【完結】お菓子作りが得意なトレーナーと、無慈悲するマヤノトップガン (出遅れ系トレーナー)
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クラシック3冠編
落ちこぼれ新人トレーナー


『マヤノトップガン、見事3冠達成!今ここに、最強のウマ娘が誕生しました!』

 

 

コネも実績もない私が、ここトレセン学園に採用されたのは奇跡だったといっていい。たまたま採用担当の職員が流行り風邪で体調不良を理由に欠勤、たまたま理事長である秋川やよいが直接採用面接をすることになった。そして、たまたま彼女のお眼鏡にかなったがために、こうしてトレセン学園のトレーナーとして勤めることが出来ているのだから。

 

 

「トレーナーちゃん、やっほ~!あれ~?何見てるの~?って。また菊花賞のレース映像見てたの?」

 

 

自室でレース映像を見ていると、担当ウマ娘であるマヤノがノックもせずに入ってきた。そして私の膝の上に乗り、私の腕を彼女の体を抱きしめるように絡ませた。傍から見たら少女を抱きしめている犯罪者だが、腕をほどこうとするとマヤノは機嫌が悪くなってコンディションが下がるので仕方ない。そもそも私はマヤノのことをすごく好きなので、問題ないけどね!

 

 

「トレーナーちゃん、何度もそれ見てるけど、そんなに面白いかな?」

「マヤノにはわからないかもだけど、私にとってはすごく大切なんだよ」

「ふ~ん?やっぱりマヤにはわかんないや。そんなことよりトレーナーちゃん!今日はケーキないの?ケーキ!」

「ケーキか。ケーキはないなあ」

「え~!?ぶーぶー!!!」

「なんでそんなにぶーたれてるんだ…そもそもダメになりやすいケーキを常備してるほうが変でしょ。女性トレーナーやたづなさんとかならともかく、私は男だし。まあそれはそれとしてプリンなら作り置きしてあるのが冷蔵庫に入ってるよ」

「プリン!?やったー!」

 

 

よいしょと私の膝から降りて、マヤノはプリンを探しに行った。思えばマヤノとの出会いも、たまたまだったなあ。

 

 

────────────

 

 

 

『トレーナーさん。スカウト、うまくいってないみたいですね』

『あ、たづなさん』

 

 

トレセン学園に就職して半年、私は絶不調のさなかにいた。理事長の一声で採用されたようなもので、普通に面接試験受けるトレーナーなら持っているであろうコネ、つまり親戚の実績というものがまるで無いからだ。誰だって実績も信頼もなく、今までに担当したウマ娘がひとりもいないトレーナーなんかについていきたいとは思わないだろう。

 

 

『私としては、理事長が直接会って採用した方ですので、是非とも頑張っていただきたいのですが…さすがに半年間成果なしとなると』

『本当に申し訳ありません…』

 

 

たづなさんにサポートしてもらって、事務作業の傍ら模擬レースが終わった後などでスカウトはかけているのだが、現実はそう甘くなかった。サブトレーナーとして経験を積めるようなコネもなく、毎日スカウトを試みては断れる日々。心がすり減っていくのは当然だった。

 

 

『ああ、攻めているわけではないんです。トレーナーさんが常日頃から努力しているのは知ってますので。…そうですね、たまには気分転換でもしてみたらいかがでしょう』

『気分転換、ですか?』

『ここにチームで使える部屋の鍵があります。今は空き部屋なんですが、これをお貸しします。トレーナーさんはまだ入ったことなかったですよね?雰囲気を知ってみてはいかがでしょうか』

 

 

そう言われ、たづなさんに渡されたのはオレンジ色の装飾のついた鍵だった。これがあればチーム部屋の空いている部屋に入れるという。

 

 

『もちろん、無理にとは言いません。ですが、チーム部屋の雰囲気を知ることで何か得られればいいなと』

『…そうですね。ありがとうございます、たづなさん。早速行ってみます』

『あ、鍵は103号室のものですので!』

『はい、わかりました』

 

 

103号室なら1階か、階段を上がらなくて済むのは助かるな。なんだこいつって目で見られなくて済むし。

 

 

『あれ、鍵が開いてる』

 

 

部屋に着いてドアノブをひねると、ドアはそのまま開いた。前回誰かが借りたときにかけ忘れたのだろうか。チーム部屋は小さな机と椅子が1つずつとロッカーが5つ並べてあるだけの簡素な部屋だった。ミーティングルームとしても使うからだろうか、そこそこ広さはあるが。

 

 

『いつかはここでトレーナーとしてやっていきたかったけど…悔しいけど私じゃ無理か。最後にいい記念になった。たづなさんには感謝しないと』

 

 

この光景を忘れないように目に焼き付けつつ、部屋を出ようとした時だった。

 

 

『ぐあっ』

『すくらんぶる~☆』

『いたたた。いったい何が…』

『やっと会えたねトレーナーちゃん』

 

 

ドアに弾き飛ばされた私がなんとか顔をあげると、オレンジ髪のちいさなウマ娘が。おかしい、今は授業中だった気がするんだが。

 

 

『というかトレーナーちゃん、やっぱり今回もスカウトうまくいってないみたいだね。でもだいじょーぶ!マヤがいっしょにいてあげるからね!』

『え?いきなり何を…というか君は?』

『まあまあ。細かいことを機にしたら負けだよトレーナーちゃん!専属契約には書類がいるんだよね?ほら、早くたづなさんのところに行こう?それとも、もしかしてマヤが担当ウマ娘じゃ嫌だった?』

『お、押しが強いうえに、話が急すぎる…でも君みたいにかわいいウマ娘が私の担当になってくれるって言ってもらえるのはすごく嬉しいな』

『かわいいだなんて~えへへ~』

 

 

めっちゃ照れてるぞこの子。本当にかわいい。まだ名前知らないけど。

 

 

『…でもいいのかい?こういっちゃあれだけど、私には実績も何にもないよ?』

『ん~?それに何か問題あるのかな。マヤはトレーナーちゃんだから、マヤのトレーナーちゃんになってほしいんだ。ダメ、かな?』

『うっ!!!!』

 

 

オレンジ髪ウマ娘の上目遣い!きゅうしょにあたった!こうかはばつぐんだ!いちげきひっさつ!私の遠慮はたおれた。

そして、彼女に連れられてたづなさんのところに行き、あれよあれよという間に彼女、マヤノトップガンとの専属契約が決まったのだった。

 

 

 

 

 



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ご褒美を所望するマヤノトップガン

『マヤノトップガン!1等星の輝きを見せ、クラシックへと繋がる道へ第1歩を踏みだした!』

『勝ったのはマヤノトップガン!皐月を制し、3冠の1角を手に入れました!』

『マヤノトップガン!ダービーを制し2冠達成!そして秋の京都へ伝説は引き継がれていく!』

『マヤノトップガン!見事3冠達成!今ここに、最強のウマ娘が誕生しました!』

 

 

まず言わせてもらう。なんだこれは。何が起きているんだ。

マヤノは私が特に何かを指示するでもなく自分でトレーニングをして、レースも自分で出走届を出していた(私はハンコを押すだけだった)。私が何をしたかと言われれば、レースが近づく度に彼女が甘えながらねだってきたデザートを自作し、(彼女が『お願いトレーナーちゃん、あ~んして食べさせて☆』とねだるので、言う通りにあ~んして)食べさせていただけだ。そしたらホープフルSとクラシック3冠を無敗で勝利していた。コネも何もないズブの新人がまさかの3冠ウマ娘のトレーナーだ。まるで意味が分からない。が、なってしまった以上そうなのだろう。

 

 

「ねぇねぇトレーナーちゃん。マヤ、3冠ウマ娘になったんだよ。すっごく頑張ったと思わない?ご褒美があってもいいんじゃないかな~って思うんだけど、トレーナーちゃんはどう思う?(チラッチラッ)」

「え?う~んそりゃそうだよねぇ…」

 

 

私に正面から抱き着いて頭をこすりつけている無敗の3冠ウマ娘。私の担当ウマ娘はなんてかわいいのだ。そしてなんでこんなにも強いんだ。というか、こんなに強いなら私なんて必要ないのではないだろうか?

 

 

「あ~!今トレーナーちゃん、『マヤノには私なんて必要ないんじゃないか?』…とか思ってたでしょ!」

「え。なんで?」

「えっへん!トレーナーちゃんが考えそうなことなんて、マヤにはお見通しなのだ!でもね、マヤはトレーナーちゃんがいないと元気もやる気も出ないから~、居てもらわないと困るの。なんでかっていうと~…きゃっ☆」

「ぐふっ!と、とりあえずご褒美のことを考えようか」

 

 

このままだと萌え死んでしまうので要望を尋ねる。マヤノは、これは食べたし~あれも食べさせてもらったから~…う~んう~んと悩んでいる。そんなに食べさせたことない気がするんだが(出走したレースの直前だから、4回だけだろう)。ただまあ、いつものことでもある。決まるまで頭をなでながら気長に待つことにした。

 

 

「…よ~し。決まったよトレーナーちゃん。なんと今回は~~~~?りんごとぶどうのタルト!とびきり大きいのをホールで!!」

「なるほど」

 

 

10分ほど悩み続けたマヤノが出してきたのは、りんごとぶどうのタルトだった。ちょうど季節のものだから近所のスーパーで買えるだろう。ウマ娘サイズで作るのは多少骨が折れるが、かわいいかわいいマヤノのためだ。腕を振るうしかないな!

 

 

「じゃあ材料を買いに行かないとね」

「うんうん」

「…えっと、降りてくれないと出かけられないんだけど」

「…抱っこしたままってのは?」

「そんな力はないよ!?」

「な~んだ、ざんね~ん」

 

 

 

─────────

 

 

 

そんなわけで、マヤノと手をつなぎながら近所のスーパーにやってきた。マヤノは私と違って有名なので、髪をシニヨンにした上で大きな赤いリボンで隠している。途中サンバイザーをつけたウマ娘とすれ違ったが、持っていたレジ袋の中身が半額シールまみれでギョッとしたのは内緒だ。

 

 

「さーて、お目当てのりんごとぶd『トレーナーちゃん!すごくおいしそうな桃があったよ、桃っ!』あーはいはい桃も追加したいのね。いいよ、それも買おう」

「やったー!」

 

 

ニッコニコで手に取った桃をカートに入れるマヤノ。なんというか、迷いがなかった。後で聞いたら『あれが1番おいしいってマヤわかっちゃったんだもん!』だそうで。

 

 

「ただ流石に3つの果物を同時に配置は味が混ざって難しい。エリアを分けて3種のタルトにしようと思うんだけど、それでいい?」

「うん!すっごくおいしいのを期待してるね、トレーナーちゃん!」

 

 

りんごとぶどう、それに桃。その他タルトを作るのに必要な材料をカートに入れ、レジに向かっている最中だった。小学生っぽい小さなウマ娘がお菓子コーナーで財布と相談しているのが目についた。

 

 

「あう…このままだとちょっと足りない。プリファイお弁当に使いすぎちゃったのかな…」

 

 

どうやら欲しかったものが買えないらしく、それで悩んでいたようだ。私が目を取られて立ち止まってしまったため、マヤノが服の裾を引っ張ってきた。

 

 

「どしたのトレーナーちゃん」

「いや、あの子なんだけど。こんなところにひとりでいるから目に付いたんだ。多分小学生だと思うんだけど、周りに親御さんがいないんだよね」

「どれどれ~?って、フラワーちゃんだ。やっほーフラワーちゃん」

 

 

マヤノが声をかけると、"フラワーちゃん"はこちらに振り向いた。

 

 

「あ、マヤノさん」

「フラワーちゃんも買い物?」

「はい、そうなんです。残念ながらお小遣いが足りなくて目的のものは買えそうにないんですけどね」

「そっかー。フラワーちゃんまだデビュー前だから、お小遣い少ないって言ってたもんね」

「…ふたりは知り合いなの?」

「同学年だよ」

「ですです」

 

 

おいおいマジか。全然同じ年齢には見えないけど…。

 

 

「フラワーちゃんは飛び級だからね。マヤよりも年下なんだ。でも成績はすごく良いんだよ?」

「…答えてくれるのは助かるけど、勝手に心の中を読まないでくれない?」

「むり!マヤわかっちゃったんだもん!というかトレーナーちゃんがわかりやすすぎなんだよ」

「ぐぬぬ」

「ふふっ…おふたりが楽しそうでこっちも楽しくなっちゃいました。デートの邪魔をしたら悪いので、今日はお先に失礼しますね」

 

 

手にしていたお菓子を元の棚に戻し、"フラワーちゃん"は帰っていった。

 

 

「デートだって!マヤたち、ほかの人から見ても恋人同士ってことだね☆」

「そうらしいね。でも担当ウマ娘に手を出したとか言われたらトレセン学園をクビにされるから、あまり大きな声では言いふらさないで欲しいな」

「わ、わかってるよ~。マヤ、トレーナーちゃんに都合の悪いことはしないもん。ただちょっと嬉しくなっちゃっただけで…トレーナーちゃんのばか」

 

 

マヤノの笑顔が曇ってしまった。なんてことだ。全力でおいしいタルトを作って機嫌を直してもらわないと…!

 

 

 

 



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ねんがんのタルトをてにいれたマヤノトップガン

健全です


「ふふ、トレーナーちゃん。こんなにおっきくしちゃって…」

「まあマヤノが頑張ったからね、これぐらい大きくしなきゃ割に合わないでしょう」

「これ、マヤに入るかなあ」

「大丈夫。マヤノならいけるさ」

「わかった。うん…マヤ頑張るから」

「じゃあ行くぞ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「こら~~~!!!トレーナーさん!!!いくら仲がいいからって担当ウマ娘との不純異性交遊は禁止で…あら?」

 

 

ちょっと大きく切りすぎたタルトをマヤノにあ~んして食べさせようとしていたら、何やら慌てたたづなさんがノックもなしに私室に駆けこんできた。そんなに慌ててどうしたんだろう。

 

 

「どうしたんですか、たづなさん。そんなに慌てて?」

「え?あれ?わ、私ったらとんだ勘違いを…し、失礼しましたっ!」

 

 

バタン!と入口の扉を閉め、そのままたづなさんは帰っていた。いやホント何しに来たんだろう。

 

 

「トレーナーちゃん、タルトまだ~~~?」

「あ、ごめんマヤノ。はい、あ~ん」

「あ~ん…ん~~~~~~~おいひい!」

 

 

突然のたづなさん襲来のせいで、マヤノが待ちぼうけを食らってほっぺたを膨らまし始めたので、タルトを口に入れてあげる。途端に笑顔になるマヤノ。うーんかわいい。この笑顔が見たかったんだよ。

 

 

「そういえば」

「ん~?どしたのトレーナーちゃん」

「今年の有馬記念の投票でマヤノが1位だとか。それとジャパンカップへの出走はどうするんだとか言われてるけど、マヤノはどうしたいの?」

 

 

あのシンボリルドルフと同じように無敗で3冠ウマ娘になったマヤノには、ルドルフと同じようにジャパンカップの出走依頼が来ているのだ。日本総大将として海外のウマ娘に負けない強いウマ娘が欲しいらしい。

 

 

「私としてはマヤノが出たいなら反対しないし、出たくないならたづなさんを通してうまい具合に断っておくけど」

「有馬記念は出るよ。せっかく投票してもらったみたいだし、トレーナーちゃんにマヤのかっこいいとこ見せたいからね。でもジャパンカップか~。そっちは別に出なくてもいいんだよな~。来年は出る予定だけど、今年はどうしようかな」

「有馬記念は出るんだね。ジャパンカップに関しても、さっき言ったけどどっちでもいいよ。確か出走する有名なウマ娘はナリタブライアンだとかヒシアマゾンだとか聞いてる…ってマヤノ?」

「トレーナーちゃん、今年のジャパンカップにはナリタブライアンさんが出るんだね?」

「そ、そうらしいけど」

「ふむ…」

 

 

ナリタブライアンの名前を聞いたマヤノが食い気味に聞いてきた。どうした急に。

 

 

「ならやっぱりマヤも出る。あっちは覚えてないだろうけど、負け越してるのは何となく嫌だし」

「え?負け越すも何も、マヤノはナリタブライアンとまだレースしたことなかったんじゃない?あっちはデビューしたの去年だし、マヤノはホープフルとクラシック3冠しかまだ出走してないよね」

「えっ、あっ…今のなし!忘れて!とにかくトレーナーちゃん!マヤはジャパンカップに出ることに決めたから!だからいつも通りあま~いお菓子、用意してね!」

「お、おおう…」

 

 

私の手からフォークを取りあげて残っていたタルトを頬張るマヤノ。ニコニコしやがって。かわいいなあ、もう!

 

 

 

 

 

 

 

 



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増えるウマ娘

「というわけで、新人のニシノフラワーことフラワーちゃんです」

「先日ぶりですね。こんにちは、トレーナーさん」

「……え?」

 

 

突然マヤノが『今日なんだけど、用事を空けて自室で待ってて欲しいの。お願いトレーナーちゃん!』と頼むので、その通り待っていたら…いつぞやのウマ娘"ニシノフラワー"を連れてやってきた。

 

 

「フラワーちゃんって、まだ担当してくれるトレーナーが決まってないんだって。でももう本格化が来てるからメイクデビュー出来る。ってことでスカウトしてきちゃいました」

「スカウトされちゃいました。来年の阪神ジュベナイルフィリーズから始めて、ティアラ路線に進む予定ですので、どうぞよろしくお願いしますね」

「なんでやねん」

 

 

スカウトしちゃいましたされちゃいましたじゃなくてね。確かに知ってる子をスカウトするのが手っ取り早いけど、そんな簡単なノリで…?

 

 

「いいじゃんいいじゃん。それにねトレーナーちゃん。ここ最近、というか私と契約してから誰もスカウトする素振りしてなかったでしょ。たづなさんあたりに怒られてるんじゃない?」

「うぐっ」

「…そういえば、確かにトレーナーさんがスカウトしてるの全然見ませんね。マヤノさんの担当、つまり無敗の3冠ウマ娘のトレーナーさんなら希望が殺到するはずなのに…?」

 

 

フラワーちゃんから物凄く残念なものを見る目で見られてしまった。見るな!そんな目で私を見るなッ!

 

 

「トレーナーちゃんへたれだもん。貫禄ってのがまるでないし、出るタイミング見逃してたんじゃない?」

「あぁ~」

「ちょっとそこ!フラワーちゃん!?あぁ~。じゃないが!?そもそもどうやって書類を作ったんだ。印鑑に加えて本人確認が要るはず」

 

 

マヤノの時もそうだったが、基本的にはトレーナーとウマ娘の両方が揃った上で書類を作成する必要がある。だから本来なら私の知らないところで契約が結ばれるはずがないのだ。印鑑も盗難に遭わないように管理してるし。

 

 

「ああ。印鑑なら箪笥の引き出しの2番目に入ってるのマヤわかっちゃってるし、書類作って理事長のとこに持って行ったら普通に通ったよ」

「理事長~~~~~っ!!!!!!」

 

 

ここにはいない理事長に向けて叫んでしまった。いや酷すぎやろ。

と思ってたら突然クローゼットが音を立てて開いた。

 

 

「見参!私を呼んだか!!!」

「呼んでません」

「そうか!!!」

 

 

そして唐突に現れた理事長はそのままドアから帰っていった。どこから入ってきたんだ。そして今まで待機してたのか?たづなさんあたりも割と神出鬼没だし、トレセン学園はどうなってるんだ。勝手に書類受託してるし…ツッコミが追い付かない!

 

 

「というかさ。フラワーちゃんには悪いんだけど、私マヤノに指導っていう指導してないんだよね。マヤノが自分で自由にトレーニング決めてるし」

「はい、知ってますよ」

「え。じゃあなんでうちに来たの?」

「勝負デザートがおいしくてやる気がみなぎるって聞きました」

「えぇ…」

「事実だからね☆」

 

 

君たちホント…何なの?まあかわいいから許しますけどね!

 

 

 



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領域を見せつけるマヤノトップガン

レース描写難しいしよくわからない。俺TUEEEEEEEEEEなんで見なくていいです(いつもの)


『スタートしまおおっと!?1番人気のマヤノトップガン、出遅れたか!?』

『ホープフルステークスでもクラシック3冠レースでも、非常にきれいなスタートダッシュを決めていた彼女ですが、ここにきて大きく出遅れてしまいました』

『先頭から大きく離されてしまっているぞ!大丈夫か!?』

『今までは前目でレースを運んでいましたからね、徹底的にマークされているのもあって、これは厳しいかもしれません』

 

 

「うわあ、これはひどい」

「…完全に出遅れてますね。実況さんの言う通り、先頭とかなり差が開いてしまってます。マークも厳しいですし、どうするんでしょう」

 

 

フラワーちゃんが加わって1か月後。ジャパンカップに出走したマヤノは…思い切り出遅れていた。今までは先団に付けていたが、今日は後方から2番目を走っている。場内のどよめきがすごいな。

 

 

「やっぱり勝負服を変えたのが悪かったんじゃ…」

「そんなことはないと思いますけど…?」

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

『トレーナーちゃん!マヤね~、勝負服を新調することにしたの!ほらこれ!』

『勝負服を新調…?って、それ勝負服っていうかウェディングドレスじゃん』

『わぁ…。素敵ですね』

『でしょでしょ~?ビューティーさんに作ってもらっておいたんだ~』

『いつの間に』

 

 

くるりと回るマヤノ。かわいい。ティアードは2段、ひらひらしすぎて走りづらいイメージしか湧かないんだけど。

 

 

『その勝負服すごくかわいいけど、そんなにひらひらしてて走れるの?』

『だいじょーぶだよ!こんな感じでスカートの下にスパッツ履いてるから、パンツ見えないもん』

 

 

マヤノがスカートの部分をめくってスパッツを見せてきた。ちょ、おまっ!?

 

 

『マ、マヤノさん!?女の子がスカートの中を見せびらかしちゃダメです!?』

『私は何も見てない見ていません私は悪くありませんクビだけは勘弁してください』

『パンツじゃないからだいじょーぶだよ?ま、それはそれとして。ジャパンカップはマヤの本気をちょっとだけ出して、かっこいい所を2人に見せちゃうから♪期待しててね☆』

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

「…かっこいいところを見せるって言ってたし、マヤノの勝負勘を信じるしかないな」

「ですね」

 

 

レースはそのまま向こう正面へ。マヤノは相変わらず後方から2番目を走っていた。マヤノが興味を示していたナリタブライアンは中団。最後尾はヒシアマゾンか。

 

 

「…なんかおかしくない?」

「何がです?」

「いや、マヤノの前にいた娘がちょくちょくスピードを上げたり下げたりしてるように見えるんだよ。アレで疲れないのかなって」

「え…?」

 

 

マヤノの前を走っている娘が入れ代わり立ち代わりで前に出たり下がったりしている。目くらましか何かの作戦なんだろうか。

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

(撃墜ミサイル、テイクオ~フ☆ってね)

 

 

待ちに待ったブライアンさんとのレース。あの阪神大賞典で負けてからブライアンさんがそのまま引退しちゃって、今まで再戦の機会がずっと無かったけど…ようやくその機会が巡ってきた。今日は勝たせてもらうよ。

 

 

『2番上がっていきます!おおっと?4番も上がっていくぞ!』

『掛かってしまっているかもしれません。冷静さを取り戻せるとよいのですが』

 

 

「チッ、なんだこいつらは。さっきから周りをウロチョロと」

「…ふふっ」

「うわぁ…えげつない」

 

 

ネイチャちゃんがものすごく嫌そうな顔でこっちを見たけど、ネイチャちゃんは掛かりそうにないので知らんぶり。観客席を見ると、どうやらトレーナーちゃんは気づいたっぽい。そう、私が他の子を掛からせているのだ。エアプレッシャーで掛からせるのは会長さんのお得意戦法らしいけど、会長さんだけが出来るわけじゃないんだよね。

 

 

『向こう正面に入って、先頭は相変わらず9番。レースはよどみなく進んでいます。1番人気のマヤノトップガンも相変わらず後方から2番手の模様』

『今までと違って後方を走らされていますからね。タイミングを取りづらいのかもしれません』

『と言っている間に9番が第3コーナーから第4コーナーへ!』

『勝負所!ウマ娘たちが続々とスパートをかけていきます!』

 

 

「さて、ここからが本番…だよッ!」

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

「なんだこれ。青空…?」

「これは…領域…」

 

 

第4コーナーに入ってマヤノが踏み込んだその瞬間、辺り一面に青空が広がった。

 

 

「マヤのハートをブーケに込めて~。ん~ちゅっ♪この想い、トレーナーちゃんにとどけっ☆」

 

 

『マヤノトップガン、強烈な追い上げ!すごい脚で次々に他のウマ娘たちを抜き去っていきます!』

『そのあとに続いてヒシアマゾンもすごい脚であがってきたぞ!』

『ナリタブライアンは外をマヤノトップガンとヒシアマゾンに塞がれて前が壁!これは厳しいか!』

 

 

「マヤノの加速すごいな。ヒシアマゾンが僅かに追いすがってるけど、どんどん離されてるじゃん」

「強烈ですね。しかもブライアンさんへの囲い込みもすごいです。あれはなかなか出られないです。無理に出ようとしたら斜行で降着ですよ」

 

 

前半で掛からせた子で前に壁を作り、自分が横を走り抜くことで斜行判定で道をふさぐ。そんなことできたのか。

 

 

「本気でレースをしてるマヤノを初めて見たけど、本当にすごいな」

「え?クラシック3冠レースのときも見てたんじゃないんですか?私も映像を見ましたけど、レース中はちゃんと本気に見えました」

「見てたよ。ちゃんとまじめに走ってた。ただ、今までは綺麗にスタート切って先頭に立って、そのまま譲らず実力で押し切ってゴールって感じで、使えるものをすべて使うようなレースは初めてだよ」

「そういえばそうですね」

「たまには本気を出すって言ってたけど、想像以上だよこれは」

 

 

そのままマヤノは逃げていた子を追い抜き、高低差200mの坂の段階では既に先頭だった。

 

 

『マヤノトップガン、強い強すぎる、完全に抜け出した!2番手のヒシアマゾンとの差は9バ身!これはセーフティリード!』

『マヤノトップガン、大差で今ゴールイン!圧倒的な実力を見せつけレースを制した!』

『2着はヒシアマゾン!3着に入ったのはナイスネイチャ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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特大ホールケーキを作るトレーナー

「トレーナーちゃん。これは流石に…」

「私は悪くない」

「いや、なんというか。どうしてこうなってしまったんでしょうね…」

「私は悪くない」

「「悪いというか考えなしすぎ(ます)」」

「しょぼーん」

 

 

総計20段からなる特大ホールケーキ的な何かの前で、担当ウマ娘2人に呆れられていた。ジャパンカップ勝利記念のご褒美に頼まれたのはイチゴのホールケーキ。それも特大、との要望だった。ウマ娘サイズのケーキを用意するには広い場所が必要と考え、たづなさんや理事長に頼んで根回しをして体育館を1日だけ貸切るまでは良かったんだ。そしてケーキ作ってる最中に、ケーキ見て喜ぶマヤノの笑顔を想像してたら楽しくなってきてしまって、気づいたら20段に…。

 

 

「こんなに食べたらどう考えてもお腹出ちゃうんだけど。どうするのこれ」

「本来であれば私も援護して、ってのはありますけど。流石にこれは無理じゃないです?」

「いやー。作ってて楽しくなっちゃったから、つい」

「うーん…。どうしようかな?」

 

 

マヤノ曰く、食べれて5段だとのこと。フラワーは3段だそうだ。そうすると残り12段である。材料費は私個人の自腹なので痛くも痒くもないが、流石に捨てるのは勿体ないとのこと。そもそもなんで材料をそんなに用意したのかは覚えていない。買い物に行ったときにマヤノの笑顔を想像しまくってたとかそういうことは一切ありません!

 

 

「切り分けて配っちゃうのが正解かなあ。マベちんとかに要るか聞いてみよ」

「なら私もブルボンさんやバクシンオーさんに聞いてみますね」

 

 

どうやら知り合いを援軍に呼ぶことに決まったそうだ。2人が電話をかけて数分後、ウマ娘たちが体育館に集まってきた。私は誰か呼ばないのかって?コネがなくて困ってた人間に呼べる知り合いが居ると思うのか!?…言ってて悲しくなるからこの話はやめよう、いいね?

 

 

「何やら困ったことがあると聞いて、学級委員長がやってきましたよッ!!!バクシーン!!!」

「お呼びいただきありがとうございます。ケーキを配っているんだとか。トレーニング前の甘味の摂取はトレーニングの効率を上げますので、ご相伴にあずからせていただきます」

「いやはやこれはこれは…。話を聞いたネイチャさんも、そこそこのサイズであるだろうってのは想像してから来たけども。これはどう考えてもアホの所業ですよ」

「だよね~。ただ、マヤちゃんがマヤちゃんのトレーナーさんに愛されすぎてるのは~。同じ女の子としては、ちょっと羨ましいかな~って」

「マーベラース☆」

 

 

そして割とボロクソ言われていた。だって楽しくなっちゃったんだから仕方ないじゃない!マヤノかわいいだろ?喜んでくれると思うだろ??笑顔最高だろ???つまり仕方ないのだ!!!

 

 

「マヤが呼んだ子は揃ったよ。フラワーちゃんは?」

「こちらも大丈夫です。全員揃ったみたいなので、ケーキバイキングを始めましょうか」

「トレーナーちゃんがトレーナーちゃんしてしまっただけなので、遠慮せず食べていってね。捨てるの勿体ないし、余ったらお持ち帰りもアリだよ!」

「トレーナーちゃんするとはいったい…?まあネイチャさんも美味しくいただかせてもらいますよっと」

 

 

切り分けられたケーキはそこそこの勢いで減っていった。皆思い思いにケーキを食べている。個人的には、見たかったマヤノの笑顔が見れたので満足だ。ただ、バクシーン!と叫んでいた子が最初は勢いが良かったものの、段々と速度が鈍ってきて早々にダウンしていた。トレーニングに響くと私に苦情が来るので、無理はしないよう言っておいたけどダメだったようだ。

 

 

「お腹出てないからだいじょーぶだよトレーナーちゃん」

「その判定で大丈夫なのか…?」

「うん、だいじょーぶ。…でも次に頼むときは、こうならないように段数指定するからね」

「はい…」

 

 

しょうがないな~といった感じでマヤノに微笑まれた。今日はいい日だった!

 

 

 

 




ちなみにマヤノが呼んだのはマーベラスサンデー、ナイスネイチャ、カレンチャン、トウカイテイオーの4人。フラワーが呼んだのはミホノブルボンとサクラバクシンオー、セイウンスカイの3人。ただしテイオーは有馬記念に向けて沖野トレーナーの指示で減量中、ウンスはイカダに乗って海に釣りに出かけていたせいで圏外になって連絡が取れなかった模様。


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有馬記念を疾走するマヤノトップガン

マヤノスキーが考えたさいきょーのマヤノなので、察してください。


『年末最後を彩る有馬記念、中山芝2500m。天気は晴れ、良バ場となりました』

『今年は優駿16人が揃い踏みですね。楽しいレースになりそうです』

『各ウマ娘が続々とゲートインしています』

「年末最後の大一番であるグランプリレース有馬記念、中山芝2500mは短期間でコーナーを6回も通るため、駆け引きが非常に重要なレースの一つだ」

「どうした急に」

 

 

有馬記念に出走するマヤノを応援しに来たのだが、やけに早口で有馬記念の解説を始める人が居た。雰囲気が少し怖いので離れておこう。さて、マヤノは4枠7番での出走だった。本人は1枠1番が良かったようだが、ラッキーセブンということもあるのでは?と言ったら、『トレーナーちゃんが言うならそうだね☆』と言っていた。かわいい。しばらくして全員のゲートインが完了したようで、場内が静まり返った。

 

 

『各ウマ娘ゲートインが完了し…スタートしました!』

『皆綺麗にスタートを切りましたね』

『各ウマ娘、思い思いのポジションにつけていきます。おおっとマヤノトップガン!掛かってしまったのか!2番手を大きく離して独走しているぞ!』

『先日のジャパンカップでは出遅れからの見事な末脚を炸裂させた彼女ですが、今回は逃げに逃げて大逃げのようですね。2500mという長い距離で、最後までスタミナが持つか心配です』

 

 

「えっ、有馬記念で大逃げ…?長距離で大逃げって垂れるやつじゃ」

「うーん…。マヤノさん、本当にやっちゃうんですかそれ…」

「あれ?フラワーは何か聞いてるの?」

「えぇ、まあ…。でも本当にやるとは思ってなかったんですけどね。このことについては、私がここで言うよりトレーナーさんの方からマヤノさんに直接聞いてあげたほうがいいと思います」

 

 

フラワーが呆れた目でレースを見ていた。最初から全力疾走して大逃げするマヤノを見て、『彼女のトレーナーはあんなことさせて何を考えているんだ!』『長距離で大逃げして勝てるわけないだろ!』『ふざけんな!金返せ!』との罵声があちらこちらで響いていた。

 

 

「うう…今日も目立たない服着てきてよかった…。マヤノのトレーナーだってバレたらファンの人に刺されそうだよ」

「え。そのための地味な服装だったんですか。言われてみればトレーナーさん、メディアへの進出ゼロですもんね。3冠ウマ娘のトレーナーさんだったら嫌でもメディアに出されてしまう気がしますが。どうやって断ってるんです?」

「マヤノがマヤノグッズ制作の対価で理事長を通して拒否してくれてるらしい。グッズはURAの重要な資金源だからね」

「えぇ…それってマヤノさんにおんぶにだっこじゃないですか」

「だ、だって私はケーキとかタルト作ることしかできないし。面接も何故かそれで通ってしまって…」

「…ある程度予想はしてたけど、あまり聞きたくない事実でした」

 

 

レースは第2コーナーを超えて向こう正面へ。相変わらずマヤノは…2番手と10バ身ほど離していた。余裕の表情で悠々と先頭を走っている。2番手の子はすでに歯を食いしばってマヤノを追っているが…?

 

 

「うーん。マヤノと2番手の子と離れすぎてないか?なんで誰も追いかけてきてないんだろう。中山の最終直線って310mしかないから、普通ならもっと距離を詰めていいはずなのに」

「そうですね」

 

 

そのまま第3コーナーに入ってもマヤノとの距離は縮まらず。むしろゴールまでにさらに距離を離して、マヤノは有馬記念を大差で勝利したのだった。

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

「で、マヤノ。今回の作戦は何だったの?」

「ひゃひひょひゃらひゃいひょまひぇひぇんひょひゅひぃっひょうひぃひぇ、ひょひょひゃひゃひょひひひ」

「ごめん、何言ってるかさっぱりわからないんだけど」

「…ゴクン。タルト食べさせてもらい終わったら話すからちょっと待って」

「あっはい…。はい、あ~ん」

「あ~ん…ん~、あまくておいひい!」

「相変わらずおいしいお菓子ですね。どうやったらこんなにおいしくできるんでしょう?」

 

 

マヤノご所望の、マヤノを膝の上に乗せて、頭をなでながらタルトを食べさせるミッションをこなしている。ご褒美かな?フラワーがタルトの味について頭を悩ませているけど、特に何をしているわけでもない。強いて言えば愛情たっぷりってところかな!…何言ってるんだろう本当に。というかフラワーが動じずに私がマヤノにあ~んして食べさせている状況を受け入れているので、他のトレーナーの所もきっとそんなものなんだろう。

 

 

「ごちそーさま!ありがとね、トレーナーちゃん」

「ごちそうさまでした。おいしかったです」

「おそまつさまでした」

「それじゃあタルトも食べ終わったし、トレーナーちゃんが気にしてる今回の有馬記念でのマヤの作戦を発表したいと思います!」

 

 

食べ終わって膝の上から降りたマヤノが、対面の椅子に座ってどや顔で話し始めた。

 

 

「今回の作戦は~?最初から最後まで全力疾走して、スタミナの暴力でそのまま押し切り☆作戦でした!」

「す、スタミナの暴力…」

「…私がマヤノさんとの並走トレーニング中にその話を聞いたときは半信半疑だったんですけど…。いざその戦法で押し切ろうとするのを見せられて、しかもそのまま勝ってしまったので。トレーニングの差って大きいんだなって実感しました」

「ふふん♪マヤは天才だから何でもできちゃうのだ☆」

「そういう問題ではないような…?」

「そうだったのか。まあかわいいからいいんじゃない?」

「トレーナーさん…。ぶれませんね…」

 

 

フラワーは終始呆れ顔だった。

 

 

 

 



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グランドスラム編
新年あけましておめでたいウマ娘たち


「トレーナーちゃん!あけましておめでとう!」

「こんばんは。あけましておめでとうございます、トレーナーさん」

「あけましておめでとう。2人とも、着物がよく似合っているよ」

「えへへ~。褒められちゃった」

「ふふ。ありがとうございます」

 

 

今日は元旦。私たちは新年の挨拶をしにトレセン学園近くの神社に行くことになっていた。参拝するなら3女神の像が校内にあるが、それとこれとはまた別の話らしい。私はいつもの目立たない服だが、マヤノはオレンジ色に向日葵柄、フラワーは黄色に雛菊柄の着物を着ている。2人ともかわいく、すごく似合っていた。

 

 

「トレーナーちゃんはいつもの服だね」

「うん。あまり目立つと何されるかわからないし」

「晴れの日なので、ちょっと勿体ない気もしますけど…。先日の有馬記念のマヤノさんのファンの様子からすると仕方ないかもですね。過激なファンもいるんだなって驚いちゃいました」

「マヤノのグッズはプレミアついて高騰してるらしいからね。ファン投票券相当積まないとグッズを入手できないんだとか?」

「あー、それね。マヤの大きいぬいぐるみを限定生産にしてもらって、プレミア付けて要望を通しやすくしてるの。転売されないように、当選者の名前でマヤのサイン入りなんだ~。でも、いっぱいサインするのって飽きちゃうし、マヤの時間は出来る限りマヤの自由に使いたいから、毎回100個限定。それでも名前同じ人に向けて転売する人が居るらしくて、なんかアホくさくなっちゃってからは気にしないことにしてる。缶バッジとかは量産されてるみたいだけど、そっちの管理はURAにお任せしてるからよくわかんないや。グッズ販売の利益はマヤたちのとこにはほとんど入らないからね」

 

 

URAの事情に詳しすぎるマヤノの説明に、口が開くばかりだった。知らない間に色々と調べ尽くしているんだな。

 

 

「よく考えてるんですね。私はどうなるかわかりませんが、もしグッズが出るときには参考にしたいと思います」

「限定生産戦法は重要だよ!」

「はい、わかりました」

 

 

 

 

───────────

 

 

 

 

 

「日の出前の暗い時間に来たのに、かなり混んでますね。去年はそうでもなかったですけど」

「マヤノが通ってるトレセン学園が近くにあるから、マヤノがここに来るのを期待して昨日から張ってるのが居るみたいだ。マヤノをプリントした自作ハチマキ巻いて、道にシート敷いてるのが何人かいるし」

「そんなことされても、ぜんっぜん嬉しくな~い!道を塞いで他の人の邪魔や神社の人の迷惑になることはしちゃダメだよ!も~!どうしてああいうのばかりなんだろ!」

 

 

マヤノは自称マヤノファンの身勝手な行動にぷりぷりおかんむりだ。ぷりぷりマヤノの機嫌を直すため、綺麗にセットされた髪を崩さないように頭をなででなだめていたら、マヤノが急に顔を上げてきた。

 

 

「マヤ、もー怒ったから!トレーナーちゃん!フラワーちゃん!ちょっとこっち来て!」

「ちょ、マヤノ!?」

「マヤノさん!?そんなに引っ張らなくてもついていきますよ!?」

 

 

私とフラワーの手を引っ張って並んでいた列を抜け出したマヤノは、シートを敷いてる人たちから姿だけが見える位置に来た。

 

 

「トレーナーちゃん、だ~~い好き☆」

 

 

そして、その人たちから顔を見られないよう、顔を私に押し当てて抱き着き、大好きアピールをしてきた。と、尊死してしまう…!マヤノかわゆすぎだろ…!

 

 

「え、えっと…だ、だ~い好き」

 

 

そして、何かを察したフラワーもマヤノを真似て抱き着いてきた。この子たちかわゆすぎるんだが…!そうか、ここがこの世の天国か…。わが生涯に一片の悔いなぐぇっ!

 

 

「トレーナーちゃんが死んじゃったら困るので、悔いてね☆」

「締まらないですね、本当に…」

 

 

あちらに導かれそうになった私だが、連れていかれる直前にマヤノの腹パンを食らって無事蘇生した。危なかった…。そして道にシートを敷いていた連中は、大ダメージを受けてひれ伏していた。

 

 

「こっちからは隠れて顔は見えないけど、絶対にかわいい子たちから大好きアピールとか独り者にはきつすぎる!」

「くっそー!リア充爆発しろー!」

「お前に負けるなんて悔いしかないさ!」

 

 

そして体力が回復したやつから恨み言を吐き捨てながら逃げて行った。最後の1人派手に爆散したけど、塵も破片も残さず綺麗に消えたな。どこに行ったんだろう。

 

 

「悪党撃退だね!マヤちんだいしょ~り☆」

「ちょっと恥ずかしかったですけど、きっとこれでよかったんだと思います」

「私は尊死しかけたけどまあいいか」

 

 

道を塞いでいた悪党(?)が去って、順調に列が進み始めたのを確認。私たちは最後尾に並び直して無事参拝を終えた。マヤノは『今年の出るレース全部勝っちゃうからね☆』と、フラワーは『メイクデビュー負けないように頑張ります!』と、それぞれ決意表明していた。私からは2人が頑張れるように精一杯おいしいお菓子を作ります、とだけ。

 

 

「参拝も終わったし、おみくじ引きにいこうよおみくじ!フラワーちゃん一緒に行こ!トレーナーちゃん!お小遣いちょーだい!」

「おみくじですか、いいですね…って。え、お小遣い?マヤノさん、レースの賞金管理してないんですか?」

「ん?マヤの賞金はトレーナーちゃん任せだよ。マヤが持ってると際限なく使いたくなっちゃうから、必要な時に使えるよう管理してもらってるの」

「へ、へぇ~…(似た者同士だったんですね。そういえばジャパンカップのときのお祝いの超特大ケーキ、材料費トレーナーさんのお給料から出してるとか言ってましたし…どうしてこの2人結婚してないんでしょう?)」

 

 

フラワーがすごい微妙な顔でこちらを見てきたけど、マヤノに連れられておみくじを引きに行った。2人についていった私も、せっかく来たのだからとマヤノに押し切られておみくじを引いた。末吉だった。微妙だったけど、おみくじなんてそんなものか。

 

 

 

 




マヤノは大吉。願望、待人、失物、学問が良好、旅行だけが微妙でした。結果を見てトレーナーちゃんとのデート(仮)の予定をずらし、土砂降りの大雨を回避しました。そもそも天気はマヤノお得意の勘で当てられるので、あまり意味ありませんでした。
フラワーは吉。健康、願望が良好。つまりそういうことです。
トレーナーちゃんは抱人だけ良くて、他は微妙でした。


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困惑するニシノフラワー

「それじゃあトレーナーちゃん、また後でね」

「うん、行っておいで。フラワーもトレーニング頑張ってね」

「ありがとうございます。行ってきます」

 

 

今年は私のメイクデビューが控えているので、本格的にトレーニングを始めることになりました。と言っても、トレーニングのメニューは私たちウマ娘に任せきりで、トレーナーさんは自室で待っているだけですけども。『舌がとろけるほどトレーナーちゃんが作るお菓子はおいしいし、食べると元気が出るの!』ってマヤノさんが言うし、実際その通りだったので、トレーナーさんの所に所属したのは後悔はしてないんですけど…。本当にこのままでいいんでしょうか、という気持ちになります。他の人たちはトレーナーさんからトレーニングのメニューを渡されていましたので。

 

 

「そんなに心配しなくてもだいじょーぶだよ。ちゃんとトレーニングすれば、フラワーちゃんならティアラ路線なんて楽勝だよ!」

「そ、そうでしょうか…?」

「うんそうだよ!」

 

 

自信満々にマヤノさんは言い切りますけど、やっぱり私には不安しかありませんでした。そして、いざこれからトレーニングを開始しようという時でした。マヤノさんが唐突に切り出したのです。

 

 

「それじゃあフラワーちゃん、今から本格的なトレーニングを始めるわけだけど。それはそれとしてまずは3女神様の所に行こうか」

「え?まだ何もしてないのにいきなり神頼みするんですか…?」

「そゆこと。まあ騙されたと思って気にせず行ってみよっか」

「えぇ…?」

 

 

私はトレーニングの前にマヤノさんに連れられて3女神様の像のところまでやってきました。いつ見ても神々しいですけど、こんなところにきてどうするんでしょう。

 

 

「あ、あ~。3女神様、聞こえてますね?いつものアレをお願いします」

「いつものアレ…???」

「うん、アレ。それじゃあフラワーちゃん。行ってらっしゃ~い」

「ちょ、ちょっとマヤノさん!?きゃあっ!?」

 

 

そして私はマヤノさんに背中を押されて女神像に向けて倒れこんでしまいました。ぶつかってケガをしてしまうというという恐怖で、私は目を瞑ってしまったのですが、ぶつかる衝撃が来ないのに気付いて目をゆっくり開けました。すると、そこは光が届かない何もかもが漆黒の暗闇の中でした。

 

 

「何でしょう、ここは。さっきまでトレセン学園に居たのに…?」

 

 

誰もいないし何も見えないことに不安を覚えていると、突然光をまとった何が横を駆け抜けていきました。その光に誘われて私も駆けだすと、光の先で何かが起きたのです。

 

 

「これはいったい…?」

「あ、おかえりフラワーちゃん。えっと…?なるほど、マルゼンちゃんとブライアンさんか。うん、正直ちょっと微妙な感じ。でもチャンスはまだあるし、阪神ジュベナイルフィリーズはマイルだし、今は問題ないかな?」

「???さっきから何を言ってるんです?」

「あぁ、こっちの話。それとさっきはごめんね。いきなり背中押しちゃって、びっくりしたでしょ」

「…そうでした!ひどいじゃないですかマヤノさん!ケガしちゃうとこだったんですよ!」

「ご、ごめんってば。それより今日はもう暗くなってきちゃったし、真っ暗になる前に帰ろっか」

「え?あれ?さっきまで明るかったのに!?」

 

 

言われて周りを見ると、辺りはすでに薄暗くなっていて、時計を見ると4時50分でした。もうすぐ夕飯の時間です!?よくわからない場所に連れていかれたと思ったら、トレーニングできる時間を過ぎちゃってるなんて。今日は運がないですね。仕方ないですけど、今日は諦めるしかなさそうです。

 

 

「明日はこんないたずらしちゃだめですよ!」

「あはは、気を付けるよ。それじゃ帰ろ~」

「まったくもう…」

 

 

どうやら反省していない様子のマヤノさんです。そのまま寮の前で別れましたが、きっとまた何かびっくり作戦をしてきそうです。けど、次はうまく回避しますからね。

 

 



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スイーツ☆トラップを仕掛けるトレーナー

「バレンタインと言えば一般的には女性が男性にチョコを贈るイベントであるが、実際には感謝の気持ちを贈るという意味で男性から女性に向けて贈り物をしてもいい日なのである」

「どしたのトレーナーちゃん。そんな急に語り始めて」

「いや、そう本に書いてあったんだよね。なら来週のバレンタインに合わせてチョコレートケーキでも作ろうかなって」

「何それおいしそう!」

 

 

珍しく目に留まったという理由で買ってきた週刊誌に、バレンタイン特集が組まれていた。ぶっちゃけた話、バレンタインにチョコを贈るというのはお菓子製造業の策略でしかないのだが、まあそれはそれとしてマヤノたちが喜ぶならやってしまおうという考えである。

 

 

「好評っぽいしそれで行こうか。バレンタインまでそこまで期間長くないし、当日が来る前に練習しておかないとだな」

「え、練習ですか?お菓子作りを、トレーナーさんが…?」

「いやぁ…バレンタインなんて今まで縁が無いイベントだったし、バレンタインに縁が無いならホワイトデーにも縁が無い。そういうわけで、チョコレート系はほとんど扱ったことがないんだよね。失敗作出すわけにもいかないから、ここらでちょっと練習しておきたいんだよ」

「バレンタインに縁が無い…。トレセン学園に就職できるほどのエリートのはずのトレーナーさんが…」

「トレーナーちゃん…。やっぱりそうなのね」

 

 

物凄い悲しい目と生温かい目を向けられてしまった。抉るような事実を淡々と述べないでくれ。最近担当ウマ娘からの私の扱いが悲しすぎる。

 

 

「ところでトレーナーちゃん。練習するのはいいけどさ、失敗作はどうする予定なの?」

「失敗作?」

「マヤからしたら良くできてるなーって思っても、トレーナーちゃんからしたら失敗作だーとかでさ?ボツったやつ、毎回処分に困ってたじゃん」

「あっ。そういえば失敗作の処分方法考えてなかった…」

 

 

実家にいたときは近所にウマ娘の子どもがたくさんがいたので彼女らに任せていたんだが、今回はそれができないな。前回はマヤノたちの友達を呼んで何とか処理しきったが、まさか失敗作を食べさせるわけにはいかない。

 

 

「食堂付近で配布所作って無言で置いておくか。材料はチョコだから変なものが入ってて食べられないってわけじゃないし。ただし食べるのは自己責任で、とか書いて」

「ああ、スイーツ☆トラップにするのね」

「ト、トラップて…」

「だって葦毛の子たちにそう呼ばれてたよ。『ついつい食べ過ぎてしまってトレーニングに影響が出てしまった』『ひどい罠ですわ!我慢できるわけないじゃないですの!』とか。あとは『なまらおいしいですし、気が付いたらお腹にお肉が~』だね」

「あはは…誰がトラップに引っかかったか想像できてしまいますね」

「自己責任!自己責任だから!まあなんにせよ許可取ってからにするよ」

 

 

その後たづなさんに許可を取って失敗作処分作戦およびバレンタインは決行された。後日お前の罠のせいでダイエットに苦しめられたと、飴玉を咥えた先輩トレーナーから苦笑と共に苦情が入ったが…自己責任です!!!

