ミから始まるえぐちぃ人の弟子になった。ふざけんな俺は逃げるぞ──! (気晴らし用)
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1話

1 波乱 産まれてすぐに大ピンチ

 

 なんかよく分からないが、どうやら俺はワンピース世界に転生を果たしたらしい。

 らしい、というのも赤子にして無理やり悪魔の実らしきものを食わされたのが現状だからだ。

 

 もしかしたらワンピ大好きな親がふざけたのか、とかそんな考えが過ったが「んなわけあるか」と一蹴してお悩み中。

 クソ不味かった悪魔の実はともかく、今はここからどう逃げおおせようか、とそれだけ考えている。

 

「おい、なんであいつに悪魔の実を食わせたんだ!! 売れば一億ベリーは下らねぇ代物だぞ!?」

「仕方ないでしょ! すぐそこまであの海賊団が来てるのよ!? 見つかったら取られるに決まってるわ! なら、あの子に食べさせて保管しておくのが良いわ」

「一度食わせたら戻ってこねぇだろ!」

「お金が無くなったら不思議な力を持った子どもとして売ればいいじゃない。悪魔の実単体を売るよりよっぽど高く売れるわ」

 

 

 という会話を目の前でしないでもらってもいいですかね。

 

 転生してすぐにピンチなんですが。

 てか、あんまり浸透していないはずの悪魔の実をなんでこいつら知ってんだよ。間違いなく偉大なる航路のどこかだろ。ワンチャン新世界出身の両親ってことか……?

 でも、原作だと悪魔の実の存在は公然のものとされてたし……。

 

 ……うーむ、すぐそこまで海賊が来ている。

 それに少し気持ち悪い揺れ方をしているこの場所。

 

 どっかの船の中かな? そしてピンチだと。

 

 

 父親らしきちょび髭の男が窓から外の様子を覗き見て、その小物っぽい顔をギョッと歪めた。

 

「た、鷹の目が海賊を倒してる……」

「はぁ!? なんであの鷹の目がここにいるのよ!」

「どうせ暇つぶしだろ! あいつの行動に意味なんかねぇよ! 考えるだけ無駄だ! 逃げるぞ!」

 

 は、え、鷹の目?

 マジで? ミホークいんの?

 

 序盤名言製造機の世界一の剣豪さんが?

 

 俺が混乱してる間に、男は俺を乱雑に抱き上げて女を連れ逃げ始めた。

 小さい船室から出た先は、逃げ惑う人々と広大な海が広がっていた。

 

 予想通り船の中だったようだ。

 しかし、どうも船で逃げる人たちを見るに、両親も海賊の一味っぼい。旗が立ってるし。

 多分、両親は別の海賊団に怯えていたのだろう。ミホークがぶった切ったようだが。

 

 最早原型すら見えないくらいバラバラになってるから、今はミホークの乗ったイカダしか見えん。

 すっげ、マジで原作キャラだ。こんな状況だけど感動してる。

 

 

「ヤバいヤバい。鷹の目相手に逃げれるわけがねぇ」

「あんたのテレテレの実でもどうにかならないわけ!?」

「定員二人までだ!」

「あんたと私で良いじゃない!」

「確かに!」

 

 確かにじゃなくて。

 知能指数低すぎんか。

 俺の存在忘れてない? てか、そんな悪魔の実があるなら実を持ってサッサと逃げれば良いだろ。

 

 ニュアンスで予想するにテレポートの能力っぽいからな。

 

 え、ちょ、待って。

 これ、俺が置いていかれるパターン?

 

「悪いな。恨んでくれるなよ」

「死んでサッサと悪魔の実に戻ってちょうだい」

 

 そう言った両親は、俺を船の地面に置きその場から掻き消えた。

 

 は?

 

 マジで置いていきやがった。

 育てる気がねぇなら産むなよ。

 

 

「あうあっ!!(このクズがッッ!!!)」

 

 突然の理不尽にキレた瞬間、周りにいた何人かの海賊がバタッと気絶した。

 

 

「うぇ?」

 

 舌っ足らずの言葉で疑問を表す。

 何が起こった? 俺が叫んだら海賊が気絶した、と。

 

 

 覇王色やんけ、これ。

 ピンチで覚醒したのか。もしくは転生特典か。

 知らんけど使い方分からないから依然としてピンチだぞ、おい。

 

 発動しろ! 発動しろよ覇王色ッッ!

 

 

「ほう、その年ですでに覇気を操るか。おれには持ち得ぬ王の資質……。様子を見るに親に捨てられたようだが」

 

「あう!?」

 

 気づいたらドアップでミホークの顔が映し出された。  

 怖ぇ! 威圧感パネェ! すごいっす!

 

 へへへ、見逃してくだぁせぇよ。靴でも舐めるんで。

 

 心の中で必死に媚びていると、それが伝わったのかミホークは俺を抱き上げた。恐ろしい様相とは程遠い優しい手付きである。

 

「フン、有望な子どもを引き取り育てるのも暇つぶしになりそうだ」

 

 ん? んんんっ?

 

 いや、あのどこか安全な場所に捨て置いてくれれば結構なんですけど……。

 

 一番安全な場所はミホークの側だけどさ。

 

 

 

 あれ、これ、ミホークの弟子になる流れ!?

 

 

 

 嫌だあああああぁぁああ!!!!!!

 

 

 

 

 

2 スパルタ師匠! 世界一の大剣豪!

 

 

 大剣豪、ジュラキュール・ミホークに拾われてから3年が経った。

 さすがに乳児期は何もせずに真面目に育ててくれた。

 ハッキリ言って、子育ての本を仏頂面で読みながらオシメを変える姿には爆笑してしまった。あれを笑わないのは逆に失礼だと思う。

 

 義理堅いというのか、バカ真面目というのか。

 有言実行の鬼であるミホークは、しっかり不自由なく俺を育て上げた。

 

 まあ、俺が転生者であることもあって、普通の子どもの何十倍も楽であったと思う。

 ミホークも『子を置いて逃げる両親から産まれるとは思えん利発さだ』と絶賛(?)していたし。

 

 そんなこんなで俺は受け答えができる程度に成長した。

 本当は流暢に喋れるが、疑われるのもあれなので子どもっぽく接している。あんま話さないけど。怖いし。

 

 ちなみに住んでいる場所は、あの王国跡地ではなく、とある島に構えたそこそこ大きい屋敷だ。

 辺りに人の気配はなく、俺とミホーク以外に人はいない。

 

 ミホークがまだ黒刀を所持していないし、王国跡地に住んでいないということは、きっと原作開始前だ。

 若さから見積もってそこまでの年月があるとは思えないから、恐らくロジャーの処刑から少しくらいか。

 

 俺はオモチャ代わりに与えられた子どもサイズの刀をにぎにぎしながら迫る足音を聴いた。

 

「ヨル、ついてこい」

 

 俺を一瞥して指示を与えると、ミホークはサッサと歩き出した。

 ヨルというのはミホークが名付けた俺の名前である。

 

 自分の将来の愛刀と同じ名前て……。

 

 と、微妙な表情のまま、俺は急いでミホークの後を追いかけた。

 

 5分ほど小走りで追いかけると、十分なスペースがある拓けた場所に辿り着いた。

 

 切り株に腰を掛けたミホークは、相も変わらぬ仏頂面のままに言い放った。

 

「……貴様に修行をつける。その持ってる刀でかかってこい。死するならそれが運命。さあ、あの時見せた力の片鱗。おれに見せつけてみろ……!!」

「え」

 

 呆ける俺を置き去りにするように、ミホークは首に下げた小刀を構える。棒立ちだ。手で小刀をもて遊ぶその姿には余裕があふれている。

 

 いきなりかよ!

 先に筋トレとかで体作りじゃないの!?

 空気中にプロテインが含まれてるのが漫画の世界だけど、3歳はどう考えても無理だろォ!?

 

 酷じゃね。やっぱあの鷹野郎、子どものことなんにも分かってねぇや。

 

 ちくしょう、やってやる!

 どうせやんなきゃ期待外れ扱いされて捨てられんだ。

 

 俺はふぅ、と深呼吸して刀を構える。

 知ってるのなんて持ち方くらいで、型も何も知るわけがない。

 

 足に力を入れて、その小さな体躯を前へ突き動かした。

 

「やあッ!!」

 

 ミホークとの身長差は80cmほどに及ぶ。

 俺も3歳にしては大きい方だが、ミホークの身長は2m近い。

 

 ゆえに俺は足元に向けて刃を振るった。

 

「考えてか無意識か。リーチの差を意識し機動力を奪おうという心積もりか。だが甘いぞ」

 

 振った刀にタイミングを合わせたミホークが、刀を足で踏む。

 この時点で俺に残された策は少ない。兎に角刀を取り返すことは考えてはいけない。

 俺は即座に手を離し一か八かの手に打つ。

 

 

「返せ……ッッ!!!!」

 

 叫んだ瞬間、空気が淀む。

 ビリビリと大気が震えたのは、間違いなく覇王色の覇気を放った証。

 

「……見事。貴様はおれに強者たるに値する力を見せた。矜持失くして強さに向き合うことはできん。貴様がおれに放ったその気迫。忘れるな。……戻るぞヨル。修行だ」

 

 ミホークはスタスタと再び歩き始めた。

 え、今のが修行じゃないの……?

 

「ゾロにやったように見定めたわけか……。ふつーに弟子にするもんだと思ってたけど、そうは上手くいかない、と。さすが鷹の目」

 

 期待値以下だったらどうなってたんでしょうね! あっははー!

 

 こっっっっわ。

 やっぱ頭おかしいわ、あの人。

 

 

 

3 筋トレ地獄! 体が資本!

 

 謎の試練を突破して3年。

 

 俺は日々筋トレ地獄を味わっていた。

 っぱ、体が資本でしょ! みたいなノリで押し付けられた筋トレメニュー。鷹野郎は旅に出た。

 ある程度体が出来上がってから本格的な修行をつけるらしく、それまでは放任して好き勝手過ごすそう。

 

 拾った責務果たせよォ!

 

 まあ、食事は十分に貯蔵されてたし、三ヶ月に一回は様子を見に来ていたしいいんだけど。

 

 ミホークはいないが、筋トレをサボっていたらどんな目に遭うか分からないので、死ぬ気で真面目にやっている。

 初日は悲鳴をあげながら何時間もかけてクリアしたが、翌日に筋肉痛で悶えた。

 

 日を跨ぐごとに負荷の上がる筋トレに涙目どころか号泣だったが、2年も経つ頃には慣れ始めていて余裕が出た。

 さすがワンピ世界。筋トレに対する成果がえげつねぇ、と思ったわ。

 

 その余裕が出た時間で、俺は食べた悪魔の実を使いこなす修行をしている。結局修行かよ、と思ったそこのアナタ。

 ミホークは俺が悪魔の実を食べたことを知らない。

 

 ゆえに、実戦で手合わせした時にワンチャン一本取るために修行するのだ。さすがの鷹野郎も初見のもんにはビビるだろ。

 

 そんなわけで悪魔の実の方も死ぬ気で勉強中。  

 覇気についてはミホークが教えてくれるだろうから、見聞色だけ自力で修行している。

 

 あんまり上手くいってないが、気配らしいものを3年でようやく掴んだ。範囲も発動率もゴミのように低いけど。

 

 それなのに覇王色に関しては死ぬほど上手くいく。

 多分覇気の才能を全部覇王色に注ぎ込んだに違いない。

 

 だって、覇王色を武器に纏わせんの成功したしな。

 あり得なすぎて笑える。

 

 でも、それを扱う体が貧弱すぎて絵面だけ格好良い感じになってる。

 

 武装色は修行方法忘れたもん!!

