その妖精が普通とは違うのは間違っているだろうか (新人作家)
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プロローグ

文字数は増やしていきます。


 

 村に続く一本の畦道。鳥のさえずりに蝉と蛙の声。日は落ち掛けて綺麗な夕焼けが広がっている。

 

 そんな畦道を歩くのは長い黒髪を前で束ねる女性と、その背中に担がれている小さな妖精(エルフ)の子。

 

 子供の足に手拭いが巻かれていることから、負傷して歩けなくなったと察する事が出来る。

 

 「まさか足を挫いちゃうなんてね」

 

 「……ごめんなさい」

 

 「いいんだよ。私のためなんでしょ?なら男の勲章という事にしときなさい」

 

 花を贈ろうとした子供は、駆け寄った際に転倒し足を挫いたのだ。不幸中の幸いで擦り傷などは無かった。挫いただけ。

 

 「強くなりたい」

 

 子供が突然呟いた。同時に自分の肩を掴む手が強まるのを感じた。そこから色んな感情が読み取れる。

 

 「……それはなんで?」

 

 「大好きな■■■お姉ちゃんを、守りたいから」

 

 「……そっか」

 

 無垢で何とも子供らしい単純な動機。■■■はその返答を持ち合わせてなかった。

 

 「お姉ちゃんは強いよね?熊に襲われた僕を守れるくらい」

 

 「ええそうね…」

 

 「どうやったら、お姉ちゃんみたいに強くなれるかな…?」

 

 「……お姉ちゃんはね、強くないんだよ」

  

 「え?」

  

 「まあでも、君が望むのなら教えてあげるよ」

 

 翌日から始まった訓練は素振りから始まった。優しいお姉ちゃん……もとい師匠は厳しくなり過酷なものだったが、苦ではなかった。

  

 そこには師匠の優しさがあったから。訓練終わりには手当をしてくれるし、前のように一緒に寝てくれる。

 

 厳しくも優しい彼女が大好きだった。

 

 しかし、師匠は一年後に失踪する。理由は分からない……いや、恐らく来訪して来た男神が関係しているのだろう。

 

 一通の置き手紙には謝罪の言葉だけで、一ヶ月は生活できるお金と一振りの短剣が添えられていた。

 

 取った行動は泣くでも喚くでもなく、ましてや恨むでもない。

 

 一つの誓いを立てる。昔お姉ちゃんに言った言葉を僅かに変えて。

 

 「強くなる」

 

 そこには力強い意志が感じられた。やり直しも後戻りも出来ない。それしか道がないから。

 

 少年は訓練を活かし、都市外のとある町で冒険者になった。

 

 討伐経験は無いが、幸いダンジョンの外に出てくるモンスターは弱体化している。師匠が昔を思い出すようにモンスターを解説していたので、弱点なんかも把握していた。

 

 神に出会い恩恵を授かった。

 

 魔法が一つ発現していた。妖精という種族は魔力に秀でているからだという。 

 

 「一人が一生で授かれる恩恵は、一柱だけですか?」

 

 「うん?いや、授かった後でも他の神から授かれるぞ?それを改宗と言う」

 

 「改宗します」

 

 「!?」

 

 神には申し訳ないが授かってすぐ改宗状態にして貰い、何時でも何処でも神さえいれば更新出来る状態で冒険を続けた。

 

 別に眷属が居ても居なくてもという神だったから問題なかった。また、自分はそうでも執念深い神は手放そうとしないから気を付けるようにと警告された。

 

 昇華(ランクアップ)

 

 一際大きなモンスターを討伐した時可能になって確信した。恩恵を授かってすぐの討伐で薄々気付いていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分より遥か格上の強者である。

 

 一度の昇華で自惚れる事が出来ない。絶対に追い付く必要がある。誓いをより強固にすると背中に熱が灯る。

 

 二度目の昇華で成長に限界を感じた妖精は、オラリオで活動する事を決めた。目的は唯一無二のダンジョン。都市外のモンスターはここからやって来た。ならば弱体化する前のモンスターと毎日戦える。

 

 己の闘争心が沸々と湧き上がり、ふと思い出す。

 

 『……お姉ちゃんはね、強くないんだよ』

 

 あの時一瞬だけ垣間見たお姉ちゃんの横顔は、きっと忘れないだろう。

 

==========

 Lv.3

 

 力:I0

 耐久:I0

 器用:I0

 敏捷:I0

 魔力:I0

 

 【発展アビリティ】

 耐異常H

 剣士I

 

 【魔法】

 《インパルス・アロー》

 ・詠唱文

 “顕現するは一つの矢。熱を纏い痺れを纏い、閃光の如く敵を穿つ雷火の矢”

 

 【スキル】

 《強誓(オース)

 ・誓いを強固にするほど全能力の高補正。

 ・思いの丈で効果向上。

 

 《魔力操作(コントローラー)

 ・自他における魔力の操作。

 ・魔力変換を可能にする。

 




誤字脱字あるかもなので報告お願いします。

妖精(エルフ)の少年。名前未定。
 表現としては野生児の方が正しい。短剣は首切り用&不意打ち用。背が伸びたのでサーベルを扱う。原作開始のすぐ前にオラリオへ。十一歳で恩恵を授かり十五歳でLv.3。

人間の女性。名前は■■■。後々判明。未定とかじゃないから。
 放浪中に少年を拾ってお姉ちゃん兼師匠に。右腕、脇腹、右足には火傷跡がある。男神は絶対悪。闇派閥側になった訳ではない。

批評はキツいが受け入れます。作者の成長のために。




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派閥の一員として

妖精→エルフと書きます。


 

 「……はっ、ようこそギルドへ!本日はどういった用件でしょうか?」

 

 ピンク色の髪をした元気な女性こと、ミィシャ・フロットが目の前の男性の受付を担当する。

 

 種族はエルフだろう。同僚のエルフとハーフエルフと同じ耳の長さだ。しかし、おおよそエルフとは思えない服装に目が行ってしまい、一瞬放心状態となってしまう。先程まで仕事していたミィシャ以外の同僚も、報告及びクエストの受注などをしに来た冒険者も、手と足を止めて彼に注目する。

 

 黒のシャツを第二ボタンまで開き、腕を肘付近まで捲くっている。さらには上着らしき布を腰に巻く始末。

 

 都市外から来た冒険者だろうか? 

 

 男性が放つ雰囲気は普段から接する上級冒険者のそれだ。ただ、エルフの過半数が持つ杖の代わりに、身の丈に合う剣を腰に据えている。

 

 客観的に見たエルフの情報である。

 

 「冒険者として活動したい。手続きが必要なんだろう?」

 

 「は、はい!名前と所属、恩恵を授かっていたらレベルを教えてください!」

 

 いやいや、絶対授かっているだろ!!彼以外の全員が思った感想である。

 

 「名前はクーリア・サルトリア。所属は()()()()()()()()()()()()L()v().()3()()

 

 「え〜と、名前がクーリア・サルトリアで、所属は【ミアハ・ファミリア】だから……生産系ですね。それとレベルが3と……ん?」

 

 書く手が止まる。不備があったのだろうか?

 

 「あの、大変申し訳ないんですが……」

 

 「ん?何か問題が?」

 

 「いえそういう訳ではなく…」

 

 「? ならば大丈夫だと思うが……」

 

 都市外でレベルを上げる事は困難を極める。オラリオでも七〜八割はLv.1と2なのだ。一度のランクアップは納得出来る。この際納得しよう。ただし、二度目のランクアップまでは流石に不可能だ。

 

 「レベルの虚偽申請は罰金刑となります。また虚偽のまま登録すれば、それに相応しい難易度のクエストが課せられます。もう一度お聞きします。貴方はLv.3ですか?」

 

 おお〜というミィシャを感心する声が聞こえてくる。強面妖精に対して臆せず物申せたからだろう。

 

 それに対して、

 

 「そうか、疑われているのか…」

 

 そう言い、背を見せるように立つ。

 

 誰もが疑問符を浮かべるが、その答えはすぐに分かった。

 

 「これでいいか?」

 

 「「「「!!」」」」

 

 「サ、サ、サルトリア氏!?一体何をしているんですかぁ!!」

 

 ()()()()()。ボタンを外さず鮮やかにシャツを脱いだ。エルフに似つかない筋肉質で至るところに切り傷だらけの身体が露わになる。顔真っ赤。

 

 突然の奇行にギルド内にいる者全てが驚いてしまう。エルフはこんなことしない!断じて!

 

 「何をって……俺は疑われているのだろう?ならば恩恵を見せれば解決するはずだ。安心しろ。解錠しているから」

 

 「い、いやそういう事ではなくてですね…」

 

 「もしかして字が読めなかったか?ギルドの者の中に誰か読める人は居るか?」

 

 どうやら冒険者には見せず、ギルドだけに見せているようだ。そこら辺の分別?はあるようだ。

 

 同僚のハーフエルフが駆け寄って来る。彼のステータスを確認し、事実である事を証明した。

 

 「服を着ていいか?流石に上裸は防御力に問題がある」

 

 問題あるのはお前の頭だ!後、シャツ一枚だけで防御力もクソもないだろう!

 

 呟きを拾った人の感想である。

 

 取り敢えず服を着る許可?を出したミィシャは、謝罪をする。疑ってしまった事に対して。

 

 「いや、疑わなければ無闇に死ぬ者が増えるだけだ。ミィシャさん……だっけ?貴方の判断は間違っていない」

 

 皮肉などそう言った嫌味が全く無い感想に固まってしまう。

 

 恩恵の開示は例えギルドであっても許されていない。相手が正しい場合、訴えられても仕方がない。前例があるのだ。

 

 「…では以上で登録は完了です。あ、担当はどうしますか?」

 

 「希望は特にない。知り合いもいないしな」

 

 「分かりました。では本日からよろしくお願いします」

 

 「ああ、こちらこそよろしく」

 

 こうして、登録が認められたクーリア・サルトリアは、オラリオの冒険者として活動する事になる。

 

 都市外でレベルを上げた彼の強い執念は、誰にも測れないだろう。

 

 今から楽しみだ。

 

 

 おまけ。

 

 「そなた」

 

 「?」

 

 「回復薬はいるか?」

 

 オラリオを散策中、突然声を掛けられた。端正な顔立ちで長髪ではあるが、声色と雰囲気から男神だと分かる。

 

 回復薬を渡す理由はなんだ?毒か?

 

 「警戒せずとも、これは本物の回復薬だ」

 

 「俺に渡すメリットではないでしょう」

 

 「なに、今後我がファミリアを贔屓にしてくれれば良い。まあ、眷属には怒られるがな」

 

 ハハハ、と軽快に笑う。笑い話ではないと思うが。

 

 でもこの神の性格を知れた。予想通りなら善なる神様だ。  

 

 ファミリアを探すのが面倒臭いクーリアは、これは幸運だと思い、

 

 「団員募集しています?」

 

 声を掛けた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「ここがダンジョンか……」

 

 登録を終えてすぐダンジョンに向かった。

 

 上層までの知識なら、入団した日に派閥にあった本を見て覚えた。地頭が人並み以上に良いので苦労しなかった。

 

 団長からは薬草を頼まれた。それと、半月は中層に行くなと言われた。普段なら無視するところだが彼女の義手に目が止まり、忠告に従う事にした。

 

 ちなみに眷属は二人だけの零細派閥。眠たげな表情を常に浮かべる半分冒険者辞めてるような団長ナァーザ・エリスイスと、新入りである自分だけ。昔はそれなりの規模だったらしい。

 

 今や借金を抱えて極貧生活だ。

 

 Lv.3が入団してくれた事をナァーザは喜んでいた。

 

 今の階層は七階層。硬くて厄介な蟻を殺している。特性は仲間を呼び集めること。だからずっと殺している。

 

 「しまった、魔石をどうやって運ぼう」

 

 荷物は手提げ袋一つ。下の階層で討伐したモンスターの魔石を捨てれば幾らか入るが、余りがでる。

 

 「まあいいか」

 

 見切りを付けて半永久的なループを終わらせた。やはり余ったので魔石を踏み潰して欠片に変える。

 

 モンスターが誤って口にした場合、強化種となるそうだ。魔石の味を覚えるとどんどん食べて、どんどん強くなるので持ち切れなくなった魔石は砕くのだという。

 

 都市外では勝手が違うのでギャップを感じるが、この分だとすぐ慣れそうだと思った。

 

 ちなみに魔法もスキルも使っていない。レベルが高いせいで上層では上がりにくいのだ。能力を使えばオーバーキル。絶対に上がらない。

 

 武器は剣。厳密にはサーベルを扱っている。都市外では割と良い武器なのだが、オラリオでそれは通じない。

 

 硬いが侮るつもりはないが遥か格下の相手。それでも所々に綻びが生じている。

 

 買い替えをしなくては武器が壊れる。もう一つの武器である短剣はなるべく使いたくない。

 

 師匠が残してくれた物だからではない。いやそれもあるが、

 

 「()()()()()()()()()()

 

 始めて武器屋に行ったら驚いた。最低でもこのくらい。自分の中ではずっとこの短剣基準だ。全部粗悪品かと思った。

 

 試しに鍛冶士に見せたら、オラリオ製だと言われた。厳密にはダンジョンで取れる鉱石で造られているものらしい。値段もそれなりに高い。都市外で買えるのは王族貴族、後は成功している商人くらいかな?

