15歳に時間遡行したら両親も遡行していて恋人候補を充てがってきたんだけど (陽乃優一)
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1話
「生きてる間は『嫁に行くな』と『変な男に捕まるな』のコンボだったのに」
「だってなあ、まさか死ぬまで独身だったとはなあ」
「そうよー、
独身どころか処女のまま人生を終えましたが何か。
大学卒業して就職した先の会社で仕事がそこそこうまくいって、両親にそれなりの仕送りをしながら会社近くのマンションでひとり暮らしを続けて数十年。その間に両親が亡くなったりしていろいろあったけど、私自身はひとり暮らしのまま。定年退職後に実家に戻り、そこで余生を過ごした。
老衰が進んで意識が曖昧になってはいたけど、しばらく病院で寝たきりになった後に息を引き取った記憶は残っている。私的には悔いのない人生だったと思うのだけれども……。
気がついたら、15歳の春、高校に入学する少し前になっていた。なぜか、両親も前の人生の記憶を保っていて。頭の中でパニックになりつつも一緒に朝食をとっていたら、単刀直入に時間遡行の話題が出て以下略。
「こういう時間遡行って、なんらかの未練が影響して起こるっていうのが創作物の類では定番だったけど、私にはないなあ」
「私達にはあるけど、でも、それは今、御代ちゃんにその後のことを聞いたからなのよねー」
「そうだな。私達にも自身の人生に未練はない。強いて言うなら、母さんの方が数年ほど先に亡くなって寂しかったことくらいか」
「ごめんなさいね。私の方がずっと年上だったから」
「何を言うんだ。そのおかげで、母さんとは早くに結婚できたようなものだからな」
両親はもともと近所の幼馴染で、母が二十代後半の頃、父が高校卒業した直後に結婚した。いわゆるデキ婚とかではなく、普通に結婚。小さい頃からラブラブ(死語)だったそうな。そして今、死に戻りして再会していちゃいちゃ(死語)。
なお、両親が結婚して数年後にちゃんとデキたのが私の3つ上の兄だったのだが、その兄も高校卒業直後に結婚。それも、当時クラスメートだった、清楚美少女と噂されていた娘と。兄とその相手も、私が記憶している範囲では、それはもう仲睦まじく……。
「ああっ! 兄さんの甘々過ぎる結婚式の記憶が急に襲ってきた!」
「そうか、時期的にはついこの間の出来事だからな。しかし、そんなに甘々だったか?」
「そうねー、あれくらいが普通よねー」
「なんか、私が結婚願望皆無の理由が、今更ながらに判明したような……」
身内だけでお腹いっぱいというか。そういえば、中学までの友達も高校からの友達も、やたら仲の良いカップルばかりだったなあ。会社ではそういう話はなかったけど。職場ではプライベートな事柄にほとんど触れないような社風だったし。
「と、いうことで! 二巡目の人生では、何が何でも御代を結婚させるぞ! なんなら、離婚を経験してもいいんじゃないか?」
「そうよねー、せっかくの2回目なんだし、今度はちょっとくらい悪い男に騙されて捨てられるくらいのことがあっても面白いわよねー」
「
リアルでバッド展開になるくらいなら同じ選択肢を選ぶわよ。
◇
それから両親と少し調べたところ、前の人生の記憶があるのは、私と両親のみらしい。兄は幸せ絶頂だし、入学式に会った友人も同様だった。
「
「うん、そうだね。
「もう、るーくんってば、こんなところで恥ずかしいよう」
ちっとも恥ずかしがってない
「ろこちゃん、ほら、
「えー、御代なら男の子も女の子も選り取り見取りだし、放っておいてもいいんだよ」
「どこ情報よそれ」
少なくとも前世については、特段嫌われることも好かれることもなかった。恋愛的に言い寄られることは皆無だった。それ自体に不満も未練もない。時間遡行は、そういうのに関係なく起きたことは間違いないようだ。