 

 一握りの強者しか扱えないはずの覇王色纏わせを、こんなゴミが使うことに申し訳無さしか感じない。

 

 こんなんじゃチート無双には程遠いわ……!

 

 

 

 

4 黒刀! 何してんだおめェ!

 

 2年が経ち8歳になった頃、筋トレ地獄の日々に耐えていると、しばらく顔を見せなかったミホークが黒刀を持って帰ってきた。

 

 

 夜! 夜じゃないか!! なんか親近感湧くなぁ!

 

「そろそろ体が出来上がった頃だ。本格的な修行に移るぞ」

「はい。それは良いんですけど、その刀なんすか」

 

 もう面倒になった俺は一年前くらいから普通に話している。

 ピクリと片眉を上げたが特に気にしていないようで安心。こういう懐の深さだけは尊敬できるわ。

 

「これはこの世界に十二本だけ存在する最上大業物の一つ【黒刀“ 夜”】だ」

「俺と同じ名前っすね」

「他意はない。おれが名づけたものではない」

 

 刀を語るミホークはそれとなく機嫌が良さそうだった。

 さすがにミホークといえどもテンションが上がるか。ちょっと新鮮だな。あの仏頂面が少しだけ緩んでるし。

 

「で、修行ってなにするんで?」

「貴様に合う剣術を作り上げる。後は実戦経験を積めば自ずと強くなるだろう」

「剣術を……作る??」

「剣を扱う術は剣士それぞれの数だけある。己が信念を剣に込めたその先に技は産まれる。貴様は何を望む。剣に何を込める」

 

 難解なミホーク語録が出たよ。

 頭パッパラパーの俺には何を言ってるのかサッパリ分からんが、まあどんな剣術が良いのー? って聞いてんだろうよ。多分。

 ミホークさんは柔なき剣に強さなどない、って言ってたし、どんな敵も一撃でぶった切る派手さは求めてないし。

 

「斬られたことに気づかないくらい綺麗に斬りたい」

「ワッハッハッ……その先は技を極めた達人の領域だ。貴様に剣士としての器はそこまで無いと思っていたが……くくく……!」

 

 ミホークの琴線に触れたのか、どうやら俺の回答は正しかったようだ。

 

 うーむ、別にロマンを求めただけなんだけどな。

 

 

「良いだろう。修行中に死ぬかもしれんが我慢しろ……!!」

 

 

 え、待ってそれは求めてない!!!

 

 何の決意してんだ、おめェ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミホークみたいに名言製造できんけど勘弁!
不定期投稿DEATH!


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2話 逃亡

5 雨が降る(血)! 逃げるヨルと追う鷹

 

 ミホークが謎のやる気を出してから4年が経った。

 赤ちゃんだった頃が懐かしいほどに、俺は大きく成長していた。

 十二歳。前世の平和な日本だったら小6か中1で勉強に嫌気がさす頃だが、俺はミホークに剣で切り刻まれていた。

 

 あんにゃろ、俺を千切りにするつもりか!

 

 実戦形式という名の体罰修行で、俺はまだ一度もミホークに傷らしい傷を与えたことがない。俺は薄皮一枚ばかりを斬られ続けている。

 鷹野郎はまだ成長期らしく、俺が強くなったと思ったら鷹野郎がまた強くなっている。

 例え才能による成長曲線が同じでも、同じレベルで成長していくミホークにどう追いつけと。

 

 

 この4年で見聞色は未来予知まで……いけるわけがないんだよなぁ。

 島一つ分? いいえ、半径5メートルです。

 広げようとしたら途端に発動しなくなるんだよ。

 

 その代わり5メートル内の感知精度を死ぬほど上げた。完全な接近戦タイプですね、また傷が増えますね、ありがとうございます。

 

 武装色は、まだこっちの方が才能あるらしく、刀に纏わせる程度ならできた。生憎と紙みたいな強化精度だけど。

 何本刀を折られたか。その度に鷹野郎にチクチクチクチクと説教される。俺は泣いた。

 

 え、覇王色ですか?

 ミホークのまあまあ力の籠もった斬撃を弾き返せるくらいまで成長しましたが?

 

 島一つ分にいる人間を一瞬で気絶させれますが?

 

 なにこの才能の差。

 いや、強いけど。でも武装色の才能が欲しいわ!

 

 もちろん、ある一定の強さを持つ者には少しビビらせる程度だが、それならそれでやりようはある。

 

 現状、武装色を纏わせるよりも覇王色を纏わせる方が強いとかなんなんだよ。基本攻撃力、カスなのに上乗せ分の力が強いて。

 

 

 

 あとね。

 

 修行がキツイ。死ぬ。本当に死ぬ。冗談抜きで何回も死にかけた。

 

 逃げたい。

 強くなりたいけど死にたくねぇのよ。そこまでの矜持が俺にはねぇのよ。あるのはしぶとく醜く生き抜きたいって心持ちだけ。

 

「やべぇぞ、本当にこの生活続けてたらいつかポックリ逝ってしまう。年々ミホークの本気度が増してるからな……」

 

 今は幸いこの場にミホークはいない。

 例のごとく放浪中である。

 

 逃げるなら今しかない。

 自分の血の雨を浴びるのはもう嫌だ。

 

「よし、逃げよう」

 

 俺は身支度を整えて外に出た。

 

「よし、諦めよう」

 

 

 小舟一つも無くて俺は諦めた。

 くそ、悪魔の実を食べていたのが仇になったか……っ!

 食べてなくても海王類にやられて死ぬけど。やばい、貧弱すぎ。

 

「待てよ。六式みたいなやつに空を飛ぶ技なかったっけ。月歩……?」

 

 足で空中蹴るやつだよな?

 あれを会得できれば逃げられるくね?

 

 体力には自信がある。2日くらいならずっと走り続けられるしな。

 

「やるしかねぇ……!! 逃げるためには強くならねば!」

 

 

 あれ、本末転倒な気が……??

 

 

6 新たなる力! 六式逃亡生活!

 

 一年が経過した。

 ミホークの合間を盗んで、ようやく六式全てを会得することができた。

 

 覇気の下位互換とか言われてるけど、意外に使い道は多い。

 鉄塊と紙絵はいらんけど。あれは完全に覇気で何とかできる。

 

 この一年、死ぬ気で修行した甲斐あって、ミホークの頬に一度だけ傷をつけることができた。

 ……なんか嬉しそうだったんだけど、あいつドMなんかな。

 

 

 さて、いつ逃げようか、と画策しているとミホークがやってきた。

 

「引っ越しをする」

「引っ越し……?」

 

 急すぎる発言に目をパチクリしていると、ミホークが椅子に腰掛け言った。

 

「シッケアール王国跡地の廃墟に居住を移す。おれが初めて来た時は血と煙の匂いが充満し、死体で足場がなかった。2年かけて全て片付けた。貴様も来い」

「りょ、了解っす」

 

 有無を言わさぬ口調だったため、ビビり散らかしながら俺は頷いた。例の王国の話には触れてほしくなさそうだ。まあ、ようやく原作の場所に行けるようだし俺は構わない。

 

 逃げやすいしな!

 

 

 

 そして俺とミホークは少し大きい小型船で島を出た。

 

 例の棺船かと思ったが、どうやら移動中にも修行をつけるらしく、それなりのスペースが必要だったらしい。

 

 

 

 

 つ(血の雨)

 

 

 

「ここがシッケアール王国跡地……」

 

 薄く霧がかかった島の真ん中に大きな城が見える。

 崩れた桟橋には武器を持った厳ついゴリラたちが見えるが、ミホークを視界に入れると一目散に我先にと逃げ出した。

 

 何したんだ鷹野郎……。

 ふと隣に座るミホークを見るが、飄々と仏頂面で遠くを見据えている。

 何やらずっと不機嫌のようだが。

 

「何を見ている。おれの顔に変なものでもついているか?」

「いえ、なんかずっと不機嫌そうなんで、何かあったのかと」

「……決着がつかない勝負の梯子を外された」

 

 怒りでもない複雑な表情をしていた。

 

 ……あー、時系列的に『シャンクスぅ、腕が……!』の頃合いか。理解した。

 ヒグマさん、死んだんかなぁ……。56皇殺し……。

 

 

 まあ、シャンクス云々に関しても深く突っ込まない方が良いだろう。あんまり興味ないしな。

 

 会話にもならない無言を過ごしていると、ようやく城についた。

 内装は十字架だらけで、ミホークらしいと言える。

 

 俺が思うにミホークなりの供養でないか、と考察しているが定かではない。

 

 半年間の移動はそれなりに疲れた。

 ようやく逃げることができる。

 

 ミホークは着いて早々用事があるらしく島を出る。

 棺船でな!!

 

 つまり小型船は置いていくというわけだ。

 月歩覚えなくても良かったぜ!!

 

「フッフッフッ……!」

 

 ミンゴさんみたいな不気味な笑みで、小型船に乗り込む。

 エンジンはしっかりかかる。

 

 さあ、いざ出発だ、と────

 

 

「ログポースないやん……。死ぬやん……」

 

 逃 げ れ な い !

 

 

 

7 免許皆伝! いざストレス発散の旅!

 

 逃げることを諦め、大人しく5年間修行に励んだ。

 恐ろしく強くなった代わりに人間としての何かを失った気がする。

 

 ミホークから貰った最上大業物【十拳剣(とつかのつるぎ)】を黒刀にし、覇気、悪魔の実ともに極めた。

 

 見聞色? 雑魚ですけど。

 

 目まぐるしい日々を過ごし、修行に明け暮れすでに十八歳。

 俺はこの日ミホークに呼ばれ、島の海岸にやってきた。

 

 

「弱音を吐くことなく、お前は剣を振り続けた。強者たる姿勢を貫き通した。おれが教えることはもうない。あとは貴様の信念を極め、世界を見ろ! ヨル……! 今ここで決別の時だ……!」

 

 ミホークは後ろ手に背負った黒刀夜を抜き構えた。

 油断も隙もない。凍えるような眼光とともに強烈な覇気が吹き荒れた。

 

「卒業試験か……。そうだな、俺の全てを大剣豪にぶつける!」

 

 悲しくもあり嬉しくもある。

 嬉しいの九割はやっと逃げられることだが、ミホークに認められ本気を出すに値すると思われていることが嬉しかった。

 

 ここが俺の本気の出しどころ。

 出し惜しみはしない。全て余すことなくぶつける。

 

 

「剃ッ!」

 

 その場から掻き消えた、と表現できる高速移動。

 ミホークの夜よりも幾分か小さい十拳剣には、その刀身に値せぬほどの強い力を秘めている。

 武装色と覇王色の覇気を籠め、黒い稲妻を鳴り響かせる。

 

都牟刈太刀(つむがりのたち)ッッ!!」

 

 なんてこともない、ただ刀に強大な覇気を籠めただけの技だ。

 しかし──

 

「こんなものか……!!?」

 

 軽々受け止めたミホーク。

 ──二度目の斬撃がミホークの頬を斬った。

 

 浅いか……。

 

「刀を振る瞬間二種の斬撃を作り出したか……! くくく、面白い……! だが、覇気の強化がおざなりだぞ……!」

 

 硬直状態が解かれる。ミホークの武装色が俺を上回ったからだ。単純な力もそうだが、ミホークという男は途轍もなく覇気の使い方が秀逸だ。

 ただ単に覇気を籠めるだけでは膨大な強化は望めない。

 

 しかし、ミホークは覇気を余すことなく刀に纏わせている。いわば、無駄がない。それゆえ内部破壊然り、強化倍率がえげつない。

 

 俺も武装色は内部破壊に至っているが、その精度はまるで違う。蟻とゾウの差がある。

 その差を埋めるのは覇王色と悪魔の実の力。

 

「まだだッ!」

 

 幾度となく剣戟を響かせる。その度に増えていく傷の対象は俺のみ。頬の傷以外に俺がつけた傷は一つもない。

 

「甘い……!」

 

 思考で体が力んだ瞬間を狙われ、なけなしの見聞色が全力で悲鳴を上げた。

 間一髪、脇腹を浅く切り裂く程度に留めることができた。

 

 恐らく少しでも遅れていれば臓物がまろび出ていたのは間違いない。

 

 

 本気で殺す気か……!!

