開していた炎が、全て弾けて消え去ったのだ。

(衝撃か何かで消されたんじゃないっ!? 術式(イマジネート)その物を打ち消されたっ!?)

 術式その物を破壊された事で、イマジンで作り出されていた炎が消滅した。それを悟った瞬間、レイチェルは迦具夜が行った物の正体を知った。

「大掛かりな術式を失敗させる宝具……っ! それが『火鼠の(かわごろも)』の力って事っ!?」

「どれも副次効果です。本来、これらの宝具が宿す力は別の物です。ですが、神話の伝承により、神々がその権能を多種多様に獲得する様に……、その功績から英雄が神に匹敵知る恩恵を授かる様に……、これら宝具もまた、後の世に語られる逸話を持って、新たな権能を有する事になった、神宝宝具の類なのです」

 レイチェルは再び歯噛みする。

 『宝具』と言われのは、イマジンに於いては神や英雄がその功績を立てる切欠、もしくは報酬として与えられる、“価値ある宝”である。それらは全て、権能に匹敵する力を有し、個体の名を与えられるほど強力無比な物として認識される。神格武装や霊剣、宝刀、神器もこれらの内に入り、生産系能力者の多いEクラスが、いつかそこに辿り着く武具を作る事が目標とされる位である。

 しかし、これらはイマジンのみで作り出しても、それほどの効果を発揮できない。それはカグヤの神格武装を見れば解る通り、結局は術者個人の技量に左右されてしまうからだ。そうでなければ、既にEクラスは神話級の武器を作りたい放題だ。故に、本来はここまで威力のある宝具を幾つも使う事は出来ない。

 だが、そこにいるのは宝具を所有する主である、迦具夜比売本体。つまり、宝具の類も彼女の所有する一部として同じく顕現している事になる。

「つまるところお前は、それらの宝具を所有している事が前提で一柱の神と言う事かっ!?」

 竹取物語の迦具夜比売は、本来神話で語られる神ではない。だが、カグヤの使う能力は神道における正しい神しか召喚できない。ならば、迦具夜比売を神として認めるだけの神格を有(辻褄合わせを)する必要がある。それが、権能を有する神宝宝具の所持者と言う事なのだろう。―――っと、レイチェルは判断したのだが、それは緩やかに首を振られる事で否定された。

「いいえ、私は真実、神道における神です。月の支配者たる月読の神に御仕えるする、因幡の一族に比肩する仙女。それが私の正体、神に仕える仙女の巫女にして、葦原の人々からは、“力強き者”として称えられる、神の末席、その一柱でございます。……これらの宝具は私が所有する物ではなく、私の逸話で有名な物として、“加護の一部”として与えられた物に過ぎません」

「な……っ!?」

 驚愕。

 迦具夜の言葉の意味を正しく理解したレイチェルは、もはや言葉も無く、呆然のその存在を眺めることしかできない。

 神道に於いて“神”とは、西洋神話の様に圧倒的な力を有する物ではなく、単に強いと言う象徴として使われていた。八百万の神を信仰する神道に於いて、神とはピンからキリまで存在し、中には人の知恵に屈した神もいれば、そもそも人相手にも太刀打ちできない神もいる。かと思えば、人にはどうあっても太刀打ちできない天災級の存在までいたりする。それが神道における神と言う存在なのだ。

 迦具夜比売とはそう言った存在で、神と崇められる“程度”には、神格を有する存在なのだ。そして、元々神格を有していると言う事は―――“彼女が宝具を有するかどうかは、彼女の神格とは全く関係無いと言う事だ”。

 それはつまり……、彼女は今現在を持って未だ、その力の一端を一つも使用していないに等しいと言う事なる。

「う……ぁ……っ」

 ぐらりと身体が傾く。ショックから来た立ちくらみではない。自然と身体から力が抜け始めているのだ。

 突然襲われる違和感。何故自分はこんな所で戦闘態勢になっているのだろうか? “戦う者などいない筈なのに?”

 そんな疑問を抱いてしまった時点で我に返る。(かぶり)を振って自身を繋ぎ止め、迦具夜を睨めつける。

「この戦意を削いでいるのも、お前の権能ではないと言うのかっ!?」

 もはやなりふり構っていられないと判断し、なんでもいいから情報を得ようとするレイチェルに、迦具夜は微笑みながら、やっぱり否定した。

「これは月の仙女が有する“特性”。地上にある物は全て、私達と戦う事、叶いません。月の住人全てが持ち得る特性であり、“権能でさえ無い”。私達にとっては呼吸と同じ物であり、自分で止める事も出来ない物です」

「なぁ……っ!?」

 神で在りながらその権能を一切振るわず、人を下す。それが地上に降りた神本体と戦うと言う事だと突きつけられ、もはやレイチェルに言葉は無い。

 嘗て、迦具夜姫を迎えに来た月の住人を相手にした帝の兵士達も、きっとこんな気持ちだったに違いない。“何もさせてもらえない”っと言う無力感に……。そう思い知らされる。

「アスモデウス! シトリー! ロノウェ!」

 それでも、カグヤに対する対抗心でギリギリ踏ん張り、彼女はカードを投げ、悪魔を召喚。戦いを継続しようとする。

 しかし、呼び出された悪魔達は、困惑した様子で誰も戦おうとしない。それを何故? とはは思わない。既に答えはレイチェル自身が身にしみている。何しろ命令した自分自身が、何故そんな命令をしたのかが解らなくなってきているのだから。

 迦具夜比売は歩み寄る。もはや棒立ち状態になってしまう悪魔達を通り過ぎ、戦わなければならないという義務感と、喪失された戦意に板挟みになって、途方にくれるレイチェルの前までやってくる。

 迦具夜比売は手を差しだし、その頬に袖越しに触れる。

「残念ながら、私には“戦う権能”は持ち合わせていません。ですから、私の“力”で終わらせる事は出来ないのです。……もう、降参してくださいますか?」

「は、はい……」

 殆ど反射的にレイチェルは呟いてしまっていた。それを自覚しながら、それでも否定する事は、もうできそうになかった。戦意を削がれる。それがこれほど圧倒的にチートな能力なのだと思い知らされながら、彼女は敗北宣言をさせられてしまうのだった。

 

『レイチェル・ゲティングスの降参(リザイン)を確認! この勝負、東雲カグヤの勝利としますッ!!』

 

『っしゃぁーーーーっ!!』

 

 アナウンスの勝利宣言が告げられ、カグヤの義姉が立場を弁えず歓声を上げたところで、エキシビジョンマッチは終了した。

 そして、一年生の殆どは、今日この日に思い知る事となった。戦意を削ぎ、戦わずにして勝利してしまったAクラスの東雲カグヤ。彼をしても、上位に五名にすら名を連ねる事が出来なかった。それほどの力の持ち主達が、各クラスのトップとなり、明日、雌雄を決する。それは一体、どれほどの頂きだと言うのだろうか?

 

 

「おい東雲」

「あら? 司さん」

 控室に戻る途中だった迦具夜は、その途中で火元(ヒノモト)(ツカサ)に声を掛けられた。

「どうかなさいましたか?」

「なさいましたか? じゃねえ。……前以て話を聞いてたとは言え、一言くらい文句言わせろや」

「……。ああ~……、『剣』の事ですか?」

「神様に献上する物だとは言われていたから、お蔵入りくらいは覚悟してたがよ? まさか、迦具夜比売の代償に使われるとはな……」

「ふふふっ、ごめんなさいね? 神と言うのは自分が神として扱われなければ、その力を正しく下賜(かし)できないのです。ですから、単純な金銭だけではあまりにも法外な値段を要求する事になってしまいますから。その点では、司さんの剣は一本で十二分にたりましたよ」

「そう言って、価値を認めてくれるのは嬉しいがね……。まあいい。文句は言わせてもらったから『真打ち』の事は収めといてやるよ。……ところでもう一つ聞いて良いか?」

「なんでしょう? ……なんとなく想像できるのですがぁ」

「お前さん、なんでまだ“女”になってるんだい?」

「ええっと……、迦具夜比売が月に帰る伝承は、本人の意思とは全く関係ありませんよね?」

「つまり自分の意思では戻れねえって事か?」

 途端に面白そうに破顔(はがん)する司に、迦具夜は苦笑いを浮かべる。

「んで? それいつ戻るん?」

「さ、さあ……? 私にもいつになるのか……? 悪くすると数日はこのままです」

 その発言に、司は面白いネタを見つけたと言わんばかりに笑い飛ばすのだった。

 

 そして、ついに前哨戦は終了。これから始まるのは、正真正銘一年生達の頂上決戦の舞台である。

 




東雲カグヤ三体目の式神
迦具夜比売の開示

保護責任者:のん
名前:迦具夜比売(かぐやひめ)  :
年齢:20(の容姿)     性別:♀      カグヤの式神
性格:お淑やかで気品があり、誰に対しても愛情深く接する

喋り方:お淑やか
自己紹介  「竹取の翁の子にして、月読の仙女。迦具夜比売と申します」
求婚対応  「私は泡沫の幻にすぎません。それでもと仰るのでしたら、世界の何処かにあると言われる宝をお持ちくださいませ」
他人対応  「どうぞ、よしなに。仲良くしてくださいませ」
戦闘時   「私は戦いを得意とする神霊ではないのですけど……」

戦闘スタイル:数多の宝によってともかく戦闘を避け、最終的には相手の戦意を削ぎ、戦わずに勝利する。

身体能力3     イマジネーション3
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3

能力:『月の仙女』

技能
各能力概要
・『カグヤの宝物』
≪月の仙女が所有する数多くの宝具を収めた蔵。その全容は彼女にも知り得ないほどだが、あくまで彼女は宝物を預かる身なので、そのほとんどを使用する権利を持たない。使用できるのは『かぐや姫』の有名な逸話、求婚した男達に条件として求めた物だけであり、それぞれ『仏の御石の鉢』(恥を捨てるの言葉の由来から、敵の加護による条件防御を何かを捨てることで無効化する)『蓬莱の玉の枝』(「偶(たま)さかに」稀にの言葉の由来から、完全に気配は消せないが、完全に見破られない気配遮断の能力)『火鼠の裘(かわごろも)』(敢え無くの言葉の由来から、大掛かりな条件を満たす術式を必ず失敗させる)『龍の首の珠』(堪え難いの言葉の由来から、理に反する力を受け付けない)『燕の産んだ子安貝』(甲斐無しの言葉の由来から、呪いや攻撃を受けても、相手が期待する程の効果を見込めないようにする)などの効果を持つ。しかし、これらはあくまで彼女が所有する道具の一部である≫

・『仙女』
≪スキルと言うより特性。彼女を前にする、彼女より霊格の劣る者は全て、彼女に対する戦意を失っていく。また、この特性は上限が無いため、あまり効果を中て過ぎると、相手をどうしようもないほど魅了してしまう事もある。しかし、生まれ持っての特性と同じなので、本人にはどうする事も出来ない≫

・『輝夜(かぐや)
≪本来の迦具夜比売の権能。夜なお明るき月光の領域を展開する天をひっくり返す力。例え真昼間でも空を侵食し、夜に変えてしまう。月の神月読の領域を広げる事。それが彼女の権能。しかし、それ以上の力は特にない。本来ならここで月読の神を降ろしたり、月の軍勢を呼び出すのだが、それは迦具夜比売の権能ではないので、彼女単体では使用できない。つまり夜にするだけの権能である。ついでに言うと、文明の光は力を著しく損なわれる位の効果はある。あと、迦具夜は自分の領域内では光となって移動も可能≫
(余剰数値:0)

人物概要:【神降ろしの儀によって、自らの身体に降ろしたカグヤ三体目の神、迦具夜比売。呼び出す祝詞は『 輝夜の神子たる 東雲の巫が願い奉る。 月下の神桜 朔夜の深淵 月読の加護持ちて 我に禍事を討ち払う力を授け給え 』となり、神聖視した上で高価な物を奉納し、自らの体を生贄に捧げる事で、神憑りを成立させている。この時、カグヤの刻印名が一時的に『迦具夜比売』とする事で、戻る時に刻印名ごと存在を破棄する事で疑似的な代償再現とし、戻ってくる事を成立させている。なので、カグヤと迦具夜比売は、同一人物として存在を確定されている。艶やかな濡れ羽色の黒髪、髪型はハーフポニーで鮮やかな花飾りを差している。長さは腰ほどにまで届く。玻璃の様に輝く黒曜石の瞳を持ち、カグヤよりも僅かに背が低くなっている。纏っている衣は薄手の着物を何枚も重ねているものだが十二単とまでは重ねていない。月、鳥、桜の意匠が施されていて、特に桜の衣装が強調されている。月夜をイメージする青みのある薄黒い羽衣は、彼女が仙女であることの証であり、これも神格の一部であったりする。羽衣が無くなると、途端に神格が落ちるのは、全ての仙女の共通した弱点である。迦具夜比売の場合はあくまで象徴なので、身体を離れると粒子となって消滅し、また新しく生成される。性格は御淑やかで柔和だが、どうもこの迦具夜比売の性格は、月の仙女としての物ではなく、媒介となっている東雲カグヤを元にして作られているらしい。性格や態度、趣味嗜好の全てが、東雲カグヤの深層意識をベースに作られているため、当人から大きく違った人格にはならないのだと言う。カグヤはこれについて赤面しながら断固否定している。東雲カグヤは、いずれ戦う事になる義姉、東雲神威と戦うための手段として考えられた一つ目の切り札だが、今回の手応えから、神威に対しては有効な力にはなりえないと判断。その能力故に、対人戦最強の切り札に思えるが、神格を一定水準を超えている者に対しては効果が極端に薄く、ギブアップさせるほどには至れない。レイチェル戦に於いても、レイチェルが悪魔の神格を完全解放できていれば、逆転勝利する事すらできたほどだ。また、召喚に対して前以て用意しなければならない宝が、あまりにも莫大で、一年生の内に何度も使えないと言う弱点も、現状で彼がトップクラスに入れない理由でもある。ちなみに、レイチェル戦後のカグヤは、自宅から両替した貯金が、“-”表記に変わっている事に絶句する事になる】


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Fクラスキャラ紹介

何故かEクラス飛ばしてFクラスの紹介!?
理由は、一年生最強決定戦に関わるからです。←(即ネタバレ!?)



Fクラス総勢

 

 

保護責任者:帝督

名前:叉多比 和樹(またたび かずき)         刻印名:なし

年齢:17        性別:男          一年生Fクラス

 

性格

心魂は熱いが、冷静沈着、思慮深く物事を主観的にも客観的にも見れ、どんなことにも異常なまでに〝常に冷静〝でいられる。決して仲間を見捨てず進んで仲間の盾になる。偏見や差別はせず、困っている人がいれば進んで直接的にも間接的にも手助けする。例え悪人でも極力救う努力はする。仲間が手を汚しそうになったら時と場合にもよるが全力で止めるし場合によっては代りに自身が手を汚す事も厭わない。行動力のあるヒーロー然とした性格。しかし、その本当の性格 は・・・。

一人称はオレ、二人称は君、目上に対しては〇〇さん、親しい間柄の者は名前を呼び捨て。少し間を置いて喋る喋り方をする。

 

喋り方:

クラス内での自己紹介時

「・・・Fクラスになった叉多比 和樹という。・・・好物は果物全般。・・・苦手な物は無糖のブラックコーヒー。・・・以後、よろしく頼む」

 

チーム戦で相手チームに味方と分断された時

「・・・困ったな、分断された・・・か。・・・さて、どうするかな・・・順当で言えばあいつらと合流する為に行動しなければならないが・・・この戦いは相手を倒して終わりというわけじゃない。・・・誰か一人でも目的地にたどり着けば勝ちだ」

 

誰かの暴挙を止める時(その相手に「部外者はスッ込んでろ!」と言われた時)

「・・・ああ、そうだな。・・・だが、それでもオレは君を止める」

 

敵に行く手を阻まれていた時(何らかの事情で目的地へ行くのにタイムリミットがある)

「・・・行け、ここはオレが何とかする。君らは早く行け。 ・・・時間が無いんだろう?」

 

圧倒的格上の敵と戦い、渾身の技が全く効かず、その敵から実力差を突き付けられた時

「・・・だからどうした。 効かないなら効くまで撃ち込む、倒れないなら倒れるまでぶちかます、倒れても撃つ、死んでもぶちかまし続ける・・・何度でも・・・何度でも・・・何度でもだ!」

 

仲間にピンチに駆け付けた時(敵はロボットみたいな奴)

「・・・悪いが選手交代だ。・・・さっさとかかってこいよ鉄クズ」

 

技を放つ時

「くらえ、鳳凰の羽ばたき・・・鳳翼天翔ぉおおおおおおおお!!!」

「その心、鳳凰に食われるがいい・・・鳳凰幻魔拳!」

「空虚なる麒麟の瞳に消え失せろ・・・鳳翼麟瞳ぉ!!」

 

 

 

真・性格

叉多比 和樹の本当の性格。上記の性格は能力「フェニックスカイザー」で作り上げた作りモノの偽の性格。確かに思い遣りがあるが、一歩踏み出す勇気が無く、思っていても行動が出来ず、ごちゃごちゃとあれこれ考え空回りしてしまう感情的で優柔不断な性格で、コンプレックスの塊。自分に自信が持てず、真っ先に失敗したら、出来なかったらを考えてしまい、そんな妄想に囚われて足がすくんで結局なにも出来ない。そんな自分を激しく嫌悪している。

その為、創作ものヒーローや主人公に強い憧れを抱いている。

一人称は僕、二人称は君、目上に対しては〇〇さん、親しい間柄の者は名前を呼び捨て。

 

真・喋り方:

チーム内で相談事をしている時

「良いじゃないかな? 僕はそれでいいと思うけど・・・〇〇さんはどう?」

 

本当の性格がバレた時に何故そんな事しているのかと聞かれた時

「僕にとって・・・自分程大嫌いな奴なんていなんだよ!!」

 

能力で性格を変えていた事に対して仲間から説教を受けた時

「解ってるよ! そんな事は解ってるんだよ・・・でも・・・でも・・・でも僕には無理だ・・・無理なんだよ」

 

仲間の説得時

「まるで、教本通りだね・・・。君には解らないだろ。 身も心も弱い奴の気持ちなんて、だからそんな事が、そんな強者の・・・〝自ら光り輝ける人特有〝の事しか言えないんだ。 仮面を被らなきゃまとも歩く事も出来ない奴に、そんな言葉がどれほどの意味を持つって言うんだよ!」

 

イマジンを無効化された状況で仲間達がピンチに陥った時、自身に向けた言葉

「・・・動け・・・動け・・・動けよ・・・動けって言ってんだよ僕! いいから動けってんだよこのクズ野郎!!」

 

自身の弱さを乗り越え仲間の元へ駆けつけた時

「モブに・・・成りに来た!!!」

 

技を放つ時

「鳳翼・・・天翔!」

「鳳凰・・・幻魔拳!」

「鳳翼・・・麟瞳!」

 

 

戦闘スタイル

その能力に身を任せて防御は基本考えず、最前線で暴れ回りガンガン攻める切り込みタイプ。

肉を切らせて骨を断つ、だが切らせた肉は元通り。肉を切らせて骨を断つ、骨が断てないなら断つまで何度でも断つ。

本来なら遠・中・近距離全てに対応出来るオールラウンダーではあるが、とある事情で力の大半が使えない状態な為、一撃一撃を重視した溜め攻撃や必殺技を狙い、それでいて近接戦しか今の所出来ない。

チーム戦の場合は、その不死性を生かして敵の情報を得る為真っ先に玉砕死に行く(誤字非ず)。

 

 

身体能力3     イマジネーション500

物理攻撃力3    属性攻撃力400

物理耐久力3    属性耐久力3

魔力3        霊力3

イマジン生成100(学園からのイマジン供給がストップしても能力の使用可能)

 

 

能力:『カイザーフェニックス』

鳳凰を司る五色(赤、青、黄、白、黒)に対応したそれぞれ能力が異なる五色の炎を操る『権能』クラスの能力。見た目こそ炎ではあるがあくまでビジョンが炎なだけであって、火としての特性も属性も無い。

 

派生能力:『破壊と創造』

理論上あらゆる事象・概念に干渉出来、そしてあらゆるモノを破壊出来、あらゆるモノを造り出す事が出来る。しかしこれは能力者自身、能力を100%使える状態でなければならない。つまり、偽の性格の時は使えない。

 

 

各能力技能概要

・『鳳翼天翔(ほうよくてんしょう)』

≪ 不死鳥の様な形に顕現した破壊の力を持つ赤い炎を爆裂させて相手に叩きつける技。様々なバリエーションがある技で、波導砲の様に一方向に放つ遠距離にも対 応した基本形態である鳳翼天翔、全方位に拡散させる鳳翼天翔・裂、腕に纏わせて直接叩き付ける鳳翼天翔・撃、足に纏わせて蹴りつける鳳翼天翔・砕、全身に 纏い高速移動しながら移動上にいる相手を粉砕していく鳳翼天翔・破、極限まで圧縮した力をゼロ距離で叩き込み解放し相手を内側から爆裂させる鳳翼天翔・ 滅、等々。単純故に高火力、単純故に威力の溜め時間を除けばほぼノータイムで発動可能。和樹の主力技≫

 

・『鳳凰幻魔拳(ほうおうげんまけん)』

≪精神に干渉する黒い炎を主体に増強の力を持つ黄色い炎を混ぜ合わせて、相手の恐怖心を増大させ、精神を焼き尽くす事で肉体にまで多大な影響を齎す。その際トラウマさえ生温い悪夢の幻覚を見る≫

 

・『鳳翼麟瞳(ほうよくりんどう)』

≪ 空間に干渉し、空間に穴を開けるほど圧縮された白い炎を解放して異次元の穴を開け、ブラックホールの様に相手を吸い込んでいく。その際白い炎の塊が目、異 空間の隙間が瞳の様に見え、異空間の穴が広がるつれ、目を開けている様にも見える。異空間に呑み込まれていく敵は宛ら麒麟の瞳に魅入られ吸い込まれていく 様。本人自身何処の異次元へ通じているのか全く分かっていない。穴開けたからそこに放り込んじゃえ、的な感覚で行っている。故に出し入れは出来ない一方通 行。場所を考えなければ味方ごと吸い込んでしまうし、下手をすれば自分も吸い込まれてしまう。本来は結界や異空間に閉じ込められた時に脱出する為に編み出 した技の失敗作。≫

 

 

概要

【神様転生の末この世界に転生を果たした転生者。鮮やかな赤毛に金色の瞳を持ち、黙っていればかっこいい部類の容姿。

転生前から自身の性格を激しく嫌悪し、ヒーローに強い憧れを抱いていた為、自身の能力をフルに使い恐怖心や臆病な心、動揺心等を破壊し続け、勇気や実行力、 良心の心を増強し続けて、本当の性格を殺し続け、偽りの性格を作りあげ、それを24時間365日常に維持し続けている。本来の性格の心が常に沸き立つ為、 常に能力を使い続けなければ直ぐに元の性格に逆戻りしてしまう。自分等足元にも及ばない天才や自ら輝ける人達の集まり(和樹視点)であるスクールに入って からコンプレックスが洪水の様に溢れて来る為、それを殺し続け偽りの性格を維持する為に力のほぼ全て、大半を費やしている。

本来は一年内でも最強クラスの戦闘能力とポテンシャルがあるが上記のせいで力の大半が使えず、本来は他者も癒せる筈の青い炎が自身しか癒せず、飛べるはずなのに飛べない等、著しく弱体化している(勿論パワーアップし続けていけば、力の大半が使えなくとも何れ出来る様になる)。入学当初は非力・鈍間・紙装甲の三拍子で、火力も中堅以上程度でしかない。

自宅では何処からともなくやって来て、何故か居座り着いた黒い猫又を飼っており、スクール入学時に寮に移った際一緒に付いてきて今度は和樹の部屋に居座っている。

とある者からは「気高き鳳凰(フェニックス)の皮を被った自力で飛べない鶏(チキン)」と評されている。

名前の由来は、フェニックス→鳳翼天翔→鳳凰星座の一輝→一輝(いっき)→カズキとも読める→和樹、フェニックス→鳳翼天翔→鳳翼天翔(曲名)→陰陽座→瞬火(作曲者)→瞬火(またたび)→叉多比(適当に当て字)】

 

能力概要

【① 赤い炎は破壊の力。純粋な破壊力、破壊エネルギーそのもの。

② 青い炎は復活の力。如何なるダメージ、攻撃、能力を受けても青い炎と共に再生し復活する(イメージとしては「ONE PIECE」の不死鳥のマルコの能力と「仮面ライダーウィザード」のフェニックスファントムの能力を足し合わせた感じ)。それが例え全身を髪一本、原子一 個たりとて残らない完全に消し飛ばされても、存在そのものが消されても完全復活する。そして復活する度に全ての能力・戦闘力が回復したダメージに比例して 増大していき、その攻撃に対して耐性が付いて行く。つまりダメージを受ければ受ける程、死ねば死ぬ程、サイヤ人やシャーマンのごとく際限なく強くなる。

③ 黄色い炎は増強の力。身体能力、効力、威力、防御力、機能力等あらゆる力を黄色い炎が燃えている間のみ、炎が激しく燃え上がる如く強化・増強する事が出来る。

④ 白い炎は空間に作用する力。空間干渉を相殺したり、結界を燃やしたり、空間移動、飛行したり等出来る。が、この白い炎単品自体には物理的な破壊力は無い。故に別の色の炎と組み合わせて使う事が多い。

⑤ 黒い炎は精神に作用する力。基本的に物質や物理的な効果に干渉する上記四つの炎と違い精神や心等に作用する炎。別の色の炎と組み合わせて使えば、精神破壊や精神蘇生、精神防御、精神感応、精神操作等様々な応用が出来る。

⑥ 復活する度により強大に進化していく。最初は最弱であっても、復活や進化に際限はなく、何れ神をも超える存在になっても尚、進化し続ける。

⑦ この能力者である又多比 和樹自身が「フェニックスと言えば? 鳳凰星座の一輝!」と言う具合に鳳凰星座の一輝のイメージが強い為、ある程度以上の力を出した場合や戦闘状態に入った時、イメージが具現化し「聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY」の鳳凰星座の一輝の鳳凰星座の青銅聖衣の様な鎧が全身を覆う】

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

保護責任者:妖叨+

名前:妖沢龍馬(あやざわりょうま)  刻印名:万能殺右手《ばんのうごろしのみぎて》

年齢:15     性別:男     (F)クラス

性格:面白い事にはなんでも首を突っ込む快楽主義者。でも戦闘狂。

 

喋り方:

自己紹介「妖沢龍馬。喧嘩上等、いつでも来いよ。相手してやんよ」

日常1「暇だ……そうだ。Cクラスの奴らと遊んでくっか。バーボン。お前もいくだろ?」

日常2「おーおー! 随分と面白そうなことしてんじゃねぇか! 俺にもやらせろ!」

決闘申し込み「俺と喧嘩しねぇか? お互い死なない程度によ」

戦闘1「雑兵どもに興味はない。あいつだせ、あいつ。だーかーらーお前らに興味ないっ言ってるだろ!邪魔だどけ」

戦闘2「目には目を歯には歯を。万能(イマジン)には万能殺し(イマジンスレイヤー)をってな!」

怒り1「おい、人の喧嘩に水差すんじゃねぇよ! 俺の楽しみを邪魔する奴は……誰であろうと消す!」

怒り2「てめぇは俺の一番触れちゃ駄目なものにふれた……そのおとしまえはつけてもらう! いくぞ。万能殺しの戦斧!」

 

戦闘スタイル:変則的な我流体術。

身体能力500     イマジネーション3

物理攻撃力250    属性攻撃力3

物理耐久力150   属性耐久力100

 

能力:『万能殺し(イマジンスレイヤー)

常時発動タイプ。右手に宿る万能殺しの力でイマジンに関するものなら触れればありとあらゆるイマジンを破壊、消失させることが出来る。但しその範囲は右手に限定される。

 

派生能力:『万能殺しの解放(イマジンリベレーションスレイヤー)

右手から万能殺しの力をフル解放し、半径5mの範囲ではあらゆるイマジンが発動不能になる。その代わり発動中は普通の万能殺しを使用できない。

 

各能力技能概要

・『万能消却(イマジンバニッシュ)』≪特に変化はない。あらゆる攻撃的イマジンを消失させる。ようはイマジンに直接に触れるだけでイマジンは消失する。だか技として利用したかったため。通常の万能殺し時発動可能。つまりいつでも使いたい時に使える≫

 

・『万能の大破壊(イマジネーションオーバードライブ)』≪使用時は身体から淡い緑色の光が発せられる。龍馬の半径3m内に発動されているイマジンに関するものを無差別に破壊、消滅する凶悪な能力。教師のキャンセラーですら受け付けることの無いまさに最恐の力。但しこれを使用すれば2日、通常の万能殺しは機能を停止する。万能殺しの解放時のみ使用可能。本人はあまり使いたくないとのこと≫

 

・『万能殺しの戦斧(イマジントマホークスレイヤー)

≪万能殺し使用時に使用可能。万能殺しを具現化したもの。淡い緑色をした両刃斧状態の物。 棒状の物体を媒介としなければならないこととこれを使用可能時間が1日2時間しかない所と万能殺しの戦斧状態時は通常の万能殺しの機能を停止してしまうのが痛いところ。大きさは長さ全長2mと言う規格外の大きさだが本人曰く「これがちょうどいいサイズ」らしい万能殺しの時に使用可能。つまりいつでも使おうと思えば使えるが、こいつを使う時は自分が本気で闘いたいと思った時しか使わない≫

 

(余剰数値:0)

概要:【黒髪の黒目といった正に純日系の顔立ち尚且つ不良の一言に尽きる人相。1学年を代表する問題児。本来であればCクラス行きのはずだが入試試験で見せたキャンセラー能力を見せた事が理由でFクラスに配属される。喧嘩大好き。いつでも殴りあう。戦闘狂。中学時代は『悪鬼羅刹』の如く容赦のない喧嘩を繰り広げることから妖鬼(ようき)の龍馬などと呼ばれていた。自分の喧嘩に横やり入れられるのが一番嫌いだがそれよりも嫌いなのは自分の大事なものに触れらた時は誰であろうと容赦しない。よく遊び半分で死闘を繰り広げるバーボンとCクラスの奴らとはとてもとても (かなり重要)仲が良い】

 

 

 

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保護責任者:R.ZONE

 

名前:嶺島 進《みねしま すすむ》       刻印名:不転退の意志《ゴーストレート》

年齢:18    性別:男    種族:人間   1年Fクラス

容姿:金髪グラサンの尖った見た目

性格:ド直球な性格

 

喋り方:一人称『俺』

自己紹介「うーす、俺は嶺島進。ヨロシクな」

ド直球その1「アレだろ? オマエら[ピー]してたんだろ?」

ド直球その2「成る程成る程。ビビりなんだオマエ」

ド直球その3「…………オマエって、アホだったんだな」

戦闘時「うし、行くぞッ!」

怒り「守り《逃げ》に入る位なら死んだ方がマシだ!! この身が砕けようと、俺は退いたりしねぇよッ!!!」

 

戦闘スタイル:防御なんぞ知ったことかと言わんばかりの一撃決着型

 

基礎能力値

身体能力:100     イマジネーション:3

物理攻撃力:100    属性攻撃力:100

物理耐久力:3     属性耐久力:3

防御崩し:600     不屈:100

 

能力:『ノーガード』

 

各能力技能概要

 

『耐久無視』

・『ノーガード』の能力

・防御崩しの数値以下の各種耐久力を無視して攻撃できる常在能力。但し自分にも適用される為、例えば殴った時は拳どころか腕まで自壊する上に、敵の攻撃を喰らうと、どんな貧弱な攻撃でも重傷を負う。

 

『防御能力無視』

・『ノーガード』の能力

・防御崩しの数値以下のイマジネーションを持つ相手の『守り』『不滅』『無効』に類する能力キャンセラー。但し使えるのは1日1回の30秒間のみ。

 

『不転退の誓い《ネバーランナウェイ》』

・『ノーガード』の能力

・1日1回防御崩しの数値を2倍し、不屈の数値分だけ各種攻撃力を増加する能力。瀕死になるまで効果は持続。効果が切れると1週間昏睡状態に陥る。

 

概要

いつも直球で生きてきた青年。逃げたり守りに入ったり偽ったりをしてこなかった為に、かなり痛い目に遭ってきている。

そんな自分の在り方は間違っていないことを証明するため、イマスクに殴り込み。得た能力や刻まれた刻印名はまさに彼の在り方そのもの。

Fクラスきってのタイマンのスペシャリストにして自滅王。自壊して引き分けになることが多い。集団戦だと真っ先にリタイアする鉄砲玉。

防御能力に重きを置いている奴が死ぬ程嫌い。特に加島理々はその能力や性格から特に嫌いで、向こうもそんな感じ。

 

 

 

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保護責任者:ヒャッハー

名前:長門 灰裏(ながと かいり)     刻印名:死を乗り越えし怪物(オルフェノク)

年齢:16(人間時代含む)      性別:男   (1-F)クラス

性格:何事にも無関心であまり興味を持たない。他人と接する時も無愛想で無関心さは変わらず。だが異様なまでに負けず嫌いで煽り耐性も低い。只のじゃんけんだろうと勝つまで続けようとする。

 

喋り方:ぶっきらぼうで無気力そうなしゃべり方。一人称は「オレ」

自己紹介  「苗字は長門。名前は灰裏。宜しくしなくていい」

煽られ  「あぁ!?誰が意気地無しだコラァ!良いぜ乗ってやるよその安い挑発!後悔すんなよこの野郎!」

普段 「あー、だるい。もうやだ動きたくない。帰りたい。むしろお前らが帰れこん畜生」

 

戦闘スタイル:怪物らしいと言えばらしい喧嘩顔負けのラフスタイル。倒れた敵への追撃も躊躇わない。倒れて起き上がろうとする敵の顔面を蹴っ飛ばしたりする。

身体能力403     イマジネーション53

物理攻撃力303    属性攻撃力153

物理耐久力53     属性耐久力53

 

能力:『死色の灰』

派生能力:『餓狼の矜持』

《『狼』という属性から派生した能力。獣、狼、それに準ずる野性の力を強化する》

 

各能力技能概要

・ 『変生・餓狼(ウルフオルフェノク)』≪『死色の灰』の能力。能力と言うかまぁオルフェノクとしての基本と言うか本来なら能力技能に分類されるような物でも無いのだが、あえて能力技能に分類することでオルフェノクモードの霊格を高めている。要するにスキルスロット1つを霊格の上昇に費やしている様なもの。 非効率極まりない方法だが、彼の能力はそもそも能力とは言えないようなものだらけなのでこんなふざけた事ができる。技能としては、ウルフオルフェノクへの 変生。及び維持。とは言え能力とか関係無く灰裏自身がオルフェノクとして変化出来るためあまり意味は無い。

ウルフオルフェノクとしての解説もここに入れる。

狼 をモチーフにしたオルフェノク。見た目は身体中に刺や刃物の付いた甲冑を着ているイメージ。ついでにふっさふさの尻尾や雪のような白い毛並みがあったりす る。身体の所々に生えた剣の様な突起を用いての斬撃や、拳と一体化している刺つきメリケンサックを使った肉弾戦を主として戦う。スピードや敏捷性は全オル フェノクの中でもトップクラスで、全速力で肉薄しながら相手との接触直前にジャンプし、相手の頭上を飛び越える等のアクロバティックな動きも可能。つまり 凄まじくすばしっこい。かっこ良く言えば超素早い。単純な速さならば翼や零時には及ばない物の、彼らとはタイプの違う『はやさ』を持つ灰裏とは妙な言い方になるが相互互換と言える。つまり自由自在に動き回 れる高速か、其れなりにしか方向転換のできない超速か、と言うこと。スピードや攻撃力は一級品のウルフオルフェノクだが、反比例するように防御力はそこま で高くない。無論普通の人間よりはよっぽどタフだし、紙装甲と言うほど低くはないが、他のステータスと比べるとやはり見劣りする。また、狼としての特性 か、非常に夜目が効く。腹部には全てのオルフェノク共通の特長として三本の矢印が絡み合ったような『オルフェノクの紋章』を刻んだバックル状の部位が存在 する。この紋章はそれぞれ、『形あれ』『姿あれ』『命あれ』と言うオルフェノクの願いを表している。

尚、灰裏自身は絶対に使うことは無いが、オルフェノクの特長である『使徒再生』は、背中の剣を触手のように伸ばして対象の心臓に突き刺す。≫

 

・『変生・疾走』≪変生・餓狼との併用前提の能力。疾走態へと変化し、全ステータスが軒並み上昇。俊敏さや敏捷性に至っては上級生でも視界に捉え続ける事は まず不可能なレベル。その動きは、俊敏な狼の特性を良く示していると言える。見た目での変化は、下半身がより狼を思わせる姿に変化、また、全体的にスリム さが増し、刺々しさが目立つ。この形態になるには、尋常じゃないレベルで感情が昂る必要がある。そのため灰裏自身も疾走態のことは詳しく把握しておらず、 『死ぬほどムカついた奴がいてボコしてやろうと思ったら何か凄い強化されてた』みたいな感想。疾走態への変生に必要な感情の昂りの目安は、『十分位絶えず 最高レベルの挑発を続けられる』『自分の全てを掛けた戦いに決着直前で水を差される』と言った具合。≫

 

・『光の血』≪『死色の灰』の能力。灰裏の持つ能力の内、唯一イマスクっぽい能力。フォトンブラッドの生成、及び体内での操作が可能。基本拳に纏わせてぶん殴る、といった用途で使われる。

フォトンブラッドとは、ありとあらゆる生命への猛毒。大体の生物は触れただけで灰化する。イマジン等を除けばオルフェノクへの唯一の対抗手段と言える。(別にオルフェノクが特別フォトンブラッドに弱いわけでは無いが、他の物では効果が無い事を考えるとこれで充分。)≫

 

『一匹狼(ワンマンアーミー)』

《『一匹狼』のスキル。単独行動時のみ発動する半パッシブスキル。効果中は味覚を除いた四感が強化される他、物理攻撃力が一段階上昇する。また、身体能力、物理攻撃、物理防御の三ステータスに上限二百を超えない範囲で数値を加算させる事が出来る。割り振る数値は予め決めておかねばならず、戦闘中に数値変更をすることは不可能。

無論、自軍に一人でも味方が居てしまえば恩恵は全て消える。一対一(タイマン)ならともかく、集団戦闘では普通に産廃》

 

(余剰数値:0)

概要:【普通の家に生まれた普通だった少年。彼や彼の家族にも特筆すべき設定は無く、盛り上がりも盛り下がりも無くその他大勢の 内の一人として人生を終えるはずだった。それが変わったのは十四歳の時。大型トラックに思いっきり轢かれてあっけなく死亡。その際にウルフオルフェノクと して覚醒、同時に復活を遂げる。その後出会ったオルフェノクの先輩に、オルフェノクとしての特性や性質(※後述)を知らされ、当時都合良く灰裏が15歳 だった為、押し込まれる様な形でイマジネーションスクールに入学する。ついでに当時のやり取りは

「はァ?イマスクだ?やだよ面倒くさい」「そっかそっか怖いのか。じゃあ仕方無いな」「んな訳ねぇだろふざけんな!」「皆まで言うな。解ってる」「るっせぇ!良いぜ行ってやるよ畜生!」

と、まぁこんな感じ。

ま た、彼は『命は1つであり、故にその命は尊い物』と言う持論を持っており、故に二度目の自分の命に重要性を感じていない。灰裏の無気力さもその裏返しであ り、つまりある意味で自暴自棄になっている様なもの。一時期そのせいで荒れており、ウルフの力すら使って怒りを周囲に当たり散らすこともあった。しかし誰 一人として人間には手を出していない。これは灰裏が理想をいまだに人間に抱いている証でもある。ついでにオルフェノクの先輩と出会ったのもこの時期。その 為か他人に自分の理想を無意識的に求めてしまい、そのせいで命を棄てるような戦いをする奴は嫌い。ついでに死んでも甦ったり、命のストックを持ってたりす る奴には全力で八つ当たりする。尚、灰裏と言う名前は本名ではない。灰裏自身がオルフェノクとして生きる為の名前であり、本当の名前は海鈴(かいり)。本 心から心を許した者には名前を教えたりするかもしれない。

ちなみに、彼がFクラスに入れられたのは向上心が欠けている事、戦闘時の実力にムラが有ること、後能力と言える能力を殆ど保有していない事から。異世界『サイドパラレル』の住人】

 

オルフェノクの特徴と特性【命を落とした人間が覚醒し、生まれ変わった怪物の総称。

 

その姿はオルフェノクとなった人間の戦う姿の潜在的なイメージが具現化され、甲冑などで身を固めている風貌をした個体が多い。

事故などで命を落とした人間が覚醒する「オリジナル」、オルフェノクの使徒再生の力で命を落とした人間が蘇生した「コピー」の2種類に分けられる。

 

使徒再生とは、オルフェノクが何かしらの身体部位によって、人間の心臓を破壊し、オルフェノクのエネルギーを流し込む事。これによって対象をオルフェノクと して無理矢理覚醒させることが可能だが、そもそもエネルギーを流し込んだ時点で耐えられる者はごく少数。耐えられなかったものはそのまま灰化する。よしん ば耐えたとしても、その力はオリジナルを越える事はまずない。

 

オルフェノク化した者は人間の心が残っている事が多いが、人間を超えた能力を得た事に溺れ、人間としての心を捨てる者も多い。

それぞれ動植物の能力を持ち、一部のオルフェノクは感情の高ぶりによって「激情態」という姿にパワーアップする。ウルフオルフェノクの疾走態もこの1つ。

 

死者が復活し、オルフェノクとして目覚める事から死体を彷彿とさせる白色や灰色の色褪せた個体が多い。

 

また、オルフェノクは総じて短命である。その理由は、身体が急激な進化に耐えきれない為。灰裏の先輩オルフェノクが灰裏をイマスクに押し込んだのは、イマスクで長生きできる方法を見つけて、灰裏に長生きさせる為。

 

肩に掛かる位の灰色の髪に中肉中背。多少つり目気味の目。ついでに気味が悪いほど目が腐ってる】

 

 

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保護責任者:赤い人

 

名前:只野 人(ただの じん)      刻印名:現実(リアル)

 

年齢:18    性別:男      (F)クラス

 

性格:元不良だが、仁義や義理を大切にする頑固な男。

   イマスクにおいてイマジンを嫌う異端者。

   人間は弱いと豪語する身長2m20㎝の筋骨隆々な大男

 

喋り方:粗野な言葉がベースだが、必死に丁寧に直すようにしている

自己紹介「俺……じゃなくて自分は只野だ……です」

自嘲  「結局現実現実言ってるが……ますが、使っているのはイマジンなんだよな……ですよね」

戦闘開始「ああまったく人が飛んだり火を出したりふざけてやがる。だから俺が現実を思い出させてやる……やります!」

リタイアシステム「ああ、ったく人は一度死んだら生きかえんねぇってのによぉ……ふざけてやがるぜ」

仲間を戒める「ここでスキルだ権能だのと生えて来てるように見えるが……見えますが、あくまでイマスクによって付加されてるにすぎないんだ……です。本来の俺たち人間は、包丁さされりゃしぬ程度でしかないんだ……です」

 

戦闘スタイル:展開した2種の無効化空間で体格とセンスに任せての喧嘩殺法。不良時代には無体を働こうとしたワールドクラスの格闘技者をセンスに任せて倒したこともある。

フィールド内で彼を倒すには、知略を用いて事故をおこすか、単純にイマジンを除いた身体能力とセンス、技術で勝つほかない。フィールド外からならば、いくつかの穴があるので相性が悪くなければ簡単である。

 

身体能力3     イマジネーション1003

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『現実』イマスクという特異点を除いた世界の現実の力

派生能力:『理想』現実を認めて、自身が目指すべき先へ進む理想の力

 

各能力技能概要

 

・『現実回帰(これがリアルだ)』≪周辺一帯にイマジンによる補正全てをキャンセルする半径2kmフィールドを張るスキル。

因果をたどって無効化するので、範囲外からの筋力をイマジンで強化しての投石などは、本人の素の力で行った投石レベルとなる。

イマジネーターとしての能力(最低限の3ポイント&直感含む)も只野の身体能力含めて一部例外以外消える。ただし、学園施設のように量や規模が違うイマジンを消すことはできない。

本人は自覚していないが、この世界でイマスクに関連している人間以外の現実観で補強されているので「集合無意識」「阿頼耶識」の権能ともいえる補正がある≫

 

・『現代日本(ステゴロ)』≪現代日本で行える戦闘、すなわち喧嘩レベルにまで武器の類を無力化する能力。「現実回帰」のフィールド内相手と自身全てに適応。

銃を撃とうが少し改造されたモデルガン程度に、長剣を使おうが木刀と変わらず。武器として使えるのはせいぜい短刀クラスが最高となる

こちらも現代日本に住む人間の認識を補正に追加しているので、恩恵以上の強度を持つ≫

 

・『明日への努力(プラスウルトラ)』≪『理想』のスキル。自身の鍛錬の成果に補正を付けるスキル。自身が目指すべき『理想』を想い、それに向けた努力を重ねることでより効果的に体力や技術を付けることができる、そういった補正が増えていく。ただし、怠惰からのサボりなどを行えば、補正値は下がり最悪はマイナスになる≫

 

捕捉:不可能を可能にする。その覚悟を見せられたことで、埋めるつもりのなかった派生能力を埋めることにした。

現実は幻想にするべきではないけど、幻想は理想として現実にすべく目指すべきものになる。そういったスタンスでの他のイマジネーターへの理解と尊敬から『理想』の能力を手にすることにした。

 

 

(余剰数値:0)

 

概要:【義理人情を尊び、仲間思いな元不良。2m20cmの体格に七三分けの髪がシュールな一応現代日本人。

不良から足を洗ったのは、バイク事故で仲間が死亡したため。悲しむ仲間の遺族に、親孝行しなければと思わされた。

2年前に不良から足を洗い底辺高校に入学するも、これでは勉強も就職もままならないと感じて調べた結果イマスクを知る。

仲間が死んだことが彼にリアルというものを根付かせており、そのことから現実に幻想を持ちこんでいるようなイマスクを毛嫌いしている

ただ、イマスクの各種教育機関の優秀さと、適性があればほぼ誰でも入れるという門の性質から入学を志した。就職難という現実は厳しかったのである

イマスク自体は嫌っているが仲間などは大事にする男で、仲間に人間は弱い命を粗末に扱うなと説き続けている

刻印があるため、「現実」に関する以外への能力に派生の制限がかかる】

 

 

 

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保護責任者:さわだうし

名前:森街 銀鈴(もりまち ぎんれい)    刻印名:不動の侍

年齢:16     性別:男      Fクラス

 

性格:用心深く、物事を深く考える。

 

喋り方:独り言がたまにあり、喋る量が多い。

自己紹介「名前は森街銀鈴っつーんだ。これからよろしくっとまあこんな感じかね。」

 

「じゃあ、行きますか。俺は動かねーし動けねーけどな」

 

 「はん、来れるなら来いよ。ビビって警戒してるだけじゃ何もできねーぞ。ああ、煽ってるわけじゃぁないぜ一般論さ。」

「たとえ見えなくとも近くにいるのがわかるなら攻撃は当たるんだよなあ!」

「たとえ離れてても目に見えるのなら遠当てはあたるんだぜえ!」

独り言「どうしよ、あそこがいいかなあ?いやあそこか?どこでもいいよないいんだなそうだなうん。いや?なんでもないよただの独り言だ気にするな。」

戦闘スタイル:居合抜き一辺倒。構えた場所から、構えてる限りは動かないし動けない。

 

身体能力159 イマジネーション50

 

物理攻撃力100   属性攻撃力3

 

物理耐久力3  属性耐久力3

 

居合160 斬撃540

能力:『一所懸命』

 

派生能力:『剣は銃よりも強し』

 

各能力技能概要

 

・ 『領域の絶対者』《一所懸命の効果。自らを中心とした領域内にて身体能力を格段に上げ、領域内ならどこにでも攻撃が飛ぶ。(例えば敵が後ろにいたり、剣の 間合いより遠いところにいようとも真正面を斬りつければ、領域内ならその斬撃は空間を無視して当たる。)しかし、範囲は狭く自らを中心とした半径20メー トルの球である。》

 

・『超感覚』《一所懸命の効果。強化された五感により領域内のあらゆることがわかる。》

 

・『遠当て』《『剣は銃よりも強し』の能力。刀の斬撃を前に飛ばす。要は月牙天衝》

 

(余剰数値:0)

 

概 要:黒髪黒目で髪型は短髪にジャージ姿でいる、見た目はスポーツ少年。刀は専用のベルトを腰につけて携えている。ジャージはどんな時でも動ける万能服と 思っている。(というか和服は家族のせいで嫌い)自分が何より大事と考え用心深く物事に当たる慎重な性格。究極的に自分が助かればいいと考え守るべきは自 分と思っている。そのような性格が能力に現れたのが『一所懸命』である。先祖が古くは鎌倉幕府に仕えた武士でその流れを汲んだ家に生まれ、あらゆる武芸を やらされたが、居合以外はとんとダメだっだ。唯一マシだった居合だけを磨きこんできたが、家族は居合だけでは意味がないと考え日常から不意に体術などをか けたりして、それを教えようとした。そうしたことからこんな性格になり、ここにいては危ないと思い居合だけで身を守れるようにと考えた結果イマスクにきた。

(具体的な戦い方や能力の使用方法)

居 合は能力の領域内ならば格段に上がった身体能力により、抜刀と納刀が見えないほどになり、『超感覚』により領域内に入った瞬間にそれがわかり、斬りつけ る。能力は基本どちらかしか使えないので『遠当て』を放つ時はそこまで速くはないが普通にかなり速い。動きながら剣を振れないので、居合の構えをしたらそ こから動けない。一度構えたら近づく敵は『一所懸命』で、遠距離には『遠当て』を使いわけ動けないことをカバーする。戦いは基本動かず攻撃手段が居合だけ なのでFクラスに配置されている。

 

 

 

「一所懸命」という言葉は元は武士が主君から賜った領地を命懸けで守るという由来から来ています。そこより『一所懸命』は「武士、侍」が意地を通し何かを 守るというイメージから作られ、そこから「武士、侍」の意地(と私は考えます)のイメージである『剣は銃よりも強し』へと派生しました。

 

 

 

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保護責任者: R.ZONE

 

名前:三原 空《みはら そら》    刻印名:空襲者《エアレイダー》

年齢:16    性別:男    種族:人間

容姿:飛行服を纏い、ゴーグルを首にかける青年

所属クラス:1年Fクラス

性格:細かいことは気にしない、考えるより先に行動という言葉が似合う性格

 

喋り方:一人称『俺』

自己紹介「うっす! 俺は三原空だ!」

ボケ「うし、飛べばなんとかなるだろ」

戦闘時「ヒャッハーッ!!! 戦闘開始ィィイイイッ!!!」

照れ「いや、いやいやいや! 適当に飛んだだけだから気にすんなって!」

真剣モード「現代兵器舐めんなァ!! テメェら纏めて蜂の巣にしてやらァァアアアッ!!!」

 

戦闘スタイル:戦闘機に乗っての空襲。地に足つけての戦闘はカス。

 

基礎能力値

 

身体能力:50      イマジネーション:3

物理攻撃力:250    属性攻撃力:3

物理耐久力:3     属性耐久力:3

空襲力:250      操縦技能:250

整備技能:200

 

能力:『三原空専用マルチロールSTOVL機:エアレイド(以下『エアレイド』と省略』

 

派生能力:『戦闘機整備技能』

 

各能力技能概要

 

『エアレイド』

・『エアレイド』の能力

・空専用の戦闘機。ベースは『F-35』系列。STOVL機なの で、短い距離で離陸できなおかつ垂直離陸も可能。用途によって装備などを変えることも可能(初期段階では変える程の装備がない)。ベースはステルス戦闘機 だが、ステルスする必要性が皆無なのでその辺りの機能はオミットされていて、その分爆撃、格闘性能に割り振られている。

・空の成長に伴って、基本性能が上がっていく。

 

『25mm口径5砲身ガトリング式機関砲』

・『エアレイド』の能力

・読んで字の如くの装備。『エアレイド』の固有装備。ベースは『GAU-12 イコライザー』。毎分約4000発の弾丸をばら撒く。

・空の成長に伴って、性能が上がっていく。

・固有装備なので、今の空だと取り外し不可能。

 

『部品交換』

・『戦闘機整備技能』の能力

・消耗した、あるいは壊れた部分をイマジンによって複製し、取り換える能力。

 

概要

 

戦闘機乗りを目指していた青年。

だが、イマジネーション及びイマジネーターの存在の所為で、既存兵器は軽視される傾向になり、戦闘機もまた軽視されていた。

そんな現状に腹を立て、イマスクに殴り込みをかける。もちろん門前払いをくらったが、『戦闘機が軽視されるべき存在でないことを証明したいのであれば、入学して自ら証明してみせよ』というありがたい言葉を頂戴し、入学試験を受け見事合格。

目標は、愛機『エアレイド』と共に学年最強になること。最終目標は全てのイマジネーターの打倒。

愛機を最強にするために、必要な分野に対しての知識はある程度修めている。いずれ全て自分の手で改造、装備開発をしたい模様。

 

 

 

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保護責任者:ソモ産

名前:佐伯堅剛(サエキケンゴ)     刻印名:我慢

年齢:16才     性別:男     1年Fクラス

性格:気が弱い男。しかし、他人が傷つくのを極端に嫌い、誰よりも前に出る。

喋り方:心優しく、気が弱い。しかし、いざという時は誰よりも前に出て覚悟を見せる。

自己紹介「僕は佐伯堅剛。よろしくお願いします。」

勝負を申し込まれた「わ、わかりました。精一杯やるのでよろしくお願い致します!」

誰かを守るとき「ここから先には行かせません!!ここを通りたければ僕を倒してからにしてください!!」

戦闘スタイル:相手の攻撃を受け続け、そのダメージを能力で攻撃力に変換して戦うカウンターファイター。

身体能力13     イマジネーション23

物理攻撃力38    属性攻撃力38

物理耐久力303    属性耐久力303

打たれ強さ200    我慢100

能力:『受け続け』

派生能力:『カウンター』

各能力技能概要

・『受け続け』

≪受け続けの能力。自分の体に与えられるあらゆるダメージを限りなく0にする力。単純な能力の為少ない力で絶大な効果を発揮する。≫

・『蓄積』

≪受け続けの能力。受け続けの能力で減らしたダメージを自分のイマジンに変え、蓄える力。蓄えられる量に限りがあり、自分の持つイマジンの10倍までしか蓄えられない。≫

・『カウンター』

≪カウンターの能力。今現在自分が持っているイマジンを自分自身の攻撃力に変換する力。物理、属性問わない。≫

 

概要:【昔懐かし角刈りの男の子。とてもガタイがよく、顔が厳ついため小さい頃から怖いお兄さんに絡まれることも多々。そのため打たれ強さと身を守る程度の喧嘩の技術を身につける。本人はとんでもなく気が弱いためそれを変えようとイマスクに入学を決める】

 

 

 

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保護責任者:かんろ

名前:逆地 反行(さかち はんこう)     刻印名:『空想学園の反逆者達』

年齢:17       性別:男性      1年(F)クラス

性格:常に温厚で優しい、Fクラスで波乱が起きた場合、妥協案やクッション的な存在になる者

 

喋り方:一人称は私

自己紹介「始めまして、逆地 反行です。よろしくお願いいたします」

クラスが荒れた時「うーん、ならばこういうのはどうしょうか?」

バトル開始時「よしっ、行きますか!」

Vs上級生「貴方の予想をひっくり返して見せますよ・・・!」

Vs朝宮刹菜「勝ちます!勝ってみせます!そして、『絶対』という概念を打ち砕いてみせます!」

Vs 東雲神威「そうです!全ては貴方を倒す為にここまできました!貴方は私に対して何も興味を示してないでしょう!それでも構いません!ですが!私は声を大にして言いましょう!私は『逆地 反行』!私は『空想学園の反逆者達』!私の反逆の全てがここで終わります!いざ、勝負!」

 

戦闘スタイル:近接戦主体、たが他の技術も並みに扱う

身体能力3     イマジネーション3

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

変動幅1000

 

能力:『空想学園の反逆者達』

派生能力:『‐』

 

各能力技能概要

・『空想強者に異を唱える者』≪相手が強ければ強いほど自身の身体能力や技術が増していく能力、これは2年生や3年生などの上級生と対決する際に特に効果を発揮する≫

 

・『空想覇者に異を唱える者』≪学園最強、もしくはそれに準する者と対決する際に発揮する能力。プレッシャーや重圧などによる行動不能、能力などによる行動不能を無効化し、さらに50回までのダメージを無効にする≫

 

・『空想学園の反逆者達』≪彼の刻印名であり、最期の切り札。全身に能力無効化の効果を及ぼす膜を纏い、突撃。命中の際に相手に『極小の勝利』という概念を与え、勝利する能力。但し、この能力を使うと魂レベルまでのダメージが自身に返ってくる為、文字どおり最期の切り札≫

 

(余剰数値:0)

 

概 要:【銀の髪に金の瞳をしているのだが、目が常に閉じている、いわゆる糸目のような感じの為、彼の瞳の色を知る者は少ない。身長は175cm。入学時と入学後で印象が全く異なっている人物。入学前は弱々しく意思が無い人物であったが、入学後には強き意思を見せる人物へと変わっている。入学後、彼は可能性を見せると呟いている】

 

 

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保護責任者:すだい

名前:一ツ木男(ひとつきだん)     刻印名:一撃必殺

年齢:18     性別:男      (F)クラス

性格:常に気だるそうな態度、戦闘時はまとも。

喋り方:

挨拶「どーも、一ツ木男だ、よろしくな。」

「この力の秘密?筋トレ」

戦闘時「そこを動くなよ、今からお前を殴る。」

怒り「誰がハゲだこらぁ!!」

 

戦闘スタイル:近づいて殴る、殴る。

身体能力300   イマジネーション200

物理攻撃力503  属性攻撃力3

物理耐久力3   属性耐久力3

 

能力:『一撃男(ワンパンマン)』

派生能力:『』

 

各能力技能概要

・『一撃必殺』≪「一撃男」の能力、ただ一突きで敵を殴り倒す。これはもはやそういう概念であり約束された結果である。

 

概 要:【モデルはワンパンマンのサイタマ。イマスク入学のために筋トレを続けた結果、入学試験でこの力を手に入れた。その際髪が抜け落ちスキンヘッドになる。このため見た目がコンプレックス。Fクラスというだけあり殴り倒すことのみの一点集中型能力であり、それ以外の能力はイマスクの中でも平均かそれ以下。育ちは普通の一派家庭、高校まで普通に通っており高校卒業を機会としてイマスク入学を目指す】

 

 

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保護責任者:ティピロス

名前:ランスロット・モルディカイ

刻印名:屍の血闘者(デュエリスト・ネクロマンス)

年齢:17    性別:男     (F)クラス

性格:無口で穏やか、そして天然。ただし護るという事に対して狂気的な使命感を持っている。

 

喋り方:普段は口数が少なく、穏やかではあるが護衛モードだと狂気的になる。

自己紹介「…………ランスロット・モルディカイ。よろしく」

戦闘開始「…………では、イザ尋常ニ」

能力1「…………我ハ死ナン。コノ身ガ死ト隣合ウ限リ」

能力2「…………貴殿二癒シノ加護ガアロウガ無カロウガ知ラヌ。ソノ身ノ腐敗ハ死ヲ通ジテ生マレ変ワラヌ限リ逃レラレン」

護衛モード1「護ラネバ…守リ護リ衛リ守護リマモルノダ!」

護衛モード2「貴様ラモ我ト共二来イ‼︎底ノ無イ地獄ノ果テマデナ‼︎」

子供を見てる時「……………(ホッコリ)」

ネタ「…………塩むすび美味しいです(※浄化+ダメージ有り)」

 

戦闘スタイル:不死の身体を活かしてのレイピアで戦う近接型。攻撃を当ててから粘り、能力の影響でダウンするのを待つ。護衛モードの時は動きが暴力的で護衛対象を生かす方面に力を発揮する。

身体能力203    イマジネーション3

物理攻撃力203   属性攻撃力3

物理耐久力203   属性耐久力203

護衛200

 

能力:『腐敗の騎士』

派生能力:『』

各能力技能概要

・『腐敗身話』≪『腐敗の騎士』の能力。自身の身体をいわゆるアンデッドと化して不死身と痛覚の無効、筋力の限界突破をする。この不死身はダメージが一定量に達した時自動で身体を崩壊させ新しい身体を再構築するというタイプである≫

・『腐食の剣』≪『腐敗の騎士』の能力で作られた武器。見た目は錆び付いたレイピアで、このレイピアの刃に触れたものは腐食し、崩壊しだす。もし腐らないものに触れた場合は錆び付くなどして崩壊を促す。ただし切ったところから腐食や錆は広まらない。これを解除する方法は自身の身体を再構築する事であり、超再生タイプの不死身では防げない≫

・『聖域を穢す者』≪『腐敗の騎士』の能力と言うよりかは代償。聖なる力を持たない攻撃に対しては強力な防御補正が入るが、聖なる力を持つ攻撃に対してはどれも致命的になる。また普段から塩やお経でもダメージをくらう≫

 

(余剰数値:0)

 

概要:顔はジト目でやや童顔。髪は紫で少しだらしなく伸びている。服装は学ランにマフラーで口元を隠している。騎士の家系に生まれた青年。家の家訓である『守るべき者は死んでも護れ』をモットーに考えており、その事に対して狂信的に守っている。好きなものは小さい子供や精神的に幼い者でランスロットはそれらを護衛対象として認識しており、チーム戦だろうが相手に護衛対象が居ればその対象を護る為に行動するタチの悪い狂人。なおこの趣味はロリコン的な意味では無く純粋で見ていてホッコリするからと本人は言っている。よく塩むすびや塩魚を食べて昇天仕掛けているが本人は自覚しておらず、わた◯ち的な食べ物だと認識している。Fクラスになった理由は本人の性格と戦闘が完全なる相性ゲーだからである。

 

 

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保護責任者:妖叨+

 

名前:バーボン・ラックス    刻印名:暗号名正体不明《コードネーム・アンノウン》

年齢:16     性別:男      1年(F)クラス

性格:非ッ常に軽い。興味のあるものはとことんやるが興味のないものはすぐに切り捨てる。遊び半分でCクラスの連中と死闘を繰り広げることがよくある。

 

喋り方:語尾に「~♪」を付けて喋る。戦闘時は♪が無くなることもある。

自己紹介「俺、バーボン・ラックスってんだ、よろしくな~♪」

日常1「お前ら揃いも揃ってバカばっかじゃん♪」

日常2「お前ら……邪魔♪」

戦闘時1「俺は落ちこぼれたわけじゃないぜ? 落ちこぼれてやったんだよ。お前らのアホ面が面白そうだからよ」

戦闘時2「やっぱ好きになれねェわ。お前。そんじゃ、死んどけ♪」

怒り1「俺を知ったような口で何言ってんだよ。そーいうの、ムカつく」

怒り2「やっぱお前は全力でぶん殴る♪」

 

戦闘スタイル:徒手格闘による接近戦闘または能力による攻撃サポート。

身体能力300     イマジネーション200

物理攻撃力250    属性攻撃力50

物理耐久力100    属性耐久力100

 

能力:『正体不明』《アンノウン》

全てが謎に包まれている。

攻撃、防御ともに優れている。という事だけ判明している。

 

派生能力:『正体不明の解放』《リべレイション・アンノウン》

能力同様、全てが謎。

派生してもなんら能力は変わっていないが能力数値が大幅にアップしている。

 

各能力技能概要

・『暗号名・時空間』≪コードネーム・リミットゲート≫

アンノウンの正体。

攻撃法は相手を自らの空間に引きずり込む。または空間に収納していたモノを出し入れする。空間ごと相手の身体を引きちぎる。などの攻撃法がある。

防御は相手の攻撃を空間に吸い込むことで防ぐことが出来る。相手の攻撃はそのまま空間で生きているので相手にそのまま返すことが出来る。

その空間に本人が逃げることも出来る。

普段は徒手格闘しかしないためにこれを使う事は少ない。

 

・『暗号名・運命』≪コードネーム・ジョーカー≫

バーボンの持つ切り札的存在の技。

自分から半径500mにかけて自らが敵と判断した者のみ時空間に引きずり込む事が出来る。

その時空間の中にはあらかじめ時限式の超強力爆弾が仕掛けられており相手が時空間に来たと同時に爆発する。かなりの質量を一度に時空間に送りこむため使用回数は限られている。現段階では3回が限界。つまり3回使うと昏倒してしまうため実際に使える回数は2回となる。

 

(余剰数値:0)

 

概 要:【銀褐色の髪に鳶色の目。イマスクに入学した理由。バーボン曰く「行き当たりばったり」らしい。入学試験では素手で100人を殴り倒したという黒歴史を持つ。本人の実力はAクラスのトップクラスだが刻印名が正体不明と刻まれたこともあり学園のほうから危険と判断された為にFクラス行きになった事を本人は知っているが気にしてない。1つの事にハマりだすと飽きるまでやり続ける。金剛とは仲が良く遊び半分で所関係なく死闘を繰り広げることが度々ある。大体のきっかけは勝敗引き分けの数の主張。そして現在ハマっている事は自炊らしい】

 

 

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保護責任者:タコスミス

 

名前:クラウド・ジェンドリン     刻印名:覇王

 

年齢:18     性別:男      クラス 一年Fクラス

 

性格:冷静沈着で感情をあまり表には出さない。細かい所にまで気配りができるいい男。しかしクールに見えて「殴れば大体なんとかなる」という残念思考の持ち主でもある。そして極度の貧乳好き。

 

容 姿:金髪オールバックで切れ目というまさにTHE・マフィア、な風貌。だがその怖さに隠れているがかなり端整な顔立ち。どう見ても18歳には見えな い。体型は馬鹿げた筋力の割に引き締まっている。体脂肪率3%、身長は189cm。また服の下は過去に誘拐されたりした時に負った傷跡が多数刻まれ ている。

 

喋り方:自己紹介「クラウド・ジェンドリンだ。私はアメリカのマフィアの長男で、同世代の友人などできたことが無い。故に、至らぬ点があり皆(みな)に迷惑をかけてしまうこともあるかもしれない。その時は遠慮無く私に言ってくれ、できる限り改 善しよう。」

 

困っている人を見つけた時「む、待て。お前一人では大変だ、手伝おう」

 

決闘を申し込まれた時「ほう、挑むというのか。覇王(わたし)に」

 

戦闘開始時「鏖殺する。」

 

戦闘時「私の拳を防御しようなどとは考えないほうがいい。私の拳に砕けぬものなどないのだからな。」

 

ピンチ時「私は『覇王』! その力を持って敵を粉砕する『覇者』で! そして皆(みな)を導く『王』なのだ! 故に、負けられん!」

 

ボケ1「Cカップ以上はおっぱいではない。駄肉だ」

 

ボケ2「『解錠』のイマジネート?そんなものは必要無い。この拳があれば十分だ」

 

戦闘スタイル:接近して殴る、以上。

 

身体能力200     イマジネーション5

物理攻撃力500    属性攻撃力3

物理耐久力200    属性耐久力10

カリスマ100

 

能力:『覇気』クラウドに宿る不思議な力。覇気を纏った攻撃はあらゆるものを『拒絶』する。概念攻撃を殴れば消失し、属性攻撃も霧散する。ただし使用限度があり、それを超えて使うことはできない。また、覇気を纏った攻撃は空振りをしても覇気が消費されるため乱発はできない。上限値を100とする。

 

派生能力:なし

 

各能力技能概要

・『無双拳』覇気を5消費する。拳に覇気を纏わせて殴る。ただし触れられないものには効果を発揮しない。覇気の効果により『抵抗』も拒絶するため攻撃を防ぐことは不可能。さらに筋力補正がかかり物理攻撃力が100上昇する。

 

・『天上天下天地無双拳』覇気を50消費する。眼前に広がる全ての物体・事象を拒絶する。生物は意識を飛ばされる。

 

・『威圧』覇気を10消費する。覇気を相手に直接ぶつけて意識を奪う。対象の数は何人でも良いが、人数を絞れば一人に対する効果は大きくなる。Aクラス相手には2、3人に絞らないと意識を奪うことは困難。

 

 

(余剰数値:0)

 

概要:イマスクに来る前のクラウド

アメリカで1,2を争うほど巨大なマフィアのボスの長男。幼いころより父に身を守るための武術と、母に生きていく術を学んだ。料理はその際母に教えてもらい、そこそこの腕前に。生まれつき奇病にかかっており、それは『鍛えずとも全身の筋肉が発達し続ける』というものであった。しかし『全身』とはつまり内蔵も含めてのことで、心臓の筋肉が肥大化すると命に関わるため非常に危険な病気であった。現在の医療では治療法は無く、進行を遅らせることしかできなかった。そして17歳になり限界を迎え入院をすることになった。クラウドはその時点でベンチプレス300キロの怪力だった。そしてクラウドは病気を治し、父のボスの座を継ぐためにイマスクに行くことを決意した。

 

イマスクに来てからのクラウド

入学初日にはその容姿からクラスメイトに恐れられていたが、二日目にクラウドのルームメイトでEクラスの清 楚系盲目美少女であるソラリス・エーレンベルグのアドバイスを受け、クッキーを焼いてクラスで振舞うと、クラスの全員が「この強面でこの料理スキ ルっ!?」というギャップでクラウドに対する警戒は薄れ、三日目には女子からは「はおーくん」または「くーちゃん」と呼ばれ、男子からは「ボス」または 「クラウ」と呼ばれている。クラウドは初めて付けられた「あだ名」というものに感動し、意外と気に入っている。クラウドは基本的にクラスメイトは名前を呼 び捨てで、他クラスはフルネーム、年上の人にはファミリーネームにさん付けで呼んでいる。ただし「~って呼んで」と言われた人にはそのとおりに呼んでい る。(ちなみにソラリスのことはソラと呼んでいる)幼いころより両親にマフィアのボスとなるべく育てられたクラウドは他者を惹きつける『カリスマ』を持っ ていた。イマジンによりそれが更に強化され、バラバラな才能を持つ者の集団のFクラスをまとめるまでに至った。つまりクラウドがクラス代表的な立場になっ ている。ちなみにルームメイトのソラリスに心底惚れている。一目惚れで部屋での顔合わせの時にクラウドが放った第一声が「……美しい」だった。

 

 

戦闘におけるクラウド

拳による打撃のみ。元々病気のせいで驚異的な筋力を有していたのだが、イマジンの力によりそれがさらに強化された。クラウドの打撃を受けて立っていられる者 は居ないだろう。クラウドがマフィアなのに銃を持っていないのは『使えない』からである。クラウドは飛び道具、拳銃や投擲がありえないレベルで使えなかっ た。だから遠距離攻撃は空撃のみである。またクラウドはイマジネート能力がほとんど無い。基礎イマジネート能力の『解錠』や『施錠』ですら使えないため成 績最低のFクラスである。ただ、クラウドは『施錠』された鍵「以外の部分」を殴って破壊し、タスクを獲得したりした。近接戦闘においてはAクラスをも余裕 で倒せるが、「概念干渉型」や「属性攻撃」にはめっぽう弱く、遠距離タイプの相手にもほとんど勝てない。攻撃が当たれば勝ち、当たらなけらば負け、という まさにFクラスの逆転率の高さという特徴を表した戦闘スタイルである。

 

 

基本的にクラウドは物理攻撃力チートなので普通に殴って戦うんですが、どうしようもないときだけ覇気を使うっていう感じです。あと、消費した覇気は寝て起きたら回復します。

 

戦闘服はスーツに黒の革手袋

 

 

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保護責任者 かんろ

名前:明菜 理恵

性別:女   年齢18    1年Fクラス

性格:冷静沈着で言いたいことはズバッと言う性格、そしてよくツッコミ役に回ってしまう。

 

話し方   「始めまして、明菜 理恵だ。以後宜しく頼む」

戦闘直前  「私は強い者にも弱いものにも同じよう闘い苦戦するのだよ………お前もだがな」

ツッコミ  「まてまてまて!! どう考えても違うだろう!!」

 

戦闘スタイル:格闘術全般、但し使えるのは『現実的』に使えるもののみ。

身体能力 3   イマジネーション1000

物理攻撃力3  物理耐久力3

属性攻撃力3  属性耐久力3

 

能力『現実法則』

派生能力『―――』

 

能力技能概要

『現実法則』

≪彼女を含むの回りにいる全ての者は、現実世界の法則に従わなくてはならない。超人的な能力を持っていようと、ロボットなどを呼び出していようと、彼女の現実法則の前には無力である≫

 

概要:【黒髪に黒目、背は長身のほうで、髪の長さは前髪が目にかかるほどで、後ろ髪は首まで。

彼女は元々は現実世界の住人で、この作品最後の参加者である。

彼女はこの作品を見かけ、興味を持ち、参加した際にPCに吸い込まれ、この世界に来てしまったのである。確かに彼女は別世界に行ってはみたいとは思った。だが、実際になると話は違う。彼女はなんとか元の現実世界に戻る為に、彼女はスクールに向かうことを決意した。

また、この作品最後の参加者の為、参加キャラの能力、設定、正確はある程度把握している】

 

 

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保護責任者:R.ZONE

名前:平坂 夢衣《ひらさか むい》      刻印名:却下辞典《ミスペディア》

年齢:16    性別:女性   種族:人間  1年Fクラス

 

容姿:文学少女チックな見た目。三つ編み丸メガセーラー服といろいろアウト。

性格:他者の失敗を嗤うのが趣味な外道。

 

喋り方:一人称『私』。丁寧(だけどそれだけに性格の悪さが透けて見える)

自己紹介「初めまして、平坂夢衣です。よろしくお願いしますね」

嘲笑その1「フフッ。勝ちたい勝ちたいと仰ってますが、勝てないからこのクラスに配属されているのではないのですか?」

嘲笑その2「…………プッ。どうしたんですか一体。たった一度の失敗如きで、その無駄に整った顔を歪ませてどうするんです?」

再変換使用「『[召喚]→[小閑]』。隙をくださって、感謝します」

言の葉現し使用「[水泡に帰す]。文字通り、あなた御自慢のその武器は『水の泡になって消え』ました」

ボツ語指定「[攻撃]、この言葉をボツ語指定しました。今より1時間の間、[攻撃]することをボツとします」

苛立ち「世の中、あなたのように能天気に笑ってるだけの人だけで構成されてはいません。私のように嗤うことしかできない、あなた方の裏で虐げられている人間も、存在しているということです」

 

戦闘スタイル:能力を用いて相手の動きを制限する。

 

基礎能力値

身体能力:3    イマジネーション:3

物理攻撃力:3   属性攻撃力:3

物理耐久力:3   属性耐久力:3

却下辞典:1000

 

能力:『却下辞典』

派生能力:『なし』

 

各能力技能概要

 

『ボツ語指定』

・『却下辞典』の能力

・単 語を1つ指定し、一定時間誰もがその単語を含む文の発声、その単語を含む文章の記録、その単語の意味を含む行為を禁止する能力。ボツ語指定した単語は、使 用してから○時間×3日間再ボツ語指定ができない。ボツ語指定されている時間中は、他の単語をボツ語指定できない。また、夢衣が降参または死亡すればボツ 語指定は効力を失う。

 

『再変換《リトランス》』

・『却下辞典』の能力

・相手の発言、相手の行動に含まれる単語を1つ指定し、その単語の同音意義の単語に置き換えて、その発言、その行動もその単語に置き換えてしまう能力。この場合、置き換える同音異義の単語は実在する単語でなければならない。

 

例:攻撃→口撃,創造→想像,暴走→疱瘡

 

『言の葉現し《リアルトランスレート》』

・『却下辞典』の能力

・比喩表現、ことわざなど、字面には現れない意味を持つ言葉などを1つ指定し、字面通りの現象を引き起こす。

 

例:七転八倒→実際に7回転んで8回目に起き上がる。

 

概要:【・元いじめられっ子。本を読んでばかりいたため小学時代は『学級文子』なんて呼ばれていた。汚物扱いからばい菌タッチまでなんでもされた。教師からも、さらには親からも似たような扱いを受け、性格が捻くれる。

・中学時代は復讐の日々。今まで自分を虐げてきた存在を、とにかく嵌めて陥れた。お陰で周りには誰も彼も、自分に仇なす存在すらいなくなった。

・逃避的に活字の世界に逃げ込んだ結果、語彙だけは豊富になった。これが彼女のイマジンを使う上で役に立つ。

・性格と言動から性格の悪さを滲み出しているのは、『守ってくれる』存在がいなかったため、自分で人を遠ざけるしかなかったから。もし彼女を守ってくれる人が現れたら瞬く間に更生するだろうが…………多分ヤンデレが爆誕する】

 

 

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護責任者:ぬおー

名前:折部 夏凛 (おりべ かりん)   刻印名:かみさまのいたずら

年齢:16歳   性別:女   1年Fクラス

 

性格:ツンデレ天邪鬼で、男に対してはトゲのある発言をする。不意打ち、騙し討ち、武器はなんでもありありの勝つために手段は選ばないタイプだが、能力が邪魔をして大概失敗する。本人は否定してるが甘えたがりのやきもちやきで、ファザコン

 

喋り方:一人称はボク。なのです口調。毒舌で、料理関係以外の難しい言葉やカタカナはひらがなになることが多い。感情を表すと擬音表現。変な当て字の罵倒や挑発をする。

 

自己紹介「どうも折部夏凛です。変態ろりこんやろうはのーせんきゅーなのです。ほんとにうげーのべーのおえっなのですよ」

 

黄昏  「やりたいこととやれることは違うのです……。気が付いたら能力も刻印名も勝手に決まってたのです、ぐすん……」

 

ボケ  「んー、噛めば噛むほど広がる米の甘み、そこに追打ちをかける塩鮭のいい塩梅、海苔の風味もぐっどなのです……、ってボクはお握りごときでかいじゅうなんてされないのです!」

 

決闘申込&承諾「ボクもあんまり嘗められては困るのですよ」

 

煽り  「えぬでぃーけー! えぬでぃーけー! ぷーくすくすなのです。かっこよく啖呵切ったのに負けた感想どうぞ、カグヤ(どすけべしすこんやろう)さん」

 

対夏流 「寄るな、触るな、抱きつくな! 頬ずりもやめろなのです、お父さん(くそおやじ)」

 

戦闘スタイル:一応得意武器は徒手空拳だが、そもそも戦闘能力は限りなく低い。誰かに守ってもらわないと前線に立てないほど。獣人ということもあって身体能力は元々高め。またイマジン能力はどれも揃って夏凛の精神とプライドを代償とする。

 

身体能力100     イマジネーション600

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

魅力306

 

能力:『愛玩動物(ペット)』

派生能力:

 

各能力技能概要

 

・『絶対ナル保護対象』≪魅了効果があり、視線を集めやすくなると同時に周囲の不幸(ラブコメ的ハプニング)も引き寄せる。そのため周囲での魅了系能力の効きが著しく低下する。周囲に仲間がいることで能力に軽い上昇補整がかかり、周囲から受ける自身への庇護やサポート能力を強化する。その反面、単独の場合は全ての能力に下降補整がはいる。加護であると同時に呪いであり枷≫

 

・『吸魔の接吻(ディープキス)』≪対象と口内粘膜の接触により、体力や気力、イマジンを奪い取る。最終的には一時的に能力さえも奪い、行動不能に追い込む。接触時間の長さに比例して奪える量も増える。奪ったイマジンを用いることによって相手の能力も行使可能となる≫

 

・ 『母神(マリア)の抱擁(ハグ)』≪対象に直接触れることで、痛み、呪い、その他諸々のマイナス効果を減少させ、自然治癒能力、戦闘能力、イマジン伝達能 力などを軒並み上昇させる。触れている肌の面積と葉流の羞恥心に比例して効果が上昇するため、最大値は生まれたままの姿で抱きつくこと。また夏凛自身が意 識を失う、催眠状態にあるなど羞恥心を感じない状況においては発動しない≫

 

容姿:【ぱっちりとした明るい蒼の釣り目に腰まで届く銀のロ ングヘアー、柔らかそうな白い肌、三角形の耳とすらっとした尻尾が特徴の猫獣人。獣成分は耳と尻尾のみ。背丈は130センチそこそこで胸はぺったん()、見た目10歳前後ないわゆるロリ。成長の気配はない。見るものに保護欲と同時に支配欲を抱かせる】

 

概要:【元々は夏流のペットであるただの猫であったが、寿命による衰弱でその生涯を終えたときに、「生き返らせてやるから俺の配下な」という神からの一方的な契約により延命させられ、夏流の能力を媒介に復活を果たす。その際帳尻合わせとして人間化する。

人間化した時から見た目の成長はない。

人になった後、数年間を日本で過ごすが、かなりの不幸体質で、変態大国日本で培った経験(苦労)によって視認した相手の変態性とその危険度を見抜く目を持っ ている。近くに猫好きな変態(夏流)がいたのも大きな要因。そのため変態には警戒心が高いが、それ以外に対してはかなり無防備。

夏流は唯一の家族 であり、夏流に対してだけは家族としての「好き」を理解しているが、それ以外に対しての友人か恋人かの境界線はかなり曖昧。男手一つで育てられたせいか、 女の裸を見て照れる、男に言い寄られて嫌悪するなど、少々無自覚のレズっ気がある模様。また、子供扱いを嫌がる。夏流の教育により、食べ物、可愛いものに 弱く、甘党、猫派。また食べ物に関しては、朝から米三合は余裕で平らげる程の食いしん坊。好き嫌いは少なく、最近はガッツリいける中華か、好みの味付けの 和食かで揺れ動いている。しかし自炊能力は皆無。虫などは平気だが、雷やお化けなど非実体のものは怖がる。