「……あー、真島、おはよう」
「あれ、
「まあな。……よろしく」
「うん、よろしく」
教室に向かう時に声をかけてきたのは、
「……ふむ」
「な、なんだ?」
「ううん、なんでも。教室に行こっか」
「ああ……」
野坂くんについては、少なくとも高校在籍の間は、浮いた話のひとつもなかった気がする。私が言えた義理ではもちろんない。ただ、だからこそ、今世では男友達として交流を深めてもいいのかなと思い始めている。両親の影響を受けていないと言えば嘘になるのが残念なところだ。
◇
入学式の日から数週間ほど。高校の授業内容は案外覚えていて、簡単な復習と予習を繰り返していればほぼカバーできた。前世の仕事のおかげも少しはあるかもしれない。それもあって、日常生活で何か支障が出ることは、今のところは見当たらない。
「唯一困るのは、『スマートフォン』を持ち歩かないといけないことがねえ。退職した頃には、ユビキタス型の音声認識とAR投影が一般的になってたから……」
「なんか言った?」
「なんでもないよ。じゃあ、また明日ね」
「うん、ばいばーい」
「またね、真島さん」
同中ということもあって、こよみ達とは高校からの下校ルートがほぼ同じ。私もふたりも特に部活動とかやってなかったから、3年間ほぼ毎日一緒に帰宅してたなあ。ふたりだけで帰ればいいのに、なぜかいつも私を誘うのよね。
同中といえば、野坂くんも下校ルートが近いのかな? 今度誘ってみようかな。でも、野坂くんって放課後に見かけたことがなかったような……?
「ただいまー」
「おう、お帰り」
「あれ、兄さん? なんで家にいるの?」
自宅に戻ると、結婚して別居しているはずの兄が玄関で私を出迎えた。
「待て待て、別に嫁とケンカしたわけじゃないぞ? 俺達はもう、比翼連理の……」
「もしかして、私に何か用があるの?」
申し訳ないけど、
「あ、ああ、親父とお袋に頼まれてな。まあ、そのままリビングに来てくれ」
「いいけど……」
ん? お父さんとお母さんに頼まれた? それってもしかして……。
「……野坂くん?」
「……お、おう」
そこには、放課後になるといつもすぐにいなくなっているはずの野坂くんがいた。
「なんだ、お前ら知り合いなのか」
「同じ中学で、今もクラスメートだよ」
「そうなのか。俺が勤めてる会社でバイトしてる奴なんだが」
「ああ、それで放課後は……」
兄は高校を卒業してすぐに就職した。確か、システム開発のコンサルティングを主な業務とする会社だったかな。
「こいつにはデータ整理を頼んでるんだ。高1って聞いて不安だったが、統計分析がめちゃくちゃすごくてさ」
「それは……本当にすごいね」
この頃はデータサイエンスを専門にする人が少なく、需要に全く追いついていなかったはずだ。
「……数学は好きなので」
「けど、英語がさっぱりなのがなあ。海外の動向も対応してほしいんだが」
「それは……すみません」
まあ、コンピュータの翻訳性能がまだまだな時代だからね。だから、私も……ん?
「ねえ、それって、もしかして……」
「ああ、親父が、外国語の方は
「語学っていうか、翻訳ね。電子メールとかの日常会話レベルだけど」
「初耳だぞおい」
そりゃあ、前世の大学や会社で本格的に学びましたから。ちなみに、複数の言語に対応できるのは、ここでは言わない方がいいか。
「まあいいや。こいつには、この家の元の俺の部屋で仕事をさせればって話なんだが」
「そうすれば、私が時々手伝えると?」
「ああ。それと、住み込みで」
「住み込みで!?」
お父さん……それは私に対して露骨過ぎるよ。お母さんも関わってると思うけど、それでも、年頃の男女を同居させるっていうのは、世間一般的には奇異に見られるよねえ。ゲーム感覚継続疑惑浮上中.
