アル社長を曇らせたいブルアカss (一般通過猫)
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キヴォトスの平均的日常の一角
原作で十分曇ってるからいいんじゃねえかな…?そうだね
キヴォトスの空はいつだって美しい。
抜けるような青さに白い雲、燐光を放つ大きなヘイロー。
雨や雪を降らす顰めっ面の時も、その雲の切間から覗くヘイローの曲線が弧を描く口元に見えて、それが笑顔みたいで。
いつだって私たちを見守ってくれる、そんな優しげな姿を、空に感じ取れた気がして。
そんな空にの下でなら、どんなことでも頑張れると、そう思っていた。
まぁ、そんな純情でポエミーなことを考えていたのも小学生の頃までだった。
『ウオオァァァァァァァァァーーー!!!!!!』
ばきゅーん、どかーん、ずがどーん、だーーーーー、がっしゃああん
「ぐえあぁ!?」
「っ!?」
突如として窓ガラスをぶち破って突っ込んできた推定人型物体。
いくつものガラス片が引っかかって触れるもの皆傷けるハリネズミと化したそれが思いっきりぶち当たって、私は腰掛けていた椅子や机ごと吹き飛ばされて仲良く壁に叩きつけられた。
首から鳴ってはいけない音が聞こえた気がする、視界が歪む、口の中に血の味が滲む。
そしてあまりにも理不尽な災難に見舞われた私の胸中には、それを嘆く悲しみの情が少々と、比較にならないほどの怒りが込み上げてきていた。
「くっそ〜! あいつら調子に乗りやがって……目にもの見せてやる!!」
ガチャリ、とショットガンをコッキングするガラスハリネズミ。
私は変な方に曲がった腕を無理やり引き伸ばして正常な形に戻し、そんなハリネズミの肩をポンポンと叩いた。
「あっ!? なんだよ今のっぴきならねえ戦いのさ……いちゅ……」
「へぇ、そいつは大変だ、私も手を貸してやろうじゃないか」
笑顔とは攻撃性の表れだという。
であれば今の私はさぞ、慈悲深き表情をしているのであろう。
口はへの字に曲がり眉は逆さに吊り上がり目はバッチリと見開いた、それはそれは怒り散らした表情は笑顔とは程遠いだろうから
「ゲーーーーーーッ!? て、テメェは風紀モドキの……!!!」
「ひとまず全員、片っ端から身動きとれないようにしてやる」
とりあえず掴んだそいつの肩を握りつぶして壁に叩きつける。
全治2日程度の軽傷を負わせた私は、ぶち破られた窓の外で馬鹿騒ぎを続ける救いようのない生徒諸君を黙らせるべく愛銃を掴み外に躍り出た。
この無益な争いを終わらせ、ゲヘナに平穏を取り戻すために舞い上がった私の姿はきっと素晴らしく『トリニティ』めいていたであろう。
***
ノックを四回、きっちりこなして返事を待つ。
可愛らしい声で入室の許可が出たので、ドアノブを回してその部屋と踏み行った。
「失礼します。 風紀委員長、今日の午後2時過ぎに発生した校庭での乱闘騒ぎに関して、被害をあらかた調べ上げ、また仕立て人を全員縛り上げ反省室にぶち込みました。 こちらにまとめてあります、どうぞ」
「えぇ、助かるわ」
ゲヘナらしい装飾に彩られた風紀委員本部の執務室の奥に座する、空崎(そらさき)ヒナ委員長にまとめ上げたレポートを手渡すと、彼女はかすかに微笑んだ。
「お疲れさまです、入間さん」
「おかげで助かった。 特に全員再起不能にしてくれ辺りとか」
「また暴れられたらコトでしたから、あとついでに新品の椅子を破壊されたので」
「あぁ……」
わざわざ校庭から離れた位置に確保した部室にピンポイントで突っ込んできやがって、使い慣れたテーブルも椅子も見事にバラバラにされてしまった怒りは根深い。
主犯格の生徒は念入りに踏み躙っておいたので、トラウマを覚える程度の知能があればもうこちらに被害を及ぼすことはないだろう……が、相手はゲヘナ生である、望みは薄い。
「災難だったわね、テコ……はぁ、また修繕費が嵩む、書類が増える……」
「……あれ? 入間さん、これ入間さんの部屋の被害が書類に記載されていませんが?」
「そっちはこちらで支払っておきます。蚊に刺された程度にもならない出費だがら気にしないでください」
風紀の面々はちょっと働きすぎだから、協力できるところは協力する。
こちらで勝手に修繕するのならばわざわざ届出を出して仕事を増やすこともない、その代わり窓ガラスや壁の材質を無断で強固なものに改造するが、そのあたりはヒナ委員長は黙認してくれる、お互いにwinwinのやりとりと言えるだろう。
苦笑するアコさんにパッチリとウィンクを返した、どうか見逃してほしい。
「では今日はこれで失礼します」
「あら、もうですか?」
