カミカゼ☆エクスプローラー NextTime (Gショック)
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そして、舞台の幕は開く

「小説家になろう」からの移転物です。


気候の変化により海が増水し、世界の地表が水没した頃、若い世代の者たちに『メティス』と呼ばれる不思議な力が宿った。

世間からは、"人類の進化"という説が出たり、"エセ超能力者"と罵る事態も起きた。

 

このような事態に政府は、メティスを目覚めさせた若者を監視し、その若者本人にメティスをコントロールするために"澄之江学園"を設立。

一般学生も通うこの学園を先駆けに、同じメティスのカルキュラムが用意された公共施設が増え始めた。

 

そして、80年あまりの時が流れた現在、メティスに目覚めた人が世界の人口の6割にまで膨れ上がり、メティスが"個性"として受け入れられてきた。

反メティスパサーに対する"過激派"や外道的メティス研究所の出現、という問題が根付いているが、ここ十年近くは平和が続いている。

 

この話は、接触者のメティスを複製する『切り札(ジョーカー)』を持つ男、"絶対防御"と呼称される『アイギス』使いの女の、甘くスリル有りの学園生活が語られる。

 

 

 

 

 

 

 

[ガサゴソ、ガサゴソ・・・]

「・・・」

 

俺、"曽良(そら) 大和(やまと)"は自室にて、下着やら生活必需品を旅行バックに詰めていた。

 

「大和~、準備できた~?」

 

「お~う!」

 

下の階の母に大声で応え、旅行バックを片手で肩に担いで下に降りる。

玄関前には、日曜日の休日を満喫していた両親と、少し涙目の妹が待っていた。

妹の"ゆかり"は今年で5歳。歳の離れた兄妹だが、毎日毎日、ゆかりと遊んだものだ。

しかし、それも今日でしばらくお預け。

 

「ううぅ~・・・」

 

「ほら、ゆかり。お兄ちゃんに"行ってらっしゃい"は?」

 

「ぐすっ・・・う、うぇええええんっ!」

 

「もう、ゆかりったら」

 

得意の大泣きを、俺と両親の三人は微笑みながら眺める・・・ああぁ、この泣き顔もしばらく見れなくなるのか。

 

「私、ちょっとゆかりを・・・」

 

「ああ、頼むよ」

 

母がゆかりをリビングの方へ連れていき、俺と親父の二人っきり。

 

「大和。"澄之江"は、良いところだから安心して行って来い。ゆかりの事は心配するな。それに夕花ちゃんもいるんだ」

 

「そうだな・・・じゃあ、俺行くな」

 

「行って来い!」

 

背中を押された俺は、夕日に照らされた外にくり出した。

 

「行ってらっしゃ~い!! おにいちゃ~~~~ん!!」

 

振り向くと、二階の窓から身を乗り出し、手を振る母さんとゆかり。

ゆかりの顔は、涙でぐちゃぐちゃになってて、何かそれが無性に嬉しかった。

俺は、後ろ歩きに歩き方を変え、家が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

(たかが、遠い高校に行くだけで、こんな壮大な別れになるなんて・・・)

 

それが"曽良家"の短所でもあり長所でもある。少なくても俺はそう思う。

俺はそんな感想を洩らしながら、上ヶ瀬市に向かうため最寄り駅に向かう。

そこに俺の待ち人がいるはずだ。

 

(アイツ、元気にしてるかな。もう5年近く会ってないんだよな・・・)

 

脳裏に浮かぶのは、ポワポワとした雰囲気を纏う華奢な少女。

お祭りで奢った花の髪留めを付け、俺の後ろをとことこと追ってくる・・・思い出すと、ちょっとにやけてしまうのは内緒。

昔の感傷に浸っていると、最寄り駅が見えてきた。仕事帰りのサラリーマン達や、下校中の学生達が行き交っている。

その集団の中に、見た事のない制服を着た女子と、それを囲む若い男子学生が三人。

 

(ナンパか?・・・随分と、詰め寄ったやり方だな)

 

女生徒が怖がっているのにも関わらず、学生達は肩に手を置いたり、ボディータッチが多い。

周りの人達は、それを見て見ぬフリをしている。

 

「おい」

 

俺ではない。

俺ではない誰かが、三人に突っかかる。

 

「あ? 何だよ、お前? 関係ねぇだろ」

 

「その子、怖がってるだろう。離せよ」

 

学生はギラギラした眼でガンを飛ばしたが、突っかかったスーツ姿の青年は怖じ気ずに睨み返す。

すると、学生はいきなり腕を振りかぶって青年の頬を殴りつけた。

 

「『ギア2』!」

 

「ぐふっ!」

 

「・・・飛ぶね~」

 

ただ殴られただけなのに、2メートル以上も吹っ飛ぶ青年の体・・・あの学生、メティスパサーだな。

ニュースとかで、こういうメティスを使った暴行事件を多く見ているが、実際に目撃したのは初めてだ。

 

「俺はな、相手に触れた時に起きる力のベクトルを最大六倍にして、ぶつけることができるのさ! ちなみに、今のは二倍な」

 

「くぅ・・・」

 

「俺らに突っかかって来るからだ」

 

へへへっと他の学生二人も笑う。どうやら、あの二人も何らかのメティスを秘めているようだ。

青年は、痛々しく腫れた頬をさすりながら立ち上がる。

 

「そっちがその気なら─────こっちだって本気出すぞ」

 

「何だ? あんたもメティスパサーか? 上等だ、この野郎!」

 

ボキボキと指の骨を鳴らして、戦闘態勢を取る学生達。

それに対して、青年は手にバッチリキメていた髪からオシャレ用のピンを取った。

俺は悪寒を感じた。

青年は、そのピンをたった手首の運動だけで、音速並のスピードで投擲した。

 

「え・・・?」

 

つぅー、赤い鮮血と流れるのは、青年を殴り飛ばした学生の頬。

他の二人は何が起きたのかも分からず、唖然としていた。

野次馬達は、青年の持つメティスが危険と判断したのか、急ぎ足で離れていく。

俺は、目の前のメティス同士のいざこざに目を奪われていて、動こうとしなかった。

 

「て、てめぇっ! 『ギア2』!」

 

「ふっ・・・」

 

殴りかかる学生の拳を、今度は簡単にいなし始める。

またピンを抜いた青年は、学生のスキを狙っているらしく、攻撃に転じていない。

 

「くそっ、『ギア2』!」

 

「さっきから"2"しか言ってないけど、何か理由があるのかな? もしかして、身体が耐え切れないとか?」

 

「っ・・・」

 

「図星か! なら、後手に回る必要はないな!」

 

ピンを持つ手を構え、投擲する青年。

学生は脊髄反射で身を屈める・・・その射線上に俺がいた。

 

「『アイギス』!」

 

「え?」

 

ふわりと蜜柑色の髪をなびかせて、俺の目の前に颯爽と立ったのは、先ほどまでナンパされていた女生徒だった。

彼女が両手を正面にかがすと、まるで見えない壁が出来たかのように、投擲されたピンが弾き飛ばされた。

 

「あ、アイギス・・・」

 

「超レアのメティスじゃねぇか・・・!?」

 

青年も学生三人も驚きを隠せない様子。

それもそのはず。彼女が使用したメティスは『アイギス』。

理論上、戦車の大砲もミサイルすらも防ぐことが出来る"絶対防御壁"。

世界で、ここまで完璧な防御系統のメティスに目覚めている者は一握りで、学生が言う通り超レアもののメティスである。

 

