vtuberさんただいま炎上中 (なべたべたい)
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第1章 彼氏バレにはご注意を
1話 今日も今日とて燃えている
最近買ったゲームチェアに座り配信の準備をする。
マイクの電源を入れマイクテストを何度かした後に配信開始ボタンを押す。
「あーどうも皆さま今晩は今日は少しだけ配信したいと思います」
画面の中で自分と同じ動きをする赤髪の男を見ながら話し始め、そのままチラリとコメント欄の方を見るといつもの事ながら阿鼻叫喚なコメント欄になっていた。
コメント
:氏ねカス
:さっさと辞めろ
:直結クソ野郎
:この後三期生の配信だから?
:ゴミ
最初の頃はあまりの酷さにvtuberを辞めようかとも思ったが、なんやかんや辞めずに続けていると最近ではファンのコメントだけを認識して、アンチコメントは認識しないと言う謎の特技を会得した。
「そうなんですよね。この後ユメノミライに三期生が入るんですよ。ぜひ皆さん三期生の子達の事を応援してあげてくださいね」
コメント
:はーい
:辞めろ
:クソクソクソクソクソクソクソ
:俺はお前も応援してるぞ!
「俺の事も応援してくれるホムラビトも、ぜひ三期生だけじゃなく他のメンバーの事も応援してあげてね」
ホムラビトとは俺こと、九重ホムラのファンネームであり、数少ない俺のファンだ。
そもそも俺はユメノミライという大手のvtuber事務所に所属しているvtuberなのだが、何故ここまで配信が荒れているのかというと、理由は様々あるのだろうがやはり大まかな理由としては、ユメノミライというvtuber事務所が女性アイドルグループとして売っている事だろう。そら誰だって自分の推しているアイドルグループに男が1人紛れ込んでいたら怒るだろう。
これを聞いたら何故俺の配信がこんなにも荒れているのかがわかると思う。
まぁそんなこんなで俺の配信はいつも、荒れに荒れているのである。
コメント
:さっさと辞めろ
:三期生ってどんな子達?
:つまんない
:消えろ
「三期生か……実は裏でも話したことすらないからどんな子達なのかわからないんだよね。だからごめんね」
実はそうなのだ、運営からのお達しでこれからは本格的にアイドル売りをしていくとのことで、出来るだけ他の演者さん達とは関わるなと言われ、三期生達に至ってはディスコードなどでも一度も話をしたことが無いのだ。
出来ることなら挨拶ぐらいはしたかったのだがまぁこれも仕方ないことなんだろう。
コメント
:いつも無能な運営が有能
:運営ナイス九重ホムラは氏ね
:そうだったんだ
「まぁという事だから三期生の子達がどんな子か知りたい人はぜひぜひ、今日の21時からまぁ後大体30分ぐらいから始まる、初配信リレーをお楽しみに」
コメント
:了
:カスつまらんさっさと辞めろ
:こんな奴が入ってるとかユメノミライはオワコン
:三期生の配信楽しみ
「だよね俺も三期生達の配信はすごく楽しみ。それと俺の事はいくら馬鹿にしてもいいけど、ユメノミライの事を馬鹿にするのは辞めてもらってもいいかな?」
コメント
:それはそう
:コイツは直結クソ野郎で氏ねばいいけどユメノミライは神
:ユメノミライ最強ユメノミライ最強
今日1番のコメント欄の速さを見て全くと言っていいほど貢献は出来なかったが、それでもここまでユメノミライという事務所が成長したのだと感じ、少し目頭が熱くなった。
そんなこんな話しているうちに時間は過ぎ、後10分程で三期生達の配信が始まる時間になることを確認しの配信を閉じる方へと持っていった。
「まぁ、という事で時間もいい感じなので今日の配信はこのくらいにしたいと思います。概要欄に三期生達の初配信のリンクがあるので、できれば見に行ってチャンネル登録と高評価してあげると彼女達は喜ぶと思うのでぜひよろしくお願いします。それじゃあ乙ホムでした」
コメント
:乙ホム
:面白かった
:辞めろ
:乙ホムでした
配信終了して三期生達の配信を見ようと配信サイトを開くと、その際自分のチャンネルが開かれた。チャンネル登録者数4823人。その数字を見て現実を突きつけられる。俺と同期の奴らは何十万人もののチャンネル登録者を持ち、これから配信を始める三期生達に至っては、まだ産声も上げていないのに低い子でも1万、多い子に至っては5万人もの登録者を持っているのである。
それに俺の登録者のほとんどがユメノミライだから登録してくれた、俗に言う箱推しという人達で、実際の実力で考えると多分1000人もいないのだと思うと、やはり少し悲しくなる。
そんな事を考えながらも三期生達の配信を待った。
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2話 お兄ちゃんの配信ってつまらないの?
俺の名は藤堂 夏。今年で23にもなる人気のない配信者だ。
両親は共働きで基本的に家事全般は俺の仕事となっている。
そんなダメダメな俺とは違いすごく優秀でかわいい妹が居る。藤堂 真冬今年に私立の中学校に首席で入った凄い妹なのだ。
何故今こんな事を説明したのかと言うと、その一回りは離れているであろう妹に三期生達の配信を見終わった後に何故か部屋に呼び出され、正座させられているからである。
「なぁ真冬どうしたんだ?急に呼び出してもしかして晩飯足りなかったのか?それとも実質無職なダメな兄はいらない宣言か?お兄ちゃん泣いちゃうよ?」
そんな事を冗談めかしく言っては見たが、少し想像してしまい目尻に涙が少し溜まった。
「ちょっと自分で言った事に傷つかないでよ夏兄。あと晩御飯はあのぐらいでいいよ。それで今日夏兄を呼んだのは、その夏兄の配信についての事なの」
「もしかして見たのか?」
「う、うん」
「そうか……」
昔、そうそれはまだユメノミライが駆け出しの頃は真冬と一緒に自分の配信を見ていたのだが。
とある事件が起こってからは真冬には俺の配信を見る事を禁止したんだ。その時は少し喧嘩もしたが身内に見られるのが恥ずかしくなって来たと言うと、真冬はそれに納得してそれからは本当に俺の配信を見なくなってしまった。
そして今どうしてかは知らないがvtuber業界の闇の部分を煮詰めてできた様な、混沌とした状態の俺の配信を真冬が見てしまったのだ。
「あーっと、どうだった?」
俺が真冬にそう聞くと真冬は顔を下げ言いにくそうに話した。
「夏兄が楽しくなさそうだった」
その答えに驚いて変な顔をしていると、それを見た真冬はケラケラと笑い出した。
だが正直驚いた。てっきりコメントの事を言われると思っていたのに何故か俺のことを言われ呆けてしまった。
「そんなにお兄ちゃんつまんなそうに配信してたかな?」
「ち、違うのつまんなそうとかじゃなくてなんて言うか凄い気を使ってる?って感じてなんだが楽しくなさそうだなって……」
「真冬はいい子だな」
そう言って真冬を抱きしめて頭をやさしき撫でた。
「え!?急にどうしたのお兄ちゃん」
「いや何か急に、こうしたくなってな嫌だったか?」
「べ、別に嫌とかそんなんじゃないし!」
「そうかやっぱり真冬はいい子だな」
本当にいい子だ。
でも、
「でもな、真冬お兄ちゃんは別に配信が楽しくないわけはないぞ。そりゃ昔の方が楽しかったのは本当だが、だからといって今が楽しくないって事はないぞ。それにお兄ちゃんには昔から応援してくれてるファンの人も、まぁ少ないがちゃんと居るし俺は大丈夫だぞ」
「本当に?」
「ああ本当にだ」
それを聞いた真冬は心配そうな顔をやめいつもの可愛らしい笑顔に戻った。
「そうだ真冬三期生の配信は見たか?あれは凄かったよな!本当にアレが新人かよってくらい面白かったよな」
「そう?私は夏兄の方が100万倍面白いと思うけど」
そう言われて嬉しさのあまり真冬に抱き付くとそこにちょうど両親が帰ってきて、少し家族会議になったのはまた別の話である。
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3話 まさかまさかのコラボ決定!?
家族会議も終わり少しげんなりとしながら部屋に戻ると仕事用のスマホに通知が来ていた。
昔はよく鳴っていたスマホも最近ではマネージャーからの連絡ぐらいしかなく、特に何かをやらかした覚えが無いので誰からか分からずスマホの画面を覗くと、やはりと言うか何と言うかマネージャーからの連絡だった。
だがほぼほぼ運営から放置気味な俺のところにマネージャーからの連絡がある時は大抵俺が大炎上した時だけで、今日の様なボヤ程度ならいちいち連絡が来ないはずだ。
なのでもしかすると俺の認知していないところで大炎上したのかと思うと、スゥーっと額から汗が流れる。
震える指でスマホのロックを解除してマネージャーからの連絡内容を確認するとそこには想像もしてないことが書かれていた。
『九重ホムラさん現在あなたに他事務所からのコラボの打診が来ています。ご確認いただけましたらこちらにご連絡ください。そこでこの件について話し合いましょう。』
正直意味がわからなかった。
それもそうだ俺のところに来るコラボの打診などほとんどがユメノミライの名前に肖りたいだけの登録者が一桁のよく分からない連中だけだったからだ。それに今の俺はもはや歩く爆薬庫である。そんな俺とコラボした相手にどれだけのメリットがあるか、いや圧倒的にデメリットの方が大きい。それはどんなに小さな企業であってもだ。
そんな事をうじうじと考えながらもマネージャーに拝見しました。と一報送ったところすぐに通話が掛けられた。
すぐに通話に出るとそこからは40代ほどの男性の声が聞こえた。その声を聞いた瞬間またかと思ってしまった。
元々俺のマネージャーは同期と同様に1人の女性が担当していたが、とある事件が起こってからはすぐにマネージャーが交代し、それからと言うモノ何度も当たり前のようにこちらには何の連絡も無くマネージャーが代わり、正直殆どのマネージャーの名前を俺は知らない。
そんな風に俺が考え事をしているとスマホから心配そうな声が聞こえた。
「返事がありませんが九重ホムラさん大丈夫ですか?」
それを聞いて俺の意識は思考をやめ会話へと移った。
「すみません。少し考え事をしていました。それで早速なのですが俺に来たコラボの詳細を聞いてもよろしいですか?」
「はい。大丈夫ですよ」
マネージャーがそう言うとスマホの奥から何か紙を動かす音が聞こえた後にコラボの詳細を話し始めた。
そしてその内容を聞いてまたしても呆けてしまった。
俺にコラボを打診して来たvtuberはユメノミライと同等、いやそれ以上にvtuber界隈に影響力を持つ事務所アンダーライブの一期生にして男性ライバーの頂点と言ってもいいほどの男、二階堂 ハジメだったからだ。
正直全く信じられ無かった俺は話し合いにも集中出来ずに、合間合間にマネージャーに何度も確認してしまった。マネージャーには悪い事をしたとは思うがそれでも信じられない様な相手なのだから許してほしい。
まぁそんな感じで殆ど話し合いにならなかったが何と久しぶりのコラボが決まってしまった。
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4話 二階堂ハジメとの出会い
コラボの打診が来てから数日後、そろそろ現実を受け入れ掛けている頃それは突如として来た。
またしてもスマホに通知が来る。
今回はコラボの件だからマネージャーだと思い、何の迷いもなくスマホの画面を見るとそこには二階堂 ハジメと書かれたアイコンがあった。
「は?」
変な声が出てしまった。
だが考えて欲しいもし自分が進んでいる道の先そう、レジェンドと言われる人が急に自分のスマホに連絡を取って来たと考えて欲しい。
な?こんな声も出るだろ?
だから真冬よ扉の隙間から変なモノを見る様な目線をやめてくれ。
お兄ちゃん泣いちゃうよ?いいの?
そんな事を考えながらゆっくりとディスコードを開くと。
『初めまして俺はアンダーライブの二階堂 ハジメ。気軽にハジメって呼んでくれよな!』
うわわわわわぁ!生ハジメだ!ヤッバ!えっどうしよ何返せばいいかな?俺も気軽にホムラって呼んでもらうか?いや流石に失礼すぎるかな?
それから5分ほど書いては消し書いては消しを繰り返してようやく書けた文を震える指で送った。
『ご丁寧にありがとうございます。私はユメノミライ所属ライバーの九重 ホムラと申します。この度はこんな私にコラボのお誘いをして頂き誠に感謝しております。ハジメ様につかれましては私の事はホムラでも九重でも何とお呼びしていただいても構いません。不束な私ですが今回のコラボはハジメ様の顔に泥を塗らぬ様に必ず成功させたいと思っていますのでどうぞよろしくお願いします。』
完璧だ!
それと同時に二階堂 ハジメから返信が来た。
『よろしくなホムラ!それとちょっと硬すぎるぞ。様付けとかもこそばゆいだけだしもっとフランクに行こうぜ!』
そんなに硬すぎるか?
『わかりました。ハジメさん』
『まぁまだ硬いけどそれは徐々に慣らしていけばいいかな?』
まだ硬いのか……だが流石にこれ以上はフランクというよりも無礼に当たるのでは?
『それでコラボ内容なんだけど俺がやってる1対1の対談会なんだけどどうかな?』
『もしかしてそれってハジメの部屋ですか?』
『そうそう知ってるんだ。もしかしてホムラって俺のファンだったり?』
『勿論です。でもどちらかと言うとファンというよりも憧れの存在です。』
『そうかそれは嬉しい事言ってくれるな!なら配信の段取りとかは何となくわかるか?』
『ああそりゃあ勿論』
『了解なら一応簡単な台本は後で渡しとくから。それじゃあ明後日の配信お互い頑張ろうな!ホムラ』
『こちらこそよろしくなハジメ』
こうしてハジメとのコラボ配信の話し合いは終わった。
そして頭が冷えてからこのやり取りを見返すと途中から素の自分になっていることがわかり、恥ずかしさやら申し訳なさでいっぱいいっぱいになり。
その気持ちを誤魔化す様にゲリラで配信を始めた。
案の定人が集まらずビックリするほどの過疎配信になり、アーカイブはそっと非公開にしておいた。
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5話 ハジメの部屋
「どうも皆様初めましての方は初めまして。二階堂 ハジメです。今日は何とあのビッグな事務所からこちらの方がハジメの部屋にやって来てくれました。それでは挨拶をお願いします」
渡された台本では事務所と名前に一言を言うと書かれている。
だが待ってくれ、いつもの俺の配信の同接数は大体二桁から三桁、それに比べて今はどうだ。
チラリとパソコンの画面を見るとそこには同接数5860人俺のチャンネル登録者よりも多いでは無いか、と言ってもこの数字はハジメさんの配信では少ない方だ、いつもなら五桁はあるはずの同接数も俺というデバフのせいで半分以下になっている。
「おーい!聞こえてるかな?」
「あ!」
色々なことが頭の中を駆け巡っているうちに少し時間が経ったらしく、ハジメさんが返事のない俺の事を気にして声をかけてくれた。
まずいこの配信はハジメの面子のためにも絶対に失敗出来ないのにいきなり失敗した。
これはどうにか挨拶でどうにか盛り上げなければ、でもそんな事を考えている時間は無い。
ええい!もうどうにでもなれ!
「はいどうも自分のチャンネル登録者よりも同接数が上で呆けてしまった。ユメノミライの唯一の汚点歩く爆薬庫の九重 ホムラです。今日はハジメさんに引火しない様に頑張りたいと思います!」
「はいという事で今日はユメノミライ所属の九重 ホムラさんに来てもらいました。はい拍手」
コメント
:パチパチ
:8888888888
:ユメノミライって女の子だけじゃ無かったけ?
:汚点ってw
:草
:誰?
何だこの清いコメント欄は……
「何だこの清いコメント欄は……」
「いやいやホムラさん知ってましたか?これが普通のコメント欄ですよ」
「あれ?もしかして声に出してました?」
「もうバリバリ出てましたよ」
「いや9割以上が罵詈雑言のコメント欄しか最近見てなかったので凄く新鮮で」
コメント
:何だそのコメント欄は(驚愕)
:9割は流石に盛ってるだろw
:残念だけど事実なんだよなーこれが
:この人誰?
「まぁという事でさっきから気になってる人が一定数いる様だから質問に移るねホムラさんも大丈夫かな?」
「はい大丈夫です」
「ではまず初めの質問ですが。誰?との事です。この質問ビックリするほど来てて俺めちゃくちゃ驚いちゃったからね」
「まぁ自分有名企業にいる癖にクソザコで、いっつも燃えてますから認知度が全く無いのも当然っちゃ当然なんですよね」
「いやいやホムラさんほどの人が何を言いますか。実は初出しの情報なんですけど、実は俺初期の頃は毎回ホムラさんの配信を見てましたからね」
「えっ!?そうなんですか?初耳なんですけど」
「そらそうですよだって今初めて言いましたから。でもvtuberの黎明期を知ってる人ならその殆どがホムラさんの事知ってるんじゃ無いんですか?」
コメント
:え?そんな凄い人なの?
:どんな人?
:あの頃のホムラはマジで凄かったぞ(後方彼氏面)
:マジかそんな凄い人だったんだ
:ホムラっていつからいるの?
:ハジメの初期って事はもしかして古参組?
「いやいや俺はそんな凄い人間じゃ無いですよ」
「いやホムラさんは自覚してないかもしれないですけどあの頃のは本当に、それこそ男性vtuberの憧れの存在だったんですよ!何たって2Dの男性vで初めてチャンネル登録者数1万人を達成した人物なんですから。俺なんてあの頃の三桁だったんですよ?」
「そう聞くとなんだか凄そうに聞こますけど。それは言っても過去の事で今の俺はその頃の半分も登録者居ませんからね」
自分で言ってて少し悲しくなったのはここだけの秘密な
「それじゃあそろそろ次の質問にいきましょうか。九重 ホムラさんはどうしていつも炎上しているのですか?という質問ですが。どうしてですか?」
「まぁ色々な要因が混ざり合って燃えているんですが、簡単に言って終えばアイドルの中に何故か居る一般男性これを言えば大体は察しがつくでしょう。」
「それは燃えてもしょうがないな!何たって皆んなその位置は羨ましいからね。かく言う俺もちょっと羨ましいと思ってます。」
コメント
:マジ羨ま
:ハーレム(笑)
:それで燃えるのは可哀想
:嫉妬の炎で焼かれる(物理)
「まぁでもこれに関してはしょうがないと思ってるので、もうあまり考えない様にしてますね」
「そんなホムラさんにとっておきの質問が来ています」
何だろう?炎上回避の方法とか火消しの方法とかかな?
「それでは質問ですが。ホムラさんはユメノミライで付き合うとしたら誰がいいですか?」
「はい!アウト!!!!!どうしたんですか!?ハジメさんいやハジメ!何故その質問を選んだ!」
コメント
:草
:炎ホムラ炎
:マジで草
:自称歩く爆薬庫に着火からの燃料投下w
:これは怒ってもいい
「それで実際はどうなの?」
「やめい燃える燃える。」
「はいじゃあおふざけはこの辺にして置いて次に行きましょうか、それでは次の質問です。好きな食べ物は何」
「質問の落差よ!それで好きな食べ物が……そうだなやっぱラー「女」メンっておい!誰が好きな食べ物女だ!めちゃくちゃクズじゃねぇか!そら燃えるよ!」
「それでホムラはラーメンの中だったら何味が好きなの?」
「このまま進めんのかよ!えーっと塩かな」
「ふーんじゃあ次の質問行くね」
その後も何度か質問を答えたりしていると時間はあっという間に過ぎ、そろそろ終了の時間がやって来た。
「それじゃあそろそろ終わりだから女好きなホムラは何か最後に言い残す事はあるかな?」
「俺は女好きじゃねぇ!」
「もしかして男好き?」
「そう言う事じゃねぇ!それとなにが最後に言い残す事だよ俺は死ぬのか?死んでしまうのか?」
「はいはいそう言うのいいから時間押してるんだから早く感想言ってよね」
「えっそうなの。ゴホン!えーっと……」
「それじゃあ今日の配信はここまで」
「おい!」
「ぜひ皆さんチャンネル登録と高評価よろしくねそれじゃあお疲れ様でした!」
「えっ本当におわるのか!?それじゃあバイバ」
この配信は終了しました。
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6話 掲示板回
ハジメとのコラボ配信が終わりその後も2人で1時間ほど喋ったりして通話を切ると、それを聞いていたのか通話を切ったと同時に真冬がノックもせずに部屋に入って来た。
「どうした?真冬もしかしてうるさかったか?」
「今日のコラボ配信見たよ」
「お、おうどうだった?」
「昔の夏兄みたいで凄く面白かった!」
「そうか実はなお兄ちゃん的にもすごく面白くてな。ハジメ、俺とさっきまでコラボしてた奴なんだけどなまたコラボする約束しといたんだ」
「そうなんだ!私は楽しそうなお兄ちゃんが久しぶりに見れて嬉しいかったから。次のコラボも絶対見るね!」
「そうかそれは頑張らないとな。それじゃあそろそろ晩飯にするから真冬はその前にお風呂入って来なさい」
そう言うと真冬は、はーいと元気よく答えてトテトテと小走りでお風呂場に向かった。
今日の晩飯を何にするかを決める為にスマホを開くと、そこにはチャンネル登録者数8504人と書かれていた。
疲れのせいか俺は幻覚を見ている様だ。
一旦スマホの画面を閉じ、深呼吸をして再度画面を開くとそこには登録者数8623人と表示されていた。
「マジか……」
驚きのあまりそれしか言葉が出てこなかった。ここ最近は登録者の数も増えるどころか減る一方だったのに、ハジメと一回コラボしただけでここまで爆発的に登録者が伸びるとは流石はハジメバフだ。凄いな
真冬には悪いが今日は出来るだけこの感動を噛み締めておきたいので、晩飯が少し質素になる事を許してくれ。
◯
ここはとある掲示板。
ネットであらゆる事を相談や発信他者と簡単に繋がれるサイトの一つだ。
その掲示板の中には勿論最近よくネットでも話題に上がるvtuberについて話し合う板、vtuber板というものが存在している。
その中の「アンダーライブについて語るスレ」というものがあり、そこでとある男が話題に上がっていた。
191 : 名前 : 名無し
おい知ってるかハジメがあの九重 ホムラとコラボするんだって
192 : 名前 : 名無し
>>191
九重 ホムラって誰?企業?個人?
193 : 名前 : 名無し
>>192
ユメノミライの男
194 : 名前 : 名無し
>>193
ユメノミライって女の子のアイドルグループじゃ無かったっけ?何で男がいんの?
195 : 名前 : 名無し
>>194
情弱乙。ユメノミライは元々はアイドル売りしてなくて、途中からアイドル売りし始めて。一期生のホムラはアイドル売りする前からいたからアイドル売りするようになってもずっと居座ってる奴
196 : 名前 : 名無し
>>195
ツンデレ
197 : 名前 : 名無し
>>195
メチャクチャ詳しくて草ァ
198 : 名前 : 名無し
>>194.195
ここはユメノミライのスレじゃなくてアンダーライブのスレだから
199 : 名前 : 名無し
今見て来たらホムラって奴、登録者5000人も言ってなくて草
200 : 名前 : 名無し
何でハジメはこんな奴とコラボすんの?無駄じゃね?
201 : 名前 : 名無し
>>200
どうせ運営が決めて断れなかったとかそんなんだろ
202 : 名前 : 名無し
ハジメの面子潰さんかったらどうでもいいわ
203 : 名前 : 名無し
>>202
前運営がセッティングした奴はハジメの顔に泥塗りたくってかえったからな
204 : 名前 : 名無し
まぁどうせつまらんやろうし見る価値なし
・
・
・
582 : 名前 : 名無し
九重 ホムラって奴普通に面白かったやん。これで人気ないとか意味わからんわ
583 : 名前 : 名無し
ハジメが言ってたので思い出したけど俺昔こいつの配信よく見てたわ
584 : 名前 : 名無し
>>582
わかるマン
585 : 名前 : 名無し
ハジメとの相性良すぎ!
586 : 名前 : 名無し
初めの方はなんか気を遣ってて微妙やったけど途中から普通に面白かった。
587 : 名前 : 名無し
>>586
わかる
588 : 名前 : 名無し
>>586
ほんそれ
589 : 名前 : 名無し
これで登録者5000人も無いとかあり得んわ
590 : 名前 : 名無し
九重 ホムラの登録者数今見て来たら後ちょっとで1万人いきそうで草
この書き込みから約30分後、九重 ホムラの登録者数が1万人を超しそれを見たホムラは泣きながらハジメの元に感謝のディスコードを連投した。
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7話 喰らえ!必殺のファイヤーパンチ
チャンネル登録者数が1万人を超えルンルン気分で眠りその翌日、見知ったメンバーからのお祝いメッセージが届いていた。
そうそれはユメノミライ一期生俺の同期達からの1万人おめでとうというメッセージだった。
あちらも運営からあまり俺とは関わるなと言われているのに、送られた時間を見るとそれは俺が1万達成したのとほぼ同時で、最近では殆ど会話もしなくなったがそれでも同期との絆を感じ胸の内が温かくなった。
そしてそれと一緒にコラボのお誘いも来ていたが、運営の意向もあるし何より彼女達のブランドに傷を付けてしまいかねないので、そっと断りの内容を送っておいた。
それからは配信に来る人数も増え、新規の視聴者が増える事により9割以上だった暴言の嵐も今では7割弱まで減った。
何とも喜ばしい事だ。
そして今日はユメノミライの給料日だ。
周りの皆んなとは違い人気が低迷している俺の給料はそこまで多くは無い。
だがそれでも俺には買わなければならないものがある。
それはつい先日の配信中のことである。
「まぁという事で裏でハジメさんと一緒にゲームしたんだけど、毎回良いところでやられてて天性の配信者なんだなって思ったんだよね」
コメント
:引退しろ
:裏でも仲良くて安心した
:またコラボするの?
:氏ね
「コラボか、まぁ出来たらいいけど俺とは違ってハジメさんは忙しいからな。まぁ最近はよく一緒にゲームしてる記憶あるけど」
コメント
:ハジメってよく裏で配信者にイタズラしたりするって聞いたことあるけどあれってホント?
:引退!引退!引退!
:着火着火カムチャッカファイヤー!!
:ホムラがすごい楽しそうだったからまたコラボできたらいいね
「そうだな俺もメチャクチャ楽しかったからハジメさんとはまたコラボしてみたいな。それとハジメさんって裏でそんな事やってるの?」
コメント
:たまにやられたってハジメと仲のいいvtuberとかが言ってる
:一回それでやり過ぎて燃えてたから多分ホント
:ファイヤー!ファイヤー!
:炎上戦隊燃えるんじゃ!
:ユメノミライから出ていけゴミ
「そうなんだ。でもそれ配信でやった方が面白いんじゃ無いのかな?ほらゲリラで配信中に急にやるとかさ」
コメント
:それこそ燃えるだろ
:このコメントは削除されています
:でもハジメってホムラほどじゃ無いけど昔はよく燃えてたよな
:まぁ昔のハジメはつまんなかったからな
「まぁそうだな流石にそれは燃えるか」
そんな風に雑談配信をしていると、噂のハジメさんからディスコードが届いた。
視聴者達には気づかれない様に話を続けながらディスコードを開くと一本の動画が来ていた。
『今すぐ見て』
『俺今配信中なんですが……』
『知ってる見てたから。という事でさっさと見ろよな。あっ配信に載せても大丈夫だぞ』
マジかハジメさん何考えてんだ?
それに配信に乗せても大丈夫って、まぁハジメさんが配信のネタにしていいって言ってるんだったら、ありがたく使わせてもらうか。
「はい配信を見ている皆さん今ですね。噂のハジメさんから一つの動画ファイルが送られて来て是非とも見てくれとの事だ。という事でちょっと準備するからちょっと待っててな」
コメント
:これは……
:まさか配信中に来るとはまさか配信見てるのでは?
二階堂 ハジメ:見てるよ。
:つまんない
:ヒェ
:さっさと配信辞めろ
ハジメさんの登場で盛り上がっているコメント欄を横目に動画の準備をした。
「よし準備完了っと皆んなちゃんと画面に映ってる?」
コメント
:おk
:やめろ
:ちゃんと見えてる
:楽しみ
「よしなら始めるぞ。再生!」
そうして問題の動画が始まった。
動画が始まるとすぐにハジメさんが現れ、1万人達成おめでとうと俺のいい所を褒めてくれるなどの俺にとっては凄く嬉しい動画が始まり少し涙が出てきた。
「ぐすっ」
だがそれも途中までの事、途中からハジメさんの声が途切れ始めたり画面が止まったりと、少しずつ嫌な雰囲気になっていった。
そしてそれは突然現れた。
何処から拾って来たのか顔の崩れたハジメさんが現れ、壊れた人形の様なおかしな話し方をし始め狂った様に笑い始め、最後に画面が真っ赤に染まった。
「うわぁぁぁ!」
ガッシャーン
そして俺の拳がパソコンのモニターを貫通した
「やっちまったー!!」
コメント
:こっわ
:スッゲー悪趣味
:草
:なんか凄い音聞こえなかった?
:マイクでも落としたんじゃね?
「やっべー。モニターぶっ壊れた。ていうか腕からもめっちゃ血出て来たんだけど……」
コメント
:草
:大丈夫か?
:これはハジメやったか?
二階堂 ハジメ:もしかしてやっちゃった?と言うかホムラ大丈夫か?
:マジで大事故じゃね?
:て言うかさっきからホムラの声聞こえなくね?
:これ大丈夫?
二階堂 ハジメ:おいマジで大丈夫か?
:えっこれどうしよう?
:救急車?
:住所も知らねぇのに呼んでどうするんだよ
:それよりも運営に報告だろ
それから30分後家に帰って来た真冬に、血塗れの腕がモニターに突き刺さって倒れている俺が発見され。
その際に配信は切られ俺は病院に救急搬送された。
その後は迷惑をかけた各所に謝りに行きこの件は落ち着きを取り戻した。
そして俺はモニターをぶち破る切り抜きがバズり、モニターを引き換えに登録者を2000人程手に入れた。
まぁそんな事で、今日は新しいモニターと迷惑をかけてしまった真冬にお詫びの気持ちを込めて、一緒に買い物へと都心へと向かうのだった。
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8話 真冬とのデート
外出用の服に着替えて財布とスマホその他諸々を持って玄関に向かう。
玄関に着くとそこには可愛らしい服を着て準備万端な真冬がまだかまだかとうずうずして俺の事を待っていた。
「お待たせ真冬」
「夏兄今日は何処に行くの?私ここに行きたいんだけど!」
そう言って真冬が見せて来たのは最近の若い子達に人気そうなワッフルが売っているお店だった。住所を見てみると今から行く店の近所にあるそうなので特に問題はないだろう。
「真冬それだけでいいのか?もっと高い所にも今日の俺なら連れて行けるぞ?」
ぎっちりとお金が入った財布を見せながらそう言った。
「もう夏兄は全然わかってないんだから。お金さえ貢げばいい女なんて今の時代もうほとんど居ないよ。今はそれよりトレンドよトレンド!」
「トレンド?ああ、あれだろ?タピオカ」
「夏兄」
「どうかしたか?」
「ちょっと古い」
「そっか」
自信満々に知ったかしてしまったのがバレて少し恥ずかしかった。こんな事になるなら知ったかなんてするもんじゃ無いな。
その後親父から借りた車に乗り込み、真冬が最近気に入っていると言っていたグループのCDをかけ、それを2人で口ずさみながら家を出た。
車で2時間ほどかけたころ周囲に高いビルなどが増えていき、ザ都心という感じになって来た。
そしてまずは今日の目的の一つであるモニターを買いに知り合いがやっている電気屋?パソコン屋?の様な店にやって来た。
「じゃあ俺はパパッとモニター買ってくるから」
「夏兄私も行ってみたい」
「ん?別にいいけどあんまり面白いもんは無いぞ?」
そんな風に2人で話していると店の中から1人の男が出てきた。
「面白いもんが無くて悪かったな夏」
そう言って出て来たのは高校の頃の同級生だ
「応、久しぶりだな松下。あとこれから妹とデートだからなんか安くていい感じのモニターをくれ」
「へーじゃあこの子が真冬ちゃんか」
「えっと初めまして藤堂夏の妹の真冬です。よろしくお願いします。」
「これが夏の妹か、すんげぇ美人だな」
「あげねぇぞ。それよりさっさとモニターを寄越せ」
「俺にはかわいい彼女がいるから必要無いぞ。それとモニターは前のやつと同じ奴でいいか?」
「面倒だしそれでいいや。いくら?」
その後は前と同じ型のモニターを買い、お店を後にした。
買い終わった車の中で真冬がこっそりと松下について聞いて来た。
「さっきの人って夏兄の友達?」
「ああ高校の時のな。それとアイツは俗に言うアニオタって奴でさっき言ってたかわいい彼女ってのもなんかのアニメのヒロインだったはずだぞ。まぁ俺が知ってるだけでも30人以上居るけど」
「それって浮気じゃないの?」
「さぁ?まぁvtuberのガチ恋勢みたいなもんだと勝手に思ってるから取っ替え引っ替えしてるんじゃ無いんじゃないかな?」
「何かそう聞くと凄いクズですね」
「まぁな」
そんな話をしながら車を走らせていると真冬が行きたがっていた店が見えた。
「真冬あの店で合ってるか?」
「うん、そこそこ」
「なら近くの駐車場に車止めてからゆっくり行こうか」
「うん!」
車を止め2人で手を繋ぎながら店に向かうとそこには行列とまでは行かないが、多くの特に女性が並んでいた。
「へー結構人気なんだな」
「確かどっかの有名な人が宣伝して人気になったんだって」
「あ〜インフルエンザーだろ」
「インフルエンサーね夏兄。それじゃあただの病人だよ」
「それは失敬。そういやあんまりワッフルって食った事ないんだけど美味しいのか?」
「甘いのが好きなら好きだとは思うけど。それにここのワッフルはワッフルの上に生クリームが乗ってるらしいんだ」
そう言われ今朝真冬に見せてもらったチラシを思い出すと、無意識にごくりと喉を鳴らした。
「それは楽しみだな」
それからは真冬の学校生活を聞いたりしながら列が進むまでの約20分程話していると、前の女性が店に入りそれから数分後には俺たちの番がやってきた。
店に入ると何やら少しファンシーのある内装で、男の身からすると少し居心地が悪かった。
だがそんな事はどうでもいいと真冬に腕を引っ張られ、カウンターでよく分からないが真冬が先程言っていた生クリームのかかったワッフルを二つ頼み、店員に誘導された席へと2人で移動した。
席に着くと真冬はまだかまだかとワクワクした様子で待ち、少し手持ち無沙汰になり近くにあったメニュー表を見ていると、何かを見つけたのかキラキラした目の真冬が隣に来て俺の肩を叩いた。
「ねぇねぇ夏兄あの人見てよ凄い美人じゃない?」
そう言われた方に振り返るとそこには、周りとは少しレベルの違う女性が1人席に座っていた。周りをよく観察してみると俺たちの様にその女性をこっそりと見る人達が何人か居た。
「本当だな。すげぇ整った顔してるな」
「え!?反応薄!それでも男なの夏兄」
そんな事言われてもな……
そりゃあ真冬の言う通り美人だとは思うが、正直二度見するレベルの美人ってわけでも無く、他の客よりかは目立つレベルの美人って程だ。
そんなのにいちいち反応していると正直身が持たないと思う。それにあの女性はどう見ても……
注目を集めている女性は頻りにスマホを確認しては手鏡で髪を整えたりしている。
そして俺が想像していた人物が店に入り謝りながらその女性に近づいて来た。
「ごめんごめんちょっと寝坊しちゃって」
「もう!こんなにかわいい彼女を30分も待たせるなんてどう言うことよ」
「本当にごめんってお詫びにここは俺が持つから。な?」
「なら許してあげる」
そんな聞いてるこちらが嫉妬で狂いそうになる程の熱愛をその男女は周りの人間に見せつけて来た。
「なーんだ彼氏いたんだ」
「そら美人の大体がその付属品として彼氏は付いてるからな」
「夏兄はわかってたの?」
「そらまぁあんなにおめかしして、更には何度も時間を気にしてたら彼氏か好きな人かのどっちかだろうな」
「夏兄」
「どうした?」
「それは偏見だよ」
そうだったのか。
自称恋愛マスターの松下よ、よく俺に堂々と語ってくれてた彼氏彼女持ちを見分ける方法10選。
偏見だってさ、
そんな事よりさっきの美人さんの声どっかで聞き覚えがあるんだよな。
何処で聞いたかを思い出そうと記憶の中を探してみるがピンと来るものは見つかる事はなかった。
「なぁ真冬あの美人さんの声どっかで聞き覚えないか?」
「さぁ私はわかんないけどあれじゃ無い?芸能人でテレビで聞いたとかじゃ無いの?」
「うーん。確かにそう言われてみればそうな気がして来たな。」
特にそこまで興味があるわけでも無いし、それでいいか。
「そう言えば夏兄があんまりあの綺麗な人に反応しなかったのって、やっぱり彼氏持ちってわかってたからなの?それともさっきの松下さんと同じで三次元の女の子には興味ないの?」
「ん?どうしてそんな事気になるんだ。別に俺の恋愛観なんて聞いてどうするんだ?」
「あのねぇ夏兄女の子の好きなものは、流行とイケメンと甘いものと恋バナなんだよ!」
「もしかして暇なのか?暇なら動画でも見るか?」
自分のスマホをポケットから取り出して真冬に渡すが、それを真冬は受け取らず若干鬱陶しくなる程のレベルで話しかけて来た。
最近の中学生は動画よりも恋バナなのか……
「はぁ。まぁ別に隠してるわけじゃ無いし別に良いけど。一言で言うならタイプじゃない」
「どうして?夏兄って美人なのって嫌いなの?」
「嫌いってわけではないけど、どちらかと言うと可愛い系の方がタイプだな」
「そうなんだ!あと夏兄って多分だけど完璧なタイプじゃなくてなんだか抜けてる子がタイプだよね?夏兄お世話好きだし」
「うん。まぁ家事とかは好きだな。でもどうしてそれが抜けてる子がタイプって事になるんだ?最近では男でも家事やる奴は多いと思うけど?」
「ほらだって夏兄1年半ぐらい前まではよく誰かのお世話?しに行ってたじゃん。あれって彼女なんでしょ?」
「いやアイツは彼女とかそう言うのじゃ……」
「ふーん。本当に?」
「本当だ本当。俺とアイツじゃあな」
そんな風に真冬に詰め寄られていると、店員さんがたんまりと生クリームの盛られた大きめのワッフルを二つ持って来た。
「ほらほら真冬ワッフルが来たぞ。ほら席に戻って食べるぞ。わぁ美味しそうだな〜」
「うーん。今回はこれで許してあげる!」
真冬はそう言うと俺の隣から離れ向かいの席にぴょこぴょこと移動して、その小さな口に見合わない大きさのワッフルを口に放り込み、ハムスターの様に頬を膨らませ幸せそうにワッフルを食べていた。
成程かわいい!
ワッフルを食べ終わった後に近場のデパートで真冬の服を何着か買ってあげ、俺と真冬はルンルン気分で家に帰り、そして今日の散財祭りが両親にバレ。俺は真冬の事を甘やかし過ぎと1時間ほど母さんに怒られ、親父からは羨ましいと嫉妬と羨望の眼差しで睨まれた。
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9話 第1回ホムハジクリーチャーハンターコラボ
「どうも皆さまこんにちは、今日はコラボです。それでは二階堂 ハジメさんです。どうぞ」
「どうも皆んな久しぶり!流石にアレは運営に怒られちまって1週間ぶりの配信だぜ!」
「やっぱり怒られてたんだ」
「やっぱりって?」
「いや実は病院から帰って来たごろに運営からアンダーライブからのお見舞い品と謝罪文が届いてるって言われて、会社に取りに行ったんだよね」
「え!何それ?俺やらかした張本人なんだけどそれ知らないんだけど!」
コメント
:まさかハジメの復帰配信がホムラのチャンネルとは
:まぁアレは凄い驚いたからな
:ハジメに迷惑かけるな
:このコメントは削除されました
:張本人なのに知らないw
:草
:事故で配信できなくなればよかったのに
:一切触れられてないけどホムラも配信1週間ぶりなんだよな
「お見舞いの品はすげぇ高そうなクッキーだったぞ」
「もう食ったのか?」
「ああ妹と一緒に食ったぞ。めっちゃ美味かった」
「そうか、俺もなんか送った方がいいか?」
「いや、それはいつか会った時にでも高い焼肉おごってくれたらいいや。あっ回らない寿司でもいいぞ」
「ちゃっかり高いもん要求してんな。まぁ俺が悪いんだしそれぐらいはいいか」
「ならいつか会う時を楽しみにしてるよ」
「ならこの話はそろそろ終わりにして今日の配信内容でも話したらどうだ?もう開始から10分も喋ってるだけだぞ」
ハジメにそう言われて確認してみると、10分正確に言うと配信開始時間から12分も過ぎていた。
「えっもうそんなに経ってんの?はいじゃあ今日やるのはクリーチャーハンター。略してクリハンです。実はね裏で俺とハジメさんがやってるゲームってのがこれで、裏でやるくらいなら配信でやるかって感じで始まったのが今日の配信です。」
「まぁ例の件が無かったらもっと前にやってたんだけどね」
「「ハハハハハハッ」」
コメント
:ちゃっかりオフ会の約束してるもしかしてこやつやるな
:マジかよキモ
:乞食すんなカス
:クリハンかなんの武器使うんだろ
:裏の話すんな
:裏でやってるゲームってこれのことだったんだ
:笑い事じゃねぇ
:ハジメに迷惑かけるな
クリーチャーハンター略してクリハンとは、大型のクリーチャーをプレイヤーすなわち俺たちが多種多様の武器や罠などを使って倒したり捕獲する国民的アクションゲームだ。
今日は配信主でもある俺の集会所にハジメさんを呼んだ。
そしてパーティーを組んだ後に配信画面にゲーム画面を映した。
そこにはクリーチャーの骨や皮で作られた大剣を持つ貧相な装備の男と、なぜか魚を2匹持った裸の男が現れた
「ちょっとハジメさんなんで魚なんか持って来てるんですか。それに裸だし。今日は防具用の素材集めしたいんですけど」
「なぁホムラよ考えてくれ。今更ガチガチに装備した奴がクリーチャーを配信で倒して何が面白い。ここは配信者なら縛りプレイだろ!」
「そら何百時間もやって来たハジメさんはそんな変な事してもいいかもしれませんけどねぇ。俺は裏でも剥ぎ取りの最中にアンタに邪魔されまくって、ストーリーがそこそこ進んでるのに装備が貧弱なんですよ!」
「草」
「草じゃねぇ!」
コメント
:人の枠で勝手に縛りプレイw
:ホム虐草
:裏でもかよw
:はいはいつまんない
:2人とも仲良くなるの早過ぎだろ
:ホムラはハジメの言うこと聞いとけばいい
:俺もこんな友達が欲しい
「じゃあ早速狩りに行くか。ホムラはどれ行きたい?」
「俺まだアイツ見た事ないから行きたい。あのBGMが特殊な」
「ああムルムルか」
「そうそうそれ。ムルムルってどんな攻撃して来たっけハジメ……さん」
「いや別に配信でもさん付けはいらんぞ」
「えっそう?なら正直面倒臭かったからそうするわ」
「了解。それとムルムルは電気玉飛ばして来たり天井で遅延して来たりするぞ。あと弱点は炎だぞお前ぴったりのな」
「まぁ俺は常時炎状態だからな。じゃねぇよ。それに炎属性の武器も持ってねぇよ」
「ならまぁその装備で大丈夫じゃない?」
「ハジメの装備は全然大丈夫じゃないけどな」
「まぁまぁ大丈夫大丈夫。それじゃあ行こう」
そうして俺とハジメは料理を食べ、ムルムル討伐のクエストを開始した。
クエストが開始するとそこは一面が白銀の世界でそこには毛むくじゃらの中型生物などが闊歩していた。
「雪原地帯にやって来たけどムルムルって何処にいんのハジメ」
「道なりに進んだ先にある洞窟に大抵はいるよ」
「なら早速行くか」
支給箱から回復アイテムなどの必要アイテムを取り、俺はハジメの案内の元ムルムルのいると言われている洞窟を目指した。
その最中に他のクリーチャーも見かけたが突っ込もうとするハジメを説得して特になんの問題もなくムルムルの居る洞窟にたどり着いた。
そこにはこちらのことにも目もくれない様子でその辺を歩き回るムルムルの姿があった。
「ほら聞こえるかホムラ。このムルムル固有のBGM」
「ああなんて言うか凄いよな。うんなんか凄い」
「今のお前の語彙力と同じレベルで凄いな」
コメント
:なんか凄いw
:これは配信者失格
:俺ならもっと面白いこと言える
:そんなんどうでもいいから早く行け
:あれ?bgm鳴ってる?俺聞こえないんだけど?
「まぁムルムルのBGMも堪能したことだしそろそろ行くか」
「なぁハジメ今からでも装備変えて来んか?流石に裸ネタ武器縛りプレイはアホだろ。お前がクリハン上手いのは知ってるけどさぁ」
「いやいや余裕余裕。なんたって俺一応この装備でラスボス倒してるし」
「いやマジかよ」
「マジマジ。配信で倒してるから後でアーカイブ確認してみ」
「いや長いし切り抜き見とくわ」
「そこは嘘でもアーカイブ見るって言ってくれよ」
コメント
:草
:本人目の前でアーカイブ見ない宣言
:コラボ相手にそれは失礼
:さっさとゲームやれ
:配信やめろ
:vtuber特有の社交辞令が一切ない男
「まぁそろそろムルムル討伐でもするか、視聴者もそれを望んでるそうやし」
「それもそうだな」
そうして俺は大剣をハジメは2匹の魚を手に持ちムルムルへと突っ込んでいった。
最初にムルムルに攻撃を入れたのはハジメだった。
それに続く様に俺もため攻撃をムルムルに入れ、それからすぐにムルムルの攻撃が届かない場所まで一旦下がった。
するとムルムルは体に電気を纏い体をくるりと一回転させた。
その際まだ近くにいたハジメにその攻撃が当たるかと思いきや、なんとハジメはその至近距離からその攻撃が来るのを知っていたのか、なんの難なくするりと避けそのままムルムルへの攻撃を再開した。
それからも俺は一撃入れたら下がるのヒットアンドアウェイ、ハジメは攻撃に攻撃をそしてたまに避けると圧倒的なプレイングスキルを見せつけられた。
「うっま。ハジメお前なんでその距離で攻撃あたんねぇの?」
「うーん。ムルムルの攻撃モーション覚えてるから、攻撃の予備動作が来たら避けるを繰り返してるだけだからホムラもこのぐらい簡単にできる様になるよ」
「それはハジメに言われるまで一旦下がることもできずに攻撃される度に乙ってた俺への嫌味か?」
「違う違う本当に覚えたらこれぐらい余裕だから」
コメント
:こんなんも避けれんとか雑魚じゃん
:ホムラさんハジメの言う事はあんまり聞かない方がいいよ。それめちゃくちゃ難しいから
:俺なら楽勝
:ザコ乙
:ホムラってこのシリーズ初めてか?
その後もタゲがハジメに行ってるから、こちらは全く攻撃されず一方的に攻撃出来てこのままいけば勝てるか?と思い始めた頃、
「あっミスった」
その一言共にハジメはムルムルの薙ぎ払い攻撃に巻き込まれ、そのまま一撃で倒れた。
「すまんホムラ。余裕こいてたらミスったわ」
「俺もなんかこのままなら勝てそうと思って気が緩んでたんでお互い様っという事で」
「ホムラがそう言うならそう言うことにしとくな」
「うんそう言う事にしていいから早く戻って来てくれない?」
ハジメと話している間もムルムルに攻撃し続けていたが、ハジメがやられてタゲがコチラに向き先程とは違い一旦離れても、それに対応する攻撃をされ攻撃をもらっては回復もらっては回復を繰り返しているうちに手持ちの回復薬の数もどんどんと少なくなって来た。
「help meハジメ!」
「はいはいすぐ行くからちょっと待っててね」
「本当早く来てね。って危ねぇ体力ミリになった」
コメント
:下手
:ハジメにおんぶに抱っこに肩車までしてもらってたのがわかる
:まぁ初心者ならこんなもんだろ
:回復できてるだけ偉い
:俺ならこんなん余裕
それから俺の回復薬が丁度きれた頃にハジメは俺とムルムルの戦っている場所に戻って来た。
「お待たせまった?」
「待ったわ。それに何してたんだよ早くしろ」
「実はキャンプで美味しいご飯食べたり、肉を自分で焼いたりしてたら少し遅れてな」
「そういうのは自分で枠立ててる時にでもやれ、視聴者になんも伝わらんだろ」
「それもそうか」
そんな事言いつつもハジメはまたもや2匹の魚を取り出しムルムルに切りかかった。
そうしてその後はハジメがタゲを取り戻し特に事故もなくムルムルが逃げ出すところまで2人で追い詰めた。
「どうする?捕獲する?」
「うーん別にムルムルの素材はいらんし討伐しよ捕獲玉と罠が勿体無い」
「そっか了解」
そうして最後の最後で事件は起こった。
「よし後もうちょっとだ。どうするホムララストアタックしてみるか?」
「何?なんかボーナスでもあんの?」
「いや特にないけど何かラストアタックって嬉しくない?」
「めちゃくちゃ嬉しい!」
「ならもうムルムルも瀕死だし俺はちょっと離れたところから見守ってるよ」
「任せとけ!おら、ラストアタックいただき!」
コメント
:おっとこれは……
:おいおいアイツ死んだわ
:ナム
:俺なら余裕
:これは、フラグですかね?
:体力減ってるから回復しろ
「おいお前ら流石に失礼だろ」
「ほらホムラコメントなんか見ないで画面画面」
「もぅ何だよ。ちゃんとやってるって」
そんな話をしているとムルムルがコチラに全力で突進をして来た。
そうしてそれに合わせる様にムルムルの頭部目掛けてため攻撃を入れた。
そこまではよかった。
そこで討伐の証拠であるクエスト完了の文字が画面いっぱいに出てきた。ムルムルと一緒に倒れている俺を映しながら。
「はぁ?????」
「草ぁ」
コメント
:知ってた
:知ってた
:俺ならできてた
:知ってた
:知ってた
:知ってた
剥ぎ取りをしながら絶賛大爆笑しているハジメに八つ当たりしながら、急いでムルムルの死体がある場所まで全力で走る。
そのおかげか時間はギリギリで一回ぐらいはギリで剥ぎ取りできる時間にムルムルの死体にたどり着いた。
「はいギリギリセーフ。と言うかこういうのはいつもハジメの役だろ」
「ほら俺はその前に一回死んで因果率変えたから」
「なんだその厨二用語は、まぁいいでも一応剥ぎ取りできるからいいか」
そうしてザクザクとムルムルの死体から素材を剥ぎ取っていると、画面の端から中型生物が突進して来て剥ぎ取りをしている俺を突き飛ばした。
「クソガァァァァァー!!!」
「wwwwwww」
ドンっ!!
台パンしたのは許してくれ流石にこれにはイラついたんだ。
その後の配信も何かとアクシデントはありながらもゲームを楽しめ。
凄くいい配信になったと思う。
「じゃあそろそろ時間だと思うので今日の配信はこれぐらいで終わりたいと思います。それと実はこの配信で俺のチャンネルでは初の事が一つあります。なんと同接数初の四桁達成!!ハジメとその視聴者様本当にありがとうございました」
「おめでとう」
コメント
:改めて感謝されるとなんか恥ずかしい
:もっと感謝してもいいぞ
:本当だ3000人以上居る
:これは俺ではできん
:↑出来ないんかい!
「それでは改めて乙ホムでした」
「乙ホムでした!」
この配信は終了しています。
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10話 後輩まさかの大炎上
コラボ配信後の通話
「いやー今回のコラボも大成功だなホムラ」
「改めてだけど本当にありがとう。まさか俺のチャンネルで同接数四桁行くとは思ってなかったから。実はちょっと涙出た」
「あーでもその気持ちわかるな。ほら俺も始めの方あんま人気出なかったけど、人気出始めた時で同接数四桁行った時は仲良いvtuberにメッセージ送りまくったからな」
「スッゲェ迷惑じゃんw」
「それぐらい嬉しかったんだって」
そんな感じで2人で今後のコラボの事や面白いゲームなどの情報交換をしていると、ハジメがいきなり変な事を聞いて来た。
「なぁホムラ歌姫 クラゲってお前のとこの三期生だったよな。確か」
「そうだけどそれがどうした?もしかしてコラボしたいとかか?すまんがそれは俺に言われても困るぞ」
「いやそうじゃなくてな。なんかお前と同じレベルで炎上って言うか大炎上してるぞ」
「……………………は?」
正直こんな一言だけど頑張って言葉を捻り出した事を褒めて欲しい。
いや何故歌姫 クラゲが炎上してんだ?それもボヤレベルじゃなくて大炎上って。
流石に昔炎上体質のあったハジメの言う事だから見間違えとかじゃないとは思うけど、三期生はまだデビューしてから1ヶ月も経ってないんだぞ?
それで何故というかどうやってそこまで炎上したんだ?
「ハジメそれってどこの情報?」
「いや俺も知らなかったんだけどうちの後輩からホムラの後輩が燃えてるって情報が来て、ツイッター調べたらスッゲェ燃えてて流石にびっくりした。」
「マジかよ。ちょっと調べてみるわ。今日はコラボありがとな。それと報告してくれた後輩に感謝伝えといてくれじゃあ」
そう言って俺は一方的にハジメとの通話を切り、ツイッターなどを使って何故歌姫 クラゲが燃えているのかを突き止めようと思った。
そしてそれは簡単にわかった。なんと歌姫 クラゲには彼氏が居たらしい。
その彼氏の声が配信にのりテンパった歌姫 クラゲは言い訳もできずにそのまま配信を一方的に切ったらしい。
「何というかこれは燃えるべくして燃えたって感じだな。まぁでも特にこれに関しちゃ俺に出来ることもないし運営がどうにでもするか。まぁでもその前に件の動画でも見てみるか、どうせ誰かが切り抜き上げてるだろうしな」
俺は手持ちのスマホで【歌姫 クラゲ 彼氏】とネットで検索にかけるとそれはそれは大量の切り抜きやネット記事が出てきた。
俺はその中の切り抜きの一つを開いた。
それは普通の雑談配信の一部だった。
「それでねこの前食べたワッフルが凄く美味しくてね」
コメント
:クラゲちゃん甘いの好きだもんね
:何処のワッフル?
:そんなに食べて大丈夫?
「大丈夫だよ!私これでも細い方なんだし」
そんな風に視聴者と一緒にワイワイと話し合っていると、その奥で微かに男の声が聞こえた。
だがそれは俺が男の声を集中して探していたのと、字幕があったから気付けた様なもので、これを配信中に気付けた奴は本当にすごいな。
コメント
:あれ?今男の声聞こえなかった?
:気のせいだろw
:クラゲちゃんがそんなことするわけないだろ。アンチか?
:アレ?どうしたのクラゲちゃん?
「……あっ」
それから歌姫 クラゲはマイクをミュートにしたのか何の音も聞こえなくなり、画面に映る歌姫 クラゲがわちゃわちゃと左右に動く姿で動き回り。
最後には視聴者のコメントも無視して歌姫 クラゲは一方的に配信をきった。
「これはやっちまったな。にしてもこの男の声何処かで……」
そんな事を考えながらその切り抜きを何度か見ていると中学校から帰ってきた真冬がドタドタと大きな足音を立てて、ノックもせずに俺の部屋の扉を開け放った。
「ねぇねぇ夏兄!この炎上してるvtuberって夏兄の所の三期生だったよね」
「お、おうそうだぞ。それと女の子がそんな足音を立てて走るのははしたないからやめなさい。あと俺が配信中かもしれないから次からはちゃんとノックしてね」
「う、うん。ごめんなさい。ってそんな事じゃなくてこの人ってあの美人さんじゃない?」
「あのって?どのだ?俺の目の前にいる美人さんかな?」
「もう、今はそんな冗談じゃなくてほらこの前夏兄とワッフル食べにいったじゃん!その時にほら!」
そう言われてその時のことを思い出すと、何となく微かに多分きっとあっているかはわからないがなんとなくその顔を思い出した。
「あーアレねアレ」
「夏兄おぼえてないの!?もしかしてその年でボケ始めてるの?」
「いやすまん。でもな本当に何となく思い出したから。アレだろ彼氏がすごい遅れてきた感じのアレだったカップルだろ」
「そうそれ」
成程だから何となく聞き覚えがあったのか。納得納得……
「ってえぇぇぇぇ!!!そんな偶然あるか!?」
「ねっね、凄いでしょ学校で気づいた時早くお兄ちゃんに自慢したかったんだ!」
「流石は俺の妹だ!すごいなぁ流石だ真冬!」
そうやって真冬を褒めちぎると、真冬は顔を赤らめながら若干とろけた顔でニマニマしていた。
これが本当に俺の妹なのか!可愛すぎるぞ!そんな顔されたらお兄ちゃんまた奮発したくなっちゃう。
はっ!成程これがスパチャをしている視聴者の気持ちか、今まで何でスパチャなんてしてるのか全く分からなかったが、そう言う事なら納得だな。
にしても本当に凄いな、まさかたまたま食べに行った店に顔も名前も知らない後輩と件の彼氏が来ているとはな。
と言うか兄とか友達とかじゃなくてマジで彼氏だったとはな。
まぁうちの事務所は特に恋愛禁止とかないし当たり前っちゃ当たり前だな。
それに多分あの感じだったら歌姫 クラゲになる前から付き合ってるだろうな。と言う事はその事は運営も知ってると思うし、まぁいつかはこうなると運営も考えてたと思うしなんだかんだで直ぐに火消しされるだろうな。
「どうしたの夏兄?」
「いや何でもない。まぁこの件は俺達が考える事でもないだろうし。それにそろそろ晩飯の時間だし、それに真冬は帰って来たばかりで汗もかいてるだろ。ほらお風呂にでも入ってきなさい。」
「はーい。夏兄今日の晩御飯なに?」
「チーズハンバーグでどうだ?」
「上にチーズが乗ってるやつ?」
「中にチーズが入ってるやつだ」
それを聞いた真冬は喜びながら着替えを持って脱衣所に向かった。
そして俺も真冬に続く様にパソコンの電源を落として部屋を出るのであった。
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11話 後輩まさかの大炎上 その2
歌姫 クラゲが彼氏バレして大炎上してから一夜が経った。
今日はいつもより少し早く起きて窓を開けると、清々しい朝日が俺の顔を照りつける。
寝巻きから普段着に着替え真冬のお弁当と朝ごはんを作りながら、夜中に帰って来たであろう両親の食べ終えた食器を洗っていた。
そして7時ごろになると真冬の部屋に行き、すやすやと寝息を立てている真冬を起こす。
「おーい真冬もう朝だぞ起きろー」
「うーん、あと1日」
「長い!ほらさっさと起きる」
「あーい」
真冬を起こしてからは、真冬の制服を用意して部屋を後にする。
それから10分後寝癖を付けた真冬が若干寝ぼけながら二階から降りて来た。
今日の朝食はオムレツだ。
寝ぼけているせいか口元にケチャップをつけながらゆっくりとスプーンを口に運ぶ。
「ほら真冬ちゃんと起きてから食べなさい」
口元についているケチャップを拭きながら言う。
ご飯を食べ終えた真冬を洗面所に連れて行き、歯磨きをしている真冬の髪をセットする。
それが終わるとちゃんと目を覚ました真冬が学校指定のカバンにお弁当を詰めて中学校へと向かった。
その後両親が起きて来てオムレツを急いでかけこみ真冬を追い越す勢いで2人とも家を出て行った。
みんなが家を出た後は洗い物をして、洗濯に掃除一通りの家事をし終えると、今日する配信内容を考えながらパソコンを開く。
ハジメにおすすめされたゲームの一覧を見て周り、それもすむとふと昨日のことを思い出した。
「そういや歌姫 クラゲの件どうなったんだろ?あれから半日はだったと思うし何か進展はあるとは思うが」
そんなことを考えながらツイッターなどで情報を探すとあり得ないことが判明した。
それは運営とこの件の中心人物である歌姫 クラゲが何もしていないのだ。
そのせいか自称暴露系のYouTuberが適当なことを言い、さらにはそれに尾鰭に背鰭までついたレベルで事実が曲解されていた。
「歌姫 クラゲは裏では、男性vや大物YouTuber複数人と付き合っているとか。それにその証拠として、実際歌姫 クラゲと付き合っていた人や、誘われたと言う人も続出って。運営は何やってんだよ!」
と言うかどうして半日程度で、ここまで話がおかしくなったんだ?流石に変だろ。
もしかして、この暴露系のせいなのか?と言うか、本当に運営は何やってんだよ。
この際だからもう本当のこと言えばいいだろ。
歌姫 クラゲには彼氏がいます。
そして、今現在ネットで言われている事は、事実無根でこれ以上当社のライバーの誹謗中傷をするのであれば、法的処置をする、とか何とかさぁ。
どうせこの暴露系も、法的処置をとるって言ったら、多分この動画も消すだろうし。
運営は何してんだよ?
そんなことを考えていると、何だか少しイライラして来て、運営に一言言ってやろうと、本社に連絡をかけるが、誰かと連絡しているのか繋がらなかった。
マネージャーにディスコードを送ってはみたものの、やはりコチラにも何の返事は無かった。
「どうなってんだこれ?と言うか、こんなに叩かれて歌姫 クラゲ本人は大丈夫なのか?運営はちゃんとメンタルケアもやってるのか?もし俺の時と同じで、このまま放置してたら、流石にやばいぞ」
俺の時は、実際俺が何かやったわけではなく、他の奴の罪が、こちらに流れ込んできただけだから、ギリギリ耐えられたが、今回は本人が叩かれているのだ。
歌姫クラゲの感じている精神的苦痛は、俺の感じた比じゃないのだろう。知らんけど。
とかまぁ、色々考えたけど一応ユメノミライの後輩だから何とかしたいけど、まぁ連絡もつかんし歌姫クラゲの連絡先も知らんから、結局の所何も出来ないし。様子見かな。
今日は、その後歌姫クラゲに対しては、特に何の進展もなく。
俺の配信は、いつもながらに荒れに荒れていた。ついでに何故か歌姫クラゲの愚痴を言いにくるやつもいた。
そして翌日、またしても事態は悪化していた。
その理由は明白だった。運営に無理やり読まされたであろう謝罪動画のせいだ。
その内容は一貫して、俺たち運営は何も悪くないよ、と言うことを前面に出されていて、そして何より歌姫クラゲが、何に対して謝っているのかわかっていない様子で、その様子を見た視聴者達は、自分の推しを馬鹿にされたと感じて、叩かれる対象は歌姫クラゲから、歌姫クラゲとユメノミライの運営両者へと変わった。
「何だこれ。ひっど。流石にこれは歌姫クラゲが可哀想だろ」
その考えは俺だけのものではなく、軽く調べただけでも俺と同じ考えの者は、多数いた。
歌姫クラゲには同情しながらも、発端は本人だし頑張れとしか思えなかった。
そんな風に、考えながら家の用事を片しているとスマホから通知音が鳴り響く。
もしかして連絡を見たマネージャーからかと思い、急いでスマホの画面を開く。
『ちょっとホムラ君に相談があるんだけどいいかな?』
その相手はマネージャーではなく、チャンネル登録者数はあと少しで、100万にも届きそうな、我ユメノミライの圧倒的エースにして、俺の同期、星野 キラメだった。
『ちょうど家事が、ひと段落ついて暇だったから大丈夫だ。相談って?』
『ありがとう。それでその”私達”の後輩の歌姫 クラゲちゃんが、ちょっと危ない状態にあるのはホムラ君は知ってる?』
『まぁ一応はな』
『それは良かった。それで一応、かわいい後輩だから、気を付けて見てたんだけど、何だか状況が悪くなって来て、その事をマネージャーさんに聞こうと思ったけど、何でか連絡もつかなくなって、それでどうしようって思ってた所に、クラゲちゃんが直接の相談に来たんだけど、私そういうのよく分からなくって、ホムラ君ならどうにかしてくれるかなって』
『うーん、まぁちょっと危ない方法でいいなら、何とかする方法はあるぞ』
『え!本当?でもちょっと危ないって?大丈夫なの?』
『まぁ多分、何とかなるだろ』
『そっか、じゃあお願いするね』
『了解、任せとけ』
キラメとの連絡を終え、昼飯を食べている時にスマホが鳴った。
画面を見ると件の歌姫クラゲからだった。
キラメから、話を聞いたらしく俺の連絡先を聞いて、わざわざチャットをくれたらしい。
俺は自分が考えている計画を歌姫クラゲに話した。
歌姫クラゲはそれを聞いた時は、すごく驚きそんなことをしても、大丈夫なのかと聞いて来たが、俺は問題ない(大問題)と返しておいた。
それから少し経った頃に、歌姫クラゲはこの作戦を決行することに了承した。
まぁ本当に決行できるかは、まだわからないけどな。
俺は、ハジメに連絡を取り、そして俺が歌姫クラゲの炎上に対して、やる事とそれをした際に生じるデメリットを話し、協力してもらえないかと頼んでみた。
正直この件でハジメに嫌われる事を覚悟で連絡した。
それはそうだろう、何故なら今から俺がする事は、二階堂ハジメというブランドに、大きく傷を付けてしまう可能性が大いにある。
だからこれ以降連絡拒否されても仕方ないだろう。
だが俺の作戦にはハジメ、そう過去によく炎上していた二階堂ハジメという存在が必要不可欠なのだから。
そうして俺はハジメから来るかも分からない返事を、気にしながら約30分ほど経った頃に、連絡が来た。
『運営に一応相談したけど、ok出たから。是非協力させて欲しい』
『本当にいいのか?だってこれ、ほぼほぼ間違いなく大炎上するぞ』
『いやでもほら、面白そうじゃん』
『いやお前なぁ。何か本当に凄いわ。でも今回の件もありがとう』
『いやいや、まだやっても無いんだから。そこはありがとうじゃなくて、一緒に頑張ろう!とかでいいんじゃねぇか』
『そうだなハジメ。今回の作戦、いやコラボ絶対成功させような!』
『おおー!!』
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12話 結成!我ら炎上戦隊燃えるんじゃー
「あーあーテステス。どうも皆さんこんにちは、今日は凄いですね、つい先日初の、同接四桁行ったのに、今日は五桁だよ五桁。いやー凄いね。じゃあ改めて自己紹介しますか。どうも皆さん、炎上戦隊燃えるんじゃーリーダーにして、レッドの九重ホムラだ。俺はアイドルグループ内にいる、唯一いる男だよろしくな!じゃあ次」
「いやー本当に、いつものホムラの配信とは大違いだな人数だけ、コメントはいつも通り、真っ赤かだけどな。俺は、炎上戦隊燃えるんじゃー副リーダーにして、レッドのアンダーライブ所属、二階堂ハジメだ。俺は過去、周りの皆んなとは違い、配信が面白くなかったり、配信構成が悪かったりで燃えに燃えていたぜ。よろしくな最後に」
「は、はい。えっとユメノミライ所属の、炎上戦隊燃えるんじゃー、レッドの歌姫クラゲです。えっとその、配信中に彼氏バレして、大炎上中です。よろしくお願いします」
「おいおい、どうしたんだいクラゲちゃん。そんなに緊張して、もしお困りなら先輩である、俺に何でも聞いてくれよ。手取り足取り教えてあげるよ」
「流石リーダー、自分が燃える事もいとわず後輩を助けるとは、いやー眩しいね。体が燃えている様だ」
コメント
:何だこの企画
:まさかこう来るとは
:何故その船に乗ったハジメ
:火に油を注ぐスタイル
:炎上戦隊燃えるんじゃーw
:何人レッドいんだよw
:これ全員炎上経験者かよそれも結構なレベルの
:クラゲちゃんを巻き込むな
「では我ら、炎上戦隊燃えるんじゃーの初のコラボ内容は、【ぶっちゃけよう!炎上してるこっちの身に、なってみろ愚痴対談!】いぇーい!」
「ドンドンぱふぱふ!」
「いぇーい?」
「えー、この企画は日々炎上で、体を鍛えている俺が、その時感じたイライラを、発散したいと思いハジメと、今現在炎上中の、歌姫クラゲちゃんをお呼びしました!そして、この企画は運営に許可を取ってません!いやぁー後が怖いねぇ」
「えっ、許可取ってなかったんですか!?」
「いやー取ってないというよりかは、俺運営に嫌われてるのか、無視されてるんだよね。だからこの企画を進める間も、何度か許可を取る為に連絡したんだけど、残念ながら繋がらなかったんだよね。いやー残念残念。あっでも、アンダーライブの運営さんとは、メル友だからそっちには、ちゃんと許可とったよ」
「メル友って、何それ俺知らないんだけど。いつそんな事してたんだ?」
「そんなの俺の必殺技である、ファイヤーパンチを繰り出して入院した頃かな」
「あーあの時か!」
コメント
:よくこんな企画運営が通したな
:まぁ愚痴くらいなら聞いてやるよ
:許可取ってないは草
:クラゲちゃんびっくり
:この反応だとハジメは知ってたな
:何?何故お前がアンダーライブとメル友に!と言うかメールって古いな
:こちらはハジメがびっくり
:でたホムラ必殺ファイヤーパンチ
「じゃあまずは、リーダーである俺から話そうかな」
「よっ流石はリーダー!」
「頑張ってください」
「おう任せとけ」
一旦息を整える為に、深呼吸をする。そして俺の中で、ずっと燻っていた、何処にもぶつけられないイライラを、吐き出した。
「何故、俺が燃やされる!!!俺はユメノミライが、アイドル売りする前から配信してんだぞ!その俺が、何故ここまで叩かれなければならない!それに、何故お前ら運営が、俺のバックアップをしない!その癖、どうして俺の稼いだ金をお前らが取る!正直俺は、ユメノミライに所属していなかったら、もっと確実に人気になっていたぞ、ソースは俺のメル友のアンダーライブの運営だ!足を引っ張るだけ引っ張っているテメェら運営は、クソだ!金返せ」
コメント
:思ってたよりガチな内容だ
:何かごめんな
:うっわ
:ここだけ聞くとクソ運営だな
:ここでもまたしても登場するメル友
:金返せは草
「おー、思ってたよりガチな奴だな。ホムラお前溜まってたんだな」
「いやこれでも話せるレベルの奴だぞ」
「私の知ってる運営さんとは、全く違いますね」
「そうか?でも今、運営がクラゲちゃんにしてる事考えたら、納得いかない?詳しい事は、知らんけどあの謝罪動画も、運営にやらされたんだろ?」
「おいおいちょっと待ってくれよ、リーダー次は俺の番のはずだろ?」
「そうだったな、すまない副リーダー。この話の続きはクラゲちゃん本人から、後で聞こうか」
「では、二番手は炎上戦隊燃えるじゃーの副リーダーを務める、この俺が行かせてもらおう。」
コメント
:思ってたより重い話でクラゲちゃん黙っちゃった
:↑逆にハジメは若干話したくてうずうずしてるw
:まぁクラゲちゃんは配信開始してからまだ一か月も経ってないからしょうがない
:数多のアンチを持っているリーダーと副リーダーと比べたら、クラゲちゃんはまだまだペーペーよ
:炎上玄人に混じる炎上素人
「まずは、今までつまんない配信をして、すいませんでした!だけどな俺はあれでもお前ら、視聴者を楽しませようと色々考えてやってたんだ、それをお前らは俺の配信も見もせずに、噂だけでつまらつまらんと言う奴は消えろ!知ってるんだぞ、俺の配信を見に来てた奴らの名前は今でも全員覚えてる。そいつらは、いつも面白いと言ってくれていたぞ。だが、俺の事を悪く言ってるお前ら!そうお前らだ、俺はお前らの名前を配信で、一度も見た事ないぞ?なのにどうして、俺の配信がつまんないって分かる!お前らが、アンダーライブに入れなかったからって、俺にあたってんじゃねぇよバーカ!!」
コメント
:ハジメめちゃくちゃいい笑顔だな
:僻みであんなに燃えてたのかハジメ。そらホムラと仲良くなるは
:ハジメ可愛そう
:バーカで草
:何か思ったよりこの配信燃えてないな
:↑いつものホムラの配信の方が荒れてる
「おいおい何だよ、vtuberアンチってのはどんだけ、小っちゃい野郎どもなんだよ。俺も、ハジメも、迷惑してんだから、これからは人を下げるんじゃ無くて、自分を磨く事に時間かけろよ!」
「それもそうだね。そんなくだらないことしてる限りは、どこの事務所も君達の事を、受け入れないだろうね。まぁどれだけ頑張っても、ホムラの立ち位置には、一生なれないけどな」
「そら、今からうちに入ってきたいやつは、本当にアイツと同じ、直結野郎だろうからな」
「その話題って、触れていいのか?ホムラにクラゲちゃん」
「俺は、今回バリバリ触れるつもりだぞ。俺の炎上の殆どが、アイツ元二期生の久瀬ヤウロのせいだからな」
「あの、でも確かその人って、触れちゃダメなんじゃ……」
「そんなの今更今更。だってそれよりやばい、運営の愚痴言ってるわけだし。今更あんなクソ野郎の話しても、誰も困んないって」
「まぁそっちが大丈夫って言うなら、大丈夫なんだろう」
コメント
:うっ俺の心にダイレクトアタックする言葉が
:成程だから俺はアンダーライブ受からなかったのか
:久瀬の野郎と同じにすんな俺はただ純粋にユメノミライの皆んなと仲良くしたいだけだ!
:↑キモ
:久瀬ヤウロって誰?
「マジか、まさか久瀬のこと知らないやつが、居るとはな。アイツは、ある意味でレジェンドだと思ってるんだけど」
「ホムラの言う通りだな、アレのせいで男vtuberは、軒並み風当たりが悪くなったからな」
「そうだったんですか。実は私も、あまりvtuberの事は詳しく無かったので、その久瀬さんと言う人の事も、運営さんが名前を出しちゃいけない人って、言ってたぐらいしか知らなくて」
そうか、最近はもうあいつの話題も出なくなったのか、
「ならついでだし、久瀬についてでも話そうか?それとも先にクラゲちゃんが、愚痴を言うかい?」
「まだ心の準備が出来ていないので、出来れば先に、その久瀬さんの話をお願いします。」
「なら久瀬ヤウロと言う、クソ野郎の事を、改めて説明してやろう。まずはそうだな、アイツは俺たちの入っている、ユメノミライの元二期生で、俺に続いて2人目の男性vだな。ここまでは、クラゲちゃんも知ってるだろ?」
俺がそう聞くと、クラゲちゃんは一応自分なりにデビュー前に調べたと話した。
「なら続きだな。アイツは入ってきた当時から、問題行動が多くてな。俺や他のメンバーにそれにクソ運営からも、何度も注意されていたが、態度を改めず、他のvtuberさんや、企業さまに迷惑をかけまくっていた。勿論ハジメの所属している、アンダーライブにもな。だが、まだギリギリそこまではよかった。問題はこの後だ、コイツは何と視聴者に、手を出したらしいんだ」
俺があった事実をそのまま淡々と話すと、そこまで酷い人物だと思っていなかった、クラゲちゃんは驚きのあまり黙り込んでしまった。
「まぁその件があってから、運営は男vを許さん!ってなって、その結果、今のユメノミライの形になったんだよね。そして、その被害に巻き込まれたのが、俺ってわけ」
「それ九重先輩は、全然悪くないじゃないですか!」
「だよな!俺全然悪くないよな!」
コメント
:いやー改めて聞いてもヤウロってクソだな
:おーい久瀬くん見ってるぅ?
