仮面ライダーW/L・R (キャメル16世)
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オリジナルドーパント 設定

※随時更新

※他にも欲しい情報があれば感想にて教えてください。

※ネタバレ注意

※現在45話までのネタバレあり



第1話〜第3話「Jは暗殺者 」

①ジャッカル・ドーパント『 JACKAL!』

 

使用メモリ:ジャッカルメモリ

解説:「ジャッカルの記憶」を内包したガイアメモリ

 

容姿:全身が黄金色の毛で覆われ、少し大きめの耳を持つ。

 

能力:手から出る鋭利な2本の爪であらゆるものを切り刻む能力を持つ。また、その鍛え抜かれた俊敏性により肉眼では感知できないほどのスピードを発揮する。

 

正体:葛原柊一 29歳。プロの陸上選手だったが、ある日事故に遭い足を負傷。まだ走りたいという気持ちが高まり、ジャッカルメモリを使用し、ドーパントへと変貌した。

 

 

②ジャック・ドーパント『 JACK!』

 

使用メモリ:ジャックメモリ

解説:「支配の記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:胸に基板のような模様があり、機械的な印象も受けるが、幻想的な雰囲気も醸し出す不思議なオーラ基スカーフを纏っている。腰にはドライバーが装着されているが、ガイアドライバーとは別物のようだ。

 

能力:対象を乗っ取り、操ることが出来る。能力発動時の条件は不明だが、左翔太郎は二度にわたって奴の能力を体感している。

 

正体:???

 

 

 

第4話〜第6話「Wを守れ!」

③ウォーシップ・ドーパント『 WARSHIP!』

 

使用メモリ:ウォーシップメモリ

解説:「軍艦の記憶」を内包したガイアメモリ

 

容姿:軍艦の前部を両手に装着している。肩、膝、背中にも大砲の銃口が着いている。

 

能力:全身のあらゆる部分から砲弾やミサイルを発射できる。また、身体を変形させて船型の姿になり空中を浮遊することも可能。後部にあるブーストで加速する事も出来る。

 

正体:若倉和真 34歳。不治の病で倒れた妻を守る為メモリを使用し、ウォールナット殺害の依頼を受けた。尚、今回の変身が最初であり、後遺症はそこまでは酷くなかった。

 

 

 

第7話〜第9話「Hの正体」

④ホーネット・ドーパント『 HORNET!』

 

使用メモリ:ホーネットメモリ

解説:「スズメバチの記憶」を内包したガイアメモリ

 

容姿:スズメバチを模した身体に少し大きめのアゴと翼がある。また、右腕には毒針を発射する器官もある。

 

能力:右腕から発射した毒針は2発で相手を死に追い殺る。また、その硬い装甲はメタルの攻撃ですら凌駕する。

 

正体:樋口裕隆、ボディビルダー。挫折を味わったがアラン機関から授けられたホーネットメモリで人生逆転を目論んでいた。

 

 

 

第10話〜第12話「勝敗はMで」

⑤マーキュリー・ドーパント『 MERCURY 』

 

使用メモリ:マーキュリーメモリ

解説:「水銀の記憶」を内包したシルバーランクのガイアメモリ

 

容姿:全身が水銀に覆われたような見た目で、右腕は歪な形をしており、左腕はサイボーグに近い印象を受ける

 

能力:自身の身体を液状化する事も硬化する事も出来る。また、身体から排出された水銀の塊から硬化させた水銀で突かせることも出来る。副作用として、メモリブレイク後に水俣病のような症状が現れた後に絶命する。

 

正体:水元美奈子、元DAの技術部員。歪んだ正義感の持ち主で、DAに利用されているリコリスの命を断絶する事でリコリス達を解放させようとしていた。

 

 

 

第13話~第15話「休日のT」

⑥トラップ・ドーパント『 TRAP!』

 

使用メモリ:トラップメモリ

解説:「罠の記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:身体の所々に微笑む顔の仮面と嘆く顔の仮面が張り付いている。その表情は罠に掛けた人と掛けられた人の表情を表していると思われる。

 

能力:テリトリー内に入り込んだ対象を落とし穴に落として作り出した亜空間(胃袋の中)に転送させる事が出来る。脱出するには変身者を嘔吐させるしか方法はない。仮にメモリブレイクしても亜空間の中に取り残された人達は戻らない。

 

正体:谷口哲郎、フードファイター。動機は不明だがトラップメモリを使って水族館を襲った男。メモリの暴食能力に耐えられたのも、彼の胃袋の大きさに比例しているからと思われる。

 

 

⑦ガーデンイール・ドーパント『 GARDEN EEL!』

 

使用メモリ:ガーデンイールメモリ

解説:「チンアナゴの記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:チンアナゴの容姿に酷似している。大きなギョロ目が特徴的である。

 

能力:土、砂などの柔らかい地面に隠れる事が出来る。しかし、石やコンクリートなどの硬い地面には隠れる事が出来ない様子だ。

 

正体:テロリストの男

 

 

 

第16話~第18話「おかえりA」

⑧サイレント・ドーパント『 SILENT!』

 

使用メモリ:サイレントメモリ

解説:「無言の記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:全身に口と人差し指を立てた手に酷似しているモールドが施されている。

 

能力:周囲の音をかき消す事が出来る。これにより相手の耳に入ってくる情報を一切遮断する。また、高速で移動することも可能で、無音の中を縦横無尽に駆ける事が出来る。

 

正体:ジン。ミカとは旧友の仲であり、現在は暗殺者。事件の2週間前に謎の女から松下の暗殺を依頼され、その時に先払いの大金と同時にガイアメモリを託された。

 

 

 

第19話~第21話「進撃のR」

⑨マシンガン・ドーパント『 MACHINE GAN!』

 

使用メモリ:マシンガンメモリ

解説:「機関銃の記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:全身プロテクターのような装甲に覆われ、頭部は真っ黒でまるで覆面のような造形。手が機関銃のような形になっていて、背中にも何本かの機関銃を背負っている。

 

能力:全身のあらゆる箇所を機関銃に変換、装備する事が出来る。銃口からは強力な弾丸を放つ事ができ、無制限に撃てる。

 

正体:真島。地下鉄襲撃事件、リコリス襲撃事件の首謀者にして、千束の命を狙ったテロリスト。メモリの入手経路は不明。

 

 

 

第22話~第24話「Sとの関係α」

⑩スパーク・ドーパント『 SPARK!』

 

使用メモリ:スパークメモリ

解説:「閃光の記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:全身に稲妻のような模様があり、頭部は線香花火の火種のような見た目で、周りに火花が散っている。

 

能力:閃光の如く物凄いスピードで行動する事が可能であり、攻撃時に強力な電撃を与える事が出来る。突発した能力はないが、それ故のシンプルさに弱点を見つけさせないという特技がある。

 

正体:スピードスケーターの金メダリスト。アラン機関の支援によりガイアメモリを授けられたと思われる。

 

 

 

第25話~第27話「Sとの関係β」

⑪マンティス・ドーパント『 MANTIS!』

 

使用メモリ:マンティスメモリ

解説:「蟷螂(カマキリ)の記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:カマキリに酷似している見た目で、大きな複眼に大きな鎌を腕に生やしている。背中には大きな羽根を持っている。

 

能力:腕の鎌による斬撃攻撃能力、背中の羽根による飛翔能力。更に腕の鎌にエネルギーを溜めて鎌形のエネルギー弾を放つ事もでき、エネルギー弾はブーメランのように不規則な軌道で進む。

 

正体:正体不明の男。メモリブレイクの反動でメモリの毒素が全身を巡り死に至っている。

 

 

 

第31話~第33話「永遠のIを」

⑫イヴィ・ドーパント『 IVY!』

 

使用メモリ:イヴィメモリ

解説:「ツタの記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:全身が緑のツタで覆われたような見た目で、頭部のツタの隙間からは黄色い眼が覗いている。

 

能力:腕の先端からツタを伸ばし、相手にムチ攻撃及び拘束する事が可能。

 

正体:大道克己率いるテロ組織「NEVER」の一人。事件当日は侵入者を阻む為、風都タワーの入口でスカルと一戦交えたが、戦いの末敗北。メモリの毒素によりそのまま死亡している。

 

 

 

第34話~第36話「Zを振り切れ」

⑬ボルテージ・ドーパント『 VOLTAGE 』

 

使用メモリ:ボルテージメモリ

解説:「電圧の記憶」を内包するシルバーランクのガイアメモリ

 

容姿:ボディスーツを身に付けたような見た目で、身体には赤や黒い線が入っている。腰にはアランドライバーを装着している。

 

能力:対象に触れるだけで高圧力の電流を流し込む事が出来る。電圧は自由に変化可能で、目的に応じて使い分けている。

 

正体:姫蒲。吉松シンジに従うアラン機関の女。彼女はこの能力を活かして錦木千束の心臓に電流を流し、メモリを排出させその後に再び心臓を動かすという荒業を行った。

 

 

 

⑭ハート・ドーパント『 HEART 』

 

使用メモリ:ハートメモリ

解説:「心臓の記憶」を内包したゴールドランクのガイアメモリ

 

容姿:姿形は人間そのもの。

 

能力:ペースメーカーのような役割を果たす。特殊な方法による攻撃の有無は不明。

 

正体:錦木千束。10年前、人工心臓移植手術を行う際に不具合の起こした心臓を正常に戻す為に、吉松シンジ、ミカの手によって身体に挿入された。

 

 

 

第40話~第42話「Dの囁き」

⑮ダイヤモンド・ドーパント『 DIAMOND!』

 

使用メモリ:ダイヤモンドメモリ

解説:「ダイヤモンドの記憶」を内包したガイアメモリ

 

容姿:ジュエル・ドーパントに酷似しているが、全身の宝石は水色に輝き、身体の白と黒の色合いが反転している。

 

能力:指先からダイヤの粒子を放出させ攻撃する。また、ジュエルよりも強固な防御力は、ヒートメタルの攻撃でさえも跳ね返す。

 

正体:一般人が変貌した姿。全ての指に宝石の指輪を填めたいかにも成金のような人物が変貌していた。

 

 

 

⑯インジャリー・ドーパント『 INJURY!』

 

使用メモリ:インジャリーメモリ

解説:「傷つける記憶」を内包するガイアメモリ

 

容姿:全身を刃物で傷付けられたかのような造形があり、その要所要所から赤い体液が漏れ出ている。

 

能力:どんなに硬いものでも傷を付けることが出来る。

 

正体:一般人が変貌した姿。変身者は過去に家族が殺された事件がリコリスに揉み消されたと勘違いをし、リコリスに歯を向けた。

 

 

 

第43話~第45話「救世主Y」

⑰ハートエクストリーム『 HEART 』

 

解説:ハート・ドーパントのエクストリーム態。本来のハートメモリの能力を遥かに凌駕する力を手に入れた。

 

容姿:黒を基調とした身体に赤と青のライン。開花した赤い花の中央に頭部が存在し、まるで彼岸花を彷彿とさせる。

 

能力:自身の周りにバリアを張り、あらゆる攻撃の動きを止める事が出来、更にはそれを跳ね返す事が可能。手から放つ赤い淡いオーラで相手を捕縛、攻撃する事も可能。

 

正体:吉松シンジが自身の胸に移植したエクストリームメモリの作用により変化したハート・ドーパントの究極の姿。

 

 

 

⑱スカル・ドーパント『 SKULL!Up grade!』

 

使用メモリ:スカルメモリ

解説:ガイアメモリ強化アダプタによって3倍にも能力が増大したスカル・ドーパントの進化態。

 

容姿:下半身の無い巨大な骸骨。がしゃどくろのような印象を受ける。

 

能力:変身者の暴走により特殊な能力は不明だが、痛みを感じないという特性は現在のようだ。

 

正体:吉松シンジが変身したことにより暴走。荒れ狂う骨の塊となってしまった。

 

 

 

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オリジナルフォーム 解説

※随時更新

※他にも欲しい情報があれば感想にて教えてください。

※ネタバレ注意



オリジナル次世代型ガイアメモリ

 

①セラピーメモリ『 THERAPY!』

 

・説明

「治療の記憶」を内包するピンクカラーのガイアメモリ。

使用者の状態異常を回復させる力がありその質は無制限。

しかし、それにより莫大なエネルギーを必要とする為、戦闘には不向きとされている。

 

・主な使用者

→左翔太郎&フィリップ/仮面ライダーW

 

・このアイテムを使って変身する仮面ライダー

→未使用

 

・このアイテムを使用した仮面ライダー

→仮面ライダーW

 

 

②ドリルメモリ「 DRILL!」

 

・説明

「ドリルの記憶」を内包するオレンジカラーのガイアメモリ。

ドリルボディと共に専用武器のドリルクラッシャーも同時に生成し、勇敢なる戦士を生み出す。

 

・主な使用者

→左翔太郎&フィリップ/仮面ライダーW

 

・このアイテムを使って変身する仮面ライダー

→仮面ライダーW サイクロンドリル

→仮面ライダーW ヒートドリル

→仮面ライダーW ルナドリル

 

・このアイテムを使用した仮面ライダー

→未使用

 

 

③パイレーツメモリ『 PIRATE!』

 

・説明

「海賊の記憶」を内包するシアンカラーのガイアメモリ。

水を操る能力が手に入る。また、海賊特有の「波を読む」にちなんだ、荒波戦法やしなやかな攻撃など変幻自在な攻撃パターンを再現出来る。

 

・主な使用者

→左翔太郎&フィリップ/仮面ライダーW

 

・このアイテムを使って変身する仮面ライダー

→仮面ライダーW パイレーツジョーカー

→仮面ライダーW パイレーツメタル

→仮面ライダーW パイレーツトリガー

 

・このアイテムを使用した仮面ライダー

→未使用

 

 

 

④ニンジャメモリ「 NINJA!」

 

・説明

「忍者の記憶」を内包するパープルカラーのガイアメモリ。

ニンジャボディと共に専用武器のニンジャソードも同時に生成し、神速なる忍びを生み出す。

 

・主な使用者

→左翔太郎&フィリップ/仮面ライダーW

 

・このアイテムを使って変身する仮面ライダー

→仮面ライダーW サイクロンニンジャ

→仮面ライダーW ルナニンジャ

 

・このアイテムを使用した仮面ライダー

→未使用

 

 

 

⑤リコリスメモリ『 LYCORIS!』

 

・説明

「彼岸花の記憶」を内包する朱色のガイアメモリ。

このメモリの使用者は死に対する恐怖が軽減する。攻撃一つ一つが弾けるように爆散し、花のように広がる。

 

・主な使用者

→左翔太郎&フィリップ/仮面ライダーW

 

・このアイテムを使って変身する仮面ライダー

→仮面ライダーW リコリスリコイル

 

・このアイテムを使用した仮面ライダー

→仮面ライダーW サイクロンジョーカーゴールドエクストリーム

 

 

 

⑥リコイルメモリ「 RECOIL!」

 

・説明

「反動の記憶」を内包する紺色のガイアメモリ。

リコイルボディと共に専用武器のリコイルマグナムも同時に生成し、栄光なる反撃者を生み出す。

 

・主な使用者

→左翔太郎&フィリップ/仮面ライダーW

 

・このアイテムを使って変身する仮面ライダー

→仮面ライダーW リコリスリコイル

 

・このアイテムを使用した仮面ライダー

→未使用

 

 

 

⑦ゼロメモリ「 ZERO!」

 

・「無の記憶」を内包する漆黒の特殊形状のガイアメモリ。

既存のアクセルメモリのプログラムに無のプログラムパッチをあてることにより、あらゆるものを無に帰する力を与える。

非常に危険なメモリであり、並の人間なら変身時の「ゼロシグナル」に到達した時点で死に至るが、照井竜はそれを乗り越え、更なる進化を得た。

 

・主な使用者

→照井竜/仮面ライダーアクセル

 

・このアイテムを使って変身する仮面ライダー

→仮面ライダーアクセル・ゼロ

 

・このアイテムを使用した仮面ライダー

→未使用

 

 

 

オリジナルフォーム

 

 

*仮面ライダーW サイクロンドリル

サイクロンメモリとドリルメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

ドリルクラッシャーに風を纏わせ更なる回転をかけることで強力な攻撃を撃つ事が出来る。

 

必殺技:ドリルトルネードストリーム

ドリルクラッシャーとドリルメモリを使用して発動する技。

ドリルクラッシャーに大量の風のエネルギーを纏わせ、竜巻を思わせる軌道の攻撃を放つ。

 

 

 

*仮面ライダーW ヒートドリル

ヒートメモリとドリルメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

ドリルクラッシャーに炎を纏わせ高熱のドリル刃であらゆるものを貫く事が出来る。

 

必殺技:ドリルスマッシュレイン

ドリルクラッシャーとドリルメモリを使用して発動する技。

ドリルクラッシャーに炎のエネルギーを纏わせ、螺旋状に広がったエネルギーを相手に放って攻撃する。

 

 

 

*仮面ライダーW ルナドリル

ルナメモリとドリルメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

ドリルクラッシャーのドリル刃を自在に操り、ドリル刃を飛ばしたり巨大化させる事が出来る

 

必殺技:ドリルギガントスパイク

ドリルクラッシャーとドリルメモリを使用して発動する技。

ドリルクラッシャーが巨大化し、強力な回転斬撃で相手を粉砕する。

 

 

 

*仮面ライダーW セラピードリル

セラピーメモリとドリルメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

ドリルクラッシャーのドリル刃には治癒の能力が備わり、相手に攻撃と回復を同時に行う。また、セラピーメモリの力により、自身の再生能力が格段に上昇している。

 

必殺技:ドリルメディカルニードル

ドリルクラッシャーとセラピーメモリを使用して発動する技。ドリルクラッシャーによる攻撃の後、ドリル刃の先から治癒のオーラを相手に流し込む。

 

 

 

*仮面ライダーW パイレーツドリル

パイレーツメモリとドリルメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

ドリルクラッシャーから放たれる渦潮のようなオーラが敵を翻弄、攻撃する。

 

必殺技:ドリルメイルストローム

ドリルクラッシャーとドリルメモリを使用して発動する技。

ドリルクラッシャーに纏われた水のエネルギーが巨大化し、巨大な渦潮のような激流を生み出しそれを相手に放つ。

 

 

 

*仮面ライダーW パイレーツジョーカー

パイレーツメモリとジョーカーメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

ヒートとは対象的な水の能力を得たW。肉弾戦では戦いの波に乗りながら攻撃するという荒業を披露する。戦況はメモリの調子によって変わる為必ずしも有利に立てるとは言えない。

 

必殺技:ジョーカートーレント

マキシマムスロットにジョーカーメモリを装填して発動する技。

半分に分裂したダブルが水流に乗りながら相手に突っ込みダブルパンチを繰り出す攻撃。

 

 

 

*仮面ライダーW パイレーツメタル

パイレーツメモリとメタルメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

メタルシャフトに纏う水のエネルギーが海賊旗のように変形している。攻撃時は水圧の力で攻撃力が上がる。

 

必殺技:メタルアックスドロップ

メタルシャフトとメタルメモリを使用して発動する技。

メタルシャフトに纏う水のエネルギーが(いかり)のように変化し、それを大斧のように振り回して攻撃する。

 

 

 

*仮面ライダーW パイレーツトリガー

パイレーツメモリとトリガーメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

水の能力を得たダブルが射撃によって相手を怯ませることが出来る。尚、トリガーマグナムから放たれる光弾は水爆弾のように破裂する性質を持つ。

 

必殺技①:トリガートルピード

トリガーマグナムとトリガーメモリを使用して発動する技。

トリガーマグナムから魚型の光弾を放つ攻撃。光弾の威力はトリガーフルバーストより上だが、追尾の精度は少し低い。

 

必殺技②:トリガーバットサーチャー

トリガーマグナムとバットショットとパイレーツメモリを使用して発動する技。

トリガーマグナムにバットショットを装着し、見えない敵を魚群探査機のような機能で見つけ出す力がある。

 

 

 

*仮面ライダーW ルナニンジャ

ルナメモリとニンジャメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

手裏剣型の光弾、分身、身代わり、変幻自在な能力で相手を攻撃みならず翻弄する事が出来る。

 

必殺技:ニンジャエンシェントアート

ニンジャソードとニンジャメモリを使用して発動する技。

7体に分身したダブルがニンジャソードに紫のエネルギーを纏わせ一斉に斬り掛かり攻撃する。

 

 

 

*仮面ライダーW サイクロンニンジャ

サイクロンメモリとニンジャメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

ニンジャ特有の身体能力とサイクロンの神速の能力が兼ね備えられ、目にも留まらぬ速さで攻撃・防御・回避を得意とする。

 

必殺技:ニンジャライトニング

マキシマムスロットにニンジャメモリを装填して発動する技。

風の抵抗が無に近い状態で進行し、敵を一閃する。

 

 

 

*仮面ライダーW ヒートニンジャ

ヒートメモリとニンジャメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

逆手に持たれたニンジャソードの刃には炎を纏い、攻撃時は回転しながら斬撃を与える。

 

必殺技:ニンジャカートンバン

ニンジャソードとニンジャメモリを使用して発動する技。

ニンジャソードの刀身から噴射される炎を利用して高速回転しながら相手に連続斬りで攻撃する。

 

 

 

*仮面ライダーW パイレーツニンジャ

パイレーツメモリとニンジャメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

水遁の術のように、液状化させた地面に潜ることが出来る。地中から迫る時はニンジャソードの等身を水面から覗かせサメのように近付いて行く

 

必殺技:ニンジャスイトンザブン

ニンジャソードとニンジャメモリを使用して発動する技。

地中に潜ったWが相手に徐々に近付き、勢い良く飛び出て斬撃を与える。

 

 

 

*仮面ライダーW リコリスリコイル

リコリスメモリとリコイルメモリを用いて変身した仮面ライダーW。

 

弾丸の一つ一つが敵に当たると花のように広がり爆散する。リコリスメモリの作用により死に対する恐怖が軽減し、リコイルメモリの作用により反撃の精神が加速する。リコイルマグナムは常にバレルユニットを上げた状態で装備する。

 

必殺技:リコイルアライブ

リコイルマグナムとリコイルメモリを使用して発動する技。

大きな反動と共に巨大なエネルギー弾を放ち攻撃する。

 

 

 

*仮面ライダーエターナル グリーンフレア

真島がロストドライバーとエターナルメモリを使用して変身した姿。

 

腕の炎のグラデーションがエメラルドグリーンに輝くエターナル。マックスジャケットは装着しておらず、エターナルローブのみ装備している。

「エターナルバレット」と呼ばれるマキシマムスロット搭載のハンドガン型の武器を用いて戦う。

 

必殺技:エターナルエメラルドレクイエム

他のガイアメモリの力を一時的に弱める力がある。これは真島がエターナルメモリとの適合率が低い事が原因とか考えられ、力が完全に発揮出来ていない為である。

 

 

 

*仮面ライダーアクセル・ゼロ

照井竜がアクセルドライバーとゼロメモリを使用し変身した姿。

 

変身時はゼロメモリを装填するとアクセルの赤い装甲が黒くなり、ゼロメモリから現れた鎖がアクセルの全身を強く縛る、「ゼロシグナル」へと変身した後、ゼロメモリのゼロバイザーを下げるとその鎖が解放され、同時に装甲が砕けるように新たな姿へと変身する。アクセルトライアルよりもスタイリッシュで、複眼のヘッドライトは黄金色に輝く。

 

必殺技:ゼロアウェイカー

右脚に纏わせた鎖を、相手に飛び蹴りを放つ事で解放。鎖のサークルに縛られた相手に、後ろ回し蹴り繰り出す。

 

 

 

オリジナル技

 

仮面ライダーW ファングジョーカー

 

*ファングバイティングストライザー

ファングメモリとジョーカーメモリを使用して発動する技。

ファングとジョーカーのツインマキシマム。右足首からは白い刃が、左足首からは黒い刃が飛び出す。それを駆使する斬撃を兼ね備えた回転キック技。

 

 

 

仮面ライダーW サイクロンメタル

 

*メタルハリケーンスロー

メタルシャフトとサイクロンメモリを使用して発動する技。

風を纏わせたメタルシャフトを投擲のように投げ飛ばし攻撃する。

 

 

 

仮面ライダーW ヒートメタル

 

*メタルオーバーフロー

メタルシャフトとヒートメモリを使用して発動する技。全身に炎を纏わせたWがその炎が燃え尽きるまで相手に突き攻撃を繰り出す。

 

 

 

仮面ライダーW サイクロンジョーカーゴールドエクストリーム

 

*ダブルリコリスエクストリーム

リコリスメモリとエクストリームメモリのツインマキシマム。ダブルプリズムエクストリームの動きとほぼ同様だが、連続蹴りの後、1度飛び上がり強烈なドロップキックを放つ。キックの一つ一つが小爆発を起こすような衝撃を起こし、相手に隙を与えない。

 

 

 

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他に抜けている事があれば教えてください。


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人物紹介

ネタバレにならない程度に各々の細かいキャラクター設定を書いてみました



登場人物

 

file.1 (ひだり)翔太郎(しょうたろう)

 

幼き頃からこの風都に住まう青年。風都を自分の庭と言い張るほど風都を愛しており、同時に多くの人に愛されている。鳴海探偵事務所の私立探偵であり、これまでに幾多もの事件を解決してきた。人探しに猫探し、猫糞被害まで広い範囲で活躍している。

自身はハードボイルドな探偵を目指しているが、その優しさと甘さ故に周囲の人間からは親しみを込めて「ハーフボイルド」と呼ばれている。

そんな彼は数年前に自身の師匠であるおやっさんこと鳴海荘吉を失い、同時に組織に囚われていたフィリップと出会う。それをきっかけに組織と戦う為、仮面ライダーWへと変身しガイアメモリに取り憑かれた悪人達から風都を守っている。

喫茶リコリコには度々訪れ、千束やミカ、ミズキとは顔馴染み。また、ミカの事は「マスター」と呼ぶ。

10年前の『風都タワー事件』を間近で目撃し、その際に初めてリコリスと対面している。

 

 

file.2 フィリップ

 

相棒の左翔太郎と共に鳴海探偵事務所で私立探偵をしている青年。そんな彼は体内に「地球(ほし)の本棚」と呼ばれる、あらゆる事象を検索し、それを本という形で閲覧出来る能力を備えている。数年前まではそれを組織にガイアメモリの生産に利用されていたが、鳴海荘吉によって救われ、フィリップという名を与えられたあの日から、彼は自分の意思で決断するという生き方を教わり、翔太郎と共に仮面ライダーWになって自身の罪を償う事を決意する。

性格に難ありで、時折「地球の本棚」に潜っては日常にある些細な疑問でさえも何時間も掛けて解き明かしたい衝動に駆られるという欠点を持つ。この性格には左翔太郎も何度も悩まされて来た。

普段から外出は控えている為喫茶リコリコに行く事は少なかったが、リコリスと関わりのある事件をきっかけに通うようになる。リコリスの事は懸念しており、Wをドーパントと同様の扱いをする彼女等を警戒していた。

 

 

file.3 錦木(にしきぎ)千束(ちさと)

 

喫茶リコリコの看板娘の一人。翔太郎同様幼少期から過ごして来た風都をたいへん気に入っており、その中でも自身の恩師であるミカと作り上げた店は特別感を持っている。性格はとても明るく、やって来る客に対してもフレンドリーに接客する。そのアグレッシブな態度から、その性格に癒されに来る客も少なくは無い。

そんな彼女は日本が秘密裏に運用する組織、「DA」のエージェント「リコリス」の一人。朱色の制服はファーストリコリスの証であり、彼女の特徴として至近距離から放たれた弾丸でさえもいとも簡単に避ける事が出来る。一説によれば、10年前の『風都タワー事件』を収めた一人のリコリスこそが、彼女であるという噂がある。

彼女の心臓は機械で出来ており、「アラン機関」という組織から支援を受けた事が判明している。鼓動はなく、月一のメンテナンスも欠かせない。

 

 

file.4 井ノ上(いのうえ)たきな

 

喫茶リコリコの看板娘の一人。彼女もリコリスの一人であり、紺色の制服はセカンドリコリスの証。風都にやって来たのは1年前、 京都から転属して来ていた。だがある日の作戦中、ドーパントに人質にとられた仲間を助ける為マシンガンをぶっ飛ばして後々スタンドプレーと見なされDAを追い出される。結果リコリコに転属となり、千束と共に看板娘として働き始めた。

普段は落ち着きのある合理的な性格で、喜怒哀楽に乏しくですます調で淡々と話す。自分のやりたいようにやり、手段を選ばない方法をとるなど良識に欠ける部分がある。

仮面ライダーの噂は京都にいる時から知っており、風都に於けるガイアメモリ犯罪が加速する中で初めてその姿を目にする。翔太郎になにか惹かれるものがあるらしく、その事で度々千束からちょっかいをかけられる。

 

 

file.5 鳴海(なるみ)亜樹子(あきこ)

 

鳴海探偵事務所の所長。数年前に翔太郎らに立ち引きを要求すべく大阪から風都にやって来た。ガイアメモリ犯罪の実態や仮面ライダーの正体を知ってからは彼らをサポートするようになる。おおっぴらで脳天気な性格で、その明るい性格は行き詰まった彼らを度々救っている。また、常識を超えた行動力と柔軟な発想力により、事件解決の糸口を幾度となく見つけている。彼女もまた、鳴海探偵事務所にはなくてはならない存在だ。

過去に実父の鳴海荘吉と喫茶リコリコとのいざこざがある事を知った時から、リコリコに訪れるのを躊躇っていた。しかし千束やたきなとの関わりの中で、徐々に心を開いていく。

 

 

file.6 ミカ

 

喫茶リコリコの店長。翔太郎からは「マスター」と呼ばれ慕われている。彼の作るコーヒーは絶品であり、風都では彼のコーヒーを楽しみに来る客も少なくない。ただ十数年前までは上手く作る事が出来ず、開店当初はコーヒーの出品を行っていなかった。風都をこよなく愛しており、時折鳴海探偵事務所に依頼を頼む事がある。常にロフストランドクラッチを使用しており、仮面ライダーに関する話題を拒んでいる。

実際は元DAの訓練教官で、千束の父親的存在。DAからの連絡を受けて千束に仕事の指示を出す現場指揮官としての役割もになっており、喫茶リコリコをオープンした最大の理由が街に支店を置くことであった。

 

 

file.7 中原(なかはら)ミズキ

 

喫茶リコリコの店員で、婚期を失った女性。客の有無に関係なく昼間から晩酌をしながら婚活雑誌を読み漁るのがルーティン。今でも理想の彼氏を探し求めており、イケメンに貪欲。千束との付き合いは長くまるで友達のように接し、互いに心を許している。ミカの事は「おっさん」と呼ぶ。

翔太郎とは腐れ縁の中で、互いにいじりあったり慰めあったりする事がある。仮面ライダーに対する興味は薄く、実際に会うと興味を持つ。

実際は元DAの情報部員であり、リコリコに来てからは千束のサポートに徹している。自動車の運転はもってのほかヘリコプターの操縦が出来る意外と高い能力を持つ。

 

 

file.8 クルミ

 

ネット黎明期から噂になっている伝説のハッカー、「ウォールナット」の正体。見た目は幼く見えるが年齢不詳。ウォーシップ・ドーパント率いる謎の集団な命を狙われたところを、千束や仮面ライダーに救われている。同時にDAからも命を狙われてるが、喫茶リコリコで匿うこととなり、現在では店員に扮している。度々来るフキやサクラには毎回オドオドする。

「無知は嫌い」というのが彼女のモットーらしく、なんでも知りたいという部分ではフィリップと似た部分がある。仮面ライダーに関しても調べてはいるがその実態には迫れていない為、翔太郎達はヒヤヒヤしながら彼女と接している。

彼女は知識をインターネットで得る事を得意とし、自前のパソコンでサイバー戦も得意としている。

 

 

file.9 楠木(くすのき)

 

DA司令部の司令官。ミカとは互いに信頼関係にあり、リコリコへ度々事件の依頼を行っている。翔太郎とは顔見知りであり、再開した際は互いに嫌味を言う仲であり、過去に鳴海荘吉との関わりもある様子。非常に合理的且つ無慈悲な性格で、ガイアメモリ犯罪者に対しては慈悲を与える様子を全く見せない。仮面ライダーの正体も追っており、ガイアメモリを使用する『怪人』を捕縛しようと躍起になっている。

 

 

file.10 ロボ()

 

自称、ウォールナットに次ぐ天才ハッカー。ウォールナットの訃報を受けた後は、自身を風都一のハッカーと称しテロリスト集団に手を貸す。アラン機関との関わりがあり、吉松シンジからは信頼を得ている。

真島に協力するようになってからは、真島に怯えながらも任務遂行の為全力を尽くす。

 

 

file.11 真島(まじま)

 

風都タワー事件、地下鉄襲撃事件、サードリコリス殺害など一連の事件を引き起こしたテロリストグループの一人。日本に入国した雇われテロリスト達が失踪する理由の究明とその解決の為、打倒DAを目的としている。千束がアランチルドレンと知ると、千束に執着するようになり、同様に仮面ライダーにも興味を持つようになる。

あらゆるものに於いて「バランス」をとる事を重視しており、DAが風都を支配しているような光景を見て、「バランス」を取るためにアラン機関の支援を受けてテロ行為を繰り返す。一方で同じアランチルドレンである千束とは通じ合うものがある。

 

 

file.12 照井(てるい)(りゅう)

 

風都署超常犯罪捜査課の課長として活躍する青年。組織との戦いが終わった後に鳴海亜樹子と結婚し幸せな家庭を築いている。過去に家族がウェザー・ドーパントに殺害された事件がDAによって情報統制され揉み消されたことをきっかけにDA基リコリスの存在をドーパント並に憎んでいた。が、千束やたきな、ミカとの関わりの中で心を許し、徐々に信頼関係を築いている。仮面ライダーアクセルへと変身し、その正体をミカに知られたことにより一度風都から追放されているが、単身赴任期間を抜け出し数年ぶりに風都に戻って来た。以降は風都を守るもう一人の仮面ライダーとして翔太郎やフィリップと協力しドーパントに立ち向かって行く。

 

 

file.13 吉松(よしまつ)シンジ

 

喫茶リコリコに度々訪れるビジネスマン風の男性。ミカの旧友であり常連客となっており、千束からは「ヨシさん」と呼ばれ懐かれていた。

正体はアラン機関のエージェントの一人。千束を支援した張本人であり、正体を隠したまま千束と接している。千束の事を「最強の殺し屋」として育てる事を目標としており、その責任をミカに任せていた。「優れた才能は世界に届けなければならない」という持論に従って「殺しの天才」である千束にアラン機関の支援で人工心臓を移植した。

真島にガイアメモリの支援も施しており、真島と千束を戦わせて殺しの才能を開花させる事が目的である。

 

 

file.14 鳴海(なるみ)荘吉(そうきち)

 

左翔太郎の師匠であり、鳴海探偵事務所初代所長。既に故人であり、左翔太郎やフィリップに大きな影響を与えた人物である。自他共に認めるハードボイルド探偵だが、コーヒーを淹れるのが苦手というお茶目な一面を持つ。10年前から風都で噂されていた「骸骨男」、仮面ライダースカルへと変身し、人知れず市民の命を守って来た。

10年前の風都タワー事件にて、テロリスト集団と退治し、風都タワー半壊という悲惨な結果とはなったものの、その他の街への被害は最小限に収めることが出来た。だが、世間では風都タワー半壊の犯人が仮面ライダーと決めつけられ、彼の跡を継いだ仮面ライダーWがDAから狙われる原因を作ってしまった。

千束と深い関わりを持っているが、当の本人はその事を覚えておらず、その過去を知っているのはミカと吉松シンジのみのようだ。

 

 

file.15 春川(はるかわ)フキ

 

DAに務めるファーストリコリス。たきなの元パートナーであり、千束とは犬猿の仲。千束を含め周りの仲間の事をよく観察しており、乱暴な言動ながらも生真面目で仲間思いな性格をしている。作戦を実行する上での責任感は誰よりも強く、他のリコリス達を常に引っ張っている。仮面ライダーを捕縛対象として見ていて、捕獲する作戦を考案しては楠木に報告している。

 

 

file.16 乙女(おとめ)サクラ

 

DAに務めるセカンドリコリス。フキの現パートナーで、左遷されたたきなを見かける度に煽りを繰り返している。野心家で、功績を挙げてファーストになりたいという密かな夢を持つ。一方フキには懐いている様子で、仕事一辺倒でもないお調子者。仮面ライダーに対する興味は薄く、功績が上がるのならばと、捕獲作戦に積極的になる。

 

 

file.17 蛇ノ目(じゃのめ)エリカ

 

DAに務めるセカンドリコリス。メモリ取引の現場でジャッカル・ドーパントに人質に取られてしまい、たきなが転属する原因を作った事を悔やんでいる。

素質なのか、彼女はよくドーパントの被害に遭う事がよくあり、翔太郎とも何度か遭遇している。



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第1話「Jは暗殺者/事件は唐突に」

大きな街が動き出す前の
静けさが好き

平和で安全
綺麗な風都

日本人は基本意識が高くて
優しくて温厚

法治国家日本
その中の風都には
危険などない

社会を乱す者の存在を許してはならない
存在していた事も許さない

消して消して消して
綺麗にする

危険は元々無かった
平和は私たち日本人の基質によって成り立ってるんだ

そう思える事が一番の幸せ
それを作るのが私たち、リコリスの役目

なんだってさ!



『風都』

この街では小さな幸せも大きな不幸も、常に風が運んでくる

俺の仕事はその風に耳を傾け、小さな幸せを守ってやる事だ

 

「……今日もいい風が吹くなぁ…この街は」

 

俺の名は左 翔太郎

極めてハードボイルドな、私立探偵だ

 

 

 

仮面ライダー…

その名が知れ渡ったのはおよそ10年前からだ

 

おやっさん…

俺の師匠の鳴海荘吉が仮面ライダースカルへと変身したことにより、この街には骸骨男の噂とガイアメモリの噂が持ち切りとなった

 

しかし、ある日

その噂は忽然と流れなくなった

まるでその話をすると祟が起こるかのように、全員が口を塞いだ

 

それからというもの、この風都からはガイアメモリや仮面ライダーといった噂が消え、街のみんなの記憶からも消え去っていた

 

「……この街も、随分と平和になったな」

 

ガイアメモリ…

ある組織によってばらまかれた、USBメモリのような見た目の悪魔の道具

それを身体に刺してしまうと、メモリの中に内蔵された膨大なデータが体内に流れ込み、人間を超人…いや、怪人に変えちまう代物だ

今はその組織は壊滅、街の中にばらまかれたガイアメモリもかなり数が減っていると思うが…

 

 

 

俺は風都の中心に大きく建つ『風都タワー』を見つめた

少し高いここから見れば、夜景と共に最高の景色が拝める

 

「……ん?」

ふと、視線を下にやると

何人かのベージュ色の制服を着た女子高生が身を屈めながら何個かのグループに別れて何処かに向かっていた

 

「…女子高生…?こんな時間に何やってるんだ?」

 

何一つ確かな情報は分からないが、何か嫌な予感を感じて俺は高台から降りて俺の愛車のバイク、ハードボイルダーに乗り込み、ヘルメットを被りエンジンをかける

夜道をバイクで走っていると

傍で爆発が起きた

 

「…だぁっ!」

 

突然の事でびっくりした俺はバイクを止め、ヘルメットを外した

 

「なんだぁ!?」

 

次に見えたのは、猫のような狐のような容姿を兼ね備えたドーパントが街中を颯爽と走っていくのと、それを先程の女子高生たちが追いかけているという構図だった

 

「…あの子たち…どういう事だ!?」

俺は再びバイクを走らせた

 

何か、悪い風が俺を急かせた

 

 

 

第1話「Jは暗殺者/事件は唐突に」

 

 

 

「グラァァ!」

「きゃっ!」

「チッ…近付くな!リコリス共!こいつがどうなっても良いのか!?」

「……」

「……くっ…まずい!」

彼女の名は春川フキ

ファーストリコリスとしてアルファ1のリーダーとして指揮を執っていたが、リコリスの1人である蛇ノ目エリカが人質に取られてしまっていた

 

「…おらおらぁ…早く逃げねぇとこいつの首根っこが俺の爪で切り刻まれるぞぉ〜?」

「…チッ…バケモノめ!」カチャ

拳銃を構えるフキ

しかし、無線が入りDAの司令官である楠木から命令が入った

 

『発砲は許可出来ない…千束を待て』

「司令部!千束が居なくても私たちで出来ます!射撃許可を下さい!」

『……』

「…司令部…司令部!」

「……どぉしたぁ?怖気付いたかぁ?…なら俺はここで退散させて……っ!?」

「…っ!たきな!?」

「……」

彼女の名は井ノ上たきな

セカンドリコリスの彼女だが、司令部の許可を無視して

マシンガンをドーパントに向かって連射したのだ

それも、人質がいるのにも関わらず…

 

「がぁぁぁぁあ!……この糞ガキ共がぁ!」

怒り狂ったドーパントは人質であるエリカを襲った

 

「エリカァ!」

フキの叫び声と、たきなの放つ銃声の残音が響く

 

「……」

「……」

「……ヘヘッ…俺様の邪魔をするからいけないん…だ…?」

ドーパントは不思議に思った

自分は女の身体を切り刻んだ筈だ

しかし、煙が晴れた時見えたのは

地面で気絶している無傷の女だった

 

「…ど、どういう事だ!?」

「『こういう事だ!』」

「…っ!?」

「ぐわぁ!」

突如、ドーパントの顔面を黄緑色の右腕が殴った

と思えば、今度は黒色の左足が出て来てドーパントを襲った

 

「……まさか…あんた…!?」

「……っ」

「…き、貴様ァ!何者だァ!?」

「『…仮面ライダーダブル…それが俺たちの名だ』」

「……俺()()?」

たきなは不思議に思った

更に煙が晴れた先に見えたのは、左右で色が違う1人の超人だったからだ

 

「やっと現れたなぁ!ジャッカル・ドーパント!」

『君の事は既に検索済みさ…』

「『……さぁ…お前の罪を数えろ!』」

 

 

1週間前

 

「……一瞬で首が?」

「あぁ…この間更に犠牲者が出た」

「……またドーパント絡みの事件か」

「…翔太郎くん…いつものように頼めるか?」

「…もちろん、この街は俺の庭だ!誰一人、涙を流して欲しくねぇ……俺はこの街の笑顔を守る、探偵だからな」

「…フッ…相変わらず頼もしいな」

 

俺は行きつけの喫茶店を後にし、鳴海探偵事務所へと帰って来た

 

「…ただい…まぁ!?」バコッ!

帰ってくるなり、後頭部にスリッパで叩かれた衝撃がした

 

「何すんだよ亜樹子ォ!」

「何すんだよっ!じゃないわよ!ま〜たあのお店行ってたんでしょ〜?」

「良いだろ別に!俺がどこに行こうと俺の勝手だろ!」

「…あれ?あれあれあれあれ?ここの所長は誰だかお忘れかなぁ?」

「……クッ…!」

「はい、ご唱和ください?ここの所長の名前はぁ?」

「…な、鳴海荘吉の娘である、鳴海亜樹子様です…」

「そう!せいかーい!よう出来ました!」

 

彼女の名は鳴海亜樹子、鳴海探偵事務所所長で、おやっさんの血の繋がった娘だ

ある日この街に来た亜樹子は俺たちをここから追い出そうとしてた

ここに来てフラストレーションがMAXまで溜まったようだ

 

そんな風にいつも通りのじゃれあいをしていると、事務所の横にある部屋のドアからあいつが顔を覗かせた

 

「…おかえり、翔太郎」

「おう…フィリップ、早速頼みたい事があるんだが──」

「すまない翔太郎!それは出来ない」

「…は?何でだよ、なんでそんな事急に……まさかお前!?」

「今ちょうど、今川焼きと大判焼きの違いを検索していたところなんだ!地方によってどうしてこんな差が生まれてしまったのか……興味深い…ゾクゾクするねぇ…!」

「……あーー…嘘だろぉ?」

こいつの名はフィリップ

俺の相棒であり、かつて組織に囚われていたところをおやっさんに助けられ、この探偵事務所で匿うことにした

今は追っ手もないから安全だが

こいつは一度暴走すると本当に収集がつかなくなる

何度この性格に悩まされた事か……

 

こいつに言う事を聞いて貰う方法はただ1つ

 

「…なるほど、今川焼きと大判焼きの全てを閲覧した!」

「…ふぁ〜…よし、それじゃあ早速始めようか」

「…あぁ」

フィリップは手を広げて目を閉じた

 

今こいつは「地球(ほし)の本棚」という脳内空間にダイブして地球に刻まれたあらゆる知識を得る事が出来る

つまり、フィリップの中には地球の全てが詰まっている

それが本棚という形で表れ、フィリップはそれを閲覧することによって知識を得ている

 

ただ、さっきみたいに知識が偏りすぎているのもあり

そして本人は興味を持つとそれ一筋になってしまう

フィリップの興味が引くまで、俺がフィリップを待つ必要があるんだ

なかなか厄介な相棒だろ?

 

「…検索を始めよう」

 

 

「…首が一瞬で切断される事件?」

『あぁ、今探偵にその調査を頼んでいる所だ』

「…あぁ〜…あの半人前の小僧かい」

『…彼もいい大人だ、いつまでもそう言ってやるな』

「…ま、私はこの事件を未然に防げたら…それでいいけどね」

『……千束にこの事は伝えるか?』

「……いざとなれば彼女の力を使わせてもらいたい…頼めるか?」

『わかった』ピッ

DA司令官、楠木は渋い声のするスマホを取って通話を終了した

 

「……リコリスの出番だ」

 

 

 

「……はぁ…」

「どうしたの?先生」

「…千束か、少し話がある」

「…ん?」

喫茶リコリコの店長で黒肌のイケボな中年であるミカは

錦木千束に今回の事件のあらましを伝えた

 

「え〜!?またドーパント出るの!?」

「既に被害者も出てるんだ、早急に対処しなくちゃならん」

「それ私じゃなくても良くないですかぁ〜?他のリコリスに頼めば……それに…」

「……それに…?」

「…どうせ、あいつが助けてくれるんでしょ?仮面ライダー…」

「よせ千束…その名を口にするな」

「……さーせん」

「……事件を一旦整理して話そう…およそ2日前──」

 

 

 

「南町の外れで、首が惨殺された死体が見つかる。首はまるで鋭利な刃物が切りつけたような感じで、とてもじゃないが人間業じゃねぇ」

『…キーワードは、鋭利』

 

 

 

「この事件はDAによって隠蔽され、事故死と判断されたが……監視カメラの映像を見ると…」

「……」

 

 

 

「明らかに何かが超高速で首を切りつけていた…」

『…次のキーワードは、超高速』

 

 

 

「……そして現場には、殺した人間の血で文字が書かれていた…」

「…うわぁ…酷いねぇ…」

 

 

 

「「JKは、JがKOROSHITA」…笑えねぇダジャレだぜ」

『……最後のキーワードは、ダジャレ…』

「それはキーワードじゃない!」

 

 

 

「……」

「…待って!?殺されたのってリコリスなの!?」

「…そうだ…そのせいでDAは今躍起になってる。一刻も早く犯人を殺したいと…」

「…まぁ…身内が殺されたら黙っちゃいないよね〜あの人は」

「……そこでだ…次に奴が現れたら、お前も現場に向かってくれないか?」

「……ん〜…先生の頼みなら聞きたいけどぉ…DAの言いなりにはなりたくないだよなぁ〜…」

「そこを頼む…お前だけが頼りだ」

「……わかったよ…わかりましたぁ!」

 

 

 

『…最後のキーワードは、J』

「…どうだ?」

『……ビンゴだ』

 

「Jから始まり高速移動が可能で、かつ鋭利な爪を持っている…敵はおそらく「ジャッカル」のメモリの使用者だ」

「…ジャッカルメモリか…まだこの街に知らないメモリが存在したとはな」

「敵は目にも留まらぬ速さで移動する事が可能だ、何かしら対策を考えておかないと、戦闘では不利になるかもね」

「…そうだな」

「……で、どうするんだい?」

「…なにがだ?」

「この依頼、受ける?それとも受けない?」

「……もちろん受けるさ!…この街の誰かが泣くのは、これ以上御免だからな…」

俺はダブルドライバーとジョーカーメモリを持った

 

「…おやっさんから託された想いに掛けて、この街は俺が守る」

「…翔太郎、そこは「俺」ではなく…「俺たち」だと思うが?」

「……ハッ…そうだな…俺たちで守るぞ」

「…あぁ!…僕たちは二人で一人の探偵だからね!」

 

 

「…あの子たち…どういう事だ!?」

俺はハードボイルダーを操縦しながらダブルドライバーを腰に巻き付けた

 

「フィリップ!奴が現れた!予想通りジャッカルっぽいぜ!」

『了解した』

「じゃあ、いつもみたいに行くか!」

『勿論だ!』

 

『CYCLONE!』「JOKER!」

 

「『変身ッ!』」

 

ダブルドライバーの右サイドにサイクロンメモリが転送されてくる

俺がそれを奥まで差し、ジョーカーメモリを差し込んだ

ドーパントを展開させると、ドライバーがWの文字を表した

 

風都の風を受けながら、俺たちは仮面ライダーダブルへと変身した

ハードボイルダーの速度を上げ、ジャッカルを追いかける

 

 

 

「がぁぁぁぁあ!……この糞ガキ共がぁ!」

「エリカァ!」

「……ヘヘッ…俺様の邪魔をするからいけないん…だ…?」

「……っ」

「…ど、どういう事だ!?」

「『こういう事だ!』」

「ぐわぁ!」

「……まさか…あんた…!?」

「……っ」

「…き、貴様ァ!何者だァ!?」

「『…仮面ライダーダブル…それが俺たちの名だ』」

「やっと現れたなぁ!ジャッカル・ドーパント!」

『君の事は既に検索済みさ…』

「『……さぁ…お前の罪を数えろ!』」




次回

第2話「Jは暗殺者/喫茶店の女神」

これで決まりだ!


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第2話「Jは暗殺者/喫茶店の女神」

皆さんお気付きかもしれませんが、ダブルの世界観とは少し違っています
舞台は風都ですが、世界観はリコリス・リコイルの世界観を採用しています
「仮面ライダーW」「風都探偵」などを見ている人からしたら、二人のルーツも原作とは少し異なるので、混乱してしまうかもしれませんが、ゆっくり馴染んでいってくれると嬉しいです
まだ見切り発車てますが、着いてきてくれると嬉しいです

あと、今回は少し長めです



「はぁ!おりゃ!」

「ぐっ…!くわぁ!」

「どんどん行くぜぇ…!」

「ぐわぁぁぁ!」

「ジャッカル・ドーパント」はダブルが放ったパンチによって吹き飛んだ

 

「ぐっ…貴様が…仮面ライダーか…!」

「俺の事知ってるのか?」

『だったら僕たちの恐ろしさも重々承知の筈だろ?』

「大人しくメモリを渡せ!」

「…くっ…断る!」

ジャッカルは超高速で動き、ダブルの周りを旋回した

 

「…がぁっ!」

『…翔太郎!?』

「…くそっ…綺麗に左半身に攻撃しやがって!」

 

「METAL!」

 

サイクロン!メタル!

 

ダブルの左半身が黒から銀色に変わり、仮面ライダーダブル サイクロンメタルに変化した

背中からメタルシャフトを取り出し旋回しているジャッカルに打撃を加えた

 

「グワァァ!」

「…さぁ〜てと、お仕置きの時間だ」

メタルシャフトには風のエネルギーが反映され、打撃と斬撃の2連続での攻撃が可能となる

更にサイクロンメモリにより摩擦抵抗が軽減され、シャフトを打ち込むスピードも上がる

 

「がァァ!」

『…さぁ、メモリブレイクだ!』

「あぁ!」

 

メタル!マキシマムドライブ!

 

メタルシャフトにメタルメモリを装填する

シャフトに風のエネルギーが最大限に反映させる

 

「『メタルツイスター!』」

ダブルは回転しながらジャッカルの元に飛び込む

 

「…くっ…ふっ!」

「なにっ!?」

しかし、ジャッカルはダブルの攻撃を避けた

 

「こんなところでくたばってたまるか!」サッ!

「あっ!……くそっ…逃げられたぁ!」

『サイクロンを上回るスピード…興味深い…』

 

メタルシャフトを元に戻して帰ろうとした時

 

「待てっ!」

「『……』」

フキがダブルに拳銃を向け

他のリコリスも同様に銃口を向けた

 

「……なるほど、君たちがリコリスか」

『地球の記憶に干渉する厄介な連中だ…翔太郎、ここは一旦引こう』

「…あぁ、そうだなっ!」

ダブルはメタルシャフトを思いっきり地面に叩き付けた

 

「っ!」

ダブルの周りには砂埃が舞った

リコリスは見えなくなった標的(ターゲット)に向けて発砲する

 

「…くそっ…!逃げられた!……探せ!まだ近くに──」

『深追いは禁物だ、フキ』

「司令部…!……しかし…!」

『またいずれ現れるだろう…またその時捕らえればいい』

「……はい…わかりました」

『……それより…』

「……はい」

フキは呆然と立ち尽くすたきなを見た

そんなたきなは先程までダブルがいた所を見つめていた

 

「……仮面…ライダー…」

 

 

「…ったく!酷い目にあったぜ〜」

「まさか彼女たちのような女子高生がリコリスだったとは…興味深いねぇ…」

「この街を隠蔽している組織となんか関係あるのか?」

「それは分からない。検索しようとしても、彼らの記憶を閲覧する事が出来ない」

「…ほんと厄介な連中だな」

翌朝、鳴海探偵事務所に戻って来た俺たちは今回の事件の整理をしていた

 

「おまけに銃口を向けられる羽目になるし…」

「とんだ災難だったね…」

「……どうしてこうなっちまったんだろうな」

「…え?」

「…俺たちはただ、この街の笑顔を守る為に…ドーパントを倒して来た…それなのに……」

「……仕方ないよ…僕たちがどう足掻こうが、世間の目は変わらない」

「……」

「…この風都(まち)にとって僕たちは…敵だからね」

 

 

 

第2話「Jは暗殺者/喫茶店の女神」

 

 

 

「……考えてても拉致があかねぇ!」

「…?…どこに行くんだい?」

「いつもの店だ、気晴らしにコーヒー飲んでくる」

「また亜樹ちゃんに怒られるよ?」

「安心しろ、そん時は…足がつかないようにするよ」

事務所のドアを勢いよく開けて階段を降りる翔太郎

 

「……足がつかないように…」

しかし、僕は翔太郎が発した意味ありげな言葉に反応した

 

 

 

「……」カランカラーン

「いらっしゃ……って、翔太郎さん!」

「よぉ、千束ちゃん」

俺はいつもの店、喫茶リコリコに足を運んだ

 

「今日はどうしたんですか?」

「いや、今日もここのコーヒー飲みたくてな…いつもので」

「あいよぉ!コーヒー一丁!」

「…居酒屋じゃねぇよな?」

和風なウェイトレス姿の白髪ボブカットに赤リボンを付けた少女、錦木千束

俺はいつものカウンター席に座った

 

「…おや、来たか」

「よぉマスター、調子はどうだ?」

「絶好調だよ…それより今日は?」

「ただの気晴らしさ…いくらハードボイルドな俺でも、休息は必要なんだ」

「相変わらずのハーフボイルドね〜」

「なっ!ミズキさん!」

「あんたはまだまだガキンチョなんだから、コーヒーなんかよりジュースにした方がいいんじゃない?」

今俺をからかってるのは中原ミズキ、俺より歳が上でそろそろ婚期を逃しそうで躍起になっているが

その調子じゃ彼氏も出来そうにないな…

 

「…今、失礼なこと考えてる?」ゴゴゴゴ…

「…い、いや別に」

「まぁまぁ、そこが翔太郎くんのいい所じゃないか」

「ちょっ!マスター!?」

この店の店長、ミカ

いつも不思議なオーラを醸し出しているが、俺も負けじとポーズを決める

 

「お待たせしました、ブラックコーヒーです」

「…ん」

見たことない子だな…

綺麗な黒髪に輝いていない瞳

いかにも真面目って感じだな

それにしても……その左頬は…

 

「翔太郎くん、紹介するよ…」

「井ノ上たきなです、今日からここで働かせて貰うことになりました」

「…あ、あぁ…俺は左翔太郎だ、よろしくな」

俺は握手をしようと手を差し出した

たきなちゃんはそんな俺の手を優しく握った

 

「よろしくお願いします」

「……っ」

なんだろうか……この子からも独特のオーラを感じる…

この感じは…

 

《翔太郎さん!初めまして!錦木千束ですっ!》

 

「……」

あの時の感覚と似ている…

 

「おいこら、未成年に手出そうとしてねぇか?お前」

「は!?し、してねぇよ!」

ミズキの言葉に反応した俺はたきなちゃんの手を離した

 

「……」

「あ、たきなぁー!仕事入ったよォ〜!」

「はいっ!」

千束ちゃんに呼び出されたたきなちゃんは二人で店を後にした

 

「…あの二人、あって数時間しか経ってないんだぞ?」

「え!?マジっすか!?」

結構仲良しに見えるけどなぁ…

まぁ、千束ちゃんの性格を考えたらそう見えただけなのかもしれない

 

「千束も喜んでるみたいで良かった…彼女が来て本当に良かったよ」

「…でも、なんで急に?人は足りてるよな?」

「……」

「年頃の女の子には色々あんだよっ!変な詮索するなぁ!」

「えぇ!?俺変な事言ったァ!?」

「……」

「…っ?」トゥルルルル

すると、俺のスタッグフォンに着信が来た

亜樹子からだ

 

「…ゲッ!」

ここに来てんのバレたか?

揉め事にならないうちにさっさと帰ろ

 

「…悪いマスター、また今度な」

「あ、あぁ…」

コーヒーを飲み干した俺は店のドアを開け外に出た

 

すると、金髪の中年の男性とすれ違った

とてもきっちりとした身形で、とても店の雰囲気に会っていなかった

 

「……っ」

「……」

またしても不思議な感覚に陥る

今日は調子が悪いみたいだ

 

 

 

「…なんだぁ?亜樹子」

『なんだじゃないわよ!どこほっつき歩いてんじゃい!』

「あぁもう…うるせぇ!耳元でギャーギャー喚くな!」

『…まぁいいわ、依頼人よ翔太郎君』

「…依頼人?」

 

事務所に戻った俺、客間にいたのは一人の女性だった

 

「……ストーカー?」

「はい…先日から変な人に付きまとわれていて……この写真をSNSにアップしてからです…」

依頼人の名は篠原沙保里

先日彼氏とのツーショットをSNSにアップして以来、脅迫リプやストーカー被害に遭っているようだ

 

「…そいつの特徴は?」

「それが…よくわからなくて」

「え?」

「毎回視線には気が付いてて…でも振り向くと誰もいないんです…かなり広い道だったので、どこかに隠れるスペースもなくて…」

「…と、透明人間!?」

「……」

インビジブルのメモリか…?

でも何か引っかかるな…

 

「…ストーカー被害を受ける前、何かトラブルがありませんでしたか?例えば、前の交際相手とか」

「それ!警察も痴情のもつれとか言って取り合ってくれないけど…前の人なんていない…本当に心当たりないんです」

「なるほど……だから警察ではなく、俺たちに依頼しに来たと…?」

「はい、ここは不思議な現象が起こっても取り合ってくれるって話だったので……状況も状況だし…」

「……わかった」

俺は立ち上がり帽子を被り直した

 

「依頼人はみんな訳ありだ…街に探偵がいなかったら、他人に言えないような個人の思いを誰が聞いてやるんだよ…」

「……探偵さんっ!」

「お受けしましょう、その御依頼」

 

 

 

「あまり状況は良くないね」

「…なんでそう思う?相棒」

「この写真……奥に写っているのは…」

「ん?」

篠原さんが帰った後、俺は写真を相棒にみせた

そして相棒は見つけた

こちらを見て自撮りをしている篠原さんとその彼氏の後ろ

男共がジュラルミンケースに入ったガイアメモリを渡している瞬間だった

 

「これはっ!?」

「メモリの密輸の取引の現場だ」

「…なるほど、つまりメモリを売買している組織がこの写真をSNSで発見し、篠原さんを始末しようとしているってことだな」

「それにここ、この間僕たちが戦った場所のすぐ近くだ」

「えっ?」

確かこの写真は俺たちが戦っていた同じ日の、俺たちが戦う3時間前ほどに撮った写真って篠原さんが言ってたな…

 

「どういう意味だ…?あの現場にはリコリスもいた…リコリスが来る3時間前に、既にメモリの取引は終わってたってのか!?」

「その可能性は十分にある。事前に事件を収束するリコリスとは思えない失態だ、何か裏があるんだろうね」

「……」

「…どうする翔太郎?この事件、リコリスも深く関わってくるよ?」

「…それでも受けちまったもんは覆せねぇ、男に二言は無いからな……ボディガードはあの二人に任せるか」

 

 

「今日はありがとう2人とも、探偵さんにもお礼言っといてね」

「沙保里さん、今夜はとりあえず一緒にいません?」

「えっ?…良いよォ!じゃあうちに来てよ!」

「ほんと!?じゃあ親睦も兼ねてパジャマパーティーなんでどうです!?」

「良いわねぇ!」

「やったぁー!」

「……」

 

「……」

『どういうつもりだい翔太郎?一般人を巻き込むなんて…』

「安心しろ相棒、何かあったら俺たちがあの3人を守る。それに生身の人間相手だったら、千束ちゃんは負けねぇよ」

『そういう問題ではない、どうして彼女たちなんだ?亜樹ちゃんでも良かったんじゃないかい?』

「篠原さんも俺や亜樹子といるより、年下の同性の子と一緒にいた方が気持ちも楽になると思ってな」

『…やはり、君はハーフボイルドだね…』

「言うな!」

ダブルドライバーを装着している間は、俺とフィリップの精神が繋がっている。つまり、頭の中でフィリップとの会話が可能になるって事だ

 

「……じゃあ、2人は今日初めて会ったの?」

「はい、優秀な人らしいですが…見えませんよね」

「…で、前のバイトに戻りたいと……嫌な事があったから辞めたんじゃないの?」

「いえ、少し誤解があっただけです」

「…そんなに戻りたいの?」

「戻りたいです」

 

篠原さんの質問に即答するたきなちゃん

千束ちゃんは少し間解散しているようだが……大丈夫か?千束ちゃんはともかく、たきなちゃんの強さなんて分かんねぇし……

やっぱり俺が2人を…

 

「…っ?」

あの車……さっきも篠原さんの後ろを…

 

まさかこの車が…!?

 

「先に行って待っててください、すぐに戻りますので!」

「え?あ、うん…」

 

「…っ!?」

たきなちゃん!?

なんで篠原さんを1人に…!?

 

「きゃぁっ!」

「…来いっ!」

 

「なっ…!?」

次の瞬間、その車から男が飛び出してきて篠原さんを麻袋で覆った

 

「……しまったァ…!」

俺は道から飛び出し、停車している車に向かって行った

すると、車のエンジンがかかり

フロントライトが光った

 

まずいっ!

逃げられる!

 

そう思った瞬間だった

車の前に立ったたきなちゃんが、車に向かって銃口を向けていた

 

「…っ!?」

たきなちゃん…!?

 

「取引したメモリの名前を言いなさい!」

たきなちゃんはそう言いながら銃を連射した

俺も車の後ろに身を隠す

 

「……っ」

ってかめちゃくちゃ撃ってくる!!

 

「この女がどうなっても良いのかぁ!?」

車の中から男の激昂した声が聞こえた

 

いつの間にかたきなちゃんの攻撃は止んでいた

 

「聞いてんのかコラァ!」

「……っ」

今のうちに……っ!?

 

またしても銃声

しかし、こちらに攻撃した訳じゃなさそうだ

 

「…やぁ、取引したいんだけど…」

「うわぁっ!」バンッ

銃声…!?

それに今の声…千束ちゃん…!?

 

そこから、俺の見ている景色は驚きそのものだった

 

銃を連発する千束ちゃん

俺はストーカー共を制圧する千束ちゃんを影から見ていた

 

「たきな!沙保里さんを!」

「……っ」

 

「……フゥ…フゥ」

息を殺して耳を立てる

どうやらひと段落したようだ

 

「…終わりました?」

「いや、まだ一人いる」

 

「…っ!?」

気付かれてる!?

気配を探るのが上手いのか!?

 

「…ど〜こだ〜?ストーカーさ〜ん!」

怖いよ!千束ちゃん!

 

 

 

「……そこだ!…あれぇ?」

千束が拳銃を向けたところには誰もいなかった

 

 

「…かはァー!間一髪だったぜぇ…」

「一部始終見ていたよ、まさか…喫茶リコリコのウェイターの二人がリコリスだったとはね…」

探偵事務所に帰った俺

俺は千束ちゃんに見つかる前にその場から逃げ出す事に成功していた

 

「全く驚きだぜ…なんでよりにもよってあの二人が…」

「……それより翔太郎、ひとつ不可解なことがある」

「なんだ?ストーカー被害は解決しただろ?ストーカーの4人はリコリスがどうにかしたみたいだしな」

「そうでは無い…思い出してくれ、翔太郎」

「…は?」

「今回の依頼人…篠原沙保里がストーカーに遭った時、犯人は振り返ってもいなかったんだろ?」

「……あぁ、だから俺たちに依頼を……っ!」

「…そう、今回犯人たちはワンボックスカーを使って篠原沙保里を誘拐しようとした…篠原沙保里の証言とストーカーのやり方が合致しない」

「……まだ、あの事件は終わってねぇって事か!」

「…篠原沙保里の現在地は?」

「…分かんねぇ……でも、こいつは大変な事になるぞ!」

 

 

 

「……はぁ…災難な目に遭ったわぁ」

「でも良かったな、あの子たちが守ってくれて」

「うん…でも、あの子たち何者なのかしら…」

「……さぁ…」

警察への事情聴取を終え、彼氏と待ち合わせしていた篠原沙保里は疲労を感じていた

 

「……グッへへへへ!」

篠原沙保里とその彼氏が夜道を歩く途中

ジャッカルメモリを持った男が二人を見て不敵に笑った

 

「生かすわけねぇだろぉ……きっちりと制裁を加えてやるっ!」




次回

第3話「Jは暗殺者/二人のリコリス」

これで決まりだ!


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第3話「Jは暗殺者/二人のリコリス」

「J」に隠された言葉は「JK」と「JACKAI」
そしてもう一つの隠された意味が……

ちなみにメインタイトルの「L・R」は、「リコリス・リコイル」と「レフト・ライト」の意味合いがあります



「……今日はゆっくり休もう」

「…えぇ」

篠原沙保里の肩を支える篠原の彼氏

すると、またしても嫌な視線を後ろから感じた

 

「…誰だっ!?」

「……グヘヘヘヘ…やぁ、お二人さん…」

「……っ?」

茶髪の男が二人に近付く

 

「……まさか…お前は…!」

「グヘヘヘヘ…二人でよろしくやってんなぁ……でもいいのかなぁ?そんなにのんびりしてて…?」

「…っ!?」

男はジャッカルメモリを二人に見せつけた

 

「……沙保里!逃げるぞ!」

「う、うん!」

男の異様な雰囲気に二人は逃げ出した

 

「いいねいいねイイねぇ!もっと逃げろぉ!」

 

《 JACKAI!》

 

ジャッカルメモリを左の首に差し込む男

全身が毛皮で覆われ、大きな耳が生える

 

「……グラァァァァ!」

ジャッカル・ドーパントは二人を追いかけ、追いついた際に篠原彼氏の首に軽く傷を入れた

 

「きゃぁぁぁあ!」

「ぐわぁぁ!」

「グハハハハハハ!もっと藻掻け!悶え苦しめぇ!」

「ぐわぁぁ!」

「いやぁぁ!」

篠原沙保里の彼氏の首に傷を付けたジャッカル・ドーパント

彼氏は首から血を流しながら悶えていた

そんな彼氏を見て必死に彼氏の首を手拭いで押さえつける篠原沙保里

 

「グハハハハハ!もっとだ!もっと俺を楽しませろ!」

「……グスッ……いやぁぁ…!」

「うひょー!堪んねぇぜぇ!」

 

「野郎ぉぉぉ!」

「…っ?…グホッ!」

ハードボイルダーでジャッカルに突進する翔太郎

 

「…大丈夫か!?沙保里さん!」

「探偵さんっ!?……私は大丈夫だけど…彼がぁ…!」

「がぁぁ!」

「…くっ!」

苦しむ篠原彼氏を見て歯を食いしばる翔太郎

 

「……亜樹子!2人を連れて逃げろ!」

「あいあいさー!」

巨大な戦車のようなリボルギャリーが現れ、そこから亜樹子が出てきた

更にフィリップも降りてきた

 

「篠原さんこっちに!」

「は、はい!」

亜樹子が2人を連れた事をことを確認し、俺はダブルドライバーを装着した

 

「チッ…貴様ァ!俺の邪魔をするなぁ!」

「……1つ…俺はこの事件の簡単な真相に気付けなかった……2つ…一般人を巻き込み、更に篠原さんを危険に晒した……3つ…その篠原さんが心から愛している人を傷つけてしまった……」

「…あぁ?何だ急にィ!」

「……俺は俺の罪を数えた……次はお前の番だ!」

俺はジョーカーメモリを右手で、フィリップはサイクロンメモリを左手で構えた

 

『CYCLONE!』「JOKER!」

 

「……行くぜ、相棒」

「あぁ、翔太郎」

 

「『変身ッ!』」

 

二人で腕をWの文字にすると、フィリップはサイクロンメモリをダブルドライバーにセットした

サイクロンメモリは俺のダブルドライバーに転送され、俺が改めてそれを差し込む

そしてジョーカーメモリを左サイドに差し込み、ドライバーを展開した

 

サイクロン!ジョーカー!

 

風が吹き、その風が俺たちを包んだ

右半身が黄緑、左左半身が黒の仮面ライダー

仮面ライダーダブルへと、俺たちは変身した

 

「き、貴様はァ…!?」

「『…さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

 

第3話「Jは暗殺者/二人のリコリス」

 

 

 

「おりゃぁ!てりゃあ!」

「ぐおっ!ぐわぁぁ!」

「…この街を泣かす悪党め!しっかりと反省しろ!」

「ぐわぁぁぁぁ!」

ジャッカルを投げ飛ばすダブル

 

『翔太郎、ジャッカルは肉弾戦に弱い…ヒートで行こう』

「あぁ!」

 

『HEAT!』

 

ヒート!ジョーカー!

 

ダブルの右半身が真っ赤になり、ヒートジョーカーへと変化した

 

「おらっ!」

「ぐはっ!」

「これでどうだ!」

「ぶはぁぁ!」

右手から繰り出される炎のパンチ

ヒートジョーカーはジョーカーのパワーに炎のエネルギーが上乗せされている肉弾戦特化のフォームだ

 

「くっ…これでも喰らえぇ!」

「なっ!」

ジャッカルは鋭利な爪を出し、ダブルを切りつけた

 

「くっ…これで人の首を…!」

「フハハハ!どんなもんだァ!」

「ぐはぁ!」

『翔太郎!』

「…問題ない…メタルだ!」

 

「METAL!」

 

ヒート!メタル!

 

左半身が銀色に変わり、メタルシャフトを取り出す

メタルシャフトに炎が上乗せされる攻撃を放つ事が出来る、ヒートメタルだ

 

「おら!リーチはこっちの方が長ぇんだよ!」

「ぐわぁぁ!」

 

再び吹き飛ばされるジャッカル

この戦い、ダブルが有利に進められている

 

「……くっ…こうなったら…!」

「…あ?」

「……戦略的撤退!」

「なっ!?…逃がさねぇ!」

逃げ出すジャッカル

俺はスタッグフォンを取り出し、リボルギャリーを呼び出した

 

「……チッ」

「…待てぇ!」

バイクにも負けない速さで逃げるジャッカル

 

「来れるもんなら来い!」

「…追いかけっこのつもりか!?負けねぇぜ!」

エンジンハンドルを思いっきり捻るダブル

 

宣言通りジャッカルに追い付いた

 

「なにっ!?」

「おらっ!」

メタルシャフトを振り回し、ジャッカルに打ち込もうとしたが、ジャッカルも爪を最大限に出してそれを受け止めた

 

『なんて安定した走行なんだ…!このスピードのまま攻撃を受け止めるなんて!』

「何感心してんだよフィリップ!」

「グラァァ!」

「うわぁ!」

ジャッカルの攻撃にバイクのスピードが緩まるダブル

 

「…まずい…このままじゃ逃げられる!」

『……翔太郎…僕は今日、君のある言葉を一日中考えていたよ』

「あぁ!?急に何の話だ!?」

『「足がつかないようにする」…これは本来、犯罪を犯した者が証拠になるようなものを現場に残さないようにしたり、足跡を残さない…という意味合いが込められている』

「…それがどうした?」

『この街も、同じようだね……事件は事故になり、悲劇は美談になる…組織が足がつかないようにしているのかもね…』

「…ってホントに何の話だよ!?今関係あるか!?」

『まだ分からないかい?ジャッカル・ドーパントも、痕跡を一切残さずに人を殺して行った……彼もまた、足がつかないように人を殺していたんだよ』

「……まさか…ジャッカルの変身者は、組織の中の誰かって言いたいのか!?」

『……その可能性も十分に考えられる』

「…ま、それもこれも全部あいつを倒してから確かめるぞ!」

『……承知した…ちなみに、足がつかないで思いついたんだけど…』

「またかぁ…なんだ?」

『……地上がダメなら、空から行こう』

 

 

「…グヘッ…グへへへへ!……このまま逃げ切れば、また必ず俺にチャンスが来る…!」

「『そいつはどうかな!?』」

「…っ!?…なにっ!?」

ハードターピュラーに乗ったダブルが空からジャッカルに声を掛ける

 

サイクロン!ジョーカー!

 

再びサイクロンジョーカーへと変化したダブルは、一度ジョーカーメモリをダブルドライバーから抜き出し、ベルトの右側にあるマキシマムスロットに差し込んだ

 

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

風が吹き、更に上へと上がるダブル

 

「…っ!?」

「『ジョーカーエクストリーム!はぁぁぁあ!』」

「グワァァァァァァア!」

勢いよくキックを放つダブル

途中で身体が分断され、右半身と左半身が時間差でジャッカルにキックを放った

空からの攻撃を避ける事は出来ず、ジャッカル・ドーパントは爆散した

 

「……ぐっ…」

ぐったりした茶髪の男の傍に落ちている、破損したジャッカルメモリ

 

「『……ふぅ…』」

ドライバーをたたみ、変身を解除しようとするダブル

しかし、変化解除しようとした左半身が止まった

 

「……またか」

気が付くと、ダブルの周りを数人のリコリスが囲っていた

手には拳銃

銃口はこちらを向いている

 

「……大人しくそのメモリを渡せば、命は取りませんよ」

「……あんたは…!」

赤髪短髪の女、楠木がダブルに話しかけた

 

「…なんでだよ…俺たちはこの街を守ろうとして…!」

「お前たちが使っているのも、ガイアメモリなんだろ?」

「…っ!」

ダブルはドライバーに刺さっているジョーカーメモリを触った

 

「いくら人間を守る善人だったとしても、我々からしたら、どちらも「ガイアメモリを使って変身した怪人」なのです!貴方は人間の驚異になりうる!」

「……そんな事しねぇよ!俺たちは…!」

『よそう!…ここで下手に口を運ぶのは得策じゃない!』

「…なんでだよ!悔しくねぇのかよ相棒!」

「……どうやら、渡す気はないらしいな…」

二人の会話を聞いて、楠木が手を挙げた

リコリス全員の指がトリガーに掛る

 

「……ふっ!……ん?」

楠木が手を下ろそうとした時だ

 

「ちょーいちょいちょい!待った〜!」

「……千束、応援に来たのか?」

「応援?違いますよォ〜…一部始終見てましたけど、明らかに人を守ろうとしてましたよね?この人」

と、千束ちゃんはダブルの傍に寄ってきた

 

「…仮面ライダーを庇い立てするつもりか?千束」

「庇ってる訳じゃないけどぉ〜…んー…」

腕を組む千束ちゃん

俺は呆気に取られていた

 

「これは正当な判断とは言えません。人を守る戦士を、私たちが殺す必要はないのでは…?」

「……たきな」

「たきなぁ〜!そう!その通りだよォ!」

「『……』」

「……良いだろう…今回は部下の意見を尊重しよう。だが、次お前が人間たちに危害を加えるようなことをすれば、我々DAはタダじゃおかない…!」

楠木はダブルに指を差し、宣言した

 

その後、リコリスたちはみんな帰って行った

 

千束ちゃんとたきなちゃんは以外は

 

「いやぁ〜良かったねぇ!仮面ライダーさん!」

「……」

「あ、あぁ…助かったぜ……ありがとな」

先程の衝撃が抜けなくて動揺する俺

 

「千束〜!たきな〜!帰るわよォ!」

二人を迎えに来たミズキ

俺を見るなり目を仰天させていた

 

「え!?仮面ライダー!?本物!?」

 

「…あ、逃げた方がいいよ?後々面倒くさくなるから…」

「あ、あぁ…そうさせてもらう」

ハードボイルダーに乗り込み、エンジンをかけて颯爽と去って行く俺たち

夜の風は俺たちを許してくれるだろうか…?

 

 

「……そうか、仮面ライダーが…」

「やっぱり先生が言う程悪い奴にも見えないんだけどなぁ…」

「……」

喫茶リコリコに帰ってきた千束が、帰ってくるなりミカに仮面ライダーの話をした

 

「アレすごいよね!右と左で色が違うってさぁ…まるで…」

「よせ、千束……もうその話はやめろ」

「……うん…」

ミカの真剣か顔に千束が従った

 

 

 

「……」

事件は終わった。

ジャッカルに襲われた篠原たち、特に彼氏さんに関して、奇跡的に軽傷で命に別状はないそうだ。だが、しばらくは今日の恐怖を忘れる事はないだろう。

俺も今日という日を忘れる事はないだろう。それは毎日がそうだ。この毎日が、かけがえのない思い出となる。

リコリスの謎に関しては、今は情報が揃っていない。確かなのは、千束ちゃんとたきなちゃんがリコリスだったってこと、楠木がリコリスの司令官だった、という事だけだ。

 

しかし…この事件にはもう一つ、結末があった。

 

ジャッカル・ドーパントに変身していた、葛原柊一が

事件直後に行方不明になり、その翌朝

ビルの屋上から飛び降りで死亡した

 

 

「……」

 

《 JACK!》

 

「……ハァァァァァ…」

 

ジャッカルは用済みだ…

私が天国に送ってあげよう…

 

「……さて…」

君の才能を見せてくれ……

 

「……千束」




次回

第4話「Wを守れ!/人を守る仕事」

これで決まりだ!


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第4話「Wを守れ!/人を守る仕事」

「……今回の事件は、そう簡単に片付けられるものでは無い」

「分かってる……葛原柊一が死んだ…証拠隠滅されたんだ…!」

机を叩き付ける翔太郎

それを見て解せない表情のフィリップ

 

先日、ミカさんから連絡があった

 

「……え?ジャッカルの変身者が死んだ?」

『飛び降り自殺のようだ、君に依頼していた事件に関与している事だからね、一応伝えておくよ』

「……ありがとうございます…」

 

スタッグフォンを閉じて、俺はその現場に向かった

 

「……」

「…お、翔ちゃん!」

「ウォッチャマン…久しぶりだな」

独特な髪型に髭が濃いおじさん…通称ウォッチャマンが話しかけてきた

街に流れる様々な情報を噂話で把握していて、いつも事件を追う時には世話になってる

いわゆる情報屋だ

 

「だねだね!……ところで、何かあったの?」

「……ここ…」

「…あぁ〜…アランチルドレンの男が過労死した事件だろ〜?可哀想だよなぁ〜」

「…アランチルドレン?」

「匿名支援の代名詞、アラン・アダムス名義で活動している支援団体…」

ウォッチャマンは俺にスマホの画面を見せた

 

「貧困層などからあらゆる分野の才能のある子供を見つけて無償支援を行ってるってやつ、翔ちゃん知らないの?」

「…悪い…そういうの疎くてな…」

「……そしてこれが、アランチルドレンに贈られるチャーム」

「……フクロウ?」

 

 

葛原柊一、年齢29歳

早くに両親を亡くし、孤児として養護施設に入っていた

当時走る事が好きだった葛原はよくグラウンドを走っては転び、よく先生に怒られていたそうだ

高校に上がり、本格的に陸上選手を目指していた頃

彼はアラン機関に選ばれ、フクロウのチャームを渡された

 

しかし、プロとして活躍していた去年

ある日彼は事故を起こし

一生走れない足になってしまったそうだ

 

「……だからジャッカルのメモリを…」

 

アランチルドレン……今回の事件に深く関係しそうだ…

 

それにこのチャーム……何処かで見たような…

 

《これはある人に貰ったんだ〜…私の大事な人っ!》

 

「……千束ちゃん…?」

 

 

 

第4話「Wを守れ!/人を守る仕事」

 

 

 

「……ボディガードぉ?」

「今回の以来は結構命懸けだぞ?とある人物から依頼を受けてな、安全なところに移動出来るまで援護を頼みたいそうだ」

「…それっていつですか?」

「今日だ」

「今日かよ!?」

喫茶リコリコに呼び出された俺

ミカさんから依頼を受けるのは珍しくない

色んな人に耳を傾けるのも、ハードボイルドな男の象徴だ

 

「先生ー!おはよー!」

「…あ」

「あ!翔太郎さんおはよぉ!」

「おはようございます、左さん」

「……あ、あぁおはよう…」

「千束、たきな、お前たちにも話がある」

「……」

 

ミカさんは二人がリコリスって事、知ってんのかな…?

 

「…翔太郎くん…君に話さなくちゃいけない事がある」

「…ん?なんだ?マスター」

「千束とたきな、二人はリコリスだ」

「あぁ…二人がリコリスねぇ〜そんな事知って……えぇぇぇぇぇええぇえぇぇえええぇ!?」

 

それ俺に言っていいの!?

ってかミカさん知ってたの!?

 

「…君を巻き込んでしまってすまないと思ってる…だが、この事件には君の力も必要なんだ」

「……っ」

俺は思わず千束ちゃんとたきなちゃんはを見た

千束ちゃんははつらつな笑顔を、たきなちゃんはいつも通りの無表情だった

 

「…って、ちょいちょい!それ本当に言って大丈夫なんだろうな!ってかなんで俺がリコリスの存在知ってるの知ってんだよ!?」

「君はこの街の探偵だろ?リコリスの噂なんて知ってるだろう」

「そりゃ知ってるけどさぁ!」

「まぁまぁ翔太郎さんっ!これからもよろしくねっ!」

「これからもよろしくお願いします」

「……」

 

……複雑ぅ…!

 

「…そういえば、ミズキは?」

「既に逃走ルートを確保に向かっている。君たち三人には、この者の護衛を頼みたい」

ミカさんが出した資料には、英語でこう書かれていた

 

「……ウォールナット?」

 

 

「…翔太郎さんっ!車乗らなくていいのぉ〜?」

「俺にはバイクがあるからな、安心しろ!」

「おっけー!じゃあたきな、出発しん──!」

「っ!?」

車とバイクを出そうとしていた俺たちの上空から

質素な車が降ってきた

 

まぁ、厳密には物凄いスピードでジャンプして来ていた

 

『…ウォール!』

「…ナット!」

車のドアが開き、着ぐるみを着た人が電子音声で喋りかけてきて、それにたきなちゃんが応えた

 

「…え?何今の、合言葉?」

車に乗り込むたきなちゃんに質問する千束ちゃんだったが、たきなちゃんは颯爽と車に乗り込み、千束ちゃんも渋々車に乗り込んだ

 

『着いてこい、探偵…すぐに追っ手が来る、後ろに気を付けるんだな…!』

そう言って急発進する着ぐるみ人間

 

すると、俺の後ろの方で爆発が起こった

 

「…マジかよ!?」

俺もエンジンハンドルを思いっきり捻って急発進する

 

「……っ」

公道を走る車とバイク

その後ろが次々と爆発していく

ドーパントなのか!?

 

「…っ」

俺は振り向いて状況を見る

敵の正体さえ分かれば……っ!

 

「……」

 

「……あれは…!」

空中に浮いている船、いや…あれは戦艦か?

砲弾の銃口はこちらを捉えている

 

「やっぱりドーパントか!」

俺はダブルドライバーを装着する

 

「…っ」

しまった…この状況じゃ変身出来ねぇ…せめてあの三人が逃げ切れた後に…!

 

『翔太郎!どうしたんだい!?』

「フィリップ!ドーパントだ!…だがあいにく今は変身出来ねぇ!リボルギャリーで来てくれ!」

『了解した、すぐに向かうよ』

フィリップと脳内で会話をする俺たち

 

「…ぐっ!」

真横に砲弾が…バランスが崩れる…!

 

「翔太郎さん大変だよ!」

「あぁ!?どうした!?」

車の後部座席から顔を出した千束ちゃんが叫んだ

 

「この車ハッキングされちゃったみたい!」

「はぁ!?」

あのドーパントの仕業か!?

だとしたらこんな事しなくても…!

 

「…ぐっ!」

「翔太郎さんっ!」

「…大丈夫だ!そっちに集中しろ!」

戦艦型のドーパントはまだ俺たちを追い続ける

 

「……」

頼む…早く来てくれ相棒!

 

「……」バコッ!

「…っ!」

すると、戦艦型のドーパントにリボルギャリーが激突した

間に合ったんだ!

 

『翔太郎、あとはこっちに任せたまえ』

「分かった!俺はあの子たちを…!」

俺はスピードを上げて千束ちゃんたちが乗ってる車の真横に並走する

 

「…どういう状況だ!?」

『車がハッキングされた、このままでは海にダイブする』

「海…!?あと500メートルもねぇぞ!?」

『…ロボ太か…腕を上げたな…』

「どうにか出来ねぇのか!?」

『こちらの制御復帰作業終了と同時に、ネットを物理的に切れればいいんだが……』

「えぇ〜ルーター何処よ〜」

『知らん、僕の車じゃない』

「……ルーター…っ!」

俺は見逃さなかった

あのドーパントの横に飛んでいた

小型のドローンの存在を!

 

「……あれだ!」

今も後ろを飛んでいる

あれがルーターか!

 

「…うわっ!」

「…っ…!」

スピードが上がった!?

このままじゃマジでやばいぞ…!

 

「…こうなったら…一か八かだ!」

俺はダブルドライバーを腰から外し、ロストドライバーを装着した

 

『制御を取り戻すぞ…3…2…1!』

「たきな!」

「はいっ!」

窓から身体を乗り上げ拳銃をドローンに向けるたきなちゃん

銃弾は見事ドローンを撃ち抜いた

 

『制御を取り戻したぞ!』

「やったねたきな!」

「はい…ですが…!」

「…あぁ…落ちる落ちる落ちる落ちるぅ!」

制御は取り戻せてもスピードが落ちない車

あと数十メートルで海だ

 

「 JOKER!」

 

「……変身ッ!」

 

ジョーカー!

 

俺はみんなが前に気を取られているうちに

ダブルとシルエットは変わらないが、全身が黒の仮面ライダー、仮面ライダージョーカーへと変身した

これはフィリップが戦闘不能や、1人で事件を解決しなきゃいけない時用の保険の変身だ

 

「…とりゃぁ!」

俺はハードボイルダーから飛び込み、車を飛び越して車を全身で受け止めた

 

「ぐおぉぉぉ!」

 

「え!?なになになに!?」

『……まさか…』

 

「ぐおぉぉぉぉ!止まれぇぇぇ!」

俺が押さえ付けたことにより、車はスピードを落としてタイヤが半分はみ出た状態で停止した

 

「…あ」

つまり俺はそのまま海に落っこちた

 

 

「…追っても来ないみたいだね」

「そうですね、ひとまず安全でしょうか」

『……んー…』

「…とりあえず場所を変えよう…あれ、翔太郎さんなんでずぶ濡れなの?」

「…あ、気にするな」

車を捨てて場所を移した俺たち

 

「……さっきの戦車、この間仮面ライダーが戦っていたところにも来てましたよね」

「そういえばそうだね〜」

「それにさっきのは…明らかに誰かが車を押さえつけていたような…」

「……」ギクッ

「…仮面ライダーが助けてくれたのでしょうか…?」

「なーんだ〜やっぱり良い奴じゃ〜ん!仮面ライダー!」

「……」

 

仮面ライダーを絶賛する千束ちゃんと、それを横目で見るたきなちゃん

 

『……どうだかな…』

「…え?ウォールナット?」

『…場所を帰るんだろ?さっさと行くぞ…』

「…う、うん…」

「……翔太郎さん、行きますよ」

「……あぁ…」

 

 

 

身を隠しながら、俺たちは廃墟となったスーパーの中で立てこもっていた

 

『スーツケースだけは傷つけるなよ、それはボクの全てだ』

「わ…分かった…」

黄色いスーツケースを持たされる俺

この中に何が入ってるんだ?

結構重いぞ…?

 

『…重いとか言うなよ?これでも装備は最小限に抑えてあるんだからな…』

「…え!?お、思わねぇよ…!」

なんだよこいつ…エスパーかよ!?

 

『……出口はあっちだ』

ウォールナットを先頭にスーパー内を歩いていた

 

すると…

 

「…っ!?」

「なに!?」

『……奴らだ!』

「…っ!」

スーパーの壁が爆発して大きな穴が空いた

そして、入口を無視して戦艦のような見た目の二足歩行のドーパントが入って来た

 

姿が変わるのか…!?