 

 

 

 

 



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囁いたり睨んだりするマヤノトップガンたち

「げぇっ。またなのマヤノ?」

「うん。またなのネイチャちゃん」

「…マヤノがそういうのをレースでやるのはもう諦めたけどさ?お願いだからアタシの真後ろでやるのはやめてくれないかな?」

「ごめんそれ無理。今年は容赦しないことに決めてるから。そしてこのレース、1番強いのはどう考えてもネイチャちゃん。他のは目に入らないんだ」

「あはは、そう言ってもらえるのは嬉しいけど…」

 

 

はぁ…しんどい。今年の大阪杯、レース出走予定だったオグリさん、スぺちゃん、テイオー、マックイーンら、アタシを除いた優勝候補が次々とレースを回避してしまった。噂でしかないが、どうやら何者かが食堂に仕掛けたスイーツ系のトラップに引っかかって、体重が増えすぎてしまったためらしい。だからG1だっていうのに出走ウマ娘が8人しかいない。そんなわけで担当トレーナーと一緒にいないときは昏い目をするようになったマヤノの標的に選ばれてしまって…ツイてなさすぎる。物凄いプレッシャーで今にも息が上がりそうだ。でもアタシだってね、負けるためにレースに出てるわけじゃないんだよッ!

 

 

 

──────────

 

 

 

今年の大阪杯はメジロマックイーン、スペシャルウィーク、オグリキャップなど、シニア級として中長距離G1戦線で戦っていたウマ娘が次々に出走回避する異常事態だった。回避理由は私用だとかで、ファンから相当数の苦情が来ているとたづなさんが漏らしていたが…。それにしてもこれは?

 

 

「初っ端からマヤノから物凄い圧を感じると思ってたら、今度はナイスネイチャからも似たような圧を感じるんだけど。周りの子まだ半分も行ってないのに既にヘロヘロじゃん」

「ああ。この前聞いたんですけど、プレッシャーをかけ続てスタミナを奪うとかなんとか。今日はスタート直後からずっとこの調子ですからね。一緒に走ってる人たちはたまったもんじゃないと思いますよ」

「そ、そうなんだ。フラワーも同じことできるの?」

「練習すればできるかもしれませんけど…」

 

 

第3コーナーまでにマヤノとナイスネイチャ以外は全員ノックアウトされてしまったらしく、残った2人で競り合いながら走っている。マヤノはまだまだ余裕があるように思えるが、ナイスネイチャの方はもはや限界に見える。それでも意地でマヤノについて行っているんだから、勝負根性がすごいな。

 

 

『なんということだ!優勝候補の有力ウマ娘が続々と謎の理由で出走回避してしまった今回の大阪杯ですが、今度はマヤノトップガンとナイスネイチャ以外の全員が1000mを超える前に力尽きてしまったぞ!』

『ターフに倒れてしまったウマ娘たちの情報は判り次第お伝えしますので、皆様どうか落ち着いてください!』

『そしてその間に2人は最終コーナーへ!ここ最近の中長距離G1ではこの辺りからマヤノトップガンの独走状態が続いていたが、今日はナイスネイチャが食い下がっているぞ!その差は1バ身!!!』

『しかしマヤノトップガン譲らない!ナイスネイチャも諦めない!残り300mを通過!』

 

 

「うーん。今日のナイスネイチャは気迫がすごいな」

「気力だけで走ってますよあれ。マヤノさんも手を抜いているようには見えませんのに、追いすがって、かつ離されていませんね」

「あーでももうゴールか。最終的に1/2バ身差まで追いすがるのは流石シニア級を何年もやってるだけあるわ」

 

 

『マヤノトップガン!今1着でゴールイン!春の中距離最強ウマ娘の称号を見事に獲得しました!』

『2着に入ったのはナイスネイチャ!3着以下はおりません!』

『はい、はい。あー、今情報が入りました。ターフに…』

 

 

 

──────────

 

 

 

「ふ~。おつかれさまネイチャちゃん」

「ちぇ、勝てなかったか。…おつかれマヤノ。今回はネイチャさんも頑張ったんだけどなあ」

「ふっふっふ~。愛の力は偉大なのだ☆」

「ああ、そうなの…」

「それじゃ、ウイニングライブで。またあとでね~」

 

 

あれほどプレッシャーをかけ続けたのに、ネイチャちゃんはやっぱり掛からず最後まで追いすがってきた。掛からないってだけで脅威。長距離なら逃げで前からペースを乱したりできるが、中距離はそれで勝つのは難しい。それでも今日もなんとか勝った。ただやる気はもうなくなっちゃったので、トレーナーちゃんの元へ急ぐ。トレーナーちゃん分が足りない。

 

 

「トレーナーちゃん!」

「あ、マヤノ…ってふぎゃ!」

「うわあ痛そう。頭から思い切り行きましたね。大丈夫ですか、トレーナーさん」

 

 

抱き着いたら勢いがつきすぎて押し倒しちゃった。でもこれはこれでいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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さらに増えるウマ娘

「どうも~トレーナーさん。お久しぶりです」

「あっはい。こちらこそお久し…うーん?ごめん、君に会ったことあったっけ?悪いけど記憶になくて…」

「あーいえいえ、こちらの話ですので」

「…やっぱり今回もデジタルちゃんはこっち側なのね」

「ふっふっふ。ウマ娘ちゃんを永遠に推せるとか、そんなおいしすぎる話をあたしが逃すわけないじゃないですか!続く限りいつまでもついていく所存ですぞー!」

「マヤノたちは何を言ってるんだ。フラワーはわかる?」

「さぁ…?」

 

 

もうすぐ天皇賞春の時期というタイミングで、桃髪のウマ娘が自室に押し掛けてきた。名前をアグネスデジタルというそうで、来年メイクデビューしたいから担当契約をお願いしますとのこと。私のことを知ってるらしいけど、会ったことあったかなあ。

 

 

「とにかくですね。今回もあたしの方でチーム申請をしておきました。いつもの部屋をチーム部屋として頂けたので、そちらでお話ししましょう」

「はぁ…仕方ないなあ。行くよトレーナーちゃん」

「ちょ、マヤノ!?というかえ?ち、チーム部屋!?」

「とんとん拍子で話が飛んでます!?」

 

 

マヤノに腕を引かれたままフラワー、アグネスデジタルと共にチーム棟へ。部屋はマヤノと出会ったあの部屋だった。いつの間にかキッチンが併設されてるんだけど。ここ空き部屋じゃなかったの?

 

 

「というわけでアグネスデジタルです。デジタルとでも、デジたんとでもお好きに呼んでくださいませ。マイルから中距離までなら芝ダート問わず走れます。趣味はウマ娘ちゃん観察です」

「は、はあ…」

「出走レースとトレーニングの方は、いつもと同じくあたしの方で用意しますので。出走前のスイーツだけお願いしますね」

 

 

簡単に自己紹介されたと思ったら既に決定事項のようにスイーツを要求されてしまった。いやまあ担当するなら作るけどさあ。

 

 

「私一応トレーナーなんだけど。マヤノやフラワーもそうだけど、キミたち私を何だと思ってるの?」

「え?トレーナーちゃんはトレーナーちゃんだよ?」

「トレーナー資格を持ってるパティシエさんですよね?」

「孔明をインストールしたパティシエじゃないんですか?」

 

 

やっぱりトレーナーじゃない…。マヤノ以外パティシエ扱いだし、マヤノの答えもふんわりしてて意味が違う気がするぞ。というかだな。

 

 

「何故孔明が出てきたんだ」

「おいしいスイーツで誘惑した他の人の担当ウマ娘を、次々と食べすぎで太らせて出走不能。マヤノさんを全力でサポートするその策略。おみそれいたしました」

「結局ネイチャさん以外の優勝候補は太りすぎで出走回避でしたものね。スイープ⭐︎トラップを仕掛けたのは誰だあっ!って中等部でも話題になってましたよ」

「ええっ!?大阪杯の出走回避ってあれが原因だったの?」

「トレーナーちゃん、スピカのトレーナーから苦情来てたじゃない。忘れちゃった?」

「苦情…?ってあーっ!」

 

 

あの自己責任って言って押し切ったアレかー!スピカのトレーナーだったんだ、あの先輩。

 

 

「ネイチャちゃんは前にトレーナーちゃんが作ったのを見てるから、なんとなく察したんだろうね。流石ネイチャちゃんだよ」

「スイーツ⭐︎トラップなんて古典的な罠に、毎回毎回引っかかるあの人たちもいい加減凝りませんよねえ」

「それね。ま、隙がある方がこっちとしては楽で良いけど。1人3個までってわざわざ書いてあったのに、変装までして何度も並んでたくさん持って帰っちゃうんだもん。食い意地が張っているというかなんというか」

「用意しまくるトレーナーさんにも問題があるんじゃないですか?」

 

 

ジト目をデジタルから向けられたので自信満々に返す。これだけは譲れないから。

 

 

「失敗作を出すつもりはないです(キリッ」

「なんでそこでドヤ顔なんでしょう…」

 

 

マヤノが勝ったレースのトレーナーへ配分された賞金が余ってるからね。あんな大金受け取っても特に欲しいものがないから貯まる一方で…。そもそもマヤノが頑張って得た賞金なんだから、彼女に還元するしかないでしょ。というかトラップじゃなくて失敗作。罠じゃないです!

 

 

 



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ひな祭りを開催するトレーナー

「というわけで、雛霰を作りました。太らないよう、食べすぎに気をつけて召し上がれ」

「やったー!やっぱり3月と言ったらこれだよね〜。ムグムグ…」

「ふわあ。おいしいですし、見た目も綺麗ですね。関東で売られてる高級和菓子に見た目がすごく似てますけど、これも自作したんですか?」

「そりゃもちのロンよ」

 

 

3月と言ったらひな祭り。ひな祭りと言ったら雛霰。用意しないわけがないだろう、ということで自作しました。総合力では銘菓には全く敵わないけど。光らないし。でも自作なら自作で味や色を調整出来る。つまりマヤノやフラワー、デジタルの好きな味や色に調整出来るのだ。ここまで好感を得られるなら銘菓に勝ったも同然!はーっはっは!

 

 

「トレーナーさんのパティシエスキルも相変わらずのようで安心しました。キッチンを併設しておいた甲斐がありましたね」

「ああ、この部屋にキッチン付けたのデジタルだったのか」

「そうですよ。トレーナーさんなら絶対使いますからね。突貫したので費用はちょっと掛かりましたけど。それはまあ、今後稼げるので今はどうでも良いです」

 

 

どうでも良くないんだが。しばらくデジタル用のスイーツは奮発しておこう。

 

 

「で、トレーナーちゃん。トレーナーちゃんの部屋のクローゼットの中に隠してあるであろうアレはどうするの?」

「…何のことかな?」

「通販の領収書が1枚落ちてたよ。おかしいね。数が合わないね?」

「あちゃー。しかも隠し場所も知ってたのか」

「トレーナーちゃん、疚しいもの隠すとき全部そこじゃん」

「えっと…何を隠してるんです?」

「雛霰の試作品。見た目の色が好みじゃないとか、味が悪いとか、あとは形かな?気に入らないやつを綺麗に袋詰めして、パッと見だと見えないようにまとめて押し込んでると思うよ」

「袋詰めしてるのもバレバレだった!?」

「えっと…クローゼットは虫が湧きそうなので止した方が…」

「あのー、フラワーさん。ツッコミどころはそこじゃないと思います」

「…あれっ?」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「な、何ですのこれはっ…!!!!!」

「あっ、マックイーンさん…」

「うむ。これはうまいな」

 

 

食堂入口にはトレーナーちゃんが用意してしまった雛霰の試作品がこれでもかと並べられていた。食べすぎないでください!の文字が金ピカで眩しい。それをデビュー前の子や、怪我で療養中の人たちが昼食後のおやつとして摘んでいる。

 

 

「や、やっと地獄のダイエットが終わりましたというのに!これはあんまりですわ!許されませんわ!弁護士を要求しますわ!」

「ですよねー。私も大阪杯に出られなかったので、減量頑張って瘦せたところにって感じで。どう考えても1度手をつけたら最後なので必死に…必死にいいい!!!!!」

「うまい。やめられない。とまらない」

 

 

スペちゃんやマックイーンちゃんが必死に堪えてる目の前で、オグリさんは試作品をバクバク食べてる。さっき昼食のランチ特盛頼んでなかった?とか考えてたらハリセンが良い音を立てた。タマモさんが巨大なハリセンでオグリさんの後方から1発入れたらしい。

 

 

「さっきからなにやってんのや!!!!!オグリは食うのやめんかい!!!!!天皇賞に出られんくなるやんけ!!!!!」

「なんだタマか」

「なんだじゃないやろ!アンタ何考えとんねん!」

「タマ、私もちゃんと考えたんだ。そして思ったんだ。来年出れば良いと」

「なんでやねん!!!!!」

 

 

タマモさんのツッコミが冴え渡っていた。オグリさん、どう見ても食べすぎ。あれじゃ天皇賞(春)には出られないもんなあ。

 

 

「…トレーナーさん、結局ここに置いちゃったんですね」

「トレーナーちゃんだからなあ。近くの幼稚園にでも差し入れすればいいのに、コネが無いんだって」

「あたしとしてはウマ娘ちゃんの笑顔が観察しやすいので非常に助かります。1部酷いことになってますけど」

「「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜……」」

 

 

見るからにコンディションが急降下している。これは天皇賞も勝ったかな。ナイスアシストだよトレーナーちゃん。

 

 

 

 

 




デジタルの一人称を修正。推敲が足りてませんでした。


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ホワイトデーで張り切るトレーナー

10/20 誤字報告をいただき、該当箇所を修正しました。ありがとうございました。


「ホワイトデーとはバレンタインデーで受け取ったチョコの価値を3倍にして返すイベントではあるが…それはさておきクッキーを焼いたのでどうぞ!」

「トレーナーちゃん、説明めんどくさくなったからって投げ捨てないで?あ、このぶどうのやつおいしい…」

「そんなものは誰も求めてないから良いのだ。ささ、フラワーやデジタルも遠慮せずに」

「「いただきます」」

 

 

ホワイトデーと言ったらクッキーである。今日はいちご、ぶどう、りんごの3種類のジャムのクッキーを用意したぞ。見た目も香りも、もちろん味も最高のものに仕上がった。やっぱりお菓子は小麦と果物に限る。仕上がりやクッキーとの相性が全然違うからね。チョコは滅んだほうが良いよ。

 

 

「ねえトレーナーちゃん。チョコは滅んだ方がいい!みたいな顔はやめた方がいいよ。トレーナーちゃん、すーぐ顔に出るんだから」

「うっ…、そんなに出てる?」

「はて…あたしは判りませんでしたな」

「私は判ってしまいました…」

 

 

フラワーはそんな嫌そうな顔しないで。というかやっぱり顔に出やすいんだ。気をつけよう。

 

 

「そういえばさ。はちみーのクッキーが無いけど、あれはどーしたの?領収書には載ってたのに」

「ほほう!はちみーをクッキーにですか。なかなかに挑戦者ですねぇ」

「いやぁ、食堂ですれ違ったウマ娘が『はちみーとか激ウマでやばいっしょ!』『それな!』『『うぇーい!!』」とか言ってるのを聞いたんだけど、もうすぐ天皇賞でしょ?甘すぎると太るじゃんと思って、甘さ控えめになるよう調整しようとしたんだけどさ。何やっても単純に甘ったるくてよく分からなくなっちゃって。カロリー自体は従来の1/5まで減らしたんだけど、試食の途中で嫌になったからやめちゃった」

「確かにはちみーはお菓子にするには味が強すぎますね。他の味が死んでしまいますので」

 

 

何度やっても甘いだけで舌がおかしくなる。お菓子だけに。

 

 

とにかく、あれは人間には扱えない代物だってことは確か。だって砂糖の塊を舐めさせられてるとしか思えない。なんでアレを用意してしまったのか半日考えてしまったよ。

 

 

「なるほどね~。それならさ、そのボツにしたはちみークッキーって友達にあげたりしたらダメかな。すごくはちみー好きな子がいるんだけど」

「え゛?ひたすら甘いだけのあれを?」

「うん」

「ほほー、テイオーさんですね?」

「そそ。ルームメイトの前でマヤだけクッキー食べてるのって感じ悪くない?ならおすそ分けしようかなって。もちろん太らないように担当トレーナーさんに管理してもらう約束で」

「ふむ~なるほど。それなら良いか。それじゃトレーニング終わった後にでも私の部屋まで取りに来てくれる?」

「アイコピー!」

「……デジタルさん、もしかしなくともこれって」

「まあそういうことでしょうね。テイオーさんは今年の春天は回避するって話ですので」

「うわあ…」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「て、テイオーさん?それはいったい何なんですの…!?」

「私、このパターンにすごーく既視感があるんですけど!!!」

「やぁやぁマックイーンにスぺちゃん。ふっふっふ。いいでしょ~。これはね~、マヤノから貰ったんだ~。おすそ分けだって!実際にはボツにされちゃったそうなんだけど、マヤノのトレーナーがマヤノのためにわざわざ作ったらしくてさ?はちみーがふんだんに使われてるのにカロリーはそのまま使った場合の1/5なんだって!つまり太りにくい!ボクもう嬉しくってさ。食べすぎ防止のためにトレーナーに管理してもらうのが条件なんだけど、さいきょー無敵のボクにぴったりすぎじゃないかなって」

 

 

テイオーはどや顔でマヤノから貰ったクッキーを見せびらかす。2人が地獄のダイエットを終えたばかりなのはもちろん知っている。だがそれはそれ、これはこれ。おいしいものを食べられない者を全力で煽るのは楽しいのだ。

 

 

「先日から本当に何なんですのおおおおおおおおおお!!!!!」

「減量中にお菓子食べても余裕とかおかしいですううううう!!!!!」

「むぐむぐ…やっぱりおいしいねこれ。なんでボツにしたんだろう?」

 

 

無慈悲癖はマヤノからテイオーにしっかり伝染しているのであった。

 

 

 



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掛からせまくるマヤノトップガン

レース描写をすると文字数が増えまくるので困る。パパっと読める2000文字以内で抑えたい。斜め読みできると考えるべきだろうか?


『春の中長距離戦線第2弾、最長距離G1、天皇賞(春)!天気は晴れ、良バ場。絶好の条件となりましたここ京都レース場。ウマ娘たちが続々とゲートインしていきます』

『1番人気もちろんこの子。現在天皇賞(春)を3連覇中のメジロマックイーン。先日の大阪杯では出走を回避しましたが、今日はやる気十分、いい顔を……していませんね。耳が寝てしまっています』

『2番人気はスペシャルウィーク。メジロマックイーンと同じく大阪杯を回避していましたが、こちらこそいい表情を……してないように見えますね、2人とも体調不良でしょうか。しかし、シニア級の意地を見せ、きっと好走をしてくれることでしょう』

『そして3番人気はこの子。ここまで無敗、クラシック3冠ウマ娘マヤノトップガンです。先日の大阪杯を見事に制しています』

『今回は優勝候補の最強シニア級が揃っているということもあって人気を落としました。しかし、こちらも負けていませんよ』

『大阪杯で彼女と熾烈なデッドヒートを繰り広げたナイスネイチャは今回の天皇賞(春)を出走回避でしたね。疲労がたまったとの話ですが』

『彼女もシニア級5年目ですからね、無理をせずに大事を取ってということでしょう。無事之名バ。彼女のためにあるといっても過言ではありません』

 

 

「マヤノ~、ケガしないようがんばれ~。…あっ、マヤノがこっち向いた」

「トレーナーさん、応援すらゆるゆるですね…」

「だってマヤノがケガして帰ってきてでもしたら、悲しすぎて夜中じゅうずっと泣く自信があるし。私にとっては勝ち負けよりも、マヤノがケガせず無事に帰ってくるのが大事だよ」

「…ずっと思ってたんですけど、トレーナーさんってマヤノさんのこと好きすぎません?」

「だってかわいいじゃん」

「ナチュラルに即答で惚気られました!?」

「もちろんフラワーもね。みんなかわいいからスイーツ作りに気合が入りすぎちゃうのさ」

「…むむー。そういうのズルいと思います」

 

 

そう言ってそっぽを向くフラワーの頬は少し赤かった。かわいい、綺麗は相手に正直に伝えないといけない。初対面じゃないなら。初対面じゃないなら!!!ここすごく大事。さてさて、ゲートインがそろそろ完了するのかな。『今日はネイチャちゃんが居ないから好き放題だ~』とか言ってたけど、何するんだろう。『マヤ、絶対勝つから。会場にお祝いのケーキ持ってきてね☆』とも言われたから、言われた通りに会場に持ってきてるけどさ、天気が良すぎて形が崩れちゃうから困ったな。ドライアイスにも限界があるぞ…。

 

 

「あれ、そういえばデジタルは?さっきまでここに居たのに」

「デジタルさんならサイリウム持って最前列に突撃していきましたよ。まだライブじゃないですのに」

「推し事に対する情熱が強すぎる…」

 

 

『各ウマ娘、ゲートインが完了…スタートしました!』

 

 

 

─────────

 

 

 

「さ~て。マックイーンちゃんはどこかなっと…いたいた。前から3番目ね。スぺちゃんは…その後ろをぴったりか。前を塞がれる前に近づいておかなきゃ」

 

 

天皇賞春。避けては通れない中長距離G1の壁。プールでスタミナをできる限り鍛えてきたけど、あの2人と比べるとやっぱり足りてない。でもやれることは全部やった。後はここからどうするかでしかない。

 

 

『第3コーナーから第4コーナーへ。レースは淀みなく進んでいます。現在、上位人気3人が集団となって進んでいますね』

『マヤノトップガンはスリップストリームで体力を温存する体勢でしょうか、スペシャルウィークとメジロマックイーンをうまく利用して風を避けていますが…おおっと、マヤノトップガン上がっていきます。掛かってしまったのでしょうか』

 

 

掛かってないよ。だって…横に付かないと囁けないでしょ?こういう風に。

 

 

「ケーキ、カステラ、クッキー、あんみつ…レースが終わったらスイーツ食べ放題…」

「「んなっ!?」」

「楽しみだね。早く走り切れば走り切るほどスイーツが近づいてくるよ…?」

「くっ、卑怯な…!そんな誘惑になんて…ま、負けませんわ!というか先日からやけにスイーツの誘惑が周りをうろちょろしているとは思っていましたけど、犯人はマヤノさんでしたのね!許せませんわ!」

「ふふっ。それはどうだろうね?」

「こ、これは確信犯っ…!ひどいです!あんまりです!」

「このレース…メジロの誇りにかけても負けられませんわ!」

 

 

テイオーちゃんを誘導してスイーツに対する欲を搔き立てておいたけど、なかなか掛かってくれないね。でも、まだ終わらないよ?

 

 

「「こ、この匂いは…ッ!?!?!?」」

 

 

正面スタンド前には応援に来てくれたトレーナーちゃんがいる。そして手にはトレーナーちゃんが丹精込めて作ってくれた季節のフルーツ盛り合わせホールケーキ。果物をふんだんに使ってるから、甘い匂いがプンプンしている。減量でずっと耐えてきた子がそんなものを嗅がされたら、早く走り切ってスイーツを食べに行きたくなってしまうに決まってるでしょ。マヤでも同じことやられたら無理。正気を失って掛かりまくる自信がある。

 

 

「そんな誘惑に負けませパクパクですわ!!!」

「スイーツの舞台へ…駆け抜けます!!!」

 

 

『ああっとメジロマックイーン、上がっていきます!まだ1周目、ゆっくり行こうよメジロマックイーン!』

『さらにスペシャルウィークも上がっていくぞ!そんなに急いでどうしたというんだ!』

『まるで何かを求めるようにしてどんどん上がっていくメジロマックイーン、スペシャルウィークの両名ですが、逆に先ほど上がってきたマヤノトップガンは中団へ下がりました。上位人気2人を壁にしたスリップストリームをやめて、ここで足を溜めるようです』

『この差がはたしてどう出てくるのか、今日の天皇賞は何かが起きる!?』

 

 

「これも勝負なの。ごめんね☆」

 

 

 

 

─────────

 

 

 

「実況も言ってたけど、最初からあんなに飛ばして大丈夫なのかな。3200mも走らなきゃで、まだ1周目。しかも半分も行ってないのに。去年の有馬記念じゃないけど観客から怒号が飛んでるよ…スピカの先輩、調整失敗しちゃったのかな」

「いや…まあ…うーん…」

「何か思い当たることでも?」

「大体想像出来ますよ。ただ…あれほどの人でも掛かっちゃうものなんだなあと。私も気を付けないと」

 

 

フラワーは何かを勘づいているようだが、こっちはまるで意味がわからない。なるようにしかならないか。さてさて、メジロマックイーンとスペシャルウィークは5番の子におよそ6バ身ほどの差をつけて先頭を爆走しているんだが…目からオーラが出てるように見えるから怖すぎる。ああいったことが出来るのがシニア級なのだろうな。

 

 

「ふい〜。今日も良い画が撮れました。満足です」

「あ、おかえりデジタル。もう良いの?」

 

 

正面スタンド前をウマ娘全員が駆け抜けたタイミングで、撮影を終えたデジタルが帰ってきた。片付けをしているところを見るに、レース途中ではあるが抜け出すようだ。

 

 

「ええ。今日のレースは結果が見えましたので、これからライブ会場に先回りです。ただ、オレンジ色のサイリウムはちょうど切らしてしまっていた色なので、買い足さないといけません。急ぎますのでこれにて失礼!!」

 

 

デジタルは荷物を風呂敷に纏めて去っていった。風呂敷とは古風な。便利ではあるけども。

 

 

「もう結果が見えたって…マヤノみたいなこと言ってるな。デジたんわかっちゃった!ってこと?」

「えっと…かわいくないので今後はやらないでくださいね」

「辛辣ッ!!」

 

 

『さあ勝負は終盤戦!第3コーナーの丘を越え、先頭を走るメジロマックイーンとスペシャルウィークがスパートに…スパートに…?おかしいですね、スパートに入っていきませんね』

『まさかのスタミナ切れでしょうか。両名とも歯を食いしばっているのが伺えますが、全く速度が上がっていきません!』

『なんということだ。このまま最後まで行ってしまうのか。マヤノトップガンが後ろから迫ってきているぞ!』

『マヤノトップガンがぐんぐんと上がっていく!残り200!メジロマックイーン、苦しいけど粘っている!』

 

 

「これは勝ったっぽいね。ウイニングライブまで時間あるし、迎えに行こうか」

「はい」

 

 

『マヤノトップガン、ゴールイン!現役最強の名を、見事勝ち取った!』

『2着に入ったのはメジロマックイーン!3着はスペシャルウィーク!』

 

 



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らぶらぶ☆デートするマヤノトップガン

お菓子の話を書いていたはずなんだ…


「う~~~~ん…微妙!!!」

「どしたのトレーナーちゃん…あっ柏餅!おいしそう!」

「ああ、マヤノ。もう来てたのね。実はさ、柏餅に使おうと思って作った餡と、お餅の相性が良くなかったんだよ。微妙においしくないの」

「あ、相性…?」

「ちょっと味見してみる?」

 

 

今日はフラワーは美化委員の仕事、デジタルはいつも通りウマ娘ちゃん観察をするとかで、久しぶりにマヤノと2人きりだ。端午の節句が近いから柏餅でも作ろうかと思って用意していたんだけど、個人的には作った餡がおいしくない。試作した柏餅を切り分けてマヤノに渡す。が、返された。あっはい、食べさせてほしいのね。

 

 

「はい、あ~ん」

「あ~ん☆むぐむぐ…う~ん?マヤは普通においしいと思うけど」

「そう?な~んか物足りない気がするんだよなあ」

 

 

私的には微妙でも、マヤノにはそこそこ好評なようだ。ただし、これは試作品故にカロリーがやばいことになってるので代替品を探さなきゃならない。太る。まあ、現状求める味すら決まっていないんだけど。

 

 

「市販の砂糖使ったのが悪かったのかな。それとも小豆を煮込む時間?粒あんだから悪いのか…?」

「う~ん…マヤにはわからないけど、なにか拘りがあるの?」

「いや?単純に和菓子がそこまで得意じゃないんだよ。洋菓子はいくらでもレパートリーがあるんだけどね。地元の子どもたちには小豆が不人気だったからなあ」

「へ~そうなんだ。マヤ初耳だよ。お菓子ならなんでも得意と思ってたけど」

「今までケーキやタルトばかりだったからね、リクエスト」

 

 

小麦と果物が相性良いのと同じように、米と豆は相性良いはずなのだ。つまり、作り手が下手くそということ。ぐぬぬ。洋菓子ばかり作ってないで、もっと腕を磨いておくべきだった。

 

 

「このままじゃ埒が明かない。気分転換に出かけるか。マヤノはどうする?」

「もちろんついて行くよ!準備してくるね!」

 

 

 

─────────

 

 

 

そんなわけで夢の国にやってきたのだ。備えあれば嬉しいな。フリーパス2日分だZOY!偶には良いでしょ、遊んでも。お前お菓子しか作ってないだろって?聞こえんなあ!マヤノがウッキウキでどこから回るか考えてるけど、外泊届けは出してきたし、残ったら残ったで明日でも良いんじゃないか?

 

 

「トレーナーちゃん!あっちにネズミーが居たよ!ネズミーだよほら!」

「え?あっちってどっち?」

「んもー!そんなんじゃ回り切れないよ!ほら、早くー!」

「待ってマヤノ、ちょ、うわああっ!」

 

 

テンションの上がり切ったマヤノは、私を逆お姫様抱っこで抱えてネズミーのところへバクシン!めっちゃ見られてるんだけど!?てか力強いな。ウマ娘だったわこの子。

 

 

「ばびゅ〜ん⭐︎でもすくらんぶる〜⭐︎でもなくてでね。周りのお客さんにぶつかったりで危ないからダメだってば」

「ふっふっふ。ノンストップガールなマヤには、あれくらいの人混みは問題ないのだ!」

「そうか?そうかも。なら問題ないな」

 

 

実際にマヤノが人混みを回避してたし、そう言うなら問題ないだろう。ネズミーとの記念撮影を終えた私たちは、アトラクションを順番に回りつつお出かけを楽しんだ。問題が起きたのは夜だ。

 

 

「えっ、今日はシングルは1室しか空いてない?」

「申し訳ございません。弊社で確認を取りましたところ、担当者が入れ替わるタイミングで記載漏れがあったようで…」

 

 

マジか。当日キャンセル待ちは無理だと思っていたら、マヤノは『キャンセル出てるから行けるよ。勘だけどね⭐︎』とのことで。ダメ元で電話してみたら見事にキャンセル待ちに成功していたのだが。

 

 

「フリーパスも含めて返金のお手続きを致しますので…本当に申し訳ありません」

「どうするマヤノ。今日はダメだって。急いで帰る?」

 

 

ホテルに泊まれないなら帰るしかない。返金は可能なそうなので、急いで帰るかを尋ねると彼女はあっけらかんとして言うのだ。

 

 

「え?普通にマヤとトレーナーちゃんが一緒の部屋取れば良いじゃない」

「は?」

 

 

2部屋がダメなら、2人用に泊まれば良いじゃないbyマヤノ

 

 

革命起こされちゃいそうなこと言ってる。革命が起こされてるのは私の常識だけど。そもそも担当ウマ娘と一緒の部屋に泊まったのがバレたら懲戒免職どころの騒ぎではない。しかもマヤノは有名人だ。どこから漏れるかもわからない。そんな私の気など知らんと言わんばかりに、マヤノは担当者と話を続けていた。

 

 

「もしかしてツインなら空いてたりしない?」

「は、はい。確かにツインなら空きがございますが」

「ご飯は食べられるのかな」

「予備がありますので、可能でございます」

「じゃあ決まりだね。行こ、トレーナーちゃん」

「う、うそ〜ん」

 

 

トントン拍子でマヤノと同室が決まって、しかも後戻り出来ないところまで行ってしまった。

 

 

「らぶらぶでお泊まりなデートだよ!楽しみだね!」

 

 

まあ、マヤノが楽しそうだし、これで良いか。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「というわけで夢の国のお土産の1番人気、ネズミーのクッキー缶です」

「ありがとうございます。いただきますね」

「どうも〜。直接見るのは久しぶりですねえ」

 

 

マヤノと夢の国で2日間羽を伸ばした私は、翌日フラワーたちにお土産を渡していた。夜に何も起きなかったのかって?起きるわけないじゃないですか、規約違反ですよ。マヤノが微妙な目でお土産に渡した缶を見ているが、はて…?

 

 

「どうしたマヤノ、浮かない顔して」

「お土産の話。マヤが選んでおいてアレなんだけどさ。クッキーってことはトレーナーちゃんが作った方がおいしいんじゃないのかなって」

「…あ゛っ!?」

「そうですかね?どれどれっと…あっ確かにこれは…」

「確かにトレーナーさんが作ったものと比べるとあんまりおいしくないですね。見た目はかわいいですけども。舌が肥えるって、こういうことなんだなあって思っちゃいました」

 

 

お土産は不評のようだ。ざんねん。

 

 

「お土産は失敗かー。あれ、そういえなんで夢の国に行ったんだろ。マヤノは覚えてる?」

「さあ…?」

 

 

全く思い出せない。なんで行ったんだろ。楽しかったというほんわかした記憶と、マヤノの笑顔しか残ってない。あれえ?

 



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やはり歯止めがきかなかったトレーナー

「トレーナーちゃん。何か言うことは?」

「反省はしているが後悔はしていない」

「んー…。ちゃんと反省してるならいいか」

「全然よくないです!?」

「マヤノさんはレースに対してだとあんなに策略を張り巡らせることができるのに、トレーナーさんが相手だと完全にボケに回るの何とかならないんですかね」

 

 

今日も今日とて私は担当ウマ娘たちの前で正座をさせられていた。そう、またなんだ。すまない。今年もダービーが終わり、つい先日フラワーのメイクデビューが行われた。札幌芝1200m。結果から言ってしまうと、7バ身差の圧勝だった。で、そのお祝いとしてシュークリームでも作るかと考えた。フラワーは小柄なので、ぷちシューなら小さくて丁度いいと。しかしどこで何を間違えたのか、気づいたら目の前にはシャインマスカットをふんだんに使った大量のシュークリーム、その数3600。ステイヤーズSの距離と同じ。せっかくのメイクデビュー快勝のお祝いなのだからと、メイクデビュー1着賞金のトレーナー分の分け前を通販に全てぶち込み、買えるだけ材料を揃えた。したがって、シュークリームが大量にあったとしても問題ないのだ。

 

 

「いや問題大アリだよトレーナーちゃん。多分これ、いつも通り多少食べても太らないようにカロリーが調整されてるんだろうけどさ?何度でも言うけどお腹に入りきらないよ。多すぎだってば」

「そもそもがトレーナーさんを自由にさせておいた我々にも問題があったのでは…?」

「前科が多すぎますからね…どうしてこう簡単に限度というブレーキが壊れちゃうんでしょうか」

 

 

そんなの判り切っているじゃないか。可愛いは正義だからね、仕方ないね。

 

 

「あの顔は反省してない…。それはそれとして、最近スイーツ関連で煽りすぎてたから、そろそろ好感度でも稼ぎに行こうかな」

「ふむ…。スピカの皆さんですか。乗ってきますかね?」

「テイオーちゃん太らなかったし行けるんじゃない?」

「チームスピカのこと、まるでスイーツ処理班みたいな扱いですね…」

 

 

何その爆弾処理班的なアレは。シュークリームは爆弾か?市販のものはカロリー爆弾だったわ。砂糖入れすぎなんだよ。甘さを引き立てるのに砂糖ドバドバ入れればいいってそんなわけないでしょうに。

 

 

「沖野さんの甘味制限ってものすごいからね。フラワーちゃんも見てただろうけど、正気を失って掛かりまくるレベルで何も摂取させないから」

 

 

へぇ~、春天で鬼気迫る表情で爆走してたのは掛かってたのか。目からオーラ出てたから威圧してるのかと思ってたよ。実際にマヤノ以外の子は威圧されて震えてたし。

 

 

「そう考えるとトレーナーさん選びは成功だった気がしますね。ここなら甘味に関しては、よほどのことがない限り問題ないですし。元気いっぱいでトレーニングできるのは明確な強みです」

「むむっ!」

 

 

フラワーがデレてる…!これは私の時代の到来ッ…!

 

 

「いえ…やっぱり鞭を与え直した方がいいのかしら」

「あ、圧倒的手のひら返し…」

「トレーナーちゃん、割と頻繁だけどバ鹿だよね。黙ってればいいのに。まあそこがいいんだけど」

「鏡と会話してるんですか?」

「…マヤノさんもどっこいどっこいですよ」

 

 

 

──────────

 

 

 

数日後、沖野さん含めてチームスピカをうちのチーム部屋に招待した。トレーナーちゃんはこういった場だとアガっちゃって邪魔にしかならないだろうから、フラワーちゃんとデジタルちゃんを見張りにつけて自室で待機させてある。時間になると、バンッ!という音を立てて扉が開かれた。あのさ、ノックぐらいしたらどうなの?

 

 

「やっと私がスイーツを食べれる回がやってきましたわッ!!!!!」

 

 

現れたのは超低カロリーシュークリームの山を目の前にしてテンションが振り切れているマックイーンちゃん。あれ、これ本当に大丈夫なの?1人で1000個とか食べたら普通にアウトなんだけど。周りを見ても呼んであるはずの沖野さんが居ない。な、なんで?

 

 

「ちょっとテイオーちゃん。沖野さんは何処行ったの?一緒に連れてくるよう頼んでおいたよね?」

「ん?トレーナーならおハナさんに呼ばれたからちょっと遅れるとか言ってたよ。おハナさん相手だと断り切れなかったんだろうね」

「うそでしょ…」

 

 

減量の鬼が居ない…?スイーツパクパクイーンを抑え込むのにマヤとテイオーちゃんだけ…?

 

 

「まあまあ。流石のマックイーンでも前回の減量で懲りてるから大丈夫だって。ほら、同じ減量を乗り越えたスぺちゃんを見てみなよ」

「スイーツ…スイーツ…なまらおいしいスイーツ…。しかも太らない…うふ、うふふ、うふふふふふふふ」

「「…………」」

 

 

後ろを振り返ると、明らかに挙動のおかしい日本総大将、スイーツウィークがそこには居た。目が血走っていて、正気を保っているようには見えない。テイオーちゃんはそっぽを向いた。

 

 

「ね?大丈夫だって言ったでしょ」

「こっちを見て言ってくれない?」

「待望のスイーツ。今回はシュークリームですわ。あの策略家トレーナーのお手製なんで、何をどうしてもウマいに決まってますわ。おいしすぎて手が止まりませんわ。パクパクですわ!」

 

 

謎の説明を入れてシュークリームに突撃するマックイーンちゃん。明らかに掛かっている。やばい、このままだと食べ尽くされる!

 

 

「待ってマックイーンちゃん!低カロリーとは言っても流石に食べ過ぎたらダメだってば!持ち帰りもアリだから!今日全部食べる必要ないから!ねえ聞いてる!?」

「シュークリームが1番ですわ!!!」

「あーもーダメだこれ!ちょっとテイオーちゃん!マックイーンちゃんを止めるの手伝って!」

「無理だよマヤノ~!こっちも手が離せないんだよ~!」

 

 

テイオーちゃんはテイオーちゃんで、荒ぶるスぺちゃんを抑え込もうとして失敗していた。なんでこんなに力の差があるの。マヤたち同じウマ娘じゃないの!?

 

 

「パ~ク~パ~ク~で~す~わ~ッ!」

「だから待ってこれは罠とかじゃなくてただの好意だから!ダメだってマックイーンちゃん、食べ過ぎだってば!ああもう!トレーナーちゃ~ん!たすけて~~~!!!」

 

 

 

──────────

 

 

 

「んで、こうなったと……」

「はい…」「うん…」

 

 

沖野さんが到着した時にはシュークリームは完食されていた。マヤたち3人で200個ずつ予め確保していたので、マックイーンちゃんとスぺちゃんは残った3000個を半分こして全部食べちゃった。どこにそんなに入る場所があるんだろう。ちなみにテイオーちゃんは食いそびれ。

 

 

「今回は俺のことをわざわざ呼んであったってのもあるし、テイオーの顔を見るに罠じゃないのはわかってたけど…油断したな、お前ら」

「おかしいですわね、食べても太らないはずでしたのに…」

「聞いてた話と違います~…」

「お前ら食いすぎなんだよ!1500個食うとか何考えてんだ!?止めに入ったであろうテイオーたちを見てみろ、ボロボロじゃねえか!いったい何をどうやったらこんなにボロボロになるんだ!?」

 

 

2人を止めようとしていたマヤたちは、正気を失って掛かりまくるスイーツの鬼たちに何度も弾き飛ばされてボロボロだった。着てた服は破れが酷くて上下とも買い直さないとダメそう。洗濯したら完全に裂けて下着が見えるようになっちゃう。

 

 

「お前ら今年の年末まで甘味禁止な?決まりを破れないように監視もつけるから覚悟しておけよ」

「「うええええ!?」」

「「はあ…」」

 

 

油断していたら酷い目に遭ったよ。やっぱり管理できるトレーナーは大事だよね…。

 




マックイーン回が来ないといったな、あれは嘘だ


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夏合宿は行わないトレーナーたち

「暑い!!!」

「暑いですねぇ」

「なんで夏はこうも暑いんだろう。誰も得しないじゃん」

「チーム部屋にエアコンつけるの普通に忘れてましたからね。予算がちょっと足りなかったんですよ」

 

 

春3冠のシーズンが終わり、季節は夏。気温も34℃まで上がってしまい、エアコンの設置されていないチーム部屋は普通に地獄だった。え?宝塚記念はどうなったかだって?マヤノとトウカイテイオーとグラスワンダーの三つ巴の戦いだったけど、マヤノが大逃げして終わったよ。トウカイテイオーが『ボクガマケルナンテー!』と叫んでいたのが非常に印象的だった。あとグラスワンダーは最終直線でトウカイテイオーに向かって薙刀振り回してたけど、あれはどこから取り出したんだろう。

 

 

「金にモノを言わせて施工業者を呼んだから、明日からは涼しくなるはず。暑いし今日はもう解散するか」

「マヤはアイス食べながら扇風機の前を占拠してるから割と平気だよ!」

「トレーナーさんお手製アイスでも食べなければ、この暑さは許されないですからね。あと、少しは扇風機の前代わってください」

「え〜?や~だ☆」

「しょんなっ!?」

「いじわるしないで。ほら、私の扇風機貸してあげるから」

 

 

そして私は余計に暑くなる。トレセン学園はウマ娘優先。耐えるのだ、頑張れ私…!

 

 

「やっぱりむ~り~。しんどすぎる~。海にでも行けばよかったかな」

「海に行ったところで灼熱の炎天下。熱風が吹くだけで絶対に涼しくないですよ」

「ですよね~」

 

 

冬が寒いのは着ればいいけど、夏が暑いのは脱いでも涼しくならんし、手に縄が掛けられてしまう。しかもお菓子が腐りやすい。1年の中で最低最悪の季節だ。滅んでどうぞ!

 

 

「あの~みなさん。えっと…夏合宿とかしないんですか?」

 

 

そんな中、フラワーは夏合宿の提案をしてきた。チームスピカやリギルに所属するウマ娘たちは、夏合宿で追い込んで秋のシーズンに備えるのだそうだ。うちは合宿の届けは出していないが。

 

 

「ん~…。フラワーは海行きたいの?」

「絶対に行きたいというわけではないですけど、どこのチームも海で強化合宿してますし。私たちだけやらないのはどうなのかなって」

「フラワーちゃんの場合わざわざ海に行かなくとも、マヤと組んで並走するほうが実力伸びるから別にいいんじゃない?」

「それはまあ確かに…(ステイヤーのはずのマヤノさんが短距離で私に競ってくるのは未だに理解できないですけど)」

「しかも海に行ったところでトレーナーちゃんにはメリット特にないもんね」

「それな!」

 

 

夏合宿に行ったところでキッチンも冷蔵庫も使えない。そうすると私の出番がなくなってしまう。やはり夏は悪い文明。…文明か?

 

 

「というか学園のプール行けばいいじゃんね。どこのチームも出かけてるから貸切にできるはずだわ」

「え。トレーナーさんも入るんですか?」

「そんなわけないよ。サイドで涼みに行くだけに決まってるじゃん。水泳なんてのーせんきゅー!」

 

 

そんなわけでプールにやってきたのだ。

 

 

「あ゛~…涼しい…」

 

 

たづなさんに連絡すると、プールの許可が下りたので全員でプールへ。当然のように私は備品のイスで涼んでるだけだが。

 

 

「よーし、トレーニング頑張ります!」

「私は割と暑さでバテてますので、ほどほどです」

 

 

フラワーとデジタルは学校指定のスク水でトレーニング。しかしマヤノはそれではなく、フリルのついたヒラヒラした水着に浮き輪…って。

 

 

「なあマヤノ。プールにはトレーニングしに来たんじゃないの?」

「何言ってるのトレーナーちゃん。誰か居るならともかく、貸切なら遊ぶしか選択肢ないじゃん」

「ええ…?」

 

 

遊ぶ気満々のドヤ顔マヤノ。そして、えっへん!と胸をそらしてこう仰った。

 

 

「いい?トレーナーちゃん。バレなきゃ犯罪じゃないんだよ⭐︎」

「それ絶対バレるやつ」

「そういうことです」

「げえっ、たづなさん!?」

 

 

案の定、たづなさんが現れてマヤノは連れて行かれた。戻ってきたときにはちゃんと学校指定のスク水だったので、一応トレーニングする気はあったらしい。それじゃ、トレーニングがんばってね。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「いやあ、やっぱりエアコンがあると涼しくていいですねえ」

「そうですね。外に出るの嫌になっちゃいます」

 

 

翌日、エアコンが無事チーム部屋に取り付けられ、私たちは地獄から解放された。

 

 

「なあマヤノ」

「なあに?トレーナーちゃん」

「くっつかれてると暑いんだけど」

 

 

しかし、昨日プールで遊べなくてやる気が下がりきったマヤノは、私に正面から抱きついてぶーたれていた。暑い。

 

 

「ぶーぶー。今マヤはトレーナーちゃん分が足りないの。だから補充してるの。暑いのは我慢して?」

「アッハイ」

「…今日のマヤノさん、ちょっとこわいですね」

「マヤノさんにも色々あるんですよ。レース以外で八方睨みするのは正直勘弁してほしいですけども」

 

 

目からハイライトが消えててこわい。頭を撫でてやるとふにゃんと笑顔になったので、これはもう甘やかし続けるしかないな。



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早秋のトレーナーと限界デジタル

「わが世の春が来たああああああああああああ!!!!!」

「秋だよ?トレーナーちゃん」

「そうだった!!!!!」

「すみませんトレーナーさん。うるさいので静かにしてもらえませんか。そろそろ中間テストなので勉強に集中したいんですけど」

「ごめんなさい…」

 

 

テンションが上がり切って叫んでいたらフラワーに怒られてしまった。まあ至極当然である。どう考えてもうるさかっただろうしね。しかしなんでこんな場所で勉強しようとしてるんだろう。エアコンか?