「お仕事お手伝いしたい気持ちは山々なのですが、ちょっと受けたダメージが抜け切ってなくて」
「わかった、しっかり休んで、テコ」
「あなた方も、ね」
私がそういうと疲れたような笑みを浮かべる2人。
どうかこれ以上仕事が増えませんように。
まだ違和感のある首をゴキゴキと鳴らしながら、報告を終えた私は執務室を後にした。
***
学園都市、キヴォトス。
数千の学園が連邦を成した超巨大学園都市。
主な住人はロボ、犬、猫、生徒。
女集団が頻繁に集まっては姦姦姦姦姦姦姦姦しい銃撃騒動が、そこらじゅうで発生するなんとも賑やかな街であり、そして私、入間(いりま)テコもそこに住まう生徒の1人だ。
髪は茶髪で背丈は平均よりちょい下、趣味はカラオケで誕生日は9月29日。
至って平凡なゲヘナ生徒である私には、少しばかり秘密がある……と、一山いくらの小説なんかならこんなふうに物語が始まるのだろうが、私には大それた秘密なんてものはない。
足繁く学園に通い、勉強に精を出してお洋服の買い物にお熱を上げる。
そんな、掃いて捨てるほどいる学生の1人に過ぎない。
強いていうのであればゲヘナ生にしては随分と勤勉で真面目なことだ。
ヒナ委員長にそう評されたのだから、間違いはない。
あとはまぁ、たまに不良狩りをして迷惑料を徴収する程度かな。
「えーっと今日はどうしようかな……」
スーパーマーケットに立ち寄り、今日消費してしまった弾薬を補充しつつ、本日の晩御飯のメニューに想いを馳せる。
食べ盛りの子供を満腹にするには味だけではなく量も重要だ。
ふと視界の片隅にかた焼きそばなんてものが映る。
これなら餡を作ってかければ出来上がりだから手軽だし、なかなか食べる機会もないようなものだから新鮮な気持ちでいただけるんじゃないだろうか。
よし、これに決めた。
麺を五つと、餡掛けに使う材料にとりあえず玉ねぎとキャベツ、それとおやつとかコーラとか。
後は手榴弾をいくつか放り込んでお会計を済ませる。
ずっしりと重いマイバッグが繋がりかけた右腕に負荷をかけてくるのがなんとも痛気持ちいい。
明日は部室の修繕でちょっと忙しいから、今日のうちに気分転換は済ませておきたい。
私は左手でモモトークを起こし、お目当ての人物へとトークを送った。
『食べたい!』
とっくに材料を買ってから訪ねるのなんて変だけど、断られた試しがあまりないのでつい、惰性でこうしてしまう。
無邪気な返事に温かい気持ちになりながら、目的地のビルへと足を向けた。
***
「おじゃましま〜す」
「あ、いらっしゃい」
扉を開けると、立派な事務所が待ち受けていて、その中のソファに1人少女が腰掛けていた。
親しげに声をかけてくれた彼女は立ち上がって、私の右手のバッグを預かってくれる。
「こんにちはカヨコさん」
「うん、こんにちは、今日もありがとね。 何作るの?」
「かた焼きそばの予定でございますよ」
「へぇ、いいじゃん」
「他のみんなは?」
「今は外回り中、というか仕事探しだって」
それはまたご苦労なことで。
事務所に備え付けられているガスコンロに火をつける。
見栄を張って高いところに居を構えてるだけあって、割と設備が整っているから調理に関して不便は少ない、冷蔵庫にコーラとキャベツを突っ込んで、使う材料は適当にスペースに並べておく。
きっとお腹をすかせてるだろうから、帰ってきたらすぐに出来立てを用意してあげたい。
「手伝うよ」
「ありがとう、皮剥きお願いしますね」
にんじんやら玉ねぎやらの処理をお任せしつつ、フライパンに油を敷いて片栗粉やら調味料やらを棚から引っ張り出す。
うん、全然減ってないや。
もう少し自炊とかした方が食費は浮くと思うのだが、事務所の一角でフライパンをちゃっちゃか振り回すのはアウトローの美学に反するのだろうか。
溜息を一つこぼしながら手早く餡を作っていく。
「最近はどうですか?」
「仕事自体はあるよ、ただ割とピンチな時も多いかな」
「やっぱり仕送りしましょうか?」
「いやーキツイでしょ」
「社長が?」
「私もキツイかな……友達からお金を恵まれるっていうのは」
いまさらじゃないかな? とは口には出さない。
できるだけ彼女たちの生活に手助けはしないのがお互いの暗黙の了解だ。
料理の味見役をお願いしたいという形でご飯をたびたび作りにきてるけど、それだって本当はあまり良くない。
私が彼女の役に立ちたいという我儘を押し通してるだけなんだ。
それからしばらく無言で、最近ハマってるバンドの音楽なんかをスマホで流しながら作業を続ける。
あとは餡を弱火で煮込み味を整えるだけだけど油断すると焦げ散らかすので目を離すのはNGだ。
と、それから数分もしないうちに、事務所の階段をかつかつと鳴らす音が響き始めた。