 

 師匠が冒険者だと裏付けられる証拠である。

 

 一旦頭の片隅に追いやり、ダンジョンから地上へと戻りギルドに行った。

 

 あのエルフだ……。なんて声がチラホラ聞こえてくる。何かしたかな?

 

 換金を済ませて帰り道。

 

 不躾な視線を感じるが無視。下手にアクションを起こす訳にはいかないし、喜ばせる訳にもいかない。

 

 少し不機嫌になりつつホームである【青の薬舗】の扉を開けた。





クーリア・サルトリア。
 オリ主。強い派閥に入れば遠征に同行出来る。しかし数多のルールが自分を縛り、始めの数回の遠征は荷物持ちだろうなと予想する。対して零細ならばそれほどルールはないだろう。自分の思い通りに行動出来る。しかし、深い所には潜れないし(人員の)質の良し悪しがある。最悪俺一人。う〜〜んと悩んでいた時にミアハに出会い、ここに決めた。人相手はタメ口で神相手なら一応敬語。ただし、その神がろくでなしならばタメ口に変える。

 説明長くてごめんなさいm(_ _)m
 次から原作。


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共闘

原作開始。ただし原作は大まかに改変されているものとする。
オリ主
少々険しい顔をしている。それでも美形。金髪金眼。服装は戦闘衣、サーベル、短剣。エルフから睨まれるようになった。


 

 初めてのダンジョン攻略から二週間が経過した。

 

 暇さえあれば無限蟻殺し(エンドレス・アント)を繰り返していたので、お金にはだいぶ余裕が生まれてきた。具体的には、借金を催促してくるディアンケヒトなる男神が、なんとも言えぬ顔をして捨て台詞を吐くらいには。

 

 装備を一新し、担当の受付嬢(押し付けられたらしい)ミィシャ及び主神ミアハ、団長ナァーザから中層の進出の許可を貰った。

 

 本当はパーティを組んで欲しいそうだが、あいにくコネが無い。それは所属の派閥とて同じ事。トラウマを抱えるナァーザは申し訳ない顔をしていた。自分なりに慰めた。

 

 そんなこんなでいざ中層へ……と、思っていた時期がありました。

 

 「「「「ヴゥモォォォオオッ!!」」」」

 

 「まだ上層だよな!?ここは十二階層だぞ!!」

 

 珍しくクーリアは驚きの声を上げる。普段冷静な彼が口調を変えるのは大変珍しい。

 

 中層十三階層へと続く階段が遠目で確認した後、雄叫びを上げて四体ものミノタウロスが現れたのだ。

 

 放置する選択肢がある。しかし、この階層にはまだ下級冒険者がたくさん居た。クーリアは見捨てられなかった。

 

 (ここで見捨てたら師匠に顔向けできない…!)

 

 オラリオに居るのか不明、そもそも生死不明の師匠の顔が脳裏に浮かぶ。自分を助けて育ててくれた師匠。ならば同じ事を自分もする。

 

 迫りくる四体のミノタウロスを迎撃しようとした。そんな時だった。

 

 「―――助太刀します!」

 

 声の持ち主は、黒い大剣を片腕に持ちつつ白い髪をたなびかせながら横を通り過ぎた。目で追える速度ではあったが、あの速さからして同じレベル。

 

 一瞬呆けるもクーリアは立て直す。

 

 「助かる!」

 

 一体を切り捨てた白い冒険者に一言声を掛けて自分も攻撃を仕掛ける。

 

 キラーアントより一回り硬い。攻撃力も遥かに高いが、それだけだった。

 

 意識はミノタウロスに――――ではなく、

 

 (あの冒険者は恐らく敏捷特化型。敏捷特化が大剣を装備する事は愚策だが、振り回されず速度は落ちず、なお上がり続けている。コイツは―――)

 

 クーリアが内心で思った感想である。奇遇と言うべきか、白い冒険者も

 

 (高い精度の剣捌きでミノタウロスを翻弄してる。柔らかい関節を的確に狙い腱を切っ先だけで切り捨てた。この人は―――)

 

 ((――――強い!!))

 

 クーリアは首を二回で切り落とし、白い冒険者は魔石ごと一刀両断した。 

 

 普通なら勝利の余韻に浸るところだが、彼らはお互いに興味が向いている。

  

 先に口を開いたのはクーリア。

 

 「手助け感謝する。俺はクーリア・サルトリア。【ミアハ・ファミリア】所属のLv.3だ」

 

 「いえいえこちらこそ。僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()L()v().()3()です」

 

 「私は【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタイン。Lv.5だよ」

 

 互いの自己紹介が終わる。その後の流れは決まっていた。

 

 「それにしても凄いな。重たそうな大剣でよくあれだけ動けるな」

 

 「私もそう思う」

 

 「クーリアさんだって、第一級冒険者と見紛うほどの剣術でしたよ。一朝一夕では身に着けられませんよ!」

 

 「誰から習ったんだろう?」

 

 キャイキャイと会話が弾む()()……あれ?

 

 「「お前(貴方)誰(ですか)?」」

 

 「……え?」

 

 コテンッと音が鳴りそうな首の傾け方。コイツは天然だ。一瞬で分かった。

 

 「名乗ったよ……?」

 

 「「いつ(ですか)?」」

 

 「さっき」

 

 「「??」」

 

 今度はクーリアとベルが首を傾ける。客観的に見たらおかしな連中である。

 

 追い付いた仲間はそう思った。

 

 「おいアイズ、用が済んだんなら戻るぞ。フィンに報告して他の連中を撤収される」

 

 「あ、ベートさん。今行きます」

 

 クーリアより強面の狼人がアイズを呼んだ。アイズって言うのか。【剣姫】じゃん。じゃあベートと呼ばれた青年は【凶狼】か。自分たちより強そうだ。

 

 ちなみにクーリアは世間に疎くない。めぼしい情報は仕入れるようにしている。外で冒険者をしていた時からの癖みたいなもので、最大派閥の一角である【ロキ・ファミリア】ならなおさらだ。

 

 ベートはクーリアとベルを横目で見たあと立ち去って行った。あの目から読み取れた感情は、敵意や侮蔑などの悪感情では無く、

 

 「「……()()、なのか(な)?」」

 

 【凶狼】が自分らの何に期待したのかは知らない。好感触だった事が意外だった。

 

 【剣姫】は小さく手を振って後ろに着いていく。残されたクーリアとベルは顔を見合わせて、かなり早いがダンジョンから帰還する事にした。

 

 ミノタウロスの魔石を回収する事は忘れてない。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ホームである【青の薬舗】で事の顛末を話した。意外だったのは【ヘスティア・ファミリア】は零細であるにも関わらず、ミアハの知り合いだった事だ。

 

 とは言っても、いつもの譲渡癖で知り合ったのだと言う。さらに彼の主神とは神友らしい。なんでも善神なのだとか。

 

 「それとベルとパーティ組む事になった」

 

 「それはいいな」

 

 「うん、お互いLv.3だしね。攻略の効率が上がるし、何よりソロよりも安全だから」

 

 二人からは快く許可を貰った。もし彼が駆け出しの初心者だったら、ナァーザは反対していただろう。収入が減るという理由で。

 

 余裕が生まれてきたと言っても、まだまだ借金は残っている。店を続けるためにたくさん稼がないといけない。

 

 まあ、ナァーザじゃなくてもクーリアが嫌がるが。強くなるために足止めを喰らいたくない。それが理由で。

 

 翌日。

 

 集合場所に現れたベルから、夕食を一緒にどうかと誘われた。

 

 なんでも客引きにあったのだという。方法が多少強引で、簡単に言えば『弁当渡したんだから必ず来いや!!』だ。……え?口調が違うし荒すぎるって?細かい事は気にするな。

 

 特に予定ないし金にも余裕があるので了承した。

 

 中層十三階層。

 

 昨日は足止めを喰らって行けなかった、目的の場所である。

 

 派閥でもギルドでも、上層と次元が違うから準備を入念に行えと口酸っぱく言われた。それはベルも同じで、担当であるハーフエルフのエイナに何時間に及ぶ講義を受けさせられたらしい。顔が青褪めていたので、苦労したんだなと察した。

 

 ヘルハウンドと呼ばれるモンスターは口から火を吹く。他の階層に比べて床は脆いのですぐ足場が崩れるそうだ。

 

 だから距離を詰めて討伐した。

 

 アルミラージと呼ばれるモンスターは手に持つ小さな斧みたいな武器を投げつけてくる。当たれば深く刺さるのだとか。

 

 だから投げつけられた斧を逆に投げてやった。

 

 一体一体は別に強くない。Lv.3であるクーリアとベルならなおさらだ。問題があるとするならば、

 

 「「数が多い」」

 

 二人が抱いた同じ感想。中層からは出現率が大幅に上がる。だからか冒険者が度々怪我したり死亡したりが多くなる。このままだと採取もままならないので、

 

 「交代で戦わないか?一人が前衛、一人がサポーター……どうだ?」

 

 「いいね。なら最初は譲るよ」

 

 ベルは大人しく見えてかなり好戦的。クーリアと同じで強くなりたい。その裏には()()()()()がいる。

 

 交代で戦ってみるとこれが案外型に嵌った。後ろに行かせないよう誰かを庇いながらは、中々いい訓練になる。

 

 いずれ連携が必要になる時が来る。ベルとは気が合うので良好な関係を築きたい。

 

 ベルと共闘したいクーリアは、本物のサポーターが欲しいと節に思った。 

 




ベル・クラネル
 都市外でLv.3になる。クーリアはソロでモンスター中心。ベルはとある二人と修行。なので上級冒険者ばりの貫録が時折見られる。クーリアと同じで「強くなりたい」クーリアに対し敬語は辞めた。  

 強さに執着するクーリアが、自分から組みたいと思うのは珍しい。ベルと気が合うからだと思う。共通点もあるし。

 


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豊穣の女主人

ベルはアイズに一目惚れしていません。そんな要素ないし。


 

 オラリオを代表する居酒屋と言えば【豊穣の女主人】だろうと人々は言う。

 

 代金は少し高めに設定されているが、女将が振るう料理の味はそれを気にさせないほどの腕前だ。また、従業員は全員が女性であり、誰もが綺麗な顔をしている。

 

 旨い料理と美しい女店員が人気の秘訣。

 

 そんな店にやって来た二人の冒険者。

 

 「あ!ベルさん、来てくれたんですね!!」

 

 「こんばんはシルさん。弁当ありがとうございました」

 

 シルと呼ばれた女性は、ベルに弁当を押し付けて強引な客引きをした女豹……もとい、薄鈍色の髪をしたヒューマンである。

 

 ベルの姿を発見するやいなや、接客を後回しにして飛び付いて来た。ちなみにここはまだ外である。

 

 明らかにベルに好意?らしき感情を寄せているが、当の本人には届いていない。

 

 「そちらの方は?」

 

 ベルに話し掛けた後にクーリアを見やるシル。一瞬奇異な目で見てきたシルをクーリアは、どこか既視感を覚えると同時に、立て直しの速さを流石プロだと内心で称賛した。

 

