劣等生は"阿修羅" (ぷぼっ!)
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第一章 入学編
第1話 入学


これを読んだ機会にケンガンアシュラという作品を知ってほしい。魔法なんかは無いけどめちゃくちゃ面白い格闘技漫画だから!(非現実的な奴等ばっかしかいないけど)


 夢を見ていました。

 

内容はシンプルかつ波乱で…私は鳥籠に閉じ込められたかのようなお姫様なんです。

 

辺りを見渡せば、発展した技術と主に備わった高層ビル等が並んでいて、現代にしては普通すぎるもの。

 

でも…一つ違ったのはその全てが壊れていた事…

 

ビルは欠陥していて直す気配もありません。

それに雰囲気は重苦しく昼間からネオン街のような…

 

私は囚われの身であって周りには強面をした男達が複数。

 

女の子なら誰もは一度夢を見ます。

ピンチ的な状況から王子様が救いに来てくれて、そこから始まる恋…お姫様になる夢が…

 

私の夢にも王子様は現れます…

 

 

 

 

 

最悪という言葉を表して良い王子様が…

 

 

 

その王子様は刃物を両手に持っていて覗かせた犬歯は今にも噛み殺されてしまいそうなほど尖っていて、その瞳は殺意に満ちあふれていました。

王子様は男達を一蹴すると私の方に顔を向けると何も言わずそのまま振り返って立ち去って行きます。

 

深雪「待って下さい!あなたは!あなたの名前は!!」

 

私の問いかけにも応じずひたすら歩いて行く姿は追い付けないくらいに小さくなっていきます。

手を伸ばしても、どれだけ走っても彼に届く事はありません。

 

 

 

 

深雪「…ん……また、…この夢…」

 

 

そういえばいつからでしょうか。

この夢を見る様になったのは。

 

これは一体悪夢なのでしょうか。

 

…でも私は、この続きが知りたい。

この続きを待ち受けるのが現実だろうとなんだろうと貴方を知りたい。

 

たとえ…この世界中の全てを崩してでも…

 

深雪「いつか…探しにいきます…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

二十一世紀ー西暦二○九五年を迎えても未だ統一される気配すら見せぬ世界の各国は、魔法技能師の育成に競って取り組んでいる。

 

ー国立魔法大学付属第一高校ー

 

毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。

それは同時に、優秀な『魔法技能師』(魔法師)を多く輩出しているエリート校ということでもある。

魔法教育に、教育機会の均等などという建前は存在しない。この国にそんな余裕は無い。

それ以上に、使える者と使えない者の間に存在する歴然とした差が、甘ったれた理想論の介在を許さない。

 

徹底した才能主義。

残酷なまでの実力主義。

それが、魔法の世界。

 

この学校に入学を許されたということ自体がエリートということであり、入学の時点から既に優等生と劣等生が存在する。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

深雪「納得できません。」

 

達也「まだ言っているのか…?」

 

第一高校の入学式の日、新生活とそれがもたらす未来予想図に胸躍らせる新入生も、彼ら以上に舞い上がっている父兄の姿も、さすがに疎らだ。

 

深雪「何故お兄様が補欠なのですか?入学の成績はトップだったじゃありませんか!本来ならば私ではなく、お兄様が新入生総代を務めるべきですのに!」

 

達也「お前が何処から入試結果を手に入れたのかは横に置いておくとして…魔法科高校なんだから、ペーパーテストより魔法実技が優先されるのは当然じゃないか。」

 

激しい口調で食って掛かる女子生徒を、男子生徒がなんとか宥めようとしている構図だった。

よく見ると二人の制服は微妙に、しかし明確に異なる。

女子生徒の胸には八枚の花弁をデザインした第一高校のエンブレム。男子生徒にはそれが無い。

 

先程「お兄様」と呼んでいたことから察すると兄妹なのだろう。しかし兄妹というには似ているところは無いと言ってもいい。

 

妹の方は人の目を惹かずにはおかない、十人が十人、百人が百人認めるに違いない可憐な美少女。

一方で兄は、ピンと伸びた背筋と鋭い目つき以外、取り立てて言い及ぶところのない平凡な容姿をしている。

 

朝から兄妹喧嘩をしている状況に、周囲は困惑と嫉妬の感情が混ざったようなドロドロな気持ちを兄妹にぶつける。

主に達也。

 

コツコツコツ…

 

深雪「!」

 

達也「ッ!」

 

兄妹喧嘩に目もくれず一人の男が通り過ぎていった。

それに引かれ兄妹も男の方を一瞬見る。

その男は、とてもガタイが良く制服ごしからでも分かる厚い胸板にはち切れんばかりに肥大した腕。

おまけに達也をも上回る長身に男前と言っていい程に整った顔。振り返る女子達、いや男子達もその男に釘付けになっていた。

 

ならばこの兄妹もそうなのか、というとそういう事では無かった。ただ一人堂々と歩く男から感じ取られるオーラ…ブワッとしたような…まるで噴火する前の火山のようなオーラが男からは感じ取られた。

 

兄、『司波達也』は直ぐに我に帰るが妹、『司波深雪』は…

 

達也「何だったんだ…………深雪?……深雪?」

 

深雪「…へ?あ、はい!どうされましたか?」

 

達也「いや、不思議な生徒も居るものだなと思って。」

 

深雪「え、えぇ!そうですね。確かに、この魔法科高校ですもの。それに私達は新入生ですから様々な新しい発見があるのは当然の事ですから。」

 

達也「……あぁ…そうだな。」

 

一旦その場は静かになり兄妹喧嘩は既に終わっていた。

兄、達也は名もしれないその男に密かに感謝をし、妹、深雪は…

 

深雪「…何故でしょう…何処かで見覚えが…」

 

達也と離れた場所、一人で呟くのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

当校は本当に良い整備が行われていると改めて思う。

本棟、実技棟、実験棟の三校舎。

司波達也は三人がけのベンチに腰を落ち着け、携帯端末を開いてお気に入りの書籍サイトにアクセスしながらそう思う。この中庭は準備棟から講堂へ通じる近道のようだ。

 

在校生が達也の前を少し距離をとって横切っていく。

彼ら、彼女たちの左胸には一様に、八枚花弁のエンブレム。通り過ぎていったその背中から、無邪気な悪意が溢れる

 

ーあの子、"ウィード"じゃない?

 

ーこんなに早くから…補欠なのに張り切っちゃって。

 

ー所詮、スペアなのにな。

 

聞きたくもない会話が達也の耳に流れる。

 

"ウィード"とは、二科生徒を指す言葉だ。

左胸に八枚花弁を持つ生徒、一科生をそのエンブレムの意匠から、"ブルーム"と呼ばれる。

その逆である"ウィード"は『花の咲かない雑草』と比喩している。

結局、才能を持った者が上に立ち、そうでない者達は下に居る存在だ。

良く『平等』という言葉を聞く事があるが世の中そんな甘くは無い。

 

達也(…余計なお世話だ…)

 

苛立ちすら覚えないものの、あまり良く思わないという気持ちをしまい書籍データへと意識を向けた。

 

???「…」スッ…

 

 

 

あれからかなり時間が経ち、開いていた端末に時計が表示されると入学式まであと三十分。

 

達也(熱中しすぎたか…気づかなかったな。)

 

書籍サイトからログアウトし、端末を閉じてベンチから立とうとしたちょうどその時、頭上から声が降ってきた。

 

???「新入生ですね?開場の時間ですよ。」

 

まず目についたのは制服のスカート。

それから左腕に巻かれた幅広のブレスレット。

普及型より大幅に薄型化され、ファッション性も考慮された最新式の〘CAD〙だ。

 

ー CAD ー術式補助演算機(Casting Assistant Device)

 

デバイス、アシスタントとも呼ばれている。

魔法を発動する為の起動式を、呪文や呪符、印契、魔法陣、魔法書などの伝統的な手芸、道具に代わり提供する現代の魔法技能師に必須のツール

 

CADが無ければ魔法を発動出来ないというわけでは無いが、魔法発動を飛躍的に高速化したCADを使わない魔法技能師は皆無に等しい。

 

達也の記憶によれば生徒で学内におけるCADの常時携行が認められているのは、生徒会の役員と特定の委員会のメンバーのみ。

 

達也「ありがとうございます。すぐに行きます。」

 

相手の左胸には当然のエンブレム。

胸の膨らみがあり、普通の男ならばイチコロだろうが、達也はそういう気は一切無い。

 

???「感心ですね、スクリーン型ですか。」

 

達也の手で三つ折りに畳まれる携帯情報端末のフィルムスクリーンに目を遣りながらニコニコ微笑んでいる。

達也はベンチから立ち上がると相手の確認をする。

 

達也の身長が一七五センチに対すると相手は二十センチ程低い。

相手の瞳は曇りなく二科生徒に対しても対等に接するという無邪気な感嘆が感じられた。

 

???「当校では仮想型ディスプレイ端末の持込を認めていません。ですが、残念なことに、仮想型を使用する生徒が大勢います。でもあなたは入学前からスクリーン型を使っているんですね。」

 

達也「仮想型は読書に不向きですので。」

 

達也はあまり素っ気ない態度でそう返す。

だが、相手はその事を気にしていない。

 

???「動画では無く読書ですか。ますます珍しいです。私も資料映像より書籍資料が好きな方だから、何だか嬉しいわね。」

 

達也「…そうですか。」

 

???「あっ、申し遅れました。私は第一高校の生徒会長を務めています。『七草(さえぐさ)真由美です。ななくさ、と書いて、さえぐさ、と読みます。よろしくね。」

 

小柄ながら均整の取れたプロポーションと相まって、高校生になったばかりの男子生徒が勘違いしてもおかしくない蠱惑的な雰囲気を醸し出していた。

 

達也(数字付き(ナンバーズ)…しかも「七草」か…)

 

魔法師としての資質に家系が大きな意味を持つ。

この国において、魔法に優れた血を持つ者は数字を含む苗字を持つ。

数字付き(ナンバーズ)とは優れた遺伝子的素質をもつ魔法師の家系のことである。

七草家はその中でも、現在この国において最有力と見なされている二つの家のうちの一つだった。

 

そんな呟きを心の中き押し留め、何とか愛想笑いを浮かべ名乗りだす。

 

達也「俺、いえ、自分は、司波達也です。」

 

真由美「司波達也くん…そう、あなたが()()()()()()()…」

 

目を大きくし驚いたあと何やら意味ありげに頷く生徒会長。

きっと新入生総代の妹、司波深雪の事であろう、と心の中でおもう。

 

真由美「ありがとう。それで?そちらの方は?」

 

達也はそちらの方と言って指した方を見ると…

 

達也「ッ…!」

 

ただ驚くしかなかった。

最初に言っておくが達也の実力はそうとうな物だ。

それこそ七草真由美にも引けを取らないほどの。

だが、その達也自身が気がつけなかった。

確かに書籍サイトに熱中していたため気づかないのも無理は無いだろう。

それだとしても先ず気配を感じなかった事に対し、達也は驚いていた。

 

真由美「ご友人?」

 

達也「い、いえ…面識はありません。」

 

男はぐっすりと寝ていた。

達也は確信した。

 

今朝の"彼"だという事に気がついた。

 

筋骨隆々の体に整った顔立ち…それに誰もが見て分かるワカメヘアー。腕を組んで一人眠りに落ちていた。

 

真由美「そろそろ起きないと始まっちゃうんだけど…」

 

達也「…自分が起こすので良いですよ。」

 

達也自身の興味なのかなんなのか分からない。

しかし、少なくとも只者では無いという事は視野に入れておきたいと思ったのか。同じく()()()だからなのか…

 

真由美「そう。助かるわ。それじゃ頑張ってね。」

 

達也「失礼します。」

 

軽く会釈をすると真由美は立ち去っていった。

そしてベンチに視線を移すがそこに彼は居なかった。

 

達也「ッ!?」

 

こんな短時間で、またも何も気がつく事は出来なかった。

だがそう遠くには行っていなかったため直ぐに見つける事が出来た。

眠たそうにしながら会場の方へと歩いていく彼を見ていると達也はもう既にわかった事がある。

 

達也(この男…一切の隙が無い…)

 

もうこの頃から穏やかな生活を送れるとは思っていなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

講堂に入った時何やら騒ぎが起きていた。

途中で男を見失うと、なにやら騒ぎが男の原因である事が分かっていた。

 

座席でどこに座ろうが指定は無いが、最前列が一科生。

最後列が二科生と別けられていた。

補欠的な扱いを受ける二科生は肩身の狭い者がほとんど。

だがそこに…お構いなく場の空気も読まぬ者が…

 

ーおいあいつ二科生じゃねぇか。なんであんなところに座ってんだよ。

 

ーちょっと顔が良いからって調子乗ってんじゃないの?

 

ーしかも寝てやがる…ここを何だと思ってんだ…?

 

向けられる痛々しい視線にもお構いなく一人堂々とぐっすりと眠っている。

その者は言わなくても分かるだろう。

 

達也「あいつは…あんな所にいたのか。」

 

そう呟きながらもまた違った視線を彼に送る。

だが、面倒事に巻き込まれるのはごめんなので直様席につく。

 

講堂は未だにザワザワとしている。

男は全く起きる気配が無い、周囲も起こそうとはするが見えない壁でも貼られているかのように近づこうとはしない。

 

そんな時…

 

???「あの…違う場所に座られていますよ?」

 

女子が彼を起こそうとしていた。

最初こそ声だけで起こそうとしたが次第に上げていき揺さぶる等をした。

 

すると男はやっと目を覚ます…

 

男「………違うのか…」

 

気だるそうな視線を送り若干不満だっのかその瞳は鋭かった。女子生徒は少しぎこちない喋り方になるがなんとか彼を注目の的から外す事が出来た。

 

達也(はぁ…ヒヤヒヤさせるな…やはり監視が必要か?…俺達に万が一があってはならない。…たしかにまだ素性も分からない奴だが………俺達の生活に干渉するならばその場合…)

 

達也は万が一の事を考えていた。自分と深雪に害を及ぼす様な者ならば即刻始末しようと考えていた。

普段の達也ならばそんな事は考えはしなかった。

だが、彼に対して…あの男に対しては異常なまでの警戒心を抱いていた。

 

???「あの、お隣は空いていますか?」

 

達也「ッ!…どうぞ。」

 

まだ空席は少ないのになぜ見知らぬ生徒の横に座りたがるのか、訝しむ気持ちともう一つ。

まるで銃弾に貫かれたかの様に心臓が一瞬止まる。

相手は細身の体型をした少女…ともう一人。

注目の的になっていた、先程自身が警戒心を剥き出しにしていた当の男。

近くに来るだけでこんなにも大きさが違うのか、と生唾を呑む。

しかし、これは好機。少しの間だけでもこの男に対して自分は好奇心を抱いているのだと驚く。

ほんの少しで良い、なにか情報が知りたい。それが危険なものであろうとそうで無かろうと。

ありがとうございます、と少女は頭を下げて腰掛けると男は既に腰掛けていた。

男に話を切り出そうとしていたがその横に次々と三人の少女が腰を下ろす。

 

???「あの。」

 

達也はなるほど、男以外は友人なのであろう。という思考に少し遅れるが相手が話かけてきていたことに気がつく。

 

???「私、『柴田美月』って言います、よろしくおねがいします。」

 

突然の自己紹介に驚くが直ぐに自分を名乗る事にした、

 

達也「司波達也です。こちらこそよろしく。」

 

なるべく柔らかな表情を浮かべ自己紹介をする。

彼女がメガネを掛けていた事に珍しいと思えた。

二十一世紀中葉から視力矯正治療が普及した結果、この国で近視という病は過去のものとなりつつある。

 

達也(霊子放射光過敏症か…)

 

少し意識を向けただけで、レンズに度の入っていないことがわかる。

『霊子放射光過敏症』とは見えすぎ病とも呼ばれている。

「体質」のことで、意図せずに霊子放射光が見えるという事だ。

一種の知覚制御不全病だ。

 

霊子(プシオン)と、想子(サイオン)。どちらも「超心理現象」魔法もこれに含まれる、において観測される粒子で、物質を構成しているフェルミン(フェルミ粒子)には該当せず、物質間に相互作用をもたらすボソン(ボース粒子)とも異なる非物理的存在だ。

 

想子(サイオン)は意思や思考を形にする粒子、霊子(プシオン)は意思や思考を産みだす情動を形作っている粒子と考えられている。

通常、魔法に用いられるのは想子の方で、現代魔法の技術体系は想子の制御に力点が置かれている。

魔法師はまず、想子を操作する技能から覚える。

ところが霊子放射光過敏症者は、先天的に霊子放射光…霊子の活動によって生じる非物理的な光に過敏な反応を示してしまう。

霊子放射光は、それを見ている者こ情動に影響を及ぼす。

それ故に霊子は情動を形成する粒子である、という仮説が立てられているわけだが、その為に精神の均衡を崩しやすい傾向にある。

これを予防する為の手立ては根本的に霊子感受性をコントロールすることだがそれが出来ない者には『オーラ カット コーティング レンズ』と呼ばれる特殊なレンズを使ったメガネを使用する事が心掛けられている。

 

???「あたしは『千葉エリカ』。よろしくね、司波くん。」

 

達也「こちらこそ。」

 

ショートの髪型や明るい髪色、ハッキリとした目鼻立ちが、活発的と思わせる。

 

エリカ「うん。…んで?そこの寝ている人は?」

 

二人はえっ?と首を傾げると男は寝ていた。

美月に関してはあまり良く知らないが、達也に関しては、

「こいつ…また寝ているのか…」と、内心呆れてはいる。

 

美月「いや、それが良く分からなくて。」

 

達也「自分も。…特に知った事は…」

 

エリカ「へぇ〜。こんな所で寝れるなんて凄い度胸してるわね。周りなんか騒ぎすぎてうるさいっていうのに。」

 

男「…」

 

三人が間近で話しているにも関わらず起きる気配が全く無い。よっぽど眠たかったのか…と三人は同じ顔をして思う。

 

達也(それにしても千葉ね…また数字付き(ナンバーズ)か?()()千葉家に「エリカ」という名前の娘はいなかったと思うが、傍系という可能性もあるしな…)

 

彼がそんなことを考えている傍らで、二人の笑声が放たれたが、周りから白い目を向けられる程ではない。

エリカの向こう側に座っている残り二人の自己紹介が終わる。そこから達也はもっと好奇心を満たしたくなったのか色々と話をしてみる事にした。特にこれといって面白いものなどは無かったが、悪いものでは無かった。

しかし未だに男が起きる気配は無い。

 

 

 

 

 

深雪の答辞は、予想した通り見事なものだった。

「皆等しく」「一丸となって」「魔法以外にも」「総合的に」かなり際どいワードが多々盛り込まれていたが、深雪自身の美貌でそれを打ち消している。明日からは深雪の周りが騒がしいだろう。

すぐにでも妹を労ってやりたいところだが、式の終了に続いてIDカードの交付がある。

 

エリカ「司波君何組?」

 

達也「E組だ。」

 

エリカ「やたっ!同じクラスね。」

 

何が嬉しいのか良く分からないが、それでいいなら別にいいだろう。オーバーリアクション過ぎると思うが。

 

美月「私も同じクラスです。」

 

美月も同じ組のようだ。

エリカの様にとは言わないが同じ顔をしているため、嬉しいのだろう。

残る女子二人は別々のクラスだったためテンションは低かった。だが、達也はそんな事はどうでもいい。

達也が知りたいのは深雪のクラス、そして…そちらよりも好奇心が抑えられないあの男のクラスだ。

 