ティーレックス・ドーパントみたいな感じか…

 

「……いたぞ、殺れ」

「…っ!」

すると、次々とサングラスを掛けた男たちが入って来た

 

《 MASQUERADE!》

 

「…っ!マスカレイド…!?」

マスカレイド・ドーパントへと変化する男たちは更に銃を持って俺たちに迫って来た

 

「…マスカレイドだけなら…!」

「はぁっ!」

「はっ!とりゃあ!」

「ぐわっ!」

「はは〜っ!…どんなもんだ!」

銃弾を避けつつマスカレイドを一体制圧する俺

 

「おー!翔太郎さんやるね〜!」

「伊達に探偵やってねぇからなぁ…!」

「それじゃあ、私達も行くよー!」

「はいっ!」

背中のバックから銃を取り出す千束ちゃんとたきなちゃん

基、リコリスの二人

 

「……」

「…うおっ!」

一心に銃を撃つ千束ちゃん

その目は確実に敵を捉えていた

俺は彼女の放つゴム弾を避ける為に身を潜める

 

先程たきなちゃんから聞いた話だ、千束ちゃんは実弾を使わずにゴム弾を使い、相手を致命傷を与えないという

 

一方、実弾を用いて敵を狙撃するたきなちゃん

さっき俺が持っていたスーツケースを盾にしていた

 

『…ちょっ…盾に使うのは無しだ!』

「たきなちゃん!それダメらしいぞ!?」

「無理言わないでください!」

変わらずマスカレイドを狙撃するたきなちゃん

 

『大事なものだって言っただろーー!』

「はぁっ!」

「ぐはっ!」

「……ふぅ」

マスカレイドを制圧した俺たち

ただ、メモリブレイク出来てないからその場に倒れっぱなしだ

 

「…っ…あいつは!?」

戦艦のドーパントを探したが、どうやら逃げられたようだ

 

「……くそっ」

「ううぅぅぅうぅ!」

「…?」

男の呻き声が聞こえ、俺はその声の主のところに行った

 

「はいはい、じっとしててね〜」

「ううぅ!」

「……何してるんだ?千束ちゃん」

「見ての通り応急処置です、じゃないとこの人死んじゃうから」

「……いや、そいつはもう…」

本来はメモリブレイクされてメモリ諸共爆発する筈だった

だが、千束ちゃんは…

 

「……貸せ、俺も手伝うよ」

「いいのぉ?ありがとうございますっ」

「…なんでこんな事するんだ?」

「え?」

「リコリスは犯罪者を抹殺する仕事だろ?なんでメモリ犯罪者を助ける?」

例えメモリを使っていたクソ野郎でも、俺は救いは無いかっていつも探していた

そして迷っていた…きっといつか後悔するとフィリップに散々言われたからだ

でも、千束ちゃんは迷うこと無く

こいつを救った…

 

「ん〜…だってー…」

「……」

「リコリスは人を守る仕事だから…!」

「……っ」

 

《探偵ってのは、ただ犯人を見つける仕事じゃねぇ……人の命を守り、人の笑顔を守る…つまり、人を守る仕事だ》

《なんでぇ?悪党は許す訳にはいかねぇだろ…!》

《……やはりまだ半熟だな、お前は》

《え!?どういう意味だよ!?おやっさん!》

《…いずれわかるさ、その意味が》

 

「……ん」

「…おっ」

千束ちゃんがそう言うと、マスカレイドの首からメモリが出て来た

 

マスカレイドの首は人間の首になった

変身が解除されたみたいだ

 

今まではこんな事はなかった……

でも、ようやくわかった気がするよ

おやっさん……

 

「これがガイアメモリかぁ……これを〜…こう!」バンッ

パリンとマスカレイドメモリが割れ、同時に爆散する

 

「はぁ〜すっきりぃ!」

「…だな……あれ、たきなちゃんとウォールナットは?」

「あ〜先行ってるって!逃走ルート確保出来たから」

「…そっちには……行くな…!」

「……っ」

すると、ぐったりしていたマスカレイドの変身者が掠れた声で話しかけて来た

 

「……うちのハッカー……ドローンが見ている……待ち伏せしてるぞ…」

「っ!」

「っ!」

その言葉を聞いてダッシュで二人を追う俺たち

 

 

 

「……」

『……』

「……え、ちょっと…」

「たきな!出ないで!」

『……』ガチャ

ウォールナットが扉を開けた瞬間だった

 

「……フッ」

 

大きな発砲音と共に、戦艦野郎の砲弾が飛んで来た

このままじゃ間に合わねぇ…!

 

「……うおぉぉぉ!」

必死に手を伸ばす俺

届きそうで届かない…

 

また……またなのか…!?

 

また俺は救えねぇのか…!?

 

「…クッソぉぉぉぉ!」

『……っ』

 

次の瞬間、辺りは爆発を起こした




次回

第5話「Wを守れ!/救えなかった命」

これで決まりだ!


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第5話「Wを守れ!/救えなかった命」

「……ふふふ…ふははははは!やったぁ!やったぞぉ!ウォールナットが死んだァ!あははははは!」

『…嬉しそうだね、ロボ太くん』

「そりゃあ〜…!……貴方の依頼をようやく果たせて光栄だよ…!」

『……だが、これじゃあ死亡したとは断定出来ないよ?』

「…はい?」

『これ……爆発が大きすぎて、彼が死んだか判別が不可能だ』

「そんなっ…!?……彼の砲弾の威力を見ただろ?あれで生き残っている方が不自然だ!」

『……君は何か、忘れていないかい?』

「……へ?」

『……この街には…いつもいい風が吹くことを…』

 

 

「……うおぉぉぉ!」

「翔太郎さんっ!」

「左さん!」

『……っ』

 

私の砲弾が辺りを直撃し、爆発が起こった

 

「……フッ」

『やったぁ!』

「…これでいいのか?ハッカー」

『あぁ!帰っていいぞ?報酬は弾んでおくよ!』

「……助かる」

ドーパントの変身を解除し、素の姿に戻る

 

「……フフッ」

眼鏡をクイッと上げる私、若倉和真

煙が晴れて、標的が跡形もなく消え去った事を確認して去った

 

 

 

「……ふぅ〜…うわっ!あぶねっ!暴れるな!」

「凄いよ翔太郎さん!その腕時計何なの!?」

「…間一髪でしたね」

『…お…落ちるぅ…』

俺はあの時、即座にメモリガジェットの一つであるスパイダーショックを使って別の建物まで糸を垂らして逃げる事に成功した

 

「ってか、なんでスーツケースまで持ってきてんだよ!?はっきりいって重いんだよ!」

『重いとはなんだ!これはボクの命よりも大事なものなんだ!手放せる訳にはいかない!』

「…あ?なに言ってやがんだ?」

スパイダーショックの糸を下ろして徐々に降下していく俺たち

 

「凄いねこのオモチャ!リコリス用にも欲しいなぁ〜!」

「オモチャじゃねぇ!探偵用具だ!」

千束ちゃんに奪い取られそうになったスパイダーショックからギジメモリを抜き出して元の腕時計型のガジェットモードに戻した

 

「…じゃあ帰ろうか」

「そうだな、気を付けて帰れよ」

「はい、左さんも気を付けて」

「あぁ」

『……』

「…ウォールナット?帰るよ〜」

『……あぁ』

スーツケースを連れて帰るウォールナットと千束ちゃんとたきなちゃん

 

「……ん?」

『……』

なんとなくだが、ウォールナットが不満げな表情をしていた気がした

 

 

 

第5話「Wを守れ!/救えなかった命」

 

 

 

「…おつかれ、翔太郎」

「あぁ…今回ばかりはやばいと思ったぜ〜」

「相手はウォーシップで間違いないね」

「…ウォーシップ?」

「軍艦、のドーパントさ…両腕のみならず全身から砲弾を打つことが出来る厄介な相手だ」

「なるほどな……メモリの所持者の見当は?」

「…いいや、彼が全然喋らないせいで言動の特徴を捉えられなかった……ポーカーフェイスが上手いようだね」

「ポーカーフェイス……」

「……どうしたんだい?」

「…あ、いや……なぁフィリップ…」

「…なんだい?」

「……俺たちが正体を隠す理由は、俺たちと関わることでその人に危険が及ぶから、だよな?」

「その通りだ。僕たちは仮面ライダーとして人を守る責任がある。かつての鳴海荘吉がそうしていたのも、同じ理由だろう」

「……」

 

《どんな事があっても依頼人を危険に巻き込まない。それが出来ない奴は最低だ》

 

「……依頼人を危険から守る…」

「……」

「…俺たちも、リコリスみてぇなもんなのかな…?」

「…何を言っているんだい翔太郎!?僕らと彼女たちは全くの別物だ!彼女たちは人を守る為に平気で人を殺す!でも僕らはそうじゃないだろ…?どんな悪党でも、この街に生きる命…僕たちはそれを守ってきたじゃないか!あんな連中と一緒にするな…!」

フィリップの早口に、俺は静かに応えた

 

「…リコリスの全員が全員、そうとも限らないぜ?」

俺は再び帽子を被り、事務所を飛び出した

 

 

 

「……翔太郎…」

 

 

「……はぁ〜…」

またフィリップに変な事言っちまったぁ…

こうなるとなかなかに気まずくなるんだよなぁ

俺の嫌な癖だ…

 

「……はぁ…」

俺は外の息を吸いに一人公園のベンチに座っていた

 

「…何かお困りかな?」

「……え?」

「…ちゃんと挨拶するのは初めてだね、吉松シンジだ」

「…あ、あぁ〜!最近リコリコによく来る…!」

すると、ベンチで落ち込む俺に金髪の中年が話しかけて来た

この人は最近喫茶リコリコに足を運び始めていたが今ではお得意様だ

千束ちゃんには「ヨシさん」と呼ばれてたっけな…

この人も千束ちゃんの事気に入っているみたいだし…

 

「こんな真昼間から何を?」

「あ、あぁ〜…ハハハ……ちょっと相棒と喧嘩しまして…反省中っていうか…」

「そうですか…その気持ち、よく分かりますよ。少し気まずくなりますよね」

「そう!そうなんだよなぁ〜!」

吉松さんとはよく話が弾み、気が付けば1時間が経過していた

だが、時間も忘れお喋りをしている俺たちは気付く筈もない

 

「…そういえば、お名前ちゃんと聞いてませんでしたね」

「…あぁ、俺は左翔太郎…鳴海探偵事務所の探偵だ」

「…探偵…鳴海……そうですか、それは大層ご立派な…」

「まぁ、みんなからはハーフボイルドってよく言われてますが……俺は極めてハードボイルドな探偵です!お間違いなく!」

「ははは、面白いですね…左さんは」

「はははは、いやいやそれほどでも…」

 

空気が一段落した雰囲気だった

すると、吉松さんはベンチから立ち上がり

俺に顔を向けた

 

「それでは左さん、またどこかで会いましょう」

「あぁ、あんたと話せて良かったぜ」

「…はい」

吉松さんは俺の元を離れて行った

平日の公園には誰もいない

そしてここからは風都タワーがよく見えた

 

「……だいぶ元に戻ったな……っ!?」

すると、俺は異様な雰囲気を感じてすぐさまベンチから離れた

ベンチは爆散し、俺は危うくミンチになっていた

 

「…今のは…!?」

「…まさか、本当にネズミが1匹生き残っていたとはな」

「お前は…!?」

ウォーシップ・ドーパントが俺の事を見下したがら見ていた

 

「その様子だと、残りの2匹も生きているな……だとすると、ウォールナットも生きているのであろう?」

「教えるもんか!フィリップ…っ!」

俺はダブルドライバーを構えたが、今はとてもあいつと向き合う気にはなれない

 

「ウォールナットの居場所を教えろ」

「…断る。と言ったら?」

「……殺す」

ウォーシップは全身からミサイルをこっちに発射した

無数のミサイルがこっちに迫って来る

 

「…っ!」

俺は走りながらそのミサイルを避けた

 

止まったら死ぬ

そんな事はすぐに分かった

 

「……くっ…!」

「すばしっこい奴め…はっ!」

「…ぐっ!」

攻撃は当たらないものの、衝撃で飛ばされる

 

「…こうなったら!」

俺は再びロストドライバーを装置し、ジョーカーメモリを構えた

 

「 JOKER!」

 

ジョーカーメモリをドライバーに差し込み、右手の拳を握る

 

「…俺…変身ッ!」

 

ジョーカー!

 

漆黒の戦士、仮面ライダージョーカーへと変身した俺

 

「貴様、仮面ライダーだったのか…!?」

「…半人前の意地、見せてやるよぉ…!」

 

 

「……ね〜先生〜!ミズキはぁ〜?」

「暫く休養だ、2,3日は帰ってこない」

「えぇ〜!?なんにもやってないのに〜!?呑気だね〜」

『……』

「……ウォールナット、どうかしましたか?」

『……いや』

ずっとタブレットを見つめるウォールナット

そんな彼をみてたきなは不思議に思った

 

「ね〜そろそろその着ぐるみ脱がな〜い?そろそろ見てる方が暑くなってきた〜」

『ダメだ、顔が割れては困る』

「…私たちそんな信頼関係ないのー?」ブツブツ

 

ブツブツと文句を言う千束

 

『……散歩に行ってくる』

「はぁ〜!?」

「ま、待ってください!ウォールナット!」

『風都でやり残した事を全てやっておきたい、まずは散歩だ』

「……千束、たきな、着いてやってくれ」

「は、はいっ!」

「…わかりましたよぉ……せめてスーツケースは置いてけよ…」ブツブツ

 

 

「おりゃ!」

「……」

「とりゃ!」

「……」

「はぁっ!」

「……」

「…くっそ!全く効いてねぇ!」

俺は連続でパンチを繰り出したが、ウォーシップの装甲は思っていた以上に固く、ジョーカーの力ではどうする事も出来なかった

 

「……お返しだ」

「ぐわぁ!」

至近距離で奴の砲弾を喰らった

 

「…くっ…だったら一気に決めるぜ…!」

 

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

「……ライダーパンチ…!」

「…っ」

「おりやぁぁ!」

右手に紫のエネルギーを纏わせ、ウォーシップの胸部に渾身のパンチをお見舞した

 

「……っ」

「…なにっ!?」

「……今、何かしたか?」

 

なんだよこいつ…!?

攻撃が全く効いてねぇ!

 

「くっそ!」

 

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

「ライダーキック!」

今度は高く飛び上がり右足に紫のエネルギーを纏わせ、ウォーシップにキックをお見舞した

 

「…どうだ!?」

「……」

「……マジかよ」

マキシマムを2回放ったのに、ウォーシップは無傷だった

 

「……遊びは終わりか?」

「…なにっ?」

「はぁっ!」

「ぐわぁ!」

奴の攻撃を俺は避ける事が出来なかった

俺は変身が解け、地面に仰向けになった

 

「……そうか…ジョーカーの力が、あいつに相性が悪すぎるんだ…!……こんな事今までなかったぞ…!?」

「最後のチャンスだ……さっさとウォールナットの居場所を教えろ」

「…くっ…断るっ!」

「……そうか…ならば、死ね」

ウォーシップが銃口から砲弾を放った

 

「…っ!」

避けれねぇ…!

俺……死んだ……

 

しかし、その砲弾を何かが受け止めた

爆発音がし、煙の先には…

 

「……やぁ、翔太郎」

「フィリップ!?」

リボルギャリーが俺を庇ってくれていた

その中からフィリップが顔を出す

 

「君はどうせ、僕と口論になって顔を合わせずらくなったから一緒に戦うのも無理だと判断したんだろ?」

「……そうだ…」

「相変わらずハーフボイルドだね〜…」

「う、うるせっ!」

「……あとは僕に任せたまえ、今度は僕が身体を張るよ」

「…あぁ、頼んだぜ…相棒」

俺はダブルドライバーを装着する

フィリップの腰にもダブルドライバーが現れた

 

「……どうやら、ここからが本番のようだな」

「その通り、行くよ翔太郎」

「あぁ!」

 

フィリップの掌にファングメモリが飛び乗ってくる

そのままファングメモリを変形させ、端子とイニシャルが姿を表した

俺はジョーカーメモリを構え、メモリを起動させた

 

「 FANG!」『 JOKER!』

 

「『変身ッ!』」

 

俺がジョーカーメモリを差すと、フィリップのドライバーに転送させる

俺の意識はフィリップの中へと入り、フィリップはファングメモリをドライバーに差して展開する

 

ファング!ジョーカー!

 

右半身が白、左半身が黒の

仮面ライダーダブル ファングジョーカーへと変身する

 

「そろそろいいか?」

「あぁ、待たせて悪かったねぇ」

『いい加減諦めろ!』

「それは出来ない、ウォールナットを殺すよう指示が出ている。それを実行するまで俺の狙撃は終わらない」

「……指示?」

『だったら俺たちはお前を止めるだけだ!』

『「さぁ…お前の罪を数えろ!」』




次回

第6話「Wを守れ!/秘策」

これで決まりだ!


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第6話「Wを守れ!/秘策」

いつも今作をご覧になっている皆様へ、

オリジナルフォームとか欲しいですか?
要望が多ければ考えます。



「姿が変わったからなんだと言うのだ…?」

『ってか、大丈夫なのかフィリップ?こいつ、ジョーカーとの相性めちゃくちゃ悪いぞ』

「問題ない、ジョーカーとの相性は最悪かもしれないが、僕の推測が正しければ……」

「はぁっ!」

ウォーシップは再び砲弾を放った

 

アームファング!

 

右腕の手首から白い刃が生える

 

「はぁっ!」

ダブルはそのままウォーシップの砲弾を一刀両断した

 

「…くっ…!」

「……ファングとの相性は最高だ」

『すげぇ!砲弾を切った!?』

「馬鹿なっ!?私の砲弾をいとも容易く…!?」

「段々メッキが剥がれて来たみたいだね、若倉和真」

「…なぜ私の名を!?」

「君の事は調べさせてもらったよ?勿論、ウォーシップの能力もね…!」

 

ショルダーファング!

 

「はぁっ!」

「ぐっ…!」

『よしっ!効いてるぞ!』

「くっ…舐めるな!」

再び全身からミサイルを発射する

 

『「はっ!」』

「なにっ!?」

それをワイルドなフットワークで避けるダブル

 

『フィリップ!一気に決めるぞ!メモリブレイクだ!』

「翔太郎!ちょっと待ってくれ…!」

『…え?』

戦闘態勢に入っていたダブルの姿勢が変わった

完全に戦意が無くなっている

 

「…どういうつもりだ」

「話を聞いてくれないか、若倉和真」

「……何故俺が」

「君を調べる上で、1つ気になることがあった。それを究明したい…」

「……」

すると、ウォーシップは腕からメモリを取り出し

変身を解除した

 

『…っ!?』

そこには眼鏡をかけてスーツを来た男が現れた

 

「……やはりね」

『一体どういうことだフィリップ!?なんでドーパントが自分から変身解除を!?』

「彼はきっと、ドーパントになって間もないんだよ。多分、今回のウォールナット殺害の依頼が、彼の初仕事だ」

ドーパントに1度なった人間は、身体に毒素が回り、それが中毒化する

そのせいで変身をやめられなくなり、狂気に取り憑かれる

しかし、今回がその初仕事なのであれば

彼が自らの意思でメモリを抜いたのも合点がいく

 

「……その通り…私はある男に依頼を受け、この力を使った…ある人物を殺せば、多額の報酬を与えるってな……」

『……なんだよ…ただ金に目が眩んだだけじゃねぇか…やっぱりこいつ…』

「待ってくれ、翔太郎…彼の話はここからだ」

『…あ?』

「……若倉和真…君には守らなければならない人がいるんだろ?」

『……守らなきゃいけない人?』

「…それこそが、彼の奥さん…若倉凛奈さんだ」

「……そうだ…」

『……奥さんを守る為に…』

「…若倉凛奈…現在彼女は不治の病に掛かり、闘病中だ。手術には莫大な金がかかる」

『だから今回の依頼で金を手に入れようと…!?』

「……若倉和真さん…今の貴方は誰も手に掛けていない…今からならやり直せる。そのまま僕たちにメモリを渡すんだ…!」

「……やり直せる…だと…?」

『…っ』

「……妻は…もう余命幾ばくもない!……このチャンスを逃せば、本当に手遅れになってしまう!…だったら私は…たとえ人を手にかけようと!……愛する妻を守る!」

「…っ…待ってくれ!」

「もう…遅い!」

 

《 WARSHIP!》

 

若倉は自分の右腕にメモリを差し込み、ウォーシップ・ドーパントへと豹変した

 

「うわぁぁぁぁあ!」

「……魂の叫びが聞こえる…」

『手遅れだったか…!フィリップ!俺たちであの人を止めるぞ!』

「…あぁ!」

 

 

 

第6話「Wを守れ!/秘策」

 

 

 

『……』

「ウォールナット〜待ってよぉ〜」

『……』

「ウォールナットってばぁ〜!」

『……』

「…無視かよぉ〜…」

千束の声を無視し続けるウォールナット

すると、千束の横を歩いていたたきながなにかに気付いた

 

「なんか……おかしくないですか?」

「え?何が?」

「だってほら……街に人が…」

「…確かに…ここは結構人歩くのにね〜」

「……」

3人が歩いていた大通りにはいつもは結構な数の人が歩いていたのに、今日に限っては人っ子一人いない

 

「近くでバーゲンセールでもやってるんじゃな〜い?」

「いや、それにしても……っ!」

「っ!」

『っ!』

すると、3人にとてつもないプレッシャーが襲う

 

「…っ!?」

たきなが道路の方を見ると、道路のど真ん中にドーパントが立っていた

人間の原型は残しつつも、おぞましい顔をしていた

 

「…やぁ、ウォールナットにリコリスのお二人」

「ドーパント…!?」

「私の名はジャック…今日は君たちに挨拶をと思ってね」

「…何?ウォールナットを改めて殺しに来たの?」

「いやいや…彼を殺すのは私の役目ではない。まぁお仕置は必要だろうが、優秀な手駒がいるものでね…」

ジャック・ドーパントは段々3人に近付いていく

 

「…っ」

『……っ』

「……」

後ずさりするウォールナットと千束

千束はウォールナットの前に腕を出して守りの姿勢に入った

一方たきなは拳銃を取りだしジャックに狙撃した

 

「ちょっ!たきなぁ!刺激しちゃダメだよ!」

「ですが…!……っ!?」

千束に振り向いたたきなは気が付いた

 

さっきまでジャックとの距離は5メートル以上あったが

今、奴は自分の真後ろにピッタリくっついていると

 

「…言っただろう?今日は挨拶に来たんだ……本気で戦うのはまた今度だ。ではね、リコリスのお二人…」

「……」

「……」

『……』

ジャックの気配が消えた

その瞬間、急に大通りの人通りが多くなった

さっきまで誰もいなかったのに……

 

「…あれ?千束ちゃんじゃないか!」

「…刃野刑事…!」

停車していた車から顔を出す刃野刑事

風都警察署、超常犯罪捜査課の刑事さんだ

 

「どうしたんだい?こんな真昼間から」

「いや、刃野刑事さっきまでいませんでしたよね?」

「…いや?20分位前からここにいたよ?千束ちゃんたちこそ、さっきまでいなかったじゃないか」

「……え?」

何一つ状況を理解出来ていない千束とたきな

すると、たきなはある事に気が付く

 

「…っ!千束!」

「なにぃ!?今頭がパンクしてて…!」

「ウォールナットが居ません!」

「…えぇ!?ウォールナットォォォ!?」

 

 

 

『……この先の茂みをくぐれば奴に会える…!』

茂みの中をスーツケースを引っ張りながら進む

 

『全く…リコリスの二人とあの探偵のせいで計画が全然上手くいかなかった……今度こそは成功させよう…!』

ウォールナットは茂みを越え、公園に出た

 

『…さぁ、ボクたちの計画を再会しようか…!』

 

 

アームファング!

 

『「はぁっ!」』

「くっ…!はぁぁぁ!」

ダブルの攻撃に反撃してくるウォーシップ

 

『うわっ!』

「まずい……メモリが彼に馴染み始めている…」

『ここままじゃメモリの毒素が若倉を侵食しちまう!』

「翔太郎、もう彼を止めるにはメモリブレイクしかない!一気に行こう!」

『…あぁ、待ってたぜ!』

 

ファング!マキシマムドライブ!

 

右足首に刃が生える

ダブルは高く飛び上がり、横に回転しながらキックと斬撃の合成技を繰り出した

 

『「ファングストライザー!はぁぁ!」』

「ぐわぁぁぁあ!」

攻撃は命中し、爆発が起こる

 

「……くっ…」

しかし、ウォーシップはメモリブレイク出来ていなかった

 

『なにっ!?』

「……僕の思っていた以上に、彼とジョーカーの相性が悪いようだね…!」

『どうするフィリップ?トリガーで行くか?』

「いや、マキシマムを放った後のあれは流石に僕の意識が保てない…!」

すると、ウォーシップはヨレヨレになりながらも

立ち上がった

 

「…こ、こうなったら…!」

ウォーシップは身体を変形させ、初めに出会った時のような軍艦の形に変わった

 

「貴様らに用はない!私はウォールナットを殺すだけだ!」

『っ!』

身体の向きを変え、遠くに離れるウォーシップ

 

「まずい!追いかけるよ翔太郎!」

『あぁ!』

 

ハードボイルダーに乗り込み、リボルギャリーでハードボイルダーのバックユニットをタービュラーユニットと交換する

ハードタービュラーとなったバイクで空へと駆け上がる

 

『待ちやがれ!』

「…っ…来るな!」

『うおっ!』

ミサイルがハードタービュラーのバランスを崩す

 

「翔太郎!君のジョーカーの力、今こそ使うべきだ!」

『あぁ!?なに言ってやがんだフィリップ!』

「君のジョーカーの力、つまり「切り札」の力を精一杯使うんだ。君の二面制のその力、見せてくれ!」

『…わかった!そんじゃ、ツインマキシマムで行くぞ!』

「あぁ!」

 

ファング!マキシマムドライブ!

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

『あぁー…ファングジョーカーのツインマキシマムだからぁ〜……ファングバイティングストライザーってのはどうだ!?』

「毎度言うが、名前は君の勝手にしたまえ」

『…ったく〜!つれねえまなぁ!』

ハードタービュラーから飛び上がる俺たち、今度は右足首から白い刃が、左足首からは黒い刃が飛び出した

 

『「ファングバイティングストライザー!はぁぁぁ!」』

「っ!?」

 

恐竜の頭を模したオーラがダブルを包み、回転しながらウォーシップに突っ込んだ

右足でキックと斬撃の合成技を繰り出し、左足の刃でウォーシップの装甲を傷付けた

 

「ぐわぁぁぁぁあ!」

『「……ふぅ…」』

手応えを感じ、変身を解除するダブル

 

精神が元に戻った俺はフィリップの元に駆け寄った

 

「やったね、翔太郎」

「…まぁ、何とかなったな」

「あとは彼のケアを……ん?」

フィリップは俺の後ろを凝視した

俺もそれにつられて後ろを振り向く

 

『……』

「…ウォールナット?なんでここに……」

すると、ウォールナットが近付いてきていた

そして視線を俺たちから若倉に移す

 

「…ぐっ…わざわざ自分から姿を表すとはな…」

 

《 WARSHIP!》

 

「なにっ!?メモリブレイク出来てねぇ!?」

「恐るべき耐久力だ!」

ウォーシップに再び変身した若倉はウォールナット目掛けて砲弾を放った

 

「喰らえぇぇ!」

「…っ!…あぶねぇぇぇ!」

「翔太郎っ!」

『……っ』

 

ウォーシップの砲弾はウォールナットを直撃し、ウォールナットは数メートルに渡って吹き飛ばされ、全身から血が流れていた

 

「…っ!?」

「…はっ…やったぞ…これで妻は……っ!」

ウォーシップからメモリが飛び出し、変身が解かれる

メモリはそのまま破損した

若倉はその場に倒れ込み、気絶した

 

「…ウォールナットォォォ!」

『……』

「おいっ!しっかりしろ!」

すぐさまウォールナットに駆け寄る

 

「おいっ!」

「無理だ翔太郎!即死だ!ドーパントの攻撃を生身の人間が受けて、生きている筈がない!」

『……』

「くっ……くっそぉぉぉぉぉぉぉお!」

 

 

「……」

「……ごめんなさい…私たちが目を離した隙に…」

「たきなちゃん達のせいじゃねぇ……悪いのはドーパントだ…」

そして、彼を守れなかった俺のせいでもある

 

「……」

「……」

「……」

救急車で運ばれるウォールナットを見つめる俺と千束ちゃんとたきなちゃん

車内には重い空気が流れている

それもその筈、目の前には死体があるんだからな

 

せめて、あいつが命よりも重いと言っていたあのスーツケースだけは、大切にしねぇとな……

 

『…………もういい頃合じゃないかな…?』

「……え?」

ウォールナットの声が聞こえたと思ったら、死んでいた筈のウォールナットがムクっと起き上がった

 

そして、俺はその後仰天した

ウォールナットが着ぐるみの頭を外した

 

「ぷはぁァァァァ!」

「えぇ!?」

「えっ!?」

「っ!?」

ウォールナットの正体は休養だった筈のミズキだったのだ

 

「あっつっっいぃ!ビール頂戴!」

運転席から投げ込まれたビールを豪快に飲むミズキ

 

「ミ…ズキ!?な、ななななんで!?」

「そうだ!なんでお前がその着ぐるみの中に!?」

「落ち着け、千束、翔太郎くん」

「えぇぇぇ!?先生!?」

「マスター!?」

更に、運転席にいたのはまさかのマスターだった

 

状況を整理するとこうだ

ウォールナットの正体はミズキで、着ぐるみはボーダーで血が派手に出るのがミソらしい

だからドーパントの攻撃でも平気なのか……

 

「…あ、あの!ウォールナットさん本人は?」

「そうだよ!どこ行った!?」

『ここだ』

「っ!?」

すると、スーツケースが開き

その中から少女の声が聞こえた

 

「追っ手から逃げ切る1番の手段は、死んだと思わせる事……そうすればそれ以上捜索されない…」

「…じゃあ、わざとドーパントに撃たれたんですか?」

「彼のアイディアだ」

「…フッ」

ドヤ顔で手を振るマスター

ウォールナットの正体は金髪のデコを出した少女だったのか…!ってか彼女がスーツケースに入っていたのか!?

 

「ってかミズキ!お前先に言っておけよォ!」

「だってあんた達演技下手だし、あんたの泣きっ面も見れて私は万々歳よ〜!」

「…この女ぁ!」

俺は顔を真っ赤にさせながら怒鳴った

 

「ちょちょちょ!色々聞きたい事あるけど…!つまり、予定通りで、誰も死んでないって事…?」

「そうよ〜」

「…良かったぁ……もぅ死なせちゃったとおもったじゃぁぁん……あぁぁもう!良かったぁ!」

「うおっ」

ウォールナットに抱き着く千束ちゃん

しかし、それを見てたきなちゃんは腑に落ちない表情をしていた

 

 

『…そうか…なかなかやるね、リコリスも』

「あぁ…全く、冷や汗かいたぜ…」

『ウォールナットも無事なんだろ?本当に良かった、誰も死ななくて』

「…そういえば、若倉さんは?」

『問題ない。自ら風都警察署に出頭したよ、メモリの後遺症もそこまで酷くはならないだろうね』

「…あの人も、殺人犯にならなくて良かったぁ…」

喫茶リコリコに戻った俺たち

俺は1度外でフィリップと電話をしていた

 

話を終え、スタッグフォンを閉じる

夜の風も気持ちが良かった

 

「……」

「…あ、ウォールナット…外に出て大丈夫なのか?」

「クルミ…ボクの事はそう呼んでくれ」

「あぁ…そうか、クルミ…俺になにか用か?」

「……ひとつ、確認したい事がある」

「なんだ?」

「……仮面ライダーの正体は…君か?」

「…っ」

 

この時の俺は知らなかった

 

俺たちが関わろうとしている事件が

この風都を大きく震撼する事になるとは…

 

「……っ」

「……」

息を飲み、汗が止まらなくなる

少女の目が、とても怖く見えた




次回

第7話「Hの正体/あの夜に何があったのか」

これで決まりだ!


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第7話「Hの正体/あの夜に何があったのか」

前回までの「W」の意味合いは、「WALNUT(ウォールナット)」、「Wの秘密」、「WIFE(妻)」の3つから来ています。

今回少し話がややこしくなっています。
お気を付けて閲覧してください。



「『はっ!』」

「ぐぉぉ!」

「おらっ!」

「ぐはぁぁ!」

「ったくこのゴキブリ野郎!何体倒せば気にするんだ!」

『翔太郎、ここはヒートメタルで行こう』

「あぁ!」

 

ヒート!メタル!

 

街で暴れるコックローチ・ドーパントを倒す為、ダブルはヒートメタルへと変化する

 

メタルシャフトにメタルメモリを差し込む

 

メタル!マキシマムドライブ!

 

「『メタルブランディング!』」

メタルシャフトの先端から炎がブーストのように吹き出る

 

「『はぁぁぁあ!』」

「ぐわぁぁぁぁあ!」

メタルブランディングを喰らったコックローチは爆散し、中年の男へと変身が解けた

腕から破損したメモリが飛び出る

 

「……ふぅ…やったな、フィリップ」

『あぁ、ご苦労だったね』

「……」

『…どうしたんだい?翔太郎』

「…あぁ…実は昨日の夜な…」

 

 

 

「……仮面ライダーの正体は…君か?」

「……っ」

いきなりそんな事を言われて、動揺するなと言う方が無理だ

 

「……なんでそんな事を…?」

そうか…クルミなら俺が仮面ライダーだって知ってても無理はない…スーツケースから全部見てたとしたら、全然不思議な事じゃ……

 

「冗談だ」

「……は?」

「君の声が仮面ライダーに似ていたから質問してみたが、彼はもっと渋い声をしていた」

「……は?」

「忘れてくれ、ボクは中に戻る」

そう言ってリコリコの中に戻っていくクルミ

 

「……い…意味わかんねぇ…」

 

 

 

「ははは、それは冷や汗かいたね」

「笑い事じゃねぇ…」

鳴海探偵事務所に戻った俺は椅子の背もたれに倒れる

 

「…流石は、風都一のハッカーだ」

「…風都一のハッカー?なんだそれ」

「え?知らないのかい?」

「……?」

「彼女の正体を…」

 

 

「……ウォールナットが死んだ?」

「ダークネットの噂です。ですが、過去30年で何度も奴は死んでいますし…」

「得体の知れん奴だ…抜かれた情報諸共消えてくれたなら大助かりだが……ギークの噂では安心も出来ん」

DA本部、司令室にて楠木とその秘書が今回の事件に関して話していた

 

「どうやら、ドーパントがウォールナットを殺したようで…そのドーパントも仮面ライダーに討伐された、との情報です。」

「どちらも厄介な存在だ……特に、仮面ライダー…」

「…あの、前から気になってたのですが…司令は仮面ライダーになにか恨みでもあるのですか?」

「……」

楠木は座っていた椅子を半回転させ、秘書には背中を見せた

 

「…気にするな……ただ後悔があるだけさ」

「……あ、あと…リコリコから提出された、例の写真の解析結果ですが……やはり、作戦開始時刻の3時間前との事です」

「…偽の取引時間を掴まされたか……我々も躍起が回ったな…」

楠木はメモリの取引現場をおさえた写真を見つめる

 

「……結構ぼけてるな…特定出来るか?」

「まだ時間が掛かりますが…必ず」

 

 

 

第7話「Hの正体/あの夜に何があったのか」

 

 

 

「……彼のそばにいるのは護衛か?」

『殺した方が良かったですか?』

「…いや、いい仕事だった…先月からの依頼はこれで完全に終わりだ。長期間、お疲れ様」

吉松シンジはウォールナットがドーパントの攻撃を受ける瞬間の写真を見ていた

 

「…その内、また頼むよ」

『へっ!風都最高のハッカーとなったこのロボ太にご用命とあらば、いつでもまた…それでは…』ピピッ!

「……立つ鳥、あとを濁さず…それが君のいい所だよ、ロボ太くん…」

吉松は街に沈む夕日を見つめる

 

「……道具らしくてね」

 

 

「ウォールナットは死んだ。改めて…クルミだ、よろしく頼む」

喫茶リコリコにてみんなの前で自己紹介をするクルミ

 

「探偵、君に言いたいことは沢山ある。まず、余計な動きでボク達の計画を邪魔したこと。そして、ボクが入っていたスーツケースを重いと言ったことだ」

「……」ギクッ

ちゃぶ台席で正座された俺

クルミはそんな俺を見下し虚無の表情で見つめていた

 

「まぁまぁ!許してあげてよクルミィ!翔太郎さんも知らなかったんだからぁ〜」

「全く…ミカの提案で探偵も雇って臨場感をあげれば雰囲気も出てボクが死んだ時のリアルさが倍増するって算段だったが……」

 

《ウォールナットォォォ!》

 

「あそこまで絶叫するか?君とボクはそこまで親しくないだろ」

「いやそこまで言うか!?」

思わずツッコミを入れる俺をミズキは高らかに笑った

 

「だっはっは!良いじゃない!あんた結構良い表情してたわよ〜?こんな風に〜」

「あっ!?」

ミズキが見せたスマホの画面にはとてもハードボイルドとは程遠い泣きっ面をした男…いや、俺が映っていた

 

「やっ…やめろォ!」

「だっはっは!流石のハーフボイルドねぇ〜!」

「うるせぇ!」

取っ組み合いを始める俺とミズキをマスターが止めた

 

「やめんか、二人とも」

「…今回ボクを襲ってきたドーパント…そいつを雇った人間が、今回の黒幕だ」

「…そいつの正体を知ってるのか?」

「……あぁ……ロボ太だ」

「…ロボ太?」

 

ネーミングセンス……俺も人の事言えないか…

 

「ロボ太はボクの次点に来ている凄腕ハッカーだ。まぁ、今となってはボクは死んでいるから、ロボ太が現状風都一のハッカーだな」

「……あれ、翔太郎さんクルミの正体知ってるんだっけ?」

「あぁ…風都一のハッカーで、これまでにいくつものリーク情報の入手やハッキングを行ってきたってな」

「へぇ〜詳しいんだ〜」

「……クルミ、敵の正体が分かっていながら、何故反撃をしないんですか?」

「ボクは戦いは好まない。こんな身体だしな…死を偽装する方が得意だ」

「あぁ〜確かにお前は身長が…あぁぁ!足がぁ!」

俺の右足を思いっきり踏むクルミ

 

「身長が低くても敵を怯ませる事くらいは出来るっ…それが出来なくてここまで生き残ってはいないっ!」

「分かった!俺が悪かった!」

 

めっちゃ根に持つじゃんっ!

 

「……」

だが、この少女…クルミがただの凄腕のハッカーでない事は、この世の誰よりも知識の本を持つ俺の相棒にはお見通しだった

 

 

 

「…彼女の正体は、ハッカーだ」

「ハッカーか……確かに、車がハッキングされた時に対応出来てたな…そういう意味だったのか…」

フィリップにクルミの事を聞いた俺は

幾つか質問した

 

その中で、とある事が判明した

 

「…リコリスの本部をハッキング?」

「正確に言えば、公的秘密組織…DA」

「…DA?」

何処かで聞いたことがある…

あれは確か……

 

「…僕たちが初めてジャッカルと対峙した日の事を覚えてるかい?」

「あぁ…あの日はリコリスの正体が女子高生って事に驚いて……」

「あの日、DAはウォールナットによりハッキングされ、情報が抜き取られている」

「…でも、なんで千束ちゃん達がそのウォールナットの護衛を?」

「きっと彼女自身からの護衛依頼だったんだろう…喫茶リコリコの人達は彼女がDAにした事を知らないんだ…」

「……DAについて、もっと分からないか?」

「……すまない、それは出来ない」

「…なぜ?」

「僕の「地球の本棚」のいくつかには、鍵が掛かって閲覧出来ない記憶がある。この間「DA」「リコリス」について検索をかけてみたが……見事、両方とも鍵がかかっていたよ」

「何か鍵を解くキーワードは?」

「残念ながら皆目見当もつかない。なにしろ相手はDA、秘密裏に活動する治安維持組織だ…情報を操作する彼らにとって特定されない事など造作もないのだろう」

「……」

 

 

1か月前──

 

『リコリスと知り合いか?国家に仇なす者を消して廻る噂の処刑人が、まさかこんな少女だったとは驚きだ』

「流石はウォールナット…博識だな」

その日、メモリの取引現場の写真を収めた女を殺す為

吉松シンジはその女をウォールナットのドローンを通して見ていた

だがあいにく、ドローンはリコリスの1人に撃ち落とされ

その後事件は収束していた

 

そのドローンの映像に映りこんだ少女に反応した吉松は

またそれをウォールナットに反応された

 

『無知である事は嫌いなんだ…だからもっと知りたい事がある。』

「報酬だね?依頼したDAのハッキングには満足している。十分報いる額を用意しているよ…」

『そうじゃない』

「…ほぉ…なにかね?」

『…どうしてメモリ取引なんざに関わる?施しの女神はタブーなしなのか?アラン機関…』

「……」

 

吉松は秘書である姫蒲にジェスチャーでタッチパネルの操作をさせた

 

すると、向かいのビルから爆煙が立ち上る

その瞬間、ウォールナットとの通信が途絶えた

 

「…無知であるほうが、人は幸福なんだよ…ハッカー…」

 

 

 

「……」

あの日の夜

ボクの家は何者かによって爆撃された

 

幸いボクは逃げ隠れることに成功し生き延びたが

すぐにあのドーパントが襲って来た

 

ロボ太…彼がアラン機関にボクを売った

以前から風都一のハッカーになるとほざいていたが、まさか本当に実現させるとは……なかなかやるな、あいつも

 

 

「…つまり、ウォールナットはDAをハッキングしたが深追いしすぎてアラン機関に消されそうになり、その結果ドーパントに追われ喫茶リコリコに依頼に来たと…」

「ドーパントは僕たちが倒し、彼女も今では喫茶リコリコに匿われている。彼女の完全勝利だ」

「……そっか…」

「…皮肉なものだよね…自分たちの組織を危険に晒した張本人を守るなんて…それにあのハッキングの事件で、井ノ上たきなはDAを左遷されたのに…」

「DAを左遷?どういう意味だ!?」

「…本当に何も知らないんだね……あのメモリ取引事件の日、リコリス達の中で一つ事件が起きていた。それがウォールナットによるハッキング…更にそれによるリコリスとDAとの通信障害…そして……」

「……」

「…それにより井ノ上たきなは射撃許可を得ていないのにも関わらず銃を乱射し、ドーパントを刺激…彼女は元々DA所属のリコリスだったようだけど、その一連がきっかけでDAの支店である喫茶リコリコへの転属が決まった」

「……そうだったのか…」

 

《今日からここで働かせて貰うことになりました》

 

通りであの時違和感があったわけだ…

彼女からはなにか決意のようなものを感じていた

 

「…じゃあ、あの左頬は?」

「当時同じチームにいた春川フキというリコリスに殴られた跡だろうね、命令を無視したんだ。無理もない」

「……」

 

 

 

「……」

俺はフィリップとの話を終えると、風都を眺められる高台に来ていた

ここからは夜景が本当によく見える

 

「…左さん?」

「…あ、あぁ…たきなちゃん」

すると、買い出しの帰りであろうたきなちゃんが話しかけてきた

 

「こんなところで何してるんですか?」

「…あぁ…嫌な事とか悩み事とかある時は、毎回ここで風都の風に当たってるんだ……ここにいれば、自然と風になれる気がする…」

「……」

「…どうした?」

「…左さんにも、悩み事とかあるんですね」

「…そりゃーあるさ…完璧な人間なんかいねぇからな…」

「……」

「…でも、いずれは決断を出す時が来る」

「…え?」

俺は飛ばされそうになる帽子を抑えてこう言った

 

「男の仕事の八割は決断だ。そこから先はおまけみたいなもん……俺の師匠の言葉だ」

「…左さんの…師匠…」

「おやっさんは厳しい人でさ…俺はいつも怒られっぱなしで……おやっさんの言ってる事がたまに分からなくなった…」

「……」

「…でも、その意味が段々分かってきたんだ…最近な、色々あったから…」

「……」

たきなちゃんと俺は風都の夜景を見つめた

 

「…最後の大事件」

「……」

たきなちゃんがそう言った

俺はそのまま彼女の言葉を待った

 

「…10年前、風都タワーが半壊するテロ事件が発生。そこに1人のリコリスが現れ事件を収束させた……でも、この事件にはまだ続きがあった…」

「……」

「…当時、風都タワーに現れたのはリコリスだけじゃなかった……もう1人、その事件を解決させた男がいる」

「……」

「彼はその後は誰にも語り継がれることなく、そのまま消息を絶った……それこそが…」

「…仮面ライダー…って言いたいんだろ?」

「……はい」

「…10年前、風都タワーで起きた事件……俺が知ってる事でいいなら、話してやるよ」

「……」

「…あの日の夜に、何があったのか……」




次回

第8話「Hの正体/仮面ライダーとは」

これで決まりだ!


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第8話「Hの正体/仮面ライダーとは」

アンケートに答えてくれた方々、ありがとうございました

結果的に、物語の構成上オリジナルフォーム、またはオリジナル技に使用するメモリが必要と考えたので(その理由は今回で分かります)
「必要ない」にお答え頂いた方には申し訳ありませんが、自分なりに考えてみることにしました
もしかしたらオリジナル技に使用するだけかもしれませんが
そこは追々考えます
よろしくお願いします



「……10年前、風都タワーで起きた事件……俺が知ってる事でいいなら、話してやるよ」

「……」

「…あの日の夜に、何があったのか……」

 

最後の大事件…

10年前のある日、突如として風都タワーがテロリストによって占領された事件

しかし、一人のリコリスによって解決した

 

それ以降風都で大規模な事件は起きておらず

平和が保たれており、故に「最後の大事件」とも称されたものだ

今では風都タワーは「平和の象徴」として街にそびえ立っている

 

だが、この事件には一つ間違っている部分がある

 

それが…

 

「……っ」トゥルルル トゥルルル

「……」

俺が口を開こうとした瞬間

俺のスタッグフォンが鳴った

 

「…わ、わりぃ」

「いえ、私に構わず出てください」

「あ、あぁ…」

俺はたきなちゃんから少し離れてスタッグフォンをとった

 

「…なんだ?亜樹子ぉ」

『あ、翔太郎くん?君宛にお届け物があるよ』

「あ?俺に?」

『うんうん、なんか結構厳重なものみたいだから、翔太郎くん本人に開けてもらった方がいいと思って』

「…そうか…分かった、すぐ行く」

 

「…わりぃたきなちゃん、また今度な」

「……はい、ではまた今度」

夜道を歩いていくたきなちゃん

その背中は少しだけ寂しそうに見えた

 

 

 

「……ただいまぁ…」

「あ!翔太郎くんおかえり!」

鳴海探偵事務所に帰った俺は亜樹子が言っていた荷物らしき物に目をやる

 

「……何だこれ?」

ダンボールの中に入っていたジュラルミンケース

やけに重いと思ったのはこのせいか

 

「気を付けたまえ翔太郎、爆薬かもしれないぞ?」

「…マジであるかもしれないから怖いんだよなぁ……」

俺を煽るフィリップ

念の為距離を置いておくように言った

 

「……」ゴクッ

ジュラルミンケースのロックを外し、上のカバーに手を添える

 

「……あ…開けるぞ…!」

「……うんっ」

「……あぁ…」

「……っ!」

俺はケースを勢い良く開けた

その中に入っていたものとは……

 

 

 

第7話「Hの正体/仮面ライダーとは」

 

 

 

「……」

楠木は考えていた

この風都に蔓延るガイアメモリの噂

そして、その根源とも言えるあの事件の事を…

 

「……っ」

「司令、少しお話が」

「…フキか、何の用だ?」

「以前取り逃した仮面ライダー…奴を捕らえる作戦を思いつきました。その詳細について…っ」

「……」

フキの話を遮り掌を出す楠木

 

「…司令?」

「……フキ、あの夜の事を覚えているか?」

「…10年前のあの日ですか?…よく覚えています。あの事件で何人ものリコリスが死亡しました…」

「……そうだな」

「優秀なリコリスは何人もいたのに……それを失ってしまった悲しみは拭いきれません」

「……」

楠木は窓の外を見つめ、風都タワーが写る景色を眺めた

 

「…………荘吉…」

「…え?」

「……なんでもない。私は急ぎの用事がある、話はまた今度聞く」

そう言って司令室を後にする楠木

フキは司令室に取り残され、俯いていた

 

「……司令…」

 

 

 

「……」

 

《世の中には数えなければいけないものがある……ひとつはコーヒーを入れる時の時間、ひとつは今月の赤字金額……そしてもうひとつが…》

 

「……」

荘吉…私はまだ数える覚悟がない

これまでにいくつもの命が私の目の前で亡くなってきた

そんな彼女たちの視線が、私をいつまでたっても消えない

 

それに、今更数えたところで彼女たちの命が帰ってくるわけでもない…

もう無理だ…

手遅れなんだ…

 

《…お前の罪を、数えろ》

 

「……私の…罪……っ!?」

楠木の歩いていた通路の前

暗い場所から革ジャンを着た男が不敵な笑みで近付いて来ていた

 

「へへへ…見つけたぜぇ?DA総司令!」

「…なぜ私の事を?」

「あんたの事を調べてた奴がいてなぁ…そいつに情報提供させてもらったぜ?へっへっへ!」

「…っ…貴様、見張りはどうした!?」

「…死んでもらったぜぇ」

「なにっ!?」

「…俺の…毒針でなぁ!」

 

《 HORNET!》

 

ガイアメモリを右手の甲に差す男は

スズメバチの容姿を捉えたドーパントへと変貌した

 

「っ!?」

「グッへっへ!さぁ!祭りの始まりだァ!」

 

 

「……はぁ…」

たきなは翔太郎との会話の後、1人で時間を潰していた

 

リコリコに帰れば、千束やみんながいる

だが、今回のウォールナット事件でたきなは思った

千束が大事としている、命大事に

この方針にたきなは納得出来ていなかった

 

殺られる前に、相手を殺る

リコリスをしていて散々叩き込まれた常識を

彼女は簡単に覆した

 

風都一のリコリスと聞いて来たが、その全貌はとてもじゃないが、たきなが憧れとするリコリスとは程遠いイメージだったのだ

 

「……またDAに戻りたい…」

それが彼女の願いだった

喫茶リコリコで功績を伸ばし、DAへの復帰を望んでいた

しかし千束はそれを良しとはしない

千束の価値観も彼女とは少し違うみたいだ

 

「……ふぅ……ん?」

そろそろ帰ろうと思ったその矢先

道路に足をもたつかせて歩くサードリコリスがいた

 

「…っ!」

すると、そのリコリスはたきなを見ると倒れてしまった

よく見ると顔の半分は紫色に変色し、腕には裂傷も確認した

 

「ちょっと…!」

たきなは彼女に近付き、救急車を呼ぼうとしたその時

彼女がたきなの腕を掴みこう言った

 

「…し…司令が……ドーパントに…!」

「…っ!」

私はその言葉を聞いた瞬間にDAの本部へと足を進めた

 

「…っ」プルルル プルルル

千束…!

気付いてください!

 

千束に電話をかけるたきな

 

しかし……

 

 

 

「おらっ!よっ!」

「ほっ!なかなかやるなっ!」

「でしょ〜!」

 

プルルル プルルル

 

テレビゲームに夢中の千束とクルミ

どちらとも着信には気付いていなかった

 

 

 

「…もうっ!」

たきなは走るスピードを変えずに突き進む

 

相手はドーパント…

どんな能力を使うかも変わらない

でも…

 

でも、私一人でも…!

 

 

 

「……これは…?」

亜樹子が不思議そうにジュラルミンケースの中を覗く

 

「……ガイアメモリ!?」

「…っ」

「……そういう事か」

「なになに!?私聞いてない!」

送られてきたのは6本の次世代型メモリ

そして…

 

「……フクロウのチャーム…!」

 

 

「……ハァ…ハァ」

「はっはっはっ!効かねぇなぁ!」

「…くっ…」

銃弾をホーネット・ドーパントに打ち込む楠木

しかし、ホーネットの身体はそれを弾いていた

 

「どうだぁ?強力な毒にこの硬い装甲…お前たちDAなんかが敵う相手じゃねぇぜ?」

「…黙れ!」

楠木が撃った弾がホーネットの頭に直撃する

 

「…あぁ〜…物分りの悪いババァだなぁ…」

「…っ!」

しかし、ホーネットは平然と立っていた

 

「お・か・え・し・だっ!」

「ぐっ…!」

ホーネットの右腕から毒針が発射され、楠木の左肩に直撃した

 

「がっ…!」

「どうだ?痛いだろぉ!俺の毒針は1度刺さると全身麻痺を起こし、2度刺さると…死だ。あっはっはっ!」

「…貴様…それでリコリスを…!」

「…今更何言ってやがる?」

「…っ?」

「貴様らDAは、リコリスを殺しの道具としてしか見てないんだろ?」

「…っ!?」

 

《こんな小さな子を殺しの道具に使うとは……許せん》

 

「今更俺が殺したところで、使い捨てにされたリコリス共の命と価値は変わらねぇ……俺が殺したんじゃない…お前が殺したんだぁ!」

「…くっ…!」

 

《それがお前の、罪だぜ…》

 

「さぁ!懺悔しなぁ!?そして死ねぇ!」

「……っ」

毒針を発射するホーネット

楠木は目を閉じ最期の時を待った

 

「……荘吉…!」

「……あぁ!?」

「……っ?」

しかし、楠木に攻撃は当たらなかった

発射された毒針が何者かによって弾かれたからだった

 

「……ハァ…ハァ」

「…たきな…!?」

「司令!大丈夫ですか!?」

「…俺の毒針を…こんな容易く…!」

駆け付けたたきなが、自慢の射的力で毒針を撃ち落としたのだ

 

「司令!そこから離れてください!」

「それは無理だ!この俺の毒針を喰らって動ける奴はいねぇ!……それに、時間が経てば毒が回っていずれ死ぬしな」

「なにっ!?」

「……」

ぐったりする楠木を見てたきなはすぐさま銃を乱発した

 

「くっ…小賢しい真似を!」

ホーネットが打ち込む毒針を避けながら、たきなは楠木に近寄る

 

「……何しに来た」

「助けに来ました。他のリコリスが決死の思いで私に伝えたんです」

「……千束は…?」

「多分、リコリコでゲームをやってます。最近流行ってるやつを」

「…ハッ…アイツらしいな」

「…暫く眠っててください」

「……あぁ…そうするよ…」

目を閉じた楠木

それを確認したたきなはホーネットに目をやる

 

「…あぁ〜…イライラしてくるぜぇ…俺の邪魔をする奴は、全員懺悔しろぉ!」

発射される毒針

たきなはそれを銃で撃ち落とす

 

「……私はセカンドリコリス…井ノ上たきな」

「…あ?何だ急に」

「…私のプライドに掛けて…貴方を始末します!」

 

 

「……このフクロウのチャームは…!」

ウォッチャマンが言ってた、アランチルドレンが付けてたやつだ

 

「これが翔太郎の元に送られてきた…つまり、君はアラン機関に選ばれたってことか」

「それにこのガイアメモリ…俺たちがダブルの正体だって知ってるって事だろ…とんだ煽り文だぜ」

「アラン機関からの挑戦状…という事だね」

「…やってやるよ!…この街は俺たちが守ってみせる……この街の涙はもう見たくねぇ!」

「僕も同感だ、翔太郎」

「わ、私も!」

新たな覚悟を決めた翔太郎たち

しかし、次の瞬間…

 

「…っ!」

「…どうしたんだい?翔太郎」

「わ…わかんねぇ!でも…!」

身体が言う事を聞かねぇ!

ってかこれ…!?

 

「待ってくれ翔太郎!何処に行くんだい!?」

「わかんねぇ!身体が勝手にぃ!」

「うおっ!」

ジュラルミンケースに入っていたメモリを持って颯爽と事務所を後にした翔太郎

翔太郎の身体は流れるようにバイクにまたがり、ハードボイルダーを発進させた

 

「パペティアのメモリの力か?にしても、翔太郎の意識は正常だった……という事は…」

翔太郎の身体が…誰かに乗っ取られた…?

 

 

 

「誰か止めてくれぇ!」

俺の意思とは裏腹にスピードを上げていくハードボイルダー

車や人をかき分けてどんどんと進んでいく

 

「止まれぇ!」

すると、ハードボイルダーは停止した

 

「おっ…止まった……うおっ!」

しかし、まだ身体は自由になっていない

俺はこのまま何処に行くんだ!?

 

「がははは!死して償え!」

「くっ…!」

 

ドーパント!?…と、たきなちゃん!?

 

建物の窓からガラスを割って出てきたのは蜂のような見た目のドーパントと、傷だらけのたきなちゃんだった

 

「…っ」

そして俺は気付いた

身体が自由になっている事を

 

「たきなちゃん!」

「…左さん!?」

俺に気付いたたきなちゃん

しかし、まだドーパントと戦っている

 

「離れててください!こいつは私が!」

「そんな事言ってる場合じゃないだろ!傷だらけじゃないか!」

「ほっといてください!私は…私の願いを叶えます!」

「…っ」

俺は気付いた

たきなちゃんの瞳には、微かに涙が浮かんでいた

 

「小賢しいガキだ!ここで粛清してやる!」

ドーパントがたきなちゃんに毒針のようなものを発射させた

 

「…っ!」

 

「スタッグ!」

 

俺はスタッグフォンにキジメモリのスタッグを差し込んだ

スタッグフォンはクワガタの形状に変化し、飛行し毒針を防いだ

 

「…っ!?」

 

「スパイダー!」

 

続けてスパイダーショックをライブモードにしてドーパントに向けて糸を吐いた

 

ドーパントはスパイダーショックの糸でぐるぐる巻きにされた

 

「てめっ!なんだこのぉ!」

 

「……たきなちゃん…君にはそのぉ…我慢が足りないな」

「…え?」

俺はたきなちゃんに近寄り、肩に手を置いた

 

「いいか?たきなちゃん…俺も昔は我慢なんて嫌いだった……でもな、ある事を思うと…不思議と我慢出来たんだ」

「……?」

「…大切な人を思いやる事だ」

「……っ」

「だから、俺はこの街のみんなを泣かせない為に、いつも必死に我慢してきた……みんなに俺たちの秘密がバレないように、必死だった…」

「……」

「…でもな、たきなちゃん……俺はもう…」

「……」

「…我慢の限界だ!」

 

俺はダブルドライバーを装着した

 

「…もう既に目の前で一人の女の子が泣きそうになってるのを見たら…もう我慢なんか出来ねぇよ……だから…!」

俺は帽子を取ってたきなちゃんの頭に被せた

 

「この帽子を君に預ける。遠くに行って、助けを呼ぶんだ」

「…えっ?」

「…たきなちゃん……俺は何をやっても上手くいかない男だ…出来るのはせいぜい猫探しやペット探し……でも、俺に出来ることは少なくても、俺にしか出来ないことがあるって信じてる」

「……っ」

「…君にもあるだろ?そういうの」

「……私は…」

「えぇぇい!小賢しい真似を!許さん!」

「っ!?」

スパイダーショックの拘束を解いたドーパントは毒針を再び飛ばしてきた

 

「……フッ…来たか」

「なにっ!?」

俺の目の前に現れた鳥型のガイアメモリ

エクストリームメモリが毒針を防いだ

こいつが来たってことは……

 

「……」

「悪ぃな相棒、迷惑掛けて」

「問題ない、君は根っからのトラブルメーカーだからね」

「ハハッ…言ってくれるぜ」

エクストリームメモリからフィリップの肉体が転送される

 

「……あの…貴方は?」

「僕はフィリップ。初めましてだね、井ノ上たきな」

「…は、はい」

まさかこの2人の初絡みがこんな場面とはな…

 

「状況は呑み込んでるか?相棒」

「あぁ、大体分かった」

「そんじゃ、いつもみたいにいくぞ!」

「あぁ!」

 

『CYCLONE!』「JOKER!」

 

「「変身ッ!」」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブルへと変身する俺たち

 

そんな俺たちを見てたきなちゃんは驚いていた

無理もない

 

「…左さん達が…仮面ライダー…!?」

 

「『仮面ライダーダブル!さぁ、お前の罪を数えろ!』」




次回

第9話「Hの正体/託された帽子」

これで決まりだ!


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第9話「Hの正体/託された帽子」

今回の「H」には、「Hacker(ハッカー)」、「はんぶんこ怪人(左翔太郎)」の意味合いがあります。

今回オリジナルフォームが出てきます
苦手な方は閲覧に注意してください

よろしくお願いします。



「…左さん達が…仮面ライダー…!?」

「『仮面ライダーダブル!さぁ、お前の罪を数えろ!』」

「…そうか…貴様が仮面ライダーかぁ!」

毒針を連発して射出するドーパント

 

『翔太郎、奴は「ホーネット」。スズメバチのドーパントだ!』

「毒針ってわけね…だったらこいつだ!」

 

「 METAL!」

 

サイクロン!メタル!

 

左半身が銀色へと変化するダブル

メタルシャフトで射出された毒針を弾く

 

「っ!」

『どうしてDAを襲ったんだい?……君は誰だ』

「…ヘッ!…噂の仮面ライダー様でも、俺の正体は分からねぇとなぁ!いい気味だぜぇ!」

『…あいにく、君のような邪道な人間とは話したくもない。さっさと正体を教えた方が君の身の為だと思うけど?』

「おい、フィリップ…少し興奮しすぎだぞ」

『…ここに来る途中、何人ものリコリスが道中で倒れているのを見た。毒に犯され、とても苦しそうだった…』

「そうさ!俺は奴らにはとことん苦しんでから死ぬようにしといてやったのさ!俺の毒針は1度刺さると全身麻痺を起こすが、時間が経てば毒が身体を回って徐々に蝕んでいく……想像しただけでワクワクするだろぉ!?」

『クッ…このっ!』

「落ち着けフィリップ!」

『…あぁ…一刻も早くこいつを倒して毒の効果を無くさないと…!』

「あぁ!」

 

『 HEAT!』

 

ヒート!メタル!

 

「…たきなちゃん!君はこいつにやられたリコリスの応急処置を!」

『君なら毒が回らないようにする方法も知っている筈だ!』

「…分かりましたっ!」

たきなちゃんは建物の中に走り去って行った

 

「俺を倒すだとぉ?笑わせるな!俺はこれまでに、何人ものリコリスを殺してきたんだ!今更てめぇなんかに殺られるか!」

「『……』」

「あいつらは罪を背負った人間だ…生きている価値なんてねぇ!だから俺が制裁を下すんだよ!邪魔すんな!」

『…罪を背負った人間だからこそ、それを償う責任がある』

「…それだけで充分、彼女たちには生きる価値がある!」

 

メタル!マキシマムドライブ!

 

「散々人の命を奪ってきたからこそ、人の命の尊さを誰よりも知っている。それがリコリスだ!」

『僕が彼女たちを毛嫌いしていた理由が分かったよ…昔の僕と似ているからだ……でももう、彼女たちに対する憂いは全て晴れた!』

「…っ!?」

「『メタルブランディング!はぁぁあ!』」

メタルシャフトの先端から炎が吹き出し、炎の勢いのまま俺たちはホーネットに必殺技を打ち込んだ

 

 

 

第9話「Hの正体/託された帽子」

 

 

 

「……どうだ!?」

『……』

「…だははは…なかなかやるじゃねぇか…仮面ライダー」

「なにっ!?」

『なんという装甲の硬さだ…メタルブランディングの攻撃をものともしないとは…!』

「はっはっはっ!お返しだァ!」

右腕から毒針を射出するホーネット

 

「ぐっ!」

『翔太郎っ!』

「かはははは!まずは1発だァ!」

毒針がダブルの腹部に刺さる

全身に何かが血流に逆らって流れてくるみたいで気持ちが悪い

 

「くっ…!」

『翔太郎っ!しっかりしろ!翔太郎!』

「…くっ…フィリップ…!」

『翔太郎!交代だ!ファングで行こう!』

「…いや…そんな事してる暇はねぇ…2人とも死んじまうぞ!」

『…じゃあ一体どうすれば…!……そうだ…!』

ダブルの右腕は懐からピンク色のメモリを取り出した

イニシャルは「T」

 

「…フィリップ…それは…!?」

『アラン機関が送って来た、新たなメモリさ!これで君の身体を…!』

「…やめろフィリップ!…そんな事したら…敵の思う壺だぞ!」

『…君の命が最優先だ!』

 

『 THERAPY!』

 

フィリップはセラピーメモリを起動させ、マキシマムスロットに差し込んだ

 

セラピー!マキシマムドライブ!

 

「がぁぁぁぁあ!」

『少しの間、我慢してくれ…!』

ピンク色のオーラがマキシマムスロットから溢れる

それがダブルを包容した

 

「『……』」

「…死んだ…か?」

「『…いや、生きてるさ…!』」

「っ!?」

 

ダブルはメタルシャフトでホーネットを攻撃する

怯んだホーネットを見て俺は少し驚いていた

 

「…すげぇな…マジで治っちまったぜ…」

『「治療の記憶」を持つセラピーメモリ…とても強力なメモリだ。しかし、何故それをアラン機関が…?』

「今はそんな事良いだろ?相棒」

『…あぁ、考え事は勝った後にね』

「あぁ!?」

 

続いてダブルはオレンジ色のメモリを取り出し起動させた

 

「 DRILL!」

 

ヒート!ドリル!

 

ダブルは左半身をオレンジ色へと変化させ、左肩にはドリル型の武器、「ドリルクラッシャー」が生成された

仮面ライダーダブル ヒートドリルが完成した

 

「ドリルのメモリか…これならあいつの殻も破れそうだぜ…!」

『これもとても強力なメモリだ!気を付けて使いたまえ!』

「あぁ!」

「…ほざけぇ!」

「…今度こそ…!」

「『…さぁ!お前の罪を数えろ!』」

 

 

「……あれ、たきなから着信来てるや」

「たきなの方からあんたに電話なんて、よっぽど急ぎの用事だったんじゃなーい?」

「まーさかまさか!たきなもきっと私の声を聞きたくなったのさ〜!」プルルル プルルル

たきなからの不在着信に気付いた千束

折り返しの電話をかけると、たきなの息切れした声が聞こえた

 

「あ!たきなぁ〜?どうしたのさぁ〜こんな時間に電話なんか掛けてきて〜私の声でも聞きたく──」

『DAがドーパントに襲われました!』

「っ!」

 

その声を聞いた瞬間、千束は喫茶リコリコを後にした

 

「…早っ」

置いていかれたミズキは何処にいるのかも分からないミカに電話をかけた

 

「あ、もしもし〜?ミカァ〜?……大事件よ」

 

 

 

「たきな!今どういう状況!?」

『何人ものリコリスが襲われ、司令も傷を負いました』

「楠木さんも!?…待ってて!今そっち向かってるから!」

『それと、ひだ……仮面ライダーがドーパントと交戦中です!』

「オッケ!たきなは負傷者の応急処置をお願い!」

『今やってます!』ピッ

 

たきなとの電話を切った千束は全速力で街中を走った

すると、路駐していた車の窓が開き

声をかけられた

 

「何か困り事かな?千束ちゃん」

「ヨシさん!?」

車の中から吉村シンジが声を掛けて来たのだ

 

「ヨシさんお願い!連れて行って欲しいところが!」

「…良いだろう。出してくれ」

「はい」

千束が車に乗ったところで車を発車する姫蒲

 

「……ところで、一体どんな用事なんだい?」

「え?あ、あぁ…ちょっと塾があってぇ〜…」

「…そうか。こんな時間から大変だね…あまり今期詰めすぎないようにね」

「は、はぁ〜い…」

 

 

 

「……司令……司令っ!」

「…なんだ…もう少し静かに出来んのか…?」

「す、すみません!」

眠っていた楠木を起こしたのはフキだった

 

「……フキか……たきなは…?」

「今、他のリコリスたちの応急処置に向かいました。それと、仮面ライダーがドーパントと交戦しています」

「……そうか…余計な事をするもんだな」

「奴がドーパントを倒したところで、捕らえますか?」

「…いや、今回は見逃してやろう…私もこの状態だ。生き残るのかどうかも分からん…最悪死ぬかもな」

「そんなっ…!」

「そんな事にはさせませんよ」

すると、傷だらけのたきなが2人の前に現れた

 

「っ!たきな…!」

「……」

「…貴方には、色々と言いたいこともある。ここでくたばってもらっては困ります」

「……そうか」

楠木の肩を持って運ぶ2人

 

「…しっかり支えろよ?司令になんかあったら私がお前をぶっ殺す」

「これでも最大限守ったつもりですが……貴方も来るの遅かったですよね?」

「…あぁっ!?」

「やめんか…こんな状況での喧嘩はあまりにも不毛だ」

「…す、すみません…」

「……」

「…それよりたきな…ずっと気になってたが…その帽子はなんだ?」

「…っ」

たきなは翔太郎から預かった帽子の鍔を持った

 

「……これは…」

「……」

「……約束の証です」

「…そうか。似合ってないぞ」

 

 

「おらっ!」

「ぐっ!」

「もういっちょ!」

「くはっ!」

右手に持ったドリルクラッシャーで炎を纏った攻撃を繰り出すダブル

 

「おのれっ!」

「はっ!」

「なにっ!?」

毒針をドリルクラッシャーで弾き飛ばすダブル

 

「……さてと、ここまでだぜ?」

「…ふざけるな…ここで終わってたまるかぁ!」

「『…っ!』」

ホーネットは羽をばたつかせて飛び立とうとしていた

 

「…へへへ…お前らとはおさらば……あぁっ!?」

しかし、何者かがホーネットの羽を撃って動きを封じた

 

「誰だっ!?」

『…っ…彼女は!?』

「……ふぅ…」

ホーネットを撃ったのは千束ちゃんだった

 

「おつかれ様!仮面ライダー!」

「何でここに!?」

「私の相棒が呼んでくれたの!貴方はあっちに集中!」

「…あ、あぁ!」

「このっ…小娘がぁ!」

「…っ」

千束ちゃん向けて毒針を何本も発射するホーネット

 

「…っ…危ねぇ!」

「……っ」

千束ちゃんの顔目掛けて発射された毒針

しかし、千束ちゃんはその全てを避けきった

 

「なにっ!?」

『…ほぉ…興味深い…』

「貴様…よくも俺の毒針をぉ!」

「…うちの相棒の方が、もっと正確に撃てるけどね……仮面ライダー!トドメやっちゃって!」

『翔太郎!メモリブレイクだ!』

「あぁ!」

 

ダブルはドリルクラッシャーにドリルメモリを差し込んだ

 

ドリル!マキシマムドライブ!

 

ドリルクラッシャーのドリル部分が回転し、そこに炎が纏う

 

「よぉ〜し!技名は「ドリルスマッシュレイン」でどうだ!?」

『了解した!』

「『ドリルスマッシュレイン!はぁぁあ!』」

ドリルクラッシャーに纏った炎のエネルギーがそのままホーネットの方へと発射される

ダブルはその後を追い、炎のエネルギー攻撃とドリル攻撃の2連撃でドーパントを倒した

 

「ぐわぁぁぁあ!」

ホーネットの正体は革ジャンを着た男だった

男の近くには破損したメモリが落ちていた

 

「…ぐっ……」

『…それじゃ、あとは頼んだよ?リコリス』

「いいのかよ相棒、リコリスに任せて」

『…彼の後始末を彼女に任せるのが適任と思うのは、僕だけかい?』

「…ハッ…そうだな〜……あとは頼んだぜ?リコリス」

「うんっ!仮面ライダーも気をつけて!」

「『…あぁ!』」

 

ダブルは変身した状態のままハードボイルダーにまたがった

 

「…ここまで来れば大丈夫か」

ダブルはダブルドライバーからメモリを抜き出し

変身を解除した

 

「…ドリルメモリ…強ぇな…」

「あのっ!」

「うわっ!?」

すると、そばに来ていたたきなちゃんが声を掛けてきた

 

「た、たきなちゃん……」

「…貴方が…仮面ライダーだったんですね…」

「…あぁ…この事は内密に…」

「凄いです!」

「…え?」

予想していた反応とは違った事に俺は驚いた

 

「人知れずドーパントと戦う超人…やはり凄い人だったんですねっ!」

「い、いやぁ…それほどでもぉ…」

若い女の子に褒められて嬉しくないわけが無い

 

「…私は…早くDAに戻りたいんです……だから、司令を助ければ復帰に近付くと考えたのですが……」

「……仲間を見殺しにしたのか?」

「……はい」

「…それが君の罪か?」

「…はい」

「……それが分かってるのなら、いいと思うぜ」

「…え?」

俺はヘルメットを被り、バイクのエンジンを入れた

 

「…でも、きっと君にはまだまだ罪がある。それを今から数えるんだ」

「……私の…罪を…」

「…さぁ…君の罪を数えな……」

 

俺はそう言って颯爽と去って行った

決まったぜ

 

 

 

「……あ」

帽子……返すの忘れてた…

 

「……フフッ」

 

 

事件は終わった

ホーネットに襲われた人々も身体から毒素は抜け、今は正常な健康状態になっているらしい

ただ、それでも間に合わなかった人もいる

その人たちの命は、俺たちが報いるしかない

 

この街のために死んで行ったリコリスたちの命を…

 

「…こんにちは〜!」

「お、来たか千束ちゃん」

「いつも通り差し入れに来ましたよぉ〜」

コーヒーの配達に来てくれた千束ちゃん

そして…

 

「こんにちは」

「……たきなちゃん…」

すると、たきなちゃんは俺に耳打ちで伝えて来た

 

「…貴方達のこと、まだ誰にも話してませんから……でも、DAは貴方達のことを躍起になって探しています。気をつけてください」

「……あぁ、忠告ありがとうな…たきなちゃん」

耳打ち終わって彼女の顔を見ると、少しだけ不服そうだった

 

「……たきな」

「…え?」

「…私の事は、たきなって呼んでください」

「…そうか…たきな」

「はいっ!」

「いや食い気味!」

食い気味に返事をしたたきなに俺はツッコミを入れた

 

「え!?なになに!?2人ともいつの間にそんな仲良くなったの!?翔太郎さん!私の事も呼び捨てで呼んでよ〜」

「分かった分かった!千束、たきな」

「…うんっ!」

「はいっ!」

「…これからもよろしくな!」

 

 

 

『……検索を始めよう……キーワードは…』

「地球の本棚」にて検索を始めたフィリップ

彼の頭の中で、ひとつの仮説が生まれていた

 

『……ガイアメモリ…取引……そして…』

フィリップは最後のキーワードを言い放った

 

『……アランチルドレン』




次回

第10話「勝敗はMで/元相棒の決意」

これで決まりだ!


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第10話「勝敗はMで/元相棒の決意」

「……ふぁ〜…」

平和な朝だなぁ…

いつもこんな感じだったら良いのにな…

 

「こらぁ!」

「お痛ったぁ!何すんだよ亜樹子ォ!」

窓から黄昏れる俺の後頭部を亜樹子はいつものスリッパで叩いた

 

「なんであの店のあの2人がリコリスだって私に言わなかったのよォ!私聞いてなかったんですけどぉ!?」

「悪い悪い!お前に言うと怒ると思ったからさぁ…」

「…はぁ…バカね、翔太郎くんは…」

「あ?」

「私がリコリス全員を憎んでるとでも思ってるの?」

「…いや…そういう訳じゃ…」

そんな会話をしていると、フィリップがガレージの扉から出てきた

 

「…翔太郎、これを見てくれ」

「…樋口(ひぐち)裕隆(ひろたか)…ホーネットの正体か」

「彼の事を調べている内に、僕は一つの仮説を立てた」

「…仮説?なんだそりゃ」

フィリップはたまにおかしな事を言うなと思いながら、俺はマスター引き立て豆のコーヒーを飲んだ

 

「最近現れるドーパントの正体は、皆アランチルドレンだったという事さ」

「…ブゥゥゥゥ!」

フィリップの言葉に俺は思わずコーヒーを吹き出してしまった

決して、俺が淹れたコーヒーが不味かったからじゃない

 

「どういう事だ!?……っ!?」

そういえば…葛原柊一もアランチルドレンの1人だってウォッチャマンが言ってた…

 

「…君には黙っていたが、ウォーシップの正体だった若倉和真もアランチルドレンの1人であり、今回のホーネットの正体、樋口裕隆もアランチルドレンだった」

「…なんで…!?」

「若倉和真…彼は射的のスペシャリストだ。サバイバルゲームなどでその才能を遺憾無く発揮できていた。その結果アラン機関に選ばれアランチルドレンへとなったが。ある日に妻が病気で倒れ、金が必要になり、ドーパントに変貌した。樋口裕隆…彼はボディービルダーの1人で、風都でもかなり有名だったようだ…それもアラン機関に選ばれ、まぁその後は一緒だ。挫折を味わい、DA襲撃を行った。動機は分からないけど…彼の言動から考察するに、誰かから…いや、十中八九アラン機関からの依頼だろうね。若倉和真の時と同じだ」

「……」

なんなんだよ全く…意味が分かんねぇ…

 

俺はアラン機関から送られて来たフクロウのチャームを握った

 

「……アラン機関…」

新たな敵の像が見えた気がした

 

「……」トゥルルル トゥルルル

すると、俺のスタッグフォンにメールの着信が来ていた

 

「……お」

相手は千束からだった

メールの内容はこうだった

 

『今夜みんなでボードゲーム大会を開きます!翔太郎さんも来てください!』

 

 

 

第10話「勝敗はMで/元相棒の決意」

 

 

 

「……」

 

《…さぁ…君の罪を数えな……》

 

「……私の…罪…」

 

「たーきなー!みんなでボードゲームやろーよー!」

「……結構です」

レジ締めを終えたたきな

入口のベルに気付いてドアの方に振り向いた

 

「…よっ」

「左さん…!」

「あ!翔太郎さんいらっしゃい!」

「おぅ、ボードゲーム大会やるんだって?俺は無敵だぜ?」

カウンターに肘を着いてキメ顔をする翔太郎を見て

ちゃぶ台席に座っていたとある2人が反応した

 

「言ってくれるね〜翔ちゃーん!」

「ほんとほんと、相変わらず自信過剰だな!翔太郎」

「…ゲッ!ウォッチャマンにジンさん!?何でここに!?」

それは翔太郎がいつも世話になっているウォッチャマンと刃野刑事だった

 

「なんでって…ここにはいつもお世話になってるもんっ」

「仕事終わりによく来るんだよ、マスターのコーヒーは格別だからな〜」

「だからってなんで今日なんだよ〜…俺の箔が落ちるだろ!?」

「まぁまぁまぁ!翔太郎さんそう言わずに〜!」

ちゃぶ台席に促す千束

 

「……」

しかし、それを見たたきなは不満そうな顔をしていた

 

「……ん」

たきなのその表情に気付いた千束だったが

そのままスルーしてボードゲーム大会を始めた

 

 

「……」

「…混ざって来たらどうだ?」

「…そうすればDAに戻れますか?」

「……」

たきなを心配して声をかけたミカだったが

その言葉に絶句した

 

「……」

「たーきなー!」

「…なんです?」

「一緒にゲームやろ?ね?」

「もう帰るので」

「じゃあ明日は?」

「明日は定休日ですよ?…着替えるので」

更衣室の戸を閉めるたきな

 

「……そう〜だから、明日も集まってゲーム会を…」

「千束」

「ん?」

しつこくたきなに声をかける千束をミカが止めた

 

「健康診断と体力測定は済ませたのか?」

「あ、いや、まだ…」

「明日は最終日だぞ?ライセンスの更新に必要だ。仕事を続けたいなら行ってこい」

「うぇ〜…そこは先生上手くやってよぉ…先生の頼みなら聞いてくれるでしょ?楠木さん」

「司令と会うんですか?」

楠木の名前に反応して下着姿のたきなが戸を開ける

 

「おぉい!馬鹿服ぅ!……っ」

「…ん」

咄嗟に更衣室の戸を閉める千束

ミカに疑いの視線を向ける

ミカは知らんぷりをした

 

「私も連れて行ってください」

「……早ァ…」

「お願いします」

「……」

「お願いします」

「……わかったよ、たきな」

ミカと目を合わせた千束はそう言った

 

 

 

「……何やってんだかあの子たちは…」

その一部始終を聞いていた翔太郎はため息をついた

 

「たきなも混ざれば良いのにな」

「ほんとだな、俺笑ってるたきなの顔見たことないぞ」

「ボクもだ。まぁ興味もないが…ボードゲームは思考を要するから面白い」

「……てかお前、普通に出て来て大丈夫なのか?仮にも喫茶店だろ?誰かに狙われても知らねーぞ」

「問題ない。もうボクは立派なリコリコの店員だ。働くのはめんどいが、まぁ退屈しないし良い」

「……そうですかぁ…」

クルミは俺との会話を終わるとまたウォッチャマン達とボードゲームをしに行った

 

「……」

「…混ざらないのか?」

「ちょっと休憩だ。マスターコーヒー淹れてくれるか?」

「あいよ、ちょっと待ってろ」

俺はカウンター席に座ってコーヒーを飲んだ

 

「…最近たきなの様子がおかしいのだが、何か知らないか?」

「…何かって?俺はたまにここに来るただの客だぞ」

「時期はそうだな…DAが襲われた日のあとくらいからだ」

「…っ」

「何か心当たりが?」

「……たきなは迷ってるんだ。自分がどうすればいいか……でも…」

「……」

「…まだその答えは見つかってないみたいだな……」

俺はそう言ってマスターのコーヒーを一口飲んだ

 

「……これは?」

マスターは俺にカードキーのようなものを渡してきた

右上には特殊な事態で「DA」と書かれていた

 

「DAの入場許可証だ、今度千束たちと一緒にDAに行ってもらいたい」

「えぇ!?なんで俺が!?」

「…DA内で、リコリスが1人殺された」

「…っ!?」

 

 

「……」

風都で1番の敷地を持つこの施設が、まさかDAの本部だったとはなぁ……

 

「……はぁ」

「…どうした?千束」

「…私本当はこんなとこ来たくないんですよ〜…でも仕方なくぅ〜?」

「……たきなはノリノリみたいだが?」

「あれはノリノリなんじゃなくて、楠木さんに話があるだけなんですよ〜……」

「……楠木…か」

その聞き覚えしかない名前を呟きながら、俺たちはDA本部の正門を車でくぐった

 

流石はDA、顔認識で関係者かどうかを見て正門を開けているようだ

 

 

 

「…………来たか……小僧」

そんな3人を、楠木はモニターから見ていた

 

 

 

入口に入ってすぐに手荷物検査と再度顔認証による入場許可

俺はマスターから貰ったカードで入場した

 

「お待ちしておりました。錦木さんは体力測定ですので、隣の医療棟へ。井ノ上さんは…」

「楠木司令にお会いしたいのですが…」

「司令は現在会議中です。お戻りになられるのは2時間後ですが…」

受付を進めている俺たち

そんな受付嬢が俺を見て不思議そうな目で見る

まさか話が通ってないのか…?

 

「…ん"ん"……ミカさんより依頼を受けてきました。鳴海探偵事務所で探偵をしています。左翔太郎と申します、以後お見知りおきを…」

そう言って俺は受付嬢の手の甲に唇をつけようとした時、受付嬢は手を激しく弾き、銃を構えた

 

「おっとぉ…流石はリコリスだぜぇ」

「ちょっと何やってるの?翔太郎さん…?」

手を挙げる俺を見て千束は呆れていた

 

「……っ」

すると、前髪が短めのリコリスがこちらを見ている事に気が付いたが、俺と目が合う前に何処かに行ってしまった

 

「ミカ先生のご紹介でしたか!申し訳ありません!」

「い、いえいえ〜…」

事情を説明し、俺はDA内に入る事に成功した

 

「……たきな?」

「…っ…はい」

「どうした?元気ないみたいだが?」

「…い、いえ…私、訓練所に行ってますから…」

「あ、ちょっと待ってよたきなぁ!」

「……」

そう言って走り去るたきな

その背中からは哀の感情と焦りを感じた

 

 

「……すげぇな」

訓練所にて、たきなが銃の練習中

俺は訓練所の上からその様子を見てたきなの銃捌きに感心していた

 

楠木が来るまでの間の時間潰しだ

 

「……久しぶりだな、小僧」

「…よっ……楠木さん…」

仮面ライダーになっていた時に一度会っていたが、やっぱり変わってねぇな…

 

「相変わらずのようで安心した。探偵の仕事は上手くいってるのか?」

「まぁな…お陰様で最高の相棒と一緒にありとあらゆる事件を追ってるぜぇ?…あんたらリコリスが取りこぼした事件をな」

「……所詮は半人前か」

「あんたも、ドーパントに襲われたって聞いたけど元気そうだな…相変わらずしぶといぜ」

「昔の私と一緒にするな…今や私はリコリスをまとめる者、そう易々と死んでたまるか」

楠木はそう言って俺の横を通り過ぎて行く

 

「…んで?こんな私立探偵に、天下のDAがなんのようだ?」

事情は知っていたが、俺はこの人の口から聞きたくなった

この事件の事を

 

「……先日、リコリス棟の中で…1人のリコリスの死体が見つかった……全身鉄の液体が固着したようなものに囲まれ、首だけが苦しそうに出ていた……まるで、晒し首のようにな」

「…晒し首っ!?」

楠木は俺に資料を渡して来た

添付の写真には、首からしたが鉄で覆われたリコリスの死体の写真だった

 

「……なんでこんな…!」

「恐らく、先日のドーパントを機に我々の存在を消そうとしている者が現れたのだ……まったく…仮面ライダーが変に刺激を与えるからだ…」

「……なに?」

俺は資料に向けていた目を楠木に向けた

 

「…分からんか?ドーパントが現れる所に、奴は現れる。それはつまり……」

「…仮面ライダーがいるから、ドーパントが現れるって言いてぇのか…?」

「その通りだ」

「…くっ……」

俺は自然と拳に力が入る

気付けば資料もぐちゃぐちゃになっていた

 

「……この事件を解決すれば、お前が知りたい情報を教えてやろう」

「……あ?」

「…この街の真相をな」

 

 

「……はぁ…」

訓練を一段落終えたたきなは銃を置き

ヘッドホンとグラスを外した

 

そして、後ろに気配を感じて振り返った

 

「…へぇ〜…やばいっすね〜」

「……?」

「どーもーっす!乙女サクラっす!」




次回

第11話「勝敗はMで/今は次に進む時」

これで決まりだ!


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第11話「勝敗はMで/今は次に進む時」

感想くれる方、ありがとうございます
評価つけてくれた方、ありがとうございます

これからもよろしくお願いしますm(_ _)m



「……」

「……」

たきなと同じセカンドリコリスのボーイッシュな子

乙女サクラはたきなに握手を催促し、それに応えるたきな

 

「……っ」

しかし、その手を掴んで話さないサクラ

腕を引き寄せて煽り口調で言った

 

「命令無視した挙句、仲間にぶっ放したって本当っすか?」

「…っ!」

彼女のその言葉に手を弾くたきな

 

「うーわマジなんすね〜!」

「違う…私は…!」

「やっぱ…敵より味方打つ方が燃える〜みたいな?」

「やめてください」

「おっと〜おっかなーい!撃たないで下さいよ〜?あ、殺しの時しか笑わないんだって?」

「……誰が…そんな嘘を…」

「いや〜あーしは好きっすよ?映画の殺人鬼みたいでカッコイイっす!あははは!」

「……」

「…まぁ、安心してくださいよ…先輩が抜けた穴は、後任の私がしっかり埋めますから」

「……後任?」

「…あれ?聞いてなかったんすかぁ?自分がこれからフキさんのパートナーを務めるっす……あんたの席はもうないっすよ〜?」

「……っ」

 

 

「……」

 

《この事件を解決すれば、お前が知りたい情報を教えてやろう》

《…あ?》

《…この街の真相をな》

 

「……この街の真相…一体なんの事だ…?」

俺は楠木に言われた言葉を反芻しながらDA内を練り歩いていた

考えるよりまずは行動の俺にとっては動きづらい場所だが……この際仕方ない

 

「……ん」トゥルルル トゥルルル

すると、スタッグフォンに着信が来ていた

相手はフィリップだ

 

『翔太郎、無事かい?』

「…どういう意味だ…?相棒」

この切り出し方…まさか何か分かったのか…!?

 

『いや、君が痴漢に間違われていないか心配でね…耐えきれず連絡をしてしまったよ』

「なんつー心配の仕方してるんだ!?あと、俺をなんだと思ってる!?」

『ごめんごめん、冗談だ。さっき君から貰った例の事件の資料…ぐちゃぐちゃだったけど何とか解読して一通り読んだよ』

「…うっ…すまん…」

俺は楠木と別れた後にフィリップに資料の写真を送っていた

 

『この光沢の光り方から考察するに、これは鉄ではなく銀だ』

「…銀?」

確かに…鉄にしては綺麗だな…

 

『これがドーパントの仕業なら、相手は銀に関連するメモリを所持している筈だ』

「…分かった、もしそいつが現れたら気をつけ……っ!」

すると、そこまで遠くないところから女子の悲鳴が聞こえた

 

『翔太郎!今の悲鳴は!?』

「…あぁ!噂をすればなぁ…!」

俺はダブルドライバーを腰に装着しながら悲鳴の方向に走って行った

 

 

 

「……ふふふ」

「…あうぅ…い、いやぁぁ…!」

「…さぁ…お前は人生に何を遺した?言ってみろ…」

「…わ、私はぁぁ…」

ドーパントに襲われそうになったリコリスは気を失った

 

「…やれやれ…所詮は3流リコリスか……お前にふさわしい処刑方法は……串刺しの刑だ…!」

「やめろォ!」

「…ん?」

現場に着くと、全身銀色のドーパントがリコリスを1人に襲いかかっていた

左腕が歪な形になっており、右肩はぐしゃぐしゃにしたアルミホイルみたいな見た目だった

 

「…男?…何故DAに入れた?」

「それはこっちのセリフだ!どっから入って来やがった!?」

俺はそう言うなり、ジョーカーメモリを構えた

 

「 JOKER!」

 

「フィリップ!」

『あぁ!』

 

『 CYCLONE!』

 

「『変身ッ!』」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブルへと変身する俺たち

 

「…仮面ライダー…?」

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

 

第11話「勝敗はMで/今は次に進む時」

 

 

 

『奴が今回の事件の犯人か…!?』

「あぁ…なかなかにふざけた見た目しやがる……シンプルすぎて逆に気持ち悪ぃぜ」

『気を付けたまえ、この類のドーパントが1番厄介な可能性がある!』

「…あぁ、分かってるさ!」

 

俺は仁王立ちするドーパントに向かって拳を振りかざした

 

「はぁぁ…!」

「…っ」

「…なにっ!?」

ダブルが拳がドーパントの胸に直撃する瞬間だった

奴の胸がドロドロと波打ち、ダブルの拳がめり込むと同時にくぼみが出来た

そのくぼみが埋まり、ダブルの右手が奴の胸に埋まってしまった

 

「くそっ!抜けねぇ!」

「…ふふふ…仮面ライダー、貴様は人生に何を遺した?」

「あぁ!?」

「…それすら言えない奴に、生きている資格などない!」

「『っ!?』」

 

すると、奴の身体の一部がまた波打ち

やつの周りにドロドロした銀の球が浮く

 

「…フッ!」

「『だぁ!』」

それが変形し銀の槍のようなものが飛び出す

それが何度も何度もダブルの身体を突いた

 

「『ぐわぁ!』」

「……ふはははは…!」

「…なんだよ今の攻撃…!?」

『あの特徴は…奴はただの銀を使ってるわけじゃないんだ!』

「どういう意味だフィリップ!」

『奴のメモリの正体が分かった!奴は「マーキュリー」だ!』

「マーキュリー?なんだそれ!?」

『水銀さ!奴は水銀を操って、リコリスを生き埋めにしたり、変則的な攻撃が出来る!これまでにないくらい厄介な相手だ!』

「…なるほどな…近接戦闘は難しいって事か……だったらコイツだ!」

 

「 TRIGGER!」

 

サイクロン!トリガー!

 

ダブルの左半身が青色に変化し、サイクロントリガーへと姿を変える

左胸に生成される「トリガーマグナム」を構え、引き金を引いた

 

「はっ!」

「……っ」

攻撃は当たるも、ダメージは無い様子だ

 

『早打ちのサイクロントリガーでは、奴には攻撃が効かないようだね…』

「だったら火力で勝負だ!」

 

『 HEAT!』

 

ヒート!トリガー!

 

ヒートトリガーへと変化するダブル

トリガーマグナムにトリガーメモリを装填し、マキシマムモードに変形する

 

トリガー!マキシマムドライブ!