 「クーリア・サルトリアだ。ある事がきっかけで昨日ベルと知り合いパーティを組んでいる。まあ、よろしく」

 

 「はいよろしくお願いしますね。私はシル・フローヴァです」

 

 そう言って、席に案内された。

 

 クーリアの服装はいつもの格好とは少し違い、黒いシャツと黒いズボンというエルフらしくないラフな格好である。もちろん腕捲りしている。

 

 なので……

 

 「なんか凄い視線を感じるんだけど…」

 

 「気にするな。俺から放たれるカリスマ性に客が驚いているだけだ」

 

 「違うよね。絶対その格好だよね?ほら見てよ!エルフの人が睨んでいるよ!?」

 

 「手でも振っとけ。面倒臭い」

 

 案内された席は女将の目の前。人によっては中々食べづらい位置である。女将の迫力がそれを助長されている。

 

 まあ、クーリアもベルも気にしないが。

 

 「じゃあ俺はアレを頼む」

 

 「あ、なら僕はコレを」

 

 「あいよ!に、してもお前さんらは中々肝が据わっているじゃないか!特にエルフの方は枠に囚われないって感じだねぇ!」

 

 「そりゃどうも」

 

 待つこと十分〜二十分。待ち時間は短くして料理が運ばれてきた。

 

 クーリアが選んだのは大きなステーキの肉料理と度数が少々高い酒。酒は飲むにしてもジュースに近い酒で、肉が入っている料理を食べるエルフはいるが、肉中心の料理を頼むエルフは珍しい。

 

 女将は一瞬驚いたがコイツなら大丈夫そうだと勝手に納得した。何故か居座るシルは目を見開いて驚いている。

 

 そんなの気にするかとパクパクと口に運んで食べるクーリア。ペースが早い。   

 

 「よく食べるね…エルフは野菜中心な種族と思ってた」

 

 「実際里ではそうだったぞ。でも冒険者として活動するにあたって筋肉は必要だ。体づくりに肉は欠かせない」 

 

 「へ、へ〜、僕も肉をたくさん食べようかな…」

 

 「ベルさんはそのままの体型が一番です!筋肉は不要です!!」

 

 横から異議を申し立てるシルの必死さにベルは引いた。

 

 食事を続けていると、

 

 「ご予約のお客様、ご来店ニャ!!」

 

 元気な声とともにゾロゾロと団体が入って来る。周りの客の声に耳をすませば、最大派閥である【ロキ・ファミリア】だと分かった。

 

 クーリアもベルもチラッと見ると、天然女剣士のアイズ・ヴァレンシュタインも居れば強面狼人のベート・ローガも確かに確認出来た。

 

 主神らしき女神の音頭で宴会が開始された。遠征ご苦労さんと言っていた。

 

 「気になりますか…?」

 

 「まあ、はい」

 

 「【ロキ・ファミリア】の方はよくこのお店を利用してくださる常連なんですよ」

 

 そんな話をベルとシルが行う。クーリア?興味がないから参加していない。決して省かれているとかじゃないから。

 

 「それにしても驚いたよね〜、まさかミノタウロスが上層まで逃げるなんて」

 

 「死者はおらんかったんやろ?報告聞いた時は少し焦ったで」

 

 「ああ。二人の冒険者が討伐してくれたお陰だ。礼をせねばな」

 

 「ねね!アイズは見たんでしょ?倒す瞬間を」

 

 褐色肌の女性がアイズに話し掛ける。特徴からヒリュテ姉妹の妹の方、ティオナ・ヒリュテだと推測出来る。双子の見分け方法は胸を見たら分かるよ。

 

 「うん。一人は大剣で、もう一人はサーベルだった。どっちも凄かったよ」

 

 「ほう、アイズが称賛するとはな」

 

 「なあなあアイズたん。その冒険者の名前知らへん?うちも気になってきた」

 

 「僕も気になるね」

 

 話題は二人の冒険者に向いている。当の目的はミノタウロスに対しての謝罪をメインに行うつもりでいるが。

 

 「その必要はねえよ」

 

 突然口を開いたのはベート。そう言えばベートも出会っていたんだっけ。

 

 「後ろに居る二人がそいつらだ」  

 

 「あ、本当だ」

 

 バッと音を立てながらベートが示す方向を見やる。そこには店員と仲良さげに話す白髪の少年と、奇抜な服装のエルフだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 「こんばんは」

 

 「「こんばんは」」

 

 立ち上がってトコトコ歩いたアイズは、二人に挨拶をする。挨拶された二人も挨拶をする。

 

 「えっと、昨日の事でちょっといいかな…?」

 

 「昨日?……ああ、ミノタウロスの件なら気にしてないですよ」

 

 「俺もだ。どうしてもと言うなら派閥の方にしてくれ」

 

 ではこれで、と言い食事に戻る。あの歳の男なら、アイズに喋りかけられたら赤面して戸惑う。しかし、ベルもクーリアも落ち着いて対応していた。

 

 アイズは空いている椅子に座った。隣はクーリア。

 

 「どうやって、強くなったの?」

 

 「まだ理想に届いてない。そもそも強いお前に言われても嫌味にしか聞こえんぞ」

 

 「ごめんなさい、そんなつもりじゃ…」

 

 「こっちこそ悪かったな……都市外で冒険者をしていたんだ。大型を討伐して二度のランクアップを経験した」

 

 「あの剣技も?」

 

 「それは師匠から教わったのを自分で改良したものだな」

 

 「師匠?」

 

 「そう師匠。師匠を超える存在に俺はなりたい。お前の話も聞かせろよ」

 

 「うん、いいよ」

 

 クーリアはアイズとお喋りをする。歳が近い、強くなりたいという思いが一緒。だから気が合う。

 

 楽しげに話す二人を面白く思わない存在が。

 

 「ぐぬぬ、あのエルフ、アイズさんとあんなに楽しげに…!」

 

 同じく同族のエルフ、レフィーヤ・ウィリディス。魔法の才に秀でており魔力量はハイエルフのリヴェリアを超える。将来有望な彼女ではあるがアイズに憧れており、過剰なまでの敵意を見せる百合っ気のある困ったちゃん。

 

 そんな彼女をやれやれと見た後、団長は動いた。

 

 「ミノタウロスを討伐した冒険者は、君たちで合ってるかな?」

 

 「はい」

 

 「ああ。そう言う貴方は、ミノタウロスを逃した冒険者で合ってるか?」

 

 「「「「!!」」」」

 

 「ちょ、クーリア!?」

 

 クーリアの言葉で、この場に居る全員が凍り付いた。目の前に居るのは【勇者】フィン・ディムナ。かの【ロキ・ファミリア】の団長である。

 

 ベルはクーリアを咎めようと立ち上がるが、手で制す。団員は様々な感情を見せる。罪悪感を浮かべる人が多いかな?

 

 「合ってるよ。その件に関しての謝罪が遅くなって本当に申し訳ない。後日謝罪と謝礼を渡したいんだけど…」

 

 「ア、アイズさんに言ったように、僕は大丈夫ですから!」

 

 「俺もだ。どうしてもと言うならホームに来てくれ。派閥には借金があってね。金を落としてくれたら幾分か助かる」

  

 「ああ、了解した」

 

 いいんだ。クーリアは内心呟いた。

 

 「なあなああんちゃん」

 

 「ん?」

 

 主神ロキが話し掛けてくる。酒をたくさん飲んだのだろう。クーリアより酒の匂いがキツい。しかしその目は酔っ払いのソレではなく、見定めるかのような目をしている。

 

 「ちょっと気になってな。いくつか質問してええか?あ、クーリアでいい?」

 

 「構いません。なんですか?」

 

 いきなり口調と敬語に変えるクーリアに驚いたが、すぐ持ち直す。ベルやアイズ、シルたちはそのまま驚いている。

 

 「クーリアはエルフよな…?」

 

 「両親ともにエルフですね。服装に関してはこれが楽なんで」

 

 「クーリアの故郷は里?」

 

 「はい7〜8まで里に居ました。ある理由で里から離れましたが」

 

 「クーリアは潔癖?」

 

 「全然ですね。全人類と握手出来ますよ」

 

 などなど質問を淡々と返すクーリア。ロキはケラケラ笑いながらある質問をする。

 

 「うちのリヴェリアの事知っとる?」

 

 「はい。【九魔姫】ですよね、ハイエルフの」

 

 「どう思う?」

 

 ゴクリと喉を鳴らしたのは誰か?エルフである。気になるクーリアの解答は、

 

 「……」

 

 沈黙だった。しかしクーリアの顔は険しい。

 

 「なんで答えんの?」

 

 「……流石に派閥に悪評が立つ」

 

 「……分かった、質問を変えよっか。一人の男として、リヴェリアを見てどう思う?」

 

 「綺麗な方だと思いますよ。女神と同じかそれ以上の」   

 

 「嘘ではないな」

 

 「うぐっ!?」

 

 正直な返答に咽るリヴェリア。若干耳が赤い。

 

 「じゃあ俺は失礼します。所属に関してはアイズ…さんに聞いてください」

 

 「アイズでいいよ」

 

 「あ、僕も帰るよ。失礼します」

 

 そう言って帰っていった。フィンやロキの中で最後まで堂々としていたクーリアの株は上がっていた。

 

 リヴェリアに関しては、自分に崇拝するエルフとは違う……いや自分含めて、エルフとは違うエルフの彼に興味が湧いていた。

 

 まあ、同じファミリアならば服装の乱れについて説教していたが。

 




ロキ
アイズたんと似てるやん。あわよくば。
フィン
僕ら相手に堂々としているね。これからが楽しみだ。
アイズ
一緒に居て楽しい。もっと知りたい。
ベート 
これからに期待。アイズと仲良くなるんじゃねえ!
エルフ全員
エルフの恥晒しが。服装を整えてやりたい。常識に囚われない彼を見習うべきでは?女王は女神とタメを張る綺麗な顔だって?分かってんじゃん。などなど。
リヴェリア
おもしれー男。


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怪物祭

はい、前半駄文です。読み飛ばしていいので。


 

 【豊穣の女主人】の出来事から数日が経過した。

 

 約束通り後日、主神ロキと副団長であるリヴェリアが謝罪に訪れた。困惑するミアハとナァーザではあったが、渡されたお金にナァーザが素早い変り身を見せた。

 

 クーリアは部屋で眠っていたところを叩き起こされて身支度を整えている。当の本人が不在なのは流石にありえない。【ロキ・ファミリア】が謝罪に来たと言われたクーリアは大変驚いていた。

 

 酒に酔っていた。

 

 酒を飲むと判断力が鈍るのはクーリアとて同じ事。普段ならズルズルと引きづらないのだが、あの件に思うところがあったのだろうか、ついつい突っ掛かってしまったのだ。

 

 クーリアは反省した。

 

 「おっ、来たなクーリア」

 

 「眠っていたところすまない。今日は派閥を代表して謝礼を受け渡しに来た」

 

 「いやいや、俺も昨日ので終わらせればよかったんだけど大事にしてしまった。すまない」

 

 謝罪を謝罪で返すクーリアに、ホンマに面白いやっちゃなとロキは呟いた。クーリアが謝礼は受け取れないと言うと、

 

 「これは【ミアハ・ファミリア】に贈る物だ。それに我々に対する戒めでもある。是非受けってくれ」

 

 断りづらい渡し方をするリヴェリア。

 

 テコでも動かないリヴェリア。

 

 クーリアは諦めた。

 

 クーリアは自責の念に苛まれた。

 

 「悪いなロキ。うちの子が迷惑を掛けた」

 

 「それは違うでミアハ」

 

 「違う?」

 

 「元々はうちらの失態やで。それをクーリアとベルが解決してくれた。全面的にうちらが悪いんや」

 

 ミアハは目を見開いて驚いた。あのロキが非を認めたからではなく、心の底から悔やむように言っている事に。

 

 主神二柱の会話をよそに、リヴェリアとクーリアは興味深そうな会話を始める。ロキは聞き耳を立てる。

 

 「一つ聞いていいか?」

 

 「え?」

 

 「我ながら変な質問をするが……私を崇拝しているか?」

 

 本当に変な質問だ。これだけを聞けば、自惚れてんじゃねえ!!と言いたくなるが相手はかのハイエルフ。普段からエルフに崇拝されている彼女ならではの質問だった。 

 

 ここは公の場ではないし、昨日のような酒場ではない。クーリアの答えは決まっている。

 

 「全然」

 

 「くふっ、そうかそうか」

 

 笑みを溢し返答する。珍しい光景にロキは目を奪われた。微笑む事はあっても笑いを溢す事はあまり無い。それが他派閥の団員ならばなおさらだ。

 

 そんな事がありつつ目的を果たしたロキたちは帰っていった。

 

 ちなみに、謝礼で頂いたお金は今月の借金に充てるつもりである。

 

 気を取り直して今日。

 

 街はいつもよりたくさんの人々で溢れかえっている。理由は【ガネーシャ・ファミリア】主催のお祭りにある。

 

 モンスターを地上に連れて来て客の前で調教するのだ。調教されたモンスターは大人しくなり獰猛さが消え失せる。簡単に言えばペット状態になるのだ。

 

 と言ってもこれは難しい。成功率は高いとはいえず失敗する事もある。それでも盛り上がるから関係ないが。

 

 この催しで注目されているのは、成功率100%を誇る()()()()()()()である。一体何ヴァルマなんだろうか?