「公衆の場によるメティスの無断使用、メティス同士の戦闘、そして一般人に対する未遂被害・・・これ以上、騒ぎ大きくするのであれば、澄之江学園風紀委員"特殊班"として身柄を拘束します」

 

その女生徒の後ろ姿は、先ほどまでのオドオドさが微塵も残っておらず、片腕に腕章に刻まれた"風紀委員"という文字が輝いている。

俺はその女生徒を観察する。

童顔な顔に大きめの眼鏡をかけ、長髪を三つ編みにして一つに束ねている・・・一言で彼女の印象を例えるなら"可愛い"と断言できる。

・・・しかし、さらに目立つのは、中々お目にかからない巨乳。

こりゃ、ナンパされても仕方がないと言ってもいいほどの、プロポーションだった。

 

「澄之江学園の風紀委員・・・」

 

「しかも、『アイギス』・・・って、ちょっと不味くね?」

 

熱くなっていた青年と学生三人は、徐々に冷静を取り戻してきたようで、"風紀委員"の女生徒とは目を合わせないようにして、そそくさとその場から退散していく。

 

「おい、さっさと行こうぜ!」

 

「お、おう!」

 

「え、え~と・・・じゃあ俺、この後、用があるので」

 

女生徒は、四人の姿が見えなくなるまで俺を庇うように前に立っていたが、いなくなると「ふぅ~~」と一気に緊張を解いた。

 

「あ、あの、助かりました」

 

「え? い、いえいえ! 当然のことですから。えへへ」

 

やべっ・・・見た目じゃなく、全てにおいて可愛いじゃねぇか!?

こんな子、ゲームの世界でしか会った事ないぞ・・・。

 

「じゃあ、私は人を待っているので、これで」

 

「はい。ありがとうございました」

 

頭を下げると、照れた様子で彼女はまた「えへへ」と微笑んで、急ぎ足に駅へと走り去っていった。

さて、俺も"夕花"が待っている場所に行くか・・・。

確か、改札口の前で澄之江学園の制服を着て、待っているとか────

 

「あれ?」

 

そこに居たのは、先ほどの女生徒だった。

風紀委員の腕章は外しているが、確かにあの子だ・・・そういえば、あの子の着ている制服は澄之江のだったな。

 

「あ、あの~・・・」

 

「? どうかしましたか? もしかして、さっきの人達がまた────」

 

「いえ、そうじゃなくて」

 

「???」

 

よく飲み込めていない彼女は、顎に指をあてて首を傾げる。

 

「実は、ここで澄之江学園の人と待ち合わせしてまして・・・」

 

「ぇ・・・」

 

「そいつとは知り合いなんですけど、もしかして、あなたはその人の代わりで────」

 

「大和、ちゃん・・・?」

 

「・・・え?」

 

「大和ちゃん!」

 

どうやら、彼女こそが待ち人・・・"速瀬 夕花"だった。



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一躍、有名人・・・なのか?

「ぶぅぅ~」

 

「わ、悪かったって・・・この通りだ」

 

「プイッ」

 

新幹線の席で並んで座る俺と夕花。

俺は何とか夕花の機嫌を取ろうとするが、夕花は聞く耳持たない。

五年ぶりに会った幼馴染が、自分の事を"赤の他人"として認識されていたのだから、不機嫌になる気持ちも分からなくもない。

だけど────

 

(変わり過ぎだろう・・・)

 

特に胸なんか・・・。

 

「なぁ、そろそろ許してくれよ」

 

「・・・じゃあ、イチゴパフェ奢って」

 

「ああ、分かった。奢るから」

 

コイツは昔から甘いものが───イチゴとソフトクリームが好きだ。

機嫌が悪くなった時、この二つを融合させた一品をご馳走すれば、ほぼ機嫌が良くなる・・・やっぱり夕花なんだな~。

 

「約束だよ! 絶対だよっ!」

 

「お、おい、近いって・・・!」

 

そんなに前屈み気味に近づかれると、どこを視線を送ればいいのか悩むんだよ・・・!

 

「あっ、ゴメンね・・・えへへ」

 

機嫌が逆転した夕花は、嬉しそうに暗くなった外を窓から眺める。

上ヶ瀬市までもうすぐだ。

 

「でも、大和ちゃんが澄之江に来るって聞いた時、ビックリしちゃった」

 

「元々、薦めは出ていたんだ。俺って、メティスに目覚めていないのにMWI値が高かったからな」

 

そう、俺はメティスパサーではない。

しかしメティスの強さに関する数字・・・それをMWI値と言われている・・・が高い。メティスに目覚めていないのにだ。

加えて、ここ半年でそのMWI値がまた上がり始めたため、ついに半強制的に澄之江学園へ編入する事が決まった。

ちなみに、現在の技術なら脳に特殊な測定機を取り付ける事によって、MWI値を測定することが出来る。

 

「何でだろうね? もしかして、もう既にメティスに目覚めていて、大和ちゃん本人が気づいていないだけなんじゃ?」

 

「それは家に来た人にも言われたよ。それを突き止めるために、俺は澄之江へ来ることになったんだと思うぞ」

 

「確かにそうだね・・・でも、途中で学校が変わるの、辛くない?」

 

心配そうに見つめてくる夕花とは、小学一年生から五年生までの付き合い。

つまり夕花は最後の六年生の時、違う地方で過ごした・・・だから、同じ立場に置かれた俺の事を案じているのだろう。

実は、その転校の理由はメティスに覚醒したからである。

余談だが、その覚醒時に俺は近くにいたのだが、それが『アイギス』だとは知らなかった。

 

「辛くはないが、寂しいっちゃ寂しいな」

 

あっ! 言い忘れていたが、俺は高校生1年生。

そして今は八月・・・夏休み中なのだ。

小学校からの付き合いのある奴、新しく出来た友人としばらく会えないのだから、寂しさの一つは必ずある。

 

「そう・・・だよね。寂しいよね」

 

「だけどさ、夕花がいてくれるから、寂しさは軽減されてるな」

 

「ふぇ・・・そ、そう///?」

 

「おうっ」

 

「え、えへへ~」

 

照れた様子の夕花の面影が、子供の頃の夕花と重なる。

その仕草に、俺までも照れてしまって、それから二人の間に会話がなくなった。

そしてアナウンスが目的地である上ヶ瀬市に到着した。

そこから、澄之江学園のある人工島"上ヶ瀬市澄之江都市町"に向かう専用の列車に乗った。

その間も会話はない・・・っていうか、何を話していいのか分からなかった。

 

『次は、"澄之江学園前"。"澄之江学園前"』

 

「着いたね」

 

「着いたな」

 

そう言い合うと、途端にドクンドクンッと緊張し始めた。

それを感じ取った夕花が、汗ばんだ俺の手を握る。

 

「大丈夫だよ。良い人ばっかりだし、大和ちゃんならすぐに馴染めるよ」

 

「・・・ああ、ありがと」

 

他人の不安感情や緊張に気付きやすい夕花は、こうやって手を握って、よく安心させようとする。

そんな夕花に、俺は微笑んでお礼を述べた。

 

「だけどさ、俺達って高校生だろ。こういうのは、やめようぜ」

 

「? 何が?」

 