達也(少し目を離せば居なくなるのか…見た目こそ目立つ方だと思うが…意図を読まれて無ければいいが…)

 

エリカ「どうする?あたしらもホームルームへ行ってみる?」

 

エリカが達也の顔を見上げてそう訊ねた。美月へ訊ねなかったのは彼女も達也の顔を見上げているからだろう。

達也は男を追おうとする意識が高かったためエリカの声が聞こえていなかった。

 

エリカ「ちょっと、聞いてる?」

 

ジト目で訊ねるエリカに意識を戻されると、妹と待ちあわせをしていると伝える。そこで深雪の事についてある程度話す事にした。双子では無いこと。新入生総代である事。

 

深雪「お兄様、お待たせしました。」

 

講堂の出口に近い隅っこで話をしていた達也の背後から、深雪の声が聞こえた。人垣に囲まれていたが抜け出して来たのだ。

 

達也「早かったね。」

 

と応えた、つもりだったが、言葉は予定通りでもイントネーションが疑問形になってしまった。

 

真由美「こんにちは、司波くん。また会いましたね。」

 

ここでまた生徒会長の七草真由美と出会う。

相変わらず微笑みは崩さず、その分注目を浴びる。

それがポーカーフェイスなのかどうかは分からない。

 

深雪「お兄様、その方たちは…?」

 

達也「こちらが柴田美月さん。そしてこちらが千葉エリカさん。同じクラスなんだ。」

 

深雪「そうですか…早速、クラスメイトとデートですか?」

 

可愛らしく首を傾げ、含むところなんてまるでありませんよ、という表情で深雪が問いを重ねる。唇には淑女の微笑み。

 

達也「そんな訳ないだろ、深雪。お前を待っている間、話をしていただけだって。そういう言い方は二人に対して失礼だよ。」

 

深雪「そうですか。はじめまして、柴田さん、千葉さん。司波深雪です。私も新入生ですので、お兄様同様、よろしくお願いしますね。」

 

美月「柴田美月です。こちらこそよろしくおねがいします。」

 

エリカ「よろしく。あたしのことはエリカでいいわ。貴女のことも深雪って呼ばせてもらっていい?」

 

深雪「ええ、どうぞ。苗字では、お兄様と区別がつきにくいですものね。」

 

そこから三人は達也が思っていたよりも意気投合しており、妹の深雪に友達が増える事については嬉しいと思っている。そこまで気に掛ける必要は無いのかもしれないが、一応のためだ。

深雪は生徒会の者達とも関係を持ち、挨拶だけであったが流石は総代なだけはあるだろう。

 

 

コツコツコツ…

 

 

達也と深雪は一斉に同じ方向へ振り返る。

今朝と同じ感覚…二人の肌に寒気が走る。

相変わらずエリカと美月は二人して仲良く話している。

真由美は生徒会の者と話しているようだ、真由美の後ろに居る男が先程から自分と深雪を見ており、深雪に対しては良い印象かもしれないが、自分に対しては良いものでは無いだろう…

だが、そんな事はどうでも良い。

この気配は間違いなく例の男である事以外考えられない。

殺気なんかでは無い、だがそれに似たようなものである。

二人はキョロキョロと辺りを見渡しているが見つからない

 

達也(今確かに居た筈だ…こんな人混みの中では探しにくいか……クソっ……自分自身へと向けられる視線が邪魔だ。)

 

自分に向けられる視線は悪意に零れるもの…きっと生徒会の者とも接し、自身の妹深雪とも接している事が原因だろう。だが、それはどうでも良い。邪魔にしかならない。

 

達也「…気の所為なのか…?」

 

エリカ「あれ?深雪何処行った?」

 

美月「そういえば少し目を離した隙に…」

 

達也「ッ!?」

 

達也は冷や汗をかく…それと同時に後悔をする。

自分があの男の事を察知しようとしすぎたせいで深雪が居なくなったのだ。

きっと深雪も奴について気づいている…ならば。

 

真由美「深雪さんならあちらに行ったわよ?」

 

達也「ッ!…すみません。失礼します!」

 

少し急ぎながら…早足で向かう事にした。

あの男は危険だ…本能がそう伝えている。

 

エリカ「って、ちょ…!何処行くの!?」

 

美月「早…!」

 

人混みを掻き分け一心不乱に走り出す。

まだそう遠くはない筈だ…視線が痛い…

だが、関係無い。

 

エリカ「はっや〜…」

 

美月「行っちゃいましたね…」

 

真由美(あら〜…もう少しお話したかったんだけどな〜。…それにしても深雪さんは何かを感じ取ったのかしら…司波くんもなんだけど………そういえば深雪さんが追いかけていった人って…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学試験、どちらも最下位の子じゃない。

 

 

 

 

 

地図がある訳ではありませんが私には分かります。

周りからも視線を浴びますがそんな事はどうでも良い事です。あの人さえ…あの人と話す事さえ出来れば…

 

自分でも何故かは分かりません。

あの人に何を感じているのか…恋でも無ければ懐かしの友人という訳でもありません。

でも、似てるんです…()()()()()()()に!

 

深雪「はぁ…はぁ……!…いた!」

 

後ろ姿なのにこちらを見られているような感覚がしてとても不気味だった。

でも、それは嫌な気では無かった。

その人の周りにはオーラが出ているような…

 

深雪「あ、あの!」

 

声をかけるとこちらを睨むようにして目を向ける。

その瞳には、何か()()()()()()()()()が宿っていました。やがてこちらを振り返ると私は息が詰まったような感覚に陥る…

 

深雪「え…あ、そ…の…」

 

ただこちらを見ているだけなのに…まるで蛇に睨まれた蛙のように体が動かない。

私はこの日、これ以上にない恐怖を浴びたかもしれない。

振り絞った私の言葉はとても良いように表せない…

 

深雪「な、名前ッ…!お名前をッ…!」

 

聞きたい事はあるのに咄嗟の言葉でしか無かった。

支配されているような状況なのに、まだ会って間もないのに敬意を抱いていた。

やがてゆっくりと男は口を開いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

十鬼蛇 王馬。

 

 

深雪「トキ…タ…オウ…マ…さん…」

 

十鬼蛇王馬(トキタオウマ)……?

逢魔が時…?……名前まで凄い…

 

王馬「………で?」

 

深雪「へ…?」

 

王馬「アンタは?」

 

突然の事で次の事を考えていなかった。

まさか質問をされるとは……でも、最初に質問をしたのは私…当然の事だと思う。

 

深雪「…私の…名前…です…か…?」

 

王馬「…」

 

深雪「…や…その…」ハァハァ…

 

深雪「…深雪ですッ!…司波深雪といいますッ!」

 

少し声が大きかったかもしれない…でもそれほどに言葉をひねり出すのが難しくて…仕方ない…

 

王馬「()()()()()…だな…わかった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…それで?俺と闘るのかい?

 

 

深雪「!!!???ッッッ」

 

更に増した圧迫感…故意的に出されているものじゃないかもしれない…でもジョークなはずがないッ!本気ッ…!

 

救けてください…ッ!お兄ッ…様ッ!…

 

息が苦しい…! 早くッ…、救けにッ…!

 

深雪「…い…え…」

 

王馬「…」

 

現在の深雪を周りの人間が見ればどう思うだろうか。

あの容姿端麗で淑女な彼女がここまで顔を崩す事をどう思うだろうか…決して不細工な訳ではないが…驚きはするかもしれない…

 

王馬「……そうなのか。」

 

フッ…としたような音が聞こえた気がする。

きっと男の意識が解除されたのだろう。

 

王馬「そりゃあ()()だ。」

 

 

 

やがて背中が小さくなっていく。

去り際の彼はとても虚しいような顔をして、期待に応えれなかった自分が悔しい………でも期待に応えていても…

 

この出会いが、私達の物語を大きく揺るがすのかもしれない。十鬼蛇王馬…さん…夢の中に出てくる王子様に酷似している男性…

 

達也「ここにいたのか…深雪。」

 

深雪「…は…へ…?お兄様?」

 

達也「突然居なくなるから驚いたぞ。あまりヒヤヒヤさせないでくれ。」

 

深雪「あ…はい。申し訳ありません。」

 

達也「さぁ…帰ろう。」

 

深雪「…はい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

司波達也に司波深雪…そして謎の男、十鬼蛇王馬…

 

この出会いが彼等を狂わせる。

 

王馬「シバミユキ…に()()()()()()()()…」

 

この男、一体…?




クソ駄文でした。


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第2話 下校

めっちゃ期間空いちゃった…
ドラコネ!も投稿しなきゃ…


高校生活の二日目、司波兄妹の朝は早い。

起きるのもそうだが、行動力。

深雪はローラーブレードで、達也は自慢の体力で魔法を使いながら60km並の速度で移動するなり着いた場所は「寺」。

だが、そこに集う者たちの面構えは「僧侶」や「和尚」、

あるいは「(小)坊主」にさえ、到底見えない。

そこで達也は中学一年生の頃から体術の稽古を受けていた。

もちろん一人で行うものではない。

 

最初は一人ずつの掛かり稽古だったのが、今では中級以下の門人約ニ十人による総掛かり。

達也はこう見えてある程度の体術は得意であった。

深雪によると敵う者は居ないらしい。

 

そして達也に体術を教える「師」でもあるこの男。

実年齢はともかく見た目と雰囲気は、まだそれほど老いていない。きれいに髪を剃りあげ細身の身体に悪戯が好きそうな顔をしている、名を『九重八雲』と言う。

自称で言うには「忍び」と言うが、一般的な呼称は「忍術使い」。身体的な技能が優れているだけの前近代こ諜報員とは一線を画する、古い魔法を伝える者の一人だった。

 

達也の朝稽古が終わり三人は深雪の持参していた朝食を摂る事にしていた。

 

達也「師匠。折り入って話があります。」

 

八雲「うん?珍しいね。君がそこまでかしこまった態度をとるだなんて。なんだい?聞かせてご覧?もしかして深雪ちゃんが関係するのかい?大丈夫!深雪ちゃんの身の安全は僕が守るッ!」

 

達也「普段の俺はどんな態度なんですか。それと深雪に関係するものですがそこまでしなくて大丈夫です。興奮しないでください。」

 

一瞬、達也の中には怒気が感じられ八雲は「失敬、失敬」と軽いノリで反省を促していた。

 

達也「入学して気になる生徒が。」

 

八雲「えっ!?あの達也くんが!?伝説のシスコンが!?気になる生徒だって!?」

 

達也「いい加減話を進めさせてください。」

 

またも達也の中に怒気が入り混じり八雲は今度こそ反省したのか少し大袈裟に反省する態度を見せる。

そしてここで本題に入るのだが…

 

深雪「お兄様、それについては私の方からお伝えさせてください。」

 

深雪本人が話を持ち出すことにした。

そして八雲が茶を一口啜り本題に入る。

 

深雪「はい。先程お兄様が述べた通り少し気になる生徒が居まして…『トキタオウマ』という人物はご存知でしょうか?」 

 

八雲は深雪の話を聞くときもところどころ茶を啜り、たまに湯呑を揺らしたり中の茶を楽しんでいた。

 

八雲「トキタオウマ…ねぇ…ふぅん〜。」

 

二人は八雲の顔に穴が空くほど見つめ、それに対して八雲は気にしていなかった。…が、少し眉が歪んでいた。

 

八雲「名前だけ聞いてみても分からないなぁ…字は分かるかい?それなら近づけるかもしれないから。」

 

深雪「すみません。流石にそこまでは分かりません。」

 

八雲「あちゃ〜…そっか。まぁ、本当に困った時は頼んでおいで、それ以前に達也君が解決するだろうけど。」

 

達也「なるべくそうさせていただくおつもりです。」

 

八雲「あ、やっぱりそうなんだ。」

 

二人は朝食を済ませたあと通学するため達也は着替、八雲に軽く会釈をして門をくぐり抜けていく。

深雪も軽く会釈をし、兄、達也と同じく通学する。

 

八雲(いや〜それにしてもあの二人も高校生かぁ…僕も爺さんになっちゃうな〜。こんなナリだけど。)

 

去っていく二人の背を見ながら懐かしく思う。

中学一年生の頃に達也が来て、早3年。短いようだがとても長く。達也の日々の腕のこなしは達人の才の如く上達していった。今では八雲のほうが少し上かもしれないが、もうじきすれば達也は余裕で八雲を越えるだろう。

 

八雲(トキタオウマかぁ…結構カッコいい名前だな〜、じゃなくて……う〜ん……思い当たらないなぁ……)

 

二人の言うトキタオウマという人物について首を傾げる。

司波兄妹が注意?する謎の人物。確かに入学したてなので謎は多い訳なのだが、どうにも腑に落ちない。

 

八雲(トキタ…トキタ………………いや、まさか……そんなはずがあるわけ無いか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの区域の人間が高校に入れるなんて…無いよね

 

 

 

 

 

九重八雲の推理は如何に…?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

登校したばかりの一年E組の教室は雑然とした雰囲気に包まれていた。多分、他の教室も似たようなものだろう。

 

エリカ「オハヨ〜」

 

声の主は相変わらず陽気な活力に満ちたエリカだった。

 

美月「おはようございます。」

 

その隣では、美月が控えめながら打ち解けた笑みを向けてきている。すっかり仲が良くなったようで、エリカは美月の机に浅く腰掛けているような格好で手を振っている。

シバとシバタ、偶然というより五十音順という要因が働いたのだろうが、達也の席は、美月の隣だった。

 

達也「また隣だが、よろしくな。」

 

美月「こちらこそ、よろしくおねがいします。」

 

達也の言葉に美月が笑みを返す。と、その隣でエリカが不満そうな顔をしていた。……多分、わざとだが。

 

エリカ「何だか仲間はずれ?」

 

声もどこか、からかっているような響きがある。

 

達也「千葉さんを仲間はずれにするのはとても難しそうだ。」

 

エリカ「…………どういう意味かな?」

 

達也「社交性に富んでいるって意味だよ。」

 

エリカ「…司波くんって、実は性格悪いでしょ。」

 

こらえ切れずに美月が笑いをこぼしているのを横目に、達也は端末にIDカードをセットし、インフォメーションのチェックを始めた。

 

達也「……別に見られても困りはしないが。」

 

「あっ?ああ、すまん。珍しいもんで見入っちまった。」

 

達也が話している生徒は男性であり、それなりに体格は良いような気はする。長身でいかにもスポーツ得意としたような爽やかな感じがする。

彼の名は『西城レオンハルト』。父親がハーフで、母親がクォーター。外見は純日本風だが名前は洋風。

得意な術式は収束系の硬化魔法、志望コースは身体を動かす系、警察等の機動隊、山岳警備隊。

 

レオ「レオでいいぜ。」

 

達也「司波達也だ。俺のことも達也でいい。」

 

二人で得意な分野は、など談笑を交えながらお互いの事を探っていく。…と、横からやりを入れてくる者が一人。

 

エリカ「え、なになに?司波くん魔工師志望なの?」

 

レオ「達也、コイツ、誰?」

 

エリカ「うわっ、いきなりコイツ呼ばわり?しかも指差し?失礼なヤツ、失礼なヤツ!失礼な奴っ!モテない男はこれだから。」

 

レオ「なっ!?失礼なのはテメーだろうがよ!少しくらいツラがいいからって、調子こいてんじゃねーぞっ!」

 

エリカ「ルックスは大事なのよ?だらしなさとワイルドを取り違えているむさ男には分からないかもしれないけど。それにな〜に、その時代を一世紀間違えたみたいなスラングは。今時そんなの流行らないわよ〜」

 

レオ「なっ、なっ、なっ…」

 

とりすました嘲笑を浮かべて斜に見下ろすエリカと、絶句が今にも唸り声へと移行しそうなレオ。

達也はそれを見ながら「意外に合うかもしれないな。」と心の中でつぶやく。

 

エリカ「ほんっとうむさ苦しいわ。達也くんや()()()を見習ってご覧なさい?」

 

エリカが指す方向を見ると達也は驚く。

居るじゃないか…彼が。

今朝、相談していた内容の人物が…

 

達也「…トキタ…オウマ…」

 

エリカ「あれ?『トキタオウマ』くんって言うんだ。へぇ〜、それにしても良い顔してると思わない?男っていうのはああやって寡黙な方がモテるって言うのに〜」

 

レオ「〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

美月「…エリカちゃん、もう止めて。少し言い過ぎよ。」

 

二人を制止する美月の横に目を見開きながら彼を見つめる達也。まさか、同じクラスだとは思いもしなかっただろう。昨日、深雪が彼に近づき、名前を聞き出した。

それと同時に人間とは思えない程のプレッシャーを感じた。と、深雪が言っていた。

そんな彼は今眠っている。

こんな騒がしくなってきている教室で一人熟睡出来るのは流石だな…と思いながらまた前を向く。

 

次第に予冷が鳴り、皆々が蜘蛛の子を散らすように席二着く。

 

 

王馬(…………あいつは昨日の…)

 

 

深淵を覗く時、深淵もまたコチラを覗いている。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

達也はカウンセラーの『小野遥』について頭を抱えながら、一人 考えの海に浸っていた。

…が、レオの一声で現実に戻される。

内容はこの後についてだ。

 

教室で食事をする、という習慣は、今の中学、高校にはない。耐水、耐塵性が向上したとはいえ、情報端末は精密機器だ。うっかり汁物でもこぼそうものなら、結構悲惨な羽目に陥らないとも限らない。

食堂へ行くか、中庭とか屋上とか部室とか、何処か適当な場所を見つけるか。

そして食堂が開くまで、まだ一時間以上ある。

 

達也「………」

 

ターゲットの彼の席を見るともぬけの殻。

既に居なくなっていた。

まぁ、彼が何処に行こうが勝手だが出来るだけ距離を詰めておきたい。それは決して良い意味では無いが。

 

達也「ここで資料の目録を眺めているつもりだったんだが…OK、付き合うよ。」

 

楽しそうに輝いていた目が達也のセリフで落胆に曇る。

実に分かりやすいレオの表情に、達也は苦笑していた。

 

 

入学して二日目、早くも行動を共にするメンバーが固まりつつあった。皆、自分とは違って明るく前向きな性格で十中八九のアタリだった。しかし完璧なものでは無いが…

 

達也「謝ったりするなよ、深雪。一厘一毛たりとも、お前の所為じゃないんだから。」

 

深雪「はい、しかし…止めますか?」

 

達也「……逆効果だろうなぁ。」

 

深雪「…そうですね。それにしてもエリカはともかく、美月があんな性格とは…予想外でした。」

 

達也「…同感だ。」

 

一歩引いた所から眺める兄妹の視線の先には、二手に分かれて一触即発の雰囲気で睨み合う新入生の一団がいた。

その片方は深雪のクラスメイト、もう一方の構成メンバーは、言うまでもなく、美月、エリカ、レオだった。

 

昼食時の食堂、何も知らぬ新入生が勝手知らずという事情から、この時期は例年混雑する。

だが見学を切り上げ食堂に来た達也たち四人は、それほど苦労することも無く四人がけのテーブルを確保した。

半分ほど食べ終わった頃、男子女子両方のクラスメイトに囲まれて食堂に到着した深雪が、達也を見つけて急ぎ足で寄ってきた。

そこで一悶着あった。

 

達也と一緒に食べようとする深雪、クラスメイトの交流を拒むような偏屈な性格ではないが、深雪にとって最優先すべき相手は達也だった。 

このテーブルに座れるのはあと一人。クラスメイトと達也とどっちを選ぶか、深雪は考えることすらしなかった。

しかし、深雪のクラスメイト、特に男子生徒は、当然、彼女と相席を狙っていた。

最初は狭いとか邪魔しちゃ悪いとかそれなりにオブラートに包んだ表現だったが、深雪の執着が意外に強いと見るや、二科生と相対するのは相応しくないだの一科と二科のけじめだの、果ては食べ終わっていたレオに席を空けろだの言い出す始末。

 

身勝手で傲慢な一科生の言い種にレオとエリカはそろそろ爆発しかけていた。達也は急いで食べ終わると、レオに声を掛けまだ食べている最中のエリカと美月に断りを入れて席を立った。深雪は達也たち四人に目で謝罪して、片側が空いたテーブルには座らず、達也と逆方向へ歩み去った。

 

王馬(…………肉はどこにあるんだ…?)