 

 

「まあ叫びたくなる気持ちはわかりますよ。猛暑の主張が激しい夏が終わって、ようやく涼しくなりますし、これから秋の味覚シーズンですから。栗、桃、葡萄に蜜柑…と、スイーツには欠かせない食材が新鮮な状態で手に入りますものね」

 

 

教科書から目を逸らさずフラワーはそう言った。そう。1年中果物自体は手に入るけど、ハウスで育てたやつはどうしても風味が3段階くらい下がってる。やっぱり季節のものを使うのが1番おいしいよ。

 

 

「あっそうだ!トレーナーちゃん!秋の天皇賞がそろそろあるんだけど、もうリクエストは出していいのかな?トレーナーちゃん、忘れっぽいから時期が来るまで待ってくれって言ってたけど」

「おっとそうだった。今からならちょうど良いね。なんでもどうぞ?」

「やったー!えっとね、今回のリクエストはモンブランにしようと思うの!この時期って確か栗が1番おいしいし、香りが強いんでしょ?」

「そうだよ。熟してて甘みや香りが引き立ってるのだ」

 

 

しかしモンブランか、秋の最高級の栗の代用は厳しいかもしれんな。小さめのやつを用意しよう。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

『紅葉深まる東京に、1帖の盾を求めて優駿たちが集う秋の天皇賞。天気は晴れ、前日の雨からかバ場状態は稍重となっております』

『1番人気は10番スペシャルウィーク。ここ、東京レース場での戦績はなんと6戦全勝、秋の天皇賞を連覇中のウマ娘です。最終直線での鋭い末脚が今日も炸裂するのでしょうか』

『2番人気は今年の春の3冠を達成している5番マヤノトップガンです。1番人気こそ譲りましたが、気合は負けていませんよ』

『3番人気は16番メジロマックイーン。秋の天皇賞は2年連続で2着、惜しくも秋の盾を逃していますが、今日の彼女は何かが違うように見えます。好走を期待しましょう』

 

 

「マヤノ2番人気かー。いつもスペシャルウィークに負けてるな」

「人気が全てではないですけどね。私たちは人気で争ってるわけではなく、ターフで争っていますので」

「フラワーがめっちゃ良い事言ってる…」

「茶化さないでください。正直な話、マヤノさんに投票しても倍率が高すぎてグッズが入手できないのが原因かと思いますよ」

「……推し事にお金をかけないとは如何ともし難い。ファンの風上にも置けない所業ですぞ!」

「ど、どうした急に」

 

 

鉢巻に団扇に()()と、ファングッズの()()()ーセット……何でもない。フラワーはそんな目でこっち見ないで。コホン…ここまで気合の入りまくったデジタルは久しぶりに見たな。

 

 

「見てください、貯めに貯めたお小遣いで買ったこの3連単投票券を!これぐらいやる気がないとファン戦争は勝ち抜けませんよ!」

 

 

デジタルに見せられたのは3連単で5-6-4の1点賭け投票券だった。そういえば最初のころはサイリウム持って突撃してたのに、ここ最近静かだったのは貯金してたからだったのか。

 

 

「5-6-4だとマヤノ、マチカネタンホイザ、ナイスネイチャの3連単か。えっと…倍率1156.4倍って。大穴狙いすぎでしょ。流石にそれは当たらないんじゃない?」

「しかもマヤノさんはともかく上位人気のスペさんやマックイーンさんが入ってな……っ!?ちょ、ちょっとデジタルさん!なんですかその投票券!?」

「んー?……は!?」

 

 

デジタルが持っていたのはただの3連単じゃなかった。その点数1000。マヤノ-マチカネタンホイザ-ナイスネイチャに10万って…。

 

 

「ふっふっふ。これに間違いはありません。何故なら!あたしのウマ娘ちゃんセンサーがそう囁いているからです!!!!!」

「いやそれ言っちゃうと当たらないやつ」

「まあ見ててください。あたしのウマ娘ちゃんパワーを!」

「「センサーじゃなかったの?(ですか?)」」

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了…スタートしました!』

『最高のスタートを切ったのはメジロマックイーン!後続を突き放して一気に先頭へ!やはりメジロマックイーン!今日の彼女は何かが違うぞ!?』

『マヤノトップガンは前へ出ようとしていましたが、塞がれてしまいました。スルスルと後退していきます』

 

 

「あっ…」

「うわっ、めっちゃバランス崩してる!マヤノは大丈夫かな…」

「んあー!マヤノさん!もっと!もっと右に出て!いつもみたいに華麗に避けて前に出てくださいよ!位置取り最悪じゃないですか!あたしのお小遣い10万がかかってるんですよ!!!!!」

「こっちはこっちでデジタルが荒ぶってる…」

「…10万だとプリファイのお菓子何個分でしょうか」

「え、プリファイ?」

「っ!なんでもないですっ!」

 

 

『レースは向正面へ。各ウマ娘「坂を登るッ!」…失礼、ノイズが入りました。坂を登っていきます。スペシャルウィークは中団から3位まで上がりました』

『マヤノトップガンは後方から4番目、ナイスネイチャのすぐ後ろにつけています。先頭のメジロマックイーンからは7バ身ほどありますが、ここからどう出るのか』

 

 

「これは厳しいな。前が壁すぎる。周りの子たちの、秋の冠は絶対にやらんっていう気迫がすごい。スペシャルウィークは前には出たけど、その前と外を塞がれて出れないなこれは」

「あああああ!!!!!マヤノさん!そこです!今です!下がってからの…やった!外に出れました!そこから一気にスパートですっ!!!!!」

「…もっとすごいのが真横にいたわ」

「本物の限界オタクさんってこんな感じなんでしょうか。流石に圧倒されちゃいますね…」

 

 

レースは最終コーナーから直線へ。マヤノが青空の領域を展開して、急加速から大外をぶち抜いているが、メジロマックイーンとの差が開き過ぎている。これは勝てないか。マヤノが負けるの初めてだな…。

 

 

『マヤノトップガンが追い縋っているがこれは届かない!やった!勝ったのはメジロマックイーン!強いウマ娘はやっぱり強い!マヤノトップガンも強かったが、勝ったのはメジロマックイーンだ!』

『3着に入ったのはマチカネタンホイザ!』

 

 

「うーん…(見抜けてないんですかね、あれを)」

「ま、マヤノさんが…ひょわああああ!!!!!…パタリ」

「ちょ、デジタル!?」

 

 

10万を消し飛ばしたデジタルはショックで倒れてしまった。風に流されて握っていた投票券が空へ…。

 

 

「あっ…いけません!」

「ちょっとフラワー!?どこ行くのさ!デジタルをここには放っておけないでしょ!?」

 

 

そして飛んで行った投票券をフラワーは追いかけて行ってしまった。えっと…もしかしなくとも私だけでデジタルを運ぶの?

 

 

 

──────────

 

 

 

「トレーナーちゃん…ごめんね。マヤ、負けちゃった…」

「ま、マヤノ!?大丈夫!?」

 

 

気絶したデジタルをなんとか控室へ運んで寝かせているとマヤノが帰ってきた。レースに負けたからなのか、顔面蒼白のマヤノ。なんか今にも倒れそうなんだけど!なんで!?そのままマヤノは私に抱き着いて静かに泣き出した。かける言葉が見つからない。これはしばらくそっとしておいてあげないとダメか…。

 

 

「…はあ、はあ。危なかったです。なんとか確保できました」

 

 

その後泣き疲れて寝てしまったマヤノを膝の上にのせて頭をなでていると、息を切らしたフラワーが帰ってきた。手にはデジタルの握っていた投票券が。

 

 

「どしたのフラワー、そんなに息を切らして。それってデジタルの投票券だよね。もう要らないんじゃないの?」

「いいえ?むしろこれ、すごく大事なものなんですよ」

「え、なんで?」

 

 

ゴミと化した投票券を見せながら、あっけらかんとしてフラワーは言うのだ。

 

 

「何故ならこれは"あたり投票券"ですので」

 

 

 

──────────

 

 

 

「どういう…ことだ…?」

 

 

寝かせたままのマヤノをおんぶしてレース場に戻ると、電光掲示板には[メジロマックイーン、斜行による進路妨害で降着]の文字が。こちらからは見えなかったが、上方からのパトロールカメラによって撮影されていた映像に、スタート直後に一気に内ラチへ切り込んでマヤノの進路を妨害しているのがはっきりと示されていた。したがってメジロマックイーンが降着で18着、繰り上がって1着がマヤノ、2着がマチカネタンホイザ、3着がナイスネイチャ…。

 

 

「マジか…デジタルの1点賭け投票券、見事に的中してたのね」

「ですから先ほど言ったじゃないですか。これはあたり投票券だって」

「ウマ娘ちゃんセンサーとやらの感度すごすぎるわ。というか、もしかしてフラワーはこうなるのがわかってたの?レース終了直後もすごく落ち着いてたし、飛んでった投票券を確保しにすぐ動けてたし」

「ええ。最初の実況の『マヤノさんが前を塞がれて~』の時点で。秋の天皇賞で誰かの前を塞いだって時点で、斜行降着は当たり前になってしまっているんです。そして東京芝2000mはスタート位置が特殊なので、外枠がものすごい不利なんですよ。以前から東京2000mの外枠不利は言われ続けていたのですが、未だに修正されていませんね」

「なるほどねぇ」

 

 

普段から勉強を頑張っているフラワーだからこそ、降着に気づけたってことか。何はともあれ、マヤノは秋の盾を入手出来たってことだ。おめでとうマヤノ。

 




マックイーンの降着は史実から、1番人気のスぺちゃんが沈んだのは秋天1番人気の呪いから、外枠が仕様的にもガン不利なのは、私の昨年のチャンミの秋天からです(つまり珍しく実話がモチーフ)。




ここから下は作者の愚痴なので、そういうのが苦手な方はブラウザバック。読了ありがとうございました。









昨年の秋天チャンミは、逃げ3人で東京左逃、所謂地固めセットを揃えていて予選は勝率8割超え。そして本戦でも実際に発動したのですが、789番の大外3枠を引かされていたために内に入れず、コーナーで後退させられて負けました。勝った1番の逃げファル子は地固め先手両方なしだったのに追い抜けないという。そして中盤固有からの逃げ切り…あまりにも酷すぎる不利。負けたのではなく、負けさせられたと感じて本当に不愉快でした。サイゲ許せねえ。秋天は数あるレースの中でも最低最悪だと思います。


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ハロウィンで出店を開くトレーナー

日常回。作者の偏見と独断で超優遇される子がいるらしい


「トレーナーちゃん!」

「ん~?どしたのマヤノ」

「文化祭のハロウィンパーティで、出店やってくれってやよいちゃんからお手紙が来てるよ!」

「ハロウィンで出店ですか…。もうこの時点で今後の展開がだいたい予想できますね…」

 

 

10月の終わり、ジャパンカップがもうすぐ開催される時期。フラワーの手を借りてチーム部屋でカボチャのパイを焼いていると、マヤノがハロウィンに関する封筒を持ってきた。注目!の文字で封蝋されているが…。

 

 

「えっと…やよいちゃんって…誰?」

「な、何言ってるんですかトレーナーさん!?秋川やよい、理事長さんですよ!まさか忘れちゃったんですか!?」

「ああ!理事長か。普段理事長としか呼んでないし、連絡はたづなさんとしかとってないからなあ」

「ああ!じゃないですよ、もう…」

 

 

フラワーからの好感度がガクッと下がったような気がした。なんてこったい。

 

 

「で、どうするの?トレーナーちゃんが面倒に感じるんだったら、マヤがテキトーに断っちゃうけど」

「う~ん…。別に面倒ではないし、出すのは構わないんだけど。どうしたものかな」

「いつも通りお菓子じゃダメなんですか?」

「出すのはお菓子でいいと思うよ。でも売り子がいないのよね」

 

 

そう、問題は売り子。私はたぶん片付けに追われてキッチンに籠りきりになるので、レジや商品の補充をしてもらう知り合いを用意しないといけないのだ。時間ギリギリまで作業してる自分が容易に想像できてしまうし、終わった後の片付けは絶対にやってない自信がある。

 

 

「え~?売り子をやってくれそうな、こ~んなにかわいいウマ娘が目の前に2人もいるのに?本気で言ってるの~?」

 

 

どうやらマヤノは手伝ってくれるそうだ。しかしだね。それは最終手段なんだよ。

 

 

「それこそ何言ってるのさ。2人が売り子になってくれるって言うのなら、それはすごく助かるし嬉しいけど、それじゃあ2人がせっかくのパーティなのに遊びに出かけられないじゃない。配膳だけで終わってしまってイベントを楽しめないとか、そんなのは嫌だよ私」

「トレーナーちゃん…マヤたちのことそこまで考えてくれてたんだね…!嬉しい!マヤ、キュン☆としちゃったよ~」

「(こういうところだけカッコいいんですから。ズルいですよほんと…)」

 

 

当然のことを言っただけなのに喜ばれた。彼女たちはまだまだ遊びたい盛りの年齢だし、わざわざ大人の都合に合わせさせる趣味はないよ。

 

 

「ところでこれって返事ってすぐじゃなくてもいいんだよね?」

「当日ギリギリでも良いんだって。飛び込み参加を許可したいからとかなんとか」

「よし。なら当日にパーティ参加しないでもいいって子が見つかるようであれば開店、そうじゃないならやめるって感じにしようかな。とりあえずやってくれる子を募集する貼り紙でも作るかね」

 

 

画像編集ソフトとか普段使わないからなあ。あれってどうすりゃいいんだ?めんどくさいから手書きでいいかな…。

 

 

「…ところでデジタルちゃんは?最近見ないけど」

「デジタルならマヤノのグッズの整理が終わらないから、しばらく寮の自室に籠るって連絡あったよ」

「あ~…それなら仕方ないか」

「3連単の的中報酬、11564万。大差圧勝でしたからね…」

 

 

あの後、ハズレだと思っていた投票券が実は超高配当投票券だったということを知って、デジタルは30回ぐらいずつ尊死と蘇生を繰り返してから景品を交換しに行った。圧倒的大差で今回の秋天のマヤノグッズをほぼ全て搔っ攫ったそうだが、運搬に4トントラックは流石に引いてしまったな。そんなに大きいのか、マヤノぬいぐるみ…。

 

 

「というかさ。マヤのグッズに関してだけだけど、デジタルちゃん、マヤとチームメイトなんだし?わざわざ投票券買わなくてもここで欲しいって言えばよくない?マヤ、それぐらいの融通は効かせられるよ?」

「やめるんだそういうの!?」「やめましょうそういうのは!?」

 

 

 

─────────

 

 

 

「ハロウィンパーティでの出店の売り子募集ぅ~?なんだこれ、同じく出店を開くアタシへの宣戦布告かぁ~?」

「う~ん…。それは違うんじゃないでしょうか。だってこの募集を出してるの、マヤさんのトレーナーさんみたいですよ?この試作品とは思えないようなお菓子の出来栄えは、他に見たことありませんし。それに、もしそういう意地の悪い人だったとしたら、勘のいいマヤさんがあれだけ好き好きオーラを出して甘えるはずないと思います」

「まあそれはそう…ってゴルシは勝手に破こうとしないでくれる?トレーナーのとこに苦情入るじゃん」

 

 

食堂に貼られた売り子募集の貼り紙。『報酬は時給5000円、または応相談』と書かれたそれは、『当日販売する商品の試作品です。限度を守ってご自由に』の文字と共に、山積みにされているクッキーの上に貼ってあった。試作品にしては手が込みすぎているため、誰が貼ったのか速攻で特定されてしまっているが。

 

 

「マヤノさんのトレーナー…。ううっ…!嫌なことを思い出してしまいましたわっ!」

「私も割と酷い目に遭ってますね。でもとんでもなくおいしかったので、私はそれはそれでいいですけど」

 

 

大阪杯や宝塚記念直前に太り気味になって出走回避したのは記憶に新しい。思い出してしまったメジロマックイーンは渋い顔をしているが、スペシャルウィークはそんなに気にしてないようだ。

 

 

「よくありませんわ!お菓子禁止の恨み…絶対にやり返して見せますわ!」

「だーっはっはっは!何言ってんだ。アレはマックイーンやスぺが調子に乗って食べまくったせいだぐええええ!!??」

「おっとすみませんわ!鉛筆の芯が折れてしまいましたわ!!!」

「(折ってぶつけたの間違いでしょ…)」

 

 

倍返しですわ!と意気込むメジロマックイーンを指さして笑い転げるゴールドシップ。しかし例によって例のごとく、目に向かって鉛筆の芯をぶつけられて撃沈。テイオーは苦笑いするしかなかった。

 

 

「にしても相変わらず憎らしいほどにおいしいですわね。パクパクですわ」

「…なんだかんだ言いながらマックイーン食べてんじゃん。トレーナーにバレたらまた怒られるよ?」

「ハッ!?」

 

 

そんなやり取りを見ていたあるウマ娘は、今までに得た賞金を使って大量にお菓子を買い込む算段を立て、またあるウマ娘はあの味には負けられないと奮起していた。そんな中、とあるウマ娘は友だちを誘ってこの募集に応募してみようと考えた。

 

 

「このカボチャのクッキーおいしい!報酬は応相談ってことは、きっとこのクッキーも食べられるはず!食堂のご飯が物足りないって言ってたし、きっと喜んでくれるよね!」

 

 

そして本人に相談もせずに、彼女は友人の分も勝手に応募してしまうのだった。

 

 

 

──────────

 

 

 

「マヤだよ!好きなものはトレーナーちゃん!よろしくね☆」

「ニシノフラワーです。好きなものは…って、わざわざ自己紹介する必要もなかったですね」

 

 

売り子募集の面接当日。そしてハロウィンパーティの当日である。なんで当日募集にしちゃったの?とマヤノには散々つっこまれてしまったが、試作品を完成品にして、かつ量産するために出来る限り時間が欲しかったのだ。そんな状態だったからか、トレーナーちゃん(さん)を放っておけないという理由で結局マヤノとフラワーは売り子募集に来てくれた。結果的に募集で集まったのはマヤノ、フラワーを除くと2人だけだったし、申し訳ない気しかしないけど即採用案件だった。

 

 

「で、君たちもやってくれるのかな?」

「うん!あの募集マヤちゃんのトレーナーさんだったんだね!私ハルウララ!頑張りま~す!」

「えっと…ライスシャワーです。ウララちゃんと一緒にお手伝いをします…!」

「ありがとう2人とも。今日はよろしくね」

 

 

残りの2人はハルウララとライスシャワー。マヤノを見ると頷いているので性格に問題はなし。採用しても大丈夫そうだ。

 

 

「じゃあ早速で悪いけど、あれに着替えてくれるかな」

「ん~?…おおーっ!なんかかわいい服だね!」

「…ふえ?あれってメイド服…ですよね?」

 

 

通販で購入しておいたフリーサイズのメイド服。数はそれなりに揃えてあるけど、4人とも小柄だからサイズが合うかどうかが心配だ。…が、なんかハルウララを除いて私を見る視線が冷たい。マヤノですら微妙な視線を投げてくるんだが…。私、何かやらかしちゃいましたか?

 

 

「うーん…。ああいうのがトレーナーちゃんの趣味なの?」

「メイド服のこと?配膳と衣装で調べたらあれが出てきたんだけど。もしかして違うの?」

「えっと…。たぶん違いはしないですけど…これはどうなんでしょう…?」

「…そういえばそういう人でしたねこの人」

「トレーナーちゃんはトレーナーちゃんだったもんね」

 

 

検索して出てきたのを適当に注文したことを伝えると、冷たかった視線がほっこりした視線に変わった。解せぬ。試着室などという便利なものは残念なことに無く、申し訳ないけど、とここで着替えてもらうことを伝えて私は部屋の外で待つことにした。しばらくすると、楽しそうな声が中から聞こえた。

 

 

「うわ~!この服かわいいけど、ぶかぶかだ~!」

「ライスにもちょっと大きすぎるかも…」

「マヤにはピッタリ☆フラワーちゃんは?」

「私にも大きすぎますね…」

 

 

だめみたいですね…。まあ何か問題起きても全ての責任は私が負うから問題ないか。

 

 

 

──────────

 

 

 

「みんなお疲れ様。助かりました。無事完売です!」

「おつかれさま~☆」「お疲れ様でした」

「おつかれ~」「お疲れ様です…!」

 

 

結果から言ってしまうと、開始3時間で用意しておいたクッキー10万枚はすべて売り切れてしまった。20枚から30枚ぐらいで買う子が多く、そのままだとトレセン学園所属のウマ娘全員が買ったとしても余る。さすがに10万枚は用意しすぎたかと危惧していたが…。お昼時になって客足が遠のいた瞬間、残っている分を全部くれと札束で殴ってくる子が現れたのだ。

 

 

『い、いらっしゃいませ…!』

『すまない。ここで売っているクッキーの残りは、あとどのぐらいだろうか』

『はい、少々お待ちください。………えっと、8万と5000枚です』

『そうか。…ならこれで足りるだろうか』

『………ふ、ふえええええっ!?』

『どうしたのライスさん!何か問題が…ってええええええ!?帯付きな諭吉の束が10個!?』

『ふむ…足りなかったか。ならまだ持ってくるが』

『違うよ!?というかそんなに出されても困っちゃう!トレーナーちゃん、みんながいっぱい食べられるようにって値段安くしてるから。えっと、半分にして75枚抜いてっと…はい、丁度頂戴しました!…フラワーちゃん!ウララちゃん!残ってるの全部持ってきて!!!』

『わかりました』『は~~い』

 

 

ということがあったのだ。儲けをあまり考えていない材料費ギリギリの値段設定だったので、廃棄処分にならずに済んでよかった。まあぶっちゃけ赤字でも全然問題ないし、余ったら余ったでマヤノが言っていた近所の幼稚園にでも寄付しようと考えてはいたが。マヤノとフラワーに、食堂に丸投げポイーするのは禁止されてしまったので。

 

 

「それじゃあ報酬の話をするね。マヤノとフラワーの分は後で渡すとして、ウララさんとライスさん『ねえねえ!』はい?」

 

 

報酬と受け渡しを説明しようとしたら、ハルウララが話しかけてきた。どうしたんだろう。

 

 

「応相談って書いてあったけど、それってこのクッキーとかにはできないのかな?」

「え、クッキーに変えたいの?お金じゃなくて?」

「うん!私ね、ライスちゃんが食堂のご飯の量が物足りない~って言ってたのを聞いて、これに応募したの!だから、たくさんクッキー欲しいな~って」

「ウララちゃん…!」

 

 

え、ええ子や…。トレセン学園所属のトレーナーとして、こういう良い子の期待には応えないといけないぞ。

 

 

「わかった。じゃあ年末の有馬記念の週まで、毎週クッキーを包んで届けるよ」

「やったー!」

 

 

毎週クッキー200枚ずつで1か月半。出血大サービスだけど、この子たちに投資するなら問題ないよね。

 




そんな罠に釣られクマックイーンさん。クッキーを買い占めたのは当然ながら、あの芦毛です。某スーパーなママに食べさせてもらって、皆幸せになったようです。


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スーパーやる気絶好調なマヤノトップガン

「よーし完成だ!」

「おおーっ!すごいよトレーナーちゃん!このお菓子、すごくキラキラしてる!」

「自信作だからね。これを食べればジャパンカップは勝ったも同然!当日も期待しててね?」

「やったー!」

「…トレーナーさんがパティシエさんとはいえ…なんでお菓子が文字通り光ってるんでしょうか?」

「割とシュールな光景ですよね、あの2人全然気にしてないですが。そして食べると普通においしいのがこれまた謎です」

 

 

今回のスイーツは季節の洋梨を使ったタルト。数日後に控えたジャパンカップでの勝負スイーツの試作と、今日の分のおやつを兼ねている。やる気アップでトレーニング効率もアップ!だそうで。いつも通り私自身はトレーニングにはノータッチだけど。トレーナーはウマ娘の体調とやる気を管理する推し事です。

 

 

「ただ最近はトレーニングばかりしてて休息が無かったので、先にアレを飲まなきゃなんだよね。ということで…じゃん!こちらがそのブツになります!」

 

 

マヤノが取り出したのは、瓶詰めされた毒々しい緑色の液だった。

 

 

「うわ…何そのいかにも栄養あるけどクッソまずい的な何かは」

「これは見た目通り特濃青汁だよ。70コインで買えるやつ」

「70コイン…?」

「でね?これを飲むと元気が出るには出るんだけど、本当においしくないの。ほんと~~~においしくないの」

「なぜ2回言ったし」

 

 

マヤノが顔をしかめておいしくないって言うんだから、相当おいしくないんだろうな。そしてマヤノがそれを取り出してから、フラワーとデジタルがソワソワし始めた。慌てて自分の荷物をまとめ始めているが、はて…?

 

 

「す、すみません。花壇のお花に水をあげるのを忘れていたのでちょっと見てきマヤノさんどうして腕を掴んでいるんですか…?」

「で、デジたんも大事な用事を思い出したので今日はこれにてしつれちょっとマヤノさんその手を離してもらえませんか…?」

「これはトレーニングでケガしないために必要なの。あとは…わかるよね?」

「「「ぴぃッ!?」」」

 

 

マヤノの目からハイライトがッ!?まだ担当がマヤノ1人だった時に、たまに死んだ魚のような目をしてた日が何回かあったけど…これのせいか。お前今まで何を見てたんだよって話だけど。

 

 

「とりあえず言いだしっぺの法則でマヤから行くね。マヤ、テイク☆オーフ!ゴクゴク…………う゛っ!!!」

「はわわ…」

「ちょっとマヤノさん!?それは女の子が出しちゃいけない声ですよ!でも気持ちは痛すぎるほどわかりますのでこれにてしつれ…や、やっぱり逃してはもらえないんですね」

「ダメですよデジタルさん。マヤノさんが頑張ったんですから、私たちも覚悟を決めましょう…!」

 

 

その後2人が全く同じことを繰り返し、口直しのタルトで復活していた。食べた瞬間から、なんだか髪が逆立って目つきが悪くなった挙句、紫色のオーラを放っていた気がしたが…きっと気のせいだろう。

 

 

 

──────────

 

 

 

『海外のウマ娘の優駿が集うジャパンカップ。日本勢は対抗出来るのか!…と言いたいところでしたが、残念ながら諸事情により出走回避が相次いでしまったので、今年のジャパンカップは日本勢のみとなりました!コホン、気を取り直しまして、本日の天気は晴れ、バ場は良バ場。絶好のレース日和となりましたここ東京レース場であります。それでは出走するウマ娘を見ていきましょう』

 

 

「珍しいですよね。海外の方がおられないのは」

「ザックリ調べてきたんだけど、季節外れの大雪で中継するチーナの空港の滑走路が埋もれて機能していないらしいよ。それで来られなくなったんだとか」

「なるほど…。あれ?そういえば実況の人が変わってますね。何故か解説の人も居なくて、実況席には実況の方1人だけです。今回はものすごい早口さんです」

「言われてみればそうだね。何かあったのかな」

「ああ!前の実況と解説の方は、秋の天皇賞でのマヤノさんに対する発言が問題になって降ろされたそうですよ。ウマ娘ちゃんに対するリスペクトがあまりにも欠け過ぎてましたし。許されませんよああいうのは!」

 

 

確かにまるでマヤノが負けて喜んでるような実況だったな。不愉快極まりなかった。皆も同じだったと知って安心したよ。

 

 

「そういえば今日のジャパンカップって秋の天皇賞のメンバーに加えてトウカイテイオーが出走するらしいね。宝塚記念は大逃げで押し切ったけど、今回はどうするんだろ。何か聞いてる?」

「あたしの方は特に何も聞いておりませんね」

「私も何も。ただ、ここ最近の並走では、マヤノさんは私の後ろにピッタリって感じでした」

「誰かをマークでもするのかなあ」

 

 

マヤノがマークをするといえばナイスネイチャだが、今日もそんな感じになるのだろうか…。

 

 

 

──────────

 

 

 

「まあそうですよね」

「うん」

 

 

相も変わらず、マヤノはアタシの真後ろから前方にプレッシャーを投げつけまくっていた。今日はスぺちゃんやマックイーンがいるんで、先行策を取るだろうから少しは楽だと思ってたのに。アタシに何か恨みでもあるんだろうか。いや…マヤノのことだから特に何も考えず、単純にプレッシャーを投げるための楔が欲しかったんだろう。そしてアタシが選ばれてしまったと。まあこのネイチャさんにはそういうのはほとんど効かないんだけどね。単純に周りをウロウロされると気が散るから他所でやってくれって思うけど。

 

 

「ネイチャさん的には、あまりネイチャさんを舐めてると痛い目を見るよ?と言っておこうかね」

「何度でも言うけど、マヤにとって1番怖いのはネイチャちゃんなの。マックイーンちゃんやスぺちゃんも速いけど、ただそれだけだから」

 

 

ぐぬぬ。やっぱり遠回しにどっか行ってくれって言ってもダメか。まあマヤノにマークされている間は何故かアタシの方に目が向くことが無いんで、その分自由に走れる。だから、なんだかんだで掲示板の上の方に行くんだよなあ。…あ。8番の子が掛かってテイオーに向かって突撃し始めた。掛からせて妨害させるとかいう、あの会長さんと同じことできるんだから、そりゃ強いわな。そして3コーナーを回って最終コーナー。そろそろ行くかとスパートをかけ始めたタイミングでマヤノに声をかけられた。

 

 

「今日のマヤはいつもとは一味違うよ。スーパーなマヤを見せちゃうからね…?」

「ほほ~…それはどうも律義に……んなっ!?」

 

 

な、何だこのプレッシャー!?今までに感じたことはない圧を感じて周囲を確認すると、アタシの横を通り過ぎるマヤノが。そして今までのマヤノの領域は雲一つない青空だったが、今日のそれは雷降り注ぐ雨空だった。しかもマヤノの身体からは紫のオーラが出ている。まるで今までと別人なんじゃないかと思わせるほどのプレッシャーを放ちながら疾走するマヤノ。これは…何だ?

 

 

『さあここでマヤノトップガンが伸びてきたぞ!その後ろをナイスネイチャがスリップストリームで追走!最終コーナーを回ってさあいよいよ直線だ!先頭はメジロマックイーン!スペシャルウィークは伸びが苦しい!メジロマックイーンが懸命に逃げているが、それを上回る速度でマヤノトップガンが迫ってくる!迎えるは高低差200mの坂!……坂を登るッ!残り300!先輩ウマ娘としての意地を見せるのか!グランドスラムに王手をかけるのか!マヤノトップガン抜け出した!しかしメジロマックイーンも差し返す!さらにその横からナイスネイチャが迫る!これは大接戦!!!大☆接☆戦ドゴーン!!!』

 

 

 

──────────

 

 

 

「マヤノかな?」

「そうでしょうね」

 

 

観客の大歓声に迎えられたゴール前。マヤノがメジロマックイーンを差し切った。そしてナイスネイチャもメジロマックイーンを差しているように思える。彼女が2着かなこれは。

 

 

「というか今日の実況の方すごいですね。実況がほとんど途切れませんよ。前任と比べて優秀すぎませんか?」

「確かにすごいね。……高低差200mの坂だとか大接戦ドゴーンだとか言ってたような気もするけど。爆発するのかな」

「ちなみに距離400mで高低差200mだと勾配50%ですね。実際の府中の坂は距離300mほどなので、高低差200mだと勾配66%。そんな急坂はなかなか登れないですよ」

「ウマ娘ちゃんグッズが坂の上にあったら?」

「緩坂すぎません?」

 

 

しばらくして結果が電光掲示板に出た。マヤノ-ナイスネイチャ-メジロマックイーンでクビ差、ハナ差。これでマヤノは秋3冠、そして中長距離G1の年間グランドスラムの両方に王手をかけたことになる。

 

 

「よく考えたら今日の実況さん、秋の天皇賞をサブで実況してた方ですね。坂を登るッ!ってすごい声量でしたし、間違いないですよ」

「あぁ…そういやメイン実況に入り込んでたなあ」

「レース前にも言いましたが、今後のメイン実況はあの方になるそうなので、よく聞くことになると思いますよ」

 




スーパーハイテンションマヤノ。双竜打ちでビシバシひっぱたくの楽しかったです(ウマ娘関係ない)
アオシマバクシンオーは名言も迷言も好き。ずっと言っていませんでしたが、ネイチャさんが強キャラなのは私の趣味です。


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阪神では花開かないニシノフラワー

『トリプルティアラを目指すウマ娘たちが集う、阪神ジュベナイルフィリーズ!天気は曇り、バ場状態は良の模様です。出走するウマ娘を見ていきましょう。1番人気はもちろんこの子、4番ニシノフラワー。メイクデビューを快勝して、そのまま阪神ジュベナイルフィリーズに殴り込みです。距離が不安視されましたが、メイクデビューでの快走が評価されて1番人気は譲らなかったようです。また聞いたところによると、彼女はシニア級でグランドスラムに王手をかけている、あのマヤノトップガンと同じチーム所属だとか。今日もその謎のトレーナーの策略が炸裂するのか、期待が高まります』

 

 

「…マヤとフラワーちゃんが同じチーム所属なのはメディアには教えてないんだけどな。どこで誰が漏らしたんだろう」

「ふむ…この辺にもパパラッチが居たのですねえ」

「「鏡と話してるの?」」

「し、失礼な!あたしのはファン活ですよ!ウマ娘ちゃんに迷惑かけるパパラッチなんかと一緒にしないでいただきたい!」

 

 

特別観覧席を貸し切り、マヤノを膝の上に座らせての観戦だ。デジタルは、まーたいつものかーみたいな目でこっちを見ないの。メイクデビューから直通、しかも距離を伸ばしての出走なので、3番人気ぐらいまで落ちるかと思っていたけど、フラワーは何事もなく1番人気だった。

 

 

「作戦はどうするんですかね。王道の先行でしょうか」

「そりゃもちろん逃げでしょ」

「ええ…?フラワーさんが逃げてるのみたことないんですが」

「そういうのってマヤノにはわかるの?」

「うん。メイクデビューのときもそうだったけど、今日のフラワーちゃんの仕上がりと比べたら………相手があまりにも弱すぎるもの」

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了………スタートしました!おっとニシノフラワー、スタート直後からどんどん上がっていきます!掛かってしまったか!?いや、彼女の表情をみるにそうではなさそうです!ということは今回のレースは非常にハイペースで進むことになりそうですね。時計にも期待がかかります!』

 

 

「フラワー飛ばしてるな〜」

「ふふん。やっぱりマヤが言った通り、作戦を逃げに変えたでしょ」

「ふむ…。大方他のウマ娘ちゃんとの力量の差を感じ取って、周りに合わせるより引っ張る方が楽だと考えたのでしょう。先行は逃げのペースに合わせるから疲れますので」

「だよね〜。というか本来なら大逃げしてスタミナでごり押しが楽すぎるもん。誰にも邪魔されないし!」

「それはあなただけですよマヤノさん…」

「しかし実況の人よく見てるね。作戦変更したのをすぐ見分けられるのはすごいよ」

 

 

今日のマヤノはご機嫌らしい。せっかくだから頭をなでてあげよう。ほーら、いい子いい子。

 

 

「…あのさぁトレーナーちゃん。もしかしなくとも、マヤが頭をなでられるとすーぐ機嫌良くなるとか思ってない?」

「…ギクッ」

「でもそれで合ってるから続けていいよ!」

「そっか~」

「そうなの~」

「(あたしを置き去りにして2人の空間に入らないで欲しいんですが。前々から思ってますけど、なんでこの人たち結婚してないんでしょう…)」

 

 

『さぁいよいよ大詰めだ!最後の直線へと入っていきます!ニシノフラワー速い速い!もはや独走状態!残り200!坂を登るッ!新たなる女王は彼女で間違いないでしょう!ニシノフラワー!今1着でゴールイン!』

 

 

「ふむふむ。やっぱりマイル以下じゃフラワーちゃんに並べるようなティアラ路線の子は居なさそうだね」

「そうだね。…ん?マイル以下?」

「中距離からはスタミナ勝負にもなってくるから、今回みたいにスピード全開勝負にはならないと思うよ。少なくともオークスやエリザベス女王杯はね。桜花賞まではとりあえず余裕だと思うけども」

 

 

 

──────────

 

 

 

「お疲れ様フラワー。そして阪神ジュベナイルフィリーズ勝利おめでとう!」

「ありがとうございます。トレーナーさん」

 

 

走り終えたフラワーが控え室に戻ってきた。どうやらケガはしていないようで安心。

 

 

「ね?やっぱり逃げでよかったでしょ?」

「そうですね、マヤノさんの言う通りでした。そして思ってたより実力が身についてたのを実感できました」

「あの逃げはマヤノの指示だったの?」

「そうだよ。きっと実力差が大きすぎて前が邪魔に見えるだろうから、そう思ったのならさっさと抜け出して押し切っちゃえって」

「序盤抜け出しからの押し切りとかマヤノさんのお家芸じゃないですかやだー」

「…勝てばいいんだよ。何をしたって、負けたらそれで終わりだもの」

「それはまあ、そうですけどね」

 

 

確かにあれだけ実力差があるのなら、囲まれて抜け出せなくなる前に勝負を仕掛けに行ってよかったと言える。マヤノのレースの運びの勘が、いい感じにフラワーに伝わっているようで、喜ばしいね。

 

 

「そういえばマヤノさん。他の子と絶対に競るなって言ってましたけど、あれは何だったんです?実力で押し切れって話だったんですよね?」

「それもあるけど、それとは違うの!奥の手は最後まで取っておくものなんだよ☆」

「ああ、確かに奥の手ですね。しかしトリプルティアラを目標にしたんですか、短距離ではなく」

「そゆこと~」

「奥の手…?2人していったい何のことなんです?」

「ふっふっふ。それはオークスでのお楽しみ!それじゃ、明日からもトレーニング頑張ろうね!」

「え?マヤノさん、何なんですかそれ。気になるじゃないですか!?」

 




フラワーの花の領域はオークスまで持ち越し。そもそも実際にゲームをプレイすると、育成中に先行では前に出すぎて発動しません。メイクラシナリオで朝日杯ならブルボンが居るので展開次第では発動しますけど。ノンストップガールウオッカの神威を見よ!(目覚ましが砕ける音)


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スイーツの山に埋もれるウマ娘たち

阪神JFが終わって次は有馬記念ってところで日常回?妙だな…。


「警告ッ!トレーナーくん!許可を出してしまった我々にも問題はあったかもしれないが、これは流石に酷すぎるのではないのかッ!?」

「違うんです理事長!ウマ娘たちの笑顔を守りたかっただけなんです!」

「疑問ッ!なら何故こんなに大勢のウマ娘たちが倒れているのだッ!」

「ただの食べすぎです!」

 

 

珍しく理事長から直々にお呼び出しが掛かった。何事かと呼び出された食堂に着くと、そこは死屍累々としか言えない惨状。倒れ伏して動けなくなっているウマ娘が大勢。

何故こうなってしまったのかというと、時を遡って阪神ジュベナイルフィリーズ後すぐのことである。

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「え?食堂のご飯がおいしくない?」

 

 

マヤノが悲壮な表情で告げてきたのは、思いもよらない学園の粗雑な食事の話だった。

 

 

「そうなの!ここ最近、光熱費の高騰が原因でお野菜が高くなってるからって、材料費をケチってるっぽくてさ?それでどんどん味が落ちていって…もうどのランチを頼んでもまっっったくおいしくないの!マヤ、本当に嫌になっちゃった!ぷんぷんだよ!ぷんぷん!」

「確かに先月から食堂のご飯がおいしくないって噂されてましたね。私はお弁当持参なので、あまり関係なかったですけど」

「あたしは『『デジタルちゃん(さん)は黙って聞いててくれない?(くれませんか?)』』しょんなっ!?」

 

 

撃沈するデジタル。まあデジタルは『ウマ娘ちゃんと一緒ならご飯10杯は余裕でイケます!』とか言っちゃう子だからなあ。この扱いも致し方なし…。

 

 

「で、トレーナーちゃんなら何かいい案が出るんじゃないかなーって」

「ええ…?お菓子ならともかく昼食はなあ。食堂とかノータッチで、実際何やってるかさっぱりなんだけど。まさか昼間からお菓子食べてるわけじゃないでしょ?」

「そりゃね。メニューはにんじんハンバーグとかにんじんカレーで、盛り方は注文の時に言う感じ。1番多いのは…なんだっけ?」

「ハイパーウルトラスーパーミラクルオグリスペシャルV3EXですね。ご飯特盛3杯と、おかずが5人前の超特盛セットです」

「長っ!?」

 

 

なんだその強そうな単語を適当に並べたみたいな名前。しかもオグリってオグリキャップのことだろうし、V2どこ行ったのとか普通に特盛じゃダメなのかとか色々酷すぎてツッコミが追いつかないぞ。

 

 

「デジタルちゃんよくそんなの覚えてたね」

「あたしのウマ娘ちゃんセンサーにかかればどうってことないのです!」

「はぁ…話が逸れてますよ。それでどうするんです?困ったときのトレーナーさん頼みで、ご飯の代わりになるお菓子でも作ってもらうんですか?」

 

 

逸れまくった話をフラワーが戻してくれたがしかし。

 

 

「いやーきついでしょ。お菓子はお菓子であって、ご飯にはならんよ」

「えぇ〜!?そこを何とかしてよトレーナーちゃん!これじゃあマヤ、やる気なくなっちゃう〜!にんじん使ったお菓子のレシピって何かないの?」

「うーん…。そもそもにんじんって主張が強すぎて他の食材の味が死ぬからお菓子にならんのよ。それでも無理やりにんじん使いたいっていうなら、にんじんオンリーのケーキぐらいかなあ」

「むむっ!にんじんケーキ!?なにそれおいしそう!」

「いやマヤノ。だからお菓子はご飯には」

 

 

ならんと言おうとしたところで、マヤノが手を組んで上目遣いで私を見てきた。

 

 

「トレーナーちゃん、おねが〜い⭐︎」

「……もちろんOKだよ!(テノヒラクルー」

「やったー!マヤ、やよいちゃんに食材の使用許可取ってくるね!すくらんぶる〜⭐︎」

「(チョロすぎますよトレーナーさん…)」

 

 

フラワーが呆れた目でこちらを見ているがこればかりはどうしようもない。誰が何と言おうとマヤノのお願い攻撃には敵わないのだ。やはりかわいい。かわいいは全てを解決する…!

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「ということで試しに作ってみました。ウマ娘がどう感じるかわからんので味は保証できません。私にはおいしくなかったです」

 

 

目の前にはドーンとオレンジ色をしたシフォンケーキ。見た目はおいしそうだが、原料はほぼにんじんである。私が試食したところ、どう言い繕ってもにんじんの味しかしなくて普通においしくなかったので、マヤノ、フラワー、デジタルの3人にも試食をしてもらう。そもそもウマ娘用の食事を人間基準で作ろうとした私がアホだった。砂糖をドバドバ入れればもちろん甘くなるが、昼ご飯にするにはどう考えてもカロリーオーバー。厳しいトレーニングをするウマ娘とはいえ、太り気味を覚悟すべきだろう。

 

 

「むぐむぐ…。あっ、これおいしいよトレーナーちゃん!」

「ええ。私もおいしいと思います」

「トレーナーさんが珍しく自信なかった割になかなかイケますね~」

「そっか。そりゃ上々」

 

 

砂糖控えめにんじんケーキであったが、マヤノたちがおいしいって言うなら味は問題ないだろう。問題はこれをレシピとして取り入れてもらえるかどうかだが。

 

 

「というかさ。今ここでトレーナーちゃんがあるだけの材料全部使って作っちゃえばいいんじゃない?食堂のオーブンの方がチーム部屋より圧倒的に大きいし、大量生産して温めるだけの状態にして冷凍庫で保管しておけばいいじゃん」

「え?」

「どうせ学園の調理師が何か作ったところでおいしくないし、せっかく食べるならおいしく食べたいじゃん。大丈夫、もう許可は取ってあるし!」

 

 

びろ~んと出される許可ッ!の文字。まあやっていいならやっちゃうけど…いいんだね?本気出しちゃうよ???

 

 

 

──────────

 

 

 

 

そして冒頭に戻るわけである。

 

 

『昼食をパクパクしていたら何故か太ってしまいましたわ!?』

『うう…食堂のお昼ご飯がおいしくなったからって、油断して食べ過ぎてしまいましたぁ…』

『コンナハズジャー!』

『だからネイチャさんはこの辺でやめとけって言ったのに…。この出来はどう考えてもあの人の仕業でしょ』

『この前買ったクッキーもうまいがこれもうまい。うむ…良い感じだ』

 

 

すごくよく見るメンバーも食べ過ぎで倒れている大惨事。だが私は謝らない。そもそもがマヤノたちが食べてもトレーニングで困らないよう砂糖控えめで作ったのだから、太る要素がほとんどないのだ。なのになんでこの子たちこんなに太ってるの?

 

 

「確認ッ!トレーナーくんはウマ娘たちを故意にこの状態にしようとしたわけではないのだなッ!?」

「ええ。砂糖控えめなので太りにくいはずですので。理事長もお1つ試食してみてはいかがですか?おいしく出来てるそうですよ」

「了解ッ!では試食してみるとしよう。もし何か問題が起きた場合、責任を取ってもらうのでそのつもりでな!」

「マヤノたちに試食してもらったものとレシピも同じです。絶対に問題なんてありませんので、ご自由に?」

 

 

当然ながら、ケーキには何の問題もなかった。しかし理事長も太り気味になった。たづなさんに怒られながらしょっ引かれていったけど。なんでホールで10個も食べちゃうんですかね…。

 



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Mayano first, the rest nowhere.

スイーツ☆トラップ(昼ご飯)が炸裂した後の有馬記念です。


『大雨かつ不良バ場での開催となってしまいました年末最後を彩るグランプリ、有馬記念。今年も優駿たちが揃うはずでした!』

 

 

「えっと…始まる前からお話がすでにオチてるんですけど、このままで行くんでしょうか?」

「しーっ!ダメですよフラワーさん!そういうこと言っちゃ!」

「でも出走ウマ娘がマヤノさん以外全員ほとんど無名なウマ娘なの、狂気でしかないですよ」

「いやはやすみませんね~。ネイチャさんもケガには勝てないってことですのん」

 

 

年末最後のグランプリである有馬記念。出走するウマ娘は人気投票によって選出され、そこから出走を望んだ上位16名がこのレースに出走できるのだ。しかし、今年の有馬記念は少し様子が違っていた。ナイスネイチャが足に微小な違和感を感じ、安全を取って出走回避をしたのを皮切りに、秋のシニア3冠戦線で活躍していたスペシャルウィーク、メジロマックイーン、トウカイテイオーを含めた有名ウマ娘が、何故か続々と回避してしまったのだ。おかげで人気投票10位以内に入っていたウマ娘がマヤノ以外誰も居ないという大惨事。ゲートも8枠で、なんとか開催だけはできるといった程度である。ちなみに回避したナイスネイチャは今日は私たちの横でレースの観戦だ。せっかくだから最高の場所で見物しに来たとのこと。

 

 

「実況の方も困るんじゃないでしょうか。これ絶対2500mも間が持たないです。だって8人ですよ?最高の栄誉を得られる有馬記念が…」

「確かにどんなに酷くともスピカの方々は誰かしら出てくるとデジたんも思ってましたけど、誰も出てきませんでしたね。何があったんですかね」

「さあ…?」

「(さあ…?じゃないよ!アンタが原因だよ!しかも回避理由が昼飯の食べ過ぎで、腹が出すぎてまともに走れないからなんて…絶対に外には言えないよ!学園も全力でひた隠しにしてたし、もしリークでもされたら一生の恥だよまったく)」

「…あっ。レース始まるみたいです」

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!5番、順調に飛ばしていきます。続いて2番、3番があとに続く。2バ身離れて1番、その後ろ8番。1番人気のマヤノトップガン、少し後方に位置取ったか』

 

 

「うげえ…。それはやっちゃまずいんじゃないの…。今日のレースはネイチャさん出走してないんだよ…?」

「どうしたんです?そんな声出して」

「いや~、あっはっは。アタシにはもう結果が見えちゃったのさ。そんなわけで、アタシは学園に入れなくなる前に先に帰らせてもらうことにするよ。マヤノのトレーナーさん、マヤノに優勝おめでとうって伝えておいておいてね。ではまた後日、学園で」

 

 

マヤノが中団後方に位置取りしたのを見てナイスネイチャが顔をしかめ、そして手をヒラヒラ振りながら帰っていった。まだスタートしてほとんど時間経ってないし、そもそもスタンド前にすら来てないのに。

 

 

『1周目のホームストレッチです。スタンドの大歓声に包まれながらウマ娘たちが走り抜ける!順位を確認していきましょう!先頭は相変わらず5番…おっと!ここでマヤノトップガンが上がって行く!……いや違います!マヤノトップガン以外のウマ娘全員が……歩いています!!!これはどういうことだ!スタミナ切れか!?今年の大阪杯の焼き直しとでもいうのか!?マヤノトップガンが後続を完全に突き放して独走している!!!今日の主役はマヤノトップガン!後ろには誰も居ない!!!あのエクリプスのようなことが現実に今起きています!!!』

 

 

「ああ…確かにこれ見たことあるわ」

「掛からせてスタミナ削ってリタイアさせるやつですね。大阪杯で見ました」

「だからナイスネイチャはさっさと帰ったのか。これはえげつないぞ」

「ヘロヘロのウマ娘ちゃんが目の前に…じゅるり。ごちそうさまです!」

「えぇ…」

 

 

マヤノが向こう正面を独走している遥か後ろ、ここスタンド前で7人のウマ娘がヘロヘロになって歩いている。これ本当にG1レースなんだろうか。そうこうしているうちにマヤノが第4コーナーを回って帰ってきた。

 

 

『強い、強すぎる!マヤノトップガンが最終コーナーを回って直線へ入る!中山の直線は短いぞ!しかし後ろの子たちは間に合わない!むしろ目の前にいる!マヤノトップガン、1周差でゴールイン!!!圧勝!!!』

 

 

 

──────────

 

 

 

「ナイスネイチャが言っていたのはこういうことだったのか…」

「えっと…どうするんです?このままでは学園に入れませんけど」

「そうだなあ…」

 

 

マヤノが有馬記念を1周差圧勝で制した。これでマヤノは春シニア3冠、秋シニア3冠、天皇賞春秋連覇、春秋グランプリ、さらにシニア級王道中長距離路線G1グランドスラムを達成したことになる。そして、その取材のために報道陣が学園に集結してしまった。マヤノが疲労のため、その場での記者会見を拒んで後日に回すことを伝えたため、我先にと押し掛けてきたのだ。それにしても酷いな。見た限り月刊トゥインクルだけは居ないようではあるが、その他の報道陣が勢ぞろいでカメラを構え、学園への道を塞いでいる。路肩に車を停めて遠くから様子を見てはいるが、これは入れそうにないな…。

 

 

「ぶーぶー!マヤ、今日はもう疲れたの!だから早く帰ってお風呂入って、寝る前にできるだけいっぱいトレーナーちゃん分を吸収したいのに!これじゃあ帰れない~~~っ!!!」

「ひょええええ…!ま、マヤノさん落ち着いて!ここで暴れてもダメですってば!」

「(寝る前にトレーナーさんとマヤノさんが一緒に居られる状況はトレセン学園では有り得ないんですけど、言ったほうがいいんでしょうか…?)」

「んもー!!!」

 

 

そしてそんな状態だからか、マヤノの怒りが有頂天になった!