「こう手を握ったりとかさ。ほら、俺達って別に付き合ってもいないだろ・・・あと、"大和ちゃん"ってのも」

 

「でもでも、大和ちゃんは大和ちゃんだよ」

 

「これからは"曽良"って苗字で呼んでくれ。俺も"速瀬"って呼ぶからさ」

 

「・・・」

 

「ほら、行こうぜ。速瀬」

 

俺が席を立つと、数秒遅れて夕花・・・速瀬も立って俺の背中を追う。

伏目がちに歩くので、少し危なっかしい。

少年期の俺だったら、ここで手を引いていたのだろうが、先ほど自分が言った事を考えると見て見ぬフリしか出来なかった。

微妙な距離感のまま、改札口を通り、目的地である"澄之江学園"の門をくぐった。

学園敷地内は、まるでお屋敷の庭園のように広く、自然が豊かで、整備が行き届いている・・・しかも、噴水まで設置されているとはオシャレだな。

 

「・・・え~と、俺はどこに行ったらいいんだ?」

 

「・・・」

 

「おーい」

 

「ぁっ、ごめん・・・」

 

・・・明らかに落ち込んでいやがる。

気分の浮き沈みの激しさは、昔のままか・・・。

 

「こっちの広い道に進むと校舎で、あっちの建物が男子寮と女子寮だよ」

 

男子の寮名が『凪波寮』、女子の寮名が『常若寮』という補足を入れておく。

速瀬の誘導中に二つの寮を見比べる。女子寮の方が規模がデカいな。

 

「あとは、『凪波寮』の寮父さんに尋ねれば案内してくれるから」

 

「ああ、ありがと、速瀬」

 

「う、うん、大和ちゃ────曽良、くん・・・」

 

「・・・」

 

苗字を呼ぶだけで落ち込む速瀬・・・そこまで落ち込まなくてもいいじゃないか。

お前のその態度が、俺を極度に追い詰めていることに気付かないのかっ。

 

「あ~、あれだ。さっきの言った事はさ、他人様に聞かれたら恥ずかしいってだけで」

 

「・・・」

 

夕花が顔を上げる。

その表情には、戸惑いと少しの期待が混ざっていた。

 

「まぁ・・・そんなにいつもの呼び方が良いなら・・・好きに呼べ」

 

「[パァァ!]うん! 大和ちゃん!」

 

(はぁ~・・・敵わないな)

 

「バイバ~イ!」と手を振って女子寮に走っていく夕花を見ながら、夕花に対する甘さを実感する。

 

「前を向かないと転ぶぞ~!」

 

「転ばないよ~うわぉっとっとっと~~!?」

 

何とか持ちこたえた夕花が、無事に寮に入るまで、俺はずっとその場で見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、これから生活する部屋だ」

 

"諸塚(もろつか)"先生と言う隆々とした体躯を持つ寮夫に、寮内の案内され、目の前の扉の奥こそが俺が寝床とする部屋だ。

男女関係なく二人部屋で、もちろん俺がこれから生活を共にする"ルームメイト"がいる。

 

「最初の内は戸惑うと思うが、頑張れよ」

 

バンッ、と景気の良いもみじを背中に叩き込む諸塚先生。

とりあえず、俺はノックをしてから寮室に入った────。

 

「お邪魔しま~す」

 

「お? ようやく来たな、新入り!」

 

ノリのよさそうな奴が、ベットの上でエロ雑誌を読みながら出迎えてくれた。

・・・なるほど、コイツは一目はばからず変態になれる奴なんだな。珍しい男だ。

 

「俺、"海老名 比呂"だ。比呂って呼んでくれ」

 

「曽良 大和だ。大和でよろしく」

 

差し出された手を握り、固い握手を交わす・・・すごいな。比呂のフルネームの前後一文字ずつを取ると"エロ"になる。

 

「うっし! お近づきの印として・・・俺の秘蔵コレクションNo.20を進呈しよう!」

 

言動も"エロ"に沿っている・・・比呂はそういう星の元に生まれたんだろうな。

俺も男なので、進呈されたコレクションを手に取って表紙を見る・・・『巨乳美女の○○◯』。

 

「巨乳派か?」

 

「当たり前だ! あの双丘に男のロマンが詰まっているんだ!・・・まさか貴様────!」

 

「俺も巨乳派だ」

 

比呂ほど中毒になっていないが・・・。

 

「だよな~! じゃなかったら、お前にナニが付いている事に疑いを持つところだったぜ」

 

夕花の言う通り、すぐにこの学園に馴染めそうな気がしていた。

その後、俺と比呂は消灯時間まで他愛もない話で過ごした。

比呂も俺と同じく、メティスに目覚めていないノーマルだという事。

バスケ部の期待のエースとして活躍している事。

不可思議なメティスを間近で見たいがために、澄之江学園を受験した事・・・色々、聞いた。

 

「へぇ~、MWI値がね~・・・メティスに目覚めていないのにか?」

 

「家に来た学園関係者が言うには、実はもうメティスに目覚めているけど実感がない・・・だとさ」

 

「なるほどな~・・・あっ、話は変わるけどさ。おっぱいって────」

 

「いや、変わり過ぎだよね?」

 

そんなバカみたいな話を続けながら、一緒に床につく。

 

「明日は確か、選択授業があるんだけどさ」

 

「うん」

 

「メティスパサーは実技授業と特別講習があって、俺みたいなノーマルは体力強化メニューとか美術の授業がある。大和は、どっちを受けるんだ?」

 

「さぁ? たぶん、メティスが覚醒するまで比呂と同じ授業を受けるんじゃないか?」

 

「やっぱそうか・・・まっ、何か困ったら俺でも良いから言ってくれ」

 

「おう。ありがと」

 

ベットに身を沈めていると、眠気がどんどん強くなってくる。

・・・あ~、ついでに夕花について聞いとくべきだったな。

アイツが風紀委員に所属して、世界で一握りしかいない『アイギス』使い手で、男子四人に対して堂々と出来るようになっている事に驚いたものだ。

まっ、それを明日に回すとして、さっさと寝よう────

 

「ぐがぁぁぁ・・・ぐがぁぁぁ・・・!」

 

(・・・う、うるせぇ~~~!)

 

 

 

 

 

 

 

結局、その夜は一睡も出来なかった。

 

「ぐがぁあああ・・・! ぐがぁあああ・・・!」

 

(まるで悲痛の叫びだな・・・これは果たしてイビキと分類していいのだろうか?)

