運命の貴女に…… (タク-F)
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存在しないプロローグ
バルベルデ郊外……各国の利権が複雑に絡み合う中で起こった戦場跡にて3人の錬金術師がとある目的の為に探索を行っていた。
「サンジェルマン……やっぱりめぼしい聖遺物は残って無いわ。それどころかこの戦いでは火薬を用いた兵器しか使われた痕跡が無いわね」
「やれやれ……このご時世に随分と原始的な戦いをするとは飛んだ笑い草なワケだ。しかもめぼしい貴金属は軒並み回収されてるとなると本格的に無駄足なワケだ」
「そうね……特に期待していた訳では無かったけど本当に…………あら?」
サンジェルマンが撤収を試みたその時周囲を見渡すとそこには1人の赤子が泣き喚いていた。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「赤子……ね。戦場で生きている辺り避難に際して捨てられたってところかしら?」
「不憫なワケだ。産まれて間もなく孤独とは……」
「……………………」
「サンジェルマン? どうしたの?」
「2人共……この子は連れて帰ろうと思うけど構わないわね?」
「ん? 連れて帰ったところで大した益があるとは思えないワケだがどうしたというワケだ?」
カリオストロとプレラーティはサンジェルマンの行動に怪訝な表情を示すも明確な拒否はしない。しかしサンジェルマンは自身の出生や母親との死別を想起させていた。
「気まぐれ……かしらね。それに今は落ち着いているけどそのうち内政を賄える人材が必要になるでしょう? とはいえ私達錬金術師はある意味で最も互いを信用出来ない。だからこそ都合良く働ける人材というのも必要でしょう?」
「そうね〜〜あーしも室内で書類とにらめっこするより外で諜報活動する方が性に合ってるからそういう人材は組織には必要よね〜〜」
「確かに従順な文官は貴重なワケだ。現在の計画が煮詰まっている今なら余裕はあるワケだ」
「決まりね。目に見えためぼしい収穫は無かったけど悪くは無い結果かもしれないわね」
その日サンジェルマンに拾われた元捨て子……【ルリ】は後にサンジェルマン配下の文官として結社で育てられる事となる。
声が……聞こえた。幼さを感じる女性の声と艶やかさを感じる女性の声、そして透き通る女性の声……どうやら何らかの目的を以てこの内戦地を訪れたらしい。とはいえ成果らしい成果が無かった為に私を連れて引き上げるらしい。
(聖遺物って……なんだったっけ?)
記憶が混濁して曖昧だけどこれだけはわかる。私は産みの親に捨てられてこの女性に拾われた血縁上は無関係だけど私にとっての親とはこの人だということだ。
(それと唯一覚えている事は……
「はぁいルリ♪ 錬金術師の修練は順調かしら♡」
「えぇ……まぁ……ですがどうも術式展開のイメージが……」
「ふぅ〜むぅ……あっ♪ せっかくだからコレあげるわ♪ 日本で有名なゲームだそうよ? でも所詮ゲームだから2週間で全クリしてみなさい」
「は……はぁ。えぇっと……【ドラゴンクエストⅪ】……? めちゃくちゃ古いゲームですね……」
「そりゃあネットショッピングで買い物した事をサンジェルマンに費用の誤摩化しにする為に買って「あら? 興味深い話ねカリオストロ? 是非詳細を教えてくれないかしら?」ゲッ! サンジェルマン……」
※この後カリオストロによって過去行われた経費の私的な使い込みの調査がサンジェルマン主導にて行われました。
「とりあえず……やってみよ。ⅪSなら確か前世でやってたような……」
そのまま【失われし時の災厄】【失われし時の怨念】攻略までルリは熱中して、戦略・属性魔法によるイメージへ繋げる基礎になる。
「あっ……火属性・氷属性・風属性・爆発属性の錬金術の基礎がわかりました!」
「嘘でしょ……たかだかゲームよ?」
「私達が直々に基礎を教えた事を差し引いても高々7歳の小娘が錬金術を理解し始めてるとは驚きなワケだ……」
「ふぅ〜ん……最近の子供って意外と飲み込みが良いのね〜〜」
発生させる現象や規模をイメージ出来るようになったルリは初歩的な錬金術の術式に嬉々としている。しかしコレはあくまでも初歩であり、サンジェルマンはここから本格的な指導をする事とした。
「意外な才能を開花させたのは僥倖ね。それなら面白い任務をあげるわ。貴女の生まれ故郷バルベルデ……そこでつい先日テロが発生したそうよ? 連行された中には貴女ぐらいの子供……ね。今回はその子供達の用途を調査しなさい」
「しかし私には気配遮断の術式は……」
「それならあーしが教えてあげるわ。まっ……あくまでも基礎だけどね? 1度で覚えないと大変よ〜〜♡」
「が……頑張ります」
ルリはカリオストロに連れられて部屋を後にした。残されたサンジェルマンとプレラーティは今回の状況を踏まえて今後を煮詰める事にした。
「プレラーティ……貴女はルリをどう見てる?」
「ふむ……確かに術式の展開には驚いたワケだが所詮は子供騙しなワケだ…………まぁ
「そうね。自衛ようにもならない稚拙な術式ね。でも…………
プレラーティの問いかけに厳しい意見を返すも、サンジェルマン自身は想定内と言わんばかりの表情だった。故にお互い次の言葉を同時に紡ぐ
「「今後の伸び代が楽しみね(なワケだ)」」
「それじゃあ行きなさい。任務内容は連行後の子供の現状把握のみ。制限時間は日没までで出発地点にいるカリオストロに報告完了を以て成果とみなすわ」
「わかりました。それでは……」
ルリは支給されたローブを纏うと行動を開始した。
「難民キャンプは……情報通り子供が少ない。武装組織の兵士と思われる人間がまばらに……まずは適当に水を貰って兵士の前を横切ろう……」
ルリはキャンプにて配給の水を受け取ると兵士の前を横切る。すると兵士は予想通りルリを呼び止めた。
「待ちな小娘。お前……
「なっ……!?」
兵士はルリの腹部に拳を打ち込み身動きを封じてアジトへと連行した。
「そらっ小娘共! サッサとこの機械の前で歌えや!」
「♪ 〜〜♪ 〜〜」
しかし目の前の聖遺物は反応を示さなかった。
(何らかの機械と歌声……何処かで聞いた事があるような……)
「♪ 〜〜♪ 〜〜」
「ほぅ? そこの銀髪のガキは
兵士はその少女を強引に掴むと別の部屋へ連行を始めた。
「いやっ! 離して! 離してよぉ!」
「安心しろ……テメエは
見知らぬ少女が連行された事で兵士の動きが少し慌ただしくなり、ルリはその隙に人目を逃れる。
「確か戦車が……あった!」
ルリは戦車を調べガソリンの注ぎ口を発見すると火の錬金術を放ち炎上させた。そしてものの数分で騒ぎが大きくなりその間に脱出を果たした。
「謎の機械と歌声……ね。機械は恐らく聖遺物で連行された少女の内1名の声に反応……恐らくその娘は適合者…………報告は以上かしら? 連行された娘の似顔絵でもあると面白いのだけど……」
「そうですね……綺麗な銀髪なので恐らくハーフかと。あと発音から東アジアらしき言語が……」
ルリは似顔絵を描きながら推測を話す。そして少女の顔を思い出す。
(綺麗だったな……銀髪も……歌声も……顔立ちも。私と同じぐらい……なのかな? そしてなんでだろう……胸がざわついた……かな?)
その少女の名を識るのは未来の話だ。
「さてルリ……貴女には国連が近い内に介入するバルベルデの現地武装組織掃討に紛れ込んで貰うわ。現地の情報を可能な限り吸い上げなさい。欲を言えば聖遺物の1つでも回収してくれると嬉しいけどね?」
「バルベルデ……ですか。確かサンジェルマン様が私を拾った地……ですよね。というかデスクワークばかりの私にそもそも務まるのですか?」
「フッ……お子様はどこまでもお子様なワケだ。お前の役割は現場の子供と共に
「意外と子供の救出時に暗号化してるとはいえ何人囚われてたとか後何人いるとか口を滑らせる人間が多いのよね〜〜。特に聖遺物への適合者探ししてるようなト・コ・ロ・わね♡」
「なるほど……わかりました。最善を尽くします。して連絡方法は……」
「ルリには常に通話術式を展開して貰うわ。ただし此方の音声は遮断してるから具体的な指示は無し。貴女が結社の幹部という自覚があれば何も言わなくても成果を挙げられる筈よ?」
ルリは地道に研鑽を続けて幹部へと徴用された。拾われて死にものぐるいで学んだ結果錬金術の基礎知識は完全に理解し、火・氷・風・爆発・気配遮断を得意とする錬金術師となった。
「幹部への精進祝いにコレをあげるわ。まぁ貴女なら使い熟せるでしょう?」
「杖……ですか? ありがとうございます! ですが今回の任務で傷つけてしまっては申し訳無いので今回は……」
ルリは杖を収納する。それどころか軽装ですらあった。
「では…………行ってきます」
ルリは先攻して現地へと向かった。残る室内にて3人はルリの
「ルリは……天才では無いわね」
「才能自体は凡才で……言うなれば器用貧乏なワケだ。適性も存在するワケだが……地道な作業にも音を挙げない努力家だと言うワケだ」
「あ〜〜あれね。ゲームで言うレベル上限がないって感じね? ソレはまた……」
3人が話し合っているのは今後のルリの運用方針である。
「バルベルデ…………あの時の娘に会えるかな?」
少女の再会はそう遠くない未来…………
オリ主が一目惚れした相手は後の愛されガールこと雪音クリスちゃんです……………が、双方共に相手のことを詳しく知りません。
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それじゃあ始めますか!
「バルベルデ……久しぶりだなぁ……っとそろそろ潜入しますか」
ルリは気を引き締めて武装組織の巣窟へと足を運ぶ。
潜入に成功したルリはテロリストの話を盗聴していた。
「チッ……最近国連軍の目がうっとおしい!」
「確かにな……面倒な事になる前にズラかるか?」
「なら人質のガキ共も連行しねぇとな。まだ利用価値はあるしそろそろ仕込むのも悪くねぇだろ?」
「なるほど……その部屋の先か……」
少女達かま囚われた部屋を特定した部屋へ到着したルリは隅に身を隠し囚われた彼女達の表情を見る。
「また……歌わされるんだ……」
「もうやだよぉ……帰りたぃよぉ……」
「憎ぃ……全てが憎ぃ……」
恐怖する者、啜り泣く者、憎悪する者、諦める者、苦しむ者……無数の感情がひたすらに絡み合う混沌とした状況は流石のルリも嫌悪を隠せなかった。
「あれ……? 確かあの娘は……」
ルリの視線の先にいたのは嘗て美しい歌声を魅せた銀髪の少女……雪音クリスだ。ルリは改めてその姿に目を奪われ……そして彼女と
「綺麗だ……」
「アァ? 何ガンつけてんだテメエ?」
「なんでだろう? 君の事を見てそう言わずにはいれなかった。だって君があまりにも綺麗だから……」
「ワケわかんねぇ奴だな! もう知らねぇ!」
「あの娘…………可愛かった。??? コレが…………恋?」
クリスはあまりにも理不尽な八つ当たりをすると背を向けてしまう。そしてルリは自身の胸の内に困惑を覚える。
翌日は指示通り事態が急変した。
「国連所属部隊だ! お前達を拘束する!」
リーダーを務める男の号令により電撃戦の如く突撃した軍人により鮮やかに武装組織の構成員を無力化・拘束を進めていく。
ピッ……ピッ……ドガアァン!