:おいおい刑務所からは配信は見れないだろw
:運営君は今も昔も無能なんだね
:これマジでホムラ悪くねぇじゃん
:何でホムラ燃えてんの?
「という事で、ユメノミライの本当の汚点、久瀬ヤウロの紹介でした。もっと詳しいことが、知りたかったら。久瀬ヤウロのwikiでも見てね。それじゃあクラゲちゃん準備は、大丈夫かな?」
「……はい大丈夫です。」
「それでは最後に、現在大炎上中の歌姫クラゲちゃんの、今まで言えなかった本音です。どうぞ」
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13話 結成!我ら炎上戦隊燃えるんじゃー その2
「それでは最後に、現在大炎上中の歌姫クラゲちゃんの、今まで言えなかった本音です。どうぞ」
俺がそう言うと、クラゲちゃんは話し始めた。
「わ、私は元々ユメノミライに入る前から、彼と付き合っていました。彼は、私が歌姫クラゲになる前、歌の事で上手くいって無かった時に、手を差し伸べてくれました。そして、何より今の私があるのは、彼のおかげです。私の夢である、私の歌を世界に広める為に、彼は色んなことに手を貸してくれました。ユメノミライに入る事を勧めてくれたのも彼です。私がユメノミライに入れてからは、配信のやり方を教えてくれました。彼もあまり、vtuberに詳しくないのに、色々調べて教えてくれました。だから歌姫クラゲは、私と彼の2人で1人だと私は、思っています。」
そう話すクラゲちゃんの声は真剣そのもので、俺もハジメもその話を聞き入っていた。
「そして今彼は、自分のせいで私の夢を潰してしまったと思い、私に別れを告げようとしてきました。勿論、私はそれを断りました。何故なら私の夢は、ここユメノミライで無くても叶えられるからです。だけど彼が居なければ、私の夢は叶えられません。そう今の私の夢は、彼と一緒に私の歌を世界に広げる事です。配信をしている事を彼に話していなかったのは、私のミスなので私の事を悪く言うのは構いません。ですが彼を悪く言う事は、絶対に許しません。以上です。」
「成程成程、クラゲちゃん」
「は、はい!」
「いい夢じゃないか。出来れば是非その夢を、ユメノミライで叶えて欲しいと、俺は思う。勿論、その例の彼と一緒にね」
「あっ、もしユメノミライが嫌なら、その彼と一緒にアンダーライブにでも、来てみるかい?」
「おいおい何勝手に、勧誘してるんだよハジメ。うちの可愛い後輩は、絶対に渡さんぞ!」
コメント
:成程クラゲちゃんの彼氏いいやつじゃん
:彼氏はそのまま消えろ
:↑こう言うやつが居るから彼氏君が自分のせいだと思ったんだろ
:私もそんな彼氏欲しい
:彼氏もvtuber化する?
:めっちゃいいやつやん
:勧誘すなw
コメントを見てみると、思ったより視聴者の反乱はなく、歌姫クラゲの彼氏がびっくりする程、いい奴だったので何も言えなくなったのだろう。
まさかあの30分遅れてきた奴が、そこまでの奴だったとはな。
まぁこの様子なら、第二段階に移って大丈夫だろう。
「それじゃあ、配信が盛り上がってきたところで、次の議題は今のを、聞けばわかると思うけど、どうにかして、クラゲちゃんとその彼を、助けてあげたい。という事で、題して【助けてみんなの力で、一組のカップルを、救おう大作戦】だ。という事で、視聴者も交えて皆んな意見を、言ってくれ。頼むな」
コメント
:丸投げかーい!
:まぁ今の話聞いたら助けたるのも分からんでもない
:ユニコーンとガチ恋勢は帰ってどうぞ
:やっぱり彼氏のvtuber化じゃない?
:まずはクソ運営くんの正常化
:もういっその事開き直って彼氏君も配信に出すとか?
「成程な、彼氏君をこの配信に呼ぶってのは、まぁまぁ面白そうだな。ハジメとクラゲちゃんは、他に何か案ある?別にどんなでもいいよ、例えばユメノミライを買収して、自由にするとかでもさ」
「でも流石に、彼を配信に連れて来るのは、彼に迷惑かなって思うから……」
「そうだぞホムラ、一般人をこんな魔境に放り込むのは、流石に酷いだろ、そういうのは、クラゲちゃんと、その彼氏君が話し合って決める事で、俺たちがどうこう言う問題じゃないと思うぞ」
「それもそうだな。という事で、今の案は否決という事で、他の案を考えて行こうか。」
そしてならどうするかと悩んでいると、ハジメが何かいい案を思いついたのか声を上げた。
「はいはい、リーダー」
「どうかしたんだい?副リーダー?」
「俺的にはやっぱり、運営をどうにかするべきなんじゃない?まぁ2人の言葉だけで、会社一つを知れるとは思ってないけど、今回の炎上も、やることやる事全てが裏目に出てるし、それにホムラの事も、ずっと放置してたんだろ?流石に出来たばっかりの会社だからって、言い訳はちょっと出来ないかな。まぁ、今俺たちがやってる事は、もっと許されない事だとは思うけどね」
なるほどな、
「まぁ、この配信の責任は、全部リーダーである俺が取るつもりだから、その辺りは安心しといてね。それで、運営についてだが、全く連絡つかん、&今まで何度か抗議してみたけど変わらなかったから、正直難しいと思う。」
「やっぱりそうか……」
俺の今までの状況から、なんとなく想像していたのか、ハジメは残念そうにそう言葉をこぼした。
「まぁ、だからってうちの運営が全部悪いかって言ったら、今までさんざんボロクソに言ったがそんな訳ないんだけどな。」
「そうなのか?ホムラの事をずっと追って来た身からすると、相当酷く見えるんだが……」
「ハジメがそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、実際ユメノミライが成功したのって、男女混合を完全撤廃して、男性Vとのコラボとかも完全に遮断した最近だしな。うちの運営もアンダーライブに追いつこうと、色々やった結果なんだと思うし、それにクラゲちゃんも言ってたけどvtuber運営は普通にやってるし、そこは多分不満は出てないと思うぞ。なぁクラゲちゃん」
俺がそう聞くとクラゲちゃんは、先ほどまでの攻める口調ではなく、淡々と事実を述べる様に話し始めた。
「はい、私はまだユメノミライに入って少ししか経っていませんけど、運営さんには色々とお世話になりました。」
「だよね。だから俺個人としては、ユメノミライが上へ上へ行くのは勿論嬉しい事だけど、上だけ見るんじゃなくて偶には下の方もしっかり確認してほしいってのが、俺個人としての感想かな。その辺りアンダーライブはめちゃくちゃしっかりしてるよね」
「俺がホムラにやらかした時も、俺の知らない所で色々やってくれてたらしいからな。うちはライバーを大切にを心掛けてるらしいからな」
それは何とも羨ましい。
そう思いながらもこれが最近有名になって来たユメノミライと、vtuberの大御所でもあるアンダーライブの差なんだろうなと、しみじみと感じてしまった。
その後も俺たち3人は運営にある不満などを話していたが、後半はほとんどこうした方がいいなやああした方がいいなどの、ライバー視点からの改善案を個人的に話し合い、今回の配信はそこまでコメント欄が荒れる事なくそのまま終了した。
◯
そして配信が終了してから少し経った頃、俺のスマホに一件の連絡が入り、やっぱり今回の件はやり過ぎたかと思い、出来ればクビになりません様にと願いながらスマホを開くと、そこにはユメノミライの運営からではなく、アンダーライブからのメールだった。
その内容も俺への否定的な要件ではなく、今回の配信で話していた改善案の内容を使わせて欲しいとの連絡で、それを見た俺は他の事務所の1ライバーの意見でも、しっかりと聞きそれを取り入れる動きをするアンダーライブの運営の動きを見て、それとは真逆に自社のライバーの意見でも、自分達に都合の悪い事は聞かなかったフリをするユメノミライの運営との違いを見せつけられて、俺は何とも言えない気持ちになった。
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14話 【炎上】彼氏バレ鎮火完了!
炎上戦隊燃えるんじゃーと言う運営に喧嘩を売りまくった配信をした翌日、俺は久しぶりに事務所に呼び出しをくらった。
呼び出しを食らった俺は年甲斐も無く妹の足に抱きつき、
「絶対クビ宣告だから会社行きたくない!」
と半泣きで言うが、それを自業自得と一蹴して真冬はちゃんと事務所に行きなよと、告げそのまま学校へと向かってしまった。
推定クビ宣告と、かわいい妹の冷たい態度のダブルアタックで落ち込んでいたが、それでも時間は誰しも平等に過ぎていき、いつの間にか呼び出しされた時間が近づき、俺は重たい腰を上げゆっくりと事務所へと向かう事にした。
そして都内某所にあるユメノミライの事務所が入っているビルに着き、そのまま事務所がある階層にエレベーターで向かった。
その最中に電話が鳴り響くスタッフさん達の仕事スペースを横切った際、この電話はもしかして昨日の配信のせいなのでは?と考え全身から嫌な汗がこぼれ落ちる。
いや、きっとコレは偶々今日ユメノミライの運営に連絡する人が多いだけだ、と自分に言い聞かせる事で何とか逃げずに前へと進む事ができた。
そして、呼び出しがあった部屋の前に来ると、俺は手鏡で自分の姿を確認して、問題がない事が確認できると、震える手で扉をノックした。
すると中から渋い声でどうぞと一言言われて、俺は失礼しますといい中に入ると、そこには見たこともないスーツ姿の男性が複数人長机を挟んだ反対側に座っていた。
それを見た瞬間俺の体は自然ととある姿勢をとっていた。
それは、 ジャパニーズ"土 下 座"だった。
「昨日の配信の件申し訳ありませんでした!!どうか、どうか、クビだけはお許しください!!」
昨日の配信での態度は何処へやら、俺はどうにかユメノミライをクビにされない様に、何のプライドもなく頭を地面に擦り付けて、なんなら靴も舐める勢いで、部屋の外まで聞こえるほどの大声で叫んだ。
そしてその様子を静かに見守っていた、スーツを見に纏った男性の1人が話しはじめようとすると、その続きを聞きたくなかった俺は、
「今日「すみませんでしたァァァァー!!」……」
「わざわ「申し訳ありませんでした!」……」
「君「どうかクビだけはぁぁ!」……」
全力で邪魔し続けた。
だがそんな俺の必死な抵抗も時間が経つごとに効力が弱まっていき、5分ほどで無力化されてしまった。
そうして俺の抵抗虚しくスーツ姿の男性が、ようやくかと話し始めた内容は、俺の想像していたものとは全く違う話だった。
それもそのはず、俺は今さっきまでずっとクビ宣告をされると思い精一杯話の邪魔をしていたのに、現在今俺に向かって言われた言葉は、クビの2文字では無くつらつらと言い訳を並べてはいたが、それは正真正銘謝罪だった。
「へ?」
状況がよくわからず困惑していると、そんな俺を置いておいてスーツ姿の男性達は難しい言葉を並べながら色々と話し始めたのだが、そのほとんどがアジェンダやらグローバルなんたらやら、サスティナブルなどのよくわからない言葉をつらつらと重ねられたせいで、全く頭に入ってこなかったが、何となく分かった事を要約すると
「謝るから、昨日の配信を消してくれってことか?」
先程までのクビにされると思って、ビクビクしていた姿は何処へやら、昨日の配信内容を全く理解していない運営の態度に、俺は呆れ言葉が自然と強くなっていた。
そしてそこから男性達はお互いに攻め合い、そこで聞こえて来た内容に俺は驚かされてしまった。
まず初めに昨日の配信の事だが、ここに居るスーツを着た男性達は誰1人として、俺が配信をしている事を知らず、それを知ったのは今朝のことで事務所に大量の電話がかかって来たことでようやく気付いたらしく、急いで俺を事務所に呼んで問題の配信のアーカイブを消させて、更には今回の事を俺に嘘だと言って貰い、何とか収めようとしたり。
他にも今回の事件を報告してこなかったマネージャーを呼び出そうとしたら、そもそも俺のマネージャーが社内に存在しない事が発覚したりと、色々驚きのことが発覚しそれを本人の目の前で悪びれず話している様子を見て、これがうちの運営なのかと思ってしまった。
その後もよく知らないおっさん達が、お互いに責任を押し付けあっている様子を1時間も見せられた挙句、結局お咎めなども一切なくそのまま自然解散となり、俺は何のためにわざわざ事務所に呼ばれたのか謎のまま、事務所を後にする事になった。
それとどうして昨日の配信で翌日にこんなに文句が来たのかと言うと、何やら昨日の俺の配信を見た某暴露系vtuberが、実際に誰かから聞いたかの様に俺が配信で話した事を、やられている対象を俺だけと言う事をぼかしながらベラベラと自分が調べて来たと話、それをユメノミライの純粋なリスナー達が偶々見つけて、それで自分の推しがこんな目に合っているのかと不安な気持ちになって、やったことだったらしいのだが……
「いやなら俺の配信消したところで、意味ねぇじゃねぇか!」
正直俺の今までの配信の中で、1番盛り上がった配信だったので、出来れば非公開にしたくないなと思い、何か非公開にしなくてもいい様な理由を探していた時に見つけたのだが、実際俺の配信は運営の不満も話しながら、ギリギリエンタメとしても楽しめる内容にはなる様にしていたので、不安な気持ちありきだがそれでも笑える配信になっていた様で、軽く調べた限りではホムラビト達は特に今回の配信で、運営に何かした様子もなくただただ普通に配信を楽しんでいた様で、実際に昨日の配信を見て運営に何か言った人も、クラゲちゃんのファンが何人かだけで、やはり運営に大量に連絡が来た要因は、ユメノミライの運営が100%悪い様に、脚色を加えまくった動画を投稿した暴露系の動画が原因の様だった。
俺が軽く適当に調べただけでも、コレだけのことがわかるのに、それすらも理解していない様子だったあのスーツの男性達は、日頃どんな仕事しているのかと俺は少し気になってしまった。
まぁ、そんな感じだから多分俺がアーカイブを非公開にしなくても、特段何の問題もないと思うし、それにもしあったとしても多分あの人達は俺には一切興味がないだろうと思うから気づきもしないなと思い、俺は昨日の配信のアーカイブは消さずに残しておくことにした。
そんなこんなでクラゲちゃん炎上から色々あり、今vtuber界隈特にユメノミライのファンの中では、クラゲちゃんの彼氏バレうんぬんは、ユメノミライの運営の酷さと言うもっと大きな炎で包み込まれることにより、そのまま徐々に徐々に忘れられていき、後日彼氏さんと一緒に配信をした際に、何故か彼氏さんが普通にいい人で人気になり、そのまま炎上はいつの間にか鎮火してゆき、クラゲちゃんの彼氏バレによる炎上は、彼氏がファン公認ということで落ち着き、それを見て安堵したのも束の間。
なんかよくわかんないけどまた俺が炎上した。
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第2章 vtuberさん偽物現る
15話 掲示板回 その2
クラゲちゃんの炎上が鎮火してから数日後、運営への電話ラッシュも少し落ち着いた様だが、あのスーツの男性達が俺にマネージャーが居ないことを知ったはずなのに、何故かまだ俺にはマネージャーが付くことはないが、正直今までもマネージャーがいなかったので、そこら辺は特に気にしていなかったのだが、今朝目が覚めるといつもの様に、俺のスマホには罵倒の嵐と最近少しずつ増えてきたファンの声が届き、適当にそれに目を通しながら真冬や父さんに母さんの朝ごはんを作っていると、またしてもよくわからない理由で俺は炎上していた。
今までも目玉焼きにソースって意外と合うよねと、配信内でちょこっと話しただけでクソほど炎上したり、最近スーパーの食材が値上がりしたと話しただけで、何故か話題が政治の話まで飛躍して炎上したりと様々な事があったが、今回は全く新しいタイプで俺の知らないところで何かがあったらしく、その火の粉が俺に飛び移り何故か俺が炎上したそうだ……。
「いや、何でだよ!」
◯
ここは捻くれ者達が集うネット掲示板の中でも、より捻くれたものや、人の不幸は蜜の味を地で生きていく者たちが巣食う魔境。
vtuberのアンチスレ
そこではいつもの様に人の悪口に有る事無い事、更には誰かが特に有名な企業勢が炎上すると、スレ中がお祭り騒ぎになるほどだ。
58: 名前 : 名無し
【朗報】ユメノミライ所属の新人、歌姫クラゲ彼氏バレで大炎上!!
59: 名前 : 名無し
>>58
まじか!
60: 名前 : 名無し
祭りだ!
61: 名前 : 名無し
ソースは?
62: 名前 : 名無し
>>61
これ
https://youtube.com/kuragekareshi
63: 名前 : 名無し
>>62
マジだw
よくこんなのに気づくなあのバチャ豚どもはw
64: 名前 : 名無し
>>62
わかんねぇw
65: 名前 : 名無し
ユメノミライならアイツも燃えてるぞ、名前は知らんけど男の奴
66: 名前 : 名無し
>>62
こんなんで燃えるんだな
67: 名前 : 名無し
>>65
そいつは常時炎上してるもんだから、今更気にする様なことでもない
68: 名前 : 名無し
>>65
九重ホムラね
コイツは毎度よくわからん理由で燃えてるから、そんなに気にしなくてもいい
69: 名前 : 名無し
>>67,68
サンクス
70: 名前 : 名無し
せっかく有名企業に入れたのに、わざわざ彼氏作る理由が分からんは
そんな危険なの俺なら絶対にやらんな
71: 名前 : 名無し
>>70
お前はやらんのじゃなくて、できんのやろw
72: 名前 : 名無し
ザマァwwww
・
・
・
182: 名前 : 名無し
謝罪動画w
183: 名前 : 名無し
何あの運営擁護文w
今回の炎上は全て私のせいです、運営は何も関係ありません。コレを何度も繰り返し言わすとか、ユメノミライの運営は何考えてんの?
流石に可哀想だろw
184: 名前 : 名無し
>>183
わかる
185: 名前 : 名無し
>>183
アレはどう考えても悪手
186: 名前 : 名無し
ユメノミライも変わったよな
187: 名前 : 名無し
>>186
何?古参アピ?そう言うのはここじゃなくて、ユメノミライの専用スレでやれよ
188: 名前 : 名無し
>>186
確かユメノミライって二期生が出る前にどっかの企業に買収されたんだっけ?
189: 名前 : 名無し
>>188
そうそう、それまではホムラ含めて今の一期生達が自作アニメもどき作ったり、本人達がvtuberだから映像は流せないのに、心霊スポット行ってそこでご飯食べたり、他にも色々あたおかなことやってたけど、買収されてからはそう言う燃えそうな企画は全部止められて、量産型のvtuberになった。
190: 名前 : 名無し
>>189
昔のユメノミライの良さを全部潰して、あの時の運営の行動の意味がわかんなかったけど、アレって買収されてたんだ
191: 名前 : 名無し
>>188,189,190
ここはアンスレだぞ、ユメノミライのこと話したかったら、ユメノミライの専用スレに行け
スレ違いだぞ
192: 名前 : 名無し
予想通り歌姫クラゲの謝罪動画のせいで更に炎上w
ついでにどう考えても運営が読ませてるってことで、ユメノミライの運営もまとめて炎上してて草
193: 名前 : 名無し
>>192
ほんとユメノミライの運営は無能だわ
毎回ホムラを除いたライバーが炎上した時も、火消し遅れたり今回みたいに余計な事したり、無能って言うよりむしろ邪魔まである
194: 名前 : 名無し
>>193
わかる
俺達的には見てて楽しいけど、最近はここで名前が上がる企業の殆どがユメノミライだし(ただしホムラを除く)
195: 名前 : 名無し
>>194
いや除くなやw
196: 名前 : 名無し
>>194
おいおいこのスレに常駐してる、うちのエース(笑)だぞ
197: 名前 : 名無し
だってホムラは、生きてるだけで炎上し続けてる全身炎で包まれた、炎上玄人だぞw
198: 名前 : 名無し
と言うか九重ホムラに関したら、ここよりもアイツの配信のコメント欄の方がヤバいから、ここで俺たちが頑張ってホムラの悪口を言っても、アイツのコメ欄ではその数百倍は悪口言われてるからな
199: 名前 : 名無し
ユメノミライという無能が生み出した、炎上モンスターだからホムラは……
200: 名前 : 名無し
お前ら九重ホムラの話はもうやめろ!
今は歌姫クラゲが燃えたんだぞ?
今はそっちに集中
201: 名前 : 名無し
おいお前ら!ホムラが意味のわからん企画始めたぞw
https://youtube.com/enjousentaimoerunja
・
・
・
289: 名前 : 名無し
アイツ頭おかしいわw
290: 名前 : 名無し
よくこんなのあの運営が許したなと思ったら、まさかの無許可とは……やっぱりアイツは俺たちのエース(笑)だよ
291: 名前 : 名無し
最近ホムラと仲良くやってくれてるハジメが、参加してきたと言うより、アンダーライブがノリノリなのが意味わからんわ
292: 名前 : 名無し
と言うより思ってたよりユメノミライの運営って酷いんだな
293: 名前 : 名無し
>>292
それも今までの運営の行動を見るに多分ほとんどが事実だとわかるのがちょっとね
294: 名前 : 名無し
あと個人的に感動したのがホムラの配信のコメ欄が、罵詈雑言で埋まってないのが見れて、俺は個人的に嬉しかった
ちな俺は真っ当なホムラビトです
295: 名前 : 名無し
>>294
今回はハジメやクラゲのリスナーも来たから、その物量でホムラアンチが押し潰されてるのは見てて面白かった
実はお前らに黙ってたけど、俺もホムラビトなんだ
296: 名前 : 名無し
>>294,295
まさかこんなところで同志が見つかるとわな
297: 名前 : 名無し
実は俺も
ここに居たらよく名前見るから、気になって見に行ったら普通にハマった
298: 名前 : 名無し
おいおいお前らここは仲良しこよしで、vtuberを応援するスレじゃないんだぞ?
ちなみに俺は最初期からホムラを追っかけてる、歴戦のホムラビトだぞ
新人ども頭が高い!
299: 名前 : 名無し
>>298
ふっ
まさか自分だけが古参だと勘違いしているわけでないだろうな?
俺は昔ホムラがプレゼント企画をした時に、当時1番人気だったサイン入りのキレイな石を貰った英雄だぞ
300: 名前 : 名無し
>>299
マジかよ!
アレお前が持ってんのか
シンプルすげぇわ
301: 名前 : 名無し
このスレホムラビトだらけで草
302: 名前 : 名無し
>>301
しゃあないだってホムラの専用スレないし、ここが実質の九重ホムラの専用スレと言っても過言じゃないから
303: 名前 : 名無し
今回の配信普通に面白かったけど、流石に謹慎かな?
304: 名前 : 名無し
>>303
わからんぞ
あの運営だからもしかしたらクビかもよ
305: 名前 : 名無し
>>304
それはマジで勘弁してほしい
306: 名前 : 名無し
まぁそうならないように、俺たちだけでも祈っとこうぜ
・
・
・
952: 名前 : 名無し
【悲報】九重ホムラの偽物現る
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16話 お礼
いつもながらまたしても炎上したのだが、今回は本当に何故燃えたのかもわからず、調べても身に覚えのない事がつらつらと書き並べられており、それもはっきりとしたことからフワッとしたことまである為、本当にどうして今回俺が燃えたのかが全くもって分からなかった。
そしてそんなよく分からないものにいちいち構ってるほど俺は暇でも無いので、今回の炎上もいつもの様に放っておけばいつの間にか鎮火していると思い、特に反応する事もなくそのままスマホの画面を閉じた。
そして俺は今日が土曜日という事で9時になっても起きて来ない、真冬を起こしに真冬の部屋へと向かった。
本来なら特に俺も流石に12時を回らない限り、学校が休みの日は真冬を寝かせてあげるのだが、今日は昼間に昼食に誘われているので、待ち合わせ場所が少し遠い為、そろそろ準備しなければ遅れてしまうかもしれないので、俺は何度もノックしても起きてこなかった為、真冬の女の子らしい部屋に入り、くぅくぅと可愛らしい寝息を立てながら幸せそうに寝ている真冬を起こさなければならなくなり、こんなにも幸せそうな顔で寝ている妹を起こしたく無いという気持ちと、真冬が一緒に行きたいと言ったので、相手に無理を言って妹を連れて行ってもいいかと聞き、許可をもらっている手前これ以上迷惑をかけられないという気持ちに苛まれながらも、5分ほど悩んだ末に俺は真冬を起こす事にした。
それから各々で着替えや他の準備などをして、またしても父さんの車を借りて、俺は真冬を助手席に乗せて待ち合わせ場所でもある、ユメノミライの事務所の近くにあるちょっとした公園へと向かった。
その最中いつもなら車内で俺と真冬2人でのちょっとしたカラオケ大会の様に、歌を歌いながら車を走らせるのだが、今日は一応曲はかけていたが真冬は歌わずに、その代わりに学校であった事を少し愚痴っていた。
「聞いてよ夏兄!」
「はいはいどうしたの?」
「この前夏兄が結ってくれた髪型あるじゃん!」
「あーアレね、それがどうしたの?もしかしてまたやって欲しいの?」
「それは別にいい」
「あ、そっか」
結構動画とか調べて頑張ったんだけど、もしかしてそんなに嬉しくなかったのかな?
と少しショックを受けながらも、俺は話を本題へと戻した。
「それでその髪型がどうかしたの?もしかしてクラスの人に馬鹿にされた?」
「そう!そうなの、せっかく夏兄が結ってくれたのに、クラスの男子達がお前には似合わないって……」
「そっか、そんな事があったんだね」
きっとその男子達は真冬の事が好きで、俗に言う好きな子には意地悪をしちゃうって奴だと思うんだが、中学生になってもそれをやっている子が居るんだなと、変な事を考えながらも一応その子達のフォローもしておくことにした。
「多分俺が結った髪型が、真冬の魅力を損なわせる程出来が悪かったんだと思うから、もしまた今度髪を結うときがあったら、今度はその男子達にも似合ってるね、って言われるぐらいかわいいのができる様に練習しておくね」
「……夏兄は悪くないもん」
コレで大丈夫だろうと思いチラリと真冬の方を見ると、何かが不満だった様で頬をハリセンボンの様にぷくりと膨らましながら、何か俺にはギリギリ聞こえない声量でぶつぶつと呟いていた。
それを見て俺は思春期って難しいな、と配信者としてどうかと思うほど平凡な感想を1人抱いていた。
◯
そうしてその後も色々勉強に関する事など、首席合格のプレッシャーなどもあるらしくその辺りの愚痴を聞きながら、車を走らせていると待ち合わせ場所の公園が見え、その公園の入り口付近に顔の整ったカップルが1組手を恋人繋ぎにしながら、ベンチに座っている様子が車内から見え、俺はそのカップルの近くに車を止め、そのカップルに声を掛けた。
「すみませんもしかして、お待たせしましたか?」
そう俺が話しかけた相手は、前に真冬と2人でワッフルを食べに行った時に見かけた美男美女のカップル、そう俺の後輩である歌姫クラゲちゃん……いやさんとその彼氏さんだ。
その2人も車に乗せて俺たちが向かったのは、個室付きの高級焼肉店だった。
「本当に妹も連れてきてよかったんですか?すごい高そうなところなんですけど……」
店の外観を見て自分の思っていた5倍立派なお店だった為、心配になった俺は今日俺達を誘ってくれたクラゲさんの彼氏さんに聞いてみたところ、彼氏さんは笑顔で
「いえむしろこちらこそ、こんなところしか用意できずに申し訳ありません」
「いえいえ、そんな」
「いえいえいえ」
「いえいえいえいえ」
そんな風に俺と彼氏さんが言い合っていると、その間に真冬はクラゲさんと一緒にいつの間にか店の中に入って行った。
そうしてその2人の後に続く様にして俺と彼氏さんも、お店の中に入り焼き肉を食べ始めたのだが、そんなに焼き肉を食べた事があったわけではなかったのだが、それでも普通の焼肉店よりもお肉の味がしっかりとしており、俺たちの様な素人が焼いたとしてもふんわりと柔らかく仕上がるので、その美味しさから箸が止まる事はなかった。
そんなこんなで俺達、特に真冬は美味しい美味しいと、少しご機嫌になりながら、お肉を口に放り込みながら食べており、その姿を俺が微笑ましそうに見ていると、改めてクラゲさんとその彼氏さんが俺に頭を下げてきた。
「「この度は私(クラゲ)の炎上を鎮火していただきありがとうございました!」」
そう言われた俺は少し真面目な話になるなと感じ、箸を皿におき2人の方をしっかりと見つめた。
「いえ、感謝は要りませんよ」
俺がそう言うと彼氏は「ですが……」食い下がってきた。
そう言われた俺は感謝が必要ない理由として、今回の炎上事件を俺視点から見て感じたものなどを適当に話した。
「では言いますけど、俺は本来ならクラゲさんを助けるつもりはありませんでした。今回クラゲさんを助けたのは、偶々俺が解決できる策を持っていて、更には俺の同期に助けてあげてとお願いされたからです。もし、今回の件どちらかでも欠けていれば、俺はクラゲさんを助けては無いです。ですのでもしそこまでお礼をしたいのであれば、俺ではなく俺の同期にしてください」
先程までのニコニコしていた表情から、目を細め相手を射殺さん程の眼力で、クラゲさんと彼氏さんを睨みながらそう言うと、いきなりの俺の豹変とキラメからどう聞かされていたのか、今回の件俺が善意や同じ事務所の先輩として助けてくれたと思っていた、クラゲさんは驚きの表情をしていた。
だがそれを聞いても彼氏さんは、「どんな理由があったとしても、歌姫クラゲの炎上を鎮火してくれたのはあなただから、自分はあなたにお礼を言いたい」と言い、再度頭を下げるのを見て、この人にこれ以上何を言っても無駄だと思った俺は、彼氏さんからのお礼をありがたく受け取る事にした。
その後は俺がいつもの表情に戻った事に安堵しながら、4人で配信の話などを軽くしながら焼き肉を食べ、お店を出るとクラゲさんと彼氏さんはこの後、この近くで用事がある様で店の前で別れ、俺と真冬は車に乗って家に帰る事にした。
その最中真冬が「夏兄もなんか色々大変なんだね、私でよかったら愚痴でもなんでも聞くよ?」と言ってくれた時は、その心遣いの優しさから兄として俺は盛大に嬉し涙をポロポロと溢した。
「ありがとう真冬。でも前にも言ったことあるけど、俺は普通に楽しく配信やっていけてるから大丈夫だよ」
それを聞くと真冬はなーんだと言う顔をして一言
「それならよかった」
と呟いた。
俺の妹可愛すぎダルルォ!!
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17話 久しぶりの再会
よくわからない炎上の仕方をしてから1週間後、最近はハジメやこの前の配信のお陰で少しずつだがファンの数も増えてゆき、楽しく配信をしていたのだが、その配信の感想を調べていると何やらまだよく分からない理由で炎上しており、それも前よりもその範囲が拡大している様に思えた。
それに最近は俺が何故かコラボをブッチしたなどがよく書き込まれる様になったのだが、今俺とコラボしているのはハジメだけで、念の為ハジメに俺がコラボを断った事があったかと聞いてみたところ、今のところは全部やっていると帰ってきたので、やはりどういう訳で俺が炎上しているのかがよく分からなかった。
「いっそのこと、リスナーに聞いてみるか?」
そんな事を考えながらも原因を調べていると、仕事用のスマホに誰かからメッセージがきたのか、通知音が鳴り響いた。
ハジメか?と思いながら目線はパソコンに向けながら、手探りでスマホを探し硬いものが指に当たりそれを持ってきて、そのままメッセージを確認するとまさか予想もしていなかった運営からのメッセージで、反射的にスマホを投げ捨て、椅子からも飛び降りスマホから極力距離を離れた。
それと同時に俺の中には一つの疑問が浮かび上がった。
それは、
「何故今連絡が来たんだ?」
そう、今このタイミングで運営が俺に連絡をする必要性が全くと言って無いからだ。
もし前の炎上戦隊の件ならもうお偉いさん達の前に引き摺り出された後だし、今の謎の炎上だって今までの炎上に比べたら弱火でほとんど害のないものだし、それともまさか、炎上戦隊のアーカイブをそのままにしているから?
いや、それこそ無いな。
それだったらもっと早くに連絡が来ているはずだ。
結局何故連絡が来たのか分からなかったので、覚悟を決めてそのメッセージを見ると、一言「九重ホムラさん話したい事があるので一度事務所に来てください」と書かれていた。
名指しという事は送り間違えでも無いし、本当になんで呼び出されるのか分からなかったが、流石に自分でもこの前の配信はやり過ぎたという気持ちもあるので、ここは黙って従う事にした。
◯
そうしてこんな短期間で事務所に訪れるのは、久しぶりだなと思いながらビルの中に入り、呼び出しの通り集合場所である控え室で待っていると、フラフラとした足取りでなんとかまっすぐ立とうとしている社員がこちらに近づいてくるのが、扉についているガラス窓から見えた。
大丈夫かあの人と思いながらその人物を見ていると、その人物はゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくると、俺が入っている控え室の前で立ち止まり、部屋の扉をコンコンコンとノックした。
いや俺に用があんのってお前かい!
と思いながらも決して口には出さずに俺は静かに一言、「どうぞ」と言うとその社員は失礼しますと言いながら、ゆっくり丁寧に部屋の扉を開きおぼつかない足取りで部屋の中に入ってきた。
その際足を自分の足に引っ掛けて転びそうになったので、咄嗟に手を貸すとその時今までは俯いていたせいでわからなかったが、その社員の目の下にはパンダの様なくっきりとした隈があり、本当にこの人と言うかこの会社は大丈夫なのか?
と思いながら俺はその人を近くの椅子まで案内した。
案内してもらった社員は感謝の言葉を述べながらも、時間がないのか直ぐに今日俺を呼び出した本題を話し始めた。
「本日ホムラさんにわざわざ来ていただいたのは、少し確かめたい事がありましたので」
そう言うとその社員は手にずっと持っていた、3枚ほどの大量に人の名前が書かれた紙を俺に見やすい様に机の上に並べた。
「これは?」
軽く見てもよく分からないどころか、ここに書かれている名前に一つも覚えがなかった俺は、その社員さんに聞き直すと、社員さんはこの名前についての説明を始めた。
「やはり身に覚えがありませんでしたか。コレはここ最近で九重ホムラにコラボに誘われたのに、当日になっても本人が現れなかったと言う、声明を我々に言ってきた個人で活動していらっしゃるvtuber達ですね」
「……は?」
いや何それ?俺がコラボに誘った?どゆこと?
そう俺が困惑している様子を見た社員は安堵からかホッと息を吐き、こちらをはっきり見つめて笑顔で
「やっぱりホムラさんがそんな事する人じゃなくて安心しました」
そう発した。
そしてハッキリとその社員の顔を見た俺は思い出した。
以前よりも数倍やつれており、そのせいで以前までは色々な機材を運んでいた事もあり、筋肉質だった体は今や簡単に折れてしまいそうなほど細くなっており、声もハッキリと遠くまで聞こえる声だったのが、少し掠れた声になっており、何より顔が前はそこそこのイケメンだったのに、今はその見る影もなく死にそうな顔になっていた、為気づくのに遅れたがこの人は、ユメノミライが買収される前まで、応募してくる社員が全くいなかったせいで、俺たち一期生全員の動画の編集を1人でやったり、俺たちの無理難題と言ってもいい配信内容もを何とか実現可能まで持って行っていたりした、美人な奥さんと可愛らしい息子さんを持った、俺たち一期生を裏から支えた1人なのだが、あんなにもブラック企業さながらの仕事量をこなしていた時でさえ、もっと元気な姿だったのに今では元気の下の字もない様な姿になっていた。
「もしかして園野さんですか?」
その代わりようから全く信じられなかったが、俺がそう聞くと社員は力無い声でハハハと笑いながら、俺の問いを肯定した。
「いやいやいやいや、どうしたんですかその顔と言うか体は!」
「ハハハ、ちょっと人手不足でしてね、実は自分もここ数ヶ月家に帰れてないんですよね」
「いや、ちょ……」
久しぶりに会った相手から、びっくりする様な爆弾発言をされた俺は、その衝撃から一瞬思考が停止した。
そんな固まっている俺をよそに、先程までの緩い顔から真剣な顔へと変わった園野さんは、俺に対していきなり頭を下げ始めた。
「ホムラさん、申し訳ありませんでした。」
「え?な、何がですか?」
何故今自分が謝られたのか分からず、それよりもどちらかと言うと言うと、今の様子を見るに俺やユメノミライが園野さんに謝らないといけない様な気がするんだけど……
「私は昔からホムラさん、いや他の一期生の面々を近くでよく見ていました。なのに、それなのに自分はホムラさんが大変な時に仕事が忙しいからと、ホムラさんに対して何も出来なくて、それどころか上の意向に従って、ホムラさんと他の皆さんを極力関わらせない様に動いたりと、ホムラさんを孤立させることに加担したんです」
そう涙を流しながらに謝る園野さんを見て俺は、それは社会人なら当たり前なのでは?と1人考えていた。
と言うか園野さんは奥さんやまだ小さなお子さんも居て、稼ぎ頭なのだから首を切られたらダメなのだから、仕事を一生懸命するのは当たり前だし、何より他のメンバーは俺から離れてからの方が、圧倒的に伸びてる訳だから、俺個人としては悲しいけど園野さん含め運営の方針は正しいと思ってるので、別にその辺は俺は気にしていないのだが、それよりも俺的にはそんな事よりも、小さなお子さんが居るのに園野さんが何ヶ月も家に帰ってない方が、問題に感じるのだがコレはおかしな事なのだろうか?
そんな事を思いながら俺は椅子から降りて、片膝を地面につけて項垂れている園野さんの肩に手を置いて、
「大丈夫ですよ園野さん。俺今でも普通に楽しくvtuberやってますから、それに最近は少しずつですけどファンも増えてきてるんです。そら今か昔どっちが楽しかったかって言われたら、まだ昔の方が伸び伸びいろんな事ができて楽しかったですけど、だからと言って今が楽しく無い訳でも無いので、その辺は安心してください。それに俺から見ればどっちかと言うと園野さんの方が大変そうに見えますよ?数ヶ月も家に帰ってないって言ってましたけど、奥さんやお子さんは大丈夫なんですか?」
俺がそう聞くと園野さんは泣きながらも、震える手でポッケから自分のスマホを取り出し、そのホーム画面を見せてきた。
そこには今よりかは少しマシな状態な園野さんと、その奥さんと2人の間には3歳になる可愛らしい男の子が写っていた。
「大丈夫よ、この通り今でも妻とは仲が良いので。それに最近は妻も忙しいのに、わざわざ自分の為にお弁当を作って事務所まで持ってきてくれますからね。まぁでもその度に他の子も良いけどホムラくんもしっかり面倒見なさいよって、怒られてるんですけどね」
「なら、今度奥さんに会った時には、俺はこれからどんどん上に行っていつかは昔みたいにvtuber界のトップに立つ、って言ってたとでも伝えといてくださいよ」
「ハハハそうだね、今度妻に会った時にでも伝えておくよ」
その後も俺と園野さんは久しぶりにあったと言う事で、少し先にあるユメノミライの初のライブの事や昔の事などを少し話していたのだが、そろそろ園野さんが仕事に戻らなくてはいけない時間になり、それに合わせて俺も家に帰ろうと帰りの準備をしていると、またしても園野さんが真剣な顔でこちらを見つめてきた。
「どうかしたんですか?園野さん」
「ホムラさん何か自分にできる事はありませんか?」
「できる事とは?」
「ホムラさんに大丈夫だと言ってもらえても、やはり自分で自分がやった事が許せなくて、今更なんですが少しでも罪滅ぼしと言うか、どうにかホムラさんの手助けをしたくて……」
そう言う園野さんの表情は真剣そのものだったのだが、正直今のところそこまで困ってることもないし、俺的にはこれ以上園野さんの仕事を増やしたく無いどころか、今すぐにでも家に帰って休んでもらいたい気持ちで埋め尽くされているのだが、多分その事を園野さんに言ったところで、自分が休んだら他の人に自分の仕事の皺寄せがいくとか考えて聞いてくれないと思うので、出来るだけ簡単で俺の役に立つ様な仕事はないかと考えたところで、最近俺が謎の炎上をしている事を思い出した。
どうせコレも俺のアンチが嘘をベラベラ並べてるだけだろうとは思うけど、一応俺は困ってるし何より運営が力を入れたら犯人なんて一瞬で見つかると思うし、コレで園野さんの気も晴れると良いなと言う気持ちで、解決した時の達成感が大きくなる様に出来るだけ深刻そうに園野さんに相談すると、園野さんは昔の様に自分の胸を叩いて「任してください!」と言うと、俺に一度頭を下げるとすぐにどこかに連絡を繋ぎ、何やら色々と話しながら部屋に入ってきた時の様な暗い顔ではなく、昔の様な明るい顔で部屋を出て行った。
そしてその様子を見送った俺は、
「やっちまったぁぁ!園野さんたちが家に帰れない理由って、絶対に俺のせいじゃん!くそッ過去の俺もっと考えて行動しろよ、馬鹿野郎がぁぁ!」
1人控え室で過去の行いを悔いながら大声で叫んだ。
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18話 1万5千人突破記念凸待ち配信
園野さんと久しぶりに再開して、自分の行いが丸々園野さん達スタッフさんにかかっていることがわかり、みんな一ヶ月後のユメノミライの初ライブに向けて忙しいのに、申し訳ない事をやってしまったと言う気持ちで家に帰ってきた。
そして家に帰ると俺は改めて園野さんに渡された資料を見てみるが、やはりその人達には一切見覚えがなくだからと言って、1人2人ならユメノミライの人気にあやかりたいだけの個人勢だと割り切れるのだが、総数にして約30人もの人数が運営に連絡してきているのなら、多分だが俺の知らないところで何かがあったんだろうが……
やはり考えたところでよく分からなかったので、一旦この事は置いておいて、炎上戦隊などの色々なことが落ち着いてきたので、ついこないだ達成したチャンネル登録者の数が1万5千人を突破した記念配信の準備を開始した。
◯
「祝!我が九重ホムラチャンネルの登録者数がつい先日の配信で、1万5000人を突破しました!拍手!」
コメント
:おめでとう!
:おめ
:カス
:消えろ
:たった1万5千人で草
:辞めろ
:8888888
「という訳で今回の配信は、記念配信という訳で初めての凸待ちをやってみたいと思います」
俺がそう言うとコメント欄はアンチもホムラビトも含めて、それは無謀では?や誰も来ないんじゃ無いの?と不安や煽りに塗れていたが、そんな事はやる前から想定済みだ、だから俺は配信を開始する前に準備をしていたのだ。
「それじゃあ今から凸待ちを始めたいと思います。凸したい人はどうぞ!」
コメント
:いや誰も来ないだろw
:頼みのハジメもこの時間用事があるって言ってたし、どうすんの?
:このコメントは削除されました
:もしかしてユメノミライのメンバーくる?
「いや、ユメノミライのメンバーは来ないよ、もし来られたら俺が燃えちゃうから、この凸待ちはユメノミライメンバーを除いてやってるからね」
コメント
:へーそうなんだ
:なら尚更誰が来るん?
:そんなこと言ってただユメノミライ内でも人望がないだけだろw
そんな風に少しコメント欄と会話をしていると、前もって呼んでいた人から、準備が出来たと言うメッセージが来たので、その人を通話に入れて立ち絵を用意した。
「お!誰か来てくれた様ですね、それじゃあお呼びしましょう!アンダーライブ所属の二階堂ハジメさんです!どうぞ」
「はいどうも、実は1週間前から配信に来てくれないかと誘われていた二階堂ハジメです。どうも〜。と言うよりホムラお前、この凸待ち配信ってユメノミライのメンバー除いたら呼べるの俺だけだろ?それなのにどうして普通のコラボわざわざ凸待ちなんかにしたんだ?それとも俺が知らないだけで他に来る人でもいるのか?」
「いや居ないけど……」
「って居ないんかい!」
「えー、別に知り合いが居なくても凸待ちしても良いじゃん!俺が知ってる人は知り合いが多いくせに、何時間も待っても誰1人凸してくれなかった配信者だっているですけど?」
「うっ!それは……」
そう実はハジメ去年の誕生日配信で凸待ちをやったのだが、本来の配信時間を大幅に超えて配信をしていたのにも関わらず、誰1人として来なかった伝説の配信をやっていたのだ。
当時俺もその配信はリアルタイムで見ていたのだが、凄く笑った思い出がある。
「ほらそれに比べて、たった1人でも凸してくれた人がいる俺は優れているのでは?」
「でもホムラお前凸待ちって言ってる癖に、俺の事事前に呼んでたじゃねぇか!俺だってなぁ事前に呼んでいいなら、この配信よりかは絶対に凸してくれる人は多いんだぞ!」
「はぁ?そんなの言ったら俺だって、ユメノミライのメンバーに頼んだら、三期生はクラゲちゃん以外はなしたことすらないから分かんないけど、一期生や二期生なら多分全員来てくれるだぞ!」
「何だと?俺だってなぁ!」
コメント
:しょうもない事で争ってるなw
:呼んだら来るって言ってるけど、実際は0人と1人だからなw
:自慢すんなやカス
:ホムラ氏ね
:このコメントは削除されました
「おーおー、ホムラの配信はいつ見ても荒れてんねぇ」
「そうか?基本ハジメとコラボしてる時とか最近は、そこまで荒れてないと思うけどな?」
「それは、単にホムラの感覚が変なだけじゃ無いの?それとこれって聞いていいのか分からないんだけど、偶にホムラのコメントで削除してるコメントあるけど、アレってどんな内容なんだ?普通に◯ねとか、vtuber辞めろとか、その辺は消されてないのに、偶に消されてるコメントがあって気になってたんだけど」
「それ普通聞くか?まぁ俺はその辺気にして無いからいいけどさ、それで俺が消してるコメントだったっけ?」
「そうそう」
「普通に矛先が俺じゃなくて、ユメノミライや俺の他の一期生に向いてるのは極力消してるかな。その辺は普通にムカつくしね」
コメント
:へーやるじゃん
:ホムラを叩くのは分かるけど、ユメノミライを叩くのは謎の
:きゃーかっこいいw
:流石はハーレム(笑)だな
ハジメと話しながらコメント欄を確認すると、やはりコメント欄にいるアンチの殆ども、俺を叩くのは別にいい(よくない)が、ユメノミライを叩くのは違うとコメントしているのを見て、出来れば俺のことも叩かないでいただけると嬉しいなと思いながらも、そのコメント達には俺も心の中で同意した。
「にしても本当にあの時、ハジメにコラボ誘ってもらってよかったわ。じゃなきゃ今も、チャンネル登録者数が右肩下がりになって、今みたいに1万5千人突破できてなかったと思うし。その辺は本当に感謝してるよ」
「なんか、改めてんなこと言われると、ちょっと恥ずかしいな……。まぁじゃあ、その感謝はありがたく受け取っとくよ」
「それでさ、話は変わるんだけどハジメって個人勢のvtuberの配信って見てる?」
「いや本当に話変わったな。それで、個人勢だっけ?昔は見てたけど最近は、ホムハジのことが忙しくて見れてないな。けどたまに見つかってないだけで、面白い配信をしている人はいるから、勉強の為にそう言う人を探すって意味では今でも見てるかな。けど何で今そんなこと聞いたんだ?」
「いやねそれがさ、実はなんか俺の知らない個人勢の中で、俺がコラボに誘ったことになった事件があったんだけど、それをどうしたらいいかなって聞きたくて、その話に自然に持っていくために聞いた的な?」
「なんだそれ?ホムラはコラボにさそってないんだよな?」
「うん、と言うか今日運営さんから連絡が入って知ったくらいだからね」
コメント
:なにそれ怖w
:めちゃくちゃ裏の話し始めたぞw
:このコメントは削除されました
:その話って俺らが聞いてもいい話なのか?
:ホラーじゃん
「ん?と言うかどうしたらいいって、もしかしてその個人の人達と何かやるつもりなのか?」
「え、まぁそうだけど……。それがどうした?」
「いや、なんて言うかさ、その個人の人たちには悪いけどさ、それが自演って可能性はないのか?ホムラの知名度を利用して自分が人気になるためとかのさ」
「厳密には俺じゃなくてユメノミライだと思うけどな。それと俺も一応それは考えたけど、やっぱり人数が人数だったから違うかなって、それになんかこれは俺の悪質なアンチが勝手に俺の名前使ってやってるのかなって思っててさ、それなら相手の方には迷惑しかかけてないしどうにかしたいなって。それにこの前の炎上戦隊のせいでうちのスタッフさん達に迷惑かけたのに、こんな短期間でまた問題押し付けたくないからね」
「ふーんそっか、まぁホムラがそれでいいなら俺がこれ以上言う事でもないな。それでその個人勢の人達だけど、俺的にはやっぱり宣伝がいいんじゃないかと思うんだよな……」
その後俺とハジメは、バリバリに裏でする話を配信で垂れ流しながら、あーでもないこーでもないと話し合い、今回の被害者達(仮)の個人勢のvtuberの処遇というか、どうするかが何となく固まったところで、いきなり誰かが俺の了解もなく通話に入ってきた。
「ホムラ先輩登録者1万5千人突破おめでとうっス!」
「「へ?」」
俺とハジメは誰も来ないと思っていたので、いきなりの訪問者に驚き変な声が出た。
そして配信主の了解もなく通話に勝手に入ってきた常識知らずの人物は、ユメノミライ所属で俺の後輩つまるところ二期生の、普段全く配信をしない事で有名な
「お、おま何でここに、って言うかお前この配信ユメノミライは凸するなって書いてあっただろ?何でヌルッと配信に入ってきてんだよ!」
「えー別にいいじゃないっスか!」
「よくねぇよ!俺はお前らとコラボすると燃えんだよ!」
「草」
「草じゃねぇ!」
そんな俺とノマドの言い争いを見たハジメは、一瞬でこの状況を理解し、自分が導き出した最適解な動きをした。
「いや、ごめんごめん凸待ちなのに俺長いしすぎたなwそれじゃああとは頑張れよホムラwww」
「ちょっハジメ待て俺を置いて逃げるな!」
笑いを我慢する気もないのか、ハジメは言葉の端々が笑っているせいか崩れながらも、俺の制止も聞かずにそそくさと通話から出て行ってしまった。
コメント
:草
:ノマドちゃん2ヶ月ぶりに見た
:炎ホムラ炎
:人の話を聞かないノマドちゃんすこ
:ハジメ速攻抜けてて草
:あーあー、こりゃ燃えたな(未来予知
:www
「ホムラ先輩この凸待ちってどんな質問してるんですか?やっぱり凸待ちと言ったらでパンツの色とかきいてるんスか?」
「聞くわけねぇだろ!」
「あ、ちなみにボクのパンツの色は……」
「あ!!あーあ!!あ!!!!あ!!!!」
「ちょっと先輩いきなりおっきな声出さないでほしいっス!びっくりしたじゃないっスか」
「お前が的確に俺を燃やそうとするからだろうが!あーもうハイハイ今日の配信はもうおしまい!」
「えーボク今きたばっかりなんスけど〜!」
「はいはいそんなこと知りません」
「もー先輩!昔みたいにボクといいことしましょうッス!」
「誤解を招きそうな事を言うんじゃありません!その一言で俺はよく燃えるんだよ!はい、という訳で今日は俺の1万5千人突破記念配信を見てくださりありがとうございました、それではまた次回の配信でお会いしましょう。乙ホムでした」
◯
そうして俺は無理やり配信を閉じ、怖かったのでコメントも見ずに、いきなり配信に乱入してきたノマドに軽く説教をしたらノマドが、
「でも先輩ちょっとは美味しいと思ったスよね?」
と言ってきて、それを聞いた俺は……
正直めちゃくちゃ美味しいと思いました。
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19話 ホムラガールズ爆誕 その1
ユメノミライの二期生の御旅屋ノマドのせいで、昨日から大変俺が燃えているのだが、それ以上に昨日ノマドが俺の配信に出たことによって、昨日の記念配信がノマドのファンによって大量に再生され、そのおかげでたった一晩でアーカイブの再生回数が20万回を突破したので、俺の頬は緩み切っていた。
それを真冬に見られて若干気持ち悪がられたが、今の俺にはそんなものダメージは一切なかった……うん、本当に無かったよ……きっと、ごめんやっぱ……きついわ
という訳で真冬からの気持ち悪いお兄ちゃんと思われた部分を払拭する為にも、お仕事頑張るぞ!と意気込み俺は、園野さんからもらった資料に書かれている個人勢の配信を見始めた。
◯
「は、じめま、してココメヤンで……す!」
一番最初に開かれた配信は登録者数が97人のココメヤンさんだったのだが、初っ端から配信での音質の悪さが気になり、初配信だからかな?と思い最新のアーカイブを見たところ、初配信から1年以上経っているのにも関わらず音質の悪さが一切変わっておらず、俺は資料に書かれている名前の横にバツ印を付けて、ココメヤンさんの配信を閉じた。
◯
「でね…………………………へーそうなんだ……。」
次に開いたvtuberは静香さんで登録者は521人いて、個人勢の中ではそこそこ多いなと思ったが、配信内での静香さんの声の綺麗さから何となく登録者の数には納得がいったが、それ以上に
「コイツ全然喋んねぇな……」
そう配信のほとんどが無言で、たまに話したとしても声が小さく聞きづらかったので、俺は静香さんの名前の横にもバツ印を付けた。
◯
「皆んな知ってる?実はさぁタピオカって芋なんだって、私あれシカのフンだと思ってたんだよね!あとさ……」
ペラペラとマシンガントークをするのは、神木梅と言う梅をモチーフにしているvtuberで、自分でガワを描いているのか個性的な見た目をしており、その見た目のせいか何と登録者数はまさかの12人と凄く少なかったのだが、音質もトークも今までチェックしてきたvtuberの中でもかなりの上位に入るので、俺は神木梅さんの名前の横には丸印を付けた。
◯
その作業を合計で38人分行い、最終的に俺は38人の中から3人に絞り込んだ。
1人目は、見た目が少し個性的だが企業勢顔負けのトーク力の神木梅さんで、2人目がテレビでも通用するレベルの歌唱力を持つオンプさん、最後が見た目から声に話し方全てがTHEメスガキな桃咲姫花さんの3人だ。
途中から真冬も
「夏兄の部屋から色んな女の声が聞こえる」
ともし両親が仕事で出ていなかったらまたしても家族会議が開かれそうな事を言いながら、俺の部屋に乱入してきて、俺の隣に自分の部屋から椅子を持ってきて、一緒に配信を見ており、オンプさんを見た時はその歌のうまさから、すごいすごいと興奮しながらパソコンの画面に指差してはしゃいでいた。
はぁぁ!俺の妹かわぇえ!!
と声に出したら気持ち悪がれるだろう事を考えながらも、俺は出来る限り冷静に真冬の頭を撫でながら、そうだねと真冬の意見を肯定した。
その後満足したのか真冬は椅子を持って自分の部屋に帰り、その様子を見送ってから俺はその3人にコラボしてくれませんか?という文面を出来るだけ丁寧に送った。
そしてそれから数日後、3人からコラボを承諾する旨の返信が来た。
◯
「皆さんどうも初めましての方は初めまして、いつも見てくれてる人は昨日ぶり九重ホムラです。今日は事前に告知してた通りコラボです。それも3人ハジメ以外とね」
コメント
:誰?
:ノマドちゃん?
:また女か?
:このコメントは削除されました
「うんまぁ、女か女じゃないかって聞かれたら、全員女だね」
コメント
:はい炎上
:これだから直結は……
:お前は女とコラボする為に配信者になったのか?
:カス
:女遊びは楽しいですか?
「お前ら俺のコラボ相手が女性ってわかった途端総叩きだな!という訳でこんな空気で申し訳ありませんが、今日のゲストの1人に登場していただきましょう!梅の木の精霊でここ数千年ひとりぼっちだった為、人と話すのが大好きな神木梅さんです!どうぞ」
「はいはいどうも、ホムラビトの皆さん初めまして!神木梅です!先程ホムラさんに説明していただいた通り、喋るのが好きです!いつも1人なのでよければ暇な人は私の配信見てくれると嬉しいです!」
コメント
:音圧がすごいw
:見た目と声とのギャップがすごいw
:見た目が濃い
:誰?
「はい、という訳で本日のゲスト1人目は梅さんです。よろしくお願いします」
「はい!お願いします!そうだ私ホムラさんに質問があるんですけどいいですか?」
「お、急だね。それで質問で言うのは?」
「どうして私を選んでくれたんですか?」
「選んでくれた?」
「私ってチャンネル登録者数が12人しかいない、言っちゃえば人気がないじゃないですか。それなのにどうして私が選ばれたのかなって思いまして……」
「ああ!その事か、それは単純に梅さんが配信者として人気になれる素質を持ってるって感じたからかな。梅さんの配信はアーカイブを見ても、黙ってる時なんかほとんどなくて後追いしても面白いし、何より見てて不快感がないからね」
「不快感ですか?」
「そうそう例えば、配信中に誰かの悪口言ってたり、ずっと黙ってたりすると、リスナーさん達はそれだけでストレスが溜まるし、特にその中でも梅さんは音質がびっくりするぐらいいいからね」
コメント
:そういや梅ちゃんの音質いいな
:全く違和感無かった……
:チャンネル登録してきました!
:本当だ配信でめちゃくちゃ喋ってたw
「ホムラさんにそう言ってくださって嬉しいです!実は友人に私が配信を始める時に「配信やるなら絶対マイクはいいやつにしなさい!」って言われて、なけなしのお金を全部音周りに入れたせいで、お金が尽きまして……こんな見た目に」
「おお、それは何と言うかご愁傷様です。ちなみにその音響周り全部でおいくら万円したんですか?」
「えーっとたしか……マイクが60ちょっとで、他の機材は諸々で20ぐらいしたはずだから、多分合計で80前後ですかね?」
「うぇ?80?」
正直言うて10万20万ぐらいだと思っていたから、想像の4倍高い値段が飛び出してきて、驚きのあまり変な声が出た。
と言うか80ってマジ?俺企業勢なのに合計で40そこらなんだけど?やっぱりもっといいの買わないといけないんかな?今度ハジメに何のマイク使ってるか聞いとこ
「へ、へー80ね……うん。すごいじゃん」
「けどやっぱり企業勢のホムラさんには敵いませんよ」
「う、うん……そうだね〜」
コメント
:これ絶対ホムラの方が金かけてないよな?
:80万はヤベェ
:音関係に金をかけまくった個人勢がいると聞きまして
:この女ヤベェはwww
:は、80万ですか?
「それじゃあ改めまして早速質問なんだけど、梅さんはどうしてvtuberを始めようと思ったんですか?もし話したく無かったら、好きな食べ物でも大丈夫ですよ」
「vtuberを始めた理由ですか?それはアレですね、実は憧れの人が居て……」
「それは推しって事ですか?」
「その、はい……」
「へぇーそれって俺が誰かって聞いても大丈夫ですか?もしかして俺が知ってる人だったりする?」
「えっとそのですね、はい、ホムラさんの知ってる人ですね」
お、マジか
「えっちょっと待って、俺の知ってる人か……梅さん俺当ててもいいかな?」
「はい大丈夫ですよ」
「じゃあ質問だけどその人って女性?」
「そうですね……女性では無いですね!」
「なるほど男性又は性別不明かバ美肉のどれかか、意外に選択肢多いなvtuber……。それじゃあ次の質問だけど、その人は企業勢?」
「はい、企業所属ですね!あとはよく炎上してましたね」
なるほどなるほど、まずその相手は女性では無く、そして企業勢で更によく炎上していると……
これもしかして俺じゃね?
「えっとそのvtuberさんってよく炎上してるんだよね?」
「はいそうですね、多い時なんかは1ヶ月間ずっと炎上してた事もありましたね」
なるほどよーく分かった、これは完全に俺だわ!
「梅さん答えがわかりましたよ」
「やっぱりわかりましたか!流石ですね!」
「それじゃあせっかくだし、いっせいのーでで答えませんか?」
「それいいですね!」
「それじゃあ行きますよ、3.2.1.俺」
「二階堂ハジメさん!」
「「え?」」
コメント
:草
:俺w
:自信満々で外してて草
:クッソ恥ずかしくて草
:www
:やばい俺まで恥ずかしくなってきたw
:自信過剰笑
2人で答えた答えが全く違い、その瞬間配信内で一瞬空気が静まり返った。
そして状況を理解できた瞬間俺の顔は真っ赤に染まり、体の全身から嫌な汗が溢れ出してきた。
そしてそんな恥ずかしさを誤魔化す為に俺は叫んだ。
「ハジメかよ!!!!!」
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20話 ホムラガールズ爆誕 その2
「はい、先程は大変恥をかきましたが、気を取り直して次のゲストに来て貰いましょう!その歌声はプロ顔負け俺の妹真冬もそのうまさに大興奮!それでは来てもらいましょうオンプさんです!どうぞ」
「あーどもっすオンプです。よろしく」
コメント
:次はダウナー系か
:声良いな
:ホムラよりイケボだ
:↑ホムラはイケボじゃないだろ
:カッケェ!
「はいよろしくお願いします。それではオンプさん来てもらって早速なんですが質問大丈夫ですか?」
「まぁ大丈夫です。はい」
「それじゃあ質問なんですけど、オンプさんってどちらかって言うときゃわわ♡ってタイプじゃ無いですよね?けど名前がオンプって名前凄く可愛いくないですか?いやそれが悪いって事じゃないんですけど、どうしてオンプなのかなってのが気になりまして……」
「ん、まぁその……きゃ、きゃわわってタイプじゃないのは確かなんですけど、それで名前がどうしてオンプになったかでしたっけ?あの……笑わないでくださいよ?その、実は……アタシあんまり名前付け得意じゃなくて、それで1時間ぐらい色々考えた結果がコレっすね……はい」
「なるほどなるほど……俺オンプさんの事少し勘違いしてました。オンプさんはすっごいかわいいですね!」
「なぁ!」
いきなり異性にかわいいと言われたオンプは、今までよりも数段でかい声で驚きの声を上げた。
コメント
:かわよ
:オンプたんすこすこのすこだ!
:チャンネル登録してきました
:かわいい!
:このコメントは削除されました
「それじゃあまぁ、入りはこんな感じで大丈夫だから、そろそろ本題といきますか。俺もね今回のコラボの為に色々考えたんですよ、どうすれば皆んなの良さが伝わるかなって、例えばさっきのゲストである梅さんなら人との会話で、本領が発揮されると思ったから俺との一対一での対談になったんですね、それで次にオンプさんですが、どうやってオンプさんの魅力をみんなに伝えれるか悩みに悩んだ結果、俺如きボキャ貧vtuberにはどうやってもオンプさんの本来の魅力を引き出すことは無理だと察しまして、古来よりあるその人の魅力と言うか実力を知る方法である、実演をオンプさんにはしていただこうと思います。」
そう俺が長々と話を続けオンプさんから、準備が完了したと言うメッセージが来るまでの時間稼ぎをした。
『準備できました』
『了解。俺がok出したら好きなタイミングで歌い始めてね』
「それではお聞きしましょう。オンプさんで『君ノ音』」
俺がそう言うと同時にスタンバっていたオンプさんが曲を流し始め、それを聞いた俺はいつでも音量調整ができるように、コメント欄を見ながら少し音が大きく感じたので、ほんの少しオンプさんの音量を下げた。
そうしている間に前奏が終わりオンプさんがその歌声を配信に響かせた。
コメント
:うっま
:このコメントは削除されました
:うま
:うますぎw
:すげー
いつもは半分以上が暴言に塗れている俺のコメント欄が、オンプさんの歌声によって浄化されたのか、そのほとんどがすげーや、うま!などの肯定的な意見で溢れかえっていた。
俺もそのコメントを見てそうだろうそうだろうと、後方腕組みおじさんの様に画面の前で静かに頷いていた。
中にはオンプさんの歌声に嫉妬したのか、いつものノリでオンプさんに対する誹謗中傷をする輩がいるが、そう言うやつは見つけた瞬間コメント削除からのブロックを繰り返していった。
そうして何の問題もなくオンプさんが歌い終わり、その瞬間俺のコメント欄は今まで見たこともない様な賞賛のコメントで埋め付くれていた。
そのコメント欄を見たオンプさんは少し照れくさそうにしながらも、先程までの歌声からは想像もつかないほどの小さな声で「ありがとう」と呟いた。
その様子を見た俺は、みんなから褒められているオンプさんに少し嫉妬したのは秘密だ。
「いやー流石でしたね。それで聞いてて少し気になったことがあるんですが、今って質問大丈夫ですか?」
「あ、はい大丈夫です」
「それでは質問なんですが、オンプさんってめちゃくちゃ歌上手いじゃないですか、いつから歌を歌い始めたんですか?」
この質問はリスナー達も気になっていたのか、俺がした質問に対して、よくやったや俺も気になる!などの意見が書き込まれ、こんなにも優しいコメント欄は久しぶりだった為、みんなが興味があるのは俺じゃなくてオンプさんなんだが、それでも何だか嬉しい気持ちになった。
「そうですね……歌。……確か小学校の音楽の授業で、音楽の先生に誉められてからですかね」
「なるほどかわいいかよ」
「か、かわ!?」
コメント
:ロリオンプちゃん先生に褒められてここまで上手くなるのは凄すぎw
:ロリオンプちゃんかわいい
:ダウナー系を装ったかわいい
:それだけでここまで上手くなるのは凄すぎ
:音楽の先生gj
その後もオンプさんに軽くアカペラで歌を歌ってもらったり、他にも色々な質問をしているとあっと言う間に時間は過ぎ、最後のゲストとのコラボの時間になった。
そしてコメント欄は神木梅さんにオンプさんと、今までコラボしてきた人達が良かったのか、最後の1人はどんなすごい子なのか?と凄く盛り上がっていた。
もし最後の1人がこの盛り上がりようを見て緊張でもしていたらどうしようと思い、「大丈夫?」と優しく聞いてみたところ「問題ないわ!むしろこれこそ本来姫のいる世界なんだから」と余裕満々なご様子だったので、少し安心した。
「それじゃあ本日最後のゲスト、立てばクソガキ座ればメスガキ歩く姿はチンチクリン!桃崎姫花さんです。どうぞ」
「誰がチンチクリンよ!……オホンっこの姫をチンチクリン呼ばわりとは、アンタどうなっても知らないんだからね」
「あーはいはい怖い怖い」
「何で姫の時だけ、そんなに適当なのよ!」
コメント
:メスガキきちゃ
:このコメントは削除されました
:このコメントは削除されました
:♡♡♡
:好きです!
「それじゃあ時間も押してるので、早速本題に移りましょうか、姫花さんはアレですよね?ゲームがお上手なんですよね」
「もちろんよ!姫にかかれば誰が相手でもちょちゃいのちょいよ!」
「という訳で姫花さんとは、最近配信でよくやっていらっしゃるスラブラで勝負していきたいと思います。」
「えーいいの?姫本当に強いよ?この前もプロって言う人に勝ったばっかりだしー。何だったらホムラさんがどうして持ってお願いするなら、ハンデあげちゃっても良いんだけどなぁ〜」
「うーんそうだな……今は別にいいかな」
「ふーん、そう」
そう俺と姫花さんが話し合っている間にも、いそいそと裏でゲームの用意をした。
そもそもスラブラとは、正式名称を大乱闘スラッシュブラザーと言い、某有名ゲーム会社の発売しているキャラ達が一挙に集まった格闘ゲームで、その人気度は毎年大きな世界大会が開かれるほどだ。
そんな事を話している間に準備は完了して、俺の配信画面にスラブラのゲーム画面を映した。
「もちろん分かってると思うけど、ステージは終焉でアイテムなしの3ストック制よ」
「了解っと、それで姫花さんは何のキャラを使うんだ?」
「姫?姫はもちろん桃姫よ!これ以上姫にピッタリなキャラも居ないわ!」
「なら俺はそれ系列でワリヲかな」
「って何でワリヲなのよ!そこはマリヲじゃないの?せめてグッパとか!」
「いや、なんかそれは姫花さんの思惑通りそうで嫌だなって……」
「思惑って何よ!と言うかアレでしょ?どうせワリヲを選んだのって、負けた時の言い訳をする為なんでしょ?俺の本気はマリヲでこれは手を抜いてあげただけだとか、やめてよねそう言うの姫そう言うの見ると、惨め過ぎて笑っちゃいそうになるからw」
「いや既に笑ってるじゃねぇか!いいだろう俺とワリヲのコンビネーションをお前に見せてやる!」
そうして始まった戦いだが、俺は既に危機に陥っていた。
開始早々にワリヲのバイクで桃姫に突っ込んだところ、かわされてそのまま崖下に追いやられ、何も出来ずに1ストックを無駄に使い、その次はすぐにやられない様に積極的に攻撃に行かずに、どちらかと言うと逃げに徹していたのだが、それでも徐々に徐々にだが桃姫の攻撃が当たり、ワリヲの吹っ飛びゲージは順調に貯められて、いつやられても仕方がないレベルまで追い詰められていた。
「あれあれあれあれ?ワリヲとのコンビネーションはどうしたんですか?このままじゃ姫を一回も倒せず終わっちゃいますけど、大丈夫ですかぁ♡」
「くっ……やるな!」
「ホムラさんは全然やりませんけどねwww」
そのまま俺とワリヲは何もできないまま2ストック目も無為に失った。
そして俺の2ストックを無傷で倒した姫花さんは勝ちを確信したのか、今まで以上に上機嫌になり俺を煽りに煽り始めた。
「本当にどうするんですかぁ?このままじゃなんの見せ場もなく終わっちゃいますよぉ〜?今からでも姫にお願いするならハンデをあげてもいいんですよ♡それともこのまま無様に女の子に手も足も出せずにやられちゃいますか?www」
「……」
「アレ?ホムラさん配信者なのにショックで黙っちゃいましたかwww」
そんな上機嫌な姫花さんを見て俺はここだなと思い復活すると、一瞬で桃姫を画面端まで追い詰めて姫花さんが何の反撃もすることができぬ間に、桃姫を場外へと殴り飛ばした。
「へ?」
先程まで完全に自分が優位に立っていたのに、いきなり自分が何もできずに場外に飛ばされた事に驚き、姫花さんは素っ頓狂な声をあげた。
「ふ、ふーんなかなかやるじゃないですか、たまたまでもこの姫の1ストックを落とすなんて、でもここからは姫も本気を出しちゃいますからね!」
「……」
そう豪語した姫花さんとは反対に配信画面に映るのは、桃姫がワリヲに一方的にボコボコにされている映像だった。
「え?え?え?な、なんで?どうして?」
「……っふ、ふっふっふ。あーハッハッハ!どうでしたか姫花さん?気持ちよかったですか?俺を一方的にボコボコにできて!自分がハンデを上げようと考えていた相手に逆にハンデをもらってた気持ちは!」
「??????」
コメント
:性格わっるww
:わからせじゃんw
:いいぞもっとやれ!
:このコメントは削除されました
:草
:クッソ上手くて草
「どうします姫花さん?もし姫花さんがどうしてもって言うならもう一回ハンデあげてもいいですよ?」
「バ……」
「バ?」
「バカー!バーカ!ホムラさんのバーカ!アホアンポタン!この鬼畜!」
「あらあら、姫ちゃんどうしたんでちゅか?そんな言葉言っちゃダメでちゅよ!w」
「アホー」
「草」
その後も容赦なく一方的に姫花さんをボコボコにして、スラブラ対決は無事終了した。
「いやー生意気なクソガキを大人の力でボコボコにするの気持ちぇー!」
「最低!クズ!女の敵!」
コメント
:これはクズ
:畜生過ぎて草
:姫花ちゃん涙声かわいい
:可哀想はかわいいはっきりわかんだね
その後流石にやり過ぎたと感じた俺は、姫花さんの機嫌が戻るまでいっぱい接待スラブラした。
という訳で3人全員とのコラボが終わり、最後に全員集合して、今回のコラボの感想などを聞き全員で乙ホムを言ってもらい、今回の配信は俺の配信では珍しく特段炎上もせずに、成功を収めることができた。
◯
「チッ」
とある男は今回の九重ホムラの配信を見て、1人暗い部屋で舌打ちをした。
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21話 九重ホムラ偽物騒動無事解決!
いつものように何か配信に使える情報は無いかとネットの海を漂っていると、ユメノミライの運営ではなく園野さんから連絡が入った。
そこで自分が園野さんに確か、謎の理由で炎上している事を調べてほしいと伝えていた事を思い出し、本来の仕事で忙しいと思うのにこんな短時間で、俺が配信の合間とはいえ一週間探しても見つからなかったものを、見つけてくるのは流石はネットアイドルを運営する事務所の社員だと思った。
いや、それとも単に園野さんが凄いのか?
そこの所は分からないが、特段興味があるわけでもないので、その考えを捨てて俺はすぐにスマホを手に取り通話開始ボタンを押し、スマホを自分の耳元に当てた。
「もしもしこちら園野ですが、そちらは九重ホムラさんの電話番号でお間違えないですか?」
「はい、間違ってませんよ。それでいきなり連絡してきてどうかしたんですか?」
「今少しこちらがバタバタしているので、ホムラさんには悪いですが手短に話しますね。まずホムラさんは
「苦渋?なんだか辛そうな名前ですけど、その人がどうしたんですか?全く知りませんけど……」
「では少し詳細をお話ししますね、この九重ホムラですが簡単に言ってしまえは、名前からもわかるようにホムラさん貴方の偽物ですね。」
「苦渋ホムラがですか?」
「はい、九重ホムラがです。」
確かに名前は同じだが苗字が全く違うのに、どうしてそれが俺の偽物になるんだ?