 

ダルイ身体を起こして、めい一杯顔に水かけ、新調された制服に袖を通す。

澄之江の手提げ鞄に必要なものを詰め、財布の残額を確認・・・2000円。

時刻はただいま7時少し前。まだ食堂もやってないし、登校にしては早過ぎだが、少し敷地内をぐるぐる回りたいな・・・。

 

「ぐがぁあああ・・・! ふがっ・・・!」

 

この騒音から逃れるように俺は寮室を出る。

寮を出る手前、自動ドアの脇にある寮父室から諸塚先生が声をかけてきた。

 

「おはよう、曽良。早起きなんだな?」

 

「おはようございます。まぁ・・・ルームメイトが、その・・・」

 

「あ~、やっぱりか。あのイビキのせいで、何人もの生徒が部屋替えを希望してな・・・もう余っている部屋はないんでな、我慢してくれ」

 

「そ、そうですか・・・」

 

学校に馴染む前に、あのイビキに耐性を持たないと、身体が持たないって事か・・・良い奴なんだがな。

 

「ああ、そうだ。分かっていると思うが、先に職員室に顔を出しておけ。俺ももうすぐ校舎に行くが、一緒に来るか?」

 

「・・・いえ、せっかくなんで、俺はちょっと学園を見学します」

 

「あんま、そこら辺を歩き回れるのは困るんだが・・・まぁいいだろう。だが、登校時間は守れよ」

 

「分かりました」

 

寮を出るとまだ空は薄水色。

俺は、瞼を思いっきり抓って、とりあえずそこら辺をぶらついた。

まずは校舎・・・ここ近年、設備やマネーの電子化が進み、かなりハイテクになっている。

目の前にそびえる校舎も、あらゆる箇所にその時代の背景が見えており、依然通っていた学園よりも金をかけている気がした。

校舎を通り過ぎ、その裏手にある中庭へ向かう。

中庭は校舎と違い、質素なイメージを受ける。しかし草木の手入れは行き届いていて、過ごしやすい場所のようだ・・・昼食をここで取るのも一興だろう。

 

「ん?」

 

その中庭の奥・・・中庭から繋がる細い道の方から人の気配がする。

気になってその道を行くと、上品な白いテラスがそこにあった。

そして、優雅にお茶を楽しむ女子生徒も・・・。

艶やかな髪をなびかせて、茶だけでなくその場の空気すらを堪能しているその女子は、どこかのおとぎの世界の住人のようだった。

 

「・・・」

 

俺と女子と目が合う。

 

「あら? こんな朝早くに、ここを訪れる方がいるとは・・・見ない顔ですけど、もしかして"曽良 大和"さん?」

 

「そ、そうですけど・・・何でそれを?」

 

「これでも私は、"祐天寺"の者ですから・・・祐天寺という名ぐらい聞いた事あるでしょ?」

 

・・・・・・・・・

 

「いえ、まったく」

 

「[ガクッ!]・・・そ、そうなんですか。それは失礼しました」

 

俺の答えがあまりにもおかしかったのだろうか? まぁ、知らないもんは知らない。

 

「コホンッ」

 

咳払いで調子を戻す女子は、席を立ってスカートの両端をつまんで上品にお辞儀した。

 

「私は"祐天寺 佳織"、二年生よ。初めまして、曽良君」

 

「ご、ご丁寧にどうも・・・」

 

「せっかくだから、一緒にお茶でもどう?・・・ぽち」

 

「ハッ」

 

「っ?! い、いつの間に後ろに・・・?」

 

まるで忍者のように俺の背後から参上した女生徒は、女性にしては背が高く、目もキリっとしていて"格好良い"という印象を受けた。

そんな女生徒の手には、ティーセット一式を持っている。

すぐに俺を抜き去って、祐天寺先輩が座っていたテラスのテーブルに一つのカップが用意された。

 

「彼女は"景浦 智美(さとみ)"。代々、祐天寺に仕えているボディーガードの家系なの・・・ほら、彼女の淹れた紅茶は美味しいわよ」

 

「恐縮です。では失礼します」

 

静かに一礼した姿は、女王に忠誠を誓う騎士のようだった。

俺の方に歩いてくる景浦さんに、一瞬の隙もない。

 

「実を言うと、あなたが中庭に着いた時から背後にいましたよ」

 

[ビクッ]

 

丁度、景浦さんが俺の真横に立った時に、囁かれた言葉に恐怖を覚えた。

振り向いた時には、彼女はもう姿を消している・・・。

 

「ほら、こちらにどうぞ」

 

「は、はい・・・」

 

引かれた椅子に座り、湯気をたてている紅茶のカップに口をつける・・・うん、美味い。

 

「う~ん、こうやって他の人とお茶をするのは久々だわ・・・そうだ、曽良君のメティスについて教えてくれない?」

 

「いや、俺にメティスはありませんよ」

 

「ん? じゃあ、何で澄之江に編入できたの? 原則として澄之江は編入制度を設けていないはず」

 

俺は、ここまで澄之江に来た経緯を説明した。

すると、先輩は不思議そうに腕を組んだ。

 

「MWI値が高いのに、メティスに目覚めていない・・・もしくは気付いていない・・・ちなみに、MWI値はどのくらいなの?」

 

「確か、最後に測った時は180ジャストでした」

 

「"180"っ!?」

 

それを聞いた先輩は、勢いよく立ち上がる。目の前にあったカップは、ガチャガチャと揺れたが零れることなく揺れに堪えた。

 

「やっぱり、すごいんですか? この数字」

 

「すごいも何も・・・[ブルルルルッ、ブルルルルッ]」

 

先輩の制服のポケットから薄っぺらい携帯端末機から、バイブ音が聞こえてくる。

その端末の画面を見た先輩が「もうこんな時間」呟いた・・・どうやら、今のバイブ音はアラームの音だったらしい。

 

「アラームなんてかけているんですか?」

 

「ええ。私って、よくボ~っとしちゃって時間を忘れてしまうのよ。だから、こうやって逐一アラームをかけているの」

 

俺も自分の携帯で時刻を確認すると、寮を出てからもう1時間以上は経過していた。

そろそろ、職員室の方に行かないと・・・。

 

「すみません。じゃあ、俺はこれで失礼します」

 

「あっ、ちょっと待って!」

 

席を立った俺の制服の袖を掴んだ先輩。

だが、自分の咄嗟の行動を恥じて、すぐに手は離された。

 

「えと・・・何か?」

 

「出来れば、先ほどの話の続きをしたかったけど・・・放課後でもいいかしら?」

 

「すみません、実はちょっと用がありまして・・・」

 

夕花にパフェを奢んなくちゃならない・・・昨日の今日で連れていかないと、余計に拗ねてしまうからな。

 

「そう・・・じゃあ、また明日、この時間に会えないかしら?」

 

「わ、分かりました」

 

結構、強引な人だな・・・と、そう思いながらテラスを後にし中庭に出る。

 

「そこの人」

 

「ん?」

 

すると、女の子の声がしたので周囲を見回したが、誰もいない。

 

「ここだ、ここ。新喜劇か、貴様!」

 

「お、おうっ!? 下にいたのか・・・!」

 

見下ろすと、俺の腰あたりに頭があるほど"小っちゃい子"がいた。

アホ毛一本ぴょ~ん、と立っていて見るから小学生っぽいが、その少女の腕章に"風紀委員"と彫られていた。

 

「ゴホンッ・・・ここで何をしていましたか?」

 

「いや、何って・・・そこのテラスの方に」

 

「ああ、祐天寺さんね・・・あの人にあまり関わらない方がいいわ。これは"忠告"だから」

 

「は、はぁ・・・」

 

「そういえば、あなた、見ない顔ですね?」

 

「ああ、俺は─────」

 

その時、"小っちゃい子"の懐から「ピー ピー]と電子音が鳴る。

すると耳の奥に取り付けていたらしいインカムで、俺には聞こえないような声で会話をし始めた。

 

「────分かったわ。じゃあ、私はこれで」

 

「え? あ、はい・・・」

 

「さっきも言ったように、祐天寺さんに関わるのはオススメしないから」

 

そう言い残して走り去っていく"小っちゃい子"・・・見かけによらず速い。

 

「大和ちゃ~~ん!!」

 

今度は、夕花が全力のようで全力に見えない走りで、俺の方にやってくる・・・今日は千客万来だな。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・もう、どこに、居た、の? はぁ、はぁ・・・」