 

深雪「!」

 

深雪が王馬を見つけるが、クラスメイトの男子と女子に質問攻めであったり、一科は一科で居るべきだ、などと理想論を述べて声を掛ける暇も無かった。その時深雪の周りが少し寒かったとか何とか…

 

そして次に午後の専門課程見学中の出来事だった。

通称「射撃場」と呼ばれる遠隔魔法用実習室では、3年A組の実技が行われていた。

生徒会長、七草真由美の所属するクラスだ。

生徒会は必ずしも成績で選ばれるものではないが、今期の生徒会長は遠隔精密魔法の分野で十年に一人の英才と呼ばれ、それを裏付けるように数多くのトロフィーを第一高校にもたらしていた。

その噂は新入生も耳にしている。そして噂以上にコケティッシュだった容姿も、入学式で見ている。

彼女の実技を見ようと、大勢の新入生が射撃場に詰め掛けたが、見学できる人数は限られている。こうなると、一科生に二科生が多い中で、達也たちは堂々と最前列に陣取ったのだった。当然のように、悪目立ちした。

 

王馬(なんでこいつらこんなに並んでんだ…?)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして現在、美月が啖呵を切っている最中だった。

 

美月「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんは、お兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口を挿むことじゃないでしょう!」

 

相手は一年A組の生徒。昼休みに食堂で見た面子だ。

つまりどういう状況かというと、放課後、深雪を待っていた達也に、深雪にくっついて来たクラスメイトが難癖を付けたというのが発端だ。ちなみにそのクラスメイトは女子。男子生徒はさすがに周囲の(あるいは深雪の)目が気になったなか最初の内は黙っていたが、既にそんな遠慮、あるいは良識はこの場から立ち去っていた。

 

美月「別に深雪さんはあなたたちを邪魔者扱いなんてしていないじゃないですか。一緒に帰りたかったら、ついてくればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!」

 

達也「引き裂くとか言われてもなぁ…」

 

深雪「美月は何を勘違いしているのでしょう…」

 

司波兄妹は美月の言う二人の仲について少し困惑する。

別にただの兄妹関係であり、それ以上でもそれ以下でもない。健全な関係だ。

 

「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」

 

深雪のクラスメイト、その一。

 

「そうよ!司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

深雪のクラスメイト、女子生徒その二。

彼らの勝手な言い分をレオは威勢良く笑い飛ばした。

 

レオ「ハン!そういうのは自活(自治活動)中にやれよ。ちゃんと時間がとってあるだろうが。」

 

エリカも皮肉成分たっぷりの笑顔と口調で言い返す。

 

エリカ「相談だったら予め本人の同意をとってからにしたら?深雪の意思を無視して相談も何もあったもんじゃないの。それがルールなの。高校生にもなって、そんなことも知らないの?」

 

相手を怒らせることが目的のようなエリカのセリフと態度に、注文通り、男子生徒その一が切れた。

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

差別的ニュアンスである「ウィード」といつ単語の使用は校則で禁止されている。半ば以上有名無実化しているルールだが、それでもこれだけ多くの耳目を集めている状況で使用される言葉ではない。

この暴言に真正面から反応したのは意外であった美月だった。

 

美月「同じ新入生じゃないですか!あなたたちブルームが、今の時点で一体どれだけ優れているというんですかっ!?」

 

達也「…あらら。」

 

まずいことになった、という思考が達也の口から短い呟きとなって漏れた。  

 

「…どれだけ優れているか、知りたいなら教えてやるぞ。」

 

美月の主張は校内のルールに沿った正当なものだが、同時に、ある意味でこの学校のシステムを否定するものだ。

 

レオ「ハッ、おもしれぇ!是非とも教えてもらおうじゃねぇか。」

 

一科生の威嚇に対しレオは挑戦的な態度をとる。

 

「だったら教えてやる!」

 

学校内でCADの携行が認められている生徒は生徒会の役員と一部の委員のみ。

学外における魔法の使用は、法令で細かく規制されている。だが、CADの所持が校内で制限されているわけではない。CADは今や魔法師の必携ツールだが、魔法の行使に必要不可欠、ではない。CADが無くても魔法は使える。だから、CADの所持そのものを、法令は禁じていない。

故に、CADを所持している生徒は、授業開始前に事務室へ預け、下校時に返却を受ける、という手続きになっている。またそれ故に、下校途中である生徒がCADを持っているのは、別におかしなことではない。 

 

達也「特化型っ?」

 

だが、それが同じ生徒に向けられるとなれば、非常事態だ。向けられたCADが、攻撃力重視の特化型なら尚のことだ。

 

深雪「お兄様!」

 

深雪が達也に対してこの場を収めてほしいように言葉を上げる。それを目で感じ取った達也は右手を付きだそうとしたが…

 

 

 

 

王馬「楽しそうな事やってるねぇ…俺も混ぜてくれよ。」

 

 

 

 

 

その場の誰もが彼の声に反応した。

先程までレオは銃口を突きつけられていたが、即座に声の主の方向を見る。

達也は驚く、よりにもよってこの場でこの男が現れる事に。深雪は驚きと少しの希望を抱いていた。もしかしたら収めてくれるんじゃないかって。

 

王馬「お、シバミユキじゃん。」

 

深雪「王馬さん。」

 

エリカは伸縮性の警棒を出そうとしていたが、彼の声によって懐に戻す。

 

「な、なんだお前は!?いきなり出てきて司波さんと話てんじゃねぇよ!」

 

そうだそうだ、と言わんばかりに外野からヤジが飛ぶがそんな事お構いなしに彼は知らんふりをすると、深雪の顔を見る。

 

王馬「知ってんのか?」

 

深雪「え…え、えぇまぁ…」

 

エリカ「知ってるっていうか、あたし達二科生と一科生の違いがあーだこーだ〜!とか言ってうっさいのよ!」

 

王馬「ふ〜ん…」

 

エリカの発言に対し、特に興味の素振りすら見せない王馬。関心が無いのか、どうでも良いのか。

 

「邪魔するならお前に見せてやるよ!一科と二科の違いをなっ!」

 

今度は王馬に対して銃口が向けられる。

それに対して一同はまたピリッした空気になる。

今度はレオよりも近い距離、一メートルも無いくらいの距離で先ず避けきるのは不可能だろう。

達也はジッと観察するような眼差しを送るが、深雪は焦っている。まさか巻き込んでしまったんじゃないかと思うと、額に汗が落ちる。

 

だが、そんな心配も杞憂に終わる…

 

何故なら…

 

 

ガンッ!

 

 

「ヒッ!」

 

先ず攻撃などさせないからだ。

 

特化型のデバイスは宙を舞う、良く見ると元の綺麗だった形が一瞬にして脆く、ボロボロに成り果てていた。

そう、男はCADを蹴り上げたのだ。

これには一同も驚く。

 

達也「ッ!?」

 

達也(あんな距離で蹴り上げた!?それに一撃でボロボロに………あの距離で迷いなく蹴り上げるだと……あいつ、相当な腕前だな……)

 

普通CADを向けられると湧いてくる感情はなにか、答えは恐怖と焦りだ。達也からするとそんな事は無いかもしれないが、普通の者なら確実に怯む。

だが、男は一切の迷い無く、しかも余裕の表情でノールックで蹴り上げたのだ。

 

深雪「…え、えぇ!?」

 

驚いてあたり前か、普通そんな強引に対処するものでは無いからな。

 

このおかげで周りの一科生は彼から少しずつ距離を空けていく。CADを構えていた生徒も腰から崩れ落ちれ、ジリジリと後ろに引き下がっていく。

 

王馬「…で、どうすんだい?」

 

王馬の視線は後ろに居る一科生達に向けられる、全員ポカンとした顔になり、一瞬理解出来なかった。

 

 

アンタ等も闘るのかい?

 

 

全員「!?」」

 

深雪はこれに対して二度目だったか、殺気に似たような感覚に陥る。これに対して達也ですら頬に汗が伝っている。

美月はこの圧迫感に耐えられなかったのか尻餅をついて、目尻に涙を浮かべていた。

一科生達は顔を横にブンブンっと音が出そうなくらいに振る。

 

王馬「……そうかい。」

 

男はまた残念な気持ちになった。

 

 

「止めなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後、生徒会長の七草真由美と風紀委員長である『渡辺摩利』という三年生が駆けつけてきた。

早速、一のAと一のEは事情聴取を受けることになってしまった。これには一同言葉なく硬直している。

 

王馬「…」

 

彼一人を除いて。

 

傲然と虚勢に胸を張ることもなく、悄然と萎縮し項垂れることもなく、達也は泰然とした足取りで、摩利の前へ歩み出た。

 

達也「すみません、悪ふざけが過ぎました。」

 

摩利「悪ふざけ?」

 

達也「はい。森崎一門のクイックドロウは有名ですから、後学の為に見せてもらうだけのつもりだったんですが、あんまり真に迫っていたもので。」

 

王馬にCADを蹴り壊された男子生徒が目を大きく見開いた。

 

摩利は視線を巡らせ、拳銃携帯のデバイスを一瞥する。

痛々しく、凹むというかえぐられているような、言葉に出来ない程に壊れていた。

 

摩利「ほう…ではなぜ、このCADはここまで破損しているのか聞かせてもらおうか?」

 

達也は次の事に対してどう伝えようか困っていた。

彼の気が動転してCADを蹴り壊しました、と言っていいのだろうか、時間にして2秒。達也の頭に思考が駆け巡る。

 

王馬「俺が壊しといたぜ。」

 

今度は摩利が王馬に対して冷たい視線を送る。

それを浴びている訳ではないがエリカはゾッとし、達也はしまった、と声に出そうになっていた。

 

摩利「…壊したか…そうか…何故そうする必要があった?」

 

王馬「…何故…?…ハッ、()()()()に一々理由がいるのかい?」

 

摩利「…()()()()か…つまり、お前は防衛目的では無く、故意的にやった、という訳だな?」

 

この状況に耐えれる者が居るだろうか。

一年生にして、ここまで三年生に突っかかっていく者など見たことは無いだろう。

深雪もアワアワとなって焦っている、レオに関しては「おいバカっ!よせっ!」と、言ってしまっている。

美月はもう意識がシャットダウンされそうな状況だ。

 

真由美「摩利、もういいんじゃない?こんな所で長々としても、ねぇ?」

 

突如真由美が割って入る。

 

真由美「きっと達也くんが言ってる事は本当よ。昨日喋った時、この人嘘つかないだろうなぁって私、思ってたから。」

 

一同はそんな事で、と思ったと同時に早く開放してくれ、という気持ちでごっちゃ混ぜになっていた。

 

王馬「ネェちゃん分かってんじゃねぇか。」

 

摩利「貴様!会長に対して、いや、上級生に対しての態度は何だ!」

 

またもや二人は噴火する前の火山のようにヒートアップしていた。皆「やめてくれよ…」という顔になり、青く染まっていた。だが、達也は「えぇ、その通りです。」と返す。

 

摩利「…ハァ…会長がこう仰っているんだ、今回は不問にする。以後このようなことのないようにな。」

 

慌てて姿勢を正し、呉越同舟ながら一斉に頭を下げる(王馬を除く)一同に見向きもせず、摩利は踵を返す、が、一歩踏み出したところで足を止め、背中を向けたまま問いかけを発した。

 

摩利「…お前、名前はなんだ。」

 

首だけで振り向いた切れ長の目は、その端にいる王馬の姿を映している。  

 

王馬「十鬼蛇王馬。」

 

摩利「…トキタ…王馬、か。覚えておこう。」

 

王馬「あぁ、覚えといてくれよ。ネェちゃん達。」

 

達也は余計だ、と心で呟く。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

王馬「ふ〜ん…モリサキシュン、か。」

 

最初に手を出した、つまり達也たちに庇われた形になったA組の男子生徒が、棘のある視線を向け、同じく棘のある口調で、達也達に向けて自己紹介をした。

王馬はカタコトになっているが、実際は『森崎駿』だ。

 

森崎「僕はお前を認めないぞ、司波達也。そして十鬼蛇王馬!特にお前は、だ!兄妹でも無い癖して男なのにズカズカと司波さんに言い寄って!しかも面識があるみたいじゃないか!司波さんは、僕たちと一緒にいるべきなんだ!」

 

王馬「シバミユキ、腹減らねぇか?」

 

深雪「いえ、私は減っておりません。」

 

森崎「人の話を聞けっ!!」

 

まるで漫才でもしているかのような空間に一同は先程とは違って笑みが溢れる。

 

達也「いきなりフルネームで呼び捨てか。」

 

森崎「僕も"そいつ"に言われてたけどな!」

 

深雪「…そう言えば私も。」

 

三人は一斉に王馬を見るが、一人欠伸をしてどうでも良さそうだった。

 

王馬「…終わったか?なら帰ろうぜ。」

 

お前はいつの間にこの輪の中に入ったんだと、皆が思う。

出会い方は最悪で、無愛想な様にも見えたが、意外にも気さくで積極的な方で皆、困惑する。

 

達也「……そ、そうだな。深雪、レオ、千葉さん、柴田さん、帰ろう。」

 

とにかく精神的に疲れた、という実感を共有していた二人は、どちらからともなく頷きあって、その場を離れることにした。

行く手を遮るように、事態を悪化させかけたあのA組の女子生徒が立っていた。

 

王馬「てめぇは?」

 

「『光井ほのか』です。さっきは失礼なことを言ってすみませんでした。」

 

いきなり頭を下げられて、正直なところ、皆が面食らっていた。先程までは控え目に言ってもエリート意識を隠しきれていなかった少女のこの態度は豹変と言えた。

 

ほのか「庇ってくれて、ありがとうございました。森崎君はああ言いましたけど、大事にならなかったのは十鬼蛇さん達のおかげです。」

 

王馬「…王馬で良い。」

 

ほのか「分かりました。それで、その…」

 

ほのかはもじもじとして王馬に対して上目遣いを使う。

普通の男ならイチコロだが、そうじゃないのがこの男。

 

ほのか「…駅までご一緒してもいいですか?」

 

恐る恐る、だが何かある種の決意を秘めた顔で、同行を請うほのか。一瞬だけ深雪の方へと向いたのは間違いない。

 

王馬「あぁ、良いぜ。」

 

だからお前はいつから指揮を取るようになったんだ、と改めて思う、達也であった。

 

深雪「…」グッ

 

別に拒む理由など無いだろう、王馬にも達也にもレオにも、美月にもエリカにも………深雪は何故か、何処か決意をした様な顔になり拳を握る。

 

深雪(何ででしょう…このモヤッとした気持ち…別に彼に対してそんな………だって、出会って間もないのに………でも、()()()()……あの人にそっくり…………)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

駅までの帰り道は微妙な空気だった。

メンバーは先頭に王馬、そして後々に深雪、ほのか、達也、レオ、エリカ、と、ほのかと深雪に同じくA組の女子生徒『北山雫』。

 

ほのか「王馬さんは向けられた時怖くなかったんですか?…それも攻撃特化型を向けられるなんて早々無いことですし…」

 

王馬「別に怖くなんてねぇよ…あんな玩具。」

 

ほのか(玩具って…)

 

雫(えぇ…)

 

エリカ(流石にそれは無いでしょ…)

 

美月(嘘でしょ…)

 

レオ(どんだけ肝据わってんだ…)

 

達也(そういう風にしか見てない……よっぽどの自信家か。)

 

深雪(…)

 

王馬「そういやお前、何か出してただろ。」

 

達也が後ろの方にいるエリカを見る。

事実、あの時レオに銃口が向けられていた時エリカは警棒のデバイスを出そうとしていた事は本当だ。

本当ならエリカはあそこで銃型のデバイスを打ち落とそうとしていた。

だが、突然の王馬の乱入でそれは免れたというか何というか、非常識者が蹴り壊したのだが…

 

エリカ「すっご!良く気づいたわね!あっそれとあたしはお前じゃなくてエリカ。千葉エリカよ。」

 

王馬「チバエリカって言うのか。」

 

達也(あの時エリカと王馬の距離はかなり離れていたはずだ。それに現れた角度からして、まともに目視出来ないはずだが…分からんな。)

 

美月「えっ?その警棒、デバイスなの?」

 

美月が目を丸くしたのを見て、エリカは満足げに二度、ウンウンとばかり頷いた。

 

エリカ「そうそう、普通の反応をくれてありがとう、美月!」

 

レオ「…何処にシステムを組み込んでるんだ?さっきの感じじゃ、全部空洞ってわけじゃないんだろ?」

 

エリカ「ブーッ。柄以外は全部空洞よ。刻印型の術式で強度を上げてるの。硬化魔法は得意分野なんでしょ?」

 

レオ「…術式を幾何学紋様化してら感応性の合金に刻み、サイオンを注入することで発動するってアレか? 

そんなモン使ってたら、並みのサイオン量じゃ済まされ無いぜ?よくガス欠にならねぇな?

そもそも刻印型自体、燃費が悪過ぎってんで、今じゃあんまり使わてねぇ術式のハズだぜ。」

 

エリカ「おっ、さすが二得意分野。でも残念、もう一歩ね。強度が必要になるのは、振り出しと打ち込みの瞬間だけ。その刹那を捉まえてサイオンを流してやれば、そんなに消耗しないわ。 

兜割りの原理と同じよ。……って、みんなどうしたの?」

 

逆に感心と呆れ顔がブレンドされた空気にさらされて、居心地悪げに訊ねたエリカ、そして特に興味の無さそうな王馬に…

 

深雪「エリカ…兜割りって、それこそ秘伝とか奥義とかに分類される技術だと思うのだけど。単純にサイオン量が多いより、余程すごいわよ。」

 

全員を代表して深雪が答えた。

だがエリカの強張った顔は、彼女が本気で焦っていることを示していた。

 

王馬「ふ〜ん…そんなにすげぇ事なんだな。」

 

深雪「ふ〜んって…王馬さんは得意分野はあるんですか?」

 

ほのか「た、確かに気になります!」

 

エリカ「あ!あたしもあたしも!そういう王馬くんはどんなCADを使うの?」

 

美月「汎用方ですか?特化型ですか?」

 

目をキラキラさせながら質問する美月は、深雪、ほのか、エリカに負け劣らないくらいにグイグイと質問していく。

すると王馬が後ろに振り返り…

この後、ここにいる誰もが驚愕するだろう…

達也でさえも目を見開く事になるだろう…

何故なら…

 

 

 

王馬「使った事ねぇぞ。そんなもん。」

 

 

 

彼はCADの携行どころか、先ず手にすらしていなかったのだから…

 

 

深雪「…え。」

 

ほのか「…え?」

 

エリカ「…は?」

 

美月「…ふぁ?」

 

雫「…嘘…」

 

レオ「はぁ?」

 

達也「!?」

 

 

 

 

 

 

ええええええええええええ〜〜〜〜!?!?