と思いながら、パソコンで適当に苦渋ホムラと調べてもやはりその件の相手は見つからず、逆に多くの俺の悪口が発掘された。
そんな感じで俺が勝手にダメージを負っている間にも、園野さんは話を続けておりどう言う話の流れかは聞いていなかったので分からなかったが、俺があまり要領を得てないようだったのを察してなのか、園野さんは俺宛のメールでこの苦渋ホムラについての資料を送って来た。
そのメールに写っていたのは、苦渋ホムラではなく九重ホムラという名前に、自作なのか劣化版俺みたいな絵が写っており、その下にはチャンネル登録者数やどういう動画を投稿していたかまでがまとめて書かれていた。
「あ!あー九重ホムラね!うんうんわかったわかった。なるほど……これはアウトなのでは?」
それも俺の偽物という事もあり本物でさえほとんど人気がない状態なので、そんな物の偽物が出たところでほとんど誰にも見向きもされなかったのか登録者数は500人程度で、更には動画の主体はコラボらしくそれもほとんどが相手のチャンネルでやっているとのことで、この偽物のチャンネルにはほとんど動画がなかった。
「はい、ホムラさんの言う通りこれは完全にアウトですね、更にこんな事もありましたからね」
と相手には了承を得ています。と言って俺に送られて来たのはこの偽物とその偽物に誘われている人とのDMでのやりとりなのだが……
「いやそこでユメノミライの名前を出すのは普通に詐欺だろ」
「そうですね、ですがホムラさんの名前を語っている時点でそれは本人では無いので詐欺ですね」
「いやー、なんか急に俺の偽物が出たと思ったら、スッゲェ小物でびっくりなんだけど?と言うかこの人は自分のチャンネル伸ばしてないけど、何の為に俺の名前を語ったんだ?コラボ相手は俺の名前を使えるからメリットあるかもしれんが、この偽物事態にそこまでメリットないと思うんだけどな?」
「自分の考えでよければ話しましょうか?」
「お、聞きたい聞きたい」
「多分恐らくなのですが、単に女性vtuberとコラボしたかったのでは?と自分は考えます。根拠としては以前渡した資料に載っているvtuberも全員女性ですし、このホムラさんの偽物が実際にコラボしている相手も、女性vtuberですし、何より自分が確認した配信では基本コラボ相手の女性vtuberに、セクハラまがいの事しかしてませんでしたからね」
おいおい本物が女性vtuberにできるだけ関わらないようにしてるのに、何で偽物が積極的に女性vtuberとコラボしようとしてるんだよ!
と言うかこの偽物、梅さんやオンプさんに姫花さんをコラボに誘うだけ誘って、しっかりコラボしないってvtuberとしての才能ねぇな。
あんなに伸びそうなvtuberなのに……
「と言うか何で俺なんだ?普通にハジメとか他の男性vtuberの方が、女性vtuberとコラボもできると思うんだけどな?」
「さぁどうしてなんでしょうね?もしかしてホムラさんが運営と仲が悪いから、バレないとか考えたんでしょうかね?」
「いや、流石にそれはないでしょw」
◯
「くそッくそッ!何でこうなるんだよ!」
そう叫ぶ男の目の前にあるパソコンには、ユメノミライというそこそこの大きさのvtuber事務所から、法的処置を取るとの文書が届いていた。
男は過去に女性vtuberとイチャイチャしたいという理由で、何度もユメノミライやアンダーライブに応募しているのだが、ユメノミライは女性アイドルグループなのでもちろん受かる事はなく、アンダーライブもそんな邪な考えの持ち主を合格する訳もなく、他にも個人の女性vtuberに一緒に話そうよなどの言葉をかけていたが、もちろんそれも無視され続けていた。
それでもどうしても女性vtuberと関わりを持ちたかった男は考えた。
そんなある時男の中に天恵が降りて来た。
「そうだ!人気vtuberの名前を騙ろう!」
だが男も馬鹿ではなかった。
「流石に有名どころすぎると、すぐにファンや運営に見つかってダメになるだろう。だからって弱小を狙ったとしても、ネームバリューが無いからコラボに託けないだろう。あー何処かにネームバリューはあるのに人気のない男性vtuberはい無いものか……って流石にそんな都合の良い奴がいるわけ」
居た!
それも有名企業に入っている癖に、人気は全くなく見ているのもほとんどアンチで、尚且つ運営との関係も最悪で、バレにくい最高の物件が!
という訳で俺は九重ホムラに成り代わり、数字が欲しい個人勢の女性vtuber達とコラボをし始めた。
そんな感じで俺はかわいい女性vtuberとコラボが出来て、更にあの憎っくきクソ野郎のホムラの野郎の地位も落とせて、完全に勝ち組状態まっしぐらだったとある日、ホムラのファンと思われる奴らから、やめろや通報するなどの負け組の弱者どもの僻みが何度か来ていたので、最初の頃は少し煽ってやっていたのだがそれも最近は飽きて来て、ほとんどの連絡を無視するようにした。
そんな生活をしていたある日、クソ野郎のホムラが俺の女とコラボしているのを発見した。
それに対してイライラし鬱憤晴らしにネット上にホムラのありもしない悪口や悪評を流しまくっていると、ユメノミライを自称する所からよく分からない通知が来たが、あのクソ野郎はユメノミライの運営に見捨てられてるから、本物のユメノミライの運営ならこんな連絡をしてこないだろうと放置していたが、その後も1日おきに何度も動画の削除要請などが来ていたが、俺はこんな事を毎日する暇な奴が居るんだなと無視していたある日、削除要請などでは無駄だと感じたのか、その自称ユメノミライは法的処置を取るなどと、出来もしない妄言を吐き捨てて来たので、出来るものならやってみろ!
という気持ちでそのメール画面を見ており、こんな馬鹿げたメールをどこのどいつが送って来たのか気になり、初めてその相手のメアドを見てみた所……
凄く見覚えがあった。
それはユメノミライ法務部のメアドであった。
過去にホムラのクソ野郎をクビにさせるために、何度も法務部にホムラのありもしない悪評を流しまくっていたから間違い無いだろう。
それがわかった瞬間全身から嫌な汗が流れ始め、呼吸が荒く視線もあちこちに移動し、思考がうまくまとまらなくなって来た。
「くそッくそッ!何でこうなるんだよ!」
男は急いで自分のチャンネルを消し、ツイッターのアカウントなども全て削除したが、そんな事を今更やっても既に遅く、ユメノミライ側は今回の件で被害を被った個人勢からも情報を集めており、さらには過去のホムラに対する誹謗中傷などの証拠も全て押さえており、今回の九重ホムラ偽物騒動を利用して、九重ホムラへの誹謗中傷を減らす為に、これからは九重ホムラに対しての誹謗中傷も法的処置を取るという前例を作っておきたいと考えていたので、今回の事は公式ホームページにも書いたり、他にも公式ツイッターでも正式な法的処置を取るとの文書を発表した。
こうして、九重ホムラ偽物騒動は本人がその存在を認知する前に、ほとんどが解決しており結局のところ偽物の声ひとつ聞く事なく、無事に事件は解決することが出来た。
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第3章 夢の未来
22話 効果覿面
ユメノミライの運営が公式で俺への誹謗中傷を法的処置をしたと発表した次の日の配信。
「いやー、同接数めちゃくちゃ減ったね」
コメント
:びっくりしたw
:最近は最低でも3桁はいってるのに今日たったの60人ちょいじゃんw
:ホムラの配信を見てた半分がアンチだったという真実
:けどコメント欄が荒れなくてよかったような、よく無いような……
「まぁ、それでも60人は居るから。皆んな分かってるか?60人って大体学校の2クラス分だぞ?その人数が俺の配信を見てると考えたら、普通に凄く無いか?」
コメント
:そう聞くとすげぇ
:でも他のメンバーは普通に4桁集めてるけど、それって学校何個分なんだろうね?
:そういえばホムラガールズの子達もアレから伸びて来てるよな
:姫ちゃんはマジで凄い
そんな風にいつもの様にリスナー達と話し合っていると、その今まで見た事もない圧倒的に発火しそうなワードがコメントで見つかった。
「ちょ、ちょっと待てホムラガールズって何だ?」
コメント
:何ってこの前コラボしてたじゃん
:燃えたくないからって知らんぷりするのは失礼だぞ
:忘れたのか?新しく出来たお前のハーレムメンバーだろw
:この前コラボしてた3人だよ
「いやいやいやいや!本当にちょっと待ってくれ、何なんだその名前は?俺を燃やそうとしてつけられた名前なのか?と言うかまずあの3人は、こんな変な名前で呼ばれてる事は知ってるのか?と言うかお前らあの3人に迷惑かけてないだろうな?」
別に俺をいじるためにここだけでそんな変な名前をつけて遊ぶのはいいのだが、そのせいであの3人に迷惑がかかるのは違うだろうと思い、リスナーに聞いてみた所俺の思っても見ない答えが返って来た。
コメント
:あれ?これマジで知らないのか?
:ホムラガールズって、言い出したのあの3人だぞ
:迷惑も何も初出はあの3人と言うか姫ちゃんやで
:てっきり知ってるもんかと……
:あの3人配信で裏でホムラに配信について教えてもらったって言ってたけど、それって本当?それともホムラを憐れんで良くしてもらったって嘘ついてるだけ?
「マジか、あの3人が……と言うより姫花さんが言い始めたのか、まぁそれなら別にいいかアンチは法的処置に怯えて何もしてこないだろうし。それより3人が配信で俺のこと褒めてるって本当か?」
コメント
:マジやで
:特に梅ちゃんがべらぼうに誉めてたぞ
:知ってるか3人の配信だとホムラって聖人君子みたいな扱いされてるぞw
:何か機材関連とか、許可関連の話してた
実はあのコラボの後も、あの3人とは普通と言うより結構交流が続いており、梅さんはvtuber歴も短くあまり詳しいことがわからないらしく、その事をたまに相談しに来たり、オンプさんならたまに録音した曲を俺たち4人のいるグループに投下しては感想を求めたり、姫花さんは配信で俺にボコボコにされたのがあまりにも悔しかったのか、今で確か3回ほど再戦を申し込んできた。
もちろんその時は配信じゃないので、配信映えなどや時間などのことを考えて手を抜いたりはせず、俺の得意なキャラを使って一切何も出来ないままハメ技まで使って、一方的に完膚なきまでにボコボコにしている。
「へーそうだったんだ、にしても聖人君子って何だよw俺はどちらかと言うと結構クズ寄りだと思うんだけど?」
と今回の配信は結局その後もホムラガールズのことなどを話していると、時間は過ぎいつもの様に挨拶をして配信を切り、何となく話題があがったと言うことで、3人のチャンネルを開いてみた。
するとそこには、
神木梅 チャンネル登録者1250人
オンプ チャンネル登録者6820人
桃崎姫花 チャンネル登録者2.5万人
と書かれていた……………………
「はぁ?2.5万人!?」
元々姫花さんのチャンネルは千人を超えており、個人勢としてはそこそこ成功していた部類で、尚且つ最近よく姫花さんのチャンネルはすごいと聞いてはいたのだが、言うて1万人行ったかどうかだと思っていたのだが……
2.5万人だと?
俺のチャンネルよりも1万人も多いじゃねぇか……
一体どこからその1万人を錬成したんだよ……マジで
と言うか、他2人も大概だぞ?
オンプさんは500から5000の10倍だし、梅さんなんて12から1250って100倍だぞ?
どうなってるんだこの3人は?
その余の凄さに俺は、すげぇすげぇと呟き続けるロボットの様になってしまった。
◯
ここは都内某所にある防音室付きのスタジオ。
その中では5人の少女達が汗水垂らしながらも、迫り来る緊張の中歌を歌いながら、踊りや振り付けの練習をしていた。
その姿は舞台で踊るアイドル達そのものの様で、一眼見てしまうとずっとこれを見続けたいと思ってしまうほどの出来で、ここまでの完成度にする為にはどれだけの努力が必要なのかと考えると、その量は考える事でさえ嫌になるほどだ……
そんな中1人の少女が、疲労のせいかはたまた長時間の練習のせいで、飛び散った汗に足を取られたのか、その場で転んで尻餅をついてしまった。
「痛たたた。すみません転んじゃったっス」
そう自分の小さなお尻をさすりながら、ノマドは立ち上がり他の少女達に軽く謝罪をした。
「別に謝らなくても大丈夫ですよ。それより怪我はありませんかノマドちゃん?」
そう声をかけながらノマドに手を差し伸べたのは、ユメノミライのエースにして一期生の星野キラメだった。
「大丈夫っス!ありがとうございますっスキラメ先輩!」
そう言いながらノマドは、キラメの手を取りその場で立ち上がった。
そうしてまた5人はダンスの通しでの練習を再開した。
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23話 真冬の受難
ここ数日というか今週ほどから、ユメノミライの運営や一期生に二期生のメンバー達は、ユメノミライ初の大型ライブという事もあり、忙しそうにしておりノマドはいつもの事だが他のメンバーも、ここ最近は少し配信回数が減ってきていた。
……そうこの俺を除いて
だがそんな事如きでは今更俺はへこたれない、それに何たって今日は件のライブのチケットの抽選の結果が出る日だからだ。
どうしても俺は同期や後輩達を間近で応援したく、現地に行きたいと思いチケットに応募をしておいたのだ。
何だ?こう言うものは同じところに所属してたら、頼めばもらえるんじゃないかって?
そうだな普通はもらえるな、けど俺は普通じゃ無かったのでもらえなかった。
いいじゃんチケット1枚ぐらいくれても、このケチンボどもが!
という訳で俺はチケットを正規の方法で入手するしかなくなったのだ。
という訳でチケット当選者の発表まで、じっとパソコンの画面を見ていたのだが……
「あれ?おかしいな、いつまで経っても当選通知が来ないぞ?」
おかしいなと思いながらも俺は、仕事用つまりは九重ホムラとしてのメアドをチェックしたり、俺個人藤堂 夏としてのメアドを端から端まで、舐める様に何度も何度もチェックしてみるが、やはり何度見てもそこにはチケットが当選したと言うメッセージはどこにもなかった。
「いやいやいやいや、いやまさかな、お、俺はユメノミライ所属のライバーだぞ?それなのにライブに出れないどころか、現地に応援にすら行けないなんてことあるか?いーやある訳がない!ある訳がないんだ……。そうだ、きっとどこかにどこかにあるはずだ!」
そう言いながら俺は、あるはずも無い当選通知を探し続けた。
◯
私こと藤堂真冬は、週に何度か告白される程容姿が優れており、運動能力も走る速さなら陸上部に入っている生徒ともいい勝負ができるほど良く、勉強は入試で平均98点で首席合格したほどで、自分で言うのも何だが優秀である。
そんな私には1人兄がいる。
兄はネットで仕事をしており、ずっと家にいるせいかご近所の人には引きこもりに思われているらしい、その事は私もそれに両親も特に気にしてはおらず、もちろん兄も気にしていないと言うよりかは、そんなことを言われていることすら知らないだろう。
だがどこからかその情報が学校にまで広がり、女子からは私の株を落とすためだろうか、引きこもりの兄が居るんだから私も将来は引きこもりになると、アリもしない噂を流され、男子達には毎度告白の度に兄を引き合いに出されて、自分は私の兄よりも君を大切にできるなどと話される事が多くなった。
初めの頃は私の尊敬する兄のことを馬鹿にされ頭にキテいたが、このことを兄に相談したところ
「あーそれはアレだね、皆んな真冬の事が羨ましいんだよ」
「羨ましい?」
「ああ、俺も偶に偶にだよ?ネットで叩かれる時があるんだけど、真冬は何でそいつらが俺のことを叩くかってわかるか?」
「えっと……夏兄のことが嫌いだから?」
「残念!けど惜しいな、嫌いというよりかは羨ましいから、文句を言うんだよ。俺の場合で言えば俺の立場が羨ましいんだろうな、真冬も何となく知ってるとは思うけど、俺が所属してるグループって俺以外が女の子だろ?それがずるいと思った奴らが俺の事を羨んで、悪口とかを言ったりするんだな。真冬の場合は俺とは違い立場とかじゃなくて、真冬の能力を羨んだんだろうな。なんたって真冬は可愛くて頭もいいからな!」
そう言いながら私を安心させるためか、夏兄は満面の笑みで、夏兄の大きな手で私の頭をワシャワシャと力強く撫でてきた。
私は昔から夏兄に頭を撫でられるのが好きだったので、もっと撫でて欲しくて夏兄の方へと首を伸ばすが、頭を撫で始めてから少し経った時夏兄が、「あ、じゃあそろそろ俺配信あるからもう行くな」と言い、私が伸ばした首は無事空を切ったが、夏兄はそんな事は知らぬ存ぜぬで、そのまま私の部屋から足早に出て行ってしまった。
「ムーッ!」
私は夏兄の事が兄として大好きなのだが、偶にこうやって自分から私を誘っておいて、あと少しのところでお預けにする所は大嫌いだ。
そして何故今こんな話をするかって?
それは現在進行形で、またしても顔も名前も知らない生徒から、告白という名目で私の大好きな兄の悪口を聞かされているからだ。
と言うか普通に考えて欲しいのだが、告白の最中に実の兄の悪口を言う人を誰が好きになると思うんだ?
それとも単に私が知らないだけで、世間では相手に告白する時は、誰かの悪口を言わなければならない決まりなのか?
と言うか正直、夏兄の悪口を言う言わない以前の問題なのだが、私には告白しにくる男子達があまり魅力的には感じない、よくサッカー部のエースだとか、頭がいいとか自慢してくるが、それの良さがあまり理解できないし、私的にはどちらかと言うとそんな事よりも、家事ができるとかの方が好感が持てる。
それに比べて夏兄は、毎朝早起きして私たちの料理を作ってくれるし、お弁当だって栄養バランスをしっかり考えながらおいしいのだって作ってくれるし、仕事の合間に掃除や洗濯などをしてくれるおかげで、家はいつも綺麗な状態が続いているし、偶にあそびにも連れて行ってくれるし、勉強だって教えてくれる他にも……
そんな事を永遠と頭の中で考えていると、相手の自慢話が終わりようやっと告白してきた。
長い!
何で呼び出しから告白するまで10分ちょいも、興味のない話を長々と聞かなくちゃいけないのよ!
「ごめんなさい」
けどそんな事を言ってしまうと、相手を傷つけてしまうので、おくびにも出さずに断りの言葉をその相手に伝えた、いつもなら断られて元々付き合えたらラッキー程度の考えで、告白してくるものが多く、私が断った時点で帰ってくれるのだが、今回の男は偶にいるめんどくさいタイプで、「何故だめなんだ?」とか、「もしかして他に好きな人がいるのか?」など、前者はまだしも後者に関しては何であなたなんかに話さなきゃいけないの?
と言う事を聞いてくるのだが、さっき言ったが人の家族の悪口を言う人を誰が好きになるのか?
と正直に言ってしまいたい所だが、やはり一応は私に好意を向けてきてくれた相手なので、出来るだけ傷つけたく無いので、適当に勉強に専念したいと言う理由を言って、何とかその場は切り抜けることに成功した。
だが今日は何だが運が悪いらしく、1人目の告白を断った後にもう一度、今度は自称野球部のエースに捕まってしまい、そのせいで家に帰るのが何時もよりも30分近く遅れてしまった。
「ただいま〜!」
家に帰り扉を開けてそう声をかけると、いつもなら夏兄がただいまと言ってくれるのに、今日は何故だか返事がなく、もしかして配信中なのかな?と思い自分のスマホで、九重ホムラと検索してみるが、今現在進行形で配信はしておらず、それならば買い物かな?とも思ったが、玄関には夏兄の靴と見知らぬ靴があったので、その可能性もない事がわかった……
「ん?」
さらっと流しそうになったが、基本この時間のうちには夏兄の靴しかないはずのだが、今日は夏兄以外のそれも女性物の靴が、夏兄の靴の横に並べられていた。
それを見た瞬間、私の頭の中には嫌な考えが浮かんだ。
すると私の体は無意識のうち動きだし、履いていた靴もその辺に適当に脱ぎ散らかし、手に持っていた教科書などが入ったカバンも適当な所に投げ捨てながら、私は急いで夏兄の部屋へと駆け足で向かった。
そうして夏兄の部屋の前まで行くと、いつもなら部屋に入る前はしっかりとノックをするのだが、今はそんなことも考えられずに、私は夏兄の部屋の扉を勢いよく開け放った。
「へ?真冬……っ!ちょ、ちょっと待てこれは誤解だ!」
「どうも、お邪魔してるっス!」
開け放たれた扉の中にいたのは、私が見たこともない20歳よりかは少し下あたりの女性と、その女性に覆いかぶるような格好をしながら、私の方に手を伸ばしながら叫ぶ夏兄の2人がいた。
「あ、あ……あぁぁぁぁあ!な、夏兄が、知らない女の人押し倒してる!?」
自分が想像していたよりも100倍は酷い状態だった為、上手く事の処理を頭ができずに、私は事実確認のためなのか、それとも衝撃が大きすぎた為か、目の前で行われている行為を言語化して大声で叫び、そのまま気を失ってしまった。
完全に気を失うまでに聞こえた最後の言葉は、夏兄の私を心配する声と、確かにこちらに向かってくる1つの足音だった。
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24話 御旅屋ノマド
時間になってもライブの当選通知が来ず、いくら探しても結局のところ無い物が見つかるはずもなく、無意味に時間だけが過ぎた。
そうして大変ショックを受けた俺は慰めてもらおうと、ハジメの所へ『今度うちでやるライブの現地のチケット落ちた』と連絡を入れたのだが、何とも薄情なやつなのかそれに対して『草』とひと言だけ返してきた。
まさかハジメがこんなにも薄情なやつだとは思っておらず落胆した。
え?もしハジメが同じ事を送ってきたらって?
そんなの俺はハジメとは違うからな。
もちろん草だけではなく、チャット欄を大草原にすべく大量の草を生やしてやるつもりだよ!
他にも慰めてほしくて、いつの間にグループの名前がホムラガールズに変わっていたグループに入り、今回のことを話すと梅さんとオンプさんは心優しく天使のような心を持っているのか、俺を優しく慰めてくれたのだが、そんな天国の様な空間に1人紛れ込んでいたクソガキが、現地に当選したライブのチケットの画像をいきなり、チャット欄に載せて来た。
『プププ、ホムラさん所属ライバーの癖に外れてヤーンのwそれに引き換え姫はこの通り無事当選しましたけどねぇ♡』
『は?マジお前、ほんとお前くぁwせdrftgyふじこlp』
『草ぁwww』
そんな感じに全力で煽られたおかげで、結局梅さんとオンプさんに慰めてもらった分と、姫花さんに煽られた分でトントンになり、結局俺はグループに入って来た時と同じで落ち込んだ状態のままだった。
そこで俺は一応vtuberなんだし、ホムラビトの皆んなに慰めてもらおうと、ツイッターで今回の事をツイートしそうになったとギリギリで、俺は正気に戻りあと数センチでツイートしそうになったところで、中断することに成功した。
「あっぶねぇ……もしこれをツイートしてたら絶対煽られてたわ」
そう普通のvtuberなら優しいリスナー達が慰めてくれるだろうが、うちのリスナーにそんな優しいやつなんている訳がない!
何故かって?
日頃の俺の配信を見ていたらわかるだろ?
という訳でそのツイートは削除して、これ以上この事を考えてるとどんどん気分が盛り下がっていくと思い、俺は気晴らしの為に家事でもしようと立ち上がったところで、家のチャイムが鳴り響いた。
誰だ?宅配か?
そう考えながら俺は、ゆっくりとした足取りで玄関に向かい、「はーい」と声をかけて扉を開いた。
そしてその扉の先にいたのが、
「どうもっス!」
御旅屋ノマドその人だった。
◯
どうしてと言うか、どうやってうちの住所を知ったのかはわからないが、ぱっと見の感じでどこか元気がないように見えたので、少し心配しながらも一応家の中に通してお茶を出してあげた。
「それで今日はどうしたんだこんなところまで来て、と言うかどうやってうちの住所を知ったんだ?」
「えーっとスね、先輩の住所はアレっスね。キラメ先輩に教えてもらったっス!」
「キラメに?」
「はいっス!」
「なるほどな……」
っていや何かってに人の家の住所教えてんだよキラメ!
いやまぁ、一期生は全員知ってると言うか何回も遊びにきたことあるし、別にユメノミライのメンバーならいいんだけど……
「それで?」
「それで?とはどう言うことってスか?」
「いや、だから俺の住所がどうやってわかったかは聞いたけど、何で今日うちに来たかは聞いてないだろ。それもライブの練習で忙しいこの時期に?」
「それは……」
そう言ってノマドは黙って俯いてしまった。
あの馴れ馴れしいサボり魔のノマドがこんなにも目に見えて、落ち込んでいる姿は初めて見たので少し驚きながら、俺はこの状況をどうすればいいかを思案した。
「!そうだ、ノマド今から俺の部屋来いよ」
「えっ!ちょ、ちょっと待つっス!」
そう言うノマドの言葉を無視して俺は、ノマドの腕を掴むと無理やり俺の部屋へと連れ込んだ。
「ほ、本当に待つっス先輩!ボクはもちろん先輩の事は好きっスけど、こう言うのじゃないって言うか……と言うか先輩ってこう言うことする人じゃないっスよね?それとももしかして、本当はずっとボク達が食べ頃になるまで待ってただけのオオカミっスか?きゃーやめて!食べないでっス!」
「ええい!うっさい!誤解を招きそうな事を言うのはやめなさい!」
ありもしない事をペラペラと話す後輩を止める為に俺は、軽く頭をチョップするとノマドはいつもの様に、一切反省する様子を見せずにヘラヘラと笑って誤魔化していた。
そうしてノマドを部屋に連れてくると、俺はノマドを俺がいつも使っている椅子に座らせて、俺はベッドに腰掛けそのままノマドにコントローラを投げつけた。
「ちょっ、急に投げないでくださいっスよ〜先輩!もしボクがキャッチできずに落としたらどうすんスか!」
「あー悪い悪い」
「全然悪いと思ってないっスよね?と言うかこれゲームのコントローラーっスよね?どうするんスか?」
「どうするってお前、コントローラー持ったならやる事なんて一つだろ。ゲームだよゲーム!お前この前俺の配信に乱入して来た時言ってたじゃねぇか、遊びたいって」
俺がそう言うとノマドはポカーンと口を開けて、少し間抜けな顔になった。
「どうしたんだ?そんな呆けてお前らしくもない。それで?何のゲームやるんだ?確かどっかにパーティーゲームがあった様な……」
俺がゲームのカセットを探しながら、その片手間にノマドにそう言うと、ノマドはいきなりクスクスと笑い始めた。
「ん?俺なんか変なこと言ったか?あ!もしかしてあれか?俺なんかがパーティーゲームを持ってるのを笑ったのか?」
「ふふっ、全然違うっスよ!単に先輩がそんな事いちいち覚えてた事に驚いてただけっスよ!」
「そんな事?」
「何でもないっスよー!それとボク今スラブラやりたい気分なんで、先輩一緒にスラブラやりましょうよ!」
何だかはぐらされた感じだが、今はそんな事よりも今コイツスラブラをやりたいと言ったか?
「ほう…向かってくるか……逃げずにこのホムラに近づい……」
「そんな事どうでもいいから早くやるっスよ!」
「あ、はい……わかりました」
という訳で俺とノマドは2人で肩を並べてスラブラを始めたのだが、基本ノマドは配信をしない為ゲームのうまさがわからなかったのだが、実際やってみた所普通に上手く、思っていたよりも白熱した勝負をする事が出来た。
◯
ゲームを初めてどれくらいがたった頃か、部屋の中に差し込む光はオレンジがかっており、窓から外を見渡すといつの間にか夕暮れになっていた。
外の景色を見ながら今日の夕食をどうするかを考えていたら、ノマドが意を決したように俺の前へと移動して来た。
「ん?どうしたんだ?」
「先輩実は……」
そう言ってノマドが話し始めた内容を要約すると
「つまりは喧嘩したと……」
「うっ……まぁなんて言うかそうっスね」
「まぁ、お前いつもヘラヘラしてて真面目さが全くたりねぇからな。どうせ喧嘩した相手ってアレだろ?ミリーだろ?」
「え!?どうしてわかったんスか?魔法っスか?」
「んな訳ねぇだろ、消去法だよ消去法!」
今話に出たミリーとは、俺の同期つまりはユメノミライ一期生で軍神ミリーと言って、名前の通り軍人キャラなんだが、ミリーはすごい真面目なやつでミリーになる前は軍関係の話なんて一切知らなかったのに、自分が軍人キャラをやるってわかったら、軍人について調べまくった結果、今では日常生活でも軍人のような話し方や、軍とは規律を重んじる為、それと元の真面目な性格が合わさった結果、自分にも他人にも厳しい人間になってしまったのだ。
っと、ここまでの説明だけだとお堅いやつに見えるのだが、好物の甘いものを食べているときは年相応の女の子に戻ると言う、ギャップを持ち揃えたキラメに続くうちの人気vtuberの1人だ。
「にしても喧嘩って、ノマドお前何したんだよ……」
「え!どうしてボクが何かやった前提で話すんスか?」
「嫌だってなぁ……人との約束を当然のようにブッチするお前と、約束の集合時間の30分前には必ず居るミリーとの、人としての信頼度を考えるとだな……」
「うっ……」
そうしてやはり何か心当たりがあるのか、ノマドはまたしてもその場で黙って俯いてしまった。
それを見た俺はしょうがないなと思い、自分の頭をかきながら、ため息混じりにつぶやいた。
「しょうがねぇから、明日俺も一緒に行ってやるから、ミリーに頭下げに行くぞ」
俺がそう言うとノマドは目を宝石のように輝かせて、猫撫で声で「せんば〜い♡」と叫んで飛びついて来た。
「ええい!鬱陶しい!やめろっ!はーなーせ!と言うかもういい時間なんだからさっさと自分の家に帰れ!」
「えー何でっするか!先輩もっと遊びましょうっすよ〜」
「いーやーだ!それにそろそろ妹が帰ってくる時間なんだからお前は帰れ!」
「どうしてっスか?先輩の後輩として妹さんに挨拶させて下さいっスよ!」
「絶対に嫌だね!もし俺のかわいい妹にお前のバカが映ったらどう責任を取るんだよ!」
「あーひどいっス先輩!ボクのどこがバカなんですか?」
「全体的にだよ!全 体 的 !」
そうして、俺はどうにかノマドを引き剥がそうと、その場で少し体を動かしていると、その時神様のいたずらなのか、俺が体を動かした際にベッドから掛け布団がずり落ちて来て、俺はそれに足を取られそのままバランスを崩してしまい、ノマドを下敷きに床へと倒れ込んでしまった。
「痛っつつつ。って怪我はないかノマド?」
「あ、はいボクは大丈夫っスよ?それより先輩は大丈夫っスか?」
「ああ、俺もちょっと腕を強くぶつけたぐらいだから大丈夫だ」
ノマドを下敷きにしてしまい、頭でも打っていたらと考えると額から汗が滲み出るが、幸いノマドにはぱっと見怪我がないようで、本人も大丈夫と言っていることからひとまずは大丈夫だなと思うのと同時に、今の格好をもし家族の誰かにでも見られたら、またしても家族会議を開かれて面倒だと思い、すぐにノマドの上から退こうとしたその瞬間、俺の部屋の扉が驚く程の勢いで開かれた。
いきなりの事に驚き扉の方を見てみるとそこには、走って帰って来たのか少し髪や制服が乱れている真冬が、肩で息をしながら驚いた表情でこちらを見ていた。
「へ?真冬……っ!ちょ、ちょっと待てこれは誤解だ!」
「どうも、お邪魔してるっス!」
一瞬扉が勢いよく開けられた衝撃で忘れかけていたが、今の俺の格好をよくよく考えて見ると、誰がどう見たって俺が年下の女の子を無理やり襲っているように見えるだろう。
その考えが頭によぎった瞬間俺は急いで真冬に手を伸ばし、この状況の説明をしようとしたのだが、真冬は顔を青くし扉から半歩下がり大声で叫び声を上げると、その場でふらりと気を失ってしまった。
俺は急いで真冬の方へと走り出し、真冬と地面の間に勢いよく滑り込み、真冬が怪我をしないように倒れてくる真冬を優しく受け止めた。
その際勢あまりすぎて、真冬を受け止めた後に思いっきり体を壁にぶつけてしまった。
「ふぅ……何とかギリギリセーフだな」
「ちょちょ!せ、先輩大丈夫っスか?今バーンっておっきな音なったっスけど!」
「ああ、今ぐらい大丈夫大丈夫。それよりノマドには悪いんだが、流石に今日の所は帰ってくれねぇか?」
と真冬を抱き抱えながら、ノマドの方を向いて言うとノマドは真冬のことを気遣ってくれたのか、小さな声で俺の耳元で
「わかったっスけど、ちゃんと明日一緒に来てくださいっスね!」
と呟くと、うちに来た時とは違い笑顔で、こちらに向かって大きく手を振りながら玄関の方へと小走りに歩いていった。
「おう」
それに答えるように俺もノマドに軽く手を振りかえした。
◯
その後目を覚ました真冬に色々詳しくあの状況の説明をしてと詰め寄られ、軽くどう言う経緯であんな事になったのか説明してもあまり信じてもらえず、そんな事をしていると母さんが帰って来て、ちょうど俺がノマドを部屋で押し倒していた事を聞かれ、すぐさまそれを父さんに報告されて、またしても家族会議が開かれる事になった。
「だから!アレはバランスを崩しただけなんだってぇ!」
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25話 ナンパ
家族会議があった翌日
つまりはノマドの謝罪の付き添いをする日
俺はノマドとの待ち合わせ場所で、既に30分も待っていた。
「くそッ最近は外部とのコラボしかしてなくて忘れてたが、vtuberは基本遅刻してくる生き物だって事を忘れてた!しっかりしろ俺!昔は遅刻しそうな奴らには本当の集合時間の1時間前を指定してただろ!」
最近はハジメやホムラガールズとのコラボしかしておらず、みんな集合時間よりは前かちょうどに来るせいで、いつの間にか人は集合時間にはしっかり集合しているという勘違いを起こしていた。
そのせいで既に30分も待たされている訳だが、一応10分ほど前に連絡した時にはこちらに向かっている様子だったので、そろそろ着くはずなのだが……
そう思い周りをキョロキョロと見回していると、手に持っていた俺のスマホが振動した。
外出時はスマホの通知音を切っているため、何かメッセージが来た時は今のようにバイブレイションだけになるのだが、一体誰だ?
そう思い俺がスマホを開くとそこには、今現在遅刻中のノマドからひと言『ヘルプっス!』とだけ届いていた。
「…………いやヘルプって何をだよ!そして俺はどこにお前を助けに行かなきゃいけねぇんだよ!」
そんな文句をつきながらも俺はスマホを自分のポケットになおすと、ノマドを探す為に周りを確認しながら走り出した。
走り出して1分程で目的の人物であるノマドを発見する事はできたのだが、今俺が目にしている状況はノマドが大層面倒臭そうな表情をして、その周りをチャラそうな男2人が取り囲んでいる、つまりはノマドがチャラ男にナンパされている状況なのだが……
「俺が助けに行かなくちゃいけないのか?」
絶対に面倒なことになるだろうし、あの様子を見る限りノマド1人でも何とかなりそうだし、ここは見つけられなかったことにして放置しようかと考えていると、適当に周りを見渡していたノマドと目があった。
その瞬間ノマドの表情は一瞬で明るくなり、その逆に俺の顔は一瞬で暗くなった。
そして頭の弱いチャラ男達はノマドの表情が明るくなったことで、行けると思い込み猛烈にアピールをし始めた。
「……行きたくねぇぇえ!!」
だが一応これでも先輩な訳で、困っている後輩を無視するわけもいかないので、嫌々ながらも俺はノマドとチャラ男達のいる方へと、クッソ重い足取りで歩いて向かった。
その最中もずっと俺が着くまでにチャラ男達が諦めてくれてたらいいな〜、と考えていたのだが残念ながら俺のその思いはチャラ男達には届かなかったのか、チャラ男達は相も変わらずどこからそんなやる気が出るのやら、ナンパに勤しんでいた。
しゃあないやるか、
そう心の中で意気込んだ俺は、チャラ男達の間を力ずくで抜けると、ノマドの手を取り無理やり自分の方へと引き寄せる。
「行くぞ」
これ以上面倒なことに巻き込まれたかったので、チャラ男達を威嚇するようにいつもよりも低い声でそう言って、ノマドの手を引き一刻も早くこの場を立ち去ろうとすると、ノマドの手を引いている手とは逆の手をチャラ男の1人に捕まれた。
正直俺は真冬の様に運動神経も良くないわけで、もしチャラ男達が逆上して襲い掛かって来たら多分一方的にボコボコにされるんだろうと思い、内心冷や汗ダラダラな状態だったが、ここで怯えた様子を見せると余計に面倒なことになると思った俺は、父さん譲りの長身と一家相伝の顔の良さを活かして、俺は腕を掴んできている方のチャラ男を威圧感を出す為に上から睨めつけながら、力ずくでその手を振り払い、そのままもう1人のチャラ男の事もついでに睨んでおいて、俺はノマドの手を引いてその場をゆっくりと後にした。
「怖っわ!なんだよあのチャラ男かヤンキーだか知らないけど、耳にピアス何個開いてたよ!いやー殴られなくてよかったー」
「先輩すっごいかっこよかったっスよ!ボクの手を無理やり引いて「行くぞ」って言ってるところとか特によかったっス!」
「うっせぇ!ほら行くぞ」
「はいっス!」
何とかチャラ男達から逃げ切ることに成功した俺達は、そのままの足でノマド達がレッスンしているスタジオへと歩いて向かうのであった。
◯
「兄貴、さっきのイケメンめちゃくちゃ怖かったんですけど!だから俺はかわいい子には彼氏がいるから、やめようっていたじゃないですか」
「う、うっせぇ!はっ、俺が本気になったらあんなイケスカねぇ奴ボコボコにできるからなぁ!」
「でも兄貴、足が生まれたての子鹿みたいにがくがくしてますよ?」
「こ、これは武者震いだよ武者震い!今度こそかわいい子ナンパするぞ!」
「えー、辞めましょうよ兄貴ィ!」
その後チャラ男2人はヤの付く人の彼女さんに手を出し、どこかのビルに連れ込まれてからその姿を見たものはいないらしい。
ちなみにチャラ男の兄貴じゃない方は、意外に普通にモテてます。けど兄貴と行動する方が楽しいとの理由で断っています。
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26話 鼻血
スタジオに着いた俺とノマドは、ノマドの案内でいつも練習している部屋の前まできたのだが……
「おい、入らないのか?」
「ちょ、ちょっと待つっス、今心の準備してるところっスから」
「でもなぁ、お前その準備始めてからどのくらい経ったかわかってるか?10分だぞ?10分!」
「わ、わかってるっスよ!あ、あとちょっとっスからちょっと待つっス!」
そんな感じで扉の前で押し問答していた。
幸いな事にスタジオは防音室になっているお陰で中にはこんな馬鹿騒ぎが聞こえていないのだが、さっきからちょくちょくここのスタッフさんが俺達を変な人を見る目で見てくるのが辛いので、出来ればノマドにはさっさと心の準備を完了させて、俺を部屋の中に入れて欲しいところだ。
それから結局さらに5分ほどノマドがモジモジしていたのと、流石にスタジオ前で15分以上も何もせずいるのを不審に思ったのか、俺たちの様子を確認するスタッフさんが少し増えて来たことで、俺が限界になり俺はノマドの静止も聞かずにスタジオの扉を開いて、その中に無理やりノマドを突っ込み、俺はスタッフさんの方に一度頭を下げてからスタジオの中へと入っていった。
「ちょっと先輩まだボク心の準備できてなかったんスけど!」
「うっさいんじゃボケ!お前がさっさと心の準備を完了せんのが悪いわ!」
そんな事を言い合いながらも俺は部屋の中を見渡してみたのだが、そこには俺より少し年下でノマドよりかは年上な美少女星野キラメただ1人しかおらず、それも確かここのスタジオ内は食事が禁止だったはずなのだが、スタジオの端の方で1人女の子座りをしながら、小さな口で両手で持ったおにぎりを啄んでいた。
「あれ?キラメ1人か?」
その声で俺がスタジオに来た事に気がついたキラメは、今まさに食べていたおにぎりを軽くラップに包むと、適当に置きその場で勢いよく立ち上がった。
「ホムラくん!?」
そして久しぶりの再会に喜んだキラメは、大きく手を振りながらこちらの方へと駆けて来た。
「久しぶりー!」
「おう、久しぶり」
裏では何度か話したりはしたものの、リアルで会うのは実に約1年と半年ぶりだ。
それが本当に嬉しかったのか、キラメは満面の笑みでこのまま勢いよくハグをするのか?と思うほどの勢いで、手を振りながらこちらに近づいて来て、俺も久しぶりの再会に少し嬉しくなり、初めの方は軽く手を振り替えしていたのだが、流石に突っ込んでくるとは思っていなかったのでどうしようかと考えていると、キラメが走っている自分の足に自分の足を引っ掛けて、俺とノマドの本当に目の前で顔面から地面へと倒れ込んだ。
その瞬間スタジオ内には、キラメが地面とキスをした時の衝撃音が響き渡った。
「うぉい!大丈夫かキラメ?」
「大丈夫っスかキラメ先輩!」
いきなりの事に俺もノマドも一瞬フリーズしてしまったが、すぐに俺は正気を取り戻しキラメに声をかけたところで、ノマドも正気に戻り俺とノマドはキラメの側まで近づき、2人でキラメを持ち上げ立ち上がらせた。
「あはは、ごめんねちょっとドジっちゃった」
そう煌めく笑顔で言うキラメの鼻からはダバダバと勢いよく鼻血が噴き出していた。
普段はしっかりとリーダーと言うか、ユメノミライのエースとして二期生や三期生を引っ張って来たのか、そのイメージのお陰で一期生のメンバー以外には、頼れる先輩として見られていたキラメが、いきなり目の前で盛大にずっこけたと思ったら、鼻血を見たこともない量を両方の鼻の穴からダバダバと垂らしている様子を見て、ノマドはあり得ないものを見たかの様に少し狼狽えていた。
だが正直俺達一期生からするとキラメは鈍臭い末っ子だったので、転んで鼻血を流すところなども何度も見て来ていたので、今更鼻血を流したくらいでは特段なんとも思わず、流れる様な動きでポケットの中からティッシュを取り出すと、すぐに口周りに着いた鼻血を拭き取るとキラメの両方の鼻の穴に丸めたティッシュを詰め込み、床に着いた鼻血を念のため持って来ていた消毒液を使ってきれいに拭き取った。
「よしっこれで大丈夫だな」
「ごめんねホムラくん」
「いいっていいって、にしても最近は配信を見てる限りお前のどじも治ったと思ったんだけど、まだまだ健在だったんだな」
「いやいや今のは偶々だって!そうだよねぇノマドちゃん」
「はいっス!キラメ先輩がドジしてるイメージなんて全然無いっスよ」
「本当か?キラメが先輩だからってそんな気を使わなくてもいいんだぞ?」
「いや、先輩ほんとっスよ!ボクから見たキラメ先輩は、完全無欠のゴッドオブアイドルって感じっス!だからさっきみたいに鼻血ダラダラなキラメ先輩を見たときは本当にびっくりしたっス。と言うか逆に先輩が颯爽とキラメ先輩の鼻血の処理をしてたのが、普通に気持ち悪かったっス」
「いや気持ち悪いってお前なぁ……」
それを聞いて俺の知らない間にキラメも成長したんだなと、過去の1人だと事務所にも行けず、毎度俺がキラメの家まで迎えに行っていた、あの頃のドジっ子だったキラメを思い出して少し懐かしさに浸っていた。
「そういや今日ってキラメ以外は居ないのか?」
キラメとの再会で色々忘れていたが、今日俺がここに来た理由がノマドがミリーに謝る所を見届ける事だった思い出し、この部屋に入ってからミリーを一度も見ておらず、もしや今日はレッスンの日ではなかったのでは?と少しいやな考えが頭によぎった。
「今日?今日はねカネコちゃんとマミさんは用事で来れないって言ってたから、私とミリーちゃんの2人だけだよ」
「そっかミリーはいるのか」
「うん、今は外でお昼ご飯食べに行ってるけどね」
それを聞いて俺は、今日ここに来たことが無駄足でなかったことがわかり一安心した。
その後最近の出来事などを3人で話し合っていると、スタジオの扉をノックする音が聞こえ、それと同時に1人の女性が部屋の中へと入って来た。
「軍神ミリーただいま昼休憩より帰還しました。」
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27話 軍神ミリー
「軍神ミリーただいま昼休憩より帰還しました。」
そう言いながらピシリと綺麗に敬礼をしたのは、俺の同期であるユメノミライ一期生の軍神ミリーその人だった。
「お、ミリー久しぶりだな」
俺がミリーの方に振り向き手を振りながら声をかけると、まさか俺がここにいるとは思っても見なかったのか、先程までのキリッとした顔つきから、一瞬普通の女の子が驚いた時の表情に変わった。
だが次の瞬間にはいつもの少し厳しそうな顔つきに戻り、俺たちの元へと少し早足つまり競歩気味で歩み寄って来た。
「お久しぶりです、サー。まさかまたあなたに出会える日が来ようとは……この喜びをどう表現すればよいのかわからないほどです。」
「おお、そうか……」
相変わらずミリーの奴ガッチガチに硬いまんまだな……
と言うかむしろ昔よりも硬くなったか?
「あのさミリー」
「なんでありますか?サー」
「昔から言ってるんだけど、その俺の事をサーって呼ぶのやめてくんない?すげぇ恥ずかしいんだけど」
「であれば、マスターなどは如何でしょうか?」
「いや、如何でしょうか?ってお前なぁ……普通にホムラじゃダメなのか?」
「ですが、軍人たる者上官にその様なことは……」
「いや、絶対誰もそんな昔の設定覚えてないって!」
ミリーの言う上官とは、昔俺達一期生はユメノミライ学園の生徒会メンバーという設定で売り出されており、その中で星野キラメは二年生にして生徒会長をやっており、軍神ミリーはぴちぴちの一年生会計で、ここには居ないもう1人の
久瀬ヤウロの事件から運営は俺と他のメンバーを分け、その際に俺以外のメンバーは元の制服衣装を封印され、それぞれに似合う新衣装に描き換えられ、公式の設定欄からもユメノミライ学園の存在は消されたので、この設定は本当に初期から見ている人しかわからないのだ。
つまりはミリーが俺の事を上官(生徒会の役職上)として扱っている設定を覚えている奴などほとんど居らず、俺がそんな小っ恥ずかしい呼ばれ方をする筋合いはないのだ。
「例え世間がそれを忘れようとも、我々が覚えているかぎりこの関係は変わりませんので、私はこれから先もサーの事はサーと呼ばせていただきます」
そう言ったミリーの表情を見て俺はこれ以上何を言っても無駄だと感じて、久しぶりに会ったミリーとの会話はほどほどに今日俺がここに来た理由である、ノマドとミリーとの喧嘩の仲裁をすべく動く事にシフトした。
「わかったわかった。じゃあもう俺の事ことはサーとでもマスターとでもなんとでも呼んでくれ。それでだな実はお前に用があってここに今日ここに来たんだ」
「私にですか?」
「ああ、まぁ用があるのは俺じゃなくてアイツだけどな」
と、ミリーが来てからずっとキラメの背後に隠れていたノマドを指差した。
それにつられてミリーが俺が指差した先を見ると、こっそりとこちらの様子を窺っていたノマドとばっちりと目線があった。
「ヒッ」
「おやおやおやおやノマドではありませんか……」
ノマドを見つけたミリーは先程までの優しい雰囲気は何処へやら、それこそまさに本物の軍人の様な迫力を出しながらゆっくりとノマドの方へと歩みを進めていき、それに連動する様にノマドもゆっくりと後ろに下がっていった。
「ははは……ど、どうもっス」
その様子を見て、てっきり俺はノマドがレッスンを無断で休んでケンカをしたのだと思っていたのだが、ミリーが結構ガチめにキレている様子を見て、一体全体ノマドの奴が何をしたとかが気になりながらも、その様子を静かに観察していると、ノマドはいつの間かスタジオの端まで行っており、ミリーに追い詰められていた。
「いやいやちょっと待って欲しいっスミリー先輩」
「ほう、私はまだ何もしていないのだが、待てとはどう言う意味だ?」
「いや……そのっスね」
これは終わったな。
と思った瞬間先程までのゆっくりした動きから、一気に全速疾走でスタジオの扉から外へ勢いよく飛び出し、それを見たミリーもノマドの後を追う様に、全力で走って追いかけ始め、スタジオ内には俺とキラメだけが残された。
そこで俺は何故あそこまでミリーがキレていたのかをキラメに聞く事にした。
「なあキラメちょっと聞きたいんだけどさ、俺が会ってないうちにミリーってもしかしてキレやすくなったとかあるのか?なんかすごい怒ってたけどさ。ノマドからは単に喧嘩したとだけ聞いてたし、どうせノマドの事だから遅刻か無断欠席とかだと思うんだけど」
「あー、それ実はね……」
そう言ってキラメが少し背伸びをして俺の耳元で話したのは
「差し入れでもらった人気スイーツ店のケーキを1人で全部食べた!?」
「うん」
バカだ……
それを聞いた俺の感想はこの一言に尽きる。
改めてキラメから聞いた話をまとめると?
いつもの様にキラメ達がここのスタジオでレッスンをやっている時に、ミリーのマネージャーさんが皆んながレッスンを頑張っているのを見て、ミリーがずっと食べたいと言っていた、朝から行列が出来るほどのスイーツ店のお菓子を差し入れに持って来てくれたらしく、それを聞いた遅刻をしていてその場に居なかったノマドを抜いた4人は、そのお菓子を休憩時間に食べるのを楽しみにその日のレッスンはいつもよりも張り切ってやっていたらしい。
そしてスタジオ内には食べ物の持ち込みが禁止だった為、そのお菓子は外にある荷物置き場に置いていたのだが、そこにレッスンが始まってから2時間も遅れて呑気にスタジオに来たノマドが、荷物を置きに行ったらそこにお菓子が置いてあり、ちょうど寝起きだったノマドは朝食を取っておらず、腹を満たすためにそのお菓子を1人でペロリと完食して、その時ちょうどレッスンが一旦終わりミリー達がスタジオからお菓子を食べに出て来た所でノマドと遭遇し、ただでさえここまでの所業でアウトなのに、あろう事かノマドはお菓子を食べた事をミリーに指摘された時に、
「あーボク的には、ちょっと甘すぎて微妙だったスね」
と言ったらしく、そこで楽しみにしていたお菓子を食べられた事に加え、勝手に食べたくせに微妙だったと言った事でミリーがブチギレ
それはもうびっくりする程キレたらしく、その勢いはキラメ達が止めなければ、ノマドを馬乗りで一方的にボコボコにしてしまいそうな勢いだったらしく、そこでノマドはその様子が本当に怖かったのか、半泣きで荷物をほっぽったまま全速力で逃げ帰ったらしい。
その後冷静になったノマドがキラメに相談した所、俺のところに行けばなんとかなるよと言われて、そこからは俺も知っている通りなのだが……
「ノマドってこんなにバカだったのか?」
「バカってホムラくん……多分アレだよきっとノマドちゃんも寝起きだったからだよ」
「そうか?と言うかキラメお前、ノマドのメンタルケアが面倒だからって、俺の方に投げるなよ!何だよ俺の所に行けば何とかなるって……」
「えーでも、昔っから何かあったらホムラくんが解決してくれたじゃん!ほら、私達が配信開始したはいいものの、機材やら回線が足りなかった時とかも、機材貸してくれたり、回線工事が終わるまでホムラくんの家で配信させてくれたりさ!他にも……」
「あーはいはい、わかったわかったわかりました。じゃあ次からはせめて事前に連絡をくれ、いきなり家に住所を知ってるはずがない奴が、いきなり来た時はすげぇ怖いからさ」
俺がそう言うと、キラメはそれもそっか!という表情をして、今度からは連絡するね!と言ってくれた。
そして俺は今日ここに来た理由のノマド関連が解決?した様だし、これ以上俺がここに居るのはよく無いと思い、帰ろうとしたところでキラメに呼び止められた。
「ねぇ、ホムラくん」
「ん、なに?どした?」
「私たちまた昔みたいにホムラくんの家でコラボしてもいいかな?」
キラメのそう言った時の表情は、今のユメノミライを背負う皆んなのリーダー星野キラメの自信に満ちた表情ではなく、ユメノミライに入りたてだった当時まだ確か高校生だった時の、これから先もvtuberを続けていけるか、また人気になれるのか皆んなに星野キラメとして認めてもらえるか不安で仕方なかった時の様な、弱々しい表情だった。
そう言われた俺はスッとキラメから顔を逸らして呟いた。
「ごめん」
「……そっか、そうだよね」
そのキラメの声は明らかに落ち込んでいる時の声で、もし今キラメの顔を少しでも見てしまえば、俺は多分キラメを悲しませまいと許可してしまうだろう。
だが俺にも、例えキラメや他の一期生に言われたとしても、絶対に曲げたく無い、いや曲げられない事はある。
それは…………俺がキラメ達の邪魔になる事だけはやりたくないと言う事だ。
多分キラメ達はそんな事望んでいないと思う、今でも何度もコラボの誘いがくるし、運営にも何かと話していると聞く、そして何よりユメノミライの方針が変更になる時は最後の最後まで反対していたし。
だからこそ、俺が今日ここに顔を出したからキラメは可能性があると思い、先ほどの様な質問をしたのだろう。
そして今こんな事を考えている俺も、本当は昔の様に皆んなとコラボしたりしたいのだと思う……
これ以上ここに居たら俺の気持ちが変わってしまうかもしれないと感じたので、俺はキラメの方には向かずに軽く手を振ってから、足早にスタジオの外へと駆け出した。
そして帰りは何も考えない様に、俺も全速力で走って駅まで向かった。
◯
一方その頃、ノマド達は……
「ご、ごべんなざいぃぃぃっスゥ!」
「は?今何か言ったか?私に聞こえる様にもっと大きな声で言ってみろ!」
「勝"手"に、ミ"リー先輩達のおがじだべでごべんなざいでじだっスゥゥゥ!」
結局ノマドはスタジオを出てすぐに追いかけて来たミリーに捕まり、スタジオのスタッフさんが見ている中、廊下のど真ん中で散々説教され、ガチ泣きしながら頭を地面に擦り付けながら、阿修羅の様な顔をしているミリーに謝り散らかしていた。
ちなみ結局ノマドが許されたのはこれから1時間後で、その間ずっと廊下で土下座させられていたせいで、そのスタジオでたまに部屋の外から女性の鳴き声がすると、少し噂になったとかならなかったとか……
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28話 お兄ちゃん♡
「はぁ……」
コメント
:どったの?
:配信開始早々ため息はびっくりするぞ
:どしたん?ホムラ話聞こか?
:ため息は幸せが逃げるぞ
:あのホムラがため息ってどうしたんだ?
:いくら焼かれても屁のカッパなホムラがため息!?
「いや、驚きすぎだろ!それとさっきのため息はアレだから、急にコラボ欲が出て来たけど、俺にはコラボできる人がいなかったの思い出してのため息だから。そんななんかがあったとかそう言うのじゃ無いから安心してくれ」
コメント
:泣いた
:ハジメは?
:ハジメとコラボしたら
:ぼっちw
:ホムラガールズでも誘ったら?
「あー、ハジメはここ最近マジで忙しそうだから無理かな、俺と気軽にコラボしてくれるから忘れそうになるけど、vtuberの中でもトップクラスに人気の人だからねハジメって。それとホムラガールズだけど、正直誘いずらい……。いやだって俺ずっと女性vtuber避けて来たんだぞ?だから何か誘いずらいなって……」
コメント
:でも裏では絡んでるんじゃ無いの?
:この前裏でホムラガールズとカラオケ大会やったって聞いたぞ
:マリヲパーティーとかも裏でやったって聞いたけど、アレ何で表でやんないの?
:ヘタレw
「ヘタレで結構。それと何で表でやんないのって話だけど、裏でやる分には友達と話す感じだから特に何とも思わないんだけど、配信ってなると燃えない様に気を使いながらやるのがめんどくせぇ」
コメント
:めんどくさいは草
:まぁホムラは着火剤並みによく燃えるからなw
:けど最近はこの前の運営の発表のおかげで全然燃えてないじゃん
:ホムラガールズとコラボしろ!
「そうだね、アレ以降は本当にボヤ程度しか起きてなくて、めちゃくちゃ俺の精神状態にいいのは確かだな。それとホムラガールズとコラボしろってよく言うけど、お前らそんなにコラボしてる様子見たいのか?単に梅さんやオンプさんに姫花さんの事が見たいなら、しっかり本人達のチャンネルで見てやってくれよ」
コメント
:見たい
:はよコラボしろ
:さっさとコラボしろ
:コラボ楽しみにしてます
コメント欄を見てみると、思いの外皆んなコラボを見たい様で驚いた。
どうしてそんなにもコラボが見たいのか聞いてみると、ホムラガールズの3人が俺と裏で遊んだ事をよく楽しそうに配信で話しており、それを聞いているうちに興味が湧いて来たらしい。
「そんなにみんな見たかったんだったら、3人に今度コラボしてくれるか頼んでみるわ。あ、もし断られたからってその時俺を煽ったりするのは禁止だからな。それが約束できるならコラボ申請して来てやってもいいぞ」
コメント
:あ、煽ったりなんてしないって……
:俺たちがホムラの事煽ったりした事が今まで一度でもあったか?
:おいおいホムラビトの事少しくらい信頼しろよ
:約束するからさっさとコラボしろ
「ホムラビトの事信頼しろって言うけど、俺はお前らの事めちゃくちゃ信頼してるぞ」
コメント
:ホ、ホムラ トゥンク♡
:ありがとう
:俺もお前の事信頼してるぞ!
:照れる……
「まぁ信頼とは言っても、俺がコラボ断られた時に全力で煽りにくるだろうなって事だけどな」
コメント
:俺のときめき返せ!
:はーもう絶対煽りまくるわ
:ひどい!
:信じてたのに!
「はいはい、そんなこと言ってるけど今俺の配信見てる奴のほとんどが、元俺のアンチだって事は知ってるんだからな」
実際軽くコメントしている人を確認すると、1人が初期からいる人で、3人がハジメ経由で俺の配信を見に来てくれた人、そして5人が普通に配信を楽しんでみてる民で、その他が元俺のアンチだ。
コメント
:え?何のことかな?
:おいおいこの中にホムラを叩いていた奴がいるって?許せねぇなぁ!
:え!ここってアンチの人居るの?怖〜
:何!アンチだと?許せん!
コメント欄が爆速で動き、リスナーがアンチを探す動きをしているが、そのコメントをしている奴全員が元アンチというカオスな状態が巻き起こっており、俺はその様子を見て、前までならこんなふざけたこともできないほどにコメント欄が荒れていたので、俺も少しだけど進歩したんだなとわかると、自然と笑みが溢れた。
そして少し嬉しくなりテンションがおかしくなったのか、俺は後から考えるとどうした?と言いたくなる様な奇行に走り始めた。
「よし、なんならアレだな、今からホムラガールズをコラボ誘ってみるか!」
コメント
:お!コラボか!
:でも確か今オンプちゃんと梅ちゃんがコラボしてたはずだぞ
:急にどうした?頭打ったか?
:誘え
「あーそうなの?ならしょうがないから今日はぼっちの姫花さんでも誘うか。んでまたゲームでボコボコにして遊ぶかな」
コメント
:草
:また畜生発言してるw
桃崎姫花:はぁ?姫ぼっちじゃないもん!友達いっぱいいるもん!
:あ!ぼっち姫だ!
:姫ホムラの配信見てたんだw
コメント欄を見てみると姫花さんが居たので俺はちょうどいいと思い、口頭で姫花さんでコラボのお誘いをした。
「はいどうも!ホムラビトのみんなぁ久しぶりぃ♡ホムラガールズが1人ホムラさんよりも1万人以上登録者の多くて、ホムラさんとは違って友達がいーっぱいな桃崎姫花でぇす!姫ちゃんって呼んでね⭐︎」
「はい、お久しぶりですね、ゲームクソ雑魚マジクソイキリメスガキでぼっちな姫花さん」
「なんですか?コラボする友達もおらず、私に登録者数ボロ負けしていて、誇る所がゲームしかないぼっちなホムラさん」
コメント
:初手コラボ相手を貶めまくる配信者の鑑w
:マジクソイキリメスガキは草
:結局これ2人ともぼっちなのでは?
:姫ちゃん!好き!
「それで、ホムラさんコラボしたいって言ってましたけど、今日は何するんですか?まさか姫をコラボに誘ったのに、何も考えてないとは言いませんよね?」
「いやー、姫花さん察しがいいな〜。そう、実は本当に何するか全くこれっぽっちも考えてないな。姫花さんは何かやりたいことある?裏みたいにゲームでボコボコにしてあげようか?」
「姫?姫がやりたい事かぁ……」
「考えるのはゆっくりで大丈夫だからね」
コメント
:姫虐はいいぞ
:姫も別に弱いわけじゃないんだよな……
:コラボ相手にぶん投げたwww
:脳死コラボじゃん
:何でお前はそんなに上から目線何だよwwww
「あ!姫やりたい事?考えた」
「何やりたいんだ?あ、言っとくがすぐに用意できるものにしろよ、今から買い物は流石にめんどくさいから」
「大丈夫よ!買い物なんて必要ないから」
「そうか、それは良かった。それで結局姫花さんは何をしたいんだ?」
「やりたい事って言ったら違うけど、アレね。姫花呼び方を変えたいわ♡」
「呼び方?」
「そう!正直今まではずっとホムラさんの事は、ホムラさんの事情とか諸々考えて呼んであげてたんだけど、この呼び方って全然姫っぽくないのよね」
へぇー、コイツも意外と色々考えてたんだな……
「はぁ……俺的にはそのまま変わらず居て欲しいのですが」
「いやよ、そんなの!」
「さいですか……それで?なら今度からは何で呼びたいんですか?姫だから下僕とかそんなんですか?もしそうならせめて俺にゲームで勝ってからにしてくださいね。俺自分よりザコにそんな呼ばれ方はされたくないんで」
「チッ」
「おい、今舌打ちしただろ!」
「え?何々?何のこと?姫全然わかんな〜い♡」
「うっぜぇー」
もしこいつが真横にいたら思いっきりグーでぶん殴ってそうなほど、神経を逆撫でする様な甘ったるい声を出して来たせいで、俺はそれが肉体的にも嫌だったのか身震いを起こした。
コメント
:そういや裏でも遊んでるって聞くけど、確かにまださん付けだったな
:いいんじゃない?
:姫ちゃん絶対ホムラに下僕って付けるつもりだったよねw
:下僕キャンセラー
:舌打ち!?
:投げキッスありがとう
「と言うか、その呼び方変えるのって、もしかして俺も変えなきゃならんのか?」
「当たり前よ!」
「えー、別に姫花さんでいいじゃん。それか何か?クソガキとかに変えた方がいいのか?」
「そんなわけないじゃない!姫の事はそうね……姫花様って呼ぶ事を許してあげるわ♡それかみんなとおんなじで姫ちゃんでもいいよ♡」
「あ、じゃあ姫ちゃんで、よろしくな姫ちゃん!」
コメント
:速決草
:くさ
:www
:草
:早すぎwwwww
「それで姫ちゃんは結局俺の事なんて呼ぶんだ?普通にホムラか?」
「そうね……あ!お兄ちゃんとかどう?」
「やめろ!」
そのお兄ちゃんと言う言葉を聞いた瞬間俺は、今まで配信でもほとんどあげたことのないほどの大きさの声で、姫花さん……いや姫ちゃんの意見を拒絶した。
「えーどうしてぇ?歳的にも姫の方がお兄ちゃんより年下だし良くなぁい?」
「ダメだ!それだけは絶対にダメだ!」
「何でぇ?ちゃんと理由を話してくれないと、姫わかんないよ〜お兄ちゃん♡」
「や、やめろぉぉ!俺の前でお兄ちゃんと呼ぶな!俺がお前の事を優しくしたくなるだろうがぁぁ!」
コメント
:びっくりしたw
:急に大声出すなよwww
:全力で拒絶して来たw
:あー確かホムラって妹が居たんだっけ?
:草
:渾身の優しくしたくなるだろうがで草
「え?どうしちゃったのお兄ちゃん?」
「や、やめろぉ!このクソガキガァ!」
「お兄ちゃん姫お小遣い欲しいなぁ♡」
「くそっ!や、ヤメロォ!」
そう言いながらも俺の体は自然と財布から千円札を抜き出していた。
「や、ヤベェ俺無意識のうちに自分の財布から千円札取り出してたわ……怖っ」
「それは……本当に大丈夫なの?」
コメント
:あ、危ねぇホムラがスパチャ機能オフにしてくれてたおかげで、スパチャせずに済んだぜ
:お金、お金渡せない……
:お兄ちゃんだよ!
:お金あげるから俺を姫ちゃんのお兄ちゃんにしてくれ!
その後も他の呼び方をいろいろ試したのだが、結局お兄ちゃんが1番しっくりくるとのことで、俺の呼び方はお兄ちゃんに固定されることになった。
「それじゃあ呼び方も決まった事だし、そろそろ配信も終わるか」
「えー、もう終わっちゃうの?」
「ああ、お前とは全く違う可愛くて頭も良くて運動神経も抜群な、俺のかわいいかわいい妹がそろそろ帰ってくるから、晩御飯の用意を始めなきゃならんからな」
「えー、お兄ちゃんはその妹と姫どっちが大切なのよ!」
「断然妹っすね、それじゃあそう言う事で乙ホムでした」
「乙ホムでした!ホムラビトのみんなばいば〜い♡」
コメント
:速攻振られてて草
:微塵も勝ててなくて草
:乙ホム
:姫ちゃんばいばい
:私とアイツどっちが好きなの?を速攻で答える男w
◯
配信も無事に終え晩御飯の下準備をしていると、真冬が帰ってきた。
「ただいま夏兄」
「おかえり真冬」
真冬が家に帰って来て手を洗って、荷物をその辺に置くと、いつもならそこで自分の部屋に戻るか、リビングでテレビを見始めるはずなのに、今日は何故か俺のいる台所までやって来た。
「もしかしてもう腹減ったのか?ごめんなまだ晩御飯出来てないんだ……だからそれまでちょっと待っててくれるか?」
俺がそう言った瞬間真冬が俺の方へと突っ込んでくると、ぎゅっと俺を抱きしめ俺の腰あたりに顔を埋め始めた。
「夏兄ぃ〜夏兄ぃ〜…………」
「ん?どうしたんだ?学校で何か嫌なことでもあったのか?」
「……お兄ちゃん」
真冬が言った最後の言葉は、俺に顔を埋めているせいでくぐもっており、さらに真冬もボソリと呟いたせいもあり、今更揚げている唐揚げのパチパチという肉を揚げる音にかき消されて、うまく聞き取る事ができなかった。
「すまん、真冬今何か言ったか?」
「ううん、何も言ってないよ夏兄!それじゃあ晩御飯楽しみにしてるね!」
そう言うと真冬は満足したのか、俺から抱きつくのをやめて、少し顔を赤らめながら急足でその辺に放っていた荷物を持って自分の部屋へと駆け出した。
「ん?結局真冬は何がしたかったんだ?」
そんな事を考えながらも俺は晩御飯を作るのを再開した。
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29話 バイト開始
ノマドが俺の家に凸してから数日、あれから色々ありあっという間に時間が過ぎ、ユメノミライのライブまで既にあと1週間となったある日
「あぁぁあぁ!ライブ行きてぇ!」
何かいろいろ限界になっていた。
ツイッターを見れば現地のチケットが当たったとか外れたとか、俺の配信でもライブが楽しみなどうの話が出て来て、そのせいで俺の現地で見たい欲が沸々と湧いて来て、今まさにそれが爆発したところだ。
だが、どれだけ叫んだところでチケットの無い俺はライブを現地で見られない。
そんな事はわかっている!だが、だからと言って簡単に諦めれるものでもない。
そうしてどうにか現地に行けないかとネットで色々調べていたら、現地でライブを見る方法を俺は見つけた。
◯
そしてライブ当日
ライブは10時スタートで、9時から会場の門が開くのだが、今はまだそれよりも1時間早い時間つまり朝の8時、既に入り口の前にはユメノミライのファンで行列が出来上がっていた。
なぜ俺がそんな事を知っているかって?
それは今よりも少し、大体1時間前まで遡る
◯
今俺は1週間前に見つけた大きな会場の警備のバイトをする為に、その会社の車で他のバイトもしくは社員の人と渡された制服を着てその会場に向かっている。
そして会場についてからは、俺たち用の控室の様な場所に案内されると、警備長と言ったらいいのかわからないが、まぁ言ってしまえば今日の俺の上司の人がこの場で適当に3人組を組ませて、そして各々に警備場所を割り当てていった。
そして俺はこうなる事を見越して、事前にこの警備長に媚びを売りまくっていたのだ。
集合場所についてからは1番偉そうな人に目をつけて、その人の荷物持ちをやったり、飲み物を買いに行ったり、肩を揉んだりと本当に色々(まだ会ってから2時間も経っていない)やって来た。
そしてそのおかげか俺が入った3人組は、最初は列整理などの外での作業だったが、ライブ開始からは中の警備それも結構ステージから近い距離のだ。
ありがとう警備長!
という訳で俺は今日一日一緒に行動する事になる残りの2人の元へと向かった。
そして俺が向かった先には、海外から来たのであろう俺より少し身長の高い、推測だが俺が185はあるから190前後ぐらいだろう、金髪で筋肉が少しついたイケメンと、身長は160後半あたりであまり運動をしないのか、腹周りに肉がついている黒髪の男性なのだが、髪はボサボサで配られた制服のボタンもしっかりと閉めない、見た目だけを見るとあまり仲良くなりたいタイプではない男性、そんなアンバランスな2人組がいた。
「今日はよろしくお願いします。バイトの藤堂夏です。気軽に夏って呼んでください」
俺がそう礼儀正しく2人に頭を下げて挨拶をすると、金髪の男性も俺に続いて挨拶をし始めた。
「ヨロシクオネガイシマス。私アメリカから来たウィリアム=ロバートです。ウィリアムとお呼びください」
「よろしくウィリアムさん」
「ハイよろしくです。夏さん」
そう言って俺とウィリアムさんとで握手をした。
そうして俺とウィリアムさんは残りの1人である男性に顔を向けると、その男性はコチラを睨みつけながら大きなため息を吐きながら、びっくりするほど小さな声でボソボソと自己紹介をし始めた。
「…………半……カイ」
半壊?
男性の声が小さ過ぎて俺にはそうとしか聞こえなかったのだが、何とウィリアムさんは驚くほど耳がいいのか、さっきのボソボソとした声でもしっかりと聞き取れていたらしく、その男性に握手を求めていた。
「ヨロシクです。半沢カイトさん」
なるほど半沢海斗か、俺も名前がわかったのでウィリアムさんに続く様によろしくと言ったところ、その男性つまりは海斗さんは一瞬こちらを見ると、嫌味ったらしく舌打ちをしてそっぽを向いてしまった。
それを見た俺とウィリアムさんは、まさか舌打ちをされるとは思っても見なかったので、驚きのあまり俺はウィリアムさんの方を、ウィリアムさんは俺の方をと助けを求める為に向いた為、俺たち2人は全く同時に目を合わせてしまって、それが何だか無性に面白く感じてしまい、2人でお互いの顔を見合って笑い始めてしまった。
その後警備が始まるまで結局海斗さんとは一度も話せなかったが、それとは逆にウィリアムさんとはめちゃくちゃ色々と話し込んでしまった。
ウィリアムさんから聞いた話だが、ウィリアムさんも結構なユメノミライのファンらしく、ユメノミライがライブをするとの事で、わざわざアメリカから日本に来たらしいのだが、何と俺と同じで現地のチケットを外してしまい、これまた俺と同じ経路でこのバイトの存在を知って、もしかしたらと思ってバイトに参加したらしい。
「いやー、まさか俺以外にもライブが見れるかもってバイトに参加してる人がいたとは……驚いたよ」
「私もデス。夏さんが私と一緒ビックリしました」
「そうだ!ウィリアムさんもユメノミライのファンらしいけど、どの子が推しなの?」
「推しデスか?それはモチロン金城カネコちゃんデス!」
「あー、二期生の?」
「YESYES!」
「へー、どの辺か好きなの?」
「オー!夏さんキキマスカ!」
そうしてウィリアムさんはツラツラとカネコの良いところを語り始めた。
金城カネコとは俺の後輩のユメノミライの二期生だが、コイツもコイツでノマド同様ユメノミライの問題児の1人だ。
何処が問題児かと言うとそれは、コイツの実家が関係してくる。
カネコの実家は誰もが名前を一度は聞いたことのある企業で、カネコはそこの1人娘でそのせいか金遣いが荒く、配信内でも散財散財で金を湯水の様に使っているやつだ。
確かこの前やっていたガチャ配信では、合計で100万円をたった1時間で溶かしていたような奴だ。
「聞きたい聞きたい」
そんな頭オカな奴でも俺にとってはかわいい後輩だ。
世間様からどんな評価をされているかは一応気になる。
という訳で俺はバイトが始まるまでの時間ウィリアムさんから、カネコのいい所や推しポイントなどを時間が来るまで聞き続けた。
そして俺達はバイトの時間が来たので、列整理と外の警備をしに帽子をかぶって向かった。
◯
そして冒頭に戻りユメノミライのライブを見に来たファン達の列整理を始めた。
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30話 ライブ開始
ユメノミライのライブの列整理を始めて30分、長身イケメンの外国人という事でウィリアムさんの周りに少し人が集まっており、それに巻き込まれて状態で俺達2人は数少ない女性ファンに囲まれていた。
「いや、だから何度も言っていますけど、写真などは困ります」
「コマリマス」
俺とウィリアムさんがお客様に詰め寄られて困っていて、海斗さんに助けを求めようと海斗さんの方を見ると、何と列整理もせずに木陰に腰掛けて休んでいる様子が見てとれた。
いや海斗さんせめて仕事はしろよ!