「帰ったわ」
「ただいま〜! あ、いい匂いがする〜!」
「お、お疲れ様でした……」
「3人とも、お邪魔してま〜す」
「テコ、よくきたわね」
キッチンから顔を出すと、アルちゃんが不敵な笑みでもって歓迎してくれた。
ぺこぺこと頭を下げるハルカちゃんとヒラヒラ手を振るムツキちゃんに軽く手を上げておく。
「ご飯もうすぐ準備できるから、手を洗って座っててよ」
「ええ、ありがとうテコ」
「わーい! 今日は何を作ってくれたのかな? 見せて見せて〜!」
キッチンを覗き込んでくるムツキちゃんを見守りつつも、お皿に砕いたかた焼きそば麺を盛り付け餡を乗せていく。
物珍しい一品だからかムツキちゃんが目を丸くしているのがなんだか愛らしい。
あとは人数分のコップと開けたばかりの1.5Lコーラのボトルを運び込んで配膳を済ませればあっという間に晩御飯の準備完了だ。
「はい、本日はかた焼きそばです。 お味の批評を是非ともお寄せください。 あっついから気をつけてね」
「かた焼きそば? なんだか聞いたことないけど美味しそうじゃない!」
エビに豚肉に色々野菜も混じった餡が絡んだかた焼きそばは見た目はなかなか美味しそうだ。
各々が好き勝手に匙を手に取ったのを見て、私も早速口に運ぶ。
「んん! おいしぃ〜♪ テコちゃんまた上達した?」
「カヨコさんが手伝って味見してくれたからね」
「皮むきとカットしかしてないって」
「お、美味しいです。 ありがとうございますテコさん……」
みんなも美味しそうに食べてくれてるのでどうやら上々の出来のようだった。
少し嬉しい気持ちになりながらもちらりと視線をアルちゃんに移す。
さっきから黙ってるけど何か口に合わなかったかな?
「……!! ……っ!」
あっ、必死に口元押さえて歯を食いしばってる。
ははぁん? さては餡をガッツリ頬張って火傷したかしら?
片栗粉でとろみつけるとなかなか冷めないから、油断するとこうなっちゃうのだ。
「お水汲んでくる?」
「あ、あいひょふ……おいひいは、あいあおう……」
涙目になってるしこれは舌を派手にやったかもしれない。
私は黙ってキッチンへ向かい、よく冷えた水をコップに入れてあげた。
「焦らなくていいからゆっくりね」
「わ、わういわへ……」
もう完全に呂律が回ってない痛々しい姿は完全にドジっ子のそれだがそれを口にしない情けが私にもあった。
そのあとはなんというトラブルもなくみんな綺麗に完食してくださいました。
お粗末さまでした。
***
「じゃあ今日はそろそろ帰るね」
「大丈夫? 大通りまで送ろうか?」
「大丈夫ですよ。 じゃあまた連絡しますね」
そのあと私たちは近況報告も交えつつお菓子を摘みながら時間を潰したりなどした。
気がつけば時計は単身が左上の方を指すくらいの時間になっている、そろそろ帰った方がいいだろう。
そういうわけで事務所を出ようとする私にカヨコちゃんがそう言ってくれたが、それをやんわり断って、私は外に出た。
便利屋の面々は、強い。
一人一人が、私よりもずっと。
だからこんな路地裏に住処を作っても平然と暮らしていけるのだ。
「……」
カツカツと大通りへと向かう道を進みつつ、背後をつけてくる気配を感じ取った。
そのまま構わずまっすぐ進む。
おそらく、既に連絡が回って周囲を取り囲まれているだろう、小路地に身を隠そうが封鎖されているだろうからなるべくまっすぐ短い道を行く方がいい。
数を相手に小細工はあまり意味がない。
ダガン、と銃声が聞こえるよりも早く、背負っていたバッグパックを左手に掴み体の前の方を覆った。
ガン、ガンと硬質の金属をぶっ叩く鉛玉の音。
それと同時に多数の足音と共にいくつかの人影が私の前へと姿を現した。
「昼間はよくもやってくれたな風紀モドキ」
「……うわぁ、どうせ
「治ってないが? 今もまだお前に念入りに踏み砕かれた左腕がズキズキするが?」
「じゃあなんで今日この日に襲撃してくるんだ……」
案の定そこに姿を現したのは、私が念入りにミンチにしておいた本日のゲヘナ暴動の首謀者とその取り巻きの連中であった。
「こうも舐められっぱなしじゃメンツが立たないからな、風紀委員に媚を売るお前みたいな奴がゲヘナじゃどうなるか、そろそろ教え込んでやろうっつったら賛同者がたくさん出てきたんだよ」
「そのバイタリティを学生らしく勉学へ向けろよ不良ども……ま、ちょうどいいかな」
言ってもわかるまい。
言ってわかる連中だったら、そもそもこの場に足を運ぶことはないからだ。
連中は本当にわからないのだろうか。
風紀に協力的な私をリンチにかければ、風紀に徹底的にマークされることが。