反抗期と言うこともあって最近の目標は「打倒父親、目指せ下剋上」

だが実はかなりのファザコン。刻印名のせいで夏凛の羞恥心を煽るような代償の能力ばかり派生する】

 

 

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保護責任者:金鵄

 

名前:御神楽 環奈(みかぐら かんな) 刻印名:神代の巫女

 

年齢:17    性別:女性     (1年)Fクラス

 

性格:礼儀正しく丁寧。品行方正を地で行く感じ。ただ少し天然ボケ。

 

喋り方:礼儀正しいですます口調。怒ったり等感情が大きく動いた時もそれは変わらず。他人の呼び方は基本さん付け。

自己紹介「私の名前は御神楽環奈です。皆様、どうかよろしくお願いいたしますね」深々とお辞儀

戦闘開始時「御神楽環奈、刻印名『神代の巫女』・・・参ります!」

ボケ「明後日の方向、と言われましても・・・日にちに方向ってありましたでしょうか・・・?」首かしげ

神落とし使用時(例)「貴方のその神格(ちから)、一時的に奪わせていただきます・・・!」

 

戦闘スタイル:

個人戦の場合:相手が神格持ちなら神落とし・神堕としで神格を無くした後、神降ろしを行い神格を付与、その後自分に降ろした神の力等で戦う。

集団戦の場合:味方に神降ろしを行い神格を付与、その後、戦闘相手に神格持ちが居るなら神落とし・神堕としで相手の神格を無くすバフ・デバフ要員。

身体能力3     イマジネーション203

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

霊力(所謂霊術・霊媒等巫女としての力)800

 

能力:『神代の巫女』

 

派生能力:『』

 

各能力技能概要

・『神落とし』≪『神代の巫女』の能力。対象の神格を一時的に落として(消去・弱体化)、神格を使った攻撃のダメージ等を減らすもしくは無くす。相手の神格が高ければ高いほど逆に落としやすかったりする≫

 

・『神降ろし』≪『神代の巫女』の能力。自身、もしくは味方に神様を降ろして、神格を付与+その神様の属性に関する攻撃を可能に。ただし、味方に神降ろしをする場合は、その相手に相性の良い神様でないと降ろせない、という制限がある。自身に神降ろしをする場合には、神代の巫女という事もあり、その制限はない≫

 

・『神堕とし』≪『神代の巫女』の能力。対象の神格を一時的に無くし、神格を使った攻撃を出来無くし、その神格に関わる特殊な力も使えなくする。こちらは相手の神格が高ければ高いほど成功確率が低くなる。環奈の霊力より神格が高いのならまず成功はしない≫

(余剰数値:0)

 

概要:【黒髪茶眼で髪は背中半ばまで届くストレート。身長、体重ともに平均的な感じだったりする。家での教育もあり性格は礼儀正しく丁寧で、ルール違反などは自分からはまあまず侵さない。全ての神社の総本山ともいえるべき家に生まれて、幼いころからその神代の巫女と言えるべき巫女の才能を発揮したりしていた。成長し、自分のこの力で何ができるのだろうか、と色々と考えた結果、家族に相談&説得をして、イマスクに来た。成績はそこそこだったのだが、特化型なステータスなのもあってFクラスに。

能力・刻印名の『神代の巫女』は、本人の巫女としての才能や技能、神降ろしの霊媒としての力等、歴代の巫女の中でも凄まじいものがあり、まさに『神代の巫女』としか言いようがなかった為、能力と刻印名に使用している。

ちなみに、巫女としての力の応用で傷を治す、という事も可能ではあるが、ある程度治りが早くなる、小さい傷程度なら完全に治せる、と言う感じであり、能力や技能として回復を持っている相手に比べると、全く及ばないレベルではある。

『神落とし』と『神堕とし』の違いは、雷の力を持っている神様の力を借りている場合、前者は神格のついてない電撃を使うことはできるけれど、後者は電撃すら使う事が出来なくなる、という違いがあったりする】

 

 

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保護責任者:lycoris

名前:結由凪 依子 (ゆゆなぎ よりこ)     刻印名:なし

年齢:10歳       性別:女性      Fクラス

 

性格:対人恐怖症。若干弱気ながんばり屋。

 

喋り方:か細い声、しどろもどろ。親しい相手と話すときと独り言は言葉少なめだけどはっきりと。一人称は私

自己紹介 (ぼそぼそ....) 生徒A「え?何?」「....結由凪です。あの......よろしくお願いします」(赤面俯き)

ツッコミ「カナ姉、それ違う」(ビシッと)

戦闘前「ん、私、がんばる」(ふんすっ)

戦闘中「ふえぇ.....」(涙目が)

おばけ屋敷(脅す側)

生徒A「わぁぁっ!?「ぴゃぁっ!?」なんか今背中触られたぁ!?.......あれ?」「きゅぅ....」(悲鳴に驚いて気絶してる)

 

戦闘スタイル:キャップ帽を被り『霊体化』『ホーンテッド・ミニオン』を発動させつつ『透き通る幻影』を用いて不意打ちを狙う。ハイドアタック以外の攻撃は貧弱。物理火力ではなく、デバフを重ねて倒すタイプ。

 

身体能力53  イマジネーション253

物理攻撃力53   属性攻撃力53

物理耐久力53   属性耐久力53

気配遮断150

ハイドアタック350

 

能力:『ホーンテッド・クロス』

派生能力:『クレア・ヴィジョン』

 

技能

各能力概要

・『霊体化』(アストラル・クロス)

『ホー ンテッド・クロス』の能力。頭が布で覆われている間、その布と自身を青みを帯びた半透明の非質量体に変化させる。あらゆる物理的干渉を無効化し、空を自在 に飛び回る事ができるようになる。帽子やフード、包帯、ハンカチ等々、とりあえず布類が頭に乗っけてあると霊化する、自発的に使う時は主にキャップ帽を使 用する。霊化中はイマジンを球状に圧縮した弾「霊弾」を投げたり叩き付けたりで攻撃することもできる。が、初期段階では圧が低く、変異したイマジン粒子で 臍下丹田にダメージを与えられる(波長が同じなので自分自身にはダメージは入らない)ものの、威力は悲しくなるほど弱い、要練習。クロス=布。

・『透き通る幻影』(クレア=クリア)

『ク レア・ヴィジョン』の能力。手で顔を覆うことで完全隠蔽状態になる。『見鬼』や『索敵再現』神格付きの攻撃等も含めあらゆる干渉を無効化する。効果中は体 そのものをイマジンに酷似した粒子に変換して霧散、そこらを漂っている。現れる時は好きな所から飛び出せる。キャンセラーを受けると何もない場所から飛び 出てきてしまう。主に、相手の頭上から。

・『ホーンテッド・ミニオン』

霊弾を布類に着弾させることで自立型の霊体を憑依させ霊体化する。 霊弾を撃たせたり、『透き通る幻影』を使わせたり、雑用など簡単な指示をしたりはできる。危機回避は自動で行うが、基本気ままに漂っている連中なので細か い操作はできない。生徒手帳にハンカチ(白くて端にレースの装飾が付いている、お手製)を大量にストックしていて、ばら撒いて複数体同時に作ることもでき る。相手の服にも憑依させることができ、ど根性ガエルのピョン吉みたいな形に憑依する。至近距離から猛攻。

殆どは布の真ん中をつまみ上げたような姿で目にあたる部分がうっすらと光っている。

 

 

(余剰数値:0)

 

人物概要:【ちみっこ。黒髪を腰まで伸ばして目を前髪で隠している、日本人形のような子。生まれつき霊視ができる。御飾音とは幼馴染みで「カナ姉」と呼んで慕っている。御飾音からは「ヨー子」

と呼ばれている。服装は御飾音謹製フリフリドレスとかゴスロリ服で居ることが多い。が、本人は動きやすい服装の方が好き。でもかわいい服も嫌いじゃない、悶々。裁縫、料理が好き、現在修行中。

対人ではビクビクした弱気な言動になってしまうことが多く、目が合っただけでも顔を覆い『透き通る幻影』で消えてしまう。

御飾音に怯えることなくむしろツッコミを入れていったり。お化け屋敷等は過剰に怖がる癖に、本物の幽霊とは世間話で盛り上がったり。などと妙な所で肝が座っているアンバランスな一面も】

 

 

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保護責任者:茶猿

名前:オルガ・アンドリアノフ

刻印名:戦場の指揮者(Conductor of the battlefield)

年齢:15歳     性別:♀  Fクラス

性格:基本的に面倒臭がりや。何時でも何処でも寝れる特技を持っている。

 

自己紹介  「自己紹介? あぁ面倒なんで名札みて名前覚えてください」

ボケ    「あ、パジャマのままだ……まっいいか」

通常時   「寝るから起こさないで、1年くらい」

通常時2  「私の将来の夢はニートです」

戦闘    「私の代わりに働け!!」

 

戦闘スタイル:イマジネーションにより生み出した兵隊を指揮して戦う。(自分は基本的待機)

 

ステータス(イマジネーション兵士1人当たり)

身体能力:20(50)    イマジネーション:500

物理攻撃力:20(200)   属性攻撃力:3(3)

物理耐久力:50(50)  属性耐久力:50(50)

 

能力:『カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)

 

各能力技能概要

・『カーネル・オブ・アーミーズ(Kernel Of Armys)

  自身のイマジネーションにより兵隊を生み出す。兵士の見た目や武装はオルガ自身のイメージにより生み出されるため西洋の騎士だったり、米軍の歩兵などバラ バラ。オルガの命令に絶対遵守であるため逆らうことはできない。兵士一人ひとりの能力はそれ程高くはないため『質より量』で攻める。意識が1人1人と繋がっているため何処でどのような戦闘状況か逐一確認することができる

 

概要:銀色の腰までかかる長髪、常に寝癖で何本か跳ね上がっているロ シア人。基本的には面倒臭がりやで休みの日は基本的に1日中布団の中に篭っている。最近の悩みは成長が止まらない胸部により肩こりがすること。IQ300 と天才的頭脳だが興味(軍事系)を示したものにしか真価を発揮しないためFクラスに入学。

戦闘時の性格は平常時と真逆であり鋭い声で兵士だけではなく生徒にも指揮を出す。しかし一回で何十人という兵士の情報が逐一頭に入ってくるため戦闘終了時には強制就寝。刻印名が付いているため兵士強化にしか派生できない。

 

 

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保護責任者:友夏

 

名前:球川楔(たまがわくさび)       刻印名:最低最悪

年齢:15歳     性別:女      (1)Fクラス

 

性格:お気楽で何時もへらへらしているが心の中ではどうやって他人を最低まで陥れるかを常に考えている外道

他人には厳しく動物には優しいタイプ

 

喋り方:「『やあ!』『ボクは球側楔』『球磨川禊とは』『間違えないでね!』え?喋り方?マネだよマネ」

    「さあ!一緒に最低まで堕ちようじゃないか!」

    「あ……可愛い猫ちゃん♪」

 

戦闘スタイル:勝利する為ではなく相手を最低まで堕ちいれさせる為にイマジンを使って徹底的に相手の行動を妨害し続ける。

 

身体能力3     イマジネーション995

物理攻撃力3    属性攻撃力3

物理耐久力3    属性耐久力3

 

能力:『偽・大嘘憑き』

派生能力:『偽・却本作り』

 

各能力技能概要

 

・『偽・大嘘憑き』≪フェイク・フィクション≫

因果律に直接作用することの出来る一種のチート能力

正確には「時間操作」の能力であらゆる対象の時間を特定の現象が起きる前に戻すことが可能

本家の「大嘘憑き」とは違い「死者蘇生」等は不可能

といってもほぼ無制限に自身の回復をすることは出来るので半ば不死身状態

あくまでも「時間操作」なのでチートクラスまでに早い攻撃等で対抗出来る。

 

・『偽・却本作り』≪フェイク・メーカー≫

相手に触れることで一時的に相手のあらゆるステータスを自身とまったく同じする能力

これ単体だと相打ち狙いの能力でしかないが以下の「最低最悪」と組み合わせることで最悪の状況を生み出す。

 

 

・『最低最悪』

『偽・却本作り』の能力。刻印名にもなっている最低最悪とも言える能力

自身へのあらゆる悪影響の類を全てを他人に一方的に押し付けた上で相手が自身の出来ないことは出来なくなる。

ようは相手が自身のイマジンを使えなくなるというまさに相手にとっては最低最悪の状況を作り出す。

使用さえ出来れば勝利確実とも言えるが「自身と同じステータスの相手」にしか使えない

「偽・却本作り」と組み合わせて始めて意味を成す

 

 

概 要:【容姿的にはめだかボックスの球磨川禊と瓜二つの少女。あらゆる意味で自身に瓜二つの球磨川禊と同じ喋り方や服装をすることが多い。勝利への執着心は 特に無く他人の人生を滅茶苦茶にすることにしか興味はない。人間より動物が好きで動物にだけ優しい。隠れ爆乳で普段は隠していてわからないがそのスタイル は異性同姓問わずに視線を集めてしまうほどに妖艶。かなりエロい。なんかイマジン値のみチートクラスな子】

 

 

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一学期 第十試験 【決勝トーナメント 準決勝戦】Ⅰ

や、やっと書けました!
明日も仕事なのに、急いで投稿せねばと、こんな時間の投稿だ!
まだ忘れられてません? 私死んでないよ!? 新しい方に逃げてもないよ!

っと言うわけで久しぶりの復活です!
相変わらず添削してませんので、誤字脱字見受けられるかもしれませんが、そういうのが嫌な方は【添削済み】の表示が出るまで待ってください!

それでは待望の(だよね? だよね?)決勝トーナメントをご覧ください!
一応、送ってもらった新しいスキルで、予定していたシナリオとは別の方向に動いてます!



【添削済み】になりました!


クラス代表戦・第一試合:八束菫VS小金井正純

 

 

 勘違いされ易い話だが、イマジン粒子が開発されたのは学園創立と同じ、2012年と思われがちだ。しかし、実際にはイマジン粒子が開発されたのは2010年の事となり、それから二年の間、この粒子エネルギーをどう扱うかで長い議論が続けられる事となった。核を超越する無限のエネルギーだ。それこそ、世界条約によって没収、管理され、日本以外の一部諸国にのみ、扱う特許が限定的に降りるくらいの扱いになる筈だった。それを回避したのが、イマジン粒子発明家の斎紫(いつむらさき)(かえで)であり、後に評議会に顔を出す様になる重鎮。イマジンを現代でも―――限定的ではあるが―――使用権利を得る事が出来たのは、この男の功績が全て(、、)だ。

 そんな男が作ったイマジンだが、本来これらはイマジンの力で浮かせた浮遊島、≪ギガフロート≫でのみ使用が許された物で、地上でその存在が見られる事はありえない。現役のイマジネーターでも、学生身分で無い者は地上でイマジンを保有する事すら許されていない。これらの違反行為は、一度でも犯してしまうと、その場で死刑が許されてしまう程に重く、現役の学生でさえ、扱いには細心の注意を要求される。

 だが、何事にも例外と言うのは存在するもので、この日本には、唯一イマジン粒子を保有する土地が存在する。

 最初に断っておくが、この土地のイマジンは自然発生している物ではない。そもそもイマジンが自然で発生する物なら、今頃この世界は異能文明が発達した、別の世界観が常識となっていた事だろう。それこそ、嘗て語られていた神話の時代が、未だに続いていなければ説明が付かない程に。

 故に、この土地が保有するイマジンは、()()()()()()()()だったりする。イマジン発生炉は所有していない為、その土地のイマジンはギガフロートに比べると、大した物ではないのだが、それでも、土地丸ごと一つ分を覆い尽くせるイマジンを個人が所有している時点で、天文学的数字を目の当たりにする程、常識外れに値する物だ。

 その土地の名は『焔山』。『えんざん』とも『ほむらやま』と読んでも、どちらでも正しいらしい、その土地は、京都か出雲の何処かに存在するらしいと言われているが、それらしい山も森も確認されておらず、所在不明と言う扱いになっている。

 さて、その『焔山』が出来た経緯については、また別の話にする事にして……、この土地を作り、百人程度の人口を治める主こそ、嘗て黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)が暗殺に失敗した存在『猛姫(たけひめ)』と呼ばれる女性である。

 この土地に萬栄(まんえい)するイマジンは、彼女個人が生み出すものであり、彼女個人の個人財産と言う扱いになっている。一人で土地一つ分のイマジン量を賄えてしまう存在だ。既に彼女は土地内では神と言う扱いを受け、彼女自身、そのように振舞っている。

 そんな彼女だが、これでも一人の子供を授かっている身であり、業腹ながら(←?)親として子供と触れ合う機会と言うのも作っている。現在、その息子は、川辺で二人の少女と魚釣りなどに興じていたりする。

「………、すごく、釣れない……」

 蒼い短髪の少女がぼやく横で、猛姫の子である少年は不思議そうな顔を浮かべる。

「こんなに釣れない人初めて見たよ……」

「……ヒドイ言いよう……」

「そうですよ主君。外の人は大体釣りなんてしません。コツの何一つも分からない上に、魚を捕まえるなら投網を使うような人達ですから」

 少年を主君と呼んだのは、彼の隣で早速もう一匹魚を釣り上げた少女で、こちらは黒くて長い髪が、背の高さと反比例していそうな小さい少女だ。脇には脇差程度の小太刀が置かれていて、いつでも手が伸ばせる位置を意識されていた。

「網はないだろ、網は? 命を奪って生きる者が、逆に奪われる可能性どころか、逃げられる可能性すら潰すとか……、生き方に誠意がなさすぎだろ?」

「……(たける)くん達、よくそう言うけど……、私達からしたら、その方が信じられない……。皆、効率が良くて、安全な食料確保を望むから……」

「それが信じられん……」

「主君、これが外と中の常識の違いです。郷に入り手は郷に従えと言いますが、強要は良くありません」

「いや、そうなんだけど……、あ~~っ! でも納得できないっ⁉」

「……猛くんの、意外と頭硬いところ……、見つけた……」

「見つけましたね……」

 二人の少女と戯れ、頭を抱えだす息子を眺め、少し離れた位置に腰を下ろしていた猛姫は、その光景に対し、微笑ましいと笑うべきか、くだらないと呆れるべきか、それとも何の感慨も浮かべる必要がないとスルーするべきか、ちょっとだけ悩む。正直、自分の反応にさえ、どれを選んでいいのか分からなくなるほど“暇”と言うのが素直な感想だった。

 もはやいっそ転寝(うたたね)でもしてしまおうかと、自分から眠気を持ってくるという器用な事を仕掛けたとき、彼女はその存在に気づき、目を細めた。

「猛、ちょっと物陰にいろ」

 言われた瞬間、猛と刀持ちの少女は、大変慌てた様子で釣竿を放り投げ、首を傾げるだけの蒼い少女を無理やり引っ張り木陰に隠れる。

 しかし、それが間に合うより早く、突然川の一帯で爆発が巻き起こった。熱をともあわない衝撃に煽られ、吹き飛ばされるように物陰に落下した三人は、混乱しながらも、今のが火器による爆発で無いのを認識していた。

 そこから先は、もう三人は何も喋ることなく押し黙る。何が起きて何が起ころうとしているのかさっぱり解らなかったが、猛姫が関わる事態で、下手に行動すると命くらい酸素分子並みに吹き飛ばされていくと知っている。なので、彼らはもはやただの石になったつもりで、災害が過ぎ去るのを伏して待ち続けた。

「やれやれ、とんだ出迎えをしてくれるじゃないか? 久しぶりのあいさつがこれとは、津崎(つざき)特派員にも(たちばな)特派員にもない挙動だ。まさに“君らしい”っと言うべきなのかな?」

 爆発の衝撃により巻き起こった水煙の向こうから、いかにも胡散臭そうな声が飛んでくる。それに聞き覚えがあった、“爆発を起こした張本人は”「ふんっ」と軽く鼻を鳴らす。

他人(ひと)領域()に勝手に侵入してきておいて、ずいぶんな言い草だな? 何の用で来た、楓?」

 果たして、水煙の向こう側から現れたのは、ぼさぼさの白髪にフレームの細い銀の眼鏡を掛け、胡散臭そうな笑みを浮かべている、灰色スーツの男だった。彼こそは斎紫(いつむらさき)(かえで)、イマジン粒子開発者にして、現代日本における政治的支柱、その人である。

()ね」

 にべもなく告げる猛姫。すると、その言葉に反応したかのように空間が波打ち、まるで波紋が広がる様に歪み始める。その歪みはあっという間に楓を包み込んでしまい、因果、事象、概念―――、あらゆるものが彼を追い出そうと一気に押し寄せる。

「まあまあ、昔の(よしみ)だ。もう少し気軽に行こうではないか?」

 言いつつ、まるで肩に引っかかった髪を払うかのような仕草で腕を払うと、(たちま)ち空間の歪みは正され、元の川原の光景に戻ってしまった。

 その光景を一瞥し、猛姫は目を細めつつ尋ねる。

「お前……()()()?」

「君の両親の先輩で、君にとっては第二のパパさんのつもり―――」

 猛姫は無言でその辺の石を拾って投げた。ただそれだけで亜音速を突破した石礫(いしつぶて)が、一瞬で発火し、ミサイルを凌ぐ圧倒的な脅威となって楓の額に迫る。本来なら命中すれば人の頭蓋など、障害物とさえみなされずに吹き飛ぶ威力なのだが、なぜか石は楓の額に命中後、スコーーーンッ!! っと言ういい音を鳴らして空高くに跳ね返ってしまった。

「これでも年齢差と言う物を気にしていたのだが、そんなにお兄ちゃん好きだと言うなら、私のことを兄と呼ばせることもやぶさかでは―――」

 今度は三メートル近い大岩を全力で投げつけた。数メートル進んだだけで自壊してしまうほどの圧で放たれた光速の岩石は、その衝撃波だけで島一つを破壊できそうなほどであったが、なぜかこれも漫画みたいな爆発を上げるだけに終わり、予想される被害は全く発生しなかった。

「短気だねぇ君は? 案外子供な津崎特派員でもここまで短慮ではなかったのだが?」

 しかも平気な顔で肩を竦め、やれやれと頭を振って見せる始末。ここにきて猛姫は、彼に感じていた異常性をもう一段階上の物としてとらえ直す。

「もう一度聞くぞ? お前は()()()?」

 再度の質問に対し、楓はきょとんとした表情で見つめ返し、あっけらかんと口にして見せる。

「『オリジン』だ。おそらくこの世界で最初のね」

 知らない単語に一瞬眉を顰める猛姫。『オリジン』の言葉の意味は知っているが、それが何を現しているのか分からない。それがイマジンと関係することも予想できているのだが、どうしてもそこから先への推測ができない。おそらくは、目の前に立つ開発者に次いで、イマジンを最も詳しく知っているはずの自分が、それ以上のことが解らない。それは、それだけでとてつもない状況にあるのではないかと疑心する。

「知らん。帰れ」

 だが、それはそれとして、猛姫には彼に付き合う道理はない。なので、再三に渡り、彼女は帰宅を促す。

「まあまあ、これでも用があって来たのだ。とりあえず聞くだけ聞いてみないかね?」

「お前が関わって、まともな事件が起きたためしがない。傍迷惑になるのが目に見えてるんだ。帰れ」

 「それを猛姫が言うのかっ⁉」っと言うツッコミは必死に心の中だけに(とど)める息子。

「私の場合は土地クラスの迷惑だが、こいつの場合は冗談抜きで世界クラスの迷惑なんだよ」

 「言葉にしてないのに、ツッコミ拾わないでくれっ!」っと言い返したいところだったが、未だに災害は過ぎ去った気配がないので、やっぱり我慢して平伏す息子くん。

「はっはっはっはっ! 今度の世界規模は文字通り“次元”的な意味で『世界規模』の話になるぞ!」

「………」

 猛姫は無言で何処からか刀を抜き放ち、一刀に伏した。当然のように白羽取りで受けた楓は、やんちゃ小僧の様に軽薄に笑う。なので額にバッテンマークが複数できそうなほど怒りを滾らせる猛姫なのだが、どうしても押し勝てないので、子供の喧嘩にしか見えない。

「そう怒るのも後にしないかね? これでも君にとって興味のある話だよ? そうだね? 例えば、久しぶりに君の友人に会いに行く口実が半ば強制的にできるくらいにはね?」

「………」

 表情を一切変えず対応だけ過激に行っていた猛姫だが、ここにきて初めて力が緩められる。

 楓は刀が下げられた後も、胡散臭い笑みを湛えるばかり。多少嫌そうな表情を覗かせた猛姫だったが、溜息でも吐くように小さく鼻を鳴らすと、いつの間に無手になった手を袖の中で組んで勝手に歩き始める。

「貴様に茶を出すと思うなよ、楓部長(、、)

「安心したまえ! 茶なら(なぎ)君に出してもらうよ!」

「猛! 薙に奥に引っ込んでいろと伝えてこいっ!!」

 苛立った声で催促された息子は、大慌てで飛び起き、一目散に逃げるように走り出すのであった。

 後にこの出来事が、日本支部ギガフロートに災禍を齎すことになるなどとは、誰も予想だにしなかったのだった。

 

 

 1

 

 

 前哨戦が終わり、柘榴染柱間学園では待ちに待った一年生最強決定戦決勝戦が始まろうとしていた。人々は賑わい、市街区からもギガフロート在住の一般人が大量に押し寄せ、我先にと観客席を埋めていく。っとは言え、ギガフロートの総人口はそれほど多いというわけではない。土地の範囲に対し、人が住む住宅街が極端に少ないためだ。そのため、総人口を把握している学園側は、適切な広さの観客席を用意できてしまえる。そもそもイマジンを使用すれば、大会用のドームなど十分くらいあれば余裕で創設できてしまうので、今まで満員追い出しになったことはない。(ただし、ドームが広すぎて観客席が遠すぎるという場合もあるので、広げられる範囲にも限界はある)

 特に当事者である生徒達の湧きようは大きく、誰もが自分のクラス代表が優勝してくれることを望み、年相応の少年少女の顔を見せていた。

 誰もが期待と興奮を胸に、観客席に我先にと集まり、観戦の準備をしている。中には誰が優勝するかトトカルチョする不貞者もいれば、考察が得意なメンバーで集まり、戦況を分析できるようにしていたり、難しいことは脇に置いて、純粋に試合を楽しむつもりでワイワイはしゃいでいる者達と、皆、一人の例外なく湧いていた。

 

「やばい……、昨日、ギガフロート限定のオンラインゲームやりこんでたら完全に寝坊した……っ!」

 

 ………。いや、例外がいた。

 学生寮の廊下を急いで駆ける少女、身長高め、黒く短めの髪に、黒い瞳を持つ明菜理恵であった。

 すでに大半の生徒がアリーナに向かっているのが当たり前の中、登校義務が発生しない決勝トーナメント前夜に、ギガフロート内でしか使用できない特別ネットゲームをプレイしてしまい、普通にお寝坊するという、ある意味学生らしい姿を展開してしまっていた。

「しかし、『ブレイドヴレイバー』はスキルクリエイトが多彩で楽しすぎる……! オリジナルスキルで敵を倒すのが面白すぎる! やり始めたら止まらなかったっ! これでドスキル制とはアツイッ!」

 地上ではお目にかかれないようなありえないクリィオティーに目を輝かせながら、一瞬だけ、決勝戦とゲーム、どちらを優先しようか心の天秤にかけてしまう。

「試合の組み合わせは一緒だし……、たぶん優勝者も同じだよね? だったら内容は後で録画を見ることにして、あのオンラインゲームを……―――いかんいかんっ! こんなところまで来てゲーム三昧に落ちるルートは回避だ!」

 誘惑を振り切り、作り損ねた朝食を寮内食堂の二階、軽食店にてサンドイッチかおにぎりでも買い求めようと通路を早足で駆ける。―――っと、彼女は虫の知らせのようなものを感じ取り、ふと視線をそこに向ける。そこは、二階軽食店から吹き抜けになった一階部分の食堂席が一望できる通路だ。理恵が見下ろす位置、食堂席のど真ん中で、剣呑な空気を纏う三人組を見つけたのだ。

「え? なにこれ? こんなところでイベントなんてあったっけ?」

 知っているはずの“知識”とは異なる現場に直面し、困惑する理恵は買い物を忘れ、身を乗り出すようにして階下の様子を伺う。

「それ以上美幸(みゆき)を侮辱するなら、俺も無視はできないぞっ!」

 三人組のうち二人いる男子、その片方が声を上げた。背は高めで髪は青い。遠目だったので顔立ちが解らなかったが―――などと思った瞬間、相手の顔が何となく理解できた。視力が高くなって顔がよく見えたわけではない。遠目に見えた輪郭を、距離感や温度差などを頭の中で処理し、顔を予想した。イマジネーターの処理能力による分析が行われた結果だ。おかげで光の加減から瞳の色が緑色なのだろうと言うことまで予想できてしまう。

 生徒手帳を取り出し、目で見た顔と、顔写真付きのクラス名簿を閲覧し、個人も特定できた。名前は夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)。Bクラス。成績はそこそこよく、123という数字が表示されている。さらに理恵は一年生が知らないはずの裏技操作を行い、『総合ランク』という項目を呼び出し、確認する。そこにはF~EXで評価する項目らしい。これには上級生だけでなく、教師のランクまで確認できるため、明確な強さの判別がし易くなっている。大体一年生で、決勝トーナメントに出場している生徒は、全員がD判定の扱いで、クラスランキングで名前が発表されたものは、全員E判定となっている。それ以外は全員がF判定だ。凛音の判定はEだったので、ランキングに名前が載らなかったものの、それなりの実力者なのだと知れる。

「はっ! 愚物風情が俺に意見だと? 貴様、それ相応の用意があって言っているのだろうな?」

 そんな彼に対するのは黒いスーツを着こなす、端正な顔立ちをした色男だ。髪は銀に輝き、うなじの辺りで纏められ、瞳は碧に映え、高圧的な輝きを灯していた。

 すぐさま検索―――しなくても解った。この男は特徴的だったから覚えている。理恵の“知識”より、やや大人し目な印象を受けるが、Aクラスでランキングに名前の挙がった、シオン・アーティアで間違いないだろう。

「え? なにこれ? いったい何がどうなってどうなろうとしてんの?」

「どうやら揉め事のようですね」

 理恵の呟きに答える者が突然現れる。慌てて声のした隣に視線を送ると、そこに艶やかな黒髪を持つ、絶世の姫が袖で口元を隠しながら微笑んでいた。

 一瞬、見とれてしまうほどの美少女に、誰だが思い出せなかった理恵だったが、つい昨日に目撃していたことを思い出す。

「東雲カグヤっ⁉ ―――いや、じゃなくて、迦具夜比売(かぐやひめ)……?」

「はい! ……まだ戻れていません」

 星が輝きそうな笑みで頷き、すぐに苦笑いを浮かべる女版状態のカグヤ―――迦具夜比売。そんな表情の変化一つをとっても『可憐』とか『美しい』とか『愛らしい』なんて言葉しか出てこないのだから堪らない。色々知っているはずの理恵でさえ、ついうっかり惚れ込んでしまいそうだ。

(まあ、これも『月の仙女』の特性ってことなんだろうけどね……)

 その辺の事情は今は置いておき、理恵はあんまり迦具夜比売の顔を見ないように努めながら訪ねる。

「揉め事って? いったい何がどうなってるの?」

「『黒服の宮』が東福寺(とうふくじ)様にお戯れをなさいまして、その事に(ゆう)深き、夕凪の方がお諫め申しましたところ、『黒服の宮』がそれを(あらた)めませんもので」

「ちょい待て」

 迦具夜比売の言い回しが解りづらく、一度額に手を当てて考えてしまう。

「ええ~~っと、要するに『『黒服の宮』(シオン・アーティア)が東福寺(美幸)お戯れをなさいまして(なんかちょっかいかけて)、その事に友深き(友人の)、夕凪の方(凛音)お諫め申しましたところ(怒ったんだけど)『黒服の宮』(シオン・アーティア)がそれを改めませんもので(意にも介さず一蹴した)』ってことかな?」

「左様でございます。……すみません。まだ現代との織合わせが上手く進んでないんです」

 どうやら迦具夜比売は『竹取物語』における時代背景に多少引っ張られているところがまだ残っているらしい。考えてみればイマジン体にはそれぞれ性格設定を細かく決めることもできるのだ。古風な性格に設定すると、こんな感じでちょっと古めかしい言葉を使ってしまう物もいるのかもしれない。―――っと、納得しておくことにした。

 事情が分かって改めて視線を戻したところ、シオンが懐から生徒手帳を取り出し、ゆっくりとした動作で凛音へと近づいていく。

「その蛮勇、いかに愚かな選択であるかを思い知らせてくれる。喜べ! この(オレ)自らそれを教えてやろう」

 そう言ってシオンは自分の生徒手帳と凛音の生徒手帳を合わせる。透明な空間が一瞬広がり、≪決闘システム≫が展開される。以降、決闘中に起きた被害は全てなかったことにできる。同時に、今度は迦具夜比売の懐から黄色の光が明滅した。迦具夜はそれを取り出し確認すると、彼女の(正確には彼の?)生徒手帳が光っており、中身を開くとホログラムのように展開された光の文字で審判を受け持つよう要請が告げられていた。

 確認した迦具夜は小さく嘆息すると、重力を全く感じさせない緩慢な動作で飛び上がり、物理法則すら魅了したかのような、ゆっくりとした落下速度で階下に着地する。

「現状、教師並びに上級生が決勝トーナメントにおいて行動が制限させられているため、一年生ではありますが、この迦具夜比売が立会人を務めさせていただきます。双方、無制限決闘の規則に則り、正々堂々と果たしあう事」

 そう告げた迦具夜の姿に、誰も驚いた表情は見せていない。それどころではないという雰囲気もあったが、誰も女性としてのカグヤに違和感を持っていないという方が大きいと感じられた。

(今はそれが当然だと思えますけど……、これ、元に戻ったら精神的ダメージが大きそうですね……)

 苦笑いを浮かべつつ、心配そうにする美幸が離れ、シオンと凛音が一定の位置を取って向き合う。それを確認したところで、迦具夜は手を掲げ、開戦の合図と共に手を振り下ろす。

「……始めっ!!」

 

 

 2

 

 

 などと言ういざこざが行われている最中(さいちゅう)、むしろ本題とされる決勝トーナメントアリーナ会場では、エキシビジョン同様大きな舞台となり広がり、決勝進出者四名が、会場に登場していた。

 今は丁度、登場した四名の紹介が行われるところだ。

 

『イマジネーションスクール! 日本支部ギガフロート・柘榴染(ざくろぞめ)柱間(はしらま)学園、新入生初トーナメント! 決勝トーナメント! 今、この最初の頂に上り詰めた各クラス最強、四名の生徒が入場しました!! それではさっそく、Aクラスから順に紹介していきたいと思います!』

 

 司会の言葉に合わせ、会場の大画面スクリーンに、茶色い瞳に紫色のショートヘアーをした、スレンダーな少女が映し出される。

 

『Aクラス筆頭! 八束(やたばね)(すみれ)! 刻印名≪剣群操姫(ソード・ダンサー)≫! 予選トーナメントではエキシビジョンマッチで活躍した東雲選手を初戦で討ち取り、また、神格保有者も撃破! 能力「繰糸(マリオネット)」により操られる巧みな剣は、既に予選トーナメントの比ではない! 芸術的な美しき剣舞は、決勝トーナメントでも見せてくれるのでしょうかっ⁉ 八束選手、試合前に一言どうぞ?』

 

「ルームメイト、が……、戻ってきません……。女版カグヤ、間近で見られなかったぁ~~~……っっ!!」

 

『試合前からテンション最悪っ! これで負けたらルームメイトの責任かっ⁉ 始まる前から敗北したかのように平伏してしまっているぞ~~~っ⁉』

 

 映像は切り替わり、金髪碧眼の整った顔立ちをした、少年へと向けられる。引き締まった身体に女受けする流し目がスクリーンに映し出されると、観客席から一斉に黄色い声が上がる。

 

『Bクラス筆頭! ジーク東郷! 刻印名≪不死身の竜人≫! なんと言っても、彼の見どころはその鉄壁の肉体! 予選トーナメント中、二人しかいない、一切のダメージを受けることなくストレート勝ちした選手の一人! もはや無敵に匹敵する能力「竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)」! その比類なき防御能力により、真の力は未だ見せていないもよう! この決勝トーナメントでその真価を見られるのかっ⁉ それでは東郷選手も一言お願いします!』

 

「俺の『鋼の権能』を打ち破る方法か? そんなものは簡単だ。俺が求める花嫁(ブリュンヒルデ)こそが、俺を唯一傷つけられるのさ!」

 

『はいっ! イケメンのウインクで会場の女性陣の黄色い声援と、男どもの舌打ちで観客席がすごいことになっていま~~す! ってか、アンタここに嫁探しにきてるんかいっ!?』

 

また映像が切り替わり、今度は長い黒髪をうなじの辺りで束ねただけのセーラー服姿の少女が映し出される。

 

『Cクラス筆頭! 廿楽(つづら)弥生(やよい)! 刻印名は≪ベルセルク≫! 戦闘特化型が集められるCクラスにおいて、激闘に次ぐ激闘を果たし、力と技だけで辿り着いた戦の申し子! あどけない少女と侮るなかれ! その能力は、名前通りの「戦神狂ベルセルク」! 乙女のようでいて実は狂犬だ! それでは彼女からも一言いただきましょう!』

 

「ど、どうしようどうしよう……!? 負けたら悠里とデート! 勝ったら悠理に御飯をおごってもらう! 今更考えたらどっちみちデートコースだよぉ~!? どうしてこんなことになっちゃんたんだよ~~っ!? どうせ僕なんかにお誘いないと思ってたから余所行きの服用意してないよぅ~~!? や、やっぱりおしゃれした方がいいのかなっ!? でもそんなに意識しなくてもいいのかな……っ!? うわ~~んっ! どうしたら良いのか解らないよぉ~~~! 皆と話し合ったはずなのに何故こんなことにぃ~~~~っ!!?」

 

『失敬! やっぱり乙女だったこの狂犬! 女の子には戦いよりもやっぱり恋愛だよねっ☆ 彼女の行く末を生暖かく見舞ることにしましょう!』

 

 最後に映し出されたのは紫の長い髪を、高い位置で纏めた綺麗な顔立ちの少年が映し出される。その顔立ちに切れ長の瞳は、服装さえ気を遣えばクールビューティー系の女性にも見える。

 

『Dクラス筆頭! 小金井(こがねい) 正純(まさずみ)! 刻印名≪星霊の魔術師≫! トリッキーな戦術が多く飛び交うDクラスにおいて僅差の勝利を収めた猛者! 彼の能力「黄道十二宮招来」から繰り出される星霊魔術は、あらゆる局面に臨機応変に対応できてしまいます! その巧みな戦術は、他クラスを圧倒するに至るのでしょうかっ!? それではトリに、ナイスな一言をいただきましょう!』

 

「俺は、俺に先を託してくれたクラスメイト(仲間)のために、必ず勝利して見せる!」

 

『……はい。正直ここまで来たら最後までボケてほしいところでした。空気を読み切れないDクラス筆頭です』

 

「せめて最後だけはと思ってまじめにやったのに、なんだよこの仕打ちっ!?」

 

『以上、四名! 各クラスの代表選手にして、今回の決勝トーナメント一番乗りの選手となります!』

 

 挫折する少女、ふんぞり返る少年。

 苦悩する乙女、なぜか不憫な扱いを受ける男。

 決勝トーナメント参加者とは思えない空気の中、司会は観客のために大会の説明に入る。

 

『それでは、決勝トーナメントのルール説明をさせていただきます。今大会は四名によるトーナメント方式の戦闘をランダムに選ばれたフィールドで行ってもらいます。勝利条件は二つ。相手に敗北宣言(リザイン)させるか、相手を倒してしまえば勝利です。なお、“倒す”の明確化についてですが、こちらは意識不明状態が一分以上経過した場合か、運営による蘇生不可能領域に迫るダメージを受けた場合を含む、戦闘続行不可能と見做された場合、敗北したと判断されます』

 

 司会の説明中、スクリーンにトーナメント表が表示され、対戦相手がランダムに決定されていく。

 

 第一試合 八束菫VS小金井正純

 

 第二試合 廿楽弥生VSジーク東郷

 

『ちょうど対戦相手が決定しました! 一日目、第一試合の選手以外は、退場願います』

 

 司会の言葉に、頭を抱えていた弥生とジークはゆっくりとした動作で退場し、そのまま観客席へと向かう。

 それを見送ってから、司会は続きの説明を始める。

 

『そして、バトルフィールドはこちらで厳選された数種類の中からランダムに設定されます。ランダムで設定されたフィールドの中には≪崩壊する浮遊島≫≪水没していく豪華客船≫など、ある種の時間制限が存在する特別なものもございます。設定されたフィールドは時に選手を助け、時に牙をむくことでしょう! 環境をどれだけ味方につけるかも、また戦術の一環となるでしょう!』

 

 フィールド設定の間、正純と菫は思考する。事前にルールを説明されていた二人は、あらゆる戦闘フィールドで、予想される戦闘状況を模索していた。特にこういったことに得意なメンバーが集まるDクラスの正純は、他のクラスメイトの助けもあり、あらゆる戦況を予測することができた。思い出すのは前日の夜、エキシビジョンマッチ後の最後の会議に参加してくれたリヴィナ・シエル・カーテシーのセリフ。

 

 

「まず、正純さんの天敵となるのはAクラスの八束菫さんだと思いますー!」

「八束? 確かにAクラスの筆頭だし、強いのはその通りだろうけど……。天敵と言うほどのことなのか? 俺はてっきり廿楽あたりがそういわれると思ってたけど?」

「確かに廿楽弥生さんは正純さんにとって難敵ですよ? たぶん―――いえ、確実に、彼女と接近戦で勝てる人なんて、それこそ同じCクラスの桜庭健一さんか、もしくはジーク東郷さんくらいでしょう。正純さんなんてほぼ即死級です。サーチ・アンド・ダイ」

「やっぱ廿楽が天敵じゃないかっ⁉」

「逆を返せば、接近さえさせなければ勝機はあります。どうも彼女、飛び道具の類は持っていないようなんです。接近させずに倒しきれば正純さんの勝ち。失敗して近づかれれば弥生さんの勝ち。勝負は互いの得意とする距離を死守できるかにかかっているんです」

「な、なるほど……。それなら確かに天敵と言うほどではないが、難敵ではあるな」

「さらに言うと、ジークさんに対しては攻略法自体は既に確立しているんです」

「え? マジでっ!?」

「同じタイプの権能を持った方がCクラスにいまして、その方が窒息させられて負けたという情報が入っているんです。ですからジークさん相手にも、肉体的な損傷を求めず、行動不能にする手段を用いれば、倒すことはできると判断できます。幸い彼も飛び道具の類はありませんし、むしろ弥生さんよりは相性のいい相手だと思いますよ? ヒヒッ!」

「う~~ん、確かに、考えてみると行けそうな手段はいくつも思いつく。フィールドがかなり突飛な物でも対処できそうな気がする」

「ですが、問題は菫さんです。彼女の剣を自在に操る能力は、とてもシンプルで、そしてシンプル故に強力だと言えます」

「どういうことだ?」

「もうすでに知っていると思いますけど、生徒が一人あたりに与えられる能力の絶対値は決められています。例えば、能力一つの絶対値を10と考えたとき、それらの能力で使用できる技能(スキル)は、その絶対値から割り振りされることになります。そして一つの技能(スキル)に割り振った値が5だとしても、その全てを戦闘で使い切れるわけじゃないんです。正純さんの能力に当てはめると、正純さんの能力『黄道十二宮招来』

は10、そこから技能(スキル)『星霊魔術』に10全てを注ぎ込んだとします。けれど、正純さんの『星霊魔術』は12星座の力をそれぞれ使うと言う物です。つまり、単純計算、割り振られた数字が12分割されてしまうんです。対して菫さんの能力は剣を操るだけというシンプルなもので、10の値全てを十全に発揮できるんですよ。もちろん、実際にはそんな単純な話ではないですけど、ほぼほぼ力の差は参考にできるものだと思います」

「つまり、能力のレベル的に俺の方が不利と、リヴィナはそう推察してるのか?」

「いいえ、これは理由の一つに過ぎません。私が天敵と言っているのは能力の相性です」

「相性? 別にそんなに悪くないと思うけど……?」

「先ほどの弥生さんの例を思い出してください。確かに菫さんは弥生さんほど圧倒的な接近戦特化ではないですが、充分接近戦が可能な能力者です。加えて遠距離戦もできる。解りますか? 菫さんは正純さんに対して、ほぼ完璧に対応できるスタイルであり、ほぼ確実に正純さんより強いんです。もちろん、実際に戦えば一方的な展開になったりはしないでしょうけど、それでも結果的には敗北濃厚でしょう!」

「……ちょっとわかりにくい気もするが、何となく分かったよ。つまり、現状の俺では、相手に上回っている要素が一つもないってことだな?」

「はい。ですが、これは能力のみで戦っている場合に限ってのことです」

 

 

 八束菫は思い出す。エキシビジョンマッチ以前、寝る前の雑談として、何とはなしに東雲カグヤに尋ねてみたのだ。自分が正純に圧倒的に敗北するとしたらそれはどんな状況かと?

「フィールドを絶対的に利用された場合だろうな? あんまりみんな気にしてないけど、能力者の戦闘において、領域を支配できるものは圧倒的に有利になるらしいんだ。大体能力なんて圧倒的な力を持ってるんだ。神の力まで使えちゃう奴が、怪力だの光線だの飛ばせるようになったところで、そんなの“人間”の戦い方だ。圧倒的に勝ちたいならいっそ足場を完全に掌握しちまえばいいんだよ。大地の力を自由に操るとか言ってな? だからそうだな~~、菫で言うなら例えば……」

 

「「水辺のある場所なら、間違いなく小金井正純が有利だ」」

 

 

 フィールド決定のルーレットが緩やかになるのを眺めながら、正純は思う。

(例え運が良かっただけの最強でも、負けて良いなんて思えるはずがない)

 対する菫も、真剣な面持ちでスクリーンを睨みつける。ここまでの間、クラスメイトの大半から考察や訓練に付き合ってもらい、限りない恩恵をもらい続けた。

(こんなに、皆が協力的なの……、ちょっとプレッシャー……。なのに、なんでか心地良い……)

 いつも通りの無表情の中、僅かに口元だけを微笑ませ、水のないフィールドが出てくれることを願う。

(勝利の鍵は、フィールドに水があるか無いか……!)

 正純が祈る様に思考した次の瞬間、ルーレットは停止し、一つの平原がスクリーンに映し出され、視界がそれを説明し始める。

 

『対戦フィールドが決定しました! フィールドは平原! なだらかな斜面はあれど、高低差はなく、障害物と言えば周囲に映えた木々だけですが森と言うほど鬱蒼ともしておりません! 戦闘フィールドと言うこともあり、鳥や動物、“魚”や虫などは存在せず、自然としては不自然な緑の地ではありますが、とても豊かと表現できる土地でしょう』

 

(“魚”? 川か池か……! どっちにしても水辺があるなら可能性が上がった!)

(……。大丈夫、かな……? 星琉あたりの予想、では……、水辺の大きさ次第では、私、でも、埋められるって……言ってた……。平原が、舞台なら……、どのみち有利……)

 わずかな光明に笑む正純。思案顔になりつつも自分の有利性を確認する菫。

 しかし二人の予想は、次の瞬間に同時に裏切られた。

 

『なお、今回はこの広大な平原をエリアで区切り、またもやランダムで決定した場所が、戦闘開始エリアとなります。ランダム設定は同時に行われていますので、対戦者お二人が最初に降り立つエリアはこちらだ!』

 

 表示されたエリアは、25等分された平原エリアでも三分の一近くを占領する、とあるエリアだった。

「うわぁ……、湖のど真ん中だ……」

 思わずガッツポーズをとる正純の隣で、完全に目が死んでしまい、影を背景に作り出している菫だった。

 いったい誰だ? バトルフィールド一つ決めるのに、こんなややこしい仕組みをいくつも注ぎ込む事にした奴は? っと言いたげなげんなり顔で(っと言ってもはたから見れば無表情なのだが)菫は溜息交じりにクラスメイトの助言を思い出す。

 もしも、バトルフィールドが海の上とかだったらどうするかと言う話をした時、いくつかな戦略を推察したのだが、結局のところ、Aクラス全員が最後の一言に結論を見出した。

 

「「「「「「「「「「まあ、あとは好きにやればいいんじゃね?」」」」」」」」」」

 

「そうしよう……」

 一言で気持ちを切り替えた菫は表情を改め(傍からは終始変わってるようには見えないのだが)菫はフィールドへの転移を待つ。

 正純、菫は互いに白い光の粒子に包まれ、アリーナ会場からバトルフィールドへと転移していく。

 

 3

 

 二人が降り立ったのはまさに湖の上だ。一面見渡せど、陸地は遠く、彼らの持てる力でどんなに強化しても、すぐに陸地に辿り着くことは難しそうだ。

 幸い、いきなり水上に叩きつけられるということはなく、僅かな足場の上に着地した。

 菫は軽く足踏みをしてみる。それだけで振動が湖面に伝わり、小さな波紋を作る。どうやら足場そのものも土が盛り上がっているだけで、頑丈ではなさそうだ。軽い『強化再現』を加えた一踏みだけで、簡単に崩れてしまいそうなほど不安定だ。おそらく正面に着地した正純の足場も似たようなものなのだろうと、澄んだ水の底が見えないことを確認して中りをつける。

 二人は視界をぐるりと見渡す。障害物らしい障害物はなく、水深もかなりある。『見鬼(けんき)』を使用して水底を探ってみたが、どうやらここは一番深いところでもあるようだ。

(やっぱり……、最悪のケース……。海の上よりましに見えるけど、岸辺を目指す余裕はなさそう、だし……、これ、は……、陽頼(ひより)の案に、乗る、べきかな……?)

 菫は思い出す。クラスメイトの緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)は、予選でこそ連戦連敗であったが、腐ってもAクラス。彼女もしっかり知識面、戦術について意見をしっかり出していた。

『水辺で戦うことになれば、こちらが圧倒的不利です! だったらシンプル・イ()・ベスト! 単純明快な一手で決めちゃえばいいんですよ!』

『緋頼、“シンプル・イ()・ベスト”だ』←(天笠(あまがさ)(つむぎ)

 

『両者、配置につきました! それでは皆様お待たせいたしました! いよいよ決勝トーナメント第一試合……―――っ!!』

 

 上空にイマジンスクリーンによるカウントダウンが開始される中、正純は桐島美冬の忠告を思い出し―――、構える。

『もし、フィールドが有利なモノになったとしたら、絶対に譲ってはいけないタイミングがあります。そこだけは何としても死守しなければなりません。それは―――』

 菫が剣を抜き、大上段に構える。

 正純は力を行使し、瞳を金色に輝かせる。

 カウントが0になり、二人の脳裏に同時に忠告が思い出される。

「「地形判定無視の、開幕一撃に勝負をかけるっ!!」」

 

『試合開始ーーーーーーッッ!!』

 

「フルアクセルバレットーーーーッ!!」

 剣を振り下ろす菫。それに合わせ『繰糸(マリオネット)』の能力で剣を射出する

剣弾操作(ソードバレット)』を、制御不可能領域まで引き上げた速度で打ち出す。彼我の距離は10メートルと満たない。その間に打ち出された刃は、開始の合図に鳴り響くブザーが鳴りやむより早く水を割り、あっと言う間に10メートルを超す水柱を上げて吹き飛ばす。

 まるでレーザー光線を放たれたかのような爆発に観客達が一斉に湧く中、菫は爆心地を注意深く観察する。

 ―――が、すぐにそれは驚愕の瞳に色を変える。

 立ち昇った水柱が落ち、水煙が広がる中、その存在はあった。

 雲のように白く、鋼の仮面のような顔を持つ壁の獣。小金井正純の『黄道十二宮招来』の一つ、『星霊魔術』により呼び出された『牡羊』は、楯のような壁のような異様な獣の姿をして顕現していた。

「『黄道十二宮招来』『牡羊』、物理的攻撃に対する絶対的な防御。それがこいつの力だ」

 水煙と白い獣の影から、金色の瞳を輝かせる正純。更に片手を軽く振るい、次のモーションに入る。

「そして、先手を制した。これで、俺は安心して舞台が整えられる」

 翳した手から『♒』の形をした紋章が浮き上がり、周囲の水が正純の意思に従うように動く。それは周囲に広がり、湖の中にいるもの全てを包み込むように、ドーム状に広がっていく。それはまるで逆側に突き進む津波のようだ。

「お前の能力は剣を自在に操る能力だろ? でもそれって、水中でも制限なく使用できるのか?」

 途端、大小様々な津波が引き起こされ、それらが一斉に菫を襲った。

「うわ……、やっちゃいけない最悪パターン……」

 この瞬間、小金井正純は勝率が上がったことを確信した。

 

 4

 

「え、あああああぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 幾重にも襲い来る津波が次々と両断されていく。

 壁となり、攻撃ともなる津波は、しかし、易々と切り伏せられ、ただの水となって落下していく。

 浅瀬にいるのか、足首ほどを水の中につけて立っている正純は、引き攣った表情でそれを見ていた。八束菫が八本の剣を自分の周囲に旋回するように操り、津波を切り伏せる。その姿はまさに円舞。宙を舞い、剣と踊る剣群操姫(ソード・ダンサー)の姿だった。

 正純とカルラの作戦はこうだった。操作系のイマジンであっても、操作されている物を弾き返すことができるのなら、それは負荷をかければ操ることが困難になるという事。ならば、水の中に落とし、水中戦を強制すれば、剣を自在に操ることは難しくなり、『魚座』の力で自由自在に水中を動き回れる正純の方が有利に立ち回れると言う物だ。

 しかし、ここで一つ誤算があった。それは、八束菫もまた、こうなる可能性を考慮し、対策を立てていた。そう、“空中戦”と言う、対抗手段を!

 宙に操る剣を踏み台にして、菫は三次元の空間を縦横無尽に舞い踊る。幾重にも畳みかける大小さまざまな津波は、菫の操る剣に叩き伏せられ、水鉄砲の様に発射される水流も、まるで蝶のような優雅さでヒラリッと躱してしまう。

「く……っ! これなら……っ!」

 正純は水を操作し、自分の正面に特大の津波を作り出して一気に呑み込もうとする。簡単には切り伏せることのできないほどビックウェーブ。およそ正純が作り出せる最大質量。天高く聳え立つ水の巨壁は、まるで巨人の腕の如く、菫に迫る。

 菫は剣を三本重ねて足場にして、その上に立ち、しっかりと構え、派生能力『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』を発動する。

「『糸巻き(カスタマイズ)』、2重から8重へ……」

 自身の体に糸を巻き付けるようなイメージで、薄く強化を施す能力だが、それは一重ねするだけでも『強化再現』を凌ぐ力を得られる。それは、力任せに剣を振り下ろしたくらいでは、到底切り伏せることなど叶うはずもない大津波を、一刀両断に叩き割るほどの力を見せる。

「嘘だろ……?」

 モーゼの様に割れた津波を前に、さすがの正純も呆然としてしまう。

「なんで、力技で津波を切ったりできるんだよ……? マンガじゃないんだから、普通無理じゃねえか……?」

 口の端が引き攣りながら呟く。その間に、空中に配置した剣を足場に跳んできた菫が、こちらに狙いを定めて突貫してくる。

「剣よ、仇なす者を捉えよ……!」

 『繰糸(マリオネット)』による『剣の繰り手(ダンスマカブル)』を発動する菫。命じられた剣が三本、それぞれ別の軌道で正純へと迫る。一本は切っ先を正純に向けたままジグザクに移動し、一本は手裏剣のように回転しながら弧を描き、一本は軌道を螺旋状に描きながら迫り、相手に狙いを読ませない不規則な動きを見せている。

 『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で放たれた菫の剣は、正純の動体視力でも見失わない程度の速力だったが、迫ってくる剣の軌道が全てバラバラであるため、目がその動きに付いていけず、どうしても見失ってしまう。目が良ければ良いほど、一つの動きを追ってしまい、別の全く違う動きを見た時に、脳が追いつけなくなってしまうのだ。

 同じように正純も動きに翻弄され、確実に安全と思われる範囲へと逃げるため、大きく距離をとるしかなくなってしまう。三本の剣が命中し、グレネードでも着弾したのではないかと言う水柱が盛大に上がる。

 大きく飛び退いた正純を空中から捉えていた菫は、彼が『魚座』を発動させ、素早く水中移動される前に、五本の剣を『剣弾操作(ソードバレット)』によって撃ち出し、攻め込んでいく。

 確実に当たるかに見えたその攻撃は、しかし、水面をスケートで滑る様な動きに躱されてしまう。よく見れば、正純の足は足首まで水の中に浸かっていて、その両足に『♓』の印が浮き上がっている。

「『(魚座)』の印……。最初から発動してたんだ……」

「出し惜しみして勝てる相手じゃないことくらい、予選で既に想像できていたさ!」

(でも、これでペナルティー無しの上限一杯、使っちゃった、でしょ……?)

 菫は既に正純の『黄道十二宮招来』で、四つ以上の星座を発動するとペナルティーが発生することを知っていた。予選中の試合内容が学園側が録画していて、そのデータを学生がポイントを消費することで購入が可能となっていた。菫は直接買っていないが、ポイントに余裕のあるAクラスのメンバーが、わざわざ菫のために購入し、見せてくれたのだ。おまけに自分なりの意見付きだ。故に、菫は正純の使用済みの能力は全て把握しているし、そうでない能力にもある程度予測できるようになっている。

 剣の足場を作り、宙を蹴る。接近戦に持ち込みつつ、津波に呑み込まれないように注意しつつ、反撃にも注意を払い、自分の周囲にも剣を旋回させる。

 正純は時々飛ばされる剣を『魚座』で回避しつつ津波で反撃を試みる。本当はもっと複雑に水を操りたいところだが、現状、正純に『水瓶座』でそこまで自在に操るスペックはない。残念ながら決勝トーナメントまでの三日間の間では、そこまで複雑な操作を会得するまでには至れなかった。なので、極端に津波となる攻撃が最も有効。精々水鉄砲くらいは放てるが、それもあまり有効な手段とは言い難い。結果的に正純は空中を飛び回る菫相手に、当たりにくい津波を小刻みに連発しつつ、魚座を使って水面を高速移動するしかできない。

 対する菫も、優勢に見えて実は攻めあぐねていた。

 津波は大小様々だが、斬撃で打ち破るにはそれなりの威力で当てなければならない。下手な威力で剣を放つと、その剣は津波に呑まれて菫の守りと攻撃が一気に薄くなってしまう。そもそも菫の空中行動は、『繰糸(マリオネット)』による『剣の繰り手(ダンスマカブル)』の応用であり、少しでも気を抜くと、足場にしている剣の反発力が足りず、一緒に落ちてしまう。菫が宙に配置した剣を足場にできるのは、剣に乗った菫の体重と反発するように、逆側に押し上げる力を働かせているからだ。そのため菫は正純に対しても自分の能力に対してもずっと神経を張り巡らせ続ける必要がある。実戦仕込みで特訓したとはいえ、さすがに三日間の付け焼刃では、どこでぼろが出てもおかしくない。そのため、菫も下手な攻勢に出ることができず、どうしても慎重にならざるを得ないのである。

 結果二人は互いに攻めあぐね、互いに膠着状態が続くことになってしまっていた。

 

 

「あらら……、これは完全に膠着状態ですね……」

「おやおや、これはちょっと長引きそうですねぇ~?」

 観客席で観戦していたBクラス、カルラ・タケナカと、Cクラス、クラウドは苦笑いと人の悪そうな笑みで同じ意見を口にする。

「うん、これはもう、どう転ぶかわかんないね。もはやこれは持久戦になるだろうね。……もしかして僕の不運が感染(うつ)ったかな?」

「え~? これって何か打開策とかないのかなぁ~?」

 身長160cm小柄なFクラスの少年、ジェラルド・ファンブラーは、なぜかボロボロの状態で、体中に異様な気配を放つお札がくっついている自分の姿を眺めながらぼやき、ピンクの髪が光の加減で七色に輝くEクラスの少女、七色(ナナシキ)異音(コトネ)は、誰にとなく質問を投げかける。

 この時、彼女の隣で、Eクラスの(かなで)ノノカが、他よりも距離が近い異音にたいして少し戸惑っていたりする。それが自分の意識のし過ぎなのか、仲のいい友人としての距離としては当然なのか、むしろ自分には実はそういう気があったのだろうかと、顔だけ赤面させながら、一人悶々と考えていたりする。なお、異音は全く気付いていない。

 カルラは異音の質問に対して「ふむ……っ」とわずかに考える素振りを見せた後、一つの方法を思いつく。

「今の正純さんなら、使用できるはずの方法が一つあります。果たしてそれに思い至るかどうかで、一気に形勢が傾くはずです」

「え? なにそれ? いったいどういう方法なの?」

 疑問をカルラに投げかけつつ、なぜかノノカの方に身体を傾ける異音。そのことに更に顔を赤くするノノカ。

 気付かず、真剣な表情でカルラは言う。

「元々正純さんが水のあるフィールドを求めた理由はフィールドを支配し、相手の自由を奪うことが目的でした。だったら、菫さんをその位置に落とせばいいんです。そうすれば確実に正純さんは有利になれます」

「ふむふむ~? つまり、まさ(、、)ちゃんがそれに思い至るのが先か、すみれん(、、、、)が先に拮抗を崩すのが先か、って勝負なのね?」

 いつの間にか特に親しいわけでもない二人に綽名をつけている異音は、得心したように表情を改めるが、なぜかノノカとの距離をさらに縮め、もはや片腕を抱きしめてしまっている。おまけに顔がノノカの耳元まで近づいているので、息遣いが耳をくすぐり、とても平常心を揺さぶられてしまっているのだが、ここまでくると正常な思考ができず、完全に動揺した表情で固まってしまっている。

(……誰からもツッコミが来ない)

 などと実は内心涙を流している異音であったが、誰にもその声は届くことはなかった。なので、仕方なくどんどんノノカにくっ付いて行っているのだが、膝の上に乗ったあたりでノノカの方は静かに気を失ってしまっていた。

 

 

 そしてこちら、黒野(くろの)詠子(えいこ)、オジマンディアス2世、プリメーラ・ブリュンスタッド、サルナ・コンチェルトがスタジアムの照明付近に陣取った、シオン・アーティアを除くカリスマチーム。こちらも詠子が「シオンだけどこ行った?」と言う疑問を浮かべていたが、ほぼカルラと同じ意見に辿り着いていた。ただし、最後の締めくくりだけが違う。

「確かに、この状況はほぼ膠着。一見、八束菫か小金井正純のどちらかが状況を覆すか……、に、思えるが……」

 っと、オジマンディアス呟くと、それに続くようにプリメーラが嘲笑するように締めくくる。

「イマジネーターの戦いにおいて、“膠着”こそ長く続くはずがない!」

 

 

 プリメーラの言う通り、この膠着は五分と続かなかった。

 先手を取ったのは菫だった。彼女は長引くと自分の方が不利であると悟り、一度空高く舞い上がると、そこから急降下と共に全ての剣を攻撃に転じさせる。『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で前後左右上方から一斉に、別々の動きで攻撃を仕掛ける剣の襲撃をかける。まるで目に見えない剣士が八人がかりで正純に襲い掛かってるかのように、全ての剣が独立した動きで攻撃を仕掛けてくる。

 菫の『剣の繰り手(ダンスマカブル)』は、決して自由自在に剣を操る物ではなく、前以って設定しておいた動きを、自動再生しているだけなので、設定している動きを相手に憶えられてしまうと、ただのテレホンパンチになってしまう。なので、菫は一度に三つ以上を同時に再生し、相手に動きを憶えさせないようにしたり、途中まで同じ動きだが、途中から違う動きになるパターンを複数持ち合わせるか、いずれかにしている。だが、それでも勘の良い相手や、Bクラス並み相手なら、時間をかけた分だけ憶えられてしまう。そのため現状、菫の実力では、短期決戦スタイルがどうしても求められてしまうのだ。

 正純は既にいくつかのパターンを見抜いていた。だが、さすがに八パターンの軌跡を描く剣を同時に全て回避するのは不可能に近かった。

「くっそ……っ! 『牡羊』!」

 仕方なく、『牡羊』の楯を展開し、八本中、五本の剣を全て弾き返す。

 だが三本の剣が楯の隙間を縫うように旋回してくる。さすがに、これらはかなり至近にまで迫っているので楯で弾くのは難しい。慌てつつも『魚座』で回避しようと試みるが、完全に躱しきれず、僅かに体に刃が掠めていく。

 そうして態勢が悪くなり、しかも楯を展開したことで視界まで塞いでしまい、菫の姿を一時的に見失ってしまう。その隙を突いた菫が正純の死角に入り込み、直接斬りかかってきた。

「しま……っ!?」

 慌てて両腕をクロスさせ、『強化再現』を全力で“耐久”に回し、重く鋭い一撃を受け止める。分厚く強靭なゴムの様になった腕は、僅かに皮膚を切り付けられたものの、重傷だけは避ける事が叶った。

(一瞬、服の方に『強化再現』をしようかと思ったが、もしそうしてたら、斬撃は完全に防げても、圧力で腕が骨ごともげてたな……っ!)

 殺傷だけでなく、軽い打撲のような痛みを感じながら、正純は『牡羊』を菫の背後に向かって広範囲に展開する。

(……? 先に逃げ道を塞い、だ? 接近戦は私の方、が……有利ですよ?)

 訝しく思い、そのことを頭に置きつつ、好機であることを見逃すことはできず、菫は剣激を更に放つ。今度は足場になる剣が一時的に周囲に散ってしまっているため、自分の手に持っている剣のベクトルを利用して無理矢理浮き上がっている。そのため、菫の剣激は剣士の剣術と言うより、剣に振り回される形になっているのだが、この戦法を使い慣れている菫は、巧みに重心を操り剣の動きと連動するので、まさに剣と共に踊る剣舞となっていた。

 正純も正純で、水上では水を蹴って跳び退くというわけにはいかないので、足首の微妙な動きで『魚座』を操り、立ち泳ぎするイルカの様に菫の剣を躱していく。

 菫の剣舞は、剣自体に推進力を与え、それを巧みな重心移動で連撃につなげるものだ。その動きは地面に足が面する必要性がなく、また、空中の高い位置を陣取るため、放たれる剣はまさに縦横無尽。菫の体も上下左右を無視してコロコロ変わるため、剣士の目からしても、次激(じげき)を予想することが難しい。そのため正純も回避が下がるの一択以外、選ぶことが難しい。

「阻めっ!」

 『♒』の刻印を展開し津波を乱発するが、菫が近すぎるため殆どが無意味に周囲を覆うばかりで菫の進行を阻むことができない。唯一効果があるとしたら、周囲一帯を水柱が上がり続けるので、視界がほとんど水で阻まれるのと、菫の『繰糸(マリオネット)』を広い範囲で展開できず、常に菫の背後で追うようにしている『牡羊』加わり、動きで翻弄することができず、どうしても単調な突進しか命じられない。

(やっぱりおかしい……。こんな無駄な攻撃、を……、ここまで勝ち抜いてきた相手がするわけない……っ!)

 好機ではあったが、疑問の方が強くなった菫は、チャンスを捨ててでも、この場を仕切り直すことを選択した。一度飛び退き、距離を離そうとする。―――が、まるでそれを阻むように『牡羊』と津波が道を阻む。

「……っ!」

(やっぱ、り……! 何か狙われてる……っ!)

 危機を感じ取った菫は『糸巻き(カスタマイズ)』を施した一撃を『牡羊』に見舞い、無理矢理作った隙間に入り込み、更に道を阻もうとした津波を切り伏せていく。

(上空へ……っ!)

 咄嗟に距離を取る方向を上空に選んだのは『直感加速』が発動した故だった。だが、そこには、津波を利用して周り込んでいた正純の姿があった。

「想像以上に早く気付かれたな……! 効果は薄いがこのタイミングでやらせてもらうぞっ!」

 正純が叫ぶと同時に『♒』の紋章がまたもや浮き出る。

 同時に菫は気付いた。自分のいる位置が、最初の湖面の位置より低く(、、)なっている。どうやら気付かれないように水位を下げられていたようだ。その意味するところは―――。

「っ! 『剣弾操作(バレット)』……っ!」

 急ぎ、菫は手に持っている剣を『剣弾操作(ソードバレット)』で別方向に射出し、無理矢理方向転換する。それを連続で行いジグザクに移動することで狙いを付けさせないようにしようとする。

 ―――が、正純もここに来てそれをさせるつもりはない。『水瓶座』と『魚座』のコンビネーションで巧みに動き回り、菫の速度に追いすがる。更に距離が詰まったところで『牡羊座』の楯を広範囲に展開し、菫の行動範囲を一気に狭める。

 面による圧迫で空を封じられ、側面は津波で塞がれ、もはや逃げ道は正面突破しかないと素早く判断し、『糸巻き(カスタマイズ)』と『剣弾操作(ソードバレット)』を纏めて一撃に込めて叩きつける。

 鉄と鉄がぶつかる鈍い音が、まるで銅鑼でも鳴らしたかのように鳴り響く。

 一瞬の拮抗すら待たず、簡単に押しのけられてしまった『牡羊』は「ビメェェ~~~ッ!?」っと言う悲鳴を上げて空高く浮き飛ばされる。

 

 刹那、菫の足が捕まれる。

 

「っ!?」

「楯はお前を押し止めるためじゃない! 視覚を封じて回り込むチャンスを作るためだったんだよっ!」

 菫の体を引っ張り、無理矢理津波の中に引っ張り込むと、そのまま滝の如く落下していく。水流の重みと掴みかかった正純の体重に押され、急激に高度を下げられる中、菫はとっさの判断で『糸巻き(カスタマイズ)』+『強化再現』による頭突きを、正純の額にぶち当てる。

「ぐえ……っ!?」

 思いがけない反撃を受け、取っ組み合いに持っていこうとしていた正純は敢え無く引き剥がされてしまう。

 剣を一閃、剣圧で水流を薙ぎ払い、何とか宙に逃げ出し、『繰糸(マリオネット)』の応用で再び浮き上がる。だが、そこで気づく。自分の視界下方、ほんの五メートル下が()になっている事に……。

 自然、周囲に視線が向かう。周囲一帯は(さかのぼ)る津波に囲まれている。その高さはかなり高く、ビルの高さに匹敵するのではないかと思ってしまう。これほど大きな津波を作るには、さすがの正純でも時間がかかるはずだ。そうでなければ、とっくの昔にこの規模の津波をぶつけられ、なす術もなかった。つまり……、

「水を押し上げたんじゃなくて…、水を割って、内側に落とした……!」

 (とつ)状に水を押し上げるのは力がいる。だが、(おう)状に水を割るのなら、それほど力を必要とはしない。それを利用して凹み部分に敵を落とせば、力を抜いただけで相手は水の中に閉じ込められるというわけだ。

「これで…っ! チェックだっ!」

 ご丁寧に津波で天井に蓋をしてから、正純は全ての激流を菫に向けて叩きつける。

 菫は八本の剣を周囲に展開し、超高速回転させ、防御態勢をとるが、大質量の津波相手には気休めにしかならない。せめて水圧だけでも抑えられないかと思ったが、あまりの激流に耐え切れず、あっさり飲まれてしまった。

(『呼吸再現(フィルター)』……っ!)

 激流に浮いた体をもみくちゃにされながら、菫は『呼吸再現(フィルター)』で水中でも呼吸ができるように努める。だが、いくらイマジン技術的に可能な物でも、さすがに一年生の菫では、水中で地上と変わりなく呼吸することは不可能だった。呼吸しようにも、まるで顔をにクッションで押さえつけられているかのように息苦しく、上手く空気を吸うことができない。おまけに激流が操作され続けているようで、常に体をもみくちゃにされ、態勢を整えることすら難しい。

(お、溺れる……っ!)

 強い激流にあてられ、目を開けていることも辛い。水流でぼやける視界では、周囲の状況を確認するのも困難だ。だから菫は『魚座』で急接近してきた正純の姿に気づけなかった。

 急接近した正純の拳が菫の頬を殴りつける。衝撃に脳が揺さぶられ、いったい何が起こったのかと一瞬混乱をきたす。その混乱が止む暇もなく、正純は縦横無尽に水中を駆け巡り、前後左右上下三次元から次々と攻撃を仕掛けていく。奇しくも先ほどとは立場が逆になる。違いがあるとすれば、菫は水流に流され、剣を操作しようにも強い抵抗を受け、上手く操れず、体の方もまともに動かせず、呼吸すら危険な状況。圧倒的不利にあった。

 そう、この状況こそが、菫が最も回避したく、正純が目的とした風景。小金井正純の必勝スタイルが完成していた。

(これは……っ! どうにも、なんないなぁ~……っ!)

 対抗策を練ろうにも、何一つさせてもらえない状況に、菫は歯噛みすることしかできない。

 

 

 観客席、カルラ・タケナカ、クラウド、ジェラルド・ファンブラー、七色(ナナシキ)異音(コトネ)(かなで)ノノカの五人は、ハラハラしつつも興奮気味に観戦していた。

「正純さんが落としました! これで菫さんは対処しようにも体が動かせません!」

「おおぉ~~っ♪ 見て見てすっごいよぉっ! ノノカノノカ~~!」

 自分とは全く関係ないはずなのに、思わず拳を握ってしまうカルラに、興奮してノノカを胸に抱きしめて窒息させる異音。

「いやはや、これではシャチに弄ばれる獲物のようですねぇ~~?」

「今度は菫さんが不運に……。うう~ん……、脱出方法をいくら考えても、どうにかできそうな案が思い浮かばないなぁ~……」

 可笑しそうに笑いながら観戦するクラウドに、苦笑い気味に観戦するジェラルド・ファンブラー。

 ここに来て、彼らが考えるのは状況の逆転だ。戦況をひっくり返すのはイマジネーターにとって当たり前。それを予想できなければ不利になるのは自分達の方だ。観戦する側にあってもなお、彼らはイマジネーターとして思考を巡らせ、戦い、培っていた。だが、それでも、彼らが知りえる限りの方法では、状況の逆転は難しいと感じた。

(私なら……、いえ、事この状況になってしまえばもはや完全に詰み……。あるとすれば、火力に任せて水を割ってしまうことですが、湖を両断できてしまうような力誰もが持っているわけでは―――)

 カルラは思考中、入学試験の出来事を思い出し、少し遠い目になる。

(まあ、あれくらいの火力があれば、できないこともないですかね……? 実際は打つ前にやられちゃいそうですが……)

 とある車いすに乗った兵器製造少女のことを思い出しながら、それでもやはり不可能だと断じる。他にも、火力を打てそうな人物(あくまでカルラの知る限りの生徒)を思い浮かべてみるが、誰であってもこの状況に追い込まれた時点で敗北必須に思えた。

(いや、でも廿楽弥生さんなら水中戦闘を『ベルセルク』で会得してしまいそうですね。ジークさんは……、あれ? 彼でもこの状況はさすがにまずいのでは? さすがの彼の権能も、窒息には対抗できませんよね? おや……?)

 考えれば考えるほど、この状況はあまりにも理不尽な気がしてきた。水中戦と言うのは、小金井正純が八束菫に勝つ方法として考えた上で思いついた方法であったが、いざ状況を目の当たりにして追加で思考してみれば、これほど理不尽な状況はない。カルラの知る限り、このような状況に陥って、逆転できる存在は、そうそういないように思えた。

 余談だが、カルラは残念ながら情報不足で知らなかったが、黒野詠子や桐島美冬のような、水を自在に操ったり大海ごと凍り付かせてしまうようなウィザードタイプなら、この状況でも簡単にひっくり返せたりする。

「思いつく方法としましては、呪術なので直接正純君の状態に異常を与えることが得策でしょうか? これは直接攻撃タイプにはどうしようもありませんね?」

 クラウドは状況を観察しながら、やはり、菫の敗北を濃厚と考える。カルラも口を出さない中、異音とノノカも同意見と言った感じに神妙な顔立ちになる。

 対して、ジェラルドだけは少しだけ違う意見を持っていた。

(本当にそうかなぁ? これくらいなら僕の不運で良くありそうだし、能力化した今なら、これ以上だって起こせるしなぁ~~……)

 ジェラルド・ファンブラーの能力『凶星の加護』は、元々ジェラルドが有している、ありえないほどの不運がもとになって発現している。それは能力抜きの状態でも相当な不運に見舞われていたらしいのだが、それは能力化した時点でとてつもなく危険視されるものとなった。

 Fクラスに配備される生徒は、等しく全員が、他のクラスの生徒に対して圧倒的に戦闘能力が低く、ともすれば劣等感を抱かされるような物ばかりだが、それと同時に二種類存在に分けられている。一つは特化型過ぎるが故に、その他全てを切り捨てるレベルになってしまい、限られた状況でしかその力を発揮できないため、他のクラスに配置してしまうと、本人の成長を阻害する恐れがあるためだ。

 そしてもう一つ、教師による重点的な監視が必要と判断された生徒だ。

 ジェラルド・ファンブラーの能力は、元々の不運を戦闘可能な物として昇華してしまっている。故に、この能力の対象者はありえない理不尽による、致命的な死亡率が異様に高かったのだ。

 クラス分けは、イマジンシステムにより自動で決められているのだが、これを確認した教師たちは、本来ならDクラスに配置したい彼の能力を“異常”と判断せざるを得ず、少々惜しい気持ちにされた。

 そんな彼の能力でも、同じ状況を引き起こせる。それは、Fクラスとして自分の弱さを痛感しているジェラルドには、決勝トーナメントに上がった優秀者がこれで終わるとはとても思えなかった。

 

 

 そう、それはその通りであった。

 例え、ジェラルドにはその確信を持てず、打開策の一切も思いつかなかったとしても、それは事実として存在し、それを察しているカリスマチームがいた。

 状況的に独り言のように推測しあっていた彼らの言葉をまとめ上げるようにサルナ・コンチェルトは呟く。

「仮に、絶対的不可能な状況に追い込まれたとしても、クラスの代表として出た生徒が、たかだが地形の優劣程度勝敗を決めるなんて、それこそあり得ないわ」

 

 

 八束菫は剣を握る。激流に呑まれる中で、何とか両手に握りしめた剣に渾身のイマジンを注ぎ込み、一気に降りぬく。狙いなどはない。狙う先など決められる状況ではない。だがそんなことは関係ない。なぜなら、斬ってしまえば、何も問題ないのだから。

「『糸切り(イトキリ)』……ッッッ! ぶっ、た切れーーーーっ!!」

 振るわれた斬閃。その速度はたいして早くはなく、その力はそれほど力強くもなく、しかし、込められたイマジンは、確かに現象を具現する。

 

 ザッバンッ!!!