 

 

「「トレーナーさん!」」

「はいっ!?」

 

 

と同時に慌てて車から降りたフラワーとデジタルによって、私は運転席から引きずり降ろされ、後部座席に座っていたマヤノに向かって放り投げられた。

 

 

「ぐえっ!」

「あっ、トレーナーちゃんだ!!!えへへ~~~。………もう離さないし誰にも渡さない」

 

 

投げつけられた私をナイスキャッチして確保したマヤノは、私に頭を押し付けて落ち着き始めた。頭をなでてやると、腕を回して大人しくなった。耳が左右にふんわり倒れているし、機嫌は多少治ったようだ。

 

 

「ふぅ…ひとまずこれで安心ですね」

「でも今日はこのまま帰れそうにありませんし、どうしましょう。諦めてこのまま車中泊することにします?あたし、スーパーで何か食べられるものを買ってきますので」

「そうですね…。それしかなさそうです。では私はトレセン学園の方に連絡しておきます。デジタルさんはご飯の方をよろしくお願いしますね」

「任されました!」

 

 

フラワーとデジタルは連携して学園や食べ物に対応するらしく、2人して私を放置して行ってしまった。

 

 

「えへへ~。トレーナーちゃ~ん」

 

 

…どうやら今夜の私はマヤノの抱き枕確定のようだ。でもまあ…マヤノが幸せそうなのでこれでいいか。

 




不良バ場の長距離で発動条件を無視してスタミナデバフを発動すればモブはバテる。マックEーン杯とか昔流行りましたね。アレは春天でしたけど。


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トリプルティアラ編
通年でさぼり宣言をするマヤノトップガン


「ということは今年のレースには1つも出走しない予定だということなんですね!?」

「うん!グランドスラムも無事に終わったし、達成出来たら次の年はトレーナーちゃんと楽しく過ごすってずぅ~~~っと前から決めてたから!」

「…す」

「す?」

「素晴らしいですっ!」

「ぴゃあっ!?」

「ウマ娘とトレーナーの、固く、そして深い絆(中略)わかりました!この乙名史、今までで最高の記事にして見せますとも!!!」

「ふわあぁ……あ、もう終わった?」

「(ちょっとマヤノ!終わった?じゃないよ!?寝てたのバレちゃうでしょ!?)」

「(あっ、トレーナーちゃん。おはよう!)」

「「(マヤノさん…やっぱり途中で寝てたんですね…)」」

 

 

トレセン学園に帰らせて貰えず、やむなく車中泊をした次の週。本来なら記者会見を行うはずだったのだが、マスゴミのあまりに酷い対応にブチ切れしたマヤノによって、月刊トゥインクルを除いた全ての報道陣はトレセン学園から叩き出された。理事長も『不可ッ!』の文字の扇子を大々的に見せつけるほどお怒りで、何とかして潜り込もうとするマスゴミを警察まで呼んで叩き出した。至極当然の結末だった。そして、月刊トゥインクルの記者のみをチーム部屋へ招いて取材を受けていたのだが…。これがまた大分というか、ものすごいインパクトのある記者だった。あまりに話が長すぎてマヤノが途中から船を漕ぎだしたので、さりげなく肩を支えてバレないようにはしたが…この様子だとバレてなさそうだな。

 

 

「マヤノさん、本日は取材させていただきありがとうございました。それでは、私はこれで失礼いたします!」

「ばいば~い。またね~」

 

 

スチャッと綺麗な礼をして乙名史記者は帰っていった。さっきまでの謎のトリップ状態とのギャップがすごいな。

 

 

「って、え?今更だけど、マヤノは来年のレースは全然出ないの?」

「ん~?うん、そのつもり。グランプリレースだけは、マヤに投票がいっぱい集まって、その上でやよいちゃんから出てくれ~って頼まれたら出るかもしれないけど、普通のレースは出なくていいかな~って。あ、トレーニング自体は続けるよ?この先どうなるかわからないけど、ドリームリーグには進む予定だからね」

「…そっか。マヤノがそう決めたのなら私はそれでいいと思うよ」

「えへへ。ありがとうトレーナーちゃん。とりあえず、フラワーちゃんが来年のトリプルティアラを獲れるよう手伝うのが、今のマヤの目標なの」

「…ふえ?あの…私がんばりますっ!」

「一緒にトレーニング頑張ろうね、フラワーちゃん!」

 

 

そう、来年はフラワーのトリプルティアラ。マヤノが言うには、フラワーは順調にスタミナをつけて適性距離を伸ばせているらしい。加速と最高速が速いから、本当であればスプリンター路線に進むほうが良いらしいけどね。やりたいことをやるのがうちのモットーです。お菓子なら任せろ。

 

 

「おっと忘れては困ります!来年はあたしのメイクデビューもありますぞ~っ!」

「あ、そっちは全然気にしてないや」

「しょ、しょんなっ!?」

 

 

全力のアピールをサラッと流されてしまい、よよよ~と言いながら崩れ落ちるデジタル。最近よく見るなぁ、このリアクション。そして倒れたと思ったらすぐに起き上がってマヤノに抗議し始めた。

 

 

「ちょっとマヤノさん!最近あたしの扱い方が雑になってきていませんか!?」

「だってデジタルちゃん、短距離や長距離に出向する気ないでしょ?」

「え?それはまあ…今のところ予定はありませんが」

「だからだよ。デジタルちゃんが有馬記念で1着獲る~!だとか、スプリンターズSで可能性を見せつける~!っていうなら?マヤ、頑張っちゃうけどさ。デジタルちゃんがマイルと中距離走ったら普通に勝っちゃうもん。それじゃあ結果が見えてるからつまんな~い」

「つ、つまんないて…」

 

 

レースに面白いもつまんないもあるのか?…いや、あったわ。マヤノはそういう子だった。

 

 

「…というかデジタルが勝つことに関しては疑ってないのね」

「うん。だって終盤に突然、萌えパワーチャージ、フルマックスゥゥゥ!!!とか言いながらものすごい加速して勝つんだもん。正直アレは左右にウロチョロしすぎてて怖い」

「えぇ…?なんですかそれは…」

「萌えパワーです」

「まるで意味がわからんぞ」

 

 

いつぞやのウマ娘ちゃんセンサーとやらと同じにおいがする。これ関わったらいけないやつだ。

 

 

「まあとにかく。フラワーちゃんがオークスやエリザベス女王杯を目標にするなら、地道にトレーニングをしてスタミナを増やすしかないかな。千里の道も一歩から、ローマは一日にして成らず。だよ!」

 

 

 

──────────

 

 

 

「……で。なんですかこれは」

「ん?見た目通りのいちごのタルトだけど。もしかして、今は時期じゃないじゃないから、そこまでおいしくない~ってこと?」

「いや違いますよ。タルトはトレーニングの前に元気を出そうってことで、トレーナーさんが差し入れしてくれたのはわかるんですけど…。私が気になってるのはその横に山積みにされた本のことです。これはいったい…?」

 

 

マヤノが1年間の出走拒否をメディアに流してからおよそ1週間後のこと。体操服に着替えたフラワーの前に並べられたのはいちごのタルトと赤い本。これからトレーニングってタイミングで、まずは読書をするようマヤノは言うのだ。

 

 

「ふっふっふ。これはね~、マヤが仕入れてきたとっておきの秘伝書なの!これを読むと、持久力を伸ばせちゃうんだよ☆」

「えぇ…?そんなオカルト染みたことがあるわけないじゃないですか」

「そんなことないよ~。…まあ、意味ない場合もあるけど」

「ダメじゃないですか!?」

「まあまあ。騙されたと思って読むだけ読んでみてよ。並走はそのあとにちゃんとするから、ね?」

「……もう、仕方ないですね。…ええっと?」

 

 

フラワーがしぶしぶ本を読み始める横でデジタルは驚愕していた。彼女は知っている。これがスタミナ秘伝書とかいうオカルトアイテムなのを。読めば本当にスタミナが増えてしまうのだ。

 

 

「(こ、これはまさかのドーピング本…!いったいこれをどこで入手したんです?確かものすごいお値段って話ですよね?)」

「(え?普通に自費だよ。購入資金はマヤが自分で作った同人グッズをメル〇リで売りさばいたんだ~。しかもマヤのサイン入りだよ☆)」

「(えぇっ!?メ〇カリならあたしもチェックしてましたけど、あのグッズ本物だったんですか!?)」

「(ふっふっふ。URAはマヤがレースに出走しないとグッズ出せないからね、ぼろ儲けだよ~☆)」

「(あ、悪質すぎる…)」

「(そんなことないよ~。どぼめじろう先生もそうだけど、デジタルちゃんも本出してるじゃない。同人の範囲内だよ。本人公認のグッズってだけでね)」

 

 

 

 




毎日更新→3日以内更新へ。フラワーのクラシックをどうするかまだ決めてないんですよね。


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お餅を大量消費したいマヤノトップガン

10/10 ライスシャワーの1人称が間違ってたので修正。見直ししなかったんですか…?(白目


「トレーナーちゃん!あけましておめでとう!」

「トレーナーさん。新年あけましておめでとうございます」

「2人とも速いね。あけましておめでとう」

 

 

日付が変わってすぐの私の自室に、マヤノとフラワーが訪ねてきた。本来なら深夜の外出は固く禁じられているが、そこは理事長。特別に許可を出してくれたそうだ。去年は日の出前に行ったのに混んでたからね。マヤノぷんすこ事件から日も経ってないから、悪質なパパラッチを警戒しての判断とのこと。話がわかりすぎる。

 

 

「あれ?デジタルは?一緒に来るって聞いてたけど」

「デジタルちゃんならひょええええ!だの、ほわああああ!だの言ってたからちょっと遅れるよ」

「つまりいつものです。私たちも着物でビシッ!とキメるのはお正月だけですからね。よきみ!尊み!マイ女神ぃ〜!!!も今日だけは仕方ないかなって」

 

 

なるほどいつものだった。アレはもう死んでも治らないだろうね。だってあの子何度尊死しても自力で蘇生するのに、一向に治る気配がないし。

 

 

「というかさ、マヤたちはデジタルちゃんの性癖を知ってるから良いけど、本来は人の着物姿見て発狂した挙句気絶ってものすごく失礼だよね」

「…確かに女の子がせっかく着飾ったのに、奇声を上げて倒れられたら腹立ちそうだなあ」

 

 

デジタルが特殊すぎるっちゃ特殊すぎるけど。乙名史記者も似たようなことしてたりして。…流石にそれは無いか。

 

 

「で?トレーナーちゃんは何か言うこと無いの?」

「着物のこと?去年とは微妙に意匠が違ってて、マヤノのは胸元の向日葵が大きくなって、フラワーのは腰回りの雛菊の色が濃くなった、とかそういうやつ?2人ともよく似合っててかわいいよ」

「……はわわわわっ!?」

「…よく見てますね。正解です。気づかないかと思ってました」

 

 

これでもトレーナーだからね。細かい事には目を向けているのさ、はっはっは!…さっきからマヤノから反応が無くなってしまったが、どうしたんだろう。手をつないで歩き始めたらちゃんとついてくるので、一応大丈夫なのかな?

 

 

「ま、待ってくださ〜い。デジたんをお忘れですかぁ〜?」

「お。ようやくデジタルも来たな。あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございますトレーナーさん」

 

 

遅れているデジタルをトレセン学園の校門前で待っていたら、無事合流できたので、4人で連れ立って神社向かった。神社での話は、今年は特に何か起きたわけでもないので割愛。なお引いたおみくじはマヤノとフラワーが大吉、デジタルが吉、私だけ凶だった。なしてや!

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「トレーナーちゃ〜ん!たすけてぇ〜!」

「どうした急に」

 

 

翌日のこと。今月のおやつのメニューを何にするかを考えていたところに、慌てたマヤノが私の自室に飛び込んできた。やけに大きな袋を抱えているが、何だそれは。

 

 

「ねえねえトレーナーちゃん!お餅をいっぱい消費することって出来ない?」

「餅?」

「そう!ほらこれ!パパがいっぱい送ってくれたんだけど、どう考えても送りすぎ!でも、送り返すのも悪いかな〜って思ってさ」

「なるほど。それでここに来たと」

 

 

マヤノが抱えていた袋には大量の切り餅が入っていた。確かにこれは学生1人で消化しようとすると大変だろう。こんなに大量に送るマヤノのお父さんも何を考えていたんだろう。娘の喜ぶ顔を想像して嬉しくなっちゃったとかそういう?でもその気持ちはすごくわかる。

 

 

「うん!だからトレーナーちゃん、何か作ってくれない?」

「そうだなあ…」

 

 

餅は定番の餡子やきな粉をまぶしてもいいし、お雑煮にしてもおいしく食べられるが…。

 

 

「やっぱり大福かね。レンジで温めると柔らかくなって形が変えられるし。ちょっと季節外れだけど、いちごを乗せるとさらにおいしいよ」

「いちご大福!?おいしそう!…でもあれ?トレーナーちゃんって和菓子得意じゃなかったよね」

「…ふっふっふ。甘い、甘いよマヤノくん」

「ま、マヤノくん…?」

 

 

いつまでも洋菓子しか作れないトレーナーちゃんではないのだ!

 

 

「はいこれ。さっき試しに作ってみたんだけどさ」

「ん〜?…あっ、これこし餡だ!」

「せいか〜い」

「前の餡子よりおいしくなってる!すご〜い!」

「はっはっは!もっと褒めていいんだよ?どうやら粒あんにしたのが悪かったみたいでね。皮の変な味が全体に広がってたみたいなんだ。だから、全部の皮を取り除いてから餡にしたってわけ」

「なるほどー!でもマヤにはわかんない!」

「ズコー」

 

 

丁寧に皮取ったり、ムラが出ないように潰したりするのすごく大変だったのに…。

 

 

「まあいいや。とりあえず、いちご大福に必要なこし餡と餅はここにあるんで、残るはアクセントのいちごだけ。後で買いに行こう」

「お~!」

「ただし全部食べたら食べすぎだから、フラワーたちと相談してうちで食べる分だけ残して、残りは食堂の入り口にでも置いておこうかね」

 

 

きっと葦毛班が腐る前に何とかしてくれるだろ。困ったときの食堂ポイーである。

 

 

「えぇ…、またそのパターン?前に食堂ポイーはダメだって言わなかった?」

「寄付しようにも幼稚園児に餅はダメでしょ。万が一喉にでも詰まらせたら大問題だし」

「あ~…それもそうだね。なら仕方ないか」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「こ、このやけにかぐわしい香りを放ちながら光輝いている大福…ものすごく既視感がありますわ!?」

「ま、またなんですか!?有馬記念出れなかったの、トレーナーさんにきつく叱られたばかりなんですけど!?」

 

 

食堂に設置されてしまった大量に山積みにされた大福トラップに、もはや当たり前のように引っかかる食いしん坊ズである。厳しい減量明けにまたしても仕掛けられた無慈悲なるデブ活トラップに、もはや正気を失う5秒前。

 

 

「今年はマヤノさんがレースに出走しないってことですので、この類の罠は置かれないだろうと安心しておりましたのにっ!…まさか別人!?こんな無慈悲なことをする人が他にも居るというんですの!?」

「いやー、居ないんじゃないの?この仕上がり方はあそこのトレーナーしか有り得ないでしょ。というかマックイーンのマヤノに対する偏見がすごい」

「だってそうでしょう!?春の天皇賞に始まり、宝塚記念、有馬記念…まともに走れたのジャパンカップしかないじゃありませんの!」

「全部自業自得じゃんか~(秋天を入れてないの地味にウケる)」

「おうマックイーン。食堂では静かにな。このゴルシちゃんがガムテープで口を塞がないといけなくなっちまうぜ」

「ぐぬぬ…!普段うるさいあなたに言われるなんて…屈辱ですわ…!!!」

「うう…私も大福食べたいですぅ…」

「くっ…耐えるのですメジロマックイーン。あなたはやればできる子です。それに今ここで大福を食べたら大阪杯はどうなってしまいますの?我慢の心はまだ残ってます。ここを耐えれば、レースに出られますのよ!」

 

 

減量明けなので必死に大福トラップに抵抗する食いしん坊ズ。メジロマックイーンに至っては自己暗示まで始める始末。しかしそんな横で、普通に大福に手を伸ばす影が。

 

 

「ねえねえライスちゃん!この大福、すごくおいし~よ!」

「そうだねウララちゃん」

 

 

ハルウララとライスシャワーである。ハロウィンパーティの後ぐらいから、ハルウララがライスシャワーの自主トレについて行けるようになったため、ここ最近の2人はずっと一緒に行動しているのだ。

 

 

「これきっとマヤちゃんのトレーナーさんのお手製だよね!きっと毎日こういうおいしいお菓子が食べられるんだろうな~。いいな~」

「ふふ、そうだね。でも、こうやって結構な頻度でおすそ分けが並ぶし…。ライスたちもおいしいお菓子が食べられて、すごく嬉しいね」

「うん!」

 

 

そうやってハルウララとライスシャワーは幸せそうに大福を食べていた。そして、そんなすこぶる幸せそうな光景を見せつけられた食いしん坊ズは……ついに発狂した。

 

 

「あああああああああ!!!なんなんですのこの仕打ち!?許されませんわ!?どうして私ばかりこんな目に遭わないといけないんですのおおおおお!!!???」

「こんな理不尽おかしいですっ!!!私だっておいしいお菓子食べたいですううううう!!!」

「(2人がパクパク食べ過ぎるのが悪いんじゃん…)」

「(お前らが際限なく食うからじゃないか…)」

 

 

メジロマックイーンとスペシャルウィークに鬼宿る日は近い…かもしれない。

 



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知らない間に盛るトレーナー

「ねえねえトレーナーちゃん!見てよこれ!すごくない!?」

「どれどれ…?えっ、嘘ぉ…?」

「えっと…デマ情報でしょうか?」

「そう思うでしょ~?マヤもそう思ってちゃんと調べてきたんだけど、事実みたいなの」

 

 

2月初旬、世間ではもうバレンタインムード1色である。そして去年に続いて今年もチョコに悪戦苦闘している私であった。フラワーに手伝ってもらっているにも関わらず、現状上手くいきそうにない…どれだけチョコ嫌いなんだよって突っ込まれそうだ。さてさて、そんなところにマヤノが持ってきた学内新聞に書かれていたのは、『メイクデビュー勝利以降、出走レース全敗中のハルウララ、川崎記念1着の快挙!』の文字である。

 

 

「えっ、本当にこれどういうことなんだろう?ハルウララってあの元気ハツラツだけど、やけに足が遅くてレースに全然勝てない子だったよね。メイクデビューだけ勝てて、それ以降ボロボロの」

「うん。そのウララちゃんだよ。でもここ最近ライスさんと一緒にトレーニングしてるみたいで…。すごく頑張ったみたいなの」

「そうなのか。…でも川崎記念って中距離だったよな?あのスタミナのない子が走れる距離だったか…?」

「どうだろ。でも勝っちゃったんだからそれでいいんじゃない?」

「まあそれもそうだな~」

「うんうん!」

「(あれは努力でなんとななる範囲だったんでしょうか…。しかもライスさんってガチガチのステイヤーのはず。それを一緒にトレーニング…?)」

 

 

いやあすごいな。あの子は生涯負け続けるとばかり思ってたけど。まあ個人的には努力は報われるべきだと思うし、そうであって欲しいよ。

 

 

「で?今年もまたトレーナーちゃんは、チョコ憎しの気持ちを持ちながらもチョコ使ってるんだ」

「一応バレンタインだからねぇ…」

「そういえばトレーナーさん、何作るか決めてから作ろうとしてるんですか?今の段階では、私には何も考えずにチョコを溶かしてるだけにしか思えないんですけど」

「ああ、今年はガトーショコラを作るんだよ。去年は表面にチョコクリームを塗りたくった中身は普通のホールケーキだったけど、今年は直接生地に練りこんじゃおうかなと」

 

 

今年はふわふわ、しっとり、そして特製のつやつや生地の3種類で勝負だ。どれかしらが彼女らの好みに当たるだろう戦法。当日残った分と試作品は食堂ポイーしちゃう予定。数が少ないから問題も起きないだろ多分。

 

 

「お疲れ様で~す。おや、皆さん既におそろいで…。ってトレーナーさん、今年はガトーショコラですか。去年はチョコ系のホールケーキでしたけど」

「む…よくわかったね。その通りだよ」

「ここに来るまでのバレンタインには、私の方からウマ娘ちゃんにチョコをお贈りさせていただいてましたので。残念ながら私はチョコを練りこむ感じのお菓子に関しては上手くいかなかったんですけどね。どうしてもムラが出ちゃうというか」

「作ってる最中に興奮しすぎちゃった…とか?」

「あはは、バレました?」

 

 

バレるも何も普段から性癖が全力全開じゃないか…。というかマヤノがレースに出ないなら必死になってカロリーオフ仕様にする必要もないのでは?フラワーやデジタルが食べ過ぎるってことはないだろうから…。クックック、全力で甘くしちゃうぞ。

 

 

「…なんかトレーナーちゃんがものすご~く悪い顔になってる」

「天才から罠に掛けられて大逆転されそうな顔してますよね。これは罠だッ!みたいな」

「まあ実際には掛けるほうだけどね☆」

「悪意がない分厄介ですよあれは…」

「……ハッ!もしかしなくとも私、今回の悪の片棒を担がされてしまったのでは!?」

「えっと…ご愁傷様です」

「が~ん…」

「だいじょ~ぶだよフラワーちゃん。マヤがいいことを教えてあげるね。…バレなきゃ犯罪じゃないんだよ☆」

「それバレるやつですよマヤノさん…」

 

 

3人に何か言われているが、気にせずに行くぞ!

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「私思ったんですの。別に食べてしまっても構わないのだろう?と。そもそも太ってしまっても、全力でダイエットを頑張ればよいのだと何故今まで気付かなかったのでしょう」

「そんなの知らないよ。でも確かにまだ2月頭だからなあ。大阪杯は3月の頭だし、デブになってもダイエット間に合うか。ボクは何が起こっても知らないフリするけどね、にしし~」

 

 

毎度のように山積みにされたガトーショコラ。3種に分けてあるそれは、『ふんわり柔らか食感』、『しっとり滑らか食感』、『特製つやつや食感』と書かれた札の下に設置されていた。毎度恒例のスイーツ☆トラップを見るなり開き直って戦闘態勢に入るメジロマックイーン、それを見て呆れを通り越して既に感心する域に入っているトウカイテイオーである。メジロマックイーン、学ばないウマ娘である…。なお今回のスペシャルウィークは、何かを察して食堂のある棟に入る直前で逃げだし、スイーツの魔の手から逃れることに成功した。

 

 

「パクパク。このガトーショコラ、なかなかイケますわね。なんだかいつもより甘みが強い気がしますけど」

「へぇ~。マヤノのトレーナーが作ったのに甘いんだ、珍しい。いつも糖分控えめでボクからすると物足りないのにな~。気になるからボクもちょっとだけ味見しよ」

「…あげませんわよ?」

「いやいや取らないって、スぺちゃんじゃないんだからまったく…。それじゃあどれにしよっかな~…って。ふんわりとしっとりはわかるけどさ。何だろ、このつやつや食感って」

 

 

メジロマックイーンがパクパクする横で、トウカイテイオーは不思議に思ったつやつやを手に取ってしまった。その悪魔のスイーツを。

 

 

「あ~ん。むぐむぐ……っ!?!?!?」

「ど、どうしましたのテイオーさん。尻尾がピーン!と逆立っておりますけど…」

「こ、これは……」

「…これは?」

「はちみーだああああああ!!!!!!!!」

「え゛っ」

 

 

メジロマックイーンはトウカイテイオーがとんでもないはちみー狂いというのを知っている。それこそ正気を失ってスイーツパクパクイーンになってしまった自分よりも酷いレベルの。そして、予め知らされていて、トレーナーの管理が行き届いていた過去のはちみークッキーと違い、今回は突発的なもの。まったく覚悟が出来ていない。そうなれば正気がホウカイテイオーになってしまうのも当然だった。

 

 

「はちみー!はちみーを食べるのだ~~~!!!」

「こ、これはまずいですわね…」

 

 

正気を失ってケーキに突撃するホウカイテイオーを見て、逆に冷静になるメジロマックイーン。しかし時既に時間切れ。ホウカイテイオーと化したトウカイテイオーに勝てるはずもなく、あえなく撃沈したのだった。

 

 

 

──────────

 

 

 

「ふんふんふ~ん♪今日は久しぶりにトレーナーちゃんの全力のケーキが食べられたし、幸せな気持ちで寝られるよ~☆」

 

 

お風呂に入ってさっぱりしたマヤノ。やることはすべて終わって、残るは髪を乾かして寝るだけである。そんなマヤノが気分よく自室の扉を開けると、そこにはデーンと丸い箱が鎮座していた。

 

 

「なぁにこれぇ。テイオーちゃんのかなあ。荷物はちゃんと仕舞っておくように言ってるのに~」

「ま、マヤノ~」

「ひぇっ!?誰も居ないはずなのにテイオーちゃんの声が!?もしかしてお化け?」

「違うってば~」

「んん~???」

 

 

まさかと思って置いてあった箱のフタを開けると中には丸々と太ったウマ娘が。そしてその顔は見知ったものだった。

 

 

「…テイオーちゃん、何やってるの?マックイーンちゃんの役目じゃないのこういうのは」

「ボクだってそう思うよ!でもはちみーの罠を仕掛けられてるなんて聞いてないよー!」

「はちみー?何それ、マヤ知らないんだけど」

「でも食堂のケーキが…」

「……あ」

 

 

そういえばショコラの1つが無駄に甘くて、それだけおいしくなかったのを思い出したのだ。なるほど、はちみーを入れたからあれだけつやつやに光ってたんだなーと思うマヤノ。何度味見してもはちみーは人間には甘すぎて味がわからないそうで、ほぼ全て失敗作扱いで食堂にポイーされてしまっていた。そこにこのテイオーである。

 

 

「まさかテイオーちゃん…」

「…うん」

「えぇ~~~っ!?まさかアレ全部食べちゃったの!?あの量のケーキを!?」

「気づいたら何も残ってなかったんだよ~~~!帰ってくるにもボクだけだと立てないからって箱に押し込まれて転がされるしさあ?」

「だから丸い箱なんだね…」

「ボクガフトルナンテー!」

 

 

あーあ。これは大阪杯無理そうだね。トレーナーちゃんが全力で作ったやつだもん。マヤは知~らないっと。




トレーナーちゃんが盛ったもの
マヤノ、フラワー、デジタル→やる気↑↑↑
マックイーン→やる気↑↑体力↓↓↓
テイオー→腹の肉↑↑↑


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真っ向勝負の皐月賞と予定調和の桜花賞

皐月賞が難産でした。そして初めてのトレーナーもウマも名前も入らないタイトル。


「やっぱりレースの前は緊張してしまいますね…!」

「フラワーちゃん頑張れ〜」

「頑張ってください!このデジたんも非力ながら応援しておりますので!」

 

 

桜花賞。トリプルティアラの1冠目であり、フラワーの目標としているレースが今日、これから開催される。もちろんフラワーご所望のカップケーキも用意してあるぞ。

 

 

「それではさっそく…本日の勝負デザート、ご開帳〜」

「わぁ…かわいいですっ!」

「これは見事なものですねぇ」

「さすがトレーナーちゃん。洋菓子なら得意分野だもんね☆」

 

 

用意したのは桜花賞の桜に因んで、さくらんぼを使った特製のカップケーキだ。これを食べて全力で頑張って欲しい。

 

 

「じゃ、召し上がれ」

「いただきますっ。…あっおいしい。(中略)コクン。…ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

 

 

フラワーが食べ終えたので、パパッと片付けだ。出走までもうちょっと時間があるからね。マヤノたちの分はチーム部屋の冷蔵庫の中なので、帰ってからのお楽しみです。…マヤノ、そんな目で見ても無いものは無いよ。

 

 

「そいえばさ〜トレーナーちゃん」

「ん?」

「どうしてモチーフの桜の花がつぼみだったの?」

「ああ、それは私も気になってました。普通こういうのって開花した状態ですよね。桜"花"ですし」

 

 

そう。指摘された通り、私が作ったケーキにさくらんぼをカットして描かれた桜はつぼみの状態だった。もちろん、これには当然意味がある。

 

 

「前に、つぼみが花開くように、精いっぱい頑張りますっ!って言ってたからね。これから咲くフラワーにはピッタリでしょ?…いつもお菓子作り手伝ってくれてありがとう。フラワーがなりたい自分になれるよう応援してるから、精いっぱい頑張ってね」

「…………はわわわわっ!?」

「ぐええっ」

 

 

フラワーの頭を撫でながらモチーフについて説明しながら激励したら、突き飛ばされてしまった。まだ好感度が足りてなかったか…。ぐふっ。

 

 

「…あれはズルいよね。大事なレースの前に、ちょっと気になってる相手から真剣な顔であんなこと言われたらさ~。というか他の子が口説かれてるのを外から見ると、ちょっと恥ずかしいね…」

「…デジたんが見てる限りですけど、普段のマヤノさんへの甘やかし方の方が、アレの数倍は酷いと思います」

「……えっ?そんなに?」

「気づいてなかったんですね…。(というかこのままだとデジたんも危ういですね。気をつけねばトレーナーオブシンフォニアだの、攻略王スイーツの軌跡だの言われてしまいそうです)」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

『ニシノフラワー、圧倒的な実力差を見せつけて今1着でゴールイン!春の阪神に女王が帰還!阪神ジュベナイルフィリーズに続き、ニシノフラワーが桜花賞を制しました!』

 

 

「これはひどい」

 

 

圧倒的大差でフラワーは桜花賞を逃げ切った。というか最初から最後まで掛かりまくった挙句、ソラを使った上での大差勝利。何というか、レベルが違いすぎて反応に困る。こんなんで大丈夫なのか、今年のティアラ路線は…?いや、マヤノのクラシックもこんなんだった気がする。…なら問題ないな!

 

 

「スーパー絶好調で元気200%だもん、そりゃこうなっちゃうよね。しかも3女神ガチャで引いたのマヤとネイチャちゃんだってさ。スタミナ対策もばっちりってね☆」

「最初から最後まで掛かってましたのに、この差で勝つのは他のウマ娘ちゃんがかわいそうな気もしますね…。というか何ですかそのデバフ連打のハッピーセットは」

「何言ってるのデジタルちゃん。マヤはデバフ連打役じゃないよ?」

「えっ」

「えっ」

「…は、話についていけない」

 

 

3女神ガチャとかものすごい失礼なこと言ってる気がする。神頼みで勝てるわけないじゃん。フラワーが勝ったのは日頃の努力の結果だよ。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「ライスちゃああああん!頑張れええええっ!」

 

 

話は変わって今度は皐月賞。うちのメンバーが出走するわけではないが、知り合いのハルウララから

『友だちのライスちゃんが出走するの!マヤちゃんのトレーナーさん!手伝って!』

との要請があったので、付き添いで来たわけだ。先日述べたが、川崎記念勝利までのハルウララはメイクデビュー以降勝利がなかった。そのため、担当トレーナーが逃げ出したとかで…今はフリー状態なんだとか。しかし、どうしてもトレセン学園の関係者優遇枠である、ターフの真横から応援したくて、知り合いの私を頼ったそうだ。というか担当トレーナーなしにどうやって川崎記念に出走したんだ?

 

 

「ライスシャワーさんとミホノブルボンさん、どちらが勝つか気になりますねえ!」

「ライスちゃんが勝つもん!」

「うーん。相手はブルボンさんですからね。厳しい戦いになると思いますよ。私もトレーニングにお付き合いしましたが、かなりハードな坂路トレーニングを頑張っておられましたし」

「そう言われると…でも私はライスちゃんを信じてるよ!」

 

 

『クラシック3冠の初戦。今年も優駿が集まりました皐月賞、中山レース場芝2000m。天気は曇り、良バ場の発表です。出走ウマ娘を見ていきましょう。3番人気はサクラバクシンオー。京王杯ジュニアS1着、スプリングSを2着に入り込んで、稀代のスプリンターがクラシック路線に殴り込みであります。2番人気はライスシャワー。華麗な末脚でホープフルSを制し、ここ皐月賞へと駒を進めました。そして本日の1番人気はミホノブルボン。朝日杯フューチュリティS、スプリングSをレコードで制しています。今日もその俊足が炸裂するのでしょうか!』

 

 

「ほほう、サクラバクシンオーも出るのか。彼女はどうなんだ?」

「バクシンオーさんは厳しいと思うよ~?単純に距離が合ってないし。スピードだけはあるから、3コーナーぐらいまで先頭で、そこら辺でバクシンオーさんの先頭はここで終わりッ!とか言われそう」

「なるほど?」

「ま、このレースに限ればブルボンさんを掛からせたらライスさんの勝ち、掛からなかったらブルボンさんの勝ちってことかな。単純でわかりやすいね☆」

「判定が大雑把すぎる…!」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

『勝ったのはミホノブルボン!皐月を制し、クラシックの1冠目を手に入れた!2着に入ったのはライスシャワー!』

 

 

結果から言うと、ミホノブルボンがレコードで1着、クビ差でライスシャワーが2着。サクラバクシンオーはブービーだった。マヤノの言った通り、サクラバクシンオーの先頭はここで終わりっ!とか言われてて不覚にもクスッときてしまった。預言者かな?ライスシャワーも上がり3Fは最速だったんだが、ミホノブルボンの領域にギリギリ逃げ切られてしまった感じだ。宇宙の領域、なかなかカッコよかったな。

 

 

「クスン…悔しいです…!あとちょっとだったのに。でも日本ダービーはライスが手に入れて見せますっ…!」

「その意気だよライスちゃん!私、頑張って応援するからね!頑張るぞー!おー!」

「お、おー!」

 

 

ほほ~。負けたとしても次を見据えているのはいいことだよね。マヤノは秋の天皇賞を負けたと思ってた時は泣いちゃってたし。それはそれでかわいかったけど。…おやマヤノさん、なんで半目でこっちを見てるんでしょうか。まさか思ってたことがバレて…痛い痛い!?脇腹抓らないで!?

 

 

「き、気張るのはいいけど、ライスシャワーはこの後ウイニングライブじゃないの?」

「あっそうだった!ライスちゃんはこの後ウイニングライブあるんだった!いってらっしゃい!」

「い、行ってきます…!」

 

 

ライスシャワーはハルウララに送り出されてウイニングライブへ。

 

 

「あっそうだ!マヤちゃんのトレーナーさん!今日はありがとね!」

「あいよ。また何かあったら遠慮なく相談しに来ていいからね」

「うん!」

 

 

ばいば~いと手を振ってハルウララはウイニングライブを見に行った。それじゃあ私たちも用が終わったし今日は帰るか。後は2人だけでも帰れるでしょ。

 

 

「…まったく、トレーナーちゃんたら甘いんだから。本当ならチームメンバー以外の子なんて面倒見なくてもいいのにね~?」

「そんなわざと悪ぶらなくてもいいよ。そもそも、担当じゃないからってああいう子を見捨てたら、それこそ寝覚めが悪いじゃん。困ったときはお互い様、でしょ?」

「ふふっ、そうだね」

 

 




後書きというか補足。
フラワーの好感度は、コッソリと少しずつ上がっていました(トレーニングにまるで役に立たない⇒他も含めてあまりにも酷すぎたために冷たい視線→差し入れのスイーツや彼女とマヤノに対する接し方で少しずつ好感度アップ⇒お菓子作りの手伝いOK→今回)。ギャルゲーかな?
ライスは終盤までブルボンを徹底マーク→終始2位で追い抜き対象が存在しなかったため、薔薇の領域を不発させて敗着しました。ブルボンが掛かった場合、領域が不発して垂れたブルボンを追い抜いくことで領域が発動して勝利します。なおブルボンをマークせず、領域のために2位のウマ娘をマークした場合は、ブルボンが自由に走ってそのままゴールするので勝ち目はありません。単騎逃げは不利なんてまやかしです。サイゲは反省して。
皐月賞の結果を考えてるうちに書き溜めが出来た(ちゃんと皐月賞考えろ)ので。しばらくは毎日0時更新の予定。


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通販の利用に気を付けなかったトレーナー

日常回


「こんにちは~。宅配便なの~」

「は~い」

 

 

桜花賞が無事終わり、初夏に差し掛かった5月。そう、プラムが旬でおいしい時期である。沼川で安く取り寄せが可能だったので、そこそこの量を注文してしまったよ、はっはっは!ケーキにするか、シロップ煮にするか、はたまた煮詰めてジャムにしてしまうか。うーん、いいプラムだ!どれにするか迷うぜ!的なやつ。今日の配達員はアイネスフウジンのようだ。

 

 

「こちらにサインをお願いするの!」

「はいはいっと……よし、お願いします」

「ふむふむ。おっけーなの。それじゃあ運び入れちゃうの!……よいしょっと!」

「…えっ、ちょ、あれ?あれええっ!?」

「注文通りお届けしたの!それでは、またよろしくなの!」

 

 

アイネスフウジンは配達物を置くなり、逃げウマらしい綺麗なスタートダッシュを決めて次の現場に向かってしまった。おかしいな、注文したのはプラム50個だったはず。なんで発泡スチロール箱で20箱なんだ…?

 

 

「やっほ~トレーナーちゃ~…ん?あれ~?トレーナーちゃん、どしたのこの大荷物。沼川で頼んだんだろうけど、いったい何を買ったの?」

 

 

積まれた発泡スチロール箱の前で佇んでいると、マヤノがやってきた。まだ午前なのに何故?と思ったけど、今日は休日だったか。というか、そうじゃなきゃアイネスフウジンがアルバイトしてるわけないもんな。

 

 

「いらっしゃいマヤノ。実はプラムを50個買ったんだよ。でもおかしいなあ。どう見ても50個って量じゃないし」

「ん~?…あっ、トレーナーちゃん!この領収書、50個じゃなくて500個になってるよ!」

「え?うそ~ん…。ああ、ほんとだ。500になってる…」

 

 

マヤノに言われて受け取った領収書を見ると、確かに500で発注されていた。これは…やらかしたな。小麦粉だけは在庫があるからまとめてタルトにして、余った分は寄付するかなあ。敷き詰めれば何とか腐る前に全て調理しきれるはず…。元々作ろうと思ってたプラムケーキは、ホットケーキの元の粉末が全然足りんし。なんで小麦粉だけたくさん在庫があるかって?商売道具ですよ?

 

 

「やらかしちゃったものは仕方ない。急いで調理を始めよう」

「マヤも何か手伝おっか?」

「うん、お願い。私が皮向いて半分に切るから、真ん中の種を取ってくれると助かる」

「アイコピー!」

 

 

それから2時間後。なんとか全てのプラムを使い切ることができたのだった。

 

 

「完成だ…!ありがとうマヤノ!」

「どういたしまして~☆久しぶりにトレーナーちゃんのお菓子作りのお手伝いしたけど、トレーナーちゃん速すぎてついていくの大変だったよ~」

「果物は鮮度が大事だからね」

 

 

完成したタルトは250個。1個に付き2個のプラムを載せたわけだ。このうち100個分だけ冷蔵庫に入れて、残りは日が傾く前に寄付しに行くぞ。

 

 

 

──────────

 

 

 

「で……。ここで何やってるんです?実は年齢誤魔化してたとか…?」

「ウチが知りたいし、園児でもないわ!」

「タマモさん、まさかそういう趣味が…?」

「アホかっ!んなわけないやろ!気づいたらこの服着せられてここにおったんや!」

 

 

マヤノと共にいつもの幼稚園に寄付しに来たのだが、出迎えてくれたのは幼児服を着せられたタマモクロスだった。なぁにこれぇ。

 

 

「まあいいや。タルトを寄付しに来たんだけど、食堂の鍵の場所って知ってます?」

「鍵?生憎やけど、ウチにはわからんな。そもそもウチはここに来たの初めて…のはず…?」

「そうか…」

「まさか冷蔵品をほったらかしにできないしね~。どうしよっか」

 

 

休日だけあって、普段は居る幼児たちも先生たちも誰も登園していない。休日では基本的に、食堂の鍵は常駐の警備員が管理している。普段から交流があるだけあって、園の入り口の鍵だけは預かってるんで、ここに入るのは可能なんだけどね。でも今日は何故か誰も居ないみたいだし、出直すしかないのかなあ。

 

 

「しかしなんでウチはここにおるんや…?記憶が曖昧で…」

「夢遊病ですか?」

「いやいやそんな…でもまさか本当に…?」

 

 

知らない間に幼児服を着て幼稚園にいる。まさかと夢遊病を疑ってタマモクロスが頭を抱えていると、部屋の扉がスゥーと開いた。現れたのは、幼稚園でそこそこ見かけるウマ娘だ。

 

 

「あらあらタマちゃん、ここに居たんですね。勝手に脱走はいけませんよ~」

「げえっ!クリーク!?てかなんやその恰好!?」

「悪い子にはおしおきをしないといけませんね~」

「やめーやクリーク!ウチは園児じゃなちょ、うわっ…んなーーーっ!?」

 

 

こうして、タマモクロスは保母服を着たスーパークリークに捕獲されて退場していったのだった。本当にナニコレ。

 

 

「えっと…どうすればいいんだ?」

「さあ?」

「一旦出直『言い忘れるところでした~』ん?」

「マヤちゃんのトレーナーさん。いつもお菓子の差し入れありがとうございます~。冷蔵庫の2段目が空いていますので、差し入れはそこに入れておいてくださいね~。食堂の鍵は職員室の私の机の上にありますので~」

 

 

諦めて帰ろうとしたところに退場したはずのスーパークリークが顔だけ出して、鍵の場所を教えてそのまま戻っていった。よかった、これで食堂に入れる。職員室の中に入り鍵を探すと、言われた通り鍵は机の上に置いてあった。え、ここスーパークリークの机なのか…?とにかく、鍵を開けて入った食堂の冷蔵庫は確かに2段目が空いていたので、無事そこにしまうことができたのだった。

 

 

「任務かんりょ~だね☆」

「お疲れ様。帰ったらタルトが待ってるよ」

「そうだった!トレーナーちゃん!急いで帰ろ!」

「そうだね…ってマヤノさん!?私は荷物じゃな…お姫様でもないからっ!?」

 

 

帰るときに俵担ぎからのお姫様抱っこコンボを食らってしまった。パワーありすぎだよ…。タマモクロスとスーパークリークが多少おかしなことになってること以外は普段通りだったな。今日もいい1日だった。

 

 

「あ、トレーナーちゃんはマヤがタルト食べてる間に反省文だからね」

「えっ…?」

「だって通販を利用するときは、ちゃ~んと数確認するように~って言ってあったのに。発注ミスするってことはそれをしなかったんでしょ?だから…、は・ん・せ・い!」

「はい……」

 

 

救いは無かった!!!

 

 

 



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菓子の王と樫の女王

『トリプルティアラの2冠目、樫の女王の称号をかけて18人のウマ娘たちが挑みます。東京レース場芝2400m、天気は晴れ、良バ場の発表です。オークスで戴冠するのは誰だ!』

 

 

優駿牝馬<オークス>。フラワーからするとちょっと長い距離らしい。マヤノが言う限りだと対策は取ったし余裕だろうとのこと。あの後追加でプラムを取り寄せてカップケーキにしたんだが、先ほどそれを食べてからフラワーの様子がおかしい…。

 

 

「ねえ2人とも。フラワーの髪が逆立ってるんだけど、あれって大丈夫なの?もしかしてどこか調子悪いんじゃ…」

「何言ってるのトレーナーちゃん。むしろ最高の仕上がり。菓子の王と樫の女王のコラボレーションだよっ☆ね、デジタルちゃん」

「そ、そうですね。でもああなった以上、始まる前からフラワーさんが勝つ未来しか見えないです」

「…そうなの?」

「うん!マヤがクラシックの頃には気持ちに余裕が無くて使えなかったけど、本来ああいうのは使えるに越したことはないのだ☆」

「ですです」

 

 

まるで意味が分からない。私が作ったお菓子を食べたせいで調子が下がって負けた~とかそんなのは嫌なんだけど。でも2人が元気だって言うし、そういうことならいいか。

 

 

『ゲートイン完了……スタートしました!各ウマ娘綺麗なスタートを切りました!1番人気のニシノフラワー、実力を発揮して期待に応えることができるでしょうか!それでは先頭から見ていきましょう。先頭は5番、そのすぐ横で6番。激しい先頭争いです!続きまして9番、そのすぐ後ろ1番、2バ身離れて2番、14番。その後ろ16番。ニシノフラワーここに居た。その後ろ…』

 

 

フラワーは中団前目につけたな。今回は逃げ切りじゃないようだ。

 

 

「フラワーちゃん良い位置につけたね。阪神JFも桜花賞も獲ってるからマーク厳しいかと思ったけど、見た限りブロックもさせてないし」

「ええ。というより他のウマ娘ちゃんたち困惑してません?ずっと逃げだったのに今日は差しなので」

「そうかも。まあ困惑してるほうが掛からせやすくてマヤは好きです」

「違うそうじゃないです…」

 

 

相変わらず2人が何を言ってるのかさっぱりわからない。良い位置につけれたってことは辛うじてわかるけど。そうしているうちにレースは第3コーナー超えて最終コーナーへ。今日は誰かが掛かって崩れるようなことはなく、淀みなく進んでいるようだ。フラワーは垂れてくるであろう他のウマ娘を回避するべく大外からスパートを掛け、一気に追い抜く。そして4位に上がった瞬間フラワーの雰囲気がさらに変わった。

 

 

「むむっ。…これは来たね」

「ええ、これは来ましたね」

「ん?いったい何が来たんだ?」

「よく見ててあげてね。これがフラワーちゃんの領域だよ☆」

 

 

マヤノがそう言った次の瞬間、辺り一面に花畑の領域が展開された。閉じていたつぼみが次々と開花する幻想的な領域。その中で1人、フラワーは花畑を駆けていた。

 

 

『未来はきっと、この先に…!咲いて、開いて…これが私のお花畑…っ!』

 

 

領域を展開し、さらに加速したフラワーが大外を駆ける。前を妨げることのできるウマ娘はもういない。そうしてフラワーが先頭に立った。

 

 

『最終コーナーを回ってニシノフラワーが先頭!ニシノフラワー、完全に抜け出した!6番が必死に追いすがるがその差は縮まらず伸びるばかり!残り400を切りました!坂を登るッ!強い!強すぎる!ニシノフラワーが独走だ!残り200!先頭はニシノフラワー!先頭はニシノフラワー!先頭はニシノフラワー!ニシノフラワー今1着でゴールイン!オークスを制し2冠達成!ニシノフラワーが樫の女王の称号を手にしました!2着は7番!3着に入ったのは6番!』

 

 

「フラワーちゃんの勝利~☆」

「予定調和でしたね」

「そうだね☆」

「これが予定調和…?まあフラワーが勝ててよかったよ。しかしなんであの実況の人は最後に同じことを何度も繰り返してたんだ?3回も同じこと言ってたよね?」

「あの方は短距離実況おじさんなので、スタミナが切れちゃったんじゃないでしょうか」

「まあそうだろうね」

「えぇ~…?」

 

 

短距離実況おじさんて…。

 

 

「来週は日本ダービーだし、きっと同じことになるはずだよ。誰が勝つかはまだわからないけどね」

 

 

 

 




実況で同じことを連呼するのはアプリからです。ゴール前で特殊実況がある場合(ex.ウオッカの日本ダービー/メジロブライトの天皇賞春等)を除いてかなりの頻度で発生します。アレ何とかならないんですかね?