 

 それ以外にも通りには出店が多数見られる。食べ物が多いけど、生産系派閥からは回復薬などの必需品を売る所もある。ミアハとナァーザはやらないと言っていたが、来年はクーリアが居るから何か出店しようと計画中らしい。

 

 今は仲間のベルと行動中なのだが、

 

 「俺はあっちを探すから、ヘスティア様とベルは向こうをお願い」

 

 「ナイスだクーリア君!行こうぜベル君!!」

 

 「ええ!?ちょっ、クーリア!?」

 

 こんな事になったのは、【豊穣の女主人】の前を通り過ぎようとしたベルが、猫人の店員に財布を押し付けられたからである。途中合流したクーリアが事情を聞いた。

 

 人探し中にベルの主神と合流。デートがしたいヘスティアの気持ちを汲み取って、クーリアが別行動を提案したのだ。

 

 だから今は一人で祭りを堪能中。

 

 「あのエルフ露出多過ぎじゃないかしら!潔癖じゃないのかしら」

 

 「どっかの堅物エルフにも見習って欲しいものですねぇ」

 

 「こちらを見るな!私は普通だ!」

 

 普通のエルフは太腿を晒す服装をしないのでは?エルフはどこかズレてんだよなとクーリアは思った。まあ、露出過多のエルフは珍しいので気になるが(自分ではないと思ってる)

 

 そんな時だった。

 

 「モンスターだぁぁぁぁ!!」

 

 突如として悲鳴が上がった。声のした方を見ると鋭い剣を思い浮かべる角を生やした鹿がいた。

 

 「ソードスタッグだったな。中層にしても、結構深い場所のモンスターを地上に引っ張って来たんだな」

 

 素直に感心しているクーリアだったが、逃げ惑う市民に押されてコケた少女のすぐ後ろにモンスター。行動は速かった。

 

 「! そこの同胞止まりなさい!」

 

 待ったの声を掛けられたが関係ない。少女を素早く抱き上げ、モンスターの顎を蹴り上げた。

 

 「大丈夫か?」

 

 「う、うん」

 

 「ならお母さんの所に行くといい。後は任せろ」

 

 「でもエルフのお兄ちゃんが……」

 

 「平気だ。ダンジョンのモンスターの方がまだ強いからな」

 

 そう言って解放した。少女は納得したのか母親のもとへ走っていった。

 

 蹴られてひれ伏すソードスタッグは他の冒険者に討伐されていた。倒そうと思ったのに……お前ら逃げてたよね?

 

 「ば、馬鹿言うな!武器をホームから持ってくるために離れただけで、ベ、別に怖かったからではなくてだな…」

 

 「そ、そうだ!コイツ程度訳ないぜ」

 

 頭から足にかけて串刺しにされたソードスタッグ。オーバーキルが過ぎる。

 

 「ならアレも頼めるか?」

 

 「おうよ!どんなモンスターでもこの俺、が……?」

 

 「ガハハ、歴戦の冒険者の俺に任せと、け……?」

 

 後ろを振り向き冒険者は自慢の剣を向ける。緑色をした蛇みたいなモンスターがウネウネ蠢いていた。後半のセリフがおかしいのはコイツを見たせいだ。

 

 「よ、よし!俺は他のモンスターをぶっ殺して来るぜ!この武器はくれてやるから、無様を晒すなよ!!」

 

 「俺が出るまでもないからな。ここは経験を積ませておいてやる!コレを貸してやるから、勉強だと思って頑張んな!!」

 

 「あ、おい」

  

 「押し付けられましたね同胞の人。ここは私に任して、貴方も逃げてください」

 

 武器を渡されたクーリア。エルフが言うように体よく押し付けられたのだ。だが、この男に逃げるなんて選択肢はないのだ。

 

 ちなみに【ガネーシャ・ファミリア】など都市の憲兵は、住民の避難及びモンスターの討伐に手一杯の様子。クーリアのように他の冒険者が手伝っていればすぐ終わるだろう。

 

 「援護する…と言いたいが、その武器とは相性が悪いんじゃないか?」

 

 「っ!!どうやらそのようだ。一振り貸してください」

 

 敵は硬い。エルフが持つ木製の打撃武器が弾かれた。クーリアは片方の武器を投げ渡した。

 

 ()()()()()()と少し特殊な第二級冒険者による二人の連撃。触手が斬られて茎?も斬られて戦闘は終了した。

 

 ワァーー!!という歓声が上がった。

 

 「助かりました同胞の人」

 

 「いや、助かったのはこっちの方だ。一人だと長引いていた」

 

 基本クーリアは一人で戦いたい派だが、今回は一般人が大勢いた。巻き込むのは彼の信条に反する。

 

 だから引き起こした首謀者に苛立っている。決して悟られないようにしているが。

 

 「おっと自己紹介はまだだったな。【ミアハ・ファミリア】のクーリア・サルトリアだ。よろしくな」

 

 「私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。もっと貴方と喋っていたいのですが、他にもモンスターが脱走しているので」

 

 「ああ、引き止めて悪かったな」

 

 そう言って二人は別れた。又貸ししていた武器は返された。どちらの武器も罅が入っていた。

 

 「クーリア!」

 

 「お?ベルじゃん」

 

 見れば少々焦りが見えるベルがこちらにやって来た。その腕にはヘスティアを抱えている。幸せそうだな。

 

 「奇抜なエルフがモンスターに襲われてるって言ってたから走って来たんだよ」

 

 「おいその『奇抜なエルフ』と聞いて俺の所に来る理由を教えて貰おうか」

 

 などと軽口を叩き自分が無事である事を伝える。ベルも襲われたようだ。バーバリアンに。

 

 脱走したモンスターは全部討伐され、さっき討伐した触手のモンスターは、違う場所で【ロキ・ファミリア】が討伐したらしい。

 

 お祭りで起きた騒ぎは完全に収束した。これぞお祭り騒ぎ。喧しいわ。

 




生存については、クーリアの師匠が関係してると言っておく。


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サポーター

少ないです。


 

 あの【怪物祭】から後日。

 

 先に来すぎてしまったクーリアは一人バベル前でベルを待つ。相変わらず視線は凄いが慣れているので気にしない。

 

 最近は()()()()()()()()()()()()()()()が、周りにチラホラ確認出来るくらいだ。

 

 「お兄さんお兄さん、そこのエルフのお兄さん」

 

 やけにお兄さんを連呼するなと思いつつ、声のする方を見やるとバカでかいバッグが。

 

 「こちらです」

 

 「あっ、下か」

 

 腰くらいまでの高さしかない少女がそこに居た。小人族だろうか?全身ローブで深めのフードを被っている。

 

 少女に尋ねようとした瞬間、

 

 「あ、クーリアおはよう!」

 

 「ベルか、おはよう」

 

 タイミングが良いのか悪いのか。ベルのご登場である。一瞬、少女の顔が曇ったような気がするが気にしない事にした。

 

 「あ、この子」

 

 「知り合いか?」

 

 路地裏で襲われてるのを発見して助けたらしい。暴漢は逃げて背後に居た少女もいつの間にか居なくなったそうだ。

 

 特徴が似ているのだという。

 

 「君は小人族の子だよね?あれから大丈夫だった?」

 

 「リ、リリは貴方と初対面です!それに小人族ではなくて犬人族ですから!」

 

 ほらって言いながらフードを捲る。そこには可愛らしい犬耳がピコピコ動いていた。

 

 「ん?」

 

 「? どうしたのクーリア?」

 

 「……いや何でもない、気にするな」

 

 犬耳は偽物だ。自身のスキルである【魔力操作】を通して分かった事。ベルに知らせようと思ったがコイツは下手な勘繰りをしてしまうし、サポーターである彼女は冒険者から不当な扱いを受けていると想像出来る。一種の処世術と納得した。

 

 まあ、危害を加える気ならそれに相応しい対応をするが。

 

 「んっ、んぅ……あん」

 

 「往来で何やってんだお前ら」

 

 「うわぁ!?ご、ごめんリリ…!」

 

 クーリアが考え事をしているすぐ横で、ベルが犬耳を蹂躙していた。少女の喘ぐ声が聞こえたのか、同業者からロリコン野郎だとコチラを見られた。

 

 リリって言うのね。そう言えば一人称ではリリだったな。この二人で自己紹介はもう終わらせたようだ。

 

 「でもどうする?」

 

 「ん?何が……ああ、そっか」

 

 「?」

 

 普段通り中層に行くつもりではあるが、リリは恐らくLv.1。それもサポーターだから下位の。Lv.3が二人居るからって安全とは限らない。

 

 そんな憂いはすぐ晴れた。

 

 「リリはどこまでも着いていきますよ!なんせサポーターですから!」

 

 「おっ、言質取ったぜ」

 

 「じゃあ行こうか」

 

 ――――今日は十三階層まで行こうか。そうだねリリも居るし。え?十三階層って中層ですよね?嘘ですよね?

 

 リリは後悔した。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「十五万ヴァリス…!」

 

 「いつもと同等の金額だな」

 

 「だね。でも今日は十三階層までの金額だから。深い階層に行けば倍はいくんじゃないかな?」

 

 「やっぱサポーターの有無は大きな……ん?どうしたんだ?」

 

 クーリアがリリの方を見ると何故かぐったりしていた。確かに上層より強いモンスターだけど、前衛がしっかり守ってた。まあ、初めての中層はキツいとは思うが何も問題ないはずだ。

 

 「問題あり過ぎです!何でいきなり中層に行くんですか!」

 

 「え?何でって…」

 

 「俺たち上級冒険者だしな」

 

 「で、でもLv.2ですよね!?そんな装備で無謀です!!」

 

 「「Lv.3だ(よ)」」

 

 「!!」

 

 「固まったな」

 

 「どうしようか…」

 

 放心状態になるリリをクーリアとベルは見守る。クーリアは面白いなコイツと思いながらリリを見る。

 

 数秒、あるいは数分経過した時リリは復活した。ベルとクーリアは報酬を分けていた。

 

 「ほれ、お前の分だ」

 

 「あ、ありがとうございます……て、五万ヴァリス!?」

 

 「少なかった?なら、はい」

 

 「ふむ、俺からもやる」

 

 そう言って一万ヴァリスを手渡した。リリが七万ヴァリス、クーリアとベルが四万ヴァリスとなった。

 

 受け取れないと言うリリが返そうとするが二人は受け付けない。

 

 「なら明日からよろしくな」

 

 「うん、リリが居てくれたら助かるよ」

 

 「…分かりましたよ。ありがたく受け取ります……」

 

 こうしてサポーターのリリが仲間になった。明日から深い階層に潜るつもりのクーリアとベル。リリの苦労はここから始まる。

 

 

 

 おまけ

 

 「クーリア・サルトリア及びベル・クラネルの所属が判明致しました」

 

 「そうか良くやった。ヒュアキントスよ」

 

 「ありがとうございます」

 

 そう言って彼の頬を撫でる男神。その顔は酷く醜く歪んでいた。

 

 「念には念を、【ソーマ・ファミリア】と話が付いているか?」

 

 「はい。団長である【酒守】と契約を結び、何時でも動けるよう準備が整っております」

 