 

 刹那、激流は一瞬にして斜めに両断された。

「……へ?」

 思わず呆けた声を漏らす正純。完全無欠に両断された激流は、モーゼの十戒すら霞むが如く完膚なきまでに一閃され、距離も質量も関係なく割断され、水中を及び回っていた正純を強制的に中空へと投げ出していた。

 右斜め上と左斜め下に分けられた激流は、その勢いも失い、まるで固体であったかのように分かたれてしまっている。

 菫がクラス主席の報酬として得たスキルストックに登録した新しい技能。それはある意味、現段階においては無謀とも言える試み。二つの能力を併用して発動することで一つの技として成立させる『デュアスキル』に近い『襲』であった。

 『繰糸(マリオネット)』と『繰糸紡ぎ(ボビンズ・ドール)』を併用した技能:『糸切り(イトキリ)』。変色ステータスの“見切り”と“剣術”を合わせることで、完成された切断のイメージ、あらゆる権能さえも、イマジンの糸と言う認識の下、切り裂く一太刀、それは、この場に存在する大質量の水を、一閃で(わか)ち、同時に正純の『水瓶座』すら切り伏せる、必殺の一閃。

 正純の正面で『♒』の紋章が斜めに(れっ)し、キンッ! と言うあっけない音を立てて消滅した。ここに来て正純も何が起きたかを理解する。

 だがその時には既に、菫は激流に呑まれていた剣達を呼び戻し、空中の道を作り出していた。そして速い。今までが手加減でもしていたかのような速度で急接近をはかる。

「くそ……っ!」

 だが、正純の対応も早い。そして思いっきりもいい。『水瓶座』が破壊されたと知るや、すぐさま『射手座』を発動。無数に出現した光の矢を惜しみなく放つ。

「っ、ああああああぁぁぁぁーーーー……っ!!」

 菫は裂帛(れっぱく)の咆哮を上げ、光の矢に向けてまっすぐに突進。体をひねりながら回避し、躱せぬ矢は『糸切り』で容赦無く切り裂く。矢は無数に存在するので、『水瓶座』の様に術その物を破壊できるわけではないようだが、矢が通じないという時点でもはやこの能力に意味はないというように、菫は進行速度を落とさない。

 そして、正純の腕に、星座の文様が浮かび上がり始める。正純のペナルティースキル『星の痣』が発動し、五感の一つを奪っていく。正純の視界がぼやけ、次第に光を失っていく。どうやら視覚を失ったのだと理解する。

 菫も、五感のいずれが失われたのか“見切り”のステータスが上手く発動し、看破する。視覚を失ったことで空中での態勢すら維持できなくなりつつある隙を突き、菫は一気に接近、正面から堂々と『糸切り』の刃を振り下ろす。

 『糸切り』はイマジンとして存在する力を糸と言うイメージに置き換えて切断する。それは例え、ジーク東郷の鋼の権能『ドラゴンボディ』であっても切断可能な一撃。まさに必殺の技であり、逃れることは不可能な一撃だ。

 正純は『牡羊座』の楯を展開しても守り切れず、『射手座』ではタイミング的に当てるのは難しく、『水瓶座』は既に破られ、空中では『魚座』も意味をなさない。視界を封じられた今、『直観再現』が発動しても回避すら困難だろう。誰もが菫の逆転劇を疑わなかった。この一瞬で、菫が逆境を覆し、瞬きの間に勝利をもぎ取る。カリスマチームでさえ、その姿を幻視した。

 

 『♌』の紋章が輝き、横合いから飛び出した『獅子座』の獅子が、菫を突き飛ばした。

 

 驚愕に目を見開きながらも、可能性として考えていた菫は、既に配置しておいた『剣の繰り手(ダンスマカブル)』の剣に命令、五つの剣が一斉に正純を四方八方、あらゆる軌道で迫る。

 

 空から奔った流星が、五つの剣を全て叩き落した。

 

 今度こそ、目を丸くして驚く菫に、正純は追撃をかけてくる。

「『山羊座』」

 呟きながら『♑』の紋章を両足に輝かせ、展開した『牡羊座』の楯を足場に蹴り、物凄い勢いで菫へと迫る。

 菫は慌てて獅子に剣を叩きつけ、その勢いを利用して前転するように獅子の背に転がり、足が付くと同時に跳躍、獅子を蹴り落としながら二本の剣を呼び戻し、足場を―――作ろうとして、それら全てが『射手座』の光弾に打ち抜かれ、弾き飛ばされた。

「……っ!?」

 先手を打たれ、足場を失った菫は、手元の剣を『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で操り、何とか空中での態勢を整えつつ向かってくる正純に切りつける。

 ―――が、タイミングを合わせたはずの一撃は、紙一重で躱され、クロスカウンター気味に正純の拳が菫へと迫る。

「『牡牛座』『―――』……ッ!」

 『♉』の紋章を宿した拳が避けようと身をひねった菫の方に直撃し、爆発でも起きたのではないかと言う轟音を立てて弾き飛ばす。

 菫は自分が裂してあらわになった水底に叩きつけられ、泥まみれになりながらも転がされていく。地面に直撃する寸前『劣化再現』で衝撃を抑えた物の、そんなものは意にも解さないと言わんばかりの激痛が体全体を襲い、痺れさせていた。

 それでも気合で剣を杖代わりに突き立てながら立ち上がり、『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で剣達を展開して備えようとする。

 再び、否、三度剣達は光弾の流星にピンポイントで撃ち抜かれ、それぞれ弾き飛ばされ地面を転がる。驚愕に目を見開く中、地面に着地した正純が正面から菫を()()()|ながら、死刑宣告の様に告げる。

「主席の特権を持ってるのはお前だけじゃない。そしてもちろん、この三日間の間に特訓して強くなったのも、お前だけじゃないんだ。『天体観測』全てを星の力の下、俯瞰した状態で見破る力。それが俺が獲得した技能だ。例え『星の痣』で視覚を奪われても、目で見る以上によく見えるよ」

 そう言いながら正純は『水瓶座』の紋章も出現させ、再び水流を操作し始めている。

 危険を感じ、対応するために空中に逃れようとした菫だが、途端に全身を虚脱感と眩暈が襲った。視界がぼやけ、思わず嘔吐しそうになる気持ちの悪さを感じ、手で口元を押さええる。何とか根性で蹲るのは堪えた物の、自分に襲った以上の原因を推察し、またもや驚愕する。

「毒物……? いつの間に……? ―――!」

 思い出し、正面の正純へと視線を向けると、彼の背中に『♏』の紋章が輝いているのが見て取れた。

「『蠍座』の毒さ。さっき、『牡牛座』の怪力と一緒に打ち込んでおいた。咄嗟だったからそれほど強い毒は打ち込めなかったけど、解毒できない状況では相当きついだろ?」

 ほとんど無表情にしか見えない苦悶の表情を浮かべながら、菫は顔色を白くし、状況的不利を自覚し始める。

「お前の自慢の剣舞は、今の俺には全て見えてる。どんな軌道で撃っても全部『射手座』で撃ち抜いてやるよ。剣で戦おうとしても『獅子座』で襲わせて接近させねえし、仮に接近してきても『牡牛』と『山羊』でしっかり相手してやる。今度は『蠍』の毒も強いのを用意してあるしな。時間稼ぎなんてしない方がいいぜ。毒を食らってる上に『水瓶』も使ってるんだ。時間が経てば、また水中に沈めてまた『魚座』の餌食だぜ。何なら残りの『乙女座』『蟹座』『天秤座』『双子座』も披露してやろうか?」

 告げる正純は余裕の表情ながら、しかし、その瞳に必勝の執念を宿し、強く菫を見据えている。

 Dクラスにおいて、間違いなく最強だと確信した二人のウィザード。その二人を差し置いて決勝トーナメントに出場し、挙句二人に訓練まで付き合わせ、無様な敗北などありえてはいけない。

 Dクラス全員―――特に二人の少女のために、正純は必勝の決意と執念を乗せ、断じるように宣言する。

 

「文字通り、今の俺に死角はねえっ! やれるものならやってみろっ!! Aクラス!」

 

 八束菫は、完全に追い詰められたことを自覚した……。




~あとがき~

≪のん≫「クトゥルTRPGがめっちゃやりたい」

≪弥生≫「ここで言う事じゃないよね……?」

≪カグヤ≫「って言うか、投稿遅くなったの、TRPG動画見まくってたことが原因だよな?」

≪のん≫「うん」

≪弥生≫「素直なら何でも許されるってことはないと思う」

≪カグヤ≫「って言うか、TRPG一緒にやる友達いねえボッチのくせに、一体誰とやるんだよ?」

≪のん≫「おい貴様っ! 今の発言は、全国ニコニコ動画視聴者様全員を敵に回す発言だぞっ! ひかえおろー!」

≪弥生≫「のんさんが一番失礼な発言してると思うよっ!?」

≪カグヤ≫「ごめん」

≪弥生≫「こっちも失礼だったっ!?」

≪のん≫「っと言うわけで、近々クトゥルフTRPGシナリオノベルでも書いてみようかなと思ってる。カグヤくん主人公ね」

≪カグヤ≫「え? ……なんか俺、どこでも出てるな?」

≪のん≫「なのはの二次創作からずっと、君って色々キャラ変更しながらも使いやすいんだよね? 衛宮君みたいな感じ?」

≪弥生≫「きのこさんに謝ってっ! あっちは本物のプロだから! 映画化も何本も出してる超大手だからっ!」

≪カグヤ≫「それに俺の派生、投稿作品としてはなのはの二次創作二つと、このハイスクールでしか出てないだろ? 比べる数も足りてないぞ?」

≪のん≫「まあ、そんなわけで、その内書くと思います。クトゥルフTRPGシナリオノベル『――タイトル未定――』をよろしくお願いします」

≪弥生≫「せめて仮でもタイトルつけてから宣伝してよっ!?」

≪カグヤ≫「って言うか今回の話には触れないのか?」

≪のん≫「入れたい内容がいっぱいあり過ぎて、一話では入りきりませんでした。次回は二人の決着です! そしてその陰で少しずつ動き出すあれやらこれやらの出来事! 目が離せないこと請け合いなのでお楽しみに!」

≪弥生≫「最後だけ取って付けたように付け足したね……」

≪カグヤ≫「このノベル、話の深みが一切ない、バトルするだけの物語のはずなんだが……、そんな大風呂敷広げて消化しきれるのか?」

≪のん≫「あ、大丈夫! なんか新しい職場がすごく居心地よくて、割と元気だから!」

≪弥生&カグヤ≫(ああ……、社会人の職場って、ここまで人間を変える重要なポジションだったんだな……。なんだか嬉し涙が出てきそう……)



せっかく、時間も取れて、良い人ばかりの職場に就いたので、あっちもこっちも頑張りたいと思います!
学校生活よりイキイキしてます! むっちゃ頑張るねっ!


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一学期 第十試験 【決勝トーナメント 準決勝戦】Ⅱ

頑張って書きました!
久しぶりに早くかけたかな?
あんまり待たせていなったら幸いです。
結構頭ひねって書いた自信作なので、喜んでもらえれば幸いです。


例の如く、添削がまだなので、煩わしい方は↓の表記が【添削済み】になるまで待ってください。
                  【添削済み】


ハイスクールイマジネーション14

 

第十試験 【決勝トーナメント 準決勝戦】Ⅱ

 

 

 0

 

 理不尽などはどこにでも存在する。大の大人でさえ、理不尽の前には心が折れ、やさぐれたりだってする。時には大きな人生の岐路となり、外道に落ちる事だってあるだろう。

 夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)もまた、嘗てはそんな理不尽に巻き込まれ、心に大きな傷を残した。それでも彼がまっとうな人生を歩もうと心に誓えたのは、その時に出会えた恩師のおかげだ。

 

『人は闇を持つもの、だから闇を消そうとするんじゃなくて、受け入れてあげるんだ』

 

 その言葉が、道を外れようとしていた凛音の胸に深く突き刺さり、今でもその言葉を胸に、まっすぐに生きようと努力している。

 イマジネーションスクールの試験に受かり、晴れて入学を果たした時、初めての寮生活の同居人が女性であった時は「何処のラノベ展開だっ!?」と、驚愕の声を上げてしまったが、この学園では結構あり得るシステムだったので、渋々受け入れることにした。

 同居人として出会った少女東福寺(とうふくじ)美幸(みゆき)はたれ目がちで柔和な顔立ちをしたブラウンのストレートヘアーをカチューシャで纏めた、抱擁感を感じさせるお姉さんだ。実際年齢も凛音より一つ上と言うこともあるせいか、アパートの美人大家さんとその入居者的な気分を抱いてしまう。Dカップの豊満な胸を持ち、全体的に肉感の強い彼女と、一緒の部屋で暮らすのは中々に思春期男子として大変なことも多かったが、美幸の人となりは、そんなマイナス面も含めて「幸福だ」と断言できる関係だった。

 そこそこ裕福な家庭で生まれたお嬢様のようだったが、自分より他人を気遣えるとてもやさしい心根を持っていて、どんなに注意していても、小さなほころびを見つけては気遣ってくれ、熟練夫婦の妻も顔負けの面倒見の良さを発揮している。

 そんな彼女がFクラスであり、自分がBクラスなのは、時たま疑問を抱いてしまうこともあるが、それは唯一、凛音が美幸に対して勝る物(っと、本人は思っている物)であり、同時にそこに関してだけは美幸の力になってあげられる場所だと確信していた。

 だから、Fクラスと言うだけで、彼女のことを罵る輩が現れた時、何が何でも自分が守らなければと使命感を抱いた。そうだ。彼女のために自分ができるものなど、このくらいの物なのだから。彼女の名誉を守らんがために、自分が戦って見せる。

 争いを好まない彼女のために、何よりも他人の幸福を願う優しき少女のために、夕凪凛音は光の剣を携え、傲慢な王へと立ち向かったのだ。

 

 

 そして、理不尽な現実は、この学園でも彼を再び襲う。

「はあ……、はあ……っ」

 自然と息が上がる凛音。周囲には彼の力でつけられた傷跡が残り、床も壁も柱も、いたる所に亀裂が走っている。

 全校生徒が出入りする寮の玄関口と言うだけあってそれなりに広く作られているのだが、戦闘となると少々手狭感を感じさせられる。特に大技が多い一年生イマジネーターにとって、室内戦と言うのは大変苦しい環境だ。後々、授業で習わされる訓練であったが、まさか喧嘩腰の決闘で最初に味わうことになるとは、さすがに思ってはいなかっただろう。

 だが、室内戦のやりにくさよりも、心が折れそうになるほどの苦悩が目の前にあった。

「おいおい失望させてくれるなよ? 貴様も仮にもAの次に強いBクラスの一員であろう? この身に一太刀といわずとも、せめて一歩くらいは動かして見せればどうだ?」

 不遜な物言いで腕を組む黒スーツの銀髪男、シオン・アーティアはつまらなさそうに一蹴する。

 これを聞いていた観戦者、明菜理恵は、決闘戦の様子に瞠目し、呆然とするしかない。

「いくら何でも……、これはないだろう……?」

 そう漏らした意味を語るかのように、凛音は再びシオンに向かって飛び出す。手にするのはこの学園の購買部で超安売りされている量産型の剣(弥生や菫も愛用してます)、その刃に己が能力を発現させ、眩い光を纏う。『極光の波動:剣閃(ライトニングウェイブ=スラッシャー)』凛音の派生能力『極光の波動』により並外れた剣速と切れ味を実現させた極光の剣。その輝きは“極光”の名に恥じぬ輝きと速度をもって奔り、一息に二十四の閃光を生み出す。

「くだらん……、芸もなく、またぞろそのお遊びか……」

 閃光が煌いた一瞬が過ぎ去り、光が止んだ先にいたのは、まるで何も意に介していないという風に冷めた視線を向ける、無傷のシオンだ。

 「また躱された……っ!?」そんな驚愕が凛音の表情に露わになって表れる。

 剣の届く距離にて、シオンは凛音を見下ろすだけで何もしてこない。彼の腰にも立派な装飾の施された剣が()かれているが、その柄に手も掛けようともせず、ただただ凛音のことを値踏みでもするように見るばかりだ。

「く……っ!」

 またも距離をとるしかない凛音。もう何度繰り返した変わらない攻防に―――否、攻防とも言えぬ霞を切るような感触に、気が変になりそうであった。

(確かに……っ! 確かにBクラスはAクラスより成績は下位だ! そう判断されたが故のBクラス! だが……っ! それにしたって……っ! ここまでなのかっ!? こんな一方的な状況になるほどに、俺達には実力差があるっていうのかっ!?)

 納得できない現実に、だが歴然と結果で見せつけられている事実に、凛音はどんどん追い詰められていく。一方的に攻めているのはこちらだというのに、いや、だからこそと言うべき、圧倒的な実力差に、もはや策らしい策すら思い浮かばない。

(冗談だろ……? これでもまだ、Aクラス筆頭じゃないっていうのか……?)

 不安、焦燥、精神的疲労、そして恐怖―――。

 イマジネーターとして多大な力を手に入れたと言っても、彼はまだ少年なのだ。ましてやつい最近まで普通の学生だった彼に、精神的支柱などは存在しない。憧れはある。大切な人間もいる。守りたいという意志も忘れていない。

 それでも霞む。

 イマジネーターの理想とする精神的成長を促されてなお、その心が霞み、身が竦む。震えが弱さとなって表れていく。

(の、呑まれるな……っ!)

 全力で頭を振って震えを払うが、それでも心にできた弱さまでは消えてはくれない。

 この状況を覆す手段が思いつかない時点で、自分はこの男に負けているのだ。その事実が彼の意志を蝕んでいく。

弱さ()を恐れるな。弱さ()を消すんじゃなく、受け入れて、前に……っ!)

 かつて送られた恩師の言葉を思い出し、必死に奮い立たせようとする。しかし、現実と事実と言う壁が、彼の思考を侵食し、その“意思”すらも奪っていく。

(受け入れて……? 受け入れてどうするんだ? それからどうしたら良い? 弱さ()を受け入れれば、やっぱり恐怖()に侵されるんじゃないのか? それは、強さ()を失うことになるんじゃないのか……?)

 普段ならしないような悲観的な思考。いつもなら、闇を受け入れ、その闇と共に光さす場所に向かうべきだという結論に至るところが、この一方的な展開に邪魔をされ、受け入れがたいものへと変わってしまう。

 冷たい汗が全身から流れ始める。もういっそリタイヤしてしまいたい気持ちが湧き出し―――そこで初めて自分の中で自分を殴りつけた。本当なら実際に殴ってやりたいところだったが、それは今は控えておいた。

(どこまで悲観的になってるんだ俺はっ!? 落ち着けよ! 俺は今、いったいなんのために戦ってるんだよ?)

 震えの収まらない体で、視線だけを美幸へと向ける。心配そうに両手を組んで祈るようにこちらを見つめる姿に、折れそうになっていた心をギリギリで繋ぎ止める。

(そうだ……! 例え勝てなくても、最後まで足搔かないでそうする? 最後まで全力を尽くさなければ、勝てる勝負も落としてしまう。俺は、美幸を『愚物』扱いしたコイツを、絶対に許さないっ!!)

 恐怖の中、消え去らぬ弱気を抱えながらも、凛音は剣を構え立ち上がる。せめて、この一太刀は与えて見せると、最後の切り札を切る覚悟を見せ、全身に極光を纏い始める。

「……くだらん」

 もはや言葉にすることさえ億劫と言いたげに、シオンが言葉を漏らす。

 続く言葉は聞かない。凛音は、己の全力をぶつける事だけを考え、力を開放して一気に飛び出す。彼本来の能力にして、最強の切り札―――『永遠なる極光(インフィニティライトニング):()開放(バーストライト)

 全身を纏うは眩いほどの燐光。全身の能力を格段に飛躍させ、五感全ても強化された全身―――いや、全能強化。Bクラスの予選では結局最後まで使うことのなかった力を開放し、光の速度をもってシオンへと斬りかかる。その速度は、おそらく一年生では最速と目される遊間(あすま)零時(れいじ)すらも置き去りにするかのような、刹那の閃光となる。

 

 ゆえに結果も、瞬きの間に起こり、誰にもその過程を理解することができなかった。

 

 気付けば破砕音が鳴り響き、夕凪凛音が床にたたきつけられ、仰向けに倒れている。

 凛音自身、研ぎ澄まされた五感をもってしても、その事実を受け入れるのに時間がかかった。

 いったい何が起こったのか? その事実は、神格化している立会人の迦具夜比売と、この結果を自ら起こしたシオン・アーティアにしか理解できていない。

「こんなものが切り札か? やれやれ本当にくだらんな。貴様もAクラスに届きこそしなかったものの次席のBクラス。ここまで無様を晒すとは何事か?」

 責めるような物言いに、しかし凛音は答えることができない。その質問は、むしろ凛音が自分自身に問いかけたい言葉だったのだから。

(俺は……っ! 俺は今まで、一体何をやっていたんだ……っ!?)

 強くなるためにここに来た。大切なものを守れるように、目標となる人に追いつけるように。そんな願いの下、彼はこの学園にやって来た。そこで与えられたBクラスと言う成績上位者のクラスに、誇りだって抱いていた。このクラスに配属されたことを、恥じることのないように立派な人間になろうと、決意していた。

 だというのに、どうして自分はここまであっさりやられてしまっているのか? その疑問は、彼の戦意を完全にへし折るには十二分に過ぎた。例え、まだこの学園にきて日が浅いが故に、力の差異が目立つだけだと解っていても、許せないと思った相手に負けるということは、その他の事情全てを押し流してしまうほどに自責の念にとらわれた。

「自分のくだらなさにようやっと気づけたか? 愚物とつるんでいるだけならまだしも、愚かしくも愚物に感化され、自らも愚物となる。それは愚かが過ぎる、ただのゴミだ。ゴミは早々に消え去るがいい」

 そう言って、いつの間にか抜いていた剣を振り上げるシオン。それを見上げながら、ダメージで全く動くことのできない凛音は、声も上げることもできず、振り下ろされる刃をただ見つめることしかできなかった。

 

「そこまで……っ!!」

 

 シオンが振り下ろす刃。動けぬ凛音。その間に割り込む着物姿の影。

 構わず振り下ろされた刃を、その身で受け止め、凛音を凶刃から救ったのは、立会人として戦いを見守っていた迦具夜比売であった。

()……っ! 立会人の権限をもって、この試合をシオン・アーティアの勝利と認めます! これ以上の殺傷行為はお控えくださいっ!」

 エキシビジョンマッチの時同様、剣で切られたところで大したダメージもないのか、迦具夜比売は凛とした佇まいで正面からシオンに立ち塞がる。

「ふんっ、やはり守ったか。普段のお前ならまだしも、月の仙女となった貴様では、他人を積極的に守りたがるらしい。しかしこれは決闘だ。勝敗は立会人が決める事ではなく当人たちが決める事。いかに相手が愚物の類であっても、(オレ)は自ら手を下していない相手を敗者などと認めるつもりはない。そこをどけ」

 剣を突きつけるシオンに対し、僅かに視線を彷徨わせた迦具夜比売は、相手の思考を読み取る様に表情を強張らせる。

「……未来視ですね?」

「……」

「最初の位置から全く動くことなく夕凪さんの攻撃を凌ぎ切ることなどできるはずがありません。例え圧倒的な実力差があったとしても、それを覆せるのがイマジネーター。非戦闘員のEクラスやFクラスでもない限り、このような事態に陥ることはありえません。例外として存在するのはただ一つ。圧倒的に相性の悪い能力を有しているか否かです。夕凪さんの最後の一撃は、さすがの貴方でもまともに受けるのは危険であり、なおかつ避けることは叶わない一撃のはずでした。それができてしまった以上、答えは一つ。最初から相手の攻撃の軌道を読めていれば、いかなる権能を用いられようと対処は可能。つまり、未来視があなたの能力の一つです」

 シオンは軽く口の端を持ち上げ微笑の形を作る。己が力を看破されたことを、むしろ喜ぶかのように。まだ続きがあるらしいことを気配で悟り、軽く切っ先を揺らして先を促す。

「その剣、学園の購買部で売っている頑丈さが取り柄の量産品ではありませんよね? 見るからに業物ではありますが、装飾が施されている。実用性を持たせつつも装飾が優先されているところを見るに宝剣の類。形は西洋剣の諸刃ですが、実用性のある装飾剣と言えば王族が所有する類のもの。しかし、私が知る限りで、そのような装飾が施された王剣は見たことがありません。ましてやこの現代で剣を所有するのは困難。更に、未来視などと言う能力を持っていても、それだけでここまで一方的な展開を作り出すのは本来不可能。この展開を作り出したのは、間違いなくあなたの戦術。それは、貴方が実際の戦いを存じ上げていたからこそ組み立てることができた証。ですがこれも、この現代では身につかない技術です。戦争自体が少ないこのご時世に、ましてや剣での戦い方を知ることなどできるはずがありません。仮にできたとしても、下界での経験は、イマジネーターにとって足枷になる要因の方が強い。しかし、貴方にはそれを見受けられない。それ等を踏まえた上で再度考え、導き出された答えは―――貴方は異世界の出身、それも戦場を駆け、王として君臨したことがある類の者ですね」

「ははっ!」

 迦具夜比売の推測を聞き終え、己の正体まで看破されたというのに、むしろそれこそが喜悦だと言うかのように、シオンははっきりと声を上げて笑う。

「面白い……! やはりこうでなくてはな! (オレ)のいた世界は(オレ)と釣り合いの取れる相手がいなくてな。やはり貴様もAクラス! 多少の変わり種だとは思ったが、俺の期待を十二分に満たしてくれるではないかっ!」

 今にも馬鹿笑いを始めそうなほど笑みを称えるシオンに、迦具夜比売は袖の中から薬箱をこっそりと取り出し、自分の体を陰にしつつ、それを凛音に向けて投げ渡す。倒れたまま動けずにいたい凛音だが、何とかその箱を受け取る。しかし、果たしてこの薬を使っていいものかどうか悩んでしまう。それは単純なプライドのようにも思えたし、退いてはならない一線のようにも思えた。なんだかんだと言ってもまだ子供の集団だ。誰もが正しい判断を下せるわけではなく、こう言ったとっさの判断に悩まされることもある。

 迦具夜比売も、ここは是が非でも使ってほしいというわけではなく、単なる気遣いのつもりだったので、使用するかどうかの判断は本人の意思に任せることにした。

 ―――いや、そんなことよりも何よりも、迦具夜比売は目の前の男から視線を逸らすことを恐れ、ひどく躊躇われていた。

 二人のやり取りに気づいているのかいないのか、シオンは抑揚のある態度で告げる。

「正直、愚物の相手など、最初から務めるだけ時間の無駄だ。この(オレ)自ら時間を割いてやるつもりなどなかった。適当にあしらい、試合を観戦している方がよっぽど有意義だったからな……」

 そこでいったん言葉を区切り、シオンはまじめな表情を作る。

「だがお前が立会人となった。この時点で(オレ)の興味はお前に移った。その意味が解るな……?」

 質問に答えず、迦具夜比売は身構える。先程からずっと、自身の防衛本能とも言える『魅了』が発せられているはずなのに、まったく効果が見られない。それが一層彼女に警戒心を持たせる。相手の戦意を削ぐほどの魅了。権能ではなく体質として存在するこれに、抗うことなどできない。例外と言えるものがあるとすればそれは―――、

(『魅了』した上での私を、求めるが故の戦意……!)

 美しさは人を魅了し骨抜きにする。だが、時と場合により、その美しさを貪欲に求めたものが、その美しさを自分の物にしようと災いを運ぶ。それと同じ現象が起きているのではないかと言う推測に、答え合わせをするようにシオンが邪悪な笑みを称える。

「そろそろ“コイツ”にも餌をやりたいと思っていたところだ。精々その愚物を守れよ? 貴様が戦いをやめれば、俺は容赦なくそいつを斬るぞ!」

 その言葉に、ようやく理解に至った理恵が叫び警告する。

「おいっ、やばいぞっ! そいつの狙いは迦具夜比売(アンタ)だっ! そいつ、アンタの神格を()()()()()()()()っ!!」

 美幸が慌てた様子で飛び出し、凛音が目を見開く中、シオンの剣が(ひらめ)く。

 両腕を交差するようにしてガードした迦具夜比売は、その攻撃を諸に受けるが、それは予想されるほどの威力とはならず軽減され、弾かれる。

「ん? (オレ)視た(、、)物より威力が劣っているな? なるほど。先に観測してしまえば、それが予想となり、期待となる。そう判断されてしまうが故に“期待通りの効果を発揮させない”と言う効果が重複し、さらに力を削ぐことができるのだな? これは未来視に対しては中々の“切り札(ジョーカー)”……。ならば未来を視ることなく、己の力で作り出すまで!」

 飛び出すシオンは、片手に持つ剣を振り翳し、連続で斬撃を放っていく。

 神格とはいえ戦闘に秀でているわけではない迦具夜比売は、これらの攻撃全てを受けきることはできない。仕方なく防御能力が付与されている着物の袖で刃を受け止めるが、その袖は切り刻まれ、下の皮膚にまで届く。浅く食い込んだ刃が鮮血を走らせ、宙に赤い軌跡を彩る。

 痛みから表情を歪ませつつ、連続する刃を何とか押しのけていく。その度に上がる鮮血は血飛沫の如く吹き上がり、彼女の周囲に鮮血の花弁が舞う。しかし、躱すことはできない。シオンの宣言通り、狙いは凛音に向けられている。迦具夜比売が防御から回避に行動を移せば、忽ち凛音が切り刻まれることだろう。だが、攻撃手段を持ち合わせていない迦具夜比売には、この状況を押し返す手段がない。『燕の産んだ子安貝』の効果で何とかダメージを抑えているが、その上からどんどん削られているのだ。ここでも同じ、一方的な展開になりつつある。

「……っ!」

 迦具夜比売は、一瞬の隙を突いて袖に手を忍ばせると、そこから白に近い黄色の玉を幾つか取り出し、無造作に投げ捨てる。

 それに危機感を覚えたシオンは瞬時に飛び退く。その玉は地面に数度接触すると、小さな閃光を放ち瞬時に消え去った。

「ほう……っ、今のは正体こそ解らぬが、神格を宿した宝具か?」

「そんな大そうな物ではありません。かつて、姉の樺井月姫(カバヰツキヒメ)に献上された一品で、神の目を楽しませる花火の類です。っと言っても、それはその花火の原材料に近しいもので、ご覧の通りコケ脅しにしかなりません」

 それであっても神格を宿した閃光。神の目をも眩ませる眩き閃光。自身は人の身であるシオンが正面から目にしてしまえば、数時間は目を焼かれ続けることになっていただろう。

「はっ! 面白い! さすがは月の仙女! 月の蔵に収められた宝具を使えば戦う手段がなくとも“戦えるかっ!?”」

「無茶をおっしゃらないでください。今のは私が使用を許されている物の中で、“限界まで引き上げて”使えた物です。蔵の預かり人でしかない私に、中身の使用を許されている物は、私に縁のある物だけです」

 そう言いつつ、迦具夜比売は袖の中にどうやって仕舞われていたのかも分からない大きめの和傘を取り出す。これにも神格が宿っているらしく、開いて構えれば子供の冗談のように楯として使用できる。どうやら徹底的に守りの態勢のようだ。

(……まずいっ! まずいぞカグヤッ! “今のお前じゃダメだ”!!)

 上階から様子を伺っていた理恵は、叫びたい気持ちを必死に堪える。彼女の危惧は、既に迦具夜比売も理解しているはずなのだ。解らせるために理恵は“そういう言い方”をしたのだから。だが、それでも打つ手がない。どうしようもなく相性が悪い。先程の凛音以上に“シオンは迦具夜比売の圧倒的な天敵なのだ”。

 シオンが口の端を釣り上げ、―――(わら)う。

「もう少し引き出しを探りたいところであったが、その様子ではこれ以上のものは出てこないか……? ならばそろそろ“食事”としよう! 起きろ、餌だぞフェンリル」

 告げ、剣を無造作に振るった刹那、迦具夜比売の差していた傘が崩壊した。

 それは分解とか破壊とか、そう言う現象とは次元を(かく)していた。斬撃が触れた瞬間に、和傘の神格が致命的な損傷を受け、その形状を維持できないとばかり崩れ去った。まさに崩壊したのだ。

 更にその一振りは傘にとどまらず、迦具夜比売の身を襲い、大量の加護を有していた衣がずたずたに引き裂かれ、素肌を露わにしていき、露わとなった皮膚には幾重もの傷跡が奔る。まるで獣の(あぎと)に喰い付かれたかのような生々しい傷がその柔肌に深く喰い込み、彼女の左半身を朱く染め上げた。

 衝撃が過ぎ去った後には、過ぎた激痛に悲鳴を上げることもできず真っ青な顔で倒れ込む、ひ弱な姫の姿が晒された。その姿はあまりにも無残で、美しい衣はボロ衣のように色を失い、無事なところを探す方が困難なほど引き裂かれ、晒された肌は、艶めかしさなど押し流してしまうほどに深紅に染め上げられ、痛々しさしか窺えない。それとは逆に真っ青に染まった顔色が、彼女が致命的な傷を負ったのだと物語っている。

 凛音も、美幸も、これを予想していた理恵でさえも、言葉を出せず見開いた眼で眺めることしかできない。美幸に至っては両手で口元を抑え、込み上げる感情に涙さえ浮かべていた。

「く、くは……っ! くははははははっ! これほどかっ!? これほどなのかっ⁉ いやいや驚いたぞっ!? まさかその身に一太刀浴びせるだけで、コイツがここまで満足するとはなっ!」

 笑い、声を張り上げるシオンの傍らには、いつの間に存在を現していたのか、巨大な狼らしき存在が、(シオン)に仕えるように佇んでいた。その巨大な咢は、丁度迦具夜比売の半身に喰い付いた傷跡に一致する。この獣が彼女を襲ったものの正体なのは明白だ。

(オレ)もまさか、コイツが姿を作り出せるとは思いもよらなんだぞ? それほどに貴様の神格は極上だったという事だろう! 誇っていいぞ!」

 そう言って、倒れた迦具夜比売を一頻り称賛した(笑った)後、改めて視線を凛音へと向ける。

「さて、あとはゴミ掃除を終えるとするか。なに、気にすることはない。こいつを満足させてもらった礼だ。この(オレ)が自ら骨を折ってやろうではないか?」

 そう言って歩を進め始めるシオン。彼に追従するように巨大な狼もゆらりと歩む。

 気付いた凛音は、慌てて受け取っていた薬を飲み、瞬時に身体を癒す。傷は治らなかったが痛みが引き、動けるようにはなった。これ以上の戦闘は意味がないと判断し、『永遠なる極光:開放(切り札)』を逃げの一手に使ってでも逃れようとする。

 ―――しかし叶わない。それすら叶わない。

 次の瞬間には狼の前足が自分を捉え、地面に押し付け、ガチリッと頭上で咢が鳴らされたと思ったら、凛音の身に宿っていた燐光が完全に輝きを失い消え去った。

 自分の身で受けてようやく理解した。これは“神格を喰う力”だと。そして、神格が宿っていなくても、神格以下の力の類は全てこの(フェンリル)の餌なのだと……。

「動くな。埃が立つ」

 煩わしそうに告げるシオン。その姿に、その眼に、凛音は確信する。こいつは自分達とは違う。自分達が歩んできた生活とは違う道を歩み、違う価値観の下に生まれ育った者であり、行動の全てに自分と言う柱を持って行動する存在だ。

 敵わない……! 少なくとも、今の自分ではどう足搔いても、この男とは決定的な何かで突き放され、絶対に敵わないのだと悟る。

(力とか能力とか、そんなんじゃない……っ! もっと別の、“何か”だっ! その“何か”が解らない限り、コイツには……っ!!)

 今の自分ではそれが理解(わから)ない。その悔しさに歯噛みしながらも、彼にできる事と言えば、決して心だけは屈服しないと睨みつける事だけだ。

 (フェンリル)が咢を開く。

 ここに至って、理恵は、実力云々など言ってられないと悟り、最低限の『強化再現』を行い、身を乗り出し、階下へと飛び出す。同じく美幸も、直接的な戦闘能力を持たない身でありながら、ルームメイトを守らんがために床を蹴って走り出す。

 Fクラスとは言え、さすがは二人ともイマジネーター。その速度は常人のそれとは比べるべくもなく、瞬時に目標に辿り着く。

 理恵は自身の能力を使い、(フェンリル)の力を削ぎ落し、顔面に抱き着くようにして動きを止めようと試みる。しかし、これを(フェンリル)は顔の一振りで簡単に払いのけ、理恵は近くの柱に皹が入るほどの勢いでたたきつけられてしまう。幸い、防御系の強化は施していたものの、それでも「がぼ……っ!?」っと、赤く濡れた声が喉から込みあがり、床に突っ伏してしまう。

 美幸は凛音を抑えている前足に飛びつき、何とかしようとしているが、彼女の非力な力ではいくら『強化再現』を加えても、微動だにしない。そもそもイマジネーターの『強化再現』は純粋な強化とは違い、強化している現象を再現しているだけにすぎない。だから能力である(フェンリル)に、基礎技術の『強化再現』で殴り掛かろうが掴みかかろうが、太刀打ちできる相手ではない。

「凛音さんっ! 凛音さんっ!? ……放してください! 凛音さんを放してっ! もう勝負はついた! もう充分ではないですかっ! これ以上、凛音さんを虐めないでくださいっ!!」

 涙を零しながら、必死に前足をどかそうと体当たりをしてみたり、人を殴ったこともない拳を振り回してみたりするが、まったく効果を得られない。既に彼女も能力『超幸福論(ウルトラハッピネス)』を発動しているのだが、効果らしい効果も見られない。おそらくはこの力さえ、食べられてしまっているのだろう。たった一つの長所しか持ち合わせていないFクラスにとって、その唯一の力を奪われてしまっては、もはやどうすることもできない。能力者同士の戦いでありながら、既にそこには見た目通り、巨大な獣に襲われる哀れな人間と言う現実が成立していた。

「煩わしい……。ここに至って、見せる抵抗がこの程度か……。やはり、貴様は愚物。もはやその姿も見るに堪えんわ」

 煩わし気にシオンが告げ、指示を出すために手をかざす。

「逃げえぼば……―――っ!?」

 咄嗟に叫ぼうとした理恵だが、込み上げてくる赤に言葉が濁され、咳き込み、ろくに声も上げられない。

 凛音はせめて美幸だけでも逃がそうと極光の槍を作り出そうとするが、それが完成する前に食べられてしまう。

 美幸に至っては、己にまで危機が迫っていると知りつつ、『直感再現』の警告も無視して、必死に(フェンリル)の足に拳を叩きつけている。しかしこれも、何の効果を発揮することはない。

 獣の咢が、美幸を一飲みにするかのように開かれる。

 理恵も凛音も、もはや目を見開き、覚悟するしかないと戦慄した時―――、突然(フェンリル)は身を翻し、明後日の方向に飛びつくと、宙を飛んでいた何かに喰い付き、一飲みにした。

 次の瞬間、(フェンリル)は腹痛でも起こしたかのように咳き込み、その足をよろけさせた。

「……何を、……いったい何を喰わせた?」

 笑みが、張り付いたような笑みが、狂気にも似た笑みが、シオン・アーティアの顔に浮かぶ。予想外の出来事が楽しくて仕方ないというかのように。まさか終わったと思った遊戯が、まだ続いていたと知って、はしゃぐかのように―――。シオン・アーティアはその笑みを向ける。左半身を朱に染め、顔色は真っ青のまま、美しかった黒髪は乱れ、瞳の輝きも失われたかのようにただ黒い。晒された傷も肌も、ろくに隠すこともできない出立で、迦具夜比売は、弱々しい病人のような笑みで、薄く微笑んだ。

(ちん)の肉に神格を宿した物ですよ。日本で(ぜん)と呼ばれています、猛毒を持つ(がん)の妖怪です。さすがに神を殺す獣でも、毒物には堪えましたか? 因みあの献上品は私の姪にあたる倭姫命(やまとひめ)に送られたもので、河豚と同じように毒の部分を取り除けば、食べられるものだったらしいですよ。味は珍妙なだけで美味ではなかったらしいですけど……、私が扱えるのは調理時に捨てられる毒の部分だけだったのですが、逆に幸いしましたね……」

 とても辛そうな声で語りながら、膝立ちの姿勢のまま、迦具夜比売は焦点が合わない眼をシオンに向ける。シオンは面白そうに視線を返す。

 この間に美幸が凛音に肩を貸し、慌てた様子で理恵の下にまで後退する。そのまま理恵の容態を確認しているようだが、こちらも重症らしく、美幸一人ではどうしていいのか分からず、一層涙を流していた。

 彼女自身も気づかぬことだが、彼女の幸運をもたらす能力がフェンリルに喰われながらも、微かに残ったおかげで、迦具夜比売がこの手を打つに至れたのだが、その能力の特性上、誰にもそれは気付けていなかった。偶然にも、凛音を救ったのは、シオンが愚物と侮った美幸だったわけだ。

 そして、そうとは知らぬシオンは―――、

「面白い……! 面白いぞ……っ! いやはや、これ以上はさすがに惜しい人材を失うと思い自重していたのだがなっ!? もはやここまでとはっ! さすがの(オレ)も大人げなくはしゃいでしまうと言う物っ!」

 シオンは剣を掲げる。獣の姿となっていたフェンリルがイマジン粒子となって剣に取り込まれる。元の能力へと還った剣は、その身が喰らった神格を帯び、ただそこにあるだけで威圧感を放っていた。

 切っ先を迦具夜比売へと向ける。

「ここから先は真剣勝負だ。精々俺を楽しませろよ」

 シオン・アーティアは、迦具夜比売に向かって突撃を開始した。彼が見せる本気の動き、本気の戦闘。

 対する迦具夜比売は、苦悶の表情を浮かべながら、収納性が残っているのかも怪しい袖の中から幾つかの宝具を取り出し、対抗する。それら全てが直接的な攻撃手段を持たず、直接的な防御手段を持たない、微妙な効果の物ばかりだったが、東雲カグヤとしての頭脳がそれを助け、上手くシオンの攻撃を掻い潜っていく。

 その身に宿った神格を幾多斬られながら、満身創痍の肉体を負傷する代償を払いながら、一撃一撃が必殺の刃を、凌いでいく……。

 彼女に勝機は―――微塵も残されてなどいなかった。

 

 

 1

 

 

 激流、津波、大獅子、魔弾の雨に岩石、おまけに毒……。いくつもの障害を受け、気が遠くなりそうになりながらも、八束菫は必死に剣を振るい抗う。操作した剣は全て出端を挫かれるように撃ち落され、津波と激流が自分を呑み込もうとそそり立つ壁の如く迫り、それを切り裂いても、獅子が飛びかかり、『牡牛』の怪力で投げ飛ばされてくる大岩にも地味に苦労させられる。何とか状況を打開しようと考えても、毒が回った頭は朦朧として思考が纏まらない。無理矢理接近戦に持ち込もうとしても、『山羊』の健脚と『魚座』の水泳が容易に回避と逃走を叶えてくる。『天体観測』を発動している正純には、一度に四つ以上の星座を使用することで起こるデメリットも相殺され、むしろ強化されてしまっている。誰の目にも彼女が勝てる見込みはなく、もはやワンサイドゲームに決着がつくのを待つばかりであった。

 ―――などと考えているのは観客だけだ。

 当人達は未だ、そんな甘い考えなどは捨て、精神力を振り絞り、現状の把握に努めている。

 獅子の体当たりを食らってしまいながらも、押し寄せる津波を、体を回転させる勢いを利用して『糸切り』で薙ぎ払い、水中に沈んでしまわないように努めながら、菫は表情を青くしながらも、鋭い視線を向ける。

(まだ……、大丈夫……。打つ手が無い、なら…、今作る……! 終わってないなら、諦めない……っ!)

 再び操作された剣群が動き、それぞれ行動を介しようとするが、それが本格的に動く前に、『射手座』の矢が次々と撃ち落し、地面に転がる。中にはついに耐久値が限界を迎えたのか、折れてしまったものまである。

 距離を取りつつ『天体観測』の俯瞰(ふかん)した視線で状況を把握しながらも、小金井正純は、油断なく戦場を支配し続ける。

(今、優位に立っているのは俺だ。だけど、油断はしない。この状況に持ち込む間だって、何度も覆されそうになった。次はどんな手を打ってくるかわからない以上、この優位性を保ちつつ、更に攻め手を用意できるだけ用意する!)

 足元がふらつく菫に目を向け、正純は周囲一帯に『射手座』の雨を降らせる。しかし、それは標的を定めていないかのように無造作に地面を抉っていくだけだ。いったい彼は何をしているのだろうかと観客が疑問を浮かべる中、菫は青い顔に、更に苦悶を浮かべた。

「く……っ!」

 急ぎ、手に持つ剣を『剣弾操作(ソードバレット)』で撃ち出し、その勢いに乗って戦闘位置を大きく変える。観客はさらに首を傾げる。

 

 

「あれ、一体何をやってるんだと思う?」

 戦況を控室で観ていた廿楽弥生が、ある程度予想はできているらしい声音で問いかける。

 問われたのはもちろん、控室に入れるもう一人、ジーク東郷。彼も予想はできているらしく、観戦用のホログラムを操作し、フィールドの視点を動かしながら説明する。

「地面を抉り、足場を悪くしているのだろう。菫は毒の効果で空中戦を演じるのは辛くなっている。そこに足場の環境を悪くすることで、更に動きに制限をかけさせようとした」

「ああ、やっぱり菫はそれに気づいて、場所を移動したわけか~。……ジークならこの状況どうやって覆す?」

「無意味だな。俺ならまず、あの程度の攻撃では傷つけられん。蠍の毒もおそらく届かないだろうしな。そう言う弥生はどうする?」

「ん~~……? 毒が回りきる前に斬る!」

「……君は実は脳筋なのか?」

 

 

 八束菫も、ただ逃げているわけではなかった。正純の次々と変わる絶え間ない攻撃の中でも、菫はいくつかの手をかすれる思考の中で組み立て、しっかり行動に移していた。ただ、菫の剣は、いくら操って四方から襲い掛かっても全て『天体観測』で感知されてしまうため、攻撃は取らない。なので、菫は考えられる手段として、最も有効な一手を打つために、その布石を撃ち込んでいた。

 幾多撃ち出す剣。しかし、その全ては動き出すタイミングを狙われ『射手座』に撃ち飛ばされ、四方へと散っている。更に津波が次第に包囲を狭め、菫の行動範囲を狭めていく。『糸切り』で何とか塞がった道を切り開くが、相手は水、いくら切り裂いても修繕など容易い。絶対的な防御力を打ち破る必殺の剣も、術者本人に当てられないのでは無駄打ちと同じだ。だが、その刃を向けようにも正純はしっかりとその攻撃を避けられる位置に移動し、常に警戒を密にしている。とてもではないが直接正純を狙うのが難しい。そもそも、いくら万物を切り裂く力を発揮する『糸切り』であっても、遠距離から切り裂くことには特化していない。津波の時は、斬った対象が繋がっていたからこそできた芸当だ。さすがに切り裂ける範囲にも際限はあるが、相手が津波程度なら端から端まで切り裂くのは容易かったのだ。

 だが、菫にも遠くから攻撃を当てる手段はある。そのための布石を敷いている。

 っとは言え、正純もそれ自体は何となく予想している。故に警戒も解かれない。

(狙えるチャンスは一度切り……。配置は、あと少し……。タイミングさえあれば……)

 狙いは近づきつつあるが、そのチャンスがない。絶え間なく続く攻撃に、菫は出あぐねていた。

(ううん……、違う……)

 しかし、菫は思考を断ち切り、己の考えを否定した。

(自分が、考えている、ように……、相手だって、しっかり考えてる……。チャンスなんて……来るはずがない……)

 ―――だから、っと、彼女は続ける。

(無茶でも無謀でも……っ! 無理やりにでもこじ開けるっ!!)

 イマジネーターの、特にDクラスの強みは、絶え間なく変化する手数の多さだ。たった一つの必勝法を持たず、代わりに使いきれないほどの戦闘手段を持つ。相手はその手数に翻弄され、うっかり付き合いでもすれば、忽ち引き出しを全て出し尽くされた上に、それを上回る手段で叩きのめされる。これがDクラスの恐ろしさだ。

 だから菫は、残りの精神力を全て総動員して攻勢に出る。道を遮る獅子も、矢も、全て正面から『糸切り』で叩き伏せ、無理矢理こじ開けるように道を切り開いていく。ただ愚直に、力押しで、正面突破を図る姿は、まるで自棄になって突進しているようにも映る。

 

 

「いいえ、それで良い」

 観戦していたサルナ・コンチェルトは口の端に微笑を潜ませながら呟く。

「毒を受け、空中戦を演じる体力もなく、空間把握でも相手に上をいかれている時点で時間を稼ぐだけ無駄。時間は相手の味方なら、その時が訪れる前に攻め切るしかない」

 無謀とも言える突進、それは勝機を見出すために最善となりえる最後の一手でもあることを看破する。

(『愚かな』……っとか言いかけてたっ!? 言い出す前に本当に愚かな行為なのかどうか考え止まってよかったっ!!)

 一人、黒の魔導書を自称する少女が冷や汗を大量に流していたりするのだが、それは別の話である。

 

 

 事実、その手はかなり有効だった。力任せの戦法故に、菫の疲労も激しかったが、確実に活路が開かれつつあった。正純もその進撃を止めようと『獅子座』『射手座』を操るが、それを叩き伏せながら菫が突進してくる。距離をとるのは難しくない。『山羊座』と『魚座』があるのだ。容易に距離は取れる。だというのに菫は追いかけるのをやめない。対処できないわけではないが、遅れれば間違いなく自分が不利になる。いや、一発逆転があるのがイマジネーターの戦い。それを理解できてしまっているが故に、正純にはプレッシャーがかかる。

 そう、つまり、一方的なプレッシャーをかけられていた菫が、正純にもプレッシャーをかけることで立場を同じにしたのだ。

 もちろんその代償は菫に多大な負担をかける。ただでさえ短いタイムリミットを更に縮めるような行いなのだから。だが、それだけの代償を払う意味はあった。

 実際、正純は隙を見せたつもりはなかった。津波も獅子も矢も、手に持つ剣一本で全てを薙ぎ払って、止まることなくひたすら前進してくるので対処に追われ、菫に本人に対して意識が集中し過ぎた。その一瞬に、菫は配置しておいた仕掛けを発動する。

「いけっ!!」

 菫の指示に従い、周囲に散っていた剣が一斉に射出される。弾かれる方向を計算し、とあるポイントに正純の『天体観測』を打ち破る仕掛けを用意していた。そして突進を仕掛ける覚悟を決めた時、そのポイントに正純を誘導していた。『天体観測』を使用し俯瞰した視界をもっていた正純なら、この異変に気づけたはずだった。だが、菫の特攻に気を取られ、せっかく広い視野を無意識的に狭めてしまっていた。そのため対処が遅れた。ましてや()()()()()()()()()()()ならなおさらだ。

 菫が使ったのは『剣弾操作(ソードバレット)』の最大出力。狙いは正純ではなく、正純を囲む地面。突き刺さった剣は、元が水底の土だけあり、完全に埋まってしまい、土の奥深く沈む。

「くむ……っ!」

 次の指示に僅かな抵抗感を感じつつ、渾身の思念を念じ、一気に剣を打ち上げる。突如爆発したかのように地面が膨れ上がり、大量の泥と砂塵が巻き上がる。

「しまった……っ!?」

 その事実に気づいた正純が表情を硬くした。

(アナタ、の、視覚を俯瞰……してみる能力……『天体観測』は、“天体を観測”するものじゃ、なく……“天体から観測”すること、で、視覚を得てる『天体の加護』を受け取ってるもの……なんでしょ?)

 正純の『天体観測』天体の加護を借りることで、全てを見定める力だ。ならばそれは、天を覆い隠してしまえば、普通に目隠しできてしまえるということだ。

 実際のところ、これはそれほど簡単な理屈ではない。『天体観測』は空が見えていれば何処からだって観測可能だ。それは、地平線が見える地形なら、“真横からでも”観測が可能と言うことだ。そのため、地上で同じことをしても、視界の一部が塞がれるというだけで、正純の視界全てを塞ぐことはできない。だが、そんなことは菫にも予想の範疇(はんちゅう)だ。運良く、ここは湖の底。真上以外に空を仰ぎ見る術はない。

 つまり―――、現在通常の視覚を失っている正純は、完全に目標を見失っている。

 この隙を突き、菫は剣群を操り自分の周囲に展開させる。

 この一撃で決めるために―――!

 

 

 菫は少しばかり過去を思い出していた。“過去”っと言うほど昔ではない。自分がAクラス代表に選ばれたと知った後、クラスが総出で訓練に付き合ってくれた時のことだ。時間待ちに飽きたクラスメイトが、突然一斉に襲い掛かり、菫一人でクラスメイト全員を相手にすることになった。

「( ̄∇ ̄ ハッハッハ! 逃げてばかりじゃ訓練になりませんよ~~っ!」

 武道(ぶとう)闘矢(とうや)の『武具再現』『再現:狙撃銃(スナイパーライフル)』で撃ち出される拳圧で、ライフル弾と見まごう空気の弾丸が飛来する。四方から襲い掛かってくる相手に剣群を大急ぎで対応させているため、闘矢の攻撃を躱すのも一苦労だ。体をひねりながら、床に背中が付きそうなほどに身をくねらせ、ひねりの勢いを利用して無理矢理態勢を整え、たたらを踏みながら必死に逃げる。いやもう必死だった。Aクラス全員の集中砲火なのだ。とても反撃などしてる暇がない。

 身体が突然重くなり、危うく倒れそうになる。視線を向ければ、天秤を持つ少女の姿が映る。伊集院(いじゅういん)三門(みかど)が使役する式神(イマジン体)、テミスの援護能力における加重圧だ。幸い、彼らの能力は『正義』に依存する向きが大きく、菫とはそれほど会話をしていないので、善悪の区別がついていない。そのため効果が薄いようだ。

 それでも動きが遅れたところにルブニールと言う名の少女が、能力で作り出した剣で斬りかかってくる。やむなく受けて立つが、剣術の腕は相手の方が上らしく、斬り合いはかなり苦戦させられた。菫の変色ステータスに剣術がなければ、あっと言う間に切り伏せられていたかもしれない。

(って言うか……、私も立派な剣士、スタイルなの、に……! 私より、剣術、上手い人っ! 多すぎ……っ!)

 何気に“剣技”の差では、カグヤにも負けていることは、菫にとって憤慨ものだったりするが、必死に隠している。

「そらそらっ! こっちの相手もしてくださいよ~っ!」

 一斉に襲われないよう、絶妙なバランスで操作していた剣群が、紗倉(さくら)秀郷(ひでさと)が『藤原秀郷』『勇猛なる将』による弓矢攻撃で次々と弾き飛ばされ、牽制されていた者たちの道を開く。

 「余計なことを~~~っ!!」っと叫ぶ暇もなく、真っ先に隙間を縫って突っ込んできた緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)(女の子バージョン)に蹴り飛ばされ、待ち構えていた夜刀神(やとがみ)メリア、ティアナの双子姉妹に、それぞれ『蛇の女王(コアトクリエ)』『太陽の蛇(ウィツィロポチトリ)』の強力な火球と、『蛇使い(サーペンタ)』『灼熱の剣(ナーガラージャ)』による灼熱の剣を同時に浴びせられ、結構な負傷を追う。

 堪らず地面に倒れたところに織咲(しきざき)ユノリアの展開する『SOC』『シャイニングブロッサム』の桜色の花弁が自分を包囲しようと襲い掛かってくるので、慌てて転がりながら回避する。飛び起きて見れば、いつの間にかそこにいたらしい水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)の『物質特性変化』『罠錬成』に引っかかり、思いっきり壁に磔にされた。

「むきゃ~~~っ!!」

 もう色々分からなくなって変な声を上げながら、操作した剣群に『糸切り』を追加して拘束を断ち切り、慌てて飛び出す。剣を足場に空中に逃げれば機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)が、なんだか大きな砲台を複数向けて此方を狙ってくる。びっくりしている暇もなく、四方八方から他のクラスメイト達が襲い掛かってくる中、菫は咄嗟に思い付いた動きで剣群を操作し―――やってのけた本人が驚くほどの一撃で、クラスメイト全員を一度に薙ぎ払ってしまったのだ。

 

 

 そう、まさにその一撃こそは、能力で使用される技に、自分なりのオリジナルを加えた“業”と言えるもの。すなわち―――“必殺技”!

「剣よ……っ! (つど)いて貫け―――ッ!!」

(必殺……っ!)

 自分を中心に螺旋状に展開した八本の剣が『剣弾操作(ソードバレット)』の限界速度で同時に放たれ、菫が突く九本目の剣の切っ先に、一点集中で貫く。九つの剣がただ一点を貫く一撃―――!

(『九つに彩る装飾曲(ナイン・アラベスク)』―――ッ!!!)

 命名した技は、言ってしまえば能力の応用でしかない。だが、それ故に、それは能力を十全に使えるようになり始めたというのと同義だ。菫の『九つに彩る装飾曲(ナイン・アラベスク)』と名付けたこれは、九本の剣で突くという今の動作を指すものではなく、自分が持つ一本の剣を八本の剣で彩る様に操るパターンを『九つに彩る装飾曲(ナイン・アラベスク)』と名付けている。

 一点に集中して放たれた九本の剣は、咄嗟に正純が展開した『牡羊』の楯を容易く粉砕する威力を持っている。ダメ押しの『糸切り』を追加して、あらゆる防備を無効化した。

 

 

 視界零の中、小金井正純は冷静に思考していた。

(悪いな八束……、俺の練習相手の二人は容赦がなくてな……、この状況も体験済みなんだよ……)

 Dクラスのトップウィザードとも言える二人、桐島美冬と黒野(くろの)詠子(えいこ)は、二人掛かりで攻める時、本当に正純の嫌がることを執拗なまでに行った。菫に対してここまで有効な手を取り続けることができたのは、既に体験していて、対処法が確立した後だったからだ。

 『天体観測』を発動させた正純は、自分の力を十全に使え、充分トップウィザードとして成立する強さを持っていた。それでもさすがに二人相手では手を焼き、しかも菫同様に『天体観測』の仕組みを見破り、詠子の作った黒い霧を張られ、完全に視界を封じられてしまった。おまけに電撃を霧に流され、身動きを封じられ、『牡羊座』でも耐えられない氷と炎の組み合わせ攻撃(≪ニブルヘイム≫)をぶち込まれて、リタイヤシステムのお世話になった。

 そこまでして得た教訓は、ここでもしっかり発揮された。

 菫の必殺技は確かに楯を砕くのに充分な威力があったはずだった。だが、八本の剣は楯に阻まれ、甲高い音を鳴らしただけに止まり、最も威力を発揮していた手に持つ九本目の剣だけが切っ先を僅かに突き刺さる物の、楯を打ち破るには至らなかった。

「……っ!?」

 さすがに驚愕を隠しえない菫。彼女の視界からは牡羊の楯が邪魔で見ることはできなかったが、楯の内側では正純の手に『♎』の紋章が浮かび上がっていた。正純が発動したのは『天秤座』の魔法は、相手と自分の実力を完全に拮抗させるものだ。これにより圧倒的な力関係は相殺され、楯を打ち破るには至れなかったのだ。

 さらにこの隙を突いて『獅子座』の獅子が咆哮を上げ、その衝撃波で空に舞った砂塵を吹き飛ばしてしまう。視界が晴れた。

 楯から飛び出す正純。そのまま山羊の健脚を使って逃げようとする。

「……っ!」

 すかさず片手を剣から放し、別の剣を捕まえると、逃げようとした正純に対して投げつける。距離が近かったおかげで射手座に落とされることなく投擲された刃が正純の足を掠め、転倒させる。

 地面を踏みしめ、踵を返す。そのまま追撃を駆けようとした菫の―――背後にもう一人の正純(、、、、、、、)が現れた。『直感再現』でそれに気づいた菫は、転倒している正純の胸に『(双子座)』の紋章が浮き上がっているのを見つける。

(『双子座』!? 効果は分身……っ!?)

 驚愕しつつも冷静に効果を把握し、菫は素早く切り付けていた左の剣を操り、手の中で半回転、地に突き立て、それを足場にすることで跳ね返る様にもう一人の正純(本体)の方へと飛び掛かる。

(悪いが、そういう返しも経験済みだっ!)

 あの特訓の中で、美冬も同じように氷を足場にして跳ね飛び、正純の攻撃を躱したことがあった。それ故、正純は接近戦のできる者がこれをやった場合の対処も、前以って考えておいたのだ。

 正純の額に『(乙女座)』の紋章が輝き、微笑みを浮かべる。

「ひきゅ……っ!?///////」

 たったそれだけに、菫の心臓が飛び上がり、変な声が漏れた。相変わらず表情は、あまり変化しないが、よく見れば頬にうっすらと赤みが浮かび、瞳がウルウルうと揺らいでいた。

 菫は動揺しながらも、これが一体何なのかを瞬時に看破した。看破して驚愕し、これはズルいと、本気で叫びたくなった。

 『乙女座』の効果は単純明快な魅了。性別は関係なく、相手が人間の場合ならほぼ確実に惚れさせることができる。さすがに迦具夜比売の特性の様に、戦意すら削ぎ落すというわけにはいかないが、代わりに能力で発動している以上、相手に強制的な“一目惚れ”状態を作ることができる。恋の衝撃は、年頃の少女である菫にも未だ経験のないもの。それは想像以上に心を揺らし、頭で解っていても、正純の微笑み一つに動揺して、頭の中の行動と、現実の行動が上手くかみ合わない。その一瞬の隙を突き、正純は先手を打つ。

(お返しだ! くらえっ! 対近接戦魔法―――!)

花形に揃う射手座の星(ディバイン・サジタリウス)!! (仮)」

 正純の正面で『射手座』の閃光がいくつも輝き、花弁を開くか花の様に展開した。それは同時に突っ込んでくる菫に対し、射手座の射手で阻む形をとり、同時に、至近で放たれれば、回避不可能な範囲を狙っている。さながらショットガンを至近で構えられているのと同じような状況だ。しかも、刺付きの盾越しでだ。

 菫は何とか剣を振り下ろし、迎撃を試みたかったが、剣を振り下ろせるのは一回限り。それで射手を破壊できる数では自分のダメージの方が超過してしまう。かと言って相打ち覚悟で突っ込もうとも、僅かな時間差で、正純の方が早く射手座を放てる。打つ手がない。

 菫は覚悟を決め、自身の体に考え付くだけの防御術を全力で施していく。

 放たれる花弁の星。ショットガンの例えを裏切らない衝撃が爆音とともに響き渡り、菫の体を木の葉の如く吹き飛ばす。

 途中で態勢を整える暇もなく、空中で操っていた剣達も置き去りにして、菫は側面の壁となっていた切り立った津波の中に呑まれてしまう。すかさず正純が『水瓶座』で水を操る。

 一閃が閃き、流水が両断される。びしょ濡れになって出てきた菫が、明らかに重くなった足取りで、何とか一歩を踏み出す。

 更に畳みかけられる津波が、菫を中心に渦巻くように水の中に閉じ込める。

 両断される。そしてまた重い一歩を踏み出す。

 ……っが、すぐさま新しい流水が追加され閉じ込められる。

「……くぁっ!」

 両断し、苦しそうな呼吸音が漏れる。

 疲労が大きいのは明らかで、顔がうつむき加減になり、濡れた髪の影に表情が隠れてしまう。視界を確保するのも億劫なのか、髪の間から正純を見据え、また一歩を踏み出す。そして、そのタイミングを計ったかのように水に閉じ込められる。

 水の中。息苦しさと、度重なる疲労、最後に受けたダメージの大きさに、苦悶の表情を濃くしながら、『糸切り』で水の牢獄を両断する。

 また一歩を踏み出したところで閉じ込められる。

 両断して踏み出す。

 閉じ込められる。

 繰り返す。繰り返す。

 菫のペースが上がり、合わせて正純もペースを上げる。

 

 バンッ! ザンッ! バンッ! ザンッ! バンッ! ザンッ!

 

 断続的に繰り返される破裂音と、流水音。そのペースが……、次第に落ち始める。

 菫の表情に苦悶がどんどん濃くなっていく。

 立ったまま『水瓶』に集中している正純。

 彼の下まで辿り着くために、必死に足を踏み出し、水の抵抗を重く感じるようになった剣を振るう。

 次第に閉じ込められてから両断するまでの時間が長くなる。明らかに菫のペースが落ちている。

 それでもと、菫は足を踏み出す。

 もはや万策尽きていた。

 もはや体力も限界点で、勝機を計算する術も失っていた。

 それでも菫は疲労しきった身体を必死に動かし、『糸切り』を何度となく使い、水流を打ち破る。

 一歩、また一歩を踏み出す。

 せめてもう一太刀。Aクラス筆頭としての意地を見せようと、必死にもがく。

 

 

 その姿に、観戦していた者たちが固唾を呑んで見守る。

 もはや派手さのなくなった状況に、しかし誰もがこの試合で一番力の入った眼差しを送っていた。

 中には思わず手を合わせて強く握り、祈る様にする者も―――、

 中には拳を握り、静かに声援を送る者も―――、

 中には後ろの客の迷惑も忘れ、立ち上がって必死に叫ぶ者もいた。

 観戦中の七色異音(ナナシキコトネ)は、隣の(かなで)ノノカと、互いに手を取り合い、ハラハラした面持ちで見守っている。

「……がんばれっ!」

 絞り出すような声を思わず漏らしたジェラルド・ファンブラー。

 普段はどこ吹く風で微笑んでいるクラウドも、今は硬い表情で状況を見守っている。

 カルラ・タケナカは、膝の上の拳を強く握り、必死に頭の中で考えた。この状況下で菫が逆転する方法を―――、逆転してくる相手への対処法を―――、しかし、彼女の頭脳をもってしても、この先の展開はもうただ一つに集約しつつある。それ故彼女はこの展開に目が離せない。

 

 

 目が離せなくなっているのはカリスマチームもだった。元々口数の少ない者達であったが、この状況下ではむしろおしゃべりこそ不敬だと言わんばかりに黙り込み、誰もが真剣な表情で状況を見守っている。特にサルナ・コンチェルトは、珍しく表情を硬くし、組んだ腕に力が入ってしまっている。

 その瞳の奥に、もはや結果が揺るがぬ状況の中でも必死にもがく少女の姿が焼き付けられていた。

 

 

 菫は必死だった。勝機と言えるほどの可能性も残されていないのに、それでも足を踏み出し、確実に一歩一歩、正純との距離を縮めていく。

 水と疲労、呼吸困難が相まって、視界がぼやけていく中、それでも菫は正純から視線を外さない。

 剣が重い。足が重い。体が重い。

 それでも踏み込め! それでも進め! せめてこの剣が届く最後の一歩までっ!

 心の中で、言葉だけを羅列するように思い浮かべ、それを糧に奮起する。

 あと一歩! その距離に入った。

 剣を振るう。

 重い。重すぎる。

 剣は緩慢な動きで軌跡をなぞり、『糸切り』の効果で僅かに水流に亀裂を作るが、すぐに塞がってしまう。

 限界だ……っ!? ここまでだ……っ!

 誰もがそう確信する中、菫は臍下丹田に貯められたイマジンを爆発させるイメージで強く息を吐く。

「フン……ッ!!」

 イマジン基礎技術、『喝破(かっぱ)』―――自身の中でイマジンを軽く暴発させることで、自分を中心に発生している術式(イマジネート)を打ち払う技術だ。さすがに攻撃系のイマジネートまで打ち消すことはできないが、自分の動きを封じる程度の水流と、思考をぼやけさせていた『乙女座』の魅了を打ち破るくらいはできた。

 水の牢が弾け、自由になった菫は、最後の力を振り絞るが如く、歯を食いしばって剣を大上段に構える。

 

 ここまで来たぞっ!!

 

 そんな声が届きそうなほど、強い力を瞳に宿し、菫は正純を睨み据えた!

 ………が、そこから先が進まない。

 菫は必死に上体を前方に向けて動かしているが、肝心の足が前に出ようとしない。

 誰もが菫の限界がここに来て達したのだと今度こそ思った。しかし、それにしては様子がおかしい。菫は必死に足を出そうと上体を激しく左右に振っている。そこには最後の一歩を踏み出す体力が残っていないようには見えない。いったい何が起こっているのか誰もが疑問に表情を歪める中、菫の足元に、その紋章が浮かび上がっていた。

 

 それは『(蟹座)』の紋章だった。

 

「『黄道十二宮招来』『星霊魔術』…『蟹座』。効果は対象の行動制限。横移動以外の行動を強く制限する」

 無慈悲な正純の声が、その事実を告げる。

 『黄道十二宮招来』最後の『星霊魔術』が、菫の最後の一歩を完全に封殺していた。

「悪いがその最後の一歩……、踏ませるつもりはない」

 強く、強く、強く……、勝利を求め、足搔く目の前の少女よりも、勝利を求める執念を瞳に宿し、正純は『水瓶座』の津波を放つ。

 悔し気に表情を歪める菫は……そのまま津波の中に呑まれてしまう。

 ほどなくして、幻想的な光景となっていた水底での戦いは、両断されていた水流が物理法則を思い出したかのように崩れ、激流となり、元の湖の形を取り戻していった。

 

 

 2

 

 

 八束菫は、全力で呼吸をしながら、しりもち付いた状態で肩を上下させていた。

 用事を済ませて訓練場に立ち寄った東雲カグヤは、Aクラスの屍が山と積まれている状況に、驚きすぎて呆れた表情を浮かべていた。

「……お前は名実ともにAクラスのトップになれるんじゃないのか?」

 そんなことを呟きながら、歩み寄ったカグヤは、息も絶え絶えで(ろく)に返事もできない菫に、その辺の自販機で買ったらしいドリンクを二本差し出す。どちらでも好きな方を取れという意味らしいと悟り、菫は視線を向ける。

 

 右手『もうゴールしていいよね? ダイエット飲料水!』

 左手『別に倒してしまっても構わないのだろう? 超濃厚乳酸菌飲料!』

 

「カグヤは……、私に、負けてほしい、の……?」

「え……!?」

 菫の若干、本気の入った声に、元ネタを知らなかったらしいカグヤが割と真面目に驚いていた。

 とりあえず、喉が渇いていたこともあって右のダイエット飲料をもらいたいところだったが、試合に向けた意気込みとしては乳酸菌飲料の方をいただくことにした。受け取った缶を開けようとして、ふと手が止まる。普段下界で見慣れている缶とは形が違っていたので、どう開けていいのか分からなかったのだ。

 それに気づいたカグヤが、謝意を示すような苦笑いを浮かべて隣に座ると、ダイエット飲料の缶を開けて見せる。

 普通の缶は、プルトップを指先で引っ掛け持ち上げることで、テコの原理を利用し穴を開けるという方式(イージーオープンエンド)だ。それに対し、菫が今持つ缶には、プルトップがあるべき場所に、つまみのような物が取り付けられている。カグヤは、そのつまみ部分に親指を当てると、そのまま横方向に押して見せる。すると、つまみが取り付けられている中心部分を支点に回転し、カシュッ! っと言う聞きなれた音を立てて内側から飲み口を開けた。

「ギガフロート、って……、変なことしてるとこ、多い……よね?」

「まあ、これなら指に力が入らない人でも開けられるし、別に悪いことはないと思うが……」

 確かにスペックの無駄遣い感はあるので、下界でやろうとすると、無駄に原理が凝ってしまって、缶ジュースの物価が上がってしまいそうだとは感じた。そう苦笑いをしながら、菫の隣でジュースを煽った。

「んぐ……、ンぐ……ッ!? ……ぷはぁ……っ! なんてお腹にガツンと来る硬水だ……。しばらく固形物が喉を通らなくなりそうな触感に、味が二の次になってしまった……。何味だったんだこれ? もう一回飲む勇気が出ないぞ……」

 ジュース一本に何を大げさな、と、菫は無表情の中でくすりっ、と微笑み、自分も一口……。

 

 瞬間。

 世界が崩壊した。

 

 絶望が吹いた。

 秒速百メートルを優に超える超風。

 人が立つことはおろか、生命の存在そのものを許さぬ強風は叩きつける。

 

 “―――ついて来れるか”

 

「……赤い外套の騎士が見え、た……」

「は?」

 突然菫が妙なことを言い出すので。カグヤは菫の呑んだドリンクの味がどれだけ奇怪な物だったのだろうと首をひねった。

 なぜ菫は、その後も、「お前こ、そ……!」と言いながら残りのドリンクをがぶ飲みし始めたので、カグヤとしてはもはや呆れて見ているしかない。

 そうこうしてる内に目を覚ました他Aクラスの面々が、菫の下に集まり、勝手に話を盛り上げ始める。

「お前ら全員そろって菫一人にやられたのか?」

「はい、菫さんすごかったですよ? 私の『イマジンコネクト』では、第3形態まで持っていかないと相手にならないかもしれません」

 カグヤの質問に、自分の事のように微笑む、腰まである白い髪と黄金の瞳を持つ少女、リリアン・トワイライト・エクステラは、黒と蒼を基調とした可愛らしいゴシックドレスが汚れるかもしれないことなど気にした風もなく、二人の傍に腰を下ろした。

「ですね。私も、『鬼神顕現』が追いつかなくって……、菫さんは素質あると思いますよ?」

「希少性のない男の娘は、もう、いい……」

「ヒドイ……ッ!?」

 ポニーテールの黒髪で赤眼の男の娘である鏡刀也に、まったく関係ない方向で弄る菫。

「次は僕様のこのカードとコンビネーション組めば面白くない?」

「なるほど? 実用性は皆無っぽそうッスけど、面白そうだからありかもしれませんね! ……ところでミズチに山城? そろそろ睨み合うのやめない?」

 切城(きりき)(ちぎり)と面白そうなことを優先して菫に再度挑もうとか考えている、茶髪のオールバックに青い瞳を持つ長身の少年、紗倉(さくら)秀郷(ひでさと)だったが、自分のイマジン体二名が何やら火花を散らしているので、さり気なく諫めに入っている。

「次はもっと火力、次はもっと火力! 次はもっと火力ッ!!」

「なぜか神也(シンヤ)くんが壊れた機械の様に危ないこと言ってるんだが……?」

「文字通り菫に壊されたからねぇ~。治るまで時間がかかるんじゃないかい?」

 機霧(ハタキリ)神也(シンヤ)の壊れたような呟きに、ちょっと心配になった浅蔵(あさくら)星琉(せいる)だったが、ゴスロリ少年の水面=N=彩夏(ミナモ エヌ サイカ)に諭すように言われ、とりあえずそっとしておくことにした。

 他にも、時川(ときがわ)未来(みく)古茶菓(ふるさか)澄香(すみか)甘粕(あまかす)勇愛(ゆあ)伊集院(いじゅういん)三門(みかど)、ルブニール、code:Dullahan(コード:デュラハン)、メリアとティアナの夜刀神(やとのかみ)姉妹、武道(ぶとう)闘矢(とうや)緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)、八雲日影、天笠(あまがさ)(つむぎ)織咲(しきざき)ユノリア―――、

「うわ……っ!? なんだこの大所帯? ……え? 菫に全員やられた? どうなってんのコイツ?」

 更には様子を見に来たレイチェル・ゲティングスまで加わり、大変騒がしい環境が出来上がりつつあった。

 そして、皆が皆、結局はただ一つの言葉で締めくくる。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「がんばれよっ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 皆が一斉にその言葉を送ったわけではない。むしろ、そんな直球な言葉ではなく、かなり湾曲した変化球の効いた言葉を贈られたのだが、一つ一つ上げていると本気で切りがないので、その辺は割愛する。とりあえず、まとめるとそんな感じになるのだと理解できる。

 最初は普通に会話していた菫だが、少しずつこの環境に()てられるようにぼ~っ、としてくる。

「菫?」

 その瞬間を目敏く見つけたのか、隣からカグヤが首を傾げながら名前を呼んでくる。

 菫は軽く頭を振ってから、何を言うべきか少し悩み口ごもる。

 すると、カグヤは逸早く何かに気づいたかのように口を開く。

「あ~~~……、あのな? 菫? たぶん、お前が考えてることな?」

「ん……?」

「みんな一緒だから、……まあ、気にするな」

 穏やかな表情になったカグヤは、瞼を閉じて薄く微笑んだ。まるで周りの喧騒を安らかに感じているかのような態度に、自然と菫は取り込まれる気分で周囲の喧騒に浸る。

 皆が笑い、みんなが楽しげにし、そして皆が、今、自分のために力を貸してくれている。目指すべき優勝に向けて、クラスメイトと言うだけで……。

(こんなの……、普通はありえない……)

 クラス一丸。……そんなのは夢物語であり、一丸となっている風に見えるクラスでも、あちらこちらに小さな亀裂が走っているのが普通であり、そして誰もがみんなそれを放置する。

 菫は“働きアリの法則”を思い浮かべる。働きアリの中にも、数匹、遊んでいる固体があり、それを排除すると、また新しく怠ける固体が生まれる。

(普通は……、それと同じ……)

 たった三十人以下の集団でも、一致団結などできない。カリスマや優秀なリーダーがいてもそれは同じだ。必ず集団があれば、そこにははみ出す固体が存在する。悲しいことに、それは怠けている固体であれば良い方、殆どの場合は周囲の者から蔑まれ、はみ出し者として追いやられる。

 嘗ては自分もそうだった。その学校のどのクラスになっても、自分は他人とは同列に話し合えたことはなかった。

 直球な言葉が相手を傷つけ、乏しい表情が恐怖や不安を抱かせ、聡明すぎる頭脳は、時として嫌悪に繋がることが多かった。

 故に爪弾(つまはじ)きとなり、いつだって彼女は孤独だった。一番困ったのは、大して自分が、その“孤独”を苦にしていなかったことだ。一人で生きる術も、周囲の敵意をいなす方法も、やろうと思えば排除する事すら、彼女にとっては容易だった。だから、本当に、彼女は孤独を感じても、孤独を苦しいと感じたことなどなかった。

 それでも、思い描かなかったわけではない。

 ありえない絵空事だとしても、作り話でしか実現不可能なのだとしても、クラス全員で、一人残らず笑い合い、仲良しクラスの一員として、いつか……、自分も……、その乏しい表情に笑みを浮かべて……。

(ああ……、そっか……。このクラスは、“ソレ”が皆(おんな)じなのかも……)

 膝を抱え蹲る。俯いたのではなく、カグヤの言った意味を噛み締める様に、幸せな夢に浸る様に……、彼女は目を細めた。

 周囲からは、そんな自分に冗談交じりで応援する声がする。自分に期待し、声援を送ってくれる。中には全く関係のないところで関係のない世間話を、脱線多めに繰り広げている者たちまでいる。

 溢れる想いが伝わってくる。誰もが望み、当たり前の様に『現実』っという言葉で、勝手に諦め『恥ずかしい』だけのくせに言い訳して、望むことも実行することもしなくなってしまったモノ。とても当たり前の、とても純粋な、とっても単純な、それでいて平凡な望み……。

 

 皆で仲良く―――。

 

 それを実行したくて、それを素直に行っている彼らに、菫は素直に言葉の全てを受け入れる。居心地の良い微睡のように受け取り、菫は思う……。

(こんなに、皆が協力的なの……、ちょっとプレッシャー……。なのに、なんでか心地良い……)

 そして願う。

 “ココ”を、ずっと守っていきたい。っと……。

 

 

 3

 

 

 

『上がってきませんっ!? まったく上がってきませんっ!? 八束菫選手! 既に水没して一分間が経とうとしていますが、浮上の気配はありませんっ! リタイヤシステムが発動していない以上、失格とはみなされませんが、これは絶望的でしょうかっ⁉』

 

 司会の声に合わせ、観客側からも不安げなものと、期待に満ちた二つのざわめきが次第に大きくなっていく。

「今のは……っ! 今のはもうダメでした……っ!」

 カルラのセリフに、他の友人たちも言葉を発せられない様子で黙り込む。表情にはほかの観客同様に、期待と不安の入り混じった気持ちが(あらわ)になっている。

 異音はノノカと両手を握り合ったまま、それでも期待に満ちた瞳を輝かす。

「でもさでもさ……っ!? 相手はAクラスだし、ここから逆転とか……?」

 半分以上、ただの期待と願望であったが、それでもイマジネーターであるなら、それは可能であるかもしれないという可能性を口にする。

 しかし、その期待に対し、カルラは難しい表情になって否定する。

「難しすぎます……。確かに菫さんはAクラスの筆頭、間違いなく一年生では最も優秀……と判断できるうちの一人です。ですけど、私の想像以上に正純さんも強かった。事前に取り入れた情報では、Dクラスのトップウィザード二名が互いに潰し合ってしまったがために、繰り上げになってしまっただけと言う話でしたが……、とんでもない。彼は間違いなくDクラスのトップウィザードですよ」

 正純の評価を低く見てしまっていたことに、僅かな自粛の念を抱きつつも、カルラは表情を硬くしつつ話を纏める。

「彼の実力なら、一年生の四強に数えたとしても、問題ありません。菫さんが弱いとかではなく、事、ここに至った時点で菫さんの勝てる見込みがなくなった(、、、、、)んです」

「で、でもさ……っ! 実はまだ余力残してるのかもしれないよ? ほら、水に沈んでてもリタイヤしてないし、実は勿体ぶってるとか回復を待ってるだけとか……?」

 なおも異音は願望が含まれた希望的観測を述べてみるが、カルラは静かに首を横に振る。

「もしそうであったなら、最後の悪あがきはもっと早めに終えていたはずです。その方が残しておける余力が大きかった。そうしなかったのは、できなかったからです。菫さんならあるいは、この状況でも浮上してくることはできるかもしれません。その可能性だけは残っています。ですが、それでも、それが限界……戦える余裕なんてあるはずありません……」

 例えイマジネーターでも、それはありえない。そう、カルラが断じることで、異音も口をはさめなくなり、不安に揺れる瞳を画面奥の水上へと向けた。

 ノノカは、そんな友人の手を、ただ強く握り返すことしかできない。

 

 

「惜しかったな≪剣群操姫(ソード・ダンサー)≫、しかし、()の星の魔術師は、同期のトップウィザードが二人掛かりで鍛え上げた逸品。貴様の剣舞をもってしても届きはせん!」

 ビシリッ! と片手で顔の半分を隠すようにして決めポーズをとる詠子。実は内心、クラスメイトであり、自分が直接訓練に付き合った正純が負けてしまうのではないかとハラハラしていたのだが、幸い正純は終始押し気味でここまで来てくれたため、ボロを出す心配もなく済んだ。なので、安心して全て最初から承知でしたと言わんばかりに決めポーズをとって見せていた。

「確かに、見事だったと誉めてやろうではないかっ!」

「くだらんな……。結果的に星霊魔術師が、剣舞使いを押し切った。ただそれだけの事であろう」

 オジマンディアスが上から目線で称賛するのに対し、プリメーラは実に興味無さげに吐き捨てる。

 二人の反応の違いに、若干自分の反応にどうするべきか迷った詠子だったが、ここは不敵に笑うことで流すことにした。ぶっちゃけ他に思い付かなかった。

 一方、サルナは、何やら難しい顔をしたままずっと水底を見つめ続けている。

(終わりなの? 最後にあれだけ足搔いたあなたの執念はそれで終わりなの? それで終わってしまっていいというの?)

 言葉はない。思念など送れるわけもなく、また送れたとしても伝えるつもりもない問いかけを、彼女はずっと画面越しの水底に向けて問い続ける。

(間違いのない強敵に、圧倒的不利な状況に、不可能と言えるほどの逆境に、ここまで抗い続けた。その思いは、執念は、……こんなところで本当に終わってしまっていいの?)

 

 ……ぱこんっ、

 

 刹那、決めポーズを決めていた詠子が、戦いは終わったと言いたげに笑っていたオジマンディアスが、興味無さげに見つめていたプリメーラが、最初にその異変に気づいた。

 それは小さな気泡。ともすれば、気のせいかもしれないと感じてしまう、本当に小さな一つの気泡。

(アナタが今、本当に何かを望んでいるのなら、譲れない何かを持ったというのなら、それを誰かに奪われてもいいの?)

 

 ……ぱこんっ……ぱこんっ、

 

 観客席の、あるいは控室の映像を見ていた生徒たちも、それに気づく。

 もしかして? まさかっ!? そんな思考が、表情に少しづつ表れ始める。

(そんなはずがないでしょう? そんなはずがあって良い訳がないでしょう? 譲れないから、譲りたくなかったから、だからアナタは、あそこで足搔いたのだから!)

 

 ばこぼこっ、ぼこぼこぼこぼこ……っ!