 

 技の出し惜しみをしている場合ではない!

 

 

天剣ッッ!!」

 

 剃の上位技、剃刀による高速移動の突き技。

 剣先を尖らせるように纏った武装色と覇王色ニ種類の覇気で、ひたすらに速さと破壊力を極めた。

 

 音速を超える速度で放った剣は、ミホークの剣先で止められた。

 

「……ッッ!? どんな反射神経してれば剣先同士で受け止められるんだよ……!!」

 

「お前の信念は速さに重きを置く。それゆえに見聞色で容易に予測が可能だ。おれは貴様に愚直な剣術は教えていない」

 

 もっと頭を使えとね!

 分かってるわ!!

 

 でもね! 予測できてもそれに対応できんのは少ないのよ!

 それこそ四皇幹部クラスじゃないと無理だと思うんですけどね!!

 

 剣を跳ね上げ再び高速で斬りつける。

 都牟刈太刀は二度と効かない。あれは初見だから効果がある。

 

 くそ、使うしかねぇ。

 

 

 

 超人系(パラミシア)【エネエネの実】

 

「集えッッ!」

 

 一旦距離を取った俺は左手を掲げる。  

 微動だにしないミホークを尻目に、島中の草木や空気中に含まれるエネルギー──自然界に存在する力の源──を取り込む。

 

「【循環(サーキュレーション)】」

 

 それを身体中に浸透させ、一時的に強大な力を得る。

 俺が食した悪魔の実は、取り込む、循環、放出の3つのみの超接近戦型脳筋だった。

 

「……悪魔の実か。いつの間に手に入れたのか……! そんな疑問はどうでもいい……! それが貴様の全力か! ヨル……っ!」

 

 それなりに長時間経っていた。

 俺の体力はそろそろ限界を迎える。

 

 互いに分かっていた。

 次が最後の一撃になるだろうと。

 

 ミホークは黒刀夜を構えて、ギンッ! と覇王色と見間違うほどの強大な覇気を漲らせる。

 

 

 俺は身体の内側を荒れ狂うエネルギーを制御し、覇気とこれまでの経験を全て出し尽くすように切っ先に覇気を集中させた。

 

 

「ああああぁぁ!!! ッッッ!!」

 

 刀にまで流れ出たエネルギーは、技名通り暁色(ぎょうしょく)に彩る。

 

 斬るッ! 斬るッ! 斬るッ!

 

 全力を出し尽くせえええ……ッッッ!!

 

 

紫電一閃

 

 暁と紫電がぶつかり合って空を割る。

 暴風が吹き荒れ、周りの木々はなぎ倒され、ヒューマンドリルの何匹かはその風でどこかに吹っ飛んでいった。

 それほどまでの威力と衝撃が籠もっていた。

 

 相対するミホークの表情に余裕はない。

 仏頂面を崩し、冷や汗を垂らしながら今この瞬間の全てに賭けている。

 

 信念の強さを証明するため、俺とミホークは何秒、何分、何時間かすらもわからぬ時間を過ごした。

 

 そして、積もり積もったエネルギーの奔流が互いの身体を斬り裂いた。

 

 光が弾ける。

 

 

 

「カハッ……っ!」

 

 俺は腹から血を吹いて地に臥した。

 ミホークは立っている。

 

 俺は負けたのか……。

 すると、グラッとミホークの身体が揺らいだ。

 

 

「見事」

 

 数瞬遅れてミホークは肩から腹にかけて血を吹いた。

 奇しくもそれは、俺の信念『斬ったことに気づかれない』を証明することになった。

 

 ミホークの言葉には満足感が籠もっている。

 そしてそれは俺も同じだ。

 

 完全な勝利とはいかないが、師匠を超えたという自負があった。

 

「見事は、こっち、の……セリフだわ……」

 

 程無くして俺の意識は闇に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書くのむっず


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3話 研鑽&煽り旅

8 出港! ストレス発散の旅!

 

 

 目が覚めると周りには誰もいなく、俺の怪我は簡易的な手当てがなされていた。間違いなくミホークが治療を施してくれたに違いない。

 

「引き分けじゃねぇ。負けだ。これは」

 

 痛む身体を引きずりながら、俺はエネエネの実の力で傷口を癒やしていく。

 

「あー、沁みるぅ……。回復にも強化にも使えるの最高だわ」

 

 とは言っても即効性はなく、あくまでエネルギーの力によって治癒力を上げているだけだ。多分ゾオンにこの治療を施せば秒で治るに違いない。

 生身の人間に驚異的な力は働かない。

 

「最後の技なんてほぼ見えなかったからな。修行が必要だ。負けっぱなしは性にあわねぇ」

 

 決別の意通り、ミホークはすでに旅立ったに違いない。

 ゾロに言ったように『世界を見よ』とミホークは言った。

 

 その言葉通り、俺は旅に出て力をつける必要がある。

 

「海賊になるか海兵になるか。はたまた賞金稼ぎになるか」

 

 道は様々だが、どうも海兵というのは忌避感がある。

 天竜人とかいうゴミカスを敬うとか自殺したくなる。

 

 あれはあの大将だからこそ我慢ができたのだろう。

 ガープもよく我慢してるわ。俺だったら秒でぶち殺してる。

 

 転生を果たしたからか、それともこの世界に馴染んだせいか、人を害すことに躊躇いを覚えることがない。躊躇ったら簡単に死ぬしな。

 だからといって、ホイホイ意味のない殺しをするほど倫理観が欠けちゃいない。

 できるだけ殺すことは控えたいしな。最終手段よ。どうしようもなくなった時の。

 

「やっぱ海賊だよなぁ。懸賞金手配とかされたいし」

 

 漫画でルフィたちの懸賞金が上がる度にワクワクしていた気がする。最早大まかなストーリーしか覚えてないワンピ原作だけど、覚えているうちに紙に書いたから問題なし。

 それを世界政府関係者なんかに見られたらジ・エンドだけどね!

 

 信じるかどうかは別として。

 

 

「うしっ、海賊なるか」

 

 かつてロジャーは世界中の誰よりも自由だった。だからこそ海賊王になれたのだ。

 俺もその精神に倣って自由に生きよう。何にも縛られることなく自分の意思のみに従い生きよう。

 そのための力ならミホークに貰った。

 

「煽り王に……! 俺はなる……!!」

 

 修行で溜まったストレス、全部原作キャラにぶつけてやるわ。

 

 

 目標は赤髪海賊団。

 喧嘩を売るわけでなく、普通に顔見せと挨拶である。

 

 直々にシャンクスの覇王色の覇気を感じたいという気持ちはあるが。

 

「まあ、簡単に出会えるわけないし、一先ず居住地のわかってる原作キャラを煽るか……」

 

 ちなみに俺の煽り方は、実力に自信のある奴をナメプして倒し、ひたすら言葉責めするよくあるやつね。

 

 

「出港だぁぁ!!!」

 

 気に入る奴がいればスカウトして海賊団も作るぞ!!

 

 

 

9 道のり遠し! 迫りくる海の王者!

 

 

 ご丁寧にログポースが取り付けられた小型船に乗って2日経った。

 

 

『グルルルルルル……!!!』

 

「もー、お前らマジで面倒なんだって!!!!」

 

 

 甲板で寝転んでいると、n回目に及ぶ唸り声が聴こえた。

 起き上がると目の前には鮫っぽい海王類。

 覇王色で吹き飛ばすより粉微塵にした方が再度襲われる確率が少ないから、一々斬っているがキリがない。

 

「つむがりのたーち」

 

『グギャァ────!』

 

 かるーく剣を振るだけで海王類の身体が一瞬にして4つに断たれる。獣相手には便利技である。あーら、必殺技のはずなのに暮らしの便利技扱いしてますわよ。

 

「トイレ中に来た時はマジで覇王色漏れたわ」

 

 途轍もないスピードで遠ざかっていったもんな。

 ビビりすぎかよ。

 

「はぁ……」

 

 

『『『グギャアアアアアアッッッ!!!!』』』

 

「もう、やだあああああ!!!!!」

 

 

 この後滅茶苦茶斬った。

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 ずっと覇王色を撒き散らしながら航海していると楽なことに気づいた。

 こんなことに覇王色使いたくねぇよ!!