その辺りが考慮できないからこんな馬鹿なことができるんだろう。
「私もちと生ぬるかったと思ってたんだよ、昼間の仕打ちがな」
控えめに言ってあまりよろしくない状況だが、こんな馬鹿どもに許しを請うのはプライドが許さない、私にだって、つまらないながら意地がある。
心を奮い立たせ、付け入る隙を隠すように私は唇で弧を描いた。
「ひとまず……高級作業チェアにテーブル、窓や壁の補修代金としてお前ら全員の有金と無人契約機で限度一杯まで引き下ろした金を請求させてもらうとしよう」
「おおそれはいい案だ! ただ払うのはてめえの方だがなぁ!!」
頭目が私に向けてアサルトライフルの銃口を向けてくる。
それを認識するより前に私は動き出していた。
「せいっ!!」
「のわっ!?」
左手のバッグを軽く放りそれを思いっきり足裏で蹴り飛ばす。
突然眼前へ迫ってきた鉄鋼入りシールドバッグを慌てて避けようとした頭目、カバーしようと動き出す取り巻きども。
全てが遅い。
その時既に私は背負っていたライフルを引き抜いていた。
──MR《マークスマンライフル》ウィッチ・ステッキ。
横倒れになるように体を傾けて射線から胴体を逃しながら、その銃口を慌てふためく頭目へと向ける。
頭に二発心臓に二発、快音がその数だけ響き渡る。
「ぐべぇ!?」
吹き飛んで壁に叩きつけられたのを目視してから、地面に手をつき、一気に転がって近くのコンクリートブロックに体を隠す。
直後に猛烈な勢いで鳴り響く発砲音、背負う遮蔽物に猛烈な勢いで弾丸が叩き込まれる。
一気に場が熱を帯びてくるのを感じながらポケットのグレネードを敵の集団の方へと投げ込み、先ほど投げたシールドバッグに向けて左手に仕込んだ電磁マグネットを作動させる。
ゴミを巻き上げながら一気に舞い上がり戻ってくるバッグを確保、ライフルを保持しバッグでガードを固めながら物陰から飛び出す。
その直後、ちょうど放り投げたグレネードが炸裂する。
慌てて回避したのか陣形が崩れている敵に向けて素早く弾丸を叩き込んでいく。
(視認できる敵の数は、8……おそらくあと三倍はいる)
ここへと駆けつけてくるであろう敵増援を想定すると、ここにとどまるのはよろしくない。
であれば、取れる手段は一つ。
「お前だな」
「ぐっ」
地面に転がっていた頭目を引き摺り起こして、敵集団の方へとその体を向けさせる。
ていのいい肉盾だ、少なくともない頭を振り翳して色々命令するよりこっちの方が役に立つだろう。
「て、てめ」
「喋るな」
「ぎゃあ!?」
ストックで思いっきり頭部をぶん殴って黙らせた。
多くの敵がこの状況に困惑し射撃を躊躇し、その隙に大通り側へと一気に敵を突破し駆け抜ける。
一方向に敵を固めてしまえば後はそのまま立ち去るなり1人ずつ処理するなりいくらでも対処できる。
まずは包囲網を突破するべくいっきに踏み込み……
「死ねぇー!!!」
「は?」
「え?」
考えなしのバカが放ったグレネードランチャーがちょうど私の真横で炸裂するのを、頭目と一緒に間の抜けた声で迎えることとなった。
「っ……クソ」
甲高い耳鳴り、明滅する視界、咄嗟に肉盾を向けて爆発から身を守ったものの爆炎と破片は容赦なく私をビルの壁に叩きつけ、ついでに庇いきれなかった右腕の一部に大きな破片が突き刺さった。
ちょっと頭目の方は今目を向けたくない、グレネード一発では逆立ちしても死ねないだろうが悲惨なことになっているだろう……
「リーダー! あんたの犠牲は無駄にはしない!」
「私たちがこいつを成敗して、あんたの意志を継ぐよ!」
「ぶっちゃけあんた馬鹿すぎてついていけなかった!!」
色々はっちゃけるじゃねえか……
ライフルを杖代わりに体を起こせば、壁を後ろに180度を不良どもに取り囲まれていた。
全員がニヤニヤと笑って勝利を確信している。
気に食わない、気に食わない、気に食わない。
「さて、風紀モドキさんよぉ。 あんたには散々世話になったから、特別におもてなしさせてもらうぜ?」
「まぁまずはうちらのアジトでさ、歓迎会といこうや」
集団の中の1人が、私の方へと無造作に手を伸ばしてきた。
足はふらふら、銃は杖代わり、今の私は手も足も出ない瀕死の獲物。
そう、思ったのだろうか。
嗚呼、本当に……
気に入らない。
なので私はその掴みかかってきた手に思い切り噛みついた。
「げっ!?」
「っ──────!!!」
声にならない雄叫びをあげながら、私は銃を支える手と首と顎の力でそいつを思いっきり振り回した。
想定外の反撃に慌てる集団に向けてそのまま思いっきり振り回したそいつを叩きつける。
わずかな空白、その隙にポケットのグレネードを地面に叩きつける。
こいつは接触信管だ!!