 

「『トリガーエクスプロージョン!』」

「…っ」

「『…はぁぁぁあ!』」

トリガーマグナムの銃口から超高熱のエネルギーが放たれ、その炎がマーキュリー・ドーパントを包んだ

 

「…ハァ…ハァ……どうだ!?」

「……」

『なっ…!?』

マーキュリーは全身に水銀のバリアを作り上げ、攻撃を防いでいた

澄ました声のまま、マーキュリーはこう言った

 

「…今のはなかなかの攻撃だった……しかし、貴様が守ったその命も、その街の枷となる存在だ…」

「…なにっ?」

「いずれわかる事だ…彼女たちがどれだけこの街にとって罪な存在なのか……」

「まっ…待てっ!」

『……逃げられたか』

マーキュリーは全身をドロドロに溶かし、床に消えて行った

 

 

『マーキュリーも、誰かに依頼されてリコリス狩りをしていると思うね』

「リコリス狩りって……まぁ、どっちにせよあの能力は厄介だ。エクストリームで行きたいところだが……」

『…あぁ…彼はあの日から僕たちの前から姿を消した……今頃何処にいるのやら…』

「エクストリームの家出かよ〜…勘弁してくれこんな時に…」

『…仕方あるまい、犯人を見つけてメモリを回収する他ないね』

「いつも通り、検索頼めるか?相棒」

『あぁ、もちろんだ…1つ、見当もあるからね…それも試したい』

「あぁ、頼んだぜ」

 

俺は腰からダブルドライバーを取り外し、さっきマーキュリーに襲われていたリコリスの所に駆け寄る

 

「……外傷は特になしか…良かった…」

紺色の制服にオレンジ色の髪色

この子どっかで見たような…?

 

「……ん」

「…お、起きたか…大丈夫か?」

「…っ…さっきのドーパントは!?」

「逃げた。でも君が無事でよかった」

「……ごめんなさい…私、弱くて」

「…何言ってんだよ…リコリスでも、強いも弱いも関係ねぇだろ?」

「……違うんです…私が弱いのがいけないんです」

「…どうして?」

「だって…私が強ければ……あの日たきなを…」

「……たきな…?」

俺はたきなの名前を聞いた瞬間ピンと来た

さっき受付でたきなを見ていた子だ

 

「君!…名前は?」

「……蛇ノ目エリカ…です」

「……その名前…!」

この間マスターから聞いていた

たきなが転属になったのは指令を無視してドーパントを刺激したからと聞いたが、実はその時たきなはドーパントに人質として囚われたリコリスを守ろうと銃を撃ったと…

その人質に取られたリコリスが、蛇ノ目エリカ

 

「…私が捕まらなければ……たきなは…」

「……いいか?お嬢ちゃん」

「…へ?」

「…君たちの間に何があったかは詳しくは知らない……だがな、これだけは言える…」

「……」

「…君のせいじゃない」

「…え?」

「完璧な人間なんていねぇんだ…人は誰かと支え合うことで、初めて人になれる……それが、Nobody's Perfect…俺の憧れの人の言葉だ」

「……支え合って…?」

「そうだ…君たちリコリスはこれまで支え合って生きてきたんだろ?…だったら、一生懸命に生きてる人を…君が応援してやんねぇとな…」

俺はエリカの頭をポンポンと叩き、その場を去って訓練所へと向かった

 

 

 

「……」

俺は知っていた

人を守るという事が、どれほど大変で

どれほど凄いことなのか…

 

《おやっさぁぁぁん!!》

 

あの時おやっさんとの約束を破ったから…おやっさんは…

俺はおやっさんを守る事が出来なかった…

 

……

 

たきな……俺たちがした事は、間違いだったと思うか?

 

「………俺の……罪…」

 

 

「……っ」

訓練所に着いても誰もいなかった

俺は仕方なく施設内を歩き、噴水がある大広間に出た

 

道中すれ違うリコリス達がウキウキしながら何処かに向かっていた

 

「……あ」

そこにはたきなと千束がいた

なんだか邪魔しちゃいけない雰囲気がしたから仕方なく遠くから2人を見守る事にした

 

静かな空間から、彼女たちの声がよく聞こえた

 

「この棟で暮らす事は、DAに拾われた私たちみんなの憧れ…この制服に袖を通した時も…」

「嬉しかったよね…」

「……」

「…そんな意外そうな顔しないで、私だってそうだよ」

「なら、千束さんにも分かるでしょ…ここが目標だった……それを私は奪われた!…どうしてこんな…」

 

井ノ上たきなは転属処分を受け、DAに戻る機会を探っていたが、それも虚しく彼女の後任がもう既に居た

 

「…たきなを必要としている人が、街には沢山いるよ」

「貴方はDAに必要とされてるから良いですよね!?私には…私の居場所は……もうここにはない…」

 

ごめんなさいと謝るたきな

そんな彼女に千束はあの夜何が起こったのかを話した

DAの気密性を担う「ラジアータ」がハッキングされた事

だが、そんな事は報告できない為リコリスの暴走という事で手が打たれていた

それを聞いてすぐさま足を動かすたきなにそれを止める千束

 

「理不尽です!司令に話して…」

「ちょーいちょいちょい!シラ切られるだけだって!」

「ならどうすれば…!」

「……」

 

たきなを落ち着かせる為に彼女の背中に手を回す千束

 

「…っ」

「たきな、今は次に進む時……失う事で得られる物もあるって…」

「……」

「たきながあの時あぁしてなかったら、私たちは出会えてなかったよ?」

「……」

 

そしてたきなを抱き抱える千束

 

「私は君と出会えて嬉しい!」

「…ちょっ…ちょっと…!」

「嬉しい!嬉しい!」

「……っ」

「誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって!居場所はある。お店の皆との時間を試してみない?それでもここがいいなら戻って来るといい。遅くない、まだ途中だよ…チャンスは必ず来る。その時、したい事を選べばいい…」

「…したい事…?」

「そう!私はいつも、やりたい事最・優・先っ!今は!たきなに酷いこと言ったあいつらをぶちのめしたいので〜?ちょっと行って来ますよ〜…」

「……」

 

そう言ってたきなの元を離れる千束

 

「……」

一方、翔太郎は彼女の言葉を胸に抱えた

 

「……まさか…女子高生に気付かされるとはな……」

俺は迷っていた

自分が何をするべきなのか…

何が出来るのか……

 

でも、違うんだ…

俺がしたい事を、俺のしたいようにやればいい

それが俺が…自分で決めた事なのだから…

 

「……」

男の仕事の八割は決断、そっから先はおまけみてぇなもん

 

「……ありがとな、おやっさん……千束」

 

 

「……はぁ〜あ〜…私にもそろそろいい男が現れねぇかなぁ〜!」

喫茶リコリコで留守番をわかされたミズキ

婚活雑誌を片手に理想の彼氏の妄想を膨らませていると

入口のすずが鳴ると同時にドアが開いた

 

「…あ、すみませ〜ん…お店午後からなんですよ〜!」

手を合わせて客に平謝りしながら大胆な嘘をつくミズキ

 

しかし、お客はそのまま中に入って来た

 

「……問題ない、僕は君に用があって来たんだ」

「……へ?」

「…元DA情報部……中原ミズキ」

喫茶リコリコに来たフィリップ

そんな彼を見てミズキは思った…

 

「……」

 

……イケメンだ




次回

第12話「勝敗はMで/これが私の罪」

これで決まりだ!


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第12話「勝敗はMで/これが私の罪」

本作を書こうと思ったきっかけは、丁度今期に「風都探偵」「リコリス・リコイル」の放送があったことと、仮面ライダーWとリコリコのコミカルさとシリアスさのバランスが似ていると思った為です。何となくで始めてしまった二次創作ですが、上手くやれてるでしょうか…?
是非、感想などで教えてください!



「……」

「…行かないのかい?」

「左さん!……聞いてました?今の…」

「…まぁ、ひと通りな…」

噴水のベンチに座るたきなの横に座る俺

たきなは酷く落ち込んでいた様子だった

 

さっきすれ違ったリコリス達がウキウキしていたのは、千束とたきなが復帰を賭けた模擬戦をするからもいうものだった

千束がぶちのめしたいと言っていた相手が、今回の模擬戦の相手のようだ

 

しかし、たきなは座ったまま動こうとしなかった

まだ迷っているんだろう

 

「……1年前、初めてここに来た時…とても感動しました。私たちリコリスはDAに拾われた存在…ここに来る事は、やっと1人前として認められた証なんだと思いました」

「……」

「……でも、私はここを追い出され…捨てられたんです……もう私の居場所はここにはない…」

「……たきな…君の意見に否定をする訳じゃないが…」

「……」

「…ここに居場所がない?それがどうした」

「…えっ?」

俺は立ち上がり、施設を見渡した

 

「確かにここは君たちリコリスにとって大切な場所かもしれねぇ…でも、千束はどうだ?ここに居なくても、あの子はいつも楽しそうだ」

「……」

「…誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまらない……DA(ここ)に居ることで悲しくなるくらいなら、リコリコの仲間たちと楽しんだ方がいい…千束はそう言ったんだな…」

「……千束…」

俺は再びたきなの横に座り、俺は帽子を外した

 

「……この帽子にはな、俺の罪が詰まってる」

「…左さんの…罪?」

「…俺は日々その罪を数え、探偵として…仮面ライダーとして戦っている」

「……」

「…この街が俺たちを求めていなくても、俺がこの街を求める限り俺たちは戦い続ける……それが、俺たちの罪滅ぼしだ。前にも言ったよな…君の罪はなんだ?」

「……私の…罪…」

 

俯いていた表情が、少し緩み前向きな顔つきになった

 

「…っ…危ねぇ!」

「っ!?」

すると、どこからともなく俺たちに向かって何かが攻撃してきた

咄嗟に気付いた俺は抱き寄せて守った

ベンチは破壊され、埃がたっていた

 

「…この感じは…!」

「…ふふふ…井ノ上たきな、貴様は人生に何を遺した?」

「…ドーパント!?」

「下がってな、たきな…」

俺はダブルドライバーを腰に装着する

 

「…チッ…また貴様か、仮面ライダー…」

「やっぱりまた現れたなぁ…水銀野郎!」

「…左さん…!」

「たきな!君は千束のところに行け!」

「…で、でも!」

「あの子はいつでも君を待ってる!そういう子だ!…今こそ誰かじゃなく、彼女の期待に応えるべきじゃないのか!?」

「……誰かじゃなくて…千束の…?」

 

《困ってる人を、助ける仕事だよ!》

《個人の為のリコリス…?》

 

「…フィリップ!」

『あぁ』

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「『変身ッ!』」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブルへと変身する俺たち

 

「……千束…私は…!」

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

 

第12話「勝敗はMで/これが私の罪」

 

 

 

千束が向かって行った方向に走り去るたきな

俺たちはそれを見届けてマーキュリーの方に視線を移した

 

「…貴様、余計な事を…」

「悪ぃな…でも、あの子は殺させねぇ」

「ふふふ…私に勝てるとでも?」

「あたりめぇだァ…!」

ダブルはマーキュリーに連続パンチを繰り出す

 

「…くっそ…硬ぇ!」

『奴は身体を液状化・硬化、それぞれに変化させる事が出来る。必ずしも肉弾戦が効くわけでもない』

「でもどうする?遠距離攻撃も効かねぇぞ、コイツ」

『問題ない、彼女の事は検索済みだ』

「……彼女?」

 

『 LUNA!』

 

ダブルの右手は黄色のメモリを取り出し起動させ、ダブルドライバーの右側に装填した

 

ルナ!ジョーカー!

 

右半身が黄色に変化し、ルナジョーカーへと変化する

 

「あ!フィリップ!勝手にメモリ変えるなって!」

『…遠距離も肉弾戦も効かないなら、両方の方が良いと思ってね』

「……なるほどな…!」

 

相手が変則的な攻撃が得意なら、こっちも変則的な攻撃を

まさに目には目を歯には歯を、だな

 

「『はっ!』」

「…っ」

突如伸びる右腕に反応出来なかったマーキュリー

 

鮮やかに舞いながら曲がる手足で連続パンチ、キックをお見舞する

 

「…っ」

「よし、効いてる!」

『翔太郎!一気にマキシマムだ!』

「…あぁ!」

 

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

「『ジョーカーストレンジ!はぁぁ!』」

 

身体が半分に分裂し、ルナサイドが分裂し手を伸ばして鞭のような打撃を加えた後、ジョーカーサイドが手刀で攻撃した

 

「…ぬぅ!」

「……」

手応えはあったがやはり…

メモリブレイクとまではいかなかったか…

 

「……ハァ…ハァ」

「…あんたがマーキュリーの正体か」

メモリの傍に横たわっていたのはまだ若い女性だった

 

『彼女の名は水元美奈子、元DAの人間だ』

「何っ!?」

「……」

水元は這いつくばりながらもメモリに手を伸ばした

 

『彼女は元DAの技術部員、DA内のセキュリティや技術的な事を主に仕事をしていた』

「…そんな奴が、なんでリコリスを…?」

『それに関しては、彼女のかつての同僚に話を聞きに行った』

「……同僚…?」

『部署こそ違うが、彼女とは面識があったようだからね…そこからヒントを得たんだ。中原ミズキ…元DAの情報部員さ……』

 

 

「……」

……イケメンだ…けど、ちょっと子供っぽいわね

私のタイプじゃないわ…

 

「…んで?私に用って何?なんでアンタみたいな子供が私の正体知ってる訳?」

フィリップに対して不信感を抱くミズキ

それもその筈である

初対面の男から個人情報を話されて警戒しない方が不思議だ

 

「僕の名前はフィリップ、鳴海探偵事務所のもう1人の探偵だ」

「鳴海探偵事務所って…あ〜!あんたが翔太郎の言ってた相棒ね!」

「話が早くて助かる。早速君に訊きたい事があるのだけど…」

フィリップはひとつの顔写真を見せた

彼が「地球の本棚」で検索をした結果導き出した合成写真だ

 

「この人物に見覚えはあるかい?」

「…あ〜…美奈子ね、私よりも少し前にDAを辞めた女よ。でも、組織から完全に足を洗った彼女はDAに追われる立場となった…今もどっかで隠れてるのかしらね」

「…どうして追われる立場に?」

「…あの子は正義感が人一倍強かったの…だから、犯罪者を未然に暗殺する集団に対して、嫌悪感を抱いていたわ。要は犯罪者予備軍ですらも殺すリコリス達にね…」

「……だからリコリス狩りを…」

「でも、彼女が本当に憎んでいたのはリコリスじゃない…組織よ」

「……組織?」

「要は殺しの道具として遣われる彼女たちを救いたいって思ってた……でも歪んでんのよ、あの子は昔から…」

 

 

『彼女はリコリスたちがこれ以上罪を重ねない為に、その命を断絶しようとしていたんだ。そうすれば、二度と組織の手駒にされないからってね…』

「……そんな理由で、幼い少女達を殺してたのか!?」

「……そうよ…あの子たちリコリスはね、生まれつき罪を背負ってるのよ……だからこれ以上罪を重ねないように…私が解放してあげたのよ!」

『そんなのは間違っている!君は自分の正義感に自己陶酔しているだけだ!』

「…うるさい…私は人生に何も遺せなかった……だったら最期くらいは、あの子たちの為に!」

 

《 MERCURY 》

 

「『っ!?』」

銀色のメモリ…!?

ウェザーみたいなシルバーランクのメモリか!?

 

美奈子はマーキュリーメモリを自分の右手の掌に差し込み、マーキュリー・ドーパントへと姿を変えた

 

「私があの子たちの罪を背負って死ぬ!それが、私たちが散々道具として扱って来た彼女たちに対する、唯一の報いなのよ!」

マーキュリーは水銀の塊を収束させ、硬直させた水銀で突き攻撃をしてくる

 

「くっ…そんなんであの子たちの罪が消えるわけじゃない…!」

『罪は自分で償ってこそ、価値のあるものだ!』

「あの子たちが自分の罪を償うのは、もっと先の話かもしれねぇ…でもな、罪を数える事はいつだって誰だって出来る!」

『…だからこそ、僕たちは…!』

「俺たちは…!」

「『彼女たちが罪を数え終わるまで、見守り続ける!』」

 

 

「…ハァ…ハァ…!」

時刻は14時を過ぎている…

もう模擬戦は始まっている

 

「……千束…私は…!」

今まで、誰かの期待に応えるためにリコリスとして成果を上げてきた…

DAに来た時に、やっと自分は他人に必要とされる人間になれたんだと思った

 

でも、DAを離れて

自分は誰にも必要とされない人間だと思い込み

早くDAに復帰して、また必要とされる人間になりたいと思っていた……

でも、それは違った…

 

リコリコのみんなは、そんな私でも必要としていてくれたんだ…

それに気付けなかった

そんな簡単な事にも気付けなかった…

 

それが……私の…!

 

「うおぉぉぉ!」

「っ!ぐはっ!」

 

私の罪だ!

 

 

 

「…くっそ…!」

「……ハァ…ハァ」

「…おー……やるじゃんっ」

 

 

『翔太郎!ドリルを使おう!』

「あぁ!」

 

「 DRILL!」

 

ルナ!ドリル!

 

『奴にまとわりつく水銀の量には限界がある。それを限界まで切り離させれば…』

「素体が丸出しになって攻撃が効くって訳か!」

『ご名答!2連続マキシマムで追い込もう!』

「あぁ!」

 

ドリル!マキシマムドライブ!

 

ドリルクラッシャーに黄色のオーラが纏わり、それがどんどん巨大化していく

幻想の記憶を持つルナメモリが、ドリルクラッシャーを大きく見せていた

 

「『ドリルギガントスパイク!』」

「そんなもの…!」

マーキュリーが全身の水銀を切り離し、大きなシールドを生成する

フィリップの予想どうり、素体が丸出しになっていた

 

サイクロン!ドリル!

 

ドリル!マキシマムドライブ!

 

「…なにっ!?」

「『ドリルトルネードストリーム!』」

 

サイクロンの俊敏さで攻撃を防ごうとしているマーキュリーの懐に入り、風のオーラが纏ったドリルクラッシャーで丸出しになった素体に必殺技を繰り出した

 

「がぁぁぁぁぁあ!」

美奈子から飛び出すマーキュリーメモリはメモリブレイクされ美奈子もその場でぐったりと倒れた

 

「『……ふぅ…』」

「……ぐっ…ぐわぁぁぁあ!」

「…っ!?な、なんだ!?」

すると、美奈子は突然苦しみだし

全身の皮膚が爛れたり指がありえない方向に曲がったり

まるで水俣病のような症状が現れた後に、絶命した

 

『…水銀は人体には有毒だ…これがマーキュリーメモリの副作用なのか…!』

「……嫌なもん見ちまったな…」

ダブルは変身を解除し、死んだ美奈子に手を合わせた

 

 

「…たっきなー!帰りの車来たってー!」

「今行きます!」

模擬戦を終えたたきな達は帰り支度を始めていた

 

「……」

「…お前、模擬戦なんだぞ?後ろから撃てばよかったんだ…それを突っ込んで来て殴るなんてバカげてる…」

「……これでお相子ですね」

「…っ」

フキ&サクラペアに勝利したたきなと千束ペア

復帰こそなかったが、今の彼女にはそんな事はどうでも良かった

 

「やっぱりお前使い物にならねぇリコリスだよ!命令違反に独断行動…二度と戻って来んじゃねぇ!」

「……」

 

 

 

「……カーー…」スピー

「…寝ちゃったね、翔太郎さん」

「…えぇ、余程疲れたんでしょうね…」

「…たきなさ、私を狙って撃っただろ」

「……きっと避けると思いましたから」

「…ふ〜ん」

「…非常識な人ですよ、千束は」

「……でも、スカッとしたなぁ!」

「…えぇ」

夕日が沈む中電車で帰る3人

 

「…ん〜…亜樹子ぉ…もうスリッパは懲り懲りだぜ〜…」

「……」

「……」

「……プッ!」

「……フフッ」

「ふふふ…んも〜翔太郎さん寝言大きい〜」

「…ふふ…流石は、ハーフボイルドですね…」

すると、千束の携帯に着信が届いた

 

「…お、お〜…見て見てぇ」

「……ん」

リコリコのメンバーからメールが届いていた

 

『ボドゲ大会、延長戦中!

  間に合いそうなら連絡PLZZZ!』

 

「…どうする〜?」

 

「お〜千束来るのか〜!」

「……フッ」

ミカがメールを確認すると、千束からの了承の言葉と、千束とたきな、そして眠っている翔太郎のスリーショット写真が送られて来ていた

 

 

 

「やぁ!翔太郎!」

「なっ!フィリップ!?」

「ボードゲームとは実に素晴らしい!君も楽しみたまえ!」

「なんでお前がここにいるんだよォ!?」

喫茶リコリコにてボドゲ大会に参戦していたフィリップを見て仰天する翔太郎

 

「ほらほら〜!翔太郎さんも楽しんで〜!」

「…あ、あぁ…たきな」

「…っ…はいっ」

翔太郎は少しボーッとしていたたきなに声を掛けた

 

「……一緒に楽しもうぜ」

「…はいっ!」

 

素敵な笑顔で返事をしたたきなは、時間も忘れてボードゲームを楽しんだ

この、風都の仲間たちと一緒に…

 

 

「……監視カメラの映像が…?」

「はい、何者かに抜き取られたようなのです」

「…探偵の仕業か?…でもあの小僧にそんな巧妙な事が出来るとは思えん……抜き取られた時間は?」

「はい、丁度…本日仮面ライダーとドーパントが戦ったであろう時間と合致します」

「……正体を隠す為の隠蔽か…奴もなかなかにやるな」

「どうしますか?データ復旧には少し時間が掛かりますが…」

「いいや、それよりも大事な任務が出来た…」

楠木は秘書に一通の報告書を渡した

 

「…これは…!」

「…新たな情報を手に入れた、近々…北押上駅の地下鉄が襲われる……テロが起きるぞ」




次回

第13話「休日のT/下着選びは大事」

これで決まりだ!


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第13話「休日のT/下着選びは大事」

今回は箸休め的な回にしたいと思います。
あと少し短めです。



「……水元美奈子…彼女もアランチルドレンの1人だったよ」

「…そうか…彼女にはどんな才能があったんだ?」

「元DAの技術部員だったこともあって、彼女は工学のエキスパートだった…DA脱退後、彼女はDAに追われながらもその才能で身を隠してきた……そこに現れたのが…」

「……アラン機関…」

「アラン機関は彼女にマーキュリーメモリを授け、彼女の中にある正義感を暴走させた…その結果があれだ」

俺たちは先日の戦いを振り返り、改めて事件を整理していた

 

「……それも支援か?」

「あぁ」

「…くそっ」

何が支援だ…

そのせいでこの街が泣くことになるんだぞ!?

 

「…ん〜…そんな引き攣ってもしょうが無いでしょっ!相手が何者かもどんな組織なのかも分からないなら、分かるまで事件を解決すればいいんだよ!君たちは仮面ライダーなんだから!きっと答えに辿り着けるって!」

 

そう亜樹子が言う

こいつの言葉は本当に能天気というか…行き当たりばったりというか……

でも、何度こいつの言葉に救われたか…

 

「…そうだな、亜樹子」

「その通りだね、亜樹ちゃん」

「うんうん!…そうだ!気晴らしに今度2人でここ行ってきなよ!」

「…ん?」

亜樹子が渡してきたのは水族館のペアチケットだった

 

「この間福引で当たったから2人にあげる!本当は竜くんと一緒に行きたかったけど〜…今は単身赴任中だから、2人で行ってこい!」

「男2人でかぁ?」

「……」

やっぱりこいつの言ってる事むちゃくちゃだ…

女と行くならまだしも、何年も一緒にいるフィリップと2人きりで水族館なんて…

 

「行こう!翔太郎!」

「え!?乗り気なの!?」

「水族館…即ち海の生物が展示してある場所……興味深い…ゾクゾクするねぇ!」

「…はぁ〜…そうか、フィリップはまだ水族館に行った事がないのか…」

「これは海の神秘を体験出来る絶好のチャンスだ!ははははは!」

「……」

やべぇ…また変なスイッチ入っちまったなぁ…

 

 

 

第13話「休日のT/下着選びは大事」

 

 

 

「……クルミ…」

「ん〜?」

「……たきなのパンツって見た事ある?」

「あるわけないだろ」

「…ちぇ〜…なんでも知りたいんじゃないのかよ〜」

「…ノーパン派か?」

「いやいやいや…」

「なら、何履いてようがたきなの自由だろ」

「……」

千束は見てしまった…

VRゲームをプレイ中、アクロバティックに動くたきなのスカートの中を……

 

「……っ」

千束はそれをもう一度確かめるべく、更衣室にいるたきなのスカートを捲った

 

「…なんですか?」

「……ナニ…コレ…?」

「下着です」

「そぉうじゃなくて男物じゃん!」

「…これが指定なのでは…?」

「…し、指定!?」

 

トランクスタイプの下着を履くたきな

千束はその元凶とも言えるミカを尋問する

 

「聞かせてもらいましょうかぁ?」

「店の服は支給するから下着だけ持参してくれと」

「どんな下着が良いか分からなかったので」

「だからってなんでトランクスなのぉ」

「いや、店長が…」

「好みを訊かれたからな…」

「アホかァ!」

「これ、履いてみると結構開放的で…」

「そうじゃない!もう…たきな、明日12時に駅前に集合ね」

「…仕事です?」

「ちゃうわ!パ・ン・ツ!買いに行くの!…あ、制服着て来んなよ?私服ね、私服」ガチャ

呆れた千束はたきなと約束をし、店を後にした

 

「……指定の私服はありますか?」

「……んー…」

 

 

「……おまたせしました」

「…んお〜…新鮮だなぁ…」

「問題ないですか?」

「…銃持ってきたな?貴様」ニコッ

「ダメでしたか?」

「…抜くんじゃねぇぞ?」ニコッ

 

約束通り私服で来たたきな

しかしそれはとても16歳の私服とは思えない地味さで

しかも背中にはリコリス用のバック

千束は内心のイライラを表に出さないようにしていた

 

一方、翔太郎とフィリップは…

 

「見たまえ翔太郎!これがタツノオトシゴさ!」

「あぁ…」

「実はね!彼はこの見た目で魚の一種らしいんだ!」

「マジかぁ…ウオだったのかこいつぅ…」

「翔太郎!あっちにも興味深い海洋生物が!」

「あぁ…待ってくれぇ…相棒ぉ…」

フィリップに振り回される翔太郎であった

 

「…翔太郎、少しだけ…話してもいいかな」

「…なんだフィリップ?急にどうした」

「……錦木千束についてだ」

 

 

 

「……んー…」

「…どう?好きなのあった?」

たきなの下着を選ぶためランジェリーショップに足を運んだ千束とたきな

 

「…好きなの…を選ばなきゃいけないんですか?」

「え?」

「仕事に向いているものが欲しいですね」

「あ〜銃撃戦向きのランジェリーですか〜?ってそんもんあるかーい!」

豪快なノリツッコミを繰り出す千束に構わず喋るたきな

 

トランクス(これ)、良いんですけどね…通気性も良くて動きやすい…流石店長だなって」

「いや、先生そんな事考えてるわけないだろ…だいたいトランクスなんて人にめせられたもんじゃないでしょ〜?」

「…パンツって見せるものじゃなくないですか?」

「いざって時どうすんの?」

「…いざって…?」

「……そりゃぁ…」

千束はたきなに耳打ちをすると、たきなは耳を真っ赤にした

 

「なっ!あああ、あの人とはなんともないです!大体、あの人にパンツなんか見せるわけないじゃないですか!?」

「はいはいはい!それは恥ずかしいからデスっ!もっと恥じらいを持て!そうすれば乙女はもっと可愛く見えるのだァ!」

「…っ!!!」

 

 

 

「…へっくしょん!」

「大丈夫かい?翔太郎」

「…あぁ…誰か俺の噂でもしてんのかぁ?」

「もしくは風邪だね…やっぱりナントカは風邪引かないって言うのは嘘なのか…?」

「おいフィリップ、サラッと失礼な事言ったなぁ?」

「…話を戻そう。錦木千束についてなのだが…」

「…露骨に話変えやがった……」

「…彼女に限らず、リコリス全員の記憶がこの地球(ほし)に刻まれていない事が分かった」

「…なんだって?」

 

 

「……何故戻ってきた」

「ミカに会いたかったからさ」

「からかうんじゃない、千束だろ」

ここは会員制のバー

そこに10年前まで通っていたミカが、再開した吉松シンジと酒を交わしていた

 

「…フッ…私を覚えていなかったな」

「あの時1度見ただけだ、無理もない」

「……」

「…何故言ってやらない?千束はずっと君を探しているんだぞ」

「…アラン機関は支援した対象に関わる事を禁じている。話したろ」

「矛盾しているじゃないか…それなら店にだって来るべきじゃない」

「…消えろ、と?」

「……そういうつもりじゃ…」

「……ミカ、約束は守れているのか?」

「…あぁ、勿論だ」

「天才は神からのギフトだ…必ず世界に届けねばならん」

「……」

「……類稀なる…殺しの天才をな」

 

 

「彼女たちには戸籍がない。つまり、今名乗っている名も偽名に近いものになってる」

「…でも、あの子たちはこの地球(ほし)に生きてる命だろ?地球の記憶に残らないなんて事があるか?」

「もちろん、この世に存在するものなら地球に刻まれている筈さ…だが、彼女たちは存在しない事になっている。この地球(ほし)からも、この風都(まち)からもね…」

「……どういう意味だ?」

「…彼女達の事は、どう模索しても検索に引っかからない…彼女達の謎の鍵を開ける方法はただ一つ…!」

フィリップは俺に人差し指を差し出した

 

「…リコリス、DA、そしてアラン機関の謎を解き明かすしかない」

「…なんでアラン機関まで…?」

「……僕の推測が正しければ、だが…錦木千束は……っ」

「…っ!?」

フィリップが口を開こうとしたその瞬間、ペンギン島の方で爆発音が聞こえた

 

「……ドーパント…!」

「…行くぜ、フィリップ!」

「…あぁ!」

 

 

 

「……千束…」

「…んー?」

「……あの弾、いつから使ってるんです?」

「…な〜に〜?急に」

下着を買い終えた千束とたきなはスイーツ屋さんで時間を潰していた

 

「10年前の時は?」

「あの時先生に作って貰ったのよ?」

「…なにか理由があるんですか?」

「なに〜?私に興味あるの〜?」

「……まぁ、人並み以上には」

「翔太郎さんよりもぉ?」

「…茶化すならもういいですっ」

「…気分が良くない…誰かの時間を奪うのは気分が良くない。そんだけだよ」

「……気分…?」

「そう、悪人にそんな気持ちにさせられるのはもーっとムカつく!だから、死なない程度にぶっ飛ばす!」

 

彼女がゴム弾を使う理由

それは彼女が「命大事に」というモットーを抱える起源とも言える

 

 

 

「……ほぉ〜…これは大したもんだぜ〜」

「…ったく…休日の平和な水族館に、何の用だ?」

「…あぁ?誰だてめぇら」

ペンギン島を襲ったであろう中年の男の手にはガイアメモリが握られていた

それを見た翔太郎は彼に対し嫌悪感を覚える

 

ペンギンショーを見ていた観客たちはみんな逃げる事には成功したみたいだ

この場には翔太郎とフィリップと奴以外誰もいなかった

 

「僕たちは二人で一人の探偵…そして…」

フィリップと翔太郎はメモリを構え、起動させる

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「…仮面ライダーだ!」

「「変身ッ!」」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブルへと変身する翔太郎とフィリップ

 

「はは〜ん…お前らが噂の仮面ライダーか〜…でも残念」

「…あ?」

「…俺の罠に掛かったら、もう終わりだぜ〜?」

 

《 TRAP!》

 

「ふんっ!」

額にメモリを差し込んだ男は人の顔が苦しんでいるような笑っているような顔がいっぱい引っ付いたような見た目の怪人へと姿を変えた

 

『トラップ…罠のメモリか…』

「タネが分かってるならこっちのもんだ!一気に行くぜ!」

『…あぁ!』

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

 

「…DAを出たのは?」

「え?」

「殺さないだけなら、DAでも出来たでしょ」

たきなの千束に対する疑問は止まらない

 

「……あ〜…」

「…それも?そうしたいって、全部それだけ?」

「……人探し」

「…なんです?」

「…会いたい人が居るの…大事な、大事な人……その人を探したくて…」

千束はたきなに付けていたブレスレットを見せた

 

「……知ってる?これ」

それは、アラン機関から授かれる

フクロウのチャームだった

 

しかし、その事をこの場の誰もが…知らなかった……




次回

第14話「休日のT/仕組まれた罠」

これで決まりだ!


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第14話「休日のT/仕組まれた罠」

今回はリコリコ要素が少なめです
ただ、ダブル方面には力を入れた回です



「ふっははは!」

「このっ!ちょこまか動きやがって!」

「ほら〜!こっちだこっち〜!」

館内を動き回るトラップ・ドーパント

ダブルは奴を必死に追い掛けた

 

『……』

「…このぉ!」

 

『 LUNA!』「 TRIGGER!」

 

ルナ!トリガー!

 

仮面ライダーW ルナトリガーへと変化するダブル

トリガーマグナムから放たれる光弾には追尾機能があり、標的を必ず射撃する

 

「これでも喰らえ!」

「ぐはっ!」

光弾が着実にトラップに攻撃を与える

 

「…へへへ…やるね〜」

「随分と余裕そうだなぁ…そんなに楽しいのか?」

「あぁ〜せっかくの休日だからね〜思う存分楽しまなきゃ損だ!」

『……』

「…その通りだ…お前のせいで滅茶苦茶だけどなっ!」

「ぐはっ!」

トラップの戯言に構わず攻撃するダブル

 

「…さて、観念してメモリを渡すんだなぁ」

『待ってくれ翔太郎!何か様子が変だ…!』

「あ?何がだ?」

『…僕らがいるここ、さっきまで人が沢山居た筈だ』

「そりゃぁ…逃げたんじゃねぇのか?ドーパントが現れたから…」

『…いいや…それにしても静かすぎる!まるで…何処かに消えてしまったかのようだ!』

「…なにっ?」

「…くくく…くふふふ…くははははは!」

ダブルの会話に、トラップが反応した

 

「てめぇ…ここの客に何しやがった!」

「…あいつらは餌食になったのさ……俺の罠のなぁ!」

「なにっ!?」

「俺の能力は相手を落とし穴に落っことして二度と出てこれなくする事だ!」

『…落とし穴?』

「ここの客は全員俺の落とし穴に落っこち…俺が作り出した亜空間の中にいる……つまり水族館(ここ)は、俺のテリトリーとなった!」

「…テリトリーだと!?ふざけんな!」

『翔太郎!それ以上進んだら…!』

「なっ!?」

ダブルが左足を出した瞬間、ダブルの周りの地面がバラエティ番組のような落とし穴のようにパカッと開いた

 

「くっ…あ、あっぶねぇ!」

何とか間一髪で縁を掴む事で出来たが…

 

「…ははは!滑稽だな!仮面ライダーがよぉ!」

「くっ…ふざけんな…!」

見下すトラップ

ダブルの縁を掴んでいる左手を踏み潰す

 

「ぐっ…!」

「俺にはな…誰にも手出しは出来ねぇ……精々穴の中で、一生悔やんでなぁ!」

「よ、よせ!やめろォ!」

「はぁっ!」

「『わぁぁぁぁぁ……!』」

ダブルが掴んだ手を引き剥がしたトラップ

ダブルは穴底に消え、地面の穴が塞がった

 

「…ははは…これで邪魔者は居なくなった……さぁ!楽しもうかぁ!ははははは!」

 

 

 

第14話「休日のT/仕組まれた罠」

 

 

 

「……確かに同じですね」

たきなは千束から預かったフクロウのチャームと、ネットの記事に載っているアランチルドレンが身に付けているネックレスを見比べた

正しく同じ柄、同じ造形のチャームだった

 

このチャームを送られた者には、何かしらの才能があると言われているのと同じ…

つまり、千束にも才能が…

 

「…なんの才能があるんですか?」

「わからな〜い?」

千束は決めポーズをして背後のセクシーポスターと見比べさせる

 

「それじゃないのは分かります」

「…自分の才能が何とか分かるぅ?」

「何かあるといいですけど…」

「そんな感じでしょ?」

「んで、見つかったんですか?これくれた人」

「…いいやぁ〜?」

「……10年も探して?」

「…もう…会えないかもね」

たきなからチャームを返してもらった千束

だがその表情は曇っていた

 

「……ありがとうって言いたいだけなんだけど…」

「……」

 

千束……

 

 

「……っ…いててて…どうなってやがる?」

目を覚ました翔太郎は辺りを見渡す

見渡す限りの暗闇

真っ暗な空間が翔太郎を覆っていた

 

「……フィリップ…聞こえてるか?」

『あぁ、そっちは問題ないかい?』

「あぁ…まぁ、なんとかなぁ……そっちも大丈夫か!?」

左肩をならして調子を戻す翔太郎

すぐさまフィリップの心配をする

 

ドーパントの傍で変身したいうことは、あいつの身体はドーパントの傍にある…

なんかされてなきゃ良いが…

 

『問題ない、どうやらトラップも姿を隠したようだ』

「…そうか…俺を落っことして油断してんのかもな……」

『トラップ・ドーパント…まさかこんな力があったなんて…トラップはトラップでも、まさか落とし穴を司る方とは…予想外だった…』

「なんとかここを脱出出来ねぇかなぁ?検索頼めるか?相棒」

『あぁ…』

俺はダブルドライバーを腰から外して亜空間の中を見る

 

無闇に動くと危ない

しかし光もないから先も見えない

 

「……こういう時に便利なんだよな…コイツらは」

 

《スタッグ!》《バット!》《スパイダー!》

 

《フロッグ!》《デンデン!》

 

俺はメモリガジェット一式をライブモードにして捜索を頼んだ

 

「なんか見つけたら教えてくれ〜…」

 

まぁ、何も見つからねぇと思うが…

 

 

 

「……」

「…あれ?フィリップくん翔太郎くんは?」

「ドーパントに襲われた……今奴が作った亜空間の中にいる」

「えぇ!?それ大丈夫なの!?」

「…心配さ…でも安否は確認した。まずは相手の事を検索する」

フィリップは鳴海探偵事務所へと帰り、ガレージへと行き「地球の本棚」の中に入る

 

『……検索を始めよう。知りたい項目は、亜空間からの脱出方法……最初のキーワードは、落とし穴』

本棚が移動していく

 

『…暗闇……亜空間…』

 

なかなかに定まらない…

一体翔太郎は何処にいるんだ?

 

やっぱりファングで戦ってメモリブレイクするのが妥当なのか…?

でも、それは僕の勘がやめろと言っている

あいつ自身を攻撃してはダメな気がする

 

『…追加キーワードは、攻撃』

本が残らない…やっぱりこの方法では翔太郎は救えない…

 

『…追加キーワードをリセット……次のキーワードは…』

 

《…あいつらは餌食になったのさ……俺の罠のなぁ!》

 

《ここは俺のテリトリーとなった!》

 

僕はトラップのその言葉と、ペンギンが飼育員に餌を貰うシーンを思い浮かべ、閃いた

 

『……そうか!……追加キーワードは、食事だ!』

 

 

「……ん」

俺がメモリガジェットの帰りを待っていると、スタッグフォンが何かを見つけたようだ

 

俺は急いでスタッグフォンの後を追い、そこには人影が見えた

 

「おい!あんた!」

「……あ」

「…っ…君は!この間のリコリスぅ!?」

そこに居たのは、前にマーキュリーから助けたオレンジ髪のリコリスだった

 

「あ、貴方は…!」

「この間は大丈夫だったか?その後も」

「はい、お陰様で…でも……またやられちゃいました」

「…今度も厄介なドーパントみたいだな……ってか、なんで君がここに?」

「ドーパントの落とし穴に落ちて…私以外にも……」

エリカが振り向くと、翔太郎は彼女の目線の先を見た

そして目が慣れてきた翔太郎は仰天した

 

「……こ、これは…」

「あの水族館に来ていたお客達です…みんなドーパントに襲われて……」

「……っ」

亜空間に来ていたのは少なくとも百人はいる一般人だった

 

あいつが作り出した亜空間ってのはひとつなのか…!

って事はあいつを倒せばここの全員が助かるって訳か!

そうなったらファングジョーカーの出ば……!?

 

すると、俺の肩に何か温かい液体のような物が掛かった

 

「……えっ?」

次の瞬間、亜空間が歪み揺れだした

 

「なっ!なんだぁ!?」

そして俺の目には光が見えた

 

そして、安心する相棒の声も

 

「おかえり、翔太郎」

「…フィリップ!?ここは…!?ドーパントは…!?」

「水族館の中さ…そして、ドーパントはそこにいる」

「…っ!?」

「うぐっ…貴様ァ!よくもこの俺にあんな不味いもんをぉ!許さねぇ!」

状況が呑み込めずパニックになる翔太郎

フィリップはそんな彼の肩を持って立ち上がらせる

 

「翔太郎、簡潔に言おう…僕は彼を文字通り、罠にはめたのさ!」

 

 

『よし!翔太郎を助け出す方法を見つけた!』

 

僕は「地球の本棚」から出てある場所を目指した

 

「…いらっしゃい……あぁ、君は確か…」

「改めて…僕はフィリップ、翔太郎の相棒だ」

「あぁ…何の用だ?フィリップくん」

 

僕は喫茶リコリコに足を運び、店主であるミカに話し掛けた

 

「唐突で申し訳ないが、貴方の作ったコーヒーが欲しい」

「…コーヒーか?それなら今すぐ淹れて……」

「そのコーヒーじゃない…貴方が以前まで作っていたコーヒーだ」

「…まさか、あの作り方でやれと?」

「今の僕はそれが欲しいんだ」

「……」

「……」

真剣に見つめ合う僕とミカ

 

「…分かった……数年前の作り方だから上手く出来るか分からんが……やってみよう」

「…感謝する」

 

ミカに例のコーヒーを作らせた僕

テイクアウトで持ち帰り、水族館を目指した

 

 

 

「のこのこ戻ってきたのか〜?仮面ライダーの片割れ!」

 

「……っ」

僕が水族館に足を踏み入れた瞬間だった

床に穴が開き、それに咄嗟に気が付いた僕はニヤリと笑った

 

「掛かったな!」

「なにっ!?」

僕は宙を舞い持っていたコーヒーを穴の中に投げ入れた

 

「…なっ!?」

「……フッ」

落とし穴が閉ざされると、トラップは苦しみ出した…と言うよりかは悶え始めた

 

「…なんだ…!?この味は…!?」

「…そう、以前翔太郎から聞いていた…喫茶リコリコの店長、ミカが数年前まで淹れていたコーヒーは、とてもじゃないが飲めるものでは無く、翔太郎の淹れたコーヒーに匹敵する不味さを誇ると!」

「…ぐっ…ううぅおおおろろろろろろ!」

 

すると、水族館全体が呻き声を上げるような奇声に襲われ

床の中から次々と客が飛び出して来た

 

そして翔太郎も、ドーパントも姿を表した

 

 

 

「…つまりどういう事だってばよ!?」

「つまり…トラップの本当の目的は、客を捕獲する事ではなく、捕食する事だったんだ!」

「…捕食!?」

「そもそもトラップとは、対象を捕獲もしくは捕食する為に作られた技術だ。あいつはトラップの能力を後者に使った」

「…じゃあ…俺たちが閉じ込められていた亜空間ってのは…?」

「…彼自身の、胃袋の中さ」

フィリップはトラップに指を差した

 

「彼はトラップの落とし穴の能力を使って客を全員胃袋の中に入れて空腹を凌いでいたんだ…だけど、丸呑みだったのが唯一の救いだった!」

「……丸呑み?」

「翔太郎、君はペンギンの食事を見た事があるかい?」

「…あぁ〜…魚を丸々1匹丸呑みにするんだよな…」

「そう…彼も同様、君たちを丸呑みしていたんだ。そのおかげで、消化される前に助け出す事が出来た」

「……でも、なんで俺たちは外に!?」

「それは、僕が彼に最高のスパイスを与えたおかげさ…君たちを助け出す方法はただ一つ、トラップ自信に嘔吐させる事だった……そこで、不味さに特化したコーヒーを彼の胃袋に流し込んだのさ…落とし穴の扉自体が彼の口の役目をしていたおかげで、味覚があるのも確認出来た」

「…はは〜ん…つまり俺の肩に掛かってきた液体はマスターのコーヒーだったって訳だぁ…」

「…僕はわざと彼に落とし穴を展開させ、コーヒーを流し込む事に成功した…彼は僕の罠に掛かったのさ!」

「やるじゃねぇか、相棒!」

翔太郎はダブルドライバーを腰に装着する

僕の腰にもダブルドライバーが出現した

 

「…ハァ…ハァ…人を散々おちょくりやがってぇ!」

「…行くよ、翔太郎!」

「…あぁ!」

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「「変身ッ!」」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブルへと変身する僕と翔太郎

 

「『さぁ!お前の罪を数えろ!』」




次回

第15話「休日のT/動き出す街」

これで決まりだ!


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第15話「休日のT/動き出す街」

今回の「T」には、「Tragedy(悲劇)」、「たきなと千束」、「Trap(罠)」を意味合いがあります。

今回も新たなガイアメモリが…!
そして、あの男が帰ってくる…!?

よろしくお願いします。



「『さぁ!お前の罪を数えろ!』」

「俺の食事の邪魔をしたァ…貴様が数えろぉ!」

「はっ!…なんて横暴な野郎だ!」

『仕方あるまい、彼は街でも有名なフードファイターだからね』

「…フードファイター…だからあんだけの人数を胃袋に入れても平気だったのか!」

『丸呑みだったのも、咀嚼を減らして満腹中枢を刺激させないという、フードファイター独自の食事スタイルだ!』

「なるほどね…こいつもアランチルドレンの1人か!」

「ぐわぁ!」

ダブルのパンチに吹き飛ばされるトラップ

 

「くっ…このっ!」

「うおっ!」

ダブルの足元に次々と落とし穴が展開される

なんとかそれを避けるダブルだったが、遂には壁に追い詰められた

 

「不味いぞフィリップ!またあいつの胃袋に入れられたら…!」

『問題ない、ここは新たなメモリを使う時だ!』

「えぇ!?今か!?」

『僕の推測が正しければ、このメモリがこの場において最も有利に立てるメモリの筈だ!』

「…あぁ…もう!分かったよ!」

ダブルはダブルドライバーを閉じてサイクロンメモリを抜き取り、懐からシアンカラーのメモリを取り出し起動させた

 

『 PIRATE!』

 

パイレーツ!ジョーカー!

 

ダブルの右半身が水色へと変化し、仮面ライダーW パイレーツジョーカーへと変化した

 

『パイレーツ…海賊の記憶だ!』

「なるほどなぁ…水族館にはピッタリだ!」

「落ちろぉ!」

ダブルはトラップの攻撃に気が付かず、トラップの落とし穴に落ちてしまった

 

「…ははは…やっぱりただの雑魚だったなぁ……ん?」

しかし、トラップは疑問に思っていた

獲物が自分の胃袋に入った瞬間扉は閉まる筈だ

しかし、扉は閉まっていなかった

 

「……まさか…!?」

「『はっ!』」

すると、全身に水を纏ったダブルが落とし穴から飛び出てきた

落とし穴を水で満たして泳いで来たようだ

 

「なにぃ!?」

「『はぁっ!』」

「ぐわぁ!」

勢いを増してパンチを繰り出すダブル

 

『ひとつ誤解しないで頂きたいのは、リコリコの店長ミカが普段淹れるコーヒーの味は…絶品だ!』

「その通りだぁ!」

「ごふっ…お、おのれぇ!」

トラップは負けじと反撃してくる

 

しかし、水のオーラを纏うダブルはその攻撃を上手く受け流した

 

『なるほど、パイレーツは水を操る能力まであるのか!』

「これなら上手く攻撃を受け流せそうだぜ…!」

「はあっ!おりやぁぁ!」

「『はっ!』」

 

水は自在に姿形を変える…

今はまだ穏やかな波で防御に徹しているが、そのうち…!

 

『…嵐が来る!』

「おりやぁぁ!」

「ぐはぁ!」

攻撃のパターンが変わるダブル

さっきまで受け流しに使っていた水の力を、攻撃に移した

 

「……派手に行くぜ?」

『翔太郎、それは誰の受け売りだい?』

「…気にすんな」

右足に水のエネルギーを纏わせる

 

水圧が作り出す威力で、回し蹴りを連発する

 

「ぐわぁぁぁあ!」

「これでトドメだ!」

 

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

「『ジョーカートーレント!はぁぁあ!』」

ダブルが半分に分裂し、水のスクリューを纏いながら一列にパンチを繰り出すダブル

 

「ぐわぁぁぁあ!」

トラップの男、谷口哲郎からブレイクされたメモリが排出される

 

「……ふぅ」

『おつかれ、翔太郎』

変身を解除したダブル

 

「…いや、今回ばかりはお前に感謝だぜ…相棒」

『あぁ…どういたしまして!』

「おいおい…もっと謙虚さを持てって〜!」

『…それより翔太郎!これで水族館をまた楽しめるよ!』

「…あぁ…今日は休みだしな……ん」

 

あれ…?

そういえば、なんであんな所にリコリスがいたんだ…?

リコリスに水族館に来る余裕なんてないだろうし……

リコリスにも休みがあるのか…?

でもちゃんと制服だったし……んー…

 

『翔太郎!早く続きを観ようよ!』

「あ、あぁ!待てって!今そっち行くから!」

 

この時の俺たちは知らなかった

実はこの日、近くの駅の地下鉄で

電車の脱線事故として隠蔽された、テロ事件が起きていた事を……

 

 

 

第15話「休日のT/動き出す街」

 

 

 

「……」

 

北押上駅

地下鉄に続く、多くの客が使用する駅だ

 

そんな駅に、サングラスを掛けた怪しい男たちと

黒い丈の長い服を羽織る緑髪の男が

無人の時間帯に集合していた

 

「……匂うなぁ……漂白された…除菌された…健康的で不健全な嘘の匂いだ……バランスを取らなくっちゃなぁ!」

男がジュラルミンケースを開けると、そこには無数のガイアメモリが並べられていた

 

マスカレイドメモリ、マグマメモリ、マネーメモリ

そして、見たことも無い新たな「M」のメモリ

 

 

 

「……」

「……っ」

買い物を終えた千束とたきなは、街の違和感にすぐに気が付いた

 

「……リコリス…?」

「…なんだか多いですね」

街をさりげなく警備しているサードリコリス

その多さに、2人は異様な雰囲気を感じていた

 

 

 

『まもなく2番線に、電車が参ります』

 

「…来る…来るぞぉ……」

「……」

「……」

全員がガイアメモリを手にし、構える

 

「…始まり…始まり…はじまりぃ〜…!」

 

《 MASQUERADE 》

《 MAGMA!》

《 MONEY!》

 

男たちが次々とドーパントに変身していく

 

そして電車が近付いてくた

 

「…はっ…ははは…ははははは!…はぁっ!」

 

真島以外のドーパントは一斉に電車に攻撃をした

マスカレイド達は銃を、マグマは溶岩弾を、マネーはエネルギー弾を射出した

 

やがてボロボロになった電車が停止し、扉が開く

しかし、いる筈の乗客はおろか

血のひとつもない

 

「……は?」

 

変身を解くドーパント達だが、真島は不審に思った

 

「…っ」

その瞬間だった

真島の横にいた男が電車の中から撃たれた

 

電車の中には数十名のリコリス

全員の銃口が、テロリスト達を囲んでいた

 

「……やっべぇ…!」

危機感を覚えた真島

一斉に発砲するリコリス

 

「……チッ…ぬおっ!」

ガイアメモリを構えた真島だったが、リコリスの銃によって弾かれる

 

「……っ…くっ…!」

何とか柱の影に隠れた真島

次々と撃たれていく同胞たち

 

「……そうか…お前らかァ…!」

電車のホームに仕掛けた爆弾の起爆装置を押す真島

 

「…よっ!」

弾かれたガイアメモリを拾い、反対ホームの陰に隠れ爆発から逃れる

 

しかし、ホームからは爆弾の轟音と少女たちの悲鳴が響いた

 

 

「……ジンさん!」

「…おぉ、翔太郎」

「…何があったんですか?」

刃野刑事から北押上駅に呼ばれた翔太郎

 

「…電車同士の衝突で脱線事故だとよ……回送列車だったのが不幸中の幸いだ…」

「…電車の脱線事故…?」

北押上駅には立ち入り禁止テープが貼ってあり、見張りが何人かいた

 

「…中には?」

「……それが…入れねぇんだ…」

「……え?」

「しかも目撃者が1人もいねぇんだと…おかしな話だよな…」

「……ドーパント…!」

「おめぇもそう思うか?」

「……ま、まぁな…」

ジンさんは俺に漢の目線を送って来た

 

「10年振りだ…ドーパントがこんな盛大に暴れたのは…」

「…ジンさん…今までもドーパント紛いの事件があったの知ってたのか!?」

「…まぁな…この街にも色々あると思ってたが……遂にその本性が見え始めたな…」

「……」

「…教えてくれ、翔太郎…今この街で、何が起こってる…?」

「……」

「何か知ってるなら、教えてくれ」

「……っ」

ジンさんに問い詰められ、下唇を噛む俺

 

「……すまんっ!」

「……」

「…今は、言えねぇ…!」

「……」

 

自分が情けねぇ…

こんなにも信頼してくれている人がいるのに…

昔から世話になってるくせに…なんて恩知らずなんだ…!

 

「……そうか」

「…え?」

ジンさんは視線を俺から駅に移した

 

「この街で何が起こってるかなんて事は、きっと俺達には計り知れねぇんだろうな……ただな、翔太郎…俺はいつでもお前たちの味方だ。お前が真っ直ぐな心を持っている事を、俺は誰よりも知ってる」

「……ジンさん…」

「…この街の涙を見たくねぇんだろ?だったら、お前がこの街の涙を拭ってやれ……鳴海の旦那みてぇにな」

「……っ」

 

おやっさんみたいに…

 

「…んじゃあな、翔太郎」

軽く手を振って現場を離れるジンさん

俺はその背中を見ている事しか出来なかった

 

「……おやっさん」

 

風都の街はいい風が吹く

しかし、この日の夜の風は

 

とても重く

まるで街に危機を伝えに来たような

 

そんな風な気がした

 

またあの日のような事が、起こらなければいいが…

 

 

「……なるほど…あれが風都のバランスを狂わせてる連中か…」

テロ現場から逃げ出した真島

路地裏に佇み、スマホで昨夜の事件のニュースを調べた

 

「……あ?事故?」

しかし、どの記事を見ても事件ではなく事故と処理されていた

昨日の命懸けの作戦が失敗に終わった証拠だった

 

「……なんだこれ」

『リコリスの存在は情報統制されるのさ』

「…ん?」

すると、どこからともなく声がした

 

『手元だ手元』

「……なんだテメェ」

スマホにはロボットの被り物をした男が映っていた

 

『お前が真島だな、僕はロボ太。お前を手助けする世界一のハッカーだ…リコリスを倒すには、僕のような頭の良い奴が必要だ。僕の頭脳と、お前の力を──』ピッ

通信を無理やり切る真島

 

「嘘を付けねぇほどもっとすげぇ事をすれば良い話しさ……」

真島は朝日に照らされた風都タワーを見上げた

 

「…さて、始まりだ……」

 

 

 

 

 

 

「……さぁ、始めようか…」

「…あぁ」

 

《 FISH!》

《 GARDEN EEL!》

 

それぞれフィッシュ・ドーパント、ガーデンイール・ドーパントへと変化する男たち

 

「…ははは!これで俺たちは超人だ!」

「あぁ!これで女共を襲ってその後は…ぐひひひ!」

フィッシュとガーデンイールは2人でヒソヒソと企み出した

 

「誰を襲うって?」

「…あぁ!?」

 

すると、背後から男の声がする

 

ドーパント達は声の方向に振り向く

そこには、逆光でよく見えないが

何か重たい剣状のものを引きづって来ている男がいた

 

「…誰だテメェ!」

「……俺に質問するな」

 

男は20kgあるエンジンブレードを地面に突き刺した

 

「 ACCEL!」

 

「……変…身ッ!」

 

男はアクセルドライバーにアクセルメモリを装填し、グリップを捻った

 

男の体は赤々しい機械的な見た目へと変化する

 

アクセル!

 

「…き、貴様はぁ!」

「…仮面ライダーアクセル…さぁ、振り切るぜ!」

仮面ライダーアクセルへと変身した男はドーパントに向かって突っ込んで行った

 

「はぁぁあ!」

「ぐわぁぁ!」

先程まで引きづりながら運んでいたエンジンブレードを軽々持ち上げてフィッシュに斬撃を与える

 

エンジン!

 

エンジンメモリをエンジンブレードに装填し、更に威力を増す

 

スチーム!

 

アクセルはエンジンブレードの先端から高温のスチームを噴射する

 

「はっ!」

「あ、熱っ!俺熱いの苦手なんだよォ!」

「知るか!」

 

ジェット!

 

エンジンブレードに高温のエネルギーを纏わせスピンしながら斬撃を加える

 

「はぁ!はぁっ!」

「ぐわぁ!」

 

エレクトリック!

 

エネルギーブレードの先端から周囲に電撃を放つ

 

「はぁぁぁあ!」

「ぐへぇ!」

「どひゃぁ!」

 

エンジン!マキシマムドライブ!

 

「はぁぁあ!」

「ぐっ…!」

アクセルはエンジンブレードの先端から「A」字型のエネルギーをフィッシュに放つ、エースラッシャーを繰り出す

 

アクセル!マキシマムドライブ!

 

ドライバーのクラッチレバーを引き、マキシマムを発動する

 

「はぁぁぁぁあ!」

「ぶっ…!」

ガーデンイールには後ろ回し蹴りの必殺キック、アクセルグランツァーを繰り出した

 

「…絶望が、お前達のゴールだ」

「ぐわぁぁあ!」

「ギョギョギョーーー!」

 

ドーパントを倒したアクセルはドライバーからメモリを取り出し変身を解除する

赤い革ジャンを着た男がそこには立っていた

傍には破損したメモリも

 

「……相変わらず、物騒だな…この街は…」

 

彼の名は照井竜、かつてダブルと共に風都を守った仮面ライダーの1人だ

そんな彼が、やっと単身赴任を抜き出し、この街に…!

 

「…帰って来たぞ……風の街、風都…!」

彼の目線の先には、キラリと輝く風都タワーがあった




次回

第16話「おかえりA/風都大観光」

これで決まりだ!


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第16話「おかえりA/風都大観光」

前回登場のフィッシュ・ドーパントとガーデンイール・ドーパント
文字通り「さかなぁー!」と「チンアナゴぉ〜!」のオマージュとして登場させました。フィッシュ・ドーパントは小説版仮面ライダーWに登場済みなので、オリジナルはガーデンイールだけとなります。



「…電車の脱線事故?」

「あぁ、ジンさんから教えて貰ってよ…でもやっぱおかしいんだよ」

「…ドーパントの仕業だと、君は言いたいんだね」

「……あぁ…この街で、また何かが動いている気がする」

 

直感だが、そんな気がする

 

俺は以前起きた電車の脱線事件の事をフィリップに話した

事故現場は今も全面立ち入り禁止、風都署の刑事ですら入れないのは異常だ

現場を見ていないからなんとも言えないが、嫌な予感がする

俺は勘だけは良いんだ

 

「……俺、ちょっと調べてみる!」

「待ちたまえ翔太郎…!」

帽子をとって事務所のドアを開けようとした瞬間だった

俺が開ける前に、ドアが開き

そこから声がした

 

「その必要は無い」

「……お前…!?」

事務所の中に赤い革ジャンの男が入って来た

 

「……照井…竜…!?」

「久しぶりだな、左…フィリップ…!」

「お前…いつ風都に戻って来たんだよ!?」

「俺に質問するな」

「うっ…出た〜いつものやつ〜……まぁでも、元気そうで何よりだよ」

事務所に入って来たこの男は照井竜

風都署の刑事で、我が所長の旦那様でもある

その肝心の亜樹子は今日は外出中である

 

「残念だが、そうも言っていられないようだぞ…」

「…あ?」

久しぶりの再会を喜ぼうとする翔太郎とフィリップを他所に、竜は淡々と話を進めた

 

「これを見ろ」

「……コンクリの壁の一部?」

「…しかもこれって…!」

竜が2人に見せたのはコンクリの壁の破片と思われるもの

そして、翔太郎はそこに埋まっているものを見つけた

 

「…銃弾…!?」

「現場に残されたのはそれだけだった…今朝捜査に向かったが……酷い有様だった」

「…いや行動力ぅ!相変わらずバケモンだな…!」

「それが彼のいい所だからね……他に収穫は?」

感心するフィリップは、竜に訊ねる

 

「駅内には幾つもの弾痕と裂傷の跡が見つかった……左の推測通り、ドーパントが絡んでいるに違いない」

「やっぱりか……」

「いざとなれば俺も加戦しよう」

「それは心強い…翔太郎、やっと風都の仮面ライダーが揃ったね」

「あぁ…俺たちで街の涙を拭おう、照井!」

「…当然だ」

腕を差し出す俺の手を、照井は思いっきり握った

 

「……っ」

すると、俺のスタッグフォンに着信が入った

相手はたきなからだった

 

「…おう、たきなか…どうした?」

電話を取った翔太郎はたきなと会話をした

それを見て竜が少しだけ疑問に思った

翔太郎から聞き慣れない名前が聞こえたからである

 

「……相手は誰だ?」

「えぇっと…翔太郎の知り合いさ…」

「……ほぅ」

 

すると、翔太郎はたきなとの会話でこう発した

 

「……ボディガード?」

 

 

 

「依頼人は72歳、男性日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われた為にアメリカに長らく避難していた。現在は…きん…き、き…きん…」

「筋萎縮性側索硬化症」

「自分では動かないのでは?」

「そう!去年余命宣告を受けた事で最期に故郷の日本、それも風都を観て周りたいって!」

「…観光…ですか」

「泣ける話でしょ〜?要するに、まだ命を狙われている可能性がある為、ボディガードします!」

 

喫茶リコリコにて今回の依頼について話す千束、たきな、クルミ、ミズキ、ミカ、そして翔太郎の6人

 

「…ってかなんでまた俺まで…?」ヒソヒソ

「またドーパント絡みの話かもしれませんし…一応左さんにもお願いをと…」ヒソヒソ

「あー…そういう事ね…」ヒソヒソ

「ちょっとそこ!ヒソヒソしなぁい!」

ヒソヒソ話をするたきなと翔太郎を見て注意する千束

 

「…一つ質問だ…その男性は何故命を狙われているんだ?」

「それがさっぱり!大企業の重役で敵が多すぎるのよ〜…まぁその分報酬もたっぷりだから〜」

翔太郎の質問に答えるミズキ

 

「日本に来てすぐに狙われるとも思えないけどね〜行く場所はこっちに任せるらしくて、翔太郎にはそのプランも考えて欲しくて〜!」

「…おっけー…この街は俺の庭だ、最高のプランを考えてやるぜ」

「旅のしおりでも作ろうか?」

「それだ!」

「名付けて〜!風都大観光&ボディガード大作戦!」

 

おー!と声を上げる面々

俺は千束の胸元で光るそれを見ていた

 

「……っ」

フクロウのチャーム…やっぱり千束は…

 

 

 

第16話「おかえりA/風都大観光」

 

 

 

「……ってな訳で、明日は千束達と任務に行ってくる。留守番は頼んだぜ、フィリップ」

「それはいいが…照井竜が帰って来たこのタイミングでいきなり彼女らと行動して大丈夫なのかい?怪しまれるよ?」

事務所に戻って明日の事を伝えた俺はフィリップのその言葉に動揺した

 

「…そ、そこは心配要らねーよ相棒……何とかあいつを刺激しない方法を見つけて…」

「誰を刺激しないようにするんだ?」

「それは照井を…って…えぇ!?お前まだ居たのか!?」

すると、帰った筈の照井が勢い良くドアを開けて入って来た

 

「左、まさかとは思うが……リコリスと関わっているんじゃないだろうな…?」

「……っ」

照井の眼光が俺を容赦なく睨む

 

「……」

「…黙秘は肯定ととって良いんだな…?……お前は分かっているのか…リコリスがどのような存在なのか」

「……分かってるさ…でもよ、リコリス全員がそうじゃねぇんだよ!俺は知ってる!お前にもいずれ分かるさ!」

「……相変わらずのハーフボイルドか…」

「…なっ…なんだとぉ?」

「いいか、リコリスはこの街にとって有害な存在だ。武力を行使し事件をもみ消し、無かったことにする…警察でも対処出来ない厄介な連中だ。国家の機密組織だかなんだか知らないが……俺はあいつらを認める気は無い…」

「……お前の言ってる事は正しいよ……だが!呑み込めねぇ!」

「……なら、俺はとやかく言うつもりは無い……お前の勝手にしろ…!」

颯爽と事務所を出て行く照井

俺はあいつの言葉に悔しい気持ちになりながらも、1番悔しいのは何も言い返せない事だと知ってもっと悔しくなる

 

「……彼のリコリスに対する憎悪は、ドーパントに対する憎悪と匹敵する。忘れてたのかい?」

「…あいつにとってリコリスも、街を泣かせる奴らの一括りに入ってるんだよな……だから言いたくなかったんだ…」

「いずれバレる事だったんだよ。それが少しだけ早くなっただけだ」

「……相棒、ひとつ頼みがある」

「……なんだい?」

 

 

 

「……まったく…何を考えてるんだ左の奴は…」

「あれ、竜くんが翔太郎くんの事考えてるなんて珍しいね!何かあったの?」

久々に夫婦団欒のディナーを楽しんでいる最中

竜がそんな事を口ずさみ、それに亜樹子が反応した

 

「…所長、君は左たちがリコリスと関わっている事を知っているのか?」

「うん、知ってるよ?」

「な…何故そこまで平気でいられる…!?」

竜が一番衝撃的だったのは、亜樹子が翔太郎とリコリスの関係を知っていた事ではなく、それに対してなんの表情の変化もなかった事である

 

「ん〜……翔太郎くんが決めた事、だからかな?」

「……左が…?」

「ほら、いつも彼言ってるでしょ?「男の仕事の八割は決断だ。それ以外はおまけみたいなもん」って、お父さんの受け売りをさ!」

「…あぁ」

「…翔太郎くんが決めた事を、私は応援してあげたい。私が好きな翔太郎くんは、優柔不断な男なんかじゃなくて…ハーフボイルドのくせにカッコつけて無理な決断をするような男だから……それが一番翔太郎くんらしい…」

「……所長…」

「…あ、今のは友達としてって意味だよ!?もちろん一番だいちゅきなのは竜くんであって…!」

「分かっている、所長……ありがとう」

「……ん??」

先程とは打って変わって豊かな表情になった竜を見て疑問を隠しきれない亜樹子

 

「……また、君のおかげで振り切れそうだ」

 

 

「…ここが風都で一番大きな川、風都川。この街を二等分する日本でも有名なんですよ〜!」

『これは予想外でしたね〜まさか川の上で観光するとは〜』

「この辺は渋滞が多い。この水上バスは渋滞なんかも気にせず色んな場所に行ける優れ物なんだ」

『時代も進歩しましたね〜感極まって泣いてしまいそうですよ』

「……」

その涙はどこから出てくるのやら……

 

松下みつお、72歳

これが今回の依頼人だ

 

筋萎縮性側索硬化症、フィリップにお願いして調べてもらったが

運動を司る神経に障害を受け、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなり、全身の筋肉が衰えるという難病らしい。この人はもう末期のようで、今も電動車椅子にスピーカーから流される電子音声。景色を読み取っているであろう特殊なサングラスをかけている。俗に言う、「機械に生かされている」と言う奴だ

 

『……あれが風都タワーですか…』

「見たことないのか?」

『はい…風都に来るのは初めてで……娘と約束してたんです。一緒に見上げよう、首が痛くなるまで…って』

「……」

『……あの世で土産話が出来る』

「まだまだぁー!始まったばかりですよ〜!」

意気揚々と松下の車椅子を押す千束

 

「……千束のやつ、テンション高いな」

「……」

「…ん?どうした、たきな」

「…あ、いえ…なんでも…」

「……そうか」

 

 

「……ふぅ〜…」

「ひと段落だな、千束」

「翔太郎さんお疲れ様〜!でもまだまだですよぉ!」

「……フッ…そうだな…」

 

俺は少しだけ休憩している千束の横に座った

今松下さんはたきなが案内してくれている

 

「……千束…それは…」

俺は千束の胸元にあるチャームを指さした

 

「あ〜…翔太郎さんには1回だけ見せたことあるよね〜…フクロウのチャーム…たきなに見せたらめっちゃ可愛いんだって!嬉しいよねぇ!」

「……でもそれは…」

「……そう、私の大切な人から貰った大事な物…そして私はその人を探す為に喫茶リコリコに居続けている。」

「……アラン機関の…誰かを?」

「……うん…それが私の願いなんだ」

「……」ズズッ

 

俺は缶コーヒーを開けて一口飲んだ

 

「……」

 

言うべきか悩んだ

これまでアラン機関に選ばれたアランチルドレンが、ドーパントに変身していたこと

 

そして俺は知っていた

そのチャームを千束に送った人物が、もう既に

この世には居ないという事を…

 

《あの子を……あの子を…頼んだぜ……》

 

《おやっさぁぁぁあん!》

 

「……千束…そのチャームはな……っ!」

俺が話そうとした時、タイミング悪くスタッグフォンに着信が届いた

 

「……どうしたの?翔太郎さん」

「…いや…悪ぃ……」

俺は仕方なく電話に出る

相手はクルミだった

 

『お前たちを着けている男がいる。気を付けろ、相手は殺し屋だ』

「……分かった」

 

しばらくこの話は持ち越しのようだな…

 

「……千束」

「…うんっ!」

「俺たちで、松下さんを守るぞ」

 

 

「……」

天才は神からのギフトだ…

それを支援するのが、我々アラン機関の使命

 

「……私からとっておきのギフトをプレゼントしよう…千束……そして、仮面ライダー…!」




次回

第17話「おかえりA/素晴らしいガイド」

これで決まりだ!


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第17話「おかえりA/素晴らしいガイド」

今回は大分スピーディーな内容となっています!
ご注意ください!



「…さっきから着いてきてる奴……ジン、暗殺者。その静かな仕事ぶりから「サイレント・ジン」とも呼ばれている。ベテランの殺し屋だとさ」

「…サイレント…?」

「知り合いか?」

「……15年前まで、警備会社で共に裏の仕事を担当していた。私がリコリスの訓練教官にスカウトされる前だ」

「…どんな奴?」

「本物だ。サイレント…確かに声を聞いたことがないな」

 

 

 

「……」

 

無線で聞こえてくるクルミとミカの会話

サイレント・ジン…どこかで聞き覚えが…

 

『30メートル先に確認、こっちは顔がバレてない…発信機付けに行くよ』

『…上から確認出来ない。ミズキの方からは?』

『柱の横で止まった』

『……あ』

「…どうした?」

『ドローンが射撃された。こっちの存在がバレてる』

「……」

 

相手はなかなかの強者のようだ…

もし奴がドーパントなら……

 

『予定変更、避難させてこちらから一人討って出るべきだ。予備のドローンとミズキでジンを見つけ次第、攻撃に出る』

『そっちが美術館出たら車回すよ』

「……了解」

俺は松下さんの車椅子を押す千束とたきなの方に視線を送る

 

俺と目が合ったたきなは頷き、俺も頷いた

 

千束は暗い表情になっていた

きっと、せっかくの松下さんの観光を邪魔してしまうと思ったからだろう

 

 

「……ハァ…ハァ」

『ミズキー急げードローンがなきゃ何も出来ないぞー』

「あんたも現場に来てサポートしなさいよ!」

「……」

「うっ…!」

 

ドローンを運ぶミズキを、ヘルメットと長いローブを羽織った長髪の男が蹴りあげた

 

ドローンを振り払われたミズキ

 

『どうした?』

「…ジンだ!」

必死に逃げるミズキだが、簡単にジンに腕を掴まれた

 

「くっ…このっ!こんにゃろっ!」

「……」

抵抗するミズキだが、彼女のパンチでは彼を盲ます事は出来ないようだ

 

「誰かぁ!変質者がいま──」

「……シー…」

ジンは人差し指を口の前で立てると、ガイアメモリを取り出して起動させた

 

《 SILENT!》

 

メモリを首に指したジンはサイレント・ドーパントへと変貌した

見た目はとてもシンプルで身体の所々に口や人差し指を立てた出などがモールドされている

 

「──!?」

何これ…!?

何も喋れない!?

 

途端に何も喋れなくなるミズキ

それだけではない

ミズキの耳にはなんの情報も入ってこなかった

つまり、何も聞こえない

 

「──!」

これがこいつの能力なの!?

 

「……」

無言でミズキを拘束するジン

プレハブ倉庫に閉じ込めてその場を去ろうとした

その時

 

「……?」

遠くの方からバイクの音が聞こえた

 

赤いバイクの男はジンの前に止まるとヘルメットを外しその顔を顕にした

 

「…貴様がサイレント・ジンか」

「……」

「聞いていた通り何も喋らないのか……だったら…!」

アクセルドライバーを装着する照井竜

 

「 ACCEL!」

 

「……変…身ッ!」

 

アクセル!

 

仮面ライダーアクセルへと変身した竜はエンジンブレードを構えた

 

「…力ずくで吐かせるだけだ!」

 

 

 

第17話「おかえりA/素晴らしいガイド」

 

 

 

「はぁっ!」

「……っ」

「はぁぁぁあ!」

エンジンブレードを振り回すアクセル

しかし、その攻撃を次々と躱していくサイレント

 

「…何故反撃してこない!?ふざけているのか…!?」

「……」

「……どうやらふざけているようだな…!」

 

アクセル!マキシマムドライブ!

 

「はぁぁぁ…はぁっ!」

アクセルグランツァーを繰り出すアクセル

しかし、その攻撃さえも命中しなかった

 

「……っ!」

「なにっ!?」

「……シー…」

「貴様…いい加減に──!?」

なんだ!?

急に声が出なく…!

 

「──!!」

「……」

そうか!

これがコイツの能力か!

だが…物理的攻撃でない限り、俺は負けん!

 

「……っ!」

「──!?」

なにっ!?

 

一気に距離を縮められ、懐を取られたアクセル

 

「……!」

「──っ!!」

ぐわぁぁぁあ!!!

 

奴の足音も、動きのタイミングも分からない…!

音が聞こえなくなるだけで、こんなにも戦闘が不利になるのか!?

 

「……っ!?」

どこに行った!?

 

アクセルの前からサイレントは居なくなっていた

そして、声が出せるようになった事に気付く竜

 

「……クッ…逃げられたか…!」

 

 

 

『ミズキとの連絡が途絶えた、ジンが仕掛けてくるぞ!』

「…私に任せてください」

「ちょっ…たきな!」

「おい…!」

ミカからの一報を受けて行動に出るたきな

翔太郎はそんな彼女の後を追う

 

『……どうしました?』

「と、トイレ〜に行ってくるみたいで!」

 

「……おい、どうするつもりだ?たきな」

「相手はドーパントに違いありません。私たちで何とかしましょう」

「何とかって…君にどうこうできるのか…!?」

「……確かに私はドーパント相手では戦力にならないかもしれません……でも…!」

「……っ」

「…誰かの為に…いや、松下さんの為に戦うのが…私たち喫茶リコリコのリコリスです!」

「……たきな…」

 

そうか……守りたいって気持ちはたきなも千束も同じなんだな……

 

『たきな!探偵!ミズキがジンに発信機を付けてた…死んでもこっちに情報を遺した…!』

「いや、死んだと決まったわけじゃないだろ…」

「今奴はどこに…!?」

『もう美術館に来てる……』

「中ですか?外ですか?」

『……あ』

「……っ」

俺は振り向き、曲がり角を曲がってくる大柄の男見た瞬間に叫んだ

 

「後ろだ!」

「…っ!?」

「……っ!」

銃弾を放つジン

俺はたきなを庇いながら避け、たきなはジンに銃を発砲した

どうやらコートが防弾のようで、服に当たった銃弾は弾かれた

 

「……っ」

危機感を覚えたのか、ジンは逃げるように走り去った

 

「追いかけましょう!」

「…あぁ!」

 

あれがサイレント・ジン…

やっぱりアイツが…!

 

 

「……」

アクセルから変身を解いた照井竜はミズキが閉じ込められたであろうプレハブ倉庫の鍵を開け扉を開けた

 

「…おわっ!」

「……怪我はないか?」

勢い良く飛び出てきたミズキ

 

「えっ!?誰!?ってかイケメン!超タイプ!」

「仲間に連絡するべきなんだろう?早くしろ」

「…えっ?あ、そうだったァ!」

 

竜のビートルフォンを受け取ったミズキはクルミに電話をした

 

『…はい、喫茶リコリコ…』

「やられたわぁー!」

『なんだミズキ、生きてたのかー』

「なんだとはなんだ!?」

『ミズキ、たきながジンを追いかけてる。風都駅ホームで松下さんを迎えに行ってきてくれ!』

「わ、分かったわよ!」

でも、ここからどうやって…!?

 

「おい」

「…わわっ!」

 

すると、竜からヘルメットを渡されるミズキ

 

「急ぐんだろう、早く後ろに乗れ」

バイクに跨りエンジンを掛ける竜

そんな姿にミズキは魅了された

 

「ハ…ハードボイルドぉ…」

誰かさんとは大違いだわ!

 

 

「……」

『千束』

無線で呼ばれる千束

 

「……松下さん、ちょっと待っててください」

『…えぇ……』

車椅子から離れ、無線に耳を貸す千束

 

『千束、ミズキが無事だったぞ』

「…よかったぁ〜…」

『そっちに迎えに行ってる。松下さんとすぐに帰ってこい』

「うん、無事でよかった。ミズキと待って電車で帰るよ」

無線を切り、振り返る千束

 

しかし、そこには松下の姿は無かった

 

「……松下さん…?」

 

 

 

「…ハァ…ハァ!」

「…目標は前方20メートル程前!このままでは逃げられます!」

『この際しょうがない、そのまま千束の元から遠ざけろ』

「そんなんで終われるか…!」

「あっ…左さん…!」

「うおぉぉぉぉぉお!待ちやがれぇぇ!」

全速力でジンとの距離を縮める翔太郎

 

「……っ」

「うおっ!?」

しかし、足元を撃たれたため急ブレーキを掛ける

 

「……左さん…!」

「…悪ぃたきな…逃げられた」

「問題ありません!このまま追い詰めます!」

「……お、おう…」

 

「……」

『15メートル先の室外機の裏にいるぞ』

「……」

敵の姿を確認したたきなは着実に距離を縮め、その場所に拳銃を突き付けた

 

「…っ!?」

しかし、そこにあったのは発信機付きのコートだけだった

 

「…クルミ!」

 

 

 

「……松下さん…!」

『……』

やっとの思いで松下を見つけた千束

風都駅を見上げながら何かを悟っていた

 

『……ジンが来ているんだね…』

「えっ」

『……あいつは私の家族を殺した…確実に私を殺しにくる筈だ』

千束に振り向き、声の質を変える松下

 

「……っ」

すると、千束に無線が入る

 

『千束、たきなと探偵が撒かれた…気を付けろ』

「……」

 

『日本にいる限り、あいつは絶対に殺しにくる』

「…な、なら!1度お店に戻って避難しましょう!それから…」

『私には時間がないんだ…!』

「……っ!?」

 

千束は風都駅の屋上から松下を狙っているジンを捉えた

 

「千束!逃げてぇ!」

「…うおぉぉぉお!」

「……ウッ!」

ジンの銃を弾で弾くたきなとタックルでジンを屋上から突き落とす翔太郎

 

たきなと翔太郎も勢いで落ちてしまった

 

「たきなぁぁ!翔太郎さん!」

 

 

「…クッ…ククッ…」

「…クッ…大丈夫か?たきな」

「…え、えぇ…何とか…」

運良くクッションになるものが地面にあったおかげで大した怪我はしなかった2人

 

「……っ!」

「あれは…!」

2人は地面に横たわるジンを見た

すると懐からガイアメモリを取り出していた

 

「……っ」

 

《 SILENT!》

 

ジンはサイレントメモリでドーパントへと変貌する

 

「…やっぱり、ドーパントだったのか…!」

「……左さん、頼めますか?」

「…あぁ…ここからが俺たちの本領発揮だ!」

 

翔太郎はダブルドライバーを装着し、ジョーカーメモリを起動させた

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「行くぜ相棒!」

『あぁ、翔太郎!』

「『変身ッ!』」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

「『はぁぁぁあ!』」

「……っ」

仮面ライダーダブルへと変身する翔太郎

サイレントへと突っ込み、取っ組み合いをする

 

 

 

「…千束!松下さんを避難させてください!」

 

頑張ってください…左さん…!

 

 

「…分かった!…たきなと翔太郎さんが引き付けている間にここから離れましょう!」

『……私の本当の依頼はジンを殺してもらう事だ』

「…えっ?」

『君のそのペンダントの意味を私は知っている。君には使命がある筈だ!』

「……っ」

 

使命……!

 

「おーい!お待たせぇ!」

「…ミズキ…!?」

すると、赤いバイクに2ケツで来たミズキ

運転をしていたのは赤い革ジャンを来た男性だった

 

「あ、貴方は…!?」

「…俺に質問をするな」

「…えっ?」

ヘルメットを取った竜とミズキ

 

「お兄さん!ミズキ!松下さんをお願い!」

『……』

「了解〜…」

『……これだけは見届けなければ…』

「おい、待て」

『…離してくれ、私はあの子がジンを殺す瞬間をこの目で見たいのだ』

「…何故そこまでして見たいんだ?」

『あいつは私の家族を殺した…復讐してやる為さ!』

「……復讐…だと?」

 

すると、工場現場の方から爆発が起こった

すぐにダブルが戦っている事に気が付いた竜はその方向に走った

 

「えっ!ちょっとぉ!?」

 

『…………千束…』

 

 

「『はぁっ!』」

「…っ」

「おりゃぁ!」

「……っ…シー…」

「あ?なんだ静かにしろってか?そいつはお断──っ!」

なんだ!?急に声が出せなくなったぞ!?

 

『──』

サイレント…これが奴の能力…!?

対象の聴覚を麻痺させる事が出来るのか!?

 

「──っ!」

ぐわぁ!

何も聞こえねぇからタイミングが取りずれぇ!

 

『──』

なんて厄介な相手なんだ!

 

「……っ!?」

「…変…身ッ!はぁぁあ!」

 

アクセル!

 

「──っ!?」

照井…!?なんで!?

 

「はぁぁぁあ!」

「…グッ!」

アクセルへと変身した照井竜が後ろからサイレントに斬撃を加えた

 

『……翔太郎、今なら会話が可能だ!』

「照井…!来てくれたのか!?」

「…俺に質問するな」

「…ははっ…ハイハイそうですか!」

『君の頼み通り、彼にも話を通しておいたよ。リコリスの事をあんな風に言っていたのに…どんな風の吹き回しかは知らないが、ここに来たって事は…僕たちに協力するって事で良いんだね?』

「…だから言っているだろう。俺にくだらん質問をするな、と…」

「…その言葉、妙に安心するんだよなぁ〜……行くぜ、照井」

「……あぁ」

ダブルとアクセルはサイレントに目を向けた

 

「……さぁ…振り切るぜッ!」

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

ここに、風都の仮面ライダーが2人揃った




次回

第18話「おかえりA/復讐の果てには」

これで決まりだ!


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第18話「おかえりA/復讐の果てには」

遂に揃った2人の仮面ライダー
今後ともお楽しみに!



「……さぁ…振り切るぜッ!」

「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

「……赤い、仮面ライダー…!?」

仮面ライダーアクセルを見たたきなは仰天していた

 

『そう、彼がかつて風都を守ったもう1人の仮面ライダー…仮面ライダーアクセルさ!』

「フィリップ、説明は後だ!」

『おっと…これは失礼したね』

「……奴は俺たちの聴覚を操る能力を持つ。気を付けろ」

『あぁ、その能力は僕たちも経験済みさ……よって、彼を攻略する方法も考えた』

「ほんとか!?フィリップ!」

『彼を倒すには、僕たちダブルとアクセル…3人の力が必要だ。力を合わせてくれるかい?照井竜』

「……それは答える必要があるのか?フィリップ」

『…ふふっ…それもそうだね…!』

 

 

 

第18話「おかえりA/復讐の果てには」

 

 

 

「……っ」

立ち上がるサイレント

ジンはこちらを睨み付けた

そして人差し指を口の前に持っくる

あの攻撃がまた来る

 

『───!───────!』

翔太郎!ルナトリガーだ!

 

「──!」

おう!

 

『 LUNA!』「 TRIGGER!」

 

ルナ!トリガー!

 

「『─っ!』」

「……っ!」

トリガーマグナムから無数の光弾が発射され、その光弾は弾道を変化させサイレントに直撃した

サイレントは不意を突かれ怯んだ

 

『音が聞こえなくなっても、奴は遠距離攻撃に弱い!』

「なるほどな!」

ダブルドライバーを装着している限り、俺とフィリップの意識は繋がったままだ

声なんか出せなくても心の中での会話が可能って訳だ

 

「はぁぁぁあ!」

「…ウッ!」

エンジンブレードで斬撃を与えるアクセル

 

エンジン!

 

エンジンメモリを装填し、トリガーを引く

 

ジェット!

 

「はぁぁっ!」

刀身が燃え、高温の斬撃を与える

 

「……クッ……フッ!」

すると、サイレントは全身の口や人差し指を振動させた

辺りにプレッシャーが走り、サイレントは目にも留まらぬ速さで姿を消した

 

「──っ!?」

「『──!?』」

なんだ!?耳が聞こえなくなるだけじゃなく、雑音が響くようになったぞ!身体も鈍くなってる!

 

『──!』

奴の能力はきっと、対象の聴覚を操るのでは無く

特殊な音波を全身から放って周囲の音をかき消す事なのか!

それなら…!

 

『 PIRATE!』

 

パイレーツ!トリガー!

 

ダブルの右半身がシアンカラーへと変化し、仮面ライダーWパイレーツトリガーへと変身した

 

「──っ!」

どうするつもりだよフィリップ!

 

『──!』

バットショットを使う!

 

「──!」

なるほどなぁ!

 

《 バット!》

 

バットショットをライブモードにし、トリガーマグナムと合体させ、パイレーツメモリを装填する

 

パイレーツ!マキシマムドライブ!

 

「『────!』」

トリガー!バットサーチャー!

 

バットショットから音波が放たれ、その反響で相手の位置を把握する

まるで魚群探知機のように

 

「──!」

そこだ!

 

サイレントを発見したダブルは、トリガーマグナムからバットショットとパイレーツメモリを抜き取り、トリガーメモリを装填した

 

トリガー!マキシマムドライブ!

 

「『─────!!』」

トリガートルピード!はぁぁぁあ!

 

トリガーマグナムから魚型の光弾が発射され、サイレントに向かっていく

 

「……グッ!」

「『よし!』」

光弾はサイレントの口や人差し指を破損させ、能力を封じた

 

「よくやった、左…フィリップ!」

 

エレクトリック!

 

「はぁぁぁあ!」

「…グッ」

すかさずアクセルが猛攻撃を喰らわす

 

「……っ」

 

アクセル!マキシマムドライブ!

 

「……はぁぁぁぁ……はぁっ!」

「…っ!……グッ!」

「…絶望が、お前のゴールだ」

「ぐわぁぁぁあ!!!」

アクセルグランツァーを放つアクセル

サイレントに直撃し、ジンは人間の姿に戻った

メモリブレイクも完了した

 

「……」

「…やったな、照井」

「……あぁ…」

変身を解除した俺と照井

 

「…あ、あれ!?翔太郎さんにさっきのお兄さん!?ジンは!?」

「…まぁ、何とか俺たちでやっつけたよ」

「……えぇ〜…あなた達何者なの〜…!?」

 

地面に倒れ込むジンを見て千束は2人に不信感を抱く

 

『殺せ!殺すんだ…!』

「……っ」

すると、松下さんがやって来て千束にそんな事を言う

それに照井が反応した

 

『そいつは私の家族の命を奪った男だ…殺してくれ!』

「……松下さん…」

『本来ならあの時私の手で殺るべきだった…!家族を殺された20年前に!』

「……」

『君の手で殺してくれ、君はアランチルドレンの筈だ!』

「…っ」

『なんの為に命を貰ったんだ!その意味をよく考えるんだ!』

「……」

「……」

すると、照井は身体の向きを変え、エンジンブレードを握った

 

「……照井…?」

「……ふんっ!」

気付いた時には、照井はジンにエンジンブレードを突き刺すような体制を取っていた

 

「やめろ!照井ぃ!」

「はぁぁぁあ!」

 

ズサッ…!