 

そういえば、コイツは体育全般ダメだったな・・・なんて思いながら、膝に手をつき、前屈みになっている夕花の胸元に目が奪われていた。

・・・なんと重量感のある代物だろうか。昨日、比呂と巨乳の話をしてたから、余計に意識が向いてしまう。

 

「何だ? 俺を迎えにきててくれてたのか?」

 

「そ、そうだよ~・・・ふぅ・・・初めての登校だから、一緒にいた方がいいかなって。そしたら、もう凪波寮にはもういなかったし・・・」

 

「そりゃあ、悪かった。まさか、迎えに来るとは考えてなかった」

 

俺が素直に謝ると、特に気にしてない様子で「私も前もって言ってればよかった」と、自分も反省していた。

 

「とりあえず、行こうか」

 

「うん!」

 

俺の一歩後ろをトコトコとついてくる夕花。

中庭を過ぎて裏の校門から入ることが出来るが、原則的に登校時は表の校門から校舎に入らなければいけないらしく、ぐるっと校舎を回る。

 

「あれ、速瀬さんじゃない?」

 

「速瀬さんが男を連れてる・・・?」

 

「嘘だろ、あの速瀬が・・・」

 

道行く生徒達の視線が、とても驚きの色を滲みだしていた。

後ろを振り向けば、そんな視線に気づいてない夕花は、屈託のないニコニコ顔を浮かべていた。

 

「? な~に?」

 

「・・・いや、何にも」

 

「???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが職員室だよ」

 

夕花の誘導のおかげで無事にここまで来れた・・・と言うのも、先ほどまで、殺意ある男子視線に晒され続けていたからだ。

・・・夕花ってモテるんだな。本人にその自覚があるかは怪しいが・・・。

 

「たぶん私と同じクラスだから、またあとでね」

 

「ああ、ここまであんがと」

 

「どういたしまして♪」

 

そして、夕花は自分のクラスへ向かっていった。

途中振り向いては、手を振ってくる・・・俺もそれに応えて振り返し続けた。

 

「何やってる? さっさと入って来いよ」

 

「あっ、すんません・・・」

 

職員室から顔を出した女性教師に手招きされて、俺は我に返った。

 

「私が1年B組の担任の"新(あらい) まどか"だ。まだ新人だが、これでもメティスの実技授業の主任顧問を務めているから、あんま舐めてかかると痛い目みるぞ」

 

そう笑いながら言う先生は、"新人"と見えるぐらい若かった。

スラッとしていて、今まで会ってきた男よりも男らしさが滲み出ている。

 

「うっし、なら行くか」

 

新先生は、クラスの出席簿を片手に持って、俺を連れて1年B組に向かう。

道中、先生が俺のMWI値について尋ねてきた。

 

「扇(おうぎ)さんから事情は聞いている。私も、お前自身がメティスの覚醒に気付いていないと思っている」

 

"扇 一義(かずよし)"・・・俺の家に澄之江学園の編入を薦めた四十代の男性。

"メティス研究澄之江本部"の専務兼取締役のお偉いさんらしいが、とても腰が低く柔らかい印象を受けた。

 

「それで一つ質問なんだが、お前に"夢"はあるか?」

 

「夢・・・?」

 

はて? 俺にそんな大層なものはない・・・はず。

 

「特にありませんけど」

 

「なら、測定の時に何を思い浮かべていた?」

 

「う~ん・・・測定中は暇だったから、ゲームの事とか漫画の続き何かな~?とか・・・あと、ああいう暇な時はよく昔のことを思い返したりしてましたね」

 

「もしかしたら、それかもな。お前の欲望(メティス)の源はそこにあるのかもしれない」

 

意味深な解答をこぼした先生。

俺は、その言葉の裏付けをつけるために過去を顧みてみる。

最初に思い浮かんだのは、夕花の事だった。

初めて会った日・・・初めて遊んだ事・・・夕花が俺を"守ってくれた"出来事・・・。

 

「さぁ、今日からお前の教室だ。呼んだら入って来い」

 

そう言って先生は、先にB組のクラスに入っていく。

先ほどまで騒いでいた生徒達の声が静まった。

事務連絡をほどほどに済ませた先生は、編入生の話を持ち出した。すると、クラスの連中がまた騒ぎ出す・・・女子だけっていうのが、ちょっと気になるが。

 

「よーし、入って来い」

 

「はい」

 

俺が教室に入ると、クラスの連中は舐めまわすように俺を観察してくる。

・・・動物になった気分だ。

特に、男子からの視線が痛々しい。その中に比呂もいた。

 

[ニコニコ]

 

夕花と目が合うと、屈託の無い笑顔を俺に向けてくる。

 

「曽良、自己紹介を」

 

「曽良 大和です。"メティスパサー推薦"を利用して編入してきましたが、まだメティスに目覚めていません。これからよろしくお願いします」

 

「一応、しばらくの間は速瀬に曽良の事を任せてあるが、みんなも支えてやってくれ。以上、SHRを終わりにする。号令を」

 

「起立、礼」

 

真面目そうな女生徒が号令をかけた。

 

「大和ちゃん。大和ちゃんの席はこっちだよ」

 

[ギロッ]

 

「あ、ああ」

 

やっぱり「大和ちゃん」は止めた方が良かったか・・・? 男子の視線に殺意が滲み出てやがる。

 

「こうやって隣同士に座るの久しぶりだね」

 

「あ~、確かにそうだな」

 

「えへへ~」

 

さっきから、夕花はにやけっぱなしだ。

すると、俺の前に座る女生徒が振り向いて話しかけてきた。

 

「曽良君、だっけ? 君がかの有名な「大和ちゃん」なんだね」

 

何かスポーツでもやっているのか、女生徒の骨格はしっかりしていてスタイルも無駄なところがない。

背も女子の中では高い気がする。

 

「え、え~と・・・」

 

「大和ちゃん、彼女は"雪路(ゆきじ) 美香"さん。陸上部のエースなんだよ」

 

「エースっていってもウチの部は、弱小だけどね・・・あっ、私の事は美香で読んで。苗字で呼ばれるの嫌いなの」

 

「じゃあ俺も大和でいいよ・・・それで、"かの有名な「大和ちゃん」"って?」

 

「ああ、それはね~────」

 

「わぁー! わぁー! ストーップ ストーップ!」

 

手をぶんぶん振って話の腰を折る夕花。

顔はリンゴみたいに真っ赤になって、今にでも頭から湯気が出そうだ。

 

「ごっめ~ん、やっぱ言うのやめる」

 

「大丈夫さ。俺にはもう一人、情報を提供してくれるやつがいる」

 

二人が"?"を浮かべ、俺はルームメイトである比呂の元へ。

 

「比呂、ちょっといいか?」

 

「・・・」

 

「・・・比呂?」

 

背中に声をかけても比呂は、振り返るどころか返事すらない。

何事かと思い、さらに近づこうと────

 

「寄るな」

 

「へ?」

 

「寄・る・な」

[ギロッ]

 

「ぃっ!?」

 

チラッと合う比呂の眼は、ひどく血走っていて、隙を見せたらかみ殺されるという錯覚が襲った。

俺は、本能に突き動かされてすぐさま自席へと避難した。

 

「ど、どうしたの、大和ちゃん?」

 

「顔真っ青だけど」

 