 

 

この先どうなるのだろうか…

 




台風に気をつけてくださいね?


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第3話 理由

とても長くなりましたすんません。


 第一高校が利用する駅の名前はずばり「第一高校前」。

駅から学校まではほぼ一本道だ。

途中で同じ電車に乗り合う、ということは、電車の形態が変わったことにより無くなってしまったが、駅から学校までの通学路で友達と一緒になる、というイベントは、この学校に関して言えば頻繁に生じる。

 入学二日目の昨日もそういう事例を数多く見たし、今朝も先程から、そういう実例を何度も目にしている。

…だが、それでも今は腑に落ちない事がある。

 

王馬『使ったことねぇぞ。そんなもん。』

 

十鬼蛇王馬…今年の新入生、そして同じくE組のクラスメイトだ。入学二日目で、問題を起こしかけた張本人でもある。まぁ、あれに関しては周りも悪かったと思うが、彼自身で上級生に、生徒会メンバーにも挑戦的な態度を取っていた。…そして『CAD』を携行どころか、手にすらした事が無いという…

 

美月「今まで扱った事が無く、魔法科高校に入学出来るなんて……それに、マトモに魔法は使えるのでしょうか?」

 

達也「それは自分にも分からない。真実を知るのはあいつのみ、だ。」

 

レオ「しっかしよぉ、変わった奴も居るもんだぜ。あいつCADに興味無ぇって言うしよぉ。」

 

エリカ「まぁでも良いんじゃない?本人がそれで良いなら。あたしは別にとやかくは言わないかな。」

 

レオ「お?何だお前?あいつ自身の意見を尊重するって事はあいつに気があんのか?」

 

エリカ「ハァ!?バカなの!?確かに顔は良いからってほとんど初対面の男に揺さぶられるほどあたしは甘くないっての!!」

 

達也(またか…)

 

美月(飽きないですね…)

 

レオとエリカはいつもどおりの漫才をやっている。

朝からこんな展開に、達也はややテンションが下がっていた。それは美月も同様だ。

 

深雪「…」

 

達也「…」

 

昨日からずっとこうだ。最近のところ深雪の歯切れが悪い。何を話そうにも何処か空回っているような…どこかを見ているような…しかし、体調に問題があるわけでは無さそうだ。

 

 

王馬「よぉ。」スッ…

 

エリカ「ギャァァァァァァァァァァッッッ!?!?」

 

レオ「アァァァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

またこれだ。気配が無い。

その挙げ句エリカは驚いている、レオは多分、エリカの声がうるさすぎて耳を抑えて絶叫しているんだろう…

 

王馬「びっくりしたかい?かなり前から居たんだけどな。そりゃ少し残念だ。」

 

美月「え?今ここに来られたのでは無いのですか?」

 

王馬「かなり前から居たぞ、前から。」

 

達也「…」

 

きっと電車を降りたあとぐらいか…、その時から俺たちの近くに居た…いや、共に行動していたという事になるのか?やつが言っているんだ…信じるしか無い…

また今日も一日がスタートするのか。

またしても、いや、入学してここ三日間全く良いスタートをしていない…

それもこいつのせいだ…せめて朝だけは清々しい気持ちになりたかったが、朝から焼肉をしている気分だ…

ムカムカするような…胃が気持ち悪い…

六人で校門までのそれ程長くない道をのんびりと歩んでいると背後から声が聞こえてくる。

 

真由美「達也く〜ん。」

 

活気的な呼び声と共に、軽やかに駆けてくる小柄な人影が迫ってくる。今日も波乱の一日になるに違いない…

 

真由美「おはよう、達也くんに王馬くん、深雪さんもおはようございます。」

 

深雪に比べて随分扱いがぞんざいだ、と達也は感じたが、相手は三年生で生徒会長だ。

 

達也「おはようございます、会長。」

 

深雪「おはようございます。」

 

達也に続き、深雪も頭を下げる。

 

王馬「よう。昨日ぶりだな。」

 

この男は下げる頭なんてものを知らないため大きく出る。

本人は何とも思っていない懐の深い人物なので、特に気にして無さそうだった。だが、深雪は王馬に対して小声で注意する。

 

深雪「ちょっと!王馬さん!相手は生徒会長なんですから頭くらい下げたらどうなんですか!

 

王馬「あ?やだよ。その"セートカイチョー"ってのが何なのか知らねぇけど頭下げるなんてまっぴらごめんだね。」

 

深雪「ちょっと!」

 

真由美「大丈夫ですよ。そんなに気にしていないので。(えっ?生徒会長を知らないって言ったの?どういう事?)」

 

 

王馬「らしいぜ?シバミユキ。」

 

深雪「…もう。(…そう言えば生徒会長を知らないとは…)」

 

王馬「で?あんたは今、一人なのかい?周りにうじゃうじゃと居ねぇみてぇだけど。」

 

達也は見れば分かるだろう、と心の中で突っ込む。

その発言だとこのまま一緒に来るのか?と、言っているようなものだ。なるべくそれは避けたい。別に深い理由があるわけでは無いが、単純にめんどくさいからだ。

 

真由美「うじゃうじゃって…朝は特に待ちあわせはしないんだよ。」

 

この生徒会長はとても馴れ馴れしいが、それ以上に王馬が馴れ馴れしい。まるで彼女の方が霞んで見えてしまうくらいだ。

 

真由美「深雪さんと少しお話したいこともあるし…ご一緒しても構わないかしら?」

 

やはりこの女そうだったか…馴れ馴れしい。

確かに一緒に行動をしても構わんが、少しは自分の立場を考えてほしいものだ。それにこんな状況を他の者が見たらどうするか。二科生が一科生、ましてや生徒会長と登校など考えられん…

 

王馬「あぁ、良いぜ。」

 

達也「!」

 

だからお前は何時からこのメンバーで指揮を取るようになったんだ。突然現れたと思ったらこれだ、昨日もそうだった。一悶着あった後、『帰ろうぜ。』なんて言いやがる。こうやって自由奔放な奴はあまり好きじゃない…

これからも、となると我々も巻き込まれる可能性があるか…特に深雪を巻き込もうものなら、早速排除させてもらおうか。

 

王馬「へっ…そんなかっかすんなよ、()()()()()。こいつ、悪そうな奴じゃないし、良いだろ?」

 

達也「ッ!…あ、あぁ問題無い…」

 

真由美(()()()呼ばわりはさすがに許そうとはおもわないなぁ…)ピキッ

 

深雪「王馬さん!会長に()()()は無いでしょう!謝ってください!」

 

王馬「あ?なんで謝んなきゃいけねぇんだよ…ほら、さっさと行こうぜ。ガッコー。」

 

深雪「ちょ、ちょっと王馬さん!」

 

真由美「君は一回生徒会室に来ようか?」

 

王馬「セートカイシツ?なんだそれ、楽しいのか?」

 

真由美「えぇ。、とっても楽しいところよ!とっっっても……ね?」

 

王馬「へぇ、それは楽しみだな。」

 

真由美「それは良かったわ……フフフ…」

 

真由美は顔でこそ笑っているが、目が死んでいる。

額に青筋を浮かべていることからかなり怒っている事が見られる。……それはそうと何故だろうか。あのとき顔に出ていたのか?あいつは直ぐに気づいた。

 

深雪「はぁ………なんだか放っておけませんね。」

 

レオ「俺あいつと一緒に居る事が怖くなってきたよ。」

 

エリカ「こいつって…三年生なら分かるけどさぁ…あたし等と同じ一年生だよ?それも同じクラスだし。なんかもう頭痛くなってきた。」

 

まぁ、全員そんな反応になるか…しかし、こいつは無いだろ…早速だが、俺はこの男が嫌いになりそうだ。

 

深雪「会長、お話というのは生徒会のことでしょうか?」

 

真由美「ええ。一度、ゆっくりご説明したいと思って。お昼はどうするご予定かしら?」

 

深雪「食堂でいただくことになると思います。」

 

真由美「達也くんと一緒に?」

 

深雪「いえ、兄とはクラスも違いますし…」

 

昨日のことを思い出したのだろう。

やや俯き加減で答えた深雪に何やら訳知り顔で真由美は何度も頷く。

 

真由美「変なことを気にする生徒が多いですものね。」

 

チラッと横を見る達也。

案の定、美月がウンウンと頷いている。昨日の一件を、結構引きずっているようだ。

しかし会長、貴女が言うと、それは問題発言なのでは?

と達也は心の中で呟いた。

 

真由美「じゃあ、生徒会室でお昼をご一緒しない?ランチボックスでよければ、自配機があるし。」

 

深雪「…生徒会室にダイニングサーバーが置かれているのですか?」

 

物に動じない深雪が、驚きを隠せず問い返す。

呆れ気味でもある。

空港の無人食堂や長距離列車の食堂車両に置かれている自動配膳機が、何故高校の生徒会室に置かれているのだろうか。

 

真由美「入ってもらう前からこういうことは余り言いたくないんだけど、遅くまで仕事をすることもありますので。」

 

真由美はバツ悪気に照れ笑いを浮かべながら、深雪に対する勧誘を続けた。

 

真由美「生徒会室なら、達也くんが一緒でも問題ありませんし……それに王馬くんも。」

 

王馬「おう。じゃあそのセートカイシツって所に行けばいいんだな?」

 

達也「問題ならあるでしょう。副会長と揉め事なんてゴメンですよ、俺は。…それに、こいつも同行するなら尚更問題ですよ。生徒会室に二科生が二人…バレれれば貴女方の顔を潰す事になりますよ?」

 

入学式の日、真由美の背後から彼を睨みつけていた男子生徒は二年生の副会長だったはずだ。

あの視線は、誤解しようのないものだった。

彼が気安く生徒会室で昼食など摂っていようものなら、喧嘩を売りつけられること、ほぼ間違いなしである。

しかし、達也の言うことが、真由美にはすぐに思い当たらなかったようだ。

 

真由美「副会長…?」

 

真由美はちょこんと首を傾げ、すぐに芝居じみた仕草でポンッと手を打った。

 

真由美「はんぞーくんのことなら、気にしなくても大丈夫。」

 

達也「…それはもしかして、服部副会長のことですか?」

 

真由美「そうだけど?」

 

 この瞬間、真由美にあだ名を付けられるような事態は絶対に避けよう、と達也は固く決心した。

 

真由美「はんぞーくんは、お昼はいつも部室だから。」

 

達也のそんな思いとは無関係に…当たり前だが…ニコニコと笑みを絶やさず真由美は勧誘を続ける。

 

真由美「何だったら、皆さんで来ていただいてもいいんですよ。生徒会の活動を知っていただくのも、役員の務めですから。」

 

エリカ「せっかくですけど、あたしたちはご遠慮します。」

 

遠慮した、にしては、やけにキッパリとした返答、拒絶。

 

真由美「そうですか。」

 

王馬「なんでだよ、チバエリカも来りゃいいのに。」

 

エリカ「いや〜、あたし等はちょっと…ね…?」

 

王馬「()()()だな…」

 

その発言に、王馬以外の全員が『お前がそれを言うか。』やエリカに関しては『お前に言われたく無い。』と、心の中で呟いた。

 

達也「…分かりました。深雪と二人でお邪魔させていただきます。」

 

王馬「おいおい、俺も忘れんじゃねぇぞ。」

 

真由美「そうですか。よかった。じゃあ、詳しいお話はその時に。お待ちしてますね。」

 

何がそんなに楽しいのか、くるりと背を向けた真由美は、スキップでもしそうな足取りで立ち去った。

同じ校舎へ向かうというのに、見送った五人の足取りは重い。王馬は全くと言って表情を変えない。

 

王馬「何かあいつ()()()だな。」

 

深雪「王馬さん!居なくなったからといってそんな発言はいけません!」

 

達也の口からため息が漏れた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして早くも昼休み。

足が重かった。

たかが二回分の階段を上ったくらいでへばってしまうような、やわな鍛え方はしていない。

本当に重いのは気分で、足が重いというのは比喩でしかないのだが、前に進みたくなくなるという意味では同じだ。

 

王馬「♪」

 

こいつは本当に緊張感という物が無いのだろうか。

足が軽いのかスラスラと上がっていく。

おまけに「早く行こうぜ。」などとほざく。

こいつは辛い、苦しいという感情が欠如しているのだろうか。前向きな性格が羨ましいよ。楽しそうな人生だな。

 

深雪「王馬さんはダイニングサーバーをご存知ですか?」

 

王馬「初めて聞いたな。で、そのダイニングサーバーってのは美味いのかい?」

 

二人は達也の前を歩みながら楽しそうに会話をしている。

そういえば深雪が達也以外の男に興味を持つのは珍しい事だ。嫉妬では無いが警戒心とも言えない感情を王馬にぶつける達也。だが、本人は何も気づく事無く会話を繰り広げている。

 

四階の廊下、突き当りが目的地。

見た目は他の教室と同じ、合板の引き戸。

違いは中央に埋め込まれた木彫りのプレートと、壁のインターホン、そして巧妙にカムフラージュされているであろう数々のセキュリティ機器。

プレートには「生徒会室」と刻まれていた。

 

王馬「ここか。へぇ〜…」

 

招かれたのは深雪であって二人はオマケだ。

だが、それにも関わらず扉の前でドッと、仁王立ちで構えている。

すると彼は引き戸の取手に指を掛け、何も考えてなさそうな表情で戸を開く。

 

真由美「いらっしゃい。遠慮しないで入って。」

 

正面、奥の机から声が掛けられた。

何がそんなに楽しいのだろう、と訊きたくなるようなえがで、真由美が手招きしている。

王馬がズカズカと入り込み深雪が直ぐ後に続く。

達也は最後に入り、戸を閉める。

 

王馬「結構良いところじゃねーか、セートカイシツってのは。」

 

真由美「ふふっ、気に入ってくれた?」

 

王馬「あぁ、それより腹が減った。そのダイニングサーバーってやつを見せてもらおうか。」

 

司波兄妹は生徒会室に入るとすぐさま礼をするのだが、王馬は生徒会室が気に入ったのかあちこちをウロウロとしている。中でもダイニングサーバーが気になるらしい。

 

真由美「もう王馬くんったら…深雪さんや達也くんを少し見習いなさいよ…」

 

王馬「う〜ん…そいつは…どうしようかね〜。」

 

未だにウロウロとする王馬。

達也と深雪は「申し訳無い。」と、一言だけ。

少し声を大きくして言ったのだが、当の本人は我が物顔で徘徊していた。

他にもニ名の役員が同席していたが、いきなり入ってきたかと思えばの奇行にやや慌てている。

もうひとり、役員以外で唯一同席している風紀委員長は王馬の行動に対して喝を入れる。

 

真由美「どうぞ掛けて。ほら、王馬くんも。お話は、お食事をしながらにしましょう。」

 

王馬「やっとかよ。俺は待ち侘びてたぜ。」

 

達也は正直、今日の食事が楽しみでは無かった。

なぜならこいつ、王馬が居るからだ。

先ず彼は、先日見てもらったら分かる通り、たとえ相手が上級生であろうと挑戦的な態度をとる。

煽りセンスはピカ一で、恐怖というのを知らない。

 

学校の備品としては珍しい重厚な木製の方卓に、椅子を引いて深雪を座らせ、自分はその隣、下座に腰掛ける。

そしてその横に王馬がドシッと腰掛ける。

そして二年生の書紀『中条あずさ』が昼食の種類について尋ねる。

 

あずさ「お肉とお魚と精進、どれがいいですか?」

 

王馬「俺は肉だ。」

 

達也が精進を選び、深雪は肉と精進で迷っていたようだが、ここは分をわきまえて精進にした。あとは待つだけだ。ホスト席に真由美、その隣、深雪の前に三年生の女子生徒、その隣、達也の前に風紀委員長、その隣ら王馬の前にあずさという順番で席につくと、真由美が話を切り出した。

 

真由美「入学式で紹介しましたけど、念の為、もう一度紹介しておきますね。私の隣が会計の『市原鈴音』、通称"リンちゃん"!」

 

鈴音「…私のことをそう呼ぶのは会長だけです。」

 

王馬「ふ〜ん…リンちゃんっていうのか。」

 

鈴音「…会長。」

 

真由美「ごめんなさいね〜。」

 

整ってはいるが顔の各パーツがきつめの印象で、背が高く手足も長い鈴音は、美少女というより美人と表現する方が相応しい容姿の女子だ。

確かに「リンちゃん」というより「鈴音さん」の方がイメージに合っているだろう。

 

真由美「その隣は知ってますよね?風紀委員長の渡辺摩利。」

 

王馬「おう、あんたか。よろしくな、ワタナベマリ。」

 

摩利「……フルネームで呼ぶのか?」

 

深雪「王馬さんはこれが普通なので。」

 

摩利「そ、そうか。」

 

確かに今考えて見ればこいつは人の名前をフルネームで呼ぶ癖がある。それにぎこちない。かなり棒読みで読んでいる事からあまり、学習能力は高くないのかもしれない。

 

真由美「それから書紀の中条あずさ、通称あーちゃん。」

 

あずさ「会長…お願いですから下級生の前で『あーちゃん』は止めてください。わたしにも立場というものがあるんです。」

 

王馬「へぇ〜、かわいいじゃん、あーちゃん。」

 

あずさ「会長!!」

 

彼女は真由美よりも更に小柄な上に童顔で、本当にそのつもりが無くても上目遣いの潤んだ瞳は、拗ねて今にも泣き出しそうな子供に見える。なるほど、これは「あーちゃん」だろう、と達也は思った。

 

深雪「…」ジーッ…

 

王馬「あ?どうかしたのか?シバミユキ。」

 

深雪「な、なんでもありません!」

 

王馬「?」

 

何故か深雪は王馬の言葉に反応し、じーっと王馬の方を見つめていた。まぁ、見つめていたというよりもジト目…

 

真由美「もうひとり、副会長のはんぞーくんを加えたメンバーが、今期の生徒会役員です。」

 

摩利「私は違うがな。」

 

真由美「そうね。摩利は別だけど。あっ、準備が出来たようです。」

 

ダイニングサーバーのパネルが開き、無個性ながら盛り付けられた料理がトレーに乗って出てきた。合計六つ。

一つ足りない…と思いつつ、自分が口を挟むことではない、どうするのかと達也が見ている前で、摩利がおもむろに弁当箱を取り出した。

 

王馬「へぇ〜、これがダイニングサーバーってやつか。結構、面白いんだな。」

 

あずさ「気に入ってくれましたか?」

 

王馬「ああ。おもしれーよ、これ。」

 

王馬とあずさが立ち上がったのを見て、深雪も席を立つ。

自動配膳機はその名の通り、自動的に配膳する機能もついているのだが、自配機対応のテーブルで無ければ人の手を使った方が速い。

こうして、奇妙な会食が始まった。

 

王馬「うめーなコレ。」

 

肉をガツガツと食すこの男。この面子の中で良くも豪快に食す事が出来る。正直に言ってはしたないであろう。

もしこの場に副会長が居れば何と言うか…いや、それ以前に、だったな。

 

達也「そのお弁当は渡辺先輩がご自分でお作りになられたのですか?」

 

摩利「そうだ……意外か?」

 

達也「いえ、少しも。」

 

王馬「あんた料理出来るんだな。」

 

またこいつは、とついつい言葉に出そうになってしまう。

せっかく良い印象を与えられる機会にこの男は逆の事を行う。  

 

摩利「意外で悪かったな。」

 

王馬「?怒ってんのか?」

 

摩利「うるさい!」

 