 

 今日で旅立って一週間目だ。

 そろそろ何かあるかな、と思っていると遠目に船が見えた。

 海賊船だろうか。ぶった切っても良いかな。暇なんだよ。

 

「って、なんだよ。海軍かよ……」

 

 心持ちは海賊のつもりでも、世間一般的にはただの一般人である。賞金首なら海軍に出会えば、多少身は固くなるだろう。

 

 海軍の船がこちらに向かってくる。

 結構大きいガレオン船だ。巡航船かと思ったが、何か目的がありそうだ。

 

「うん? 俺の真横で止まったな」

 

 何か用なのか。

 

「そこの小型船、止まれ!」

「へーい!」

 

 大人しく従ってエンジンを止める。

 少し待っていると、梯子が降りてきた。海兵の一人がこっちに来いというジェスチャーをする。

 

 ここで逆らうのも面白そうだけど、俺にどんな用事があるのか分からない。ただの善良な海兵だった場合、さすがに可哀想。

 

 梯子を登ると、ゾロゾロと海兵を引き連れた偉そうな人がやってきた。

 マントに正義、と織り込まれている姿には軽い感動すら覚える。

 

 

「本部少将リゲル・ロストである。ここらの海域に逃げ込んだ凶悪な海賊を探している。少々、調査協力を願いたい」

「凶悪な海賊? 誰です?」

 

 リゲルと名乗った海軍将校は、まだ若く俺の2個上程度に見えた。

 

 青色の髪をした細見のイケメンである。リア充滅びろ。

 

 この歳で少将とは有望どころじゃない期待の星だな。

 原作にも登場しそうなものだが、生憎と全く記憶はない。多分出てない。本部将校ということは頂上戦争にもいそうだけど……その前に人生がジ・エンドしたパターンかね。

 

 それにしても凶悪な海賊か。

 

 リゲルは迷ったようだが答えた。

 

「懸賞金2億4630万ベリー、【魅惑】ミラージュだ」

「え、知らね。誰です?」

「幻術を使う海賊だ。うぬも一人で偉大なる航路に入るくらいの実力者であろう。悪魔の実は知っているか?」

「ええ、まあ」

「奴はマボマボの実の能力者。恐ろしいのは幻術にかけたことを気づかせない圧倒的な催眠能力だ。逃げに徹されれば終わる。ゆえに、どんな情報でも取りこぼすことはできない。そこで我々は周辺の島で聞き込みをしている」

 

 なるほどね。

 幻術系統の悪魔の実か。

 催眠にかかったことに気づかないのはすごいのだ。防御する方法は結構ありそうだけど、それでも難しいだろうな。

 少なくとも前半の海じゃあ最強だろう。

 

 で、聞き込みをしてると、ね。

 海軍さんも大変なことで。

 

 でもなぁ、

 

「殺気が隠せていませんよ。俺を疑ってるんですかね。いや、偉大なる航路を一人で、しかもただの小型船で旅してたらそりゃ疑いますわ」

「うぬ本人がミラージュだとは思っていないが、仲間及び関係があるとは疑っている。悪いが一旦拘束させてもらおう」

 

 なんて横暴! さすが海軍!

 

 少将くんは生憎と苦々しげに表情を歪めているが。

 この横暴すぎる取り調べは本意でないに違いない。だが、海軍は正義のためなら犠牲を許す、ある意味一番ヤバい組織である。

 1を守るか100を守るか。後者を選択するのが海軍。前者を守るのが海賊である。

 

 そして俺は海賊だ。

 

 まだ守る1すらもいないが、誰にも縛られずに生きていくことが本懐。一時的でも捕まるのはそれに違反する。

 

 

「──悪いね。断るわ」

 

 覇王色の覇気をその場全員にぶつける。

 空気が歪み海が荒れた。

 

 立っていたのは俺だけだった。

 

「……っぐ、何を……まさか……!! 覇王色の覇気……っ!」

「少将なら覇気を扱えると思ってたけど、覇王色を食らうのは初めてかな? 悪いね。俺は海賊志望なんだ。ミラージュなんちゃらとは本当に関係ないのだけれど」

 

 屈んでイケメンと目を合わせる。

 海賊志望も聞いて何を思ったか、倒れ臥したまま拳を繰り出すが俺に当たる直前で覇王色の覇気に阻まれた。

 うすーく、武装色を纏ってたな。意識も限界だろうによくやるよ。

 

「圧倒的優位から床に倒れ臥す気分はどうだ? 若くして少将になっただけある。お前は俺を見た時に明らかに見下していただろう。徒党を組んで王様気取りか。性根が良くても増長してちゃあ無駄だろうよ」

「……海賊に……! 言われる筋合いはない……っ!!」

「まだ海賊だと名乗っただけだがな。実際に何かしでかしたわけじゃない。──おっと、海軍に手を出したから何かしたな。こりゃ失敬」

 

 あー^ ^煽るの気持ちいいんじゃ〜。

 

 特にイケメンはね。敵よ敵。

 俺の容姿なんて普通でしかねぇわ。クソが。

 

「諦めないで手を伸ばした部分は評価に値するけど、それ以外はダメダメだ。特に部下の教育がなっちゃいない。怪しい人物に殺気発したらバレんだろ。もっと取り繕うことを覚えさせろ。あと単純に弱すぎ。お前のワンマンチームだろ? ある程度実力が分散してねぇと、一番上がやられたらすぐに機能しなくなる。そんなの組織としてなっちゃいねぇ。凶悪海賊を捕まえるのなんて夢のまた夢だ」

 

 悔しさで声も出ないようだな!!

 ふっはっは!!!

 

 俺はイケメンに踵を返し──まだ名乗っていなかったことに気づいた。賞金首になる時に困るからな。

 

 

「俺の名はジュラキュール・ヨル。通り名は勝手につけとけ」

 

 悪いが借りるぜミホーク。

 

 

 ミホークが俺の名前を確認した時にどんな反応をするのか。ニヤニヤと想像しながら、俺はヒョイと甲板から飛び降り、愛しの小型船に乗り込む。

 

 

 そしてログポースを確認し、再び船を走らせた。

 

 

「あー、楽しかった」

 

 

 

 

 

 

 




ヨル 煽りという名のアドバイスを盛大に置いておく。本人は煽り散らかしたと思ってる模様。イケメンは憎いが、あの少将はちょっと気に入った。

リゲルくん 少将になってから初めての遠征にてアホとバカをミックスさせたクソ野郎に遭遇。比嘉の実力差に絶望したが、ヨルのアドバイスに納得した模様。
なにかあの海賊は違う……と思っている。そして、え、ジュラキュールってどゆこと???? と戦慄している。


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4話 へぇ、へぇ、へぇ

作者は本誌勢ですが、ネタバレ的内容は書きません。
FilmREDにも極力触れないようにしたいです。
なので、コメント欄でも本誌のネタバレはできるだけ避けていただけると助かります。


10 強襲! 魅惑のミラージュ!

 

 修行以外やることがねぇか、と剣を振っていると、新聞を運ぶトリさんがやってきた。

 ニュース・クーに金を払い、新聞を受け取る。

 

「け、け、け、懸賞金出てる……!!!」

 

 思わず周りの海王類を微塵切りにしてしまうほど俺は興奮していた。あの懸賞金だ。読者全員大好きなあの懸賞金だぜ!?

 少将倒せばそりゃ懸賞金もつくだろうけど、相変わらず仕事が早い。顔写真をどうやって入手したかは知らんけど、サンジみたい偽物っぽくないようで……って、

 

「これ、写真じゃなくて絵じゃね……? 上手すぎて分からねぇぞ、これ。まさかあの少将が書いたのか? 多趣味すぎだろ。これだからイケメンは……」

 

 天は二物を与えずとは言ったものだが、あれは嘘である。

 一物持ってるやつは大抵何でもできるもんだ。世の中不公平だよ、ちくしょう。

 

「どれどれ。そんで懸賞金は〜♪」

 

 

 

 【覇剣】ジュラキュール・ヨル

 手配額 2億5000万ベリー ONLY DEAD

 

「初頭手配にしては随分大層な通り名がついたな。額もやべぇ。多分、覇王色+ミホークの関係者ってのが加味してるな」

 

 もっと危険視してるなら4億くらい手配されても違和感はないけど……少将程度ならと思ってるんだろう。まだ若い新人少将っぽかったし。

 

 それでも2億か……なんか嬉しいな。

 

「覇剣かぁ……火拳みたいだなぁ……」

 

 無武装で行ったのに剣の文字が入るのが不思議だけど、ミホークの関係者ってことは公式的にバレてんのかね。分からん。

 

「多分覇王色使わずに倒してたら一億ちょっとくらいだったな。あー、ミスった。お前も持っているのか……! 覇王色……ッ! 的な演出したかったのに」

 

 通り名ならバレてないから、海賊相手に煽り散らかすしかねぇ。それに煽るのに覇王色って不便だな! そういえは。意識失ってたら意味がねぇ。

 

「普通に倒した方が格上感を演出できるか……? 最も十億超える奴らには出し惜しみしてる場合じゃないけど」

 

 正直ミホークとしか戦ってないから、俺の強さがどれくらいに位置しているのかが分からない。

 ワノ国編も最後まで読めてないし。

 

 

 

 海軍でいえば、黄猿には勝てると思う。能力頼りだし、光の速度で突っ込まれようが半径5メートル以内に入ったら、半自動的に迎撃できる。再度退散する前に腕の一本、二本は持っていける。

 ガープにも勝てる。今の、な。二十年前のガープはさすがにキツイ。 

 と、考えると赤犬、青雉がどうなのか……。実際に相対しないことには分からない。ミホークが勝てるなら勝てるけど。

 

「マジで自分の実力が分からねぇ……」

 

 懸賞金は嬉しいが、謎が残った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 しばらく航海していると、ようやく島が見えてきた。

 初めての上陸になる。次のログが溜まるまで休んでいくとしようか。

 

 その島は特段何か特徴があるわけでもない、ワンピ世界にしては珍しいただの島だ。

 王国というわけでもないだろう。遠目から見るに大きな街が一つと、その他集落が幾つかある程度。

 

 

 港に船を停泊させると、近くのお爺さんに話しかけられた。

 

「ようこそ、リンガル島、メルの街へ。ようこそ、リンガル島、メルの街へ。ようこそ、リンガル島、メルの街へ──」

「お爺さん大丈夫……? 言った側から忘れていくみたいな病気じゃないよな?」

 

 壊れたロボットのように延々と同じことを繰り返すお爺さん。

 目はイッていた。

 

 微かな違和感とともに街に入る。だが、そこには異様な光景が広がっていた。

 

 誰一人として動くものがいない。

 違う、厳密に言えば人はいるがその場から全く動こうとしない。

 生きている。気配は間違いなく人間のものだ。しかしまるでスリープモードかと思うほどに下を見ている。

 

 俺が街に足を踏み入れた瞬間、人間たちが全く同時に首だけ俺を見た。

 

 

「「「ようこそ、リンガル島、メルの街へ。ようこそ、リンガル島、メルの街へ。ようこそ、リンガル島、メルの街へ──」」」

 

 

「怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ!」

 

 やめて!? 若干ホラーを感じさせるような動きは苦手なんだが!!?? 海賊なら楽だけど一般人を斬って黙らせるわけにはいかないし……。

 

 ここなんなんだよ……目は虚ろだし、まるで催眠術にかけられたように既定の行動を取るし。

 やだ、まぼろし〜って……え、そゆこと?

 

 そんな偶然ある?

 近くに海軍の駐屯地があるみたいだけど、まさか纏めて催眠にかかってるとか……

 

 

 そんな次々とイベントが起きるような都合のいいことはねぇ……??