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空き巣に入られるマヤノトップガン

ダービーのお話はなくなりました


「大変!大変だよトレーナーちゃん!!!」

「うわっ!?…せ、セーフ。危うく落とすところだった…。マヤノはそんなに慌ててどうしたのさ?」

 

 

自室で焼いたショートケーキにいちごをトッピングしているところに、慌てた様子でマヤノが突撃してきた。危うくいちごが床を舐めるところだったが、なんとかカゴをキャッチできたぞ。

 

 

「それがね!うちのチーム部屋、空き巣に入られちゃったみたいなの!」

「あ、空き巣!?」

 

 

空き巣…だと…?うちのチーム部屋って小麦粉しか置いてないんだけど、まさか小麦粉を盗まれたのか?

 

 

「不法侵入だよ!鍵がこじ開けられてたの!」

「マジか…でも小麦粉盗むなんてなあ。犯人もお菓子作るのかな」

「違うよ!盗まれたのはマヤが冷凍室を2重底にして大事に隠しておいたガトーショコラ……あ」

「マヤノさん…???」

 

 

ガトーショコラを凍らせて隠しておいた…?

 

 

「ち、ちがうのトレーナーちゃん!これには深いわけが」

「いや別に怒ってないけど。お菓子が欲しいなら欲しいって言ってくれればいいのになーって。いつでも用意するし」

 

 

そもそもお菓子をねだられて断ったことないのよね。最近はマヤノがレースに出走してないので、勝負スイーツも頼まれなくなってしまって…ちょっと寂しいのは内緒だ。

 

 

「だってトレーナーちゃんに我慢のできないパクパクトップガンって思われたくないんだもん」

「えっ何それかわいい」

「かわいい?えっ、マヤかわいい?そっか~。えへへ~。じゃあマヤと結婚してくれる?」

「中学生は結婚できませ~ん」

「ぶ~ぶ~!!!」

 

 

ほっぺた膨らませちゃってまあかわいい。ってそうじゃなくて。

 

 

「ガトーショコラの代わりになるかはわからんけど、ここにショートケーキあるから食べる?」

「……食べる」

 

 

まずはこのぷんすこマヤノの機嫌を何とかしないとダメだわ。ほ~ら食べさせてあげよう。はいあ~ん。

 

 

「で、とりあえずチーム部屋に来ては見たものの…部屋を荒らされた形跡はないな。ケーキだけ取って行った感じか。侵入は…ピッキングか、よくやるよまったく」

 

 

マヤノの機嫌を直してから空き巣の件についてフラワーとデジタルに連絡すると、2人とも合流するとのことで、チーム部屋で待ち合わせ。その後みんなで捜索しているが、特に変わったことはないように思える。入口の扉はピンセットか何かでこじ開けられたからか、カギ穴が微妙に歪んでしまっているので、買い替えだなこりゃ。経費で落ちるんかね。

 

 

「というかマヤノさん、いつものわかっちゃった!はどこに行ってしまわれたのでしょう?」

「そういえばそうですね。推理ドラマですぐ犯人言い当てちゃうから困るって聞きましたけど」

「えっ!?マヤだって何でもわかっちゃうわけじゃないよ!?今回に関しては何も証拠が1つも残ってないし…」

「「「(証拠があればわかるの(です)か…)」」」

「とにかく!食べ物の恨みは恐ろしいってことを思い知らせてやるんだから!」

 

 

しかし、懸命な捜索にかかわらずも証拠は特に見つからなかった。

 

 

「んもーっ!!!」

「と、トレーナーさん!はやくこのぷんすこさんを引き取ってください…!」

「マヤノさんならトレーナーさんが抱き着いてやればおとなしくなるはずですぞ!」

「んな適当な…まあやってみるけどさ。…ぎゅ~」

「……………スン」

「…おおう、マジか」

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「んもーっ!聞いてよネイチャちゃん!昨日うちのチーム部屋に空き巣に入った子がいるっぽいの!」

 

 

翌日、トレーナーちゃん分が切れて再びぷんすこ化したマヤノはナイスネイチャに事の顛末を話していた。というより愚痴を聞いてもらっていた。

 

 

「へぇ~。あの部屋に空き巣ねぇ。でもあの部屋っていつもは小麦粉しか置いてないって話じゃなかった?前にそんなようなことを聞いたような気がするけど」

「そうだよ?でも空き巣にはマヤが取っておいたガトーショコラを食べられちゃったの…ちゃんとマヤの名前をチョコで書いておいたのに」

「おう…それは残念。でもあのトレーナーさんだしさ、代わりは作ってくれたんじゃないの?」

「ガトーショコラがショートケーキに化けた…」

「上々じゃないのさ?」

「違うの!ガトーショコラが食べたかったの!」

「アッハイ」

 

 

ぷんすこすぎてこりゃダメだとナイスネイチャは匙を投げた。このまま愚痴を聞いてあげてもいいが、流石に騒ぎすぎていて周りの視線が痛いので何とか話題を変えることにした。

 

 

「そういえばさ、マヤノは宝塚記念も出ないのかい?」

「宝塚記念~?もうそんな時期だっけ」

「そうだよ。確か今年もマヤノが獲得票1位だとか」

「ふ~ん?そうなんだ」

「去年と違って今年は本当にやる気がないねぇ。まあいいけどさ。スぺちゃんが秘密兵器を手に入れたとかでやる気十分だったけど、この分だとマヤノは未出走なんだね」

「……ほほう?」

「ん?どしたのマヤノ」

 

 

スペシャルウィークの話を聞いてマヤノの雰囲気が変わった。何やら思案顔をしたと思ったら、いつものセリフが飛び出した。

 

 

「マヤ、わかっちゃった。お菓子泥棒の犯人が誰なのか」

「そ、そうなの?」

「宝塚記念…覚悟しておいてね…!!!」

 

 

もうレースには出ないと言っていたマヤノが、レースに向けて燃えていた。これは迂闊に触ると飛び火で火傷をする、そう感じたナイスネイチャはフッと視線を逸らした後でそそくさと逃げだしたのだった。

 

 



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宝塚記念で容赦をしないマヤノトップガン

前話の解答編。


『春の3冠を締め括る夢のグランプリ宝塚記念。あなたの夢、私の夢は叶うのか!阪神芝2200m、天気は晴れ、良バ場の発表です』

『今回のレースには、今年全レースを出走回避と意思表示していたマヤノトップガンが電撃参戦していますね。そのおかげか、大阪杯、春の天皇賞とは盛り上がり方が違うようにも感じますね』

『昨年のグランドスラム覇者が居るだけでやはり雰囲気が違うのでしょう。それでは出走するウマ娘たちを見ていきます。3番人気はこの子、ライスシャワー。今レース唯一のクラシック級ウマ娘です。皐月賞、そして日本ダービーを2着に入着したウマ娘が、シニア級ウマ娘の胸を借りにやってまいりました』

『珍しいですね。クラシック級のウマ娘は基本的に出走回避が相次ぐので、あまり票が入らないのが通例でありますが…。現に今年のクラシック2冠のミホノブルボン、ティアラ2冠のニシノフラワーは得票数は稼いでいたものの宝塚記念を回避しています。しかしライスシャワーはファン投票を勝ち残れたようですね』

『ええ。だってあの子小柄でかわいいですし』

『えっ』

『えっ』

『…発言に多少…かなり不適切な部分がありましたが…つ、次に参りましょう』

 

 

「へえ~。やっぱりミホノブルボンが日本ダービーを勝ってたのか。マヤノ以来2年ぶりに3冠ウマ娘の誕生かね」

「えぇ…。トレーナーさん、日本ダービーのレース映像見なかったんですか?」

「それがさ~。空き巣泥棒騒ぎがあったでしょ?そのせいで忙しくて見れてないんだよ。こっちが被害者なのに何故か始末書書かされるし…まあ今年のダービーはあまり興味なかったのもある」

「に、日本ダービーに興味が薄いって…毎度のことですけど、トレーナーさんは本当にトレーナーなんですか…?」

「何言ってるんですかフラワーさん」

 

 

フラワーに呆れられた目を向けられてしまったが…仕方ないじゃない、忙しかったんだから。でもデジタルが援護してくれるようだ。頼むぞデジタル!

 

 

「パティシエさんですよ」

「それはそうですけど…」

「ズコー」

 

 

援護じゃないんかい!というか君たちさあ…。とか思ってたら出走ウマ娘の紹介が終わってた。マヤノの分聞き逃しちゃったんだけど!?

 

 

『私の夢はスペシャルウィークです』

 

 

「「「つまりスペシャルウィーク(さん)は掲示板にすら載れないと」」」

 

 

そしてこれから宝塚記念が始まろうという時に実況から盛大なネタバレを食らった。が、フラワーもデジタルもそうなのだから、観客全員がそうなんだろう。パドックのスペシャルウィークの顔が一瞬だがものすごく歪んだぞ…。

 

 

「しかしマヤノが自分からレースに出るっていうとはなあ。今年はレースに出ないでトレーナーちゃんと遊ぶの~~~って散々言ってたのに」

「すごく久しぶりにあんなに真剣にトレーニングしてるマヤノさんを見ました。並走にも気合が入りすぎてて…。正直ちょっと怖かったです…」

「そうだよねぇ」

 

 

マヤノがオーラを纏いながらフラワーと並走してたのは記憶に新しい。お菓子の差し入れの時にトレーニングをちょっとだけ見学させてもらったが、始まって1分でフラワーがスタミナ切れに追い込まれていた。その時はトレーニング中に同じチームメンバーに向かってプレッシャー投げまくってどうするのさ?と思ったものだ。

 

 

「おやおや~?トレーナーさん、もしかしてちょっと寂しがってます?」

 

 

そんなことを考えていたからか、デジタルに煽られてしまった。もちろんそれも多少はあるけど、それよりも大事なことがあるんだよね。

 

 

「いいや?むしろ久しぶりに全力でマヤノへの勝負スイーツ作れてすごく楽しかったよ。ここ最近はフラワーへのスイーツしか作れてなかったからね。もちろんそちらも手を抜くなんてことはしなかったけどさ、やっぱりマヤノへのスイーツは別格なんだよね」

「うっ、ラブコメの波動に当てられて意識ががが。やっぱりダメだこのトレーナー、マヤノさんのこと好きすぎ…ってあれ!?そういえばデジたんのメイクデビューのお話はどこに行ってしまわれたのでしょうか!?」

「え?前から言ってた通り萌えパワーなんちゃら言って最後方から全員ぶち抜いたあれのこと?」

「そうですよ!デジたんがかっこよかったとかそういうのは!?」

「そんなものはない」

「しょ、しょんな……よよよ~」

「ちょっと2人とも静かにしてください。もうレースが始まりますよ」

 

 

『ゲートイン完了……スタートしました!』

『先行はスペシャルウィーク、メジロマックイーン、トウカイテイオー。なんとスペシャルウィーク、先頭に立つのか』

『1番人気のマヤノトップガンは少し後方に位置取りましたね』

 

今日もマヤノは逃げずに中団後方に控えるようだ。ライスシャワーはその後ろ、ぴったりマヤノをマークしている。スペシャルウィークは逃げ…か?

 

 

「マヤノは今年は逃げないのね」

「逃げだとプレッシャーをぶつけられないそうですので」

「最初から最後まで速度を落とさず全力で逃げ切るのと、後方からプレッシャーかけまくって終盤でバテたところを直線一気するのは、どちらがより酷いんでしょうかねぇ」

「領域使うなら後方から、使わないなら逃げとか?」

「まるで逃げが舐めプみたいな発言は控えてくださいよ」

 

 

『スペシャルウィーク逃げる!やはりスペシャルウィーク!今日のスペシャルウィークはターボエンジン全開だ!』

『マヤノトップガンはまだ後方5番目、ライスシャワーはそのすぐ後ろ!向こう正面を回って3コーナーへ』

『しかしここで上がってくるマヤノトップガン!ロングスパートはお手の物か!ライスシャワーも負けじとすぐ後ろにぴったりと張り付いて、こちらも上がってくる!』

『さあ最終コーナーだ。マヤノトップガンがぐんぐんぐんぐん伸びてくる!ライスシャワー追走!だが先頭のスペシャルウィークはすでに最終直線に入ろうとしている!メジロマックイーンとトウカイテイオーがその後ろを追走!』

 

 

「おいおいこれ間に合うのか?」

「余裕で間に合うと思いますよ。確かにスペシャルウィークさんは差を開いて先頭にはいますけど、全然伸びていませんし、他のスピカのメンバーもなんだか末脚が鈍ってますね」

「というかデジたん的にはマヤノさんが領域を展開していないのが気になります。普段なら最終コーナー追い抜きで展開させていましたのに」

「「あ」」

 

 

デジタルに言われて気付いたが、確かに今日のマヤノは領域を展開しなかった。勝負服は相変わらずのウェディングドレスなのに。そう思っていたら、ライスシャワーが最終直線に入った瞬間、青い薔薇の領域が展開された。

 

 

「…はは~ん。なるほど、これの対策ですか」

「こ、この領域は」

「フラワーの領域のパクリ?」

「違いますよ!?確かにお花をモチーフにしてますけど、これはもっと別の…」

 

 

『あなたの幸せと私の幸せを願って。この幸せの青い薔薇のように…ライスだって、咲いてみせる!』

 

 

薔薇の領域を展開したライスシャワーが急加速して前を走るマヤノに並んだ。並んだが、マヤノが譲らず粘っている。そうやって2人して競り合ってどんどん速度を上げていく。

 

 

『ライスシャワーだライスシャワーだ!マヤノトップガンと競りながらライスシャワーが伸びてくる!』

『チームスピカのメンバーは伸びが非常に苦しい!外からマヤノトップガンとライスシャワーが悠々と追い抜いてさあ残り200m!阪神名物の急坂が待っているぞ!』

『ライスシャワー抜け出した!このままゴールまで行ってしまうのか!クラシック級での宝塚記念制覇となるのか!』

 

 

「ああ、ライスさん惜しかったですね。領域を展開するのがちょっと速すぎでしたか。まあ距離的にも超長距離を得意とするライスさんと合ってないのはありますけども」

「…どゆこと?」

「マヤノさんの領域は最終コーナー追い抜きの他にもう1つあります。展開条件は最終コーナー以降での競り合いです。気になるようでしたら、後で直接マヤノさんから聞いてくださいね」

 

 

『マヤ、わかっちゃったの。負けたら全部終わりだって。だから…負けない。あんな思いは…もう2度としたくないから!』

 

 

デジタルの言うように、普段展開する青空の領域とは別の…夕陽の領域を展開したマヤノが、最後の急坂でグッと伸びた。

 

 

『残り100mでマヤノトップガンが差し返した!シニア級の意地を見せてマヤノトップガンが先頭に立ったぞ!ライスシャワーが懸命に追いすがるがこれは届かないか!マヤノトップガンが宝塚記念を制しました!』

『2着はライスシャワー!3着に入ったのは4番!』

 

 

 

──────────

 

 

 

「ただいま~。えへへ~。マヤのだいしょ~り☆」

「お疲れマヤノ。おめでとう」

「ありがとうトレーナーちゃん!」

 

 

レースを終えたマヤノが控え室に戻ってきた。今日はだいぶ余裕があるみたいだ。最終直線でかなり競り合ったから、疲れているように思っていたけど…元気なのはいいことだね。

 

 

「しかし本当にスピカのメンバーが掲示板どころかブービーのワンツースリーか」

「最終直線で急失速するの恐ろしいですよね…」

「というか今日のアレは何があったんです?デジたん的には、あのメンバーがあそこまで急激に失速するようには思えないんですけども」

「ああ、アレはね~」

 

 

マヤノが言うには、ライスシャワーがマヤノをぴったりマークしてプレッシャーを掛けてきたので、それをそっくり上乗せしてチームスピカにぶつけたらしい。えげつねえ…。

 

 

「そんなことよく思いつきましたね。私との並走の時に何か掴んでたんです?」

「違うよ?ライスさんが出てくるのは想定外で、本来はマヤだけで叩き潰す予定だったの。だって…あの3人はマヤのケーキを食べちゃった犯人たちだったんだもん。素直に返してくれるなら許してあげたのにね。名前まで書いてあったのに食べちゃうんだもん、そりゃ容赦しないよねって」

 

 

えぇ…ケーキに名前書いてたのか。え?チョコで?そういえばトッピング用のチョコが1本なくなってたような…。ちょっとマヤノ、顔を逸らさないでくれる?うるうる目で私のこと見つめたって許さな…許します!

 

 

「まあ痕跡も綺麗に消して、証拠を1つも残してなかったからバレないと思ってたんだろうけど…ネイチャちゃん経由の情報でマヤわかっちゃったし。で、せっかく間近にグランプリレースがあるから、そこでボコボコにしようかなって。実はもう1人…というか主犯がいるんだけど、その人には別の方法が用意してあるんだよ。いつもうまく逃げてるみたいだけど、マヤからは逃げられないよ☆」

「な、なるほど…」

「食い物の恨みは恐ろしいってことですねえ…くわばらくわばら」

「ふふん☆」

「…でもですよ、マヤノさん。今度からは並走の時に私に八つ当たりするのはやめてくださいね。体力がすぐに尽きちゃってトレーニングにならないので」

「…ごめんなさい」

 

 

後日、縄に縛られて吊るされながら気絶しているゴールドシップが体育館裏の倉庫で発見された。その前日にデジタルが妙にツヤツヤしていたが…きっと関係ないだろうな。

 

 

 

 



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遊んで欲しいウマ娘と巻き込まれるトレーナー



~~~~妄想ウマネスト警報~~~~



日常回。お菓子も出てこないので飛ばしてOKです。



~~~~妄想ウマネスト警報~~~~





「トレーナーちゃん!新しいVR…なんちゃらを買ったの!一緒にやろ~!?」

「VRぅ?」

 

 

世間では夏休みが始まる今日この頃、真っ昼間から私室に突撃してきたマヤノが持ってきたのはVRゴーグルだった。え、ゲームするの?

 

 

「そうだよ!倍率すごく高かったけど、ようやく2つ目が買えたの!だからみんなで一緒にやろうって話になったのだ☆」

「みんなでって…2つしかないじゃない」

「フラワーちゃんもデジタルちゃんも既に持ってるんだよ?だから足りなかったのはトレーナーちゃんの分だけなの!」

 

 

既にやる気満々のマヤノ。尻尾もブンブン揺れている。

 

 

「…うーん。私そういうのは苦手だからできればやりたくないんだけど」

 

 

でも正直ゲームは得意じゃない。お菓子作るのが楽しいってのが主な理由で、そういったモノに触れる機会がほとんどなかったんだよね。でもそんな態度を取ってしまったからだろうか。我らがマヤノさんは、ほっぺたを膨らませ始めた。もしかしなくともこれはまずいのでは…?

 

 

「んも~!せっかく宝塚記念もテストも終わって余裕ができたんだから、トレーナーちゃんはマヤたちと一緒に遊ぶの!というか遊んで!?トレーナーちゃんがいないとマヤつまんない~っ!」

「わ、わかったよ。行けばいいんでしょ行けば…って、ちょっマヤノ!お願いだから強引に運ぶのはやめてくれ~!」

 

 

こうして本日も私はお姫様になりました。なしてや!

 

 

「ただいま~。トレーナーちゃん確保して来たよ☆」

「お帰りなさいマヤノさん」

「そこそこ時間かかりましたね。そのご様子ですと、ごねられたところを強引に連れてきた感じですか」

「まあね~☆」

「まあねじゃないが」

 

 

マヤノに攫われて運び込まれたチーム部屋では、既にフラワーとデジタルが準備万端で待機していた。今日は全体でトレーニングお休みの日だったか。休日なんだから休めばいいじゃん。…って、みんなして半目で見ないでくれない?ここまで来たしちゃんと付き合うからさ…。というかなんで毎回思ってることが筒抜けなんだ?…え、顔に出る?マスクで誤魔化せないかな?…目が言ってるから無理?あ、そう…。

 

 

「ということで~?じゃじゃ~ん!ウマネスト~☆」

「「わ~!」」

「わ、わ~…」

 

 

マヤノが取り出したのは4人の男女が描かれたゲームディスクだった。ウマネストってなんだ?って思ったけど、なるほどこれからやろうってゲームの名前か。ちゃんと説明書がついてるみたいだし、せっかくだから読んどこ。

 

 

「えっと何々?ユーザーは自動で選択された職業に就き、チームメンバーで団結して悪の大魔王を討伐しましょう!…うーん。こういうのってすごく難しいんじゃないの?」

「そんなことないよ!自動で適切な職業を選んでくれるから無理せず遊べて、トレーナーちゃんにもぴったりのはずなの!」

「逆に言えば初期職業は選択できないので、やりたい職業に就けないこともあるんだとか」

「ダメじゃん!」

「でも後から変更することも可能みたいですよ。特にデメリットもないそうですし」

「へぇ…?」

 

 

まあとりあえずやれるだけやってみるか。せっかくのお誘い(強制)だし、3人が楽しめることを優先しましょ。

 

 

 

「それじゃあ始めるよ~!スイッチ~、オ~ン☆」

 

 

 

──────────

 

 

 

「おうふ…なんか知らないけど始まってるっぽい?」

 

 

ゲームを始めたらしい私が立っていたのは、中世風の噴水の前だった。他の3人はどこに行ったのかとキョロキョロと周りを見ていたら、すぐ近くで光の柱が立ち上がり、そこから人影が現れた。まあ普通にマヤノだったが。

 

 

「トレーナーちゃん!ちゃんと始めてくれたんだね!」

「まあね。あそこまで来てやらないのは…えっ?マヤノ、何その服!?」

「ん~?えへへ~。かわいいでしょ?」

「…確かにかわいいけど!」

 

 

マヤノの服は大胆に胸元が開いていて、スカートの方はヒラヒラで短かった。なんかマントもつけてるし。

 

 

「ふぅ。無事にゲームにログインできましたね」

「思ってたより普通ですねぇ。革新的技術で作られた究極の体感型RPGって話でしたのに」

「えぇっ!?なんでフラワーの服もそんなにヒラヒラなの!?デジタルのは…普通!」

「普通って何ですか!?」

 

 

フラワーは赤いリボンのついた桃色の極小ミニスカートで、デジタルは普段の私服姿だった。いったい何の職業なんだ…!?

 

 

「ちょっとトレーナーちゃんうるさすぎ~周りの人たちが見てるよ?」

「他の人に迷惑かけちゃダメです…!」

「すみませんでした」

 

 

騒ぎすぎてマヤノとフラワーに怒られてしまった。周囲の人に軽く会釈をすると、ものすごく生暖かい視線を受けるようになった。孫と一緒に初めてのゲームをするおじいちゃんじゃないんです…!この場でいろいろ相談するのも目立って仕方がないってことで、宿の部屋を借りてそこで相談することになった。

 

 

「でさ~?みんなは何の職業だったの?マヤは錬金術士だって」

「私は聖女でした」

「デジたんは勇者ですね。ウマネストはよくわかってらっしゃる。(…ただ勇者の初期装備は私服固定だとか言って勝手に脳内スキャンして現実の服を持ち込むのは勘弁して欲しかったですけど)」

「みんなすごいね。私は………えっと、どこ見ればいいの?」

「「「ズコー」」」

「だってわからないんだよ~…」

「と、トレーナーちゃん。まっすぐ正面を向いたときに、視界の右上になんか文字が並んでない?」

 

 

マヤノに言われた通りにして右上を確認すると、確かに文字が並んでいた。

 

 

「おお、なんか書いてある。えっと…?職業:パティシエ?」

「だろうね」「そうでしょうね」「妥当かと」

「納得されてる!?というかこれっぽちも戦闘職じゃない!?戦うゲームじゃないの…!?」

 

 

なんだよパティシエって。まさかお菓子職人が戦うのか!?困惑する私を尻目に3人は非常に楽しそうなんだけども。

 

 

「アイテムに関してはマヤに任せておいて!ドカーンってするレシピを思いついちゃったし☆」

「回復は私ができるみたいですね。蘇生も可能です。それと、レベルが上がると攻撃魔法がたくさん覚えられるみたいですよ」

「私は勇者らしく前衛でバッサバッサ斬る感じですかね。爆弾の調合が終わったら、武器の方もお願いしますよマヤノさん」

「おっけ~☆」

 

 

えぇ…?調合便利すぎるでしょ。何でもできるのかな。

 

 

「調合で武器や料理を作れるなら武器職人とか菓子職人とかは確実に要らないのでは…?」

「本来なら序盤は足りない部分を量産品でなんとかするそうですよ。ただ閃きに優れたマヤノさんが錬金術士を引いてしまったので…バランスが崩壊しました。レシピが無限にあるから自由度が高いがこのゲームの売り文句だそうですけど、逆に言えば閃きさえあれば何でもできてしまうんですよ」

「てへっ☆」

「しかも蘇生が使える聖女にフラワーさんが初期で就いているので、フラワーさんを守り切れるなら壊滅の恐れもないかと」

「えへっ」

 

 

くっ、2人ともかわいいのがズルすぎる。というかこれはひどい。すごくヌルくなってるっぽいけど、やってて楽しいのかな?

 

 

「みんなで休日を遊ぶのが目的だから問題ないよ!というか負けると嫌な気分になるから爽快なほうがいいし!」

「ですです」「そうですな~」

「まあ3人がそういうなら私はそれでいいけど。…ところでマヤノはさっきから何を作ってるの?」

 

 

ぐるこ~んぐるこ~んとか言いながら通りの店で買った火薬やら木の実やらを乱雑にぶちこんでるけど。爆発したりしないよね…?

 

 

「これのこと?それはもちろんローゼフラムだよ☆」

「「え゛」」

「???」

 

 

突然フラワーとデジタルの顔が歪んだ。ローゼフラムってなんだろ。

 

 

「ローゼフラムってあのローゼフラムです?」

「うん!」

「まだ経験値を1すら得てないのに…」

「負けそうになった時の最終手段だよ!マヤたちが全員やられちゃったら、トレーナーちゃんにポイしてもらうの!」

「まあ確かにそれがあれば全滅は防げそうですが。フレンドリーファイアが無いからって容赦ないですね…」

 

 

私完全に荷物持ち扱い!?やはりパティシエが悪いのか?

 

 

「だってマヤたちが全滅して魔物にチョメチョメされるよりよくない?」

「ちょ、チョメチョメ?え?このゲーム全年齢じゃなかったの?」

「もちろん全年齢だよ。驚いて慌てるトレーナーちゃんの反応が見たくてちょっと言ってみただけ…痛い痛い!フラワーちゃん蹴らないで!?ってえ、嘘っ!?フラワーちゃん!体力っ!マヤの体力減ってるからっ!?」

 

 

フラワーに蹴られたマヤノが壁で跳ね返って再度フラワーに蹴られるループが目の前で起きている。何故か体力も減ってるし。というかこんなに騒いでうるさくないのだろうか。

 

 

「…このゲームフレンドリーファイアは存在しないんじゃなかったの?」

「マヤノさんが残念なことを言ってしまったので、フラワーさんから敵扱いされて、それがシステム的に敵対判定されたんでしょうね。このゲーム、プレイヤーキルは不可能な設定になっているんですが、同じパーティ内だと無効化されちゃうのですか。こんな抜け道があったとは。…しかしフラワーさん、杖術特有のひるみを駆使して壁コンはなかなかやりますね!」

「杖術…?ただのキックにしか見えないんだけど」

「いたっ…あうっ……きゃあああっ!?」

「あ、マヤノがやられた」

 

 

マヤノがフラワーに蹴り倒された。受け身も取れずに顔面から行った…痛そう。拠点だったからかその場ですぐ復活したけど。しかしびっくりしたわ。まあよく考えれば子供もできるゲームが成人向けなわけないわな。…でもマヤノやフラワーのチョメチョメならちょっと見たい待ってフラワーさん人間の身体の作りからして腕はそっちには曲がらなあああ!!!???

 

 

「「酷い目に遭った」」

「自業自得ですっ!もうっ!」

「まあ今回は流石にデジたんもフォローしきれないですねぇ…」

 

 

結局、顔を真っ赤にしてポカポカ叩いてくるフラワーを宥めるのに30分もかかってしまった。ちなみにマヤノは3回、私は5回やられた。2人まとめて壁コンは流石ですぞ!とかデジタルがめっちゃ褒めてたけど、早く止めてほしかったよ。くっ、お菓子さえあればもっと早く誤魔化せたはずなのに…!

 

 

「とりあえずローゼフラム完成したからトレーナーちゃんに渡しておくね。マヤたちがドジって全員きゃー!?しちゃったら、敵に向かってポイしてね。フレンドリーファイアは無いから、最悪投げるの失敗しても大丈夫だよ!」

「…まずやられないようにする気はないの?」

「だって前衛でみんなでポカポカ叩くほうが絶対に楽しいし!」

「ですよね~。バッサリザックリやっちゃいましょ~!」

「わ、私も前衛なんですか!?魔法職なのに!?」

 

 

聖女が杖持って前衛…聞いたことないなあ。そもそも錬金術士も前衛職なんだろうか。

 

 

「いい?フラワーちゃん。世の中には撲殺聖女ちゃんってジャンルもあるからだいじょ~ぶ!」

「…それもそうでしたね。私、いっぱい叩きますっ!」

「いや納得するんかい!」

 

 

というかあるんだ、前衛聖女。この後、3人は私が後ろで応援してる前で7回ほど全滅しそうになりながらもレベルを13ずつ上げた。君たちやりすぎじゃない?そんなこんなで夕方になったので今日はおしまいである。

 

 

「ふぅ。今日はいっぱいボコボコにしたよ~☆」

「でも黒くてぷにぷにしたやつにはしばらく出会いたくないですね。何度全滅しかかったことか」

「実際私たちが全滅した理由、あれだけで3回でしたものね。物理が効かないのに魔法も効き辛いのはズルだと思います…」

「…あの黒いの、爆弾投げたら1発で消し飛んだけど」

「ローゼフラムだからね☆」「ローゼフラムですし」「あれはまあ仕方ないですよ」

「アッハイ」

 

 

ゲームを終えて、片付けをしてる最中の会話も楽しそうで何よりだった。今後もたまには付き合ってもいいかもしれないね。

 

 




多分続きません。3人に着せた衣装については
マヤノ  → ソフィー
フラワー → リアラ
デジタル → 私服
を勝手にイメージして書き上げました。黒いぷにぷには黒ぷに、そのままですね。怒られたら消します。


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夏合宿するニシノフラワー

「いくよ~☆え~い!」

「わわっ!…ていっ!」

「むふふ~やりますなあ!とりゃあ!」

「ええと…私はいったい何を見せられているんだ?」

 

 

今年はフラワーの希望で夏合宿をすることになった。なったのだが…合宿予定の海辺に着いた途端に上着を脱ぎ捨てた(脱ぎ散らかさないでちゃんと畳もうよ…)3人は、ボールを持って砂浜に突撃してしまった。服の下に既に水着を着ていたらしく、準備万端の状態だったらしい。君たち確信犯じゃないか!?

 

 

「ねえねえ3人とも。この夏は海でトレーニングする予定じゃなかったの?そういう話だったから、たづなさんに話を通して外泊届けも出して、私も付き添いでここに来てるんだけど」

「え?もちろんトレーニングもやるよ?でも今日はもう本格的なトレーニングするのは時間的に無理でしょ?だから、全力で遊んじゃおうかなって」

「今日と帰る日だけですからね、時間的に遊べそうなのって。だから少しだけなので許してほしいなって。ダメ…ですか?」

「ダメ~?」

 

 

マヤノとフラワーの必殺コンボの上目遣いニレンダァ!

 

 

「…ダメじゃないけどさあ」

 

 

私は速攻で陥落した。いやぁ、無理でしょ。かわいいは正義だもの…。

 

 

「ふっふっふ、聡明なデジたんにはわかりましたよ!」

「え。何が?」

「トレーナーさんにはあたしたちの水着姿が刺激的すぎちゃったんですね?だから海で遊ばないように意地悪を言っているんです!いやぁ、美しいって罪ですなあ」

「刺激的…?」

 

 

デジタルがドヤ顔で胸を張ってきた。しかしマヤノたちを見ても、ストーンストーンストーン…。待ってマヤノさんフラワーさん2人とも目のハイライト消えてるし胸当たってるからというか前も言ったけど腕はそっちに曲がらなあああ!!!???

 

 

「んもーっ!トレーナーちゃんなんて知らないっ!」

「私ももう知らないですっ!」

「……」

「つんつん。大丈夫ですか~、トレーナーさん?」

「……大丈夫じゃないです」

 

 

倒れ伏した私を置いて、マヤノとフラワーは行ってしまった。そんな私をデジタルがどこから拾ってきたのか木の枝で突っついてくる。ニヤニヤしているのが見なくともわかるぞ、ちくせぅ。

 

 

「ふふふ。あたしも残念枠にされてしまいましたが、見てる分には非常に面白かったのでOKとします」

「こっちは全然面白くないよ…」

「そうですか。まあいいですけどね。で……どっちが好みだったんです?」

「…マヤノはああ見えて柔らかくて、後ろから抱きしめてると幸せな気分になれるんだよね。フラワーは甘えたくなるバブみがあって…。甲乙つけがたいのが正直な感想。そもそもマヤノは普段から甘えてくるから抱きしめて頭なでるのは普通だし、フラワーも最近はデレ期なのか甘えてくることが多くてね…嬉しい限りだよ」

「ほほう!……だそうですよ?マヤノさん、フラワーさん」

「「……」」

「え゛」

 

 

ガバッと顔を起こすと、そこにはいつの間に戻ってきたのか顔を真っ赤にした2人が。いやぁ今日の水着可愛いですね。とてもよく似合ってだから反対の腕もそっちには曲がらないんだってばあああああ!!!???

 

 

『トレーナーちゃんはパティシエからスケベ大魔王に進化した!』

 

 

「トレーナーさんも懲りませんねぇ」

「口は禍の元、か…ガクリ」

 

 

 

──────────

 

 

 

「今日は遠泳をします!延々と…な~んちゃって☆」

「えっと…。マヤノさん、どこか調子でも悪いんですか?もしかして変なもの食べちゃったとか?私お薬持ってきてるので、あとでお渡ししますね?」

「ええ〜っ!?ちょっと言ってみただけなのに真剣に心配されてる~っ!?」

「あたし的にはちょっと面白かったですよ?」

「ノーコメントで」

 

 

翌朝、学園指定の水着に着替えた3人は、準備運動をしてからトレーニングを開始した。私はパラソルの下で監督という名の見物だ。一応何かあったときにすぐ動けるようにはしてるけどね。なお、トレーニング開始前に、本日も絶好調のマヤノさんから素敵なダジャレが飛び出した。そのおかげでデジタルの調子がちょっと上がったようだ。他にもどこかで2人ほど?調子が上がったり下がったりしているようだが、きっと気のせいだろう。

 

 

「見よ!この華麗なるデジたんのバタフライのフォームを!」

「え?背泳ぎで追い抜いて前から煽ればいいの?」

「本格化がかなり先に来てるマヤノさんと比べるとか無慈悲すぎません!?」

「じゃあクロールかな?」

「あれぇっ!?さっきより酷くなってますよねっ!?」

 

 

遠泳に飽きたのか、浅瀬でかっこいい口上を決めていたデジタルがマヤノに全力で煽られている。楽しそうで何よりだ。デジタルは泳ぎが得意って本人が言ってたけど、本格化までにマヤノと3年も差があると流石に厳しいか。

 

 

「…じゃあ私と競争しますか?」

「フラワーさんですか。いいでしょう。私の素晴らしすぎる泳ぎを見せつけて差し上げます!」

「ま、負けませんよ?」

「では勝ったほうが負けたほうのおやつ1個分の権利を得るということで」

「…えぇっ!?」

 

 

流石にこのままではかわいそうと思ったのか、じゃあ私がとフラワーが手を上げた。だがフラワーとなら勝てると踏んだデジタルは今日の3時のおやつを1個分賭けて競争することにしたらしい。フラワーは了承してないけども。競争の方はマヤノがどこからか取り出したフラッグをスタートの合図にするようだな。

 

 

「それじゃあいっくよ~。よ~いドン!」

「やああああ!!!」

「ふおおおお!!!」

 

 

果たしてその結果は…!

 

 

「くすん…負けちゃいました…!」

「ふっふっふ~!ウマ娘ちゃんのスク水姿から萌えパワーを継続的に補充しているあたしに隙はないのです!最も、体操服でも私服でも勝負服でもOKですけどね!」

 

 

デジタルの圧勝だった。全力のドヤ顔である。正直言ってここまで差が出るとは思ってなかったけど。でもよく考えれば短距離マイルを得意とするフラワーと、マイル中距離を得意とするデジタルが遠泳で勝負したら、フラワーに勝ち目はなかったね…。その後満足したのか、デジタルは追加で遠泳しに海に突撃してしまい、負けたフラワーは私に抱き着いたまま泣き出してしまった。おやつ1個分は大きかったか。フラワーの頭をなでで落ち着かせること10分、ようやく元気を取り戻したフラワーは、遠泳トレーニングを再開した。え、マヤノ?マヤノなら休憩とか言って横でのんびりアイス食べてるよ。でも君確か2人が競泳中も休憩してなかった?

 

 

「ようやくフラワーは落ち着いてくれたか、よかったよかった…。しかし今回のデジタルはやる気満々ですごいな」

「デジタルちゃん、本格化が来るのが遅いことをすごく気にしてたからなあ」

「そうなの?」

「うん。流石に3年も違うとシニア級レースでマヤたちと真剣勝負できる期間も長くないからね。実際にマヤもシニア級を続けずにドリームリーグに進むよう、URAからそこそこ言われてるし。まあ半年毎に強制で3連戦させられるから、やよいちゃんを通して拒否してるんだけどね☆」

「圧倒的王者の貫禄…!」

「えっへん!も~っと褒めてもいいんだよ☆」

「圧倒的子供の発想…」

「ぶーぶー!」

 

 

あーもうほっぺた膨らませてポカポカ叩くのはやめなさい。そういうところが子供っぽいって言われちゃう原因なんじゃないの?そんなこんなでマヤノは比較的のんびりしていたが、フラワーとデジタルは夕方のちょっと寒くなってくる時間まで、遠泳で持久力を鍛えたのだった。

 

 

「トレーナーさん。私のお友達が訪ねてきたんですけども、お部屋に入れてあげても大丈夫でしょうか」

「ん?こんなところにフラワーの知り合い?まあいいけど」

「ありがとうございますっ。私、スカイさんを呼んできますねっ!」

 

 

ホテルに戻り、夕飯のデザートを作っているときに、フラワーが知り合いの子が訪ねてきたので部屋に入れていいかと聞いてきた。OKを出すと、釣りざおを背負って、やけに大きなクーラーボックスを手に持ったウマ娘、セイウンスカイが現れた。皐月賞と菊花賞を勝っていて、日本ダービーは惜しくもスペシャルウィークにハナ差で差し切られてしまった準3冠ウマ娘である。ここ最近は話を聞かなかったが、どうやらケガの療養をしていたらしい。

 

 

「やぁやぁフラワーのトレーナーさん。調子はどうですかな?」

「ぼちぼちかな。そちらはそこそこ大荷物だけども」

「見た目が大きいだけで、素材は軽いんですよ。セイちゃんは非力なので~」

 

 

学園で見かけた時同様、飄々とした態度は変わらずか。備え付けのソファによいしょー!と言いながら座った彼女は、持っていたクーラーボックスを開いて私に差し出してきた。

 

 

「…それで?この刺身は何かな」

「ふっふっふ~。これはセイちゃんが釣り上げた大物なのですよ~。差し入れに持ってきました」

 

 

セイウンスカイがクーラーボックスに入れて持ってきたのは、どう見ても本マグロを丸々1匹捌いた量の刺身盛り合わせだった。

 

 

「へぇ~。すごいですねスカイさん」

「そうでしょうそうでしょう?いやぁ、イカダで釣るのは大変だったんですから~」

「え!?イカダで釣ったの?市場で買ったとか、中型の漁船借りたとかじゃなくて?」

「私にそんなお金があるわけないじゃないですか、皐月や菊花の賞金は学園に預けたままですし。私が持ってるのは高校生のお小遣い程度ですよ。それに船舶免許も持ってませんしね」

「でもイカダ…?ええ…?」

 

 

だいぶおかしなこと言ってるけど、風景を塗り替える領域を展開するウマ娘たちだ。不思議なことが起きてもおかしくはないのかもしれない。その後しばらくしてホテルから提供された料理と、人数が増えたからと私が追加で作ったつまみ、そして持ち込まれた刺身を美味しくいただき、食後のデザートの登場だ。

 

 

「本日のスイーツはスイカのアイスケーキでございます」

「「おいしそう☆(ですね!)」」

「ほほう、夏合宿中のデザートにはあまり期待してなかったんですけど、やりますねえ」

「凝ったものを作るのは趣味だからなあ」

 

 

渡したアイスケーキは、すぐにマヤノとフラワーによってパクパクされ始めた。美味しく出来ているようで安心。デジタルの方はのんびりと味わっているが、セイウンスカイはひと口食べて固まってしまったが、まさか口に合わなかったか?

 

 

「どうしたんだセイウンスカイ。もしかして口に合わなかった?」

「ああ、いえ。そうじゃないんです。普通以上に美味しいですよ。でもこれは…いやそんなまさか」

「???」

 

 

何やら考え込んでしまったが、美味しいなら問題ないか。この後、突然ケガの療養から復帰したセイウンスカイが札幌記念に出走し、盛大に出遅れをかましてからも、驚異的な末脚をくりだして1着をもぎ取ったのは、また別のお話である。

 

 

 




以前の連載部分の誤字報告をいただきました。該当箇所は追記/修正済みです。ありがとうございます。助かります。
その修正箇所なんですが、完全に文が繋がっていませんでした。しかし、特に報告もなかったので、私も含めてですけど、雰囲気で読んでいる可能性がありますね…!
それはそれとして、チャンミの死体蹴りライブでだいぶあったまってしまったので、次回更新は少しかかります。ご了承ください。


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どうしても甘えたいマヤノトップガン

「トレーナーちゃん!マヤもうトレーニング飽きちゃったんだけど!海で一緒に遊んでよ~!」

「ついにか…」

 

 

夏合宿を初めて1か月、ついに飽き性のマヤノからギブアップ宣言が出てしまった。フラワーやデジタルには目標があるので、それに対するトレーニングができる。でもマヤノはグランドスラムを達成してしまっているので、今後の目標は特にない。強いて言うなら年末の有馬記念でグランプリ5連覇を狙うぐらいか。だから飽きてしまうのも仕方がないのかもしれない。

 

 

「だってもう1か月だよ!?ず~っと似たようなトレーニングばっかり!マヤもいっぱい頑張ったけどさ?トレーナーちゃん、褒めてくれはするけども全然一緒に遊んでくれないし?やる気なくなっちゃうよ~…」

「…フラワーたちが頑張ってる傍で遊ぶのも微妙だと思うんだけど、マヤノはどう思う?」

「ぶーぶー。…それはまあ?確かにそうなんだけどさ~?」

 

 

久しぶりにマヤノが私に背中を預けて、私の腕をマヤノのお腹の前に回すようにして組ませてきた。耳も完全に寝てしまっていて…。やれやれ、これはもう我慢の限界ってことか。レースでは鬼のような強さで勝つのに、私生活ではこれなんだから。まったく、仕方がない子だな…。

 

 

「わかったよ。今夜はマヤノのためだけにまとまった時間を作る。約束だ。だから、それまでは我慢できる?」

「……んも~。しかたないな~、トレーナーちゃんは。それならマヤ、もうちょっとだけがんばる。やくそく、まもってね☆」

 

 

少し機嫌の治ったマヤノは、組ませていた腕をほどいて砂浜を走りだした。さーて…どうやって機嫌を取るかね。

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「それではトレーナーさん、おやすみなさい」

「おやすみですぞ!…ふふ、トレーナーさんは楽しんできてくださいね」

「…ふえ?楽しむ?何をです?」

「いえいえ、何でもないですよフラワーさん。ささ、私たちは明日に備えて寝ましょうか」

「???」

 

 

消灯の時間になって寝る挨拶をしたが、マヤノとの約束があるので私たちの夜はまだまだこれからである。フラワーは気づいていないようだが、デジタルには完全にバレてるなこれ。まあ、いかがわしいことをするわけでもないので、堂々と抜け出すけど。

 

 

「昼間の騒がしい海もいいけど、夜の海も静かでいいね」

「そうだな」

 

 

マヤノの希望で手をつなぎながら、特に何をするわけでもなく砂浜から海を眺める。マヤノは何かを言いたそうにしているが、なかなか言い出せないでいるようだ。まあ時間はたっぷりあるし、マヤノから言いたくなるまで待つか。

そう思ってだいたい5分ほど経っただろうか。マヤノはこてんと私の膝を枕にして砂浜に寝そべった。

 

 

「ふぅ…」

「どうかした?」

「べ、別に〜?」

 

 

頭をなでてやると、気持ちよさそうに耳を左右に倒している。それからさらに30分ほど経って、ようやくマヤノはぽつぽつと話し始めた。

 

 

「ねえトレーナーちゃん。トレーナーちゃんは、マヤが担当ウマ娘でよかった~って、まだ思ってくれてるの?」

「どしたの急に」

「だってマヤ、自分で言うのもアレだけどさ?結構重い女の子でしょ?」

「重いか?ウマ娘全体でもかなり軽いほうだと思うけど。ほら、私でも抱きかかえられるもの」

「マヤの頭の重さでも、体重の話でもないよっ!?も~!トレーナーちゃん、知っててとぼけてるでしょ~!」

 

 

そんな暗い顔で話すことじゃないでしょ。ほーら笑顔笑顔。

 

 

「むー!ほっぺたを引っ張らないでー!もうっ!いい!?話を戻すよ?マヤ、色々あったせいで、今はもうレースが楽しいって思えないの。昔はレースでキラキラしたい〜って思ってた時もあったんだよ?でもいつからか、レースなんて勝たないと無価値だって感じるようになって…」

「ふーん」

「ああーっ!軽く流したーっ!マヤ、これでもすごく大事な話してるのに!」

「だってマヤノが私にとって1番大切な子の事を貶してるんだもの。そんな悪い子の話は聞いてあげませーん」

「むむー!もっとマヤの話を真剣に聞いてくれても……ん?」

 

 

マヤノが何かに気づいたようだけど、もう相手してあげません。今日はこれで店じまいです。

 

「さーて。夜も更けてきたし、今日はもう寝るとするかね」

「…ふえっ!?あれっ!?トレーナーちゃん!もしかしなくてもマヤ、すごく大事な事を聞き逃しちゃったりしてる!?」

「さあ?」

「あー!誤魔化した〜っ!」

 

 

ほっぺたを膨らませながらポカポカ叩いてくるマヤノをスルーしながら、私はホテルへと戻ったのだった。




マヤノはトレーナーちゃんが居なければ我慢できる子ですが、トレーナーちゃんが居ると甘えたくなってしまう子。トレーナーちゃん側も気にせずいつでもウェルカムだから悪いともいう。


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盛大にやらかすトレーナー

ハロウィンですね。アルダン嬢の配布SSR美しすぎて惚れる。金スキルがレースプランナーなので、トレ性能はかなり低いですが、場合によっては編成に入りそうです。絆80でスピボナパワボナも揃いますし。低くなるであろうステはメイクラ因子とトレ上振れをお祈りしましょう。


「今日の勝利のお菓子は~……栗です!」

「マヤもびっくり!…なんちゃって☆」

「……なんだかものすごく寒いんですけど、9月って冬でしたっけ?夏合宿の疲れからか、3か月ぐらい寝過ごしちゃってて、実は今12月ってことはありません?」

「まだ夏が終わったばかりですよデジタルさん」

 

 

ついに食欲の秋到来。栗のおいしい季節である。放課後にいつものメンバーがチーム部屋に集まったので、今回のお菓子をお披露目するぞ。昨年はモンブランで勝負したが、今年はまた別のお菓子を用意したのだ。

 

 

「秋と言えば栗。ということで栗クリームのロールケーキを作ってみました」

「なるほど。私を含めて全員に対してキッチンを出禁にして何を作っているのかと思ってましたけど。モンブランじゃなくロールケーキにしたんですね」

「一応モンブランも作ってあるよ?ロールケーキよりそちらがいいならそっちを食べてもらって大丈夫。当然味は保証するし」

「ほうほう。でもあたしはロールケーキにしましょうかね。トレーナーさんの自信作、見せていただきましょうか?」

「私もロールケーキにします。切り分ければ食べたい量に調整できますし」

 

 

どうやら2人はロールケーキにするようだ。モンブランは冷凍保存か寄付か…どうしようかね。しかしさっきからマヤノからの反応が無いな。どうしたんだろう。

 

 

「トレーナーちゃん!タルトは!?」

「えっ!?た、タルト…!?」

「うん!マヤ、タルトがいい!」

 

 

ほうほう、栗のタルトか。…やばい作ってないぞ!?新作のロールケーキに気を取られすぎてて、マヤノがタルトをリクエストしそうなこと忘れてた…!ふんふんふ~ん☆とマヤノが冷蔵庫を探しているけど、無いものは無い…ッ!