「っと……始まって……おぉ!?」
微かな電子音の後に爆発音が鳴り響く。しかしソレは明らかに奥の部屋からだった。そしてソレを察したルリは憎々しく悪態をついた。
「なるほど……突撃に合わせて奥の部屋に聖遺物を移動させ、搬出前に爆破して処分した……と。どうやら頭が回る面倒な人だ。あぁ……サンジェルマン様への手土産がぁ〜……」
「っ! 子供だ! 報告通り子供を拉致していたみたいだ! 確認出来る限り15人! 奥や他の部屋にも可能性有り! 各員気を付けたし!」
「離れた部屋に衰弱してる子供3人! 既に亡骸と化した遺体及び血痕多数! 此方は物理的な痕跡を確認!」
「心神喪失児7名! なんて酷い事を!」
カリオストロの推測通り情報が子供達の耳にも届いてしまう程混乱した状況へと陥っていた。そしてその混乱は収縮されるまで3日を要した。
【今回介入したバルベルデ武装組織拿捕に関わる報告書】
○発見された被害者 30名
・負傷者25名
・出血を含む重傷者10名
・心神喪失10名
・未成年者30名(比率100%)
○被害者の身元引受先
・国連を介した他国への引受25名(被害者のほぼ全員は他国からの拉致被害者の為)
・現地にて身元引受5名
○他国(主に日本)への身元引受に関して
・元々の国籍地への帰国20名(内 元々の親権者への帰属17名※)
※元の親権者の死去・引受拒否3名
・国外にて保護5名
・(※)に該当する被害者は日本政府を特異災害対策機動部をはじめ公安が対応を開始
●裏付けが取り切れていない私見からの推測(ルリ視点)
・被害者が家族及び親族に音楽関係者が存在し、この共通点が拉致の動機との推測
・今回の武装組織は聖遺物に関連する非政府組織
・引受先の日本、アメリカは何れも直近15年で確実な実績を構築
○被害者の中で最も重要視されていた人物
★雪音クリス
(両親はヴァイオリニストの雪音雅律、声楽家のソネット・M・雪音であり、何れも6年前に死亡)
★雪音クリスについて
・両親の影響からかヴァイオリニスト及びとしての高い才覚を保有
・在日時代は同世代内でも高い成績保有
・在日時代の将来の夢は世界平和
「お疲れ様……中々面倒な組織だったわね。報告を聞く限り吐き気がする内容だったわね。今回の成果として何か望みはあるかしら?」
「あ〜〜……それならホムンクルス関連が学びたいのでその手の伝手ってありませんか?」
「ホムンクルス…………おいルリ? 少し遠出するつまりはないか?」
「構いません。それと頂いた杖は私の手で改造しても?」
「あら? アレは中々の代物よ? 普通に運用しても相当スペックが高いと思うのだけど? でも貴女が無闇にロクでもない事をしないっていう事は識っているから実際はその心配も無いのだけどね?」
「えぇ……素晴らしい成果をお約束します」
ルリは一通りの報告を終えるとプレラーティに遠出を示唆され疑う事なく了承した。
「ねえカリオストロ……ルリの報告書に随分と力の入った項目があるのだけど……」
「う〜ん…………まぁ確かに近年の日本政府は気になると言えば気になるのよね。案外その辺りが怪しいんじゃないかしら?」
「そうね……並行して明記されたアメリカについても探りを入れるわ。という事で任せたわよカリオストロ?」
「う〜ん……ちょ〜〜っと面倒だけど任せれたわ。フィーネがいないならまだマシよね」
「それと日本にはプレラーティへ任せるわ。恐らくキャロルとのやり取りをルリに引き継ぐでしょうからね」
「……という事でお前がこれから向かう先の資料は熟読するワケだ」
「チフォージュ・シャトー……世界解剖をも可能にする音叉の塔…………本当にこのような…………」
「まぁ本人が偏屈な人間故に絵空事である為に心配なのはその喧嘩速さだろう。まぁ…………遺憾だが有する技師には違いないワケだ」
ルリはプレラーティに手渡された資料を熟読するが、その目的である建造物のチフォージュ・シャトーの性能や用途に困惑をするもその主が求める技術を所持しているので話を拗らせる必要も無い。
「チフォージュ・シャトーのディーンハイム……ですね。わかりました。戻った暁には皆様に恥じない実績を積み上げましょう……」
ルリはそう告げると部屋を後にし、次なる目的地のチフォージュ・シャトーへと向かう準備を整える………が、そのの前にここでも1つの運命の分岐点が存在する事をこの時はまだ誰も知らない。
次の目的地はチフォージュ・シャトー……の前にあの分岐点と対峙します!
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運命の分岐点(前)
今回の話は前後で分けます!
それはルリが先日の報告を終えて10日後の出来事だった。
「速報です! 先日報告した拉致被害少女の中で特記と記した少女が日本への帰国後に失踪し、同国が有する公安組織
【特異災害対策機動部二課】……通称では二課
より捜査員の派遣を開始! しかし初動での形跡は発見出来ずとの事です!」
ルリが執務室にて書類整理をしていた時に突如として告げられた報告に静かな室内の雰囲気は一変し、即座に凍てつくような雰囲気へと塗り替えられた。
「続けなさい。腐ってもあの国には人智を超えた技術が現存し、ソレを扱うに足る人間が多く存在する。ましてや武力ある国のエージェントが無能なワケが無い……つまりそんなエージェントが初動を躓くとなれば異常事態と解釈して良いでしょう」
ルリは報告に来た男性錬金術師に続きを求めた。そして彼も求められた内容を理解して報告を再開する。
「かしこまりました。まず件の少女が帰国するまでに目立った予兆は確認できませんでした。付属の映像及び書類にて確認お願いします」
「…………クラッキングによりインターセプトした監視カメラの映像及びバルベルデ出国時の報告と一致した……と。しかし……その少女が10日以上行方不明……日本に於いて私ぐらいの年代の少女にはあの国の公安の目を欺く事は現実的に不可能……まず何らかの介入があったと見て良いでしょう。であれば現地への監視及び報告の強化を命じるわ。3日以内に二課の大型予定を調べなさい。私自らその予定に合わせて現地へ向かう」
「いえ……予定内容までは把握していますので続けてご報告します。時期は不明ですが聖遺物の機動実験を行う予定との事です。そして此方は独断ですが嘗てEUが破綻した際に日本に譲渡された当時の資料をどうぞ……」
手渡された資料を熟読したルリは顔をしかめた。
「…………………………なるほど。先程の命令は変更するわ。日本にて直近1年以内に行われる大型の音楽祭典のリストアップ及び該当日のチケットの確保を命令するわ。歌声が聖遺物へ与える影響を最初に発見したのが確か日本にいた考古学者だった筈……となればコレは無関係では無い」
「ハッ!」
報告に訪れた錬金術師は新たな命令を受け彼は退室していった。
「彼女の失踪……そして時期不明ではあるものの予測されるネフシュタンの機動……これは偶然か?」
ルリは自身の感じる胸騒ぎを確かめるべく現地へ向かう事を決めた。そしてその日から半年後にツヴァイウィングのライブが決定し、ライブの前には少女……雪音クリスの捜索打ち切りも決定していた。
報告から半年が経過し……運命のライブが開催される事が決定した。
「ツヴァイウィングのライブ……確かに日本を牽引するトップアイドルではあるけど会場規模の割に
ライブ開催地へと訪れたルリは公開されている建物の情報と自身で把握した情報を擦り合わせる。併せてその作業中は彼女達の曲を聞いていた。
「う〜ん……妙に聞き覚えがあるような無いような…………とりあえずステージの方も見とかないと……」
姿を隠蔽したルリは自身が座る予定の観客席とステージに刻印を刻み隠蔽を施す。しかし当然ではあるが最重要と言える地下やバッグヤードの警戒は一線を画していた。
「…………あの赤い服をきた人……風鳴弦十郎は報告通り他の人と次元が違う。あの人の目をかいくぐるのは無理……」
ステージの設営スタッフに紛れ込む事で客席までは忍び込めてもここが限界と判断したルリは大人しく撤退を決めた。実際会場の入口まではそこそこファンが下見に来ていたのだ。もちろん普通に侵入しようとした輩は警備員に捕縛されている。
ライブ当日を迎えルリは確保した席へと足を運ぶ。すると既に熱狂的なファンは自席にて待機していた。
「流石は国民的アイドルのライブ……政府の後押しがあるにせよ積み上げた実績は計り知れないな……おかげで誤魔化せている所もあるし……」
そんな事を考えていると術式から連絡が入る。
『確か今日が件のライブだったかしら? 貴女が日本でライブを見に行く趣味があった事を聞いた時には驚いたわよ?』
「申し訳ありませんが……実は私用のみで来日している訳ではありません。しかし私自身も疑惑と半々な為に当日までは報告を躊躇っていました。ですがサンジェルマン様からの連絡を受けて何故か確信しました。コレは間違い無く
サンジェルマン様の目的に少ならからず関連する
……と。もしよろしければこのままお付き合いいただけますか?」
『私の掲げる人類の救済に関連すると確信してるのね? でも証拠は無い……と。まぁ私の執務作業の片手間なら付き合うわ。でももし無駄骨ならば……』
「降格の後に前線入りも受け入れてる所存です」
『わかったわ』
そのやり取りをしている間に照明が落ちステージプログラムが始まろうとしていた。
【お待たせしました。只今よりツヴァイウィングによるライブステージを開催します】
『みんな〜〜今日はあたし達の為に来てくれてありがと〜〜う! これからあたし達について来てくれよ〜〜!』
天羽奏の言葉を皮切りに歌唱曲……逆光のフリューゲルが始まった。そして…………
(ツヴァイウィング、ライブ、観客、フリューゲル、バルベルデ、錬金術師、雪音クリス…………ッ! しまった!)
曲がサビを迎えライブの高揚感が最高潮へと近づく程に揺さぶられた記憶がついに取り戻された。
(ここは……
全てを思い出し慌てたルリは急ぎサンジェルマンへの連絡をする。
(報告します! やはり私の読み通り今回のライブは二課による聖遺物の起動実験でありライブはその為の手段でした! ライブの規模より完全聖遺物級の代物と推測されます! 対象は憶測ですがネフシュタンの鎧です! 通信と並行して私の配下に資料室から詳細を確認させてください!)
『通信と並行……? ひとまずネフシュタンの件はすぐ取り掛かるけど妙な言い方ね? この後の予見でもあるのかしら?』
(サンジェルマン様は至急重症級治療術式の構築をお願いします。恐らく対象は薬害に汚染されて死亡寸前の筈なので。そしてその人物こそがノイズを撃破可能な兵器を所持しています……が、何よりも重要なのがその人物の背後にいる存在こそが今代のフィーネです!)
『悠久の巫女への手掛かり!? もしそれが本当ならばバラルの……何故今その事を!』
(事象の点と点が小さく私も独自に仮説を立て続け、その結果の中で最も荒唐無稽な結論でしたので失念していました。しかし…………まさかここでフィーネへの手掛かりの可能性が存在するとは思わず……)
『その件は乗り切り次第詳しく聞くわ。まずは備えなさい!』
ルリはこのライブにフィーネが関わっている事のみを告げた。しかし無情にもその間に事態は進行していた。
『いや〜〜最初からお二人の勢いが全力で私も嬉しいです。このまま夢のような時間を………………ッ! ヒィィ! ノイズ! 』
MCはオープニングの熱狂に酔いながらもプロローグを進行しながらも唐突に言葉を詰まらせた。そして叫びの直後に会場へノイズが降り注ぐ。
「うわあぁぁ!」
「ノイズだあぁ!」
「助けてえぇ!!」
興奮からの突然の絶望に会場は大混乱を巻き起こした。そして観客席では我先にと一斉に避難口へと人が集まり出した。
『このノイズもフィーネの仕業と言いたいのかしら?』
(独自の推測になりますが……恐らくフィーネは
『今のフィーネに必要な物がネフシュタンと言いたいのかしら?』
暴徒の第1波が脱出を果たす中ノイズは不気味なまでに統率されていた。考えてみれば完全聖遺物を安置場所から運び出す為には時間を要し、ノイズ発生による観客の混乱はそう簡単には収まらない。そして原作で装者が堂々とギアを展開出来た事を加味すれば
「お前等……相手になってやる!」
Croitzal ronzell gungnir zizzl〜
唄が響き……天羽奏は鎧と槍を身に纏う。そして彼女のギアは時限式であり残り時間は極わずかだった。
「このノイズの動き……っ! そうだった! ……」
戦闘開始から状況を観察しながらも術式を構築するルリだが、構築の為にこれからの悲劇を失念していた。
「ごめん……響ちゃん……」
決して本人に届かぬ謝罪……その直後立花響はノイズに発見され、天羽奏は彼女を庇う為に負担が増える。そして時限式という枷もあり奏はすぐに限界を迎えた。
「奏! 早くLINKERを!」
相方の翼の叫びも虚しく彼女は覚悟を決めていた。
「なぁ翼……アタシな? いつか……思いっ切り詠って見たかったんだよな……」
「いけない奏! 詠ってはだめぇ!」
「始まった……後はタイミングだけ!」
ルリはそのまま更に3つの術式を同時に展開する。
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal
Emustolronzen fine el baral zizzl
天羽奏の絶唱による莫大なフォニックゲイン……
「貴女の為です。悪く思わないでください」
「なっ……あぁ!」
「貴女は何者!? それよりも……奏から離れろぉ!」
そして展開した術式でルリはまず奏を凍結させた。そして流れるように転移術式を展開すると奏を素早く転移させた。
「かなで? ……かなでえぇぇぇ!! 」
「サンジェルマン様! その少女が件の人物です!」
錯乱する翼を無視してサンジェルマンへと連絡を取るルリ。
「かなでをかえせえぇぇ! 」
しかし奏を誘拐したことのみを認識して翼はルリへと斬りかかる……が、ルリは翼の足元を瞬時に50Cm程陥没させて体勢を崩す。
「説明している暇はありません。なぜならほら……周りのノイズを殲滅しないといけないでしょう?」
天羽奏の身体を維持させる為の凍結、翼の体勢崩しの陥没……そして残りは
「ひかりの……なみ……?」
放った2つの奔流が円を描くようにノイズを殲滅する中意識が無い筈の響が小さく呟いた。そして誰も聞きとらぬまま光が収まるとノイズは殲滅されていた。
「うち漏らしは……無し。これでひとまず乗り切ったかな?」
「待ちなさい! 貴女は何者なの! どうしてノイズを倒せたの!? 奏は何処にやったの! 奏に何をしたの!」
ノイズの掃討をルリが確認している中、翼は現状を認識してルリへと詰め寄った。しかし目的を果たしたルリは既に退散しようとしている。