 

 

「初手からエグいイベント起きてるし、もしやご都合主義の星の下産まれてるかもしれん」

 

 それは普通に勘弁。

 

 頭を抱えていると、見聞色の知覚範囲5メートルに悪意を持って侵入した人間を発見した。

 

「おっそ」

 

 後ろを振り向くと同時に風切り音が聴こえる。

 俺にとっては欠伸が出るほど遅い速度だが、一人の女がククリナイフを俺に向かって振りかざした。

 

 一点集中。

 女の身体の動き、筋肉の躍動を感知し見聞色に頼らない未来予知を行う。

 そしてククリナイフが刺さるであろう場所を覇気で強化し、避けることなく女のククリナイフを折った。

 

「なッ……!?」

 

 ……ある程度の強者ならこの未来予知は使い物にならんな。確定事項を予知したところで無駄にしかならねぇわ。封印確定、と。

 

「単身乗り込んでくるのは良いんだけどさ。少しは対策してから襲いかかってこいよ。考えが回ってないな。アホかお前」

 

 完全に振り向くと、そこには愕然とした表情で折れたナイフを見つめる女がいた。

 腰ほどまである白髪は左目を隠し、目の色と同じ真紅のドレスを身に纏っている。実に動きづらそう。

 

 身長は145cmほどと低く、客観的にも主観的にも美女と言える部類だ。胸は残念だけど。

 

「なぜ幻術が効かない……ッ!」

「単に実力がお前以上だからだろ。自惚れんなよ。悪魔の実は強くなるための手段であって、使いこなしてから一人前だ。実に振り回されてる間はひよっこだろう。可哀想だな。格下しか幻術にかけたことがないんだろうよ。そのせいで自分の身の程を弁えれなかった」

「くっ……ふざけるな! 私は力に奢ることなく研鑽を積んできた……! 海軍に伝わる技術も盗んだ……!! 私は強い! 強いんだ!」

「それが自惚れなんだっての。そんなに自分に自信があんなら、こそこそせずに真っ向から海軍と戦えば良い話だ。結局負けるのが嫌だから島に引きこもってんだろ?」

 

 女……ミラージュは唇を噛み締めて俺を睨んだ。

 

 そうそう! こういうのだよ、俺が求めてたのは!

 イケメンの悔し顔もスッキリするけど、やっぱりくっ殺的な悔し顔が一番好きだわ。達成感がすごい。

 

 まあ、このミラージュとやらは強い方だと思う。

 前半の海で2億以上、それに俺とそこまで変わらない歳でこの体術。言葉通り六式を学んだに違いない。

 

 強い意思の力は覇気に通ずる。

 

「私はまだまだ強くなる……! こんなところで諦めるわけにはいかない……!!」

 

「へえ……!」

 

 ナイフを捨て、拳を構えたミラージュは先程よりも戦意が迸っていた。何が何でも目的を叶えてやろうというギラギラした瞳は、海賊としてそれなりに好感を覚えるものがあった。

 

「かかってこい。手解きをしてやろう」

「……っ、舐めるな! お前こそ自惚れて足元を掬われないようにすることだ!!」

 

 自分の身の程なんて俺が一番知ってるよ。

 ミホークのちょっと下。以上。

 

 ミラージュが剃で俺に突っ込んできた。

 一撃を警戒してか、速度に緩急をつけ惑わそうとしてくる。通常の戦闘スタイルも幻惑とは面白いな。

 

 そして繰り出される拳を、俺はご丁寧に一つずつ捌いていく。

 

「アアアアァァ!!!」

 

「ほい、ほい、ほい、ほい。脇が甘い! 速度に頼るな! 重心を意識しろ! ……っ、そう今だ!」

 

 ナイフを使うより素手の方が強い。いや、意思が力を上回っているお陰で、この土壇場。間違いなく進化していっている。お前は主人公か。

 

 そしてミラージュに触れる度に一瞬クラッとする。戦いに支障をきたすことはないが、能力がほんの少し効いている証拠だ。

 並行して諦めずに能力も使っているのか。

 

「勝つ……っ! 勝つんだ……!! 私にはやるべきことがある……!」

 

「うん、なるほど。分かった──【カムラ】」

 

 トンッ、と指先でミラージュの額を突く。

 

「何を……──っ」

 

 急に力が抜けたようにへたり込んだミラージュは、程無くして意識を失った。

 

 

「何か事情がありそうだし、色々と気に入った。ちょっと誘拐すっか」

 

 周りの人々も催眠から解かれて意識を失っているし、今のうちにトンズラしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※本作、オリキャラ、オリヒロインが登場しますので、そういうのが嫌いな方はブラバお願いします。
結局通常投稿に戻しました()


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5話 

誤字報告機能でアンチコメント送るのだけは勘弁して()

シリアス注意


11 逃亡! 魅惑のストーカー!

 

 人一人背負う──ましてやそれが美女ならば大いに人目がつく。前世だったら通報待ったなしであろうが、ミラージュの悪魔の実のお陰で島民は全員夢の中だ。

 これで後顧の憂いなく、誘拐できるというものである。

 

 誘拐ってか、このまま事情も知らずに帰れないからな。別に催眠にかけられた島民を助けるためだとか、そんな崇高な正義感は抱かない。こんな世界だ。基本、どんなことがあろうと自己責任。運が悪かったで済ますか、身命を賭して抗うか。その二択しかない。

 こう考えると治安の悪すぎる世紀末世界にしか思えない。実際そうだと思うけど。

 まだドレスローザがマシに見えてくるのは気の所為?

 

「よいしょっと」

 

 船の甲板にミラージュを降ろし、腰を伸ばして椅子に座る。島からパクってきた木製の椅子である。やってることが海賊じゃなくて盗賊なんよ。

 てか、海賊の定義ってなんだ……? すごい今更だけど。

 

 

 同じく島からパクってきたジュースを飲みながら本を読んでいると、呻くような声とともにミラージュが起き上がった。

 現状を把握しかねているのか、目は虚ろだ。

 俺の姿を視認すると、バッとその場から後退り油断なく俺を睨みつける。

 

「……なぜ殺さなかった」

「お前の命なんか興味ないね。不殺主義じゃあないが、俺はこぞって手を汚したいとは思えん。質問に答えた後は逃げてどーぞ」

「馬鹿にしているのか……ッ! 負けた相手に情けをかけられる程落ちぶれてはいない!!」

「これはとある人が言ってたんだが……弱い奴は死に方すら選べない……実際その通りだと思うよ。死にたいなら勝手に死ねばいい。その方が情けなくてダッセぇけどな。藻掻いて足掻いて醜くも今を生き抜くことに意味を見い出せないなら、海賊に向いてないと思うぜ。辞めて平和に生きれば?」

 

 馬鹿にしてるんだよ。気づけよ。

 珍しく本心で話してるけども。

 ローがパンクハザード編でたしぎに言った『弱ェ奴は死に方も選べねェ』。これはまさしく金言で、こと実力が全てを制すワンピ世界の真理を突いている。

 血反吐を吐いても諦めずに生にしがみつく。潔さは格好良いわけじゃない。それはただの妥協を開き直っているだけ。

 

 ロジャーは病に臥して海軍に自首をした。

 だが、奴は最後の最後に大きな時代のうねりを生み出す爪痕を残していった。まさに大海賊、海賊王だ。諦めずに死の間際でロジャーは次世代に繋いだ。

 天晴だ。俺はロジャーを尊敬している。

 

 強い奴は死に方を選べる。

 ロジャー然り白ひげ然り、それを体現して死んだ。

 

 ミラージュは涙を流しながら震えていた。

 悔しいのだろう。辛いのだろう。

 だが、そこで慰めれば奴は一生成長することはない。

 

「まッ、事情だけでも話せよ。助ける気は毛頭ねぇけど、敗者は勝者に従う。この世の理だろ?」

 

 ミラージュは変わらずキッ、と俺を睨みつけていたが、渋々といったように話し始めた。

 

「……私が住んでいた島は邪教に染まっていた。島に蔓延する幻覚作用のある煙は人々に都合のいい夢を見せる。意識は泡沫の夢に。体はとある一族が支配していた。そう。マボマボの実の能力を抱えた私の一族だ。その実の能力者は幻覚に対する強い耐性を持ち、自由自在に幻を操ることができた。そしてこの実の恐ろしい特性は、能力者が親から子へ実を介さずに継承していくところにある」

「実を介さずに継承……? そんな悪魔の実があるのか……?」

 

 いや、デッケンのマトマトの実も先祖から受け継いでいた……ような? やべぇ、さすがに細かい部分は曖昧だ。

 

「あぁ。その代わりに先代の能力者は子を産むと確実に死ぬ。だが、奴自身も幻覚に染まっている。子を残して死ぬことが使命だと信じ切っている。それもこれもあのクソ天竜人のせいだ!! 優しかった父親は死んだ母の代わりに私を育ててくれた。だが、奴らは父を目の前で殺し笑っていた……ッ! 幻覚に浸りながらも無意識に私を守ろうとした祖父も額を銃で撃ち抜かれ死んだ……ッ」

「なるほど? お前の一族を裏から操っていたのが天竜人ってとこか。労働力……従順な奴隷の確保……? 用途は多そうだな」

「そうだ。奴らは、産まれた子に実の耐性すらも跳ね除ける幻覚作用のある薬を飲ませる」

 

 段々と分かってきたぞ。

 なるほどね。2億超えにしては弱い理由が分かった。

 能力が凶悪だという理由も当然ながら、ミラージュは世界貴族、及び世界政府に狙われていたわけだ。  

 ロビンと同様に。

 

 

「じゃあ、なぜお前はここにいる?」

「……私は、偶然幻覚耐性が薬の効果に打ち勝った。ゆえに逃げ出すことができた」

「つまり、お前の目的は天竜人の打倒ってとこか」

「そうだ。私は必ずあのクズどもを殺す。楽には殺さない。幻覚で散々地獄を見せ、のたうち回りながら死んでいってもらう。この世に産まれたことを後悔させてやるんだ……ッ!!」

 

 ミラージュの表情は憎しみに歪み、復讐を語る時のみ邪悪に歪んでいた。

 それにしてもやっぱり天竜人ってモノホンのクズだな。クズが権力を持ったのか、権力を持ったからクズになったのか。卵が先か鶏が先か、の論争になってしまうが、大事なのは今のあいつらがクズを超えた極悪非道だということ。

 

「復讐を誓ってんなら、なぜお前は死に急ぐ。どうにか逃げて生き延びることを選択するだろ」

「私は……負ければ弄ばれて死ぬ環境に身を置いていた。私も弄ばれるくらいなら死にたい。大切な両親に産んでもらった大事で貴重な体を守りたかった……」

「ふぅん、誇りか」

 

 産まれた環境が人というものを形作る。

 常に地獄にいたミラージュは尊厳を犯されるならば死にたいと願った。

 俺は諦めれば死ぬ環境にいたから、何をされても最終的に生きていれば良いと思った。

 相交わることはない、これは互いの価値観の相違だ。

 最も、今のミラージュは復讐を再度誓ったようであるが。

 

 この様子を見るに復讐と尊厳の割合は一対一か。

 随分とまあ危うい橋を渡っているものだ。

 

「お前は……強い。紛れもないこの世界の強者の一人だ。どうしてそこまで強くなれた。私には何が足りない……ッ! 復讐のために得た力では強くなれないのか!?」

「知らねぇよ、そんなもん」

「なッ──!」

「足りないピースを他人に見つけてもらえば満足か? それでお前は胸を張って強くなれたと言えるのか? それにバカかお前は。復讐だろうと何だろうと力は力だ。用途がどうであれ自分のもんだろ。復讐が終わろうとその力は残ってる。難しく考えすぎだろ。やると決めたなら突っ走れ。迷ってる時間があれば修行しろ。何をどうしても分からない時は言葉に出さずに行動に移せ。まずはそこからだろ」

「強くなる道標は自分で作るべきということなのか……。私は……」

 

 何やら迷っているようである。  

 まったく……初対面の俺に何を聞いているのやら。

 

 境遇は気の毒だと思わないでもないが、同情は毒だ。経験してないやつが分かる、なんて言葉を発した日には殺したくなるね。

 