達也はもう話したくなくなってきた。

せめて、食事中くらいは黙っていてほしいものだ。

 

摩利「はぁ…一週回ってお前には感心すら覚えるよ。」

 

王馬「ん、褒めてくれんのかい?そりゃ嬉しいな。」

 

もうこの場に居る全員が一斉に大きなため息をこぼした。

 

真由美「そろそろ本題に入りましょうか。」

 

唐突感があるいえ、高校の昼休みにそう時間的な余裕があるわけでもない。フォーマルな口調に直した真由美の言葉に、達也と深雪は揃って頷いた。

 

真由美「当校は生徒の自治を重視しておりら生徒会は学内で大きな権限を与えられています。これは当校だけでなく、公立高校では一般的な傾向です。」

 

相槌の意味で達也は頷いた。管理重視と自治重視は、寄せては返す渚の波のようなもので、大小の違いはあれ交互に訪ねる風潮だ。三年前の沖縄防衛戦における完勝とその後の国際的発言力の向上以来、それ以前の劣勢な外交環境に起因する内政動揺を反映した過度の管理重視風潮への反動から、過度に自治を重視する社会的な傾向がある。

更にその反動として、管理が厳格な一部の私立高校が父兄の人気を集めていたりするものだから、世の中は単純には計れない。

 

真由美「当校の生徒会は伝統に、生徒会長に権限が集められています。大統領型、一極集中型と言っていいかもしれません。」

 

真由美「生徒会長は選挙で選ばれますが、他の役員は生徒会長が選任します。解任も生徒会長の一存二委ねられています。各委員会の委員長も一部を除いて会長に任免権があります。」  

 

摩利「私が務める風紀委員会はその例外の一つだ。生徒会、部活連、教職員会の三者が三名ずつ選任する風紀委員の互選で選ばれる。」

 

真由美「という訳で、摩利はある意味で私と同格の権限を持っているんですね。さて、この仕組み上、生徒会長には任期が定められていますが、他の役員には任期の定めがありません。生徒会長の任期は十月一日から翌年九月三十日まで。その期間中、生徒会長は役員を自由に任免できます。」

 

そろそろ話が見えてきたが、口を挿むことはせず、達也は理解の印に再度、頷いてみせた。

 

真由美「これは毎年の恒例なのですが、新入生総代を務めた一年生は生徒会の役員になってもらっています。趣旨としては後継者育成ですね。そうして役員になった一年生が全員生徒会長に選ばれる、というわけではありませんが、ここ五年間はこのパターンが続いています。」

 

達也「会長も主席入学だったんですね?さすがです。」

 

真由美「あ〜、まぁ、そうです。」  

 

王馬「ふ〜ん、あんた、凄い奴だったんだな。」

 

あすさ「会長に向かって『奴』とは…」 

 

真由美「慣れっこよ、あーちゃん。」

 

王馬の一言で全てが狂いかねないこの状況。

今のところはギリギリのラインである。

生徒会メンバーが懐の深い方々で本当に良かった。

 

真由美「コホン…深雪さん、私は、貴女が生徒会に入ってくださることを希望します。引き受けていただけますか?」  

 

一呼吸、深雪は手元に目を落とし、達也へと振り向いて眼差しで問い掛けた。達也はその背中を押す意思を込めて、小さく頷いた。再び俯き、顔を上げた深雪は、何故か、思い詰めた瞳をしていた。

 

深雪「会長は、兄の入試の成績をご存知ですか?」

 

達也「っ…!」

 

全く予想外の展開に、達也は危うく叫び声を漏らしそうになった。急に何を言い出すつもりだろうか、この妹は。

 

真由美「ええ、知ってますよ。すごいですよねぇ……正直に言いますと、先生にこっそり答案を見せてもらった時は自身を無くしました。」

 

深雪「…成績優秀者、有能の人材を生徒会に迎え入れるのなら、私よりも兄の方が相応しいと思います。」

 

達也「おいっ、み…」

 

王馬「へぇ〜、シバタツヤは頭が良いのか。そりゃ凄いな。入れば良いじゃねぇか、そのセートカイってやつに。」

 

達也「お前まで…」

 

深雪「王馬さん…!…私を生徒会に加えていただけるというお話については、とても光栄に思います。喜んで末席に加わらせていただきたいと存じますが、兄も一緒というわけには参りませんでしょうか?」

 

深雪の言った事は確かだ。達也は知識や判断力で言えば、この学園の中でもトップクラスなのは間違いないだろう。

だがそれと同時に異変も混じる。

それは"身贔屓"だ。いくら兄妹といえど、いくら家族といえど、ここまで来ると不快感を憶えてしまう。

もはや盲目的な言葉でしか無かった。

 

鈴音「残念ながらそれは出来ません。」

 

回答は問われた生徒会長ではなく、隣の席からもたらされた。

 

鈴音「生徒会の役員は第一科の生徒から選ばれます。これは不文律ではなく、規則です。この規則は生徒会長に与えられた任免権に課せられる唯一の制限事項として、生徒会の制度が現在のものとなった時に定められたもので、これを覆す為には全校生徒の参加する生徒総会で制度の改定が決議される必要があります。決議に必要な票数は在校生徒数の三分の二以上ですから、一科生と二科生がほぼ同数の現状では、制度改定は事実上不可能です。」

 

王馬「あんた話長ぇな。さっぱり分からねぇよ。」

 

深雪「王馬さん、折角説明してくださったのに、それはいけませんよ。…申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください。」

 

立ち上がり、深々と頭を下げる深雪を咎める者は居ない。

王馬は不思議そうな顔でそれを見ていた。

 

真由美「ええと、それでは、深雪さんには書紀として、今期の生徒会に加わっていただくということでよろしいですね?」

 

深雪「はい、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します。」

 

王馬「おう、なにか知らねぇけど頑張りな。」

 

真由美(余計なお世話よ…)

 

摩利(お前は余計だ…)

 

鈴音(不躾な…余計です…)

 

あずさ(本当に一年生ですよね…?)

 

達也(余計だ、少し黙っていろ。)

 

しかしそんな王馬の返しにもニコッと笑みを返し、丁寧にお辞儀をする。

 

深雪「はい、頑張ります。」

 

そう一言だけ言うと深雪は再び席に着く。

 

摩利「さて、本題は終わったか…だが昼休みが終わるまでもう少しあるな。ちょっといいか?」

 

達也「ええ。」

 

王馬「あ?」

 

そう言い出すと摩利は達也と王馬の方へと向き直す。

達也は背筋を伸ばしとても作法の良い姿勢、対する王馬は机に肘をつき、少しはしたない姿勢であるだろう。

 

摩利「風紀委員会の生徒会選任枠のうち、前年度卒業生の一枠がまだ埋まっていない。」

 

真由美「それは今、人選中だと言っているじゃない。まだ新年度が始まって一週間も経っていないでしょう?摩利、そんなに急かさないで。」

 

摩利「確か、生徒会役員の選任規定は、生徒会長を除き第一生徒を任命しなければならない、だったよな?」

 

真由美「そうよ。」

 

しかたないわね、という顔で真由美が頷く。

 

摩利「第一科の縛りがあるのは、副会長、書紀、会計だけだよな?」

 

真由美「そうね。役員は会長、副会長、書紀、会計で構成されると決められているから。」

 

摩利「つまり、風紀委員の生徒会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にはならないわけだ。」

 

真由美「摩利、貴女……」

 

真由美が大きく目を見開き、鈴音、あずさも唖然とした顔をしている。この提案も、先の深雪の発言と同じく、随分突拍子も無いことらしい。

この渡辺摩利という三年生は、相当悪ふざけが好きな性格をしているようだ、と達也は思った。

 

…のだが。

 

真由美「ナイスよ!」

 

達也「はぁ?」

 

王馬「何を話してんのか分かんねぇな。」

 

深雪「王馬さん、つまりはですね…」

 

真由美の予想外な歓声に、思わず、達也の口から間の抜けた声が漏れてしまった。そのことをよそに話の内容がよく分からない王馬は深雪に詳しく教えてもらっていた。

 

真由美「そうよ、風紀委員なら問題無いじゃない。摩利、生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します。」

 

いきなり過ぎる展開に動転したのは一瞬のこと。

 

達也「ちょっと待ってくださ…

 

摩利「ああ、その事なんだが決定事項では無いんだ。一枠だからな?ならばここで()()()()()()()()。」

 

その摩利の一声に今度は真由美が間の抜けた声が漏れてしまう。「決めてもらおうか。」とは、何を決める必要があるのだろうか。………あぁ、そういう事か、その考えは遅れての事。もうひとり居るからだ…

 

摩利「司波達也。そして、……十鬼蛇王馬。」

 

真由美「摩利!何を言ってるの!」

 

摩利「ん?私はただ一枠を埋めるためだけの話をしているだけだろう?なぁに、面白いじゃないか、ペーパーテストの()()()()が居るんだ。どちらか迷うに決まっているだろう?」

 

少し皮肉成分が入った言い方は彼女らしい、いや、わざとらしい。本来ならば達也だけでよいのだが、摩利は少なからず王馬に対して興味を持っていた。

どれだけ威圧を浴びせようとも物ともしない、むしろ逆恨みの如く挑発をしてくる。こんなに面白い生徒は早々いないであろう。

 

真由美「摩利!」

 

深雪「()()()()って…え、王馬さん?」  

 

達也「まさかお前…」

 

ただどうしても引っ掛けるのが摩利の言った『最高と最低』だ。入学試験のときに行ったペーパーテストで達也は高得点を叩き出しそれに当てはまる。

対する王馬なのだが、言葉の通りだ。

最低得点、それ以上でもそれ以下でもない。

 

王馬「…なんだよ、ジロジロ見て。」

 

真由美「生徒会は達也くんを推薦すると言ったはずよ?それでも決める必要があるというの?」

 

摩利「ああ。確かに司波達也の頭脳、知識が十分という点では風紀委員には欲しいものだな。しかし、それと同時に王馬も欲しくなったんだ。正直分かっているんじゃないか?心の何処かで。こいつは普通の生徒とは違う、というのが。上級生相手にも引かない、とても良いじゃないか。」

 

真由美「そう…だけど。」

 

鈴音「ちょっとよろしいでしょうか。」

 

綺麗、細く整えられたような左手を挙げ視線が彼女に集まる。それでも臆する事なく冷淡に話を進めようとする。

 

鈴音「それならば私は彼、()()()()()には願い下げです。」

 

摩利「……理由は?」

 

鈴音「理由…そうですね。貴女が仰った事をそのまま押し付けますよ。上級生にも引かない態度をみせる、いや挑発的な態度を出すという事で当てはまってますね。口の利き方、礼儀作法まで…ここに来るまではっきりと見させていただきました。」

 

淡々と発する言葉に普通の生徒ならこの場で涙を出していても可笑しくはない話だろう。容姿端麗、クール系お姉さんだが、それが強く出すぎてしまっている。

 

鈴音「相応しくない…と、一言だけ。」

 

あずさ「確かに、私も…」

 

挙手こそしないものの小さな声で便乗するあずさ。

彼女とて立派な生徒会の一員だ、王馬の素行くらい見抜くことが出来る。

 

摩利「……困ったな、そこまで言われるとは。」

 

真由美「もう達也くんで決まりでいいじゃない…」

 

達也「いやだから俺の意思は…」

 

鈴音「風紀委員会は、校則違反者を取り締まる組織です。」

 

また話を遮られ撃沈する達也。もう自分の声はここには届いていないのだろう、風紀委員になるのも時間の問題だ、と悟りを開き始める。

 

鈴音「魔法使用に関する校則違反者の摘発、魔法を使用した争乱行為の取り締まり。風紀委員長は、違反者に対する罰則の決定にあたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、いわば警察と検察を兼ねた組織です。」

 

風紀委員の主な仕事を一言も噛まず、視線を王馬から離さず語る鈴音。この少しピリッした空気に先程までの生易しい空気はもう無い。

 

鈴音「追い打ちを掛けるようで失礼ですが、あなたにその資格があるとは思えません。もし、あなたが任命されたのであれば、あなたはある意味学園中の生徒を敵に回すことになりかねません。」

 

深雪「!…そ、それはどういう…」

 

鈴音「彼がこういった態度を何時までも取り続けるのであれば恨みを買うのも時間の問題でしょう。実際私はあなたの素行が良いものとは認めてません…それにあなたは一年生、しかも二科生………あなた三年間をマトモに送れるとは思えませんよ。」

 

真由美「リンちゃん、そんな言い方!」

 

摩利「実際事実だが…惜しいな。」

 

鈴音の言う事は事実だ。彼女は冷淡に述べていたがそれは彼の事を思っての事。実際王馬があの態度を取り続けるというのであれば彼は多方面から恨みを買われるのは間違い無いだろう。口下手とは言えど彼女なりの優しさがそこにあった。

 

鈴音「夢のためでしょうか?ここに来られたのは?あなたは明確な意思があってここに来たのでしょう?それならばもっと分を弁えた発言を推奨します。それにあなたは二科生でも最下位…それがバレてしまえば余計にあなたの立場は無くな…「ネェちゃん」…はい?」

 

鈴音が話を続けていたが横槍、当の本人がやっと口を開く。それは急の事、皆目を大きく見開いて王馬を見る。

 

王馬「随分心配してくれるんだな。もしかして、()()()()()()()()()()()ん?」

 

その一言は突然だった。一瞬にして皆の思考を打ち砕いた。男はなぜそんな事を言い出したのかは不明。

誰も知る者は居ない。

 

深雪「…は?」

 

達也「は?」

 

真由美「え?」

 

摩利「は?」

 

あずさ「!?」

 

鈴音「……はい?……あの、そんな事を急に仰られても困ります……そうですね、別に心配してるわけではありません…私はあなたが何故、何のためにここ(魔法科高校)に来たのか、理由を知りたいわけですが。」

 

王馬「理由ねぇ…()()()()に一々理由が必要かい?」

 

鈴音「そんな事、あなたは学園中を相手にまわしても構わないという事ですか?魔法というものは便利ですが、時にはより鋭利な物になる事ですよ?」

 

より見つめる瞳をきつくし、王馬に対して少し覇気に似たような物を植え付けるが、それでも動じない。周りはそれを傍観する事しか出来なくなっていた。

 

王馬「やれやれ…黙って聞いてりゃあくだらねぇことをペラペラと…まぁいい答えてやるぜ。」

 

 

 

「誰が一番強いのかハッキリさせる」それだけだよ。

 

 

 

 

男は不適に笑い、それは微笑ましいではなく只々不気味で仕方ない。絶対的な自身と言えるのかくわっと、目を見開いた。

 

王馬「それ以外の理由なんざ全部後付けさ…嘘っぱちだよ。」

 

鈴音「……?それだけの為に?その結果、あなたは怪我では済まされないことになるのかもしれないのですよ?」

 

王馬「ありえねぇな。俺が負けるなんざ未来永劫ありえねぇ。

 

鈴音(!?この男…ハッタリじゃない!自分が敗れる可能性などまるで想定していない!)

 

摩利(!!ッ…本当に私は凄い者を見つけたかもしれないな……交えてもいないのにこの"強さ"…本物だな…)

 

真由美(!ッ…傲慢を通り越して清々しいほどの自信への信頼……相当なのね。)

 

達也(ッ!!…この圧力、油断すれば押し潰されそうだ…)

 

深雪「ま、ま、まぁ落ち着いてください!王馬さんも悪気があってこうしてるはずじゃないんです!なので先輩方もお静めください!」

 

深雪が無理矢理にでもこの空気を変えようと必死で仲裁に入る。その時の顔は無理に笑顔を作り目はぐるぐると渦を巻くほどになっていた。

 

鈴音「とはいえ、私は認めません、彼の風紀委員への加入は認めません!」

 

王馬「へっそうかい。俺は別にその『フーキイーン』ってのには興味無ぇんだ。…ただ居るよな、大した強さも持ってねぇのに最強面する奴等が…俺はそれが許せねぇだけだ。」

 

あずさ「そ、そんな理由で…」

 

真由美「随分と無茶な事ばかり考えるのねあなたは。」

 

達也「何を考えているんだお前は…」

 

深雪「もう喋らないでください王馬さん!」

 

摩利「そうか……ならば合格だな。」

 

真由美「え!?」

 

鈴音「な!?」

 

あずさ「ええ!?」

 

摩利の合格ラインに達したのが驚きだったのか生徒会メンバーは姿には似合わない声を上げる。

これには達也も深雪も驚いたようで摩利と王馬をそれぞれ二度見する。

 

摩利「良いじゃないか。そういう理由だからこそ風紀委員としての仕事が当てはまっている。」

 

真由美「摩利…ほんっとうに貴女は…」

 

鈴音「大胆すぎます…解任するのも時間の問題ですよ…」

 

あずさ「私は知りませんからね!!」

 

それぞれ大きなため息をこぼす。そりゃそうだろう、こんな滅茶苦茶な決め方は無い。達也は「これで俺は風紀委員になるはずは無い。」と心でつぶやいていた。

 

摩利「十鬼蛇王馬に"司波達也"、やってくれるな?」

 

あぁ、逃れられない…

 

深雪「さすがはお兄様です。」

 

ニコッと笑う深雪を見て追い打ちをくらった達也。

自分は風紀委員として頑張るしかない、と覚悟を決めた。

 

王馬「あ?さっきあんた一枠とかどうとか言って無かったか?」

 

摩利「生徒会枠の事か?それなら大丈夫だ。もう一枠ぐらい構わないだろう。」

 

真由美「構わないって…貴女ねぇ…」

 

鈴音「生徒会への信頼度が右肩下がりですよ。」

 

あずさ「滅茶苦茶すぎますよ!」

 

達也もこれには同感だ、いくらなんでも無理がある。

再び渡辺摩利という女子生徒への呆れを感じてくる。

 

王馬「ふ〜ん…そうかい。」

 

摩利「ただし、無条件で欲しい事は山々なのだが…我々も拝見させてもらわなければならない。特に王馬、お前をな。」

 

王馬「あん?」

 

摩利「簡単に言ってしまえば風紀委員とは喧嘩が起こったらそれを力ずくで止めなければならない、という事だ。司波達也も例外ではない、王馬、力比べといこうじゃないか。」

 

摩利のその発言に対し達也は自身が実技試験で成績が悪かったことを述べ反論しようとしていたが、横にいる王馬はその発言に耳をピクリとさせ、ニタァっと不気味な笑みを浮かべる。それを見た面子は一歩下がりそうになってしまう。

 

王馬「へぇ…テストかい?おもしれぇ事考えるねぇ…あんた。」

 

摩利「力比べなら私がいる……っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に続きを話したいんだが、構わないか?」

 

王馬「構わねぇよ。」

 

達也「……分かりました。」

 

再度ここに出頭するとなると、もう外堀も内堀も埋められた必至の状態になってしまう気がしたが、達也には他の選択肢が無かった。

 

摩利「では、またここに来てくれ。」

 

三人は生徒会室から出ると二人はお辞儀をし、王馬は笑みを浮かべたまま摩利と見つめ合っている。

その視線に入ろうものなら、今すぐ殺されてしまいそうだ。

 

深雪「風紀委員に入れるなんて、すごい事ですよ、お兄様、王馬さん。」

 

達也「それはありがたいが………王馬?」

 

未だにジッと扉を見つめる王馬が気になったのか声を掛ける達也。

 

王馬「これから一体どうなるんだろうねぇ……なぁ、シバタツヤ?」

 

達也「…そう、だな…」

 

深雪「王馬さんも、頑張ってください!確かに力比べとなると相手が強い事は確かですが「わざわざ犠牲になってくれるって言ってんだ。」…王…馬…さん?」

 

王馬は二人に背を向け教室へと向かう、その背中はとても恐ろしくオーラが見えるほどに邪気を放っていた。

 

王馬「盛大にぶっ潰してやるぜ。」

 

男の笑みはより不気味になっていった。

 




次回はとうとう闘います。頑張れ!王馬くん!