「グレ──」
1人の声が響き、そして爆音に消し飛ばされた。
一発も二発も変わらないだろう、その覚悟で自分ごと敵集団を吹っ飛ばして脱出。
身体中火傷と鉄片で酷い有様だが、こんな奴らに負けるよりはよほどマシだ。
(服の買い替え費用も追加だな……)
歪んで真っ赤になった視界の中で、怒り散らした敵たちのいくつかが起き上がるのが見えた。
その後ろから駆けつけてきた増援達。
グレネードは後一発。
状況はよろしくない。
だがこんなところでは負けられない。
「私は、ゲヘナ二年生、風紀委員予備戦力、そして便利屋68の外部協力者入間テコだぞ……」
変な方に曲がった指を引き伸ばし、マガジンを入れ替える。
逆さに折れた足は動くのに適さない、その場に腰を下ろし離さなかったシールドバッグを体の前面に置き、ライフルを敵集団へと向ける。
「かかって、きやがれ……!!」
次からはこんな状況に合わせて、弊所でも取り回しの良いサブマシンガンでも携行するようにしようか、怒りのままにこちらに攻撃を仕掛けてきた敵達に対し反撃を開始しながら、そんなことを思う。
隠しきれない肩口や頬を銃弾が掠めていく。
徐々に彼我の距離が詰まっていく。
足を集中的に狙い転げさせ遅延させる。
最後のグレネード投擲、爆破。
敵は残り、4。
最善手を、最善手を、最前手を──
構えていたライフルが、銃弾を受け弾き飛ばされた。
嗚呼、なんということだろう。
まさかこんな奴らにやられてしまうなんて。
まさか想像もつかないほど人望のないリーダーと想像の外にいるほど馬鹿な部下という組み合わせのせいで、こんなそこら辺に転がってるような騒動でやられてしまうなんて。
(まぁ、私なら所詮、この程度か……)
本当は、頼りたくなかったんだ。
私でもできるんだということを証明したかったんだ。
でも、やっぱりダメだったようだ。
だから助けを求めた。
その直後、私の背後に数人の気配が現れた。
「後は任せなさい」
振り返った先に、緋色の髪を闇に靡かせるシルエット。
片手間に操作したスマホでメチャクチャなモモトークを送っておいた。
それを、察してきてくれたのが、嬉しかった。
「アルちゃ……」
崩れ落ちる体を抱き抱えられる感触。
それを最後に、私の意識は闇に落ちた。
オリ主の地形適性は市街地Dです
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常識人(※ゲヘナ基準)
突然だが今私は正座をさせられている。
ふかふかソファの上、膝を折った姿勢で座りこみ、両手をその曲がった膝の上に置いて首を垂れている。
「どうしてあんな無茶をしたの」
「ごめんなさい」
「すごく心配したんだから」
「申し訳ありません」
「火傷と裂傷でズタズタの姿を見たときは背筋が凍ったわ」
「返す言葉もございません」
「あらら、アルちゃんてば珍しくすっごーい怒ってる」
「いや怒るでしょ、だから送ってくって言ったのに」
「あ、アル様がお怒りに……私がついていって身代わりになってれば……」
周りの3人がさまざまな反応をする中、じとりと細めた目で私を見下ろしてくるアルちゃんにこんこんとお説教をされていて、それを甘んじて受け入れるという生き恥を晒している最中であった。
***
鈍った脳みそを鈍痛に揺さぶられて、目が覚める。
瞼を開いて、ぼんやりとした視界が開けていってまず、なんでこんな痛いんだろうと身体中がをジクジクと蝕む疼きに顔を顰めた。
次にふと見慣れない景色にここはどこだと混乱してから、壁にかけてあった時計がお昼頃を指しているのを見て、今日が平日であることだけはしっかり覚えてて、心臓が嫌なビートを奏で始めたりした。
寝過ごし確定状況、見慣れない部屋、痛む体。
これらの情報が脳内でまぜこぜになってしばらくの間混乱の最中にあった私を掬い上げたのはコツコツと響いたノックの音であった。
「し、失礼します……あ、お目覚めになられたのですね、よかった……」
はたして返事も待たずに入室してきたのはハルカちゃんだ。
彼女の顔を見てようやく夜中の出来事を思い出した私は、包帯まみれの痛む腕を持ち上げて、額を抑えた。
「そうかぁ、私は負けたんだった……あんな出来損ないどもに」
手を煩わせたくないという意地を張った結果結局彼女たちに助けてもらうという更なる迷惑をかけてしまって。
そのみっともない結末がこれとは、私は羞恥で俯いた。
「お、お身体の方はどうですか?」
「あ、えーっと、うん。 大体良さそう、かな?」
私の体は少し治るのが遅い。