という音と共に、エンジンブレードはジンの顔面スレスレで地面に突き刺さった

 

「……照井…」

「……お兄さん…?」

「…俺の家族は、ドーパントに殺された……」

『…っ』

 

照井は話した

かつて、照井の家族が氷を操るであろうドーパントに家族を凍結させられ、殺されている事を

その憎しみから、復讐の連鎖が起こり

更なる悲しみを生んだことを…

 

「俺もかつては復讐に囚われた人間だった…だが、俺の仲間たちが…俺の目を覚ましてくれた」

「……照井…」

「……復讐とは、悪魔の言葉だ。人をどこまでも残酷にする。家族を殺されたその悲しみや苦しみは、俺が1番理解しているつもりだ…」

照井は松下の前に立つ

 

『……』

「…だからこそ、あんたをその復讐という醜い束縛から解放してやる。全てを振り切れ……前に進め!」

『……』

「……照井…」

『……』

「……松下さん、私はね…人の命は奪いたくないんだ」

『…は?』

すると、照井に続き千束が松下の前に出る

 

「私はリコリスだけど…誰かを助ける仕事がしたい……()()をくれた人みたいにね」

千束はフクロウのチャームを見せながら微笑んだ

 

『…何を言っ……千束…』

「…えっ?」

『それでは…アラン機関は君を……その命を…!』

すると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた

警察がやって来たのだろう

 

「…ここは俺が何とかする。お前たちは早く逃げろ」

照井がサイレンの方に向かって走って行く

 

「…わ、分かりました!……あのとりあえず場所を変えて落ち着……?」

すると、千束は松下の車椅子のモニター、そしてゴーグルの電源が落ちている事に気が付いた

 

「…松下さん…?」

「……どうなってやがる…?」

「松下さん…?松下さん?…松下さん!」

 

 

「……ミカ」

「……ジン…なぜメモリに手を出した…?」

ほとぼりが冷めた時

ジンはミカと顔を合わせ少しだけ驚いていた

 

ジンとミカの会話を遠くで見守る俺と千束とたきなとミズキ

照井もいる

 

あとから聞いた話だが、松下の家族が殺されたとされる20年前

その時はまだジンはミカと共に行動しており、松下の発言には矛盾が生じていた事が分かった

 

「3週間前、女が直接会いに来た。現金先払いで、メモリもその時渡された。依頼者のプライバシーは訊かない主義だ」

「…結果がどうであれ、メモリに手を出してしまってからでは遅い。しっかりと罪を償って、やり直してこい」

「……分かっている。ミカ、足はどうした?」

警察に連行されていくジン

飲酒運転の容疑者として逮捕してもらったらしい

 

「……左…今度、喫茶リコリコのメンバーに話がしたい」

「え?…まぁ…俺はいいけど…」

「……」

俺の返事も聞かずにジンと一緒にパトカーに乗る照井

夕日に照らされながら、パトカーのサイレンが鳴り響いた

 

 

 

「先程の君の証言、そしてリコリコからの情報提供によって、彼の身元が判明した。松下みつお、本名は芦原(あしはら)庵惨(あんざん)…先々週に病棟から姿を消した薬物中毒の末期患者だ。彼の過去に家族を殺された形跡や、あそこまでの財力があるようには思えない」

「…じゃあ、あの話は全部嘘だったって事か!?」

「…いいや、正確には…松下という男は存在しなかったという事だ」

「……存在…しない…?だってさっきまで俺たちと会話してたじゃねぇか!」

「ネット経由で第三者が君たちと話していたんだ。ゴーグルのカメラに車椅子はリモート操作で音声はスピーカーだ。その第三者が芦原庵惨を利用してリコリス…それも錦木千束にジンを殺させようとしたんだ」

「……一体…なんの為に…!?」

「……まさか…」

事件のあった夜

俺たちは今回の事件のおさらいをしていた

 

だが、俺たちの知らないところで

また新たな脅威が迫っている事に

この時の俺たちは気付いていなかった

 

 

 

「……っ!」

「…はは……はははは!」

黄色い車に派手に轢かれるサードリコリスの1人

テロリストであろう男を着けていた時、真島が乗った車が彼女に向かって行ったのだ

 

「……クッ…ククッ…」

「…へっ…へへへ」

続々と集まるテロリスト

銃を彼女に構え、一斉に銃弾を放った

 

「……まずは1人目だ…リコリス」

 

 

「……俺の家族は、あるドーパントに襲われ…死んだ」

「……」

喫茶リコリコのカウンター席にて、マスターのコーヒーを飲みながら語る照井

 

「奴の名は井坂深紅郎、ウェザー・ドーパントに変身した風都史上最悪の殺人鬼だ」

「……井坂…!?」

その名に、マスターが反応した

 

「…俺は復讐心に駆られ、その復讐が復讐を呼ぶ…まさに復讐の連鎖が始まってしまった……」

「……」

「…だが、俺の仲間たちが俺の目を覚ましてくれたおかげで、俺は一番大切な事に気付けた。結果、仮面ライダーが井坂を倒し、俺の復讐は幕を閉じた……」

「……それが、照井さんの…過去?」

たきなが照井に問いかける

 

「…だが、俺にはどうしても許せない事がもう1つある」

「……?」

「…俺の家族が殺された、連続凍結事件……それが、お前たちDAによって揉み消された事だ!」

「…っ!」

「…っ!」

「……」

「……マスター、この事件の事知ってるんだろ?2人にも話してやれよ」

「……あぁ」

 

照井の話を聞いてパニックになっているたきなと千束に、マスターは優しい口調で説明した

 

「……そんな事が…」

「…あったなんて…!」

「…私も当時は驚いた……人間の成せる業じゃない…そんな化け物がこの街に蔓延っていることに絶望さえ覚えた」

「……」

照井はマスターのコーヒーを飲み切ると、マスターの胸ぐらを掴んだ

 

「照井…!」

「いいんだ!翔太郎くん…」

「……マスター…」

「……照井くん…君が刑事になったのは、その男に復讐する為か…?」

「……」

「…君にした事は、本当に申し訳ないと思う…だが、どれもこれもこの街の為だ…許してはくれないか!?」

「……俺に…!」

「……っ」

「…俺に質問をするなッ!」

マスターの胸ぐらを乱暴に離した照井は、店を勢い良く後にした

 

「……照井…」

「……左さん…少しお話が」

「…え?」

 

俺はこの日、たきなから千束の心臓が機械だという事を教えてもらった

だが、それ以外にも何かが引っかかる

千束のあのチャームの意味、すなわち

千束の使命とは……?

 

 

「…なに?赤い仮面ライダーが?」

「はい、半年ぶりに風都に帰って来たようです」

楠木にアクセルについての報告をする秘書

 

「ほぅ…転勤期間から抜け出して来たか…なかなかやるな、あの男も…」

「また、街から追い出しますか?」

「……いや、今となっては仮面ライダーも必要不可欠の存在となった…利用するだけ利用して、始末しろ」

「……はい」

楠木の手元の報告書には、アクセルの写真と

照井竜の顔写真が載っていた




次回

第19話「進撃のR/リコリス狩りの再来」

これで決まりだ!


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第19話「進撃のR/リコリス狩りの再来」

リコリス・リコイル最終話感想
感動と驚きと笑いをありがとう

やばい……プレッシャー…



「……」

「……司令!またリコリスが襲われました!今月に入って4人目です!」

「……チッ」

赤の仮面ライダーが帰って来たと思えば…今度はリコリス狩りの再来だと…?

 

未だリコリスの顔が割れている原因も不明

DAも躍起になっている

 

「……全隊員、モードSで警戒態勢へ!」

 

 

 

「……今月で4件目か」

「不幸なもんですよ…被害者はいずれも女子高生、ひき逃げ犯は今も逃亡中ですしね…」

事故現場に訪れた照井竜と真倉駿

真倉は刃野刑事の部下であり、超常犯罪捜査課の下っ端でもある

 

今回起こった事件は、女子高生が次々にひき逃げされるという事件だ。表向きには不慮の事故となっているが、俺の目は侮れない

おそらく何者かが連続殺人を行っているに違いない

 

「…真倉刑事、被害者の身元は分かるか?」

「それが調べさせてくれないんですよ……まぁ、ここら辺のことはアイツらに頼もうかと思ってるんですが…なかなか癪に障るんですよね〜」

「……」

 

被害者はリコリスか……それじゃ身元は簡単には割れないな…

それに、リコリスが関連しているなら

アイツらもとっくに動いている筈だ…

 

「……連続殺人…」

 

《父さん…母さん…!……春子っ!》

 

「……必ず、この事件を解決してみせる……DAごときに負けられるかっ…!」

 

 

「……フフッ」

彼が照井竜……又の名を、仮面ライダーアクセル…

 

「…面白い…彼の才能もじっくりとこの目に焼き付けたいところだな……」

園咲来人と同じ特殊体質の人間…

その力…思う存分見せてくれ…!

 

 

 

第19話「進撃のR/リコリス狩りの再来」

 

 

 

「……え?リコリスが…?」

『4人共単独任務中に大勢に襲われたらしいです』

「…なんで特定されてんだ〜?」

『分かりません…例のラジアータのハッキングと関連があるのかも…』

 

たきなから事件の概要を聞いた千束

DAの医師である山岸から暫くの外出自粛と検診の指摘を伝言された

 

「あ〜そうだったぁ…」

『…行かなかったんですね』

「……だって〜…」

暫く大きな任務もなかった為、夜通し映画を見ていた千束はすっかり忘れていた

 

『早速今日から常にペアで行動しようと思います』

「ん?いや、ペアって毎日お店で一緒じゃ…」

すると、家のインターホンが鳴った

 

「夜は交代で睡眠を取りましょう」

「……え?」

ドアを開けるとスマホを耳に当て、大きな荷物を持ったたきなが立っていた

 

「安全が確保されるまで、24時間一緒に居ます!」

「…ウチに泊まんのっ!?」

 

満面の笑みで質問する千束

この日から、千束とたきなの共同生活が始まった

 

 

「…千束とたきなが同棲?」

「ん〜…その言い方だと少し誤解を生むが…まぁ、間違ってはいない」

「なんでまた急に?」

マスターから千束とたきなの共同生活の話を聞いた俺

どうやらまたDA内で一悶着あったようだが、楠木は極秘と言ってマスターにも情報を共有してないようだ

 

「ただ分かっているのは、単独任務中のリコリスが続々と殺されているという事だけだ。犯人の目処はまだたっていないらしい」

「……リコリス狩り…また始まったのか」

「千束とたきなは互いの安全を守る為、共同生活を始めたらしい…今度、様子を見てきてくれると助かる」

「あの二人なら心配いらないだろ〜…ただ、ドーパント絡みの事件なら話は別だ」

「……前から気になっていたが、翔太郎くんは…仮面ライダー…」

「……っ」

まずい…!

口が滑ったか…!?

 

「…と、知り合いなのか?」

「……え?」

「君たちの身の回りには何かと仮面ライダーが関係している気がしてな、前々からそんな気がしていたんだ」

「……不満か?」

「…え?」

「俺と仮面ライダーが知り合いだと、不満か?」

「……」

俺はマスターの目をじっと見つめて質問した

 

「…まさか、これは私個人の問題だ。君たちに八つ当たりをする程幼稚ではない」

「……そうか」

「…ただ、今度仮面ライダーがどんな人間なのか詳しく教えてもらいたい。私の中でまだ整理出来ていない事が沢山ある。それらを聞いた上で、改めて決断したい」

「……あぁ、勿論良いぜ」

 

 

 

俺は喫茶リコリコを後にし、マスターから聞き出した住所を元に千束の家を探した

 

「……ここか」

千束の家は普通のアパートだった

なるほど、家自体もカモフラージュがかかっているわけか

 

インターホンを押し、中からドタドタと音が聞こえた

 

「…あ〜!翔太郎さんいらっしゃい〜!」

「…よっ…マスターに言われて来てみたんだが…」

「私らも先生から話貰ってるから大丈夫だよぉ!さぁさぁ上がって上がってぇ!」

部屋の中に促す千束

部屋の中を見ると、何も無い

本当に雨を凌ぐ為だけのような

まさにプロの部屋と言った感じか…?

 

「あ〜そっちじゃないですよ〜、こっちですっ」

「……え?」

千束は隠し扉を開け、ハシゴで下に降りた

 

「……えぇぇ…」

 

「ようこそぉー!千束&たきなハウスへー!」

「左さん、いらっしゃいませ」

「お、おう」

さっきの下の階に位置する部屋は生活感に溢れ、とてもプロの部屋とは思えない

まさに、女子高生の部屋って感じだ

 

たきなは皿洗いをしながら俺を出迎えた

なんで家主じゃないたきなが皿洗いを…?

 

「…なんなんだ?ここ」

「長く仕事やってると色々あるんですよ〜…ここは、セーフハウス1号。他に3つあるんです〜」

「……セーフハウス…?」

リコリスにも色々あるんだな……

 

「…ん?なんだこれ」

と、壁を見ると手書きの表が貼られていた

1番上の行には月火水木金土日の1週間

左の列には料理、洗濯、掃除と書かれている

そして、他のマスの全てにたきなの名前が書かれ

表の上には「家事分担スケジュール」と書かれていた

 

「あ〜たきなの提案で家事分担を決めたんですけど〜…」

「…っ」

千束がたきなを見てニヤッと笑った

それを察知したたきなは躍起にやって皿洗いをしていた

 

「…まぁ〜?運が私に〜?味方した〜?みたいな〜?」

「……へぇ〜…」

含みのある笑いをする千束を見て、俺はある事を察した

 

 

「……」

「明治政府樹立以前に組織された暗殺部隊、通称「彼岸花」。その学名から現在は「リコリス」呼ばれている」

ロボ太はモニターに千束の写真を映した

 

「コイツが次のターゲット、基本リコリスは都市迷彩服として制服を──」

「おいおい…」

「……?」

「…違うよな…?」

「……っ」

身体に包帯を巻いた真島がハンバーガーを食べながらロボ太を問い詰めた

 

《 VIOLENCE!》

《 VIOLENCE!》

 

ロボ太の後ろに立っていたテロリストの男がドーパントに変貌する

 

「いや!コイツはリコリスの中でもトップクラスの…」

「捨て駒はどうでもいい……俺の目的を、お前が理解しているか確認してもいいか?」

「……日本に入国した雇われテロリスト達全員が、忽然とその姿を消すその理由の究明と解決…」

「…分かってんじゃねぇか…そのDAとやらをぶっ潰す」

真島は持っていた食べかけのハンバーガーを机に叩き付けた

その手元には4台のスマホ

 

「…お前がガキ達のスマホを持ってくれば、DAの本拠地が分かるって言うから持って来た……」

「…そこからIPアドレスを探したけど、民間回線と違って時間が……ひぃぃ!」

バイオレンス・ドーパントが傍にある机を叩き潰した

 

「…もう1ヶ月だぞ…?お前の指示で、俺の仲間が26人死んだ」

「…犠牲が出たのは計算外だったけど、それが最速だし…こっちのリコリスだって面白いだろ〜?」

「ダメだ、こっちは指示通りに動いた…このままじゃバランスが悪い……あと3日でDAの場所を探し出せ」

 

銃口をロボ太の額に押し付ける真島

その逆の手には、ガイアメモリが握られていた

 

 

「……」ガチャ

「……おや翔太郎くん…早かったじゃ……っ!?」

喫茶リコリコに来店して来た人物を見てミカは仰天した

 

「……照井くん…」

「……コーヒーを頼む」

 

言われた通りコーヒーを淹れるミカ

照井はカウンター席に座り、コーヒーを待った

 

「……口に合うといいが…」

「……」

出されたコーヒーを1口飲む照井

その後も上品にコーヒーを飲み進め、完飲した

 

「……」

「……」

「…まだ、私を恨んでいるのか?」

「俺に質問するな」

「…っ…そうだったな……」

「……」

照井は立ち上がり、カウンターを周って中まで入って来た

 

「…俺も、コーヒーを淹れよう」

「……っ」

 

今度はカウンター席にミカが座り、照井がミカにコーヒーを淹れた

 

「……」

「……美味い…」

照井のコーヒーを一口飲んでそう言うミカ

 

「……自分を恨んでいるか…と、質問したな」

「……あぁ」

「…それはお互い様じゃないのか?」

「……確かに私は、半年前君が仮面ライダーである事を知り…DAに君を街から追い出すように仕向けた。仮面ライダーを酷く憎んでいた私は、自分の正義感を正当化し…君や、君の奥さんを傷付けた…」

「……」

「……亜樹子くんは、元気かい?」

「……あぁ…所長なら相変わらずだ」

「…そうか」

ミカが嬉しくなったのは、亜樹子が元気だったという事を聞いたからではなく、照井が自分の質問に初めて答えてくれた事が嬉しかった

 

「……俺からも質問だ」

「…なんだい?」

「…何故、仮面ライダーを憎む?」

「……後悔が、あるからさ」

「…後悔…だと?」

「……昔の話だ」

 

ミカは照井のコーヒーを飲み干した

 

 

「……10年か…この街も随分と平和になったものだな」

「……」

「…姫蒲くん、遠慮することは無い…今日は私の奢りだ」

「…では、お言葉に甘えて……ん?」

吉松と姫蒲が高級レストランで食事中姫蒲の携帯が鳴った

 

「……知っていれば教えています。真島の怒りは貴方の作戦のせいなのですから、上手く彼の中の興味のバランスをとってください」ピッ

「……誰からだい?」

「ロボ太です。どうやら作戦に難航している様子で…」

「ははは……仕方ないさ、相手は野蛮なテロリスト…常人の思考では、奴の気を引くことなんか出来ない」

ワインを一口飲む吉松

 

「……まぁ、ロボ太くんは優秀だからね…きっと彼ならやってくれるさ」

「……」

ワイングラスに入った水を飲む姫蒲

 

「……この街の光も、笑顔も、平和も、全ては一対になっている。暗闇、苦しみ…そして、死」

「……それがバランスを取る、という事ですか?」

「…それは人それぞれだ」

夜景を眺めながら吉松は料理を口に運んだ

 

「……ただしそれを決めるのは、神からのギフトを与えられた者のみが許される事だがね…」

「……」

「…ところで、君に頼みたい事がある」

「…はい」

「…これを、探し出してくれ」

「……これは…」

吉松が姫蒲に渡した写真には、黒い次世代型ガイアメモリが印刷されていた

 

「……ですが、これは…」

「必ずある。この街の、何処かにね……」

吉松は再び夜の風都を眺めた

 

「……」

姫蒲は再度写真に目を移す

 

そのガイアメモリのイニシャルは、「S」

 

「…かつてこの風都を守った、仮面ライダーのメモリ」

「……」

「…………スカル…!」




次回

第20話「進撃のR/天秤に掛けられた命」

これで決まりだ!


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第20話「進撃のR/天秤に掛けられた命」

基本リコリス・リコイル本編通りで行くつもりですが、勿論オリジナル展開やオリジナル設定があったりします。本編のイメージが崩れないようにしたいですが、仮面ライダーやドーパントが絡むとややこしくなるので四苦八苦してます。何とかクロスオーバー出来るように試行錯誤していますが、不明点などありましたら感想等で教えてください。

それでは今回もどうぞ!



「……ん〜…」

「……どうした?」

 

事務所にコーヒーの配達に来てくれたたきな

俺とフィリップは、たきなの表情を見て疑問に思った

まるで何か悩み事があるかのような

たきなに何か悩みでもあるのか…?

 

「勝てないんですよ、1回も」

「…は?」

「家事の分担を、今のところ全部私がやってるのはご存知ですよね」

「……あ〜…あれな」

俺は千束の家の壁に貼られたあの表を思い出した

 

「その分担をジャンケンで決めてるのですが…1回も勝てないんです」

「……ジャンケン…なるほどね」

「…何がです?」

フィリップがたきなの言葉に反応した

 

「…たきな、千束とジャンケンをする時、最初はグーでやってるだろ。それじゃ千束には勝てねぇよ」

「…えっ?」

「千束が相手の服や筋肉の動きで次の動きを予測してるのは知ってるだろ?グーから出すと、次の動きを読まれる」

「そのまま変えなかったら当然パーを出され、変えると分かればチョキを出せば絶対に負けない。つまり、あいこに出来る確率が3割、勝つ確率はゼロになる」

「……えぇ…」

千束のジャンケンのカラクリを説明する俺とフィリップ

 

「千束にジャンケンで勝つ為には最初はグーを辞めて最初の勝負で勝つしかない。あいこになったらもう勝てないし、ましてやあいこから始まったら一生勝てない」

 

俺の話を聞いて落胆するたきな

 

「じゃあまさか…千束はそれを最初っから分かってて…」

「…まぁ、それも千束の能力の一つだ。アランチルドレンと分かった今なら合点がいく、俺も前はそのカラクリに気付けなくて苦労したもんだぜ」

「……どうやって攻略したんですか?」

「え?…い、いやぁ〜…まぁ…な、ははは」

「……」

「……?」

言えねぇ…

結局フィリップに検索してもらってカラクリを解いたなんて…

 

「……フフッ」

「…っ」

くそっ!フィリップの野郎笑ってやがる!

 

「…井ノ上たきな…確かに錦木千束のジャンケンは強いかもしれないが、それ故に彼女は油断をする事がしばしばだ。そこを狙うといいよ」

「…あ、ありがとうございます……えっと…フィリップ…さん?」

「…あぁ」

 

「……」

そういえば…

この2人がちゃんと会話するの珍しいな…

 

この2人が最後に会話したのって確か…俺たちが仮面ライダーって事をバラした時だな…

 

《翔太郎…井ノ上たきなはまだ理解のある人間だったから良かったが、長年喫茶リコリコで働いてきたあの3人と、クルミ…ウォールナットに僕たちの正体がバレるのは非常にマズイ。彼女等と行動する時はくれぐれも慎重に頼む…》

 

「……」

 

 

 

第20話「進撃のR/天秤に掛けられた命」

 

 

 

たきなが帰った後、俺は早速フィリップと外出から帰って来た亜樹子に今回の事件の事を話した

 

「リコリス狩り……また始まってしまったんだね…」

「あの子達も大変だな〜…」

「大事を取って千束とたきなは共同生活を始めたらしい。だから家事の分担をしてたんだ……今のところ新たな犠牲者の話は聞いてないが、いつ何処で被害が出るか分からねぇ…」

「…今回の事件の首謀者は誰だ…?それに、どうやってリコリスを識別している…?」

難しい顔をしたがらフィリップが独り言を言う

 

「…まぁ詳しい事は分かんねぇけどよ、とりあえず千束達と一緒に居れば、なんか情報も手に入るだろ」

俺はヘルメットを持って入口のドアノブに手を掛けた

 

「…待ちたまえ翔太郎、今彼女達と共に行動するのは得策じゃない。大体、そのせいで錦木千束や喫茶リコリコのメンバーに君の正体がバレたらどうするつもりだい?」

「…っ」

俺の手が止まる

一瞬で空気が変わったのが分かった

 

「……あまり言いたくないが、君は彼女達に甘すぎる。今では僕も認めているが、やはり懸念する時もある。仮にも彼女達は暗殺者だ…しかも、僕たちが1番嫌うタイプのね」

「……っ」

「…君があの子たちを擁護する気持ちも分かる。だが、僕たちは二人で一人の仮面ライダーで、探偵だ……君の身の安全が、あの子たちの身の安全に繋がるかもしれない。翔太郎、少し考えてはくれないか?本当に今、彼女達と共に行動するメリットがあるのかどうか……」

「……フィリップ…俺には、お前にまだ話してない事があるんだ」

俺はフィリップの方に振り向き、帽子で目元を隠した

 

「…なんだい?いきなり」

「……俺と千束は、10年前に1度会った事があるんだ」

「…っ!?」

「翔太郎くん!その話は…!」

「止めるな亜樹子、これは俺とフィリップの問題だ」

「……詳しく聞かせてもらうよ…翔太郎」

「……」

 

 

千束のスマホから警報が鳴る

対不法侵入者用の警報だ

 

「……お〜チンピラだ、また来た〜」

「…ん?」

 

「…おい!居ねぇぞ!」

「でも…さっき確かにこの部屋に入った筈だ!」

「…くそっ!何処に行きやがった!?」

千束のセーフハウスに迷い込んだ男たち

千束はそんな男たちを隠し扉から覗いてニヤリと笑う

 

次の瞬間、部屋の中から銃声と男の悲鳴が飛び交い

 

更には窓からゴミ捨て場に投げ落とされる男たち

しっぽを撒いてどこかに逃げて行った

 

「……また窓注文しなきゃ〜…」

「…この為のセーフハウスですか……」

「まぁね〜あんな連中ならまだ良いんだけど…昔はリリベルも来てたからぁ」

「……リリベル?」

「あ〜…男の子版リコリス、みたいな?おっかないよ〜」

「…それ、普段何してるんですか?」

「さぁ〜よく知らなぁい…」

 

 

 

「……なんだ…こいつ…」

今の様子をドローンで見ていたロボ太

千束の男を追いかけ回すシーンを重点的に再生する

 

「…これを見せれば…真島は興味持たないか…!?」

 

すると、ロボ太の部屋の扉がテロリストの男によって破られた

 

「ドアァァァァ!?」

「……」

「…っ」

そこに真島が入って来る

呆れた目付きでロボ太に近付いた

 

「…もう3日経ったぞ…」

「ど、どうしてここが…」

「……そんで?」

「…い…いや、あの…!」

「そんで?」

「いや、ちょっと…!待って!」

テロリストの男2人がロボ太を押さえ付けた

 

「待ってくれ!リコリスが…!」

「リコリスじゃねぇよ…」

「待て!見て欲しいものが…!」

「他の奴らは死んでんだよぉ…?」

「待ってぇ!凄い映像がぁ…!」

「バランス取らなきゃなぁ!」

真島はガイアメモリを構える

以前地下鉄の時に使いそびれた「M」のガイアメモリだ

 

「待って!ビデオを見て!お願い!お願いだァ!」

「……」

「…プアァァァァァ!」

「…っ!」

次の瞬間、ロボ太のパソコンモニターに千束の映像が流れる

真島はその映像を見つめた

 

「……」

「…こ、こいつがトップのリコリスだ!DAを襲撃前に、こいつを殺しておかないと、我らは全滅されられるぞ!」

「……明日そいつを倒しに行く。すぐに作戦を考えろ」

 

部屋を出ていく真島と2人の男

取り残されたロボ太はホッと溜息をついた

 

 

「……」ゴクッ

「……」

俺の話を最後まで聴いてくれたフィリップ

ゴクッと唾を飲み込み、動揺の表情を見せた

 

「……まさか…そんな事が…」

「今まで黙ってて悪かった……だが、お前にはちゃんと教えておくべきだったな。すまん…」

「…翔太郎くん……」

頭を下げる俺、フィリップはまだ動揺している様だった

 

「…亜樹ちゃんも、この事は知っていたのかい?」

「……うん。お父さんの事を聞いた時に、翔太郎くんから教えてもらったの…」

「……解った。君と錦木千束の間にそんな過去があったとは……本人はそれを知っているのかい?」

「いや、覚えてないと思う……なんせ10年前の話だし、再開した時も俺の事すら覚えていなかった」

「……そうか…」

頭を抱えるフィリップ

 

いっその事説明しない方が良かったか…?

でも、いつまでも黙っている訳にもいかねぇ…

この話は、いつか千束にもちゃんと話さなきゃな……

 

「…ありがとう…翔太郎」

「…え?」

「…僕に話してくれて……おかげで気持ちの整理が着いたよ」

「……フィリップ…」

「……僕たちで、錦木千束を守り抜こう。それが……僕らの師匠の願いなら…!」

「……あぁ…ありがとな、フィリップ!」

「……ふふっ…やっぱり君たちはこうでなくちゃね!」

手を握り締め合う俺とフィリップ

また、こいつとは絆が深まった気がする

 

 

 

次の日

日も落ちて暗くなってきた頃に、マスターから俺たちに一報が入って来た

 

千束が狙われている、と……

 

 

 

「…どういう事だフィリップ!?」

「先程リコリコからの情報提供で、リコリスの顔が割れている理由が判明した!」

ハードボイルダーに跨り急発進させる俺とフィリップ

 

「どうやら、メモリ取引事件のあの日のDAのドローン映像が流出していて…リコリス4人の顔がバレていたんだ!」

「…待ってくれ!そのDAのドローン映像って…まさかあの日のハッキングが影響してるんじゃねぇのか!?」

「その通りだ……そして、そのハッキングの犯人は……」

「ウォールナット……クルミか…!」

「問題はそれだけじゃない…!その流出したドローン映像の中には、錦木千束の顔が映っている物もあったんだ!」

「……じゃあ…敵はその映像を元に、今度は千束を殺そうとしてるって事か!」

「相手はガイアメモリを所持している可能性が極めて高い!僕らで何とかしないと…!」

 

それを聞いてますます急ぐ俺たち

エンジンハンドルを捻り、加速する

 

「……っ!?」

しかし、急に俺の手と足が勝手に動き

ブレーキを入れて急停止した

 

「…っ…翔太郎!何をやってるんだい!?」

「わ、わかんねぇ…!でも……身体が勝手に…!」

「……この感じ…まさか…!?」

 

フィリップは思い出した

初めてDAが襲われた日、ホーネットの男と戦ったあの日

翔太郎は何者かに身体を操られていたことを……

 

「…っ!?」

「…な…なんだアイツ…!?」

俺とフィリップの視線の先にいたのは、人間の原型は残しつつも、おぞましい顔をしているドーパントだった

何処か幻想的な雰囲気を漂わせるものの、胸元の電子基板のような模様が機械的な雰囲気も醸し出す

腰には特殊なドライバーを巻いており、スカーフが夜風に靡いていた

 

「やぁ…初めましてかな?仮面ライダーのお2人…」

「てめぇ…誰だ!?」

「…君かい?翔太郎の身体を時々乗っ取っているのは…」

奴の腰に巻かれているドライバー…ガイアドライバーとは少し形状が違う…

新たなる敵組織か…!?

 

「…フフッ…流石は運命の子。その様子だと、私のメモリの正体も大体検討がついてるんじゃないか?」

ドーパントは俺たちを煽るように喋った

俺は胸ポケットからダブルドライバーを取り出そうとしたが、やっぱり身体が言う事を聞かない

コイツの能力なのか…?

 

「まだハッキリとした推測は出来ていないが、少なくとも精神を司る何かの能力を持ったドーパントである事は分かる。ナーブ、もしくはマニピュレイトか…?」

「…いい考察だ…しかし残念。正解は……」

そのドーパントは手を広げ、堂々と自己紹介をした

 

「…私の名はジャック。この街の…支配者さ……」

 

 

「あー!ちょいちょいちょいちょいちょいー!」

黄色い車に跳ねられる千束

ミカとの通話が強制的に遮断される

 

「……」

黄色い車から出てくる真島

そこに集う大勢のテロリスト

 

『今回は被害ゼロだろ!?これで文句無いだろ!?』

「分かった分かった〜…」

千束にジリジリと近付く真島

うつ伏せになっていた千束を仰向けにする

 

「……ほぉん…」

そして、リコリス制服の胸元を見る

千束の胸にはフクロウのペンダントが掛けられていた

 

「…オラァ!」

「…っ!?」

すると、急に起き上がった千束は身に付けていたポンチョを空中に広げて目眩しをした後に銃を乱射する

 

「ぐはっ!」

「どはっ!」

「……クッ…行け行けェ!」

テロリスト達を怯ませた千束は走り去る

 

「……あぁ?何だこれは…?」

真島は倒れている男の腹部に残るゴム弾の破片を拾い上げ、疑問の表情を浮かべた

 

 

 

「また吹っ飛ばしてやる!」

ワンボックスカーで追い掛ける真島達

 

「……うわっ!もうしつこいなぁ!」

「…っ?」

振り向き銃口を車に向ける千束

真島の打った弾丸を軽々避け、銃を乱射する千束

 

「……クハッ!」

千束のゴム弾が脳天に当たる真島

車から転げ落ち、車も横転した

 

「……あんたが一連の襲撃犯?」

「……」

起き上がる真島の銃を向けながら話す千束

 

「……ひでぇじゃねぇか…」

「うわっ」

脳天から血を流す真島

それを見てちょっと引く千束

 

「あ〜あ…ガキ相手に、こんなになると思ってなかったぜ……バランスが悪ぃじゃねぇか…」

「…何言ってんの?」

「……お前の使命はなんだ?」

「…?」

「……それ」

真島は千束のペンダントを指差す

それに反応した千束はペンダントを握り締めた

 

「…アランのリコリスか〜……面白ぇなぁ!」

「…っ…ぐっ…!」

突如千束を殴る真島

胸ポケットからガイアメモリを取り出し、怯んだ千束に見せ付けた

 

「…っ…それ…!?」

「…これがこの街に蔓延してる魔性の小箱……才能ある者だけが持つことを許される」

「…え?」

「……お前は、どんなメモリを使うんだろうな…?」

 

《 MACHINE GAN!》

 

ガイアメモリを首に差し込む真島

腕や背中に機関銃を背負った超人が誕生した

 

「……ハハハ…ハハハハハハ!」

 

マシンガン・ドーパントは夜空に向かって高らかに笑った




次回

第21話「進撃のR/男たちの小夜曲(セレナーデ)

これで決まりだ!


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第21話「進撃のR/男たちの小夜曲(セレナーデ)

改めてクロスオーバーって大変だな〜って思える回でした
お手柔らかにお願いしますm(_ _)m



「…フハハ…ハハハハハハ!」

「…ド、ドーパント…!」

「…ゴム弾なんかじゃなく実弾を使うべきだったなぁ…そうすれば、死ぬ事も無かったんだぜ…?」

「……クッ…!」

「…さぁ踊れ!アランリコリス!」

両腕の機関銃を千束の地面目掛けて発射する真島

 

「うわっ!ちょいちょいちょい!」

「ハハハッ!足元は弱ぇみてぇだなぁ!」

「うるさい!」

千束は銃を構え、真島に向かって発砲する

 

「…効かねぇなぁ!」

「…っ!」

頭に直撃するも全く効いていない様子の真島

 

「……さぁ…命のバランスゲームの…始まりだぁ!」

「……クッ…!」

真島は腕の機関銃を千束に向けた

しかし…!

 

「……っ!?」

真島の銃が何者かが撃った弾丸によって弾かれる

 

「ぐわっ!」

「がはっ!」

そして次々と撃たれていくテロリスト達

 

「どっからだ!?」

 

「……っ」

テロリスト達がいる遠方

茂みの中からたきなが発砲していた

 

「……たきな…!」

「クッ…ここに来て援軍か…!?……こうなったら…!」

「…っ!」

真島は再び手中に機関銃を出現させて千束に銃口を向けた

 

その時……

 

「……っ…ぐはっ!」

「…っ!?」

赤いバイクが真島に突っ込み、真島は数メートル飛ばされた

 

「…あ、貴方は…!」

「チッ…誰だァ!?」

赤いバイクから降りる赤い革ジャンの男

照井竜は答えた

 

「…俺に質問をするな」

 

「 ACCEL!」

 

アクセルドライバーを腰に巻き、アクセルメモリを取り出す

メモリを起動させて真島に向かって叫んだ

 

「…変…身ッ!」

 

アクセル!

 

仮面ライダーアクセルへと変身する照井竜

エンジンブレードを構え、複眼のヘッドライトが青く光る

 

「…さぁ…振り切るぜッ!」

 

 

 

第21話「進撃のR/男たちの小夜曲(セレナーデ)

 

 

 

「……いかんな」

クルミがミカ、ミズキ、たきなに見せた映像には、千束の顔も映っていた

 

すぐに鳴海探偵事務所に連絡をしたミカ

 

「千束!…千束ぉー!」

「なんか凄い音したよ!?」

「とりあえず組事務所に向かいます!」

店を飛び出すたきな

 

「待て!たきな!」

「…何でですか!?千束の一大事ですよ!?」

「相手はガイアメモリを持っている可能性が高い、無闇に向かったところで奴らに返り討ちに遭うぞ!?」

「それでも…私は…!」

「…たきな、あんたの気持ちも分かるけど…あの子が意外としぶといのをあんたが1番分かってるでしょ?私たちはあんたの事も心配なの…その気持ちも汲んであげて?」

「……でも…!」

「……ミカ、お前…あの赤い刑事が仮面ライダーである事を知ってるんだろ?」

クルミがミカに質問する

 

「…な、何故それを…!?」

「…DAの資料に、赤い仮面ライダーとあの刑事の写真、そしてミカ…お前の名前が入っていた」

「……」

「…ミカ!今は一大事だ!くだらないプライドなんか捨てて、今は協力を仰ぐべきだ!」

「……クッ……分かった…!」

ミカは受話器を取って照井に電話を掛けた

 

「…クルミ、千束を探してくれ!位置が分かり次第私に連絡してくれ!」

「分かった!」

 

 

「貴様が連続殺人の犯人か…!」

「…お前こそ…巷で噂の仮面ライダーじゃねぇか……あぁでもそうか…仮面ライダーも、ドーパントも、ガイアメモリも…みーんなコイツらに情報統制されるのか……気の毒だなぁ〜…頑張って命を救っても、誰にも感謝されない。そんなの割に合わねぇ…バランスが悪ぃよなぁ!?」

真島はアクセルに向かって機関銃を乱射した

 

「…クッ…!」

その攻撃をエンジンブレードでガードするも、真島の止まらない乱射に押される

 

「……俺は、誰かに感謝される為に…仮面ライダーとして戦っているわけじゃない」

「…あ?」

「この街の涙を拭い、人の命を守る……それが、仮面ライダーだ!」

エンジンブレードを構え、真島に斬撃を与える

 

「…クッ…!」

「…この街に罪を犯した人間がいたのなら、俺はそいつを憎むのではなく、間違った道から正しい道へと導く!それが……俺の…仮面ライダーとしての使命だ!」

 

「 TRIAL!」

 

「俺は全てを振り切り、前に進む!……それが、俺の選んだ道だ!」

照井はストップウォッチ型のガイアメモリ、トライアルメモリを変形させドライバーに装填した

 

トライアル!

 

赤い装甲が黄色に変わり、更に青色に変化し

先程までゴツゴツしていた身体がスタイリッシュな姿に変わり、仮面ライダーアクセルトライアルへと変身した

 

「…使命…そうか!やっぱりお前らもそうだったんだなぁ!」

「……はぁっ!」

銃を乱発する真島

その弾丸を避けて進むアクセルトライアル

真島の懐に入り、パンチを繰り出した

 

「ぐはっ!」

「……最後まで…振り切るぜ」

 

アクセルトライアルはアクセルのパワー、防御力を犠牲にして超スピードを手に入れた姿

 

「…す、凄い…弾丸を全部避けた…!」

千束も驚きの回避能力だ

 

「……ハッ!ぼーっとしてる場合じゃなかった!」

千束もアクセルに負けじと銃でテロリストを射撃する

 

 

「……ジャック…支配の記憶か…?」

「その通り…君が言っていた通り、彼の身体を操るもとい、支配していたのはこの私だ」

「…なるほどな……だが何故今頃になって現れた?DA襲撃事件のあの日、俺をDAに向かわせたのはお前って事だよな?何故その時に姿を表せなかった?」

「……」

「それだけじゃねぇ…あの日DAに行く事が出来なかったら、たくさんのリコリスや、たきなが犠牲になっていたかもしれねぇ……お前は間接的に俺たちを助けたことになる。それは何故だ」

「……愚問だな。その答えはただ一つ」

「……」

「…この街に、君たちが必要だからだよ」

「……は?」

ジャックの言葉に、俺とフィリップは絶句する

 

「この街は美しい…この街の平和は、維持していかなくてはならない。だから、ドーパントを倒せる君たちの力が必要だったんだよ」

「……俺たちを利用しようってか!?」

「…利用…まぁ、そうとも言う。だが、我々はこう考えている……」

「……」

「……支援…」

「……っ!?」

ジャックの言葉に、フィリップが反応した

 

「その街の才能ある者には価値がある。その素晴らしい才能は、必ず世に届けなければならない」

「……まさか…」

「君たちの活躍は大いに期待出来る。かつての組織からこの街を守り、数多の事件を解決して来た君達なら…ね?」

 

ジャックはいつの間には姿を消していた

 

「…ま、待て!」

「翔太郎!今は錦木千束の方を…!」

「…あぁ…分かった!」

ハードボイルダーを発進させた俺

 

「……」

しかし、フィリップの表情は曇ったままだった

 

 

「…ふっ!」

「はぁっ!」

交戦する真島とアクセルトライアル

 

「…ふっ!はっ!」

「…ヘヘッ…へァ!」

「なにっ!?」

アクセルの攻撃を避ける真島

 

「近接で有利なアクセルトライアルの攻撃を避けるとは…こいつ、なかなかやる!」

「…はぁ!」

「ぐっ…!」

銃弾を放つ真島

その攻撃に受け身になるアクセル

 

「…こうなったら…!」

アクセルドライバーからトライアルメモリを抜き出し、マキシマムカウンターをスタートさせた

 

「…ふっ!」

トライアルメモリを上に投げ、真島に突っ込んで行く

 

「はっ!」

「ぐっ!」

「はっ!はっ!たぁ!はぁっ!」

「グッ…クッ…!」

真島に超高速でキックを放つアクセル

その軌道はT字に撃ち込まれ、真島は抵抗出来なくなっていた

 

トライアル!マキシマムドライブ!

 

トライアルメモリがアクセルの手に戻り、カウンターをストップさせる

表示には「9.7」の表記されていた

 

「9.7秒…それがお前の絶望までのタイムだ…!」

「…クッ…がぁぁあ!」

マシンガン・ドーパントは爆発し、真島は海に向かって飛んで行った

 

「……貴様ァ!よくも真島さんを!」

「…真島?」

 

《 ANOMALOCARIS!》

《 SWEETS!》

《 ARMS!》

 

次々とドーパントに変身していくテロリスト達

 

「うわっ!うわわわわ!」

「…クッ」

驚く千束はアクセルの後ろに隠れる

 

「…っ…ようやく来たようだな」

「…え?」

アクセルの視線の先には赤い車がこちらに向かって猛スピードで向かっていて来た

 

「ぐわっ!」

「なっ!?」

ドーパントを跳ねていく車の後部座席の扉が開く

車の後ろに乗っていたミカが手を伸ばす

 

「千束!乗れ!」

「先生…!?」

「早く行け!」

「は、はいっ!」

驚きながらも車に乗り込む千束

 

「…っ!」

たきなもそれに合わせて車に乗り込む

車は発進し逃げる事に成功した

 

「…ここは引くのが先決か」

アクセルも超高速でその場を後にした

 

 

「……」

「……」

喫茶リコリコにて、正座をさせられるクルミと翔太郎

 

「…いちちちち…なるほど〜」

「つまり、全部こいつが原因って事。翔太郎は呼んでも来なかったしね!」

「俺らもドーパントに絡まれて行けなかったんだよ!俺はいいだろ!?」

「たきな〜あんたは被害者なんだから、言ったれ言ったれ!」

「……」

クルミを睨みつけるたきな

 

「…どうするたきな〜やっちまうかっ?」

「千束〜…すまん!たきな!」

土下座をして謝るクルミ

そんな彼女を見て、たきなの目が変わった

 

「…あれは私の行動の結果であって、クルミのせいじゃありません」

「……たきな…」

にこやかに笑うたきな

リコリコのメンバーはその反応を予測していたようだ

 

「…ですが左さん、貴方は許しません」

「いや、なんでだよ!?」

「結果的にあの赤い仮面ライダーが助けてくれたから良かったものを…!」

「す、すまんすまん!」

俺たちにしか分からない事情で俺を責めるたきな

しかし、その目は完全なる怒りではなく

単なるからかいの眼差しに見えた

 

「まぁ、その辺にしておけ」

「…照井!」

店に入って来た照井は、カウンター席に座りマスターにコーヒーを注文していた

 

「フィリップの話によれば…左、お前たちはジャックと名乗るドーパントに遭遇したそうだな」

「…あぁ…あいつが何者かは分からねぇが、ココ最近の事件に関与している事は確かだ」

「……ジャック…?」

 

千束は思い出した

以前、千束とたきなの前にも

ジャックと名乗るドーパントが姿を現したことを…

 

「…それと、あのテロリストの名前が分かった。真島、奴はそう呼ばれていた」

「真島…そいつが今回の事件と、地下鉄襲撃事件の主犯か!」

「……恐らくな」

「……それより〜刑事さ〜ん?」

「…ん?」

突然いやらしく照井に絡むミズキ

 

「この間のサイレント・ジンの件、そして今回の事件も助けていただいたお礼に〜私が、オ・ト・ナの御奉仕をさせていただきますわ〜!」

「……」

血迷ったかミズキ!?

いくらイケメンでなんでも出来る照井だからといって、その絡み方は…!

 

「……フッ」

照井が少しだけ頬を緩ませた

その反応に口角が上がるミズキ

 

「…悪いが俺は、妻帯者だ」

「……妻…帯…者…?」

次の瞬間、その言葉に打ち砕かれたミズキは

そっと店の奥へと向かって行った

 

「…照井くん…今回の事件、君がいなければ千束はどうなっていたか分からん。君のおかげだ」

「ちょっ…先生〜!恥ずかしいよォ!」

「……気にするな。俺は俺の流儀に従っただけだ」

そう言ってコーヒーを完飲する照井

 

「……おかわりをくれるか?」

「…フッ…私に質問をするな」

「……フッ…くだらん質問だったな…」

「……へへっ」

その2人の会話を聞いて自然と表情が綻ぶ俺たち

 

どうやら、この2人なら上手くやっていけそうだな……

 

「……」

早く、マスターの誤解も解ければいいが…

まぁ…そう簡単に片付く話でもないか…

 

この事件は一段落し、これ以降にリコリスが襲撃されたという話は聞かなくなった

 

だが、一つだけ不可解なことがある

アクセル基照井が倒したであろうマシンガン・ドーパント

その正体である真島の身元と、メモリの所在が不明だという事だ

 

 

「……」

「…あ、皆さん…ご無事で……」

床に正座させられたロボ太

 

部屋に押し入ってきた真島、海に落ちたせいか

その全身はびしょ濡れだった

そして、その手にはマシンガンメモリが握られていた

 

「……よぉハッカー…」

「はいっ!」

「……見直したよ…」

「…へ?」

「面白い奴を見つけたなぁ…あれじゃなきゃ俺とはバランスがとれねぇ…!」

「……へ?」

「これから忙しくなるぞぉ…あのリコリスの事もっと教えろ!」

「…え、仮面ライダーの方じゃ…?」

「仮面ライダーなんかどうでもいい!俺が興味あるのはアイツだけだ!さっさと教えろ!ハッカー!」

「…え…えぇぇぇぇ!?」

 

 

「…じゃあ翔太郎さんは、あの刑事が仮面ライダーって事も、DAハッキング事件の犯人がクルミだって事も知ってたんですか?」

「ま、まぁな…」

「なんだよ〜早く言ってくれれば良かったのにぃ!」

照井がアクセルである事と、クルミの犯した事件の事を伝えた俺

全部探偵だからという理由で片付けたが…

勿論俺たちの正体は明かしてない

 

「刑事さんの事については私も知ってましたが、本人から他言を禁じられていたので…」

「私もみんなには黙っていた…すまん」

「…ん〜…別にいいけどさぁ〜…」

「……納得出来ませんか?」

「…うん〜…」

なかなか話を呑めない千束

すると、たきなが千束に勝負を仕掛けた

 

「……分かりました…なら、ジャンケンで千束が勝ったら全てを話します。私が勝ったらこの話は一旦忘れましょう」

「…お〜…いいね〜!それじゃあ行くよ〜?最初は…」

「ジャンケン!」

「うぅうぇぇ!?」

「ポン!」

千束が出した手はパー

それに対してたきなはチョキ

たきなが初めて千束に勝利した瞬間だった

 

「うわぁぁ!?」

「……ヨシッ!」

声にならない喜びを上げるたきな

俺らの助言が役に立ったようだ

 

「……」

そういえば……

なんで千束は車に跳ねられて腕の傷だけで済んでるんだ?

普通なら骨折とかするもんじゃ……

 

「……フッ」

まぁ、相当タフなんだな

流石はDA屈指のリコリスだぜ…

 

この時の俺は、まだ気が付いていなかった

千束に隠された大きな秘密を

それが、おやっさんとの過去と大きく関わる事を……

 

「千束!次は俺とジャンケンだ!」

「え〜!翔太郎さん急に強くなったからヤダ〜!」

「いいから行くぞ!ジャンケン!ポン!」

「ポン!…やったぁ!勝ったァ!」

「……な、なんだ…と?」

俺が千束にジャンケンで負けてその場の全員が笑う

 

「…相変わらず、ハーフボイルドね〜」

その展開を見て、ミズキが呟いた




次回

第22話「Sとの関係α/リコリコ閉店の危機?」

これで決まりだ!


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第22話「Sとの関係α/リコリコ閉店の危機?」

アンケートはこの章を書き終えるまで続ける予定です。照井竜の新たな進化を見たい人は「見たい」を選んでください。(ちなみに案は既に出てます。)既存のメモリでの活躍を見たいという方は「いらない」を選んでください。自分を照井竜だと思い込んでいる人(ごめんなさい本当はどっちでもいいという人)は「俺に質問するな」を選んでください。今のところこれが1番多いのですが、もし他に期待している事があれば感想でじゃんじゃん教えてください!



「…それが真島か?」

「「はい!これが真島です!」」

千束とたきなが楠木に同時に見せた似顔絵

どちらも特徴が一致せず、DAの機密を指揮するAI「ラジアータ」によって導き出された似顔絵とも合致していなかった

 

「全然似てねーじゃねぇか!」

2人の画伯に対し、フキが激怒する

 

「……」

「…仕方ない…小僧、頼んだぞ」

「……はいはい、分かりましたよ〜」

 

この日俺は、先月起こったリコリス襲撃事件の首謀者とされる真島と呼ばれる男について

楠木から万が一の事があると言われて来ていたが…

まさか似顔絵を書けなんていう依頼だとは思わなかった

 

俺自身は真島という男を見た訳じゃないが、照井からも話を聞いている

それを踏まえて、俺は千束とたきなの証言に耳を貸し

似顔絵を完成させた

 

「……ほぉ…こいつが…」

「そうそう!正にこんな感じだよ!」

「左さん、絵描けたんですね!」

完成した似顔絵を見て3人が感心する

 

「……君は…何者だ?」

千束は俺の描いた似顔絵を見て

そう呟いた

 

 

「……」

『…避けてんのかな?あんたの射撃が下手なんじゃないのか?』

「いいや、この距離で外すわけねぇ…」

真島は拠点にて、ロボ太と千束の映像を見返していた

 

真島が車から千束の頭目掛けて撃った弾

千束はそれを避けていた

 

「しかもこの後迷い無く撃ち返してるだろ?当たらないと分かってなきゃ出来ねぇ事だ……」

真島はガイアメモリを銃のように構えてモニターに向ける

 

「……お前は…何者だ?」

モニターに映し出される千束を見て

真島はそう呟いた

 

 

 

第22話「Sとの関係α/リコリコ閉店の危機?」

 

 

 

「…この男が真島…リコリス襲撃事件の首謀者か…」

フィリップは俺の描いた似顔絵を眺める

 

「そいつはマシンガンのメモリを使っていた…だが、身柄とメモリの所在は不明だ。何処かに逃げたと考えるのが妥当だな」

そう言って自分の淹れたコーヒーを飲む照井

 

「うわっ…なんか目付き悪ぅ…」

亜樹子も真島の似顔絵を眺め、真島の真似をし始めた

 

「照井竜、奴は何か手掛かりになるような事は言ったかい?」

「…いや、特にこれといった手掛かりは無い…ただ…」

普段質問するとキレる照井だが、事件解決に必要な質問はいつも引き受けてくれる

 

「…なんだい?何かあったなら教えてくれ」

「…奴は、「使命」という言葉に反応していた気がする」

「……使命?」

それがなにか関係あるのか分からないが、フィリップの検索に必要なキーワードとしては有力かもしれない

 

「サンキューな、照井」

「…当然だ」

 

 

「……やべ、閉まってる…」

扉に掛けられた「CLOSE」の看板

俺はいつも通り憩いの場で安らごうと喫茶リコリコを訪れたが、どうやら営業時間を過ぎてしまったようだ

 

最近夜に普通に店に来ること多々あったしなぁ〜…

営業時間の事さっぱり忘れてたぜ〜…

 

そんな事を考えながら帰ろうとした時、後ろで声を掛けられた

 

「おや、翔太郎くん」

「マスター…何してんだ?」

「今から買い出しに行くところだ。今日はどうしたんだい?」

「いや、今日もマスターのコーヒー飲みたいと思ってたんだが…営業時間超えてるの忘れててさ〜…」

「なんだ、そういう事なら店で待っててくれ。まだみんないる筈だ、帰ったらコーヒーを淹れてやる」

「ホントか!?ありがたいぜぇ!」

 

慈悲深いマスターに感謝しながらも、俺は店内に堂々と入った

 

「……ん?」

営業時間外だからだろうか…店内はやけに暗く、しかし奥に微かな灯りが見える

 

「……ん〜…?」

誠に遺憾な事ではあるが、俺は扉越しに千束、たきな、クルミ、ミズキの会話を盗み聞きしてしまった

 

その会話の中で、「閉店」「楠木」「合い挽き」「愛人」などといった意味不明なキーワードが出て来ていた

そして……

 

「Bar Forbidden」という会員制のバーの名称も…

 

「…バーフォビドゥン…?」

 

 

 

「Bar Forbiddenは、街外れにある会員制のバーだ。『禁断』を名乗るからこその最高級のサービスを売りにしている」

「…そこ、入れるか?」

「原則として、新規の会員は既存の会員の紹介のみとなっているけど……」

「…よし、じゃあ入れるな」

フィリップにそのバーについて調べてもらい、俺は早速会員の手続きを進めた

 

「…げっ!入会金高っ!亜樹子に言ったら怒られるんだろうな〜…」

「…ところで翔太郎、どうして急にそんな高いバーに行くんだい?合い挽きでもするつもりかい?」

「んなわけあるかぁ!…ちょっと気になる事があってよ」

「……?」

頭にはてなマークを浮かべるフィリップ

俺は帽子を深く被り、表情を悟られないようにした

 

「…このバー…おやっさんがよく行ってたんだよ…いつも「用事がある」、「半熟が来るような場所じゃねぇ」って言って詳しい事は教えてくれなかったけど……でもある日さ、凄い形相で帰ってきた事があって…」

「……」

「…その日以来、おやっさんはそのバーに行く事は無くなった……だけどある日、おやっさんは俺に何も言わずに事務所から居なくなった」

「……」

「またあのバーに行ったのかと思ってたんだけどよ…そしたら1本の電話が来たんだ」

「……誰からだい?」

「…シュラウドだ」

「…っ!?」

 

シュラウド…1年前まで俺たちを何かと助けてくれていた謎の女。でもその正体は園咲文音…フィリップの実の母親だったんだ。夫である園咲琉兵衛を酷く憎み、その憎しみから生まれた復讐心で照井をアクセルへと仕立て上げ、園咲琉兵衛への報復を目論んでいた

 

「……まさか…その日とは…」

「…そう…俺たちの全ての始まりである、あの悪夢のような事が起こった日だ」

「……ビギンズナイト…」

「…あのバーとおやっさんには何かしらの関係があった。そして、そのバーに今度マスターが行くみたいなんだ」

「……まさか君は、ミカと鳴海荘吉との関係を解き明かす為に…?」

「…マスターの仮面ライダーへの憎しみは、きっとおやっさんから来ている。その理由を俺は知りたい…そして、そのきっかけとなったのはきっとあの日が原因だ。10年前のあの日の事を、俺はもっと知りたい」

「……10年前…」

 

 

「……」

『おい、関係あるかもしれない情報を見つけたぞー』

「…んー?」

真島はノートパソコンに写った千束の写真を眺めながらガイアメモリで手遊びをしていた

そのノートパソコンには、ロボットのキーホルダーが付いたUSBメモリが刺さっていた

 

『風都タワー事件は知ってるだろ〜?』

「あぁ〜斬ったの俺達だからなぁ…」

『…え?どゆこと?』

「…んで?情報ってのは?」

『…あ〜テロリストはこいつ1人に倒されたとか…』

「ん〜…間違っちゃいねぇが……でもあん時はちっちぇのが…」

『……?』

「……ハハッ…あいつかっ!」

真島は思い出していた

10年前のあの日の記憶を…

 

『なんだよ…んまぁ嘘くせぇな!こういうのは尾鰭が付くから』

「……まさか同じ奴とは……手も足も出なかった。唯一対抗出来たのはアイツだけだったなぁ…」

真島は手を銃の形にしてモニターの千束に向けた

 

「……こいつは…『運命』だな……ん?」

すると、モニターに「COMPLETED」と表記された

真島はノートパソコンからUSBメモリを抜き出した

 

「…なんでこんなもん直接差しに行かなきゃならねぇの?」

『あのね…DAのシステムは、規格外のAIが制御してるんだけど…入口を物理的な手段で内側に用意しないと、アクセスするだけでこっちがバグられるわけ』

「んあ〜よく分かんねぇけどとっくらちょちょいとやれねぇのかよ?世界一のハッカーなんだろ?」

すると、スピーカーの先で台パンの音が聞こえた

 

『なっ!?これを作れるのは僕だけなんだぞ!?DAのAIに仕掛けることが出来る奴なんて、この世界にもう1人だって居やしないんだ!それを成し遂げれば!僕がトップハッカーとしてこの街に…!』

「あ〜わかったわかった…お前さんの夢が掛かってるわけね」

『僕に出来ないことは、世界の誰にも出来ないと思ってくれ?』

「頼もしいこって…こいつを署長のパソコンに差して来れば良いんだな?」

『そう、それが君の計画を達成させる為にまず必要な事だ』

「「俺たちの」、だろ?…通信ジャミングに逃走経路の確保、よろしく頼んだぜ……トップハッカー…」

真島は仲間を連れて行動を開始した

 

「……さぁて〜…5分で終わらせろよ〜」

そして、ロボ太もまた

行動に出ようとしていた……

 

 

 

「……なに?街にテロリストらしき人物が…?」

『はい!すぐに監視カメラの映像送るんで!よろしくお願いします!』

「分かった…真倉刑事、十分注意して操作に当たってくれ」

ビートルフォンに送られて来た監視カメラ映像を確認し、すぐさま現場に向かう

監視カメラ映像はリアルタイムで流れている

1番近場にベンチに座っている男が映り込んでいた

 

「……っ?」

現場に到着したが、男の姿は見えない

監視カメラ映像を確認すると、確かに男はベンチに座っている。そして、そばには俺も……

 

「…ダミー映像か…やられた…!」

ビートルフォンを取り出し、真倉刑事に連絡を取る

 

「狙いは風都署だ!すぐに戻る!」

バイクを走らせ、風都署に超特急で向かう

 

「……よぉ…遅かったなぁ、刑事さんよ…いや、仮面ライダー…」

「…貴様…!やはり生きていたか!」

風都署を襲って来ていた真島と対峙する照井竜

 

「ヘッ…勝手に殺すなよ……」

 

《 MACHINE GAN!》

 

マシンガン・ドーパントへと変貌する真島

 

「…変…身ッ!」

 

アクセル!

 

照井は仮面ライダーアクセルへと変身し、すぐさま真島に有効なトライアルメモリを取り出した

 

「…っ!」

しかし、真島の弾丸によりトライアルメモリは弾かれてしまった

 

「…しまっ…!」

「もっと注意深くしねぇとなぁ…!」

「…っ!」

機関銃をアクセルに向ける真島

 

「…はァァァ!」

「…クッ!……っ?」

銃弾を放つ真島

しかし、真島はアクセルの足元を威嚇射撃するだけでアクセルに実害は無かった

 

「……チッ…」

煙が晴れた向こうには1人も人影は無かった

どうやら逃げられたようだ

 

 

「……さーてと、千束…準備は良いか?」

「うんっ…モチのロンっ」

 

ドレスアップした翔太郎と千束

ホテルの一角の隠し扉が開き、千束が口ずさんだ

 

「……ミッションスタート」




次回

第23話「Sとの関係α/大切な夜」

これで決まりだ!


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第23話「Sとの関係α/大切な夜」

昨夜、風都署が真島率いるテロリストに襲われた

リコリコの情報提供により、署内の監視カメラ映像を確認させてもらったが

風都署に乗り込んだテロリスト集団がドーパントとなり署内を荒らしに荒らしまくっていた

途中で照井が来てアクセルへと変身したが、マシンガン・ドーパントに目眩しに遭いテロリスト集団には逃げられたようだ

 

その監視カメラに写った、俺の描いた似顔絵に酷似している男が、カメラに向かってニヤッと笑った瞬間を俺とフィリップは凝視した

 

「この男が真島……これまでのいくつもの事件の首謀者か…」

「……許せねぇ…何の為にこんな事を…!」

「…翔太郎、追加で署内の監視カメラ映像を貰ったのだけれど…」

「……っ!?」

フィリップは1枚の写真を俺に見せた

その写真には、ボロボロになった署長室の壁に「勝負だリコリス!」と赤い文字で描かれていた

その字が血なのか赤いペンキなのかは知らないが、許さない事には変わりない

 

「…相手はリコリスしか眼中にないようだね」

「……やってくれたなぁ…!」

「事件後に署内を確認したが、如何せん奴らの目的が分からなかった。ただ、とんでもない事を企んでいる事は確かだ」

照井は俺たちに監視カメラ映像と事件当時の状況を詳しく教えてくれた

警察の調べによると、テロリスト集団は本当に署内を襲撃しただけで他の目的が不明との事だ

 

「…とりあえず、お前に怪我がなくてよかったよ照井」

「左、知らないのか…?何があっても、俺は死なん」

「…そうは言っても、うちの所長は心配みたいだぜ?」

「……」

見ると、金色で「成敗ッ!」と書かれた緑のスリッパを素振りする亜樹子が事務所内で暴れていた

呆れた翔太郎は亜樹子を抑えに行った

 

「……今のところこの事件もDAが揉み消したみたいだけど、世間では疑問が浮かぶだろうね」

「DAの化けの皮が剥がれるのも時間の問題か……しかしフィリップ、何故お前たちはそうDAに肩入りする?」

「……それは…翔太郎の過去と関係する」

「…左の…?」

「……君にも、いつか話す時が来ると思うよ…彼の苦闘と、葛藤の記憶をね…」

「……」

フィリップはそう言うと、亜樹子を抑え込む翔太郎を見た

 

そんな翔太郎のスタッグフォンに、着信が来ていた

 

 

 

第23話「Sとの関係α/大切な夜」

 

 

 

「……やっぱりそうか…」

「うん、きっと楠木さんと密会して私をDAに連れ戻す気だよ…」

「…いや、それは知らないけど……」

俺は千束に呼び出され、マスターが今夜「Bar Forbidden」で誰かと会う約束をしている事を教えてもらった

本人は千束には未だ何も言っていないようで、どうやら内緒の密会のようだ

 

「俺はともかく、そのバーは君たちは入れるのか?」

「そこは〜コンピュータの人の出番ですよ〜…ね!クルミ!」

「偽造は何ともないが……まぁ名前もテキトーに決めれば…」

「ん〜…偽名か〜…悩むな〜…」

「……ピッタリな名前がある」

俺はひとつ、ここで試したい事があった

マスターが本当にあの店の常連なら、奴の名前も……

 

「……シュラウド」

「…シュラウド?」

「……英語で覆うものを意味する言葉だ。偽名にはピッタリだな!」

クルミはその言葉の意味を察知し賛成した

 

「なるほど〜溢れんばかりのオーラを覆う魅惑の名前……確かにピッタリだな〜」

「あんたから溢れるのはリコリス特有のオーラよ」

「んあー!いい感じにまとまってたのに〜!」

いつも通り騒がしくなった千束とミズキ

 

すると、たきなが俺に耳打ちをして来た

 

「…左さん…店長の事を頼む間、鳴海探偵事務所を伺っても良いですか?」

「……あぁ…でもなんで…?」

「……確かめたい事があって……千束と店長をよろしくお願いします」

お辞儀をするたきな

俺はポンと頭に手を置く

 

「……任せな…マスターも俺にとっては大事な人だし、千束がこの店から居なくなるのも困る。きっちり調べるさ…探偵だからな」

「……ハードボイルドな、ですよね」

「…あぁ…よく分かってるじゃねえか」

今度はニコッと笑うたきな

俺はクルミ、千束、ミズキと作戦会議を開き、その時を待った

 

 

 

『…君も躍起が回ったね…友人をストーキングなんて』

「あ〜うるせうるせ…これも千束の為なんだよ」

『分かっている。君のハーフボイルドを褒めてるだけさ』

「誰がハーフボイルドだっ」

ハードボイルダーで待機中の俺

千束からの連絡を待ちながら、ダブルドライバーを装着してフィリップとも意識を繋げていた

 

『相手はおそらく楠木…錦木千束をDAに呼び出す為の密会…そう君たちは見ているのだろう?』

「…やっぱり何か引っかかるか?」

『……あぁ…何故このタイミングなのか……これまでタイミングは沢山あった筈だ、それに…』

「……それに?」

『…錦木千束をDAに呼び戻す動機が分からない。急激に戦力が必要になったのか…?』

「…真島と何か関係があるのか…?」

『さぁね…それも追々考えないとね……』

「……そっちの準備は整ったか?フィリップ」

『あぁ…既に風都ホテルに待機済みさ』

「オッケー…んじゃ……」トゥルルル トゥルルル

 

すると、俺のスタッグフォンに着信が届いた

 

『翔太郎さん!先生店から出ていったよ!今から私たちも向かうから!』

「……あぁ……作戦開始だ!」

 

 

「ようこそいらっしゃいました。恐れ入りますが、お名前をお聞かせ頂けますか?」

「左翔太郎」

「シュラウド」

「…確認致しました。左翔太郎様、ご案内します」

 

ウェイターは何の疑問も持たずに俺たちを接客した

俺はともかく横の奴はどう見ても未成年だけどな…

 

俺は黒いタキシードに身を包み、いつもの帽子を被っていた

一方真っ赤なドレスに身を包んだ千束、胸にはあのペンダントが掛けられていた

 

「ごゆっくりお寛ぎ下さい…」

店内に案内された俺たちは、お通しにシャンパンを入れてもらった

お通しがこれって……流石は高級バーだな…

などと日和っていたら、千束が肩を叩いて来た

 

「……来たか」

「うわぁ…先生なんかめっちゃキメてんだけど…」

「……」

カウンター席に座るマスター

お洒落な格好で本当に今から合い挽きでもするかのような格好だった

こちらの存在にはまだ気付いていないようだ

 

本当に楠木が来るのか…?

フィリップの推測が正しければ……マスターの相手は…

 

「…あっ…誰か来た!」

「……あの人は…!」

「…えっ?ヨシさん?」

なんと、マスターの横に座ったのは吉松シンジだった

 

「……っ」

まさか……まさかそんな事が……

 

「あ〜合い挽きだな〜これは〜…私とした事が〜……翔太郎さん行こう、邪魔しちゃ悪い……翔太郎さん?」

「……ん…あ、あぁ…」

思わず歯切れの悪い返事をしてしまった

だが、動揺を隠せずにはいられなかった

 

「……」

2人の後ろを静かに通る俺と千束

そこで、2人の会話が聞こえて来た

 

 

 

「急に呼び出して悪かったな…」

「…良いさ」

「…君に、尋ねたい事があってな」

「……改まって何だ?」

「前にも聞いたと思うが……約束は守れているのか…?」

「……」

「……私と…君と……荘吉との約束を…」

 

「……っ!」

その言葉を聞いた瞬間、俺の思考は完全に停止した

それ以降の話は一向に入って来なかったが、千束のテンションが上がっていたのに気が付いた

 

「…お、おい…千束…?」

「ヨシさん…ヨシさんだよ…!」

すると千束は2人に近付こうとしていた

今バレるのはまずい……いや、むしろここであの偽名が役に立つかもしれねぇ…!

 

「……ヨシさ…」

「…待て!シュラウド!」

俺がその名を叫ぶと、マスターと吉松シンジが思いっきり振り返った

 

「…っ!?」

「…っ!?シュラウド…だと!?」

「……あ」

振り返った2人の視線には千束がいた

 

「……千束…!」

「……っ……ミカ」

シンジはマスターを疑いの目で睨んだ

 

「…いや、違う!」

「ごめんなさい!…先生のメールをうっかり見ちゃって……」

「…謝る必要なんてねぇよ…千束」

「……翔太郎くん…!」

俺はいてもたってもいられずに2人の前に姿を表した

 

さっきの2人のあの表情

 

「……もう解っちまったぜ……全部」

「……何が…?」

「…マスター……あんたがおやっさんを裏切ったんだな」

「…っ!」

 

俺の怒りは、とうに限界を超えていた

 

 

ジリリリリン ジリリリリン

 

鳴海探偵事務所の電話の音が鳴り響く

 

「…はい!こちら鳴海探偵事務所ですっ!」

元気よく電話に出る亜樹子

しかし、そんな元気を出したのも束の間

電話の相手がフィリップだった事に少しだけ落胆した

だが、彼の口から放たれた言葉はただ一言だった

 

『亜樹ちゃんにお客が来るから、しっかり対応してね』

……と

 

「…ん〜?私にお客ぅ〜?もしかして私のファン!?え〜!私聞いてない〜!」

ウキウキで事務所内を踊っていると、事務所の扉が開いた

 

「あっ!いらっしゃいませ〜!鳴海探偵事務所へよぅ…」

「…こ、こんばんわ……」

扉を開けたのは、井ノ上たきなだった

 

「……」

「……あの…貴方が、鳴海亜樹子さん…ですか?」

「……」

 

私……聞いてな〜い〜……




次回

第24話「Sとの関係α/あの日の約束」

これで決まりだ!


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第24話「Sとの関係α/あの日の約束」

アンケートに答えてくれた方、ありがとうございました!

アンケートの結果、おまかせとなったので
アクセルのオリジナルフォームが出るかは今後をお楽しみに!
よろしくお願いします!



「…マスター……あんたがおやっさんを裏切ったんだな」

2人の前に姿を現した俺は開口一番、そう呟いた

 

「……翔太郎くん…」

「……翔太郎さん…?」

「……」

俺は足を進め、マスターの目の前に立った

 

「……答えてくれ…()()()…あんたはおやっさんを裏切ったのか…?」

「……」

「…俺は真実を知りたい……教えてくれ…」

「……翔太郎くん…やはり君もあの夜……っ」

「…っ!」

すると、俺のスタッグフォンの着信音が店内に響き渡った

 

「……くそっ…タイミング悪ぃ…」

俺は渋々スタッグフォンを手に取り、電話に出た

相手はフィリップだった

 

『翔太郎!街外れにドーパントが現れた!』

「……分かった」

電話を切って帽子を被り直す

 

「…すまん、急用が出来た。千束…2人としっかりと話してこい」

「……う、うん…」

俺は店を後にしフィリップの元に急いだ

 

 

 

「……ハァ…ハァ」

夜風を切って進む

俺は裏道を通りながら街外れまで向かった

ハードボイルダーを使うとかえって時間が掛かる

 

「……ハァ…ハァ」

 

《…これを持ってじっとしていろ。この場を一歩も動くなよ》

 

《あの子を……あの子を頼んだぜ…》

 

《…悪魔と相乗りする勇気、あるかな?》

 

「……ハァ…ハァ……くそォ!」

 

現場に到着した俺

 

「翔太郎っ!」

「…あぁ!」

フィリップと合流し、ドーパントの前に並ぶ

 

ドーパントは全身に稲妻模様が入った身体に今もビリビリと電流が身体を流れているようだ

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「「変身ッ!」」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

すぐさま仮面ライダーWへと変身する

 

「……おりゃァァ!」

しかし、俺は一刻も早くこの戦いを終わらせたかった

俺のその思いは、俺自身を急かせた

 

 

 

第24話「Sとの関係α/あの日の約束」

 

 

 

「……ヨシさん…ちょっとだけ話をさせて…!」

「……なにかな」

「……」

カウンター席に俯くミカは、2人の会話をじっと聞いていた

 

「まさかヨシさんだったなんて…あ、すみません…吉松さんの方が良いか……ありがとうございました…!」

千束はペンダントをそっと握った

 

「貴方をずっと…探してて……手術の後、お礼を言えてなかったから……」

「…それを認める事は出来ないんだよ」

「……えっ?」

「…そういう決まりなんだ」

「…そぉ…なんだ、そっか……私も頂いた時間でヨシさんみたいに誰かを……」

「知ってるよ…しかし、君はリコリスだろ?君の才能は……」

「……っ」

すると、千束の無線にクルミの声が流れた

 

『千束、街外れにドーパントが現れた。今は仮面ライダーが交戦してるみたいだが……』

「……ごめん、そっちは仮面ライダーに任せよう。私は…」

「…っ」

「…あ、ヨシさん…!」

すると、シンジは席から立ち上がり千束に身体を向けた

 

「アランチルドレンには役割がある。ミカとよく話せ」

そう言ってシンジは店を後にした

 

「…しばらく、ここに居なさい」

ミカは杖をつきながらシンジの後を追った

 

「…また、お店で…待ってますから……待ってますぅ…」

 

 

 

「…千束は、荘吉の事も忘れているのか?」

「あぁ…あんな事があったんだ……無理もないさ」

「…そうか……彼に囚われずに済むのはいい事だがね…」

「…シンジ……ジンは逃がしたぞ」

「…フッ…前はそんなに甘い男じゃ無かっただろう……どうした?」

エレベーターに乗った2人は向き合いながら対峙した

 

「千束が望む時間を与えてやろう…!」

「ミカ……才能とは神の所有物だ、人間(ひと)のものではない…まして私達のものでもない……」

シンジはミカのいる壁に手を置き、顔をミカの前に持ってくる

 

「…私たちは約束したじゃないか……そうだろう?」

「…やめろっ!千束を自由にしろ!私にはこの引き金を引く覚悟がある!」

ミカはシンジに拳銃を向けた

 

「……君の店に初めて訪れた日は、胸が弾んでいたよ。ホントさ……」

「……」

「……10年前の、あの日のように…」

「……っ」

 

《初めまして、吉松シンジです》

 

《お互い、秘密が多いな…私たちは……》

 

《成功だよ!ミカ!》

 

《サヨナラだ、約束だぞ?才能を世界に届けてくれ……類稀なる、殺しの才能を……》

 

「……クッ…」

ミカの手は震えていた

それを見たシンジは更にミカに問い掛けた

 

「……君が持っているのだろう?彼のメモリを…」

「……だったらなんだ…?」

「…いや、君が持っていてくれ……彼は才能に溢れていた、しかし彼は道を誤った…君がその道を正してくれた……ありがとう、ミカ」

「……やめろ…やめてくれ…」

 

《俺は覚悟を決めたぜ……》

 

《どういうつもりだ、ミカ…!?》

 

《俺の弟子が…必ずお前を……!》

 

エレベーターから降りるシンジ

それを横目に、ミカは壁に寄り掛かった

 

「……覚悟なんか…あるわけないだろ…」

ミカは胸ポケットに手を入れ、一本のガイアメモリを取り出した

 

「…私は…どうすればいいんだ……教えてくれ、荘吉…」

 

ミカの手には、スカルメモリが握られていた

 

 

「『はぁっ!』」

「……フッ」

「なにっ!?」

ダブルの攻撃を軽々避けるドーパント

 

「…フッ!」

「だぁぁ!」

ドーパントがダブルにパンチを打ち込むと、打撃に加えてバチバチと電流が流れる

 

『彼の身体に流れているよう電流…弾けるような電撃……間違いない、奴のメモリの正体はスパークだ!』

「スパーク…だったら速さで勝負だ!」

 

「 METAL!」

 

サイクロン!メタル!

 

サイクロンメタルへとハーフチェンジし、メタルシャフトにサイクロンメモリを差し込む

 

サイクロン!マキシマムドライブ!

 

「『メタルハリケーンスロー!はぁぁ!』」

 

ダブルはメタルシャフトに風のエネルギーを纏わせ、メタルシャフトを投擲のようにスパークに向かって投げ飛ばした

 

「……どうだ…!?」

「……フッフッ…」

「なんだと!?」

『…やはり、あの速さはジャッカルをも凌駕している!』

「だったらこいつだ!」

 

『 LUNA!』「 TRIGGER!」

 

ルナ!トリガー!

 

今度はルナトリガーへとハーフチェンジし、トリガーマグナムを構え、トリガーメモリを挿入する

 

トリガー!マキシマムドライブ!

 

「これでも喰らえ!」

『翔太郎!落ち着きたまえ!』

「はぁぁぁ!」

 

ダブルの左半身は勝手にトリガーを引き、トリガーフルバーストを放つ

無数の破壊光弾が変幻自在に軌道を変え逃げ回るスパークに向かって行った

 

「……どうだ…!?」

「……」

しかし、またもや攻撃は避けられる

追尾機能を備えた誘導弾だったのにも関わらず、それをも上回るスピード……

 

『……恐るべし…』

「…ハッ!」

「『ぐわぁぁあ!』」

音速を超えるスピードで懐に入るスパークは電撃を纏わせたパンチを放つ

 

「……くそっ…痺れる…!」

『とてつもないスピードに状態異常をもたらす攻撃…かなり厄介な敵だ!』

「……一旦回復と行くか」

 

『 THERAPY!』

 

セラピー!マキシマムドライブ!

 

ダブルはセラピーメモリをマキシマムスロットに差し込みスイッチを押し込んだ

 

「……クッ…よし、痺れが取れた…!」

身体に多少の負担は掛かるものの、ダブルはそのまま態勢を整えた

 

『翔太郎…君の焦りが痛いほど伝わって来る。ただ、君のするべき事をよく考えて欲しい』

「そんな事分かってるさ!……でも、やっと分かるんだ…あの日の真実が……おやっさんの事が…!」

『……鳴海荘吉の意志は、僕らが引き継いだ。その魂を、その使命を……そして…』

「……」

『…この街の、運命を…僕らは託されたんだ』

「……フィリップ…」

『…翔太郎…今だから言うよ。あの日と同じ言葉を……』

「……」

『…悪魔と相乗りする勇気、あるかな?』

「……そんなんあたりめぇだ…」

ダブルは懐から紫色のガイアメモリを取り出した

 

「……フィリップ…お前が俺を相棒と呼ぶ限り、俺はお前と一緒にこの街の涙を拭う!」

 

《あの子を…あの子を頼んだぜ……》

 

「……それがきっと…おやっさんの意志……いや、願いなんだからな!」

 

「 NINJA!」

 

ダブルはトリガーメモリをダブルドライバーから抜き出しニンジャメモリを差し込んだ

 

ルナ!ニンジャ!

 

ダブルの左半身は紫色へと変化し、背中には忍者刀のような武器、ニンジャソードが現れる

仮面ライダーW ルナニンジャへと変化した

 

「『はぁぁ!』」

「……フッ」

ニンジャソードを構えスパークに振りかざす

しかし、当然攻撃は当たらない

スパークは高く飛び上がり地面に着地した

 

『今だ!』

「はっ!」

「……グッ…なんだと…?」

だが、ダブルはその瞬間を狙っていた

高く飛び上がったスパークを見てすぐさまニンジャソードをしまって左手に黄色の手裏剣型エネルギー光弾を出現させてスパークに投げ飛ばしていた

 

ニンジャ!マキシマムドライブ!

 

ダブルはニンジャメモリをニンジャソードの柄のところにあるスロットに差し込んだ

 

「『ふっ!』」

「……なにっ!?」

すると、ダブルは7体に分身しスパークを囲んだ

 

『分身の術…ってやつだね!』

「そういうこった!」

「『ニンジャエンシェントアート!』」

ニンジャソードに紫色のオーラを纏わせた7人のダブルはスパークに向かって一気に斬りかかった

 

「…グッ…グワァァァア!」

攻撃を避けきれなかったスパークは爆散し、メモリを排出した

 

「……こいつは…」

スパークの正体は、今朝テレビで報道されていた金メダリストだった

胸にはフクロウのペンダントが輝いていた

 

「……」

「…おつかれ、翔太郎」

「あぁ…また助けられちまったな……すまねぇ」

「いいさ、それより……」

フィリップは俺の胸に拳を置いた

 

「……君の…いや、僕たちの真実を…探しに行こう」

「……あぁ」

俺たちは風都ホテルへと急いだ

 

 

「……っ」

風都ホテルへ到着すると、ちょうど吉松シンジがホテルから出てきていた

シンジは2人に気付き、翔太郎へ喋りかけた

 

「…ミカなら千束の元へと向かった」

「……」

「……翔太郎、君は彼らの元へ」

「……あぁ…頼む」

翔太郎はシンジの真横を通り過ぎり、先程のバーへと急いだ

 

「……吉松シンジ…貴方がアラン機関の人間だったんですね…」

「……フィリップくん…と言ったかな?……君たちなら解る筈だ、千束の居場所はここではないと…」

「……彼女の…居場所…?」

「あの子の殺しの才能は確かなものだ…だが、その使い道を誤ってはいけないのだよ……彼のようにね…」

「……やはり貴方も、鳴海荘吉と…」

すると、ホテルの入口の前に一台の車が止まる

 

「失礼。迎えが来たようだ」

車の後部座席のドアを開け、乗り込もうとした時

 

「……君たちには…期待しているよ」

彼はそう言い放ち、その場を去って行った

 

「……」

残された僕は、その車を見えなくなるまで睨み続けた

 

 

 

「……っ」

バーに戻った俺はそのしんみりとした雰囲気に息を飲んだ

 

カウンター席に並んだマスターと千束

千束はペンダントを机に置き、マスターは目を押さえて顔を伏せていた

 

俺は少し遠くから、2人の会話を聞いていた

 

「……なんで黙ってたの?」

「…それが、君を助ける為の条件だった……」

「約束を守ったんだ……フフッ…その方が先生らしい……やるなぁ、千束を欺くとは〜」

「…っ…すまなかった、千束」

「良いってぇ!気にすんなよォ!」

「……すまない」

 

「……」

謝り続けるマスター

俺はそっと2人の前に姿を現し、落ち着いた声で2人に話し掛けた

 

「……マスター…」

「……翔太郎くん…」

「……教えてくれないか?…俺の知らない、おやっさんの事を…」

「……」

目を合わせ、じっと見詰め合う俺とマスター

やがて、息を着くかのようにマスターは切り出した

 

「……分かった…全てを話そう」

 

 

「はい、どうぞ〜…」

「ありがとうございます」

コーヒーを出してもらったたきなは一口だけ飲んだ

 

「……美味しいです…店長のコーヒーみたいで」

「ホント?ありがと〜!」

「……あの…今日は折り入ってお話があります」

「……なに?」

椅子に座る亜樹子の顔は、だいぶ引きつっていた

 

「……以前左さんに聞きそびれてしまった事があって……10年前の風都タワー事件について知りたくて」

「…あ〜…でもその前に、私のお父さんについて話すべきだね」

「……鳴海さんの…お父様…?」

「……鳴海荘吉…鳴海探偵事務所の初代所長で、私のお父さんで、翔太郎くんの師匠だったの」

「……だった…?」

「……私のお父さん、死んじゃったんだ。4年前に」

「……え?」

「…ある大きな組織の陰謀を食い止める為にね……」

窓を開けて夜風に当たり始めた亜樹子

髪が風に煽られる

 

「……あの…一体何があったんですか…?どうして貴方のお父様が…?一体誰がそんな事を…?」

「……し、質問が多いなぁ〜……まぁでも、最後の質問には答えられるよ」

「…えっ?」

「……私のお父さんはね…」

すると、一層風が強くなり、たきなの髪まで風に煽られた

 

「……リコリスに…殺されたの」

「……え…?」

 

この時、2人の時間が一瞬だけ止まった気がした




次回

第25話「Sとの関係β/鳴海荘吉について」

これで決まりだ!


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第25話「Sとの関係β/鳴海荘吉について」

「……私が荘吉と出会ったのは…およそ10年前の事だ」

マスターは語った
おやっさんとの出会いについて、おやっさんとの関係について
そして、おやっさんとの…別れについて……



「……なぁっ…また失敗か…」

私は自分で淹れたコーヒーが入ったカップを皿の上に置いた

カフェを運営する上で1番大事なのはコーヒーが美味く出来る事

だが私の淹れるコーヒーは何かと上手くいかず、失敗する事が多い

その為カフェを運営しながらも、日々コーヒーの研究を行っていた

 

すると、入口のベルの音が鳴る

来客の合図だ

 

「いらっしゃい」

「……」

客は白い帽子に白いスーツを着こなすダンディな男だった

口髭はそこそこ濃く、目元は帽子の鍔で隠れていた

 

「…コーヒーを頼む」

「…すまない…コーヒーは置いてないんだ。和スイーツならあるが……」

「……コーヒーの出ないカフェか…なかなか挑戦的だな」

「なにぶん、私のコーヒーは美味しくないみたいでな…客が納得出来る味になるまで出さない予定なんだ」

「…コーヒーにこだわりを持つ奴は嫌いじゃない…あんた名前は?」

「ミカ…この店のオーナーだ。あんたは?」

「…鳴海荘吉……この街の探偵だ」

 

これは、千束がリコリコに来る前の話だ

 

 

 

第25話「Sとの関係β/鳴海荘吉について」

 

 

 

「その日から、荘吉は私の店によく来るようになった…彼と話すうちに、彼がこの街を愛している事がよーく分かった……妻子は大阪におり、自身はこの街の涙を拭う為に日々勤めていると話してくれた。そんなある日だ…」

「……」

「……風都タワーが…テロリスト集団によって半壊させられた」

 

 

 

「…何っ!?風都タワーが…!?」

『念の為千束を向かわせました。ミカ、貴方にも援護を頼みます』

「わかった!」

私はスナイパーライフルを担いで急いで風都タワーに向かった

風都タワーの根元は煙に包まれ、状況が読めなかった

 

「……っ!」

その時、風都タワーが爆発を起こし、タワーのプロペラ部分が根元から切り離されたように落下した

地面に落下したプロペラは爆発を起こし、大きな煙も立っていた

 

「……千束ぉぉぉ!」

私は思わず叫び、その場に崩れ落ちた

 

あの爆発で、生きているわけが無い

いくら()()()を持った千束でも……

 

「……っ」

すると、風都タワーの方から足音と共に何者かが歩いて来ていたことに気が付いた

そして、誰かを抱えていた

 

「……っ!」

そいつは人型だが、白い帽子を被った頭が頭蓋骨のように大きな目をした…怪人だった…

 

私はそいつの事を知っていた

巷で噂になっていた骸骨男だ

 

だが、私がそれよりも驚いたのは

骸骨男がボロボロになった千束を抱えて来ていた事だった

私のそばまで来た骸骨男

無言で千束を私に託した

千束はボロボロではあるが、大きな傷は無く

ただ気絶しているだけなようだ

 

「…千束ぉ!」

千束を引き取った私は、もう一度骸骨男に目をやった

 

「…お、お前は……」

「……俺の名は「スカル」…その子を頼んだぜ」

「…ま、待てっ…!」

 

「スカル」と名乗った怪人はすぐに風都タワーに戻って行った

程なくして事件は収束し、千束も大事には至らなかった

 

千束は彼の事を覚えてはいなかった

 

 

「……」

 

スカル……

そう名乗った奴はその後消息を絶った

 

風都タワー事件から数年経った今では、もう誰もその名を出さなくなった

DAの情報統制により、骸骨男の存在は世間から消されていた

 

だが、私は決して忘れる事はないだろう

奴の存在を……

 

「……っ」

私がいつものバーで考え事をしていると、入口の方で2つの声がした

 

「なぁ!いい加減俺を弟子にしてくれよおやっさん!」

「断る。お前にはまだまだ我慢が足りん、弟子にするには10年早い」

「まだそんな事言ってんのかよォ!俺もう高校に上がったぜ!?それに少しは機転が利くようにもなったしぃ!」

「いつも言ってるよな翔太郎。探偵は機転が利くだけじゃねぇ…何かしらの信念を持ってやらねぇと続かねぇ仕事だって」

「……むむむ…」

今日ここで会う約束をしていた荘吉と、1人の青年が来店して来た

荘吉はいつもの白いスーツを身にまとい、青年は高校の制服の中にパーカーを入れていた

 

「…ところで、いつまで着いてくるつもりだ?ここは会員制のバーだ、お前が来るような場所じゃねぇ」

「あぁ〜!話逸らしやがったなぁ〜!?待ってよおやっさん!!」

「お客様!未成年の立ち入りは禁止させていただいております!」

「ちょっとだけ!ちょっとだけでいいからァァ!」

店員に連れていかれる青年

荘吉は私の横に座りため息をついた

 

「…ったく…あのバカは…」

「彼は…?」

「ただのストーカーだ…どうやら俺の弟子になりたいらしい。半熟のくせに…」

「……良いじゃないか、弟子にしてやっても。私はいいと思うぞ?」

「…フッ…アイツはまだまだ子供だ……大人の世界を理解していない。アイツには、俺と同じ道を歩んで欲しくないんだ」

「……荘吉と…同じ道…?」

「……こちらの話だ」

「…荘吉…どうして千束と会ってやらない?」

「……またその話か」

「千束はずっと君を探して……」

「それは俺じゃねぇ……シンジだろ」

「だが…!」

「ミカ……俺はガイアメモリと深い関わりがある…だからこそ、あの日千束をお前達に託した。あの日の約束を守る為に」

荘吉が運営している鳴海探偵事務所には、何かとガイアメモリ関連の事件の依頼をされる事があるという

直接的な依頼でないにせよ、結果的にガイアメモリに辿り着くことも多々あるとか…

 

「千束は…そんな事望んでいない!」

「……俺があの子と一緒に居れば、あの子を不幸にする。それだけはしたくない…」

「…まさか荘吉…弟子を受け入れない理由って……」

「……」

 

私はあの時気付くべきだったのだ

荘吉が抱えている過去と、苦悩と、罪を……

 

 

「……鳴海さんのお父様と店長ってお知り合いだったんですか!?」

「うん…まぁ、それも私がこの街に来る前の話だから、確かかどうかは分からないけど……」

鳴海探偵事務所にて、自身の父親である鳴海荘吉についてたきなに語る亜樹子

 

「…あの、さっき言っていた…お父様がリコリスに殺されたって……?」

「あぁ〜…それも断片的な話を繋げて私たちが推測した内容なんだけどね……」

「……」

「リコリスが今仮面ライダーを狙ってるのは知ってるでしょ?」

「…はい」

「実はそれのきっかけになったのが、10年前の風都タワー事件なんだよ」

「そうなんですか……でも、どうして仮面ライダーが狙われる羽目に?」

「…あの日、風都タワーを破壊したのは…仮面ライダーだったんだよ。DAは同じ仮面ライダーの名を持つ翔太郎くん達を目の敵にしてるって訳」

「仮面ライダーが…風都タワーを…?……一体何故!?」

「……10年前の事件をきっかけに、仮面ライダーを狙ってたDAだったけど……お父さんの存在が、DAにバレちゃった事件があってね…」

「……」

「……それが、『ビギンズナイト』…翔太郎くん達がそう呼ぶ、ある夜の話なんだ」

 

 

「…その日、私は依頼を受けた。ある女から…その女はシュラウドと名乗った」

「……シュラウド…」

「…依頼内容は、「運命の子を、荘吉と共に救い出して欲しい」というものだった」

「……あの夜の事か…」

 

 

 

「本当に来て良かったのか?ミカ。言っておくが、あそこは地獄だぞ」

「上等だ。私がこれまで幾多の試練を乗り越えて来たのは知ってるだろう…今更後戻りも出来ない。それに…」

ある組織のアジトに潜入する為、組織の搬送船に忍び込んだ私と荘吉

その中で、私たちは静かに話した

 

「……」

「…親友とこうやって肩を並べて戦えるのが、私はこの上なく嬉しい」

私はそう言ってスナイパーライフルの整備をしていた

 

「……フッ…そうか」

軽く笑った荘吉は、次の瞬間目の色を変えた

 

「……ミカ、少しここで待っててくれ」

「…あぁ……」

荘吉が私の元から離れる

気になって様子を見に行くと、荘吉の横には以前バーに現れた青年が荘吉と話していた

青年はジュラルミンケースを片手に持っていた

あれは一体…?

 

「……ミカ、しばらく別行動だ。どうやら俺のバカ弟子がここに来ちまったらしい」

戻って来るなりそう呟く荘吉

それよりさっき……

 

「……弟子…そうか、守ってやってくれ…その弟子くんを。私は荘吉の援護に徹する」

「……助かる」

荘吉は私の元を離れ、私も私で行動に出た

 

「……っ」

すると、私の携帯に着信が来た

 

『…あ、先生ー大丈夫〜?アシストしに行かなくて〜』

「…千束か…安心しろ、私ひとりでなんとかやってみるさ。それより、店を頼んだよ」

『は〜い!あ、早く帰ってきてね〜!私が発案したパッフェ〜があるから食べて欲しくて〜』

「はいはい、分かったから……必ず帰る」

『うん!お店で待ってるね〜!』ピッ

通話を終え、携帯を閉じる

 

「……あぁ…必ず帰るさ。なぁ…荘吉」

 

だがこれが…

荘吉との…最初で最後の事件になるという事を、その時の私は知る由もなかった

 

「……っ!?」

次の瞬間、館内に警報が流れた

私たちの存在がバレた…!?