「正直、びっくりしてるぜ。あれだけお前を箱入りにしていた親父が、こんな提案するなんて」
「ああ、うん……まあ、心境の変化じゃない? 兄さんが結婚して幸せそうにしてるから」
「おう、幸せなんてもんじゃないぞ! そりゃあもう」
「野坂くんはいいの?」
ずっと無表情……いや、私と兄さんのやりとりを聞いて少し戸惑っている感じか、そんな様子の野坂くんに尋ねる。
「……いや、俺には願ったり叶ったりだ。今ひとり暮らししているアパートの家賃を払わずに済むし」
「えっと……」
「すまん、事情を話すのが先だったか。俺の両親は去年から海外在住なんだ。俺は日本に残りたかったんだが、ある程度の自活が必要になってな」
高校の授業料や生活費は出してもらえるものの、潤沢というほどでもない。小遣い相当は自分で稼がないと……ということになって、アルバイトを禁止していないウチの高校に進学して、兄の勤める会社に遠隔バイトすることになったと。
「何か欲しい物があるの?」
「その……ゲーミングPCを強化したくて」
「なるほど、趣味と実益を兼ねたのね」
「詳しいのか?」
「少しだけ。私はノートPC派だけど」
仕事の一貫で翻訳AIの開発に少し関わった都合でね……とは、もちろん言わない。ただ、両親はこの辺の共通点を見越して、あえて提案したんだろうなあ。何かの機会に野坂くんのことを聞いて、表向きは兄さんの部屋がもったいないとかなんとかって。
「んー、まあ、両親と野坂くんさえ良ければ、私はいいよ」
「マジかよ。お前、男嫌いじゃなかったのか。これまで、男の影とかまるでなかったのに」
「もしそうなら、兄さんも避けてるでしょ」
「それもそっか」
別に私は男と話すのが嫌とかではない。むしろ、普通に話す。ただ、兄さんを含め、私の知り合いの男性一同は例外なくお相手がいるのだ。しかも、どのカップルも熱々で。今の担任の男性教師も愛妻家というから徹底している。腹八分目どころの話ではない。
「それじゃあ、これからよろしく、ってことになるのかな」
「……ああ、よろしく、真島」
「『御代』でいいよ、『
「はあっ!? い、いや、でも」
「同じ家にいて苗字で呼び合うのって、なんか不自然じゃない?」
「そ、そんなことは……」
「まあ、無理ならいいよ。私は勝手に呼ぶけど、それはいい?」
「……いいけど」
ちょっと強引だったかな? でも、これから同居することになって、変によそよそしい雰囲気から始めるのは良くない気がしたのよね。
「御代、お前……まさか、わかっててやってるのか?」
「? 何が?」
「マジか……俺の妹が実は天然たらしだった件」
兄さんが意味不明なこと言ってる件。私はずっとこんな感じだったよ? 中学まではもちろん、前世でも。ただ、今回の真島くん……静也くんほどに急接近するようなことはこれまで皆無だったわけだけど。でも、それが普通よね? マンガやラノベじゃないんだし。ああうん、時間遡行(両親付き)自体がファンタジーだったか。
◇
静也くんがウチに住むようになり、時々お仕事の手伝いをしたり、学校にも一緒に登下校するなどして、1か月ほど立った頃。周囲の状況は、以前とガラリと変わっていた。静也くんの周囲だけだが。
「野坂くん! 今日こそ一緒にお昼食べよ!」
「なによ、今日は私よ!」
「むー、出遅れた……」
たくさんの女の子に囲まれるようになった。どこのハーレムかな?