至近距離でのグレネードの爆発を二発もくらったものだからまだ刺すような疼くような痛みが身体中を蝕んでいるけれど、少なくとも昨晩の掠れる意識の中鋼鉄の処女の胎内に抱かれるような苦痛と比べれば雲泥の差、という程度までは回復している。
そう告げるとハルカちゃんはほっと一息ついた。
「そ、そうですか、よかったです……ぁ、私、お目覚めになられたことをアル様に教えてきますね!」
「あぁ、はい」
そうして部屋の外に出ていったハルカちゃんをぽけーっと見送りながら、さてどうしたものかと私は考える。
とりあえず、今日は学校を休む旨を連絡しなければならない。
まずはモモトークを開こうと枕元に手をやり……スマホが無い。
どうしよう、連絡手段ない。
そうなると電話でも借りて連絡をしなければならないのだけれど。
どうしようどうしようと、うんうん唸っているとカツコツ靴音が近づいてきて、扉の方からぬるりと事務所の主であるアルちゃんが顔を覗かせてきた。
「テコ……目が覚めたのね」
「はい、おかげさまで。 昨日は、ご迷惑をおかけしました」
「気にしなくていいわ。 テコは便利屋の外部協力者だもの、仲間の危機とあらば決して見捨てはしない」
「おぉー、アルちゃんカッコイイ」
「まぁ、それはそれとして」
「はい」
「テコ、正座をなさい」
そして、冒頭に戻る。
「今度からは夜遅くになったら送って行くから。 それと夜遅くに尋ねてくる時も連絡しなさい迎えに行くから」
「ハイ……肝ニ銘ジマス……」
「まぁまぁアルちゃんその辺でさ。 お陰で結構な稼ぎもあったしテコちゃんも悪気はなかったし!」
そんな光景から目を逸らし、そろそろ足が痛みと痺れで辛くなってきた頃にムツキちゃんがフォローをしてくれた(稼ぎとやらはテーブルの上に積み上げられた雑多な財布やら軍需品やらを見て大体理解した)。
仕方がない、といったふうにアルちゃんがため息をついたので、隙を逃さず私は足を崩した。
ムツキちゃんが対して細くもも太くもない大腿部をツンツンしてきて猛烈な痺れに思わずうめく、やめい、やめぬか。
「まぁでもホント心配したから。 社長なんか泣きすがってこれどうしようどうしようって騒いでたし」
「カヨコ」
「はい、本当にこれからは気をつけるし遠慮なくご厚意を受け取ります。 アルちゃんも本当にありがとね」
「……もうほんとに無茶しちゃダメよ?」
アルちゃんが仕方がないといった具合に笑ってくれて、ようやく場の空気が弛緩した。
「で、ここで話が変わるのですけど」
「なになにどうしたの?」
「便利屋の皆さんに依頼があります、今日1日ここで匿って養生させてもらえませんか? 後電話貸して……」
***
私という存在を一言で説明すると、「とてつもなくめんどくさい女」だ。
……もう少し詳しく説明する。
まず、私『入間テコ』は厨二病である。
それもまだ物心を覚え始めた頃から今までずっと継続し続けていて、直そう直そうと思っても未だ夢想を捨てきれずにいる筋金入りのみっともない女だ。
自分という存在の矮小さを、年月と共に自覚しながら尚身に余る夢を捨てきれずにいてそのくせ弱さを理由にそれに挑戦することもできない、掃き溜めに寄せ集められた虫のように価値のない存在。
幼少の頃は何にだって挑みかかる危なっかしいガキだったそうだけれど、少なくとも、訳知り顔で何にでも消極的な姿勢である今の私と比較すれば月と鼈ほど価値の差があるだろう。
そしてそんなダサい自分のことがたまらなくキライだ。
それ故に、私は誰かに助けてもらうのが好きではない。
価値のない自分のために誰かに労力を割かせるのが申し訳ない……というわけじゃなく。
自分の失敗をフォローされるその過程で、無能だとか迷惑なやつと思われて嫌われるのが怖いからだ。
逆に誰かの役に立つのは好きだ。
自分よりも価値のある人たちの手助けをすれば、自分なんかにも存在する理由はちゃんとあると、ホッとできる。
全てにおいて自分を中心に物事を考える自虐的で厨二の痛々しい女。
それが、この『入間テコ』という女に対する自己評価となる。
であるからでして。
「はい、あーん」
「やめたくださいまし、やめてくださいまし」
このようなシチュエーションに遭遇すればキャパオーバーになるのは明白でございまして。
「ムツキちゃん、手は普通に動かせるから大丈夫でございますから普通に食べさせてくださいまし」
「だ〜めっ! 依頼を受けた以上は完璧にこなすのが便利屋68のモットーみたいなことアルちゃんがいってたようないってなかったような気がするから、完璧にお世話しちゃうよ〜」