 「よろしい」

 

 男神の目的はクーリアとベル。【怪物祭】で見たクーリアの剣技に惚れ、さらにクーリアの近くに寄って来たベルの容姿に惚れた。

 

 つまり両方に惚れた。ならば両方頂く他あるまい。神の思考回路はイカれているが、この神の思考回路はもっとイカれていた。

 

 波乱が巻き起こる。

 




リリは中層行きます
→ゲドたち行けない。待ち伏せしようにもLv.3が二人なので返り討ちにあう。まあ、奴らにそんな事まで考える頭は無いが。

原作より金が貯まります。
→目標金額までの貯金が貯まりに貯まる。

二人の武器を盗む暇がありません。
→行きでは絶対盗めない。バレるから。中層でも盗めない。戦闘中だから。ならば帰りは?疲労でそんな元気ない。

金だけが貯まって行きます。
→良いことじゃん。

原作より展開が早まります。


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戦争遊戯 幕間前半

駄文です。この話は見ても見なくてもどっちでもいいかな。
タイトルに前半を加えました。


 

 ダンジョンからの帰り道。

 

 「ただいま」

 

 「おかえりクーリア」

 

 「うむ、無事で何よりだ」

 

 扉を開けるとミアハとナァーザが出迎えてくれた。時間帯はもう日は完全に落ちて夜になっている。当然店は閉めてある。

 

 クーリアは机の上にあった手紙に注目した。

 

 「これが気になるか?」

 

 「え?ああ、まあ…」

 

 ミアハが気付いたのか、手紙について教えてくれるようだ。ギルドからだと思ったのだが、どうやらある派閥からだと言う。

 

 「送り主は【アポロン・ファミリア】だな。神の宴を開くから、眷属同伴で参加して欲しいとの事だ」

 

 「眷属同伴で?神の宴なのに?」

 

 「あのアポロンの事だ。何かしらの思惑があっての行動だと、私は踏んでいる」

 

 「あのアポロンって事は、その神について何か知ってるんですか?」

 

 「うむ。我々の中では有名でな。何でも惚れた相手に求愛する恋多き神なのだ」

 

 「ほうほう」

 

 恋多き神。何だろう、美の女神と同類なのだろうか?美の男神?

 

 「好みは男女問わず気に入った者だ」

 

 「見境なしか。もう猿だなソイツ」

 

 「あの派閥は自身が気に入った者を強引な手段を用いて手に入れた眷属中心で構成されておる。そなた等も気を付けるのだぞ」

 

 クーリアとナァーザの腕には鳥肌が立つ。話題を変えるためにクーリアは口を開く。

 

 「俺たちは参加するんですか?」

 

 「ヘスティアから要請された。手紙を受け取ったベルが『ご愁傷さま』と言われたそうだ。ベルが嫌な予感がするからクーリアも来て欲しいそうだ」

 

 「名指しかよベルのやつ…」

 

 そう言えばいつベルに手紙を?……一瞬考え込むクーリアだったが、武器の整備のために探索を休みにした時があったなと思い出す。

 

 「宴には眷属二名までと書かれておる。我々も行こうではないか」

 

 「「分かりました」」

 

 ベル()嫌な予感がするのか。本当に気が合うよ俺たちは。そう思いつつ遅めの夕食を済ませるクーリアだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 神の宴当日。

 

 馬車に揺られて会場に到着すると、見知った間柄が近くにいた。

 

 「ベル」

 

 「あ、クーリア。こんばんは…?」

 

 「お!ミアハじゃないか!それにクーリア君も…」

 

 クーリアが自身の名を呼ぶ声が聞こえたので振り向いてみると、

 

 「「誰…です、か……?」」

 

 「誰って…いつもパーティ組んでるクーリア・サルトリアだぞ?」

 

 「「変わり過ぎだよ!!」」

 

 服装は体格の良い身体を紳士服で決めて、金の前髪を整髪料で横に流す。女性が見惚れる男の出来上がり。

 

 普段がだらしないせいか、知人さえもクーリアだと疑うレベルに変貌したのだ。当の本人は何言ってんだこいつ等と呆れている。

 

 「うん、言いたい事は分かるよ」

 

 「ああ、店員が惚けておったな」

 

 ちなみに衣装に掛かった金額は、中層を探索するクーリアのお陰で充分な余裕が生まれていたお陰で大丈夫だった。

 

 その後、ヘスティアが呼んだ鍛冶神ヘファイストスと、タケミカヅチと言う極東の神とその眷属(一人)を連れて会場に入場した。こちらはヘスティアが工面した。

 

 「―――諸君、今日はよく足を運んでくれた!今回は趣向を変えてみたが気に入ってもらえただろうか?」

 

 会場の中心で演説する赤髪で月桂樹の冠を被る男神。あれが神アポロンだと分かった。

 

 「―――今宵は新しき出会いに恵まれる……そんな予感すらある」

 

 アポロンの視線がクーリアとベルを射貫く。

 

 (え?俺も?)

 

 嫌な予感が強まった。クーリアの中で警鐘が鳴っている。

 

 「今日の夜は長い。ぜひ楽しんでくれ!」

 

 かくして宴が始まった。ナァーザはミアハと行動をするようで、一人残されたクーリアはウロチョロする事にした。

 

 ベルとヘスティアが話している神は……。

 

 「うわ、ヘルメスまで来てんのかよ」

 

 「流石に傷付くぜ、クーリア」

 

 「え?君たち知り合いなのかい?」

 

 「そうだぜヘスティア。何を隠そうクーリアは、俺の眷属だったんだぜ!!」

 

 「「「ええ〜〜〜〜!!」」」

 

 「そう言えばそうだったな。私が恩恵を授ける前は、ヘルメスの恩恵が刻まれていたな」

 

 これには神々と眷属が驚きで目を見開く。コレを知る人物はミアハぐらいだろうか。

 

 「いや〜懐かしいね。君とは長いようで短い、そんな凝縮された日々だった」

 

 「ああそうだな。女湯を覗くお前を、毎日のようにシバいてたのは俺だったな」

 

 「それは言わない約束だぜ!?」

 

 「そんな約束してない」

 

 女性陣の目が氷点下の如く下がっていく。

 

 当然だがクーリアはヘルメスを慕っていない。だから敬語は使わない。

 

 「お久しぶりですねクーリア」

 

 「本当に久しぶりだなアスフィ」

 

 水色の髪に眼鏡を掛けた知的な女性。神々から【万能者】の二つ名を授かる彼女はあらゆる魔道具を作り出す。

 

 彼女からは礼儀作法など役立ちそうな事を色々教わった。

 

 「で?()()()()()()()()()()()()?」

 

 「その事でしたら―――」

 

 「おっと、あの件に関しては俺から言わせてもらうぜ!」

 

 遮るように横から現れたヘルメス。だいたい厄介事を押し付けてくる。

 

 「―――今夜私に夢を見させてくれないかしら?」

 

 「見せるかぁ!!」

 

 「フレイヤ様は今日も美しいな…!」

 

 「おい」

 

 「後日俺のホームに来てくれ。そこでゆっくり話をしよう」

 

 煙に巻かれた事にクーリアは腹が立った。なのでヘルメスは絶対ボコる。

 

 フレイヤがベルから離れてこちらに向かってやって来る。フレイヤは俺を一瞥だけして立ち去り、その後ろを歩く猪人が口を開く。

 

 「あの方の期待に応え続けろ」

 

 「そう言うお前は、愛想を尽かされないように頑張れよ?」

 

 言い返す。反感を買ってもおかしくないセリフだが、【猛者】はただコチラを見るだけだった。

 

 アスフィはそんな彼らのやり取りを見て冷や汗を流した。

 

 挨拶を済ませたクーリアはやる事無くなったのでバルコニーに出た。頬を撫でる夜風が気持ちよかった。

 

 「お久しぶりですねサルトリアさん」

 

 「【怪物祭】以来だな。【疾風】のリュー・リオン……だよな?」

 

 「お好きなように呼んでください。私は家名で呼ばせて頂きますので」

 

 「じゃあリューで」

 

 「分かりました」

 

 「リューも来てたんだな。興味ない…ってか、こういう場に来なさそうなイメージがある」

 

 「そのイメージで間違いないですよ。私は強引に連れてこられましたから」

 

 「大変だな」

 

 ハア……と深い溜め息を溢すリューを横目に見る。クールな彼女だが、派閥内ではイジり回されているのだろうな。そう思った。

 

 「この衣装だって、私に似合ってないだろうに……」

 

 白を基調にしたドレスに、うなじが見えるようリボンで髪を結われている。細く美しいリューの良さを、よく際立たせている衣装だと伝えてみた。

 

 「う、美しい!?私が!?そうですか。あ、ありがとうございます……」

 

 顔を俯かせるリューの耳が赤くなっていた。

 

 「お、ダンスが始まったな」

 

 楽器の音色が聞こえてくる。室内を見れば男女が優雅に踊っている。

 

 「そうみたいですね。しかし私には縁がありませんから」

 

 「なら俺と一曲どうだ?」

 

 「―――え?」

 

 「何事も経験だと、俺は思う」

 

 クーリアは手を差し出し、リューはうんうんと考え、

 

 「で、では……よろしくお願いします…」

 

 その手を取った。

 

 曲に合わせて二人の妖精が踊る。美の女神も武人も感嘆させる―――見る者を虜にする、美しさと儚さを両立させたダンスだった。

 

 リューは帰宅後、派閥内でイジられました。




時系列はアイズVSウダイオス。だからアイズは不在。代わりの団員が参加しました。
宴の同伴は二人じゃなくてもいい。一人でも大丈夫。
書いてませんが、ベルはアリーゼとアーディに可愛がられました。
ダンスはアスフィ仕込み。そこら辺は別の機会で掘り下げるつもりです。
リューはまだ気付いていない。気付かない方が幸せなのかもしれない。
次回は宣誓布告。その次から戦争遊戯。つまり戦闘シーンに移ります。


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戦争遊戯 幕間後半

文字数少なめです。次回から増やします。


 

 「ヘスティア、それにミアハ!君たちに()()()()を申し込む!!」

 

 宴の終盤。主催者のアポロンが会場中に響き渡るぐらい大きな声で言い渡した。

 

 ヘスティア及びミアハと縁がある神以外の神々が、戦争遊戯と聞いて盛り上がりを見せる。

 

 戦争遊戯とは。派閥同士で争い勝者は敗者から全てを奪えると同時に、戦えない神々の代わりに眷属を戦わせる代理戦争。

 

 オラリオが誇る娯楽の一つである。

 

 「……アポロンよ。何故我々に?」

 

 ミアハが問う。

 

 「君たちの眷属はギルドの目が届かないダンジョンを良い事に、犯罪紛いの酷い所業をしているみたいじゃないか」

 

 「……は?」

 

 ベルが呆けた声を出す。

 

 「モンスターを討伐する事は犯罪紛いなのか?なら冒険者全員に宣誓布告をしろよ」

 

 クーリアは鼻で笑いながらアポロンを見やる。それについてアポロンは意に返さない。

 

 「とぼけなくてもよいクーリア・サルトリアよ。君たちが雇っているサポーターの事だ」

 

 「リリ?」

 

 「我々は彼女が所属する【ソーマ・ファミリア】と同盟を結んでいてね」

 

 「つまり、俺とベルがリリルカ・アーデをイジメているから、酷い仕打ちを見かねて助け出してやろうって事か?」

 

 「話が早くて助かるよ。そして!僕たちが勝利した暁には、ベル・クラネル及びクーリア・サルトリアを貰い受ける!!――――悪い子にはお仕置きが必要だからねぇ?」

 

 気持ち悪い笑みを浮かべるアポロン。

 

 ①クーリアとベルがリリをイジメている。

 

 ②リリは同盟先の一員だから助けよう。

 

 ③法で裁けないクーリアとベルを、仕方ないからアポロン直々に教育しよう。

 

 大まかの流れだ。ヘスティアとベルは反論しようと前に出ようとするが制止する。彼らの一歩前に出るクーリアは――――

 

 「――――馬鹿だろお前」

 

 「なぁ!?」

 

 アポロンを罵倒した。まさか目の前で罵倒されると思わなかったアポロンは、情けない声をあげる。周りに控えていた眷属(一部)は怒りを見せる。

 