 

「……荘吉…!」

私は急いで荘吉の元を目指し、ある拓けた場所に出た

 

「……あれは…!」

 

《 TABOO!》

 

「出て来なさい、こそ泥」

「……っ!」

私の視界に映りこんだのは一体のドーパントだった

やはり、ここはドーパントの巣窟のようだ

 

「それとも産業スパイかしら?いずれにせよ、うっかり地獄に舞い込んだ、愚かな小動物というところね」

宙に浮遊するドーパント

その足元には組織の構成員であろう男達

私は隠れてスナイパーライフルの準備を始めた

 

だが、次に聞こえたのは構成員達の悲鳴だった

 

「……なんだ…?」

「……」

「…っ!?」

そこには荘吉が立っていた

組織の構成員達をなぎ倒し、ドーパントを睨み付けていた

 

《 MASQUERADE!》

 

次々にドーパントに変貌する構成員

いくらドーパント事件を解決して来たからと言って、ドーパント相手にどう太刀打ちするつもりだ!?

 

「……こそ泥にしてはやるわね。好みのタイプの男よ…でも残念ね…」

ドーパントは空中にエネルギー弾を出現させた

 

「…っ」

まずい……!

そう思いスナイパーライフルを構える

すると、荘吉の声が聞こえた

 

「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだぜ……レディ…」

「……っ」

「ガイアメモリを仕事に使わないのが俺のポリシーだったんだが、やむを得ん……」

「ロストドライバー…!?」

すると、荘吉は腰にロストドライバーと呼ばれた物を装着した

 

「なぜ、お前が!?」

「……っ!」

そして、荘吉は懐から1本のガイアメモリを取り出した

色は黒く、イニシャルはS

荘吉は同時に帽子も外し、ガイアメモリをドーパントに見せつけるように起動させた

 

「 SKULL!」

 

荘吉はそのメモリをドライバーに差し込んだ

 

「変身」

 

スカル!

 

ドライバーを展開した荘吉の身体は黒色に変化し、頭は頭蓋骨のように大きな目と脳天に刻まれたS字の模様

改めて帽子を被ったその姿は、数年前の風都タワー事件の現場に現れた、「スカル」と名乗った怪人だった

 

「……まさか……荘吉が…!」

この時の私の頭は、混乱していた

風都タワー事件の日、風都タワーが半壊させられた

その犯人は、メモリを使ったドーパントとは別の存在だった

それこそが……

 

「仮面ライダースカル……さぁ、お前の罪を…数えろ」

 

「……まさか…荘吉が……風都タワーを…?」

仮面ライダーという名の怪物だったのだ




次回

第26話「Sとの関係β/怪物の夜」

これで決まりだ!


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第26話「Sとの関係β/怪物の夜」

「……やっぱり、あの時マスターもおやっさんの正体に気付いたんだな」

「…君もあの時気付いたのかい?」

「あぁ…まさか風都で噂になってた骸骨男がおやっさんだったなんて…ってな……でも、そんな暇もねぇくれぇ…あの夜は……」

「…ね、ねぇねぇ!じゃあ10年前の風都タワーを壊したのって、翔太郎さんの師匠さんだったの!?」

「……まぁ、それは追々説明するさ…翔太郎くんが知りたいのは、その後の話だろう?」

「…あぁ…おやっさんの正体に気付いて、あんたはその後どうしたんだ?」

「……」

 

 

スカル!マキシマムドライブ!

 

スカルマグナムにスカルメモリを装填するスカル

 

「……っ」

スカルマグナムをマキシマムモードに変形し、銃口から強力な破壊光弾をタブー・ドーパントに向けて撃つ。スカルパニッシャーを放つ

 

「……っ!」

タブーも破壊光弾を圧縮しスカルに向けて放つ

 

互いの攻撃が直撃し、タブーは下階に落ちた

 

「……クッ」

戦いを一段落終えたスカルはドライバーからメモリを抜き出し、変身を解除した

 

「……やはり慣れないな……「変身」は…」

壁にもたれながら翔太郎の元を目指す荘吉

するとそこに、1人の人影が行く手を阻んだ

 

「……」

「……ミカ…」

 

 

 

第26話「Sとの関係β/怪物の夜」

 

 

 

「ねぇねぇ!2人とも聞いてるの!?」

「あ、あぁ…すまねぇ千束、お前の質問にも答えてやらねぇとな…」

「もぉ〜そうだよ〜…で、翔太郎さんはそのスカルって奴の事知ってたの?」

「あぁ、スカルの正体を知ったのはあの夜が初めてだが、俺は何度かスカルに助けられた事があってな」

「……へ〜…」

「……その話、詳しく聞かせてくれないか?翔太郎くん」

「…あぁ……あれは、俺がまだ中学に上がる前…10年よりも前の話だ……」

 

 

 

「……へへっ…今日もおやっさんいるかな〜?」

まだガキだった俺は、よく学校帰りに鳴海探偵事務所を訪れていた

かもめビリアード場の2階に上がり、大きな扉を開く

 

「……ちぇっ…居ねーのか…」

もの家の空だった事務所、俺はいつもどうりソファに座り、大人の空気を思い切り吸い込んだ

 

「……あ」

すると、扉の向こうから足音が聞こえて来た

もしかしておやっさんか!?

と思い、意気揚々と扉を開けて迎える事にした

 

「おかえり!おやっさ──っ!?」

「……ん?」

扉を開けると、赤毛の短髪の女が立っていた

死んだ目をこちらに向け、謎のプレッシャーを掛けて来た

 

「…ゲッ!」

「…年上に対して「げっ」…とはなんだ小僧」

「…だ、誰!?」

「名乗る必要があるのか?そこをどけ」

「い…いやだ!不審者をこの場所に入れる訳にはいかねぇ!」

「…つくづく生意気な糞ガキだな…もう一度子宮からやり直したらどうだ?」

「それも嫌だね!そんな事したら今までの風都での思い出が無くなっちゃうじゃないか!」

「……っ」

そんなやり取りをしていると、後ろから声が聞こえた

 

「…翔太郎…そんなとこで何やってるんだ」

「お、おやっさん!……そこに居たのか…!」

おやっさんはいつも幽霊が出ると言って触れさせなかった扉から出て来た

 

「……楠木か、何の用だ」

「荘吉、新たに依頼したい事がある。聞いてくれるか?」

「……あぁ…翔太郎、お前はもう帰れ」

「え!?で、でも…!」

「小僧聞こえなかったのか?ここからは大人の時間だ」

「……クッ…!」

俺は勢いに任せて事務所を出て行った

もうすぐ日が暮れる時間だった

 

「……翔太郎…」

そんな彼の背中を見て、荘吉はそう呟いた

 

 

「……」

 

《ここからは大人の時間だ》

 

「……はぁ〜…俺も大人になりてぇな〜!」

楠木に言われた言葉を反芻する翔太郎

 

公園のベンチに寄れかかり、暮れてきた空を見上げる

 

「……今日は…風が吹かねぇなぁ〜…」

 

その瞬間だった

 

「…うわぁ!」

空から何者かが落ちてきた、と言うよりかは物凄い勢いで降ってきた

周囲には砂煙が舞い、翔太郎は目を凝らしてその正体を掴んだ

 

「……フッフッフッ…手頃な食事がこんなところにあったとはなぁ…」

「…っ!?」

その正体は、大きな目をし手には大きな鎌を持つカマキリのような怪物が翔太郎を見ながら嘲笑っていた

背中には羽もあり、少しだけばたつかせ砂を払っていた

 

「…だ、誰だお前!?」

「…俺か?俺はそのうちこの街のキングとして君臨し、人間に崇められながら生きる、そんな存在だ」

「……なんだって…!?」

「俺の名はマンティス!俺の鎌によって葬られた命は多数だが、その全てが尊い犠牲…いや、生贄として扱われるようになるだろう!」

「……」

マンティスと名乗った怪人は徐々に翔太郎に近付いて行った

 

「おいガキ、貴様は今日の俺のディナーだ…せめて最期の言葉くらいは親に伝えておいてやる。まぁ、その後にその親も俺への生贄になるがな…」

「……残念だけど、俺に親はいない。だけどな…」

「……んぁ?」

「…今は、この街のみんなが俺の親だ!」

「……は?何言ってんだ貴様」

「いいかカマキリ男!お前みたいな奴がいる限り、俺は決して屈しない!…心を捨て、街を泣かせるような悪党は…俺たちが許さない!」

「……舐めた口をきくなぁ!」

翔太郎の言葉に反応したマンティスは鎌にエネルギーわ溜めて鎌形のエネルギー弾を翔太郎に向けて放った

 

「わぁっ!……グッ…」

ギリギリ避けたが、エネルギー弾のひとつは翔太郎の足を掠っていた

足から血を流す翔太郎

それを見てマンティスはまた不適に笑った

 

「…ガキは所詮ガキだ……貴様に出来る事など何も無い。お前は静かに、安らかに俺の胃袋に収められればそれでいいんだ」

「……クッ…確かに俺に出来る事は少ないかもしれない……実際この街の人達に助けられてばっかだ…だけどな!」

「……」

「…いつか必ず、その恩を返す為に…今からでも立派な男になれるように…立派な大人になれるように……」

翔太郎は荘吉の顔を思い浮かべた

 

「…おやっさんを、ギャフンと言わせるような…そんな大人に…!」

翔太郎は近くに落ちていた大きめの石をマンティスに投げ付けた

 

「…なってみせる!」

「……っ」

その石を簡単に否すマンティス

しかし、その表情は怒りに包まれていた

 

「…何度言ったらわかる…貴様は今から!俺のディナーになるんだよォ!」

今度は特大のエネルギー弾を出現させ、翔太郎に向かって放つ

先程とは違い軌道は確実に翔太郎を捉えていた

 

「……っ!」

「……フッ」

翔太郎の周りで爆発が起こる

勝利を確信したマンティスだが、次の瞬間意表を突かれる

 

「……翔太郎、自分の命を自分で守れない奴が…立派な大人になれると思うなよ?」

「…だ、誰だ!?」

別の男の声が聞こえ、更にはクワガタのようなメカがマンティスを襲った

 

「…グッ……誰だ貴様!?」

「……鳴海荘吉……この街の探偵だ」

「おやっさん!」

荘吉が来た事で喜びを隠しきれなくなる翔太郎

 

「…楠木、翔太郎を連れて逃げろ」

「……だが、荘吉は…」

「いいから行け、俺なら大丈夫だ」

「……そうだな…分かった」

翔太郎の手を掴む楠木

 

「行くぞ、小僧」

「待って!俺今足ケガしてる!」

「知るか、行くぞ」

「ちょっ…いてててて!」

強引に翔太郎を連れていく楠木

荘吉は2人の姿が見えなくなった事を確認してロストドライバーを装着し、スカルメモリを取り出して起動させた

 

「 SKULL!」

 

「…変身」

 

スカル!

 

スカルへと変身した荘吉は、マンティスに指を指した

 

「貴様のような怪物を放っておく訳には行かない…この街の迷惑だ」

「…き、貴様も怪物じゃねぇか!」

「…フッ…そうだな……だが…」

「……」

「俺は俺の愛する者を、愛するこの街を…そして、この街を愛する者を守る。それが俺だ…」

「……何っ!?」

「俺は常に、俺の罪を数えながら戦い続ける…例え俺の中の何かが変わろうと……この街の為なら…!」

すると、さっきまで吹かなかった風が急に吹き始め、スカルのスカーフが風に揺れる

 

「……さぁ、お前の罪を…数えろ」

「…な、何が罪だ!俺はこの街のキングになるんだよォ!」

エネルギー弾を放つマンティス

スカルはそれを避け、マンティスにパンチを繰り出した

 

「…トォ!」

「ぐわぁぁ!」

強烈な一撃を喰らったマンティス

スカルはすかさずパンチなキックを叩き込む

 

「ぐあぁぁ!」

「……」

「…クッ…舐めるんじゃねぇぞォ!」

マンティスは羽根をばたつかせ、空からエネルギー弾をスカルに向かって放った

 

「…っ……っ…!」

それを走りながら避けるスカル

一瞬の隙を突いて、スカルマグナムでマンティスの羽根を狙撃した

 

「ぐわぁ!」

「……」

地面に落下したマンティスは、這いつくばりながらもスカルに訴えた

 

「…何故だ!何故あんなガキを守る!?」

「……」

「あんな奴はなぁ…死んでもこの街にはなんの影響も与えない!俺はそういう奴しか喰って来なかった!俺がいくら人を喰おうと、この街は何一つ変わらなかった…それがこの街の現状だ!死んでも影響のない命を喰って何が悪い!?貴様もドーパントなら、俺の気持ちが分かる筈だ!」

「……確かにあいつは、まだまだ半人前だ。俺に及ぶには10年早い……だが、俺は知っている。あいつには、あいつにしか持っていないものを持ってる…あいつが持っているからこそ、輝けるものがある。俺は、それを守りたいだけだ…!」

「……あんな奴は…俺に喰われればいいんだよォ!」

 

エネルギー弾を無造作にばら撒き暴走するマンティス

どうやらメモリの力を制御しきれていないようだ

 

「……ここまでか」

スカルはスカルメモリをドライバーから抜き出し、マキシマムスロットに装填した

 

「…悪いが、()()()()のは貴様だ」

 

スカル!マキシマムドライブ!

 

スカルの胸部から骸骨型のエネルギーの塊が飛び出す

それが空へと飛び上がり、スカルもそれを追うように飛び上がる

 

「……トォ!」

エネルギーの塊をマンティスに向かって蹴り飛ばすスカル

骸骨型のエネルギーの塊は口を大きく開けてマンティスを喰らうように噛み付き、爆発した

 

「ぐわぁぁぁあ!」

爆発の中から破損したメモリと男が飛び出して来る

 

「……」

スカルは自分の掌を見つめ、その拳を握った

 

 

「…俺が知ってんのはここまでだ」

「…そうか…やはり彼は何年も前から……」

「でも…翔太郎さんの師匠さん、嬉しかったと思うな」

「…え?なんで?」

「だって!自分は怪物って自覚を持っていたのにも関わらず、翔太郎さんはずっとそばに居たんでしょ?私だったら嬉しいと思うけどなぁ〜」

「……」

千束の言葉に、ミカはまた数年前の事を思い出す

 

「…マスター…さっきの話の続き、聞かせてくれ」

「……あぁ」

 

マスターはその後も語った

おやっさんの正体を知ったその後の話を……

 

今日の夜は、特別長く感じた




次回

第27話「Sとの関係β/全ての始まり」

これで決まりだ!


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第27話「Sとの関係β/全ての始まり」

今回で前半戦終了です
ここからはオリジナル展開も増えると思いますが、基本的にはリコリス・リコイル(第1期)のオマージュになっています。今後の展開もお楽しみにしててください

という事で、今回もよろしくお願いします!



「……ミカ…」

「…荘吉」

荘吉の前に現れたミカ

その目は、確実に荘吉を捉えていた

 

「……荘吉…お前が、「スカル」だったのか」

「…黙ってて悪かった…だが、俺は後悔していない。この力を恨む事もあったが、感謝している」

「…感謝…だと…?」

「……っ」

ミカは荘吉の胸ぐらを掴み、壁に押し倒した

 

「ガイアメモリの力が…今まで何人の人達を傷付けたと思っている!?今まで何人の人達が命を落として来たと思っている!?一体何人の…リコリス達が…!」

「……ミカ…確かにこの力は最低最悪かもしれねぇ……だが、この力を使わなければもっと沢山の命が亡くなっていたかもしれない…俺は、それだけは御免だ…」

「それでも!お前が怪物になってからでは遅い!」

「……っ」

ミカは両手で荘吉の服を掴み、額を押し当てて声を震わせた

 

「……だが…お前も今まで、独りで戦ってきたんだなぁ……風都タワー事件のあの日も…独りで…」

「……あの日は千束の活躍もある。俺はテロリスト共にトドメを刺しただけだ」

「…それでも……ありがとう」

ミカは涙を流し、荘吉に感謝を伝え続けた

 

「…千束を…この街を救ってくれて……」

「……」

すると、ミカは顔を上げ荘吉に訴えた

 

「荘吉!メモリを捨てろ!そうすればお前がDAに狙われる事は無い!もう1人で苦しむ事も無い!今のお前には私や仲間がいる!お前はもう独りではない!」

「……」

ミカは伝えたかった

メモリを使えば、DAに狙われる

スカルの正体である事が知れれば、命を狙われる可能性だってある

それだけは嫌だった

 

これは、数少ない親友を守りたいという本人の願いと

あの日以来姿を消した吉松シンジの為でもあった

 

メモリを捨てて普通の生活に戻れば、何不自由の無い生活が待っている

もうガイアメモリに悩まされる必要も無い

 

そう、これは全て荘吉の為であり

この街の平和の為でも……

 

「…断る」

「……え…今、なんと?」

即答で否定した荘吉

ミカの手を振りほどき、彼の肩に手を置いた

 

「…ミカ…俺はメモリを捨てるつもりは無い。確かにメモリを捨てれば、俺が狙われる事は無くなる。しかし、この街の未来はどうなる?」

「……っ」

「これからもガイアメモリ犯罪の事件は消える事はない…むしろ事件は加速していくだろう。その力に対抗できるのは、同じガイアメモリを使う者だけだ」

「……」

「……俺は覚悟を決めたぜ…ミカ」

荘吉はミカから離れ、翔太郎の元へ向かおうとした

 

「…俺はこの街を泣かす悪党を許さない。そして、この街を愛する者を守る…!」

「……っ!」

「…この街の涙を拭えるのなら、俺は怪物にでもなんにでもなってやる」

そう言い放った荘吉

ミカには彼の背中が遠く、そして大きく感じた

 

「……覚悟…」

「……」

「……私の…覚悟…!」

ミカは壁に寄りかかりながら歩む荘吉を捕らえ、懐からガイアメモリを抜き出した

 

「…っ…どういうつもりだ、ミカ…!?」

「……ハァ…ハァ」

スカルメモリを盗み取ったミカ

息を荒くしながら荘吉に訴えた

 

「これが私の覚悟だ…!荘吉!」

「……」

「…私はこの街が汚れていくのが許せない…だが、それよりも許せないのが…」

「……」

「…私の友が…ガイアメモリに犯される事だ!」

「……ミカ…」

拳銃を取り出したミカは荘吉に銃口を向ける

 

「…私は知っている。お前がこの街を愛している事を…千束をいつまでも想っていてくれる事を……そして誰よりも、この街の涙を拭おうとしていた事を……」

「……」

「……お前が怪物になる事を望むなら…私は、お前が怪物になる事を拒む!」

「……っ」

「…だから荘吉、もうメモリの力を使うのを辞めてくれ。そうすれば、DAが必ずお前を守る。もちろん、あの弟子くんもだ」

「……」

「……」

暫くの間、時間が空いた

すると、今度は荘吉が口を開いた

 

「…それがお前の覚悟…か」

「……そうだ…!」

「…ならば、ここで決別だな」

「…っ!?」

ミカに背を向ける荘吉

去り際にこう放った

 

「……お前は、自分の罪を数えた事があるか?」

「……え?」

「……ミカ…俺の弟子が、必ずお前を救いに行く」

「…何を言って…!?」

彼の質問に答えられないまま、ミカは彼との最期の会話をした

 

「…ミカ…さぁ、お前の罪を……数えろ」

 

 

「荘吉はその後私の前から姿を消して、私は必死に彼を追い掛けた。だが、次に彼を姿を見たのは……」

 

《おやっさぁぁぁん!!》

 

「……背中から血を流し、君の前で倒れていた姿だった」

「……」

「…そんなっ……」

ミカの話を一通り聞いた俺は出された酒を一口だけ飲んだ

 

「……そうか…そんな事があったんだな……ありがとな、話してくれて」

「…いいや…私が荘吉を裏切ったという事実には変わりない。彼からスカルメモリを奪い、彼から戦う為の力を奪った私が、間接的に彼を殺してしまったんだ」

「……いいや、おやっさんを殺したのは俺さ。俺があの時おやっさんとの約束を守れていたら、おやっさんは死ぬ事はなかったんだ…」

「……君も、独りで抱え込んでいたのか?」

「……そうだなぁ…でも、独りじゃない」

「……」

「…今の俺には、相棒や…沢山の仲間たちがいる。だから、俺は独りじゃない」

「……っ」

 

ミカが驚いたのは、今の翔太郎の姿が

10年前の彼の姿にそっくりだった為である

 

今の顔、帽子の仕草……

そうか…彼の意志はちゃんと……

 

「それはそうと、あの爆発からどうやって脱出出来たんだ?俺たちはおやっさんの助っ人が助けてくれたから無事に脱出出来たんだが……」

「…あぁ…あの爆発の中、一体の恐竜の機械ようなガイアメモリが私を助けてくれてな。きっとメモリ同士が惹かれあって私を見つけてくれたのだろう」

「……」

 

そうか…ファングメモリがマスターを……

 

「その後、DAの助っ人船が迎えに来てくれてな。私はあの島から脱出出来た」

「なるほどな……」

「……これ」

ミカは懐からスカルメモリを取り出した

あの日から肌身離さず持っている

 

これを持っていると、不思議と彼を忘れる事を忘れていた

彼の言葉が頭をよぎり続け、まるで呪いのように私を奮い立たせていた

だが、同時に彼の意志を…魂を常に感じ

彼の分まで頑張ろうと、不思議と安心感も与えてくれる

そんな御守りのような存在でもあった

 

「これを君に」

「…え?」

「私はもう、彼に囚われずに生きて行きたい。彼を忘れて生きる事。それが私が荘吉に出来る最後の務めだと思うんだ」

「……マスター…」

スカルメモリを渡そうとするミカだったが、翔太郎はその手を拒んだ

 

「…いいや、こいつはマスターが持っててくれ」

「……え?」

「確かに、あんたはこれからもおやっさんに縛られながら生きる事になるかもしれない。だが、俺は1人でもいい…おやっさんを覚えてくれる人がいるのが嬉しいんだ。ましてや、あの日のおやっさんを知ってるのなら…おやっさんの事を忘れないで欲しい」

「……翔太郎くん…」

スカルメモリをミカに握らせる翔太郎

そして優しく微笑みかけた

 

「…マスター…ありがとな、おやっさんを忘れないでいてくれて」

「……クッ……荘吉っ……私は…っ…!」

スカルメモリを強く握り締めるミカ

その目には涙を浮かべ、メモリに涙が垂れる始末である

 

「……先生…」

「……千束、君がおやっさんを忘れてしまったのは痛ぇが、今の話を忘れないで欲しい。君を救った戦士は、いつまでもこの街の平和を願っていたって事をな」

「……うん、私忘れない…」

 

 

 

その後、店を出た俺は外で待っていたフィリップに声を掛けた

 

「……良かったのか?マスターの話聞かないで」

「あぁ、問題ない。君が覚えてくれているのなら、それでいいのさ」

「…ったく…相変わらず変わった奴だな、お前は」

「君に言われたくないね〜、最初に会った時の君は本当にろくでもなくて…」

「あーあー!それ以上は俺の癇に障るぞ!?あん時の俺はなぁ!」

「……フフッ…でも、今となってはそれもいい思い出(きおく)となった」

「……そうだな…」

 

ハードボイルダーに跨る俺たち

俺は酒を飲んでいた為俺が後ろに乗り、フィリップがハンドルを握った

 

「……おやっさんの意志は、俺たちに託された」

「……」

「……俺たちで、必ずこの街を守るぞ…フィリップ」

「…あぁ…勿論さ、翔太郎」

 

バイクを走らせ、夜の街を進んで行く

今日の夜の月は、いつもより輝いて見えた

 

 

 

第27話「Sとの関係β/全ての始まり」

 

 

 

「……」

「…スカルメモリを探す件に関してですが……」

「それはもう良い、忘れてくれ」

窓を締め切った車

吉松シンジは素朴な街を眺めながら呆れたように言い放った

 

「……何故です?」

「……」

 

彼は才能の塊だった

 

《シンジ、紹介するよ。鳴海荘吉だ》

《はじめまして、吉松シンジです》

《鳴海荘吉…探偵だ》

 

私は彼の才能を愛していた

 

《素晴らしい…これが君の力か!》

《……シンジ…》

 

だが、彼は道を踏み外した

 

《その力は、何の為にあるのだ!?》

《……》

 

だから私はあの日……

 

《…鳴海荘吉を殺せ》

《……了解しました》

 

《おやっさぁぁぁん!!》

 

「……彼の事は、もう忘れてしまったのでね…だが、あの力は惜しい……アラン機関の支援に使えそうだ」

「……」

「……使命を全う出来ないものに、価値など無い」

「……ハッカーからの情報ですが、彼がまた動きを見せたようです」

「…そうか……彼の今後に期待だな…フフッ…」

 

 

「……俺たちには使命がある…」

ビルの上、真島は夜風に当たりながらフクロウのペンダントを見詰めた

 

「…ヘッ…奴の使命はなんだろうな…」

『…風都署さ…あそこまで派手にしなくても…やっぱり隠蔽されてたし……あ、よし!接続出来たぞ!』

「オーケー、良くやったハッカー…」

ロボ太との通話を終え、真島は大きくそびえ立つ風都タワーを見詰めた

 

「……次は…もっとド派手に行くぜ〜…」

真島は懐から1本のガイアメモリを取り出した

マシンガンメモリではない、別のメモリ

更にはそのメモリは、次世代型メモリだった

 

「…なぁ〜……大道…」

カラーはホワイト、イニシャルは「E」

 

「……10年振りに…暴れようぜ」

エターナルメモリは、月夜に照らされ輝いていた




次回

番外編「千束のB/怪しげな二人」

これで決まりだ!


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番外編「千束のB/怪しげな二人」

「……よ、たきな」

「左さん…本日もよろしくお願いします」

「おう、よろしくな」

「待ちましたか?」

「…いや、俺も今来たところだ」

「……ベタですね」

「…フッ…だな」

 

とある休日

私服で隣並んで歩くたきなと翔太郎

 

人混みのない公園の近くで待ち合わせ、翔太郎はたきなをエスコートしながら歩いていた

 

「……むむむ…?」

「……ほぅ」

それを双眼鏡で影から覗く千束とフィリップ

千束は漫画に出てきそうな探偵のコスプレをし、フィリップは口髭を生やして変装していた

 

「…ワトソン君!これは大事件だ!」

「……だね…まさかあの二人が…」

「……デートをするなんてぇ…!」

 

二人のデートを目の当たりにした千束とフィリップはとても動揺していた

 

 

 

番外編「千束のB/怪しげな二人」

 

 

 

事の発端は、数日前に遡る

 

「……ん〜…」

「…どったの?」

「…ミズキ、クルミ…最近たきなの様子がおかしいとは思わんかね?」

最近のたきなの行動を踏まえ、ミズキとクルミに意見を求める千束

 

「何の話だ?」

「そうよ、あの子ならいつもと変わらないじゃない」

「そぉじゃなくて!なんか最近出掛けること多くない!?しかも私と行くんじゃなくて!」

「あの子が何処に行こうがあの子の勝手でしょ?変な詮索しないで、仕事に集中しろ集中ぅ!」

「ん〜…クルミはどう思う!?」

「……んー…まぁ、彼氏でも出来たんじゃないか?」

「…っ……カ…カレシ…?」

クルミの口から放たれた言葉の弾丸が千束の心臓を撃ち抜いた

 

「……か、彼氏…?たきなに限って…?」

「そんな驚く事でもないだろ。今はDAに居ないしお店にいれば必然的に出会いもある。彼氏が出来てもおかしくは無い」

「ミズキでも彼氏出来ないのに!?」

「コラァァァー!!」

 

彼氏……

千束の頭の中には想定出来ていなかった項目だが、あながち間違ってはいないのかもしれない

 

この間だって……

 

《…たきなぁ〜今度の休みにまた水族館行こうよ〜!》

《…あ、ごめんなさい千束。今度の休みは予定が入ってて…また機会があったら是非……》

 

「私との予定を蹴ってまで行きたい相手って事…?」

「ま、そういう事だろ」

「……」

「…だから余計な事はしないで、静かに見守ってやるのが……」

「…いや、何言ってるのさ……」

「…えっ?」

「その男がろくでもない男だったらどうすんのさ!?たきなが悪い男に騙されてるのかもよ!?」

「……あ、あぁ…」

千束の圧に少々引くクルミ

ミズキはそれを見て呆れていた

 

「…よし!こうなったらあの方法だ!」

「……何をする気だ?」

「…ふふ〜ん…探偵を雇います!」

 

 

「……たきなを尾行?なんで?」

翌日、千束に呼び出された翔太郎とフィリップは千束から依頼を受けていた

 

「そう!最近のたきなの様子がおかしいから、様子を見て来て欲しくて!」

「……そっとしておけば良いんじゃないのか?」

「ダメだよ!もし仮にたきなに彼氏がいて、その彼氏がろくでもない男だったら……」

「……そ、そんな相手いないんじゃないか〜?ただの気のせいだろ〜」

「……ん?」

「そ、それじゃあ俺は急用を思い出したから先に帰るなー……」

突然カタコトになった翔太郎は、逃げるようにその場から立ち去った

 

「……怪しい…フィリップさん、何か知ってる!?」

「……んー…」

考え込むフィリップ

千束の圧を感じる

 

「…僕としても、最近の翔太郎の様子が気掛かりでね。探偵業を僕に任せる事が増えてきたんだ。誰かと買い物に行ってるとかでね…」

「……え?」

「……」

「…そんなに気になるんだったら、あんたが見に行けば良いじゃない。店はこっちに任せて良いから」

「だな、お前の目で確かめて来い」

「……むむむ…」

 

 

そして本日に至る

 

今は二人はカフェでコーヒーを嗜んでいた

千束とフィリップはそれを窓の外から覗いていた

 

「……フィリップさんごめんねー巻き込んで〜」

「問題ない。僕は彼らの行く末を見届けたいだけさ」

「…行く末、ね〜……」

 

カフェで微笑みながら話し合う二人を見て、千束は何故だか複雑な気持ちになる

 

「……ん〜…モヤモヤするぅ…」

確かに翔太郎さんとたきなはお似合いかもしれない…

私もたきなの恋を応援したいけど……でも何この感じ…

 

「君はきっと、翔太郎に嫉妬しているんだろうね」

「…えっ?」

すると、突然フィリップが話しかけて来た

 

「僕もよく、翔太郎と一緒にいる人にジェラシーを感じてしまう事がある。でも、それは何も不思議なことでは無いと、亜樹ちゃんが教えてくれた」

「……」

「…僕は女性にはなれない。そして、君も男性にはなれない。相棒との距離を容易く飛び越えられたのを、僕達は面白く思えなかったんだよ」

「……フィリップさん…」

「…でも、それは僕らが彼らを想っている事に比例している。それはきっと彼らも同じさ…」

「……っ」

「それって、素晴らしい事だとは思わないかい?」

「……っ!」

笑顔で千束に話しかけるフィリップ

千束はフィリップの言葉に衝撃を受け、未だカフェで話す二人を見る

 

「……そうですね……そういうものですよね…」

「……」

 

 

 

まだ、色々と気持ちの整理はついていない…

 

たきなの恋を応援したいという気持ちは本当

でもいつも一緒にいたたきなを取られるのが嫌なのも本当

 

私はただ、たきなにずっと一緒にいて欲しかった…

 

でも今は、この言葉を…彼女に言いたい…

 

「…たきな、おめでとう!」

「えっ?」

店に戻って来たたきなの手を握り、目尻に雫を溜めながら微笑む千束

 

「…やっと…自分の気持ちに素直になれたんだね……良かった…本当に良かった…!」

「……千束…」

目から涙を流す千束

たきなはそんな彼女の手を解き、肩に手を置いて顔を前に向かせ千束の目をじっとみた

 

「…これ、何の話です?」

「…え?でも、翔太郎さんと……」

「…なんで左さんの話が出てくるんですか?それに、さっきのセリフはなんです?」

「……え?…おめでとうって…」

「それは、こちらのセリフですよ」

「……えっ?」

「…千束、お誕生日おめでとうございます!」

「……え?」

 

今、頭が混乱してる

なに?何が起こってるの?

 

「…え?誕生日…?」

「何言ってるんですか?今日は9月23日、千束の誕生日じゃないですか…」

たきなはバックから包装された小箱を取り出した

 

「…え?そう…だっけ…?」

「あんた自分の誕生日忘れてたの〜?」

「まぁその方が好都合だったけどな」

「ミズキ…クルミ…!」

「君が二人に交際疑惑を持ち出した時はヒヤッとしたよ」

「ホントだぜ〜…それにまさか尾行されてたとは……」

「フィリップさん…翔太郎さん…!」

「これも全部、私の作戦だがね」

「先生まで…!なに!?何がどうなってるの!?」

更に混乱する千束

 

しっかりと説明を貰い、状況を把握した

 

「…つまり、私の誕生日をサプライズで祝おうとして、小芝居打ったってわけね〜」

「ま、あんたがたきなの異変に気付いて色々作戦変わったけどね〜」

「僕の役目は、君の井ノ上たきなに対する疑問を解消す事と、翔太郎たちの邪魔をさせないというものだ」

「どうだった?ボクのナイスアシストは!彼氏と言えば流石の千束も黙っただろ?」

「何言ってんのよ!更に事態加速する事になったでしょうがァ!」

クルミを羽交い締めにするミズキ

 

「……んで?翔太郎さんは?」

「俺はたきなと一緒に千束の誕生日プレゼントを選んでたんだ。でもまさかバレるとはな…」

「バレバレだし…それにややこしい!」

「す、すまん…!」

手を合わせて謝る翔太郎

それを見た千束は、微笑んでみんなの顔を見た

 

「…フフッ…でも嬉しいよ……みんな、ありがとう!」

「……千束」

たきなは先程の包装された小箱を千束に渡した

 

「ギリギリになってしまいましたが、これを…」

「え〜やったぁ!開けていい!?」

「どうぞ」

「わぁ〜い!」

元気良く小箱を開ける千束

それはさながら、サンタからもらったプレゼントボックスを開封する子供のようだった

 

その中に入っていたのは……

 

「…ふうとくんの…キーホルダー…?」

箱のサイズには見合わないキーホルダー

「ふうとくん」は風都のマスコットキャラクターであり、翔太郎も気に入っているものである

 

「やっぱ風都といったらふうとくんだろ〜」

「うわダッサ」

「もう少し良いのはなかったのかよー」

「そこ!うるさいぞ!」

「……これ、たきなと翔太郎さんで選んだんだよね?」

「え?は、はい」

「……フフッ」

千束はその答えを聞き、リコリス用のバックにふうとくん

キーホルダーを取り付け、それをたきなに見せ付けた

 

「……たきなっ…ありがとう!」

「…いえ、お礼なら左さんに」

「……フッ」

 

何かと安心した翔太郎はカウンター席でミカにコーヒーを注文した

 

「…良かったな、結果的に上手くいって」

「あぁ、助かったよ翔太郎くん」

「……まぁ…」

翔太郎は微笑み合う二人を見て自然と頬が緩んだ

 

「…あの笑顔が見れるのなら、俺はそれだけで充分だ」

「そうかい?今回は僕のアシストもあってこその成功だと思うけど」

「…フィリップ……」

すると、今度はフィリップが翔太郎に茶々を入れた

 

「君がもう少し事を上手に進められれば、僕が動く必要もなかったのに…」

「あーもうフィリップゥ!それ以上からかうのやめてくれよォ!結構根に持ってんだぞ!?」

「…ふはは…でも、これで判明したね」

「……ん?」

「…やはり僕と君は、()()()()()だと」

「……あぁ、そうだな」

「…はいよ、二人ともお疲れさん」

ミカは二人分のコーヒーをカウンターに並べ、翔太郎とフィリップはそのコップを持って乾杯した

 

 

 

「……あれ、なんか他に入ってる…?」

先程の小箱にまだ何か入ってる事に気が付いた千束

中に入っていたのは紙袋

千束はその紙袋を取り出し、更にその中身を確認した

 

「……っ」

「……千束?どうかしました?」

「……たきな…これは?」

「下着です」

「……ブゥゥゥゥ!」

カウンター席でコーヒーを堪能していた翔太郎がコーヒーを吹き出した

 

紙袋の中に入っていたのは上下の女物の下着

サイズは勿論、千束のもの

 

「……翔太郎さん…?」

「いや!知らん!俺は全然知らん!」

「以前貰った下着のお返しになればと思ったのですが…ダメでしたか?」

「…え?ううん〜大事に付ける〜……ギロッ」

「……っ」

翔太郎を睨み続ける千束

額から汗が止まらなくなる翔太郎

 

「……はぁ〜…全く、相変わらず騒がしい子たちね〜」

「やれやれだ…全く……」

「……でも、楽しそうだな。三人とも」

「…そうだな…さぁミズキ、店の戸締り手伝ってくれー」

「えぇ〜なんで私がァ〜?」

 

喫茶リコリコ

ここには、様々な人達が集まる街の憩いの場

看板娘の錦木千束と井ノ上たきなが出迎え、店長であるミカのコーヒーは街でも評判の一品である

店員の中原ミズキやクルミが店を盛り上げる、活気のある店構えである

 

これは、そんな彼女達が織り成す

ちょっとした日常のお話であった──

 

番外編 おわり




ちょっとした箸休め回を書いてみました。
お褒めの言葉があると嬉しいです。

というわけで次回からはいよいよ後半戦!

次回
第28話「Eの異能/新メニュー爆誕!」

を投稿致します。暫しお待ちください。

これで決まりだ!


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第28話「Eの異能/新メニュー爆誕!」

ご無沙汰しております
後半戦も宜しくお願いします



「……」

風都タワーが半壊させられ、もう10年が過ぎた

 

復興の目処がたっていなかったタワーの建設も、段々と終わりが見えて来ていた

 

「……あの羽が回る日が、また来るのかな…」

この10年、あのプロペラの羽が回っている所を見た事がない

タワーが完成したら、また見えるのか…?

おやっさんが守った、俺の大好きだったあのタワーを……

 

 

 

「……」

「……」

「……えぇっと〜…たきな、これは一体?」

「リコリコの経営の危機的状況回避の為、新メニューを考案しました。左さん、試食をお願いします」

「…あ、あぁ…うん…これはその〜……」

「黙って食べてあげな、翔太郎」

「……分かった…」

気晴らしにリコリコに来た俺は、危機的状況に陥っていた

 

「…ちなみに、このう…じゃなくて、パフェの名前は?」

「寒くなって来たこの時期にピッタリな、ホットチョコたっぷりパフェです!」

「……」

この自信満々な顔をした少女から、デフォルメされたう…のようなパフェを出されてしまったのだ

ミズキがそれを呆れ顔で見ていた

 

いや、落ち着け左翔太郎

これはパフェだ。見た目こそアレだが、これは確かなパフェなんだ。匂い、色、見た目、全てホットチョコパフェにしか見えない。そう、これはパフェなのだ…

 

「……左さん?」

「…あ、あぁ…い、いっただっきまーす……」

 

俺は常にハードボイルドな探偵

こんな所で下品な事を考えてはいけないのだ…

 

「…う、うん!味は美味い!」

「…味は…?」

「コラ!余計な事言うな若造がァ!」

「痛っ!おいミズキ!せっかく良い感じに丸め込めたと思ったのにィ!」

「……???」

 

 

 

第28話「Eの異能/新メニュー爆誕!」

 

 

 

「…はぁ〜散々な目にあったぜ……」

「あ、おかえり翔太郎君」

「おー…亜樹子……」

事務所に帰った俺は昼前から疲れ切っていた

結局あのホットチョコパフェはこれから店に出すそうだ

 

なんでたきながあんな事をしたかと言うと

最近喫茶リコリコの業績が赤字続きのようで、依頼で得た金額を合算しても赤字のようだ

以降はたきながリコリコの経理を担当し、赤字回復の為にあんなパフェを考案したそうだが、当の本人にあのパフェがアレに見える自覚が無いらしく、結果誰も突っ込む事が出来ずに強行突破したらしい

 

「おつかれの様子だね〜またあの店でなんかしたの?」

「…まぁ、近所付き合いって奴だ」

帽子を顔まで被って仮眠を取ろうとした時

ふと、気になった事が出来た

 

《…左さん…店長の事を頼む間、鳴海探偵事務所を伺っても良いですか?》

 

「…なぁ亜樹子、たきなとはちゃんと話せたのか?」

「…ん?どうしたの急に〜」

「いや、先月たきながここに来たろ?なんか確かめたい事があるって言ってたが……」

「…うん。話したよ、あの夜の事…お父さんの事……それと、10年前の事」

「……そうか…」

 

 

「…本日はありがとうございました」

「ううん、またいつでも来てよ!歓迎するよ!」

亜樹子から鳴海荘吉の過去、そしてWの誕生について聞いたたきな

亜樹子は笑顔で見送っていた

 

「……っ」

と、事務所の左側にあるドアを見詰めるたきな

ドアには幾つかの帽子が掛けられていた

 

「…あの、どうして左さんは帽子に拘るんですか?」

「…え?」

素朴な質問

答えない理由は無かった

 

「…お父さんの趣味なんだ〜…「帽子が似合うのは1人前の証拠」ってお父さんに言われてたみたいでね、それからずーっと被ってるんだ。帽子が似合う、立派な大人になれるように……」

「……私も、なれるでしょうか…!?」

「…えっ!?」

すると、たきなが今度は勢いよく質問した

 

「…私も、立派な大人に…なれるでしょうか…?」

「……なれるよ」

「……」

「…だって君は、リコリスなんでしょ?」

 

 

 

「……スゥ…ハァァ…」

たきなを送り届けた亜樹子は事務所に戻り深呼吸をする

 

「…疲れたぁ……ん?」

「やぁ、所長」

「りゅ…りゅりゅりゅ竜くん!?何故ここに!?」

すると、事務所内で呑気にコーヒーを飲んでいる照井竜がいた

 

「ドアの外から全部聞いていた。すまない」

「…べ、別に良いけどさぁ〜……あぁ〜恥ずかしいぃぃ」

頬を真っ赤に照らす亜樹子

それを見て竜は彼女に微笑んだ

 

「……成長したな、所長」

「…うん、私も過去を振り切らないと……お父さんの為にも!」

 

 

 

「…でも、いい子だよね…あの子」

「……あぁ…初めに会った時は無愛想な目をしていたが、今はもう…」

「……」

「…普通の女の子だ」

 

 

「……おー…」

たきなの考案したパフェが何故か街で流行り、ここ1週間は行列が続き、業績が回復

効率化を重視し、接客ロボを購入し本日はその試運転を行っていた

 

「…ゴチュウモンオウカガイシマス」

「なかなかやるじゃんっ」

「これがIT革命か〜…」

試運転も良好

そんな時、入り口のベルが鳴った

 

「いらっしゃいませ〜」

「やぁ、みんな」

「…よ」

今日も翔太郎とフィリップが来店して来た

 

「翔太郎さん〜!フィリップさんまで〜!」

「巷で噂のホットチョコパフェを食べに来たよ!これ程までに僕の好奇心を刺激するものはないよ!ゾクゾクするねぇ」

「悪いな千束、こいつの原動力は好奇心だからさ」

「いえいえ〜こちらにどうぞ〜!」

 

畳席に案内される翔太郎とフィリップ

机に置かれたパフェを見てフィリップが目を輝かせた

 

「見たまえ翔太郎!これが噂の…!」

「あー知ってる知ってる!そう何度も言うなって子供か!」

「コラコラ〜仲良く食べられないなら没収しちゃいますよ〜」

二人の会話を見かねて茶々を入れる千束

たきなは奥でレジ打ちをしていた

 

「…大分順調のようだな」

「うん、見た目はともかくみんな美味しいって言って来てくれるんだ〜うちの業績も回復したし、たきな様々だよ〜」

「…フッ…そうだな」

「何を喋っているんだい翔太郎、全部食べてしまうよ?」

「あぁー!俺の分取っとけよ相棒ぉー!」

「あはははは……ん?」

すると、千束の携帯が震えた

 

「…げっ…山岸先生だ…」

画面を見て落胆する千束

だが、それをいつの間にかそばまで来ていたたきなに奪われる

 

「もしもし山岸先生、たきなです。千束の定期検診の件ですよね、彼女明日行きます。よろしくお願い致します」

「あぁー!」

「組員の健康管理も私の仕事です。行ってください」

「…はぁ〜い」

 

「……」

 

 

翌日

 

「……よ、たきな」

「やぁ、今日も食べに来たよっ」

「左さん、フィリップさん、いらっしゃいませ!」

 

再び二人で店を訪れた翔太郎とフィリップ

昨日と同じ席でパフェを堪能しようとしていた……が

 

「もうそのパフェ辞めます……」

「…あちゃ〜気付いたか〜……」

クルミのパソコンでネット記事を見て真実を知ったたきなは、翔太郎とフィリップに出したのを最後にホットチョコパフェの運営を辞めたそうだ

 

「…おや、そういえば今日は錦木千束は?」

「今日は遅番なんです。何か用でした?」

「……いや…」

「昨日言ってた定期検診か……ん、どうした相棒?」

「……なにか…嫌な予感がする」

「…え?」

突然考え込むフィリップ

すると、今度は店の黒電話が鳴った

 

「はい」

『山岸よ』

「山岸先生、たきなです」

『あの〜店によ、千束は居ます?』

「…いえ、そちらにお伺いしてませんか?」

『来てないのよ、携帯にも出なくてよ!』

「そうですか…私も探してみます」

たきなは電話を切って呆れた表情で今度は千束に電話を掛けた

 

「…千束?何処です?定期検診行ってないんですか?」

『ごめんごめん急用でさ〜ちょい遅れるって山岸先生にも言っといて〜』ピッ

「……ん〜?」

そこで会話は終わった

一部始終を聞いていた翔太郎とフィリップは確信に迫っていた

 

「……フィリップ」

「…あぁ、可能性は充分ある」

 

 

「……健康は大事だぜ?身体が主本だろ?俺らはさ」

「らって何、らって…銃を向ける相手に言う事?」

電話を切った千束は、目の前にいる真島を睨み続けた

真島はマシンガン・ドーパントに変貌しており、千束に銃を向けていた

 

「殺すにはまず生きてなきゃな…」バンッ

千束の頭目掛けて銃を放つ真島

千束はそれを簡単に避ける

 

「…ハッ!…凄ぇな!どうやってんだ?」

「…秘密」

「…その心臓に種があんのか?」

「なんでそれを知ってるこんにゃろー」

「…フッ…秘密だ」

身体からメモリを抜き出し人間の姿に戻る真島

そのままメモリを机の上に置く

千束に戦意が無いことに気付いたのか、それともただの怠慢なのか……いずれも千束は真島と同じ空間に居ることを要された

 

それよりも真島は机の上に置いてあったDVDを見る

 

「ガイ・ハードじゃん、好きなの?」

「え?うん…」

「誰が好き?」

「パウエル…」

「警官な、マクレーンと会ってないのに相棒になるあの感じ!」

「「それでラストシーンで…!」」

同じタイミングで話す千束と真島

 

「…っ…ハァ…あーコーヒー淹れるけど?」

「苦いのダメなんだ、他のもんない?」

「……フン」

 

 

 

「…んで?なんの用」

「お前、俺の事覚えてるか?」

「……あー?ぶん殴られた」

「もっと前だ……覚えてないのか?」

コーヒーは片手に砂糖がたっぷり入った小皿は机の上

千束は背もたれに寄りかかり完全に戦意がなかった

メモリも未だ机の上だ

 

「…んじゃ、昔話をさせてもらうか…」

「……」

「…仮面ライダー……その名が知れ渡ったきっかけとなる事件の話だ。それが、風都タワー事件…」

「…仮面ライダー……」

「…俺たちにとっての仮面ライダーはたった一人だ……それが、エターナル…!」

 

 

10年前──

 

「……クッ…」

「……西側…どうした…!?……学生?」

「…ここにも来る……」

風都タワー内部

テロリストたちは謎の存在に追い込まれていた

 

「…上だ!」

真島は他のテロリストたちに指示を出し、その場をなんとか防いでいた

 

「殲滅した…!」

「……まだだ!1人いる!」

真島の耳に聞こえてきたのは、ひとつの走ってくる足音だった

 

「何だっ!?」

「ぐわっ!」

「うわっ!」

次々と倒されていくテロリスト

真島もテロリストを倒していく『奴』を狙うが…

 

「……」

何故だ…何故当たらない…!?

 

赤い制服を着た金髪の少女は、その後も次々とテロリストを殲滅していく

 

「…がはっ!」

真島も奴の攻撃を喰らい、よもや全滅仕掛けていた

 

「…ま、真島…!」

「…た…耐えろ…!あいつの準備が整うまで…!」

 

致命傷ではない

千束の攻撃は死に至るようなものでは無いものの、確かに真島達を追い込んでいた

 

「……っ」

と、その少女は真島に銃口を向けていた

 

「……ここまでか…!」

そう思った瞬間だった

 

「…っ!?」

「…っ!」

天窓の上から、全身は白く黒いマントに特殊なジャケットを羽織った人物が振って来た

 

「……やっと来たか…大道…!」

「…あぁ…待たせたな」

黄色い複眼を輝かせ3つの角を持ち、蒼い炎のグラデーションがかかった両腕の超人が、千束に向かってサムズダウンをした

 

「……さぁ、地獄を楽しみな…!」




次回

第29話「Eの異能/究極は何処に」

これで決まりだ!


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第29話「Eの異能/究極は何処に」

ご無沙汰しております
それでは続きをどうぞ



「……人を怪物のように描写するな」

「実際バケモンだよ」

10年前の事を一頻り語った真島は再びコーヒーを飲んだ

まだ苦かった為角砂糖を2、3個追加した

 

「…それで?そのエターナルって奴が風都タワーを壊したの?」

「……まぁ、そんなとこだな。あいつが具体的にタワーを壊した方法なんて知らねぇが、これだけは言える」

「…ん?」

「あいつは自分の正義を貫き、この街を地獄に変えた。とんでもねぇ奴だったって事だ…」

「……ふーん」

「…あれ?興味なし?」

「だって覚えてないし……興味もない」

「……はっはっはっはっはっ!だよな!」

真島は懐からフクロウのペンダントを取り出し千束に見せ付けた

 

「…俺も持ってるぜ〜」

「っ!?じゃあなんでこんな事してんの!?」

「…は?」

「それ持ってるからには、なんか凄い才能があるんでしょ?人を、幸せにするような…あんたがやってる事は逆でしょ!」

「お前だって殺し屋じゃねぇか」

「…っ…一緒にすんな!私はちゃんと人助けしてるぅ!」

真島は呆れた顔でペンダントを胸ポケットに仕舞う

 

「…お前、アランを平和推進機関みたいに思ってるのか?」

「あんた以外はみんなそういう結果を残してるでしょ」

「私もメダリストみたいに世界に感動を与えたい!…ってか?ハッ!おめでたい奴だなぁ」

「……っ」

「…お前、アランはそんな連中じゃねぇぜ」

「…なんと言おうと、私にはヨシさんとの約束がある。これはその証……」

千束は自分の胸に掛かったペンダントに触れる

先月、自分に人工心臓を与え、このペンダントをくれた人物が吉松シンジと知った千束

その事を受け入れ、今では吉松シンジに尊敬の意を表している

 

「ヨシさんって…アラン機関の奴か?」

「あんたには関係ない」

「…アランと接触してるのか?お前」

「あんたが私より何知ってるか知りませんけどね!私はやりたいようにやりますぅ!」

「…良いねぇ、やっぱ俺とお前は同じだ」

「……っ」

少しだけはにかんだ真島は、机の上のメモリを取り上げた

 

「殺しの腕を買われて支援されたのさ」

「絶対そんなんじゃありませぇ〜ん」

「…アランの連中は純粋なんだ。俺たちの殺しを肯定できるくらいにな……」

立ち上がる真島

メモリを懐に閉まって出口に向かった

 

「…えっあ帰るの?」

「……お前の仲間が来たからな…」

「…え?」

 

 

 

「……っていうかホントに居るのかよ…?」

「確証は無いが、何かしらのトラブルに巻き込まれている可能性は高い」

「……開けますよ」

「…おう」

千束の家に様子を見に来た翔太郎、フィリップ、たきな

たきなが千束の部屋のドアノブに手を掛けた瞬間だった

 

「…っ!」

「…ふっ!」

「がはっ!」

ドアが内側から勢い良く開き、ドアの隙間から真島のキックがたきなの腹部に直撃した

 

「たきな!」

「…ヘヘッ」

「……お前が…!」

フィリップや俺の間をすり抜けてベランダから逃げ出す真島

 

「…クッ…バットショット!」

 

《 バット!》

 

すぐさまバットショットを起動させて真島を尾行させるフィリップ

 

「…たきな、大丈夫か!?」

「は、はい……二人は真島を追ってください…!」

「分かった!行くぜフィリップ!」

「……あぁ!」

 

 

 

第29話「Eの異能/究極は何処に」

 

 

 

「「変身ッ!」」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブルへと変身した俺たちはハードボイルダーに跨り真島を追った

 

「…うわっと……」

倒れるフィリップを受け止めホッと息を着くたきな

 

「…うわっ!たきな大丈夫!?ってかフィリップさん!」

そこで部屋から千束が飛び出して来た

倒れているフィリップを見て相当驚いていた

 

「どうしたの!?」

「…あ、いや…真島に襲われて……」

「えぇ!?大変じゃん!救急車…あ、でも大事にはしない方が良いか…えぇっとえぇっと〜……!」

「……はぁ」

千束が無事な事を確認したたきなは、二人にその後を委ねる事とした

 

 

 

「……ハァ…ハァ…ヘヘッ……ん?」

逃げ出した真島だが、後ろに気配がして振り返った

 

「……チッ」

空からコウモリ型のメカが追って来ていた

 

《 MACHINE GAN!》

 

「耳障りなんだよォ!」

真島はマシンガン・ドーパントへと変貌し、バットショットを撃ち落とした

 

「……ヘッ!……ん?」

すると今度はバイクに乗った仮面ライダーが突っ込んで来た

 

「ぐわっ!」

真島に直撃するダブル

バイクから降りて真島の前に立ち塞がる

真島は地面にうつ伏せになりながらもダブルを見ていた

 

『これ以上逃がす訳にはいかない!』

「観念しろ!真島!」

「……ヘッ…仮面ライダーのお出ましってわけか…!」

立ち上がる真島はダブルに向かって銃を乱射した

 

「…クッ…フィリップ!ルナトリガーだ!」

『あぁ!』

 

ルナ!トリガー!

 

ルナトリガーへと姿を変えるダブルはトリガーマグナムで真島に向かって光弾を発射した

 

「…ぐわっ!」

「よしっ!」

『…いや、まだだ!』

「……っ」

真島は今度はロケットランチャーのような武器を生成し、ダブルに向かって放った

 

「『ぐわぁぁ!』」

直撃は避けたものの、足元に被爆した為ダブルはバランスを崩す

それを真島が逃す筈もなく、真島はダブルの懐に入り込んだ

 

「なにっ!?」

「…ヘヘッ…はァァ!」

「『ぐわぁぁぁあ!』」

ダブルの懐で銃を連発する真島

 

攻撃の影響でダブルは吹き飛ばされる

 

「……クッ…こいつ、強ぇ!」

『あぁ、照井竜が苦戦した相手だけはある』

「おいおいどうした?風都を守った仮面ライダーの実力はこんなもんかぁ?」

ダブルを煽る真島

 

「んだとぉ!?やってやるよ!」

 

ヒート!メタル!

 

「はぁぁぁあ!」

ダブルはその挑発に乗ってしまった

 

『翔太郎!落ち着け!』

「落ち着いてられるか!こいつのせいで風都署も、街の平和も…!」

メタルシャフトを左手で乱暴に振り回すダブル

 

『翔太郎!』

「…ダメだなぁ…左右のバランスが悪い。それじゃあ俺には勝てねぇぜ?」

「……なんだとぉ!?」

 

メタル!マキシマムドライブ!

 

「ふざけんなぁァァ!」

『翔太郎!』

攻撃を自制するダブル

 

「なんで止めるんだよ相棒!上手く行けば奴を捕えられんのに!」

『逆だ!奴は僕らの調和が乱れた隙に逃げるつもりだ!今のままでは、奴の言う通り僕たちは勝てない!』

「じゃあどうすんだよぉ!?」

『……“彼”を呼ぶんだ』

「…彼?」

メタルシャフトに灯った炎が消えた

 

「…まさか…エクストリームを!?」

『そうだ』

「…でも、エクストリームは今…」

『知っての通り、彼は以前から僕たちの前に姿を表さなくなっている。だが、きっと僕らの思いが通じれば、彼はきっとまた現れる…!』

「……そんな上手く行くもんなのか?」

『…僕を信じてくれ、相棒!』

「……分かった!」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

サイクロンジョーカーへと再び変化するダブル

 

「……なんだ?降参でもすんのか?」

「冗談じゃねぇ…俺は、俺たちは今から……『究極』になるんだよ!」

「……究極…?」

ダブルは手を天高く挙げ、その名を叫んだ

 

「『来い!エクストリーム!!』」

「……っ」

「『……』」

しかし、待てど暮らせどエクストリームは現れなかった

 

「…なんでだよ…なんで来てくれねぇんだよ!?」

『今の僕らの絆は相当な筈だ…なのに現れないのは……』

「…よく分かんねぇけど、今度はこっちの番だ!」

真島は素早い速さでダブルの目の前に来る

 

「はぁぁ!」

「グッ…!」

至近距離からの射撃攻撃

ダブルは再び劣勢に追い込まれた

 

「こうなったら仕方ねぇ…別のメモリで対応するぞ!フィリップ!」

『…あぁ…考えるよりも、今は勝つ事を優先する!』

 

『 PIRATES!』「 METAL!」

 

パイレーツ!メタル!

 

ダブルは左手半身が銀色、右半身がシアンカラーのパイレーツメタルへと変身した

 

メタルシャフトを手に持ち、メタルシャフトの先端には水で出来た旗のような物が出現し、真ん中にはパイレーツのロゴが現れていた

まるで海賊旗のような見た目だ

 

「『…さぁ、お前の罪を数えろ!』」

 

 

「真島は!?」

「…今、左さんが追ってるところです」

「助けに行かなきゃじゃん!行こうたきな!」

「…あ、待って下さい!」

「…えっ?」

千束の目は疑問に満ちていた

当然である。ただの人間である翔太郎がドーパントに対抗しようとしていると、千束は思っているためである

しかし、翔太郎がダブルだから心配はいらないとは言えないたきな。更にあながち心配要らないという訳でもない。現にアクセルは苦戦を強いられていた。ダブルが勝つ保証も無い為、たきな本人も心配で様子は見に行きたいのである

 

「…たきな!」

「…っ」

「……行くよ!」

「……っ!」

しかし、千束にはそんな事は関係ない

 

困っている人を助けるのが、リコリスの仕事…

だったら私のすべき行動は……!

 

 

「クッ…へぇ〜なかなかやるじゃねぇか…」

「『……』」

パイレーツの変則的な攻撃により、真島は少しだけ押され始めていた

膝を付き、少しだけ息を荒くしていた

 

『…元より機関銃の記憶を司るマシンガン・ドーパントの能力は単調で、変則的なパイレーツとは相性が悪い。この勝負、このままいけば勝てるよ!』

「…あぁ…でも油断は禁物だ…!」

「……」

すると、ゆっくりと膝を立たせる真島

 

「…ヘヘッ…おもしれねぇなぁ……お前も」

「……なにっ?」

「……フッ」

真島は人差し指をクイックイッとこちらに動かし、更には目を閉じた

 

「…ほら、攻撃してみろよ」

『……どういうつもりだ…?』

「……ヘッ」

「……クッ…!」

ダブルは言われた通り、メタルシャフトで真島を狙った

 

「はぁぁ!」

「……ヘヘッ」

『なにっ!?』

しかし、真島はダブルの攻撃を避け、更には的確に反撃もしてきたのだ

 

『…一体…どういう仕組みだ…!?』

「……まさかこいつ…!」

 

メタル!マキシマムドライブ!

 

危機を察知したダブルはメタルシャフトにメタルメモリを装填した

メタルシャフトの旗の水が変形し、メタルシャフトにまとわりつく

水のオーラと合わさったメタルシャフトはまるで錨のようになり、ダブルはそれを持ち上げた

 

「『メタルアックスドロップ!』」

ハンマーのように掲げたメタルシャフトを真島に向けて打ち込む

 

「……ハハッ!」

「何っ!?」

しかし、真島はその攻撃をも避け、ダブルの胸部に向かって強力な弾丸を放った

 

「『ぐわぁぁぁあ!』」

強力な攻撃を受けたダブルは変身解除に追い込まれた

 

「…クッ…くそっ!」

 

だが、翔太郎に更なる悪夢が襲いかかる

 

「……翔太郎さん…?」

「……っ……っ!」

振り向くと、息を切らしたたきなと千束が立っていた

 

「……嘘…だろ…」

千束に…俺たちの正体が……バレた…

 

しばらくの間、時の流れが遅く感じた

 

 

「……フッ…あれが彼の力か」

真島とダブルの戦いを見ていた吉松シンジ

 

「…彼らの事が心配かい?」

シンジの隣には、小さい檻が置いてあり、その中の物が暴れていた

 

「……小鳥くん」

『……』

檻の中で暴れるエクストリームメモリ

 

これが、新たなる波乱を産むこととなる……

 

「…あとは、『心臓』だけだな……」




次回

第30話「Eの異能/永遠の灯火」

これで決まりだ!


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第30話「Eの異能/永遠の灯火」

今更ですがエクストリームが誘拐された描写を描いていませんでした
どの段階で誘拐されたかと言われるとちょっと微妙なので、ウォーシップ戦の後に誘拐されたという事にしてください

という事で、今回もよろしくお願いします



「……千束…!」

「……嘘……翔太郎さんが…」

「……ハァ…ハァ」

地面に倒れながらも千束の顔を見る翔太郎

真島には目もくれない千束

息を切らし、打開の道を探るたきな

 

「……っ」

「…よぉ、風都タワーのリコリス」

「真島…!」

今度こそ真島に目をやる千束

だが、その表情は困惑と緊張に包まれていた

 

「……皮肉なもんだよなぁ…これでも街を守ってる仮面ライダーが、こうもあっさりDAの目の敵にされるんだ」

「……クッ…」

「…仮面ライダーってのはな、自分の正義を貫いて自由を手に入れた者に与えられる称号なんだよ。お前らみたいな半分こ怪人とは違う」

「……なんだと…クッ…!」

地に身を伏しながら這い蹲る翔太郎

 

「…教えてやるよ。本当の仮面ライダーってのがどんな奴なのか」

真島は変身を解除し傍にある塀に腰掛けた

 

「仮面ライダーエターナル。あの風都タワーを破壊した張本人で、この街を震撼させた…言わば英雄だ」

「…エターナル…それさっきも言ってたよね?そんなに好きなの?」

「当然だろ。俺たちはあいつに選ばれ、テロ組織『NEVER』の一員に勧誘された。NEVERは世界の不自由を嫌い、平等な世界を求めた。全ては世界のバランスを保つ為だ」

「……世界のバランスを…保つ為……だと…!?」

翔太郎がもがきながら問う

 

「……仮面ライダーエターナル…大道克己はかつて自由を拒まれ、孤独に生活して来た。だが、その高い戦闘能力で軍の兵士のトップに返り咲いた」

「……」

「…その後、エターナルメモリを手に入れた大道は、とんでもねぇ事を企んだ」

「……まさか…」

「…そう…風都タワーを破壊し、この世界に教えこんだのさ……本当の平和なんてものは訪れない。俺たちは世界の秩序を守ったのさ」

「…何が世界の秩序だ!それで何人の人が傷付いた!?」

翔太郎は真島に向かって吠えた

這って真島の所まで到着し、真島の足首を掴む翔太郎

 

「……」

真島はそんな翔太郎の背中を踏みつけた

 

「グッ…」

「…お前らは本当の正義って何か分かるか?」

「……えっ?」

「俺には分かる。本当の正義とはなんなのか…それは…」

「……んんんん!!」

今まで翔太郎がいる手前拳銃を向けるのをやめていたたきなだが

我慢の限界が来たのか、たきなは真島に銃を向けた

 

「…たきな!」

「……たきな…!」

「……ヘッ」

「……死ねっ!」

 

 

 

第30話「Eの異能/永遠の灯火」

 

 

 

「……っ」

たきなの手を止めたのは、フィリップだった

 

「落ち着きたまえ、井ノ上たきな。彼を殺せば、重要な情報を聞き出せなくなる」

「……ご…ごめんなさい…」

千束の自宅前で目を覚ましたフィリップはすぐさまこの場所に駆け寄ってきていたのだ

 

「…井ノ上たきな、君は翔太郎を連れて逃げるんだ。いいね」

「…は、はい!」

翔太郎のダブルドライバーにジョーカーメモリが刺さっている事を確認したフィリップは翔太郎の安全を優先させた

 

「…ふっ!」

「…クッ…!」

「…悪い…たきな……」

「しっかり掴まっててください!」

真島の隙を突いて翔太郎を連れ出したたきなは颯爽と去って行った

 

「…フィリップ…あとは頼んだぜ」

「…あぁ、後は僕に任せたまえ」

その場に残るフィリップと千束

対する真島は変わらずはにかんでいた

 

「ちょ…フィリップさん!どうやって戦うの!?フィリップさん1人じゃ無理だよ!」

「問題ない。僕は一人ではないし、君もいる」

「……え?」

 

フィリップの手にファングメモリが乗っかり、それを変形させる。フィリップのダブルドライバーにジョーカーメモリが転送されて来た

 

「 FANG!」

 

「…ま、まさか……」

「そう、僕と翔太郎は二人で一人の探偵……そして、仮面ライダーだ……変身ッ!」

 

ファング!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブル ファングジョーカーへと変身したフィリップ達

天高く咆哮を上げ、真島もドーパントに変身する

 

「錦木千束、僕らの説明は後だ!ひとまずはこの窮地を脱する!」

「ど、どうするの!?あいつ結構強いよ!?」

『心配すんな千束、フィリップに任せとけばなんとかなる』

「…その声…翔太郎さん!?倒れたんじゃ…?」

ダブルから翔太郎の声が聞こえる

千束は驚きを隠せなかった

 

『その説明も後だ!とりあえず今は奴を倒す!それだけを考えろ!』

「……っ…分かった!その代わり、私の質問には全部答えてくださいね!」

『…あぁ…そのつもりだっ!』

 

ショルダーファング!

 

右肩にショルダーファングを生成しそれをブーメランのように飛ばすダブル

 

「……その程度かァ?」

それを軽々避ける真島

すると、千束は真島に向かって銃を放ち続けた

 

「…当たんねぇなぁ……ホントに狙ってんのかぁ?」

しかし、次の瞬間真島に悲劇が襲う

 

「…ぐがぁぁ!」

ブーメランのように帰って来たショルダーファングが真島の背中に斬撃を与えたのだ

 

「……グッ…!」

「錦木千束!続けて撃て!」

「分かった!」

「…チッ…ふざけんなぁ!」

すると、真島は今度は千束を狙う

だが、その攻撃も千束には当たらない

 

『今だぁ!』

「はぁぁあ!」

 

アームファング!

 

「なっ…ぐわぁぁ!」

ダブルのアームファングが炸裂する

 

「……くっそ…!」

バンバンバンバンうるせぇ…!

 

「……やはり、君の能力が読めた」

「…なに?」

「君は常人より耳が良いんだ。それにより、僕らの動きを音によって感知している」

『なるほど、だからあえて銃声で場をうるさくして俺たちに気付きにくくしたって訳か!』

「……ヘヘッ…流石はアランに選ばれた仮面ライダーだなぁ」

『…な、なんでそれを知ってやがる!?』

「……教えるかバーカ」

真島は手の中にエネルギーを溜める

どうやら強烈な一撃を叩き込むようだ

 

『フィリップ!決めるぜ!』

「あぁ!」

 

ファング!マキシマムドライブ!

 

ダブルの左足首から白い刃が生成され、ダブルは高く飛び上がり旋回しながらキックを放った

 

『「ファングストライザー!」』

「…グッ……ぐがぁぁぁぁ!」

必殺技が炸裂し、マシンガン・ドーパントは爆散した

煙が晴れた向こうには破損したマシンガンメモリを持った真島だった

息を切らし、とてもじゃないが満身創痍だった

 

「……ヘッ…ヘヘッ…へへへはははははは!」

「…っ?」

だが、真島は高らかに笑った

その表情からは、喜びを感じた

むしろ、その感情しか感じがなかった

 

「…いいぜいいぜぇ…こうでなくちゃ、俺とのバランスが悪ぃからなぁ!」

「……っ」

真島は破損したマシンガンメモリをダブルに投げつけ、更に懐からロストドライバーを取り出した

 

『ロストドライバー!?なんでお前が!?』

「……ヘヘッ」

『……答えろ!』

「…これを見れば、納得いくか?」

真島はエターナルメモリを取り出し、ダブルに見せ付けた

 

『「…っ!?」』

『…なんでお前がエターナルメモリを持ってるんだよ!?』

「……っ」

 

「 ETERNAL!」

 

ダブルの疑問を他所に、真島はエターナルメモリを起動させ、空に掲げた

 

「……大道…お前の使命が、ようやく果たされるぜ……変身ッ!」

 

エターナル!

 

真島がエターナルメモリをロストドライバーに装填し展開すると

真島は全身は白く黒いマントを羽織り、黄色い複眼を輝かせ3つの角を持ち、緑色の炎のグラデーションがかかった両腕の超人に変化した

 

『……マジかよ…真島が…』

「……仮面ライダーに…」

「…なっちゃった……」

 

自分の姿に少し驚く真島だったが、すぐにこちらに視線を送って来た

 

「…こいつが仮面ライダーか……これで街は変えられる……文字通り、地獄にな」

真島はダブルに向けて、サムズダウンをして見せた

 

「……さぁ、地獄を…楽しみなぁ!」

 

 

「……」

「…大道…!やっと来たか!」

「真島、準備は全て整った。すぐに起動してもいいが……」

エターナルは千束を見詰めた

 

「…もうやら、地獄を見るべき人間がここにもいるようだな」

「……っ」

エターナルの圧に少し押される千束

しかし、すぐに立ち直り銃をエターナルに向けて放つ

 

「……ふんっ!」

「…グッ……」

一瞬で千束の喉にエターナルの短剣武器であるエターナルエッジの刃を押し付けた

 

「…ガキを殺す趣味は無いが…殺さない義理もない。お前が俺の仲間を殺ったんだろ?」

「……私は…」

すると、今度は別の黒い超人がエターナルに蹴りを入れた

 

「…トォ!」

「……っ!」

牽制を喰らったエターナル

スカルは千束を庇うように前に立った

 

「ガイアメモリの戦士…だと!?」

「……お前もアランの支援を受けたのか?」

「…アラン…何故お前がその名を…!」

疑問に思う真島と、スカルに質問をするエターナル

スカルは静かに答えると、エターナルに向かって走って行った

 

「…トォ!」

「……っ…なるほど、つまりお前も俺と同じって訳だな」

「……どういう意味だ」

「…俺の名は仮面ライダーエターナル。この世界を地獄に変え、腐ったこの世の中を正す。それが俺たちNEVERの目的だ」

「……腐った世の中…だと?」

「その通り…まずはガイアメモリによって汚れてしまったこの街を浄化する。その為にはまず、ガイアメモリの恐ろしさを愚民共に伝えなくてはならない……」

「……」

「…どうだ?俺と共に世界を変えてみないか?お前もガイアメモリを使う超人…つまり、仮面ライダーの素質がある」

「……」

「…仮面ライダーとは己の正義を貫き、自由を手に入れる者の事。この世界を変えて、自由を手に入れよう!」

スカルを勧誘するエターナル

徐々にスカルに近付き、右手を差し出した

 

「……」

そして、それに応えるように右手を伸ばすスカル

だが、その手は直前で止まった

 

「……っ?」

「…断る。俺はこの世界を変えたいとは思わない……ふんっ!」

その手の裏拳でエターナルを殴る

 

「……っ…」

「…だが、俺にも正義はある。それを貫くのが、漢の性だ……お前が仮面ライダーエターナルなら、俺は……仮面ライダー…スカルだ」

スカルマグナムを出現させてエターナルに向かって放つ

 

「…フッ…それがお前の答えか、ならいいだろう……真島、起動しろ」

「……あぁ」

真島は手に持っていたスイッチを押し込んだ

 

「……っ!」

次の瞬間、風都タワーのプロペラ部分が落下して来た

タワーが崩れるのが分かる

 

「…クッ…来い、千束…!」

「……っ」

千束の首裏を叩き気絶させるスカル

そのまま千束を担いで風都タワーを脱出した

 

「大道!お前も逃げるぞ!」

「……俺の事は放っとけ…だが、必ず忘れるな」

「……っ」

「…地獄に行ったら、この名を告げろ」

「……っ!」

「……大道克己……ふははは…ふっはははははは!」




次回

第31話「永遠のIを/あの子の笑顔」

これで決まりだ!


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第31話「永遠のIを/あの子の笑顔」

「ははははははははは!」

「『……クッ…!』」

仮面ライダーエターナル グリーンフレアに変身した真島はダブルに猛攻撃をしていた

エターナルはマキシマムスロットを搭載した拳銃型の武器、「エターナルバレット」を駆使し、ダブルを追い詰めていた

 

「おらおらァ!どうしたァ!?」

「『…クッ…!』」

『フィリップ!このままじゃマズイぞ!』

「あぁ…!早く手を打たないと…!」

「はぁッ!」

攻撃を受けながらも頭を働かせるダブルだったが、真島の猛攻撃に着いて来れなくなっていた

 

「『ぐわっ!』」

緑の拳が次々とパンチを喰らわし、エターナルバレットによる攻撃も強力なものだった

 

どうやら僕たちは、とんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない…

 

「……終わりだ」

 

真島はドライバーからエターナルメモリを抜き出し、エターナルバレットのマキシマムスロットに装填した

 

エターナル!マキシマムドライブ!

 

「『…グッ…!』」

エターナルのマキシマムドライブが発動すると、何故だかダブルの力が弱まっていった

 

「…なんだ…?力が弱まって…!」

「永遠の記憶を持つエターナルの力には、他のガイアメモリの機能を半永久的に停止させる事が出来る…」

『何っ!?』

「…まぁ、俺は完全な力を出せてねぇ…俺に出来るのはせいぜい短時間の間他のガイアメモリの力を弱体化させる事しか出来ねぇ……やっぱこのメモリを扱えるのはアイツだけだな……だが、それで充分だ!」

身動きが取れなくなったダブルを蹴り上げる真島

 

「……っ…あ?」

「……二人から、離れて!」

すると、今度は千束が真島に向かって銃を放った

勿論直接的な攻撃にはならず、気を逸らせることしか出来なかったが……

 

ショルダーファング!

 

「『はっ!』」

「…っ!」

ダブルはショルダーファングを投げ付けて距離を置くことに成功した

 

『助かったぜ!千束!』

「うんっ!」

 

そして更に、そこに助け舟が来た

 

「……はぁぁ!」

『照井っ!』

遠くからアクセルトライアルへと変身した照井竜が走って来たのだ

 

「左!フィリップ!ここは一旦引くぞ!俺も奴の攻撃で少ししか動けん!」

「…あぁ…残念だが、彼の身柄は諦めよう」

『…仕方ねぇ…千束!行くぞ!』

「…あ、うん!」

ダブルと千束を抱えたアクセルトライアルは颯爽とその場を去った

アクセルは去り際に真島に「決着はまた今度だ」と、言い放った

 

「……ったく…逃げられたぜ…ヘヘッ」

変身を解除する真島

ドライバーから抜き出したエターナルメモリをギュッと握った

 

「……次は容赦しねぇぜ…風都タワーのリコリス…」

 

 

 

第31話「永遠のIを/あの子の笑顔」

 

 

 

「…助かったぜ、照井」

「今回ばかりは君に命を助けられたよ、ありがとう」

落ち着いた場所で集合した俺たち

俺も傷を負っていたが、重症では無いため今は真島討伐に着いて相談をする事とした

 

「お前たちも怪我は無いか?」

「…は、はい」

「刑事さん、またまた助けて頂きありがとうございました!」

千束とたきなを心配する照井

二人にも目立った傷は無さそうだ

 

「…あれがエターナル…風都タワーを破壊した張本人か」

「…あいつが……」

俺は過去の記憶を思い出した

あの日も俺にとって、忘れられない日になるだろう

 

「……左、何か知ってるのか?」

「……」

俺は丁度いいと思い、あの話をする事とした

10年前、俺が見た風都タワー事件の事を……

 

「……風都タワー事件のあの日、俺は風都タワーにいたんだ。その日は年に一度の祭りをやっててな……でも、俺が行ったその時、風都タワーは封鎖されてたんだ。何人か警備員が配置されてて、風都タワーの入口は一切立ち入り禁止になってた…」

「……もしかして…」

「…そう、既にDAがテロリスト集団の足取りを掴んで事前に事件をもみ消そうとしたんだ。だが、それは失敗に終わったようだ」

「……」

「風都タワー内から銃声や爆発音が聞こえ、俺はいてもたっても居られなかった……」

 

 

10年前──

 

「おいジンさん!風都タワーが封鎖ってどういう事だよ!?」

「落ち着け翔太郎!上からの指示だ…祭りは中止、どうやら風都タワー内で危険物が見つかったらしい」

「……なんだよそれ…なんでこんな日に限って…!」

当時中学生だった俺は、まだまだガキだった

どうにかして裏道から入ろうと風都タワーの周りを周回していた

 

そんな時だった

 

「……っ!」

俺の目に映ったのは楠木に案内されるおやっさんだった

 

「おやっさん!」

「…翔太郎…!何故ここに居る…!?」

「おやっさんこそ何処に行くんだよ!?まさかこの中に入るのか…!?」

「……」

おやっさんは答えなかった

その目は帽子の鍔で隠れて見えなかった

 

ただ、俺には答えがすぐにわかった

 

「……っ…だったら俺も連れて行ってくれよ!あの中で何が起きてるのか知りてぇんだ!」

「……楠木、先に行っててくれ」

「…分かった」

頷いた楠木は風都タワーの中に入って行った

 

「……」

「……」

無言のまま時が過ぎていた

中では今だに銃声が響いていた

 

「…翔太郎、この街を脅かす怪物の事は知ってるよな」

「…ドーパントの事だろ?」

「奴らはガイアメモリという道具を使って人間から変身する。この街にはそういうのが蔓延ってるんだ」

「……それがなんなんだよ」

「…どうやら…ガイアメモリを使う過激派の連中が、この中で暴れてるらしい」

「…えっ!?」

俺とおやっさんはタワーを見上げた

 

「…俺はこの事件を解決する為に楠木に呼ばれた。俺はガイアメモリにも精通してるからな」

「……っ」

おやっさんは俺に人差し指を立て、その冷たく、優しい目で俺の目を見た

 

「ここはお前には危険すぎる。大人しく外で待っていろ」

「……っ」

「……」

俺が納得したと思ったのか、おやっさんは手を引っ込めてタワーに入ろうとした

 

「……いやだ」

「……なに?」

もちろん、俺の答えはノーだ

 

「俺の大好きな風都タワーにそんな奴らが居るなんて言われたら、俄然やる気が出てきたぜ……おやっさんがなんと言おうと、俺は行くぜ」

「……はぁ…やはりお前は半熟だな」

「なっ…!?」

呆れた顔で答えたおやっさんは、俺の前に立った

 

「分かった。そこまで言うならお前に1つ任務をやろう」

「……お、おう」

「…この中に、1人女の子がいる。その子を全力で守れ」

「…お、女の子…?」

おやっさんの言っていることが全然分からなかったが、俺はおやっさんの言う通り過激派の奴らには絡まない事を約束した

 

「…少女の名は千束。金髪に赤いリボンを付けてる」

「……おやっさん…何でそんな事知ってんだよ」

「……俺の友からの依頼…いや、友との約束なんだ」

「…友…?」

あぁ…楠木の事ねぇ…

 

「……っ…翔太郎、ここから離れて千束を探せ」

「…えっ…なんで」

「いいから早く行け!」

「…わ、わかったよぉ……」

俺はおやっさんの圧に押されてその場から去り、千束と呼ばれた女の子を探す事とした

 

 

 

「…ヘヘッ…どうやら迷子のオジサンが来てる見てぇだな」

「……貴様らか、ガイアメモリを使う過激派の連中は」

廊下の奥から1人男が歩いて来た

軍服のような戦闘に特化したスーツだ

 

「…ただでさえ変な連中に計画邪魔されてるんだ…これ以上克己の邪魔はさせねぇぜ…!」

 

《 IVY!》

 

男はガイアメモリを取り出し、全身植物のツタのようなもので毛むくじゃらな怪人へと変貌した

 

「俺たちNEVERの快進撃は!ここから始まるんだよォ!」

イヴィー・ドーパントは腕のツタを荘吉に伸ばす

 

「……っ」

それを間一髪で避けた荘吉はロストドライバーを装着した

 

「 SKULL!」

 

「…変身」

 

スカル!

 

「…トォ!」

スカルへと変身した荘吉はイヴィーに飛び込んでパンチを喰らわした

 

「…グッ…貴様もドーパントだったのか!?」

「……」

何も語らぬ荘吉は、次はスカルマグナムを出現させてイヴィーに光弾を放つ

 

「クッ…グオッ!」

「……貴様に用はない。そこを…退け…!」

「…ッ!」

 

 

「……女の子を探せって…なんだってこんな時に…」

おやっさんの元を離れた俺は言われた通り女の子を探していた

 

「…っ」

銃声や爆発音が聞こえタワーが悲鳴を上げているのが分かった

早く何とかしねぇと…

 

「…お兄さん、こんな所で何やってるの?」

「……え?」

目の前を見ると、そこには金髪の赤いリボンを着けた女の子がこちらを見ていた

 

「……マジかよ」

おやっさんの言ってた事、本当だったのか……

 

「…君、千束か?」

「……なんで私の名前知ってるの?」

「あ〜…俺の師匠が君を探せってさ…さぁ、ここから早く逃げよう」

「……うっふふ…おかしな事を言うね、貴方!」

「……え?」

その子は笑っていた

何が可笑しいのか、俺には分からなかった

おやっさんみたいに半人前の俺を嗤っているのか

それともこの状況を可笑しいと思っているのか……

 

いずれにせよ、俺はこの子に不快感と疑心感を持ち始めた

 

「…何してるの?」

「…え?」

「…逃げるんでしょ?お兄さんっ」

「…あ、あぁ……」

何故だか彼女は俺の言う通り逃げる選択をしてくれた

普通に考えれば当然の選択だ

だが、何故それが当然なのかすら、俺は分からなくなってしまった

 

「……」

「……」

照明が切れた暗い廊下を散歩しながら出口を探す俺と彼女

 

「…ねぇ、お兄さんお名前は?」

「……左…翔太郎」

「翔太郎さんか!いい名前だね!」

「……」

「翔太郎さん!初めまして!錦木千束ですっ!」

「……なぁ」

俺は足を止め、彼女に問い掛けた

 

「…なんでそんな悲しそうな目をしてるんだ…?」

「……」

俺は気付いていた

俺が不快感と疑心感を持ったその理由を

 

彼女の目は笑っていなかった

何か、無理に笑顔を作っているように見えた

その笑顔が、返って悲しそうに見えたんだ

 

「……なんで…分かるの?」

「…え?」

「……なんで、そんな事が分かるの?」

「……」

彼女の表情が変わった

無理な笑顔では無い

今度は何かに落胆したような、そんな虚ろな表情だった

 

「…俺はこの街の人達にはみんな笑顔でいて欲しいんだ。そんな悲しそうな目をしてる人が居たら、見て見ぬふりは出来ねぇ……教えてくれ、君のその表情(かお)と、この事件が関係あるなら、俺は俺にしか出来ない事をやりたい」

「……」

「……たとえ半人前でも、この街を愛する気持ちは誰にも負けない自信がある!」

「……面白いね、翔太郎さんは…」

すると、彼女は俺に背を向けた

 

「…でも、知らない方がいいよ」

「……何故…!?」

「…知らない方が幸せな事もあるんだよ…きっと……」

「…ま、待ってくれ…!」

そのまま行こうとする彼女の手を俺は引き留めた

 

彼女の手を引き、彼女の手首に触れた、その時だった

 

「……っ…脈が…」

「……っ!」

「……グッ…!」

 

次の瞬間、腹部や胸部に強い衝撃を感じた

まるで弾丸が当たったかのような……

 

だが、出血していない事は分かった

死ぬ程痛いが、致命傷にはならなかった

 

「……クッ…」

「……」

俺は意識が薄れながらも、彼女に手を伸ばした

 

おやっさんとの約束を…守らねぇと…!

 

「……ごめんなさい」

「……ッ」

今度は脳天に衝撃が走った

俺のそのまま気を失った

 

 

 

「…………っ」

目が覚めると、そこは病院だった

 

「…気付いたか」

「……おやっさん…」

病室のベットの横の椅子に座っていたおやっさんは、俺が目覚めるとホッと息をついた

 

「……っ…風都タワーは…!?」

ベットから起き上がった俺は部屋の窓から風都タワーを見つけた

 

「…ご覧の通りだ」

「……そんな…」

風都タワーはプロペラ部分の根元が切り落とされたように落下しており、タワー自体も酷く崩壊していた

 

「……っ…あの子は…!?」

「…安心しろ、信頼出来る者に預けた」

「……そっか…よかった…」

「……今回は重要な任務を任せた俺にも責任がある。だが、お前がこれ以上命を張る必要は無いだろう」

「……」

おやっさんは椅子から立ち上がり、俺に背を向けた

それがなんだか、あの子に似ている気がして嫌だった

 

「…これに懲りたら、もう俺にはついてくるな。早死するぞ……」

「……」

窓の縁を掴んだ手に力が入る

悔しかったんだ

俺が非力なのもそうだが、何より悔しいのが……

 

《……ごめんなさい》

 

あの子の笑顔を守れなかった事だ

 

「……やるよ、俺は」

「……何故そこまで…」

「この街が好きだから」

「…っ」

「……それだけじゃダメか?」

「……翔太郎…」

 

 

「……10年前、俺は一度千束と会ってるんだ。当時のあの子が君と知った時は、驚いたよ」

「……翔太郎…」

「……左…」

「……左さん…」

「……」

「…なぁ、ほんとに覚えてねぇのか?俺の事、おやっさんの事、あの事件の事……」

俺は改めて千束を問いただした

 

「…ごめんなさい…ほんとに覚えてないの……こんな大事な記憶、なんで忘れちゃったんだろう……」

「……記憶…」

フィリップがそう呟いた

そして、千束に身体を向けた

 

「…錦木千束…君は10年前から今日に至るまで、どのくらい出来事を覚えてる…?」

「…え?そう言われれば…リコリコを開店した時、初めてお客さんが来た時、仕事をした時……たきなが来た時……えぇっと〜……」

「……やはり…」

「…何が言いてぇんだ?相棒」

「彼女の記憶が、断片的に抜き取られている可能性が高いんだよ。自分の都合のいいように、彼女の記憶を改ざんしたんだ…」

その場にいた全員が驚く

当然である

 

「記憶を改ざんって…そんな事……まさか…!?」

「…そう、彼女の記憶を抜き取ったのは…「地球の本棚」に干渉出来る人物である可能性が非常に高い…!」

「……そんな…ウソだろ…!?」

「……これは、厄介な事になりそうだね…」

 

 

「……おやおや…私の正体に気付き始めたか…」

ジャック・ドーパントは夜街を眺めながらそう呟いた

 

「……そろそろ潮時かな…仮面ライダー…!」




次回

第32話「永遠のIを/あの日の全て」

これで決まりだ!


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第32話「永遠のIを/あの日の全て」

お久しぶりです
それでは今回もよろしくお願いします。



「……で、フィリップくんは何を調べてるの?」

「風都タワー事件の事が少しづつ分かってきたから、今回はその全貌を知りたいと思ってな」

事務所の基地で地球の本棚に入ったフィリップ

それを見守る俺と疑問を持つ亜樹子

 

「…うん、まぁそれはいいんだけど……」

「……」

「……」

「なんでリコリスの2人も居るわけ!?私聞いてない!」

「…あ、お邪魔してま〜すぅ〜……」

「事務所の地下にこんな基地があったんですね…」

「いいからフィリップの検索を待とう。全部これにかかってるんだ……」

 

あの後、風都タワー事件の全貌を露わにする為、俺はフィリップに検索を依頼した

 

「…フィリップさんは何やってるんですか?白紙の本なんか見て楽しいの?」

「フィリップは脳内に「地球の本棚」という脳内空間を作り出し、そこで地球の全ての記憶を閲覧する事が出来るんだ」

「……へぇ〜…」

千束の疑問に対して答える照井

 

「…もしかしてそれが仮面ライダーと何か関係あるの?」

「俺たちが付けてるダブルドライバーには、装着者とフィリップを一体化させる力があるんだ。2本のガイアメモリを同時に使う事でフィリップの知識を兼ね備えた究極の超人…ダブルに変身出来る」

「……それが仮面ライダーか〜…」

「あの、変身する時フィリップさんが倒れるのって…?」

今度はたきなが質問してきた

 

「一体化と言っても、完全に1つになる訳じゃなくて、フィリップの精神が俺と組み合わさる事で完成するんだ。だから変身中はフィリップの身体は無防備になる」

「それを私が守ってるってわけ!」

「…お前調子いい時は図に乗るよなぁ……」

「ふんっ!」

「あ痛ァ!」

亜樹子が自信満々に言った事に対して俺が愚痴ると、亜樹子のスリッパが俺の頭に炸裂した

 

「……っ」

すると、フィリップの検索が終わったようだ

目を開け、俺たちの方を見た

 

「……風都タワー事件の全てを閲覧した…」

 

だが、その表情は浮いてはいなかった……

 

 

 

第32話「永遠のIを/あの日の全て」

 

 

 

ここからは、フィリップの検索結果によって導き出された

あの日の出来事……いや、記憶だ…

 

10年前、風都タワーがテロリスト集団「NEVER」によって占拠されその筆頭を張っていたのが「大道克己」

NEVERのリーダーにして、即戦力である彼は超人的な身体能力と動体視力であらゆる敵組織や国を滅ぼして来たらしい

 

そしてあの日、風都タワーに現れたNEVERはたちまちタワーを占拠

だが、そこに現れた謎の組織に仲間が次々と殺されていった

 

当時、真島も現場に居たという……

 

 

 

「……なに?俺たちの邪魔を…?」

『どうする大道!?このままじゃ全滅だぞ!』

「……安心しろ。俺がいる」

味方からの無線が入る

どうやらあっちは拮抗しているようだな…

 

風都タワーの頂上

大道克己はタワーの羽を見ながら嘲笑った

 

「……これが平和の象徴かぁ…平和とは、つまり不平等だ……この街には教訓が必要だなぁ……フッ」

 

克己は懐からエターナルメモリを取り出し、ロストドライバーを装着した

 

「 ETERNAL!」

 

「変身」

 

エターナル!

 

黒いマントが風になびく

仮面ライダーエターナルへと変身した克己はタワーの中に戻って行った

 

タワーの最上階

円形上に広がる空間

その中心には大きな椅子のような装置が置かれていた

 

「…あとは仕上げだな」

 

エクスビッカー…

こいつでこの街を地獄に変える…!