「やめてくださいまし! やめてくださいまし!!」
あの後二つ返事で依頼を受理してもらえた私は、まず真っ先にゲヘナへと連絡を入れた(スマホは奇跡的に無事だったらしく充電器に刺されて安置されてた)。
『不良集団に凹されて心も体も参ってるので本日は休ませていただきます 〜テコ〜』みたいな至極ふざけた内容だったがゲヘナはその辺り適当でなんなら休日申請しないやつの方が多いので問題はない。
ヒナ委員長にもモモトークしといたのでとりあえず安心だろう。
それを終えてからようやく再び仮眠室のベッドを借りて横になったのだが、何も食べてなくてご機嫌斜めな声を上げたお腹に顔を赤くしていたところムツキちゃんがプリンを持ってきてくれたのだ。
まぁ昨日私が買ってきたやつだけど。
ちなみにカヨコさんは替えの服を買いに行ってくれて、アルちゃんとハルカちゃんは周囲の哨戒に出てる。
それはともかく、あーんである。
漫画でよく見るアレ。
私個人のクソみたいなコンプレックスは置いとくとしても見た目私より幼いムツキちゃんにそういうことやられるのは普通に恥ずかしい。
「自分のペースで食べたいからさ、お願い」
「ダメ〜、これはアルちゃんの言いつけなんだよ? テコが無茶しないようになさいって」
「無茶でもなんでもないじゃないですか」
プリンを自力で食べるのが無茶ならゲームガールをプレイするのも無茶に分類されそうだな〜とか思いつつ。
ニヤニヤとこちらを眺めてくるムツキちゃんに観念して、私は雛鳥のように口を開けてプリンを受け入れた。
うん、安物の甘い味わいがなぜか今はありがたい。
「それにしてもテコちゃん、なんであんなことしたの?」
「あんなことって?」
「多勢に無勢じゃん。 普段はあんな無茶しないでしょ?」
「勝てる見込みはあったんです、本当ですよ? そうすればあいつらから迷惑料としてお財布の中身と無人契約機で限度いっぱいに降ろさせた金を根こそぎ徴収しようと思って」
「そんなにお金必要なの?」
「あいつらのせいで今日部室が破壊されてイライラしてたんです」
ははーんと納得したような相槌をしたムツキちゃん。
貯蓄はある、あるがそれもガンガン使っていいほどじゃない。
それなのにあいつらのせいでぶっ壊されたのなら修理代と迷惑料治療費etc…を請求しても、バチは当たらないはずだ。
「それがまさか頭目ごと巻き込んで爆破してくるとはね……」
「うわー、それはバカじゃん」
「ほんとね……そういえば、そのバカどもは? 武器とか財布はかっぱらってたみたいだけど」
「みぐるみ剥ぎ取って裏通りに捨てておいたよ」
まさに悪の所業、私は思わず拍手を送りムツキちゃんはピースをした。
これで便利屋68の悪名はさらに知れ渡るでしょう、アルちゃん的にはかなりめでたいお知らせだ。
「あれで理解してくれれば助かるんですけどね……またあいつらが暴れ始めたらそのときは素直に依頼するかもしれません。 生まれてきたことを後悔するくらい痛めつけてあげて欲しいって」
「任せて〜! そういうのだいっ歓迎だから!」
「頼もしいなぁ。 あーん」
プリンを受け入れながら、雑談に興じつつ、思考は外側へ。
便利屋のみんなのおかげで当面の危機は脱したと見ていい、であれば次の課題は明日の過密スケジュールをどうこなすかである。
明日には私の怪我も完治するだろうけど、その後が問題だ。
先ずは私を襲撃した奴への厳罰を提案しなきゃいけないし、部室の修繕依頼もしなければならない、修復業者には護衛をつけなきゃいけないしそろそろガジェットの〆切も近い。
風紀委員の仕事も手伝わなきゃいけないし便利屋通いも続けなければ。
これから一週間は退屈とは無縁の日々になりそうだ。
「まぁ、まずはこの怪我を治してアルちゃんに外出許可をもらうのが先決かなぁ。 あーん」
「はい、あーん……ぱくっ」
「あーっ! なんでムツキちゃんが食べるんですかー!?」
「くふふ、おいしそーだったんだもん!」
この体ではろくに抵抗もできず、たまに差し出されたプリンを没収されたりしてじゃれつきながら、今日はそのままのんびりとした1日を送ることとなった。
***
「これはひどい」
翌日、アルちゃんに本当に大丈夫かと心配されながらもすっかり良くなった私はゲヘナ学園は登校したのだが、朝イチで確認した部室はそれはひどいことになっていた。
おそらく規制線が張ってあったであろうポールは横倒しにされ、砕け散っていた窓ガラスはさらに念入りに破壊され部屋の中は荒らされ放題だった。
まぁ、ゲヘナ基準で言えばこの部室は現在『どうぞお入りください』と看板が立ててあるようなものだ、金目のものは根こそぎ奪われただろう。