「私はアイ……全ては私の目的の為に動いている。天羽奏の行方を貴女が識る必要は無い」
「そんな言葉で納得出来るわ「だけど1つだけ言える事がある」っ!」
錯乱しながらも斬りかかる翼を歯牙にもかけずルリは言葉を投げかけた。
「ノイズを倒したのは天羽奏の力のおかげ。私はそのエネルギーの波を作って殲滅した。私自身にはノイズを屠る力は無い」
「質問の答えになってない!」
「だから1つだけって……あぁコレじゃ2つか。まぁいいや。あのまま行けば彼女は死んでいた。それはわかるでしょう?」
「いいから答えて! 」
「慌てないで。貴女
「うああぁぁぁ!!」
埒があかないと判断した翼は再び斬りかかるもルリは転移陣へと姿を消した。
「うわあぁぁぁ!! かなでえぇぇぇ!! 」
「かなで……さ……ん……」
声にもならない魂の悲鳴が戦場跡に木霊し、呟きをかき消した。
後半では主に奏さんの拉致及び二課の混乱について書いていきます
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運命の分岐点(後)
『ツヴァイウィングのライブに突如としてノイズが現れた。ノイズはその場にいた観客を黒炭へと変えてしまう。しかし最たる死者の死因はノイズによる殺戮ではなく逃げ惑う人々による暴行・転落・圧死だった。これではまるで生存者こそが殺戮者ではないか!』
このニュースが後に日本全国で報道され俗に言う生存者者狩りが行われるが、それは二課がライブの裏ネフシュタンの起動実験をしていた事を隠蔽する為に行った情報操作だ。
「胸糞な情報操作だけど露見すればそれこそ日本が混沌として先進国としての権威は失墜。下手をすれば他国への隷属さえあり得る。故に秘密裏に処理する他無かった……それが後のライブ事変だよね……」
ライブ会場を離れる間際ルリは誰に語るわけでもなく呟やきライブ会場を後にした。
ライブから1週間が経過して被害の全容が緒川さんから語られた。
「当時現場には我々関係者・観客を併せて11352人いましたが関係者を含め死者・行方不明者は併せて12874人です。しかし…………」
緒川さんの言葉は歯切れが悪くなり一呼吸の後に覚悟を決して私達へ残酷な真実を突きつけた。
「ノイズによる被害者は12874人中3886人であり死者全体の3割程で、残りの死者及び負傷者の大半は混乱した避難の際に於ける死傷です。また……日本政府は今回のライブに於いて行われたネフシュタンの起動実験が露見する事を危惧し隠蔽するように我々へ通達を下しました。更に言い難い事ですが今回の騒乱の最中起動実験をしていたネフシュタンの鎧が何者かに持ち去られ紛失しました。重ねてこの事実も隠蔽するようにとの事です」
「そうか…………ご苦労だ緒川。後は俺が引き受ける」
「嘘……あの混乱でネフシュタンが……」
緒川さんは悲痛な表情を浮かべ、叔父様は覚悟を決め、櫻井女史は頭を抱えていた。
「緒川さん……奏は……かなでの行方は! 」
「残念ですが……一切の痕跡を確認出来ません。まるで神隠しとしか言えない程に……」
血が出そうな程に拳を握りしめる。何故……奏が……
「でも翼ちゃん……その……奏ちゃんを攫ったっていう人物はどんな人物だったの?」
「それが……」
問われた私は当時を思い出すも
「姿は黒ずくめローブのような物を羽織りこれという特徴がありませんでした。加工されているかもしれませんが声色から私に近しい年代と思われます。また……奏の絶唱によるフォニックゲインを……操作して……ノイズを殲滅するも……奏…………かなで……を……氷漬けにして……その身体を突如として……かなでぇ……」
あの場面を思い出し私の精神を締め付ける。そのせいで私は報告すらも出来ない程に苦しめる。
「翼……無理に語らなくても良い。粗くはあるが映像もある。しかし…………もし翼の話が正しいのならば……」
「えぇ……日本以外の組織の介入と見て良いでしょう。その少女(?)の目的が奏さんなのか、シンフォギアなのか……そもそもネフシュタンなのか……」
「う〜ん……日本以外に聖遺物を扱っているのって最有力候補は米国で次に南米……中東もあるわね。後は経済破綻こそしたもののEUもあるかしら……」
「了子君が考える程相手が読めん……か。ならば俺達にはわからんかもしれん……か」
「せめて何処の組織かわかれば糸口になるのですが……」
素姓と目的がわかれば糸口に出来る。しかし現状そのどちらもわからないとあり私達は諦めるほか無かった。しかし……
「彼女は気になる言葉を残していました。
貴女達と私はいずれ何処かで巡り合う。私の本当の名前と目的はその時に教えてあげる
……と。私は遺憾ですが彼女は私と再び出会う事になる……どうもその言葉が気がかりで……」
「確かに妙だ。正直言いたくは無いが装者としては奏より翼の方が優秀であり狙うなら翼だと思う。奏が絶唱を使ってはいたがそれ程の実力者が自爆技を見きれぬとは思えん……」
「奏ちゃんが目的なのかしら? でもなんで死亡寸前の奏ちゃんなのかしら……?」
どうして……? どうしてあの少女は奏を狙ったの? 私……奏とならどんな困難も超えられる……そんな気がしてたのに……
「……い。…………せない……絶対に許さない! 」
私は覚悟を決めた。世界を照らすと誓った奏との約束を果たす為に必ずノイズは撲滅する。そしてアイ…………お前は絶対に許さない。四肢を斬り落としてでも必ずお前の元から奏を救い出す!
さん…………で………………さん…………かなで…………
「奏さん!」
誰だ? アタシの名前を呼んでる? ていうかあたし……
「ここは……どこだ……?」
「ふむ……ようやくお目覚めですか特異災害対策機動部二課所属のシンフォギア装者でガングニール使いの天羽奏さん?」
「ッ!?」
「あぁ……目覚めた直後で意識が混濁してるんですか? ご心配なく。貴女の疑問に全て答えます。まずは……」
声の主は何らかの光がアタシを包む。すると身体が急に楽になった。
「では自己紹介から。私の名前はルリ……日本人と違い名字は無いから名前で呼んでください」
「ルリ……ね。見たとこ日本人じゃないのか? それならアタシは今何処にいるんだ?」
「ではそこから説明しましょう。ここは欧州……ヨーロッパに本拠地を置く錬金術師結社の巣窟です。そして貴女が生きている理由は錬金術を用いて
「そう………………か。アタシを生かしたのはアンタって事で良いのか? 何が目的だ?」
「まぁ……貴女の命を繋いだのは私の上司ですがそんな細かい事情は良いでしょう。ちなみに残念なお知らせですが現在の奏さんの
「そう………………か。わかった。これ以上は聞かない。だからお前の目的を教えて欲しい。なんでアタシを助けた? 少なくともメリットなんて無いだろ?」
アタシの肉体はやっぱり朽ち果てたのか。しょうがないといえば…………いや、もうどうでも良いか。
「まぁ貴女の所持する兵器には興味があります。なのでここからが交渉です。天羽奏さん……貴女の所持するノイズとの交戦兵器について貴女の知る情報とその製作者を教えてください。あぁ……貴女の所属する二課については大した興味はありません。しいて言えばその製作者さんですが……」
「は……? そんな事で良いのか? アタシ……ガングニールの事なんかあんまり知らないぞ?」
わからない……ガングニールに興味を持つのはまだわかる。さらに言えばその製作者の了子さんに興味が生まれるのも。だけど……その背後の組織に興味が無い? 意味が……わからない。でも…………二課の情報をアタシが秘匿しても気にしないなら……翼の事……まだ守れるのかな?
「えぇっと……アタシがノイズを倒したのは所持する聖遺物……ガングニールの力で、シンフォギアって兵器らしい。で、その製作者は考古学者の櫻井了子さんって人だ。んで…………アタシはドーピングで戦士をやってたけど身体はボロボロって言ってた」
「はぁ〜〜なるほど。あの考古学者が政府組織に出入りして作ったのがその兵器……と。でもそれなら残念だったな……貴女の命を繋いだ時にあのガングニール? ってのもボロボロだったって言われたよ?」
「そっか…………わかった」
ガングニール……壊れたのか。だけど不思議とアタシに喪失感は無い。そりゃノイズと戦え無いのは残念だけど……生きてれば翼にまた会えるよな?
「情報感謝します天羽奏さん。御礼と言ってはアレですが私の上司に貴女のリハビリを頼み、万全の暁には日本へお送りしましょう。そしてここだけの話ですが私の上司とそのシンフォギア? とやらの製作者は個人的因縁があるとの事で……なのでもし事を荒立ててもその櫻井了子さんとやらのみに焦点を絞るよう進言します。つまりは日本も二課にも貴女の相方にも微塵の興味もありませんので……」
「あっ…………おい待てよ! それはどういう……」
「そこから先は帰国後に貴女自身が二課で調べる事をおすすめします。私からは以上です」
それだけ言い残しあいつ……ルリと名乗った女は部屋を後にした。とりあえず……まずは回復に徹しないとな……
奏から情報を聞き出したルリはサンジェルマンの元へと向かった。
「聞き取りが終わりましたので報告します。天羽奏の証言より現在のフィーネの仮宿は考古学者にて櫻井理論の提唱者櫻井了子で確定しました。そして彼女の所持する兵器はガングニールと呼称されています」
「ご苦労さま。フィーネの足取りと対ノイズ兵装という収穫は中々の成果よ。そしてこのガングニールを解析してわかった事なのだけど詠を用いてその能力を引き出し、使用者の身体に特殊なバリアを構築する代物ね。私達の研究に少なからず影響を与えるわ」
「創作世界で言われる賢者の石にも……ですか?」
「えぇ……まだ追求する方法はわからないけどその足がかりとは言えそうね。それと……はい。解析が完了したから貴女用に調整をしておいたわ。フィーネの作り上げたシステムが土台にあるのは癪だけどデータとしては優秀なのよね……」
サンジェルマンはそう告げるとルリへガングニールのペンダントを手渡した。
「ありがとうございます。では当面は私が使わせていただきます」
「それと……以前貴女が願い出たホムンクルスの研究者との交渉が形になったとプレラーティより連絡があったわ。直通のテレポートジェムを使い3日後に……との事よ?」
「重ね重ねありがとうございます。という事はもしかして今回のホムンクルスは……」
「えぇ……彼女の製作したホムンクルスを譲り受けたわ。つまり今回結社は彼女に借りを作った。プレラーティはそこが不満らしいけどね……」
「必ず……」
ルリは次なる目的地チフォージュ・シャトーへ旅立つ準備を行う為に部屋を後にした。
※当時の人数は本作限定の設定と作者の推測です。
結社はガングニール及びシンフォギア技術を獲得した。そして生き延びた奏さんとその事実を知らず絶望中の二課……
次はシャトーにて……
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奇跡の殺戮者と狂人
「…………で、お前が件の女……か。オレの目指す万象黙示録……その手段であるシャトーの構築に結社として協力を確約する……と。なるほどな。しかしそうまでしてオレのホムンクルスを求めるとはよほど切迫したか?」
結社が拠点とするヨーロッパ圏の外れにて建造が進む塔……その玉座に座する主キャロル・マールス・ディーンハイムは自らの縄張りに足を踏み入れた錬金術師のルリに不審と敵意をぶつけた。
「まずは謁見の機会を用意していただいた事への感謝を。ありがとうございます。今回の私の目的は貴女の有する技術及びホムンクルスについての知識をご教授いただく事であり、結社としての目的はこのシャトーのデータを本部へ提供していただく事です。対して此方側は貴女様の建設するシャトーの完成を推定計画の3倍加速可能な協力を約束します。そして理想としましてはこのシャトーの現段階での性能及びその稼働によって得られる結果及び事前予想との差異まで確認出来れば……と考えています」
「なるほど……シャトーの建設が加速しデータ採取まで行えばオレ自身が目的を果たす際に事前データを用いて無用なリスクは排せるだろう。その利は認めた……しかしそれではオレが提供する
「えぇ……ですので私も手土産を持参しました。まずは此方を……」
そうしてルリはつい先日解析を終えたシンフォギアのデータをキャロルへと献上した。
「ほう? 聖遺物へフォニックゲインを注ぎ身に纏う技術か…………面白い。なるほどコレは良い土産だ」
「そしてこの技術はシャトーにも通ずる技術ではありませんか? エネルギーの増幅という意味では出力の差はあれどこの鎧もシャトーも同種ではないかと私は見ています」
「ふむ……シャトーの技術が鎧にも転用できる可能性とは…………良いだろう。お前の提案を受け入れシャトーの建造及びデータ採取に許可をくれてやる。ただし条件としてこの鎧のデータは定期的に提供して貰おう。誓えるか?」
「ありがとうございます。それでは早速サンジェルマン様に通達します」
ルリはそう告げるとこのやり取りをサンジェルマンへと連絡し許可を取り付けた。
「では始めよう。お前はあのホムンクルス…………エルフナインに役割を教わり建造しろ。どうやら久方ぶりに手応えのある研究に打ち込めそうだ。それとホムンクルス技術と思い出に関する研究資料は……」
キャロルはシンフォギアへ興味を抱き、それがシャトーの運用に良い影響を与える事から機嫌をよくした。その結果ルリは思い出の複写・抽出・注入技術を会得した。
そしてルリがシャトーで活動をして1年3ヶ月が経過する頃事態が急変した。
「はいキャロルさん。今日のスープはどうですか?」
「悪くない。これ程美味な食事をしたのはいつぶりか……想い出を焼却した副産物か?」
「私個人としてはその技術は好かないんですよね……。後悔や恨み等を含めた負の感情や記憶を焼却出来る事は素晴らしいのでしょう。ただ……人間らしさが欠落していけば私達はいずれ獣へと身を落とす……そんな気がします。錬金術を極めた終着点が獣となれば正直錬金術師としては興醒めも良い所でしょうか……」
「ふむ……お前の錬金術師としての価値観は理解した。確かに理屈の上では筋を通している。だが……その程度でオレは自らに課した命題を遠ざけるつもりは無い。少なくともオレばな……」
「例え自らを獣へと落とす事になろうとも……ですか? サンジェルマン様の話によれば貴女が結社にて研鑽をされればさぞ高名な錬金術師となり名声は貴女の愚か錬金術師の水準自体も大幅な底上げが可能だとさえ思えますが……それに貴女様のご家族も恐らくは……」
「うるさい! お前にオレの何が解かる! 家族だとぉ!? 巫山戯るのも大概にしろぉ!」
ヒュン!