 

「……そうだよなぁ…お袋…」

克己は懐からフクロウのペンダントを取り出した

 

「……」

『…大道…!』

「…なんだ?」

『骸骨男だ…骸骨男が出た…!』

「……骸骨男…そうか…!」

 

 

「大道克己はエクスビッカーという装置でこの街を地獄に変えようとした。仕上げを終えた彼は、風都タワー内に現れた鳴海荘吉…仮面ライダースカルの前に姿を現した」

「……エクスビッカー…?」

「エクスビッカーには、風都タワーによって作り上げられる風力発電のエネルギーをそのままガイアメモリを強化する為のエネルギーに変換する力があったようだ。大道克己はその装置を使って更なる強化を目論んでいたんだろうね…」

「…だから風都タワーを狙ったのか……そんな膨大なエネルギーを作り上げ蓄積できるのは風都タワーくらいデカい装置じゃなきゃ出来ないからなぁ……」

「……ん〜…でもなんか引っかかるなぁ…」

フィリップの考察に関して、千束は何か引っかかる様子だった

 

「だって、自分の強化の為にわざわざ風都タワーを狙うなんておかしくなーい?エターナルの力があるならそのまま街を襲えばいいじゃんっ!」

「…千束お前…恐ろしい事言うな……まぁでも、確かにそうだな。大道のメモリの使い方がいまいちピンと来ねぇ……」

「……君たちの考察は正しい」

「「…え?」」

すると、フィリップが俺たちの意見を肯定した

 

「エクスビッカーには、ガイアメモリの力を増幅させる力がある。それは確かだが、君たちの言う通り大道克己は自身の強化の為にそのエネルギーを使った訳ではなかったんだよ」

「……どういう意味だよ…」

「…詳しく説明しよう」

 

 

風都タワーの羽が切り落とされ、タワーは酷く崩壊していった

 

「大道!お前も逃げるぞ!」

「……俺の事は放っとけ…だが、必ず忘れるな」

「……っ」

「…地獄に行ったら、この名を告ろ」

「……っ!」

「……大道克己……ふははは…ふっはははははは!」

 

真島とはぐれた大道克己はエクスビッカーに腰掛けた

 

「……風都タワーに眠るエネルギーよ…俺に集まれ…!」

 

大道は腰のマキシマムスロットにエターナルメモリを装填した

 

エターナル!マキシマムドライブ!

 

「……ふぬぁぁぁ!!」

すると、エクスビッカーが発光しだし、その光がエターナルを包む

風都タワーの中に蓄積されたエネルギーがエターナルに吸い寄せられ、エターナルには膨大なエネルギーが蓄積された

 

「……ハァ…ハァ……この力で…俺は…ハァ…」

膨大なエネルギーを吸ったエターナルはその量に耐えきれず変身が解除される

 

 

 

「……お袋…」

風都タワーの頂上に再び訪れた大道克己は、懐から古いハーモニカを取り出し、それに唇を合わせた

 

「……スゥ」

ハーモニカから流れる音色

その音色は、崩れるタワーの音が掻き消されるかのように辺りに響き、大道はそのメロディに耳を傾けながら

後ろに迫る気配を感じ、それでも演奏を続けた

 

「……」

「……その曲は…?」

タワーを登ってきた鳴海荘吉は大道に語りかける

 

「…この曲は、お袋から教わった曲だ……何故だかこの曲を聞くと妙に落ち着く」

「……」

「……だが、お袋は死んだ」

 

大道マリア

大道克己の実の母にして、克己の最愛の存在でもあった

 

「…俺が16の時だ…お袋は交通事故で命を落とした。不慮の事故なんかじゃないさ…相手は飲酒運転だとよ……なぁ、どうしてこの世の中はこんなにも不平等なんだ?」

「……」

若くして母を失った克己は、生活保護を受けながらも軍に入るため訓練を重ねて来たという

 

「…あの日から、俺の心が満たされる事は無くなった。ただ、俺の存在をこの世に永遠に刻み込む為…俺は軍のトップに上り詰め、俺の全てを奪ったこの世の中に復讐するのさ……ははは…はははははは!」

「……それがお前の目的か…?」

静かに訊いていた荘吉だったが、ついに口を開いた

 

「……なに?」

「…違うな…お前の中に溜め込んだそのエネルギーをどう使うつもりだ?」

「……」

「…俺の友が言っていた。風都タワーに蓄積されたエネルギーを有効活用すれば、とてつもない事が出来るようになる。例えば、人を甦される事も出来る…とな」

「……悪いか?お袋のいない世界で生きるなど、死んだも同然だ!それ以前に、お袋との記憶が消えていくのが俺には耐えられない。過去が消えていくなら、俺はせめて明日が欲しい!だから足掻き続ける…永遠になぁ!」

手持ちのコンバットナイフで荘吉を切りつける克己

 

「…ふっ!」

「……っ…っ!」

「…はっ!」

「…ぬっ…!」

2人の攻防がタワーの頂上で交差する

 

「…俺にも、失った大切な者が居る。だが、俺は覚悟を決めた」

「…あ?」

「……お前のような悪党を、俺は許さない」

荘吉はスカルメモリを取り出しロストドライバーを装填した

 

「 SKULL!」

 

「この街が不平等であるなら、俺は弱き者を守る。それが俺に与えられた、使命だ」

「……やはり、俺とお前は同じようだな…」

克己もエターナルメモリを取り出し、ロストドライバーを装填した

 

「 ETERNAL!」

 

「…だが、弱き者を守る?笑わせるな!そんな事では世界は救えない!この街もなぁ!」

「……ならば、俺は…俺の利己の為に戦う」

「…っ?」

「…変身…!」

「…変…身」

 

スカル!

エターナル!

 

それぞれ仮面ライダースカル、仮面ライダーエターナルへと変身する2人はタワーの頂上で対峙する

 

「……はぁぁ!」

「…トォ!」

互いの拳が互いの胸にクロスカウンター

エターナルはマントを脱ぎ捨て、訓練で培った戦闘技術をスカルに見せつけた

 

「……クッ…!」

「…はっ!はぁっ!」

「…ぬおっ…!」

押されるスカルはスカルマグナムを取り出し、トリガーを引いた

 

「…っ!」

スカルマグナムの攻撃に躊躇するも、すかさず反撃するエターナル

エターナルエッジを用いて近接での戦闘がぶつかる

 

「…トォ!」

「ぐはっ!」

すると、スカルのパンチがエターナルを怯ませた

 

「…お袋を失い…全てを失った俺は、常に孤独に生きて来た。だが、周りの連中はみんな幸せそうだった…なぁ、同じ人間同士なのに、何故こんなにも格差が生まれてしまうんだ?」

「……人は皆、自分の幸せを見つけて生きている。自分にとっての幸せを抱く事で、人は生き抜く事が出来る…」

「……」

「…人の幸せを奪う奴に、この街に生きる資格は無い」

「……なん…だと…?」

「…さぁ、お前の罪を…数えろ…!」

「……今更…今更数え切れるか!」

 

スカルはメモリをスカルマグナムに装填する

 

スカル!マキシマムドライブ!

 

「……フッ!」

「ぐぬぁぁぁあ!」

スカルマグナムから放たれるスカルパニッシャーがエターナルを空へと飛びあがらせる

 

「死神のパーティータイムは…まだ終わっちゃいない!」

エターナルエッジにメモリを装填するエターナル

 

エターナル!マキシマムドライブ!

 

「…グッ!」

すると、スカルの動きが完全に停止した

 

「このメモリには、他のガイアメモリの力を永遠に無力化させる力がある。さぁ、地獄を楽しみな!」

「……ならば…!」

 

スカルの力が完全に無力化される直前

マキシマムスロットにスカルメモリを装填するスカル

 

スカル!マキシマムドライブ!

 

「……っ!」

「…なにっ!?」

スカルの中から骸骨型のエネルギーが放出され、エターナルに突っ込んで行く

 

「……トォ!」

「…っ!」

「…貴様に相応しいのは、永遠の死だ…!」

「……永遠の…死だと…!?」

「…トォォォ!」

エターナルよりも高く飛び上がるスカルは、骸骨型のエネルギーと共にエターナルにライダーキックを放つ

スカルの足がエターナルの胸に直撃し、エターナルの中に蓄積されたエネルギーが暴走し始めた

 

「…ぐぬぁっ!…そうか……これが…!」

「……そうだ、これが……“死”だ…!」

「…これが本当の死か……ははは…ふはははははははは!ふぬああぁぁぁぁあ!」

エターナルは笑いながら断末魔を吐き、爆散した

 

 

 

「……ハァ…ハァ……翔太郎…」

消耗した荘吉は崩れるタワーの中、翔太郎を探した

すると、そこに現れた

 

「…探し物は、この子かな?」

翔太郎を抱えたジャック・ドーパント

荘吉を煽るようにそこに立っていた

 

「……誰だ貴様は…」

「…私の名はジャック…君の力には感心した。是非我々アラン機関の支援を受けてみる気はないかい?」

「……断る。その子を返せ」

「…フフフ…想像通りお堅い人物だ。まぁ、切り札はこちらにもある。またの機会に……“仮面ライダー”…」

翔太郎を荘吉に預けたジャックは姿を消した

 

「……」

 

 

「…これが、10年前のあの日の全てだ」

「…なるほどな…大道克己にも、人の心はあったんだな」

「…でも、それを師匠さんは許せなかったんだね……でもまぁ、仕方ないよ……」

全てを語り終えたフィリップは、ふぅと一息ついた

 

「…あの…エターナルがその時に倒されているんだったら、真島が変身したあのエターナルって…?」

「あのメモリは、正真正銘大道克己が使用していた物だ。エターナルの攻撃によって弱体化したスカルの攻撃は、エターナルを撃破する事は出来ても、メモリブレイクとまではいかなかったようだね……」

「それを真島が持ち出してたって事か…」

「…その後だけど、エターナルメモリを所持した真島は海外に逃亡。そして10年後の現在、この街に再び姿を現した」

「……あいつはこの街をどうするつもりなんだ…?」

「……」

「……っ」

俺は珍しく考え積める千束の表情に少しだけ違和感を持った

 

 

「……」

「…ありがとう。美味しかったよ姫蒲くん。君はコックの才能があるよ」

食事を終えた吉松シンジのグラスに、姫蒲がワインを注ぐ

 

「調理の道を選んでいたら、機関は支援しましたか?」

すると、姫蒲から素朴な質問が飛んで来た

シンジにとっては愚問だった

 

「…選ぶ?機関が支援する才能は神のギフトだ。選ぶ事など出来ない」

そう言うと、シンジはワイングラスを持ち、中のワインを揺らす

 

「…生まれながらに役割が示されている」

「人生の意味を探す必要はありませんね」

「そうだ、幸福な事だ」

 

 

 

「……」

荷物を纏める姫蒲

その中には、ガイアドライバーとは違うドライバーも入っていた

 

「……千束の扱いは、丁重にな」

「状況次第です。お約束は出来ません」

「…出来るよ、君なら」

「……はい」

 

「…あんなところでいつまでもままごとをさせてはいかんのだ……」




次回

第33話「永遠のIを/大人の世界」

これで決まりだ!


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第33話「永遠のIを/大人の世界」

ご無沙汰しております
今回から次回予告のテイストを変えようと思います。
最後までご覧ください!よろしくお願いします!



「…千束ー!お皿片付けるの手伝ってくださーい!」

「ん?あ〜…うん…」

「……?」

 

「……」

あの日から千束の様子がおかしい

何か、不安を感じているような…

不信感を抱いているような…

 

とにかくいつもの千束とは違っていた

 

真島がエターナルに変身した事に関係があるのか

それとも……

 

 

 

「あいつもこれ持ってた」

フィリップが地球の本棚に入っていた最中、千束が胸のペンダントを握りながら呟いた

あいつ、というのは十中八九真島の事だろう

 

「凶悪犯も支援されるものなんですか!?」

「…アラン機関……」

「……」

この事を知っているのはその場にいた俺とフィリップ、照井に亜樹子、たきな

そして後日その話をリコリコの皆にも話したという

 

 

 

「その事に関しては、吉松シンジが関わっているに違いない」

千束の変化をフィリップに伝えると、開口一番そう言った

 

「…やっぱりそうだよな…まさか千束を救った奴が凶悪犯を…?」

「……当てようか。君は吉松シンジに対しても慈悲を与えようとしているね?」

「…あぁ…千束があそこまで言う人物だ……信じてやりたい気持ちもある」

「……相変わらずのハーフボイルドだね」

「あぁ〜また言う……」

「でも、君のその気持ちには同情するよ」

「……え?」

意外だった

フィリップなら、街にガイアメモリを支援しているアラン機関を恨んでいると思っていた

それは吉松シンジも例外では無い

 

「…かつて、鳴海荘吉も彼と行動を共にしていた実績がある上に、まだ彼の素性を把握出来ていない。悪人と決めつけるのはまだ早い。それに、彼がメモリを支援しているとも限らないしね」

「……フィリップ…!」

「…それよりも気になるのは、彼が言っていた『約束』というのが気になる」

「…約束…一体おやっさんとどんな約束をしたんだ…?」

「…それを知っている人物が、一人いるよね」

「……あぁ…気は進まねぇが、またあの人に頼るしかないな」

俺たちは早速行動に出た

 

外に置いてあるハードボイルダーに二人で跨り、喫茶リコリコを目指した

 

 

 

第33話「永遠のIを/大人の世界」

 

 

 

「……」

「……」

昼間の道をバイクで駆け抜ける俺たち

だが、俺は一つ違和感を持った

 

この道…やけに空いている……

 

「…っ!」

すると次の瞬間、俺たちの進行先の道路に火花が散った

驚いた俺はブレーキのクラッチを握る

 

「……なんで…」

「……っ」

ヘルメットを外し、道路の先を見詰める俺たち

そこには、十数人の銃を構えたサードリコリス達が立っていた

そして、その銃口はこちらに向かれていた

 

そしてそのセンターには、楠木が立っていた

 

「……楠木…?一体どういう事だ!?」

「何故今になってDAが僕たちを…?」

一切状況を把握出来ていない俺たちに、楠木は話し掛けた

 

「…上層部の決定だ。お前たち仮面ライダーを抹殺する」

「…っ!?」

「…っ!?」

なんで俺たちが仮面ライダーだって…!?

 

「メモリとドライバーを寄越せ。そうすれば命だけは見逃してやる」

「…どういう意味だよ楠木!なんで俺たちが仮面ライダーだなんて…!」

「黙れ。これは命令だ」

楠木も俺たちに銃口を向ける

 

「……」

「……」

睨み合う俺たち

しかし、フィリップがそっと楠木に問い掛けた

 

「…そうか…やはりね」

「……ん?どうしたフィリップ」

「…翔太郎…ここは1つ、僕を信じて変身してくれないか?」

「は!?」

訳が分からなかった

目の前にいる連中は俺たちを仮面ライダーと決めつけ…いや実際そうだけど、そんな事したら火に油を注ぐようなもんじゃねぇか!?

 

「…僕にひとつ案がある。ニンジャメモリを使ってくれ」

「…お前がそこまで言うんだ……ほんとにこの場を凌げんだよな?」

「……あぁ…恐らく…」

歯切れの悪い回答

だが、フィリップがこういう時はいつも悪い方か良い方にしか向かわない

今回は後者に掛けるしかないようだ

 

「…頼んだぜ、相棒」

「……あぁ…!」

 

俺たちは楠木の前に立ち塞がる

リコリス達が改めて銃を向けた

 

「…どうやら、覚悟は決まったようだな」

楠木も銃を両手で抑えながら標準を俺たちに合わせた

 

「…えぇ…貴方の言っている事は正しい。だが、僕らにもやるべき事がある。貴方たちに、それを邪魔される訳にはいかない!」

すると、フィリップは楠木やリコリス達を煽るように言い放った

 

「…くだらん事を……メモリを使う悪魔が…人の言葉を喋るな!」

「……翔太郎!」

「…えっ!?ここで!?」

 

『 CYCLONE!』

 

フィリップは俺の事を無視してメモリを起動させた

ただ、楠木ももう止められない

四の五の言ってる暇はないようだ

 

「…あぁ〜!分かったよもぉ!」

 

「 NINJA!」

 

「「…変身ッ!」」

 

サイクロン!ニンジャ!

 

仮面ライダーW サイクロンニンジャへと変身した俺たち

すると、リコリス達が一斉に発砲して来た

 

「『はっ!』」

サイクロンの風の力とニンジャの身体能力の影響で弾丸を全て避けるダブル

 

「……なにっ…!?」

流石の楠木も、これには驚きを隠せないようだ

 

『もっと凄いものをお見せしよう…!』

 

ダブルの右腕がニンジャメモリをドライバーから抜き出し、マキシマムスロットに装填した

 

ニンジャ!マキシマムドライブ!

 

「『はっ!』」

一瞬にして楠木の前から姿を消すダブル

 

「…っ!」

現れた先はリコリスの背後

その子の首裏をトンっと叩き、気絶させる

 

1人だけでは終わらず、ダブルはその場にいたリコリス全員の背後に現れては気絶させていった

 

「……クッ…」

リコリス全員を気絶し終えたダブルは再び楠木の前に姿を表す

 

「…貴様…今何をした」

『少し眠ってもらうだけさ。僕らの話し合いに、彼女等は邪魔になるからね』

「…一体何を考えてんだ?フィリップ」

『まぁまぁ、そのうち分かるさ』

楠木に向き合うダブル

彼女の手にはまだ銃が握られている

 

『…そんな銃で僕らを倒す事が出来ないという事くらい、貴方は分かっている筈だ』

「……」

『貴方の持てる全ての力で、僕らを倒しに来い』

「…おい!急に何言ってんだよ相棒!」

俺は小声でフィリップに問い掛ける

 

『安心したまえ。今はとにかく悪役に徹するんだ』

「悪役ってお前……」

「……小僧…それに、園咲の息子よ」

「『…っ!』」

すると、楠木が口を開いた

 

「…お前たちは知らないだろう…大人の世界を」

「……大人の世界…?」

楠木は手の銃を仕舞い、懐から赤色のトリガーマグナムと同形状の武器を取り出した

 

「…あれは…!?」

『……やはりそうか…!』

何故か納得するフィリップ

楠木は続けて赤いガイアメモリを取り出し起動させた

 

「 BOMB!」

 

ボムメモリをマグナムに装填する楠木

 

ボム!マキシマムドライブ!

 

「……貴様らに教えてやろう…大人の恐ろしさを…!」

「『…っ!』」

 

 

「……」

私の人生は窮屈だ

DAの司令官として日々リコリス達を戦場へと赴き、犯罪者共を抹殺する毎日

 

だが、そんな私にも

一つだけ楽しみと言えるものがあった

 

ドーパントによる被害が拡大すれば、私はいつもあの男を頼っていた

その日も、私は事務所に訪れた

 

「……ん?」

「…ゲッ!」

「…年上に対して「げっ」…とはなんだ小僧」

なんだこの小僧は…

荘吉はこんな小僧を飼っていたか…?

 

「…翔太郎…そんなとこで何やってるんだ」

「お、おやっさん!……そこに居たのか…!」

いつもの扉から出てくる荘吉

私の存在を確認し、内容を問うた

 

「ここからは大人の時間だ」

「……クッ…!」

事務所を飛び出す小僧

私は謎の優越感に浸っていた

これで邪魔者は入らない

 

「…荘吉…早速事件の概要なんだが……」

「……」

ふと荘吉に目をやると、荘吉はずっと事務所の扉を見つめていた

何かがいるわけでもない。何かが貼ってあるわけでもない

荘吉はただただ、その扉を見つめていたのだ

その理由が、私にはすぐにわかった

 

「……相変わらずだな、荘吉」

「…なんの事だ」

我に返った荘吉は私の提示した資料に目を通した

 

「お前は子供に甘すぎる。あれくらいの小僧なら、我々は一瞬で殺せる」

「……子供は街の宝だ。傷つける訳にはいかねぇよ」

「…初めてリコリスの存在を知った時も、そんな事を言っていたな……」

 

荘吉と私が出会ったのは数年前

あるドーパント事件を機に、荘吉はリコリスの存在を知った

 

「……なぁ、荘吉…」

「……なんだ」

「…一体いつになったら…メモリを手放すんだ…?」

 

 

「…ハッ!」

「『…っ!』」

楠木が放つ光弾はダブルの真横で爆裂する

 

「なんで楠木がガイアメモリを!?」

『…やはりそうか、楠木司令…貴方はスカルの正体を知っていたんだね!』

「…っ?どういう意味だよフィリップ!?」

『あの銃は以前シュラウドが所持していた物…それと同じものを持っているという事は、彼女なスカルの協力者だったという事だ!』

「…な、なんだって!?」

「くだらん戯言を言うな!」

「『ぐわっ!』」

サイクロンニンジャの瞬発力により、致命的な攻撃は避けるものの、それでも爆裂する光弾を完全に避け切る事は出来なかった

 

『いや!僕には解る!…貴方はスカルの正体を知り困惑した。だが、鳴海荘吉という人間に触れ、一点の疑問を感じていた。ガイアメモリを使う者全てが凶悪ではないと…』

「……」

『彼と協力していくうちに、貴方は鳴海荘吉に心を委ねるようになった……だが、ビギンズナイトのあの日、鳴海荘吉の死を知った貴方は、再びガイアメモリを根絶する事を誓った』

「…一体…どうして…?」

俺は疑問をフィリップにぶつける

 

『…それが、鳴海荘吉との約束だったからだ』

「…っ!」

「……」

 

 

「…組織のアジトに…!?危険すぎる!我々もリコリスをそちらに…!」

『落ち着け楠木…俺にも心強い友がいる。ここは俺たちでなんとかしてみるさ』

「……しかし…!」

『…言った筈だ…子供は街の宝だ。傷つける訳にはいかねぇ……もっとも、こんな地獄になんか来させてたまるか』

「……」

受話器の奥に聞こえる荘吉の声

 

『…楠木…ひとつ、俺と約束してくれ』

「……なんだ」

『……もしこの戦いで俺が死んだら…』

「……そんな事…」

『…俺の家族を…翔太郎を…そして、この街の事を頼んだぜ……』

「……え?」

そこで電話が途切れる

私の荘吉の会話は、それが最後だった

 

ミカから荘吉の訃報を知らされ、私はその日から躍起になってドーパント事件を抹消していった

 

だが、訃報と同時に知らされたのは

新たなるガイアメモリを使う戦士、「W」の誕生だった

 

 

『貴方は僕らの正体にも気が付いていたんですね…』

「……黙れ!」

楠木は構わずトリガーを引いた

銃口から光弾が発射される

 

ニンジャ!マキシマムドライブ!

 

ニンジャソードにニンジャメモリを装填したダブルはその光弾を全て避けながら楠木の目の前に来る

 

「『はっ!』」

「…っ!」

ダブルの右足が楠木の顔の横で止まる

それと同時に、楠木の銃口がダブルの顔の前で止まる

 

「『……』」

「……」

「……昔のあんたなら、迷わず撃ってただろうな」

「……っ」

右足を下ろすダブル

楠木はまだ銃口を向けたままだ

 

『貴方は僕らの正体を知っていたのにも関わらず、それが世間や他のリコリス達に知られないようにし、更には幾度か僕らを見逃していた…それが鳴海荘吉との約束だから……』

「俺があんたを嫌ってた理由がやっと分かったぜ…あんたはおやっさんとそっくりだった。グゥの音の出ないあんたの正論が、おやっさんに叱られる時みたいで釈然としなかったんだ…でも、それ以上にあんたのその大人のオーラが俺を苦しめた。俺も早く大人になりてぇって……俺はあんたに憧れてたんだ……」

「……クッ…」

楠木は耐えきれず銃を下ろした

悔しかったのだ。荘吉の命を守れなかった事が…

沢山のリコリス達を犠牲にしてしまった事が…

 

そして何より…

 

「…だがあんたは間違った…沢山のリコリス達に命を落とさせ、この街を泣かせた……」

『今の貴方を見て、鳴海荘吉は許さないだろうね……』

「……」

荘吉との約束を守れなかった事だ

 

「…だからこそ、今のあんたにこの言葉を掛ける……」

「『…さぁ、お前の罪を数えろ……』」

「……荘吉…!」

膝から崩れ落ちる楠木

涙こそ流さないものの、自分の無力さに落胆し

同時に自分を責めた

心の中で、何度も…何度も何度も何度も謝った

他でもない、そんな事を思わせてしまった、自分自身に…

 

 

 

「『…っ』」

すると、俺たちの近くにリコリコの車が留まり、その中から千束とたきな、ミカにミズキが飛び出して来た

 

「ちょいちょいちょい〜!」

「一体何があったんですか!?」

「えっ…ちょっ…あれって仮面ライダー!?なんか紫なんですけど!」

「……仮面ライダー…」

4人が俺と楠木、そして周りに倒れているリコリス達を見て仰天した

どうやら千束達はクルミの情報によって来たようだ

 

『……翔太郎』

「…あぁ…もう覚悟は決まったぜ」

『…うん、僕もだよ』

そして俺たちはマスターの目を見た

マスターも同じように俺たちを見詰めて…というより睨んでいた

 

「……」

ダブルドライバーに手を掛けたダブルはドライバーをたたみ、ニンジャメモリを抜き出して変身を解除させた




次回 仮面ライダーW/L・R

「私は大切な物を見失うところだったよ……」
「……私は守れたのだろうか…」
「……誰だ…!一体誰が俺をこんな所に…!」
「…それが君の…弱さだよ……」
「…ありがとうございます。なんだか少しだけ、わかった気がします」
「……さて、始めましょうか」

第34話「Zを振り切れ/最悪なギフト」

これで決まりだ!


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第34話「Zを振り切れ/最悪なギフト」

ご無沙汰しております。2023年もよろしくお願いします。



「……」

変身を解除した俺を、マスターとミズキはあんぐりした表情で見ていた

 

「ちょいちょいちょい!翔太郎さん!なんで変身解除しちゃったのダメだよ〜!」

「違うんです店長!これには深い理由があって…!」

事情を知らない二人は俺を必死に庇う

 

「…あぁ〜!もぅ二人とも落ち着け!これにはちゃんと理由があるんだよォ!」

挙句の果てには千束が俺の帽子で俺の顔を被せて隠すもんだから頭に来てひとまず二人を落ち着かせた

 

「……マスター…」

「…翔太郎くん……」

俺はマスターの前まで来て謝ろうと思った

今まで正体を隠して来て、マスターには色んな誤解を生んでしまった

今まで独りで抱え込ませてしまって悪かったと…

 

「……マスター…す──」

「翔太郎くん!すまなかった!」

「…え?」

すると、先にマスターが頭を下げて来た

 

「まさか君が仮面ライダーだったとは…!今まで君を憎むような発言をしてしまった事を謝罪する!すまなかった…!」

マスターのとてつもない勢いの影響で発言の機会を失ってしまった俺

すると、後ろからフィリップが俺の肩に手を置いた

 

「それを言うなら「君」ではなく、「君たち」と言って欲しいね」

「……フィリップくん…」

「…確かに貴方は今まで僕らを目の敵にしてきたかもしれない。でも、僕らも覚悟が固まった…僕たちと貴方たちの信頼を僕は…いや、僕たちは信じたいと思ったんだ」

真っ直ぐにマスターの目を見つめるフィリップ

そうか、フィリップもここまで人の心を理解出来るようになったんだな…

 

「まさかあんたらが仮面ライダーだったなんてね〜、まぁ納得っちゃ納得だけど〜」

ミズキもへらへらした笑顔で応える

 

「…クルミもどっかで見てるんだろ?これが俺たちの本当の姿だ」

「……っ」

すると、千束の携帯に着信が入った

相手はもちろんクルミだ

 

『まぁ、驚きはしたが…それなら今までの事にも合点がいく。詳しい話は後で聞かせてもらうぞー』

そのまま電話を切るクルミ

携帯を持った千束は少しだけ頬を緩ませた

 

「皆理解が早いね〜」

「私も驚きました…店長なら迷わず銃口を向けるかと思ってました…」

「私をなんだと思ってるんだ……君達が仮面ライダーならば、きっと荘吉の意志も君達に受け継がれているんだろう…私はそれが嬉しいんだ」

「……マスター…」

俺たちも自然と笑顔になる

 

「…さぁ!みんな帰ろー!私が翔太郎さん達に千束スペ〜シャルを奢ってあげる!勿論ミズキの代引きでね」

「おいゴラァ!何勝手に人の金使おうとしてんじゃ!?翔太郎!あんたのせいだぞ!」

「はぁ!?俺!?」

「ははは、だったらいっその事翔太郎の代引きにすればいいよ!」

「おい!何言ってんだよフィリップ!」

「左さん、ご馳走になります!」

「たきなも何言ってんの!?」

並び歩きながら店を目指す一行

 

その後ろで、ミカと楠木の肩を並べていた

 

「……」

「…いつから気付いていたんだ?楠木」

「……ずっと前からだ」

「…今までずっと私に黙っていたのか……」

「……それは…」

「今までずっと……彼らを見守り続けて来てくれたんだな…」

「……ミカ」

並び歩く彼らを見て、ミカは楠木に微笑んだ

 

「…ありがとう…私は大切な物を見失うところだったよ……」

「……」

「…信頼という、私にとっての宝物を……」

そう言って、ミカは彼らの後を追うように足を進めた

 

「……」

夕日に染る空を眺め、その奥にそびえ立つ風都タワーを見詰める楠木

 

「……私は守れたのだろうか…荘吉、お前との約束を…」

 

 

「……ここは…?」

俺は何故、こんな所に来ている…?

この森は…かつて俺とシュラウドが初めて会い、初めてアクセルのメモリを手に入れた場所……

 

「……っ!」

そうだ…!

勤務中に勝手に身体が動き出し、気付けばここに…!

 

「……誰だ…!一体誰が俺をこんな所に…!」

出来れば、ここには二度と来たくはなかった…

 

「かつて自分を復讐の道具に仕立て上げ、駒のように扱われたあの女の事を思い出すのが嫌なのだろう?」

「…っ!誰だ!?」

すると、背後から声が聞こえた

竜の背後にはジャック・ドーパントが立ち塞がっていた

 

「…貴様…左が言っていたジャック・ドーパントか!?」

「その通り…如何かな?私の才能は…?」

「……俺に質問をするな!」

 

「 ACCEL!」

 

「…変…身ッ!」

 

アクセル!

 

仮面ライダーアクセルへと変身した照井竜はエンジンブレードを構えてジャックに向かって行く

 

「…はぁッ!」

「……フフッ」

「…クッ…はぁッ!」

しかし、攻撃が当たらない

一見ジャックがあらゆる攻撃を避けるように見えるだが…

 

「……違う…俺が攻撃を…!?」

「…その通り。君が攻撃を当てようとしていないのだよ」

「なにっ!?」

まるで竜自信が攻撃を抑えているようだったのだ

 

ジャックの身体にエンジンブレードが当たりそうになる瞬間、エンジンブレードが極端に重くなったり軽くなるような感覚があった

だが実際は重量に変化は無い

 

「私はありとあらゆる物を乗っ取り操る事が出来る。いくら園咲来人と同じ特殊体質の人間であろうと、私に攻撃を与える事も出来なければ…」

ジャックは人差し指をアクセルに向ける

 

「…私の攻撃を避ける事も出来ない……フッ!」

指先からビームを放つジャック

この距離なら避ける事が出来る

だがアクセルの身体は身動きが取れず、攻撃をもろに喰らってしまった

 

「ぐわぁぁ!」

変身が解けた照井は地面に這い蹲る

 

「…ふふふ…悔しだろう?君は私に指一本触れる事さえ出来ない……己を乗り越えなければ、君は私に勝つ事など出来ない……」

「……っ…何を言って…!」

「君はまだ、己を乗り越えられていないのさ……全てを振り切る?君は未だに井坂深紅郎や園咲文音に縛られている…」

「……クッ…!」

「…それが君の…“弱さ”だよ……」

ジャックは竜を見下すように言い放つ

 

そして、彼の目の前にひとつのジュラルミンケースを置いた

 

「…悔しかったら、この力を使うんだね……それがあれば、君は更なる進化を…己を振り切れる……」

「……っ!」

竜は恐る恐るそのジュラルミンケースを開けた

中には、トライアルメモリに似ている特殊形状のガイアメモリが一本入っていた

 

イニシャルは『Z』

 

「……さぁ、君の才能を見せてくれ…」

そう言うと、ジャックは霧のように消えていった

 

「……っ…」

 

 

 

第34話「Zを振り切れ/最悪なギフト」

 

 

 

「なにっ!?ジャック・ドーパントが!?」

鳴海探偵事務所に帰還した照井竜は早速探偵事務所のメンバーにこの事を話した

 

「…一体何を考えている…?今の僕らにガイアメモリを支援するなんて……」

「…今回の事で、以前俺たちにメモリを支援したのも奴で間違いなさそうだな」

「…だね。それよりも照井竜、そのメモリは現在所持しているかい?」

「……あぁ」

照井が懐から出したメモリは黒のメモリで、メモリの上部には特殊な形状のバイザーのようなものが搭載されている

 

「これは…!」

「……『ゼロメモリ』…以前、僕や照井竜が一戦交えた「ゼロ・ドーパント」と同じメモリだね」

「なんだってこんな物を…」

「……」

 

謎を残した今回の事は、一旦保留となった

 

だがゼロメモリはこちらで預かる事にした

フィリップ曰く…

 

《ゼロメモリは大変危険なメモリだ…一度使えば死に繋がりかねない。無の記憶を内包するこのメモリは、人間が扱うにはリスクが大き過ぎる……》

 

照井に渡すと使う恐れがある為、照井の保護の為に預かったというわけだ

 

 

 

「……ハァ…ハァ……はぁッ!」

切り株の上に縦に置かれた丸太が、照井の振り下ろしたエンジンブレードによって粉砕される

額から流れる汗が首をつたり上半身裸の胸まで滴る

 

「…はぁッ!はぁッ!」

風都のある山奥で、照井竜は修行に明け暮れていた

ジャックと対峙したあの日から照井は己の弱さを実感し、改めて力を蓄えることを決意した

 

「ハァァァッ!」

直径約1メートルの岩を粉砕する照井

 

「……ハァ…ハァ…」

少し休憩しようかと、振り返った時

木の影から井ノ上たきなが覗いていたことに気が付いた

 

「…お疲れ様です。照井さん」

「……何故君がここに…?」

「鳴海さん…奥さんから見張りを依頼されました」

「……所長か…まぁ、それならいいか」

たきなは照井に水の入ったペットボトルを手渡し、照井はそれを雑に飲み込む

 

「……ジャックは俺たちを利用して何をするつもりなんだ…?」

「…やっぱり、ジャック・ドーパントはアラン機関の人間なんですよね」

「……それはまだ分からん。あいつがアランの名を騙っているだけかもしれん、それに…次世代型ガイアメモリを設計していたのはシュラウドだ。何故あいつが次世代型ガイアメモリを作れるのかも不明な点だ」

「なるほど……」

たきなは腕を組み考え込む

そんなたきなを見て照井は再び問いかける

 

「……みんなの所に行かなくていいのか?」

「…え?」

「俺に気を使うことなんて無いぞ。俺は全てを振り切る…過去も、使命も…」

「……使命、ですか…」

「…あぁ」

「…照井さんの使命って、なんなんですか?」

「……罪を憎んでも、人は憎まない。この街の人間が俺たち仮面ライダーに求めているものこそが、俺の使命だ」

「……罪を憎んでも、人は憎まない…」

「……」

「…ありがとうございます。なんだか少しだけ、わかった気がします」

「……何がだ…?」

「……」

最後に照井の質問に答えたたきなは、その場を去った

 

「……フッ」

 

一息ついた照井は、再び修行に戻ったのだった……

 

 

「…あ、おかえりたきなぁ〜」

「はい」

日も暮れ、街灯が灯り出す時間にリコリコに帰って来たたきな

店の前のベンチで銃の手入れをしている千束と鉢合わす

 

「DAの銃じゃないですよね、それ」

「…うん〜これと一緒に貰った」

千束は胸のペンダントに手を添える

たきなはそのまま千束の横に座る

 

「…吉松氏に?」

「……そぅ…だね。大切」

「……寒くなって来ましたね」

「…そうだね〜たきなが来た日は桜が咲いてた……」

「……」

「……あれから…ヨシさん来ないね〜…」

「……」

千束の言う通り、吉松シンジはとある日を境に店に来なくなっていた

バーでの件を除けば、彼は半年以上店に顔を出していない事になる

 

「……千束は、吉松氏がアラン機関の人間である事をどう思ってるのですか?」

「……うぅん〜…どうだろう」

「……」

またしばらくの間、静かな時間が流れた

 

「…少なくとも、ヨシさんがガイアメモリに関わってる事は分かるけど…でも、それは街にメモリをばら撒く理由にはならないし……」

一見現実から目を背ける言い訳のように聞こえるが、これが彼女の本心であり、シンジを信じたいという思いの表れでもあった

 

「……大切なんですね、彼が」

「そりゃー命の恩人だも〜ん」

「でしたら、その身体も大事にしなくちゃですねっ…定期検診、行ってくださいね」

「…えぇ〜…分かったよぉ……」

たきなの急な塩対応に落ち込む千束

 

「……何が嫌なんです?」

「嫌なんじなくてぇ…」

「…なんです?」

「……ち、ちゅ…注射…」

たきなから目を背けて頬を赤らめる千束

そんな千束を見て、たきなはクスッと笑う

 

「…注射が怖いんですか?銃向けられても平気なのに」

「そぅだよーだって注射避けられないしぃ〜!」

「はははは!風都タワーのリコリスが、注射怖いって!」

「うぬぅ〜!」

 

 

 

「……」

そんな二人の会話を影から見守る翔太郎

千束の元気の無い理由が判明したが……

 

「……フッ…どうやら、なんとかなりそうだな…」

たきなと共に笑う彼女を見て、安堵の表情を浮かべるのであった

 

 

翌日

先月から延滞していた定期検診にようやく出席した千束

悪夢の注射の時間がやって来た

 

「……さっさと済ませてねっ…」

震える声で腕を差し出す千束

看護師がその細い腕に注射を刺した

 

「……終わりました」

「ふぅ〜!1番の難関突破だわぁ〜」

「毎回こんなに怖がってるのですか?」

「ん〜痛いのもあるけど、身体に異物を入れられるってのがなぁ〜」

「……」

「山岸先生はただのビタミン剤って言ってるけど…」

「今日のは違いますけどね」

「……えっ?」

看護師の言葉に違和感を持った千束が振り返ると、急に意識が朦朧とし始めた事に気が付いた

 

「……おっ…お?」

「……」

看護師に扮した姫蒲がビタミン剤と睡眠剤を取り替えていたのだ

 

「……貴様…」

「……」

「……山岸…先生…」

倒れ込む千束を支える姫蒲

 

「……丁重にするんでしたね」

 

 

「…そういえば、今日は千束はどうしたんだ?」

「定期検診です。先月から延滞していたので、私が説得しておきました」

「おぉー流石だなぁ…」

いつものようにリコリコでコーヒーを堪能する翔太郎

 

ミカとのいざこざも解消され、やっと心から安心してコーヒーを呑める事に、翔太郎は幸福感を感じていた

 

「……にしても、遅いですね」

「…え?」

「もう帰って来てもいい時間なんですが……」

腕を組んで時計を確認するたきな

耐え切れくなったのか、スマホを取り出し電話を掛けた

 

「……」

3コールが過ぎ、次のワン切りでたきなは店の裏へと行き、リコリス制服に着替えて店を飛び出した

 

「えっ…ちょっ…たきな!?」

置いていかれ唖然とする翔太郎

だが、彼も感じていた

千束になにか、嫌な事が起こる。妙な胸騒ぎが、翔太郎の心を惑わしていた

 

 

 

「……ハァ…ハァ…」

街の中を颯爽と走るたきな

目的地はもちろん、今朝千束が向かった山岸先生の元

 

「……っ」

ここでたきなは道路の縁に停車している赤いバイクを見つけた

 

「……たきな、こんな所で何をしている?」

「…照井さん…!」

「……どうやら、答える余裕は無さそうだな」

たきなの表情から何かを悟った照井はバイクに跨りエンジンを掛けた

 

「……乗れ、飛ばすぞ!」

「…はい!お願いします!」

 

 

「……」

千束を手術台に乗せ、胸元を開く姫蒲は腰にガイアドライバーでは無い、また新たなドライバー…『アランドライバー』を装着した

 

「……さて、始めましょうか」

 

《 VOLTAGE 》

 

ガイアメモリをアランドライバーに差し込みドーパントへと変貌する姫蒲

 

「……」

千束の目は、覚める気配がなかった……

 

 

 

「……君のせいだよ、ミカ…」

あるビルの一室

吉松シンジはワインを呑みながらそう呟いた




次回 仮面ライダーW/L・R

「……なんの2ヶ月!?」
「…余命だ、千束の余命」
「…千束の役割は千束が決める事だろ!」
「それがこいつの使命だからだ」
「おそらく、復帰の辞令だ」
「あの女は、俺が倒す…!」

第35話「Zを振り切れ/迫るタイムリミット」

これで決まりだ!


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第35話「Zを振り切れ/迫るタイムリミット」

結局新しいメモリ出て来ちゃいました…
大体の予想は出来てると思いますが…最後まで楽しんでいってください!



「……」

ボルテージ・ドーパントへと変貌した姫蒲は千束の胸に手を伸ばす

 

「……これが…」

 

目的の物の摘出に成功した姫蒲は、手術室の照明を付けた

 

「……っ!」

背後の足音と殺気を悟った姫蒲は攻撃に備えた

手術台の陰に隠れ、相手の正体はすぐに分かった

 

「…千束…!千束!」

井ノ上たきな

錦木千束の相棒であり、彼女がここに来る事は予想出来ていた

だが、少し早かったか…

 

「ふんっ!」

「……っ!?」

すると、彼女の背後から現れた照井がエンジンブレードを引きづりながら走って来て、振り下ろすように姫蒲を牽制した

 

「貴様!彼女に何をした!?」

「……」

「…黙秘か…ならば…!」

 

「 ACCEL!」

 

「…変…身ッ!」

 

アクセル!

 

仮面ライダーアクセルへと変身した照井はエンジンブレードを構える

 

「……っ」

「はぁっ!」

窓を突き破って外に出る2人

 

「照井さんっ!」

たきなは窓から身を乗り出したが、既に2人は視界から外れていた

 

「……千束っ!」

振り向いたたきなは手術台で横たわっている千束を見つめる

 

「……千束…?千束!」

「……」

何度も声を掛けたが、彼女の目は覚めなかった…

 

 

 

第35話「Zを振り切れ/迫るタイムリミット」

 

 

 

「……クッ…」

「……」

逃げるボルテージ・ドーパントを追う照井

 

「……っ!」

しかし、その距離は縮まるどころか遠ざかって行く

 

「…逃すものかッ!」

アクセルドライバーを腰から外し、表裏を反転させる

すると、アクセルの身体は変形していきまるでバイクのような形態

仮面ライダーアクセル バイクフォームへと変形した

背中のパーツは前輪に、脚部が後輪・マフラーに、複眼はヘッドライトのように青く光る

 

「……フッ!」

マフラーから一気に熱風を放ち加速するアクセル

 

「……ッ!」

あっという間にボルテージに追い付いた

 

「はぁっ!」

「グッ…!」

後輪でボルテージをなぎ倒すアクセルは変形を解除し人型に戻る

 

「……なるほど、流石は仮面ライダー…と言ったところですか」

アクセルに感心したかのように、ボルテージはアクセルに身体を向ける

 

「少しは口もきけるようだな…」

「はい、ですが……」

「……っ!」

ボルテージは手に稲妻のような小型のナイフを出現させた

 

「……早急に終わらせて頂きます。これも、仕事なので」

「…何をふざけた事を!」

切り掛るアクセルだが、それを簡単に避けるボルテージ

更に稲妻のナイフによる近接攻撃

アクセルもそれを見切りエンジンブレードで対処する

 

「貴様が何者かは知らんが、ここで倒させてもらう!」

「……それはどうでしょう…?」

「…何っ!?グッ…!」

突如アクセルを蹴り上げるボルテージ

 

「……フッ!」

「……グッ…」

アクセルの胸に手を置くボルテージ

次の瞬間、アクセルの全身に高圧の電流が流れる

 

「ぐがぁぁぁぁ!」

流石のアクセルもこの攻撃には対処出来ず、変身が解けそのまま地面に倒れた

 

「……クッ…貴様…!」

「貴方を殺すつもりはありません。それでは…サヨナラ、仮面ライダー…」

アクセルの前から姿を消すボルテージ

 

結局、事件を聞き付けてやって来た翔太郎に助けられるまで、照井は地面に這いつくばっていた

 

照井の中には、大きな屈辱が残った

 

 

「……」

 

夢を見た

 

「……」

 

深く、深く

水の中を堕ちる夢

 

「……」

 

怖い

怖い

 

私は、恐怖で支配されていた

 

「……っ」

すると、私の頭を誰かが撫でるように触れた

 

とても優しい

暖かくて、大きな手が……

 

《…大丈夫だ…お前は必ず……》

 

 

 

「……っ……ん…んん〜?」

「…っ!」

目が覚めると、千束の横には彼女を心配そうに見つめるたきなの顔があった

だが、彼女だけでは無い

 

リコリコのメンバーだけでなく、鳴海探偵事務所のメンバー、そして照井もその場に集まり、彼女の目覚めを待っていた

 

「…おー…お揃いだな……」

状況が把握出来ていない千束だけは、その雰囲気に抗った

 

 

 

「…眠剤の影響で暫くダルいかもだけど……」

千束を診察する山岸

一方の千束は、自身の胸元に触れた

 

「……何された?山岸先生」

「……あの女…」

 

山岸はその場にいた全員に説明した

 

千束の胸に埋め込まれた人工心臓は充電式となっていて、DAの定期検診の度に千束の心臓に電気を送っていた。しかし、ボルテージ・ドーパントへと変身したあの女により、急激な高電圧による過充電でハードへのアクセスが不可能となり、それは同時に充電の不可を意味していた

 

「…つまり、錦木千束の人工心臓は……」

「……あの女に破壊された。と言っていいわね…」

「……マジかぁ…」

山岸の言葉により言葉が出ない一行

 

「……後どのくらい持つ?」

「…幸い充電の直後だったから、持って2ヶ月」

「……2ヶ月って…?」

「…動き回らなければもうちょっと持つわ」

たきなが口を挟む

しかし、山岸は構わず事実を述べる

 

「…なんの2ヶ月!?」

「余命だ」

「「……っ!?」」

たきなの質問に答えたミカ

その知りたくもない答えに、たきなと翔太郎は過剰に反応した

 

「……千束の余命」

「……嘘…だろ…?そ、そんなの!壊れた所を交換して…!」

「出来ないのよ…」

「……っ」

取り乱す翔太郎を、山岸は絶句させた

 

「…悔しいけどよ!私たちの技術と知識じゃ、どうにも出来ないのよ!」

「……っ」

「……千束の人工心臓に…代わりは無いんだ」

「……そん…な…」

その場の全員が絶句する

その中で、たきなは勢いよく診察室から出ようとする

 

「ちょっとたきな!どこ行くの!?」

「あの看護師を始末します!」

「いいのよ、こんな事しなくて」

「良いわけないでしょ!?」

「…いいのよ」

「……え?」

荒れるたきなを、千束は手馴れた様子で収めた

 

「…元々、そんな長くなかったんだから」

「……元々…?」

「あいつを殺したところで、変わんないよ…さ、帰ろ!」

 

 

「……まさか、こんな事になるとはね…」

「……」

事務所に戻った俺たちは、まずは状況の整理から話し始めた

だが、やっぱり落ち着かねぇ……

 

「……悪ぃ…俺はパスだ」

「どうしてだい?彼女の事が心配じゃないのかい?」

「心配に決まってるさ!!千束はおやっさんから預かった大切な命だ!それが奪われるかもしれねぇなんて……そんなの…あんまりじゃねぇか…」

「…人には必ず、死期が訪れる。それが早まっただけだ」

「……照井テメェ!」

照井のあまりにも無慈悲な発言に対し、翔太郎は衝動的になる

照井の胸ぐらを掴んだ彼の目尻には雫が溜まっていた

 

「…だからこそ、残りの時間に彼女に何が遺せるのか…それが大事なんじゃないのか…?」

「…っ」

だが、照井のその言葉が翔太郎の目を覚ました

 

「彼女に残された時間は少ない…だからこそ、彼女のこれからの余生に悔いの残らないよう全力で支えてあげる事が、今の僕らに出来ることだ。かつて君が、僕に残してくれたものがあるように……」

「……フィリップ…」

「…あの子はきっと、運命を受け入れてる…だったら、君が彼女の想いを受け入れないとね」

「……亜樹子…」

2人の言葉に、翔太郎は俯く

そして、涙が流れぬように上を向き、鼻をすすりながらこう答えた

 

「……そうだな…おやっさんの依頼はまだ果たせてねぇ……最期まで見届けてやんねぇとな…」

涙を堪えながら答えているのは一目瞭然だった

だが、これが翔太郎なりの決断なんだと、その場の全員が納得した

 

「…あの看護師の女…奴の腰にはドライバーが装着されていた」

「…ドライバー…!?」

「あぁ…ジャック・ドーパントと同様のものがな…」

「…となると、その看護師の女はアラン機関の人間で間違いなさそうだね」

「……でもよ、なんで千束の命を救ったアラン機関が、千束の命を奪おうとしてるんだ…?」

「…しかも、機能を完全に停止させる事も出来た筈だ…でもそうはしなかった……まるで彼女に生きるチャンスを与えているかのように……」

ここで、翔太郎とフィリップの頭に、一つの結論が思い浮かぶ

それは事実でもあり、希望でもある事に、この2人は気付いていた

 

「……フィリップ…一つ頼みたい事がある」

「…あぁ…君の考えている事と、僕の考えている事が同じなら……その答えはYES以外ありえない」

「……流石は俺の相棒だな……っ」

すると、翔太郎のスタッグフォンが鳴る

 

相手は……

 

「……楠木…?」

 

「……」

黙って鳴海探偵事務所を去る照井

すると、後ろから亜樹子が追って来ていた

 

「竜くん、どこ行くの?」

「……あの看護師の女を探す。なぜ彼女を襲ったのか…きっちりと聞き出しておく」

バイクのエンジンを掛け、ヘルメットを被る照井

不意に亜樹子の頭を撫で、その場を颯爽と走り去った

 

「……竜くん…」

 

 

 

「……」

 

《……それが君の…“弱さ”だよ》

 

《それでは…サヨナラ、仮面ライダー…》

 

「……」

もし奴らが繋がっているのだとしたら、奴らの目的は一体なんだ…?

 

いや、そんな事よりも…

 

照井の脳裏には、ボルテージ・ドーパントの姿が思い浮かんでいた

それと同時に、とても悲しそうな笑顔を浮かべる少女の顔

それがかつて、井坂に殺された妹の笑顔に少し似ていた事に気が付いた照井は、情動が抑えられなくなっていた

 

「……あの女は、俺が倒す…!」

 

 

「……」

「……」

とある高速道路

俺たちは楠木に呼ばれ、DA本部に向かっていた

バードボイルダーは今日も風の抵抗を受けながら颯爽とスピードを上げていく

 

「…よくDAに行く気になったな」

「なってなぁ〜い!なんか渡す物があるとかで楠木しつこいのよー!」

俺の後ろに乗っているのは千束だ

俺は楠木から千束と共にDAに来て欲しいという指示を受けなんとか千束を説得

1度は諦めたが、後に本人から直談判があったようだな

 

「……」

「……もしかして意識してる?」

「…そりゃそーだろ……いきなり余命2ヶ月なんて、あんまりな話だ」

「…ま、それもそうかっ……はぁ〜だから言いたくなかったのよぉ…」

「……フッ」

「…なに?」

「…いや、お前はいつも通りだと思ってな……」

「……」

千束がそれに返事をする事はなく、俺たちは何事もなくDAの本部、楠木が待つ司令室に入った

 

「時期死ぬにしては、元気そうだな」

「おいおい楠木、そりゃあんまりじゃねぇか?」

「いいのよ翔太郎さん。耳が早いですね〜流石は天下のDAはー…で、何ですか?」

「……単刀直入に言う、DAに戻れ」

「ゲヘッ!ゴホッ!もう死ぬんでちょっと体調がぁー!」

楠木の言葉に下手な芝居を打つ千束

そのままソファにくつろぐと、楠木は釘を刺すように言った

 

「真島が来たそうだな」

「二回会いましたねー」

「…二度取り逃した」

「それは私の仕事じゃないんで」

そんなギクシャクした空気に耐えかねたのか、翔太郎が大きなため息をついた後口を挟んだ

 

「なぁ楠木さんよぉ…千束はもう長くねぇんだぞ?そんな話よりも、もっと楽しい話題を──」

「いつまで経ってもそんなんだから半熟のままなんだぞ、小僧」

「……クッ」

今、額の血管が浮いた気がしたが気のせいだろう

千束がいる手前だ、今日はそんな口論をする為にここに来たわけじゃないのだからな…

 

「ところでぇー楠木さーん何くれるんですか〜?」

「……」

千束の煽りに対し、楠木は無言で机に1台のカメラを置いた

何の変哲もない、一般的なデジタルカメラだ

 

「……それがなん…」

「なんで楠木さんがこれ持ってるの!?」

すると、千束はそのカメラを勢い良く拾い上げた

 

「…情報漏洩阻止の為、回収していた」

「ずっと探してたのにー!ドロボー!」

「近く、大規模な真島討伐作戦を行う。お前達も参加しろ」

「なっ…!」

「…へへ…冗談キツいね…」

「…多くの者が、お前を優秀なリコリスにする為に尽力したというのに、ろくに役割を果たさずに死ぬんだな……」

「おい楠木!それ以上は…!」

耐えかねた俺は再び口を挟んだ

だが、楠木の眼光が俺の動きを止めた

 

「お前は黙っていろ。これは荘吉との約束なんだ…」

「…おやっさんとの……」

「…荘吉もお前を育てる為に尽力し、死んだ。お前は彼らの信念を無駄にするつもりか?」

「……」

「…千束の役割は千束が決める事だろ!何であんたが口を挟む必要がある!?」

「……それがこいつの使命だからだ」

「…っ!」

楠木の言葉に、俺は今度は腹から声を出そうと息を溜めた

だが、それも束の間

千束が机を思いっきり叩き威嚇した

 

「……いい加減にしてよ二人共!私の事で喧嘩しないで…!」

「……千束…?」

普段温厚な千束が…こんな乱暴に発言するとは……

 

「…それに、今だから言うけど…私はその荘吉って人は覚えてないし、知らない人から信念を託されても困るよ……」

「……」

千束の言葉に絶句する翔太郎と楠木

千束のカメラを握った手に力が入りながらも、彼女は述べた

 

「…翔太郎さんの言う通り、私の思う役割と楠木さんが思う役割は違うよ。何が私の使命だったしても、決めるのは私だから」

手の力を緩めた千束は出口に向かう

 

「…話は終わっていない。座れ」

「……たきなをDA(ここ)に戻してあげて?そしたら考えなくもなーい」

「……えっ?」

翔太郎が驚いたのは、千束の提案もそうだが

さっきまでの表情とは打って変わっていつも通りの顔に戻っていたからである

 

「……行こ、翔太郎さん」

「…え…あ、あぁ……」

「…あ、カメラ(これ)ありがとう〜」

「……」

司令室を後にした俺たち

廊下を歩く千束に、俺は問い掛けた

 

「…本気か?たきなをここに戻すって…」

「ん〜?だってたきな、ずっとここに戻りたがってたから」

「……まぁ、それはそうだが……お前が…」

「……」

翔太郎はそのまま言葉を詰まらせた

彼の口から、その後の言葉が出てこないからである

 

「……いや、なんでもない」

「…うん」

「……」

 

我ながらハーフボイルド

そう思いながら再び風都の街をバイクで駆ける翔太郎と、いいつまで経っても表情の掴めない千束であった……

 

 

「…いらっしゃいま……」

「……」

 

翌日

リコリコに来店して来たのはフキとサクラだった

 

「パフェパフェ〜!なんでもいい!すぐ出来るやつ!」

「ははは、フキもいるか?」

「…い、いえ…すぐ帰りますので」

ミカにパフェをねだるサクラと、たきなに一つの封筒を渡すフキ

封筒にはDAのロゴが印刷してあった

 

「明日までに返事しろ」

「……これは?」

「おそらく、復帰の辞令だ」

「…っ!」

「真島のアジトが判明した。突入にあたって戦力がいる」

「良かったな〜おーい!」

「オラ帰るぞー」

「えっ…ちょ……」

ミカにまた来ますとだけ伝えたフキはサクラを乱暴に店から引きずり出した

 

「……」

「やったじゃないか井ノ上たきな!」

「……」

「……?」

 

本来、ここは喜ぶべきなのだろう

明日までに返事を…

そのフキからの言葉を反芻しながら、たきなは無言で勤務に戻るのであった……

 

 

 

「なんすかあいつ!DA戻りたかったんだからもっと喜べって話っすよねー!」

「……バカが移ったんじゃねぇの?」

「……え?」

 

 

「……ふぅ〜!今日も一日お疲れ様〜!」

 

その夜

店締めのゴミ出しを終えた千束は、腕を組み背伸びをした

とてもじゃないが、死にかけの女の子には見えなかった

 

「……ん?」

「……」

「あれ〜?刑事さんこんな所で何やってるの〜?捜査?」

「……」

そんな千束をそばで見ていた照井に、千束は話しかけた

だが、照井は無言で千束に近付き口を開いた

 

「…突然だが、お前に頼みたい事がある」

「……え?」

照井の瞳からは、覚悟の意が感じられた




次回 仮面ライダーW/L・R

「…10年前の話だ」
「お前も千束を殺しの道具として見ていたのか…」
「千束が生きる可能性が、少しでもあるなら…」
「……俺は、独りじゃない」
「今名付けよう、彼の名は……!」
「…さぁ、振り切るぜッ!」

第36話「Zを振り切れ/漆黒のアクセル」

これで決まりだ!


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第36話「Zを振り切れ/漆黒のアクセル」

今回結構長めです。章のラストなので無理やり詰めた感ありますが、ご了承ください。よろしくお願いします。



「……マスター…吸うんだな」

「……罪悪感を覚えると、吸いたくなる。自分を痛めつけるには丁度いい」

「そんな不味そうに吸うなら辞めろ」

「……フッ」

雨の日

リコリコに来ていた翔太郎とフィリップ

そしてミカにコーヒーを淹れたクルミが、カウンター席に座り煙草を吹かしているミカを見詰めた

 

「ところで、何か分かったかい?天下のウォールナットは」

「今のとこお手上げだな……アラン機関、吉松シンジ。ネット上には彼らにまつわる情報は皆消された後しかない」

「僕も色々と調べてはみたけど、いずれも収穫は無かったよ」

「……だろうな」

「だから、直接知る人間から訊こうと思って…今日はここに来させて貰った。それも、二人が居ない時にな」

「……」

クルミが淹れたコーヒーを飲むミカ

それをただただ見詰める三人

雨の音は、増すばかりだった

 

「…マスター、本当は気付いてるんだろ?ジンの件、千束の心臓を壊した女…黒幕が、吉松シンジである可能性に…」

「……」

「……」

「……10年前の話だ」

 

 

「……おー…ホントにヨシさんだ…」

橋の下

雨宿りをしていた千束は時間潰しに以前楠木から取り返したカメラの中を見ていた

そこには今よりも少しだけ若いシンジの写真が収められていた

 

「……っ」

だが、千束はそこで気が付いた

シンジの横に、白い帽子と白いスーツを身にまとった男性が立っていた事に

目元は帽子の鍔で隠れて見えないが、少々生えた髭に

千束はどこか既視感を覚えた

 

「……この人…」

千束は何かを悟ったのか、カメラの電源を切って鞄に仕舞い、彼から貰った銃もしっかりと仕舞った

 

「……」

 

 

 

「…突然だが、お前に頼みたい事がある」

「……え?」

先日、照井に呼び止められた千束はある事を彼から伝えられた

 

「俺は、あの看護師の女を探し出し倒すつもりだ」

「ちょ…そんな事しなくていいって!言ったでしょ!?あいつを殺したところで何も変わんないよ!」

「…殺す訳では無い」

「…え?」

「…錦木千束…皆が皆、お前たちリコリスと同じ思考であると思うなよ」

「…そ、それは……」

「殺す事だけが復讐じゃない。俺が奴を倒す理由は他にある」

そして、千束は照井の考えを伝えられた

 

「お前に、自分の思いを振り切る覚悟があるのならば…俺に協力して欲しい」

「……一体…何をすればいいの?」

「……──」

 

 

 

「……うん。私、決まったよ」

千束は雨空を見上げ、その瞳を輝かせたのであった

 

 

「……っ!」

道路を運転していた姫蒲

ヘッドライトとワイパーをつけて雨の中を走行する

しかし、突如ブレーキを踏み急停止する姫蒲

 

「……ハァ…」

大きなため息をついた彼女は車を降り、目の前に立っていた真っ赤に染る仮面ライダー、アクセルの前に姿を現した

 

「貴様がこの間の看護師の女だな」

「……だったらなんですか?」

姫蒲の言葉に、アクセルはエンジンブレードの切っ先を姫蒲に向けた

 

「署まで御同行願う…洗いざらい教えてもらおうか!」

「教える事なんて何もありませんよ…」

 

《 VOLTAGE 》

 

ボルテージメモリをアランドライバーに差し込みドーパントへとなる姫蒲

 

「それとも何ですか?貴方も彼女と同じ目に逢いたいのですか?」

全身の電気を収束させ稲妻の刃を生成するボルテージ

彼女の問い掛けに対し、アクセルはこう答えた

 

「……俺に質問をするなッ!」

 

 

 

第36話「Zを振り切れ/漆黒のアクセル」

 

 

 

「……シンジに千束を紹介した日、その日が運命の始まりだった…」

 

 

「……素晴らしい…銃では彼女を殺せそうにないな…」

いつものバーのカウンター席

ミカは千束のDAでの訓練映像をシンジに見せていた

千束は何人ものリコリスのインク弾を避け、更には千束を囲む彼女等を圧倒した

 

「…あぁ…しかし」

『…千束!』

映像の中で倒れる千束

すぐさまフキが駆け付け、訓練の中止を懇願する

 

「先天性心疾患だ…持って半年、病が彼女を殺す」

「……そうはさせません」

 

 

 

「…千束に人工心臓を、だと?」

アラン機関、吉松シンジからの提案を聞いたミカは、それをすぐさま荘吉に伝えた

 

「…それで、千束はあとどれだけ生きれる」

「……持って千束が成人するまでだそうだ。だが、それだけ生きれれば充分…」

 

《充分殺しますか?》

 

「……」

「…充分…なんだ?」

「……いや…なんでもない」

歯切れの悪い会話に、荘吉は少しだけ疑問感を持った

 

「…吉松シンジと言ったか…?今度、その男に合わせてくれ」

「……分かった」

だが、数ヶ月による彼らの信頼が荘吉自身の口を閉ざした

 

 

 

「シンジは私にこう問い掛けた、充分殺しますか?と…リコリスの現役はせいぜい18、それまでにどれだけの人を殺せるか…シンジの目にはそれしか写っていなかった」

「…で、マスターはなんて答えたんだ?」

「……期待には応えよう、と…」

「…お前も千束を殺しの道具として見ていたのか……」

外の雨音は勢いを増すばかり

ミカの声やクルミの声が重く響く

 

「…いつ変わったんだい?」

「……手術も間近に迫り、私とシンジは仲を深め合っていた」

「……」

「…シンジはその際、私に質問した。子供の世話は得意かと……」

 

 

「はぁッ!」

「……フッ!」

「…クッ…すばしっこい奴だ…!」

アクセルの攻撃を軽々避けるボルテージ

雨は止める気配が無い

 

 

 

「……ハァ…ハァ…フゥー……こんにちわ〜…」

鳴海探偵事務所に訪れた千束

事務所には誰もおらず、部屋の明かりも消えていた

 

「……ヨシっ」

それは千束の思惑通りであり、彼女の目的は事務所自体では無かった

 

翔太郎の帽子が掛けられた扉、その奥の基地に忍び込んだ千束は目を懲らす

 

「……っ!」

目的の物を見つけた千束はそれを持ってすぐさま事務所を出る

雨空の下、今頃戦っているであろう彼の元へと向かって行く

 

全ては、己を振り切る為に…

 

 

「術後、千束が才能を活かせるように助けて欲しいというシンジの頼みから…私はリコリコで千束の世話をし、千束を本当の娘のように育てた。私たち3人にとっての娘が育つのは、悪い気はしなかった…」

「…ま、待て!おやっさんは千束の事どう思ってたんだ!?まさかおやっさんも千束の事…」

「荘吉が千束に求めていたのは殺しの才能じゃない。ただ長く生きて欲しいという単純な願いだ。それに、彼も君達と同じように、リコリスの事を肯定的には考えていなかったからな…」

「…そっか…良かった……」

「…話を続けよう」

 

 

 

「……」

「……」

手術本番、ミカとシンジは手術台に眠っている千束にオペを続けていた

 

人工心臓の移植にはほぼ成功。後は胸を閉じて手術は完了する予定だった

だが……

 

ピピピピ!ピピピピ!

 

「……クッ!」

「な、なんだ…!?」

人工心臓に不具合が発生し、手術室に響く警告音と心電図の音色

 

「…クッ…やはり耐久性に問題が…!」

「シンジ…!どうするんだ!?このままでは千束が…!」

「……っ」

千束の胸を抑えながら嘆くシンジ

ミカに人工心臓を見せた時、彼は忠告していた。人工心臓には耐久性の問題があり、まだまだ見直しの余地があると

だが、こんな所で問題が発生するとはシンジ自身も把握していなかった事態であっただろう

だが、彼には解決策があった

それはこの場に於いて最善の策であり、同時に最悪の選択でもあった

 

「……ミカ…私を信じてくれないか?」

「…え?」

「千束の心臓を正常に動かすには、同じ心臓の記憶を宿す力が必要となる」

「……シンジ…?」

「…千束に、()()を使う」

「そ…それは!?」

シンジが取り出した物、それはガイアメモリであった

黄金に輝く、イニシャルはハート型で「H」のガイアメモリ

それは世間を騒がす悪魔の道具であり、それの邪悪さはミカもシンジも把握していた

 

「な、何を言っているんだ!?そんな事をしたら千束が怪物に…!」

「大丈夫だ!このメモリによって千束が怪物になることは無い。このメモリは千束の心臓のペースメーカーのような役割を果たす、言わば命を繋げる糸だ。これがなければ千束は本当に死ぬぞ」

「…だ、だがそんな事荘吉が知ったら…!」

「ミカ!今大事な事はなんだ!?千束の命か?それとも友との信頼か?……答えはすぐに出るだろう?」

「…そ、それは…!」

ミカの両肩を抑えるシンジは、彼の目をじっと見詰めた

 

「…ミカ…私を信じてくれ」

「……クッ…分かった…!」

渋々了承したミカ。それを見たシンジはメモリを起動させた

 

《 HEART 》

 

千束の胸にハートメモリが吸い込まれていく

確かに千束の身体はドーパント化はせず、更には心電図の数値も正常になっていく

 

これにより、手術は成功に終わった

 

 

「……千束の心臓に…メモリ…?」

「…つ、つまりそれでは…錦木千束は……」

「…ドーパントだった…というわけか」

「……嘘…だろ」

ミカから伝えられた衝撃の事実に、3人は動揺を隠せないでいた

 

「…姿こそ人間だが、千束はドーパントとして生きて来た。あの子の強靭な肉体と身体能力は、このメモリの能力によるものだ」

「……」

だからリコリス襲撃事件の時、車に引かれてもピンピンしてたわけか…

 

「……じゃあ…あの看護師の女は…」

「高圧電流により千束の心臓を1度止めて、メモリに死んだと思わせ、メモリを体外に排出。それを持って逃げ出したんだ。そうすることによって、千束の寿命を縮ませたんだ」

「……なるほど…インビジブル・ドーパントの時と同じ方法で…」

「…千束はそれを知ってるのか?」

「教えるわけが無いだろう…だからこそ、私は今まで一人で背負って来た。シンジが犯した罪を、私が犯した罪を…」

「……」

 

 

 

「……おいわい?だれから?」

「…救世主だ」

「……なら、人を助ける銃だね…」

 

術後、目が覚めた千束にシンジから預かった銃とフクロウのペンダントを渡した。あの日、1度だけシンジと出会った千束は、シンジの口から出た「救世主」という言葉に感化され、自分も救世主になる事を誓った

 

「シンジは、その日から姿を消した。私の前からも…」

「…千束が殺しをしない理由はそういう事か…皮肉なもんだな」

「……でも、これで大体分かった。ボクを狙ったアランは多分吉松だし、あの日メモリを受け取った真島とも繋がってる…思想的に奴を支援する理由も理解出来たしな」

「真島を捕えれば、千束の心臓について何か分かるって事ですか?」

すると、カウンターの奥からたきなが姿を表した

 

「聞いていたのか!?」

「はい、ミズキさんも」

「ハッ…私までバラさなくてもいいじゃなぁい…!」

どうやら隠れて俺たちの会話を聞いていたようだ。つまり、千束がドーパントだったという事実も…

これは悪い事をした

 

「…彼の足取りが掴めない以上、動きの派手な真島から辿る方が早いね。DAの作戦に参加出来るのはチャンスだ!」

「……断ろうと思ってました」

「何故だい!?望んでいた復帰だろう!?」

「……そりゃ、千束の最後の2ヶ月だからな…」

俯くたきなだったが、今の会話で決心が着いたのか

真っ直ぐフィリップの目を見た

 

「…でも私、DAに戻ります。千束が生きる可能性が、少しでもあるなら……」

「…私から千束に言おう」

「いえ、自分から言います。時間をください」

「……っ」

すると、このタイミングで俺のスタッグフォンの着信音が静かな部屋に鳴り響いた

 

相手は亜樹子だった

 

「…どうした?亜樹子」

『翔太郎くん!竜くん見てない!?』

「あ?照井?こっちには来てねぇぞ?」

『…そう…フィリップ君が危ないって言ってたあのメモリ!基地に無いのよ!』

「何っ!?」

「……っ」

俺とフィリップは目配せをする

これは大変な事になった

 

『それだけじゃ無いの…メモリが置いてあったそばに落ちてたんだけど……』

「……」

『ふうとくんのキーホルダー…』

「……っ!」

 

俺とフィリップはすぐさまリコリコを飛び出し、2人でハードボイルダーに跨りエンジンを掛ける

 

「左さん!」

「たきな…!皆も来る気か!?」

「今の千束に無茶はさせられん!私達も共に行くぞ!」

「行けぇ!ハーフボイルド探偵!!」

「……よし、行くぞ!」

「あぁ!」

フルスロットルで雨の中を進んでいくハードボイルダー

後ろにはリコリコの赤い車が後を着いてくる

 

「……照井…!千束…!」

頼む…間に合ってくれ!!

 

 

「 TRIAL!」

 

トライアル!

 

アクセルの赤い装甲が剥がれ落ち、青のトライアルへと変身する

 

「はァっ!」

「…ッ…少しは早くなったようですね」

「少しでは無い!俺は、音速をも超える!」

その言葉通り、アクセルトライアルはボルテージの周りを音速を超えるスピードで走行

何も無いところで雨粒が弾ける様は、透明な柵に囲われたような感覚だった

 

「はァァ!」

「がァっ!」

アクセルトライアルが振り下ろしたエンジンブレードの斬撃により、ボルテージはダメージを受ける

 

だが、それでも彼女は平気そうであった

 

「……クッ…やはり、あの力が必要か…!」

「…照井ィィ!」

「…っ!左!?フィリップ!?」

すると、背後から猛スピードで向かってくるバイクに乗った翔太郎とフィリップに気が付いた照井

その後ろには赤い車も着いて来ていた

 

「…来るな!これは俺の戦いだ!手出しは無用!」

「そんな事言ってる場合か!そいつってあの看護師だろ!?」

「……」

バイクから降りてヘルメットを外し、大声で叫ぶ翔太郎

 

「…なんで…なんでまた一人で抱えてんだよ!俺たち仲間だろ!?お前、復讐の連鎖を断ち切るんじゃ無かったのか!?」

「……」

すると、照井はゆっくりと振り返り、馴染みのある言葉を発した

 

「…左…俺にくだらん質問をするな」

「……えっ?」

「俺たちは仲間であり、俺は復讐の連鎖を断ち切るつもりだ…だが、一つだけ間違っている事がある」

「…?」

「……俺は、独りじゃない」

照井のその言葉の次に聞こえたのは、少女の大きな叫び声だった

 

「刑事さぁぁぁん!」

「…千束!?」

「これぇ!受け取ってぇ!」

走って来た千束は照井に向かって何かを投げ付けた

それは、以前彼から徴収した「ゼロメモリ」であった

 

「ゼロメモリ…!やはり彼女が持っていたか!」

「照井!そのメモリは…!」

「今は彼を信じてあげよう、翔太郎くん」

「…マスター…!」

翔太郎の肩にずっしりと重たいてを載せるミカ

その目は、真っ直ぐ照井の方を向いていた

 

 

 

「……茶番は終わりましたか?」

「何度も言わせるな、俺に質問をするなと…!」

 

「 ACCEL!」

 

アクセル!

 

再び赤い装甲を見に纏った照井はゼロメモリを構えた

 

「……」

「……っ」

そして、千束の方に振り向く

大きく頷いた千束を見て、照井は覚悟を決めた

 

「 ZERO 」

 

「……俺は俺を…振り切るぜ…!」

 

アクセルドライバーからアクセルメモリを取り出し、ゼロメモリを装填する

そのままハンドルを回すと、アクセルの身体が真っ黒に染まった

 

ゼロ!

 

「…グッ…がァァァァ!」

すると、ゼロメモリからアクセルの全身に黒い鎖のような物が巻き付いた。それはまるでアクセルの身体を絞めるように強固に、頑丈に巻き付いていた

 

「…やはりゼロメモリは危険だ!このままでは死ぬぞ!照井竜!」

フィリップの必死な説得も、彼には通用しなかった

何故なら彼は……

 

「…知らないのか…フィリップ…!」

「……っ!」

「…俺は…死なんッ!」

 

苦しみながらも、照井はゼロメモリのバイザーをアクセルドライバーの前面に下げた

バイザーの「Ø」の文字が白く光る

 

Shake off !!

 

すると、黒いアクセルの装甲ごと鎖は砕け散り、トライアルよりもコンパクトな体型へと変化した

トライアルにあったタイヤの装備がなくなり、全身は黒く艶やかに輝き、複眼のヘッドライトは黄金色に輝いていた

 

「……っ!」

この変化には、流石のボルテージも驚いていた

 

「……「ゼロシグナル」を乗り越えた…やはり彼は只者では無い」

「……あぁ…それでこそ照井だ…」

「……今名付けよう…彼の名は…!」

 

雨の降る中、漆黒のアクセルはエンジンブレードをボルテージに向けて構えた

 

「…仮面ライダー…アクセル・ゼロ!」

 

「……さぁ、振り切るぜッ!」




次回 仮面ライダーW/L・R

「メモリブレイク…出来ねぇ!?」
「ロボ太、作戦を思い付いた…」
「荘吉と千束が出会ったのは、雪の日だった…」
「見て見て荘吉さん!おっきい雪だるま出来たよ!」
「千束、お前は…自由に生きろ」
「……キチさん…?」

第37話「Fに別れを/雪の降る日に…」

これで決まりだ!


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第37話「Fに別れを/雪が降る日に…」

何気に「オリジナルドーパント 設定」の方も更新しているので、良かったら読んでみてください。オリジナルで考えたドーパントやメモリの設定等が記載されております。



「……今名付けよう、彼の名は……仮面ライダー…アクセル・ゼロ!」

「…さぁ、振り切るぜッ!」

漆黒のアクセル、仮面ライダーアクセル・ゼロへと変身した照井はボルテージに突っ込んで行った

 

「…ッ!?」

トライアルの数倍の速さ、その速さにその場の誰もが着いていけなかった

 

「……み、見えねぇ…!」

「…ゼロメモリとは、「無の記憶」を内包するガイアメモリだ。あらゆる物を「無」にする事が可能であり…今の彼は、あらゆる移動に対する抵抗を無に帰しているんだ」

「…照井…本当に大丈夫なんだろうな…?」

 

 

 

「はァっ!」

「…フッ!」

「はっ!はぁぁっ!」

アクセル・ゼロによる攻撃はボルテージを押していた

 

「…クッ…おかしななりですね……それが貴方の本当の力ですか…」

「…これは俺だけの力では無い。俺と、俺の仲間達が紡いだ…さしずめ、絆の力とでも言おうか」

「……絆の力…ですか」

 

エンジン!

 

エンジンブレードにエンジンメモリを装填するアクセル・ゼロ

 

「俺は独りではここまで来れなかった…だが、誰かと困難を乗り越える事で、俺は全てを振り切る事が出来た」

「……」

「……憎しみでは人は救えない。守りたいと思う気持ちが、本当に人を救う事が出来る。何より、人の心をな…」

「……人の心を…救う…?」

「…憎しみを振り切り、心を救う!それが仮面ライダーアクセル…俺の、流儀だ!」

 

エンジン!マキシマムドライブ!

 

「はっ!」

「…っ!」

アクセルはボルテージにエンジンブレードを投げ付けた

だが、エンジンブレードはボルテージに直撃する寸前で停止する

 

「……っ!?」

ここでボルテージは気が付いた

エンジンブレードの柄の先端から黒い鎖がアクセルの腕に繋がっている

 

「はぁっ!」

「…グッ」

エンジンブレードをまるで鞭のようにしなやかに舞い踊らせながら斬撃を加えるアクセル

そのままエンジンブレードを引き寄せキャッチする

 

「……終わりだッ!」

 

ゼロ!マキシマムドライブ!

 

アクセルドライバーのクラッチを引くアクセル

腕の鎖がボルテージを拘束、更には右足に鎖が巻き付く

 

「……はぁぁぁ…はっ!」

「……クッ!」

「はぁぁぁぁあ!」

 

アクセルは身動きの取れないボルテージの胸にキックを放つ。すると右足の鎖が解かれボルテージの周りを円形上に回転

 

「…フッ…はぁぁぁあ!」

降り立ったアクセルは再び後ろ回しで蹴りを放つ

ボルテージに「Ø」の文字が現れ、次第に爆発した

 

最後の言葉を、彼はボルテージに吐き捨てた

 

「……絶望がお前の、ゴールだ…!」

 

 

「やったぁー!やったよ翔太郎さん!刑事さんが勝ったァ!」

「あーもう!分かったから!」

「…まさか本当にゼロの力を使いこなすとは……ゾクゾクするねぇ〜…」

「……照井くんは、本当に全てを振り切ったのだな…」

私も見習わなくちゃいけんな……

 

煙が晴れた向こうには、無様に倒れるピンク髪の女が横たわっていた

勝負は決まった

だが、この女には聞き出さなくてはいけない事があると、照井は近付いた

 

「……っ!」

 

《 VOLTAGE!》

 

「…っ…何っ!?」

 

すると、姫蒲は再びボルテージメモリをアランドライバーに差し込みドーパントに変貌した

なんと、アクセルの攻撃をモロに受けたボルテージはメモリブレイクに失敗していた

 

「嘘だろ!?また変身しやがった!?」

「…いや、おかしい!そんな事は有り得ない!」

ボルテージの再びの変身を目の当たりにし、翔太郎とフィリップは衝撃を受けていた

すると、彼らの背後に以前感じたプレッシャーと同じものを感じた

 

「それは、このドライバーに秘密があるからだよ…園咲来人…」

「……ジャック・ドーパント…!」

リコリコのメンバーを含めたその場の全員の動きが停止する

どうやらジャックが力を発揮しているようだ

 

「アランの支援により誕生した、通称『アランドライバー』…ガイアドライバーと同じくメモリの毒素の影響を受けない他、このドライバーの最大の特徴は…」

「……っ」

「…このドライバーを装着して変身したドーパントは、必殺技を受けてもメモリブレイクされないという仕様になっているのさ」

「……メモリブレイク…出来ねぇ…だと!?」

ジャックは翔太郎達を後ろから通りすがり、最後にミカのところに立った

 

「……フフッ」

「…っ」

ミカの袴の中を探るジャックは、ミカからスカルメモリを取り上げ、耳元で囁いた

 

「……これは返してもらうよ…?」

「…そ、その声は…!」

「……フフッ…それではさらばだ、仮面ライダーの諸君。ボルテージ、君も帰るよ」

「……はい」

ジャックとボルテージが消えると、全員の動きが正常になる

 

変身を解除する照井、そして顔を青ざめるミカ

 

「……」

その日は、雨に濡れた道路を走る車のタイヤの音が

やけに大きく聞こえた気がした

 

 

「…へ〜…ん?ぬわぁっ!?」

トイレから戻ると、いつも彼が座っている椅子に真島が腰掛けていた

 

「いつの間に!?」

「…奴が言ってた例の『ヨシさん』…?誰?」

「えっ?さ、さぁ〜?」

ここでロボ太は自身も関係している「吉松シンジ」については浸隠そうとした

だが、そんな事は真島にはお見通しである

エターナルバレットの銃口をロボ太に向ける真島

ロボ太の頭のパトライトが光る

 

「ぬわぁ!わかった!あいつを支援したアラン機関のエージェントだ!」

「…やはりそうか」

真島はエターナルメモリをペン回しのように回転させ掴んだ

 

「…ロボ太、作戦を思い付いた……」

「……へ?」

 

 

 

第37話「Fに別れを/雪が降る日に…」

 

 

 

「…マスター、この間はありがとな」

「…なに、私は真実を話しただけだ。なんの罪滅ぼしにもなってない」

「そんなの関係ねぇだろ?俺は、マスターが俺たちにちゃんと向き合ってくれてんのが嬉しいんだよ」

「……そうか」

数日後、その日は一人でコーヒーを飲みに来た翔太郎

ガランとした店内を見渡してふと気が付いた

 

「…そういえば、今日は千束とたきなは?」

「……2人で遊びに行っている。たきながDAに戻る前に、少しでも思い出が残せるようにな…」

「…そうか…たきなもなかなかやるな」グビッ

 

あの後、千束と再び遊びの約束をしたたきな

今日はマスター一人で切り盛りしているらしい

 

「……なぁ、マスター」

「…ん?」

「その間の話で一個気になったんだけどよ…どうしておやっさんは千束を大事にしてたんだ?そこの接点って何なんだ?」

「……荘吉と千束が出会ったのは、雪の日だった…」

マスターは俺に教えてくれた

千束とおやっさんの関係の始まり

そして、おやっさんが千束を大事にする理由

全て納得のいくものだった

 

 

 

「…千束〜待ってくれぇ〜!」

「ほらほらー先生〜!こっちこっち〜!」

その日、風都は季節外れの大雪に見舞われ、辺りは白銀の景色に包まれていた

その日、私と千束が2人で任務に向かっていると、千束は急に楽しそうに走り出し私はあの子を追い掛けていた

 

「…いてっ」

「……っ?」

すると、千束は白い帽子にロングコートを羽織った男にぶつかった

雪道に尻もちを付いた千束は彼を見上げた

 

「…荘吉っ!」

「……ミカ…」

「……」ジーーッ

振り向いた荘吉は千束を見る

 

「……娘か?」

「…い、いや…親戚の子だ。今日は私が面倒を見る事になっていてな……」

「……」

当時、千束がリコリスと知られる訳にはいかなかった私は咄嗟に嘘をついた

 

すると、千束は勢い良く立ち上がり荘吉に目配せをした

 

「おじさん誰!?先生と知り合いなの!?」

「…俺は鳴海荘吉、探偵だ。リトルレディの名は?」

「私!千束!よろしく荘吉さん!」

「…フッ…そうか、千束」

荘吉はその大きな手で千束の頭を撫でた

 

「……俺にも娘がいてな、少し懐かしいと思ってしまった」

立ち上がった荘吉はミカに視線を移す

 

「…あぁ、だが…子供の世話は大変だ。つくづくそう思うよ」

「そうだな……だが…」

荘吉は楽しそうに雪だるまを作る千束を見て微笑んだ

 

《おとーちゃん見てや!でっかい雪だるま出来たでぇ!》

 

「見て見て荘吉さん!おっきい雪だるま出来たよ!」

「…あぁ、立派だな」

「…えへへっ」

嬉しそうに微笑む千束、何故だか故郷においた娘の事が浮かんで来た

 

「……千束、お前は…自由に生きろ」

「…え?自由に?」

「あぁ…やりたい事を、お前のやりたいように。ただ忘れるな?一つだけ大事な事を教えてやる」

「うん!なになに!?」

「……何事も、『いのちだいじに』だ」

「…いのちだいじに…?」

まだ小さい彼女に説明するのは少し早いとわかっていたが、荘吉の仕事柄上、それを言わずにはいられなかったのだろう

 

 

「荘吉は、千束を自分の娘…大阪に置いてきた亜樹子くんと姿を重ねていたようだ」

「……そっか…だからおやっさんは…」

一つ間を置いて、俺は切り出した

 

「…どうにか、千束を生かせられる方法は無いだろうか」

「それならあるよ!」

「どわぁっ!?フィリップ!?」

突如来店してきたフィリップ

どうやら、あの後に千束の心臓について調べたようだ

その時得た情報を俺たちに共有しに来たようだ

 

「錦木千束の心臓をまた再起させる方法はただ一つ、彼女の中に入っていたメモリ、ハートメモリを…また彼女に差し込む事だけだ」

「…ちょ、ちょっと待ってくれよ相棒!それじゃ千束はドーパントに逆戻りじゃねぇか!俺が欲しいのは、千束がドーパントになること無く生きれる方法であって…」

「もちろん、それは一時的な話だ」

「…えっ?」

フィリップの言葉に、翔太郎は不思議そうな顔をする

 

「ハートメモリについて調べると、ある特徴を見つけた。それは…ハートメモリはエクストリームの力に干渉出来るという事だ」

「…ハートメモリが、エクストリームに干渉?」

「つまり…彼女の身体にまたハートメモリを差し込み、彼女の身体とメモリが融合している状態で、僕らのエクストリームの力で、ハートメモリの情報を彼女の身体ごと書き換えれば良いのさ!」

「…そうすれば、千束の心臓は元に戻るのか!?」

「…あぁ…おそらくね。彼女の身体の情報を書き換えた後で、彼女の意思でメモリを抜き出せば、万事解決だ!」

「おぉ!!」

「……だが、そう簡単にいくのかい?」

すると、ミカが落ち着いて答えた

 

「…どういう意味だい?」

「相手はアラン機関だ…そう簡単に行くとは思えん」

「おいおいマスター…あんたが卑屈になってどうする?千束に一番生きてて欲しいのは、他でもないマスターなんじゃないのか?」

「……私は…」

「……」

「…私は、千束が生きたいように生きてくれれば…それで良いんだ……」

「……」

「……」

 

 

「…なんか、今日のマスター元気無かったな」

「まぁ、ジャックにスカルメモリを奪われ…錦木千束の現状に進歩が無い事を考えると、納得だね」

「…進歩が無い?さっきお前が解決策を……」

「確かに、僕はハートメモリの特徴を捉えた上であの策を講じた。だが、所詮は僕の推測に過ぎない…彼も、それを理解していたんだろうね」

「……そっか…」

帰り道、俺たちは俺たちはマスターの変化に気付きながらもリコリコを後にした

 

「…まさか、不殺の心得が吉松シンジから来ていたとはね…想定外だった」

俺達はその道中、先日のミカからの証言をおさらいしていた

 

「……でも、奴の言葉がなければ千束は今頃殺人兵器になってただろうよ。それを考えれば、奴の言葉も…」

「…本当に?本当にそんな事を思っているのかい?翔太郎」

「…えっ?」

「…彼女に影響を与えた人間は吉松シンジだけでは無い。記憶はなけれど、鳴海荘吉の意志もしっかりと彼女に受け継がれている。僕はそう思うよ…」

「……フィリップ…」

フィリップはすっかり暗くなった空を見上げる

 

「…以前の僕もそうだった……」

ビギンズナイトのあの時…組織の作り出した「ガイアタワー」の中枢部に囚われていたフィリップは、おやっさんの力によって救われた。フィリップから聞いた話だと、「地球の本棚」に強引に干渉したおやっさんは、当時名前も思い出せていないこいつに「フィリップ」という名を付け、フィリップの意志でガイアタワーの装置から脱出させる事に成功した

だが、その後におやっさんは撃たれ、倒れるおやっさんと泣き叫ぶ俺を見て悟ったという。自分の罪が、決断をせずに生きてきた結果、街を…沢山の人を泣かせたという事実を…

 

「鳴海荘吉は、多くの人間に影響を与えた人間だ。きっとその魂は永遠に生きるものだ。とても曖昧で、楽観的な意見だけれど…」

「……」

「…それが…“漢の浪漫”というものなのだろう?翔太郎」

「…あぁ、流石は俺の相棒。わかってんじゃねぇか!」

「へへっ…あ、見たまえ翔太郎!」

「…あ?」

フィリップは上を見て口角を上げていた

 

「……っ」

俺もつられて上を見ると、空から白い粒がゆらゆらと降ってきている事に気が付いた

 

「……雪だ…」

「……翔太郎、きっと戦いは始まったばかりだ。真島、そしてアラン機関との決着の日が、必ずやってくる」

「……」

「…だが、その時が来たら…僕らは決断を下さなければならない。例えそれが、残酷な選択であっても……」

「…分かってるさ。この街の人々の笑顔を守れるんなら、俺はなんだってやってやる。だからそん時まで…半分力貸せよ、相棒…!」

翔太郎はフィリップに握り拳を突き出した

 

「……フッ…当然さ、だって僕らは…」

フィリップは翔太郎の拳に拳を当て返した

 

「「二人で一人の仮面ライダーだからな!」ね!」

グータッチをしたまま微笑む彼らの頭上には、白く煌びやかな雪が、優しく降り注いでいた

 

 

「…やったな!」

「……やったぜ」

一方、拳を軽くぶつけ合う千束とたきな

 

21時から降る予定だった雪を見に高台の公園に来たが、予定通りとはいかず、落ち込むたきなを千束は慰めていた

 

「…あ、今日中にDAに連絡しないと…!」

「うん、ほら行って!」

DAへの復帰の報告をたきなから受けた千束は、喜びに満ち溢れていた

 

「…あ、これ!」

「餞別だ持ってけ!」

「…ありがとう。行ってきます」

軽いステップで階段を下りるたきな

そんな彼女を千束が見ていると…

 

「……お?…わぁ…」

空から降る雪

まるで二人を祝うように、そして見送るようにして更に街灯の明かりで幻想的に輝く

 

「…っ!」

たきなもこれには気付き、思わず足を止め千束を見る

彼女に見せたかった雪をようやく見せる事の出来たたきなは、DAに向けて足を運んだ

 

「……はぁ〜…雪かぁ……積もったら明日店の前に雪だるま作──」

 

《…千束、お前は…自由に生きろ》

 

「……」

たきなを見届けた千束は店に向けて足を進めた

不意に、何処か懐かしげのある声が蘇る

長らく忘れていた、()()()の声が…

 

「……キチさん…?」

 

 

「……」

シンジの車を囲む真島の一行

降りてきたシンジに対し、真島は微笑んだ

 

「…初めまして……ヨシさんっ」

 

これが悪夢の始まりである事を、まだ誰も知らなかった…




次回 仮面ライダーW/L・R

「リコリコは閉店しまーす」
「…世話になった」
「俺は、この店が好きだったよ…」
「…見つけ出し、殺せ」
「私はお前に興味は無い!吉松の居所を…!」
「…一つ…一つだけ、思い出した事があるの」

第38話「Fに別れを/それぞれの道へ」

これで決まりだ!