「い、いいいや、何でもないヨ?」

 

この瞬間は、ただの序章に過ぎない気がした。

・・・ただ、これだけは言える。

 

(ある意味、この学園内で有名人になったようだ・・・不安だ)



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目覚め

・・・


[キーンコーンカーンコーン]

 

「お、終わった~・・・」

 

ダルイ授業より、ピリピリした男子の視線が・・・。

既に、クラスの連中はグループを作って教室を出ていっている。

 

「大和ちゃん、大丈夫?」

 

「[キョロキョロ]・・・ああ、まぁな」

 

「???」

 

周囲を警戒しながら夕花に答える。

 

「じゃあ、夕花、私は部活に出るから。大和もまたね」

 

「うん、またねっ」

 

「また明日な」

 

雪路は、エナメルバックを肩に担いで教室に出ていった。

・・・そろそろ、俺も出ようかな。

 

「うっし・・・夕花。この後、予定とかあるか?」

 

「ううん。今日は非番だから」

 

非番・・・? あ~、そういえば、夕花は風紀委員だった。

しかも、その委員の中でも実力のある"特殊班"というのに所属しているとの、雪路からの情報である。

ちなみに、昔は"特別取締り班"と呼ばれていたらしいが、「学園内の安全を確保するため、メティスを行使して風紀を保つ特別班」という名目が付き、"特殊班"と名称になったようだ。

 

「んじゃ、イチゴパフェの食える場所に行くとするか」

 

「えっ!? いいの!?」

 

「・・・涎、垂れてるぞ」

 

「///!?」

 

 

 

 

 

 

 

「ん~~~♪♪♪」

 

「・・・本当、美味しそうに食べるな」

 

『ヴィルフランシュ』という名前の喫茶店で、約束通りイチゴパフェを奢った。

しかもスペシャルサイズなので、値段が1000円を超えている・・・まぁ、あえて俺はそれを奢ったのだが。

 

「♪♪♪」

 

この幸せそうな顔を見れるだけで、なけなしの金を注ぎ込んだ甲斐があるってものだ。

 

「そういえばさ、おじさんとおばさんは元気か?」

 

「っ・・・」

 

「夕花?」

 

さっきまでのポワポワした空気が、一気に凍り付く。

 

「どうしたんだよ?」

 

「・・・あ、あのね。お母さんとお父さんは─────」

 

「きゃあああああっ!!」

 

「「っ!?」」

 

悲鳴が轟いた後、パリンッパリンッ! 皿が店内の床に飛散した。

その後、男たちの怒号が響き渡ってきた。俺達は顔を見合わせて、すぐにテラスから店内に駆け込んだ。

 

「────この野郎、もう一度言ってみやがれ!」

 

「ああ、何度でも言ってやるよ。女にしかデカい面が出来ない弱虫小僧共ってな」

 

屈強な体躯を持つ男子生徒に、二人の男子生徒が突っかかっている。

野次馬はその様子をただ遠巻きに眺めていて、その中でもウェイトレス姿の背の低い女子が、どうしていいのか分からずにオドオドしていた。

 

「大和ちゃん、危ないから下がってて」

 

「お、おい夕花────」

 

俺が止めに入る前に、夕花が一歩歩み出た。

制服の腕に"風紀委員"と彫られた腕章を付け、堂々と一言を発した。

 

「止めなさい!」

 

「ああ?────げっ! 風紀委員!?」

 

「これ以上、騒ぎを大きくするなら実力行使で連行します」

 

パフェを幸せそうに食べていたあの夕花は、もういない。

腕章を指で見せびらかし、堂々と男たちの前に立つその姿に、俺はまたもや見惚れてしまった。

 

「チッ・・・行こうぜ」

 

男二人はそそくさと退散し、相手の男子生徒も舌打ちを打って喫茶店を出る。

 

「ま、待って、ガンちゃん!」

 

その男子生徒を追うのは、先ほどオドオドしていたウェイトレス。

・・・あの二人、知り合い同士か?

 

「ふぅ~・・・大和ちゃん、戻ろっか」

 

「いや、まぁいいけどさ・・・めっちゃ注目を浴びてるぞ」

 

「ふぇ?」

 

ようやく、そこで夕花は周囲に意識を向けた。

店の従業員も、野次馬達も「すげぇ!」だの「かっこいい!」だの、黄色い歓声を上げていた。

 

「///」

[グイッ!]

 

「ゆ、夕花・・・?」

 

耳まで赤くした夕花は、俺の手を引いて、店から脱出する。

何で、あそこまで堂々と出来たのに、今はそんなに恥ずかしがっているんだか・・・。

結局、人気のない道をただただ引っ張られ続け、気付けば上ヶ瀬市で恋人の隠れスポットになっている(比呂が情報源)臨海公園まで来てしまった。

 

「おい、もういいだろ・・・夕花っ!」

 

「はうっ!? あ、あれ? ここは?」

 

無意識でここまで来たのか・・・怖ろしい。

 

「ったく、格好いいと思ったが、素がこれじゃあな」

 

「ふぇ? なに?」

 

「いんや、何でもない・・・よっと」

 

近くのベンチに腰を下ろすと、自然に夕花も俺の隣に座った。

"恋人の隠れスポット"と言っても、平日のまだ日が昇っている時間だ。人の気配が無い。

 

「・・・変わったよな、お前」

 

「そう? 大和ちゃんの方が変わったと思うよ」

 

「そうかぁ?」

 

「そうだよ。だって、私の知ってる大和ちゃんは、自分勝手で、無鉄砲で、すぐ頭に血が昇って、すぐに手が出て、嫌なことがあると怒鳴って────」

 

「あー分かった! もういい・・・!」

 

くぅぅ・・・まさか、あの頃の行いが今更になって返ってくるとは・・・!

 

「んで? 今の俺は少しは落ち着いてきたと?」

 

「うん。しっかり大人になってて・・・ちょっと───いいなって」

 

「そ、そうか・・・///」

 

ボソボソとした声だったが、俺にはハッキリ聞こえた・・・"格好いいな"と。

 

「お前も十分、大人になってるよ」

 

「本当!? どこがっどこがっ!?」

 

身を乗り出して聞いてくる夕花の目に、"期待"の気持ちがキラキラと溢れ出していた。

俺は、ちょっと重そうな双丘に目が言ったが、すぐに正面に顔を向けて話を続けた。

 

「ゴホンッ!・・・まぁ、それは追々、な」

 

「え~~」

 

「それよりも、喫茶店での話・・・続きを教えてくれないか?」

 

そう言うと、またもや夕花の表情は曇った。

普通だったら、夕花の気持ちを気遣ってこのまま聞かないのが当然なのだろうが、俺はどうにもそういう気遣いが出来ない。

謎を謎のままで放っておくことに我慢ならないのだ。

 

「・・・うん、分かった。・・・あのね、上ヶ瀬に引っ越した後に、私は上ヶ瀬のメティス研究所に通ってたんだ」

 

「メティス研究澄之江本部、だな?」

 

「うん。私はそこで"セカンド"に関する実験に協力していたんだ」

 

「メティス・セカンド・・・だけど、あれって机上の空論なんじゃないのか?」

 

「私もよくは知らないんだけど、過去にね、『アイギス』使いがその"セカンド"の域に達したって記録もあるらしくて」

 

「なるほどね・・・それで、それとおじさんとおばさんの関係は?」

 