 

 次第に増える気泡の数に、ついに観客までざわめき始め、司会も『これは……っ!?』っと、言葉を漏らし―――、

 

 ドバーーーーーーーーンッッッ!!!!

 

 正純の『射手座』の矢が、大量に降り注ぎ、気泡の発生源を叩き潰した。

 油断なく構える正純の表情には、ここから先、一切の希望すら許さないと、如実に語っていた。

 再び巻き起こる静寂。

 そしてついに、水面からイマジン粒子のきらめきが、翡翠色に輝き上ってきた。

 誰もが悟った。今のがトドメになって、リタイヤシステムが発動したのだと―――。

 

(さあ、もう一度、立ち上がり! 見せてみなさい! アナタの“執念(理想)”を―――!)

 

 水が、爆ぜた。

 完膚なきまでに、まるで大地にできたクレーターの如く、半円状に弾け飛び、その水面にいた正純は、突然できたドーム状の穴に落ちていく。

「なぁ……っ!?」

 重力に従い落ちていく中、正純はその眼に映した。イマジン粒子の輝きが螺旋状に渦を巻き、とある一点から放出されているのを、そのイマジン粒子が、周囲の水を押しのけているのを―――。

「なにを……っ!? いったい何をしたんだっ!? 八束菫っ!!」

 正純は叫ぶ。渦の中心、イマジンの粒子を体に纏う、一人の少女―――八束菫に向けて。

「……ほえ? ナニコレ?」

 しかし、返ってきたのは間の抜けるほどのとぼけた声。自分に起きている現象が、まるで解っていないという状況を、乏しい表情の中、全力で表していた。

 

 この時、菫に起こっている状況を説明できるものはさすがに一年生の中にはいなかった。

 これに似た現象をCクラスの黒玄(くろぐろ)畔哉(くろや)VS甘楽(つづら)弥生(やよい)戦でも見受けられたが、菫が起こしている現象は、ソレとは圧倒的にかけ離れた、もっと上の段階であった。

 そもそも、イマジンの基礎技術にはいくつかの段階が存在する。

 

 第一段階【天頸(てんけい)

 第二段階【発頸(はっけい)

 第三段階【真言(マントラ)

 第四段階【曼荼羅(マンダラ)・開式】【曼荼羅・閉式】

 第五段階【発現】

 

 以上の五段階だ。

 【天頸】はイマジネーターなら誰もがやっている肉体の常時強化。

 【発頸】は天頸で纏ったイマジンに明確な役割を与える『強化再現』の段階。

 【真言】は全身に纏っている発頸を一点に集めて固定化する特殊な『強化再現』。

 【曼荼羅】は真言を複数作り出し、外、あるいは内で効果を発揮させるものだ。

 そして最後に【発現】をもって、曼荼羅に形を与え、現象として引き起こす。要するに能力として発動するに至る段階だ。

 これらの基礎技術は、言ってしまえば能力を使うまでの段階を数段階に分けて、詳しく説明したに過ぎない。いや、元々イマジンとはこういう段階を経て、能力を使用しているという仕組みなのだが……。誰もが気付いている通り、そんな順序や仕組みなど知らなくても、イマジネーターは能力を使えてしまう。使えてしまうが故に、イメージが分散し、特別強力な力が発揮されなかったり、思いもよらない暴走を引き起こしてしまったりなどがある。それを未然に防ぐために、学園では能力に制限をかけ、ゆっくりと技術を知る機会を与えているわけだ。

 そしてこの技術。全てを正しくマスターしてしまえば、登録した能力外の能力を“使用可能”にしてしまうほど、重要な技術でもある。いや、ソレこそが“基礎”。全ての能力の基盤となる物。

 しかし、この技術。能力の発動と違い、基礎技術一つ一つを実際に試みようとしても、難易度が高く、中々うまく使うことができない。精々一年生の間では【真言】に至れれば早い方だとされている。

 だが、この時菫は【真言】を通り越し、【曼荼羅】の【開式】に至っていた。

 通常、人体の強化は、肉体に強化の減少を与えるため、【曼荼羅】の【閉式】によって、内側に効果を発揮させるものなのだが、今の菫は、無意識に『強化再現』を【開式】で使用していたのだ。つまり、肉体の強化を通常の強化再現(閉式)と同時に【曼荼羅・開式】で、外と内から同時に強化を行っている状況にあったのだ。

 この技術は本来、二年生だけがいたることのできるとされる、特別な段階、『第六段階』とされる特殊技法であり、本来なら、ここで目に見えた変化が劇的に起こるのだが……、菫には、周囲にイマジンの粒子が渦巻いていること以外に変化はなかった。

 そう、惜しいかな、その技術を使用するに、菫はあまりにも早すぎたのだ。

 危機に陥った時、人は火事場の馬鹿力よろしく、思いの強さなどによって、思いがけない力を発揮し、漫画の主人公のような『覚醒』状態を発揮することがある。理想を体現するイマジネーターであれば、よく見られる現象であり、こういう形でレベルアップを果たす生徒も、決して少なくはない。

 だが、残念ながら、その『覚醒』と言うのは、皆が印象に残すほど都合の良いものではない。『覚醒』とはすなわち、潜在能力の発露に過ぎず、要するに力を引っ張り上げるための“下積み”がなければならない。血の滲むような訓練、必死に頭に焼き付けた知識、そういった過去の努力の積み重ねをまとめ上げ、一点突破で突き上がる。それが『覚醒』と言われるものの正体だ。

 今の菫は、まさしく『覚醒』と言われる現象の真っただ中にある。惜しまれるのは、それが本物の『覚醒』に至るほどの“下積み”が足りていないということだ。発言した力は中途半端であり、敗北寸前だった菫に、もう一度だけ戦えるチャンスを与えるのが精いっぱい。とてもではないが、急にとんでもなく強くなったなどの、パワーアップ現象には程遠い。

 いや、むしろそれが当たり前なのだろう。いくら成長が早いイマジネーターと言えど、まだ一ヵ月も経っていない段階で、そんな異常な段階にレベルアップするなど、土台無理な話と言う物だ。

 早すぎた『覚醒』の機会に、菫はパワーアップよりも『復活』と言う、再戦の機会を得るにとどめた。これはそういう話だった。

 

 そうとは知らず、菫も正純も、今起こっている現象に説明がつけられず、多少の戸惑いを見せてい。

 っとは言え、さすがはイマジネーター。解らないことにいつまでも悩まず、すぐに頭を切り替えると、互いに視線を交し合う。

 次の瞬間には、ゴングの無い最終ラウンドに突撃していた!

 

 4

 

 『復活』を果たした菫であったが、それは、自身のステータスを上昇させたというわけではなかった。分かり易くゲーム的な言い方をすると、一時的にHP(体力)の絶対値を上昇させたのと同じ状況にある。

 だから菫の速度が飛びぬけて速くなったとか、尋常ならざる力を発揮したとか、そういう現象は起きていない。無論、受けたダメージもそのままなら、疲労も回復していない。ただ単にそれでも頑張れば体を動かせそうだと感じている程度の話だ。つまり、これは単純に仕切り直しと言うことでしかない。

 そんなことはお構いなしに、菫は飛び上がり、剣を操作し再び空中戦を演じ、落下中の正純へと肉薄する。『蟹座』の効果がまだ解けていないので、肩を前面に出して体当たりでもするような動作で“横跳び”することになっているが、飛び回るだけなので、むしろ空中戦の方がやり易いようだ。

 対して正純も『水瓶座』と『魚座』の併用で足場を作り、津波に乗って移動し始める。そしてもちろん、『天体観測』により、菫の剣の位置を把握し、『射手座』による撃墜を開始した。

 正純の手に表れた『♐』の紋章から光の矢が飛び出し、目標を設定された剣群に向かって飛来する。矢の速度と、菫の能力で操作する剣の反応速度からして、これらに対処することはずっとできていなかった。故に、この時点で観客を含める誰もが、振出しに戻る光景を思い浮かべてしまった。

 だが、そうはならなかった。矢が命中する寸前、剣群はくるりっと身を翻し、己の刃によって向かってきた射手座の矢を迎撃して見せた。それも一本や二本ではない。菫が操作する剣群八本、その全てがまるで己の意志があるかのように動き、一波、二波、と放たれた全ての矢を叩き落として見せる。

「……なぁっ!?」

 今までになかった現象に、さすがの正純も驚愕を禁じ得ない。いったい何が起こったというのか、混乱している内に菫は猛スピードで迫り、正純の正面にまで躍り出ている。あまりの速さに戸惑いつつ、魚座の恩恵で素早く水の中に逃れる。

(いったい何が起こったって言うんだ!? 飛び抜けて能力が成長したようには見えない! なのにどうしてこんなにも対応力が上がっているんだっ!?)

 混乱の間際、水中移動していた正純の視界が突然開けた。菫の操る三本の剣が『糸切り』を行い、水を両断したのだ。再び空中に投げ出された正純に対し、菫が直接大上段から斬りかかる。

「『羊』! 『天秤』!」

 片手を突き出し、『羊座』と『天秤座』を即発動し、一撃を受け止める。甲高い音が鳴って菫の刃が弾き返された。

 逆の手を反対側に突き出し、『射手座』を射出。『天体観測』で捉えている菫と、集まりつつある八本の剣全てを標的に放たれる。矢は『射手座』の特性に従い、目標に向けてそれぞれ追尾をはじめ、爆発した花火の様に散り散りとなって飛来する。

「……んああぁっ!」

 それを察知した菫は、『牡羊座』の盾を踏みつけ、足場にすると、体を回転させつつ剣を振るい、飛来した矢を切り裂く。菫に向かっていた三本の矢と同時に、それぞれ八本の剣を狙っていた矢全てが、狙っていた剣に返り討ちに合い、切り裂かれる。更に猛攻止まらず。剣群が集い、四方から正純を狙い、正純が矢を放つために作った隙間に飛び込むようにして剣を突き出してくる。

 無数の剣に曝され、さすがに対応できないと悟り、楯を解除。山羊の脚力で菫の剣を受け止めつつ、逆にその勢いを利用して飛び退く。空中で『獅子座』を呼び出し襲わせるが、菫は剣すら使わず、その場でくるりと前転。獅子の頭に強烈な踵落としを決めて地上に落下させた。

(さすがに空中で『獅子座』を使っても効果はないか……)

 元々時間稼ぎのつもりではあったが、まさか剣すら使われなかったとは、これには苦虫をかんだような表情になってしまう。()いで気付く。菫の目が、若干輝いているように見えることに。

「! そう言う事かよ……! なんで気付かなかったんだっ!?」

 その事実に気づいた正純は、自分の迂闊さに歯噛みし、思わず憤りをあらわにした。

 何のことはない。菫が使っているのは、イマジン基礎技術『見鬼(けんき)』。その効果は、視覚以外で感じている情報を視覚情報としてまとめると言う物だ。

 『見鬼』は、決して見えないものが見えるようになるわけではない。視覚以外で感じ取っている物を、視覚情報として整理し直しているだけにすぎない。だが仮に、菫が正純の(射手座)を、視覚以外のところで―――例えば音、例えばイマジン粒子、例えば空気の振動、耳、肌、六感、どれか一つでもいい、感じ取ることができていれば、それは菫にとって“見えている物”になる。それが『見鬼』の効果だ。

(油断した……っ! 『天体観測』で俯瞰した視界を得ている自分がなぜこれを予想していなかったんだ!? 別に目に頼る必要はない。見えないなら、目以外の情報に頼ればいいだけの事じゃないか! くっそ……! 『星の痣』のデメリットで視力を失っていなければ、すぐに分かったことなのに……! 俯瞰した視界じゃ、広い範囲は見渡せても、小さく細かい変化までは気が回らない! 『星の痣』のデメリットさえなければ……っ!)

 自分で設定したデメリットに足を引っ張られた。そう感じた瞬間、その矮小な考え方に、正純は瞬時に首を横に振った。

(いや違う。このデメリットを設定しているおかげで、俺は『黄道十二宮招来』の星霊間魔術を全て使えるんだ。デメリットがデメリットになることくらいは承知の上だっただろう!)

 デメリットを設定したのは、その見返りとなるメリットを得るためだ。そして、デメリットの危険性を考え、それを補うための技能も新たに取得した。無理となった結果はしょせん起きた後の結果論でしかない。

(別に致命的なミスに繋がったわけじゃないだろう! しっかりしろよ小金井正純? お前はまだ! 戦っているんだっ!)

 正純は矢を放つ。もはや後先など考えない。事、ここに至って全力を出し尽くさない方が悪手だ。マシンガンの如く連続で放たれる射手座の矢は、全ての狙いが菫へと向かい殺到する。さすがにこれほどの連射となると、正純の中で練り上げたイマジンが枯渇し、すぐに弾切れを起こすが、そんなことは構うつもりはない。この一撃で倒すつもりだと言わんばかりの猛攻だ。

 しかし、それらは全て菫には届かない。正純の矢の全てを空間事把握し、それを計算して迎撃するなど、Aクラスの菫にとってしてみれば、容易い芸当だ。今までは見えないが故に、対処できず、必死に“対処”する方法にばかり思考がとられていた。だが、今や正純の矢は、菫の目には一本残らず把握されている。見えているのなら行動に移すのは容易だ、何しろAクラスと言う集団は、皆が皆、常識はずれの天才集団だ。計算の分野なら、途中式を無視して答えを算出してしまうような異様な人種だ。解っている物の対処など、もはや片手間に等しい。

 全ての剣を操り、八本の剣で次々と矢を叩き落とし、足場を作り、時には自ら迎撃も加えながら、矢の雨の中を、流星と見紛う閃きの中を突き進む。途中、何本か、剣の強度が限界を迎え、折れてしまったモノもあったが、その都度、菫が生徒手帳から予備の剣を補充するのでやはり隙はない。

 流星をいとも容易く抜け、肉薄する菫。

 正純は咄嗟に花形に揃う射手座の星(ディバイン・サジタリウス)を発動しようとするが、接近された時点で既に菫に軍配が上がる。

「あああああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 体を回転させ、遠心力を加えた剣激が、袈裟懸けに斬り降ろされる。咄嗟に『強化再現』で両腕の耐久を最大まで強化し、クロスして受け止める。幸い『糸切り』を併用する余裕まではなかったようだが、衝撃に吹き飛ばされた正純は、そのまま地面に向かって叩き落されてしまった。

 さらなる菫の追撃。剣を足場に物凄い勢いで急降下。体を回転させながらの斬り付けが、今度は『糸切り』で振り下ろされる。

「……くぉんのっ!!」

 声が淀みながらも、必死に上体を起こし、何とか立ち上がりつつ僅かに仰け反る。

 ズドンッ! っと言う衝撃がすぐ目の前で炸裂した。

 躱したっ!? 紙一重の領域でそう悟った事に安堵する暇もなく、蟹座の影響で前進できない菫が、まるで剣舞でも舞うかのように回転しながら、さらなる追撃の一撃を放ってくる。今度は躱す暇などない。

「『劣化再現』『牡羊』!!」

 『劣化再現』により、小規模展開された牡羊の盾が、正純の右腕にスモールシールドの様に装着される。無論、このままで菫の『糸切り』を受け止めることはできない、実際に盾に接触した刃は、紙切れのように盾を切り裂き、両断しようとしていく。

「あああああーーーーーーっ!!!」

 裂帛の気合を乗せ、腕を振るい抜く。盾が両断され、右腕を切り裂かれ、少なくない血を流すことになった。だが、渾身の力で押し返した刃は、狙いを逸らされ、正純から外れる。

 すかさず左の手を広げ、更に魔術を発動する。

「『劣化』!『獅子』!」

 呪文は短縮し、獅子の頭だけを手を包むように召喚し、獅子座の出現と牡牛の膂力(りょりょく)を纏めて乗せて打ち出す。

 正純の反撃に、咄嗟に上体を逸らし、獅子の牙から逃れようとする菫。しかし足りない。僅かな差が、菫の喉元に獣の牙を届かせる。

「……んあっ!?」

 そうはさせまいと、短い声を上げつつ正純の左手を蹴り上げる菫。攻撃が上方にズレ、狙いが外れる。すかさず後転する様に回転し態勢を立て直そうとする菫に―――、

「『射手』!! 『蠍』!!」

 傷ついていることなど知った事ではないと言わんばかりに振りぬいた右手に、射手座の矢が灯り、加えて蠍の毒を乗せて放たれる。

 その一撃は菫の左肩に命中し、血飛沫と共に彼女を吹き飛ばす。接近戦において、苦手とする正純が菫に打ち勝った! そう観客が歓声を上げようとした瞬間、菫の手にする剣が弾丸の如く射出される。

「その程度……っ!」

 予想できていた反撃に横跳びに逃げようとした正純を―――、剣は、まるで見えない誰かに握られているかのような軌道で易々と正純の左足を深く切り裂いた。

「ぐああああああぁぁぁ……っ!!」

 この試合で初めて感じる痛烈な一撃。さすがに斬られたという痛みに耐えかね、声を上げてしまう。地面を転がり、踏ん張りがきかなくなった足を庇いつつ、それでも正純は召喚した獅子座に縋りながらも立ち上がる。

 一方の菫は、同じく何とか立ち上がろうと足に力を込めたが、その足がカクンッ、と突然力を失ったように折れてしまう。『蠍』の毒が回り、肉体的な弱体化が引き起こされている。

 菫は地面に手を付き、必死に歯を食いしばるが立ち上がれない様子だ。ここで決めるべきだ! 咄嗟に判断した正純が獅子の力で投げ飛ばしてもらい、山羊と牡牛の二つを全力で込めた踵落とし見舞う。

「『糸巻き(カスタマイズ)』……! 24重(、、、)……っ!!」

 振り落とされた踵に、菫の剣が音を立てて受け止める。

「24から……っ! 28重(、、、)っ!!」

 さらなる強化。本来、今の菫では、身体強化能力『糸巻き(カスタマイズ)』を8重に重ねるのが限界だったそれを、自分でも良く解らない『復活』状態の恩恵に任せて無理矢理上書きする。

 急激な強化に、さすがの正純も弾き飛ばされ地面を転がってしまう。

 菫はよろめきながらも立ち上がり、しっかりと剣を構える。

「この……っ! しつこいぞっ!」

 正純が再び矢を放ち、菫はそれを剣群で迎撃しながら突貫していく。

 

 

 「はっ! これは驚いた! 止まらぬ。もはや止まらぬぞ! 奴は!」

 観戦していたオジマンディアスは歓喜を含んだ声で叫ぶ。

「僅かにしか絞れぬ力を、無理矢理強化の恩恵に任せて弾き返しよった! 恐らくは立っている事さえ強化の恩恵無しでは叶わんだろうに。いや、それほどの執念。もはや奴は、毒などで止まるようなものではない! 止めたければ、息の根を止めるしかないぞ!」

 オジマンディアスの評価は正しかった。押し返し始めているように見えて、菫の劣勢は変わっていない。先程から彼女の体は毒によって継続的な弱体化を余儀なくされている。それは『復活』を果たしたところで治ったわけではない。菫は敗北のタイムリミットに少しだけ時間を加算しただけにすぎない。

 だというのに、菫の気迫は衰えるどころが、炎のように爛々と輝いていた。

「誤算だったな『黒の英知(グリモワール)』? 貴様の手ずから育てた男とは言え、あの程度の小細工ではどうにもできんよ?」

 言われた詠子だが、今はあまり余裕がなかった。正純が優勢とは言え、確実に押され始めているのだと悟り、()()()()()()()()()()()からだ。

 だが、その辺を根性で隠しつつ、詠子は不敵な笑みを浮かべる。

「かような心配など不要。あの星の魔術師が、この程度の逆境で終わるはずがない。それに……、あやつにはまだ、“アレ”が残っている」

「ほう……? まだ奥の手を隠し持っているというかっ!」

 興味深そうに笑うオジマンディアス。プリメーラは相変わらず興味無さげではあるが、それでも視線は戦況を観察し続ける。サルナもまた、真剣な表情で戦いの行く末を見届けていた。

 

 

 菫が持っている剣に『剣弾操作(ソードバレット)』を使用し、神速の勢いで迫る。地上なら前後移動できないと思っていた正純だが、菫はあの手この手で移動制限の隙間を縫ってくる。むしろ、前後の運動ができないため、自然と移動に回転が加わりやすくなり、まるで剣舞でも踊っているかのような動きになっている。それが不規則な動きとなり、攻撃の予想がつけにくくしていた。

「よくもこんな土壇場で次から次へと対応して見せるよ!」

 双子座で分身し、『水瓶』『獅子』『射手』を同時に操り、絶え間ない弾幕を張る。分身を自分から離して、囮に使うのも忘れない。攻撃の手数が倍になり、まるで戦場かと見紛う破壊の雨が降り注ぐ。

 だが、菫は止まらない。剣を振るい、操作し、次から次へと攻撃の全てを切り伏せ、信じられない速度で空中を駆けまわり、あっさり囮に使っていた『双子座』を切り伏せてしまった。

「これは違う……っ! そっちが本物っ!」

 『剣弾操作(ソードバレット)』で飛び出す菫。

 正純は咄嗟に『射手座』の矢を七つ纏めて、一つの矢として撃ち出す。強力な一撃が菫の剣と激突して、刃を折った。が、それに喜ぶ暇もなく『繰糸(マリオネット)』で操作された剣が代わりとなって菫の手に収まる。減った分の剣はまた生徒手帳から補充される。

「何本持ってんだよ! 大盤振る舞いだなっ!?」

 さすがに悪態を吐きながら水瓶の激流を放つ。

 菫はその津波を剣で―――斬ることなく脇をすり抜け、激流の陰に隠れるようにして接近。見事に正純の懐に入り込んだ。

「うっそだろ……っ!?」

 慄く正純へと剣が乱舞する。舞うように回転を何度も加え、次から次へと一閃が引かれる。

 さすがに数太刀、決して浅くはない傷をもらってしまいながらも、正純は必死の形相で射手座の矢弾(しだん)を地面にたたきつけた。

 巻き起こる爆風に乗り、上空高くに逃れる。地上に立ち、八本の剣を従える菫を睥睨し、正純は決意を固める。

「こいつだけは決勝に取っておくつもりだったが……、そう言ってられないよなっ!」

 『天体観測』には、もう一つの隠された能力がある。それはデメリット効果でしかない『星の痣』の力を、開放するための役割だ。『天体観測』を使用している状況下で、黄道十二星座全ての『星の痣』を刻んでいる時、彼は最大にして最強の“必殺技”を放てる。

「“我が身に刻まれし十二宮の刻印 この身の呪縛より解き放たれ 今こそその力を現せっ!!”」

 刹那、正純の全身に刻まれた『星の痣』全てが輝きを放ち、正純の全身を包む。その光はイマジンが変換された魔術の光。星の輝き。流星の閃光。光は爆発的に広がり、質量を持っているかのように周囲に風を巻き起こす。常人では立っている事さえ困難な強風が吹き荒れ、菫によって両断されていた水が、更に押し返されて広がる。

 纏う輝きはさらに強さを増し、まるでそれに呼応するように、空が闇に覆われていく。真昼の日が闇に隠れ、夜闇となった空に輝きが灯る。一つ二つではない、いくつもいくつも現れる輝きは、やがて十二の星座を空に刻む。星座の星が、光の戦を放ち、それぞれの形に結ばれる。星座一つ一つが輝きを灯し、その淡い光が柱となって正純へと降り注ぐ。

 輝きの力なのか、既に空中で静止状態にある正純は、手を掲げると、自分の背に巨大な魔方陣を形成する。

 

【挿絵表示】

 

 それは黄道十二宮の全てを現す星座の紋章。それは巨大に、巨大に、巨大に空を埋め尽くし、まるで湖さえも超える壁となろうとしていた。魔方陣のあっちこっちに、真っ白な光が灯り、それらは複数個所で収束していき、巨大な光弾をいくつも作り出していく。あれら全てが砲撃に使用される。それを悟った誰もが、その破壊の規模を想像してしまい、絶句する。空一面に広がる魔方陣、その範囲全てを攻撃対象とするのなら、アレは一体どれだけの範囲を破壊しつくすというのだろうか……?

 それと向かい合う菫は、絶句する観客以上のプレッシャーを感じ取っていた。なぜなら、あの輝く紋章に神格(、、)の気配を感じていたからだ。

 

 

神秘学(オキュルティスム)における、黄道十二宮……ッ!? 天使の階級を持ち出したのですねっ!?」

 観戦していたカルラは、思わず立ち上がり、その事実に声を張り上げた。

 神秘学における黄道十二宮には、16世紀ドイツのオカルティスト、ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパによって関連付けられた12の天使が存在する。

 黄道十二宮には神獣、霊獣の類が存在する“宮”が存在し、それらを十二の“宮”を守護する天使が階級毎に当てはめられている。正純は、『星の痣』を開放することで、これらの存在を引っ張り出してきた。

 天使、つまり神格。魔術と言うレベルでしか力を発揮できなかった正純が、今、神格と言う領域を手にした。残念ながら、本来の『黄道十二宮』の主である、各星座の神獣・霊獣の力までは完全に開放するには至れなかったが、それをおいて余りあるほどに、今展開されている輝きは、圧倒的な力を見せつけている。

 

 

「はんっ! これよ! これこそが、奴が≪星霊の魔術師≫と呼ばれる所以(ゆえん)! 星々の輝きを代表する十二宮の座! その守護者達の加護を受け取り、魔術師として圧倒的な力を手にする! これを見て、奴こそが勝つと、何故言えぬというかっ!?」

 手を交差させて、ビシリッ! とポーズを決めた詠子が、まるで自分の事のようにはしゃぐ。それも無理からぬこと、この光景にはさすがのオジマンディアスも興奮に目を輝かせ、仏頂面を通していたプリメーラが上体を起こし、輝きを凝視する。菫贔屓に見えたサルナに至っては、圧倒されたかのように目を見開いていた。

(そうっ! 私と美冬を相手に、ついに勝利を収めて見せた切り札! これこそが、小金井正純の勝利の布石―――いや、勝利の烽火(ほうか)っっ!! その名を―――!)

 

十二宮の流星(コンステレイション・メテオール)―――ッッ!!!」

 高らかにその必殺の名を叫ぶ正純。それに呼応した輝きの流星―――、それは一瞬力を収束させ、次の瞬間には極太の光の柱を数多降り注ぐ。

 一本一本が必殺。それはもはや雨と呼称するには相応しくなく、文字通りの流星群となって菫を襲う。その輝きは、仮にジーク東郷の『ドラゴンボディ』を()ってしても防ぐことは叶わなかっただろう。

 空一面が光に包まれてしまったかのような光景に、菫は薄く笑みを漏らす。

「……これは、さすがに防ぐのは、ムリ……」

 嘗て、同じように神格の炎を相手に、『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で防ごうとしたことがあった。あの時は、相手が神格の使用に慣れていなかったおかげで助かったが、防御することができていなかった。もしあのまま続けられていたらと思うと、未だに冷や汗が流れる。

 眼前の流星は、あの時の比ではない。神格の柱をいくつも落とされているようなものだ。とても防ぎきれるものではない。

 

「だから、できることは一つ……だよね?」

 

 操剣と共に剣を構え、菫は正面から挑み出る!

 元より、防御不可の攻撃に、“防ぐ”などの選択肢などありはしない。

 元より、劣勢だったのは最初からずっと、フィールドが決定した時から続いていた。

 ならば今更、敗北の恐怖に絶望することもない。

 ただ勝利の可能性を望み!

 ただ勝利するために行動し!

 己が執念こそが勝利の道だと、勝手に決めつけ、邁進するのみ!

「生憎……、私にはもう、そんな隠し玉、ないよ? だから、私にできるのは……っ! 今持てる全てを、出し尽くすことだ、け……っ!!」

 飛ぶ!

 地を蹴り、剣の助けを借りて、絶対的な攻撃力を誇る光の奔流に向けて、正面から堂々と―――菫は八本の剣を従え、正面突破に躍り出る。

「『糸切り(イトキリ)』!!  『糸巻き(カスタマイズ)』多重……っ! 『九つに彩る装飾曲(ナイン・アラベスク)』!!!!!!」

 螺旋状に展開された剣群が全て『糸切り』で強化され、いかなる阻みも切り伏せる。

 互いに防御不可の攻撃。最強の矛と最強の矛のぶつかり合いが開始される。

 正純の流星は、いかなる守りも打ち砕く貫通性の効果を持つ砲撃系の攻撃。

 菫の剣群は、いかなる守りもイマジンの結びと判断し断ち切る切断系の攻撃。

 どちらの術式(イマジネート)にも攻撃手段に耐久値を上げるものではない。純粋な攻撃の徹底的強化タイプ。菫にとって、それはある意味功をそうしたというだろう。

 最初の光の柱が菫に衝突した時、その光の攻撃全ての恩恵を受ける前に、菫の剣が光を切り裂く。……っが、菫の剣も一撃を受けた瞬間に刃に激しい罅が奔り、次の瞬間には砕け散ってしまう。バラバラに砕けた剣の破片を背に、菫はさらに前進する。その前進が軌道に乗る前に、間髪入れずに二つ目の光が降り注ぐ。

 全身を取り囲む光の前に、菫の剣は一気に耐久力を削られ、同時に菫の剣もまた、光の柱を切断していく。互いの攻撃が攻撃力のみに特化しているが故に起こる現象。

 だが、ここでも劣勢を強いられているのは菫の方だ。打ち破られるとはいえ、正純の攻撃は砲撃。一発が打ち砕かれたのなら次のを撃てばいい。弾数こそ無限に等しい数を有した流星群。温存する意味もない以上、撃てるだけ撃ってしまうのが定石。

 対する菫は刃。剣の数は、自分が携えている物を合わせても九本。一撃から二撃あたりで一本の剣が砕け散り、菫を守護する力は失われる。失った剣を補充したいところだが、さすがに攻撃に曝されている間にそんな余裕を見せれば一瞬で呑み込まれる。見た目からは光の雨を刃で受けながら突進しているだけのように見えるが、この突進にも全神経を集中していて初めて叶っている状況だ。気を抜けば、それが同時に敗北へと繋がる。故に弾数は九本。その内三本の剣が、正純との距離を半ばまで詰めたところで犠牲となった。

 砲撃の数も尋常ではなく、同時に二つの柱が直撃する。あっさり二本の剣が犠牲となり、一本の剣に亀裂が走った。更にもう一本、押し返されて僅かに減速するものまで出る。

 残る剣は四本。菫は連続で『剣弾操作(ソードバレット)』を撃ち出し、さらなる加速を強制する。それを阻むように突き落とされる光の柱。避けようにも、極太の流星群全てを避け切る空中戦技術(マニューバ・テクニック)など持ち合わせてはいない。仮にできても、今はそんなところに気を回せる余裕もない。もとより突貫する覚悟で挑んだ。今更そんな器用な事など望む気もない。

 

「うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 

 菫の絶叫が、正純の雄叫びが、二つ重なり、それを爆音がかき消していく。

 光に呑まれるたびに砕けるのは、剣だけではない。一撃一撃、光に曝される度に、相殺しきれなかった流星の光が菫の身を焦がし、既に全身傷だらけになっている。それは、剣の数が減る事で、更に顕著になっていく。だが止まらない。もはや菫をこの程度の負傷で止めることはなど叶わない。そもそも肉体はとっくに蠍の毒で参ってしまい、動ける余力も残っていない。それをイマジンで無理矢理動かし、小さな力を能力で無理矢理強化しているのだ。死に体から放たれる死斬(しざん)の一撃。それに全てを託して、菫は飛ぶ。

 正純も、既にこの程度の負傷で落とせるなどと思い上がってはない。切り札を切った時点で、彼の中に疲労や負傷で勝つなんて考えは、完全に捨てきった。勝つからには完全に倒しきる。その覚悟をもって流星を撃ち出す。剣の数が減ることに勝利を抱かない。菫自身が負傷していても、それを勝機などとは感じない。菫本人が倒れ、リタイヤシステムによってこの場から消えない限り、自分に勝利は訪れないのだとはっきりと悟る。だから正純は撃ち続ける。接近され過ぎて、砲撃の恩恵を全て得られるずとも、そのいくつかは操作し、確実に菫に中てていく。

 必殺と必殺がぶつかり合い、ついに菫を守護していた剣が全て砕け落ちる。残るは彼女が手にする一本のみ。そして距離は―――正純に後一撃放てるチャンスのある最後の距離。

「これで……っっ!! どうだぁーーーーーーーっっっ!!!」

「ぶった切れぇぇーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」

 自分が巻き込まれる可能性も無視して、正純は五つの流星を菫に向けて同時に放つ。案の定、砲撃同士はぶつかり合い、衝撃波に正純本人も巻き込まれる。だが、菫に対する威力は絶大。その代償をおして余りあるほどの威力が彼女を晒し、全身に火傷が奔り、服はズタボロに裂かれ、剣に纏うイマジンが削り取られていく。

 この時、勝敗を分ける要因が一つ発生する。それは、イマジン変色ステータスだ。まったく同レベルの力がぶつかり合った時、その勝敗を分けるのは変色ステータスに依存される。

 正純の流星は、『イマジネーション300』と『魔術400』、更に『属性攻撃力150』も追加される。その合計値は『850』。

 対する菫は『イマジネーション230』『物理攻撃力200』『剣術70』と言う風になる。この合計値は『500』。350も足らない。

 菫は正純と違い、自らが突進することで更に『身体能力308』『属性耐久5』も追加できるのだが、それでも合計値は『813』、僅かに届かない……。

 剣が砕け散り、押し負けた菫は光の奔流に曝されることとなる。折れた剣の切っ先を視界に捉えながら、菫は刹那の間に思考する。いや、それは思考と言うほど考えている物ではない。後になってみれば、自分はいったい何をどう考えた末に、そんな結論に至ったのか解らないほど、刹那の間に思考能力だけが高速で働きかけていた。

 そう、それは偶然ではない。ましてはご都合展開におけるトンデモでもない。

 菫はちゃんと持っていたのだ。この状況下において、ここで終わらないための最後の一手。そして、伏線もすでにあった。東雲カグヤとの対戦中に発揮された『予測再現』の一つ―――。

 瞬間、世界が一瞬停止したような錯覚を受け、まるでそれが本当に錯覚であったかのように動き出す。

 しかし、菫はその時には既に動き、僅かに身を逸らし、イマジンを集中させた左腕を盾にするように構える。光に曝され、左腕が焼き切られる中、その衝撃を利用し、僅かに上方に弾かれる。結果、左腕一本の犠牲の代わり、菫はこの必死の状況に生き残って見せた。

 菫のイマジン変色体ステータス『見切り100』が追加され、合計値が『913』の扱いとなった。数値的に上回ったことで、元々素養のあった『予測再現』の一つを、このタイミングで発動することに成功した。思考をすっ飛ばし、『直感再現』の重ね掛けで直感を加速させることで答えだけを強制的に引っ張り出す基礎技術。『回答再現(アンサー)』。菫はこれに助けられた。

 衝撃で体が回転し、もみくちゃになる中、必死に自由な右腕を、慣性の法則に逆らうようにして懐へと伸ばす。新しい剣を取り出すためだ。腕を伸ばしつつ、菫の視界が正純を捉える。

 

 正純が翳す手に、流星が集っていた。

 

 菫に『回答再現(アンサー)』があったように、正純にも『直感再現』があった。本来性能としては菫の再現の方が上位の技術だ。実際、それでカグヤは菫との戦いに敗れた。だが、今回は事情が異なる。菫は圧倒的な窮地に立たされ、状況的には正純に勝利が目前だった。

 故に菫の『回答再現(アンサー)』が先に発動し、ソレに触発されるように正純の『直感再現』が働いたという仕組みだ。

「これで……っ! 俺の勝ちだっ!!」

 菫の手に剣は現れない。そもそも懐の生徒手帳に手が届いてない。完全に出遅れ、間に合わない。

 光の奔流が迫る。菫の『直感再現』が瞬時に発動し―――理解する。

(ああ……、間に合わない、か……)

 悔しさはなく、ただの理解のもと、菫は表情から力を抜き去った。

 それを目にしながら、正純は手に集わせた流星を撃ち出す!

 

 ドザバンッ!!

 

 鮮血が飛び散る。全身を傷つけられ、確実に急所にも負傷し、致命的な負傷を得た。

 光が弾け飛び、流星は星の粉となって宙に霧散する。

 空中で態勢を保てなくなり、正純(、、)の体が揺らいだ。

(………。……え?)

 一瞬、何が起こったのかを理解できず、再び体を激痛が襲ったことで、ようやっと現実に思考が追いついた。

(なんだ……っ!?)

 完全に空中でバランスを崩した正純が目にしたのは、菫の周囲を飛び回る謎の物体。

(いや、アレは……っ!?)

 それは小さな刃。殆ど状態を保てず、砕け散ってしまった剣の破片(、、、、)、その切っ先(、、、)。もはや5㎝ほどしか残っていない剣の切っ先が、菫の陰から出現し、正純を切り刻み、更に旋回して菫の元に戻るついでに再び切り裂いていったのだ。

 正純は口の端を歪め、落下を始める中で菫に笑いかける。

「……お前、そんなになっても、操れるのかよ……?」

「私が、剣を操るイメージ、は……、“剣”そのもの、を、対象に操ってるんじゃなくて……、イマジンの糸を伸ばして、有線で操ってる。そんなイメージだから……」

 無事な右手を掲げ、その手に刃の切っ先だけを集めた菫は、落下速度が上がり始める中、乏しい表情の中で、僅かに微笑んで見せる。

「操る上で、剣の形状は……、あんまり重要じゃない、よ……?」

 振り被る。八本の剣の切っ先を手に集め、最後の一撃とばかりに構える。

十二宮の流星(コンステレイション・メテオール)に砕かれた剣を、操作から外さず、切っ先だけ維持して自分の体の陰に隠していたのか……。なるどな、さすがにあれだけコンパクトになって、菫自身の体で隠されていたんじゃ、『天体観測』でも感知できないわけだ……。ちくしょう、言っても仕方ないとは解っていても、自分の視界が残っていれば、気付けたかもしれないのに……)

 悔しさを口の端に浮かべ、正純は歯噛みする。

 彼女に接近を許してはいけなかった。だから全力で砲撃に集中した。

 一朝一夕では倒せそうになかった。だから切り札まで使って迎撃した。

 それでもなお、八束菫はここまでくらいついてきた。

(完敗だ……、やっぱ()ぇな、Aクラス……)

 正純は全身をひねり、態勢を立て直すと、その手に『♐』の紋章を輝かせた。

「それでも……っ! 俺にだって、執念があるんだよ……っっっ!!!」

 菫は動揺しない。とっくの昔に、こうなるだろう可能性は考慮していた。

 正純は迷わない。菫が揺らがないのは、ずっと見せつけられていた光景だ。

 二人は、今度こそ最後の一撃を同時に放つ。

花形に揃う射手座の星(ディバイン・サジタリウス)!!」

八剣小即興曲(インベンション・エッジ)!!」

 互いに手の中で集わせた最後の一撃。

 同時に放たれ、衝突し合い、イマジンエネルギー同士の激しい接触が臨界を超え、爆発を起こした。

 イマジン粒子が起こした爆発により、薄緑色の煙が立ち込める。小さな煙の中に隠され、二人の行く末が確認できない。観客が、審査員が、実況席が、誰もが視線を集中させ、二人の行方を捜す。

 やがて煙が薄まっていく中、一つのシルエットが見え始める。

「あそこ……っ!」

 誰かの声がかけられ、全員の視線がそれを捉える。

 人影は一つ。ボロボロの様相を纏った少女の姿。しかし、正純も女性的な綺麗な顔立ち。まだ判別できず、皆が息をのむ中、それが少年の物であることが次第にはっきりしていく。

「………っ!!」

 思わず息を呑み、口の端に喜色を浮かべる詠子。

 しかし、それは次の瞬間には失われた。

 

『け、煙が晴れました! これは……っ!? ………小金井正純選手―――っを、片手で抱き留めている八束菫選手ですっ!!』

 

 新しく出した剣を足場に、八束菫は、気を失っている正純を右腕一本で何とか支えながら、その存在をもって証明した。

 

『小金井正純選手は……完全に意識喪失……! 審判席にいる教師陣の判断は“再起不能”……! つまりこの瞬間、八束菫選手の勝利が決定しました~~~~~~~~~っっっ!!!!!』

 

 ワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッっっ!!!!!!!!!!!!!!!

 

 試合会場全てを激震させるほどの大歓声が上がる。演出効果なのか、それとも観客達が用意していた物なのか、大量の紙吹雪が会場に舞い散る。

 勝利アナウンスを耳にした菫は、フィールドが揺らめきと共に消滅していくのを虚ろな目で見つめ、完全に空間が戻ると同時に意識を失い、落下した。

「おっと、危ない」

 落下しかけた二人を片手ずつでしっかり抱きかかえたのは、治癒系を専門としている女性教師、≪鉄血の白衣≫マザーナインであった。さすがは教師であり、能力的に空中浮遊などできるはずもないのに、何らかの基礎技術を用いて空を浮いていた。

「まったく……、八束さん無茶をし過ぎですね。毒を受けた体でここまで無茶を通すなんて、さすがに褒められた行為じゃありませんよ? あとできつく折檻です」

 そう言いながら、片頬を膨らませて、ぷんっぷんっと、可愛らしく怒って見せる。しかし、次の瞬間には慈愛に満ちた瞳で、二人の生徒を見つめる。

「でも……、お二人とも、最後まで立派に頑張りましたね」

 治癒術師として、怪我をすること、無理をすることを怒る彼女だが、同時に教師として、彼ら二人の雄姿を褒め称えるのであった。

 

 

 5

 

 

 焔山(えんざん)、あるいは焔山(ほむらやま)と呼ばれるこの地には、本物の神様が存在する。それが猛姫ノ神であり、彼女をまつる神社は一つしか存在していない。最新の神として存在する彼女は、この焔山に於いてのみ、多大な信仰を受けている。

 そんな彼女にとって、この焔山こそが家であり、その領域内であれば、その辺の道端で寝る事さえおかしいと思ってはいない(さすがに、それは廊下で寝るのと同じ感覚ではあるらしいので、本気でやろうと思ったことはないらしい)。

 それでも、お気に入りの場所、自分の家の中でもっと狭い自分だけのテリトリーとして定めているのが、自分を祀っている神社、悲姫埜神(ひめのかみ)神社である。その奥、“奥の間”と言われる特別な場所が存在し、そこには限られた人間しか入ることが許されていない“間”が存在する。そこは本来、あまり人前に姿を見せない猛姫が、頻繁に訪れ、巫女や神職者達と語らうことを許している場所であり、何より、自分の子で津崎(つざき)(たける)と家族として接するために設けた場所でもあるわけだが……、

「貴様……、誰がここまで入っていいと言った……?」

 額にこれでもかと言うほど不機嫌マークを表している猛姫に対し、勝手に入り込んで、勝手にくつろぎ始めている闖入者に、無駄と分かりつつも我慢できなかったらしい声音で質問する。

 問われた青年、斎紫(いつむらさき)(かえで)は、カラカラと笑い飛ばしながら、畳の上に胡坐をかき、軽く膝を叩いて見せる。

「その反応が見たかったっ!!」

「ぶっ殺す……っ!」

 無茶苦茶煽られ、本気でキレた神が、その権能を全力で振るってでも天罰を与えてやろうとする猛姫。来客を含め、お世話をするために進んで集っていた巫女達が、神の逆鱗が降り注ごうとする姿に、この世の終わりを目前にしたような絶望に襲われ、部屋の隅に集まり身を寄せ合って震えていた。その中には、彼女の息子であるはずの猛の姿があり、そのお側役である小太刀を持った少女が、彼を守るために悲壮に満ちた表情で抱きしめ、自分の身を挺して守ろうとしていた。

 そんな恐怖一色に染め上げられている中で、平然とお茶を汲んでいる巫女が一人、御茶を()てながら細い声で宥めに入る。

「そんなに御怒りにならないでください。このお方はそもそも存在自体がこう言う方です。いちいち気にしていては、胃が持ちませんよ?」

 可愛らしく小首を傾げ宥めるのは、黒くて長い髪を持った小柄な女性。見た目は若く、とても小柄で、知らない者がみれば中学生の高学年か、発育の悪い高校生かと見紛う華奢さだ。

「楓部長も、昔とは違って猛姫も立場と言う物があり、それを(まっと)うしていらっしゃいます。他の巫女達もいる中では弁えてください」

 女性は点てた御茶を猛姫に渡した後、楓にも御茶を差し出しながら窘める。

「これは悪いね♪」

 まったく悪びれもしない態度でお茶を受け取った楓は、胡坐をかいたまま、手つきだけは立派な茶道に則って御茶を啜る。もちろん音を立てるような無粋はしない。

 猛姫も、御茶はすぐに傷んでしまうと知っているので、片手で(あお)って一気に飲み干す。

 それで人心地付いたのか、猛姫は鋭い視線を女性の方へと向ける。

「奥に引っ込んでるように伝えたはずだが? (なぎ)?」

「猛さんはちゃんと伝言を伝えてくださいましたよ。ですけど、元部長が相手では、二人だけで穏便に、っとはいかないでしょう?」

 にっこりと微笑む女性。見た目は間違いなく幼いのに、纏う雰囲気は妙齢の女性のそれを感じさせる。柔和で温和、それでいて大きく感じる存在感には圧迫感はなく、包容力を感じさせる。怒りに対して容赦のない猛姫に対して、相性の良い緩衝剤のようなオーラの持ち主だ。

「いや~~~っ! あの純粋無垢にして、猪突猛進! 無知にして直球の薙特派員が、こんなにも包容力溢れる女性になるとはっ!! これも、私の教育の賜物だね!」

 それを正面からぶっ壊しにかかるのが斎紫楓と言う男。誰もがそれを思い知らされた気分で顔を青ざめた。

 巫女達の中には、「薙様がいらっしゃるのなら大丈夫……」「薙様が仲介してくれる限り、猛姫様の怒りを受けることはないはず……」っと、絶対の安心感を抱く相手なのだが、この楓と言う男のぶっこみ具合に、ずっと緊張させられっぱなしである。

「楓部長……、昔のことを言うのはやめてください。これでも薙は大人になるため、日々努力した結果で―――」

「草薙特派員との馴れ初めを思い出すと、どうしてこっちに傾いた? っと、未だにこの話題を振り返りたくなるほどだと!」

「そ、そそ……っ! そちらの話は、よろしいでありましょう~~~っっ⁉////////」

 包容力溢れる女性が、突然雰囲気を壊して慌て始める。まるでまだ若い少女が羞恥に頬を染めて慌てるかのような動揺ぶりに、むしろ巫女達の方が動揺を露わにしていた。

「おいっ、楓……? お前、薙の昔の男の話をするために来たんだったのか……っ?」

 どうやらこの話題が鬼門だったらしい猛姫が、盛大にドス黒いオーラを放ち始めたのだが、楓はからからと笑った後、真剣な表情になる。

「ぶっちゃけ違ったけど、薙()特派員の昔通りの反応見てたら、もうこっちでもいいかと思えぶおばぁーーーっっ⁉」

 最後まで言い切る前に、楓は薙と猛姫、二人の居合切りを同時に受けて吹き飛んだ。障子を破って庭に出て、それでも収まらない勢いに押されて空の彼方にまで吹き飛び……そのまま星となって光った。

「良き男を失った……っ!」

 そしていつの間に戻ってきて、空の彼方に向かって拳を握りながら涙を浮かべていた。

 もう、何から何まで無茶苦茶な存在に、巫女達の中に訳も分からず発狂し出すものまで現れ始めた。中には年甲斐もなく漏らしてしまったり、幼児退行化して泣き叫んだり、猛姫を称える祝詞を祈るように唱え始めた者までいる。それでも逃げだしたりしない辺りは、やはり彼女に仕える巫女としての意識故だろう。

「……っで? 本気で何しにきやがったこの存在自体が異常現象眼鏡野郎……っ?」

 もはや怒りが突破して雑になっている猛姫はとっても切れ味の鋭そうな刀を、片手で無造作に振るい、楓の頭を叩き続ける。薙の方は、直接攻撃は無駄だと悟ったのか、ちょっとだけ不思議そうな表情を楓に向けつつ、猛姫の背後に陣取る。彼女の背に隠れるというより、元々そこが彼女の定位置であるかのように自然な立ち位置だ。

 楓は頭を刀で殴られても、カンカンと音を鳴らし、結構激しく血飛沫を上げるだけで平気な顔で笑っている。

「いやいやすまない、久しぶりに旧友と会話するものでね? つい、本題よりもそっちを優先してしまった!」

「俺は、お前とは世間話するのも本気で嫌なんだが……? おまけになんだこの異常性に輪をかけた仕様は? 殺せないとかもう、性質(たち)悪いとか言う問題ですまされないだろ?」

 本気で嫌っているらしい猛姫は、冗談抜きで刀をぶっさしているのだが、激しく血が出る割に効いてる感じがしない。完全なギャグ補正による無敵状態にあるらしい。それは、猛姫により完全に支配されている土地では異常であり、仮にイマジネーターであっても、ここまで領域の深くにまで入り込まれて、無敵を継続できていることが不可思議であった。これはもう、“異常”と言うレベルではない。同じ世界の法則に存在しているという考え自体が間違っていると判断できる。つまり―――、

「もう建前はいい。さっさと答えろ。“オリジン”とはなんだ? ギガフロート創設時代から生きている俺が知らない、それはいったい何を意味している物だ?」

「ああそうそう、それね? まじめな話、君に話しておいた方がいい気がしたんだよね? その方が過程はともかく、結果としては良い感じに収まりそうな気がしたからね」

 そう、あっけらかんと返す楓だが、話し始めた内容は、実に重大な事であり、退出を求められなかったが故に、それを聞かされる羽目になった巫女達も、猛姫の手前あからさまに喋り出したりはしなかったが、不安げな様子を見せ始めていた。

「―――っと、ここまでが“オリジン”についての、今解っているだけの情報かな? それじゃあ、そろそろ本題を話そうか?」

「やっぱりまだあるのか? 貴様がわざわざ持ってきた内容だ。この程度の事ではないだろうと思ったが……」

「当然さ。これで終わったら、君もゆかりくんに会う口実がなくなってしまうだろう?」

「くだらん……。そんな事はどうでもいいから、さっさと用を済ませて消えてくれ」

「やれやれ、大人になってもまだまだ子供だねぇ~~」

 そんなやり取りをしながらも、二人はまたまじめな話を始めようとする。そこに待ったをかけたのは意外にも薙であった。

「あの、お二人とも? 話をするのは構わないのですけど……」

「ん?」「おおう?」

「そろそろ、その刀で叩く状況、どうにかなさいませんか?」

 まじめな話をしている間中、猛姫はずっと楓の頭を刀の刃で叩き続けていたのだった。




≪あとがき≫

▼必殺技解説
・“必殺技”は、イマジネーターにとって重要な必須科目ですが、これは『必ず相手を殺す技を持つこと』が重要なのではなく『いかなる局面も、その技をもってひっくり返す技を思いつくこと』が重要とされている物です。なので、今回、菫や正純が披露した必殺技が、今後も使われるかどうかと言うと、首を傾げるような内容かな? 出オチ結構でバンバン出てくるのが“必殺技”だと思ってください。
 ちなみに、カグヤの使っている炎法や啓一の剣術、金剛の鬼手も、同じ必殺技扱いです。



●『九つに彩る装飾曲(ナイン・アラベスク)
・菫の考案した技。
 『剣の操り手(ダンスマカブル)』で操作し、自分の持つ剣の攻撃に八本の剣を連動して操るパターンの総称として扱っている。現在このパターンで発動できるのは螺旋状に配置して突貫するスタイルのみ。となっている。極めれば、もっといろんなスタイルを持てそうだとは認識している模様。

●「花形に揃う射手座の星(ディバイン・サジタリウス)!!」
 『星霊魔術』射手座の光弾を花が咲いているような配置に展開して、腕を突き出すモーションに合わせて一斉射することで、初速のインパクトを強力にした近接専用の攻撃手段。例えるなら、至近距離からショットガンをぶっ放すイメージで放っている。
 距離が離れると、威力が霧散してしまうので、ただの弾幕と変わらない。ホーミング性能がある所為で、近すぎると弾同士が接触して誤爆する可能性もあるので、この配置だと至近でしか効果が発揮されない。

●『八剣小即興曲(インベンション・エッジ)!!』
 折れた剣の切っ先だけを集めて、正純の花形に揃う射手座の星(ディバイン・サジタリウス)!!」っぽく手のモーションに合わせて『剣弾操作(ソードバレット)』で撃ち出している技。近接専用にも見えるが、実際は普段操っている剣がコンパクトになったというだけだ。正直、剣の重量が落ちたので、威力はむしろ低下している。あの状況下で、何とか勝利しようと菫が頭をひねった末に開発できた、即興の必殺技。正直、その場の思い付きなので、改良の余地はいくらでもある。



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一学期 第十試験 【決勝トーナメント 準決勝戦】Ⅲ

間に、合っ、た~~~っっ!!
書いてすぐに投稿してるので、添削は愚か見直しもしてないよ!
絶対誤字脱字がてんこ盛りなので、不快だと思う人は【】の中に添削済みの単語が入るまで待ってね!
明日から一週間ほど、ネットの繋がらないところにいます!
またコメント返信できなくなるし、添削も遅くなっちゃうので、そこは謝っておきます!

それでも良いという方は、ゆっくりしていってね!
最近マキちゃん買いました~♪ ←(いらん情報)


                    【添削済み】


ハイスクールイマジネーション15

 

第十試験 【決勝トーナメント 準決勝戦】Ⅲ

 

 0

 

「む? どうやら向こうも終わったようだな? 礼を言うぞ? まさかここまで粘ってくれるとは思いもしなかった」

 学生寮、玄関口ホールにて、シオン・アーティアは愉快そうな笑みを向けた。その笑みの先にいるのは……、半身を赤黒く染め、纏う物もなく、ただ布切れらしい物をひっかけているだけのいでたちで、両手をまとめて剣で貫かれ、壁に縫い付けられてしまっている迦具夜比売へと向けられていた。顔色は蒼白、美しかった髪もくしゃくしゃに汚れ、真珠のような肌には、今や(あと)が残ってもおかしくない生々しい傷跡がいくつもある。剣の切り傷だけではなく、打撲も見られ、片足は折られ、脇腹には穴が開き、意識も既に無くなっているようだった。身にまとっていた神格は既になく、元の人間、東雲カグヤに戻れていないのは、あくまでこの姿を保っていること自体が能力の代償行為だからなのだろう。

 痛々しいことに、両腕が高い位置で縫い留められ、意識がないので、全体重が腕の傷口にかかり、今も自身の体重がかかっている影響か、少しずつ広がっているようにも見える。完全に零れ落ちていないのは、刺された場所が手首であり、下半身は床に付いている状態だからなのだろう。だが、そんなことが慰みになどなるわけもなく、この余りの惨状に、抗議の声を上げる者はいない。あるのはすすり泣く一人の少女の嗚咽だけだ。

 地面にぺたりとおしりを付いて座り込み、両手で顔を隠した状態で泣いているのは東福寺(とうふくじ)美幸(みゆき)。そしてそのすぐそばでは、必死に戦ったのであろう形跡がみられる、全身ズタボロにされた夕凪(ゆうなぎ)凛音(りおん)だ。迦具夜比売に比べれば、充分軽傷と言え、意識も残っていたが、悔しげな唸り声が漏れるところを見るに、既に動くことは叶わない様子だ。

 そしてもう一人、明菜理恵が観葉植物の下敷きになっていた。おそらく、彼女も戦うことを選んだようだが、敗北してしまったようだ。観葉植物がいくつも倒れ、その中に埋まってしまっているため、表情は(うかが)えないが、動けないことには変わりないようだった。

 完全なる全滅。

 完全なる勝者として君臨したシオンは、やっと満足が行ったのか、己の力で作り出した惨状に目をやる。本来、学園の建物は学園のイマジンシステム≪神の見えざる手≫によって、絶対に破壊不可能な状況を作り出している。しかし、決闘のルールが発動している状況ではその効果は失われている。決闘フィールドが展開される前の状況を記録しているので、破損した場所も瞬時に元通りに戻せるからだ。

「ふむ……、興が乗ったとはいえ、少々遊びが過ぎたか? まあいい、そろそろ終いにするとしよう」

 そう言って、シオンは締めくくりとばかりに美幸の元へと歩む。

 気配に気づき、小動物のように怯える美幸。それでも、せめて凛音の事だけでも庇おうとしているのか、彼の上に覆いかぶさるように伏せ、ぎゅっと目を強く瞑った。それ以外に、彼女にできるのことなど、何一つなかった。

「……見窄(みすぼ)らしい。せめて立ち向かうだけの器量(きりょう)を見せるならまだしも、まるで民草の如くその身で庇うだけとは……。これが、(オレ)の世界でも恐れられた、強豪が集う地か? まだ後方支援に役立つというなら見逃しても構わなかったのだが、精々運が良くなるという程度とは……、たわけ。運とは、確定されていない現象に、比較的発生しやすくなるよう傾けるだけの力に過ぎん。ならば己が才をもって、全ての事象を確実のものとすれば、“幸運(不運)”など入り込む余地などありはせんわ」

 そう、シオンに断じられても、美幸には何も言い返すことができなかった。

 自分には直接戦う力などないし、どんなに運気を操作しようにも、シオンのような相手には効果がない。そもそもこの能力は他者に幸運を(もたら)す物であり、戦闘に向いている物とは言えない。無理矢理戦おうとしたところで、同じ立場だった理恵の二の舞になるだけだ。それが無駄だとは思えないが、この状況では“意味はない”。求めているのが結果である以上、この場合においては過程を重視する意味はない。

(どうして私には、何もできないの……!?)

 戦いたかったわけではない。戦う力が欲しいわけでもない。ただ、誰かを守りたいと思った時、それを実行できない自分に悲しくなってしまったのだ。

 涙を流しながら悔しさで唇をかむことしかできない美幸に、もう見る物はないと判断したのか、シオンは(おもむろ)に手をかざし―――、即座に発動した『直感再現』に従い飛び退く。すると、先程までシオンのいた場所目掛け、数十体の西洋騎士が剣を逆さに構えた鎧砕きの一撃を振り下ろしてきた。

 何事かと確認する暇もなく、上階から次々に飛び降りてきた新たな米軍兵が、銃剣を構え、見事な隊列を組んで突っ込んでくる。

「突撃~~~~~っっ!!」

 そんな掛け声とともに一糸乱れぬ行進で刃を突きつけられたシオンだが、強化再現で両腕の耐久を上げ、軽くいなすついでに兵士三体に打撃を見舞った。忽ち米軍兵は緑色の粒子となって霧散した。

「ふん、ずいぶん稚拙なイマジン体を……なにィッ?」

 思わず語尾が固くなるシオンの目の前に、次から次へと兵士が飛び降りてくる。国も時代もバラバラの兵士が、世界観を無視して召喚されたかの如く現れ、その全員が統率の取れた連携でシオンを包囲し、追い詰めていく。

 最初こそ、体術で相手をしていたシオンだが、重火器やら手榴弾やら持ち出されては、さすがに鬱陶しくなったのか、手を翳す。

「来いっ! フェンリル!」

 呼ばれた(フェンリル)が、迦具夜比売の束縛を解き、まっすぐ主の元へと舞い戻る。菫の能力のように空中で自由自在に操ると言うわけにはいかないが、己の手に引き寄せるくらいなら、彼の能力でも範囲内の応用だ。

 剣を受け取ったシオンは、猛攻を仕掛け、次から次へと湧いてくる敵をなぎ倒し、一騎当千の武芸を魅せる。

 だが、それでも切りがない。倒しても倒しても兵士は増え続け、統率の取れた連携でシオンの攻撃にも対応してくる。一体一体の力は歯牙(しが)にかけるほどでもないが、ともかく絶え間なく、ともかく多く、ともかく切りがない。おまけに間断なく攻めてくるので終わりが見えない。

 いい加減煩わしくなって、剣の神格を開放し、(フェンリル)の咢を一瞬だけ顕現させ、自分の周囲の敵を一掃する。一拍の間ができたが、次の瞬間には補充が行き届き、包囲網が完成していた。

「ええいっ!! なんと鬱陶しい! これだけ喰らわせても霞ほども潤せぬとあっては割に合わんではないかっ!」

 さすがに悪態を吐いたシオンは、溜息一つで怒りを鎮め、剣を腰の鞘に納めると、憮然(ぶぜん)とした表情で上階にいる者へと視線を向けた。

「もうよい。負ける相手ではないが、ここまで効果的な嫌がらせに付き合う気も失せた。(オレ)が許す。要件を述べて見よ」

「ずいぶん上からの物言いだぁ~~……」

 シオンの視線の先で、気だるげに答えたのは銀髪の少女だった。腰ほどまである髪はぼさぼさで、手入れを忘れられているのが丸分かり、胡乱な瞳が昼も過ぎたと言うのにまだまだ寝足りないと言っているかのように細められ、大量のイマジン体を従えていながら、パジャマ姿で、ろくに着替えもしていないのが一目瞭然。まったく威厳も何もない自堕落感全開のロシア人少女、オルガ・アンドリアノフが、睥睨―――っと言う言葉を使うのも躊躇われるほど、力の入っていない表情で見下ろしていた。

「別にアンタらに興味はないんだけどさ? こっちはついついいつもの調子で寝坊しちゃって、もしかしたらルームメイトが準決勝戦始めてるかもしれないと、焦って出てきたところなんだよね? なのに、玄関口でこんな騒ぎされてると正直邪魔。あと、何となく君のやり方が気に入らないと感じた。だから、ここらで面倒なことやめない? やめないなら、適当に嫌がらせします」

 そこまで忠告したオルガは人差し指をタクトのように振って、己の軍団に指示を出す。

 それに答えたのは、全身黒タイツになんちゃって骸骨ペイントが施された謎の部隊。全員が「イーーッ!!」と高い声を張り上げながら何一つ装備など持っていないのに突進を敢行(かんこう)する。

 シオンは無防備な相手に対しても容赦なく剣を振るい切り裂いていくが、なぜかこの黒タイツ部隊、斬っても切っても、火花が発生するだけで体の損傷が発生せず、イマジンを吸収することができない。他の部隊に比べれば、メチャクチャ弱いのだが、ともかく倒してもしばらくすると起き上がってくる上に、消滅しないのでやたらと時間ばかりがかかる。

「ええいっ! なんだこの鬱陶しい奴らはっ!? ほかの兵士に比べて圧倒的に弱いにもかかわらず、何故一向に死なんのだっ!?」

「異世界のお前にはわかるまい。ニート生活に夢見て、自宅警備員業に勤しむ中、暇つぶしに情報集積機(ネット)により閲覧された、日本文化において後世まで語り継がれし、悪の黒タイツ部隊! こいつらは、今も代を重ねて受け継がれる変身勇者(ヒーロー)を相手に戦い続け、今ではその勇者よりも濃い存在として多くの者に知られる軍団! その知名度は、軍団をもって英雄。英霊(サーヴァント)と言っても過言ではないのだ! この知名度、イマジンによって召喚されれば、まさに最強の嫌がらせ部隊! 決して勝てないくせに、ただ一度の文句も、不満も、躊躇もなく! 怪人の号令を受けては勝てるわけもない勇者に突貫しては、見せ場もなく敗れていった! そう、彼等こそ勝率ゼロパーセントの社畜(英雄)!!」

 何かおかしな方向に感化されてしまったらしいロシア人の戯言が、強烈な重みとなって放たれる。周囲のイマジン粒子が空気を読んだのか、なぜか背後に『ドドンッ!!』と言う効果音文字が出現し、本当に太鼓に似た音が聞こえてきた。

 もし迦具夜たちの意識があったなら、苦笑いするか、呆然とするか、ともかく反応に困った事だろうが、生憎ここには気を失っている者ばかり、美幸もオルガのセリフに反応する余裕はなく、今のうちに凛音を引きずって少しでも離れようとしていた。

 では、唯一五体満足のシオンはどうしたのかと言うと……、

「な、なんだと……っ!? この不出来な平和に彩られた国で、まさかこのような部隊を鍛え上げていたと言うのかっ……!?」

 日本文化のまともな知識もない異世界人の、素直な驚愕が披露されていた。

 ここにツッコミのできる日本人がいない事がとても悔やまれる。

「おのれ~~……ッ! ならば、まとめて一掃するだけのこと!」

 さすがに業を煮やしたらしいシオンは、(フェンリル)を連続で開放し、周囲一帯にある部隊を丸ごと食い潰すことで消し去る。さすがの黒タイツ部隊も丸ごと食べられたとあっては消滅するしかない。更に狼の咢は、周囲に包囲を展開していた部隊も根こそぎ食い荒らしていく。

「小癪な……っ! これだけ食い荒らしても霞を()むに値せぬとはっ!? いったいどれだけの低燃費で動いているのだっ!? 低燃費革命にもほどがあろうっ!」

 これでは攻撃するこちらの方が消費させられると呻きながら、一気に駆け出す。彼の能力『征伐』より抜き出されたスクルドの権能『スクルドの翼』を使用することで、空中を駆ける。“駆ける”と言う言葉が比喩ではなく、まるで空中に見えない地面があるかのように駆けているのだ。空中すら地上と違わず己の足場とする。それが『スクルドの翼』の効果。

「数だけを頼りに消耗戦が望みなら、先に将の首を取らせてもらうぞっ!」

 そう言って飛び掛かるシオンに対し、オルガは素早く指を走らせ……ようかと思ったが、突然気だるくなってやめた。

「面倒くさい……、あとは“自分でどうにかして”」

 意味深な発言と、無防備な行動に対し、シオンが僅かに眉根を寄せた時、―――声が聞こえた。

(さち)(めぐ)る道(へだ)てる(いわお)(ほむら)(とどろ)き道開く」

幸魂(さきみたま)(はば)種々(くさぐさ)(さわ)り、焼き払い給え、幸給(さきはえたまえ)

 

「「『業炎爆砕(ごうえんばくさい)』!!!」」

 

 紅蓮の火柱が巻き起こる。

 咄嗟に空を蹴って躱したシオンだが、突然下方から襲来してきた炎が、立ち昇った次の瞬間には、広範囲に爆発するかの如く広がり、さすがのシオンも回避しきれない。

「おのれ……っ!」

 何とか剣でガードし、イマジンを分解する様にして吸収しようと試みる。

 だが、(フェンリルの牙)がイマジンを分解しようとした時、それに反応したかのように炎が爆発し、衝撃だけを残して消えてしまう。そのためシオンは剣だけでこれを防ぎきることができず、高熱の衝撃を全身に受け止めてしまう。

「ちぃ……ッ!!」

 炎がシオンを完全に呑み込む刹那、シオンの姿が消え、少し離れた場所に出現した。『スクルドの翼』のもう一つの効果で、移動したようだ。

「この(オレ)に“これ”を使わせるか……。やはり、“貴様”は()()()()()が戦えると見える」

 シオンが射竦(いすく)める先、業火の中心部に人影が現れる。業火は時と共に鎮火し、影の姿を次第に明瞭にしていく。

 夜を思わせる黒を肩の辺りで揃えられ、ハーフポニーにまとめ上げられた髪。(ぎょく)に一滴、墨を垂らしたような潤みのある黒い瞳。丸くて小さい顔立ちに、華奢な肩。羽織るは桜の刺繍に染められた千早だが、その下はとても一般的な黒いシャツにジーンズと、とても簡素だ。

 誰もがその人物を見れば何となく思い当たるであろう。先程の“迦具夜比売に似ている”と……。否だ。その人物が似ているのではない。迦具夜比売が、この人物に似ていたのだ。

 “迦具夜比売”の主、あるいは正体、あるいは本体、あるいはオリジナル、あるいは同一人物、東雲カグヤの復活である。

「ようやくお出ましか、“月の巫女”。ふんっ、神格を落としても見た目の美しさに変化はないらしいな?」

「やめて。もう本気でやめて。戻ったから! もう男子に戻ったから!」

「「「「………?」」」」

「おいこらっ! なんで意識のある奴全員で首を傾げてんだよっ!? 男子だから! 元々俺男子だからっ!?」

 必死に弁明するカグヤであったが、久々に見る男子バージョンカグヤは、誰にも男子として認識されていなかった。

 普段なら、この程度毎回の事だと達観できていたのだが、迦具夜比売となっている間の記憶は残っているため、自分が思いっきり女性として振舞っていたことを憶えている。なので、戻ったことで、男性としての尊厳も復活しているので、よもや男性扱いしてもらえないのとは、彼のプライド的に死活問題だった。何となく正気度が一つ分削られたような気がするほどに。

「はん、貴様が女のくせに男勝りになろうとする信念など知った事ではないがな?」

「王様? マジ勘弁して? もう泣いてるから!」

「王の眼力の前では、貴様の隠しきれぬ女のオーラが見えているわ!」

「この王様盲目だっ!?」

「「え?」」

 美幸とオルガにまで訝しげな声を上げられ、更に正気度が削られた。

 余談ではあるが、これからしばらく後、発言方向が意味不明な及川(おいかわ)凉女(すずめ)の言葉を見事に解釈したオジマンディアス二世なら、自分の事も男子として認識してくれるかもしれない……っと、儚い希望を抱いたりするのだが、それは特に掘り下げるような話でもない。

「まあいい。それにしても貴様、どうやって元の姿に戻った? まさか偶然そのタイミングが来たと言うこともあるまい?」

「そんな質問をするのは、お前が慢心している証拠だ。Fクラスと言うだけでよほど見えていないらしい?」

 そう言って東雲カグヤが顎で指した先には、いつの間にか亜麻色のセミロングヘアーをした、黒縁メガネの少女が、先程まで迦具夜比売が縫い留められていた場所に身を屈めていた。その懐には銀色の懐中時計が握られているところから、何らかの能力を発揮したのだろうことは予想できた。

「何をしたのかまでは知らんが、どうやら時間干渉の類でも行って、貴様をその姿に戻したか? 取るに足らん愚物ではあるが、物は使いようと言ったところか?」

 シオンがそんな言い方をしたのは、彼女のデータを生徒手帳で閲覧したが故のものだった。

 彼女の名前はルーシア・ルーベルン。愛称をルルで通しているFクラスの生徒だ。

 残念ながら能力までは名前までしか閲覧できなかったが『時の歯車(タイム・カウント)』と書かれていれば予想通りなのは明らかだろう。そしてクラスがFクラスだと解った時点で、彼女本人に対して大した興味はなくなった様子だった。

 尤も、その態度に対してこそ、カグヤは“慢心”と言い放った内容ではあったのだが。

「その慢心が俺の復活を許したんだよ。気付かなかったのか?」

 そう言いつつ、カグヤはさらに手の平を返すようにして指し示す。その先にいたのは、観葉植物に埋まってしまっていた理恵だ。彼女はいつの間にか観葉植物から抜け出しており、逆に椅子代わりに使いながら生徒手帳を見せびらかす様にひらひらとさせていた。どうやら彼女が生徒手帳で連絡を取り、ルーシアに助けを求めたようだ。

「小癪な真似を……」

 ドヤ顔を見せる理恵だったが、ダメージ自体は嘘ではないらしく、先程から脇腹の辺りを片手で押さえ、動き回る様子はない。ルーシアの方も、カグヤを助けた割に、それ以上の動きはなく、オルガも後のことは面倒になったからと欠伸を噛み殺しながら他人事を決め込んでいる。

 シオンもシオンで、悪態こそ吐いたものの、あまり悔しそうな印象はなく、どうでも良さげに視線を細めただけだ。むしろ興味はずっとカグヤに向けられている。だが、その興味を向けられているカグヤはと言えば……。

「……そろそろ帰っていい?」

 やる気なくしていた。

 さもありなん。そもそもこのいざこざ、迦具夜比売の性格が、東雲カグヤ以上に正義感があり、勝手に割り込んだからこそ巻き込まれたものの、騒ぎの中心はカグヤではなく凛音と美幸の二人の方だ。正直、元に戻ってテンションが落ちたカグヤからしてみれば、いい加減、切り上げたいと言うのが本音である。

 対するシオン。

 せっかく強敵となりえるであろう存在となったカグヤに多少の惜しみはあったようだが、これ以上押しても、今のカグヤは全力で逃げるだけだと悟ったのだろう。今更凛音たちに危害を加えるのも億劫になったのか、素直に剣を鞘に納めた。

「まあいい、今宵は中々に楽しませてもらった。その礼だ。ここは(オレ)が引いてやろう」

 そう言いながらシオンは降参するかのように軽く両手を上げて見せる。

「だから安心して剣を降ろせ、二人とも」

「へ?」

 その言葉の意味が解らず、そんな間の抜けた声を漏らしたのは、果たして誰であったのか。

 美幸や凛音、理恵やルーシアは、シオンのその言葉でようやっと気が付く。シオンの背後で、剣を突きつけ、暗に動くなと告げている二人組がいることに。

 片や、整った顔立ちに鍛えられた肉体を持つ長身の男性が、背丈ほどもある大剣を構えている。

 片や、黒く長い髪をうなじの辺りで纏めた素朴で可憐な少女が、二本の剣を携え、その片方をシオンの背に突き付けている。

 男の方はジーク東郷。少女の方は廿楽弥生。二人とも、決勝トーナメント出場を後に控えることになったB、Cクラスの筆頭生徒だ。

「事情はさっぱり分からんが、あまり行動が過ぎると手を出さぬわけにはいかんだろ?」

「僕の場合は、えっと……、とりあえず君の方が危なそうだと感じたので……」

 ジークは口の端に笑みを浮かべるが、目は笑っていない。

 弥生の方は、表情が消え、ただシオンの事を見据えている。

 シオンは二人の発言に対し、軽く肩を揺らして笑った。

「クククッ、(オレ)とて空気は読む。これ以上我が儘を通して、万が一、明日の出場選手にもしものことなど与えるわけにもいかんからな?」

 不敵な笑みでそう言うシオンに対して、これ以上の敵意はなくなっていると判断したのか、ジークも弥生も素直に剣を下げた。二人とも、シオンの挑発的な発言に対しては付き合うつもりはないようだった。

 シオンは二人の態度に何を満足したのか、上げていた手を下げるとクツクツと笑いながらどこか外へと出ていく。弥生とジークの間を悠々と立ち去る姿は最後まで強者の存在感を醸し出しているかのようだった。

 シオンが立ち去ってしばらく、未だ危機が去ったことを自覚できない凛音達は、すぐに動き出すことができなかった。剣を背中の鞘に納めたジークが彼等に駆け寄り、声をかけるまで、誰も動けないほどに。

 ただ一人、東雲カグヤはとてつもなく神妙な顔立ちで弥生へと歩み寄る。それに気づいた弥生も表情を浮かべないまま迎える。

「弥生、聞きたいことがある」

「なに? シオンのことで気づいたこと?」

「いや、もっと重要な事だ」

 カグヤに“重要”と言われ、弥生も表情を引き締めて待つ。果たしてカグヤは、断腸の思いで語るかのように尋ねる。

「お前ら二人がここにいるってことは……っ! 一回戦は菫の試合だったのかっ!?」

「うん! もう試合終わったよ!」

「しまったぁぁぁ~~~~~~~~っ!!? 見逃したぁ~~~~~~~~~っっっ!!!?」

 頭を抱えて膝をつくカグヤ。弥生はカグヤの質問を聞いた時点で「確かにそれは重要だ」と強く納得し、力強く教えた物だから、余計にカグヤにショックを与えていた。

「い、今重要なのはそっちっ!?」

 思わず、そうツッコミを入れてしまったルーシアに対し、勢いよく振り返ったカグヤの絶叫。

「当たり前だろっ!? どこぞの喧嘩で盛り上がった小競り合いよりも、ルームメイトの大事な試合を見逃したことの方が重要案件だろっ!? ……ちっくしょう~~……っ! これで菫が敗退してたら目も当てられねぇ~~っ!」

「あ、菫なら勝ったよ。めっちゃすごい試合だった!」

「首の皮一枚繋がったぁ~~~~っ!!」

 今度は万歳して喜ぶカグヤの姿に、もう誰も口をはさめない。っと言うか何となく関わり合いになりたくない空気が出始めていた。

「んおぅ……? ってことは、弥生の試合はこれから?」

 のそのそと、イマジン体の部隊に運ばれてきたオルガが、弥生に対して質問を追加する。なお、この時カグヤは、「あ、でもやっぱり試合は生で観たかった……。ちくしょうっ! なんで女になってた俺は、あんな試合の審判なんかやっちまったんだっ!?」っと再び嘆いたり地団太を踏んだりと忙しくしていたが、もはや誰もがスルーである。

 オルガの質問に答えつつ、弥生は懐から出した(くし)で、乱れっぱなしのオルガの髪を()いてやる。

「うん、これから休憩挟んでお昼から、僕とジークの試合だよ」

「そうかぁ~~、じゃあ、昼から頑張るから、もう一回寝ててもいいよね?」

「いつも通りのパジャマ姿で、ついさっきまで寝ていたのが丸分かりの格好で、よくもそんなセリフを吐けるよね?」

 ジト目を向けつつ、弥生はオルガの髪を三つ編みにして、このまま寝てしまっても髪が邪魔にならないようにしてやっている。オルガはそれを満足そうに受け入れながら言い訳を重ねる。

「今日は珍しく働いた」

「働いたのはオルガ自身じゃないよね? 最終的にはカグヤに全部任せてたし?」

「私の仕事は働かせることです!(キリッ!」

「新しいね、それ……」

 呆れつつも弥生は、甲斐甲斐しくオルガの身なりを整え、部屋に戻っていく彼女を特に引き留めるでもなく見送った。

 その間、カグヤが「御土産あるし、問題ないよね? でもやっぱり、菫ならそれだけで怒ってきそうな気が……っ!? でも人助けしたのは事実であり……、そんなことでアイツが譲歩したりするのかっ!?」っと、百面相を繰り返していたり、ジークがイケメンフェイスで美幸を助け起こし、甘い言葉を囁くことで、彼女の顔をとんでもなく真っ赤にさせていたり、その事に気づいた凛音が、なんだか気に入らなさそうな視線をジークに送っていたり、そんな彼らの様子に「おっ!? もしかしてここに新たなフラグっ!? 三角関係ネタ追加!?」っと、一人楽しんでいる理恵がいたり、呼び出された上に、何気にファインプレーをしたはずなのに、もはや完全に空気扱いになっていることに黄昏れているルーシアがいたりと、何気に周囲がうるさかったが、これはもう、既にいつもの光景と化している。

 彼らは日常を取り戻した。

 

 

 その頃、立ち去ったはずのシオンは、寮の玄関口、その道すがらで足を止め、その木陰に隠れた人物へと言葉を投げかけていた。

「よもや貴様が出しゃばるとはな。いったい何のつもりだ? サルナ・コンチェルト?」

 木陰に隠れていた人物、サルナは、気に背を預けたまま、冷やかな視線をシオンへと向ける。

「別に出しゃばってなどいないわ。ただ、私が手を出さなければ(、、、、、、、、)、貴方も収まりがつかなかったでしょう? 調子に乗り過ぎて退くタイミングを逸しているみたいだったから、ちょっと手助けしてあげただけよ。不服だったからしら?」

「ふんっ、無論遺憾だとも。だが、業腹ながら、貴様の判断は正しかったと言わざるを得まい。あのままでは昼に一年の最優秀者を突然決めてしまうところだったからな」

「あの状況でも、貴方は勝てるつもりだったのね?」

「当然だ。あの二人はこの俺との相性が(すこぶ)る良い。万が一にも(おれ)が引き分ける事すら有り得ん」

「そうね、貴方の(フェンリルの牙)は、神格持ちにとっては天敵。おまけにイマジン粒子の全てを食い潰すとあっては、太刀打ちできるのは限られた者だけとなっていたかもね? なら、あのまま続けることがお望みだったかしら?」

「無論だとも。有り得るはずのない“万が一”、それを引き当てることができる者がいるとすれば、それこそ歓喜せざるを得まい! ……が、それも時と場合を弁えるものだ。俺とて空気は読む」

「空気は読めても、実行はできなかったみたいだけど?」

「男児が己の欲求を前にして、昂りを抑えてなんとする? 己の欲望に熱くなれぬようでは、高みなど登れるはずもない! 据えられた膳は、全て平らげてこそ男児であろう!」

 言い切って見せるシオンに、サルナは呆れて溜息を零す。

「だったら、やっぱり私が“割り込んだ”のは正解だったみたいね?」

「礼は言わぬぞ。男が自分の恥を礼で返すようでは愚物も同然。代わりの褒美を用意しておいてやる。その功績に見合った報酬をくれてやろう」

 最後にそれだけ伝えたシオンは、そのままどこかへと立ち去ってしまう。一人残されたサルナは、再び溜息を吐いた。

「いらないわよ。これに“見合った”褒美じゃ、碌な物が返ってこなそうだもの……」

 彼女の呆れかえった言葉を聞くものはない。

 結局二人は、ただの一度も視線を合わせることもなく、それぞれ別の方向へ姿を消したのだった。

 だが、後にサルナは、このシオンの貸しが、まさか自身の人生を左右するほどの物となって帰ってくるなどとは、この時は思いもしなかったのだった。

 これは、これよりもっと先の話に繋がる、運命の伏線なのかもしれない……。

 

 

 1

 

 

 当然のことではあるが、一年生のトーナメント以外にも、他の学年の決勝トーナメントが残っている。二年生、三年生の決勝トーナメントはテレビ非公開ではあるが、お祭りごとがイマスク関係以外に発生しないギガフロートでは、中々出会えない貴重なイベント。時間が空いている者は(こぞ)って集まってくる。

 会場でのイベントは休憩時間の後、二年生の決勝戦が公開されていた。

 二年生最初の交流戦、その決勝戦は、一年生の者とは違い、特殊なルールが設けられている。それは絶対に直接的な戦いをしないと言う方向性だ。この決勝戦までの間に、やたらと戦わせる割に、最終戦では直接戦うことが禁じられると言う訳の分からないものだが、これにもちゃんとした理由が存在する。―――が、それはまあ、特に説明する必要性はないので、気にしない方向で行くとしよう。

 二年生の決勝戦はAクラス美倉(みくら)謙也(けんや)とBクラス時川(ときかわ)真居(まい)が争う事となった。

 試合内容は毎度おなじみで、≪殲滅戦(アンリミテッドブレイク)≫と呼ばれる競技だ。これは広範囲に幾多存在するエネミーを破壊し、ポイントを獲得するというルールだ。エネミーは頑丈な物ほど獲得できるポイントが大きくなるが、中には得られるポイントが少ないのにやたらと攻撃性を持っていたり、中々の強敵が存在していたりもするのだが、ともかく頑丈で無いものはポイントが低いと言う設定だ。フィールドはかなりの高範囲で、一番弱いエネミーでもネズミ並みのすばしっこさで逃げ回るので、中々ポイントが獲得できない。おまけに、プレイヤー同士の直接戦闘は禁止されているため、妨害も難しい(難しいだけで可能)。そんな中でのポイント争奪戦は、中々白熱したものであり、子供が戦う姿を観るのを嫌がる方々にも、バラエティー感覚で楽しく見てもらっている。

 試合内容については割愛するが(今作はあくまで一年生を中心に書いているからです)、試合結果は789525対789510で、美倉謙也の15ポイント差の勝利で終わった。(※試合内容については、希望者が多ければ番外で書きます)

 ここまで試合時間にかなりの時間を要してしまったため、少々多めに時間を消費してしまった。そのため、決勝トーナメント二回戦は、御昼休憩後に、少し遅れ気味で開催されることになった。

 ………あと、試合運営に動かせる人員が圧倒的に少ないことも、遅れてしまった理由とも言える。

 

 

 そんなわけで午後三時過ぎ、廿楽弥生とジーク東郷の試合がようやっと始められようとしていた。

 

『長らくお待たせしました! これより、一年生準決勝戦最終試合、廿楽弥生VSジーク東郷の試合を始めたいと思います!』

 

 アリーナで、弥生とジークが向かい合っている。

 司会による試合開始の号令が、集まった観客達を湧かせる。

 

『では、バトルフィールドのルーレットを……オンッ!』

 

 空中に浮かぶ巨大スクリーンに表示されているフィールドが次々と入れ替わっていく。

 弥生とジークは、これから試合が始まると言うのに映画の順番待ちをするお客のようなリラックスしていた。

 ジークは大剣を肩に担ぐようにして、不敵に笑い、弥生は後ろ手に回した手に剣を一本ぶら下げていた。

 緊張感がない。っと言うこともできるが、これから戦いを始めようと言うのに、この冷静さは、既に心構えが出来上がっていると言う事だろう。

 今回、観客席側では、男に戻ったはずなのにいまだに女の子扱いの東雲カグヤ。その膝の上になぜか乗って、膨れた顔でカグヤの頬を両手で摘み上げている八束菫。その後ろで、二人のやり取りを呆れた表情で見ているレイチェル・ゲティングス。その隣で、同じく苦笑いを浮かべているカルラ・タケナカ。更にその後ろでは、身を乗り出して完全に弥生だけに見入っている新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)と、偶然その隣に座ることになった御神楽(みかぐら)環奈(かんな)が所在無さげにしている。以上六人が、偶然集まっている。通常、同じ学園の同級生でも、特段知り合いでもない相手とは話が弾まないのが普通だが、ここはイマスク生、あまり物怖じすることなく、普通に会話を成立させ、普通に意見交換をしていた。この学園では普通の光景ではあるが、少し前まで地上で暮らし、地上の常識で生きてきた人間が、この短時間でバリアフリー思考に変更できるのは、やはりイマジンのなせる力なのだろう。人の思考にまで影響を与える粒子。考えれば恐ろしいもののようにも思えるが、だからと言ってそれでみんなが仲良くできるかどうかはまた別の話だ。

ふひれ()ほろほろほんひへひはい(そろそろ本気で痛い)……」

「知ら、ない……っ!」

 膨れる菫にずっと頬を(つね)られ、頬を真っ赤にしている。どうやら、せっかくルームメイトなのに、女版カグヤを観察できなかったことが、今でもかなり御立腹の様子だ。

 菫の体にはあっちこっち包帯やら、ガーゼやらが貼られていて、いかにも怪我人と言う様相だ。決勝トーナメント中は、試合で負った怪我は、保健の教師によって特別に治療してもらえる決まりがあるのだが、完全回復は試合当日だけで、それまでは地上の最先端医療技術に(とど)まる程度の治療しか受けられない。なので、試合が終わった後、試合開始直前まで気を失っていた菫の怪我は殆ど治っていない。正純などはまだベットの上で、絶対安静扱い。今頃は気を使ったルームメイトと一緒に備え付けのモニターで観戦している事だろう。

 それはそれとして、なぜ他人(ひと)の膝の上に座るのかと、カグヤは言いたかった。背の比較的低い菫だが、華奢なカグヤの膝の上に座れば、充分に彼の視界を頭部で遮ることができる。今は、頬を抓るのに苦しいと言う理由で、半ばズリ落ち気味ではあるが、それがカグヤにとって余計負担になっていた。無論、菫は分かっててやっている。

 そんな二人の仲睦まじい姿に、呆れ顔のレイチェルは、隣に座ることになったカルラへと話を振ってみる。

「この二人、なんか姉妹みたいに仲良くない?」

「しっかり者だけど隙の多い妹(カグヤ)と、天才だけど妹に構ってほしい、寂しがり矢の姉(菫)ですかね?」

「おいほら(こら)っ、ほれは(俺は)ほいふほ(こいつと)ふはへへほ(比べても)ひほふほほふへひはほはぁ(妹属性なのか)?」

 頬を抓られたままのカグヤが、聞き捨てならぬと言わんばかりに言葉を投げかける。レイチェルは悪戯っ子の笑みで見返し、カルラは額に汗を流しながら「何言ってるのか分かりませんよ?」っと苦笑いを浮かべる。

 悠里は完全に弥生に視線を集中させているので会話に参加する気はないらしい。

「この勝負、絶対弥生が勝つ! だよなっ!?」

 だが同意は求めたかったらしく、視線が隣の環奈へと向けられる。

 Fクラスの環奈からすると知らない相手に急に話しかけられたこともあって、ちょっと戸惑ってしまう。っとは言え、そこは本人の性格も相まって無視するつもりはなく、何とか会話を繋ごうとする。

「そ、そうですね……、廿楽さんも余程実力のあるかたですから、簡単に負けることはないでしょうけど、ジークさんの最強の防御を、いったいどうやって破るかが肝になるのでしょうね?」

「ああっ! 弥生は勝つぞっ!」

(あ……っ、会話しているようで成立していない……)

 硬い笑顔のまま固まってしまう環奈。

 悠里も、普段なら普通に会話しているはずなのだが、そこは盲目な恋する少年状態。目的の相手以外が全く見えていらっしゃらない御様子。

 そんな彼らの一つの集まりとして数えるのはどうなのか、良く解らないメンバーが会話している内に、試合フィールドが決められた。そしていよいよ、試合が本格的に始まるようだった。

 

 

 選ばれたフィールドは荒野。切り立った岩山が散発的に見える程度で、大きな崖も、サボテンのような植物もなく、地面の起伏も特にみられない。

 弥生は軽く地面を踏みつけてみる。地は硬く、かなりの踏ん張りが効く。近接重視の互いにとってはかなり有利な土地と言える。

(と言っても、今回僕らは同じスタイルの戦闘タイプだから、フィールドでの有利不利は発生しないんだけどね……?)