キャロルの逆鱗に触れたルリへ不可視の刃が襲った。その結果四肢へ無数の裂傷が刻まれた。
「風属性の錬金術……ですか。申し訳ありませんね……まさかお気に触る言動を……失言でしたか……」
「良い機会だから教えてやる。
食事の和やかな雰囲気が一気に緊迫感をもたらしルリは自身の傷を修復する術式を展開した。そして1分を経過する頃には目立つ傷は修復された。
「中々の回復速度だな……それ自体には目を見張るモノがあるな。思えばお前がもたらした功績は偉大だった。日々の生活水準が改善され、シャトーの建設は既に完成を間近にし、更にはノイズの撃破手段さえ解明された。故に……………………
感謝している。お前と過ごした期間は覚えておいてやる。まぁお前もやるべき事があるのだろう? オレが気づかないと思ったか? それでもお前の行動に偽りは無かった」
「えぇ……確かに私にはやりたい事があります。ですが……まだどうしたいのかは私自身わかりません」
「ここまで行動して評価し辛いとは不思議な奴だ……」
「あはは……凄く複雑ですね。では…………私も最後の仕上げを行います。シャトーの建設に携わってやっておきたい事がありましたので……」
「お前がそこまで言うならば見届けてやる。少なくともお前の功績は残しているからな」
「身に余る評価……ありがとうございます」
「あの……ルリさん!」
動力炉へと向かう2人へ声をかける者がいた。
「君は……エルフナインちゃんだっけ? どうしたの?」
「ルリさんは凄いです! ボク達が建設していた区間さえも改善の余地を発見していく手法は感動しました!」
感謝を示すエルフナインがルリの腕を振る。すると困惑から動揺まで調子を崩されたルリは少し身をたじろかせた。そして身体を硬直させた僅かな瞬間に耳打ちをした。
「キャロルにパパとの思い出の重要性を思い出させてくれてありがとうございます」
「え……? それってどういう……?」
「もう行きますね!」
エルフナインはルリの問いかけへ答える事なく走り去って行った。
「シャトーの最新データ……想定以上です。まさかフォニックゲインの増幅をここまで効率化するとは……」
「唄……か。思えばオレが切り捨てたモノによもやここまで価値を見出すとは……」
シャトーのコントロールルームにて最後のデータ採取を行うルリは自身が(意図して)もたらした影響をその身に感じた。そして
「ではキャロルさん……これで遠隔操作で観測出来る術式を組み込めました。正直フィーネが構築した技術とこのシャトーの術式は親和性が高いですが出来ればこの術式は残して貰えると今後へ活かせると思うので……」
「構わん。所詮オレの計画が狂うなどあり得ないのでな。
「確かに聞き届けました。それでは……」
作業を終えたルリはシャトーを立ち去った。そしてキャロルは独り呟いた。
「唄……か。その時に備えアレの改良と調律を行わねばな……」
奇跡の殺戮者キャロル・マールス・ディーンハイムは聖遺物保管庫よりダヴルダヴラを取り出した。そして兼ねてより計画していた礼装ファウストローヴにルリがもたらしたシンフォギア技術を組み込む手順を楽しむ事とした。
【敢 え て】キャロルちゃんの地雷源を走り抜けたルリですがその魂胆は次回にでも……
よろしければ感想・お気に入り・高評価お待ちしています!
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運命の歪み
また、今話よりオリジナル設定を追加します
ツヴァイウィングのライブから凡そ1年半……日本では風鳴翼が高校生活最後の1年を始める頃、秘密裏に生存させられた嘗ての相方である天羽奏はとある日課を行っていた。
「天羽奏……そろそろ自衛用の槍が完成するわ。完成すれば貴女をここに縛る理由はなくなる。私個人はその力でフィーネに妨害して貰えると私達には大きな利益のだけどね?」
「その【フィーネ】ってのがアンタ達の敵なのはよくわかったよ。だけどソレが誰かってのは頑なに明言しないんだな」
「えぇ。仮に私達の推測通りならフィーネが本気で動けば貴女なんて片手間で闇の中だからね。そうなれば貴女はただガングニールを失っただけでしかなくなるわ」
「寝覚めが悪いな……っと今日の分だ。受け取ってくれ」
サンジェルマンは奏の質問に答えつつ中身を確認した。
「にしてもソレってただの石ころだろ? アタシのフォニックゲインをただ注ぐだけで良いってどういう事だ?」
「純粋にシンフォギア装者のフォニックゲインを収集してるだけよ。コレが現存する唯一のノイズ撃破手段な以上その理論を解明しなくては人はノイズに怯え続けるわ」
「ノイズへの唯一の対抗手段がシンフォギア……か」
「失った貴女が今日本に帰っても自衛出来ないのはわかっているでしょう? 特に風鳴翼の近くで過ごすならね?」
「そのためにアンタが槍を作ってくれてるんだな。ありがとうな……」
「此方も有意義なデータを手に出来るから気にしなくて良いわ。それとルリからこの少女の戦い方を覚えるようにって伝言よ?」
サンジェルマンは1枚のDVDと付属資料を奏へと手渡した。
「なになに……【あかいあくま】のガンド戦法……? 古いアニメだよな……?」
「えぇ……正直ルリの奇行は無理に理解しなくても構わないけど無意味では無いと思うわよ……?」
「いや言い切れねぇのかよ!」
天羽奏は備えていく。今はまだ誰かに敷かれたレールの上だが、
「アレは……やばかった。まぁ
【奇跡の殺戮者】と言われた孤高の錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムに
「そして教わったホムンクルス技術……ヤバぁい……」
想い出のコピペを可能にする素体なだけその精度が恐ろしい。だって……
「2、3体本部に置いとくとオリジナルいらないぐらい順調に仕事が出来るんだもん……」
ルリ(オリジナル)が教わった術式と結社の設備により製造されたホムンクルスが起動し書類整理を開始した。
「錬金術知識担当と金銭関連担当と情勢把握担当……後は人材管理担当が必須だけど外部交渉担当は少し重めにするかぁ……」
「待て……キャロルの元でホムンクルス製造の知識を得たのは良い。そのホムンクルスを量産して仕事の効率化を図るのも良い。だが……各部門ごとに5体以上配備するのは馬鹿のする事なワケだ! 」
「え? キャロル氏は当たり前のように百体規模のホムンクルスを量産してましたよ?」
「アレは自身の転生に適した素体を製造する過程で生まれる多数の副産物を利用しているワケだ! そもそも目的が違うワケだ!」
識ってる。私は彼女の本来の目的及びその果てを識っている。だけど私は彼女を救えないだろう。だから
「あっ……そのあたりはご心配ありません。部門のホムンクルスは対応分野及び結社の人物情報以外は入力されていません。まぁ……
「最悪なワケだあぁァァァ!!」
プレラーティ様の怒号が建物に響き後にサンジェルマン様が頭を抱えるのは別の話として……
「そういえばプレラーティ様……あの大英雄の逸話にまつわる聖遺物ゲイ・ボルクの捜索に進展はありますか?」
「はぁ……はぁ……欠片ならば既に結社で確保済なワケだ。にしても酔狂なワケだな……★⚫●★⚫●¢£§€というのに求めるとは……」
「えぇ……その使い手にある種の憧れがありますから……。それに意外とそっちの方が用途があるんですよ?」
「オリジナルの方が扱い難い……か。何とも研究者に挑発的な聖遺物なワケだ……」
「それと可能であれば¢£§€●¢€§をソレに仕込んで貰えますか? もし私の望む時までに間に合えば恐らくフィーネへ盛大な嫌がらせが出来ますよ?」
「サンジェルマンに伝えておくワケだ。案外製造ペースが上がるかもしれないワケだ……」
ありがたい……結構ギリギリかもしれないけど間に合うならフィーネには目に物見せる事が出来る。分の悪い賭けだけど価値はあるかもしれないから……
不思議なヤツだった。オレに接触を果たしシャトーの資料やオレの成果を狙う輩が多い中でヤツはそれらに興味を示さなかった。いや……少し違うか?
「シャトーの世界を解析・分解機能に歌声によるフォニックゲインとの親和性は面白い発想だった。錬金術師としては実に興味深い事だが……尽く反応が良くないとはな……」
だが……それよりも腹立たしいのは……
「パパとの想い出……か。無自覚だったとはいえヤツの作ったシチュー……アレはまさしく
あり得ない。少なくともヤツはパパを知らないのだ。結社の連中でさえ識る者はいないだろう。故にただの偶然だろう。だがしかし!
「気に入らんな!」
オレの怒りが沸き起こる。やはり世界の分解は必須だろう。計画は変わら無い。
「順調ですかマスター? やはり素体の機能不全ですか?」
「レイア……か。なに……ルリの事が癇に障っただけだ。やはりヤツは消さねばならないとな。少し計画を変更する。お前の妹……アレにもう1つ役割を付け加える。また、それに際して
「月……ですか。意外ですね……よろしければ理由をお尋ねしても?」
「そうだな……ヤツは騒がしかった。しかし不思議とパパとのやり取りを除いて嫌悪感が湧かなかった。恐らくヤツの言動は本意だから……だろうな。故に
「マスターの仰せのままに……」
パパの想い……もしソレが想像通りであれば……
オレを止める事が出来る者がいるのだろう。故に託してやる……
それをもたらすのがあのルリか……結社の奴らか……まだ見ぬ勢力か……
「向かって来るならばオレは受けて立とう。そして付き合うが良い……」
壊れゆく未来へ………………な?