 

 

「あれえ~!?なんでタルト無いの~!?」

「…あ、明日でよければ作っておくよ」

「が~ん。きょ、今日はもう帰るね……」

 

 

タルトが無くてしょんぼりなマヤノ。ロールケーキをちゃっかり手に持って、さっさと帰ってしまった。

 

 

「あっ…これはやっちゃいましたね。久しぶりにやる気の下がったマヤノさんを見ましたよ私」

「うん、完全にやらかしたよ。材料は買ってあったのに作るの忘れるとかほんとダメなやつ」

「あーあー。トレーナーさんがマヤノさんを泣かせた~~~」

「泣かせてないですけど!?」

「というかマヤノさんが普段からタルトタルト言ってたのに忘れるとか、トレーナーの風上にも置けないですねぇ!」

「うぐぐ…!デジタルさん今日は煽るねえ…!」

 

 

ぐうの音も出ない正論で叩くのはやめてくださいよ!

 

 

「甲斐性無しのトレーナーさんにはいい薬だと思いますよ。フラワーさんもそう思いません?」

「えっ!?…ま、まあ…そういうこともあるんじゃないでしょうか……?」

 

 

フラワーが目を逸らしながら必死に擁護しようとしてくれてるけど、擁護しきれてない!

 

 

「ぐぬぬ…。仕方ない、今から作るか。1個作るだけならそんなに時間かからないし」

「い、今からですか!?もうすぐ5時ですよ!?」

「まあ6時ぐらいには終わるんじゃない?栗東寮の門限ギリギリだけど、そこはまあ…うまくやるさ」

 

 

寮長のフジキセキとは面識あるし、マヤノへの差し入れぐらい許してくれるだろう。私が寮内に入らないなら大丈夫なはず。

 

 

「あー、もしもしポリスメン?栗東寮に不審な男性が」

「デジタルさん!?警察案件はやばいって!女子中学生の部屋に大の大人が不法侵入とかそんなことはないから!?」

「ふふふ、冗談ですよ。ほら、繋がってません」

 

 

ドヤ顔でスマホを見せつけてくるデジタル。お、驚かせやがって…!もう許さないからね。

 

 

「……デジタルのお菓子、1か月抜きだから」

「えっ?」

「デジタルは、お菓子1か月、抜きです」

「ええっ???」

 

 

何度聞き直しても同じです。それじゃ…マヤノご所望の栗のタルト、急いで作りましょうか。

 

 

「ちょっとトレーナーさん!?八つ当たりは卑怯じゃないでしょうか!デジたん、そういうのには断固として反対する所存ですぞ!」

「ふんふんふ~ん」

「か、完全無視…ッ!」

「(五十歩百歩ってこういうのを言うんでしょうね…)ほらデジタルさん、暗くなる前に帰りますよ」

「待ってくださいフラワーさん!このままではデジたんのスイーツが!ちょ、フラワーさん!?フラワーさ~ん!!!」

 

 

こうしてフラワーに引きずられるようにしてデジタルは退場させられたのだった。集中したいから助かる。あとでフラワーにはお礼を用意しないと。ちなみにお菓子抜きは冗談だけどね。

 

 

「よーし、完成だ。時間は…ギリギリ6時前!」

 

 

そして1時間後、なんとか栗のタルトを完成させた私は、栗東寮を訪れていた。インターホンを押すと、寮長であるフジキセキがやってきた。

 

 

「やあやあポニーちゃんのトレーナーさん。今日は何の御用かな?」

「こんばんはフジキセキ。突然で悪いんだけど、これをマヤノに届けてくれないか?」

「どれどれ…。なるほど、栗のタルトか。よくできている。これはどうしたんだい?」

「私がマヤノのために作ったんだよ。先ほど私のミスが原因で悲しませちゃってね…」

「ほうほう、それは大変だ。でも残念、それは無理な相談ということだね」

 

 

せっかく完成させたタルトはフジキセキによって不許可にされてしまった。

 

 

「な、なんでだい?」

「はっはっは。そりゃもちろん決まっているさ。そういう贈り物は、作った本人が直接渡さないと意味が無いからだよ」

「…はい?」

「私の権限で寮への立ち入りを許可してあげよう。だから、ポニーちゃんに直接渡すように」

「そ、そんな…。マヤノをここに呼んでもらうのは…?」

「キミはお詫びの品を渡すのに、相手を呼びつけるのかい?」

 

 

正論すぎて反論できない。もしかしなくともこのまま女子寮に入れってこと…!?

 

 

「うそでしょ…」

「スズカみたいなこと言ってもダメだよ。ポニーちゃんを元気にするのはキミの役目さ。ほらほら、早く届けないと他のポニーちゃんに通報とかされちゃうかもしれないよ」

「くっ…!」

 

 

フジキセキに煽られるようにして私は教えられた部屋を訪ねた。部屋をノックすると、マヤノの声が聞こえてきた。

 

 

「はーい、どちら様…ってトレーナーちゃん!?ど、どしたの!?」

「いやあ、それはだね…」

「と、とにかく中に入って!他の子に見つかっちゃう!テイオーちゃん、しばらく出かけてて帰ってこないから中に入ってもだいじょぶだし!」

 

 

そうしてマヤノに引き込まれるようにして中へ。女の子の部屋に入るのって初めてなんだけど…。そうやって辺りをキョロキョロしていたからか、マヤノに怒られてしまった。

 

 

「……トレーナーちゃん。女の子の部屋をじろじろ見るのはルール違反だよ?」

「ご、ごめん!」

「まったく…。それで?こんな時間にどしたの?部屋はフジ先輩が教えてくれたんだろうけど」

 

 

仕方ないなあという顔でマヤノが要件を尋ねてきたので、私は用意していたタルトを取り出してマヤノに渡した。

 

 

「はいこれ。マヤノご所望のタルトだよ」

「えっ、タルト?トレーナーちゃん、わざわざ作ってくれたの?」

「そうだよ。用意するの忘れててごめんね」

 

 

タルトを渡されたマヤノはすごく嬉しそうに微笑んだ。突貫だったけど、作ってよかったな。

 

 

「…えへへ。嬉しいな~。でもトレーナーちゃんが食べさせてくれたら、マヤ、もっと嬉しいな~って」

「お望み通りに、お姫様」

 

 

お望みどおりにあ~んして食べさせてあげると、マヤノはすっかり元気を取り戻したようだ。元気になってくれてよかったよ。…しかし、私の記憶はここで途切れてしまっている。どうやって部屋に帰ったかも覚えていない。朝目が覚めたらちゃんと布団の上に寝ていたんだけど、何故か身体の節々が痛いし。ほんとなんでなんだろう…。

 

 

 

──────────

 

 

 

トレーナーちゃんがマヤにタルトを届けに来てくれた後、2人きりでしばらく雑談していたら、7時のチャイムが鳴ってしまった。あ~あ、残念だけど今日はここまでかな。ずっと2人で居たいけど、マヤもお風呂に行かなきゃいけないもん。臭う~とか言われたら2度と立ち直れないし。…お風呂に入ってる間はマヤの部屋で待たせちゃって、今夜はそのまま一緒に寝てもいいんだけども。

 

 

「あっ、もうこんな時間。そろそろトレーナーちゃんは帰らないとまずい…よね?」

「そもそもフジキセキに許可を取ってあるとはいえ女子寮に男がいること自体がまずいんだけどね。誰かに見つからないうちに今日は帰るとするよ」

「なら出口まで送ってあげるね。マヤと一緒に居れば、誰かに見つかってもフジ先輩に許可取ってあるんだ~ってわかるだろうし」

「ありがとう、助かるよ」

 

 

まあ普通に帰るよね。ということで、マヤの見送りでトレーナーちゃんは帰るとこになった。しかし、物事が上手くいくときには、大体別の場所で上手くいかない状況になるものだよね…。要するに、出口に向かっているときに問題が起きちゃったの。曲がり角でトレーナーちゃんが誰かにぶつかってしまったみたい。しかもぶつかった拍子に相手の子とトレーナーちゃんが両方とも弾き飛ばされて、倒れるトレーナーちゃんの上に何かが乗っかって…。

 

 

「ぬわっ!?」

「あうっ!?…いたた。ごめんなさい、よく見てな…く…て…」

「だいじょぶトレーナーちゃん!?」

「私は大丈夫だよマヤノ。君も…ってフラワーじゃない。ぶつかっちゃってごめんね」

 

 

トレーナーちゃんがぶつかってしまったのはフラワーちゃんだった。タオルの入ったカゴを持っているので、マヤと同じようにこれから入浴なんだね。

 

 

「…ところで何が頭の上に乗っかって……あ゛っ」

「うわっ…」

「……」

 

 

トレーナーちゃんはもちろん、マヤの顔も蒼白になっていくのが自分でもわかる。トレーナーちゃんが頭の上に乗っかったものを手に取って握っていたのは、ぶつかった拍子にカゴから吹っ飛んだであろう、フラワーちゃんの下着だったのだ。こ、これは詰んだっぽい!?

 

 

「あ、あはは…。ピンクの生地に赤いリボン付きか。すごくかわいいね」

「……」

 

 

と、トレーナーちゃんのばか!そういうのはもっと他に言い方が…!俯いていたフラワーちゃんが顔を上げたとき、それはもうものすごい笑顔だった。

 

 

「……反省してください♡」

 

 

そして笑顔のフラワーちゃんにボッコボコにされたトレーナーちゃんは、ボロ雑巾のように寮外に捨てられてしまった。

 

 

「もうっ…えっちなんですからまったく」

「あっはっは。フラワーは災難だったね。マヤノは、今後はちゃんとトレーナーさんの手綱を握ってないとダメだよ?」

「……フジ先輩、少しお話があります」

「おっとすまない、私は用事を思い出したのでこれにて失礼させてもらうよ」

 

 

一部始終を見ていたであろうフジ先輩は、フラワーちゃんの怒りの矛先が向けられるや否やさっさと逃げ出した。トレーナーちゃんにもこれぐらいの強かさがあればまだ助かったかもしれないけど。マヤも急いでトレーナーちゃんをトレーナーちゃんのお部屋に運ばなきゃ。

 

 

「マヤノさんも後でお話があります」

「…はい」

 

 

なおトレーナーちゃんが気絶していたので、その看病をすると言って一緒に寝る口実を得ていたことに気づいたのは、フラワーちゃんの説教が始まって30分経った後だった…。

 

 




なおフラワーのお説教は2時間続きました。


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電撃6ハロンを駆け抜けるニシノフラワー

久しぶりの更新。難産でした。


『今年も秋のG1戦線がやってまいりました。電撃6ハロン、スプリンターズステークス!今回もここ中山に快速自慢が集まりました!中山芝1200m、天気は曇り、良バ場の発表です。出走するウマ娘を見ていきましょう。3番人気はヤマニンゼファー。短距離からマイルまでのレースで好走を続けているウマ娘です。安田記念では11番人気という大穴から勝利を上げました。パドックを見る限りでは良い表情なので、このレースでも勝利を狙えるか。2番人気はサクラバクシンオー。未だに短距離では負け知らずの快速ウマ娘です。今日も自慢のバクシン力を発揮できるのか、好走に期待しましょう。さあ、今日の主役はこのウマ娘を置いて他に居ない!1番人気はこの子、ニシノフラワーです。笑顔溢れる表情で、すごく調子がよさそう……おかしいですね。何故だか笑顔が恐ろしく感じるのですが、私の気のせいでしょうか?』

 

 

「久しぶりにこの人の実況と解説を聞いたけど、早すぎてほとんど聞き取れない」

「流石の短距離専門実況マン…」

「そう?マヤは全部わかっちゃったよ☆」

「「聞き取れてる訳じゃないじゃん(ないですか)」」

「……えへっ☆」

 

 

マヤノの強い勧めでフラワーが出走することになったスプリンターズS。短距離は札幌でのメイクデビュー以来か。まあそれはそれとしてだ。

 

 

「ここ最近フラワーからの視線が痛いし、素っ気ないんだけどさ。原因が全く思い浮かばないんだよ。何か怒らせるようなことした覚えもないし…。もしかして、マヤノにだけタルト作ってあげたから拗ねちゃったのかな」

「どうなんでしょうかね。あたしからすると知らない間に2人の中が険悪…?というか、一方的にフラワーさんがツンツンしてる感じを受けましたが。まあ本気で嫌ってるようには思えませんので、現状は見てるだけですけども。トレーナーさんがフラワーさんに対して、まーたちょっかいを出したんじゃないですか?」

「えぇ~?デジタルの私に対する悪い意味での信頼が痛すぎるんだけど」

「ここ最近の行いを顧みたら、どう考えてもアウトでしょうに」

「あ、あはは~…(トレーナーちゃんが事故でフラワーちゃんの下着を見ちゃったなんて、どうやって説明していいかわからないよ〜!)」

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!ハナを取ったのはやはりサクラバクシンオー!あっという間に先頭に立って、後続との差を広げていきます!この調子でスタミナが持つのでしょうか。3コーナーを回って先頭は相変わらずサクラバクシンオー。その後ろ2バ身離れて4番、さらにその後ろを5番、少し離れてヤマニンゼファーが追走!1番人気のニシノフラワーは大勢のウマ娘たちにマークされて後方からのレースを強いられている!』

 

 

「……ぴぃっ!?ふ、フラワーさん怖すぎりゅ…!そのお顔も尊いですけども!というか、もしかしなくとも、これってそういうことなんでしょうか?」

「だってそのためにレースに出るよう言ったんだから。当たり前でしょ☆」

「やっぱり…」

「え、え?な、何?何が起きるの?」

 

 

2人だけで通じるものがあるらしい。何が起きるんだろう。そんな話をしているうちにレースは最終直線へ。1200mしかないので、展開が早すぎるな。

 

 

『さあ最終コーナーを回って直線に入った!先頭を駆けるのはサクラバクシンオー!リードは4バ身!2番手のヤマニンゼファーが一気に加速してその差を詰めていく!未だ後方の1番人気ニシノフラワーはどうする!残り310mしかありません!ニシノフラワーが大外に出た!しかしもう距離がないぞ!残り200!ここから挽回出来……ああっと!?ここにきてサクラバクシンオーが急失速!ついにバクシン力が切れたか!後続を巻き込んで……?いや違います!後続も含めてほぼ全員ズルズルと後退!その隙をついて外へ出ていたニシノフラワーが急襲!サクラバクシンオーの急失速をギリギリで躱したヤマニンゼファーが先頭だ!ヤマニンゼファー、苦しいけど粘っている!ニシノフラワー差し切るか!2人並んでゴールイン!』

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「『ニシノフラワーがスプリンターズSをV!クラシックの女王が、中山でも大輪の花を咲かせました!』か。フラワーの次走は秋華賞、その次に本命のエリザベス女王杯だっけ?」

「……そうですよ」

 

 

学内新聞を眺めながら話しかけるも、相も変わらずフラワーはつーんとして不機嫌だった。今日はマヤノとデジタルがまだ来てないから、謝るチャンスだと思ったんだけども。

 

 

「ねえフラワー。お願いだから機嫌を直してくれないかな。私が何かしたなら謝るから」

「…えっと、もしかして、この前のこと覚えてないんですか?」

「この前のこと…?」

「マヤノさんにトレーナーさんがタルトを届けに来た時のことです!」

「ああ、その日なら私がマヤノにタルトを食べさせて甘えさせた後の記憶が無いんだよね。知らない間に自室に戻ってたし。だからその時に何かやらかしたんじゃないかって思ってマヤノに聞いたんだけど、全然教えてくれないし…」

「…本当ですか?」

「まあ…信じてもらうしかないね」

「なら、いいです」

 

 

フラワーの機嫌が少し直ったようだ。何があったか知らんけど、今後は気をつけねばな…。

 

 

「やっほートレーナーちゃん!…あれ~?フラワーちゃんもう来てたんだ!早いね!」

「お疲れ様ですマヤノさん、デジタルさん」

「…そっか。フラワーちゃんとトレーナーちゃん、ちゃんと仲直りできたんだね!あ~、よかった~」

「な、仲直りとか…。べ、別にそんなんじゃないですっ!」

「…ふむ?(どうやらご機嫌取りには成功したようですね)」

「(記憶がないって伝えたら少しマシになったんだよ)」

「(なるほど?)」

 

 

マヤノが言うならフラワーの問題は解決したと思っていいだろう。なら今後の予定を聞いておかなきゃね。

 

 

「まあそれはそれとしてだ。フラワーの予定はわかったけど、デジタルとマヤノはどうする?デジタルは朝日杯まで出走しないの?」

「そういえば特に考えてなかったですね。トレーナーさんに余裕があるならデイリー杯JSでも取りに行こうかと思いますけど。朝日杯の優先出走権もらえますからねアレ。…そういえばトレーナーさんには伝えてなかったですけど、あたし12月後半はホープフルSじゃなくて全日本2歳優駿に出ますよ」

「なるほどなるほど。って、朝日杯も全日本2歳優駿も12月中じゃない。そんなに連続出走して大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。2週ぐらい平気ですって」

「ならいいけども…。マヤノは?」

「有馬記念で投票1位だったら出るよ☆そうじゃないなら知らな~い」

「ふむふむ」

 

 

やっぱりグランプリに出る意思はあるのね。わざわざ自分から手を挙げる気はないけど。

 

 

「じゃあタルトは用意しなくても済みそうかな」

「ええ~!?マヤが1番人気になれないってトレーナーちゃんがそんなこと言っちゃうの~!?」

「だってこういうのってだいたいスペシャルウィークだし」

「「それは確かに」」

「ぶーぶー!」

 

 

 




更新までだいぶかかった理由ですが、単純にオチが思いつかなかったのもありますけど、主な原因としてはリディー&スールをやってたことでした。
ゲームの方の育成は、大逃げスズカ、ニシノフラワー、花嫁マヤノで揃えました。運営の大のお気に入りの特攻キャラであるクリオグリに勝てるかどうかはわかりませんが、まあまあの出来になったと思います。あと当たり前ですが死体蹴りライブは廃止になったので、そこは良かったですね。


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バブみを発揮するニシノフラワー

久しぶりの更新+非常に短い日常回。


「「え?」」

「…あちゃー」

「尊いです萌えます推せます本当にありがとうござい……(バタリ」

 

 

マヤノとデジタルを連れて寄付のために訪れたいつもの幼稚園で出会ったのは、保母服を着たフラワーだった。そして当然のようにデジタルは速攻で尊死した。

 

 

 

──────────

 

 

 

「トレーナーちゃん、何度も何度も聞いたけどさ。何か言うことは?」

「深く深く反省しております」

「そう言って毎回これだもん!どうせ今回も全然懲りてないんでしょ~っ!?」

「ひょひぇんひゃひゃい(ごめんなさい)~~~」

「いやあ……バカですよね、ほんと。いっそ清々しいレベルですよこれは」

 

 

今日も今日とて私はマヤノに頬を引っ張られながら正座させられていた。昨日の段階で、いつも早めに来るフラワーが用事があるとかで不在、そしてマヤノもデジタルも遅くなるとのことだった。つまり普段より時間に余裕があったので、張り切ってタルトを作っていたのだ。もうお分かりだろう。そう、誰もストッパーが居ないのである……。

 

 

「……で、いくつ作っちゃったの?」

「1カゴ200個ずつ詰めたから……600個?」

「トレーナーちゃんのおバカ!そんなに食べられるわけないでしょっ!」

「あ痛ぁっ!?」

「そもそも5時間で作れる量じゃないんですがそれは」

「私が増えれば行ける」

「は?」「え?」

「嘘ですごめんなさい単純に効率を極限まで求めてやるとやれます」

 

 

冗談を言ったら真面目に冷たい目で見られてしまった。我々の業界でもご褒美じゃないです……。

 

 

「そもそもトレーナーちゃん、材料費はどこから出てるの?最近マヤ、レース出てないから、お給料かなり減っちゃったでしょ。フラワーちゃんのレースもトリプルティアラにスプリンターズSでクラシック3冠や有馬記念とかに比べたらかなり低いし、デジタルちゃんはまだメイクデビューだけだし」

「ぽ、ポケットマネーをつぎ込んで……」

「ちゃんと貯めなきゃダメでしょー!」

「あだっ!?」

「もはや何も言いますまい。……長くなりそうですし、あたしは終わるまで寝てるので、終わったら起こしてくださいね~」

「見捨てられた!?」

 

 

こうしてマヤノがオカンになってしまったので、平謝りするしかないのであった。なお、お説教は30分続いた模様。

 

 

「(くどくど)……いい?もうやったらだめだからね!」

「はい……(やっと終わった)」

「デジタルちゃん起きて。大井の幼稚園に行くよ」

「ふああ……?やっと終わりましたか?」

「キリが無いから終わりにしたの。このままだと日が暮れちゃうし」

「(せっかく作ったのに……)」

「……まだお説教が足りないのかな☆」

「なんでもないです!!!」

 

 

 

──────────

 

 

 

「はえ~。あたしは初めて来ましたけど、そこそこ広いんですね」

「幼稚園って大体広くない?子供って走り回るし、狭いと危ないでしょ。というか私も初めて来たよ。いつもの府中の幼稚園じゃないんだね」

「この前モンブラン押し付けたばかりだし、絶対消費しきれてないでしょ」

「なるほど?どこかの誰かさんの仕業ですね」

「うぐっ!心当たりしかない」

 

 

そうして珍しいものを見る目で服の裾を引っ張ってくるやんちゃな子供たちを避けながらタルトを運んでいるときに、ふと教室内を見てしまったのだ。

 

 

「「え?」」

 

 

ここで冒頭に戻る。目が合ってしまったのは、今日は不在だと言っていたフラワーだ。その彼女が保母服を着て子供たちをあやしていたのである。目が合った彼女は、抱えていた子供を降ろしてこちらにやってきた。

 

 

「と、トレーナーさん!?どうしてここにっ!?」

「いやその……マヤノの紹介で」

「ええっ!?……前にマヤノさんが言ってたのってここじゃなかったじゃないですか!?」

「府中も今は在庫溢れだよ!」

「それはそうですけど!」

 

 

内緒だったらしい。アレ……?でもフラワーって飛び級だから実際まだ小学生……。

 

 

「ん?」

 

 

気づいたら自室のベットの上だった。私が覚えているのは、すごくいい笑顔のフラワーだった。

 

 

「━━━という夢を見たんだ」

「へ、へぇ……。それは大変だったね」

 

 

マヤノが目を合わせてくれないが、何かあったのだろうか。それはそれとして来週は京都で秋華賞がある。おいしい勝負スイーツを用意しないとだな。

 

 

 

 

 



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合法的お泊まり

「トレーナーちゃ〜ん。暇だよ〜。なんか作ってよ〜〜〜」

「作りたいけどヌマゾンに注文したさくらんぼがまだ届いてないから今は無理だな」

「がーん……」

 

 

秋も深まる10月の頭、我らがマヤノさんは私の私室にて、ひたすらにだらけまくっていた。というのもこの子、台風が接近しているというのに、余裕ぶちかまして私の部屋に遊びに来たのだ。案の定帰る時には大雨突風で帰るに帰れない状況に。フジキセキには連絡済みだが、電話の向こうで思い切り苦笑いしてたぞあれは。

 

 

「今日はこの雨風で帰れないだろうから泊まっていって良いけど、次はダメだからね」

「は〜い!」

 

 

笑顔全開でイイ返事!分かってんのかなホント……。

 

 

「しかし困ったな。私1人なら夕飯なんてどうとでもするけど、マヤノがいるなら真面目に考えなきゃならん。どうするかね」

「え?お菓子でいいじゃん。トレーナーちゃんならどうせストックあるでしょ?」

「……あるにはあるけどさ。お菓子はご飯にはならんって前に散々……いや待てよ?あったわ、ご飯になるやつ」

「おお?」

「探してくるからちょっと待ってて」

「あいこぴー!」

 

 

確か冷凍庫の左奥にしまってあったはず。が、冷凍庫を探しても見当たらず。……おかしいな、なんで見つからないんだ?

 

 

「トレーナーちゃ~ん。まだ見つからないの~?」

「ごめんマヤノ。しまってあったと思った場所にないんだよ」

 

 

時間をかけすぎたからか、マヤノが様子を見に来た。そして、ちょっと退いて?と、押し退けられてしまった。私の部屋なんだけど……。

 

 

「普段から作る傍からポイポイ入れて、ちゃんと整理しないからだよ~。んーと……これじゃない?」

「お~、そうそうそれそれ。よくわかったね」

「ふふ~ん♪マフィンは勝負スイーツに出てきたことないから、マヤすぐわかっちゃった☆」

 

 

そしてマヤノが1発で正解を引き当てた。相変わらず勘の良い子である。何はともあれ、これで夕飯はオーケーだ。

 

 

「でもマフィンなんていつ作ってたの?これ生地がお米だよね?」

「1人暮らしの男が炊飯器で米炊くと普通に余るんだよ」

「ええ?トレーナーちゃんが食べなさすぎなんじゃないの……?」

「作ったお菓子の味見をしてると、結構な割合でご飯は食べきれないんだよね」

「何それ不健康すぎじゃない?食生活ガッタガタじゃん。一応聞いてみるけど、直す気は?」

「マヤノたちに美味しくないお菓子を食べさせる気はないので無理」

「……ならしょうがないか~」

 

 

そう、しょうがないのである。夕飯も決まったことだし、適当に果物を切り分けてデザートにでもしよう。ということでマヤノとマフィンを2人で分けて、それぞれ食べ終えた。あとは湯浴みして寝るだけである。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

「ねえマヤノ。この後は湯浴みしたらもう寝るだけだけど、マヤノはシャワーとお風呂どっちがいい?」

「もちろんお風呂!トレーナーちゃん!一緒に入ろ!」

「……はいはいシャワーね~」

「ぶーぶー!」

 

 

その後は雑談をしつつマヤノはベットで、私は床に敷いた布団で寝た。何もありませんでしたよ、もちろん。

 

 

 

──────────

 

 

 

「きゃああああっ!?」

「どわああああっ!?な、なんだ!?何が起きた!?」

 

 

突然の悲鳴で叩き起こされた。跳ね起きるとフラワーがこちらを指差して顔を赤くしていた。横には何故かセイウンスカイも居る。

 

 

「ふ、不潔ですっ!担当ウマ娘を強引にトレーナーさんの布団に引き摺りこむなんてっ!」

「え?」

「いやあ……。前に戴いた差し入れのお菓子を食べてからというもの、身体の調子がすこぶる良いからお礼を言いたいってフラワーに頼んで連れてきて貰ったものの……。もしかしなくともセイちゃん、すごくお邪魔しちゃいましたかねこれは」

「2人ともいったい何を言って……んなっ!?」

 

 

セイウンスカイの視線の先を辿ると、私にしがみついて幸せそうに寝るマヤノが!しかもパジャマが着崩れてる!?

 

 

「な、なんでマヤノが!?ちゃんとベッドで寝かせたはずなのに!ちょっとマヤノ起きて!具体的には私の冤罪防止のために!」

「にへへ〜」

「にへへ〜じゃないんだってば」

「いひゃいいひゃい!?ひゃひ!?ひゃひひゃおひひゃひょ!?」

「ぷぷっ、この2人全く同じリアクションじゃん。仲がいいね〜」

「スカイさん!今は冗談を言ってる場合じゃないんです!」

「……あちゃー。こっち向いちゃったか」

 

 

フラワーがセイウンスカイに向かって説教?を始めたが、そのセイウンスカイがこっそりこちらにウインクをしてきた。どうやらわざとフラワーの気を逸らしてくれたらしい。なので、その間にまだ半分寝ぼけているマヤノに事情を説明した。

というかなんでこの子ここに居るんだろ。ベッドから落ちたとかそういうやつ?

 

 

「ふむ〜。でも女子中学生の大人なマヤと、大の大人なトレーナーちゃんだし、愛さえあれば問題ないよね☆」

「大アリだよ!」

 

 

そしてフラワーによってセイウンスカイが撃墜されたあと、マヤノと揃って説教を受ける羽目になった。理不尽!

 

 

 

 

 

 

 



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咲き誇る花たち

チャンミ久しぶりに1着だったので初投稿です。
というか死体蹴りライブと1ヶ月もの間バックダンサーの育成お疲れ様の煽りが始まって以来初ですね。おかげでなんとか続きを書き上げれました。


『ニシノフラワー、大差で今ゴールイン!圧倒的な実力差を見せつけて、秋華賞を勝利!輝かしい3つのティアラを揃えた女王が、ここ京都に誕生した!』

 

 

「「ですよね〜」」

「マヤノもデジタルも反応が薄すぎる……」

 

 

秋華賞をフラワーがぶっちぎり大差で勝利した。3コーナーからスパートを掛けて、そのまま突き放してゴールイン。……他の子がバテバテだったのは見てないしわかりませんね。

 

 

「それじゃあフラワーちゃんのトリプルティアラ達成のお祝いに〜?」

「トレーナーさん、よろしくお願いしますよ~」

「はいはい。お任せくださいませお嬢様方」

「やったー!マヤ、洋梨のタルトがいい!」

「いやいや勝ったのマヤノさんじゃないじゃないですか」

「ふっふっふ。こういうのは早い者勝ちなんだよ☆」

「数作る予定だし、ケンカしなくとも食べられるよ」

 

 

なおフラワーはほとんど食べなかった模様。まだ本来の目標のエリザベス女王杯があるし、食べすぎ注意であった。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「今年の3冠はミホノブルボンで決まりだな。見ろよあの身体。鍛え抜かれてボインボインのムッチムチだぞ」

「どうした急に。というかセクハラだぞその発言」

「菊花賞、京都芝3000m。クラシック3冠路線の終着点であるこのレースは、1番強いウマ娘が勝つと言われている。ウマ娘として鍛え上げられた身体、つまるところ最後まで走り切れるスタミナと根性がモノを言うんだ。スプリンターと言われ続けてきた彼女の奇跡な軌跡を紡いでいこう」

「ええ……?」

「蘊蓄が始まったと思ったら〆がまさかのダジャレ……」

「つまらなさすぎて隣の人凍りついてるじゃん」

 

 

いつもの眼鏡の人が寒いダジャレをぶっ放したせいで、相方が凍りついていた。が、多分大丈夫だろうからそれは放っておくとして、菊花賞はミホノブルボンの3冠がかかっている。

うちのメンバーからは誰も出走していないが、フラワーのエリザベス女王杯が来週京都レース場で発走されるし、せっかくだから見物に来たわけだ。

 

 

「というかさっきから静かだけどデジタルちゃんは……あー、はい」

「すみませんマヤノさん。今日はウマ娘ちゃん観察に忙しいので後にしてください。というかライスさんに単勝で100万突っ込んでますので、こう見えて割と余裕がないです」

「は?」「え?」

「……よだれで酷いことになってるから、ちゃんと拭いてね。というかその資金源って同人誌?売りすぎでしょ」

「ああ、なるほど。今は戻ってますけど、先程ライスさんのオッズが急落したのデジタルさんの仕業だったんですね……」

「先週のフラワーさんの単勝が1.1倍で一切美味しくなかったので、今回ので稼いでおこうと思いましてね」

 

 

デジタルたちの発言は聞こえませんでした。

 

 

「ところでフラワーの調子はどうなの?来週2200m走るんでしょ?」

「ふえ?あ、はい。準備バッチリですよ。シニア級の先輩方とのレースは初めてですけど、精一杯走ってきますね」

 

 

ふんす!とフラワーも意気込み十分のようだし、来週は期待できそうだ。

 

 

「フラキュアがんばえ〜」

「ふ、フラキュア!?フラキュアって何ですか!?」

「もちろんフラワーちゃんのウマキュア、略してフラキュアだよ☆」

「まるで意味がわからないんですけど!?」

「ああ!で、新しい勝負服ってカワカミちゃんとふたりでウマキュアじゃなかったの?この前エントランスで一緒に居るの見かけたけど」

「確かにカワカミさんとお話しはしましたけど、全然違いますっ!というか、あんなヒラヒラした変身ヒロインの勝負服なんてレースで着れるわけないじゃないですかっ!」

「ええ〜?似合ってそうなのに」

 

 

……マヤノもフラワーもウェディングドレスだったりフラウンスだったりでヒラヒラ勝負服じゃないのか……?スパッツ履かせてるから大丈夫だけど、レース中はスカートの中丸見えだし。

と、そんなことを話していたらレースが発走していた。

 

 

『さあスタートしました!いつも通り先頭争いはミホノブルボン、キョウエイボーガン!熾烈な先頭争いを制してハナを取っていったのはキョウエイボーガンだ!キョウエイボーガン、ハイペースでハナを進んで行きます!』

 

 

「キョウエイボーガンって誰?」

「もー、トレーナーちゃんたら知らないの?」

「だってG1のレースしか新聞に載らないし」

「まあマヤも知らないんだけどね☆」

「マ〜ヤ〜ノ〜?」

「あうあう〜ほっぺひっぱらないで〜」

「ボーガンさんは京都新聞杯でブルボンさんやライスさんとレースをしたそうです。ブルボンさんにハナを取られてしまって、結果は散々だったそうですけど。今回は全力でハナを取りに行ったみたいですね」

「ほほ〜」「なるほど〜」

 

 

『さあ1回目のホームストレッチ、正面スタンド前をウマ娘が走り抜ける!先頭はキョウエイボーガン、そのすぐ後ろをミホノブルボン、さらに後ろをライスシャワー。っとここでミホノブルボンがハナを取り返しまして、先頭はミホノブルボン。2番手争いは……』

 

 

「「あっ」」

「ん?」「ふえ?」

 

 

ミホノブルボンがキョウエイボーガンを追い抜きにいった瞬間、マヤノとデジタルが声を上げた。

 

 

「どしたのさ?」

「まあ見てればわかるよ」

 

 

聞いても答える気がなさそうに、マヤノはレースを眺めているし、デジタルはホッとした顔で飲み物を買ってきますと言い残して後方へ下がってしまった。フラワーは私と同じように首を傾げているので、私の見る目が無いだけということはなさそうだが……。

そうしてレースは順位の変動無くそのまま向こう正面へと進み、3コーナー手前で一斉にウマ娘たちがスパートを掛け始めた。

 

 

『2回目の淀の坂を登りきったウマ娘たちが一斉にスパートを掛けていくぞ!先頭はミホノブルボン!キョウエイボーガンは伸びが苦しい!ズルズルと後退していく!それを見ながらライスシャワーがミホノブルボンを追いかける!最終コーナーを越えてさあいよいよ直線だ!ミホノブルボン未だに先頭をキープしています!』

 

 

【起動開始……セット、オールグリーン。ミホノブルボン、発進!】

【誓います。大好きな人と、幸せの青い薔薇に……ライスだってっ!咲いてみせるっ!】

 

 

ミホノブルボンとライスシャワーの領域がほぼ同時に展開された。互いの領域を食い散らかさんと激しくぶつかり合うそれは、彼女たちのレースへの勝利の執念なのだろうか。

 

 

「「おお〜」」

「おお〜じゃないが」

 

 

そんな様子を見て、マヤノとフラワーは感心の声を上げている。こ、この子たちは……。

 

 

「あっ、すみません。領域のぶつけ合いを初めて見たのでつい。私が領域を展開してる時ってもうレース終盤なので、他の方が発動した領域がどうなっているかというのを気にしている余裕がないんですよね」

「マヤはそもそもぶつけたこと無いしな〜」

 

 

『最初に抜け出したのはミホノブルボン!だがライスシャワーも追い縋る!熾烈なデッドヒート!先頭2人の鍔迫り合いだ!残り200!ライスシャワー並びかけて……並ばない!ライスシャワー抜け出した!先頭はライスシャワー!ミホノブルボン追い縋る!先頭はライスシャワー!脚色は衰えない!ライスシャワー!今1着でゴールイン!幸せの青き薔薇がここ京都に咲き誇りました!2着に入ったのはミホノブルボン!3冠の夢には手が届きませんでした!』

 

 

ライスシャワーが菊花賞に勝ち、ミホノブルボンの3冠の夢は砕け散った。勝負の世界は厳しいと感じたが、観客はそうではなかった。

 

 

「ミホノブルボンの3冠が見たかったのにな〜」

「あのライスシャワーって子、空気読んでよね〜」

「マジありえないんだけど〜」

 

 

観客が勝ったライスシャワーへとヤジを飛ばし始めたのである。勝ったライスシャワーはヤジを飛ばされ、顔を俯き辛そうにしている。

 

 

「勝負の世界なんだからこういうこともあるに決まってるじゃん。なんなのあの人たち」

「ほんとですよ。頑張って走ったブルボンさんにも、勝ったライスさんにも失礼ですっ」

「「イライライライラ」」

「ひっ」

 

 

それを見て怒り爆発寸前のマヤノとフラワー。しかし、あわや大爆発というところで救いが訪れた。

 

 

「ライスちゃ〜ん!おめでと〜っ!ウララはライスちゃんが絶対勝つって信じてたよ〜っ!」

 

 

ハルウララだ。自作?と思われる、デフォルメされたライスシャワーらしきものが刺繍されたタオルを精いっぱい振っていた。それを感じてライスシャワーは顔を上げて笑顔でハルウララに手を振り返し、控え室に戻っていった。

その後、ウイニングライブが行われたが、ライスシャワーの歌声に惹かれた自称お兄さまが大量生産されたのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「むほーっ!ライスさんのおかげでファングッズが大量!捗りすぎてたまりませんなあああっ!!!!!……ぐふっ」

 

 

そのさらに裏でデジタルが尊死していたのも別の話である。

 

 



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やはり甘味は担当に限るウマ娘たち

チャンミは嫁マヤノで勝ってたので初投稿です。



「うーん、微妙……。トレーナーちゃん、これ、なんか思ってたのとちがーう……」

「いや違わないから。というかマヤノが本場京都のおいしい抹茶のアイスが食べたいって言うから連れてきたのに、その言い方は無くない?」

「だって微妙なんだもん。ホテル帰ったらトレーナーちゃんが口直しのアイス作ってよ〜」

「ええ……」

 

 

フラワーのエリザベス女王杯まで残すところ3日となった。気分転換も兼ねて京都の街を散策することになり、そこでマヤノのリクエストで京都で1番おいしいと噂の抹茶アイスを食べに来たのだが……。どうやらマヤノからしたら微妙らしい。フラワーやデジタルも渋い顔だ。私からすればおいしいと思うけど、何が悪いんだろう。

 

 

「まあトレーナーさんが作ったものと比べたら雲泥の差ですよねぇ。どうやったら1キロ5000円で買った業務用抹茶が、何倍もの値段のする抹茶よりおいしくなるんでしょ。まさかウマ娘なのにあたしたちがバカ舌……?」

「……みなさん、お店の人に聞こえちゃったら大変なので、それぐらいで」

「でもフラワーちゃんもそう思うでしょー?」

「それはそうですけど……あっ!?」

 

 

目に見えてマヤノたちのやる気が下がっていくので、この後予定していた抹茶巡りは全て中止、材料を買って急遽ホテルで抹茶アイスを作ることに。といっても、市販の牛乳に抹茶の粉末を入れて砂糖を加えて味を整えるだけの簡単なものだが。流石にトレセン学園に居るときと同じことは出来ない。

 

 

「ぐるこんぐるこ〜ん、ってね」

「トレーナーちゃ〜ん、まだなの〜?もうそのままで良いから味見したい〜!」

「冷やして固まらせないとただの抹茶オレだよ、マヤノ……」

「うう……なら我慢する」

 

 

出来上がった抹茶オレを型に流し込んで備え付けの冷蔵庫で冷やす。追加で100円入れて温度をより低く下げる機能を使ったが、果たしてどうなるか。

その後夕食を摂り、3人を風呂に入らせてる間に冷凍室に入れておいた抹茶オレを確認すると、そこそこの固さになってはいた。ギリギリ及第点かな……。

 

 

「う〜んおいしい!やっぱりお菓子はトレーナーちゃんに限るね!」

「ですね」「そうですなあ」

「あっはい」

 

 

いつもの業務用冷蔵庫が無い分、温度管理に融通が効かず味にはそこまで自信が無かったが、彼女たちは満足したようだ。楽しそうでなによりです。

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

「ではトレーナーさん、行ってきますね」

「頑張ってね。応援してるよ」

「はい!」

 

 

エリザベス女王杯当日、フラワーはいつもの勝負服を着て、これまたいつも通りに勝負スイーツを食べてパドックに向かった。

 

 

「今日もフラワーちゃんの相手になりそうな子は居なさそう。ルビーさんが居ればまだ分からなかったけど、マイルCSに出るから回避するって新聞に載ってたしなー」

「ルビーさん?」

「ダイイチルビーさんは去年のスプリンターズSで1着になった方で、他にもマイルCSや安田記念を勝ってる良家のお嬢様なんですよ」

「なるほど?」

「それでもシニア級の先輩方との対決は微妙と考えられたらしく、今回のフラワーさんの単勝オッズは5番人気でなんと9.7倍!3連単が非常に美味しいことになってるので、今回もコミケの利益の殆どを注ぎ込んでしまいましたぐふふふ」

 

 

デジタルの顔が緩み切っていて若干ホラーだ。…いつもの気がするから問題ないか。

 

 

「同じチームだとコンディション丸わかりだから、勝てるのもわかっちゃうもんね」

「インチキなのでは……」

「「バレなきゃ問題ないよ☆(ですよ)」」

 

 

なおレースはフラワーが終始先頭をキープし、そのまま1着でゴールイン。有力ウマ娘はフラワーを追走してバテながら横一直線に並んだ垂れウマ娘に飲まれてしまい、フラワーを除いて1桁番人気は全員着外の大波乱、3連単は100万応募券に化けたらしい。

 

 

「むほーっ!フラワーさん頭軸で、他の人気ウマ娘ちゃんを外した大穴狙いでも、この先全て計画通りならお釣りが来るので倍プッシュ!!笑いが止まりませんぞー!!!」

 




ブヒー、微妙でしたね。エクストラステージが売名でしかなかったです。
私は嫁マヤノ、フラワー、アルダンの推しパで終わらせました。なお称号はフラワーのを貰いました(マヤノじゃないんかい)


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カロリー爆弾は突然に

「おかしいですわね。私の目には懐かしきスイーツ☆トラップが仕掛けられているように見えますわ?」

「奇遇ですねマックイーンさん。私の目にも見えます」

 

 

月末に有馬記念を控えた12月上旬、チームスピカの面々は各々のトレーニングを終えて夕食を摂りに食堂までやってきた。しかし、その食堂の入り口横には『ご自由にお持ち帰りください』と書かれた貼り紙。そしてその張り紙の下に、無駄に光り輝くみかんのタルトがドライアイスを添えられて山積みにされていたのだった。

 

 

「またあの頭がお菓子なトレーナーの仕業ですわね……。毎度毎度やることが同じですけど、いい加減飽きないんですの?」

「いや引っかかるマックイーンもマックイーンでしょ」

「ちょっとテイオーさん!?あなたどちらの味方なんですの!?」

「あ、あはは……」

 

 

スイーツを前にして早くも正気を失いかけてまくし立てるメジロマックイーンに対し、痛烈なツッコミを入れるトウカイテイオー。そんな2人を横目にスペシャルウィークは苦笑を浮かべるしかない。

 

 

「あむっ……。けどこれ普通に美味いぜ?なあ、スカーレットも食ってみろよ」

「アンタねえ……。レースに勝つにはコンディションが大事なの。余計なカロリーは厳禁よ」

「はっ!そんなこと言ってるからオレに負け越すんだよ。今日はオレの圧勝だったしな」

「は?誰がアンタに負け越したですって?アタシが勝ち越してるに決まってるでしょ」

「はぁ!?」「何よ!?」

「まあまあ2人とも。というか、私が見てた限り6勝6敗で引き分けでしたよ」

「「ぐぬぬ……」」

 

 

つまみ食いするウオッカと呆れるダイワスカーレット。彼女たちはようやく本格的にトレーニングに合流し、今日も仲良く(?)喧嘩していた。チームをまとめるスペシャルウィークとしては、喧嘩はほどほどにして欲しいところである。

 

 

「それよりですけど、今回も有馬記念に出走する私たちへのトラップなんでしょうか」

「わかりませんわ。ですが、こんな簡単な罠に引っかかるほど私たちは甘くありませんのよ」

「なるほどー!お菓子だけに甘くn……うぎゃああッー!目がああああッー!」

 

 

ゴールドシップが後ろからメジロマックイーンを煽ると、煽られた彼女はティーカップに入った紅茶を何処かから取り出し、後ろも見ずにひっくり返す。そしてそれは見事ゴールドシップの目に直撃し、ゴールドシップは熱さやら痛さやらで転げ回ってしまった。

 

 

「何をやってるんですかゴールドシップさん……」

「ゴルシがこうなるのなんていつも通りでしょ。さ、早くご飯食べようよ、ボクもうお腹ペコペコ〜」

 

 

しかし、いつも通りだと放置されるゴールドシップなのであった。

 

 

「ちょ、お前ら酷くね!?お、お~い!あたしを放置していくなよ〜っ!」

 

 

若干涙目の彼女は、慌ててチームメイトを追って食堂へ入っていく。今年はスイーツ☆トラップに引っかかることは無さそうだ。

さて問題のみかんタルトだが、ここに並べられたのは今から1時間ほど前のことである。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「むふふ~。みかんが美味しいですねえ。やはり炬燵にみかん。至福の時ですよ」

 

 

時は戻って当日の朝、アグネスデジタルはチーム部屋に持ち込んだ炬燵でみかんの皮を剥いていた。トレーナーはキッチンで有馬記念用のケーキを作っているので、炬燵は独り占め。寝そべってゴロゴロタイムだ。

 

 

「……デジタルって今は授業中じゃないの?マヤノやフラワーは授業中で居ないじゃないか」

「テストで満点取れば8割ぐらい出席しておけば問題ないんですよ。ただフラワーさんは優等生さんなので皆勤賞ですし、マヤノさんは……まあ色々あって出席日数がギリギリなので、仕方なく出てるわけですね」

 

 

本来なら授業中なのに、授業に出ずに炬燵でぬくぬくしているデジタルを見て心配するトレーナーだが、デジタルはあっけらかんとして答えた。

 

 

「マヤノは何やってるんだ……」

 

 

他人事のように言うトレーナーに、お前のせいだよ!と思いつつもそれを口にせずデジタルは生暖かい目で見る。マヤノがトレーナーのことを本気で好いていることはチーム内では周知の事実だが、肝心のトレーナーがヘタレで朴念仁のため、マヤノが結婚できる年齢になり、彼女の方が我慢出来ずに手を出すまで進展はないだろうとデジタルは確信している。そしてマヤノとトレーナーがくっつくその時まで、のんびりと経過観察を楽しむつもりだ。

 

 

「ところでデジたんは来週朝日杯FSなんですよ」

「どうした急に。というか来週デジタルは朝日杯に出走なのか。……えっ!?来週出走!?」

「だいぶ前に出走予定とは言いましたけど、優先出走権で通ったのは言ってませんでしたか」

 

