まれびとの旅 (サブレ.)
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少年編
第一話


原作準拠でやっていきます。アニメ要素は一部お気に入りのみ取り入れていく予定です。


異世界トリップとか、憑依とか、そんな言葉が昔俺が住んでいた世界にあった。どうやら俺は、魂だけで異世界に渡り、そのままとある病魔に侵された少年の肉体に受け入れられた、らしい。

細かいことは覚えちゃいない。原因が何かなんてどうでもいい。この世界から見た異世界、いわゆる前世の記憶も、もう大昔のものになってしまった。

兎にも角にも、この世界に俺の居場所なんてなかった。全く別の世界から迷い込んできた異端の魂。気まぐれにも似た偶然で俺の魂を迎え入れた、病を抱えた肉体以外には。

俺の魂は、この瞬間の肉体にしかいられない。一つの肉体に二つの魂なんてイレギュラーになった瞬間、肉体は老いることを止めた。両親が亡くなり、故郷が消えて、星が滅びてなお、身体は病気でボロボロの状態のまま止まり続けた。

 

そんな身体でも、動かなければならない。立ち止まってしまえば、永遠という拷問から逃れられなくなる。

 

そうして、何百年も経過した。

星から星を渡り歩き、時には海賊と、時には銀河パトロールと行動を共にした。多くの知識を得て、瞑想を行い、技を身につけ、気を集める。

 

そうやって過ごしていた何百年目、とある噂を聞いた。

願いを叶える球があるらしい。ナメック星人が生み出した願い玉を使うことで、どんな願いも叶えられると。

探ってみると、それは二つの星にあった。一つはナメック星に、もう一つは地球に。

チキュウ、という響きには心当たりがあった。俺の魂が本来存在していた星も、こんなふうに呼ばれていた、気がする。今も昔も、あまりに縁深い星だ。

だから、地球に行くことにした。

 

+++++

 

願い玉は、七つ集めることで願いが叶う、らしい。情報はそれしかない。

とりあえず第一地球人を探そうと思う。木と土と岩と、とにかく文明が感じられない山の中を歩いていると、小さな子供がいた。尻尾が生えていた。

 

「……いやサイヤ人じゃねえか」

 

地球に来て最初に出会うのが異星人ってどんな確率だよ。というかサイヤ人って絶滅してたんじゃなかったか?なんで宇宙の絶滅危惧種と初手で邂逅してるんだ俺は。というかよく無事だったな、地球。宇宙に悪名高き地上げ屋だぜ?誇れることじゃねえな。

 

「なんか言ったか?」

「いや、なにも」

 

それにしても     に似ている気がした。もちろん、こいつに会ったことはない。

だというのに。

どこかで、見たことがあるような気がした。

 

「お前、名前は?」

「オラか?オラは悟空だ」

 

瞬間、耳に蘇ったフレーズに、言葉が詰まった。

この子供はなんと言った?この目を、この顔を、この声を、この名前を、知っている。

 

 

『オッス、オラ悟空!』

 

 

なんてことだ。笑ってしまうほどに馬鹿馬鹿しい。

記憶は朧げだ。ほとんど覚えていない。タイトルと主人公しか知らない。しかしたしかに、ここはフィクションの世界だ。いや、今の俺からしたらこの世界そのものが現実ではあるが、この世界がフィクションとして成立していた場所が、俺という魂の故郷だった。

俺は何も覚えてない。この子供が物語の主人公であるということ以外に、アドバンテージなんて持ってない。

ただ、この子供の存在だけは知っていた。

 

「おめえ、なんていうんだ?」

「俺か、そうだな……」

 

ここ数百年、偽名ばかり使っていた。魂の名前も、肉体の名前も、なんとなく名乗りたくなかった。どちらも今の俺ではないから。だから今まで通りに、偽名を使おう。

 

「稀人だよ」

「マレビトか」

 

稀人。全く別の世界からやっていた異端の客人。同じ響きのはずの地球にすら弾かれる、招かれざる来訪者だ。どこにもいけなかったその理由を、ようやく理解した気がした。

せっかくだ、孫悟空に着いていってみよう。サイヤ人の生き残りの、この主人公の人生がどんな道を歩むのか、見てみよう。

気まぐれだ。ただの永遠への暇つぶしだ。

たまたま俺の魂が知っていたから。それだけだ。

 

「なあ、お前の家に泊めてくれよ。帰る場所がないんだ」

「おう、いいぞ」

 

自分でもどうかと思いつつ頼むと、二つ返事で快諾された。拍子抜けしながらも、悟空の小さな背中に着いていく。猿の尻尾がふよふよ揺れる。気まぐれから始まった関係は、悪くはなさそうだと思った。



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第二話

悟空は育ての爺ちゃんが亡くなって以来ひとりで暮らしていたらしく、男の二人暮らしというものにひどく慣れていた。俺はといえば、こんなにヒトらしい生き方をしたのはいつぶりだろうと感慨に耽っていた。

やっていることと言えば、朝起きて、剣の稽古をして、飯を食って、風呂に入って、時々悟空の修行の相手をして、夜に寝る。それだけだ。

一日というあまりに短い時間で規則的に行われるルーティン。その一日だって全く同じことの繰り返し、という訳じゃない。取れる魚の違い、天気の変化、修行の成果。

そしてなにより。

 

「にいちゃん、メシ取れたか?」

「熊を狩ったぞ。鍋にするか」

「おおっ!」

 

同じ相手との、途切れのない会話だ。気づいたら百年が経過して顔見知りが死んでいた、なんて経験もあるから、なるべく人との関わりは避けていた。

だから、こんな風に日常を共にして、そこまで重要じゃない話をぽつぽつするのは本当に久しぶりだった。大昔の悪友以来かもしれない。ささくれだった心が凪ぐのを感じて心の中で苦笑する。

長い間忘れていたが、寂しかったらしい。たった数日で自覚した。

大きな鍋に解体した肉を放り込んで、キノコと大量の生姜、醤油をぶち込んで煮る。初見のはずの地球の調味料をこんな短期間で使えるのも、昔の知識だろうか。悟空は待ちきれずにでかい魚を焼いて前菜にしていた。こいつよく食うな。やっぱりサイヤ人だ。

 

「ほれ悟空、できたぞ」

「ありがとな。いただきまーす!……アチチ!」

「がっつくからだろ」

 

火傷している悟空に呆れつつも、自分も食事を取る。この体は本来病気のために死にかけで、“気”はほんの僅かしか生み出すことができない。そんな中で過酷な宇宙を旅するなら、外的要因から“気”を補充するしかない。その一つが食事だ。

当たり前だが、食べ物は昔生命だった。だから食物に残っている、栄養やカロリーとはまた別の生命エネルギー、平たくいえば“元気”を余すところなく吸収して肉体に蓄える。イメージとしては、バケツでちまちまと水を運び入れる巨大ダムだ。だから一回一回の食事でさえ俺にとっては修行に入る。

何も考えずに食事をする、ということは、この世界に流れ着いてから一度もしたことがない。美味である必要はなく、むしろ集中を妨げてしまうので味なんて無い方がいい。

 

「にいちゃん、これ美味いな!」

「おー、そうかよ……あ、肉ばっか取るなそれは俺のだ」

 

ただひとつ、病魔に侵されてなお衰えない食欲のおかげで、俺は今も生き延びている。肉体にしがみついている。

この身に宿る本来の僅かな元気が朽ちて無くなったとき、俺の魂がどこに行くか、なんて、考えるだけで陰鬱だ。

どこにも行けないに決まっているのだから。

 

+++++

 

人間らしいルーティンワークは、大昔の、この世界に迷い込む前の前世の記憶を呼び起こす。それに懐かしいなんて感傷を覚える時期はとっくに過ぎ去っていたが、その夢を見るたび、なんとなく悟空を可愛がった。頭を撫でて、風呂を沸かして、物語を語り聞かせて、修行の相手をした。どこまでも自分本位なのは分かっていたが、悟空はキラキラと目を輝かせた。

 

 

「にいちゃん、もっかい!もう一回だ!」

「これ以上はダメだ。風呂入って飯食って寝るぞ」

「ケチ!」

「へいへい」

 

今日も簡単に地面に転がした悟空の首根っこを掴んでドラム缶風呂にざぼんと投げ入れる。ほらなんか歌にあったろ、おいしいご飯にぽかぽかお風呂、あったかい布団がこどもの帰りを待ってるって。

どっか違う気がするけどまあいいか。どうせ正解なんて忘れてるんだし。

カラスの行水よりは長い時間の入浴を終えた悟空の髪を拭いて、飯を食べて、そのあと俺が風呂に入り直して(クッソぬるい)、色々とあったりなかったりした話をして、寝る。ちなみに一番食いついてくるのはこの世界にまだまだいる強い奴の話だ。

……うん、やっぱサイヤ人だわ悟空。

 

「なーにいちゃん、オラどうやったら強くなれんだ?」

「あー、強いやつと戦って勝てばいい。負けても死ななければ前より強くなれんぞ。で、再戦しろ」

 

サイヤ人の特性を思い浮かべつつ、当たり障りのない返事をする。まだまだ俺の方が強いが、患った病のことを思えば、そしてこいつが主人公であることを考えれば、いつかおれは抜かされて悟空の強さを下から眺めることになる。教える側から教えられる側へ、そして、守られる存在となる。自分の強さを、過信するつもりはない。悟空のようなサイヤ人とは違うのだ。

それも良さそうだ、と思った。

前世の自分が、喜んでいる気がした。



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第三話

その日もいつも通りの一日だった。

筈だった。

 

ブルンブルンとエンジン音。ガソリンの匂い。

悟空が慣れない存在に落ち着きを無くしているのが遠くからでもわかる。俺は目が覚めるほどの驚きと、未来への予感を抱いた。いつも携えている剣を背中に固定して、様子を窺う。

 

何かが違う。新しい始まりが近づいている。

 

 

足を向けた先では、ブルマと、悟空が出会っていた。パンパンを始め色々やらかす悟空に思わず眉間を押さえた。何をやっているんだあいつ。思わず尻尾を掴んで持ち上げる。へにゃ、と力の抜けた悟空を抱えた。

 

「おう、悟空が悪かったな」

「アンタ誰よ」

「悟空の家の居候だよ。マレビトとでも呼んでくれ」

「なあにいちゃん、コイツ女だぞ」

「見れば分かるわ」

「えっ!すげぇな!」

 

頭が痛いが仕方ない、うん。

でかい魚を二匹取った悟空と一緒に、とりあえずブルマを招き入れる。家に入って悟空はまずじいちゃんの形見のドラゴンボールに挨拶をした。ら、ブルマの目的はそれだったらしい。

 

「へえ、一人で集めたのか」

「そうよ?大変だったんだから」

「でも、なんでこれ探してるんだ?数珠にするのか?」

「まさか!」

「七つ揃ったら願いが叶うんだよ」

「げー!す、すげぇな!」

「な」

 

なんでこんな球でいろんな願いが叶うのか、改めて摩訶不思議だ。広いな世界。強いなナメック星人。

……なんでナメック星人の願い球が地球にあるんだ。

そんなことを考えてボーッとしてたら、ブルマが悟空を籠絡しようとスカートを自分で捲っていた。やめろ破廉恥な。恥じらいを持て。

 

「ねえアンタからも説得しなさいよ!」

「アンタじゃねえぞ!にいちゃんの名前はマレビトってんだ!」

「じゃあマレビト、何か言いなさいよ!」

「それは悟空の持ち物だから悟空に聞け」

「使えないわね……そうだ!アンタたち一緒に球探しを手伝ってよ!」

「そうきたか」

 

それなら確かに悟空は四星球を持ったままドラゴンボールを集められる。まあ願いが叶ったら石になるんだが、悟空はそこまで気にしないだろうな。なんか一緒に生活してたから分かる。

 

「にいちゃんは行かねえのか」

「いや、行くわ。ちょっと他の球とか興味あるし」

「へえ、二人も着いてくるなら頼もしいわね」

 

そういや俺は元々ドラゴンボールを集めるために地球に来たんだった。すっかり忘れていた。ずーっとここに閉じこもっているよりずっと良いだろう。それに、悟空の歩みをもうしばらく見ていたいし。

あと、悟空の世間知らずがめちゃめちゃ心配なのもある。俺は一応何回か麓の村で情報収集してたけど、悟空それすらしねえんだよ。

如意棒でカプセルの自動二輪車を突っつく様子を見て、不安は確信に変わった。

世間知らずにも程がある。箱入り息子か!

 



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第四話

途中で恐竜に襲われそうになったブルマを助けたり、カプセルから家が出てきたり、電灯に悟空がビビったりしながら旅は進む。おい悟空、お前の故郷地球より技術発展してたろ、と思ったが悟空は頭を打って昔の記憶がないらしい。

なるほど、だから地球は無事だったのか。セーフセーフ。

…………けっこう紙一重だな。

 

 

そんなこんなで一日経過。

朝っぱらからブルマの下着を脱がすという暴挙をはたらいた悟空に鉄拳を下ろし、女性と男性の身体的特徴を説明した。あのな悟空、尻尾が生えてない俺とブルマの方が多数派なんだぞ。キレた(当たり前だ)ブルマに追い立てられるように一度家を出る。

まあ未来のネタバレすると、悟空のパンパン癖はもうしばらく続くんだけどな!

 

 

「にいちゃん、組手やろう!」

「断る。一人でやってろ」

「ケチ!」

「ケチで結構。大体朝はお互い一人で修行やってるだろ」

 

剣を抜く。手入れを怠らずにいたので、側面は鏡のように美しい。まずはゆっくりと、だんだんスピードを上げて素振り。決めた回数をこなしてから、次は決められた型をなぞる。これもゆっくりと、だんだんスピードを上げていく。意識が普段のものから、透き通るような戦闘用のものにシフトする。これは可能な限り自然にしなければならない。ボタンを押すように、スイッチを入れるように。これに手間取ると気を余分に消費してしまう。

 

「にいちゃん!」

「うん?」

 

入っていたスイッチを戻す。透き通っていた世界に色と質感が戻ってきた。振り返ると、悟空がでかい亀を持ち上げて持ってきた。

喋るのはとにかくなんでウミガメがいるんだ。

 

「す、すいません。塩水をいっぱいいただけませんか?できればワカメも添えて……」

「まあ聞いてみるか。おーいブルマ」

 

騒ぎを聞いて顔を覗かせたブルマに頼んで、塩水とリクエストしてきたワカメを添えて出した。ぜいたくなカメねーとはブルマの言葉だが全力で同意する。

そんな謙虚なのか厚かましいのか分からない助けたカメを海まで悟空と一緒に運ぶ。瞬間移動使えばすぐだが、あれ意外と気を消耗するので内心で即座に却下した。距離を考えると走った方が総合的な消耗は少ない。

 

「……なんでブルマが着いてきてんだ?」

「ひとりじゃこわいんだろ」

「……ホッホッホバカ言わないでよ、私の狙いはアンタの持ってるボールよ!」

「素直になりゃいいのに」

 

ブルマと亀を背負った悟空に背を向けて、ぽつりと呟いてから、剣を抜いて鎧を着込んだクマを一殺。あとで食べてもいいけど運ぶのめんどくせえな、地味に。

 

「あ、アンタ強いのね……」

「いや、そうでもない。俺より強いやつは普通にいる」

 

マジモンのヤバい奴らなんてそれこそ山のようにいる。今の俺が調子に乗っていいことなんて一つもない。

つーか親父とか昔の馴染み(たぶん故人)とか俺より遥かに強かったな。あいつに至っては最終的によく分からん進化を遂げてたきがする。なんだ瞬間移動に対応できる未来予知って。チートか!

そんなこんなでカメを海まで送り届けた。悟空とブルマはそのまま砂遊びに移行。俺も休憩、日向ぼっこで太陽からたっぷり気を充電する。気はどんだけあっても問題ないし。うつらうつらしてたら、なんか海からやってきた。助けたカメの背中に乗って海を渡ってやって来た謎の気配。この地球じゃまずお目にかかれないような強さだ。思わず跳ね起きた。

 

「ハロー!」

 

誰だ。

 

「グッドアフタヌーン」

 

どっちだよ。

 

「じいちゃん何者だ?」

「わしは亀仙人じゃ!」

 

うん見た目通りだな。

 

「助けてくれたのはどっちじゃ?」

「おぼっちゃんとそちらの少年の方です」

「俺もか」

「そうかそうか、ご苦労さんじゃったな。ではお礼にすてきなプレゼントをあげてしまおう」

 

悟空と並んで指されて思わず反応する。あれか、熊を倒したのが助けたカウントに含まれたのか。亀仙人はお礼に不死鳥で俺たちを不老不死にしようとしたが、うっかり不死鳥が食中毒で死んでたのを忘れてたらしい。

擬似不老不死の俺としては、正直不死鳥はいらん。永遠とか得てもいいことないぞ。

 

「ウーム、不死鳥を呼んで永遠の命をやろうとおもったのじゃが……よし!では代わりにコイツを……!来るんだ!筋斗雲よーっ!!!」

 

亀仙人が空に向かって叫ぶと、スイッと空をかき分け近づいて来る二つの金色の雲。器用に俺と亀仙人の前でブレーキをかけたそれは、文字通り“雲”だ。亀仙人のものより俺の前に止まった奴の方がやや大きい。

 

「筋斗雲に乗れば、意のままに空を飛ぶことができるのじゃ!」

「マジで!?」

「へーっ空を飛べるのか!」

「スゴいじゃろ!」

 

え、俺の力で空飛ばなくても良くなるのか!?最っ高だな筋斗雲!!!

 

「ただしこの筋斗雲は清い心を持っていないと乗ることはできん!つまり良い子でなくてはダメと言う訳じゃ」

 

お手本を見せようとした亀仙人が、スルッとすり抜けて地面に激突した。ダメじゃねえか。悟空は軽々と乗って楽しそうに空を滑空している。予想通り。

 

「にいちゃんは?乗らねえのか?」

「乗れっかなーどうだろうなー」

 

まあものは試しだ。出来なくても、自分の能力が欠けるわけじゃない。せーの、で飛び乗ってみると、ふわふわした、だけどたしかに安定感のある感触が俺を出迎えた。そっと手で雲を押してみると、反発が返ってくる。

 

「乗れた!!!」

「よかったなにいちゃん!」

 

嬉しくて、悟空と一緒になって海の上を飛び回った。いや、空飛ぶのって意外と気の消費の積み重ねが凄くてな……これでだいぶ楽になる。

 

「すごいやこれっ!!!どうもありがとうっ!!!」

「俺からもありがとう!!!すごく助かった!!!」

「ホッホッホ、あっぱれじゃ。その筋斗雲も喜んでおることじゃろうの、マレビトよ」

「あれ、俺名乗ったか?」

 

首を捻る。俺はあまり自分から名乗らないし、悟空は俺のことにいちゃん呼びするし。

まあ、どっかのタイミングでブルマが俺のことを呼んだんだろう。

亀仙人はブルマにセクハラをして帰って行った。なんだったんだあのエロオヤジ。……ドラゴンボールが手に入ったからよしとするか。

余談だが、ブルマは筋斗雲に乗れなかった。



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第五話

筋斗雲とバイクで旅をすることさらに三日。ドラゴンレーダーでたどり着いた村はやけに静まりかえっている。気を探ると誰も彼もが円形の、いわゆるカプセルハウスに閉じこもっているらしい。村長みたいな、いわゆるリーダー格を探していると、悟空が適当な家の扉を壊して入り、斧で殴られていた。

残等。

 

「すっすいませんでしたウーロンさまっ!オカネや食いものならいくらでも差し上げますっ!どっどうか娘だけは、娘だけは……!」

「悟空はウーロンじゃないぞ、悟空だ」

 

当たり前のことを二回も言って、誤解は晴れたようだった。良かったよかった。ブルマの的確な交渉によって、ドラゴンボールと引き換えにウーロンをやっつけることに決まった。サイヤ人が世直ししてら。つーか悟空は見境なしにパンパンしすぎだ。一旦手刀を脳天に入れるとガチで痛がっているが、まあいいや。

はてさて、村人をここまで恐怖に陥れるウーロンとは一体どんな極悪人なのか。

 

 

「よしできた。なかなか似合うな悟空」

「なんでオラがこんなヒラヒラしたやつ着るんだよ!?にいちゃんでいいだろ!」

「俺十五歳、悟空十二歳。ついでに俺の方が身長高い。仕方ないな」

「えっ!?アンタ十五歳!!私よりチビなのに!?」

「十五歳。いやたしかに俺は成長遅いけどな」

 

あと肉体年齢は、っていう注釈つくけどな。

いやーそれにしても似合うわ。二次成長前だからだろうけど。等身小さくてちんまくて可愛いのにしばらくするとでかいムッキムキになるんだから遺伝子って面白いよな。ふくふくもちもちのほっぺたを弄りまくってたら流石に怒られた。すまん。だけどな、いずれ悟空の方が俺より遥かにデカくムキムキになるんだぞ。今くらい優越に浸らせろ。

 

「ま、気楽にやれよ。なんかあったらフォローするから。ブルマは隠れてるのか?」

「当たり前っ!祈ってあげるわ!」

「いらん」

 

確か今の俺の真面目に本気出した強さが、スカウターで1000いかないくらいだっけ?宇宙規模だと雑魚もいい所だけど地球換算だと悪くはないはずだ。その辺のちょっと強い小悪党程度ならどうにでもなる。

強くなりすぎると病気進行するし、瞬間移動であちこち逃げられるし。鍛えるってデメリットでかいんだよなあ俺の場合。

 

「めんどくせえなあ。一発でやっつけちまえばいいのによ」

「まあそう言うな」

 

背負った剣を肩に担いでリラックスモードに入る。気を探った感じ、そこまで警戒しなくて良さそう、つーか弱い。見た目で威圧してるって感じだな。俺はその方法を侮蔑するつもりはない、見た目で戦意を削げるならそれは立派な戦術だ。

ただまあ、最低限今の悟空レベルに強いとな、その辺通用しないけどな。なんともまあ世知辛い。

 

「あ、来た」

 

ズシーン、と足音と振動を響かせやってきた巨大な牛の化け物的ななにか。うん、普通に弱い。悟空どころか村の大人でも倒せそう。俺の出る幕ないなー。

隠す気のない悟空はまあまあ好みだったらしく、変身してまでアプローチしかけてるので、カメラで映像を隠し撮りしてみた。悟空がいつかでっかくなったら上映会しよう。そんな悟空は尿意を抑えきれず男だとバレてウーロンと一悶着している。

あーあ。

 

 

予想通りワンパンで倒されたウーロンとかいう豚に攫われた女の子は贅沢を覚えていました、ちゃんちゃん。

……これはめでたしめでたしていいのか?

 

「……だから大人し〜い女の子がほしかったんだ……」

「……自業自得、因果応報……いやどれともちょっと違うか……」

 

なんとも言えねえ。

そんなこんなで問題がなんとか解決、ドラゴンボールも手に入った。

ので、旅にウーロンがついてくることになった。

なんでだよ。ブルマの旅だし、本人がいいならまあいいけどさ。



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第六話

ボートに乗って河を進む。助手席に座って襲ってくる動物が居ないか気配を探るのが今の俺の役割だ。パンパンして怒られている悟空とウーロンのやりとりは聞かなかったフリ。いつ治るんだこの癖は。

 

「次の行き先はどこだ?」

「フライパン山ね」

「なっ、なにーーー!!フライパン山!?あっあんなとこにいくつもりだったのか!?」

「でも、そこにドラゴンボールあるんだろ?じゃあ行くしかないじゃん」

「おまえら知らんのか!?フライパン山にはめ、めめ、めちゃくちゃ恐ろしい牛魔王がいるんだぜ!?」

「へー、そうなのか。面白そうだな、悟空」

「うん!」

「俺は嫌だぞっ!」

 

ウーロンは魚に変身した、かと思えば逃げ出した。ありゃま。悟空の身体能力から逃げられると思えねえけどなあ……と思ってたら、ブルマが脱ぎたてパンツで釣りあげていた。釣られる方も釣られる方だが、釣る方も釣る方だ。

悟空が引くって相当じゃないか?

 

「お前なに考えとるんだ……」

「痴女か」

「なによ悪い!?」

「悪いとは言ってないだろ」

 

本人が納得してるならそれはそれでいいんじゃねえのかな。理解はできんが。

そんなこんなでガソリンが切れたのでオールで漕ぎつつ目的地に到着。……カプセル落とした?まじか。そしてウーロンはPPキャンディの効果で逃げられなくなっていて……効果えげつねえ。フリーザにも効くのかなこれ。ちょっと試したくなってきた。こう、うまい具合に飯に仕込んで。

おっと、現実逃避している場合じゃない。

 

「じゃあ歩くか」

「あんたたちは筋斗雲に乗れるから良いわよね!」

「それ言い出したら仕方ねーじゃん」

 

まあ体力ある一番手二番手が筋斗雲乗れるのはバランス悪いけど、仕方ない。せめて荷物は請け負って、荒野をひたすらレーダー頼りに歩いていく。太陽が眩しい。

 

「おまえ達だらしないなー。オラたちもつきあって歩いてやってるのに……」

「わ、私は都会育ちなんですからね……!あ、あんた達みたいなイナカ育ちの野生児と一緒にしないでほしいわ……!」

 

俺の魂だけは都会生まれなんだけどなあ。とは口が裂けても言えない。体力の限界を迎えたブルマがギブアップしたので今日の進みはここまでか。わがまま叫んだ割に即座に爆睡したあたり、案外適応性はあるのかもしれない。

 

「じゃあ悟空、俺ちょっと食べられそうなものあるか探してくるから、ブルマとウーロン頼んだぞ」

「いいのか!?」

「いいって。腹へってるだろ?」

 

ちょっと離れた場所に気を二つ感じる。人間がいるなら、食糧も何かしら見つかるだろう。筋斗雲でちょっくら遠出。喉も乾くし、なにか果物とか生えてたらもいでこよう。

筋斗雲でさっきの川辺へひとっ飛び。でかい魚を捕まえて、ついでに果物もいくつかもいでおいた。なんかトラブル起こってるけど、気配探るかぎり大丈夫かな……あ、襲ってた方が逃げ出した。問題ないな。

 

 

「ただいまー。悟空ほら、魚だ」

「にいちゃんすげーや!」

「何かあったのか」

「ヤムチャってやつが襲ってきたんだよ!」

「ありゃーまじか。勝ったのか」

「いや、なんか急ににげてったぞ」

「なんだそりゃ?」

 

何がしたかったんだろう、そのヤムチャって人間は。ブルマはなんか一目惚れっぽくなってるので多分イケメンの類いではあったのだろうが。ギュルギュル鳴り響く悟空に腹の虫に苦笑して、ご飯ができるまでの繋ぎに果物を渡すとがっつき始めた。どんだけ腹減ってたんだ。

 

「それにしてもヤムチャ、なあ」

「あの人のこと知ってるの!?」

「知らんけど」

「知らねえのかよ!」

「会ったことないのに知ってるとか言えねえよ」

 

まあ、これは直感だけど、なんかまたやってくる気がする。負けるつもりはさらさらないが、ブルマの反応だけがちょっと気になった。

……ドラゴンボール使わなくても良さそうだな、なんか。



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第七話

今話から文字数増えます


ウーロンの隠し持ってたカプセルのキャンピングカーで爆睡すること数時間。うん、やっぱ質のいい睡眠って大事だな。布団で寝るって大事にすべき幸せなことだよ。

 

「おはよう」

「にいちゃんおはよう」

 

ご飯を食べてさあ出発。ブルマのバニーガールは……あきらめた。人間諦め大切。ツッコんでたらキリがない。車が大きいのでソファで横になった。たまにはこういうのも良いな。車に揺られてうつらうつらしてたら、なんか昨日感じた気配が近付いてきた。ブルマのテンション上がってるしなんとなく様子見してたら、爆撃された。振動でソファから落とされる。床と頭が激突してゴン!とわりと派手な音が鳴った。

あ、これ様子見したらダメだったやつか?でも殺意見えなかったしなあ。

 

「結構手荒だな、と。おーいブルマー。大丈夫かー」

 

目を回してるブルマを横たえる。軽い脳震盪だから、安静にしてればいいだろう。あの反応を見ると、昨日襲ってきたヤムチャという男らしい。初手で殺しに来ないあたりめちゃめちゃ有情だなヤムチャ。ちょっと好感度上がった。

 

「やいやいやいっ!なにすんだよっ!」

「おい貴様ら、おとなしくドラゴンボールをおれによこせ!いうことをきかんとまた痛い目にあうぞ!」

 

殺す、じゃなくて、痛い目にあわす、だと……!?

ますます好感度が上がった。いやー、地球って平和な星だなあ。前世の出身者としてなんか鼻が高い。それはそれとして悟空、ぶちのめしてやれ。

 

「よしいけ悟空!」

「おうっ!」

 

突っ込んでいった悟空とヤムチャの戦いはまあ悟空が優勢で……なんで前歯折れたくらいで撤退するんだ。やる気が足りんやる気が。

 

「ん、悟空おつかれさん」

「にいちゃん、オラやったぞ!」

 

ブイサインを決める悟空に、俺も親指を立てて返した。車は壊れたがそれ以外の被害はない。怪我がないなら、まあいっか。ブルマには素直に怒られよう。

 

「ブルマの怪我もひどくないし。進めるうちに進んどくか。太陽が高くなったら厳しいからな」

「筋斗雲呼ぶか?」

「そうだな、それも視野に──おっと」

 

近寄ってくる音と気配に視線を向けると、さっきのヤムチャがいた。何しにきた?相変わらず殺意は見えない。

 

「いやー君たちさっきはごめんねー!」

「……うさんくさっ」

「ギクッ!そ、そんなことないよー!ボクたちはお詫びに良いものを持ってきたんだ!」

 

ギクッ!てしたな今。ただまあ、車をもらえるなら貰っといて損はない。ブルマ背負って長距離移動とか大変だし、ショートカットは大切だ。瞬間移動?最後の手段。

 

「なんか話がうますぎる気がせんか……?」

「奇遇だな、俺もだ」

「じゃあなんでお前は乗っかったんだよ!」

「炎天下歩くのとどっちがいい?」

「…………」

 

そんなこんなで車をゲット。さあフライパン山へ急ごうか。

 

+++++

 

約二日経過。うん、車を貰っといてよかった。

ウーロン曰く、フライパン山は昔は涼景山という過ごしやすい場所だったが、十年前に火の精が落ちてきたことで燃え盛る山へと変化したらしい。

たしかにめっちゃ燃えてんな。

麓まで近づいたら、人骨があちらこちらにある。あらまー。燃えて死んだのか殺されて死んだのか。燃え盛る炎の中には城が一つ佇んでいて……うまくやれば観光資源になりそう。

 

「ブルマ、レーダー反応どうなってるか」

「ちょうどあのお城の中を指してるわ」

「……その格好、熱くねえの?」

「いまさらかっ!」

「にいちゃん!オラちょっと筋斗雲で見てくる!」

「いや悟空じゃ熱いだろ、俺が行くから……って、行っちゃった」

 

筋斗雲でひとっ飛びしてしまった悟空を見送ってから、そっと背後に忍び寄っていた気配を伺う。ただの素人ではないな。少なくとも何か技術をかじってる。

ギリギリまで気づかないふりをして、後ろの気配が動いた瞬間、振り向く。降ってきた大きな斧を片手で受け止めた。

間違いない。こいつがウワサの牛魔王だ。

 

「怪しいのは重々承知の上で言うが、一声すら掛けずに襲い掛かるのはどうかと思うぞ」

「……おめえたず、こっだらどこでなにすてるだ?」

 

訛りすげえ。ブルマとウーロンは完全に萎縮してしまっている。無理もない。ただなーんか、話通じる気がするんだよな。

 

「おーい、だめだー!熱くて中入れねえよーっ!」

「バッバカ!」

「悟空、ちょっと降りてきてくれるか?」

 

牛魔王の意識、というか興味が筋斗雲に向いた。すうっと降りてくる金色の雲に、それに乗っている子供。何かを思い起こしているらしい。

 

「あら?誰だ?おっちゃん」

「あの城の持ち主の牛魔王だよ」

「アンタたち!クチを慎みなさいよ!」

「も、もうダメだ殺されるー!」

 

パニックになってるブルマとウーロンは置いておいて。牛魔王はというと、どこか興奮した様子だ。

 

「こぞうっ!それはひょっとすて筋斗雲ではねえだべかっ!?いえっ!誰にもらっただっ!」

「亀仙人のじいちゃんに、にいちゃんと一緒にもらった」

「亀仙人っ!?む、武天老師さまだっ!」

「あの爺さん、武天老師って名前もあるのか」

 

そういや聞いたことあるな、ウワサ程度で。めちゃめちゃ偉大で強い武術の達人って。本人が色々とあれなエロジジイだったから全然結びつかなかったのは仕方ない。うん。

 

 

牛魔王が亀仙人の弟子だと判明した。ついでに悟空のじいちゃんの孫悟飯が兄弟弟子だと判明した。そんな感じの縁で、芭蕉扇を借りに行くことでドラゴンボールを譲り受けることが決定した。いやあ、人の縁ってどう繋がるかわかんないもんだなあ。

 

「じゃ、オラ行ってくる!」

 

道中で牛魔王の娘のチチを回収して、そのまま亀仙人の元へ。俺はお留守番。男二人で乗り込むより悟空一人の方がチチも必要以上に緊張しないで済むだろうし。

 

「……それはそれとして心配だ」

「何がだよ?」

「パンパン」

「「あ〜……」」

 

 

しばらく後。到着するや否や目を回してゲーゲー吐いた亀仙人が落ち着いた頃。

改めてゴーゴー燃え盛る山を見上げた。上着を脱いだ亀仙人はガリガリで、まさしく老人の身体という感じがする。手伝ってもらってなんとか塀の上に立ったあたりで、亀仙人が気合を入れた。

途端、筋肉が膨れ上がる。気が膨れ上がったのを感じた。

 

「でるだっ!!武天老師さまのかめはめ波っ!」

「かめはめ波ァ!?」

 

待て。めっちゃ聞き覚えのある技名なんだが。記憶を辿る。孫悟空の代表技だ。たしかに亀仙人も撃っていた、気がする。俺の困惑を他所に亀仙人は気を溜め始めた。

 

「か……め……は……め……」

 

瞬間、脳裏に思い出が浮かび上がった。いっそ残酷なほど鮮明に。

 

 

『かーめーはーめー……はーーー!!!』

 

 

まだずっと小さかった頃。いつかかめはめ波が出せるのだと本気で信じていた前世の愚かで幼稚な自分。筋斗雲もCCもサイヤ人もいない、矮小で平凡で美しいいつかの光景。

 

「波!!!」

 

エネルギー波は真っ直ぐに城めがけて飛んで、建物ごと炎を吹き飛ばした。やりすぎだ、と思うより早く、笑いが込み上げてきた。

これに、憧れていた時代があった。なにを不安に思うことなく、目の前のカッコいい技に目を輝かせていた、そんな昔が。

ちょうど、今の悟空みたいに。

 

「すげえ技だな!じいちゃんオラにも教えてくれよ!」

「ふぉっふぉっふぉ、それは無理じゃよ。かめはめ波を会得するには五十年は修行せんとの……」

 

それをすっ飛ばすのがサイヤ人とかいうバグ種族なんだよなあ。こと戦闘において、サイヤ人の進化はなにより早い。だからこそ、色々な種族を差し置いて『戦闘種族』なんて名前がついたんだし。

 

「むむ〜……」

「お、がんばれ」

「う〜……はっ!」

「出た!」

 

かめはめ波の構えをとった悟空の手から、エネルギー弾が飛び出て目の前の車に直撃した。威力はまだまだ、でも最初の一歩が踏み出せた感動に打ち震えた。

お馴染みの言葉こそ出てなかったけど、そっか。これが、悟空の最初のかめはめ波か。

 

「悟空!すごいじゃん!」

「えへへ。にいちゃんはやらねえのか?」

「俺はさあ、昔いっぱい練習したんだけど……さっぱりできなかった!」

 

悟空の真似をしてたんだぞ、とは言わないけど。それでもかつての憧れが目の前で起こってテンションが上がる。

悟空のかめはめ波に可能性を感じたのは亀仙人のようで、一人喜んでいる俺を通り越して悟空に声をかけた。

 

「これ、こぞう。悟飯のじじいは元気か?」

「じいちゃんとっくに死んじゃったよ」

「なんと!むむ〜そうか、惜しい男を亡くしたのう……どうじゃ、わしの家にこんか?修行しだいではおまえ、このわしを抜けるかもしれんぞ?」

 

かも、じゃなくて抜くよ。絶対に。悟空どうこう関係なく、サイヤ人の進化は早いんだからな。今の時点で亀仙人の方が強いのは否定しないけど。

 

「あったー!七星球みっけ!やったー!」

「お、見つかったか」

 

これで六個だから、後一個か。だいぶ終わりが見えてきたな。牛魔王から古い型の車を譲り受けたことで、移動にも目処がついた。あと少しで旅が終わる。せめて最後のひとつまで、楽しい旅だといいな。

 

 

 

あとこれは余談だが。

亀仙人のエロジジイ度がめちゃめちゃ高かった。

それでいいのか武天老師。



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第八話

燃料ギリギリになって辿り着いた町で燃料補給しようとすると、ものすごく怯えられた。悟空が挨拶すると逃げられ、スタンドでは無料になり、歩くだけで悲鳴、カプセルを買うとタダになる。

 

「ぜったいなんかある」

 

悟空ブルマウーロンは何となく流してるけど。ぜったいになんか裏がある。試しに探ってみると、横暴な二人組が歩いていた。頭につけているのは似合わないうさぎ耳……あーなるほど、これが原因か?

 

「ちょっとしばいてくるわ」

「?」

 

りんごを勝手に食べては不味いと文句を言い、子供が前を横切ったと蹴り飛ばす。遠くで誰が死のうと手を差し伸べるほど余裕はないけど、さすがにこういうのを黙って見ているのは、なんか違う気がするんだよ。

 

「よ」

「ああ!?誰だテメェ!」

「マレビト。あんたら誰だ?」

「こりゃ珍しい!泣く子も黙るウサギ団を知らねえってか?」

「よそ者だな、お前」

「うーん否定できねえ」

 

魂は異世界産だからな俺。いや、この二人が言いたいのはそういうことじゃないってのはよくわかるけど。銃を突きつけられながらそんなことを考えてたら、悟空が横取りする様に二人をぶっ飛ばしていた。

 

「あー久しぶりにたたかったからキモチいいな〜」

「何かってに突っ込んできてんだオラ。あぶねーだろ一声かけろ」

「ギャッ!」

 

デコピン一発。俺がしばくって言ったのに。頭を押さえてふるふる震える悟空が可笑しい。でも周囲の人たちの慌てっぷりを見るに、そろそろボスが来そうだ。さて、どんな奴なのか。

住人が隠れてしばらく、ブルンブルンとエンジン音を響かせてやって来たのは、可愛らしいデフォルメ兎のコンパクトカー。そこから出てきたのは兎人だ。

いや、ウサギ団ってそのまんまだったんかい!せめて多少ヒネリ入れるとか……フリーザ軍と大して変わらないか。ごめんな無茶振りして。

 

「オッオヤブンー!」

「情けない声を出すんじゃありません。我がウサギ団に逆らった奴はどこですか?」

「あ、あいつらです!」

 

指さされた。当たり前か、ここには俺たち以外居ないんだし。ウサギはとうっとカッコつけてクルクル空中回転して、目の前に着地した。襲いかかることなく、すっと手を差し出す。怪しすぎる。

 

「握手しましょう」

「やだ」

 

サングラスごとデコピンすると、ウサギは後ろにひっくり返って頭を打ち、そのまま気絶した。ブルマとウーロンはビビってるけど、サイヤ人の悟空が痛がるデコピンだぞ、生半可な威力はしとらんわ。ちゃんとサングラス割らずに威力だけウサギに伝えるの、コツいるんだぞ?

 

「た、倒しちまいやがった……」

「ん?ヤムチャか」

「そいつは兎人参化といって、やつに触ると人参になってしまうのだ」

「そうなのか?触んなくてよかったわ。情報提供ありがとな」

「あ!あなたはあの時の!」

「ゲッ!お、教えられるのはこれが全部だ!じゃあな!」

 

ついてきてたヤムチャは解説をするや否や、脱兎の如く逃げ出した。ヤムチャは女に弱いのか……。そしてなるほど、オヤブンがここまで恐れられてる理由が分かった。強さ関係なく触られたら終わりとか初見殺しだな。悟空は如意棒でツンツンしてるし。

とりあえず縛って、さてどうしようこいつら。

 

「なんかいい案ある人ー」

「はい!」

「はい、悟空くん早かった」

「あそこに連れてく!」

 

指の先には、月。ウサギの行く場所としてはもってこいだ。いいこと思いついたな、悟空。

 

「じゃ、頼むぜ」

「おう!」

 

如意棒で道を作りひたすらに登っていく悟空。もうしばらくすれば戻ってくるだろう、と上を見上げてふと気づいた。月齢が進んでいる。あと何日かで満月だ。サイヤ人の本能が解放されるための、条件が揃う日。

 

「……気をつけないとなあ」

 

うっかり踏み潰してしまいました、なんてシャレにならない。サイヤ人の知識がある、俺がいる間だけはなんとかしないとなあ。

 

+++++

 

車で荒野をひたすら走る。この分だとあとそんなにかからないかな。この車速いし、燃料入れたばっかりだからかっ飛ばせる。邪魔なものもない。

 

「ところでよ、一度聞きたかったんだけど、ブルマさあ、ドラゴンボール集まったらどういう願いを叶えてもらうんだ?」

「ホッホッホ!言わなかったっけ?恋人よ!ステキな恋人!」

「なにー!?恋人!?俺たちが命がけで手伝ってやって、そんなしょーもない願いかよ!」

「しょーもないとはなによ?」

「なあブルマ。ドラゴンボールって、一度使ったあとも、時間おけば使えたよな?」

 

百年前に願いを叶えた人がいた筈だ。今回はブルマが使うんだろうけど、その次は俺が使いたい。

 

「マレビトもなにか叶えたい願いがあんのか?」

「あるなあ。そこまで急いでないが」

 

この体は最初から病気だった。俺という魂が迎え入れられる前、それこそ生まれた時からずっと。治せるものなら、治したい。俺とは別の、身体の本来の持ち主である魂もそれを望んでいるだろう。

多分。

 

「そのときはドラゴンレーダー貸してくれ」

「もちろんいいわよ!」

「よっしゃ」

 

それじゃ、最後のひとつを集めるとするか。

息を整えて、車の側面に向かって飛んできたミサイルを空高く蹴っ飛ばす。ミサイルは遥か上空で爆発した。

 

「ひえっ!」

「たーまやー」

「あービックリした……」

 

破片はいい感じに散らばって被害はナシ。上出来だな。撃ってきた奴は草むらに隠れている。手出ししてこないならこのまま様子見でも大丈夫か?

 

「なんだったんだ?」

「あ、逃げた。ブルマ、追撃かけるか?」

「い、いいわよ。どうせあと一つなんだし」

「分かった。あとさ、ヤムチャついてきてるけど、誘う?」

「あの方が来てるの!?」

「うん」

 

ブルマが歓迎モードに入ったので、木の影に隠れていたヤムチャを手招いた。多分ドラゴンボールが狙いなんだろうけど、さすがに何日も付いてこられるといろいろと思うところがある。

 

「や、やあ!ぐうぜんだなあ!」

「久しぶりだな」

「きゃーっ!ヤ、ヤムチャさまっー!」

「ヤムチャ!来てたのか!」

 

あ、悟空も嬉しそうだ。まあ下心有りとはいえ車くれたりしたもんな。二つの車が並んでドラゴンボールのありかまで並走する。そうして辿り着いた場所にあったのは、荒野にでんと聳え立つ巨大な城だった。環境は違えど、牛魔王の城を思い出す。

しんがりを務めてのんびり歩いていると、足元に矢印。

 

「…………あやしい」

 

立ち止まって観察。壁が降ってきた。分断。

 

「……正しかったな」

 

からくり屋敷はちょっと気になるけど、優先順位は悟空たち。剣を抜いて一呼吸、二回振るうと壁が切り裂かれて向こうが見えた。唖然としているのはちょっと納得いかない。助けただろ、俺、

 

「全員無事か?」

「す、すごいな……」

「にいちゃんすげえ!」

「まあな。ブルマ、ドラゴンレーダー借りていいか?あとドラゴンボール手元にあるな?」

「え、ええ」

「じゃあショートカットするぞ」

 

迷路で迷わない方法はひとつ、壁をぶち抜いてまっすぐ進むこと。この城改造しまくってるし多少壊しても強度の問題はないだろ、多分。

切って蹴って壊してずんずん進撃。たまに銃口向けてくる光線銃とかも全部破壊する。最後にひときわ分厚い鉄の壁を破壊したら、沢山のモニターに囲まれて水色の小さい男、背の高い女、忍者服の犬の三人……人?がいた。ドラゴンボールの反応もこの部屋だ。一歩前に踏み出すと、ひえっと三人が後ずさる。

 

「初めまして、話し合いしようぜ」



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第九話

俺を挟んで、目の前にはドラゴンボールを力づくで奪おうとした……ピラフ様とその一味?が、背中には悟空たちが、俺を挟んで向かい合っている。とりあえず、ブルマたちが怪我しないように剣で光線銃の類は全部ぶっ壊した。ヒエっと悲鳴が上がる。

 

「……お前らがドラゴンボール集めてるのはよくわかるけどさあ、盗むのはまあいいとして、罠にかけるのとか銃口向けるのはちょっとダメだろ」

「盗むのもダメに決まってるでしょ!?」

 

俺がぶっ壊したからいいものの、この三人、殺してでも奪うつもりだったに違いない。流石にそれは看過できん。まあ実力差がそこそこあるせいで、三人揃って完全に萎縮してるんだけど。もう戦意はなさそうなので、剣を鞘に納めた。

 

「……まあそっちがドラゴンボール集めてんのは否定しないけど、改めて聞くわ。ドラゴンボール譲ってくれないか。嫌ならいいけど」

「は、はいぃ!!!もちろんですっ!」

 

ものすごい勢いで差し出されたドラゴンボールにちょっと閉口。いやまあ、実力差的に脅したと捉えられるのは分かるけど、それはそれとしてなんかこういい気分はしない。ただ、そう思われる行動をしたのは自分だ。

 

「……ブルマ、七つ目揃った」

「へっ!?ど、どうもありがとう」

 

受け取ったドラゴンボールをブルマに渡せば、旅の目的は叶ったも同然だ。後ろを振り向けばヤムチャがビクッと肩を揺らした。

 

「……欲しかったら話し合えよ。それか、それでゲームでもやって決めるとかさ」

「にいちゃん?」

 

……このあと、素直に話し合うも、譲り合うも、騙し合うも自由だが、そこに俺が居たら邪魔だろう。壊れた穴からおあつらえむきに外が見えるので、そこから退出した。

あー、やっちまった。

 

+++++

 

「……はあー」

 

だいぶ離れた場所で大きくため息を吐いて地面に横になった。ほんっと、やってはいけないムーブをしてしまったことに自己嫌悪が止まらない。落ち込んだ気分を無理に上げようと空を仰いだ。

なんか悟空の顔がある。

 

「ご、悟空っ!?」

「や、にいちゃん」

「ビビらせんなよ……」

 

若干心臓がバクバクしてる。近づいてくる気すら感知できないとかどんだけ落ち込んでたんだ俺は。ここが地球でよかった。宇宙だったら死んでたかもしれない。

 

「にいちゃん、なんで落ち込んでんだ?」

「んー、ちょっとな。嫌いなやつとおんなじことしたなーって、自己嫌悪してたんだよ」

 

主に自称宇宙の帝王とか、フから始まってザで終わる奴とか、冷蔵庫みたいな名前の奴とか。

 

「にいちゃんはにいちゃんみたいな奴が嫌いなんか?」

「嫌いじゃねえよ。それに、俺と大嫌いなアノヤローが同じってのはまずない」

 

主に強さとかな。今の俺じゃ逆立ちしても勝てんわ。一瞬で宇宙のチリと消えます。まあそれを差っ引いても、同族にはなりたくねえなあ。

自分を嫌いっていうのは、口が裂けても言えない。この身体には俺の魂のほかに、この身体に本来入っていた魂があるから、その悪口になることは言わないと決めている。いい奴だしな、あいつ。

悟空の頭の向こう側では、ブルマとウーロンとヤムチャとプーアルとピラフ一味が車座になってトランプをしている。どうやらカードゲームでドラゴンボールの使用権を決めることにしたらしい。

平和なことで何よりである。強さも、こんな風だけに使えればいいのにな。

 

「悟空はさあ、これから亀仙人のところに弟子入りするんだっけ?」

「うん!」

「そうかあ、頑張れよ。それから、満月は絶対に見るなよ」

「!にいちゃんも、満月の夜に出るっていうすんげえ怪物知ってんのか!」

「おう知ってる、見たことある」

「すげえな!オラのじいちゃんそいつに踏まれてペッチャンコになったのに!」

 

……表情を取り繕えているだろうか。

悟空がじいちゃんだという孫悟飯を慕っているのは、亀仙人との短い会話でも理解できた。それを自分の足で踏み潰した、なんて、答えてしまっていいのだろうか。

それに、サイヤ人はフリーザの手で滅ぼされたはずだ。加えて僅かな生き残りのうち、王族がフリーザ軍に従っている。残りのサイヤ人がいるとフリーザの耳に入りでもしたら、どうなる?

俺は、どう答えるべきなのだろうか。

 

「そうか。その大猿、すごく強いんだぞ。気をつけろよ」

「大猿なんか!」

「、そうだな」

 

はえ〜と感心する悟空に苦笑い。口を滑らせた。あっぶね。

 

「ほら悟空、なんかそろそろドラゴンボール使うみたいだぞ」

 

気を逸らすために、ドラゴンボール争奪戦が行われている方を指差した。とっくに太陽が地平線に沈んで、今は完全な夜だ。だというのに、空が闇に覆われたのが分かる。

 

「出でよドラゴン!そして願いを叶えたまえ!」

 

……ん?この声、叫んだのはウーロンか。じゃあ勝者もウーロンなのかな。

ウーロンの声に応えるかのように、七つ揃ったドラゴンボールがカッと光を帯びたかと思うと、空に巨大な龍が出現した。真っ赤な瞳が、呼び出した者たちを見下ろしている。

 

「あれが神龍か……」

「うわーっ、でけえなーっ!あれが神龍か!」

 

あの龍は本当になんでも願いを叶えられるのだろうか。ゲームの勝者らしいウーロンが叫んで曰く『ギャルのパンティおくれーっ!』。

うん、なかなからしい願いではないのかな。ブルマとかヤムチャとか、どう思ってんのか知らんけどさ。神龍が願いを叶えると、七つ揃っていたドラゴンボールはふわりと浮かび上がり、四方八方へと散っていってしまった。

…………えっ?

 

「あー!悟空の四星球!」

「えっ!?オラのじいちゃんの形見の球どっかいっちゃったのか!?」

 

飛び散るって知ってたなら飛び上がって捕まえといたのに!やらかした。落ち込んでるとロクなことしないな俺。すまん悟空。

 

「……とりあえず合流するか」

 

軽く落ち込む悟空の手をとって、ブルマたちの元へと移動。ピラフ一味はかなり悔しいのかゲームの勝者であるウーロンや俺を睨みつけていたけど、武器を徹底的に破壊したせいか手出しできないらしい。まあ、俺はもちろん悟空やヤムチャにも勝てないしな。

 

「ホント、なんで神龍にギャルのパンティーなんて頼むのよ、このスケベ!」

「勝ったのはおれだぜ!」

「そうだぞブルマ。何を願ってもウーロンの自由だ」

 

欲しいって気持ち自体に貴賎はない、それにどう向き合うのかが問題だって画面の向こうの誰かが言ってた気がする。今回ウーロンはギャルからパンティを盗むでも奪うでもなく、神龍に頼んでもらったのだから、それなりに神龍への願いの正しい使い方の一つだったのかもしれない。

いやまじめに。

 

「それよりブルマ、お前ドラゴンボール使い終わったら散り散りになるって知ってたか?」

「まあ、知ってたわよ」

「まじかー……ドラゴンレーダー使える?」

「一年後ならね」

「えー!じゃあ探せるの一年後なのか!?」

「そうなるな」

「じゃあせめて、ドラゴンボールの配置覚えてないか?四星球どこ置いてた?」

「えーっと、この辺か?ドラゴンボールはこんな感じだ」

 

ヤムチャがその辺で拾った棒切れで大雑把な円と、四星球の場所を描いてくれた。方角と高さと角度、それから飛び散った軌道を思い起こして、この図と反映させて……と、

 

「悟空、四星球飛んでったのあっち、だっ!?」

「あっちか!」

 

指差した方角を向いて動揺するも遅い。俺が指差した先には、煌々と浮かぶひとつの満月。四星球が飛んでいった先に浮いていたそれを悟空が見てしまうのは当たり前の話で。

 

やべ、やらかした。



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第十話

「あちゃ〜、見ちゃった」

「……えーと、全員今すぐ悟空から離れろ」

「え、なんで?」

「いいから」

 

てへへ、と笑う悟空に頭を抱えつつ避難勧告を出す。ぶっちゃけこの段階で尻尾を切り飛ばすこともできるけど、ブルマやヤムチャへの注意勧告として一回変身を見せた方がいい気がするので、あえてそのままほったらかす。周りに一般人いないしな。

悟空は少しの間は正気を保っていた。が、満月の方向を向いて固まったかと思いきや、徐々に巨大になり始めた。膨れ上がった肉体が衣服を突き破り、顔は凶暴な猿のものへと変化。やがて代表は剛毛に覆われ、あっという間に大猿の完成。やっぱバグってるよサイヤ人。

あ、ピラフ一味が大慌てで逃げ出した。唖然とするブルマたちに一応説明。

 

「悟空はな、満月を見るとでっかい暴れ者の猿になるんだ」

「見りゃわかるわっ!」

「うわあああ!!!ごっ悟空!」

「おまえ知ってたのか?」

「悟空から話聞いたのはさっき」

 

嘘は言ってない。

 

「そ、それより!アンタどうにかしなさいよっ!」

「わかった。えっと、悟空は尻尾が弱点だから、そこを切り落とせばなんとかなる」

 

言いながら剣を抜く。悟空は見境なく暴れていて、ああ、まだ未熟なんだなあと思う。大猿形態を使いこなされると中々厄介なのだサイヤ人は。しかもそれが戦闘種族としての本質ではないというトラップ付きで。

悟空の肉体の解説をしてから、剣を片手に一気に踏み込んで背後に回る。そのまま剣で尻尾を切断すると、シュルシュルと悟空は小さくなっていった。

 

「も……もとに戻った……」

「尻尾切り落としたから、しばらく大猿にはならないと思う」

「アンタねえ」

 

ぱこん、とブルマに叩かれたが大人しく受ける。これは俺のミスだからな、うん。満月の位置くらい把握しておけよ。思いがけないミスでどっと疲れたが、それはブルマたちも同じだったようだ。

 

「それにしても疲れたな……寝るか?」

「それもそうねー。少し休もっかな」

「見張しておくから休みなよ。セクハラしようとする奴はしばいておくから」

「じゃ、マレビトよろしく頼むぜ」

 

いうや否や、ブルマを筆頭にヤムチャプーアルウーロンは地面に倒れて爆睡し始めた。いいのか……?ピラフ一味はとっとと逃げ出してもう居ないし。悟空は呑気に寝てるし。

仕方ないので悟空に自分の上着を被せて寝かせた。すやすや、体格の大きな二人と小さな三人が並んで寝ている。なんとも平和な光景。

 

「…………」

 

前世でもこんな風景を見たことある気がする。なにかで一人だけ出かけて、帰ってきたらまだ小さな弟を、父と母が挟むようにしてすやすやと昼寝をしていた。俺はそれが羨ましくって、どうしたんだっけ?