運命の歯車の狂ったこの世界で彼女達は未来へ歩む。彼女達の選択がもたらすのは希望か……それとも救えない絶望か……解に辿り着くその時まで……
オリジナル設定
①オリ主のホムンクルス量産→結社での役割が文官系なので、縦割りでの業務を円滑にするつもりで躊躇いなく量産。彼女達は後に本作でも重要な役割を得ているが、本作ではあまり識別及び描写するつもりはない。
②奏さんの新しい武器→シンフォギアを参考に製作される後のファウストローヴ(強化済)の試作品。形状は槍であり、ルリが取り寄せた聖遺物が使用される。
③レイアの妹→ルナ(オリジナル自動人形)へ変更。カタログスペックの構想はできてますが、公開はGX編にさせていただきます。
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動き出した運命
「風鳴翼が高校3年時のCD発売日が判明……つまりそれは
ルリは決意を胸にサンジェルマンの元へ向かう。
「……という訳で日本に行きます!」
「馬鹿なのかしら?」
最速で・最短で・真っすぐに・一直線にサンジェルマンへ本心を告げたルリに対する返答は辛辣そのものだった。しかしルリが無駄な事をしても最終的に不利益をもたらさない事が皮肉にも実績として積み上がっている為、サンジェルマンは頭を抱えていた。そのために重い口角を動かして尋ねる。
「一応理由を聞きたいけど………………もしかしてフィーネの件かしら?」
「はい。キャロル氏の所でホムンクルスの運用を心得たので必要な人員ば確保できました。よって私はフィーネに現地で嫌がらせがしたいです。推測通りであればフィーネは完全聖遺物を現在は2つ所持し、次いで1つ確保するでしょう。であればそろそろ我々への攻撃も辞さないのではありませんか? ましてやサンジェルマン様の識る彼女の目的が実行される事は我々にとって不利益ではありませんか?」
「そう………………ね。とはいえ此方もフィーネへ割ける人員は限られていて、目的が動き出してからでは対応は後手後手……不本意だけど貴女が動く事が最善と言えるのかしら……」
「寧ろ計画を破綻させられるかもしれません。結社として対応していただければまぁ五分五分以上の勝算はあります。どうでしょうか?」
「少し考えるわ」
ルリの見せる自信にサンジェルマンは1度状況の整理を始めた。現在サンジェルマンの優先事項は3つ。
①神の力の器たるアンティキティラの捜索
②戦力向上の為試作しているファウストローヴの完成
③フィーネへ雪辱を果たす
この中で最も優先順位は低いものの目下最大の驚異足り得るのがフィーネだ。今までは輪廻転生の結果驚異と言えなかったものの、今代のフィーネの依代が考古学者の櫻井了子であれば危険が跳ね上がるのは明白…………いずれは対応するのは必然とも言えた、故に結論が出る。
「…………結社として求める動きの要望は?」
「天羽奏の準備を完成させること、そしてアメリカのフィーネがバックにいるF.I.S組織を押さえることですね。私の推測が正しければ仮に今回を乗り切れてもアメリカで転生される可能性が高いです。そうなれば私達の目をかいくぐる事など……。あ……当然ですが表向き日本で活動する為の支援も……」
「警戒するのはそこだけで良いのかしら?」
「寧ろそれ以外なら次のフィーネは大人しくせざるを得ないでしょう。日本のシンフォギアと我々……もしくはキャロル氏と準備なく交戦すればどうなるかわからない人物では無いのでは?」
「悪くない……というよりは最も現実的かしら……。人類救済の為にもフィーネを抑えるのは確定な以上……」
そして最後にして重要な質問をルリへと投げかける。
「成功の可否を判断する為に必要な時間は? そして貴女が行動する為に必要な時間もよ?」
「行動の為に必要な時間は10日あれば十全に、成果は最短で3ヶ月後には形にすると誓います」
「3ヶ月…………」
このやり取りでサンジェルマンは自信を持つルリに可能性を託す事にした。
「欧州を拠点にするノイズ研究の身分を用意するわ。後は託すわね……」
「はい! お任せください! それと…………天羽奏の旧肉体からとあるモノを抽出・培養・濃縮していただけますか? 此方は1月以内で構いません。理論上ではありますがフィーネに相当の負荷を与えられるでしょう」
「シンフォギア装者の肉体は研究資料よ? それを踏まえても……かしら?」
「その為にホムンクルス技術を活用します。データの整理及び運営は私のホムンクルスを動員してください。それでは私は準備を始めます」
ルリはそう告げて部屋を後にした。
「そうして10日経ち日本に(前世ぶりに)帰って来た……か。まずは確保された拠点周りを……………………ってリディアンの近く!? ありがたいけど……」
結社名義で借りられたルリの拠点は単身世帯用の1LDKで環境こそ充分ではあるが…………
「快適過ぎて怖い……………………っと違う違う。ビッキーが覚醒する時に見た光景から判断して最寄りのCDショップはここでシェルターから真逆と仮定すれば……」
ルリは原作知識と空からの情報から最寄りショップから真逆に逃げてしまう場合のルートを複数仮定した。しかし肝心なのは……
「あっ……これ事前にビッキーちゃんに接触しとかないと当日に張り込まないといけなくなる。接触するなら……」
盗聴・盗撮・発信機を作成するとルリはお好み焼き屋【ふらわー】へ向かった。
「う〜ん! おばちゃんのお好み焼きは絶品だねぇ!」
「たーんと食べな!」
「ジャストタイミング。さて…………取り付けるなら……」
ふらわーに到着したルリは響が発見出来た事に安堵しつつ、自身もお好み焼きを注文する。その際メニュー表を見ながら小銭入れを確認する素振りを見せ……百円玉を響の側へさり気なく転がした。
「うわっ!? ごめんごめん!」
「いえいえ……小銭入れから百円玉が溢れると誰でも慌てますよねぇ……」
「ありがとうね君! 助かったよ! 本当にありがとう!」
ルリは響から小銭を受け取るとその手をぶんぶんと振ってオーバーなぐらい感謝を見せた。響はこれに対して気恥ずかしさを感じるも満更でもない様子だ。だがこうして予定通り響の手に触れる事が出来た以上目的は達成された。
「っと……ごめんね少し興奮してたみたい。いや〜慌てた時助けてくれる人がいるって本当に良い事だねぇ……」
「もぅ……す〜ぐそうやって人助けばかり……」
「わわっ!? ごめん未来! 私達も食べよう!」
「刻印完了……これでビッキーちゃんを追跡出来る。後は折を見て接触するクリスちゃんと……2つの完全聖遺物を……」
緊急時の位置情報を把握出来る事にルリは安堵する。しかし肩の荷を降ろすわけにはいかない。
「まずはクリスちゃんと接触しないと…………っていうか接触してからどうしよう?」
何も知らぬ者、後の事象の引き金を引く者、知りつつも口を閉ざす者その3人の出会いはルリの計画した必然ではあるが…………本当の物語はここからはじまる……
フィーネの行動に妨害を行う・装者と接触をする…………目的ははっきりしていますが、前者は手段を、後者は接触後の事を実ははっきり決めて無いルリちゃんの明日はどっちだ!?
感想その他お待ちしています。
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勘違いはほどほどに……………「無理ね。諦めなさい!」
ルリの聖詠(訳)を決定しました(詠自体は奏さんの使いまわしですが……)
「下見良し! ガングニール良し! 避難所に登録済テレポートジェム良し! 閃光弾良し! 日付け確認良し! いつでも覚醒しなさいビッキー………………の前にサンジェルマン様にご相談を……」
ルリは原作介入を果たす為の仕込みを継続しつつ、この事変終了後を見据えた暗躍を開始する。
「………………ということでご協力をいただけませんでしょうか?」
ルリは響への接触を試みるものの、フィーネとやり合う事を想定し結社本部へ通信をしていた。
『今度は何を企んでいるのかしら? まぁ………………何処かの誰かさんがクローンを多数製造して結社の大改革を行って皮肉にも時間が取れるのが癪だけどね』
「じゃあお願い出来ますよね? この件を解決できれば
『ッ!? 貴女は何をしでかすつもりなの!? というかフィーネの件を片付けるですって!? 』
「はい! 何ならぶっちゃけ独断でフィーネの計画をぶっ壊した上で今回の件を解決した後の布石すら仕込めますし、最上の場合結社に最小限の労力で最大級の利益を見込めます!」
『……………………………………今から日本に向かうから直近の予定を話しなさい。必要な外部交渉は私が行うから貴女は拠点で待機してなさい! 』
「なら30分でお願いします。もしかしたら運命が変わるかもしれませんし、下手すれば私の計画を1から再考しますから……」
『貴女はそのまま踏みとどまってなさい!』
サンジェルマンは頭を抱えつつ頭のネジが数本外れている(と認識している)部下が無用なトラブルを避ける為に急ぎ日本へ転移を決めた。併せてカリオストロ・プレラーティに指揮系統を委任し、ルリのホムンクルス群の管理も厳命する。
「はぁ……はぁ…………まだ行動してないわよね? というか本当にこの街にフィーネが居るのね?」
「間違いありません。天羽奏の所持していた対ノイズ兵器【シンフォギア】を製作したのがフィーネなのは明白でしょう。我々結社以外にそんな技術を所持している組織は数える程ですからね」
「アメリカのF.I.Sがその最たる組織だけどアレも良く調べたらフィーネの息がかかってる組織ね。もし今代のフィーネ転生先が潰えても保険を掛けてる……って所かしら?」
「だと思います。さて本題ですが……サンジェルマン様には二課のトップ及びその側近の2人に交渉をお願いしたいです。しかし櫻井了子とは避けて頂けると…………」
「………………フィーネを徹底的に避けてるわね。一応貴女の計画を時系列で話しなさい。必要があれば補足するわ……というか私が管理しないとイレギュラーが起きると視たわよ…………はぁ」
サンジェルマンと合流したルリは今後の計画の大筋を話し、取り急ぎ立花響の覚醒に間に合うように動く。
「では私は向かいます」
「本当にコレが達成された場合フィーネが気の毒に見えるかもしれないわね…………ある意味私の溜飲が下がるから複雑だけど……」
半ば狂気じみた部下の計画に気圧されつつも、その利益には目を見張るモノがあった。そして今まさにその火蓋が切って落とされた。
『ノイズ出現! ノイズ出現! 現在●●駅東方面へノイズが進行中!』
「警報が鳴るのが遅い……やっぱフィーネがノイズを操作してないとここまで露骨にはならないよね? まぁビッキーの足取りは追えてるからもしガングニールが覚醒しなかったら私が対処しないと……………………」
ルリは現在高層ビルの屋上より響を監視していた。そしてとうとうその瞬間が訪れた。
『お姉ちゃん……私……しんじゃうのぉ……?』
『大丈夫! お姉ちゃんが守るから!』
「良し! ここまで来たらほぼ覚醒は確定だ! 後はタイミングを合わせてこっちも(改造)ガングニールを起動して……」
『
ルリの読み通り響はガングニールを起動させた。そしてルリもタイミングを合わせてガングニールを起動した。
「
響のギア展開に対応を追われる二課にとってほんの極わずかな二重のガングニール起動を発見することは出来なかった。そして風鳴翼が介入するまで槍を投擲体勢で待機する。
「タイミングはドンピシャです! 二課に動きはありますか?」
『………………驚いたわ。二課が追ってるガングニールは監視していた立花響のみで貴女に気づいて無いわね。でも解せないわ……ここまで周到に備えたのに自分の存在を誇示する必要があるのかしら?』
「
『…………それはそれでムカつくわね。少し頭を冷やしましょうか……』
現在響は少女を守りながらノイズから逃げており、その響へ接触を果たす為二課は響を追っていた。そしてとうとう戦場に
「おっ……順調にノイズを殲滅してる。流石は最初のシンフォギア装者。当たり前だけどビッキーなんて目じゃないほど的確にノイズを倒してるなぁ…………ってそろそろ殲滅も終わるか。じゃあ……介入しますか!」
ルリは即座に槍を投擲した。この際軌道から投擲場所の特定を回避する為に工作はしたが、オマケをつけている。
ガングニールが出現した報告に私は動揺していた。あり得ない! ガングニールの装者は……奏は2年前に死んだ! なのに何故!
「翼さん……その……」
「戦場で呆けない。死にたくないなら自分の身を守りなさい」
少女は困惑していたが私には関係がない。私がノイズを倒す。それだけ……
『反応残り1! 正面のノイズを倒せば殲滅は終わり……ッ! 飛来物来ます! 軌道は……そのノイズを狙ってる!?』
オペレーターの動揺する声が聞こえた直後ノイズに1振りの槍が飛来しその身体を貫いた。
『………………ノイズの殲滅を確認。反応ありません…………ですが…………』
オペレーターからの歯切れの悪い通信が気にならないほど私は動揺していた。なぜならその槍は奏の槍そのものだから……
「奏の……ガングニール……? なんで……? どうして……?」
私は理由もわからずその槍を手に取ろうとした。するとガングニールより音声メッセージが流れ出した。
『はじめまして特異災害対策機動部二課の方々ですね? 新たなる戦士の誕生を祝う為にこのメッセージを贈ります。
メッセージはそこで終了し槍も消滅した。
「なんで奏の槍が……?」
『音声は汎用性の高い合成音声で特定できません……この娘のガングニールも……消えたガングニールも……何が起こってるんだ?』
『私達とその持ち主が後に巡り合う……? ひとまず翼さんはその娘を連れて二課へ帰投をお願いします』
「わかり……ました……」
私にはわからない。あの槍は間違いなく奏のガングニールだった。それよりもわからないのはなぜそれを伝えた? ッ! もしかしたら奏は!?
「殺す……奏からガングニールを奪った奴は必ず殺す!アレは奏の……奏の物なんだから!」
この時真相に辿り着く人物は誰もいない……
【敢 え て】ガングニールを戦場に放ち謎の人物感を出したかったルリちゃんのしでかしのツケを払う日が来るのか来ないのか……?それは遠くない未来のお話です!