「まあ、事情は分かった。俺はお前を海軍に引き渡したりもしないし、殺そうともしない。なぜなら面倒だからだ。それと海軍に行ったら俺もまとめて捕まる」 

「待て、お前も賞金首なのか?」

「三日前くらいからな。新聞は読んだか?」

「ちょうど読めていない……」

「まあ、良いや。俺はジュラキュール・ヨル。これから先会うか知らんが自己紹介くらいはしてやるよ」

 

 手を伸ばすと、おずおずとミラージュはその手を取った。

 ……握手のつもりだったんだけどな。まあいいか。

 

 

「私はミラージュ……いや、本当の名はミラ・ミスリード。恥を忍んで頼みがある」

 

 どうやら偽名だったらしいミラージュことミラは、その場で片膝をつき、頭を下げた。

 

 

 ……猛烈に嫌な予感がする。

 

 

「私を弟子にして────「断る!!」なぜだ!!」

「なんでそんな面倒なことをしないといけないんだよ! 俺にメリットがないわ。もう少し強ければ結成予定の海賊団にスカウトしてたかもしれんけど、生憎お前弱いしな」

「ぐっ……だが、強くなるための道標を見つけろと言ったのはお前だ! その発言の責任を取ってもらおう! 私はお前のもとにいれば強くなれる気がする!」

「お前の道標に俺を巻き込むんじゃねぇ……! 足手まといを連れていけるかよ!」

「ならば私が強くなれば良いのだな!!??」

 

 何を言ってんだこのスカポンタンはよォ……。

 ロリロリしい見た目通り頭まで若返ったん? さっきまで俺を睨んでたでしょ、あんた。

 

「とにかく嫌だね。俺じゃなく他を頼れ! ほら……えーと、海賊王の元副船長のレイリーとかさ!」

「そんな大物の所在が分かるわけないだろう! それに私が強くなるためのピースはお前だ! ヨル!」

「知らん! 俺は──逃げるぞ!!」

 

 頑固者のミラには何を言っても無駄だろう、と砂浜にミラを投げ飛ばす。

 

「ふぎゃっ──何を……って逃げるなあああ!! 逃げるな卑怯者おおお!!!」

「さっきまでシリアス顔してたやつが急にギャグ線に移行してんじゃねえええ!!」

 

 俺は大急ぎで船を発進。  

 後ろでわーきゃー騒ぐミラを置いて俺は逃げ出した。

 

 

「絶対に諦めないからな……ッ!!」

 

 

 あーあー、聞こえなーい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ストーカー1名ごあんなーい

ヨル やらかした人
今回は煽りが結構冴えていたのに余計なことを口走ったせいで、変なストーカーに追われることになった。

ミラ 天竜人絶対殺す系ロリ。
ヨルに運命(恋愛的な意味ではない)を感じストーカーに変貌。最もこのままじゃ弟子にも仲間にもなることはできないので、えげつない修行を決意。
次の再開は◯◯◯◯◯◯◯◯になる。いったいどれほど成長するのか。



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6話 海賊らしく

やっとゴタゴタが落ち着いてきた……
投稿期間に空きはあれどエタらないから安心してくれぃ…


「困った。金が無い」

 

 ミラのいた島から逃げ出した俺だが、奇跡的にログが溜まっていた。あんな短時間で溜まるとは思っていなかったが、ここはまあご都合主義展開だと自分を納得させるしかあるまい。

 

 出航して数時間。

 冒頭の言葉へと戻るが、俺は所持金が皆無に等しかった。

 船内にある物を売れば少しばかりの足しにはなるだろうが、生憎と食糧重視のため端金にしかならないだろう。 

 

 この船の耐久性も些か不安が残る。

 壊れた時、俺はエネルギーを取り込みながら月歩で空中を歩く他手段がなく、またそれも何時間続けられるか不明である。

 海にポチャっと着水すれば、俺は瞬く間に溺れて死ぬ。

 一部、海に落ちても息してる化け物がいるけど、あれは例外。そもそもパラミシアじゃ無理だと思う。

 

「次の島で色々補給したいし金が欲しい。……海賊らしく海賊から奪うか」

 

 俺の中の海賊のイメージは、民間人を襲う極悪非道なものではなく、海賊が海賊から宝を奪う。もろワンピース世界線だ。全部が全部じゃないし、ほとんどは確りと犯罪者だが。

 なんだろうなぁ……手配されてる時点で犯罪者なんだけど、元日本人としての価値観からか清廉潔白を演じたくなる。

 

 甘いんだろうねぇ。そんなことしたいなら海軍にでも行きやがれって話だし。

 だからと言って組織に縛られたいわけじゃない。

 価値観に縛られてるあたり完全な自由は不可能っぽいが。

 

「グダグダ考えても仕方ねぇか。海賊がきたら考えよう。海軍が来たら……いや、そこからちょっと拝借すんのもありか」

 

 海軍って上と下の意識の差がありすぎて最早別組織なんじゃねーか、疑惑があるからな。上も好き好んで天竜人に従ってるわけじゃない。ガープとかセンゴクとかゼファーとか。

 

「あの少将大丈夫か……? 露骨に正義感あふれてるイメージだけど、天竜人の振る舞いに耐えられんの?」

 

 あの若さで少将。原作にいない理由として、もしや天竜人に逆らって殺されたとかありそうだな。

 

「やっぱ害悪だわぁ……海賊よりたち悪いぜ……」

 

 己の機嫌次第で人の命を弄ぶとか、悪の化身に爆弾のスイッチ渡してるようなもんだ。

 

 と、まあ胸糞悪い思考をしていると、前方から一隻の船がやってきた。

 

 ご丁寧に海賊旗が掲げられている。

 模様に見覚えはなく、一応確認している億超え懸賞金襴にも記憶がないことから木っ端海賊団だろう。

 大概人のこと言えないくらい俺もクズの沼に片足突っ込んでる気がするな……。

 

「さて、やりますか」

 

 気合いを入れたのは良いが、船が近づくと俺が攻める間もなく、開戦の合図は無数の銃弾だった。

 

「おいおい、こんな小船に載ってる奴に随分と全力で攻めるじゃねぇか」

 

 船を傷つけられたらたまったもんじゃねぇ、とエネルギーの奔流を起こし銃弾全てを吹き飛ばす。

 パラミシアに属しているエネエネの実だが、能力の本質はロギアに近い。自然に存在するエネルギーを操れば、風を起こすことも炎を発生させることも容易いのだ。

 最も自然現象を引き起すだけあって、かなりの低威力だが。

 風は弾除け。炎はマッチ棒程度にしかならない。

 

 俺は小船からガレオン船に乗り移る。

 

「「な、なんだ……っ!?」」

 

 急に飛び乗ってきた俺を見て、海賊団の船員数名がたじろぐ。

 

「ひーふーみー、と……20人くらいか。でかい船の割には小規模の海賊団だな」

 

 口笛を吹きながら人数を数えていると、油断なく銃を構えた海賊の一人が叫ぶ。

 

「だ、誰だてめぇは!! 俺たちがトロル海賊団だと知っての狼藉か……!?」

「誰だてめぇは、ってこっちのセリフじゃボケ。船旅中に容赦なく弾丸の雨を降らしてきやがってよォ……。あぶねぇだろ!」

「「「いや、全部避けたお前が言う!?」」」

 

 敵ながら天晴なツッコミだ。

 ワンピ世界らしい緊張感の無さ。うーん、良い。

 

「トロル海賊団だかチロルチョコだか知らんけど、攻撃仕掛けてきたってことはやり返してもいいよな……?」

「「……っ!?」」

 

 ニヤリと笑みを深めてほんの少しだけ覇王色の覇気をぶつけると、船員らは微かに手足を震わして銃を構える。

 

「う、撃っちまええええぇ!!」

 

 恐怖に耐えかねたように発泡された銃弾を皮切りに、多種多様の飛び道具が飛び交う……って誰だバナナ投げてきたやつ。

 

「最初に効いてない、って分かった時点でやたらめったらに撃つのは愚策だろ。思考できる脳みそあるぅー?」

 

「っ、舐めんな!」

 

 一人、また二人と剣を抜いて襲いかかってきた。

 どうやら銃から肉弾戦へと切り替えた様子。

 

 複数人が俺を取囲み、一斉に剣を振り下ろした。

 

 

 ……おー、あのシーンが再現できそうだな。

 

 

 俺を笑いながら剣を抜き──無数の剣をたった一本の剣で防いだ。

 

 

「な、なんだ! 何をしやがった!!」

「剣が動かねぇ……ッ!」

 

「馬鹿だなお前ら」

 

 最も三刀流ではない俺は、方向とリーチもあって完全に防ぎ切ることは不可能である。

 だから、一合交わして覇王色を剣に流した。

 微かに黒い稲妻が空間を歪ませるが、手加減しているので精々体が硬直するだけ。

 剣が動かねぇ、ってのは単に恐怖で動いてないだけだ。

 

「無双……気持ちいいいいいぃぃ!!! アーハッハッ!!!」

 

 よし!

 

「飽きた!」

 

 途中から面倒になったから覇王色で全員気絶させた。

 効率重視じゃないから最初からそれやれよ、とかは勘弁。

 

 てか、俺の情緒がやべぇ……。

 自覚できるほど不安定だぞ、俺。

 

 世のチート転生者はこんな無双を繰り返してイキってるのか。飽きるだろ。確実に。

 最初は優劣感に浸れて楽しくてもずっと雑魚狩りだと剣の腕が錆びて仕方ねぇ。あくまで俺は鷹野郎と決着を望んでいる身。無双は程々にしたい。

 

「あ、その代わりに煽りの実力上げようと思ったのに……」

 

 

 微かに落胆していると、船の中から大柄な男と一般海賊A(モブ)が現れ、死屍累々(死んでない)の部下と高笑いする俺を見て、大柄な男の額の血管が浮き出る。

 

 お、キレてるぅ!

 

「何してんだおまェ!!!!」

 

 それお前のセリフじゃねぇぇ!!

 お前みたいな【悪】しかしてなさそうな海賊団の長が言えねぇ神聖なセリフだぞ、おい!