 

「……おいこら悟空」

「ふぎ」

 

なんとなく悟空の鼻を摘んだ。フガフガいってるのに起きない。パッと手を離すと、また落ち着いた寝息に戻った。

はあ、とため息をついて空を見上げる。建物が周りにほとんどないためか、あまりに綺麗な星が見えた。

知っている星座はどこにもなかった。同名の星といってもそんなもんか。異世界だしな。

 

+++++

 

捨てられた城からピラフの使えそうな服を拝借して悟空に渡す。ついでに食糧庫も漁ってみんなで朝ごはん。ブルマとヤムチャはお付き合いを決めていて、なんだろう、カードゲームの間になにかあったんだろうか。願いが叶ったようでなによりだ。

 

「そういや悟空、色々あって尻尾切ったから」

「えっそうなのか!?ま、いいや!」

「いいのかっ!」

「お前本当に軽い性格なんだな……」

 

呆れるウーロンに内心同意。お前本当にすごいよそういう性格。とりあえず城から掘り出した忍者装束と、落っこちてた如意棒を拾って渡してやる。尻尾が切れてバランスが取りにくくなって何回かこけてたけど、まあ直ぐに慣れるだろ。

 

「悟空はこれから亀仙人のところで修行か?」

「うんっ!にいちゃんは?」

「……ブルマ、少し力借りていいか?」

「?ええもちろんよ」

 

流石に自立の術は見つけないとな。ブルマの家は大金持ちらしいしツテもなにかとあるだろう。それを借りて、自分の力だけでとりあえずの金を稼げるようになっておかねば。

やりたいこともいくつかあるし。

 

「じゃあ、孫くんとはここでお別れね」

「オラ、じいちゃんの形見のボールどうやって見つけるんだ?探し方わからねえよ」

「へいきへいき、ドラゴンレーダーあげるわ!一年経ったらここんとこをぴっと押せば反応が出ると思うわ!」

「わるいな!」

 

悟空がドラゴンレーダーを借り受けてから、ヤムチャがカプセルの小型飛行機を取り出した。俺は筋斗雲を呼び寄せる。こっちの方が好きだな、太陽の光をたくさん浴びられるから。

さて、悟空とはしばらくの間お別れだ。といっても、いつかどこかで再開するんだろうけど。

 

「じゃあ悟空、頑張って修業しろよ」

「うんっ!なあにいちゃん」

「なんだ?」

「オラがもっと強くなったらさ、オラと全力で戦ってくれよ!」

 

おっと、そうきたか。

いつになるかは分からないし、いずれは悟空の相手にもならなくなるのかもしれないけど、そう言ってもらえるのは素直に嬉しかった。

だからお礼代わりに、ひとつだけアドバイスをすることにした。

 

「そうだな。そうだ悟空、覚えておけよ」

「ん?」

「世界は悟空を中心に回ってる……そう思った方が、楽しいかもな」

 

誇張抜きで、この宇宙は孫悟空を中心に回っている。なにせドラゴンボールという漫画で、アニメで、主人公という肩書きを背負っていたのだ。

だから、困難も多いだろう。望まぬ戦いを強いられることもあるかもしれない。だからあえてこんなふうに話した。

 

「オラか?」

「そうだ。だって悟空の人生の主役は悟空だぞ。乗っ取られるなよ」

 

物語に。

 

「……?」

 

悟空は首を傾げていた。うん、それでいい。何もわからないのが正しいのだ、普通は。

 

「じゃあ、行こうぜ」

「そうだな。武天老師に負けんような達人になれよ!」

「うん!」

「そのうちまたみんなで会いに行くわよ」

 

別れを終えて飛行機が飛び立つ。それとタイミングを合わせて、俺の座った筋斗雲もふわりと浮き上がった。

 

「悟空、元気でなーっ!」

「ウーロンもなーっ!」

 

さあ、どれだけ強くなるんだろう。なんだかとても楽しみだ。

こんなに心が浮き足立つのはいったいいつぶりだったっけ。

 

「バイバイ、にいちゃん!」

「またな」

 

悟空の筋斗雲は亀仙人の家を目指してぐんぐん飛んでいき、やがて見えなくなった。

俺は筋斗雲の速さを飛行機に合わせて、同じ軌道を辿る。目指すはブルマの実家のある西の都だ。

 

そういえば、都市に行くのはこれが初めてだ。

今までの冒険とは多少毛色が違うけど、これも冒険と言っていいのかもしれないな。

 

+++++

 

その日の夜、夢を見た。

 

『や、久しぶり』

「……久しぶりに出てきたんだな、アスラ」

 

肉体の本来の持ち主であるアスラと、久しぶりに会った。行き場のない俺の魂を受け入れたのに、肉体の主導権を俺に奪われてしまった哀れなやつ。

 

『だって、タマキくんすごく楽しそうだったでしょ』

「タマキ?」

『忘れたの。人宝珠稀。君の名前でしょ』

 

そういえば、そんな名前を持っていた気がする。

 

「お前が楽しかった訳じゃないだろ。いいのか」

『僕じゃどう足掻いでも悲嘆以外のなにも感じられないよ。だからね、僕もすごくうれしい』

 

この身体に最初から絶望していたのがアスラだった。逆に、ギラギラと渇望を抱いていたのが俺だった。今ではすっかり逆転して、俺は諦念を抱いて、アスラは世界に興味を抱いてる。

 

『タマキくんは、楽しくなかったの』

「楽しかったに決まってるだろ」

『そう、よかった』

 

それを最後に、アスラは消えた。それと同時に俺も目覚めた。

起き上がって鏡の前に立つ。アスラという現地民の肉体に、人宝珠稀という異邦人の魂の入ったマレビトが立っていた。

 

「相変わらずお節介なのな」

 

はあっとため息をついてベッドに横になった。眠気はすっかり消えてしまっていた。



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第十一話

西の都に到着。さすが都会、人が多い。

一時的にブルマの家に居候することになったので、部屋を借りて一日休んで、翌日早速脳内のアイデアをノートに落とし込んでいく。

やろうとしていることは、前世で自分もやっていたTCGを売り込もう、というものだ。特許とかそういうのを取れば何もしなくても金が入る。上手くいくかは分からないけど物は試し。

 

「やっべルール細かい部分まで覚えてねえ」

 

朧げな記憶を書き出し、なんだこれと思うものは修正したり、この世界に合わせていくつかルールを書き足したり減らしたり。

ついでに腕につけてゲームをするための道具の簡単なイラストもなんか前世であったので作っておいた。あれかっこいいんだよな。

四苦八苦すること十日。なんとかカタチにして、ブルマを通じておもちゃ会社に原案提出、何度も会議を重ねて商品として売り出すことに成功。 

 

 

結果、異次元に売れた。

 

 

「……どうしてこうなった」

 

そもそもTCGというゲーム自体この世界になかったのだ。だからこそ企画を持ち込めると判断したし、売れるかどうかは半信半疑だったのだが、そんな心配は杞憂だと言わんばかりに馬鹿みたいに売れてブームになった。

そんなこんなで金の心配をしなくても良くなったんだが……前世のアイデアを借りたので持ち上げられるには申し訳なさが強い。ごめんなさい。

 

+++++

 

売れてしまったものは仕方ない。忙しさがひと段落してから、大量に入ってきた金でパオズ山近くに適当な山を購入、なだらかな斜面を開拓してログハウスを建てた。ついでにブルマからもらった独立祝いのカプセルハウスは仕事専用の建物として隣に建てる。

 

「……やっといて何だけど、景色のアンバランス感半端ない」

 

カプセルハウスがなんか中途半端に近未来的に見えるのは隣のログハウスのせいだろうな。

ログハウスは、一階の二つの空き部屋は置いといて、二階のリビングと寝室が俺の生活スペースということになる。

……適当に図面だけもらって自力で建てたけど、部屋多すぎるな。

それでもやっちまったもんはしょうがねえ。

二階の寝室に、ベッドと小さい勉強机と、アップライトピアノを置いた。部屋が思いの外ギチギチだけど、すごく満足。荷物の搬入には引っ越し祝いを兼ねて、ブルマとヤムチャがやって来てた。なんだかんだ今のところ上手くやってるらしい。

 

「こんな小さい家に住むの?」

「うるせえお嬢様。俺は庶民だからこういうのが一番落ち着くの。仕事用の家はCCの使ってるんだからそれでいいだろ」

「でも中々いい家じゃないか」

「あ、これ引っ越し祝いね」

「ん、二人ともありがとな」

 

引っ越し祝いを受け取った。中身はリクエストしていた、小学生向けの学習教材。まずは国語算数が揃っていて、あとは簡単な歴史の本に、初心者向けのピアノのレッスン本。ノートに鉛筆たくさん。

うわあ、キラキラ星懐かしい。

 

「こんなので良かったのか?」

「いいの。ありがとう助かった。こういう事情は全然知らなくてな」

 

新築したばかりの家でお茶を飲んで、二人は帰って行った。後に残されたのは俺だけだ。楽しかったけどそこはかとない気疲れを感じる。

 

「……あー、ようやくひと段落か」

 

カレンダーを見たら、悟空と別れてから半年以上経過していた。ずーっとドタバタしていたせいだろうけど、月日が経過するのがめっちゃ早い。

明日からは今まで通り実力が落ちない程度に体を動かして、そしてピアノの練習と勉強を始めよう。どっちも中途半端なままこっちの世界に来て、それから何百年も経ってしまった。

誰かに誉めてもらえるわけじゃないが、それでもワクワクしながら鉛筆を丁寧に削って、キャップをはめる。消しゴムのビニルを破って、定規と赤色ボールペンを筆箱にしまう。新品のルーズリーフと付箋を並べて、三色組の蛍光ペンの箱も開けて……

 

 

 

……………

 

 

 

ドラゴンボール揃ったときより嬉しいかもしれない。

 

+++++

 

日課となった勉強はずいぶん楽しかった。最初は小学生向けのごく単純なものばかり解いていたはずなのに、いざ答え合わせをしたらぼちぼち間違っていたのはだいぶメンタルに来たが。簡単な分数問題すら間違えるって……。小学三年生レベルだぞ。一応前世では高校受験のために勉強していたから流石に堪える。

あと、ピアノスキルは完全にゼロになってた。この身体でのピアノ経験ゼロだから仕方ないけど、これは勉強以上に落ち込んだ。まじか、まじかぁ……。一からやり直す以外に道はないんだけどさ。まあ、アスラがピアノ上達するたびにテンション上がってたから、それでよしとしよう。

そんなこんなで八ヶ月。今日もそんな風に過ごしていたら、電話が鳴った。

 

「もしもし」

『もしもし、マレビト君?』

「お、ブルマじゃん久しぶり。なんかあった?」

『ヤムチャが天下一武闘会に出るんだけど、アンタも見にくる?』

「天下一武闘会……ああ聞いたことある」

 

前世と今の両方で、という心の呟きはもちろん口に出さない。

なんか『ドラゴンボール』の世界だって自覚してから、ちょっとずつ『ドラゴンボール』の知識を思い出してってる。メモ代わりのノートを開けば、思い出した単語一覧に確かに『天下一武闘会』って書いてある。が、詳細は流石に覚えてない。ぶっちゃけ何回開催されたか、優勝者すら分からん。

それはそれで、楽しみが増えるのか。

 

『来る?』

「自分の足で行くよ。場所と時間だけ教えてくれ」

 

修業してるっていう悟空もいるかもしれないしな。邪魔しないよう連絡取るのは控えてたけどこれくらいはいいだろう。

 

『アンタは参加しないの』

「しないよ。だって俺、徒手空拳じゃなくて剣使いだからな。武器の持ち込み禁止されてるだろ」

『それもそっか。じゃあ!当日会いましょう』

「じゃあな」

 

ふつん、と電話が切れた。

カレンダーに早速予定を書き込む。お、あとちょっとじゃんか。

悟空も出るのかなあ、出るんだろうなあ。

楽しみが増えた。ウキウキ気分でピアノの前に座る。最近ちょっとずつピアノの腕が上がってきたから、試していることがある。

 

「えーっと、歌詞がどうだっけ。……【このよーはーでっかい宝島】……」

 

ドラゴンボールの曲の再現に挑戦している。歌詞とか、リズムとか、手探りだけどちょっとずつ形になり始めたところだ。悟空が天下一武闘会で優勝したら、悟空の歌なんだぞーってプレゼントしよう。

さて、がんばらないとな!




次の投稿は9月26日となります


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第十二話

お気に入り数が100を超えました。ありがとうございます


天下一武闘会の会場はなかなか混雑している。それなりに注目されている大会らしくて楽しみだ。……宇宙のレベル?今は忘れよう。それにしても筋斗雲途中で降りて正解だったな、目立つに違いないし。

早めに着いて、受付のところで待ち伏せしてみた。受付の人には美味しいと有名な洋菓子を袖の下、もとい“寄付”したので大目に見てもらっている。こういう下準備、大事。

袖の下あるかないかで上の心情って結構違うってのは何百年の放浪で学んだのだ、ここで活かさずどう使う。 

気を探ってると……来た、正装した悟空と、同じ格好の誰か。兄弟弟子とかかな?悟空は俺に気がつくとぱあっと笑顔になって飛びついてきた。

 

「や、悟空久しぶり」

「にいちゃん!にいちゃんも出るんかっ!?」

「俺は見学。もしかしたら悟空出るのかなーって思って来た」

 

似合うなあ悟空の正装。なんか七五三みたいだけどとっくに十歳超えてるんだよな。持ってる力もこの前とは比べ物にならないくらいに増えてて、ああ頑張ったんだなって分かる。

もちもちの悟空のほっぺたを久し振りに堪能してから、改めて悟空を鍛えた亀仙人と、その兄弟弟子と向き合う。みんな揃って正装しているのはなんだかおかしい。

 

「お久しぶりです、そして初めまして。マレビトだ、以後よろしく頼む」

「うむ、久しぶりじゃのう」

「初めまして!クリリンと申します!あの、マレビトさんは悟空のお兄さんで?」

 

……なんだっけ。ほとんど覚えてないけど悟空兄ちゃんいた気がする。クリリンの言葉でようやく思い出したぐらいだから、情報とかほぼないけど。

ただまあ、クリリンの疑問にはノーだ。俺尻尾生えてないから。

 

「いいや、俺は悟空の兄じゃないよ。前に悟空の家に世話になったことがあってな、そのときにそんな風に呼ばれていたってだけだ」

「にいちゃんはにいちゃんだ」

「そんなわけだ。別に畏まらなくていいよ、そんな偉い人間じゃない。気軽にマレビトとでも呼んでくれ」

 

俺そもそも余所者だから偉いとかそういう次元から外れてるしな。

 

「じゃあ、マレビトって呼ぶぞ」

「いいよ。悟空が世話になったなクリリン、亀仙人」

「なあに、師匠が弟子の面倒を見るのは当然じゃ。ほれ二人とも、受付が終わったんじゃ、さっさと着替えて会場に行かんか」

「はっ、はい!」

「二人とも、頑張れよ」

 

時間が若干押しているので、二人は会場へと向かっていった。後には俺と亀仙人が残される。

亀仙人はというと、二人が視界から消えてから物陰に隠れて着替え始めた。わざわざカツラを接着剤でくっつけてまで。

 

「マレビトよ、あの二人には」

「ナイショだろ?なんとなくやりたいことは分かるよ、黙っておく」

「すまんの」

 

ジャッキー・チュンと名前を変えて、亀仙人は受付を済ませると会場入りした。俺はどこで見ようかな。筋斗雲で空から見てもいいし、ブルマと合流してもいい。だけどとりあえず出店で何か買おうと思った。たまにはいいよな。

 

「カキ氷に〜フランクフルトに〜」

 

どうでもいいけど、フランクフルトってそもそも地名じゃなかったっけ。地理が元の世界とかけ離れてるのに名称も内容も全く同じ料理が存在してるのなんでだろう。

ほんっとうにどうでもいいけど。

もりもり食べて、気を吸収。こういう場所で気を吸い取るのはあんまりよろしくないのでご飯をいつもより多めに食べないとな。

別に屋台飯が食べたい言い訳ではない。断じて。

 

「おっいたいた。ブルマ〜」

「あれーっ!マレビトじゃない!久しぶり……でもないわね」

「仕事の関係で定期的に会うからなー。ヤムチャはもう受付終わってんのか?」

「ええ。今は予選をやってるはずよ」

 

プーアルウーロンも一緒で、なかなか懐かしいメンバーが揃っているのではないだろうか。

ジュースを買って飲みながら場所を確保する。それにしても人が多い。武闘って人気あるんだな。

そんなこんなで本戦開始を待っていたら、たまたま亀仙人と出くわした。ということは予選終わったのか。

 

「あら?あら、あらー!?」

「ん?ん、んー!?」

「よ、亀仙人さっきぶり」

 

亀仙人も交えて同窓会状態。いや、会ったのほんの何回かだけどさ。しかし悟空達より早く予選終わらせたのか。さすがというかなんというか。

そんなんなのにパフパフを求めてブルマにしばかれている。だからちょっと微妙な心地になるんだ。それでいいのか武天老師。

そんなやり取りをちょっと引いた場所で眺めていたら、知っている気配が近寄ってきた。悟空とクリリンだ。この様子だと予選突破してそうだな。めでたいめでたい。

 

「ウーロン!」

「悟空ーっ!わーっ久しぶりだぜーっ!」

「ほんとだなーっ!ブルマとプーアルも元気だったかっ!?」

 

うん、こういう楽しい再会を見るのはすごく好きだ。やっぱり子供は笑顔でいるべきだよ。悟空もブルマもプーアルもウーロンも、にこにこしているのが一番いい。クリリンの紹介も済んだところで、本戦出場者の集合アナウンスがかかった。二人がちょこまか去っていったので、俺も亀仙人とアイコンタクトを取って素知らぬふり。

いい師匠に巡り会えて良かったなあ、悟空とクリリン。

 

+++++

 

出店巡りを口実にブルマ達と別れて、一人で観戦することにした。チョコバナナを食べ終わったので次はフライドポテト。こういう場所で食べるご飯ってどうしてこんなに美味しいんだろ。つーか一人暮らししてからこんなに美味いご飯は久しぶりな気がする。

 

「さて、悟空たち以外の出場者は……」

 

とりあえず悟空、クリリン、ヤムチャ、ジャッキーチュンの四人は確定してるだろ?あとは誰だろうな。純粋な強さで探るなら後二人くらいすぐ脱落しそうなものだが。

 

『えー、皆さん大変おながらく待たせいたしました!ただいまより第21回天下一武闘会をはじめます!』

 

わあっと盛り上がる会場。ちなみに優勝者の賞金は50万ゼニーらしい。しょっぱい。今度出資してみようかな……金あるし……。

 

『では第一試合が始まります前に、ここ武道寺の館長よりひとことご挨拶を!』

 

犬系の館長がマイクを持つ。はてさて、一体どんな長ったらしいご挨拶なのか。

 

『わん』

『ご挨拶でした』

「こふっ。ん、ふふ、ふっ」

 

ちょ、ちょっとまて。

やべえツボった。頑張って抑えてるけど堪えきれるだろうか。

いや、わんて。たしかに一言だけどさあ!

ふるふる震えてる間にあっという間にトーナメントが表示される。クリリンは第一試合、悟空は第四試合……お、ヤムチャと亀仙人が一回目で当たるじゃん。運がなかったなヤムチャは。

さて、なんやかんやでクリリンの実力を見るのはこれが初めてだ。お手並拝見、ってやつになるのかな。

 

まあ俺、偉そうに語れるほど強くないんだけど。



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第十三話

多忙につきコメント返信は毎週土曜日とさせていただきます


第一試合、クリリンvsバクテリアン。

不潔な男だな……つーか武闘じゃないし。いいのか!?実戦でならどんな手を使おうと何も言わないけど、天下一武闘会がこれでいいのか!?飯を食べ終わってて良かった。

 

「立てよクリリンっ!そんなやつに負けるなっ!クリリン!よく考えてみろっ!臭いのは気のせいだっ!匂うわけないだろっ!お前には鼻がないじゃないか!」

「はいィ!?」

 

えっクリリン鼻ないの?ほんとに地球人?

ていうかクリリンって鼻なかったんだ……前世でアニメ見てたはずなのに初めて知った。面白い事実が続々出てくるの、ドラゴンボールの世界だな……って感じがする。

なおクリリンは屁の臭さで勝ってた。だからそれでいいのかと。

思ってたよりゆるいな天下一武闘会。

 

 

第二試合は、ヤムチャvsジャッキー・チュンの二人。気を探ると分かる、これはジャッキーチュンの勝ちだなって。ヤムチャもなかなか強いんだけど、経験値の差というか、荒々しさと洗練の違いというか。

経験積んだ上で基礎で押し切るのと、ただがむしゃらしか知らないのは違うしな。

 

「第二試合、はじめっ!」

 

試合運びは予想通りの展開になった。ヤムチャに一回も触ることなく、ジャッキーチュンは手で風を生み出して場外まで吹き飛ばす。

なるほど、直接殴ったり蹴ったり斬ったりするほかに、ああいうふうに勝つ手段もあるのか。

武闘会って感じがする。殺し合いとはまた別の戦いの極地の一つ。ん?そうなるとさっきの、臭いで戦うのも『殺し合いじゃない戦い』って部類だからオーケーなのか?

わかんなくなってきた。

 

「じょ、場外っ!ジャッキー・チュン選手の勝ちですーーーっ!」

 

会場は大盛り上がり。いやあ見事な戦いだったので俺も熱い拍手を送る。

亀仙人、本当に武天老師だったんだな……ようやく実感した。

 

 

第三試合はランファンという女選手がいわゆるぶりっ子で試合展開した、かと思いきやナムの方が一枚上手で、まあだろうなというかなんというか。動きは良かったんだけど、いざというときの切り札がアレってのはな、通用せんよな。

というか、色仕掛けを使うなよ……なんで脱いだ。そしてなんで亀仙人は役得とばかりに触ろうとしてんだ。だからエロジジイ言われるんだぞ。

さっきの尊敬メーターが再び下がったのは、俺のせいじゃないはずだ。

 

+++++

 

第四試合、おまちかね悟空の試合だ。対戦相手は恐竜、というか怪獣?ギランっていう名前らしい。

つーか悟空どこいった?

 

「おーい悟空っ!おまえの番だぞどこいったんだーっ!」

 

クリリンはじめ全選手で探し回っているので、俺も気を探ってみる……ん?だいぶ近くにいるな?別選手が近くにいるからたぶん見つかるとは思うんだが。

しかしあんな近くにいんのになんで集まらないんだか。悟空その辺はちゃんとしてるはずなんだけどなー。

 

『ど、どうも!孫悟空選手はお昼寝をしていました……!』

「こんにちはー!オラ孫悟空でーす!」

「いや食休みかよっ!」

 

自由かお前はっ!

気を取り直して第四試合が開始した。順当に行けば悟空の勝ちなんだろうけど、怪獣、というか人間以外ってなんらかの特殊能力持ってたりするから、搦手がどう作用するか、だな。

不意打ちに引っかかるあたり、搦手は苦手そうだけど。

 

「悟空!がんばれよ!」

 

壁に叩きつけられたくらいじゃ参ってない。そうそう、そうじゃないとな。つーかこれでダウンしてたらサイヤ人の名折れにも程がある。

改めて悟空とギランが正面からぶつかり合う。実力は完全に悟空が上。これは予想通り。殴りつけた勢いのまま尻尾を担ぎ上げると、場外を狙って一気に投げ飛ばしにかかる。

 

「せぇーの……どええええ〜〜〜っ!!!」

 

これで決まれば悟空の勝ちだ。決まれば。

空中へと放り投げられたギランは、案の定自前の翼をはためかせて武闘台へと逆戻り。うーん、これは場外狙いはキツいか。

前世でじーちゃんがテレビの向こうの野球試合に色々ブツブツ言ってた理由がちょっとわかった気がする。訳の分からないものを見る目でいてごめん。

そんなことを思っていると、ガムでぐるぐる巻きにされた悟空が空中に放り投げられて、筋斗雲で復帰していた。一回限りのセーフ判定にホッとする。

 

「悟空、後ないぞ!飛ばされるなよ!」

 

とりあえず野次、もとい応援を飛ばしておこう。ギランはもちろん、二度目の追撃に容赦がない。悟空はギリギリのところでなんとかかわそうとして──

 

「シッポだ!シッポがまた生えたー!」

「あっ」

 

尻尾生えた。

えっ、今月齢いくつ?

 

「ひーふー、えっと前の満月が……もしかして今日か?」

 

どうしよう、と思ったけど考えるのをやめた。

大猿になってからでいいか。悟空試合中だし。

現実逃避ではない、断じて。

 

「悟空っ!そんなガム破ってやれ!」

「ぐぬぬぬぬぬぬ〜っ!」

「き、きさま人間じゃないのか……?」

 

いいとこついたな、ギラン。孫悟空は宇宙最強の戦闘民族の生き残りだ。まああとちょっとしか残ってないんだけどな。

ブチィ!っと音を立ててガムを破った悟空は、体を軽く動かすとくるりと背後を振り返って、腕試しと言わんばかりに壁をぶち抜いた。

おお、確実に尻尾生えてない頃より調子良くなってる。

 

「では、反撃開始だーっ!」

「まいった」

「ありゃ」

 

やる気満々!となったところで降伏宣言、そりゃ悟空もギャグ漫画みたいにひっくり返る。ちょっと離れた場所のブルマたちはそんなことより次の満月に戦々恐々してるけどな。

予想外の結末とはいえ実力で勝ち取った勝利なので、悟空もどこか嬉しそうだ。うん、見に来てよかった。悟空がVサインを送ってきたので、こちらも人差し指を空にむけて返した。

 

『ここでちょっと二人にインタビューしてみたいと思います!クリリン選手もご登場してください!』

 

お、インタビューだ。二人並ぶと兄弟弟子って感じがするなあ。弟子入りタイミング的には双子なのかもしれない。二人の関係を見てるとそう感じる。

つーかお前、十一の次は十四だと思ってたんかい。十二と十三どこやった。くそ、同居のとき勉強教えとけばよかった。クリリンとの会話はコントにしか見えなくて観客はドッと湧いている。俺もちょっと面白い。

まあいいや、誰も彼も楽しそうだし。それはそれとして、今度亀仙人にはお礼を言っておくべきなのかもしれない。

次の試合はクリリンvsジャッキー・チュンか。さて、どんな試合になるのかな。



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第十四話

ジャッキー・チュンvsクリリン。前者の正体は武天老師こと亀仙人なんで、これは正しく師弟対決だ。いいなー師匠。俺が師匠を得るとか多分夢のまた夢だからな。

 

『第五試合、はじめーっ!』

 

まずはクリリンがジャッキーに向かって行って、それをジャッキーが捌く。動きはジャッキーの方が上を行っているけどクリリンだって負けてない。だけど押され気味なのは経験の差かな?三百年くらい生きている亀仙人とまだ十三歳のクリリンだと場数が違う。

 

「わしのスピードについて来れたやつは久しぶりじゃのう……」

「あ、当たり前ですよ!ボクは武天老師さまという凄い人の弟子ですからね!」

 

その会話を挟んで再びジャッキーとクリリンがぶつかり合った。今度の攻防もまた、ジャッキーの勝ちか。やっぱり咄嗟の判断はまだまだ亀仙人が上をいってる。悟空もあちゃ〜!と頭を抱えている。

 

「立てクリリン!負けちゃうぞ!頑張れよっ!クリリンってば!」

 

無慈悲なカウントが進む中、悟空の声援を受けてクリリンがなんとか立ち上がった。よし、セーフ!まだ負けてない!周囲からも歓声が上がってる。頑張れよ!

 

『あ、あの〜、試合中すいませんけど……』

 

レフェリーストップがかかった。攻防が速すぎて何が何だか状態であったらしい。レフェリーの手を借りて二人がゆっくりと状況再現をしている。いや仲良いな。当たり前だけど。

改めて試合再開。クリリンが最終兵器として取り出したのは[ギャルのパンティ]と札のついた下着で……

いいのか!?それで勝っていいのか!?そして飛びつくなよ亀仙人っ!!!

 

「し、しまったー!」

「勝った!」

 

しまったじゃねえ。

 

「や、やむをえん……か〜め〜は〜め〜……波ーーーっ!!!」

 

場外一直線かと思われたその体は、かめはめ波の出力を持って推進してくるくると華麗に武闘台へと逆戻り。な、なるほど。そういう使い方もあるのか。能力とか技ってこういう応用も大事だな……勉強になった。

秘策も通じなくなったクリリンは自棄になって突撃して、あえなくジャッキーに沈められる。

 

『クリリン選手ノックアウト!ジャッキー・チュン選手勝ちましたーーーっ!!!』

 

あの様子だとひどい怪我とかはしてなさそうだ。これで決勝進出したのは亀仙人。

さて、次の試合は悟空とナムか?頑張れよ、コレ勝てば師弟対決その2だからな!

 

+++++

 

悟空とナムの戦いは、悟空の残像拳から始まった。それを見切って攻撃を仕掛けるナム、かわす悟空。

まさか亀仙人以外に悟空レベルに強い人がいるとは……世界って広いな。戦闘力とか気の強さで真の実力って測れないし、やっぱり気だけで判断するのは難しい。俺とか節約のために常に気を消してるからなあ。

と、そんなことを考えていたら、悟空がコマのように高速回転して突進……したかと思いきや、三半規管が限界を迎え、目を回して倒れていた。

あほか。

 

「悟空、やられるぞ!」

 

チャンスとばかりに高く飛び上がるナムが、己の必殺技の構えをとって重力を味方につけて落ちてくる。咄嗟に威力を簡単に算出して、悟空のサイヤ人の頑丈性と合わせてみる。

……多分耐えられるか?

 

「南無阿弥陀仏ー!」

「ここ仏教あんの!?」

 

初めて知ったんだけど。

 

「私も仏を信ずる者……殺生はいたしません……」

「あ、マジであるんだ……」

 

とりあえず天下一武闘会終わったら調べてみようかな……でもドラゴンボールって地球に神様(ガチ)いるよな。その辺どうなってるんだろう……。

無慈悲なカウントがテンを数えようとしたそのとき、悟空がギリギリで起き上がる。おお、やっぱりなんとかなったか。さすがにノーダメージとまでは行かなかったみたいだけど、二度目の攻撃が何事もなくいくとは思えない。

ナムが跳び上がり、それを追いかけるように悟空も跳び上がる。

 

『なっなんと空中で激戦が繰り広げられております!はっきりとは見えませんがかつてない闘い方に私も戸惑っております!それにしても首が疲れましたー!』

 

このレフェリー実況上手いな。

一足先に降りてきたのは悟空。落下の間は軌道を変えられないというナムの弱点をついて、落ちてきたところを横から思いっきり蹴り飛ばして場外、悟空の勝利だ。

 

「悟空、カッコよかったぞ!」

「へへ!」

 

お、二度目のVサイン。同じように人差し指を立てた右手を空に掲げて返した。万雷の喝采の中、ナムと握手を交わして清々しい結末。こういうのって殺し合いとかじゃ得られないんだよな。

十分間のインターバルを挟んでから、決勝進出した悟空とジャッキー・チュンの試合が行われることとなっている。

 

「ちょっと様子見てこよ」

 

人目のつかない場所に移動して、瞬間移動。適当な物陰から顔を出すと、悟空と目が合った。

 

「にいちゃん!」

「マレビトか!」

「よ、悟空。見てたぞ!次は決勝だな!」

「あの、ここは選手しか入れないのですが…….」

「迷いこみました。出口を教えていただければすぐに戻ります」

「そうでしたか」

 

本当は瞬間移動だけどな。

 

「悟空、決勝は楽しみか?」

「うんっ!オラ、亀仙人のじいちゃんやにいちゃんの他にも強いやつがいるなんて知らなかったぞ!」

「はは、世の中広いからなあ。優勝目指して頑張れよ」

「マレビトさん、そろそろ決勝戦ですので」

「分かりました。じゃあな悟空」

「バイバイ!」

 

職員に案内されながら、悟空の様子を思い出して、それから最近再現に凝ってるあの曲を思い出した。悟空は無邪気な挑戦者、だけどパワーは半端じゃないぜ……マジでその通りである。作詞家って凄かったんだな……。

 

『ご来場の皆様!いよいよ決定的な瞬間がやってまいりました!』

「お、間に合った」

 

元の場所に戻ってきたら、ちょうど決勝戦のアナウンスが始まったところだった。子供とお爺さん、言われてみれば確かに不思議な組み合わせだ。色々知ってる俺からすると妥当なんだけど。

悟空と亀仙人、どっちが勝つか正直読めない。亀仙人は技の使い方とか、すごく勉強になるくらい熟練だしな。

ドラゴンボールという漫画のことは忘れて、今だけは目の前の戦いに熱中しよう。どうせどっちが勝つかなんて分からないんだ。

 

「悟空!がんばれっ!」

 

運命の決勝戦。しんと静まり返る会場で師弟が向き合っている。心地よい緊張感が辺りを包む。

 

『決勝戦、はじめーっ!』



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第十五話

最初の攻防は完全に互角、とはいかず、ジャッキーがやや上回っている。跳び上がった悟空を空中で蹴り飛ばす動作なんかまさにそれだ。まあ、悟空はさっき生えた尻尾でプロペラみたいなことして戦線復帰してきたんだが。

 

「………………うーん」

 

効率いいのか悪いのか分からん。いずれ空飛ぶやり方も教えた方がいいのかなあ。ていうか地球に空の飛び方って確立されてんのか?西の都で勉強と仕事に邁進してたからよく分かんないな。天下一武闘会終わったらもう少し本格的に調べてみるべきか。

 

「じいちゃんみたいにかめはめ波で飛ぼうと思ったけどさあ、あれはとっておきにしようと思って」

「なまいき言いおって!おまえにわしほどのかめはめ波が出来るわけ無かろう!」

「できるよーだ!」

 

悟空とジャッキーが互いにかめはめ波の体勢に入った。撃ち合いは全くの互角で、放たれたエネルギーは武闘台の中央ど真ん中で弾けて相殺、その反動で二人が同時に尻餅をつく。

その後も残像拳の応酬など、師弟ならではと言っていい同じ技のやり取りが続いた。会場のボルテージも一気に上がる。あ、亀仙人か頭に一撃食らった。

 

「しからばこれでどうじゃ!……ヒック」

 

突然ジャッキーがしゃっくりをした、と思ったら何故か酔っ払ったような挙動をし始めた。悟空も思わず心配してしまう、見事な酔っ払いの完成である。

 

「え?昨日飲みすぎた、訳ないよな……」

 

つーか酔っぱらいながら的確に攻撃してるし……あ!まさかコレが名高き酔拳か!?スッゲー!初めて見た本物だ!ていうか孫悟飯も得意だったんだ、酔拳同士の戦いってどうなるんだろう?あ、でも悟空未成年だから真似できないな、残念!

 

『これはやばい、孫選手!フラフラになってきました!』

 

動きが読めないからけっこう良いところに入るな。悟空は、一旦距離を取って呻いて……呻いて?

 

「ううう〜がるるるる……!」

 

よだれを垂らしてまるで野犬のように四つん這いになってジャッキーに飛びかかる悟空に、流石に驚いたのか目を瞑ったのが命取り。背後から強烈な蹴りを喰らってしまった。ちなみにこの技の名前は『狂拳』らしい。正しくは狂犬ではなかろうか。

つーか悟空どっちかというと猿だろ。

と思ってたら次は猿になりきる猿拳を繰り出してきていた。ちゃんと猿にもなるのね。

 

「お調子に乗りおって……よぉ〜し……お前の負けじゃ、ごくあっさりとな……」

 

ジャッキーは両手を繰り出したかと思うと、ゆらゆらと動かしながら歌い始めた。いわゆる子守唄を聞いた悟空の瞼が、だんだんと落ち始めて……。

寝た。

ごくあっさりと寝た。

 

「よいこ睡眠拳じゃ!勝った!」

「ありゃまあ」

 

戸惑いながらもカウントが始まる。うーん、応援がOKなら声かけの手伝いくらいしていいだろう。すうっと息を吸い込んで、叫ぶ。

 

「悟空、飯だぞ!」

「孫くんご飯の時間よー!」

 

あ、ブルマと被った。まあいっか。

 

「へっ!どこどこっ!ご飯どこにあるのっ!?ご飯ご飯っ!」

 

そして起きた。どんだけ腹減ってたんだ。

いや、サイヤ人は燃費が悪いからめちゃくちゃ食べるのは分かるけど。

起きたので改めて試合再開。しかし悟空の技のキレは悪く、ジャッキーも疲れが見え始めてきた。だいぶ時間も経ったしそろそろ試合も終わりそうだ。

パン、と柏手ひとつ。幾度かの問答の末に、手のひらから気が凝縮され、強いエネルギーが悟空へと向けられる。

 

「萬國驚天掌ーーー!!!」

 

バチバチ、という音と共に悟空がエネルギー波に捕らえられた。なるほど、強い。というかコレ、電気の性質持ってるのか?なるほど、うまくコントロールすれば気に特定の性質を与えられる、と。マジで亀仙人学ぶところ多い。そして、悟空は最大のピンチを迎えている。

 

「悟空、耐えろっ!お前はまだこんなもんじゃないだろ!」

「うぎぎぎ……っ!」

 

周囲からは負けを認めろという声が上がっている。だからこそ俺は悟空に負けるなと叫んだ。

悲鳴が耳に痛い。誰も彼もが悟空に降伏を勧めてくる。それは実際に技を放っているジャッキーでさえ例外でない。

それでもいいじゃないか、一人くらい絶望的な状況に諦めるなって叫んだって。負けたくないって気持ちの悟空に同調したって。

 

「負けるな!!!」

「もっもういい悟空!まいったといえーっ!よく我慢したぞーっ!」

「ぐ、くく、くそ〜っ……!くっ……くやしいけど……、ま……ま……」

 

己の限界を悟っているのか、悟空がとうとう根負けした。攻撃を仕掛けている側のジャッキーもまた、どこかホッとした面持ちに感じる。俺はといえば少しだけ残念だけど、それでもよくやったと叫ぼうとして、違和感に気づいた。

悟空の視線の先を振り向くと、まんまるな夕月が浮かんでいる。

あ、まずい。なんて思った瞬間、みるみるうちに悟空は大猿となってしまった。

……反応から見るに、悟空のやつ修行期間律儀に満月見なかったんだな。

 

「おいっ!俺が尻尾切り落とすか!?」

「そんなことをしたらワシが反則負けになるじゃろうが!」

「そんなこと言ってる場合かぁ!なんとかできんのか!?」

 

言いながら、大猿が建物を破壊しようとしている所に割って入り、伸ばしてきた手のひらを鞘のついた剣でぶん殴る。大猿は勢いを殺しきれず、フラフラと重心が後ろに動いたあと尻餅をついた。加減したからギリ場外にはなってない。

 

「よしっ、今のうちじゃ!やむを得ん!──かめはめ波!最大出力!」

「はい!?」

「いかんっ!悟空を殺して騒ぎを食い止める気だっ!」

 

バサリと上着を脱ぎ捨てて、ジャッキーは全身に力を込めた。ぐぐっと筋肉が盛り上がる。この世界の人間ってどんな構造してるんだろうか。異世界の元地球人としてちょっと気になる。

亀仙人のことだ、悟空を殺さなくてもなんとかなる手段があるんだろう。その辺りを信用してるのは、今世での経験か、それとも前世の記憶か。

放たれたかめはめ波は真っ直ぐ空へ向かって飛んで行き──見事月をぶっ壊した。なるほど月が無くなれば大猿化はしなくなる……いやいや。

 

「力技ぁ……」

 

案外脳筋な答えなのか、それとも意外性のあると言っていいのか。ちょっとリアクションに窮するがピンチが終わったことに変わりはない。

まあ、大猿化はサイヤ人の特徴の一つでしかないからいいか。尻尾が無くなろうと月が無くなろうと、最強の戦闘民族の評価は変わらないんだし。

 

『こっこれはとんでもないことをしてくれました!これからお月見はどうしたらいいのでしょうか!』

 

だからってこのリアクションもどうかと思うけど。ていうか月が消えた感想、それでいいんだ。

 

+++++

 

起きた悟空が改めて胴着に着替えて、試合再開。その結末はこれまでの試合内容から見るとひどくあっさりしていた。空中に飛び出して互いに蹴りを繰り出して、ジャッキーと悟空の体格差が勝敗を分ける。

 

「優勝したもんねーっ!」

 

高らかな勝鬨に会場は大盛り上がり。俺も惜しみなく拍手を送った。マイク越しの案内に従いながらブルマと合流する。しばらく待っていると人はどんどんはけていき、俺たちだけが残った。

 

「悟空、クリリン、ヤムチャ、おつかれ」

「にいちゃん、亀仙人のじっちゃん見てないか?」

「決勝の前に見かけたんだけどな。それより悟空、あんぱん食べるか?」

「食べるっ!」

 

試しに声をかけてみたら悟空が飛びついてきた。おやつ用に取っておいたそれが一瞬で消える。まあ、一日中動き回っていた悟空と俺だと消費カロリーが違うしな。

 

「クリリンは?」

「あ、俺は大丈夫ですよ」

「そっか」

 

そんなふうに過ごしていたら、亀仙人がやって来た。負けてしまった二人に与えられた激励に、悟空もクリリンも背筋を伸ばして答える。にしても、本当の修業はこれからはじまるんじゃ、か。俺も修業したいなあ。だけど俺、強くなりすぎると死ぬしなあ。感覚だけど。

 

「よし!では、いちおうよい試合をしたご褒美に夕飯をたらふくご馳走してやろう!お前たちも来るか?」

「はいっ!」

「もちろん!」

「じゃ、お言葉に甘えます」

 

俺もお腹空いてきた。悟空と一緒の夕飯も久しぶりだなあ。

 

+++++

 

たらふく食べたついでに、こっそり亀仙人より早く支払いを終わらせておく。明細見て苦笑い。六十万ゼニーて。食べる量を控えめにしておいて良かったわ。

食事を終えてひと段落。亀仙人としては二人の修業はひと段落したらしい。

 

「じゃあ、悟空はドラゴンボール探しか?そろそろ復活した頃合いだろ」

「にいちゃんは一緒に来るか?」

「ん、着いてくわ。でさ、亀仙人の所の修業の話聞かせてくれよ」

 

筋斗雲持ちだから、同じように旅ができるはずだ。悟空は目的を決めたと思うと、亀仙人に預かってもらっていた悟空の荷物を受け取っていた。

 

「にいちゃん、行こう!」

「なんだ、もう行くのか!なんとか探しに!」

「ドラゴンボール、な。もう行くんだろ?」

「ちょっとでも早い方がいいもんな」

「じゃあ呼ぶぞ。おーい、筋斗雲ー!」

 

すうっと近寄ってくる二つの金色の雲は、大きさの違いも相まって親子のようだ。俺は大きい方に、悟空は小さい方にそれぞれ乗っかった。

 

「じゃあなみんな!また会おうなー!」

「言われなくても会えると思うぞ」

「?」

「なんでもない。じゃ、行くか」

 

ひゅんっと雲が風を切る。悟空から見せてもらったドラゴンレーダーは遥か先だが、このスピードなら一日も経たずに到着するだろう。

はてさて、どんな冒険になるのやら、楽しみだ。



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第十六話

筋斗雲で空を飛びながら、悟空に亀仙人の元での修業の話を聞かせてもらう。すごく興味深くて、加えて修業の概念を根本から変えてしまうような、そんな話だった。よく食べて寝て学んで鍛えて遊ぶ。それが一番だいじなのは凄くよく分かる。

そうやって育てられたから。

 

「それでさ、畑では何を育ててたんだ?」

「色々やったぞ。大根とかにんじんとか、牛蒡とかネギとか」

「あっははは!豚汁セットだ!」

 

なんか引っかかるけどまあいいや。多分そこまで重要なことじゃないし。豚汁食べたくなってきた、今度作ろう。

 

「工事もやったのか、アルバイト代って悟空にも入ったのか?」

「うん」

「へえー、亀仙人そういうところしっかりしてるんだな」

 

たくさん話を聞かせてもらいながら筋斗雲はぐんぐん進む。疲れた悟空がとうとう撃沈してぐーすか寝こけている。気温はあったかいから風邪はひかないだろう。

 

 

来たる朝。

ふあ、とおおあくびをして悟空が目覚めた。

 

「悟空、おはよ」

「もう朝か!にいちゃんおはよう!」

「レーダー借りていいか?」

 

悟空からレーダーを借りてドラゴンボールの場所確認。その間、悟空は川辺で水分補給中。お、だいぶ近い場所まで来たな。気になるといえば、ここからそう遠くない場所にそこそこ強い気が感じ取れるくらいか。

 

「近いか?」

「あっちの方だな」

「よしっ!」

「あっ待てよ」

 

とりあえず借りてたドラゴンレーダーを投げて返してから、俺も筋斗雲に乗って悟空の後を追う。しばらく行くと、武装した二人組があちこち何かを探している光景に出くわした。レーダーの位置関係から推測するに、多分ドラゴンボールを探しているんだろう。

悟空はというと、そこに遠慮なく降り立ってあっさりとドラゴンボールを見つけ出してしまった。だがまあ、ドラゴンボールは誰のものでもない。邪魔をしてない以上、早い者勝ちでいいだろう。

 

「四星球か?」

「えっと……なーんだ、星六つか。六星球だ──じいちゃんのじゃねえ」

「ん、残念。次に行こうぜ」

 

かちゃりと、金属音が聞こえてきた。それと、無線機の雑音も。脅し取ろうと言う魂胆らしい。うーん、やっぱりこういうやり方は好きになれない。

 

「なんか用か?」

「おい、その玉俺たちに寄越しな!」

「って言ってるけど?」

「なんで?これどうすんの?」

「つべこべ言うんじゃねえよ死にたかないだろ?」

「そんな言い方じゃべーっ!」

 

舌を出して断る悟空だが、内心同意。人に頼む態度ではないと思うんだ。男たちは怒ったように一人は銃を向け、もう一人は車へと走っていった。車の中には……例の、そこそこ強い気が感じられる。戦闘力は、数字に換算して八十程度?今の素の悟空と大体変わらない。

 

「?」

 

首を捻っていると、悟空があっという間に一人目の男を倒していた。まあそれはいい。じっと車の方を見ていると、出てきたのは頭でっかちで子供くらいの体格の、全身緑色の人型の生き物だった。おおよそ知性というものは感じられない。

てかこれ知ってるわ。サイバイマンだわ。見たことも聞いたこともあるわ。

それにしては、なんか弱っちい?けど。

 

「行け、バイオーム人間!あの小僧を殺せっ!」

 

男は悟空を指差して叫んだ。サイバイマン、もといバイオーム人間は視線を一旦悟空に向けたあと、一気に狙いを定めて走り出した。

俺に向かって。

 

「悟空じゃなくて俺かよ!筋斗雲!」

 

咄嗟に筋斗雲を呼び出して、その上に飛び乗った。バイオーム人間は流石に空までは飛べなかったらしく、俺がさっきまで立っていた場所に着くと何もできないまま俺を見上げた。

その隙を、悟空が黙って見ているわけもなく。

 

「か、め、は、め……波!」

 

背後から放たれたかめはめ波を背中にもろに受けたバイオーム人間が、一瞬にして撃沈した。そりゃ、そうなるわな。油断しすぎだ。

 

「ひ、ひええ……」

 

切り札であったサイバイマンことバイオーム人間があっさりとやられたことで男は流石に戦意喪失したのか、ほうほうのていで去っていった。一度筋斗雲から降りて、悟空とお互いに顔を見合わせる。

 

「にいちゃん、なんかやったんか?あいつオラをやれって言われたのににいちゃんに向かってったぞ」

「さあ……そもそもバイオーム人間とか会ったことないし……」

 

見た目とかサイバイマンに酷似してるのも気になるが、でもサイバイマンって種から生えてくるんだよな?さっきのバイオーム人間は車から出てきたし、最初から気を感じることができた。つまり種から生えるにしても、今回は最初から人型であったと考えるのが妥当だろう。

そもそも、サイバイマンなんだろうかこれ。培養できる人型の戦闘用生物がたまたまサイバイマンに似てたとか、そんな可能性は?種を悟空が持ってるってのは考えにくいし……。

うーん、わからん。

 

「わからん!」

「そっか!じゃあにいちゃん、次のボール探そうぜ」

「よし、そうだな。方角どっちだ?」

「あっち!」

「だいぶ北の方かー。途中でコート買ってくか」

「つぎはじいちゃんの球だといいな」

 

六星球を拾って、二人でそれぞれ筋斗雲に乗り込んだ。ドラゴンレーダーの示す方向へと向かって筋斗雲を走らせる。ふと嫌な予感がしたので、悟空の襟首を掴んで持ち上げた。

瞬間、筋斗雲が爆発した。ロケットランチャーが直撃したらしい。

 

「あっ、筋斗雲!」

「下、あいつか」

 

襟首を掴んだまま下に飛び降りた。ロケットランチャーを構えた、ロングコートの大男。いかにも悪そうなやつ。

 

「おまえ何者だ?」

「それはこちらの台詞だ。貴様らはなんでドラゴンボールを集めている?なんでそう簡単にドラゴンボールを見つけることができたのだ……我がレッドリボン軍のレーダーではそこまで細かい位置はわからん……」

「レッドリボンかよ」

 

聞いたことある。悪の軍隊だっけ。詳細は知らないけど、ここに来て日が浅い俺でも名前は知っている。

ていうか地味に答え教えてもらったのだけど無意識か?

 

「ペッペッ!筋斗雲を壊しちゃうようなやつに教えるもんか!オラに謝れ!」

「小僧……レッドリボンのシルバー大佐を舐めるなよ……」

「はいはい」

 

悟空は完全に相手をする気がないようで、プイッとシルバーに背を向けた。なので遠慮なく、デコピンで沈めておく。一発で気絶したのを確認、ヨシ。

 

「にいちゃん、筋斗雲無くなっちゃったから乗せて」

「いいぞ」

 

俺の筋斗雲、悟空より広くてよかったわ。あぐらをかいてその上に悟空を座らせる。悟空の荷物は前で抱えてもらって、さらにドラゴンレーダーを受け取った。

 

「んじゃ、行くか」

「おう!」



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第十七話

途中で町に降りて防寒用コートを買った。男の子用のダッフルコートにもこもこの帽子に手袋。あとついでにマフラーも買ってみる。うーんファッションショー。楽しい。

 

「にいちゃん、このゴーグル?っての頭ギュってなってやだ」

「でもそれしないと帽子が風で飛ばされかねないぞ」

 

そーいや西遊記の孫悟空って頭に金属の輪っかはめられてなかったっけ。名前忘れたけど、悪いことするとギュッてなるやつ。

それを考えると、ゴーグルを嫌がるのも分かる、かもしれない。

カードでお買い上げして、ついでにお腹いっぱいご飯を食べて、改めて筋斗雲へ。

風が冷たい。服買っておいて良かった。悟空はといえば、ご飯の後だからか呑気に昼寝中。

しばらく進むと、雪で覆われた村が見えてきた。ドラゴンボールもこの近辺にあるらしい。

悟空を抱えて、一度村外れに降りる。気を探ってレッドリボン軍と思われる人間を避けながら歩いていると、女の子とであった。村人らしい。

 

「こんにちは」

「あなた達、誰?」

「俺はマレビト、こっちは昼寝してる悟空。聞きたいことがあるんだけど」

「マレビトさん!?」

「お、おう」

 

食い気味に反応されてビビったが、なんでも俺の作ったカードゲームが村でもブームになって、それで名前を覚えていたらしい。

とりあえずうちに来て、と言われたので言葉に甘えてお邪魔することにした。

 

 

「ここどこ?」

「起きたか。ここはジングル村。ドラゴンボールがある場所だよ」

 

少し経って悟空が起床。大体の顛末を説明する。ここにはレッドリボン軍が村長を人質にドラゴンボールを集めてるのだ。ろくなことしないなレッドリボン。もらったココアをふうふう飲みながら、悟空はキョロキョロと周囲を見渡している。

 

「マレビトさんはレッドリボン軍なの?」

「違うよ。むしろ嫌われてるんじゃないかな、悟空と一緒に」

「どうして?」

「ドラゴンボール探してレッドリボン軍とかちあって、まあ色々と」

「あなたたちは、どうしてドラゴンボールを探してるの?」

「見せてあげる、これがドラゴンボールさ」

 

悟空が六星球を取り出して見せながら、探している四星球やドラゴンボールの特徴について説明する。そういや、レッドリボン軍の目的ってなんなんだろうな。

レッドリボンは村長を人質に、村の男衆を使ってドラゴンボールを捜索中とのことだ。助けたくても強くて敵わず、さらにはバイオーム人間も徘徊してるらしい。

だからなんなんだよバイオーム人間。

 

「ふーん、よし!オラがそいつらやっつけてやるよ!バイオーム人間ってのとも戦ってみたいしな!」

「そーいやあの時は不意打ちで仕留めたもんな」

 

真正面から戦ってみたい、というのが本音なんだろう。もちろん、ジングル村を助けたいという気持ちも本当だろうけど。

そうと決まれば早速出立準備。タイミングよく殴り込んできたレッドリボンの兵士二人をデコピンで沈めてから、悟空と一緒にコートと帽子を被る。

 

「にいちゃん、これやらなくていいか」

「ゴーグル?しなくていいよ。それ風圧対策に買ったやつだし」

 

そんなに嫌いか、ゴーグル。

雪は、新雪ではないようで足元に不安はない。しょっちゅう人が歩き回って踏み固められているからかもしれない。雪かあ、そういやこっちの地球で見るのは初めてだな。

 

「じゃあ行ってくる!」

「ばい」

 

悟空と一緒に基地に向かって走り出す……テンション高っ!なんだこのテンションは。パッパラパッパパパパーン!とか歌……というかファンファーレか?

巨大な塔がみるみる近づいてくる。門番は悟空が如意棒で一掃。俺の足元にも迫ってきたのでぴょいと飛んで回避する。そのまま悟空は棒高跳びの要領でヒョイっと見張り台の上に登ってしまった。

 

「へへっ。先行くぞ!」

「おーう。いってら」

 

スピーカーから聞こえてくるラスボス、もとい敵司令官の言葉に従って……マッスルタワーっていうんだこの城。作ったの?それとも改造したの?

そんなことを思いながら、完全に忘れられた俺は一階のドアを蹴破って入場した。全員悟空にかかりきりでそんなに人は居ないだろうか?

 

「ぐぎゃぎゃ……」

「あっ」

 

気を探るのサボってたツケか、目の前には複数体のサイバイマン、もといバイオーム人間。慌てて気を探ったらバイオーム人間は全部一階にいた。一拍分の沈黙の後、一斉に襲いかかってくるそれらを相手にするために剣を抜く。

すまん悟空、今回も俺が全部仕留めるわ。

 

 

全部のバイオーム人間を切り裂いたあと、検分のために一番原型をとどめている死体の頭に触れた。ぱっくり割れるわけでもなく、無駄に硬い頭だけだ。つるつるしている。

俺の知ってるサイバイマンは、頭がぱっくり割れてそこから溶解液を出すことが出来ていた。しかしこいつらにはそれがない。ためしに剣で切り裂く。自爆するための機能も取り外されていた。

 

「……?フリーザ軍ならわざわざ弱くする理由もないしな?」

 

少なくとも、俺の知るオリジナルサイバイマンではない。ならこれは、バイオーム人間と呼ぶのが正しいんだろう。

さて、ではこいつらがこの地球の人間に合わせて弱くデザインされている理由はなんなんだろう。そもそもサイバイマンの種と地球の土壌が合わなかったのか、それとも。

そもそも、地球人に合わせて品種改良されているのか。

 

「んー……」

 

品種改良されたとして、レッドリボンではないだろう。あいつら強すぎる怪物作って自滅するタイプだろうし。

だとしたら、バイオーム人間そのものが地球人に合わせてサイバイマンをリデザインした、オリジナルがいて、レッドリボンはそれを培養コピーしたと考えるのが妥当だろうか。

なんで?って聞かれると答えられないが。

 

「ま、いいや」

 

これ以上は結論が出ないからいいや。また何かヒントがあれば考えよう。死体に手をかざして、ミイラになるまで残った生体エネルギーを吸い取ってから外に出る。

バイオーム人間が俺を狙う理由も、さっぱり分からないしな。

 

+++++

 

俺がそんなことを考えている間に悟空はマッスルタワーを最上階まで登り人造人間8号ことハッチャンとお友達になってホワイト将軍をぶっ倒し村長を救出していた。

人造人間、なんかどっかで聞いたことあるぞ。未来の敵というか味方というか、アレだ。まあ今は関係ないか。

 

「ハッチャン、にいちゃんだ」

「どーも、マレビトだ。考え事してるうちに終わっちまったから俺なんにもしてないけど。悟空助けてくれてありがとな」

 

途中で脱いだコートを悟空に着せて、背中におぶる。ハッチャンと村長に合わせて歩いて村へと戻る。わあっと湧き立つ村に苦笑した。どんだけ酷いことしてきたのかレッドリボンは。

美味しいご飯をいただき(マッスルタワーからいくつか失敬してきた)、食後に入れてもらった紅茶を飲みながら、話題はドラゴンボールに移った。

 

「そういや、ドラゴンボールって結局どこにあったんだ?」

「……俺が持ってた」

「おお、まじか」

 

灯台下暗し。ハッチャン持ってたんかい。

キラキラ光るオレンジ色の球体は確かにドラゴンボールだ。星は二つ。レッドリボンはドラゴンボールを見つけたら村人を皆殺しにするつもりでいて、だからそうならないように隠していたと。

ハッチャンは村長からめちゃくちゃ気に入られていた。当たり前だ。

 

 

明日の出発に備えて、ハッチャン、スノ、俺、悟空の四人で一つの部屋で寝ることになった。カードゲーム開発者として大人たちにサインしたり話をしたりしてから部屋に入ると、ハッチャンが机に向かって四苦八苦している。

 

「なんがあったのか」

「にいちゃん、ドラゴンレーダー壊れちった」

「ありゃ。じゃあブルマに直してもらわないとな」

「何処にいるのか知ってるのか?」

「うん」

 

西の都で何回も会ってる。ていうか、カードゲームで遊ぶための腕につける道具、作ったのカプセルコーポレーションだし。

 

「じゃあ次の目的地は西の都だな」

「疲れたし、たくさん寝ておかないとねっ!おやすみ!」

「おやすみ!」

 

電気が消える。すぐに三つ分の寝息が聞こえてきた。俺はといえば寝付けない。心臓がバクバク音を立てて、かと思えばギュッと痛くなる。

あーもう、四人で寝るとか……なんで。

もうとっくの昔に、仕方ないって諦めたはずなのに。

なんで、こんなに前世の家族を思い出すんだろう。



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第十八話

ドラゴンレーダーが壊れてしまったことが判明した。悟空曰く、ずっと懐に入れっぱなしだったのが悪かったらしい。というわけで、ドラゴンボール探しは一旦お休み。西の都でブルマにドラゴンレーダーを修理してもらおうという意見で一致した。

 

「じゃ、悟空。忘れ物ないか?筋斗雲呼ぶぞ」

「なに!?筋斗雲じゃと?」

「君たち、筋斗雲に乗れるのかい?」

「うん」

 

なんでも、昔はあちこちで筋斗雲を見たらしい。なんだその、昔は蛍がたくさんいてねえ、みたいな絶滅危惧種的な扱い。いや、蛍も筋斗雲も、大して変わらないのか。なるほど、蛍と扱いが変わらないなら俺が乗れるのも納得である。

そして、筋斗雲はそう簡単に壊れたりしないらしい。えっマジか。

 

「筋斗雲よーい!!!」

 

村人に促されて叫んだ悟空の元に、俺のよりひと回り小さい筋斗雲がひゅうっと飛んできた。お、おお。すげえな、ちゃんと生きてた。

 

「おかえり、悟空の筋斗雲。またしばらくこいつ頼むな」

 

嬉しそうに筋斗雲を抱きしめてぴょんと跳ねる悟空の頭をぐりぐりと撫でながらつぶやいた。仲がいいのなら、別れは寂しい。ずっと一緒にいられるのならそっちの方がいいからな。

 

「よし、行くか」

「うん!みんなたっしゃでね!」

「お世話になりました、ありがとう」

「さいならハッチャン!さいなら村のみんな!」

 

一度視線を合わせて、それから一気に筋斗雲を走らせる。ここに来るまでは少しゆったりとした旅路だったけど、西の都までは最高速度で走らせる。

ぐんぐん風を切って、空を飛んで。

西の都に着くのはあっという間だった。

 

+++++

 

「うわーっ!なんだここはーっ!」

「西の都だよ。一旦筋斗雲から降りるぞ」

 

なにしでかすか分からないので、迷子にならないよう筋斗雲から降りて悟空の手を繋いだ。今は引っ越したけどここで暮らしていた時期もあるので、道は大体わかる。

 

「これはな、信号機ってんだ。赤い時は道路を渡るなよ、車がぶっ壊れるから」

 

悟空と交通事故を起こすなんて運転手が可哀想なことにならないよう、ぼちぼちルールを教えながら歩くこと数分。途中で買ったソフトクリームがなくなった頃に、悟空と俺はブルマの家であるカプセルコーポレーションにたどり着いた。

いつ見てもめちゃくちゃでかい。某オモチャ開発の時は世話になったなあ。

インターフォンを鳴らすと、合成音が代わりに応答する。

 

「ブルマはいるか?」

『ブルマ様ハタダイマ学校ニイッテミエマスガ』

「ありゃ。上がって待ってていいか?」

『ドウゾ』

 

許可が降りたので、無駄にでかい家へお邪魔する。俺、少しの間ここに住んでたんだよな……信じられん。悟空の手を繋いだまま、一階の庭と化した場所を歩いて、そこで待機する。

 

「すげーなあ、中に外があるぞ」

「どうだすごいだろう、って俺が言えることじゃないけどな」

 

あちこち元気に走り回る元捨て猫の喉を撫でてやるとゴロゴロいい音が鳴った。どれもこれも久しぶりだ。悟空はキョロキョロと辺りを見回して、近くにあった木に登ったりしていた。しばらくそんなふうに時間を潰していると、キコキコと自転車の音と共に近づいて来る気配。

 

「久しぶり」

「どーも」

「にいちゃん、誰だこの人?」

「ブルマのお父さん」

「オッス!オラ悟空!」

「おおっ!そうかーっ」

 

ゆるい感じでやってきたこの人、めちゃめちゃ天才のブリーフ博士である。ブルマが天才ならそのお父さんも天才という訳である。自然の摂理だ。久々の再会をしたあたりで、学校を早退してきたブルマもやってきた。

 

「ブルマ、邪魔してた」

「ああーっ!孫くんにマレビト!」

 

わいわい、天下一武闘会以来の再会に盛り上がる。案外早く再会するもんだな。

そうだ、ブルマがドラゴンボールの伝説知ってたくらいだし、ブリーフ博士も何か知ってやしないだろうか?