そんなこんなでその後も海斗さんは一向に仕事をしようとせず、俺は顔のせいでまた問題が起きると面倒だと思ったので、顔が見えないほど帽子を深く被りながら1人で3人分の仕事をし、ウィリアムさんはその後も何度も女性客に声をかけられ続けて使い物にならなかった。
そうして俺が1人で仕事を回していると、あっという間に時間は過ぎライブ会場が開きゆっくりだが客も会場内に入って行き、俺たち3人もそれに続く様にと会場の中へと入っていった。
会場に入る際に俺はウィリアムさんに、流石に会場内であんな事を起こされたら流石に迷惑なので、帽子を深く被る様にお願いした。
そうして会場の中に入った俺達3人なのだが、やはりというか案の定と言うか、海斗さんは早々に俺達の持ち場に着いた途端壁際に移動すると、そこでしゃがみ込みスマホをいじり始めた。
流石にバイトとは言えお金が入ってくる以上、俺たちが今やっているのは歴とした仕事だ。
それを堂々とサボるのは流石に俺も見過ごせなかったので、海斗さんに仕事をする様に言ったところ、海斗さんは静かにチッと舌打ちをしてその場から立ち上がり、その辺を適当に歩き始めた。
それを見て俺はようやくやる気を出してくれたのかと感心したのも束の間、俺から少し離れた場所に移動した海斗さんは先ほど同様に、壁際に移動するとその場でしゃがみ込みスマホをいじり始めた。
流石の俺もこれにはムカつき、こう言う輩はいくら言ったところで無駄な事は、自分のリスナーを見ていてわかっているので、バイト終わりに警備長に告げ口をする為の証拠の為に、俺はバイト中に堂々とスマホをいじりながらサボっている海斗さんの姿を、自分のプライベート用のスマホで撮影した。
その様子を見て何をしているのか気になったウィリアムさんが俺に声をかけて来た。
「夏さんナニをしてるんデスか?」
「ああ、後で警備長に海斗さんが仕事もせずにサボってたことを告げ口する為の証拠集めですかね」
「オー!それはナイスなアイデアですね!」
そう言うとウィリアムさんも自分のスマホで、サボっている海斗さんの姿を撮影し始めた。
そうしてその後も海斗さんは堂々とサボり続け、俺とウィリアムさんで海斗さんの分も見回りを続け、そしてついにその時はやって来た。
◯
先ほどまで明るかった会場の電気は一気に消え、周りは真っ暗の暗闇に包まれた。
だが、それに恐怖するものなどこの場に1人もいなかった、逆に会場は電気が消える前まではあったちょっとした喧騒も無くなり、この場はしんと静まり返った。
だがその静寂も長くは続かなかった。
暗闇と静寂が支配する会場の真ん中で、この会場にいるものなら何度も聞いたことのある、ユメノミライが始めて出したオリジナル曲『夢と未来』のイントロと共に、会場の真ん中に設置されている機器により、見覚えのある6人のアイドル衣装を見に纏った姿が映し出されると共に、先ほどの静けさは何処へいったのかと思ってしまうほどの歓声で会場は溢れかえっていた。
「カネコちゃーん!!」
もちろん俺の横にいる長身イケメンで制服を着込んだ男性も、他の客に負けじと自分の推しの名前と、何処からか取り出したのかわからないサイリウムを両手に持って、今がバイト中と言うことも忘れて盛り上がっていた。
まぁこのライブを見にわざわざアメリカから日本にやって来たんだ、流石にずっととはいかないが今は特に問題も起こってないし、ウィリアムさんの分も俺が周りを警戒していれば大丈夫だろうと思い、俺は軽くみんなの頑張っている姿を見て、自然と笑みを浮かべながら不審な動きをしている人はいないかと周りの監視を始めた。
その際ついでに海斗さんの様子も見にいったのだが、ライブが始まっても尚仕事をするでもなく、今までと変わらずスマホをいじり続けていた。
その様子に俺は怒りを超えて呆れ果ててしまった。
◯
「みんなー!今日は私達の初ライブを見に来てくれてありがとう!」
一曲目の『夢と未来』を一期生と二期生全員で歌い終えると、一旦キラメを除いた他のメンバーが画面?と言うかホログラムと言うか、どう言う原理で映し出されているのかわからないが、舞台の上から手を振りながら消えていった。
そして舞台の上に1人残されたアイドル衣装の星野キラメがそう言うと、その様ず周りで見守っていたユメノミライのファン達は一斉に各々が、その問いかけに思い思いの返信を返した。
「わーみんな応援ありがとう!それじゃあそろそろ時間だから次の曲いってみよう!」
キラメがそう言って握り込んだ手を上に勢いよく振り上げた瞬間、舞台の上に勢いよく黙々と白い煙が立ち込めるとキラメの姿は見えなくなり、その次の瞬間爆音と共に俺を除いた一期生全員が再度登場して歌を歌い始めた。
◯
その後も色々なメンバーが様々なコンビで歌ったりしたりしており、その中でこの前まで喧嘩していたノマドとミリーが仲良さそうに歌っているところを見て、俺は2人がしっかりと仲直りできていることに安心した。
そんなこんなで俺もウィリアムさんと同様に途中から、今がバイト中だったと言うことを忘れライブを楽しんでいた。
そうしてライブを純粋に楽しみ始めて約30分後、ライブでは今は歌ではなくMCパートに入っており、メンバー達が楽しそうにいつもの配信の様に話しているところで、俺はようやく今自分がバイト中だった事を思い出した。
……やっちまった!普通にすごかったから純粋にライブを楽しんでしまった!
そんな事を考えながらも俺は自分がライブにかまけて周りの監視を怠った内に、なにも問題が起きていないかを確認するために急いで、自分達が任されている担当エリアをぐるりと一周した。
そこではさっきまでの自分と同様に周りの目も気にせず、ライブを純粋に一生懸命応援しながら楽しんでいる大きなお友達が多くおり、特段不審な動きをしている客の姿もなかったので、俺はホッと一息ついてからウィリアムさんの所に、そろそろしっかりと仕事をする様に伝えにもといた場所に戻っている所で、俺は一つの違和感を覚えた。
「あれ?海斗さんは?」
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31話 居なくなったバイト
「あれ?海斗さんは?」
俺が客の様子を見て周り、楽しんでいるところ申し訳ないのだが流石にウィリアムさんにもそろそろ仕事をしようと話に行こうと向かった途中、ライブが始まった時に海斗さんが座り込んでいた場所に海斗さんの姿が無かった。
初めはトイレにでもいったのか?とも考えたが、何か嫌な予感がした俺は、無線で海斗さんに連絡を取ってみたのだが、その通信には一切返事が返って来なかった。
流石にこれは本格的にまずいと思った俺は、急いでウィリアムさんの元へと向かうと、ウィリアムさんに海斗さんがいなくなった事を伝えた。
「本当デスか?夏さん。海斗さんの事だからどこかでサボってるとか、トイレとかじゃないデスか?」
「俺も初めはそう考えて、海斗さんに連絡をしてみたのだが一切連絡が帰って来なくて、それでちょっと嫌な予感がしてな」
俺が少し深刻そうな顔をしてそういうと、ウィリアムさんはすぐに俺と同じ考えに至ったのか、静かに頭を抱えながらOh my godっと呟き、その後ボソボソと英語で呪詛の様な言葉を早口で呟き始めた。
俺はそんな少し興奮しているウィリアムさんの肩に手を乗せて、ウィリアムさんを少し落ち着かせた。
「そういう訳だから俺は海斗さんを探しに行こうと思うんだ」
「ohそうなんですか!でも夏さん勝手に動いていいんですか?」
ウィリアムさんの言った通り俺は今日客としてではなく、警備のバイトとしてこの会場に来ている。
そのため無断で移動するのはいけない事だろう。
だからこそ俺は海斗さんが居なくなってすぐに警備長に報告をして探しに行きたいことを伝え、その際に警備長にバイトが問題を起こしたら誰が責任を取るのかを聞いてみたところ、是非とも探して欲しいと言われた事をウィリアムさんに説明した。
「と言う訳だから俺は海斗さんを探してくるよ」
俺がそう言ってこの場を後にしようと、ウィリアムさんに背を向けると、それと同時に肩を叩かれながらウィリアムさんに呼び止められた。
「夏さん!」
「ん?どうかしましたかウィリアムさん」
「私も海斗さんを探すの手伝いたいデス!」
「いいんですか?」
ウィリアムさんは俺と同様にライブを生で見たいが為にわざわざこのバイトを探し出して、こっそりと会場に参加して、更には今はちょうどウィリアムさんの推しの金城カネコがソロで歌っているところだった。
だからこそ俺は本当に手伝ってくれるのか?と思い聞いてみたところ、ウィリアムさんは親指をグッと立ててすごく良い笑顔を返してくれた。
という訳で俺達は、俺が西エリアウィリアムさんが東エリアに別れてスタックや他の警備の人に海斗さんの写真を見せて探し始めた。
◯
「みんなありがとう!」
歌を歌い終えたキラメはお客さん達に手を振りながら舞台袖に移動し、次に歌う予定の同じ一期生で最年長の母出マミとユメノミライの問題児のノマドの2人とハイタッチをして、休憩の為に1人一部屋与えられた控え室へと移動した。
ライブが始まってから1時間半程ライブの3分の2が終わって、中盤特に出番が多かったキラメはそのせいで疲労が溜まっており、控え室に着くと汗を軽くタオルで拭くと水分補給をして、椅子を複数個横に並べるとその上に寝転がり、水で軽く濡らしたタオルを目元に当てて目を瞑った。
それから少し経った頃、控え室の外が少し騒がしくなり、何か問題でも起きたのか気になったキラメは、タオルを顔から取り少し髪の毛などを整えると、扉を少し開きその間から顔をひょこりと出して周りをキョロキョロと見回した。
するとここから少し離れたところでスタッフさんが何人か固まって、こちらからはちょうどスタッフさんと重なって判別はつかないが、誰かと話し合っている様子が見てとれた。
何かあったのかな?
そう考えたキラメは控え室から出ると、そのスタッフさん達の方へと移動してスタッフの1人に話しかけた。
「あのどうかしたんですか?」
キラメに話しかけられたスタッフが、話しかけられた事でキラメの存在に気づき、何かを話しはじめようとした瞬間、ちょうどスタッフの陰に隠れて見えなかった子豚のように丸々とした体型をした、あまり自分の見た目を気にしていないのか、髪が汗のせいか若干ギトギトしている警備員の格好をした男が周りにいたスタッフを突き飛ばして、キラメの方へとゆっくりと向かって来た。
「キラメちゃん見ーつけたぁ!」
「ひっ!」
見知らぬそれも自分よりも一回りも大きな男にいきなり襲われそうになったキラメは、その恐怖から足がすくみその場にちょこんと座り込んでしまった。
キラメに話しかけられていたスタッフはすぐにキラメを守るように警備服を着た男とキラメの間に入るが、男に突き飛ばされてそのまま頭を壁にぶつけて気を失ってしまった。
「どうして逃げるのキラメちゃん?僕だよ!忘れたの?いつもスパチャしてるじゃん!ねぇ、わかるでしょ?ねぇ?ねぇ!」
「……」
「は?何?分かんないの?そんな訳ないよね?僕キラメちゃんにひゃ100万円も貢いだんだよ?」
「……」
体を小刻みに震わせながら助けを呼ぼうとしても恐怖のせいか上手く口が回らず、あ……う……などと力ない言葉を漏らすキラメの肩をがっしりと両手で掴み、キラメを無理矢理前後に力強く揺らしながら耳元で唾を飛ばす勢いで警備服を着込んだ男がそう叫ぶと、キラメの目からスゥーッと一滴の涙がこぼれ落ちた。
「なぁ!早く答えろよ!」
そう言って警備服を着た男は右手を大きく振りかぶってきた。
その瞬間キラメは恐怖で目をギュッと瞑った。
誰か助けて!
……そうキラメが心の中で助けを求めてからいくら待てどもキラメの元にその衝撃は訪れることはなかった。
意を決してキラメがゆっくりと目を開くとそこには、右手をおおきく振りかぶっている状態の警備服を着た不審者の男と、その右手を片手で止めているもう1人の警備服を着込んだ男の2人がいた。
そこでようやくキラメ先程の恐怖心とは違い、安心感から大粒の涙をボロボロとこぼしながら声を発した。
「ホムラぐん!!」
「おう」
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32話 夢の未来
海斗さんを探し始めて5分ほど経った頃、俺が探していた西エリアで働いていたスタッフさんに聞いたところ、海斗さんの様な挙動不審の人物を数分前に近くで見たという証言を得て、それを俺は警備のバイトが始まる際に渡されていたインカムでウィリアムさんに伝えて、そのまま近くにいるスタッフさん達に片っ端から海斗さんの写真を見せながら聞いて周り、そこから海斗さんのいる場所を探って行った。
そんな時近くから何か大きなものが倒れたような大きな衝撃音が聞こえ俺は嫌な予感がし、すぐにその音がなった方へと走って向かった。
俺が走って向かった先の廊下では、複数人のスタッフが地面に倒されていて、その少し先で俺が探していた人物である海斗さんと、俺の同期である星野キラメの2人がそこまで綺麗とは言えない廊下で座り込んでいる様子が見てとれた。
ここからでは海斗さんの背中が邪魔をしてキラメの表情はよく見えないが、どう見ても喜んでいる様子でもないので、俺は息を整えながら少し早足でキラメの元へと向かおうとした瞬間、海斗さんの右手が大きく振り上げられたのを見て、俺は今いる自分の場所から海斗さんのいる場所までは20メートル以上はあろう廊下を自分でも驚く速度で駆け出して、その手がキラメに振り下ろされる前に受け止めることに成功した。
その事に自分でも少し驚きながらもキラメの方へと目線を移すと、そこには大粒の涙をボロボロと地面へとこぼす姿があった。
「ホムラぐん!!」
「おう」
俺はキラメのその姿を見てようやく今の現状を頭で理解出来たのか、海斗さん……いや海斗の野郎の振り上げていた右手を掴む手に力が入り、そのせいか海斗のクソ野郎はその腕の痛みからか、それともこの場から逃げ出すためか俺の右手を掴まれていない左手で掴んだ。
どうにか自分の右手を放させようとジタバタとその場で吊り上げられた魚のように無意味に暴れるのを、俺は海斗の野郎を掴んでいる右手に少し力を入れる事で無理やり鎮静化させた。
その際海斗の右腕からミシミシと少し骨の軋むような音が聞こえたが、俺はその音を聞こえた上で無視して、そのまま海斗の右腕を捻り上げて、海斗を無理矢理キラメから離し、そのまま俺は海斗の右手を捻り上げた状態で海斗とキラメの間を邪魔するように立った。
「痛で!痛ででででで!!は、離せよ!」
腕の痛みで顔を歪ませ、俺の拘束から抜け出そうと抵抗しながら海斗は文句を言うが、俺は海斗のその言葉を無視して顔を近づけて普段よりも声を低くして呟いた。
「海斗お前さ、バイト中になにしてんの?」
「あ…えっと……」
俺が海斗にそう当たり前の事を聞くと、海斗は先程までの威勢はどうしたのか、バイト中の時の様に俺と顔を合わせない様に顔を下に向けて急に吃り始めた。
「なぁ?聞いてんのか?おい、黙ってたらわかんねぇだろ?なぁ?お前はバイト中にここで一体何をやってたんだって聞いてんだよ」
「……」
俺がそういう風に海斗を攻め立てていると、前もって連絡をしていたウィリアムさんと、ウィリアムさんが呼んだであろう警備長の2人が小走りでこちらの方へと近づいてきた。
その後は黙り込んだ海斗を警備長に引き渡し俺とウィリアムさんの2人で、周りで倒れているスタッフさん達を壁に腰掛ける様に少し移動したりしていると、ウィリアムさんがこちらをチラチラと確認してきた。
「どうかしましたか?ウィリアムさん」
「いえその……その子はダレデスカ?」
そう言ってウィリアムさんが指さしたのは、俺が助けてからずっと俺の背中にピッタリと黙ってくっついているキラメだった。
「あっえっとコイツは……」
ヤバいどうする?流石にここでキラメの正体を話す訳にはいかないし、かと言って他のいい言い訳も思いつかないし、本当にどうするか……
そんな事を色々考えて1人あわあわとしていると、ちょうど俺の見ている先にとても見覚えのある2人が歩いているのを見つけることができた。
それは俺の同期の母出マミさんとついこの間大変迷惑をかけてきた御旅屋ノマドの2人だった。
2人はちょうど出番が終わったのか、体からは大量の汗が吹き出しており、その様子は遠目から見ても少し色っぽくもあった。
そんな2人を見て俺はキラメが身バレする前に2人に預けようと考え、ウィリアムさんにはスタッフさんにさっきあった事を説明してくると軽く説明してから、キラメの手を少し強めに握って2人の方へと早足でかけて行った。
そうして俺がキラメの手を引いて2人の方へと近づくと、まずマミさんが俺たちの存在に気づき、俺がこの場にいる事に驚いた様な表情をした後に、その後に俺に手を引かれた顔を下に向けて元気のないキラメを見て再度驚いた表情をした。
マミさんは今年で25歳で俺達一期生の中では最年長で、更には4姉妹の長女らしくそのせいもあってか、ユメノミライに入ってからはキラメやミリーに含め、後輩達も妹の様に大変可愛がっている。
特にキラメは今となってはみんなの頼れる先輩になっているが、ユメノミライに入った当時は何と言うか何をするにも誰かと一緒にと言う感じだった為、その感じがマミさんに特に刺さったらしく、当時は俺と一緒にキラメ介護セット(ティッシュにタオルや救急セットその他着替え一式等)を常に持ち歩いた。
そんなマミさんだからこそ今のキラメの様子を見て、キラメの身に何かがあった事をいち早く察することができたのだった。
それに比べてノマドの奴は、俺達が結構近くにいるのにも関わらず俺達には全く気付かず、どこから取り出したのかそこそこの大きさのシュークリームを取り出し、廊下のど真ん中を歩きながら口の周りに生クリームをつけながらむしゃむしゃと食べ始めた。
軍神ミリーという名前がデカデカと書かれた袋に入ったシュークリームを……
「どうしたのキラメちゃん!」
そう言ってマミさんは少し腰を落としてキラメと目線を合わせて聞いてきた。
そしてその声を聞いてようやく俺たちがいる事に気づいたノマドは、口に大きなシュークリームを含んだままブンブンと手を大きく左右に振りながら、モゴモゴと多分ホムラ先輩?と言っているのだと思う事を呟いた。
そんなノマドには適当に手を振りかえしておいて俺はマミに先ほどまであった事を軽く説明をした。
「なるほど……そんなことがあったのですね」
「ああ、俺があんな奴から少しでも目を離したせいでキラメが危険な目にあって……。それに俺がもう少し遅れていたらもしかしたら他のメンバーもアイツの被害に遭ってたかもしれない。それもユメノミライの初の大きなライブでだ……。今回はたまたまキラメが怪我をする前だったが、もし怪我なんかしてこのライブがめちゃくちゃになったらって考えると、俺は……俺は…………」
俺がそう言いながらマミさんに話していると、背中を誰かにギュッと強く引かれ、そのことが気になり俺が振り返るとそこには先ほどまでとは少し違い、プルプルと小刻みに肩を振るわせながら俺の服を強く握っているキラメの姿があった。
もしかしたら先ほどの話で襲われた時のことを思い出して怖がっているのかと1人心配していると、バッと勢いよくキラメは顔を上げすごく小さな声で何かを呟いた。
「……う…………から……」
「ん?」
キラメの声が小さく何を言っているかよく聞こえなかった俺は、キラメの声をしっかりと聞き取るためにキラメの方へと耳を傾けた途端キラメは、先程とは比べ物にならない声量で叫んだ。
「違うから!」
何が?そう俺が思ったのを察したのかキラメは少し慌てながら説明を始めた。
「あ、えっと……だからその今回のライブの事なんだけど。もちろんホムラくんの言う様にユメノミライとしての初めての大型ライブで、今日の為に私もマミさんもミリーちゃんもノマドちゃんにカネコちゃんもライブを成功させる為にみんながいっぱいいっぱい努力してきたけど……、それでも私はこれをユメノミライのライブとしてはどうしても思えないの。だってこのライブにはホムラくんがいないんだもん!」
「……キラメ」
「それに、他にもクラゲちゃん達三期生も含んだ全員……いや、その先の四期生や五期生も含めたライブをしてこそユメノミライだと思うの!」
そう宣言する頃にはキラメの表情に先ほどまでの怯えていた頃の面影は一切なく、その表情にはこれから先のキラメにとっての夢の未来を成し遂げる為の決意に満ちていた。
「そうか……それは最高だな!」
「でしょ!」
そう言ったキラメの表情は最高に眩しいほどに輝いていた。
その後は元気になったキラメをマミさんとノマドに預けて俺は、自分の仕事をするためにウィリアムさんの元へと戻ろうとした時、最後にキラメに声をかけられた。
「ホムラくん!」
「どうした?」
「ライブしっかりと最後まで見ていってね!」
そう言ったキラメの顔は過去にドッキリ動画を撮った時と同じ顔をしており、俺はその顔を見てキラメがこのライブ中に何かをやる事を確信し、それに応える様に俺も笑顔でキラメに返した。
「おう、もちろん!楽しみにしてるぞ!」
そうして俺達はお互いに背中を向けて己が進む道を歩き始めた。
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33話 【ユメノミライ】
俺はキラメ達と別れウィリアムさんのいる場所へと戻ってきた。
「お!夏さんお話オワリましたか?」
「ああ、しっかりと話し終わったよ。それでこっちはどうなったんだ?」
「コチラはデスね」
そう言ってウィリアムさんから俺が居ない間に、再度海斗が暴れ回り警備長の顔面を殴ったが、それをモノともせずに警備長が片手で海斗の事を担いで、「コイツを警察に突き出してくるから、おまえらもさっさと持ち場に戻れよ」と声をかけて来た事を聞かされた。
「そうだったのか、どうりで戻って来た時に警備長と海斗の野郎の2人がいないと思ったよ」
「私も海斗さんが急に警備長さんに殴りかかった時はビックリしましたよ。それと夏さんもう一つ気になったコトがありまして」
「気になった事?」
「ハイ、実はですねサッキ海斗さんが暴れた話をしましたけど、その途中から海斗さんが右手を痛そうに押さえ込んでたんです。まぁそのおかげで警備長さんが楽に海斗さんを連れて行けたんですけど……ってどうかしましたか夏さん?」
「あ!いや別に何でもないぞ。それより俺たちも早く持ち場に戻らないと不味くないか?持ち場を離れてからもう10分以上は経ってるだろ?」
「oh!それもそうデスね!私たちも早く戻りましょう!そろそろカネコちゃんの出番なんです!」
ウィリアムさんは近くにあった時計を見てそう言うと、廊下をその鍛え抜かれた身体の全速力であっという間に駆け抜けていった。
その様子を見ながら俺は、そういえば海斗の腕を握っている時にミシミシって音が聞こえていたのを思い出して、額に少し嫌な汗が流れた。
そんな風に俺が少し考えていたせいで立ち止まっていると、廊下の端からウィリアムさんが大きな声で俺の名前を呼び、そこでいちいち俺があんな奴の為に思考するのは無駄だと思い、ウィリアムさんにすぐ行くと声をかけて俺も走り出した。
そうして持ち場に戻った俺とウィリアムさんは、以前よりも少し真面目に周りを見回ったりしながらもライブを楽しんだ。
そんなこんなでその後何事もなくライブは順調に進み、先程ライブ最後の曲の全体曲を全員で歌い終えた。
その瞬間会場からは鼓膜が破れるほどの歓声や拍手が鳴り響いた。
俺もそれに釣られる様に大きく拍手をした。
そんな中俺の隣からこの会場内で1番でかいのではないかと思う声でブラボー!!と言う声が聞こえ、少し笑いそうになりながらも俺は隣を見るとそこには、目から滝の様な涙を流しながら、どこから出したのかわからない金城カネコの顔がプリントアウトされたうちわを大きく両手で振っており、そこで俺はウィリアムさんのその行動に我慢できずに吹き出してしまった。
その後は会場が一旦歓声は静まり返り、それから少し立った後どこからかアンコールと言う声が聞こえ始めた。
その声に釣られる様にして会場内からは、一つまた一つとアンコールを望む声が聞こえて来た。
次第にその声は徐々に大きくなると、あっという間に会場内をアンコールと言う声が支配した。
もちろん俺やウィリアムさんも周りと同じ様に手を叩きながらアンコールと呟いた。
そしてその声に応える様に再度ステージに光が灯ると共に一期生である星野キラメをセンターに、そレヲ挟む様に軍神ミリーと母出マミの2人が現れた。
それと同時に会場は先程とは比べ物にもならない声量の歓声で包まれた。
「みんな!アンコールありがとう!それじゃあそのアンコールに答えれる様に頑張って歌いたいと思います!聞いてください私達今の一期生の想いが詰まった一曲【ユメノミライ】」
キラメのその掛け声と共に会場にはイントロが流れ始めた。
それと同時に会場内が少しざわつき始めた。
それもそうだろう。
何たってこの曲は二期生達がデビューする前の曲、つまりまだ俺がまだユメノミライのメンバーだった頃の初のオリジナル楽曲で、例の事件があってからは運営が俺の痕跡を消す為に削除された楽曲でもある。
なのでそもそもがこの曲を知っている者がごく僅かで、更にこの曲内には俺たち一人一人のソロパートがあり、今会場内では特にこの曲の存在を知っている者達が、お互いに小声でざわめきあっていた。
そしてそれは俺も同様で、まさかこの曲が歌われるとは思っていなかったので驚いたのと、それと同時によく上層部がこの曲を歌うのを許可したなと、そんな事が頭の中で埋めきあっていた。
そんな風に1人悶々と色々考えていると、隣にいたウィリアムさんから肩を叩かれた。
「ん?どうかしましたかウィリアムさん」
「すいません夏さん。少し気になったのですが公式に【ユメノミライ】って曲アリマシタか?私その記憶になくて、もしかして新曲ですかね?」
それを聞いてそう言えばウィリアムさんはユメノミライを二期生から、つまりは軌道に乗ってから知った事を思い出し、確かその頃にはこの曲が削除されていた事を思い出し、俺は深い事情は話さず昔にあった曲だよと簡単にこの曲の事を説明しておいた。
するとウィリアムさんは、なるほどと納得したと共に俺の事をユメノミライの古参ファンと勘違いし、尊敬の眼差しを向けて来た。
その目線に少しむず痒い思いをしながらもキラメ達のいるステージの方を見ていると、何か少し違和感を感じた。
だが歌も俺のいた4人の頃からしっかりと3人用に変更された歌詞割りで歌っており、ダンスに関したら俺は一度も踊ったことが無いので何とも言えないのだが、しっかり3人でまとまっている様に見える。
だがそんな中ステージを見ていると時たま、何か足りないと感じる部分がありその違和感が気になり少しモヤモヤとしていると、1番の難所と言うか問題点のソロパートに突入した。
そこは元々原曲時点でキラメが「曲の中でメンバーがひとりひとり話すパートが欲しい」と言い出したせいで歌詞が存在せず、当時の俺達はこの曲を歌うたびに自分に割り当てられた時間に何を言うかを、いちいち考えなければならなくなり、いい案が出なかった時で1番酷かったのは、全員が「あ〜」とか「え〜」とか呟くだけで終わった事もあった。
そんなソロパートを3人がどう乗り切るか、それと同時に久しぶりに聞いた曲に昔の記憶が呼び起こされ、少し懐かしさを感じながら聴くことにした。
「みんな!今日は私達ユメノミライのライブに来てくれてありがとう!こんな大きな会場でライブをする事は初めてですごく緊張したし、それに見合う様に私達もいっぱいいっぱい練習したから、みんなも楽しんでくれてたらすっごくすっごく嬉しいです!はい、次ミリーちゃん!」
そう言ってセンターだったキラメが横へと捌けると、その代わりにミリーがセンターへと移動してくると、息をスゥっと吸って話し始めた。
「先程キラメ殿が言っていた通り我々はこの舞台へと立つ為に色々努力して来た。それは単にこのライブの為の練習だけではなく、我々ユメノミライがこの会場にライブができる様になる為の知名度向上の為の、日頃の配信活動などもその一つだ。そしてそれを支えて来たのは他でもない貴様らファンの声だ。その事をしっかりと覚えて帰ってほしい。それとノマド!私のシュークリームを勝手に食った事絶対許さないからな!マミさんよろしくお願いします」
そう言ってミリーはマミさんに頭を下げると、キラメと同じく横へと移動すると、マミさんが軽く手を振りながらセンターへと移動して来た。
「ふふふ、久しぶりなんだけど改めてこのパートって何だか少し恥ずかしいのよね。えーっと話す事よね……。そうそう、そう言えば皆さんノマドちゃんとカネコちゃん2人のダンスと歌どうでしたか?あの子達、特にカネコちゃんは最初こそロボットなのかなって思うほどカクカクなダンスだったんだけど、専属の先生をいっぱい付けて人一倍ダンスのレッスンしたおかげで、最終的には私はすっごくよくなってたと思うの。皆さんはどう思いましたか?」
マミさんが俺たちに対してそう聞くと、皆は各々でよかったやうまかったなどの言葉を呟いた。
それを聞いたマミさんはふふふと嬉しそうに笑い、続きを話そうとしたところで、持ち時間が終了してそれと同時に少し離れていた所にいたキラメとミリーが、中央に近づきマミさんの肩をトントンと軽く叩いた。
そこでマミさんは持ち時間が終了したことに気づき、少し話し足りないという顔をしながらも2人の顔を見ると、3人はお互いの顔を見合い息を吸った。
「「「それじゃあ最後はホムラくん(サー)よろしくお願いします!」」」
そう言うと3人は何も無い空間に手をやり、あたかも他の誰か4人目がここにいるかの様に振る舞った。
それと同時に俺は今までの違和感の正体に気づくことができた。
今まで3人が歌っている時やダンスをしている時に、たまに何かが足りない様に感じた違和感は、そのまま本当に1人足りないことに気づいた。
俺はてっきり4人用の曲を3人用に変えて歌って踊っているものだとばかり思っていたから、ずっと何処となく違和感を感じていたが、3人はこの曲を3人用に変えたのではなく、俺が抜けていても曲として成り立つ様に歌詞割りを考えたり、振り付けを考えたのだと今になってようやく気づくことができた。
だがこんな物俺か、それこそユメノミライを本当に初期の初期から知っている人しかわからない様なことで、今のユメノミライのファンのほとんどは最初期の事を知らない為、会場は少しざわついていた。
そんな様子を見て俺は3人の俺への気持ち知り、少し目頭が熱くなったのと同時に、自分が3人の足を引っ張っていることがすごく悔しく、そして何より恥ずかしかった。
その後3人は何事もなかった様に続きを歌い始め、それを見ていたファンのみんなも少し困惑しながらも、3人が何事もなかったかの様に歌い踊っている姿を見て、同様に何事もなかったかの様に再度盛り上がりを見せ、ユメノミライの初ライブは大成功の3文字がピッタリな程の成功を収めて無事終了した。
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34話 無事ライブ終了
ユメノミライ初ライブが大成功で終了した翌日、俺は自宅で公式で出しているライブ映像を買い、警備のせいで見れなかった場所などを重点的に、プライベート用のスマホで何度も繰り返し再生し続けてはその度にこのライブの完成度を喜び、そして最後の曲で俺が皆んなの足を引っ張っていることを再確認し、少し憂鬱な気分になった。
そんな事をしながら俺は今朝から通知音で鳴り止まない、仕事用のスマホから目を逸らした。
何故俺がスマホから目を背けているかというと、皆さんご存知の通り昨日キラメ達一期生が、ライブの大トリで俺の名前を叫んだことや、俺と同じ様に最後の曲の振り付けや歌詞割りの違和感を持った人が、事実確認やら何やらのために俺に連絡を取ろうとしている、だけならよかったんだが、どこからか海斗が関係者意外立ち入り禁止区域に入ったことが広がり、世間様では俺が不審者と接触して怪我等をした結果急遽ライブに参加できなかった派と、日頃のユメノミライへの不満から俺が不審者を侵入させた派と、俺が今回の件とは何も関係ないが嫌いだから叩く派の三つの勢力によって、大規模な争いが生まれており、今までの比にならないほど炎上というか盛り上がりを見せており、ユメノミライやライブの事などと一緒に、何故か九重ホムラがトレンドにのっているという異常事態になっている。
そしてその副次効果で俺のチャンネル登録者数は1万3千人から一気に1万9千人近くまで、約6千人近くがこの1日で増えていた。
とは言っても過去にも何度か結構な大きさで燃えた時には、普通とは逆に何故か登録者が増え、そして炎上が鎮静化したら登録者がいつもと同じ数に戻っているので、今回の件で登録者がここまで急増したのはそこまで嬉しいことではなかった。
ここまで昨日の一件で俺の身に起こった事を色々と話して来たが、俺の身に降りかかった厄災はこれだけではなかった。
先程俺はライブ映像をスマホで見ていると言ったが、普通ならそういうのは出来るだけ大きな画面で見ようとする物では無いだろうか?
俺は断然大画面大音量で更には部屋を暗くして、出来るだけ環境を会場に近づける様努力して見る派だ。
なら何故俺はそこまで豪語する割にライブ映像をパソコンで見ていない、そう思う者が多いだろう。
その訳を話す為には、昨日のライブを終えた後のことを話さないといけない。
◯
ユメノミライのライブが終わった後俺とウィリアムさんは、警備長にバイト中に何があったのかと事情聴取を受け、2人で途中にサボっている海斗の写真などを提出しながら、何があったかを出来るだけ事細かく説明した。
そんなこんなあり俺たちが警備長から解放されたのは、ライブ終了の1時間後だった。
その後ちょうど帰り道が途中まで一緒だった、俺とウィリアムさんは会場から離れ家に帰ろうとしている最中、ウィリアムさんが話しかけて来た。
「アノ夏さん」
「ん?どうかしましたかウィリアムさん」
「その……今から少し飲みに行きませんか?出来ればソノ、ライブの話をしたくて……」
ウィリアムさんは本当にこのライブの為だけに日本に来たらしく、明日にはアメリカに帰るらしくアメリカにはユメノミライと言うか、vtuberの話をできる相手が居ないらしく、出来れば帰る前にオタ仲間とリアルオフ会をしたかったのと、何よりライブの話をしたいらしい。
それを聞いた俺は勿論そのお願いを快く了承し、スマホで帰りの途中にある個室のある居酒屋に予約を入れ、俺とウィリアムさんはその予約した居酒屋へと向かった。
居酒屋についた俺とウィリアムさんは、初めの方はチビチビとお酒とつまみを食べながらお互いにライブのどこがよかったのかなどを話し合っていたが、時間が経つにつれて特に俺はみんなの足を引っ張ってしまったという後悔から、やけ酒気味にどんどんと酒の量を追加していき、何故かそんな俺に釣られて追加で自分の分も頼んでいたウィリアムさんは、案の定2人まとめて居酒屋に来てから2時間ほどで完全に酔い潰れていた。
それもかなりデロンデロンに……
流石これ以上はまずいと感じた俺たちは、今日のバイト代を使って居酒屋代を払って、お互い帰りにタクシーを拾って帰る事にした。
そうして家に帰った俺はその酔い様に真冬に驚かれながら、自分の部屋へとおぼつかない足取りで向かうと、そのまま一直線にベットへと向かうが、その途中何かに足をかけ一度思い切り顔面から地面にキッスをしてしまった。
そしてその衝撃と酔いのせいで俺はそのまま気絶する様にベットに一歩届かず眠りにつく事になった。
◯
翌朝俺は昨晩顔面を地面にぶつけたせいで鼻血で床と顔を血で汚しながら目を覚ました。
俺は酔っていてもだいぶ記憶が残るタイプだったらしく、ある程度昨日の出来事を覚えており、鼻血の後処理をしながらそう言えば昨日の夜、俺は自分が何に足をかけたのかと思い、その方を見るとそこには昨日の衝撃で色々な部品が飛び出した、そんな無惨な姿に成り果てた俺のパソコンの本体があった。
「あ……うん。…………これどうしよう」
その惨状を見た俺の口から出たのはそんな頼りない呟きだけだった。
その後はその壊れたパソコンを持って松下の元に修理に出しに行った。
その際どうしてこんな感じに壊れたのかを聞かれ、正直に酔った勢いで思いっきり足をぶつけた事を話したら笑われた。
そして家に帰ってからパソコンが壊れたので配信ができない事をツイートしたら、それと同時に昨日の件についての質問などがバンバン送られまくって、それが少し嫌になって俺は最初に言った通り、少し現実逃避の為と昨日しっかりとライブを見れなかったから、その部分を確認する為にもスマホで昨日のライブ映像を見る事にした。
◯
と、そんな事があり俺は今現在スマホで昨日のライブ映像を見ていたわけだが……
流石にそろそろ放置するのもダメかなと思ったのと、もし本当に大切な連絡が来ていたらどうしようかと思い、俺は意を決して仕事用のスマホの画面を開いた。
すると案の定そこには名前も見た事がない人や、ネットであっているかもわからない情報をベラベラと話している系の人からと、多くの人からの連絡が来ていた。
勿論そういう人たちのことは無視して、運営や知り合いのvtuberからの連絡があるか確認して見ると、特に来るだろうと思っていた運営からは特に連絡はなかったが、知り合いのvtuberからは結構連絡が来ていた。
それに適当に返していると、そこにはここ最近アンダーライブの4周年イベントで忙しかったハジメからの久しぶりの連絡があった。
『おひさホムラ!お前めちゃくちゃ燃えてるけどどしたw』
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第4章 そうだ実家へ行こう
35話 二階堂ハジメそれは炎の様な熱き男であった その1
『おひさホムラ!お前めちゃくちゃ燃えてるけどどしたw』
つい最近までアンダーライブの4周年記念イベントで、あちこち行っていたりしたせいで、連絡が取れていなかったハジメから久しぶりの連絡が入って来た。
『久しぶり。それと燃えてるのはいつもの事だから気にしなくていいぞ。それよりもう大丈夫なのか?』
向こうはこちらのライブの2週間前ほどにイベント自体は終わっていたが、その後も4周年ということでイベントが終わっても、忙しい日々を送っていたそうだ。
『ああ、ようやくひと段落ついてな。そっちもライブで忙しかっただろ?』
『そうだな。……俺以外はな』
『ん?その感じだとホムラはライブ出なかったのか?ネットには最後出たって書いてあったけど』
『もちろん運営から嫌われてる俺は出てないよ。けどその代わり同期の絆はめちゃくちゃ感じたぞ』
『へーどんな風に?』
そう聞かれた俺はライブ映像のネット販売サイトのURLをハジメに送りつけた。
その後も久しぶりの会話でテンションがおかしくなったのか、エンターテイナーがするにはレベルの低すぎるギャグをお互いにしあったり、最近よく見ているオススメの動画や配信などの情報を交換しあった。
そんな中ハジメが話を切り出して来た。
『そういやホムラって確かパソコンぶっ壊して数日間配信出来ないんだっけ?ツイート見たけど』
『そうそう知り合いに見せたら最低でも3日はかかるって言われたわ』
『草』
『草じゃねぇよ!』
『悪い悪いwそれで本題なんだけどさ』
『本題?』
『ホムラってさぁ明日暇?』
◯
そんな雑な感じで誘われて翌日、俺はとあるタワーマンションにやって来ていた。
それも最上階を見ようとすれば首が痛くなるレベルの大きさのだ。
その大きさに俺が呆けていると、そのタワマンの中から1人の男性が手を大きく振りながら出て来た。
その人物こそ昨日の今日で電車を乗り継いで1時間もする距離の場所に、俺を呼び出した張本人である二階堂ハジメその人だった。
タワマンから出て来たハジメは俺の元まで一直線でくると、そのまま俺の耳元で囁いた。
「流石に外でべらべら話すのは危ないから上がってくれ」
ハジメはvtuberとして身バレ的な問題を気にしてくれたのだろうが、いきなり耳元でASMRバリに囁くもんだから、俺は驚きのあまりそこそこ大きな叫び声を上げてしまった。
「うわっ!」
そんな俺の様子を見たハジメは、こちらを見ながら肩をすくめやれやれと言った風なポーズをした。
俺はその様子を見ながら内心誰のせいだと思っていると呟きながらも、ハジメの案内の元ハジメの家へと向かった。
「改めて中に入って来たけどデカいなここ」
「まぁそれなりにするところだからね。ほらホムラこっちこっち」
ハジメの家は外見だけでは無く、きちんと中身もしっかりとしており部屋の広さに驚いていると、俺はハジメにとある場所へと誘導された。
そのとある場所とは……
「台所?」
「ああ」
そこには部屋同様広々とした台所があった。
昨日俺は結構ゴリ押しな感じで今日の予定を入れられた為、ハジメからはオフコラボという事しか聞いておらず、てっきりいつもの様にオフでゲームをするものとばかり思っていた俺は少し疑問に思った。
今日のコラボは何をやるのか?と
「で?ハジメ今日ってさぁ今更だけど何のコラボなの?俺はてっきりゲームだと思ってたんだけど」
俺がそう聞くとハジメは言い訳8割説明2割で話し始めた為、こちらで要約すると今日のコラボは料理作りで、何故それをするかというと4周年イベントの罰ゲームらしい。
だがハジメは料理なんて作った事がなかったから、どうしようかと悩んでいると俺が毎日家族の料理を作っていると話した事を思い出して、半ば強制的に俺を捕まえて料理を教えてもらおうと思い至ったそうだ。
「なるほどな……それで今日は何を作るつもりなんだ?」
俺がそうハジメに聞くと、ハジメは驚いた様な表情をした。
「怒らないのか?」
「怒らないのかって……こんな事では流石にいちいち怒らんて。それで結局何を作るつもりなんだ?」
ハジメよ、よーく思い出してみろ俺は年中炎上してる様なやつだぞ、いちいちこんな事で怒ってたらハゲるわ!
そんな事を内心考えながら俺は調理器具などの確認を始めたのだが、そこで問題が起こった。
「おいハジメ!」
「うわっびっくりした、いきなり大声出すなよ。それでどしたん?」
「これ」
そう言って俺が取り出したのはスプーンやホークにボウルなどの、銀色の食器類だった。
それを見たハジメは何が問題あるのかと首を傾げた。
「それがどうしたんだ?」
そう聞いて来たハジメに少し呆れながら俺は返した。
「いやコレどう見ても反射するだろ」
「あ〜!」
という訳で俺とハジメは配信開始直前で、配信で使う調理道具を買いに行く事になった。
他にも何か買わなければならない物があるかもと思った俺は、色々見て回るついでにハジメに再度今日何を作るかと、その材料をしっかりと用意しているかと確認した結果、ハジメは自信満々にハンバーグを作ると言って冷蔵庫から挽肉を取り出した。
その際軽く冷蔵庫の中身が見えてしまったのだが、冷蔵庫の中にはその挽肉以外は何も入ってなかったのを確認してしまい、俺は内心コレはヤベェと思いながらもハジメの肩をそっと叩き、笑顔でハンバーグに必要な材料とその他必要な道具を書いたメモ帳をハジメに押し付け、ハジメに鞄と財布を取って来させ、そのまま玄関から外へと放り出した。
「痛った!ってどうしたんだホムラ?」
「……ってこい」
「?」
「さっさとそこに書いてあるもんを買ってこいや!」
そう言うと俺は玄関の扉を勢いよくバタンと閉じた。
外からは少し困惑した声で「あれ?ここ俺の家だよな?」と、まさか客人に部屋を追い出されるとは思っていなかったハジメは困惑しながらも、トボトボと俺に指示された食材などをスーパーに買いに行った。
ハジメが買い物に行った事を確認すると、急いで台所へと戻り反射しそうな物は極力別の場所へと移動し、ハジメが戻ってくるまでにカメラのセッティングなどの事前準備を終わらせる様に動き始めた。
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36話 二階堂ハジメそれは炎の様な熱き男だった その2
「こんちわ〜!今日は4周年イベントの罰ゲームである、超美麗3D料理配信をしたいと思います!それでは本日俺と一緒に料理をしてくれる先生です」
「どもども昨日急に頼まれました九重ホムラです」
「久しぶりホムラ!1ヶ月ぶりだったっけ?」
「多分そのぐらいだったかな。それとアンダーライブ4周年おめでとうございます」
「あ、どうもどうも。そっちも大型ライブおめでとうございます」
配信開始早々俺とハジメは最近お互いの事務所であった大型企画について祝福しあった。
コメント
:久しぶりのホムハジコラボだ!
:ホムラって料理作れたの?
:ホムラはハジメの料理の腕知ってるのかな?
:久しぶりのコラボ楽しみ!
:ホムラって今叩かれてる人?
今更ながら知らない人もいるだろうから説明すると、超美麗3Dとは現実の体をめちゃくちゃ綺麗な3Dと言い張って配信するvtuberの企画の一つだ。
「それでハジメ久しぶりのコラボだけど、料理って何作るんだ?俺もいつも家族の料理作ってるからある程度は作れるけど、それでも作れるって言ってもそれは一般家庭に出てくる料理ぐらいだけど大丈夫か?」
「ああ、そこら辺は大丈夫!なんたって今日作るのは、子供の大好物でもあるハンバーグだからな!」
「へー、ハンバーグか」
「それもただのハンバーグじゃない!チーズinハンバーグだ!」
「ち、チーズinハンバーグだって!(棒)」
そう棒読みで話した俺だがそれも当然である。元々はハジメが言った通りハンバーグを作ろうかとも思っていたが、流石に男2人で普通のハンバーグを作るだけでは配信が面白くなるかわからなかったので、それならもう少し作るものの難易度を上げて、配信を面白みでは無く凄みで売っていこうとハジメに相談したところ、ハジメは俺の案を聞いてボソッとチーズinハンバーグもいいなと呟いた。
とそんな訳で俺たちはハンバーグからチーズinハンバーグに作るメニューを変更する事にした。
「さて、それじゃあハジメハンバーグを作る前に、まずは下準備を始めましょうか」
「下準備?下準備って何をするんだ?買い物はもう行ったぞ?」
「え!?ハジメお前それマジで言ってんの?」
コメント
:草
:下準備=買い物は草
:ホムラくんとハジメくんの手かっこいい
:www
:草
いきなりあんぽんたんな事を言い出したハジメに下準備の説明を軽くした。
「と言う訳だから、ハジメはまずは玉ねぎをみじん切りにしといてくれ、その間に俺はマカロニサラダでも作っとくから」
「お、おう任せろ!」
そう言ったハジメだったが、俺は下準備の意味すら知らなかったハジメに、みじん切りが出来るのかと少し心配になりながらもマカロニを鍋で茹で始めた。
そして次の瞬間ハジメがいきなり隣で玉ねぎの皮も剥かずに、いきなり包丁を天高く上げるとそのまま勢いよくまな板の上にある玉ねぎに振り下ろした。
「ちょいちょいちょいちょーい!おま!お前!な、なななにしてんだぁ!!!」
「ん?」
「ん?じゃねぇよ!ビックリしたなぁ!」
コメント
:うっわ……
:怖
:コレを真横でやられたホムラの恐怖よ
:草も生えん
:ん?は草www
いきなり横で意味のわからない事をし始めたハジメに俺は恐怖しながらも、俺はハジメから無理やり包丁を取り上げた。
「もしかしてだけどさ……ハジメって料理した事ないのか?」
「え?そうだけど?だから罰ゲームになったんだし」
それを聞いた瞬間マジかコイツと思った。
それからは俺はマカロニサラダを作りながら、ハジメに玉ねぎの皮の剥き方とみじん切りの仕方を教え、その後はハジメの方をちょくちょく確認しながら作業を続けた。
それからハンバーグのタネを作っている途中でハジメがいきなり隠し味と言い出し、どこから取り出したのか1つ200を超える値段のする高級アイスクリームをタネに突っ込もうとし始めた。
「ハジメ待て!」
「え?どうした?」
「え?どうした?じゃねぇよ!何急に変なものを入れようとしてんだよ!」
「おいおいホムラお前知らないのか?ハンバーグにアイスを入れると肉が柔らかくなって上手くなるんだぜ」
そうドヤ顔で言うハジメに俺は呆れながら話した。
「あのなぁハジメ肉を柔らかくするのに使うのはアイスじゃ無くてヨーグルトだ。それとハンバーグは元々柔らかいだろ?」
「え?そうなの?」
そう言ったハジメの顔は先程のドヤ顔とは真逆のアホヅラになっていた。
コメント
:草
:アイスは草
:ハンバーグをこれ以上柔らかくするってwww
:クソワロタ
:ホムラって結構料理できるな
:せめてそこはソフトクリームにしろよw
「はぁ……ハジメお前なんと言うか…………凄いな。俺料理でここまで疲れたの初めてだよ」
「えっと……なんかスマン」
「いや大丈夫だ」
「そっか!なら続きを作るか」
その後はマカロニサラダを作り終えた俺とハジメの2人で、タネの中にとろけるチーズを丸めて詰めると、2人で空気抜きを始めた。
その際ハジメがハンバーグのタネをお手玉の様に上に放り投げ、その行為に俺とリスナーでハジメを叱るという、成人男性2人で一体全体何をしているんだと思われる事をやっていた。
「よしコレであとは焼くだけだな」
「おお!あと少しか、意外と時間かかったな」
「ハハハそうだねー」
すでに料理配信は開始してからすでに2時間も経っていた。
そしてあとは焼くだけとなったハンバーグ作りは、初心者にありがちな強火で焼く事をしない様にハジメに言って、俺は前もって炊いておいたご飯を2人分よそったり、マカロニサラダを皿に盛り付けたりと食べる準備をし始めた。
別れる際ハジメがフランベをしてみたいと馬鹿な事を言っていたが、「んなこと出来るか!」と言っておいたので大丈夫だと思っていたのだが……
コメント
:おいおいおいおい
:ホムラ!助けて!
:リアル炎上ワロエナイ
:火柱w
:流石炎上戦隊w
:ホムラ気づいてくれ!
台所の方から「うわっ」と言うハジメの短い悲鳴が聞こえた。
嫌な予感がした俺は配膳の途中だったがそれを放り投げて、急いで台所へと向かった。
そしてそこにはこちらに助ける様な目線を向けてくる、全身が生まれたばかりの子鹿の様にプルプルと震えていて、その手には轟々と炎が燃え盛るフライパンとワインを両手に持ったハジメの姿がそこにあった。
「なぁにやっとるんだハジメ!!!!」
「スマン!ホムラ助けてくれ!」
俺はこのアホな状況に目を丸くしながらも、急いで近くにあったフライパンの蓋を、轟々と燃え盛るフライパンに被せた。
「「はぁ〜びびったぁ」」
幸いにも炎が何処かに燃え移ることも無く、火事にもならなくて安心した俺とハジメは2人で大きなため息をついて、安堵から地面に尻餅をついた。
その後コンロの火を消した俺は、配信中なのもお構い無しに、ハジメをその場で正座で座らせてぐちぐちと説教をし始めた。
説教をし終えた俺は、改めてハンバーグを確認してみたが幸い燃えていた時間が短かった為、焦げてはいなかったが中が生焼けだったので、俺はハジメを床に正座させたまま、再度ハンバーグを焼き始めた。
「はい、と言う訳で本日のコラボ料理が完成しました!拍手」
「いぇーい!」
コメント
:88888888
:パチパチパチパチ
:おめでとう!
:無事?完成おめでとう
:チーズインハンバーグ美味しそう
:ハンバーグ食いてえ
「いやぁ今日のコラボは色々あったねハジメ」
「うっす、そうですねホムラさん」
「今日は俺が居たからどうにかなったけど、本当に危ないことはしないでくださいね」
「はい、心得ております」
「それじゃあ、ハンバーグが冷める前にさっさと食べるか」
「っしゃ!いただきまーす!」
「いただきます」
そう言って俺たちはご飯を食べ始めた。
「うっま!チーズとろっとろでマジでうまいな!」
「うーん……やっぱり少し焼きすぎだな」
「うっ……」
「まぁでも初めてにしては美味しく出来てるぞ」
「だろぉ!」
コメント
:だろぉ!(今までの事故は見ないフリ)
:うまそ〜
:ホムラ料理上手すぎるだろ!
:一家に一台ホムラが欲しい
:腹減った
その後も2人で今日の料理の感想などを言い合いながら美味しくご飯を食べた。
「「ご馳走様でした」」
そうしてご飯を食べ終えた俺たちはそろそろ配信を終え様と、いつもの様に宣伝があるかなどをハジメが俺に聞いて来た時に、俺は結構前からホムラガールズのメンバーといつかやりたいね、と話していた企画のことを思い出し、今日俺に大変迷惑をかけたハジメにその企画の打診をしてみた。
「なぁハジメ今日の配信で俺にいっぱい迷惑をかけたよな?」
「うっ…………はい」
「それでちょーっとお願いがあるんだけどいいか?」
「ゴクリ……お、お願いとは?」
「いや、そんなに身構えなくても大丈夫だって。ハジメってさ、あの子たち知ってる?よく俺とコラボしてくれる3人だけど」
俺がそう聞くとハジメは少し考えた後、思い当たったのか、あ〜と言う様な顔をして答えた。
「それってホムラガールズって子達のこと?」
「そうそう!それでその子たちとある企画をやりたいって結構前から話してたんだけど、俺たちだけだとメンバーが足りなくてな、それで出来ればハジメにその企画に参加してくれたらなって」
「なるほどなわかった。それでその企画ってのは?」
まさか企画内容も話さないうちに了承してくれたことに驚きながらも、俺は内心でガッツポーズをした。
「いやー良かった!てっきり俺は断られると思ってたから良かった!良かった!」
俺がそう言った途端ハジメは少し嫌な予感がして、俺に企画内容を再度聞いて来た。
「ハジメってさ、vtuberアンチの一部の人達に女性vtuberがなんて言われてるか知ってる?特にホムラガールズの子達なんだけど」
俺がそう聞くとハジメは少し考えた後わからなかった為首を傾げた。
「さぁ?」
「実はバーチャルキャバクラって言われてるんだよね」
俺がそう言った瞬間ハジメは嫌な予感をして顔を歪めた。
「おいちょっと待てよホムラもしかして……」
「そう!と言う訳で次回のホムハジコラボは、炎上必至バーチャルキャバクラでお会いしましょう!」
コメント
:おいおいおいおい
:バーチャルキャバクラはヤバイだろ
:この人よく炎の中に自分から突っ込みに行くよな
:草
:あーあ、ホムラまた燃えるんだろうな
:ヤバすぎワロタ
そう言って俺達の久しぶりのコラボはそんな怒涛の展開で終了した。
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37話 いざ実家へ
久しぶりのコラボ配信を終え、皿洗いをしている俺にハジメが話しかけて来た。
「なぁなぁホムラ」
「ん?どした?」
「バーチャルキャバクラって本当に大丈夫なのか?」
そう聞いて来たハジメの顔は少し不安と言うか、どちらかと言うとそれよりも今までは炎上しない様に立ち回って来た俺がいきなり、そんな名前からして燃えそうなことをやろうと言い出したことに驚いている様子だった。
「まぁ、大丈夫じゃない?ほらバーチャルホストクラブやってる所もあるくらいだし、もしハジメが嫌なら今からでも断ってくれてもいいけど」
俺がハジメにそう聞いてみたがハジメは
「いや面白そうだからやるけどさー」
と答えてくれた。
「それにうちの運営もホムラさんとやるなら大丈夫ですよって、ゴーサイン出してるし……お前どんだけうちの運営と仲良いんだよ!」
「いやー実は前からちょくちょくアンダーライブの運営の人と、炎上対策について話し合ったりしててな。そんな訳でそっちの運営さんと俺はズブズブの関係よ」
それを聞いたハジメは驚きながらも、俺のthe悪者みたいな顔を見て笑い出した。
「それじゃあそろそろ妹が帰ってくる時間だから俺は帰るな」
「おう」
そう言って皿洗いにそのついでにハジメの家の掃除や洗濯に、ハジメが晩御飯を某宅配サービスで頼もうとしていたので簡単にカレーを作って俺はハジメの家を後にした。
◯
家に着く頃には空はすでに黒に染まっており、早く晩飯の用意をしなければと思いながら家に入ると、なんとも珍しい事に父さんと母さんが既に家に帰って来ていた。
「あれ?父さんに母さん今日は帰り早いね」
俺がまだ晩御飯できてないと言うか作ってすらないことを伝えながらそう聞くと、父さんは大変申し訳そうな顔をして俺に質問して来た。
「夏お前明日と明後日は暇か?」
何故今それを聞く?と全くその質問の意図がわからなかったが、実際パソコンの修理が終わるまでは配信ができない為、俺は晩御飯の用意をしながら父さんに答えた。
「暇だけど……それがどうしたんだ?もしかして家族旅行でも行くつもりなのか?俺は別にいいけど真冬はなんで言ってるんだ?」
俺のその質問に少し考えた後父さんがなんとも微妙な顔で答えた。
「ま、まぁ……そうだな一応は家族旅行になるかな。」
父さんのその歯切れの悪い言いように少しイラッとしながらも俺はその旅行先について聞いた。
「それで結局行き先はどこなんだよ」
「…………実家だ」
「実家?」
「ああ、それも母さんの実家だ」
その行き先を聞いた俺は父さんと同じ様な微妙な顔つきになった。
母さんの実家は流石に金城みたいな馬鹿みたいな金持ちでは無いものの政治家や医者などのエリートを多く世に輩出して来た由緒正しいお家で、父さんが母さんと結婚を許してもらうために大企業で入社1年でスピード出世をしてようやく許してもらえた程の家だ。
それで何故俺と父さんが微妙な顔になるというかと言うと、そんなエリート一家の中で落ちこぼれという訳ではないが、優秀では無い俺達は大爺様と言う確か今年で100歳を超えたらしい、母さんの実家の長をやっている人に会う度にぐちぐちと言われるからだ。
とは言っても大爺様も嫌味で俺たちの事をぐちぐち言っているのでは無く、100%の善意で言ってくれているので、俺と父さんはこんな風な微妙な顔になってしまったと言う訳だ。
と言うか俺的には父さんも大変優秀に思えるのだが、あのエリート一家の中では俺に続き下の方に居るのが本当に信じられない。
ちなみに言うとウチでぶっちぎりで優秀でスーパーかわいい真冬は、大爺様から毎度会う度に頭を撫でられて俺の1ヶ月の給料ぐらいはあるであろうお小遣い貰うほど優秀で可愛ぐられているのである!
流石は俺の妹真冬最高!!
とここまで真冬を褒めちぎったが、そんなスーパー凄い真冬よりも優秀なのが普通に居るのが母さんの実家なのである。
いやーいつ聞いてもヤバイわ
そんなこんな考えているうちに晩御飯の用意が終わった俺は、それを配膳しながら、朝食に父さんと母さん真冬の3人のお弁当に、ハジメとのコラボ料理にハジメの晩御飯とうちの晩御飯って、今日俺めちゃくちゃご飯作ってるなぁ〜とどうでもいい事を考えていた。
◯
そんな訳で翌日俺はいつもの様に朝早くに起きいつもの様に朝食を作っていると、いつもより数倍もぴっちりとした正装を来た父さんと、普段着の母さんと真冬が荷物を持ってリビングまでやって来た。
母さんの実家まではここからそこそこ距離があるのだが、父さんが車を出してくれると言う事でその辺は特に気にせず、俺は俺で実家に着くまでは今度やるバーチャルキャバクラの台本を考える事にした。
そうして朝食をとった俺達は母さんの実家へと向かう事になった。
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38話 ありがたいお言葉
長時間の車での移動が終わり着いたそこは、豪邸というほどのものでは無いが、そこそこの大きさの和風のお屋敷がそこにあった。
実家に着いた俺達は真冬と母さんの女性組は鼻歌を歌う様なルンルン気分で、俺と父さん特に長時間運転していた父さんはその時の疲れもあり、少しどんよりとした空気になっていた。
「ほら、夏兄とお父さん早く早く」
そう言って玄関の前でこちらに振り向いて可愛らしい笑顔を向けてくれる真冬を見て、俺は顔を入れ替えた某アンパンの様に元気が100倍になった。
という訳で俺は先にいる真冬から荷物を預かり、俺とは違いどう見ても作り笑いしている父さんを待っている母さんの横を、俺と真冬は足早に玄関から中へと入っていった。
玄関を抜けて俺と真冬が真っ先に向かったのは、前に話した例の大爺様の元へだった。
この家のしきたりなのかよくわからないが、毎年正月に来る時にはみんなして大爺様のところへ行って、ありがたい話を聞かないといけなかった為、俺と真冬は荷物を持ったまま駆け足で向かった。
その際正月時に親戚が集まった際の溜まり場となっている広間を見てみたがそこに誰もいなかったのと、車も止まっていなかった為今日ここに呼ばれたのはうちの家族だけだというのがわかった。
ならどうしてわざわざウチが呼ばれたのだろうと考えていると、大爺様の寝室の前までやってくることができた。
俺と父さんはいつもこの時に大体30分以上大爺様からありがたいお言葉を受けるので、その間真冬を廊下で待たせるわけにもいかない為、真冬に先に部屋に入ってもらい、中から少し話し声がしたと思うと、真冬は笑顔で大爺様に手を振って出て来た。
「それじゃあ夏兄私お部屋に荷物置いてくるね」
そう言って大爺様の部屋から出て来た真冬は笑顔のまま俺の荷物と自分の荷物を両脇に抱えて、俺たちが泊まらせてもらう部屋までトテトテと可愛らしい音を鳴らしながら歩いて行った。
その様子を微笑ましそうに眺めた俺は、意を決して大爺様の居る部屋へと入っていった。
「大爺様お久しぶりです。藤堂夏です」
俺がそう言って部屋に入るとそこには、金ピカのどこの成金が着るんだよと思いたくなってしまう袴を着込んだヨボヨボのお爺さんが、肘掛けに肘を乗せあぐらをかいてこちらの方をじっと見ていた。
「夏か……座りなさい」
「はい、失礼します」
そう促されるままに俺は大爺様の真正面に正座をし、今日は何について言われるのだろうと考えていると、大爺様がそのゴールデン袴から1つの紙束を差し出して来た。
それを見て俺は何だ?と思いながらその紙束を受け取ってみるとそこには、華やかな衣装を見に纏った女性の写真と、その女性のプロフィールらしきものが一枚の紙にびっしりと書き連ねていた。
「大爺様コレは?」
俺がそう聞くと大爺様はしゃがれて聞き取りづらい声で色々と話し始めたのだが、正直聞いていて俺はずっと頭の上にはてなマークが浮かび上がっていたと思う。
そんな大爺様が俺に話した内容は、ズバリ言ってしまえば婚活いやお見合いだった。
だが俺が困惑していたのは別にこのことでは無い。
いや急にお見合いとか言われたから困惑してるのはそうだけど今はそれよりももっと別だ、まず第一に驚いたのが俺が大爺様の中でヒキニートという事になっている事だ。
俺がvtuberをやっていることは身バレ防止のため例えそれが親戚であろうと話せることではなかったのだが、流石に大爺様には話しとかないといけないと思い話をしたことがあるのだが、この老耄目忘れやがったな?
それで2つ目が今日俺たちをここに呼んだのは、俺にお見合いをさせる為だけらしい。
……いや、バッカじゃねぇのそんな事でいちいち家族全員呼ぶんじゃねぇよ!俺はともかく父さんと母さんはアンタが来いと言ったから急遽有給を取得してくれたんだぞこのボケ老人が!
そして最後にこれが1番驚いた。と言うか見た瞬間信じられずに、大爺様とお見合い写真を何度もアホヅラで交互に観まくった。
それぐらいおかしな人物が"2人"もそう2人も居たのだ。
まず1人目だがまさかの金城カネコアイツだった。
な?意味わからんだろ?
と言うかよく金城の奴とお見合い出来るようにしたな大爺様……すげえよアンタ
金城の家は日本有数の金持ちで誰もが聞いたことのある企業で、金城の奴はそこの一人娘という生まれた時から勝ち組な、何故ユメノミライにいるのかが1番わからない奴だ。
俺的にはノマドと同列の問題児という感じにしか見えないが、世間様から見た金城は高嶺も高嶺エベレストの頂上に生えてる花張りの高嶺の花だ。
それをよく何人かエリートを世に輩出してるだけって言ったら語弊があるが、その程度で金城とのお見合いをセッティングできる事に大変驚いた。
そして俺が驚いた2人目だがそれは……
俺が2人目のお見合い写真と大爺様の顔を交互に見合っていたその瞬間、バーン!と大きな音を立てて大爺様の部屋の扉が開かれた。
「あ!お兄ちゃん見ぃつけた♡」
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39話 一条姫乃
「あ!お兄ちゃん見ぃつけた♡」
「姫ちゃん?」
扉を勢いよく開けたのは母さんのお兄さんの娘さんの1人の一条姫乃ちゃんだった。
一条姫乃ちゃん通称姫ちゃんは確か……えーっと小学…いや中学1年?アレ?まぁ確かそのぐらいの……いやもっと小さかった様な……そう、そうそう!
「確か小3になったんだっけ?」
「違うわよ!姫は歴としたスーパー中学生なんだから♡」
「あーそっか!ごめんごめん色々小さかったからてっきり俺は小学生くらいかと、いやーにしても姫ちゃんって真冬と同学年だったんだね忘れてたよ」
そう言って俺がワハハと笑っていると姫ちゃんはぷりぷりと怒り出した。
そんな感じで俺と姫ちゃんが和気藹々としていると、すっかりと存在を忘れられていた大爺様が咳払いをした。
そしてその瞬間俺の頭に危険信号が響き渡った。
今すぐ手に持っているものを隠せと。
俺は姫ちゃんに悟られない様に素早くお見合い写真の束を服の中に隠すと、そのまま大爺様に今のところこういうことは考えてない事を伝え、姫ちゃんの背中を押して2人で大爺様の部屋から退出した。
「ねぇねぇお兄ちゃん大爺様となにはなしてたの?姫気になる♡」
そう言って姫ちゃんは例えその人がロリコンで無くても、恋に堕ちてしまいそうなほどの可愛らしい顔で上目遣いをして聞いて来たが、俺には絶対にして至高なる存在の真冬が居るので、姫ちゃんのその攻撃には一切靡く事なく、それよりも俺は中学生にお見合いの話をしても教育上大丈夫なのか?と色々考えていた。
「うーん姫ちゃんにはまだ早い話かな?」
「何それ姫の事まだ子供だと思ってるのお兄ちゃん?」
そう言われて俺は一度姫ちゃんから少し離れ、全身まな板の様な姫ちゃんの体を上から下まで一望し、俺は姫ちゃんにぐっと指を立てた。
それを見た姫ちゃんは目をキラキラ輝かせながら俺の言葉を待った。
「うんまだまだ子供かな」
それを聞いた途端姫ちゃんは頬をふぐの様にプクーっと膨らませると、両腕を縦に回転させながらポコポコと俺のことを殴り始めた。
全く痛みの感じないその攻撃に微笑ましさを感じワハハと笑っていると、廊下の奥の方からドタドタと誰かが急いでここへと走って来ている足音が聞こえた。
その足音が気になり俺がそちらの方を振り向くとそこには、我が最強可憐な妹真冬がこちらに全力疾走して来ている姿があった。
「おーい真冬!」
俺がそう言って真冬に手を振ると、その声で姫ちゃんは真冬がこちらの方へと走って来ている事に気づくと、すぐさま俺のことを盾にするように後ろに回り込み、真冬から距離を取った。
姫ちゃんが俺を盾の様にした際に俺が少し前へと移動した事によって、真冬はそのまま勢いを殺しきれずにぽふんと、俺のお腹あたりに勢いよく顔を埋めた。
「大丈夫か真冬?」
俺がぶつかった真冬にそう聞くが真冬は何も答えず、走って息が上がっているのか何度かスーハーと息を吸う様な音が聞こえた。
それから少し経った頃に真冬がゆっくりと顔を俺のお腹辺りから離すと、やはり勢いよくぶつかった為顔が少し赤くなっており、怪我なんてしていないか心配になった俺は真冬の顔に目線を合わせ大丈夫かと聞いたのだが、真冬は勢いよく俺から顔を逸らしてそう答えるだけで、真冬の顔を確認させてはくれなかった。
そしてその様子を見ていた姫ちゃんが俺の陰から体を少し出すと、真冬のその姿を見てプププと少し小馬鹿にする様に笑い、それを聞いた真冬が姫ちゃんを睨みつけると、姫ちゃんは真冬を煽る様にケラケラと笑いながら真冬のいる位置と真逆に全力で駆け出していき、真冬も姫ちゃんを追う様に俺に一言「夏兄ごめんね」と残して、2人は廊下の先へとかけていってしまった。
そんな2人の怒涛の展開に少し驚きながらも俺は、昔からあの2人は仲がいいなと思った。
そして今現在も俺の服の中に隠してある爆弾(お見合い写真)を隠すために、今日俺と真冬が泊まるための部屋へと足早に向かった。
◯
部屋についた俺は部屋の周りに誰もいない事を確認すると、お見合い写真集を勢いよく服から取り出してその勢いのまま、パジャマなどのお泊まりセットが入っている俺の鞄の1番底へと突っ込んだ。
「よし封印完了。ミッションコンプリートだな」
まさか実家に着いて早々いきなりお見合い話を持ち掛けられるとは思っていなかった為、大変驚きそのせいもあり今更ながらにどっと疲れが出たので、少しでも体力を回復させようと俺はそのまま床へとドカンと座り込んだ。
だがただ休憩しているだけでは時間がもったいないと感じた俺は、ここに来るまでに考えていたバーチャルキャバクラの台本を確認しようと考え、台本が書かれた手のひらサイズのメモ帳ズボンのポケットから取り出そうと、ズボンのポケットにてをつっこんでみるのだが……
「あれ?いやそんなわけ……ちょっとまってくれよマジで!」
俺はズボンのポケットとは言わず体全身に更には荷物の中を全て確認してみたのだが、その何処にもメモ帳は存在しなかった。
「まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!マジでまずい!」
あんな身バレRTAができそうなレベルで九重ホムラで使ったネタや、これから使おうと考えてたネタなどがふんだんに書き込まれている、例えそれが真冬のお願いでも見せるのを躊躇ってしまう様な物を何処かに落としてしまったのだ。
その事実を知って俺は勢いよく膝から地面に崩れ落ちた。
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40話 なくなったメモ帳
俺は立ち上がり、それと同時に駆け出した。
そんな俺の頭の中ではとある文章が何度も何度も繰り返し響き渡っていた。
そう、
「誰かに見つかる前に早くメモ帳を回収しろ」
という言葉が
そうして俺がまず向かったのは大爺様の部屋の前だ。
先程まで姫ちゃんと真冬の2人と話していた際に、落としたのでは?と考えた俺は大爺様の部屋までの廊下をくまなく探してみたものの、メモ帳のメの字も見つからなかった。
そんなこんなしているといつの間にか大爺様の部屋の前までやって来ていた。
部屋の中から大爺様の声と父さんの情けない声が聞こえ、流石に今部屋の中に入るのは無理だと思い、次は車の中に忘れたのかと考えた俺は、お屋敷にある何台もとめられるほど大きな庭へと向かった。
そこには実家で使っている高級車や最新の車が並んでおり、その中にうちで使っている他の車に比べれば見劣りするが、それでもそこそこな値段のする父さんの車があった。
俺は急いで車に近づいて車の窓から車内を確認したが、見える範囲にメモ帳はなかった。
その他屋敷の中をぐるっと探してみたものの、メモ帳は見つかることはなかった。
本格的にヤバいと思い広間で頭を抱えていると、そこに先程仲良く追いかけっこをして遊んでいた真冬と姫ちゃんが、俺の姿を見つけ広間に小走りでやって来た。
「お兄ちゃん♡」
そう言って姫ちゃんがいきなり俺の背中に飛びついて来て、背中にほのかな柔らかさ……は感じる事はなく、微かに肋骨の様な物を感じた。
「うわっ!びっくりした。って姫ちゃんかどうしたの?」
「うわっ!てお兄ちゃん驚きすぎw」
「そうかな?急だったからね」
そう俺と姫ちゃんが仲良しそうに話していると、それを少し離れているところからジッと真冬がこちらを見つめている事に気がついた。
その様子を見た俺は脳内ですかさず『真冬+遠巻きに見ている=羨ましい』という式を組み立て、そんな真冬の心情を察した俺は姫ちゃんを背中に装備させたまま、真冬の方へと振り向き両手を大きく開いた。
「真冬おいで!」
いつもの様に冗談半分いや9割ほどで言ったのだが、まさかの真冬が無言で俺の腕の中にスッポリと収まった事に驚きながらも、真冬の可愛いさに自然と俺の頬はユッルユルのだるんだるんになっていた。
そんな感じで3人で少し遊んでいると、楽しさの余り(現実逃避)すっかり忘れていたメモ帳のことを思い出した。
「そう言えば2人とも俺のメモ帳見てないか?表紙に星型のアクセサリーを付けた青髪女の子が写ってるやつだけど」
俺がそういうと真冬は俺がキラメのメモ帳を仕事に使っているのを知っていた為、こっちを大丈夫?という表情で見て来た。
「さぁ?姫知らな〜い。けど見つけたらお兄ちゃんに教えるね♡その代わり見つけたら何かご褒美ちょうだいね♡」
そう言うと姫ちゃんは俺の背中から離れ、俺の了承も聞かずに何処かにトテトテと走り去っていった。
それを見た真冬が「わ、私も見つけたら夏兄に渡すから!」と言うと、同じく俺の腕の中からピョンと立ち上がり、姫ちゃんの跡を追う様にして広間から走り去っていった。
「にしてもあの2人が知らないなら本当にどこにあるんだろう……」
俺はそんな事を考えながら、もしかしたら俺の見間違いで本当は鞄の中にメモ帳があるんじゃないのか?と思い一度今日泊まる部屋へと戻り、カバンの中を確認しようとした。
だがそれは叶わなかった。
俺が部屋に戻ると1番初めに目についたのが、俺が想像していた中で1番悪い事が書かれた1枚の紙だった。
その紙を震える手で拾い上げ、俺は力無い声でそこに書かれている文字を読み上げた。
「あなたは九重ホムラですか?」
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41話 犯人はお前だ!