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荒れる二課の胸中
その日突如として観測された2種のガングニールによって俺達二課は大きな混乱がもたらされた。
「司令……本当に極小さな反応についての報告なのですが……」
「どうした友里? 響君がガングニールを発現させる前後に何かあったのか?」
「はい。実は飛来したガングニールが
「なんだとぉ!?」
「更に……飛来したガングニールの軌道を解析した結果高層地点から投擲された可能性が高い……との事ですが我々の知るシンフォギアと同性能の場合現状だと索敵範囲が絞りきれない可能性が高いです。せめてもう少し情報があれば……」
「そう…………か。わかった。件のガングニールについては俺達司令部のみで話を留めるように。間違っても翼に伝えるなよ? 昨日響君に強く当たってたぐらいだからな……」
「そうなりますよね。僕も今の翼さんがこの情報に耐えられるとは思えません」
「同感です。緒川さんも構いませんよね?」
「えぇ……コレは僕の手にも負えないかもしれません……」
司令部では翼には伝えない……そう結論づけるも、了子君が席を外してるタイミングとは……やれやれ間が悪いな
あり得ない! 立花響がガングニール紛い(?)………………シンフォギアを起動させたのは興味深いがまだわかる。寧ろ表向き研究者を名乗る私にとっては素晴らしい事象と言えただろう。しかし…………
「飛来したガングニール……アレは間違い無く
「フィーネ……? どうしたんだ? また新しい敵が現れたのか? 待ってろよフィーネ! あたしが必ずソイツをぶっ飛ばしてやるからな!」
クリス……か。コイツは口車に乗せて動かすには悪くない手駒だ。しかし動かすには些か情報が足りん。さてどうしたものか……
「ふむ……どうやら私達にちょっかいをかけようとしている輩がいるようだが……所詮は羽虫だろう。
「あぁ! 任せてくれフィーネ! 戦争の無い平和な世界を作る為にあたし頑張るから!」
クリスは単純だ。御し易く私を疑う事は無い。些かもったいないが2年前に二課よりくすねた【ネフシュタンの鎧】を与え先に起動させた【ソロモンの杖】を用いて炙り出すとしよう。
「頼もしいわね。そんなクリスに私からのプレゼントよ? 私の期待……裏切らないでね?」
まぁ……所詮天羽奏が生きていたところで第二種適合者……その気になればいつでも消せるだろう。だが……
「私の管轄で死した筈の人間が蘇る……か。その背後にいる人物と手段には少々興味が生まれる……か」
「フィーネ……?」
エンキ様……もうすぐ……もうすぐ貴方様の真意を確かめる事が出来ます。私は……
響君がガングニールを覚醒させ、それに伴い二課への協力を確約してもらい現在は翼と共にノイズ討伐を担って貰い1月が経過しようとしていた。
「あの騒動から1月……2人の息は合わない……か」
「えぇ……ですがどちらかといえば翼さんが突き放しているように見えますね。収まらない怒りをノイズへぶつけ単独で撃破しています。このままでは……」
「わかっている。しかし翼……なぜそこまで響君を……?」
「ッ!? 翼さん何を!?」
藤尭がモニターを見て動揺する。見れば翼が響君へ刃を向けていた。
「すまんが俺が仲裁に入る! 状況報告は任せたぞ!」
「「ご武運を!」」
『そうね……貴女と私で戦いましょう?』
『ちょっと待ってください! 私は決してそんなつもりでは!』
『えぇ……わかっているわ。でも私が貴女と戦いたいの。だから……構えなさい。貴女が奏の意思を継いでいるなら……ね?』
そんな通信が移動中に聞こえ柄にも無く言い得ぬ不安が頭を過る
「いかんな……間に合えば良いが……」
そして翼が感情任せの一撃を本当に放ってしまいなんとか割って入る事が出来た…………か。
「どうした翼? 狙いも禄につけず大技を放ってお前らしく無い………………お前泣いて泣いてません! 剣が涙を流す等あり得ません! 」
「えっと私……わたし……」
「うむ……響君は知るべきかもしれないな。頼めるか緒川?」
「わかりました。では響さん此方へ……………………………………司令」
「は……はい」
緒川に響君を任せ言いたい事も分かっている。故に俺は敢えて答えずにその場に残った。そして5分ほど沈黙の時間が過ぎて状況が動いた。
「人払いは完了した。そろそろ姿を見せてくれると嬉しいのだが?」
「そのようですね。コレでようやく貴方と話をする事が出来そうだ」
その人物はどうやら俺個人に用があり、急遽現場に出てきた為に急いで接触を図った……という所だろう。なぜなら……響君はともかく緒川や俺は気配に気付いていた。そしてその人物もまた承知していた。
「まずは自己紹介をしましょう。私の名は
「風鳴弦十郎だ。早速本題に入って貰えるかな?」
恐らくは偽名だろう。しかし彼女の意図が読めん以上は出方を伺う他無いだろうが……
「えぇ。お気づきの通りこの名は偽名です。理由があり本名は隠させて貰います…………と本題でしたね。私達の組織は
「なるほど俺達……現地の腕利き組織に接触した理由は理解した。いや…………そこまで情報を押さえているならば俺達の事も当然識ってるのだろう?」
「ご明察です。特異災害対策機動部二課司令官風鳴弦十郎さん。では自己紹介は終わりにして此方の要望ですが……貴方達にも奴の計画を潰す協力をいただきたいと思います。なぜなら「悪いが断らせて貰おう。俺達には俺達の目的と信念があるからな」素晴らしい判断力です。その判断力に敬意を表してコレをお受け取りください」
彼女は1つのメモリーカードを手渡してきた。その意図はなんだ?
「ウイルス等の小細工はありませんのでご安心ください。そして最後に………………
「理由を聞いても?」
「そのメモリを見ればわかる……としか言えません。それでは失礼します」
それだけ告げて彼女……アンジェと名乗った人物は姿を消した。どうやら厄介事が起こったようだ。ひとまず俺も本部に戻るとしよう
「ッ!? 緒川……この情報は…………」
「えぇ……にわかには信じられません。しかし…………この情報がもし事実であればとてもではありませんね……」
手渡されたカードに記録されていた情報を元に解った事は8つであり、その内容に動揺を隠せなかった。
・天羽奏が生きている事
・既に【彼女達の敵】とやらが計画の最終段階に入っている事
・彼女達はその計画を潰す理由がある事
・【彼女の敵】とやらが起こす
・計画があまりにも荒唐無稽であるという事
・しかし達成された場合の被害は詳細に記録されていた事
だが……そんな事よりも重要な情報が存在した。
「この世界にはノイズを使役する完全聖遺物が現存しており、その聖遺物と
「俺達も無関係ではいられないどころか中心人物になりかねんな……」
「司令…………急ぎ僕はこの情報の裏付けを行います」
「頼んだ!」
緒川に任せれば正解なのだろう。だが…………
「俺は…………どうすれば良いのだろうな……了子君」
求める答えは無いのだろう…………
サンジェルマン様にはバレバレの偽名を名乗っていただきましたが、まぁこの偽名は1話限りになると思います。そして次回より本格的にルリちゃんが状況を引っ掻き回します!先行して登場したクリスちゃんとのやり取りをお楽しみにお願いします!
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月夜の死闘
流星群の観測日和な日が気象庁より報道され世間がその日に向けて密かにざわめく頃ルリもまた心待ちにしていた。
「さぁ〜て……流星群観測日は押さえたから逆算して行動する事は可能……なんだけど少しもどかしかったかな? というかようやくシンフォギア(無印編)が始まったとはいえそろそろ派手に立ち回る事が出来るからね!」
月明かりが街を照らす戦場にて2人の戦姫が向かい合う。
「この1月……私は貴女を認める事は出来なかった。その理由はわかるかしら?」
「緒川さんや師匠から聞きました。2年前……翼さんは奏さんと共に戦場に身を置いていた事、奏さんが戦いを終わらせる為に命を散らした事……そして私に奏さんの代わりを求めるつもりは無かった事……だから……ですか?」
響は恐る恐る翼に問いかけた。しかし翼は失望感を漂わせ言葉を返す。
「貴女は覚えていないでしょうけど奏はあの日戦場にいた何者かに殺された。あろうことがその人物は先日奏の槍を奪っていた。私は忘れない……奏を殺してガングニールを奪った人物がいる事を。私は忘れない……奏の無念を。私は忘れない…………この身に宿る憎しみを! 」
激昂した翼は響へと斬りかかろうとした……………………筈だった。
「へぇ……いいじゃねぇか! 世間に持て囃されるアイドルの本性がドス黒い復讐鬼とはそっちの方が余程人間性があっておもしれぇなぁ!」
「ッ! 誰だ!」
戦場に新たに響く声の方へ翼は振り向く。するとその人物はゆっくりと月明かりの元に姿を現した。
「あ〜〜……しまったな。本当は其処の融合症例を拉致する予定だったのにあまりにも其処の人気者がアイドルらしからぬ事を言うものだからうっかり口を出してしまった。だがまぁ…………テメェを消せば終わりの話だがな!」
独特な鎧に身を包み異質さを放つ杖を所持する少女はあろうことが人類の敵であるノイズを召喚・使役し始めた。
「ノイズを……使役だと!? 貴様は何者だ! 何故そのような物が存在している!」
激しく動揺する翼に鎧の少女は不敵な笑みを浮かべながら杖を操作した。
「あたしの主が其処の融合症例をご所望だからテメェに用はねぇんだよぉ!」
「…………………………ネフシュタンはこの際どうでも良い。まずはお前を斬り伏せる!」
翼は殺意を込めて少女に斬りかかる…………が、その剣筋は激昂した感情も相まって初見にも関わらずあっさりと見切られていた。
「なっ!? 何故だ……何故当たらない!」
「単調なんだな……意外とつまらねぇ詠だ。込めてるのが憎しみだとこうもつまらねぇなぁ?」
「ッ! 翼さん! わたし…………私も共に戦います!」
「邪魔をするな! これは私の戦いだ! 私の憎しみを……怒りを理解してないお前には関係無い!」
戦況の不利を察した響が助太刀を試みるも翼はあっさりと一蹴した。しかし響からの視点でさえ翼が不利なのは明白だった。当たり前だが当事者である少女には自然と笑みが溢れるほどの状態だ。
「………………二課の対ノイズ最高戦力がこの程度なら先に再起不能にした方が円滑かもな。だがそれはそれとして! 」
「え…………何これ!? うわあぁぁ!!」
少女が召喚したノイズが響を拘束するべく強い粘性の攻撃を放ち響を絡めとる。人数差をものともしない一方的な蹂躙へと至っていた。そしてこの戦闘を見ていたルリは頭を抱えていた。
「う〜ん…………原作以上に一方的に装者が追い詰められてる……か。翼さんが明らかに冷静じゃなくてクリスちゃんの手の上で完全に踊らされている………………あっ…………ネフシュタンで刻まれた。ギアの損壊状況から見てダメージは50%以上は確実。絶唱をさせてしまうと本当に死にかねないから予定外だけど介入しないと……」
ルリは頭を抱えながらも戦況の介入を決めた。
「無念だ……あの日失ったネフシュタンを目の前で使役され……良いようにあしらわれて……未熟者の前で醜態を晒して……身体が……」
「翼さん! ………………ねぇ私に用があるのなら私だけにしてよ! これ以上翼さんを傷つけないで!」
響の目の前ではアームドギアをボロボロにされ、装甲の大半が破損し素肌が露出する部分すら散見された。一人の女性としても見るに堪えない程の状況だ。そしてトドメと言わんばかりに満足に動けない翼へネフシュタンからエネルギー弾が放たれようとしていた。
「あまりにもあっけないがこれで終わりだ」
NIRVANA GEDON!
「はぁ…………あまりにも見苦しい状況だから私が介入してあげないとダメダメだね。未熟者と鈍らは頭を冷やして見学しててね?」
戦場に降り立ったルリはガングニールを展開して槍を構えエネルギー弾を少女へと打ち返す。
「なぁ!? あたしの【NIRVANA GEDON】を撃ち返した!? それよりも……その武装はまさか!」
突如現れた
「手応えのある戦闘がしたいなら相手になるよ? その気があれば…………ね!」
長さの異なる2振りに展開したルリは長槍で鞭やノイズを打ち払い、踏み込む際に短槍で胴体へ鋭い一撃を加えた。
「っ……! うぜぇな! 明らかに戦い慣れてるってか!? 目的達成間近でコレは……」
少女は苦笑いをするも響へと視線を向けた。当然ルリはその意図を理解していたので響の側へと向かおうとしたその時だった。
Gatrandis babel ziggurat edenal〜♪
「この詠はまさか!?」
「絶唱……だと? 冗談じゃねぇ!」
少女は状況を理解したがその影に小太刀が刺さっていた。
Emustolronzen fine el baral zizzl〜♪
「はぁ…………自分の身体の状況を理解して無いの? 今の状況で絶唱を使えばどうなるのかわからないの?」
Gatrandis babel ziggurat edenal〜♪
「止める気はない……か。なら仕方ない!」
ルリは翼の腹部へ槍を強烈に殴打した。その結果翼の絶唱は途切れ制御の外れたエネルギーが荒れ狂う。
「風鳴翼……黙って寝ててね?」
ルリはそれだけ呟くと荒れるエネルギーをガングニールに集約し……鎧の少女へ叩きつけた。
「がは!? ネフシュタンが…………クソっこのままじゃあ………………仕方ねぇ。おい融合症例! テメェはいつか絶対に攫う! 首を洗って待ってろ!」
少女は不利を理解しいち早く撤退を決めた。そしてそれを察したルリはこう叫ぶ。
「クリスちゃ〜〜ん! 絶対にまた遊ぼうねぇ〜〜! ていうか絶対に遊んで貰うからね〜〜
「なっ!? ………………クソっ!」
ネフシュタンの鎧を纏う少女…………雪音クリスはルリによって撤退間際に落とされた爆弾発現に激しく動揺するも、この戦場をいち早く離れるべく全力で逃走した。
「雪音……クリスちゃん? それが……あの子の……名前?」
当事者にも関わらず唯一蚊帳の外に置かれた響は事態を飲み込めず半ば呆然としていた。そんな響にルリは耳打ちをした。
「風鳴翼の絶唱は私が途中で無理矢理止めた。助けたかったら急いで撤退するべきだよ?」
「え……あ…………」
「忘れないでね。どんな選択をするか全ては貴女達次第だよ?」
二課本部からの応援が到着する前にルリはテレポートジェムを起動し逃走を果たす。その後到着した弦十郎は横たわる翼と呆然とする響を連れて撤退を果たした。
ルリちゃんの功績により翼さんの絶唱バッグファイアは原作の75%程に収まりましたが、精神は2倍以上ボロボロです。
そして正体を狂人に明かされたクリスちゃんは不幸以外の何でも無い。全ての勢力の今後に注目をお願いします!
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憂鬱な邂逅
「…………アレはヤバかった。天羽奏のガングニールを見れば
ルリは昨夜の戦闘を振り返りながら風鳴翼の感情・立ち回りを分析していた…………が、そもそも自身の想定と大きく異なった最大の要因は明白だった。
「…………しょうがないからリカバリーに入ろう」
覚悟を決めてルリは目的地へと転移する。
理解が出来ない。あのガングニールの使い手は何者だ? 何故ガングニールを手に入れてる? 何故あの場に居た? 何故クリスをああも簡単にあしらえる?