取り敢えず天井の四隅に仕掛けてある監視カメラが無事であることは確認したので犯人は全部特定して戦車轢き潰しの刑に処してやろう。
そんな物騒なことを考えている私の背中に声がかけられた。
「ごめんなさい、警備に人手を使えなかったの」
「え? あ、ヒナさん」
「おはようテコ。 怪我はもう大丈夫?」
振り向けばそこにいたのは風紀委員長のヒナさんだった。
私より頭半分ほど低い背丈からは想像もできない圧を放っているけど、こうでもしないと身の程知らずがちょっかいをかけてくるとぼやいていたのは随分前のことだった。
「おかげさまで、怪我はすっかり良くなりました。 盗人は後で特定して『私刑』にかけますので見逃していただけますか?」
「やりすぎるのはほどほどにしといてね」
「それはもう。 ところで開発中の新型防御ガジェットですけど、この惨状なのでちょっと完成が遅れるかもしれません」
「大丈夫、それはもう織り込み済みだから。 テコは焦らずいいものを完成させて。 じゃあ、無事も確認できたし私は仕事に戻るから」
「はい、ありがとうございました。 放課後にお手伝いに行きますから」
小さく手を振ってくれたヒナさんに頭を下げて、ひとまず私は窓枠を乗り越えて部室の中に入った。
暴虐のかぎりを尽くされた部室ではあるがこんなもの日常茶飯事なので気にすることはない。
ふと、どうやら衝撃で外れはしたものの破損は少ない部室の看板が足元に置いているのを見つけた。
これは再利用できるだろう、埃を適当に払ったそれには、『ガジェット開発部』という文字が書かれている。
──ガジェット開発部、通称ガジェ発。
今は三年の先輩方が設立した、その名の通り様々なガジェットを開発する部活だ。
日用品から戦闘補助、さらには独自のOSまで開発するような手広い活動内容が売りで、ゲヘナの中では数少ない真面目な活動をする部活で私もその評判を聞いて入部した。
ところがそれらは全部監視の目を欺くために猫をかぶっていたに過ぎず、秘密裏に地下施設で開発していた都市部制圧用侵略ロボ『パルバライサ』作成こそがガジェット開発部の本当の目的だったのだ。
ちなみに私が風紀委員にそれをチクッたので計画はその日に頓挫した。
完成まで後二週間、ギリギリだった。
当時一年の私以外の全員がお縄になったので、今や私だけがこのガジェ発のメンバーだ。
取り敢えず業者に電話を入れてから、部屋の掃除を開始する。
散らばった破片、こびりついた血痕、薬莢その他諸々全部片付けるとなると相当な手間だ。
巨大な残骸なんかは適当に外に放り出していくと、その中でキラキラと金属光沢を放つ物体があった。
どうやらこれは、盗人の手から逃れたらしい……まぁ、残骸の中に埋もれてたし。
「どれどれ? おお、内部も無事っぽいですね」
引き摺り出した開発中ガジェットを点検し、どうやらさほど破損した部分はないことを確認する。
細かい傷なんかで済んでるあたり、これの頑丈さの証明になったのではないだろうか。
取り敢えずスイッチを入れると、オクタゴン型の金属塊の各所に電源が入ったことを伝える光のラインが浮かび上がった。
そのまま取っ手に手をかけて起動スイッチを入れる。
直後、その分厚い金属塊は即座にその姿を変えて、けたたましい音を立てながら広がっていく。
最後に地面にアンカーを突き立てたとき、私の正面には、厚さ1センチの特殊合金でできた巨大な壁が出来上がっていた。
防御用ガジェット『キャッスルウォール』。
風紀委員の要請を受けて新たに開発した、汎用防御拠点生成装置である。
本当なら、襲撃を受けたあの日のうちに提出する予定だったものだが、これなら最終調整を終えれば即座に届けることができるかもしれない。
そうなればヒナさんも少しは喜んでくれるだろう。
これがあれば、一昨日の襲撃にも、もっと余裕を持って対応できたかもしれない。
「よし……」
そうと決まれば。
私はバッグの中から工具箱を取り出して、展開中のキャッスルウォールの調整に取り掛かった。
休んで迷惑をかけてしまったから、せめて朗報をお届けしたい。
その日私は授業をサボってガジェットの調整に時間を費やしたのだった。
放課後、風紀委員を訪ねてご迷惑おかけしたお詫びの菓子折りとガジェットを提出したのだが、そこまでしなくていいと言われてしまった。
反省。
書きたいことを適当に書き散らした感がある。
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