そう投げかけると、さらに表情に影が差した。

しばらく、黙っていた夕花は、一度深呼吸して荘重に口を開いた。

 

「お母さんとお父さんは、そんな実験に明け暮れる私を見て、遊園地に連れていってくれたんだ。ほら、あそこ」

 

指差した先には、今も稼働している観覧車が小さく見える。

『上ヶ瀬ウェンディランド』・・・ここ上ヶ瀬市で、最大級の遊園地である。

でも、あそこは昔───

 

「『パラドックス』のテロが・・・」

 

今から2年前。

『パラドックス』と呼ばれる"メティスパサーを世の中から除去するための攘夷運動を行う"テロリスと集団が、『上ヶ瀬ウェンディランド』の入園者を人質に取った事件があった。

 

「うん・・・それに私も巻き込まれた」

 

「なにっ!? あの事件は────」

 

「死傷者は約100人。その内の殆どがテロリストのメンバーだったけど、犠牲になった一般人もいた・・・あっ、これは世間に発表されてないから誰にも言わないでね」

 

「そんな事はどうでもいいっ!」

 

だいいち、日本は銃の発砲を許さないのに、銃撃戦が起きた大事件だ。

そんな中で、一般人の死傷者が出なかったって事自体がおかしい。

 

「───まさか、おじさんとおばさんは」

 

俺が震える声で聞くと、コクッと夕花の首が縦に動いた。

グラッと意識が飛びかけた・・・あの優しかった二人が────

 

「私のせいなの」

 

「え・・・?」

 

「私はメティスパサー。だから、私を人質にするのは当たり前」

 

「ちょ、ちょっと待てよ───」

 

「銃口をこめかみに突き付けて言うんだ。『悪魔の子、悪魔の子』って」

 

「おい! もういいって!」

 

「でも、お父さんとお母さんは、それに反発して・・・それで────」

 

「やめろって!!」

 

「私のせいなんだ。私のせいで、二人とも殺されて、戦闘が始まって・・・」

 

・・・何で? 何で、笑ってられるんだ?

乗り越えられたからか・・・いや違う。

 

「悪かった」

 

「・・・変わったね、やっぱり」

 

夕花は、ベンチから立ち上がってそんな事を言う。

夕方の日が、彼女の後ろ姿を映している。俺はその姿に少し見とれた。

 

「大和ちゃんは、そんなに思いつめた顔はしなかったはずだよ。「今度は俺が守ってやる!」ってぐらいに、宣言するのが大和ちゃんだよ」

 

阿保抜かせ・・・そんな大見得切った発言、言える訳がないだろう。

でも、振り向かれた満面な笑みを見てしまったら、そんな事も言えなくなってしまった。

 

「お、俺は────」

 

「ここに居やがったか~」

 

「「っ!?」」

 

声が聞こえた先には、喫茶店で険悪なムードを作り出した男子生徒二人組だった。

俺は、ベンチから立ち上がって、夕花を俺の背中に引っ張った。

しかし、すぐに俺を押しのけて夕花が一歩前に出た。

 

「何か用でしょうか? 笹川先輩と水俣(みなまた)先輩」

 

どうやら、この二人は先輩のようだ。

 

「"何か用でしょうか"・・・決まってるだろ。さっきの鬱憤を晴らすんだよ」

 

「よくもあん時邪魔してくれたな!」

 

「上ヶ瀬市全体の風紀を守るのも、委員会の義務です。あなた方の粗暴な行動は、目に余ります」

 

「後輩の癖に生意気なんだよっ! 『シバ・ゲイル』!」

 

一人の先輩がそう叫んだ時、とてつもない強風が吹かれた。

 

「『アイギス』!」

 

すぐさま、夕花がメティスを発動し、見えない壁が俺らを守る。

だが、その瞬間を待っていたかのように先輩の口角が吊り上がる・・・そして、もう一人の先輩の姿が見えない事に俺は気が付いた。

 

「『アイギス』は正面でしか展開できないんだよなぁ! 『アルギス・グラビティ』!」

 

背後に回り込んでいた先輩は、臨海公園に設置されていたベンチを、軽々と持ち上げて投げてきた。

 

「夕花っ!」

 

俺は夕花の腕を掴み、近くの茂みに飛び込んだ。

『アイギス』の盾が消滅し、強風とベンチがぶつかり合って、ベンチはボキボキにへし折った。

 

「くそっ、二人っていうのが気に食わねぇな・・・!」

 

「大和ちゃん、二人が狙ってるのは私だから。だから大和ちゃんは────」

 

「嫌だね。一人だけのこのこ逃げるくらいなら、最後まであがいて、逃げ切ってやる!」

 

「大和ちゃん・・・でも」

 

「いいから黙って、応援でも呼びやがれ!」

 

夕花の手を引きながら、茂みを掻き分け進む。

 

「『アルギス・グラビティ』!」

 

茂みを脱したところで、またもやベンチが飛んできた。

 

「あぶねっ!」

 

「きゃっ!」

 

夕花は通話中で『アイギス』を展開できない。

俺は脊髄反射で、夕花の頭を抱え込み、もう一度茂みの中に逃げ込んだ。

その弾みで、夕花は携帯を落としてしまった。

 

「あっ!」

 

「おい、危ねぇから出るな!」

 

「で、でも───」

 

なお食い下がる夕花をまた無理やりに引っ張って、考えを巡らせる。

 

(何で、俺達が出てきたところが分かったんだ? この公園の規模はかなり広い・・・待ち伏せてたなら、どうやって俺達の位置を?)

 

 

 

 

 

 

「おい、あいつらはどこに行った?」

 

触れた物の重さを変えるメティス『アルギス・グラビティ』を持つ先輩が携帯で、強風を発生させた先輩に連絡を取っている。

 

『そっから反対側の道路だ』

 

「OK・・・それにしても、空気の微妙な流れ、相手がどこにいるかって分かるなんて、便利なメティスだよな」

 

『だろぉ?・・・ん?』

 

「どうした?」

 

『────いや、何でもない。ほら、さっさと行かないと逃げられるぞ』

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

「いや、何でもない。ほら、さっさと行かないと逃げられるぞ・・・[ピッ]・・・ふぅ」

 

「て、てめぇ・・・!」

 

俺の足元でボコボコにされて地面に伏している先輩は、鋭い目つきで俺を見上げる。

久々に喧嘩とかしたから、ちょいと手こずったが、メティスに頼り切る野郎に勝つのはそう難しくない。

メティスを発動させなければいいのだから・・・。

 

「なんで、俺の能力が分かった・・・?」

 

「一回の待ち伏せで、大方の予想はついていたんだ。分からなかったのは、先輩が"強風を起こす"能力と"風の流れを察知できる"能力の二つがあるってのが、疑問だったんです」

 

だって、もしそうなら強過ぎでしょ。

最初の敵は大抵、強そうに見えて弱いのさ。

 

「先輩の能力は、"強風を起こすメティス"じゃない。周囲の風力や風の向きを感知できるメティス・・・まるで────」

 

「大和ちゃ~ん! 言われた通りに回ってきたよぉ~!」

 

「おう、サンキュ。じゃあ俺達はここで帰りますよ────」

 

「待ちやがれっ!」

 

「っ! 『アイギス』!」

 

飛んできた自動販売機を夕花のメティスが防ぎ、[ガコンッ!]と自動販売機はアスファルトに重々しく落ちた。

もしこれが直撃していたら・・・と思うと、ぞっとするぜ。

 