 

「つか、何してんだ、って見りゃわかんだろ」

「お、お前何したか分かってんのか!? ここにおわす方は懸賞金8000万ベリーのツキノワ様だぞ!!!」

「いや、誰だよ」

 

 知らねぇよ。

 モブ海賊のセリフに思わず素面で返した俺だが、それが更に男……ツキノワの怒りに触れたのか、腰に差してあるサーベルを抜き放った。

 

「おィ……てめぇが誰だか知らねェけどよォ……。俺の仲間に手を出されちゃァ逃がせねェんだ。今まで舐めてきた奴は全員ぶっ殺してきた。泣く子も黙るツキノワ様とは俺のことよォ……!!」

「うーわ、すっごいフラグ。大概1話か2話あたりに登場するかませと同等だぞ、お前」

「あ゙あ゙ぁ゙!?」

 

 横にも縦にも長く太い男はそれなりに人殺しの経験があるらしい。

 ここらじゃ名の知れてる海賊なのかもしれない。俺は知らないが。

 

「てかよ、偉大なる航路で誇れるような懸賞金なのお前? あ、ごめんな。俺、億超えしか覚えてないんだ……。えーと、イキってる雑魚? もうちょっと派手に有名になってから自慢しようね」

 

 ニッコリと警戒心を緩めるように笑ったつもりだったが、顔を真っ赤にしているツキノワを見る限り怒らせてしまったようだ。

 あれれぇー?(茶番)

 

「てめェは絶対ぶち殺す……ッッ!!!!」

 

 怨嗟と憤怒の混じった表情で叫ぶと、ツキノワの身体がグングン大きくなり始めた。

 4mほどだった体躯は今や12mほどになっている。

 

「なるほど、4黄猿くらいか……」

 

 一人で謎の納得中、あれいたの? とツキノワの隣りにいたモブが、ご丁寧に解説をしてくれた。

 

「でたぜ、ボスの悪魔の実……! ヒトヒトの実モデル、トロール! あの体躯に巨人族以上の力が詰まってんだ……! ああなったボスは無敵だ!! はっはー! てめぇの命も尽きたなぁ!」

 

 まさしく虎の威を借る狐。

 狐以下だと思うけど。

 

「よそ見すんなァ!!」

 

 持っていたサーベルも巨大化してるのは謎だが、振り下ろされた鈍色の刃を十拳剣で軽々と防ぐ。

 

「なっ……! ボスの攻撃を片手で!?」

 

 モブの驚愕は無視し、俺はへぇ、と納得した。

 

「あながち巨人族以上の力ってのは嘘じゃないみたいだな」

 

 乱雑な攻撃だったが、威力だけならあった。 

 最も覇気で受ける必要性を感じない程度のものだが、懸賞金以上の実力はある。精々一億程度でも前半の偉大なる航路じゃ良い方なんじゃねーの。

 

「まァ……剣術はお粗末、体躯を活かした攻撃方法も無し。……ただの宝の持ち腐れだね。お疲れ様。負け犬」

 

 いつまでも余裕たっぷりで過ごしてきたんだろう。

 格上と戦ったことが無いと分かる嘲りっぷり。

 

「覇剣」

 

 軽く剣を振り下ろしただけで、ツキノワは空の彼方に吹っ飛んでいった。

 

「グアアアアアアアアアアァァ─────」

 

 

「────ッ!?!?!?!?!?」

 

 

 モブ海賊はワンピ世界の最上級驚愕顔で固まっていた。

 よくバギーが見せるあの表情である。顔にどうなってんの、それ。

 

「海に落ちてなきゃ生きてんじゃね。死んだら死んだで因果応報だろ」

 

 うーむ……清廉潔白ってなんだっけ。

 自分の躊躇いのなさにちょいとビックリ。前言撤回コペルニクス的転回どころじゃねぇな、これ。殺すつもりはゼロだったが。結構手加減したし。

 精々海軍に突きだそうかなぁ──思ったより吹っ飛んだなぁ!? が今の出来事の顛末である。

 

「通り名の技。オサレじゃね、と思って編み出したけど手加減できねぇぞ、これ」

 

「は、は、は、は、覇剣……っ!? 初頭手配2億越えの超ルーキー……!!」

 

「なんだ知ってたのかよ。じゃあ顔で気づけよな、ばーか」

 

「なぜお前がここに……!!」

 

 量産型的反応だなぁ。

 船長がいないだけでこの体たらく。敵討ちとかで斬りかかるだけの度胸と仁義は持ち合わせてないようだ。

 

 

「あー……しいて言うなら……暇つぶしかね」

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




ヨル選手 次回で無双、一時中断の模様


次回はようやく例のお方にご挨拶しに行きます。


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7話 赤色の人

最近ネタにされすぎて悲しいよ……
シャンクス好きなのに…


 思ったより一人旅というのは虚しい。

 転生してから何だかんだ俺の周りには人がいた。ミホークが最たる例だが、ある意味孤独を知らずに生きてきたのかもしれない。

 ミホークの長旅中に孤独味わってんじゃん、ってツッコまれると思うけど、あれは帰ってくるのが分かっていたから孤独ではなかった。

 

 本当の意味での独りは初めての経験である。

 

「うーん、親元から離れて上京した頃の俺を思い出すなぁ……」

 

 開放感たっぷりだったのは最初だけで、途中からはやけにおふくろの味というものが恋しくなったのを覚えている。

 人間、当たり前に気づかないことが当たり前なんだろうよ。

 

 ログに従って航海しているから、次の行き先も何も知らない。

 だからこそ刺激的な冒険感があって良い。暇だけどね。

 

 金はあの海賊から奪ったし、ログポースも幾つか回収してきた。壊れた時が怖いからな。

 

 

「……航海士いないとやばいかも」

 

 最低限の知識は詰め込んだが、それでも本職には大きく劣るため、航海は単に戦闘するより困難を極めている。

 大型船乗ってたら多分死んでるぞ、マジで。

 

 

「お、島が見えてきた」

 

 そろそろ仲間を集めなきゃやべぇかも、と危機感を顕にしているとようやく次の島が見えてきた。

 遠目からでも、かなりの規模がある島だ。

 

 砂漠が大半を占めているが、大きな街がある模様。

 一瞬アラバスタじゃね、と思ったけど多分過ぎてる。

 

 

「お、海賊船あるじゃん……って、ん? なんか見たことある気がする」

 

 船首がドラゴンっぽくて、口の空いたドクロの海賊旗。

 なんかで見たことあるんだよな。となれば最早うろ覚えの原作知識。

 大まかな展開はメモしててもさすがに海賊旗は知らねぇわ。

 

「口の空いたドクロ……船首が赤いドラゴン……赤髪のシャンクス……? いや、違うか?」

 

 そんな偶然は無いだろ。

 きっと原作の誰かの船だ。とりあえず近づいてみよう。

 知ってるキャラなら挨拶したいし。本音を言えばお近づきになりたい。変な意味でなく。

 

 

 

 港に船を停泊させる。

 初めて辿り着いた島の島民は全員あいつによって催眠状態に陥っていたため、しっかりコミュニケーションを交わすのは初めてかもしれない。

 見る限り街は活気づいていて地雷要素は見当たらない。

 

「へ〜、結構でかいなぁ。金はあるし食料補給がてらログが溜まるまで探索するかぁ」

 

 島一つが街、という規模ではないものの、そもそもの島自体が大きいため広く感じる。

 ウォーターセブンよりちょっと小さい程度? 多分。

 

 近くに停めてあった例の船を横目に、俺は街に繰り出す。

 

 

 そこで出会った。

 

 

 

 

 

 

「赤髪やんけ!!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 食料補給と散策を終えた俺は、船に荷物を積み込みながらため息を吐いた。

 

「まさか本当に赤髪とはなぁ……」

 

 これは挨拶するしかあるまい。

 師匠がお世話になりました、と。

 いや、俺が言うべきことではないけどさ。

 単純に人柄に興味があるとも言える。原作じゃあ、好感度とともに謎も深まっていく人物だからな。

 登場シーンは少ない方なのにあれだけ人気が高いのは流石よな。

 

「さて、出航準備は終えたし挨拶……うーむ、普通に挨拶するんじゃつまんねぇし、どうしよ」

 

 赤髪の船に乗り込んで待ち構えるか?

 ありかもしれん。船員が何人かいると思うが、幹部級じゃなければ覇王色で……いや、赤髪の覇気に慣れてるし無理か?

 てか、覇王色に慣れるとかなくね。

 

 まあ、良い。

 

 俺はピョンとジャンプして赤髪の船に乗り込む。

 運良く甲板には誰もいない。クソ雑魚見聞色の俺じゃあ船員の人数なんて把握できないし。

 

「持ってきた椅子に座って、と。よし。これぞ自由人ミホークスタイル」

 

 人様の船で寛ぐという他人の気持ちを推し量らない自由人スタイルで待ち構える。

 

 あー、なんかいいな。四皇の船で寛ぐという圧倒的優越感。

 

「眠いな……」

 

 今日は天気も良いし、夏島らしきこの島の気候は温暖で湿度もそう高くない。バカンスには持って来いの島だろう。

 昨日は夜中に海王類に起こされたせいで寝不足気味だし、眠気が襲うのも仕方ない。

 

 徐々に降りていくまぶた。

 俺はものの数秒で意識を失った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 ガヤガヤと騒がしい声で目が覚めた。

 

「お頭ァ! おれたちの船がいつの間にか乗っ取られてねェか!? しかも呑気に寝てやがる!」

 

 パチッと目を開く。

 特徴的な声で笑いながら話すのは、赤髪海賊団のラッキー・ルウ。

 ポッチャリ体型がチャームポイント。緑と白のストライプ柄を好む、いつも骨付き肉ばっかり食ってる男だ。

 ラッキー・ルウのおどけたような言葉に、周りの船員たちはゲラゲラと笑う。

 嘲りというよりも、彼らの目には余裕が見て取れた。

 

 だが、ラッキー・ルウを始めとした幹部たちは笑いつつも警戒しており、ベン・ベックマンに至ってはいつでも銃を抜ける体勢でいる。

 確実に覇気を込めた銃弾だろうし、対策せずに受ければ軽く風穴が空くだろう。

 

「お、目が覚めたようだな。ここはァ、おれ達の船なんだが……いったい何の用だ?」

 

「赤髪のシャンクス……」

 

 船員を割って現れたのは、四皇、赤髪のシャンクス。

 漫画ではふざけたところか、格好良いところしか見たことがない。

 赤髪も俺を警戒しているようだが、威圧感が全然違う。

 覇王色を発していなくとも、こいつは何だか違うと感じさせるだけの圧がある。これぞカリスマ。王の資質だろう。

 

 ……こう考えると何で俺、覇王色使えんだろうな。

 そこはとやかく考えても仕方あるまい。

 今は対話に集中せねば。

 

 

「えーと、本当は余裕ある感じで待ち構えようとしたんだけど、天気が良すぎて寝ちゃった。……用事はあるぞ、うん。挨拶だ」

 

「……」

 

 その一言で、船員数名が剣を抜き放ち構える。

 赤髪も『グリフォン』の刀身を見せつけるように半分ほど抜く。

 

 奇しくもエースがやってきた際の原作シーンの再現に成功したわけだが、エースと違ってルフィと幼なじみなわけじゃないし、海賊的な意味合いを持つ『挨拶』も数合交わしたい願いもある。

 

 ……まあ、人数が多いわな。

 

 俺は覇王色の覇気を四分の一ほどの力で解放した。

 

「「覇王色……ッ!?」」

 

 船員の何人かが正体に気づき驚きの声をあげるが、数秒後には気絶する。

 

「へェ……」

 

 赤髪は興味深い視線で俺を見るが依然として警戒は続けている。俺の覇気を受けて微動だにしないとは。まあ、当然か。

 

 

 数秒経って立っていたのは、幹部数人だけだった。

 下っ端は漏れなく全員気絶したようで、ようやく話せる。

 

「……敵意を持って攻撃した、と受け止めても構わないか?」

 

「いや、少人数で話をしたかった。挨拶ってのはあながち間違っちゃいないが、別の意味もあるわけだ」

 

「船員を気絶させてからは虫のいい話なんじゃねェか」

 