「いやあ、野坂くんってばすっかりモテモテだねえ」
「ホントねえ……どうなってるのかしら」
一緒に住んでいるからといって、私は別に静也くんと付き合っているわけではない。両親の思惑はともかく。だからまあ、この状況で何かをどうこうするつもりはない。ただ、なぜにこうなったのかが純粋に疑問なだけで。なにしろ、前の世界線では静也くんとはほとんど関わりがなかったので。
「え、御代、それ本気で言ってる?」
「こよみは知ってるの?」
「えええ……いやいや、野坂くん、すっかりカッコ良くなったじゃん! るーくんがいなかったら私も突撃していたところだよ!」
……そうなの? 確かに、以前と比べて少し垢抜けた感じはするけど。あれ、垢抜ける、って男の子にも使っていいのかな。
ところで、それはそれとして。
「ということらしいのですが、綾瀬くんの今のお気持ちは?」
「複雑だねえ」
「わっ、わっ、違う、違うよるーくん! って、るーくんがいなかったらって!」
「よくわかってるよ、ろこちゃん。もし僕が不慮の事故で死んだら、ぜひ野坂くんに突撃してね」
「違うんだったらー」
ぽかぽかって音が聴こえそうな叩き方で綾瀬くんにじゃれるこよみ。言ってる内容はアレだけど、とりあえず平和である。
「僕も、野坂くんはカッコ良くなったと思うよ。でもそれって、真島さんが原因じゃないのかな」
「……私?」
「君はただ住んでるだけって言うけど、野坂くんは真島さんのこと、かなり意識してるんじゃないかな? 恋愛感情を抜きにしても」
「最後のところが何か引っかかるけど」
「ひとり暮らしのままだと、ああはならないってことだよ。普段から異性に気を遣うような習慣が身につけば、そりゃあね」
なるほど、そんなものなのか。でも、私は家で兄さんやお父さんに気を遣った記憶がさっぱりないんだけど。あの日の周辺でも『生理が来たー、つらいー』とかのたまってたし。やはり女と男では違うということだろうか。
「……ふーん、るーくん、そういうことなんだ。ふーん」
「えっ、何が?」
「るーくんと出会ったのは中学の時だけど、私と話すようになる前から、御代とはよく話してたよねえ」
「ゔっ!? いや、それは……」
「綾瀬くんとは小学校も同じだったから、既に知り合いだったってだけだよ?」
「それは知ってるよ! でも!」
なぜか綾瀬くんの腕をぎゅーっと組むこよみ。それはもう、周りに見せつけるかのように。そして、なすがままの綾瀬くん。
話を総合すると、少なくとも中学の時には、私も綾瀬くんに異性として意識されていたってことになるのだけれど……今のこよみとのイチャつきぶりしか記憶にないので、さっぱりピンと来ない。でも、兄さんも野坂くんとのやりとりの時に、私を天然たらし呼ばわりしてたっけ。んー?
◇
そして、ある日。
私は、クラスメートの女子数名に呼び出された。放課後の体育館裏に。ますますマンガっぽくなってきたなあ。
「真島さん、あなた野坂くんのなんなの?」
「え? クラスメートで、一緒に住んでるってだけだよ?」
「はあっ!?」
「どどど、どういうことよ!?」
あれ、そんなに驚くこと? 別に隠していたわけではないし、こよみや綾瀬くんには、時々一緒に登下校するから、早いうちに話していたし。
まあいいや。かくかくしかじか。
「なに、それ……」
「静也くんには聞かなかったの? みんな、お昼とかによく話しているよね?」
「な、名前呼び……」
「野坂くんは、あなたのことは何も言わなかったのよ……。こないだ告白した時も、すぐに断られただけで」
「ちょっと、いつ抜け駆けしたのよ!?」
「別にいいじゃない! 野坂くんはアンタの物じゃないでしょ!?」
「真島さんのことはっきりするまで、何もしないってことにしたじゃない!」
わいわい、がやがや。