「あなたは九重ホムラですか?」
その紙を読み上げた瞬間俺は全身から嫌な汗が滝の様に流れ始め、周りから見たら雨にでも降られたのか?と思うほど俺は自分の汗で全身がびしゃびしゃに濡れた。
それから汗で濡れた服を脱ぎ別の服に着替えた俺は、例の紙をくしゃくしゃ丸めて自分の鞄の奥に、お見合い写真集と同じ様に封印し、頭の中で今回のメモ帳紛失事件の整理を始めた。
まず第一に多分だが俺はこの屋敷のどこかでメモ帳を落としている。それが大爺様の部屋なのか、姫ちゃんと真冬の2人と一緒にいた廊下なのか、はたまた全く関係ない場所なのかはわからないが、屋敷内という事は確定だろう。
そして第二にそれは誰かに拾われており、その人物は正直全くわからない。
なんせこの屋敷には人が沢山居る。
まず大爺様はもちろんじいちゃんとばあちゃんに、姫ちゃんのご両親に姫ちゃんの兄弟だって居るし、それだけならまだしもこの屋敷にはお手伝いさんや警備員に、その他大爺様のお客様などがよくこの家に来ているため、今のところ誰が俺のメモ帳を拾ったのかわからない。
だが相手はあのメモ帳を見て俺を九重ホムラだと思ったのなら、最低でも九重ホムラと言うvtuberを知っている、相当なvtuberオタクが犯人だと思われる。
なら多分だが犯人は男性だろう。
何たってうちの事務所は女性アイドルグループだからな。
そしてその犯人は俺のことをよく知っている人物になる。
何故かって?それは実はだがあのメモ帳には俺の本名は書かれていないから、あのメモ帳を見て俺と九重ホムラを結びつけるための条件は、俺の筆跡を知っていてそれがメモ帳の文字と一致しているのを見つけれる人物、他には俺の声と九重ホムラの声が同一だと認識できる人物ぐらいだろう。
そしてこれらの条件を全てひっくるめた時、俺の中にはとある1人の人物が思い上がったので、俺はその人物のいるであろう元へと向かい始めた。
◯
そうして俺が向かった先は、使用人のようなことをしている人たちが住んで居る居住エリアだった。
俺はその居住エリアの中へと断りも無しに、ズカズカと入っていって俺のお目当ての人物が暮らしている部屋を探した。
昔は何度か来たことがあった為何となく場所は覚えていたが、それでも数年単位でここに来ていなかったこともあり、そのお目当ての人物の部屋を見つけるまで少し手こずったが、俺はその人物が住んで居る部屋を無事発見することに成功した。
そうして部屋の扉の前までやって来たのはいいものの、俺は今更ながら今の時間は俺のお目当ての人物が仕事中だった事を思い出し、今この部屋の中にいないのでは?と一瞬考えたがアイツは昔からよく仕事をサボっていたので、どうせ今も部屋の中でサボっているだろうと踏んで、俺はその扉をコンコンとノックした。
返事が返ってくるかやはり少し心配だったが、俺のそんな不安は一瞬で部屋の中にいる人物が返事を返して来た為吹っ飛んだ。
「はいはーいちょっとお待ちを」
その声と同時に扉の奥からはドタバタと部屋の中を片付けているのか、それとも急いで服でも着替えているのか、大きな音が漏れ聞こえて来た。
それから数分が経った頃俺の目の前にある扉が、バンっと大きな音と共に勢いよく開かれ、その中からは俺の予想通り急いで着替えをしたためか、ところどころにしわがついた仕事用の服を着込んだ30後半ぐらいの男性が、若干猫背気味ながらも出来る限り姿勢を良くしようと努力した感じの姿勢で出て来た。
そしてその部屋から出て来た男性は、俺のことを見つめると驚いた様な顔をしながら話しかけて来た。
「え!?夏?お前なんでこんなとこにいるんだ?今日って正月だったか?」
そんなバカな事を聞いて来た男性は、名前を拓夫と言い俺をvtuberと言うかネット文化というか、要するにオタクの道へと子供の頃から教育して来た、このエリート家にいる唯一の汚点だ。
ちなみに汚点と言われる所以は、基本仕事はせずに毎日どこかでサボってゲームをしていたり、何度かかわいい新人を見つけた時に公私関係なくアタックしまくって、その度相手の女性が仕事を辞めている点からきている。
何故こんな誰がどう見てもダメな大人がこのエリート家での仕事をクビになっていないかは、この屋敷にある七不思議のうちの一つだ。
そして昔から出来の悪かったせいで大爺様に叱られた後に、よく遊んでくれた俺からしたら兄貴の様な人だ。
とは言え全くの尊敬の念はないがな。
という訳でこの拓夫は男性で俺のことをよく知る人物、さらにはガチガチのオタクと言う事で、多分だが九重ホムラの存在もしっているであろう点から、俺はコイツが俺のメモ帳を拾った犯人である事を確信した。
「と言う訳だから拓夫さっさと俺のメモ帳を返してくれ」
「……何のことだ?」
俺が一連の推理を果たし拓夫にメモ帳を返してもらうために手を差し伸べながらそう言ったのだが、それを聞いた拓夫は俺の想像とは違いまさかのメモ帳を拾った犯人ではなかった。
「…………はぁ????いやどう考えたってお前だろ!」
「おいコラ年上にお前とか言うんじゃねぇぞ夏」
「って事は、拓夫は俺がホムラだってことも知らなかったのか?」
「いやそれは何となく知ってたぞ。声とかゲームの趣味とか、あとは配信内で真冬ちゃんのことを話す時の気持ち悪さとかでさ」
そう言った拓夫の顔はドッヤドヤのドヤ顔で腹たったので一発殴ってやろうか?と思ったが、そんな事をしてもただ俺の拳を無意味に痛めるだけだと思い、心のうちで振り上げた拳を俺はそっと下ろしながら考え始めた。
その間も拓夫は何かぺちゃくちゃと話していたが、今は正直拓夫なんかと話している暇はなかったので、拓夫の自慢話を右から左というか右耳にすら入れずに、色々考えた結果……
「わっかんね」
という訳で散々考えた結果俺は、どうせこれ以上考えても犯人がわからないと思い、それにバレたからどうしたと考え、今回の件を潔く諦めることにした。
その後俺は久しぶりにあった拓夫とゲームしたり趣味の話をしたりして盛り上がった。
その際俺が今日来た理由を聞かれた際、俺がぽろっとお見合いの話をしてしまった為、拓夫にクソほど笑われたそれはもうびっくりするほどにだ。
「ぶっははははwwwお見合いってwww今時お見合いwヒーwそれにあの爺さん夏のことヒキニートの穀潰しと思ってたんだなw」
「いや流石にそこまでは言われてないけど……と言うか拓夫大爺様の事を爺さんって、お前本当そろそろクビになるんじゃないのか?」
「大丈夫大丈夫w俺みんなの前ではしっかり仕事してるからさ」
そうドヤ顔で言う拓夫に今現在仕事をサボってるくせにコイツは何を言ってんだ?と思った。
その後昼時まで俺は拓夫と時間を潰し、昼食を食べるために拓夫と別れ俺はすっかりとメモ帳の事なんか忘れて広間へと向かった。
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42話 一条愛花
俺が広間に着くとそこには大爺様から色々言われたのか、それともここまで長時間運転したからか、それまたその両方かわからないが、父さんが少しげっそりとした顔つきで母さんに膝枕をされていた。
それも何やらイチャイチャイチャイチャしているようで、部屋がピンクな雰囲気になっており、それが実の両親が醸し出しているせいで俺は広間に入りづらく感じ、入り口で少し隠れながら見ていると、そこに真冬と姫ちゃんが2人仲良く歩いてやって来た。
「あれ?お兄ちゃん何してるの?入らないの?」
「夏兄何してるの?」
俺の近くに近づいてくるなり俺に体を押し付けるように密着してくる2人に、俺は両親の方を指差し答えた。
「いやなぁ実の両親があんな風に真っ昼間からイチャイチャしているのを見せられると、部屋に入りづらくってな……」
俺が気まずそうにそう言ったのだが、2人は俺と父さんを何度か交互に見たのちに、ふーんと適当に返すと俺は2人に手を引かれて広間へと入っていった。
そうして真冬と姫ちゃんに手を引かれて広間に入った俺と、母さんに膝枕されている父さんはお互いに視線が合い、少し気まずくなり俺たちはスッと目線を横へとずらした。
◯
その後俺たちは広間で座布団に座り昼食が運ばれるのを待っていた。
席順は俺の左右に真冬と姫ちゃんが居て、その向かい側に父さんと母さんが座っていた。
大爺様は基本的に自室でご飯を食べるためこの場には来ず、姫ちゃんのご両親にじいちゃんとばあちゃんは今は仕事中で家には居らず、今他に家にいる人は姫ちゃんの姉の一条愛花ちゃんだけだろう。
そんなこんな考えながらも俺は姫ちゃんと真冬にじっと見られながらも、ハジメやホムラガーズのみんな(ただし姫花さん、いや姫ちゃんは配信中の為不参加)とバーチャルキャバクラの話をしていた。
そんな時俺は広間の入り口から誰かに見られている視線を感じて、そちらの方へと目線を向けるとそこにはこちらに来いと手招きしている拓夫の姿があった。
俺はそんな拓夫の姿を見て心底めんどくさそうな顔を拓夫に向けるが、拓夫も此方に負けじと両手を合わせて出来るだけ可愛くお願いと口パクをした。
30後半のおっさんのそんな姿を見て大変気分が悪くなりながらも、これ以上は変な事をされると俺の身が持たないと考え、隣に座っている真冬と姫ちゃんに少し話して俺は席を立ち拓夫の元へと向かった。
「で?何なんだよ拓夫。俺達は今から昼飯なんだけど?」
「いやーごめんごめん。でもさ夏今回のは本当にお前にしか頼めないんだよ。な!」
そうぷりぷりしながら言ってくる拓夫に若干イラッとしながら要件を聞くと、拓夫は俺に要件を話して来た。
「……愛花ちゃんを連れてこい?」
「そうそう爺さんに頼まれたんだけどさ、何度も部屋の外から呼んだんだけど返事がなくてな、けど部屋の中からうっすらと音が漏れてたから中に入るとは思うけど、流石に30後半のおっさんがJKの部屋に入るのはなんか犯罪臭くってな……」
そう頭をポリポリかきながら言う拓夫に、俺だって20代後半のおっさんなんだが?と言いたかったものの、まぁ30後半のまともに仕事をしようとしないおっさんと、一応親戚のvtuberという妙な仕事をしている20後半のおっさんなら、まだ後者の方がマシだと感じ俺はイヤイヤながらに拓夫の頼みを聞くことにした。
というのも俺は一条愛花という女性が苦手だ。
彼女は先ほども言ったように年齢は18歳の高校生で、こんなエリート一家の中でも優秀な方で、何でも全国模試で一位を取ったことがあるとかないとか、それに何より愛花ちゃんはクールを通り越して無の境地に行っているのか、俺が何を話しかけても一切返事がなく表情筋の一つさえ動いたところを見たことがないこともあり、俺が小さい頃は愛花ちゃんを本物のロボットだと信じていたぐらいだ。
と言うか何なら俺は愛花ちゃんの声すら聞いたことがない。
まぁと言う訳でそんなこんなで俺は愛花ちゃんのことが少し苦手だ。
そんな事を考えながら俺は愛花ちゃんの部屋の前まで移動すると、軽く部屋の扉をノックし声をかけた。
「愛花ちゃんちょっといいかな?」
そう俺が声をかけたのだが、部屋は防音がしっかりしているせいか中からの音は一切聞こえず、多分だがその逆に外から中への音も遮断されているのだろうと俺は考えた。
だが扉に耳を当ててみると拓夫が言っていた通り、中からは何やら少し電子音のようなものが聞こえるような気もする。
俺はその後も何度か声掛けを続けたが、一向に返事が返ってくることがなかったため、俺はドンドンと先ほどまでとは違い少し力を入れて扉を叩くと、部屋の中にいた愛花ちゃんにもその音が聞こえたのか、それから少ししてラフなTシャツ一枚で下には何も履いていない様に見える愛花ちゃんが、中で運動でもしていたのか少し額に汗をかきながら高そうなヘッドホンを首にかけた状態で、部屋から少し怒った表情で出て来た。
「誰!」
「あ、えっと久しぶり愛花ちゃん夏だけどわかる?」
俺がそう答えると愛花ちゃんは先程までの怒りの表情をどこにやったのか、スゥッとその表情から感情が無くなり俺のよく知るロボットの様な無表情に戻った。
俺は初めて愛花ちゃんの声を聞いて驚きのあまり素っ頓狂な返答をしてしまった事を後悔しながらも、いきなり俺的に色々あったせいで忘れていたが、目の前の10人に聞けば10人が絶世の美女と言うほどの美貌を持った現役女子高生が、他人に見せてはいけない様な格好をしているのを思い出し、俺は自分のシャツを一枚脱ぎそれを愛花ちゃんの肩にかけて、そのまま後ろを向いた。
「愛花ちゃん拓夫……お手伝いさんが大爺様が呼んでるって言ってたよ。それと大きなお世話かもしれないけど、あまり女の子が家族でもない男の前にそんな無防備な姿で出るのは良くないと思うよ」
そう言われた愛花ちゃんは今一度自分の今の格好を確認すると、恥ずかしかったのか顔を少し赤らめて勢いよく部屋の中へと戻っていった。
俺はやっぱり嫌だったかな?と言った事を内心後悔しながら、要件は伝えたしそれにそろそろ昼食が運ばれている頃だし、さっさと広間に戻ろうとしたその時、愛花ちゃんの部屋の扉が少し開かれた。
「……ありがとう」
そう言って愛花ちゃんは扉を閉めたのだが、美少女からの感謝の言葉を言われた当人である俺は、何に対してお礼を言われたのかが全く分からず、内心もしかして愛花ちゃんってコミュ障なのでは?と大変失礼な事を考えながら広間へと戻った。
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43話 カラオケ
広間に戻り昼食を食べ終えた俺達は今屋敷の近くにあるカラオケにやって来ていた。
「みんなぁ!俺の歌を聞けぇ!」
「きゃー♡」
◯
昼食を食べ終えた俺と姫ちゃんと真冬の3人でトランプで遊んでいると、そこにいつもの様に仕事をサボっている拓夫がやって来て、開口一番「カラオケ行こうぜ!」と言われ、正直俺と真冬は全く行く気はなかったのだが、姫ちゃんが拓夫のその案に大賛成だった為、俺と真冬は2人に引っ張られる形で無理やりカラオケに連れてこられた。
まぁ奢ってくれるらしいから別にいいけど。
そんな感じでカラオケに来たは良いものの、俺も真冬も人前で歌うのが恥ずかしい為、歌いたくなかった俺達2人で拓夫と姫ちゃんをよいしょしまくった結果、カラオケに来てすでに2時間は経つのに2人は、疲れる様子もなく延々歌を歌い続けていた。
それも2人とも結構歌が上手い。
姫ちゃんが歌う歌は最近の流行りの曲を中心に、たまに少し古い曲を歌う感じで真冬もノレているのだが、拓夫はそんな事をお構いなしに90年代のアニソンばかり歌う為、真冬は勿論姫ちゃんも曲が分からず首を傾けていた。
と言うかせめて歌うなら盛り上がる歌を歌えよ!
そんなこんなでタンバリンをシャンシャンしている俺の横に、歌を歌い終えてすっきりとした表情の拓夫がドシリと断りなしに座って来た。
「なぁなぁ夏も歌歌えよぉ〜」
「チッ鬱陶しいなぁ抱きつくな気持ち悪い!それと俺は人前で歌うのが苦手なんだよ!」
「えーいつも何百人に見られながら配信してるくせに?」
俺が酔ったおっさんのイライラする絡み方をする拓夫の顔を押し返してそう答えると、拓夫は俺にだけ聞こえる声量でそう返して来た。
「俺は生身の人間の前で歌うのが苦手なんだよ」
そう言って拓夫を押し返してそのまま飲み物をお代わりする為に席を立つと、それに続いて拓夫の奴も俺も俺もとコップを持って俺の後をついて来た。
そうして俺と拓夫の2人でドリンクバーの前までやって来た。
俺がドリンクバーでホットコーヒーを入れ、そこにシュガースティックを入れている横で、拓夫が小学生みたいに複数の飲み物を混ぜている姿を見て、コイツマジか!と言う顔をして見ているのにも気づかず、拓夫は1人すげー色変わった!などと30後半のおっさんがするには痛い言動をしていた。
「拓夫お前はガキか?ガキなのか?お前もうアラフォーだろ?そんな小学生のガキみたいな事するなよ恥ずかしい」
「は、はぁ?夏お前何を言い出すかと思えば俺がアラフォー?俺はまだ30代だぞ?まだギリアラサーだ」
俺の講義に反論して来た拓夫だったが、そこ?と思うところを指摘して来た為内心呆れながら俺は冷静に返答した。
「いや、30後半は立派なアラフォーだろ」
「え、まじ?」
「確か35からアラフォーじゃなかったっけ?」
「おいおいマジかよ……俺もうそんな歳なのか」
それを聞いた拓夫がジュースをこぼさない様に器用に膝からその場に崩れ落ち、そんなオーバーリアクションする拓夫を見て、俺はアラフォーもアラサーもあんま変わらんだろと1人考えていた。
そのまま俺は地面に突っ伏している拓夫を放置して部屋に戻った。
それから10分経った頃に元気を無くしたアラフォーのおっさんが、静かに部屋に戻り部屋の角で不味そうな顔をしながら、混ざりすぎてもはや何ジュースかわからなくなった物体をちびちびと飲んでいた。
◯
それから何やかんやで俺と真冬も1回ずつ無理やり歌わされたが、外が夕焼けの影響でオレンジ色になった頃に俺達は屋敷に戻る為にカラオケを後にした。
「真冬ちゃん歌う上手だったね!まぁ姫の方が何倍もうまかったけどね♡」
「はいはいそうだね」
そんな風に二人が仲良さそうに話している姿を後ろから見守っていると隣にいる拓夫が話しかけて来た。
「なぁ夏」
「何だ?アラフォー」
「その呼び方やめてくれない?っとそうじゃなくてちょっと聞きたいんだけどさ、vtuberって面白いの?」
いきなり変な事を聞いて来た拓夫に驚きながら、もしかしてコイツもvtuberになりたいのか?と考え俺は少し真剣に答える事にした。
「面白いか面白くないかで言えば、vtuberはすごく面白いと俺は思う。けど大概の奴は嫌いになると思う」
「それはどうして?」
「どうして……どうしてか、それはそうだな。言ってしまえばギャップかな」
「ギャップ?」
俺が意外と真面目に答えた為、拓夫の表情も次第に真面目な表情に変わり、俺の言葉を一言一言真剣に聞き始めた。
「ああ、拓夫に質問なんだけどさ、お前から見たvtuberってどんな感じだ?」
俺の質問に拓夫は少し考えたのち答えた。
「楽しそう?」
「それはどうして?」
「自分の好きなゲームをやって、それを同じ趣味のやつと話し合ってるだけで、金も貰えるからかな?」
「そうだな……全員が全員そうとは言わないけど、多分大体のやつは今の拓夫と同じ考えを持つと思う。けど現実はそうじゃない。拓夫が言ったのはごく一部の成功したvtuberだけだ」
俺が言った事を少し考えた後何かに気づき拓夫が、俺の顔をパッと見つめて来た。
「あー違う違う。俺のは特別例だからあんま気にしなくても大丈夫。それと拓夫言っとくが俺はそのごく一部の人間だからな」
俺が笑いながらそう答えると拓夫はアレで?と言う表情を返して来た。
「これでわかったか拓夫?あんな有様の俺でさえ大成功した中の一人なんだ、拓夫って個人のvtuberって見たりするか?」
「一応何人かは」
「その中で配信中にコメントが一切ないvtuberって何人いる?」
俺の質問の意図が分からず困惑しながらも0と答えた拓夫に俺は言った。
「よかったな拓夫。お前の応援してるvtuberは全員成功してるな」
「ん?どう言う事?」
意味がわからんと言う表情をする拓夫を放置して俺は話し始めた。
「俺は勉強の為に色々なvtuberを過去大量に見て来たんだ。その中のほとんどが配信をしているのにも関わらず視聴者は一人もおらず、いたとしてもその数は片手で数えられる様なものだ。そう言う人達もはじめは拓夫と同じ感じでvtuberと言う職業に夢と希望を持って、vtuber業界に参入して来ては長くて1年短い奴なんかは1週間ほどで消えていく。それも大量にだ。だから拓夫もしvtuberをやりたいなら、そこら辺を覚悟した上でやってくれ」
俺がそう熱弁したのを聞いた拓夫が、何かを思い出した感じのジェスチャーを取って信じられない事を口にした。
「へー、じゃあ愛花ちゃんって凄かったんだな……」
「……はぁ?」
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44話 犯人からの要望
「へー、じゃあ愛花ちゃんって凄かったんだな……」
「……はぁ?」
いきなりそこで愛花ちゃんの名前が上がった事に驚いたと同時に、俺はその言葉の意味を瞬時に理解した。
「え……愛花ちゃんってvtuberなの?」
俺のその質問を聞いた瞬間拓夫が大袈裟に口を両手で塞いで、しまったと言う表情をした。
そしてその拓夫のリアクションで俺は愛花ちゃんがvtuberそれも、拓夫の反応からそこそこ有名なvtuberだと言うことが発覚した。
にしてもvtuberか〜・・・まさかあのエリート一家からvtuberが出てくるとはな、なんか感慨深いな!にしても愛花ちゃんがvtuberってよく大爺様が許したな。
俺みたいな落ちこぼれはともかく愛花ちゃんは、大爺様からも将来を期待されてるのにほど優秀なのに、vtuberが悪いって訳ではないけど世間体的にも、よくvtuber許されたよな。
そんな事を考えながら俺達は屋敷へと戻った。
◯
屋敷に帰っている途中コンビニでお菓子を買いながら帰宅した俺たちに待っていたのは、何やら静まり返った屋敷だった。
本来なら使用人やその他屋敷にいる人達によって、足音や作業音などである程度音が鳴っているはずなのだが、周りを見渡してみると何故か皆ができるだけ音を立てない様に作業をしており、屋敷は鎮まり静寂がこの場を支配していた。
流石にいつもと違い違和感があった為、拓夫が近くにいた人に何でこんなことになっているか聞きに行くと、ちょうどその人物が拓夫を含めた使用人の長に当たる人物だったらしく、拓夫自ら話しかけに行った事で今の今まで仕事をサボっていたことがバレて、そのまま拓夫は使用人長に耳をつねられてどこかにドナドナされて行ってしまった。
その様子に呆れ笑いをしながらも俺も気になっていたので、拓夫が聞こうとしていた人とは違う使用人の人に何故今屋敷がこんなに静まり返っているのかと質問すると、使用人は黙って大爺様の部屋がある方を指差した。
それで俺はどこかのバカが大爺様を怒らせたのだと理解した。
過去まぁ言ってしまえばうちの父さんが母さんをくれと、大爺様やじいちゃんばあちゃんに頭を下げに来た時も、大爺様は大激怒したらしく毎度父さんが母さんの実家に来るたびにその事を愚痴っていた為、俺は瞬時にこの異常な状況を理解することができた。
そんな訳で今の屋敷は大変空気が重く居心地が悪いのだが、正直こんなプチ修羅場はいつもの配信(誹謗中傷)で慣れているので俺は特に気にする事なく、と言うよりもどちらかと言うとダメな配信者魂で、この居心地の悪さを出した張本人でもある大爺様になぜこんな事になったのか、聞きに行きたいと考えてしまうほどだ。
そんな事を考えながら俺なら大爺様の部屋の周りで、部屋の中に聞き耳を立てながらうろちょろしていると、部屋の中からバンっ!と大きな台盤の様な音が聞こえた。
そして次の瞬間俺が聞き耳を立てていた部屋の扉が勢いよく開き、俺と少し目元に涙を浮かべながら怒り部屋を飛び出した、大爺様を怒らせた大バカ者が勢いよくぶつかった。
「きゃっ!」
「うおっと……て、愛花ちゃん!?」
まさかの部屋から飛び出して来た人物に驚きながらも、ごめんねと軽く謝りながら俺は、俺とぶつかった際に後ろに倒れて尻餅をついた愛花ちゃんに手を差し伸べた。
愛花ちゃんは小さな声で俺にありがとうございますと呟きながら俺の手を取り立ち上がると、自分の部屋がある方へと駆け足で走り去ってしまった。
俺は大爺様を怒らせた人物が意外すぎた為、愛花ちゃんが走り去って行った方向を見ながら少し呆けていると、愛花ちゃんが飛び出して来た部屋の中から鋭い視線を感じた。
俺はそこでようやく今の自分の状況を理解し、ゆっくりと錆びついたロボットの様に首を部屋の中へと回すとそこには、100歳を超えてこの顔の赤さは大丈夫なのか?と心配になるほどカンカンになっている大爺様と目があった。
「……っスー…………えーっとどもっス。ハハ」
その後は勿論当然の様に聞き耳を立てていた俺は、大爺様に長々と説教されるハメになった。
◯
その後聞き耳を立てていた事と昼間有耶無耶にした例の件について、30分以上ぐちぐちと説教をされた俺は、大爺様の圧によっていつもの配信よりも疲れてげっそりとした。
それも実際聞き耳を立てていた事は100%俺が悪い事なので、勿論何も反論することが出来ず合間合間に来るお見合い攻撃を受け流すことがやっとだった。
そんな訳で大爺様からの説教が終わり部屋を出た俺は、さずにカラオケからの連チャンで説教が来たので、ちょっと疲労が溜まっていたのかため息が自然と口から漏れ出た。
「……はぁ。疲れた」
やっぱり変な事はするもんじゃねぇな……
そんな事を考えながら俺は今日泊まる部屋へと戻った。
部屋に入るとそこには横に二つ並べられた布団の上で座り込み、一枚の紙切れを手に持った真冬がいた。
「何見てんだ真冬?」
「あ、夏兄!これ」
そうして真冬から手渡された紙切れにはこう書かれていた。
「今この屋敷で起こっている問題を解決しろ。さもなければ貴様の正体がネットの海に解き放たれるであろう……って何だこれ?」
この屋敷で起こっている問題って何の事だ?それと俺の正体がどうのこうのって…………
「あ!」
「ねぇ夏兄この夏兄の正体ってもしかして」
「ああ、多分だが俺のメモ帳の事だろう」
そこでようやく俺は自分がメモ帳を無くしていた事を思い出した。
そんな風に俺が少し考えていると、俺の表情を見た真冬が不安そうな声で聞いて来た。
「夏兄これってまずくない?」
「そうだな。まずいかまずくないかで言えば、コレは大変まずいな。」
「だ、だよね!どうしよう……」
何故か身バレの危機にある俺以上に真冬が頭を抱えて困っていた為、俺は何とか冷静さを保てていたのだが……
いや本当コレどうしようか。
この文を見るに実際にはホムラの件をネットに晒しそうな感じはしないが、だからと言ってそれが100%とそうかと言うと勿論そんなわけ無いので、出来ればこの俺のメモ帳を盗んだ犯人の要求をすぐにでも解決しておきたいのだが……
「この屋敷で起こっている問題って何だ?」
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45話 愛花の決意
「この屋敷で起こっている問題って何だ?」
もしかして使用人の1人が全く仕事をしないことか?
いやそれは拓夫をクビにすれば解決だから違うか……
それなら俺のお見合いの件と言うか、無職だと思われている件か?
いやでもこの件は実際問題俺は無職じゃなくてvtuberって仕事をしているし、何ならお見合いの件はもう断ってるから違うか……
ならアレか!使用人長が拓夫を狙っている件か!
実は結構前になるのだがこの屋敷に来た時に、拓夫と遊んでいると何故かよく使用人長とすれ違ったり、話しかけられたりして、それでその事が気になって俺が直接使用人長の元に話を聞きに行ったら、案外ポロッと拓夫の事が好きな事を話してもらった。
何でも使用人長はダメ男がタイプらしくて、まともに仕事をしないだけでは飽き足らず、自分達の雇用主に対しての態度の悪さを見て、使用人長はそんな拓夫のダメ男さに胸を撃ち抜かれたらしい。
…………けどコレって問題なのか?
いやまぁ50を過ぎた婆さんが30代の男に職場で色目を使ってるのは問題っちゃ問題だけど、それは拓夫からしたら問題だろうけど屋敷的にはそこまで問題じゃないよな。
と言うか使用人長と拓夫には悪いけど、わざわざそんなしょうもない事で犯人もこんな意味深なメッセージを残さないだろう。
……多分
ならどれだ?
そんな風におれが頭を捻らせていると、おれの隣で一緒に考えていてくれた真冬が、何かに気づいたのかハッとした様な表情をした。
「夏兄わかった!」
「えっ!本当か真冬」
「うん。多分だけどアレじゃないかな?ほら今お母さんの家何でかわからないけど、みんな静かになっちゃってるじゃん。それじゃないかな?どうかな夏兄?」
「あーなるほど……そうかそれかー」
でもその件ってどう解決すればいいんだ?
激おこぷんぷん丸な大爺様を宥めればいいのか?それともアレか?もっと根本的な解決をしなきゃいけないのか?
ならまずは愛花ちゃんに大爺様と言い合っていた事を聞きに行かなきゃ行けないけど……
普通そんな事年に1回か2回しか家に来ない親戚に話すか?
いや絶対に話さないよな……
ならいっその事大爺様にでも聞きに行くか?
いや絶対面倒くさいことになるからコレだけは無いな。
うん無い無い!
けどだからと言ってここで何もせずにいたら何も変わらない、そう考え俺はその場で立ち上がった。
「じゃあお兄ちゃんは今回の件さっさと解決してくるわ」
そう言って俺は真冬の頭を軽く撫でた。
頭を撫でられた真冬は顔を少し赤らめて満面の笑みを返してくれた。
「頑張ってね夏兄!もし何か困った事があったら私も手伝うから何でも言ってね!」
「ありがとな真冬。困った時は俺も真冬の事遠慮なく頼らせてもらうな」
「うん!」
という訳で俺はかわいいかわいい妹からのエールを受けて、俺は部屋を出て歩き始めた。
そうして俺は心の中で何度もかわいい真冬の笑顔を思い出しながら、愛花ちゃんの部屋へと向かった。
◯
愛花ちゃんの部屋の前に着くと俺は軽く扉をノックした。
「愛花ちゃんちょっと今いいかな?」
俺は前回扉をノックをした時反応が良くなかったことから、今回もすぐに愛花ちゃんが部屋から出て来てくれるとは思っていなかったのだが、今回はノック一回で扉が開かれた。
「……」
「愛花ちゃんちょっと話があるんだけど今いいかな?」
俺が愛花ちゃんにそう聞くと、愛花ちゃんはいつものロボットの様な無表情で首を縦に振った。
「よかった。それで話したくなかったらいいんだけど、さっき大爺様と何か言い合いをしてた様だけど、何を話してたか聞いてもいいかな?」
「………………大丈夫」
その愛花ちゃんの答えに俺は胸を撫で下ろした。
「それじゃあ早速質問なんだけど、愛花ちゃんが大爺様と話してた内容って何なのかな?」
そう聞かれた愛花ちゃんは少し考えたのち話し始めた。
「実は私がしている趣味が大爺様にバレてしまって、それで大爺様からその趣味を今すぐ辞めろと言われまして。それで……」
そう言うと愛花ちゃんは大爺様に言われた事を思い出したのか、顔色を悪くし俯いてしまった。
「その趣味っていうのはもしかしてvtuberのこと?」
俺がそう聞いた瞬間先程まで落ち込んでいた愛花ちゃんの顔が、暗い表情から驚きと恐怖心の2つが混ざり合った様な何とも言えない表情になっていた。
「ど、どうしてお兄さんがその事……」
そんな少し怯えている愛花ちゃんを見て、俺はやってしまったと後悔した。
俺自身がvtuberとして結構特殊な位置にいて、ぶっちゃけた話毎日の誹謗中傷に、運営からの対応それに過去には殺人予告なんかも来たことがあった為、正直真冬や両親に迷惑がかからなければ、身バレぐらいどうでもいいという考えだった為、一般のvtuberがいきなりリア凸された時の恐怖心を、考慮しておらずただでさえ落ち込んでいる愛花ちゃんに、いらぬ恐怖心を植え付けてしまった事を後悔し、すぐに謝罪とどうして俺が愛花ちゃんがvtuberをやっている事を知っているかの経緯をゆっくりと説明した。
そのおかげで愛花ちゃんの顔からは恐怖心がなくなり俺は安堵した。
「ごめんね怖がらせちゃって」
「いいえ大丈夫です」
「それで愛花ちゃんに聞きたいんだけど、愛花ちゃんはvtuberをやめるつもりはあるの?」
そう俺が聞いた問いに対して愛花ちゃんは、今日聞いた中で1番はっきりと宣言した。
「絶対に辞めません!」
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46話 大爺様との面談開始
愛花ちゃんのvtuberを辞めたく無い宣言を聞いた俺は、愛花ちゃんを連れて大爺様の部屋の前までやって来た。
バーン!
「大爺様お話があります!」
そう叫びながら俺は勢いよく大爺様の部屋の扉を開け放った。
いきなり俺が勢いよく扉を開けた事に愛花ちゃんは驚いていたが、部屋の中にいた大爺様はその事を気にする様子もなく一言「入れ」と俺達に呟いた。
「失礼します」
そう言って早々に部屋に入った俺に続いて愛花ちゃんも、頭を下げて部屋の中に入ると俺の隣に腰を下ろした。
そんな俺たちをジロジロと交互に見た大爺様が、少し首を傾げながら俺に聞いて来た。
「夏よ、お前さんは確かわしの出したお見合い話蹴ったはずだよな?」
そう言うと俺から目線を愛花ちゃんの方へと移した。
「はぁ、入って来て早々何を言い出すかと思えば大爺様、俺は朝も言いましたけどお見合いはしませんから」
自分のvtuber活動について話に来たはずなのに、部屋に入って早々自分を除け者に、俺と大爺様が見合い話を始めた事に愛花ちゃんは驚いていた。
「そうか、なら一体何の様だ?」
目線を愛花ちゃんに固定し聞いて来た大爺様の声色は、先程とは比べ物にならないほど低く迫力のあるものだった。
その様子から大爺様もはなから俺たちが何について話に来たのか知っている様子で、コレからが本番だと言う事を俺と愛花ちゃんは大爺様の声色から、それをひしひしと感じ取れた。
俺がその大爺様の迫力に少し押されていると、隣に座っていた愛花ちゃんが立ち上がり、大爺様の目を見て話し始めた。
「私のvtuber活動の事についてお話をさせてもらいに来ました!」
大爺様の圧にも負けない愛花ちゃんのそのハッキリとした宣言に、俺はただただ単純に人としてすごいと感じた。
そんな感じで俺が愛花ちゃんに感心していると、大爺様は一つの疑問を口からこぼした。
「vtuber?何だそれは」
それを聞いた俺は「は?」と間抜けな顔で言ってしまいそうなほどの衝撃を受け、ついにこのジジイボケたか?と思った。
だってそうだろ!自分が愛花ちゃんに禁止した事なのに忘れてるし、それに何より俺アンタに何回も説明したよな?4年だぞ4年!忘れるか普通?
そんなふうな事をアホヅラで俺が考えていると、それは愛花ちゃんも同じだったようでアホヅラでは無いが少し驚いたような表情をしていた。
「お、大爺様vtuberを知らないと言うのは本当ですか?貴方が愛花ちゃんに禁止したんですよね?」
「禁止?……ああ、あのパソコンに向かって1人で話しているのが、そのvtuberとか言うやつだったのか?」
おいおいまじかよこのジジイそんな知識で辞めろとか言ったのか?コレは本格的にアタオカだろ……
「おい夏」
「はい何ですか大爺様」
「誰がジジイでアタオカだって?」
そう怒気を含んだ声で大爺様が声を荒げながら、今までずっと座っていた重い腰を上げてそう叫んだ。
そこでようやく俺は先程の言葉が口から溢れていた事を察することが出来た。
やっべーやっちまったわw
でもしょうがないだろ、自分が好きな物に対してあんなふざけたこと抜かし始めたら誰だってキレるだろ。それにこちとらその分野で数年食ってきてるエキスパートだぞ?
あーヤベェそう考えたらだんだんイライラしてきた、こちとら毎日知らない奴から暴言吐かれて、最近だと俺の偽物が被害撒き散らして何故かその責任を俺が背負わされるし、運営はクソだし何だったらファンの民度もクソオブザクソなんだぞ。
そんな普通の人なら精神崩壊待った無しな事を、4年も続けて来れるぐらい好きな事を、俺同様に健気にやっているそれも修羅の道の個人でやって、成功までしてるのを何だ?
よくわからないけど禁止?
はぁーまじ意味わかんねぇ
おいクソジジイお前みたいに毎日座ってダラダラしてるだけの老●野郎に、何で今現在汗水かいて努力してる若者のやってる事を否定されなきゃ何ねぇんだよ!
てめぇが昔どれだけ頑張ってここまで登ってきたかしらねぇけど、それは所詮過去何だよ!
今一緒懸命努力してる奴の足引っ張ってんじゃねぇぞ!この老耄野郎が!」
いつの間にか声に出ていたそんな言葉をひとしきり言い終えると、俺はこれまたいつ掴みかかったのかわからない大爺様の袴の襟元から手を離し、ハァハァと息を整えながら一言謝罪して、元の自分の座っていた席に座り直した。
そんな俺のいきなりの奇行を真横で見ていた愛花ちゃんは、少し引きながらも自分の為にここまで怒ってくれたことに少し口元が緩んだ。
そしてひとしきり言い切った俺は、今までの鬱憤を吐き出せてスッキリしたと同時に、頭が冷えひたいだけでは無く体全体の穴という穴から、汗が大量に吹き出してきた。
そんな俺たちを見た大爺様は、俺に掴み掛かられた襟を直すと、怒るでも無くいたく冷静な顔つきでそのまま座り込んだ。
すると大爺様は自分の鼻根を押さえ少し何かを考えるように唸ると、あまり納得しているような顔つきでは無いが、俺の説得?暴言?八つ当たり?が聞いたのか、最初の様な威圧をして来なくなった。
「あーそうだな、夏の言う通り知らんもんを知らんまま否定すんのはいかんな」
そう言うと大爺様は俺達と言うよりかは、愛花ちゃんに対して頭を下げ謝った。
そうして俺達にvtuberとは何かを聞き始めた。
のだが、齢100をこえる爺さんにvtuberと言う現代の中でも、特殊中の特殊な職業を説明するのは難しく、その説明をする為にまずユーチュバーの説明からしなくてはならず、俺達は意外に簡単に大爺様を説得できた割に疲れる事になった。
「コレで何と無くはvtuberが何かわかりましたか?」
「ああ、まだよく分からんところもあるが、まぁだいたいはな」
内心俺は実はこの説明2回目なんだよな〜と考えていたのだが、これを話してしまうとまたそれはそれで面倒な事になると思い黙っておく事にした。
「それでお前さんらの説明で何となくvtuberについては分かった。それじゃあ次だ。愛花お前さんはそのvtuberで何をやっとる?」
「そういえば俺も聞いてなかったけど、愛花ちゃんは何系のvtuberなの?アイドル?それともやっぱり専門?」
そんな俺たちの質問に愛花ちゃんは少しもじもじしながら、ポケットからスマホを取り出すと素早く操作し、俺達に自分が運営しているチャンネルのページを見せてきた。
そこには……
「桃崎…姫……花?…………桃崎姫花!?えっ!?!?!?愛花ちゃんが姫ちゃん?へ?どゆこと?」
まさかの人物の名前があった。
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47話 桃崎姫花
「桃崎姫花!?」
「は、はい。もしかしてお兄さん知ってましたか?」
知ってるも何も何度もコラボした関係ですけど……
そんな感じでいきなりのサプライズに、俺は驚きのあまり驚きその場で腰を抜かしてしまった。
そんな俺を横目に大爺様はスマホの画面に映った桃色の髪をしたメスガキと、目の前にいるメスガキとは正反対の位置にいるはずの愛花ちゃんを高速で交互に見あって、こちらも驚いた表情をしていた。
「こ、これが愛花か?嘘じゃろ……なぁ、夏よお前さんはこのvtuberについて知っている様だったが、どんな奴何だ?どうもわしには愛花とは似つかん、どちらかといえば姫乃の様な奴に見えるのだが……」
「あーえっとそうですね大爺様。このvtuber桃崎姫花は俗に言うメスガキと言うジャンル、まぁ簡単に姫乃ちゃんみたいな物だと思ってくれれば大丈夫ですけど、要はあんな感じの態度を不特定多数のリスナーに向けてやるのを売りにしたvtuberですね。」
そしてそんな結構マイルドにした説明を聞いた大爺様は、ずっと優秀を地で生きてきたと思っていたかわいいひ孫が、自分の知らないところでとある界隈の男性を性的に喜ばせる様な活動をしていた事がわかった衝撃から、大爺様は若干白目をむいていた。
白目から戻った大爺様は少し考えた後呟いた。
「やはりアレはわしの聞き間違いではなかったか……」
「アレとは?」
「ああアレか、アレはつい数日前のことなのだが実は、わしがたまたま愛花の部屋の前を通った時、中から何やらいやらしい声が聞こえてきてな、それでわしは愛花にそのいやらしい活動をするのを辞めよと苦言を呈したわけだ」
なるほどなるほど大爺様は、偶々愛花ちゃんの部屋の前を通った時に桃崎姫花の配信を聞いたと……
「申し訳ありませんでした大爺様ァ!!!」
俺は頭を地面に血が出る勢いで打ちつけた。
いやだって当たり前だろ、考えてみろよ自分のかわいいひ孫が自室で不特定多数の人間に、ざぁこ♡ざぁこ♡って言ってるんだぞ?そらvtuber云々関係なく止めるだろ普通!俺も止めるわ
という俺が大爺様に言った相手のことを知ろうとせずに、相手を否定するなと言う言葉が時間にして約10分ほどで自分に返ってきた事に、恥ずかしさを覚えながら俺は大爺様に謝罪の意を込めて土下座した。
そしてそんな特大ブーメランを顔面にクリーンヒットさせた俺を見た大爺様は、その海の様な広大な器を持って俺の様な矮小な存在の過ちを許してくださった。
やっさしー
俺がそんな事(土下座)をしていると大爺様は少し気になったのか、愛花ちゃんの了承も得ずにその場で適当な配信のアーカイブを再生し始めた。
まさかいきなり配信のアーカイブを流し始めると思っていなかった俺達は驚き、俺は土下座の姿勢からいきなり顔をガバッとあげ、逆に愛花ちゃんは恥ずかしかったのかピンクがかった顔を押さえて顔を伏してしまった。
それからアーカイブを再生したはいいもののオープニングが長く、中々本編が始まらない事に大爺様が首を傾げているのを見た俺は、勝手ながらシークバーをいじり桃崎姫花……そう姫ちゃんが話し始めるところまでスキップさせた。
そしてそこから始まるのは動画鑑賞という名の公開処刑だった。
ただでさえ自分の配信を親族の誰かに見られるだけで恥ずかしいのに、それを家の家長でもある曾祖父さんでもある大爺様と、一年に数回しか顔を合わせないのに合わせて何なら今日初めて声を交わした相手に、それも2人同時に目の前で自分の配信を見られるのだそれは相当恥ずかしい物だろう。
だが愛花ちゃんの場合はこれだけじゃ無い。
ここからは俺も未知の領域だが愛花ちゃんは言ってしまえば、キャラをガチガチに作っているどちらかといえばミリーの様な配信者だ。
それもメスガキと言う人様に訊かせるには大変恥ずかしい。
それを本人の目の前に大の大人2人が聞くと言う、新手の拷問の様な状態に耐えきれなかったのか、愛花ちゃんはスマホを地面に置くと、そのまま顔から湯気を出しながら勢いよく部屋から出て行ってしまった。
そうして恥ずかしさのあまり逃げ出した愛花ちゃんを見送った俺は、改めて姫ちゃんのアーカイブをよく確認する様に視聴したのだが、よくよく聞いてみるとどこか愛花ちゃんの様な雰囲気を感じ取れる様な…………いや全然わかんねぇや。
俺別に声オタでもねぇから人の声の違いとかよくわかんないし、それに通常時の愛花ちゃんとのあまりのギャップの差に風邪ひきそうなレベルだし、何なら言ってしまえば俺が愛花ちゃんの声聞いたの多分今日が初めてだし、正直コレでわかったら逆にキモくねぇか?
そしてそれは俺だけではなかった様で、大爺様も改めて配信を見てもやはりこれがあの愛花なのか?と言う半信半疑の様な顔つきでその配信を見続けていた。
そんなこんなで飛ばし飛ばしだが1つのアーカイブを見終えた大爺様が俺に質問をしてきた。
「なるほどな……これが愛花のやっているものか。それで夏よお前さんはこのvtuberってのに詳しいんだよな?」
「ええまぁ多分そんじょそこらの企業なんかにも負けないレベルで」
「そうか、ならそんなお前から見て愛花、いやこの桃崎姫花はどうだ?」
「どうとは?」
「その何だvtuberとは人気商売何であろう。愛花の奴はこのままやって行けるのか?」
そう聞いてきた大爺様の表情は先程まで見せてきた厳しい顔つきから、単にひ孫の事が気になる顔いっぱいに心配の2文字が描かれた、親バカならずひ孫バカな1人の爺さんの顔付きになっていた。
そんな大爺様の顔を見て俺はもう大丈夫だなと確信し、そしてグッと腕を大爺様の方へと突き出してグッドサインを出し宣言した。
「絶対ということはないですけど、愛花ちゃんの実力なら今後もどんどん人気になって大丈夫だと思います!そもそも……」
「そうか、それはよかった」
そう呟いた大爺様の笑顔は年相応の顔に大量の皺をつくったくしゃくしゃ笑顔だった。
そしてそんな大爺様を横目に俺は桃崎姫花の凄さを1人熱弁していた。
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48話 爆弾
そしてアーカイブを見終えた俺達は部屋の外へと避難していた愛花ちゃんに、アーカイブを見終えた事を伝え中へと戻ってきてもらった。
そこで大爺様は先程俺に言った様な事を改めて愛花ちゃんにも言い、そしてそれを聞いた愛花ちゃんは喜び2人は和解する事に成功した。
そしてそんな2人を俺は後方腕組みおじさんが如く、うんうんと頷きながら少し離れたところから見守った。
これでこの件は一件落着だなと確信した俺は、大爺様と愛花ちゃん2人で今後の事など話し合うだろう場所に自分は必要ないなと感じ、こっそりと足音を立てない様に部屋から出ようとした時に、大爺様がいきなり俺からしたら特大級の爆弾を落とした。
「そう言えば愛花の動画を見て気になった事があるのだが」
「なに?」
「よく愛花が動画中に名前を挙げていたホムラとは一体誰なんだ?」
ヤメロォォォォォ!!ジジイ変なこと聞くんじゃねぇ!!
俺は落とされた爆弾の大きさに驚き、部屋を出る足を止め心の中で叫んだ。
そしてそんな爆弾の扱いに困っていたのは俺だけでは無かった。
桃崎姫花又の名を一条愛花その人である。
愛花ちゃんはホムラをどう話せばいいのか、と言うより大爺様にどう話したもんかと頭を悩ませていた。
ごめんね話しずらいvtuberで、そうだよねホムラのこと簡単に説明するとアレだよね、女性アイドルグループに何故か1人いる男性で、そのせいもあって常時炎上している古参vtuberだよね。
わかるよこんなんそのまま言ったら、絶対大爺様に付き合いを辞めさせられると思うよね俺もそう思うよ。
けどアレだよね愛花ちゃんが人気出たのも、きっかけがホムラにあるし何ならホムラガールズの配信って何故か異様に伸びるから切るに切れないよね。
本当面倒臭いvtuberでごめんね。
そして1人頭を悩ませている愛花ちゃんを横目に、自分は関係ありませんよオーラを全開に出しながら、遠目に2人の様子を確認していると、愛花ちゃんがすぐに答えない事に少し疑問を持った大爺様は、ターゲットを愛花ちゃんから俺に変えてきた。
「夏よお前さんはこのホムラという輩がを知っているか?」
「…………あーホムラですか」
ヤッベェこっちに爆弾投げてくんじゃねぇよ!
どうする?本当どうする?どう答えるのが正解なんだ?正直に答える?……いやこれは絶対ダメだな。
ならいいところだけ話す?企業に勤めているvtuberでvtuber歴4年の大ベテランで、最近では大人気vtuberの1人とよく交流していて尚且つ愛花ちゃん含めた3人の個人勢vtuberとよく交流しているvtuberです。
…………いや誰だこの僕の考えた最強vtuberは、誰だよこのハイスペックvtuberは俺の知ってる九重ホムラじゃねぇ!
そんな事を瞬時にそれも大量に考えた俺は、脳がオーバーヒートしぽろっと言葉をこぼした。
「それ俺ですね」
そう俺が言った瞬間愛花ちゃんが、ガタッとその場で勢いよく立ち上がった。
「それ本当ですか?」
「それって?」
「やっぱりお兄さんが九重ホムラだったんですか?」
愛花ちゃんのその一言で正気に戻った俺は口元を押さえてヤベという顔をした。
それを見た愛花ちゃんは確信した様な顔をして俺の元へと近づいてきた。
そして
「ありがとうございました」
そう大きな声で言い頭を下げてきた。
まさかいきなり感謝されるとは思っていなかった俺は咄嗟に良い返しができずに、「あ、どうも」とすごく質素な返しをしてしまった。
そんな俺たちの様子を見た大爺様は何か納得した様な表情をした。
「なるほどな夏お前さんがこのホムラと言う輩だったんだな」
「あーはい。そうですね。…………!?」
その時俺の中で何かがいきなりビビッと来た。
今この状況ならお見合い表返せるんじゃね?
そう考えた俺は大爺様にちょっと待っててくださいと告げると、すぐさま勢いよく部屋から飛び出すと俺たちの今日泊まる部屋まで向かい、そこに置いてある自分の荷物の奥底に封印された紙束を取り出すと、それを持って再度大爺様の部屋へと向かった。
そしてその紙束を大爺様へと返上した。
「大爺様俺はvtuberそれも最近では(俺以外のメンバーが)某有名会場で大型ライブをした企業で、その一期生としてvtuberをやっていますので、今は正直お見合いなんかに掛けている時間がないためこれをお返しします。」
俺が頭を下げて渡した紙束を見た大爺様は、せっかくここまで集めたんだから一回ぐらいやってみないか?
と何故か食い下がってきた。
正直愛花ちゃんの件が思ったより簡単に受け入れてくれた為、すんなり受け入れてくれると思っていた俺は、その大爺様の行動には驚いたが少し考えたところ、ものすごい心当たりがあった。
あーアレだな金城だな。
多分だが大爺様の力を使っても本当に金城とのお見合いに託けたのだろう。
それに大爺様も99%無理だろうがvtuberとか言う怪しい職業の1人を生贄に出して、国内外問わず名の通っている金城の家との繋がりを持てる事を考えて、それを無為に捨てるのは惜しいと考えたのだろう。
だが待って欲しいソイツは俺の職場の後輩で、ほとんど配信をしない御旅屋ノマドと、男性vtuberの地位を地獄の底まで落として消えた久瀬ヤウロの2人の同期で、相手の了承も得ずにその持ち前の家の権力と財力を使って、誘拐まがいのことをして無理矢理コラボを迫ったり、その他通常の配信でも金が使える場面では惜しみなく湯水の様に金を使う、同期2人に並ぶレベルの問題児だ。
そんなアタオカな奴とお見合い?絶対嫌だね。
もし相手が俺だとバレると一体何をされるか、考えるだけで鳥肌が立つ。
そんな事を顔に絶対嫌と書きながら考えていると、そんな俺の様子見た大爺様はこれ以上言っても無駄だと判断したのか、小さくため息をついた。
「やはりダメか……」
「すいません」
そう言って大爺様は俺から渡されたお見合い写真集を受け取ると、何枚かお見合い写真を眺めるとその中の一つに目線を固定し、再度ハァ……とため息をこぼした。
そこまで大爺様は俺に金城とお見合いして欲しいのか?
そんな事を俺が考えていると大爺様がポツリと呟いた。
「残念だったな愛花」
そう言って大爺様は愛花ちゃんの肩にポンと手を置いた。
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49話 犯人はお前だ!その2
「残念だったな愛花」
そう言って大爺様は愛花ちゃんの肩にポンと手を置いた。
「へ?」
いきなり大爺様の口から愛花の名前が出た事に驚き、そしてそれと同時に愛花ちゃんも何が何だかわからない様で困惑していた。
「あの大爺様私が残念とはどう言う事ですか?」
愛花ちゃんは首を傾けて大爺様に質問を問いかけた。
その質問を聞いた大爺様は一瞬考えた素振りをして、何か思い当たったのか大爺様は手に持っていたお見合い写真集から一枚抜き取り、それを愛花ちゃんに差し出した。
「え、何これ?大爺様私これ知らないんだけど……」
おいおいおいマジかよ本人に承諾なしでお見合いって大丈夫なのか?
そんな感じで俺と愛花ちゃんがまたしても大爺様の手によって落とされた爆弾発言にオロオロしていると、何を思ったのか大爺様は更に俺達、と言うよりかは愛花ちゃんにとっての爆弾を容赦なく落としてきた。
「ダメだったか?愛花確かお前さん夏の事子供の時からずっと好きだったよな?ほらお前さん昔から照れてる時、それを我慢する為に無表情になってたよな」
「え、そうなの愛花ちゃん?」
まさかの大爺様の発言に驚きながらも、俺が本人に事実確認をしようと振り返ると、そこには毎年よく見るロボットの様な無表情を決め込む愛花ちゃんの姿があった。
その姿を見た大爺様はゲラゲラ笑いながら俺に対して、「ほらな」と告げると後は若いもんで楽しめよと言うと、そのまま俺達に背を向け手を振って、そのまま部屋を退出した。
「えっと……愛花ちゃん俺の事好きってのは本当?」
「…………」
俺はこの空気の悪さの中で何を言ったらいいのか分からず、頭に浮かんだ事を愛花ちゃんに無意識に聞いていた。
だがもちろんその質問に対して愛花ちゃんは無表情無言を貫いており、俺はこの最悪な空気をどうしたらいいか分からず苦笑いをした。
「あ!もしかしてアレかな?LOVEじゃなくてLIKEかな?そうだよね?」
「…………」
なんでもいいから返事してくれ!本当頼む
その後も結局愛花ちゃんが口を開く事はなく、俺の帰りが遅く気になってわざわざ大爺様の部屋まで来てくれた真冬に連れられ、俺はこう着状態の愛花ちゃんを置いて部屋へと戻った。
「ねぇねぇ夏兄例の問題って解決できたの?それに愛花お姉さんとも一緒に居たけど、お姉さんも何か関係あったの?」
「いや……何というか」
流石に愛花ちゃんがvtuberをやってる事は真冬が相手でも言えないな。
「何があったかは言えないが、まぁ一応は解決できたな」
「ふーんそうなんだ。よかったね夏兄」
そう言われた真冬は内容を教えてくれない事に少し落ち込みながらも、問題が解決した事には喜んでくれた。
はぁ、なんて出来た子なんだ真冬は、流石は俺のかわいい妹だな。
俺は真冬の頭に手を置き真冬をウリウリしながら部屋に戻った。
そして部屋に戻った俺は荷物の中に入れていたスマホをとりだすと、拓夫の元へと通話を掛けた。
すると数コール後にその通話は取られ、スマホの先からは使用人長にこってり叱られたのか、少し疲れた声の拓夫をが通話に出た。
「あーはいはいこちら拓夫だけど、スマホで連絡なんて一体何の様だ夏?」
「いやーごめんごめん、俺がわざわざそっちに行くのは何か嫌だから、スマホで電話掛けさせてもらったんだ」
「お、おうそうか……それでそんな面倒くさがりなお前が何の様だ?俺さっきまで使用人長に色々言われて疲れてんだから、要件は早く言ってくれよな」
俺が電話をかけた理由が分かっていないのか、拓夫は俺に早く要件をいう様に言ってきた。
俺もこの件をさっさと片付けたいと思っていたので、特にこれといった前置きを話す事なく、いきなり本題を話す事にした。
「あ、じゃあこっちも色々あって疲れたから本題行くけどさ、拓夫俺のメモ帳返してくれない?」
「…………」
俺がそう答えると拓夫は一瞬黙り込み、すぐに諦めた様に話し始めた。
「はぁ……夏お前どうして俺がお前のメモ帳持ってるって分かったんだ?」
「いや俺も最初は全くわからなかったけど、流石に解決しろって問題がvtuber関係だったら、それを知ってるのは俺の家族抜いたらお前だけだし、それに愛花ちゃんがvtuberやってるのに関したら、お前しか知らなかったわけだし、あの時俺の前で愛花ちゃんがvtuberやってるって、口を滑らせた時もどうせわざとだろ?」
「あ、バレたw」
俺に詰められた拓夫は何の悪気もなくそう答えた。
「それで拓夫ずっと気になってたんだが、どうしてお前こんな回りくどいことしたんだ?別に無理に俺に頼まなくても、お前が大爺様に直接話をつけたらよかった話じゃないのか?」
「いやー無理無理。だって俺全然vtuberについて知らないんだしw」
「は?」
俺はその拓夫の発言の意味が分からず変な声が出た。
「ど、どういう事だ?お前確か俺の正体に元々気づいてたって発言してたよな?それに愛花ちゃんがvtuberやってることも知ってただろ?」
「あーあれ?普通にお前のメモ帳見て初めて知ったけど、それ言ったら俺がお前のメモ帳持ってる事バレたじゃん。だからその場は適当に嘘ついてただけだぞ。後ついでに言うと愛花ちゃんと大爺様がなんか喧嘩してんのは知ってたけど、その原因知ったのはお前に愛花ちゃんの部屋行く様に行く直前だからな」
おいおいマジかよ。コイツ使用人よりも詐欺師の才能あるんじゃないのか?
「と言うかそれじゃあ本当にvtuberについては全く知らないんだな?」
「おう、俺はアニメゲームは履修してるけど流石にvtuberは、何となく名前は聞いたことある程度だったな。」
「マジかよ……騙されたわ」
俺がまさかの結果に本音をこぼすと、拓夫は何故か勝ち誇った様に、スマホ越しからも鬱陶しいと思う程の高笑いをした。
「にしても流石に俺もバレるとは思ってたけど、思ったより早くてこっちも驚いたわ。一応俺も出来るだけバレない様に色々やってたつもりなんだけどな。ほら指示が書かれた紙がお前の部屋にある時、俺使用人長に連れられて行ったから、そう言うので犯人候補から外れると思ってたんだけど」
俺との通話で逆に気になっていた事を拓夫は質問してきた。
「え?普通にお前に姫ちゃんが協力してただけじゃないのか?俺のメモ帳もどうせ俺に抱きついてきた時にスッたんだろ?」
俺が思っていた事をそのまま口に出すと、スマホの先から少しガサゴソと言う音が聞こえた。
「大大大正解!!流石はお兄ちゃん♡でもどうして犯人が姫だって分かったの?」
「いやだって、姫ちゃん前からよく俺の荷物勝手に見たりしてるでしょ?」
「あ、バレてた?」
「まぁ流石にね。でも今まで置手紙とか無かったから流石に今回は姫ちゃんじゃないかとも思ったけど、置手紙の犯人が拓夫だったから、それなら多分メモ帳を持ってるのは姫ちゃんかなって思っただけだよ。にしても流石に1枚目のあなたは九重ホムラですか?ってやつは怖かったな」
そう俺が笑いながら2人に話すと、一瞬電話口の先が静かになって、二人で何かを話し合っているのか電話口から2人の声が微かに聞こえた。
それから意を決した様に2人は話し始めた。
「すまん夏俺達が出したのは指示書1つだけだぞ。だからお前の言うその紙は残念ながら俺達は知らないぞ」
「うんうん姫も紙は1枚しか出してないよ?」
「………………え?」
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50話 掲示板回その3
結局あの後誰が1枚目の置き手紙を置いていったのかと、愛花ちゃんの俺への気持ちと言う結構大きな問題を残して俺達は帰宅する事になった。
俺たちが家に帰る直前俺が朝起きた時、何故か知らないが姫ちゃんが俺の布団の中に入っており、そのせいでまたしても真冬と姫ちゃんが追いかけっこを始めたり、その他九重ホムラについて調べた拓夫が俺の元まで来て、肩に手を置き「大変だったなw」と半笑いで言ってきたので、こちらはこちらで俺と拓夫が追いかけっこする羽目になった。
そんなこんなありながらも、母さんの実家を楽しんだ俺達一家はなんやかんやで久しぶりに母さんとイチャイチャできて、元気マックスになった父さんの車に乗って家へと帰った。
その途中で父さんに頼み修理の終わった俺のパソコンを回収した。
◯
「みんな久しぶりハジメの配信見てくれた人は2日ぶり。アレから裏で何度もハジメから、また飯を作ってくれと懇願されてる九重ホムラです。ちな普通に面倒なので断りました」
コメント
:おひさ
:このコメントは削除されています
:ホムラってライブ行ったの?
:俺もホムラのご飯食べてみたい!
:ハジメ断られてて草
二階堂ハジメ:今度はアレ食べたいエビチリ
「うわ出た。と言うかエビチリか、もし食べるとしたらソースは市販か手作りどっちがいい?」
コメント
:作る気満々でくさ
二階堂ハジメ:そら手作り一択で頼む
:エビチリはエビの下処理が面倒
:俺ん家はソースはいつも市販のものだな
:やべえ腹減ってきた
なるほど手作りね……なら今度作るときはソースに豆板醤とか入れて辛くして、後はもう一品春巻きでも作ればいいかな。
「まぁ、今はそんな事いいや。それで本題だけど昨日今日とちょっと用事があって出掛けてたから、それで疲れてるのもあるから久しぶりにクリハンを1時間ぐらいやって終わろうと思う」
コメント
:了解
:このコメントは削除されています
:そういやホムラのハンターランクってどれぐらいだったっけ?マスター行ってたっけ?
二階堂ハジメ:エビチリ!エビチリ!
「おいエビチリエビチリうっさいぞハジメ!それとランクはハジメとやった時から触ってないから、確かまだ20ちょいだったはず」
そんな事をリスナーと話しながら俺はクリーチャーハンターを起動し、パソコンで軽く操作し配信画面に映し出した。
「それじゃあさっそくだが一狩り行こうぜ!」
◯
そんな感じでハジメの家でのコラボを抜いたらライブ行ったり何たりしてたこともあり、約1週間ぶりの配信を終えると、初めはライブ関係の炎上もありいつもの様に罵詈雑言でコメント欄が溢れていると思っていたのだが、そんな事は一切なくいつの間にか俺の配信のコメント欄はそのほとんどが、優しいコメントや普通に配信を楽しんでいるコメントに変わっている事に気づき、俺はその事に安心と共に内心でガッツポーズをした。
それに前のハジメとのオフコラボ後のカレーが何故か、ハジメがツイートした事により少しばずったり、その関係でアンダーライブ内で話に上がったりしたおかげで、今回ライブ関連で大炎上していたのと組み合わせた結果、俺の登録者数が2万5千人に到達していた事もあり、俺の頬はゆるゆるになっていた。
そして配信を終えた俺は、再度明日の配信の準備をして、ハジメやホムラガールズの皆んなに連絡を入れたり、軽く明日の配信の流れを説明した。
「よっしゃ明日の配信頑張るぞ!」
◯
ここは捻くれ者達が集うネット掲示板の中でも、より捻くれたものや、人の不幸は蜜の味を地で生きていく者たちが巣食う魔境。
vtuberのアンチスレ
……だが最近ではそのほとんどが九重ホムラ関連の話題になっており、実質九重ホムラの個人スレの様なものになっていた。
126: 名前 : 名無し
そういや最近またホムラがよく分からん理由で燃えてるけど、アレどうしたん?
127: 名前 : 名無し
>>126
んなんも知らんのかw
それでホムラが燃えてる理由だけど、理由は幾つかあるけどやっぱり最近はライブであった、ファンの1人が楽屋に押し入ろうとして捕まった件と、最後の曲でホムラが出そうだったのに出なかった事から、その犯人と殴り合ったかして怪我をした説と犯人説を言い合ってる連中が居て、それに合わさって単なるホムラアンチの連中が暴れた結果が今の大炎上に繋がってると思われる
128: 名前 : 名無し
>>127
長文説明乙
129: 名前 : 名無し
>>127
詳しすぎだろw
130: 名前 : 名無し
>>127
サンクス
131: 名前 : 名無し
じゃあ今ホムラが配信休んでるのもそれ関係?
132: 名前 : 名無し
>>131
いやそれはホムラが酔ってパソコン蹴って壊したらしい
133: 名前 : 名無し
草
134: 名前 : 名無し
バカだろアイツw
135: 名前 : 名無し
はぁー心配して損した
136: 名前 : 名無し
話変わるんだけどさお前らってバーチャルキャバクラってどう思う?
137: 名前 : 名無し
>>136
あーVアンチが言ってるやつか。でもあんなん言ったら最近のアイドルとかもチェキとか売ったり、チケット枚数でどうのこうのしてるほうが、個人的にはどうかと思う。後単純にそんなこと言ってる奴らはキャバクラにすら行ったことなさそうとは思う
138: 名前 : 名無し
>>137
同意。アイツらはマジモンのキャバ嬢みたことなさそうw
139: 名前 : 名無し
>>136
まぁそんなん言ってんのはVになれなかった奴とか、Vになったはいいものの人気出なかった奴らの僻みだろうな
140: 名前 : 名無し
そしてそんな意見を聞いたおまいらに質問なんだけど、明日ホムラのやろうとしてる企画をどう思う?
141: 名前 : 名無し
>>140
Vキャバのこと?
142: 名前 : 名無し
>>140
一部の連中に喧嘩売りすぎで笑った
143: 名前 : 名無し
>>140
絶対燃えると思う
144: 名前 : 名無し
>>140
ホストやってるVもおるし大丈夫じゃない?
145: 名前 : 名無し
おいホムラのツイッター見てみろよw自称vtuberファンとか評論家とかが、ホムラのツイートに群がってお気持ちツイートしてるぞw
146: 名前 : 名無し
>>145
うわマジじゃんw
147: 名前 : 名無し
>>145
私個人の意見を言わせてもらいますが、あなたこんな事をやっていては人気出ませんよ?だってw
148: 名前 : 名無し
>>147
おいおい人気vtuber事務所の一期生に何上から言ってんだコイツw
149: 名前 : 名無し
>>147
イライラで草ァ
150: 名前 : 名無し
他にも僕のオンプちゃんに変なことさせるな!ってキレてる奴いるんだけどw
151: 名前 : 名無し
>>150
おいおいそいつそんなこと言ってるけど、オンプちゃんフォローしたのホムラとコラボして人気出てからなんだけどw
152: 名前 : 名無し
>>151
草にわかじゃんwww
153: 名前 : 名無し
>>151
誰のおかげでお前はその大切なオンプちゃんに会えたんだよw
154: 名前 : 名無し
その他の2人のファンからも色々言われてるけど、言ってるの全員フォローしたのが最近で草
155: 名前 : 名無し
おいこのエビチリ食べたい勢は何なの?
156: 名前 : 名無し
おい知ってるかアンダーライブのENの新人の配信に男の声が入って炎上してるぞ
157: 名前 : 名無し
>>156
おいここはホムラのスレだぞ
158: 名前 : 名無し
>>156
スレ違だぞお前
159:名前:名無し
>>156
さっさと消えろカス
160:名前:名無し
>>157・158・159
えぇ……
161:名前:名無し
>>160
草
その後もスレはホムラの話で盛り上がった。
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51話 バーチャルキャバクラ その1
「はい始まりました。店長の九重ホムラです。皆様お待ちかねの第1回バーチャルキャバクラ開催です。はい拍手」
コメント
:888888
:パチパチ
:やったー
:待ってた
:このコメントは削除されています
「いやーにしてもバーチャルキャバクラ、いや巷ではVキャバって言われてるんだっけ?ツイッターの方でめちゃくちゃ荒れてるねー。皆んな見た?うちのスタッフのファン達が俺に無理やりやらされてる!とか俺が助けてあげる!とか、本当お前ら何様だよって思ったよね。この企画言い出したの俺じゃなくてあっちなのに」
コメント
:このコメントは削除されています
:そうだったんだ
:煽られてて草
:おいおいホムラそんな事実言ったら傷つくだろw
:俺が助けてあげる(キリッ
「それにあー言う人達って文句だけは一丁前に言うくせに、特段何にもやんないから単なる害悪だよね。まぁそんな残念な人達にいちいち構ってたら時間がもったいないから、早速我がキャバクラの人気スタッフの紹介をしましょうか!それでは1人目、その歌声は万人をも魅了する、一見クールに見えるがその実は単なるかわいい人オンプさんです。どうぞ」
「はい、えーっと……助けてわ、私のファン達!実はこの男に裏で人気にさせてやったんだから、その見返りを体で払ってもらおうかって脅されてるんですー。」
俺に紹介されて出てきたオンプさんは、リスナーを煽る様に俺が事前に渡していた台本を、それはそれは驚くほど棒読みで読み始めた。
コメント
:な、なんだってー(棒
:棒読みで草
:wwww
:オンプちゃんは演技とか苦手なんだろうね
:このコメントは削除されています
「ホムラさん!だから私演技下手だから、最初の挨拶は梅ちゃんに任せようって相談したじゃないですか!」
「あははは、大丈夫大丈夫オンプさんちゃんと俺の想定通り可愛かったですよ」
「か、かわ!」
そう言ってオンプさんは少し恥ずかしそうにしながらも、驚きのあまり声を詰まらせてしまった。
うんうんやっぱりオンプさんは可愛い系だな
そんな事に感心しながらも俺は次のスタッフを呼ぶために、次の人の紹介文を読み始めた。
「それでは続いては、俺含めうちのキャバクラ1の人気を誇るこの女だ!どこに出しても恥ずかしくない完璧なメスガキ!桃崎姫花ァ!」
「はーい♡みんなぁ姫をもっと人気にする為にじゃんじゃんお金落としていってね♡」
コメント
:うぉぉぉぉぉ!!!
:可愛いよ!姫ちゃん!!
:くそッ何でこのチャンネルはスパチャオフなんだよ!
:ホムラ今すぐ設定からスパチャオンにしてこいヤァ!
:おじさん姫ちゃんの為に頑張っちゃうからね⭐︎
:ふん何を言い出すかと思えば、姫ちゃんに1番貢ぐのはこの俺だ!
:スパチャとは何だ?金か?桃崎姫花は金が欲しいのか?
俺はコメント欄の異様な盛り上が理を見ながらも、内心自分を慕っているかもしれない親戚の女子高生に、一体何をやらせているんだ?と思いながらもできるだけそんな事実を考えない様にして話し始めた。
「流石はうちのエースだ。この人気凄いね。確か最近登録者数が5万人突破したんだっけ?」
「そうなの姫凄いでしょ?」
「あーうん本当に凄いね。俺が笑えないレベルで……」
そんな事を話していると、姫ちゃんが何やら扉をノックされた様で、少し見に行くと言って一瞬離席したので、その間を繋ぐ為にオンプさんと色々話していると、少し困惑した声色の姫ちゃんが戻ってきた。
「どうかしたのか?姫ちゃん」
「ううん何でかよくわかんないんだけど、姫の家の人が急にスパチャって手書きされた袋に、10万円入れて持って来たからちょっと驚いちゃって」
「お、おう……それは何と言うか。ビックリだね」
それを聞いた俺はそんな金をポンと渡せて、姫ちゃんの正体を知っている人を考えた時、そんな意味不明な行動をとった人物に思い当たり、その人物が人物だった為ツッコミよりも、驚きいったいあの爺さんは何してんだと困惑してしまった。
そんな困惑している俺と姫ちゃんを横にオンプさんが、姫ちゃんに質問した。
「姫ちゃんの家族は姫ちゃんがVやってる事知ってるの?」
「うーん、姫家はさっきお金渡してくれた人と、もう1人お手伝いさんが知ってるだけかな?」
「え!?お手伝いさん?もしかして姫ちゃんの家ってお金持ちなの?」
「ん?別にそんな事ないと姫は思うよ〜」
「そうなんだ……でもそっかやっぱり家族の人には、自分がVやってる事話したほうがいいよね」
「オンプちゃんは話してないの?」
「うん、私は歌手になるって言って両親と喧嘩して家飛び出してきたからね」
「へーロックだね♡」
そんないきなりちょっと重い話を話し出したオンプさんと、姫ちゃんのvtuberをやってる事を、あたかも自分から打ち明けた様に言ってる事に内心ツッコミながらも、2人の会話が終わる頃を見計らい最後の1人の紹介を始めた。
「それでは最後はこの人!まさかの実力に全俺が驚愕した。最近お金が貯まって新衣装を受注したらしく、梅の枝から大変身し人間の形となった。神木梅さんです!どうぞ」
「あ!今日はお客さんいっぱいですね店長!本当ねぇいつもの倍以上来てて流石のアタシもビックリだわ。でーもそのおかげで今日はいっぱいお客さんと話せそうで、あーしはオケ丸って感じぃ〜」
登場して早々梅さんは少し幼いかんじの元気な女の子、次は先程とは違い大人っぽさを全開で、どこか色気を感じる様な声で話したと思えば、更に最後には少し前のギャルの様な話し方で話し始めた。
その全く別の声をいくつも自然に出す梅さんにコメント欄は、いつもぶっきらぼうな声で関西のおばちゃんが如くマシンガントークをする梅さんが、全くの別人とも思える声を話す姿に驚きを隠せなかった。
コメント
:スゲェー!!
:やっばw
:えっ?何?梅ちゃんって声優?
:まさかの伏兵
:天才現る!
「いやー改めて聞いてもやっぱ凄いね。梅さんって何者なの?」
「えーそうですか?あ!実は私アレなんですよね声優の学校?ってのに通ってたんですよね!まぁ昔のことなんですけどね」
先程までの作った声ではなく、いつもの様なあっけらかんな声で話し始めた。
ついでにと、梅さんがvtuberを始めるにあたって他の機材を捨ててまで異常に高いマイクを買った原因の人物は、その声優学校の同期にマイクの大切さを熱弁されて梅さんが暴走して買った事を教えてもらった。
ちなみにその友人はいきなり梅さんが、目ん玉飛び出る程の額のマイクを買った事に大層驚いていたらしい。
そらまぁ自分が話したことが原因で、友人が3桁万円するマイクを買ってきたら誰でもビックリするだろう。
「そうだったんですね」
その後も俺達4人で軽く世間話をしていると、すっかり俺達やリスナーに存在を忘れられた人物が声を荒げた。
「お前ら俺の事忘れてんじゃねぇ!!」
「「「「あ!」」」」
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52話 バーチャルキャバクラ その2
「お前ら俺の事忘れてんじゃねぇ!!」
「「「「あ!」」」」
「あ!じゃねぇよ!お前ら……」
そうハジメが文句を言い出しそうになった時、それに被せる様に姫ちゃんが話し始めた。
「あっ!初めまして姫は桃崎姫花って言います♡よろしくねハジメさん♡」
「あ、ああ、どうも。こちらこそ初めましてアンダーライブ所属の二階堂ハジメです。じゃなくて……」
「私オンプです。よろしく」
「どうもアンダーライブ所属の二階堂ハジメです。だからそうじゃなくて……」
「はいはい!それじゃあ次は私ですね!どうも初めまして神木梅です!」
「ああ、よろしくアンダーライブ所属の二階堂ハジメです」
「きゃー!!私ハジメさんのファンなんです!」
「あ、ありが……」
「うわっ生ハジメだ!あー本当に嬉しいです!もう今死んでもいいぐらいです!」
「あ、うん。ありが……」
「あ、そうだ!ハジメさん!」
その後もハジメが何か話をしようとすると、それを拒む様に梅さんが持ち前のマシンガントークで、vtuber歴4年で色々な経験をしたであろうハジメに一切話す隙を与えず、結構ガチなハジメのオタクだったらしく本人に若干と言うか、結構引かれていたがそんなこともお構いなしに梅さんは一方的に話し続けた。
そんな梅さんからのマシンガントークを何とか凌ぎ切ったハジメは、梅さんの圧に負けて配信を開始早々、特段話をしたわけでもないのに疲れていた。
だがそこは男性vtuberのトップこの程度では折れずに、最後の力を入れて自分を無視していた事を抗議しようとした。
「ふぅ……コレで自己紹介は終わったな?なら言わせてもらうぞ!お前らなぁ!」
そう先程までまともに話をさせてくれなかった反動で、いつもよりも大きな声で話そうとしたその時
「あ!それじゃあ最後は俺だな。全然初めましてでもない、一応ユメノミライに所属してる。アナタの通い妻九重ホムラです!よろしくね☆」
俺は出来るだけ頑張って可愛い声を出して、ハジメに自己紹介をした。
その結果ハジメは……
「うわっ気持ち悪」
ガチで引いていた
コメント
:草
:きもい
:絶妙に女声上手いの腹立つ
:通い妻w
:コレにはハジメもドン引き
:なんかめっちゃ嫌な汗出てきたんだけど……
俺は結構裏で練習していたこともあり、女声には結構自信がありリスナーからの評判が気になり、コメントを軽くのぞいてみたのだが、俺の渾身の女声はリスナーにも残念ながら不評だった。
ちなみにコレをリハーサルでやった時は、ホムラガールズの皆んなも結構ガチ目に引いてて、表には出さなかったけど俺は内心結構本気で傷ついた。
真冬は俺の女声聞いた時「夏兄凄い!」って褒めてくれたんだけどな〜
何がダメだったんだろ?