 そう思いつつ、今度は小さな丸みを帯びた石を踏みつけてみる。石は簡単に砕け、足のバランスを崩させる要因にはならない様子。見たところ小さな亀裂もないので、戦闘時で破壊された地面の様子にさえ注意を払っていれば、足を踏み外すと言うことはなさそうだ。

(まあ、こっちはもっと足場の悪いところでの戦闘を経験済みだから、この程度は問題にならないんだけどね?)

 軽く手の中で剣を一回転。片手に強く握り直し、剣を自分の背にするようにして半身に構える。正面ジークとの距離は十メートル。ベルセルクのギアは思ったより上がっていないが、一息に詰められる距離。剣のリーチを体で隠し、距離感を掴むために空手の左を突き出し距離感を把握。腰を落とし、隠すことのない突進の構え。開幕速攻を仕掛けるのが、既に見え見えの挑発。

 対するジークは大剣を両手に握り正眼(せいがん)の構え。真っ向から受けて立つと、挑発を受け入れる様に口の端に笑みを刻む。

 受けて弥生も笑う。

 

『それでは、決勝トーナメント、準決勝戦、第二試合……っ!! 開始~~~~っっ!!!』

 

 司会の合図と共に、地が爆散。宣言通りとも言うべき弥生の特攻は、予定通りと言うかのようにジークに受け止められ、衝撃に耐えきれない地面が盛大に土煙を柱の如く巻き上げる。

 ジークの『魔剣グラム』と、弥生の剣が激突し、鍔迫り合いで火花が散る。互いに、剣に込めた力がかなり大きいことがそれだけで見て取れる。

 ジークが僅かに剣を寝かせる様にして剣を逸らす。力をいなされた弥生がジークの後方へとつんのめる様に押し出される。剣を振り上げ、ジークが弥生めがけて斬りかかる。弥生は瞬時に振り返り、返す刃で弾き返す。続いて、弥生が剣を突きにかかるが、ジークは僅かに体を逸らすだけで容易く躱す。

 二度、三度、四度と素早く突きを繰り出すが、ジークは下がりながらも突きを躱していく。四度目の突きを躱したところで下がっていた足を止め、僅かな挙動で踏ん張り大剣を切り上げる。弥生の剣を掬う様にして打ち上げ、弥生の体勢を崩させる。

「ハアァ……ッ!!」

 裂帛の呼気と共に振り下ろされる刃は、一撃で地面を粉砕する驚異的な破壊力。その一撃を、弥生は軽いステップでサイドに交わし、体を回転させながら横薙ぎに斬りかかる。ジークの首筋を狙われた一撃は、軽く顎を上げるような動作で完全に見切られ、お返しとばかりに飛んできた蹴りが、弥生の腹部にキレイに直撃した。

「……ッ!」

 僅かに表情を曇らせた弥生だが、蹴りの威力からはありえない距離を吹き飛び、綺麗に地面に着地して見せる。どうやら自分から飛んで威力を殺したらしいと悟り、ジークは思わず笑みが漏れる。

 地面が爆ぜる。弥生が跳び、片手に持った剣を大上段に掲げ落下の威力と体重を乗せ、強襲をかける

「やあぁぁっ!!」

 声を張り上げ、叩き落された刃は、難なく躱され、(くう)を切る。

 すかさず体を捻って横薙ぎの一撃。しかし、これも予測されていたのか半歩下がるだけで躱されてしまう。―――っと、そこで弥生の体が跳ねる。横薙ぎの一撃が躱されると同時に、軸足を蹴り、体を回転させながらジークに向けて飛び掛かる。遠心力の乗った刃が鋭く閃く。

 だが、これもジークは再度ステップで難なく躱し、さらに続く怒涛の剣激を全て躱し、あるいは剣の柄で弾き、対処していく。

 その余裕は、観客席の菫達に感嘆の溜息を洩らさせるほど無駄がない。

 弥生の剣が軽い一撃になったところを見逃さず、距離を詰め、体当たりをするように刃を受け、弥生の体勢を力づくで崩させる。思わずたたらを踏む弥生は完全にバランスを崩されている。平均的な女性と同じ程度にしか体重の無い弥生は、大剣を扱うジークとは重量差が極端に違う。決定的な隙を作ったところに『魔剣グラム』の刃が迫る。

「……ッ!」

 刃が眼前に迫る中、体の中心から強い脈動が鼓動を打つ。瞬間、全身の機動力を上げた弥生が、ジークの刃をあっさり躱し、返す刃で足を狙った下段切りを放つ。グラムで受けたジークに、弥生は胸ポケットに納めた生徒手帳をタップ。新しい剣を取り出し、それをフリーにしていた左手で受け取り、上段から振り下ろす。

 閃く刃の軌跡が弧を描く。ジークは地面を転がる様にしてローリングで回避している。素早く起き上がると同時にほくそ笑む。

「ようやく十八番(おはこ)の二刀流か? 能力の段階が上がらないと使いこなせないと言うカルラの見解は正しかったらしいな」

 ジークの言葉に、斬りかかった体勢からゆっくりと向き合い、弥生は左右の剣を軽く振るい、調子を確認する。彼女の能力『ベルセルク』のギアが、充分に上がっている感覚を感じ取り、ここからが本番だと言うように、ジークに向けて構えをとる。その顔には、やはり笑みが浮かんでいる。

「そろそろエンジン掛けていくよぅ~~?」

 宣言した弥生。僅かな間を置いてから、一気に駆ける。今度は直球で突っ込むことはせず地面を数度蹴り、左右にフェイントをかけながら斬りかかる。

 右の剣を躱すジークに、左の剣が迫る。グラムで受ければ右の剣が追いつき再び迫る。躱して左の剣に一瞬意識が向かってしまったところに、右の剣が連続で繰り出される。

 右、左、右、右、左、右、左、右、右右左右左左左左右左右左右右左左―――。

 変幻自在の刃が左右から絶え間なく繰り出され、ジークも反撃のチャンスが極端に減っていく。さすがの猛攻振りに舌を巻く。

「映像で見た以上だなっ! 直接受ければこれほどのラッシュかっ!? これは俺も気合を入れんとなっ!」

 ジークが足を使う。僅かに下がったり、軸をずらす程度だったのが、今度はしっかり動き、弥生の側面に入り込み、剣を振り下ろす。

 素早く躱した弥生が左右の剣激を放つ。

 ジークはグラムを振り翳して剣を弾く。更に踏み、刃を切り上げるが、これは素早くバックステップされて躱される。

 弥生が素早く右の剣でグラムを抑え込みつつ、左の剣で突きを放ち、ジークの顔面を狙う。

 首の動きだけで躱して見せるジークは、そのまま更に距離を詰め、剣ではなく、腕を使って、弥生の体を持ち上げるようして吹き飛ばす。攻撃と言うよりも、担いで投げたと言う方が近い。放り投げられた弥生は二メートルぐらいの距離で着地し、剣を交差して構える。

 構わずジークは踏み込みと合わせた一撃を叩き込む。しっかり受け止めた弥生の剣との間に激しい火花が散る。

「うおおおおおおぉぉぉっっっ!!!!」

 相手の防御を無視したジークの猛攻。上段から連続で叩き下ろされる大剣の連撃。一撃一撃が猛威。それを弥生は二本の剣を上手く使って何とかいなすが、完全に力負けしている。まともに受け止めれば防御ごとまとめて斬りつけられてしまうだろう。

「う、おおおおおぉぉぉぉっ!!」

 負けずに弥生も叫び声を上げ、左右の剣を合わせて切りつけ対抗する。次第に猛攻は弥生の方が圧倒的手数となり、力負けを圧倒して押し返す猛攻へと変化していく。

 猛威を振るうジークの剣。

 猛攻で攻め返す弥生の剣。

 二人の剣は絶えず火花を散らし合い、鉄を打つ音が鈍く響き渡る。

 正面からの打ち合いではない。時に弥生は全身を乗せた一撃を放ち、左右にステップしては、狙いを広く、手数を多く繰り出し続ける。

 ジークもそれにすべて対応して見せる。猛攻一つ一つの威力を正確に見切り、こちらの一撃でいくつ叩き落せるかを正しく分析し、大剣を振り回す姿からは想像もできない繊細且つ丁寧なパリィを披露する。もちろん、僅かでも隙があれば弥生に攻撃を叩きこむことをも忘れない。

 近接型剣士同士でしか発生しないインファイトが、二人の間で展開される。

 不意にジークの剣が弥生の猛攻の間隙を捉える。

 斬りかかった弥生がパリィの一撃に身体ごと弾き飛ばされ、後方に飛ぶ。空中で後転するように下がり、威力を殺して着地。そこに向かってグラムの刃が迫る。

 顔を上げた瞬間、眼前に迫った切っ先に、弥生は無理矢理仰け反り、前髪を数本持っていかれながらも回避。すぐさま、腹筋の力で上体を起こし、反撃に打って出ようとする。

「……ッ!?」

 そこに、既に振り被った体制にいるジークが、大剣の重さを感じさせない鋭い速度で振り下ろされる。

「ハアァッ!!」

 裂帛の気合と共に振り下ろされた刃が、弥生に迫る。左右の剣で受けるタイミングを逸した弥生は、何とか身体を逸らそうとするが、次の瞬間には右半身がバッサリと斬られる未来を幻視してしまう。

 歯を噛み締め、刃を鋭く睨みつけながら強張った表情になりつつ、弥生は必死に生存を求める。

 高鳴る鼓動。強い一打ちが全身に血を巡らせ、さらなる力が満たされていく。

 ジークの刃が地面に激突し爆発を上げる。土煙に煙る中、ジークは側面から危機を察し、素早く剣を構える。同時に打ち付けられるは弥生の刃。土煙の合間に見えたその姿は、まったくの無傷。完全に攻撃を回避されていたのが読み取れる。

「またギアを上げたかっ!」

 切り返す物の、その時には既に弥生は土煙の向こうに消え去る。

「逃がすかっ!」

 横薙ぎ一閃。それだけで巻き起こる強烈な剣圧が、容易に土煙を払い除ける。

 瞬時に迫る後方の気配。反転し剣で受けると、一瞬見えた弥生の姿が加速、また姿をくらます。再び後方に出現する気配に合わせ剣を振るうが弥生と剣がかち合っただけで、彼女を捉えた手応えはない。

 瞬時に消え、再び側面から気配―――かと思えば、逆側面から―――っと、思った時には正面に、後方に、斜め方向に―――、絶え間なく動く弥生が、緩急をつけた加速でその姿を加速によりくらませ、残像の分身すら作り、ジークの四方を囲む。

 

 

 

『おお~~~っ! これはすごいですっ!? 廿楽選手、物凄い勢いで移動し、漫画でしか見られないような分身の術を披露していらっしゃまいす! これに東郷選手は対応できるのか~~~っ!?』

 

 湧き上がる観客に合わせ、司会が場を盛り上げる実況をする。

 能力によるド派手な砲撃や、奇跡の乱舞はなく、ただ愚直に剣による戦いを披露している姿は、このギガフロートにおいては物足りないと言えるかもしれない。しかし、どうやら観客達にはそんなことはなかったらしく、大いに盛り上がり、皆が腕を振り上げ思い思いの応援をしている。

「さすがに速いですね……。弥生さんの速度は、ジークさんを凌駕するものになりつつあります」

 カルラがそう評価を下すと、それが聞こえたらしいカグヤが、赤くなっている両頬をさすりながら、同意の声を漏らす。

「弥生の『ベルセルク』は戦闘状況と時間経過によって段階的に無限に強化を繰り返す。塾生時代もアイツに敵う奴はいなかったよ。『当たれば死ぬ』なんて言う、無茶苦茶な能力使ってる奴相手に、まったく攻撃を受けることなく一方的に切り刻んでいたりとか……、ともかくアイツ足を使って動き回るスタイルだから、ああいう風に走られると、俺でも足が止まっちまうんだよな……」

「じゃあ、私があの状況で動けたらお前を超えたことになるな?」

 割り込んできたレイチェルの言葉に、カグヤが「ああんっ?」っと据わった視線を向けるが、レイチェルは不敵に笑みを返すばかりだ。

 バチバチと火花を散らす中、喧嘩に発展する前にカルラは話題を戻す。

「弥生さんの足は特に速いですよね? 力はまだジークさんが上のようですが、いずれ、それも『ベルセルク』の効果で超えられてしまいそうですね? この試合、皆さんは誰が勝つと思います?」

 敢えて話題を振ることでこちらに注目を集めたカルラに、真っ先に答えたのは悠里であった。

「弥生が勝つさ! 俺はあいつの訓練に付き合ってたから一番分かってるっ! あいつがギアを上げれば、ジークの“鋼の権能”だろうが何だろうが突破できるはずさ!」

「確かに……、ジークさんの『龍の血を受けた肉体(どらごんぼでぃ)』は、自分より強いイマジネートで攻撃されると破られるらしいですしね……。いつかは弥生さんの『べるせるく』が追いつくときは来るかもしれません。“いつかは”……」

 悠里に半分同意、半分否定の言葉を続ける環奈。それに対し、レイチェルは腕組をして僅かに思案気な唸り声を漏らしてから自分の意見を告げる。

「ん~~~? 私はジークが勝つように思えるかな? あくまで“現状では”、だが、ジークの『ドラゴンボディ』を打ち破れる力が付く前に、ジークが弥生を倒す方が早い気がする。ジークの防御力が一体どの程度なのか次第で、判断が変わるかな?」

「同意……、たぶん、ジークが勝つ……」

 菫も同意の声を上げる。いかに速度と猛攻をかけても、絶対的な防御力を誇るジークの肉体を打ち破れないのなら勝敗は決していると考えているのだろう。

「首を絞めて、窒息させる、ような隙……、ジークが見せる、とも思えない……。水辺もないから、フィールド、も、利用できない。圧倒的、弥生不利……」

「私もジークさんが勝つと思います。同じBクラスですから、私の希望も入っていることは認めますが、それでも、ジークさんの強さは、あの防御力だけではないと知っている以上、弥生さんが勝てるとは思えません」

 菫に続いてカルラが結論付けると、菫がカグヤに意見を求める様に視線を上げる。

 超至近から菫に見つめられ、ちょっと戸惑いながら、カグヤは自分の意見を言い切った。

「弥生が勝つ」

「だよなっ!?」

「ず、ずいぶん言い切りましたね……?」

 悠里の素早い反応にビックリしつつ、環奈が純粋な疑問をカグヤに向ける。

「あいつの三つ目のスキル、何か知ってるか?」

 カグヤの質問に、皆が首を振るか傾げる。それを視線だけで確認してから、カグヤははっきりと告げる。

「あいつがアレ(、、)を使えば、たとえ相手が正純だろうがジークだろうが……たぶん、俺を含めた誰もが勝てない。それだけ最強の力なんだよ」

「そこまで言い切るほどの力を隠し持っているんですか?」

 菫の探るような視線に、カグヤは呆れた表情で否定した。

「隠してんじゃなくて使わねえんだよ、アイツ……。なんでかって聞いたら、『だってこれ、直接攻撃が当てられない人対策に考えた物だもん。剣で斬れるなら剣で斬るよ!』って、自信満々にこだわり優先だと言い切りやがった……」

 その理由に、全員が苦笑いを浮かべるか、呆れるかして言葉を失ってしまう。

「ですが、そんな信念があるのなら、この試合でも使わないのではないですか?」

 環奈の疑問には、カルラが素早く推測し、答えを提示する。

「いいえ、ジークさんの権能はそう簡単には破れない。斬っても斬れないと解れば使ってくるでしょうね」

「でも、それ……、弥生の『ベルセルク』で、ジークを切れた、ら……、使わないよね?」

「「「「「あ………」」」」」

 菫の決定的な一言に、全員が声を漏らし固まる。この勝負、一体どう転ぶのか何だか分からなくなってきた様子だ。

 

 

 神速、剣激、ヒット&アウェイ……。

 ジークの周囲を常に止まらず縦横無尽に駆け巡りながら無数の斬撃。

 どう見てもジークが追い詰められているようにしか見えない中、舌を巻いていたのは弥生の方であった。

「もうこの速度に追いつけるんだ。すごいねジーク」

「なに、速度だけならもっと速い奴と戦ったことがあってな。反応すらできないアイツの速度に比べれば、見える分だけ、……どうってことないっ!!」

 ジークは、自分で言ったことを証明するかのように、剣を振り下ろす。

 驚異的な一撃はしっかりと弥生を捉え、彼女に回避行動をとらせる。

 瞬時に弥生も交差する瞬間に数度の斬撃を放つが、ジークはそれら全てにもしっかり対応し、剣で攻撃を受けきって見せる。

 ステップを踏むようにして距離を取り、ジークを見据える弥生。自分の速度に対応してくる相手に、頃合いを見計(みはか)らうように目を細める。

 僅かな呼気。息を整え……気を高める様に気合を入れ、地面をしっかりと踏みしめる。鼓動が強く打ち、全身に送られる血流が、そのまま力となって駆け巡る。ギアが上がったことを確認した弥生は、一気に勝負に出ることを決意する。

 奔る!

 地を蹴り、足のバネを全力で活かし、再びジークの周囲を駆け周る。だが、先程と違って範囲が広い。時にはかなり遠巻きに移動し、無駄とも言える広範囲分身を披露している。

 なぜこんな無駄に広く展開しているのかと、ジークが訝しんだ瞬間、弥生が動く。

「ベルセルク第一章……」

 遠くで地が爆ぜた―――っと思った時には正面から弥生の二本の剣がジークの大剣に激突していた。

「『強襲(きょうしゅう)』―――ッッ!!!」

「ぐうぅ……っ!?」

 俊足と攻撃が完全に一体となった一撃は、まるで獣が獲物に対して飛び掛かるが如く。襲われたジークは偶然剣に攻撃を当てられただけで、反応などできていなかった。咄嗟に足を踏ん張るが、押し返すことができず、何とか倒れずに堪えるのが精一杯。

 何とかジークが堪えたタイミングを見計らい、弥生が剣を弾き、ジークの後方へとくるりと前転して着地する。

 ジークが振り向きざまに剣を振るうが、既に弥生は攻撃体勢に入っていた。

「『縦横無尽』―――ッ!!」

 駆ける一撃。馬上の一突きと見紛う一撃がジークを弾き飛ばす。一瞬、宙を浮くジークの足が着地すると同時に、別方向から再び弥生の突進が迫る。何とか剣で受けるがやはり弾き飛ばされてしまう。そしてまた別方向から突進……。フィールド上を文字通り縦横無尽に駆け巡り、その特攻をこそ攻撃だと言わんばかりにジークを中心に駆け回っている。

「ぐぅ……っ!?」

 防御に精一杯になった瞬間、弥生が更に加速。ジークの正面に出現し、右の剣を一杯に引いて渾身の力を籠める。イマジン粒子が刃に集い、真っ赤に輝く。

 赤い閃光が、放たれる。

「『一気呵成(いっきかせい)』―――ッッ!!」

 

 バッッッゴオオオオオォォォォーーーーーーーーンッッッ!!!!

 

 戦闘機が音速の壁を越えたのではないかと言う轟音が鳴り響き、人体から放たれたとは思えない衝撃が刃から放たれる。まともに受けたジークは防御越しだとかそんなの関係なく吹き飛び、漫画みたいに宙を舞った。いや、“舞った”などと言う生易しい表現ではない。文字通り“吹き飛んだ”。強力なスプリングが、限界一杯まで潰され、それが解放されたかのようなでたらめの勢いで、ジークの体が宙に投げ出される。

「ぐ、ぐおぉ……っ!?」

 ありえない加速を自身の体で体験しながら、かなりの長距離を勢いだけで飛行し、勢いが収まるより早く、地面が迫る。上手く体勢を整え、地面に足を向けるが、地面に足が接触するだけで、体が弾かれてしまいそうな衝撃を味わう。まるで通過中の電車に触れてしまったかのような衝撃に、せっかく整えたバランスを崩し、転倒してしまいそうになる。だが、ここでもジークの『不死身の肉体』が(こう)を成し、弾かれそうになる足が、何とか衝撃に耐えてくれた。渾身の力を籠め、『龍の血を受けた肉体(ドラゴンボディ)』が(もたら)す加護を振り絞って踏ん張る。

 地面に接触した足が、容赦なく地面を削っていく。バキバキと冗談のように砕け散る地面に、勢いを殺しながら、何とか減速していくジーク。っと、それに集中する暇もなく、再び正面から危険を察知する。

 迫るのは当然のこと弥生であり、気付いた時には既に遅い。真正面に迫っていた弥生が、左右の剣を振り被り、突進の勢いのまま、回転切りを放ってくる。

「ベルセルク第二章……!」

 勢いを乗せた回転切り。返す二本の剣で斜めに切り上げ。上段から左右に開くように切り開く。

「『制覇』―――ッッ!」

 三連撃の強攻撃。剣で受けたジークだったが、ついに地面を転がされてしまう。代わりに勢いこそ収まり、何とか立ち上がる。

 弥生の猛攻はそれで終わっていない。背後に立たれていることに気づいたジークが振り返るが、もはや間に合うはずもない。

 フゥバババババッ!! 五つの赤い閃光がジークの胸を袈裟懸けに切り裂く。

 「『打倒』!」

 一度に五激も叩き込まれた衝撃が一度に訪れ、仰け反るジーク。その隙に飛び上がった弥生が、両の剣を逆手に構え、串刺しにするが如くジークへと突き立てる。

「『討伐』―――!!」

 ライトイエローの閃光が迸り、叩き潰されそうになるジーク。かろうじてグラムを盾代わりにして切っ先を受け止めるが、さすがに力負けして地面に膝をついてしまう。

 これに倒れなかった事に、瞳を驚愕に見開きながら、しかし弥生は、ジークの背後に着地してすぐ、ぐるりと体を一回転させる。まるで独楽のように。

「第三章……っ!」

 さすがにこれはやばいと思ったジークは振り返ると同時に剣を地面に突き立て、防御の姿勢に出る。放たれる衝撃は、予想以上であった。

「『破城槌(はじょうつい)』―――ッッ!!!」

 お寺の鐘が砕かれたのではないかと言うすさまじい轟音が鳴り響く。地面に突き立てたグラムごと、地面を削り後方へと吹き飛ばされるジーク。先程の爆発に比べれば思ったほど飛びはしなかったが、その分、全身にムラなく轟いた衝撃に痺れ、完全に動きが止まってしまう。

 気付けば弥生は、既に自分の頭上でさらなる回転を加えて迫っていた。

「『破城鉄槌(はじょうてっつい)』―――ッッ!!!」

 先ほどとは加えられた回転数が違う、遠心力増し増しの一撃。鐘どころか、文字通り城門を城壁ごと粉砕したかのような一撃が叩き落され、地面が爆発することなく陥没した。咄嗟にガードする暇もなく一撃を叩きこまれたジーク。地面と共に陥没し、その身が完全に埋まってしまう。

 地に着地した弥生は、そのまま軽くステップを踏み距離をとると、先程の手応えを確認する様に自分の手に視線を向ける。

(手応えだけは……いっぱいあったんだけど……)

 僅かな間、弥生が瞑目し、視線をジークに戻すタイミング。まるでそれを見計らったかのように、ジークが立ち上がる。その姿は土に汚れ、衣服が多少傷んでこそいた物の、その身に付いた傷は一切ない。まったくの無傷であった。

(やっぱり効かないのか……)

 

 

 ジークが無傷で立ち上がったことに、どよめき立つ観客席。菫の質問から会話が始まる。

「さっきの、弥生の剣、光ったの……、あれ、なに?」

 菫の質問相手はカグヤと決められているのか、当然の様に視線がカグヤに向けられる。カグヤもカグヤで、結構解説とか説明とか好きな方らしく、当然のように質問に答える。

「『特化強化再現』だな、たしか……。普段俺たちが普通に使っている『強化再現』を限定的で特化型の強化に集中させた奴だ。近接タイプのやつにとっては結構メジャーな技能―――になると思うぞ。まだ俺達の間じゃあ、メジャーもマイナーもねえんだけど……」

「強化再現とのメリット、デメリットは……?」

「能力を使わずに能力を破ったりとかできる。でも限定的な範囲に集中するから、攻撃中は防御が薄くなるな。全身に巡らせている力を、一カ所に集めただけだから。能力と併用するととんでもない効果を発揮する時があるから、覚えとくとかなり有効。でも、放出系の攻撃にはのせても効果ないので、基本俺達には特に使う機会無いかな? 効果限定すると汎用性も失われるし。俺なんか防御に回す分、削ったら、紙切れ装甲だから、マジ使えん」

「それって……、威力、どのくらい、アップ……?」

「個人差がかなり大幅に出る。ちなみに俺は『特化系』は才能無し。『条件指定』とかなら得意なんだが……。弥生が使えば……、ジークの権能を打ち破れるかもしれないレベル―――だったんだがな……」

 菫にそう漏らすカグヤの表情は、とても硬いものになっていた。

「当然です。ジークさんの権能は、彼の最強の守りを誇る神格、ジークフリートの物から引き出されています。神話においても、ただの一度も砕かれたことのない鋼の権能は、同じ神格持ちであろうと敗れる者はいません」

 まるで自分の事のように誇らしく語るカルラ。同じBクラスで、協力していたこともあり、彼が勝っていることが嬉しいのだろう。

「カグヤさんは弥生さんが勝つとおっしゃいましたが、ベルセルクの権能でも、ジークフリートは破ることはできませんよ? それでも同じ意見でいられますか?」

「変わらねえよ」

 カグヤは即答したが、カルラも表情は変えない。まだこの時点では意見を覆せるとは思っていなかったのだろう。これはただの挑発だ。カグヤもそれが解っているので即答で挑発し返していた。

 カグヤが背後のカルラに向けて細めた視線を、カルラが楽し気な視線を送り合って火花を散らし合っていた。場外でなぜか発生する戦いに、レイチェル辺りを呆れさせていた。

 ちなみにイマジン効果により、幻覚の火花が本当に発生しているので、アニメと同じ描写がリアルに展開されている。

 

 

 起き上がったジークは、体に付いた埃を叩いて払うと、剣を構え直しながら挑発的な笑みを浮かべる。

「さて、この程度では俺は倒せないぞ? まだまだ奥の手があるんだろ? やってみたらどうだ?」

 余裕―――っと言うよりは期待を込めた言葉に、弥生は応えず、静かにジークを見つめ返している。

 僅かな沈黙を経てやがて、弥生は徐に身を低く構え、右の剣を大きく振りかぶって見せた。

 瞬間、それは起こった。一瞬にして弥生がジークの視線から消え去った………っと思った時には既に眼前にてクリムゾンレットに輝く剣を振り下ろしている姿が映っていた。

 それは確かに速度による移動ではあった。それだけであったなら、ジークも見失うことはなかった。だが、今の弥生はベルセルクの力で身体能力のみではなく、必要な技能・知性・直感が全て備わっている。必要とあれば一軍を率いて一国を滅ぼす聡明な武将ともなることができる。それがベルセルクの能力の奥深さだ。

 地面を踏みしめ、全体重を乗せた攻撃特化のイマジンに輝く一刀が振り下ろされる。

「でええええぇぇぇぇぇぇいッッ!!!」

 掛け声を合わせ、防御しようとするジークの間隙を突き、袈裟斬りに深く、刃が喰い込む。

 肩深くに喰い込む攻撃力特化(クリムゾンレット)の刃。剣圧だけで衝撃波が吹き荒れ、二人を中心に風が荒れ狂う。直接攻撃を受けたジークは身動きができず、しかし足を踏ん張り、攻撃に耐える。それを圧し潰そうと渾身の力を籠める弥生。剣の輝きがさらに増し、爆発的な衝撃波を生み出す。

 

 ガシャアアーーーーーンッッ!!

 

 攻撃力にのみ特化された剣が、その強化に耐え切れず、ついに砕け散ってしまった。

 『強化再現』は、剣の威力以外にも、耐久力を上げることで、イマジネーターのでたらめな使用にも耐えられるようにされている割と重要な技術だ。これがなければただの鉄の剣で能力者はびこるこの学園で戦うことなど不可能だ。弥生の『特化強化再現』は、一つの分野に特筆した強化を与えるが、その代償として武器の耐久値の強化も失われる。つまり砕けやすくなるのだ。

 砕けた剣が僅かに衝撃波を破裂させる。軽い衝撃に僅かに硬直したジークだったが、攻撃を凌いだことで得意げな笑みを浮かべ、弥生を―――、

「―――ああああああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 ―――ハニーゴールドに輝く左の剣。それが切っ先をジークに狙いを付けたまま、一杯に引き絞られていた。

 来るっ! そう思った時には、閃光は軌跡を結んだ。雷すら貫くであろう電光石火の光の柱。それは既に剣による突きではなく、光の槍と見紛う一閃。貫通特化の『特化強化再現』を施された左の剣が、ジークの腹部に深く突き刺さる。

「が、ぐ……っ!?」

 腹部を圧迫され、ジークが呻き声を漏らす。

 密着状態でさらに一歩。弥生は(ゼロ)の向こう側へと踏み込む。腕を更に押し込み、ジークの向こう側を貫く勢いで突き刺す。

「やあぁぁ―――っ!!」

 最後の気合と共に撃ち抜かれた刃は、閃光を残して砕け散った。残光となった一閃だけがジークを押し込んでいく。

「ぐぅ……っ!」

 僅かに呻くジークだったが、残光が消え去ったあとの腹部には、まったく傷は見受けられなかった。

 

 

「なんとっ!? あれでも貫けぬかっ!?」

 思わず声を漏らしたのは珍しくシオン・アーティア。今の弥生の一撃を貫通系と見切ったが故に、切っ先程度ならあるいは、っと、考えていただけに、面白い誤算だと笑いを漏らす。

 これにはオジマンディアス2世も感嘆の声を漏らしそうになるのをこらえるほどだ。

 サルナとプリメーラはまだ動きが止まっていない弥生の動向を真剣に見つめている。

 実は目で追えなくなっている詠子は、コメントできなくなって黙るしかなくなっていたのだが、真剣な表情を作って必死に誤魔化していた。

 

 

 弥生は跳ぶ。僅かな硬直状態にあるジークの頭上に飛び上がり、生徒手帳をタップ。今まで使ってこなかった巨大な戦斧を取り出し、空中で掴み取る。それはあまりにも巨大で、弥生の体の倍はあろうと言う大きさ。重量を重く、取り出されてすぐに落下を始める。

 分厚い刃に大きすぎる形状。それは明らかに、対人戦を目的とされていない、行き過ぎた様相。

 クリムゾンレットの輝きが迸る。どういう原理なのかも想像できない力で弥生を中心に戦斧が回る。

「ベルセルク、第四章―――」

 回転が臨界に達した刹那、無表情に呟きを漏らす弥生。遠心力、重量、馬力、イマジン、現在弥生がベルセルクで引き出せる全てを乗せて、振り下ろす。

 

「国落とし……『崩落』!!」

 

 深紅に輝く隕石が如く、叩きつけられた一撃。ジークは受け止め損ね、それを体で受けてしまう。僅かな拮抗すら持たせることなく、体は地面に接触、埋まり、地面諸共(もろとも)陥没、更に亀裂が広がり、広範囲が悲鳴を上げる。そして、閃光が迸る。

 クリムゾンレットの輝きは文字通りの爆発を起こし、周囲120フィートを(ことごと)く崩壊させていく。もしも国の中心でこの一撃を放てば、一国を崩壊させてもおかしく無い大規模破壊。それが個人の一撃で放たれたなど、一体誰が信じられると言うのか。

 

 

「ま、マジで……?」

「おお……っ!?」

 さすがに驚きを隠せない菫とレイチェルが唸り声を漏らす。

 環奈と悠里に至っては、物理攻撃で作り出す異様な破壊力に、完全に呆気にとられていた。開いた口が塞がらないとは、このことだ。

「や、弥生さんって……、人型戦艦爆弾か何かですか……?」

「俺、これからも絶対弥生とは戦わねえ……」

 聡明なカルラと、ある程度彼女の危険性を知っていたはずのカグヤでさえこの反応。もはや弥生は化け物扱いである。

 

 

「化け物か……?」

「化け物ね」

「化け物だ」

「化け物だな」

「化け物でいいだろ?」

 素で漏らしてしまった詠子の言葉にも、サルナ、オジマンディアス、シオン、プリメーラが同意の言葉を漏らす。それ以上の言葉が出てこないほど、彼らの心が一つになっていた。

 

 

 破壊の限りで作り出された土煙は周囲一帯を広く包み込んでいた。その量は火山の噴煙が如く、太陽を覆ってしまうほどだ。そんな煙の中から飛び出してきた弥生は、爆発時の衝撃を利用してきたのか、煙を突き抜ける様に飛び出て、後ろ向きのまま地面をすべるように着地した。その手に、新しい剣を一本取り出し、右手に納める。油断なく構えた姿勢で煙の先を見つめ、その奥にいるはずの存在を探る。

(手応えは、あり過ぎるほどあった……。正直、あの体を切っても、鉄を斬ったという感触じゃなくて、強靭なゴムを殴ったような感触で、どれだけの効果を与えられたのか、今一把握しづらいんだけど……)

 睨みつける土煙の向こう、奥深く、今も飛び上がった石ころが落ちてくる音が聞こえてくる中、明らかにそれとは違う音を、鋭敏になった彼女の耳が捉える。

 音は次第に近づき、影を連れてやってくる。

 観客が気付きざわめく。

 司会が声を上げて、注意を促す中、弥生は口元が勝手に引き攣り、笑みの形を象る。それはもはや、達観に等しい呆れたような笑みだった。

 はっきりと聞こえるようになった音―――足音は、ついにはっきりと聞こえてくる。影も土煙を超え、その男は誰もが予想だにしない姿で現れた。

 ジーク東郷、完全無欠の無傷で現れた。

 さすがに衣服の端々(はしばし)が破けてはいるものの、その体には血の一滴すら付着していない。青痣になっているところもなく、打撲すら負っていない。

「残念だが、君の力でも俺の権能は砕けない。まあ、さすがに今のは驚いたぞ? この体を手に入れてから初めて、打撃と言うものを受けた気がするよ」

 ジークの言葉に、弥生は「打撃って……?」と、思わず言葉を漏らしながら、剣を構えて、果敢にも攻めを続行する。

 

 

「いや、さすがに有り得ねぇ……。どんな手品……?」

 呆然自失する悠里に代わり、菫がカグヤを見上げながら尋ねる。

 しかしカグヤも、さすがにあれほどの攻撃を無傷でやり過ごしたジークの手腕が解らない様子で、難しい顔をしていた。

「いや、ジークの使用する『不死身の肉体』は、ジークのイマジネーションを超える攻撃を与えれば、破ることはできるはずだ。確かに弥生のイマジネーションは110、ジークの200に比べれば倍近い差がある。だが、あれだけベルセルクの向上した一撃を受けて、なんともないなんてことはないはずなんだが……?」

 訝しむカグヤに対し、ライバル意識があるレイチェルが素早く思考を駆け巡らせるが、答えが出せず、ちょっと悔しそうな表情をする。

 そんな二人に対し、多少得意げになりながら、カルラが解説して見せる。

「ジークさんの三つ目のスキルは、デメリットを強制する物らしいですよ」

「「あ……っ」」

 カグヤとレイチェルが同時に声を上げた。

「『ペナルティ・スキル』……っ!」「『リソース・ブースト』ってやつか……っ!?」

「「「なにそれ……?」」」

 レイチェルとカグヤが別々の単語を出して納得したのを見て、逆に疑問が増えた菫、悠里、環奈が質問を投げかける。これにはまず、レイチェルが説明を始める。

「『ペナルティ・スキル』って言うのは、普通なら能力を向上させたり、攻撃方法を増やしたり、メリットを得るために使用される『技を固定する空白(スキル・スロット)』に、デメリットしか与えないスキルを習得させるものの事で……」

 そこで言葉を一度切り、続きをカグヤが引き継ぐ。

「そうやって自分にとって不利な条件を付ける代わり、既に覚えている能力を設定以上に上乗せして強化できるようになる。この方法を『リソース・ブースト』って言うんだよ」

 通常、イマジネーターが与えられているスキルの強さは数値的に10とすると、それを三つに割り振ることで、スキルの強さを決定している。スキルはそれぞれ3以上の数値を与えられて初めて設定通りの力、つまりは最低限の力を発揮できるものとされる。全ての能力を十全以上に発揮するには、そこにさらなる余剰数値を入れたいところだが、この計算だと、上乗せ出来る数値は1しか余っていない。これでは数値を追加しても目立った強化はできない。

 そこで使われるのが『ペナルティ・スキル』だ。これはスキルにマイナスの数値を割り振ることができる。例えば二つのスキルにそれぞれ3を消費して、6の数値を消費したとしよう。残りの数値(リソース)は3となる。そこに、ペナルティ・スキルによってマイナス3が加わる。数値は常に一定であるため、計算上、マイナスになった分のプラスの数値が浮いてくる。つまり、残ったリソース3にプラス3を追加し、6ポイントを余らせ、他の能力に更なる追加ができると言うことだ。

 

〇通常               〇リソース・ブースト

リソース(10)           リソース(10)

   ↓                 ↓

スキル1(4)           スキル1(4)

スキル2(3)           スキル2(3)

スキル3(3)           スキル3(-3) → リソース(3+3=6)

                                 ↓

                             スキル1(4+6=10)

 

 これにより、克服しようもない弱点を背負う代わり、圧倒的な長所を手に入れることができる。こういったスキルのバランス調整行う裏技的方法(メソッド)を、『リソース・ブースト』と呼ばれている。

「頑丈なわけだ……。単純計算で倍以上の効果を発揮する『リソース・ブースト』を相手に、純粋な火力で攻めたところで突破するのは難しすぎる。防御力と言う面において、ジークはまさに最強だろうよ」

 呆れ半分に語るカグヤに、カルラは自分のクラスの代表が褒められた事が嬉しいのか、思わず笑みを作ってしまう。

 それでも……っと、カグヤは気持ちを改める。

「それでも、最後に勝つのは弥生だ」

 再びジークに剣激を叩き込み、やはり無傷で終わる弥生を見つめ、カグヤは改めて断言する。

 

 

 アクアブルーに輝く刀身で四連撃の剣技を決めて見せた弥生は、地面を滑りながらジークと距離をとる。見事に斬られたはずのジークはやはり無傷で、ゆっくりとした動作で魔剣を構える。

「さらに速度が上がるか。今のは完全に出し抜かれたぞ。……だが、それだけだ。どんなに速度を上げようと、その程度の攻撃力では俺には傷一つ付けられない。他に手がないのなら、これ以上は無駄なあがきだが……?」

 打って変わって、笑みを消したジークは、この流れを危ぶんでいる様子だ。自身の敗北に対してではない。どんなに攻撃を受けてもダメージを負わない自分と、速度が上昇し、まったく攻撃を受けなくなった弥生。この状況が勝負のつかない千日手状態になってきている事に、審判から引き分け扱いされるのではないかと言う危機感から、危ぶんでいる。

 故に彼は自分の有利性を宣言し、弥生に降伏を進めている。もちろん、彼女に他の手があると言うのなら続行するのは大歓迎だ。ジークにとって拒絶したいのは、決着がつかないから審判判断で引き分けにされることなのだ。

 長髪の意味も込められたジークの発言に、果たして弥生は剣を下げると、(おもむろ)に破顔した。

「ダメだ」

 第一声に、ジークはぽかんとしてしまった。弥生の人となりに詳しいわけではないが、それでも彼女の口から諦めととれる言葉が出てきたことが意外だった。それに構わず弥生は、本当に諦めたように肩を竦めた。

「今までで最高の力を引っ張り出して、第四章の国落としまで行ったのに全然傷一つ付けられないんだもん。悔しいけど解っちゃった。どんなに頑張っても『ベルセルク』では、ジークの『不死身の肉体』は破れないって……」

 完全な諦めの言葉。そして苦笑い気味の表情には、悔しさが滲んでもいる。

 ジークは悟る。どうやら弥生は本当に諦めてしまったらしい。諦めた上で、いや、諦めることしかできなかったことに、本気で悔しい思いをしているのだと。

(君でも俺を傷つけられなかったか……)

 弥生の抱く感情と、同じ物であろう哀愁を抱くジーク。続く降伏であろう言葉を予感して、彼は目を伏せる。

 

「だから、僕も“黄金の剣”を使わせてもらうね?」

 

 真剣味の帯びた声に、ジークは伏せていた視線を上げる。

 弥生が右の剣を後ろに下げ、隙手(すきて)になっていた左手を掲げる。

 観客席でカグヤがほくそ笑む。

 弥生は『ベルセルク』ではない能力に意識を切り替え、言霊(ことば)を紡ぐ。

 

「≪我は言霊(ことだま)の技をもって世に義を表す!≫」

 

 弥生が聖句を唱えた瞬間、周囲に黄金の輝きが満ちる。弥生の足元には黄金の光を纏った古代の絵画のようなものが出現する。剣を持って戦う戦士の絵が刻まれた石碑のような光から、黄金に輝く大振りの剣が現れ、弥生の手に収まる。

「≪これらの呪言は、雄弁にして強力なり! 強力にして勝利を齎し、強力にして神魔討滅の神刀と成さん!≫」

 聖句を紡ぎ終えた弥生は右の剣を後ろに下げたまま、左の剣一本を構える。それはまるで、それ一本で戦うかのような構えだ。

 ジークは困惑する。ここで出してきた黄金に輝く剣。明らかに弥生の切り札であろうそれに、しかし、ジークは何の脅威も感じていなかった。むしろ彼は悟っていた。あれは確かに強力な剣だが、注意するほどの脅威ではないと。だが、同時に心の奥の奥、本能とも言える領域で、微かな危機感も感じている。あれは危険だと、そう告げる本能が微かに感じる。それは動物的本能でも、生存本能でもない。人としての本能でもない。自分が有する能力、その深淵にある権能が、神格が、危機感を感じているのだ。

 ジークの困惑に答えが出るのを待たず、弥生はさらに言葉を紡ぎ始める。

「あなたが有しているその能力(チカラ)、『ドラゴンボディ』は、ドイツで語られる“ニーベルンゲンの歌”の英雄、ジークフリートが元となっているものだ」

 不思議と空気に響くその声は、荘厳な音となって世界に木霊する。

「幾多の冒険を重ね、龍殺しの剣、姿を消す外套を手に入れ、邪竜を屠り、ついには不死身となった中世叙事詩(じょじし)の大英雄。それがジークフリート。不滅の肉体と、竜殺しの剣を持つ者」

 言葉が紡がれるにつれ、周囲に満ちた黄金の輝きが集まり、空中に新たな黄金の剣が生成される。それは弥生の言霊(ことば)によって編まれるが如く、いくつもいくつも編まれていく。

 刃が宙をひとりでに飛び、ジークに向かって切っ先を向ける。慌てることなく、ジークはグラムを振るい、難なく迎撃。剣は易々と砕け、黄金の粒子となって散っていった。

(黄金の剣と言う割には、一本一本は大した力を有してはいないのか? 見た目から勝手にエクスカリバー並みの力があるかもしれないと予想していたのだが……?)

 疑問に思いつつ、微かな本能が告げる危機感は逆に肥大していくのを感じる。弥生自身に意識を集中してみれば、その危機感は更に大きくなっていくのを感じた。

(なんだ……? これはなんだ……?)

 正体不明の不安が、ジークの中で(わだかま)っていく。

「だが、アイスランドの民は、もう一人同じ英雄を知っている。その名は“シグルズ”。北欧の神話において、邪竜を撃ち滅ぼし、古ノルド語で≪怒り≫を意味し、嘗ては北欧の“支配を与える木”にオーディンの手によって刺された剣。それを父、シグムンドより与えられ、邪竜を滅ぼし、神の規律を破り、永遠の眠りについた戦乙女、ヴァルキリーを目覚めさせた『恐れを知らない者』。それが“シグルズ”」

「む……っ!?」

 弥生の言葉が紡がれ更に多くの黄金の剣が編み出される。その数は弥生の言霊に合わせ、既に空を覆いつくさんばかりの数に膨れ上がっている。その剣達が次から次へとジークに向けて襲い掛かってくる。菫の剣群など比ではない。数と言う意味においては、圧倒的な剣の軍勢。それを迎撃していたジークは、次第に剣の切れ味が鈍り始めていることに気づき、この黄金の剣の権能がいかなるものであるかを悟る。

 だが、今ジークが唸り声を漏らしたのは、弥生の放つ言葉の内容そのものだ。それは、ジークが自分の能力を設定する時に思考した、神話の内容。しかし、ジークが知りえる限りでは、微妙に違う、複数の神話。

「あなたが振るう剣の名は≪グラム≫! それは嘗て、シグルズの父神、シグムントがオーディンの持つグングニルの一撃によって砕かれた剣であり、その砕かれた破片を集め、打ち直した剣こそが、ドイツの英雄、ジークフリートが持つ聖剣≪バルムンク≫! ジークフリートが携えていたのは、二振り目の剣だった!」

 弥生の言霊(ことば)が剣の由来に触れた瞬間、黄金の剣達は、ジークの持つ魔剣グラムに対し、強い耐性を持ち始め、グラムの切れ味を物凄い勢いで劣化させていく。それは明らかに剣が持つ神格が切り裂かれているのだと解った。

「いかんッ!?」

 ジークは剣の迎撃をやめ、飛び退く。体勢を立て直し、剣を構え直すと神格を籠める。

「神格開放!」

 刃が中心から左右に割れ、斬り込みが入る。その切込みは切っ先で斜めに二本、左右に分かれ、Yの字型の切込みを作る。その切込みに緑色のイマジン粒子が流れ込み、それが神格へと変換されていく。魔剣グラムの特性。剣の神格を発揮するためのギミックである。

 神格を発揮した剣は、黄金の剣を次から次へと切り裂き、迎撃を容易にした。数が増えたのは厄介であったが、神格を補充できる体制をとった以上、そう易々と抜かれる心配はないだろう。

「それにしても不快だ! いったい何を語っているっ!?」

 弥生の言葉が、自分の宿す神格に嫌厭(けんねん)されていることを悟り、ジークが代弁するように叫ぶ。

 それに応えたのか、それとも無視しているのか、弥生は次の言葉を紡ぎ、黄金の剣を編み上げる。

「そしてシグルズもまた、ジークフリートと名を変えている。妻に娶ったヴァルキリー、ブリュンヒルデは、神に定められた運命に逆らったことで、夫であるシグルズと別れる事となる。そしてシグルズは、魔法の薬を飲まされ、記憶を失い、義理の兄であるグンテルのために、一人の美しき女性を妻として差し出した。自らの姿を魔法により義兄(あに)に化けて、二人の仲を取り持ってしまった! それが嘗て、己の妻であったことも忘れてっ!!」

 弥生の言霊に応え、黄金の剣が世界を埋め尽くす。地に空に、幾多と広がる(権能)が、ついに世界を侵食し、黄金の世界へと塗り替えた。見渡す限りの荒野なのは同じだが、その全てが黄金の剣のためだけに存在する世界。ここに来て明白である。これは黄金の剣にして、言霊によって編まれた、権能破りの剣、『言霊の剣』なのだと言うことが。

 権能を切り裂く権能。それに気づいた時にはもう遅い。ジークはここに来てやっと自分自身でも感じ取れる危機感を得る。この剣に斬られてはいけない。この剣には殺傷能力など微塵もない。これらの剣は、現実の剣と同じく消耗品だ。数を揃えて立ち向かうからこそ意味のある剣だ。この剣の黄金は言霊だ。神格と言う炉に、神格の由来を言霊として()べる。そうして()溶かした剣が神格破りの剣『言霊の剣』と言う事なのだろう。

 これの弱点は容易に判断できる。消耗品であるが故に、全ての剣は使い捨てであると言う事。言霊が原料である以上、紡げる由来と言う数に限りがあると言う事。一本、一本の対処はさして難しくないと言うことだ。

 だが、これは今のジークには何の意味もなさない。ジークは既にBクラス主席の恩恵として、新たなスキルを獲得しているが、現状、このスキルを使う意味は全く存在しない。故に使えない。それと同じように、弱点が解っていても、そこに付け込める手段がなければ、弱点とはならない。

「ならば……っ! その不快な言霊諸共、切り裂くまでだっ!!」

 ジークは全ての権能を打ち砕かれる前に、弥生を倒すことを決める。

 『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』の恩恵をで強化された身体能力を活かし、突貫を開始する。剣に神格を補充しながら迎撃し、物凄い勢いで剣の切れ味を落とされる中、弥生へと肉薄する。

 それに対し弥生は、ジークを睨みつけるように見据え、最後の言霊を紡ぐ。

「あなたは≪恐れを知らぬ者(シグルズ)≫ではないっ! それは嘗て、ヴリュンヒルデを愛し、短くも幸福な営みを紡いだ英雄の名! 嘗て愛した妻を裏切り! ≪勇気無き者(グンナル)≫と呼ばれた義兄に差し出してしまった、ドイツの英雄! ジークフリートだ!」

 黄金の剣が集う。世界に満ちた剣が、弥生の持つ剣に収束され、弥生の言霊に合わせ、その形を変えていく。その剣は大剣。形状はジークの持つグラムに酷似するが別の物。不思議とそれは誰の目にも理解できてしまった。その象った形状こそが、支配を与えし木に刺さった剣の二振り目、聖剣バルムンクなのだと。

「あなたの『鋼の権能』は、嘗て愛したヴリュンヒルデを眠りから覚ますため、炎の檻を超えた時に、龍の血が焼かれ、固まったもの! そして嘗ての妻を裏切った呪いこそが、菩提樹(ぼだいじゅ)の葉! この剣は今は……っ! あなたの菩提樹の葉だっ!!」

 言霊の全てを出し尽くした弥生が踏み切る。

 いくつかの剣に身体を切り付けられ、『不死身の肉体』が弱まっていることに気づきながら、弥生に向けて全力の一刀を振るいぬくジーク。

 両者の剣が交わるかに見えた刹那―――弥生の体が宙に浮いて回転する。ジークが振り下ろす剣を避ける様に、まるで回転するミサイルにでもなったかのように空中で体を捻る。

 左の(バルムンク)が、隙間を縫うようにしてジークの腹部へと迫る。

(構う物かっ!!)

 ジークは己が権能を破られることを覚悟し、振り下ろした剣の二撃目に全ての意識を集中した。

 黄金の剣が、ジークの右わき腹から左肩に目掛け、逆袈裟懸けに斬り上げられる。地面に背中を向けるような体勢になった弥生は、己の剣が、確かにジークの『不死身の肉体』を、『鋼の権能』を打ち破ったことを確認した。

「だあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっっ!!!!!!!!」

 裂帛の気合。

 振り下ろされたグラムが、ジークの渾身の力全てを呑み込み、斬り上げられる。ご丁寧にしっかりと体勢を整えられ、地面にしっかりと足の着いた、重く鋭い一撃が跳ね上がる。

「―――――――――――――っっっっ!!!!!」

 歯を食いしばり、音無き咆哮を上げ、弥生も精一杯体を捻る。体の内に眠るもう一つのスキルを発動させる。

 弥生の派生能力。勝者の神『ウルスラグナ』その第十の化身『戦士』が“言霊の剣”。そしてもう一つ。『ウルスラグナ』第一の化身『強風』を発動する。“アワタール”と言う十の姿に変身する権能があったと云われ、その第一の化身『強風』は、己が名を呼ぶことで、窮地の民を風となって救いに来ると言う物だったらしい。そのため、発動の瞬間は微風であり、それが徐々に強風へと変わり、最後には颶風(ぐふう)となり風と共に現れる。

 弥生のそれは、風を纏い速く動けるようになるだけのものに抑えられている。『ベルセルク』同様、時間経過で纏う風が強くなる特性があるのだが、本人があまり重要視していないため、使われたことは一度もない。今回はそれが使われた。

 微風が吹く。体の捻りを助け、落下速度を緩和し、斬り上げてくるジークの大剣、その僅かな隙間に身体を滑り込ませる。まるで空中の木の葉を切ろうとして、木の葉が風にとってひらりと躱す様に、紙一重で避けた弥生は、回転の勢いを殺すことなく、右の剣を振るい抜く。

 黄金の剣が斬った軌跡を辿る様に、クリムゾンレットに輝く刀身が、ジークの体を切り裂いた!

 

 ギャンッ!!

 

 地面にしゃがみ込むような体勢で着地すると同時に、剣が振り切られる。剣が放った音は、明らかに空を切ったものではない、鋭い音が鳴る。

 

 ズバアアァァァァーーーーッッ!!!

 

 一拍の間を経て、ジークの体が切り裂かれた。

 返り血を嫌ったのか、反撃を恐れたのか、本能的に飛び退く弥生。

 放心した表情で後ずさるジーク。

 観客が、司会が、呆気にとられ、一瞬の静寂を作る。

 次第に状況は理解され、身震いが奔る。ワァッ! と、会場が一斉に湧いた。

 思わず悠里が席を立ってガッツポーズ。

 カルラがありえない物を目の当たりにしたように口を開けて驚愕を露わにする。

 カグヤは冷静に、しかし額からわずかに汗を流しながら、こんな奴と菫が戦うことになるのかと、苦い思いを抱く。

 菫は目を丸くしていた。だが、その眼は驚愕ばかりでなく、しっかりとその姿を見逃さず捉えたと、挑発的な物も物語っていた。

 詠子はさすがに「おお……?」っと、訳の分からない言葉を漏らしてしまっていたが、サルナの「へぇ……」シオンの「ほぅ……?」プリメーラの「はぁ……?」などの感嘆の声に紛れ、事なきを得た。表情だけはかなり崩れてしまっていたが、そこは一番前にいたので見られずに済んでいた。

 湧き上がる会場、司会も興奮気味に弥生の奮闘を称え、最強と思われたジークの権能を打ち砕いたことを語りまくっていた。

 ジークは……、しばし放心した様子で自分の傷を撫で、手に付いた血を眺める。

 この肉体になってから、見ることの敵わなかった己の血を―――。

 次第に、感情が昂る。

 全身に満ちていた権能が、『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』が完全に失われていることを悟る。元々、この能力は一度破られると、しばらくは使用不可能になる物なのだが、それに相まって、弥生の『戦士の権能』が、神格破りだっただけに、能力ごと完全に断たれてしまったようだ。これでは数日間は力が戻ってこないかもしれない。

 理解する。自分は間違いなく切り伏せられた。

 自分は斬られた。

 自分の権能が敗れた。

 そう、己が長年忌避していた不死身性を打ち破る女性に、ついに巡り会ったのだ!

「ふふ……っ! はは……ッ! ははははははははははははははははははははっ!!!!」

 込み上げる笑いは、明らかなる歓喜。

 長い年月、待ち侘びた光景への圧倒的歓喜!

「やっと、やっと会えたぞ! おおっ、我が愛しのブリュンヒルデ!!」

 そう、彼はこの時のために、この瞬間を迎えるために、この学園にやって来た。まさかそれが一か月足らずで叶うことになるとは思いもしなかったが、こんな幸福に笑い声を上げずにいられるだろうか?

 決勝トーナメントの会場で、敗北の一手を打たれたというのに、ジーク東郷は、この会場にいる誰よりも喜びに満ちていた。

「弥生ちゃん! おれは君に求婚するっっ!!」

「………?」

 突然の告白。湧いていた会場がまたしても一瞬静まり返る。一拍の静寂を破ったのは、悠里の絶叫であった。

「ふ、ふざけんじゃねええぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!!??」

 会場が一気にどよめく中、告白された当の本人は、無表情でジークを見つめていた。ベルセルクのギアがかなり上がっているため、平時なら赤面して大慌てになるところを、「とりあえず今は隅に置いておこう」っと言う謎の達観で受け流していた。

「この試合が終わってからなら相手するよ?」

 っと言うドライな反応が今の弥生ができる最大の反応だ。内心、慌てていないわけではないのだが、どこか冷静な自分が、他人事のように受け止め、「後にしろ」っと、戦闘行為の続行を優先して急かしていた。

「ならばこうしよう? この試合、俺が勝ったらそのまま婚姻してくれ。負けた場合は友達から始めようじゃないか?」

「そう言うの、約束しなきゃダメ?」

 平時なら「いやいや! ちょっと待って!? そんな大事な事、勝負ごとで決めるのとかなしだからーーっ!?」っと言うところが、ベルセルクのギアで、こう言う発言へと変わった。

「約束してくれれば、俺の本当の全力を披露しよう」

「うん、じゃあいいよ。受ける」

 平時なら「そういう問題じゃないよねっ!? お、お、お、お嫁さんになることと趣味をまぜこぜにしちゃダメェ~~~~っっ!!」っと叫んでいたところだが、ベルセルクのギアで、こうなってしまった。

 観客席で「おいっ! 良いのかよっ!?(笑」っとなっているカグヤと「俺が先約~~~~っっ!?」っとムンクの叫び状態になっている悠里がいたりしたが、戦場の二人には届かない。

 ジークは笑みを強くして言う。

「約束したぞ」

 ジークは、己に残された最後の力、派生能力『魔剣グラム』その物たる、大剣を中段に構えた。

 そして一言、彼は、一年生ではありえない一言を、口にした―――。

 

「神格―――完全開放―――」

 

 剣が、割れる。刀身の中心から入っていた切れ目が、更に蛇腹状にいくつも生み出され、中心の切り目に沿って流れるイマジンが、刀身の刃全体へと広がる。

 大剣が、生まれた。

 流れ込んだイマジン粒子が神格へと変換され、神格その物が刀身全てを包み込み、神格の刃を生み出した。もはやこれは神格その物で作り出した一振りの剣であった。

 そこに込められた神格が、意図してもいないのに、威圧として伝わり、弥生の全身に冷や汗が噴き出る。

 

 

「―――そんな馬鹿なっ!?」

 威圧は観客席にまで伝わり、それが本物だと悟ったカグヤが思わず席を立った。勢いで菫が跳ね除けられ、前の席で座っていたらしい、Dクラスの佐々木(ささき)勇人(はやと)に縺れ合う様に巻き込んで転がってしまい、その拍子に、勇人が菫の胸を掴んでしまうというラッキースケベ的な展開が繰り広げられていたが、そんなことを気にする余裕はない。カグヤの表情は緊迫したものとなり、ありえない物に遭遇したことへの信じられない思いでいっぱいに強張っていた。

 菫が勇人に見事なアッパー(蹴りだった)で顎を撃ち抜いてから、非難めいた視線でカグヤへと尋ねる。

「どうした、の……?」

 咄嗟にカグヤは答えられない。声はちゃんと聞こえていたが、驚愕し過ぎた精神が、喉を緊張させてうまく言葉が紡げなかった。

 代わりに言葉を漏らしたのはレイチェルだったが、カグヤ同様に強張った表情で、説明する余裕はない様子だった。

「神格の……完全(、、)開放? そ、んなこと……、できるわけないでしょっ!? 私だって、悪魔の姿を―――神正(しんしょう)を作り出すので精一杯なのよ……っ!?」

「な、なんだよ……っ!? いったい何がどうなってんだよっ!? 誰か説明っ!?」

 菫同様、訳が分からない悠里が自分でもみっともないと思うほどに取り乱して尋ねるが、それも仕方がない。先程まで結構ドライな反応で戦況を語っていた面々が、ありえないほど取り乱して驚愕しているのだ。その原因が解らない所為で、こちらまで混乱してしまう。

 これについて説明したのは、半ば放心状態の環奈であった。

「本来、神格持ちが使用する『神格』と言うのは、実際に神が使っている権能ではなく、それをモチーフにした、“人間が扱える程度に抑えられた物”なんです。そうでないと、強すぎる神格に自身が呑まれ、消滅してしまいますから……」

 弥生のベルセルクの獣の権能が良い例だ。本来神格と言うは神が振るうことが前提の力。とてもではないが、人間が扱えるはずのない代物。それを無理に発動しようとすれば、神格その物に呑み込まれ、自分と言う存在は消滅してしまう。実際弥生は、危うく呑まれ掛け、自身の体に一時的に獣の耳が生えるなどと言うことが起きた。あれが過ぎれば、弥生は完全な獣へと姿を変え、嘗て人であったことなど“無かったことになり”、ベルセルクの獣として暴走していただろう。

 それほどに神格とは、本来イマジンを持っていても、触れることが危険な力なのだ。

 それを、ジークはやってのけている。完全神格を、神が振るうことが前提とされる力を、彼は開放しているのだ。

 

 

 ジークが剣を掲げる。

「一撃目は躱せよ? 最初で最後のサービスだ」

 際限なく高まっていく神格の剣を、ジークは徐に掲げ―――弥生は跳んだ! 『直感再現』がそうしろと全力で挙げた警告に従い、己の内に宿す獣の権能が悲鳴の如く「逃げろっ!」と叫んだ言葉に逆らうことなく、残っている黄金の剣を足場に、際限なく天に向かって突っ込み―――、

 

 剣が横薙ぎに振るわれた。

 

 世界が崩壊した。

 

 神格を切り裂く黄金の剣が一掃された。

 

 足場を失い、宙に投げ出される形となった弥生は、黄金の世界が一瞬で消滅される衝撃を感じ取り、元の青空が広がる荒野を呆然と見つめた。

 圧倒的な距離と、ジークフリートの由来で紡がれた言霊の剣の群れが、黄金の世界が、まるで幻であったかのように、一瞬で消滅した。

「『魔剣グラム』は『龍殺し』の剣。この能力は、(ドラゴン)の属性に圧倒的な力を示す。普通ならただのスキルだが、俺には龍の属性を持つ肉体があってね? つまりこれも俺にとっては『ペナルティ・スキル』なんだよ?」

 個人にとってデメリットを与えるスキル。それは全て『ペナルティ・スキル』として扱われる。ジークは『フェミニスト』と呼ばれる女性に対して本能のレベルで手加減してしまうという『ペナルティ・スキル』があった。それが『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』をありえない性能に強化した。そして『魔剣グラム』には『龍殺し』の特性が与えられていた。これは、自身が纏う『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』とは相性が悪い。結果的に、自身の権能を損なわせないように、このグラムの力は抑えられることになる。これも『ペナルティ・スキル』だ。

 それはつまり、『魔剣グラム』には、『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』で抑え込まれていた力があるという“事実(設定)”が作られるということだ。

 それが、この、ありえざる力、神格を完全に開放するという、馬鹿げた現象であった。

 

「さあ行くぞ、我が愛しのヴリュンヒルデ」

 ジークは愛情に満ちた言葉を、殺意と見紛うオーラと共に放つ。

 およそ一年生が有することのできる領域をはるかに超える力を前に、廿楽弥生は緊張の笑みを浮かべる。




≪あとがき≫

▼能力解説

●『ウルスラグナ』『戦士の権能』
神話や伝承、由来などを紐解き、それを言葉によって詳らかにすることで、黄金の剣を作り出し、権能を切り裂く。黄金の剣は、言霊によって数を増やし、切れ味を上げる。言霊を紡ぐことが、錬鉄の作業となる。黄金の剣が一定数増えると、剣が覆う空間そのものが神格の支配する固有結界となる。固有結界『黄金の世界』は、特別な効果はないが、黄金の剣が無数に存在する荒野へと強制的に変わるので、地形を壁にしたり、逃走を図ることができなくなる。
全ての剣が尽きたとしても、由来から培った知識が、相手の行動などからあらゆる行動先を読み取らせてくれる。ベルセルクとの汎用することで、知らないはずの知識まで読み取れる。
ちなみに、ジークフリートとシグルズの由来を読み取ったのは、弥生の『能力看破』の変色ステータスの効果である。
なお、弥生が語っていたジークフリートとシグルズの関係は諸説ある内容や元になって伝記等を弥生の都合のいい様に読み替えた物です。こうすることによって黄金の剣を効果的な武器にしているのです。
実際はどうかなのか知りたい人は、自分で調べてみてね?


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一学期 第十試験 【決勝トーナメント 準決勝戦】Ⅳ

良い仕事場には入れた!
    ↓
「君、部署変更ね」
    ↓
「へ?」
    ↓
「あ、ごめん。予定してた部署に人員入ったからやっぱ無しね」
    ↓
「はい……」
    ↓
「でも異動は決まってるから……、クビ?」
    ↓
「アァン……ッ?」
    ↓
とりあえず、別部署に急遽変更。
仕事内容が苦手分野に、職場見学の意味とは一体……。




―――ってなことがマジでありました。
仕事中、頭の中が常に『カツカツ』している不思議感覚。
私、正気でしょうか? 最近自分の正気を疑う日々が続いております。
ついでに書くスピードが本気で落ちている事実に軽くショック。
書こうとして言葉が纏まらず、今回も必死に頭を回転させて言葉を選びましたが、説明文がちゃんとできているか自信がマジでないです。
更に言うと明らかに文字数落ちてます。もう少し書く予定だったはずなのに、書いてみると明らかに質量不足。
「あ、これはマジでヤバイ……」
っと言う呟きを漏らしつつ、“私は私の正気を保つために書き続けることにしよう”っと、半端ながらも投稿することに……。
無理はしていないし書きたいから書いているのですが、好きでやっていることができなくなっていきそうでマジで怖いです。

何はともあれ、せっかくの最新です! テンション上げていきましょう!
景気付け(?)にクトゥルフ神話TRPG動画見まくってます!
『シリゴミ卓』で本気笑いさせてもらってます。
『KPサンチェ卓』は私も参加したい! どうやって参加するのか知らないけどね!

などと脱線した前置きを無駄に長くして本編の薄さを誤魔化そうとしてしまいましたが、それもいい加減にしましょう。
添削まだです。

【  】


ハイスクールイマジネーション16

 

一学期 第十試験 【決勝トーナメントⅣ】

 

 

 駆ける。

 駆ける。駆ける。駆け抜ける―――。

 廿楽弥生は己が活かせる俊足の全てを用い、大地を駆け抜けていく。

 止まる事は許されない。僅かでも速度を落しただけで、容赦なく凶刃が、この身を両断するのだから。

「行ってぇっ!」

 弥生の号令に従い、言霊で編まれた黄金の剣が飛ぶ。菫の操剣と違い、一本一本に巧みな行動を命令する事は出来ないが、その分数で押す事が出来る。おまけにこの剣に触れれば触れるほど、相手の権能を削ぎ落としていくのだ。如何(いか)に絶大な力を持つ権能であろうと、その神格を削ぎ落とされては使い物にならない。

 そんな摂理を真っ向から否定するかの如く、その凶刃は一振りをもって幾多の剣を薙ぎ払う。

 圧倒的な神格の薙ぎ。それを放つジーク東郷は不敵な笑みを向ける。

 “言霊の剣”は確かにグラムの神格を削ぎ落としている。かの剣に宿る権能を傷つけ、その切れ味を確実に落している。だがそれでも、ジークの一振りが山河を砕き、大地を割り、天をも貫く。その威力に一切の陰りを見せる事無く、絶大なまでの神の威光―――神威(しんい)を魅せつける。

「―――ッ! ヤアァー・・・・・・ッ!」

 短い呼気と共に振るわれるライトグリーンの剣戟。『特化強化再現』属性は耐久と連撃。剣の強度が増し、切り替えしが素早くできるように『再現』した一撃を、ジークがグラムで受け止める。

 

 シュパァァンッ!!

 

 およそ金属が発したとは思えない綺麗な音が過ぎ去り、弥生の剣が容易く切り落とされる。ジークは斬っていない。ただ刀身で受け止めようとしただけだ。ただそれだけのことで、耐久力に特化強化された弥生の剣が切り落とされた。

「く・・・・・・っ!」

 反撃が来る前に、跳ねる様にして距離を取る弥生。素早く新しい剣を取り出そうとして、諦める。耐久強化の上で切り落とされる以上、持っていても役には立たない。攻撃手段として劣化してしまった剣を持つくらいなら、無手の方が幾分動ける。防御不可能の攻撃に、攻撃と防御を諦め回避に専念する。今の弥生にできるのはそれだけだ。

 その手に残されたのは、言霊によって編まれた、黄金の剣が一本。まだ周囲に幾本が漂ってはいるものの、もはやそれらが単体で襲い掛かったところで、霞ほどの効果も見込めないだろう。

 弥生は一つ深呼吸する。そして意を決する。勝機が見えるまで、回避と観察に集中し、攻撃その他を諦める。漂っていた剣を更に外側に離し、使える手段を僅かにでも残しておく。そして始める。派生能力『ウルスラグナ』『戦士の権能』による、相手能力の看破。僅かな綻びも許す事無く読み解き、己の勝利に邁進する。

 切羽詰ってギリギリの窮地。絶体絶命の大ピンチ。吹けば飛びそうな風前の灯。

 ―――だと言うのに、弥生は自然と高揚感が湧き上がり、どうしても笑みを抑えることが出来ない。まるで、長年無敵を誇っていたゲーマーが、嘗て無い強敵に巡り会ったかのごとく、彼女は自分でもどうかと思うほど楽しんでいた(、、、、、、)

(ほんと、我ながらどうかしてるとは思うんだけどだ・・・・・・っ!)

 完全にかわしてもなお殺傷してくる神格の刃を、更にその先の剣圧を見切った上での紙一重で避けつつ、廿楽弥生は場違いなほど愛らしい無邪気な笑みを(たた)えた。

(無双してる時より、面白くて仕方ないんだもんっ! ジークがあんまりにも強くて強くて・・・・・・! 本当はもう手なんて一つもないんだけど! でも楽しすぎてやめられないよぅ~~っ!!)

 笑う、笑う、笑う。

 彼女は笑う。まるで神格と刃による殺し合いなどではなく、アスレチックで遊ぶ子供同士の遊戯事でもしているかのように、彼女は心底楽しそうに笑うのだ。

 そんな場違いな愛らしい笑みに、ジーク東郷が抱くものは愛しさだった。

 自分を傷つけることの出来る強敵に、自分の全力の守りを破った少女に、彼は心奪われ見惚れている。神格の刃と言う求婚を振るい、それをかわされた事にまで愛しさを感じて、彼もまた、笑みを浮かべる。

「そうだっ! そうだろうっ!? このくらいでは満足しないよなっ!? 俺を傷つけた愛しき人(ブリュンヒルデ)!! お前がこの状況を楽しみ、これ以上をまだ望むのなら! 俺も君に全力で応えようっ! 受け取れっ! これが俺の“愛”だっ!」

 正眼に構えられた剣。一瞬の間を経て増大する神格が、光の柱となって立ち上る。『魔剣グラム』の力を砲撃と言う形で収束した、神格の応用技。菫、正純の使った必殺技と言うには芸が無い代物ではあるが、ありえざる脅威となった刃を砲撃として放つのだ。単純な能力よりも性質が悪い。

「魔剣・グラム―――ッ!!!」

 剣の真名を敢えて口に出す、イマジン基礎技術。当たり前すぎて名前すら付けられていない、単純な技術であったが、これほどの神格が溢れ返っている状況では、それも馬鹿に出来なかった。

 名と共に放たれた神格の砲撃は、一瞬にして膨れ上がり、ジークの正面一切合財を飲み込んでいく。嘗て新入生が見せられた“混ぜたら危険コンビ”の砲撃など、これに比べれば水鉄砲に等しい。弥生の使った『ベルセルク』の“国落し”が一撃を持って国を崩壊させるものなら、ジークの放った砲撃は、一発で国を消し飛ばす規模の破壊であった。

 当然逃げ道など無い。広範囲に及ぶ破壊()の奔流に、必死に駆けながら弥生は目を凝らし続ける。

 刹那に跳ぶ。岩陰でも見つけたのか横合いに滑り込むように飛び退き―――そのまま弥生は光の中に飲み込まれて消えた。

 

 

 1

 

 

 それはあまりにも圧倒的な攻撃だった。他に比較する対象として、正純の『十二宮の流星(コンステレイション・メテオール)』を上げてみたとして、それでは不十分と言えるほどの差がついてしまっている。この光の前では、シオンの()を以ってしても食い潰すこともできずに呑み込まれたことであろう。

 生存不可能―――。その言葉の重みを伝えるかのように、光が過ぎ去った後には僅かな砂塵が残るだけで、全てがごっそりと削れて無くなっていた。この破壊の後を目の当たりにすれば、再生能力を持つAクラス、緋浪(ひなみ)陽頼(ひより)でさえ「私、あれ一発で残機全損しちゃいますよっ!?」っと、言わせるには充分な物であった。

 光は神格であって熱量エネルギーではない。そのため、穿たれた大地が焼け爛れるということはなかったが、まるで掘削機で削り取ったような荒々しい傷跡が刻まれていた。神格による破壊とは、全てを呑み込み削り取る物。いかなる防御も回避も、蘇生と言う手段すらも微塵に削りきる。それほどに恐ろしい物なのだと示されていた。

 破壊の跡を目の当たりにした者は、一人の例外無く想像した。廿楽弥生は跡形も無く消し飛んだか、あるいは既にリタイヤシステムで飛ばされただろうと。

「ほう……、よくも体を残せたものだな?」

 試合を見下ろしていたシオンの呟きが示す通り、土煙が晴れた向こう側に、うつぶせに倒れる弥生の姿が現れる。

 にわかに騒がしくなる観客席に、司会も興奮気味の声を上げる。

 

『圧倒的な力! その砲撃! おいっ、それ何処の宝具だよっ!? っと言いたくなるような一撃を受け、さすがの廿楽選手もダウンッ! さすがにこれは決着がついたのでしょうか~~っ!?』

 

 皆がハラハラした面持ちで見守り、ジークは油断なく剣を構えて状況を待つ。

 っと、しばらくの間をもって、弥生の指がピクリと動く。気付いた者たちの胸がドキリッと鳴る。

 痙攣する様に手が動いた後、光を失いかけている黄金の剣を握り直し、緩慢な動きで体を起こす弥生。その姿にどよめきを起こす観客席。

「お見事」

 そうジークの口から素直な称賛が漏れた。

 

 

「え? え? なにをっ!? 今どうやって生還したんですかっ⁉」

 さすがに理解できず、カルラが混乱気味に周囲に問いかける。

 真っ先に向いたのは、実は説明好きなのではないかと言うほど解説役を買って出ていたカグヤにだったが、難しい顔で唸るばかりで答えは返ってこない。すぐにレイチェルに視線を向け直す。それに気づいたレイチェルがはっ、っとしていたが、説明したくても何も分からなかったらしく、口を歪ませるだけだ。半ば縋る思いで他へと視線を向けてみる。

「こ、根性……っ?」

「解りません……」

 悠里と環奈も微妙な表情をするばかりだ。解説者に解説してほしいと望んでしまうカルラは、本来は自分がそういう系の存在だったはずではと気づいて、ちょっと落ち込む。

「弥生、黄金の剣、で……、神格の弱いところ、斬ってた……」

 以外にも、答えが出てきたのは、今までずっと質問ばかりしていた菫からだった。腐っても決勝トーナメント出場者。ここにいるメンバーに見えなかったものも、しっかりと見えていたらしい。

 だが、菫の言うことが事実だとしても、ジークの放った神格を切り裂くことが可能かと言うと、絶対的に不可能に思えた。そのため、誰もが首を傾げたまま答えを見つけられずにいる。

「……『見鬼(けんき)』」

 環奈は僅かに感じた引っ掛かりを頼りに『見鬼』を発動。視覚以外で取り込んでいた情報全てを、分かり易い視覚情報として精査する。それによって、感じてはいたが、理屈として解っていなかったことが、明確に理解することができた。

「そうか……っ! ジークさんの神格は、まだ完全(、、)には解放されてないんですねっ!?」

「は? どういうことだよ? ジークは『神格完全開放』とか言うのを使ったんじゃねえのかよ?」

 悠里の至極当然の疑問に、カグヤとレイチェルが同時に答えに至る。

「そうか……っ! くそっ! なんで気付かなかった!? 『神格完全開放』が一年生のレベルでできるような技術じゃないのなら、どんな裏技を使っても、できる範囲には限界が存在する!」

「ジークの奴は、『リソース・ブースト』で『神格完全開放』を使用できるようになっただけ(、、)で、使いこなしているわけではないのだな!? 恐らく、時間をかけてゆっくりと完全開放状態へと近づく仕組みになっているのだろうっ!?」

 

 

 二人と同じ結論に至ったらしいサルナは、得心したように頷いた。

「今の砲撃は確かに脅威だったけど、それだけにムラも目立った。廿楽弥生はそれを見抜き、最も神格が脆くなっている個所を見つけ、そこに神格破りの剣で崩すことで即死を免れたという事ね」

「言うは易いが、実際は何度も切り付け、自分の入るだけのスペースを作り続ける必要があっただろう。それでもダメージを消し去れるわけでもなし、よくもまあ生き残って見せた物よ」

 オジマンディアスが素直に称賛を現す。皆が思わず関心を深める中、詠子だけが既に追いつけない状態で内心一杯一杯だったりした。

(へ、へぇ~~、そうなんだぁ~~~……)

 くらいの感想しか出てこなかったため、下手な事を云うとボロが出そうで、必死にそれらしい表情で不敵に笑むことしかできない。彼女にとって幸いだったのは、このメンバーは誰にも質問したり、意見を求めてこないところだろう。

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

 途端に上がった絶叫。

 大気を振るわせる咆哮が如き発声に、不覚にも、詠子は普通にびっくりして肩をはねた。

(やば……っ!?)