 

フラワーがエリザベス女王杯を制した少し前、デジタルはデイリー杯ジュニアステークスを勝利し、朝日杯への出走を確実なものとしていた。本来であれば優勝賞金の1割がトレーナーの口座に振り込まれるのですぐに気づけるはずだったのだが、トレーナーの浪費が激しいことを問題視しているフラワーによってキャッシュカードが没収されてしまっているため、それに気づけずにいたのだ。

そもそもの段階でレース出走にはトレーナーの許可が必要なのだが、これまたマヤノによって印鑑が持ち出されているため、そこでも知ることができずにいた。

 

 

「参ったな。出走用の勝負スイーツ作ってないし、作る時間もほとんど無いんだけど」

「同世代のウマ娘ちゃんは相手にならないから問題ないですよ。まあ、シニア級の先輩方とレースするとなると厳しいですけどね」

「……うちのメンバーの自信がどこから来ているのか全く理解できない。けど、実績見てしまうと反論できないのが困るんだよなあ。何かコツとかあるの?」

「ふっふっふ、それは秘密です。まあ勝負スイーツ云々はトレーナーさんにお任せしますので、あるもので作っていただければ」

「う~ん……」

 

 

トレーナーが頭を悩ませているのを眺めながら、デジタルはみかん美味しいですね~と炬燵で丸くなってしまった。そう、お菓子狂いのトレーナーを放置して寝てしまったのである。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「は〜しんどい〜。レース出るならトレーニングそこそこ真面目にやらないとだからトレーナーちゃんとの時間取りづらいし、かといってレース出ないなら授業受けないとだから面倒くさすぎるよ〜!」

 

 

お昼休み、マヤノとフラワーは教室で一緒に昼食を摂っていた。マヤノも自炊は出来るが、フラワーの方が圧倒的に上手に作るので、そのご相伴に預かる形だ。おかずを箸でつつきながら愚痴をこぼすマヤノに、フラワーは苦笑気味ではあるが。

 

 

「マヤノさんはブレませんね」

「ふっふっふ〜。当然だよ!マヤは大人な恋に生きてるんだもん!あっ、この卵焼き美味しい」

 

 

前後の会話が若干繋がっていないが、話しながらもマヤノが美味しそうにご飯を食べるのを見て、フラワーは嬉しく思っていた。

 

 

「……ところでいつも疑問に思ってたんですけど、授業中は先生に言われた問題にすぐ答えられるのに、どうしてテストの点は赤点ギリギリなんですか?」

 

 

フラワーは前々から思っていた疑問をマヤノに投げかける。マヤノがトレーナーのことを考えてぼーっとしていて、それを見咎めた教師から突然問題を投げられたときでも、彼女は即答かつ正解している。フラワーからしてみれば、そこまで勉強ができるのにテストの時だけダメになるとは考えられないからだ。

 

 

「だって途中式が無いのは減点減点だーって。答えは合ってるんだけど、減点パパのせいでいっつも半分ぐらいしか点貰えないんだもん。答えだけ書けばいい問題ばっかりなら、もっと点取れるんだけどね?」

「いつものマヤわかっちゃった!ですか」

「そゆこと〜。まあマヤたちウマ娘はテストの点なんかよりレースの結果が大事だからね〜。いざとなったらトレーナーちゃん攫って既成事実作って結婚しちゃえばいいし?学歴なんてただの飾りだよ!」

「発想が危険人物のソレです!?」

 

 

こうして駄弁っているうちにお昼休みは過ぎていってしまった。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「……あれ、寝ちゃってましたか。ふああ……。炬燵の魔力は無限大だから仕方ないですね、って何ですかこれはぁ!?」

 

 

お昼寝から目覚め、振り返ったデジタルの前には、山積みにされたみかんのタルトが。よく見ると、どれもこれも飴細工でコーティングされていて、無駄に手間が掛かっているのがわかってしまった。

 

 

「トレーナーさん!?デジたんが気持ちよくお昼寝してる間にまたやっちゃったんですか!?」

「またとは失礼な。そもそも何もやらかしてなんていな……あれ?このタルトの山は何だろう?」

「自分で作ったのでは!?」

 

 

すっとぼけるトレーナーに、流石のデジタルもただただ驚くばかりである。

 

 

「おかしいな。でも小麦とみかんと牛乳の在庫が知らない間に減ってるし……?もしかしてまた何かやっちゃった?」

「うそでしょ……」

 

 

トレーナーが本気でボケているのを理解できたデジタルは、この場をどう乗り切るかを考え始めるしかない。このままでは朝日杯出走のサプライズ告知及び監督責任放棄の件で、マヤノはともかくフラワーからお説教を受けること間違いなしだ。しかし寝起きだったためか良案は一切浮かんで来ず、その結論に達するまで無駄に時間を要してしまった。

 

 

「うーん考えたけど思いつきません!そして時間もない!こういう時こそ困った時の食堂ポイです。善は急げ、すぐに運び出して隠しましょう」

「何を隠すのかな、デジタルちゃん?」

「それはもちろんこの大量のタルt……ひょええええっ!?ま、マヤノさん!?……げえっ!フラワーさんまで!?」

「げえっ!って何ですか!?私、そんなリアクションされたの初めてですっ!」

 

 

ということで、デジタルが困った時の最終案を使おうとするも、時すでに時間切れ。マヤノとフラワーがチーム部屋に揃ってしまい、隠すことが出来ずにタルトの山を見られてしまった。当然、見られてしまえば誤魔化そうにもマヤノは事情をわかってしまうため、完全に詰みである。ニッコニコの笑顔のフラワーを見て、デジタルは己の迂闊さを嘆くしかなかった。

 

 

「トレーナーさん。デジタルさん」

「「はい」」

「正座してください♡」

「「はい……」」

 

 

そうしてフラワーのお説教は夕食の時間まで続く。その間の飛び火を恐れたマヤノは、タルトを食堂に置いたのだった。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「へっ!どうしたスカーレット!今日は本当にオレの圧勝だな!」

「どういうことなの……!このアタシが全敗だなんて……。こんなの絶対おかしいわ!アンタまさか、アタシに勝ちたいからって変な薬でもやってるんじゃないでしょうね!?」

「オレがドーピングなんてするわけねーだろ!これがオレの実力だってことだぜ!」

 

 

翌日、トレーニングでの並走でダイワスカーレットはウオッカに全敗していた。普段からこの2人は競い合ってはいるが成績は5分5分、差はそこまで出ていなかった。そのため、休憩中のメジロマックイーンやスペシャルウィークも頭を捻るばかりである。

 

 

「でもおかしいですわね。ここまで差が出ることなんて無かったですけど」

「そうですね。2人とも競って同じトレーニングをしてましたし、食事も同じものを頼んでました。違うとすると昨日のスイーツ☆トラップのつまみ食い……ん?」

「「それだあああっ!!」」

「ひえっ!?」

 

 

なんとなくスペシャルウィークが呟いたひとことで、ライバル2人は食堂へと駆け出した。スイーツ頼みだとしてもお互いに負けるのはやはり不快で、勝負にはこだわりたいらしい。

 

 

「あーあ。ボク知〜らないっと。トレーナーにはスペちゃんが煽ったって言うからね〜?」

「ええっ!?」

「地獄のダイエット……。うっ、頭が……」

 

 

その後、デブったウマ娘が2人いたそうだが、マヤノたちは知らぬ存ぜぬで通したのだった。

 

 



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疾走するウマ娘ちゃんスキー


???「あたしの扱い、あまりにもあんまりなのでは???」



『今年もやってまいりました、ジュニア級王者のウマ娘を決定する朝日杯フューチュリティステークス。ここ阪神で、選ばれた16人のウマ娘が走ります。本日の天気は曇り、昨日の雨により、バ場は稍重との発表です』

『天気、持ってくれるといいですね』

『さて出走するウマ娘を紹介していきましょう』

 

 

勝負スイーツのみかんのタルトを食べたデジタルが初めてのG1、朝日杯FSに出走する。タルトの出来はギリギリだったけど、背に腹は代えられないのでそのまま渡した。さて、G1ということでデジタルも勝負服を着ることになったのだが、それはピンクのヒラヒラスカートだった……。君たちホント好きね、ヒラヒラスカート……。

 

 

『さあ今日の主役はこの子を置いて他に居ない。1番人気アグネスデジタル、1枠1番での出走です』

『十分に気合が入っているようです。好走が期待できますね』

『ええと……?アグネスデジタルは、年間無敗のグランドスラムを達成したマヤノトップガンや、去年のトリプルティアラ路線を賑わせたニシノフラワーと同じチームとのこと。しかし、未だに彼女たちのトレーナーがトレーニング中にトラックやプールに現れたことが無く、その詳細は謎に包まれている、とのことです』

『……本当に存在しているのでしょうか?』

『トレーナーが居なければレースには出走できませんよ』

『それもそうでした』

『『はっはっは!』』

『実況と解説笑ってんじゃねー!!!』

『真面目にやれー!!!』

 

 

実況解説がふざけているからか、ヤジが飛び始めた。というか謎トレって何さ。私未だに知らない子扱いされてるの?

 

 

「で、デジタルは1枠1番か。デイリー杯のときは先行だったらしいけど、今回もそうするなら良い枠順引けたのかな?」

「え〜?最内だと前を先行する逃げの子が邪魔で抜け出し辛いよ?」

「確かに最内だとブロックが心配ですね」

「なんだって……!?」

 

 

早速無知を晒してる気がする。でもマヤノは臨機応変……気分で走るし、フラワーも最初は先行だったのに、マヤノに影響されてか逃げから差しまでの位置で走るしでもう何が何だか。作戦とは一体……?

 

 

「マヤの予想では今回のデジタルちゃんは大逃げ!実力的に頭3つぐらい抜けてるし、競り合わずに最後まで走り切れるペースで〜みたいな」

「う〜ん……G1なので他の方の勝負服を観れる機会ですし、追い込みでじっくりのんびり観察する可能性もあるんじゃないでしょうか」

「それもあるけど、1着賞金でグッズ買えば万事解決!お金の力は偉大ですぞ~!!!とか思ってそうじゃない?今までは掛ける側だったけど、今回は走るほうだもん」

「あ〜。なるほど、確かにそうですね」

『流石のデジたんでも、そんなこと思ってませんぞ~!』

「うわ、聞こえてる……」

 

 

2人の中ではデジタルがまともに走らないのは、もう決定事項か。普段個人個人に任せきりだけど、一体どんなトレーニングしてるのか、聞きたいような聞きたくないような……。

そもそもスピカ落としのマヤノの秋の天皇賞でとんでもない倍率の3連単獲ってたし、余ってそうだけど。

 

 

「ま、マヤたちがレースに勝ったとしても、賞金は担当トレーナーの許可が降りないと、トレセン学園卒業まで自由に下ろせないんだけどね。デジタルちゃん、きっと忘れてるけどさ」

「あはは……」

 

 

フラワーがさっきからこっちをチラチラ見ては苦笑してるけど、どうしたんだ?まさかご飯粒でもついて……ないな。

 

 

「(……あれ?私もフラワーに(へそくりがあるとはいえ)キャッシュカード握られてるし、もしかしなくともデジタルと同じ立場なのでは……?というか許可出してないのにマヤノやフラワーがチーム部屋の備品揃えたり、お菓子の材料の在庫管理してるのは一体……?)」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

『各ウマ娘ゲートインが完了……スタートしました!先行争いはアグネスデジタル、2番、8番。ああっと1番人気アグネスデジタル、ペースが速い!後続をどんどん突き放していく!』

『最後までスタミナが保つか心配ですが、これは作戦通りなのでしょうか!?』

 

 

レースが始まると、デジタルちゃんはハナを取って後続を突き放していった。最初の400mで2位の子と10バ身以上の差をつけての大逃亡劇だね。

 

 

「流石ですねマヤノさん。大正解ですっ」

「ありがと~。まあ当たっても何も出ないけどね~」

 

 

実況解説には破滅逃げだの垂れウマ確定だの好き放題言われてるけど、デジタルちゃんアレでも手抜きしてるよ。

 

 

「マヤが見た感じだと、ブルボンさんのレコードよりギリギリ上になるよう走ってるね。パパラッチ対策かな」

「大量のパパラッチ……学園の校門前封鎖……お風呂も入れず車中泊……うっ、頭が……」

「やたら早口で喋るトゥインクルの記者以外はヤバいよなあ(名前忘れたけど)」

「乙名史記者だよトレーナーちゃん……」

 

 

唯一のまともな記者さんなんだから覚えようね!

 

 

『さあ後続を引き離してアグネスデジタルが最終コーナーを回った!最終直線、最初に駆け抜けてきたのはアグネスデジタル!余裕の走りだ!後ろをグングン突き放して、これはセーフティリード!!!7番12番が懸命に追い上げるが全く届かない!残り200を切って先頭はアグネスデジタル!変わらない!!!』

『アグネスデジタル、今1着でゴールイン!圧倒的な実力差を見せつけ、レースを制した!』

 

 

はいおつかれ~。ということで撤収しましょ。

 

 

「トレーナーちゃん。帰る準備するよ~」

「え?え?もう帰るの?デジタルは?」

「フラワーちゃんがトリプルティアラ獲ったときと違って、今のデジタルちゃんだと厄介な記者から逃げきれないよ。デジタルちゃんは犠牲になったのだ☆」

「噓でしょ……?」

「嘘じゃないですよトレーナーさん。私、もうお風呂入れないのは嫌ですっ」

 

 

困惑するトレーナーちゃん。でも車中泊が本当に嫌だったのか、フラワーちゃんがトレーナーちゃんにウルウル攻撃し始めてる。

 

 

「マヤもお風呂入りたいよ~。トレーナーちゃ~ん、おねが~い☆」

「うっ……」

 

 

ということで、せっかくだしマヤも追加でお願い攻撃してみた。そしたらトレーナーちゃんの良識が、『お前たちの可愛さに負けるなら悔いはないさ』って言いながら爆散していったので、今日はこれにて撤収決定。そういえば来週はマヤの有馬記念だけど、どうやって走ろっかな~?

 

 

 

 



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アオハル杯編
チームスイーツ、ついに始動する


「で、どうしてデジたんは阪神レース場に置いてけぼりにされてしまったんでしょうか」

「「だってデジタルちゃん(さん)を待ってたらお風呂に入れないもん(ですし)」」

「しょ、しょんなっ…!」

 

 

デジタルの朝日杯の翌日、チーム部屋では置いてけぼりにされたデジタルがオーバーリアクションで崩れ落ちていた。実際にはそこまで悲しそうじゃないけど。というかそんなことばかりしてるからネタキャラ扱いされちゃうんじゃないかな……。

 

 

「話は変わりますけど、マヤノさんは今週末の有馬記念に出走するんですよね。あたしはホープフル出走するか悩んでますけども」

「うん、1番人気だったからね。春秋の天皇賞とジャパンカップ勝ったスぺちゃんに負けると思ってたけど、そうでもなかったみたい」

「有馬記念なら私も投票で4位に入っていたので出走は可能だったんですけど、同じチーム内で争う意味がないということで断っちゃいました。マヤノさん、私の分も頑張ってくださいっ」

「ふふ~ん。マヤにドーンと任せておきなさい!なんちゃって☆」

 

 

このあとめちゃくちゃ(マヤノが有馬記念を)疾走した。

 

 

 

──────────

 

 

 

 

「え、チームレース?何かなそれは」

「理事長の発案で、チーム対抗レースを開催するんだって。で、それをりこちゃんが監督。トレーニングの成果発表ってとこだね」

「うわあ。またあの人ですか……」

「あの人だね〜」

「「(りこちゃん……?))」」

 

 

デジタルのホープフルS、マヤノの有馬記念が終わり、年末の大掃除をやらなければならない時期になった。ホープフルSでもデジタルがまたしても大逃げして着差2バ身で勝利、有馬記念はマヤノが向正面から最終コーナーの間で大外からごぼう抜きだったんだが、レース中に

 

 

『ノンストップで大人なマヤの登場だよ!』

 

 

とか向こう正面で追走カメラに向かって言っていた。そんなこと言ってるから子どもに見られるんだよ、とは言わないでおいたが、実況と解説もあんな調子で大丈夫か?と言って困惑してた。トレーナーちゃんもそう思います。

そんなマヤノがチーム対抗レースの話をどこかから聞きつけてきた。

 

 

「ええと……チームって言いましても、マヤノさん、フラワーさんにあたし。うちには3人しかいないので単純に無理な話なのでは?3レースだけ出走して残りを棄権でも問題ないと言えばそうですけど、今の状態でシニア級相手に勝つのは正直厳しいんですよね」

「そうだよね……。でもりこちゃんがアオハル杯に出走しないチームはチーム部屋没収だって息巻いてるらしいからなあ。5人集めた方が無難かも」

「横暴すぎますよそれ。というかアオハル杯って大分前でしたよね。なんで今更なんです?」

「さぁ?」

「アオハル杯……?」

 

 

デジタルがアオハル杯とか言い出した。青春ってことかな。フラワーはわかってなさそうだけども。

 

 

「とりあえずフラワーちゃんが芝の短距離から2500mくらいまで、デジタルちゃんが芝ダート問わずマイルから中距離まででしょ?マヤは余った場所で良いけど」

「問題が山積みでどこから対処すれば良いか困りものですな」

「アオハル杯なんて久しぶりに聞いたし、そこまで準備してなかったもんね」

「うむむ〜」

「あの……。話の腰を折って申し訳ないんですけど、マヤノさん、デジタルさん。その……アオハル杯?っていうのは何でしょうか?」

 

 

事情をわかっているらしい2人が思考の海に潜る直前でフラワーがアオハル杯とやらについて聞いてくれた。話しかけるタイミングに困ってたから助かった。

 

 

「ああ、そっか。トレーナーちゃんとフラワーちゃんは知らないんだったね。えっと、りこちゃんが開催する5レースをまとめてアオハル杯って言うんだよ」

「流石に端折りすぎですよマヤノさん。アオハル杯はですね……」

 

 

デジタル曰く、レースは芝の短距離、マイル、中距離、長距離、ダートのマイルの5レース。各チームからそれぞれのレースに最大3人が出走でき、先に3勝したチームが勝ちだそうだ。9人立てでのレースなので、足りない人数はチームに所属していないウマ娘から立候補、居ない場合は抽選で選ばれるそうな。ちなみにりこちゃんとは理事長代理のことだそうで。……えっ?誰?

 

 

「ということなのだ☆」

「マヤノさんすっごくドヤ顔してますけど……説明したのデジたんなんですけど!?」

「まあまあ。でもその感じですと、私たちなら距離は臨機応変に対応出来そうなので、頭数だけ揃えば大丈夫そうですね。トレーナーさん、伝手はあるんでしょうか?」

「私は」

「トレーナーちゃんに伝手があるわけないじゃん。あるならもっとスカウトしてるでしょ」

「………」

「と、唐突な火の玉ストレート……」

「あまりにもあんまりですけど、言われてみればトレーナーさんですしね……」

 

 

マヤノたちにいぢめられたから不貞寝しよ。おやすみ。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「第1回!チーム『アンタレス』臨時メンバースカウト大会の開催だよ☆」

 

 

りこちゃんをなんとかしないとチーム部屋取り上げられちゃうから対策をしなきゃ!ということでフラワーちゃんとデジタルちゃんに、それぞれ臨時で呼べそうな子に声を掛けてもらったの。今日はその結果発表!

 

 

「あれ?そういえばこのチームって名前あったんですね。私ここに来てもう3年目ですけど、全然知らなかったです」

「チーム部屋を借りるのに必要でしたので、あたしの方でその時に申請しておきました」

「なるほど、そうだったんですね。アンタレスですと……蠍座ですか。なんでそれを選んだんでしょうか?」

「そういえばマヤも知らないや。なんでなの?」

 

 

この部屋に備品を持ち込んでるのはほとんどマヤだけど、借りてるのはデジタルちゃんだったね。

 

 

「それはもちろん決まってます。マヤノさんがプレッシャーを掛けて、じっくりねっとり他のウマ娘ちゃんのスタミナを削る。それでバテてゴールすら危うい状況になるウマ娘ちゃんたちが毒にやられたように見えるからですぞ!」

「え〜っ!?」

 

 

確かにマヤは勝つためにはそこそこ何でもしてきたけど、毒なんて持ってないし盛ってないのに!

 

 

「まあチームの名前の由来は置いておくとして、あたしの方で呼べそうなウマ娘ちゃんに声をかけたのですが……あたしの知り合いはリギルの所属ばかりで、断られちゃいました。唯一フリーなタキオンさんは足を壊して引退しちゃってますし」

「私の方もダメでした。ブルボンさんは菊花賞での無理がたたったのか太ももの張りで療養中、バクシンオーさんは委員長として全レースで人数不足を解消させる予定です!すみません!!!とおっしゃってましたので……」

 

 

マヤが積極的に隠しているのもあって、知名度が低いもんなあ。チーム部屋もスピカやリギルと離れてる別棟だし。マヤはず〜っとトレーナーちゃん一筋だから関係ないけどさ。

 

 

「あれ?そういえばセイウンスカイさんは?よく一緒にいるでしょ」

「えっと、スカイさんは屈腱炎が治ってないから太平洋で海釣りするのだ〜って言ったきり連絡取れてないんですよね……。心配ではあるんですけど、便りがないのは良い便りとも言いますし、大丈夫かとは思いますけど」

「ふ〜ん?」

 

 

おかしい。トレーナーちゃんのお菓子を差し入れしたから屈腱炎は完治してるはず。とするとサボりかな。アテに出来る戦力として期待してたから、ちょっと残念。

 

 

「マヤノさんはどうだったんです?」

「こっちも全然。マベちんもローレルさんも予定が合わないってさ」

「思ったより状況が厳しいですね……」

 

 

まさか全滅とは思わなかったよ。う~ん、どうしようかな~。

 

 

 

──────────

 

 

 

「すみませ~ん。レースに出るだけでウマスタ映えする素敵なお菓子が……。ってあれ?マヤちゃんにフラワーちゃんだ」

「えっ、カレンちゃん?突然どしたの?」

 

 

後日、チーム部屋でフラワーちゃんとショートケーキをつつきながらアオハル杯対策の相談をしてたら、カレンちゃんと、カレンちゃんの同室のアヤベさんが訪ねてきた。ちなみにデジタルちゃんは日課のウマ娘ちゃん観察とやらでいない。ホントはこういうときはいて欲しいけど、生きがいなら仕方ないもんね。

 

 

「実はお散歩してたアヤベさんが花壇の周りで臨時メンバー募集の貼り紙を見つけたらしくて、そこに載ってた地図を見て来たんだ〜。アオハル杯のメンバー集めで困ってます〜って感じの。その様子だとまだ締め切ってなさそうだね」

「うん?うん、まだだよ。というか花壇ってことはフラワーちゃんが貼ったの?」

「はい。メンバー集めうまく行かなかったですし、少しでも可能性があればなって。でも目立ちすぎても困るので、普段人が行かない場所にしたんです」

「なるほど~」

 

 

お花の世話してるエアグルーヴさんとフラワーちゃんしか普段通らないもんなあ、あの辺。

 

 

「でもアヤベさんがこういうイベントに参加するって珍しいね。いつもストイックにトレーニングしてるイメージあるけど」

「ああ、それはね……」

「写真に載ってたマカロン……ふわふわ……。すごく欲しい……」

「……とまあ、地図の隣に載せてあったマカロンのふわふわ具合にアヤベさんがメロメロでさ?トレーニングしてても上の空で危なっかしいから、事情を聞いてここにたどり着いたってわけなんだ」

 

 

アヤベさんがふわふわマニアなのは聞いてたけど、フラワーちゃんもすごい釣り方で募集成功させたね……。

 

 

「……でもあれ?カレンちゃんってチーム沼添所属じゃなかった?スイープちゃんとか龍王さんとか、あとはマスクしてる子と一緒の」

「あいつらなら無駄に騒ぎ立てやがったから、縄で縛って転がして……じゃなかった。えへへ♪ちゃ〜んとお話して、説得しておいたから大丈夫だよ♪」

「「((今縄で縛るとか転がすとか言ってなかった?))」」

 

 

一瞬闇カレンちゃんが見えたような気がしたけど、考えようとすると頭が真っ白になりそうだったのでやめておこっと。うん、きっと気のせいだし。

 

 

「じゃあ走るレースだけど、カレンちゃんやアヤベさんは何か希望はある?」

「カレンは短距離がいいな~。短距離なら自信あるし」

「私はどこでも構わない……。ダートはあまり自信ないけど」

「なら中距離で大丈夫ですか?カレンさんが短距離、私がマイル、アヤベさんが中距離、マヤノさんが長距離、デジタルさんにはダートを走ってもらえば枠を埋められますので」

「おっけーでーす」「わかった」

 

 

はい決まり!そんなわけで、臨時メンバーとしてカレンちゃんとアヤベさんが加わり、アオハル杯を待つことになったのだ。

 




やめて!トレーナーちゃんの特殊能力で、お菓子を作って絶好調バフを掛けられたら、全レース大差で勝負が付いちゃう!

お願い、負けないでりこちゃん!

あなたが今ここで諦めたら、ビターグラッセやリトルココンとのアオハル杯はどうなっちゃうの?

レースはまだ残ってる。ここを耐えれば、トレーナーちゃんに勝てるんだから!


次回、「りこちゃん絶望す」。レーススタンバイ!


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無慈悲される赤青


Q.なんでこんなに長くなってしまったんですか?
A.カレンチャンとアヤベさんが走るのでヨシ!



「それじゃあみんな!アオハル杯、頑張ってこ~~!」

「お~!」「はい!」「やってやりますぞ~!」「おっけ~♪」「……任せて」

「バラッバラじゃん……」

 

 

大晦日の前日。大掃除で多忙を極める時期に開催されることになったアオハル杯。うちのチームの名前アンタレスって言うそうだけど(初耳だった)、うちと勝負することになったのはファーストって名前のチームらしい(知らない)。

 

 

「まさかりこちゃんのチームと当たるとはね~」

「あの赤いのと青いのにはとことん苦労させられましたし、デジたんも真の力を解放して勝利をもぎ取ってみせますぞ〜っ!」

 

 

マヤノとデジタルは相手のことをよく知ってるっぽいな。変なオーラ出てるし、目に青い炎が灯ってる。やる気十分って感じだ。

 

 

「真の力って、何……?」

「ああ、デジタルさんはそういう方なので、あまり気にしないほうが良いかもしれないです」

「……なるほど」

「ちょっとフラワーさん!?デジたんの印象操作はやめていただきたいんですけど!?」

「だいたいあってるから反論の余地は無いよデジタルちゃん」

「まあそうだよね。カレンと会った時もだいたいこんな感じだし」

「孤軍奮闘!?」

 

 

が、全員から真の力とやらについてツッコまれて始まる前から崩れ落ちてる。え、この調子で大丈夫?

 

 

「ところでカレン、ファーストって名前のチーム聞いたことないんだけどさ~?マヤちゃんやデジタルさんは知ってるっぽいよね。どんなチーム?」

「「インチキにインチキを重ねた赤いのと青いのが率いるクソチーム」」

「うわ……。寸分違わぬ評価。というかすごい酷評だね?」

「いやぁ、あのチームはどう言い繕ってもクソの一言に尽きますので!」

「うんうん」

「えぇ……?」

 

 

デジタルはいつもこんな感じだけど、マヤノにここまで言わせるなんてどれだけ酷いチームなんだろう?

 

 

「でもだいじょ~ぶ!今回はトレーナーちゃんがついてるもの!というわけでトレーナーちゃん!例のモノを!」

「えっ!?例のモノ!?」

「そそ、例のモノだよ、トレーナーちゃん」

「あ~……。わかった、勝負スイーツの話だね?」

 

 

例のモノって突然言われてもわからないよ。ということで今回の勝負スイーツはこれ、冬林檎のアップルパイだ。秋に収穫した林檎を業務用冷蔵庫内で完熟させ、その林檎を贅沢に使った特製のパイだ。この前デジタルのためにと作ったみかんタルトと同様、飴細工を使って見た目にもこだわった。冷蔵庫から出してきたらみんなの目の色が変わったし、やっぱりウマ娘であっても普通の女の子なんだなあ。

 

 

「わぁ……すごい綺麗ですね~。マヤちゃんのトレーナーさん。これ、ウマスタに上げてもいいですか?」

「え?別にい『これはダメ』……だそうです」

「えぇ~?マヤちゃんのけち~」

 

 

何でダメなんだろう。やっぱり細工が地味すぎるとか?もっと豪華にするべきだったのかな。

 

 

「そんなことないよ?」

「心を読まないで?」

 

 

ところでさっきからアドマイヤベガの元気がないようだけどどうしたんだろう。

 

 

「どうしたのアドマイヤベガ。林檎は好きじゃなかった?」

「違う、林檎は好きな方。ただ、これが思ってたよりふわふわじゃなかったから……」

 

 

元気が無かったのはアップルパイがふわふわじゃなかったかららしい。まあパイ生地はふかふかだけど、ふわふわじゃないもんなあ。

 

 

「すまないね。実は、アドマイヤベガにはレースに集中してもらいたいってカレンチャンから頼まれててね。レース後に件のマカロンを用意してあるから、そちらのふわふわ度は期待していいよ」

「そう、わかった。なら絶対に1着を取ってふわふわマカロンをゲットする」

「いっぱいあるし、勝敗にはこだわってないんだけど……」

「問題ない、勝ってくる。そしてふわふわは誰にも渡さない。全てのふわふわは全部私のもの」

「いや誰も取らないけど!?」

 

 

こうしてアップルパイをほぼ5等分にして完食した彼女たちは、パドックへと向かっていった。

このあとは、普段はレースに出走しない子と一緒に関係者区域で観戦するんだけど、今日は控え室から出るなってマヤノにしつこくお願いされたし、レース観戦はテレビでやるかね~。

 

 

 

──────────

 

 

 

『さあ始まりましたアオハル杯!東京レース場で競い合うのはチームファーストVSチームアンタレス!』

『チームファーストはアオハル杯を企画した理事長の、その代理の樫本理子さんが結成したチームだそうです。対するチームアンタレスは……マヤノトップガン率いるウマ娘たちだそうです』

『トレーナー、いるんでしょうか?』

『本日行われるアオハル杯は短距離、ダート、マイル、長距離、中距離の順で出走します。この出走順は、URA本部の方でくじを引いて決まったそうで、全レース場共通です。この件について運営は一切関与しておりませんので、あしからず。では、出走するメンバーを紹介します』

 

 

「よ~し!まずはカレンの出番だね♪1着取ってウマスタにあげちゃお~っと」

「頑張ってくださいね、カレンさんっ」

「カレンさんなら大丈夫。レースを楽しんできて」

「撮影ならお任せを!」

 

 

最初は短距離だからカレンちゃんだね。マヤの出番は4番目か~。でもそこまでに勝負付いちゃいそう。っと、マヤもカレンちゃんのこと応援しなきゃ。

 

 

「カレンちゃん、がんばt『カ・レ・ン・ちゃあああん!!!わあああああ!!!(ドカーン!!!)』ゑ?」

「ななななんですか!?爆発しましたけど!?」

 

 

び、びっくりした~。誰なの、レース場でふざけてるのは?フラワーちゃんなんてびっくりしすぎて耳が寝ちゃってるし。音がしたほうを振り返ると、カレンちゃんがプリントされた巨大応援団旗を振っている子が。しかもハチマキしてる……。なんか火薬のにおいがするし、花火でも使って演出したっぽいね。

 

 

「あれってもしかしなくとも……ですよね」

「ええ、いつもの子たちね。カレンさんのトレーニングでよく見るわ」

「後ろでスイープちゃんが頭抱えてるから間違いないね。チーム沼添だよ……」

 

 

色々と察するマヤたちであった。

 

 

『どうやらチームアンタレスのカレンチャンには強力な応援団が存在しているようですね』

『あれはもしかしなくとも短距離王のロードカナロアですか。どうやらカレンチャンの応援に……ってカレンチャンは彼女と同じ、チーム沼添所属だったのでは?……ああっと!ロードカナロアが滝のような涙を流しております!』

『いったい何があったのでしょうか?気になりますね』

『さて、そうこうしているうちに全ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!好スタートを切ったのはカレンチャン!鬼気迫る表情で後続をどんどん突き放していくぞ!』

 

 

おお~。カレンチャンのスタートダッシュ速いねえ。……でも速いけど、ちょっと速すぎない?

 

 

「今日のカレンさん、変」

「変……ですか?」

「デジたんには普通に見えますけど」

「いいえ、変よ。普段あんなに飛ばさない。スタート直後は周りの子に合わせて動いて、好位で抜け出す。今日は明らかにオーバーペース」

「「(マヤノさんの大逃げばかり見てるからこれが普通に見えるなんて言えない……))」」

「……なんでこっちを見るの?」

 

 

『最終コーナーを回って最初に立ち上がったのはカレンチャン!これは決まったか!後ろは大きく離れたぞ!残り200!先頭はカレンチャン!これは強い!リードを開いていき、カレンチャン!今1着でゴールイン!圧倒的な『うおおおおおお!!!カ・レ・ン・ちゃあああん!!!』……声援ですね、はい』

『実況さん途中で諦めないでください。そして勝ったカレンチャンがロードカナロアの顔を片手でつかんで……どこかに消えていきました』

 

 

うわあ。カナロアさんがうるさすぎて実況が押し切られてるじゃん。ってカレンちゃんどこいくの……?

 

 

 

─────────

 

 

 

その後のアオハル杯だけど、ダートはデジタルちゃん、マイルはフラワーちゃんが順当に勝った。それで3連勝、マヤたちのチームとしての勝ちは決定。そしてここからは死体蹴りレース。本来やる意味は無いけど、最後までやるようにしちゃったやよいちゃんを恨んでね?

 

 

『チームアンタレス、怒涛の3連勝で東京レース場開催のアオハル杯の勝利チームが確定したわけですが、アオハル杯は5つのレースを1つとして開催しているので、残りの長距離、中距離は問題なく開催します。ファンの皆様は最後までレースを楽しんでくださいね!』

『さて長距離に出走するウマ娘ですが、ファーストはリトルココン、アンタレスはマヤノトップガンです。マヤノトップガンと言えば、今年は宝塚記念と有馬記念のグランプリレースしか走っておりませんが、既に今年の年度代表ウマ娘に選出されていますね。無敗のトリプルティアラウマ娘、ニシノフラワーも惜しかったですが、2大グランプリを圧勝したマヤノトップガンに軍配が上がったようです。それでは出走するウマ娘を……』

 

 

「チームとしては負けたけど、ファーストとしての意地でアンタに勝つ。覚悟しておいて」

 

 

ゲートに入る前、青いのがマヤに向かって宣戦布告してきた。ほほう?せっかくなので煽り返しておこうかな。

 

 

「弱い犬ほどよく吼える~って、マヤ聞いたことあるんだけど~。リトルココンさんは何か知ってる?」

「っ……!」

 

 

あーあ、顔を真っ赤にしちゃって。他の子を煽っていいのは煽られる覚悟のある子だけなんだよ?

 

 

『全ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!先行争いは3番、サクラバクシンオー……』

 

 

スタートして最初の第3コーナー、青いのは中団を走ってる。そしてマヤはそのすぐ後ろ。だって、ここからなら煽り放題だもん。

 

 

「どうしたのリトルココンさん?早く抜け出しておかないとマヤがちぎっちゃうよ?」

「……」

「あれれ~?おかしいな~?わざわざマヤに勝利宣言しに来たのに勝ち方に拘れないんだね~?」

「……くっ!」

「あ~あ~。りこちゃんもかわいそ~。こんなののせいで全敗の烙印を押されちゃうなんてさ~」

「~~~っ!!!アタシはっ!!!勝あああああああつ!!!」

 

 

青いのを全力煽ったら流石に乗ってきた。ふふっ。そう来なくっちゃね!

 

 

『おおっと、ここで中団にいたリトルココンとマヤノトップガンが競うように上がっていく!レースはまだ始まったばかりだが、本当に大丈夫か!?』

『マヤノトップガンの方は菊花賞や春の天皇賞の勝利で豊富なスタミナを持っているのはわかっていますが、リトルココンはどうでしょうか』

 

 

青いのを煽りながらどんどん後続を突き放してみた。普通にオーバーペースだよね。3番手の子とは10バ身くらい差が開いてるのかな?マヤはまだまだ余裕だけど、青いのは息が上がりかけてるみたい。

 

 

「あれれ~?息が上がってるけど大丈夫~?」

「はぁっ、はぁっ……うるさいっ!」

「きゃ~☆こわ~い☆」

「アンタすっごく腹立つ!」

 

 

そのまま競り合って2週目の向こう正面へ。でもマヤに付き合ったせいで青いのはヘロヘロ。大人なマヤは余裕だけどね。

 

 

「ごめんね~?マヤ、トレーナーちゃんのこと大好きだから~。レースでは手加減してあげられないの」

「……は?」

「そろそろ本気出すからさ。遊びはおしまいっ。またレースしようねっ☆」

「……~~~~~っ!!!!!」

 

 

疲労困憊の青いのを放置して、本当のスパートをかける。

 

 

『2週目の向こう正面、マヤノトップガンがぐんぐんと伸びていくぞ!だが2番手のリトルココン追いすがれない!後続のウマ娘が釣られているのか続々とスパートをかけているが、マヤノトップガンは遥か前方その差は20バ身!リトルココンは力尽きているのかスパートできない!これは厳しいか!次々と後続に追い抜かれていく!』

『マヤノトップガンのオーバーペースに乗せられて、スタミナ配分を間違えてしまったようですね』

『その間にマヤノトップガンはどんどん差を開いていく!最終コーナーを曲がって、最初に駆け抜けてきたのはマヤノトップガン!高低差200mの坂も何のその!脚色は衰えない!まだ後方のウマ娘は第3コーナーを回っている途中!マヤノトップガン、今1着でゴールイン!圧倒的な実力差で、アオハル杯長距離を制しました!チームアンタレスはこれで4連勝!強い、強すぎるぞ!』

『このまま全勝してしまうのでしょうか。第5レースの中距離も楽しみですね』

 

 

青いのを無事成敗!真剣レース故致し方なし……ってね☆

 

 

 

─────────

 

 

 

『泣いても笑ってもこれが東京レース場最後のアオハル杯!最終レースは東京芝2400m。9人のウマ娘が走ります。チームファーストからはビターグラッセ他2名、チームアンタレスからはアドマイヤベガが出走です!アドマイヤベガはまだデビュー前との情報が入っております。今後の活躍が楽しみですね!』

『しかし、結局チームアンタレスは全てのレースで3人揃えられなかったようですね。やはりトレーナーは存在していないのでしょうか。或いはトレーナーに魅力がな……ピィッ!?(バタリ』

『どうしました解説の……なっ!?解説さんの意識がない、です!?』

 

 

トレーナーちゃんの悪口を言った解説を睨みつけたら気絶しちゃった。

 

 

「マヤノさん、流石にソレはやりすぎなのでは……?」

「つ~ん。なんのことかわからないな~?」

「ここからピンポイントで殺気を飛ばしたんですか、我々の業界ではご褒美ですけど」

「カレンも可愛さで似たようなことできるけど、ここまでピンポイントは流石に無理かな~?」

 

 

そして解説が担架で運び出されていった。もう出てこなくていいよ!

 

 

「(マヤノさんの機嫌が急降下してるんですけど、フラワーさん何かいい案ないですかね)」

「(トレーナーさんの頭なでなでぐらいしか……今ここにいないですけども)」

「(ダメじゃないですか)」

 

 

聞こえてるよ2人とも。まあいいや。今はレースに集中しないとだね。

 

 

『解説が気絶して退場してしまいましたが、ここから全て私が実況すれば、お釣りがくるので続行します!ということで出走するウマ娘たちの紹介です。まずは3番人気、8枠9番アドマイヤベガ。短距離レースで勝利したカレンチャンと一緒に普段トレーニングしているらしい彼女ですが、まだ本格化に至っておらず、メイクデビュー前での出走です。公式戦での出走経験がありませんので、その実力は未知数と言えるでしょう』

 

 

ほほー、アヤベさんは3番人気か。赤いのが1番人気ってほんと嫌な感じがする。ま、そんなことは起きないし起こさせないんだけども。

 

 

『全ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!先行争いは8番、2番、サクラバクシンオー。1番人気ビターグラッセ、ここにいた。その後ろ1番、7番並んできた。そのさらに後ろ6番、並んで5番。最後尾、ポツンと1人アドマイヤベガ!』

 

 

アヤベさんは順当に追い込みなのね。というかバクシンオーさん本当にレースの枠埋めに出走してるし。あれ?口元から緑の液が……?まさか……、うっ頭が……。

 

 

『向正面、先頭はサクラバクシンオー。団子状態でスタート直後と順位の変動がない!そのまま第3コーナーへ向かう!ビターグラッセ、ここで伸びてくる!前3人をあっという間に追い抜いて先頭に立った!』

 

 

あー。バクシンオーさんはここまでか。でもだいぶ粘ったね。スタミナ不足でもっと早く沈むと思ってたけど。思い返すとマヤの走ってた長距離でも実況さんに名前読まれてた気がする?

 

 

『最終コーナー、最初に駆け抜けて来たのはビターグラッセ!やはりシニア級のウマ娘は格が違うのか!そのリードは5バ身!なんとしても全敗は避けたいビターグラッセ、必死にゴールを目指している!』

 

 

最終直線、先頭はあの忌まわしき赤いの。アヤベさんはまだコーナーを曲がり終えて……。

 

 

「わぁっ。流星群ですっ!アヤベさんの領域は綺麗ですね……」

「むひょおおおお!シャッターチャンスですぞ~!(パシャパシャ!)」

 

 

無数の流星が彼の地より降り注ぐ領域で、その中の1つになったアヤベさんが周囲の流星の光を全て束ねていく。

 

 

「うーん……」

「どしたのカレンちゃん?」

「なんかいつもより流星が多いような気がする」

「ああ~、そう言われてみれば前見たときよりだいぶ多いね」

「(前見たとき……?この前のトレーニングで発現したばかりだからマヤちゃん初見のはずだけど)」

 

 

『ここで来るか!アドマイヤベガ!最終直線に入った瞬間猛加速!だが先頭のビターグラッセとはまだ7バ身の差があるぞ!残り400!ビターグラッセ懸命に逃げる!だが大外からアドマイヤベガ!大外からアドマイヤベガが飛んできた!!残り200!!!ビターグラッセ、苦しいけど粘っている!アドマイヤベガ、驚異的な末脚!泣いても笑ってもゴールまでもう100mしかない!アドマイヤベガ差し切るか!!!アドマイヤベガとビターグラッセ、2人並んでゴールイン!!!!』

 

 

 

─────────

 

 

 

「むふふ……ふわふわ……しあわせ……」

「あ、アヤベさんが溶けちゃったっ……!?」

「ダメだこのウマ娘、早く何とかしないと」

 

 

30分もの写真判定の結果、ハナ差でビターグラッセを差し切ってアドマイヤベガの勝利。したがってチームアンタレスは全勝という成績でアオハル杯を終えた。勝敗には関係ないと約束はしていたが、せっかく勝ってくれたのだしと、一晩掛けて作り直した特製スイーツをアドマイヤベガに渡したのだが、受け取ったアドマイヤベガは表情が崩れてしまい、もう何と言ったらいいかわからないレベルで蕩けてしまった。

 

 

「まあデビュー前の子がシニア級の子に勝ったんだもん。大金星だよ。特にあの赤いの、敗着が確定した時ターフで泣き崩れたまま起き上がれずにスタッフに担架で運ばれていったじゃない?マヤ、もう本当に面白すぎて、涙出てたもん!」

「いやあ、あれは最高でしたな!!!なにせデビュー前の子相手に大人げなく本気でレースした挙句、普通に敗着ですからなあ!!!ありゃ当分立ち直れないですぞ!!!」

「「あ~っはっはっは!!!」」

「ま、マヤノさんとデジタルさんに一体何が……」

 

 

この子たちがたまに壊れるのなんていつものこと、いつものこと。2人の背後に黒いものが見える気がするけど、目の錯覚だし気のせいに違いない。

 

 

「それにしてもトレーナーちゃん。何使ったらこんなにふわふわになったの?このマカロン、前に食べたときより5割増しぐらいでふわふわなんだけど」

「実はこれ、実際にはマカロンじゃなくてトゥンカロンって名前のお菓子でね。生地はパンケーキベースなんだ。クリームをふわふわにするのは慣れてるから、そこはいつも通りだけど」

「パンケーキでもマカロンでも関係ない……ふわふわは全てを解決する」

「カレンもどっちでもいいかな~。こっちのが見栄えがいいし~?……あっ!?ウマスタのいいねがもう400万超えちゃった!?」

 

 

へ~。いいね400万はすごいな。確かに見た目にはこだわったけど、そこまで伸びるモノなんだな。

 

 

「カレンちゃんのいいね数なんだから普通じゃない?」

「だって上げて3分経ってないんだよ!?どこに売ってるのかとか色々コメント来てるし」

「そうなんだ。でも、作ったのがトレーナーちゃんだって言ったらその時は……わかるよね?」

「だだだ大丈夫だよ。絶対に出どころは言わないから!?」

 

 

こうしてアオハル杯は終わった。後日聞いたところによると、アオハル杯は即日で廃止になったらしい。理事長代理が泣きついた。とか、実力差が激しすぎて思ったより盛り上がらなかった。とか噂は色々と耳にしたけど、真実はわからなかった。

なお、東京レース場の場外の公衆トイレでどこかの龍王が縄でぐるぐる巻きにされてたとかいう噂も流れてきたが、こちらも真実は闇の中である。

 

 

 

 

 

 





大差で勝負がつくといったな。アレは嘘だ。
フラワーとデジタル丸々カットしたのに8000文字近くまで膨れ上がったので、複数レースを1話に纏めてはいけないと思いました(小並感)

カレンちゃんは裏表の無い素敵なウマ娘です。


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クライマックス編
レースに出走しまくるマヤノトップガン



例によって例のごとくレース描写はおまけです。


「トレーナーちゃん!日経新春杯に出走するからいちご大福作って~」

「はいよ~」

 

 

新年明けまして、いきなりマヤノさんがレースに出走するとトレーナーさんに伝えてました。マヤノさんはメイクデビューを除くとG1にしか出走してなかったので、G2に出走するのは初めてなのではないでしょうか?ちなみにマヤノさんは1着でしたっ。

その半月後……

 

 

「トレーナーちゃん!アメリカJCCに出走するからダブルシュークリーム作って~」

「おっけ~」

 

 

今度もG2に出走するそうです。変わらずマヤノさんは1着でしたっ。

さらに半月後……

 

 

「トレーナーちゃん!川崎記念に出走するからチョコレートケーキ作って~」

「……レースに出てばっかりじゃない?マヤノがちゃんと考えてるのなら、今回も作るけどね……」

 

 

ダートなのでちょっと心配でしたけど、やっぱりマヤノさんは1着でしたっ。

そのまたさらに半月後……

 

 

「トレーナーちゃん!フェブラリーステークスに出走するからフルーツタルト作って~」

「ちょっと待って!?」

「え~?どしたのトレーナーちゃん。マヤ、これから出走届を出しに行かないとなんだけど~」

「え~?じゃないよ!?マヤノ、正月明けから2週間ごとにずっと連続で出走してるじゃない。有馬記念やアオハル杯含めたら6連続だし。ちょっと走りすぎじゃない?」

「そんなことないよ~?」

 

 

いえいえ流石に出走しすぎですっ。私もそろそろ高松宮記念に向けて追い込み調整する予定ですけど、4連続で出走してるのに身体は大丈夫なんでしょうか!?

……私が見る限り、何故か調子よさそうですけども。むしろ悪そうなのは心配しすぎてるトレーナーさんです。

 

 

「マヤノさん、まさかとは思いますけど、年末までほぼ連続で出走なさるおつもりで?」

「そうだよ?」

「マジですか~……」「うそでしょ……?」「本気なんですか!?」

 

 

そんなに連続で出走したら脚を壊しちゃいますっ!?

……私が見る限りですが、ものすご~く調子よさそうですけども!