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第4話 挑戦

遅れた


 

レオ「達也、生徒会室の居心地はどうだった?」

 

CADの順番待ちの列で、背中を突かれた、と思ったらレオがそんなことを訊いてきた。さの顔に含むところは見られない。単に興味津々といった様子だ。

 

達也「奇妙、かつ"最悪"な話になった。」

 

エリカ「奇妙…最悪…?」

 

達也の前に並んでいたエリカがクルリと振り返って首を傾げた。

 

達也「風紀委員になれ、だと。いきなり何なんだろうな、あれは。」

 

達也もエリカと一緒になって首を傾げる。本当に、「何なんだろうな」としか言いようがない気分だった。

 

レオ「確かにそりゃ、いきなりだな。」

 

レオも唐突に感じているようだ。

 

エリカ「んで、最悪、の方は………粗方想像出来るんだけど…」

 

エリカは席に座っている王馬の方を見る。

達也もそれに反応すると目を瞑ってコクリと頷く。

レオとエリカは、はぁ…と大きなため息をついた。

 

美月「でもすごいじゃないですか、生徒会からスカウトされるなんて。」

 

しかし美月の感じ方は違ったようで、感じ入った目を達也に向けていた。左右の列で小さなざわめきが起こっているのは、多分、他のクラスメイトたちも同じように感じたのだろう。

 

達也「すごくなんかないさ…すごいのは深雪と"王馬"だよ。」

 

達也は美月の賞賛を素直に受け取れなかった。

だが、そんなことよりも驚くことがあった。

 

レオ「は?…すごいって、あいつももしかして…」

 

達也「まぁ…そう…なるな。」

 

若干認めたくない気持ちを抑えつつ、王馬を賞賛するしかなかった。深雪のおまけ、といった感じだったが改めて考えてみると自分は王馬のおまけなのかもしれない、とつくづく思った。

 

エリカ「はぁ!?マジで!?」

 

美月「エリカちゃん、もう少し声を抑えて、それに王馬さんに失礼ですよ。……まぁ、意外でしたけど。」

 

左右のざわめきは大きいとまでは言わないが大きくなりつつある。そりゃそうだ、入学二日で問題を起こし掛けていた人物だ。そんな人物が…と考えると、この高校は終わりなのかもしれない。

 

レオ「なんかあいつが怖ぇよ…」

 

エリカ「信じらんない…」

 

美月「まぁまぁ…そう言わず。」

 

口から魂が抜け出しているような二人、達也こそこうしていたいであろう、美月も驚いているのは言わずもがな。

 

エリカ「で、で?風紀委員って何をするの?」

 

エリカに問われ、達也が聞いた話をかいつまんで説明するにつれて、三人とも目が丸くなっていった。

 

レオ「そりゃまた、面倒そうな仕事だな…」

 

嘆息するレオの横で、美月が打って変わって心配そうな表情を浮かべていた。

 

美月「危なくないですか、それって…エリカちゃん、どうしたの?」

 

エリカは不機嫌、と言うか、何故か怒っているような顔をしていた。

 

エリカ「…まったく、勝手なんだから…」

 

視線が微妙に外れている。虚空を睨みながら呟かれたセリフは、ここにいない誰かをなじるものか。

 

エリカ「ほんとにひどい話よね。達也くんも王馬くんもそんな危ない仕事、断っちゃえ。」

 

王馬「断らねぇよ。」

 

エリカ「そっか………ん?……ッ!?」

 

険しい表情を悪戯っぽい笑顔に変えると、次は王馬の乱入によって驚きの顔に変わる。

そしてまたしても達也は気づく事が出来なかった。

王馬が現れて達也が気配に気付けずそれに悔いる、もはや恒例と化してきているかもしれない。

 

レオ「びっくりした!いきなり現れんじゃねぇよ!」

 

王馬「悪ぃな。で?俺は断らねぇよ。」

 

エリカ「…それはもう聞いたわよ。」

 

また険しい表情になって今度は俯く。普段ならレオがツッコミを入れておもしろ半分に接するのだが今回はそうではなかった。

 

王馬「なんだよ、心配してくれてんのかい?チバエリカは()()()()ところがあるんだな。」

 

レオ「なっ!?」

 

美月「ふぇっ!?」

 

エリカ「えっ!?」

 

達也「直球だな…」

 

王馬の言う()()()()はそういうかわいいでは無い。エリカは普段活発でどちらかというと男勝りなところがある、渡辺摩利に似ている部分がある。そういった女性がしおらしい表情をする…ということを指しているため、なんの問題も無い。

 

エリカ「か、か、かわいいって、ちょ!///」

 

まぁ当然エリカは驚いたり、照れたり、と忙しい様子だ。

それに王馬が言ったから、かもしれない。

何度も言うが王馬はイケメン、男前だ。

そのため一科生の森崎連中から眼をつけられている、本人は満更でもないようだ。

 

レオ「ちょ…直球だな…」

 

達也「お前がそういう事を言うなんてな…」

 

王馬「あ?俺のことなんだと思ってんだよ。」

 

レオも達也も驚いている。未だに掴みどころのないこの男を知れたと思ったら『かわいい』なんて事を思春期真っ只中の女子生徒に言うからだ。

 

美月「でも、喧嘩の仲裁に入るってことは、攻撃魔法のとばっちりを受けるかもしれないんですよ?」

 

エリカ「そ、そうよ。きっと、逆恨みする連中だって出てくるし。」

 

そりゃそうだ。こんな仕事、はっきり言ってクソみたいなもんだ。ノーギャラで、こんな仕事をしたいと思う馬鹿は普通いない。

 

王馬「関係無ぇよ。」

 

エリカ「関係無いって、あんた!怪我しちゃうかもしれないのよ!」

 

王馬「そいつは………

 

 

 

 

 

俺が敗けるって言ってんのかい?

 

 

 

放たれた威圧するような空気に教室中の人間に悪寒が襲う。たった一人の人間にこれほどの圧が放てれるだろうか。

 

王馬「関係無ぇよ、最強面する奴は誰だろうとぶっ潰してやるよ。」

 

美月「そ、そ、それは駄目ですよ!王馬さんが悪者扱いされちゃうじゃないですか!」

 

王馬「あ?だから関係無ぇって言ってんだろ。」

 

美月「駄目です!」

 

王馬「関係無ぇ。」

 

美月「駄目!」

 

王馬「無ぇ。」

 

ワーワー、ギャーギャーと騒ぎ出す二人。

王馬はその二人を見たあと、レオとエリカの方を見る。

感じたのは…「似てる」それだけだ。

真面目気質な美月と自由奔放で傲慢な性格の王馬とでは、上手く釣り合わないだろう。

それに反応して周りの生徒達は引き気味になっている、いや、実際この場から距離をとって引いている。

 

達也(こんなのとまた、生徒会室に行かなければならんのか…)

 

呆れを通り越している。昼の()()は本当に生徒会メンバーに喧嘩を売ったとしか思えない。

普通そんな生徒が居ると思うか?居ないであろう。

生徒会に目をつけられると後々厄介になるのは承知なはずであろう。だが、それでも王馬は関係無い、といった態度で話を進めていた。

これを副会長が見たらどう思うだろうか、火の粉が降りかからない事を祈る達也であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後、達也は足を引きずっていた。それは本当に昼休み以上に足が重かった。あ、これは比喩だ。

また生徒会室へ行きさらなる問題沙汰になるのは間違い無いであろう、なぜなら()が居るから。

当の王馬は昼休み以上にご機嫌だった。

スキップでもしているのか、いや若干スキップをしているがとても軽い足取りで生徒会室へと向かう。

こうなったのは全部お前のせいだからな、と少し威圧を向けるが気づく様子もなく鼻歌交じりにワクワクしていた。

 

深雪「王馬さん…決して無理はなさらないで下さいね。私だってあなたの事が心配ですし…」

 

王馬「へっ…何しおらしくなってんだよ。俺の事を心配する練習なんてしなくていいぜ。相手の事を考えときな。」

 

深雪「…分かりました。」

 

お前のような奴が妹と気安く話すな、と言いたいところだがここは抑えておこう。

見た感じ深雪は王馬の事を気に入ってる?かもしれない。

だがそれは絶対に避けたい、あってはならない、あってたまるか。今ここでそんな事を言うと刃先がこちらに来るかもしれない。…認めないぞ十鬼蛇王馬…

そんなシスコン気味な気持ちを抑えながらも生徒会室へと入る。

 

達也「失礼します。」

 

おっと、この手の視線にはもう慣れたようだ。

見覚えがあるし彼しか居ないであろう。

達也の方を見ると次は王馬の方を見る。王馬には敵意というよりも殺気を放たれていたが本人は欠伸をしている。

それに怒りつつあるが、目の前に居た深雪に視線を移すと嘘のように敵意と殺気が霧散した。

 

だがそれはどうでもいい。

目の前にいる彼は細身の体型で身長は達也と変わらないくらいだろう。整っているが特筆すべきものは無い容貌とこれといって特徴の無い体つき。肉体的にはそれほど強い印象を与えないが、身の周りの空気を侵食するサイオンの輝きは、この少年の魔法力が卓越したものであることを示している。

 

服部「副会長の『服部刑部』です。司波深雪さん、生徒会へようこそ。」

 

………完全なる無視である。

それには達也も王馬も気づいていた。『ああ、歓迎されていないんだな。』と。

服部はそれだけを言うと席に戻った。

達也は少し苛立ちを感じるものの動かされるものでは無い、いや、動くことはない。……が…

 

王馬「おいおい。俺たちには歓迎してくれないっていうのかい?折角来てやったんだぜ?『ハンゾーくん』?」

 

この男…見事である…

 

服部「貴様!どこでその名を知った!」

 

見てわかる通り激昂している、そりゃそんなあだ名は嫌に決まっている。

 

摩利「まぁまぁ落ち着け。…来てくれたな王馬。」

 

真由美「いらっしゃい、深雪さん。それに王馬くんも…て言いたいところなんだけど本当にすごい神経してるわね。」

 

達也は自分も忘れていますよ、と言おうとしたがすぐに諦めた。もう目立つのはうんざりだ。この際トラブルに巻き込まれたくは無い。それなら火種は自分で消してもらうのが最善だ。

 

真由美「早速だけど、あーちゃん、お願いね。」

 

あずさ「……ハイ。」

 

こちらも諦めの境地なのだろう。一瞬、哀しそうに目を伏せ、ぎこちない笑顔で頷くと、あずさは深雪を壁際の端末へ誘導した。

 

摩利「あたしらも移動しようか。」

 

王馬「ああ、いいぜ。()()くらいは選ばせてやるよ。」

 

深雪「王馬さん!だからそんな口の利き方は良くないと言っているでしょう!」

 

摩利「はぁ…まったくこいつと来たら…」

 

服部「無礼者が!貴様のような奴が何故ここに!」

 

またまた点火して炎上しそうな状況だ。

だが、それをよそに達也は質問をした。

 

達也「どちらへ?」

 

摩利「風紀委員会本部だよ。色々見てもらいながらの方が分かりやすいだろうからね。この真下の部屋だ。といっても、中でつながっているんだけど。」

 

達也「……変わった造りですね。」

 

王馬「何処だって良いぜ。線香上げる準備もしなきゃな。」

 

深雪「王馬さん!!」

 

もはや漫才と化してきているこれ。

達也はもうツッコまない、そう心に誓った。

 

服部「待ってください、渡辺先輩。」

 

呼び止めたのは服部副会長。摩利はその声に、今時耳慣れない名称で応じた。

 

摩利「何だ、『服部刑部少丞範蔵』副会長。」

 

服部「フルネームで呼ばないでください!」

 

達也は思わず真由美の顔を見てしまった。

彼の視線に真由美は「ん?」という感じで小首を傾げる。

まさか『はんぞー』が本名だったとは……完全に、予想外だった。

 

王馬「なんだよ、ハンゾーくんで合ってるじゃねぇか。」

 

服部「だから呼ぶな!」

 

摩利「じゃあ服部範蔵副会長。」

 

服部「服部刑部です!」

 

摩利「そりゃ名前じゃなくて官職だろ。お前の家の。」

 

服部「今は官位なんてありません。学校には『服部刑部』で届けが受理されています!…いえそんなことが言いたいわけではなく!」

 

王馬「ちっ、めんどくせぇ奴だな。なぁワタナベマリ、こいつ何なんだ?」

 

摩利「まぁ…見てもらったらわかる通り、ザ・バカ真面目って奴だ。」

 

服部「貴様!目上の存在に対して何だ、その態度は!だいたいお前のような二科生(ウィード)如きがこの場に居るなよ!」

 

摩利「おい!その発言は…ッ!…」

 

その一言で少し空気がピリピリしたものに変わったのは明らかであった。

達也も深雪も少し腰を落として構えをとっていた。いわゆる戦闘態勢だ。二人には分かっていた。王馬の機嫌が悪くなったのを。

 

王馬「ああ?目上の奴だ?それは誰の事を言ってんだ?あぁ?」

 

王馬はより挑発的な態度をとり服部の眼の前までやってくる。王馬の方が身長が高い為、見下ろすような感じになっているが、()()()()()()

 

真由美「まぁまぁ王馬くん!そんなことは気にしなくていいじゃない!言わなくたって王馬くんが強いのは分かりきってることよ!それに摩利もいいじゃない!はんぞーくんにも色々と譲れないものがあるんでしょう。」

 

その発言主、真由美に一斉に視線が突き刺さる。

お前が言うな、と。もちろん王馬はそう思うはずもなく、ジッと真由美の方を見ていた。

 

王馬「分かってんじゃねぇか………『マユミ』。」

 

真由美「えっ!?」

 

深雪「はっ…?」

 

王馬は真由美の事を会長と呼ぶわけでもなく、七草先輩と呼ぶわけでもなく呼び捨てである。なんと下の名前の。

こんなこと距離の近い男女にしかありえない事だ。だが、王馬がそんなことを知るはずもない。

一同は驚愕し、真由美に至っては頬を赤く染め照れてしまっている。

 

真由美「こら!」

 

口ではこう言っているが嫌では無さそうだ。

王馬の胸をポコポコ叩いているが痛くなさそうだ。

 

少し落ち着き…

 

服部「渡辺先輩、お話したいのは風紀委員の補充の件です。」

 

顔に昇った血の気が一気に引いている。コマ落としの動画を見るように、服部は落ち着きを取り戻していた。

 

摩利「なんだ?」

 

服部「その一年生二人を風紀委員に任命するのは反対です。」

 

冷静に、感情を押し殺しながらも意見を述べる。

摩利は眉を顰める、あながち演技でも無さそうだ。

どんな感情を表しているのかはわからないが、概しているのは間違いないだろう。

 

摩利「おかしなことを言う。王馬と司波達也くんを生徒会選任枠で指名したのは七草会長だ。例え口頭であっても、指名の効力に変わりはない。」

 

真由美「えっ…達也くんは任命したけど王馬くんは…「指名されましたね?」え、いやだから…」

 

 

指 名 し ま し た ね ?

 

 

真由美「…はい。」

 

立場逆転か、それほど王馬を手放したくないのだろうか。

摩利は目から若干光を消し真由美の双目から一切離さなかった。

 

服部「本人は受諾していないと聞いています。本人が受け容れるまで、正式な指名にはなりません。」

 

摩利「それは達也くんのみの問題だな。生徒会としての意思表示は、生徒会長によって既にされている。決定権は彼にあるのであって、君にあるのではないよ。」

 

摩利は達也と服部を交互に見ながら言う。

だが、服部は達也を一切見ようとしない、無視である。

そんな二人を、鈴音は冷静に、あずさはハラハラしながら、真由美は感情の読めないアルカイックスマイルで見ている。王馬もおもしろそうに見ているが、隣にいる深雪は神妙な顔でいた。

 

服部「過去、二科生(ウィード)を風紀委員に任命した令はありません。」

 

摩利「先程から差別用語を連発しているようだが、禁止されているものだぞ?委員長である私の前で堂々と使用するとはいい度胸だな。」

 

摩利の叱責とも警告ともとれるセリフに服部は怯んだ様子を見せなかった。

 

服部「取り繕っても仕方ないでしょう。それとも、全校生徒の三分の一以上を摘発するつもりですか?

一科生(ブルーム)二科生(ウィード)の間の区別は、学校制度に組み込まれた、学校が認めるものです。そして、一科生(ブルーム)二科生(ウィード)には、区別を根拠付けるだけの実力差があります。

風紀委員は、ルールに従わない生徒を実力で取り締まる役職だ。実力に劣る二科生(ウィード)には務まらない。」

 

傲慢とも言える服部の断言口調に、摩利は冷ややかな笑みで応えた。

 

摩利「確かに風紀委員会は実力主義だが、実力にも色々あってな。力づくで抑え付けるだけなら、私がいる。

相手が十人だろうが二十人だろうが、私一人で十分対処できる。この学校で私と対等に戦える生徒は七草会長と、『十文字』会頭だけだからな。

君の理屈に従うなら、実戦能力に劣る秀才は必要ない。

それとも、私と戦ってみるかい?服部副会長?」

 

王馬「へぇ…あんたおもしれぇな…」

 

摩利の言葉に感化されかけていた王馬は摩利の方をジッと見る。そしてニタリと笑う。それを見たあずさはほとんど泣いているような状態だった。いつこの男が爆発するのか、それも時間の問題だ。

 

服部「私のことを問題にしているのではありません。彼等の適性の問題だ。」

 

摩利「実力にも色々ある、と言っただろう?達也くんには、展開中の起動式を読み取り発動される魔法を予測する目と頭脳がある、…王馬に関してはまだ分からないことだらけだが、いずれ…()()()()()()()()。」

 

服部「……なんですって?」

 

予想外の言葉を聞かされて、服部は反射的に問い返していた。予想外というよりも信じられないという方が正しいかもしれない。

 

摩利「つまり彼には、実際に魔法が発動されなくても、どんな魔法を使おうとしたかが分かる、王馬に関しては私が評価する。そのままの意味だ。」

 

摩利の答えは変わらなかった。

 

摩利「いやなに、達也くん自身に聞いたんだ。影でこっそりとな。王馬に至っては私も真由美もこの目で見ている。

CADをいきなり向けられたが物ともしない。蹴り壊してしまったさ、盛大にな。それに、こちらとしても便利だ、わざわざ魔法同士での争いになるのなら体術で抑えてしまった方が速いだろう?」

 

服部「…しかし、実際に違反の現場で、魔法の発動を阻止出来ないのでは…」

 

摩利「私の話を聞いていなかったのか?達也くんは分からんが、実際王馬は阻止しているんだ。それに、そんなものは第一科の一年生でも同じだ。二年生でも同じ、魔法を後から起動して、相手の魔法発動を阻止できるスキルの持ち主が一体何人いるというんだ?凶器を向けられて臆せず立ち向かう人間が何人いるというんだ?それに、私が彼等を委員会に欲する理由はもう一つある。」

 

王馬「ふぁ〜…まだかよ。」

 

深雪「……」

 