 

+++++

 

「俺ちょっと博士に相談あるから」

 

というわけで、三つ目のドラゴンボール探しはお見送り。ミクロバンドで小さくなったブルマを連れて悟空は旅立っていった。あっという間に見えなくなった悟空とついでにもっといい男を探すというブルマ。ヤムチャよりもっといい男……たぶん、いる。だってブルマとヤムチャが結婚してた記憶ないのにブルマの息子いるから。

……誰と結婚するんだっけ?ハッキリ覚えてるの、もう既に会った悟空とブルマとヤムチャ以外だと、人造人間が二人?と、未来から来たイケメンと、ラスボスのブー?ぐらいしか覚えてないんだよな。

あっ、そういえばフリーザも中ボスだった。

フリーザが中ボスってめっちゃ魔境じゃんこの世界。どうなってんだよ。

 

 

「で、聞きたいことってなに?」

「生命工学……遺伝子工学ってどれくらい進んでる?」

「そうじゃのお、わしは専門外じゃが、遺伝子工学の入門書ならこの辺に……」

 

書斎から取り出された分厚い本と、いくつかの論文データを渡された。試しにめくってみるけどさっぱりわからん。これあれだ、入門書()ってやつだ。今の俺の頭だと幼児向けの『よくわかるバイオテクノロジー』みたいな本から始めないとだめだコレ。

そんなことを思いながら、図解だけでもペラペラめくっていく。

 

「なにが知りたいんじゃ?」

「生物のコピーというか、クローン」

「クローンか。技術自体はもうあるぞ」

「マジ?」

 

あー、そういや理科の教材になんか書いてあった気がする。ていうかよく考えたらハッチャンとかいう人造人間すでにいるじゃん。アホか俺は。

 

「じゃあ遺伝子系の改造とか組み替えもとっくに出来るよな」

「まあそうじゃの。そこの青いバラなんかそうじゃ」

「ふうん」

 

……もしや一回絶滅した恐竜が当たり前に闊歩してるの、どっかの遺伝子工学系の研究者がやらかしたからだったりする?

なんか恐竜パークな感じで。

 

「マレビト」

「なんだよ」

「なにが知りたいんじゃ」

「んー……色々と。強いて言うなら生命エネルギー」

 

バイオーム人間の正体とか、俺の病気の詳細とか、アスラっていう今の俺の肉体のルーツとか、そっちも気になるけど。

 

「なあ、どこから勉強したらいいかな」

「そうじゃの、まずは───」

 

+++++

 

休憩挟みつつしばし色んなことを教えてもらった。結論としては、まず理科の基礎を学ぼう!ってことで落ち着いた。だけどそれ以上に面白くてためになる話がたくさんあった。

一度大きく伸びをする。さて、そろそろ悟空と合流するか。

 

「おーい、筋斗雲ー!」

 

猛スピードで飛んでくる筋斗雲を撫でて飛び乗る。目的地は悟空のいる場所。さーてどの辺かな、と気を探ると……いたいた。

 

「博士、ありがとう」

「またおいで」

「よし、行くぞ筋斗雲」

 

びゅうん、と筋斗雲が目的地に向かって飛んでいく。ぐんぐん風を切り雲を切り進んでいった先……なにか、違和感を覚えた。

例えて言うなら、前世と今の世界である『ドラゴンボール世界』とのギャップのような空気感の違い。だけど、この違和感は前世と今世の違和感よりも若干薄い。

雲は飛んでいく。どんどん、どんどん。

 

「……?」

 

途中で雲を止めて降り立つ。明らかに空気が違うと言うか……世界が違うというか。

てくてく歩く。悟空はあっちかなー。

と。どん!と背中に何かがぶつかった。その勢いのまま一回転。

 

「いってえ!なんなん、だ?」

「んちゃ!」

「……んちゃ」

 

二頭身のちいさくてパワー全開の女の子。後ろでふよふよ浮かぶそっくりの天使のような赤ちゃんのような二人組。

えーと、この子知ってる、てか思い出した。

アラレちゃんだわこの子。




次の投稿は10月20日となります
理由:Dr.スランプを読むため


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第十九話

アラレちゃん、なあ。

知ってるけどほぼ覚えてない。カニにジャンケンで負けた子ってのは知ってるけど。

俺その知識どこで覚えた?そしてなんでその知識だけ持ってる?

 

「ねーねー、にーちゃん誰?」

「マレビト」

「マレビトくん?」

「うん。なあ、オレンジ色の服着た、きみと同じくらいの身長の男の子知らないか」

「知ってるよ!金色の雲に乗っててね!乗せてもらいたくておっかけてるの!」

「なんだ、筋斗雲に乗りたいのか。おーい、筋斗雲ー」

 

筋斗雲を呼んで、その上に乗る。こうなるんだったら別に降りなくてもよかったかな。後ろに女の子たちが乗ったのを確認して、悟空の気を探った。

 

「よしいけ、筋斗雲!」

 

ぐいん!と筋斗雲が猛スピードで走り出した。ジェットコースターもかくやの軌道とスピードである。もしかして筋斗雲も可愛い女の子を乗せてテンション上がってるのか?思ったより俗っぽいなオマエ。

そんな風にアクロバティックに飛んでいると、下の方で何やら困っている悟空を発見。

 

「おーい、悟空ー」

「にいちゃん!」

「んちゃ!」

 

急降下アンド急停車。ずいぶん楽しんだ背後は置いておく。ついさっきまでうんうん唸っていた悟空は俺を見るなりパァッと顔を綻ばせて抱きついてきた。どんだけ困ってたんだ。

 

「にいちゃん、ドラゴンレーダー壊れた!」

「またか!笑顔で報告するなよ!」

「またブルマに直してもらわないとな……なあにいちゃん、ここどこ?」

「無意識に来たのか?ペンギン村だよ。なあ」

「うん!」

 

試しにドラゴンレーダーを受け取ってカチカチスイッチを連打したり試しに軽く叩いてみたりしたが、治らない。これは本格的な修理に出さなきゃダメかもしれない。

 

「ねえそれ、こわれちったの?」

「ああ」

「博士だったらなおせるよ!」

「ほんと!?」

「まじか、頼んでいいのか?」

「うん!筋斗雲のお礼だよ」

 

じゃあお言葉に甘えるか。もう一回筋斗雲に乗りたそうにしてたので、今度は悟空の方の筋斗雲に乗ってもらう。

そうして再びアクロバティックな空中飛行を楽しんで、アラレちゃんの案内に従い博士の家に到着。

 

「オッス……じゃなくて、こんにちは!」

「はい、こんにちは」

「はじめまして、お世話になります」

 

ドラゴンレーダーを博士たちに預けて、俺は少し距離を取った。

なんか、アラレちゃん単体ならともかく、こうして複数の人が集まると俺にとって、なんというか、あんまり良くない気がした。

危機を察知する直感というやつだ。なんでこんなに平和な光景に働いたのかはさっぱりわからないけど。

 

「……ふー、」

 

大きく深呼吸して心を落ち着ける。一旦落ち着こう。冷静になって……

 

「こっこのやろう!オラのレーダー返せよ!」

 

お前誰?つーか悟空をいじめてんじゃねえよ。

苛立ちのまま半裸の男を鞘付きの剣で殴り飛ばした。そしたらアラレちゃんが頭突きで男を空高く吹っ飛ばした。

たーまやー?

 

「あっ、レーダーどっかいっちゃった」

「にいちゃん、大丈夫か?」

「それはこっちの台詞なんだが」

 

まあ、怪我してなさそうだしいいか。

 

「きみ、顔色がずいぶん悪いぞ。休んで行きなさい」

「そんなに?」

 

アラレちゃんが持ってきた鏡の俺は……おお、めっちゃ顔色悪い。けどここで休んでも悪化する気しかしない。

なんでだろう。

 

「いいよ。すぐ治るから」

「しかしだな」

「本当に大丈夫だから!」

 

しまった。思わず声が荒んでしまった。心配してくれただけなのに。

ゆっくり深呼吸。これ以上、ここにいない方がいい。悟空はいつの間にやら、新しいドラゴンレーダー持ってるし。

 

「……アラレちゃん」

「ほよ?」

「んー……色々とありがとう。はかせ、怒鳴ってごめんなさい」

 

……行くか。

 

+++++

 

筋斗雲で飛ぶことしばらく。だんだん頭が冷えてきたのと同時に、あの不調の原因も見えてきた。

過去の記憶を掘り出してみるに、アラレちゃんは多分、ギャグ漫画と呼ばれる部類に入るんだろう。そしてギャグ漫画、ギャグアニメは往々にして、メタフィクションを引き起こす。

俺は元々、そのメタと呼ばれる場所にいた。そこから、少なくとも俺の世界におけるフィクション世界に飛んできてしまったのだ。そんな稀人が、メタとフィクションの距離が近いあの空間にいたことで、肉体と魂のバランスを崩しかけてしまったのが、今回の不調の原因なんだろう。

 

「……ギャグ、恐るべし」

 

あそこに居続けたら、本格的にマレビトという個人が自己崩壊をはじめかねない。こええ。二度と近づかないようにしよう。

あの空間にいなくても、目の前にドラゴンボールの単行本が置かれただけで大パニックを引き起こす自信があるし。

 

「──ちゃん、にいちゃん」

「?っと、悟空?」

 

やべえ、思索に耽りすぎた。悟空を振り返ると、サイヤ人らしい真っ黒な瞳が俺をじーっと見つめている。何考えてるか分からん。

 

「にいちゃんは、どっからきたんだ?」

「……うん、どっかから」

 

うおお、ペンギン村の影響か?メタ視点は持ってくれるなよ頼むから。今でも心臓がバクバク跳ねてるってのにさあ。もう強引に話を変えてしまえ。

 

「俺は今が楽しいからいいんだよ」

「そうなんか」

「そうなの。それより悟空、次のレーダーの位置はどこだ?」

「あっち!」

 

指を挿した方向には、天高く聳える謎の塔が。

……なんか、ペンギン村とは別方向で、嫌な予感がひしひしとする。

悟空のワクワクとは全く違うドキドキが俺を襲っているが、行かないわけにもいかない。

さて、どうなることやら。



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第二十話

聖地カリン。……聖地か。相性めっっちゃ悪いんだよなあ俺。一体何度神様とか、長老とか、そういう人たちに追い出されてきたことか。地球っていう名前の星から追い出されたらしばらく落ち込む自信あるからな。

とりあえず子供を人質に取ってるレッドリボンの飛行機を蹴って揺らし、落っこちてきた子供を受け止める。それと入れ替わりで、悟空がパンチでイエロー大佐?とやらをノックアウトしていた。

 

「や、無事か?」

「……!」

「ウパ!」

 

下にいるのは、父親だろうか?体格のいい男と、その周囲でウロチョロする緑色の、小柄な、人間のような生き物が俺たちを見上げている。

……えっ?

 

「にいちゃん!レッドリボンが連れてた緑のやつだ!」

「だよな。にしては、ウパの父ちゃんと仲良さそうにしてるけど」

 

踊りを思わせる動きでウパの無事を喜び合ってるように見えるんだが。ハイタッチしてる個体もいるし。

よくよく観察すると、死体になってるバイオーム人間と、その周囲でコミカルに動いているバイオーム人間?の二種類に分かれていた。

話を聞いた方がいいな、これは。

 

 

「息子を助けてくれてありがとう」

「レッドリボンのやつをやっつけるついでに助けただけだよ。なあ、そっちの奴らは?」

 

とりあえず地面に降りて挨拶。生きてるバイオーム人間?は協力して死んでるバイオーム人間を埋葬している。一部は俺を遠巻きに見守っている。

結構警戒されてるな。

 

「彼らはサイバイマン一族」

「さいばいまん」

「サイバイマン……いちぞく??????」

 

なんかすげえ単語が出てきた。一族だと……?俺フリーザ軍の技術に関する知識とか表面上しか知らないけど、サイバイマンって種から生える生物兵器の一種じゃなかったっけ?

何故に、地球で自生してる?

 

「我々の一族がこの地に住まうよりもずっと前から、この聖地カリンに生きる者たちだ。私たちは先祖代々、彼らと共にこの地と、この塔を守っている」

「へえ……ちょっと失礼していいか」

 

死体と化しているバイオーム人間と、それらを運ぶサイバイマンを比べてみる。当たり前で意識してなかったが、バイオーム人間にはあるレッドリボンのマークが、サイバイマンには存在しない。

 

「……サイバイマンって、自爆したり、溶解液出したりする?」

「いいや、そのような話は聞いたことがないな」

「そっか。変なこと聞いたな」

 

多分、ここのサイバイマンがバイオーム人間のオリジナルだ。サイバイマン改良verとでも言うべきか?

そもそも、なんでサイバイマンが自生してるんだっていう問題はあるけど、とりあえずレッドリボンのバイオーム人間の出どころという謎は解明した。もっとでかい謎が誕生したというのは置いといて。

あと、サイバイマンってそんなに昔からあったっけ?

 

「あっ!おじさんが持ってるのドラゴンボールだっ!ねえ見せて見せて!」

 

そんな思索に耽っていると、悟空がドラゴンボール、しかも探していた四星球の存在に気がついて大喜びする声が聞こえてきた。とりあえずヒントも何もない状況で悩んでても仕方ないので思考から浮上する。

 

「なるほど、その球にはそんな秘密が……」

「でもオラの願い事はないから、このじいちゃんの形見の四星球を中心に探してたんだ」

「俺はあくまで付き添いだし、な!?」

 

突然、巨大な気が生まれた。数値に換算するなら1000を軽く超える……1200くらいあるだろうか。数字上で言うなら、俺よりも少しだけ強いくらいか。次に質を探ると、目の前のサイバイマン一族とほとんど同じ。

 

「悟空下がってろ」

「おい、にいちゃん!」

「俺の敵だ。悟空のじゃない」

「まさか……目覚めたのか!?」

 

背負っていた剣を抜いて警戒態勢に入る。森の奥で生まれたその気配は、ゆっくりとこちらに向かってきた。目的は、俺か?

なるほど、今回は力づくで聖地から排除されるパターンか。落ち込んでいいかな。

やがて目の前に現れたのは、一体のサイバイマン。見た目や大きさは地球に自生しているものやレッドリボンに所属しているものと同じ。俺が知っている、ごくごくスタンダードな見た目だ。

たったひとつ違うのは、その強さ。

間違いない。これは俺の知っている“オリジナル”に限りなく近いサイバイマンだ。

 

「こいつ……つええな」

「そうだな」

 

ゆっくり呼吸をして、切っ先をそいつに向けた。

 

+++++

 

先手必勝。とりあえず地を蹴って接近して、サイバイマンを遠くの森の中に蹴り飛ばす。余波が及ばない場所まで吹き飛んだそいつに追撃をかけるように剣を振りかざす。一撃必殺を狙ったそれは、ギリギリの所で受け止められた。

 

「……ちっ、とぉ!?」

 

流石に上手くいかない。しかし衝撃そのものは簡単に殺し切れるものではない。サイバイマンの右腕は歪に折れ曲がり、剣を直接受け止めた掌はズタズタに引き裂かれている。

さらに下から迫ってきた蹴り技をギリギリで回避するも、避けきれなかった爪が頬と額を切り裂いた。ぼたぼたと血が流れるが大雑把に拭うにとどめた。

攻防で簡単な力関係を把握する。スピードは若干俺の方が上、力は向こうが上。つまり上手く立ち回らないと普通に負ける。

 

「厄介だなあ!!!」

 

一旦木の上に登って身を隠す。気を探れないのはオリジナルと同じようでキョロキョロと見失った俺を探していた。俺の場合、気を消すのはデフォルトだから、音を可能な限り消して剣を握り直した。

俺の居る場所が、そいつの視界から外れた、時を狙って背後に瞬間移動、一気に振りかぶった刃が無事な方の腕を切り落とす。そのままこちらに殴りかかってきたそれの攻撃を剣でいなした。そのまま逆に、上から、下から、攻勢に出る。

 

「ギギギ……!!」

「……落としといてよかったなこれは!」

 

腕二本だったら確実に競り負けてた。そのまま上段から強めの一撃を降らせると、残った片腕で受け止められる。頭が──開いた。

飛び出す溶解液を紙一重で避けて、急所であろう開いた頭の中に、残った溶解液で皮膚が溶けるのも厭わず右手を突っ込んで……いってえ!!!普通に怪我するのとはまた別で痛え!

左手の剣で腹を刺して動きを固定して、脳髄を握りつぶす。重力に従って落ちてきた溶解液が背中に降りかかって皮膚を焼くが知ったことか。

ぐぎゃっ!なんて気持ち悪い声が聞こえて、そのまま沈黙した。

 

 

「あー……強かった」

 

死にかけた。死ぬかと思った。背中めっちゃ痛い痛みで気絶しそう。これ神経毒入ってるんじゃね?あの溶解液の降ってくる角度によっては死んでた。いやあ、強敵だった。俺死にかけたから回復したら戦闘力上がってそうだな……面倒だな。俺の気を生み出す能力ただでさえ低いのに、強くなったら必要な気の量増えるじゃん。

さて、大真面目に戦闘に踏み切ってしまった。悟空を置いてけぼりにしてしまったなあ。申し訳なく思いながら気を探る。あれっ、なんか悟空より幾許か強い気配が……

 

「ちょ、待て何があった!?」

 

とりあえずなりふり構わず瞬間移動!

さっきまでいた場所の上空に駆けつけると、宙に浮いて今にも槍で刺し貫かれそうな体がある。慌てて手を伸ばして助けようとして、さっき大怪我した傷が痛んだ。それでもギリギリ急所を外して、二人でゴロンと地面に叩きつけられる。

いってえ。このやろ、無駄に大怪我させやがってサイバイマンめ。あとお前誰だよ。

俺たちが死んだと勘違いした悟空が、そいつに飛び掛かって、やられた。あの軌道だとドラゴンボールが入ってるから大丈夫だな。それを判断して、死んだふり。

やがてそいつは去っていた。全く、引っ掻き回しやがって。



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第二十一話

とりあえず怪我人の手当てをしながら情報をまとめる。俺も温厚なサイバイマンに血を拭いてもらったりしている。俺が留守にしてる間に襲撃してきた者は桃白白というらしい。悟空が持っていた三個のドラゴンボールは奪われたが、懐に入れてた四星球だけは残っていた。

と言うことは、また襲撃してくるなあいつ。

 

「にいちゃん。あいつ、このボールも取りに来ると思うんだ。そのときに取られたドラゴンボールもまとめて取り返してやる……!」

「でも、負けただろ?俺がやろうか」

「オラがやる!!!」

 

おおう、意地というやつだろうか。これは首突っ込む方が野暮だな。しかしどうやって鍛えよう。

そんな俺たちのやりとりを見ていたウパの父親、ボラが、徐に口を開いた。

 

「ならば、このカリン塔に登ってみてはどうだろうか」

「いいのか?あんたらは番人なんだろ」

「君たちは命をかけてわたしたちを救ってくれた恩人だ。そのような者が塔を登るのを止める理由もない」

「よーし!オラ登ってみる!ウパ、にいちゃん頼んだ!」

「逆じゃないのか。頑張ってこいよ」

 

俺は休む。

というわけで、悟空は何倍もの力を得られるという超聖水を求めてカリン塔を登って行ってしまった。あとには、俺と親子、サイバイマンが残される。

 

「間に合わなくて悪かった」

「……いや、あのままだと私は殺されていた。礼を言うのはこちらの方だ」

「そうかよ。なら、礼がわりにひとつ聞かせてくれ。アレ、なんだったんだ」

 

オリジナルに程近い、この地球の何よりも強いサイバイマン。少なくとも俺でなくては死んでいた、否、その気になれば地球人を簡単に虐殺できてしまう、そんな生き物。それが、聖地と呼ばれる場所にいた。

 

「そうだな……私たちも詳しくは知らない。というのも、あれはサイバイマン一族が先祖代々守ってきたものであるらしいのだ」

「へえ」

 

つまりウパたちの一族はカリン塔を、サイバイマン一族はあのオリジナルを守ってきた存在であるらしい。守る必要あるか?という疑問は置いておく。誰かがいたずらに起こしてしまわないようにという意味だろうか。

 

「そしてかのサイバイマンは、この地を訪れると言われるある者を祝福するために長い時を眠っていたのだという」

「祝福?」

 

なんて悪趣味な。アレが祝福だって???

絶対祝福()だろあれは。だれがあんなもん喜ぶんだ。

 

「ああ。そして我が一族にはもうひとつ言い伝えがある。それは、いずれこの地に“稀人”が訪れた際は、その者を迎え入れるように、というものだ。──おそらくは、サイバイマンが待っていた者は、マレビトのことだったのだろう」

「……えーっと、俺別にサイバイマン喜んでないんだけど……」

 

むしろ背中ズキズキ痛くて嫌なんだけど。誰が仕込んだのか知らないけど、趣味悪ゥ。

……でも、わざわざ迎え入れるように、だなんて、変な言い伝えだ。温厚な方のサイバイマンの群れも、会ったはじめはともかく、今は俺の怪我を労わるような動きをしている。

気になるな、少し休んだら会いに行ってみよう。

カリン塔のてっぺんに住むっていう、仙人のところに。

 

+++++

 

夜。

二人は疲れもあって眠ってしまった。俺も眠いけど、頑張って起きて筋斗雲を呼ぶ。別に会えればいいから、スキップしてもいいや。自力で登るのめんどくさいし。

雲に乗って空を駆け上れば、あっという間にカリン様とやらの場所に着いた。悟空は大の字になって爆睡してる。よしよし、とりあえずしばらくは起きんだろ。しかし問題はカリン様も寝てるところか。

 

「なんじゃ、そんなに見つめて」

「ありゃ、起きてた」

「起きたんじゃよ。そんなところにおらんで来い」

「いいのか?俺稀人だけど」

「かまわん」

「へんな仙人だな」

「武天老師も同じだったはずじゃが」

「……あっ」

 

そういえば、今俺が乗ってる筋斗雲をくれたのは亀仙人だった。なんかこの星の仙人とかそういう人たち、俺に優しいな……。

お言葉に甘えて屋根の下へ。ぐーすか寝こけている悟空のほっぺたをツンツン突いたが全然起きる気配がしない。

そんな俺と悟空を見て、カリン様はふくふく笑った。

 

「そやつはな、お主に勝ちたいと言っておったぞ」

「そなの?」

「眠っていたサイバイマンと戦うときのお主を見たのじゃろう。桃白白に勝てぬようではお主に勝つなどできんと張り切っておったわい」 「お、おう」

 

あの“孫悟空”に目標にされてるって考えるとありえない前提に背筋がぞわっとくるけど、弟分の孫悟空の目標って考えるとちょっと嬉しい。そっかー。意地張ってんのか。お前も武道家だもんな。

 

「それより、その怪我では眠ることもままならんだろう。仙豆でもやろうかの」

「他人事……聖地の生き物だろ……」

 

ほいっと投げ渡された豆の数はふたつ。俺ともうひとりの分はボラのだろう。なんとなく今すぐ食べるのは憚られたのでポケットにしまう。そのまま座って、剣を抱える体勢で手すりにもたれた。

 

「なーカリン様、サイバイマン一族っていつからいるんだ?」

「随分昔からじゃよ。わしが生まれた時には既におった」

「カリン様何歳?」

「八百歳とちょっとじゃ」

「じゃあ、俺の方が百五十年くらい歳上だな」

 

しかし、カリン様よりさらに昔からいるのか。フリーザ軍のサイバイマン、こんなに昔から存在していたっけという疑問が募るが、頭を振って思考から追い出した。これ以上考えても何も発展しなさそうだ。

ふー、と息を吐いて、この辺りの生き物から気を少しだけ分けてもらう俺を、カリン様は呆れたように見ている。

 

「その力はどこで手に入れた?」

「ああ、この能力?独学だよ」

 

生命エネルギーの強制徴収、とでもいうべきか。一応元気玉に酷似しているが、独学故に似て非なる能力となってしまった。

気を生み出す力が少ない俺は、周囲から気を吸い取って溜め込んで生きている。普段は食事だとか、あとは吸い取られたことに気付かない程度の量しか取らないけど、その気になれば惑星の一つくらい滅ぼせるんじゃないだろうか。

そんな気なんてさらさらないおかげでこの技術の練度が低くて、戦いながら吸い取るのは無理だけど。

 

「その能力が無ければ、受け入れる星も多かっただろうにの」

「しょーがないだろ、これないと死ぬんだから」

「なぜ、そうまでして生にこだわった」

 

んー、何故、ときたか。

人が死にたくないのは当たり前じゃないのか、という反論は無視。だってこの体が患った病気の持ち主は俺だけじゃないし、複数の罹患者の中でこの能力を得るほど生に執着したのはマレビトだけなので。

今思えば、この能力を得た時の俺はずいぶんと死にたくなかった。何故ならば。

 

「……いえに、かえりたかったんだよ」

「今も、帰りたいか」

「いいや。もうなんか、しょーがないかって諦めた」

 

それきり、口を閉じる。カリン様も、これ以上は突っ込んでこなかった。無言の空間に、スピスピと悟空の呑気な寝息が聞こえる。

……戻るか。

 

「じゃ、カリン様、悟空のことよろしく」

「ふむ、任された」

「おーい筋斗雲ー」

 

外に飛び降りると、金色のもふもふの雲が俺を受け止めた。疲れ切ったので筋斗雲の上に横になる。睡魔に身を任せようにも、背中が痛い。

……あのサイバイマン仕込んだやつに会ったら、一発ぶん殴ってやる。



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第二十二話

お気に入り登録数が200を超えました。ありがとうございます


桃白白との初戦から三日後。

舞い戻ってきた桃白白と孫悟空の二戦目は、まあ悟空が勝利した。ふははは、どうだ悟空は強いだろう。と、胸の中で勝ち誇っておく。あと不意打ち爆弾使ってまで負けたのは単純にダサい。下手に武器を使わず〜なんて言わず最初からあらゆる手段を用いる、って言っとけばダサくならずに済んだのに。

 

「やったー!悟空さんすごいっ!」

「まさかこれほどまでとは……」

「ギイ!」

 

ウパと仙豆で怪我が治ったボラは驚いたり感心したり、そしてサイバイマン一族は踊り狂って喜んでいる。なんか愉快だなこいつら。ついでに俺もそいつらとグータッチしておいた。

桃白白は一件落着。さてどうするか。

ここまで好き勝手やっといて放置するのもなんだかなあ。

 

「よーし、オラこれからレッドリボンのやつらの家に行って、みんなやっつけてくる!行こうぜにいちゃん!」

「あ、当然のように俺もなんだ?」

「行かないのか?」

「行くけど」

 

ドラゴンレーダーで場所を確認。二つほどドラゴンボールが集まってる場所がある。つまりこの辺りにレッドリボン軍の秘密基地があるということ。

 

「じゃあ行ってくる!」

「世話になったな」

 

筋斗雲を呼んで乗り込む。二人とたくさんに手を振って出発進行。時々ドラゴンレーダーを確認しながら空を駆けていると、途中で小さなカメラ付きの飛行物体と出くわした。

 

「なんだこれ」

「レッドリボンの偵察機……ではないな。マークがないし」 

 

あのバイオーム人間とやらにもマークがあったのに、機械にないのはおかしい。しかしどこから来たんだこれ。

やがて偵察機はどっかに飛んでいってしまった。なんだったんだあいつ。

 

「なんだろなあいつ」

「さあ」

 

お互いに首を傾げつつ、しばらく進めばあった、レッドリボン軍の秘密基地。空を飛んでる戦闘機を撃墜しつつ敷地内に降り立つと、バイオーム人間が一斉に俺に向かってきた。

マレビトの肉体には二つの魂が入っているせいか、それとも一つが異世界産であるからか、神様や仙人のような魂を感知できる存在には「ええ……なにこいつ怖……」みたいなリアクションをされることがままある。バイオーム人間もオリジナルは聖地の生き物だから、そういう魂と肉体の不自然さみたいなのが目について、結果俺が印象に残りやすいのだろう。基本俺に向かってくるのもそれがきっと原因だ。

 

「じゃ、悟空。俺はこいつら適当に相手しとくから」

 

戦力差ざっくり見積もったけど、悟空一人でまあなんとかなるだろう。というわけで、俺は邪魔なこいつらを片っ端から切って行く作業に集中する。いや、マジで作業だわ。聖地の奴らと違って自我っぽい自我ないし、強さの差がありすぎるし。淡々と切って蹴飛ばしてを繰り返して、バイオーム人間を全滅させた頃には、悟空は非常に無駄のない動きでレッドリボン軍を壊滅状態にまで追い込んでいた。

仕事早いな。なんかこの辺は星の地上げ屋やってたサイヤ人の片鱗を感じる。

 

 

「にいちゃん」

「おつかれ。どうかしたか」

「ドラゴンレーダー壊れた」

「またか!」

 

今回の旅で何回壊れたんだろうドラゴンレーダー。悟空は抜け目なく残りのドラゴンボールを回収してきたので、残りはひとつだ。受け取ってカチカチボタンを押すけど、確かに何も映らない。うーん。

 

「とりあえず今回はドラゴンボール探し終わりにするか?」

「?しねえよ。にいちゃん、ドラゴンボールで叶えたい願いがあるって言ってただろ」

「あ?そういえば前回のドラゴンボール探しでそんなこと言ったな」

「だから最後のひとつも探すよ」

 

よく覚えてたな。だからレッドリボン軍本部やっつけるとか言い出したのか。別に急ぎじゃないんだけど、ちょっと嬉しい。

なら、とりあえずやるべきはレーダー修理かな。筋斗雲呼んで西の都の方向を確認してややゆっくりめに飛んでいると、下から俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「孫くん!」

「マレビトー!」

「あれ!?みんなーっ!」

「てことはあの偵察機はブルマのか」

 

気を読み逃したのは反省点。背中痛いのは言い訳にならないからな。とりあえず下降して合流。修理のために一旦カメハウスまで向かうことになった。

 

 

流石に汚れたのでシャワーを借りてざっくり汚れを落とす。ついでに包帯を変えて、ホイポイカプセルに入れてた着替えに着替える。さっぱりして出てくると、ブルマが不思議そうに分解したドラゴンレーダーを見ていた。

 

「おかしいわねえ……どこも壊れてないわ……」

「でも残りの一つが映らないじゃないか」

「途中まで七個全部映ってたんだろ?」

 

ドラゴンレーダーは故障していない。それを踏まえた結論は、何者かがドラゴンボールを飲み込んでしまったのでは?というものだった。なるほど、そういうパターンもあるのか。

しかしそうなったら、どうやって探そう?ドラゴンボールの気を探るのとか流石に無理だからな。

みんなでうんうん唸ってたら、亀仙人がうらないババという助け舟を出してくれた。食中毒で死んだ不死鳥といいなんでもありだなこの世界の地球。

そんなわけでうらないババとやらの元に出発、の前に、悟空の道着を作り直すことになった。俺は着替え持ってたけど、悟空持ってないしな。

 

 

「オラやだよ〜こんなの〜」

「似合ってるぞ?……ふはっ」

「あー、にいちゃん笑ってる!」

「はははははっ!」

「似合うじゃないか!お坊っちゃんみたいだぞ!」

 

若干の悪ふざけで着せてみたおぼっちゃまスタイルが面白すぎた。悟空のムッとした表情がじわじわくる。いや、買わないよ。それはそれとして着せたかっただけだし。

無難に同じ大きさの道着を作ってもらうことにして、暇な一時間は茶屋でのんびり過ごすことにした。

 

「甘くて美味しいなこれ、おかわり」

「いやこれ嗜好品だから。腹を満たすものじゃなくてゆっくり飲むものなんだよ」

 

あっという間に飲み干したので流石にツッコミを入れる。抹茶オレが気に入ったのは良かったけど飲むの早くない?

 

「ヤムチャとクリリンも好きなの頼んでいいよ」

「ありがとうございます!」

「いやあ、悪いな」

 

まあ俺、金は割とたくさん持ってるし。

そんなこんなで時間を潰して、占いババの館へ。先に並んでいた猛者が何があったか大怪我してほうほうのていで出てくるのを見るに、なんかカラクリがあるような。

前の集団がはけて、次の俺たちの番になった。

 

「おやまあ、みんなずいぶんと若いのう」

 

ごめん、たぶん俺うらないババより歳上。

言わないけど。

 

「あのさあ、探してほしいものがあるんだけど」

「いいとも。一千万ゼニーお出し」

「それ、今すぐキャッシュじゃなきゃダメ?」

「もちろんじゃ」

 

あー、じゃあダメだ。流石に日常的に一千万は持ち歩いてない。だが、さすがにその辺りはうらないババも折り込み済みであったらしい。良かった。

うらないババに連れられて、やってきたのは外に設置された、丸い、闘技場にも似た舞台だった。ここでうらないババの用意した選手五人に勝てばいいらしい。

 

「ただし、格闘でない戦いはダメじゃ。つまりそこのマレビトのように刀を持っている者は参加を認めん」

「ええっ!」

「あ、天下一武闘会みたいなルールなのか」

 

じゃあ俺はプーアルと観戦だな。五対三か、まあ行けなくもないだろ。頑張ってもらおう。ある意味一番の当事者なのに、他人事のように観戦する体勢に入った。

 



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第二十三話

最初の一人のドラキュラマンにうっかりやられてしまい、クリリンが脱落。その後相談があってプーアルがドラキュラマンと戦うことになったので、試しにこっそり十字架を腕で作ったらひっくり返ってしまった。

 

「おい」

「俺は後ろで適当なポーズ取っただけだから。ドラキュラが勝手にひっくり返ってるだけだから」

 

そんなこんなで一戦目勝利。よっしゃ。

二戦目はプーアルが棄権しヤムチャvs透明人間。流石に見えない相手に苦戦するヤムチャだったけど、クリリンの機転でブルマと亀仙人を連れてきて鼻血を噴出させることで透明人間を可視化し勝利した。

いや、透明人間をペイントするのは常套手段だけど、それに鼻血を使うのは流石に初めて見たわ。

そして、占いババが亀仙人の姉だと判明した。

……世間って狭いな。

 

 

亀仙人とブルマと合流して、三戦目は悪魔の便所という場所で行うことに。下に落ちたら助からないよってのは理解できるが、なぜわざわざ便所の形にしたのか。

ヤムチャはここで脱落、次に出てきた大将役の悟空が鳩尾に一発入れて勝利した。

次のアックマンは悪魔らしい。俺には着ぐるみきた男にしか見えないけど、ちゃんとした悪魔らしい。アクマイト光線とかいう悪の心を増幅させる謎ビームもなんのその、一切効かなかった。純真すぎて逆に心配になる。苦し紛れに取り出した武器も効かず、悟空が快勝した。

そんなこんなでついに大将同士の戦いだ。ぬっとやって来たのは狐のお面をつけた、じいちゃん。

 

「やあ」

「……え?や……やあ」

 

おお、悟空が戸惑ってる。珍しい。

じいちゃんは外の闘技場で戦うことを望み、占いババも快諾。再び外に出ることになった。

 

「あいつ……いいニオイがする……」

「え?そうか?ギョウザでも食べて来たのかな……」

「そうじゃねえ……よくわからねえけど……嬉しいニオイだ……」

 

ふうん、悟空がそんな風な表現をするなんて、ますます珍しい。様子が変といったら亀仙人もだ。あのじいちゃんに覚えがあるらしい。そしてかなりの達人であるとも断言した。

ついでに、占いババとじいちゃんのやりとりを見るに、あの人も悟空と知り合いであるらしい。

ルールは単純、どちらかがまいったというまで。お辞儀をしない悟空を叱り、お互いに礼をしてようやく試合が始まる。あの距離感、じいさん、悟空の発言と感覚、亀仙人……。

……うーん、正体、なんとなくわかったような気がする。

 

「試合、始めいっ!」

「こいっ!」

 

掛け声と同時に仕掛けたのは悟空。技のキレはほぼ互角。一進一退の攻防は空中戦に移行、それからかめはめ波の撃ち合いとなった。それを制したのは悟空で、倒れた相手に蹴りを一発だけ入れて、降伏を促す。

 

「ねえまいった?まいったって言わなきゃトドメさしちゃうぞ!」

 

周囲は悟空含めて完全に勝ち確定ムードだが、そうはならない気がする。悟空のことをよく知っているなら、尻尾という弱点だって知っていてもおかしくないからだ。

案の定、悟空は尻尾を握られて逆転されてしまった。尻尾を握って振り回されている。尻尾が弱点と知って亀仙人やブルマが驚いている声を背後に俺の推測は確信に変わった。

この人、ほぼ確実に悟空のじいちゃんの孫悟飯だわ。そりゃー強いわ。弱点知ってるわ。かめはめ波も撃てるし悟空が嬉しいニオイって表現するわ。

ほぼ同時に亀仙人も正体に気づいたらしい。

 

「あやつは死んだ悟空の祖父、孫悟飯じゃよ!」

「ええーっ!」

 

驚いている横で、悟空は尻尾がちぎれることで窮地から脱していた。結構痛かったのか尻を押さえてぴょんぴょん跳ね回っている。尻尾無いから分からんが、あれ結構痛いんだな……いや今まで切ったの、大猿になってる時だけだったしさ?

いや、普通に考えて弱点って呼ばれるほど神経通ってるんだから、痛いわな。なんかごめんな悟空。

 

「いちちちち〜……よ、よくもオラの尻尾をちぎったな〜〜!オラもう怒っちゃったぞーーー!」

「ふぉっふぉっふぉっ……まいった。ワシの負けじゃ」

「え!?」

 

尻尾がちぎれて勝ち目がないと悟った悟飯じいちゃんが、降伏した。これで晴れて悟空が勝利したことになる。

 

「強うなったな悟空よ、よくここまで修業した」

「な、なんでオラの名前を……?」

「じゃが弱点である尾を鍛えるのは怠ったようじゃな。注意しておいたはずじゃが……」

 

この辺りのやりとりで、ついに悟空も気がついたらしい。目をまんまるくしてまさかと呟いている悟空の目の前で、狐面が取られる。

 

「そうじゃ、ワシじゃよ」

 

現れたのは優しげな風貌を持った一人のじいさんだ。じいちゃん、と何度も呼びながら涙を浮かべて飛びつく様子は、悟空がまだ子供だということを思い出させる。

……いいなあ。

と、感情が落ち着いた悟空が一旦悟飯じいちゃんの所から離れたと思ったら、俺のそばに駆けてきた。そして俺の手を取って、悟飯じいちゃんの場所まで戻ってくる。

 

「じいちゃん!紹介するよ、マレビトにいちゃんだ!」

「どうも、マレビトだ。悟空に世話になった」

「ほほう、悟空が世話になった、ではないのか」

「まあ、居候してた時期があってな」

「そうか、そうか。悟空が世話になっとるの」

 

わしわしと頭を撫でられた。ちょっとくすぐったい。ボサボサになってしまった髪を撫でてなおしていると、死んでるはずの悟飯じいちゃんが現世にいるカラクリを解説してくれた。

あの世とこの世を自由に行き来できる占いババは、その力で死者を一回一日だけ現世に戻せるらしい。孫悟飯は占いババの力で悟空が来るこの日に合わせて現世に戻ってきたのだという。いやあ、愛されていることで。

つーかじいさんども、そこで大猿の相談をボソボソするなよ。聞かれるぞ。

 

 

「それでは、わしはそろそろあの世へ帰らせてもらいますわい」

 

そんな挨拶で、フッと悟飯じいちゃんは居なくなってしまった。亀仙人に負けず劣らず女好きという一面を残して。いるのかなこの知識。

そして、約束通り占いババが占ったドラゴンボールの位置を頼りに、悟空が飛び出していった。俺は待機組に混ざっているのでついて行かない。というのも、占いババが何かを言いたそうに俺を見ているからだ。

ブルマたちからなるべく距離をとって占いババと二人きりになる。そこでようやく、聞きたいことを言えた。

 

「……俺が試合出場禁止なの、武器の使用が本当の理由じゃないだろ」

「気づいておったか」

「アックマンがふつーに武器使ってたからな。理由は俺の魂か」

「そうじゃ。お主が稀人であるなら、警戒するのは当然であろう。……ま、杞憂だったがな」

「ふうん」

「詫びに、一回だけ好きなものを占う権利をやろう」

「……いや、いいよ。当たり前の反応をしただけだし」

「阿呆。こういうのは素直に受け取っておくもんじゃ」

 

ペシン、と頭を叩かれた。それじゃあ、受け取っておくかな。使うかどうかは分からないけど。

 

「それから、これはサービスじゃ」

「なんだよ」

「……元来の魂はともかく、他所から来たお主の魂はおそらく、天国にも地獄にも、受け入れ先はない」

「なんだ、そんなことか。もう知ってる」

 

死んだらどこにも行けないってことくらい、知った上で生きてるから問題ない。

……やっぱり俺の魂においでって言ったアスラとかいうこの肉体の本来の持ち主、超弩級のアホじゃないのかな。それですごく助かってるのもまた、事実だけれども。



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第二十四話

あっという間に飛び出して行った悟空が、あっという間に帰ってきた。何故か服が変わって。

 

「服ダメになるの早いなおい」

「おーい!」

「見つかったのね!」

「ああ!ホラ!」

 

悟空は一度、ブルマに一星球を見せびらかすと、風呂敷に集めていた残り六つのドラゴンボールの元へと駆けて行った。そして、合計で七つ全て集まったドラゴンボールを、俺にスッと差し出す。

 

「にいちゃん、はいどーぞ!」

「ありがとう」

「えへへー」

 

受け取った七つのドラゴンボール。それを一度改めて風呂敷で包みなおした。ここで呼び出してもいいけど、みんなの目の前でなんとなく気恥ずかしい。

 

「じゃ、ちょっと願い叶えてくるわ」

「えー、ここで呼び出せばいいじゃない」

「別にどこでもいいだろ」

「あ、わかった!エッチなお願い叶えてもらうつもりでしょう!」

「違うわ!!!」

 

そんなやり取りをしてから筋斗雲を呼び出して、闘技場から少しばかり離れた場所まで飛んで行った。あたり一面なにもない荒野。気を探っても着いてきてる様子はない。

地面に風呂敷を敷いて、七つのボールを並べた。さて、呼び出しに答えてくれるかどうか。

 

「──神龍よ、出でよ!」

 

数拍の沈黙。ダメか?と思った瞬間、空が真っ黒に染まり、ボールが発光した。大きな光がボールから立ち上ると、巨大なドラゴンがその姿を形成していく。

よかった、出てきた。目前で見るのは初めてだなそういえば。

 

「さあ、願いを言え。どんな願いもひとつだけ叶えてやろう」

「この肉体の、病気を治すことは?」

「それはできない。私の力の範囲を大きく超えている」

 

なんでも叶えてくれるんじゃなかったのかよ。ただまあ、ここは想定内だ。ならば次点の願いを言ってみる。

 

「なら、俺の病気について、全て教えてほしい」

「───」

 

また、数拍の沈黙。やや待ってから、神龍がおもむろに口を開いた。どうやらこの願いはオッケーだったらしい。

 

「その病の名前は『嫌気性症候群』」

「嫌気性症候群……」

「強さに応じて、自力で生み出すことのできる生命エネルギーが減っていく。そして、一定の強さに達すると、生み出せる生命エネルギーの量がゼロとなる」

「うわキッツ。……原因は?」

「遺伝子だ」

「遺伝子疾患かよ」

 

生まれつきだなとは思ってたけど、生まれた時点で詰んでたんかい。よく考えれば一族郎党同じ病気持ってたな。母体から感染したと思ってたけど違ったんだ。 

 

「俺以外の誰か、例えば孫悟空とかがこの病気を発症している可能性は?」

「ない。この宇宙において、嫌気性症候群を患っているのは一人だけだ」

「……治療法は」

「少なくとも今は、ない」

「だよなあ」

「願いは叶えた、さらばだ」

「おっと」

 

神龍が消えて、ボールが散り散りに飛んでいく。その寸前で飛び上がってとりあえず四星球だけキャッチしておいた。

さて、情報を整理しよう。そも、生命エネルギーである“気”と戦闘力はほぼイコールだ。強くなれば気の最大値も増えるし、消費量も増大する。それが俺の場合、強くなればなるほど気の量が減っていくというわけで。なんだこのバグじみた構造は。

 

「──発症者俺だけって点で満足するしかないか?」

 

完全に石になった四星球を手のひらで弄びながら悩む。でも俺にできることって何もない。ただ生命エネルギーの徴収の技は対症療法としてクリティカルだったらしい。なんとなく食べないでおいた仙豆も、病気の治療には使えないしな。取っておくか。

難しいことは後々考えよう。案外この病気が役に立つ日が来るかもしれないし?

それはないか。

 

「おーい、筋斗雲ー!」

 

筋斗雲を呼び出して、闘技場で待ってるみんなの元に戻る。少しの間飛んで、あの場所に降り立つ。

 

「や、悟空。これ四星球」

「にいちゃん、願い叶ったか?」

「ああ、叶えてもらった。すごく助かったよ、ありがとう」

「どういたしまして!」

 

悟空に四星球である石を渡して、ひと段落。さてこれからどうするか。悟空たちは天下一武闘会に向けて修業の日々を送るらしいが、俺は特にやることがない。

次の天下一武闘会は三年後か。

……故郷の星に行くのもいいかもしれないな。瞬間移動使えばすぐ行けるし。いや、故郷とっくの昔に滅びてるっつーかぶっ壊れてるんだけどね。残った星の残骸が引力で集まって小惑星くらいの大きさになって形だけ復活したから、短期滞在ぐらいはできるんだ。

一回行ったことあるから分かる。まあスケールでかめの墓参りと洒落込むか。一族が滅びた直接的な原因である病気の詳細も分かったことだし、報告だけでもな。

 

「マレビトはどうするんだ?」

「墓参りに行こうかなって」

「それもよいな」

 

そんなふうに、各々の方針が決まった。悟空は修業のために走り出し、亀仙人たちも走って帰っていく。俺は筋斗雲で帰る。別に手抜きじゃない。俺は移動で鍛えるまでもなく強いだけだ。

 

「じゃあな占いババ。色々ありがとな」

「そうかい」

 

お礼を言って筋斗雲で家まで真っ直ぐ飛ぶ。

ああ、今回の旅も楽しかったな。

 

+++++

 

傷が治ったので、墓参りを決行した。

カプセルに沢山のご飯と、花束と、お酒を入れる。お酒買うの苦労したな。最終的にブリーフ博士に泣きついたわ。ついでにタバコも用意してみたけど、誰か吸うやつ居るんだろうか。

 

 

「何もない」

 

瞬間移動でもう一つの故郷に帰ってきてみたはいいものの、何にもない。俺以外に生きてるものが存在しないし、故郷の面影ひとつない。一回ぶっ壊れたから当たり前ではあるが。

この世界、軽率に星がぶっ壊れるから困る。星座とかいう概念ないだろ。

適当な場所に腰掛けて、お供え物を並べて、やることがないのでピクニック感覚で食べる。

 

「あの世で美味いもの食べてるのかな」

 

悪いことは(そこまで)してないから、地獄に落ちてはいないと思うんだけどな。アスラとか俺が入るまで大体伏せってたから悪いことする余裕すらないし。

ご飯をあらかた食べたので色々とお片付け。最後に火をつけた線香と、花束だけ残しておく。空気が乾燥してるしドライフラワーになりそうだ。引火したところで火事になるものすらないし、そこは気楽である。

試してみた酒とタバコは両方むせた。二度とやらん。

 

「墓参りって言うのか?これ」

 

そもそも墓標すらねえ。まあいっか。そんなもんだ。

最終的に火のついた線香と花束ひとつしか残らない荒野とも言えない地面。すう、と息を吸い込むと線香の独特の香りがする。

 

「──【だんだん心惹かれてく、その眩しい笑顔に】」

 

うわっ、下手。

だけど俺以外誰も聞いてないし、いいや。

せっかく再現したんだ、周りを憚らず歌ったっていいだろ。

思う存分歌ってスッキリした。線香も燃え尽きた。

 

さあ、家に戻るか。

 



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第二十五話

なんやかんやで三年後。

この三年間であったことといえば、ついに肉体が齢千歳を迎えた。せっかくなので千歳飴買って食べたら、口がベッタベタになった。飴って少しずつ食べるから美味しいんだな、勉強になったわ。

仕事の方はまあまあ順調だ。前世でもやってたちょっとしたアクシデントを手持ちのカードで切り抜ける大喜利系ボードゲームを作ったら、TCGほどではないけどそれなりに売れた。とりあえずもうしばらくは金に困らなさそうだ。

 

 

俺は今回も出場するつもりはないので、ちょっと遅れて会場に着いた。いい感じの場所を取って本戦が始まるのをのんびりと待つばかりだ。

今回は……おー、強いのが増えてる。

悟空、優勝できるかな。

第一戦目は、ヤムチャと天津飯という鶴仙人の弟子との戦いだ。

鶴仙人……ああ、桃白白の兄の。レッドリボンの一件が落ち着いてから調べて知ったけど、亀仙人と双璧だったんだ。つーか天津飯、目が三個ある……今更か。

 

『では第一試合、ヤムチャ選手対天津飯選手、始めてください!』

 

強さはほぼ互角、いや、天津飯の方が若干上か?そんな予想が当たったか、格闘戦は天津飯が若干押してる。

格闘では埒があかないと察したヤムチャがかめはめ波を……おお、かめはめ波の使い手が増えている。そして天津飯はそれを跳ね返し、エネルギーは俺に向かって飛んできた。ので、最前列にいた俺が受け止めるハメになった。

あぶねえなー。手がちょっとビリビリするし。

砂埃と煙が収まった時には、すでに決着がついていた。空中に退避したヤムチャを天津飯が仕留めて決着。追撃で骨まで折ったのはやりすぎだと悟空たちが憤っていたのが印象的な試合だった。

 

 

『で……では第二試合を始めます。ジャッキー・チュン選手対男狼選手です!』

 

男狼は怒っていた。というのも、男狼は満月の夜に人間になれるのに、ジャッキー・チュンこと亀仙人が月を吹き飛ばしてしまったためにずーっと狼のままになってしまったかららしい。

へえ、サイヤ人以外にも満月で変化する種族がいるんだ。 

 

『第二試合、始めてください!』

 

その合図と共に始まった試合は、ジャッキー・チュンが圧倒していた。残等である。最終的にナイフを取り出していたが、その程度で覆る力量差ではない。そして代わりと言わんばかりに取り出された骨を追いかけて男狼は場外負けした。

なんて単純な。

そして男狼は、クリリンの頭を満月に見立てた催眠術で無事に人間になり、去って行った。

にしても、満月って催眠術で代用できるんだな。ブルーツ波が足りないときのあと一押しに催眠術、応用出来ないのかな……いや、俺で実験できるわけじゃないんだけど。あとよく考えれば、満月の代わりを用意するくらいならブルーツ波溜め込む装置開発した方が遥かに有用だわ。

 

『さて、次は第三試合を始めます!餃子選手対頭が満月のクリリン選手です!どうぞーっ!』

 

司会にネタにされてるし。

 

 

気を取り直して第三試合。餃子とクリリンの試合である。俺としてはもちろんクリリン応援派だ。

試合は、おおむねクリリンが優勢だ。しかし舞空術により決定打を与えられずにいる。

……そういえば、地球って気功波より舞空術の方がマイナーなのか……!?うわっ、今更ながら気づいたローカル性。今世の俺の滅んだ地元じゃ気功波より舞空術優先で覚えてたからなあ。新鮮だ……。

そんな感慨に耽っていたら、戦局はどどん波とかめはめ波の撃ち合いに移っていた。

に、しても。鶴仙人って本当に亀仙人の対となる存在なんだろうか?師匠としては亀仙人がよほど勝ってる気がする。スケベだけど。

 

「どどん……」

「か……め……は……め……」

 

この撃ち合い、クリリンが勝つな。

餃子は技は高いけど、技の使い方が下手だ。宙に浮いて好き勝手どどん波を撃っていた時だって、適当にクリリンに向かって撃つばかりで動きをある程度コントロールするという発想もなかった。

技ってのはつまり道具であって、素人が大剣を振り回していたところでナイフの達人には敵わない。技という武器に依存すれば、必ず足元を掬われる。

結果は予想通り。しかし舞空術を修めた餃子はフラフラしながらも闘技場に復帰した。

その後、餃子は超能力で勝負を仕掛けるものの算数で負けた。

……勉強、大事。

 

 

なんやかんやで第四試合。悟空の相手はパンプット?という選手。なんでも天下一武闘会以外の二つの大会で優勝して、さらにこの大会でも優勝して完全制覇を狙っているらしい。

うーん、多分無理。

ていうか今更だけど、悟空の尻尾がちゃんと生え変わっている。

パンプットは派手なパフォーマンスで場を沸かせるものの、悟空には完全に実力差を見切られており、三十秒どころか十秒も経たずに負けた。早え。

 

『こっこれは驚きました!このような展開になるとはいったい誰が予測できたでありましょうか!一撃です!ほんの一瞬のたった一撃で、なんとあのパンプット選手を仕留めてしまいました!』

 

一撃ではない。肘打ち三連打だった。早すぎて音が重なって一回しか撃ってないように見えただけだ。

 

 

割とテンポよく四回分の試合が消化された。ここまではほぼ予想通り、というか残等というか、順当な結果に思える。しかし、わからないのはここからだ。

天津飯は強い、悟空に匹敵する強さだ。そして力技は低くても戦闘力という概念で測れない卓越した技巧を持つ亀仙人、頭の回転や発想で一つ上をいくクリリン、言わずもがな悟空。

うーん、誰が勝ってもおかしくないな、ここからは。俺としちゃ、一番仲いいしサイヤ人贔屓なもんだし悟空に勝ってほしいところではあるが。別に亀仙人やクリリンを応援していない訳ではないけどな。

 

「……ん、」

 

パチリと、天津飯の三つ目と俺の両目が交錯した。睨まれる、というよりは興味の方が勝っているだろうか。少なくとも、準決勝を前にして観戦者に敵意を飛ばすアホではないらしい。

まあ、あのかめはめ波受け止めたの俺だしな。おおむねその辺だろう。

腹が減ったのでポップコーンをカプセルから出して頬張る。うーん、冷めても美味しいって最高だな。ジュースで喉を潤して、次は準決勝、天津飯とジャッキー・チュンこと亀仙人。

さて、どんな内容の試合になるだろうか?



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第二十六話

ここまでは比較的順当に進んできた天下一武闘会だけど、ここから先は展開が予測できない。さあどうなるだろうか。

ポップコーンを食べ終えて、次はリンゴを取り出して丸齧りしながら天津飯とジャッキーの試合の観戦体制に入る。

 

『さあこれは面白い対決になってまいりました。前大会の優勝者であるジャッキー・チュン選手と、圧倒的な強さを見せる天津飯選手!まさに注目の一戦であります!』

 

つまりこれはまさしく、亀仙流vs鶴仙流の戦いであるというわけだ。ううん、楽しみ!

 

『では、はじめてくださいっ!』

 

先制したのは天津飯であり、その一撃を受け止めたことで攻防が始まった。実力はほぼ伯仲しているが、動体視力に優れている天津飯に多重残像拳が効かないのはジャッキーに不利か?見破られて壁に叩きつけられた。でも、ジャッキーもこの程度で戦意喪失するようなタマじゃない。

本気を出すために上着を脱いで、第二ラウンドの火蓋が切って落とされた。次もまた、天津飯から仕掛けるも、ジャッキーは猛攻を凌ぎ天津飯の両手首を掴むやそのまま鳩尾に蹴りを食らわせた。

おお、すげえ。たしかにどれだけ早くても腕が物理的に四本とかに増えなければ攻撃の手は増えないもんな。

 

『非常に激しい戦いが繰り広げられております、ジャッキー・チュン天津飯戦!勝敗の行方はまったくもって分かりません!』

「よっしゃいけ!頑張れ!」

 

亀仙人が負けるとは思ってないけど、不安要素があるとすれば鶴仙流の技の多彩さを天津飯はまだ発揮していないことだろうか。桃白白の素性を調べたときについでに詳しく調べといてよかった。

と、思っていたら、天津飯が太陽拳を繰り出してきた。まぶし。目眩しか、すごい使い勝手良さそうな技だ。俺も猫騙しで窮地をくぐり抜けたことが何回かある。

眩んだ視界が戻ってきた頃には、カウントダウンが半分くらい進んでいて、膝蹴りを食らったジャッキーがなんとか起き上がってきたところだった。実況がサングラスをかけていたお陰で状況は把握している。

 

「き……きさま、一体何者なんだ……!」

「お主、それほどの技をなぜ正しい道に使わぬのじゃ!なぜ悪に走る……技が泣いておるぞ!鶴仙人とは縁を切るのじゃ!安易な悪の道から逃げ出せ!」

 

会話になってない会話だが、そのやりとりで天津飯を動揺させるには十分だったらしい。技のキレが落ちた。まあ、本当に弟子のことを思ってるのは鶴仙人よりは亀仙人だよな。と、側から見ていて思ってしまう。

悪いことするより良いことして生きるのは、俺もなるべく心がけていることであるし。

自分の力を誇示するようにかめはめ波を再現してみせた天津飯を見て、ジャッキーは何を満足したのか自分から武闘台を降りてしまった。

これで天津飯の勝利である。

元々、クリリンと悟空を調子付かせないために出場していたんだし、なんとなく納得ではあるんだけど、少しビックリした。

……色んな意味で敵う気がしないな、亀仙人。

 

 

そんなこんなで次は悟空とクリリンの試合。

これ、どっちを応援すればいいのだろうか?俺としてはどちらかというと悟空派だけどクリリンに負けてほしいわけじゃないしな。

に、しても。二人ともちっちぇえ。かわいい。

この二人があんなバトル繰り広げるんだから、そりゃ会場のボルテージも上がるよ。ウリゴメもテンション上がってるしさ。

 

「二人とも頑張れよーっ!」

 

とりあえず両方とも応援しとけばいいか。

二人の攻防に熱中しつつ、面白いのは舞空術が使えないなりの空中戦だ。俺たちだと絶対こうはならないのが見ててすごく面白い。さっき満月と揶揄された頭で太陽の光を反射するのとか、かめはめ波で勢いつけて方向転換とか。

クリリンは悟空に思いっきり殴られても復帰したが、このまま真正面からやり合っても勝ち目がないことを察したらしい。尻尾を握る方向へと方針転換した。

でもな。悟飯じいちゃんに叱られたのに鍛えてない訳ないしな。俺の知ってるサイヤ人も尻尾ちゃんと鍛えてたし。

 

「悟空、お前そんなタマじゃないだろ!起きろ!」

 

声をかけた瞬間、悟空がぴょいと上体を起こしたかと思うと、クリリンを飛び越え尻尾を存分に動かして地面に叩きつけた。予想外の動きだったのか、クリリンは対処もできず地面に叩きつけられる。

 

「……ふはっ」

 

性格悪う。でも、なんか可笑しい。こいつもだんだん強かになって来たよな。誰に教わったんだか。

まあクリリンの罠に引っかかるあたりまだまだ素直なんだろうが。

しかし致命的ダメージにはならない。次に悟空は超高速で、並の動体視力では捉えられないほどのスピードで反復横跳びをしながら一気に近づいていく。クリリンは……見えてない。

そして、クリリンが吹っ飛ぶ程度の弱さで手刀を食らわせ場外に叩き落とした。

あっけない幕切とは言うが、中身は全くそうではない。悟空、性格の第一印象からは分かりづらいけどかなりテクニカルなタイプだな。亀仙人の弟子だからか?それとも本人の気質か?