まぁいいか
「はいという訳で」
「いや、どういう訳だよ!」
「ハジメうるさい!という訳で最後に今日俺のバーチャルキャバクラにやって来ていただいた、お客様第1号をご紹介します。男性vtuberの中ではぶっちぎりの人気を誇りながらも、個人勢の女の子に今から接待をしてもらうそんな男ォ!アンダーライブ所属二階堂ハジメェ!!!」
「おい最低な説明な仕方をするんじゃねぇ!皆さん違いますからね!」
コメント
:はー最低
:ハジメのファン辞めます
:最低!鬼畜!
:コイツがゲスと言うやつか……
:このコメントは削除されています
:ハジメがそんなことする様な人だとは思いませんでした
「おい!ホムラお前のせいでリスナーに変な誤解されたじゃねぇか!」
「草」
「草じゃねぇよ!」
そんな感じで俺とハジメがいつもの様にふざけ合って話し合っていると、結構オープニングトークが盛り上がったせいで予定より少し時間が過ぎている事に気づき、俺はハジメとの会話を止めると、軽く用意されているお酒の種類や値段に、その他キャストと出来る軽いゲームなどの企画の説明を簡単にしてそのまま話し始めた。
「それじゃあ前座もそろそろ早速ですが仕事を始めましょうかお客様。それでは早速ですがお客様当店舗では3人のキャストがいらっしゃいますが、どなたがお好みですか?」
そう言って俺は少しカッコつけたままホムラガールズの3人の名前を順番に読んだ。
その際呼ばれたキャストはその都度元気よく「はい!」と返してくれた。
そうして俺の質問にハジメは少し考えたそぶりをして答えた。
「それじゃあさっき俺の事いっぱい話してくれたし神木梅さんでお願いしようかな?」
「かしこまりましたお客様。それでは梅ちゃんオーダーです」
「はーい!今日はよろしくお願いしますねハジメさん!」
そうして今度はいつもの声よりワントーン上げた、アニメキャラの様な可愛らしい声で梅さんは話し始めた。
「それじゃあ今から10分間の接待プレイよーい始め!」
俺はその宣言と共に配信画面内にあるタイマーを起動させた。
そしてそれと同時に梅さんはスッと纏っていた空気感がガラリと変わると、実物は見たことも無いがコレがキャバ嬢だと言われたら信じてしまいそうな感じで、ハジメに対して話し始めた。
「お客さんってこう言うお店初めてですか?」
「あ、ああ実はそうなんだ」
「え!そうなんだ!実は私もお客さんが初めてのお客さんなんだー!」
「うおっ……そうなんだそれは何だか嬉しいな」
いきなり梅さんの声が耳元で囁く様な声に変わった事に驚いたハジメは、一瞬驚きながらもすぐにそれを立て直す様に返事を返したのだが、その声が若干上擦っていた為なんかキモかった。
そしてそんな隙を逃さない様にと、梅さんはハジメにその後も追撃を与えていった。
「もうハジメさんったら驚いてどうしたんですか?」
「い、いやぁ何でも無いよ」
コメント
:ビックリしたw
:すげぇ
:ハジメどもってて草
:コレはいい
:最高!
:ハジメキメェwww
そんな感じで軽くハジメと話していた梅さんだったが、キャバ嬢の役にも慣れてきたのかここから仕掛ける様に動き出した。
「あのハジメさん」
「どうかした?」
「ちょっと話してた喉乾いてきちゃって……すいません私ハジメさんと話してたら面白くって、つい話しすぎちゃって\\\」
「いやこっちの方こそ気が付かなくてごめんね。そうだじゃあそのお詫びと初めて同士記念って事で、オリジナルボトル開けちゃおっかな?」
「え!?いいんですか?」
「おう!任せてよ」
そうハジメは格好付けてこの店で2番目に高いオリジナルボトルを注文した。
それと勿論1番高いのはシャンパンタワーだ。
「はいかしこまりましたオリジナルボトルですね。」
そう言って俺はそのオリジナルボトルを2人の元へ持っていく演技をしながら、ハジメの手持ちから10万円を引き抜いた。
「す、すごーい私コレ初めて見ました!本当によかったんですかハジメさん?」
「おう全然ようだ!」
「きゃーハジメさん素敵!あ、店員さんハジメさんにもお酒用意してくれる?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
その後も梅さんは経験者なのでは?と思うほどスムーズに進み時間はあっという間に過ぎ、もし何をすればいいかわからなかった時用のゲームなども一切使用することなく、基本的には梅さんの話を中心に少しでもハジメが食いついた話があると、その事についてハジメに質問して話の主導権をハジメに譲り、そのまま話を聞き始めるという、普通にありそうな技術を披露しているといつの間にか時間はすぎていき、10分間という時間は一瞬で過ぎてしまった様な感覚を覚えた。
「カンカンカン!!10分たったので終了です!」
そう言って俺は配信内に映っているタイマーを停止させてそう宣言した。
「はい、てな感じで一発目が無事に終わったわけですけど、ここで軽く感想をどうぞハジメ」
「んーそうだな。俺も別に行ったことはないけど、なんかキャバクラってこんな感じだよなってのを感じたかな。あと普通に梅さんの会話の技術が凄いって感じたな」
コメント
:アレは凄かった
:俺もキャバクラ行ってみようかな
:10分は短い
:コレは神企画
:梅ちゃんの株が今日で爆上がり中!
コメントを見ても思っていたよりもこの企画は好評らしく安心したと共に、事前に話し合っていた通り1番上手い梅さんを1番手にして正解だったなと、俺は確信した。
「それではお客様次のキャストはどなたになさいますか?」
「次か……そうだなじゃあ次はオンプさんでお願いしようかな?」
「かしこまりました。それではオンプさんオーダーです!」
「……わかった。」
オンプさんは少し緊張しているのか、少し強張った声でそう返してきた。
「それじゃあ今から10分間の接待プレイよーい始め!」
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53話 バーチャルキャバクラ その3
「あの……えっとハジメさんよろしくお願いします」
「あ、こちらこそ」
そんなこんなで全くキャバクラっぽくない雰囲気で、オンプさんとハジメの接待プレイが始まった。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あ、あのーオンプさん?」
プレイが始まって早々オンプさんは何を話していいのか分からず黙りこくってしまって、それに不安を覚えたハジメはオンプさんに声をかけた。
だーがそれも俺にとっては想定内だ。
今回の企画正直日頃からメスガキをやってる姫ちゃんは勿論、今回の企画で梅さんの演技力を知った為この2人は放置でも何とかなると思っていたので、俺は今回の配信ではオンプさんのサポートに徹しようと色々考えてきた。
そしてその一つが軽いゲームだ。
別にオンプさんもコミュ障という訳ではなく、単にこの企画と相性が悪いのと、特に問題なのがみんな忘れがちだがハジメは俺達vtuber界隈の中では、レジェンドの中のレジェンドだ。
そんな人と1対1で話し合って緊張するなという方が、酷というものだろう。
一応これでも人気企業の一期生で界隈の中で見たら人気がある俺でさえ、初めてハジメとコラボした時は大いに緊張した。
だが実際話してみたら思ったよりも普通の人だし、適当にボケてもしっかりとツッコミをしてくれる。
theコラボチュートリアルみたいな性能をした男だという事を俺は知っている。
だからこそオンプさんもハジメと話すきっかけさえあれば、キャバクラという事に目を瞑ればしっかり話せるはず!……多分
という訳で俺は早速2人に助け舟を送る事にした。
「お客様当店ではキャストとしりとりなどの軽いゲームをして、交流を深める事など可能ですがどうですやってみますか?」
「おお!いいねオンプさんも大丈夫かな?」
「あ、はい勿論大丈夫です。」
「でも本当に大丈夫?俺実は地元じゃしりとり王って言われるほど、しりとり強かったんだけどね」
「はい大丈夫です」
という訳でオンプさんとハジメの2人でしりとりをする事になったのだが……
「ビール」
「る!?また、る?るーるーるー……!ルービックキューブ!」
「VR」
「ああぁぁあ!!!」
始まって速攻でオンプさんがハジメをる攻めし始めた。それも全力でだ。
コメント
:しりとり王(笑)
:おいおい大丈夫か?しりとり王
:ボッコボコで草
:る攻めはやばい
:発狂もんだろコレ……
:オンプちゃんしりとりTUEEE
:ハジメクソ雑魚じゃんw
そんな感じで自称しりとり王はオンプさんに開始早々一方的にボッコボコにされ、あまつさえコメント欄でもその余の即堕ち具合からしりとり王(笑)と馬鹿にされていた。
という訳でハジメとオンプさんのしりとり勝負はそんなに時間もかからず、ハジメがるから始まる言葉が出せなくなり決着する事になった。
「くそッ!絶対かてると思ってたのに!」
「リハの時からあんなに自信満々だったのにクソ雑魚だったなしりとり王(笑)さん」
「おい!うっさいぞ店長!話しかけてくんじゃねぇ!」
「すみませんハジメさん。しりとり私の方が強くてごめんなさい」
「え?何?何で?オンプさん急にどうして煽ってきたの?」
「?」
「草」
オンプさん的にはハジメに恥をかかせてしまったと思い、謝ってくれたのであろうがタイミングがタイミングだった為、その言葉は誰がどう聞いてもハジメを煽っている様にしか聞こえなかった。
そうしてその後もしりとりの事を中心に、オンプさんとハジメで話し合っていると、オンプさんが何かを思い出したかの様に声を上げた。
「あ!」
「え?オンプさんどうかした?」
「あ、いえ。……実は私ハジメさんに話したいことがありまして」
「話したい事?俺で大丈夫なら何でも言ってみて」
「はい、ありがとうございます」
普通にハジメと話しているうちに企画のことを忘れていたオンプさんだったが、自分が今バーチャルキャバクラという企画で、どうにかしてハジメからお酒を買ってもらわないといけない事を思い出し、ハジメにお酒を買ってもらうためにオンプさんは自分の身の上話を話し始めた。
「実は私実家が田舎にあって農家をしているんです」
「へーそうなんだ」
「それで、実は両親に農家を継げって言われたんですけど、私はどうしても歌手がしたくてそれで両親とは喧嘩して、逃げる様にして実家を飛び出したんです」
「そうだったんだ。……それは大変だったね」
「はい、それで実家を出たのはいいもののお金が無くてですね……」
おや?
「そんな時私を拾ってくれたのがここの店長でして」
おやおや?
「でもいつまでも店長におんぶに抱っこされているままじゃダメなんです!」
「お、おう……」
おやおやおやおや?
「だから私!」
「ストーーーーップ!!!ストップ!オンプさんストップ!ちょっと待って!」
「はい。どうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃないよ!オンプさんキャバクラって知ってる?そんなお金をもらうためにお客さんと色々する店じゃないからね」
「あれ?そうでしたっけ?」
「そうだよ!」
「いやー俺も急に身の上話始まった辺りから、なんかキャバクラというより別の何かが頭に浮かんでたんだよね」
そう言ったハジメは少し焦っていたのか少し早口だった。
コメント
:パパ活?
:このコメントは削除されています
:エンコウかな?
:セーフ
:オンプちゃんキャバクラ知らなかったんだ。ならしょうがない!
:ホムラナイスセーブ
:いやアウトでは?
「えーっと、まぁはいという訳で2人目のキャストはどうでしたか?お客様」
「んーそうだね。しりとりが異様に強かったってのもあったけど、それよりも最後の最後で何かやらかしそうな雰囲気を感じて、全部そっちに持ってかれちゃったわ」
「うん、俺も聞いててちょっと怖かった。流石の俺のチャンネルでもそれはアウトかな。という訳だからオンプさんには配信終了後、俺からキャバクラについての資料を送らせてもらいたいと思います。」
俺はメッセージ内で謝り倒しているオンプさんに、コレで勉強しなさい!と事前に俺が調べてまとめたキャバクラ関連の資料を渡した。
「とまぁここまで2人のキャストにもてなされてきましたけど、どうですかお客様?」
「そうだね。正直な感想を言えば無条件に可愛い女の子からよいしょされたりして、超最高だな!マジで神企画だなホムラ!」
「いやー俺もそう言って貰えて嬉しいよ。という訳だから今の所切り抜きして拡散しといてねみんな」
コメント
:了解!
:炎ハジメ炎
:任せとけ
:草
:うわっもう切り抜き上がってんだけどw
:すげー早すぎだろw
「よしっ!コレで一緒に燃えようぜハジメ!」
「うおぉぉぉぉい!やめろぉぉぉ!!」
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54話 バーチャルキャバクラ その4
「それじゃあお客様本日最後のキャストになります。こちら当店1の人気キャストの桃崎姫花です」
「はぁい♡ハジメさん、お兄ちゃんがいつもお世話になってます♡姫は桃崎姫花っていいまーす。よろしくねん♡」
「あ、ああよろしく。それでお兄ちゃんってのはもしかして……」
「うん!姫のお兄ちゃんはホムラお兄ちゃんだよぉ♡」
「そ、そうか。なんかすごいなぁ」
企業所属vtuberだとしてもここまで突き抜けているやつも珍しいのと、姫ちゃんの甘える様な猫撫で声で俺の事をホムラお兄ちゃんと呼んだ事に、ハジメは若干押され返事がタジタジになっていた。
その気持ちわかるぞハジメ。
本当やばいよなコイツのvtuber適性の高さ。
でも知ってるかハジメ、コイツの中身超エリート一家の中でもエリートな奴なんだぜ。信じらんねぇだろ……
「それじゃあ今から10分間の接待プレイよーい始め!」
「ハジメさん!ハジメさん!」
「どうかしたのかな?」
「姫ねぇ姫ねぇあれ見てみたいの〜」
「アレって?」
「えーっと何だっけ?何とかタワーってやつ何だけどぉ……」
「もしかしてシャンパンタワーかな?」
「そうそうそれそれ!姫それ見てみたいなぁってダメかな?」
開始早々10秒も経たないうちに姫ちゃんは、この店で1番高い料金に設定してあるシャンパンタワーを、今日初対面のそれも相手はあの二階堂ハジメに、一切臆する事なくねだりに行った。
その様子を静かに聞いていたオンプさんと梅さんは、メッセージ内で大変盛り上がっていた。
「うーんそうだね」
「あ!ごめんなさい……ダメだよね。そうだよね姫なんかの為に……」
そう言って姫ちゃんはわざとらしく落ち込むと、まさかの泣き真似までし始めた。
その様子にコメント欄は荒れに荒れ、そんな空気に折れたハジメは大声で叫んだ。
「店長!姫花ちゃんにシャンパンタワー一丁!」
「かしこまりましたぁ!シャンパンタワー一丁!!」
「やったぁ!ありがとうね♡ハジメさんだーいすき♡」
そんな周りを一瞬で仲間にしてハジメに払わさざるを得ない状況に追い込んだ様子を見た俺は、姫ちゃんの頭の良さを再認識する事になった。
その姿はいつもの様なメスガキではなく、計算高い悪女の様に見えた。
女って怖えぇ……
「あっそう言えばハジメさん!ハジメさんってクリーチャーハンターってゲーム知ってますか?最近姫そのゲーム始めたんですけどぉ、難しくって全然クリア出来なくって、こういうゲームって男の子なら得意って聞いたんですけどぉ?」
「え!姫花ちゃんクリハンやるの?」
「はい!」
事前にハジメの事を調べていたのか、姫ちゃんはハジメが今ハマっているゲームであるクリーチャーハンターの話題を振り、そして姫ちゃんはゲームの知識も結構ある様で、俺もよく分からない話をしてハジメと盛り上がっていた。
「そういえば!ハジメさん知ってますかうちのお店って店長が料理を手作りしてるんですけど、それがすっごく美味しいんですよ♡」
「へーそうなんだ」
そう返したハジメの声は知ってる知ってると言っている様に聞こえた。
「それで特にエビチリが美味しいんですよねぇ♡」
「「!?」」
まさかここでエビチリの話題が出た事には、流石の俺とハジメも素で驚いてしまった。
「そ、そうなんだ……実はちょうど俺もエビチリ食べたいと思ってたんだよね。店長エビチリお願いします」
「あ!それと店長あのボトルをハジメさんに」
「「あのボトル?」」
あのボトルって何だ?俺そんなの聞いてないっていうか用意してないぞ?
そんな俺たちの疑問に答えるように、姫ちゃんは話を続けた。
「えーっと実は、ちょうど昨日エビチリに合うお酒がお店に入ってたんですよね店長♡」
「え?あ、うん。そうだね入ったね多分。うん」
「ねー!だから出来ればハジメさんにはエビチリを美味しく食べて欲しいと思ったんだけど、姫の余計なお世話だったかな?」
「いや、ありがとういただくよ。」
「やったぁ!」
その後も姫ちゃんはほぼほぼハジメを騙す形でお酒を頼ませたり、しりとりをした際にハジメにお酒の名前を言う様に誘導して、ハジメが言った瞬間にそれをオーダーしたりと、はっちゃけまくり最終的にたった10分で姫ちゃんはハジメから150万近く近くむしり取った。
「はい!10分経ちました!終了です」
「あ、もう終わったのか」
「おう終わったぞ。んでどうだったハジメうちのエースは」
「いやーなんて言うか凄いね」
「だろ!とは言えこっちとしては想定以上だったけどな」
「そうなのか?」
「そらそうだろハジメお前この10分でいくら使ったと思ってんだ?」
「え?いくらだろ?確かシャンパンタワーが100万だったよね……120ぐらい?」
「残念150だ」
「え!」
ハジメは自分が思っていたよりも金を使っていた事に驚き、小声でポツリポツリと自分が今さっき頼んだものの計算をしていた。
「というか本当に姫ちゃん凄かったよ」
「そー?姫的にはよゆーだったんだけどなぁ♡」
「うわっマジじゃん!てか俺めちゃくちゃ酒頼みすぎだろ……」
コメント
:姫ちゃんってもしかして頭いいのでは?
:姫ちゃん怖えぇ
:魔性の女じゃん
:10分で150万はやばいw
:今日新たに判明した一面 梅ちゃん演技力 オンプちゃん天然煽り性能 姫ちゃん頭の良さ
:すげぇ
「はいという訳で全員分終わったので全員集合!」
「「「「はーい」」」」
「それじゃあ1人ずつ感想聞いてぼちぼち配信を終わりたいと思います。それじゃあまずは梅さん」
「はい!今日の配信では私の推しだったハジメさんと一緒にコラボ出来て大変嬉しかったです!それに久しぶりにキャラを作っての演技が出来たのが楽しかったですね!」
そんな梅さんの感想を聞いて俺は改めてこの企画をやって良かったのと、今度またどうにかハジメとコラボさせてあげようと考えた。
「それじゃあ次はオンプさん」
「はい。まず今日はよくキャバクラの事についてよくわからないまま参加してすみませんでした。配信を終えてからホムラさんに貰った資料をしっかり読み込んで、次の配信ではしっかりお金を取れる様に頑張りたいと思います」
「直球だなぁ〜」
今回のオンプさんのミスは俺の事前確認が甘かったせいで起こった事故だ。次回のバーチャルキャバクラをする際は、事前にもっとしっかりチェックをする事を心がけよう。
「はいではたった10分で150万近く稼いだうちのエース桃崎姫花さん感想をどうぞ」
「えーどうしたの?お兄ちゃん♡そんな他人行儀で、いつもみたいに姫ちゃんってよんでよぉ!」
「はいはいそれじゃあ姫ちゃん感想をどうぞ」
「はーい♡姫的には今回の企画すっごい楽しかったんだけど、持ち時間が1人10分ってのがちょっと短く感じたなぁ〜」
「なるほど」
「他にもゲームのバリエーションを増やしたり、順番待ちの間に出来ることとかあったら姫的には最高なんだけどなぁ♡」
「それは俺もやってて思ってたから、次回までには改善出来てるように努力するよ」
そう言って俺は姫ちゃんに言われたこと以外にも、今日の配信で気になった事をメモ帳に書き込んだ。
「それでは最後にたった10分で150万も散財したしりとり王(笑)ハジメ感想をどうぞ」
「おい!俺の扱いだけ酷くねぇか?」
「はいはいそう言うのいいんで、時間押してるから早く感想言ってねー」
「そうだな。俺はこういう企画は初めてだったから緊張したし、何よりもしこの企画を持ってきたのがホムラじゃなかったら多分受けてないと思う。いやまぁ受けた時も騙し討ちみたいな感じで受けたんだけどさ……。でも終わってみて思ったのは、本当に心の底からこのコラボ受けてよかったと今では思ってる。それぐらい最高に楽しかった!また変な企画やる時は誘ってくれよ!」
「おう!任せとけ」
コメント
:面白かった
:最高
:初めはどうかと思ってたけど面白かった
:次回も楽しみ!
:またやってくれ
:ホムラはキャバ嬢やんねぇの?
「やんねぇよ!っと最後は俺だな。正直この企画はノリと勢いでできたものだから、細部とかガバガバだったのがこの配信でわかったから、次回のバーチャルキャバクラは今回よりももっと最高の者にしてやるから、お前ら首を長くして待っとけよ!それじゃあ乙ホムでした!」
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第5章 新たなるステージ
55話 反撃の狼煙
バーチャルキャバクラの配信が無事終わりそれから数日後、俺はこの企画をする前は女性vtuberの蔑称の様なものを配信の企画にしてある時点で、絶対に炎上すると思っていた。
と言うか始まる前は燃えていた。
だが企画をやってみたらびっくり!思っていたよりも企画は好評で最近謎炎上続きだったのだが、一部は今まで通り騒いでいたがその他、特にライブでの謎炎上で俺の事を知った人たちからのまさかの好評で、今までとは違い炎上が鎮火してからチャンネル登録者が減る事はなく、今回の企画の成功も含め俺の登録者は2万人を突破した。
そしてこの事をツイートすると、ハジメやホムラガールズの皆んなに、ユメノミライのメンバーからお祝いのメッセージが届いた。
それも俺とはほとんど交流の無いクラゲさんを含めた3期生のメンバーからも、お祝いのメッセージが来た時は何だか昔の様に自分がユメノミライのメンバーの様に感じ、そして最近はゆっくりながらもそこそこ自分の知名度と人気が上がっている事で自信が付いてきた為、俺は久しぶりに表立ってユメノミライのメンバーに返信を返した。
その事に界隈の一部が少しざわついたが、俺は今までとは違いそんなどうでもいい事は気にしない事にした。
そんなこんなありながらも俺の日常は特別何かが変わった、と言う事はなくいつも通り配信をしていた。
配信でも以前より俺への誹謗中傷は減り、それ以上に俺への応援の声が増えた事により、俺の配信は前の様などんよりとした空気は無く普通のvtuberの様な配信になっていた。
そして俺はここで今までの自分と変わる為にも、昔ユメノミライとのゴタゴタのせいで連絡が取れなくなっていた、俺のと言うかは九重ホムラのママに当たる絵師のmeme先生に連絡を取る事にした。
『お久しぶりですmeme先生。九重ホムラです。この度は運営を通さず連絡をしてしまい申し訳ありません。本日はmeme先生に折り入ってお願いしたいことがありまして連絡させていただきました。もしお時間大丈夫でしたらお返事よろしくお願いします。』
俺は緊張から震える指でキーボードを叩き、そのメッセージをmeme先生のメールに送った。
だがメール送ったはいいものの、正直俺はmeme先生から返信が返ってくるとは思っていなかった。
実は俺とユメノミライの運営ゴタゴタがあった時、詳しい事はわからないが運営がmeme先生に結構失礼な事をしたらしく、その事に怒ったmeme先生は当時俺に謝りながら、「もう2度とユメノミライとは仕事をしない」と言わせてしまったんだ。
だから俺はmeme先生から返信は来ないと思っていたのだが、なんと驚いた事にメールを送信してから1時間も経たない間に、meme先生から返信が返ってきた。
その事に驚きながらもたとえどんな内容であろうとも、返信してくれた事に喜びを感じながら俺はそのメールを開いた。
『こちらこそお久しぶりですホムラさん。それでご用件というのはなんでしょうか?』
開いたメール内容が俺のことを批判する事ではなく、昔と同じ変わらない様子で返信してくれた事に、少し嬉しく感じた。
そして俺はそのままの勢いで今回メールを送ろうと思った内容を返信した。
『今回私はmeme先生に一つご依頼したいことがあり連絡をとらせていただきました。勿論meme先生が個人からの依頼や、ユメノミライとの依頼を取っていない事も承知ですが、今回はmeme先生にしか頼めない事なので依頼をお願いしたいと思います。』
その俺のメールを送ってから数分で返信が来た。
『今回のご依頼はホムラさん個人からという事ですか?もしそうであるのなら内容次第ですがお受けしたいと思います。』
そのまさかの依頼内容にもよるが、了承に近い返信に俺は驚きながらもその場でガッツポーズをすると、俺はまだまだ先の話になるのだが、俺がやろうとしている事とその際に使いたい九重ホムラの新衣装を依頼したい事を説明した。
その俺の計画を聞いたmeme先生は、その計画が本当に上手くできるのか?と聞いてきた。
俺はそのmeme先生の質問に確定では無いが、ほぼほぼの確率で出来ることを伝えた。
実は前にユメノミライの事務所に行った時に、園野さんと交換していた連絡先にあれから何度も連絡しており、今回計画についてを園野さんを含めた、一部のスタッフさんと話を進めていた。
その計画とは一言で言ってしまえば、九重ホムラの権利を俺がユメノミライから買い取ると言うことだ。
以前から俺はもっと自由に色々なことをやりたいと思っていたのだが、どうしても企業所属の身である為ある程度以上の事は、運営と相談してやらないといけない為、運営から無視されている俺は自由に活動が出来ず、ずっとそこが気がかりだった為、俺はこの計画を思いついた。
ここまで聞いたものなら、そんなクソみたいな企業辞めて個人にでもなればいいんじゃ無いか?と思うだろうが俺も自分が所属している事務所が、ユメノミライじゃなければもうとっくの前に辞めているだろう。
だが俺は例えこんなクソみたいな運営の元であろうとも、それ以上にユメノミライが大好きなんだ。
勿論キラメ達ユメノミライのメンバーも好きだし、昔から俺達の活動をサポートしてくれていたスタッフさん達も好きだし、そんな全てをひっくるめたユメノミライと言う事務所自体も大好きだ。
だから俺はどうにかしてユメノミライの事務所に席を置きながらも、自分が自由に動ける環境を整えようと考えたのが、今回俺が考え結構前からゆっくりと進めていた計画の全貌だ。
だからもしその計画が成功して、俺がもう一つ上のステージに上がった時には、俺を除いた一期生のメンバーがアイドル売りをする際に、俺達の始まりの衣装を脱ぎ捨てて上のステージへと駆け上がったのだ。
だからこそ俺も自分の中で一つ上のステージに上がる際は、今の衣装から新しい衣装へと進化しようと考えたのだ。
そしてその話を聞いたmeme先生は、俺の依頼を受けてくれる事になった。
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56話 ホラーゲーム
「おら!お前らホラーゲームの時間だ!」
コメント
:おお!
:ホムラホラーって大丈夫なん?
:きゃー
:楽しみ
:ホラゲーの何やんの?
「えーっと?俺がホラーが大丈夫か?全然大丈夫じゃ無いな。普通に怖いのは苦手だ。特に幽霊系が無理だ。んでやるホラーゲームはなんか最近流行ってる、深夜のコンビニバイトをするやつです」
俺は若干震える声そう答えた。
コメント
:ホラー苦手なんかよw
:おいおい雑魚か?
:じゃあなんでホムラはホラゲーやろうと思ったん?
:俺もホラー苦手だわ
:男の悲鳴なんて誰得なんだよw
俺はホラーゲームを始めるのが嫌で、配信画面はゲームの開始画面のままで、どうにかリスナーとの会話で時間を稼ぐ事にした。
「すまんなお前らホラーゲーム苦手で、でもそんなこと言ってるけど、どうせお前らもホラーゲーム苦手だろ?と言うか得意な奴がいる方が信じらんないわ。だってそうだろ?お前らもよーく考えてみろよ。暗闇でいきなり血まみれの女が現れたらどうだ?怖く無いか?」
コメント
:いやまぁそう言われたら怖いけどさ……
:でも所詮ゲームじゃん
:ホムラビビりすぎだろw
:早くゲームやれよ
:それは怖い
「それでじゃあなんでこんなゲームも始めず、ぐちぐち言ってる奴が急にホラーゲームやり始めたかって?実はな昨日久しぶりにmeme先生と話したんだけど、その時に出来ればこのゲームやってほしいって言われてな。それでしょうがなくやる事になったって感じかな」
コメント
:meme先生と?
:そういやホムラのママだったな
:え!?ホムラmeme先生と知り合いなの?
:そうだったんだ
:あれ?でも確かmeme先生ってユメノミライと仕事しないって言ってなかったっけ?
meme:ホムラさんホムラビトさん達とお話しするのもいいですけど、出来れば早くゲームを開始してくださいね
「あ、はい……わかりました。」
いきなりコメント欄に現れたmeme先生の圧を感じだ俺は、その言葉に反抗する事なく静かに了承した。
そうして俺の気持ちとは裏腹にホラーゲームは始まり、俺の気持ちはどんどんと憂鬱な気分になってきた。
コメント
:meme先生だ!
:ホムラビビりすぎw
meme:よき
:草
:meme先生よきは草
「それじゃあやってくかぁ……」
そうして始まったゲームは低テクスチャで、最近のゲームでこのテクスチャだった為驚きながらも、それ以上にそのテクスチャの荒さに俺は余計に恐怖心を感じた。
「うへぇ……怖えー。と言うかすげーテクスチャ荒いな」
そんなことを言いながら俺はビビりながら部屋の探索を始めた。
部屋の中にはクローゼットや冷蔵庫にレンジ、その他テレビにベッドがあった。
その中で俺はクローゼットからタイトルにある様に、夜勤バイトをするための制服を回収してその後は部屋を出た。
そうして少しボロ目のアパートを出て、バイト先に向かおうと暗がりの夜道を歩くのだが……
「いやバイト先どこだよ!」
バイト先を探し始めてから既に10分経っているのだが、バイト先は見つからずにいた。
コメント
:迷子なう
:これも時間稼ぎか?www
:まだ?
:なんでホムラさっきからずっと同じところぐるぐる回ってんの?
:草
そうしてその後も結局バイト先が見つからなかった為、コメント欄の指示に従ってバイト先へと向かった。
そうして向かった先には周りに何も無いところにポツンと一つだけ佇んでいるコンビニがあった。
そんなこんなでコンビニに入るとそこには胸に店長と書かれたバッチをつけた1人の男性がそこにいた。
その男性、店長に話しかけると店長はいきなりしょうもない話をし始めた。
そんなことがあった為俺はホラーゲームもこの程度か、と思いその後はリスナーと軽く雑談をしながらゲームを進めた。
「いやぁーホラーゲームってこの程度なんだなw全然怖くねぇな」
コメント
:そらそうだろまだ始まってないんだから……
:コイツチュートリアルでイキってるぜw
meme:この後が楽しみ
そんな感じで俺は余裕綽々な態度で俺は偉そうなことをドヤドヤ言っていた。
その時いきなりコンビニの扉の開閉音が聞こえた。
「…………。おーい誰かいますか?ねぇ?」
俺は先程までの余裕は何処へやら?完全にビビりながら音の鳴る扉の方へとゆっくりと向かった。
そしてそこには誰もいないはずなのに、永遠と開閉し続けるコンビニの自動扉があり、俺は完全にビビっていた。
だが俺がその扉に近づくとその扉が勝手に開閉する事はなくなった。
その後コンビニに宅配のにいちゃんがきたと思えば、そのまま1日目が終了した。
「怖え!これで終わりか?やっばへんな汗かいて来た」
コメント
:まだまだ序盤だぞ
:これそんなに怖いゲームか?どっちかと言うとネタ系じゃね?
meme:悲鳴まだ?
:ホムラビビりすぎだろw
「meme先生……このゲームもう辞めていいですか?」
俺は思っていたよりホラーゲームが怖かった為、1人コメント欄で俺の悲鳴を要求しているmeme先生に懇願した。
のだが……
コメント
meme:ダメ
:いやダメだろ
:まだ始まったばっかだぞ?
:せめて三日目まではいけ
:早く続きやれ
そして案の定俺の願いは叶えられる事はなかった。
その後二日目はねずみ取りをやったり、トイレを借りるだけ借りる謎ババァと話したり、クソ客に酒を5往復して届けさせられたりした。
「自分で運べやこのゴミクソやろう!」
配信を開始して1時間経った頃、いきなり幽霊が出て来ても大丈夫な様に、警戒をしていたせいでイライラしていたのもあり、俺はそのクソ客にこの配信を始めてからの鬱憤をぶつけまくった。
「ふぅ……スッキリした!」
そんなこんなあり二日目は終了した。
そして何故かコメント欄のリスナーが楽しみにしていた三日目がやって来た。
コメント
:きた!
:三日目突入!
meme:さぁ
:キタァ!!!!
:来るぞ!
「あれ?今日は店長居ないのか?まぁ居ても鬱陶しいだけだからいいんだけどさ」
そんなことを言いながら俺はいつもの様にタイムカードを切るために事務室へと入ったその時、パソコンからバァァァン!!っと言う大きな音と共に居なかった店長がロッカーから飛び出して来た。
「クソ野郎!●ね!クソが!何考えてんの頭おかしいんじゃねぇの?●ねボケカスが!驚いた?じゃねぇよ!ボケナスアホカスクソ野郎が!」
コメント
:草
:wwwww
meme:いい
:クッソ暴言で草
:コイツはマジでカス
:memeママw
「はぁー!もうクソ!やってられるかこんなゲーム!ホラーゲームなんか二度とやるか!例えmeme先生に頼まれたとしても絶対やらん!という訳で乙ホムでした!」
そう言いながら俺は若干キレ気味で、誰の制止も聞くこともなく、俺はそのまま配信を強制終了した。
コメント
:あーあ辞めちゃったw
:クソワロタ
:ホムラビビりすぎだろw
:あれ思い出したファイヤーパンチ
meme:また今度おすすめのホラーゲーム紹介するね
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57話 お弁当
初のホラーゲーム配信は、結局あの後1時間後に再度枠を取り何度も休憩をとりながら、なんとかゲーム自体はクリアすることが出来たのだが、後半に行くにつれてどんどん俺の口数が減っていき、最後の方は無言配信という俺の最も嫌う配信内容になってしまったことを、翌日の朝になって後悔した。
だから俺は周りになんと言われようとも、そんなダメダメな配信のアーカイブを残すわけにはいかない。
という訳で俺は昨日のホラーゲームの配信のアーカイブは非公開にした。
勿論その俺の行動には大量の非難が集まったが、そんなもんこちとら慣れっこなんじゃい!
てな感じで今現在は放置している。
「よしっそろそろ洗濯でもするかな」
俺は自分のチャンネル画面を映し出したスマホをポケットに入れ、ちょうど今日はいい天気だったので洗濯のついでに布団でも干そうと思いながら、自分の布団を持って部屋を出て庭へと向かう途中のリビングで、今朝俺が作った弁当が一つ余っている事に気がついた。
「誰だ弁当忘れたの?」
そう呟きながら俺は布団を小脇に抱えたまま、弁当を置いてある机に近づいたところで、その弁当が真冬のものだということがわかった。
もし忘れた相手が父さんか母さんだった場合は、代わりに俺の昼食にでもしようかと考えていたのだが、忘れた相手が真冬となると、中学校には購買なども無いため必然的に昼食抜きになるのだが、もしそうなってしまうと午後の授業に身が入らないと考えた俺は、自分の部屋から持って来た布団を部屋へと戻すと、洗濯物を急いで洗濯機に突っ込んでスイッチを押して、真冬のお弁当をカバンに詰めて真冬の通う中学校へと走り出した。
◯
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
ところ変わって真冬の通う中学校では今、4限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
その鐘の音を聴いたもの達は、各々授業の疲れを取るために伸びをするものや、友人と話し出すものに、授業中に居眠りをしていたせいか今になって、急いで黒板の文字をノートに写しているものなどの行動をし始めた。
それは勿論真冬も例外ではなく、授業が終わると同時に真冬と仲の良い数名の女子が、お弁当をその手に持って真冬の席へとやって来た。
「真冬〜お昼食ーべよ!」
「私もお腹ぺこぺこですぅ……」
「2人ともちょっと待ってね」
そう言って真冬が中学指定の鞄に手を入れた時、そこにいつもならあるはずの、毎朝毎朝兄が朝早起きしてわざわざ作ってくれているお弁当がない事に気がついた。
「あ!」
そしてそれと同時に昨日少し夜更かしをしたせいで今朝少し寝坊して、急いで家を出たことを思い出し、その際急いでいたあまりお弁当を机の上から持って来てなかったことを思い出した。
どうしよう……
お弁当を取り出そうとして鞄に手を突っ込んだ後に悩み出した真冬の姿を見た2人は、真冬がお弁当を家に忘れたことを察することができた。
「真冬もしかしてお弁当家に忘れた?」
「うん。ちょっと朝バタバタしてて……」
「そうなんだぁ。じゃあ私のお弁当ちょっと分けてあげるね〜」
「本当?ありがとうね」
「じゃあ私のミートボールもあげるぜ!」
「2人ともありがとう!」
そんな感じで3人が一つの机にお弁当を広げながら話していると、廊下の方から大きな悲鳴……と言うよりかはアイドルや芸能人に向ける様な黄色い歓声が聞こえた。
「え?なになに」
「どうかしたのか?」
そんな声に釣られて教室の中に居た生徒達は、その声が聞こえた廊下の方へと、その歓声を一身に引き受ける人物が誰なのかを確認するために、自分がいち早く見るんだと勢いよく廊下へと出ていった。
そんなことがあったのにも関わらず、真冬は全くそれに興味がない様子で廊下の方へと振り返る様子すらなかった。
そんな真冬の様子を見た友人の1人が手に持ったお箸をかちゃかちゃしながら声をかけて来た。
「真冬ってこう言うの興味ないの?」
「一切ありませんね」
「へーそっか!」
「そう言うあなたはどうなんですか?」
「そりゃー勿論興味はあるよ!けどわざわざ立って廊下まで行ってみるほどかって言われると、そこまでじゃないかな」
「私も〜」
そんな感じで3人で話しながらお昼ご飯を食べようとしたその時、先程よりももっと大きな叫び声が聞こえた。
それもさっきよりもこの教室の近くで……
流石に2回目で更に先程よりも大きい声だった為、3人はご飯を食べようとする手を止め、気になったのか一斉に廊下の方へと視線を移した。
そしてその瞬間扉の先から身長は180を優に超えるであろう高さに、すらっと伸びた足に引き締まった腰回り、そして何より中学生には刺激が強すぎるほどの整った顔付きのイケメンが歩いている姿が見えた。
「え!?誰?あのイケメン!新しい先生?」
「すごー」
いきなり見たことの無いイケメンが学校に現れた事に、2人は驚き興奮した口調でそう呟いた。
そして真冬も2人とは違う意味で驚き声を上げた。
「な、夏兄どうしてここに?」
「お!真冬よかったよかった!お前机の上にお弁当置きっぱなしにしてただろ?お弁当無いと午後の授業で力出ないだろ?だからお弁当持って来てあげたぞ」
そう言って長身のイケメン……私の兄である夏兄がカバンの中から見覚えのあるお弁当袋を取り出すと、こちらに大きく手を振りながらやって来た。
そして私の元へとやってくると手に持っていたお弁当を私の前へと置くと、そのままの流れで夏兄はさっきまでお弁当を持っていた手を私の頭の上に乗せると、軽くポンポンと叩いた。
「それじゃあ俺の用事はこれだから帰るけど、真冬午後の授業も頑張れよ」
そう言って夏兄は手を私の頭からどかすと、軽くひらひらと手を振りながら教室を後にした。
そして次の瞬間先程まで廊下にいた生徒が一気に教室の中に入ると、私の机の周りを囲みみんながみんなおもいおもいのことをはなし始めた。
勿論私は聖徳太子でも無いので、そんなにいっぺんに言われたところで聞き取れないのだが、微かに聞き取れた中には、「お兄さんすっごいイケメンだね」や「あの人名前なんて言うの?」などが聞こえた。
それで今まで私への当てつけとして、散々周りから変な噂をたてられていたのにも関わらず、たった一度学校に来ただけでそんな噂を全て吹き飛ばして、一瞬にして私の学校で人気者に成り上がった兄の姿を見て、やはり私の夏兄は凄いんだ!と改めて思った。
◯
「いやー久しぶりに中学校とか行ったけど、みんな騒いでて元気だったな〜」
けど俺が職員室でたまたま近くに居た若い女性の先生に、真冬の教室がどこにあるか聞いた時なんでか知らないけど、周りの特に若い男性の先生達から睨まれたけど、そんなに俺怪しい格好してたかな?
それに女性の先生が何故か連絡先聞き出そうとして来たし、その時の顔ちょっと怖かったな……
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58話 エンドラハードコア その1
とある日の配信終了後、いつもの様に長時間座り作業をして溜まった疲れを取るために、伸びをしているとハジメから連絡が来た。
『おーいホムラ今大丈夫か?』
今日の配信が長時間だった為疲れもあったせいか、若干面倒臭いと感じたが俺はハジメに返信を返した。
『面倒だけど大丈夫だぞ』
『素直だな!そこは嘘でも黙っとけよ!まぁいいや、それで本題なんだけどさ、ウチのENにウィルシスって子が居るんだけど知ってるか?』
ウィルシス?あーなんだっけか確か……
『最近何か男性の声が入って燃えてた子だっけ?何か女性vtuberは、ちょっと配信に男の声が入るだけで燃えるなんて可哀想だよな〜』
『そうそうその子。それでその子がホムラとコラボしたいって言ってるんだけどどうだ?あと俺の身近に生きてるだけで常に発火してる男性Vも居るけど、そいつよりかはマシだと思うぞw』
『うっせwそれでコラボって何するんだ?あと俺殆ど英語喋れないぞ』
『あーそれなんだけど、マイクラフトのエンドラハードコアを一緒にやりたいらしいぞ』
『へー、エンドラハードコアね』
マイクラフトとは世界の全てがブロックでできており、その世界で家や街を建築したり、モンスターを倒したり、広大な世界を冒険したりと、その圧倒的自由度で人気を博しているゲームだ。
それでエンドラハードコアとは、一応マイクラフトの世界には何体かのボスと呼ばれる生物が居て、その中の1匹にエンドラゴンと言うドラゴンが居て、そいつを一度でも死んでしまったら復活が出来ないゲームモードで、一度も死なずにそのエンドラを倒すのがエンドラハードコアと言うものだ。
『俺は別にコラボは大丈夫なんだけど、初のコラボでエンドラハードコアって大丈夫か?あれ1人でさえ結構大変なのに、2人以上でやるとなると相当長丁場になると思うぞ?』
『あーその辺は大丈夫じゃない?ウィルシスちゃんお前のファンだし。それにエンドラハードコアも配信で何度もクリアしてるし大丈夫だと思うぞ』
『え!?何?俺のファン!何だよハジメ!それをもっと早く言ってくれよ!さ!それでそのウィルシスさんとはいつコラボ出来るんだ?』
『勢いキモwまぁ俺も初めてホムラのファンって聞いた時はすげえ驚いたな。そーいやお前の後輩のクラゲちゃんが炎上してる時に、後輩から聞いたって言ったけどその後輩ってのがウィルシスちゃんなんだよな、何でもお兄さんが大のユメノミライのファンで、それ経由で気付いたとかなんとか』
『そうだったのか、って事は最近の炎上もお兄さんの声が配信にのっただけなのか?』
『そうそう、まぁその炎上も普通に炎上した次の配信にそのお兄さんが配信に出てすぐに解決したらしいけどな』
『何だその鎮火能力!是非俺にください』
『いや流石にホムラの常時炎上状態の状態異常の鎮火は無理だろwまぁもし鎮火出来たとしてもホムラの場合鎮火と同時に別の場所から発火しそうだけどなwww』
『や、やめてよハジメ君!たとえ本当のことだと言えど相手が傷つく事は言ったらダメなんだぞ!先生に習わなかったの!』
『ごめんね』
『いいよ!』
その後はいつもの様に何の生産性もないクソみたいな会話を永遠に続けた。
それと今度の週末に、俺とハジメとウィルシスさんの3人でコラボする事が決定した。
◯
という訳で週末
「Hello!今回はアンダーライブとアンダーライブENとユメノミライの3つのグループでの異色コラボだ。まずはこの俺アンダーライブ一期生の二階堂ハジメだ!次はこいつだ!」
「Hello, I'm Wilsys from Under Live EN. Today I'm really looking forward to my first collaboration with Homura-sama, who I love very much.」
(こんにちは私はアンダーライブEN所属ウィルシスデース。今日は私の大大大好きなホムラ様との初コラボすっごく楽しみデース!)
「あーえっと、何言ってるか全然わかんないけどEN所属のウィルシスちゃんです」
「よろしくデース!」
「そして最後はここ最近どんどん冬に近づいて外は寒くなったのにも関わらず、コイツの近くはいつでもホットな男!九重ホムラ!」
「Nice to meet you, Willis. Thank you for inviting me to collaborate with you today. And is it true that you are my fan?」
(初めましてウィルシスさん。今日はコラボに誘っていただきありがとうございます。それと俺のファンっていうのは本当ですか?)
「yes yes.」
「I'm grateful for that」
(そっかそれはありがたいな)
そんな感じで俺とウィルシスさんの2人で会話していると、その会話を黙って聴いていたハジメが急に叫び始めた。
「あぁぁぁぁ!!!お前ら2人とも英語で喋んじゃねぇ!俺がわかんねぇだろ!それにホムラァ!お前確か英語喋れないって言ってたよな?何で普通にペラペラと喋れてんだよ!騙したな!」
「What are you talking about, Hajime? Is this common knowledge?」
(何言ってんだハジメ?これぐらいは常識だろ?)
「That's right Hajime-senpai! Besides, Japan is a majority-rule country, right? In that case, if it was me, Homura-sama, and one of Hajime-senpai, wouldn't it be better for us?」
(そうですよハジメ先輩!それに日本は多数決の国ですよね?それなら私とホムラ様の2人と、ハジメ先輩の1人だったら私達の方が正しいんじゃないですかぁ?)
「だから!わかんねぇって言ってるだろうが!」
コメント
:俺もわかんねぇw
:LOL
:nice joke
:俺はハジメ側だな
:ギリ何とか聞き取れる
:クソワロタ
「はぁ、しょうがないなぁ〜ハジメ君は……ちょっとは英語の勉強してみれば?」
「ホムラ様のいう通りデスよハジメ先輩」
「うっせ、俺だって使っただろHelloってな!」
「いやそんなん小学生でも言えるレベルじゃねぇか!やるならせめて自己紹介ぐらいは英語で言ってみろよ」
「そこまで言うならやってやんよ!Hi! my name is Hajime Nikaidou thank you!どうだ!」
「はい、という訳で俺たち3人でエンドラハードコアやって行きたいと思います」
「オモイマース!」
「無視してんじゃねぇ!」
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59話 エンドラハードコア その2
自己紹介も終わり、俺達3人はマイクラフトの世界へとやって来た。
最初に俺たちがスポーンした場所は周りに数本の木が生えており、周りには豚や牛などの動物が住んでいる平らな大地、そう平原バイオームにスポーンしていた。
「ふーん最初は平原スポーンか、これって幸先はいいの?ウィルシスちゃん」
「村が周りにあったらカンペキデス。でも無くてPlainsあ、平原はアタリの方デス。」
「ぷっ、よかったなハジメ日本語訳してもらってw」
「あーもう、うっさい!うっさい!それにさっきのは文の流れで何となく意味はわかるからな!お、広い洞窟見っけ」
「さいですか、それで俺エンドラハードコアって初めてなんだけど、コレってまず何をやればいいの?普通にプレイするだけでいいのか?」
俺は周りに生えている樹を素手で殴りながらウィルシスさんに質問した。
「そうデスね。今回はタイムアタックでも無いので、安全最優先で最初は食料とベッドにツールの調達が大事デス!」
「なら俺は皆んなの食料集めのついでに、羊が居たら狩ってくることにするよ」
「ok.でしたら私は装備を整えておきマスね」
「あ、ヤベ」
俺とウィルシスさんの2人で今後の方針を軽く話していると、1人で勝手にどこかへ行っていたハジメが一言そう言った瞬間、画面の左下にハジメが某匠に爆殺されたとゲームログが出て来た。
「はぁ……ハジメお前な、まだゲーム初めて5分も経ってないんだぞ?」
「そうデスよ!ハジメ先輩」
コメント
:死ぬの早すぎだろw
:はぁーつっかえ
:lol
:あれ?ハジメってゲーム下手だっけ?
:死ぬならせめてもうちょい後にしろよ
ハジメは開始早々1人で突っ走った結果、特別面白い死に方でも無い雑魚死を晒しただけで、配信としてもゲームとしても何の旨みのない行動をとったおかげで、俺のチャンネルではボロクソに非難されていた。
「ホムラ様restartしマスか?」
「だな、ハジメもし次死ぬ時があったらせめて面白い死に方してくれよ?」
「誰も死にたくて死んだわけじゃねぇよ!……けどまぁ善処するわ」
という事で俺達3人は再度新しい世界を作って再開した。
そうして今回は俺が食料と3人分のベッドの調達、ハジメとウィルシスさんの2人で3人分の鉄装備用の鉄集めを開始した。
食料班である俺は敵との接敵がない為特別危険な目に遭う事はなく順調に豚肉や牛肉などを集めていって、採掘班は昼の地下という事で、敵のスポーンが地下に固まっているせいで何度か危険に陥りそうになりながらも、鉄を集めていった。
そんな感じで順調に見える俺達だったが、俺の方では少し問題が発生していた。
それが……
「やべー全然羊が居ねえ」
「そんなに居ないのか?」
「いや本当マッジで居ない、結構離れたところまで探しに行ったけど、1匹もおらんかったぞ」
「それはヤバイデスね」
「何でこんなに居ないんだよ!」
そんなこんなで日が落ちる頃まで探したのだが、結局あれから見つかった羊の数は2匹だけで、ベッド1つ作ることすらできぬまま夜を迎えてしまった。
日が落ち切る前に2人と合流していた俺は、焼いた肉をウィルシスさんに生の肉をハジメに配った。
「はいこれウィルシスさんの分の食料ね。それとこれがハジメのエサだぞ」
「エサって何だよエサって、まぁありがたくもらうけどさ。……ってこれ生肉じゃねぇか!」
「あっれー?おかしいな?確かハジメ分はよくお前がネタにする俺から出てる炎で焼いたはずなんだけどな?燃えてなかったか?」
「あーなるほど。いやーごめんごめんよく見たらしっかりと焼けてたわ。」
「だろ?」
「ならこれホムラの分の鉄な」
そう言ってハジメはさっきの仕返しと言わんばかりに、製錬されていない鉄鉱石を渡してきた。
「ありがとうハジメ!」
「どういたしまして!」
「……じゃねぇよ!ボケが!」
「はぁ?テメェが最初にやってきた事だろうが!文句言うな!」
「何だと?」
「やんのか?」
「お二人とも口は動かしてていいので、作業はしてください」
「「あ、はい」」
夜の間は外に出るは危ないという事で、ネザーに向かうために、黒曜石を取る為のダイヤモンドピッケルを作るために、ダイヤを地下で探していたのだが、まぁ驚くほどにダイヤは見つからず、尚且つずっと地下を掘っている為配信画面が変わり映えしない為、俺とハジメはいきなりクソつまらない三文芝居をし始めたわけだ。
ちなみにその後1人真面目に作業をしていたウィルシスさんが、1人でダイヤモンドをピッケルに必要な分を確保してくれた。
そうして再集合した俺たちはネザーへと出発する事になったのだが、ここからが本当の地獄だった。
まず今回だがネザーに入った瞬間ゲートが生成された場所が、溶岩の海の真上で勢いよくネザーゲートに突っ込んだ俺達3人は、そのままの勢いのまま溶岩の海にダイブして無事3人とも死亡。
次はネザー要塞を探している最中に俺が間違って豚畜生を殴ったせいで、そのまま袋叩きにあいたまたま俺の近くに居たハジメもそれに巻き込まれる形で死亡してリセット。
次は通常世界で渓谷に足を滑らせたハジメが1人死亡でリセット。
その次は……
そんな感じで俺達は何度も何度も死んではリセット、死んでリセットを繰り返した結果、総リセット回数は二桁を回り、配信時間もすでに開始してから5時間は経過していた。
「なぁ、2人に相談があるんだけどいいか?」
「どうした?」
「What's happen?」
「今回でラストにしない?正直この後何回やってもクリア出来る気しないんだけど……」
「おいおいホムラそんな弱気でどうする?配信者だろ?勿論俺はホムラのその意見には賛成だけどな」
「私もそれでイイデス」
そうして始まった俺達のラストアタックは、1人また1人と仲間が死んでいく中進んで行った。
「oh!sorry」
「いや大丈夫だウィルシスさん」
「まさか俺達の中でも最強なウィルシスちゃんが先に逝くとはな……」
最初に死んだのは今までで殆ど死んでいなかったウィルシスさんが、足を滑らせてそのままマグマに落ちてアイテム諸共焼け死んだ。
「くっ俺もここまでか……」
「ホムラ!おいおい嘘だろ?」
「後は頼んだぞ……」
「ホムラァ!」
次はネザー要塞に着いた俺達が、エンドラゴンが存在している世界に行くために必要な素材を集めているときに、その素材を落とす敵とその他の敵に集団リンチされた俺は、なす術なく一方的にボコられて無事死亡した。
だがそこからのハジメは凄かった。
覚醒したハジメは俺を一方的にリンチした敵に果敢に1人で突っ込むと、まさかの無傷でその敵を殲滅し、そのおかげでちょうど素材が必要数集まった為、通常世界に戻りそのままの足で、1人でエンドラゴンのいる世界エンドに向かい、圧倒的神技の数々で1人でエンドラを倒してしまった!
なんて事はなく、通常世界にネザーゲートを通って帰った先にちょうど良く某匠がおり、そのことに気がついていなかったハジメは自分の足で、匠の元へと行くと大絶叫と共に汚ねぇ花火となって散った。
「うあぁぁぁぁ!!!!せめてエンドには行きたかったぁ!何でそんなちょうどいいところにいんだよ!このクソ緑ぃ!」
「草」
「草じゃねぇ!」
「でもオチとして最高デスよ」
「よかったなハジメ、最後に面白い死に方できてw」
「よくねぇよ!」
コメント
:草
:最初と最後がハジメの爆死とかw
:クソワロタ
:www
:面白かった
:またコラボしろ!
:次はクリア出来たらいいね
そんなこんなで俺達の初コラボは残念ながらクリアは出来なかったものの、配信自体は成功でしめる事ができた。
ちなみに今後も何度かこの3人でエンドラハードコアコラボをした結果、第5回目でようやく初のクリアする事に成功した。
まぁ途中でハジメが死んだので、完全成功かは何とも言えない感じだったが……
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60話 買い物と女
ここ最近はユメノミライが大型ライブをした事で、ユメノミライの名前が一般層まで広がり、今まではキラメだけがうちで唯一100万人を突破していたが、ライブの後は視聴者が増えた事で、更にミリーと金城の2人が100万人を突破したり、その他バーチャルキャバクラと言う自ら炎の中に突っ込む様な配信のおかげで、ホムラガールズの認知度も上がり、特に梅さんはその配信を見ていた人からお芝居の仕事が入ったりもしたらしい。
それにウィルシスさんとのコラボのおかげで、海外勢とのパスが作れた事によって、着実に俺のチャンネルも育っていった。
だがそんなに色々やっても、やはり俺の登録者数は他のユメノミライのメンバーから見たら少なく、更に問題なのが俺には今後大きく登録者数を増やせる様な案がない事だ。
人気vtuberとコラボしてその人に引っ張ってもらう作戦は俺には男性vtuber人気トップのハジメが居るし、他に頼れる知り合いと言ったらユメノミライのメンバーだが、ライブの影響で新規さんが多く入った事でより俺の存在はユメノミライで気薄になり、更に男性とのコラボでの炎上の威力と範囲が、爆増した事によってこの手は使えないし、かと言って他に知り合いがいるかと言われれば、居るっちゃ居るがそれは特別仲が良いとかではなく、単に俺がvtuberとしては古参の部類に当たるから、そのおかげで知り合いが多いと言うだけで、正直これも使えない。
他には例えば炎上商法と言って、わざと大炎上する事で世間に名前を広めると言う手段があるのだが、この案こそ論外だ。
なんでかって?そんなもん長年燃やされ過ぎだから、今更俺が普通のvtuberが燃える様な内容で炎上したところで、世間様はふーんって程度しか反応してくれなくなったし、もしそれ以上に炎上させるとなると多分俺がvtuberを続けられなくなる。
だからこの案も却下だ。
なら正攻法で画期的な企画をやって人気を得る?
これこそ不可能だ。
何故かって?例え俺が見るもの誰もを涙させる様な神企画を考えた所で、それは見て貰えて初めて発揮するもの、初めから見て貰えない俺にはどうすることもできない。
それにそんな神企画がポンポン出せるほど俺はvtuberとして凄くはない。
他にも大型のゲーム大会に出るとかも考えたが、そもそも俺は特別ゲームが上手いわけでも下手なわけでもない為、例え大会に参加できたとしても目立てて、尚且つそこから自分のチャンネルに持って帰って来れるかと言われると正直難しい。
いやー本当どうするかな……
そんな事を考えながら、今日の晩ご飯で使う食材を買い物籠に入れていると、偶々近くに居た高校生?ぐらいの男子グループの声がうっすらと聞こえた。
「なぁお前昨日の配信見た?」
「見た見たミリーちゃんのあのゲームのうまさ!神レベルだわ」
「それを言うなら八雲の方がうまいだろ」
「ハァ?どこがだよ!」
俺は聞こえて来た会話の内容に驚き、意味も無く物陰に隠れてしまった。
ちなみにさっきミリーと一緒に名前が出た八雲って言うのは、アンダーライブ所属vtuberの1人でよくミリーとコラボしては、ゲームの腕のうまさを勝負してるライバルみたいな人だ。
例え自分のことじゃ無くても、一般のそれも多分高校生と思われる集団から、vtuberについての話題が聞こえた事に、嬉しくなり俺はその集団の後をこっそりと付けて、よくないとは思いながらも、その会話の内容を盗み聞きした。
にしても今時の高校生はvtuberなんて見るんだな……
俺のチャンネルの視聴者層は20代から30代が殆どなので、そんな若い世代も見ている事に驚いた。
なら俺は、今度からはもっと若い世代に注目がいくように意識して配信をした方がいいのかな?
「そういや最近のハジメの配信結構面白いよな」
「わかる!この前のガチャ配信で大爆死してたのは笑ったわ」
「ハジメって偶に神に愛されてるよな」
「「わかる!」」
そんな事を考えながら後をつけていると、例の集団からハジメの名前も出て来て、その推定高校生達からの人気様から俺は、最近距離が近過ぎて忘れそうになるハジメの人気具合を思い出した。
それと少年達よ!俺もその気持ちわかるぞ!
俺もハジメの配信者適正の高さは、高過ぎて逆に嫉妬しないレベルで高いと思うからな。
まぁじゃないと男性vtuberで、登録者数100万人突破できてないと思うしな。
そんなこんなでその後も少しその集団の後をつけて、他数人のvtuberの話題を聞き、満足した俺は元々の目的である買い物をしに戻った。
俺は買い物を終え家に帰る前にハジメに、今日買い物に行った際に高校生に大人気だった事を伝えると、ハジメの顔が見えないはずなのにドヤ顔をして居るのがわかるメッセージを返して来た。
その様子にイラッとしながらも、実際ハジメはそれをやってもあまりある人気を持って居る為、俺は何も言い返せず安い嫉妬の言葉を大量に送りまくった。
一通りハジメとふざけ合った後は、家に帰る為にスマホをポケットに入れて歩き始めた。
その途中家の近所にある少し広めの公園から、いしやーき芋お芋♪と、とても聞き覚えのあるメロディー聞こえた。
「焼き芋か……」
ちょうど小腹が空いていた俺は、もう焼き芋の時期か……と思いながら、俺は真冬の分も一緒に焼き芋を買いに公園へと入っていった。
「おっちゃん焼き芋2つ」
「あいよ!って兄ちゃんイケメンだね〜昔の俺そっくりだ」
「何言ってんだよおっちゃん。俺から見たおっちゃんは今でも相当イケメンに見えるんだけど?」
「へへ、言ってくれるじゃねぇか!そんなイケメンな兄ちゃんには一個オマケしてやるよ」
「本当か?ありがとうおっちゃん」
そう言って俺は2つ分のお金で焼き芋を3つ手に入れる事が出来た。
けど正直3つ目貰ったとしても、俺も真冬も晩飯前に流石に焼き芋二つは多いと感じ、もし両親に残すとしてもそうすると多分だが、父さんの分がなくなると思うから残すのもどうかと思う。
そんな事を右手には今晩の食材、左手には先ほど買った焼き芋を手に家に帰ろうとして居ると、目の前に大量の猫が一塊になっている謎の物体があった。
犬派か猫派で言うと猫派な俺は、そんな謎の物体を目の前に無意識にそちらの方へと足が動いていた。
「おーいぬこ〜。おいで〜」
謎の物体の近くについた俺は、地面に片膝を付けてその物体に手招きした。
んな〜にゃ〜と、俺の声に釣られた何匹かのぬこ様が可愛らしい声で鳴きながら、その謎の物体から離れこちらの方へと歩み寄って来て、差し出していた俺の手に頭をなすり付けてきた。
んがわいいぃぃぃ!!
という訳で俺は寄ってきた数匹のぬこ様を、わしゃわしゃと撫で回して1人怪しくニヤニヤして居ると、俺の少し先にある謎の物体からまたしても、にゃーにゃーと可愛らしい声で鳴きながら離れたおかげで、その正体が判明した。
「女だ……」
そう1人の女が俺の目の前で倒れていた。
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61話 ゴスロリクソ女
俺がぬこ様と1人ニヤつきながら戯れて居ると、地面に横たわって居る女性を発見した。
「へ?女?」
まさかの事態に俺は驚き動揺し、ぬこ様から惜しみながらも手を離すと、ゆっくりと倒れて居る女性の元へと歩み寄った。
「大丈夫ですか?」
倒れて居ると言う状況でも流石にいきなり見知らぬ女性に触るのは、後程色々な問題がのしかかってくると考えた俺は、まずは出来るだけ大声でその女性に声をかけた。
のだが、何度声をかけても返事は帰って来ず、流石にまずいと思った俺は女性に、一度謝り女性の口元に手をかざし呼吸をしているかと、脈があるかを急いで測った。
その結果女性の呼吸と脈両方共正常に稼働して居ることが確認でき、俺は安堵と共に流石に倒れて居る女性を地面に寝かせて居るのはまずいと思い、近場のベンチに俺が羽織っていた上着をひいて、その上に女性を寝転がせた。
そして流石にこのまま放置してもしこの女性に何かあったら悪いと思い、ポケットにしまっていたスマホから救急車を呼ぼうとした時に、先程俺が女性を寝かせたベンチの方から物音があり、そちらの方へと目をやると女性が目を覚まして伸びをしていた。
それを見た俺はスマホを必要ないなと思い、再度ポケットに仕舞うと、女性の方へと近づいて話しかけた。
「目を覚ましてくれてよかったよ。それで目を覚まして早々で悪いんだけど、どうして君がこんな場所で倒れてたか話を聞いてもいいかな?」
そう俺が出来るだけ優しく声をかけると女性……いや、よくよく近くで見ると多分だが高校生ぐらいの年齢に見えるから、この場合は女性じゃ無くて少女か?
それにこれまたよくよく見ると今までは単なる黒い服に見えていた服が、大量のフリルを散りばめられている、普通の人じゃ着るのが恥ずかしい部類の服である、ゴスロリだった事に気がつき、それに気がついた俺は内心マズったな……と思っていた。
そして次の瞬間ゴスロリ少女はいきなり立ち上がると、その場で高く飛び上がり容赦なく土足で人の上着の上へと飛び乗った。
「よく聞いてくれたなぁ!我が名は……」
そう何かをゴスロリ少女が変なポーズを決めながら話し出そうとした次の瞬間、今まで黙って踏まれて居るだけだった俺の上着が、いきなり飛び乗られた事に腹を立てたのか、今絶賛上着の上で決めポーズをして居るゴスロリ少女に反撃として、俺の上着はその痛いゴスロリ少女と共にベンチの上から地面へと滑り落ちた。
そうしてカッコつけて居る最中に無様にも地面に落下して、頭をぶつけたのか後頭部を両手で押さえつけてのたうち回って居る、ゴスロリ少女見た俺はこのゴスロリ少女は、ノマドや金城と同じ人の都合や迷惑など考えない、自己中心的なクソ女だと言う事を確信した。
「おいゴスロリクソ女」
「……はぇ?ゴスロリクソ女?…………ゴスロリクソ女がぁ!!!貴様ァこの私に対してなんたる無礼!今なら首を垂れ我に永遠の誓いを誓うのなら許してやっても良いぞ!」
その余のクソさに俺は、さっきまでした手に出ていたことが馬鹿馬鹿しく感じ、無意識に舌打ちが出ていた。
「チッ」
「チッって言った!貴様今舌打ちしただろ!あーやーまーれ!」
そのゴスロリ少女の傍若無人っぷりは、本当に初期の初期まだ仲良くなっていない時の、ノマドと金城を見て居る様で本当に腹が立った。
……いや流石にあの2人ほどこのゴスロリは酷くないか。何たってあの2人はあのストーカークソ野郎こと久瀬ヤウロよりも、俺個人としては本当に酷かったからな。
「おいゴスロリ」
「な、何だ。この我に首を垂れる準備が出来たのか?」
「謝罪を求めるのは結構だが、その前にお前がさっきから下敷きにして居る、俺の上着を返してくれないか?」
そう言われたゴスロリはようやく自分が俺の上着の上で座って居る事に気がつき、急いで立ち上がり片面には誰かの足跡が2つ付いており、もう片面は土や泥で汚れに汚れた上着を拾い上げた。
そしてそのドロドロな上着と俺の顔を何度か見比べると、軽くドロを叩くが全く取れない事に冷や汗を流し始めた。
「拾ったならさっさと返してくれ」
正直こう言う輩とは関わっても特段いい事はなく、逆に迷惑をかけられる事が過去の経験からわかっていた俺は、出来るだけ早くこのゴスロリと離れるべく上着を回収しようと手を差し伸べたのだが、何をどう考えたのかゴスロリは上着を返してくれなかった。
「は?」
ゴスロリのまさかの行動に俺は呆気にとられ、更には変な声まで出てしまった。
そしてそこから俺とゴスロリでの俺の上着を勝手に賭けた鬼ごっこが始まった。
「おらっ!さっさと上着を返せ!」
「まだだ!まだその時じゃない!」
「その時だから早く返せ!」
「ならこの私に追いついてみろ!」
そう言って逃げ出したゴスロリを俺は両手に荷物を抱えながら追いかけたのだが、何とびっくりゴスロリは単なるゴスロリではなく、動けるタイプのゴスロリだった。
俺も荷物を持って居ることから全力では走れていないが、それにしても成人男性からギリギリ追いつけない様な速度で走るゴスロリは、シンプルにすごいと感心した。
だがそんな事に感心していても俺の上着は返ってこない。
そんな訳で俺はゴスロリを追いかけ走ったのだが、その様子を見ていた誰かが、荷物を持った男性が変な格好をした少女を大声を出して追いかけ回して居ると通報したらしく、わざわざそんな変な通報を受けて来てくれた40代のお腹が少し出た警察官に、俺とゴスロリは今度からは変に誤解される事をしない様にと、お叱りを受けてしまった。
その際警察官がゴスロリに何故上着をすぐに返さなかったのか聞いたところ、度々変な事を喚きながらも自分が汚してしまったから、洗濯してから返そうとした事を教えてもらった。
それを聞いた俺は別にそんな事はしなくてもいいとゴスロリに話したのだが、その度にゴスロリが厨二病全開で偶に若干何を言って居るかわからない時もありながら断って来たため、正直これ以上話していても埒があかないと思った俺は、ゴスロリにプライベート用の連絡先を交換してその日は別れる事にした。
それからゴスロリの方が忙しいらしく、俺の上着が俺の元へと返ってくるまでに1週間ほどかかった。
それだけならよかったのだが、何故か俺はゴスロリから気に入られたのか、認められたのか分からないが、その後定期的にゴスロリから連絡が来て、変な勝負を仕掛けられる事になった。
正直俺としてはそんなお誘いを受ける必要性は無かったのだが、初めの頃は無視をしても何度も連絡が来る事に苛立ち、ゴスロリが立ち直れないほど一方的にコテンパンにしてやれば、連絡も来なくなるだろうと勝負を受けていたのだが、このゴスロリは動けるだけでなくそこそこ頭もよかったため、俺との勝負はいつも五分五分の実力で、更にはその勝負と言うのが結構配信でも使える内容が多かったため、俺とゴスロリは定期的に遊ぶ仲となった。
ちなみに俺はゴスロリの事をゴスロリと呼び、ゴスロリは俺の事を勝手にライバル認定して、ライバル呼びをする為、その後も何度か遊んだ仲なのに、俺達はお互いの本名を知らないまま、新たな友人を得た。
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62話 犬猫戦争
「ねぇねぇ夏兄」
「どうかしたか真冬?」
リビングにあるソファーに腰掛けテレビを見て居ると、いきなり後ろから俺の首に手を回して話しかけて来た。
「最近よく遊びに行ってるけど何してるの?」
「最近?」
そう言って考えた所俺の頭の中に、例のゴスロリが思い浮かんだ。
「ああ、変な格好の友人と勝負をして居るんだ」
「変な格好?」
「そうそうそれも痛い奴な」
「そうなんだ」
そう言って、うんうんと頷いて居る真冬に俺は聞いた。
「それで?本当の用はなんだ?」
いつも俺に対して優しい真冬だが、とは言え今の様に何の用もなくベタベタとする事は稀なので、もしかしたら他に何か用があるのか?と思った俺は真冬に質問した。
そう聞かれた真冬は少し何か言いたげな表情をして、もじもじとしながら話し始めた。
「夏兄!実は私猫を飼いたいの!」
「よし乗ったァ!」
俺は真冬のその宣言に速攻で乗った。
何でも今真冬の通って居る中学では、絶賛猫ブームが来ており、真冬の友人も何人かは猫を飼ったらしく、その画像を見せてもらったりしてるうちに、真冬もだんだんと猫を飼いたい気持ちになって来たらしく、父さんと母さんに話す前に俺に話して来たらしい。
そうして相談をして来た真冬以上にやる気になった俺と真冬は、父さんと母さんが帰ってくるのを待ち、帰ってきた2人に猫の事を相談した。
だが話しはそう簡単には進まなかった。
父さんも母さんも何かペットを飼う事は大丈夫だと言ったのだが、何とびっくり父さんと母さんは俺たちの両親なのにも関わらず、犬派らしく飼うのなら犬だと言って来たのです。
全くもってあり得ない。
「ぬこ様とわんわんと吠えるしか脳のないイヌッコロを比べるとは、それを言ったのが実の親とは息子として恥ずかしいよ。」
俺はやれやれと言ったポーズを取って両親にそう返した。
それを聞いた父さんが反撃をして来た。
「はっ!何を言い出すかと思えば夏。お前こそ主人の言うことも聞かないネコと、飼い主に忠誠を誓う賢い犬を比べるとはな……」
「そんな事ないもん!お父さんも夏兄もちょっと熱くなり過ぎ!あと私は猫派だから」
「そうよ2人とも少し落ち着きなさい。それと私は犬派ね」
そう自分の意見もしっかりと言いながら、俺たちの醜い争いを真冬と母さんは止めてくれた。
そうして落ち着いた俺達は、今度は相手を悪く言うのではなく、いかに自分の方が良いものだと説明をし始めた。
それから約1時間俺達4人で色々と話し合った結果、うちでは結局犬猫1匹ずつ飼う事になった。
◯
「まぁそう言う訳でうちで新しい家族が出来たんだよな」
コメント
:焦ったw
:そうだったのかよw
:紛らわしいタイトルにすんじゃねぇよ!
meme:画像見せて〜
:そうだ!早く見せろ!
:ペットの名前ってなんて言うの?
「画像?画像か……流石に今すぐは無理だから後でツイッターに載せるよ。それで名前だけど猫の方が大福で」
そう俺が言うと白と黒の毛色のマンチカンである大福が、俺の後ろの方でミィ〜と返事をした。
「犬の方がシベリアンハスキーのグレイの2匹だな。」
グレイも俺に名前を呼ばれてそれに返事をする様に、バウっと大きな声で返事をした。
因みに大福の名付け親は真冬で、名前の由来は大福が寝て居る時に丸まって居る姿が大福に見えたらしい。
グレイの方は父さんが何の脈絡も無しにグレイの事をグレイと呼んだ時に、グレイが元気よくしっぽをぶんぶん振って答えた為、グレイという名前に決まった。
そして何故そんな2匹が俺の部屋にいるのかというと、日頃毎日家に俺が居るのと、散歩やご飯などの世話も基本的に俺がやって居る為、2匹共俺にだけベッタリと懐いた結果、基本的に大福とグレイは俺が家の中で移動すると、その後をついてくる様になったという訳だ。
コメント
:いいなぁ俺もペット飼いてえ!
:最近Vの中で猫ブーム来てるけどまさかホムラも飼うとはな……いやなんか犬も居るけど
:犬と猫って一緒に飼って大丈夫なん?
御旅屋ノマド:へー!ホムラ先輩!犬と猫飼ったんスか!今度見に行ってもいいっスか?
「あーそうだな、うちも初めは犬と猫一緒に飼ったらダメだと思って、家族で犬を飼うか猫を飼うかで結構揉めたからな……。けどまぁ実際飼ってみたら大福もグレイも、2人とも仲良く昼寝とかしてるから、多分大丈夫じゃない?それとノマド別に見に来てもいいけど、そう言うのはせめて裏で連絡して来い。俺が燃えるだろ!」
そんな事を俺は注意しながら、過去に俺の家に遊びに来たことのあるユメノミライのメンバーから、大福達を見に行きたいという連絡が入って来ており、更にはハジメや他にも姫ちゃんからも見に来たいと連絡が入っていた。
にしてもコイツら何で俺の配信なんか見てんだよ。恥ずかしいな……
そんな事を思いながらも俺は、各々に大福とグレイのツーショット写真を送って、『またいつかね』と適当に返しておいた。
「それじゃあそろそろペット自慢も出来たし、今日の配信はこれで終了しようかな。」
コメント
:おいおいもう終わるのか?
:lol
:まだ配信始まってる20分も経ってないぞ
:本当に今日の配信って自慢だけ?
:草
二階堂ハジメ:おいおい嘘だろw
「それじゃあ俺は今からグレイと大福と散歩に行くから!乙ホムでした!」
コメント
:え?マジで?
:乙ホムでした
:www
:本当に終わんの?
:草
:え?え?乙ホム?