 と、思ったが、意外にも驚いたのは他の面々もだったらしく、サルナは身を固くし、シオンは珍しく目を丸くしている。オジマンディアスも後ずさりし、寝転んでいたプリメーラは飛び起き、眠っていた小動物が跳び起きたような俊敏な挙動を見せた。ある意味、彼女が一番みっともない反応だったので、詠子の不覚は目立たなかった。

 

 

 絶叫を迸らせたのは、もちろん廿楽弥生だ。

 彼女は全力の発声で自身の気を高め、獣の如く鋭い視線でジークを睨み据えた。

「“悪魔の心に獣の御姿を持ち、人の意志をもって我は祖国の敵を打ち破らん”」

 ―――聖句(せいく)

 詠唱と同じく、自身の能力イメージを単語にして示すことで、その力を使用する起動キー。

 弥生の能力『戦神狂ベルセルク』の神格が極端に上がる。以前はこれで返上していた獣の神格を取り戻し、半暴走状態となった。今回は純粋にベルセルクの出力を上げる事のみに集中する。

 体の中心、心の臓が力強い鼓動を脈打ち、全身に血と共に力が廻る。

 爆発―――。それと見劣りしない衝撃が迸り、弥生の全身をイマジン粒子の嵐が巻き起こる。鋼色に輝く粒子は、まるで獣の姿を象るかのように吹き荒れ、まるで咆哮を上げるかのように大気を揺らす。

「 ベルセルク―――!!!!! 」

 弥生が叫ぶ。

 刹那に走る閃光。

 それが弥生の踏み出しだと気づけた者は何人いたのか、少なくともジークはギリギリで対応できた。カウンターで合わせる様にグラムを振り下ろす。狙いは弥生の持つ黄金の剣。輝きを失いかけている剣には、もはや神格を受け止めるだけの余力もない。武器ごと弥生を両断せんと、ジークの強靭が迫る。

 激震。ジークの剣が地を砕き、弥生がジークを素通りする。

「―――ッ!?」

 ジークは慄く。彼のグラムが言霊の剣を両断せんと迫る中、接触する前に弥生は剣を手放し、ジークの剣を共に素通りして見せた。

 ジークの背後に踏み込んだ弥生は、生徒手帳から新しい剣を取り出し、右の手に納めていた。

 振り返り様の剣激。肩越しにジークが確認するが、虚を突いた弥生の方が速い。

 アクアブルーに輝く一閃が振り抜かれる。ジークの背に薄い切り傷が奔った。

「ぐっ、あああああああああぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!!」

 ギリギリで背を逸らしたジークは、そのまま片腕で大剣を横薙ぎ。その威力だけで空間を真一文字に切り裂く。

 それを弥生は跳んで躱すと同時に体を捻り、その勢いのまま剣で斬りつける。丁度ジークを飛び越えるついでに回転しながら斬るような行為に、ジークの頬が僅かに切り裂かれる。

 地に降り立つ弥生。

 剣を両手に持ち直したジーク。

 目にも止まらぬ三連撃。グラムの圧倒的な火力が弥生を襲う。

 消える。もはやそうとしか表現しようがない神速。軌跡を追うことも許さぬ瞬間加速で移動する弥生。

 追いすがるグラムの刃は、全て残像を切り裂くだけに終わる。

「こっち―――ッ!!」

 側面に入り込んでいた弥生がクリムゾンレットに輝く剣の突きを放つ。

「ぐぅ……っ!?」

 上体を逸らすことでギリギリ躱すが、弥生を至近距離に置くことになってしまう。大剣のジークでは近すぎて斬りにくい懐付近に。

「第二章、『追撃』!!」

 いつの間にか、左手に新たな黄金の剣を携え、ジークが迎撃できない距離による、逃げ場を塞ぐかのような計算された連撃。攻撃を避けなければダメージを負う。しかし、この剣を避けていては大きく距離をとることができず、反撃もできない。結果的に回避に専念しなければならず、どんどん弥生の望む場所へと追い込まれていく。

「ハアッ!!」

 そんな苦虫を噛みたくなる局面を、ジークはグラムを地に突き、近距離で爆発させるという方法で容易く覆した。

 爆発で、自分も多少なりダメージを受けたが、必要負傷(コラテリアルダメージ)と割り切って剣激を放つ。剣圧のみで刃が飛ぶグラムの斬撃は、もはや距離感を無視して切り付ける剣だ。距離が離れた弥生にも易々届く。

 だが当たらない。

 切り付けた時に弥生は残像となって消え、別の場所に出現する。

 ジークが追って斬り付けても、やはり弥生は残像となって消え去る。

 ジークは速度を上げ、意地でも斬り付けようとする。弥生もそれに合わせて更に速度を上げ、時に隙を突いて攻撃を仕掛ける。

 させまいとジークが素早く迎撃した時には、逸早く気付いた弥生が残像となって消え去った後―――などと言う物を確認するより速く、逃げた弥生を追って刃を飛ばす。斬り付けたのは再び残像。確認するよりも速く切り裂く。また残像。

 ならば当たるまで撃つまでと、ジークの速度が更に上がる。合わせて弥生も上がる。

「な、に……っ!?」

 それを何度か繰り返した時、ジークは気付く。周囲を弥生に囲まれている。

 見ていた観客はもはや訳が分からなくなっていただろう。

 実際、弥生とジークの速度は既に常軌を逸していた。

 カグヤは驚嘆する。

(もう、イマジネーターの目でも追えなくなってる……っ!?)

 悠里や環奈は目で追うのを断念し、ただ呆然とするしかなく、菫は余裕のない真剣な表情で見ることに徹している。

 サルナは思わず身を乗り出し、零す。

「もう、見えない……っ!?」

 オジマンディアスも呆れた様な笑みを浮かべ、見極めを断念し、シオンも丸くした目が全体を眺めるだけに留まっている。

 そう、もう誰にも追えなくなっている。弥生の速度は、イマジネーターの眼すら置き去りにする、神速の域に達し、加速による残像がジーク東郷を囲むように出現していた。

 それはまるで、獣の群れに囲まれたかのようで、ジークは人としての本能が、小さな恐怖心を抱かせた。

 

(【群獣狩猟(ベルセオス・ポッラ・テレシウス)】……!)

 

 弥生達が咆哮を上げ襲い掛かる中、彼女は心の中でそう叫んだ。

 これは菫や正純の使用した『必殺技』の類ではない。『戦神狂ベルセルク』(能力)が極限まで研ぎ澄まされた状態で行われる、スキルの延長線上にある派生技。

 弥生流に言うなら『ベルセルク第一章極限―――大群をもって大軍に向かう【群獣狩猟(ベルセオス・ポッラ・テレシウス)】』と言ったところか。

 群れとなった弥生達は、ただの残像に過ぎない。だが、それらは全て加速により残された虚像。それ等に斬り付けられれば傷は負う。文字通りの群れに襲われることとなるジーク。

 次々と迫る弥生達に斬り付けても、それらは残像として消えてしまい、かと言って本体が一人である以上、影の数が減るなどと言うこともなく、まるで複数の弥生に挑むかのような状況に、次第にジークの体にも傷が増え始めた。

 

 

「な、なんだ……っ!? なんでこんな状況になってんだ? いや、解らんけど、ともかくなんか弥生が優勢なんだよなっ!?」

 訳が分からなくなった悠里の声に、誰も答えられずに呆然とする。それも仕方がない。彼らは全員、菫と正純の時の再現になると思っていた。弥生は菫同様、優勢に立つジークの攻撃を凌ぎ続け、どこかで逆転の一手を打つために耐え忍ぶことになるだろうと。だが、実際にはそうはならなかった。むしろ弥生は、一撃でも受ければ即死が確実の(グラム)に対し、あろうことか超ハイスピードによる近接戦を敢行した。これには誰もが正気を疑った。

 もはや何をしているのか、誰にも分らない。観客はハイペース過ぎる内容に、もはや気分だけで盛り上がっている気配がある。イマジネーターの生徒達は、誰もが口を閉ざし、見入ることしかできない。

 こんな中でやっと答えらしい答えを見つけられたカルラは、その意外過ぎる、しかし最高に有効的な方法に、思わず感嘆の域を漏らす。

「そうか……! これなら―――いえ、これしか弥生さんに勝つ方法なんてないんだ……っ!」

「「「説明!」」」

 菫、レイチェル、環奈から、端的に求められる。ちなみにカグヤは説明のお株を奪われるのが癪だったのか、ギリギリで思い止まってしまい、苦い顔をしていた。

「ジークさんの剣は大きく長い。神格を完全開放したことで、神格の刃が剣全体を覆って、まるで斬馬刀のような大きさになってしまっています。いくら重量変化は起きないとは言え、あれでは近い相手を斬り付けるのには向いていません。そこで弥生さんは超接近戦を行うことで、ジークさんの剣を半ば封じる方法をとっているんです」

「普通はその前に死ぬ」

 カグヤが苦言を呈する様に質問を重ねる。

「接近戦に持ち込んでも、パリィされるだけで打ち負ける。接近戦は愚策以外の何物でもなかったはずだ」

「はい、確かにそれだけでは愚策です。だから弥生さんは更に危地(きち)へと踏み込んだんです」

 カルラはそれに答え、説明を続ける。

「彼女は更に一歩踏み込み、速度と反射をがむしゃらに挙げ、ジークさんを翻弄しているんです。さすがのジークさんも、全てが必殺の一撃となれば、対処しないわけにはいきませんから。なんせ、今のジークさんには『不死身の肉体』の効果が失われているのですから」

 そう、ジークの『竜の血を受けた肉体(ドラゴボディ)』は、デフォルトで対竜最強、不死身、圧倒的身体能力を取得できる。この能力から使用されるスキル『不死身の肉体』は、ジークフリートをモチーフにした権能。それ故の圧倒的な頑丈さを持っている。だが、それ故に、この力には二つのデメリットを有していた。

 一つは、竜の属性を持つが故に、龍殺しの剣である『魔剣グラム』の『神格完全開放』の妨げになっていた事。もう一つは一度破られると、しばらくは権能を取り戻すことができないということだ。

「つまり、ジークさんは最強の矛を使用する変わりに、最堅(さいけん)の盾を失うことになった。それは弥生さんがジークさんを倒すことができるチャンスでもあった。それをジークさんに思い知らせ、一種の恐怖の種として植え付ける様にしたら、どうしてもジークさんは守りに入ると思いませんか?」

 ここまで言われ、カグヤ、菫、レイチェルは思い至ったように得心した。

 まだ分かっていない二名のために、カルラは頷きながらも答えを口にする。

「そう、弥生さんは敢えて台風の目に入り込んで、プレッシャーをかけ、ジークさんの攻撃を抑制すると同時に、自分が攻撃を当てられるチャンスを増やしているんです。環奈さんが言ってた通り、ジークさんは時間と共に神格が完全に開放されてしまう。だから弥生さんは、ここで全てを使い切ってでも攻めに転じることを選んだんです」

 攻撃は最大の防御。言うは易いが、実際にそれを実践するには絶え間ない攻撃の連打と、一撃一撃が脅威となるだけの威力が必要になる。それは同時に大量の体力を消費するという事でもあり、それは大きな負担となって弥生に襲い掛かっている。

 弥生の『ベルセルク』は確かにギアが上がる毎に体力も強化される。だが、それは体力を回復しているわけではない。分かり易くゲーム的な数値で表現すると―――通常時がSP(スタミナ)10の状態で行動し、5を消費するとしよう。残りが5になった時点でギアが上がる。すると全体SPが倍加され、20となる。だが、既に弥生は半分のSPを消費しているため、底上げ分しか体力は増加せず、残り体力は10と言うことになる。消費した分の体力が回復しているのではなく、全体的な数値が強化されている状態なのだ。

 ならば、消費量を抑えれば永遠に戦えるのかと言うと、そんなこともあるはずがない。戦闘状況が容易い物になればベルセルクのギアは上がらなくなるし、厳しい戦闘であれば、ギアが上がるより早く体力を消費する状況に追い込まれることだろう。

 現在弥生がその状況にある。体力の消費を無視してガンガン消耗し、ギアを無理矢理上げるために能力を使えるだけ使っている。

 

 

「だが、それもいつまで()つかな?」

 加速し続ける戦況を眺めていたシオンは、カルラ達と同じ意見に達した後、そんなことを呟く。

「いくらイマジンの供給が無限とは言え、それほど能力を際限なく使用していると、すぐに使い切るぞ(、、、、、)?」

 

 

 「使い切る」その言葉の意味が解らず、しかし、質問することもできない詠子が歯がゆい思いをしている時、同じような言葉を吐いたカグヤに、菫が疑問をぶつける。

「使い切る?」

「俺やお前のような、イマジンを外側に向けて使うタイプには縁遠い話だが、弥生のような身体能力をとことん強化するタイプには、割と身近な現象でな。能力を使い切るんだ(、、、、、、、、、)

 やっぱり意味が解らず首を傾げる菫達に、今度はレイチェルが説明を引き継いだ。

「能力者を車に例えれば分かり易い。車が術者、燃料をイマジンとするなら、能力はエンジンと言ったところか? この学園ではイマジン(燃料)は無尽蔵に供給されるから、いくらでも術者()は走れる。でも、走り続ければ人体(車体)に負担がかかるし、アクセルを踏めば、能力(エンジン)にも負荷がかかる。無尽蔵の燃料任せにアクセルを踏み込み続ければ、やがて能力(エンジン)は、自らが発するエネルギーに耐え切れず崩壊するでしょうね」

 崩壊と言う言葉にぞっとしたのか、菫、悠里、環奈が顔を青ざめる(菫の表情は他者には判り難いのは相変わらずだ)。

 これに気づいたカルラが慌てて訂正する。

「実際は“能力を形成しているイマジン”が消費されて、使用できなくなるというだけですよ? こうなると能力の再構築に時間がかかるので、しばらく能力が使えなくはなりますが、能力を失うわけではありません。あくまで使い切った状態となるんです」

「俺たち放出型は、能力を継続使用するより、放出したイマジンを操作する方に重点が置かれているから、滅多なことではこんな現象起きないけどな」

 カグヤがそう締めくくると、皆が安心したような、やっぱり弥生が心配になったような複雑な表情を浮かべた。

「ちなみ、この能力を使い切る現象を『Ability consumption(アビリティ・ケンサムション)』能力消費状態と言うそうです」

「「それは知らなかった……」」

 カルラのついでの一言に、なぜか負けた気分になったカグヤとレイチェルの言葉が重なり、カルラは苦笑いを浮かべた。

 何気に影でこぶしを握って小さくガッツポーズを取っていたりしたが、幸い誰にも見咎められることはなかった。

 

 

 攻撃は最大の防御。それはつまり、後先考えずに力を出し尽くすという事だった。弥生は自分の中のベルセルク()が、どんどん消耗しているのを感じながら、それ以上に叱責するが如く更にギアを回転させる。

 脈動が激しく胸を打つ。もはや動悸などと言う言葉では生易しいほどに、バクバクバクッ!! と、心臓が全身に血を送り続ける。

(もっと……っ! もっと速くっ! もっと強くっ! もっと激しくッ!! これでもまだジークに追いつかれるっ!)

 無数の弥生達が次々にジークに襲い掛かり、何とか隙を突こうとするが、徐々にジークが追い付きつつある。弥生が斬り付ける前に斬り返す場面が増えつつある。無論、観客にはもはや何が何だかなので、そんな細かい状況など解らない。ただ見守るばかりで司会も説明することができずにいた。

 だが、弥生の中のギアが先にもう一段階上がる。

(ここで決める……っ!!)

「“我らは戦場における敵の一切合切を食い散らかす”―――『ベルセルク』!!!」

 聖句を唱え、更に能力を削り、数と力と速度を一段階引き上げ、ジークが対応しきれないギリギリの領域に襲い掛かる。ジークの目には、数が倍に増えた分身弥生達に、一斉に襲われようとしているように見えるだろう。

「ふ……っ」

 不意にジークの表情に笑みが浮かぶ。それに弥生が気付くと同時、ジークがグラムを握り直し、腰だめに振り被る。

 ジークの持つ剣は派生能力『魔剣グラム』その物だ。その剣は『龍殺し』スキルを有していて、竜の属性を持つ相手に、通常よりも大きなダメージを与えることができる。この戦いに関していえば、全く役に立たない能力に思われるが、それは大きな勘違いだ。龍殺しの魔剣を、スキル効果ではなく、能力その物として具現している。これは、それだけで『龍を滅するだけの力を有した剣』として成立させられる。それは、剣だけで竜と言う存在を打倒できるだけの力があるということだ。

 この情報を弥生は『ウルスラグナ』の『戦士の権能』によって習得し、その危険性を咄嗟に把握する。

 刹那に放たれる閃光。力いっぱい引き絞られた剣が、ジークを中心に無数の円を描くように数回転する。全てが必殺の刃。否、全てが一筆書きの如き一閃。まるで白刃のリボンがひらめくが如く、それは確実に全ての弥生を捉えた。

 残像全てが消え、弥生は一人に戻って表れる。その腹部は大きく裂け、左足まで真っ赤に血で染まっていた。ここに来てついに、決定的な負傷を負ってしまったのだ。

 加速による分身。それは確かに相手をかく乱するものではあったが、逆に言ってしまえば分身のある場所に必ず本体が移動しているということになる。ならば、そこにタイミングを合わせて撃ち込めれば、分身の数だけ負傷するのと同義だ。ジークはあの一瞬で確実に弥生の速度に合わせ、最速最短の攻撃を仕掛けた。弥生の負傷が脇腹の一つであったのはむしろ行幸と言えるだろう。

「【黄金竜殺しの牙(スコトノ・ゲネイオン・ファーフナー)】」

 ジークは静かにそう名付けた。

 必殺技、っとまではいかないが、弥生同様、グラムの神格が高まった状態で使いこなされた妙技と言ったところだろう。グラムが斬ったとされる竜、ファーブニルの名を加えられた技は、戦場の獣を捉え、致命傷を与えた。

 再び弥生は劣勢に立たされる。致命傷を受けた身では、今までと同じような戦法は使えず、体力気力、そして能力、そのどれもが枯渇しつつある。対してジークは手傷こそ負っている物の、更に神格が高まりつつある。もはや、勝負はついてしまった。

 

「でええええええぇぇぇぇいっ!!!」

 

 誰もがそうとしか考えられない中、裂帛の気合と共に、アクアブルーに輝く弥生の剣がジークへと迫った。

「なんだ―――っ!?」

 最後の“と”の言葉を言い切る暇もなく、ジークは上体を逸らして刃を避ける。鼻先を掠める青い閃光が通り過ぎ、それがライトグリーンに輝きを変えて跳ね返ってくる。

「―――ああッ!!」

 瞬時にジークも切り返し、閃光ごと剣を叩き折る。

 折れた剣が宙を舞う向こう側で、弥生が新しい剣を生徒手帳から取り出しているのが見える。

「『グラム』ッッッ!!!!」

 切り上げると同時に名を叫び、その力を砲撃として開放する。近距離で躱すことのできなかった弥生に直撃。すぐ正面で神格の波動が受け止められ、破壊の嵐が扇状に広がる。

 弥生の正面に、残された黄金の剣が全て集い、その身を代償に主を守った。

「ハアアアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーッッッ!!!!!!」

 更にイマジンを込め、神格を上げる。波動が更に強化され、弥生を呑み込んでいく。

「“我が名にかけて告ぐ。魔剣グラムよ。” “我を恐れ退くがいい、グラム。” “我はあらゆる障害を打ち破る者なれば、力ある者も不義なる者も、我を討つに(あた)わず”」

 弥生も負けじと“聖句”を紡ぎ、黄金の剣に神格を補給する。薄れつつある輝きを立て直し、刃こぼれしていく刀身が寸前のところで堪える。

「“我を恐れよグラム!” “我と我が名を恐れよ! 我が名はウルスラグナ! 光明と聖域の守護者なり!”」

 『勝者のウルスラグナ』その物の神格を呼び起こす“聖句”を重ね、なおも力を得るが、ジークの規格外の力に、持ち直しかけた剣はすぐさま崩れ去っていく。故に弥生も出し惜しみなく神格を注ぐ。

「“言葉は光なり。言霊は光なり。故に光よ言霊よ、我が剣、我が刃たれ!”」

 重ねに重ねた神格。しかし、唱えられる“聖句”には限度がある。語れるだけの“句”も使い切ればそれ以上の強化はできない。いわば“聖句”とは“詠唱”と同じ、唱えられる内容がなくなれば、そこまでなのだ。

 ただ幸いなことに今回はギリギリ全ての剣を失う代わり、軽い衝撃に吹き飛ばされるだけに(とど)めた。

 受けた衝撃で宙に飛ばされながらも、弥生はくるりと宙返りし着地する。

「“我は最強にして全ての勝利を掴む者。人と悪魔、全ての敵を挫く者なり”」

 同時に『ウルスラグナ』その物の“聖句”を唱える事で、その神格を取り出し、自分の力を上昇させていく。

 

 

 爆発的に上昇する弥生の神格。ジークの完全開放に比べれば、まだまだ勢いが足らなくも感じるが、引き離されることなく食らいつく。

「アイツ、『ウルスラグナ』も使い切るつもりかよ……」

 その様子にカグヤは唸るような声を漏らす。

 

 

「は……っ!」

 シオンは弥生の行動に感嘆の声を漏らすに止める。

 

 

 地を爆発させ、大気を穿ち、刃を色とりどりの閃光に変え、信じられない速度と力で襲い掛かる。

 だが、今度はそれにジークも合わせる。ジークがパリィできない角度とタイミングで振るわれる剣を全て回避し、時に片手で大剣を振り回し、地平線ごと弥生を両断しようと神格の波動を撃ち出す。

 弥生が軽く距離をとるだけで100メートル近い距離が一気に開く。その距離を一瞬で詰め直すことが、今のジークには可能だった。

 斬りかかってくるジークの刃をバック宙で躱し、間も置かずに二刀で斬り付ける。

 それを一歩下がって躱し、返す刃でジークが斬り付けるが、瞬間移動の如く長距離回避を行う弥生。そしてそれにあっさり追いつくジーク。

 ただでさえ目で追えないスピード勝負は、更にフィールドを広範囲、縦横無尽に駆け周り始め、まるでフィールドが勝手に崩壊していくような情景が繰り広げられていく。

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!」

「やあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!」

 二人の雄叫びが崩壊していく荒野の中で響き、それ以上に轟く大地の悲鳴。

 ジークの一撃が大地を吹き飛ばし、大きな岩が空中にいくつも舞い、それを足場にして弥生が空中を跳び回ると、ジークもそれを追って空を跳び回る。

 ジークの剣が弥生を追っていくつもの斬撃を放つ。文字通り神格の波動が斬撃となって放たれるため、飛び道具を持っているのと同じようなものだ。しかも空中では足場となるのはジークが爆発で吹き飛ばした岩。先回りで破壊していけば、弥生の逃げ場はない。

 もはや崩壊しているのは大地だけではない。天高く舞う砂塵。それをあっさり両断する弥生の閃光。それすらモノともせず、天を覆う群雲(むらくも)を一切残さず吹き飛ばすグラムの砲撃。

 天地開闢。それを実現しようとするかのような二人の戦いは、まるで神々の戦争とも称されるラグナロクを再現しているかのようでもあった。

 ここまでくると観客はもう演出効果だけに興奮して叫んでいた。

 イマジネーターは、決定的な瞬間を見逃すまいと、固唾を呑んで見守っている。

 激しい攻防が天地で演じられる。

 次第に上空へと追いやられていく弥生。足場を破壊しながら確実に弥生を追い詰めていくジーク。

「うっ、あああっ!!」

「させないっ!!」

 無理矢理地面に向かって直下しようとした弥生を先に制するように、彼女の真下に飛び込む。

 構わず弥生が岩を蹴って直下する。

「うらあっ!!」

 咄嗟に自ら飛び出したジークの拳が弥生に炸裂する。

 近すぎる距離に剣で迎撃できなかった弥生は、左の肘で受け止め、逆に拳にダメージを与えようとした。だが、無意味だ。今のジークの拳は、弥生の肘より硬い。

 ゴギンッ! っと言う鈍い音が鳴り、弥生が吹き飛ばされる。彼女の手から離れた剣が零れ、砂塵舞う地へと落ちていく。

「ベルセルクは地を駆ける獣! グラムは天の支配者たる竜を屠った剣っ!! 果たして(ここ)で、力を尽くせるかっ!?」

 ジークは叫び、更に肉薄する。刹那の間で距離を無視する二人の戦いに、単なる吹き飛ばしも最大の隙だ。更にジークの言葉の通り、空での戦いは『戦神狂ベルセルク』の方が圧倒的に不利であった。神格すら当たり前に再現してしまうイマジンにおいて、“領域を支配する”ことは、とても重要な意味を持つ。正純が菫に対して圧倒したのと同じく、ジークは、この荒廃の大地で、自分の有利な領域を支配して見せた。これが弥生が押し負けてしまった最大の原因だ。

「……ッ!!」

 歯を食いしばり、体を捻り態勢を整え直す弥生だが、生憎彼女は完全に空中。しかも、勢いもなくなり、誰の目にも見つけられるほど減速してしまっている。そこに突っ込んでくるジークは、両手でグラムを握りしめ、特大の一撃を直接叩き込みに来ている。

 既に言霊の剣は使い切った。空中ではベルセルクも対応する術はない。仮に空気を蹴って見せたとしても、今のジークなら誤差にも入らず決めてくる。残る手立ては相打ち覚悟の一撃を放ち、全てを天の采配に委ねる事だけだ。

 迎撃の態勢を取ろうとした弥生だが、左腕が動かない。殴られた肘が砕け、神経すら麻痺させている。詳しく意識する暇などなかったが、もしかしたら筋繊維もズダボロになっているかもしれない。

 仕方なく右腕だけで剣を構えつつ、悪あがきに空気を蹴ってジークへと自ら突っ込む。

「それが最後のあがきかっ!? ならば見せて見ろっ! 我が愛しきブリュンヒルデッ!!」

 空中と言う、ベルセルクの苦手なフィールドで、天滑る竜をも落とす(グラム)が、主に応えるかのように更なる神格の輝きを放つ。

 大剣故リーチの長いジークが僅かに先に剣を振り下ろす。弥生にはどうすることもできない。迎撃しても己の剣ごと叩き伏せられ、回避する手段もベルセルクには存在しない。空中()と言う領域では、獣では戦えない。

 

 ―――だがそれは、弥生(、、)にとって不利な領域ではなかった。

 

「“我は最強にして最多の勝利を掴む者、人と悪魔の敵意を挫く者なり”!!!」

 “聖句”を唱える。

 『勝者のウルスラグナ』の第一の化身『強風の加護』弥生の持つ最後のスキル。

 その効果は、風を纏い、移動速度を助けたり、空中での移動を可能にする物。攻撃としては、相手を軽く押しのける程度の役にも立たず、完全に移動手段の補助であり、風の膜を纏った薄い緩和剤のようなものだ。

 つまるところそれは、空中と言う領域を支配している権能(、、、、、、、、、、、、、、、、)でもある。

 弥生の体がありえない軌道で捻られ、紙一重で神格の刃を避ける。それでも追いすがったジークであったが、グラムの切っ先は、弥生の髪をまとめた髪紐を切るも、その身には届かない。

 懐に入り込む弥生。

 ならばと咄嗟に片手を放したジーク。左の拳が鉄槌の如く振り下ろされる。

 構わず弥生は剣を振り抜き―――鉄槌が弥生の頭部に直撃する。ほどけた髪が広がり、彼女の頭が首を垂れるように(かし)ぐ。

 だが斬った。弥生は狙い違わずそれを切り落とした。

 ジークがグラムを掴む、その右腕を、見事に両断して見せた。

「う、あああああああぁぁぁぁーーーーっ!!!」

 苦しそうな雄叫びを上げながら、弥生はクリムゾンレッドに輝く剣を突きにかかる。

(あなど)るな……っ!!」

 それに対し、あろうことか、ジークは左の拳をぶつけてきた。

 左腕に縦に裂けた鮮血が刻まれる。だが、それでなお、ジークの(けん)は弥生の剣を砕いて見せた。

 生徒手帳から新たな武器を取り出すのに最速でも3秒はかかる。その前にとジークが更に肩を突き出しタックルを仕掛ける。

 弥生の手が伸びる。折れた剣を捨て、その右腕が確かに()を握る。

 『魔剣グラム』ジークの剣を奪い取り、右腕一本でジークに斬りかかる。

 刹那、多数のことが同時に起こる。

 主の手を離れたグラムが突然ギミックを解き、元の武骨な剣の形に戻る。それに伴い、ジークに溢れていた神格があっさりと消失、普通のイマジネーターのレベルに収まってしまう。

 しかし弥生の方も既に限界を使い果たしていた。

 常にフル回転し続けた『戦神狂ベルセルク』をついに使い切り、『言霊の剣』で既に力の大半を消費していた『勝者のウルスラグナ』も全てを出し尽くしてしまっていた。もちろん弥生が高めていた神格もあっさり消滅する。

 それでも二人は刹那の間でできる最大限のイマジン強化を行い―――交差!

 ジークの体に斜めの線が引かれ、盛大に鮮血が奔る。

「―――おおっ!!」

 間髪入れず、ジークの蹴りが弥生の腹部に炸裂。地面に吹き飛ばされた弥生はあっさりグラムを手放してしまう。それを傷ついた左腕で器用に掴み取ったジークは、そのまま覚束無(おぼつかな)い態勢で地面に落下した。

 激戦に次ぐ激戦。その決着が今着いた。

 誰もが今度こそとそれを疑わず見守る。

 土煙が晴れるのに、そう大した時間は要さなかった。あれだけの惨状であったが、最後に二人の神格が消失するときの余波で、殆どの砂塵が吹き飛んでいたのだ。

 果たしてそこに立っていたの―――片腕を失い、左腕に大きな裂傷を作り、その身に今までには考えられないほどの傷を負ったジーク東郷と、左腕を砕かれ、脇腹を深く斬られ、腹部への蹴りで内臓を潰されたのか、大量に吐血している重傷のみを負った廿楽弥生。

 満身創痍の二人が、崖っぷちで最後の力を振り絞り、耐えていた。

 

((((((((((まだ決着つかないのかよ………っ!?))))))))))

 

 ここに来て多くの観客の心が一つになる。

 

『立っているっ!? 立っていますっ!? ここに来て全力全開―――いえ、既にフィールドが全力全壊状態に至るまでやり合い、全てを出し尽くし満身創痍に至ってもなお……っ! この二人は立ち上がってきます! って言うかアンタら、まだ決着付けない気かぁっ!?』

 

「おいコラ司会、みんなの気持ちを代弁すな……」

 カグヤの乾いたツッコミに、遠くのエリートメンバーも含め、苦笑いを漏らして同意した。

 

 

 ジーク東郷、廿楽弥生。当人達も本気で精一杯であった。

 二人は息をするのも辛そうに、ゆっくりと、気を遣う様に呼吸をする。

 ジークは片手で剣を構える。

「さすがに……、お互い限界だろう? 俺も後一撃放つのが限界だ……。これで決着にしないか?」

 弥生は前髪の隙間から目で頷き、静かに右腕を腰だめに構える。どうやらもう、予備の剣も残っていない様子だ。

 ジークはそれに笑みを口に浮かべ、剣を握り直すと、唱える。

「『神格・完全開放』」

 剣のギミックが展開される。緑色のイマジン粒子が吹き上がり、神格の刃を作り出す。まるで炎のように激しく揺らめく輝きは、最後の一撃を放つ瞬間を今か今かと待ち望んでいるようであった。

「アイツ……ッ!? まだ展開できるのかよ……っ!?」

 観客席で悠里が騒ぎ立てるが、無理もない。どう見ても力を出し尽くしたようにしか思えないジークに、まだまだ余力があるなど、信じられない事実である。

 反則的な力を使う生徒ばかりのイマスクだが、ここにあってなお、ジークの存在はチートと疑いたくなるものだ。

 事実弥生は目を見開き、驚愕を露わにしている。

「……、そっか……。一度神格を収めると、リセット、されるんだ……」

 菫の呟きはジークの神格完全開放が、最初の第階まで弱体化していることに気づいての物だ。しかし、それが解ったところでどうしたというのか。弱り切った上でなお、ジーク東郷が圧倒的な力を引き出せることに変わりはないのだ。

 弥生は拳を固めたまま固まる。一度目を細め、()れそうになる声で必死に“聖句”を唱える。

「“獣の身姿に悪魔の心、人の意志をもって、我は祖国の敵を打ち破らん”」

 しかし、『ベルセルク』の神格は聖句に応えず、沈黙を保つ。

「“我は最強にして全ての敵を打ち破る者なり。”“邪悪なるもの、我を討つに能わず”」

 続いて『ウルスラグナ』の聖句も唱えるが、やはり神格は応えない。応えるだけの力を残していない。『勝者のウルスラグナ』には微かにイマジンの残留を感じる物の、能力として引き出せる容量はとてもなさそうだ。

 それを見咎めたジークは剣の神格を激しく瞬かせながら訪ねる。

「さすがに限界か? ここまでと言うなら、剣を収めるが……どうする?」

 もはや抗うだけの力など存在しない。菫の時のように覚醒復活できるなどと言う奇跡も起きない。ならば、これが正真正銘の限界。撃ち合う事すら意味を見出せない上限一杯。ここで戦うことを続けるなど、ただ玉砕することを望むことと何の変りもない。それ故にジークは降伏を促す。

 対して弥生は、その言葉を聞いた瞬間、強張っていた表情を―――和らげる。

「―――……ッ!」

 それは、イマジンのカメラによって観客全員に映し出された。ほどけた黒髪が風に揺れ、満身創痍の少女の表情を露わにする。そこにあったのは、まるで恋をしているかのような、あどけない少女の微笑み。愛おしいほどに愛らしい、見る者全てを虜にする、無邪気な微笑み。

「どうして?」

 その一言は、まるでデート中の彼氏に「つまんなくないか?」と尋ねられたことに、愛おし気な疑問を漏らすかのように、楽しいことが当然だと疑っていない、無垢なる女神の一言が詰まっていた。

「はぁ……っ! はっはっはっはっ!!」

 思わず声を上げて笑うジーク。剣を構え直して、満面の笑みで応える。

「なんと愛らしい……っ! お前は本物の女神(ブリュンヒルデ)だっ!! ならば俺も今持てる全力で応えようっ!! そして今一度求婚しよう! 俺のブリュンヒルデよ! 愛しき君よっ! もしもこれに俺が勝てば、俺と婚約してくれるか?」

「………//////////」

 改めての告白に、ベルセルクの興奮が治まっている弥生は、今度は素で受け取ってしまい、頬を赤らめる。さすがに告白されたことに動揺が走るが、今は最後の一撃に感極まっている最中、辛うじて戦いの場に意識を結び付け、慌てふためくことは抑える。そして考える。これについてどう応えるべきか、しっかりと考えねばならない。そして答えはすぐに出さねばならない。何しろ今まさに攻撃()を放たれる瞬間なのだから。

(どうしてこうなった……?)

 決勝トーナメントが始まった最初も同じような感想を抱いたようなデジャブを憶え、不思議と弥生は安らかな気持ちで答えを決めた。

「だぁ~メェ♪」

 人差し指を口の前に持ってきた弥生は、女の子らしいお茶目を魅せ、笑顔で応える。

「だって、僕が勝つもん!」

 静かに、しかし力強く答えた弥生に、惚れた男はいっそ愉快と言わんばかりに笑った。

「その言葉っ! 了承と受け取ったっ!!!」

 剣を掲げ、ジークが最後の一撃を構える。

 弥生はジークの曲解など気にも留めず、遊びの大詰めと言わんばかりに楽しそうに身構える。

 しかし、対抗する手段はない。あの光が振り下ろされれば、自分は何の対処もできず滅び去るしかできない。これは本当に覚悟を決めるべきところだ。

(でも、やめられないでしょっ!? こんなに楽しいんだよっ! 最後の最後でお預けなんてずるいよっ!!)

 不意に、弥生の視界にグラムが映る。

 それは唐突に気付く。

(あ……、そっか……)

 自分は言霊の剣を作り出すとき、ジークフリードとシグルドの逸話から言霊を紡いだ。だが、ジークの能力の根源、その正体は派生能力『魔剣グラム』にある。あの剣こそが、ジークに絶大な力を与えているものの正体。

 ならば、まだ語ることのできる逸話は存在した。そう、魔剣グラムに集中した逸話ならば、まだ僅かに語れる言霊が残っている。

「グラムの起源は、大地が一つであった神話の時代まで遡る。嘗て最古にして最初の王の財宝の一つとして数えられていた」

 弥生の口から魔剣グラムに関する逸話が語られていく。すると、弥生の周囲に黄金の輝きが瞬き、それは次第に剣の形を象っていく。

「かつてのグラムは、神話の時代に作られし、最古の武器であり、それに名はなく、ただの剣でしかなかった。だが、神話の時代で人が武器として通用するそれは、確かに強力な神聖を持つ武器であり、また竜殺しの剣でもあった」

 弥生の言霊に合わせ溢れる黄金の粒子。それはいくつもの剣となり弥生の右手に収まる。

「それはただの剣であり、しかし龍殺しの異業をなしたことで名を与えられし剣。それはシグルズの義父、レギンが帯刀していた(つるぎ)

 弥生の『勝者のウルスラグナ』は、既に使い切られている。本来ならその能力は使用することができない。だが、弥生の『戦士の化身』だけは、少々事情が違っていた。

「その剣の名は『リジル』! 『ヴォルスンガ・サガ』に記されし、竜の心臓を抉り取った剣」

 その能力は、イマジンエネルギーを黄金の剣として変換するが、それは能力によって変換するものではなく、弥生自身の“言霊”によって紡がれるもの。弥生が語る逸話と言う“燃料”があり、周囲にイマジン粒子の“材料”がある限り、例えウルスラグナを使い切っていても、剣の生成は可能なのだ。そしてこの学園、ギガフロートでは、生徒へのイマジン供給は学園側から無尽蔵に行われ、周囲の空間には大量のイマジン粒子が満たされている。この空間限定において、廿楽弥生は能力を使い切った状態でも、紡ぐ逸話がある限り剣を生成できる。限定的公式チート能力と言うわけだ。

 もちろん出力は落ち、作れる剣の数は激減する。それでもこの土壇場において、弥生は一筋の光明を手に入れたことになる。

「その剣は主であるレギンより、シグルズの手に渡る時、鍛冶の神に打ち直された。それこそがグラム。そう、グラムは主と共に世代交代を繰り返した剣でもある!」

 弥生の元に集った黄金の剣は全部で十八本。それら全てが一つへと束ねられ、武骨な剣へと形を変える。ジークは直感する。あの黄金が自分の権能を切った時、バルムンクの形を模したように、今度はリジルの形を象ったのだと。

「本当に君は……! 最後まで魅せてくれるっ!」

 ジークは剣を大上段に掲げ、神格の柱を立ち昇らせる。高まった神格の輝きを、今持てる全てに込めて、撃ち放つ。

「『竜の心臓を穿ちし、怒りの剣閃(ハート・イレイズ・ファフニール)』―――ッッ!!!!」

 ジークもまた、この土壇場でそれに至った。それはまごう事無き、『必殺技』。魔剣グラムの神格完全開放状態でのみ放つことの許された、必ず相手を殺す技。

 反射で飛び込んでいた弥生は光の奔流を前に悟る。

 

 これは避けられない―――。

 これは打ち勝てない―――。

 これは必ず自分を屠りきる―――。

 

 ならば、黄金の剣が尽きるその前に、相手の懐に飛び込むまでっっ!!!

 

 尋常ならざる判断を、弥生は容易く決断する。

 むしろ嬉々として、精一杯楽しむように、神格の放火を前に、迷うことなく身を投じた。

 それはまるで、炎を恐れず飛び込んだ恐れを知らぬ者(シグルズ)であるかのように。

 黄金色に輝く剣の刺突。ジークのように都合良く必殺技を思いつくこともなく、できることはそれだけである。

 故に迷わず、渾身の力を持って突き穿つ。言霊の剣は相手の神格を削り、猛烈な勢いで輝きを失っていく。その輝きが消え去る前にと、弥生はただ前だけを見て突き進む。

 ジークの放った必殺技は、グラムがファーブニルの心臓を穿ったという逸話を再現した一撃であり、その威力は神格の波動を竜の心臓大に穿つ閃光として収束されたものだ。およそ、これに対抗する力はこれまで語られた力の中では、吉祥果ゆかりの結界くらいの物だろう。あるいは上級生であれば容易に対応もできた。だが、この一撃を前にして、一年生が対応できる手段などは、存在していないのだ。仮にシオンがこの一撃を前に真っ向から立ち向かったところで、イマジンを喰いつくす前に(フェンリル)が折られていたことだろう。

 それほどの技を、土壇場で生み出したジークは、きつく奥歯を噛み締めていた。

(予想以上だ……っ! まさか神格の波動を束ねるのがこれほどに困難な物とは……っ!? 片腕で放ったのは失敗だったか!? 反動で剣が手から剥がれ落ちそうだ……っ!!)

 ジークの腕は負傷している。互いに隻腕、だがジークの力は圧倒的に強力で、その力の波動は自分にも返ってきている。それでもジークは力を緩めることなく振り絞る。今ある全ての力を出し尽くさなければ、眼前の少女は止まらないと解っているから。

 雄叫びを上げる。暴れ馬の愛剣を震える腕で御し、神格の槍を放ち続ける。

 雄叫びが轟く。光に呑まれた獣は、黄金の輝きが色褪せても、なおも前進をやめない。

 砕けていく……、零れていく……、重要な何かが欠落していく。

 それでも止めない。全力を注ぎ続ける。あらん限りの闘志と執念を籠め、二人は最後の一撃に全霊を()す。

 刹那、光に赤黒い亀裂が走り、一人の少女が抜け出してくる。

 神格の槍を突き抜けた廿楽弥生の姿だった。だが、その右腕は完全に消し飛び、体の半分が焼けただれていた。

 黄金の剣を以ってしても、神格の槍を相殺することは叶わなかったのだ。それでもなお、弥生は止まることなく突き進み続け、片腕を失う代わりに神格の槍を突破して見せたのだ。

 驚愕に顔を歪めるジーク。しかし、その腕が失われていることに気付き、すぐさま思考を巡らせる。

(落ち着け! まだ踏み込んできただけだ……っ! 左腕は既に砕けている! 右腕も失った! 踏み込んだ直後では蹴りも放てないっ!)

 神格を収め、ジークは体を飛び退かせるために上体を逸らしつつ、反撃の手を考える。

(もはや体が上手く動かんが、何としてでももう一撃―――っ!!)

 

 ガツンッ!!

 

 ジークの思考が切断される。

 視界に火花が散ったような幻覚を感じながら、彼は数歩後ずさる。

 額が熱く、僅かな痺れを感じる。

 薄れゆく意識の中、彼が目にしたのは―――額を真っ赤にして涙目になっている愛しい少女の姿……。

(ここに来て……、最後の一撃が頭突きか……っ)

 その事実に気づいたジークは、いっそ可笑し過ぎて、笑ってしまうのであった。

 それがジーク東郷が意識を失う直前の、最後の行動だった。

 

 

 体が傾ぐ、チカチカする視界に、状況が上手く呑み込めないでいる弥生は、それでも最後の最後で、手足が使えないことを悟り、咄嗟に額を叩きつけたのを憶えている。

 結果はどうなった? すごく額が痛い。手で押さえたいけど、押さえる手がない。右腕消し飛んだのも見ていた。痛みはない。痛むべき腕がないのだから当然だ。代わりに肩が痛い。痛いがどう痛いのかもう良く解らない。表現する言葉が見つからないので『痛い』としか言えない。正直、体中痛くて、イマジネーターじゃなかったら泣き叫んで蹲っていたくらいだ。それでも必死に踏ん張り、状況を把握しようとする。

 ―――と、不意に肩に柔らかい感触が当たる。反射的に振り返ると、青い瞳を持った金髪の女性が微笑みかけていた。

 彼女、人形(ヒトカタ)舞台(ブタイ) 、教師である。彼女は右手で弥生の体を支えつつ、左手を上げて声高に告げる。

 

「勝者、廿楽弥生っ!!」

 

 教師の宣言により、観客席が一斉に湧いた。

 ようやく状況を理解した弥生は、一瞬呆けた後、全身から力が抜けて気を失う。

「あらあら……?」

 舞台教師は倒れそうになった弥生を支える。

 その時、長い髪の隙間から表情が垣間見えた。

「まあ……♪」

 その顔は、遊び疲れた子供のように、満足げな表情をしていた。

 

 

 2

 

 

 本日全てのプログラムが終了して、観客の皆が一斉に帰路につく中、カグヤと共に帰っていた菫は、げんなりした表情になって呟いた。

「あれに勝てと……?」

「神社は死者の埋葬とかしないんだ」

 カグヤの受け答えに菫は更にどんよりしていた。

「なあに、あれほどの相手でも勝たせてやるのが、アタシ等の本領さ」

 声に視線を向けると、そこには火元(ヒノモト)(ツカサ)が腕を組んで待っていた。

「……ダレ?」

「俺が依頼したお前の助っ人」

 カグヤがそう紹介すると司は背負っていた竹刀袋を差し出す。

「他クラスの目があるからな、確認するならそこの物陰にしなよ?」

 司に促された菫は、首を傾げながらも木陰に隠れ、中身を改める。そこにあったのは一振りの剣。ガラスのように透明な刀身を持った美しい剣。

「これ……、なに……?」

 その剣の異様な気配を感じ取った菫は、ぼんやりとした声でそう尋ねた。

「まあ待て、その剣は実はまだ未完成でな? 最後の仕上げを東雲にしてもらおうと思ったんだ」

「俺……?」

 司の突然の指名に困惑するカグヤに、司は得意げな表情をして見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 




・今回使用する場面の無かった二人の新スキル


ジーク東郷
・『ニーベルングの指輪』
《ジークフリートが登場する物語であるニーベルングの指輪から着想を得たスキル。
竜の属性と不死身の属性を一時的に返上しこの指輪の力を使う。その指輪はあらゆるものを支配するとされるラインの黄金から作られたもの。
相手の能力をランダムで一つ減衰させ、自分のステータスを強化する》

▼使わなかった理由
【使う前に弥生に不死身の神格を絶たれたのが原因です。弥生の言霊の剣は、神格その物を断ってしまうので、指輪発動の条件である返上する神格が存在しなくなっていた。だからジークはこのスキルを使用できなかった。また、仮に消される前に使用していたとしても、弥生の言霊の剣が『ジークフリート』の逸話に対して向けられたものであったため、どっちにしろ同じ逸話で作られた指輪のスキルも神格を断たれてしまっていたので、黄金の剣の効果を知った時点で、ジークは使うことを諦めていました。相手が弥生じゃなければ使う機会もあったかな?】




廿楽弥生
・『ヘラクレスの棍棒』
≪『大英雄ヘラクレス』のスキル。獣の属性に対し強力な効果を齎せる。獣の属性が相手なら、攻撃にも防御にも効果を働かせる。弥生はベルセルクの獣の神格を暴走させない効果として使用している。しかし、あくまで抑え込む事にしか使えないので、制御している訳ではない。とりあえず暴走の心配と、イマジン侵食の恐れが無くなった。なお、鈍器や打撃などの攻撃には+補正効果が働く≫

▼使わなかった理由
【ってか使えない。弥生は元々ベルセルクの能力のみで戦うことを望んでいるので、基本的に追加するスキルはベルセルクの補助程度。そのため、今回も優勝するための力より、将来欲しいスキルを優先的に習得することにした。結果、将来取るつもりでいる派生能力『大英雄ヘラクレス』のスキルを、派生能力をとる前に先取り習得している始末。結果的に本選で新しく使用できるスキルを一つも追加されていない。弥生は何も困っていない】




・技紹介


群獣狩猟(ベルセオス・ポッラ・テレシウス)
≪『戦神狂ベルセルク』の力を十章分に分割した第一章を神格開放状態で使用した技で、大群を持って獲物を狩る獣の属性を露わにした技。必殺技の類ではなく、弥生が名前を付けただけで、実際は加速による分身で相手に襲い掛かるというだけの物。実際やられると半端ないのは本編で実証済み≫


黄金竜殺しの牙(スコトノ・ゲネイオン・ファーフナー)
≪『魔剣グラム』の『神格完全開放』状態で使用できる剣技。これも必殺技ではないが、名前を付けるに値するだけの技だとジークが感じたため、技名がつけられた。実際は神格の刃を滑らかに振るい、全包囲を速やかに鋭く切り裂いているだけの技だが、その刃の鋭さは竜の牙の如く鋭利≫



竜の心臓を穿ちし、怒りの剣閃(ハート・イレイズ・ファフニール)
≪『魔剣グラム』の『神格完全開放』状態でのみ使用可能な必殺技。『ニーベルンゲンの歌』において、ファーブニルの心臓を穿ったとされる神話の技を再現したもので、必殺技の質としては菫や正純以上。両腕が健在であれば、万全の状態の弥生でも完封されていたであろう神秘の領域に最も近づいた『再現(イマジネート)』だ≫


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一学期 第十一試験 【決勝トーナメント 間幕】Ⅰ

失踪したと思ったか?

うん、してた。マジでごめんなさい!
やっと書けるようになったので戻ってきました!
いや、もう前の人達いなくなってるだろうなぁ、と思いつつ、頑張って再開します!
正直、私も設定とかキャラとか色々忘れましたけどね! メモ残ってるから、見直ししながら必死に書いてるよ!
いや~、書き方忘れてて辛い!
とりあえず、執筆再開です! 初めての方は初めまして! 知ってる方は、改めてよろしくお願いしますっ!!


 

 

 焔山、猛姫神社最奥、神域と言われる場所。山を穿ったような洞窟の奥地に存在する広大な空間に、木でできた和風の祭殿が存在する。祭殿には布が広げられ、そこには円が描かれ、中心から十字と×字の線が重なったような文様が描かれている。線は円を突き抜け、先端部分に古い文字で短く何事かを書かれ、それぞれに魑魅魍魎とも思える絵が刻まれている。

「ここが君の“神域”と言う奴かね? ギガフロートの“聖櫃”に似ているが、性質が全く異なるね?」

 一人でここに来たはずの焔山の主、土地神、猛姫の神は、到着早々いつの間にか付いて来ていた男の存在に、本気で青筋を立てたが、どうせこいつは来るだろうと予想はしていたので怒りは鎮めた。

 怒りを鎮めて、正確に拳を顔面にぶちかましておく。

「おいそれと“神域”に入ってくるんじゃないっ!」

「ヘブンッ!?」

 しっかり顔面に入って、眼鏡が割れ、大量の鼻血に何本か歯も抜け落ちたのだが、本人はすぐに立ち上がって「いや~~っはっはっはっ! なんか気になっちゃってねぇ~~!」っと普通に対応していた。どうせもう一度見直すころには眼鏡も歯も元に戻っている謎現象を起こすことは目に見えているので、もう気にしないことにした。

「それで? わざわざここに来た理由は何だい? 私の話を聞いたからここに来たのだろう?」

 シリアスに移っただけで完全復活した斎紫(いつむらさき)(かえで)の存在には目もくれず、猛姫は祭殿の中心部へと向かう。

 祭殿の中心部には一本の剣が突き立てられている。その剣の刃は幾重にも枝分かれし、まるで炎の形を象ったような作りをしている。『七支刀(しちしとう)』と呼ばれる実用性のない、祭儀用の剣。祭儀用故に、直接振るわれることよりも、儀式の道具として使われることにこそ意味を持つ。それが祭壇の中心に突き立てられていると言う事は、それは大きな意味を持つ。

 その剣の柄を握る猛姫。彼女はこの剣を『日本書紀』に倣い『七支刀(ななつさやのたち)』と呼び、この地にとって意味あるものとして突き立てた。この剣こそは猛姫がこの地の神として根を張る楔。この地にこの剣が突き立っている限り、猛姫はこの地にあり続け、この地において無敵の存在足りえる。

「楓、貴様はあの話をして、()にゆかりの手助けをさせたいと思っていたのだろう?」

「そういう理由としては十分だと思ったのだけど?」

「……、貴様にとっては、これもまた予想の範疇なのだろうがな……」

 そう呟き、猛姫は剣を抜き取った。突然、猛烈な光が迸り、轟音と共に洞窟が崩れ始める―――などと言う事はなく、剣は鈍い音を鳴らしてあっさり引き抜かれた。

 元より、この剣は自分が存在することを地に教えるための舞台装置。突き立てることに意味があり、抜いたところで変化などない。既にこの地『焔山』は、猛姫の地として完全に馴染んでいるのだから。

 猛姫は剣を無造作に振り払い、汚泥のように濁り切った瞳で楓を見下ろす。

「貴様が言う事が真実なら、人はさっさと滅びるべきだろう? この()を本当に守りたいのなら、俺があの浮島(、、)を乗っ取る方が手っ取り早い。その邪魔者となるなら、ゆかり事滅ぼしてしまった方が容易い」

 濁り切ったその瞳は、まるでこの世の悪の全てを集めたかのように、黒く淀んでいた。

 楓は語らない。笑いもしない。

 ただ見つめ、その後の成り行きを見守る事を選んだ傍観者であるかのように、諦観した表情で見つめるだけだ。彼の胸中にどのような思惑があるのかは、誰にも読み取ることはできそうもない。一つ言えることがあるとすれば、猛姫の言った通り、この展開もまた、彼の予想の範疇と言う事だ。

(さて、あとは結果がどっちに転ぶか……? どちらにせよ、私の思惑通りに事が進むんだとしたら―――)

 楓は表情を引っ込め、まじめな表情で天井を仰ぎ見る。その先にあるはずの、ギガフロートを見つめ。

 

(“吉祥果ゆかりは、ギガフロートから消えるのだろうね……”)

 

 

 1

 

 

 一年生、決勝トーナメント決勝戦は、一日空けてから行われることになった。

 いくら万能のイマジンがあるとは言え、いや、だからこそ力を入れたがるクリエイティブ魂が活発なギガフロートの住人。そのため実際のプログラムには十分な余裕をもって組まれている。今、決勝戦と準決勝戦の間に生まれた合間も、元々想定されたプログラム内容で、決勝進出者の容態などを鑑みて、空いたり空かなかったりする。大体この合間が選手の休暇日となることも珍しくないので、観客も生徒も、この辺は柔軟に対応した。

 このせっかくの空き日だが、決勝進出の決まった八束(やたばね)(すみれ)廿楽(つづら)弥生(やよい)はお互い全力で休息を過ごしていた。

 菫は、学園周辺で上級生が一般観客のために出しているらしい出店で適当にフランクフルトやたこ焼きを買って、その辺のベンチに座り、ぼ~っ、と空を眺めながらもそもそと食事をしていた。頭の中も空っぽにして全身全霊で休息していると言った感じだ。

 対する弥生も、寮の休憩室のソファーに寝転び、膝掛けをお腹辺りに掛けてぐっすり眠っている。何気に、付き合わされたオルガ・アンドリアノフが膝枕していたのだが、すぐに足が辛くなって、こっそりクッションと入れ替わっていた。

 二人とも部屋で休まないのは、完全に休み切ってしまい、戦闘の立ち上がりが悪くならないように、心の片隅に戦闘中と言う意識を残しておきたかったからだろう。

 そんな二人だが、ただ空虚にこの一日を過ごしたわけではなかった。既に二人とも行動は起こしていた。後は明日に準備が整うかどうかである。だが、それは自分達にはどうすることもできない。故に二人は肉体と精神の回復に努めている。

 試合が始まった時、十全に力を発揮できるように―――。

 

 

 それはそれとして、決勝戦に関係のない者達には、関係ない者達として、いろいろ事情があるわけで、校舎の登下校道で、ちょっとした事件が起きていたりした。

「俺に何か用か?」

 昨日の激戦で失い、イマジンで再生してもらった左腕を包帯で吊っているジーク東郷は、偶然出くわし、険悪に声をかけてきた人物へとストレートに問う。

「ある。面貸せ。いや、面倒だ、ここで良い。ここで言っとく」

 ジークに声をかけた少年ははきはきとした態度で告げ、勿体ぶる事無く要件を述べた。

「弥生は俺の女だっ! 手を出すんじゃねえっ!!」

 金髪碧眼の少年、新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)が、公衆の面前でいきなり爆弾を投下した。

「断るっ!! あれは俺の想い人(ブリュンヒルデ)だっ!!」

 くわっ! と目を見開き、即座に答えるジーク。

「だが断るっ!! 悪いが俺が先約だーーーっ!!」

 それを更に即答で返す悠里。周囲の一般人が何事かと足を止めて視線を向けてくるが、二人ともお構いなしだ。

「ふっ、まあ、どうせそう言ってくるだろうとは思ってたぜ? 弥生を好きになる男が、この程度で引き下がるようじゃあ、勝負以前の問題だからな?」

「ふっ、俺も理解しているとも。彼女を好いた男が、この程度の喝で退くはずがないとな?」

 なぜか解り合った西部劇の悪役と保安官みたいなノリでニヒルに笑い合った二人は、徐に懐から生徒手帳を取り出し、高々と掲げる。

「「決闘だっっ!!」」

 二人の声が重なる。この学園では全く珍しくもない『決闘』騒ぎに気付いた周囲の衆人が、好機と興奮の色を発し始める。さすがはギガフロートの住人、慣れた物で、誰かに誘導してもらう必要もなく決闘を叫ぶ二人から適切な距離を取り、十分なスペースを作ってから周囲をぐるりと囲んで観戦モードに入る。すかさず上級生は出店から商品を持ち運び用の棚に移し、配り販売を行い始める。中には丁寧に椅子まで用意している者までいる。もはや芸術の域にある暗黙のルールだ。

 ジークと悠里が内心この状況に驚きつつ、生徒手帳を重ねる。フィールドが展開され青白い光がドーム状に展開される。二人の間にイマジンで転移させられた立会人の上級生が現れる。

「立会人を仰せつかった三年Aクラス、八雲(やくも)赳流(たける)……。ルールは一般観戦者もいるので、『舞台戦場(コロッセオ)』で行われるよ……リンゴ食べるかい?」

 何故か立会人の先輩からリンゴを勧められたが、二人とも丁重にお断りしておいた。

 二人は適切な距離を取り、いつでも動けるように構える。

「制限される空間は周囲20メートル。上空は無制限とするが、制限フィールドの障壁を破壊するほどの攻撃が発せられた場合は、その時点で試合終了とする。それ以外は自由にしていいよ。……じゃあ、このリンゴが地面に落ちたら開始ね?」

 何故コインじゃなくてリンゴなんだ? っと言うツッコミは呑み込まれた。既に二人とも戦いに集中しておきたいからだ。

 赳流の手によりリンゴが宙を舞う。コインと違って地面に落ちても音が響かないので、自然と視線がそこに集まる。リンゴが地面に落ち―――バッゴンッ!! と盛大な音を上げて粉砕された。

「「なんでだよっ!?」」

 思わず同時にツッコミを入れるジークと悠里だが、しっかり開幕速攻の一撃を放ち、拳をぶつけあっていた。

 拳同士の激突。衝撃波が奔り、互いに反発を受けて元の位置まで放される。

 ジークは背にした大剣『グラム』の柄に手を触れるが、そこで一瞬停止する。

「構わないぜ。元々イマジネーター同士の戦いで武器の有無なんざ大した差にならないだろ?」

 そう言いつつニカッ! と笑って見せた悠里は、己の能力『模倣(コピー)』により、『黄金の剣』を無数に作り出す。

 一瞬眉を顰めるジークに対し、悠里は得意そうに笑う。

「驚くことじゃない。こいつは確かに弥生の作った『言霊の剣』だが、模倣したのは形だけだ。個人的には素手の方が好みだが、あんた相手にはこれで戦ってやるよ。俺と弥生の()の深さを思い知らせてやる」

「まだ、付き合っているわけでもないだろ? ずいぶんと浅い絆を持ち出して得意げに―――」

「既にデートの約束は取り付けた」

「く……っ⁉ なんという強敵……ッ!」

 歯噛みするジークに、悠里は笑みを強くしドヤ顔になる。

「ならば、別に全力をもって倒してしまっても構わないのだろう?」

 ジークがグラムを抜く。

「はっ! ……ついてこられるか?」

「貴様こそ! ついて来やがれ~~~っ!!」

「……ここには弓兵しかいないのか?」

 赳流の呟きを無視して、男二人の戦いが、愛をかけて行われる。

 その頃、何も知らない当人が謎の寒気に襲われているとも知らず……。

 

 

「うふふっ♪ そんなに息を切らせるほど逃げ回らなくてもいいではないですか? 私はお話し合いをしたいと言っているだけですよ?」

 白を基調としたロリータ衣装に身を包む、碧眼の少女は、ハーフアップにした長い金の髪を手で掬う様にしながら上品に笑い掛け、校舎中庭にて、一人の学生を追い詰めていた。

「あ、貴方のお話は、初日に済んだはず……。なのにまだ続けるの……?」

 追い詰められた学生は、黒髪ショートに眼鏡をかけ、全体的に痩せている印象を与える一年生女子、Fクラスの影森咲であった。

「そもそも、寮の部屋割りは最初にランダムで決められるもので、別の部屋に交代するにしても、申請できるのは一ヵ月に一回と言う決まり―――って、初日に先生からも話してもらったはず……!」

 彼女は自身を追い詰めている一年生Aクラス、赤結(あかむすび)ひまわりへと硬い表情で告げる。

「はいっ! 存じていますよ。でも、影森さんは正勝様の同居権利をお譲りくださる気が無いようですよねぇ?」

「いや、その……、正勝くんってCクラスの割には落ち着いてるし……、互いに余計な干渉し合わないでも平気なところとかあって、意外と居心地が良いって言うか……?」

「……つまりあなたは恋敵でしょうか?」

 ひまわりが満面の笑みを浮かべ、背に邪悪なオーラを背負った(イマジンによる相手の雰囲気を察する本能的基礎再現により、本当に負のオーラが目に映っております)。

「……ぴっ!? ち、違うっ! 全然違う……っ!」

 慌てて首と手を振り回して否定する咲だが、ひまわりは構わずにじり寄ってくる。真っ青な顔になって後じさる咲に、ひまわりは言葉に圧力があることを証明するかのような声音で言い募る。

「私はこんなにも正勝様を愛しているのに、正勝様にはあまり伝わっていないご様子。なぜだがさっぱりわかりませんの……。その辺貴方はどう思いますか、影森さん?」

「し、知らないから……っ! 正勝くんに直接聞いてよぉ~……っ!」

「それがこの話をしようとすると、正勝様はすぐに逃げて行ってしまわれて……、どうしてお逃げになるか、理由をご存知ではありませんか? 影森さん?」

(こんな風に圧迫感がある所為じゃないかな……っ!?)

 涙目になって逃げ腰になる咲だが、とてもこの状況で本音をそのまま口にする勇気はなかった。

「ああ! ああ! やっぱり、貴方が原因なのでしょうか? お優しい正勝様。そのお優しさゆえに、同居人を思いやり、私の思いを受け取ることができないのでしょう! きっとそうに違いありませんっ!」

 だんだんテンションが上がってきてしまったのか、妙な方向にエスカレートし始めるひまわり。何故か普段はしないようなオバーアクションで芝居がかった仕草をし始める。そして目がなんかやばい。

「私の世界のためにあなたは邪魔なんですの。御退場、願えますか?」

 トドメとばかりに問題発言。これはもうダメだと観念するしかない状態になってきた。

 もはや実力行使は必須。こんな状況でイマスク生が取れる手段は少ない。否、イマスク生だからこそ、手段が残されていると言うべきかもしれない。

「わ、分かった。ここは公平に『決闘』で決めよう?」

「まあ、『決闘』ですの? それは勝者が正勝様と同居できると考えてもよろしいので?」

「そう言われると、私個人としては勝ちたいと言う気はしないんだけど……、勝者は敗者に一つお願いができる。定番だけどそれでどう?」

 咲が両手でズレた眼鏡を整えつつ提案する。ひまわりはその条件を耳にすると、妖しいほどに妖艶な笑みを浮かべた。

「よろしいの? 私はAクラス、対する貴方は……」

 ひまわりはその先を敢えて言葉にしなかった。影森咲はFクラス。現状において、FクラスがDクラス以上に勝てる見込みは皆無である。それ故にEクラス以下は決勝トーナメントに参加資格を持てなかったのだ。もちろん、咲もこれの例外ではない。

「……うん、それで、いい」

 だが、咲は首肯して見せた。その表情は既に冷静さを取り戻し、いつも通りの薄幸そうな少女のそれに落ち着いている。

「うふふ……っ、どうやら勝算が全くないと言うわけではない御様子? よろしいですの! それでは貴方の勝算、この目で確かめる事と致しましょう!」

 ひまわりが生徒手帳を掲げる。それに対し、咲も一度深呼吸をしてから意を決するように生徒手帳を押し当てた。

 『決闘システム』により呼び出された上級生がイマジン粒子の緑色の光と共に出現し、着地と共に宣言する。

「二年Aクラス、高坂秋人だっ! 俺が立会人となる! ルールは一般観戦者がいるため、『限定範囲戦(パッケージ)』で行われる! 指定されたエリア外に出ようとすれば、自動的に弾かれる仕組みとなっている。これはイマジン攻撃も含み弾かれるが、エリア外の壁は弾力性があるため、衝撃が吸収される仕組みになっている。また、この空間は時間経過とともに収縮する仕組みになっている。以上だ。両者準備は良いか?」

「一つ、ルールに追加のお願いが……」

 ひまわりと適切な距離をとった咲が、立会人の上級生に対し、片手でメガネの位置を直しつつ、もう片方の手で挙手する。

「なんだ?」

「勝負に時間制限を追加してほしい」

「了解した。時間制限は15分とする。なお、フィールドはドーム状で、十メートル未満にはならないものとする」

 即答する秋人に、「私の意見は聞いてもらえませんのっ!?」っと言うひまわりのツッコミが入ったが、「この時期、上級生は明日の準備で忙しいから長い時間立会人やってられないんだよ」と個人的な理由で断ち切られてしまった。

 ちょっと思うところのある扱いに溜息を吐くひまわりだが、気を取り直したようにスカートを両手で軽く持ち上げ、膝を曲げて優雅にお辞儀して見せる。

「刻印名『箱庭遊び』赤結ひまわり。以後お見知りおきを」

「刻印名『語り部(ストーリー・テラー)』影森咲」

 ひまわりに応えるように名乗り、眼鏡を片手で持ち上げる咲。二人の少女の戦いが中庭で行われる。

 

 

 屋上にて、歌姫のライブが非公式で行われていた。

 生粋のエンターテイナーにして、『魅せる事』を信条にしている七色(ナナシキ)異音(コトネ)による、机を並べてイマジンで固定した(自作簡易)ステージの上で、バイオリンの軽快なリズムに合わせ歌い、踊っている。まさにアイドルのような調子だが、伴奏はバイオリンだけなので、現代風の軽快なアイドルソングにはならない。それでも音質を合わせ、ダンスを工夫し、クラシック的な物にならないよう努めた。

 見事に成功し、観衆から歓声が上がっているあたりさすがの技量である。

 踊る彼女の周囲にはバイオリンを弾く(かなで)ノノカの能力により、色とりどりの光球が浮かびイルミネーションの役割を果たしている。

 イマスクでは珍しくない仕組みではあるが、祭りごとの少ないギガフロートでは毎度大盛り上がりだ。

 一通り歌い終え、ようやっと休憩を入れる異音とノノカ。そんな二人の前に、労いにやってくるものが二人。

 黒髪天然パーマに肩掛けカバンを常に所持している少年、弥高(やたか)満郎(みつろう)

 肩までの長さの茶髪を軽く巻いている少女、如月(キサラギ)芽衣(メイ)

 二人とも、今回の簡易ステージに協力してくれたクラスメイトだ。

「二人とも、最っ高によかったよぉ~~!」

「うひょ~~っ! またこの歌が聴けて! しかも直接協力できるとか!? もう最高だぜ~~~っ!」

 相当気に入ってくれたのか、二人ともテンション高めに出迎えてくれる。芽衣は飲み物とタオルを、満郎は軽い軽食を持ってきてくれた。お礼を言いながらそれを受け取った二人は、芽衣たちの案内に従い屋上のベンチに座る。お昼をここですることを最初っから考えられているのか、木造りの机もあって(くつろ)ぎながら食事ができる。

「二人ともありがとうっ♪ 今日もいい感じにみんな笑顔だね★ ノノカも言い伴奏だったよ!」

「う、うん……」

 異音の笑顔に対し、ノノカは微妙に表情が硬かった。異音は子首を傾げて素直に疑問を述べる。

「どうかしたのノノカ? さっきの演奏で気に入らないところとかあったの?」

「ううん、そう言うわけじゃないんだけど……、私が目指してるのって、バイオリニストだから、異音のアイドル風な歌には合わない気がして……、異音は私のバイオリンにも合わせられるけど、やっぱり勿体無い気がして……」

「勿体無い? 何が? ノノカの伴奏はすごく良かったよ? 私は満足★」

「ああ、そう言うんじゃなくて……、異音の伴奏やるのは嫌いじゃないし。でも、異音の幅を狭めてるのも、私だから……。はあ……、どこかに異音と相性の良い音楽スタイルのクラスメイトいなかったかなぁ?」

 イマスクは戦闘を求められる校風だ。それだけに、武器等の生産系能力者はいても、異音やノノカのような芸術家タイプの能力は意外と少ない。学園側としては、そういった方面のイマジネーターにもっと増えてもらいたいと言う希望はあるのだが、やはり戦闘主体の学園のシステム上、そう言った生徒が受験することはめったにない。それこそノノカのように不慮の事故で指が思うように動かせず、すがる思いでイマスクに訪れるようなことにでもならない限り。そのため、オーケストラのような、集団でこそ力を発揮するような特殊なイマジネーターは、滅多な事では見られない。

「私は気にしてないよ? 本当に必要なら、その時は自分で纏めてやっちゃうし! 歌って♪ 踊って♡ 楽器も弾いちゃう★ そしてトリには笑いをとる! それが私のエンターテイナー♪ ノノカは、ちょっと色々気にしすぎだよ?」

 異音に髪先をいじられながら言われ、ノノカは少しだけ照れたように頬を染める。

「さすがに自分でもそう思う時はあるよ? でも、それだけ異音の才能は歌にあると思うんだ。きっと、正しいメンバーが揃えば、もっとすごいことができると思うくらいに」

 ノノカも異音も音楽と言う分野では同じ方向を目指している。だが、バイオリニスト志望のノノカはクラシック。人を魅了することを求める異音はエンターテイメント志望で、音楽はどちらかと言うとポップスの方向に近く、ジャンルが違う。近代ではポップス寄りのクラシックなどと言うのもあり、それらの線引きがあやふやになってきているため、今回のように上手く二人が共演して見せることもあった。

 だが、根本的に二人の目指す方向は互いの妥協点にあるのではない。

 ノノカはバイオリンのマイクを必要としないクラシックの響きを純粋に愛し、その道を求めている。

 異音は、それこそどんなジャンルでもやって見せる気概があるが、彼女の求めるところは皆の騒がしいほどの笑顔。ポップスの方が夢に近いと言える。

 異音よりも音楽方面に突き詰めてる分、ノノカはその(さかい)を明確に捉えていた。ギガフロートにいる間なら、二人で共演するのも悪くはないかもしれないが、卒業した後は、互いの道に分かれるほかない。夢を追い求めるなら、二人の道は繋がってはいないのだ。

 それを考えてしまうノノカは、異音にメンバーと言える仲間ができることを望み、同時に複雑な感情を抱いてしまっている。

 それを何となく感じ取った異音は、少しむっとした顔で頬を(つつ)く。

「だからノノカは考え過ぎなの! 今、ずっと先のこと考えて悩んでるでしょっ!? そんなのはもっと先に悩むことなのっ! まだ入学したばかりの私達は、まず磨くことを優先的に考えなきゃでしょっ!?」

 むっ、としたまま頬を突かれ、さすがのノノカも「わ、分かった分かった! ゴメンッ!」と困ったように謝罪した。

 そんな二人を微笑ましい様な、呆れた様な微妙な気分で見つめる芽衣と満郎は、二人して顔を見合わせ、苦笑いを浮かべてしまうのだった。

「はんっ! そんなに歌いたいならイマスクじゃなくて音専(おとせん)にでも行ってろってんだ!?」

 突然、背後からした声。大声ではないが、決して小さくはない声に、思わず振り向いてしまう芽衣と満郎。そこには行儀悪く机に足を投げ出す、金髪にグラサンといった、今時では珍しいほどに分かり易く尖ったいでたちの少年と、仏頂面の少年の二人が、こちらには目を向けず、だが、明らかにこちらに対しての発言っぽい内容を語り合う。

「大体イマスクにまで来て、なんで音楽とかやってんだよ? ここは戦闘メインの学園だろ?」

「そうそう、目指す夢が決まってんなら専門校行けってんだよ? わざわざイマスク来て何やってんだって話だよなぁ?」

「ってか、それ完全に戦闘放棄してんじゃん? なんでそれで俺らよりクラス上なわけ?」

「意味わかんね~~~っ」

 ギガフロートに来て、久しく聞くことのなかった、あからさまな嫌味、わざわざ聞こえるように語る影口。この一ヵ月、この学園に来て一度たりとも聞くことのなかった類に、四人は思わず固まってしまい、すぐに反応できなかった。

 ただ、今回はそれが幸いした。この状況に気づいた女子生徒が慌てた様子で嫌味を言う二人の間に飛び込んだ。

「お、お二人とも! ケーキ買ってきましたよ! これ食べて機嫌直してくださいな! ケーキを食べるとささやかながら幸福に包まれますよっ!」

 嫌味を言う二人の間に割って入ったのは東福寺(とうふくじ)美幸(みゆき)。身長は165cm。たれ目がちで柔和な顔立ちの、美人な女性で、お姉さんっぽさが出ている。ブラウンのストレートヘアをカチューシャでまとめ。『運気を上げる』と云われる小さめの金の玉がついたネックレスをつけている。二人の間に割って入った時に存在を主張するように大胆に揺れるDカップの胸は、思わず二人の視線を釘付けにし、思考を中断させることに一役買っていた。

 嫌味を言っていた二人は美幸のクラスメイトだった。金髪グラサンの方が嶺島(みねしま)(すすむ)。もう一人の仏頂面は長門(ながと)灰裏(かいり)。全員Fクラスの生徒だ。

 至近距離で包容力のある双丘を見せられ、その事に気付いて照れてしまい視線を逸らす二人に、美幸は内心焦りつつ、買って来たらしいケーキを振舞って機嫌を取っている。その様子にポカンとしていると、素早くノノカと異音の背後に移動した美幸が、両手を拝むように合わせながらこっそり教えてくれた。

「気分を悪くさせてしまい申し訳ありません。あの二人Fクラスの決勝トーナメント参加資格を得るために、ずっと『決闘』をして周っていたのですが、悉く負けてしまい……、おまけに昨日はあんな試合を見せられた所為で悔しさが余計込み上げてしまったようなんです……。本当は言葉使いが荒いだけで、あんな嫌味を言う人達ではなかったのですけど、ここ最近のストレスが、クラスで結構溜まってまして……。Eクラスに絡んでしまうのも、同じく不遇な扱いを受けているはずのクラスが、全体的に戦闘に乗り気でないことが納得できていないんだと思います」

 美幸の話を聞いてなるほどと納得する。確かにイマスクは理想的な力を与えてくれる。だが、せっかく手に入れた力を思うように活かせなければ、それは普通の生活以上のストレスになっている事だろう。努力はしているのに、それが上手く功をなさないことも相まって、イライラしてしまうのも良く解る。そこに同じ不遇な扱いを受けているはずのEクラス(自分達)が、戦闘そっちのけでいれば、そうではないと解っていても、遊んでいるように見えてしまうこともあるだろう。

「私が宥めますので、どうか今回は見逃してくださいな?」

 美幸も同じくFクラスであり、ストレスはクラス全体に及んでいると言う話だったのに、そう言って周囲に気を遣う。これに応えないわけにはいかないと、女性陣は苦笑交じりに頷いた。

「おいお前ら、勝手なこと言ってんじゃねえぞ?」

 しかし、ここに納得できない上に、美幸に気づいていなかったらしい男子がいることに、女性陣は失念していた。異音のファンにもなっている満郎が、嫌味を言った二人に食って掛かる。

「んだぁ? でけぇ口叩くからにはやる気があるんだろうなぁ?」

 進と灰裏はむしろ面白そうにこれに反応する。好戦的な意思がある所為か、むしろ煽りに乗ってもらった方が好感触を感じている様子だ。争いを避けたがっていた女性陣からしてみれば困った反応ではあったが…。

「戦いばっかがイマスクのルールじゃねえだろっ!? “生産系”って役職がちゃんとあんだよ!」

「だったらテメェ等は非戦闘員ってことだろうがよぉっっ!?」

「弱いどころか最初(はな)っから戦えません宣言しといて、なに俺らFクラスより上位扱いされてんですかねぇ~!?」

「あわわわ~~~~っ!」

 満郎の発言に進と灰裏が応戦する様に睨みを利かせる。事態を宥めるつもりが上手く話しを運べなかった美幸は、泡を喰ったように慌てる。ここからでも何とか話を穏やかにできないものかと必死に考えるが、ヒートアップした男子三人を止める上手い方法が思いつかない。

「さ、三人とも? ここは一つ席を外してですね? 一応お祭りみたいなモノなんですし、ここは一つ穏やかに~~―――?」

「「ちょっと黙ってろっ!?」」

 進と灰裏に恫喝され、美幸は半泣き状態で肩をびくつかせた。思わず出た「ひうぅ……っ!?」という悲鳴が、小動物が怯えた時に出すそれに酷似(こくじ)し、なんとも頼りなさげに聞こえる。

 この時、何気に美幸の提案に「まぁ~~、確かにお祭りで騒ぎを起こすのは良くないよなぁ~~?」っとか調子の良いことを言おうとしていた満郎は、二人の怒声に口を閉ざしてしまっていた。自分から喧嘩に飛び込んでおいて、二対一という状況に今更緊張し、足が震え始めていたりするのだが、幸い誰にも気づかれていない。

(やべぇ~~~っ! ついカッとなって言っちまったけど、どうすりゃいいんだこの状況っ!? と、とりあえずいつでも能力で籠れるようにはしておこう!!)

 自分で自分の首を絞めたついでに、事態も悪化させてしまったことに今更自覚しつつも、吐いた言葉を戻すことはできない。引っ込みつかない状況に、精一杯強がった(ガン)を飛ばして対抗する。

 ノノカはハラハラした面持ちで状況を見守り、異音は仕方ないのでやるなら加勢しようかと言った感じに立ち上がる。芽衣もこれは喧嘩になることは避けられないと悟り、せめて怪我人の治療だけは自分が責任持とうと心に決める。

 ここに至って美幸は色々テンパり始め、能力によって作られた『幸福袋』に手をかける。

 彼女の能力『超幸福論(ウルトラハッピネス)』の『幸福袋』は、己の所持金額と等価交換で相手が幸福感を得られそうなものを取り出すことのできる、なんちゃって四次元ポケット的な夢が一杯で懐に辛辣な力だ。これを使って皆が幸せになれる物を取り出し、この場を平和的に乗り越えようと考える。

 しかしこの能力、残念なことに、“必ず幸福になる物を取り出せるわけではない”。あくまで美幸自身が“幸福になってくれるかもしれない”と感じた物を取り出す能力なので、彼女の中で明確なイメージがないと効果を発揮できない。っと言うかこの状況下では失敗する可能性の方が高い。

(そ、それでも……! 皆さんが喧嘩するなんて悲しいことになるくらいならっ!!)