 

『さあ皆さまいよいよ天下一の武道家が決まります!決勝戦ですーっ!』

「よっしゃ悟空!優勝決めろよ!!!」

 

ここは思いっきり悟空を応援させてもらうからな!

 

『第二十二回を迎えました天下一武闘会、世界各地より集まった達人、その数百八十二名。さらに予選を通過できた者たったの八名。そして試合はコマを進めついに決勝にまで残った二名!』

 

改めて見ると体格差すげえな。まあ、悟空はサイヤ人だし肉体の大きさそのものでハンデにはならないとは思うけど……うーんでも前回大会ではリーチの差で負けてたしなあ。

月齢は気にする必要がないとはいえ、さあどうなることか。

あっ、亀仙人が不法侵入して間近で観戦してる。瞬間移動使って俺も行こ。

 

「よ、クリリンに亀仙人」

「マレビトさんまで!」

「まあ硬いことを言うな、クリリン」

「亀仙人の言う通り。それより試合始まるぜ」

 

俺が不法侵入するの二回目だし。

それに、今更俺の侵入に気付く人なんていないだろ。なんたって、全ての目が悟空と天津飯の試合に集中してるんだから。

しん、と会場全体が静まり返る。

 

『始め!』

 

それを合図に、二人が同時に地を蹴った。

 



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第二十七話

『始め!』

 

今までの試合とは違って、悟空と天津飯が同時に仕掛けた。これまで以上にスピードを上げた攻防に、実況ですらついていけていない。体格差による不利はなさそうだ。

ところで、排球拳をするのは良いけどいくわよーっていう掛け声とかそれに対する性別の変わったはあーい♡とか必須なのか?人格分裂してない大丈夫?

排球拳をモロに食らった悟空だったが、すぐに起き上がって復帰していた。やっぱり種族として単純に頑丈だなサイヤ人。

亀仙人とクリリンも横でめちゃくちゃ驚いてるし。

に、しても。息切れが全くない。体力が多いにしてもなんだか攻撃を上手い具合に食らった感じがする。

 

「悟空、まだ底見せてないな?」

「え?」

 

クリリンが一瞬こっちを向いた。いや、思い返せばクリリンとの戦いの時余裕あったなって。気絶じゃなくて場外負けだったし。

悟空に本気出させる天津飯もすごいな、これ。

そして、いざ戦闘用の本気を出した悟空に、次は天津飯が防戦一方となる。数度の攻撃の末に空中に蹴り上げた悟空はかめはめ波で追撃をかけようとして、切り上げる。

このまま撃っても、エネルギーを消耗するだけだと察したらしい。わかる、エネルギーの消耗を抑えるの、とても、大事。

 

『すっすごいっ!まったくものすごい攻防戦!』

 

実況が実況になってないのを聞き流しつつ、悟空の動きを追うと、次は亀仙人のレベルを超えた残像拳を繰り出していた。それに対抗して天津飯も太陽拳を繰り出すが、それは亀仙人のサングラスによって阻まれ……天下一武闘会、武器禁止のルールゆるいな。前から思ってたけど。

 

「…………に、しても」

 

流石にこれはアウトだろう、と、突然動きの悪くなった悟空を見て思う。超能力だっけ。ギニュー特戦隊にもそういうのが使える奴、いたなあ。あれ地味に厄介なんだよ。

さて、俺が出るべきか。それとも。

 

「亀仙人ちょっとちょっと」

 

人差し指で鶴仙人と天津飯、悟空と餃子を順番に指差せば、何を言いたいのか大体伝わったらしい。たった一人、クリリンだけが首を傾げている。

 

「一体、何があったんですか?」

「対戦したクリリンならわかると思うけど、餃子って超能力使えるだろ?」

「ええ、まあ、そっすね」

「その超能力で餃子が悟空に妨害かけてる」

「ええっ!」

「ただな、証拠がなんとも」

 

あくまでレフェリーは一般人であるし、観客もいる。彼らにどううまく妨害されているのか伝えなければ、試合を邪魔したとして俺……はまあいいとして、悟空にヘイトが向いてしまう可能性がある。悟空はなんとか食らいついているが、やはり厳しい。

やはりこういう場所でただの一観客、というのは厄介だな、どうしよう……と思ってたら、天津飯も違和感に気づいてしまったらしく、餃子を一喝した。

うーん、鶴仙人の弟子とは思えないくらいマトモである。俺がマトモであるとは言わないが。

 

「なあ亀仙人」

「なんじゃ」

「鶴仙人ってもしかしてクソジジイ?」

「気付いたか」

 

おおう、肯定されてしまった。

 

「悟空、待つんじゃ!」

「え?」

 

亀仙人の一声で、一旦試合が止まった。こういう時ネームバリュー便利だよな。

天津飯はポツポツと、鶴仙人に訴えている。この試合だけは、自分の力で本気で戦いたいのだと。その感覚はよく分かる。

つーか鶴仙人に天津飯、殺す気だったんかい。反省してるし殺したくないって言ってるからまあいいけど。

餃子もまた、天津飯に心が傾いているようだ。「天さんの試合を終わりまで見たい」という、大体そんなことを言っている。まともだ……。

そんなことを思いながら、亀仙人の動きを伺う。その挙動で何をするか察して、真っ先に叫んだ。

 

「天津飯、伏せておけ!」

「何っ!?」

 

ギリギリで指示に従った天津飯の頭上を、ものすごい勢いで気弾が飛ぶ。それは鶴仙人を空高く押し上げて雲の彼方へと追いやってしまった。

 

「……たーまやー?」

「…………」

 

クリリンがなんかじとっとした横目で見てくるけど気にしない。なんか言わなきゃならない気がしたんだよ!気を探ったけど生きてるっぽいし、問題ないだろ。

 

「案ずることはないぞよ。あやつはあれくらいで死ぬようなタマではない……。さあ邪魔者は消えた!両者とも心置きなく試合をせい!」

 

こういうの、俺できないんだよなあ。すげーよなあ。

空気がリセットされたことで、天津飯の胸のわかだまりがとれたことがわかる。それは、試合の終わりがすぐ近いことを示している。

天津飯は気合を入れた……と思いきや、腕が四本になった。

 

「!?」

 

さすがにちょっとビビった。つーか亀仙人戦で『どれだけ早くても腕が物理的に四本とかに増えなければ』とか考えては俺が馬鹿みたいじゃん!口に出してなくて良かった黒歴史が発生するところだった!

天津飯は悟空の四肢を四本の腕で掴み上げるが、悟空が手足の如く操る尻尾に殴打されて不覚を取った。

それを見た悟空は、素手を素早く動かして、“腕だけの残像拳”で手を増やしたように見せて攻勢に出る。それを踏まえて、天津飯は腕を仕舞って、本当に本当の最終手段に出ることを決めたらしい。

ふわり、と宙に浮く天津飯。その手の構えの向く先は眼下の闘技場で、悟空に対する避けろの言葉──

なるほど、そういうことか。

 

「気功砲!」

 

放出されたエネルギーがまっすぐ直撃する。その威力に多くの人が息を呑み、目を逸らす。

そして落ち着いた頃には、地面がポッカリと陥没していた。直すの大変そう。

悟空は直前に飛び上がって無事だが、舞空術を使えない悟空は不利であり、事実天津飯は勝利を確信している。でも。

 

「……まだやれるだろ?」

 

ここまで来てなんの抵抗もなく素直にやられるわけがないのだ、悟空が。

案の定、悟空はかめはめ波を撃ち出し、その推進力で石頭による頭突きを繰り出した。痛そう。

両者共に力尽き、落下していく。遠目から見る限り天津飯が先に落ちるか……と思ったところで、悟空は天津飯に先んじて車に激突した。

 

「ありゃ」

 

不運なこともあったものだ。

こうして今大会、天津飯の優勝が決定した。

 

+++++

 

「や、悟空。不運だったな。はいこれ服」

「マレビトさん、用意いいっすね」

「前大会も似たような感じだったしな」

 

ついでに言うと、悟空の服買うの初めてでもないしな。

 

「天津飯も、優勝おめでとう」

「いいのか?マレビトは孫悟空を応援していただろう」

「お互い納得した上での決着だろ?俺が口出すのは野暮ってもんだよ」

「ほっほっほ。運も実力のうちと言うしの」

 

天津飯はなんか色々気にしてるらしく、賞金の半分を渡そうとして悟空に断られていた。まあこれから鶴仙人の元を離れて生活するなら色々と元手がいるだろうし、持ってても別にいいんじゃないのかな。

 

「ま、せっかくだし夕食ぐらい一緒に食べてけよ。俺が奢るから」

「しかし……」

「俺、こう見えて天津飯より歳上だし、ブルマほどでは無いけど金持ちだから、遠慮するなよ」

 

ただ、手持ちの金がこのままだと心許ない。トラブル防止のために必要以上の大金と無駄に黒いカードを置いてきてあるのだ。一旦瞬間移動で帰った方がいいな。

 

「あっいけねえ!じいちゃんのドラゴンボールと如意棒!」

「おまえくたくただろ、いいやオレが取ってきてやるよ」

「すまねえサンキュー」

「俺も一旦お金取ってくる。食べたいもの話し合っといて」

 

クリリンが建物の方に消えたのを確認してから、俺も少し離れた場所に移動して家に瞬間移動する。玄関で靴を脱いでリビングに上がり、棚の引き出しからカードと、念のため下ろして置いた現金を手にした。

 

「あいつ今回いくら分食べるんだろ」

 

考えただけで笑えてくる。厨房には頑張ってもらいたい。

さて、瞬間移動で戻るために靴を履いて一旦外に出ようと、ドアを開けた。

 

「……──」

 

目の前に。真っ黒な男が立っていた。

身長は俺よりも低くて、ターバンのようなものを巻いている。何を考えているかわからない瞳が異質だ。

この感覚は、覚えがある。

 

「……地球のカミサマのお使いか」

「そう。わたし、ミスターポポ。神様の付き人」

「ふーん。で、要件なに?出てけって言われたらめっちゃ落ち込んでから出てくけど」

「要件、ちがう」

 

違うのか。

 

「神様から、伝言」

「いいよ。なに?」

「とてもわるい奴が復活した。でも、手を出さないでほしい」

「神様関係ってか」

 

……まあ、神様の問題に稀人が首を突っ込んだとなれば色々めんどくさい問題になりかねないしな。

とりあえずどんな奴だろう。適当に星全体の気を探って──

 

「……!?」

 

クリリンの気がない!?殺されたか!?

悟空の気配はどこだ!?

 

「ミスターポポ、ひとつ言っておく」

「うん」

「“ピッコロ大魔王に手を出すな”という条件は飲む。それだけだ!」

 

いた、悟空!無事だな、まだ会場か!?クリリンの他も揃ってるな!?

剣が背中にあるのを確認する。兵装は整ってる。動き出しても問題ない。地を踏み締めて、瞬間移動のために意識を集中した。

 




次回投稿は11月18日となります


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ピッコロ大魔王編
第二十八話


会場まで戻るのと、悟空が筋斗雲で飛び出したのはほぼ同時だった。振り向くと、ドラゴンレーダーを片手に悟空が鬼気迫る表情で何か、一つの気を追いかけている。

 

「あんのバカ!」

 

天津飯との死闘で体力使い果たしてただろうがお前!一旦カリン塔によって仙豆食べるとかしないと勝てるものも勝てんだろうが!

ただ、ポポと『ピッコロ大魔王に手出ししない』っていう約束をしたから、それは守らないといけない。サイヤ人丈夫だしすぐ死にはしないだろ……しないよな?

 

「とんでもないことになったな……」

「……亀仙人、状況教えてくれるか」

「わしらもまだよく分かっておらんのじゃ……」

「わからない?ピッコロ大魔王というやつが関係してるって話じゃないのか?」

「ピッコロ大魔王じゃと!?」

 

聞き覚えあるらしいな?俺はポポの話を聞いて直感的にピッコロ大魔王の話だって察しがついたから、原作の中ボスではあるんだろう。しかし俺はドラゴンボールを見たことがあってもオタクってほど詳しい訳じゃないから、何も判断がつかないのが歯痒い。が、亀仙人は流石に知ってるみたいだな。

クリリンの横に落ちていた謎のマークも、ピッコロ大魔王を示すもので間違いないらしい。

 

「みんな知ってるのか?」

「話には聞いたことがある。その昔、世界を恐怖のどん底に叩き落としたという大魔王だ……」

「その昔?封印でもしてたってのか?」

「その通りじゃ」

 

亀仙人が話して曰く、その昔まだ亀仙人と鶴仙人が若い頃、無泰斗という名前の師匠が己の命と引き換えに魔封波によって電子ジャーに封印したのだという。なんで電子ジャーなのかというツッコミはこの際置いておこう。

海底に沈めていたはずのそれが復活してしまった。

 

「第三者が引き上げたのか……鶴仙人じゃあないのか?」

「それは考えられん。大魔王の恐ろしさはあやつもよう知っておる……」

「とりあえずヤバいってのは理解した。分かってるのはそれだけだな?」

 

状況は把握した。なら次は悟空がどこに行ったか探る。……いた、生きてるな。なら問題なし!

 

「じゃあちょっと行ってくる!」

「行くってどこによ!場所は分かるの!?」

「悟空の気を探ってその場所に瞬間移動する!」

「し、瞬間移動!?」

 

あれ、瞬間移動出来ること言ってなかったっけ。まあいっか、いまそれどころじゃねえし。

 

「悟空のことは取り敢えず俺に任せろ、なんとかする」

「わかった、気をつけろ!」

「おう」

 

気を探って、今の悟空がいる座標を確認する。そこから少しだけ離れた場所、正確には空にいる悟空の真下に移動した。

上を見上げるとそこから、筋斗雲を失った悟空が落下してくる。死んでないが疲れ切ってるか?空中でそのままキャッチ、気を消したまま大きな木の影に滑り込んだ。

とりあえず気付かれてはいないようだ。常日頃から気を消しておいてよかった。

 

「一旦寝かせて、起きたら飯食わせるのが一番いいか?」

 

仙豆、一応持ってるけど、寝てる相手に押し込むのもなあ、なんか気が引ける。

……まあこの数年後、瀕死の相手に仙豆を押し込むっていう動作めちゃくちゃやることになるんだけど。

とりあえず悟空を仰向けに寝かせて上着として着ているジャケットを脱いで腹にかけた。ついでにドラゴンレーダーを拝借して、と。

 

「……んー?近くにあるな。あとは移動してるのがひとつか」

 

鳥かなにかが持ってるか、あるいは。

レッドリボン軍のように、誰かがかき集めてるか。

 

「…………」

 

正直、俺としては誰かがドラゴンボールを集めてても文句はない。世界征服とか、そんなことを願わない限り人の欲望というやつは自由だ。

が、これがピッコロ大魔王の一派だった場合話は別なのである。

さて、どう動いたものか。

 

+++++

 

翌朝。

 

「よお」

「誰だお前」

「マレビトだ。そっちは?」

「オレはヤジロベーさまだ」

 

ドラゴンレーダーの反応を頼りに少し移動すると、いた。首からドラゴンボール、一星球を下げた男。ヤジロベーと名乗ったそいつは、意識を集中させると分かるが、悟空と戦ってた魔族よりも幾分か強い。

 

「頼みがあるんだ。ヤジロベーが首から下げてるドラゴンボールが欲しい」

「これか?やだよ、これは俺のものだ」

「何と交換なら、オーケー出してくれるか?」

「美味い飯だ」

「わかった、用意する。だから渡してくれるか?」

「やだよ。飯食うのが先だ」

 

んんー、交渉難しいな。

とりあえずヤジロベーの代わりに魚を取って焼いて渡した。手付金(金じゃないけど)というやつだ。匂いに釣られて悟空も起きてきたのでもう一匹焼いたやつを悟空にやった。

 

「悟空、お前回復もしてないのに飛び出す奴がいるか」

「いてえっ!」

 

軽くデコピンするとおでこがうっすら赤くなった。悟空も回復したことだし、こっからが本番だ。本格的にピッコロ大魔王の配下?と思われる気が近づいている。魔族だなこれは。倒して……いっか。

 

「ちょっと俺出かけてくるから」

「あ?なんだよ」

「魔族っていう生き物がこっちに向かってきてんだよ」

「うめえのか?」

「さあ、食べたことないし」

 

立ち上がって、悟空に貸していたジャケットを受け取る。すると、飯を食い終わった二人も立ち上がって着いてきた。

……めっちゃ個人的な感想なんだが、この二人俺より背がちっちゃい。なんか嬉しい。

テキトーに開けた場所に出たら、大体同じタイミングでピッコロ大魔王とやらが生み出したらしき魔族がドラゴンボールを狙って来ていた。やたらずんぐりむっくりしている。そいつは偉そうにこっちに話しかけてきた。

 

「おいガキども」

「ガキじゃねえが」

「オレさまの質問に答えろ。正直に言わないと死ぬことになるぞ」

 

無視された!つーかお前、ガキ呼びしたが俺どころか悟空ヤジロベーよりも年下だろ絶対に!!!

でっぷりした魔族はヤジロベーのドラゴンボールに目を付けた。そしてオラが倒すと意気込む悟空とじゃんけんぽん。余裕だなおまえら。

そして、なんやかんやでヤジロベーがじゃんけん勝って、魔族にも勝った。

本当に余裕だった。なにも心配することなかった。

そしてヤジロベーは倒した魔族を食った。美味いらしいが、俺はいいかな。なんとなく食欲がわかないし。

 

 

「で、こいつらなんなんだ?」

「ピッコロ大魔王の配下じゃねえの?」

「うん、そうだ。にいちゃん、こいつの仲間にクリリンが殺されたんだよ!」

「ああ、状況は大体把握してるよ。クリリンたちを生き返らせるためにドラゴンボールが必要ってのもな」

「じゃあにいちゃんも手伝ってくれるのか?!」

「すまん、今回ピッコロ大魔王に関係することは手出しできないんだ」

「いいっ!?」

「それ以外は手伝うからさ。悟空、ピッコロ大魔王倒せそうか?もし無理なら俺がなんとかするけど」

 

神様、正確にはそのお使いと約束したからな。試しにちょっと煽るようなことを言ってみる。カリン塔で、なんか意地みたいなのを見せてたから、少しくらい響いてくれるといいけど。

そんな会話は、ピッコロ大魔王の名前の正体に気付いた

 

「ち、ちょっと待て。ピッコロ大魔王って、まさか昔話の……」

「昔話かどうかは知らんけど、つい最近復活した恐怖の大魔王だな」

 

自分で言っててなんだけど、恐怖の大魔王って俺にとってはフリーザ(と、コルド)だから、ピッコロをそう呼ぶのってなんか違和感。ピッコロって、俺の中では保父さんのイメージだからかな。

……なんで保父さん?

 

「こ、これやるよ!飯の礼だ!じゃあな!」

 

ヤジロベーはドラゴンボールを渡して去っていった。後には俺と悟空が取り残される。とは言っても、近くにはいるみたいだが。やがてやってきた二匹めの魔族も悟空が危なげなく倒した。

魔族そのものは俺が手出ししてもいいけどするまでもないくらい弱く。しかし親玉のピッコロ大魔王はめっちゃ強いのに俺が手出ししてはいけない、か。

改めて、とんでもないジレンマだな。

 



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第二十九話

ピッコロ大魔王の気を探ると、別方向へと向かっていた。とりあえずこっちに来るつもりはないらしい。しかし向かってる先は多分亀仙人とか天津飯の方向だから、そっちにフォローにもいかないと。

 

「悟空、よく聞け。おまえがこのまま戦ってもピッコロ大魔王には勝てない」

「……うん」

「それまでの被害は俺がなんとかする。だから、カリン塔かどっかで修行して、強くなってこい。で、ピッコロ大魔王ぶっ倒せ」

「にいちゃん、なんで戦わないんだ?」

「そういう約束をしたからだ。破るわけにはいかなくってな」

 

時間稼ぎなら条件に被らないからオッケーだろ。多分。前世の次元の向こうもいつか誰かが敵を倒すための大いなる時間稼ぎって言ってたから。いい言葉だよねあれ。

で、どうやって行こう?走ってもいいけど……とりあえず気を探ってヤジロベーを探す。おっいた。案外近いな。一気に走って首ねっこを掴む。

 

「うわあっ!」

「ヤジロベー、悟空の運搬頼む!」

「俺かよ!お前が連れてけばいいだろ!」

「まあまあ、仙豆やっからさ」

 

そんな感じで悟空からドラゴンボール、レーダーを預かって、カリン塔までの移動をヤジロベーに任せる。とりあえず主戦力になりうる悟空の修業(強化イベント)はこれでよし、次は亀仙人たちの所だな。

 

+++++

 

ドラゴンレーダーの反応を元に瞬間移動した先では亀仙人たちがドラゴンボールを集めていた。今のところ、俺の預かったやつと亀仙人のやつ、合わせて七個。……ん、七個?

 

「マレビト!悟空は無事か!?」

「大丈夫、生きてるし元気だ。そこは確認した。ただ今の強さだとピッコロ大魔王に勝てないから修業してこいってカリン塔に行かせたところ」

「そ、そんなに強いのか……ピッコロ大魔王は」

「マレビトでも勝てそうにないのか?」

「勝てるんじゃね?だけど俺、諸事情により今回不参加。ピッコロ大魔王とは戦わない」

「な……!?」

「その代わりと言っちゃなんだけど、ドラゴンボールこれで七個だわ」

「な、なんと!」

 

亀仙人か五個、俺が二個。これで願いを叶える権利は俺たちが握ったことになる。

 

「じゃあこれでピッコロ大魔王を消してもらうよう頼めば……!」

「いや、クリリンたちを復活させるのに必要だろ」

「あ、そっか……」

「少なくとも、ピッコロ大魔王はこのボールを狙ってくるじゃろうな」

「じゃあ囮役やる。俺ならとりあえず殺されないし、被害規模減らすのにちょうどいい」

「ならば、策を考えねば……」

 

そうして話し合った結果、ピッコロ大魔王の狙いを一つに絞るためドラゴンボールはあえてしばらく使わずに、俺を囮に魔封波で封印を狙うという方針で決まった。

 

 

しばらくして、頭上に飛行機がホバリングした。上にいるのがピッコロ大魔王かー。そういや初めて顔見るな。どんなやつなんだろ。

 

「……鬼さんこちら、手のなる方へ」

 

パンパン拍手して煽ってみる。と、すうっと音もなく一番大きい気が降りてきた。こいつが例のピッコロ大魔王というやつか。シワだらけの緑色の肌、尖った耳、長い舌、二本の触覚………………

 

「な……」

「ほう……わしを鬼だと言うか。面白い小僧だ」

 

な……ナメック星人だーーー!!!

えっなんで!?あとナメック星人、個体差あるとはいえ割と穏やかな気質してなかったっけ!?俺の唯一の知り合いのナメック星人、もうちょっとどころじゃなく穏やかというか精神がサイヤ人とは比べ物にならないくらい成熟してた気がするんだが!!!

ん?ちょっと待てよ?神様のお使いのポポが接触してきたってことはこいつも神様関係者ってことか。

えーっと、つまり?

ここの神様、ナメック星人?そしてドラゴンボールがある星のナメック星と地球にはナメック星人がいる訳だから……

 

「ま、いいや」

 

あとで考えよう。今やることじゃねえ。

 

「とりあえずさ、地球征服やめてくれねえか。俺が言えた義理じゃないけど」

 

俺がやるのは会話の引き伸ばし。と、興味の対象をピッコロ大魔王に引きつけること。気はあえて『まあまあやるけど敵じゃないな』って判断できるくらいに抑える。

準備は……おっ、整った?

 

「ふん、このわしに物申すか」

「何事も話し合って決まるならそれが一番だろ。そんな上手くいくわけないって分かっててもさあ」

「身の程知らずめ……!」

「そうでもないと思うが。じゃ、あとよろしく!」

 

さっと避けると同時に、ピッコロ大魔王と亀仙人の視線が通る。背後にはお札が貼られた電子ジャーが用意されていて……だからなんで電子ジャーなんだろう。

 

「でっ、電子ジャー!まさか……!」

「ゆくぞ!その昔武泰斗様がきさまを電子ジャーに封じ込め魔の手から世界を救った技……!魔封波じゃっ!」

 

放たれた力がピッコロ大魔王を捉えた。ピッコロ大魔王はそれはそれは恐れ慄いた表情をしていて、どんだけトラウマになったんだと思わざるを得ない。ペリカンみたいなプテラノドンみたいな部下っぽい魔族はなんとなく察したようだ。それでいて、どことなく余裕が……

 

「……んあ?」

 

あ、やべえ。失敗するなこれ。

電子ジャー、小瓶とかよりデカくて狙いつけやすいんだけど、それは向こうも同じってことか。そりゃ上からホバーしてたらピッコロ大魔王の視線遮ってても見えるし、なんか準備してたなら対策するわな。ピッコロ大魔王に意識取られすぎた。

散々シミュレーションした位置から、電子ジャー微妙に動いてる。音がないってことは、指向性の電磁石でも使ったか?それくらいなら作れるだろうな、ホイポイカプセル存在してるくらいだし。

この場合、その数ミリが命取りなのだから恐ろしい。

案の定、魔封波は外れた。力尽きかける亀仙人を大至急回収、気を送り込んで応急処置をする。なんとか致命傷で済んだな、ギリ生きてる。ただこの状況、ICUにいる老人状態なので気を送るのをやめた瞬間たぶん死ぬ。

 

「はーっはっはっは!バカめ!無駄死にしおった!死におったぞバカめーっ!」

「死んでねえけど!?」

 

確かに手を離した瞬間あの世行きそうなくらい死にかけだけどさあ!

 

「さて、ドラゴンボールを持っているのはきさまか」

「その通り」

「そうか、ならば……」

「!餃子、逃げろ!」

 

俺は亀仙人から手が物理的に離せない。天津飯の言葉に逃げ出そうとした餃子が、ピッコロ大魔王に捕まった。

……なるほど、人質ね。

 

「ドラゴンボールを渡せ。さもなくばこいつを殺す」

「……聞くけどさ、ドラゴンボール使って何すんの?身長でも伸ばすのか?」

「永遠の若さだ。若返り、かつてのすばらしき力を取り戻す!」

「そうか。はい」

 

持ってたドラゴンボール七個を全部その辺に放り投げる。それに気を取られた瞬間を見て、死にかけの亀仙人、ピッコロ大魔王に捕まってた餃子、あとやる気になってた天津飯を気絶させて回収、三人まとめて抱える。

 

「またあとで会おうぜ」

 

言い残して瞬間移動でカメハウスへ移動。はー、ぶった斬れないのも蹴り飛ばせないのも腹立つなこれ。

とりあえず一時撤退だ。地球征服なんぞ成功できると思うなよ、ピッコロ大魔王。

 



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第三十話

「ただいまブルマ。突然だけどなんか良さげな延命装置ある?冷凍保存でもよし」

「ええ!?作れないことはないけどどうしたの!?」

「ちょっと亀仙人がな。預けていい?」

「待ってて!」

 

ブルマがすっ飛んで行った。しばらく待って死体を保存しておく装置を急遽改造した延命装置ができたのでとりあえず亀仙人を入れておく。多めに気を分けておいたし一日もあれば回復するだろ、多分だけど。

ヤムチャは亀仙人優先したせいで玄関先に投げ出してしまった天津飯と餃子に駆け寄っていた。なんかすまん。

 

「て、天津飯に餃子……こいつらもやられたのか!?」

「いや、こっちは俺がやった」

「は!?」

「今ピッコロ大魔王に飛びかかっても無駄死にだろ、悟空でさえ修業中なのに。じゃあ二人任せた!」

「アンタはどうするの!?」

「悟空が戻ってくるまで時間稼ぎ!」

 

そう何日もかからないはずだ。あいつサイヤ人だし。

とりあえずあいつの気を探る。ピッコロ大魔王は本当に若返ったらしい、気が大きくなっているのを感じる。瞬間移動して……今回めっちゃ瞬間移動の大盤振る舞いしてる気がすんな。

とりあえず少し離れた場所に移動して……ここ国王の宮殿じゃん。何やってんだピッコロ大魔王は。

近くの兵士から帽子を拝借して、万が一にもテレビカメラに映らないよう目深にかぶる。背中の剣、ヨシ。

中を移動するのもタイムロスなので空を飛んで、ピッコロ大魔王のいる場所で壁を蹴り壊して殴り込んだ。

 

「よおさっきぶり」

「ふん、キサマか。今更何をしにきた?」

「ただお前を倒す者を待ってるだけだよ」

「ピッコロ大魔王さまがそんなに恐ろしいか?」

「お前、嫌いな言葉が平和とか正義とかそういうタイプだろ?俺そういうの好きだから」

 

あっ、ホバーで国王逃げ出した。よしよし。兵士たちも逃げてろ、と手で合図を出したら死んでない奴はほうほうになりながらも逃げ出した。よし、ドラゴンボールで復活できるといっても死なないに越したことはないからな。

 

「邪魔をするのか?」

「するね。ドラゴンボールで蘇るって言っても、人は死なない方がいいだろ?何十時間でも嫌がらせしてやるよ」

「神龍はおれさまがすでに殺した」

「は?」

 

えっ。

つまり生き返らせるためにはナメック星まで行ってドラゴンボール借りなきゃいけないの?

めんどくせっ。

 

「怒った。八つ当たりするわ」

「ほざけ!」

 

 

そうして始まった戦いは、一晩中続いた。

まあ戦いっていっても、俺がピッコロ大魔王の攻撃をひたすら避けるか受け止めて、逃げようとしたら瓦礫ぶつけたりして足止めしただけなんだけど。

ピッコロ大魔王、めっちゃイライラしておる。当たり前だが。そうして一日経過して、夜が老けて朝日が昇って。

 

「一晩経ったな。まだやるか?」

 

建物はもうぐっちゃぐちゃだ。でも被害を最低限に抑えた結果なので勘弁してほしい。建物ならまた建てられるしな。

さて、悟空の方はと……おっ、強くなってこっち来てるな。なら、俺の仕事はもう終わりだ。

首根っこを掴んで、せえの、で郊外の方にぶん投げる。壁と雲を切り裂いてあっちの方までひとっ飛びしていく。

なんか既視感……あっバイキンマンだこれ。

これで街の被害は出ないだろうが、念のため俺もそっちに向かうことにする。

 

「筋斗雲!」

 

もう急ぐ必要はないので、筋斗雲を呼び出して乗り込んだ。こういうちまちました気の節約は大事。今回の瞬間移動連発みたいな時に備えてな。

ひゅうんっと飛んでいけば、ピッコロ大魔王と悟空が対峙していた。おおっ、悟空めっちゃ強くなってる。これなら俺がやきもきしなくても勝てる……かな?ちょっと微妙だな。

でもまあいけるだろ。ピッコロ大魔王、俺と夜通し遊んでたせいでまあまあ体力消耗してるし。

 

「悟空ー!に、マレビトか!?」

「よ、天津飯」

「なんだあの戦いは……!それにピッコロ大魔王と戦ってたのはお前か!?」

「あれ、やっぱりテレビかなんかでやってた?」

「ああ」

 

マジか。帽子被っといてよかった。ジングル村に行ったときに買った飛行帽、今度から外にいる時はずっと被ってよう。

駆けつけた天津飯から思いがけない情報提供を受けつつ、俺は悟空とピッコロ大魔王の戦闘の観戦に入る。

に、しても。見れば見るほどナメック星人だ。

そういや亀仙人が、何歳だっけ?で、若い頃にピッコロ大魔王がヒントになりそうな気がしないでもない。

が、今考えることじゃないし、そもそも前提知識が少なすぎて考えても何にもならない。

 

「マレビト……なぜ、お前はピッコロ大魔王を倒さなかった?お前は今の俺や悟空、ピッコロ大魔王よりはるかに強い……」

「ん?約束したからだよ」

「誰とだ」

「カミサマ。多分さ、カミサマにも事情があるんだよ」

 

具体的な話は知らない。だけどどの星でも、えらい人は俺の対応に困り果ててた。率直に「出てってくれ」って言われたこともあれば、文字通り何が起きても放っておかれたこともある。そう考えると、この星の神様はすごく優しい。

 

「まあ、俺にも色々事情ってやつがあってさ。俺はその事情の許す範囲で、なるべく平和がいいなって思ってるだけだよ」

 

悟空に戦いを委託しなければならないのなら、その下準備も、アフターフォローも、全力で取り組む所存である。戦いは、殴り合うことだけじゃないのだ。

戦いは、悟空がやや優勢だ。油断は禁物とはいえ、このままでは悟空が勝利するだろう。最も当人達はそんな分析をしている余裕なんてないだろうけど。

そして、もうしばらく続いた激戦の末。

悟空は満身創痍となりながらもピッコロ大魔王を撃破して、ピッコロ大魔王は口からタマゴをひとつだけ産んで、爆散した。

空中で力尽きた悟空を筋斗雲で移動して受け止める。あとから、ヤムチャたちも駆けつけてきた。とりあえず如意棒を拾っておく。

 

「おつかれさん」

「へへへ。にいちゃん、オラちゃんと強くなってきたぞ」

「うん、見てたぞ。やっぱりお前はすごいな」

 

まずはカリン塔で怪我治して、それからドラゴンボールの相談かな。ピッコロ大魔王が神龍殺したからなあ。

あ、でも俺カリン塔あんまり登らない方がいいんだった。

 

「ヤジロベー悟空の運搬よろしく。後で追いつくから」

「またかよ」

「また」

 

渋々ながら了承してくれたヤジロベーに後を任せる。一旦カメハウスに戻って亀仙人に状況説明して、それからカリン塔に合流するか。

なにはともあれ、とりあえず一件落着でいいだろう。

ピッコロ大魔王が産み落としたタマゴの存在はともかくとして。

 



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第三十一話

「おはよー、亀仙人。ピッコロ大魔王は悟空が倒したぞ。とりあえずメデタシメデタシになった」

 

そんな報告を、カメハウスで休んでついさっき復活したばかりの亀仙人にする。ついでに一晩中瓦礫の中で時間稼ぎして埃っぽいのでちょっとだけシャワー借りた。

あー、さっぱりするな。

シャワーから上がると、ヤムチャ天津飯ブルマも勢揃いしていた。こんだけ集まると賑やかだなあ。

 

「孫くんは?」

「カリン塔じゃね?今から行ってくるよ」

「忙しない奴じゃのう。食事もしていかんのか」

「いやー、悟空待たせてるし」

 

カリン塔で合流するかって言っちゃったしな。シャワーもらっただけありがたい。立てかけておいた如意棒持ってドアを開ける。

ゴン!と硬質かつ派手な音がした。

 

「あでっ!」

「あっ、悪い」

 

カメハウスまで駆けつけた悟空の額にドアが派手にぶつかっていた。若干ドアの方が負けているのは気のせいではあるまい。

 

「にいちゃん!如意棒!」

「これか?使うのか」

「そうそう!ありがとー!」

「あっこら待て俺も行くから!という訳で邪魔した!シャワーありがと!おーい筋斗雲!」

 

慌てて筋斗雲呼び出して乗り込む。限界まで飛ばしても悟空の背中が見えてこない。どんだけ飛ばしてるんだアイツは!

慌ててカリン塔まで行くと、悟空と合わせてヤジロベーとカリン様も揃っていた。

 

「や、悟空が世話になったな」

「なに、大したことではない」

「如意棒使って何するんだ?」

「神様に会いに行くのじゃよ」

「ドラゴンボールを直してもらいに行くんだ!」

「ふうん」

 

直せるんだ……。

四人で丸っこい屋根に登って真ん中の穴に如意棒を差し込む。これで如意棒が伸びていくのに任せれば神様のいる神殿まで辿り着ける、らしい。悟空はカリン様から資格者の証である鈴を預かって、ポケットにしまった。

 

「マレビトはいつでも来て構わないそうじゃ」

「えっなんで?」

「知らぬ。わしも神様からそう言われたにすぎん」

「お前、地球の神様と知り合いなのか?」

「いや全然」

 

俺の知らないところで謎に業務が引き継がれておる。サイバイマン一族といい、ちょっとなんか変だよこの地球。

まあ、俺は悟空の後について飛んでいくか。ちょっと地球の神様に興味がある。

 

「じゃ、行ってきます」

 

悟空と一緒に空を登っていく。しばし上に上がると、空中に浮かぶ庭園みたいなのが見えた。一旦悟空と別れて、直接その空間を上から覗き込んでみる。

丸い形をしていた。半球体というやつだ。建物と広場があるから、庭園という例えも間違いではないっぽい?

そして、悟空を待ち受けていたのは。

 

「お、おす」

「おす」

「お、おめえがカミサマってやつか?」

「ちがう。わたしミスターポポ。神様の付き人」

 

俺に神様からの伝言を持ってきたミスターポポが待っていた。なるほど、ここが神様のいる場所ってのは本当らしい。

空を飛ぶのをやめてふわりと着地。悟空と二人並んでミスターポポの前に立った。あのときとなにも変わっていない。

……改めて観察するに、ミスターポポ、強くね?やべえよ超強いよこの人。逆立ちしても勝てねえ。

 

「久しぶりだな、ミスターポポ」

「稀人、久しぶり。お願い聞いてくれてありがとう。神様よろこんでる」

「そりゃ何よりだ」

「にいちゃん、知ってるのか?」

「一回だけ会ったことあるからな。それで、肝心要の神様は?」

「もうすぐ来る」

 

ミスターポポは俺たちを神殿の前に案内した。そこから顔を覗かせたのは、『神』という服を着たしわしわの、ピッコロ大魔王によく似た、しかし雰囲気は随分と温和なナメック星人だった。ピッコロ大魔王と勘違いして飛びかかりそうになる悟空の首根っこを引っ掴んで静止しながら、思わずまじまじと見てしまう。

 

「どうどう、おちつけ悟空」

「このヤロー!まだ生きてたのかピッコロ!」

「落ち着け言ってるだろ」

「ふぎゃっ!」

 

額にデコピンをして落ち着かせる。神様はカリンから聞いていないのか、と呟いていた。

引き継ぎィ。

 

 

そうして神様が語って曰く。

ピッコロ大魔王と神様はもともと一つの存在であり、天才武道家であったピッコロは悟空のように単身先代神様の元へと乗り込んだらしい。

そしてもともと神の後継者を探していた先代の元に弟子入りしたが、先代は神様の心の奥に潜む悪を見抜いており、その悪を追い出したのがピッコロ大魔王なのだという。悪を追い出した神様を見て、先代は神様の座を譲ったのだとか。

オメーのせいか。

 

「ピッコロ大魔王をおまえは倒してくれた……礼の意味でも頼みを聞いてやろう」

「それは頼もしい」

「ただし、孫悟空が我々の元に留まり、もう少し修業をする気があるならだが……」

「よろこんで修業するさ!オラの方から頼みてえくらいだよ!」

「マレビト、どうする?」

「俺は遠慮するわ。やり方とか違うだろうし、俺が長居するのあんまり良くないだろ」

「うん」

「自分から言い出しといてなんだけど、はっきり肯定するなよ……」

 

なぜ聞いた。

本音としては縁があればポポとも手合わせしてみたいけどな……いやポポ絶対強いわ。単純な戦闘力換算だと神様より強いわ。

ある意味心強いけどなんでだろう。

そんなこんなで、頼みを聞くのは一回限りということでドラゴンボールは無事に復活した。実際に生き返らせるのはヤムチャや天津飯に任せよう。

 

「ところで、悟空の修業が条件な理由はあるのか」

「いくつかあるが……もっとも大きいのはピッコロが生きており、三年後の天下一武闘会で孫悟空の命を狙ってくるだろうことだ」

「!生きてるのか」

「ああ。やつは自分が爆発する寸前に自分の分身を残したのだ」

「あー、あれのことか。じゃあ、今回も俺は手出ししない方がいいか?」

「そうだな。これは我々の問題だ。私やミスターポポは手出しできないが、稀人であるおまえの手を借りることもできない」

 

ふうん。大変なんだな、神様ってやつも。

 

「そういうわけだ。やつを倒し真の平和を手に入れられるのはおまえだけだ、よいな」

「わ、わかった……」

「かならず倒してくれ!」

「よーし!オラやって見せる!……の前にションベンしてえんだけど、便所あるか?」

 

あっ、ポポと神様がひっくり返った。

とりあえず近くの便所を教えられたので、悟空は建物の中へ。あとは俺と神様とポポだけが残される。

 

「じゃ、悟空のことは任せた」

「ああ、任されよう」

「三年後なー」

 

ヒョイっと飛び降りて、カリン様のいるところを過ぎたあたりで筋斗雲に受け止めてもらう。

修業か……修業かあ。

病気のことがあれど、ちょっと興味あるんだよなあ。あと今から鍛えるってことを知っておかないと、いざ強さが必要になったときに、うまく鍛えられなくて困る気がする。

 

……やってみるか、俺も。



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第三十二話

さて、修業というものを我もしてみよう、と思ったはいいものの。

 

「修業って、そもそも何?」

 

ただ強さを求めるだけでは修業と言ってはいけない気がする、のは、フリーザとかギニュー特戦隊とか、あと桃白白みたいな例を見てきただろうか。いや、めっちゃ遠くから観察してるだけならギニュー特戦隊けっこう面白いんだけど、やってることがな……。何回か子供だけでも逃がしてくれっていう依頼受けた身としては思うところがある。

思考がズレた。

嫌気性症候群のことがあるので安易に強くなってはいけないが、だからといって修業というものから離れるのはまた違う気がする。

うんうん悩むこと数日。あんまり悩んで思考が袋小路になっても仕方ないので、ヘルプを求めに行った。

相手はもちろん亀仙人だ。下手の考え休むに似たりってな。

 

 

「と、いうわけなんだが」

「うーむ」

 

亀仙人の反応は微妙だった。一応真面目に相談してるんだけど。

 

「おぬしにとって修業とはどのようなものじゃ」

「……高みを目指して学び変わること」

「分かっておるならわしから言うことは何もない」

「えっ。いやあの、これ受け売りというか、俺個人の考えじゃないんだが」

「しかし、きちんと自分で考えてこうであると思ったからそれを受け入れたんじゃろう。ただ黙って真似をするような人間には見えんよ」

 

高みを目指して学び変わる、ぶっちゃけ俺が小さい頃のヒーロー番組のナレーションである。しかし、修業という言葉に真っ先に思い出すのがこれであることも事実だ。この言葉を覚えていたから、ただ戦闘力を上げるだけの努力に修業という名前をつけていいのか悩んだ。

亀仙人はそれでいいんだと言う。

 

「俺は今まで、現状維持を選んでて」

「うむ」

「できることしかやってこなかったんだ。ピッコロ大魔王に挑んだ悟空とか亀仙人みたいな、出来ないかもしれないけど挑む、ってことから逃げてた」

「じゃから、変わりたいと思って修業したいと思ったんじゃろう」

「うん」

「ならそうしなさい。厳密にはわしの考えとは少し違うが、わしの考えだけが正しいということもないじゃろ。お主は間違っとらん」

「そうなのか」

「そんなもんじゃよ」

 

そんなもんなのか。

でもまあ、俺としては、小さい頃に夢中になったヒーローのあり方を否定しなくていいのだと、そう言って貰えるだけでとても嬉しい。

これから、昔好きだったヒーローの在り方を目指してもいいのだと。

俺は武闘家にはなれないから、せめて、心の中に残っているヒーローの在り方を少しだけ真似しよう。

孫悟空をヒーローにしないためにも。

 

「ありがとうございました」

 

丁寧に頭を下げてカメハウスを退出する。亀仙人はこういう時ばかりひらひら気軽に手を振って、またこいよなんて年上の貫禄を見せつける。実年齢的には俺の方が上なんだが、精神面の成熟で亀仙人より上を行っているとは到底思えないのがちょっぴり悔しい。

うーん、敵わない。

 

 

さて、ひとつ目のしこりが解決したところでむくむくとふたつ目のしこりが生まれたのを感じた。

このモヤモヤを感じで高みに登れるはずもない。そう決心して気を探る……おっいた。

というわけで瞬間移動。

 

「おす」

「……………!?」

 

ピッコロ大魔王の生まれ変わりというか息子というか。

ともかく、二代目ピッコロがそこにいた。ちっちゃくて目つき悪い。

にしても。

 

「……か」

「か?」

「かわいいな!」

 

ちんまい!ふくふくしてる!かわいい!

俺そんなに子供好きって訳じゃないけど、悟空のあのふくふくを経験したからか、あのときのもちもちを思い出してテンション上がってきた。俺の知り合いのナメック星人、出会ったときにはもうじいちゃんだったんだもん仕方ないよな!ナメック星人の子供(幼児)とか初めて!

 

「おい離せ!」

「あ、悪い」

 

さすがに嫌がってたもんだから離した。警戒心強いな、まあ仕方ないけど。

 

「何をしにきた」

「元気かなって見にきた」

「……それだけか?」

 

理解できない、とピッコロ(小)が睨みつけてきた。警戒されてるなあ、当たり前だけど。

ぶっちゃけピッコロ大魔王と孫悟空、どっちの味方?って聞かれたら俺は孫悟空の味方だ。

だけど、両方の味方になれるなら、そっちの方がいい。

 

「ピッコロは、生まれたばっかりの子供じゃん。だから心配になったんだよ」

「孫悟空は父のカタキだ!そのうち殺すぞ!」

「うん、頑張れ。まあ悟空が負けるとは思えないけどな」

「バカにしにきたのか」

「いや別に。それが生きがいなら止めないよ」

 

ぶっちゃけ、サイヤ人憎しで生きている種族最後の生き残りとかたくさんいるし、そういう人に『そんなのやめなよ』とか言えないし。ピッコロのこの言葉も、多分そういうことなんだろうとは思う。

 

「ただ俺は、お前が生きる場所に、美味しいご飯とあったかいお風呂と柔らかいお布団があるのか気になっただけだから」

「それだけか?」

「子供はそうやって過ごすべきって、俺の中では決まってるから」

 

でもナメック星人って水だけで過ごすんだっけ?じゃあ次会うときは綺麗で美味しいって話題の天然水でも持ってくるか。

 

「おまえのほどこしなどうけん」

「それでもいいよ」

 

自分で一人を選ぶのと、一人でいるしかないって、同じようで違う。選択肢の有無というのはそれだけで心の安定をもたらすのだ。無駄に長い人生の経験則である。

それにまあ。ひとつ思いついてしまったことがあるので。その詫びということで。

シンプルな倉庫のようなカプセルハウスをひとつプレゼントとして渡す。あれだ、ちょっと遅い誕生日プレゼントというやつだ。ついでに通信機も渡しておく。

 

「そんじゃまたな。困ったことがあればそれで俺に連絡しろよ」

 

ばいばい、と手を振って瞬間移動で家に帰ってきた。

やってきたことはまあ自己満足であるが、まあ最悪俺が責任持ってしばき倒せばいい話ではある。

……俺の方が強い今だからできることだな。

 

「さて、やるか」

 

ピッコロ大魔王関連のドタバタでストップしてしまった仕事に、俺自身の修業もしなければ。とりあえず世界地図を広げた。水の産地はどこがいいかな。あ、それと悟空にあげる曲ももっと完璧に仕上げないと。

ううん、やること山積みで脳がクラクラしてきた。いい意味で。さあ何から取り掛かろうかな!



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第三十三話

三年後。

ちょっとした思いつきが思いのほか上手くいき、若干ホクホクしながら天下一武闘会当日を迎えた。この日のために仕事の調整もバッチリである。頑張った!

 

「おはよう、マレビトくん」

「ブルマおはよう、久しぶりだな」

 

大雨の中だが、それもまた一興。

雨傘をさして約束していたブルマと合流。亀仙人とランチとも会って一気に賑やかになった。ヤムチャやクリリンは修業の旅に出たらしい。俺は自分の家の近くでやってた。強さじゃなくて、メンタル面?で。

具体的にはアスラという肉体の本来の持ち主と色々話せたのがでかかった。大雑把だけど、ちょっとした……否、なかなか大きな目標もできた。

その辺りの成果が見えるか見えないかは今後、具体的にはフリーザと戦うだろう時にかかってくるだろうしなあ。

思考がそれた。

 

 

「おっす!みんなも元気そうだ!」

「やー、ひさしぶ、悟空かおまえ!?」

 

聞き覚えのある声がして振り向けば、見覚えのない、しかしある意味見慣れた男が立ってた。

でかっ。

サイヤ人は少ない時間でものすごい身長伸びるけど、改めて目撃すると腹立つな。

 

「ま……ま……」

「まさか……」

「ご……悟空……か!?」

「にいちゃん久しぶりだな」

「お前がデカくなりすぎなんだよ!」

 

頭に巻いたターバンを取ると、特徴的な髪の毛が見えた。うん、まごうことなき孫悟空である。ふざけんなよでっかくなりやがって。とうとう俺の身長超えたなこいつ!!!

悟空自身は成長に無頓着なのか、にいちゃんたち縮んだ?と聞いてくる始末。うるせー異世界の魂が入ったせいで成長期途中で止まった俺に対する嫌味か。

クリリンやヤムチャ、天津飯たちも合流したところで、雨が止んだ。土砂降りの中の観戦という大変なことにはならなさそうでよかった。

 

「じゃあ今回も俺は観戦してるから〜」

「じゃあなにいちゃん!」

「マレビトもたまには出ればいいのにな」

「ふはは、断る」

 

そんなやり取りをして、途中の売店でパンとポップコーンとフランクフルトを購入。せっかくなのでプーアルやウーロンにも色々奢った。

 

「なあマレビト、俺、あのアニメ見たんだけどよ」

「やっぱ見た?」

「おまえ正気か?」

「仕事なんだから正気だよ」

 

トレーディングカードゲームのアニメが放送されることになったので(一年だけだけど)、ピッコロ大魔王が復活してちょっと色々あったので、ピッコロ大魔王モデルのキャラクター出してみた。具体的には黒幕がクローン的な分身という後継者を生み出して、それが葛藤の末父である黒幕を裏切り主人公陣営について最終的に散っていく、という顛末で。

なんでカードゲームで人が散るかって?そういうもんじゃないのカードゲームアニメって。

アイス食べながらそんな感じの話をだらだらとしていたら、予選が終わって本戦のお時間だ。

やっぱこの瞬間が好きなんだよな。

 

 

本戦出場者は八人。天津飯、なんかメカになってる桃白白、匿名希望、孫悟空、マジュニア、クリリン、ヤムチャ、シェン。

……シェンの気配、ただの人間ではない感じだ。なんかあるな。ヤムチャはくじ運が悪かった。

天津飯と桃白白の戦いはまあ安泰だろう。天津飯の方がずっと強い。匿名希望と孫悟空は、まあこれも悟空の勝ちかな。マジュニアは確実にピッコロ大魔王で、クリリンには厳しいとなると。

うん、一回戦はおおむね予想できる。

マジュニアというかピッコロ、父親よりだいぶ強くなってるからな。

 

「あっ」

 

屋根の上にピッコロいるじゃん。俺もあそこで観戦しよ。

 

「悪い、知り合いいたからそっちで見てくるわ」

「そうなの?」

「気をつけろよー」

 

そんな感じで一旦別れて、人気のないところまで移動してから瞬間移動。屋根の上はこれから試合を観戦しようとする人の視界には映らない。

 

「よ」

「ふん」

 

屋根の上に腰掛けたところで試合が始まった。桃白白が余裕たっぷりに天津飯に飛び掛かるものの、トップスピードは歴然で、もはや試合にもならない。サイボーグ化の腕が悪かったのか……多分ぼったくられたな。そこだけは同情する。

天津飯はあくまで兄弟子として丁寧に、降参を進めている。昔は尊敬していたというのは間違いではないらしい。

追い詰められた桃白白は、腕に仕込んだ武器を取り出して、反則負けも厭わず天津飯を抹殺しようとしてきたが、それでも実力差は覆ることなくあっさりと天津飯の勝利が決まった。

いやあ、スーパーどどん波をかき消すところはカッコよかった。

お、次は悟空じゃん。

 

「悟空頑張れー!」

 

悟空が俺の声に気づいて、屋根を見上げた。ピッコロと並んでる俺を見てびっくりした後、不敵に笑って手を上げたので、俺も右手の人差し指を太陽に向けて返す。

次の試合は悟空と匿名希望さん。匿名希望さんはなんか不機嫌である。あいつなんかしたのかな。約束忘れたとか、ずっと待ってたとか言ってるけど。

試合が始まってから悟空ずっとわたわたしてるし。

 

「な、なんて約束したんだ!?」

「おらのこと、お嫁にもらってくれるって!」

「はいィ!?」

 

悟空のやつ、いつのまにとんでもねえ約束してんな。

てかそりゃ怒るわ。乙女の心を弄んだってなるわ。でもいつそんな約束したんだろ。少なくとも神様のもとで修業してた三年ではないだろう。そんな暇ないし。

 

「おい」

「ん、なに?」

「オヨメとはなんだ」

「にいちゃん、オヨメってなんだっ!?教えてくれっ!」

 

このタイミングでこの質問被る?

 

「嫁にもらうってのは結婚するってことだ。人生を一緒に過ごす相方になるんだよ」

 

あとの補足説明はクリリンとヤムチャが引き継いでくれた。助かった。

一応その辺の理解はある悟空は戸惑いつつ匿名希望さんの話に一定の理解を示した。

 

「……さっぱりわからん」

 

こっちはよく分かってないらしい。ナメック星人単体生殖だしな。

 

「安心しろ、俺もそこまで分かってない」

「嘘をつけ」

「覚えとけ、夫婦のことは夫婦にしかわかんないんだよ、ぶっちゃけ俺の言ったことも一般論だから」

 

昔俺と一緒に旅してた奴とか、前世の両親とか、アスラと今世の俺の両親とか、ブリーフ博士とパンチー夫妻もそうだな。あと前の世界における俺の唯一の推しも含むのかな。

結局、連れ合いというのは彼らにしか分からない。

……よく考えたらピッコロの疑問の答えにはなってないな。まあいっか。俺も洒落た答えを出せるわけじゃないし。

衝撃波だけで試合に勝利した悟空を見下ろす。つーかお前チチかよ。牛魔王懐かしいなオイ。絶対パンパンが理由だろうが責任取れ悟空。

 

「ああでも、ひとつだけ分かるぞ」

「なんだ」

 

結婚すっか!の一言であっという間に収まった場を見下ろしながら、若干遠い目になる。

 

「悟空は、チチの尻にしかれる」

「は?」

 

サイヤ人は気の強い女しかいない、という言葉を思い出す。

確かに、アスラの母親も気が強かったな……。



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第三十四話

『第三試合を始めたいと思います……!』

「いってらっしゃい。クリリン頑張れよっ!」

 

技の多彩さで言えばかなりのものがあるのがクリリンなので、この一戦も非常に楽しみだ。

買ってきたオレンジジュースにストローを差し込んで咥える。冷たいもので落ち着こう。

ピッコロ、今大会の名前はマジュニアは、上からふわっと着地する。

試合開始。先に仕掛けたのはクリリンだ。放った二つの気弾は、ジャンプで避けたピッコロにも追随する。慌てて目からビームで打ち消すもそれが隙となり死角から接近したクリリンの手痛い一撃をもらった。

目からビーム、両手が空くのがいいけど視界が限定されるのが地味に痛いな……。鍔迫り合いとか力比べのプラスアルファぐらいにしないと逆にこっちが不利になる。俺には向いてないな。

あ、オレンジジュース無くなった。

その後も、ピッコロとクリリンの競り合いは続く。全力を出しているクリリンに対してまだ余力のあるピッコロの方が有利なのは変わりないが、それでも見応えたっぷりだ。

最終的には、腕を伸ばすという奇策に残像拳を重ねたピッコロが一手上回って勝利した。

 

「へへへ……だめだ。まいった」

 

いやあすごい試合だった。全力で拍手していると、ピッコロが俺の元へと戻ってきた。疲れは見られない。

 

「おかえりー」

「きさまの言ったとおりだ……そうたやすく、この世をおれ様のものにはできないらしい」

「あっはっは」

 

この世にはまだまだ強い奴がいる……と思うと真っ先にフリーザの顔が浮かぶのどうにかしたい。もっと他にいるだろ。

下ではシェン選手とヤムチャの戦いが始まっていた。技のキレが増しているヤムチャもさすがだが、やはり一歩上手なのはシェン選手だろうか。

 

「マレビト。きさまは何故大会に出ない?」

「んー、性格的に向いてないと思うんだ俺。あんな感じで全力で戦って勝ったり負けたりわいわいするのは好きだよ?けどそういうのは、武闘台じゃなくてテーブルの上でやる方が好きなんだよ。こーいうのはどうしても生死のかかったヒリつきを求めちゃうから」

 

要するに、普段逃げ回ってるくせにいざ強敵と戦うとバーサークモードに入ることがあるのだ。とりあえず今のところは、少なくとも地球ではこのモードに入ったことはないが。

 

「ふん、なるほど。つまり腰抜というわけか」

「プロポーズさせられたいのかお前は」

 

つーかボードゲームとかカードゲーム自体は本当に好きなんだよ。じゃないとゲームクリエイターなんて仕事してないから。

なんやかんやでシェン選手が勝利した。操気弾面白い技だなー、今度ヤムチャに教えてもらおう。

なんやかんで一回戦が順当に終了。次は天津飯と悟空の対戦だ。前回大会の決勝カードということで盛り上がりもひとしおである。次は勝てよ、悟空。

この対戦カードはピッコロもまた興味津々と言った様子だ。

 

『はじめてくださいっ!』

 

審判の掛け声を合図に、悟空と天津飯が激突した。前回大会と違うのは急成長した悟空の身長だろうか。前までは挑戦する子供という構図が近かったのに、今回は同格の選手というイメージがつくのだから面白い。

スピードはどんどん上がり、一般人の目には捉えられない段階にまで到達する。あっ、この感覚懐かしい!具体的には天の道を往き総てを司る系男子が主人公のヒーロー番組だこれ!なるほど、現実で起こるときってこんな感じなんだ……いや、俺は目で追えてるけど。

そんな攻防も一旦断ち切られる。そして、スピードで敵わないと察した悟空が着込んでいたおもりを黙々と外し出した。

……なるほど?