 「ここには神々がいるんだ。俺とベルが「イジメていない」と言えば、簡単に真偽をはっきり出来る」

 

 「ぼ、僕とクーリアは、リリをイジメていません!!」

 

 ベルが神々に向かって叫ぶ。その叫びが嘘ではない事を証明する。

 

 「嘘やないなぁ」

 

 「彼は嘘じゃないわね」

 

 「嘘をついていないなら……アポロン側の虚偽になるわ」

 

 上からロキ、ヘファイストス、アストレアが真偽を証明する。娯楽で動かない他神の眷属たちは、アポロンに軽蔑の視線を送る。

 

 「グッ……!だ、だが!Lv.1の彼女を中層に連れて行くのは過酷であろう!」

 

 「彼女はどこまでも着いていきますよと言っていた。つまり同意の上だよ」

 

 まあ、中層に行くとは思っていなかったみたいだけど。

 

 「ほ、報酬はどうなんだ!どうせ渡さなかったんだろう!?」

 

 「きっちり三等分だ。アイテムの補充の為に、多く渡す時もあったがな」

 

 真偽が証明されてなお難癖をつけるアポロンは、クーリアによって悉く論破される。

 

 わなわなと震えるアポロンに反撃する。

 

 「【ミアハ・ファミリア】は生産系で、客との信用が大事になってくるんだ。陥れる発言を公の場で言ったな?」

 

 「そ、それがどうした!」

 

 「誹謗中傷でギルドに訴えるからな」

 

 「〜〜〜ッ!?」

 

 重めのペナルティは免れない。また、【アポロン・ファミリア】に組みした疑いで、【ソーマ・ファミリア】も何かしらの罰が下りる。

 

 今後の事を考えて血の気が引いていく。

 

 「そ、それでも!戦争遊戯の申込みは取り消さないぞぉ!!」

 

 「ヤケになってんじゃん……」

 

 「一周回って哀れに見えてきたぞ……」

 

 ヘスティアとミアハは思った事を口に出す。同じような感想を抱いたのはこのニ柱だけじゃない。

 

 「あの状態で断ったら、何しでかすか分からないぞ」

 

 「え?」

 

 「例えばホームに殴り込みとか。ダンジョンで奇襲を仕掛けるとか」

 

 分かっていなさそうなベルに解説する。ベルが見せた感情は焦りだった。

 

 「な、殴り込み!?駄目だよ、それだけは絶対駄目!!」

 

 「おおう……えらく必死だな」

 

 「あのホームはお義母さんの大切な場所なんだよ。何かあったらオラリオが更地になる……!」

 

 ガタガタ震えるベルに引いてしまう。お前の義母さん何者だよ。

 

 そんな事があって、ヘスティア・ミアハのファミリアは戦争遊戯を承諾した。

 

 この戦争遊戯の一件で、クーリア・サルトリアとベル・クラネルの名を都市内外に知らしめる事になる。

 




次回戦争遊戯に入ります。お題は次回の最初に。

この作品で触れていない小話。
 クーリアと楽しそうに踊るリューを見て、涙ぐむアストレア。主神として親としてクーリアに感謝した。リューの結婚式は普通に号泣だと思う。するか不明だが。


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戦争遊戯

明日から仕事なので、更新遅れます。

高評価。ありがとうございます!!


 

 【ミアハ・ファミリア】の一室。決して広いとは言えないが、他派閥の人との話し合いの場として使われるのに充分な広さ。

 

 【ヘスティア・ファミリア】及び【ミアハ・ファミリア】が一堂に会していた。

 

 「緊急の【神会】は終わったんですよね?戦争遊戯の内容は決まりました?」

 

 【神会】とは神々が会議をする集まりの事である。自分が持ってきた情報を回したり、ランクアップした冒険者の二つ名を決めたりする。

 

 本来ならば三ヶ月間隔で行われるのだが、今回は戦争遊戯の内容を決めるので、緊急の【神会】が開かれる事になったのだ。

 

 「ああ、戦争遊戯は()()()に決まったよ」

 

 「総力戦、ですか…?」

 

 「くじ引きでな。魔法が飛び交うだろうから場所は都市外でされるのだ」

 

 ちょうど広く開けた平地が近くにあるからと、ミアハが付け加えた。

 

 「ルールはどうなってるんですか?まさか、全員を倒さないといけない訳じゃないですよね?」

 

 ナァーザが尋ねる。相手は【アポロン・ファミリア】と【ソーマ・ファミリア】だ。特にアポロンは中堅派閥で人数が百人規模。全滅は骨が折れる。

 

 「そこは安心してくれ。敵の団長が戦闘不能になれば、僕たちの勝ちが決定する事になってる。逆に僕たちはベル君とクーリア君の二人が戦闘不能になった時点で敗北が決定するのさ」

 

 他にも、時間内(一日)に敵の半数が気絶していた場合は勝利となる。団長は必ず戦場に現れる必要がある。参加は自由など。

 

 「後は……援軍は無し。人数差の不利があってもベル君とクーリア君はLv.3。流石に認められなかったね」

 

 これは覚悟していたから別に大丈夫。

 

 「あ、そうだ。報酬はどうなりましたか?」

 

 向こうだけ聞き入れるなんて、そんな馬鹿な話があるわけがない。コチラにも利があるはずだ。

 

 「何でも要望を叶えるそうだ」

 

 「な、何でも…?」

 

 「ああ。向こうはすでに勝った気でいる」

 

 「だから、大丈夫だって?」

 

 ヘスティアとミアハは頷いた。アポロンは武神ではない。だからこっちを甘く見ている。隣のソーマもそれで構わないと言ったらしい。

 

 ソーマは何がしたいんだ?ミアハは【神会】で首を傾けた。

 

 「ともあれ戦争遊戯は三日後だ。各々準備しておいてくれ」

 

 「「はい!!」」

 

 クーリアとベルは力強い返事をした。ナァーザは足手まといになるからと、ミアハと見学するようだ

 

 

 

 そして三日が経過する。

 

 

 

 時間にして朝の九時。本来ならば、冒険者はダンジョンに出発している時間帯だが今日は違う。なんたって、

 

 「『ただいまより戦争遊戯が始まります!!』」

 

 戦争遊戯を見るために地上に留まっているからである。稼ぎ時のためか、朝早くから酒場が開店され住民が集まる。どこの店も盛況している。

 

 特設のステージには、マイクを片手に解説役が盛り上げる。隣にはガネーシャが。

 

 こういう娯楽には賭け事もある。人数差で勝っているアポロンとソーマに大部分は賭けるだろうが、

 

 「ミアハ・ヘスティアに三万!!」

 

 「俺は五万だ!!」

 

 「いいや!俺はアポロン・ソーマに三万だ!!」

 

 などと拮抗状態。どちらが勝ってもおかしくないのだ。

 

 「――――()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな中、店員と客に聞こえるような透き通る声が響く。金額の多さに全員が、声のする方に振り向いた。

 

 「おいおい姉ちゃん、チャレンジャーだな……」

 

 「そうかな?私は彼らが勝つと思うけど」

 

 フードで顔を隠しているが、声色と体格から女性だと判断出来る。下卑た笑みを浮かべる酔っ払いの男が居たがすぐに顔をそらした。雰囲気に圧倒されたのだ。お陰で酔いが覚めた。

 

 誰もが注目する中、その女性が口開く。

 

 「どうやら始まったみたいだよ?」

 

 映し出される映像に注目する。ちなみに一部許可された神の力の効果で戦場が見渡されるのだ。

 

 「『開戦です!!』」

 

 司会の声と同時にドラがバァーーンと鳴り響いた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 場所は変わって都市外の平地。

 

 軽く百を超える冒険者に相対するのは、たった二人の冒険者。距離にして三十メドル。緊張感が高まるばかりだ。

 

 「俺が魔法をぶっ放して――」

 

 「――僕が敵大将を討つ……だよね?」

 

 作戦は単純。速攻で敵大将を討ち取るものだった。エルフ特有の魔力量ならば道を開けられる。

 

 問題は、

 

 「詠唱、だよね?」

 

 「一応平行詠唱は出来るが、今の俺では防御も反撃も不可能だ。その間お前一人に負担を掛ける事になる」

 

 だいぶ距離はあるが、それでも平行詠唱を強いられる。魔法を使わず突っ込んだ場合確実に乱戦になる。ならば、魔法で半数を脱落させて奇襲を仕掛ける方がいい。

 

 「ま、これは()()()()()()だがな」

 

 「そうだね」

 

 「本当の作戦の要はお前だ」

 

 「うん…!」

 

 二人が見据えるのは一人の少女。彼女の救出が本当の作戦。

 

 「時間だ」

 

 オラリオから響くドラの音が、開戦を告げた。

 

 「行くよ!」

 

 「“―――顕現するは一つの矢”」

 

 ベルは駆け出して冒険者に肉薄する。大剣を一回だけ振り回す。それでLv.1であろう冒険者が吹き飛んだ。

 

 「「「うわぁぁぁぁっ!!」」」

 

 「ど、どこにあんな力があるんだ!!」

 

 「兎野郎は無視しろ!詠唱中のエルフを先に潰しちまえ!!」

 

 今も大剣を振り回すベルから、留まっているクーリアに標的を変える。当然ベルは阻止するために動くが、弓兵が放った数多の矢が迫る。

 

 矢はクーリアに刺さり、魔力暴発を引き起こす―――事は無かった。

 

 「ば、馬鹿な!?」

 

 「躱されただと!?」

 

 「平行詠唱が出来るのか!!」

 

 敵が驚く中、詠唱は完成された。

 

 「“―――閃光の如く敵を穿つ雷火の矢”」

 

 「! く、来るぞぉ!!」

 

 「味方ごと巻き込むつもりか!!」

 

 「《インパルス・アロー!!》」

 

 雷で作られたその矢は猛々しい炎を纏いながらアポロン・ソーマの眷属を穿った。

 

 もちろん加減しており避けられる前提で放った。しかし大勢が火傷と痺れで倒れた。なお、最速で逃げたベルは健在。

 

 この光景を映像を通してオラリオ中に流された。

 

 「『なんてことだ!!クーリア・サルトリアの魔法がアポロン・ソーマに炸裂し、その半数が倒れたぁ!!ガネーシャ様、あれはどういう事でしょうか?』」

 

 「『うむ――――あれはガネーシャだぁ!!』」

 

 「『はい、ありがとうございました』」 

 

 信じられない光景に、酒場で観戦していた住民が歓声を上げる。彼の派閥に賭けた者が主だ。

 

 「勝ちは決まったろ!アイツらが勝者だ」

 

 「ば、馬鹿言うな!あれだけの魔法だ。精神枯渇で倒れるに決まってる!!」

 

 苦し紛れに言うが最もな意見である。映像でクーリアを見れば、若干それも僅かに疲労が見える。後数発はいける。

 

 「ねえねえ!あの魔法レフィーヤの魔法に似てない?」

 

 「そうね。違うと言えば、効果ぐらいかしら」

 

 場所は変わって【黄昏の館】の一室。それも団長副団長幹部が勢揃いしている。クーリアの魔法の感想を言ったのはヒリュテ姉妹だ。

 

 「それに威力も凄い。流石はエルフ……ではなく、クーリア・サルトリア自身の才能だろうね」

 

 「加えて平行詠唱。恐らく回避しか出来ないのだろうが、見応えのある中々の技術だった。努力を惜しまなかったのだろう」

 

 「わ、私も早く出来るようにならなきゃ……」

 

 団長フィン・ディムナと副団長リヴェリア・リヨス・アールヴが称賛する。それほどの一撃だった。同じLv.3のレフィーヤは、彼の平行詠唱を見て自分もと戦意を高める。

 

 各々が見守る中、

 

 「クソッ、どうなっている!何故詠唱を阻止しなかった!!」

 

 「おい【太陽の光寵童】!本当に勝てるのだろうな!?」

 

 「っ!!だ、黙れ!!お前の団員がまともに働かないせいだろう!?」

 

 「それはお前も同じだろうがっ!!百を超える団員は何をしているのだ!!」

 

 互いを叱責し合うのは、アポロン・ソーマの各団長で。不都合があればお前のせいだと言い合う醜い二人である。

 