摩利「今まで二科生の生徒が風紀委員に任命されたことはなかった。それほつまり、二科の生徒による魔法使用違反も、一科の生徒が取り締まってきたということだ。

君の言うとおり当校には、一科生と二科生の間に感情的な溝がある。一科の生徒が二科の生徒を取り締まり、その逆は無いという構造は、この溝を深めることになっていた。

私が指揮する委員会が、差別意識を助長するというのは、私の好むところではない。」

 

真由美「はぁ…すごいですね、摩利。そんなことまで考えていたんですか?私はてっきり、二人のことが、特に王馬くんのことが気に入っただけかと。」

 

王馬「お、そうなのかい?俺もあんたのこと嫌いじゃないぜ。気の強い女もいいもんだな。」

 

鈴音「お二方、そんな話しないでください。」

 

二人によって空気が壊れかかったが、鈴音によって静止された。

しかし、それでも尚毒素が抜けることは無かった。

未だに真剣な眼差しを向け、威嚇するかのように歯を尖らせていた。

 

服部「会長……私は副会長として、司波達也、十鬼蛇王馬の風紀委員就任に反対します。

渡辺委員長の主張に一理あることは認めますが、風紀委員の本来の任務はやはり、校則違反者の鎮圧と摘発です。

魔法力の乏しい二科生に、風紀委員は務まりません。

この誤った登用は必ずや、会長の体面を傷つけることになるでしょう。どうかご再考を。」

 

深雪「待ってくださ……王馬さん…?」

 

深雪が少し声を荒げ反論しようとしたがそれを王馬が遮るかのようにして前へ前へとズカズカと踏み込んでいった。

その顔は笑っているが、とても妖しく、不気味な顔をしていた。

 

王馬「さっきからペラペラとうるさいねぇ…」

 

摩利「な…王馬「ワタナベマリ、気が変わった。」…え」

 

服部「なんだ、またお前か。たとえお前が抑止力を持っていたとしても認めないぞ。上級生に対する態度、それに我々は生徒会のメンバーだぞ。分を弁えろ。」

 

王馬「んん?そんな事はどうだっていいんだよ。ブルームやらウィードやらよぉ…いつテメェ等が上って言ったよ。」

 

服部「は…そんな事、試験の結果だ。結果はそのまま反映されるに決まっているだろう。現にお前はペーパーテストでの結果が最下位と聞く。この時点で上下関係が生まれているだろう。お前はそんな事もわからないのか?いや、わからないだろうな、最下位(キミ)には。」

 

摩利「おい!」

 

真由美「その発言、分かって言ってるの?」

 

深雪「ッ!」

 

達也「深雪?」

 

深雪がキレた事は確かだ。

確かに王馬という人間は素行が悪く、傲慢で気に入らない人間だろう。だが、深雪にとっては違うのかもしれない。

服部副会長の皮肉のこもった発言に反応したのは確かだ。

他の者からしては『生徒会たる者が、そんな発言は許されない』と言った意味合いであるだろう。

だが、深雪は違う。『王馬、個人に対して』の意味だろう。

 

王馬「そんなに俺の事が嫌いかい?」

 

服部「当たり前だ。はっきり言って目障りだ、虫唾が走る。」

 

当の王馬は何も気にしていない様子だった。

服部の述べる事全てを否定ではなく、相手にしていなかった。涼しい顔で仕方なく聴き通しているようなものだった。

 

王馬「じゃあ、俺と()ってみるかい?」

 

摩利「!」

 

真由美「!…王馬くん…」

 

達也「なっ…」

 

深雪「王馬さん!」

 

服部「は?」

 

王馬の発言に言葉を失ったのは服部だけではなかった。

真由美も摩利も、達也も深雪も他の者達も一瞬時間が止まった。全員の視線が集まる中、服部の身体がプルプルと震え始めた。

 

服部「思い上がるなよ!補欠の分際で!」

 

小さく悲鳴を上げたのは、あずさか。

上級生達は流石であろうか平静を保っていた。

達也は眉間に皺を寄せ、深雪は王馬を心配しているのか目を見開き口がわなわなと震えている。

 

王馬「そう怒んなよ、あーちゃんが泣いてんぞ?」

 

あずさ「!」

 

王馬の声によって我にかえるあずさ。少し頬を赤く染め恥ずかしそうに顔を両手で隠す。王馬は微笑気味に服部を見ている。

 

服部「何がおかしい!」

 

王馬「弱ぇ犬ほどよく吠えるって言うだろ?あれだよ。」

 

服部「なっ!……貴様…ッ!!」

 

きっと今の服部の顔は般若のような顔になっている。 

青筋を浮かべ王馬を睨みつけている。

摩利と真由美は王馬の発言に少し笑ってしまう。

だが、そんな事、今の服部には関係なかった。

許せなかったのだ。一年生に言われるのが、二科生に言われるのが、最下位に言われるのが。

 

王馬「別にフーキイーンなんてのはどうでもいいんだよ…ただ、テメェのその上から目線が気に食わねぇんだよ。

どっちが挑戦者(チャレンジャー)か試してみるかい?」

 

服部「……いいだろう。身の程を弁えることの必要性をたっぷり教えてやる。」

 

二人のにらみ合いは終わらない。

真由美も摩利もそれを楽しそうに見ている。

あずさにはその感情が分からなかった。

 

真由美「私は生徒会長の権限により、二年B組、服部刑部と一年E組、十鬼蛇王馬の模擬戦を正式な試合として認めます。」

 

摩利「生徒会長の宣言に基づき、風紀委員長として二人の試合が校則で認められた課外活動であると認める。」

 

真由美「時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、試合は非公開とし、双方にCADの試用を認めます。」

 

模擬戦を、校則で禁じられている暴力行為、喧嘩沙汰としないための措置。真由美と摩利が厳かと形容して構わない声で宣言すると、あずさが慌ただしく端末を叩き始めた。

 

王馬「あんたからは何も感じねぇな。」

 

服部「感じる機能すらも持ち合わせていないんだろうな。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第三演習室に移動すると王馬は辺りを見渡していた。

それが終わると軽くストレッチをする。本人曰くこの試合自体がストレッチらしいが、かっこいいところで躓いたら変だろう、とのこと。

 

摩利「王馬、CADの使用は?」

 

王馬「そんなもん使わねぇよ。」

 

服部「貴様は…」

 

服部はボソッと悪態をつく、王馬がCADの仕様を拒み摩利はそれに待ったを掛けるが、どうしても要らないというのでそのまま通すことにした。

達也と深雪は理由こそ知っているものの、口には出さなかった。どっちが勝つかよりも、王馬の強さが知りたい、それだけだった。

 

摩利「服部は当校でも五本の指に入る遣い手だ。どちらかと言えば集団戦向きで、個人戦は得意とはいえないが、それでも一対一で勝てる奴はほとんどいない。」

 

それだけを言うと摩利はそのまま中央の開始線へ歩いて行った。それからルールの説明が行われていたが、別に王馬は気にする必要も無かった。

この勝負自体彼には明白だったのかもしれない。

 

服部は腕輪形態の汎用型CADを使用とする。

多様性に優れた汎用性、スピードでこそ特化型が上だが、そもそも相手はCADを使用しない。しかも一年と二年、一科と二科、彼の目には確信があった。

服部は左腕のCADに右手を添えて、王馬は構えもせずに突っ立っている、場が静まり返る。

 

摩利「始め!」

 

王馬と服部の正式な試合が火蓋を切って落とされた。

 

服部の右手がCADの上を走る。

単純に、三つのキーを叩くだけとはいえ、その動作には一切の淀みがない。彼が本来得意とされる術式は、中距離以上の広範囲を攻撃する魔法。近距離戦は苦手としている。が、それも『どちらかと言えば』の話であり、決して苦手というわけではない。

摩利、真由美、『十文字』この三巨頭にら一歩譲るかもしれないが他の生徒、教師にも引けをとらない。

そして起動式を展開し、魔法の発動態勢に入った。

狙いは一人、何も仕掛ける様子はない。

 

基礎単一系統の移動魔法。

魔法式に捉えられた相手は、十メートル以上を吹き飛ばされ、その衝撃で戦闘不能になる。

 

…が、

 

王馬「いい技持ってんじゃん♪」

 

服部「何ッ!?」

 

王馬はそれを掻い潜ってきた。いや、躱された?

何にせよ広範囲の魔法を避けるなど無理だ。

だが、王馬は易易とそれをやってのけた。

服部もそれには呆気にとられる、勿論他のメンバーもだ。

達也や他のメンバーからの見解は、王馬は近接戦を得意としているように見ている。ならば、中、長距離戦闘を申し込まれれば勝つことはほとんど無い。

言ってしまえば、いくら服部が近接を得意とせずとも、自分の範囲内を作れてしまう戦況だ。

だが、王馬はそれを避ける片鱗を見せた。…つまり、そうだ。

 

全員((((((超スピードによる近接移行…!))))))

 

それからも服部は王馬に向けて魔法を放つ。

だが、全てを避けてしまう。

 

王馬「おらおらさっきまでの威勢はどうした。」シュンッ

 

向かってくる魔法を次々と避ける。

かなり余裕があるのか、アクロバティックに…これはかなり侮辱しているということとみなしていい。

戦場でバク転などして避けたり攻撃したりするのは映画などでは見たことあるだろう?だが、実際にそんなことすれば"死"あるのみ。

 

服部「なめやがって!」

 

放っても放っても躱されてしまい勝負にならない。

この状況を良く思うはずがない。今、この状態は自分の距離である服部。だが自分の得意とする距離でないのは面白くない、当然のはずだ。

 

摩利「想像以上だ…そんなに余裕が…」

 

上体を反らしノールックで避け、服部の近くまで行くとまた下がる。敢えて攻撃を仕掛けないのはこの場の誰もが見て分かっていた。

 

服部「はぁ…はぁ…お前も攻撃したらどうなんだ!」

 

王馬「おう。じゃあいかせてもらうぜ!」シュンッ

 

達也「速い!」

 

ほとんどの者がしっかりと目視出来なかった。

服部でさえも、時間にして一秒にも満たない速度、かなり離れていた距離が一瞬にして縮まった。

服部が気づいたのは…

 

服部「ガッ…!?」ドスンッ

 

王馬の放った左ジャブ一発だ。

一応両腕で防御はしたものの地に足が着いていなかったのか大きく吹き飛び、壁にヒビが入る。

 

服部「何だ…この、馬鹿力は…」

 

再び戦闘態勢に入ろうとするが腕が中々上がらない。

ビリビリと痺れているのか、言うことを聞かない。

王馬はこちらを見て、へっ、と笑う。

 

服部「舐めるな!」タッ

 

王馬の嘲笑に感化され今度は服部が近接戦闘へと持ち込む。王馬程でら無かったがかなりの速度で懐に入り込む。

もちろんこれに気が付かないはずもなく…

 

服部「くっ…くっ…はっ…!」

 

ヒュン…ヒュン…シュ…

 

空を切る音しか聞こえてこない。

この状況は如何にも遊ばれているようにしかみえない。

上級生達は王馬の事を見直しつつあった。

あの態度に見合った強さを彼は持っている。

しかもまだ底を見せた様子はない、きっとウォーミングアップにも満たないこの試合、ここで勝利は決していたかもしれない。

 

深雪「…凄い。」

 

達也「パワー型か…?いや、スピードが異常に速い…」

 

深雪は呆気にとられ、達也は考察に入る。

放たれた左ジャブは、ジャブにしても威力が桁違いすぎる、それにしても速すぎる…考察の沼に浸る達也は更に思考を深めた。

 

もう何十発と放たれた拳に蹴り、そして魔法。

いずれもかすりもしない。もはや、ただの扇風機でしか無かった。服部はだんだんと汗をかき、呼吸も荒くなってきた。

 

服部「くそ!」

 

もう一度力を振り絞り、高出力で魔法を放った。

先程放たれたものよりも高威力、そして広範囲。

摩利はここで待ったを掛けようとしたが王馬がそれを制した。

当の王馬はステップを踏むでもなく仁王立ちをしている。

 

深雪「お兄様!王馬さんが!まともに当たれば怪我では済まされません!」

 

達也「待つんだ深雪、あいつは何かを狙っているはずだ。」

 

心配する深雪とは逆に王馬の次の行動が気になっていた。

再び起動式を立ち上げ、王馬を捉え出力が高まっていく。

それでも尚動く事はない。

 

そして、放たれた…

摩利は間に割って入ろうかと考えもした。

真由美もこれはやり過ぎだと考えた。

深雪は王馬が心配で仕方が無かった。

それぞれの思惑が渦巻いた。

直撃まであと少し…

 

 

王馬「待ってたぜ…()()()。」

 

ヒュン

 

そして直撃した…

 

 

 

 

 

 

 

 

摩利「な……何……?」

 

真由美「今の…は…?」

 

深雪「…王馬…さん…?」

 

鈴音「今のは一体…」

 

あずさ「………え…?」

 

達也(ッ!?…魔法を使っていない!!なのに何故!!)

 

驚きの嵐だった。

魔法を喰らったものは壁に叩きつけられていた、

まだかろうじて意識は残っているか、相手を強く睨んでいる。重症、というわけでも無さそうだがこのまま続ければ間違いなく危険な状態になるであろう。

 

服部「な…なぜ……」

 

服部は驚いた。

なぜなら、"叩きつけられたのは自分'だったからだ。

 

王馬「驚いたかい?自分(テメェ)の技でやられるなんてどんな気分だい?」

 

はっきりいうと服部の放った魔法は王馬に直撃した…はずだった。王馬に触れ、吹き飛ぶかと思われたが何故か服部の元へと返されていた。

王馬は特別大きな動きをしたわけでも無い、それに魔法を使った形跡すら見られない。

生徒会メンバーも達也も深雪も何が起こったのか分からなかった。

そして王馬は倒れ伏す服部の元へと歩み寄る。

 

服部「何を…した…!」

 

王馬「ん?そのままそっくり返してやっただけだよ。もういいだろ?」

 

服部「ふざけるな!…俺は()()…!」

 

王馬「()()?そりゃ違うだろ…」

 

王馬は脚を少し上げ服部を見下ろす。

摩利はここで止めておけば良かった。こんなのはただの死体蹴りだった。勝負は決していた。

 

王馬「あんた、もう終わってんだよ。」

 

ズチャ

 

服部「グッ…!?」ピク

 

顔面への踏みつけ、服部は意識を保てるわけもなく、そのまま気絶した。その証拠に痙攣を起こしている。

真由美の心配は杞憂でしかなかった。やり過ぎたのはどっちだ?無論、王馬の方だった。

踏みつける時のその顔は当たり前のような顔をしていた。

正に"悪魔"だった。

 

摩利「……あ、……勝者、十鬼蛇王馬。」

 

この場にいる者は唖然としていた。

達也も、ここまでになるとは思っていなかった。

それに、魔法を発動させず圧倒、それに()()?どんな冗談だ。

魔法を制するには魔法のこの世の中に、彼は否定するかのように己の力だけで圧倒した。

 

王馬「どちらが挑戦者(チャレンジャー)か分かったかい?ハットリギョーブショージョーハンゾウ。」

 

未だに見下すその視線は自分たちにも向けられているような錯覚を覚える。

 

深雪「…!」

 

深雪はまた一つ近づけたのかもしれない、あの()の続きへと。

 

王馬「やっぱりあんたからは何も感じなかったぜ。」

 

男は全てを見下していた。

 




さぁ、王馬はどんな技を使用したのでしょうか?


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第5話 操流

パワーバランス崩壊でもオッケー?


摩利「…勝者、十鬼蛇王馬…」

 

そう言った彼女は今でも信じられない顔をしていた。

一科生と二科生という差は、縮めることはとても難しい事だ。それに、この高校の中でも五本指に入る強者、生徒会役員という肩書を持つ……それがどうだ?

 

簡単に倒されてしまったではないか…魔法も使わず、全力も出さず…

 

真由美「…そんな…」

 

真由美も驚いた表情だ。鈴音もあずさも。

それは達也とて例外ではない。

前々から異質な空気を放っていた王馬を危険視していたのは事実だ。彼が強いことくらいは想定していたとしても、ここまでになるとは想定していない。

それに、達也は服部の強さくらいには気がついていた。

勝てないか、と言われれば嘘になるが、強者としては認めていた。

 

王馬「これで良し、と。」

 

服部は現在気絶している。

鼻からは血、それに何箇所か折れているかもしれない。

普通、ルールに則って禁止される行為だが、これに気がつけなかった摩利に責任が問われるだろう。

踏みつけさえ止めておけばここまでにはならなかったはずだ。だがそんな事よりも…

 

摩利「王馬…お前は何をした?なぜ触れた筈のお前が吹き飛ばず、服部の方が吹き飛んだのだ?」

 

王馬が行った事に興味が湧いた。

彼は服部から放たれた魔法を避ける事もなく正面で受け止めたはずだったが、吹き飛ばされることなくその場に立っていた。

それに奇妙なことか、吹き飛ばされたのは服部の方であった。上手く視認出来なかったが、まるで()()()()()()()()ような出来事だった。

 

王馬「魔法を利用したんだよ、それだけだ。」

 

摩利「なっ…じゃあお前は反射系の魔法を得意とするのか?」

 

王馬「反射、か。反射とはちょっと違ぇけどまぁ…そんな感じだな…あと俺は()()()使()()()()()ぞ。」

 

驚きの嵐は連発であった。

魔法を返すなら魔法でしかない。それは誰もが分かっていること。しかし、彼は魔法式を立ち上げる素振りすら見せずそのまま反射した。

訳の分からない状況に誰もが唖然とした。

 

王馬「分からねぇなら試してみるかい?なぁシバタツヤ。」

 

達也「!」

 

深雪「お兄様。」

 

王馬「ちょうど相手が居なくなったんだ。いいところにお前が居たぜ。それに、ワタナベマリの言う()()()なんだろ?じゃあ俺と()る以外無ぇよな。」

 

彼の達也を見る眼は服部の時とは違っていた。

服部の時は気だるげそうな顔であったが達也の時は、まるでやる気が入っている時の眼。

それに達也自身も感じ取れていた。今までよりも大きなプレッシャーを浴びせ続けていると。

達也はここで確信した。王馬に勝つには最初から全力、または()()()()()()を解き放つしか無い、と。

また、それでも足りないのかもしれない、と。

 

もはや試合は"死合"へと変化しそうになっていた。

 

摩利「確かに、服部があれじゃあ無理だな。達也君、出来るか?」

 

達也「…ええ。分かりました。それに先程の技に興味がありましたので喜んで受けさせていただきます。」

 

摩利「…分かった。では少し時間を「必要無ぇよ、さっさと()ろうぜ。」…!…王馬!いくら圧勝したと言えど体に疲れが溜まっているかもしれないだろ。」

 

王馬「あんなの準備体操だよ。…シバタツヤは、()()な。」

 

達也「!……その言葉、そっくり返すよ。」

 

これより急遽行われる事になった模擬戦。

普通なら服部が二人まとめて相手をする予定だったが、予定が狂わされたため"王馬VS達也"へと変更になった。

達也は普通なら勝つ気でいかないが、こればかりは集中して闘わなければいけなかった。

少しでも気を抜けば呑み込まれるのは自分だと、殺されるのは自分だと思い知らされた。

深雪は兄を優先して、応援するかと思われたがそうでもなかった。ならば王馬を応援しているのかというとそういう訳でもない。複雑な心境であった…

 

摩利「ルールは先程と同じだ。続行不可能となった時点で試合終了とする。」

 

それぞれが配置につき、構える。ギャラリーは先程よりも盛り上がっている様子だった。

 

真由美「ねえ、どっちが勝つと思う、リンちゃん。」

 

鈴音「達也君と答えたいのですが、王馬君のあれを見せられると悩みますね。広範囲魔法を避けるなど普通は出来ることじゃないので、それに彼の"素"の強さ。底が見えません。」

 

真由美「なるほど〜。深雪さんはどう思う?」

 

深雪「お兄様の強さは私が一番良く知っています。……ですが、王馬さんは"同等か或いは……"」

 

真由美「………そう。」

 

深雪は眉間にしわを寄せ、心配をする。

それは王馬に対してではなく達也に対してである。

達也は強い、それは深雪が知っていることだ。

しかしどうだ、絶対的であった兄に並ぼうとしている存在が居るではないか。

深雪は現在、手を合わせてもいない状況で二人の強さは五分五分と見ていた。

 

摩利「双方とも準備はいいな?それでは…」

 

摩利が手を挙げる。両者は戦闘態勢に入る。

 

摩利「はじめ!」

 

摩利の声が轟くと仕掛けたのは達也の方だった。

王馬に勝るとも劣らない超スピードで直様死角をとる。

そして特化型であるCADを構え、魔法を放つ。

 

…が。

 

達也「…!…居ない!」

 

王馬はそこに居なかった。

自分は王馬よりも速く動き、音も立てずに死角へと移動した。…しかし、それはもう気づかれていた。

 

王馬「速ぇじゃねぇか!」ドゴッ

 

達也「ぐっ…!」ザザザ…

 

今度は逆に達也が死角から攻撃されていた。

服部に当てた左ジャブ、達也はなるほどな、と思った。

服部のオーバーリアクションかと思ったが、これほどの威力ならば吹き飛んで当然だ。

 

王馬「効いたかい?」

 

達也「まだまだ…」

 

そして達也はまた高速移動を行う。今度は魔法を使って、だ。きっと素での動きでは先ず彼に攻撃を当てられない。

ならば、もっと速く移動するだけのこと。

 

王馬(魔法か…さらに速くなりやがったな…)

 

達也はこのまま距離を空けた戦闘にすることにした。

達也自身体術を会得しているが、通用しそうにないことを既に悟っていた。

だがここで達也にさらなる試練が与えられる。

 

達也(あの構えは…)

 

摩利(この場に来てやっと構えたか。なら、達也君を相手として認めたということなのか?だが、魔法を使うような素振りは見せないな。)

 

真由美(あの構え、ボクシング?それにしても、上体が浮いているような…)

 

深雪(…ッ!ここに来てやっと戦闘態勢!お兄様、御気をつけて!)