 

「性格悪ぅ」

 

そんなことを口にするものの、多分笑ってるな俺。これがトップスピードじゃなかったのか、まだ悟空には上があるのか。 

そして、すべてのおもりを外した悟空と、なんやかんやで四人に分身した天津飯の勝負は、うっかり自分の力も四分の一にしてしまったことで天津飯ズがまとめて場外に吹き飛ばされて悟空の勝利となった。

 

 

とうとうピッコロとシェン選手の番だ。

予想というか直感というか、シェン選手は十中八九神様だろう。

 

「ピッコロ出番だけど」

「ああ」

「神様、倒す?」

 

ピッコロは無言だ。答えは返ってこない。

まあいいや、独り言みたいなもんだ。

 

「ピッコロさあ、諦めてないのはすごいけど、やっぱ世界征服向いてないと思うよ。性格が向いてない」

「……」

「先代ピッコロ大魔王はさ、そりゃー虐殺だの蹂躙だの世界征服だの、楽しそうにやる奴だったけど」

 

楽しいからやる、というのは行動原理として非常に納得できるものだ。

それと同じくらい、楽しくないからやらない、というのも。

 

「……きさまが何を的外れなことを考えているのかは知らんが」

「うん?」

「ここは天下一武道会だ、そしてやつは俺の対戦相手だ……全力を持ってうち倒さぬ理由がどこにある」

「ん」

 

確かに。

ごちゃごちゃ理屈をこねなくても、お互い選手として武闘台に上がるというのなら……やることは一つということか。

 

「それもそうだな!いってら!」

 

まったく的外れなことを言った。

多少時間がかかったものの、神様とピッコロ、今回の名前はマジュニアが対戦相手として向かい合う。

そして始まった攻防は、さすが元同一人物といったところだろうか?いや、ピッコロの方は元元同一人物くらいだけど。あとぼちぼち聞こえてくる会話ナメック語だな語感的に……うわー懐かしい。

そして、シェン選手の方はポケットから小さな小瓶を取り出した。アレは……あっ、電子ジャーの仲間だ。

 

「魔封波だっ!」

 

そうして、シェン選手はピッコロの封印に挑んだ。それは責めることはしない。ピッコロ、まだ世界征服諦めてないし、出自上見過ごすこともできないのだろう。

そして放たれた魔封波は、ピッコロによって返されて、逆に神様が封印されるという結末を迎えた。神様の抜けた男は素直にテンカウントの間倒れたままであり、見事ピッコロの勝利が確定する。

 

「マレビト!」

「うん?」

 

ピッコロに名前を呼ばれた。と思ったら小瓶が飛んでくる。危なげなくキャッチ。

 

「預かっていろ。試合中にジャマでもされたら敵わん」

「おう、わかった」

「にいちゃんが預かっててくれるなら、オラも文句はねえ」

 

ピッコロは屋根の上に登ることなく建物の奥へと消えて、逆に悟空が屋根へと上がってきた。

 

「お疲れ悟空。りんご食べる?」

「いいのか?」

「ほれ」

 

しゃくしゃくと小気味いい音が聞こえてくる。俺は割と食べる方だけどピッコロ水しか飲まないから、その辺はちょっと不満だったなあ。

 

「にいちゃん、あいつピッコロ大魔王か?」

「大魔王かどうかは微妙だけどそうだな」

「なんで、にいちゃんとピッコロ大魔王が仲良くしてるんだ?」

「悟空さ、赤ん坊のときにじいちゃんに拾われたって言ったじゃん」

「うん」

「うれしかった?」

「うん」

「同じことをしてみただけだよ」

「そうなんか」

 

地球征服を託された子供を、拾ったっていいじゃないか。

いつのまにかりんごは無くなっていて……こいつ芯まで食ってやがる。

さて、次はお待ちかね決勝である。さあテンション上げていこう!



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第三十五話

お気に入り数300件、総合評価が500ptを突破しました。いつも応援してくださる皆さまありがとうございます。

補足:描写が足りていませんでしたが、悟空の尻尾は原作通り神様に取ってもらっています。


冷静に考えて、この試合はナメック星人とサイヤ人という、ある種正反対の異星人二人の戦いである。地球人どこ行った。盛り上がってるしまあいっか。

 

『天下一武道会決勝戦!始めてください!』

 

アナウンサーの一声で、戦いが始まった。今まで全力を出さずに来たピッコロと孫悟空は、まあそれはそれは楽しそうに戦っている。

ピッコロから投げ渡された瓶の蓋を開けた。ぽん、と小気味良い音がして封印されていた神様が現れる。

 

「おす」

「まさか、ここは」

「ほら見ろよ、神様の弟子の孫悟空が戦ってるぞ」

 

ピッコロとの攻防を指差す。神様の表情はどこか複雑なものが混じっていた。

このピッコロの父親が、自分が追い出した悪性だからこそ、だろうか?

 

「私は、地球の平和のためにピッコロを封じようとした。……しかし、このピッコロは私の半身であった大魔王ではない。マレビト、お前が導いたのか」

「俺が育てました……ってほどじゃないけどな」

 

そんな大層なものではないが、ちょいちょい面倒見てたのは事実だ。真夜中に通信機で叩き起こされたのも今や懐かしい思い出である。

 

「なぜだ」

「ん?」

「なぜ、大魔王の後継者であるピッコロを愛した?」

 

愛した、とな。なんかすごい斜め上というか視覚からデッドボール食らったかのような衝撃である。そんな自覚ないし……。

 

「別にいいじゃん」

「私は、ピッコロを悪として見てきた。しかしお前の行動を見て思う、それが本当に正しかったのか……」

「正しいんじゃない?少なくとも神様としてリスクに対応するのは当たり前だろ。つーか誰も彼もおんなじことしか考えないならそっちの方が怖いわ」

 

俺は責任がないから面倒見てただけだし。俺ばっかりが正しいと思われてもそれはそれで困惑する。

 

「俺があげたのは、ご飯つーか水と風呂と布団だけ。それでまっすぐ育ったんならピッコロが元々そういうやつだったんだろ。

 つーか今はそんなことより決勝だろ!!!」

 

孫悟空の三度目の正直がかかった決勝戦だぞ!?見逃してたまるかこんなハラハラする試合滅多にないのに!

悟空とピッコロの競り合いは続いている。悟空が放った全力のかめはめ波でさえ耐えきり、流石にこれは悟空自身も想定外だったらしい。なんてやつだ……と驚いている。

が、ここで会場の空気が変わった。ざわざわと会場全体が騒がしくなり始める。

 

「やはり起こったか……観客たちが、ピッコロの正体に気づいた」

「みたいだな」

『あ……あれ?この姿、ど、どこかで……』

「にてるぞ、ピッコロ大魔王に……!」

 

ピッコロ大魔王が王の宮殿を襲撃した模様は全世界に知られている。世界征服こそ俺が時間稼ぎしたおかげで達成していないが、大々的なニュースになりピッコロ大魔王と俺のやりとりも世界に配信された。あとでニュース映像確認したけどバッチリ映ってたのは頭を抱えたなあ。

 

「……!似てて当たり前だ!このオレはピッコロ大魔王の生まれ変わりだ!」

 

あ、とうとう宣言した。しん、とほんのわずかな間会場が静まり返る。

 

「心配ではないのか?」

「だから手を打ったんだろ」

「なんだと?」

「……す」

 

沈黙と静かなさざめきを経て、一人の観客が声を上げた。

 

 

「すげえ!だからあんなに強かったのか!」

 

 

その後も頑張れだとか、好意的な歓声がわあっと会場中から上がった。恐怖で包まれると思ったピッコロはポカンとして、それから勢いよく俺を見上げた。悟空はどこか嬉しそうに笑ってるし、神様はどういうことだと俺を凝視してる。二つの視線が俺に集中している。

 

「あのな、ピッコロに神様。世界一のゲームクリエイターのプロパガンダ力を舐めるな!」

 

アニメにピッコロ大魔王がモチーフと公言しているラスボスの息子枠を作り、それが人気を博した以上、今代ピッコロの印象もそちらに引っ張られている。それが、今の観客の歓声の正体だ。

まあぶっちゃけ、あそこまで人気出るのは俺も予想外だったけど。

 

『なんと驚きです!マジュニア選手はなんとあのピッコロ大魔王の生まれ変わりでした!この天下一武道会で、歴史に残る戦いが繰り広げられています!』

 

そしてアナウンサーは冷静に実況を進めている。プロだな……もっとやばい状況でもやっぱり実況してそうなプロっぷりだ。すげえ。

ピッコロは思わぬ応援に肩透かしを食いつつ、なんやかんやで悟空との戦いが再開した。でっかくなったり、かと思えば空中で戦ったり。

 

「……楽しそうだな」

 

孫悟空も、ピッコロも、観客も。

凶暴で残忍なサイヤ人と、穏やかで善良なナメック星人。それが、こんなふうに関わることができるのか。

永遠にも思える一進一退はあっという間に終わりが近づく。もっと続けばいいのにという思いは、多分この会場の大多数が思っていることなのだろう。

ピッコロが繰り出した渾身の一撃が悟空を直撃する。その余波で生まれた瓦礫を片っ端から切り刻んで安全確保しつつ成り行きを見届ける。

そして。

 

「悟空!悟空だー!」

「舞空術だっ!」

 

空から、重力さえ味方につけた悟空が、猛スピードでピッコロに激突した。石頭による渾身の頭突きは、自分より大きな体を容易く吹き飛ばす。元々体力の限界が近かったピッコロはあえなく場外へと落下した。

 

『じ、場外!場外です!孫悟空選手の勝ちです!優勝は孫悟空選手!!!』

 

わあっと会場が沸き立った。名物選手である悟空の三度目の正直を讃える声に、ピッコロの善戦を讃える声もある。

うん、なんか、天下一武道会のいいところが沢山詰まっているような、そんな空気だ。

 

「やったあー!!!天下一武道会に優勝したぞーっ!!!ひゃっはーっ!!!」

「すごいな悟空!おめでとう!」

「ピッコロもすごかったぞー!!!」

「すげー試合だった!」

 

あ、ヤジロベーがカリン様から預かってる仙豆配ってる。やっぱり便利だなー仙豆。

ピッコロはするりと武闘台から降りると、俺の隣にやってきた。怪我は仙豆で治ってる。表情は、負けたけどどこかスッキリしたものだ。あんまり心配することもないかな。

 

「おつかれさん。いい試合だった!」

「ふん、次は俺が勝つ」

「そうだな。頑張れ」

「……きさまは、孫悟空の勝利を願っていたのではなかったのか」

「俺が願ってるのは悟空が人生を面白く楽しく生きてくれることだよ。もちろんピッコロもな」

 

見ろよあのめちゃくちゃ嬉しそうな顔を。というのは負けたばっかりのピッコロに言うことじゃないな。

神様は複雑そうに眩しそうに俺たちのやりとりを見ていたが、やがて静かにピッコロに語りかける。

 

「まだ、世界征服を諦めていないのか」

「それは孫悟空を倒してからだ」

「……そうか」

 

ピッコロはすうっと空を飛んでどこかへと消えていった。まああいつ通信機持ってるしまたすぐ会えるだろ。

 

「マレビトよ、礼を言わねばな」

「そういうのいいよ」

 

二人とも、なんやかんやで楽しそうだった。それだけで報酬みたいなものだから。

悟空もピッコロも地球の征服を勝手に願われて、そんな奴らが天下一武道会という平和な戦いで雌雄を決した。

改めて考えると奇跡的な出会いだな。

 

 

その後、悟空は結婚したばかりの新妻と一緒に賞金を受け取ると筋斗雲で空の彼方へと飛んでいった。やれやれひと段落したかな。

後で冷やかしに行ってやろっと。



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第三十六話

天下一武道会も終わり、俺も仕事しつついつもの生活に戻った。お仕事も順調で何よりである。最近はボードゲームやカードゲームに並行して、テレビゲームなんかの開発にもお呼ばれするようになったので忙しさはひとしおだ。ありがたい。

が、基本在宅ワークとはいえ、仕事の量が増えたので家のことが回らなくなり始めた。最低限の家事はできるがその他、例えば無駄にでっかいイノシシの害獣駆除とか家庭菜園の手入れとかその辺が。しかし山中の家なので下手に人を雇えない。

 

 

「よ、悟空久しぶりー。突然なんだけど俺のとこでアルバイトしてくれないか?」

「ほら悟空さ!マレビトさが仕事持ってきてくれたから働いてくるだ!」

「ん?」

 

悟空をアルバイトに誘いにパオズ山の孫家を訪れたところ、真っ先に反応したのがチチだったのはこれいかに。なんやかんやで上手くやってるとは聞いてたが。

チチに話を聞いたところ、悟空が働かないのだという。今は牛魔王の財産を食って生活してるらしい。木こりとか食料調達とかその辺はきちんとやってるが、金を稼ぐ、という行為だけはやらんのだと。

ほうほう。

 

「悟空、ちょっとこっちこい」

「なんだ?」

 

警戒心なくてくてくこっちに近づいてくる悟空。自分よりいささか高い場所にある額を見上げて、なるべく綺麗な笑顔を一つ作ると、俺はこれまでやってきたように右手を持ち上げて悟空に一発デコピンを喰らわせた。結構いい音が鳴る。

 

「いっでぇ!?」

「働け」

 

 

そんなこんなで、雇った。いやー生活がだいぶ楽になった。

悟空の仕事は家庭菜園の管理、薪割り、あと害獣駆除。あとたまに如意棒の棒術を教えてもらってる。狩った鹿とか猪とか恐竜は食べていいよってあげてるし、それとは別に日給で一万ゼニー渡してるから高級取りではないけど、パオズ山でそこそこ暮らしていける程度には支払ってるはずだ。暇なときは好きなだけ修業していいよーって言ってるし。

ピッコロとの交流は、頻度は減ったけどぼちぼちやってる。新技開発やってるから邪魔しても悪いなって。完成が楽しみだ。

余談だが、悟空は俺から渡した給料をそのままチチに渡してるとかなんとか。たまに小遣いもらってるんだけどほぼ手付かずらしいと雑談の中で聞いた。

マジで金に頓着ないなあいつ。

 

+++++

 

ある日、悟空が俺の家の近くで修業してたら電話がかかってきた。相手を確認すると牛魔王で、チチが急遽病院に行くことになった、という内容だった。慌てて悟空に伝えると、悟空は筋斗雲で飛んでいった。

いやあ、こんな時に思うことじゃないけど、ちゃんと家族やってるんだなあ。なんか感動してしまった。

 

 

その数時間後に電話がかかってきた。悟空からかな、チチは大丈夫だろうか。

 

「もしもし、悟空か?」

『にいちゃんか』

「チチは大丈夫だったかー」

『うん、子供産んでた』

「……は?」

 

待てや。

 

「え?気付いてなかったのか?」

『だって、母ちゃんって腹膨らむだろ。流石にオラもそれくらい分かるぞ』

「まあ野生動物とかもそうだしな」

『チチ、ずっと普通だったぞ』

 

…………あー、なるほど。腹が膨らまなかったから、二人揃って妊娠の可能性に気付かなかったのな。

 

「あのな悟空。人間って、腹筋が極端に鍛えられてると、妊娠しても腹が膨らまないことがあるんだ」

『そうなんか!?』

「そうなんだよ。ほら、チチって天下一武道会で本戦トーナメントに残るくらい鍛えてただろ」

 

いやあ、前世で弟が生まれたときのことを思い出すな……小学校から帰ってきたら誰もいなくて、留守番してたら電話口で父親から「お前兄ちゃんになったぞ」って言われたときの衝撃よ。事後報告される子供の身になれと思うけど今思えばある日突然子供が出てきた親も衝撃すごかったんだろうね……。

 

『はー……』

「……まあ、同じこと繰り返さなければ、いいんじゃないか。とりあえずチチと一緒にいるといいよ。仕事のことは後で俺がなんとかするから」

 

仕事っていっても、雑用とかそんなんだしな。

 

「ちなみにこれは純粋な興味なんだが、チチは子供産んでなんか言ってたか?」

『おら、妊娠してたんだなって』

「似た者夫婦が」

 

+++++

 

子供は、悟飯と名付けられた。爺さんからもらったらしい。いい名前の付け方だと思う。

ただ、しばらくして顔見せに行ったら悟飯に尻尾が生えていた。流石に、これ以上隠し通すのはあまりよろしくない。そう判断して、悟空には尻尾が生えている意味を教えることにした。もちろん、サイヤ人であるということは伏せて。

 

 

「───って訳だ」

「……じゃあ、じいちゃん殺しちまったのはオラなんか」

「ま、そういうことだな。ただまあ、ほら、悟空は一回じいちゃんに会っただろ」

「うん」

「そのとき、普通に甘えさせてくれたのが答えなんじゃないかな。まあゆっくり考えるといいよ。悟飯の尻尾をどうするかもな」

 

悟空は珍しく何かを考え込むようなふうになりながら帰って行った。そして翌日、俺の家に悟飯を連れて来た。やはり、思うところがあったらしい。

悟飯、ふくふくしてて可愛いな!ピッコロの時はすでにある程度自立してたから、こんなにザ赤ん坊みたいな子はこの世界の地球では初めてだ。

よしよし、おっきくなれよー。多分波瀾万丈にも程があるけど。

 

「チチと話して、尻尾は取らねえことにしたんだ。切るときは悟飯に説明してからにしようって」

「うん、いいんじゃないか」

「ぜってぇ満月は見せないって」

「そーか。もし手に負えなくなったら言えよ。俺がなんとかするから」

 

尻尾のひとつくらいぶった斬ってやるよ。

 

「はは、にいちゃんに負けねえよう頑張らねえとな」

「おー、がんばれよ」

 

悟飯を抱っこして悟空に返す。に、しても本当にデカくなったな……悟空の方が。俺の元々持ってた孫悟空の印象にどんどん近づいてる。そりゃ俺の中の悟空の印象ってそもそも父親で頼りになる大人だったしなあ。俺の方が歳上とはいえ、第一印象は拭い難い。

……いかん。

第一印象は、地球で初めて会ったときの方だろうが。アニメの向こう側と現実にいる目の前の孫悟空を混同するな。あのちびこい悟空に世話になったときのことを思い出せ。

 

一番最初に好きになったヒーローにも。

一番大好きになったヒーローにも。

一番最後に好きになったヒーローにも。

 

孫悟空の名前は入ってないだろう、前世の俺。

 

「俺の家に来る時とか、悟飯連れてきても良いからな」

「そうか、ありがとな」

 

悟空は悟飯を連れて、家へと帰っていった。

抱っこされた悟飯が悟空の肩越しにこちらをじいっと見ていて、思わず笑った。




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設定
設定


オリ主周りの簡単な設定まとめです。目を通さなくても問題はないかな


・マレビト

今作主人公、いわゆるオリ主。性別は肉体、自認共に男。

黒髪黒目で、癖のないショート。身長はSHのトランクス悟天と同じくらいを想定。体格はやや細めで着痩せするタイプだが筋肉はちゃんとついている。成長した悟空と並ぶと割と体格差が出るため、悟空の「にいちゃん」呼びがだいぶ似合わなくなってきた。

服装は黒いロングブーツ、ショートパンツ、半袖ジャケット、アームカバー。既存キャラクターで表すとドラゴンボールレジェンズに登場するシャロットの服装をもう少し現代の地球っぽくした感じ。

背中に未来トランクスが背負っていたような剣を身につけており、剣と蹴り技が主体。そのためか、天下一武闘会のような武器の使用が制限された大会は欠席している。

趣味は勉強とピアノ。前世で見聞きした曲の再現をして楽しんでいる。

TCGがバカ売れして以来、ゲームクリエイターとして収入を得ている。最近は双六の亜種として人生ゲームの開発に着手している。そのほか、売り上げの見込めないマイナーボードゲームの再現を行なっている。テレビゲームの制作にも呼ばれるようになった。

嫌気性症候群の最後の罹患者。

 

・人宝珠稀

マレビトの前世。2003年生まれ、トリップ時点の年齢は15歳。

家族構成は父、母、弟。両親が弟の妊娠に気づかぬまま出産に至り、ある日突然弟が生えてきたという経験を持つ。

趣味はボードゲーム、ピアノ。どちらかというとインドア派。漫画、アニメなどは好きだがオタクと呼べるほどのめり込んでいる作品はほとんどない、ライト勢。だが人並み程度にライダーキックを真似したり、かめはめ波を練習したり、スーパー戦隊の変身グッズを欲しがった幼少期がある。

一番最初に好きになったヒーローはアンパンマン。一番好きなヒーローは仮面ライダーカブト。一番最後に好きになったヒーローは仮面ライダーウィザード。最後のヒーローは弟が好きだったのでそれに引っ張られた形であり、ごっこ遊びで弟にやっつけられることも多かった。人生唯一の推しはリオ&メレだが、小学校に入る頃には熱は落ち着いていた模様。

名前の由来は[稀人+宝珠]

 

・アスラ

マレビトの肉体であり、人宝珠稀の魂を受け入れた(地球人視点での)宇宙人。魂の方は人宝珠稀が主格となっているためか、たまに夢の中に出てくる程度。

遺伝疾患である嫌気性症候群を患っており、両親や親類もこの病気が原因で他界した。そのためか本人にも生への渇望はほとんどなく、それも人宝珠稀に主人格を明け渡した要因の一つである。

故郷は既に滅びている。

名前の由来は[アスパラ]

 



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サイヤ人編
第三十七話


日課の鍛錬を終えてシャワーを浴びる。髪を拭きながらカレンダーを見ると小さなメモが目に入った。

そういや今日は、悟飯を亀仙人たちにお披露目する日か〜。そもそも子供産まれたことすら報告してなかったし、驚く様子が目に見えるようだ。

俺はあとで合流予定。昨日の打ち合わせが夜遅かったので、仮眠取りたい。いや、寝ないで活動できなくもないけど、休むのって大事じゃん。悟空も亀仙人も休むのは大事だって言ってた。

軽く肩を回しつつ、ラジオをつける。

 

『速報です。巨大な隕石と思われる物体が〜〜地区に墜落しました。まるで野球ボールのような宇宙船だったと目撃者は語っています──』

「…………アタックボールか?」

 

アタックボール。一人用の宇宙船としては極めてメジャーなものだ。技術後進星(とはいえCCがものすごい勢いで躍進しているが)である地球のものではあるまい。可能性としては──

慌ててシンプルなパジャマを脱ぎ捨てていつもの服装に着替える。アームカバーをはめブーツを履き、飛んで行かないようゴーグルで頭に固定した帽子を被る。剣を背負ったのを確認してから瞬間移動を行った。空高くに移動したおかげか、人目につくことは避けられたようだ。筋斗雲を呼び寄せて足場にする。

眼下にはクレーターと、真ん中に鎮座する一つの宇宙船。相変わらず傍迷惑な着陸をするポッドだ。乗っていた者は移動したらしい。気を探ると、突然強大な者同士の戦闘が始まった。さて座標は……カメハウス!?

 

「やべえやらかしたか!?」

 

あああ休むとかアタックボールの場所を見に行くとか悠長なことしてる暇があったらさっさとカメハウスに行くべきだった!

慌てて瞬間移動でカメハウスまで移動する。見知った顔以外で目の前にいるのは、一人の大柄な男だった。腰に巻き付いた尻尾、長い黒髪、発達した筋肉、独特の戦闘服──。

 

「お前、侵略者か!?」

「なんだ、まだ戦士が残っていたのか」

「うわあーん!!!」

 

周囲には倒されたクリリンや悟空、小脇に抱えているのは泣き叫ぶ悟飯。平和な会合があっという間に修羅場に変わってしまったが。抜刀して構えを取るが、えー、不味い。非常に不味い。

こいつ、普通に俺より強いわ。

自分にしか感じ取れない程度だが、指先は気を抜けば震えそうで、背中には嫌な汗が伝っている。

 

「に、にいちゃん!」

「ふん、この男がにいちゃんだと?」

「まあそうなるな。お前、何者だ?あとどこの所属?」

「俺の名はラディッツ。そこにいるカカロットの兄だ。そして俺は、誰にも従ってなどいない」

「何故ここに来た」

「俺はサイヤ人だ。サイヤ人は血湧き肉躍る戦いこそ至高。故にこそ、我が弟であるカカロットの血を求めてここに来た」

「──ふうん」

 

冷や汗が流れるのを自覚する。言葉でとりあえず時間を稼いでみたものの、ダメだ全く隙も作戦も見えない。あと人質の悟飯が地味に厄介だが、取り返すほかないだろう。

すう、と息を吸い込む。

 

「……悟空、あんまり期待すんな」

 

そうとだけ言って、一気に地を蹴った。死角に入れるよう、あえて斜め下の方向に身を潜ませて、振り被らない剣の柄でラディッツの顎を狙う。脳震盪を期待したそれは、最も簡単に避けられたが許容範囲内。狙いは返す刀で、悟飯を抱えている腕を切り落とすことだ。

 

「はっ!」

「甘い!」

 

しかし、それを行う前に背後から鋭い痛みが襲った。思わずたたらを踏み、その盛大な隙を見逃されるはずもなく鳩尾に重たい蹴りが入った。ダイレクトに伝わる衝撃に体がくの字に曲がりそのまま吹き飛ばされる。なんとか体勢を立て直して、受け身を取った。どうやら尻尾で鞭打ちのような真似をされたらしい。鍛えたサイヤ人の尻尾、やっぱ怖えな。多分俺の背中ばっくり割れてるわ。

 

「……うーん、ヤバい」

 

そもそも、俺の狙いが見透かされているのが問題だ。俺は悟飯を傷つけることなく取り戻さないといけないし、ラディッツは悟飯を傷つけても特に問題はない。

強いて言うなら悟空怒りのあまりスーパーサイヤ人に覚醒する可能性も無くはないけど、今の強さだとそれも望めないしな……。

 

「諦めるか?」

「まさか」

 

今のところ味方の中で一番強い俺が諦めてどうするんだよ。俺の好きなヒーローは、誰も彼も泣いてる子供を前に諦めたりしなかったんだぞ。

 

「なあ、悟飯返せよ」 

「断る。恨むならきさまの弱さを恨むんだな」

 

瞬間、ラディッツの姿がかき消えた。すぐに剣を無理矢理上空に回転させながら放り投げる。

次の瞬間、再び俺の体に走る衝撃。だがそれはもう経験済みだ。衝撃を逃してなお入るダメージは無視して、ラディッツの身体を鷲掴んで止めた。

 

「なにっ!?」

「ばーか!」

 

ラディッツを掴む俺の腕を悟飯が掴んだ。わあわあという泣き声が聞こえてくる。撫でて宥めてやる代わりに、全力でラディッツの身体を固定。

瞬間、上に投げていた剣が回転しながら降ってきてラディッツの尻尾をぶった斬った。地面に剣が刺さり、同時に切れた尻尾が地に落ちる。

 

「くっ……」

 

がくり、とラディッツが膝をついた。ぼてん、と悟飯もまた地面に落ちる。そこに、隙を狙っていた悟空が一気に駆け寄った。そうだそのまま悟飯を回収して、待てこいつ力が抜けて倒れたにしては重心の位置がおかしい!

 

「離れろ悟空!」

「遅い!」

「っ!?」

 

腕を掴まれた、と思ったらそのまま悟空のところへとぶん投げられる。俺の身体は悟空を巻き込んで、そのまま二人揃って海の中へと墜落した。口や耳に海水が入り込んで苦しい。あとバキッて音したから多分体のどっかの骨折れたな、俺。

とりあえず悟空と一緒に海の上へと顔を出して酸素補給。あーべったべただ。現実逃避してえ。しないけどさ!!!

 

「くそ、あいつ尻尾も克服してんのか……!」

「みたいだな。あーどうしたもんか」

 

折れたの左腕か。まあ脚が無事なら立ち回りできるしなんとかなるだろ。つーかなんとかしないといけない。圧倒的な戦力差ってこういうことを言うんだな。勉強になったわ。

 

「おとうさーん!」

「このガキを返してほしくば、俺のところまで力付くで取り戻しに来い!」

「悟飯を返せ!」

「落ち着け悟空!」

「ふはははは!楽しみに待っているぞ!」

 

ラディッツは悟飯を片手に抱えると、猛スピードで飛んでいった。とりあえず筋斗雲を呼んで俺と悟空を引き上げる。

 

「ち……ちきしょうっ!」

「落ち着けって言っただろ」

「あでっ!」

 

冷静さを欠いた悟空をとりあえずデコピンで落ち着かせる。

確かに圧倒的な戦力差だ。だが、絶望的なほどではない、と、思う。

 

「冷静になれ。頭に血が上って勝てる相手じゃないんだ」

 

筋斗雲でカメハウスまで戻る。無事だった剣を拾い上げて背中の鞘に納刀。体の調子は……うん、あちこち悲鳴が上がってるが、戦闘に当たって無視できる範囲だ。左腕の骨折以外は。

一度だけ深呼吸してから、家の陰に隠れている人影に視線をやった。

 

「ピッコロ、見てたんだろ?」

「!気付いていたのか」

「気付いたのさっきだけどな」

「腕は」

「使い物にならん。治るから千切らないでおくけど」

「ふん、不便な体だな」

「まったくだ」

 

俺、悟空、ピッコロ。

とりあえず地球のトップスリーが揃ったことになる。

さて、どう攻略したものか。




おまけ:現時点での戦闘力(概算&参考程度。最大値となります)

マレビト:2000
孫悟空:1500(かめはめ波)
ピッコロ:1400(魔貫光殺砲)


ラディッツ:3000


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第三十八話

「悟飯の場所わかるか?」

「ああ、悟飯の帽子にはじいちゃんの形見の四星球をつけてるんだ。ドラゴンレーダーで分かるはずだ」

 

よし。これで地球全体を探し回るという手間は省けたことになるな。ふるふると頭を振って髪の毛の海水を飛ばす。

 

「兎にも角にも、まず優先すべきは悟飯の安全と奪還だ。まあこの辺りは二人とも異論はないとは思うが」

「あたりめえだ」

「作戦はあるのか?」

「臨機応変?」

 

実質無策と同意だ。

悟空は頷いて自前の筋斗雲に乗り込む。俺も俺自身の筋斗雲に乗り、ピッコロは舞空術で並走することになる。

……それにしても。

 

「考え事か?」

「まあな」

 

サイヤ人はかなり長い期間、フリーザ軍の元で侵略者として働いていたはずだ。しかし飛ばし子だが記憶を無くして地球人として振る舞っていた悟空のような例もある。

あるのだが、ラディッツはこのパターンに当てはまらないような気がする、のだ。

 

「集中しろ」

「おう」

 

ピッコロに注意されて思考を打ち切る。スカウターは持っていなかったようだから、奇襲は有効打になりうるだろうか?

アタックボールが置いてある場所は、集まっていたはずのメディアがことごとく消え去り、代わりにラディッツが悠然と立っている。死体が見当たらないのは全員逃げたのか、はたまた死体も残らぬほど消し飛ばされたのか。

 

「一旦俺が先行して適当に仕掛ける。隙ができたら頼んだ」

 

その場所は荒野に見えて、まだらに木が生えている。そのうちの一つの影に隠れるようにそっと降りて陣取った。悟飯はアタックボールの中のようだ、気功波などで巻き込む可能性が消えたな。

 

「……フー」

 

剣を抜いて、一旦上に掲げる。剣を充電するようなイメージで気を流し込むことで、膨大な生命エネルギーが剣の中に集まり始めた。

流石にここまで気を集めればラディッツも気づいたようだ。しかし、視界が塞がれているというのは自分が思っているより情報を遮断されているものだ。何が起きているのか把握されるよりも早く、剣を振り下ろす。

 

「エクス──カリバー!!!」

 

前世で最も有名な聖剣の名前を借りた技、まあ要するにかめはめ波を剣で撃ってるだけなんだが。

エネルギーの塊は木をぶち抜いてラディッツに向かって一直線に飛んでいく。それは何かに直撃したかと思えば、盛大な土埃と閃光をあたり一面に撒き散らした。

これはダメだな、同じく気功波で相殺されたと見ていいだろう。しかし巻き起こした閃光と土埃が煙幕の代わりとなり、まったく同じタイミングで悟空とピッコロが戦闘を仕掛けた。

……ん?気功波で相殺?

 

「と、それより悟飯回収しねえと」

 

左腕が使えないのでとりあえず納刀。悟飯抱えたらマジで攻撃防ぐ手段が限られるが仕方ない。瞬間移動をしてアタックボールの真横に移動、ドアを掴んでこじ開け──

 

「うわっ!」

「わーんわーん!」

 

めっちゃ簡単に開いた。は?もしかして最低限のロックもかけてなかった?

一応、ラディッツが超弩級のアホという可能性もなくはないが、そんな奴がさっきみたいに、尻尾切られた瞬間の演技をするか?

 

「うう……お……おとうさんを、いじめるなー!!!」

「あっコラ!」

「うわあーん!」

「なにっ!?」

 

悟飯が泣きながら、ものすごい勢いで悟空とピッコロと戦う、もといなぶっているラディッツ目掛けて飛び出した。慌てて首根っこを掴んで自分の方に引き寄せ、迎撃のため手を伸ばしたラディッツに代わりに掴まれる。折れた腕を基軸に、遠くまで投げ飛ばされた。勢いは敢えて殺さず、俺の体はあっという間に遠くまで転がっていった。

 

「び、びびった……。ごはーん、怪我ないかー」

「ひっ、うっ……」

 

腕が明らかに変な方向に曲がった気がするけどまあいっか。治るだろこれくらいなら。アドレナリン切れた時が一番怖いな。

さて、ある程度距離を取れたので一度思考を整理……の前に、悟飯をどっかに送り届けないと悟空も俺も安心できないな。

亀仙人たちは、と……あ、近づいてきてる?この動きは飛行機でも出してきたかな。

 

「よしよし悟飯、一旦泣きやめ」

「うえーん!」

 

だめだ泣き止まねえ。元々悟飯の救出が主な目的だからここで一人置いて救援に行くこともできやしない。

仕方ないので悟飯を片手に、飛行機の中に座標を指定して瞬間移動。視界が一瞬で移り変わる。

 

「マ、マレビトさん!」

「よおクリリン、悪いけど悟飯頼んでいいか?」

「ええ、もちろんです!」

「よし……あっ思ったより力強い」

 

確かにこの中で悟飯の顔見知りなの俺だけだが、ちょっと今それは困るんだ。頑張って引き剥がして、手当と世話をクリリンにおしつけ、もとい頼む。腕が変な方向に捻じ曲がってるのはブルマにドン引きされた。仕方ねーだろ。

 

 

そうして戻ってきたら、まあまあ大変なことになってた。ピッコロは地に伏せてるし、悟空は食らいついてはいるもののラディッツにはどこか遊びが見える。そんな様子を目前にして、思考はどこか落ち着いていた。

さて、状況を整理しよう。

 

そもそも、ラディッツは何をしたいのか。

 

誰にも従ってなどいないと言ったから、おそらく侵略を目的としてはいない。加えて俺の初撃のエクスカリバー、あれはおそらくラディッツのスピードなら避けられた筈なのだ。だが、視界不良を起こしながらも迎撃という手段を選んだ。そしてトドメに、いつでも抜け出せるよう開けっぱなしだったハッチ──

 

「おーい、ピッコロ」

「……なんだ」

「あっよかった生きてた。ちょっと試したいことがあるんだ、フォロー頼むな」

「なんだと?」

 

ピッコロの戸惑う声を背に、悟空とラディッツの方を向いた。すう、と息を整えて瞬間移動の準備を整える。背中の剣は納刀したままで、ひたすらにタイミングを伺った。

 

「やはり、きさまは生ぬるい!」

 

たたらを踏んだ悟空に、これまでで一番大きくラディッツが拳を振り翳した。その瞬間を狙って、瞬間移動で割って入る。敢えて無防備で、体格の大きなラディッツの拳は小柄な俺の顔面目掛けて繰り出されて──

 

わずか数センチ先で、その動きを止めていた。

 

「……なぜ、分かった?」

「こう見えて俺より強いやつから逃げたりした経験は山ほどあってな……まあ色々と判断材料はあったよ」

「俺が本気で殺しにかかった場合はどうした?」

「その時は俺の肉体を使って固定したあと、ピッコロに撃ち抜いてもらう予定だった」

 

さっきまで俺が立っていた場所のすぐ後ろでは、ピッコロが魔貫光殺砲をいつでも撃てるように待機している。一番硬い部分は無理でも、眼球あたりから脳を貫けば致命傷には至るだろう。その程度の足止めは覚悟していた。

 

「ふん、見かけよりは随分と冷静で頭が回るようだな」

「お褒めに預かったようで」

「それに比べて……」

 

ラディッツはそう言うと、状況について行けないのか、ぽかんと俺たちのやりとりを見守っていた悟空を振り向いた。苛立ったような口調がその感情を窺わせる。

 

「カカロット!!!きさまなんだ、その体たらくはっ!」

「いいっ!?お、オラ!?」

「当たり前だっ!きさま以外に誰がいる!そんなんだから俺ごときに息子をさらわれるのだ!!!」

 

なんだか正座しての説教が始まりそうな雰囲気だ。とりあえず脅威は去った、どころか最初から無かったらしいことが判明した。弛緩した空気を感じ取るとどっと疲れが湧いてくるが、話を進めないわけにも行かないだろう。

 

「あー……ラディッツ。とりあえずお前が敵じゃないことは理解した。だがお前の目的がわからん。なぜこのようなことをしたのか、話を聞かせてほしいんだが」

「ああ、構わん」

 

ラディッツが素直に頷いたので、とりあえず移動することになるだろう。これからやることを考えたら、体がさらに重くなったのを感じた。昨日から色んな意味で頭を回しっぱなしな気がする。

休みてえ。



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第三十九話

カメハウスに戻ったが、なんとなく警戒心のようなものは抜けきっていないのは当然だろう。ちなみにラディッツは警戒されるのは慣れていると言わんばかりにどっしり構えて、一応出した茶を啜っていた。

神経が図太いなこいつ。

腕の手当てをしてもらいながら眉間を揉んだ。ラディッツの話を聞くのはいいが、ある程度前提知識の説明から始めなきゃならんしな。

 

「アー……とりあえず俺が主導で話を進めていいか?分からないことがあったら聞いてくれれば、都度答える」

「うむ、その方がいいじゃろう」

 

亀仙人が頷いたことで話し合いの方向性が決まる。それを踏まえて、ラディッツが湯呑みを置いた。

 

「改めて名乗ろう。俺の名はラディッツ。サイヤ人の生き残りであり、そこにいるカカロット……この星の名前はソンゴクウといったな。そいつの兄だ」

「サイヤ人はほぼ絶滅状態だって聞いたが、何人残ってる?」

「俺たちが把握している限りではあるが……俺と親父とカカロットを除けば、フリーザ軍に二人、カカロット以外の飛ばし子が一人、そして幼少期に惑星ベジータから追い出された第二王子がいたはずだ」

「じゃあ合計で八人か?……フリーザ軍所属が思ったより少ないな。もう少しいなかったっけ」

「惑星ベジータ消滅の直後ははもう数人が生き残っていたが、侵略で既に命を落としている」

「なるほど」

「はい、質問……ってほどじゃないけどいい?数あわないわよ。孫くんと家族が三人、飛ばし子?が一人、軍に入ってるのが二人、王子様が一人なら合計で七人でしょう」

 

ぴん、と手を挙げてブルマが指摘してくる。一度内心で首を傾げて、それからぽんと右手で太腿を打った。

 

「いや、俺もサイヤ人だから数合ってる」

「……は!?」

「聞いてないぞ!?」

「言ってねえし」

「いい!?けどにいちゃん、尻尾ないじゃんか!」

「俺の一族は突然変異種で尻尾がないんだよ」

「そのようは話は聞いたことがないが……」

「まあ昔の話だしな。俺そもそも長生きで、惑星サラダ世代というか、それこそ系譜的にはヤモシの──って、俺の話はいいんだよ」

「つまり少数派の変わり者ってことなのか?」

「そうなるかな。案外、別の宇宙じゃ尻尾がないサイヤ人がメジャーかもしれないが……と、話がずれたか。とりあえず、サイヤ人という種族と今の状況について簡単に話すぞ」

 

サイヤ人と惑星ベジータの顛末、あとフリーザ軍との関わり。これらをある程度かいつまんで話す。ついでに俺が千年くらい生きてることもさらっと話したが、ここは適当に流した。本題じゃないからな。

 

「これでサイヤ人が何をしていたか大体分かったかな。じゃあ俺からも質問だ。ラディッツは所属がないみたいだがどういうことだ?サラダ出身の俺みたいなフリーはそう居ないだろ」

「そうだな、俺自身、惑星ベジータが消滅するまではフリーザ軍に属していた」

「ふうん?」

「だが、惑星ベジータと共に消滅したと思われていた親父が生きていてな。親父自身の軍籍が死亡扱いとなっていたため、母星が消えた後に親父に連れられる形で軍を抜けた。今は侵略には一切関与していない」

「へえ、珍しい」

 

サイヤ人は全体的に、家族への情が軽いというかドライなところがあるから、わざわざ迎えに行ったとはまた変わり者である。個体差があるとはいえ、ここまで目をかけるのはあまり聞いたことがない。

 

「その親父は?」

「何年も前、俺が十六の時に別れてそれっきりだ。親父のことだからどこかで生きているとは思うが」

「けっこうドライね……」

「サイヤ人はこんなもんだな」

 

ただ、ラディッツがフリーザ軍に入っていない理由は分かった。長らく話し込んでしまったが、悟空を振り向くと話についていくので精一杯なのか目を白黒させている。 

 

「えーっと……つまりおめえはオラの兄ちゃんなのか?で、オラの父ちゃんも生きてるんか」

「そうだと最初から言っている。親父は今の動向を把握している訳ではないが……くたばってはいないだろうよ」

「にいちゃん二人だとややこしいな。悟空、今度から俺のこと名前呼びするか」

「えっ」

 

そっちの方がいいだろ。それに、本題にもそろそろ入りたいしな。

 

「じゃあ本題と行こうか。ラディッツ、地球に来た目的は?」

「先に言った二人のフリーザ軍所属のサイヤ人が地球に目を付けたらしい。俺はその情報を手に入れて、先んじて地球へ飛んだ。地球にはカカロットが飛ばされていた、という話は母さんから聞いていたからな」

「警告ってわけか……襲撃のタイミングは?」

「今から一年後といったところだ」

「時間があるのかないのか……」

 

俺たちの実力を図るようなマネをしたのも納得だ。悟空を叱っていたときの俺ごとき、という表現からして、その二人のサイヤ人の実力はラディッツより上と見て良いだろう。

ラディッツはその辺りも想定内だったのか、ひとつ頷いて、ポケットからよく分からん札のような、チケットのような、そんな紙切れを二枚取り出した。

 

「よって、カカロットは俺と共に界王星で修業を行う」

「えっコネあんの?」

「二人分だがな」

 

準備良すぎてビビるわ。

 

「界王星ってなんなんだ?」

「地球に神様がいるだろ?宇宙のいろんな星にも神様がいて、それを統括する上司が界王様。界王様が住んでるのが界王星」

「へえ、じゃあサイヤ人にも神様がいるのかしら?」

「いるなー。見たことあるし」

 

なりたいとは思わなかったけどな、なんとなく。

 

「じゃあ悟空とラディッツはそっちで修業……として。あとは各自でやるか。天津飯たちにもこのことは伝えておかないとな。ブルマ頼んで良いか?」

「え、ええ良いわよ」

「ならばこれを使え。俺にはもう必要ない」

 

そうして差し出されたのは、スカウターだった。うわあ久々に見た。意外に侮れないんだよなこれ。

 

「とはいえ、このままだとフリーザ軍と通信が繋がる可能性が高い。慎重に扱え」

「ありがとう、早速分解してみるわ。うまくいけば複製できるかもしれないしね」

「通信が繋がるのか……?」

「俺も親父も、こういうのは不得意だからな。下手に弄らず放っておいた」

「確かにそっちの方が良いかもな」

 

 

そして早速、悟空とラディッツはカメハウスから飛んでいった。一旦神様の神殿まで赴き、そこから蛇の道を通って界王星を目指すらしい。あいつチチに何も言ってないんだが良いんだろうか……まあいっか。家庭の問題に首を突っ込むものではない。馬に蹴られるのは嫌だ。

 

「じゃあ俺たちは各々修業ということで」

 

俺も流石に強くならないとダメだ。カメハウスに別れを告げて、家に戻る。

しかし、やり方を考えないといけない。ガムシャラに強くなるだけじゃダメだ。もっと効率的な強化を──と考えたところで、ドラゴンボールの記憶の一つが引っかかった。

界王拳、という技だ。

これは自分の戦闘力を倍化する技術だったはず。しかし界王星に行けない俺は界王拳を習得できない。ならどうする?

 

界王拳をパクったオリジナル技を開発するんだよ。

 

幸い、モデルは頭の中にあった。前世の仮面の向こう側、夢中になったヒーローを模倣すれば良い。気で装甲を作って体にまとい全身の身体能力を底上げする。イメージがつきやすいように、イメージをカブトムシがモデルのヒーローで統一。腕に、脚に、全身に、アーマーを装着するように……。

 

「………………」

 

一旦イメージを止める。家の中に入ってまっすぐ固定電話を目指した。なんだかんだでかけ慣れた電話番号をプッシュする。目的の人物はすぐに俺の電話に出てくれた。

 

『ハロー。久しぶりだねマレビトくん』

「もしもしブリーフ博士?人体模型と骨格標本ってどこで注文すれば良いかわかるか?あとカブトムシの専門書と人体解剖図も欲しいんだけと」




今年の投稿はこれで終わりとなります。読んでくださった皆様、ありがとうございました。
次の投稿は一月十日を予定しています。


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第四十話

あけましておめでとうございます
溜まっているコメント返信は今週土曜日に行います


一年が経った。

新技もとい界王拳のパクリ技も完成。病気のこともあるので気の消費量は極限まで抑えることに成功した。ここは素直に褒められていい部分だと思う。

ただ問題点が二つほど。

ひとつ目、基礎戦闘力ほぼ上がってない。いや、基礎を上げると気の消費量増えるからここは優先順位低めってのもあるけどさ。トータルで言うと基礎上げるよりパクリ界王拳使った方が気の消費少ないんだよ。少なくとも今回はこれでなんとかなりそうだから、基礎は後回しにした。単純に時間無かったのもある。あとでピッコロとか亀仙人あたりにガチで怒られそう。

ふたつ目、俺以外に使えない。俺のこのパクリ界王拳、イメージが前世のヒーローなせいか、『装甲を纏うイメージ』が必要なんだけど、この世界の武道家に一切理解されなかった。文化の違いってやつか。こればかりは仕方ない。

 

この一年で悟空(とラディッツ)との差がかなり開いた気がする。追い抜かれるときって一瞬なんだな。別に最強に拘ってる訳ではないし、いいんだけどさあ。

 

+++++

 

『にいちゃんっ!』

「!お、悟空か。いつのまにそんな技使えるようになったんだ?」

 

家で休んでたら、突然頭の中にテレパシー的な感じで悟空の声が響いてきた。ちょっとビビったけど、こんな感じの技使える種族とかいたなあ。

 

『いや、ちげえんだ。今は界王様の力を借りて心の中で話してる』

「あーなるほど。で、なんかあったか?多分悪い知らせだと思うけど」

『あ、ああ!サイヤ人が来るのが明日らしいんだ!』

「了解、こっちでも準備しておく。あと悟空、お前も多分隣にいる兄貴も俺もサイヤ人だからな」

 

改めてサイヤ人だらけだなこの場。なんで地球に数少ないサイヤ人の生き残りの半数以上が集結することになってるんだ。

 

「で、いつ頃こっち到着するんだ?」

『二日後』

「……は、えっと、え?」

 

間に合わねえじゃん!!!

ドラゴンボール使うか!?いや、ここは使う場面じゃない!えーっと、確か神様に教えてもらった蛇の道の位置関係が……

 

「とりあえず全力でこっち来い!尻尾の部分で待ってるから!あとラディッツいるな!?ちょっと変われ!」

『変わったぞ』

「まず悟空の面倒見てくれてありがとな、界王様にも言っといてくれ。俺は一旦皆んなにこのこと伝えて迎撃準備整えたあと、尻尾の部分で待機してる。着き次第瞬間移動で送る!」

『ああ!』

 

界王様のアホ!と言いたいけど俺も大して変わらないアホだから口に出せねえ。

テレパシーが途切れたことを確認して、まず筋斗雲を呼び出す。まず向かうのはブルマの家だ。確か、スカウターバラして研究してたはず。なら出来ることがあるはずだ。

 

「ブルマ!」

「きゃっ!マレビトくん!?」

「明日サイヤ人が来るらしい!だから頼みがあるんだが、スカウターの位置情報ハッキングかなんかで得られないか!?」

 

通信機能付きのスカウターは基本全てのフリーザ軍に支給されている。悟空たちの親世代も使っていたくらいだ、ほぼ確実に持っていると判断していいだろう。

 

「多分高速で移動してる筈だ、その着陸位置を割り出してくれれば奇襲できる!」

「分かったわ、やってやるわよ!」

「言っといてなんだけどさすがだな……俺はこれからピッコロたちを集めて迎撃体勢整えてから悟空たち送り迎えするから、分析終わったら端末に座標くれ!」

 

ラディッツがスカウターくれて良かった。ほんとに。

次は神様の神殿か。筋斗雲にカリン様宛に仙豆の準備を頼む手紙を走り書きして持たせた。使いっ走りみたいにしてごめん、筋斗雲。

その後、神殿まで瞬間移動。大まかに状況を説明してから、ピッコロに会いに行く。そういや悟飯を鍛えることにしたと言ってたな。何週間か前に会ったときはめちゃくちゃピッコロに懐いていたのが思い出される。

 

「よおピッコロに悟飯、久しぶり」

「マレビトさん!」

「マレビトか!」

「なんか明日、サイヤ人来るらしい。準備しとけ。場所の座標はあとで教えるから」

「なんだと!悟空はどうなった!?」

「間に合わないっぽいから俺が迎えに行く。それまで頼むわ。それと、悟飯」

 

しゃがみ込んで悟飯に目を合わせる。正直、俺としてはまだ小さい悟飯を戦場に連れて行くのは反対したい。

が、才能という点で、人間とのハーフという特異性で、フリーザ軍のサイヤ人……ナッパとベジータが悟飯に目をつける可能性がないとは言えない。目標を固定するためにも、守り切るためにも、戦場にいた方が都合がいい。

……というのは、俺らが戦力不足なせいでもあるが。

 

「大丈夫だ、なんとかするから」

 

というかなんとかしないとマジでチチと悟空に申し訳が立たん。悟空に恩を仇で返すような真似は絶対しないようにしないと。

似たようなことをクリリンや天津飯たちにも繰り返す。なぜか全員集まっただけで一仕事終えた気分だけど、これまだ序章ですらないからな。

 

「俺はこれから一旦離脱する。これがブルマに割り出してもらった到着予想時刻と場所な。どう活用するかは任せる。あと、カリン塔の下に住んでる」

「サイバイマン一族だろ?神様から話は聞いてる。一緒に戦ってくれるみたいだぜ」

「そうか。じゃああとまかせた!」

 

事前準備終わり!

瞬間移動で蛇の尻尾まで移動。本当なら界王星まで迎えに行ければいいんだけど、多分それあんまり良くないんだよなあ。

 

『おうい、マレビトや』

「あっ界王様か。悟空たちは今走ってるとこか?」

『そうじゃな。到着までもう少しかかるじゃろ』

「ありがと。で、なんか話でもあるのか?俺としたら聞きたいことがない訳じゃないんだが」

『何か聞きたい?』

「なんとなく推測はついてるけど答え合わせしたくて。俺の扱いって、神様連中から見てどうなってんの?」

 

俺は天国にも地獄にも行けない。神様からしたら迎え入れたくもない。そういう扱いをされる理由。

ただの仲間外れではないだろう。ただそれぞれ対応が違うあたり、明瞭な基準がある訳でもない。

しばらくの沈黙の後、頭の中に答えが降ってくる。

 

『お前さんの魂はな、治外法権なんじゃよ』

「あーなるほど……つまりあれか、『この世界の基準に当てはめちゃダメ』なわけね」

『魂そのものや肉体に違いはないがな。ワシらにとっては、この世界のルールにお前さんを当てはめることが“悪いこと”として認識しておる』

 

悪いことをしても地獄行きにできない。

良いことをしても天国行きにできない。

なぜなら、この世界の基準で俺の行いを評価することが、観念として悪だから。

できるからといってしてしまえば、それは神として正しい行いとは言えない。情が上回れば悪いことだとしても手を差し伸べるし、理性が上回れば俺を放逐するより他にない。

最も良いのは、関わらないこと。俺がどんな行動をしようと、一切の反応をせず、己の管轄から追い出すこと。

 

「……我ながらめんどくせえな俺の扱いって」

 

だからこそ、地球という、前世の俺の生まれ育った世界と同じ名前の星に拒絶されなくて良かったと思う……マジで悟空に頭上がらねえ。神様にも今度お礼言いに行こう。全部終わって生きてたらな。

 



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第四十一話

スーパーヒーロー初見の感想は怪獣大決戦でした


待ってる間、色々と疑問が浮かんできたので脳内で整理する。

 

まず第一に、なぜベジータとナッパは地球に狙いを定めたのだろうか。ナメック星人のドラゴンボールなら、ナメック星に行くのが一番手っ取り早いはずなのだ。だというのに、辺境と言ってもいい地球に目を付けた理由は?

 

そして第二に、ラディッツと悟空の父親がフリーザ軍の脱退という道を選んだ理由だ。少なくとも表向きは、惑星ベジータの消滅は巨大隕石の衝突という名目が立っている。男性のみが生き残ってしまい絶滅が確定したサイヤ人の風当たりは強い。少なくとも、俺がサイヤ人を名乗ることをやめる程度には。そんな中で、少なくとも保護を受けられるフリーザ軍を抜けるほど、ラディッツの父親には目算があったのだろうか。それとも、少なからずあるメリットを無視するほどの何かがあったのだろうか?

 

そして第三の疑問。神様と呼ばれる者や界王、界王神らにとって俺は非常に厄介な存在だ。今の神様にピッコロ関係の問題に首を突っ込まないよう言われたのも頷ける。俺が挟まると悪いことも悪いことだと指摘できなくなりかねないからな。

だが、そしたらなぜ、カリン様も神様も俺を軽々と迎え入れたのだろうか。自分の判断というにはあまりに統制が取れているから、おそらく誰かの意思ではあるはずだ。

 

で、この三つの疑問。一つに繋がってそうな気がするんだよなあ。

 

「……と、近づいてきたか」

 

二人分の気が近付いてきたので思考を止める。今考えることじゃない。

わー悟空めっちゃ強くなってる。追い抜かれてる。当たり前だよなあ!頼もしいことこの上ない!あとラディッツ、尻尾が復活してそう?

 

「久しぶりだな悟空!に、ラディッツ」

「マレビトにいちゃん!」

「マレビトでいいって、お前の兄ちゃんこっちだろ」

「えーっ、でもオラにとってはにいちゃんだぞ」

「体格差見てみろ、どっちかと言うと俺の方が弟だわ。……そういやラディッツもでかいな」

「俺はおまけか!」

「俺とお前の交流時間何時間だと思ってる!」

 

軽口を叩きながらも、とりあえず気を探って瞬間移動の準備を整える。戦闘は……劣勢だけど誰も死んでない、よしよし。

 

「じゃあ行くぞ!」

 

二人が俺の肩に手を置いたのを確認して、瞬間移動!視界が一瞬で雲海から荒野へと切り替わる。あっちこっち敵のサイバイマンが倒れていて、こちら側の味方と思わしきサイバイマン一族が数人、無傷とは言わないまでも健在だ。

……まあ育ってすぐ即戦力と、少なからず“修業”ができるのとでは、ほぼ確実に後者の方が強いよな。というか以前はオリジナルレベル一体だけだったのに、今はオリジナル超えるサイバイマン一族が何人かいる。したのか、修業。

そして、目の前には戦闘のためかアーマーが崩れて半裸状態のナッパに、無傷のベジータがいる。

で、瞬間移動の関係上中央に俺、左右に悟空とラディッツ……なんか俺がリーダーみたいな配置になってるし。一番弱いのに。

 

「ふん、ついに現れたか……そして生きていたか、腑抜けのサイヤ人に弱虫ラディッツ」

「チッ、相変わらず神経を逆撫でするヤロウだ。……久しいな、ベジータ」

「腑抜けは否定できないな」

「それで?わざわざ何をしにきやがったラディッツにカカロット。まさかこのオレたちを倒すなどというくだらんジョークを言いにきたのではあるまいな?」

 

中身サイヤ人じゃないからな俺。腑抜けって言われても納得しかできんわ。

あとアスラちょっとうるさい。静かにしてて。

アイコンタクトで、ピッコロに離れるよう伝える。ピッコロは心得たように、クリリンやヤムチャ、悟飯を連れて場を離れてくれた。助かる。

 

「ジョークになるかどうかは戦ってみないと分からんだろ。強い方が勝つんじゃない、勝った方が強いんだよ。俺たちもお前らもサイヤ人、御託のケリは戦いでつけようぜ」

「ハッ、確かにな!」

「オイ、マレビト。きさまはナッパをやれ」

「分かってる。ベジータは二人に任せた」

 

大猿化できない代わりに、パクった界王拳の最大倍率が大猿化とほぼ同程度。ナッパならどうにでもなる。

剣を抜く。意識を集中させて戦闘力を向上させる。イメージは装甲を纏った変身。黒いライオンのように、赤いカブトのように。身体の機能を邪魔しないよう、気で肉体を強化していく。

まず、俺が飛び出した。ナッパを悟空たちやピッコロたちから引き離すように移動しながらなナッパの攻撃を捌く。

現在の倍率は二倍、その上で相手より少しだけ弱く“見える”ように、あえて防御と回避だけに専念する。

 

「さっきの口はどうしたァ!」

「さあな!」

 

重たい攻撃を受けて吹き飛ばされる。あえて力を受け流したので、そこまでダメージはないが、ナッパは完全に油断したみたいだ。

よし、ここまでは狙い通り。

取った距離を利用して、剣を上段に構える。さて、どう動くか。

 

「エクス、カリバー!」

 

やや弱めに放ったビームが、真っ直ぐナッパに飛んでいく。その結果を待つより前に、振り下ろした剣を持ち直した。

ナッパは予想通り、両手でビームを相殺する。閃光が視界をくらませ、砂埃が立ち上がる。それを目掛けて、ナッパの懐に瞬間移動した。かなり大きな体格差、油断、そして瞬間移動という移動の利。全てがこちらに有利に働く。

 

「しまっ……!」

「ばーか」

 

そのまま、構えていた剣を振り抜いた。事実上半裸になっていたため、一切の攻撃は相殺されず剣の全てが鳩尾にめり込み、そのままナッパは岩をいくつか破壊しながら、かなり遠くまで吹き飛んだ。多分内臓もひとつかふたつ潰しただろうか?