 「そうだ、アーデだ!アーデを人質にしてしまえば奴らは終わりだ!!」

 

 「! その手があったな!リッソスの小隊に伝えろ!リリルカ・アーデを至急、見つけ出せ!!」

 

 「りょ、了解!!」

 

 傍に控えていた団員に指示を出す。何とも卑怯な手だが、情に脆い奴らだ。何にも価値がない小娘でも、人質としてなら価値がある。

 

 「―――と、思っているのだろうな」

 

 クーリアはサーベルで応戦しながら思考を巡らせる。強力な怪力を誇るベルでも、強力な魔法を放つクーリアでも、共に冒険したリリを見捨てられない。

 

 襲い来る敵を切り伏せつつベルを見ると、

 

 「リリィィィッ!!」

 

 「!!」

 

 未完の英雄は不幸のどん底にいる少女を救い出した。作戦成功である。

 




次回で戦争遊戯編は、クーリアとベル視点を中心に完結させます。色々おかしな点があると思うけど許してください。本当に許して。

勝利した場合には、両派閥から何でも奪える。さて、何を奪うのか。


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戦争遊戯 終幕

久しぶりの投稿です!性格やら設定やらを間違えていたらごめんなさいm(_ _;)m


 

 「……どうして」

 

 「え?」

 

 ベルは敵の魔の手に堕ちる寸前だったリリを救い出した。それを確認したクーリアは、二人を守るように立ち塞がる。

 

 いくら数的有利があれどLv.3。しかも技量も力も向こうが上で拮抗状態となる……いや、敵は攻めあぐねていた。

 

 救い出されたリリの様子がおかしい。

 

 「どうしてですか!なんでリリを守ろうとするんですか!どうして貴方たちはリリを見捨てないんですか!?」

 

 「え、ええ!?」

 

 いきなり大声を出すリリにベルは困惑する。リリの言葉は止まらない。

 

 「そもそもリリとは出会って数週間の、いえ、もっと短い関係でしょう!なんでそこまでするんですかっ!?」

 

 「……」

 

 「それにリリは報酬金額をチョロまかしました。魔石だってパクリました。それでもリリを助けようと思っているんですか!?」

 

 「うん」

 

 「やっぱりか」

 

 「!」

 

 自身の罪を告白してベルを突放そうとするが、当の本人はそれを聞き入れ即答する。見捨てる選択肢がない。背中越しで聞いていたクーリアは苦笑いだ。

 

 「貴方たちは何なんですか!?馬鹿なんですか!?間抜けなんですか!?救いようのない阿呆なんですか!?」

 

 「リリ、落ち着いて」

 

 罵詈雑言を並べるリリをベルが宥める。

 

 「リリだから助けるんだよ。僕は、僕たちはリリだから助けたかったんだよ」

 

 「ああ。俺はお前の腕を買っている。お前を失う事で取り溢す利益の損失は計り知れない」

 

 ベルも言わずもがなクーリアの発言は心からの言葉である。

 

 「僕はクーリアより頭が悪いから、理由なんて見つけられない。リリ助ける事に理由なんて」

 

 「ううっ、うううう…!ごめんっ……ごめん、なさぁぁぁい!」

 

 ベルはそっと胸に抱いて頭を優しく撫でる。大声で泣き叫ぶリリを優しくそっと。

 

 鏡の向こうで観戦している者は見入っているだろう。彼らの間に何があるのかは知らない。しかし、一人の少女が救われた事だけはハッキリ分かった。

 

 水を差すのは、

 

 「はっ、くだらねぇ。そんなガキに価値なんかないだろ。お前らぶっ殺して、また昔みたいに使い回してやるよぉ!」

 

 【ソーマ・ファミリア】は茶番だと吐き捨てながら下劣な笑みを浮かべ、同盟相手の派閥もニヤニヤと口元を歪めている。

 

 「やっちまうぞ、てめえらぁ!!」

 

 「「「「おおっ!!」」」」

 

 嫌な士気の上がり方だと内心舌打ちをする。ちまちまと一人一人を斬るのは駄目だ。もう一度やる気をへし折るには魔法しかない。こちらはリリを抱えている。そのためベルの援護を期待出来ないから、平行詠唱は難しい。

 

 リリを後ろに逃がす事は不可能だ。人数が人数なので取り溢して人質コース。というか囲まれた。

 

 「流石のてめえも疲れには勝てないか」

 

 「どうかな?わざとそう見せてるのかもしれないぞ?」

 

 「強がるんじゃねえよ。魔法のせいで精神枯渇も抱えてるんだろ?相当な消費量なんだな」

 

 「お、馬鹿の癖に頭が回るんだな。評価を猿より上にしておくよ」

 

 事実だ。あの魔法は精神力を大量に消費する。まあ、多くて五発は撃てるのだが、色々な状況が重なって疲労が蓄積したのだ。格下といえどLv.2が複数人もいる。立ち回りにしても敵に場馴れした指揮官がいるらしい。

 

 本当は嫌だがクーリアは覚悟を決める。

 

 「しょうがないよなぁ――――()()()()()()

 

 「え?―――ああぁぁぁぁああっ!?」

 

 「「「「!!!?」」」」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その光景に味方も含め驚きを隠せない。

 

 「あ、ああ……うっ、ん…」

 

 「キモい声を出すな」

 

 ビクンビクンと痙攣して顔を赤く染める。腰が抜けたのかペタリとその場に座り込んでしまった。ちなみに男。

 

 「ふぅ、かなり楽にになったな」

 

 顔色が元通りになる。それどころか生気が滾っているようにさえ感じる。

 

 クーリアの関係者以外が知る由もないが、【魔力操作】というスキル。これは自身の魔力だけではなく、()()()()()()()()()。また、魔力を変換できたりもする。

 

 簡単な話、吸い取った魔力を精神力と体力に回したのだ。

 

 「さ〜て、次は誰が相手だ?」

 

 口元には血が付着しており、首元に噛み付いた際に皮膚を強く噛んだのだ。まあ、被害者は痛みより快楽が上回ったようだが。

 

 ゆらゆらと歩くクーリアに一歩また一歩と下がる。

 

 「きゅ、吸血鬼だ……」

 

 誰かが呟いた。空想の怪物だと幻視したのだ。

 

 「落ち着きなさい!吸血行為は一人だけにしか行えない。だから集団で叩けばする暇を与えられないわ!」

 

 「そ、そうだよな。それにあのガキさえ捕まえれば、勝ったも同然だしな」

 

 指揮官の言葉で武器を構え直す。クーリアは今のうちに突っ込もうとするが、白い影が横を通り過ぎた。

 

 「“福音(ゴスペル)”」

 

 鐘の音が鳴り響く。それだけで大部分が吹き飛んだ。

 

 「あの野郎、魔法を隠し持っていやがったか……!」

 

 しかも超短文詠唱という破格の魔法。ベルの実力はやはり底知れない。それでもクーリアは好戦的な笑みを浮かべる。

 

 「リリは僕たちの仲間だ!貴方たちの道具じゃない!!」

 

 そう言いながら片手で大剣を振り回す……え?片手で?

 

 「やっぱ底知れねえは…」

 

 出来ない事はないがバランスを崩さず、かつ技を損なわないのは流石に無理。絶対無理。

 

 「クーリア!一気に決めるよ!」

 

 「! おう!」

 

 開けた道を駆ける。目指す場所は、

 

 「き、貴様らは一体何者なんだ……!」

 

 「ただの冒険者だ。Lv.3のな」

 

 「構えてください。今すぐ終わらせます」

 

 「っ! いい気になるなよ!例えLv.3だとしても、ダンジョンに潜ったばかりの貴様らには俺に勝てない!」

 

 挑発だと捉えた【太陽の光寵児】は顔を赤くし憤慨する。横の【酒守】は……何してんだ?

 

 「本当に大丈夫なのか?」

 

 「うん。リリをお願い」

 

 「ベル様…」

 

 「待ってて、すぐ終わるから」

 

 ベルはリリを降ろして構え直し、クーリアは後方を警戒しつつ武器を下ろす。その光景にヒュアンキントスが困惑する。

 

 「何、してる…?」

 

 「貴方は僕一人で倒します」

 

 「ふ、ふざけるなぁぁああ!!」

 

 怒り任せに剣を叩きつけようとするが、

 

 「ふっ!」

 

 軽々と躱して、

 

 「はぁっ!!」

 

 「がばぁ!?」

 

 思いっきり大剣の腹をぶつけた。ヒュアンキントスは飛んだ。それはもう、鳥の如く。

 

 「それで?」

 

 「ひい!?」

 

 応戦せず、コソコソと逃げようとしたザニスの前にクーリアは立つ。サーベルを向けているためか、情けない声を上げる。

 

 「こ、降参する!私の、私たちの負けだ!アーデにだって関わらない!だから、だから!」

 

 「……だから、なんだ?」

 

 「見逃してくれぇっ!!」

 

 クーリアはニコッと笑う。ザニスも泣きながらニコッと笑う。

 

 「――――んな訳ないだろっ!!」

 

 「ぐべら!?」

 

 前蹴りがザニスの顔を直撃した。くっきり靴跡が残って歯が折れていたので、かなりの威力になったはずだ。ザニスは倒れた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 『しゅうりょぉぉぉぉぉ!!戦争遊戯の勝者は、都市外から現れたLv.3!ベル・クラネルとクーリア・サルトリアだぁぁぁ!!』

 

 「「「うおぉぉぉおおっ!!」」」

 

 実況が戦争終了を伝える。オラリオで歓声が響き渡る。盛り上がるには充分過ぎる戦いだったのだ。

 

 「さてアポロン?」

 

 「こちらが勝ったのだ。約束通り要求を飲んでもらうぞ?」

 

 「す、すまなかった!出来心だったんだ!!」

 

 「喧しい!!全財産没収!派閥の解体!君はオラリオ永久追放だぁぁぁぁ!!」

 

 「うわぁぁぁ!?」

 

 「次はソーマだな」

 

 「ああ」

 

 アポロンと違い、ソーマは比較的落ち着いていた。

 

 「お主は取乱さないのか?」

 

 「……もう、どうでもいい。煮るなり焼くなり好きにしろ」

 

 「……分かったソーマよ。今までの罪を包み隠さず白日のもとに晒せ。店に売られている神酒をこちらに譲渡。本物の神酒は破棄だ。それと―――」

 

 「アーデか?」

 

 「そうだ。彼女を解放しろ」

 

 「分かった」

 

 ソーマは静かに了承した。とある女神がヘスティアとミアハに新酒を貰おうと泣きついたのは余談である。ヘスティアは鼻で笑ってた。




本当に久しぶりなのでいつもよりヤバい出来かも。長い目で見てください!誤字脱字の報告お願いします!