そうして俺は本当にただただホムラビトの皆んなに、大福とグレイの自慢をするだけして満足して、そのまま宣言通り配信を終了して、その後は本当にグレイと大福の2匹と一緒に散歩に行った。
因みにその後本当にノマドを含めた何名かは、わざわざうちに大福とグレイを見に来て、更にはその際に各々が動物用のおもちゃを持って来てくれたおかげで、俺の部屋は父さんが買って来たキャットタワーに、その他ペット用品一式に、ノマド達が持って来てくれたおもちゃによって、部屋が埋め尽くされる事になった。
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63話 お、大爺様すげぇ!
「グレイ!大福!餌の時間だぞ〜」
俺がドッグフードとキャットフードに、それに加えてペットでも食べれるケーキを作ってそれを床に置くと、はぁはぁと息を荒くしてグレイは走ってくると、餌の前で涎を垂らして、大福が来るのを今か今かと待ち構えていた。
そんなグレイの事はどうでもいいかの様に、大福はあくびをしながらゆっくりとこちらへと歩いて来た。
「ほら、グレイに大福たーんとお食べ」
俺はグレイと大福の頭を撫でながらそう話した。
あの配信の後、宣言通り俺がグレイの上に大福を乗せた画像をツイッターにあげた所、それがびっくりグレイと大福の画像はバズり、俺のことを放っておいてどんどん2匹は人気になっていった結果、それ以来俺のツイッターはグレイと大福目当てで見にくる動物好きと、俺が前からちょくちょくあげている料理の画像やレシピを見にくる奥様方に、そんなに勢力には劣るが九重ホムラのファン及びアンチの、3勢力がごった煮状態になっていた。
まぁそんなおかげで俺のツイッターはグレイと大福のおかげで、ありがたい事にフォロワーが5万人を超え、俺のユーチューブの登録者の約2倍近くになっていた。
そんな訳で俺はグレイと大福に感謝の意も込めて、作るのは初めてだったのだがペット用のケーキを作ってあげたのだ。
俺の作ったケーキを美味しそうに食べている2匹を見ながら、俺はニヤニヤと笑みを浮かべていると、仕事用のスマホが鳴った。
誰からだろう?ハジメか?
そんな事を思いながら俺がスマホの画面を見ると、そこには俺達一期生のマネージャーの様な事をしてくれていた園野さんから連絡が来ていた。
その名前を見た俺は先程までのゆるい顔から一瞬で、真面目な顔つきに変わり連絡を取った。
『もしもし園野さんどうかしましたか?』
『あ、ホムラさん朗報です。多分ですけど例の件うまく行きそうです。』
俺が電話に出て園野さんに質問をした所、園野さんは前見た時の様な暗い感じは一切なく、まだ運営があんな事になる前の様にハキハキとした声でそう話をしてくれた。
園野さんの言う例の件とは、以前meme先生にも説明した事のある、九重ホムラの権利をユメノミライと言うよりかは、ユメノミライを運営して居る会社から奪取すると言う作戦だ。
正直俺的にはこの作戦に関しては、すぐに結果が出るとは思ってなく、こんなにも早く園野さんから連絡が入った事に驚いた。
と言うか園野さんからの連絡で、例の作戦が現実味が増して今更ながら俺は、本当にこんな作戦で上手くいくのか?
と少し心配になって来た。
その成功するかもよくわからなくなって来た例の作戦と言うのは、その名も【ごり押せ!金と権力で権利を奪取作戦】だ。
その作戦内容は作戦名の通り、権力と金で腐った運営から無理矢理奪うと言った作戦だ。
実は母方の実家に行った際に大爺様が、俺の今の現状を知った際に静かに怒り、そこで俺が九重ホムラの権利を手に入れたいと話した時に、大爺様は自分を後ろ盾に使ってもいいと言う事を言われたので、俺は元作戦【ごり押せ!金の力で権利を奪取作戦】から、【ごり押せ!金と権力で権利を奪取作戦】へと変更する事にした。
前にも行った事があるとは思うが、うちの運営と言うよりかはその上層部は、vtuberと言うものには全く興味はなく、その実態は金と権力に目が無いだけの無能集団なので、元々俺は金さえ積めば簡単に九重ホムラの権利を譲ってくれるとは思っていたが、それだけだと多分足元を見られて結構吹っ掛けられると思っていたので、金が貯まるのに時間が掛かっていたのだが、権力の権化と言ってもいい大爺様の名前を借りれるのならば、虎の威を借る狐ばりに大爺様の権力を使えば、あのガバガバだった作戦は、あっという間に成功率99%とを超える作戦へと変身したのだった。
とは言ったものの、その作戦は俺が運営の上層部と直接会って話さないといけない為、その為にはまずは俺がその運営の上層部に会わないといけないのだが、俺如き一般企業勢クソ雑魚vtuberが、腐っても大手とは言えないが、名前の通っている企業の上層部と簡単に会えるわけもなく、その辺を園野さんに頼んでいたのだが、まさかこんなにも早く連絡が来るとは思っていなかった為、俺は驚いた。
『え、もう話がついたんですか!?』
『はい、ホムラさんに言われた通り大爺様さんでしたっけ?その人の名前を出したら、すぐに返事が来て話し合いがしたい。……との事です。』
『なるほど、わかりました。それで日時は?』
『はい、それはですね……』
そんな訳で1週間後に俺と園野さんで、ユメノミライを運営をしている会社の本社に行き、話し合いする事になった。
そうして俺は園野さんとの通話を切り、そして改めて思ったのだが……
「お、大爺様すげぇぇ!」
流石は金城との縁談を取って来れる程の男だ!
その圧倒的な権力、レベルが違ぇぜ!
「って言うかこんなにもあっさり行くなら、もっと前に相談しとけば良かったな」
俺は過去に何度も抗議したりしていた事を思い出して、何ともやるせ無い気持ちになりながらも、もっと早くに手を打っておけば、前のライブにももしかしたら出れていたかも知れないと思い、少し落ち込みその場に座った所、グレイと大福は落ち込んでいる俺を見て、慰めようとこちらの方へと来ると、頭をスリスリと擦り付けて来た。
その様子に俺の心は癒された。
「お前ら慰めてくれるのか!かわゆい奴らめ〜!」
そう言って俺はグレイと大福を両腕に抱えて、わしゃわしゃと撫で回した。
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64話 汚ねぇクソ豚どもがぁ! その1
園野さんから連絡が来て1週間後
俺と園野さんはユメノミライを運営している会社へとやって来ていた。
「着きましたね園野さん」
「そうですね……。あのホムラさん」
「どうかしましたか?」
「その……ずっと気になってたんですけど、その格好何ですか?」
そう言って園野さんは何やら若干引いている表情をしながら俺の方を指差した。
「え?変ですか?」
「いや似合ってますけど……」
そんな園野さん的には評価の低い俺の今の格好は、相手への威嚇の意も込めて、全身頭の上から爪先までをブランド品でガッチガチに固めて、THE成金衣装と言う服を身に纏っていた。
普通の人が着たらそのブランド品の数々に、服を着るのではなく、服に着られているという状況になっていたのだが、一応こんなんでも俺は金持ち一家の長男だ。
礼儀作法は一通り出来るし、それに加えて両親のいいとこ取りをしたこの顔とスタイルで、いつもは面倒で全身◯ニクロで固めていた為、単なるイケメンだったのだが、ブランド品で全身固めたおかげで俺は、単なるイケメンから、金持ちのイケメンに早替わりしたのだった。
と、そんなわけで今までは全身◯ニクロで固めていた男が、いきなり誰もが知っている様なブランド品で全身固めていた為、そんな俺を見て園野さんは引いていたと言う訳だ。
「そんじゃ、早速行きますか」
「それもそうですね。」
そう言って全身ブランド品で固めた俺と、色々と資料を手にしたぴっちりとしたスーツを着込んだ園野さんの2人で、会社の中へと入っていった。
社内に入ると周りの男女問わず何やら俺たちの方へと視線を移すと、その後近くの社員とコソコソ話をしている様子が目についた。
「なんか社員さん達こっち見てヒソヒソしてるけど、もしかして俺達が何の用でここに来たかバレてたりするんかな?」
「いえ、多分ホムラさんの見た目のせいだと思いますよ……」
「そっか……やっぱ似合ってなかったのかな?この格好」
正直俺も流石にこれはやり過ぎかな?と思っていた為、先程園野さんに褒められた?けどやっぱり似合ってなかったのかな?
やっぱり腕時計とか靴だけとか、一部だけにしとけばよかったなと今更なからに後悔した。
そんな事を園野さんと話しながら、受付さんに話した所とある会議室へと案内された。
園野さんが少し重厚そうな扉をノックすると、中からしゃがれた声で「入れ」と一言聞こえた。
それに対して園野さんは頭を下げて失礼しますと言って部屋の中に入り、俺は今回悪い金持ちエミュをするつもりなので、若干不機嫌そうな表情をして両手をポケットに突っ込み、俺は偉い人なんだぞオーラを全開に会議室へと潜入した。
中に入るとそこには案の定見た事もない、金と権力で肥えた豚が5匹偉そうに、見た目からもわかる高そうな椅子に鎮座していた。
ここで俺はこの豚達に喧嘩を売りに来たのだから、俺は先制攻撃としてありとあらゆる暴言を吐かれた、俺の暴言ファイルから言葉を選び、メンタルブレイクしてやろうとしたところに、普通に園野さんに言葉を重ねられて、俺の出鼻は味方にへし折られやる気を無くし、そのまま豚の秘書をしている女性に促されて、俺達も高そうな椅子に腰掛けた。
そうして俺と園野さんチームVS肥えた豚チームでの勝負が始まった。
のだが、今回の作戦実は俺の仕事もう終わってるんだよな。
本来なら俺主体で話を進めなきゃいけないとは思うのだが、いかんせん俺は経営者でもないし、何なら一度もまともに社会に出た事のない人間だ。
そんな奴が会社の事について、無能とはいえどその手のプロと話し合えるかと言われれば、絶対に不可能だ。
という訳で俺は今回の作戦上の立ち位置は、みんなを引っ張るリーダーでも無く、色々な作戦を考える参謀でも無く、体一つで頑張る下っ端でも無く、金と権力を合わせもった煌びやかな単なる神輿だ。
つまるところ俺のやることと言えば、何を言われてもずっと堂々としている以上だ。
そんな訳で俺は今現在すっごい暇なんだ。
さっきから園野さんが豚の何匹かと色々話し合っており、そこに暇だから耳を傾けていると、初めの方は九重ホムラの名前がいっぱい出て来ていたので、内容はよく分からないけど、多分俺の話をしていて、相手の顔色があまりよろしくないところからこちらが優勢なんだという事は分かっていたのだが、話し合いが始まって30分経った頃に園野さんが出した書類に、相手の俺と同じ神輿役をやらされている1番無能そうな豚が、書類にサインをした。
それを見た俺は話し合いが終わったんだな。と思った次の瞬間、今度は園野さんが先程までとは比べ物にならない量の資料を取り出すと、それを豚一味に配り話し始めた。
その最中に労基やら法律云々が聞こえて来だと思うと、先程までは温厚だった豚の1匹がブチ切れて園野さんに殴りかかろうとしたところを、ずっと入り口付近で俺たちの話し合いを聞いていた、屈強な男が拘束してそのまま会議室の外へと連行されて行った。
その際豚がえぐえぐと涙を流しながら汚らしく嗚咽を漏らしており、俺は園野さんがどうやってあの豚を追い詰めたのか気になり、一応俺にも渡されていた資料に目を通したところ、そこには色々なお金関係を表した資料が2枚あったのだが、その2つの資料に書かれた日時と相手の名前は同じなのにも関わらず、そこに書かれた金額が微妙に違う風に書かれていた。
1度も社会に出た事のない俺でさえそれを見たら、さっきの嗚咽を漏らしていた豚が何をやっていたかが分かった。
「わ〜お!これ横領じゃん!」
驚きのあまり俺は思った事を声に出していたが、その俺の発言を聞いた豚一味の1人が、ビクリと肩を揺らした。
それを見た俺はもしやと思い、再度資料を見直したところ、そこには2人分の名前が書かれており、多分だが連れ去られた人と、さっき肩を揺らしていた人の2人が横領していたのだと確信した。
にしても、この会社腐ってんね〜
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65話 汚ねぇクソ豚どもがぁ! その2
前回のあらすじ
威張り散らしていた5匹の豚の内、2匹が横領していた証拠が出て来て、勇者園野の手によって倒された。
頑張れ勇者園野!
敵は後3匹だ!
とか変な脳内ナレーションをしたのはいいものの、多分あれ以上酷いものはないだろう。
それにそろそろ飽きて来たんだけど……
そんな訳で、俺達と運営のお偉いさん達の話し合いが始まってから既に2時間が経っており、それも内容がワケワカメなので、俺は本当に話し合いが始まってからずっと偉そうに、椅子に座っているだけなので、本当に暇で暇で死にそうになっていた。
それに多分だけど、九重ホムラの権利の話って相当前に終わってるよね?
ここ1時間半ぐらい九重ホムラのこの字も聞いてないよ?
俺ここにいる意味ある?
もしかしてよく会社とかでやってる、会議とかもこんな感じで殆どよく分からん話し合いで、一部の人達だけが話し合いで盛り上がって、その他の人はうんうんってよく分かってもないのに頷くだけなのかな?
って流石にそれは無いか!
そんなこんなありその後1時間ほどで俺達の話し合いは終了した。
◯
そうして話し合いの終わった俺と園野さんは、帰りに話し合いお疲れ様回という事で、高い個室の焼肉店へとやって来た。
「それで園野さん。結局あの話し合いってどうなったんですか?」
個室に入って早々なくを大量注文して、店員さんが個室を出た後に、俺はずっと気になっていた事を質問した。
それを聞いた園野さんは難しそうな表情をしながら話し始めた。
「ホムラさんまず例の作戦は成功しました。」
「おお!」
そう言って園野さんから渡された資料には、権利関係云々を俺に譲渡するという契約が書かれており、それに署名捺印が押されているので、この時を持って九重ホムラの権利は俺のものになった。
のだが
「あれ?これって確かお金で買うんじゃなかったでしたっけ?」
元々今回の話し合いは、俺たちが運営に権利ちょーだい!いいよ!って言ってもらうだけの話で、後日入金と共に権利を買い取るという話だったのだが、何で今ここに九重ホムラあげる〜っていう契約書があるんだ?
その事を園野さんに聞いた所、全力で話を逸らされたのを見て、俺は社会の闇の部分を見ていた様な気がして来た。
覚えてないけど……
まぁでもその辺りは俺にとってはどうでもいい事なので放置する事にした。
そんな話をしているとお肉が届いたので、俺が両手にトングを持って最速最適に肉を網の上に配置していると、園野さんが大きく溜息をついて話し始めた。
「そして次なんですが……まだ未定ですが、多分ユメノミライは独立します。」
「へぇー独立ね。…………独立!?え?どういう事?」
何でもうちの運営会社は横領以外にも結構アウトな事をやっていたらしく、元々vtuber部門は独立する計画も出ていたのだが、とは言えまだvtuberは出て来てから4・5年程しか経っていない為、今後の見通しが取れなかったので、その計画は頓挫したらしいのだが、今回の俺の件で園野さん率いるチームが、交渉を有利にする為にと、本社の方を調べた所やばい情報がゴロゴロ出て来たらしく、それでこれ以上本社と一緒にいると自分達諸共共倒れになると思い、ユメノミライと言うよりかはvtuber部門が独立する事にしたらしい。
「へ、へぇーそうだったんだー(棒」
や、やべぇ!
そらあんなに話し合いが長かったのも納得だよ!
それに多分だけど俺個人が会社を抜けるのは簡単だとは思うけど、一部門丸々1つ会社から抜けるのはそんなに簡単な事じゃ無いと思うし、これからの園野さん達の心労を考えると……
「よ、よし!ほら園野さん!お肉食べて食べて!これから大変だと思うから、肉食って体力付けよう!」
「……そうですね」
俺は完全に死んだ目になっている園野さんのお皿に、焼き上がった肉を入れに入れまくった。
その後もどうにか園野さんの機嫌をとりながら、その日は解散となった。
◯
そしてそれから約1ヶ月後
俺はユメノミライを脱退した。
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66話 新たなるステージへ その1
昨日までいつも通り配信をしていた翌日、いきなりユメノミライの公式のツイッターにて、九重ホムラのユメノミライ脱退が告げられた。
それと同時に俺は九重ホムラとしての更新を一斉にストップさせた。
そしてこの脱退関係については、ハジメや姫ちゃん達などの仲のいいvtuberはもちろん、同じ事務所に長年勤めて来たキラメ達、誰1人にも話さずに決行した為、公式のツイートを見た知り合いは一斉に俺に連絡を入れて来たが、俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、その連絡を全て無視した。
その結果その公式のツイートは拡散に拡散されて、九重ホムラという名は1夜にして、過去類を見ない勢いで広まった。
それからタメ期間として1日置いてから、俺は動き始めた。
◯
「あ、あーてすてすマイクテストっと皆んな聞こえてるか!ホムラビトの皆んな!」
そう俺の一言から始まった配信は、いつもとは違う背景に、いつもと違うBGMそして何より、そこには九重ホムラの姿は無かった。
コメント
:何やってんだよお前!
:ユメノミライ脱退ってマジ?
二階堂ハジメ:どういう事なんだ?
:説明はよ
meme:がんばれ〜
:vtuber辞めたのかと思った
配信を開始して早々コメント欄は今までの配信とは比べ物にならないほど早く流れ、そこにはちょこちょこと見知った名前が流れていた。
それに俺の作戦通り例の運営のツイートで、認知度を上げに上げまくったおかげで、一時は日本のトレンド1位になったり世界のトレンドに入ったりもした。
そのおかげか今俺の配信の同接数は驚異の10万人を突破しており、まさかここまで見に来てくれる人がいるとは思っていなかったので少し驚いた。
「いやー、今日は何やらいつもの……10?いや100倍ぐらい人が見に来てくれてるね。一体何があったのかな?」
そんな風に俺が惚けているとコメント欄は、ユメノミライ脱退の文字で埋め尽くされていた。
俺はそのコメントを見て内心ニヤニヤしていたが、そんなことはお首にも出さず、コメントには気が付かなかったふりをして話を続けた。
「あ、そうか!今日は俺の初の新衣装公開だから皆んな見に来てくれたんだな!そうだよな〜長かったよな、なんせ俺が新衣装貰うのにかかったのって、4年だぜ4年!やばく無いか?ほぼvtuberの歴史と同じ年月新衣装なしだぜ」
コメント
:それで何で脱退したの?
:そういやそっか
:あれ?ホムラ新衣装なかったっけ?
御旅屋ノマド:ボクでさえ衣装何個かあるのにホムラ先輩はなかったんスね
:脱退の件まだ?
金城カネコ:ワタクシは100着は服を持ってますワ〜
うわ出た問題児!
にしてもホントそうだよな、ノマドなんてすでに3期生に配信回数抜かされてんのに、その癖して何個か衣装持ってるし、金城に関してはなんか1ヶ月間毎日新衣装お披露目配信してた時期あったし、まぁ金の力なんだろうな〜
まぁこれからの俺は何者にも縛られないから、自分の好きなタイミングで何着でも新衣装依頼出来るしいっか。
……いや流石に100着とかアホな数は無理だぞ
「まぁという訳で早速だけど、新衣装まずは全体のシルエットから公開します!はい、ドーン!」
そう言って公開されたシルエットは、何やらゴワゴワとしており、特に俺の左肩辺りには結構大きめの何かが乗っていた。
シルエットを公開するとコメント欄は盛り上がりを見せた。
「それじゃあこれ以上引っ張っても意味無いので、もう新衣装を公開したいと思います!」
そう宣言したのと同時に先程まで出ていたシルエットから、影が取れるとそこから新衣装姿の九重ホムラが現れた。
その姿は今までの制服姿からガラリと変わり、白を基調とした礼服姿で、その所々に炎上を思わせる様に炎の様な柄が混ぜ込まれており、シルエットでも目立っていた左肩のモコモコの正体は、確かファーだったかな?それが付いた真っ赤なマントだった。
他にもこの衣装には色々と小ネタが隠れており、赤の肩掛けマントにはユメノミライ学園の柄が金色で入っているし、胸ポケットにはバーチャルキャバクラで使ったサングラスがかけられたりと、memeママに頼んで色々と小ネタを仕込んでもらったのだ。
「どうだお前ら!かっこいいだろ!この新衣装!」
コメント
:かっこいい!
:4年ぶりの新衣装のせいでホムラがイケメンになってる
:meme先生ありがとう!
:脱退の話は?
:新衣装でも炎上の名残出てて草
コメント欄を見る限りはここまでは概ね新衣装は好評だな。
だがここからが問題だ。
実はmemeママからこの衣装に乗せられなかった要素として、色々と差分を渡されているのだが、これがというよりかはその中の一つがマジでヤバい。
それがみんなに受け入れられるか……
そんなこんなで不安な気持ちを心に、俺はリスナーに差分がある事を説明して、その差分の中の幾つかを公開し始めた。
「それじゃあまず1つ目だけど、これはお前が喜ぶやつだぞ」
そう言って差分を反映させるとそこには、俺の頭の上であくびをする大福に、右肩から顔を見せるグレイの姿があった。
「という訳でうちのツイッターでの人気者!大福とグレイの2匹が俺のことを助けにこんな所までやって来てくれました!」
俺がそう言うと後ろで寝ていたグレイと大福が、元気な返事をしながらこちらの方へと近づいて来た。
「うわーごめんな。起こしちゃったよな」
俺は2匹に謝りながら、俺の元までやって来たグレイと、いつの間にか膝の上に陣取っている大福の事を撫でながら謝った。
コメント
:グレイくんキター!!!
:大福ちゃんキター!!
:マジか!?
meme:グレイくんと大福ちゃんを再現するためにいっぱい画像をもらった私は勝ち組
:かわいい
流石はグレイと大福だ、俺の新衣装公開の時よりコメントの動きが爆速だぜ!
そんな人気者な2匹に少し嫉妬しながらも、俺は次に待ち構えている、何故これを描いた!と言いたい差分?いやここまでやったらこれも新衣装か?
そんな何とも言えないマジでどうしてこれを描いたのか、謎な衣装の準備した。
「それじゃあグレイと大福で盛り上がってもらってる所悪いんですが、次の差分と言ってもいいか分からない問題作の紹介に移りたいと思います。それがこれです……」
そう言って配信に映し出されたのは、今までの衣装の面影を一切無くし、何なら九重ホムラなのかも謎な、日曜朝にやっていそうな戦隊レッドが、いきなり配信画面に現れた、
「…………と言う訳で最後の衣装は炎上戦隊燃えるジャーのコスチュームです。」
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67話 新たなるステージへ その2
「…………と言う訳で最後の衣装は炎上戦隊燃えるジャーのコスチュームです。」
コメント
:ファーwww
:草
二階堂ハジメ:マジかよw
:何故それをw
歌姫クラゲ:先輩……
:もう誰だよ!
:わぁ!燃えるんジャーだ!
meme:戦隊モノ描くの初めてだったから難しかった
「memeママ……何でこれにここまで時間かけてんですか!あなた一応有名絵師ですよね!時間無いんですよね?よくもまぁあんな短期間でここまで仕上げてくれましたね!本当ありがとうございます!」
いや本当memeママには感謝しても仕切れないです。
◯
『という訳で諸々込みでも制作期間1ヶ月しか無いんですけど大丈夫ですかね?』
『1ヶ月ですか。』
『はい、なんか色々ホント色々あって、俺の方がサクッと解決しちゃったんで……それでその、新衣装ってこれ間に合いますかね?』
『うーんそうですね……。他の仕事を後回しにしたら何とか、って感じですかね?それも確証は出来ませんけど。』
『ですよね……』
そらそうだよな〜。普通に1ヶ月で新衣装ってだけでも難しいのに、それに加えてその相手が有名絵師のmeme先生だ。
他にも色々な仕事を同時にこなしてるんだから、間に合う訳ないよな……。
だからと言って公式の発表も遅れさせたとしても1週間ぐらいが限界だと思うし、かと言って公式の発表から時間を空けすぎると、俺のユメノミライ脱退とインパクトも薄まるし……
どうするかな。
そんな事を1人悩んでいると、meme先生から連絡が入った。
『先方に話した所事情を理解してくれたので、納期を少し遅らさせてもらったので、頑張ってみたいと思います。』
……へ?
『本当ですか!?と言うかそれ大丈夫なんですか?』
『大丈夫か大丈夫じゃ無いかと言われたら、大丈夫じゃ無いですけど、4年間放置していたくせに今更何様だと思うかもしれませんが、私はホムラさん貴方のママです。かわいい息子の頼み1つ聞けないママがどこにいますか。』
『meme先生。いや、memeママ!ありがとうございます!』
◯
「いやー皆んなどう思うこれ?」
コメント
:いいと思う
:いいんじゃね?
二階堂ハジメ:これは俺もこのコスチューム依頼しないといけないのか?
:いつ使うの?
歌姫クラゲ:もしかして私の新衣装もこれになるんですか!?
「いや本当そうよね、この衣装いつ使うんだろうね。それにもしこれで炎上戦隊コラボするとなった時、俺だけコスチュームありだと浮くくね?」
コメント
meme:もしかしていらなかった?(涙
「いやー!実は俺このコスチュームずっと欲しかったんだよね!memeママありがとう!」
コメント
meme:よかった
「えーという訳で、ハジメとクラゲちゃんまた今度炎上戦隊コラボしようね。」
という訳で俺達は、もう2度としないと思っていた炎上戦隊燃えるんジャーに、またしても変身する事になった。
その後も衣装についての話をリスナー達としていると、あっという間に配信終了の時間が迫って来た。
「それじゃあそろそろ配信を終了するから、その前に皆んなが気になっていたであろう脱退についてと、今後の話をして今日の配信を終わりたいと思います。」
コメント
:やっとか
:今日の本題
:何で脱退したの?
:個人になるって事?
「えー、じゃあまず結論から言うと、俺はユメノミライを脱退していません!」
コメント
:は?
:どう言う事?
:嘘だったって事?
:は?
:流石に悪質
:その嘘はダメだろ
案の定コメント欄はいつものアンチの誹謗中傷とは、比べ物にならないほど荒れていた。
「はいはい俺の事を燃やすのは結構だが、まずは話を聞いてくれ。それと今回の件は本当裏の部分がしっちゃかめっちゃかで、その辺は話せないからそこは了承してくれ」
コメント
:わかった話だけは聞いてやる
:なら早く話せ
:さっさとしろ
:どう言う事?
俺がそう言うとコメント欄も一旦は落ち着きを取り戻し、それを見た俺は安堵し話を続けた。
「それじゃあまずは今の俺の状態だけど、ユメノミライを脱退したのは本当だけど、ユメノミライは脱退していない。」
コメント
:は?
:?????
:どゆこと?
:日本語でおけ
:ん?
「まぁこれだけじゃわからないと思うから、もっと詳しく言うと、今の俺はユメノミライ所属の個人勢vtuberって言うよくわからん括りになるかな?そうだな……分かりやすく言うなら、アンダーライブとアンダーライブENみたいな関係で、大きな括りとしてのユメノミライは脱退してないけど、女性アイドルグループのユメノミライを脱退したって感じかな?」
コメント
:なるほど?
:結局はどう言う事だ?
:よくわからん
:でもその説明だとホムラは別に個人勢じゃなくね?
「えーっとそうだよな。けどそこの関係が話せないって言ってた所だから、俺は企業に属してるけど属して無い個人勢って感じだと思っててくれ」
コメント
:お、おう
:なるほど?わかった
:よくわからんけど結局あんま今までと変わらんって事でおけ?
「んーまぁそうだな、お前ら的に変わるとしたら今度からはスパチャをONにするのと、ユメノミライから不純物であった俺が居なくなったって事だけ覚えてたらいいんじゃ無いかな?これ以上詳しいことは話せない事になってるから、よく分からん説明だけどそうなんだ〜、って感じで理解してくれ」
コメント
:そうなんだ〜
:そうなんだ〜
:そうなんだ〜
:そうなんだ〜
:そうなんだ〜
「まぁそう言う事だからこれからも、ユメノミライ所属兼個人勢の九重ホムラをどうかよろしくお願いします!それじゃあ乙ホムでした!」
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第6章 過去の思い出
68話 無気力で何の面白味もない俺の日常
無事に配信が終わり一晩、ここ1ヶ月は色々な資料を揃えたり、権利関係の何やらで配信と家事に加えて、色んな場所へと行っていたせいもあってか、その騒動がひと段落した今、これまでの疲れが一斉にやって来ていた。
「んー!疲れたぁ〜」
本日何度目かの欠伸をすると、だんだんと眠気が襲って来た。
俺は掃除機の電源を切ると、近くのソファーへと腰を下ろした。
「あーやばいなコレ……」
そう言って俺は自分の目を何度か手でゴシゴシと擦ってみるが眠気は取れず。
そしてソファーに座ったのが悪かったのか、俺はそのまま眠気に押されて、家事を放り投げた状態で眠りについてしまった。
◯
4年前
俺は今年から大学生になったのだが、特別何かをやりたいから大学に入った訳ではなく、かと言って将来有利になるから入った訳でも無い。
言っちゃ何だがうちの家は大金持ちとは言わないが、一応世間的には金持ちの部類で、母方の実家を頼ればそこそこの企業にはコネ入社出来るほどのコネクションを持った家に生まれた、俺は俗に言う人生勝ち組の1人だ。
なら何でそんな人生勝ち組の俺が、大学それも有名大学などでは無く、一般大学に入ったのかって?
そんなもんなんとなくだ。
俺には将来やりたいこともないし、かと言って今を全力で生きる為の趣味という趣味はない。
一応知り合いからアニメやゲームを勧められて、やっているからコレを趣味と言ってもいいかもしれないが、それもそんなに本気になってやりたいという訳でもない。
そんなどこにでも居る何に対しても無気力な男が、この俺藤堂夏だ。
「おーい!夏今日も合コン来てくれよ!お前が来るんだったら行くって、この前ミスコンで優勝した子が……」
「ごめん。実はこの後用事があってな」
「えーまたかよ」
「すまんすまん」
「じゃあその代わり次は絶対だからな」
「おう」
今日の分の講義が終わり家に帰る為に、帰り支度をしていると名前の知らない1人の男子学生が、いきなり声をかけて来た。
合コンと聞けば、普通の男子ならホイホイ参加したいだろうし、それに聞いた所この前やっていた大学が主催していたミスコンの優勝者が、参加するならその合コンに参加したい男子の数は、数えきれないだろう。
俺も大学に入って早々は今の様に何度か誘われた合コンに参加した事があるのだが、そのレベルの低さに逆に不快感を感じてからは参加しない事にしていた。
何が不快ってまず顔が悪い、別に生まれつき不細工だとかは気にならないんだが、厚化粧だったり髪の手入れをせずに来ていたり、服のセンスが終わっていたり、その他にも単純に話がつまらない。
話す内容が名前も知らない男女の恋愛話だったり、下ネタだったり、他人の悪口だったりで、逆に聞くがこんな内容聞いて誰が嬉しいんだ?
悪口が言語道断なのは当然として、特に仲良くもない異性からの下ネタ、それも笑える下ネタでは無くただただ下品なだけな下ネタを話す女は、気色が悪くてたまらなかった。
あとボディータッチが鬱陶しかったり、息が臭かったりその他色々あるが、これ以上は俺が不快になるだけだからやめにする。
そんな訳で俺にとっての大学は、若干行くのが億劫となる場所になっていた。
「あ、夏バイバイ」
「ああ、さよなら」
「おーい夏またな」
「ああ、さよなら」
今の様に帰りに何人かに挨拶を返されたのだが、もちろん相手の顔は見たこともないし、あったとしても名前も知らない間柄なのに、何故かこの大学では相手が一方的に俺の名前を知っていて、少し不気味だ。
そうして家に帰った俺は、手洗いうがいをしてから、適当に冷蔵庫の中にあるもので簡単にサンドイッチを作って、それを自分の部屋へと持っていった。
部屋に戻った俺はサンドイッチ片手に、適当にネットサーフィンをし、気になったサイトに入っては見て、入っては見てを繰り返しているうちに、時間はあっという間に過ぎ、外は茜色に染まり今が夕暮れだという事を俺に伝えて来た。
そんな事はお構い無しにとネットサーフィンを続けていると、家の玄関が開く音と同時に高く可愛らしい子供の声が聞こえた。
「ただいま〜」
その声を聞いた俺は椅子から立ち上がると、空になった皿を持って台所へと向かい、その途中に出会った今年で9歳の可愛く、俺とは違い勉強と運動のできる、自慢の妹真冬に声をかけた。
「おかえり真冬」
その声を聞いた真冬は、パァ〜!と顔を輝かせた。
「ただいま夏兄!」
うちの家は両親が共働きで、それも今は忙しい時期らしくここ数年は帰りがほとんど夜遅くになっているせいで、家の事は全くできていない為、家の家事全般と真冬の勉強を見たりなんだりは俺の担当となっている。
とは言ったものの真冬は小学生にしてすでに中学校の範囲の勉強をしている為、正直そこまで教える必要があるのかが不明なのだが、本人がやる気になっているので俺は家事の合間などで真冬に勉強を教えている。
これが俺の日常だ。
そんな無気力で何の面白味もない俺の日常は、とある怪しいサイトを見つけた時から、毎日が楽しく仲の良い仲間と切磋琢磨し合う日常へと変わり始めた。
「vtuber事務所ユメノミライ?」
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69話 一次審査
「vtuber事務所ユメノミライ?」
いつもの様にネットサーフィンをしていたある日、俺はそんな怪しさ満点なサイトを見つけてしまった。
「事務所って事はアイドルとかそういうのか?でもこのvtuberっのは何だ?」
そうして俺はvtuberというものについて調べてみた。
それはユーチューブで活動しているらしく、それを知った俺は何だ単なるユーチューバー事務所かと、思い動画を閉じようとしたところで、衝撃を覚えた。
「あ、アニメのキャラがユーチューバーやってる!?」
そう、まさかの二次元のキャラがユーチューブをやっていたのだ。
そのあまりの衝撃に驚かされた俺は、そのまま見入る様にして最後までその動画を再生し、さらに次も続け様に再生し、さらにその次もそのその次もと動画を再生し続けて、俺はそのまま徹夜までしてそのvtuberの動画を全て視聴した。
そうして一通り動画を見終えた俺は、ふとどうしてこのvtuberを見始めたのかを思い出し、その要因となったサイトへと急いで戻った。
「vtuber事務所ユメノミライか……」
俺はこの事務所のことが気になり、色々と隅から隅までを舐める様に見たところ、この事務所のやるvtuberは先程俺が見たvtuberとは違い、3Dでは無く2Dにする事でもっとローコストに、更には手軽に出来る様にと考えていた。
「なるほど……頭いいな」
そう感心しながらサイトを読み進めていると、俺は1つの項目に目が言った。
「ライバー募集……」
そうそれは自分達の事務所でvtuberになろうとのお誘いだった。
俺は今絶賛vtuberというものに興味を持って来ている最中で、無意識でいつの間にかマウスカーソルが応募のリンクをクリックしようとしたところで、俺はそれに気が付き勢いよくマウスから手を離した。
「ダメだダメだ!流石にまだよく分からん事務所に応募はダメだ。もしかしたら詐欺かもしれないし、それに本当だったとして、このvtuberってのは俺に出来るものなのか?ユーチューブやら他の動画配信サイトも、見る専で投稿なんかしたこともないし、一応何度か知り合いに頼まれて生徒会選挙やら何やらで演説はした事はあるが、それ以上の事はやったことのない俺がvtuberなんてのになれるのか?と言うかそもそも大学生がどこかの事務所に所属していいのか?」
分からん。
けど万一に出来るとしたのならば……
「まぁでも流石に俺1人で考えれるもんでもないし、もっと詳しく調べてやりたかったら、父さんか母さんにでも相談するか」
そう言って俺はパソコンの電源を落とし、大学に行かなければならない時間までの短時間仮眠を取ることにした。
それから数日後、結局はこの数日間俺の頭からvtuberという存在が離れることがなく、ユメノミライという事務所やvtuberについて調べることにした。
その結果受かるまでに何工程があることがわかり、その一つに動画撮影があり、俺は幾つかのサイトで動画の撮影の方法と機材を調べるのと同時に、この事を父さんと母さんに相談した。
相談する際俺は、「そんな怪しいのは辞めなさい」と言われ反対されると思い、自分なりにそれに反論できる様にと色々と資料を作り、両親に話したところ。
「まぁ夏がやりたいというならいいんじゃないかしら?ねぇお父さん」
「そうだなやらない後悔よりやって後悔って言うしな」
まさかの速攻で了承してくれた。
それに何なら新しいパソコンとかマイクとか防音室とか、色々お金の工面までしてくれた。
それで良いのか両親よ……。なんか詐欺とかに引っかかりそうだぞ。
息子は心配だぞ……
ありがたいから貰うけどさ。
そんな訳で両親の手助けもあって完全武装になった俺は、動画撮影を始めたのだが……
これがめちゃくちゃ難しい!!
まず第一に思ったのが、内容のつまんなさだ。
作った本人ですらが笑えないものが、他人を笑わせられるわけがない。
という訳で俺は色んな人気のユーチューバーを見たりして、何が面白いのかを研究し始め、それを組み込んだ動画を作っては、やり直しを繰り返した。
結果、爆笑とは言わないがクスッと自然と笑いが出る作品ができた。
この瞬間俺は思った。
俺もしかしてvtuberの才能あんじゃね?と
今やってる事はどっちかというとvtuberでは無く、単なるユーチューバーであることを忘れて。
そうして内容に満足出来たら次は、声や編集が気になり始めた。
俺個人としては声を張ること自体は何ら恥ずかしいとも思わない為、何の躊躇もなく出せるのだが、その声を取り込んだ際の音量バランスが難しい。
それに自分的には結構起伏を作っているつもりだったが、それも他のユーチューバー達に比べると全然ダメだ。
それからは編集の勉強と、もっと大袈裟に驚いたりなんだりする練習を始めた。
そんな練習を始めて気づいたことがある。
オーバーリアクションはすごい恥ずかしいという事だ。
初めの頃は全然恥ずかしくも何ともなかったのだが、動画を見返している時がもう本当地獄で、何でこんな地獄に自分から突っ込んで行ってるんだ?
と思うほど恥ずかしく、それを繰り返しているうちにオーバーリアクションをした後に、照れ隠しから誰に誤魔化しているのか分からないが、誤魔化す様に変な笑いが出ることが増えて、それを矯正するのが1番大変だった。
それに比べて編集はプロに何度か見てもらう様に依頼したお陰ですぐに軽い編集ならできる様になった。
そうして俺の汗と努力と多額の資金が掛かった至高の一作ができた。
そうして俺は自分に残っている最後の恥を無くすために、両親に真冬を呼んでリビングにある大型テレビで、その一作を視聴する事にした。
俺は自分の作品を何度も何度も自分で見直していたが、ふと考えると人には見せた事がないことを思い出し、vtuberになるのならば、それが例え自分の家族であっても、自信満々に見せれなければプロにはなれないと考えた俺は、家族全員でその動画を視聴する事にした。
結果は可もなく不可もなくと言った感じだった。
真冬は動画を見て笑っていたが、両親は俺の動画を舐める様に何度も何度も繰り返し、時には巻き戻したり止めたりしながら視聴した。
その結果が可もなく不可もなくだ。
初めはその意見を聞いて落ち込んだが、よくよく考えてみたら動画制作を始めて行ったのに、世間での普通を取れていることの凄さに気が付き、俺は内心ガッツポーズをした。
それからはその上機嫌のまま俺は、動画をユメノミライの事務所へと送り返事を待った。
その返事が返ってくるまでの間も、何本か自分なりに動画を撮ったり編集の練習を続けた。
そうして動画を送ってから1週間後、俺宛にユメノミライの事務所から一次審査を突破を伝えるメールが届いた。
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70話 顔合わせ
無事一次審査を突破した俺は、二次審査の面接へと移った。
二次審査とは言ったが、実際にはこの二次審査が最終審査で、そこではどうしてvtuberになりたいのかや、どうしてもこのユメノミライという事務所を選んだのかを聞かれ、俺は素直にその質問に答えた。
「そうですね。私は元々vtuberというものを知らず、たまたまネットサーフィンをしていた際に御社のサイトを発見させていただき、その際にvtuberとは何なのかを調べたところ、体全体にビリビリっと何か衝撃の様なものを感じ、その日徹夜して動画を見漁ったんです。」
「なるほど藤堂さんは我が社のホームページからvtuberについて知ったのですね。とは言えそれは単なるきっかけに過ぎないと思いますし、偶々我が社のホームページを見ただけで、もしかしたら他のところだったかもしれませんよね?」
「そうですね。おっしゃる通り単なる知ったきっかけと言ってしまえばそれだけですし、見つけたのもたまたまと言えばその通りたまたまだとも思います、私はそれをたまたまでは無く運命と思ったのと、その他にも私は3Dの体で色々と事前準備に時間をかけてやるよりかは、2Dで簡単に出来ることが魅力に思ったのもありますね」
「そうですか」
その後は俺が送った動画についての質問や、vtuberになってからやってみたいことなどを面接官の人と話あった。
「それでは本日の面接はこれで終わりたいと思います」
「ありがとうございました!」
そうして俺の二次審査は終了した。
それから数日、俺の元に今度は合格の通知と、また色々とデビューするまでにやらなければならない事があるとの事で、一度事務所に気にでほしいとのメッセージが入っていた。
それを両親に伝えると両親は流石だと褒めてくれ、たまたま聞いていた真冬はその事を自分の事のように喜んでくれた。
◯
そんなこんなありながらも指定された当日、俺は前回同様父さんの車を借りてユメノミライの事務所へとやって来た。
ここの事務所は出来たばかりであまりお金がないらしく、事務所の中には社長含めて5人の従業員と、それに合わせた数の机とパソコンだけがあるだけの、質素な内装になっていた。
そうして事務所に来たは良いもののこれから何をすれば良いのか分からなかった俺は、周りをキョロキョロと見回していると、俺の面接をした体格の良い男性が小走りで近づいてきた。
「お久しぶりです藤堂さん」
「お久しぶりです」
「あ!自分は園野と言います。これから一緒にこのvtuber業界を盛り上げていきましょうね!」
そう言って園野さんは俺にニコリと笑顔を向けながら手を差し出してきたので、俺もそれに合わせて笑顔を向けて手を取った。
それから園野さんに事務所の中を案内されている途中に質問された。
「そう言えば藤堂さんずっと気になってた事があるのですが質問良いですか?」
「あ、はいどうぞ」
「実は面接の時から気になってたんですけど、藤堂さんって顔がいいのにどうしてvtuberをやるんですか?あ、もちろん理由は面接時に聞いたので知ってるのですが……」
そう園野さんは少し申し訳無さそうに聞いてきた。
それを聞いた俺はその質問に答えるように、思っていたことをそのまま口に出した。
「まぁ園野さんのいう通り俺は顔が良いですけど、そんなユーチューバーっていっぱいいません?今更イケメンが1人増えたところで、そんな変わんないと思うんですよね」
「そう……ですかね?」
俺の意見を聞いた園野さんはあまり納得していない表情のまま、無理やり俺の答えを納得させていた。
「っと、話をしていたら着きましたね。こちらへどうぞ」
そう園野さんに促された個室に入ると、そこには3人の女性が4つあるうちの3つの椅子に座っていた。
それを見た俺は、自分以外は女性なんだなぁと思いながら、空いている椅子に腰掛けた。
「はい、では改めまして本日からあなた方のマネージャー兼その他雑用などをします園野です。よろしくお願いします」
そう言うと園野さんは俺たちに向かって頭を下げた。
それに対して俺たちもよろしくお願いしますと返事を返した。
「それでは、まずは皆さんこれから一緒にvtuber業界を一緒に盛り上げる仲間として、自己紹介をしましょう。あ、自己紹介は事前に送った資料のでお願いします。それじゃあ1番年長でもある母出さんからお願いします。」
母出と呼ばれた俺より2つほど年上の女性が立ち上がり自己紹介を始めた。
「これから皆さんと一緒にvtuberをやらせてもらいます母出マミと言います。趣味はお菓子作りです。よろしくお願いします」
そう言って母出さんが頭を下げると、俺達は母出さんに拍手を送った。
そしてその次は、母出さんの左隣に座っていた多分俺と同い年かな?の女性が立ち上がると同時に敬礼をした。
「わ、私は軍神ミリーです……じゃなくてだ!軍人関係については素人なので、これから頑張っていきたい所存です。あ、あと甘いものが好きです」
へー、軍人キャラかなんか大変そうだなぁ。と少し軍神さんに同情しながら拍手を送った。
そして次なのだが、俺がこの部屋に入ってきてからずっと気になっていた女性……いや少女だ。
その少女は、自分の番を今か今かと待ち構えており、さっきからワクワクオーラ全開で、ようやく自分の番がきたことに喜び、その喜びのあまり勢いよく立ち上がったのだが、その際に足を自分の椅子に引っ掛けた為、その少女は思いっきり痛そうな音を立てて、顔から地面に激突した。
一瞬呆気に取られた俺達はその状況に何も出来ずにいた。
それから母出さんがその少女に近づいた事で、俺達も現状を理解しその少女の方へと近づいた。
母出さんがその少女を起こすと、顔は鼻血でびしゃびしゃになっており俺たちは絶句した。
そんな俺たちの気持ちもつゆ知らず、顔面血塗れの少女は特段その事も気にすることも無く、自己紹介を始めようとしたのでそれを園野さんが止めた。
その際に俺は持って来ていたポケットティッシュを取り出して、その少女の顔にベッタリとついた血の跡を拭き取った。
その後は母出さんがその少女を介抱した事で、鼻血も止まり止まっていた自己紹介を再開した。
「さっきは迷惑をかけてごめんなさい!私の名前はえっと……星野キラメです!それで趣味は頑張ることです!」
そう元気よく宣言した。
にしても趣味が頑張る事って変わった子だな……
そう思いながら拍手を送った。
っとそんなこと考えてる場合じゃないな。
次は俺の番か……
俺は少し緊張しながらも静かに椅子から立ち上がり、みんなと同様に自己紹介を始めた。
「初めまして九重ホムラと言います。vtuberについては最近知ったばかりのペーペーですが、これから皆さんと一緒にvtuberとして頑張っていきたいと思いますので、これからよろしくお願いします。それで趣味という趣味はありませんが、自分も料理は得意ですよろしくお願いします。」
そう言って俺は自分に出来る最高の笑顔で答えた。
すると一瞬部屋が静まり返り、一瞬ミスったか?と不安になったが、園野さんがハッとした表情をすると拍手をすると、それに釣られるようにして皆んなも拍手をしてくれた。
それに俺は安堵し着席した。
その後は園野さんから色々と俺たちがやるvtuberの設定や、見た目のラフなどを見せてもらったり、その他vtuberに必要なアプリなどの仕様の説明などをしてもらい、その日は解散の運びとなった。
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71話 ジャンケン大会
事務所でvtuberについての話を色々と聞いた翌日、俺はいつも通り大学に来ていたのだが、そこで大変鬱陶しい事があった。
俺は大学に入ってからは誰にも話した事がないのだが、どこからか漏れたのか俺の母方の実家の事が大学内に広まっており、大変不愉快なことにそれを聞きつけた見知らぬ女どもが、ベタベタベタベタと体を無断で触って来たり、ストーカーなのかずっと俺の講義について来て、その度に俺の近くに座り講義中だって言うのに、勝手に俺と付き合った後の予定を聞いてもないのにペラペラと話し出して、それも俺を金の出るアクセサリーの様に扱いたいという内容で、マジで気持ち悪かった。
と言うかそこまでの暴論を言うのならば、せめてめちゃくちゃ美人であれよ。
ブスがそんなこと言ったところで、何の意味も無いだろ。
人の、それも母方の実家の金を当てにする前に、そんなに金が欲しいなら、自分でバイトでも何でもして金を稼いで来い。
そんなクソみたいな人間が、大学に居る内に何度も何度も話しかけて来て、しまいには頭のおかしい奴は俺の家までつけて来たので、そのまま警察に連れて行ってもらったりなどをしたせいで、俺は大学に行く気にならずその事を俺のことを気にかけてくれている教授や、その他大学教職員に話したところ、詳しいことは教えてもらえなかったが、何人かの生徒が退学になり俺への異常な接触がなくなった。
ちなみにその退学になった生徒は別に俺にベタベタして来ていた女達ではなく、全く記憶にない……いや、確か何度か俺を合コンに誘っていた奴だった。
と言うか
「退学ってほんと何やらかしてたんだろ……」
その他今回の事件で退学になった生徒は、俺の家まで何度も凸して来たせいで警察のお世話になりまくった奴で、そいつは俺の家の窓を破って侵入しようとしたところを、何度も俺が通報した事によって増えた巡回中だった警察官にその場で、現行犯で逮捕されたって事らしい。
そんな訳で、俺は今まで通り見知らぬ男女に軽く挨拶さて、それに笑顔で返すだけの日常へと戻ったのだった。
◯
それから数ヶ月経った頃、既に何度も打ち合わせや何やらで、結構通い慣れた小さな事務所へと俺達は呼び出された。
「皆んな待たせてごめんね。ようやく君達のデビューの日程が決まりました!」
そう言って俺達は園野さんから、自分がこれからやる事になるvtuberの完成したイラストが描かれた紙と、その他設定一覧などを手渡された。
今まではラフだったものが、完成品が手元に来た事で俺達はこれから本当にvtuberになれる事に、現実味が帯び更にはその完成度に俺達は目を奪われた。
俺達が渡された資料をまじまじと見ていると、それを眺めていた園野さんも、その様子に満足した様で丸太のように太い腕を胸の前で組んで、うんうんと頷いていた。
「あ、そうそう今そのモデル動かせるけど、動かしていきたい人いる?」
急にそんな大切な事をポロッと溢した園野さんに驚いたが、その内容を確認した俺達は我先に取り大きく手を上げて、園野さんへと詰め寄った。
「はい!私やりたいです!」
「俺やりたいです園野さん」
「私もやってみたいですね」
「私もやっ…私もその意見に賛成だ」
「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いて、順番!順番でお願いします」
今使えるパソコン1台しかないんで!と園野さんは詰め寄る俺たちから逃げる様にしてそう呟いた。
という訳で今俺達は【第1回誰が1番始めにvtuberになるかジャンケン大会】を開催していた。
そしてその初回で俺以外が全員パーを出して、俺がグーを出した事で俺は最速で順番が最後になったのであった。
結果は、1位が星野キラメさんで、惜しくも2位だったのが母出マミさん、俺が負けた後を最速で追って来たのが3位の軍神ミリーさんで、自分からジャンケンを言い出したくせに、最速で負けたドベのクソ雑魚がこの俺九重ホムラだ。
「くっそぉ!負けたぁ!」
「やった!私の勝ちぃ!」
ジャンケン大会最後の戦いは何度も相子を繰り返した後、見事星野さんが勝利して喜び、負けた母出さんはこの前初めて知ったのだが、元ヤンだったらしくその血が負けた事によって呼び覚まされたのか、いつもの柔らかい声色からドスの効いた声で叫んだ。
そんな絶賛盛り上がりを見せている2人を、俺と軍神さんは速攻で負けてしまった為、盛り上がろうにも盛り上がれず、部屋の隅で椅子に腰掛け自分の番が来るのを静かに待っていた。
そんな訳でジャンケン大会で決まった順位通りの順番で、俺達は園野さんが操作するパソコンから初めてvtuberとなった。
初めの方は色々と設定しながらだったが、それを終えていざパソコンの前で喋ってみると、その通りにパソコン内にあるアバターも話し、それを見た俺達はお互いに手を取り喜びあった。
「すげえマジで動いてるじゃんこれ」
「本当ねぇ」
「ねぇねぇこれって変顔してもするのかな?」
「流石それは無理なのでは?」
そんな感じで俺達は初めてのvtuber活動で、大いに盛り上がり気がついた頃には、あっという間に時間が過ぎており、そろそろ帰らないといけない時間が迫っていた。
それからは園野さんに自宅のパソコンでの動かし方を教わった、俺達は改めて園野さんを含めた社員の皆んなに、頭を下げてお礼を言った。
その後は、みんなで俺が運転する車に乗り込み各々帰りに乗る駅まで送って行った。
因みに星野さんだけは、この辺りに詳しくないのと方向音痴で、1度それで大捜索があった為、それ以降は俺がきちんと責任を持って星野さんの、送り迎えを担当していた。
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72話 初配信
事務所から家に帰って来た俺は、いつも通り家事を済ませると、先程園野さんに説明を受けた通りに、パソコンで色々と設定して、その日は1日九重ホムラのアバターをいじって遊んだ。
それから俺達はお互いにわからない事を、ディスコードで教えあったりしていると、あっという間に時間が過ぎ俺たちの初配信をやる時間になっていた。
俺達は前もって初配信の順番をどうするか話し合っており、その結果俺達は例のジャンケン大会の順番で、初配信を行う事が決定していた。
そして今俺は、軍神さんから初配信のバトンを渡されて、人生初の配信を始める事になった。
◯
「皆んな初めまして、俺はユメノミライ学園生徒会副会長の九重ホムラだよろしく」
俺は緊張を表に出さない様にと、少し声を作ってそう答えた。
俺はこれで大丈夫だったのか不安になり、コメント欄を見ると、そこには数は少ないが俺に返事を返してくれていた。
コメント
:初めまして
:もしかして緊張してる?
:頑張って!
俺はそのコメントを見て、自分の緊張がリスナーにまで伝わっていることの恥ずかしさと、応援のコメントの嬉しさで心の中がめちゃくちゃになった。
だがこんなんじゃダメだ。
俺は個人的に遊びでvtuberをやっているわけではなく、小さくても企業に勤めているのだ。
そう思い気合を入れるために俺は、思いっきり自分の頬をパンパンと叩き、気合を入れるために雄叫びを上げた。
「うぉっしゃ!頑張るぞ!」
今が配信中だと言う事を忘れて
コメント
:草
:頑張れ〜
:がんばって!
:応援してるぞ
そうして俺の初配信は少しグダリながらもスタートを切った。
ちなみにこの配信を見ている人数は、多分裏で見ているであろう園野さん達社員さんの数を引いて32人だ。
初めの星野さんの時は、初めは社員さんしか見ていなかったが、そこからみんなでパスを繋いできたおかげで、俺の頃にはこんなにも多くのリスナーを獲得する事に成功していた。
とは言ったものの俺達はユメノミライ以外にもある、vtuber事務所は初動がもっと多いので、そこと比べると少ないが、俺はその辺りは正直しょうがないと思っている。
何たって他の企業はしっかりと宣伝を色んな場所に乗せて、そこからしっかり集客しているのに比べてうちは、もう本当に金がなさ過ぎてほとんど宣伝が出来ていないのだ。
そら初動が少ないのは当たり前だ。
だから俺は考えた。
運営が宣伝出来ないならリスナーに宣伝してもらおうと
◯
「それじゃあ俺のファンネームはホムラビトって事でよろしくな」
コメント
:よろしく
:よろしく
「んじゃそろそろ配信終了の時間だから、その前に俺が用意して来た動画でも見てもらおうかな」
コメント
:へーどんなの?
:しょうがない見てやるか
:楽しみ
「それじゃあ動画再生まで、3.2.1どうぞ!」
そう宣言と共に、俺は配信内で用意していた動画を再生した。
動画が再生されると、そこにはギターを持った九重ホムラの姿があった。
それも二次元では無く三次元に……
コメント
:ファ!
:おいおいおい
:草
:初配信から飛ばしすぎだろw
:マジか……
今までコメントをせずにただ見ていただけの、リスナーもまさかの事態に驚きコメントを打ち込んできた。
そう何は隠そうこの動画に映っている九重ホムラは、俺が九重ホムラにコスプレした姿である。
あ、もちろん顔は隠してるぞ九重ホムラのお面で
そう俺は初配信早々でまだ新しいvtuber界隈でも、タブーとしている生身の人間を配信または動画に載せる行動を、vtuber本人である俺がコスプレをして思っクソ破ったのであった。
勿論そんな暴挙にコメント欄は困惑、そんな事はお構い無しにと動画内の俺は、いきなり自作の曲を演奏そして歌い始めた。
そしてそんなカオスな状況を見たリスナーの1人が、ツイッターにこの新人vtuber頭おかしいと、この動画のURL付きで投稿し、そこからどんどんと新しいリスナーが俺の配信を見にきた。
だがまだまだだ、この動画の本領はここからだ。
今まで1つの視点からの動画だったのが、別の視点に変わったりその途中途中に、俺がカッコつけたポーズを取ったり、飛んだり跳ねたり踊ったりとやりたい放題で、この動画はまさに
コメント
:MVじゃんw
:クソワロタ
:結構出来がいいのが腹立つw
:www
:草
そうコメント欄でも言われている通り、この動画は俺お手製の結構金の掛かったMVもどきだった。
因みにこの動画撮影には、園野さん達率いるチーム運営と、星野さん率いるチームユメノミライに、その他俺が雇った人達が色々と協力して出来た一作である。
という訳でしっかりとこの動画にプロが噛んであるという事で、ある程度のクオリティは保証されているため、思っクソvtuber界隈のタブーを何度も全力で踏み抜いているのにも関わらず、この動画を見たリスナーは俺の事を叩くのでは無く、一緒になって盛り上がってくれた。
その結果俺の初配信が終了する頃には、同接数が500人を超えており、登録者もまさかの1000人を突破していた。
「皆んな!見てくれてありがとう。後日さっきの動画も公開するからそっちも是非見てくれよな。それじゃあ乙ホムでした!」
コメント
:乙ホム
:面白かった!
:また変な動画楽しみにしてるぞ
:乙ホム!!
:チャンネル登録しました!
:面白かったです
:これからも頑張ってね
そうして俺の初配信は盛り上がりに盛り上がって、無事終了した。
その後俺からの導火線を伝って、他のメンバーの初配信も再生されて、ユメノミライは他のvtuber事務所を追い抜く勢いで、vtuber界隈にその名前が響き渡った。
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73話 新聞サークル自称エース
初配信が俺の想像以上に広まり、いいスタートダッシュを切れた事に、喜びを覚えながら大学に向かうと、またしても知らない奴に声をかけられた。
「災難だったな夏」
「ん?何がだ?と言うかお前は誰だ?」
「おいおい忘れたのか?俺達は何度か講義一緒になっただろ?」
「そうか」
いや、だから誰なんだよ!
「それで災難ってのは何のことだ?」
今よく分からん男に話しかけられてることか?
「アイツだよアイツこの前退学になった男。ほら夏の事合コンによく誘ってた」
「あーアイツね」
で?お前は誰な訳?
「そいつがどうしたんだ?」
「いやな、俺が帰る途中にたまたま聞いたんだけどさ、アイツが裏で夏が金遣いが荒くて女癖の悪い、顔だけの男って変な噂流しまくっててな。まぁどこで曲解されたのかは分かんないけど、実際に流れてたのは女子の中では夏が金持ちって事と、男の中ではかわいい女の子を囲ったハーレムがあるって言う変な噂なんだけどな」
そう見知らぬ男はケラケラと笑いながら話してくれた。
成程ならうちが金持ちだってことがバレたんじゃなくて、単に変な噂が流れてその辺な噂に載せられたバカが、俺に凸って来たって事か
「と言うか何で退学した奴は、そんなしょうもない噂流したんだ?」
「しょうもない?いや俺的には相当陰湿だと思うけど……。それで噂を流した理由だっけ?それなんだけど実はな……」
そう見知らぬ男から教えてもらった話は、嘘みたいなしょうもない話しで、そのくせ半端なくやばい話だった。
「実はアイツうちのミスキャンパスの子が好きだったらしくて、そのミスキャンパスの子が合コンで夏の事が好きって言ったらしくて、それで夏の事を逆恨みしたらしいぞ」
「はぁ……」
「んでその後、ソイツがそのミスキャンパスの子を襲ったらしくて、そのまま退学に……って感じだな」
「ふぅーん。なんか色々と終わってんなこの大学」
まさか俺の身近にそんな犯罪者予備軍……いやもう犯罪者か、が居たとはな……本当この大学大丈夫か?
「と言うか今更何だが、何で1生徒のお前がそんなに今回の件について詳しいんだ?噂の件はたまたま聞いたって事で納得できるけどさ、普通そんな退学理由だったら学校からも教えて貰えないだろ?もしかしてそれもたまたま襲ってた場面を見てたって言うのか?」
俺がその後見知らぬ男に質問を問いかけると、その男はいきなりフッフッフと怪しく笑い始めた。
「ふふふ、バレてしまっては仕方がないそう!この俺こそ大学生内のどんな事もお見通し!期待のエース!新聞サークルの……」
「あ〜新聞サークル所属だから知ってたのか。納得いったわ」
「いや、夏そこはせめて最後まで聞こうぜ?」
「そこは興味ないから大丈夫だ。それと俺はこの後用事あるからもう帰るな」
「お、おう……」
「そんじゃまたな……いやまた会うか分からんから、またなは違うか」
「いやそこは普通にまたなでいいだろ!寂しいこと言うなよ!泣くぞ!」
「んじゃ改めて、またな」
「おう、またな」
そうして俺は自称新聞サークル期待のエースの……エースの…………あれ?
誰だっけ?
まぁいいか
そうして俺は見知らぬ男と別れて、少し寄り道して家に帰り、軽く汗を流してから配信を開始した。
◯
「おら!皆んな昨日ぶり!因みに今日は動画は無いからな!」
コメント
:配信2回目でこれとは
:おい初配信の緊張してたホムラはどこ行ったんだよ!
:えー動画無いの?
:元気だな〜
:ないの?
「当たり前だろあの動画にいくらかかったと思ってるんだ。それにあー言うのは、たまにやるからいいんだよ。ほら激辛ラーメンとかたまに食うとめちゃくちゃ辛いけど、いつも食ってたら舌がバカになって辛さを感じなくなるだろ?そう言う事だよ」
コメント
:なるほど
:何故そこで激辛ラーメンなんだ?
:ラーメン食いてえ
:腹減った
:最近激辛ラーメン食べた?
「よく分かったな。実は今日激辛ラーメン食べて来たんだよな〜。まーじで辛かった。辛すぎてまともに話せないレベルで辛かったから、配信までに話せる様になってよかったよ」
そう言いながら俺は、昼間大学から帰る途中に食べた激辛ラーメンを食べた事を思い出して、口から涎が溢れそうになった。
コメント
:うらやま
:草
:www
:ホムラって辛いの大丈夫なん?
:俺辛いの苦手だな
「辛いの?辛いのは得意ってわけじゃ無いけど、たまに食べたくなる程度は好きだな」
そんなこんな俺はホムラビトの皆んなと激辛の食べ物談議を話していた。
「そういやお前ら星野さんとかの他のメンバーの配信はどう?」
コメント
:面白いよ
:ホムラと違ってコメントしただけでめちゃくちゃ喜んでくれるから好き
:かわいい!
:ミリーちゃんのガバガバ軍人口調かわいい
コメント欄を一瞥すると、まだ配信は2回又は1回しかしていないが、それでも皆んなの配信も好評の様で、俺はホッと安心した。
結構俺が初配信で変な事をしたせいで、もしその被害が他のメンバーにかかっていたらと考えていると、気が気じゃなかったので俺はその返事に安心した。
「そっかそれはよかった。それとお前らの中の何人かさ、星野さん達にコスプレ強要しただろ?あれ辞めろよ迷惑……勝手はないけど。これでも俺達一応vtuberだからさ」
コメント
:おいおいこいつ自分からタブー破ったくせに注意して来たぞ
:コスプレ強要はダメだな
:強要していいのはホムラにだけだぞ
:早く新しい動画だせ!
:次の実写いつ?
「おいこら何で俺にはいいんだよ!それと実写って言うな、実写って!」
結構ふざけた内容を初配信で公開した結果俺は、リスナーからおふざけキャラと認定されたのか、他のメンバーとの差を感じる扱いをされていた。
「そんじゃまぁそろそろ配信終わりますか、乙ホムでした」
コメント
:乙ホムでした
:乙ホム
:また明日
:バイバーイ
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74話 凄いぞ自称エース
俺たちがデビューしてから約1か月経った頃
この時の俺達の現状はこんな感じだった。
九重ホムラ チャンネル登録者数 1500人
星野キラメ チャンネル登録者数 800人
軍神ミリー チャンネル登録者数 700人
母出マミ チャンネル登録者数 300人
初配信の影響もあり、俺が皆んなから頭1つ2つ飛び出している感じで、その後を星野さんと軍神さんの2人が続き、そして何故か母出さんだけがあまり人気を出せていない状態にあった。
「……何故だ?」
俺は同じ事務所の仲間として、皆んなの配信を見ているのだが、正直何故母出さんだけが伸び悩んでいるのかが分からなかった。
俺と母出さんはお金があった為、パソコンやマイクその他機材にもお金をかけていた。
だから配信は何のストレスも無く見れる。
逆に星野さんと軍神さんはお金がない様で、配信が途中で止まったり、音声がガビガビだったりするのに、何故か母出さんより人気が出ているのだ。
それに配信内容だってしっかりと考えられていた為、本当に何故母出さんがこんなにも人気が出ていないのかが、不思議で仕方なかった。
それからも何日か、何故母出さんが人気が出ないか謎だった俺は、もっと多角的な意見を取り入れようと、何故か俺がvtuberをやっている事を知っている、自称エースに話しかけた。
「おい自称エース、母出マミさんが伸び悩んでいる理由?」
「ああ、お前何でも知ってるだろ?だから教えろ」
「教えろって……夏はさ、俺の事言ったら何でも叶えてくれる、某青い猫型ロボットか何かと勘違いしてないかい?それと俺の事を自称エースと呼ぶのは辞めてくれないか?」
「いやだって俺お前の名前知らねえし」
「だ か ら !俺の名前は……って顔を逸らすな!まぁいいや、せめて呼ぶとしてもその自称は外してくれ」
「分かったよ。それで自称エース何で母出さんは伸びないんだ?」
俺が再度そう質問すると、自称エースは何か言いたげな顔をした後に、はぁーっと大きなため息を吐いてから答えた。
「俺は別にその母出さんって言う人のファンでも何でもないから見たことが無いんだ。だから明日まで待っててくれ、今日家に帰ってから見て、明日俺なりの感想でも伝えに来るよ」
「サンキュー。それじゃあ早く本当の新聞サークルエースになれるといいな」
そう言って俺は自称エースと別れた。
そして翌日
「おーい夏!」
「何か用か?」
自称エースが俺の事を見つけたのか、大きく手を振りながらこちらに近づいて来た。
「何か用って、昨日夏に頼まれてた件だよ」
「あー母出さんの、分かったのか?」
「いや、正直俺としては普通に配信見れたし、何ならタメになる話をしている分、俺的には夏の配信よりも有意義な時間を過ごせたよ」
「やっぱり自称エースじゃ分からなかったか……」
何かを隠しながら話す自称エースに、俺はさっさと話せと言う意味を込めてそう呟くと、自称エースは俺の目の前に腕を持って来て、チッチッチと指を左右に揺らしながら答えた。
「ちょっと待った!誰が分からないって?それと俺は自称では無くエースだ。」
「いいからさっさと話せよ自称エース」
「しょうがない話してやろう。まぁ結論言ってしまえば母出さんは戦ってる土壌が悪いね」
「土壌?」
急にこいつは何言ってんだ?
「おい夏こっちがせっかく調べて来てやったのに、何でそんなバカを見る様な目で見るんだよ!」
「そら急に意味わからん事言われたらこうもなるだろ。それでその土壌ってのは何なんだ?土でも耕せばいいのか?」
俺が適当に思った事を自称エースに答えると、自称エースはそう言うところが人気の秘訣なんだろうな、と意味のわからない事を発言した。
「それで話を戻すけど、土壌ってのはvtuber1人1人にある、言ってしまえば◯◯系vtuberの、◯◯のところかな。例えば君のところの軍神ミリーちゃんだっけ?あの子はミリタリー系vtuberかな?本人はまだよく分かってないけど、配信でリスナー達と軍関連の勉強をしているから、彼女の元にはミリタリー系が好きな奴が集まる。こんな感じで土壌の説明は分かった?」
「ああわかった、それでそれなら俺含めた他のメンバーは何系のvtuberなんだ?」
「えっとそうだね……」
そう言って自称エースはポケットとからメモ帳を取り出すと、そこを見ながら俺に説明してくれた。
「まず夏からだけど、君はあれだねイジられ兼おふざけvtuberかな?と言うか君は初配信がはっちゃけすぎてたから、正直なんて言っていいかよく分かんないけど、分類したらそんな感じかな?」
「なるほどな」
「それで次に星野キラメちゃんだけど、彼女はあれだね何系って言うか、存在自体が人気の権化みたいな子だね。夏ももっと頑張んないと多分彼女に、一瞬で抜かされちゃうよ?」
そうアドバイスをして来た自称エースの言葉に俺は、こいつも分かったんだな〜と1人感心していた。
俺も初めて星野さんと会った時から思っていたのだが、星野キラメという存在は凄く目立つのだ。
俺はわざと目立とうとして目立っているタイプだが、彼女はただただ生きているだけで目立つタイプだ。
ほらたまにいるだろ?顔も身長も体型も普通で、話し方も話の内容も声も普通、何をしても普通なのに何故かたまに目に映る、それの最終進化系みたいなのが星野キラメだ。
例えば俺が初めてユメノミライのメンバーと会った時もそうだ、その場にいたメンバーは星野さんを除いた人間は全員大学生以上だったが、その中で星野さんだけが高校生で、そのせいもあり俺は部屋に入った時から、彼女に目がいっていた。
それに加えて彼女はドジだ。
vtuberのリスナーのほとんどが男性で、男性ってのは皆んなドジっ子が好きなもんだ。
その2つの要素を組み合わせて持つ星野キラメという存在は、最初にも言ったがとても目立つのだ。
「それで本題なんだけど母出マミさんね、彼女って言ってしまえば清楚系みたいな感じだろ?俺も初めて見た時は人気でそうなのにな?って思ったけど、よくよく調べてみたら、どうして母出マミさんが人気が出ないかがよく分かったよ。」
「それは?」
「それは………………単純に清楚系vtuberが多い!と言うか多すぎ!俺昨日頑張って今デビューしてる全員軽くだけどみて来たけどさ、知ってたか?その約9割が清楚系何だぜ?そらあんな数の競合がいたら伸びるのは難しいわ」
そう自称エースに説明されると、俺は何故か凄くしっくりと来た。
それと同時に俺はこの件の解決策を見出した。
「今回はマジでありがとう。多分解決できるわ」
「え?まじ?今の話聞いただけで解決出来んの?夏お前の頭どうなってんだ?」
「どうなってるって……別に普通だが?」
その後も色々と俺達は話し合い、俺は今回の件のお礼も込めて自称エースに昼飯を奢ってやった。
「あ、それと夏お前メモ帳持てよ、さっきの見て思ったけどお前って、全部頭の中で自己解決するタイプだろ?一旦思った事を感じた書いて見直してみたら、別の解釈とか色々思いつくぞ。」
「そうか?」
「そうそう、それに1回やって合わなかったら辞めれば良いんだから、やらない損よりやる損って言うだろ?」
そう自信満々に言う自称エースを見て、父さんが俺がvtuberになる事を賛成してくれた時に、全く同じ事を言っていたのを思い出した。
「なんかお前うちの父さんみたいな事言うな」
「え?もしかして今の古かったか?」
自称エースは小声で古かったのかな?と何度も呟きながらも、今のことを律儀にメモ帳にメモっていた。
その後俺たちは別れて、俺は帰りに自称エースに言われた通りにメモ帳を買って帰った。
そして改めて思いついた作戦を書き出した。
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75話 け、計画通り
「おら!ホムラビトのみんな久しぶり!今日は動画だ!」
俺は以前にも来たコスプレとお面に、今回はそれにプラスしてエプロンとコックが被っている、あの長い謎の帽子を被っていた。
「そして今日は何と俺1人じゃないぞ!それでは先生自己紹介お願いいたします!」
「はい、本日は私母出マミのお菓子作り教室へようこそ。ユメノミライ学園書記の母出マミです。」
「あ、俺は副会長の九重ホムラです」
俺は今更自分が自己紹介をするのを忘れていた事を思い出し、母出さんの後で適当にしておいた。
「そして今回のお菓子作り教室に通うのは俺だけではありません!どうぞ」
「はーい!どちらかと言うと食べる方が好き!ユメノミライ学園生徒会長の星野キラメです!」
「という訳で今回の動画は俺達3人でやって行きたいと思います。ここであれ?軍神さんは?と思ったら人もいるでしょう。実はこのここのスタジオ予算の関係でどう頑張って詰めても、最高2人でしか調理ができない為、先程星野さんとの、味の審査係をかけた勝負に勝った為、別室でワクワクしながら待っているのでご安心を!」
という感じで俺のおふざけ動画シリーズの第2回目の撮影が始まった。
因みに星野さんも母出さんも、特にコスプレとかしていないので今回も動画に映るのは俺だけです。
すまんな!星野さんや母出さんのコスプレ姿期待してた皆んな!
そんな第2回おふざけ動画シリーズだが、この動画にはとある作戦が埋め込まれている。
その名も母出さんのお菓子作りのうまさを見せて、お料理系vtuberを目指そう作戦!
と言うのは母出さん達に伝えた嘘の作戦で、本当の作戦はうまく料理が出来ずにイライラ、母出さんの元ヤンの記憶を呼び覚まそう!清楚系が実は元ヤン!ギャップで新規リスナーを大量ゲット作戦だ。
この作戦はその名の通り、母出さんのお菓子作り教室で、何度も何度も注意してもうまく出来ないことに苛立ちを覚えさせて、そのまま噴火させる作戦だ。
こんなガバガバな作戦が本当に上手くいくかって?
上手くいくに決まっている。
何たって事前に俺が星野さんと軍神さんの、調理スキルを調べるために簡単な料理を作った時に、ガチギレしたからな。
いやーマジで米を洗剤で洗う民がいたとはな……ビックリだよ。
そんな米すらまともに炊けなかった方の星野さんを使えば、必ず母出さんのイライラゲージもすぐに溜まることだろう。
「それでマミ先生!今日は何のお菓子を作るんですか?」
「そうね……今日は、簡単にマカロンを作ってみましょうか」
「あの先生マカロンは簡単じゃないと思いますけど?」
「そうですか?でも事前にホムラさんに質問した時には、マカロンでお願いしますと言われましたが?」
「そらその選択肢の中で聞いたことがあるのがマカロンだけだったら、誰だってマカロンを選びますよ」
因みにその出された選択肢というのが、一つ目が皆さんご存知マカロンで、二つ目がサントレーノに三つ目がタルトタタンだ。
な?この中からなら普通にマカロン選ぶだろ?