「随分と早いですね。もっと稼げると思ったのに」

 

「口真似なんてせこいメティス使いやがって! もう容赦しねぇ!」

 

メティスじゃなくて、特技なんだが・・・。

 

「待ちたまえ!」

 

「っ!? 誰だっ!?」

 

「委員長っ!」

 

向こう側から、背の高い男子生徒とそれを取りまく男女生徒が五名。

 

「夕花、大丈夫!?」

 

その中に、朝方に会った小っちゃい女生徒がいた。

 

「我々は風紀委員だ。メティスの無断使用に加えて公共物の破壊、これだけで反省室行きの処分になる。大人しく付いてきてくれると助かるのだが」

 

「な訳ねぇだろっ!」

 

もう手持ちに投げ飛ばせる者がない先輩は、夕花が"委員長"と呼んでいた背の高い生徒に殴りかかる。

 

「『アルギス・グラビティ』」

 

「うぐぅっ!?」

 

委員長は一切動いていない。

しかし、殴りかかった先輩はその場にうつ伏せに倒れた・・・いや、メティスの力でねじ伏せられたのだ。

 

「お、俺と、同じ、能力だ、と・・・!」

 

「メティスネームは同じだが、仕様は違う。詳しく知りたくば、しっかりと授業を受ける事だね・・・連れていけ」

 

「ハッ」

 

二人の風紀委員が未だに暴れる先輩を、残りの二人は伸びている先輩をタンカーに乗せて運び出す。

 

「大丈夫だった、夕花?」

 

「はい。大和ちゃんのおかげで」

 

「・・・曽良 大和」

 

ん? 何か目つきが朝方の時より鋭いような・・・ってか、殺気が滲み出ているような?

 

「速瀬君と曽良君、無事で何よりだ。しかし速瀬君、何かが起きた時は単独行動は厳禁だと、風紀委員会の訓示にあるよね?」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

「でも、被害は少なくて助かった。ありがとう」

[ナデナデ]

 

「・・・」

 

何だ、コイツ? 何、馴れ馴れしく夕花の頭を撫でてやがる。

しかも夕花自身、気持ちよさそうだし・・・あれ? すっげぇムカついてきた。

 

「うん? 曽良君も撫でてあげよっか?」

 

「結構です」

 

ムカつく上に気持ち悪い・・・。

 

「よし、学園に戻ろう。二人を教員に引き継ぐまで気を────」

 

「うぉぉ! 離しやがれえぇ!」

 

「うわぁぁ!?」

 

俺らが気付いた時には、一人の風紀委員が宙を舞っていた。

後ろに回された両手に拘束具が取り付けられているのにも関わらず、抑え込もうとする風紀委員を軽々と蹴り上げていく。

 

(いや、メティスの力で風紀委員の奴らの体重を軽くしているのか)

 

「逃げるが勝ちだ!」

 

先輩自身も体重を軽くして、一気に跳び上がって逃亡しようとする。

が────

 

「逃がさない、『アルギス・グラビティ』」

 

「ぐわぁっ?!」

 

「『アイギス』!」

 

先輩は再び地面にねじ伏せられ、宙に投げ出された風紀委員を夕花の『アイギス』が受け止めた。

 

「古里さん」

 

「はいっ。『ダイダロス』!」

 

小っちゃい子が地面に手を置くと、ねじ伏せられた先輩に向かって、光の筋がアスファルトを這っていく。

 

「な、何だ何だ!?」

 

光が先輩に到達すると、アスファルトが粘土のようにうねりだして、先輩の体を取り込んでいく。

 

「翠(みどり)先輩の能力は、あらゆる物体の形状を変化させられるんだよ」

 

夕花が補足を入れてくれたが、俺は違う事に驚いた・・・先輩だったんだ。

 

「くそぉ! もう反省室は懲り懲りだぁ!」

 

「ならこれをキッカケに、心を入れ替える事をお勧めするよ」

 

「ふっざけんなっ! うぉおおおおおおっ!」

 

往生際の悪い先輩の咆哮が、臨海公園に響く。

 

[ふわっ]

 

「え?」

 

気付けば、俺達の体はふわりと宙に浮いていた。

 

「うがぁあああああっ!!」

 

「O.C.(オーバーコンセントレーション)!?」

 

「このタイミングで、か・・・」

 

古里(小っちゃい)先輩が言った単語に、委員長が冷静に呟く。

O.C.・・・簡単に説明すると、メティスに意識を乗っ取られて起きる、メティスの暴走状態だ。

よくこれで、メティスによる事故が起きている。

 

「速瀬君。『アイギス』の準備をして、みんなが落ちたら受け止めるんだ」

 

「・・・」

 

「速瀬君?」

 

「あ、夕花は高い所ダメなんですよ」

 

[きゅ~~~]

「がくっ」

 

「ああぁ! 夕花がっ!」

 

小っちゃい先輩が青くなっている夕花に近寄ろうとしても、まるで無重力空間にいるみたいにその場でじたばたしているだけだ。

唯一、夕花の近くにいた俺は、夕花を手繰り寄せ、自分の体に密着させた。

 

「ふ~ん、どうしようか?」

 

「別に、あなたのメティスを使えばみんな助かるんじゃないんですか?」

 

ずっと発狂して暴走状態の先輩は重力を操作するメティス。

同じ系統のメティスを持つ委員長先輩なら、対処できるだろう。

 

「いや、私のメティスは、地表から3メートル以内の物体のGを増大させるものなんだ・・・もう軽く20メートルは超えてしまったよ」

 

「え? じゃあ、どうするんです、これから?」

 

「う~ん・・・どうしよっか?」

 

「「「"どうしようか"じゃないです!」」」

 

小っちゃい先輩含む風紀委員全員とハモった。

全員がこういう反応するという事は・・・まさか打つ手無し!?

 

(おいおいおいおいおいっ! マジでどうすんだ!?」

「起きろっ、夕花! 今はお前の力が必要なんだっ!」

 

「ううぅ~・・・」

 

必死に肩を揺り続ける間、俺らの身体は50メートル上空まで上昇していた。

しかも、発狂していた先輩の声が弱くなっている・・・もしかして、このまま真っ逆さま!?

 

(編入してまだ一日目だぞ! 何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!? 風紀委員どもは使えないし、肝心な夕花は気絶中だし・・・!)

 

「ぅぁ・・・ぁ・・・」

 

「ぅっ!?」

 

「「「うぁわあああああああっ!!??」」」

 

ついに、俺たちは50メートル以上の高さから落下を始めた。

俺は必死に夕花の身体を抱きしめる。

 

『大和ちゃんは、そんなに思いつめた顔はしなかったはずだよ。「今度は俺が守ってやる!」ってぐらいに、宣言するのが大和ちゃんだよ』

 

(そうだ。俺が・・・俺が守るんだ!)

 

でも、どうやって・・・?

 

(俺に、夕花と同じ能力が・・・夕花の"代わり"が出来ればっ!)

 

[ッッッ]

「え・・・?」

 

何かが俺の中に入ってくる・・・これは、夕花からなのか?

────いける! 俺が俺を信用すれば・・・夕花を信用すれば!

恐怖に震える体と心を抑えつけて、俺は肺に空気を送り込む───そして叫ぶ。

 

「『アイギス』!」




・・・


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