えーと、もう帰っていいかな? それこそ、野坂くんやこよみ達が待ってるんだけど。
「ちょ、ちょっと待って! 真島さん、あなたは野坂くんのことどう思ってるの?」
「どうって……友達とは思ってるけど」
「それだけ!?」
「うん」
まあ、実際確かに一緒に住んでるから、家族のような感覚も多少はあるかな。でも、それって絶対語弊があるよね。正確なところが表現しにくいあたり、私と静也くんの関係って結構複雑ということなのだろうか。
◇
「ということがあって、遅れましたとさ」
「いやいや御代、
「野坂くん、両手で顔を覆ってるよ」
「あー、ごめんなさい」
「いや……むしろ、迷惑をかけた」
迷惑とは思わないけどね。とりあえず、一緒に下校できなくなるほど気まずい雰囲気は出てないし。
「あ、僕達は駅ビルに寄ってくから、ここで別れるね」
「え? ゆーくん、そんな予定聞いて……んがぐぐ」
「じゃあ、また明日!」
ずるずるずる……
こよみの口を塞いで引きずっていく綾瀬くん。気まずくはないけどこれ以上は触れないようにしようっていう、綾瀬くんの気遣いが感じられるなあ。でも……。
てくてく
てくてくてく
てくてくてくてく
……あえて二人きりになると、会話が続かないよね。まあ、これ自体はいつものことなんだけれども。
「……真島」
「なに?」
「いや、その……」
「?」
少し……少しだけ、思いつめた様子を見せる、静也くん。
「あくまで……あくまで『ゲーム』の話、なんだが」
「ゲーム?」
話題が唐突に変わったなあ。あの話を続けるのも厳しいのは確かだけど。
「そのゲーム……選択肢を選んで進めていく、ノベル型で」
「うん」
「主人公は男で、ヒロインがひとりいて、マルチエンディングで」
攻略対象がひとりだけ? それは珍しい。普通は最低限ふたりいて、選択肢によって誰とのエンディングを迎えるか、というのが定番だけど。ああでも、恋愛ノベルとは限らないか。
「そのマルチエンディングが、酷くて……ほとんど全て、そのヒロインが、死ぬ」
「……は?」
「主人公の告白がうまくいかないと、ヒロインがひとりで帰宅して……交通事故で、死ぬ」
……ええと、もし告白がうまくいけば、帰り道に変化が出て事故に遭わない、ってことかな? あと、やっぱり一応恋愛モノなのか。
「告白がうまくいっても……ヒロインの自宅近くで強盗が現れ、刺されて、死ぬ」
「……」
「告白して、事前に警察に通報して、強盗を現行犯逮捕しても……翌日、主人公との待合せに向かう途中で、鉄骨が落ちてきて、死ぬ」
「ヒドス」
それから他のエンディングをいくつも聞いたが、告白に成功しても失敗しても、事前に対策してもしなくても、告白イベント後の一週間の間に、ヒロインは必ず死ぬ。自宅に軟禁しても、局所的な地震が起きて家具に潰されて死ぬとかナニソレ。
「なんていうか、ヒロインの命を弄んで主人公にカタルシスをもたらしているようで嫌だねえ」
「カタルシスなんて……全く、ない。心が、
「そっかあ。ヒロインが好きなら、助かる選択肢がないのは辛いよね」
というか、ゲーム制作陣はどういうつもりで作ったんだ、そんなシナリオ。テーマがSFなら世界の強制力とかいう話になるだろうけど、恋愛がテーマなら鬱ゲーでしかない。
「あれ? 『ほとんど』全て?」
「ああ……ひとつだけ、ヒロインを助ける方法……選択肢があった」
「え?」
「告白……しない、こと」
「えええ……」
「告白さえしなければ、事故にも、事件にも、災害にも、巻き込まれない。ヒロインは、
「えええええ……」
鬱ゲーを通り越して、恋愛ノベルですらないじゃない。他のエンディング……トゥルーエンドとでも言えばいいのかな、そういうのがあったとしても、そんな構成じゃあプレイヤーは納得しないと思うよ?