そんな言い訳を心の中でつらつらと並べながら、俺たちはオーブンを余熱で温めたり、器材の用意などの動画に載せても面白くないマカロン作りの準備を進めた。
「それでは準備が出来たので、まずは卵を割って黄身と卵白を別けます」
そう説明された俺達は自分用のボウルに卵白を入れ、黄身はこの後俺が卵焼きでも作るつもりなので、そちらは一纏めにしようと決めたのだが
俺の隣の方からバキやバキャなどの嫌な音が聞こえてくる。
「あの〜先生隣の人がさっきから卵をめちゃくちゃ無駄に使ってるんですが……」
「そうですね。キラメさん今度は私と一緒に卵を割ってみましょうか」
「はーい」
そう言って母出さんが星野さんに覆い被さる様にして、一緒に卵を割り始めた。
それをカメラマンの園野さんが手元だけ写している間に、俺はカメラに写っていない間に星野さんが、黄身と卵白と殻を拳1つで一緒くたにしたボールから、殻を取り出してそれを黄身を入れていた別のボールへと移して、空になったボールを軽く洗った。
俺が1人そんなことをやっているうちにも撮影は進み、何とビックリ母出さんの手によって、星野さんは綺麗に黄身と卵白を分けることに成功していたのだった。
「やった!上手くできた!」
「そうですねよく出来ましたね。キラメさん」
くそッ失敗か!
次の作戦だ。
「それでは次はその卵白をハンドミキサーを使ってかき混ぜたいと思います」
「すみません先生!資金の問題でハンドミキサーはありません!あるのは手動の泡立て器だけです!」
「では、それを使いましょう」
という訳で資金の問題でハンドミキサーを買えなかった俺達は、安い泡立て器を使って卵白をかき混ぜた。
俺は何度かお菓子作りをしたこともあり、泡立て器を使った事があった為、少し大変だったが問題無くかき混ぜることに成功した。
だが星野さんはどうかな?
彼奴は卵すらまともに割れない。
そんな奴がこれを混ぜられるとでも?
そうして星野さんは俺の想像通り、勢いよく泡立て器を使って卵白をかき混ぜ、その卵白を周りに撒き散らした。
もちろん真横に居た俺は星野さんの卵白で汚された。
どうだ!母出さん怒ったか?
「星野さん。卵白は腕で混ぜるのでは無く手首で回してくださいね。それと動画映えのために手に持って、無駄な動きをしながらかき混ぜるホムラさんの真似はせずに、ボールを机においてかき混ぜてくださいね。それとホムラさんはコスプレについた卵白を拭いてきてくださいね」
「はーい」
「あ、はい」
その後も無自覚な星野さんからの攻撃を、母出さんは綺麗にかわし、そのまま星野さんと動画映えの為に大袈裟な動きをしまくる俺に、いい感じのアドバイスをしてくれた。
そうして星野さんの真横で料理をしているせいで1人ボロボロな俺と、和気藹々とした2人と色々撒き散らかされて汚れたスタジオを見て、この動画を終えた後の後片付けを考えて、園野さんはカメラを持ちながら肩を落としていた。
そんな何故か本来の作戦ならばボロボロになるはずだった2人が元気にやっており、作戦をしている俺と園野さんはボロボロになっていた。
「それでは最後にマカロンを焼きましょうか」
「はーい!」
「はい」
流石の星野さんも決められた時間を焼くだけ、それも母出さんがしっかりと監修してくれているおかげで、失敗する事無く無事綺麗なマカロンの外側が完成した。
そうして完成したマカロンの間に、母出さんが難しいらしいので、作って来てくれたガナッシュを挟み、俺達のマカロンは完成した。
「はい、これでマカロンの完成です」
「やったー!」
「流石にちょっと疲れた〜」
「それじゃあ早速この出来立てのマカロンを持って、ミリーさんの所に行ってみましょうか」
「「はーい」」
という訳で俺の考えていた作戦は無事失敗し、母出さんは一切微塵もキレた様子はなかった。
その後俺達は軍神さんの元にマカロンを持って行ったところ、軍神さんは大いに喜び作戦は失敗したが、俺たちのマカロン作りは大成功を収めた。
因みにこの動画を投稿後は、俺の想定とは違い母出さんはその圧倒的母性を感じさせられる態度に、リスナーは母出さんにバブみを感じ、そのままそっち方面で人気が出た。
後日それを見た自称エースに、出来ない子に優しく教える事で、今後人気の出るであろう星野さんとカップリングを作れた事と、それに加えて母出さんを清楚から聖母にジョブチェンさせたんだな!流石だ!
と、よくわからんけど褒められたので俺は「まぁな」と、今回の予期せぬ出来事を全て俺の手柄の様に語っておくことにした。
まぁ結果的に母出さんが人気出たから大丈夫だよな!
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76話 定例会
無事母出さんの人気が出た日の週末、俺達はメンバー全員で集まって、毎週末の恒例行事となっている定例会をやっていた。
「それじゃあこれより私達ユメノミライの第5回定例会を始めたいと思います。」
「「「はい」」」
「それじゃあまずは皆んな今週で変わったことはあった?まずはホムラ君から」
「はい、俺ですね。俺は2回目の動画シリーズを上げたことによって、登録者が200人も増えましたね。あとは……そうそうメモをよく取るようになりましたね。」
「えー本当にホムラさんの伸び方は凄いですね」
「母出さんありがとうございます。でもそんなこと言ってる母出さんが今週1番伸びましたよね?」
「そ、そうですね」
そう言われた母出さんは少し照れ臭そうにそう答えてくれた。
以前までの定例会では、自分だけが伸びが悪く元気が無かったので、喜ぶ母出さんの声を聞いて俺は、作戦こそ失敗したもののやってよかったと思ったのと同時に、強力なライバルが現れた事に、全力で喜べなかった。
母出さんの登録者数は、先週までは300人と圧倒的に少なかったのが、今回の動画の効果でまさかの一気に+700人と言う、俺の初配信以降初めてのチャンネル登録祭りが始まり、俺に続いて2番目に登録者数が1000人を突破した。
それに俺が1番恐れているのは、今の現状でも母出さんはもう1つの、元ヤンバレと言う俺が元々計画していたギャップを利用した進化を残している事、そして今の母出さんの人気でギャップ何てものが、配信バレでもしたら俺の登録者を抜かれる!と思うので、俺は1人絶対に母出さんをカメラが回っている場所では怒らせないことを誓った。
「本当今週のマミさんの伸び方凄いよね〜。ミリーちゃん」
「そうだなキラメさんと私も、サーとマミさんに追いつく為にも、もっと努力せねばならないな」
「そうだね!」
今週はそこまで伸びなかった2人は、俺たちを目標に頑張ることを誓いあっており、その様子に微笑ましく思いながらも、これからも追いつかれ…いや、追い抜かれ無いように頑張らないとな。
それはそれとして
「…………あのー軍神さん?」
「どうかしましたか?サー」
「そのサーと言うのは?俺の名前にサなんて文字入ってないんですが?」
「サーは知らないのか?」
「あーはい、全く知りませんね。」
そこから俺は軍神さんから、何故自分がサーと呼ばれているかと、何故残りの2人が普通の呼び方なのかを聞いた。
「な、なるほどなー」
「わかってくれましたか?」
「いやまぁ意味はわかったけど、出来れば俺も普通に呼んで欲しいのですが……」
その俺のお願いを聞いた軍神さんは、少し考えた後却下してきた。
「そうだ!名前の呼び方といえば!」
「いえば、どうかしたんですか?」
「ホムラ君!君の私たちの呼び方がすっっっっっごく硬い!」
「はぁ、そうですか?」
「そうだよ!苗字にさん付けは流石に硬いよ!」
「いやでもね星野さん。」
「ほらまた!という訳でホムラ君には、これからは私たちの事を下の名前で呼んでもらいます!」
「えー、なんか今更下の名前で呼ぶの恥ずかしいんですけど……」
「知りません!これは会長命令です!」
マジか……いや俺も最近みんなのそれぞれの呼び方変わってきてたから、俺も変える時かな?とは思ってはいたが、まさかいきなり下の名前か……
いや、考えてたって変わるもんも変わらん!
それにしたの名前で呼べって言ったのは、あっちだ俺が恥ずかしがることはない!
「えっとじゃあ……改めてよろしくき、キラメさん」
「あ、さん付けも禁止ね」
「は、はぁ????何故?WHY?」
「だってねぇ?」
「ねぇ」
「ああ、そうだな」
「え?何?何で俺抜きでわかり合ってんの?」
「「「さん付けはキャラ似合わない」」」
そ、そうなのか?
俺的にはおふざけ紳士キャラでやってるつもりなんだが?
「そんなに合わないのか?」
「全く合ってない!」
「そうね全然合ってないわね」
「残念だが」
「おいおいマジかよ……特にどの辺りが?」
俺のその質問に少し考えた後に星野さんが、……いやキラメが答えた。
「えっとね。まずホムラ君ってめちゃくちゃ陽キャって言うんだっけ?そんな感じじゃん。それも1番偉い感じの。そんな人が私達に苗字でさん付けは似合わないかなって……どう?」
「え?ちょっと待ってくれ。俺って陽の者なのか?大学で親しい奴が名前の知らん奴が1人だけの俺がか?」
「それは……」
キラメが少し言葉に詰まると、キラメとミリーとマミ…さんの3人でコソコソ話をし始めた。
微かに聞こえてくる声からは、何か呆れている口調でイケメンだとか何とか、話しているのが聞こえて来たが俺には何のことかさっぱりだった。
そうして何かを話し合った3人は、満足したのか戻って来て話の続きをする事になった。
「それじゃあホムラ君改めて私たちの事1人ずつ呼んでくれる?それで今日の会議終わろうと思うから!」
「マジで?」
「マジもマジ!大マジだよ!」
そうふんっと自信満々に鼻で息を吐くキラメを見て、俺は諦めたように名前を呼び始めた。
「それじゃあ、まずはキラメ」
「はい!」
「次にミリー」
「サー」
「そして最後がマミ………………さん。すいません流石に年上の方を呼び捨てはちょっと」
「私は全然大丈夫ですよ。それにこちらの方が私も落ち着きますから」
そう微笑むマミさんはまさに聖母の様だった。
あー、これは人気出るわ
そんな感じで俺達の定例会は終わりを告げた。
そしてこの定例会が後の生徒会議事録と言いう、ユメノミライ学園での週一でやる恒例行事へと変わり、それを機に俺たちは更に人気を高めていった。
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77話 闇鍋 その1
俺達ユメノミライがデビューしてから約半年が経ったある日、俺の元に3件全く同時にこんな連絡が入った。
『助けて!ホムラ君!パソコン壊れたから直そうとしたら、バラバラになっちゃった!』
『サーパソコンからいきなり変な煙が出て動かなくなりました。』
『ホムラさん実はパソコンが……』
まさかの3人同時にパソコンが壊れて配信が出来なくなったらしい。
……いやんな偶然あるか!
という訳で本日は急遽4人集まってのオフコラボをする事が決定した。
3人はうちにも何度か来た事があるので、集めるのと同時に今から闇鍋をやるから、各々適当に食材を買ってくる様にと伝えておいた。
元々はおふざけ動画シリーズでやろうと思っていたが、最近ではスタジオを超えて普通に外でも活動になった為、今更闇鍋如きだとうちのリスナーは喜ばないと思った為、ボツになりかけていた企画だったので、今回のオフコラボで供養できることに喜びながらも、俺は鍋の用意といつものコスプレに着替えた。
◯
「オラ!お前ら今日は3人同時にパソコンがお亡くなりになったらしいので、急遽ではあるが闇鍋オフコラボだ!適当に自己紹介お願いしまーす」
「今回パソコンがバラバラになった星野キラメです!」
「パソコンから煙が出た。軍神ミリーだ。」
「飲み物を溢して壊しました。母出マミです。」
「今日はこのポンコツ3人組と闇鍋をやっていきます。はい、拍手」
コメント
:草
:www
:ホムラはパソコン壊さないの?
:煙!?
:奇跡だなw
:何故そこで闇鍋?
「はい、色々気になるところがあった様ですが、無視しますね。それで今回最後のゲストが、ここ最近やけに出番の多いマネージャーの園野さんです。」
「あ、お久しぶりです園野です。今回もカメラマン兼鍋に具材を入れる担当でやってきました」
コメント
:園野さんきちゃー!!!
:園野さーん!筋肉見せて!
:園野!園野!園野!
:また動画楽しみにしてます!
園野さんが出ると同時にコメント欄は園野さんで埋まった。
何故こんなにも俺のチャンネルで園野さんが人気なのかと言うと、ここ最近の俺のおふざけ動画シリーズでは先程もよく外に活動しに行っていると言ったが、その際変なお面を付けたコスプレをしている俺と、タンクトップ姿のガタイの良い大男の2人でよく動画に映る為、次第に園野さんは人気になって行った結果、今の様な人気を手に入れる事に成功していた。
「それでは具材を鍋に入れていきますので、皆さんは別の方を見ていてくださいね」
「「「「はーい」」」」
そうして始まった闇鍋なのだが、先程から園野さんの方から、うわっやべ〜などの具材を見てなのか知らないが、明らかに引いている声が聴こえて来て、俺は嫌な予感がする。
因み今回俺が選んだのは、激辛の鍋の素と牛肉に白菜そして最後がプリンだ。
本当は刺身とか入れようかとも思ったが、実際に自分も食べなきゃいけないと言う事と、俺が今回の主催なんだし、せめて食べれる物を入れないとと思ったので、今回は抑えめにした。
そして俺の予想だが、多分マミさんは俺と同じ考えでまともな物を入れて、キラメがふざけた物を入れるのだとは思うのだが、ミリーアイツが全くわからん。
ミリーは真面目奴だから普通なら、食べられる具材を入れるとは思うのだが、逆に真面目が故にふざけた物を入れなければならないと思い、変な物を入れてくるかもしれない為、今回の闇鍋での1番警戒しないといけないのが、ミリーの入れた物だと俺は推理している。
「具材全部入れましたけどこの後はどうすれば良いですか?」
「あ、ならそれを適当に更に盛り付けてから、鍋の蓋は閉じておいてください」
「了解しました」
そうして俺達は園野さんに取り分けられた鍋を食べ始めた。
「「「「いただきます」」」」
「うわーこれ怖え」
「そう?私は楽しみ何だけど?」
そう言ってキラメが何かを口に入れ、咀嚼していると先程まではやる気に満ちていた表情が、どんどんと悪く本当に大丈夫か?と心配になる程青白くなっていった。
「気持ち悪い」
「そ、そんなにか?」
俺はキラメの表情を見て更に食べる気が失せたが、それでも食材を無駄にしてはいけないと言う強迫観念から、食べなくてはいけないと思い込み、俺は意を決してその謎の物体を口へと放り込んだ。
瞬間口の中には甘〜い味が広がった。
あれ?そんなに不味くないぞ?
……………………いやちょっと待て、何で甘いんだ?
確か俺びっくりするぐらい辛い激辛の鍋の素入れたよな?
なのにこの甘さ、流石におかしくないか?
そう思った瞬間口の中は甘さと辛さと、どこから来たのか苦さまで混じった気色の悪い味へと変貌した。
「ウップ」
一瞬吐きそうになったのを、両手で口を押さえる事で堰き止め、俺はその劇物を無理やり胃の中へと押し込んだ。
「マッズなんだこれ!おえ〜気持ち悪りぃ。みんな一体何を入れたんだ?」
そう俺が聞こうと横を向くとそこには……
俺同様に顔を青くして口を押さえている、マミさんとミリー2人の姿があった。
因みにキラメはあの後トイレにゲロゲロしに行きました。
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78話 闇鍋 その2
闇鍋を始めて一口目で俺達は思っていたよりも吐き気を催すレベルで不味く、もう本当に食べるのが嫌になっていた。
それでも食べ物で遊ぶだけ遊んで、もし残す様なことがあれば炎上してしまうかもしれないので、そんな事になってしまえば今後の活動にも影響してくる……
だからこそ俺はこの闇鍋の主催者として、鍋を残すわけにはいかないのだ!
そうして俺は置いてある自分の分の取り分けられた鍋を、一気に口へと掻き込み味を感じる前に無理矢理胃の中へと押し込んだ。
来た!これなら!
そう思った次の瞬間俺の口内には先程食べた鍋の味を何倍にも濃くした、もう食べ物の域を超えた何かしらの兵器に該当するであろう、味が口中に充満した。
俺は勢いよく走り出した。
周りの事など一切気にせずに、口内にある内容物を吐き出さない様に口を押さえて、トイレへと全力疾走で向かった。
するとちょうど色々吐き出せたのか、グロッキーになっているキラメとすれ違った。
いつもならすれ違う際には挨拶したり、一言二言話す俺たちだったが、今は2人ともそんな事をしている暇や元気がなかった為、そのままお互いのことを見ることもなくすれ違い、キラメは地獄へと俺はこの苦しみを吐き出して良い天国へと、異なる歩幅で向かった。
そして俺は吐いた。
その後は結局女性陣も頑張ってくれたが、さらに取り分けられた一杯を食べ終えると、気絶してしまったので残った鍋は、俺とスタッフ(園野さんのみ)で美味しく……うん美味しくいただきました。
俺の元々の想定では、ちょっと変な味のする鍋を食べて、最後に答え合わせをして配信を終えるつもりだったが、すでに3人が気絶して……いや今4人になったな。
そんな訳で俺以外が全滅してしまったので、結局この鍋に入っていた食材は分からずじまいで、配信は終了してしまった。
とは言ってもリスナーは鍋が作られているところを見ていたので、あの劇物鍋に何が入っているか知っているので、その辺りは大丈夫だろう。
だから……俺も…………今は……………………ゆっくりと…………………………休むよ
そうして、俺達5人は2時間後に帰ってきた真冬に起こされるまで、その場で気を失っていた。
結局その日は園野さん含めて、家に帰るほど元気がなかった為お泊まり会を行い、いっその事これも配信するかと言う話も出たが、流石に昼間の疲れが抜けきっていなかった俺達は、そのまま配信をする事なく真冬が頼んでくれた出前を食べて、そのまま泥の様に眠りにつき、翌日の朝に俺が家まで送り届けた。
ちなみにあの後結局あの鍋に、何が入っていたのかが気になり調べたところ、
俺が、
激辛鍋の元、白菜、牛肉、プリンの四つで
キラメが、
チョコレート、生クリーム、甘エビの三つで
マミさんが、
焼き鳥、お酢、マシュマロの三つで
ミリーが、
コーヒー豆、乾パン、カレーのルーの三つらしい。
いや鍋に入れるもの買ってきてるの俺だけかよ!
はっちゃけすぎかよ!
と言うかマミさんあなたは俺の味方だったのでは?
お酢って何ですか?お酢って!
ミリーに関してはカレーを入れるファインプレイをしているはずなのに、何故かあの何に入れても俺色に染めてくるカレーの味一切しなかったし、と言うか何か苦いと思ってたのはコーヒー豆か……
そして最後がキラメだが……
まぁ、なんて言うか正直これは妥当すぎて何も言えねーわ
だが正直これで終わっていたら、まだ良かったよ!
おい園野!お前何勝手に納豆、キムチ、くさやとか言う絶対臭くする三銃士みたいなの入れてんだよ!
俺はお前をカメラマン兼料理人として呼んだよな?何勝手なことしてんだよ!
そしてもし俺が巻き込んでなかったら、闇鍋の面白いところだけを楽しんで、逃げるつもりだっただろ!
いや本当無理矢理にでも巻き込んで正解だったわ
そうして無事かどうかはわからないが終了した闇鍋配信は、思いの外人気が出たおかげと言うか、せいと言いますか、vtuber界隈で闇鍋ブームが到来し、今デビューしているvtuberは全員闇鍋をしたのでは?と思うほどに皆んながこぞって闇鍋をやり出した。
まぁでもそこで第一走者である俺達が、結構闇鍋でも酷い部類のことをやったせいで、後になればなるほど元々ハードルがバカ高かったせいで、しまいには面白さを取るために食べ物以外も鍋に突っ込んで炎上するvtuber達を見て、俺は事前にキラメが謎の自称宝箱を鍋に投入しようとしたのを、無理矢理にでも止めて良かったと安心した。
そんな訳で俺達、特に俺はこの闇鍋ブームの第一人者という事で、注目を集めた結果登録者が8000人に到達した。
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79話 後輩
俺がvtuberを始めて1年が経った頃、俺は配信開始当時から目標にしていた登録者1万人を突破し、そのお祝い配信をした時には、園野さん達スタッフさん達が頑張ったおかげで、何とあの元祖vtuberと言われているお方からも、お祝いメッセージを頂けるというサプライズもあり、ユメノミライのメンバーやスタッフさん達にいつも見ていてくれているリスナー達で喜び合っていた。
そして良いことは続くと言うが、俺が1万人を突破した1ヶ月後にキラメも1万人を突破し、さらにその1ヶ月後には俺達の配信を見てか、結構大きな会社が事務所を丸ごと買取そのおかげで俺達が使えるお金も増え、園野さん達の給料も上がったらしい。
ただ少し残念だったのが、これを機に社長がvtuber業界から引退し、実家に戻って家業を継ぐということで、今まで一緒に頑張って来た仲間の1人が居なくなるということで、俺達はその日に社長をおくるかいとして、盛大に送別会をとり行った。
それからもユメノミライは順調に伸び始め、俺達がvtuberを始めて1年と半年で、メンバー全員が1万人を突破し、この頃にはキラメと俺の登録者の数はほとんど同じになり、俺もそろそろ抜かれるかな……
と考えていると、新しくなった運営から驚きのことを話された。
「俺達に後輩ですか!?」
「はい」
「マジか!」
「後輩!って事は私達が先輩になるって事?」
「後輩ですか、それは大変楽しみですね」
「へーどんな子が入るんだろうね?」
「ずっと男が俺1人ってのは今後肩身が狭くなりそうだから、出来れば1人でも良いから男が来て欲しいな」
その話を聞いた俺達は各々の後輩に対する理想などを話し合って盛り上がった。
そうして俺達はユメノミライからユメノミライ一期生へと変化した。
それからまたしても数ヶ月後、俺達は問題児達に出会った。
久しぶりに新しくなった事務所に、後輩が来ていると言う話を聞いた俺は向かった。
後輩は何処だ?
そんな事を考えながら俺は事務所の部屋を片っ端から開けて、そこで新人は何処だ!と叫んでは部屋を閉じるを繰り返していると、扉の横にユメノミライ二期生と書かれた紙が貼られている部屋を見つけた俺は、勢いよく扉を蹴り破りネットで買ったクソデカクラッカーを鳴らして叫んだ。
「ようこそユメノミライへ!!!!……ってあれ?お1人さん?他の人は?」
俺がいきなり扉を蹴り破り、さらにはクソデカクラッカーをほぼ不意打ちで鳴らしたせいで、今まで椅子に座ってスマホをいじっていたであろう、少し柄の悪い兄ちゃんが、驚きのあまり椅子から崩れ落ちていた。
元々新人は3人だと言う事と、今が集合時間という事を聞いていた俺は、なぜかここに1人しか居ないことに少し違和感を感じ、頭を傾けながらも尻餅をついている男に手を差し伸べて再度話した。
「えーっと改めてようこそユメノミライへ。俺は君の先輩になる九重ホムラね。これからよろしくね」
「う、うっす」
新人はこちらを引いた目で見ながら一応は返事を返してくれた。
こんなこと如きで驚くってこの新人大丈夫か?
って俺が考えた所で、このさっきから口を金魚みたいにパクパクしてるだけの男も、しっかりとした審査を抜けたから大丈夫だろ。
と、そんな事を俺も思っていた時期がありました。
何とこの柄の悪い兄ちゃんはお偉いさんの息子らしく、バリバリのコネ入社ならぬコネデビューでした。
マジかよ……
初の後輩にして、早々にコネデビューという面白さを一切保証されない問題児を、それも俺が望んでいた男という事で、残念に思っていたのも束の間、俺はこの後現れる真の問題児を見て、まだコネデビューはましだったと思わざるを得なかった。
男の新人くん……久瀬ヤウロくんと俺が話していると、廊下の方から何やら大きな音、これは大量の足音か?
きっちりと揃った大量の足音か音がコチラへと近づいてくるのが聞こえて、初めは少しうるさいな……と思う程度だったのだが、音が近付けばこの足音が普通に歩いて鳴るものではなく、足をわざと踏み付けて鳴らしている音だとわかるのと同時に、少し揺れを感じて俺と久瀬くんが恐怖から抱き合って、部屋の隅に移動していると扉がバンッ!と大きな音と共に開けられた。
そしてその扉からレッドカーペットが転がり広がった。
正直この時点で全く意味が分からず、本当にどうした?
と困惑してあると、今度はその扉から大量の黒服が人が1人すっぽりと入ってしまうほどの大きさの、ガチモンの宝石が散りばめられている宝箱を持って入って来た。
俺はもしかして運営が何かやったのかと思い、コネデビューの久瀬くんの方へと視線を移すが、久瀬くんはあまりの非常識の事に目を奪われ口を大きく開き固まっていた。
そして次の瞬間宝箱が勢いよく開かれると、中から黄金のブロンドの髪をロールにしている、よくアニメや漫画などで見るthe金持ちがやる縦ロールをリアルでやっている、金持ちオーラ全開の金持ちの擬人化みたいな少女が飛び出して来た。
「皆様!お待たせしてしまって悪かったでごぜーますわ〜!私は金城カネコと言いますわ〜。以後お見知りおきをですわ〜!!」
「「「「「「「「流石はカネコ様!」」」」」」」」
いきなりびっくりするぐらい金の掛かった超巨大宝箱から、個性の押し売りみたいな女……俺の後輩が出て来たと思ったら、先程までは手を後ろに組んで立っていた黒服達が、跪き何処から取り出したのか分からない薔薇の花びらをその場で撒き始めた。
その様子を見て完全に固まっている久瀬くんを放っておいて、俺は立ち上がりゆっくりとその少女金城カネコの元へと歩みを進め、跪き手を差し伸べ挨拶をした。
「お初にお目にかかります金城様。私はユメノミライ一期生の九重ホムラと申します。」
「あら先輩ですの?これからはよろしくお願いしますわ〜!」
そう言って俺の手を取りながら宝箱から出て来た金城さん……いやコイツは金城でいいな。
金城をいまだに固まっている久瀬くんの横に座らせて、俺は黒服達に散らかしたものを片付けさけて、そのまま帰らせた。
いやーマジか……まさかの後輩2人が問題児とは、それも1人は人気になるか分からないコネデビューで、もう1人が絶対に面倒ごとを起こして、更には確実に人気が出るタイプか……
せめて、残りの1人はまともであれとは言わんが、せめて……せめて!問題児ではありません様に!!!!
だが俺のそんな願いはすぐに砕け散った。
何と残りの1人がまさかの顔合わせをブッチしました!
それもなんとね運営の人が連絡した所、今ブラジルにいるんだって、寝坊とか行くのが嫌になったとかじゃなくてまさかの地球の反対側!
頭おかしいんじゃねぇの?
それが俺に初めて出来た後輩達、ユメノミライ二期生だ。
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80話 二期生の初配信
二期生の初配信当日
1番手の久瀬ヤウロは流石はコネデビューと言った所、案の定配信は面白くなく、音量調整に配信画面も適当に素材を置いただけで逆に不快感のある配信で、一応ユメノミライの二期生だからという点で見てくれている人だけが残り、その他のリスナーは流石に無理だと配信画面を閉じたせいか、同接数は初配信にして100人行くか行かないか程度だった。
そんな叩かれる事はないが、なぜコイツがユメノミライに入れたんだ?と思われている久瀬ヤウロの配信は終わり、次は金城カネコの初配信なのだが……
「皆様初めましてでございますわ〜!私はユメノミライ二期生の金城カネコですわ〜。本日は一期生でもある私の先輩のホムラ様と、同期のノマド様を探しに行くために、私のプライベートジェットからお送りいたしますわ〜!」
「ご紹介にありました。ユメノミライ一期生になったばかりの九重ホムラです。よろしくね」
という訳で今俺と金城は現実で初めて見たプライベートジェットに、2人してコスプレとお面を被るスタイルで黒服さんが持っているカメラに2人で手を振っていた。
「ホムラ様ホムラ様、今少し宜しいですか?」
「いいけどどうした?今は金城の初配信何だから俺とじゃなくて、もっとリスナーと話したほうがいいんじゃないか?」
「いえ、それは後でやるのでか大丈夫ですわ。それで質問なのですけど、この衣装少し目立ちませんこと?コスプレにお面って……」
「いやいや金城お前何を言い出すかと思えば、俺達の職業って何だ?」
「vtuberですわ」
「だろ?あのな金城しょうがないから俺が先輩として教えてやる。vtuberってのは目立ってナンボの職業何だよ!なんせ面白いかは置いといて今のところギリギリだけど、1番目立ってる俺がユメノミライで1番人気だからな!」
「なるほどですわ!」
そんな事を俺と金城が話していると、プライベートジェットの高度は少しずつ下がっていき、俺たちが目指していた目的地についた事を教えてくれた。
「という訳で「やって来ました!ブラジル(ですわ〜)!」」
コメント
:ふぁーwww
:初配信でコスプレしてブラジル行くとかバカだろw
:コレがユメノミライの二期生か
:頭おかしいだろ!
:ホムラもフッカルかよ!
:うわ、マジもんのブラジルじゃんw
始めて来たブラジルに少しテンションが上がりながら周りを見渡していると、金城が話しかけて来た。
「ホムラ様ってポルトガル語話せますでしょうか?私は英語とフランス語だけしか話せませんわ!流石にポルトガル語はちんぷんかんぷんですわ〜!」
「そうなの?俺は英語に韓国語に他は中国コメントが少し話せるぐらいかな?とは言っても韓国語は何回か旅行で行ってそこで覚えた程度だし、何なら中国語に関したら大学の講義で覚えた程度だから人と話せるかって聞かれたら、正直わかんない程度だけどね」
「なるほどですわ。でしたらノマド様捜索は私の黒服達に任せましょうか!」
なるほどな〜。プライベートジェットを持つレベルの金持ちの付き人になるなら、ポルトガル語も話せないといけないのか……
いやクッソ要求レベル高いな!
けどまぁ、
「俺も金城も話せないなら仕方ないか……でも1回ぐらいは配信もしてる事だし、通行人にぐらいは話聞いといたほうがいいかもな」
「なるほどですわ〜!でしたらあの方なんていかがでしょう?」
そう言って金城が指差したのは、本当に何処にでもいそうな人……ではなく、明らかにヤバそうな肩には刺青に手首や首周りに金ピカな装飾を着けている、園野さんばりに筋骨隆々の大柄な大男だった。
「何故にあの人がいいと?」
「何故ですか?そんなのあの方がここら一帯のボスっぽい見た目をしているからですわ〜!」
「そうだな、まぁ一般人に聞くよりかは、何か知ってそうだな。よし話しかけに行くか!」
そうして俺と金城はそのいかにもヤバそうな人物に話しかけに行った。
◯
俺様はここら一帯を裏で牛耳っている組織のボスだ。
今日はオフの日で休日を楽しんでいたのだが、何でも今この辺りには、プライベートジェットで黒服を連れた金持ちがやって来たってのを部下の1人から今聞いたのだが、コレは商売の匂いがするぜ。
そんな事を大男が考えていると、その今ちょうど話題に上がっていた一団の姿が見えた。
ほう……あれが例の金持ちか。
そう男が遠目にその一団を観察していると、いきなりその一団の中に居る金持ちそうな衣装を着た女が指を刺して来た。
ま、まさかこの短時間で俺の正体に気がついたのか?
いやまさかな……そんな訳
そう男が自分の考えを振り払う為に頭振っていると、その金持ち集団の中にいる、周りの黒服とは違う衣装をした2人がこちらに振り向いた。
今までは後ろ姿で気が付かなかったが、今こちらを向いて初めて気がついたのだが、その2人は顔に奇妙な仮面を付けていた。
コレも今更なのだが、普通ならこんな場所にプライベートジェットと見知らぬ人間に黒服とか居たら、絶対に人だかりができてそうなモノなのだが、よくよく周りを観察してみると、周りの一般の連中も何やらその一団とは目を合わせない様にしている事に気がついた。
そんな事を1人頭の中で男が分析をしていると、その変な格好をした2人が勢いよくコチラに手を振って近づいて来た。
うわぁぁ!!!来やがった!
「誰だお前らは?俺様に何の様だ?」
男は少し怒気を含めながらそう発したのだが、その辺な格好をした2人は一切怯む事なく、一体何語かも分からない言語でコチラに話しかけて来た。
いや何なんだよコイツら。
普通こう言うのってその国の言語で話しかけてくるもんじゃないのか?
よくわかんねぇけど怖えよ!早くどっか行けよ!
「テメェら要件がねぇならさっさと失せろ!」
男がさっきから意味の分からない言語で話しかけてくる2人組を追っ払う為に、今度は先程よりも怒気を含めて発したのだが、今度は2人組の男の方がいきなり肩を組んできた。
いや、なになになになに!?!?
何で?どうして今肩を組んだんだ?
言葉は分からなくても雰囲気で怒ってるのは伝わったよね?
本当コイツらの頭どうなってんだよ?もしかしてヤクやってんのか?
怖えよ!
男が1人恐怖していると、その変な仮面を被った2人組のいきなり肩を組んできた男の方が、服の中から1枚の少女が映った写真を取り出し見せて来た。
いやだからなんだよ!
何?この子がどうしたの?探してんの?
頼むから誰か俺にこの状況を説明してくれよ!
男がそんな明らかにヤバい2人組に絡まれて、完全に固まっていると、その2人組はお互いの顔を見合わせて顔を横に振り、先程までやけに親しそうに肩を組んでいた男が離れた。
これで解放される。
そう男が思った瞬間、今度は女がいきなり高笑いをし始めたと思うと、100は入っているであろう厚みの札束の入った紙袋を渡して来た。
いやだから怖えよ!
何だよ何なんだよ!さっきからと言うか何で急に金?怖えよ!そんな見るからに怪しい金受け取れるかよ!
男はこれ以上この頭のおかしい2人組と関わっていると、ダメな気がして逃げようとした。
だが男は黒服に囲まれて逃げる事はできなかった。
「もう本当に勘弁してくれ!」
その後変な仮面をした2人組から解放された男の元に、先程の黒服の一団が訪れると、普通にネイティブなポルトガル語で、写真の少女を探している事を教えられた。
「…………いや話せるのかよ!」
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81話 ストーカーってマジ?
「ホムラ様あの方全然ダメでしたわね」
「そうだな。俺も普通に言葉は通じなくても身振り手振りで通じると思ったんだけどダメだったか。いけると思ったんだけどな〜」
コメント
:いや無理だろ
:何故それでいけると思った?
:せめて挨拶ぐらいは調べようぜ
:相手の人めちゃくちゃ嫌がってただろ
:相手の人怖かっただろうな
「と言うか今更なんだけど、初対面の人にあんな態度取って大丈夫だったの?普通にこう言うの迷惑系みたいで、個人的にはどうかと思うけど……」
「大丈夫ですわ!軽くうちのものが調べたところ、あの方の会社が非合法な事をしてて、この後警察に連行されるので、それまでの時間稼ぎをしていただけですわ〜!」
「え!?じゃあ何?俺そんな危ない人と肩組んでたの?怖〜」
よくあんなふざけた態度って殺されなかったな俺。
コメント
:マジかよ
:と言うか今更だけどカネコちゃんって何者?
:非合法って……
:こっわ
:よくホムラ生きてたなw
「まぁいいや、それじゃあ御旅屋さんが見つかるまで暇だしブラジル観光でもする?」
「賛成ですわ〜!」
そういう訳で俺達は、警察に連行される筋骨隆々の大男を背に、ブラジル観光へと向かった。
そうして俺達はユメノミライ二期生の内の1人である御旅屋ノマドが発見された2時間後までを、食べ歩きやら他のユメノミライメンバーや真冬や両親、ついでに自称エースのお見上げを買ったりして時間を潰した。
と言うかよくたった2時間で、ブラジルの何処にいるかも分からん人間1人を探し当てれたな!
すげえよ黒服さん達!
そんな訳で黒服さん達に確保された御旅屋ノマドを無理やりプライベートジェットに押し込み、俺達は日本へと帰国する事にした。
因みに御旅屋ノマドの初配信は日本へ帰る途中のプライベートジェットの中で行われた。
初配信にそれまでにあった運営からの呼び出しの全てをブッチした女だ、こんな何処の誰が見てもわかる問題児を運営は採用したんだ。
そんなクソみたいなデメリットがあるのに採用したと言う事は、それを超えるメリットがあると言う事だ。
こんなにも迷惑をかけたのにも関わらず謝る事もせず、人が買ったおみあげを勝手に開けて食ってる奴だ、正直そんな奴がそこまでできる奴だとは思えないんだが……
そうして始まった御旅屋ノマドの初配信は、もう終始グッダグダで話す内容も適当オブ適当、だがそれがどういう訳か一部のファンにびっくりしたほど刺さったらしく、トレンドにユメノミライ新人、ブラジル、金城カネコ、九重ホムラ、御旅屋ノマドと、あり得ない数乗る結果となった。
まぁそら、初配信でvtuberがいきなりコスプレ姿で、プライベートジェット乗って同期を探しにわざわざ地球の裏側まで行ったとなったら、そら注目も集めるでしょうね。
まぁ俺もこの配信のおかげで登録者数を伸ばせて、一時はキラメに追い抜かれそうにもなったが、安全圏にまで逃げ切ることに成功した。
それからの二期生は金城が一気に一期生に迫る勢いで伸び始め、次点で初配信以降また海外に行ったらしく一切配信をしていない御旅屋ノマドがゆっくりと伸び、最後が久瀬ヤウロなのだが、配信を始めてから女性vtuberとばかり、それもセクハラまがいの配信をしているせいでリスナーは不快感を感じ、登録者は増えるどころか減るばかりで伸び悩んでいた。
もちろん初めは俺達も久瀬くんをどうにかしようとやっていたが、キラメ達は久瀬くんに何を言っても全てセクハラで返される為、だんだんと関わるのが嫌になりそのまま関わらないようになり、俺はどうにか同じ男性vtuberとして何度かコラボをやってみたものの、やる気なし元気なしつまらないの3点セットで、俺のリスナーがイライラし始めたので、それ以降は疎遠になって来た。
◯
こう言う時こそあいつに頼ろう!
そう思い俺は大学の帰り道で、最近新聞サークルの新聞の一面を飾って天狗になっていた自称エースに、久瀬くんの相談をして来た。
「いや夏、お前あれは誰がどう見てもダメだろ」
「あ、やっぱりダメか?」
「そらそうだろ、別にさぁセクハラばっかりする奴だったらまだ、下系で売っていけば何とかなるとは思うけど、アイツやる気ないじゃん」
「でも御旅屋さんもやる気ないぞ?」
「いやアレはなんかよくわかんない信者が囲ってるから大丈夫だろ。それに逆にアソコまで突き抜けてやる気が無かったら人気出るだろ。そう考えたら久瀬だっけ?ソイツは配信もつまんない癖に、ぐだぐだやる気なく配信だけやってて、何であいつvtuberやってるんだ?って感じなんだけど?と言うかよくあんな奴お前のところ受かったな」
「いや俺も何で久瀬くんがvtuberやりたいのかは知らないけど、うちに受かった理由だけどコレ絶対他の奴に言うなよ。実は……」
俺は自称エースの耳元で久瀬くんが、新しい運営のお偉いさんの息子で、その親のコネを使ってうちの事務所に入った事を説明した。
それを聞いた自称エースは目を白黒させながら驚いていた。
「それマジで?お前のところヤバくないか?」
「俺も正直それはどうかと思ったけど、こう言うのって社会ではよくあることだろ?」
「いやまぁあるかないかで言えば、俺もあるとは思うけどさ……」
そんな事を俺達が談笑しながら歩いて帰っていると、目の前にコソコソとあからさまに怪しい動きをしている、見知った人物を発見した。
「あれ?」
「どうかしたのか夏?」
「あいつ多分だけど久瀬だ」
そう俺は目の前の怪しい人物を指差して話した
「へー、アレがねぇ」
「俺ちょっと声かけてくるわ」
そう言って俺は久瀬くんの元へと向かおうとした時、自称エースが俺の腕を引いた。
「え?何?どうした?」
「ちょっと待ってくれ、あいつが例の久瀬くんか?」
「後ろ姿だから確定ではないけど多分……」
「次にだけど、その例の久瀬くんってここら辺に住んでるの?」
「いや全然違うけど……それがどうした?」
「そうか……夏びっくりするかもしれないけど、静かに聴いてくれよ」
いつものヘラヘラとした感じではなく、見た事もない真剣な顔つきで、そう言って来た為俺は固唾を飲んだ。
「な、何だよいきなり……」
「多分だけど、あいつストーカーだぞ」
「はぁ!?」
「ちょっ!声大きい!」
俺が驚きのあまり大きな声が出そうになったのを、自称エースが俺の口を無理やり押さえ込んだ。
「はぁ?マジで?どゆこと?と言うか何でお前は見ただけで、相手がストーカーかどうかわかんの?」
「いやだから確証はないけど、動きが俺がネタ集めの為にストーキングしてる時と同じだったから、多分だけどな……」
「マジかよ……」
俺は後輩のまさかの行動に、空いた口が閉まらなかった。
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82話 大炎上
おいおいおいどうするよこれ?ストーカー?うっそだろ……
「おい夏大丈夫か?」
「あ、ああ……けどストーカーって、アレだよな?絶対って事じゃないよな?」
「ん?まぁな、俺が見た感じストーカーの動きっぽいな、って思っただけだからな」
「だよな……そうだよな多分違うよな?」
そうだ……そうに決まってる!
俺の後輩がそんな事するわけ……けどもし、本当に久瀬くんがストーカーなんて事をやっていたら。
よし!
「尾けるぞ」
「え?追いかけんの?」
「ああ、これが勘違いだったら、そのまま無視して帰ればいいし、けどもし本当にストーカー行為をやっているなら、俺も今まで何度もストーカー行為をされている側からすると、やられている方は男の俺でさえ正直怖い。それを考えると女性の気持ちなんて計り知れないだろ?だからもし後輩がそんな事をしてるんなら、先輩である俺が止めなきゃいけないだろ?」
「ひゅ〜かっこいいねぇ夏!惚れちゃいそうだぜ」
「ええい!やめろやめろ。それじゃあ行くぞ」
「おお!」
そうして俺達は久瀬くんの後をこっそりと尾行する事にした。
久瀬くんは普通に道を歩いている様に見える歩き方をしているが、よくよく観察をしてみると曲がり角では変な位置で立ち止まったり、長い一方道では電柱に隠れながら進んだりと、怪しい動きをし始めた。
「これは……」
「完全に黒だね。これからどうする?説教でもしに行く?それとも警察?」
「うーん流石に説教かな……あんなんでも俺のかわいい後輩だし、出来れば警察沙汰にはしたくないかな?とは言っても、もし相手方に迷惑をかけているのだとしたら、流石に俺も看過できないけどな」
「それもそっか、なら俺は陰からできる先輩の姿でもみてよっか…………な?ってあれ?あいつ逃げてね?」
そう言って自称エースが指差した先には、居たはずの場所に久瀬くんは居なくなっており、少し先の道に走っている姿を見つけた。
それも1人の女性に向かって……
「ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!追いかけるぞ!」
「お、おう」
俺達は尾行のために久瀬くんが元いた位置より、大体50メートルほど離れた場所から監視していた為、少し俺達は出遅れた。
その間にも久瀬くんは女性に向かって走り、手に持っていた布切れを女性の口に捩じ込むと、そのままその女性を担ぎ上げて路地裏へと連れ込んだ。
これは本格的にまずいと思った俺は、先程以上に足に力を入れて自称エースを置き去りにして、久瀬くんが女性を連れ込んだ路地裏へと向かった。
そうして少し息を荒くして路地裏についた俺は、そこで下半身を丸出しにした久瀬くんと、服を無理やりはだけさせられている女性の姿を見た。
それを見た次の瞬間俺は、今までにない程声を荒げて、久瀬の襟元を掴み掛かった。
「久瀬ぇぇぇぇ!!!!!何やってだテメェ!!!」
「え?」
いきなり自分がやっているvtuberの名前で呼ばれた、久瀬は驚きガチギレしている俺の表情とは対照的に、あっけらかんとした表情をしていた。
そんなふざけた表情をしている久瀬に、俺はかわいい後輩だった為今回の件は説教だけで済まそうと思っていたのだが、もうそんな事を言っていられる状況でもない事から、俺は俺の後ろでゼーハーと息を切らしている自称エースに叫んだ。
「エース!警察に連絡しろ!」
「え?あれ、いいの?今回って説教するだけじゃ?」
「いいから早く!」
「わ、わかった!」
そう言って自称エースは素早くポケットからスマホを取り出すと、警察へと連絡し始めた。
そうすると警察という言葉に危機感を覚えた久瀬は、俺の手を振り払うと下半身丸出しのまま、俺やエースを押し退けてどこかへ走り去ってしまった。
「エースは女性の保護と、警察への連絡を続けてくれ」
「夏はどうすんの?」
「そんなもん俺のかわいい後輩を捕まえに行くんだよ」
そう言って俺は女性に羽織って上着をかけてから、久瀬が逃げた方向へと走り出した。
「久瀬待て!逃げるな!」
俺はそう大声で叫んで久瀬を追いかけ、久瀬も俺に捕まらない様にと全力で走って逃げ回った。
下半身丸出しで町中を逃げ惑う久瀬は、会う人会う人に悲鳴を上げられ、その際何人かがスマホで撮影したり、警察に連絡していた。
そうしてようやく久瀬を工事中で通行止めになっている橋に追い詰めた俺は、そのまま久瀬に飛びかかった。
「くそ!離せ!」
「離すわけないだろ!何やってんだお前!」
「離せや!このクソ!殺すぞ!」
そう言って久瀬は俺の下で暴れ始めた。
それを俺が押さえ込んでいると、遠くの方からパトカーのサイレンと、自称エースの声が聞こえた。
その音にホッとした俺は一瞬久瀬を押さえつけている力が抜けた、そしてそれを見逃さなかった久瀬が、俺の事を思いっきり力強く突き飛ばした。
そしてそれは運悪く突き飛ばされた俺は、そのままの勢いで橋の上から落下し、着水の衝撃で気を失ってしまった。
その後は聞いた話になるのだが、俺を突き飛ばした久瀬はその場で警察に御用となり、強姦未遂に公然猥褻、公務執行妨害、傷害に殺人未遂と色々な罪状が付いて、更にはうちの家から訴えられたりと、色々あって慰謝料や俺の病院費用その他諸々を請求されて、そのまま檻の中にシュートされた。
ってのが、ここ2ヶ月間であった事らしい。
何でも俺は落下の際に頭を水底に少し掠ったらしく、命に関わる状況にあって、俺も知らないうちに何度か手術もしていたらしく、そんなこんなあり俺はあの事件から2ヶ月間目を覚まさなかったらしい。
「はえ〜そんな事あったんだ」
「いやもう本当色々と大変だったんだぞ?俺もあの事件に関わってたって事で、色んなところ走り回ってさ」
「すまんすまん」
俺は自称エースにそうヘラヘラと笑いながら謝った。
俺がそうしていると、俺の病室に真冬を先頭に両親が入って来た。
身体中包帯まみれのほぼミイラ状態の俺が、ヘラヘラ笑いながら真冬に手を振ると、真冬はボロボロと目から大粒の涙を流し始め、勢いよく俺に抱きついて来た。
瞬間俺の全身にはとてつも無い痛みが響き渡った。
「痛ってぇぇぇぇぇ!!!」
「わぁ!夏兄ごめん!」
俺の叫び声に驚いた真冬は、謝りながら急いで俺が寝ているベッドから飛び退いた。
それから更に1ヶ月のリハビリを経て俺は無事病院を退院をした。
家に帰った俺は、例え事故だったとしてもいきなり3ヶ月もvtuber業を休んだんだ、もしかしてみんな俺の事忘れてたりしてたんじゃ無いのか?
とおふざけ半分でそんな嫌な想像をしながら、俺は3ヶ月ぶりにインターネットを開いた。
そこで見たモノは、俺の想像以上のものだった。
「は?え?どういう事?」
そこに書かれていたのは、久瀬のストーカー行為やその他色々の為に引退を表明する事と、しっかりと説明文を読み込まないと、俺がその件で久瀬側として関わっている様にも読み取れる、悪意100%で構成されたそんなふざけたものだった。
そしてそれのせいで俺九重ホムラは、今まで見たこともないほど大炎上していた。
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83話 ひと段落
「…………夏兄!…………夏兄!夏兄!起きて!」
「ん?ああ、真冬か?」
そう重い瞼を擦りながら声の聞こえる方へと、寝惚けながら振り向くと、そこには何やら焦った様子の真冬の姿があった。
「どうかしたか?」
まだ半分夢の中なのか、ぼーっとしながらも真冬に質問すると、真冬は俺の方を掴んで前後に勢いよく揺らした。
寝惚けた頭に効率よく刺激を与えられた俺は、体にはまだ少し疲労が少し溜まっているが、頭の方はよく寝たからか、少しのモヤモヤを残しながらも疲労綺麗さっぱりなくなった。
そこでようやく真冬が焦っている事に気がつき、一瞬もしかしてガスの元栓でも閉め忘れたのか?と、不安になったが、真冬に渡されたうちでは取っていないはずの新聞紙を手渡された事によって、俺は真冬が何故こんなにも焦っているのかを理解することができた。
真冬に渡された新聞紙に書かれていたのは、ユメノミライの大元である会社の役員が大量に逮捕されたという記事だった。
真冬も過去に俺が詳しい理由は知らないが、vtuberとしての信用を最底辺まで落として、今ようやく元の状態に戻って来ているのを知っている為、今度は俺だけではなく他のユメノミライのメンバーも含めて、昔の俺と同じ状態になってしまうと考えて、ここまで焦っているのだと理解した。
そして俺はそんな真冬を落ち着かせる為に、優しく真冬の頭を撫でて、俺がユメノミライを脱退する事を発表した大体1週間前に出された、ユメノミライ公式からの記事を1つ真冬に見せることにした。
その記事とはユメノミライの独立を発表する記事だった。
本当はこの記事の発表はもっと後、正確に言えば俺の独立を発表して世間にユメノミライの名前を注目させた時に発表する予定だったが、ちょうど今俺が手に持っている新聞を出している会社のライターの1人が、どうやってかは知らないが今回の事を調べ上げてくれたお陰で、さっさと独立しないとユメノミライも巻き込まれると思って、急いで公式でユメノミライ独立を発表したのだった。
まぁそのせいで独立というすごい事をやったのにも関わらず、俺九重ホムラの脱退騒動のせいでユメノミライが独立したということは、そこまで盛り上がらなかったという……
そんな俺達の考えをめちゃくちゃにしてくれたのが、この新聞紙を自信満々で俺の家に投函してくれた男、元自称新聞サークルエースで、現在大手の新聞紙を世に出している会社の自称若きエースだ。
「はぁ……」
俺は自分の知り合いのせいで、園野さん達と一生懸命考えた作戦をめちゃくちゃにされたと思うと、何ともやるせ無い気持ちになり、自然と口からため息が溢れた。
「どうしたの夏兄?やっぱり何か影響とかあったの?」
「ああ、いや違うんだよ。ちょっとこの記事を書いたバカの事を思い出してな……」
俺はそう言って手に持っていた新聞紙の端っこに書かれたAという文字を、自分の指でトントンと続きながらそう呟いた。
「え!?じゃあこれ書いたのって夏兄の知り合いなの?」
「大学時代のな、ほら真冬覚えてるか?俺が事故った時に俺と一緒に捜査してたって奴」
そう言われると真冬は少し考えた後、俺に病院に居た人?と聞いて来た。
それに対して俺は、頷きながらそうそうそいつと答えた。
「にしてもコイツ本当どうやって今回の件知ったんだか……。まぁそんな事どうでもいいか、よし真冬今日は色んなお祝い含めて鍋パーティーでもやるか!」
「本当!やったー」
そう言って俺達は新聞紙を机の上に置いて、鍋の準備の為に台所へと向かった。
◯
「さぁ始まりました!今をときめくアイドル達による、蹴落としあいのガチマッチ!誰がその手に栄光の冠を手にするか!第1回アイドル大運動会開幕です!」
司会の人の叫び声が俺達アイドルの居る控え室にまで聞こえ、控え室全体に緊張が走る。
「行くわよ!我がライバル!」
「ああ、そうだなゴスロリ」
そう言ってゴスロリと呼ばれた少女は、ゴッテゴテの装飾まみれの日傘をさし、ライバルと呼ばれた男性は白の礼服を身に纏い、今まで横に置いてあった二次元キャラの顔が描かれた仮面を頭に被り立ち上がった。
「「行くか!」」
そう言って2人は控え室を背に歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください!お2人共本当にそんな格好で行くんですか?」
「「もちろん」」
そう言って俺達は、さっきからガッチガチに緊張して固まって居た少女に親指を立てた。
そうして俺達2人は控え室を後にして、会場へと歩を進め、その後ろをオドオドしながら先程の少女が後に続き、司会者に自分達のチーム名を呼ばれたと同時に、俺達3人は会場に入場した。
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第7章 アイドル運動会
84話 ゴスロリお前マジか
某新聞社から、うちの元大元の会社の役員に大量の逮捕者が出た事が発表された翌日、テレビではどのチャンネルをつけてもその事が報道されており、そこで数ヶ月前に大型ライブをした事もあり、その件もテレビで話されたおかげで、ユメノミライは独立→脱退→逮捕と、連続して色々な事がありすぎたせいで、テレビやネットニュースなどで、よく名前を見ることになった。
そしてその際何とも恥ずかしい事に、俺が初配信で現実の体を出していた事を掘り出されて、謎に初の超美麗3Dの使い手として、変な界隈で俺は人気者になっていた。
そしてその事を知った俺は、そういやもう数年もあの衣装を着ていなかったなと思い、久しぶりに着てみようかと探したところ、流石に放置しすぎていたせいで、コスプレ衣装には虫食い穴が幾つか空いており、俺のお手製お面はバッキバキに割れていた。
「まじか……」
俺は自分の初期活動の要であった相棒の無惨な姿を見て、部屋の中で1人肩を落としていた。
「けどまぁ俺もようやく最近新衣装になったし、これを機にコイツらもバージョンアップさせますか」
そう考えた俺は以前この衣装を依頼した会社に、新衣装の作製と今回はお面の方もプロの方にお願いしようと、お面を作っている会社を探してそこに依頼した。
◯
「ってな感じで依頼しておいたから、それが完成したらまた久しぶりにおふざけ動画シリーズの撮影でもしようと考えてるから、お前ら楽しみにしとけよ」
コメント
:うわ、なっつ
:何それ?
:あー流石にあの衣装壊れてたか
:懐かし!
:マジか!
:園野さんも出る?
「うっわめちゃくちゃ久しぶりに見る奴らがコメントして来てやがる」
ここ最近ユメノミライが色んな所で名前が上がるようになったからか、昔俺の配信を見に来ていた人達がわざわざ俺の配信を見に来てくれていた。
「と言うかお前ら古参組あんまり昔の事で盛り上がるなよ〜。今俺の配信を見てる人たちの9割は昔の俺の事知らないんだから。……と言うかまだ俺の事について話すのなら分かるんだが、最近の子絶対園野さんの事知らんぞ」
コメント
:すまん久しぶりでつい……
:マジで?園野さん知らんの?
:それもそうだな
:昔の動画見て来たけどとち狂ってんな……
:昔のホムラに比べたら最近のホムラはまだマシ
「うわ〜古参民現れすぎだろ……」
どこから話しが渡ったのか分からないが、昔の事を話していると、どこから現れたのか俺の配信を昔見ていた人達が、わらわらと集まって来た。
「と言うか昔の方が酷かったって言うけどお前、そんなん当たり前だろ。あの頃のユメノミライって俺達ライバー含めて従業員たったの、9人だぞ?それに比べて最近はでっかい企業に勤めてたんだ。そらその企業からやっちゃいけないリスト的なモノ渡されるだろ?」
コメント
:なるほど……
:そう言う割には酷かったような……
:本当に貰ってたの?
:アレで?
:9人ってマジ?
「けどまぁ今の俺は、企業勢兼個人勢でその両方のいいとこ取りしてる状態だから、無茶苦茶しても許される身になったから、これからは今まで企業に所属してたせいで出来てなかったこととかやってくつもりだから、その辺楽しみにしとけよ」
コメント
:やったー
:タノシミダナ
:チャンネル登録しといたぞ
:昔みたいにやるなら俺も見るわ
:燃えないように注意……はいいかホムラだし
:と言うか今よりも燃えそうなことやってるのに、燃えてなかった昔ってヤバかったんだな
「それじゃあ明日は燃えるんジャーのコラボあるから、楽しみにしとけよ乙ホムでしたー」
コメント
:乙ホム
:乙
:おつかれ
:乙ホムでした
:乙ホム
◯
「ん〜!」
配信を終え背伸びをして部屋を出る、リビングへと向かうと真冬が某音楽番組を見ており、そこには真冬がハマっており、その関係で俺も何度か真冬と一緒にライブに行った事もある、男性アイドルグループがその歌番組で歌を歌っていた。
それに気がついた俺は、静かに真冬の座っているソファーの隣に、腰を下ろしてその番組を視聴し始めた。
「いやーにしてもやっぱりこのグループの曲はいい曲だな」
「だね〜」
因みにこの男性グループは今年で結成4周年という事で、俺と場所は違えど同じ時期にデビューしたという事もあり、俺はその辺りも含めてこのグループの事が好きだ。
それにこれは真冬にも黙っている事だが、俺がまだおふざけ動画シリーズを投稿していた時に、たまたま収録先でまだ人気が出ていなかった頃、アイドルと言うよりかは芸能人として無茶な番組撮影をしている時に会って、サインを貰った事もあるのだ。
あ、これ古参アピね。
そんな訳で兄妹でファンをさせてもらっている為、基本的にそこまでテレビが好きでは無く、見るとしてもニュースや天気予報ぐらいしか見ない俺でも、このグループがテレビに出る時はわざわざその番組を見る為に、何度か配信の時間をずらした事もある。
まぁそんな訳でこの男性グループの事がスコスコ侍な俺なのだが、その他のアイドルグループの事は一切興味が無いせいで、今も画面の端に映る推定アイドルと思える人たちを見ても誰1人として名前も知らず、興味も一切無い為男性グループの歌が終わった後は、今日の晩御飯の献立を考えながらボーッとテレビの画面を眺めていると、そこに信じられない人物が写り込み、それを見た俺は勢い良く立ち上がり、今までに無いほど食い入るようにしてテレビの画面を凝視し始めた。
いきなり立ち上がったと思うと、テレビに急接近してその画面をジロジロと見始めた兄に、不信感を覚えた真冬が少し不安になりながら質問して来た。
「どうしたの夏兄?そんなにテレビに近づいて?クライシスの出番終わったよ?」
そう心配そうに聞いて来る真冬には悪いが、今はそれどころでは無いので、その問いには答えず先程一瞬だけ映った人物を探した。
因みクライシスと言うのは、例の男性アイドルグループの名前だ。
そんな事を考えながら画面を凝視していると、例の一瞬だけ映った人物はその後は出て来る事はなく、何かと俺は見間違えたんだなと、1人納得してテレビの画面から離れようとしたその時だった、その歌番組の司会の人が次の出番の人の名前を高らかに呼び上げた。
「それでは続いては今若者に大人気沸騰中のアイドルの、絶対無敵ガールネメシスさんです。どうぞ!」
そんなヘンテコな名前を宣言したのと同時に、番組の中継が切り替わり、ここ最近とても見に覚えのある1人の人物が、天に指を指しながら顔を伏せていた。
それを見た俺は、あまりの驚きに大声で叫んでしまった。
「な、な、な、何でお前がそこに居るんだ!ゴスロリ!!!!!!」
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85話 わ、我がライバル!?
某歌番組が終わった後の控え室、そこにはゴッテゴテのゴスロリを見に纏い、今日はテレビの収録というわけで、いつもよりも翼やら帽子やらの付属オプションを装備している少女と、そのマネージャーと思われるスーツをピッシリと着込み眼鏡を掛けた長身の女性が話し込んでいた。
「お疲れ様ですネメシスさん」
「フフフ何度言わせたらわかる!我が従順なる僕よ!私は単なるネメシスではなく、絶対無敵ガールネメシスだと。」
「はいはいそうですね。それでネメシスさん」
デビューしてから何度も何度も名前を訂正しても、名前が長いと言う理由だけで、フルネームで呼んでくれないマネージャーに、口を膨らませて対抗するネメシスだが、このやり取りもすでに何百回もやっているマネージャーは、慣れた手付きでネメシスのハムスターのように膨らんだ頬を、片手で潰して今後の予定なども話していた。
「そう言えばネメシスさん以前自信満々に任せとけと言っていた運動会のメンバー件ですが、人数集まりましたか?」
「フフフ我と共に魑魅魍魎が蔓延る群雄割拠を制圧する選ばれ者達の集い、そう三傑…いやブレイブパーティー……いやナイトメア…」
そうネメシスが続きを話そうとしたところで、マネージャーが大きく手を叩いて、ネメシスの謎詠唱を強制的に中断させて詰め寄った。
「ネメシスあなたいつも何かを誤魔化す時に、よく意味の分からない言葉を言う癖を私は知ってますよ」
そう詰め寄られて言われたネメシスは、口を尖らせながら視線をマネージャーから外して、通じないと分かっていても、最後の足掻きとして呟いた。
「わ、我がライバルなら……意味伝わるもん」
「ライバルですか?」
まさかマネージャーが食い付くとは思っていなかったが、そう聞き返して来たところでネメシスは、ここだ!と思い今までのライバルとの出会いや出来事などを話した。
「なるほど……まさかネメシスさんにお友達が居たとは……」
「フフフ違うぞ我が僕よ!奴は友ではなく我が永遠のライバル!」
「そうですか……それで、運動会のメンバーは?」
結局その後マネージャーに詰められた結果、ネメシスは半泣きになりながら既に運動会開催まで1ヶ月を切っているのにも関わらず、1人もメンバーが見つかっていない事を土下座しながら報告した。
「はぁ……そうですか」
その報告を聞いたマネージャーは驚くほど大きなため息をついてそう答え、そのため息を聞いたネメシスはビクリと肩を揺らした。
「そう言う事なら仕方ないですね」
「あ、あれ?怒らないの?」
てっきり怒られると思っていたネメシスは、マネージャーに怒られない事に安堵し、顔を上げるとそこには笑顔のまま器用に額に青筋を立てているマネージャーを見て、再度勢い良く土下座した。
自社のそれも1番の稼ぎ頭のアイドルが目の前で土下座している事も気にせず、マネージャーは手に持っていたタブレットを、ネメシス用に用意された椅子に座りいじり始めて、数分後今だに土下座をしているネメシスに向かってマネージャーは話し始めた。
「ネメシスさんそろそろ衣装も汚れるので、顔を上げてください」
「は、はい……」
「それで色々と確認したところ、うちの事務所の新人の子が1人当日予定が空いていたので、入れる事は可能ですが、やはり1ヶ月前に急遽という事で他の人はその日に他の予定などが入っている為、私も頑張りますのでネメシスさんも本番までに、死ぬ気であと1人誰でもいいので、メンバー探してくださいね」
「フフフ任せておけ」
「本当ですか?」
「あ、はい。頑張ります」
ひとまずは何のかなった事に安堵したネメシスは、ホッとその場で息を吐き胸を撫で下ろした。
そんなネメシスを他所に、マネージャーがワイヤレスなイヤホンを片耳につけると、再度タブレットをいじり始めた。
これはマネージャーが仕事でイライラしている時に、自分を落ち着かせる時にやるルーティーンで、過去に取引相手からセクハラをされた時や、上司からのパワハラがあった時にも、こうして今の様に何か動画なのか歌なのかを聞いて、心を落ち着かせていた。
いつもなら特段気にしないその行動も、なぜか今日は無性に気になり、ネメシスはマネージャーの肩を指でトントンと叩いて、何を聞いているか質問した。
そしてそれを聞いた事をネメシスはすぐに後悔した。
質問されたマネージャーは、いつもの仕事の出来る大人に雰囲気では無く、ネメシスもよく見る自分のファンが自分について話すときの様に、鼻息荒く相手のことを一切考えない早口で説明をし始めた。
そうして説明されたのは、1人のvtuber?と言うユーチューバーについて説明された。
その男の概要を軽く聞いただけでも、どうしてもそんな奴のことが好きになるのか分からないほどヤバいやつで、ネメシスは1人心の中でマネージャーの事を初めて引いた目で見てしまった。
「でもまさかネメシスさんがホムラさんに興味があるとは!」
「え、いや私は……」
「本当いいですよねホムラさん。最近ようやくスパチャを公開してくれたので、複数のアカウントを使って15万ほどスパチャしましたからね」
それを聞いたネメシスの中でマネージャーは、怒ると怖いが仕事に真摯なマネージャーから、ダメな男に大金を貢ぐ為に仕事を頑張るマネージャーへと印象がガラリと変わってしまった。
そんなまさかの1面にネメシスが引いている事も梅雨知らず、マネージャーはその後も1人の男性vtuber九重ホムラについて熱弁していた。
流石にネメシスが内心マネージャーの事を引いていることはバレていないが、九重ホムラと言うvtuberについては一切興味が無い事を感じ取った厄介オタクは、席を立ち上がりネメシスに自分が着けていない方のワイヤレスイヤホンを差し出した。
「ネメシスさんも声を聞いてみたらその良さが分かりますよ」
そう言われたネメシスは、正直全く興味はなかったが、これ以上マネージャーの残念な部分を見たく無いと思い、無言でマネージャーの手からイヤホンを受け取ると、それを耳に付けた。
するとそこから聞こえて来た声は、とても聞き覚えのことのある声だった為、ネメシスは反射的に付けたイヤホンを外して、少し考えた後もう一度イヤホンを耳に付けて確認したところ……
この声って我がライバルじゃ無いか!
まさかの事実にネメシスは驚きのあまり金魚の様に口をパクパクとさせてから、改めて自分の現状を考えると自分のマネージャーが、自分の親友のファンで15万円も貢いでいる事を考えると、意味がわからなすぎて頭がパンクした。
その後もマネージャーからの九重ホムラの良いところを聞くたびに、ネメシスは何とも言えない気持ちになりながらも、その日はこれ以降仕事も入っていないと言う事で、そのまま解散となり改めて家に帰ってから、自宅のパソコンで九重ホムラについて調べた結果、驚くべき真実に気が付きネメシスは嬉しさの余り拳を天高く掲げた。
「フフフやはり我がライバルだ!まさかこんな事があるとはな!やはり我々は出会うべくして出会った運命だったのだな!」
そう高笑いするネメシスのパソコンの画面にはひと言
男性アイドルvtuberと書かれていた。
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86話 ファンならば推しの唾ぐらい飲むよね?
例の某歌番組でゴスロリを見かけた翌日、まさかアイツがアイドルやってるなんてな〜
と、考えながらゴスロリについてネットで調べていると、その件の張本人であるゴスロリから連絡が来た。
『我がライバルよ!我々の決戦の地であの時と同じ時間に語り合おうぞ!その際は色とりどりの殻を持ち、中に至宝を納めし貴族の嗜好品を、その手で生み出し馳さんぜよ!』
そのメッセージを見た俺は、めんどくささからため息が出た。
今からマカロン作っていつもの公園集合って、コイツマカロン作んのにどんだけ時間かかると思ってんだ。
クソっ、こんな事になるなら真冬の為に作って余ったマカロンなんか持っていくんじゃなかった。
そう悪態をつきながらも俺は集合時間に間に合う様にと、台所に向かい急いでマカロンを作り始めた。
そして完成したマカロンを片手に、俺たちの出会った公園へと向かった。
「おお!来たか!我がライバル!それで例の物は?」
「例の物とか変な言い方すんじゃねぇよ!ほらこれ」
そう言って俺は手作りのマカロンをゴスロリに手渡した。
それを受け取るとゴスロリは感謝の言葉を述べながら、マカロンの入った袋を開けると、バクバクと食べ始めた。
俺はその様子を見ながら、ゴスロリに昨日の事を聞いた。
「なぁゴスロリ」
「どうかしたか?我がライバル」
「俺さ昨日たまたまテレビ見てたんだけどさ、そこで絶対無敵ガールネメシスって奴見たんだけどさ……アレってお前?」
そう聞かれたゴスロリは驚いたのか、それともマカロンを口に詰めすぎたのか、喉を詰まらせたので俺は近くの自販機で水を買ってゴスロリにて渡した。
「わ、我がライバルよ、まさかとは思うが我が真名を知ったのは昨日が初なのか?」
「え?あ、うん。俺アイドルでメンバーの名前まで全部知ってるのって、クライシスぐらいだし……」
その言葉を聞いたゴスロリは、先程よりも何故か驚いていた。
「ほ、本当か?別に私は昔から知ってて、アイドルだから仲良くしてたと言われても怒らないぞ?」
「は?んな訳無いだろ……と言うか何でアイドルだからっていちいちそんな事如きで媚び売らなきゃ何ねぇんだよ。面倒くさい」
「そ、そうなのか……我はてっきり私のファンだと思ってたから、毎回遊びに誘う際にお菓子を持って来させてたんだけど……これじゃ私って毎回遊ぶ度に友達にたかってた最低なやつなのでは?」
「おう、よく気がついたな、その通りだ。それとゴスロリお前はいい加減一人称を私か我どっちかに固定しろ、煩わしい」
「煩わしい!?」
自分がようやくたかっている事に気がついたゴスロリは、気を落としながらもマカロンを食べる手を止めていないところを見るに、コイツ全然反省してねぇなと思いながらも、俺自身もそれほど気にしていないので、この話を終わらせて次の話題に行こうとしたその時、ゴスロリが何かを思い出した様にハッとした表情をした。
「そうだ!我がここに来た本来の目的を忘れるところだった!」
「本来の目的?いつもみたいに変な勝負するんじゃ無いのか?」
「チッチッチ全然違うんだな〜コレが!」
そう言ってゴスロリはどこから取り出したのか、一枚の紙を取り出し俺に手渡して来た。
「第1回アイドル大運動会?何だこの昭和臭のする企画は」
「フフフ実は何を隠そう我がその企画に出場する事に決まったのだ!」
「へーあっそう。……あーなるほどゴスロリが何言いたいかわかったわ」
「おお!それでこそ流石は我がライバルだ!」
「アレだろ?」
「我と一緒にこの企画に参加しようぞ!」「この企画の為にコレからは運動メインに遊ぶって事だろ?」
「「へ?」」
俺達は2人ともお互いが、思っても見なかったことを言い出した為、それに驚き顔を見合わせた。
「おいおい一緒に出るってどう言う事だ?」
「え?我がライバルよ一緒に出てくれないのか?」
「いやでねーよ、って言うかここにデカデカと書いてるだろ。アイドル大運動会って、俺アイドルじゃ無いし、何なら業界人でも無い一般人だからな?」
「ん?そうなのか?だが確か九重ホ……ムグっ」
いきなりゴスロリがどこで知ったのか、俺の正体を口走りそうになった為、俺は勢いよくゴスロリの口元を押さえた。
「ムグー!!」
「あーすまんすまん。お前がいきなりビックリする事口走りそうになったから、癖でつい……と言うかお前どうやって俺の正体に気がついたんだ?もしかしてファンか?」
俺がサインでもやろうかと、何故かポケットに入っていたマジックペンを取り出すと、ゴスロリは全然違うと叫んだ。
「我が?貴様のファン?そんな訳ないであろう。何なら昨日まで一切知らなかったわ!」
「いやまぁそうだろうな、俺人気無いし」
「あ、いやそんなつもりじゃ……」
わざと落ち込んだフリをしてみると、ゴスロリはいつもからは考えられないほどひどく落ち込んだ。
「あ、その辺は全然気にしなくて大丈夫だぞ。俺人気はなくても、ポテンシャルはめちゃくちゃ高いから。コレでも昔はvtuberと言えばで、名前が上がるほど人気だったからな」
「フッそうか……」
「それで結局ゴスロリはどうやって俺の正体に気が付いたんだ?さっきも言ったけど俺はどちらかと言うと人気無い方だから、そこまで気がつく要因ないと思うんだが……」
俺のその質問に、ゴスロリはなんとも言えない表情をして答えた。
「実は我の従順な僕の1人が、貴様のファンらしくてな、それで其奴から貴様の動画を見せられて、声でわかった」
「はー、ゴスロリお前よくわかったな。配信中の声と今の俺の声違くないか?」
「ん?ああ声の表面はライバルの言う通り変わっているが、芯の部分は変わって無いからすぐにわかったぞ」
「そうだったのか……」
声の芯って何だろう?と思いながらも、俺は今まではバレないと思っていたが、結構耳の良い人には正体がバレる事に気がついたので、今後はその辺気をつけようと考えた。
それと同時に俺は自分の正体云々で、意識がそっちにいっていたおかげで気になっていなかったが、改めてよくよく考えてみると喋っているやつの口を無理やり手で押さえた訳だから、その押さえた手のひらにはゴスロリの唾がベッタリとついていた。
それに気がついた俺は、今絶賛本人を目の前にしていることを忘れて叫んだ。
「うわ、きったね」
そう言って手を洗おうと、近くにある水道へと向かおうとすると、何故かそれをアリクイの威嚇ポーズをしながらゴスロリが邪魔をして来た。
「おい何するんだよゴスロリ、俺はさっさと手洗いたいんだけど?」
「……たくない」
「ん?」
「汚くない!我の唇は大勢のファンが欲しているもの!それが汚いわけが無い!」
「んな訳ねぇだろ!例えそれが人気絶頂中のアイドルの唾液だとしても、汚ねぇもんは汚ねぇんだよ!」
「そんな事ない!ファンなら我のツバなら喜び狂喜乱舞しながら舐める筈!」
「え……お前のファンやばすぎだろ。じゃ無くてさっさと手洗わせろ。それとも何だ?ゴスロリは俺にお前の唾を、お前のヤバいファン同様に舐めろって言うのか?」
「は、はぁ!?な、なめなめ、舐めるのか!?」
俺が売り言葉に買い言葉で冗談を言った所、何を想像したのかゴスロリは顔を赤らめた。
「舐める訳ねぇだろ!もし舐めるなら俺は真冬の唾を舐めるわ!」
そう叫んだ次の瞬間、俺の背後でゴトリと何か物が地面に落ちる音が聞こえた。
その音がした方に振り向くとそこには、学校帰りなのだろうか、制服姿で学校指定のカバンを地面に落として固まっている真冬の姿があった。
「ち、違うんだ真冬!今のは……!」
俺が弁明する間も無く真冬は、少し嫌な顔をすると急いで鞄を手に持って、家のある方へと走り去ってしまった。
そんな真冬の姿を見た俺は嗚咽混じりに泣き叫び、地面に足から崩れ落ちて、八つ当たりに地面になん度も力強く拳を叩きつけた。
そんな情けない俺の姿を見たゴスロリは、俺の背後で声を上げて笑い、その笑い声を聞いた俺は純度100%の殺意を持って、ゴスロリの方へとゆっくりと視線を移すと、そのままゆっくりと立ち上がりゴスロリの方へと走り出した。
そうして始まった俺たちの鬼ごっこは、俺がゴスロリを追いかけている間に、ゴスロリに対して暴言や殺害予告を発していた為、またしてもたまたま近くに居た人が警察に通報して、俺たち2人は今回で合計5回も通報されたせいで、通報を受けて急いで来てくれた警察官に、またお前らか……みたいな目線を向けられ呆れられながら、地面に正座させられて30分もお説教された。
そして家に帰ってからは、またしても家族会議が行われた。
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