 

「……んー、なまくら」

 

弱点の尻尾はともかく、流石に鍛えた肉体は斬れないか。なまくらという呼び方は言い過ぎにしても、切れ味は流石に敵わないらしい。

 

「アロンダイド」

 

気円斬の応用技。単に剣の切れ味を追加するだけだが、こういうときにはひどく便利だ。

サイヤ人は、死地から復活したときが一番厄介である。千年生きてる俺が言うから間違いない。昔馴染みもそんな感じでめっちゃ強くなってた。らしい。昔馴染みのは直接見たことないけど。

足を踏み込んで、遠くに飛んでったナッパに肉薄する。流石に腕か脚の一本二本、取っておかないとまずい。

そして肉体の強化倍率を二倍から三倍に。これで戦闘力はナッパを上回った計算になる。あくまで計算上、油断はならないが。

 

「き、きさまっ!いつのまにっ!」

「悪いな!」

「がぁっ!」

 

剣を振りかぶって、振り下ろす。斬れ味が格段に向上した剣は今度こそ片腕を切断した。バランスを崩したナッパの鳩尾に勢いのまま蹴りを喰らわせて、地面に沈める。地面に伏せたナッパに対して鋒を突きつけた。

 

「……勧告だ。これを断ればチャンスはないぞ。降伏を勧める。少なくとも今の俺はお前より強い。俺もせっかく残った数少ない同胞を無闇矢鱈に殺したくはないんだ」

 

言っててなんだけど、これ、悪役ムーブしてんな俺。

ナッパはしばらく負けたことが信じられないのかギリギリと俺を睨みつけていたが……やがてニヤリと不敵に笑った。嫌な予感が全身を駆け巡る。

 

「……お前、何を企んでいる?」

「はっ、さっさと殺さないなんざ甘かったな!」

「いったい何を……っ!?」

 

強烈な違和感に、空を見上げた。地球には現在月がない。ピッコロが破壊したからだ。だというのに空には小さな満月が輝いていて……

 

「っ!パワーボールか!」

 

パワーボールを使うには、かなりのエネルギー……気を消耗する。おそらく悟空とラディッツはベジータのことを後一歩の所まで追い込んだのだろう。満月の力により、尻尾があるナッパの体が、段々と巨大になっていく。

一旦後退して距離を取る。片腕が無くなったとはいえ、大猿化による強化はあまりに厄介だ。

 

「あー……くそ、やらかした。腕より先に尻尾切り落としときゃ良かった」

 

俺自身に尻尾がないからか、月が無い時点で油断していた、と言ってもいいかもしれない。紛れもなく落ち度である。

視界の端では、同じように大猿と化したベジータとラディッツが巨大化したまま取っ組み合っている。押されているのは、服装から判断するにラディッツの方。そこにこのナッパを加えてしまえば押し切られるのは目に見えている。

 

「っし」

 

小さく息を吐いて切り替え。にしてもなんだこの怪獣大決戦は。

だから尻尾のあるサイヤ人は厄介なんだ!



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第四十二話

とりあえず倍率を10倍まで上げる。しかしナッパが腕減ってるとはいえ、基礎となる戦闘力の差で形勢逆転だ。

あーこういうところで基礎戦闘力上げなかった弊害が出るとは……生きて戻れたらセルフ大反省会だなこりゃ。

さて、次の仕事は尻尾を切り落とすことか。空を飛び回り攻撃をなんとか避けつつ、どう動くか考えていると、見知った気配が近寄ってきた。

 

「おい、マレビト!」

「ピッコロ!?お前こっち来たのか!?悟飯たちは!?」

「あいつはクリリンに任せて来た!尻尾を落とせば良いのか!?」

 

マジか思いもよらない援軍きた!すげえ助かる!しかも話が早い!

しかしピッコロが来て若干余裕が出てきて分かったんだが、向こうもだいぶ押されてんな……けど、元気玉作ってるっぽい?

なら……

 

「魔貫光殺砲できるか?」

「……!目潰しか」

「さすが話が早い!じゃあ一旦俺の後ろで準備頼む……さあ来い、ナッパ!」

「ごちゃごちゃ相談は終わりか!?ならてめえから潰してやる!」

「やれるものならやってみろ!!!」

 

よし来い、大猿ナッパ!

剣を構える、と見せかけて空高く放り投げる。そして空いた手を額にかざして、あの技を真似る。

 

「太陽拳!」

 

俺より後ろにいるピッコロにはダメージがいかず、こちらを注視していた大猿ナッパにはテキメンに聞いた。悲鳴を上げて目を抑えるものの腕が一本しかないため、両目を完全に覆えるわけではない。隙間から弱点が見えている!

 

「っし、あとよろしく」

「──魔貫光殺砲!」

 

即座にピッコロの前から退けると、俺の背後からまっすぐ伸びる魔貫光殺砲が隙間を縫ってナッパの目を貫いた。要するにラディッツ戦でやろうとしたことの焼き増しだけど、今回うまくハマってくれて良かった!

あとは呻いているナッパの尻尾を切り落とせば、とりあえず大猿化は解けた。

だが、ナッパにはもう一仕事してもらおうと思う。

 

「せえ、の!」

「ガハッ!?」

 

アロンダイド解除した剣でナッパをぶん殴る。斬れない剣で殴られたナッパはホームランボールのように吹き飛んで、戦闘中のベジータ悟空ラディッツたちのところへと向かって行く。

 

「なんのつもりだ?」

「ナッパが近くにいるのがわかったらベジータの多少動きは鈍くなるだろ、そこを、」

 

そして、飛んでいったナッパは地面に激突して止まり、それに気づいたベジータにあっさりと踏み潰された。

べきゃり、という音と共に気がひとつ消えるのを唖然として、ピッコロと共に眺めていた。

……えっ。

 

「……おい」

「俺だって予想外だよこんなの!つーか俺が知ってるサイヤ人は仲間の敵討しようとするやつなんだよ仕方ないだろ!あー!てか尻尾切らんと!!!」

 

嘘だろおい、あいつ味方踏み潰しやがった。ええ、確かに俺は善のサイヤ人とかに分類される方ではあるけど、悪のサイヤ人ってみんなこんな感じなの……?それともフリーザ軍がこうなの?

慌てて空を飛んで悟空たちの元へ移動する。結末がどうであれ俺の担当がひと段落したのは間違いないからだ。

 

「ピッコロ!パワーボール、というか月の破壊できそうか試しといて!俺はあっちフォロー入るから!」

「気をつけろよ!」

「ああ!」

 

月の破壊の引き継ぎよし!元気玉は、よしできてるな、あとは尻尾ぶった斬って元気玉ぶつけるだけか。近くには、クリリン潜んでるな、やるじゃん!

ラディッツは完璧に押し込まれている……というか、悟空の盾にされてる?なるほど、まだ比較的余裕のある悟空が尻尾を切断できてないのはそういうわけか。組み合ってるなら太陽拳も使えないしな。

なら、隙を作ってやればいい。

 

「ラディッツ!こっちに投げろ!」

「!」

「させるかっ!」

 

声をかけた瞬間、逆にラディッツがこちら側に投げられた。しかしそれは瞬間移動を使って避ける。限界を迎えたラディッツは地面に倒れて動かない、本当によく抑えてくれた……。これで、ベジータが一人になった。剣を上段に構えて、上から撃ち下ろす体勢を作る。狙いをつけつつ、右目を閉じた。

 

「エクス……」

「か……め……は……め……」

 

下からは悟空が、かめはめ波の体勢に入っている。挟み撃ち、加えて大猿化したことで的の大きさは増えている。

 

「カリバーーーー!!!」

「波ぁーーー!!!」

「くそォ!」

 

図体がでかいとは思えない俊敏さで、ベジータが攻撃を避けた。意図に気付いた悟空のかめはめ波とは押し合いにはならず、技が相殺しあって大きな土埃と閃光を撒き散らす。即座に一時的に使えなくなった左目を閉じて、代わりに右目を開ける。そのまま土埃の中に飛び込んだ。抜いた剣を振りかぶって、目の前にある尻尾を両断する。

あっけなく、大きな尻尾は切断面を晒して地面にぽたりと落ちた。それと同時に、ピッコロがパワーボールで作られた月を破壊する。

ベジータはみるみる縮んで、通常サイズまで戻った。

 

「くそったれーーー!!!」

 

そして、岩陰で元気玉を受け取っていたクリリンが、元気玉をベジータに向かって投げつける。これが当たれば、勝てる!

咄嗟に剣をベジータの足に刺して固定し、俺自身もベジータに組み付く。倍率は十倍のまま、今ならこっちの方が、俺の方が強い!

 

「動くな!」

「くそっ!離せ!!!」

「誰が離すか!」

「マレビトにいちゃん!?あぶねえぞ!」

 

そして──強大な衝撃が俺ごとベジータを襲う。雷が直撃したのよりずっと強いエネルギーが全身を苛んで、思わずベジータを取り落とした。それは正解だったようで、ベジータを狙ったそれはそいつだけに帯電しているかのように全てのエネルギーを持って攻撃を終えた。

 

「……元気玉こわっ」

「きさま、よく無事だったな……」

「あ、ピッコロじゃん。無事だったのはこれのおかげじゃないかな」

「なに?……たしかに硬いな」

「気をヨロイみたいに固めてるんだよね」

「なるほど……そういえば以前何か言っていたな」

「それそれ」

 

地面に寝っ転がってたらピッコロが駆け付けたので手を借りて立ち上がる。ちょっとふらっときたけど、まあなんとか自力移動はできそうだ。剣は見事に砕けてて、もう使えそうに……ちょっと寂しい。

戦闘は遠慮したいな。

 

「マレビトにいちゃ」

「ん?どした」

「だ、大丈夫か!?」

「まあまあ大丈夫じゃ、ないっ!?」

 

気配を感じて振り返ると、ベジータがダメージを受けてなお立ち上がっていた。嘘だろ、サイヤ人丈夫すぎない?

剣がもうないので、拳を握りしめて……あっ。

 

「……二人とも、ちょっと頑張ってくれる?」

「策があるのか」

「ある」

「そうか、ならば任せる!」

「にいちゃん頼んだっ!」

 

二人が一気に飛び出していったのを見て、手を空に掲げる。まあ似たようなやり方だしできるだろ。気をもらうのは、悟飯天津飯餃子ヤムチャヤジロベー亀仙人、あとチチ牛魔王にサイバイマン一族あたりかな。追加で太陽からも少しもらおう。あまり大きすぎると悟空とピッコロにも飛び火しかねないから、控えめに。

よしできた。オリジナル、いやパクリ元気玉。

 

「きさま、まさかっ!」

「じゃあな」

 

天に作った小さな元気玉が、再びベジータに着弾して、その身を大きく弾き飛ばす。ある程度指向性を持たせたおかげで威力が飛び火せずに済んだようだ。

元気玉、食らったら結構痛いんだよなあ。

 

「マレビトにいちゃん。いまの、元気玉か?」

「モドキだけど。オリジナルは悟空が使ってた方だよ。俺のは見様見真似というか、噂話を元にしたというか」

「死んだか……?」

「いや、生きてるな。巻き込まないよう小さめに作ったし……トドメ、刺すか?」

「な、なあ。それなんだけどよ……みのがしたらダメか?」

 

見逃す、か。正直なところ、俺もそうできるのであればそうしたい。なにせ俺はサイヤ人という種族が好きなので、殺さずに済むならそうしたい。

しかしあのサイヤ人、ベジータが侵略者であるのもまた、事実だ。再来する可能性は十分に考慮するべきだと思う。

 

「俺は別にいいけど、なんでそう思った?」

「なんか、もったいねえって思ったんだ。それに、にいちゃ……マレビトとか兄ちゃんみたいなやつかもしれねえしさ」

「……ピッコロ、質問。ナッパとベジータの二人、地球で何人殺した?」

「ゼロだ。いや、あのサイヤ人の男を含めれば一人か」

「マジでか!」

 

すげえ、快挙だ。サイヤ人襲来して死者ゼロって。

 

「あいつらは今回、誰も殺していない。ならば、無理に命を奪う必要はない……って理屈は立つんだよな、一応」

「!じゃあっ!」

「最悪の場合は俺もなんとかする。……トドメは、やめといていいんじゃないかな」

 

界王様を通じて、三人で話し合った内容をブルマやクリリンたちにも共有する。少し後、ひとつのアタックボールが飛び立ち空の彼方へと消えていった。

これで、ひと段落である。やれやれ。



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第四十三話

被害を確認したところ、一番の重傷がラディッツ、次いで俺。さらに悟空、ピッコロ、クリリンが同程度だがピッコロは自力回復済み。そして悟飯、天津飯、餃子、ヤムチャが続く。

ちなみに犠牲者ゼロで済んだ理由としては、降ってきたアタックボールをかめはめ波で郊外に吹き飛ばしたらしい。なるほどだいぶシンプルな理由だった。つーかアタックボールを壊さず吹き飛ばすだけの力加減すげえ。

ヤジロベーが持ってきてくれた二粒の仙豆は俺とラディッツでもらい、残りは病院で手当を受けたあとカメハウスに集合した。神様の代理でポポもやってきた。サイヤ人の襲来から一日が経過していた。

 

+++++

 

「うおっ、本当にかてえ」

「だろ。カブトムシがイメージ元です」

 

悟空から要望があったので例の界王拳モドキを使ってみせる。見た目は一切変化していないのだが、うすくまとった気は装甲のように硬く、叩くと硬質な音がする。

これのすごいところは、戦闘力を倍化しても気の消費量が界王拳より少ないところだ。というかそれが目的でわざわざ開発したところがある。そのせいか、倍率も界王拳より大きめなので便利だ。この世界の文化とずれているので俺以外の習得難易度が高いのが難点といえば難点だろうか。

 

「それ、なんていう技なんですか?」

「決めてなかった」

「えーっ。名前つけてくださいよ」

「名前か…‥.」

 

界王拳モドキ、じゃ納得しないだろうし……なんだろう、いい名前あるかな?装甲、鎧、気を使って…….あっ

 

「んー……じゃあ、臨気凱装で」

「りんきがいそう?」

「うん」

 

ちょうどいい名前があった。前世俺の人生唯一の推し夫婦の技名から拝借することにしよう。臨ってなに?って聞かれても答えられないけど。

そんな話をしていると、チチやポポが全員分のお茶を持ってきてくれた。俺も持参したお菓子を並べて、一息つける状態になったところで改めて話し合いの体勢になる。

 

「とりあえず、サイヤ人の襲撃を犠牲ゼロで乗り切った。これは快挙だから素直に喜ぼう」

「そんなにすごいことなのか?」

「確かに、あいつらはヤバかったな……サイバイマン一族がいなかったら危なかった」

「で、だ。根本的な疑問として、あいつらそもそも地球に何しに来たと思う」

「それなら戦いのときに言っていたな。不老不死になりにきたと」

「不老不死ィ?ドラゴンボールで?」

 

不老不死を求める気持ちがわからん、というのは置いといて。ドラゴンボールの情報が漏れていたのだろうか?だとしたら何故ナメック星に行かなかったのだろうか。

 

「いや、二人はドラゴンボールが地球にあると思ってなかったみたいだぞ。ピッコロの顔を見てナメック星人とか、願い玉を使ったのかとか、色々言ってたけどな」

「?じゃあなんで、地球で不老不死になれると思ってたんだ?」

「それが……昔、地球で不老不死を叶えたサイヤ人がいるらしいんだ。マレビト、長生きしてるんだろ?何かしらないか?」

「俺か……俺は長生きしてるのは単なるバグみたいなもんだしなあ。名前分からんの?」

 

大体俺、地球に来たのは悟空に拾われた時が初めてだぞ。大昔に不老不死叶えてそうなの誰だっけ?シャロットとかヤモシとかかな……いやどっちも違うな。

つーか、話聞いてるとナメック星にドラゴンボールあること知ってるんじゃん。実例がある地球を優先した理由も分からなくないけど。

 

「ま、あいつらがこれから行くとしたらナメック星だろうな。一旦地球侵略は諦めたと思っていい……そうだな、ラディッツ」

「ああ。そもそも地球は飛ばし子で十分と判断される程度には辺境だからな」

「でもベジータに不老不死されると嫌だな……ん!?あいつスカウター付けてたよな!?フリーザに聞かれてる可能性ない!?」

「可能性は十分にある」

「嘘だろ!?」

 

フリーザにドラゴンボールの存在割れてんの!?しかもナメック星に行ってるとしたらやばいだろあそこナメック星人の本場だぞ!?

 

「えっと、その、フリーザってそんなにヤバい奴なの?」

「うん。何故なら大勢のサイヤ人を惑星ごとぶっ壊した奴だし。ナメック星人皆殺しとか破壊とか普通にやると思う」

「な、なんでサイヤ人を全滅とかそんなことしたんだよ……」

「超サイヤ人を警戒していた……と、親父は言っていたな」

「あっ成程。確かにあれはなぁ」

「見たことあるのか」

「あるよ〜大昔の話だけどな。ラディッツは無いのか」

「親父は昔なったとは言っていたが……見たことはないな」

「ねえ、質問いい?」

 

ラディッツと超サイヤ人の話で盛り上がっていると、ブルマが手を挙げて質問してきた。盛り上がりすぎたな。

 

「うん」

「超サイヤ人ってのも気になるけど、孫くんとラディッツのお父さんってどんな人なの?」

 

視線が、ラディッツに集中する。ラディッツはひとつ大きな息を吐いて、じっと悟空を見つめた。悟空もまた己のルーツが気になるのか、真面目に話を聞く体勢になる。

 

「俺とおまえの父親の名前はバーダック。フリーザにたった一人で立ち向かった、誇り高きサイヤ人だ」

「バーダック……」

「バーダック」

「バーダック!?」

 

順番に孫悟空、ポポ、俺で名前に反応した。ポポが何故か反応したのは置いておいて、いやあの。

めっっちゃ聞き覚えのある名前なんだけど。

 

「知っているのか?」

「んー……昔世話になったことがあるというか、一緒に旅してた期間があるというか」

「なのに親子だって分からなかったのかよ」

「仕方ないだろ、サイヤ人の下級戦士って顔のパターン少ない上に雰囲気だいぶ違うんだし。でさ、ミスターポポはバーダックのこと知ってんの」

「バーダック、先代神様の名前」

 

 

「は?」

「は?」

 

 

おい待て。

いまなんつった。

 

「なにやってんだ親父のやつ……」

「先代って、何百年も前だろ。サイヤ人の寿命は百年くらいのはずじゃなくて?」

「先代神様、千年くらい前に地球に来た。そこで不死鳥の力で不老不死になった」

「地球で不老不死になったサイヤ人お前かーーー!!!」

 

つーかいろんな謎が解けたわ!!!

何故か地球の神様仙人に俺のこと引き継がれてたのも、サイバイマン一族とかいう謎の一族がいたのも、不老不死のサイヤ人の噂も、全部お前が原因じゃねえか!!!

 

「……?オラの父ちゃん、千年前にいたのか?」

「仮説だけど、バーダックはフリーザに負けてそのあと何故か千年前にタイムスリップしたんだよ。その後惑星サダラで俺と会って、別れたあと地球で神様やって、現神様に業務引き継いで惑星ベジータ消滅のあとにラディッツ拾ったのが流れじゃないかな」

「ややこしいのう」

「とりあえずバーダックは二人の親父で、フリーザの敵で、元神様で、超サイヤ人って思っとけばなにも間違いないから」

 

元神様の肩書きが浮きまくってる気がする。バーダック間違っても神様とかするような性格じゃないと思うんだ。つーかバーダック地獄行き確定してるようなものじゃん。いいのか?死後地獄に行く神様でいいのか?

 

「その、超サイヤ人ってのは?」

「サイヤ人の進化形態でな。こう、髪が金色になって、戦闘力がめっちゃ上がる。ただしなかなかなれない。俺もなれない」

「へー……」

 

あ、めっちゃ悟空の目がキラキラした。なりたいんだな超サイヤ人。ラディッツもわかると言わんばかりに頷いている。お前もか。

 

「超サイヤ人になりたいのは分かるけど、目下の問題はフリーザとベジータがナメック星でドラゴンボール集めようとしてることだからな」

 

とりあえず会話の軌道修正。なんかバーダックの話題ですごい脱線した、気がするなあ。

 

「とりあえず俺はナメック星に行くつもりだけど、どうする?地球に直接関係ないから、判断は任せるとしか言えないけど」

「俺は行く。俺の生まれ故郷だという、その星を見て、戦いたい」

 

今までずーっと黙っていたピッコロが真っ先にそう言った。予想通りの反応だ。

そして、悟空とラディッツもベジータの厄介さを知っているからか、ナメック星行きを主張した。とりあえず、ナメック星に行くのは確定事項として良いだろう。肝心の宇宙船は、ナッパのものやラディッツのもの、あと神様や昔の悟空が乗ってきたやつを改造するということで段取りがついた。ぬるい茶を飲んで喉を潤していると、じいっと全ての視線が俺に集まった。

 

「じゃあマレビト、頼む」

「…………あっこれ俺が方針決めるやつ?」

「むしろおまえ以外に適任はいないだろうよ」

「えー責任重大じゃん……ちょっと待って、考えるから」

 

ふー、と一息ついて目を閉じる。フリーザ軍の戦力、こちら側の戦力、移動距離、方法……考えることは山ほどあるのだ。

さて、どうしたものか。



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フリーザ編
第四十四話


 

「戦力を三つに分けようと思う。ナメック星への先遣隊、本隊、地球残留組で」

 

しばらく悩んで、出した結論がこれだ。戦力の逐次投入は愚策かもしれないが、どうせ最高戦力今のところフリーザ軍に対してまあまあ弱いし、斥候としての先遣隊みたいなもんだ。

 

「地球に残る意味は?」

「俺たちの今のアドバンテージのひとつに、一回分のドラゴンボール使用権がある。状況に応じて即座に使えるようにしておきたい。レッドリボン軍みたいな例もあるしな」

「ああ……」

「そっか」

 

兄弟子がレッドリボンに雇われていた天津飯と餃子が納得したように頷いた。あらかじめドラゴンボールを集め守っておく役目は振っておいて損はない。

 

「で、先遣隊と本隊だけど。まず俺は先遣隊に入る。これは現地協力者の確保と敵戦力の調査が主な役割かな。本隊は悟空とラディッツの二人。ここが戦力としての要だ。とりあえず二人とも超サイヤ人目指してがんばっといて」

「ああ!」

「わかった」

 

フリーザ軍を敵に回すし、超サイヤ人という目標もあげたのでとりあえず放っといても修業してくれるだろう。その辺りは信頼している。

 

「ピッコロは先遣隊な。ぶっちゃけ本隊に入れると郷愁とか感じる余裕もないと思うし、ナメック星人がいた方が、対話とか楽そう。あと俺の修業付き合って」

「そうか」

 

最後は本音が透けすぎた感があるが、ピッコロは素直に頷いてくれた。まじで最近大魔王の面影を感じなくなってきている。

これで二人か。

 

「あと一人か二人、先遣隊に欲しいんだけど……どうしたもんかなあ」

「俺ではダメなのか」

 

真っ先に手を挙げたのは天津飯だ。強さ的には申し分ないが、一つ懸念事項がある。

 

「んー、悪くはないんだけどさ、天津飯でかいんだよね」

「大きいと何か問題が?」

「例えば、一人乗りアタックボールが一つだけありました、その場には二人います。という状況が起こったとして、天津飯とピッコロがいたらどっちかしか乗れないじゃん」

「……そうだな」

「これが、クリリンと俺なら二人乗れなくもないんだよ」

 

戦闘ならいざ知らず、こういう場合においては体が小さいことが有利に働くときがままある。そういう意味だと、小柄で技が多彩で、一番欲しいのはクリリンなんだけど……クリリン、一回地球のドラゴンボールで生き返ってるんだよな。

 

「マレビトの瞬間移動はだめなの?」

「あくまで手段の一つとして考えた方がいい」

 

そんなホイホイ都合のいい時に瞬間移動できるとは限らないしな。それこそ戦闘中とかの可能性もあるわけで。

 

「あの、俺行きますよ」

「……いいのか?地球のドラゴンボールでは生き返れないぞ?」

「うーん、でも、俺が適任なんですよね」

「わかった、頼む」

 

これで先遣隊が俺、ピッコロ、クリリン。本隊が悟空、ラディッツ。地球組が天津飯、餃子、ヤムチャ(とヤジロベー)か。まあまあバランス良く組み分けできたかな。

と、考えてると、さらに一人分の手が上がった。

 

「あの、僕も行きたいです!」

「えっ」

 

小さな手は、孫悟飯のものだった。おお、予想外……あっでも本来なら悟飯がナメック星に行ってたな。あれはなんでだっけ、とにかく人手足りねえなっていう感想持ったのは思い出した。

 

「なに言ってるだ悟飯ちゃん!危ないことは悟空さやマレビトさに任せれば良いだよ!」

「まあまあチチ。悟飯のやつもちゃんと考えて言ったことだろうしさ」

「ポポ、お茶おかわりちょうだい」

「どうぞ」

「ありがと」

 

新しい熱いお茶をすする。悟飯が行くかどうかは家族の問題だし一度放置。ある程度方針は決まったし、具体的な日数の詰めはブルマたち科学者組のスケジュールにも左右されるだろうし、今ごちゃごちゃ考えることじゃない。あとはあれだな……割とでかい個人的な問題がひとつ残ってるな。

剣、どうしよ。

 

「マレビト」

「……あ?悪い聞いてなかった」

「マレビトさん、僕も連れてってください!」

「おまえの父ちゃんと母ちゃんを頑張って説得してみろ」

「お父さんとお母さんから、マレビトさんが良いって言ったなら行ってもいいって」

「うおぉい!こら悟空勝手に人を判断基準にするな!」

 

けっこう大事な話を聞き逃してたっぽい。えーと、俺一応他所の人なんだけど、いいのか!?割と大事なことなんじゃねえのか!?

と慄いていたら、悟空が俺をじっと見つめて語り出した。

 

「もし悟飯が行くとしたら、マレビトと一緒に行くことになるだろ」

「そうだな。本隊には組まないな」

「で、もし逃げるとしたら瞬間移動で帰ってくるだろ」

「……そうだな」

「じゃあ、マレビトが連れてっても大丈夫ってなったら良いかなって」

「くそう思いの外理論的だ」

 

確かに両親の元を離れて遠出するなら引率者の許可を得るのは当然の道理ではあった。こっちとしても正直、抵抗はない。何故ならアニメ漫画としてのドラゴンボールにおいて孫悟飯はナメック星に行っていたからな。

 

「とりあえず俺の問題解決してから答え出すから待ってて」

「問題ですか?」

「剣が壊れた……くそ長い付き合いだったのに……」

 

思い返したらじわじわダメージ入ってきてテーブルに突っ伏した。あれ別に名刀とかそんなわけでもないから代用品でもいいっちゃ良いんだけど、流石に愛着ってのが湧くとな……。

 

「剣って、マレビトさんがいつも持ってるあれですか」

「そー、クリリンのいうあれ。元気玉から守れなくってさ……」

 

伏せたままぼそぼそと後悔を口にする。女々しいのは自覚済みだが一回とことん落ち込ませて欲しい。

 

「あ、あの……」

「ん?」

「マレビトさんの剣なら、集めました……破片ですけど」

「マジで!?」

 

なんでも昨日俺が回復しつつ被害状況確認したり仕事の調整してる間に悟飯がヤムチャたちと一緒になって集めておいてくれたらしい。ざらざらと取り出された金属の破片は間違えようもなく俺が使っていた剣の成れの果てだ。

 

「うわあやった!!!よしこれ鋳潰して加工し直し……あっでもどこに頼めば……」

「神にでも頼めばいいだろう」

「先に直してきてもらえば?」

「いいの!?ありがとよしじゃあちょっと行ってくる!あとミスターポポ、悟空か神様使ってた宇宙船あったよなどっちか場所わかんない?」

「どっちもわかるぞ」

「じゃあその場所リストアップお願い行ってくる!おーい筋斗雲!」

 

外に飛び出して筋斗雲を呼ぶ。駆けつけた筋斗雲に飛び乗ってまずはカリン塔へ。そこから一気に空飛んで神様の神殿に乗り込む。

 

「さわがしいな」

「あっ神様!ねえこれ直してくれるか!?」

「直してやるからおちつけ」

 

ざらざらと風呂敷包みから取り出した金属片が山になる。神様が指を向けて力を使っただけで、金属片はあっという間に元通りの剣になった。試しに握って振り回し、何度か鞘に収めて抜刀を繰り返す。完璧に元の剣だやったあ!

 

「も、戻った!俺の剣が戻ってきた!神様ありがとう!!!」

「なに、大したことではない」

「俺にとっては大したことなの!」

 

嬉しさのあまりその場で何度も飛び跳ねて感情を発散する。ちょっとずつ落ち着いてきて、はしゃぎすぎたような気もするけど、無理もないことなので自分を納得させる。

 

「騒いでごめんな。じゃあ俺はこれで」

「うむ」

「そうだ、もしよければ一つ聞いていい?」

「なんだ?」

「神様さあ、悪の心持ってたら神様にはなれないよって先代神様に言われたじゃん。あれってさ、『どの口で』って思わなかったの」

 

すると、神様はしばらく黙った。沈黙が漂う数分の後、徐に神様は口を開く。

 

「マレビトよ。世の中には、思っても口に出さない方が良いこともある」

 

なるほど、思ったんだな。



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第四十五話

テンション上がった勢いのままに、悟飯の同行を了承してしまった。

とりあえず、神様の乗ってきた宇宙船を先遣隊用に、悟空の使ってたアタックボールを本陣の宇宙船として改造してもらうように依頼する。

ラディッツとナッパの宇宙船と神様のは万が一のための保険としてカプセルにして持ち運ぶことにしたからだ。ちょっと考えもあるしな。

ナメック星には大昔に一度行ったことがあるので座標を教えて、あとは待つだけ。

ナメック星人の願い玉なんてものがあるなんて、昔は考えもしなかったなあ。

 

「随分と慎重だな」

「サイヤ人とフリーザを敵に回すなら、保険はどれだけあっても足りないってことはないしな」

 

あと、重力装置も作ってもらった。なぜなら、地球の重力軽いんだよね。界王星の環境をもとに作ってもらったそれのおかげで鍛錬が効率良くなる。いえい。

完成までに十日くれと言われたので、素直に待つことにした。その間、可能な限り気の補充をしつつ、悟飯や悟空と鍛錬したり、他にもいろいろして過ごす。

 

「いいか悟空。サイヤ人の特性として、死にかけた状態から復活すると戦闘力が劇的に上がるというものがある」

「へえっ」

「もちろん限界はあるし、それだけに頼るのは良くない。ただほら、俺こないだの戦闘でやや死にかけただろ?その後の俺の戦闘力はまあまあ上がった」

「マレビト、いっつも気を消してるからよくわかんねえ」

「仕方ないだろ垂れ流しの気とかもったいないじゃんか」

 

数値にして一万くらいにまで上がったかな。病気のことを考えると頭が痛くなるくらいの上がりっぷりだけど、後のインフレさらに怖い。超サイヤ人にナンバリングって戦闘力どこまで上がるんだ。そして俺の身体はどこまで持つのやら。

 

「せっかくラディッツっていう同格のサイヤ人の兄貴がいるんだから、楽しくやるといいよ」

「わかってるって。界王星でも楽しかったし。そういや、界王様がオラの父ちゃんのこと知ってたぞ」

「まあラディッツの界王星コネクションはバーダック由来だろうしな」

 

どおりで界王様の話が早かったはずである。

というかバーダックの神様就任を知らなかったら色々と心配になるところだった。

今はどこで何やってんだろうな。

 

「どんなやつか気になるのか?」

「ちょっと」

「じゃあちょっとだけ。悟空と同じく奥さん一筋」

 

と言ったら、悟空がちょっとだけ照れたようにそっぽを向いたので笑った。

 

+++++

 

十日間は長いようであっという間だった。

神様の方の宇宙船はナメック語でしか動かないのでナメック語使える俺が動かすことになる。あと、ナッパのアタックボールをカプセルにしてもらった。

いやー、にしてもデカいなあ。クリリン、悟飯、ピッコロ。説明担当のブルマ。そしてお見送りが何人か。

 

「あんた、ナメック語話せるの?」

「昔ナメック星に滞在してた時期があるからな。実のところ初代ピッコロ大魔王を見たときの感想もナメック星人じゃねえかだし」

 

勉強は嫌いではないので、色々学べたのは中々良い経験になった。当時のナメック星人の文化遺産漁っていいって許可貰ったから色々好き勝手やったなあ。あれは楽しかった。あの時のナメック星人、今も生きてるんだろうか。

ブルマから貰ったカプセルをポケットに入れて、剣の手入れもバッチリ。設定された座標も問題ない。ドラゴンレーダーもある。

物質上の準備は間違いなく完了したな。

 

「じゃ、先に行ってくるから。また後でな、悟空」

「ああ!」

「チチ、悟飯は責任を持って預かります」

「悟飯ちゃん、マレビトさの言うこときちんと聞くんだぞ!」

「はい!」

 

孫一家の全幅の信頼が地味に重い。俺そんなにできた人間じゃないんだが……。まあ保護者だし引率者だし、なんならこのグループで亀仙人も神様もぶち抜いて最年長だし、ちゃんとやりますか。

 

「亀仙人、ドラゴンボールの管理と保護をよろしく頼みます」

「うむ、任されおったわい」

「それじゃ、行ってきまーす」

 

宇宙船に、俺とクリリン、ピッコロ、そして悟飯が乗り込む。おお、内装もかっちりしてるし良いじゃん。内蔵コンピュータはナメック語対応のままだな、聞いてた通りだ。

そういやピッコロもナメック星人だからナメック語話せたな。うん、やっぱり旧型だけどこっちの宇宙船を改造してよかった。使えないと意味ないし、奪われる心配も少なくて済む。

とりあえず全員座って、目標を音声で設定する。宇宙船は一気に飛び立って、あっという間に真っ黒な宇宙を航行し始めた。

いやー、懐かしいなこの感覚。瞬間移動覚えるまではこんな感じで行動してたわ。

 

「あ、もう自由にしていいよ。あとは勝手に目的地まで飛んでくから」

「も、もうっすか!?」

「そう、宇宙船便利だろ」

「慣れてるんですね」

「伊達に長生きはしてない」

 

まあ、移動に関してはできることはないし、あとは鍛えることくらいだろうか。

しかしまあ、フリーザ軍が動いていると仮定したとして、気になるのはベジータの同行と……あれだ、ギニュー特戦隊。

厄介なんだよなあ……あれ……つーか忠誠心高い手駒×5ってだけで厄介。戦闘力なくても立ち回りで戦局ひっくり返るとか普通にあり得るのがやだ。

あー、あと、フリーザからどうやってナメック星人保護しよう。最悪俺が必死こいて地球とかに運び込むかなあ……。

 

「マレビトさん」

「うん?どした悟飯」

「マレビトさんは、ナメック星に行ったことがあるんですか?」

「大昔に一回だけ。まあ長めに滞在してて、ナメック語もそのとき覚えたんだ」

「じゃあ、知り合いのナメック星人もいるかもしれないんスか」

「どうだろ?つーかピッコロ神様大魔王除く俺の知り合いのナメック星人一人しかいないし」

 

というか、俺が行ったときはナメック星人は一人しかいなかった、というのが正しい。だから相手の名前も知らないし俺も名乗っていない。

なぜならお互いにサイヤ人、ナメック星人の二人きりで、そう呼ぶだけで事足りたから。

あいつ生きてんのかな。生きてたとして、ナメック星人換算でも寿命ヤバそうだけど。

 

「ま、俺のコネクションには期待すんな。てかコネに期待できたらピッコロはここにはいない」

「おい」

「ま、つまらん話はここまで。お互い消耗しすぎない程度に自由に鍛えよう。フリーザを敵に回す可能性もあるわけだし」

 

……フリーザの可能性を考えると、嫌気性症候群とか考えてられないくらいに鍛えなきゃいけないのか。

まあ、相手がフリーザなら仕方ない。基礎上げつつ臨気鎧装ももっと仕上げねば元ネタ様に申し訳が立たん。

 

「フリーザって、そんなにやばいのか……?」

「まあ主観的な評価にはなるけど」

 

俺にとってのフリーザって、単なるヤバいやつというよりもっと何かでかい感情抱いてる気がするんだよな。俺が好きなサイヤ人を滅ぼしたからっていうのもあるけど、なんというか。

 

「アンパンマンにおけるバイキンマン的な」

「あんぱんまん?ばいきんまん?」

「あー……アンパンのヒーローのライバルというか敵というかなんというか」

 

うん、なんかスッキリしてきたような。でもまだ言語化が上手くできない。

まあ要するに。

サイヤ人の進化は光より早く、全宇宙の何者もサイヤ人の進化にはついて来れないと思っているが、フリーザだけは例外だと思ってるんだろうな、俺。



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第四十六話

あと一日になったので、持ち出す荷物を整理する。

剣、顔を隠せるようにしたマント、ドラゴンレーダー、細々としたオーダーして作ってもらったセンサーをはじめとする道具類。そのうちいくつかは使用済みだ。

 

「なんだこれは」

「ブリーフ博士にお願いしたやつ。この前使ったんだけどさすがだわ、完璧だった」

「何に使うんだ?」

 

クリリンが小さいUSBメモリが刺さった通信機を手にして首を傾げた。ラディッツから提供を受けたスカウターを元にしたやつである。いやあこれ、ラディッツのスカウターとブリーフ博士がいなかったら無理だったなあ。

 

「端的に言えば、スカウターを故障させるもの。そう!コンピュータウイルス!」

「はあ!?」

「フリーザ軍って結構規模が大きくて、装備も規格統一されてるんだよね。それはつまり、脆弱性も共通してるんだ。だから、ラディッツのスカウターの通信機能を解析してもらって、あらかじめフリーザ軍のスカウターに、ウイルスを送り込んでおいた!」

 

たしか、テレビの中ではかなりの頻度で「故障か?」ってなってたから、お望み通り使えなくしてみた。しかもスカウターは通信機能付きなので、通信がつながった全てのスカウターにウイルスがばら撒かれる仕組みになっている。

 

「具体的にどうなる」

「生体反応の位置情報が数キロ単位でバグる。あと熱暴走しやすくしたからすぐ壊れる」

 

あまりにも分かりやすかったらすぐバレるので、ちょっとだけわかりにくいというか発覚が遅れる程度にしておいた。多少の嫌がらせ程度だろうけど、人間めっちゃ小さな段差で転ぶことあるからな。

要は使い方だ。整備担当はどんまい。

 

「なんというか、凄いこと考えますね……」

「弱いなら、弱いなりに立ち回り方はあるもんだよ」

 

いかに強くても、弱い者が黙って蹂躙されるだけだと思わないでほしい。まだ考えはある。

それに、俺たちの強さもまあまあ良いところまで行った。重力装置の修業で俺とピッコロが戦闘力三万くらい、クリリンと悟飯も素で五千くらいにまで上げた。とりあえず最低限はこなせたということにしておこう。臨気鎧装も最大二十倍にまで上げたし。

ちなみに誰も臨気鎧装覚えられなかった。武道家と特撮ヒーローでは考え方が違うのだろうが、流石にちょっと寂しいぞ。

さて、今日は休むとして、明日はいよいよナメック星だな。

さて、どんなことになっているのやら。

 

 

翌日、無事にナメック星に到着。とりあえず外に出る。いやあ何もねえ。一回異常気象で全滅したからな、仕方ないな。

 

「これが、俺の故郷か……」

 

ピッコロも感慨深そうでなによりだ。俺の故郷には二重の意味で帰れないのでめちゃくちゃずるい。うらやましい。ひどい。俺のそばでやらないでほしい。

が、それは心の中にしまっておく。騒いでも何にもならない。

てかそれ分かってて一緒に来たんだし。

 

「とりあえず気を消しとくか。で、俺はこれからナメック星で一番偉い人に顔合わせしとこうと思う」

「それで、僕たちのことを分かってもらえるでしょうか」

「やってみないと何とも言えない。が、やらんよりマシだろ」

 

というか、今回に関してはドラゴンボールもとい願い玉に関してナメック星で稀人である俺が動き回っていい?っていうお伺いだから、悟飯の質問はちょっとだけ的外れだ。

 

「目的確認するぞ。第一にドラゴンボールを一つでも確保して揃わないようにすること。第二にナメック星人を可能な限り保護すること。そしてピッコロクリリン、俺悟飯で別れる」

「はい!」

「ああ!」

「じゃ、アレ倒して全員やることやるか」

「それもそうだな」

 

ピッコロとほぼ同じタイミングで、視線を近くの岩壁に向ける。一瞬遅れて悟飯とクリリンもそちらを向いた。

特徴的な規格で統一された、戦闘服。顔に取り付けられたスカウター。間違いなくフリーザ軍所属の兵士たちだ。

まあ俺とピッコロの敵ではなかったけど。

さくっと二人を倒したあと、宇宙船を適当な洞窟に隠して、ドラゴンレーダーはとりあえずクリリンに預ける。あとは何とかしてくれるだろ、二人とも頭の回転早いし。

 

「とりあえず今日の夜……というか、ひと段落後は宇宙船集合でいくか。じゃ、二人ともまた後で。ピッコロが通信機持ってるから何かあったらお互い連絡な。よし悟飯行くぞ」

「はい!」

 

とりあえず歩く。スカウターバグ起こしてるとはいえフリーザ軍の物資は潤沢だからな。もうフォロー終わってるかも……あっそうだ。

さっき倒した兵士から貰っておいたスカウター、まずカメラとマイク、そして位置情報的なあれを破壊する。そしてそのスカウターにウイルスを流し込んでから、通信機能オン!

よし。

 

+++++

 

そんな感じで仕込みを終えてから徒歩で一番偉い人を探して歩く。とりあえず集落があるっぽい方に向かうと、予想通り。

若いというより子供の二人と、老人が三人か。

 

「どーもこんにちは」

「誰だ!」

「稀人だ。こっちはごく一般人の孫悟飯」

「はじめまして!」

 

何人か若いナメック星人が警戒をあらわにするが仕方ない。今はやべえ侵略者がたくさんナメック星に来てるからな。とりあえず両手をあげて敵意がないことをアピールしてみる。

悟飯を連れているせいか、やや態度が軟化した。

 

「この星の最長老にお目通りしたいんだが」

「最長老さまにお目通りか……お前が本当に稀人だというのなら、この星に住まう友人の名を告げてみよ」

 

えっ。

なんか試練とかそういう感じ?でも俺、ナメック星人の名前とか知らん。

不安そうに見上げてくる悟飯の頭を撫でつつちょっとだけ考える。ここは正直に答えるか。

 

「名前を聞いてないから答えられない。強いていうならそうだな、“ナメック星人”だ」

「……良いだろう」

「あ、これでよかったんだ」

 

と、いうか。あいつまだ生きてんのかな。

俺が稀人だと信じてくれてから、態度が本格的に穏やかになった。

なんかここでも何かしらの引き継ぎを受けている予感がする。

 

「悪いけど、状況をどこまで知ってるか教えてくれるか」

「何者かが、この星に侵入したことは知っている……そして、混乱に陥ってることも」

 

ウイルスの成果ですね。

 

「敵の名前はフリーザ軍、頭領の名前はフリーザ。目的はドラゴンボール……正式名称は願い玉だっけ。今俺が教えられるのはこれくらいかな。詳しいことは俺もわからん」

「そうか、情報を感謝する。……最長老さまに会いたいと言っていたな」

「いいのか」

「無論だ。最長老さまにも、マレビトという者がきたら案内するように言われている」

 

ふうん。

じゃあ最長老って間違いなくあのナメック星人か。生きてたんだな。失礼な感想だけど。

 

「状況がいつ変わるかわからないけど、フリーザはその気になれば星一つ消し飛ばすくらいするから、可能なら避難した方がいい」

「当てはあるのか」

「地球の神が老齢のナメック星人でな。あと、ブルマっていう知り合いの家は中々でかいから説明すれば受け入れてくれると思う。一時避難先としてどうだろうか」

「我々はドラゴンボールを守らねばならない。しかし、子供達だけは避難させてもらえないだろうか」

「了解」

 

そんなわけでナメック星人の子供二人を連れ、一旦地球の神殿へ瞬間移動。そしてブルマに状況を説明してから、二人をカプセルコーポレーションに移動させて戻ってくる。

 

「二人は、責任を持って避難させました」

「感謝する」

「それじゃ、気をつけて」

 

最長老様とやらの居場所を教えてもらい移動する。無事でいられればいいが……後でもう少し小細工したほうがいいかもしれない。

 

「マレビトさん」

「うん?」

「あの人たちも、地球に連れて行かなくて良かったんですか?」

「まあ、人には命より大事にしたいことってあるからな。あの老人たちにとってはドラゴンボールがそれだったんだよ」

「そうなんですか」

「うん。そういうのを、誇りって言うんだ」

「……よく分かりません」

「安心しろ、俺もわからん」

 

さて、最長老様のところに行くとするか。



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第四十七話

大きな岩の上にある、ちょっとだけ形が特殊な家。あそこが最長老様のいる場所か。座標で換算すると結構遠いな。瞬間移動さまさまである。

ドーム型の家はナメック星のあの村でも見かけたものだ。多少大きいが特別派手という訳でもないのがナメック星人の気質を感じさせる。

扉の前に立つと、駆動音を響かせて扉が開いた。そこから出てきた、若者と言い表していいだろうナメック星人。付き人のようなものか?

 

「はじめまして」

「よく来た、異星の来訪者、そして稀人よ。最長老さまはなりゆきをご存知でおいでだ、中へ」

「じゃ、遠慮なく」

 

このナメック星人はネイルというらしい。ナメック星人の中でもかなり強い。だからこそ最長老様の側にいるんだろうが。

ネイルの後に続いて、宙を飛んで二階に続く穴を潜る。そこには、一人の老齢のナメック星人がいた。他のものたちと比べて巨躯であり、老故に椅子から立ち上がることすらままならない。しかし、例えるなら神木のように、穏やかな雰囲気の中に聡慧が見える。

そしてなにより、大昔に出会ったナメック星人と、“気”が全く同じだった。

 

「……これまた、随分と老けたな、ナメック星人」

「そういうあなたは変わりないようだ、稀人」

 

相手もまた、どこか気安い心持ちになったことが分かった。

久方ぶりの再会が、こんな事態になるとは、というか再会するとさえ思ってなかったが。

人生、何が起こるかわからない。

 

「マレビトさん、知り合いなんですか?」

「昔な」

 

異常気象で一人を除いて全滅したこの星に、しばらく滞在していたという、それだけだ。住人が一人しかいないために中々気楽に過ごしたのも懐かしい。

一人しかいない星では、善も悪も、判断しようが無かったから。

どちらにも転びようがないので、何を気にする必要がなかった。

 

「どこまで知ってる?」

「悪党たちがこの星にやってきたことは……しかし、混乱しているようだ。マレビト、あなたの仕業ですね」

「まあな。けどありゃ時間稼ぎに過ぎないぞ。俺はこの星で動いていいか聞きに来た。動いていいなら次の一手を打つ用意はある」

「もちろんです。あなたを拒む理由などない」

「そりゃありがたいが、随分と買ってない?俺なんかしたっけ?」

 

マジで何かした覚えないんだよなあ。ナメック星を復興してのは最長老のやったことだし。

最長老になったナメック星人は、「覚えてないのですか」とか言い出した。ごめん、なにも心当たりない。

 

「あのとき、私は星に一人だった。異常気象で文明は滅び、一族は死に絶えた。私を除いて」

「そうだな」

「そこに、あなたが来た。あなたは私に、この星に滞在してよいか尋ねた。そして、一杯の水を差し出してくれた」

「あー思い出したかも」

 

確かに何年か居ていいか聞いて、礼というか、宿泊代みたいな感じで水渡したわ。異常気象で水源枯渇寸前だったし。

 

「私にはそれが、心から嬉しかった。ただ一人の生き残りを、星に住まう種族として見てくれたことが。一杯の水を差し出してくれたことが……ほんとうに……」

「最長老さま……」

 

あのー、ネイルも微妙に共感してない?落ち着いてくれ、おれこういう雰囲気慣れないから。

ただ、言いたいことはわかる。一人で寂しいときに差し出された手というものは、ひどく美しく見えるものだから。それが、たとえどれだけ気まぐれであろうとも。

俺がサイヤ人という種族を心から好いているのだって、似たようなものだ。

アスラに、バーダック。そして、孫悟空。

手を差し出したのは全員、サイヤ人だった。

 

「……とりあえず、喜んでもらえてたようで何よりだ。俺たちの目的としては、ドラゴンボールがフリーザに渡らぬよう動きたい。だから、そのドラゴンボールを、預けてくれないか」

「ええ、構いません。ナメック星に住む者の知恵と力の証……あなたにならお渡ししましょう」

「だから信頼が重い!そして判断が早い!」

 

そういや信用がデカすぎるとかなんだとか、バーダックも似たようなこと言ってたような気がする。すまんな、まさかこういうことだとは。

 

「あの、どうして最長老様はマレビトさんなら良いって思うんですか?」

「聞かなくていい」

「そうですね……彼は、善にも悪にもなれません。しかしそれは、どちらにもなれるということです。

 しかし彼は、長く辛い旅路における唯一の己の友に愛と勇気を選びました。それは、とても難しく尊いものなのです」

「他人のボッチ遍歴を!!!暴露すんな!!!」

 

つーかそれ某アンパンの妖精ヒーローの曲のあれだから!オリジナルじゃないんで!

 

「……なんかめっちゃ疲れた」

「そうですか」

「笑ってんじゃねえ」

 

もーやだ。疲れた。性格悪くなってない?なってないか。まあナメック星の最長老ならそうだよな。つまり俺との相性が悪いだけかね。

やれやれ。

 

「友よ、我が子らを、どうか守ってはくれませんか」

「ゼンショします。それじゃ、ありがたくドラゴンボールは貰ってく。あとさ、なんかパワーアップの手段知らないか」

「そうですね……それでは、まだ眠っている力を起こして差し上げましょう」

「おっ、サンキュー。悟飯やってもらっとけ」

 

悟飯の潜在能力をとりあえず引き出してもらう。おおー、だいぶ上がったな、よかったよかった。

 

「マレビトさんは、やってもらわないんですか」

「……そうだな、頼む」

 

対フリーザに出し惜しみしてる余裕はない。

病気の進行と天秤にかけてみたけと普通にフリーザに傾くわ。ホントーに厄介なことだ。

頭に手が乗って、温かい。ふっと一瞬、子供の頃の思い出が蘇っては消えた。前世の俺とアスラ、両方の子供の頃が同時に過るってあるんだな。

そんなことを考えてたら、ガクンと力が抜けたような感覚に倒れそうになる。それに対抗して足を踏み締めて気が付いた。全身にみなぎる“力”そのものが、格段に向上している。

そして、病気も進行している。

具体的には───一つの体に二つの魂を抱えることが、極めて厳しいと思うほどに。

 

「まだ、いけるか?いや……」

 

無理だ。サイヤ人の性質上、一定ラインの戦闘力に到達するまで、死にかけて復活するごとに強くなる。そしてフリーザ軍が相手となる以上、死にかけることなく目的を達成できるなんて思っていない。つまりあと数日以内、いや、短ければ数時間で……どちらの魂が残るのか、決めなければならない。

急上昇した力に酔っている暇さえ与えられない。

だが、必要な強さだ。

 

「礼を言う。そうだ、仲間があと二人いる。そいつらも明日あたりに連れてきていいか」

「ええ、もちろんです……また明日、待っています」

「ああ、じゃあな」

 

悟飯を連れて、片手にドラゴンボールを抱える。時間的には夜に近い。戻ってくると、ピッコロとクリリンが二つのドラゴンボールを抱えていた。

 

「おつかれさん。これでドラゴンボールが三個だな」

「ピッコロさん!クリリンさん!」

「いやあ、なんとかなりましたよ。でもマレビトさん、ベジータのやつもこの星に来てるみたいです」

「マジか……あ、ほんとだ」

 

ベジータの気がある。どの辺に落ちたんだろ?欲しいんだよなあ新しいアタックボール。ラディッツのはラディッツと悟空が持ってるし。

 

「とりあえず、ボール隠しちゃおう」

「埋めるのか?」

「二つは埋める。もう一つは打ち上げる」

「は?」

 

耳を疑うピッコロを尻目にナッパのアタックボールをカプセルから取り出した。設定を変更してナメック星の衛星軌道を周回するようにする。あとはドラゴンボールのうちの一つを中に入れてボタンをポチッとな。アタックボールはものすごい勢いで飛んでいった。

 

「よし。あ、ピッコロにはこれあげる。ボタン押したらこっちに戻ってくるから。俺は瞬間移動するから」

「そ、そうか」

「あと、今打ち上げたドラゴンボール作れる?もちろん本物じゃなくて、全く同じ見た目硬さ重さのダミーな。それを一緒に埋めるから」

 

そこまで伝えると、ピッコロは何度か口をパクパクさせてから、やがて諦めたようにため息を吐いた。なんだよ、真面目に考えてんのに。

 

「キサマは、なんというか……お前な……」

「弱いなら弱いなりに立ち回り方はあるもんだよ」

 

 

このあとは普通にご飯食べて交代で休んだ。ピッコロがナメック星人だからか、遠くに住む孫を見るような目で迎えられたと聞いたときには爆笑した。

よかったじゃん。そう言ったらしばかれた。俺に対して当たりキツくない?



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第四十八話

この星には夜がない。ある意味とても便利だし不便だ。目撃情報を当てにふらふら歩いてると、見つけたベジータのアタックボール。遠慮なく持ち帰ろう。

 

「どっちが残る」

『そりゃあ君だよ』

「やっぱりそうか?」

 

まあ、そうだろうな。

俺は生き残りたかったし、こいつは死んでもよかった。一時期逆転したりもしたけど、どっちが残るかって言われたら、こうなるだろうことはわかってた。

つまり俺は病気の体を押し付けられたってことだけどな!!!

 

『へんだけどさ』

「お前が言うな」

 

俺はここでしか生きてけないんだししょーがない。アスラはさっさと死んで輪廻転生なりあの世で体をもらうなりして、やり直しとけ。

健康な体はいいぞ。前世知識だけど。

 

 

アタックボールは使い道を考えているので同じく隠しておいて、食事も終わった。また改めて活動開始のお時間だ。

とりあえずクリリンとピッコロを最長老のもとに連れて行って潜在能力を解放してもらう。それからまた、昨日と同じ組み合わせで動く。

俺の仕事は、最長老の頼みのとおりナメック星人を避難させること。何人か残って戦うとか、村を守るっていう若者や老人がいたからその人たちには残ってもらう代わりに協力を依頼した。指定の場所にとある機械を設置してもらう。

これもちろんラディッツのアタックボールを解析したブルマとブリーフ博士作の道具だ。足をむけて寝れん。

 

 

この日はコツコツフリーザ軍を減らしつつ、若者や子供を中心にナメック星人たちを地球に送迎して過ごす。というのも、位置情報狂わせるウイルスが宇宙船の母艦にも入り込んだらしくインフラ狂っててんやわんやらしい。しかしベジータは気を探る手段を見つけたのか、とある集落を襲ってドラゴンボールを強奪したようだ。間に合わなかったのは心苦しいが、これで七つ全てのドラゴンボールがナメック星人たちの手を離れた。

五つは、打ち上げたものも含めて俺たちの手元に。

一つはベジータがどこかに隠したもの。

最後の一つはフリーザ軍が所有。

 

 

「……というのが今の現状だ」

「なるほど。つまり今の状態を保てば、誰も願いは叶えられないのか」

「ドラゴンボールの数は関係なく、アドバンテージがあるのは俺たちだ。なぜなら、地球のドラゴンボールをすぐに使用できるからな」

 

そう、地球のドラゴンボールが温存されているのはデカい。そしてナメック星のドラゴンボールにも保険をかけた今、コソコソしている理由は無くなった。

 

「ならば、攻勢に出るか?」

「ああ。スカウターに痛手を与えたから、フリーザはほぼ確実に新品のスカウターの運搬をギニュー特戦隊に命じてる。こいつらが来る前にある程度人数減らしてしまおうか」

 

ここで、ギニュー特戦隊のメンバーとか特性をざっくり説明。ついでにフリーザの側近二人、ザーボンとドドリアについても。

ただ気を探ったり聞き込みした感じ、ドドリア既にベジータに殺されてるっぽいんだよなあ。ザーボンは変身を残してるタイプだったはず。

 

「ベジータは昨日ザーボンに倒されて、今は治療終わって復活してる感じかな……この様子だと」

「……やっぱりサイヤ人ってずりーよなあ」

「ほんっとそれ!!!めんどくさい体質なんだよ!!!」

「いやあそれ、マレビトさんが言いますか?」

「言う!!!」

 

まあ、そんなやりとりは置いといて。

脱線した話を戻そうか。

 

「ただまあ、ベジータが復活して強くなったとはいえ、臨気鎧装の倍率上げた俺と潜在能力を解放したピッコロの敵ではない」

「お前も潜在能力を解放してもらっただろう」

「まあね。じゃ、クリリンと悟飯には頼みがあるんだけど」

「?はい」

 

首を傾げつつ、二人が俺の話を聞いて動き出す。それを見届けてから、徒歩で少し遠くまでピッコロと二人で移動した。

 

「しかし、どうする気だ」

「探しに行くのはめんどくさいから……来てもらおう!」

 

深呼吸して、気を解放する。ついでに臨気鎧装も少しだけ加えると、ぶわりと膨れ上がったエネルギーが周囲に溢れ出る。

ああ勿体無い……でも撒き餌は必要だし……。

 

「これで来るだろ」

「成程な」

 

予想通り、少ししたらベジータがすっ飛んできた。遠くにはもう一つの気がある。これがザーボンだな。

 

「ピッコロはザーボンお願い」

「ああ」

 

ピッコロが一度空に浮いて離れる。それと入れ替わるようにして、ベジータが突っ込んできた。おお、復活してかなり強くなってるな。

やっぱサイヤ人ってバグだわ。

 

「ハロー。そっちも来てたんだな」

「フリーザ軍が混乱していた。貴様の仕業だな?」

「大正解。弱いなら弱いなりに立ち回り方ってあるもんだよ」

「ハッ、尻尾を巻いて逃げ出すより他に脳がない腰抜けが……いや、貴様は巻く尻尾もなかったか」

「今はお揃いじゃん。あと俺、お前と違って一回もフリーザの部下になってないから」

 

ピクッとこめかみが一瞬動いた。よし、かかった。

 

「来いよ王子様、サイヤ人歴の違いを教えてやる」

「なめやがって───!!!」

 

突っ込んでくるベジータの攻撃を受け止める。……うん?これ、臨気鎧装いらんな???