ソーマを追放せず眷属を解散しなかったのは、ギルド及び都市の憲兵が確実に動くから。罪は沢山あるしね。

 次回はヘルメスをしばく。


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探し人は案外近くにいた

 

 戦争遊戯に勝利したヘスティア&ミアハの両派閥は、敵派閥からあらゆる物を頂いた。

 

 まずは全財産だ。相手は中堅派閥と酒で有名な派閥だけあって、相当な貯蓄を持て余していた。これを当然半分づつ分けた結果、

 

 「ディアンケヒトよ。これで我らの借金は帳消しになるのではないか?」

 

 「ぐぬぬ…!」

 

 借金を無事返済する事が出来た。ナァーザが泣きそうになるほど喜んでいたのは言うまでもなく、ディアンケヒトが悔しがるのも言うまでもない。

 

 また、

 

 「「これからお世話になります…」」

 

 「お互い敵同士だったとは言え、それは過去のこと。これからよろしく頼むぞ」

 

 仲間が増えた。

 

 ダフネとカサンドラだ。二人はアポロンに目を付けられたために追い掛け回され、強引な勧誘に屈してしまった被害者。他のクズとは違うのでナァーザもクーリアも特に反対しなかった。

 

 ダフネは指揮官として、カサンドラは治癒師として活動していた。その経験がベルたちとの探索に貢献してくれるだろうと、クーリアはひそかに期待している。

 

 ちなみにだが、リリルカはベルと同じ【ヘスティア・ファミリア】に入団した。戦争遊戯の一件からリリルカはベルに好意を寄せている。アプローチも積極に行っているため、同じく好意を寄せているヘスティアと喧嘩が絶えないのだとか。ベルは「あはは…」と苦笑い。

 

 他にも派閥が解体されたため、アポロンの連中が入団希望者として押しかけたらしいが、これを拒否。まずはリリルカだけを受け入れて様子を見つつ、順次勧誘を再開するのだとか。後衛職である魔道士がいないため、それを中心に行う予定。

 

 【ソーマ・ファミリア】は団長のザニス筆頭に、大勢の人間が逮捕された。意外なことに()()()()()()()()()()()()()、ギルド及び都市の憲兵である【ガネーシャ・ファミリア】が逮捕に踏み切った。当然抵抗しようと暴れたが、所詮Lv.1中心の有象無象たち。ものの数分で制圧された。元凶のザニスには懲役10年、釈放後オラリオ永久追放が言い渡された。リリルカは「ザマァ!!」とケラケラ笑っていた。

 

 【ソーマ・ファミリア】と言えば、市場に出回っている未完成の神酒を全て手に入れた。本物である完成品は危険なため廃棄処分。地面に叩き付けた。ソーマは酒造りを禁止されたために、限定品となったこれは価格が高騰している事に目をつけたリリルカとナァーザは、すぐさま高値で数本売る事に決めた。とある女神がタダで貰おうとしたが、ヘスティアが罵倒からの一喝。そして「神酒は美味しいなぁ〜!!」と自慢。女神は悔しがり泣きながら去っていた。

 

 最後に【アポロン・ファミリア】の本拠地だ。これはベルたちに譲った。【ミアハ・ファミリア】は単純に生産系なので、持て余す事が目に見えている。探索系でこれからも仲間が増えるであろう【ヘスティア・ファミリア】に、有効活用して貰おうとミアハたちは決めたのだ。ヘスティアは快く貰い受け、人が増えて手狭な教会から引っ越した。部屋はかなりの数余っているので、【ミアハ・ファミリア】用の部屋を確保してくれた。遠征の前日は使わせてもらおう。

 

 以上が戦争遊戯の戦果だ。

 

 ステータスはランクアップこそしなかったが、その代わりいつもより数値が上昇した。更に、

 

 「クーリアよ。スキルが発現したぞ」

 

 「え、スキルが?」

 

 【吸妖魔(ドレイン)

 ・他者から魔力を吸収する

 ・吸収中、相手に興奮作用を付与

 ・吸収した分、魔力アビリティに補正

 

 つまるところ魔力限定の成長補正らしい。確かに戦争遊戯で相手から吸収したが、スキルとして発現するとは思っても見なかった。クーリアとしては【魔力操作】と相性が良いと考えてるので、むしろ嬉しいなと喜んでいる。

 

 カサンドラに試したところ、

 

 「あっ…んっ…あん…!」

 

 「クーリア、これ以上はダメ」

 

 中々センシティブな光景になった。女性陣は顔を赤くしながらクーリアを止め、吸われたカサンドラはビクンッと体を揺らしていた。当の本人は吸収した魔力を【魔力操作】を使用し、何やら実験を行っていた。魔力が上昇した。

 

 これは戦争遊戯でも使った。つまり街を歩けば、

 

 「おい、見ろよ…!」

 

 「エルフなのにエルフらしくない恰好。間違いない【吸血鬼】(ヴァンパイア)だ!」

 

 「何でも悪さをすれば、相手の血を一滴足らず吸い取るらしい」

 

 「他の血が混じっちまったからエルフらしくないのか」

 

 「「「「納得」」」」

 

 誤解される行動を取ったからとは言え、あらぬ風評被害にクーリアは頭を抱えた。アマゾネスが遠回しに吸い取れ吸い取れと言った来た事で、更に頭を抱えるはめになる。

 

 逆にベルは、一人の少女を助けた事で人気者になり、男らしくない中性的な顔立ちが女神や年上女性に刺さった。よく頭を撫でられて困ると相談してくる。この差はなんだとモヤモヤするクーリアであった。

 

 

 

 さて、

 

 「やあ、クーリア!素晴らしかったよ、君たちの活躍は!!」

 

 「お世辞はいい。例の件を手短に教えろ」

 

 現在クーリアは【ヘルメス・ファミリア】を訪ねていた。団長のアスフィならともかく、この男神に頼るのは業腹だが仕方ないと割り切る。それでも苛立ちが滲み出でるが。

 

 「分かった分かった――――()()()()()()()()()()()

 

 「!!」

 

 目を見開きヘルメスを見据える。

 

 彼が言う彼女とは、幼い頃ともに生活し自分に戦う術を教えてくれた人。行方不明になってからは、強くなると決心し一人で生き抜いてきたが、会いたいものは会いたい。

 

 「彼女はダンジョンへ向かった。場所は中層の二十四階層。モンスターの大量発生を調査するためにね」

 

 「おい待て、調査とは言え中層だろ?師匠が行く必要はないだろ」

 

 「……新種が絡んでると言ったら?」

 

 「!」

 

 【怪物祭】で見た新種のモンスター。厄介なモンスターと、それを操る黒幕が二十四階層に居るのなら話が変わる。それでも……

 

 「君の師匠は強いよ。具体的にはLv.5を倒せるぐらいには」

 

 「……だから頼ったのか?」

 

 「人聞きが悪いなぁ。俺は彼女に教えただけだぜ?オラリオを滅ぼそうとする邪神が動き出した、ってね」

 

 師匠は優しい。目の前で困った人がいれば、急いでいても必ず手を差し伸べるくらいに。目の前のコイツは彼女の性格(優しさ)を利用したのだろう。無性に殴り殺したいと神相手に思ってしまった。

 

 「何も彼女一人に任せる訳じゃないさ。アスフィたちも援軍として送る」

 

 「……そこに加われって事か?」

  

 「強制ではないよ。君が決めてくれ」

 

 行かない訳には行かず。ヘルメスの手の上で踊らされた。

 

 「あ、ベル君は連れて行かないでくれ」

 

 「それは何故だ?」

 

 「彼にはまだ早いからだ」

 




久しぶりすぎておかしな点があるかも。



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妖精と万能者と愉快な元仲間たち

久々の投稿です。ご指摘と質問があれば感想欄でお願いします。


 

 「え?クーリア今日から休みなんですか?」

 

 「そ。何でも、ある神様から頼まれたらしくてね。昨日の夕方から留守にしてるよ」 

 

 「ベルたちにすまないと言っておいてくれって、伝言を貰いました」

 

 仲間であるクーリアを待つベルとリリは、【ミアハ・ファミリア】に所属する事になったダフネ&カサンドラから聞かされた。

 

 ベルはクーリアが何をしているのか少し気になり、リリは二人きりですねと嬉しそうに言った。

 

 「ベル・クラネル。頼みがあるんだけど」

 

 「え?なんですか?」

 

 「私たちも同行していいですか?」

 

 「ええ!?」

 

 「ウチら中層に何度も行った事があるから、足を引っ張らないよ」

 

 「わ、私は回復魔法が使えます。怪我は任せてください!」

 

 「お、おこt」

 

 リリは断ろうとした。しかし、クーリアも恩人であるため同じ派閥の人を無下には出来ない。二人はLv.2。中層に行ける貴重な戦力で、アピールポイントとしては申し分ない。断る理由が私的なことなので、

 

 「僕としては嬉しいけど、リリはどう思う?」

 

 「………はい、こちらこそお願いします……」

 

 「決まりだね」

 

 当然受け入れる。

 

 まだクーリアと一緒だと嬉しかった。ベルとの二人きりの時間を作ってくれるし。仕事がしやすいように気遣ってくれるし。

  

 リリはクーリアのありがたみを実感し、

 

 「(クーリア様、カムバック!!)」

 

 心の中で叫んだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「へっくし」

  

 「風邪ですか?貴方が珍しいですね」

 

 「いや、誰かが俺に感謝したみたいだ」

 

 「何言ってんだお前」

 

 酒場で軽口を叩く一行は【ヘルメス・ファミリア】という探索系派閥であり、クーリアが以前所属していた派閥である。全員顔見知りなので下手に気遣わなくていいので、お互いフランクに接している。

 

 酒場に留まっているのは、依頼した人間から協力者を寄越すと言われたから。訪れる気配がないので現在談笑中だ。

 

 「よし、王手だ!」

 

 「相変わらず悪癖が治ってないな」

 

 「は? ……げ!」

 

 「詰みだな。約束通り……」

 

 「もってけ、チクショー!!」

 

 「キークス弱〜い」

 

 「う、うるせぇ!ならお前やってみろよ!」

 

 「やだ。負けるし」

 

 クーリアは賭博でキークスから金を巻き上げていた。クーリア相手に普段ならやらないが、意中の相手であるアスフィが見ている前だからやったのだ。結果は惨敗で、仲間に笑われる始末。

 

 「相変わらず強いですね」

 

 「あぁ、師事した人が良かったのかもな。駆け引きに関する事は、その人のお陰で強くなった」

 

 「クーリア……」

 

 アスフィは嬉しそうに微笑む。剣術などの戦いは母親代わりの師匠に教わり、駆け引きはアスフィだけに教わった。師匠冥利に尽きる言葉にアスフィはご満悦。

 

 「「「「「ドンマイ、キークス」」」」」

 

 「う、うるせぇ!はっ倒すぞてめぇら!!」

 

 哀れキークス。

 

 「! 来た」

 

 クーリアの言葉で、全員が扉に注目する。酒場に登場したのは()()()()だ。

 

 「あれ、【剣姫】じゃないか!?奇遇だな!」

 

 「…ルルネさん?」

 

 「【剣姫】の知り合いですか?」

 

 「や、【大和竜胆】!?どうしてここに!!」

 

 「おやおや、私が居てはいけませんか?」

 

 どこで知り合ったか不明だが、ルルネの知り合いらしく談笑を始める。【大和竜胆】には恐れていたが……。

 

 「あ」

  

 「よっ」

 

 クーリアとも顔見知りである。一応手を振っておいた。

 

 指定の席に座った二人は、

 

 「「ジャガ丸くん抹茶クリーム味」」

 

 ルルネがひっくり返った。協力者確定だ。

 

 「あなたも、なの…?」

 

 「まあな。俺の場合は完全に私的な用事だが…」

 

 自己紹介も終えたので、早速探索に進むことになった。

 

 道中は、アイズと【大和竜胆】こと、【アストレア・ファミリア】のゴジョウノ・輝夜が連携を確認するために実力を測ったりしていた。

 

 「そう言えば、【大和竜胆】はリューと同じ派閥なんだよな?」

 

 「ええ。それが何か?」

  

 「いや、アイツは呼ばれなかったのかなって」

 

 「偶々です、偶々。ソロで探索中に黒衣の人に頼まれたんです。依頼内容は新種に関する事。ならば正義の味方である私が、動かないわけには行かないでしょう?」

  

 「なるほどな」

 

 「ポンk……リューの方が嬉しいですか?」

 

 ポンコツって言おうとした?誰もツッコまなかった。

 

 「アイツとは一度共闘しているから連携が取りやすいし、それに」

 

 「……それに?」

 

 「()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女の表情が一瞬崩れた気がした。クーリアは裏表がはっきりした人間だと予想している。裏を知らない限り、この先彼女を信用しないだろう。

 

 「……フフッ。失礼。それと、私のことは輝夜でよろしいですわ」

 

 怒らせたかと身構えたが、なんか笑っていた。ホッと一息つくクーリアであった。

 

 「前方から大型が複数!」

 

 「左通路から飛行音!接触まで僅かだ!」

 

 「総員戦闘態勢!!前衛は敵の足止めを指示があるまで維持!中衛は目標左上空!!後衛は炎詠唱開始!」

 

 「来たぞ!バトルボアとバグベアー多数!」

 

 「ガンリベルラ!!ルルネは攪乱!他は羽を狙いなさい!!」

 

 アスフィは完璧な指示を出す。抜剣して迎撃しようとしたアイズ、輝夜、クーリアを見やる。

 

 「我々の戦力を見ておきたいでしょうから、お二人はここで見ていてください」

  

 「アスフィ俺は?」

 

 「クーリアもです。貴方は、あの日から強くなった私たちを見ていなさい」

 

 戦闘が始まった。



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