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第38話「Fに別れを/それぞれの道へ」

ご無沙汰しております
リコリス・リコイル、新作発表されましたね
劇場作品か、OVAか、はたまた2期か…今から楽しみです!
それでは!



「ホントに論文から追えるの〜?」

「あんな人工心臓なんて、治験が難しいだろう」

「…まぁ、入れてみて失敗!とかだったら大事だもんな」

「非合法に実験出来る機会を、アラン機関が与えたんだ」

「なるほど…戸籍の無いリコリスにはうってつけという訳だね!」

千束の心臓について調べるクルミ、ミズキ、フィリップ、そして翔太郎の4人

クルミのいつものタンスの中の顔面を、4つの顔が覗いていた

 

「アランが研究書を見つけたきっかけが、どこかにある筈なんだけど…」

「ま、そこら辺はフィリップの検索でも引っかかんなかった事だから任せたいんだけど……」

「翔太郎さーん!先生から伝言で……」ガラッ

「うわぁぁあ!!」

すると、翔太郎の背後に千束が来た事に驚く翔太郎と、画面を必死に隠すクルミとミズキ

 

「……なに……っ」

だが、勿論完全に隠せる訳もなく

更に千束の勘の鋭さにより、状況を把握されてしまった

 

「……やっぱもう終わりにしようかね〜」

「…え?何がだ?」

「……リコリコは閉店しまーす」

「……は?」

「……ヘッ」

「……はぁぁぁぁあ!!??」

千束の衝撃的な言葉に、この場の誰もが驚いた

 

 

 

第38話「Fに別れを/それぞれの道へ」

 

 

 

「あんまり私の事で皆の時間取るのも悪いし、このお店は最後まで楽しい場所じゃないとね!」

「…本気か?お前はそれでいいのか?」

「元々そのつもりだったんですよ、むしろ考えてたよりも長かったくらい」

「……」

カウンター席に腰掛けた俺たちに千束は説得を始めた

 

「…さぁ〜!皆もたきなを見習って自分の道に戻りたまえ〜!Hey You!ミズキは何処に行きますか!?」

「えっ!?…こ、婚活サイトで知り合ったバンクーバーのイケメンに会いに行こうかしら…」

ミズキはタッチパネルを持ちながらネイティブに答えた

 

「わぁ〜!どれどれ?…うっわムッキムキだ…Heyクルミは!?」

「…ボクはこの国じゃお前がいないと命が危ない」

「あんたDAに狙われてるしねー」

「…この国からは離れるよ」

「じゃあドイツにしなよー!」

「…ドイツ?」

疑問に思ったクルミは千束に振り向く

 

「分かった!ずばりボードゲームだね!」

「そう!本場だよ?大きなコンペもあるし…」

「…ならお前も来いよ。旅券くらい作ってやるよ」

「んーふふ、それもアリだな…でも先生が寂しがるからやっぱダメー!」

「……」

クルミはマスターの顔をチラッと見た

マスターは気にせずコーヒーの在庫をチェックしていた

 

「…いつか、たきなを誘ってあげてっ!」

「……あぁ」

「Hey!翔太郎さんとフィリップさんは!?」

「……俺たちは変わらず、この街を守っていくつもりだ。それはずっと変わんねぇ」

「おほほ〜やっぱブレないね〜それでこそハードボイルド探偵だよー!」

「…フッ…ま、当然だな!」

千束の言葉を聞き、俺は誇らしげに答える

 

「……」

だが、内心では千束の提案には反対だった…

 

この店が無くなるのは、これまでここで過ごして来た思い出が無くなってしまう気がして。おやっさんの頃から紡いで来た思い出が、消えてしまう気がして…

 

「…僕は君がいなくなった後も、アラン機関について調べる予定だ。僕らを支援した本当の目的、吉松の真意、調べる価値は充分ある」

「…ふふ…フィリップさんらしいね!でもー?」

「……ん?」

「…あんまり根気詰めすぎないでね、身体を大切に!」

「…こんな時でも君は、他人の事を心配するんだね……」

フィリップがボソッ口ずさんだ言葉にクスッと笑った千束は、俺の方を向き優しく声を掛けた

 

「……翔太郎さん」

「…なんだ?」

「……私が居なくなったら、たきなを宜しくね!」

「……あぁ、でも…もうあの子なら大丈夫だろうよ」

「……」

「…あの子はもう、お前のおかげで…充分強くなってる」

「……うん、そうだね…!」

優しくも哀しくもある笑顔は、俺の胸を締め付けた

 

 

「4月のメモリ取引に始まり、地下鉄襲撃、リコリス殺害、警察署襲撃…これら全ての事件の首謀者が、真島と呼ばれる、この男です」

リコリスが集められる中、前方の大きなモニタに真島の顔写真が大きく映る

 

「世界中をまたに掛ける戦争屋だ…我が国でも10年前に確認されている。皆もよく知っている…風都タワー事件だ」

更にモニタに当時の千束の写真が映る

 

「全員処刑したと思っていたが…」

 

「……大道克己の手により生き延びた…か」

「おいフィリップ、目立った事するなよ?怪しまれるぞ」

その日、俺達は楠木に招集を受け、DAの本部に来ていた

 

議題の内容は、真島の潜伏場所が割れた為突入するというものだった

俺達はもしもの時の用心棒としてお呼ばれされたようだ

 

「…全力で攻撃する」

楠木の言葉に、全員が起立する

俺達も慌てて立つ

 

「……見つけ出し、殺せ」

「……」

楠木の渇いた瞳を、翔太郎は呆れた瞳でそれを見ていた

 

 

「……はぁ〜ん…心臓、ね」

真島は情報を抜き終えたパソコンからUSBメモリを抜き乱暴に放っとく

 

「お前らの関係は大体把握した。哀しい勘違いだな」

「……」

ここは真島の潜伏場所

真島の目の前に縛られたシンジが座っていた

シンジの事を調べあげる為、ロボ太と協力して彼を捕獲したのだ

 

「お前も罪な奴だ…憧れのヨシさんがこんな奴だと知ったらさぞかしガッカリするだろうな。奴に同情するぜ…」

「……」

「…でもよ、思い通りにならないからって手を出すのはアランのルール違反だろ?お前大丈夫なのか?」

「彼女が道を違えたのは私のミスだ。責任を果たす」

「じゃあ俺も殺すか?」

「君は、優秀なチルドレンだよ。メモリは1000本で足りたかい?」

すると、真島は立ち上がり机の上に置かれた空き缶や空き瓶を払い除けてシンジにエターナルバレットの銃口を向けた

 

「恩着せがましいな…俺のやつと同じだぜ?思うままに生きてる。だから思うままにあんたをぶっ殺すかもしれねぇ…良いのかそれで?」

「…アランの理想を果たせるなら、命だろうと捧げてみせよう」

「……ハッ」

シンジの言葉に落胆したのか、真島は椅子に腰掛ける

 

「…気色の悪いったらねぇぜったく……お前らDAと同じだわ…コソコソ隠れて手前勝手るお正義様で世界を操ろうとしやがって……DAの後はお前らだ、アラン機関」

「……」

「…本丸は何処だ…?あぁ?」

「……フッ」

「……ケッ!」

シンジの何一つ変わらない表情を見て、真島は更に気色悪るがる

 

「…お前らが使ってるドライバー…俺にも支援してくれよ」

「……君の手元にはロストドライバーが行ってると把握しているが…?」

「……やっぱり…大道を支援したのはお前か」

「…さぁ、それはどうだろうね」

 

 

「…今度はケースに入らず空港に行けるね」

タクシーに荷物を積み終えた千束は後部座席に乗るクルミを軽く煽った

 

「……」

「…どーした可愛い顔が台無しっ!」

解せぬ表情のクルミの頬をつねる

 

「……」

「…ん〜?」

「……世話になった」

「…なーに〜?らしくないな〜」

特に最後の言葉もなく、千束はクルミの横に座るミズキに視線を移した

 

「ミズキも達者でな!」

「…おうよ…!」

クルミの前でグータッチをする二人

 

「…じゃ、千束の事任せたから」

「……あぁ」

そんなミズキは千束の横のミカに声を掛ける

 

「あんま無理言うなよ〜千束〜!おっさんもう歳なんだから〜!」

「へいへい…」

それを最後に、タクシーの窓が閉ざされる

そのまま発車されたタクシー

最後まで彼女は笑っていた

 

「……さ、片付けを始めますか先生〜」

「……」

 

 

『オール・グリーン、各部隊順調に進行しています』

「……」

 

真島が潜伏していると思われる貨物船の中に侵入して行くリコリス達

俺達もそれをアシストする為たきなについて回っていた

 

「敵の状況を確認」

フキが先陣を切って指示する

 

「それなら、こいつの出番だな」

「…カタツムリっすか?」

「こういう時に役に立つんだ、こいつらは」

 

《 デンデン!》

 

デンデンセンサーを起動した俺は辺りを見渡す

狭い通路もくまなく探したが、敵の姿は確認されなかった

 

「……逃げられたか…」

少し開けた部屋に入った時、フィリップが呟いた

 

「…っ!」

すると、部屋にあったスクリーンに真島が大きく写った

 

『おぉ〜沢山来やがったな〜修学旅行かぁ?』

「…下ろせ」

スクリーンに銃を向けるリコリス達をフキが鎮める

 

「……真島」

「……」

続々と部屋に入ってくるリコリス

最後に楠木が部屋に入って来た

 

『お、おー引率の先生もいたか。何者だあんた』

「お前を殺す指揮を取っている者だ。真島」

『自己紹介は不要みたいだな〜つまりリコリスの親玉か』

「目的は金か?」

『へへっ…それもある。仲間の生活もあるしな…だがそれ以上に興味のある仕事だから引き受けた』

「…興味?マフィアに手を貸す事にか?」

楠木が一歩前に出る

その隙を見て俺はフィリップの方に振り向く

 

「……フィリップ」

「…あぁ」

 

《 フロッグ!》

 

俺は小声でフィリップにフロッグポットの起動をお願いし、フィリップはそれにすぐさま答える

 

『…正義の味方気取りの悪党がどんなに辛かった事かよ』

「……悪党はお前らだろ」

『善悪の物差しは現代に於いては法だ。お前らは法の元に存在しているのか?』

「その法が生まれる前から我々は存在し、政治体制を超えてこの国の治安とモラルを育てて来たのだ」

『…へへへへ…体制を超えて?お前ら何様なんよ…』

「それを話すつもりは無い。結果としてこの国の利益は守られている」

『マキャベリズムってやつ?古くせっ…んなもんがまかり通ってると知って世間はどう思うかね?』

「要らぬ心配だ。真の平和とは悪意の存在すら感じない世界の事だ。お前も、誰の記憶にも残らず消える」

『お得意の情報操作か…だがな、悲惨な現実を知らなければ、平和の意味さえ人々は忘れてしまうんじゃないのか〜?与えられる物ではなく、勝ち取るものだって事をな…』

「…フッ…賢しい事を言うじゃないか。悪党も自分が悪である認識には耐えられないか」

『心配してやってるんだぜ?善悪の天秤ってのはな、どっちに傾くにしてもお前らみたいな存在に操られるべきじゃねぇ…バランスを取り戻さなきゃな』

「…それが風都タワーを狙う理由か」

『ハハッ…そこまでお見通しかい!』

「いくらメモリを多用しようが、結果は10年前と同じだ」

『…どうかな?今回もあいつが助けてくれるかな?』

 

「……どうだフィリップ、逆探知出来そうか?」

「…まだ時間が掛かる。引き続き引き伸ばしてくれ」

またもや小声で会話する俺たち

その会話を聞いたのか、はたまた独断の行動なのか

たきなはスクリーンの前に出た

 

「待ちなさい!」

「たきな!」

『…おー黒い方〜、それに仮面ライダーのお二人じゃねぇか〜!』

「……チッ…真島…」

たきなを追い掛けて咄嗟に前に出てしまったが為に、俺とフィリップの存在も奴にバレてしまった

 

『おっと…その話はここではしない方が良かったかぁ?』

「問題ない。彼女達には既に正体を明かしている」

『…なんだつまんねぇの…んで、黒い方は久しぶりだな〜お前はこっちに戻ったんだな』

「…吉松は何処」

『なんだ、お前もヨシさんか?人気者だな奴は』

「私は貴方に興味は無い!吉松の居所を…!」

『…俺もお前の方には興味ねぇよ…まぁゆっくりしてってくれ、そこにあるコーヒーもまだ暖かい筈だ』

「…待て…!」

スクリーンの明かりが消え、通信が遮断された

 

「…フィリップ!」

「……ダメだ…失敗した」

「……クッ…」

逆探知には失敗し、更にそこに重い空気がのしかかる

 

 

解散となった俺達

フィリップは真島の足取りを辿る為にDAに残り、俺は一人で夜道を散歩していた

 

「……」

冬の冷たい空気が包む中、俺は迷うこと無く足を進めていた

何か事件で嫌な事があると、いつもこの店に来たくなる

それが例え、なくなってしまう場所だとしても……

 

「…あれ!?翔太郎さん!?」

「……よ、千束」

「…なになに〜?何か嫌なことでもあった〜?」

「…まぁな……」

店の戸締まりをしていた千束は変わらず笑顔だった

 

「……」

そして不意に、この言葉が出て来た

 

「…俺は、この店が好きだったよ……」

「……えっ?」

「…この場所は、俺にとって最高の居場所だった…マスターの選んだセンスの良い音楽。絶品のコーヒー。そして…二人の看板娘がいる、この店がな…」

「……翔太郎さん…」

「…おやっさんがこの店を気に入ってた理由が痛い程分かるぜ。今更かもしんねぇが…」

俺は微笑みながらも俯く千束を見た

 

「…これが最後なんて言わせねぇ…リコリコは、俺にとってのもう一つの居場所だ。何としても守りたい」

「……」

「…お前は違うのか?この店を守りたくはないのか?」

「……分かってる。こんなの私も良くないって事くらい…」

「…じゃあ何故…!?」

「でもこうでもしないと!…天国に行った時に、あの人に顔向け出来ないじゃん…」

またもや卑屈なことを言う千束に呆れた俺は

俺に背を向けた千束に問いかける

 

「……天国って…っ…」

「……」

「…あの人って…千束、お前まさか…!?」

だが、一つ千束の言葉に引っかかる部分があった

 

「…一つ…一つだけ、思い出した事があるの」

振り返った千束の表情からは、何か決意のようなものを感じた




次回 仮面ライダーW/L・R

「おやっさんの事…思い出したのか!?」
「ハートメモリを抜かれた事で、彼女の記憶が覚醒したんだ」
「それではこれより、風都タワー完成セレモニーを開催致します!」
「……始まるぞ」
「後は頼んだぜ…マイハッカ〜…」
「みんな、私のお父さんだよ」

第39話「Fに別れを/辿る記憶の中で」

これで決まりだ!


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第39話「Fに別れを/辿る記憶の中で」

物語も佳境に迫って来ました…
まだまだ途中ですが、最終回までのカウントダウンが始まりつつあります
最後までどうぞ楽しんでください!



「…一つ…一つだけ、思い出した事があるの」

「…ま、まさか…おやっさんの事…思い出したのか!?」

まさかの千束の発言に、俺は驚きを隠せなかった

さっきまでの作戦の疲れが嘘のようだ

 

「ほんと!一つだけ!一つだけなんだけどね…!」

「なんでもいい!話してくれ!」

俺は自然と口角が上がる

失われてしまったと思われた千束の記憶が、何が原因かは分からないが、こんなに嬉しい事は無い

少しでもおやっさんの事を知って欲しい

俺はこの時、そんな事しか考えていなかった

 

「……実は…!」

「千束、そんなところで何してる?もう閉めるぞ…」

店のドアからマスターが出て来た

 

「…翔太郎くん」

「よ、マスター」

「…すまなかったな、こんな事になって……もう君にコーヒーを淹れる事は出来なくなってしまった…」

「…い、いや良いんだよマスター…!俺全然気にしてねぇから!んじゃ、明日も早いんで寝るな!じゃあな!」

俺は身体の向きを変えて足早に帰ろうとした

 

「…あまり、無理をするな」

「……っ」

が、マスターの言葉が俺の足を止めた

 

「…はぁ…本当に、君と荘吉は良く似ている」

「…えっ?」

「嘘を着くのが下手くそなんだ…私には、君たちの心の悩みなんてのはお見通しだ」

「……マスター…」

「……千束には素直な気持ちを伝えたのだろう。私にも言ってくれ」

「……あぁ…なら代わりに…」

「…ん?」

「……マスターのコーヒー、飲ませてくれよ?」

「……フッ…あぁ、好きなだけ飲みなさい。千束もな」

「…お!いいの〜?先生太っ腹だね〜」

 

その日、俺は朝になるまで店に居続けた

コーヒーの飲み過ぎに注意しながらも、俺の思いの丈をマスターにぶつけては、泣いたり笑ったり、そんな楽しい夜を過ごした後

朝になり、俺は再びDAに戻った

 

 

 

「……そうかい、錦木千束が鳴海荘吉の記憶を…」

「おいおいもっと喜べって〜!嬉しい事だろ!?」

「…確かに喜ばしい事だが、素直には喜べないよ」

「…え?なんで?」

DAに戻った俺は早速フィリップに千束の記憶について教えた

だが、フィリップの表情は曇りを増した

 

「…きっと、ハートメモリを抜かれた事で、彼女の記憶が覚醒したんだ。それはつまり、記憶が戻る事がハートメモリの副作用…つまり効果が、どんどん減っているという事になる。失われた全ての記憶が戻ったその時、彼女は寿命を迎え……死ぬ」

「……ゴクッ」

フィリップの言葉に思わず息を飲む

 

「一刻も早く吉松シンジの居所を暴き、ハートメモリについて詳しく訊くしか…錦木千束を救う方法は無い!」

「……そうだな…その為にはまずは真島だ…!」

「…今日は風都タワー復興完了の完成セレモニー…真島が動くとしたら今日だ」

「DAもそれに合わせて作戦立ててるんだろ?俺達も向かうぞ!」

「あぁ!」

 

 

 

第39話「Fに別れを/辿る記憶の中で」

 

 

 

「……ねぇ先生」

「…ん?」

「……荘吉さんってさ、どんな人だったの?」

「…なんだ、興味あるのか?」

「……うん…ちょっとだけ…」

千束の言葉を聞いたミカは徐ろに立ち上がり、千束に背を向けた

 

「……着いてこい」

「…えっ?」

 

 

 

「警備のリコリス、配置完了しました」

 

風都タワーの周りを囲むように配置されたリコリス

楠木はその様子をDAから見ていた

 

『それではこれより、風都タワー完成セレモニーを開催致します!』

「……始まるぞ」

 

「……さて…真島はどう動くかな…」

「単純に10年前の模倣犯を起こすとも思えねぇ…奴は何かどデカい事を企んでる。そんな気がする…」

「……お得意の勘か…でも…」

「……」

「…用心するに越したことはない」

 

 

 

「……その箱だ」

「…コホッ…コホッ…いつから触ってないのよ……ライフル?」

リコリコの地下室

武器庫の棚の上に置かれた木箱を千束は運び出した

 

「お前のだ、開けてみろ」

「…あ、鍵閉める?お客さん来るかも」

「いや、いいんだ…武器じゃない」

「…?」

卓袱台の上に木箱を置き誇りを拭くミカは、千束に木箱を開けさせた

 

「……着物?」

「お前の晴れ着だ。成人式にはちょっと早いがな」

「……」

呆気に取られる千束に、ミカは続けて言った

 

「……この着物はな、荘吉からの贈り物なんだ」

「…え?」

「将来、千束が立派な女性になったら、これを着させて欲しいと……」

「…っ!」

「お、おい!」

「…ん〜〜〜!!!」

ミカに抱きつく千束は、しばらくその姿勢を変えなかった

 

「……どう?」

「あぁ、ちゃんと撮れてるよ」

着物に着替えた千束は、陽に照らされているのもあってとても綺麗に見えた

 

「いやそうじゃなくて!先生の感想を訊いてるのぉ!」

「あぁ勿論素敵だよ!すっかり、大人の女性だな」

「えへへ〜ありがとう先生!」

「…お前に感謝されるような事など、何も出来てないさ」

「またまた〜…私に名前を付けてくれたのも先生だし〜銃を教えてくれたのも〜この店も〜…たきなと出会えたのも!何より、私の為にヨシさんを探してくれたのも先生じゃん!」

「……」

「あ!さっきの写真ヨシさんに送ってよ!それが良──」

「そうじゃないんだ!!」

「…っ」

突然声を荒らげるミカ

千束は普段温厚なミカが怒鳴る所を目の当たりにして驚きを隠せなかった

 

「…な、なに先生…大きな声出して……」

「……千束…シンジの事で、話す事がある」

 

 

 

「真島の車を捉えました」

「…始めろ」

「セレモニーを避けて、北側へ誘導。風都タワーへの他のルートは、全て封鎖!」

 

「…ひぇ〜…実際DAの仕事ぶりを見るとすげぇもんだな」

「……これが最強のAIシステム、ラジアータの実力か」

DAの仕事ぶりを目の前で体感する翔太郎とフィリップ

そんな二人に、楠木が近付く

 

「早速お前達にも出動してもらう。良いか、慈悲は無用だ…殺せるだけ殺せ」

「……それを決めるのは俺達だ。あくまで俺達の仕事は、真島を含むガイアメモリを所持する奴らを倒す事だ…殺すかどうかは俺達次第ってとこだな…」

「…勝手にしろ」

 

 

 

一方、風都タワーの制御室に潜入した真島の部下達

 

「…後は頼んだぜ…マイハッカ〜……」

 

「……この日の為のバックドアだ…ヒッヒッヒッ!」

真島やロボ太による作戦も進んでいた…

 

 

「…あの時…私がシンジにオペを頼んだのは、司令官としての利益の為だ。少なくともあの時はそうだった……」

 

『リコリスの現役期間だけ生きればいい』

『そういう事なら引き受けよう…だが、これだけは約束してくれ』

 

「……約束…?」

「……っ」

 

『…彼女を最強の殺し屋として育ててくれ』

 

「…だからシンジは、お前が最強の殺し屋になる為ならばと…一切躊躇わずお前にメモリを挿した」

「……嘘…うそうそ!だって…自分は人を助ける救世主だってヨシさん…」

「……っ」

千束の言葉に首を横に振るミカ

 

「……じゃあ…どうして?」

「言えなかった…もはや荘吉を忘れてしまったお前の中で、どんどん大きくなるシンジに対しての憧れは…いつ終わるか分からない命を支える力となっていった…!それはとても眩しくて…儚い」

「……先生」

「…っ…言った方が良かったのか!?お前の生き方は間違いだ…殺しを重ねれば、シンジはまたお前を助けてくれると……言えばよかったのか…!?教えてくれ千束…!」

頭を抱えるミカは、千束が居るにも関わず嘆いた

だが、一方の千束は冷静だった

 

「…ありがとう先生」

「……っ」

そして、彼女の口からはまさかの言葉が出て来た

 

「私に決めさせてくれて、ありがとう。それ聞いてたら、たぶん私は負けてた。そんで仕方なくリコリスの仕事してたと思う…んで、やな事とか辛い事は全部先生やヨシさんのせいにするんだ…それは嫌だわ〜うん、ないない」

「……」

「…私ね、一つだけ思い出した事があるの」

「……えっ…?」

「…荘吉さん…いや、キチさんの話」

「……その呼び方…まさか本当に…!?」

千束はカウンター席に手を置いて、机をなぞるように触れる

 

「…男の仕事の8割は決断だ。それ以外はおまけみたいなもん……翔太郎さんもよく言ってる、あの言葉」

「……あぁ…」

「…お前の人生はお前が決めろ。それは簡単な事じゃないし、勇気のいる事だ……だが、それでお前は自由になれる。そして自由になったら……お前の罪を数えろ…って…」

「……あぁ…」

あれは、リコリスとしての千束と荘吉が初めて出会った時の事だ

当時、まだゴム弾を使っていなかった千束は殺し屋そのものだった。だが、それを荘吉は良しとしなかったのである

 

「私はきっと、あの言葉があったから今まで自分を信じて生きてこられたんだと思う。でも、それはキチさんだけの影響じゃない。その環境と場所を作ってくれた先生と、時間をくれたヨシさんへの感謝は、今の話を聴いても全然変わんない。みんな、私のお父さんだよ……それが一番嬉しいって感じがする」

「……すまない…すまない…」

「ほら先生泣かないで〜」

涙を流すミカ

それを宥める千束

 

今の私の姿を荘吉が見たら、きっと嗤うのだろう

でも、それでもいいのだ

 

「先生こそどうなのよ!」

「…っ?」

「この千束はどう?好き?」

「…あぁ…あぁ!自慢の娘だ…!」

「……へへへ!」

今私の目の前には、こんなにも綺麗な花が咲いているのだから……

 

 

「それではこれより、風都タワー完成セレモニーのラスト!風車回転式を行います!カウントダウンと同時に、風都タワーの大風車が回り、同時に電波の発信も自動で行われます!それでは皆さん御一緒に!」

 

『 5!』

「…翔太郎…始まるよ」

「……あぁ…」

ハードボイルダーに乗り風都タワーを目指す二人

 

『 4!』

「……っ」

風都タワー完成セレモニーを警備する照井竜

 

『 3!』

「……っ」

風都タワー内に潜伏するたきな

 

『 2!』

「……フヒヒッ」

それを遠くから見るロボ太は、その時を待っていた

 

「 1!スタート!」

「……っ!?」

すると、セレモニー会場にある大きなモニターにノイズが走った

 

『……よぉ…愚民共』

モニターに映し出されたのは、仮面ライダーエターナルだった

 

『俺の名は仮面ライダーエターナル…ガイアメモリに命運を握られた哀れな箱庭の住人達を…解放する者だ』

 

「…真島…!何をするつもりだ…!?」

を確認した照井はすぐさま持ち場を離れた

 

『……』

変身を解除するエターナル、真島はカメラに向かって淡々と喋っていた

 

『今日は真実を話す為、集まってもらった…他の国がテロやら戦争やらでドンパチやってるのに、この国だけは平和そのもの。気持ちわりぃくらいにな』

 

「…見たまえ翔太郎!」

「…っ!真島…何考えてやがる!?」

「急ごう!」

「……クッ…あぁ…!」

 

『民度の高い国民だから?日本人ってすごーいってか?取り柄の無い奴に限ってカテゴリーに誇りを持ちやがる。テロは何度も起こっているのさ…隠蔽されてしまうだけだ。虚偽と誇張に塗れた平和の押し売り…汚点には蓋をしてしまう。この街にはそんな薄汚い平和に執着する連中が居るんだよ…俺はそれが気に食わない。だから…』

 

『「 ETERNAL!」』

 

『…変身』

 

『 エターナル!』

 

エターナルへの再び変身してみせる真島

そしてエターナルバレットを後ろのガラス窓に向け、発砲する

 

『…これと同じものを、街中にばらまいた』

 

「……1000本のメモリはこの為か…!メモリを持った民間人には関わるな!絶対に発砲するな!リコリスとガイアメモリの存在を炙り出す、それが奴の真の目的だ!」

 

 

 

「……ん」

真島の放送を見ていたサラリーマンが、さっきから気になっていたベンチの下にある紙袋に手を伸ばし、中を見た

 

「……これは…」

それはモニターに映っていた男が持つ小道具に似ていた

 

「そこのお前!それを捨てろ!」

「…えっ…いや、これは……」

「……」

サラリーマンが警察官の誤解を解こうとメモリに手を出した時

 

「…っ!」

 

《 MAGMA!》

 

男の意志とは関係なく、メモリが男の腕に挿さる

 

「うわぁぁぁあ!」

強制的に人体に挿されたガイアメモリによって変身したマグマ・ドーパントは凶暴性を増し、無差別に火炎弾を放射する

 

『さぁ心のままにソイツを使え!そして変身しろ!何をするかはお前ら次第だ!嘘偽りの無い真実の世界を、そ──』

 

「風都タワーからの電波、遮断完了しました」

「…司令、本部から連絡です」

「……っ」

DAのメインモニターに白髪の中年の男、DA上層部の虎杖が映し出される

 

『楠木君。これはどういう事かね?』

「情報操作は、ラジアータでどうとでも可能です。リコリスの存在は必ず秘匿されます」

『しかし君たちの存在を日本中に向けて示唆されてしまった…これは失態だな。錦木千束を何故使わん?』

「……っ」

『こういう時の為に飼ってきたんじゃ無いのか?』

「作戦立案は我々におまかせください!」

『楠木君、我々を甘く見ているのではないか?もう一度言う、錦木千束を使え。君にはそれしかない』

「……っ」

 

 

『…えー繰り返します、風都タワーがテロリストに乗っ取られ、ハイジャックされた模様です』

「……なにこれ…」

リコリコのテレビを付けた千束は画面に映し出された真島を見て驚愕する

 

「…おい!これは一体どうなっている!?」

「刑事さん!?」

「照井君!?」

リコリコに突撃して来た照井も、テレビを見る

 

「左とフィリップは!?」

「え?刑事さん一緒じゃないの?」

「……っ」

すると、立て続けにリコリコの黒電話が鳴り響くと同時に千束のスマホからも着信音が流れる

 

「…楠木か」

『千束に変わってください』

「……千束はちょっと今、手が離せそうにないんだが…」

「先生貸して」

スマホ野画面を見た千束はリコリコの受話器を取る

 

「千束です」

『今すぐ本部に来い。我々と合流し、風都タワーの真島を討て』

「……っ」

楠木が話す間、千束はスマホの画面をミカと照井に見せる

 

スマホの画面には椅子に縛り付けられ、脱力する吉松シンジの姿があった

 

『…お前が下手な動きを見せれば、こいつの命は無い。一時間で起爆する』

電話の相手はおそらく真島の仲間

 

『お前のようなリコリスが必要な状況だ。多くの命が掛かっている』

『お前のようなリコリスに加勢されると都合が悪い。こいつの命が掛かっているんだぞ』

『…誰か居るのか?』

「…い、いえ……」

すると、照井が受話器を取る

 

「DAの司令官だな、そっちには俺が加戦しよう」

と、受話器を戻す

 

『それでいい、風都タワーの最上階に一人で来い。誰にも見つかるなよ?ずっとお前らを見ているからな…!』ピッ

「……っ」

リコリコの外に何台も配置されたドローン

これでは無闇な行動は出来ない

 

「……罠だろうな」

「だからって見殺しに出来ないでしょ!?」

「…さっきも言ったが、シンジは……」

「先生を疑ってる訳じゃない…けど、ヨシさんに会って直接聞きたい!」

「…今や街中は市民が変身したドーパントで溢れている。風都タワーの麓までは、俺が連れて行こう」

「…刑事さん…!」

「…フッ…そうだな、風都タワーはたきなやフキ、それに翔太郎君とフィリップ君が守ってくれる」

「…うん!」

千束の頭に手を載せるミカ

 

千束は着物からリコリス制服に着替え、ミカも自前の戦闘用の装備を整える

 

準備が整った3人は、出陣に向け、覚悟を決めていた




次回 仮面ライダーW/L・R

「この状況をみて、二人と連絡つかないなんて…絶対変ですよ!」
「……あとは頼んだぞ、左」
「もっと沢山の情報が必要だ…」
「……なにか、嫌な予感がする」
「悪魔と相乗りする…僕はその勇気を振り絞る事が出来たよ」
「……決めたぜ、フィリップ」

第40話「Dの囁き/運命の決断」

これで決まりだ!


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第40話「Dの囁き/運命の決断」

ご無沙汰しております

センスの欠けらも無いサブタイトルですが、そうとしか言いようのない内容になってしまいました
各々がする決断とは…?

それでは、お楽しみください!



『真島一味は、起爆予想ポイントの第一展望台を通過。現在は第二展望台でエレベーターを切断……』

リコリスが集まるバスの中

楠木は座席に映し出された映像から指示を送っていた

 

「……」

「……」

その外でスタッグフォンから同じ映像を見るフィリップと、不貞腐れたようにハードボイルダーにもたれかか翔太郎

 

「…なんで俺たちは戦えないんだよ……」

「…仕方ないさ…Wに変身すればガイアメモリの存在が更に世間に公になる事になる。それは僕たちが一番恐れていることであり…奴らの思うつぼだ。DAも、それだけは実力を行使してでも僕たちを止めるだろうね」

「……今の街の状況がわからない以上、じっともしてらんねぇよ…」

俺たちは風都タワーに向かおうとしているところをDAに止められていた。作戦を再び立てる為、一度集合しろとのことだ

そんなことを言われて従うことしか出来なかったが、俺はさっきからソワソワしっぱなしだった

 

「……っ!」

すると、フィリップがスタッグフォンの画面を凝視し驚愕していた

そして俺に画面を見して画面に人差し指を指した

 

「見たまえ翔太郎…!」

「……っ!?」

その示された名前を見て思わず会議中のバスに乗り込んだ

 

「……っ」

バスに乗ると、たきなも正面のスクリーンに向かって抗議していた

 

「千束を呼んだんですか…!?」

『席に着きなさい』

「司令!千束は…!」

『奴は来ない。連絡がつかなくなった』

「まさか、マスターもか…!?」

『…そうだ』

 

楠木の言葉に、俺まで会話に割り込む

 

「…何故です…?」

『知らん。我々には関係ない事だ』

「…この状況をみて、二人と連絡つかないなんて…!」

「うわっ!」

たきなは俺を押しのけてバスのドアを開いた

 

「絶対変ですよ!」

「お、おいたきな!」

「作戦までには戻ります!」

走り去るたきな

この状況本当に分かってんのか…?

 

「…翔太郎、彼女の事は任せた!僕は引き続きDAの指示に従うよ」

「そうだな…もしなんかあったらいつでも呼んでくれ!」

翔太郎はそういうと腰にダブルドライバーを装着した

そしてフィリップの腰にもドライバーが現れたのを確認し、翔太郎はたきなの元に向かった

 

 

『…携帯は置いて来たな?以降はこの通信だけを許可する。誘導に従え』

「……」

『おい、そこの警察もだ。お前はメモリも置いていけ。変身されたらひとたまりもないからな』

「……分かった」

リコリコのカウンターの上にビートルフォンとアクセルメモリを置く照井竜

 

「分かったからさっさとしろ、ロボ太」

『僕の事知ってるのか!?今やウォールナットを超える最強ハッカーだからな!』

千束とロボ太がそんな会話をする中、照井はロボ太の目を盗んで懐から一本のギジメモリを取り出した

 

《 ビートル!》

 

ビートルフォンにビートルメモリを差し込む。ライブモードにはさせず、ガジェットモードのままにしておく

そうすれば、タイミングを見計らっていつでもライブモードに変形出来る

 

「……あとは頼んだぞ、左」

ロボ太がハッキングする乗用車に乗り込む照井

千束は助手席に乗り、ミカが運転者だ

 

『おい遅いぞ警察!お前らは所詮僕達の足元にも及ばない雑魚…ぶぇっ!』

「早・く・し・ろ」

『は、発進しろ』

ナビモニタを蹴られた事で従順になるロボ太

千束のイライラは爆発寸前だった

 

 

 

『……』ピピッ

ライブモードに変形したビートルフォンは、リコリコの窓からある目的地に向かって飛んで行った

 

 

 

第40話「Dの囁き/運命の決断」

 

 

 

「待てよたきな!」

「千束と店長はリコリコに居る筈です!まずは現場を確認しないと…!」

「だが!今回ばかりは楠木の言う通りだ!今は作戦に集中するべき…」

「千束の命が掛かってるんです!」

「…っ」

勢い良く振り返り悲しそうな目で翔太郎を見つめるたきな

 

「もし、今あの状態で事件に向かっているのだとしたら…いつ千束の心臓に異変が起こるか分からない…いつ千束が…!」

「……」

肩を震わせながら語るたきな

 

「……っ」

「…いいかいたきな、落ち着いて聞け?」

そんな彼女の肩きそっと手を置く翔太郎は、彼女の目をじっと見た

 

「焦る気持ちは分かる…だが、もしここで君がドーパントに遭遇し、君の身に何かあれば…悲しむのは誰だ?」

「……っ」

「…たきな、まずは自分の命だ。千束が生きてる確証は無いが、死んだとも限らない。それよりも、彼女の帰りを待つ。それが、今の君に出来る事だろう?」

「……千束の…帰りを…?」

「…自分の命も守れない奴に、街を守る資格は無い。おやっさんが言ってた事だ……死ぬ覚悟じゃなく、生きる覚悟と…生かす覚悟で街を守れってな…」

「……左さん…」

翔太郎が一頻り語り終えると、空から虫の羽の音のようなものが聞こえた

 

「…っ!あれは…!」

翔太郎の頭上を飛ぶビートルフォンは、いきなり別の方向に飛んで行く

 

「…照井のビートルフォンじゃねぇか!なんでこいつがここに…!?」

「……千束と連絡が取れなくなった事と、関係あるのでしょうか…?」

急いでビートルフォンを追いかける俺とたきな

だが、その行先は道中の風景からなんとなく察知した

 

『翔太郎!聞こえているかい?』

「どわぁっ!いきなり話しかけてくんなよ相棒!」

『君たちの元に、照井竜のビートルフォンが来なかったかい?』

「…え?あぁ…今丁度追いかけてるところだ」

『…やはりね…さっき僕のところにも来たけど、何故かすぐに君たちがいる方向に飛んで行ったんだ。ビートルフォンは僕に用があった訳ではなく、君たちを探していた。ここから推測するに、ビートルフォンの目的は…』

「……たきなか…!」

「…っ?」

 

ビートルフォンが辿り着いた場所は俺の予想通り、リコリコだった

 

「…アクセルメモリ……照井は何処に行ったんだ?」

「これ、千束と店長のスマホです…なにかあったんでしょうか…?」

カウンター席に置かれた二つのスマホとアクセルメモリ

何か手掛かりはないかとビートルフォンを開くと、いきなり写真フォルダに繋がっていた。そこにはリコリコのカウンター席に置かれた千束とミカのスマホが映っていた

 

「なんで照井はこれを俺達に直接渡さなかったんだ…?」

その答えは、次々と映し出された写真の中に揃っていた

店を囲う大量のドローン

リコリコ制服に着替えた千束

赤い車に乗り込むミカ

 

「…なるほどな。どうやら真島の仲間が3人を何処かに連れて行ったようだな」

「…でも、何故…!?」

『……真島は錦木千束が吉松シンジを探している事を知っていた…』

「…こうなったら本人に聞くしかないな。真島は風都タワーに居る」

「……すみません。私、戻ります」

「…そうだな」

戻る以外に選択肢のなくなった俺達は再びバスに向かっていた

悔しい選択ではあるが、たきなは俯きながらも前に進んでいた

 

 

『……ふぅ…』

「地球の本棚」から出て来たフィリップは自身に近寄る翔太郎に気が付いた

 

「特に異常ねぇか?相棒」

「あぁ、彼女達ももう既に現場に向かったようだね。今度は占領されたエレベーターを奪還するらしい」

帰ってきてそうそう質問した俺にフィリップは答える

 

「…そうか……ところで、今何調べてたんだ?」

「ハートメモリについて、もう少し詳しく調べようと思ってね。でも、確かな情報は掴めなかった」

「……」

「…もっと…もっと沢山の情報が必要だ…」

珍しく考え込むフィリップ

そうか…こいつもこいつなりに必死なんだよな…

 

千束とフィリップの境遇は似ている。一時期は記憶を失い、大切な人を思い出せずにいたり、ガイアメモリによって人生を狂わされたという共通点を持つ

だからこそ、かつての自分と面影が似ている千束を助けたいという気持ちが、誰よりも強いのだろう

 

「…どうしたんだい?翔太郎」

「……いや、なんでもない」

 

その気持ちは俺だって、たきなだって変わっちゃいない

ようやくおやっさんの記憶を取り戻してくれた千束には、もっと長生きさせてやりたいし、たきなももっと長い時間千束と居たい筈だ。その為にもまずはハートメモリ…

 

ボルテージ・ドーパントとジャック・ドーパントが本当に繋がっているのだとしたら、ジャックの正体はおそらく吉松シンジだ。だが吉松の消息が不明な為、そう簡単に事が運ぶとは思えない

それにジャックの能力も凄まじい物だ。あの照井でさえも適わなかった相手だ…相当な強さの筈……

 

くっそ…真島の件もあるが、こっちはこっちで……

 

「……ん?」

待てよ…?

 

「…翔太郎?」

「……フィリップ…確か、真島は千束が吉松を探している事を知ってるんだよな…」

「あぁ、モニター越しでの会話だったが、有力な情報だと思うよ?」

「…それだよ…!もし仮に真島が吉松と接触していたら…?」

「…っ!」

ここで、フィリップの中でも一つの仮説が生まれた

 

「…真島が千束を連れ去ったのには前線から排除する事以外に理由があった。それがなんなのか……っ!」

俺はある事を思い出し、ビートルフォンを取り出した

 

「まだ見てない写真がある筈だ……何処だ…何処だ…?」

写真フォルダを漁る俺

正直申し訳ないと思っているが、これも事件解決の為

許せ!照井!

 

「…っ!」

その写真を見て、俺は驚きを隠せなかった

 

「…これは…吉松シンジ!?」

フィリップもその写真を見て驚く

写真には椅子に縛り付けられ、脱力した吉松シンジが映っていた

 

「…錦木千束はこの写真を真島の仲間に見せられ、人質を取られた。吉松シンジは彼女にとっては命の恩人……ここから推測される事は…」

「……千束は風都タワーに向かってる」

「…だが、吉松シンジがハートメモリを持っているのなら、ハートメモリの方に本人が向かっている事になる。万事解決だよ翔太郎!」

「……いや、違う」

「…え?」

「……なにか、嫌な予感がする」

俺はスタッグフォンを開き、とある人物に電話した

 

「…誰に用だい?」

「……情報のエキスパートに、解析を頼む」

 

俺は今朝のフライトで風都を離れたと聞いていたクルミにダメ元で電話した。だが、幸い飛行機は運休。しばらくの間離陸を見合わせしていた

 

『…なるほど。要は吉松の居場所を暴く為の情報が欲しいんだな』

「あぁ、必要なキーワードを教えてくれれば、あとはこっちで検索する」

『分かった。解析しながらそっちに向かう』

すると、俺のスタッグフォンをフィリップが取り上げる

 

「ウォールナット…いや、クルミ。君と僕の力が合わさればどんな難題にも立ち向かえる。協力しよう」

『愚問だな。千束の為だ…異論は無い』ピッ

通話を終わらせ、スタッグフォンを返してもらう

 

「こうなれば戦闘は避けれない。僕達も向かおう」

「…あぁ…この際四の五の言ってられない。だが……」

「…まだ何かあるのかい?」

「……もし戦いが激化して沢山のリコリスの命が奪われたらと思うと、怖くてな…」

ここに来て怖気付く翔太郎

そんな彼を見かねたフィリップは優しく声を掛けた

 

「…翔太郎、ダイヤモンドという鉱石を知っているかい?」

「……なんだよ急に…知ってるに決まってるだろ」

突拍子もない質問に、翔太郎は呆れながら答える

 

「ダイヤモンドは元々は炭素の塊だ。だが、その塊が凄まじい輝きを放つ。一部では、その二面生が美しいという者もいる」

「……」

「…リコリスは平気で人を殺す、悪魔だ」

「……っ」

「だが、その信念は僕らと変わらない。出世の為?違う。生きる為?違う。彼女達は守る為に戦っている」

「……フィリップ…」

「リコリコの二人と関わり、DAと関わり、僕はまた新しい彼女たちを見つける事が出来た。今彼女たちに対する憂いは無い。むしろ知りたいと思っている。僕はそんな彼女たちの二面生が美しいと思う」

「…っ」

「……彼女たちは悪魔だ。だが、その悪魔と相乗りする…僕はその勇気を振り絞る事が出来たよ。翔太郎、君はどうだい?」

今度は翔太郎の目をじっと見て質問する

 

「……俺は……出来ることならリコリスも守りてぇ…もう誰の血も涙も見たくねぇ……でも、彼女たちも同じ事を思っているなら…」

「……」

「…悪魔と相乗りする勇気、か……なんだかお前と初めてあった日のことを思い出すなぁ…!」

「……」

「……決めたぜ、フィリップ。俺は彼女たちと…リコリスとこの街を守る。これがもし間違った決断だったとしても、俺は悔やまない。迷わず進む」

「……あぁ…!」

ようやく決断を下した翔太郎は再びスタッグフォンを手に取る

 

「…こうなったら…楠木に直電だ!」

 

 

「…何の用だ」

『楠木。俺達にも戦わせてくれ!』

「それは出来ない。街中にばら撒かれたメモリは1000本。最低でも300体程のドーパントが現れる可能性がある。もしお前たちが変身し、市民を刺激したらどうするつもりだ?取り返しのつかない事になるぞ」

『そんなもんはしょっちゅうだ!あんたは街の涙より、組織の秘密を優先するのか!?』

「……上層部からの指示だ」

『俺は今!あんたに聞いてるんだ!』

「…っ!」

モニターの前で楠木が絶句する

翔太郎はそのまま続けた

 

『…あの日、俺おやっさんに言われたんだよ。「あの子を頼んだぜ」って…おやっさんが言ったのはフィリップの事だったのかもしれねぇ…でも今なら分かる。おやっさんは、あの時千束の事も想っていた筈だ』

「……」

『……おやっさんとの約束守るんじゃ無かったのか!?』

「……っ!」

 

《…俺の家族を…翔太郎を…そして、この街の事を頼んだぜ……》

 

『…楠木…()()()はどうしたいんだ…?』

「……ったく…お前は何も変わってないな。小僧」

『…え?』

俯いていた楠木は翔太郎が映るモニターに顔を上げる

 

「…良いだろう。だが、リコリスの存在は秘匿する。これが絶対条件だ。ドーパントの相手をしたいなら、好きにすればいい」

彼女のその言葉に、その場の全員が驚いた

 

『はいはいそうですか〜……サンキュ、楠木さん』ピッ

そこで翔太郎との通信は途絶えた

 

「……はぁ…」

すると、机に両手を着きため息を着く楠木

 

「……私もまだまだ甘いな…これがハーフボイルド、か……フッ」

 

 

「よっしゃぁ!楠木からの承諾も得た所で、たきなを迎えに行くぞ!」

「うん、そうだね!」

二人でハードボイルダーに跨り、ヘルメットを被りバイクを発進させた




次回 仮面ライダーW/L・R

「さぁ、第二幕だ…」
「たきな!千束を救いに行くぞ!」
「……お前が決めた事なんだろ?」
「どうやら仲間がやってくれたようだ…」
「…さぁ思い切り…振り切るぜ」
「……行ってきます」

第41話「Dの囁き/振り切る覚悟」

これで決まりだ!


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第41話「Dの囁き/振り切る覚悟」

ご無沙汰しております
それでは、続きをどうぞ!



『…奴らが来たぞ』

「準備は良いか?ハッカー…?」

『抜かりなくっ!…僕達は絶対に出来る…!』

「……さぁ、第二幕だ」

 

 

 

「……」

エレベーターを奪還する為、風都タワーの非常階段を登るチームアルファ。たきなはそのチームの最後尾を歩いていた

そんな彼女の無線にノイズと声が入った

 

『…たきな、聞こえてるか!?』

「…クルミ…一体どうしました?」

『探偵からの依頼でな。刑事の携帯の中に残された写真の解析を頼まれた』

「…左さんが……」

『千束のスマホを持ってるか?』

「…はい、ここに」

翔太郎から千束のスマホを預せて欲しいとお願いしたたきなは千束のスマホをポケットから取り出した

 

「…っ…これは…!?」

ロックが解除された画面に映っていたのは、椅子に縛られた吉松シンジの姿だった

 

『その画像が送られて、吉松からの着信が入ってた。今、ミカの車を押し上げだ。おそらく三人はお前たちの方に向かっている』

「……っ!」

千束が…こちらに…!?

 

「…ですが、私には千束を救う術がありません……」

『…安心しろ』

「…っ!?」

クルミのその言葉の後、非常階段の下からハードタービュラーに乗った翔太郎とフィリップが声を掛けてきた

 

『お前はもう、独りじゃないだろ?』

「たきな!千束を救いに行くぞ!」

「左さん…!?」

「井ノ上たきな!クルミから話は聞いてると思うが、彼女は今こちらに向かっている!だが、頂上に行かせてはいけない!これは罠だ!」

「……私は…」

二人に呆気に取られたたきな

だが、サクラ達の言葉が彼女を正気に戻させた

 

「ちょいちょい!またっすか〜!?」

「たきな!どういう事!?」

「さっさと来い!任務中だぞ!」

「……」

三人に同時に責められるたきなは、俯いてしまった

 

「早くしないと他チームに負けちゃうだろ!」

「…おい、これは競走なんかじゃ…!」

「翔太郎、今は彼女達の時間だ」

「……っ」

間髪入れず翔太郎を鎮めるフィリップ

すると、オレンジ髪のリコリスがフキに語り掛けた

 

「…フキ!行かせてあげて!私がたきなのポジションを埋めますから!」

「…君は……」

以前何度か翔太郎が助けていた、蛇ノ目エリカだった

 

「ハハッ…無理無理〜!そもそもコイツがクビになったのは〜あんたのヘマが原因だろ!」

「……っ!」

「…おい…!」

「翔太郎…!」

「……そう、全部私のせいよ!」

またしてもつっかかろうとした翔太郎、だがフィリップが鎮める前にエリカがたきなの背中に腕を回した

 

「あの時は…本当に、ごめんなさい」

「……」

そんな彼女に呆気に取られるたきな

顔を上げたエリカは、たきなの目をじっと見た

 

「…でも、私もう負けない」

「……誰に…?」

「……自分に」

「…っ!」

エリカの言葉に気付かされるたきな

フキの方に身体を向け、俯いていた顔を上げた

 

「…私、行きます」

「……この任務を降りれば、もうDAには戻れんぞ?」

「…分かってます」

「最後のチャンスなんだぞ?」

「……っ」

「……たきな…」

たきなを心配そうに見つめる翔太郎

だが、それでも彼女は顔を上げた

 

「…私一人では千束は救えない。でも、それでいいんです…誰かと手を取り合って戦うのも、私は誇らしいと思えるから…ただ、それだけです」

「……やっぱりお前は使い物にならないリコリスだよ…」

背を向けるフキ

 

「…行けよ」

「……」

「……お前が決めた事なんだろ?」

「……っ」

フキに軽く会釈したたきなは、翔太郎の腕に促され、風都タワーを後にした

 

「…行くぞ」

「司令部になんて報告するんすか!?」

「……アイデア募集中だ」

「…えぇ……」

 

 

 

第41話「Dの囁き/振り切る覚悟」

 

 

 

「……っ!」

「うわ…マジか…」

「…どうした…?…っ!」

車を急停止させるミカ

困惑の表情を見せる千束に対し、照井は無表情のまま車を降りた

 

「……」

彼の手にはエンジンブレードが握られており、地面に引きづりながら対象の目の前へと立ち向かう

 

「……うわぅぅ…」

そんな彼らを阻んだのは一般市民が変貌したであろうビースト・ドーパント

照井は黙ってビーストを睨んだ

 

「…メモリの毒素にやられて自我を失っている…こうなったら奴はメモリブレイクしない限り正気を取り戻さない」

「でも、刑事さん変身出来ないじゃん…!」

「問題ない…!」

臆することなくビーストに向かう照井

エンジンブレードを重そうに振り回し、暴走により動きが鈍っているビーストの胸に斬撃を加えた

 

だが…

 

「うぅぅ…」

「……チッ」

やはり凄まじい再生力だ…こんな時に限って厄介な相手だ

 

「うぅぅ!」

「クッ…!」

ビーストが喰らわす斬撃をエンジンブレードで受け止める照井

一度距離を取ると、千束が声を掛けてきた

 

「……あのドーパント…苦しんでる」

「…っ?」

彼女の言葉を完全に理解は出来ていないが、彼の中で一つの決意が生まれていた

 

 

「…もう、街にあんなにドーパントが……」

ハードタービュラーから街を眺めるたきな

そこら中で爆発や火事などが発生し、無法地帯となっていた

どうやら警備のリコリスも対処しきれていない様子だ

 

「仕方あるまい…楠木司令に銃の発砲を禁じられている以上、彼女達に成す術は無い…!」

「…で、ですが…千束のところにもドーパントが現れる可能性だって…!」

「それに関しては問題ない!翔太郎!ハードタービュラーを地面へ!」

「あぁ!」

ハードタービュラーを一度着陸させた翔太郎は、フィリップに照井のビートルフォンとアクセルメモリを手渡した

 

「彼が僕らにビートルフォンとアクセルメモリを残した理由が分かった。彼に最善かつ最速でメモリを手渡せる方法が、一つある」

「それって…?」

すると、フィリップはビートルフォンにアクセルメモリを挿入した

 

《 アクセル!マキシマムドライブ!》

 

「こういう事さ!行け!ビートルフォン!」

すると、フィリップはビートルフォンを思いっきり投げ飛ばした

すると、ビートルフォンはライブモードへと変形し、更にはアクセルメモリの能力の付与で後ろの羽にブーストがかかり、高速且つ一直線に道路を飛行して行く

 

「…後は頼んだぜぇ…照井!」

「私たちはこれから…?」

「一度、喫茶リコリコに戻り、三人の足取りを辿る為の調査をする」

「…分かりました!」

 

 

「……ハァ…ハァ」

「うわぁぁう!」

どんどんと荒れ狂うビーストに苦戦する照井

流石の彼でも、生身では相手との分が悪いようだ

 

「……うぅ…うわぁぁあ!」

「…っ!」

照井が気を抜いたその時、ビーストが彼に襲いかかった

だが、次の瞬間

彼の後方から一直線に飛んで来たビートルフォンがビーストの顔面に直撃

仰け反ったビーストを怯ませることに成功した

 

「えぇ!?なになに!?」

状況を把握出来ない千束だったが、ビートルフォンをキャッチし、装填されたアクセルメモリを抜いた照井は全てを察した

 

「…どうやら仲間がやってくれたようだ……」

アクセルメモリを手に取った彼はアクセルドライバーを装着した

 

「…さぁ思い切り……振り切るぜ」

 

「 ACCEL!」

 

「…変…身ッ!」

 

アクセル!

 

仮面ライダーアクセルへと変身した照井はエンジンブレードを構える

 

「…はぁぁっ!」

「ぐわぁ!ぐおぉ!」

ビーストに蹴り技や斬撃を与え続けるアクセル

奴の鋭い爪から繰り出される斬撃に以前は苦しい思いをしたが、今の彼は以前の彼とは違う

 

「…刑事さん…!」

「……っ」

ふと、アクセルに向かって千束が叫んだ

何を言うわけでもなく、ただ彼をじっと見つめ何かを訴えていた

 

「……」

「……」

「……はぁぁ!」

「ぐおぉぉぉお!」

 

エンジン!

 

エンジンブレードにエンジンメモリを挿入しトリガーを引く

 

エンジン!マキシマムドライブ!

 

「はぁっ!」

「ぐおっ!」

ビーストの胸にダイナミックエースを放つアクセル

だが、それだけでは奴は倒せないと判断したアクセルは、エンジンメモリをアクセルドライバーへと装填した

 

エンジン!マキシマムドライブ!

 

そして、バイクフォームに変形したアクセルは全身に炎を纏い、ビーストに突進した

 

「グッ…!」

「…絶望が、お前のゴールだ」

「ぐわぁぁぁぁあ!」

ビーストは爆発を起こし、変身が解除された

アクセルはビーストだった変身者の傍に落ちている破損したメモリを確認した

 

横たわる男はまだ若く、腕には酷い痣のようなものが見受けられた。きっとメモリをスロット処置なしで無理やり挿したからであろう

 

「よかった…生きてる…!」

男に駆け寄った千束は男の安否を確認した

安心したような顔で、照井にサムズアップをしてみせた

 

「……フッ」

『一悶着終わったのならさっさと車に戻れ!誰かに見つかったらどうするつもりだ!?』

すると、車のカーナビからロボ太の声が響き渡った

 

「はいはいわかったよ…刑事さん戻ろ…」

「いや、その必要は無い」

「…えっ?」

すると、アクセルは再びバイクフォームに変形した

 

「俺に乗れ、風都タワーの麓まで援護する」

『おい!何勝手な事言ってるんだ!?こっちには人質もいるんだぞ!?』

「要は誰にもバレずに風都タワーの頂上まで来れば良いのだろう?安心しろ、必ず送り届ける」

「……」

『いいやダメだ!それだけは絶対に許さないぞ!』

「なら、私は車で君たちの後を追おう…それなら文句ないだろう。一足先に千束達が到着するだけだ」

『…ま、まぁそれなら……』

ミカに言いくるめられたロボ太は渋々了承した

 

『でも、お前たちが真っ直ぐこっちに来なかったら今度こそコイツの命は無いからな!?』

「……」

ロボ太の言葉を聞き、千束は考えた

本当はこのままロボ太に従えば、吉松の命は保証される

吉松に会って直接話す事が最低目標としている彼女にとって、この選択は究極とも言えた

だが……

 

「…俺を信じられないか?」

「…っ」

彼の言葉が、千束に重くのしかかる

次には千束はアクセルに跨っていた

 

「…先生、ごめん…先に行ってるね」

「あぁ…シンジによろしくな」

「…うん」

ヘルメットを被った千束は最後にミカに言葉を掛けた

 

「……行ってきます」

「…あぁ、行ってこい…!」

 

急発進するアクセルのハンドルを強く握る千束

風に煽られながらも、着実に風都タワーまでの距離を縮めていた

 

「……っ!?」

すると、道路の前方に複数体のドーパントを発見した千束

慌ててアクセルに声を掛ける

 

「刑事さん止めて!向こうにドーパントが…!」

「…いや、このまま突っ切る!」

「えええぇぇぇ!?」

「さぁ…振り切るぜッ!」

更にスピードを上げたアクセルは前方のドーパントを乱暴に跳ね除け、突き進んだ

この奇行には流石の千束も驚きを隠せなかった

 

「ちょっとぉ!?ホントに大丈夫なのぉ!?」

「俺に質問するなッ!」

「いや応えてぇぇぇ!!」

 

 

《 フロッグ!》

 

リコリコに到着した三人

フィリップは到着するなりフロッグポットを起動させた

 

「…何やってるんですか?」

「フロッグポットには、残響音を拾う機能があってな。俺も詳しくは分かんねぇんだけど、まぁ…とりあえずこれで千束達がどこに向かったのかが分かるってわけさ」

「……凄いですね」

「…っ…ビンゴだ!」

すると、突然フィリップが叫び喜んだ

どうやら残響音を拾う事に成功したらしい

 

「これに沿って行けば、千束達に会える」

「残響音は空からは拾えない、再びハードボイルダーで行くしかないね」

「…でも、三人乗りは流石に危険では…?」

「……っ!」

そんな緩い会話をしていると、三人の近くで砂埃がたった

 

「……ぐぅぅ…ぐぐ…!」

「ドーパント…!」

「一般市民が変貌したドーパントだ!行くよ!翔太郎!」

「あぁ!」

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「「変身ッ!」」




次回 仮面ライダーW/L・R

「僕達の力で、彼女を救ってあげよう!」
「風都内の100人かそこらは、初めての自由を楽しんだかぁ?」
「ラジアータが対応しません!」
「そうか…お前らが…俺の家族を…!」
「……またここかぁ…」
「さぁ、反撃開始だぁ!」

第42話「Dの囁き/反撃開始」

これで決まりだ!


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第42話「Dの囁き/反撃開始」

ご無沙汰しております
先日、CSMアクセルドライバーが届いて遊び倒した主です。
まさかあのセリフまで収録されているとは……

もうお気付きの方もいるかと思われますが、この章は映画「AtoZ/運命のガイアメモリ」のオマージュも含まれています。
どこか既視感のある展開…

それでは本編をどうぞ!



「「変身ッ!」」

翔太郎とフィリップの声が、辺りに轟く

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーWに変身した二人はドーパントの前に立ちはだかった

 

「『はっ!』…硬ってぇ!」

「……」

「こいつ…よく見たらジュエルに似てるぞ!」

 

ドーパントはジュエル・ドーパントに酷似しているが、身体の宝石の部分が全て薄い水色に輝いており、その輝きはジュエルよりも輝いて見える

 

『翔太郎、奴のメモリは「ダイヤモンド」だ!おそらく、ジュエルよりも防御に長けている筈だ!』

「なんてタイムリーなドーパントなんだよ…!」

 

ヒート!メタル!

 

サイクロンジョーカーでは不利と判断したダブルはヒートメタルに変身

メタルシャフトにヒートメモリを装填する

 

ヒート!マキシマムドライブ!

 

「『メタルオーバーフロー!』」

メタルシャフトではなく、全身が燃えだしたダブルはヒートの闘志の心の力でダイヤモンド・ドーパントに連続で打撃を与える

 

「……ハァ…ハァ…どうだ…!?」

燃え尽きたダブルは一度敵と距離をとる

 

『…やはり、ヒートメタルの攻撃でもダメか…!』

だが、ダイヤモンドは無傷

更に、指の先から放たれる小さなダイヤの粒子がダブルを苦しめた

 

「確かジュエルの時は、一部分だけ割れやすいところがあって、そこを突いたんだよな」

『あぁ…奴にも同様、石目がある筈だ!』

「だったら、一発逆転と行くか!」

 

「 DRILL!」

 

ヒート!ドリル!

 

ヒートドリルへと変身したダブルはドリルクラッシャーで応戦した

 

破壊力のある攻撃にダイヤモンドも敬遠するも、すぐに攻撃を仕掛けてくる

 

「うぅ…!」

「…フィリップ、あいつどんどん苦しんでるぞ…!」

『……ならば、彼に最も有効的な攻撃で仕留めよう!』

「一体何するんだ?」

『…セラピーを使う!』

「えっ…セラピーって確か…戦闘には不向きじゃなかったのかよ?」

『確かに、セラピーは戦闘には不向きだ。だが、今僕達が相手をしているのは、メモリの毒素に苦しむ一般市民が変貌したドーパント……僕の言いたい事、解るよね?』

「……なるほどなぁ…よっしゃー!」

 

『 THERAPY!』

 

セラピー!ドリル!

 

ヒートメモリとセラピーメモリを入れ替えたダブルは仮面ライダーW セラピードリルへと変身した

 

セラピー!マキシマムドライブ!

 

ドリルクラッシャーにセラピーメモリを挿入すると、ドリルの刃がピンク色のオーラに包まれた

 

「『ドリルメディカルニードル!』」

 

ダブルはダイヤモンドの腹部にある石目に目掛けてドリルクラッシャーを突き付けた

ドリル刃による石目の破壊と同時に、治癒のオーラがダイヤモンドの体内に流れ込む

 

「うっ…ぐわぁぁぁあ!」

爆発が起こった先には破損したメモリ、そして全指に宝石を身にまとった成金男が倒れていた

 

腕には痣のようなものが見受けられたが、セラピーの力で少しは副作用が軽減されているようだ

 

「……んで?三人乗りがなんだって?」

「…あ、いえ…なんでもないです。でも、フィリップさんの身体を置いてけぼりにするのも危険では…?」

『それに関しては問題ない』

すると、道路の向こうからリボルギャリーが物凄いスピードで向かって来た

 

「フィリップくんから連絡あって、来たよー!!」

リボルギャリーの窓から顔を覗かせる亜樹子

車内にフィリップの身体を置き、リボルギャリーにはダブルとたきなの後に着いて行って貰うこととなった

 

「…さぁ、ここからが本番だぜ?たきな」

「……はい!」

『…行こう。僕達の力で、彼女を救ってあげよう!』

ハードボイルダーを発進させたダブル

たきの背中にしがみつくたきな

その後を追うリボルギャリーに乗った亜樹子

 

四人の意志は一つに

今、風都タワーに向けて進んでいた

 

「……さぁ、反撃開始だぁ!」

 

 

 

第42話「Dの囁き/反撃開始」

 

 

 

「…本当に一人で平気か?」

「うん、ここまで連れてきてくれてありがとう。刑事さん」

「…同然の事をしたまでだ。俺は街に蔓延るドーパントの相手をする。お前も覚悟は出来てるな」

「……スゥ……うん」

とうとう風都タワーの目の前、裏口の誰も居ない所に到着した千束とアクセル

千束はアクセルに頷くと同時に頭上に飛ぶロボ太のドローンを撃ち落とした

 

「…じゃあ刑事さん、みんなによろしく」

「……あぁ」

バイクフォームに変形したアクセルは、その場を去る

残された千束は上を見上げ、次なる一歩を踏み出した

 

 

「エレベーターを起動しろ…アルファチーム、到着しました」

非常階段を登りきり展望台まで移動してきたアルファチーム

そこには、そこらに散る血や屍となったテロリストの男共

その周辺には既に待機していた他チームのリコリスが待ち構えていた

 

「…はぁ…やっといてくれたって良いだろ……」

エレベーターのブレーカーを起動させるエリカ

そばではサクラがグチグチとものを言っていた

 

「……やっぱ競走なんスよ…」

 

 

 

「……さぁ、いざ勝負…ラジアータァ!」

その瞬間を、ロボ太は待っていた

 

『……よぉ…また邪魔するぜぇ』

展望台内にあるモニターに真島が映り込む

それは展望台だけでは無い

またしても街中のモニターに真島が映し出されてしまったのだ

 

「…何故またジャックされている!?」

DAにてハッキングを確認した楠木

この真島の再出現には、流石の楠木も驚きを隠せなかった

 

「ラジアータが対応しません!」

「何っ!?」

「外部から…いえ、それもありえないんですが……大量のアタックを受けてラジアータが手一杯になっています!」

 

『風都内の100人かそこらは、初めての自由を楽しんだかぁ?…それとも、楽しむ前にこんな奴らに邪魔されたか?』

「…っ!」

すると、モニターに展望台内のリコリスが映りこんだ

 

『この制服のガキ共に要注意だ…』

 

「……っ」

街を警備していたリコリスの一人に、周りからの注目が集まる

 

『コイツらこそ、国が秘密裏に運用しているエージェント…「リコリス」。風都の平和神話を維持する為なら、なんでもする奴らだ……なんでも、な…』

モニターに次々に映し出されるリコリス達の愚行

カメラに銃を向け破壊を試みたり、未だ交戦中のリコリスなど、次々とリコリスの秘密が暴露される

 

「……っ」

すると、リコリスの近くに立っていた生真面目そうなサラリーマンが、紙袋に手を伸ばした

 

「…っ!」

すると、リコリスはサラリーマンの肩目掛けて発砲する

それに対し、周りは悲鳴を挙げていた

 

『映像なんて見ても信じねぇだろ!?幾らでも捏造出来るからな……だが街中で見た奴も居るんじゃないのか?本物のリコリスを、その目で……』

 

「発砲禁止を徹底しろ!ラジアータは…!?」

「…再起動には時間を要しますが…実行しますか?」

「……クッ…」

 

『この国の行方不明者は一年に3000人…3000人だぞ?その内の何人をリコリスが消してるんだろうねぇ?リコリスを見ちゃったあんた達も……カッ!』

真島は親指で首を切るジェスチャーをする

 

すると、野次馬の中から一人の男性がリコリスに近付いた

 

「…そうか…お前らが…俺の家族を…!」

「…っ?」

「俺の家族は何者かによって殺されたが、世間にはその事件は出回っていない!お前らが…お前らがぁぁ!」

 

《 INJURY!》

 

激昂した男は腕にインジャリーメモリを差し込み、全身を刃物で傷付けられ、血のような体液が吹き出す怪人へと変貌した

 

『自分が幸福でそんな不自然でアンバランスな世の中でも良いって?…ハッ…俺達は神様気取りの奴等から自然な世界を取り戻そうとしている。この映像も無かったことになるだろう…だが、自分の目で見た事を覚えておけ…これが真実で、奴等を倒す始まりだ』

 

『 ETERNAL!』

 

『エターナル!』

 

『…さぁ、反撃の狼煙を挙げろ…お前達は自由だ。どうするかはお前ら次第!生きるか!死ぬか!……ここからが本当の…「NEVER」の始まりだ…さぁ、愚民共!永遠の地獄を…楽しみなぁ…!』ビッ!

次の瞬間、モニターが消えた

 

「…本部、指示を乞う」

全てを聞いていたフキは本部に通信した

だが、返答は無い

 

「……クッ…ククッ」

「…ん?」

すると、サクラがくたばっていたテロリストの一人の異変に気付いた

そして、無造作に置かれたガイアメモリ

 

「……クッ…!」

男がポケットから取り出したのは起爆スイッチ

 

「…おいおいおい…防御ぉ!」

「…っ!」ピッ!

 

次の瞬間、ガイアメモリが爆発

展望台は煙に包まれた

 

 

 

「…風都タワーのリコリスと…通信途絶!」

「……くそぉ…!」

 

 

「…はぁぁ!」

「ぐわぁぁあ!!」

アクセルの攻撃により爆裂するインジャリー・ドーパント

 

「……あいつは上手くやってるだろうか…」

 

 

 

「……よし、行くか!」

ミカから預かった銃を手に進む千束

待ち構えるテロリストを跳ね除け、とある場所まで来た

 

「……」

 

《…お前が俺の仲間を殺ったんだろ?》

 

《…なんでそんな悲しそうな目をしてるんだ…?》

 

《……千束…》

 

「……またここかぁ…」

千束は本日に至るまで、あらゆる記憶が回復していた

それは10年前の風都タワー事件も例外では無い

大道克巳の言葉、翔太郎の言葉、そして…彼女を守った戦士の事を…千束は記憶を蘇らせていた

それは苦い思い出かもしれない。だが、それが彼女を動かすエンジンの役割を果たした

 

「…ヨシさーん!千束ですよー!」

吉松を探し始めた千束

だが、真島の仲間がそれを妨害する

中にはドーパントに変貌しようとした奴もいたが、メモリが身体に挿される前に千束はメモリを弾いた

 

こうやって人を撃っていると、昔の記憶が呪いのように蘇る

かつては私も人を平気で殺す殺人兵器だった

だが、それを変えたのはキチさんとヨシさんの存在だった。ヨシさんがしようとしたことは許されることでは無いかもしれない。でももしも…もしもヨシさんが自分の罪を償ってくれるなら……そう思うと…絶対助けなくちゃって思う

 

「ふっ!」

「がぁ!」

「……ヨシさーん!」

千束が吉松を呼ぶと、遠くから彼女を呼ぶ声が聞こえた

 

「……っ」

すぐにその声の方向へと進む千束

そこは風都タワーの最上階

円形状に広がる空間の中央に、大きな椅子のような装置が置かれていた

 

「……」

「……ヨシさん……これは…」

その装置に縛られていた吉松

彼女を心配するように、そして待っていたかのような表情を見せた

すると、どこからともなく声が聞こえた

 

「エクスビッカー…かつて大道が自分の母親を蘇らせようと設置された代物さ」

「……真島…!」

「大体想像が着くだろ?それもアランの支援による物だ。下手すれば風都が滅ぶかもしれない…こんな物を作れるのは、コイツらだけだ…」

千束にエターナルバレットの銃口を向けた真島はトリガーを引いた

 

「…っ!」

「がっ…!」

「…っ…ヨシさん!!」

千束がそれを避けたことにより、銃弾は吉松の肩に命中した

その影響で吉松のスマホがこぼれ落ちる

 

「カハハハハ…避けると大事なヨシさんに当たっちゃうぜ〜」

「…っ」

真島の攻撃をリコリス専用のカバンを使って防ぐ千束

千束が銃弾の威力に押されると、照明が消えた

 

「……」

すぐさま懐中電灯を点け辺りを見渡す

後ろを振り返ると吉松の姿も消えていた

ロープがちぎられたところからみるに逃亡に成功したと思われる

 

「…あんたなんでヨシさんを…!」

「攫ったのかって…?ハッ」

千束は見えない敵に問いかける

返事はある。真島はすぐそばに居る

 

「……っ」

『映像は、風都タワーからの中継です。武装した少女が、発砲を繰り返しています!』

「……フキ…」

「見ろよ…あっちのリコリスは今や全国デビュー中だ。ハハッ…これでお前らは終わりだ!」

「…グッ…!」

千束に殴り掛かる真島

暗い中では千束は思うように攻撃出来ない

 

「…そういえば…あんた地獄耳だったね」

「よく覚えてるじゃねぇか…そうさ……コッ…」

真島が口を鳴らすと、辺りにその声が木霊する

最後にはその情報は全て真島の耳に入ってくる

 

「相手の微細な動きで射線と射撃タイミングを判断する…すげぇ能力だ。アランが興味持つ訳だぜ…」

「……っ」

「…だが…死角がお前の弱点だ!」

「グッ…!」

視覚が彼女で全てであるが、死角…暗闇の中ではそれは発揮されない。だが、相対する真島は聴力…自分や他人から発せられる音とその反響などを感じ取り、物の正確な位置まで把握。暗闇の中に於いて、彼は格段に優位に立っていた

 

「…クッ」

「…良いのかァ?そりゃ実弾だぜ?」

「…っ」

「ふんっ!」

「がぁ!」

一度は形成を逆転させた千束だが、真島の言葉に踊らされ逆手に取られる

 

「聞いたぜ、ヨシさんからよ。つまんねぇ縛りで才能を枯らしてんだってなぁ……けど俺はお前のそういうとこ好きだぜ?人に生き方を強要されるのは俺も嫌い……」

「一緒にすんなぁ!」

「……二人でアラン機関を叩かねぇか?ヨシさんは痛めつけてもなかなか口を割らねぇんだよ。お前となら組めるかもしれねぇ」

「……っ」

背後に真島の気配

 

「……クッ…っ」

すると、千束は落ちていた吉松のスマホに電話の着信が入っていることに気が付いた

三回バイブレーションを起こした後、一度だけ振動する

 

この一見意味不明な着信の方法に、千束は見当があった

 

「……っ!」

「……?…フッ」

突然逃げる千束、追いかける真島

 

だが、その瞬間は訪れた

 

「……っ」

二人の横にあるシャッターも締め切られた大きな窓から、ハードボイルダーに乗ったダブルとたきながシャッターを突き破って二人の間に飛び出してきた

 

「…っ!」

「…グッ…クッ」

「『はぁ!』」

「がはっ!」

たきなが真島の顔面を殴った後、ダブルが追撃で殴り掛かる

それを避けた真島はたきなを拘束する

 

「…お前の方は興味ないって言ったよな……っ!」

そこを千束は突き、真島の腹部にゴム弾を命中させた

 

「グッ…ガァァ!」

「『はっ!』」

二人を庇うダブル。先程の攻撃でリコリスバックを失った千束と銃を奪われたたきな。そして、弾丸を使い果たした真島

 

「……」

「……」

「『……』」

「……」

 

対峙するこの五人は、この戦いの先に何を見るのか…




次回 仮面ライダーW/L・R

「お前の相手は、この俺だ」
「……幸せ…殺しが私の幸せなの?」
「お前を生かす“心臓”は、今はココだよ」
「……この男…正気の沙汰では無い」
「おい!何するつもりだ!?」
「君たちに教えてあげよう…本当の幸せとはなんなのか…!」

第43話「救世主Y/千束にとっての幸せ」

これで決まりだ!


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第43話「救世主Y/千束にとっての幸せ」

ご無沙汰しております
それでは続きをどうぞ!



「……よぉ…久しぶりだな、仮面ライダー…」

「『……』」

「…ケッ…今はそんな事行ってる場合じゃねぇってか?見るからに分かるぜ…奴の動きが鈍い。心臓が壊れかかってる」

「…っ!?」

「無理をしたからだろうなぁ…これ以上下手なことをすれば死ぬぞ?お前」

「……あんたには関係ない!」

真島の言葉に反応する千束

 

「…千束、たきなとここを離れろ」

「…で、でも翔太郎さん達が…!」

『安心したまえ、奴に対抗出来るのは同じガイアメモリを持つ僕らだけだ。君たちは、おそらく風都タワーの頂上にいる、吉松シンジを探せ』

「…えっ?」

「ほんとは真島の言う通り、これ以上無理をさせない為に連れて帰るつもりだったんだが……ここまで来ちまったらもう後戻りも出来ねぇだろ?それに…」

千束に振り返るダブル

 

「……後悔する前に、ちゃんと話してこい」

「…っ…うん…!」

「…千束、行きましょう」

「うん!」

ダブルと真島から離れる千束とたきな

すると、真島は呆れたように笑った

 

「…カッ…なんだ白けちまったぜ」

「…真島…お前はもうここまでだ」

「……は?そんな訳にはいかねぇんだよ」

真島はエターナルメモリを構えロストドライバーを装着した

 

「 ETERNAL!」

 

「終わるわけねぇだろ…終わってたまるか……変身」

 

エターナル!

 

仮面ライダーエターナルへと変身した真島はエターナルバレットを構えた

 

「はぁぁぁ!」

「クッ…はっ!」

エターナルの猛攻に応えるダブル

最上階のフロアを有効に使った戦闘スタイルを見せた

 

『…っ…見たまえ翔太郎!』

「っ!…あれは…エクスビッカー…!?」

そこでダブルの二人は最上階の中央に設置されたエクスビッカーの存在に気付く

 

「真島!エクスビッカーを使って何をするつもりだ!?」

「なんだよ…コレの事知ってたのかよ……じゃあ、かつて大道がこいつを使った事も知ってるよな?」

『…勿論。彼は自身の母親を蘇らせる為、風都タワーに眠るエネルギーの収束、及び使用を試みた…だが、スカルの妨害により、その野望は打ち砕かれた』

「…その通り。つまり…この装置には人を蘇らせる事が出来る力を持ってる」

「…まさか…!?」

「お察しの通りだ…俺はこの装置を使って、大道を生き返らせる!そして、NEVERの名を…再びこの風都に轟かせる!」

「なにっ!?」

ダブルを蹴り飛ばすエターナル

 

「……それに、今の俺には強力な助っ人が居るんだよ。癪には触るが、利用出来る物はどんどん使わせて貰うぜ〜」

すると、エターナルは懐から濃い緑の次世代型ガイアメモリを取り出した

 

『 UNICORN!』

 

ユニコーン!マキシマムドライブ!

 

『次世代型ガイアメモリ!?まさか…新たな支援を受けたのか!?』

ユニコーンメモリのマキシマムを発動させたエターナルは右拳にドリル状のエネルギー波を纏わせる、コークスクリューパンチを繰り出した

 

「はぁぁ!」

「『ぐわぁ!』」

エターナルの攻撃に倒れるダブル

 

『まずいよ翔太郎!今の彼は以前の彼より格段に強くなってる!』

「あぁ、奴は耳が良いからな…俺達の動きを音で判断してるんだろうよ」

『厄介な相手だ…!』

「…だが、諦めるのはまだ早いぜ?相棒」

『…えっ?』

翔太郎の言葉に、素直に疑問を持つフィリップ

 

「忘れたのか?風都にいる仮面ライダー俺達だけじゃねぇ」

『……まさか…!でも、彼は今街にいるドーパントを…』

「確かにそうかもな……だが、奴は必ず来る。絶対にな」

「あっ?何をごちゃごちゃ言ってんだぁ!?」

しびれを切らしたエターナルがダブルに向かってくる

 

だが、その時

 

「…はぁぁぁあ!」

「っ!?なにっ!?」

先程の窓から今度はタービュラーユニットと連結したアクセル。アクセル・タービュラーとなった仮面ライダーアクセルがエターナルに突撃した

 

『照井竜!?』

「よく来たな、照井」

「当然だ。街のドーパントが忽然と姿を消した。おそらく、ガイアメモリに仕込まれていた特殊な作用の効果が切れたのだろう…全員ぐったりとした状態で、今は昏睡状態にある」

「…って事は、もう街の方の心配はしなくていいな……あとはお前だけだ、真島!」

「…クッ…クカカカカカ…流石だぜ、お前らはよぉ……ククッ…」

顔を手で覆いながら方を震わせるエターナル

 

「…そう来なくちゃ…やっぱり俺とのバランスが!悪ぃからなぁ!」

エターナルはエターナルバレットを手に迫って来る

 

「…行けるか!?照井!」

「俺に質問をするな!」

『…フフッ…行くよ!翔太郎!』

「…あぁ!」

「『…さぁ、お前の罪を…数えろ!!』」

「…さぁ、振り切るぜッ!」

 

 

 

第43話「救世主Y/千束にとっての幸せ」

 

 

 

「……ハァ…ハァ」

「…千束、私から離れないでくださいね」

「……ハァ…ねぇ、DAはどうしたのさ?」

「…辞めて…来ました」

「…ははっ…バカだねぇ……でもありがと」

「……」

走りながら最上階から離れる千束とたきな

 

「……ハァ…ハァ」

「…千束…大丈夫ですか?」

「…ハァ…な〜に?アイツの言葉鵜呑みにしてんのぉ?手加減してたからに決まってるじゃんっ!」

「……」

見るからに分かる

千束の身体は消耗していた。普段ならこんなところでくたばったりなどしない

これもハートメモリが抜けられた事が原因か、それとも…

 

「ヨシさんを探そう!フィリップさんの話だと、頂上に居るだったよね?」

「は、はい…」

話を有耶無耶にした千束は頂上へと続く階段へ足をかけた

 

 

ヒート!ニンジャ!

 

赤と紫のヒートニンジャへと変身するダブル

 

切り裂く刃には炎が纏い、ニンジャソードは逆手に構えられていた

 

「行くぞ!左、フィリップ!」

「『あぁ!』」

 

エンジン!マキシマムドライブ!

 

ニンジャ!マキシマムドライブ!

 

「はぁぁぁ…はぁぁあ!」

エンジンブレードの刀身から炎が吹き出る。アクセルはエターナルに向かってエースラッシャーを放った

 

「『ニンジャカートンバン!』」

ニンジャソードにニンジャメモリを装填したダブルはニンジャソードから噴射される炎を利用し、ニンジャソードを逆手に持ったまま回転するように斬撃を与える

 

『 OCEAN!』

 

オーシャン!マキシマムドライブ!

 

「はぁぁあ!」

エターナルはそれに対抗し、オーシャンのマキシマムドライブを発動させた

攻撃は相殺され、エターナルは余裕の笑みをすら見せた

 

「…チッ…これじゃキリがねぇな」

「…左、フィリップ…お前達は彼女達の元へ行け」

「えっ!?良いのか!?」

『無茶だ!彼に勝つのは至難の業だ!』

「問題ない。もう俺は、以前の俺では無い…」

アクセルはダブルの一歩手前へ進み、エンジンブレードをエターナルに突き付けた

 

「……お前の相手は、この俺だ」

「…本気かよ……」

『翔太郎、こうなったらもう彼は止められない。僕らは先を急ごう!』

「……あぁ…そうさせてもらうぜぇ!」

 

アクセルから離れるダブルは先を急いだ

 

 

「……」

「……ヨシさん…!」

風都タワーの頂上

吉松を見つけた千束は喜びを顕にしていた

 

「大丈夫?撃たれて無いですか?」

「…あぁ、掠めただけだ」

振り向いた吉松は、以前お店で見せた優しい顔をしていた

 

「来てくれたんだね、千束」

「だってあんな写真見たら…あ、携帯ないんだった…」

「奴は死んだか?」

「…えっ?」

「私をこんな目に遭わせた真島を殺したか?」

「……」

彼女の中にあるのは、少しの期待と、大きな真実

 

「…殺してくれたんだろ?」

「……ヨシさん…」

それは分かっていた

分かっていた上で、彼を助けに来た

だが、今ここで彼の本性が顕になってきた

 

「殺してないのか!」

「…ヨシさんの期待に応えられなかったのは分かってる、でも…!」

「なんだ!?マザー・テレサにでもなったつもりか!?」

一風変わって激昂する吉松

千束とは目も合わせていなかった

 

「だって…!人に救われた命で誰かの命を奪えるわけないじゃない…!」

「……君は分かっていないようだ…人生の役割が明確に分かる人間は少ない。だが君にはある!…これほど幸せな事は無い」

「……幸せ…殺しが私の幸せなの?」

「そうだ。それによって君は、人類と世界に貢献できるのだから」

「…私は、結構幸せだった…出来れば誰かの役に立ちたかったんだけど……貴方が私にしてくれたみたいに…!」

「私はそんな事の為に、死にかけの人形の発条(ぜんまい)を巻いた訳じゃ無い」

「…っ」

その言葉は彼女にとって衝撃だった

彼は本当に、自分を殺しの道具としてしか見ていなかったのだと、千束は教えこまれた

 

「…人形…人形か……上手いこと言うなヨシさん……」

それでも平然を装う千束

 

「君に、その銃は相応しくない。返してくれ」

「……」

言われるがまま銃を吉松に手渡す

吉松はマガジンを引っ張り出し、中の銃弾を見て落胆する

 

「……ミカめ…こんな物を…」

そして、胸ポケットから別のマガジンを出し銃に装填する

 

「君には、実弾が相応しい…!」

「…っ!」

千束の顔面目掛けて銃を放つ吉松

それを避けた千束

 

「…素晴らしい……っ!?」

すると、その拳銃を何者かが放った光弾によって弾かれる

 

「…おっと…それ以上は御免だぜ?」

「翔太郎さん!」

ルナトリガーとなったダブルが、たきなと横並びに立っており、たきなの手には銃が、ダブルの手にはトリガーマグナムが握られていた

 

「みんな銃を下ろして!」

「そうはいかねぇ…吉松!あんたが真島と共謀し、千束をここに誘い込んだのは分かってる…いいや、真島も利用したんだろ?」

「……」

『一連の事件が起きたのは、全て彼の仕業だ。真島にメモリを渡したのも、ウォールナットにラジアータをハックさせたのも、殺したのも…』

「それに、松下みつおに扮していたのもあんただった……そして、千束の心臓を壊したのも…全部あんたのせいだった」

ダブルはトリガーマグナムの銃口を吉松に向けながら語った

 

「…だが、俺達の目的はあんた自身じゃない」

『貴方が持っているハートメモリ…それを渡してさえくれれば、今までの事は見過ごそう』

「…え?」

ダブルの二人の言葉に、千束は少しだけ驚く

 

「あんたが持ってるんだろう?千束の心臓から抜き出した、ハートメモリを!」

「……確かに、メモリは私の手にある」

ハートメモリをダブルに見せ付ける吉松

 

『……やはり…』

つまり、ジャックの正体も……

 

「だが、ハートメモリを取り返したところで、千束は救えない。具体的にどうやって彼女を救うつもりだい?」

「確かに、ハートメモリだけだと難しいかもな……だが、相棒が見つけてくれた。エクストリームの力さえあれば、ハートメモリのプログラム基、千束の心臓のデータも治せる!」

フィリップが見つけてくれた、唯一千束を救える方法

一か八かだが、この方法に掛けてみるしかない

 

「…確かに…君達ほどの力があれば、千束を救えるかもな……だが…」

すると、おもむろにシャツを脱ぐ吉松

だが、胸を開いた瞬間、その場の全員が驚いた

 

「『…っ!?』」

「…っ!」

「…っ!」

「……千束、お前を生かす“心臓”は、今はココだよ」

なんと、エクストリームメモリが吉松の胸に埋まっていたのだ

 

『エクストリームメモリ…!』

「なんて事をぉ…!」

「…私を撃って手に入れなさい」

唖然となる千束に銃を手渡す吉松

 

「…っ」

「これで、君はまだまだ生きられる。さぁ、躊躇うな…君自身の価値と人生を取り戻すんだ!その為なら、私は命を捧げるよ!」

「……狂ってる…」

『……この男、正気の沙汰では無い』

千束に銃を持たせ、銃口を額に付けた状態で膝を着く吉松

そんな彼を見て、たきなとフィリップは引く目で彼を見ていた

 

「…千束っ!」

「…っ…馬鹿にしないで!撃てるわけないでしょ!!」

「……そうか、やはり…まだ()()()になっていないようだね…」

「…えっ?」

すると、吉松は立ち上がりアランドライバーを装着した

 

「…お、おい!何するつもりだ!?」

「…千束が私を殺せないのは、君の甘さ故だ」

たきなを見つめる吉松

 

「…君の大切な人が死んだら、君はどうなるんだろうね」

「…っ…まさか…!?」

「君達に教えてあげよう…本当の幸せとはなんなのか…!」

 

《 HEART!》

 

「…やめろォ!」

「……全ては…千束の為に…!」

 

アランドライバーにハートメモリを挿し込む吉松

吉松の身体はみるみる変化していき、黒を基調とした身体に赤と青のライン。開花した赤い花の中央に頭部が存在し、まるで彼岸花を彷彿とさせる見た目となった

 

「…あ、あれが…エクストリームとハートメモリが融合した姿…!」

『……ハート…エクストリーム…!』

あれこそが、ハート・ドーパントのエクストリーム態、「ハートエクストリーム」。ハート・ドーパントの新たな姿であり、真の姿でもある究極の存在だ

 

「……千束、思い出させてあげよう…君の、使命を…!」




次回 仮面ライダーW/L・R

「素晴らしい!これが10年もの間千束の中で眠っていた、ハートメモリの力か!」
「もう彼を…倒すしかない!」
「その心臓を!私が引きずり出してやる!!」
「お前のくだらん理想も、これで終わりだ」
「さぁ、バランスゲームの始まりだァ!」
「使わせてもらうぜ…あんたがくれた、最後の切り札をな!」

第44話「救世主Y/いのちだいじに」

これで決まりだ!


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第44話「救世主Y/いのちだいじに」

ご無沙汰しております
とうとうこの時がやって来ました
それでは続きをどうぞ…!



ここは、「Bar Forbidden」

エレガントな雰囲気の中、吉松シンジはある一人の男を待っていた

 

「…やぁ、来てくれたんだね。荘吉」

「……」

無言のまま、荘吉は彼の横のカウンター席に座る

 

「何の用だ…千束の手術は成功したと聞いたが?」

「あぁ…それについて、君に礼が言いたくてね…」

荘吉の前に酒の入ったコップが置かれる

 

「君のおかげで、千束は生き永らえる事が出来た。君には感謝してもしきれないよ」

「俺は何もしてねぇよ…」

「まぁそう言わずに、君にぴったりなものを持ってきたんだ」

吉松はそう言うとカウンターテーブルの上に一つのジュラルミンケースを出して来た

 

「……」

「これもアランの支援によって生まれた代物だ…」

ケースの中に入っていたのは銀色のアダプターだった

 

「「ガイアメモリ強化アダプター」。君の持っているメモリに使用すれば、性能が3倍に強化される」

「……」

「是非ともこれを君に受け取って欲しい。君の才能をもっと世界に届ける為にも──」

「…断る」

「……」

「…シンジ…いつまでこんな事をやっているつもりだ」

「……何が言いたいのかな?」

 

 

 

第44話「救世主Y/いのちだいじに」

 

 

 

「…あ、あれが…エクストリームとハートメモリが融合した姿…!」

『……ハート…エクストリーム…!』

ハートエクストリームへと変貌した吉松は、ダブルに向かって手を差し出す

 

「……千束、思い出させてあげよう…君の、使命を…!」

「『…グッ!』」

すると、ハートのてから赤い淡いオーラが溢れ出し、ダブルの首に絡み付いた

そのままダブルはそのオーラに釣り上げられるように宙に浮く

 

「左さん!」

「フィリップさん!」

「『…クッ』」

苦しむようにするダブル

 

「…クッ…このっ…!」

「ふっ…!」

「グッ…!」

「たきなっ!」

銃を向けたたきなも、同様の攻撃を与えられる

 

「ヨシさんやめてっ!」

「…ならば私を討て!私を殺さない限り、お前が笑える未来はやって来ない!」

「ヨシさんを殺しても!私は笑えないよ!」

「…いいや、君は必ず幸せになる。その為にも…!」

「『ガッ…!』」

「グゥッ…!」

ダブルとたきなに対する締め付けがキツくなる

 

「君たちのような邪魔者は、私が排除する!」

「ククッ…!」

「……クッ…フィリップ…!」

『…あぁ、もう彼を…倒すしかない!』

ダブルドライバーからトリガーメモリを抜き出し、トリガーマグナムに装填する

 

トリガー!マキシマムドライブ!