「…………聞いているのか了子君? 今までの内容はわかるか?」
「え……えぇ。ごめんなさいね弦十郎君。翼ちゃんが短絡的に絶唱を使ったり、ネフシュタンの鎧を纏う人物が現れたり、更に別の人物が現れたり、その人物が翼ちゃんの絶唱を中断させて暴発させたフォニックゲインをネフシュタンの少女に叩きつけて姿を消した………………のよね? 更に映像からガングニールと思われる槍を所持してて、その槍がガングニールなのかもしれない。下手すれば2年前に奏ちゃんの死に際から奪ってた物かもしれない………………考えただけでも恐ろしいわね」
「しかも奏ちゃんの技能を上回るかもしれない戦闘時の立ち回りと引き際の良さから頭も回るのでしょうね……」
「こっちの撤退したネフシュタンの少女の正体が本当に【雪音クリス】ちゃんだとすれば、2年前に二課が保護を試みて帰国直後に何者かに攫われて行方不明。当時二課からも捜査が行われるも関係者がほぼ殉職・行方不明になり未解決のまま捜査が打ち切りになってますね。2年前に起きた事件が全てが繋がっているとすれば……」
「【ネフシュタンの鎧紛失】・【雪音クリスちゃんの帰国直後拉致】・【奏ちゃんからのガングニール強奪(?)】・【謎のフォニックゲイン操作能力者】…………全てが繋がっているなら彼女達の黒幕がいると言うのでしょうか?」
「う〜ん……流石に最後の娘とネフシュタンの娘は別の組織にいるんじゃないかしら? 戦闘の記録を見る限り演技をしてるとは思えないのだけど……」
正直
「ねぇ弦十郎君? 鎧の少女……雪音クリスちゃんの背後にいる人物は確かに気になるけど私は【ガングニールの少女】の方が不気味だわ。クリスちゃんの方は響ちゃんを狙っていて最悪緒川君がタイミングを合わせて尾行すればクリスちゃんの拠点まではわかるかもしれないけど、【ガングニールの少女】は足取りどころか正体も読めないから二課としての対処も難しいんじゃない?」
クリスの事を敢えて尾行させ緒川を釣り出し、ノイズに処分させれば明確な障害は弦十郎ぐらいだろうが……まぁそれは少しタイミングを見て消せば良い話だ。
「ふぅむ。ひとまず俺達が追うべきはネフシュタンの少女……雪音クリス君と決定する。了子君の提案は確かに重要だがまずはネフシュタンを再度回収する方が優先順位が高い。ガングニールの少女に関しては目的が見えんからな。どちらにしても後手に回るならば、融合症例の響君を狙う雪音クリス君を捕らえるべきだ。ただし彼女の背後にいる人物の正体が不明な以上響君へこの件を伝える事は禁止とする。異論無いな?」
「「「了解です!」」」
「…………弦十郎君がそう言うならわかったわ……」
チッ……二課を通して
「ねぇ弦十郎君……今言うべきか悩んでいたんだけど、近い内に【サクリストD】……【完全聖遺物デュランダル】の永田町への移送任務があるんだけど響ちゃんに護衛を頼むのよね? 本当に大丈夫なの? 仮に雪音クリスちゃんが襲撃してくる可能性は無いの?」
「…………確かに狙われてる響君を前線へ出すのは小さくないリスクが存在する。しかし現状ノイズに対抗出来るのは響君のみであり俺達は響君に全てを託すしかない。俺達に出来るのは響君のバッグアップを全力で行う事だけだ」
「そう…………ね。ノイズに対抗出来るのはシンフォギアだけで、今纏えるのは響ちゃんだけなのよね…………」
これ以上食い下がればこいつ等は私を怪しむかもしれん。仕方が無い……クリスをけしかけるのは確定として【カ・ディンギル】の運用を仕上げるとしよう。まずはデュランダルだ。アレを確保せねば計画が遅れてしまうからな……
『…………さ…………ばさ…………翼……』
声が……聞こえる。もう聞こえないと思っていた……最高の双翼の…………ッ!
「ここは……? …………ッ! ガングニールの人物は!」
微睡みの中懐かしくも暖かな声が私を呼んだ…………気がした。しかし強引に意識を覚醒させ周囲を見渡すと
「ご機嫌よう……? 風鳴翼? 私の正体が気になるんだよね? でもまずはここから先の私の話を信じて欲しい。どんなに信じ難くてもそれが真実だから」
少女の語る言葉が…………真実? わからない……何故この部屋に彼女がいるのか……そもそも彼女が何者なのか?
「まず私の名はまだ開かせないけど私は貴女に感謝をしている。貴女があの時絶唱を用いてくれた事で
「っ……? それはどういう……?」
少女の言葉は私の予想を大きく外れていた。だけど続く言葉が更に私を絶句させた。
「そして敵の目的を凡そ把握出来た。その結果彼女の計画を阻む事が出来る。だから貴女に大切な事を伝えられる。結論から言うよ?
意味が……わからない。奏が……
「貴女は彼女の身体が薬害に汚染されてたのは識ってるよね? そして満身創痍の彼女が反動を考慮せず大技を使えば下手すれば死ぬ……それこそが黒幕の目論見だった。だから私は彼女を匿う為にも彼女を殺す……振りをした。まぁ彼女からガングニールを奪った事は変わり無い。でもね? 彼女の身体はボロボロで再びガングニールを手に取ればまた繰り返す。私の仲間がそれを見抜いたから
「奏と……会える? それは本当なの!? その為に約束が必要ならする! 絶対に約束する!」
奏と会えるなら私は……その為にも!
「じゃあ遠慮なく。今日のやり取りは一時的に忘れて貰うし、フィーネにバレない為にも櫻井了子にも知らさせない。それが条件だよ? まぁ……記憶を一時的に消す以上あり得ないんだけどね? でも本当に不味い状況になれば私は私の計画を果たす。それだけだよ?」
その言葉を最後に私は微睡みに包まれた。
そして翌朝私は医師の見立てに反して意識を取り戻した。
翼さんが肝心な事を覚えて無いから意味が弱いのでは……?と思われるかもしれませんが【翼に伝えた事実】がルリにとっては重要です。さて次は……
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デュランダル攻防戦
日本政府が保有し、二課の深淵にて管理されてる完全聖遺物【デュランダル】。しかし現在この聖遺物に新たな驚異が迫っていた……
「確か二課の強力な後ろ盾であり、カ・ディンギルの建造を無自覚且つ的確に阻んでたのが広木防衛大臣だっけ? そして大臣を暗殺後にデュランダルとカ・ディンギルを確保した事でフィーネは計画を最終段階へ移す。確か……彼の殺害翌朝が移送の日だった筈!」
ルリはまず防衛大臣の所在を巧妙にクラッキングして調べる。フィーネの計画を識ってる故に検索する情報は限られており迅速に目的の情報を探し当てた。
【得ているアドバンテージを全面に活かすには情報収集を怠らない】
それがルリの信念だ。
「なるほど……今日二課を通して櫻井了子へデュランダルを移送する。となるとその後で米国兵に始末させるならアリバイ作りの為に二課の監視下に入る筈…………なら今ならあの工場へ先行して潜入できる。ふふふ……今までより入念に準備しないとね。あっ……報告もしないと……」
妖しげな笑みを浮かべてルリは件の薬品工場へ幾重にも術式を仕込み同時にサンジェルマンへと連絡をした。
「弦十郎君! このままだとノイズを振り切れないわよ! しかもこのまま行くと製薬工場に近づいてしまうわよ!」
『ならばそのまま突っ込め了子君! 敵の狙いがデュランダルならばノイズは大人しくせざるを得ないだろうからな!』
「まったく…………信じるわよ!」
現在二課は広木防衛大臣殺害犯検挙を口実にリディアンから永田町に存在する施設【記憶の遺跡】へとデュランダルを移送しており、【ネフシュタンの鎧】を雪音クリスが纏って現れた事で未知の勢力が何らかの妨害を画策する事を見抜いていた。しかし……
「チッ……やっぱフィーネの言うとおり素直に渡してくれるとは思って無いが薬品工場に逃げこまれるのは面倒だな……。アレが破損なんてすれば面倒どころじゃねぇ……しゃあねぇな!」
クリスはノイズによる強襲を控え直接了子・響から直接デュランダルを強奪する作戦に切り替え、直接乗車する車へ襲いかかる。ネフシュタンの鞭が了子の車の右後輪を削り取る。
「ッ! 衝撃に備えてシートベルトを外して席横の扉を開けなさい!」
「了子さん! どうしたんですか!?」
その結果制御を失った車は誘爆を避ける為に少しでも工場から離れた木々に衝突し慌てて響は指示通り行動して車外へ投げ出された。
ドゴオォン!
「融合症例……上手く逃げたな。だがデュランダルは車内だな? 頂くぜ?」
クリスはガソリンが気化し始めた車に近寄るも、状況を察した響は聖詠を告げた。
「…………させない! デュランダルは渡さない!」
「ギアを纏って戦う気か? 悪いがノイズと遊んでな!」
「邪魔……しないで!」
召喚されたノイズを一撃で撃破した響がクリスへ反撃を放つ。
「チッ……なんだやる気か? ならしゃあねぇ!」
「響ちゃん! デュランダルは私に任せて存分に戦いなさい!」
「っ……はい!」
クリスと響の戦闘が開始し鞭と拳が衝突した。2人のフォニックゲインが戦場をはしるその瞬間……戦場が凍りついた
「なんだ!?」
「氷!? まさか敵襲!?」
「それがデュランダルですね? 良い聖遺物です!」
デュランダルを抱える了子へガングニールの槍が降り注ぎデュランダルが手元から弾き出された。
「「デュランダルが弾かれた!? なら!」」
クリスと響は双方想定外ではあるが互いにデュランダルを渡すまいと手を伸ばす。しかし……
「みんなコレが大切なんだ〜〜? じゃあ…………こうしちゃうよ!」
黒フードを被りガングニールを振り下ろす少女……ルリは響・クリス両名へ更に細分化した槍を合わせて注がせる。
「チッ……邪魔くせぇ!」
「またガングニール!? 貴女は誰なんですか!?」
不意打ちとはいえ細分化した攻撃に対応できない2人ではない。しかしルリの目的は
「だよ…………ねぇ!」
効かないとわかっていても炎球を2人へ放つ。当然両者拳や鞭で炎球を打払う。だがその結果周囲の氷が急激に溶けて蒸発を始めた。
「煙幕? いや……氷が蒸発した水蒸気か! あたし達の行動を読んだってか? 小賢しいぞ!」
「前が……見えない!?」
「この水蒸気……明らかに透明度が低いわね。氷の中に何らかの着色でもしてるの? まさか毒!?」
「全員不正解♥」
クリス・響・了子は煙の正体をそれぞれが考察して警戒する。しかしルリの狙いは全員の意識と視界を奪う事だ。
「目的を果たそうかな!」
「させるかぁ!」
「渡さない!」
ルリがデュランダルへ触れようとした瞬間クリスの鞭がルリの手元へ伸び掴み損ねた。そこへ響が飛び込みデュランダルを抱え込む。
「なんと……敵同士なのに見事な連携だね!」
「でかしたわ響ちゃん!」
「面倒だな……さっさと寄越せ!」
あっけに取られたルリとは対照的にデュランダル確保に安堵する了子。そして目的を果たそうとするクリスのそれぞれが響へ視線を向けた瞬間……響を闇が包む
「ゴアァァァァ!!」
「む……デュランダルが覚醒か…………………………覚醒!? ソレはヤバいって! クリスちゃん! 死にたくなかったらビッキーをブチのめして剣を没収しないと死ぬよ! そこの科学者は逃げないならそもそも命の保障どころか肉片すら残らないよ!」
「はぁ!? って…………あぁちくしょう! やってやるよ!」
クリスはノイズを召喚し暴走響にけしかけた。そして響の視界を奪った瞬間……戦場に極大の火柱が立ち昇り響の身体を包み込む。
「お前本当に何なんだよ! あたしの行動は余計ってか!?」
「どうだろう? 少なくとも命の危機なのはわかるんじゃない?」
キレるクリスの訴えをどこ吹く風にルリは火柱に力を込めた………………が、当然あっさり響に打ち払われた。
「化け物め……」
「ゴアァァァ!!」
暴走響はデュランダルを上段に構えクリスへ振り下ろそうとし………………そこに落雷が降り注ぐ
「落雷!? でもなんで…………チッ! 氷壁による周囲の温度が低下してこの火柱の急激な温度上昇による積乱雲の発生ってかよ! デタラメな事しやがって…………どこ行きやがったあのキチガイ!」
落雷の瞬間全ての人間がルリを見失う。しかし響の足元が急激に陥没した…………その結果響は体勢を崩した。
「術式展開……振動は最大最速、ガングニールへ術式をコーティングして…………これで!」
ガングニールに纏わせた振動・鎌鼬の術式を構えルリはデュランダルと斬り結んだ。本来であれば不朽の名剣とされる完全聖遺物デュランダルへ斬り結ぶ事は無謀だ。しかし今この場において覚醒した直後のデュランダルは…………刀身が折れた
「デュランダルが……折れた!? 一体何が起こっているの!?」
了子は動揺を隠せなかった。しかし眼の前の現実を受け入れざるを得ないこの状況に理解が追いつかなかった。
「ふぅ……賭けは成功。覚醒直後のデュランダルはギリギリ破損させられた。ついでに感電の影響から少し動きが鈍い……? 意外な発見かな?」
「っ…………! テメェ! 良いからソレを寄越せぇ!」
クリスは何とか目的を思い出しルリへ鞭を伸ばす。しかしその足元より氷柱が展開され手元のコントロールが乱れた。
「クソっ! また小細工かよ! いい加減にしろよテメェ!」
「残念だけどクリスちゃん……想定外の事態が起こったから私は退却するよ? そこのバーサーカーとやり合うのはごめんだからね♥」
ソレだけ言い残しルリはテレポートジェムを起動して戦場より姿を消した。そしてこの瞬間もう一人の当事者であるフィーネは眼前で起こった出来事に激しく憎悪を燃え上がらせた。
【デュランダル が へ し 折 れ た 】
えぇ……ルリちゃんはそれがどんな混沌をもたらすかわかった上で今回の奇行に及んでいます。全てはルリの視た未来のために……
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狂気の行い
正使では守り抜かれた筈のデュランダルは本作ではどのように扱われるのか?その答えをどうぞ!