 ベン・ベックマンが飄々と煙草を吸いつつ言う。

 俺もそう思う。まあ、でも海賊らしくて良いじゃん? っていう俺の都合よ。

 

「赤髪のシャンクス。一合、手合わせを申し込む」

 

 剣を抜く。

 黒刀に染まる刀をちらりと一瞥した赤髪は、僅かに眉を顰める。恐らく、この刀の価値が相当に高いことを理解したのだろう。

 

「お頭ァ、あっちが先に仕掛けてきたんだ。従う必要は「分かった、良いぞ」……って言っても無駄か」

 

 忠言の最中に赤髪は了承した。

 ベックマンも聞き入れるわけがないか、と途中で思ったのか苦笑して煙草を取り替える。

 

 

「随分親切なんだな」

 

「お前に似てる知り合いがいてな」

 

 俺はニヤリと笑う。

 似ても似つかないような気がしてならないが、本質はまああれだけ一緒にいれば似るかもしれない。

 

 赤髪は愛剣グリフォンを抜き放ち、覇気を込める。

 しっかり覇王色も纏っているあたり相当本気なようだ。それじゃなきゃ面白くない。

 

 

 いつの間にか周りは静まり返っていた。

 赤髪の幹部たちは、少し離れた場所でじっと成り行きを見守り、その目には自分の頭が負けるなどとは微塵と思っていないだろう。それが海賊団の頭であるということだ。

 

 

 ──手加減の必要はない。かと言って技のすべてを出し尽くすわけじゃあない。それは赤髪も同様のこと。

 

 

「──行くぞ」

 

「──来い」

 

 

 足を踏み出す。甲板が抉れるのも気にせずに、俺は超人的な動きで赤髪に向かって走る。距離はもうない。剣が交わる時も近い。

 

 俺は覇気を込め、技術と培った力全てを使用して集大成とも言える技を繰り出す。

 

 

「覇剣……!!」

 

「ネメシス」

 

 互いの技は触れることなくその場で静止する。

 バリバリと赤黒い雷が天を舞い、頭上に浮かぶ雲を真っ二つにした。力と力。技と技。全力で覇気を込めた俺の剣は赤髪のサーベルによって止められてしまった。

 

「呆気なく受け止めやがって!」

 

「これでも余裕はない……ルーキーにしちゃあ嫌に強いな……!」

 

「師匠が良かったもので!」

 

「だろうなぁ」

 

 のほほんと言葉を交わす赤髪だが、言葉通り余裕はないらしい。

 互いに本気を出していないが、それでもヒヤリとくるものはあったようで、赤髪の額には微かに汗が浮かんでいる。

 

 ……予想以上に強い。いや、詰めが甘かった。

 そもそもミホークと同等な時点で弱いわけないか。

 

 理解できた。

 仮に殺し合いをするならば、俺は勝てない。だが負けもしないだろうと。

 ()()()

 

 単純な話だ。

 片腕を失くして日が浅い。ただそれだけの話。

 あと数年もすれば調整は済むだろう。その間に俺がどれだけ強くなることができるかが分水嶺だ。

 

「くっそ、片腕失くしてこれとか自信失くすわ」

 

「本気を出していないくせによく言う。……もういいか?」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 俺たちは剣を収める。

 周りを見渡せば船は結構傷ついていた。やっちまったとは思うが、壊したのは赤髪も同じなので責任は全部擦り付けよう。うん、しゃーない。

 

「それで。お前は鷹の目の弟子か?」

 

「ん、まぁね。こっちも師匠からよく聞いたぜ。赤髪のシャンクス」

 

「あいつがおれのことをな……。頓珍漢だの莫迦者だとか好き勝手言われてそうだ」

 

「当たらずとも遠からず。腕失くした頃は荒れてたぜ。お陰で修行がきつかった」

 

「そりゃ悪いな。だが……この腕を失くしたことは誇りに思ってるさ。お前のような若い世代におれは……おれ達は賭けてきたんだ」

 

 打って変わって朗らかな空気の中、赤髪は快活に笑って語る。

 懐かしむように見上げながら語る赤髪に嘘はない。謎多き彼でも、やはり自身の片腕を失くしてまで賭けたルフィのことを誇りに思っていた。

 これは人気が出るわけだ。イケメン腹立つ。

 

「言っても年食ってるわけじゃないじゃん」

 

「まァな。だが十年後はどうだ? いずれ来る新時代をおれは待ち望む……!!!」

 

 随分先を見据えてやがるって言いたいわ。

 こんな時から考えてたのか。そりゃ「来たかルフィ」とも言うわ。すごい待ち望んでそう。

 

 さて、と俺は赤髪の船を降りようとした。

 用事は済んだ。また旅を続けなければならない。

 

「まァ、待て。折角来たんだ。酒でも飲んで行け」

 

 肩を掴んで引き留める赤髪に、一応敵なのにな、と苦笑しつつ引き返す。

 

「はぁ……オレンジジュースはあるか?」

 

「「「飲まねぇのかよ!!」」」

 

 幹部含めた赤髪のツッコミを聞きながら、今しばらくは享楽に耽けようと笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シャンクスの技名はオリジナルです。
ミホークみたいにゲームの技を使おうかと思いましたが、グリフォン使ってるしネメシスで良いや的な感じで決めました。


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原作キャラの遭遇確率が高い件

あけおめです


 赤髪のシャンクスと剣を交わして数週間が経った。

 

 相変わらずの一人旅で暇極まりないのだが、鍛錬は欠かしてないしちょくちょく海賊船を沈めたりして楽しんでいる。

 正直ワンピース読者だった時に『暇で船切ったり海軍ぶっ潰したり何してんだこいつ』とミホークのことを悪く言っていたけれど、最近は同じ思考にあるせいで何とも言えない。

 

 広い海に一人とか暇なんだよ。

 やることが鍛錬くらいしかない。

 

「原作キャラに会えたのはミーハー的思考で嬉しかったけど、旅の合間が暇なのは変わらねぇんだよな」

 

 強くなる自分に充足感を得ることはモチベーションに繋がるしまあ良い。

 だが、娯楽に溢れていた現代世界から転生した弊害か、体が快楽(他意はない)を求めている。

 

 なんかアホみたいに科学が発達してる島とかなかったっけ?

 そろそろ原作知識が通じなくなるな、マジで。覚えてることが原作キャラと大まかな歴史くらいしかないぞ。

 

「俺がいることで変わる歴史……あるかもしれないな。世間に名が知れてる以上、変に楽観的なのも自分の首を絞めかねる」

 

 現に俺が知らない癖の強いキャラもいることだし。

 

 ワンピースのパラレルワールドとして考えたほうが良いかもな。

 

「よし、鍛錬するか」

 

 

 海は広い。

 

 全力で覇王色プッ放そうが、武装色全開で斬撃飛ばそうが犠牲になるのは海王類くらいだし問題ない!

 

 

「折角ならどれくらい斬撃が飛ぶのか実験してみるか」

 

 まあ、憂さ晴らし兼実験だ。

 前述の通り海は広いし大丈夫だろ。

 

 俺は腰に差していた十拳剣(とつかのつるぎ)を抜き放ち、エネエネの実の能力までも使い、刀身を暁色に染め上げる。

 

 武装色よし、覇王色よし。

 

 ミホークと相打ちに持ち込んだ原初の技も、鍛錬を重ねたことで威力は格段に上がったに違いない。

 

 

「暁……ッッ!!」

 

 

 全力で覇気を込めた斬撃は濃いオレンジ色をしていた。

 バンッ……! と空気を割ったような衝撃波が船と海を揺らし、斬撃は遥か彼方へ吸い込まれるように飛んでいく。

 

「ふぅ……。かなり飛んだな。これじゃあどこまで飛んでいったか判らないじゃん。ヤバい見聞色使えるなら別だけど生憎とカスだしな」

 

 間合いの決められた見聞色。

 それ、なんて流水制空圏ですか? と言いたくなるようなスペックだが、レイリー然り見聞色というのは人それぞれ違いがあるようだし気にしないのが一番。

 

 

 と、自虐混じりの思考をしていると、遂に俺の放った斬撃は水平線の彼方へと速度を落とすことなく消えていった。

 

「……まあ、めっちゃ飛んだってことで良いか」

 

 有象無象には使えそうかな。飛距離稼げば威力落ちるし。

 当時は頂上戦争でミホークが氷を斬撃で斬ったことに盛り上がっていたが、あれはまさしく力の一端に過ぎないと身に沁みて分かった。

 あれくらいは覇気を覚えれば大抵の人間はできる……とまでは言えないが、物に纏わせて射出する技術を会得できれば可能な技だ。

 

 

「さて。憂さ晴らしも済んだし航海の続きと行きますか」

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 同時刻。

 

「お、オヤジぃ! なんかオレンジ色の物体が猛スピードで来ますぜぇ……!?!?」

 

「……グラララ。最近のガキは礼儀がなってねェな」

 

 モビー・ディック号

 

 その船を知らぬ者はこの海にいない。

 

 海賊王ゴールド・ロジャーと肩を並べる大海賊、エドワード・ニューゲート……またの名を白ひげ

 

 乗組員……白ひげの息子の一人の焦る声に、白ひげは笑いながら立ち上がる。

 自らの得物である薙刀『むら雲切り』を持ち、迫る斬撃に向かって構えた。

 

「お、オヤジぃ!」

 

 息子の悲鳴混じりの声に呆れつつも、白ひげは黒く染まった『むら雲切り』をオレンジ色の斬撃にぶつける。

 瞬間、響く轟音と衝撃波。

 力と力のぶつかり合いは、当然のように大海賊に軍配が上がった。

 

「覇王色を纏おうがおれに挑むのは百年早ェ」

 

 その一言とともに振りぬかれた『むら雲切り』によって、斬撃は呆気なく霧散した。

 

 フンッ、と鼻を鳴らしながら、白ひげはつい数日前に聴いた報告を思い出す。

 

 

「剣豪の弟子か。噂なんざ当てにならねェな」

 

 その声音に含まれていたのは侮蔑ではない。

 微かな称賛だ。

 白ひげは数日前に、赤髪と戦ったジュラキュール姓を名乗るルーキーが、呆気なく敗れて散った、という噂話を耳に入れていた、

 

 無論、それを真に受ける白ひげではないが、ルーキーが調子に乗って名の知れた海賊に挑んで敗れることは日常茶飯事だった。

 噂の大方は合っているのだろうと判断した白ひげだったが、斬撃を放った人物がヨルだと把握した上で実力を見誤っていたことを認識する。

 

 

 白ひげは迫る時代の変革を感じながら、斬撃を弾き返した一件を見てやってきた息子たちに向かって声を張り上げる。

 

「グラララ……! おい、お前ら! 白ひげ海賊団が舐めたままじゃいられねェ……! 調子に乗った小僧にお灸を据えてやろうじゃねェか!!」

 

「「「うおおおおおお!!!」」」

 

 そうして再び運命は変わる。

 ヨル・ジュラキュールという何も考えていないアホのせいで。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「え、なに白ひげの船じゃん。しかもなんかこっちに来るし……撃ってきたァァ!!?!! アイェー!? ナンデ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短めですまそ


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