冷静にいなしながら戦闘力を数値にしてみる。

俺は通常モードの最大で約30万。臨気鎧装で倍化したとして、最大600万くらいか?ピッコロも大体同じくらい。約30万。

こわっ。潜在能力解放こわっ。十倍ぐらい行くじゃん。

後でベジータも連れてってやろ……いやだめだな。

とりあえずぶん殴るだけで勝敗が決する。よし良い感じに死にかけたな。次起きたら臨気鎧装使ってまたぶん殴って瀕死にしよう。最長老の所には行かせられないから仕方ない。

ギニュー特戦隊って強さどんぐらいだっけ……。

 

 

「呆気ない」

「おつかれ」

 

ザーボンを落ち着いて倒したピッコロと合流して、ベジータの襟首を引っ掴んでずるずる引き摺りながら移動する。そのまま近くの村にお邪魔して、ベジータを意識の戻らないギリギリに治してもらった。

 

「ごめんな、多分同胞を殺したんだろうけど、こんなワガママ聞いてもらって」

「何か、考えがあるのだろう」

「まあな。今フリーザが大人しいのは、単純に自分が持ってるインフラが破壊されたから。それが回復したら……つまり、ギニュー特戦隊が到着したら、色々と余裕が出てくる。

 つまり、フリーザが直々に動く」

 

フリーザが単独で行動を始めたら、俺たちになす術はなくなる。ドラゴンボールの細かい知識は知らないけど、超サイヤ人をこの目で見たことのある俺ならフリーザの大まかな最大戦闘力を見積もれる。

超サイヤ人が、約一億五千万。それに対抗して負けたフリーザならば、どれだけ低く見積もっても一億は下らないだろう。

結局、俺がやっていることは弱者が無駄に戦局を引っ掻き回しているだけ。本物の強者が動けば踏み潰される。

 

「……早く来いよな、悟空」

 

俺にできることなんて、たかが知れてんだから。



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第四十九話

「そろそろギニュー特戦隊が来る。なので最後の仕上げをしてしまおうと思います」

「なぜ敬語になる」

「言ったら絶対に『お前な……』って言われる」

「自覚はあるのか」

「ある!」

「おい」

 

ベジータの見張りを頼み、俺は接収していたアタックボールを持ってきた。一度乗り込んで設定をちょっと弄る。そしてボタンを押して外に出ると、ボールは猛スピードで宇宙へと消えていった。

 

「何をしたんだ」

「ギニュー特戦隊は五人で構成されてる。その中で一番弱いのが、時を止める能力持ってるグルドって言うんだけど、そいつの宇宙船にあれをぶつけて宇宙で大破させる」

 

時を止めたとて時間は限られている。しかも止められた所で対処できる訳でもない。激突で死ななくても宇宙空間で生存できなければ、結果は分かる。

ピッコロは予想通りに頭を抑えて「お前な……」と呟いて呻いた。ベジータを治した老人も心なしか引いてる。悪かったな。

 

「だけど、こうした方が効率いいんだよ」

「何のだ!」

「フリーザの怒りは、今は俺に向いてる。頭に血が上ってると言い換えてもいい。だけどギニューはフリーザの忠臣だから、あいつに助言されて頭が冷える可能性もあるんだ。そこで、卑怯な手段で仲間を失ったら」

「ギニュー特戦隊が怒るだろうな」

「マレビト、あなたにフリーザとギニュー特戦隊の狙いが向くのでは」

「そのとーり。俺を殺すことが最優先事項になり、ドラゴンボールのことが頭からすっぽ抜ける……までいかなくても、優先順位が大幅に下がる。ナメック星への関心は更にその下だ。そして俺が無駄にしぶとければ、時間稼ぎにはなるだろ」

 

俺に強い力の方向、つまりヘイトを向けさせることで悟空やラディッツやピッコロ、クリリンに悟飯、そしてナメック星人が自由に動けるようになるわけだ。

実際、クリリンたちにはドラゴンレーダー使ってベジータの隠したドラゴンボール持ってきてもらってる訳だし。

あと、宇宙を漂ってるドラゴンボールに意識が向かないようにしたいってのもある。

ピッコロはめっちゃ複雑そうに俺を見てる。

 

「俺は、ギニュー特戦隊を倒せばいいんだな?」

「まあね。あと、ギニュー特戦隊倒し終わったら悟空とラディッツと一度合流してから、ナメック星のドラゴンボール呼び出して二人の潜在能力を解放してほしい。それぐらいの時間は稼げるし」

 

ドラゴンボールにできるのは製作者と同じ範囲のことだけ。逆に言えば、製作者にできるならドラゴンボールにもできる。

どれだけ鍛錬してきたとしても、保険をかけておくに越したことはない。

 

「ナメック星のドラゴンボールはみっつの願いが叶う。二人の潜在能力の解放なら問題ないだろう。もっともナメック語でなければポルンガは呼び出せないが……あなたたちなら問題はない」

「お、そりゃラッキー。残った願いの使い道は任せた!頼んでいいか?」

「当たり前だ!」

「よし」

 

これで下準備は整った。あとは俺が死なないように頑張るだけだな。最悪、地球のドラゴンボール使ってナメック星の残った人たちを避難させても良いわけだし。

と、迫るフリーザとの戦いをひしひし感じていると、静かな老人の声が俺たちに問いかけてきた。

 

「あなたは、何故そうまでして時間稼ぎに徹するのだ」

「……そんなに?」

「ああ。マレビト、お前は自分で何をしているのか分かっているのか」

 

ピッコロまで聞いてくるじゃん。ただこれは、俺のサイヤ人という種族に対する見解というか、そういうのが割とでかいからなあ。

 

「んー、なんと言うか、これは俺個人じゃなくてサイヤ人っていう種族そのものに対する考え、なんだ、けど」

 

ぐわん、と脳が揺れた。足元がおぼつかなくなり、景色や音にフィルターがかかったような感覚になる。

俺が後ろに引っ込んで、アスラが前に出てきたようだ。

 

「サイヤ人って、遅いんだ」

「遅い?」

「うん。間に合わない」

「悟空でもか」

「例外はない、かな?少なくとも見たことはないや」

 

ぐわん、と脳が揺れて、世界が戻ってきた。交代するなら先に言えよ。あと意味深な言い方するな、ピッコロがハテナマーク飛ばしてるだろうが。

 

「えーと……まあそんなところ」

「誤魔化すな」

「まあまあ。それよりほら、もうすぐギニュー特戦隊到着するから、ベジータでも連れてって」

 

先ほどから寝たふりをしていたベジータの頭を剣の鞘で突くと、ゴスッという割と良い音がした。不本意な顔でのっそりとベジータが起き上がる。

 

「おそよう?」

「貴様、そのような手段でギニュー特戦隊を敵に回すなど、サイヤ人の誇りはないのか!?」

「俺には不味い埃を食った覚えしかない。あと俺サダラ世代だから、惑星ベジータ時代の誇り云々言われても困る」

「……貴様何歳だ?」

「何年か前に四桁になった」

 

ついでに言うと稀人だし、俺。

中身が色々と違うので誇りとかよくわからん。

 

「ま、そんなわけで今のフリーザとギニュー特戦隊は怒り心頭。機嫌が悪いからうっかりエンカウントなんてしたら慢心もなく潰されるだろ?手ぇ組まない?」

「……チッ」

 

反対しないということは、オーケーってことだな。まあ反抗したところでピッコロに倒されて終わりだと思うけど。

ベジータは意味深な目線を一度俺に向けて、ギニュー特戦隊の元へと駆けて行った。おおむね、戦闘の経験値でも積んでパワーアップを目論んでるんだろう。フリーザに勝てるならなんでも良いや。

 

+++++

 

二人の姿が消えて数分後、気と気のぶつかり合いが始まった。おおー、めっちゃ怒ってるやんギニュー。向こうでは仲間を殺されたギニューがまるで主人公のように悪役ピッコロとその部下ベジータと戦ってることだろう。が、俺お前らが侵略やってたこと忘れてねえからな。特戦隊だなんて名乗りやがって。

おっと、私怨が。

 

「さて……やるか」

 

場所は移動した。ドラゴンボールを集めてる場所でも、誰か非戦闘員がいる場所でもない、だだっ広い荒野。深呼吸をして、剣を抜く。そして、気を少しだけ高める。

予想通り、ものすごいスピードで近づいて来る気がある。しばらく待っていると、不可思議な乗り物ではなく、普通に空を飛んで一人の宇宙人が目の前に降り立った。

小柄だ。俺と同じくらいかもしれない。表情だけはひどく穏やかなようにも見える。それが表だけだってことくらいはすぐにわかった。俺も、にっこりとわざとらしく微笑んでやる。

 

「どうもこんにちは」

「ええ、こんにちは」

「俺はマレビトだ」

「わたしはフリーザです」

 

お互い白々しく挨拶を交わす。浮かべた笑顔の裏側には、お互いに少なくない悪感情が渦巻いている。

こいつがフリーザ。サイヤ人を含めた数々の種族を滅ぼし、友達が頑張って作り上げた星を蹂躙しようとした、気に食わない奴。

が、それはお互い様だろうな。なんせ、こっちはインフラを遠隔でぶち壊したのだから。単独犯や小隊ならともかく、フリーザ軍ほどの大隊となると影響はでかいだろう。

 

「あなたは何故この星にいらっしゃったのですか?」

「古い知人がいるもんで、顔を見せに。そういうフリーザサンはどうしてナメック星に?」

「ええ、わたしを不老不死にしていただこうと思いまして。……もっとも、どこぞの猿に夢とわたしの軍の装備を壊されてしまったのですがね」

「ああ、そりゃあ、とっても楽しいニュースだ」

「…………初めてですよ。このわたしをここまでコケにしたお馬鹿さんは。

 ───絶対に許さんぞ虫ケラ!!!」

「はっ、虫ケラか……褒め言葉だな!!!」

 

フリーザが気を高め、こちらに飛びかかってくる。剣で拳を受け止める俺の口元には、笑みが浮かんでいたに違いない。



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第五十話

ガキィン!という硬質な音が響く。フリーザの拳は剣で受け止められるが、お互いにそれは想定内。まだアロンダイドを持ち出すほどじゃないかな。

しばし打ち合ったあと、フリーザはおもむろに手を止めた。お互いまるで息があがってないから、ここまで準備運動みたいなものだ。

 

「このわたしをここまでコケにしてくれたあなたは、完膚なきまでに叩きのめさないと気が済みません」

「そーかい」

「見せてあげましょうか……死よりも恐ろしい、究極のパワーを!わたくしの真の姿を!」

 

そう言うや、フリーザの姿が爆炎に包まれた。

何段階か変身形態があるとは聞いてたが、一番最後の形態にいきなりなるとは、思ってたよりフリーザの怒りは強いらしい。まあ最終形態引き摺り出すつもりだったからちょうどいい。

それにしても。

 

「………………もったいない」

 

究極、だなんて表現を使ってしまうだなんて。

 

「その言葉は、もっと先に取っておくべきだ」

「なに?」

「その程度の戦闘力が、極みなわけがないだろう!」

 

臨気鎧装を、最大倍率まで引き上げる。

俺の最大戦闘力は600万、対するフリーザの最大戦闘力は一億オーバー。

まるで敵わない、そんなことは知っている。それでも俺は、アスラという肉体は、それをさらに超えた姿を見てきた。さらに上があるのだと、戦闘民族であるが故の美しさを知っている。

だからこそ思う……なんて、もったいないのだと。

 

「アロンダイド」

 

剣に気を纏わせて、特攻する。スピードをこれ以上ないくらいに上げたのに、簡単にかわされて鳩尾に拳がめり込んだ。内臓が悲鳴を上げて胃液を吐き出す。さらに背中に追撃を受けて、体が海へと叩き込まれた。衝撃を受けながらもすぐさま立て直す。

 

「偉そうな口をききますね、わたしの足元にも及ばない猿が」

「ああ、そうだな」

「所詮はうす汚いサイヤ人ということですか。惑星ベジータの敵討でも?」

「俺がサイヤ人なのは確かだけどな、あいにく敵討だなんて、高尚なものじゃない」

 

剣を握り直す。ここで一歩でも引いたら、俺はこいつに殺される。一歩も引かなければ、気が済むまで嬲られる。

選択肢なんて実質一つみたいなものだ。絶対に引かない。

 

「……サイヤ人はさあ、悪いことばっかりしてきたよ。それを止めようともしなかった俺も同罪だ。滅びるに相応の罪がある」

 

因果応報?自業自得?表現はたくさんあるだろう。それに文句を言えるほど偉い身分でも、清廉潔白でもない。俺がどれほどサイヤ人を好きであろうと、多分嫌いなやつの方が圧倒的に多い。

 

「だけどさ、その滅亡のトリガーは、サイヤ人が滅ぼしてきた者たちの怒りであるべきだった。己の行動の結末として迎えるべき滅びだった」

 

だけど、フリーザの行為による滅びは、違う。たとえ結末が同じでも、過程にこそ意味がある。悪行を知らぬほんの少しの生き残りが数多のサイヤ人が作り上げた憎悪の歴史を背負うべきではない。

孫悟空に、一体何の罪がある。

罪を犯したなら、犯した者たちが、それを正面から受け止めるべきだった。

 

「少なくとも、お前が……サイヤ人を手足のように使って利益を得ていた者が、好き勝手滅ぼしていい種族じゃない!!!」

 

焚ける感情のまま、剣を上段に振りかぶった。気が充填され、光り輝く。それをフリーザは逃げるでも避けるでもなく正面から迎え撃つ。

 

「エクス……カリバー!!!」

 

そうして撃った本気のエクスカリバーは、いとも簡単にフリーザに無力化された。うーん、分かっててもしんどいなこれ。元気玉を作りたいが、下手にそうすると悟空の戦略が一つ減ってしまうことになる。それは避けたい。

俺はあくまで、フリーザに悟られないように時間稼ぎをするのが仕事だ。

それでも、ニヤリと笑うフリーザに口元が引き攣るのを抑えられなかった。

……やばい。

 

「遺言はそれだけか?」

「……さあな」

 

今度はこちらから、と言わんばかりにフリーザが突っ込んできた。瞬間移動の判断をするよりも殴られる方が早い。そのまま首を鷲掴みにして力を込められる。気で作った装甲がみしりと嫌な音を立てた。壊れるのも近いだろう。

 

「ふうん、虫みたいなことをしてるじゃないか」

「あいにく、虫ケラなんでね」

 

流石に、首の骨を黙ってへし折られる趣味はない。装甲があるおかげで多少耐久が上なのは良かった。おかげで奇襲をかけられる。

手を持ち上げて、フリーザに抵抗するように腕を掴む……と見せかけて、一気に額にまで手を持っていった。

 

「太陽拳!」

「なっ!?」

 

突然の閃光に視界をやられたフリーザが思わず手を離す。よし!てか太陽拳使い勝手いいな。俺の寿命がほんの少しだけ延びた。

慌てて剣を片手に、海の中へと飛び込む。即座に気を消して、フリーザの視界から外れた。

海の中から見上げるフリーザは怒り狂って俺を探している。臨気鎧装は宇宙空間で酸素供給が絶たれても多少活動できるようにしてるから、海の中に長い間潜ることも可能だ。

しかし、そうなればフリーザの行動が恐ろしい。下手しなくても、星ごと俺を殺しにかかるに違いない。そうなっては全てを巻き込んでしまう。それはダメだ。

 

「…………」

 

頭を抱えたくなるほど強大で。

どうしようもなく嫌いで。

震えそうなほど恐ろしくて。

コソコソ隠れるより他にないほど、隔たりがある存在だ。

だからこそ、全力で戦わなくてはならない。

少なくともフリーザが俺を“なぶり殺したい”と思った時点で、俺は勝負に勝った。あとは試合に勝とうが負けようが、どうでもいい。

やることをやるだけだ。

 

「……って、言い聞かせないとならないくらい、逃げてえ」

 

この辺りの弱気は俺に前世がある故だろうな。昔の俺はびっくりするくらい平和ボケしてる世界で呑気に生きてたから。

あー帰りたい。前世の家庭に帰って呑気にポテトチップスとか食べながらテレビを見ていたい。

現実逃避?知ってる。

 

「さて、やるぞアスラ」

 

剣を握る手に力を込めた。

 

 

その後の顛末は、まあ想像通り。

普通に敵わなくてボコボコにされた。

剣は辛うじて無事だけど、骨があちこち折れてるし、顔半分くらい潰れてるし、胴体にはビーム喰らって風穴空いてるし。嬲るって言葉がピッタリだ。

流石に最大戦闘力一億オーバーは荷が重かった。うん。

 

「こ、ふっ」

 

肺がガッツリ傷ついたのか、咳き込んだら鮮血が口から出てきた。通りで呼吸がおかしいわけだよ。フリーザは余裕綽々といった態度で、俺の首に尻尾を巻き付けて持ち上げている。腹立つ。

 

「大口を叩いた割には大したことがないですねえ」

「……うるせえバイキンマン」

「わたしを不潔なものに喩えるとは……よほど死にたいようですね」

 

フリーザの手にこれまでとは比べ物にならないくらいの気が集まっていく。流石にそろそろ殺しにかかったか。と、思ったその瞬間。

ふ、と空が真っ黒になった。その光景が意味することを、俺は知っていて、フリーザは知らない。驚きのあまり空を見上げるフリーザには、俺の微かな笑顔は映らない。

……よーやく使ったかドラゴンボール。

状況を把握される前に、辛うじて手の中に引っかかってた剣でフリーザの尻尾を切り落とそうとして、即座にフリーザに叩き落とされた。うわあマジでか、俺弱りすぎ。怒りのままに腹に新しい風穴が空いた。こいつ俺のこと粘土細工か何かだと思ってない?痛いんだけど。

フリーザが俺に意識を戻した間に、空はすぐに明るくなった。めっちゃ早口で願い三つ連呼したなこれ。

よくやったよピッコロ。

 

「……何が起きたか調べる前に、あなたを殺しておかなくては。これ以上邪魔をされたくないんでね」

 

今度こそ、フリーザが俺を殺そうとする。これ以上抵抗してもあんまり意味ないな。そう判断して力を抜いた、その瞬間。

ものすごい勢いで横殴りの衝撃が俺を襲った。そのまま吹っ飛んだ俺の体が、誰かに受け止められる。辛うじて生きてる半分の視界で辺りを見ると、俺を蹴り飛ばしたのはラディッツで、受け止めたのは悟空だった。

そういやラディッツ、メタクソに速かったなスピード。俺を蹴り飛ばすことでフリーザから離脱させたのかなるほど。

 

「にいちゃん」

 

いや、にいちゃん呼び卒業してなかった?

と言おうとして、喉からせり上がった血液が邪魔をして結局咳き込んだ。まったくポンコツな身体だ。

悟空はめちゃくちゃ怖い顔して、俺の辛うじて空いた口に仙豆を押し込む。なんとか嚥下すると、身体のダメージが即座に回復した。

それと同時に、世界が回るような眩暈が起こって。

そのまま意識が、ストンと闇に落ちた。




どうでもいいんですが、第五十話というキリのいい話数でマレビトのサイヤ人に対する価値観が出せたので何となくいい気分になりました


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第五十一話

目が覚めたというのに、ちょっとだけ世界が遠かった。例えるなら、自我と世界の間にガラスを一枚挟んでいるような、そんな感覚。

 

「大丈夫か」

 

ナメック星人の老人が、俺の面倒を見てくれてたらしい。頭が重いがなんとかなるだろうか?

なんとか身体を起こしたけどふらついている。戦うどころか、立って歩くことで精一杯だ。

 

「状況が知りたい」

「ピッコロという若者が君をここに預けにきた。そして、ネイルをはじめとした残っている全てのナメック星人と合体したことで、今フリーザと戦っている。孫悟空、ラディッツ、ベジータと共に。二人の地球人も近くにいるようだ」

「……そっかあ」

 

瀕死復活したからだいぶ戦闘力上がってる筈なのに、肉体が悲鳴をあげている。傷自体は治ってんだがなあ。これだからこの身体は厄介だ。

 

「……一旦、地球への避難を提案するよ。フリーザとの戦いは熾烈で危ないから」

「しかし、ドラゴンボールの願いは使い切ってしまったのでは?」

「地球のドラゴンボールがある。こういうときのために取っておいたんだ。連絡をとりに行ってくる」

 

界王様の力を借りるという手も無くはないが、稀人の頼みをホイホイ聞くとは思えないし……悟空とラディッツを介せないなら、自力で連絡したほうが良いだろうし。

てくてく徒歩で通信機を積んでいる宇宙船を目指す。瞬間移動はな、この体調だとな、無理。

そうして歩いてると、一つの気が突っ込んできた。

 

「マレビトさーん!」

「……悟飯かあ」

「大丈夫ですか!?」

「ぜんぜんまったく。状況は?」

「ベジータさんが殺されてしまいました今はお父さんとピッコロさん、ラディッツさんが戦っています」

「ピッコロの叶えた願いは?」

「ふたつです。お父さんとおじさんの潜在能力を解放してください、と。残りふたつの願いは叶える前に最長老様がお亡くなりになったのか、石になってしまって……」

「あー、だから願いが爆速だったのか」

 

つまり使える願いはみっつとな。じゃあどうすれば良いんだろ。

えーと、フリーザたちに殺された人がいて、ここに残ってる人たちがいて、で、あとは……

どうしよ、頭が回らん。

 

「とりあえず、宇宙船に積んでる通信機で地球と連絡を取ろう」

「はい!ドラゴンボールですね!僕が持ってきます!」

「悪いな、頼む」

 

猛スピードで飛んでいった悟飯を見送って、岩壁に背を預けて座り込んだ。ダメだ立ってるだけでキツい。

上を見ると、ラディッツと悟空がメインで戦いピッコロとクリリンが何とかフォローしているところだ。それでも押されている。純粋な暴力って、小手先の細工じゃどうにもならないところあるしな。

 

「マレビトさん!持ってきました!」

「……んあ、ありがと。おーい、誰かいるか」

『マレビトだな!?』

「ドラゴンボール使えるようにしといとくれ。近々願いを頼むから」

『わかった!』

 

よしこれで下準備はおしまい。願いはブルマたちに任せよう。

悲鳴を上げる身体を無視して無理矢理立ち上がる。臨気鎧装は無理にしても、お邪魔虫程度には働いてやろうか。

 

「いいか、悟飯」

「はい!」

「俺たちサイヤ人はな、間に合わないんだ」

「……え?」

 

脈絡のない言葉に、悟飯が首を傾げた。そうだよな、意味わからんよな。

でも、多分今が伝えるに相応しいタイミングな気がする。

 

「死にかけるたびに強くなる……負けることでしか、強さを手に入れられない。そして、何かを守るための強さは、守りたいものを失うことで得られる。サイヤ人ってのは、一手遅いことでしか、強くなれないんだ」

 

その極致が、超サイヤ人という伝説だ。

……叶うなら、超サイヤ人になんてなれない方が良いのかもしれない。身を焦がすほどの怒りと痛みを、喜んで受ける者はいないだろうに。

 

「失わない為に必要なのは、何だろうな。俺は、時間という答えを出した。だけどこれだって正解じゃない。立ち向かわず逃げ回ったツケを、払うことになる。……俺は間に合わなかったよ。でも、悟空たちが間に合うなら、それで良いかって、思えるときもある」

 

時間稼ぎをしたところで、敵を倒せる訳でもない。

それでも、その時間がひとつでも悲しいことを減らせるのだとしたら。

意味はあるのだと、そう思う。

なんだか、ひどく饒舌だ。それも仕方ないか。

このあと意識を失って、戻ってきたときにアスラはいないだろうし。

 

「地球人の血を継ぐサイヤ人、君は間に合うといいね」

「……マレビトさん?」

「離れて、通信機守ってて」

 

悟飯が離れたのを見てから、すう、と息を吸い込む。脚がガクガク震えている。行けるか?いや、やるんだよ。まずはクリリンのフォローをせねばなるまいし。

地面を踏み締める足に意識を割いたところで、フリーザの視線が俺に向いた。

しまった、そういや俺、フリーザのヘイト買いすぎてたな。いや、ここはむしろラッキーと言うべきか?他からフリーザの狙いを逸らしたんだし。うん、過去の俺よくやった。

逃げられるわけがないので、力を抜いて攻撃を受ける体勢になった。防御体勢をとって、死なないようにだけ気をつける。巨大な眩いエネルギーの塊が、俺に向かって飛んでくる。悟飯には当たらないな、ならいっか。

 

「マレビトさん!!!」

「へ?」

 

横からガツン!と衝撃が飛んできて俺は見事に吹っ飛んだ。吹っ飛ばされるの二回目だな。

なんて呑気な考えは目の前の光景で霧散した。クリリンが庇ったのだと、理解する。

は?

 

「なっ、おま───」

 

にっと、冷や汗を流しながらもどこか不敵に笑うクリリンの顔が最後に焼き付いて。次の瞬間、クリリンの身体が爆散した。

 

「…………は」

 

殺したのか。

俺が、目の前の死に?無防備になったから?

ああ、本当に、なんて馬鹿なんだろうか俺は。

 

「……は、は」

 

体の奥の熱が一気に沸騰する。ぐわり、と怒りが持ち上がる。

ああ、本当に、これだから俺は、度し難い。

遠くに、膨れ上がった気を感じ取る。怒りのボルテージと比例するように身体が重くなって──

身体が地面に叩きつけられたのを機に、意識がブラックアウトした。

 

+++++

 

「マレビトさん!」

「!悪い悟飯寝てた!」

 

慌てて飛び起きると、身体が随分と軽くなっていた。挟んでいたガラスも無くなってて、視界がクリアだ。アスラの気配はない。

……逝ったか。ただまあ、マジでそれどころじゃないけど。

 

「マレビトさん!お父さんが、お父さんがなれたんです……超サイヤ人に!」

「!」

 

慌てて様子を伺うと、金色のオーラを纏った一人のサイヤ人が見えた。逆立つ髪の毛、宝石のような碧色の瞳、そして湧き立つオーラと、内に秘めた激情……間違いなく、超サイヤ人だ。

懐かしい、と言っていいのだろうか。

間違いなく、フリーザを倒せるだけの強さを手にしている。孫悟空は超サイヤ人に進化した。

……それにしても。

 

「…………かっこいいなあ」

 

本当に──美しく、かっこいい。前世の俺も、今世の俺も、両方の俺が憧れた姿なのだから当たり前かな。

本当は、喜ぶべきじゃないんだ。クリリンの死は悲しむことで、その怒りで到達したその高みも。

それでも、この感情だけは、否定したくない。

でも、それどころじゃないのは確かか。

さあ、感傷はこれで終わりだ。

 

「悟飯!まず地球のドラゴンボールで、『フリーザたちのせいで死んだ人を生き返らせてください』と願ってくれ。そしたらポルンガが復活するから、次はピッコロに頼んでポルンガの最後の願いで、悟空とフリーザ、俺の三人を残した全員を地球に転移させろ」

「マレビトさんも残るんですか!?」

「俺まで居なくなったら、誰が悟空を地球まで送るんだよ」

 

俺さえいれば、勝った悟空を地球まで運べる、ドラゴンボールを使うまでもない。

フリーザと悟空の戦いには割って入れないけど、それでもサポートのやり方は何かしらあると思うしな。

しゃがみこんで、不安そうな悟飯を撫でてやる。

 

「大丈夫、悟空は責任持って地球に連れて帰るから」

 

帰るまでが遠足ですってな。

いや、遠足じゃないけどさ。



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第五十二話

ピッコロを呼び出して、数分後。順当に死んだ者は生き返り地球へと退避していった。残ったのは超サイヤ人と化した孫悟空と100%の力を出すことにしたフリーザ、そして俺の三人だけ。

荒れてんなあ悟空。当たり前だ。そう思いつつ、手をフリーザに向かって差し出す。流石にいつでも倒せる俺より、目の前の伝説である超サイヤ人を優先するらしい。

真っ当な判断だ。そこに付け入る隙がある。

 

「言っておくが、オレはきさまなんかに殺されるくらいなら、自ら死を選ぶぞ」

「スキにしろ……」

「だがこのオレは死なん、死ぬのはきさまらだ……オレは宇宙空間でも生き延びられるぞ。だがきさまらサイヤ人はどうかな?」

 

ごめん、得意げだけど臨気鎧装なら宇宙空間耐えられるわ。ただ、悟空はダメだよな。

フリーザが生み出した気弾をそのまま地殻へと投げ付けた。だが自分でも怯えが出たのか、そのエネルギー総量は即座に星を消すにはやや足りない。

うん、これなら……全部俺が吸い取れる。

フリーザが気を探れなくて良かった。バレない程度に、星の中心に到達しないギリギリで放たれたエネルギーの全てを奪い取って糧にする。フリーザ軍と相対するために散々気を消費し続けて目減り具合がヤバいからな。ここで少しでも回収しとかんと。

 

「……おお、まあなかなか」

 

この量をもらって“なかなか”って評価もまあヤバいな。それに、頭の上で行われている戦闘を見上げる。一瞬も気を抜けない攻防、その全てを目で追える。

おそらく、数回の瀕死により俺の素の戦闘力は悟空とほぼイコールだ。そりゃ魂二つも抱えられる余裕がなくなる。嫌気性症候群とサイヤ人の特性の組み合わせ恐るべし。

二人の戦闘に目を細める。一進一退の攻防だが、多分悟空の勝利で終わる。

フリーザは全力の出し方を知らないのだ。強者ゆえの傲慢と経験不足。例えば俺なら、いかに格上の敵を倒すかというのは大猿化したナッパで、まるで敵わない相手の時間稼ぎをするかはフリーザで、行ってきた。孫悟空も、同格もしくは格上との戦闘経験は多く積んできた。自分のコンディションの秒単位の変化、全力を出せる時間、バットコンディションとの付き合い方、それらを経験で身につけている。

しかしフリーザにはそれがないのだ。

悟空の見逃しという提案も蹴って、平静を失ったフリーザは命乞いによってもらった気を使って悟空に攻撃を仕掛けて、トドメを刺した。

 

「……うーん」

 

終わったが、悟空にとってはあまりに納得できない終わりであったらしい。口をぎゅっと引き結んで、一度は自力で解いた超化状態のままだ。

 

「おーい、悟空!」

 

叫んでみるも、反応が芳しくないか。まあ、ピッコロの時の結末と比べると、思うところがあるんだろうな。

……仕方ない。

 

「臨気鎧装」

 

息を吸って、気を装甲のように纏う。そのまま戦闘力を一気に倍化する。これまでの最高だった20倍を更に超えて、超サイヤ人と同じだけ、そう、50倍にまで無理やり引き上げた。

やたらと強くなった体だ。孫悟空が50倍化に耐えられたなら俺が耐えられないはずがない。

何より、臨気鎧装とは強さを求めた気高き黒獅子が使う武装の名前だ。そして、目の前にサイヤ人の伝説が降臨している。これから先、超サイヤ人は更にその先を歩む。すでに伝説は現実となったのだ。

ならば──その強さのはじまりに、臨気鎧装が届かないはずがない。

というか、届かなければ、その強さを真似た者として、面目が立たないのだ俺は!

 

「悟空!!!」

 

剣を握り、一気に地を蹴った。未だ高ぶる感情を持て余す悟空は、俺の叫びに気づいたことで本格的なカウンターを仕掛けてきた。しかし鎧を身につけた状態では、同じ戦闘力でも俺の方がやや耐久性で勝る。

大きな音を立てて攻撃を受け止めると、俺の存在に気付いたのか悟空が目を丸くした。それを見て追撃にかかる。

まず、剣を捨てた。攻撃手段を取り落としたことで悟空の意識がそちらに割かれる。その隙に俺は空いた手の指を輪っかの形にして悟空の額に持っていく。

 

「いったあ!?」

 

直後、割といい音と共に悟空の悲鳴が聞こえた。

 

+++++

 

「ショックだったか?」

 

悟空が大の字になって地面の上に寝っ転がっている。星は爆発しないよと言ったら気が抜けたらしい。髪は黒い色に戻っていた。

悟空の隣に腰掛けて空を見上げると、やっぱり太陽が昇っていた。

 

「うん。マレビトは?」

「俺はどっちかというとフリーザ側の思考だし。目的の為なら、死んだフリもするし命乞いも構わない。ただ、フリーザにはサイヤ人に負けたくないってプライドがあったけど、俺には特にないっていう違いはあるな」

「殺したくなかった」

「安心しろ、多分だけど生きてるかしぶとく復活するかの二択だから。あいつはバイキンマンだぞ」

「ばいきんまん……?」

 

首を傾げながらも、俺の言葉になにを納得したのか、まあいいかと悟空は思考を切り替えたようだった。

プライドはいい方にも悪い方にも転がる。そこに貴賤も優劣も付けるべきではない。と、個人的には思っている。

厄介かどうか、違いはそれくらいだ。

 

「さっきマレビトも超サイヤ人のオラと同じくらい強くなってたよな。あれも臨気鎧装っちゅーやつか?」

「まあな。がんばった」

 

Vサインを向けると悟空が楽しそうに笑った。こいつ俺と試合したいだけだろ。

 

「試合は却下。お前疲れてるだろ」

「あはは……クリリンは生き返れそうなんか」

「ナメック星のポルンガは何回でも生き返れるし、使えるようになるまでの周期も短めだからな。どう使うかは相談として、生き返れると思う」

「やった!」

 

懸念事項も解決したので、悟空はあー!とどこか晴れ晴れと伸びをした。しかし悟空にとっての懸念事項は解決したとして、俺の懸念事項は残っている。

と、いうのも。自分で気を一切生み出せなくなったっぽい。

クリリンが殺された瞬間に怒りに身を支配されかけた感覚があったが、どうやら俺もそこで擬似的に超サイヤ人になりかけ、完全な超サイヤ人には届かないにしても戦闘力が急上昇、嫌気性症候群が進行したらしいのだ。神龍が言ってた一定ラインの戦闘力とは超サイヤ人のラインだったのだろう。

それに、今ふと思い出したんだが、だいたいこのくらいの時期に孫悟空も覚えてたはずだ。

 

「悟空」

「うん」

「瞬間移動覚えるか」

「いいんかっ!?」

「いいよ。ただ俺が教えるんじゃなくって、俺が瞬間移動覚えた星に行ってもらうけど」

「えーっ!マレビトが教えてくれりゃいいじゃんか」

「俺の方法、座標指定するやり方だからどっちかというと邪道なの。どうせなら正しい方法ならってこい」

 

見様見真似で習得したら、「普通は座標指定じゃなくて気を感知して移動する」って言われて「先に言えよ!」ってなったのは懐かしい。

ヤードラット星人も稀人の扱いをどうしたものか悩んでたし、仕方ない部分もあるのだろうけどさ。

と、いうか。単純に座標指定方法は悟空に向いてないと思う。

 

「で、この瞬間移動習得に必要な修業期間は、俺からの業務命令による長期出張っていう扱いにするから」

「どういうことだ?」

「給料出すよってこと。あと、盆正月とか悟飯の誕生日には送り迎えするから休みで帰ってきていいよ」

「はえー……マレビトはすげえなあ」

「そうか?」

 

て、いうか。孫悟空に業務命令とか長期出張とか似合わねえ単語すぎてちょっと笑えるかもしれない。

でも、冷静に考えるとフリーザ軍に所属してたサイヤ人ってやってることはともかく立場はサラリーマンなんだよな……そう考えるとバーダックもサラリーマン……。

突然脳内にスーツ着込んで名刺交換するバーダックが浮かんで吹き出しそうになった。慌てて誤魔化そうとするものの「ゴフッ」と変な咳が出て悟空が首を傾げる。

なんかすまん。



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第五十三話

そんなこんなで戻ってきたぜ地球。最長老様は、否、あのナメック星人は少し前にサヨナラしていたらしい。しかしそれ以外のナメック星人は幸いなことに全員揃っていた。次のドラゴンボールの願いでクリリンを甦らせたあと、別の星に移って暮らすらしい。まあそれには賛成する。コルド大王とか報復に来るかもしれないしな。あと星そのものもだいぶボロッボロだし。

ナメック星人たちとベジータはカプセルコーポレーションに、なんやかんやで地球で腰を落ち着ける場所を持ってなかったラディッツはしばらく俺の家に滞在することになった。部屋多めに作っといて良かったわ。人生なにがどう転ぶか分からんな。

 

 

「じゃ、行ってくる!」

「お父さん、がんばってね!」

「悟空さ、しっかりやってくるだよ!」

 

約二週間後、ヤードラット星に話を通した上で悟空を瞬間移動習得のために修業に送り出した。これは前世の流れを守るためでもあり、瞬間移動取得者を増やすための長期出張……要するに単身赴任という形を取っているので家族の別れも爽やかだった。

さっくり悟空を送り届けて、とりあえずひと段落。給料は毎月決まった額をチチに渡せば良いだろう。

ついでに、悟空が不在の間は色々な雑事をラディッツに任せることにした。一年限定で雇用したわけだ。ラディッツはそういう下働き的なのが苦ではないのか、何日かして家事に慣れたら普通に働いてた。

 

 

「おい、これも仕事か?」

「そうだよ。悟空にも相手してもらってたし」

 

とある土砂降りの日。今日は家庭菜園の手入れも修業も出来なさそうなので、ボードゲームに付き合ってもらうことにする。一対一で遊べるマンカラを取り出して準備。ルール説明をして、お互いおやつを摘みながら淡々と進めていく。

 

「……なにが楽しいんだこれは」

「俺は楽しいんだけどなあ……ピンクのパンツとか、プロポーズとか、命乞いの方が好み?」

「そのラインナップはなんなんだ」

 

何戦かしたあとポイっと放り出されたマンカラを片付ける。オセロの方がいいかもしれない。そんな感じでオセロを新しく取り出して並べた。そういやバーダックともやったような気がする。

 

「これはすげー興味本位なんだけど、バーダックってどんな子育てしてたの?」

「……基本的に放置だな。ガキは飯と布団と風呂が要るとはよく言ってたが」

「うっわ不器用。ただなんかめっちゃ“らしい”な。それにしても、覚えてたんだバーダック」

「やはりお前の影響か?」

「まあ持論ではあるよ。子供は美味しいご飯とあったかいお風呂とふかふかのお布団で育つべきだ」

 

バーダックに何回か言った覚えがあるからな。飛ばし子文化のせいか、子供は放っといても育つって言ってたから反論したんだっけ。

 

「超サイヤ人になったの見たことないって言ってたのは?」

「実際、なっていたことは無いな。ただ、カカロットの超サイヤ人を見て確信したが……今も親父の方が強い」

「へえ」

 

やっぱりあれの更に上があるのか。確かにボス枠があと二つあるんだったな。しかも続編もあったよな。インフレが止まるところを知らない。

 

「だが、カカロットはともかく親父はどうやって超サイヤ人になったんだ」

「知らんよ、俺別に科学者じゃないし仮説しか持ってない」

「仮説があるのか?」

「愛」

「…………」

「真面目に聞かれたから真面目に答えたのになんだその胡乱な目付きはァ!!!」

 

じとーというオノマトペがぴったりな目で見られて流石に叫ぶ。めちゃくちゃ疑ってんじゃねえかしばくぞ。そう思いつつ、自分も言葉が足りてなかった自覚はあるので説明を続ける。

 

「あのな。そもそも超サイヤ人の伝説が歪曲されて伝わってると思う」

「なんだと?」

「ベジータやフリーザの反応を見るに、超サイヤ人は“狂戦士〈バーサーカー〉”として伝わってるんだが、俺からしたらズレてる。多分長年の言い伝えとか、あと直接相対した敵側の印象とかと混ざったんだろうな」

「ならばお前の思う超サイヤ人はなんだ」

「“復讐者〈アヴェンジャー〉”。俺から見た仮説だけど、そもそも超サイヤ人って外敵からの侵略に対する防衛機能っぽいんだよね。敵の攻撃を受けて縄張りを侵されて初めて成り立つ、かなり受動的な進化だよ。少なくとも一番最初の変身は」

 

つまり、超サイヤ人を生み出したくないのなら子飼いにして適度に侵略行為をさせつつ、更に上のめんどくさい外敵に対処してやれば良かったのだ。その点フリーザはとんでもない悪手を打ったとも言えるだろうか。

 

「だが、ナワバリを侵されることが条件ならベジータ王も超サイヤ人になっているだろう」

「だから愛だよ。支配しているものじゃなくて、愛しているもの。それに最低限の戦闘力……まあ300万くらいは欲しいか」

「最低でもその数値か」

「そうだな。あとは、それだけの強さを有してなお守れなかったという無力感か。種類はともかく、愛が無力感をトリガーに憎悪へと転換したときになるのが超サイヤ人なんじゃね?ってのが俺の意見。

 逆に言えば、この条件満たせるなら子供同士の喧嘩でも超サイヤ人になれると思う」

 

冷蔵庫で大事に取っておいたプリンとかな、奪われたらまさしく愛しているものに手を出されたってことになるし……自分で想像してなんだけど、なんかやだなプリンで超化するサイヤ人。

 

「ま、この説は穴だらけだろうし、もっと生物学的な条件があるんだろうけどそっちは完全に専門外」

 

ひょい、と肩をすくめて話を切り上げる。ちなみにこの仮説だと、バーダックも愛で超サイヤ人になったことになるが、ラディッツは思い当たる部分があるのか頷いて納得していたようだった。

心当たりあるのか。仲間か、もしくは嫁か……?

 

+++++

 

130日が経過して、ドラゴンボールが使えるようになった。悟飯はデンデという子供のナメック星人と仲良くなったらしく別れを惜しんでいた。いつのまに。

その辺りのやりとりを一歩引いた位置から眺めていたら、老人が話しかけてきた。

 

「マレビト」

「はいよ」

「最長老様より言伝を預かっている。かのナメック星は、あなたの思うようにして良いと」

「やめとけ。マジでやめとけ。俺がどんだけ厄介か知ってるだろ。あそこで俺がなにをやっても“悪いこと”にはならんぞ」

「しかし、あなたはそのような事はしないだろう、と」

「信頼が重いんだよなあ」

 

いや、確かに変なことはしないけどさ。立場ってものがあるじゃん。あ、もしかしてあれか。もう死ぬから最後に好きなことやっとけとかそういう感じ?水一杯のお返事にしてはちょっと大袈裟すぎねえか。

 

「最長老様は、あなたに深い感謝を抱いていた。恩を返したいのだと」

「大したことしてないんだが。それに、恩ならもう返されてる」

「そうなのか?」

「……ある人曰く、逆転しない正義とは献身と愛であるらしい。眼の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えることだそうだ。俺は稀人だ、悪でも正義でもない。どちらにもなれない。

 だけど、俺がかつて分けた一杯の水をもって、あのナメック星人が俺の行動を“正しいこと”と称したのなら、嬉しい。俺の行動基準は、どうやらそれほど間違ってはなさそうだ。俺はそれだけで充分返してもらった」

 

テレビの向こうのヒーローに憧れた。主人公を応援した。かっこいいと思う人がいた。

ご飯と、風呂と、布団を当たり前のように与えられて、いいやつになれと言われて育てられた。

こればかりは絶対に譲れないアイデンティティだ。だから、いい人間にはなれないにしても、いい人間が取っている行動を真似て生きていきたい。

サイヤ人至上主義者が持ってていい思考じゃないことは、重々承知の上で、だけど。

 

 

そうして、クリリンが生き返って、ナメック星人たちは去っていった。古い方のナメック星は結局もらった。話聞けよ。

にしてもフリーザとの戦いは大団円、でいいのかね。

ベジータとラディッツが若干ギクシャクしてるのを除けば、だけど。




次の投稿は二月二十日となります


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人造人間編
第五十四話


長期休載の時はいつもここ好きを見せていただいています
評価してくださった皆様、いつもありがとうございます


この前悟空の進捗確認しに行ったら、後ちょっとで習得できるとの報告をもらった。いいことだ。

俺はなんというか、流石に自力で生み出せる気がゼロなのはやばいので補助技を開発する必要に駆られ一年間研究する羽目になった。ラディッツがいなかったら仕事と両立できなかったかもしれない。感謝しないとな。

なおラディッツはいい感じの雰囲気の人ができたしばらく後に超サイヤ人になってた。わかりやすいなお前。

 

 

「マレビト、なんだその格好は」

「新技というか補助技。ほら、気って意識してなかったら漏れて感知されるじゃん?だから漏れないようにするための覆いみたいな感じの。気を意図的に消さなくても良くなったから楽だわ」

 

久々にピッコロに会ったときは、丁度補助技が完成したところだった。やはり気を固めて、今回は視覚として表されているのが臨気鎧装との違いだろうか。シンプルなロングコートなので夏は見た目暑苦しいのが欠点といえば欠点かな。

技名は……ウィザードローブにしよう。なにが魔法使いなのかは知らんが。

 

「そこまでして気を消してどうするつもりだ」

「まあ俺にも色々あんのさ」

 

自分の気の割合が減りまくったせいで、外部から見た俺の気がごっちゃごちゃのミックスジュース的な、なんか大変なことになってんだよね多分。

これまでは隠せてたけど、今後はもっと歪になってくだろうし、後単純に消耗減らしたい。

 

「そもそも、臨気鎧装の最大強化倍率と超サイヤ人の強化倍率はイコールだが、臨気鎧装の技術に関しては正直頭打ちなんだよ。なら超サイヤ人の強化に気を配った方がいいんだが、その分必然消耗も大きくなるわけだ。そんな中で俺は時間稼ぎをするわけでな」

 

臨気鎧装と超サイヤ人、多分両立できないんだよな……あれかなり神経使うから、感情暴走モードに入るあれとは相性悪い。悟空やラディッツも超サイヤ人と界王拳の両立無理って言ってたし?

その点、こっちのローブは気を消すっていう作業の自動化みたいなものだからそこまで神経使わなくてもいいのが楽。これなら超サイヤ人とも両立できそうな気がする。

 

「超サイヤ人にはなれそうなのか」

「わからん!」

「堂々と言う台詞か!」

 

怒られた。いやほら、俺が最初に超化しかけた時と今って状況違うから、主に魂的な問題で。

怒りとか憎悪のトリガーが別方向に向かってる可能性があってな……そこから見直さねばならないのがちょっと。

 

「そういうそっちは?新技とか開発できそうなのか?」

「当たり前だ」

「そりゃすげえ」

 

ちょっと得意げなピッコロに昔のチビを思い出すのは、ナメック星のデンデとかと出会ったからだろうか。あの時はバタバタしてて昔のピッコロを思い出す余裕もなかったなあ。

改めて、でかく育ちすぎじゃねえかなこいつ。

 

+++++

 

『お父さんが帰ってくるのって今日ですか?』

「そう。時間とか大体指定してたし、まあ今日中には帰ってくるだろ。のんびり待ってればいいから」

 

悟飯と電話でそんな会話を交わしつつ、楽譜をめくっては書き込みをしていく。最近ピアノにも触れてなかったから、久々に音を出して遊んでいる。はーひふーへほーなあの曲をなんか完成させねばならないような気がしたので。

余談だけど、チチは張り切って悟空のためにご馳走を量産しているらしい。俺も誘われたけど遠慮した。家族水入らずで楽しんでくれればいい。

と、いうか。家族全員揃うとかマジで死ぬほど羨ましいので視界に入れないでおきたい。

もちろんそんな内心は見せないで通話を切った。ピアノの前に座って鍵盤を押す。

 

「『世界はやがて、俺のもの』……なんか微妙にシンクロしてるし」

 

まあこの宇宙を二分する戦いがあるとして、その片翼は間違いなくフリーザだろうし間違ってはない。もう片方がサイヤ人だとは限らないがフリーザであることだけは謎に確信している。

まあ将来的に鍛えたら、という仮定の話ではあるが……。

 

「……もしかして最終的にフリーザに相対する戦力ってバーダックか?」

 

なんてこった、悪と悪の戦いになってしまった。もう終わりだこの宇宙は。仕事しろよ上位神。

そんな、考えたところで何がどうなるわけでもないことに心の中で文句を言いつつ楽譜と睨めっこすること数時間。

なんかフリーザの気が近付いてきた。マジか。直感ってこういうのを言うのか?

楽譜を置いてピアノの蓋を閉める。一度大きく伸びをしてから、剣を背負った。

 

 

筋斗雲で乗り込んで行ったら一番最後だった、さもありなん。気を探ると、フリーザとあとは、コルド大王か?ちとヤバいかもしれんな。

 

「遅れてごめん、来たぞー!」

「うわあ!?」

「驚かせるなマレビト」

「なんかごめん」

 

とりあえず謝っとこう。でもこれまで以上に気を消すのがデフォルトになるから取り敢えず慣れて欲しい。

俺が最後なのでベジータ含めて全員が揃ったことになる。メイン火力は超化できるラディッツと超化級の倍率強化できる俺ってところかな。

よもや俺がメイン戦力張るとは。

頭上を横切る巨大な宇宙船に、二つの気が揃っている。間違いない、コルドとフリーザだ。宇宙船が着陸したのか、わらわらと小さな気まで上陸を始めた。

 

「ラディッツ貴様、あれに勝てるのか?」

「なぜ俺だけに聞く……勝てるかは知らんが、戦わないで逃げ出すと思ったか?」

「この逃げ腰は時間稼ぎとやらに拘る腰抜けだからな。……もっとも、貴様もフリーザから尻尾を巻いて逃げ出した弱虫という点では同じか」

「事実だけど逃げ腰と腰抜け同時に言う必要あったか?それにまあ何とかできるだろ。ここにはサイヤ人がいるんだから」

 

つーかベジータ口悪い。あとラディッツの弱虫に言及するのはなぜだ。

ラディッツは気を消しつつ、いつでも戦闘に移れるように精神を研ぎ澄ませている。俺もまた、剣を抜いて戦闘体制に入った。

 

「どっちとやりたい?」

「俺はどちらでも構わん」

「じゃあ俺フリーザね」

 

囁くような会話をした、その直後。

突然巨大な気が現れたかと思ったら、ザコの気配が一瞬で消えた。この気には心当たりがある。思わず自分の斜め後ろ……この場に集まっていたうちの一人、悟飯のことを見た。視線が急に向いて驚いたのか、戸惑った子供の顔が視界に映る。

 

「え?」

「だよな、いるよな……てか」

 

あの気は、悟飯と同一のものだ。クローンか、もしくは……。

ともかく、脅威は去ったと思っていいだろう。ただ、この悟飯と同一の気の持ち主がどういう意図をしているのか読み切れないのだが。

 

「!なっ、なんだこの気は!?」

「超サイヤ人か……!?」

「みたいだな、ラディッツ行けるか?」

「当たり前だ!」

 

とりあえず対抗できそうな俺とラディッツで先行する。山を越えて見えた視界の先に、超サイヤ人特有の金髪は見えない。というのも、サイヤ人と思わしき人影がフード付きマントを着ているせいで人相が分からないのだ。

しかしその男は圧倒的な強さによって、なんと片腕しか使わずに復活したフリーザと更にはコルド大王まであっさりと倒してしまった。

とりあえず敵か味方か、それだけ見極めさせてもらうか……。

 

「やあ、初めましてサイヤ人。名と顔を明かしてもらえるか」

 

そう言いながら、フードを被った人影の前に降り立つ。観察していると、マントの内側が不自然に凹んでいた。なるほど、片腕しか使わなかったんじゃなくて“使えなかった”わけか。

 

「貴様は何者だ?どのようにして生き残ったサイヤ人だ?」

 

飛ばし子の存在を知っているラディッツは、生き残りのサイヤ人が知っている以上にいることにそこまで疑問を感じていないらしい。風貌はわからないが、とりあえず男ではあるらしいな。

 

「……あなたたちになら、大丈夫でしょうか」

 

フードを被ったサイヤ人は、悩んだ後にそっと顔を覆う布に手をかけて脱いだ。その素顔に、ラディッツは驚愕を隠し切れずに絶句した。俺は予想が確信に変わり、そっと息を吐いた。

俺の朧げな記憶によると、ここで未来から来た何者かがいたはずだ。そしてそれはいわゆる“新キャラクター”であり、孫悟飯ではなかった。

しかし、目の前にいるのは紛れもなく、孫悟飯なのである。

 

「お久しぶりです……マレビトさん、ラディッツ叔父さん」

 

小さな子供が、青年と呼べるほどにまで成長していた。顔には大きな傷があって、腕は一本足りていない。

しかし、目の前で彼は生きている。それが何を表しているのか、俺には判断がつかない。だから今の俺が言えるのは一つだけだった。

 

「…………ラディッツのこと『おじさん』って呼んでたの?」

「そこか!?」



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第五十五話

目の前の青年こと未来からやってきた孫悟飯を観察すると、かなり強くなっているのが分かる。片腕であるというハンデを踏まえても相当な強さと言っていいだろう。そして、着ている服は悟空を思わせる亀仙流の道着だ。ラディッツは初見こそ驚いたものの、すぐに未来悟飯に順応していた。

 

「俺は、約十五年後の未来から来た、孫悟飯です」

「そうらしいな。カカロットはこのことを……まだ知らんか」

「道具でも使ったか?落ち着いてるあたり事故ではなさそうだけど」

「そ、そこまで驚かないんですね……」

「俺の親父を考えればな」

「バーダックの孫だし」

 

あいつ単独事故で千年遡った挙句摩訶不思議アドベンチャーして神様なったトンデモ経歴下級サイヤ人だから……。

未来悟飯も自分の祖父の経歴を思い出したのか「……あー」と妙に気の抜けた納得をしていた。

 

「ただの観光ってことはないだろう。なにがあった?」

「そうですね……とても、たくさんのことがありました。ですが、話すのはマレビトさんとお父さんに」

「俺?」

 

悟空にだけ話したいってことなら分かるけど、俺もか。で、ラディッツやブルマやピッコロはダメな理由……なんだろ。

 

「でもまあ、理由はあるんだろ?」

「ならば俺は離れていよう。あいつらにも説明が必要だろうからな」

「下手に誤魔化すより、今は口止めされてるってハッキリ言った方がいいかも。悟飯の話は俺があとでまとめて教えるよ」

「そうか、頼んだ」

 

そう言って、ラディッツは一旦俺たちから外れてみんなの元へと飛んで行った。悟空が来るには、あとどれくらいだろう。ちょっと急かすか。

 

「じゃ、悟空呼ぶからな」

「そんなことができるんですか?」

「まあ俺雇用主だし、移動中の悟空と通信できるようにはしてる」

「そういえばこの時期のお父さん、出張でしたね」

「そゆこと」

 

カプセルからちょっと大きめの通信機器を取り出して、周波を合わせる。すぐに通信がつながって、悟空の呑気な声が聞こえてきた。

 

『あれ、マレビトか』

「そーです、マレビトです。悟空、客来てるから瞬間移動で帰ってこい」

『宇宙船置いてきていいんか?』

「いいよ。どうせ地球の荒野に着地するんだし、後で回収すればいい」

『わかった』

 

数秒後。

シュン、と唐突な気配がちょっと離れた場所に現れた。数ヶ月ぶりの孫悟空である。無事に帰って来れたのは良いとして、なんでそんなに離れてるんだろう。

悟空はキョロキョロ周囲を見渡してから、ようやくこっちに走ってきた。

 

「……マレビト、オラ気を感じれなかったんだけど」

「あー、この技のせいだな。今後俺の気を辿ってくるの無理だと思う。完全にシャットアウトしてるし」

「いいっ!?そりゃねえよー」

「誰の気を辿って帰ってきたんだ?」

「ベジータと兄ちゃん」

「あー」

 

どおりでそっち寄りに転移してきたわけだ。なんかすまん。何回か会ってるから心配はしてなかったけど元気そうでなによりである。

久々の再会を楽しんだあと、悟空の視線が背後に向いた。未来悟飯は緊張するのか、脱いでたフードを再び被ってしまったが、それで誤魔化されてくれるような悟空ではない。

下から覗き込むようにして接近したことで、未来悟飯が一歩後ずさった。

 

「……悟飯か?」

「こちら、未来からやってきた未来悟飯くん」

「えええええ!?……ま、そういうこともあっか!悟飯よく来たな!」

 

流石タイムスリップ経験者を父に持つ息子、こちらも順応早い。悟空にフードを取られて緊張を隠せない未来悟飯に悟空は割とテンション高めだ。

 

「おめえがフリーザを倒したんだろ?強くなったなあ!」

「いえ、俺は……とてもマレビトさんやお父さんのようには」

「俺とか悟空が増えてもそれはそれで困ると思うぞ」

 

落ち着け、と悟空を宥めるとようやくテンションも落ち着いたらしい。改めて並んでみると、なんというか……

 

「あ!!!」

「なにかありましたか!?」

「悟飯の方が微妙にでかい!」

「そこですか!?」

「マレビト、自分よりでっかい奴には文句言うからな〜」

「お前も抜かされてるだろ!ふわふわの頭で誤魔化してるだけじゃん!よし髪の毛潰したろ」

「うわあっ!」

 

ぴょんぴょん跳ねた悟空の髪の毛を押し潰せば大して本気でもない悲鳴が上がった。うん、やっぱり悟空の方が若干小さい。なんかちょっと満足。

 

「あの、聞かないんですか?俺のこの、腕とか」

「聞くもなにも、苦労してきたんだろ?それぐらい分かるし、どーせ何があったか色々話すんだろうし。じゃあその前に成長したこと素直に盛り上がってもバチは当たらないって」

「ああ。悟飯、おめえがこんなに大きく強くなって、オラすっげえ嬉しいぞ。よく頑張ったな」

 

わしゃわしゃと、俺がさっき悟空にしたようにちょっとだけ強い手つきで、未来悟飯の頭に悟空の大きな手が乗っかる。

瞬間、ぼたぼたと両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。思わずギョッとするが、それは悟空と、あと泣いた本人である未来悟飯も同様だったらしい。

 

「あ、あれ?」

「うええ!?マレビト、オラの悟飯泣かすなよ!」

「俺のせいか!?」

 

頑張って涙を拭う未来悟飯の頭を、悟空が抱きしめながら俺に文句を付けてくるのは悟空自身半分パニックになってるからだろうか。確かに未来の息子を褒めたら泣いたのはビビるだろうけどさあ。

どうしよ、と目線だけで聞いてくる悟空に、ちょっと落ち着いた。はあ、と一呼吸置いてから、改めて未来悟飯の無くなった片腕と、顔の大きな傷を見た。

 

「……泣かせとけば?俺のせいで泣いたってことでいいよ」

 

多分、何年かぶりの再会なんだろうし、性格的に溜め込んでる部分もあるのだろう。状況が変わらなくても、泣くことで感情が落ち着くこともあるしな。父親のせいで泣いたってのが嫌なら、俺のせいでいい。

それからしばらく、未来悟飯は悟空に抱きついていた。自分より大きくなった息子のその様子に思うところがあるのか、悟空もまた静かなものだ。

……ふつふつと、心がざわめき立つ。父親と再会している。たぶん、何かがあったんだろう。

うらやましい。ずるい。そんな感情が暴れ狂いそうになって必死に歯を食いしばる。幸い、二人はお互いのことで精一杯で、俺のことなんて見えていなかった。

 

+++++

 

「……お見苦しいところを」

「落ち着いた?」

 

しばらく泣いて落ち着いたのか、未来悟飯は着ているマントのフードをちょっと深く被ってそう言った。今度は取らないでおこう。大人になったら相応の見栄とかあるしな。

 

「で、なんで悟飯はこっち来たんだ?」

「何もないわけないだろ?話しやすい順番でいいから教えてくれ」

「はい。まず、俺はエイジ779年から来た孫悟飯です。父親は孫悟空、母親はチチ、師匠はピッコロさんです」

「ん、俺らの知ってる孫悟飯だな。エイジ779ってことは……今22か」

「はい」

 

どうりで育っている筈である。悟空に換算するともう悟飯できてた年頃だしな。

 

「今の時代から約三年後、五月十二日の午前十時ごろ、南の都の南西九キロの地点の島に恐ろしい二人組の敵が現れます」

「!…………なにものだ、宇宙人か?」

「いえ、地球で生み出された人造人間です。作り上げたのは元レッドリボン軍の科学者、ドクター・ゲロ」

「レッドリボン軍!」

「これまた懐かしい名前だな」

 

しかしこれで、未来悟飯が俺たちだけに話をしようとした訳が理解できた。過去、レッドリボン軍に殴り込んだのは俺と悟空の二人だ、残党が狙ってこようってなら必然、狙いは俺たち二人だろう。

しかし、その人造人間……19号と20号は生みの親である科学者を殺害するほど残忍だったらしい。そのせいで、ラディッツやベジータをはじめとする戦士は全員殺されてしまったのだとか。未来悟飯は敵を倒す方法を知るべく、そして未来を変えるべく過去にやってきたらしい。

 

「……俺と悟空は?」

「お父さんは、心臓の病気で人造人間が誕生する前にこの世を去りました」

「えっ」

「えっ」

 

病死するの悟空の方なの?俺じゃないんだ。

 

「そしてマレビトさんは生き残ってはいますが、既に地球を去っています。地球に残った戦士は、実質俺一人になってしまいました」

「えっ」

「えっ」

 

なにがあった、未来の俺。



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第五十六話

状況を整理しよう。

約十五年後、悟飯は現状唯一の戦士となった。……ん?