 

「…クッ…『トリガー……フル…バースト!』」

トリガーマグナムの銃口から放たれた光弾はハートに命中する

 

「ウッ…!」

ハートの呪縛から開放されるダブルとたきな

 

「たきな!大丈夫か……っ!?」

「くははははは!素晴らしい!これが10年もの間、千束の体内(なか)で眠っていた、ハートメモリの力か!」

「な、なに!?」

攻撃は全て命中した筈、のにも関わらず、煙が晴れた先には無傷のハートが立っていた

それに留まらず、己の力の偉大さに感激していた

 

「クッ…こうなったら、一気に攻めるぞ!フィリップ!」

『あぁ!』

 

ルナ!メタル!

 

ルナメタルにハーフチェンジすると、メタルシャフトをムチのように伸縮させてハートに攻撃する

 

「……ふふっ」

「『クッ…!』」

だが、ハートの周囲には結界のようなバリアがあり、攻撃は当たらなかった

 

メタル!マキシマムドライブ!

 

「『メタルイリュージョン!』」

振り回すシャフトから金色の輪を大量に出現させたダブルはその輪をハートに向けてぶつける

 

「…ふふっ…はっ!」

「『ぐわぁ!』」

だが、攻撃は簡単に否され、更には手から放たれた波動により数メートル後ろに吹き飛ばされる

 

「くっそ!なんなんだよあのバリアは!」

『とても厄介だ!こちらの攻撃が全く効いていない!』

「…こんな時にエクストリームの力さえあれば…!」

『だが、今や僕らのエクストリームの力は彼の胸の内だ。この戦い、相当厳しい戦いになるだろうね』

「……」

『…ん?どうしたんだい?翔太郎』

「……いや、一か八か…作戦を思い付いた」

『…まさか、また無茶をしようとしてるんじゃないだろうね?』

「いや、今回はどちらかと言うと……あの二人だ」

ダブルの視線は千束とたきなに向く

 

『…っ?』

「…この作戦を成功させるには、千束とたきなの力が必要だ」

 

 

「はぁぁっ!」

「へはは!はぁっ!」

アクセルとエターナルは激闘を繰り広げていた

 

「はぁ!」

「クッ…!」

エターナルに突っ込むアクセルだが、エターナルバレットによる攻撃で牽制されてしまう

 

ジェット!

 

「ふんっ!」

「グッ…!」

すかさずアクセルがエンジンブレードで攻撃をする

 

エレクトリック!

 

「てやぁぁ!」

「がはっ…!」

「……ハァ…ハァ」

「…クッ……ハァ…ハァ」

 

両者一歩も引かない猛攻撃に、一旦息を整えることになった

 

「…へへっ…なかなかやるじゃねぇか…」

「…貴様も…なかなかの腕だ」

「…ヘッ…残念だなぁ…ここでお前とおさらばになるのはよっ!」

 

『 BIRD!』

 

バード!マキシマムドライブ!

 

バードメモリをエターナルバレットに装填したエターナルは引き金を引く

銃口からは鳥の羽型の光弾が高速でアクセルの身を突いていた

 

「…クッ…ぐはっ!」

攻撃に耐えかねたアクセルは地面に倒れる

 

「…俺は大道を生き返らせて、NEVERを復活させる!俺達は永遠に不滅だぁ…!」

「……クッ…いいや、ここで終わらせる!」

エンジンブレードを杖にして立ち上がるアクセル

その手には漆黒のメモリが握られていた

 

「貴様らがどれほどほざこうが、俺が必ず…貴様を倒す」

「…なんだ?風都署をやられた復讐か?」

「…復讐…いいや違うな」

珍しく激昂の中で質問に答えるアクセル

 

「…これは、俺の仮面ライダーとしての使命…街の平和と、市民の命を守る。仮面ライダーアクセル…俺の、流儀だ!」

 

「 ZERO!」

 

ゼロ!

 

「……グッ!」

アクセルドライバーにゼロメモリを装填し、パワースロットルを捻る

アクセルの身体が漆黒に染まり、ゼロメモリから飛び出た黒い鎖がアクセルの身体を締め付ける

 

「…憎しみも…哀しみも…俺は全て振り切った!今の俺は独りじゃない…」

アクセル基、照井竜は妻である亜樹子の事を想い、死んだ家族や、鳴海探偵事務所の仲間、風都署の仲間、そして喫茶リコリコの仲間の事を想った

 

「…クッ…ぬぅぅぁぁぁあああ!!」

 

Shake off !!

 

「はぁぁっ!!」

仮面ライダーアクセル・ゼロへと変身したアクセルはエターナルにエンジンブレードを突き付けた

 

「…あ?なんだそりゃ?」

「俺に質問をするな」

 

 

「ふっ…!」

たきながハートに向かって銃弾を放つ

 

「ふふっ…ふはははは!」

「っ!」

だが、ハートの周りにあるバリアに銃弾が触れた瞬間、弾丸は時が止まったかのように停止した

ハートが手を払うと、その銃弾は四方に飛び散り、たきなの腕を掠めた

 

「君には期待していたんだがね…たきなちゃん」

「…ウグッ!」

再びたきなが宙に浮く

 

「たきなっ!」

「…クッ…このっ…!?」

ダブルがハートに攻撃を与えようとした瞬間、ある者の攻撃がそれを阻止した

 

「…て、てめぇは…!」

『…ボルテージ・ドーパント…!?』

ダブルの前に現れたのは、千束の心臓からメモリを抜き取った張本人だった

やっぱり吉松とグルだったのか…!

 

 

 

「翔太郎さん!フィリップさん!」

「…友達が死ぬぞ、早く殺せ」

「……クッ…無理だよぉ…!」

「…無理じゃないさ……」

「……ウッ」

吉松が差し伸べていた手を戻し、胸に手をやる

たきなの拘束が解け、地に倒れながらもハートを睨む

 

「……ふんっ…!」

「…っ!?」

すると、ハートは自分の胸に両手を置いたかと思えば、胸に指を食い込ませ、引き裂くように身を広げる

心臓がむき出しになり、千束とたきなはそれを絶句しながら見ていた

 

「…カハッ…ハァ…千束、狙うはただ一点!ココを撃てば、君は自由になれる!」

「…や、やめてよヨシさん!元に戻して!」

「…クッ…うううぅぅぅぅぅ!」

すると、立ち上がったたきながその心臓に向かって銃口を向けながら走って来た

 

「…っ!」

引き金を引こうとしたたきなを千束が制止させる

 

「なにしてんの…!?」

「千束が出来ないなら私が…!」

「落ち着いてたきな!」

「…ははははっ…千束の前で君が私を撃つ事など出来ないよ、たきなちゃん」

「…クッ…その心臓を!私が引きずり出してやる!!」

「……っ」

狂犬のような目をしたたきなを、千束は抑える

 

 

 

「…くっそ…たきなも我慢の限界みたいだぜ…!」

『時間が無い。悪いけど、君の相手をしている時間もない。早急に終わらせて貰うよ!』

 

パイレーツ!ドリル!

 

ダブルはボルテージにそう言い放ち、パイレーツドリルにハーツチェンジした

 

ドリル!マキシマムドライブ!

 

「『ドリルメイルストローム!』」

ドリルクラッシャーに纏う水のエネルギーが巨大化し、それがまるで渦潮のように激しい水流を生み出した

それを前方に飛ばし、ボルテージに攻撃を与える

 

「……クッ…!」

「ダメ押しだ!今度はこいつで行くぜ!」

 

パイレーツ!ニンジャ!

 

ニンジャ!マキシマムドライブ!

 

パイレーツニンジャにハーフチェンジしたダブルはすぐさまニンジャソードにニンジャメモリを装填した

 

「…っ!?」

ダブルは床を潜るように消え、ボルテージの目を眩ませる

 

「『はっ!』」

「…っ!」

「『ニンジャスイトンザブン!』」

床から飛び出たダブルはボルテージに斬撃を与える

 

変身が解除されたボルテージ基、姫蒲

落ちていたメモリに手を伸ばすも、それをダブルに取られ握り潰された

 

「……さて、こっちは片付いたな…」

『…だが、ハートは強力なドーパントだ。どうやって太刀打ちするか……』

「…相棒、さっき言った作戦…覚えてるか?」

『…もちろん。やはりアレで行くのかい?』

「あぁ…もうつべこべ言ってらんねぇ…!」

 

 

「ははぁ!」

「…ふっ!」

「ヘッ…なるほどなぁ…確かにそのメモリの力、強ぇな」

エターナルと交戦するアクセル・ゼロ

無の記憶と永遠の記憶という相反する力のぶつかり合いは両者を奮い立たせていた

特に真島。先程までの力の差が嘘のように、アクセルの猛攻撃を受けて内心衝撃を受けているが、それと同時にこの上ない高揚を感じていた

 

「潰しがいがあるってもんだぜぇ!」

 

『 VAIOLENCE!』

 

バイオレンス!マキシマムドライブ!

 

今度はバイオレンスメモリをマキシマムスロットに装填する

 

「はぁぁぁ…はぁっ!」

「…っ」

エターナルの右腕が膨れ上がり、そのまま床に叩き付けた

攻撃を回避したアクセルはエンジンブレードを構える

 

エンジン!マキシマムドライブ!

 

「はぁぁっ!」

「…っ!」

鎖に繋がれたエンジンブレードを振り回し遠距離からエターナルに斬撃を与える

 

「…お前のくだらん理想も、これで終わりだ」

 

ゼロ!マキシマムドライブ!

 

「……ヘッ…冗談だろ…ここから始まるんだよ!」

 

エターナル!マキシマムドライブ!

 

「…さぁ、バランスゲームの始まりだァ!」

互いにマキシマムを発動させ、力を込める

 

「はぁぁぁ……はぁっ!」

「はぁぁぁ……たぁっ!」

両者が飛び上がると、エターナルの右足から緑色のオーラが溢れ、彼を螺旋状に包み込んでいた。対するアクセルは右足に巻き付いた鎖がエターナルと同様に螺旋状に解き放たれる

 

「はぁぁぁ!」

「はぁぁぁ!」

両者の攻撃はぶつかり合い、衝撃を走らせながらただただ力を込めて行く

 

「死ねぇぇぇ!」

「俺は…死なんッ!」

「ぐわっ!」

攻アクセルの攻撃がエターナルに命中し、エターナルの胸に「Ø」の文字が現れる

 

「…絶望が、お前のゴールだ!」

「ぐわぁぁぁあ!!」

大爆発を起こし、そこには真島が横たわっていた

 

アクセルがエターナルに勝利した瞬間だった

 

 

「さぁ千束!私を討て!殺せ!」

「……っ!」

千束がハートに銃口を向けた瞬間だった

 

「その必要はねぇぜ、千束」

「…翔太郎さん…!」

ダブルの右手が千束の肩に置かれていた

 

「確かにあんたを倒すには、千束やたきなの力が必要だ。だが、それじゃあ誰の心も救われない」

「…えっ?」

「だから見つけたのさ、誰の心も傷付けず、あんたを倒す方法を!」

「……なに?」

「使わせてもらうぜ…あんたがくれた、最後の切り札をな!」

ダブルは懐から二本のガイアメモリを取り出した

一本は朱色、一本は紺色の

アラン機関の支援で得た、第五・六のメモリ!

 

『 LYCORIS!』「 RECOIL!」

 

ドライバーにリコリスメモリ、リコイルメモリを装填したダブルは、ドライバーを展開させる

 

リコリス!リコイル!

 

右半身が朱色、左半身が紺色に変化したダブル

仮面ライダーダブル リコリスリコイルへとハーフチェンジしたダブルは、後方にいる二人に視線を送った

 

「…行くぜ、千束!たきな!」

「…うん!」

「はいっ!」

「『…さぁ、お前の罪を数えろッ!』」




次回 仮面ライダーW/L・R

「貴方は知らないだろう!ハートメモリの本来の力を!」
「命を粗末にする奴は嫌いだ!」
「何故だ!何故分からないんだァァ!!」
「…救世主…?違うな……お前は…」
「翔太郎!」
「……あぁ…!」
「「変身ッ!」」

第45話「救世主Y/花の塔」

これで決まりだ!


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第45話「救世主Y/花の塔」

という事で、書き始め当初からやりたかった事が遂に出来ます!
大体予想がついてた人もいるかな?
それでは続きをどうぞ!



リコリス!リコイル!

 

「…行くぜ、千束!たきな!」

「…うん!」

「はいっ!」

「『仮面ライダーダブル…リコリスリコイル!さぁ、お前の罪を数えろッ!』」

 

ダブルはハートに指を指す

千束とたきなはダブルの横に並び、それぞれの銃を構えた

 

「千束…心苦しいかもしれねぇが、俺が合図を出したら奴に攻撃して欲しい」

「えっ?」

「なにも心臓を狙えって訳じゃない。一瞬…一瞬だけ奴を怯ませることが出来れば、それでいい」

「…わ、わかった…!」

『井ノ上たきな、君は僕らと共に奴に攻撃を』

「で、ですが…奴の周りにはバリアが…」

『確かに、あのバリアは厄介だ。だが、僕の推測が正しければ、錦木千束による攻撃で、奴はバリアを出す事が出来なくなる』

「えっ!?」

「千束が攻撃した後、たきなが追い討ち時間を稼いでくれ。そしたら俺たちがトドメを差す」

「…ほ、本当に上手くいくのでしょうか…?」

『僕達を信じたまえ』

「……分かりました!」

 

一斉にハートに向かう千束とたきな、そしてダブル

ダブルはトリガーマグナムと同型の武器、「リコイルマグナム」を使用し、バレルユニットを上げた状態で引き金を放つ

たきなも同様に攻撃するが、やはりバリアに当たると動きが止まる

 

「……無駄な足掻きを…!」

ハートが再び手を払うと、銃弾は四方に飛び散る

 

「……ふふっ…っ!?」

ハートが嘲笑うと、砂埃の中から飛び出して来た千束がハートに発砲して来た

 

「なっ…!」

「攻撃が…当たった!?」

『吉松シンジは彼女に殺されようとしている。つまり、彼女から攻撃すれば、無意識にでもバリアを解除する。そう踏んだのさ!』

「たきな!突っ込め!」

「はいっ!」

ダブルの号令に、たきながハートに突っ込む

 

「…クッ…!」

反撃の余地を与えない程の猛攻撃

 

「…な、何故だ…何故攻撃が…!」

ハートは千束以外の攻撃が自分に当たる理由が分からず困惑していた

 

『貴方は知らないだろう!ハートメモリの本来の力を!』

「な、なにっ!?」

 

リコイル!マキシマムドライブ!

 

リコイルマグナムにリコイルメモリを装填するダブル

マキシマム状態にし、銃口にエネルギーを蓄積させる

 

『ハートメモリは、ジョーカーメモリのように使用者の精神に大きく関わる性質を持つ。ジョーカーメモリが使用者の感情をエネルギーに上限を超える力を持つように、ハートメモリにも使用者のある“思い”がエネルギーとなる!』

「…そ、その思いとは…!?」

『…使用者の、「生きようとする力」だ!』

「あんたは千束に殺されたいと思っている。生きようとする思いとは全く反対だ。だから、あんたにハートメモリを使いこなせる筈がねぇんだよ…エクストリームの力で強くなったつもりか?冗談じゃねぇ!生きようとする“思い”…それが一番似合ってるのは、千束ただ一人だけなんだよ!」

 

リコイルマグナムの銃口にエネルギーが最大まで蓄積した

 

「これで決まりだ!」

「『リコイルアライブ!はぁぁぁ!!』」

リコイルマグナムを両手で押えて引き金を引く

大きな反動と共に、リコイルマグナムから巨大なエネルギー弾が発射され、ハートに向かって行く

 

「…グッ…ぐおぉぉぉぉおお!!」

ハートは爆散し、その煙の中から一筋の光が向かって来た

 

『…おかえり、エクストリーム』

エクストリームメモリがダブルの元に帰って来たのだ

すると、エクストリームメモリが何処かに飛んで行ったと思ったら、フィリップの身体を連れて戻って来た

 

「…ヘッ…気が利いてるぜ」

そのまま変身を解除するダブル

起き上がったフィリップを、翔太郎が引き寄せ立ち上がらせる

 

「……ウッ……クゥゥ…!」

「…っ…ヨシさん!」

タワーの柱にもたれ掛かる吉松

そばにはハートメモリが転がっていた

そんな吉松に駆け付ける千束は、吉松の安否を確認した

 

「…クッ…これじゃ死なんぞ…!」

すると、吉松は千束の手を引き寄せ千束の持っていた銃の引き金を引こうとした

だが、そんな彼の頬を、千束が叩いた

 

「…命を粗末にする奴は嫌いだ!…嫌いだよ、ヨシさん」

「……君の為なんだ…何故分からない」

「違う…!世界の為なんでしょ…!?」

「…同じ…事だ」

「……私には世界よりも大切なものがいっぱいあるんだ…ヨシさんがくれた時間でそれに気付けた…これは返す」

千束は胸のペンダントを強引に外し、吉松の手の上に乗っけた

 

「……」

「ヨシさんにはホントに感謝してる。だから私の代わりに元気でいて…あ、先生の弾は返してもらうね」

そう言ってマガジンを交換する千束

それを見守った俺達は、吉松を捕らえようと近付いた

 

その時だった

 

「……何故だ…何故分からないんだ…!」

「…えっ?」

吉松が立ち上がり、懐から黒いガイアメモリを取り出した

それは紛れもない、スカルメモリだった

 

「君の才能は…必ず世界に届けなければならない!お前は…荘吉のような失態は犯してはならんのだァ!」

「…キチさんが…?何を言って…!?」

「千束!そこから離れろ!」

「…えっ?」

吉松は更に懐からガイアメモリ強化アダプタを取り出し、スカルメモリに装着した

 

スカル!アップグレード!

 

「何故だ!何故分からないんだァァ!!荘吉ィィ!」

「…っ!」

アランドライバーにスカルメモリを挿入した吉松は、再びドーパントへと変貌した

全長は約5メートル、上半身しかない骸骨で、まるでがしゃどくろのような印象を受ける

 

「…あ、あれは…!?」

「……スカル・ドーパント!」

「うわぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

空に向かって叫ぶスカル・ドーパント

強化アダプタを使用したことにより、その力は従来の3倍

吉松本人ですら制御が出来ていなかった

 

「うわぁぁっ!」

すると、スカルは腕を床に叩き付けた

そこにあったのはハートメモリ

スカルに破壊されたハートメモリはもはや修復不可能と言って良かった

 

「……メモリが!」

「…や、やろぉ!なんて事を…!」

「翔太郎!早速エクストリームの力を借りよう!」

「……あぁ…!」

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「「変身ッ!」」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーに変身したダブル

すると、エクストリームメモリが倒れたフィリップの肉体をデータ化して取り込み、ダブルドライバーから現れた黄緑と紫のガイドラインに沿ってドライバーに装填させる

ドライバーを再び展開すると、Xのイニシャルが描かれた風車型中央機構「エクスタイフーン」が出現する

 

エクストリーム(X T R E M E)!!

 

「『うおぉぉぉぉ…!』」

エクスタイフーンから虹色の風が吹き荒れると共に、ダブルは自身のセンターの分割線をボディから引っ張ってはだけるよに外側に開くという、まるで一皮剥けたかのような変身プロセスを遂げる

身体の中央の「クリスタルサーバー」が光り輝き、その瞬間、彼らの頭脳は地球の無限のデータベース、つまり「地球の本棚」と直結する

これこそが、翔太郎とフィリップが完全に一つになった、仮面ライダーWの究極の姿!

 

「『仮面ライダーダブル!サイクロンジョーカーエクストリーム!!』」

 

 

 

第45話「救世主Y/花の塔」

 

 

 

『敵の全てを閲覧した…!勝機は僕らにある!』

「あぁ…おやっさんの形見で風都タワーを汚そうなんて、そんな事させてたまるか!」

「『プリズムビッカー!』」

 

『 PRISM!』

 

クリスタルサーバーから専用武器であるプリズムビッカーを出現させるたダブルは、プリズムメモリをプリズムソードに装填し、ビッカーシールドと分離させた

 

「うおぉぁぁぁ!!」

「…クッ…!」

スカルの巨大な腕が、ビッカーシールドに衝撃を与える

 

「確か、スカルは痛みを感じねぇんだったな…」

『あぁ』

「つまり、腕の一本や二本無くなっても問題ねぇよなぁ!」

『それなら、奴に効果的な攻撃がある』

 

ダブルはそう呟くと、プリズムソードをビッカーシールドに戻し、ガイアメモリを次々とプリズムビッカーに装填していった

 

セラピー!マキシマムドライブ!

ドリル!マキシマムドライブ!

パイレーツ!マキシマムドライブ!

ニンジャ!マキシマムドライブ!

 

プリズムビッカーにはガイアメモリのマキシマムを四本同時に発動出来る機能があり、今回選んだガイアメモリはアランの支援で得た残りのガイアメモリ達だ

 

「『ビッカーファイナリュージョン!!』」

「うわぁぁぁ!!」

プリズムビッカーから放たれる光線の束は、スカルの右腕を撃ち落とした

 

「続けて行くぜ!」

 

セラピー!マキシマムドライブ!

ドリル!マキシマムドライブ!

パイレーツ!マキシマムドライブ!

ニンジャ!マキシマムドライブ!

 

「『ビッカーチャージブレイク!』」

プリズムソードを抜き出したダブルはスカルの左腕に目掛けて斬撃を与えた

 

「ぐわぁぁぁあ!!」

スカルの左腕が吹き飛び、スカルは為す術を無くした

 

「…さてと、これで決めるぜ!」

「翔太郎さん!」

「…あ?」

ダブルがドライバーに手を伸ばすと、千束の声が響いた

 

「……ヨシさんを…お願い!」

「……あぁ…任せろ!」

 

翔太郎はこれを千束からの依頼と捉え、最後の一撃を繰り出そうとしていた

 

エクストリーム(X T R E M E)!マキシマムドライブ!

 

「『はっ!』」

エクスタイフーンから吹き荒れる風が竜巻となってダブルを包み、それに乗って両足を突き出す

 

 

 

「……そ、荘吉…!」

そんな中、吉松は昔の記憶を巡っていた

これはスカルがメモリ見せている記憶なのか、それとも

彼自身の中に眠る、古い思い出か…

 

「……これ以上はもう、あの子を苦しめるだけだ」

「何を言う…千束は世界から評価されるべきなのだ。それが彼女の幸せ…私は誰よりもそれを願っているよ」

意見が食い違う吉松と荘吉

荘吉の目は吉松の目をじっと見ていた

 

「あの子の幸せはあの子が決める事だ……」

「…何処に行く!荘吉!」

席を立つ荘吉は帽子を深く被り目元を鍔で隠した

 

「…俺にはもう、千束に合わせる顔が無い。友が犯した罪は、俺が背負う」

「何を言う!?私達は千束を救った!救世主なんだぞ!」

「…救世主…?違うな……」

「…っ」

「……お前は…悪魔だ」

 

 

 

「『ダブルエクストリーム!!はぁぁぁ!!』」

「ぐわぁぁぁぁぁああああ!!!!」

スカルの胸に強烈なドロップキックを放ったダブル

スカルは大爆発を起こし、傍にはスカルメモリと破損したガイアメモリ強化アダプタが落ちていた

 

「……くそっ」

吉松と姫蒲の姿はいつの間にか消えていた

どうやら、逃げられたようだ

 

 

「……ハァ…ハァ」

「…っ!」

吉松を連れて逃げた姫蒲

だが、そんな彼らの行く手を阻む者がいた

 

「……」

「…ミカ」

「シンジ…そいつが千束を襲った女か…?」

「…っ!」

ミカがそう言い放つと、姫蒲は躍起になってミカを襲った

だが、ミカはそんな彼女の攻撃をものともせず、更には日頃から突いていた杖で殴り飛ばし、怯んだ姫蒲を非殺弾で気絶させた

 

「…お前…足は…?」

「戦士は全てを見せないものだ…愛する者には、特にな」

壁にもたれ掛かるシンジ

ミカはそんな彼にゆっくりと近付いた

 

「…フッ…お前は嘘ばっかりだな」

「全て千束の為だ。そうだろう?シンジ」

「私は解って貰えなかったよ……見ろ、返されてしまった…私はもう、いらないみたいだ」

懐からペンダントを取り出したシンジはミカにそれを見せ付けた

 

「…シンジ、導いてくれるのは子供達なんだ…私達が知らない世界に……彼らの選択を、邪魔してはいけない」

「…荘吉にも、同じような事を言われたよ。最期に…私は救世主ではなく、悪魔だと罵られた…フッ…当然の報いだがね」

「……いいや、お前は救世主だ…千束にとっても、荘吉にとってもな」

「……何を言って…っ!?」

シンジがミカに目をやると、ミカが持っていたものに仰天した

 

「シンジ…覚えているか?私たちの約束を……」

 

《千束が生きる未来の為に…!》

 

「……あぁ…あぁ…」

ミカの言葉に、シンジは何度も頷いた

 

「……それじゃあ、ここでお別れだ」

ミカは震える声で実弾の入った拳銃の引き金に指を掛けた

 

「…フッ…狂わされたな、お前も……あの子に…」

「あぁ…そうだな……っ…」

潤う視界、霞む声、震える手を自覚しながらも、ミカは最後の決断を下した

それがたとえ、後悔する道だったとしても

 

私は彼の心を救えただろうか

 

 

「……終わったな、全部」

「…うん」

「……でも…千束の心臓は…」

全てが終わっても、ハッピーエンドではない

破壊されたハートメモリ

それが示すのは、間接的に千束の死を暗示していた

 

「…いやだ…千束が死ぬのは嫌だ…!」

「…ありがとうたきな…でも、私は本当はもう居ない筈の人…ヨシさんに生かされたから、たきなにも出会えた。私だけじゃない…お別れの時は、皆に来るよ。でもそれは今日じゃない……そうでしょ?」

「……千束…」

千束のいつもの笑顔が、その場を和ませた

完全な笑顔でないにしろ、千束のポジティブな言葉が、その場の皆の頬を緩ませた

 

「…そうだな、まだ千束が死んだとも限んねぇしな!まだまだ千束が生きる希望もある!」

「僕も同感だ、君には精一杯生きて欲しいからね!僕は諦めないよ!」

「…んもぉ〜…二人とも話聞いてた?だから私は元々生きて……っ!」

謎のプレッシャーを感じ、千束は言葉を詰まらせた

 

「その通り!君は既に死んでいる存在…!園咲来人のようにね!」

「…ジャック・ドーパント!?」

「まさか…吉松シンジがジャックの正体ではなかったのか!?」

四人の前に現れたジャック・ドーパント

その視線は千束に向けられていた

 

「千束…君はハートメモリによって生かされていた存在。もはや人知を超えた存在だよ」

「何言ってやがる!千束は人間だ!」

「君の目的はなんだ!?ハートメモリが目的なら、それは果たされない!スカルメモリも僕らの手元にある!」

「…ん〜…なにか勘違いをしているようだね、園咲来人」

「…っ?」

「私の目的は…千束自身だ!」

「「「「…っ!?」」」」

次の瞬間、四人の動きが制御不能となる

ジャックが能力を発動し、全員の動きを止めていた

 

「この街ももうおしまいだ…リコリスやガイアメモリの存在が炙り出され、街や風都タワーも再び破壊されてしまった……これ以上この街に何を望む?」

「なんだと!?」

「安心したまえ…あとの事は私に任せ、君達は残された時間を過ごすといい……その為にも、千束は頂いていくよ」

「…っ!」

ジャックは千束を気絶させ、抱え込んだ

 

「それではさらばだ、街の救世主……仮面ライダー!」

千束と共に消えたジャック

後を追おうとしたが、もう手遅れだった

 

「千束ぉーっ!」

「…そ、そんな…千束が…」

「……クッ…なんて事だ…!」

「…くっそぉぉぉぉぉおお!!」

俺の声が、何処までも響く

だが、その声が千束に届くことは無かった




次回 仮面ライダーW/L・R

「彼女を探すのに、協力して欲しい」
「お前はそんな事で挫けるほど、ヤワな男だったのか?」
「思い出したまえ!君が今まで、どれ程の奇跡を起こして来たのか!」
「でも私は好きだなぁ〜…半熟の卵」
「…左さん、やっぱりハーフボイルドですね」
「ハーフボイルドだろうがなんだろうが関係ねぇ!俺は探偵…左翔太郎だ!」

第46話「Lの花束/ハーフボイルド探偵」

これで決まりだ!


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第46話「Lの花束/ハーフボイルド探偵」

千束が連れ去られ、一夜が開けた

 

あの後、リコリスの存在を秘匿する為、DAがリリベルという存在を差し向けて来て、リコリスを始末しようとした

そこは何とかウォールナットの協力もあり、ラジアータは回復、結果的に街に流された映像は風都タワーで行われるリアルアクティビティショーの広告映像として情報統制された

ラジアータをハックしたロボ太は刃さんとマッキーによって逮捕され、リリベルは退散。結果的にリコリスの存在は秘匿された

 

だが、もちろん無念は残る

まず、照井が相手をしたエターナル基真島

真島に勝利した照井。だが奴はスカル・ドーパントの登場・攻撃により崩壊する風都タワーに巻き込まれ、逮捕に一歩届かず風都タワーを落下していったらしい

その後の消息は不明。DAも死体の捜査に明け暮れていた

 

そして最大の無念は千束だ

ウォールナットやラジアータ、フィリップや風都イレギュラーズの力を借りてもなお手がかりが掴めず、途方に暮れていた

 

「……ジャックの目的はなんだ…?何故千束を攫う必要がある…」

俺は様々な視点から物事を考察し、解決の糸口を探っていた

これはおやっさんから教えられた探偵テクだ

 

「……千束…」

 

 

 

第46話「Lの花束/ハーフボイルド探偵」

 

 

 

「……おぉ〜…」

これは、俺が喫茶リコリコに初めて一人で来店した話だ

 

「こじんまりとした外見…優雅に響くステレオ…この雰囲気……正に、ハードボイルドぉ…」

「いらっしゃいませ〜〜」

俺が入口で店の空気を吸っていると、裏から赤い和服を着た金髪の店員がやって来た

 

「…あれ?君は……」

「お兄さん初めての御来店ですか!?嬉しい〜な〜!」

「…え?」

最初は人違いかと思った

だが、その話し方とテンション、そして彼女から溢れる特殊な雰囲気は、すぐにピンと来た

間違いなく、あの事件で出会った少女だと

 

「どうぞ〜うちの店自慢のコーヒーで〜す!」

「あ、あぁ…ありがとう……美味っ!」

「へへ〜でしょ〜!」

だがあえて口には出さなかった

あえてと言うと勘ぐった感じに聞こえるが、実際最初は黙っていた。だが時が流れるにつれ、その事を忘れてい自分がいた

 

「この街にこんな良い店があったとはなぁ〜…もっとリサーチしておくべきだったぜ〜」

「おぉ〜お兄さんお目が高いね〜…ヘヘッ」

店を褒められた千束はとにかく嬉しそうだった

すると、カウンターの奥から中年の黒肌の男が出て来た

 

「…おや、お客さんか」

「先生〜聞いてよ〜お兄さんにお店褒められちゃったー!」

「はははっ…それは嬉しいね……フッ」

「……っ」

男は俺の目を見ると、ニコッと笑った

その笑顔には、何故だか初めてな気がしない、何か親近感のようなものが湧いてきた

 

「ここの店長のミカだ、よろしくな」

「あ、あぁ…よろしくな…あんたがここのマスターか」

「先生は凄いんですよー最初の頃のコーヒーなんてとてもじゃないけど美味しいとは……」

「千束、余計な事を言うんじゃない」

「は、はぁ〜い……」

ミカさんの地雷を踏む事を恐れた千束ちゃんは店の奥に消えて行った

 

「すまんな、あの子は昔からあぁなんだ…」

「ま、まぁなんとなく分かるぜ…俺も似たようなもんだったしな……ハハッ」

そんなぎこちない会話だったが、それがなんだか心地よかった

 

「…ミズキーホールを手伝ってくれー」

「えぇ〜なんでまた私が〜?……あ?」

上の階から降りてきたおそらく俺より年上な女性

 

「あんた誰?」

「あ、そういえばまだ名乗ってなかったな……鳴海探偵事務所ってとこで私立探偵やってる、左翔太郎だ…困った事があったらなんでも、この私にご相談を……」

「なーんだただのキザ探偵か」

「えぇ〜!?」

「え〜!お兄さん探偵だったの〜すご〜!」

「んふふ〜…まぁな!」

「あんま調子乗んなガキ!」

「ガ、ガキィ!?」

「普段はどんな仕事してるの?」

「まぁ普段は人探しや猫探し、猫糞被害とか…」

「だっはっは!あんた風貌の割に半熟ね!」

「半熟!?俺はいたってハードボイルドな探偵で…!」

「ハーフボイルドの間違いじゃなぁ〜い?」

「あ!あんたもうちの所長みたいな事言うのか!?」

 

そんな会話に一喜一憂しながらも、俺はこの雰囲気を楽しんでいた

そして、たきながリコリコに来て、あの二人がリコリスだって知った時は驚いたが…でもまぁ、そう考えるとこの一年はあっという間だったな……

 

「……ヘッ…懐かしいな…」

だからこそ、こんな所では終われない

 

例え千束が居なくなってしまう未来がやって来ても、千束には今を楽しむ権利がある筈だ

絶対千束を取り戻して、またあのメンバーで…リコリコを盛り上げて欲しい

 

「……こうなったら…やっぱり足で稼ぐしかねぇな…!」

俺は鳴海探偵事務所を飛び出し、街に出て捜索に当たった

 

近くで金髪の少女の目撃情報を探り、街中を練り歩いた

 

「ウォッチャマン!そっちの方はどうだ?」

「全然ダメっ!こんだけ探して見つからないなんて、あの子一体何者なの?」

「詳しい事は話せないが、とにかく俺たちの大切な人だ!頼む!人助けだと思って引き続き頼む!」

「…も〜わかったよ!」

道中でウォッチャマンに遭遇し現状報告を受けるも結果は変わらず

俺は死に物狂いで手がかりを探し続けた

 

 

「……はぁ〜…」

千束が居なくなって一週間

もう街の隅々まで散策した。それも何周も…

風都イレギュラーズのみんなも打つ手なしで捜査を諦めちまったし……どうしたもんか…

 

「こんな所で何してる、左」

「…照井…!」

とある神社の石階段の上で寝転がる俺を、照井が見つけた

 

「…そうか、まだ手がかりは出てこないか」

「あぁ…ここまで街を探して出てこねぇなんて……今までにないぞ……」

「……」

「…はぁ〜…どぉすりゃいいんだよ……」

帽子を深く被り仰け反る俺

それを見て照井が言葉を走らせた

 

「お前はそんな事で挫けるほど、ヤワな男だったのか?」

「…っ」

照井の言葉に、衝撃を受けた

 

「違うだろ?俺の知っている左翔太郎という男は、不器用ながらも前に進み、必ず事件の尻尾を掴む…そういう男だ」

「……だが、そんなの全然ハードボイルドじゃねぇ」

「それでいいのさ」

「…フィリップ!」

今度はフィリップがここに来ていた

 

「君は知らないだろう翔太郎〜君のそのハーフボイルドな一面に助けられた人物が何人も居ることをね」

「…え?」

「だってその通りだ。きっと君でなければ解決出来なかった事件が、幾つもある。ジャッカルから篠原沙保里を救えたのも、ウォーシップからウォールナットを救えたのも、全部君の活躍のおかげだ」

「だがそれは、俺だけの力だけじゃ…!」

「その通り、君だけの力では無い!」

「な、何が言いてぇんだよ…!?」

嘆く俺に、フィリップは問い掛けた

 

「僕達は二人で一人の探偵…そして、仮面ライダーだ」

「…っ」

「誰かと肩を並べ支え合う…お前たちは今まで、そうやって誰かを救ってきたんじゃないのか?」

「……照井…フィリップ…」

「思い出したまえ!君が今まで、どれ程の奇跡を起こして来たのか!」

「……っ!」

きっと俺だけじゃ出来なかった

でも、俺にしか出来ないこともあった

それをお互いに支え合い、補い合う

それが、仲間……

 

「ハーフボイルドでも構わないのさ、君が開けた穴は、僕たちが…僕たちが開けた穴は、君が満たしてあげればいい。もちろん、ハードボイルドを目指すのは君の勝手だけどね」

「……ハハッ…何言ってんだか…」

だんだん自分が馬鹿らしく思えてきて、俺は帽子を抑えながら笑った

 

「……よし、行くぜ…照井、フィリップ!」

「あぁ」

「あぁ!」

もう、俺が迷う事はないだろう

 

 

「おや、翔太郎君…フィリップ君に照井君も…」

「…よ、マスター」

「クルミは居るかい?」

喫茶リコリコにやって来た俺達は、クルミを呼び出した

 

「なんだ〜ボクは調べられるだけ調べたが、奴はなかなか尻尾を掴ませてはくれないぞー」

「いや、前にも言っただろう?必要なキーワードさえあれば、あとは俺の相棒がなんとかしてくれるってな」

「…あぁー」

「クルミ…彼女を探すのに、協力して欲しい」

「…願ってもない頼みだな。そういう事ならお易い御用だ」

 

リコリコの奥部屋のタンスの中

モニターを前にしたクルミはVRゴーグルのようなものを身に付ける

 

「よぉ〜し、準備出来たぞー」

「よし…あとは相棒、頼めるか?」

「もちろんさ」

 

フィリップはその横で目を閉じ手を広げる

「地球の本棚」へとダイブしたフィリップの前には無数の本棚が現れた

 

『知りたい項目は、ジャック・ドーパントの正体。そして、錦木千束の居場所』

「一つ目のキーワードはそうだな…やっぱり「アラン機関」だな」

 

フィリップの目の前に「Alan agency」というキーワードが浮かぶ

「地球の本棚」の本棚が移動し、少しだけ減った

 

一方クルミはネット空間にて情報を模索していた

以前アラン機関に接触していた経験を活かし、ジャックの正体を裏付ける情報を探っていた

 

「……っ」

「どうした…?」

すると、クルミが何かを見つけた

モニターに映し出されたのは、姿は物陰に隠れ見えなかったが、何者かが吉松シンジにハートメモリとスカルメモリをケースに入れて手渡している監視カメラ映像だった

 

「これっ…この影に居んのが、ジャック本人なのか!?」

「別のカメラ映像は無いのか?」

「ダメだ…どのカメラ映像にも奴の特徴を捉える物がない……だが、このカメラアングルは明らかに不自然だ…」

『…まさか、彼がジャックの力でカメラアングルを変え、容姿が映らないようにしたのか…!?』

「は!?で、でも相手は生身だぜ?それでメモリの力を使えるのか!?」

「思い出せ左、かつての組織の親玉…テラーに変身していた園咲琉兵衛も、ドーパントに変身することなく力の一部を発揮していた。奴にも、同じような特殊な力があるのだろう」

「た、確かに言われてみれば…!」

「驚くべき所はそれだけじゃない…」

「…えっ?」

俺が驚いていると、クルミが追い打ちをかけてきた

 

「この映像を何処で手に入れたと思う?」

「え?そりゃ、アラン機関のサーバーから……」

「いや、正解は…ラジアータだ」

「…っ!?」

『…何故ラジアータの中にアラン機関の映像が…?二つ目のキーワードは、「ラジアータ」』

フィリップの前に「Radiata」とキーワードが浮かぶ

 

更に本棚が減る

 

『まだ断定出来ない…もう少し絞らないと…』

「……」

 

何故ジャックは千束を攫った…?

ハートメモリが目的なら、奴の意図もまだ分かった

だが、ハートメモリが破壊され、普通の人間になっでもなお千束を攫うなんて……

 

《私の目的は…千束自身だ!》

 

奴の目的は千束自身……だが今の彼女に何がある…?

 

何か…何かある筈だ…

奴が千束を攫う理由のヒントが……

 

俺はとにかく千束との過去の記憶を蘇らせヒントを探った

 

《私はね、人の命は奪いたくないんだ》

 

《私はいつも、やりたい事最・優・先っ!》

 

《何が私の使命だったとしても、決めるのは私だから》

 

《…一つ…一つだけ、思い出した事があるの》

 

《…私は、結構幸せだった…出来れば誰かの役にたちたかったんだけど……》

 

《…命を粗末にする奴は嫌いだ!》

 

《……ヨシさんを…お願い!》

 

「……っ!」

千束は、本当にこの街が好きだった

この街に生きる、皆が好きだった

 

俺も、あの日この店が好きになった

千束やマスターやミズキの明るいやり取りにコーヒーの匂い、個性豊かな常連客、この店は俺を受け入れてくれた

 

「やーい半熟卵〜!」

「あっ!また言いやがったなぁ〜!?」

「…フフッ…でも私は好きだなぁ〜…半熟の卵」

「……えっ?」

「…だって、完璧すぎると…誰かと助け合えられなくなっちゃうじゃんっ?」

「……っ」

 

あの日から、この街を見る目が少しだけ変わった気がする

 

千束が遺したかった想い…

そうか…!

そういう事だったのか…!

 

「…フィリップ」

『…ん?』

「3つ目のキーワードは……」

 

 

「……」

「…左さん」

「…よ、たきな」

俺は以前たきなと話した高台の上の柵に体重を掛けて街を眺めながらたきなを待っていた

 

たきなが来ると、俺は近くのベンチに座り、たきなにも座るよう促す

 

「……その後はどうだ?たきな」

「…どう…でしょうか……」

俺の質問に答えること無く俯くたきな

疲れきり腫れた目に、更に前髪が掛かり暗い印象を受ける

 

「……千束の居場所が分かった」

「っ!?それ、本当ですか!?それなら私も…!」

「…悪いが、それは出来ない」

「……えっ…?」

勢い良く立ち上がるたきなを俺は鎮めた

俺はたきなを見ること無く説明を続けた

 

「千束を攫った奴はかなりの強敵だ。それに、この真実を知れば、君のプライドが傷付く可能性だってある」

「構いません!どんなに辛い事実であっても、千束を救えるなら…!」

「ダメだ…!」

「…っ」

俺の怒号に狼狽えるたきな

 

「……と、言いたいところだが…」

「…え?」

「来るかどうかは君が決める事だな、悪い」

「……」

俺の言葉に唖然とするたきな

そんな彼女を見て俺はクスッと笑ってしまった

 

「…昔さ、フィリップが俺たちの前から消えた時があったんだよ。戦いで力を使い果たしたフィリップが、最後の思いを掛けて命を燃やしてくれたんだ。でも、あいつは今この街にいる」

「……」

「…なぁ…奇跡って、起こると思わねぇか?」

「……えっ?」

「俺はいつか相棒が戻ってきてくれると信じて一年間戦い続けた…あの時の俺と、今の君には近いものを感じる」

「……左さん…」

「…お前も信じてるんだろ?千束が戻って来るのを」

「…はい…!」

今度はしっかりと返事をしたたきな

その目は、何かを決意した目をしていた

 

「…ふふっ」

「な、何笑ってんだよ…」

すると、たきなは急に吹き出した

俺にはその理由が分からなかった

 

「…いえ…左さん、やっぱりハーフボイルドですね」

「は、はぁ〜!?」

「だって、普通ならここで「危険だから来るな」、「これは俺たちの戦いだ」、とか言いそうな場面ですけど…」

「…映画の見すぎじゃないのか?」

「でも……ありがとうございます。私に決めさせてくれて」

「……あぁ…ま、ハーフボイルドだろうがなんだろうが関係ねぇ!俺は探偵…左翔太郎だ!」

「…はい、そうですね」

「……フッ」

俺の言葉に、たきなは微笑む

 

そんな彼らを、近くの木陰から本のページをめくりながら見守る人物がいた

 

「…どうやら、心配なさそうだね……フフッ」

彼もまた微笑み、明日への備えを進めていた

 

 

「……」

計画は至って順調だ

真島や吉松の奇行には少々踊らされたが、まぁそんなものは障害にもならなかった

 

10年…ここまで10年の月日が経った

だが、全てはこの日を迎える為の余興に過ぎない…

 

この街は既に私の手の中にある

きっと街の住民も私に感謝するだろう

新たなる街の、風都の誕生を……

 

「……っ」

 

男が一人で考えていると、後ろの壁から衝撃音がした

コンクリートの壁を突き破る音が建物構内に響き渡る

 

「……どうやら、私は君達を見くびっていたようだね」

「……」

「……」

「……仮面ライダー…!」

 

逆光に照らされたシルエット

左翔太郎とフィリップがそこには立っていた

 

「やっと見つけたぜ、ジャック・ドーパント……」

「一連の事件を影から支持し、僕達にも真島やアラン機関と戦うように仕向けた…諸悪の根源!」

「それがあんただ…!」

「……フフッ」




次回 仮面ライダーW/L・R

「10年もの間千束の中で眠っていたハートメモリは、千束の身体を蝕んでいった…」
「若菜姉さんと、同じように…!?」
「私は千束の力で、新たなるガイアインパクトを引き起こす!」
「それがあんたの本当の目的か!!」
「だったら答えは一つだね、翔太郎」
「…あぁ」
「…なんなんだお前達は!?」
「……俺達は…」
「……僕達は…」
「「二人で一人の…仮面ライダーだッ!!」」

第47話「Lの花束/開花する才能」

これで決まりだ!


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第47話「Lの花束/開花する才能」

「やっと見つけたぜ、ジャック・ドーパント……」

「一連の事件を影から支持し、僕達にも真島やアラン機関と戦うように仕向けた…諸悪の根源!」

「それがあんただ…!」

「……フフッ」

スーツを着た男は振り返り、二人に不敵な笑みを見せたあと、すぐに無表情に戻った

 

「DAの総司令官にして、アラン機関の一人!虎杖純次郎!」

「…お見事、と言うべきだろうね。戦士としてでなく、探偵としても素晴らしい才能を見せてくれた。君達には敬意を表するよ」

 

男の名は虎杖純次郎

彼はDAの総司令でありながら

一方ではアラン機関のエージェントの一人としてガイアメモリと関わって来たという一面を持つ

 

「まずは二つ、質問をしよう…どうして私の正体に気が付けた?どうしてこの場所がわかった?」

二人に対して二つの質問を投げかける虎杖

 

「それに関しては僕が答えよう。キーワードは三つ、「アラン機関」、「ラジアータ」、そして……」

 

《3つ目のキーワードは……「才能」だ》

 

「「才能」…これで君の正体に近付く事が出来た──」

 

 

 

『……っ』

翔太郎の言われた通り、三つのキーワードで検索をかけたフィリップ

本棚に残された一冊の本、それを手に取ったフィリップはページをめくり本の内容を閲覧した

 

『……これは…!』

 

 

 

「僕が閲覧した本、それは「DA」についてだった。以前は鍵が掛かり閲覧不可能だったのだけど、三つ目のキーワードが鍵となり、僕はDAの情報を知ることが出来た。そして貴方の存在に気が付いた…」

「そこからは簡単だったぜ…あんたの事を調べあげ、あんたがラジアータにアラン機関の映像を隠した犯人だと分かった。これではっきりした…あんたがジャックの正体だとな!」

「……」

「そして、この場所が分かったのも、ラジアータに隠された情報の中に、かつての組織をアラン機関が支援していたという実績を発見し、そのビルはその支援のひとつ…ガイアメモリの開発予定地の一つだった……クルミの協力がなければここまで把握する事は出来なかっただろうね…」

「あとは俺が足で稼いで情報を収集…特定の所有者が登録されていない廃ビルを探し、ここを見つけた」

「……見事だ」

二人の推理を最後まで聞いた虎杖は目を閉じ少し俯いた

 

「…だが惜しい…肝心の私の目的を推理する事は出来なかったようだね……」

「何言ってやがる…?千束は何処だ!?」

「…フフッ…何を言っている。もう君たちの目の前に居るではないか…!」

「「…っ!?」」

すると、暗かったビルの中に明かりが灯った

虎杖の背後

ビルの中に大きな塔が立っていた

 

中央に輝く大きなクリスタルのような空間の中に、一人の人影を見つけた

 

「…千束!」

「まさかあれは……ガイアタワー…!?」

ガイアタワーの中に囚われた千束は目を深く閉じて昏睡状態にあった

 

「千束をどうするつもりだ!?」

「分からないかね?10年もの間千束の体内(なか)で眠っていたハートメモリは、千束の身体を蝕んでいった…彼女の身体はメモリに侵食されてしまったのだよ……」

「…何を言っ……まさか…!」

虎杖の言葉に反応するフィリップ

 

「そう…彼女はガイアメモリと同じ特性を持つ、言わばデータの存在と化したのだよ!園咲来人、君と同じようにね!」

「…っ」

更なる虎杖の言葉に息を飲む二人

 

「…嘘…だろ」

「……錦木千束が…僕と同じ存在…?」

「つ、つまり千束は…もう……」

データの存在になった人間

つまり、千束の身体は既に死んでいる

 

そもそも、フィリップは幼少期に地球の泉に転落し死亡している。だが転落死した身体が偶然地球の情報に触れた事で奇跡的にデータとして再構築されたというのが、現在のフィリップ成り立ちだ

心臓の劣化により千束の身体は死亡したが、ハートメモリの力で生き長らえた命。そしてハートメモリには地球の本棚に干渉出来るという特性を持っていた。条件は一致している…つまり、本当に千束は…

 

「私は千束の力で、新たなるガイアインパクトを引き起こす!」

「…な、なんだって!?」

「どういう意味だ!?」

「これこそが彼女の才能なのだよ…千束の意識は今や「地球の本棚」の中……彼女の力を最大限まで引き出し、この世界は生まれ変わるのだ」

「…っ」

天を仰いだ虎杖は腰にアランドライバーを装着した

 

「今私の遺伝子には「ガイアプログレッサー」が組み込まれている…その意味が、君達には分かるだろう…?」

「…ま、まさか…!若菜姉さんと、同じように…!?」

 

《 JACK!》

 

黄金に輝くジャックメモリを構える虎杖

 

「私はこの地球を支配し、地球とひとつになる…!それが、私の才能だ…!」

「…それがあんたの本当の目的か!!」

アランドライバーにジャックメモリを挿入した虎杖は身体を変化させた

ジャック・ドーパントの胸の基板のような模様が金色に輝き、スカーフが靡いた

 

「私は才能を愛している……だが、一番愛しているのは…私自身の、類稀なる才能だ…!」

 

 

 

第47話「Lの花束/開花する才能」

 

 

 

「翔太郎!」

「あぁ!フィリップ!」

 

『 CYCLONE!』「 JOKER!」

 

「「変身ッ!」」

 

サイクロン!ジョーカー!

 

仮面ライダーWへと変身する翔太郎とフィリップ

即座にジャックに攻撃を仕掛ける

 

「…フフッ」

「『…クッ』」

だが、攻撃が当たらない

 

パンチやキックを連続で繰り出すも、一向に手応えを感じなかった

 

だが、ここで二人は違和感に気が付く

 

「なんだよこれ、攻撃が当たんねぇぞ!?」

『奴は最低限の回避しかしていない筈…だがここまで攻撃が当たらないのは不自然だ……まさか、僕たちが無意識の間に攻撃を避けているのか…!?』

「その通り」

「『ぐわっ!』」

ダブルを蹴り上げたジャックは不敵に笑う

 

「君たちは私に指一本触れる事さえ出来ない…血管の一本一本、筋肉繊維の一つ一つ、そして君達の精神ですら、私はコントロールする事が出来る!全てを私に委ね、待っているがいい!新たなる風都の生誕を…!」

「『……クッ』」

「この街には、君達のように自身の才能を自覚せず、その才能を浪費する者が多い……私はね、人々が自身の才能を遺憾無く発揮出来る世界を作りたいのだよ…そうすれば、誰もが幸せになれる!自身の才能に気が付いたその時が、その者の人生のターニングポイントとなるだろう」

「『……』」

天を仰いだジャックは俯くダブルを見つめた

 

「その瞬間を、私は見守っていたい……実際どうだ?君達にメモリを支援してからというもの、君達はその才能を私に見せてくれた…嬉しく思わなかったか?君達はどこまでも強くなれる、それを君達は自身で証明してくれたのだよ!」

「『……』」

ダブルに近付いたジャックは、ダブルに手を差し伸べた

 

「さぁ、何も躊躇うことは無い。全て上手く行く…君達が望めば更なる支援を施そう」

「……そうすれば、ドーパントは居なくなんのか?」

「…何を言う…?ドーパントが居なくては、君達の才能が発揮出来ないだろう…?」

愚問だな、という風にジャックは答える

それに対し、ダブルは少し間を空けた後に切り出した

 

『…フッ…だったら答えは一つだね、翔太郎』

「…あぁ」

「……?」

立ち上がったダブルはジャックを睨んだ

 

「『……断る!はぁぁ!』」

「ごっ…!」

ダブルのキックが、ジャックの腹部に食い込む

 

「俺達もこの力を望んで手に入れたわけじゃねぇ…ただ、この街の涙を拭う為に必要だっただけだ!」

『もちろん、楽しんでダブルに変身していたわけでもない…!これ以上誰の涙も流さぬように…罪を重ねさせないように…そして、僕らの罪を償う為に戦っていた!』

「…っ」

「そもそも…お互いの罪を補い、償い合う…それが俺達の“契約”だったんだよ…」

『僕の罪は、相棒の罪。相棒の罪は、僕の罪…ってね』

「……クッ」

予想外の展開に、たじろくジャック

 

「…何故だ……君達は見たくないのか!?街が幸せになった光景を…!」

「あんたの言う幸せってやつはなぁ…俺達のとっちゃただの縛りなんだよ…!」

『僕達が見たいのは、人々が才能を発揮する姿ではなく、その才能を自身で見つけるまでの過程だ…!』

「それはきっと独りじゃ見つけられない…だが誰かとならきっと…!」

『誰か…自分を見てくれる人が居れば…!』

「『人はどこまでも強くなれる!』」

「…グッ」

ダブルの蹴り技が炸裂する

 

「…クッ…なんなんだ…なんなんだお前達は!?」

「……俺達は…」

『……僕達は…』

ジャックの質問に対し、ダブルの二人は息を合わせて言い放った

 

「『二人で一人の…“仮面ライダー”だッ!!』」

 

 

…………あれ…?

あそこで戦ってるのは……

翔太郎さんと…フィリップさん…?

なんで戦ってるんだろう……?

 

 

 

ガイアタワーと融合した千束はうっすらとある意識の中で、ダブルとジャックの戦いを見ていた

 

 

 

ここは何処だろう…?

早くしないと、お店が始まっちゃう……

今日は私がシフトなのに……

 

……

 

お店……なんのお店だっけ……

 

私のおうち…

私の居場所…

私の相棒……

 

相棒……?

 

《千束…》

 

《千束っ!》

 

《…千束》

 

「…………た…き…な……」

 

……って

 

 

 

「………………誰だっけ……──」




次回 仮面ライダーW/L・R

「もっと見せてくれ、君達の才能を…!」
「お望み通り見せてやるぜ!」
「僕達も二人だけで戦ってきたわけじゃない…信じ合える仲間が沢山いるんだ!」
「翔太郎、あの子を…あの子を頼んだぜ…」
「もう、あんな後悔はしたくない!」
「この街の風は、いつだって俺達の味方なんだよ!」
「『さぁ、お前の罪を数えろッ!』」

第48話「Lの花束/風の吹く街」

これで決まりだ!


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第48話「Lの花束/風の吹く街」

いよいよ最終決戦!
Wの活躍も今回が最後です!
彼らの勇姿を見守ってあげてください!
それでは続きをどうぞ!



サイクロン!メタル!

 

「たぁ!」

「…グッ…!」

『はぁっ!』

「ぬっ…!」

「『はぁぁっ!』」

「ぐはっ…!」

仮面ライダーダブル サイクロンメタルのメタルシャフトの連打攻撃が炸裂する

空気抵抗の少ない攻撃が素早くジャックを追い込む

 

「ふっ…!」

距離を取ったジャックは指先からビームを放つ

それを避けたダブルはルナメモリを取り出した

 

ルナ!メタル!

 

「『はっ!てやっ!』」

「ぬっ…!くっ…!」

ルナメタルのメタルシャフトによるムチ攻撃が炸裂する

腕でそれをガードするジャック

 

ヒート!メタル!

 

「『たぁっ!』」

続いてヒートメタルになったダブルは一気に距離を縮めて攻撃を仕掛けた

炎を纏わせたメタルシャフトの突く攻撃でジャックを怯ませる

 

ヒート!ジョーカー!

 

「『はぁっ!おらっ!』」

更に近距離からの攻撃

炎の纏った拳がジャックの左頬に炸裂する

ジャックは1度距離を取ろうと飛び上がった

 

ルナ!ジョーカー!

 

「逃がすかよっ!」

「クッ…!」

ルナジョーカーの伸びる腕がジャックの足を掴み床に叩き落とす

 

ルナ!トリガー!

 

「…どんどん行くぜ?」

次に飛び上がったダブルはトリガーマグナムを構え、銃口から何発もの追尾機能を得た光弾を放った

 

「はっ!ふっ!」

ビームによってそれを被弾させたジャック

 

サイクロン!トリガー!

 

「…なにっ!?」

「『はぁっ!』」

着地したダブルは今度はトリガーマグナムの銃口から素早い光弾を放つ

ダメージ自体は少ないものの、ジャックはその攻撃を浴びて怯んでいた

 

ヒート!トリガー!

 

「ふんっ…!」

「『はっ!』」

ジャックが放つビームをヒートトリガーの高火力の光弾が相殺させる

 

サイクロン!ジョーカー!

 

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

『さぁ、メモリブレイクだ!』

「あぁ…行くぜ!」

サイクロンジョーカーへとハーフチェンジしたダブルはジョーカーメモリをマキシマムスロットに装填した

 

「……っ」

風が吹き溢れ、浮かび上がるダブルのスカーフがよく靡いていた

 

「『ジョーカーエクストリーム!はぁぁっ!』」

「……っ」

ジャックに向かって両足を突き出したダブルは、そのままの体制でジャックに向かってくる

途中で半分に分割し、右半身と左半身が時間差でジャックにキックを放った

手応えはある

爆発を起こしたジャックを背後に、ダブルは勝利の予感を感じていた

 

 

 

第48話「Lの花束/風の吹く街」

 

 

 

「……ふふふ…今のはいい攻撃だったよ、だが…!」

「『…っ!?ぐはっ!』」

ジャックのビームがダブルの肩に直撃する

 

『翔太郎っ!』

「……クッ…!」

「……フフッ」

煙が晴れた向こうには平然と立ち尽くすジャックの姿があった

まるで無傷だった

 

「マジかよ…あれで無傷だってのか…!?」

『恐ろしい耐久力だ…!』

「いや違ぇ…やっぱり俺達が力を抑えちまったんだ。奴の能力のせいでな」

『攻撃は当たるようになったが…それでも万全じゃない』

「…その通り…だがその調子だ、今度は本気で来れるようになりなさい!」

「…なんだって…?」

2人の会話に割り込むジャック

その言葉に耳を疑うダブル

 

「君達はこの戦いの中で才能を開花させたのだよ!私の力を超えつつある…だがまだ完全では無い!もっと見せてくれ、君達の才能を…!」

「…クッ…言われなくても……お望み通り見せてやるぜ!」

『エクストリームで勝負だ!』

 

エクストリーム(X T R E M E)!!

 

「『うおぉぉぉぉ…!はぁぁぁああ!』」

仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーエクストリームへと変身を遂げたダブルはプリズムソードとビッカーシールドを構えた

 

「…フフッ…ふはははは!」

笑い叫びながらダブルにビームや蹴り技など様々な攻撃を仕掛けるジャック

ビッカーシールドで対応しながらも、プリズムソードで反撃を目論む

 

「『はぁっ!』」

「……惜しい…あと少しだ!」

攻撃は当たったものの、剣先が掠る程度だった

 

痛くも痒くもないと言いたげなジャックの表情が、ダブルの身体を力ませる

 

プリズム!マキシマムドライブ!

 

「『プリズムブレイク!』」

「ぐわぁっ!」

プリズムブレイクの斬撃を与えるダブル

 

「……フフッ」

「なにっ!?」

『プリズムブレイクが効かない…!?』

だがまたしても攻撃は不発

更にジャックの特殊能力を打ち消す事も出来なかった

 

サイクロン!マキシマムドライブ!

ジョーカー!マキシマムドライブ!

ヒート!マキシマムドライブ!

ルナ!マキシマムドライブ!

 

「『ビッカーチャージブレイク!』」

プリズムソードにエネルギーを溜め込んだダブルはジャックに攻撃を放つ

 

「……」

「…くそっ!」

だが結果は同じだった

すると、ジャックの表情がみるみる変化していった

まるでダブルの二人にしびれを切らしたような、不満そうな表情だった

 

「……はぁ…君達には期待していたのだがね…残念だよ」

「なんだと!?」

「…もう既に、ガイアインパクトを起こす準備は整っている。君達が悠長にしている間にね…!」

「『…っ!』」

ジャックがガイアタワーを指差す

すると、水色だったクリスタルが黄金色に輝き出した

ビル全体が振動し、中に囚われた千束の表情が強ばるのが分かった

 

「千束っ!」

「…さぁ!刮目するがいい…!新たなる風都の誕生を…生きとし生きる命が皆平等に才能を発揮出来る!皆が幸せになれる世界の誕生をぉ!」

「やめろォ!」

「ふんっ!」

「『ぐはっ!』」

止めようとしたダブルをジャックは去なす

 

「さぁ千束よ!お前の才能を見せてくれ…!類稀なる君のその才能を、この世界に轟かせるのだ…!そして私と共に、この地球と、ひとつになろう…!」

「『……クッ…』」

「…ふはは…ふははははは!ふっははははははは!」

ジャックは高らかに笑い、勝利を確信した

 

……だが、次の瞬間ガイアタワーの輝きが失われ、ビルの中は静かになった

 

「ははははは……はは…あ?何故だ…?何故何も起こらない…!?」

突然の事に動揺を隠せないジャック

すると、ダブルの肩が徐々に震え始めた

 

「『……フッ…クククッ…』」

「…何故だ…何故嗤っている!?」

「…どうやら、あんたのガイアインパクトを未然に防ぐ事に成功したみたいだな」

「…なに…?」

『僕らにそんな事は不可能だ…だが、それを実現させる組織の事を、貴方が一番良く知っている筈だ』

「……っ…まさか…!?」

ダブルは立ち上がり、ジャックに真実を述べた

 

「そう!あんたと闘っていたのは俺達だけじゃない…!DAが尽力を尽くして闘ってくれているんだ!」

 

 

「ガイアタワーの出力無効化!」

「機能停止を確認!」

「よし、油断するな!いつプログラムが上書きするか分からんぞ!」

「「「はいっ!」」」

DAの本部にて楠木の指示の元、ラジアータの力でガイアタワーの能力の無効化を実現させた

 

「……DAの恥晒しが…当然の報いだ!」

 

 

『僕達も二人で戦ってきたわけじゃない…信じ合える仲間が、沢山いるんだ!』

「……っ!」

 

すると、ビルの非常口から大勢のリコリスが突撃して来た

その先頭にはミカ、フキやサクラやエリカ、そしてたきなが居た

たきなとミカはダブルのそばに駆け寄る

 

「よく来たな、たきな」

「はい、楠木さんがリコリスに伝達してくれました。千束と世界を救う為、これだけのリコリスが集まってくれました」

「翔太郎くん、あとは君達の出番だ…千束を、頼んだよ」

「『…っ』」

 

《翔太郎、あの子を…あの子を頼んだぜ…》

 

ミカの言葉を聞き、翔太郎は荘吉の最期の言葉を思い出す

脳裏に焼き付いたその言葉は、呪いのように彼を縛り、同時に彼の心を駆り立てた。荘吉から託されたその想いを、彼は仮面ライダーとなって叶え続ける責任がある。それを、本人が1番理解していた

だからこそ……

 

「……あぁ、もうあんな後悔はしたくない!必ず千束を救ってみせる!」

ジャックの前に立ちはだかるダブル

その眼は確実にジャックを捉え、恨みや悪意を払い除け心に火を灯した

 

「…舐めるなよ……私は何年も前から、このメモリと共にこの街を見守り続けて来た…この街は私の庭だ。今やこの街の風でさえも、私は支配する事が可能なのだ!」

ジャックが手を添えると、ビル内に突風が吹き荒れた

 

「『……クッ…』」

「ふはははははは!」

顔を腕で抑えるダブル、風に飛ばされないように耐えるリコリス

 

そんな中、ジャックはその様子を鼻高らかに見ていた

 

『……残念だったね…』

「……なに…?」

すると、フィリップが煽るようにジャックに声をかけた

 

「知らないなら教えてやるよ……この街の風は、いつだって俺達の味方なんだよ!」

翔太郎が声を張ると、ダブルドライバーのエクスタイフーンが高速回転し始めた

 

「『はぁぁぁぁ…!はぁぁぁぁっ!』」

掛け声と共に胸を張るダブル

すると、ダブルの中央のクリスタルサーバーは黄金に輝き、背中には風車を彷彿とさせる6本の翼が形成された

 

仮面ライダーダブル サイクロンジョーカーゴールドエクストリームへと覚醒したダブルは懐からリコリスメモリを取り出した

 

「『これで終わりだ!』」

 

『 LYCORIS!』

 

リコリス!マキシマムドライブ!

 

マキシマムスロットにリコリスメモリを装填する

ビリビリとした感触が全身を覆う

 

「…ここで終わってたまるかぁ!」

飛び上がったジャックは自身の上部に巨大なエネルギー弾を生成し、ダブルに向かって放った

 

「『……っ』」

 

エクストリーム(X T R E M E)!マキシマムドライブ!

 

ドライバーを開閉させたダブルは、放たれたエネルギー弾に向かって飛び上がる

 

「『ダブルリコリスエクストリーム!!』」

 

朱色のオーラを纏わせたダブルがエネルギー弾に向かって両足飛び蹴りを放つ

エネルギー弾は簡単に被弾し、ダブルは勢いのままジャックに突っ込んだ

 

「『はぁぁぁぁぁあ!!』」

「ぐわっ!」

「『たぁぁぁぁっ!』」

一撃放ったダブルはそのままジャックの胸に向かって両足を足踏みするようなキックを叩き込む

その一つ一つのキックに、爆散するような衝撃が重なる

ジャックはその攻撃に為す術なく、攻撃を受け続けた

 

「『ふっ!……はぁぁぁぁっ!』」

「…グッ…ぐわぁぁぁぁぁあ!」

次の瞬間飛び上がったダブルは最後の両足蹴りを放った

攻撃に耐えられなかったジャックは爆散し、虎杖は地に伏した。そばには破損したジャック・メモリ

ダブルが勝利した瞬間だった

 

「……す…そんなぁ……私の世界がぁ……」

「『……』」

舞い降りたダブルは虎杖に振り向く

 

「…あんたの理想の世界には、一つだけ欠点がある」

『人は互いに助け合い、協力する生き物だ』

「初めから完璧な人間なんて居ない。もしそんな世界が本当にあるんだとしたら、人は助け合う事の大切さを忘れちまう…」

『今なら分かる。そんな世界は美しくない…貴方も人生のどこかで誰かと助け合っていた筈だ…それを思い出して欲しい』

「俺達はあんたを恨まないし、同時に許さない。だが、あんたにピッタリな言葉を、俺達は知ってる……」

左手で虎杖を指差したダブルは、息を揃えて言い放った

 

「『…虎杖純次郎……さぁ、お前の罪を数えろッ!』」

「……グフッ…」

気絶した虎杖

戦いが終わった瞬間だった

 

 

「……」

「……」

変身を解除した翔太郎とフィリップは、顔を合わせた後に固く握手する

 

「…やったな、相棒」

「あぁ…これも君と僕のおかげだ」

「…フッ…そうだな!」

 

リコリス達に連行されていく虎杖

あれは復帰するのにはだいぶ時間がかかりそうだな

 

「左さん…!」

「…たきな」

俺に駆け寄るたきな

頭を深く提げ、感謝の言葉を述べようとしたたきなを、俺は止めた

 

不思議そうに顔を上げるたきな

俺はそれに応えるように、ガイアタワーを見た

たきなはすぐに理解してくれた

 

「彼女を装置から引き出す事はもう不可能だ。救出する方法はただ一つ……彼女が自分の意志で、出るしかない」

「……なるほどな」

ガイアタワーに囚われた千束の目の前に来た俺とたきな

 

「…おやっさんの形見であるスカルメモリなら、俺達と千束を繋ぐ事も出来る筈だよな」

「無論、やってみなくちゃ分からないけどね…」

「……そうだよな…でも、やるしかねぇ……準備は良いか?たきな」

「…はいっ!」

大きく返事をしたたきなを見て、俺はスカルメモリを起動させた

 

「 SKULL!」

 

「「……うおぉぉぉぉ…!」」

スカルメモリを一緒に握った俺とたきなはガイアタワーのクリスタルに向かってメモリを突き刺した

クリスタルが割れ、俺達は薄れる意識の中で、千束の名を叫んだ




次回 仮面ライダーW/L・R
最終回

たきなと出会ってからのこの一年間は、私にとってかけがえのない宝物になった
みんなが居てくれたから、私はこの街に錦木千束として生きる事が出来た

だからみんな……

「「千束ぉーっ!」」

……バイバイ

最終話「Cの行方/この日常には、ワケがある」

これで終わりだ…!


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最終話「Cの行方/この日常には、ワケがある」

これまでの、仮面ライダーW/L・Rは……

「もっと見せてくれ、君達の才能を…!」
「この街の風は、いつだって俺達の味方なんだよ!」
「『ダブルリコリスエクストリーム!!』」
「『…さぁ、お前の罪を数えろッ!』」
「…準備は良いか?たきな」
「…はいっ!」
「「……うおぉぉぉぉ…!」」



「……ここが…」

「…地球の本棚……」

地球の本棚に入り込む事に成功した俺とたきな

 

「……っ」

すると、翔太郎が持っていたスカルメモリ

それが役目を終えたように力尽きて散ってしまった

 

まるで、あとは頼んだぜ

そんな言葉を残すように

 

「……ありがとな……おやっさん」

もう何も乗っていない掌を見つめ、それを握る翔太郎

彼の心は晴れていた

 

「……千束ーっ!」

「千束ぉぉ!」

ひたすらに千束を呼ぶ

こんなだだっ広い空間の中を、二人の叫び声だけが木霊する

 

「……千束……千束ーーっ!」

たきなが渾身の叫びを見せる

 

「…んもぉ〜うるさいなぁ〜何度も呼ばなくてもわかるよ〜」

「「…っ!?」」

「……で、な〜に?」

すると、いつもの千束が俺達に声を掛けてきた

千束は本棚の上に座り、俺達を上から眺めていた

 

「千束!一緒に帰りましょう!店長が待っています!」

「それだけじゃねぇ…DAの連中や、リコリコの常連客、うちの相棒もお前に会いたがってる!また一緒にボドゲがやりたいってな!」

「……」

俺達の誘いに対してうんともすんとも言わない千束

ただ、表情はいつものように朗らかで、何一つ違和感を感じなかった

違和感を感じなかったからこそ、俺達は何か焦りを感じていた

 

「……ありがとう、二人とも。わざわざこんな所に来てくれて」

「……えっ?」

「…でも、私は戻らない」

「…は?」

千束の言葉が信じられなかった

 

「翔太郎さん、たきな…私はね、普通の暮らしがしてみたかったの」

「……え?」

「普通にご飯を食べて、普通に学校に行って、普通に部活して、普通に恋して!……そういう有り触れた日常を、リコリス(わたしたち)は知らないでしょ?」

「……千束…?」

「だからね、せめて罪を犯してしまい今まで普通の女子高生として振る舞えなかったリコリスには、そういう暮らしをして欲しいんだぁ…」

「……何を言って…るんですか…?」

「…ん?分からな〜い?」

千束はたきなを煽るように言う

 

「…私に残された最後の力で、この世界からリコリスを消します」

「「…っ!?」」

「あ、もちろんリコリスの子達を消すんじゃなくて、みんなの記憶からリコリスっていう存在を消すんだよ!?そこ、履き違わないでね!?」

「…なんだよそれ…そんな事したら、お前の命がどうなるか…!」

「元々私の命はキチさんとヨシさんに作られたもの…その与えられた恩を返すだけだよ」

「そんなのおやっさんが許すわけねぇだろ!?おやっさんはいつだって千束の幸せを想って…!」

「だからだよ」

「…えっ?」

千束の無慈悲な目に絶句する

 

「私の幸せはみんなの幸せ…私はいつだってやりたい事最・優・先!…だからこれは私の最後の我儘でもあるんだ。安心して、みんなの中から私の記憶も消えるから。そうすれば、誰も私に囚われないで済むでしょ?」

「…千束…!」

「たきな…」

今にも暴れそうなたきなを静止する千束

 

「…たきなは、幸せになってよ…私の分まで」

「……千束…っ…」

「たきなと出会ってからのこの一年間は、私にとってかけがえのない宝物になった……みんなが居てくれたから、私は錦木千束として生きる事が出来た。みんなが私との記憶を作ってくれた。時間を作ってくれた。笑顔を作ってくれた。驚きを作ってくれた。感動を作ってくれた。そして…絆を作ってくれた」

涙を零すたきなを見詰める千束

 

「……ありがとうっ」

気が付けば千束も涙を流していた

 

「…リコリスが居れば、きっと真島みたいな奴がまた現れる。そうすれば、この街はまた涙を流してしまう。それだけは嫌なんだ……だからせめて、この街に真の意味での平和が訪れるまで…私はこの街を、たきなを見守り続けるよ」

「……っ」

宙に浮かび上がる千束

 

たきなはそれを追い掛ける

 

「千束…!私は……千束に出会ってから、人生が変わりました……見える景色が、とても明るく感じました……この街がもっと好きになりました!」

「……」

千束はたきなの言葉を静かに聴いた

 

「これも全部千束のせい…千束のおかげなんです!千束と出会えてなかったら…私は暗く、細い道を歩いていかかもしれない……でも、貴女は違った…どこまでも広く明るい道を、貴女は私と歩いてくれた……だから行かないで…どこにも行かないで…!」

「たきな…!」

泣き崩れるたきなを俺は支えた

 

「…千束…どうしてもダメなのか…?この街には、お前を必要としてくれる人間が沢山いるんだ……その想いに応えなくて良いのか…!?」

「…確かに、今の私を必要としてくれる人が居るなら、その人達の想いに応えたい……でも、それは私じゃなくても出来るでしょ?」

「…え?」

「この街に残った希望を守れるのは、仮面ライダーである翔太郎さん達だけ…だからこれからもこの街を守ってよ。私が守れなかった命の分まで……」

千束は淡く光り出した

 

「翔太郎さん、たきなをよろしく…」

「…千束!」

「大丈夫…みんなはきっと幸せになるよ……私が保証する。だからみんな……」

「「……っ……千束ぉーっ!!」」

「……バイバイっ」

 

俺達が伸ばした腕が届く筈もなく

地球の本棚が光り輝き、俺達の視界は真っ白に染まった

 

その日を境に、千束は俺達の前から姿を消した

 

 

 

最終話「Cの行方/この日常には、ワケがある」

 

 

 

『風都』

この街では小さな幸せも大きな不幸も

常に風が運んでくる

俺の仕事はその風に耳を傾け

小さな幸せを守ってやる事だ

 

「……ぐらぁぁあ!」

「『はぁっ!』」

「おのれ仮面ライダーっ!俺がぶちのめしてやる!」

「ヘッ!やれるもんならやってみなぁ!」

コックローチ・ドーパントと交戦する仮面ライダーW

 

『翔太郎!街への被害は最小限に!』

「分かってるって!それじゃあ一気に決めるぜ?」

『承知した!』

 

ジョーカー!マキシマムドライブ!

 

「…あぁっ!?」

「『ジョーカーエクストリーム!』」

「ぎゃぁぁぁぁあああ!」

爆散したコックローチの変身者は地面に脱力した

 

「…ったく、ガイアメモリ犯罪は減る事を知らねぇな」

『仕方ないさ、それがこの街の運命…それを阻止するのが、僕達仮面ライダーの使命だ』

「運命だとか使命だとか…なんか色々とめんどくせぇな」

変身を解除した翔太郎は、被害が無いか周りを確認した

すると、そばでしりもちをつくように座り込む女子高生が居た

 

「…大丈夫か?……ん?」

「……えぇ、少し転んだだけです。助けていただいてありがとうございます…左さん」

「…た、たきなっ!?」

 

 

 

「…そうか、もうすっかり普通の女子高生か」

「はい。分からない事も多いですが、クラスのみんなは優しい人達で、仲良くさせてもらってます」

「フキ達も、徐々にだがこの生活に慣れてるらしい…トラブルは付き物だがな」

「…そっか」

「翔太郎!これがアオハル、というやつなのかい!?」

「あぁ〜フィリップは少し落ち着けって!マスター、コーヒー二つくれ!」

「はいよ」

喫茶リコリコのカウンター席にてたきなの学校生活について聞き出していた俺とフィリップ

カウンター席に出された二つのコーヒー

俺は一口飲んでいつも通りの上品な美味さに感極まる

 

「……あ、また惚気に来たな〜クソガキぃ」

「ふふ〜ん、今日の俺はひと味違うぜミズキ。この間依頼のあった女の子に事件解決後「ダンディーなお兄さん」って呼ばれたんだ、ハードボイルドに一歩前進だな」

「まぁその事件を解決したのはボクだがな」

「たしかに!クルミのおかげなのを忘れたのかい?翔太郎」

「……」

ミズキとクルミの冷たい眼差しを受けてシュンとする俺

 

「……それにしても…」

「……」

「……千束は一体、何処に行ってしまったんでしょうね」

「……」

 

千束が起こしたガイアインパクトは、不完全なものだった

たしかに世間からリコリスの記憶は消え去り、街からリコリスやDAを示唆する噂は消え去った

だが亡くなった命が戻るわけじゃない。あの事件によって死んでしまったリコリス達や、街の人達

この街は完全に元通りになったわけじゃない

DAも、虎杖が居なくなったことにより組織が崩壊。リコリス達は普通の女子高生となり、楠木といえば

照井と共に超常犯罪捜査課に転属されたらしい

今では照井の良きバディとしてこの街を守ってるようだ

噂では、楠木が再びDAをたちあげようと企んでるらしいが、それはまた別の話だ

 

話を戻すと、千束やリコリスの記憶はこの街から消えた

だが、リコリスや千束と大きく関わった人間だけは違った

俺達があの日を忘れる事はなかった

10年前の風都タワー事件も、数ヶ月前の事件も、そして千束が消えたあの日も

 

俺は最初、千束は死んじまったんじゃねぇかと思った

かつてフィリップのお姉さん、園咲若菜がガイアインパクトを起こした時、フィリップを生き返らせる代償に自分の命を投げ打ってくれたように…

だが、フィリップの推測だと違うらしい

 

《彼女起こしたガイアインパクトはあまりにも不完全で曖昧なものだ。それもその筈、彼女が地球の本棚に触れて間もないからだ…だとすれば、錦木千束は無意識の間に自分の命を回復させてしまったのではないだろうか?彼女の、誰かの記憶に残りたいと思う意志が……》

 

もし…本当にそうなのだとしたら、俺達は諦める訳には行かなかった

ラジアータが使えないこの状況の中、フィリップとクルミの力だけを頼りに千束を探し求めた

 

だが、千束はこの街のどこを探しても見つからなかった

そうしてる間にも時はどんどん過ぎ、気付けば千束が消えてから3ヶ月が経っていた

 

「考えない考えない!どうせどっかで油売ってるんだから!」

「……」

「……ん」

すると、リコリコの黒電話が鳴る

ミカがそれに応えると、受話器を戻した後、俺とたきなを見た

 

「翔太郎くん、たきな。依頼だ」

「なんだよマスター…もうDAからの仕事はないんじゃなかったのか?」

「いいや、これは私個人からの依頼だ…引き受けてくれるかい?翔太郎くん…君は探偵なんだろ?」

「……っ」

俺は依頼の詳細を聞き、断る訳にはいかなかった

 

 

《ターゲットは、正午から19時30分まで勤務。15時の休憩時を狙え。慎重にな》

 

「……ターゲット、こちらに向かって来ます」

「おっけー…!」

 

《 スパイダー!》

 

茂みに隠れながらターゲットを待つ俺とたきな

 

「……っ」

すると、ターゲットは俺達に気が付いたのか走り出した

 

「たきな、銃の腕は衰えてないか?」

「はい」

「そんじゃ、このまま追いかけるぜ!」

茂みの中を並走しながら銃を撃ち合うたきなとターゲット

 

木陰に隠れたターゲット

たきなも同様に隠れ、飛び出して来る

 

「…今だ…!」

俺はスパイダーショックの力でターゲットを捕獲

ターゲットは先にリコリス用のワイヤーを使ってたきなを縛っていた

ターゲットが誰かだって?答えはすぐにわかるさ

 

「やっと捕まえたぜ?千束」

「えっ!?翔太郎さんにたきな!?」

「なんで逃げるんですか!?」

「いや撃ってくるからだろぉ!?」

「逃げるからでしょう!?」

「声掛ければいいでしょぉ!?」

「そんな訓練はしてないんで!」

「アホかぁ〜!」

「アホはそっちでしょ!?」

「……はは…ははは」

 

宮古島に潜伏していた千束を見つけ、一仕事終えた俺達は海辺のお店のテラス席に座っていた

 

夕日に照らされ、風都で見る海とは一味違って見えた

 

「すごいでしょ〜」

「あぁ、すげぇな…」

「……何故ここが分かった〜?」

「…クルミが」

「ここにはネットもカメラも無いのに〜?」

「……」

すると、たきなは懐からスマホを取り出し千束に提示した

スマホには以前依頼を受けた篠原沙保里さんとその彼氏のツーショットが映されていた

それは以前のとは違く、この島で撮られたものだった

 

「おー沙保里さん、彼氏と続いてるんだ〜…これが?」

「ズームしてみろ」

「…ん?…まさか…!?」

俺の言う通り画像をズームする千束

篠原カップルの背後に楽しそうにはしゃぐ千束の姿が小さく映っていた

 

「…かぁ〜沙保里さんその内宇宙人とか撮っちゃいそうだな〜…」

「……フッ」

「…っていうか、驚かないの?」

「何がです?」

「…幽霊かもしれないぞ〜?」

「……元気そうでなによりです!」

手をブラブラさせる千束を見てたきなは笑顔で答える

 

「知ってたな〜…なんで私は生きてる?」

「…フィリップの推測だと、お前がガイアインパクトを起こす際に無意識にお前自身を蘇らせたんじゃねぇかって……なにか心当たりがあるんじゃねぇのか?」

「……うん。気が付いたら心臓元に戻ってて鼓動があるし、でもあんな大それたこと言って今更みんなの元に帰るの恥ずくて〜…」

「そんな理由で私達の前から消えたんですか?」

「えぇ〜んごめんよぉ〜たきなぁ〜」

「許しません!」

「えぇ〜!?」

「……まぁでも、ほんと…元気そうでなによりです」

「……フフッ…そりゃどうも」

「…お!見てみろ二人とも!」

「…?」

たきなが海を見ると、水平線に向かって夕日が沈む瞬間だった

 

「……フフッ…私もこの瞬間が一番好き。翔太郎さんもありがとう…約束通り、たきなを守ってくれて」

「なーに、俺は仮面ライダーだぞぉ?それに、お前からの依頼なら、絶対に守る」

「……翔太郎さん……っ」

すると、翔太郎の頭上にエクストリームメモリが飛来してきた

 

「翔太郎、それを言うなら「僕達」は、と言うべきじゃないかな?」

「フィリップ!?お前も来てたのか!?」

「…錦木千束、君に渡したい物がある」

「…え?」

「君の店の店長が、吉松シンジから授かった物らしい」

「ん〜?……ゲッ!」

フィリップが千束に手渡したのはアクセサリーを入れる箱だった。その中身を見た千束は引くような目をした

 

箱の中にはフクロウのペンダントが入っていた

 

 

「…なんだ?それは」

「……なに、早とちりして開けたものだ」

店の地下の倉庫に大きな木箱を仕舞うミカと、それを見るクルミ

 

「…杖、まだ使うのか?」

「……黙ってろよ?」

「……」

クルミはミカとシンジの最期の会話の全てを聞いていた

だからこそ…

 

「……あぁ…お前がいちばん怖ぇからな」

 

 

「……んっていっ!」

海にペンダントを投げ込む千束

 

「…良かったのか?」

「ちょっと迷ったけどね〜…めっちゃ可愛いまで言われてたしー」

と、含みのある笑顔でたきなを見る千束

 

「……誰にです?」

「え?…えぇ!お前だお前ぇ!」

「私?言わないですよ恥ずかしい」

「ん〜たきな〜!そういうとこだぞ〜!」

たきなを持ち上げる千束

 

「知らないですよ〜!」

「言いましたァー!」

「うわっ!」

「あっ……フッ…」

バランスを崩して海にダイブする二人

俺とフィリップは少し心配したが、すぐに笑顔になった

 

「なにするんですか!?」

「…何しようか…これから」

「……」

海でびしょ濡れになった二人は、夕日に照らされた水平線を眺める

 

「…諦めてた事から、始めてみたらどうですか?」

「……いいね、それ」

「…っ!?うえっ!?」

「あ、おい待てよ千束!」

「見たまえ翔太郎!これがサンゴの死骸だよ!」

いきなり立ち上がった千束はビーチを後にした

 

「よぉーし!行くぞ相棒!」

「えぇ!何処に行くんですか!?」

「おい相棒!千束達を追いかけるぞ!」

「あ、待ちたまえよ翔太郎ー!」

 


 

数ヶ月後

 

その日、鳴海探偵事務所に入った依頼に、千束達の協力が必要だと判断した俺は、喫茶リコリコに電話を掛けた

 

『はぁーい!カフェリコリコ〜』

「……お、千束か。久しぶりだな」

『翔太郎さ〜ん!その節はどぉ〜もぉ〜!』

「早速なんだがお前達に頼みたい事があってな……」

『あぁ〜申し訳ないけど、依頼は受け付けられせ〜ん』

「…え?なんでだよ」

『なぜならぁ〜今ハワイだからぁ〜〜』

「……は…はぁぁぁぁあ!!??」

 

「あれ、亜樹ちゃんから聞いてないのかい?翔太郎」

「うん、私言ってない」

「お前らそういう事は早く言えよォ!変な感じになったじゃん!」

「…まぁでもさ、あの子が自分の好きな事が出来るようになったんだから…素直に喜ぶべきじゃない?」

「……まぁそうだな…」

 

今はハワイに店を構えた喫茶リコリコ

今度はハワイで困ってる人達を助けてるんだとさ

 

「僕らも見習わなくちゃね…いずれはこの街以外にも、救うべき街や人が沢山現れる筈だから」

「……あぁ、この街は俺の庭だ…だが、それが全てじゃない。お前となら、どんな困難も乗り越えられる気がするぜ…フィリップ」

「あぁ…僕達は二人で一人の探偵…そして、仮面ライダーだからね!」

すると、事務所の扉が開いた

扉の向こうには若い眼鏡の男性が立っていた

 

「…あ、あの…鳴海探偵事務所は、こちらでしょうか?」

「はい!こちらにお座りください!」

客間に案内した亜樹子は男性にコーヒーを出す

 

「…それで、どんな御依頼ですか?」

「じ、実は……」

 

この日常にはワケがある

その秘密を知っている者は数少ない

 

俺達はその日常の中にある小さな幸せを守り、大きな不幸からこの街の平和を守る

それが俺に与えられた使命であり、俺達探偵の仕事だ

 

「…分かりました。お受けしましょう、その御依頼」

「……ゾクゾクするねぇ…」

それもこのふたりなら、乗り越えられる気がする

相棒となら、どこまでも…

 

 

「……」

「……例のものは持ってきたのか?」

「…えぇ」

鼻の高い大柄の男に向けてジュラルミンケースを開ける白スーツの男

ケースの中にはガイアメモリが並べられていた

 

「…っ!?」

「グッ…!」

「…誰だ!?」

すると、その場を襲撃する者がいた

大柄の男の質問に、少女の声が答える

 

「……We are…Lycoris.」

「…っ!?」

すると、男の側近の男がワイヤーで拘束される

 

「…ふっ…!」

「たきな!」

「はい…!」

二人の息の合った攻撃は男達を苦しめた

 

「…ほら!さっさとメモリ返しなさい!」

「……っ」

「あ、こら逃げるなぁ!」

「千束!まずはこっちの男を…!」

「…うん!」

途中、白スーツの男を逃した千束は、最後に残った大柄の男の胸にゴム弾を撃ち込んだ

 

「…ゴッ…!」

「…ねぇねぇたきな…あのセリフ、言ってみない?」

「…っ…良いですね……私も実は、一度言ってみたかったんです」

「……ぐうぅ…!」

しぶとく立ち上がる男に向かって、千束とたきなは背中を合わせた

 

 

きっとこれからも、戦わなければならない

それが正しい事なのか、間違っている事なのか…

 

それでも、彼女達は己の道を選び続ける

 

後悔のない選択をする為に……

 

 

「私もこの言葉の意味を、ようやく理解して来た気がします…」

「だね!…街を泣かせる悪党に、私達が永遠に投げ掛け続ける…あの言葉……」

背中を合わせた二人は男に向かって指を指し、吹く風がリボンと髪を靡かせた

 

「「……さぁ、お前の罪を…数えろ!」」

 

この街に真の平和が訪れるその日まで

ふたりの物語は、終わらない




あとがき

本作品を最後までご覧頂き、誠にありがとうございます。
僭越ながら「リコリス・リコイル」と「仮面ライダーW」をクロスオーバーさせて頂きましたが、最後まで書き切る事が出来ました。
読んでくださった皆様からの感想などに励まされることもありました
基本的には「リコリス・リコイル」の物語をベースに、「仮面ライダーW」の要素と設定を組み込んだ本作ですが、上手く表現出来ていたでしょうか?
クロスオーバー二次創作ということもあり、せっかくなのでオリジナルガイアメモリを登場させましたが、やはりリコリスメモリとリコイルメモリは安直すぎたかな?
でも自分のやりたい事が出来てとてもスッキリしています

これからもこういったクロスオーバーを主に執筆活動をする予定なので、もし良かったら他の作品も覗いていってください。

最後になりましたが、改めてご閲覧頂き誠にありがとうございました!
by キャメル16世


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