 覚悟を決め、彼女なりに考えた幸福アイテムが今、『幸福袋』から取り出される―――!!

 

 ―――突如、大量の歯車で改造された車椅子が飛来し、進、灰裏(かいり)、満郎、異音が交通事故を体験。独楽のようにきりもみ回転しながら宙を舞った。

 

「さ、さあどうぞ! 『えいんへりある』夏限定ミルクプレーンアイス(定価650円)人数分っ! これでどうか! 争いはやめて幸せ気分に浸りましょう~~~っ!」

「……いや、美幸さん? それよりなんかもっと大変なことが起きてます……」

 気合を入れて『幸福袋』から超高くて美味いことで有名な夏限定アイスを能力によって先取りして見せた美幸が、人数分をセットにしたアイスの箱を天に掲げる中、四つの独楽が空中浮遊を終え、地面に叩きつけられていた。約一名、異音だけが「何これ? この展開美味しい……!」っと、幸せ顔で呟いていた。

「え、えっと……? ……? ??」

 芽衣は何事か言おうとしたが、それ以上言葉が出なかった。

 こういう時にツッコミできるメンバーが全員轢かれているので、話が進まない。

「ああ……、これが私の『魂創(こんそう)』ですか~? なんという素晴らしい推進力」

 キラキラと背景が光りそうな震え声を放ったのは、先程四人を轢いた車椅子の少女、及川(おいかわ)凉女(すずめ)であった。車椅子は謎の魔改造が施されており、アームやら、バーニアエンジンやら、ホバーやら、荷電粒子砲やら、メロンやらが取り付けられており、改めて見ると車椅子なのかどうかも怪しい形態をしていた。

「ど、どこから突っ込めばいいの……!?」

 辛うじてノノカがそう漏らしたところで、更に一人の少女が凉女の元へと駆け寄る。

 褐色の肌に、白の髪、青の瞳をした、童顔の少女。159cmの身長に、Dカップの胸を一歩踏み出すたびに揺らし、凉女の元に辿り着くと、興奮気味に喋り始める。

「すっごいよアンタっ!? あの戦闘狂娘のと違って、なんかめっちゃくちゃ複雑なのができたじゃねえかっ!? 作り出した私も鼻が高いってもんだっ!」

「はいっ! とっても気に入りましたぁ~! これ、本当に頂いても?」

「構わねえよ! あの女のついでだしな。もちろんあんたの事を気に入ったからでもあるし、私の鍛錬の一環でもあるからな。……しかしこれ、まだまだ強化できそうだな? いっちょやるかっ!?」

「喜んでぇ~!」

 キラキラした瞳で、背景に本当にキラキラ描写を作り出しながら(イマジンによる気の利いた幻覚です)、二人の少女は何事か語り合い始めていた。

「―――いやっ、そうじゃねえだろっ!?」

 地面に突っ伏していた進が復活し、溜め込んだ怒声と共に立ち上がる。

 怒りに任せた感情的な発言だったが、巻き込まれた全員の総意だったので、誰も彼を諫める者はいない。進は凉女の乗っている車椅子(?)を指さしながら言い募る。

「いきなり、なんなんだよそれはぁ~~っ!?」

「え? これが気になる? よく聞いてくれた! これはな『魂創器(こんそうき)』っていうんや!」

 褐色少女が嬉々として答える。

 「違うそうじゃない……っ!?」っと誰もが思ったが、誰かが口にするよりも速く、褐色少女がつらつらと説明を述べ始める。

「これは私の能力『魂創作成』により『魂創誕生』を果たした魂の武器! 名付けなくてもそのまんま『魂創器』! 私は他人の魂の情報を(もと)に、その人専用の魂の武器を作り出せるのだ! そしてこれが“スズめん”の『魂創器』で名前は―――」

「あ、じゃあ『椅子人くん』で?」

「―――っと言うわけで『イス人』だ! こいつはすごいぞ! まだ実験途中だが、高軌道のマニューバ―で校舎内を時速80㎞飛行しても危なげなく衝突せずにここまでたどり着いた!」

 「いや、最後にしっかり交通事故起こしてます!」っと言う総意のツッコミはやはり早口に封殺される。

「他にも羽が生えたり足が生えたり、アームも使って三次元移動! 壁を破壊する事無くソフトなタッチで飛び回り、人にも優しい!」

 「いえ、しっかり人身事故でしたよ!?」っと言うツッコミもやはり叶わない。

「何より驚かされたのが、なんと収納スペースに果物の盛り合わせがメロン中心に収納されてあったっ! まさか武器作って食べ物生成しちゃうとか私すごくねぇっ!? そしてそんなものを生み出しちゃうコイツの魂が一番可笑しくねっ!?」

 「そこに限っては同意だよ!」っと言うツッコミはできそうな感じだったが、言ってしまうと負けた気分に浸りそうだったので全員が口を噤んだ。

 喋り終えた褐色少女はそれで満足したのか、一度満ち足りた顔で一息つくと親指を立てて良い笑顔。

「はっはっはっはっ! どうや? 私はイング・アルファって言うんや! よろしくたのんまっせ!」

「「「「自己紹介のタイミングがなぜ最後っ!!」」」」

 進と、倒れていた他三人が復活して一斉に叫ぶ。

 そして一番どうでもいいツッコミだけが最後に叶ってしまった。

 凉女と褐色少女のイングは終始笑顔を崩さない。

「ところで何かもめていらっしゃったようですがぁ~?」

 唐突に確信を突く凉女のセリフに、我に返った美幸が事情を説明―――、

「あ、はい、実はですね……」

「あ、こちらのアイスいただいてもぉ~?」

「事情訊いた本人がいきなり脱線しないでくださいぃ~~~っ!!?」

 マイペースな凉女の対応に、さっそく半泣きになってしまう美幸。可哀想になった芽衣が彼女の頭を撫でながらあやのだった。

 

 

「なんだ? 要するにEクラスはFクラス同様に弱いくせに、戦闘意欲もないんだから、Fクラスより上にいるのは可笑しいってことか?」

「笑ってどうする」

 イングの解釈に満郎が誤字的発言にツッコミを入れるが、凉女が反応して「わ、笑うことには意味が必要な時代に……っ!?」っとか脱線しそうな勘違いを起こしそうになっていたので、細かい訂正は流すことにした。

「まあそんなところだ。厳密には違うが、そんなところで良い」

 灰裏が、なぜか納得できないと渋面になりながらも、ツッコミを放棄して肯定する。

「よしっ! そんなら話は早いじゃねえか!」

 イングは右の拳を左手の平に当て、名言のように告げる。

「実際にEクラス VS Fクラスでやってみようじゃねえか!? この学園らしくて良いだろ?」

「「「「「「「は――」」」」」」」

「では、私がEクラス代表としても良いですよ♡」

「「「「「「「――い?」」」」」」」

 イングの突然の発言に、全員が疑問の声を上げようとしたところ、まるでそれを予期していたかのように凉女が立候補をしてきた。謎のチームワークに完全に置いて行かれている面々に、なぜか満面の笑みを浮かべるイングと凉女。

 もはや突っ込むのが徒労のように思え、誰もこれ以上口を開けなくなっていた。

 しかし、二人の満面の笑みが沈黙の中で絶えず向けられ続けるので、もうそれで良いと言う空気になっていく。

 そもそも進と灰裏にとっては喧嘩を売られたと言う事もあって、決闘は願ったり叶ったりでもある。ある……のだが、微妙に乗り気になれないぐだぐだな空気が肩にのしかかっていた。

「とりあえず、どっちがやるよおい?」

「んじゃ、とりまジャンケンで」

 ぐだぐだな空気の中、Fクラス二人のだる~いジャンケンが始まった。

 そんな空気を作ったイングと凉女は、いつの間にか美幸のアイスを頂き、かなり幸せそうな表情を作っていた。その中にちゃっかり異音が混じってテンション高めにアイスを絶賛していたりして、それを見て呆れる芽衣と、同じように呆れていたノノカは「あれ? これ、このままこっそりフェードアウトしたら、それでこの場は収まらないかな?」などと疑問に思っていたのだが、既に満郎がさり気なくフェードアウトしにかかっている事には気付いていない。ただ、美幸はせっかく取り出したアイスが無駄にならなかった事に素直に喜んでいた。

 幸せになる方法と言うのは、幸せな事にのみ全力で意識を傾ける事なのかもしれない。

 ちなみにこの後及川(おいかわ)凉女(すずめ)VS嶺島(みねしま)(すすむ)に決まるのだが、進曰く「とりあえず準備運動させてくんない?」との事で、更に時間を要したのだった。

 

 

 2

 

 

 さて、なんとか準備運動でテンションを戻したらしい進は、過去は全てなかったことにして生徒手帳を合わせる。応じる凉女は魔改造車椅子に座って臨戦態勢をとる。

 合わさった生徒手帳からイマジンのフィールドが発生し、立会人が呼び出される。

「呼ばれました。三年Aクラス涼風(すずかぜ)(りん)

 白髪だが髪の先端に近づくほど水色になっている長い髪。水色の瞳。高校生とは思えない抜群のスタイルの女生徒は、立会人として端的に答え、生徒手帳片手に試合ルールを決める。

「試合ルールは一般人もいるので……、屋上で『限定範囲戦(パッケージ)』は狭すぎるか……? 片方は能力の所為で図体もデカいし……。私事ですまないが、私も風紀委員としての仕事があるのでな。『舞台戦場(コロッセオ)』で15分間の時間制限付きとさせてもらう。双方、異存ないか?」

「ありません~♪」

「ねえよ」

 凉女と進の返答を聞いてから、凜は頷き、片手を天へと翳す。双方に視線を向け、頃合いを見計らう。

「試合……開始ッ!!」

 手を振り下ろすと同時に開戦の合図―――、同時に進が拳を握り、まっすぐ拳を打ち出す。既に『強化再現』で全身を強化した踏み込みは漫画のヒーローよろしく一足飛びで距離を詰める。

 彼我の距離およそ3メートル。強化された肉体なら誰でも肉迫できる距離。開幕の一撃を打ち出す進に対し、凉女は魔改造された車椅子の取っ手部分に取り付けられたコントロールパネルを指で弾く様にして操作し、背面に収納されていたらしいジェットエンジンを取り出し、真下に向かって噴出。轟音を上げて真上へと飛び上がる。

 真上へと逃れた凉女を見て、進は思わず叫ぶ。

「おい待てっ!? そのジェットエンジン、明らかに収納スペース以上の巨体になってないかっ⁉」

「はい、すごく……、大きいです……/////」

「なぜ照れるっ!?」

 朱に染めた頬を両手で覆いながら答える凉女に、進が怒声をぶつける。

 凉女はパネルを操作し、ジェットを微妙に調節して滞空しつつ、更に車椅子の側面から左右二門の巨大な砲を取り出す。複雑な組み合わせで変形しながら組み上がった砲は、まっすぐ進へと向けられ、僅かなチャージのタイムラグの後に一気に放火が放たれる。

「だから明らかに収納できないはずの体積だろっ!? どうなってんだよそこっ!?」

 砲火を躱しながらツッコミを入れる進だが、見ていた灰裏から「落ち着け~~! イマジンに物理法則とかもはや今更だろ~~っ!?」っと指摘されて我に返る。

 冷静になってみれば放たれる放火も、かつて見たバスターカノンに比べればとても細い。連射速度こそ早いものの、火力も弱い。ツッコミの片手間に躱すのも容易だ。

「はんっ! どうやらまだぐだぐだが抜けてなかったっぽいなっ! こっからが本番だぜっ!」

 進は叫び、地を蹴って飛び上がる。彼我の距離は約5メートル。やはりイマジネーターなら飛びつくくらい問題の無い距離。

「うらあああっ!!」

 進は迷いなく拳を突き出す。

 凉女は迎撃はせず、ジェットと砲をパージして真下へと逃げる。

 拳を外した進は、焦る事無く空中で態勢を整え今度は上空から落下速度を合わせて拳を突き出す。

 凉女は着地と同時に車椅子のタイヤを手動で回転させ、素早くバックしながら回避。

 進の拳が床に激突し、轟音を鳴らす。僅かに青いイマジンの燐光が飛び散り、学園の建物に施されている『神の見えざる手』が発動し、破壊を(まぬが)れたのが伺える。

「逃がすかよっ!」

 瞬時に地を蹴り追撃の乱打を繰り出す進。凉女は少々慌てながらも手動で車椅子を操作し、拳を躱す。

 凉女の技術は見事な物で、まるで車椅子に乗った騎乗術でもあるかのように巧みな車捌きで攻撃を躱していく。

 それでもやはり非戦闘員、ところどころ危ないところが見受けられ、拳があともう少しで命中すると言うところまで迫った時もあった。そのたびに首を竦め、可愛らしい悲鳴を漏らしながら、直撃を上手く躱す。

「……えいっ!」

 顔面目掛けて飛んできた拳を躱すため、片方の車輪を固定したままもう片方の車輪を後退させる。固定した車輪を軸に凉女の体が拳を逃げるように回転し、自然と、車椅子の背面が進の側面へと迫る。同時にパネルを操作し、側面からバンパーの様な突起物が飛び出す。

「嘗めんなっ!」

 返す拳でバンパーを殴りつけた進。イマジンステータス防御崩し:600を纏わせた拳は、バンパーの耐久力を無視して容易に砕き伏せた。

「きゃあああ~~……っ!?」

 逆に衝撃で吹き飛ばされた凉女は、スリップした車の様に車椅子を滑らされ、軽い制御不能状態に至る。その隙を逃すことなく飛び込んだ進は頭上から叩きつけるように拳を振り下ろす。

「わっわっわっ……!」

 頭上から迫る進に慌てながら、凉女はパネルを操作。車椅子の後ろのハンドルが形を変え、筒状の砲身を作り出す。素早く照準を進に向けて撃ち出したのは野球ボールサイズの玉が数発。それらは進に直撃する前に爆発し、内側からネットを広げる。

 バンパーによる攻撃が殴り返されたことで、瞬時に攻撃力の差を感じ取った凉女は攻撃ではなく捕獲用ネットによる束縛を行使したのだ。

「しゃらくせぇっ!!」

 構わず殴り掛かった進の拳がネットを引きちぎり鉄槌を振り下ろす。

「ひ……っ!?」

 ギリギリ、タイヤ部分から出現したジェット噴射により回避した凉女だが、その鉄槌は彼女の鼻先を掠め、真っ赤に腫れ上がらせていた。

「い、痛いです……」

 鼻先を両手で押さえながら半泣きになる凉女。割と可愛らしい態度だったのだが、進は構うことなく突進を連打してくる。

「ひぃ~~~ん……っ!」

 鼻を押さえたままタイヤを自動で稼働させて逃げ回る凉女。その姿は中々に情けなかったが、ついでと言わんばかりに車椅子の後部から撒菱(まきびし)が大量にばらまかれたり、とりもちが発射されたり、毒煙幕が焚かれたりと、結構えげつない逃げ方をしているので、呆れるどころか軽く危ない物を見るような目で見られていた。

 さすがは混ぜてはいけない者の片割れ―――くらいには思われていたかもしれない。

「に、が、す、かーーーーーっ!!」

 それら一切を無視して突っ込んでいき、損害無視で追い詰めつつある進。こちらは恐怖を通り越してむしろ呆れた愚直さである。撒菱を踏み抜き、とりもちを引きちぎり、毒で顔色を悪くしながら、気合だけで全て振り切っている。戦略も戦術も全くない。戦法とすら呼べない猪突猛進。だが確実に凉女を追い詰めつつあるのだから笑えない。

「あ、あのっ! 進さんっ!?」

「なんだ戦闘中にっ!?」

「私は牡丹より紅葉の方が美味しいと思います!」

「だから何の話だっ!? 会話を成立させろっ!」

「定番は(かしわ)だと思いますが、月夜(げつよ)もなかなかイケるそうですっ!」

「誰か通訳―――いや、もう話すより先にぶん殴るっ!!」

「い、イノシシさんと仲良くなろうと思って(このみ)を聞いただけですのに~~~ッ!!」

 額に青筋立てながら猛追する進に困り顔で泣き始める凉女。

 しかし誰も彼女に同情できない。誰にも凉女の言っている事が解らないからである。

 生憎このメンバーには彼女の難解な発言を理解できるものはいないのだ。

 もしここにオジマンディアス二世がいれば「余は羊が美味だ。しかし牛も捨てがたい」くらいの事は言ってくれていたかもしれない。

 一方的に追われる形となっていた凉女。進の手があと一歩で届くというところまで迫った瞬間、車椅子のタイヤが僅かな出っ張りに引っかかり交通事故を起こした車の様に跳ね上がった。空中で回転し逆さまの状態になった凉女が進に対して両手を翳す。わざと飛び上がったのであろうことを予測していた進が拳を引いて身構える。

創造(クリエイション)―――『ムーヴバンカー』リリース―――」

 両手から出現した幾何学模様が彼女の能力に呼応し、望む武器を生成する。車椅子に装着される形で作り出されたのは巨大なパイルバンカー。破城槌と見紛うそれが撃鉄を上げ、内部の火薬にあたるらしい弾頭に叩きつけられる。爆発音と共に発射された杭が進へと迫り―――、

「―――っらぁぁーーーーーッッ!!!」

 真正面から迎え撃った拳で叩き潰した。

 さすがの火力に進自身の腕が血だらけになるほどの大怪我を負ってしまうが、進の目には尽きぬ闘争心が炎の様に輝いている。

「ちぃ……っ!」

 しかし、その口から出たのは悪態であった。

 破城槌を砕かれた凉女はその衝撃を利用し、屋上の端まで大きく距離をとっていた。

「元から()()()()()()を作りやがったのか……っ!」

 進の発言に対し、凉女は軽くスカートを広げて見せ、小首を傾げながら微笑む事で肯定の意を示した。

 凉女の作り出した『ムーヴバンカー』は敵を攻撃するというより押し出すための兵器。相手対象をハンマーでぶつける様に弾き飛ばすか、あるいは自分自身をバネで弾き飛ばす様に押し出すか、ともかく対象を移動させるための兵器だったわけだ。

 今回は進の火力を計算に入れ、その打撃力を吸収し、自分が押し出されるようにも改造してあった。

 距離をとって向き合う態勢。愚直に突っ込むことしかしない進に対し、背後が崖っぷちになっている凉女。逃げ場のないこの状況に彼女が自ら陥った以上、それは彼女が望んだ状況。

創造(クリエイション)―――」

 幾何学模様が彼女を中心に大きく展開される。

 作り出されるは二門の巨大な砲台。

 形はガトリング砲だが、装填されているのは弾丸ではなく鉄の杭。

「怪我をしても止まらないお強いイノシシさん。強烈な一撃で止まらないのなら、絶え間ない連続の質量にはいかがでしょう?」

 忠告する様に告げる凉女に対し、進はむしろやる気が出たと言わんばかりに挑戦的な笑みを作ると、拳を弓のように引き絞る。

「上等……っ!」

 挑むように応えた進に、凉女はまっすぐ見つめながらもう一度忠告するように尋ねる。

「避けた方が良いと思いますよ?」

「はっ! 守り(逃げ)に入るくらいなら死んだ方がマシだっ!! この身が砕けようと、俺は退いたりしねぇよッ!!!」

 互いに向かい合った状態でのガンマン勝負。

 片や無数の鉄杭を打ち出す砲身を向ける少女。

 片や拳一つ、身一つで挑もうとする猛き少年。

 互いが互いに集中する僅かな静寂。

 張り詰めた空気に緊張するギャラリー。

 温かみが滲み始めた微風が二人の髪を撫でる。

 僅かに凉女の指が動く。

 それを待っていたと言わんばかりに、イマジンを爆発させて突き進む進。

「一斉掃射ーーーッ!!」

 間髪入れず鉄杭を打ち出す凉女。黒い砂嵐でも吹き出したかの如く二つの砲身から無数に撃ち出される鉄杭。

 進の姿は一瞬で黒い影の中に掻き消え、彼を通り過ぎた槍が床に突き刺さり、弾け飛び、バトルフィールド内を埋め尽くしていく。

 如何に防御を強化しようと圧倒的な質量が津波となって押し返し、その進行を押し止め、如何に損害を無視しようとも一瞬にしてミンチにされる物量に押し潰され、進の勝率は愚か生存の可能性さえも一瞬で消し飛ばしてしまう。

「進……っ!?」

 あまりの光景に灰裏が思わず友の名を口にしかけた時―――彼は全身血だらけになりながらも凉女の眼前で拳を構えていた。

 進の能力『ノーガード』は、その全てが損害無視の極振りアタッカー。

 『耐久無視』によりイマジン変色ステータス『防御崩し:600』以下の防御効果を無視することができる。

 『防御能力無視』により『防御崩し』以下のイマジネーションを持つ相手のあらゆる防御効果に対してキャンセラーの効果を発揮する。

 更に一日一回限りのスキル『不転退の誓い(ネバーランナウェイ)』により『防御崩し』の数値を二倍にし、イマジン変色ステータス『不屈:100』の分だけ攻撃力を増加させる事ができる。

 防御に何一つ振り分けられていない能力構成は、強すぎる己の攻撃力に、自分自身さへも傷つけてしまう、過ぎたる火力を有している。完全なる自爆特攻型スタイル。故に、力の使い方はシンプルだ。ただ真直ぐ敵に向けて突っ込むのみ。一見考えなしの猪突猛進に見えた進のスタイルは、その能力構成上、最も正しいバトルスタイルだったのだ。

 そして、凉女の物量攻撃に対し、進の最善もまたこれ一つ。

(根性で耐えきって、ただ一撃の全力をぶちかますっっ!!!)

 進のイマジン変色対ステータスの物理防御数値はたった3のみ。対する凉女の攻撃はイマジネーション483で構成された物理の槍。しかも防御ではなく攻撃なので、進の『ノーガード』の効果は軒並み受け付けず、凉女有利に見える。

 しかし、ここで凉女は一つ判断ミスをしていた。

 進が己の攻撃力に自損してしまうように、物理的な攻撃には、その攻撃力に耐えられる耐久力が必要とされる。進の『耐久無視』も『防御貫通』も、物質の耐久力に対して効果を発揮できる。

 凉女の攻撃は全て『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)』により作られているため、耐久力も攻撃力も全てイマジネーションに依る。

 進の物理攻撃力は100、『不転退の誓い(ネバーランナウェイ)』により不屈ステータス100を追加し200となる。

 凉女の作り出した槍はイマジネーションステータス483として計算できるが『耐久無視』の効果で攻撃力はあるが脆い素材扱い。『防御無視』により防御崩し600以下のイマジネーションの防御は無効化。『不転退の誓い(ネバーランナウェイ)』で更に二倍の1200。どう足搔いたところで凉女の能力では防御不可能であり、ダメージを受ける事さえ覚悟すれば、凉女の攻撃を全て破壊しながら突き進むことは十分に可能だった。

 それでも、これは正気の沙汰ではない戦術だ。何しろダメージを受ける事が前提なのだ。普通は相手のもとに辿り着く前に力尽きる。仮に進と同じ能力を同じ場面で同じように使用したとしても、攻撃の波を貫くことは誰にもできなかっただろう。

 イマジン変色ステータス不屈:100を有した進だからこそ、攻撃の波に拳一つで挑み、辿り着くことができた。

 全身から血飛沫を上げ、満身創痍になりながら、彼は叩きつけるように拳を振り下ろした。

「もらっていけぇぇぇっ!!」

「―――ッッッ!!?」

 

 バアァァンッッ!!!

 

 破砕、と言うよりは破裂音の様な物が響き渡って進の拳が凉女の車椅子を破壊し、その下の床にまで激突した。

「ちぃ……っ!」

 進の口から悪態が漏れる。

 彼の目に冷や汗交じりに苦笑している凉女の顔が逆さまに映る。凉女は咄嗟に車椅子の淵に手をかけ、逆立ち状態になって攻撃を回避した。殆ど『直感再現』頼りの反射回避であったため、躱した本人が一番驚き、意味もなく笑いが込み上げていた。

 なお、この時、観客側から粉砕する車椅子に「わ、私の『魂創器(こんそうき)』が一撃でぇ~~っ!!」っと、イングが悲鳴を上げていたりしたが、凉女には気にしている余裕はない。

 腕の力で進の頭上に飛び退いた凉女は、進が体勢を立て直す前に攻撃を仕掛けるため術式(イマジネート)を繰る。

 自分に向けて手を翳す凉女を頭上に捉え、進は選択を迫られる。

 態勢が悪く、満身創痍のこの体では、次の一撃に耐えることはできない。だが、今からでもイマジンを防御、あるいは回避に全振りすればこの瞬間を凌ぎ、次に繋げるかもしれない。

 選択を迫られる。防御で耐えきるか、回避で逃げ切るか。

(決まってる―――!)

 進は拳を握り凉女を見据え睨みつける。受けて立つために。

 そう、嶺島(みねしま)(すすむ)に、守る(逃げ)と言う選択肢はないのだから。

創造(クリエイション)―――!」

「おおぉっ!!」

 凉女が『武装創造(ウェイポンズ・クリエイティブ)』で巨大なアームを複数作り出す。

 進は拳を構え、足に力を入れ、自損無視の一撃を放とうとする。

 誰が見ても最後の一撃。進の一撃が届けば進が勝ち、凉女が押しきれば凉女が勝つ。他の選択肢が存在しない状況で、二人の視線が上下に交差する。

 

 バガァァァァンッ!!!

 

 最後の一撃が放たれる。

 全力で床を蹴り上げた進の体が弾丸の如く真直ぐ飛び上がる。全力全霊を込めた一撃を込めて……。

 だが刹那に、進は違和感を感じ取る。飛び上がる瞬間、足に妙な違和感を感じたのだ。

「あ……っ!」

 その違和感の正体に気付く刹那に、凉女の驚く顔が見えた。驚く彼女の視線が自分の背後に向かっている。予感がして振り返る。空中で、敵に向かって突っ込んでいる最中。明らかな隙になるとは解っていたが、振り返らずにはいられない不安が過ぎったのだ。

 そして彼は見た。自分が蹴り上げた床が粉砕し、瓦礫となって階下へと降り注ぐ様を。その下には、多くの一般客の姿。

「やべぇ……っ!?」

 

 

 3

 

 

「なるほど……、こういう意図でしたか……」

 憮然とした表情で呟いた赤結(あかむすび)ひまわりに対し、苦笑いで返すしかない影森咲。

 二人の勝負は既に付いていて、今は立会人も帰ってしまった後だ。普段なら盛り上がってしばらくは残っている観客も少なく、一部では少々物足りなさそうな顔をしている者までいた。

 納得いかない。顔中にそう書いてありそうな表情で膨れるひまわりに対し、咲は少々申し訳ない気持ちになりつつ返答した。

「そう、Fクラスじゃ上位クラスには勝てない。なら()()()()()()()()。私は最初から()()()()()()()()()()

 決闘が始まってから咲は、常に戦闘状況を膠着させ、時間を稼ぐことに邁進していた。

 ひまわりの能力『世界結(せかいむすび)』による『暗黒結界』で作り出された刀剣類は、あらゆる物を問答無用で切り裂き、作り出された壁は絶対の障壁として展開された。Fクラスの生徒にとってはかなりきつい相手のはずだった。

 咲は自分の能力『二次創作』による『想起』で他者の能力を模倣できる。それを利用し、目の前にいるひまわりの能力を模倣、疑似的に作り出された『暗黒結界』で作り出された刀剣類が、互いの刃を弾き合い、能力によるアドバンテージを0にした。

 ひまわりも負けずに『暗黒結界』の本来の効果で作り出したワームホールにより、瞬間移動して隙を突こうとするが、瞬時に『書換』を発動した咲は自身にカルラ・タケナカの人格を模倣させ、相手の能力を分析し、対処して見せた。

 もちろんひまわりはあの手この手と、戦術を変えて対応しようとしたのだが、その度に咲は『書換』により人格を変更。カグヤになり口八丁手八丁で騙くらかし、弥生になって勇猛果敢に挑み、満郎になって逃走し、シオンになって煽り立て、ゆかりになってのらりくらりと躱し、まともにやり合わずに時間だけを稼いでいった。

 結果的に、タイムアップとなり引き分けにすることで、咲は勝てこそしなかったが、()()()()()()()()()()

 これが咲の狙った結末。勝てないのなら、せめて負けない方法を考えればいい。

 時間制限を決めていたのもそれが狙い。Fクラスでは他クラスには勝てない。だが、負けないようにする事はできるのだ。

 まんまとしてやられたひまわりは、それを考慮せず、見事に出し抜かれてしまった己の油断に歯噛みするしかない。

 だが、それとは別に物申さない訳にはいかない事もある。

「それでは賭けはどうしますの? まさか引き分けたのでお流しと言うわけにはいかないでしょう? そもそも話の落としどころを決めるための決闘だったわけですし?」

 そう、この決闘は元々正勝との相部屋を賭けた戦いだった。これでは話が最初に戻ってしまうだけで何も解決していない。

「まさかこのまま先送りにするために引き分けたというわけではありませんわよね? もしそうでしたら決闘どころではなく……戦争となりますが?」

 瞳孔から完全に光を失った目で見据えられ、咲は慌てて首を横に振る。

「そ、そんなつもりはない……っ! もちろん、引き分けにしたのには理由がある」

「聞きましょう」

「引き分けになった以上、私達はお互い勝った事にするか、負けた事にするか、どちらかにした方が良いと思うんだ。それで私は前者を推奨。互いに勝負に勝った事として、互いの願いを叶える方向で行こうと思う」

「っと、言いますと?」

「生徒手帳出してくれる?」

 咲に促され、ひまわりは手帳を差し出す。それに自分の手帳を重ねた咲は、生徒手帳に登録されている術式(イマジネート)を起動し、『キーコード』を転写する。

「はい、うちの部屋の合鍵」

「まあ?」

 軽く驚くひまわり。

「これで正勝くんの部屋に出入り自由、赤結さんの願いは叶った。私の願いは現状維持を許してほしい事。それを合わせた結果として、私の部屋移動はなし。代わりに赤結さんはうちに出入り自由と言う事で、妥協としませんか?」

「まあまあ……!」

 勝つことができない咲は、負けないことでしか勝負を決められない、っである以上は一方的な願いは要求できないことを最初っから承知だった。そこで決闘に勝利した方が願いを叶えてもらうという条件で引き分けにして、互いの妥協点で納得してもらう事にしたのだ。

 もちろん、これは苦肉の策であった。最初に引き分け時の条件を決めていない以上、話がこじれる可能性もあったし、最初に引き分け時の話をしてしまっては狙いに感づかれる可能性があった。それでもFクラスの生徒にはこうする以外の選択肢が現状存在していないのだ。後は天に―――否、ひまわりに全てを委ねるしかない。

「ふふ……っ」

 ひまわりは小さく笑みを零す。

「完敗ですわね。こんなとても良い条件を出され、決闘に引き分けられてしまっては、否とは言えません。私もそこまで無粋ではなくてよ? この決闘、その様に取り計らっていただいて?」

 了承を得た。

 咲は安心感からどっと疲れながら、これでこの件で悩まされることはないだろうと安堵した。

 代わりに同居人に多大な負担を強いてしまったかもしれないが、既に自分に負担がかかっていたのだ。そもそもの原因が同居人にあった以上、半分は持ってもらうとしよう。

 そう自分を納得させた咲の手を、ひまわりは優しく取って両手で包み込む。

「影森さん―――いえ、咲さん、私は貴方を誤解していました。貴方は私の恋敵ではなく、愛のキューピットだったのですね」

「………はい?」

「私、アナタとは仲良くなれそう! これからをよろしくお願いしますわね!」

「あ、………はい」

 自分が背負う負担が間違いなく増えた。眼前でキラキラと輝く無垢な笑顔に、そう確信する咲であった。

 

 バガァァァァンッ!!!

 

 その時、突如響き渡った騒音に、二人は同時に視線を向けた。

 

 

「チィ……っ!」

 決着がついた新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)はその結果に盛大に悪態を吐いた。

 対するジーク東郷は不敵な笑みを浮かべ、余裕の意志を示していた。

「テメェ……ッ! そう言う事かよ……!」

 全てを理解した悠里は更に表情を歪めて、ジークを睨みつける。

「テメェッ! 前回の試合で神格使い果たしてメチャクチャ弱体化してんじゃねえかよっ!!」

 ジークの首元に剣を突きつけた悠里は、憎々しそうに云い捨てた。

 対するジークの方が何故か得意げに悠里を見上げている。

「いや、それでも勝てると判断し、勝負を受けたのは俺だ。今回は素直に負けを認めるさ。今回はなっ!」

「うるせぇっ! なんで負けたお前が誇らしげなんだよっ!?」

「俺が惚れた女を惚れた男が、強く、信念のある男だと解って安心しているだけだ。くだらない男なら、負けてやるわけにはいかなかったがな」

「だから負けてるくせに上から目線なのなんなのっ!?」

 悠里は剣を引いてもう一度舌打ちした。

 まさか戦いが始まって殆ど一方的に押しきれてしまう上に、ジークお得意の『ドラコンボディ』は発動せず、グラムも神格を失い強化は発動せず、ただ頑丈で切れ味の良い剣と言うだけになってしまっていた。

 ほぼ能力の全てが使用不可と言う状況。そんな状態で下位クラスとは言え、充分に勝の目を持つ相手に、十全の状態で挑まれれば良い所一つもなく負けて当然である。むしろそんな状態でよくぞ悠里の挑戦を受け取ったものだ。

「勝てる見込みは充分にあった。それを俺が掴めなかったというだけの話だ。まだまだ俺も修行不足だったらしい」

「今さらっと、俺に負かされたんじゃなくて、自分が失敗した体で言いやがったよな? ちょっと全力で殴っていい……っ?」

「死人に鞭打つが如し行為はさすがにどうかと思うぞ?」

「真顔でふざけたこと言ってんじゃねえよっ!?」

 やれやれと言いたげに肩を竦めながら立ち上がるジークの様子に、悠里は勝ったのに微塵も勝利した気になれなかった。

「今度は勝つ」

「受けて立とう」

 二人は互いを強く睨みつけ合う。

 まるで先程の勝負は無効試合だと言わんばかりに。男と男の戦いが、始まったと宣告する様に。

 

 バガァァァァンッ!!!

 

 その時、突如響き渡った騒音に、二人は同時に視線を向けた。

 

 

 

「やべぇ……っ!?」

 眼下、自分の跳躍で破壊してしまった屋上の床が、大量の瓦礫となって校舎にいる一般人に降り注ぐのが見える。

 一般人とは言え、さすがはギガフロートの住人、瞬時に危機に気付いて悲鳴を上げながらも即座に走り出し、瓦礫を避けようとしている。子供もいたが固まって動けなくなるような者は一人もいない。

 だが、瓦礫は広範囲に飛び散ってしまっている。一般人はイマジネーターではないため器用に躱すこともできない。瓦礫が空中にあるうちに排除しなければならない。それが解っていても進は今、飛び上がってしまったばかりだ。直接当てる攻撃手段しか持たない彼では何もできなかった。

「アームズッ!」

 頭上、凉女の声が降り注ぐ。

 進の脇を轟音が過ぎ去り、複数の機械ハンドが瓦礫を掴み取る。

(ダメだ足りねえっ!?)

 凉女の作り出したアームは、元々進と殴り合うための設計、あまり遠くに伸ばすことができず、繊細さも有していない。ギリギリ小さい瓦礫を幾つか掴んだだけで被害範囲はほとんど変わっていない。

(くそっ! なんで校舎が壊れるんだよっ!? イマジンで壊れないようにされてんじゃなかったのかよっ!?)

 進は当然のことながら、他の誰も気づいていなかった。凉女との戦闘中、進が床を殴りつけた瞬間があった。あの時、進の『耐久無視』『防御無視』そして防御崩しの効果が全て床に叩きつけられ、一時的に校舎を守っていた『神の見えざる手』の術式が破壊されていたのだ。一時的に普通の床となってしまった校舎は、イマジネーターのありえない脚力に耐えられるわけもなく、術式が回復していなかった範囲全ての床が崩れ去ってしまっていた。

創造(クリエイション)―――!!」

 凉女は瞬時に射撃系の武器を作り出し、瓦礫を破壊しようとしたが、その判断がミスであると気づいて硬直してしまう。

 レーザーガンでは瓦礫を貫通した光線が一般人に当たってしまうかもしれない。爆発物で瓦礫を砕けば散弾銃の如く破片を跳び散らしてしまうかもしれず危険だ。この場合は、何か遠くの相手に防御効果を齎すタイプの装備を作るべきであった。

 気付いたところでもう遅い。再度作り直すのは間に合わない。大きな瓦礫と小さい瓦礫。全てを対処する手段が手元にはない。

「……ッ!?」

「くそ……っ!」

 悟った二人が何もできない事に歯噛みする。

 せめて誰にも当たらないでくれと祈るしかない中、進は眼下から黄金の輝きを見た。

「『模倣(コピー)』! 『言霊の剣』!」

 瓦礫が降り注ぐ下にいたのは一般人だけではなかった。偶然そこにいたらしい新谷悠里が弥生の剣を『模倣』し、複数の剣を瓦礫に突き刺して防ごうとしていた。回避が間に合わない一般人を守るように並べられ、瓦礫に突き刺さり落下を止めようとしたり弾いたりしている。だが火力が足らず、破壊には至らない。重量を支えられるほど術式操作も上手いわけではなかった。

「咲さん合わせてっ!」

「『書換』赤結ひまわり!」

 異変に気付き、中庭から窓を通って突っ切って来たひまわりと咲。二人は状況を正確に認識している暇はなかったため、飛び出してすぐに見えた瓦礫にともかく対処を試みた。

「「『暗黒結界』ッ!」」

 二人、タイミングを合わせるために声に出して能力を発動。暗黒色の壁を作り出し、接触した瓦礫を呑み込むように消していく。

(だめっ! 遠い……ッ!)

 瓦礫を半分ほど消した時点で壁の伸びが止まった。二人掛かりで伸ばせる範囲の限界点がきてしまったのだ。状況が解らなかったが故に、落下地点より離れた位置に出てきてしまったのが痛手だった。

(くそっ⁉ ここまでやってダメなのかよっ!?)

 自分の所為で関係ない一般人が傷つく。そう想像した瞬間、進の胸中に言い知れぬ感覚が渦巻いた。

 

「ナンバー6で、よろしくノノカ☆」

「『幻想曲第三楽章:≪戦場の軍勢≫』編曲―――」

 

「「『恋のステップ』!!」」

 

 奏でられるは軽快なリズムのバイオリンの音色。

 響き渡るは明るく元気な少女の歌声。

 まるで宙に浮いてしまいそうなほど甘くとろける恋をする少女を歌った歌詞。

 サビから突然入った曲は、それでも違和感なく世界に受け入れられ―――落下しようとしていた瓦礫全てを中空で停止、瓦礫をステージとして今、歌姫が舞い降りた。

 七色に輝く美しい髪を靡かせ、マイク片手に歌う少女は足場の悪い瓦礫で踊っているとは思わせない軽快な振り付けを交え、歌を耳にする者全てを魅了していく。

 突然の事に戸惑いつつ、やっと屋上に着地を果たした進は、何が起きているのか改めて目にする。

 宙に浮いた瓦礫を舞台(ステージ)に七色異音が歌い、奏ノノカがバイオリンで曲を彩っている。

 そこにあったのは完全にショーだ。まるで最初からそう言うものであったかのような催しものだ。

「異音さんの『響き渡る歌に想いをのせて』の能力『歌は世界を変える』ですねぇ」

 背後からした声に振り返ると、床に腰を下ろした凉女が二人の奏者を眺めながら教えてくれた。

「異音さんの歌は、歌に合わせて世界に影響を与えることができるとかで? たぶん、宙に浮いちゃうほどの恋をした歌で、物を浮かせちゃってるんでしょうねぇ? ノノカさんはその効果を高めるバフ効果でしょうかぁ~?」

 のほほんと語る彼女から視線を外し、眼下の二人に戻す。

 そこには、先程、悲鳴を上げながら逃げていたはずの一般人に、そんな事はなかったかのような笑顔と声援を受け取りながら、輝くアイドルがいる。

 先程、自分が馬鹿にしてしまった二人。力がないと言ってしまった二人。イマスクに来る意味がないと言ってしまった二人。自分が僻んでしまった、二人……。

 そして何より、自分には何もできなかった事故を、防いで見せた二人。

 感謝と声援を一身に受けながら、ゆっくりと瓦礫を降ろし、歌の締めに二人でお辞儀して見せる。一層盛り上がる声にアンコールの声が混ざり、目くばせした二人がそれに応える。

 そこには、自分達が見下していいような存在はどこにもいなかった。

「Eクラスでも戦闘能力はあります。私もそうですし、彼女達も……。皆戦い方が違うだけですよ」

「………」

「うふふっ、何も焦る事なんてないんですよ? だって私達、急に大きな力をもらってしまったばかりなんです。使いこなせてると思う方が傲慢ですよぅ~♪」

「………」

「進さん、アナタだって、まだ腐るには早すぎると思います。まだまだ、努力の時期。肩の力を抜いて、背筋を伸ばして、精進しましょうぅ~! お互いにぃ~♪」

 進は何も答えなかった。

 答えられなかった。

 ただ彼の胸中にあったのは、言うべきでなかったことを言ってしまった罪悪感と、自己嫌悪だけだった。

 

 

(……ほっ、よかった)

 事が大事にならず済んで涼風凜は胸をなでおろした。

 風紀委員と言う事もあって緊急事態にはすぐさま行動できる準備は彼女にはあった。今回も屋上の床が瓦礫となって崩れた時には思わず、能力『停滞』による『停滞減速(フリーズダウン)』で落下速度を落とそうとしていた。

(でも、学園の方針上、下級生が対処できそうなら対処させるのが暗黙のルールだし、ギリギリまで見守らないといけない)

 面倒な事ではあるが、彼女も既に三年生。下級生が失敗した時のフォローは当然として、彼らが彼等だけで対処できる時には、手を貸さずに見守るのも上級生としての義務なのだ。

(去年までは私も向こう側だった……、甘えないようにしないと)

 同じくしたで成り行きを見守っていたらしい三年Aクラス、八雲(やくも)赳流(たける)の気配を感じながら、彼女もまた、秘かに心を改めていた。

 

 

 4

 

 

「すまんかった!」

「悪い事を言った。謝る」

 日も暮れ始め、皆帰宅ムードになる夕焼け頃、進と灰裏はノノカと異音に対し素直に頭を下げていた。

 戦闘には実際参加していない灰裏だが、あの戦いの中、Eクラスの凉女の奮闘ぶりに、ノノカと異音の活躍を見てなお、無意味な意地を張ったりはしない。むしろ頭が冷えたようで、深く考えもせずに悪態を吐いていた自分を恥じている様子だった。

「せっかく力を手に入れたのに、何も上手くいってない気がして、知らん内にイライラしてた」

「イラつきが不満になって、不満が不安になって、それで誰でもいいから八つ当たりしたくなってたんだと思う。今にして思うと、子供っぽい行動だったと反省した」

「「本当にすみませんでしたっ!!」」

 二人、腰を折って謝罪する姿には、最初に見た厳めしさはなく、むしろ毒気が抜けた様な印象を与えられる。本心から謝罪しているのだろうことは容易に伝わり、それだけに謝られたノノカと異音の方がちょっとだけ戸惑ってしまった。

 ノノカと異音は二人視線を合わせ、彼等を許す方向で意思確認をすると、互いに笑みを向ける。

「うん、もう気にしなくても―――」

「ではっ! 誠意を見せてもらおうかなっ♪」

「うん、誠意を……ん?」

 笑顔で固まるノノカ。

 サビ付いた音が鳴りそうな鈍さで首を向けると、何故かドヤ顔でふんぞり返る異音の姿があった。

「おう、殴られるくらい覚悟の上だ」

「借金の当ては一応あるぞ。どんとこい」

「納得しちゃうのっ!? もう少し冷静に考えない?」

「煮るなり焼くなり、串刺しにするなり獣に咬ませるなりしてくれ」

「こんな内臓で良ければ、多少の金額にはなるはずだ」

「覚悟決め過ぎじゃないかな二人ともっ!?」

 潔く命を差し出そうとする漢二人に、ノノカはドン引きしてしまう。

「その程度の覚悟で誠意になると思わないでね☆ とびっきりの拷問―――もとい処刑を用意してるんだから♡」

「異音はどこまで覚悟を要求してるのっ!?」

「そして言い直した方がやばいですね……」

 異音の発言によりドン引きになるノノカと、思わず口を挟んでしまう芽衣。その背後では気を利かせているつもりらしい凉女が焼いた鉄板を用意し始め、それを手伝わされている美幸が「この鉄板で何をさせるつもりなんですかっ⁉」っと怯えて至り、破壊された『魂創器』を涙目になって直すイングの姿があったりした。

 皆が見守る中、胸を張った異音は偉そうに死刑宣告を口にする。

「二人には罰として、また私達の歌を聴いてもらうんだからね♪」

「「………は?」」

 呆気に取られる二人。すかさず異音は人差し指を突き立て、二人の顔を覗き込むようにして、ちょっとだけ怒った表情で「めっ!」とするように詰め寄る。

「返事はっ!?」

「……お、おう」

「そんなことで良いなら?」

「よっしっ! ファン候補二人追加だよ♪ ノノカ♡」

「あ、あはは……っ、うん」

 異音の粋な計らいに軽く笑って答えるノノカ。

 一瞬戸惑いながらも、これ以上話を引きずるのも返って野暮だと判断して、二人も笑った。これでみんな仲直りと言う事で、芽衣を安心したように笑い、こっそりフェードアウトしていた満郎も最初からいましたよムーヴでニヒルに笑って見せた。凉女と美幸も笑い、イングはちょっと納得いかなさそうだが、個人的な事でせっかくの空気を台無しにする必要もないと判断し、合わせて笑って見せた。

 イマジネーションハイスクール。ここでも地上と同じような喧嘩や諍いは、もちろんある。だが、諍いを諍いのままに終わらせず、ちゃんと仲直りする事ができる。ここには、そんな生徒で溢れている。喧嘩する事を恐れる必要などない、暖かな場所。

 明日はいよいよ決勝トーナメント決勝戦だ。

 

「では、鉄板も熱が入りましたので、お二人ともどう乗ってくださいぃ~」

「「焼き土下座しろとっっ⁉」」

 

 

 




≪あとがき≫―――は無いっ!
気が向いたら書くかもしれんが、たぶん書かない。
久しぶり過ぎて何かくか考えてなかった……WWW。
次回から改めて各内容考えます。


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おまけ編 【作者リハビリ短編】1

ちょっと、執筆のリハビリで書いた短編です。
5話くらい出そうと思ってます。


1.とある町の九曜(お姉)さん

 

 東雲(しののめ)神威(かむい)の能力によって生み出された闇御津羽神(くらみつは)の式神、九曜一片(くようひとひら)は、毎日夕方頃に散歩をする習慣がある。日が沈み始め、夜の時間が訪れる逢魔が時、日本神話が出自の九曜にとって相性がいい時間帯なのかもしれない。

 新しい主である東雲カグヤは、あれで忙しい生活を送っている。義姉である東雲神威の帰ってくる場所である自宅は、神社を改装したお屋敷状態になっていて、義姉弟(きょうだい)二人で暮らすには広すぎる。電気もガスも通っているのに、風呂は薪を焚いて温める仕掛けだ。庭には神威の趣味で作られた畑があり、神威がいない間はカグヤが面倒を見ている。炊事、掃除、洗濯、おまけに家計簿に至るまで、全てがカグヤ一人の手に委ねられている。昔からやって来たことなので、特に苦を漏らすことのない主だが、サボり下手なところがあって、少し心配にもなる。人の目がないと張り切る割に、人の目があると面倒くさがるので、九曜が来てからは、適度に自分が干渉して休ませるようにしていた。

 とは言え、下界に降りられる機会の少ないイマジン体(九曜)は、特別な許可が下りている内に、せめて、主の家の周辺だけでも見ておきたいと思ってしまう。最近は特に、()()()()()()()を見るので、余計に気分転換をしたくなってしまう。今日の散歩も、そんな気分で行われたいつもの光景だった。

 だから、いつものようにぶらりと歩いて、いつものように早めに帰って、いつものように主の笑顔に出迎えてもらうのだ。そう思って踵を返し、帰路に着こうとした。

「ぐすっ……ひっく……」

 ―――着こうとしたのだが……、よもやその辺の道の端、建物の陰で蹲って泣いている子供が目に入ろうとは思わなかった。

「………」

 さてどうしたものだろうと考えてしまう。

 イマジン体、闇御津羽神、固体名:九曜一片として、自分の設定された性格上、主以外の存在には基本冷徹で関心が薄いとされている。しかし、どうにも固体として生活する上で、多少の罪悪感のような物を獲得してしまっているらしい。明らかに迷子ですと主張する三角座りスタイルの幼子に、見て見ぬふりをしたくない。

 下僕としては失格だ。そう溜息を吐きながら、九曜は幼子に近づく。

 金色の髪をした10代未満と思われる幼女は、スカートから盛大に下着が見えてしまっている座り方をまったく気にしていないらしく、羞恥心の目覚めもまだ怪しい年齢のようだった。そんな相手にどう声をかければいいかと少し悩み、瞬時に頭を振った。

 関わるとは決めた。だから速やかに終わらせる。でも、言葉や対応を選んでやる気はない。

「そこな女童(めらわ)、家は近いのかしら?」

「Hi……っ!?」

 短い悲鳴を漏らす幼女に対し、一瞬首を傾げてしまう。気を使っていないので怯えるのは分かるが、どうにも発音が高すぎる気がしたのだ。

 疑問を脇に置きつつ九曜はさらに続ける。

「迷子ならおうちに帰る手伝いをしてあげるわ。それ以外に何か困っているなら速やかに答えなさい」

 泣きだしたらどうするかと言われそうだが、泣いたら泣いたで、その涙を拭って、その水滴からある程度簡単な情報を読み取ることができる水神なので、あまりその辺は気にかけないことにした。主でもない者に、優しくする必要は全くないのだ。

 ところが、泣き出すかと思われた幼女は、以外にも泣き止み、代わりにきょとんとした表情で自分を見上げてくる。おまけに開いた口から飛び出した物は―――、

Who are you(フー ア ユー)?」(アナタは誰?)

 英語だった。

 納得と呆れに額に手を当てて軽く仰ぐ。

 少し妙だとは思っていたのだ。この辺は民家だ。少なからず人はいる。なのに迷子の子供がどうしてこんなところに一人ぼっちで取り残されることになっているのか? つまり言葉が通じず誰も相手できなかったらしい。

 これはもう仕方がない。

 九曜はそう溜息を吐いて、彼女の頭に無造作に手を置くと、半分怯えてびくつくのも構わず優しくなでてやる。

 翡翠色の瞳を見開いて固まっていた幼女も、次第に優しくされていると気づき、安心したのか逆に泣き出してしまう。

 構わずしばらく撫でていると、幼女は泣き止み、その手を掴んしがみついてくる。

I want to go home(アイ ワント トゥ ゴー ホーム)」(家に帰りたい)

 見上げながらそう言ってくる。

 九曜たち、イマジン体に外国語ができるのかと聞かれれば、「できる」っとは断言できない。イマジネーターと同じで、ある程度、言語情報を獲得できなければ言葉を理解するには至らない。そして九曜は英語など習った覚えがない。

 まあ、それでもこんな簡単な単語なら分からないでもない。

 なので速やかにその願いを叶えることにした。

 九曜は彼女の手を取り、自分の懐に抱き上げると、驚く彼女を無視して飛び上がり、近くの家の屋根の上に着地する。

「っで? 何処かしら?」

 目をパチパチさせて驚く幼女に、九曜は軽く揺すって返事を促す。気が付いた幼女が辺りを見回すが、見覚えのある光景が近くにない様だ。

 適当な方角に向けて軽く飛ぶ、神気を纏い、重力を低下させて、ふわふわした跳躍で周囲を跳び回る。まるで空中メリーゴーランドのような乗り心地に、幼女の機嫌はあっという間によくなり大はしゃぎである。

「はしゃいでないで家を探しなさい」

 

 

「クヨウ! クヨウ~~ッ!!」

 幾日後の逢魔が時、またもや日課の散歩をしていたら名前を呼ばれ、腰のあたりに幼女がしがみついてくる。迷子の一件以来すっかり懐いてしまった異国の幼女。未だに名前を覚える気がない相手なのだが、どうにも好かれてしまったらしく、見かける度に懐いてくる。

 英語で話しかけられるうちに、言語を理解できてしまったので、『話せる』っと言う理由もあるのかもしれないが、正直面倒だとは思ってしまう。

 そう、面倒だ。具体的にどう面倒かと言うと……、ただ歩いているだけで、自分の周囲に幼子の集団ができてしまうくらいに面倒だ。

 迷子の一件以来、夕方にだけ現れるレアなお姉さんが、幼子に早く家に帰るように促してくれる。泣いてる子を慰め、怪我した子をおぶさり、速やかかつ迅速に帰宅させ、お礼を聞かずに颯爽と立ち去る。そんな噂ができてしまっているらしく、今や自分は幼子たちの人気者(レアなマスコット的)な存在らしい。

「どうしてこうなってしまったんでしょう……」

 嘆息しつつ、彼女は集まった幼子を家に帰していく。文句を言いつつ、一人一人丁寧に。

 

 後々、このことを知った神威は九曜に対してこんなことを言った。

「好いてくる相手に面倒見が良くなるのは、妹弟(カグヤ)の影響だろうな!」

 可笑しそうに笑う創造主に、九曜はこっそり心の中でだけ付け足した。

 

 それ、アナタも同じよ。

 




ともかく短くするつもりでさっと書き上げました。
思わず情報量モリモリで書きそうになって、必死に削りました。
短編じゃなかったら、もう少し幼女ちゃんに喋らせたかったね。


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おまけ編 【作者リハビリ短編】2

とりあえず、他のキャラ設定思い出すために、他のキャラも書いてます。
ついでだから過去設定とか、掘り出せそうな人は掘り出したいですね。


2.お嬢様七変化

 

 (くすのき)(かえで)は現総理大臣の楠(あおぎり)の姪であり、まさしくお嬢様である。情操教育はもちろん高く、有名になるほどではないがテレビ露出もある。礼儀作法はもちろん、その容姿も文句のつけようがないほど可憐に育った。

「お勉強飽きました! 今日はバンドな気分なのでロックしますっ! イエーーイッ!!」

 勉強机から飛び降りる様にして抜け出すとメタルな鋲がいくつも付いたロックな皮ジャケットに身を包み、ベースを弾き始める楓お嬢様。そしてかなり上手い。

「お、お嬢様~~~っ!? 今は勉強のお時間ですよ~~っ!?」

「予定の三倍予習しているので、いい加減遊びたいのですっ! (わたくし)はアスチルベの花言葉を望みますっ!」

「え? ……あら本当」

 お嬢様は優秀でした。

 

 

「バンドに飽きたので秋葉原行って参りますっ! イベリスの花言葉が私を呼んでいますっ!」

「お嬢様っ!? 昨日プロバンドに合格したと聞きましたよっ!?」

 ゴスロリ衣装に身を包んだ楓お嬢様。花に誘われる蝶の如く聖地へと向かったのは、バンドを初めて5日後の事でした。

 

 

「ちょっと宝塚行ってきますっ! イキシアの花言葉の如く、誇り高くいこうっ!」

「お嬢様っ!? 意外と男装にあってらっしゃいますねっ!?」

 しっかり髪も撫で付け、長い髪を切る事無く纏め、少しの化粧とスーツに身を包んだだけで紳士になった楓お嬢様。秋葉原に通い始めて4日後の事である。

 

 

「人の命は尊いのです。ユリ科の花言葉を胸に医学を志そうと思います」

「宝塚からのスカウトがたくさん来ていますよお嬢様~~~っ!?」

 白衣に眼鏡をかけた、取り替えず形から入った楓お嬢様。宝塚に通い始めて3日後、今度は大学医へと向かう15歳のお嬢様。

 

 

延齢草(エンレイソウ)の花言葉に相応しき、舞子となるため、京都まで上京しようと思いますぅ~! 止めんとってくださいっ!」

「お嬢様っ!? いくらなんでもここから着物姿でいくのは無理がありますよっ!?」

 着物に扇子、(カツラ)までしっかり被って楚々とした足取りで外出しようとする楓お嬢様。たった2日で大学医から『神童』の呼び名を頂いていた。

 

 

「今回はスポーツ街道ですっ! 自転車、陸上、水泳っ! 蝦夷菊(エゾギク)の花言葉の如く行きましょうっ!!」

「トライアスロンにでも挑戦するおつもりですかっ!? お嬢様っ!?」

 競泳水着の上にジャケットを着て、素足にスニーカーを履き、自転車を担ぎ上げた楓お嬢様。舞子修行を1日で完結してきた姿がこれである。

 

 

「お、お嬢様……っ! 次は何をなさるおつもりですかっ!? 多才なのは結構でございますが、衣装棚がパンクしそうな勢いで衣装が増えていますよっ!?」

「そうですねぇ~~? 大体なんでもできる自分にも驚いていますが、こう、何でも出来てしまうと、自分に意外性がなくなってきて、つまらないですよね~?」

「そういう問題ではございませんっ!?」

 何気なく視線を彷徨わせる楓お嬢様(今回は学生服)は、ふと点けっぱなしのテレビへと視線が止まる。そこには、ハイスクールイマジネーションにおける、全校生徒最強決定戦の映像が流れていた。

 七人の下級生が、一人の上級生に対して挑みかかっている姿。善戦しているシーンなど一度もなく、圧倒的な力量差が映し出され、勝敗などどう転んでも上級生に軍配が上がるようにしか見えなかった。

 だが、七人は必死に連携し、犠牲覚悟で特攻し、やられたところから復活してきて、まだっ! まだっ! と叫びながら何度となくぶつかり―――ついに痛み分けに近い形で、日本初の上級生破りをやって見せた。

 全身がゾクゾクと鳥肌を立てた。

「決めましたわっ!」

「は、はい?」

「私っ! 来年はイマスクに進学いたしますっ! そして、紅葉(カエデ)の花言葉の如く、素敵な思い出を作って見せますっ!」

 こうして楓お嬢様は、イマスクへの進学をお決めになさったそうだ。己の名前と同じ紅葉(カエデ)の花言葉、『美しい思い出』を作るために……。

「そう言う事ですので、勉強の再開をお願いしますわね。家庭教師(アルバイト)さん(19歳大学生)!」

「うぅ~~っ! 教える事なんて何もないではないですかっ!? なのに振り回されてばかりで……、割は良いけど、このアルバイト、イヤーーーっ!!」

 




書く上で、花言葉探すのが一番大変な人です。
基本、縁起の悪い花ことばを使うタイプらしいのですが、縁起悪い系の花言葉って少ないんですよね。
なので、今回は良い感じで花言葉乱用しまくり回です。
花言葉の意味は自分で調べてください。今回は短編なので、その辺の説明はカットする事にしました。
さあ、君はいくつ分かるかな?


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おまけ編 【作者リハビリ短編】3

3.幾星霜と紡がれる……

 

 イマジンは地上には存在しない、人工的に作られたエネルギーだ。しかし、その原型となる力は、太古の昔より存在していた。ただ、それはとても希薄な物で、現代のイマジンのように魔法のような現象を起こせる力は全く無く、力が湧きたつ土地に、何世代も掛けて長居した子孫に、ちょっとだけ肉体的変化が訪れるくらいの、本当に希薄な物であった。

 故に、“私”と言う存在が生まれた―――否、(しょう)じたのは、一体いつの頃からなのか、はっきりとした“記憶”も“記録”も存在していない。

 ただ、はっきりと思い出せる思い出はある。

 それは、自分の担い手が、とある大捕り物のために、仲間達と共に出向いた頃の話だ。

 

 

「いやいや、『八徒(やと)』八人全員揃うのなんていつ以来だろうね?」

 『八徒家』と呼ばれる八つの名家の一つ、浅蔵(あさくら)蚩尤(しゆう)は眼鏡の奥の糸目を、いつもより細くしながら薄ら笑いを浮かべた。

 それに応えるように、集った八人が、それぞれあいさつ代わりの雑談を始める。

「ええっ! ええっ! 皆さまお久しぶりですわっ! なんだかんだで初めましての方もいらっしゃりますので、自己紹介をっ! 天笠(あまがさ)紫苑(しおん)ですわっ! 今回も我が家に伝わる法術にて、大火力はお任せくださいましっ!!」

 どんと、胸を叩いた瞬間、拳を跳ね除ける弾力と豊満さを持つ胸がぶるんと揺れ、全員の目が引き寄せられる。それに気づいた紫苑は、いたずらな笑みを浮かべて、上下に左右に揺らして視線を誘導してくる。

「やめんか、はしたないっ!」

 紫苑の頭に拳を落として窘める、体のがっしりした青年、八束(やたばね)(かし)。いつものやり取りなのか、窘められた紫苑も舌を出して冗談めかす。

 いつもの事なのか、二人のやり取りを微笑ましそうにクスクス笑う愛らしい少女。彼女は三門(みかど)(ささら)。主に情報収集や交渉、商いなどを中心に活動している。

 彼女の隣で呆れたように溜息を吐く少年は、荻内(おぎない)九十九(つづら)。当時は珍しく盾を用いた戦術を収めていた。基本はバックアップ全般で、商いを中心としているが、物から人まで、荻内家に頼んで手に入らないモノはないと言わせるほどの手腕の持ち主だ。

「……お前、なんでまた顔合わせとるが? 鳴龍(なる)

「私がそうしてるみたいな言い方しないで……っ、それは私のセリフです、ナガラ……ッ!」

 その端で睨み合っているのは東雲(しののめ)惟神(かむながら)と、朝宮(あさみや)鳴龍(なる)

 この二人は、別に家が親しい関係にあるわけではないのだが、先祖代々腐れ縁で、よく絡むことが多く、世代によっては人生に深く関わる事もしばしばあった。特にこの二人は顕著らしく、図っても無いのに顔を合わせる日々に辟易し、仲が悪いわけでもないのに喧々とした態度を取り合っている。

 東雲家も朝宮家も、担当するのは祭事であったが、東雲は市民向けの祭事、朝宮家は戦闘などが求められる物騒な祭事を担当している。

 それが原因かは分からないが、朝宮鳴龍の姿は手足や首に片目にまで包帯が巻きつけられ、女性なのに体中、怪我の痕跡が目立つ。その異様な姿の所為か、悍ましい呪術を使うのではと噂されるほどだが、実際に呪術など存在しないこの世界、使っているのは普通の剣術で、包帯の正体は籠手だったり、苦無だった李を仕込むためのカモフラージュだ。もちろん隠している片目も普通見える。以前零した話では、忍び辺りに閃光玉で目眩ましされて、逃げられたのが悔しくて、保険の片目を残す訓練をするようになったとか。

「おい、なんか包帯増えちょるけど、本当に怪我してるとかないやがね?」

「相変わらずの心配性……。私はそんなへまはしない……。その辺の侍モドキの男衆より強い……。知ってるでしょ……?」

「信頼しとっても心配はするもんやで?」

「そう……、お礼は言っとく。不要だけど……。ところで今度は四国にでも行ってきた……? すぐ方便が移るね、ナガラは……」

「俺だって、好きでやっとるんと違うがでっ!? なんか移るんじゃっ!?」

「流されやすい……」

「一言で表すなやっ!?」

「まあまあ、二人ともその辺に……」

 そう言って笑いかけた青年は八雲(やくも)月日(つきひ)。八雲家の宝刀を授かりし、侍であった。

「今回の俺達の目的は、大捕り物だ。噂になっている妖の討伐に向かう。力を合わせて頑張ろうよ」

 月日に言われて皆が無言の肯定を見せる中、鳴龍だけが惟神の背に隠れるようにして月日を睨む。龍を滅すると言われた八雲家に対し、龍神を奉る朝宮は本能的に忌避感を感じているらしい。

 妖や龍……、残念、っと言うのは正しい認識かどうかは分からないが、この世界においてそんなものは存在しない。無論、それらに相対する呪術、法力、魔法と言った類の力も存在していない。当時の時代では自然発生の粗悪なイマジンを土地から受け続けた『八徒家』に数人ほど特異な体質を持つものが生まれているくらいで、それらも炎を出したり、斬撃を飛ばしたりなど、超常現象と言えるような現象は起こせていない。

 例題を上げるなら―――、

 浅蔵蚩尤は、フェロモンバランスが変化し、“色々”と呼び寄せやすい体質。

 天笠紫苑は、感情、行動、声の質や音が変化し、ともかく目立ち易い。

 八束樫は、直感力が並はずれ、いかなる状況にあっても危機を察知する。

 三門筅は、声が特異で、その声で紡がれる言葉には妙な説得力を感じるほどに魅力的だ。

 荻内九十九は、精神性が悟に近い境地があり、いかなる異常者の精神性をも理解する。

 東雲惟神は、継承力が強く、代を重ねる毎に、才能や素質が色極受け継がれている。

 朝宮鳴龍は、緊急時における学習能力が常人離れしていて、急成長する者が多い。

 そして八雲月日は、神性を帯びた物の声が聞こえると言われている。実際には、無機物の状況を漠然とした『声』と言う形で捉えることができるだけなのだが、当時の彼らにそれらの違いを認識する術はなかった。

 ならば妖はどうか?

 この時代においての妖は、確かに存在する。だが、それも戯画に描かれるような魑魅魍魎の類ではなく、超常現象を起こせるような化け物でもなかった。

 彼等『八徒家』同様、長い世代に渡って継承し続けた特異体質持ちの獣、『化生(けしょう)』の類であった。(ぬえ)に近い獣ならいたかもしれないが、戯画に描かれるようなはっきりとした姿は、……少なくとも“この記録”には存在しない。

 ならば彼等が戦う獣とは何だったのか? その記録も生憎存在していなかったが、それが獣の範疇であったのは確かだろう。

 特異な力など存在しない。この時代に女性が戦うのは異常だったし、鳴龍のような特殊な存在も、歴史上に名を遺すほど成果を見せることはなった。

 そして八徒家の人間もまた、特別であっても特異ではない。

 

 

「お願いしますっ! 俺にできる事なら何でもしますっ! ですから、どうか鳴龍を俺に下さいっ!」

 額を地面につけ、月日は朝宮の門前で懇願をしていた。

 化生との戦い容易な物ではなかった。直接戦いに赴いた蚩尤、九十九、惟神、鳴龍、樫、月日の内、蚩尤は右半身を失い、九十九は意識不明の重傷、惟神は絶命し、鳴龍は片目を失った。無事だったのは、お家が武家であった樫と月日くらいの物だ。

 当時はまだ、銃や大砲などの強力な武器は国の中枢、城などでしかお目にかかれない時代。いくら日本最大の財閥としても、個人で武力を有するようなことは不可能であった。

 死者など珍しくはなく、顔を見ることのなかった親戚兄弟なども多かった。

 今回の事もそれの一つに数えられた。それぞれ、お家を継ぐことのできる人間は、ちゃんと確保していた。

 故に月日は朝宮家にて、鳴龍を娶ることを申し込んだ。

 武家、ではないにしろ、朝宮家において鳴龍の価値は戦場に置くことしかない事を知っていたからだ。そうでもなければこんな時代、女性の鳴龍が、何故戦場に当たり前のように駆り出されるのか? 朝宮の兄弟において、鳴龍だけが価値を認めさせる要素を、“それ”しか持っていなかったからだ。

 片眼を失う。それだけでもう戦場に立つことはできない。無理に出てもすぐに死ぬだけである。仮に遠近感を掴み取って戦えるようになるとして、一体それまでにどれだけの時間を必要とするのか? それまで朝宮の人間が面倒を見てくれるのだろうか?

 答えは否である。

 傷モノになった女性では嫁ぎ先も難しい。先の未来を考えれば、明るいものがない事くらい誰にでも良そうで来た。

(そんなことはさせないっ! させてなるものかっ!)

 月日にとって、あの日、戦った皆が仲間であった。八徒家が全て揃うと言う事自体が奇跡に近かったので、運命的な物も感じていた。絶対に生きて皆で帰ろうと誓っていた。

 だが結果は惨憺たるものだった。

 蚩尤は化生の足を斬り落としたが、代わりに右半身を持っていかれた。

 九十九は全ての攻撃を一身に受け、生還したものの重症となった。

 そして惟神は、止めを刺そうとした鳴龍と刺し違える形で襲い掛かった化生との間に割り込み、彼女の代わりに絶命した。庇われた鳴龍も、右目を失い、戦闘不能となる。

 樫と月日の手によって化生は討たれたが、その代償は重かった。いや、月日は重いと感じた。実際には、周囲の誰もが“軽い被害で済んだ”と、感じていたとしてもだ。

(そうであったとしてっ! 何故見捨てられるっ!? 共に戦った仲間の不幸を、どうして見過ごせるというんだっ!?)

 月日は頭を下げ、頼み込んだ。

 結果から言えばその懇願は叶った。

 代わりの代償として、月日は朝宮の割に合わない仕事の多くを引き受ける事となったが、彼はそれでも引き受けた。

 

 

 一人、八雲家のお屋敷で自分の部屋として宛がわれた一室で鳴龍と月日は静かに(くつろ)いでいた。

 寛ぐ、と言っても、その空気は重く、鳴龍は生気が抜けたような瞳で夜月を眺め、月日も掛ける言葉を見つけられずに押し黙っていた。

「ナガラ……」

 ぽつり、っとなるが言葉を零す。

「ナガラは……、なんだかんだで、死なないと思った……」

「……ああ、しぶとそうな印象はあったな」

「なんか、妙に縁があって……、仕事で行くとこ行くとこ、必ずいた……。今度ももしかしてって、思ったら……本当にいて……」

 そよぐ夜風は冷たくて、心まで凍てつくような気がしてくる。

「私の人生には、この先もずっと……ナガラがいるものだと……、なんでかな……? いつの間にか、当たり前のように……そう考えてた……」

「……惟神の事が、好きだったのか?」

 月日の質問に、鳴龍は答えることができないと首を振った。

「分からない……、私達の縁って、きっとそう言う類の物じゃなかったから……」

 一滴の涙が頬を伝った。

 そんな気がしたが、月日の目には鳴龍の頬は濡れていなかった。

 だがきっと泣いたのだ。月日はそう思う事にした。

 月日にしても、鳴龍に対して恋慕があったわけではなかった。それは単なる同情でしかなかった。

 それでも、大切にすると誓った。誓い、ずっと傍にいよう覚悟を決めた。

 後に二人がどのような関係になったのかは“記録”にはない。夫婦と言う建前が、本当になったのか、建前のままだったのか、それは分からない。それでも、彼が抱いた誓いと覚悟は、確かに刻まれたのだ。

 

 

 時を経て現代。

 八雲家にて、才能無しと判断された少年がいた。

 竜を滅する力―――正確には、物質を脆い所を見抜く眼力だった―――を持ち得ていなかった事から、一族で欠陥品と呼ばれ続けた。だが、少年は偶然にも逃げ道として選んだイマジン塾にて“かの神刀”に刻まれた記録を、顕現させることに成功したのだ。

 愛を知らぬ少年は、己の理解者を手に入れた。それを手放さぬために、彼は額をこすりつけて両親に頼み込んだ。

 今まで逆らう事の無かった少年は、初めて親に意見し、自分の我を通した。罵声を浴びようと、殴られようと、それでも彼は譲れぬ物を手放さなかった。

 そしてからは勝ち取った。たった一つ、八雲家から命じられた条件を引き受け、それを果たすために、イマジネーションハイスクールのあるギガフロートへと向かう。

「お待たせしました日影様。イマジン体の登録完了しました」

「ああ、手間取らせてゴメンね?」

「手間などありません。日影様と一緒にいられるなら、何事も喜ばしい事です」

「……? こんな欠陥品の僕に、そこまで言ってもらえるなんて嬉しいよ」

 多少の卑屈さを見せながら、返す八雲日影に、雷切の一振りたる刀のイマジン体たる少女、紫電は、否定するように首を振る。

「欠陥品などではないのです」

 刀身(この身)に刻まれた記録に、確かにその意思は受け継がれている。彼女はそれを知っている。

 大切なモノのためなら、誰が相手でも頭を下げ、その意思を最後まで貫き通すことができる胆力。そして、いかなる条件を突きつけられようと、受けて立つ覚悟。

 そのどちらも、八雲家三大宝剣の一振りたる自分を抜いてきた者たちが持っていた意志なのだから。

「きっと日影様も、いつか御自分で御自分の価値を認められる時が必ず来ます。私がそれを保証いたします!」

 



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おまけ編 【作者リハビリ短編】4

少しずつ勘を取り戻してきたかな?
ついでなので本編じゃあんまり活躍しない教師も書いてみようかと思います。



4.マザー

 

「ふっ! ……んぐっ! ……ッ!!」

 サルナ・コンチェルト。13歳。ギガフロート地下、特別病棟フロア3番エリア滞在者。

 出身世界:オルトナイテラ。所有能力:『■■■■■■■■■(幻想)

 能力制御、要特訓。

「ふむ……」

 何もない真白な空間にて、歯を食いしばって己が宿す力と向き合おうとする幼い少女の詳細データ付きカルテを手に、白衣の女教師は思考する。

 サルナが別の世界から来訪し、この世界で保護され、真っ当に生きていこうと、己の世界で身につけた能力を制御しようとしているが、その成果は一向に訪れていない。

 今も、彼女は吉祥果ゆかりの能力で作られた空間から出ることができず、能力制御ができずに苦しんでいた。

 サルナの周囲には、火の玉、石ころ、イラット(ギガフロートに存在するイマジンを使える鼠)、ニンジン、風船が、彼女を囲むように浮遊している。サルナは自分の能力で、これらの存在に干渉しないように言われているが、少しでも気を抜くと、何らかの影響を与えてしまうため、未だに外にも出られない状況であった。

「あ……っ!」

 悲鳴に似た声が漏れ、白衣の女教師が視線を向けると、火の玉が水の玉に変わり、ただの石が命を持ったように脈動した。サルナの能力に中てられ、その存在を歪められたのだ。

「……ッ!!」

 急いで能力を制御しようと意識を向けるが、焦りが逆効果となり、ニンジンが腐り、風船がゴトリッ、と音を立てて落ち、イラットは―――、

「キ……ッ」

 ―――イマジンを持たないただの鼠になってしまっていた。

「う、うあ、ああああああああああぁぁぁぁああぁぁああぁあぁあああぁぁぁぁーーーーーっっ!!!」

 また失敗してしまった事に嘆き、頭を抱えて蹲る。とめどなく溢れる涙で濡らした床には、既に多くのシミができている。

 彼女は殆ど言葉を喋らない。既に言葉を理解しているはずなのだが、上手く言語ができないのか喋ることがない。

 それでもこちらの言葉は理解し、毎日訓練して日常生活を手に入れようと努力しているし、周りがそれに協力していることも理解しているようだ。それなのに、彼女は殆ど喋ろうとしない。理由は不明。彼女の過去に何かがあるのかもしれないが、それについて知っているのは、ゆかりを除けば学園長の斎紫(いつむらさき)海手(うみて)くらいの物だろう。

 ただ一つ、素人目にでも言えることは、彼女が本心から必死に能力を制御しようとしている事。そして、何かに深く後悔しているという事だ。そうでなければ、どうしてここまで苦悩しながらも、力の制御を放り出したりしないというのか。

 床に何度も拳を落とし、額を打ち付け、汗と涙で汚しながら、何度となく現実(結果)に打ちのめされながら、それでも彼女はもう一度と挑戦する。

 挑戦して、挑戦して、挑戦して―――そしてまた失敗する。

「うああああああああぁぁぁぁぁあああぁぁああぁあぁあああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!」

 失敗する度に絶望したかのような悲鳴を上げ、何度となく心を砕きながら、それでも彼女はもう一度向き合う。必死に必死に、もはや強迫観念に突き動かされるが如く、彼女は傷つき続ける。

「……」

 それを、ただ見ていることなど、できるはずがなかった。

 彼女のデータと姿を見て、自分が何故呼ばれたのかを、女教師は理解していた。

 幾度かの失敗を経て、また絶叫するサルナに向けて、彼女は歩を進める。

 気付いたサルナは激しく動揺し、飛び跳ねる様にして後退(あとじ)さる。

「だ、ダメ……っ! 来ないでっ!」

 初めてに等しい言葉が拒絶の言葉と言うのに、女教師は内心、悲しいやら微笑ましいやらだったが、構わず彼女に向けて歩を進める。

「ダメ……ッ! やめて……ッ!!」

 彼女の内から力が溢れる。それはイマジンではない異世界の力。理を歪める違法、あるいは異邦の力。巻き込まれれば、女教師とて為す術もない、異端の理。

「大丈夫……」

 優しい言葉と共に、彼女はイマジンを練り上げ、指を鳴らすアクションをトリガーに能力を発動。『癒しの聖域』の能力より『生存本能の吐露』を発動。彼女が指定した空間がイマジンにより支配され、あらゆる超常の力を打ち消した。

 驚き、呆然とするサルナを、女教師は抱きしめる。

「どうか苦しまないで、アナタはとても頑張っています。そしてとても優しい子です」

「やさ、しく、なんて……」

「いいえ、アナタは手も優しい子です。能力の制御だって、誰も苦しめたくないから頑張っている。私が近づいて怯えたのも、私を害したくないから怯えたのでしょう?」

「でも……、私、なにも……っ!」

「いいえ、アナタはとても優しく、そして、ちゃんと制御できています」

「できてない……っ! なにもできてなんか……っ! いまだって……っ!」

「出来ているじゃありませんか? 無機物の石に生命を与え、新鮮なニンジンを腐らせてしまっても、イラットからは命を奪うでなく、能力のみを奪っている。本能的にあなたは、命を奪う事を、生者を死者に変えることを拒んでいるのです」

「ぁ……!」

 女教師はサルナを強く抱きしめる。心寂しく怯えるように震える少女の頭を優しく撫でてやる。

「あなたは他人を思いやれる優しい子。だからどうか苦しまないで。あなたの努力は必ず無駄にはなりません。仮に世界があなたを否定する事があれば、ここにいる私達が全力でそれを阻止します。だから、どうか、そんなに苦しむ努力をしないで」

 サルナは震えながら、女教師の胸に顔をうずめ、しがみつくようにして震え上がった。それは、子供が親に縋りつくかのようで、とても弱々しく、だが何処か安心させられる姿だった。

「大丈夫。あなたの努力は、いつか私達以外にだって認められます。それこそ、世界があなたを殺そうとしたって、アナタを生かすために駆け付けてくれる人達が、きっとたくさんできるはずだから」

 優しく抱きしめ、親身になって接し、当たり前のように寄り添ってくれる。

 間違えた時に叱り、正しい道を教え、相談事には納得いくまで話し合い、何処までも付き合ってくれる。

 挫けた時は、今のように抱きしめて支えてくれる。

 サルナには“その存在”の記憶はなかったが、知識と知っている分には、この人が“その存在”に当てはまる様な気がした。

 聖母のような優しいこの人を、それこそ“母親”のように思えたのだ。

「マザーナイン……っ!!」

 サルナは決して離すまいと、その小さな手で精いっぱい、彼女の事を抱きしめた。

 

 

「イマスク一年生、入学おめでとうございますサルナっ! 挨拶が遅れてゴメンなさいね! 規則上すぐに会いに行けませんでした。それで? もう入学から一月近く経とうとしていますがお友達はできましたか? まだできてない? それはいけませんっ! では、僭越ながら私がサルナのアルバムを同級生にお見せしましょうっ! あの頃のサルナはとてもいじらしくて、言葉数は少ないし、全然素直じゃないんですけど、あれこれ頭を捻って、さり気なく甘えようとしてくるところが物凄く可愛らしく手ですねぇ~~! あらやだ、特に今と全く変わりませんね? サルナはきっと友達出来るのが遅いだけで、友達ができたら一気に親密度上がりそうですね! 余計な事はせず見守る事にしましょう。それはそうと、この頃のサルナったらまた―――!」

 イマスクの保健室にて、ちょっと顔を出しておこうと思って来てみれば、このマシンガントークである。保健室に堂々と設置された『サルナのアルバム』(4年分)を取り出し、思い出話を語り出す母親代わりに、成長したサルナは言い知れない羞恥心に震える。

「こ、この人は……っっ!」

 怒りにも似た感情を抱きながら、途中で止めるでもなく、逃げるでもなく、彼女は白衣の女教師と共にい続ける。

 途中何度も拳を握って、「一発くらいならツッコミってことで良いわよね?」っと思いながらも、結局、時間が許す限り最後まで何もせずに付き合った。

「それじゃあ、私はもう行くけど、そのアルバムは家に持って帰ってくれないかしら?」

「サルナに差し上げましょうか?」

「やめて、同室の人に見られるわ」

「その時はぜひとも私もご一緒したいですね♪」

「どこの国におゃ―――……んんッ!! ともかくやめてちょうだい」

 途中、うっかり言葉にしてしまいそうになった失言を誤魔化し、サルナは保健室を退出しようとする。

「それじゃあまたね、マザーナイン」

「“お母さん”っと、呼んでくれてもいいのですよ?」

 冗談めかして笑いかける女教師に、サルナはほんの少しだけ優しい気持ちに包まれる。

「いやよ」

 




 サルナは異世界転移後から四年間、ギガフロートで能力特訓しているという設定があったので、教師の誰かと絡ませようと考えました。そしたら都合のいいキャラがいらっしゃったので、速攻でマザーナインと絡ませることに決めて、設定確認しながら絡ませたら、なんかこんな感じになりましたね。
 本当は、マザーナインの過去にもついて触れて、タイトルを『傷痕』にするつもりだったんですが、これが短編だと言うのを思い出して止めました。正直戦闘シーンより、キャラクターの掘り下げの方が尺使うわ。
 もう一回リハビリしたら、本格的に本編に移ろうと思います。がんばれ自分!