永田町の記憶の遺跡からへ移送される予定だった完全聖遺物デュランダルを巡り大混戦が引き起こされた翌朝ルリは潜伏先の拠点にてパソコンを起動してライブ配信をはじめていた。
「【あるけー】ちゃんの錬金術マジックは〜じま〜るよ〜! 錬金術師のみんな〜! あるけーちゃんの姿をし〜っかり見てみんなも自分達の研究に活かしてね〜〜!」
そうしてルリは必要な材料を書き出してモニターに映し出した。
【材料】
・ホムンクルス(及び自分のDNAを記録したモノ)
・自分に適合した聖遺物
・細胞分裂抑制薬(過去配信にてサンプルレシピは公開済)
・各種薬品と血液を保存する容器
「まずは自分の血液を抜き取ってホムンクルスに培養してね〜〜。まぁここまではみんなも準備してると思うから次は肝心の聖遺物を少し削りま〜す! 更に試験管で件の聖遺物と自分の血液を混ぜて………………その血液をホムンクルスに注射しましょう。そして…………詠います。この詠は聖遺物から語られる詠こそが重要です。今回は既に注射済のボディを配信に使用するけど私の場合は凡そ一週間程度でこうなりました〜〜♪」
ルリが画面に映したホムンクルスはその身体が所々剣に侵されていた。その結果骨が剣へと変質して皮膚を突き破っている。
「これが何も準備せずに聖遺物と融合した人間の末路ね? 当然コレは愚行も愚行だからここからが重要です」
ルリはここで明るい声のトーンを真剣なモノへ変え雰囲気が一変した。
「
ルリは変質したホムンクルスを指し示すと先程薬品を混ぜた試験管に注射器を接続した。
「さて…………下準備はコレで終わり。最後に自分の身体に今まで作った血液を注射してね? 内蔵に撃ち込めばより高純度になるよ? 今回私は心臓に注射するね?」
ルリはそう告げると自身の心臓にホムンクルスで濾過したデュランダル入り細胞を注射した。 この行動…………融合症例の量産化配信である。
「世界に残る聖遺物を上手く起動させても消失してしまえば後悔する事ってあるよね…………。でも大丈夫! この方法を使えば
そう言ってルリは全世界の結社支部(ダミー)の連絡先を載せて配信を終了した。その10分後サンジェルマンより怒号の連絡が入る。
『ルリ! 貴女何を配信してるの!? 明らかに過剰なホムンクルス生産オーダーが入ってるじゃない! 』
「あっ……本当に連絡が……しかもバンクレベルで来ました? 流石にそこまでとは……。では私のホムンクルスに対応を一任してください。あっ……カリオストロ様に金額交渉だけさせてみてはいかがでしょう? 聞けば最近はサボりが酷いと嘆いてませんでした?」
『…………貴女のホムンクルスはそこまでできるの? カリオストロの件は順当ね』
「せっかく奇跡の殺戮者から技術を享受しましたので、設備があれば良質なモノを量産できます。あと一体私のホムンクルスをこっちに送ってください。できれば生意気な奴で……」
『………………資金調達の問題がこのタイミングで解消されたのは複雑ね……』
サンジェルマンは呆れながらに通話を切った。
「通話終了……さてさてこの配信ログを見たフィーネはブチギレ確定だろうなぁ♪」
そして…………ルリがホムンクルスを通して融合した聖遺物は後にこの事変で失われるはずの【完全聖遺物
「1度
ルリが二課に忍び込みカ・ディンギルを下見してどんな成果を得たのか……それが明かされるのはいつかの未来の話
「さて…………フィーネへの嫌がらせ計画は順調かな? 1度振り返ろう。
・クリスちゃんの正体発覚前倒し
・デュランダルの破壊及び片割れ強奪
は完了してまだ終わってないのは
・クリスちゃんの救出及びフィーネ敵対への洗脳
・天羽奏の生存発覚(フィーネの大詰め)
・カ・ディンギルの運用妨害もしくは破壊
・
か。奏さんはまだカ・ディンギル屹立後までの隠し玉で、調ちゃんはそもそも未だ転生前だから放置、となるとクリスちゃんか……………………良し! しばらくはリディアン近辺で学生に紛れて遊んじゃおう!」
ルリは響への3度目の襲撃に備える。この戦いが雪音クリスの運命を捻じ曲げるとは……クリス自身も知らない未来。
この配信よりしばらく…………後にフィーネにまつわる事変を【ルナ・アタック事変】と関係者が語る頃世界中に聖遺物との融合症例と言われる人間が現れるのはまた別の話。
【あるけー】は本作の錬金術士が配信用に使う汎用の偽名です。そして明かされたルリのこの後の予定………書いてて頭おかしいなこの女……
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3度目の邂逅にて……
「ムフフ……ここまでの首尾は上々。ホムンクルス技術で
デュランダル事変後の悪夢の配信により行動に大きな制約を受けたフィーネを肴にルリは愉悦の笑みを零していた。そしてそろそろ原作で
「ねぇ……響……最近おかしいよ? どうしちゃったの?」
「み……未来それは……ええと…………そう! 人助け! 人助けだから気にしないでよ! 未来には迷惑はかけない! だから本当に大丈夫だから!」
「ま〜そりゃそう説明するしかないよね?」
「「っ!!??」」
リディアンから少し離れた公園のベンチで
「貴女……誰ですか? どうしてこんな事を?」
「ひび…………きぃ……」
「いやいや流石に警戒心が低すぎるよ響ちゃん? だって私達初対面じゃあないんだよ? 視認したならもっと警戒しないとダメだよ?」
「本当に誰ですか貴女! 私……貴女の事なんて知りません! 私の親友は傷つけさせません! 一体何が目的なんですか!?」
「ん……? 私の事……覚えて無いの? あれだけ印象強い事があったのに? それとも親友の前だから惚けているの?」
「いい加減にしてください! 本当に貴女の事なんて私は知りません! 不気味なんですよ貴女!」
「……………………………………ん〜〜〜…………この反応マジっぽい。おかしい……暴走状態でもある程度意識が残ってるのは原作で確認済なのに反応が違う。となると…………こっちか?」
ルリは疑惑を確かめる為にも結社本部へ連絡を入れた。
「もしも〜し
『…………唐突な連絡をしたと思ったら今更気付いたの? 私達はフィーネの目論見を潰す為に動いているのよ? 貴女は特に現場に出る以上
「ほ〜ほ〜〜な〜る……『こら! 話はまだ終わっ』あっじゃあそんなもんで理解したんでそれでは………………………………はぁ」
「何なの……この人?」
「わからない……」
まさかの身内の(ルリにとっては余計な)フォローの影響で内心の計画が激しく揺れたルリは覚悟を決めて言葉を紡ぐ。
「場所を変えよう……ただし彼女は、眠ってもらってね!」、
未来を結界から追い出そうとドツこうとしたその瞬間響はギアを纏う決意を固めた…………しかし躊躇ってしまう。そんな時結界の外にノイズの顕現を見てしまう。
「ノイズ!? どうして!? 警報とかなかったじゃん!」
動揺する未来と動揺する響しかしルリは呟いた。
「幸か不幸か結界があって良かったね。あのノイズは現状私達を認識していない。少なくともこの中で過ごせば消えるまではやり過ごせるよ?」
「え……?」
「っ……!」
響は固めた筈の決意が揺らぐ。しかし
「ちょっと状況が変わったから取り引きをしないかな響ちゃん?」
「取り引き……ですか? 何が……望みですか?」
「ひびきぃ……」
警戒を強める響にルリはこう続けた。
「申し訳ないけど響ちゃんがあのノイズを殲滅する。幸いこの結界内でギアを纏って奇襲すれば即座に殲滅できると思うよ? コレがこっちの要求。で……見返りに単独で響ちゃんが行動すればあの娘……雪音クリスちゃんが多分現れるだろうから捜索するのと未来ちゃんが避難できるまで時間を稼ぐ……どう?」
「…………っ! わかりました……未来……急いでシェルターに避難して!」
意を決した響はギアを纏いノイズに背面から蹴りをお見舞いした。しかし取り残された未来は呆然としていた。
「小日向未来ちゃん……今すぐに現状を受け入れろとは言わない。だけど命が脅かされるこの状況で愚行を犯す事を響ちゃんは望まない。だから…………はい!」
ルリはアトパーズとメジストのブローチを手渡した。
「言ってしまえば私は響ちゃんを狙う組織と敵対する組織の人間……まぁ
そう続けると古そうな機種のスマホを手渡した。
「そのスマホ……随分古そうですけど使えるんですか?」
「見た目は……ね。一応こっちは異能を扱う組織だからその技術を集約してる。最低限でも現状の日本科学技術にに追跡や盗聴される事は無いよ……使い手がヘマをしなければね? っと…………話が長すぎたよね? とりあえず今なすべき事が何か……賢く行動する事を期待してるよ」
ルリはそう言い残すと結界を出た。
「お〜お〜どうしたしょぼくれた顔してよぉ……ノイズが出現したと思ったら即座に殲滅するぐらい覚悟を決めたと、思ったらどうした?」
「なんとか……倒せた……けど……未来に……どう説明したら……」
ノイズを殲滅するも憂鬱な響に声をかけてきたのはそう……雪音クリスがネフシュタンの鎧を纏い響へ交戦的な笑みを浮かべる。
「クリスちゃん……だよね? どうして私達が戦わないといけないの!? どうしてこんな酷い事ができるの!? 私達は本当に戦わないといけないの!?」
「ほぉ〜〜……あたしの事は組織から聞いてる……ってか? まぁそれならあたしの目的も解るだろう? でもお互い意見は相容れない……なら戦うしかないよなぁ! 」
クリスは鞭を振りかぶり響を凪ごうとするも幸いノイズに誘き出された響は戦場が人気のない森林地帯だった為に繰り出される鞭を樹木等の障害物を介して捌いた。そしてデュランダルの暴走以来力の使い方に悩んでいた響は弦十郎に特訓を受けていた。その事を知らなかったクリスはその身の熟しに対応できず接近を許し腹部に回し蹴りを受けた。
「ッチ……コソ練して強くなったつもりか? はぁ…………仕方ねぇ。お前に見せてやるよ。あたしの……雪音クリスの本当の力を! 」
Killter Ichaival tron〜〜
戦場に流れた新たなる聖詠……その正体を識る者は
『イチイバル……だとぉ!? まさかいつかに失ったイチイバルが行方不明だった雪音クリス君と共に………… 』
通信機越しに弦十郎の呟きを他所にクリスはギアの展開を完了させ、弓と機関銃を以て響へ照準を定めていた。
「あわ……あわわわわ!!」
唐突な戦法の変化に戸惑う響に対してアドバンテージを得たクリスの不敵な笑みを浮かべていた。しかし……その戦場に四色の短剣が飛来した。
「短剣!? ……まさか二課のアイドル様か!?」
「残念……わ〜た〜し〜が〜来た!」
無駄にドヤ顔をしながらルリが既にファウストギアガングニールとデュランダルのハイブリッドテクノロジーがしれっと初陣していた。
「まさか響ちゃんを尾行してたとは思わなかったよクリスちゃん……いつも逃げてばかりだと思ってたけど今日は本気みたいだね。なら……私とも遊ぼうぜ〜〜!」
クリスは既にネフシュタンをアーマーパージを行っており破片が戦場に存在している。もちろんルリはその一部を到着次第すぐに一部回収した。
「本来なら張り込みをしていた
そう……本来なら
「なっ……! お前は!」
意図的なキャラ振れをかましながらルリが戦場に割り込んだ。戦況が刻一刻と混沌としていくなか…………戦場の端に本来居てはならない人間がそこにいた。
「響が……ノイズと戦ってて……誰かに……狙われてる? 私……どうしたら……」
瞳に暗闇を映した少女……小日向未来は自身の理解を超えた光景と
[現在のルリちゃんの装備及び環境]
・デュランダル(融合・増殖)
・元天羽奏のガングニール錬金術によりプロトファウストローヴ(ファウストギア)
・クローンホムンクルスの強制反復により錬金術が高水準化
・プロト[アルカ・ノイズ](着色等改造済)
・ネフシュタンの断片(NEW)
コイツ……やりたい放題だ……(作者も戦慄)
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