「じゃあその場合、主人公とヒロインは、それぞれ別の人と結ばれるの?」
「それが……主人公はそうなんだが、ヒロインは……未婚のまま、なんだ」
「うわー、それって……」
……
…………
………………
それって、もしかして……
というか、その『ゲーム』って……
◇
「結局それも
あああ、静也くん、もうゲームの話どころじゃない表情だよう。ああ、うん、今までは
「えっと、その……静也くんは、まだハッピーエンド……ヒロインにとっての、かな? それを諦めてないんだよね?」
「もちろんだ! 今回はなぜか同居できるようになったし」
「そのゲームにも、同居イベントとかがあったのかな?」
「えっ!? あっ、そ、そう、そうなんだ、うん」
やっぱり救済措置っぽい。私が覚えているだけじゃあ、この状況にはならないしね。
「……でも、なんで今回だけ……?」
「ヒロインの天寿全うエンドで、フラグが立ったんじゃない?」
「そう、なのか……?」
「
「……わからない」
もしかして、なのだけれども。
私と静也くんが結ばれることで、世界が崩壊するほどの出来事がもたらされるのかもしれない。あるいは、私の子孫が何かをやらかすとか。何十年後か、何百年後か、何千年後か。バタフライ・エフェクトという言葉もあるし、ほんの些細なことが、悠久の時の流れの中で、致命的な未来に繋がるのかもしれない。
ただ、世界というものがいくつもの世界線から構成されていて、そのうちのひとつが生き残りさえすればいいのであれば……他の世界線は多少どのようになってもいいのだろう。私の処女エンドが正史とか言われて納得できるかは別として。
「ねえ、その『ゲーム』、私も一緒に進めていいかな?」
「え!? いや、その……じ、自力でクリアしたいから、それは……」
「んー、じゃあ、選択肢に詰まったら、私にも相談してよ。それならいいでしょ?」
「そ、それくらいなら……ああ、そうだな、そう、だよな」
それだと自力クリアにならないはずだけど、気づいてないっぽい。話をゲームに置き換えれば相談できる、っていうのが先に来てるのかな。これまで何度も私が死ぬ結末を見てきて参っているようだし、私や両親に『未婚エンド』の記憶があることは、まだ言う必要がないだろう。機会が来たら追々、ということで。
ああ、でも、まあ……嬉しい、かな。うん、やっぱり私も静也くんのことが……
……ん?
「ねえ、ところで、
「……え? えーっと、その……」
「ん? ゲームの話だよね? なんで言い淀んでいるのかな?」
「真島……!? え、なんか、変なオーラが、出てないか!?」
「えー? 私と静也くんはただの仲の良い友達だよねえ? その友達がやってるゲームの話をしているだけだよ? それだけで変なオーラとか、酷いなあ」
「そ、それは、すまん」
「で?」
「いや、その、えっと……」
その後、『「ハーレムエンド」に相当する……のか?』とかいう静也くんの発言に密かに(?)ブチ切れた私が何をしたかは、また別の話。この
<登場人物補足>
○
良くも悪くも飄々とした性格。小さい頃にバックパッカー小説シリーズを読破し、いつか自分も世界を放浪してみたいと思うようになったという経緯がある。そして実際、未婚ルートでは大学・社会人・定年後と、趣味と実益(翻訳業)を兼ねてひとり旅を繰り返していた。要するに、未婚だったのは文字通り本人のせい。なお、中学時点でないすばでぃのお姉さんタイプで、今ルートで同居することになった静也くんの苦労が偲ばれる。
◯
もともと大人しい性格であり、背が高めで表情の変化が乏しいことから、若干強面の印象だが、それが頼もしく感じる側面がある。つまり、御代との同居がなくとも女子には人気があり、隠れファンが相当数に上っていた。御代未婚ルートの高校卒業後は、縁を繋ぎたい女子達と修羅場を繰り広げていた。数学が得意なのは元からではなく、御代死亡ルートを統計的に解析するようになったため。その必然は御代の推測通り別次元の問題だったのだが、いくつかの死亡エンドは統計的に解決できたため、そのアプローチを続けている。
◯御代の両親と兄
両親に至ってはタイトルで言及されているのに、冒頭しか出番がなかった方々。家庭では御代&静也とかなり交流があったはずなので、この作品が連載版なら、兄嫁と共にいろいろなシーンが登場していたのかもしれない。主に、そのバカップルぶりが。なお、両親が御代を当初箱入りにしていたのは、放浪願望に基づく危なっかしい言動が理由。決して深窓の令嬢を目指したわけではなく、未婚ルートでは普通にひとり暮らしを認めていた。
◯
学校のバカップル担当。御代未婚ルートではそのまま結婚して子沢山となったらしい。ただし、御代死亡ルートでは稔の過去の片想いが露呈してしまったらしく、その後こよみとどうなったかは不明(静也も御代死亡後はすぐに時間が巻き戻っていたため)。そういうしがらみから、この短編に続きがあるなら、稔はこよみ共々トゥルーエンド到達の協力者となっているかもしれない。
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