 

「実質一人って言ったか。厳密には一人じゃないのか?」

「はい。ですが、この時代にはまだ生まれてないんです」

「なるほどね」

 

悟飯がこちらに来たのは、下手に未来を変えないようにという思惑もあったのだろう。さらに年齢は最高でも十五、もしかしたら更に下の可能性もある。たしかに戦力として換算するには少々心許ない。

 

「ドラゴンボールは使わなかったのか?」

「それが、ピッコロさんが死んでしまいドラゴンボールが使えなくなってしまったんです。お父さんはそれより前に死んでしまっていますし、マレビトさんは座標がわからないからナメック星に飛びようがない、と言っていました」

「ああ……」

 

俺の座標指定型が裏目に出てたのか。場所が分からないなら瞬間移動もやりようがないからなあ。

 

「なあ、オラの病気って仙豆でも治らないのか?」

「病気には無力だぞ仙豆」

「……はい。さすがの超サイヤ人も病気には勝てなかったんです」

 

仙豆で病気が治るなら俺はとっくに治ってる。が、そのあたりの解決策を何も持たずに悟飯がこっちに来てるとは考えにくい。

その思考通り、悟飯が渡してきたのは心臓病の特効薬だった。症状が現れたときにこの薬を飲めば完治するとのこと。

ずっる。

おっと、思考が。

 

「やった!これでその人造人間っちゅー奴らと戦えっぞ!」

「お前ほんとにサイヤ人思考だよな」

「マレビトさんもサイヤ人ですよね?」

「悟空たち……というかバーダック系譜のサイヤ人とは根本的に進化ツリーがズレてるし。それに一応突然変異種だしな」

 

あと、魂の出身地が別世界なのでそこが原因か。大昔は侵略とか画面の向こうの話な甘ったれた平和の中で生きてきたもので。

 

「そういや、タイムマシンかなんか使ってこっち来たのか?」

「はい。ブルマさんが作ってくれました」

「流石に独力でこっちには来れなかったか」

「お祖父さんと一緒にしないでください」

「そりゃそっか。じゃあもうひとつ質問。人造人間ってさ、“気”はあるのか」

「!」

 

たとえば、ハッチャン。メタリック軍曹。初期型と言われるであろう彼らに気は存在しない。

技術力が上がったのなら、当然強さは上位互換。それに気が存在しないという部分を重ねられれば、極めて厄介だ。

 

「流石マレビトさんです……その通り、奴らに気は存在しません」

「まじか、厄介だな」

「そうだな、ただまあ、なんとかなるだろ」

「そうなんか?」

「他人事みたいな顔すんなお前。むしろ要はそっちだぞ」

「?」

「ちょうど目の前に、“気が読めない練習相手”がいるだろうが」

 

いやあ、絶妙なタイミングだったなウィザードローブの開発。

 

「俺で慣れておけ」

「〜〜っ!やっぱりすげえやマレビト!」

「重い!」

 

体格差を考えろ!俺がどれだけチビだと思ってる!あっ自分で考えて悲しくなってきた。せめてもうちょっと伸びたかった。

上から降ってきたような勢いで抱きつかれて流石に抵抗する。ぐいぐい悟空を押しやってなんとか脱出した。成長した息子の前だぞ自重しろ。

 

「マレビトさん、お父さんをよろしくお願いします」

「やれるだけやってみる」

「お父さん、マレビトさんをお願いします」

「おう、任せとけ」

「では、俺は一度ここで失礼します。三年後にまたお会いしましょう」

「生きろよ、悟飯」

「じゃあまた三年後……というか、そっちにとっては数ヶ月後になるかもしれないのか。とにかくまあ、また今度会おう」

「はい!」

 

未来悟飯はそうして去っていった。少し経って、タイムマシンと思わしき機械に乗って空に消えていく。ほほー、なるほど、あれがタイムマシンなのか。多分CC製だろうな。見えてるか知らんけどとりあえず手を振っておこう。ほら、離陸する飛行機に手を振る的な感じで。

 

「…………あっ」

 

なんで俺が地球からいなくなったのか聞くの忘れた。

やらかしたか?ま、いいや。どうせ俺のことだし。

 

+++++

 

そうして、やはり発達した聴覚で話を聞いていたピッコロに補助してもらいつつ、三年後に人造人間が現れるという話をした。みんな、流石に衝撃を隠せないでいる。特に悟飯。だよな。

ブルマは、今のうちにゲロ倒しとけば?といういろんな意味での禁じ手を発案してきた。確かに一理あるけど、戦闘欲の溢れたサイヤ人×3に大反対にあっていた。さもありなん。

 

「ねえマレビト!アンタもなにか言ってやってよ!」

「その手はアリだとは思うけど、今回はやらない」

「ええっ!?」

「なんで悟飯がビックリしてんの?」

「マレビトさん、手段を選ばないというか、なんでもやりそうなので」

「……否定はしないけど、俺ってどう見えてんだ?」

 

別にドラゴンボールダミー制作とかコンピュータウイルスとか、大したものじゃないだろ。

 

「ま、今回の理由としてはそうだな。今回悟飯は俺たちに特効薬と未来の情報の対価として“人造人間の情報”を欲しがってる。ゲロを今倒すと、それを踏み倒すことになるから」

 

本人はまあまあ納得しそうではあるけど、それは流石にちょっと。礼は尽くせるなら尽くしておきたい。

 

「そんな理由で、俺は今回悟空たちに賛成」

「アンタがそう理屈づけてんなら説得は無理そうね……」

「だから俺はどう見えてるんだと」

 

そんなわけで、三年後に向けて頑張って修業して、平和な未来を勝ち取ろう!っていう方向性で行くことに決まった。

 

「マレビトはどうするつもりだ?」

「ラディッツももうなってるけど、俺はとりあえず超サイヤ人を目指すかな?目標達成したら鬼ごっこでも一緒にやる?」

 

ベジータもとりあえずは超サイヤ人を目指すらしい。なんかよくわかんないタイミングで超サイヤ人化に成功したことを悟空は今知ったのか、それはそれはテンションが上がっていた。

 

「じゃあマレビト!終わったら一緒に鬼ごっこやろうな!」

「おう、目標達成したら声かけるわ」

 

鬼ごっこ?と首を傾げる大多数と、なんだかんだ一年一緒に暮らしてるせいか大体察したラディッツの対比が面白い。一応修業だから。真面目にやってるから。

 

 

「高みを目指して学び、変わる、なあ」

 

高みと言われてまず思い浮かぶのは神と呼ばれたサイヤ人。しかし、そこに至るにはまず超サイヤ人にならなければならないだろう。というか、超サイヤ人をコントロールできずして神の力をコントロールできるとは思えない。

という訳で自力固め、超サイヤ人に挑戦してみよう。前線で使うかどうかはともかく、な。

とりあえず家に帰ってきて、変身のための意識統一。

必要なのは怒りだ。ただ怒るのではなく、あまりに強い無力感、そして憎悪。

俺は何に怒っているのか、そして何なら憎めるのか?

怒りの対象はどうにもならない理不尽。理不尽とは何か?俺にとっては、こちらの世界に押し込められたこと。ある日突然、なんの前兆もなく───

ぐ、と歯を食いしばる。今更ながら、己の身に起こった事実を噛み締めて怒りが湧き上がる。

ふざけるな、と叫びそうになった途端、己の気が爆発的に膨れ上がって、

 

「あっやばいやばい」

 

慌てて心を落ち着かせて鎮火する。気の消費量やばい枯渇しかねない。しかしウィザードローブの力恐るべし、表には一切の無駄な気の漏れがなかった。頑張ってコントロールを覚えれば、辛うじて実戦には持って行けそう。超サイヤ人の次の段階も目指せる、かな?

……というか、そんなことよりも。

 

「……まだ気にしてんの?俺」

 

思わずハァーとため息をついてしゃがみ込んでしまった。いやさあ、こっち、ドラゴンボール世界に来て一千年は経ってるじゃん。流石に向こうの、故郷に戻ることは諦めたよ?それは事実だ。

でもさあ。

……こっちに迷い込んだことに、納得してる訳じゃないのね、俺。

さっくり切り替えたアスラとは大違いだ。なんか、そういうジメジメ湿っぽくて引きずりがちなところ、実にこの世界に似合わない価値観だ。

あー、本当に嫌になる。




ゆるい解説

未来で悟空が死ぬ

なんやかんやあって未来マレビトと未来悟飯だけは生き残る

未来マレビトが色々と頑張ったあとどっかに行く

ブルマのタイムマシン開発が早まる

原作で未来悟飯が死ぬ時間軸の前にタイムマシン開発成功。まだ生まれてない人間が過去に飛ぶとまずくね?ということで未来悟飯が過去にやって来る。二十二歳


未来悟飯が今の所生存してるのはタイムマシンの開発が早まったからであり、原作における死を迎える時間より前に過去に来てる。なので未来悟飯を直接死の運命から救ったのはブルマ。マレビトではない


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第五十七話

なんやかんやで超サイヤ人を安定させることには成功した。しかし強化倍率はぶっちゃけ臨気鎧装とそう変わらない。

だが、臨気鎧装はどちらかというと耐久に振ってあり、超サイヤ人は凶暴性とか攻撃力が強くなる傾向がある。ので、二つの形態をスムーズに切り替えられるようにした。超サイヤ人にはまだ上の段階があるのでこちらを疎かにする訳にもいかないしな。

修業は今はここまでが限界だった。超サイヤ人をさらに進化させるには気の消耗がデカすぎた。サイヤ人みんなこの消耗で戦ってんの?嘘でしょ?

 

 

「マレビト、本当に超サイヤ人になってんのに気が全然感じられねえな」

「そりゃその為に開発した技だし?それに人造人間だって同じだろ」

「それはそうだが」

「御託はいい、さっさと始めやがれ」

 

そんなわけで、超サイヤ人化に成功したので約束通り鬼ごっこ兼かくれんぼの時間だ。ベジータも断られるかなーと思いつつ誘ったら予想外にやって来た。逃げるのは俺、追っかけるのが悟空とラディッツとベジータ。三十秒数えてから三人はスタート、三十分以内に捕まえたら俺の負け。周囲一帯の破壊は禁止。

単純な子供の遊びだ。ちなみにこれは俺の超サイヤ人のコントロール訓練も兼ねてる。

簡単なタイマーを使って三十秒間のカウントを待っている間に一度超化して隠れる。

さて、俺は逃げ隠れするのは得意だが、三人はどうかな。

 

「!来た来た」

 

真っ先に向かってきたこの気は……ベジータだな。悟空とラディッツは微妙にズレてる。が、これはたまたまと見ていいだろう。何故なら感じ取れる気配がやたらと苛立ってるから。これまでの侵攻は適当に周囲を更地にすれば良かったんだろうし、ストレス溜まるだろうなー。

それに対して悟空は確実に俺に接近してきてる。一番不利なのはラディッツだろうか。ここは山育ちかどうかってのが効いてそうだな。市街地だと悟空もここまでスムーズかどうか。

隠し持っていた小石を指弾の応用でちょっと遠くに飛ばす。草の陰に突っ込んでガサっと大きな音を立てた。

 

「そこかっ!」

 

得意げにベジータが叫んであらぬ方向へと転換した。一瞬気弾を発射しようと手を上げかけたのを確認、こえーよ。一応市街地戦想定してのルールだからな?

さて、悟空も対処せねば……と思ったら、上から大量の土が降ってきた。誰だこんなことするのは、と思いつつ咄嗟に臨気鎧装と切り替える。表面に薄く気を張ってるので、多少の土埃をカットできるのが強みでもある。いやー便利。しかし超サイヤ人の訓練にならないのでまた切り替えて超化し直す。

目潰しして動揺誘うつもりだったか?このバーダックを思い出させる手段の選ばなさ、さてはラディッツだな?

 

「っしゃ、こいこい」

 

簡単に捕まると思うなよ。

 

 

で、三十分後。

なんやかんやで俺の勝ち。年上の面目が保たれたなギリギリだったけど。

慣れない動きだったのか三人揃って地面に転がってへばってるのはちょっと笑える光景だ。この三人、悟空とラディッツはともかく、ベジータとの関係はそこまで良くも悪くもないしな。そう考えると愉快な光景だ。王族、上級、下級が仲良く並んでて、それをサダラ世代のサイヤ人が眺めているとな。

にしても、サイヤ人の尻尾は今ではラディッツにしか生えてないのは、生まれつき尻尾なしの俺から見ると不思議だ。ラディッツは台所で作業する時に第三の手の代わりに使っているのをよく見た。それでいいのか。

 

「ふぃ〜、疲れたあ」

「人造人間は常時こんな感じだと思えばいいんじゃないか」

「確かに、有意義だったな」

「逃げ隠れする実力だけは本物か」

「お褒めに預かり恐悦至極」

 

これで超サイヤ人が四人揃ったことになる。

が、問題は、未来で悟空が倒れたにしても、これとほぼ同一の実力を持っていたに違いないラディッツとベジータでさえ倒れたということだ。

が、なにせまだ現れてない敵であるので、実力と厄介さがまるで想像がつかない。

できることをやって、できないことに対応して、待つしかないか。

 

+++++

 

未来悟飯が予言した日がやってきた。

この日に合わせて仕事の調整もおっけー。体調もまあまあ悪くない。悟空はどうだか知らんけど。

あとこれは余談だけど、ブルマとヤムチャが別れた。そしてブルマとベジータとの間に子供が産まれた。なんでさ。

でもベジータがブルマのことを気に入ってたのは納得。気が強い女を好きになる傾向にあるもんなサイヤ人。

俺は仕事の関係とかでCCと付き合いあるから早い段階で知ってたけど、悟空、ラディッツ、悟飯はこの日初めて知ったのでえええええ!?みたいな反応になってた。わかる。

 

「お、お前な……」

「おでれえた……」

「お名前は、なんていうんですか?」

「トランクスよ」

「そっかあ」

「こんにちは、トランクス!」

 

なんか聞き覚えあるようなないような。まあいっか、思い出したところで多分そこまで重要じゃない。悟飯はこんな時でさえなければ、自分以来となるサイヤ人ハーフに興味津々だったに違いないだろうに。

いやーそれにしてもブリーフ博士にとうとう初孫だよ。めでたいなあ。人造人間とかいう奴らのことを考えなければよりお祝いできたのにな。

と、これは前に会った時に思ったことだな。

そして、スカイカーに乗ってヤジロベーもやって来た。カリン様からお使いに来たヤジロベーは仙豆を受け渡して帰って行った。

あ、ただのお使いだったのね。

 

「おいおい、あいつ戦わねえのかよ」

「やる気の問題じゃないか?」

 

嫌がる人に無理やり戦わせても、ってな。

というわけで、剣を抜いた。時間的にももうそろそろ、人造人間が現れてもいい頃合だ。気を纏わせて万が一にも壊れないようにしてから、スカイカーからちょっとずらした場所にぶん投げる。

瞬間、真横でエネルギー弾が剣に着弾した。よし。

 

「!」

「マレビトの言った通りだな、気が全然感じられねえ」

「もう既に人造人間は現れてるってことだな」

 

一度空を飛んで落下してる剣を回収……よっしゃ全然傷ついてない!ガタも来てない!わあい!

で、ついでにヤジロベーのスカイカーに合流。

 

「すまん、ちょっとブルマとトランクスに付いててくれない!?」

「お前かよ!嫌だよ!」

「頼むって!差し入れするから!」

 

なんか前にもこんなやり取りしたような。ヤジロベーは盛大にため息ついたあと了承してくれた。ありがと!

改めて街を見下ろすと、二人組の人造人間が街のど真ん中で佇んでいた。太った白い肌の男と、しわがれたお爺ちゃんの二人組であることが俯瞰風景に映る。

 

「…………?ん、ん?」

 

なんか、違和感?じゃないけど、俺のなけなしの転生者知識というか、すずめの涙ほどのドラゴンボール知識が警鐘を鳴らして来る。

俺のドラゴンボール知識って孫悟空と、オープニングと、各章ボスと、未来からやってきたカッコいい新キャラがいるってことと、二人組の人造人間だ。

で、やはり好きになるキャラクターにも傾向があるわけで。好きになった理由が弟の影響だった指輪の魔法使いを除けば、黒獅子と、天の道を往き全てを司る男であることを考えると……この二人が例の人造人間とは考えにくい。

だってこいつらがその人造人間なら、俺はまるっと忘れてる。ラディッツとかナッパとかみたいに。あの二人、多分原作にも登場してるんだろうけどまるで覚えてなかったし。

 

「なんなんだろう?」

 

ただ重要なのは、これから先さらに追加で人造人間が現れる可能性が高いことか。

とりあえず、上方向に気弾花火を打ってから地面に降り立つ。召集準備ヨシ。

ギロリと二人の視線が俺に向いた。

 

「マレビトだな」

「よくご存知で、人造人間さん」

「まさかすぐに見つかるとは。いや、自ら乗り込んできたと言うのが正しいか」

 

周囲から気が集まって来るが、注目が集まるし、なによりここだと周囲を巻き込みかねない。まずは場所を変えることから始めないと。

まあごちゃごちゃ文句言っても仕方ない。

 

「さて、やるか」



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第五十八話

まずは太った方が掴みかかってくるので、とりあえず抜いた剣で受け止める。その背後を老人に取られそうになり、一度剣から手を離して伸びて来た手を背後に倒れることでかわす。そのままの勢いで剣を蹴り飛ばして救出、そのまま腕を軸にして半回転、二人同時に蹴り飛ばすように脚を振り回すがこっちは避けられた。体勢を立て直して、降ってきた剣をキャッチ。

軽く刃こぼれしてる。剣を掴まれた時にコーティングしていた気を奪われた?

この辺りで、悟空たちも駆けつける。

 

「マレビト、無事か!?」

「おう。気をつけろよ、こいつら何か隠し玉持ってるから。エネルギーを吸い取るみたいだ」

「こいつらが人造人間か」

「たぶん、おそらく、きっと、そうじゃないかな、うん」

 

歯切れが悪くなるのは猫の額よりさらに少ない原作知識によるものだ。人造人間か?と聞かれたらそうだけど、悟飯がわざわざ未来から忠告と協力しにやって来たのはこいつらの為なのか?と聞かれたら疑問符が出る。

 

「……なぜ、我々がここに現れるのだとわかった?」

「黙秘」

「ふん、力ずくで聞き出してみたらどうだ?」

「そうか、ならばそうしよう」

 

あっ、ヤバそうだこれ。

咄嗟に踏み込んで老人の目の前に躍り出る。そのまま腕を掲げて、発射されたビームを気をまとった剣で上空に弾き飛ばした。空中で明らかに建物を粉々にできるレーザーが爆発する。

セーフ!

 

「あっぶねえなお前!」

 

この隙に攻撃を仕掛けて来た太っちょはラディッツが、そしてビームを打った老人は悟空が迎撃してくれた。しかしここで戦っても今以上に被害が出るのは間違いない。

移動しないとな……いやマジでなんで街中に出現したんだお前ら。俺とか悟空を殺したいなら直接家に来いよ。インターフォン鳴らしてこい。

 

「マレビト!?」

「安心しろ生きてる!それから人造人間、場所を変えるぞ。お前らがこの辺を更地にしたいなら俺が全力で邪魔してやるよ」

「いいだろう、ついてってやろう。好きな死に場所を選べ、マレビト、孫悟空……」

「!な、なぜ悟空の名を……」

「調べたんだろ。元レッドリボンの科学者だ、ツテも技術も持ってておかしくない」

 

警察が集まってきている。ここに留まり続けるのは得策ではない。まずは悟空が空を飛んで、それから人造人間が後を追う。

に、しても。俺の名前が出たことに驚かれなかったのは先に俺が交戦してたからか、それとも既に俺の名前がそこそこ売れてるからか。後者だなきっと。

 

+++++

 

追いかけて行ったみんなを見送って俺は一人その場に残り、あの二人組がどこからやって来たのかの聞き込み。悟空が心配だけどラディッツとピッコロがいるし大丈夫だろうし。

しかし大して有益な情報は得られない。うーん、どうしたもんか。絶対あの二人、違うんだよなあ。けど根拠が大して鮮明でもない俺の前世の記憶っていう曖昧模糊もいいところなモノのせいで説得力に欠ける。

 

「マレビト!アンタ残ってたの!?」

「よ、ブルマ。まだいたのか」

「まあね。それより意外、孫くんたちと一緒に戦いに行ったんだと思ってた」

「あー、まあ、ちょっとな」

「何、悩んでるの?」

 

見抜かれた、か。こういう直感鋭いところあるよなブルマって。

 

「違和感がある。ただ、説明できない。悟空はラディッツがフォローに入れるし、どうせベジータも合流するだろうから、俺はいらんだろ?だからちょっと考えてたんだけどさ」

「アンタ、ごちゃごちゃ考えすぎなのよ。それをそのまま言えば良いじゃない」

「いや、それじゃ説得力ないから」

「マレビトがそう言ったってだけで説得力の塊よ」

「……そうか?」

「悩んでるなら私に話してみる?」

 

俺は別にこの世界に根ざした存在じゃないし、この前の超化の時にも思ったけど、思考回路があまりにこの世界に似合わない。だからなのか、俺の考えを理解してもらう為に考えをきちんと言語化するようにして来た。

なら、ブルマに相談するのも良いかもしれない。

 

「んー、なんかさ。違うんだよな」

「何がどう違うのよ」

「あの二人がサイヤ人に勝てる未来が見えない」

「……続けて」

 

モヤモヤが大きいなら、別の方向から整理してみよう。多分前世の記憶以外の部分にヒントがあるはずだ。

例えば、エネルギーを吸い取る技。あれ、フツーに俺でもできる。むしろワザワザ気を高めたり触れたり気功波にしないと吸収できないあいつらより、元気玉みたく遠距離で吸い取れる俺の方が上手だ。

 

「エネルギーを吸い取るなら、プラスαの一押しは他人に依存する。“その程度”の能力で、そもそもサイヤ人を殺せるのか。……と、いうか」

 

吸い取る力が本命なら、俺が最後まで残ってる筈ないんだよ。

俺の嫌気性症候群は、気を生み出せなくなる病だ。

他人に気を奪われれば、当然、死ぬ。

だというのに、俺が最後まで残ってたってことは、他人から気を吸収できる奴ではなく───

 

「……俺が奪ってなお継戦できる個体が本命か!」

「は?奪ってって何を……あっ、マレビト!」

 

地を蹴って空を飛ぶ。気の増大をヒントに全力で荒野に向かってまっすぐに。しかし流石は人造人間、気配が何もない。

北の山に到着したあたりで周囲を見回すと、目の前で一つの影が戦闘している光景が見えた。カラフルな色合いで背の低い、不気味な人型の生き物には見覚えがある。

 

「サイバイマン一族……いや、バイオーム人間か!」

 

そういやいたなそんな奴ら!当然こいつらもゲロの作品だろう、厄介な!剣を抜いて一度山肌に足をつける。一気に踏み込んで剣を振りかぶり、そのまま一体を葬った。弱点は特に変わってないな、いつも通りで良さそうだ。黒いフードを被った人影が驚いたようにこちらを振り向く。

 

「マレビトさん!」

「落ち着け、溶解液だけ気をつければ良い。状況は?」

「お父さんが心臓病を発症して、ヤムチャさんと一緒に離脱しました。ピッコロさんラディッツさんはゲロの捜索に邪魔なこいつらの巣を破壊に行っています!」

「自動で増殖するのか……?気を消す能力まで完備してるとは」

 

落ち着いて気を探ると、ごちゃごちゃした気配は三箇所ある。ここの近く、ラディッツがいる場所、ピッコロがいる場所。

ここまで沢山いると逆に好都合だ。

 

「あんまりやりたくないんだけどな、しゃーないか」

 

手を軽く上に向ける。離れた二箇所のバイオーム人間から死ぬまで気を搾り取る。そこそこまあまあ集まった生命エネルギーのうち半分以上を自分に蓄え、必要分だけを使い元気玉モドキを生成。そのまま巣に撃ち込めば、はい全バイオーム人間駆除完了。

なんかあっけなかった。

 

「……相変わらずですね」

「悪かったな!」

 

フードを取ってそんなことを宣ったのは、未来から来た孫悟飯だった。約束通りこの時代にやって来たらしい。生き延びていたようで何よりだ。それにしても。

 

「なんか、気の感知が難しくなったな」

「マレビトさんの技を真似してるんです。ほら、最初に過去に来たときはラディッツおじさんもお父さんもすぐには俺に気付かなかったでしょう」

「……そーいえば。俺は似たような技を使ってるから、耐性があったってことか」

「あの日は必要以上に混乱しないように使いました」

 

完全シャットアウトではないが、撹乱とかには使えそうだ。ホントにそれだけかは知らんけど。そんな話をしつつ俺たちはバイオーム人間の全滅を確認してからすぐに空に飛んだ。

上空から、概ね荒野が見下ろせる。死角になってる部分も多く、ここから見下ろしたところでわからないことも多い。

 

「マレビトさん、あの二人の人造人間……太った男と老人は、俺の言っていた人造人間ではありません」

「大丈夫分かってる。気付いたのさっきだけど」

「流石ですね。しかし、こうなってはどこにいるのか……」

「分かるだろ」

「え?」

 

未来悟飯がびっくりしたようにこっちを見た。そんな驚かなくてもいいだろ別に。

 

「落ち着いて考えろ。ゲロの立場になれ。シロウトが逃げ隠れたいならどうするかだ」

「は、はあ」

「まず、バイオーム人間の巣は三箇所。そして研究室は一箇所。科学者にとってとても大切な場所だ。さあ、どこに配置する」

「それは……まさか」

「ああ」

 

空から元巣の三箇所を見下ろした。三つを結べばトライアングル。地形に多少邪魔されつつも概ね綺麗な正三角形を描く。

ならば、研究所は───

 

「当然、ど真ん中だよな」

 

今度は空中を蹴って、狙いを一箇所に定める。

洞窟のある大きな岩肌。垂直に切り立った崖が見える。

さて、まずは威嚇と行こうか。屋根を突き破る勢いで突撃すれば、突き破れこそしなかったけど大きな人工の音が辺りに響いた。



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第五十九話

硬い、エネルギー弾とかアロンダイドとか使わないと駄目かな。簡単に壊せるとは思ってなかったけど思いの外硬度があった。が、どでかい音が響いたのと、未来悟飯が気を高めてくれたおかげで、散らばっていたみんなが集合してくる。

 

「マレビト、お前何やってたんだ」

「ちょっと考え事?未来で大暴れしてた人造人間はあの時の二人じゃないよなって」

「ああ、あの時の……気付いてたのか」

「まさか。これなら未来悟飯から直接聞いても大して変わらなかった」

「そんな話は後にしろ。どうやって中に入る」

 

しかし、建物自体が硬い。加えて全員人造人間のおかげで中の様子を探るのも一苦労だ。だが外壁が硬いなら内部は脆いと相場は決まっている。幸い俺は派手な動きをせずとも自分の位置を移動する手段を持っている。

 

「じゃあ俺が中から開けるわ。あとよろしく」

 

座標を指定して、瞬間移動で中に入る。こういう時に便利だよな。

中は、ごちゃごちゃと機械で埋め尽くされていた。こういうのはよく分からん。そして、人造人間が増えてた。

スタイリッシュなデザインの、男と女。雰囲気がかなり似通っている。米粒の半分以下の原作知識が一致した感覚に嘆息した。

これだ、人造人間。

 

「ふむ、わざわざ一人で乗り込んできたか、マレビト」

「どーも」

「さあ二人とも、先ずはあいつを殺せ」

 

ゲロはやけに自信満々だが、二人の意識は俺よりも、ゲロの手にしたなんかの機械に向いている。なんだろあれ、と俺も考えてると、背後のドアが吹っ飛ばされた。おい、俺が瞬間移動した意味。いやもう目的は達成したけどさ。

 

「マレビトさん!無事ですか!?」

 

未来悟飯がやたらと切羽詰まった声を出すので、生きてるよという返事の代わりに背後に向かって軽く手を振った。それに今ゲロが持ってるやつ、未来悟飯への対価になるかもしれない。

うん、ちゃんと未来悟飯に報いることができそうだ。ちょっとだけ肩の荷が降りた気がする。ちょっとだけ。

あとはあれだな。未来悟飯を生きて未来に帰さねば。

ただまあ、取らぬ狸の皮算用をしていても意味がない。さて、ゲロが手に持っているそれの正体をはっきりさせるか。

 

「なあDr.ゲロ。それ、なあに?」

 

あえてゆっくり含みを持たせて指差してみれば、ゲロが驚愕の表情で手元を振り向いた。

ビンゴ。

その隙をついて、17号がゲロからコントローラーを取り上げた。

 

「こいつは俺たちを緊急停止させるためのコントローラーだろ?もしもの時のために……」

「緊急停止コントローラー!?」

 

その言葉、否、情報の重要性は未来悟飯も気付いたらしい。17号が演技をしてまで奪い取ったという事実とその重要性。しかも俺たちを侮っているのにブラフを蒔く意味はない。今この瞬間は破壊されてしまうが、まあタイムマシン作った未来のブルマなら作れるだろ。

さて、これで未来悟飯への恩返しは終わった。あとはこいつら倒すだけか。

まあ人造人間、俺らに背を向けてゲロ殺した上に16号を起こそうとしてる訳だが。

 

「させるか!エクス……」

「か、め、は、め……」

「魔貫光……」

 

ゲロとの内乱はともかく、敵が増えるのはやってられん!

俺が剣を上段に構えたのとほぼ同時に、未来悟飯とピッコロもまた構えに入る。

 

「カリバー!!!」

「波ぁー!!!」

「殺砲ー!!!」

 

三つの閃光が真っ直ぐに人造人間たちに向かい、洞窟どころか山そのものが吹き飛んだ。爆発と同時に退避したが、クリリンにやるなら先に言えと言われたので素直に謝る。

いやでもほら、事前に言ったら避けられるし、そもそも奇襲かけても逃げられたし……。

 

「だめだったか」

「優先順位高く狙われてる身としては、さらに増えるとか流石にキツいぞ?」

「つまらんことをしたな」

「俺にとってはつまらなくないんですが」

 

ただでさえ貴重なリソースなんだぞ!

人造人間は何事か話し合ってから、俺の方に向かって来た。そりゃレッドリボン壊滅に密接に関わった俺を殺したいだろうね!

ありゃ、でもなんでまた。命令して来たゲロは殺してのに。

後でピッコロに聞くか。

 

「マレビト、俺たちはお前を殺す」

「させるか!」

「この俺を無視するな!てめぇらの相手はこのベジータ様だ!」

「ハッ、面白くなってきたな」

 

順番にピッコロ、ベジータ、ラディッツの発言である。とりあえず一対一の構造はできたけど、問題はエネルギーが無限なことだな。

よし煽るか。

 

「憎んでる生みの親が死んでもゲロの言葉にしか存在意義を見出せないのか。人造人間も大変だな、さっさと親離れしたら?」

 

言ってて自分に刺さった。

俺もまあ、前世の価値観に縛られることでしか存在を確立できない異物であるし。強さも技も、別の世界から引っ張ってきたものだし。

でもそれを見せたら負ける。他でもない自分自身に。負の感情に形を与えたら、それが自分に突き刺さるわけで。

 

「八つ当たりか使命感かは知らないけどさ。かわいそうに!」

 

心臓が握りつぶされたように痛い。人造人間に向けた心にもない言葉のはずなのにな。

いや、思ってもないことならそもそも浮かばないわなこんな言葉。

 

「アンタ、よっぽど死にたいらしいね」

「みたいだな。殺したいなら真っ先に殺してみろよ。俺以外の奴に八つ当たりなんてしないでさ。ま、できたらの話だけど……無理か。ヘタクソだもんなお前ら」

 

瞬間、三人の人造人間が全く同じタイミングで飛びかかってきて、それぞれベジータ、ラディッツ、ピッコロに受け止められた。それを確認してから適当に座標を設定する。

 

「じゃあな〜」

「マレビトさん!」

 

瞬間移動でどっか行こうとしたら、未来悟飯が慌てて俺に手を伸ばした。そして景色が変わり、そこは鬱蒼としげる山の中。ひときわ目立つオレンジ色の道着があった。

 

「なんて無茶をするんですか!?あれじゃマレビトさんを人造人間が狙って」

「あのな、そもそも人造人間の狙いは俺と孫悟空の二択だ。悟空が動き回れない以上、俺が囮になるのが最善だろ。あれだけ煽っとけば、真っ先に俺を狙ってくるだろうし、気を消す技もある」

 

要するに地球全体を使ったかくれんぼだ。保険として、下手に周囲を巻き込まないような煽りの内容にしてみたけど、どこまで通用するかは知らん。

巻き込むようなら表に出る。

 

「マレビトさん、あなたは未来でも同じように行動しました。人造人間たちが周囲を巻き込むことを厭わなかったため、あなたは常に正面に出ていた」

「あらま」

 

まじか。

 

「でも、時間稼ぎこそ俺の本分だぞ。最低限、悟空が復活するまでは動ける俺が」

「違うんです、だめなんですマレビトさん。だから、あなたが宇宙に去ったんです……身体が、戦えなくなるほどの限界を迎えたから」

「……え」

 

嫌気性症候群は一つの段階を迎えたと言っていい。ガンで言うステージは最大値に到達したと思っていたけども。

そう言えば、神龍は神様ができる範囲のことしかできないって、言ってたような。

まさか。

 

「……まさか、まだ先があるのか?この病気に?」

「はい」

 

未来悟飯は、この病気のことを知っていたらしい。だから俺を追いかけて来たのか。だから、同じく病気で倒れる悟空に俺のことを頼んだのか。

 

「臨界点はどのタイミングだ」

「わかりません……でも、戦っていたら、いずれ」

「……はー」

 

嘘だろおい。



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第六十話

病気にはまだ先がある、と聞いて、考えて、真っ先に思い浮かんだのは悟空のことだった。そういやすれ違ったせいであいつが倒れてから様子見てないや。

 

「未来の悟飯、俺これから悟空の家行くけど一緒にくる?実家だろ?」

「き、気にならないんですか?自分の体のことが」

「いや、俺の体の心配しても敵は待ってくれないしなるようになるだろとしか」

 

そこなんだよ。フツーに人造人間が俺に意識向けるように煽ったし、それを除いても敵が俺たちの事情を汲んでくれるわけがない。心配事だって一つじゃないのだ。

なら、解決できることから順番に潰すしかない。俺の体を心配する余裕が生まれるのはその後だろう。

 

「てか、できる範囲で悪化しないよう色々工夫はしてるし、それでもなっちゃったら、しょーがない!それに、そっちもお父さんのこと心配だろうし、お母さんにも会っておけ!」

「いや俺は……ちょっ」

「問答無用!」

 

前回颯爽と帰ったからチチに会ってないじゃん。あのあと、チチにだけは心臓病のこともあるし、未来から悟飯が来たんだよって話こっそりしたんだよ。悟空が微妙に隠しきれなかったってのもあるけど。

瞬間移動で悟空の家の前に立ったら、ヤムチャが出て来たところだった。追加でクリリンも駆けつけて合流した形になる。お、タイミング良い。

 

「よ、ヤムチャにクリリン」

「マレビトか!それに、悟飯……紛らわしいな」 

「未来悟飯で良いだろ。悟空の様子はどう?」

「え、マレビトさん?うわっ!」

 

そう聞きながら二人に目配せして、未来悟飯をドアの向こうに叩き込む。ついでに脛を蹴ってからヤムチャがタイミング良くドアを閉めた。家族水入らずの時間、よし。

 

「んで、クリリンはなんでここに」

「悟空を移動させようと思ったんですよ。武天老師さまの家から時間をかせげるはずですから」

「なるほど、それなら俺は離れてた方がよさそうだな。移動が終わったら家に待機してるよ」

「マレビトお前何やったんだ」

「煽った」

「お前命知らずだな……」

 

そんな感じの会話を三人でしてたら、話が終わった未来悟飯が悟空を背負って出て来た。おおう、悟空が息子に背負われてる……いや未来から来た息子だけど。昔、ジングル村に行く途中でお昼寝してたのを思い出してほっぺをつついてみたら割と硬い。あの時はもっと柔かったのにつまらん。ついでに悟飯もつついてみると同じ感じの硬さだった。

マジで、二人揃って育ったなこの親子。

そんな戯れを経て、現代の方の悟飯が合流してから、ヤムチャが運転する飛行機で武天老師、すなわち亀仙人の元まで移動する。

 

「マレビトさん、その」

「ん」

 

こっそりジェスチャーで、俺の体のことを内密にするよう頼むと、未来悟飯は素直に頷いた。少なくとも、悟空が復活するまでは、不安要素を増やすことはない……ん?

不安要素、まだあるよな?だってこの辺のボス、人造人間じゃないし。なんだっけ、セルだからゼルダかそんな感じの名前の緑のやつ。

そんな、どーでも良くないがどーでもいいことを考えてると、俺の持ってる通信機が鳴った。かけてきたのは、ブルマ?

 

「ブルマから電話来たからちょっと出る」

「スピーカーにしてください」

「ん、わかってる……もしもーし」

『マレビト!?アンタ今何処にいるの!?』

「亀仙人の家に向かってる最中」

 

今の状況の概要を話してから、ブルマの話を聞く体勢に入る。この時点で連絡してきたってことは、何かしら転換点に入ったってことだろう。

 

『そこに未来の悟飯くんいる!?』

「いる。何かあったか?」

『あったもなにも──』

 

ブルマが語って曰く、山奥にカプセルコーポレーションのマークが入ったおかしな機械がおっこちていたらしい。で、その機械が未来悟飯の乗ってきたタイムマシンにそっくりなんだとか。

ファックスで写真が送られてきたので、見せてもらう。

 

「な!?」

「これは……!」

「……んー?」

 

タイムマシンだ。苔むして長い年月が経過しているがまぎれもなく。卵形のガラス部分にでっかい穴が空いてるのと、足の部分がいくつか明らかに足りてないのが決定的だ。

しかし、この壊れ方は……。

 

「ま、間違いないです。これは俺が乗ってきたタイムマシンそのものだ」

「ブルマ、座標どこだ」

『詳しい位置は分からないけど、西の1050地区のどこかだと思うわ』

「分かった、探してくる」

「俺も行きます!この目で確認したいので」

「ぼ、僕も!」

「よし、じゃあ三人で出るか」

「二人とも気をつけるだよ!マレビトさ、頼むだ」

「任された」

 

ハッチを開けて三人で例の地区まで空を飛ぶ。うーん、荒野と森。こういう景色多いよな。ここに飛んだのも偶然とかそんな感じだろうな。

しばし目視で探していたら、悟飯が見つけたらしく大声で俺と未来悟飯を呼んだ。

ほぼ同時にブルマも駆けつける。ブルマは動きやすいよう帽子をかぶって作業着を着ていた。未来悟飯は隣に、カプセルと同じ形のタイムマシンを出して見せる。

 

「俺が乗ってきたタイムマシンと同じものです」

「あら!じゃあ確かにこいつはあんたのじゃない訳だ」

「マレビトさん、どう思いますか?」

「俺か。うーん……分からんけど、同じ型の別のタイムマシンってことはないのか」

「それはないと思います、ブルマさんはタイムマシンを一機しか作りませんでした」

 

苔を剥いで現れた機体の側面には、新品の方と同じサイン。筆跡も同じとみて良いだろう。

あと気になることと言えば。

 

「壊れ方が二種類あると思わないか」

「はい、上の方の大きな穴は、まるで高熱で溶けたような」

 

浮いて穴から運転席内部を見ると、埃だらけだ。未来悟飯がスイッチを押してカバーを開ける。機能自体は完全には死んでない、とな。

未来悟飯が調べたところ、エネルギーは空っぽ。やってきたのはエイジ788。未来悟飯の時代よりも更に後、九年くらい後か……。そして、到着先の時代設定は今から四年前。中にあったのはタマゴの殻のようなもの。

そして、不可思議な外傷。

 

「……逃げてきた?」

「その可能性はあると思います。俺の未来よりさらに先の時代で、タイムマシンを奪って」

「なんでタイムマシンごと消し炭にしなかったっていう疑問は残るがな」

 

そこはまあ、今考えることじゃない。

問題は、やってきたコイツが何者なのかってことと、多分敵ってことだ。

コイツだっけ中ボス。

周囲に何か痕跡残ってないかと軽く見渡すと、意図を察した二人の悟飯も同じように目を光らせて、小さい方の悟飯がヒントを見つけた。

 

「あ、あれ!」

「よしさすが」

 

あったのは、巨大な抜け殻だった。千年くらい宇宙を回ってたけど、この種族とは会ったことがない。初めて見る生き物だ。

コイツが、未来から来たのか?

 

「な、中身は、抜け殻から出て間もないぞ……!」

「!」

「ど、どう?正直言って、嫌な予感する?」

「かなり。ブルマ一旦帰った方がいい」

「わ、分かったわ!」

 

ブルマが飛行機で飛び立つのを見送ってから、カプセルに戻した二つのタイムマシンがちゃんとあるか確認。そして、二人の手を取って瞬間移動。

帰ってきたぜ亀ハウス。

 

「戻ったぞー」

「ただいま……」

 

ドアを大きめに音を立てて開けるのと、電話が鳴ったのは同時だった。さっき別れたブルマからの連絡らしい。言われるがままにテレビを付けると、人間が次々消えてるらしい?という情報が出てくる。さらにニュースを切り替えれば、何者かに襲われたレポーターの様子がテレビカメラに映っていた。

これかー!!!

 

「人造人間だ……!あいつらとうとうやりやがったな……!」

「多分違う。ちょっと様子見てくるわ。二人は説明よろしく」

「あっ、マレビトさん!」

 

手を離した状態で瞬間移動してジンジャータウンに。瞬間移動多発しすぎかなあ。でも実際急いで動き回らないと詰むしなあ。

ままならん。

適当なビルの屋上に立って、俯瞰風景を見下ろしながらゆっくり歩く。そうしてしばし観察しつつ元凶を探し回ってたら、緑色の大柄な生き物が二体、向かい合っていた。

一人目は俺のよく知るやつ、ピッコロ。二人目は抜け殻。

なるほど、こいつがソレか。



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第六十一話

ピッコロの気が変化している。これは、もしかして神様と融合したのだろうか。ナメック星でも融合してたし、神様とピッコロの先代の大魔王は元同一人物だし選択肢としてはアリっちゃアリか。

……稀人の知識、把握してそうで怖いなあ。

向かい合ってる生き物の方から、試しにバレない程度にエネルギーを遠隔で吸い取って解析してみると、やはり感じ取った気と同じだ。孫悟空、ベジータ、ラディッツ、ピッコロ、更にはフリーザやコルド大王といったものまで混じっている。

しかしこれでも完全体ではない、と。ピッコロが上手い具合に聞き出してくれた情報に頭が痛くなる。

あとどーでも良いけど、俺自身の気がまるで無いのは、常に気を消してるせいで「コイツ弱い」的な判断をされたのだろうかなんなのか。

 

「エクスカリバーはピッコロを巻き込むな……よし」

 

剣を下手に構えて、瞬間移動できるように意識を集中させる。生き物は、両手を体の前で独特の形に構えた。孫悟空が愛用し、俺が大昔に何度も真似た、かめはめ波の構え。

しかし、実際に放たれたそれの強さは大した事ない。これならかめはめ波そのもののフォローはいらない。必要なのはその先、ブラフの後。

 

「シッ!」

 

生き物がピッコロの背後を取った、その時を狙って瞬間移動で更に後ろを取る。剣を振りかぶって、突き刺した瞬間の尻尾をそのまま切り落とす。そのまま襟首を引っ掴んで後ろに転がって退避した。

よし、上手くいったな。

 

「助かった。しかし来ていたのか」

「散々ニュースで騒がれてた」

 

ピッコロと二人、並んで変な生き物と対峙する。相手は余裕綽々、では無い。しかし焦ってもいない。逃げ隠れして力を貯める、雌伏の時と割り切ってる、と考えて方が良さそうか。

つーか孫悟空ラディッツベジータといったサイヤ人が丸っと使われてるんなら、今の段階で強さに自信があるなら調子乗ってる筈だし。

 

「なあ、変な生き物。なんで俺の気はないのに他のたくさんの人たちの気はあるの」

「変な生き物ではない。私は人造人間だ。名をセルという。そして、お前はパワーレーダーに映らないほどの強さであるからして、細胞は不要だとコンピューターが判断した」

「…………」

 

必要にかられて気を消してるだけなのにそう言われるとなんかクッソ腹立つ!

イラっときたのを察してか、ピッコロがいい感じに色々聞き出してくれたのはありがたい。そして、タイムマシンでこの時代に乗り付けたのはやはり、こいつであるらしかった。んで、狙いは完全体になるために17号と18号を取り込むことと。

あー、なるほど。そう繋がるのか。

 

「それはやだな」

「なに?」

「17号も18号も俺を殺しにきてるのに、お前に吸収されてハイオシマイ、は嫌だ。あと単純にセルのことは嫌いだからお前に殺されたくないんだけど」

「どういう理屈だ」

 

そういや、どういう理屈なんだろう。俺もよくわかんないや。なんで人造人間のことは良くて、セルは駄目なのか。

多分、深く考えたらまずいやつだ。

そうしてたら、未来悟飯とクリリンまで駆けつけた。その隙をついて、セルは太陽拳を使って逃亡した。

やべえ、やらかしたかもしれん。慌てて飛び上がって上空から見下ろすも、どこに逃亡したかまるでわからない。海中を通った可能性も考えると……気を探っても、ソレらしきものはまるで無かった。むしろラディッツが近づいてきてるし、一歩遅れてベジータもいる。

 

「しまったな、やらかしたかも」

「お前がやらかすのは今更だろう」

「上から降ってきながら傷口抉るのやめて」

 

ラディッツに文句を言いつつ、二人のサイヤ人、更に遅れて天津飯が合流してきたので、概ね何があったのかを説明した。セルが完全体になりたがっているという説明に、二人のサイヤ人は対照的な反応だった。

具体的には、完全体になる前に倒そうぜ!って方針を肯定したのがラディッツで、反対したのがベジータだ。

……あれだな。ベジータはサイヤ人が宇宙一だっていう誇りがあってそれを証明するために完全体に勝利したくて、ラディッツはそもそも最強親父を間近で見たからそいつよりどう見積もっても弱いセルに大した拘りないんだろうな。

改めて、バーダックの奴どんな進化してんだか。

 

「マレビトさんは」

「俺は完全体にしなくて良いんじゃね、って方向に賛成。アレが得意げになるの腹立つ」

「私怨じゃないですか」

「あはは、まあな」

「チッ、せこい作戦ばかり立てやがって」

「俺に言われても今更としか。じゃ、俺は人造人間がいる可能性高いし一旦家に帰る。俺と人造人間ならお互い気を感じ取れないし、戦闘になっても感知するのに時間稼げるだろ」

「気をつけろ……死ぬなよ」

「頑張って逃げ惑うから大丈夫。セルはよろしく」

 

相手がどんな判断をするのかは置いといて、情報を渡すに越したことはない。少なくともいざという時に相手が何を狙ってるかで戦術の幅は変わってくるし。

そんなわけで、とりあえず筋斗雲を呼んでのんびりと空を走って自宅に到着。畑とかは無駄に荒らされたりはしてなかっだけど、足跡はあって、器用に鍵だけ壊されたドアの向こうでは偉そうに足を組んだ17号、そして立って待ち構えていた16号18号がいた。

 

「お揃いなようで。出迎えもできず悪いな。お茶とコーヒーどっちが好き?」

「何?」

「腰を落ち着ける場所もないんだろ?じゃあ殺し合いの前に茶の一つくらい飲んでけばいいのに。なんかあったっけ……」

 

唖然とする三人に背中を向けてキッチンの戸棚をいじる。たしか仕事の関係者からもらったクッキーの詰め合わせがここに……お、あった。

やっぱり貰い物で普段はあまり使わないティーセットがあったので、紅茶を淹れてクッキーを並べて置いた。俺もなんか疲れたので、配膳終わらせてから、マグカップに紅茶を淹れて飲む。

うーん、まあまあ。

 

「毒でも盛ったの?」

「フツーに仕事してて毒なんて常備しないから。フリーザと一緒にしないでくれ。つーか毒なんぞ入れてないのはそこの16号が分かってんだろ」

 

指差してやると、やはり穏やかな表情の16号がその通りだと頷いた。二人は顔を見合わせてから、そしてお互いティーカップを手に取ってクッキーを食べた。

 

「ま、お茶を出したのは多少下心あってさ。ちょっと連絡というか、情報共有しときたいのさ」

「情報共有?」

「未来から、セルとかいうゲロが作ったなんかようわからん生き物が来襲してる。目的は完全体になるために、人造人間17号と18号を吸収すること」

 

ピクリと二人が反応した。セルという未知の人造人間に対してか、吸収という言葉か。

 

「この俺に逃げろってか?」

「さあ、その辺は好きにすれば?俺、三人の保護者でも制作者でもないし。個人としては吸収されたら困るから情報だけ渡してるってだけ」

「自分を殺そうってやつに対して、呑気だね」

「別に俺、セルは嫌いだけど、三人は嫌いじゃないし」

「なぜだ」

「へ?」

「なぜだ、と聞いている」

 

いや、二度言わんでもいいじゃんか。ちょっと待って考える、というか感情に形をつけて言語化するから。

うんうん悩んでる間、三人は俺に攻撃を仕掛けるでもなくじっと待っていた。注目度たっか。

 

「ああ、んー、なんつーか」

「…………」

「俺はレッドリボン軍を孫悟空と一緒に潰したから、孫悟空と二人並んでお前らの殺害対象に入ってる。けどセルは俺の気がパワーレーダーに映らないから、細胞の吸収対象から外した」

「つまりどういうことだ」

「お前たちは俺を仲間はずれにしなかった。だから嫌いじゃない。セルは俺を仲間はずれにした。だから嫌い。バーダックと孫悟空は大好き。サイヤ人が好き。ナメック星人が好き。地球が好き。神様は一部除いて嫌い」

「それだけか?」

「それだけ」

 

言語化すると案外単純というか、子供っぽい理由ではある。しかし俺にとってはそうそう譲れない価値基準であるのも確かだ。

人造人間はしばし黙っていたが、やがて立ち上がると俺に攻撃を仕掛けることもなく扉を開けた。

 

「殺さないのか?」

「お前を殺したところで、喜ばれちゃ意味がない」

「人をドMみたいに言わんでくれないか」

 

そうして、三人はいなくなった。後には紅茶が飲み干されたティーカップと、食べ終えたクッキーの包装が綺麗にまとめて置いてあった。

地味に律儀だな。



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第六十二話

なんとなく気が抜けた、というか虚をつかれたというか。

とにかく、予想外に何もなかった邂逅が終わったのでとりあえずティーカップを洗って食器かごの中に伏せて置いた。なんだったんだあれ。

情報伝えつつ生還するっていう目的は果たしたし、まあいい……のだろうか。

中途半端に残ったクッキーはもったいないしカメハウスに差し入れに持って行こう。本当なら土産として押し付けたかったんだけどいなくなったし。

 

「おーい、筋斗雲」

 

遥か上空で待機してた筋斗雲がひゅうっと飛んできた。悟空は筋斗雲は本当に平和な時に趣味で使う程度にとどまっているが、空を飛ぶ力すら可能な限り節約する俺にとってはいまだに現役だ。こういう非常事態でさえも。

とりあえず筋斗雲に乗っかって大きく背伸び。それから目的地を告げて、あとは任せる。

 

「セル……セルなあ」

 

前世ではいっとき、毎週日曜日にドラゴンボールを見ていたが、一番印象的なのがセル?編だったのだろう。覚えてるキャラクター一番多いし。

ただ、どうして印象的だったのだろうか。なにか、特別で心に残るシーンがあったのかな。

思い出せない。何もわからない。そもそも、俺はドラゴンボールのファンでもオタクでもない。たまたま、日曜日の午前中にアニメが放送されてたから見ていただけの話なのだから。

大体、ドラゴンボールファンなら、こちらに迷い込んだ時点で気付いている筈だ。バーダックなんて顔が悟空とそっくりなんだし。

それでも、俺は孫悟空に出会うまでドラゴンボールというフィクションそのものを忘れていた。俺のドラゴンボールの関心と知識なんてその程度だ。

人造人間のときはたまたま原作知識が活きたけど、これ以上は期待しない方が良いだろうな。

そんな感じで、カメハウスまでやって来た。

 

「ども、これ中途半端なあまりだけど」

「マレビト、無事だったか!」

「よくわかんないけど生きてる。あ、これ開封済みで悪いけどクッキー。あとなんか進展あった?」

 

亀仙人にクッキーの箱を渡しつつ、大雑把に状況を説明するとピッコロやヤムチャが大袈裟に顔を顰めた。それと正反対に、亀仙人は何か納得するように頷いた。気になるけど、今はとりあえず置いとこう。まずピッコロの話を聞かないと。

 

「ラディッツが神殿でポポに精神と時の部屋の使用許可を求めに行った」

「精神と時の部屋?」

「一日で一年が経過する部屋だ。今は使えないようにポポが管理しているからな」

「なんでまたそんなに厳重管理を」

「『サイヤ人、いつまでも精神と時の部屋に入りたがる。だめ』らしい」

「サイヤ人の習性をよく理解してらっしゃる」

 

まあ流石に譲歩というか、落とし所は出してくれるだろう。状況が状況だし。

俺は、邂逅の時に積極的に狙われない的な意味の話をされたとはいえ、割とガッツリ煽ったので念のためセルには接触を控える、そして時期を見て精神と時の部屋に入る、で良いだろう。

しんどいだろうけど俺だって修業したい。これで最後の修業になるかもしれないんだし精神と時の部屋入りたい。

 

「引き続き、17号18号が不必要にセルと接触しなくていいように、俺はセルとの戦闘を避けるからよろしく頼む。精神と時の部屋の目処立ったら教えて」

「……ああ」

「歯切れ悪いな、なんかあった?」

「いや、マレビト。お前は……」

 

そこまで言って、ピッコロは首を横に振った。言いたければ言えば、とは言えない。言葉にする事で目を逸らしていた事柄を直視する羽目になったりするし、それって結構キツイよね。

 

「マレビト、お前さんにとってそのコートはなんじゃ」

「なんでいきなり」

「なに、未来から来た悟飯が、黒いマントを『マレビトさんの真似』と言っておったものでな。ジジイの興味じゃよ」

「うん?まあ、虚勢と見栄と強がりだけど」

 

ほんの少しでも立っていられる時間が増えるように。立っているだけで精一杯な自分がバレないように。

少なくとも、セルも人造人間も“ラスボス”ではない以上、ここで力尽きるのはダメな気がするから。

 

「大丈夫なのか?」

「頑張って大丈夫にしてるのが今。そんなことより今は人造人間とセルを考えろ。俺も逃げ隠れしつつゆっくり休むからさ」

 

じゃあな、と手を振って筋斗雲に乗り込む。家にはあまり帰らない方がいいかもしれない。どこに隠れようかなあ、悟空の昔の家に掃除に行ってもいいかもしれない。

 

+++++

 

……あー、セルのところに行きたいぶん殴りたい叩き斬りたい、けど人造人間の狙いを俺優先に移した?から我慢がまん。完全体に進化されるのがいちばん怖いから。

そして、精神と時の部屋の使用目処が立った。具体的には、一人二日まで!っていう制限付きで解放された。そんなに厳密にしなくても、不老不死のバーダックとかじゃないとあっという間に老けるから入り浸ったりしないよ。多分。

……ここで多分って付くから、ポポも信用しないんだろうなあ。

 

「で、どんな順番で入るの?」

『まずはベジータが入ると言っていた。そして悟空と悟飯、ラディッツと未来悟飯、俺とお前だ』

「あ、俺は一人で入るから」

『何?』

「たぶん、というかほぼ確実に集中を削ぐことになるから」

 

ちょっと精神と時の部屋の活用方法を考えたんだけど、そしたらまあ確実に一緒に入ってる人の邪魔になる。なら一人でいい。

 

「死にはしないから」

『本当だな』

「うん」

 

通信機を切って改めて一人になる。暇ださびしい。くそー昔は一人が当たり前だったのに。慣れって怖いなあ、でも俺、死んだらまた一人ぼっちになるんだよなあ。やだなー、天国にも地獄にも行けず生まれ変わりもできず魂のままどっかその辺に放置だろ?今からこえーわ。

よし、頑張って死なないようにしなければ。

筋斗雲と戯れて暇を潰しつつ、気を吸収してお昼寝。セルの気も吸収しようか悩んだけど、あそこまで強いと吸収するスピードが人間捕食して補充するスピードに勝てない。

つまりイタズラに犠牲者を増やすだけで終わりそう。このやろ。

 

「そもそもなあ、完全体に進化する前に倒し切った後にドラゴンボール使えば一発解決だよなあ。がんばれみんな」

 

そんな感じで隠れ住みながら何日か経った。ラジオで状況を把握しつつ、悟空が復活したこととか、色々と聞く。悟空も復活した。よしよし、とりあえず完全体になるのと悟空が死ぬのは防げそうかな。

と、思ってたら。

 

「……おあ、セルと人造人間が戦ってないかコレ」

 

やべえ、慌てて気の位置から場所を割り出して瞬間移動する。そこではピッコロ、セル、人造人間の三人が揃い踏みしていた。

 

「うーん、まずいなこれ」

「まずいだと?俺が負けると思っているのか」

「試合と勝負の勝ちは別だよ。逃げ隠れする奴に完全勝利はとても難しい。少なくとも17号の性格にセルは相性悪い」

 

独断と偏見だけど間違いではない筈だ。目の前の勝利に拘泥しては足元を掬われる。自分の弱さを自覚した奴は案外めんどくさい。逃げ隠れの一手とか、特に。

自己評価というか、自分でやってきたから言えることではあるけどさ。

 

「さて人造人間、俺とセル、倒したいのどっち」

「あのみにくい妖怪野郎だ!」

「だめか」

 

これで打ってきた手が頓挫した。仕方ない。

剣を抜いて構える。これで逃げてくれたら御の字だったのだが、こうなったらここで倒すしかないだろう。

まあ、すげー強化されてて勝てる気がしないのだが、今はすでにベジータが精神と時の部屋に入っている。合流も時間の問題だ。

つまり、お得意の時間稼ぎという奴だ。得意分野である。

さて俺とセル、どっちの性格の方がセコいかな?



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