 

王馬はこの場にきてやっと構えをとった。

ボクシングというには上体を起こしている、そう、彼のとった構えは"キックボクシング"に近い構えだ。

 

達也(注意をしなければな…)

 

達也は王馬の背後をとり特化型を向ける、そして魔法を放つ。

 

王馬「速くなっても一緒だぜ!」スルッ

 

王馬はそれを回避し、達也を目で捉えていた。

 

達也(これで気づかれているのか!?)

 

ならばと不規則な動きをし、王馬を撹乱するように動く。

そして特化型を放つ。それを二度繰り返した時…

 

王馬「へ…ちょこまかとうるさいねぇ。」ダッ…

 

達也「何っ!?」

 

達也の目前まで迫ってきていた。王馬は服部との模擬戦の時も構えをとらず高速移動をしていた。

ならば構えをとって移動を行えば、それの倍以上は速くなる。素の能力で達也の世界に追いついてこれていた。

そして…

 

王馬「…」シュッシュッシュッ…シュッ

 

達也「ぐっ……」ガスガスガス…ドゴッ

 

左ジャブを二発そして右ボディからの左ハイキック。

達也と王馬の身体能力の差は、かなりある。

若干王馬のほうが大きい、だが、その体からありえない程のスピードで攻撃してくるため、対処の仕方が難しかった。そのうえ一撃は重いときた。

 

達也「ちっ…!」

 

王馬「逃げても無駄だぜ。」

 

シュッ…スルッ…ドスンッ…ドガッ…ドゴッ…ドガンッ…

 

達也も王馬が魔法を使ってこないため悪手を強いられていた。達也は『術式解体(グラム・デモリッション)』を使うことが出来るが使いようがなかった。

武器を使わなければ魔法も使用しない、自分の体術では通用する可能性が低い。

かなり詰んでいた。

するとここで達也は余裕を見てバックステップで王馬との距離を空けた…ここで達也に試練と好機が与えられる。

 

達也「ぐはっ!」

 

摩利「何っ!?」

 

真由美「嘘!」

 

深雪「拳は当たっていないはず…なのに何故!」

 

達也がバックステップで王馬の攻撃を躱したが、その際に王馬は一回だけ拳を突き出した。そして、達也に攻撃がヒットした。

ギャラリー達は原理が分からなかったが、天才か、達也はこの一撃で原理が分かった。

 

達也「お前、拳にサイオンを纏ったな…」

 

王馬「頭良いねぇ。もう気づきやがったか。」

 

人間の体内には想子(サイオン)が保有されており、それを消費し魔法師は魔法を使用する。これは「魔法力」とも呼ばれ、これが多いほど大規模な魔法を使用することが可能である。

想子(サイオン)とは消費して使うものだが、王馬はそれを攻撃として扱った。

彼らしいといえばそうなるが、こんな事、普通はあってはならない事だ。

 

王馬「反撃しねぇとまじで終わっちまうぞ!」

 

達也「ぐっ!」

 

一度踏み込んだだけで目前までやってくる。

そして両手に纏ったサイオンを放つ…いや、殴る。

達也はかろうじてそれを避け、転機を伺う。

ジャブ、ストレート、フック、ボディ、アッパー、ローキック、ミドルキック、ハイキック。

色々な攻撃を繰り出してくる、しかもその間5秒未満。

王馬ほ未だに涼しい顔をして腕を、脚を振り続けている。

 

達也「くそっ…」

 

直撃とはいかないが、掠ってしまう。

恐ろしいのが掠っただけなのに、大ダメージを受けたような感触。だんだんと蝕むような痛みが襲う。

そして攻撃の嵐は止まない。

 

王馬「あんた本当に終わっちまうぜ!」スッ

 

王馬の左ハイキックが達也の顔面に近づいてくる。

そして生徒会メンバーは達也の負けを確信しかけていた。

唯一深雪だけは挽回の余地があることを祈っていた。

そして左ハイキックが直撃……するかと思われた。

 

達也「待っていたぞ…」

 

達也は()()()()()()C()A()D()()()()()()()()()()()()()()

 

王馬「!」

 

すると王馬の両手足を纏っていたサイオンが弾け飛んだ。

 

達也「ふん!」ガシッ

 

達也は王馬の脚を掴み、そのまま背負投…これに賭けた。

王馬を地面に叩きつけるがすぐさま起き上がってくると、

顔面にモロ、()()()()()()が直撃した。

 

達也「ガハッ!」ゴロゴロゴロ

 

王馬「いやぁ、あんた()()を使うんだな。油断してたぜ。」

 

王馬はなんてことのない表情をしながらまた立ち上がる。

達也は右ハイキックを喰らい、地面にゴロゴロと転がっていく。

先程、王馬の纏ったサイオンが弾け飛んだのは達也の行った"術式解体"のせいだ。

圧縮したサイオンの塊をぶつけ、対象の術式を吹き飛ばす対抗魔法。

かなりの高等技術であり、戦闘において使用するものは少ない。

生徒会のギャラリー達もこれには驚いていた。先程から王馬が目立っていたため分かりにくかったが、達也も充分、規格外の人間だという事に気がついた。

だが、それでも深雪の顔が晴れることはなかった。

 

あれからかなり時間が経った。サイオンを纏い、達也が打ち消して、それを何度繰り返しただろうか。それでも形勢逆転という訳にはいかなかった。

そしてしびれを切らしたのか、吹っ切れたのか、達也はいつの間にか近接戦闘へと移行していった。

両手にデバイスを持ち、魔法を放つ、そして避けられる。

何度繰り返したのかも考えられなかった。

 

達也「ふ…!…くっ…!」

 

達也は久方ぶりに勝負を楽しんでいた。

戦いとは楽しむ余地もなく、待っているのは"生"か"死"のみだ。彼は圧倒する力こそ持っているものの、楽しむ力なんてのは持ち合わせてはいなかった。

真剣に戦って、妹を守り抜いて今日を生きる、それだけだった。だが、そんな達也は今笑っている。

 

王馬(楽しいかい…シバタツヤ。)

 

この男も例外では無かった。

 

達也「はっ!」

 

王馬「…」

 

また、王馬の纏っていたサイオンは弾き飛んだ。

そう、術式解体だ。そして動きが読めてきた達也は王馬の右ストレートをぎりぎり躱す。そして特化型へとチェンジ、撃ち出させるのは達也の魔法であった。

 

だが…

 

王馬「惜しいな…もうちょっとだったぜ。」

 

それをミリ単位で躱す。

 

…が。

 

達也「そっちは惜しいがこっちは確実だ。」

 

王馬「…何。」ガクッ

 

ここにきて司波達也に勝機到来か。

特化型を向けたがそれは端から囮だ。

狙いは、魔法を回避して体制が不安定な王馬への一撃。

ここで、達也の体術が活躍するときがきた。

 

達也「はっ!」

 

自分の持っている力を振り絞り、サイオンを右手に集中させる。王馬と同じ事をして返す。

そして狙うは顔面、射程距離まで遠くとも近くもない。

ベストな角度と距離。

よりダメージが出せる位置にいた。

そして一気に突きだす。

 

 

 

王馬「へっ…」ニヤッ

 

 

 

駆け引きに敗れたのは…

 

 

摩利「な!あの動きは!」

 

真由美「ボクシングじゃないの!?」

 

鈴音「まさかあれは…」

 

あずさ「何が起こったんですか…?」

 

深雪「…そんな…お兄様が…」

 

驚愕する理由…それは…

 

達也「へ…」ガクンッ

 

達也が駆け引きに敗れたからだ…

 

王馬「残念だったねぇ…シバタツヤ。」

 

男の顔は笑っていた。

 

まず状況を整理しよう。

達也と王馬は魔法とサイオンのぶつかり合い、近接での勝負をしていた。序盤では王馬が近接での圧倒劇を見せていたものの、達也はだんだんとスピードに追いついてこれるようになっていた。

そのため、スピードでは互角の位置にまでたどり着いていた。だが、パワーでは王馬が勝っていた。

そして、達也の仕掛けた駆け引き、体術、複数デバイス操作、術式解体、と、出せるものは全て出し尽くした。

体術で渡り合い、複数デバイス操作で惑わせ、術式解体で無効化させた。それをロボットのように正確に、丁寧に繰り返した。

一瞬、王馬の打った右ストレートに微々たるブレがあった。それを狙って術式解体でサイオン無効化、攻撃を躱す、そして放たれたのは特化型からの魔法…この二つを囮に使い、真の目的は達也自身の右ストレート。

王馬に当たったかと思われたが、左手で受け止められていた。達也はダメ元で更に力を加える事にした。

押せるだけで良かった…そのはずが達也の膝は地についてしまった。

 

完璧な作戦だった…周りが見ても明らかだった…だが…

 

それでも王馬には()があった。

 

達也「なにをしたっ…」

 

王馬「知りたいかい?いや、あんたなら察してんだろうけどよぉ…」

 

達也「っ…!」グググ

 

この時、司波達也は最悪な判断をした。

頭に血が上っているのか、久しぶりの追い詰められたため、焦っているのか…どれも分からないが取った行動は不正解。

さらに力を加えてしまった。

 

達也「なんだと…」ガクッ

 

王馬「頭に血が上ってんぞ…」

 

王馬は不動だったが、達也だけが動いている。

王馬を中心とし、逃げられないかのように。

達也は力を乱されていた。

 

達也(こいつ!キックボクシングじゃないのか!…この技は"合気道"の技に違いない…!)

 

そう、達也は"意図的に力を乱されていた"。

 

生徒会メンバーも、深雪も、何が起こっているのか分からなかった。優勢に見えた達也が、いつの間にか逆転されている不可解な光景に…

 

達也「ならば…」

 

王馬「おっと止めときな…そしたらてめぇ暴走するぞ?」

 

達也「ッ!…気づかれたか…」

 

達也はもう一度サイオンを攻撃手段として使おうとしていた。サイオンで爆発させ、一旦距離をとる、それも見破られていた。

 

達也(()()()()()()()()()()()()()……

()()()()()()()()…!)

 

達也の推理によると、王馬の技は、自分が攻撃を仕掛けるのを見計らってほんの数グラム…数グラムだけを加重して、自分の力の流れを数ミリずらしている、のだと言う。

 

その結果…

 

達也(力の流れは乱れ、暴走する!!)ガタンッ

 

少しでも力を加えてしまった達也は仰向けに、地に叩きつけられた。それでも達也の右手は王馬の左手から離れることは無かった。もしあそこで違う判断をしていれば、王馬に触れなければ、勝機はあったのかもしれない。そしてここで達也は新たな出来事に気がついた。

服部が放った魔法を返されたのも反射では無い、自分と同じく()()()()()()()のだと理解した。

 

達也(十鬼蛇王馬…お前は、力の潮流を支配下に置いているのか……体術の浅い俺がたどり着ける領域では無かったのか…)

 

既に勝負は決していた。

達也は本気を出せば殺傷能力の高い魔法を扱う事が出来る。だが、これはそれをやるための闘いではない。

次第に摩利の声が響いていた。これ以上は危険だと察知したのだろう。

達也は初めて悔しいと感じたかもしれない。

こんなに楽しく、心躍りハラハラする闘いは滅多に出来ることではない。

達也は一言王馬に告げた。

 

達也「…参った。」

 

勝負は決した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

深雪「お疲れ様です、お兄様、王馬さん。」

 

達也「ありがとう、深雪。…こんなに昂ぶったのは初めてかもな…」

 

王馬「…へっ…アンタ本当はまだ隠してんだろ?俺にはバレバレだぜ?」

 

達也「そういうお前もまだまだ隠しているだろう。」

 

王馬「まあな。でも、アンタ強かったぜ、ありがとなシバタツヤ。」

 

達也「ああ…こちらこそ。」

 

達也はまだ力の感覚が乱されていたのか右手で体を起こそうとはしなかった。左手で重い体を起こし立ち上がると、

王馬と握手をする。この戦いによって達也から見て王馬の評価はかなり上がっただろう。相変わらず危険人物というレッテルを貼り続けているが、"悪質な事など考えていない"というのは分かりきった。

こいつはただ"強者との戦闘を好み、自分を信じて止まない"存在という事がわかった。

 

達也(天上天下唯我独尊…という奴かな…)

 

対する王馬も達也に対する評価は上がっていた。

はっきり言うと王馬は達也の事を"互角かそれ以上"の存在として認知している。

まだまだ他の魔法がある事に王馬は気づいていた。

 

ならばなぜ達也は敗けたのか?と疑問符を浮かべるかもしれないが、王馬のし掛けた技、()()()()()()()()()()は、まず初見で見抜ける者は0と言ってもいい。

それほどに巧妙で、見抜く事が難しい技だ。

言ってしまえばこれは"負けイベ"の様なものだ。

勝負に敗れはしたものの一度の手合わせで達也はこの技について既に見抜くことが出来ている。それに王馬も気付いている。そのため、王馬は達也に対して"強者"である、と認めていた。

 

あ、だが服部は見抜けていないため、評価は下がっていた。

 

真由美「王馬くん、あの技についてなんだけど…」

 

王馬「あ?さっき言っただろ。」

 

あずさ「あれだけじゃわかりません。」

 

王馬「ちっ…めんどくせぇな。」

 

摩利「お前はキックボクシングスタイルで闘い、サイオンを身に纏い攻撃をしていた。サイオンを魔法に使うのなら分かるが攻撃に繋げるとは…まぁこれも凄いことなんだが…最後の技が気になってな。」

 

王馬「やだよ、さっき言ったじゃねぇか。」

 

深雪「王馬さん…私も知りたいのですが……ダメですか?」

 

模擬戦が終わると早速質問攻めときた、王馬はあまり質問されたり、受け答えたりするのが好きではない。

それに、自分の技の原理なんて話したくないのは普通だ。

 

王馬「はぁ…シバミユキが言うなら別にいいけどよ。」

 

摩利(え、甘くないか?)

 

真由美(私たちの方が下なの!?)

 

あずさ(も、もしかしてあのお二人って…)

 

鈴音(意外ですね…)

 

達也(深雪ならいいのか…)

 

深雪「ありがとうございます!」

 

それから王馬は、服部と達也に使った技の原理を説明した。『攻撃を利用した攻撃であって反射とは全く異なるもの。』相手の攻撃の軌道を変え、そこに自分の力を加えることによって相手の攻撃を乱す、という技。

体術で言えば"合気道"に近いだろう。だが、違うのは"魔法"も乱してしまうところだ。

 

摩利「それじゃあ相手の魔法に、自分の魔力を少し加えている、ということか?そして軌道を変える……実質反射じゃないか……滅茶苦茶だぞ。」

 

真由美「まさかボクシングスタイルからあんな技が出るとは思わないじゃない。脳筋系かと思ったら技巧系なのね。」

 

王馬「筋肉だけじゃあ足りねぇからな。」

 

鈴音「訂正しなければなりませんね。ですが、あなたの素行が悪い事は確かです。」

 

あずさ「これでCADを使ってないんですよね…」

 

王馬は上級生達と仲良く会話をしていた。

それを見ていた深雪は少々機嫌が悪かった。

達也はそんな原因を知るはずもない。

 

深雪「…お兄様、どこか怪我をしているところはありませんか?」

 

達也「ああ、無事だ。問題ない。」

 

深雪「それは良かったです。……それにしても王馬さん、強いですね。あのお兄様が負けるなんて…たしかにお兄様はあれ以上の魔法を使えますが、それは王馬さんも同じようですね。」

 

達也「…そうだな。あいつは強い。」

 

全員が二人の強さを認めていた。

学年の五本指に入る実力者を圧倒し、高校生とは思えないような戦闘能力を有しており、まだまだ底が見えそうにない。

 

摩利「二人共、合格だ。是非とも風紀委員に入ってくれ。」

 

真由美「これで暴力問題が起きても安心ね!収穫収穫!」

 

達也「ありがとうございます。」

 

王馬「フーキイーンか…一体どんな奴等が居るんだろうねぇ…"俺達のおまけ"は。」

 

深雪「もう……ですが、改めておめでとうございます。お兄様、王馬さん。」

 

摩利「確かにあんな試合を見せられたらおまけかもしれないな。」

 

微笑気味に摩利がつぶやく。

改めて王馬と達也は風紀委員に加入する事ができた。

王馬は風紀委員の職務についてはどうでもよかった。

ただ、強者と闘う事だけを楽しみにしていた。

 

王馬「楽しくなりそうだ…」

 

またも男は不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深雪「そういえば王馬さん。生徒会長を下の名前で呼んだのはなぜですか?」

 

王馬「だってあいつの上の名前、何て読むのか分からねぇんだよ。」

 

深雪「七草と書いて"さえぐさ"ですよ。もう下の名前で呼ぶことは無くなりましたね。」

 

王馬「おお………怒ってんのか?」

 

深雪「怒ってません!」

 

王馬「なんだよ、怒ってんじゃねぇか。」

 

深雪(本当にこの人は……でも、何故か放っておけない気持ちになるのは何故でしょうか……私の敬愛すべき存在はお兄様なのに…)

 

深雪の気持ちとは一体…?

そして、忘れられた服部であった。




王馬の扱う技は初見殺し


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