せっかくなので教師のキャラ紹介載せておきます。

保護責任者:ティピロス
名前:マザーナイン(本名:九重 九守理(ここのえ くすり))
刻印名:鉄血の白衣
年齢:55  性別:女    教師(保険医)
性格:他人に厳しく、自分に他人よりもはるかに厳しくを貫く頑固者。説教が多かったり強引な所が目立つが、実際は学園の中で最も過保護で慈愛に満ちた人物。戦う事を嫌っている。
喋り方:普段は落ち着いているが、治療関連な事になると全力になる。
自己紹介「始めまして1年生の皆さん。私はマザーナイン。あなた達を生かす者です。以後お見知りおきを」
普段「常日頃から健康体である事を意識してください。長く強く生きる為に必要な事です」
説教「あなた、また大怪我をしましたね。そんなに怪我をし続けるのであれば戦いなんて止めてしまいなさい。ん?横暴だって?そんな事知った事ではありません。怪我と言うのは自分にだけ影響する者ではありません。何時だって周りの人を心配させる者です。私も心配する者の1人です。だからこうして言うのです」
戦と(ry「戦いなんてしている暇がありますか!今は一刻も早く治療をするのです!」
不死または超回復系の生徒へ「いくら傷を負っても死なないからといって治療を受けない理由にはなりません。即刻治療を始めますので保健室まで連れて行きます。拒否権?そんなものあると思いますか?」
高慢な部分が目立つ生徒へ「あなた達は特別な力を持っていますがそれが自分の格を上げるものではありません。私からしてみればあなたの様な高慢な生徒は即刻治療するべきなのです。ほら保健室まで行きますよ」
異世界出身の生徒へ「あなた達は……そうですか……。ここはあなた達の世界とは違った場所です。もし気分が悪くなれば何時でも言ってください。全力で対処しますので。(彼らに罪は無い…。そう、無いのです。)」
能力発動「私の前で戦いなんて起こさせません。誰1人として死なせません。それが私の能力『癒しの聖域』です」
対詠子「……………………………………一瞬あなたも治療対処かと思いましたが問題ありませんね(ニッコリ)」
対正義「まーたあなたですか。私は何度も言いましたよね。子供達の事を考えているのなら戦いなんて辞めるべきだと。何?それでは何も変わらない?あなたの目的は勇気や希望を与える事…?……よろしい、ならば今回もまた気がすむまで話し合うとしましょうか」

戦闘スタイル:戦わない。傷ついた対象をとにかく治療する。
身体能力3     イマジネーション103
物理攻撃力3    属性攻撃力3
物理耐久力3    属性耐久力3
治療900

能力:『癒しの聖域』
派生能力:『果てなき医療革命』

各能力技能概要
・『手当ての真髄』≪『癒しの聖域』による能力。自ら行う治療行為の回復量を治療ステータスに応じて上昇させる。ただし本人の思想によりある程度時間をかける≫

・『深く浅い眠り』≪『癒しの聖域』による能力。対象を眠らせその間の睡眠時間の体感時間を変化させる。他人には1日分を3日分にして十分休ませ、自身は1日分を10秒にして仕事を続けている≫

・『超最新鋭医療設備』≪『果てなき医療革命』による能力。他人の能力からヒントを得て新たな医療設備を生み出す能力。代表的なのは神威の『呪樹』からヒントを得たその場にある有害なものを吸収する観葉植物。未知の拉致するUFOからヒントを得た安静な状態を保ちながら輸送する飛行救急車など≫

・『生存本能の吐露』≪『癒しの聖域』による能力と刻印から生まれた無効化系の能力。自身が指定した範囲内での他人や自身へ害をなす能力を全て無効化し、その場のイマジンをその場にいる人物の回復能力の促進に使用する。その性質から止める時以外にはあまり使わないよう言われている。因みに保健室では常に発動されている≫

(余剰数値:0)

概要:【見た目は17歳の少女で髪は白く長く、後ろで編み1つに束ねている。片目は義眼、右腕は自身の『超最新鋭医療設備』にて生み出した医療の道具が内包してある銀色の義手。服装はこれまた『超最新鋭医療設備』で生み出した四次元ポケット的な能力がついた白衣。実家は大富豪。学園のOGで無効化能力者が教師昇格した代表的な例に挙げられる人物。学園の大半の人から『保健室の女傑』とか『鬼婦長』など言われある意味恐れられているが、彼女の過去を知る者や結構な頻度で会う者、勘が異常に鋭い者はこの様子に納得している。彼女の行動は色々とやりすぎる部分が多く、抜き打ちで校内にいる人物全員を対象に身体検査を行うよう学園長に打診したり、かなりの重症を負った生徒を公欠させる様にわざわざ申請して、その間面倒を見続けたりなどある。色々と目に余る部分が多いが実は教師陣の中で1番優しく過保護な人物。1年生の最初にやる最強決定戦の治療までやらせて欲しいと毎年何度もお願いするが、生徒達の対応力を高める為にもしてはいけないと頑なに断られている。また保健委員の生徒達の負担を減らす為にほぼ毎日の様に能力を使って徹夜したり、たまに生徒達の食生活に乱れが見えてきたら自費で大量の食材を買って食堂を借り、しばらくの間無料で食事を提供したりする(おかわり自由)。


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一学期 第十二試験 【決勝トーナメント 決勝戦】前編

ついに投稿!
再開してからリハビリが長かった気がするけど、ようやく書けるようになりました。ちょっと以前より無理矢理感あるところは否めませんが、それでも進めることができました。
バトル多めの決勝戦。決勝に相応しい濃厚な戦闘シーンを書けていれば幸いです。
今回は前編ですが、後編もお楽しみに!


ハイスクールイマジネーション18

 

一学期 第十試験 【決勝トーナメント 決勝戦】Ⅰ

 

 

 

「皆さん、おはようございます! こんにちは! こんばんはの方もいるのかな? ついにこの時を迎えました! 決勝トーナメント決勝戦! 地上にもテレビ放送されるほどのビックイベント! 激戦を繰り広げた勇士による頂上決戦! まもなく開戦です!!」

 アリーナ会場、決勝の日。実況の三年Eクラス、報道部部長、篤胤(あつたね)舞子(まいこ)は、観客および報道されるテレビの向こう側の視聴者に向けて試合直前の熱い雰囲気を伝えていた。

「お聞きいただいているでしょうかこの歓声! エキシビジョン、準決勝二試合を経て、観客の期待は最高潮! 一年生頂上決戦、その舞台まで上り詰めた二人が、まもなく入場しますっ!!」

 

 

 会場が更に沸き立ち、選手の入場を今か今かと待ち構える中、八束(やたばね)(すみれ)は入場口付近で焦っていた。

「……司、遅い……」

 彼女は決勝に向けて、火元(ヒノモト)(ツカサ)に武器の製造を頼んでいたのだが、今日中に届けると言われた(ぶつ)が、まだ届いていないのだ。

 さすがに入場の時間間際とあってギリギリまで廊下側で控えるが、最悪の場合、荷物は諦めるしかないかもしれない。

(弥生相手、に、準備万全にせず戦う、とか……、怖……ッ!?)

 戦闘特化のCクラス筆頭にして、戦闘狂の傾向がある甘楽(つづら)弥生(やよい)相手に不十分な装備で挑み一方的に切り刻まれる姿を想像してしまい、震え上がってしまう。

 このまま司が間に合わないようなら、いっそ辞退してしまってもいいかもしれない。そんな邪念が頭を過り始めた時、ようやく待ち人は現れた。

「お~~いっ! 待たせてスマンッ!」

 走り寄って来た少女は白い布に包まれた物を抱えていた。歩みが重かったところを見るに、見た目よりも重い印象を感じさせた。

 ここまで来るのに相当体力を使ったのか、全身汗だらけ、服はよれよれ、肌には煤の様な泥が残り、目の下には(くま)も出来ている。彼女は鍛冶仕事をしていたはずだが、それにしても二日そこらの徹夜で至る様ないでたちではない。一体何があったというのだろうか?

「菫、気になる事はあるんだろうが、もう時間がねえ。だからお前は前だけ見てろ。黙ってコイツを受け取って、自分のやるべきことに集中しろ。それ以外は私も望んじゃいねえ」

 そう言って布に包まれた物を差し出す。

 一瞬の逡巡。すぐに頭を振って疑問を押し殺し、素直に好意を受け取る菫。

「分かっ、た……。ただ、全力を尽くして、くる……」

「おうよっ! 残りの体力総動員して観てるからよ! アタシの打った剣で勝つとこ、見せてくれよっ!」

「ん……っ!」

 互いにサムズアップし意志を伝え合う。これ以上重ねる言葉は無粋。菫は踵を返してアリーナ中央ステージへと歩み始める。

 

 

 一方、反対側では対戦相手である甘楽弥生も一人の少年と会っていた。

 通路の陰にいる少年は、司同様、布に包まれた物を弥生に差し出す。

「言われた物を用意したつもりだけど……、ちょっと意外かな? 君は俺の作った物を欲するタイプじゃないと思ったんだけど?」

「………」

「? ……どうかしたのかい?」

「ん、ごめん……。無視しているつもりはないんだけど……」

 答える弥生はどこか胡乱気(うろんげ)で、心ここにあらずと言う印象を与える。もしかして決勝に緊張しているのか、あるいは何か気になっている事でもあるのだろうか?

「あの……、甘楽さん―――」

 試合は直前、協力していると言う事もあって多少の気遣いをしようとして、直前で言葉に詰まる。

 弥生の視線が、ゆっくりと少年に合わせられる。

 その眼は爛々と輝いていて、落ち着いた表情とは対極に位置した輝きに満ちている。さながら猛禽類が獲物を前に、狩りの高揚に期待しているかのようだ。

「僕、今、ちょっと、興奮してるかも……!」

 獣がいる。

 少年の目の前に、今にも牙を剥いて襲い掛かりそうな、猛獣の姿がある。

 獣のイメージは、どうしても唸ったり、吼えたりする昂ったイメージがあるが、元来獣とは、狩猟の際は奇襲が基本であり、正面から襲い掛かる獣など存在しない。身を低くし、気配を殺し、静かな殺気を籠め、刹那を持って襲い掛かり、仕留める。それが本来の獣の姿だ。

 今、少年の目の前には、正しく、その獣がいた。

(これ……、危ないんじゃないのかな……?)

 イマスクは戦闘を推奨してる。これから始まるのは試合だ。戦いだ。心構えは間違ってはいない。だが、まるで心まで獣になろうとしている姿に、少年は一抹の不安を感じていた。

 同時に納得し、安堵していた。

 弥生が受け取った荷物を握りしめる。中にある棒状のそれに目を瞑って意識を向ける。

 一つ深呼吸の後、弥生の目にあった爛々とした獣の気配は消え去っていた。

「やっぱり頼んでおいて正解だったかな?」

 照れくさそうに呟く弥生に、少年は遠慮がちな笑みを返す。

「求められた物を渡せたのなら幸いです……」

「えへへ、……同じ轍は踏みたくないからね」

 最後に呟いた弥生は、荷物を生徒手帳にしまうと踵を返す。

「それじゃあ、行ってきます」

「はい、俺も観客席で観させてもらうよ」

 

 互いに準備は万全。後はただ、全力で戦うのみである。

 

 

 1

 

 

『皆様! 大変長らくお待たせいたしましたッ!! これより決勝戦を開始いたします! ご紹介しましょう! 数多の激戦を潜り抜け、ここまで勝ち残った最強の猛者! 立った二人だけが辿り着くことを許された決勝の舞台! 誰が想像したでしょう!? ここに辿り着いたのはなんとっ! 可憐な二人の少女!

 一年生Aクラス、剣群操姫(ソード・ダンサー)! 八束(やたばね)(すみれ)!!

 対するは―――、

 一年生Cクラス、戦神狂(ベルセルク)! 甘楽(つづら)弥生(やよい)!!

 さあっ! 壇上に立ちましたお二人、気合も十分なご様子! 開会式とは言え、いつまでもグダグダしててもテンションが落ちるだけなのでサクッと行きましょう! 決勝戦のルールは準決勝と変わりはありません! ルーレットで決められたフィールドに転移し、そこで思う存分、戦闘不能になるまで戦ってもらいます! ……それではっ! フィールドルーレットスタート!!』

 舞子が早口気味に説明し、中央モニターに複数のフィールドが高速で表示されていく。

 そんな中、司はやや急ぎ気味に観客席に向かっていた。

「司、こっちだ」

 座れる場所を探していたところ、探していた相手から声がかかった。

 濡れ羽色の髪をハーフポニーにまとめた黒い瞳の少女―――に見える少年、東雲カグヤが手を振ってアピールしている。

 急ぎ足で向かってみると、カグヤは自分の式神である赤い髪をツインテールにした、二本の角を持つ少女、軻遇突智神(かぐづちのかみ)、カグラを膝の上に座らせて抱っこしていた。

 一瞬突っ込もうかと思ったが、黒髪お姉さんが赤髪の妹を可愛がっているようにしか見えず、絵になるので黙っていることにした。

 誘われるままカグヤの隣に腰を下ろしつつ、周囲の面々を確認した司は尋ねる。

「今回はなんか結構固まってるな? もう偶然じゃねえだろこれ?」

「ああ、決勝だから。皆で話し合って意見交換しながら観戦しようってことになった」

 カグヤに言われて改めて周囲を確認する。そこには一年生の主だったメンバーが勢ぞろいしていた。

 カグヤの左隣には夜空の様に黒い長髪に紅い目と薄っすらと浮かんだクマを持つ、黒のゴスロリ服に身を包んだ少女、レイチェル・ゲティングスが不服そうな表情をしている。その隣には、褐色の肌に、白い髪、青の瞳をもつ身長は159cm程度の童顔少女、イング・アルファがバストDの胸に手を添えながら軽く手を振っている。同じEクラスとして顔馴染みな分だけ、こちらは友好的な表情だ。

「……げ」

 視線を前にずらして、僅かに声が漏れてしまう。歓声にかき消されたことにほっとしながら、カグヤの正面に座る相手を見やる。

 大きな体を、ギュっと縮めて、身長140cmほどの三頭身にしたような少年。明らかに異質な雰囲気と、異種族特有の肌や髪の質、異世界出身、ドワーフ男子、アルト・ミネラージ。

 司としては嫌いな相手ではない。むしろ良きライバルとして好感を持っている。が、刀匠としてやはり負けたくないという気持ちもある。結局競争心が働き、何かと言い合い競い合いしてしまっている相手だ。

その右隣には細い目をした癖の強い黒髪を後ろで結っている少年、多田(ただ)昌恒(まさつね)

 さらに隣りには金髪碧眼で常に笑顔を絶やさない男、新谷(アラタニ)悠里(ユウリ)がまだルーレットが回っている段階なのに弥生の応援に全力を出している。

 更に隣には金光(かねみつ)(そう)と言う関西弁を喋る少年。同じクラスな上に、独特な口調、仕事も一緒にしたことがあるのでよく見知った相手と言えなくもない。

「こんにちは」

 挨拶に振り返ると、自分が座る席の後ろに、巫女装束を纏った清楚な女性が微笑んでいた。黒髪茶眼で髪は背中半ばまで届くストレート。どこからどう見ても大和撫子で典型的な巫女さん。彼女がFクラスの『神代の巫女』御神楽(みかぐら)環奈(かんな)であることを司はよく知っている。

 今は話し込む時間もないので軽く会釈であいさつしつつ、彼女の両隣を見ると、割と驚きの組み合わせだった。

 彼女の左隣には逞しい体付きのイケメン男子、ジーク東郷(とうごう)

 逆は紫色の髪をポニーテールにまとめたクールビューティー(男)、小金井(こがねい)正純(まさずみ)

 どちらも敗退したとは言え準決勝進出者。同級生の間ではちょっとした有名人の扱いだ。

「そろそろ座らないかい? このままだと美しい試合を見逃してしまうよ?」

 少し放心しているところに聞き覚えのある声がかけられる。相手は自分が座る席の右隣側にいる金髪金眼の男、ツェーザル・フェルゼンシュタイン。ドイツ人だ。後ろで纏めたウェーブのかかった長髪を揺らしながらイケメンフェイスを向けられ、思わずたじろいでしまう。

「ああ、そうだな」

 素直に席に座った時、ツェーザルの隣にEクラスの市井(しせい)(がく)と、更に隣に、亜麻色、セミロングの髪をアップで纏めた、黒ぶちで大きなメガネがチャームポイントの普通ッ子、Fクラスのルーシア・ルーベルンの姿もあった。三人とも顔見知りだったため、視線が合うと軽く笑って挨拶してくれた。

「あ、ルーレット止まります」

 声を出したのは自分の左、三つ隣り、レイチェルの後ろに座るカルラ・タケナカからの物だ。

 背中まで伸びた長い黒髪を揺らし、冷たい印象を与える鋭い目付きで見据えた先、フィールドを表示したモニターが、ゆっくりと選び出される。

 イマジネーターの戦いは、フィールドを支配できるかにもよる。菫が正純に苦戦したように、自分の力を何倍にも引き上げてくれる場合が多分にあるからだ。既に勝負はフィールドから始まっていると言ってもいい。

 弥生が得意とするのは平地、あるいは山岳や森と言った足場の多い自然フィールド。

 対するや菫は、岩場か、あるいは市街地などと言った障害物があるフィールド。

 緊張感を持って見つめる中、果たして選ばれたフィールドは―――!?

 

―――『氷山地帯』

 

「「「「「「ん? んんんんん~~~~~………っっ??」」」」」」

 

 集まった一年生首脳陣から、微っ妙~~な唸り声が漏れた。

「え? なんだ? どうした?」

 

 

 

「ふ、なるほど、これは面白いフィールドが選ばれたな」

 もはや定番と言うかお決まりとなりつつある強者感漂うカリスマチーム、シオン・アーティア、オジマンディアス2世、サルナ・コンチェルト、プリメーラ・ブリュンスタッドの四人に加え、ちゃっかり強者ポジに居座っている黒野(くろの)詠子(えいこ)は本日も楽しい談義をしようと、それっぽいことを口にしてみた。

「「「「……ん?」」」」

 そして一瞬にして凍り付く。

 てっきり同意してもらったうえで、小難しい説明を、したがりの人がしてくれるものだと思っていたところに、疑問の声を返されてしまい焦る。

「面白い……か? 今回に限ってはつまらんフィールドであろう?」

 シオンが訝しげな表情で呟くと、オジマンディアスも同意する様に首肯した。

「正直、同意する。このフィールドは二人の能力に由来するものが存在せず、直接利用できる物が存在しない」

「かと言って、フィールドによる不利益も、イマジネーターとしては無視できる程度の物よ」

 サルナが難しい表情で追随すると、プリメーラも続いて眉根を寄せる。

「『摩擦再現』や『設置再現』を使えば氷の足場でも滑らせる事はあるまい。『保温再現』を行えば冷気で動きが鈍る言う事も無し……。フィールドに関して言えば面白味の欠片もなく、完全な能力者同士のぶつかり合いしか期待できんような気もするが……?」

 全員の視線が、疑心の眼差しが詠子に一身に集まる。

(ヤ・バ・イ・ッ!!)

 最近、自分の理想通りの展開が続くものだから、油断していた。詠子としては“それっぽい”会話ができれば満足だったのだが、あまり自分の意見を口にしていなかったので、ちょっと“訳知りですよ~ムーヴ”してみたいなぁ~、っと思っただけなのだ。特に何も考えてないし、質問されることなんて全く予想していなかった。皆当たり前に知ってます風を吹かせているので、こうなる可能性を全く予想していない。

(ど、どうするっ!? 何とかゴマ重ね蹴れば(、、、、、、、)っ! 違うっ!! 誤魔化さなければっ!!)

 慌て過ぎて思考が変換ミスを起こしていたが、そんな細かい事を気にしている場合ではない。ともかくいい感じの言い訳を述べねば、せっかく獲得した強者ポジを降ろされかねない。これは、死活問題であるっ!

(って言っても何も考え付かない~~~っ!? よくよく考えてみれば皆の言う通りだしっ!? もう少し状況整理してから発言するべきでした~~~ッ!!)

 完全に失敗したことを悟りながら、詠子は苦し紛れでもいいからと無理矢理思考を捩じり出し、“それっぽい”事を言ってみる。

 縁に腰掛け、足を組み、片手で体を、もう片方の手で顔半分を隠しながら魔王然とした笑みを浮かべて。

「ふふ……っ、よもや解らぬか? いや、分からないのが普通であったか? あのフィールドでも能力の付け入る隙はある。ある、が……、ふむ……、そなた達でも思い至らぬと言うのであれば、今回の試合で見ることは叶わぬか? いや、忘れられよ。我が英知が少々俗人の上を行き過ぎ、常識を違えがちなのだ。戯れに吹いた風の音だとでも思ってくれ」

(よしっ! それっぽいこと言えた! あとはこれで納得していただけませんかっ!?)

 ちらりと視線だけで背後を確認して―――超、敵意全開の圧力をぶつけられまくった。

 四人が四人、ドス黒いオーラを放ち、ギラギラとした目で詠子を見据えている。

 ゴゴゴゴッ! と空気が震えるのをイマジン演出により再現され、より恐怖的な映像が演出されている。

「この俺が俗物だと……っ!? 『黒の英知』、それは何の冗談だ?」

「王たる者に対し不遜な言いよう! よもや(たばか)りではあるまいなっ!?」

「私が見落とした……? そんなはずがない……っ! いえ、先入観に捉われるのは良くないわ。けど……っ! アナタに私が見えていないものが見えているとでもっ!?」

「ふふふふふふふ……っ! 言いよったな? 星の一滴に過ぎぬ英知の断片がっ! 星その物の化身たる我にほざいたその言葉っ! 挑戦として受け取った! 謀りであれば容赦はせぬぞっっ!!?」

 本物の強者ポジであったが故に、見落としがあると言われてプライドを傷つけられた四人は、詠子の言葉を挑発的な挑戦と受け取ったらしい。この試合で何もなければ、謀った罰に、全力で報復すると宣言し、勝手に挑戦を受け取ってしまった。

 予定ではこうなるはずではなかったのに、何故か窮地に追いやられることになった詠子は、内心、謝罪と悲鳴のオンパレードになりながら、表向きは澄ました表情で応える。

「では、この試合、じっくり見分し合おうではないか? 諸君」

(何がっ! “諸君”っじゃ~~~~っっ!!?)

 己が失敗を悔やみながら、詠子は全力で戦場に飛ばされる二人に願いを飛ばした。頼むからフィールドを利用した思いがけない手を打ってくれっ! ……っと。

 

 

 2

 

 

 フィールドが決定して、転移により氷上に降り立った菫は、素早く生徒手帳を取り出し、剣を一本取り出し、手に構える。周囲に視線を向け、状況を確認。

 さすがに一度経験していることもあってか、対応も早く、無駄がない。

 周囲一帯は完全なる氷の世界。地形は渓谷のようだが、大地となっている物全てが氷で出来ていて、まるで南極か北極にでも来ているようだと感じた。だが、すぐにそれを否定する。周囲の氷は全てが異様なほど青い。まるで漫画のような氷の色彩によくよく覗き込んでみると、僅かに濁った色合いが見える。よくよく周囲を見れば、これだけ寒いのに雪らしき氷の結晶が全く見られない。

「そっか……、本当に存在する地域、じゃなくて……、直接イマジンで作られてる、世界なんだ……」

 氷は急速に冷やされると、冷凍庫で作ったような濁りの多い氷ができ、低温でゆっくり混ぜ合わせながら凍らせると透明になる。そして氷ができる世界は気温が低くなり雪が降るものだ。だが、ここにはまるで海をそのまま凍らせたような青黒い氷が、ひたすら世界を埋め尽くし、他には何も存在しない。中にはどうやってできたのか分からない氷のコースターが、アトラクションのレールのように宙を張り巡らされていたり、天に向かって角を突き出すように聳えた氷の柱が、まるで無数の刃のように無作為に伸びる氷柱(つらら)の茨。遠くの方には完全に氷だけで構築されたらしいお城の様な物まで見えた。

 とてもではないが、どれも自然にできたと言うのは無理があり、人工的に作るにしても、方法が全く不明な物ばかりだ。雪が存在しない時点でイマジンだけでフィールドを形成されたとするのが妥当だろう。

「もしかしなくても、今までのフィールド全部……、イマジンで制作したの、かな……?」

 菫は推測し、改めてイマジンの力に感心する。

 実際は吉祥果ゆかり一人の能力でちゃっちゃと作られていたりするのだから、もっと恐ろしい事である。

「……ん」

 微かに肌寒さを感じた菫は、戦闘用にちょっとだけ改造してもらった体操服を纏った体を抱きしめる。フィールドが氷だった時点で『保温再現』をしていたのだが、これは外気の温度を遮断する物ではなく、あくまで自分の体温を下げないようにするもの。そのため外気の温度は肌で感じられてしまう。

(寒くは、感じるけ、ど……、体温が下がったり、する事はない……から、体がかじかんだりは、しない……、でも、やっぱり寒くはあるなぁ……、上着用意してくるべきだった?)

 一瞬、装備が不足していたかとも考えたが、『保温』しているので、体を動かせば逆に熱くなる。厚着は不要だと改めて考え直す。

 軽く足踏みをし、滑り具合を確認する。『摩擦再現』と『強化再現』で摩擦を強化する方法、どちらにどういう違いがあるのかを体感で確認する。

 『強化』の場合は滑ったり滑らなかったりと、感覚に違いが出るのに対し、『摩擦』の場合はしっかりと地面を踏みしめ、グリップが効いている感覚があった。加減を間違えると体育館の床をゴム底でキュッ! と、踏みしめる感覚に近くなって、下手したら勢いで転んでしまいそうなほどの摩擦感が出るが、割と調整は難しくなさそうな印象だった。普通の地面と大差なく動けそうだ。

 どうやら『強化』の場合だと、発生する摩擦を強化するので、摩擦自体が少ないと強化される摩擦も小さくなってしまうため、滑りにくくなっただけで、滑る時は滑ってしまう。

 対して『摩擦再現』は直接、摩擦現象を作り出すので滑る心配がないと言う事だ。

 例えるなら『強化再現』はスタットレスタイヤで、『摩擦再現』は登山用スパイクシューズと言ったところだろう。

(これなら、地形に惑わされる……、心配もない、ね……)

 結論付け、再び周囲を観測する。自分のいる位置は渓谷の谷側、その浅い部分にあるらしいが、周囲が氷の崖に囲まれているため、多少視界が悪い。同時に身を隠せていると判断できる。

 改めて氷の壁を覗くが、奥まで見通すことはできそうにないので、問題なく死角として機能しそうだ。

 今回は対戦相手が近くに表れた気配もないので、まずは探すところからスタートする事になりそうだ。

(このパターンは初めて……。奇襲のチャンス、が、できた……?)

 この好機を活かすため、何としても自分が先に弥生を見つけたい。しかし、決勝になってまで、こんな見栄えの無い、観客が空きそうな『捜索』の過程を作るとは思わなかったため、それ系統の準備はしていない。いいとこ『感知再現』で相手に気付かれぬよう探すくらいしか思いつかない。

「弥生なら、匂いで見つけてきそう……」

 『ベルセルク』の特性上、ありえるかもしれない可能性に苦笑いを漏らした時、“それ”は自分の体を過ぎ去った。

 まるで水面に一石を投じた際にできた波紋を受けたような感覚。それは紛れもなく『探知再現』による捜索が行われ、自分が発見されたことを表していた。

 どうやら弥生の方は『探知再現』で手っ取り早く見つけることを選んだようだ。

 これは奇襲するのは難しいと判断し、迎撃の態勢に移行する。

 さて、弥生はどこから仕掛けてくるだろうか? 相手に位置がばれている以上、自分も『探知再現』で居場所を把握しよう。そう思った矢先である。

 

 ガッシャンッ!! バッシャンッ!! ドガラシャアアアンッ!!!

 

 氷でできた城の方角。空気を震わす轟音が鳴り響く。視線を向ければ、氷の城、その門扉が盛大に破壊され、そのまま真直ぐ菫目掛けて、途中の氷山が破壊されていき、氷の飛沫が霧の如く舞い上がっていた。

「あ、弥生だ……」

 もはや隠れるまでもなく、それどころか自分の居場所を知らせるかの如き猪突猛進の移動。何気にものすごい勢いで近づいてる辺りが恐怖なのだが、短絡的すぎる行動にもはや達観しかない。

 とはいえ、明らかに油断できる勢いではないので、呆れながら『繰糸(マリオネット)』用の剣を生徒手帳から取り出し、空中に待機させる。襲い掛かって来たところを速攻で迎撃し、相手の出鼻を挫く目論見だ。

 菫は弥生とは接近戦はせず、中距離戦で上手く戦う事を選んでいる。弥生相手に近接勝負は自殺行為以外の何物でもないからだ。

 迎撃態勢が整うギリギリのタイミング、何気に余裕のなかった間を持って、正面の氷壁が粉砕される。

(来た……ッ!)

 菫は『剣弾操作(ソードバレット)』を準備、一斉に撃ち出し、迎撃しようとする―――が、咄嗟にその行動を躊躇させられる。

 氷塊を打ち破り現れた甘楽弥生。地を踏みしめまっすぐ飛び出す一つの影。瞬時に左右に分かれる二つの影、飛び上がり襲い掛かろうとする三つの影、それらに続こうとする複数の影―――影、影、影、複数の甘楽弥生が一斉に現れ、一斉に菫に襲い掛かって来た。

 

群獣狩猟(ベルセオス・ポッラ・テレシウス)!!!】

 

 群となった弥生達のくちから咆哮の如く告げられる技。ジーク戦で見せた群れとなって襲い来る攻撃が序盤でいきなり発動されていた。

 

 

「うっそだろおいっ!?」

 驚愕の声を上げたのは正純。しかし、その感想は観客全員共通の物だ。

 弥生の使うこの技は、ある程度『ベルセルク』がギアを上げた状態でないと使えないことは既に知られていた。だというのに、まさか序盤でいきなり使ってくるなど、誰にも予想できなかった。

 弥生が菫を取り囲み、一斉に襲い掛かる中、長い付き合いから、この状態を作り出した仕組みに思い至ったカグヤは悲鳴じみた声で驚愕する。

「弥生の奴……っ! ジーク戦以降、ずっとギアを下げずに維持してやがったのかっ!?」

 『戦神狂ベルセルク』は戦場にある緊張感を高めることで強化のギアを上げていくことができる。だが、戦闘状況が終了すると、ギアが一気に落ち、強化された能力は0に戻ってしまう。

 ならば、敵を倒し勝利しても、戦闘は継続していると判断し、精神を研ぎ澄ませ続ければ、上げたギアを落とすことなく維持する事ができ、今回みたいにいきなりトップギアで斬りかかることもできる。

 理屈はその通りだ。だが、実際にやるなどまず不可能だ。一度能力を使い果たしたことに加え、決勝まで丸一日も間が開いているのだ。戦闘状況でもない状態で精神を張り詰め続けるのは容易な事ではない。そもそも二回の睡眠も挟んでいるのだ。肉体は勝手に休息状態となり『ベルセルク』は解除されてしまうはずだ。

(いったいどんな精神状態でそれを維持したって言うんだよっ!?)

 驚愕の中、カグヤの言葉を皆が呑み込む間もなく、全ての弥生が菫を囲み、それぞれ別角度から順次攻撃が開始される。ジークほどの圧倒的な戦闘能力も武器もない菫は、瞬く間に体を切り刻まれ―――敢え無く決着がついてしまう。

 

 ―――はずだった。

 

 

 

 

 ガキィンッッ!!

 

 響く金属音。皮切り続く断続的な鉄を打ち鳴らす音。

 

 ガキィンッッ!!  ガキィンッッ!!  ガキィンッッ!!  ガキィンッッ!!

 ガガキィィィィンーーーッッッ!!!!

 

 何十人にも分身した弥生が絶え間なく攻撃していても、その刃は一切合切弾き返されていく。

 菫は何もしていない。ただ佇んでいるだけだ。それでも弥生が襲い掛かる度に、鉄の音は鳴り響き、全ての攻撃が弾き返されていく。

「『剣の繰り手(ダンスマカブル)』……剣よ、群なす獣を迎え撃て……ッ! 『狂獣狩る剣群の狂想曲(ナイン・カプリッチオ)』……ッッ!」

 菫の口から、その言葉が紡がれる。

 弥生がいきなりベルセルクのギアをトップ状態に持ってきたのに対し、菫もそれと同等の“業”、“新必殺技”によって迎え撃っていた。

 斬りかかる弥生の群れ全てに対し、弥生の周囲を絶え間なく旋回する八つの剣が、寸分違わぬタイミングで射出され、次々と迎撃し、相殺していく。

 菫の『剣の繰り手(ダンスマカブル)』は前以って決められたパターンを自動(オート)で動かすものであり、自身で動かしている物ではないため、咄嗟の判断に対応できない。にも拘らず、攻撃を全て受け止めることができていると言う事は、その全てを読み切られていると言う事になる。

「……、『群獣狩猟』(その技)は一度ジーク戦で観、た……。実体の分身を作り出しているわけではなく、加速により分身を作って見せているだけだとも、もう解っている……。なら、分身を作り出し続けるため、に……、常に動き続けなければならないし、動き続ける限り、攻撃を加える順番(、、)には必ず、パターンができる……。なら、後は試合映像を何度も見直して、パターンを解析すれば、対応パターンを作り出せる……」

 獣群に囲まれ、常に襲われているはずの菫は、まるでそれが微風程度の物でしかないと言わんばかりに剣の切っ先を突きつける。

「一度見た技は通じない……っ! Aクラスを舐める、な……っ!」

 いつもの抑揚のない声で、まったく変わらぬ表情のままで、しかし圧倒的強者の眼光を持って、菫は弥生の技を一つ、打ち破る。

 

 

 

「はんっ! 抜かしよったは、あの小娘っ!」

 菫の宣言に沸き立つ会場、その声援の中、シオンは呵々大笑(かかたいしょう)して鼻を鳴らす。

「確かに、私達Aクラスなら、一度見た攻撃にパターンがあれば、対応する手順を作ることくらいはできるけれど……、ん、ん、ん~……、ああ、なるほど、このリズムパターンね?」

 試しに指でリズムをとりながら確認したサルナが、菫のやったことはAクラスにとって、さほど難しくない技術で出来ることを確認し、しかし、間を置いてから首をひねった。

「相性によっては、それでも対応しきれないかしら?」

「少なくともここにいる我らなら誰でも対応できよう。むしろ一人Dクラスの貴様はどうなのだ? 『黒の英知』よ?」

「愚問。パターン化されている物程度が、我に通用する類の物ではない」

 っと、当然のように返した詠子だったが、心の中では―――、

(できるかそんなのっ!? いや、パターンさえ解れば、魔術書の自動詠唱オンにして、自動反撃or自動防御くらいできますけどっ!? “パターン”って何っ!? どんなパターンよっ!? まったく分からないんですけどっ!?)

 ポーカーフェイスを崩すことなく、しかしメチャクチャ慌てていた。

 何気にサルナあたりから、眼差しに疑いの念がこもり始めていたが、素知らぬ顔で通す。せっかく手に入れたこの楽園、まだまだ満喫して見せるためにも、詠子は全力で戦い続ける。

(私の戦いはこれからだっ!!)

 

 

 

 地を蹴り、四方八方から剣戟を放つが、全てが予定調和(オート)で迎撃され、一太刀すら届かない。更にギアを上げて対抗しようと激しさを増してみるが、狙ったように迎撃のリズムが加速する。完全にこちらの行動を読み切られている。

(『群獣狩猟(ベルセオス・ポッラ・テレシウス)』を余裕で防がれるとはさすがに思わないよ、まったく……。切り替えないと、いつまでたってもイタチごっこだ)

 加速分身を維持するとパターンが読み取られて、簡単に迎撃されると納得した弥生は、瞬時にスタイルを変更。数多いた分身が消失し、一人の弥生が全身を振り被って勢いよく横薙ぎに捩じる。

「ベルセルク第三章…『破城槌(はじょうつい)』!!」

 独楽のように回転し、二刀の剣を叩き込む強力な一撃。それを弥生は、菫にではなく、その手前の足場に放つ。城門を打ち砕く一撃は、氷の床を粉砕し、菫の足場を衝撃と共に打ち上げる。氷の粒が白い煙となって巻き上がり、菫の体が高々と舞った。

 すかさず地面を蹴飛ばす弥生。『強風の加護』を纏いて、空中での機動力を得、宙に浮いた菫に追撃をかける。

「第一章……!」

 右の剣を一杯に引き、刀身に『特化強化再現』(トパーズイエロー)の輝きを纏わせ、『強風の加護』と合わせた空中加速を追加した突きが放たれる。

「『突貫』ッ!!」

 剣を足場にする以外、空中戦の仕様を持たない菫は、加速した弥生の突きを躱すことができない。持ち前の超反応で対応しても、手持ちの剣で引っ張るくらいの事しかできず、それでは間に合わない。腕か脚、どこかは持っていかれるであろうタイミング。観客席の悠里が思わず拳を握るほどの絶妙な反撃に―――、

 

 トン……ッ! と、

 

 菫は宙を蹴って(、、、、、)躱してみせた。

「ふぇ……っ!?」

 呆けた声を上げてしまいつつ振り返った弥生に、菫は『剣弾操作(ソードバレット)』撃ち出す。咄嗟に剣を防御に構える弥生だが、衝撃に弾き飛ばされ、右肩と左足に刃が掠める。

 そのまま勢いよく地面に叩きつけられた弥生は、瞬時に起き上がり宙に立つ(、、、、)菫を目視で確認する。どうして飛べないはずの菫が、宙を蹴って避けることができたのか? その答えをあっさり見つかり、菫も隠すことなく堂々と告げて見せた。

火元(ヒノモト)(ツカサ)作『ソードブーツ』……、これで私も()べる靴を手に入れ、た……」

 彼女の靴底にはスケートの様な刃が取り付けられていた。通常刃は靴底に完全に収納され、隠されていたようだが、能力を利用して刃を靴底から取り出し、スケート靴のようにも出来る仕掛けになっているようだ。また、靴底に刃が仕込まれたことにより、その刃を菫の能力『繰糸(マリオネット)』で操ることで、瞬時に足場として活用可能であり、今のように空中で浮くこともしやすくしていた。

 その事に驚く暇もなく、菫は生徒手帳を指で挟みながら「さらに……」と続け、新しい剣を八本取り出す。

 それらの剣は全て、投擲を目的とされた剣。銀白色に輝く金属ででき、刀身には幾何学模様の様な溝が刻まれ、投擲時の風圧を利用し、更に鋭く真直ぐ飛ぶように細工されていた。

金光(かねみつ)(そう)提供『ミスリル製:ソード・シェル』……」

 Eクラスへの礼儀として、武器の提供者の名を告げ、空中で待機させた剣を『剣弾操作(ソードバレット)』で撃ち出す。

「……ッ!」

 瞬時に対応した弥生の剣に、エメラルドグリーンの輝きが纏う。『特化強化再現』による耐久及び、連射強化による連続パリィ。撃ち出されたミスリルの剣を、己で撃ち落とす。

 

 ガッギィィィンッ!!

 

 刃と刃が衝突した瞬間、重たい衝撃が弥生の手に伝わる。

 歯を食いしばって耐え、次の攻撃に刃を間に合わせる。

 連続して響き合う重低音の金属音。バシリ……ッ! と、弥生の手元で不吉な音が鳴る。

 彼女が視界の端で捉えたのは、亀裂の奔った刃。

 トドメとばかりに迫る銀白色の剣に、しびれる手で無理矢理間に合わせ―――、

 

 バギャァァンッ!!

 

 左右の剣は砕け散る。菫の撃ち出した剣で『特化強化再現』の上から叩き潰された。

「く……ッ!」

 瞬時に胸ポケットに納めた生徒手帳をタップして、新しい剣を呼び出す。

 同時に菫も素早く新しい『ソード・シェル』を空中にばらまくようにして補充。『剣弾操作(ソードバレット)』で撃ち出す。

「第二章……ッ!!」

 『ベルセルク』のギアを上げ、刀身をエメラルドグリーンに輝かせ、撃ち出される剣を迎撃していく。

 三本叩き伏せたあたりで片方の刃に皹が奔った。四本目を受ける時には砕けてしまい、新しい剣を出す必要が出る。菫がその隙を逃すことなく高速の剣弾を放つ。片方の剣では対処しきれない。新しい剣を出すのに一瞬の隙ができてしまう。

(足も使って回避……ッ!)

 瞬時にステップを交え、躱しながらの迎撃に切り替える。

 だが、間に合わない。

 どうしても躱しきれない剣を迎撃し、己の剣に亀裂を走らせ、砕けたら新しいのを出すために隙を作ってしまう。前に出ようとしても、頭を押さえる様に見事なタイミングで剣弾が放たれる。

 やむなく躱し、迎撃し、剣を砕く。そして隙を撃ち込まれる。

 一方的なパターンが完成してしまい、次第に弥生の体に傷が増える。生まれた隙に対応しきれず、刃を受けてしまう。菫の狙いを正確さが増し、次第に深い傷が増えていく。

「う、うあ、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 たまらず悲鳴のような声を上げる弥生は、体を縮ませるように防御に徹しながら下がる。菫はそこに容赦なく剣の雨を降らせ、弥生の体と剣を削っていった。

 

 

「な、なんか一方的な展開になってないか……!? なんで弥生があそこまで苦戦してるんだよ!?」

 彼女と戦った経験から信じられない様子のジークが、答えを求める様に呟くと、前の席から自慢げな声が返って来た。

「ふっふっふっ、アレこそ、僕の能力『幻金錬成(ヴィジョンアルケミー)』により作り出した合金! 『ミスリル』や! 相手が鉄程度の武器なら、どないな『強化再現』施そうが関係あらへん! 基本となら材質が違うんやからなっ!」

 高らかに笑いながらオーバーアクションで答えたのは、金光創。刻印名幻金練師(ヴィジョンアルケミスト)を持つ、あらゆる金属を作り出す錬金術師である。

 自分が提供した物質で選手が有利になっていることがよほど嬉しいのか、身振り手振りを交えて、自分の功績を自慢しまくっている。

「イマジネーター同士の戦いなら、自分の能力で戦い優劣を決めるんは至極当然。せやったら、生産課のEクラスが武具を提供してやれば、そいつは二人分、三人分の能力を使用してんのと同じやっ! つまり! Eクラスの武器を持つ選手は最強やっ!! ナーーッハッハッハッ!!」

「そしてあの武器も私がこの手で作った……っ!」

 創に続いて、司が目を光らせながら、静かに、しかし御満悦の怪しい表情で付け足す。

 高笑いする創と、妖しく笑う司。二人の対照的な笑いに、思わず押し黙ってしまうジーク。彼女の隣に座っているカグヤは、依頼した本人であったのだが、予想以上に圧倒している姿に少々呆け気味であった。

義姉様(ねえさま)から聞いて、“イマジネーターは、イマジネーターが作った武器を使いこなして一人前だ”と聞いていたけど、ここまで差が出る物なのか? ヤベェ……、俺もなんか貰っておくべきだった……)

 菫への依頼を優先するため、司相手に我流の“交渉”をしてしまったので、自分の分を頼み辛くなってしまった事を、今更激しく後悔するカグヤ。大変悔しいので、この映像を見た後に、どうせ皆すぐにEクラスの武装で固めるに決まっているので、アドバンテージはないから悔しがる必要などないと、心の中で言い訳して慰めた。

「正直びっくりです。Eクラスの武器を所持するというだけで、弥生さんが為す術無くやられるなんて……!」

 カルラも、状況を正確に分析した結果、どう足搔いても弥生の力では対処できないと言う事を看破し、呆然としてしまう。

 っと、そこに静かに、不敵に笑う声が挟まる。

「はっはっ、これで決着が付いたと思ってるんやったら、大間違いやで……」

「え?」

 声を漏らした先、カルラから左前方の席にて、イング・アルファが期待に満ちた笑みを浮かべている。

 ―――と同時、スクリーン内で菫がトドメとばかりにソード・シェル八本を同時射出した。回避も防御も不可能とされる驚異の攻撃に、悠里が悲鳴のように声を上げる。

「弥生ーーーっっ!!」

 スクリーンの向こう、砕けた剣を捨てた弥生が、自分の腰に手を回す。

「見せてやりぃ弥生! アンタの魂―――っ!!」

 

「「『魂創器』―――っっ!!」」

 

 観客席のイングと、戦場の弥生の声が重なる。

 弥生が腰から抜き去った短刀が、彼女の唱和と共に握られた瞬間、それはイマジンの緑粒子を迸らせ、一本の長槍となった。長槍は弥生の手に操られ、八本の刀剣を瞬く間に弾き返してみせ、まったく傷一つ残さない。

 瞬時に菫が追加の剣を撃ち出すが、それら全てを弾き返し、皹一つ作ることはなかった。

 さすがに攻撃の手を止めてしまう菫に対し、弥生は槍を長剣に変えると、無造作に一振り。彼女の周囲に獣の意匠が施された幾多武器が出現し、侍る様に待機する。

 驚愕する菫に、天を見据えるが如く睨み上げた弥生は、宣戦布告でもするような語気で、その武器の正体を明かす。

 

「イング・アルファ作『魂創器』……『|獣群武装眷属《アーメス・ベルセルク・グランデス・サーヴァント》』」

 

 

 3

 

 

『おおぉーーっと!? これはぁ~~っ!?』

 菫が撃ち出すミスリルの剣を、魂から作り出された弥生の剣が、迎え撃ち、劣勢であった状況を覆し始める。この白熱の展開に、実況は観客と共に盛り上がる。

『Eクラスの武装で固めた八束選手が、圧倒的な物量によって押し勝っていたかと思えた状況! 甘楽選手も同様にEクラス武装のお披露目で、状況をイーブンに戻しましたぁぁーーっ!! まだまだ勝負の行く末は分かりませんよぉ~~~っ!?』

 菫の優勢は、弥生のパリィを封じることで成立していた。

 『戦神狂ベルセルク』が、戦いと共に強化される性質を持っていたとしても、空中にいる相手と距離を詰めるには、どうしても直線的な軌道が必要となる。そうなれば菫の剣を回避する事はできず、真っ向から受け止めるしかない。だが、ミスリルの剣で撃ち出される『剣弾操作(ソードバレット)』は、『特化強化再現』を施した弥生の剣でも、受け止めきることができず破壊されてしまう。攻撃を受けきれなければ撃ち抜かれてしまう。次を取り出すまでの隙もできる。更に時間をかければ、菫でも弥生の動きを追えるようになり、回避も困難になっていく。

 それらの要因が重なり、弥生は一方的に苦戦する結果となっていた。

 だが、今の弥生には、ミスリルを受け止めることのできる武器がある。パリィを取り戻せば不利益はなくなったも同然。あとは菫が中距離を維持できるか、弥生が近接戦に持っていけるかの勝負。

 本来ならそこでイーブン。実況の言ってた通り互角の試合となっていただろう。

 違ったとすれば、弥生の手にした『魂創器』は、彼女のバトルスタイルを大きく広げたという事だ。二本の剣を手にする弥生は、左右の剣を巧みに使って迫りくる刃を迎撃していき、少しずつ前へと足を踏み出していく。攻撃を受け止めることができるようになったおかげで、攻撃のパターンなどを読み取る余裕ができた。回避と同時に前進する動作も加わり、僅かではあるが菫との距離が縮まる。

 距離、変わらず中距離。されど、飛び出し一歩踏み込んだそこは弥生の距離に入る。

「投擲槍!」

 弥生が『魂創器』に命令すると、それに応えた魂の武器は、二本の剣から二本の短槍へと姿を変える。それらを手にした弥生は、弾幕の間を縫うようにして振り被り、一気に槍を投擲した。

 

 バチュンッ!!

 

「ひぇ……っ!?」

 顔のすぐ横を通り過ぎた短槍に、思わず声を漏らす菫。彼女の視界には、もう片方の槍を振り被る弥生の姿が映る。

 

 バギュインッ!!

 

 咄嗟に迎撃に撃ったミスリルの剣が、槍の軌道を変えるが、弾かれた剣は、かなり遠くに吹っ飛んだ。

(どんな剛腕してる、の……ッ!?)

 ちょっと涙目になる菫に対し、弥生は両手に新たな槍を手にして構える。

 これ以上撃たれてなるものかと、剣を速度重視の射出から、操作性重視の剣舞に切り替える。射出速度こそ落ちるものの、周囲から自在に操られる剣の群れには、それなりに手を焼かされ、投擲のために振り被る暇はなくなる。

(これで、向こうの攻撃は封じた……?)

 速度が落ちれば一気に突っ込まれる可能性は充分にあったので、対応しつつも様子を伺い、やや後方に流れて距離をとっていると、弥生は瞬時に対応を見せた。短槍を投げ捨てると、両手を左右に開く。すると、彼女の手に双剣が出現し、手に収まる。刃渡り30cmほどの双剣を手に、向かってくる剣舞をいなし、隙あらば剣を投擲に使用し、また新しい双剣を手に呼び出す。

 菫はブーメランの様に回転しながら飛んできた双剣を自分の持っている剣で弾きつつ、油断なく弥生の動向を伺う。しかし、弥生は双剣を投げる以外の撃ち合い以外はせず、他に新しい動きを見せない。

 

 ―――見せないと言う事は既に何かされているという事だ。

 

 結論付けた菫が視野を広げ、自分の周囲にも注意を向けて気付く。いつの間にか自分の周囲を旋回している無数の双剣の存在があることに。

(本当にブーメランみたい、に……、旋回する性能がある、のか……、そういう風(、、、、、)に投げてだけなのか知らない、けど……!)

「ヤッカイ……ッ!!」

 『剣の繰り手(ダンスマカブル)』で剣を一本だけ操作し、周囲に旋回するすべての双剣を叩き落す。

 その一本分の隙に弥生は身構えた。

 彼女を中心に武器が出現する。

 手裏剣、ブーメラン、チャクラム、短剣、双剣、短槍、長槍、手斧、針、鉄球、手榴弾、ポーラー、ダーツ、投石、火炎瓶、苦無、巨大手裏剣、etc.……。

 数多飛び道具が空中に出現し、出現した一方から弥生の手により射出されていく。

 それらはミスリルの剣と相当の素材でできた、菫の能力と同等の威力で射出され、圧倒的な物量と連射速度を叩き込む。

 あっと言う間に正面から撃ち合いに押され始める菫は、慌ててミスリルの剣を新しく補充しながら連続で射出するが、まったく追いつけず、いくつもの攻撃が彼女のすぐ脇を掠めていく。

「ひゃ、ぇ……っ!?」

 髪の端を捉えた一撃に思わず首を竦めた一瞬。両手にハルバードを手にした弥生が、砲丸投げの要領で体全体を回転させ投げつけた。ミスリルの刃をいくつも巻き込み正面から飛来してきた一撃を、身を逸らしてギリギリ避ける。

 同時に菫は足の剣を操って空中移動、その場を猛スピードで離れる。

 そのすぐ後ろを、弥生が隙ありと言わんばかりに『強風の加護』を纏って追いかけくる。もし、菫が逃走を選んでいなかったら、首を切り落とされていたのではないかと言う速度。菫は冷や冷やしながら、次の策に切り替えるべく、亀裂が走ったように伸びる崖に沿って移動する。

 菫が『繰糸(マリオネット)』で操れる剣は現状八本が限界だ。これは能力的な制限ではなく、現在菫が不足無く、効率良く発揮できる最大本数が八本と言うだけで、精密性を捨てれば十本、二十本の剣群を一度に操作する事もできる。だが、剣の数が増えれば、それだけ一本一本に向ける意識を取られ、操作性は落ちる。集団戦はもちろん、速度の速い相手などを相手にする時は、剣に意識を残しておく余裕はないだろう。操り切れない数など、量産しても無意味だ。そう言う意味において、自分の剣を足場にする空中戦戦術は、足場にする剣への意識が大幅に取られて非効率的だった。だが靴に仕込んだ刃を操作するのは、常に自分の足に密着しているので負荷をかける場所が地面を踏みしめる感覚と同じにできるので容易い。その容易さは菫が攻撃に使用する八本の剣とは別にカウントできるほどの容易さだ。

 崖沿いに移動しつつ、菫は常に八本のミスリルの剣を従えて戦える。これは移動中しながらの攻撃も可能にしていた。

 後方から弥生が左右の崖を蹴りながら追いかけてくる。『強風の加護』で飛距離をかなり伸ばせる上に風の抵抗なく素早い。普通の追いかけっこでは追いつかれてしまいそうだが、もちろん菫が追いかけっこに興じるわけもない。

 速度落さず、従えた剣で狙いを定め二本放つ。

 弥生は『魂創器』を双剣に変えて投擲し、この二本を迎撃。速度落さず追跡する。

 瞬時に狙いを変えた菫が更に二本放つ。狙いは弥生の進路上、上部崖。

 ミスリルの剣が着弾すると、その威力にミサイルでも撃たれたのかと見紛う爆発が発生。大きく亀裂が入り、大小多くの氷塊が崩れ落ちる。その氷塊は弥生の進路頭上に降り注ぐ。

 気付いた弥生の反応も早い。『強風の加護』を纏う事で空中の動きに対する滑らかさを得、更に『ベルセルク』の学習能力で状況に適した最短最善の体捌きを持って減速無く、氷塊の雪崩をすり抜けていく。

 そこを狙い、菫の『剣弾操作(ソードバレット)』が氷塊の陰から射出される。

「―――ッ!?」

 寸前で気づいた弥生は仰け反る様にして躱す。上下左右から氷塊の陰に隠れる様にして次々と剣弾が射出される。

 氷塊を足場に、ピンボールを思わせる乱反射で飛び回り、超高速回避移動を行いながらも追撃の速度を落とさない。武器は敢えて引っ込め、回避に集中。その上での前進。互いの差が僅かにだが迫っていく。

 無論、Aクラス()がその状況に甘んじるわけもない。射出する剣のリズムを僅かに変え、四方八方、氷塊と剣の完全包囲での同時攻撃を作り出す。弥生に逃げ場はない。

「第一章―――ッ!!」

 

 ガガッ!! ガッ!! ガキィィンッッ!!

 

 氷塊と剣群が弾き飛ばされ、宙を漂う。弥生の手には『魂創器』による多節棍(たせつこん)が握られ、全身で操る様にして全ての攻撃に対応させていた。

「『無双』……!」

 高速一回転。合わせて捩じれる多節棍が周囲一帯を薙ぎ払う。

 多節根を消し、いくつものスローイング・ダガーを両手に呼び出し、氷塊蹴って飛び出しながらの反撃投擲。

 思いのほか速い投擲に、少し慌てながらも、弥生から直線状にしか来ない攻撃だと判断し、すぐに計算。安全圏を割り出しつつ最低限の動きで回避。こちらも氷塊を破壊し応戦する。

 弥生は、今度は回避を選ばなかった。変わりに手にしたのは巨大な大槌。いくつかの氷塊を避け、目当ての大きな氷塊に飛びつくと、思いっきり振り被る。

「うりゃああああーーーーっっ!!!」

 

 バッゴンッッッ!!!!

 

 轟音とともに砕けた氷塊はライフル弾並みの速度で、散弾の如く降り注ぐ。

 さすがの菫もこれには慌てて体を捻る。前進したまま体の前後を入れ替え、両手を掲げると、三本の剣を自分の前で高速回転し、盾とする。

 逃さぬとばかりに弥生の更なる追撃。まだ空中に残っている氷塊を次々と殴り飛ばし散弾を継続。菫を防御に集中させる。

 最後の大きめの氷塊に飛びつく。だが、弥生の手には大槌がすでに消滅し、弓の形へと姿を変えている。

 体を横向きにし、氷塊の陰から最低限の体だけを出し、菫に感知されるよりも早く、その矢を放った。

(第二章……『撃墜』ッ!)

 放たれた強弓。周囲に後れて衝撃波を撒き散らすほどの一矢は、菫の五感よりも速く、彼女の心臓へと迫る。

「―――ッ!?」

 瞬間、菫は訳も変わらないまま体を捻る。ギリギリで発動した『直感再現』の警告が脊髄反射として機能し、菫の思考を置き去りに回避行動をさせた。

 それでも矢は回避しきれず、三本のミスリルの剣ごと、彼女の左腕を撃ち抜いた。

「きゃああああぁぁぁ~~~……っ!!」

 あまりの激痛と衝撃に悲鳴を上げて墜落する菫。不運にもその衝撃で生徒手帳が懐から零れ、誤作動で取り出されたミスリルの剣が宙にばら撒かれるが、それらが自由落下を始めるより速く、菫は崖下に叩きつけられる。

 深さ三十メートル以上はあろう崖下に墜落した菫。一瞬全身が痺れ、行動が遅れる。

 壊さずに残した氷塊を足場に、弥生が全力の跳躍。菫に迫る。

 気付いた菫が腕に刺さった矢を無理矢理引き抜き、前転する勢いで飛び退く。

 爆発。ミサイルの着弾の如き踏み込みで着地した弥生の足が、一瞬前まで菫のいた地面を陥没させる。ひび割れ粉砕する氷の地面。両手にデザインの異なる二本の剣呼び出した弥生が、菫に斬りかかる。

 

 ガギィィンッ!!

 

 一閃交差。空中前転の途中に近い無理な態勢でも、菫は手にしたミスリルの剣で見事に応戦する。だが―――、

「もう距離は取らせないッ!!」

 裂帛の気合の下、更に一歩踏み込んだ弥生。左右から次々と放たれる剣激。赤、青、緑、黄色と『特化強化再現』を巧みに使い分け放たれる無数の斬撃。虹彩色の軌跡が応戦する菫の体を掠め、僅かな血飛沫が短く上がる。

「この距離を……っ! ずっと待っていたッッ!!」

 更に一歩前進。さらに激しさを増す剣激。防ぎきっても圧だけで潰しそうな気迫に、菫が防戦一方で、完全に動きを止められる。

「……っ! 待ってたのは(、、、、、、)……っ!」

 凶悪な剣激の嵐に耐えながら、菫は精一杯の一撃を返しながら叫ぶ。

こっちです(、、、、、)……っ!!」

 刹那、幾条もの銀白色の閃光が弥生の頭上から襲い掛かる。

「―――ッ!?」

 全身を貫く激痛に顔をしかめる。視線だけで確認したそこには、ミスリルの剣が地に突き刺さっている。

(さっき空中でばら撒いたやつ……っ!? わざとばら撒いたのか……っ!?)

「やああああぁぁぁぁーーーーーっ!!」

 弥生が理解するタイミングに合わせ、菫が手にする剣をフルスイングで横薙ぎに斬り付ける。刀身には淡い緑色の粒子が纏い『強化再現』と『糸切り(イトキリ)』のイマジネートが加わっている。

「……っ!?」

 左の剣で受け止め、僅かな減速を与えている内に後ろに飛び退く。

 瞬間、豪雨の如く降り注ぐミスリルの雨。歯を食いしばり『ベルセルク』の直感で回避する。

 菫は間髪入れない。地に突き刺さった剣を能力下(のうりょくか)に置き、左右正面から斬り付けさせる。

「『破城槌』!!」

 全身を捻って回転し、遠心力と膂力を掛け合わせて、クリムゾンレッドに発光する刀身を振り抜く。四方から迫る全ての刃を吹き飛ばし、その一本が菫に向かって跳ね返っていく。

 だが、跳ね返った刃は頭上からの閃光で叩き伏せられる。

 構わない。弥生は踏み込み、再び接近戦に移行―――、

「もう……っ! させないッ!!」

 菫が剣を振り下ろし、頭上に漂う全ての剣に一斉に指示を出す。切っ先が全て弥生に集中し、閃光の雨が流星の如く降り注ぐ。それは、形だけ見れば、まるで正純戦で見せた流星群の如く―――。

「『模倣・十二宮・剣群流星の小即興曲(メテオ・クアンタ・インベンション)』!!」

 あの星の大魔術を模倣した必殺技。菫は準決勝戦での苦汁を忘れることなく、その技すら吸収し、己の技へと昇華して見せた。

 配置は既に上空に散らばり、操作は全力での射出のみ。これだけ御膳立てされた状態なら、菫の操れる限界数八本は、ないも同然。一度に無数の剣を操作し、断続的に撃ち出すことが可能となる。

 もちろん弥生も瞬時対応し、上空の攻撃を体を逸らして避けつつ、避け切れない攻撃は左右の剣で弾き返す。だが、上手く前進できない。そもそも人間の構造上、頭上の攻撃と言うのは対応し難い。故にできるだけ回避主体で対応したいのだが、速度と数が多すぎて、走り回るというわけにもいかなかった。もし一直線に走り出したとしても、菫なら遅れることなく狙ってくる。数も多いので先回りして撃たれる場合もある。そうなったら足が止まってしまい、狙い撃ちにされるだろう。なので、体を逸らすか、剣で受け流すかして対応する方が、最善最良の手となる、はずだった……。

(いった)……ッ!?」

 パシリッ! と何かが頬に直撃した。衝撃は軽いが、易い攻撃でもない。それは頬だけではない、体中にパシリッ! パシリッ! と無視できない衝撃が襲ってくる。

(なに……っ!?)

 銀白色の流星群を剣で弾きつつ視線を一瞬、下方に向けた時、その正体に気付く。それは氷の粒だ。上空から墜落したミスリルの剣が、足場の氷を砕き、その破片が凶器となって自分に襲い掛かってきている。

 偶然、と言うにはあまりにも相手が悪すぎた。そもそも自分に降りかかる氷の粒が明らかに多い上に、粒の大きさも中々に大きい。攻撃の意志は明白。菫による計算づくの攻撃。

(天からは流星、地からは霰って……? 対応しきれるわけないいやらしい攻撃だ……っ!)

 明らかに攻撃力のある剣群の対応に集中しつつ、地味にダメージを蓄積させられていく弥生。いつの間にか前進は止まり、回避と迎撃に手がいっぱいになる。対応する武器も、二本の剣が最適と判断できるため、追加発注はない。

 不利な状況での膠着。だが、それは長くは続けられない。

 菫が空中に放った大量の剣など、この流星の中ではあっと言う間に枯渇してしまう。一体何本用意していたんだ?と言いたくなるほどの量ではあったが、配置していた全てが尽きる。いくつか上空に撃ち直した物もあったかもしれないが、それでリロードが間に合うような連射力ではない。

 最後の一本と思われる閃光が降り注ぐ。

 氷の粒で地味に傷だらけになりつつも、二つの剣をエメラルドグリーンとアクアブルーに輝かせながら、同時に叩き込み、閃光を弾き返す。

「あ……っ!?」

 弥生の口から思わず声が上がる。

 二つの剣が閃光を弾く寸前、剣が方向転換。変化球にバッターが対応できず空ぶるように、弥生の態勢が崩れ、剣は地面を抉る。

(フェイントッ!? なんで……っ!?)

 意味の解らないフェイントに驚愕した瞬間。菫が息を止めて力を籠め、剣を持ち上げる様に振り上げたのが見える。

 

 ガボンッ!!

 

 氷の砕ける音と共に、弥生の足場がめくれ上がった。

「ッ!? 正純戦の時の、泥を巻き上げた奴……ッ!?」

 菫は三本の剣を巧みに操り、地面にフォークで突き刺し、裏返す様にして氷塊を抉った。空中に投げ出された弥生は、そのまま地面だった氷塊の下敷きにされそうになる。

 左の剣を捨て、ゲートボールにでも使いそうなハンマーを呼び出す。

「でりゃああぁぁぁっっ!!」

 気合で振り抜き、十メートルはあったであろう氷塊を粉砕する。

 追撃が来るっ!

 咄嗟にそう考えた弥生が本能に従い、右の剣を捨て、瞬時に対応できる武器を使える準備をする。

 はしっ! と、小さな音が聞こえた。音の先、砕けた氷塊の向こうで、飛び上がった菫が空中から落ちてきた自分の生徒手帳を掴み取っているのが見えた。

 そして、“剣”が取り出された。

 ガラスの様な刀身に紅蓮の灼熱を閉じ込めた様な真っ赤な輝きを持つグレートソード。その切先を自分に向けられた瞬間、弥生は悟る。()()()()()()……。

 

火元(ヒノモト)(ツカサ)作:『サンドリヨンの刀身』 神格『炎砲・軻遇突智』!」

 

 神格の名を告げた瞬間、それがトリガーとなった。

 ガラスの刀身に蓄えられた神格の炎が、放火となって解き放たれる。

 『魂創器』であろうと何であろうと、丸ごと一撃で灰燼と化す神の炎が、弥生に直撃した。

 炎は(とどろき)、氷河を粉砕していく。その存在の全てを焼き尽くさんがために……。

 

 

 4

 

 

「オラァァァッ!! どうだっ! 作ってやったぞ東雲~~~っ!」

 そう言って布にくるまれた剣を菫に叩きつけるように渡した司は、かなり憔悴しきった表情で、ヤケクソ感のある雰囲気を漂わせていた。

「いや、まあ……、ありがたいんだけどよ? なんか大丈夫か?」

 呆気に取られる菫の横で、同じく呆気に足られる東雲カグヤが心配して訊ねるが、藪蛇だと言わんばかりに司に怒鳴られる。

「うるせぇよっ! あんだけ言われっぱなしで、おまけに剣ごと心折られて、平静でいられるわけねえだろぅっ!?」

「ああ……、まあそうだな……。すまん」

 『交渉』の事を思い出して、素直に頭を下げるカグヤ。

 司はなおも文句を言いまくり、黙って聞くしかないカグヤに半泣きになりそうになりながら憤慨する。

「ったく、なんなんだよあの素材っ!? 見た目は硝子みたいなのに無茶苦茶(かて)ぇ、かと思って強く叩き過ぎると雪の結晶の如く儚く砕けらぁ! おまけに水の温度調節がタイト過ぎだろぉっ!? ちょいと温度が変わっちまうだけで砂の城みたいに崩れやがるっ! 扱いに困るったらねえよっ! その一本を打ち切った事をよくぞと褒めてもらいたいねぇっ!?」

「もちろん褒めはするが、あの素材……、最初にも言ったが、ここじゃ雑草レベル―――」

「ああ~~~っ! うるせぇっ! ポリシーに反するが、今は聞きたくねぇやいっ! 素直に褒めるだけにしやがれっ!」

「おお、ありがとう」

 言われるまま頭を下げるカグヤを見て、司の溜飲も多少なり落ち着く。

 話が一区切りしたところで、菫は布をほどき、中にある剣を検分する。

 そこには刀身がガラスの様な透明な素材で出来た、両手持ち前提のグレートソードがあった。その刀身の透明度と言ったら、出来立ての窓ガラスの様に向こう側が透けて見える。角にある僅かな濁りと、表面が僅かに反射する光がなければ、そこに刀身があるなどとは気づけなかったであろう。そう思って感心していた菫だったが、隣から一緒に覗き込んだカグヤは微妙な表情をした。

「ん~~~……、やっぱ司でもここまでが限界か? 本当なら触らない限り見えんくらいになるはずなんだが……?」

「言うない……。私だって、もうちょいマシにできると思ってたんだよ。失敗し過ぎて素材不足になったんだから、イマジンで無理矢理補強してなんとか注文に見合うだけの物にはしてやったがな……。ぐ……っ! せめてあと半月は試行時間が欲しかった……っ!」

「いや、素材は元々足らなかったんだ。いくら上級生には雑草扱いでも、コネだけで持っていくなって釘刺されちまってな? 足りない分は職人の腕に頼ったつもりだったんだ。……、いや、だかしかし、時間を考慮に入れてなかったなぁ。イマジンが出鱈目過ぎて失念していたが、普通は数日で出来るようなもんじゃねえよな?」

「それ込みでももう一押ししたかったがな。もうちょい出来そうな気はしたが、時間には勝てなかった。それでも可能な限り力を費やしたつもりだぜ? 早速試してみろよ」

「そうするか。……カグラ」

 二人だけで話を進めて、置いてけぼりになってしまう菫を余所に、カグヤは自身の式神、カグラを召喚する。

 召喚されたカグラと並んだカグヤが、菫の持つ剣の刀身に向けて両手を翳す。

「菫、そのまま剣持っててな? 行くぞ、カグラ」

「うん」

 二人はお互いに頷き合ってから目を閉じて、意識を集中すると、刀身に向けてイマジンを送り込み始める。

 途端、透明だった刀身に、紅蓮の如き真っ赤な炎が浮かび上がる。まるで、ガラスの中で炎が燃え上がっているかのような不思議な光景。

 それは煮え滾る炎の術式。あらゆる物を焼き尽くす神の権能。神格、軻遇突智(かぐづち)の炎が、剣の中に吸い込まれ収納されているのだ。

「お、お兄ちゃん……? 割と神格込めてるんだけど……?」

「うわすっげぇ~~……、想像以上の許容量だな? なんかこっちが搾り取られそう……」

 ちょっとだけ顔色を悪くさせつつ、二人は最後まで刀身の中に炎の力を注ぎ切る。

 終わった時には二人して安堵の息を吐いた。

「ってなわけで、だ? 予想以上に司が良い感じの物を仕上げてくれた剣に、俺の軻遇突智の炎を蓄積(チャージ)しておいた。一発程度なら俺の使っている『炎砲』を再現できるだろ」

「え?」

 カグヤの発言にビックリする菫。彼女の瞳に疑問が映っているのを感じ取ったカグヤはできるだけ端的に説明する。

「これまでの戦いで、どいつもこいつも当たり前のように神格使ってやがったからな。何か対処法を用意した方がいいと思ったんだよ。特に正純みたいに神格持ってないくせに神格を引き出してくるタイプはマジで危険だ。弥生の『戦神狂ベルセルク』は正確には神格ではないが、派生能力の『ウルスラグナ』はまっとうな神格だ。ならこちらも神格武装の一つや二つは持っていた方が良いかと思ってな?」

 ひょいっ、と肩を竦めて見せたカグヤが、苦笑を浮かべると、司が引き継ぐように告げる。

「その剣の名は、灰色がかったガラスの様な刀身を持っていることだし、適当に『サンドリヨンの刀身』とでも名付けておくよ。その刀身はあらゆるイマジンを吸収し、収納し、排出する事が可能な一品だが、生憎私の力不足でねぇ? 一回使ったら刀身に甚大なダメージが入って、すぐに砕けちまうのさ」

「そんなわけで、もしもの時の切り札として、……っと思ってな? っつっても、決勝戦の切り札としては押しが弱い気もするんだが、正直俺にはここまでしか思いつかんかった。後は自分で切り札を用意しておいてくれよ」

 気楽に言うカグヤに対し、菫は彼の瞳を伺うように見つめる。何も言わずに見つめ続けるので、居心地が悪くなったのか、カグヤは疑問を浮かべる。

「ん? なんだ?」

「カグヤ、面倒見良すぎ……では?」

 こてんっ、と小首を傾げて尋ねる菫に、カグヤは「たしかに……?」っと呟いた後、自分があれこれ面倒見過ぎなのではないかと、一人で悩み始める。

「もしかして、余計なお世話しちまってるか? 口出し手出しやり過ぎてる感あるし……?」

「否定はしない、けど……」

 言葉を切った菫は、もう一度『サンドリヨンの刀身』に目を向けてから、その剣を抱きしめる様にしてから、言葉を紡ぐ。

「嬉しいから……、良い……」

 その頬が僅かに朱に染まり、いつも乏しい表情にささやかな微笑みを浮かべると、いつもより潤みの帯びた瞳をカグヤに向ける。

 彼女が初めて見せる表情に、ガッチリ固まってしまうカグヤ。

 それを見て、なんだか面白い物を見れたと言わんばかりの含み笑いを漏らす司。

「カグヤ……、私、勝ってくるね……」

 斜に構えるでもなく、穿った見方をするでもなく、茶化してきたりもせずに、ただ真直ぐに感謝の意を述べられ、カグヤはなんだか恥ずかしい事をしてしまった気分になって、珍しく照れ始める。

「あーー……、お前やっぱ、感情が表情に出過ぎだろ……?」

 

 

 菫の放った軻遇突智の炎を目にして、観客席のカグヤは思わず拳を握った。司は思わず「っしゃあーーーーっ!!」っと声を上げて喜んだ。

 回避も防御も不可能な最強の一撃が、これ以上ないタイミングで炸裂した。諸手を上げて喜ぶしかない。

 菫自身も視界が業火に埋め尽くされる中、はっきりと手ごたえを感じていた。

 回避は不可能。防御してもダメージは避けられない。弥生がこの一撃で沈むとはさすがに思っていないが、致命傷になるのは確実。『ウルスラグナ』の『剣の化身(黄金の剣)』を使うには言霊が必須。発動出来た隙はない。もしかしたら全力の一刀で切り払っているかもしれないが、この神格は、込めたカグヤとカグラ自身が『めっちゃ入った』と評した一撃だ。それで軽傷とはいかないだろう。

 ほぼ勝確(かちかく)となった状況に、心の中でガッツポーズを取る。

 ―――っと、その時だ。菫の目に異変が飛び込んできた。

 炎の様子がおかしい。全てを呑み込むようにうねっていた炎が、その流れを淀ませ、一方向に収束しつつある。

 この炎は菫には操作できない。銃で撃った弾丸の如く、引き金を引けば、真っすぐにしか飛ばないはずだ。

 ならばこのうねりは何か? そう疑問に思った瞬間、一瞬だけ世界が停止するような錯覚を得る。『直感再現』の加速。基礎技術『予測再現』の一つ『回答直感(アンサー)』が発動。『サンドリヨンの刀身』を操り高速回転させ、盾に使う。

 次の瞬間、弥生を襲っていた炎の全てが、丸ごと菫に襲い掛かった。

 回転する剣がその透明な刀身に再び炎を吸収させ、その刃の回転で切り払っていくが、一度射出した影響で脆くなっていたのか、刀身に亀裂が入っていく。可能な限りの剣を引き寄せ自分の盾にするが、炎は勢いを殺すことなく顎を開く。

 

 カシャアアーーーンッッ!

 

 ガラスが砕けるような儚い音を立てて、『サンドリヨンの刀身』が砕け散った。

 炎に呑まれる、衝撃に突き飛ばされる最中、菫は炎の隙間からそれを見た。

 

「アルト・ミラージ作:『試作神格反射盾(アンチミステリック・レプリカ)』」

 

 右手に大盾を構えた弥生の呟きが、確かに菫の耳に届いた。

 次の瞬間には、炎の衝撃にもまれ、崖の氷壁に激突。収まらぬ勢いに押され、地上方向に向けて押し上げられていく。氷の壁と炎の板挟みを受け、菫の意識は一度ここで途切れた。

 

 

「いよっしゃ~~~~っ!!」

 炎に吹き飛ばされた菫の姿に呆然としていた司は、左斜め前からした声に我に返った。

 そこにいたのは身長140cmほどの三頭身にしたような少年。異世界出身のドワーフ。アルト・ミネラージ。

 彼は、拳を握りしめてガッツポーズを取りながら、勝利宣言の如く、ハイテンションに叫ぶ。

「俺の渡した盾がばっちりハマりやがったぜっ!! 正直、時間も素材も経験も足りないだらけで、神格相手にどこまで通じるのかって品だったが……! 最高の場面で決めやがったぞアイツっ!」

「あ、アレ、お前の仕業かよっ!?」

 思わず立ち上がって問い掛ける司。既に弥生の口からアルトからの贈り物であることは明言されていたのだが、本人の歓喜の声を聞いて、改めて驚愕してしまったようだ。

 司の言葉に振り返ったアルトは、してやったりと言う顔でガッツポーズを取って見せる。

「おうともよっ! 最初は剣を打ってやろうかと思ったが、決勝戦じゃあ絶対攻撃力の高い切り札を持ち出されると思ったんでなっ! 裏をかいて最高の盾を作ってやったのさっ!」

「マジかよ……」

 唖然と言葉を漏らしたのはカグヤだ。

 さすがそれは予想していなかった。弥生の性格的にも、Eクラスの技術的にも、イマジネーターの力に耐えられる防具系は作れないし、使いたがらないと思っていた。そもそも、使い捨て前提なら神格級の攻撃力は作れるが、使い捨て前提でも神格を耐えられるような物を作れるとは思っていなかった。

 ところがどっこい、実際には軻遇突智の炎を真っ向から跳ね返す盾が完成してしまっている。Eクラスについて情報が不十分な自覚はあったが、それでも自分が一番と見込んだ司の武器を上回るものを完成させている相手がいるなど、思いもしなかった。

「これは……完全に俺の失態だな……」

 額に手を当て、カグヤはぼやく。正直、この時点でカグヤとしては逆転の目はなくなっていた。自分の考えが甘かったことを内心で歯噛みする。

「やってくれやがったなアルト……っ!」

「へっ! てめえらが徒党組んで動いてたのは気付いてたからな! それに対抗するもん作れてこそ一流の職人だろうがっ!?」

「んなろい……っ!」

 何事か言い返したいところであったが、生憎、目の前で自分の作品がアルトの作品に打ち負けるところを目撃してしまったところだ。何も言い返せず歯噛みするしかなくなってしまう。

「いや、まだだ……!」

「あん?」

「まだあたしの作品()は負けてねえってことだよっ! (アイツ)が、きっとそれを証明してくれるさっ!」

 負け惜しみではなく、確かな確信をもって告げる言葉に、アルトは目を細める。

 視線を外し、画面向こうの弥生へと向ける。

「上等だ! 俺が作った物が上だって見せてやんなっ!」

 そう叫んだ瞬間、弥生の持っていた盾に大きな亀裂が奔った。

 砕けるかとも思われたが、亀裂は大きくとも深くはならず、辛うじて使用可能域に留まっている。

 啖呵切った直後の事に、一瞬ビックリしたアルトだったが、砕け散らずに安堵の息を吐く。

「いや、神格の一撃を跳ね返しただけでも驚きなのに、それに耐えるとかどんな素材使ったんだよ?」

「おそらくは精霊石と呼ばれる、ギガフロート特有の鉱石ですね。それほど珍しいものではなく、イマジン効果に微弱な抵抗力を持たせることができるはずですが……」

「それで神格まで跳ね返すのは反則です……」

 ジークが疑問を呈し、それにカルラが答えるも、その事実がありえないと感嘆の溜息をもらす環奈。それだけアルトの作り出したものは一流品で、これを見ていた観客生徒は、大きく彼の評価を上げることになった。

「……けど、今ので終わりなんて言わないよな? 菫」

 静かに呟く正純は、炎に呑まれて吹き飛ばされた菫を追う画面を睨みつける。

 

 

 菫が最初に目にしたのは緑色の粒子の輝きだった。

 それが自分を包むリタイヤシステムの輝きだと気づいて、急いで飛び起きようとし、上手く体が動かせないことに気付く。

(お、思いっきりやられた……。全身痛いし、熱い……。神格の痛み、が、これほどなんて思わなかった……)

 大きく長く呼吸を整え、自分の自己治癒能力を高める。粒子が消え去り、何とかリタイヤを間逃れたところで状況確認。

 周囲は開け、氷山の上に出てきてしまっているようだ。どうやら自分は、斜め上に氷の壁をぶち抜き、そのまま地上にまで撃ち出されてしまったらしい。姿勢を変えて自分が飛ばされてきたであろう方角を見ると、少し先に、斜めに撃ち抜かれた大穴が開いていた。どうやら自分はあそこから出てきたようだ。

 穴の大きさは自分の二回り大きいくらい。それほどの火力に押し出されてよくも無事だったと感心する。

(軻遇突智とまともにやりやってた金剛……、今にして思うと、凄過ぎな、い……?)

 アレとまともに殴り合うなんて、金剛以外には絶対できないと感心しながら、菫はその気配に気づいていた。

 弥生だ。弥生がぶち抜いた穴を通って追いかけてきている気配を感じ取る。油断する事無く、様子を見るでもなく、きっちりトドメを刺しに来たのだ。

 まったくもって末恐ろしい戦闘狂だと半分関心、半分呆れながら、菫は生徒手帳から新しい剣を取り出す。

(正直、もう殆ど限界だけ、ど……)

 ゆっくりと体を起こし、目を瞑って意識を集中させる。

 取り出した剣は“二本”。一本を携え、もう一本を操る。今考え付いた新技をもって、弥生に対抗する。

「ナイン・アラベスクの、一点集中ッ!」

 技の名はない。これにはそれは必要ない。

 一本の剣が全力で射出され、穴から出てこようとしている弥生に、タイミングをばっちり合わせて飛来する。

 穴から飛び出してきた弥生。

 正面から飛来する剣に気付き、僅かに体を逸らして回避―――する方向に合わせて剣の軌道が変わった。

「―――ッ!?」

 咄嗟に地を蹴り大きく逃れようとするが、刃は磁石に吸い寄せられるかの如く、軌道を捻じ曲げ迫る。一切の減速無く。物理を無視するかの如く、真っすぐ切先が弥生に向かう。

 ―――避け切れないっ!?

 そう悟った瞬間、鮮血がほとばしった。




正直、まだ見てくれている人いるのか不安でなりません。
って言うか、時間空けすぎてるし、二度失踪したとか思われてそうです。

それはさておき、今回はEクラスが地味に活躍しているところを描きたかったので、それが伝わっていればと思います。
もちろん、主役は決勝の二人です。思いっきり派手にバトル方向でいかせてもらっていますよ!
次回もお楽しみに!


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