 

 

「だいじょ~ぶ!だってマヤ、これでもちゃ~んと考えてるから☆」

「そうなの?」

「うんうん!だからトレーナーちゃん、おねが〜い」

「……そっか。なら、私も頑張ってお菓子作るぞ!」

「やった~!」

 

 

トレーナーさんがだだ甘ですっ。丸め込まれてますっ。でもどうしてマヤノさんは突然レースに出るようになったんでしょう?今までは何かと理由をつけて手を抜いてた気もしますけど。

 

 

「あ、そうだ。フラワーちゃんって安田記念とか、宝塚記念に出走する予定ある?」

「安田記念と宝塚記念ですか?安田記念は出走する予定ですけど、宝塚記念は投票次第ですね。可能なら出走したいですけど、どうなるかわかりませんので」

「ふむふむ。後でフラワーちゃんの今年の出走予定のレース、全部教えてね?予定だけでいいからさ〜?」

「え、ええ。構いませんが……」

 

 

マイルを中心に出走する予定ですけど、何に使うんでしょうか。

 

 

「……デジたんも出走予定出しておきますね」

「デジタルちゃんもありがと~。よろしくね~」

 

 

 

──────────

 

 

 

「よ~し。これでかんせ~い!」

 

 

マヤノの大阪杯とフラワーの高松宮記念、そしてデジタルの弥生賞が近づく2月下旬。今年はマヤノ以外の分の出走予定が既に手に入ってるから、勝負スイーツで何作るか問題で頭を悩ませることが少なさそうだ。リクエストがあれば助かるけど、フラワーを除いてトレーナーちゃん(さん)におまかせ!するからなあ。

話を戻すが、ここ最近マヤノが毎日紙とにらめっこしながら予定を考えていたが、どうやらそれが終わったらしい。

 

 

「マヤノさん、出走予定作り終わったんです?」

「そうだよ~。フラワーちゃんとデジタルちゃんの出走予定レースを避けて、残ったレースで賞金が高いやつ全部出るの!」

「ひええっ」

「うわ~……。本当に出走なさるんですかこれ」

「そうだよデジタルちゃん」

「やりすぎなのでは?」

「マヤも今年で17歳だもん。デートのことばかり考えてないで、今後のことを考えないといけない時期がきたんだよ」

「なるほど?(……あれ?でもマヤノさんの精神年r『デジタルちゃん?』……ハッ!?頭の中に、般若のマヤノさんが!?)」

 

 

フラワーとデジタルがマヤノの出走予定レース表を見て驚いたり呆れたりしている。途中でちょくちょく見せてもらった私からしても、何だこれって感じだ。でも、頑張りたいの!お願いっ!って上目遣いで頼まれたら断るのは無理だった。そもそもみんな好き勝手にレース出てるけど。

 

 

「まあ今後のことを考えたら稼げるうちに稼いでおきたいな~って思うようになったって話。この先全部勝てば年末の有馬記念で大体30億。今までもちょくちょく稼いでたし、トレーナーちゃんが無駄遣いし続けても余裕で養える額になりそうだよ~」

 

 

この子何言ってるんだ。私にだって蓄えがあるから担当の子たちに養ってもらうようなことにはならな……どうして3人してジト目でこっちを見るのかな?

 

 

「だってトレーナーちゃんの貯金残高、あんまり無いじゃない。やめるよう言っても試作品につぎ込んじゃったし。マヤ、トレーナーちゃんが一所懸命に作ってくれるならそれでよかったのにさ~?」

「……えっ、何言ってるんですかマヤノさん。トレーナーさんが無駄遣いしないように私がカード預かってるので、そんなことないと思いますけど?」

「キャッシュはね。マヤも最近知ったんだけどさ。トレーナーちゃん、マヤたちに黙ってクレカ作ってたみたいだし」

「ギクッ」「ええっ!?」

 

 

な、なぜバレた!?

 

 

「驚いてないところを見るに、デジタルちゃんは知ってたっぽいね?」

「……まあ、アオハル杯の時に徹夜で作り直した~って聞いたときに大体想像ついてました」

「なるほどそうですか。つまりそれより前から……。トレーナーさんっ。お話がありますっ」

 

 

ちょ、ちょっとフラワーさん?そんなにイイ笑顔でどうしてこっちに?ああっ!?マヤノとデジタルがドア開けて外にっ!待って!置いていかないで!?しかし祈りは天に届かなかった!そして私はそのままフラワーに追い詰められて壁際にっ!か、壁ドン!?もう下がれないっ!

 

 

「トレーナーさん♡」

「はい」

「正座してください♡」

「はい…て」

 

 

お説教は2時間だった。

 

 

 

──────────

 

 

 

『今年も春のG1の季節がやってまいりました。開幕戦は電撃6ハロン、高松宮記念!12人のウマ娘がレースを走ります。1番人気は昨年のトリプルティアラウマ娘ニシノフラワーです』

『昨年のスプリンターズステークスを制しているのもあって非常に人気が高いですね』

 

 

「ハ~ッハッハ!フラワーさん!スプリンターズステークスでは後れを取りましたが、今回こそバクシン的スプリントで1着になってみせますぞ!」

「ふふ……今回もよろしくお願いしますね」

「ま、負けませんっ」

 

 

いきなりバクシンオーさんの勢いに圧倒されてしまいましたが、レースでは負けられませんっ。今回の高松宮記念ではバクシンオーさんが1枠1番、ゼファーさんが2枠2番、……と2人とも内枠で、私が大外の8枠12番です。距離的に少し不利ですけど、精一杯頑張りますっ。

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!……おおっと1番人気ニシノフラワー出遅れたか!』

『これはきっと作戦でしょう。彼女の末脚には爆発力があります』

 

 

き、気合を入れすぎて空回りして出遅れちゃっただけですっ!あまり煽らないでもらえませんかっ!?とはいえ1200mしかないのでこのままですと致命的ですね。ちょっと厳しいですけど、マヤノさん直伝の大外からロングスパートですっ。

 

 

『第3コーナーを回って先頭は未だサクラバクシンオー、2バ身リード。その後ろヤマニンゼファー。おおっと、ニシノフラワーが大外からすごい脚で上がってきたぞ!このまま伸びてくるか!?』

『オークスを制しているだけあってスタミナには自信があるのでしょう』

『最終コーナーを回ってさあいよいよ直線だ!最初に駆け抜けて来たのはサクラバクシンオー!ヤマニンゼファーが上がってきた!さらにニシノフラワーが大外から差し切りにやってきている!』

 

 

「勝利に!向かって!!バクシンシーン!!!」

「もっと自由に、もっと高く、もっと遠く。━━そして、私は風になる……!」

「未来はきっと、この先にっ!ふふふっ。咲いてっ、開いてっ。広がる私のお花畑っ!」

 

 

私とバクシンオーさん、ゼファーさんがほぼ同時に領域を展開しました。条件は五分五分ですが、ここからが本番ですっ!

 

 

『ここで上位人気3人の領域が展開!意地と意地のぶつかり合いだ!サクラバクシンオー僅かにリード!ヤマニンゼファーが並んできた!残り200!ニシノフラワー、大外からすごい脚で上がってきた!さあさあ並んだ並んだ横一線!3人並んでゴールイン!ニシノフラワー、体勢有利か!?』

 

 

ゴール前ギリギリで差し切れたと思いましたが、僅かな差だったので写真判定でした。10分ぐらいかかってようやく結果が出たようで、実況の方が結果を発表するようです。

 

 

『……勝ったのはニシノフラワー!高松宮記念はニシノフラワーが制しました!2着は……なんとヤマニンゼファーとサクラバクシンオーで同着!同着です!』

 

 

ふぅ……無事に高松宮記念を勝てたようですね。スプリント路線のG1連勝ですっ。

 

 

「未だそよ風……次こそは烈風となりましょう」

「くううっ!またしても!やはりバクシン的長距離に備えるべきでしたかっ!」

「そ、それはどうなんでしょうか……」

 

 

喜んでいたら横で結果発表を待っていたゼファーさんからの圧がすごいです。バクシンオーさんは長距離に出るとおっしゃってますけど、間違ってる気しかしないです……。

 

 

「さあさあ!そうと決まればトレーニングです!バクシンバクシーン!」

 

 

そう言ってバクシンオーさんは駆けて行ってしまいました。……ってバクシンオーさんっ!ウイニングライブの踊りをやらないとダメですよーっ!?

 

 

 

─────────

 

 

 

『絶好のレース日和となりました阪神レース場、春3冠初戦、大阪杯!16人のウマ娘がレースに挑みます!1番人気はマヤノトップガン。今年に入ってから既にダートのG1を2つ含む5つの重賞で勝利しています。昨年の出走はグランプリのみでしたが、今年は彼女のレースを見ることが多くなっていますね』

『連続出走は体調を崩しがちになるので、あまり褒められたことではないです。ただ私が見る限りマヤノトップガンは絶好調に見えますね』

 

 

「久しぶり、マヤノトップガン」

「ん~?あ、リトルココンさん」

 

 

ゲート前で準備運動をしていたら青いのが赤いのを連れてやって来た。ほほ~?赤いのはアヤベさんにボコボコにされたけど、ちゃんと復帰できたんだね。

 

 

「アオハル杯では簡単に掛からされて酷い目に遭ったけど、今回はそうはいかない」

「私の大事な樫本トレーナーが寝込まされてしまった借りを返させてもらうよ。1着は私が獲る。そして褒めてもらうのだ!」

「いや勝つのはアタシだけど」

「えっ?」「えっ?」

「あーはいはい。末永くうまぴょいしててね」

 

 

後ろでなんか言ってるけど華麗にスルーしてゲート入り。今日は2枠3番だからどうやって走ろうかな~。

 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了……スタートしました!先行争いはマヤノトップガン、ビターグラッセ、リトルココン。マヤノトップガン、快調に飛ばしていきます。先頭がやや速いのか、縦長の展開です。リトルココンから大きく離れてトウカイテイオー、そのすぐ横メジロマックイーン、3バ身差でスペシャルウィーク……』

 

 

マックイーンちゃんやテイオーちゃんは先行の定位置で差し切り狙い。それじゃ間に合わないってなかなか学ばないね。赤青が徹底マークしてくるけど、マヤについて来れるかな〜?

 

 

『向正面、先頭は相変わらずマヤノトップガン。おおっと!マヤノトップガン、上がっていきます!』

『冷静さを取り戻せると良いのですが』

『楽に逃げさせるつもりはないビターグラッセとリトルココンも上がっていく!2番手集団との差はおよそ10バ身もあるぞ!』

 

 

「根性見せるぞ私!樫本トレーナーが待ってるんだ!」

「褒めてもらうのはアタシだ!」

「なんだとー!」「なんだよ!」

「……夫婦喧嘩は他所でやってくれないかなー」

 

 

チームメンバー同士でお互いに掛からせあってるの怖すぎでしょ。マヤ、な〜んにもしてないのに、勝手に息切らせ始めてるし。しかもこのままいくと2人が壁になるせいで後ろの子たちは大外を回らされるんでしょ?

 

 

『最終コーナーを回って、最初に駆け抜けて来たのはマヤノトップガン!マヤノトップガン、強い、強すぎる!完全に抜け出した!リードを開いていくマヤノトップガン!2番手争いはビターグラッセ!リトルココン!メジロマックイーンやトウカイテイオーもスパートを掛けているがビターグラッセとリトルココンが邪魔になって大外を回らされている!これは決まったか!後ろは大きく離れたぞ!マヤノトップガン今1着でゴールイン!圧倒的な実力を見せつけ、レースを制した!2着はビターグラッセ、3着に入ったのはリトルココン!」

 

 

マヤの勝ち!なんで負けたか、次のレースまでに考えといてね!きっと何かが見えてくるはず。それじゃあ、(賞金を)いただきま〜す☆

 

 

「くっそー、強すぎるぞー!」

「ど、どうして勝てない……っ!」

 

 

そりゃお互いに掛からせあってるからだよ。阪神レース場は下り坂多いからスタミナ配分しやすいのに、明らかにスパート遅れてるじゃない……。マヤとしては楽に勝たせてもらっちゃったけどね。

 

 

「……春の天皇賞もこうだと楽なんだけどなあ」

「次こそ私が勝つぞ!」

「いやだから勝つのはアタシだって」

「「はぁ!?」」

 

 

だめだこりゃ。2人してポカポカ叩きあってるけど、マヤ、知~らないっと。

 

 

 




よくよく調べたら高松宮記念の方が大阪杯より日程先だったんですよね。逆で書いてたのでどこかに矛盾がありそう。
ハーメルン読者さんでウマ娘アプリをやってる方はどれだけ残っているんだろう?タキオンイベントは思い切り無駄遣いしました。後悔はしてないですけどね。ラストエリクサー症候群で使い忘れないように気を付けましょ。


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復帰するサイボーグ


お前に負けるなら悔いはないさ……!



「今日も絶好のレース日和だよトレーナーちゃん!」

「そうだねぇ……」

「どしたのトレーナーちゃん?元気ないね?マヤのおっぱい揉む?」

「……揉むって言ったらどうするの?」

「揉んでもらった既成事実で結婚する!」

「の~うぇい!!!」

「えぇ~っ!?なんでぇ~っ!?」

「……何やってるんですかねこの2人は」

「いつもの病気じゃないですか?」

 

 

大阪杯が終わって1週間後の阪神ウマ娘ステークス。マヤノさん曰く、レース金策は基本中の基本だよフラワーちゃん!だそうです。一体何を言っているんでしょうか。

 

 

「でも、トレーナーさんは割と限界に見えちゃいますね。マヤノさんのことを心配しすぎて、夜もあまり眠れてないみたいですし。当の本人はいつも通りですけど」

「あたしとしましては、このままほっといてもこれはこれで面白いから良いんですが、レースに出走する度にこれですと、そのうちトレーナーさん倒れますね」

「やっぱりデジタルさんもそう思いますか?」

 

 

どうにかする方法は無いんでしょうか?

 

 

「まあそうはいってもマヤノさんの方も今年でトゥインクルシリーズは引退するそうですし、賞金を稼ぎたいのは理解できますが」

「えっ、マヤノさん引退しちゃうんですか?」

 

 

レースでも成績残してるのに……?

 

 

「何だかんだで、もう5年ですしな。フラワーさんはまだ3年目でしたか。マヤノさん、戦績が凄すぎて他のウマ娘ちゃんが重賞ウマ娘になれないから〜と、だいぶ前からURAの方からドリームトロフィーリーグ移籍の打診があったみたいですからな。そっちも賞金は出ますけど、半年に1回しかありませんので。稼ぐなら今しかないってわけです」

「それで片っ端からレースに出走してるんですか」

 

 

こう言ってはアレですけど、3冠ウマ娘が優先出走枠を取るわけでもないレースを何でもかんでも勝利するのは、悪質な荒らしに思われてしまいそうです。

 

 

「それじゃあマヤ、頑張って走ってくるからね。トレーナーちゃん、マヤの応援よろしく☆」

 

 

しかし当のマヤノさんは何も気にせず、トレーナーさんにギュッと抱きついてからパドックに向かっていきました。抱きつかれたトレーナーさんは、一気に元気を取り戻したように見えます。体調の乱高下が激しすぎますね……。

 

 

「トレーナーさん。ロリコンは病気なので、早く治した方が良いですぞ」

「いきなり酷くない!?」

 

 

あ、レースは最初からフルスパートをしたマヤノさんが大差で勝ちました。マヤノさんにはマイルは短すぎますからね。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「ミホノブルボンのお見舞い?」

 

 

お昼休みの時間帯に春の天皇賞用のイチゴミルクレープの試作をしていたら、ライスシャワーが1人で訪ねて来た。ハルウララと一緒じゃないのは珍しいかな?部屋に来て開口一番にお見舞いのお菓子を作ってください!って言うから何事かと思ったけど、どうやらミホノブルボンに何かあったらしい。

 

 

「そ、そうなんです。ブルボンさん、菊花賞のときに足を怪我してしまったらしくて、それがかなり酷かったらしくて、ずっと面会謝絶だったんです。でもでも、最近になってようやくそれが解けたので会いに行ったんですけど……。そしたらブルボンさんのトレーナーさんが、ブルボンさんはもうレースに出られないって言ったんです」

「へ~、そうだったの」

「だからライス、ブルボンさんに気分だけでも元気になって欲しくて、お見舞いを渡したいなって。けどその……今まで食べた中で1番美味しいお菓子は、マヤノさんのトレーナーさんが作るお菓子だ~って思って、それで……っ!」

 

 

いやライスさん近い、近いってば。こんなとこマヤノに見られたら怒られちゃうから、ちょっと離れてねごめんね。

 

 

「なるほどなるほど。友達想いでいいと思うよ。ただ、私としても作ってあげたいんだけど、余ってる在庫がないんだよね」

「ざ、在庫ですか?マヤノさんやフラワーさんがいっぱいレース勝ってるし、トレーナーさんお給料たくさん貰ってるからいっぱい用意してあるんじゃ……。あれ?でもそう言われてみると、以前来た時には小麦粉の入った袋が山積みでしたけど、今は無いですね……?」

「いや~、実はマヤノにクレカ、フラワーにキャッシュを没収されててさ~。お金持ってても自由に引き出せないんだよこれが」

「ふえ?た、担当の子にカード握られちゃってるんですか……?」

 

 

ライスシャワーにジト目で見られてしまった。そ、そんな目で見ないで!?悪気は無かったんだ!バレないと思ってたけど!でももし今度また勝手にカード作ったりしたら、バレた時フラワーからのお説教が何時間になるか……。うっ、頭が……。

 

 

「あの、その……。だ、大丈夫ですか?お顔が真っ青ですけど」

「いやいや気にしないでハハハ……」

 

 

目から青い炎を出しながら笑顔で叱ってくるフラワーなんて居なかったんだ。

 

 

「とりあえず、ライスシャワーもお小遣い制だろうから今すぐ材料買う資金は用意できないだろうし、まずはマヤノかフラワーを呼んでこないとダメっぽいかな。材料費は後で経費で落とすから問題ないと思うけど、今すぐってのはちょっと厳しいからさ。わざわざ来てくれたのにごめんね」

「いえ!ら、ライスがいきなり来ちゃったから……!でも、また来ますねっ!」

 

 

そういってライスシャワーは帰っていき、放課後マヤノとフラワーを連れて戻って来た。あれ?デジタル何処行った?え、ウマ娘ちゃん観察?あ、そう。いつものね……。と、とにかく2人に事情は説明済みらしく、勝負スイーツの材料に加えて追加で材料を発注をすることに。ヌマゾンスライムパワーで翌々日には材料が揃うから、準備をしておかなきゃだな。

 

 

「そういえばリクエストとかあったりするの?」

「リクエストですか……?」

「そうそう。ミホノブルボンの好物とか分かれば、より喜んでもらえるでしょ?」

 

 

贈り物は贈り先の好きなもので、出来れば食べれるモノがいい。残るものだと何かの理由で整理しなくちゃいけなくなった時に困るからね。

 

 

「えっと……。あ、そういえばブルボンさん、果物だとりんごが好きって言ってました」

「ほほう?りんごが好きなのか。……そうか、りんごか。でも時期が……うーん」

「りんごは微妙な時期だよね〜」

「そもそも春だと果物はあまり無いですもんね。ほとんどが秋から冬ですし」

「ふええ……」

 

 

まあ時期じゃなくても美味しければ良いわけだし、追加で注文しておくか。これとこれと……おっ、これも良いな。

 

 

「トレーナーさん?」

「ん?」

 

 

楽しくショッピングしてたらすぐ後ろに笑顔のフラワーが。

 

 

「買いすぎはダメ、ですよ?」

「は、はいっ」

「ふええ……!め、目から青い炎が出てます……!」

「……レースのときのライスさんも同類だからね」

 

 

危なかったけど、なんとか許されたらしい。まあバレなきゃ大丈夫だし、ちょっとだけなら……ひっ!?さ、寒気が!?

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「ブルボンさん!」

「ふむ?そんなに慌ててどうかしましたか、ライス」

「こ、これ!お見舞い、ですっ!」

 

 

後日、ライスはブルボンさんの病室を訪ねました。お見舞いはマヤノさんのトレーナーさんから作ってもらった特製タルトタタンです。美味しく作れたはずだから、きっと喜んでもらえるよ、とおっしゃってました。

 

 

「タルトタタン、ですか。これを私に?」

「うん。ブルボンさん、前来た時に元気なかったもん。だからライス、ブルボンさんに元気になって欲しいなって思って、お見舞いを持ってきたの」

「そうですか。……ふふっ。ありがとう、ライス。早速頂いても?」

「う、うん」

 

 

そしてブルボンさんはライスが持ってきたタルトタタンを食べてくれました。きっと元気になってね……!

 

 

「っ……!?」

「ぶ、ブルボンさん?」

 

 

するとブルボンさんは目を見開いて、寝ていた耳をピーンって立てちゃいました。ど、どうしちゃったの!?

 

 

「……ライス」

「うん?どうしたのブルボンさん」

「春の天皇賞で会いましょう」

「……ふえっ?」

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

『春の3冠路線第2弾!最長距離G1、天皇賞春!18人のウマ娘が挑みます!』

『天気も良く、最高のレース日和と言えるでしょうね』

『今回はG1優勝経験のあるウマ娘18人ということで、大混戦が予想されますね!またメジロマックイーン、トウカイテイオー、スペシャルウィークの3人はこの春の天皇賞を走り終え次第、ドリームトロフィーリーグへと移籍するそうです。したがって、トゥインクルシリーズで彼女たちの走りを見られるのはこれで最後です!』

『全員、悔いのない走りをしてほしいですね』

『そうですね!それでは出走するウマ娘を見ていきましょう!まずは1枠1番、昨年のクラシック2冠ウマ娘、5番人気ミホノブルボンです』

 

 

「あれ?ミホノブルボンは足を壊して2度とレースに出れないんじゃなかったっけ?」

「そう聞きましたけど……?もしかすると、この前のライスさんの祈りが通じて、奇跡的に回復したのかもしれないですね」

「なるほどな〜」

「(で、デジたんの知らないところでインチキ療法が行われていたとは……。このデジたんの目をもってしても以下略)」

 

 

今日のマヤノさんは8枠17番。この前一緒にトレーナーさんのお部屋に行ったライスさんは8枠18番で、ブルボンさんが1枠1番です。

 

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了……スタート!各ウマ娘、綺麗なスタートを切りました。ミホノブルボン、快調に飛ばしていきます。各ウマ娘の動きを見ていきましょう。先頭は相変わらずミホノブルボン。横にセイウンスカイ。3バ身離れてメジロマックイーン。その後ろライスシャワー。さらにトウカイテイオー。内からビターグラッセ。2バ身離れてリトルココン。内から内からスペシャルウィーク。外を回ってハッピーミーク』

 

 

「え、ハッピーミーク?誰それ?」

「「えっ?」」

「ん?」

 

 

トレーナーさんがハッピーミークさんを知らないそうです。桐生院家の令嬢が白毛のウマ娘を担当って一時期話題になったんですけど……。

 

 

「……ハッピーミークさんは桐生院トレーナーさんの専属ウマ娘ですよ、トレーナーさん」

「え?あ、ああうん。そうなんだ」

 

 

スピカの沖野トレーナーとは面識あったみたいですけど、リギルのハナトレーナーと話してるところは見たことがないですし、もしかして……。

 

 

「トレーナーさん、ウマ娘だけでなく人間のお友達も居なかったんですね……」

「ぐさあっ!?」

 

 

交友関係の狭さに驚いて正直な感想を言ってしまったら、トレーナーさんは膝から崩れ落ちてしまいました。

 

 

「ちょ、いじめは良くないですぞフラワーさん。これでも一応あたしたちの担当トレーナーさんですからね」

「い、いえっ。そんなつもりじゃ……。でも、かわいそうだなって思っちゃって……」

「ぐさぐさあっ!?」

「あ、倒れた」

 

 

ついに顔から倒れてしまいました。わ、私は悪くないですっ!?そうこうしているうちにレースは2周目の向正面に。先頭はまだブルボンさんですか。

 

 

『2周目の向正面、先頭は相変わらずミホノブルボン!2度目の淀の坂もなんのその、メジロマックイーンがここで上がってきたぞ!さらにライスシャワーもスパートに入った!ミホノブルボンがやや遅れてスパートに入ったが、一気に加速してメジロマックイーンを突き放していく!』

『先頭をキープしながら脚を残していたのは流石の2冠ウマ娘と言えますね』

『しかしミホノブルボンに追走していたセイウンスカイはどんどん垂れて後続を巻き込んで行く!これは大混戦!1番人気マヤノトップガンは大外だ!マヤノトップガンが大外から飛んできたぞ!』

『セイウンスカイが垂れるのを読んでいたかのような位置取りです。年間無敗グランドスラムの覇者は今日も勘が冴えていますね』

 

 

「セイウンスカイ殿がまた垂れておられるぞ」

「ええっ?そんなにスカイさん垂れてないと思いますけど……」

「いやいやフラワーさん。そこは、奴は黄金世代でも最弱、と返すところですぞ!」

「でもさデジタル、みんな距離適正があるから一概に言えないんじゃない?」

「それを言ったら最弱でもなんでもないですけどね。ただ、少なくともG1に限って言えば皐月賞と菊花賞以外だと垂れてるんですよね……」

「うーん……そうだったっけ?」

「トレーナーさんはレースを見なさすぎですよ本当に……」

 

 

スカイさんも緊張されていたんですかね?話は戻り、レースの方はブルボンさんが先頭、1バ身差でライスさん。その後ろ2バ身差くらいでマックイーンさん。その外からマヤノさんですか。大外回らされた分、このままだと届きそうにないですけど、どうなさるんでしょうか?

 

 

 

──────────

 

 

 

『最終コーナー、最初に駆け抜けてきたのは』

 

 

「起動開始、リミッター解除。セット、オールグリーン……!ミホノブルボン、リスタートッ!」

「誓います。大好きな人と、幸せの青い薔薇に……。ライスだって、咲いてみせるっ……!」

 

 

『ここでミホノブルボンとライスシャワーが領域をほぼ同時展開!先頭2人の鍔迫り合いだ!互いに1歩も譲らずゴールへ向かっていく!メジロマックイーンは伸びが苦しい!そのメジロマックイーンの横を今マヤノトップガンが』

 

 

うわ、ブルボンさんの領域変化してるじゃん。相変わらずトレーナーちゃんのお菓子効きすぎでしょ。マヤもちょっとだけ本気出さないと、いつものように流しても届かないね。まあ幸いにもマックイーンちゃんが目の前にいるから領域は問題なく展開出来そうだけどね。

 

 

「おっまたせ~☆マヤのハートをブーケに込めて~。ん~、ギュッ☆幸せみんなに届け~☆」

 

 

『さあマヤノトップガンが領域を展開して飛んできた!ぐんぐん差を詰めているが残り200mしかない!ミホノブルボン粘る粘る!ライスシャワーも負けじと前へ出る!マヤノトップガンが距離を詰めているがこれは届くのかどうだ!?3人並んでゴールイン!!!』

『写真判定、時間かかりそうですね』

『いえ……勝ったのはマヤノトップガン!大接戦を制し、見事春の盾の栄誉を得たのはマヤノトップガン!2着はミホノブルボン!3着に入ったのはライスシャワー!』

 

 

「流石ですねマヤノさん、完敗でした」

「ブルボンさんも復帰レースなのによく粘ってきたね」

「ライスからのお見舞いが良く効いたようです。しかしあのお見舞いはいったい……?」

「秘密だよ☆」

「ひ、秘密、ですっ!」

「……そうなのですか?」

「そ、そうなの!」

「ふふっ、そうですか」

 

 

ブルボンさん、ライスさんがわたわたしてるのをすごく楽しんでるみたい。ライスさんも困ってるけど、それよりも楽しそうだからこのままでいいか。そういえば赤青が勝つだの言ってたけど、全然見なかったなあ。

 

 




ブルボン復帰のタイミングに悩んだ結果、春天でさっさと復帰させることに。怪我でシリアスさんが始まるなんてことはなかったんだ。
スぺ、マックイーン、テイオーはこれで引退して、ドリームトロフィーリーグへ移籍。つまりトレーナーちゃんからのお菓子攻勢から逃げきれ……?
赤青コンビはセイウンスカイに盛大に垂れられて2桁順位、マヤノが見てないのも当然でした。





公式がドリームトロフィーリーグの設定投げ捨ててるから、雑に有効利用しても問題ないですよね(すっとぼけ


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増やしたデジタルと増えないトレーナー


ダートウマ娘かわいさ全振りなのズルいと思います(唐突)



『苫小牧のロコドル、ホッコータルマエです!応援よろしくお願いしまーす!』

『コパノリッキーだよ!応援してくれるみんなに、ラッキーとハッピーを届けるね!』

 

 

マヤノが出走するかしわ記念。パドックではダートに適正のあるウマ娘が、インタビュアーに向かって出走への意気込みとかを話していた。

今回はかしわ記念だけに柏餅を用意したら、マヤノに『ぶぶーっ!タルトにチェンジ!』って言われてしまった。お任せって言ったのマヤノじゃん。

というか何が悪かったんだろう?柏餅も美味しいのにね?

 

 

「あむあむ……。あたしもそう思います。それにしても今日がマヤノさんのかしわ記念、今週末にあたしのNHKマイル、さらに来週はフラワーさんのヴィクトリアマイルで、1週空けてマヤノさんの目黒記念。トレーナーさん今月結構忙しいですよね、お菓子に送迎にで」

「そうかな?基本的にはお菓子作るだけだから問題無いよ。送迎も夜中のうちに現地入りしちゃうから渋滞にはならんからね」

「深夜運転の方がツラい気がするのですがそれは……。でも電車や新幹線の公共交通機関はマヤノさんが断固拒否ですからなあ」

 

 

デジタルの言うように、何故かはわからないけど、公共のは嫌!トレーナーちゃんの運転がいい!って聞かないからなあ。

 

 

「でも、あのくらいのわがままなんて可愛いものじゃない?」

「甘やかしすぎですよ、まったく。まあトレーナーさんもトレーナーさんで、トレーニングのメニュー作りをマヤノさんに任せっきりですし、似た者同士ではありますが」

「はっはっは……。以前私がこっそり作ってみたメニューと、マヤノが作ったのを見比べたんだけど、後半に追加があったとはいえ、内容が全く同じだったんだよね。似た者同士ってのは言い得て妙かもしれない。まあマヤノの方が圧倒的に作るの早いから、いらない子だったんだけど」

 

 

本当に全く同じだったもんなあ。追加でいくつも増えてたけど、私がなんとなく作ったものと全く一緒。マヤノが作ってるのを見たわけじゃないんだけど、不思議だなあ。

 

 

「(そりゃ効果があろうが無かろうが、前半はマヤノさんがトレーナーさんと2人で一緒に考えたメニューを再現してますから、似るのは当たり前なんですよねえ)」

「ん?どうかした?」

「いえいえ別に」

 

 

ちなみにフラワーはどうしても外せない用事があるとかで、マヤノの応援に来れたのは私とデジタルだけ。……そんなことより今は別のことが気になって仕方がないんだよ。

 

 

「ねえねえデジタル」

「なんでしょう?」

「あのホッコータルマエって子、足太くない?」

「はい?」

 

 

そう。ホッコータルマエである。マヤノもフラワーもデジタルも、実際にはそうじゃないけど、ちょっと触ったら折れそうなくらい細い。けどあの子はすごく太い……。

 

 

「え、ええ〜?トレーナーさん、どこ見てるんですか?エッチですねえ。スピカのトレーナーさんみたいに蹴られちゃいますよ?」

「え!?エッチじゃないよ!?トレーナーならウマ娘の足を見るのは普通だよ!」

「まあそれはそうですけどね。あんまり女の子の下半身ばかりジロジロ見てると、通報されちゃいますよ。スケベな変態がいるって」

「す、スケベな変態……。で、でもさ、デジタルも自分と比べてみなって。明らかに太さが『太くないです!』……うわっ!?」

 

 

デジタルと太い太くない論争をしてたら、突然音割れするほどの声が響き渡った。耳がキーンとして痛い……。

 

 

『ど、どしたのタルマエ?突然大きな声出して。耳がキーンってなっちゃったじゃん』

『なんか私の足が太いって言われた気がして』

『え。……いや普通に太いでしょ』

『太くないもん!適正だもん!』

『いやいやタルマエ、そのおっぱいと太ももでアイドルは無理でしょ。明らかにむちむちすぎだから』

『そんなこと言ったらリッキーだってそのおっぱいで風水は無理だよ!』

『いやアイドルはともかく、風水におっぱいは関係ないでしょ』

『それはこっちのセリフ!というかアイドルじゃなくてロコド……』

『インタビューの途中でしたが、これにて終了とさせていただきます!ありがとうございました!』

『『あ、ちょっと!?』』

 

 

パドックの2人が騒がしくしてしまったからか、インタビューは中断、そのままそれぞれのトレーナーに手を引かれてパドックから退場させられた。

 

 

「あ〜あ〜。トレーナーさんが変なこと言うから〜」

「私のせい!?絶対聞こえてないよね!?」

「さーて、マヤノさんは外枠ですか。船橋レース場は最終直線が300mありますから、大外からぶち抜きも容易ですし、どうするんでしょうね」

「流れを完全に無視して投げっぱなしにしないで?今日のマヤノは先行じゃないかなあ」

「ほう。その心は?」

「気分」

「そんなめちゃくちゃな……」

「まあただの勘だからね」

 

 

なおマヤノは好位から3コーナー直前でスッと抜け出して1着だった。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「あたし思ったんですけど、マヤノさんみたいにスペックでゴリ押しとか、フラワーさんみたいに領域で大逆転とか、そういうものがあたしには足りないんじゃないかって」

「どうした急に」

 

 

NHKマイル前日。相談があるからと宿泊しているホテルでデジタルに呼び出され、部屋を訪ねると開口一番にこれだ。急すぎて話の流れがさっぱりわからないんだけど。

 

 

「あたしの領域って、パワーが無いんですよ。こう……ガッといく感じの」

「いや知らないけど」

「それでいて本格化がマヤノさんやフラワーさんに比べると遅れているので、レースをしてもパッとしないというか」

「個人の感想じゃないの?」

「というわけで、あまりお金が掛からずにパパッと強くなれる方法知らないです?」

「ダイエットの宣伝文句じゃないんだからさあ……」

 

 

ツッコミどころしかないじゃないか。楽して痩せられる、みたいなことは現実にはあり得ないからね。無駄に高価なサプリや超高額のエステに加えて食事制限、さらに割としんどい運動が必須だよあれは。

 

 

「ということでここに50諭吉をレースで増やした2万諭吉があります」

「は?」

「トレーナーさんには、デジたんがファン活しながら楽にレース勝てるようになる勝負スイーツを研究して作ってもらおうと思いまして」

「お金が掛からない前提条件どこ行ったの?2万諭吉って……2億じゃん。というかお菓子の力でレースに勝てたら誰も苦労しないでしょ」

 

 

勝負スイーツにそんなインチキ効果はないです。不正はなかった。

 

 

「そうですかね?(いやいや思いっきりインチキしてますよ!不正ぱなかった!!!)」

「まあやる気が出そうなメニューは考えておくよ。でも材料費に1億もかからないし、これはきちんとしまっておいてね。なんだったら経費で……経費で……うっ!?」

「ライスさんの依頼のお見舞い、ほとんど経費で落ちませんでしたからねえ」

「やめて思い出させないで!もうお説教は嫌だ〜っ!」

 

 

そう。経費の申請をしたら、たづなさんからNGくらって危うく全額自腹になりかけたのだ。幸いにも理事長のポケットマネーで援助を得られたが、それもごく僅か。通帳に記帳した段階でフラワーにそれがバレて、またしてもお説教。いつになったら許されるんですか。

 

 

「あれは安請け合いしちゃったトレーナーさんが悪いですよ。あたしからしたら報酬も決めずに何やってるんですか〜って感じです」

「ぐぬぬ」

「とにかく勝負スイーツの件、頼みましたよトレーナーさん」

「はいはい、やっておくよ」

 

 

そしてその翌日。

 

 

「トレーナーちゃん」

「ん?どしたのマヤノ」

「トレーナーちゃんさあ……昨日デジタルちゃんの部屋に行ったんだって?」

「ん?そうだけど」

「よ・る・に」

「………」

 

 

マヤノの笑顔が……おかしくない?このあとやっぱり正座させられた。なんでや……。

 

 

 

 



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飛び立つマヤノトップガン

「サトノ家から新作VRウマレーターねえ?」

 

 

新聞に挟まっていた広告には、VRゴーグルを持ったサトノダイヤモンドの写真がでかでかと掲載されていた。しかし、何故か水着姿。そしてどう考えても真下から見上げるアングルで撮られていて、太ももがむちむちである。この会社では毎度のことではあるが、こんなアングルで撮られた写真を掲載されたサトノダイヤモンドは、はたして恥ずかしくないのだろうか?

 

 

「ええっと、なんでしたっけ?確か、3女神様をVR空間にAIで再現して、その空間内でトレーニングをすることによって、現実でのトレーニング効率を高める……でしたか」

「そう書いてあるね」

 

 

新世代の技術、ここに爆誕!とは強く出た広告だと思う。値段は……なるほど。重賞勝ってる子がいるチームなら導入出来る設定か。

 

 

「確かにサトノ家のVR技術はすごいけどさ~?いくら仮想空間でトレーニングしたところで、現実の身体はそれについていかないから意味ないんだもん。それってめんどくさくない?」

「右に同じく、デジたんもVRには興味ないですね。やはり、観察するならリアルなウマ娘ちゃんがイイんですよねぐふふ」

「誰もそんなこと聞いてないよデジタルちゃん……」

 

 

マヤノもデジタルもサトノ家の技術はすごいが、それには意味がないってバッサリ。

 

 

「あはは……。確かにマヤノさんたちの言う通りです。今のところ、これを利用するのであれば、勉強ぐらいしか思いつかないですね」

「勉強か~。マヤ、テストで満点しか取ったことないし?全科目評価SS間違いなしだから安心なんだよね☆」

「えっと……マヤノさんは出席日数が足りていませんので、それは無理かと……。この前も脱走したとかで怒られてませんでしたか?」

「テストで満点ならいいと思うけどな~?」

「いやダメだろ」

「ぶーぶー!」

「まあそもそもゲームで遊んでトレーニングが出来たら苦労しないんですけどね~」

「おっしゃる通りで」

 

 

こうして最新VR技術は大した話題にもならず終わってしまったのだった。

 

 

「あ、そうだトレーナーちゃん」

「どしたのさマヤノ」

「マヤ、ちょっとフランス行って凱旋門賞取ってくるからね」

「は?」「えっ?」「なんですと!?」

 

 

と思ったらマヤノがとんでもないことを言い出した。凱旋門賞といえば、日本のウマ娘たちが幾度となく挑み、そして返り討ちに遭っている曰く付きのレースである。マヤノも出走の打診を受けたことはあるらしいが、遠征が面倒だからパスと断ってきたそうで。というか日付は……今週末!?

 

 

「ま、マヤノさん?正気ですか?洋芝やフォルスストレート問題はともかく、時差ボケだとか、食事だとか、長距離移動だとか……それはもう問題が色々山積みかと思うんですけど」

「正気かとは失礼な。マヤはちゃ~んと考えてるよ。時差ボケは飛行機の中でトレーナーちゃんに膝枕してもらいながら寝れば良いし、食べ物はトレーナーちゃんにお弁当作ってもらうもん」

「全部トレーナーさん任せじゃないですか!?」

 

 

マヤノさん、まさかの全部私任せ!というかお弁当はともかく膝枕って……。と思っていたらマヤノがこっちに来た。

 

 

「いいよね、トレーナーちゃん?お願い!」

「任せておきなさい」

 

 

可愛く上目遣いでおねだりされて、断る術は無かった。にんげんだもの。

 

 

「あ、あはは……トレーナーさん大忙しですね。でも一朝一夕で時差ボケは治らないと思いますけど」

「そもそも出走登録が……してあるんですね」

「そゆこと~。トゥインクルシリーズは今年で引退するし、貰えるものは貰いに行かないとね」

 

 

デジタルが凱旋門賞のニュース画面を出したウマホを見せてきた。本当に出走登録してある……。これもしかしなくとも追加登録料払った上で学園にも黙って勝手に出走登録したのかな。

 

 

「あ、フラワーちゃんの応援したいから、凱旋門勝ったら日本にすぐにとんぼ返りするからね、トレーナーちゃん。ということでフラワーちゃんは安心して待っててね」

「……私も調整はしたいですし、仕方ないですね。マヤノさん、日本から応援していますっ!頑張ってきてくださいっ!」

 

 

こうして急遽マヤノの凱旋門賞の出走のためにフランスへと飛ぶことになった。

 

 

 

──────────

 

 

 

「うーん……。久々にフランスに来たけど、洋芝は無駄に重いから好きになれないな~」

「もっと短く刈り込むべきですよねぇ」

「ふああ……あれ、マヤノって海外で走ったことあるんだ。海外には興味無さそうだったのに意外だね?」

 

 

あくびを噛み殺して2人についていく。まさか本当に飛行機内でずっと頭なでながらの膝枕を強要されるとは思わなかったよ。デジタルは横でニヤニヤしながら熟睡してたし。おかげさまでマヤノはツヤツヤ元気溌剌、こっちはゲッソリ寝不足……。

 

 

「ふっふっふ。まあ、そういうこともあるんだよ☆」

「そういうことです」

「どういうことなの……?」

 

 

結局最終調整をするフラワーを日本に残し、デジタルと一緒にマヤノの凱旋門賞へと前々日にフランスに入り。出発前に学園内でたまたま会った理事長に、

 

 

『驚愕ッ!?まだ日本に居るのかッ!?凱旋門賞は過酷なレースッ!調整もせずにフランスに飛んで、マヤノくんの調子が悪くなったらどうするのかねッ!?』

 

 

と散々な言われよう。がしかし、

 

 

『マヤがまだ日本に居たいって言ってるのに何が悪いの!?トレーナーちゃんをいぢめるなら、相手がやよいちゃんでも怒るよ!!』

『す、すまない……(既にカンカンではないか!?)』『ひょえええええっ!?』

 

 

と撃沈させられていた。そしてよく聞く奇声が窓の外から聞こえた。何やってたんだよデジタル……。

 

 

「まあ見ててよトレーナーちゃん。マヤ、カッコイイ……?かはわからないけど、トロフィー持って帰ってくるからね」

「最高の栄誉の扱いが雑すぎる……」

 

 

そうしていつものように過ごして迎えた凱旋門賞当日。ロンシャンレース場では、マヤノを含めた20人のウマ娘たちが、次々とゲート入りしていく。理事長からは日本のウマ娘はフランスに飛ぶと調子を崩しがちって聞いていたけど、パドックでもマヤノは絶好調だったし、安心していられるな。

 

 

「1番人気が前年度覇者のモンジューさん。2番人気がヴェニュスパークさん。3番人気がリガントーナさん。そして我らがマヤノさんは4番人気ですか」

「その順位は高いの?低いの?」

 

 

マヤノが1番人気じゃないのってスピカの面々が出走するレースで多かったから、人気薄でもそれが普通になってるんだよね。日本だと人気と勝率は比例しないからなあ。かなり前の話だけど、負け続けてた時のハルウララが、何故かいつも3番人気以上だったし。

 

 

「海外初挑戦で4番人気は高い方ですよ。ま、あたしはマヤノさんの単勝に今回のお小遣い全ツッパしましたが。当たり前ですよねえ?」

「え!?もしマヤノが事故ったら帰りどうするのさ?私のカード、フラワーに取り上げられたまま返してもらってないから、帰りの飛行機代立て替えて出せないんだけど!?」

「ふっふっふ。そんなことは地球が逆回転するレベルでありえないので、大丈夫ですよ。いやぁ、日本と違って海外では直接グッズ購入資金を増やせますので助かります。もう何も怖くありません!」

「それ負けフラグだから!」

 

 

『スタートしました!』

 

 

と言っている間にゲートが開いて総勢20人のウマ娘がゲートを飛び出した。マヤノは中団でモンジューをマークしているな。ヴェニュスパークはそのやや前方、リガントーナは最後尾か。

 

 

「……今日のマヤノさん、久しぶりに本気出してますね。衣装も花嫁ドレスじゃなかったですし。流石のデジたんでも、あの様子のマヤノさんにはちょっと近づきたくないです。というか近づけないです」

「……ちょっと怖いもんね」

「……はい」

 

 

デジタルが言うように、今日のマヤノは珍しく青い炎が目に宿っていた。普段は飄々とした態度でレースに臨んでいたけど、やっぱり凱旋門賞はレベルが違うのかな。

 

 

「むむ!?マヤノさん、もう仕掛けてますよ!?」

「え?」

 

 

そろそろ半分を過ぎる頃かと思っていたら、デジタルが仕掛けに気づいたらしい。見たところ順位には変動が無いし、仕掛けているようには見えないけども。

 

 

「よく見ててくださいよトレーナーさん。ここからがマヤノさんの怖いところですよ。ああ、モンジューさんは今回沈みますね。マヤノさんが本気になったときの仕掛けは容赦ないですよホント」

「いやそんな思わせぶりな……適当なこと言ってない?」

 

 

『向こう正面中間に入りました。ロンシャンの急な上り坂を越えて、ここからは下り坂!先頭は未だ2番。先頭がやや早いのか、縦長の展開だ。1番人気モンジューは中団のやや後方。っとここで2番人気のヴェニュスパークが上がっていきました』

『下り坂はスタミナを温存させやすいですからね。ここで一気に前に出て差を広げることで、スタミナ勝負を仕掛けに行ったのでしょう』

『それにつられてか最後方から3番人気のリガントーナが上がって来ている!そして1番人気モンジューは……前が壁!?さらに横をマヤノトップガンに塞がれて外にも出られない!いつの間にかマヤノトップガンにじりじりと詰められて、進路が完全にふさがっているぞ!』

 

 

気づけば実況の言うように、モンジューはマヤノと内ラチに横を塞がれ、前を8番の子に塞がれて八方塞がりだ。デジタルが言うには、マヤノはこの状況を最初から狙っていたって言うんだから本当に……。

 

 

「……すごいな」

「ええ。こうなってしまうと、モンジューさんのスパートはマヤノさんの後をついていく形でしかできません。しかも今回マヤノさんは、リガントーナさんをさりげなくブロックすることで後方に張り付かせています。つまり、リガントーナさんを利用して追加でブロックするわけですね。そして見えている壁は避けるはずですので、そのまたさらに後方のウマ娘ちゃんはリガントーナさんの進路をそのまま使いますので……」

「最後尾の子が横を通り過ぎるまでスパートを掛けられない」

「ですです。そしておそらく8番のウマ娘ちゃんが垂れてきます。マヤノさんがプレッシャーを掛けてないはずがありませんので。前が壁だけは本当にどうしようもないんですよねぇ……」

 

 

こうしてマヤノはモンジューをブロックしたまま最終コーナーを回る。そしてフォルスストレートに入る直前で、マヤノを含めてほぼ全てのウマ娘たちがスパートを掛け始めた。が、モンジューの前に居た8番の子はデジタルの予想通りスタミナ切れでスパートを掛けれずズルズルと後退。そして前から垂れられ、横も塞がれたモンジューはスパートタイミングを完全に逃して、一気に最後尾へ追いやられてしまった。これはひどい。

 

 

『いよいよ偽りの直線、フォルスストレートに入っていく!ここで先頭に立つかヴェニュスパーク!後続をグングン突き放して、もはや独走状態!後方からマヤノトップガンとリガントーナが上がってくるも、その差は7バ身近くあるぞ!』

『しかしここからが長いのがロンシャンレース場の特徴です。マヤノトップガンがどんどん上がっていますよ』

『フォルスストレートを超えたらいよいよロンシャンの長い長い最終直線!世界の!そして最高峰の!ウマ娘たちの意地の張り合いだッ!!!先頭のヴェニュスパーク、このまま最後まで行ってしまうのか!残り400を切りました!先頭は未だヴェニュスパーク!だがマヤノトップガンとリガントーナが競り合ったまま突っ込んでくる!そしてあれだけ大きかった先頭との差がどんどん狭まっていく!気づけばマヤノトップガンと先頭との差はもう2バ身しかない!ヴェニュスパークが苦しみながら粘っているぞ!マヤノトップガン!日本の希望!夢の凱旋門賞の制覇が見えている!残り200!ついにマヤノトップガンが抜け出した!マヤノトップガン、突き放す!行け!勝利は目前だッ!!!』

 

 

 

─────────

 

 

 

「むふふふふ~!マヤノさんの勝利です!そしてデジたんのお小遣いがざっくり10倍に!本当に、もう何も怖くありません!」

「……どれだけ突っ込んだの?」

「ざっと諭吉5000人ですね。いやぁ、資金かき集めるのに苦労しましたよ~」

「……ウソデショ」

「本当です。デジたんが突っ込んでなかった時は6番人気の15倍でしたので。あたしが突っ込んだら、瞬間的に単勝倍率が2倍ぐらいまで落ちたので焦りました。まあ結局10倍まで持ち直したんですけど」

「おお~、デジタルちゃんやるね~!負ける気は一切無かったけど、自分のレースだと八百長を疑われるから掛けられないし。……しかしお小遣い10倍か~。勿体なかったな~?」

 

 

マヤノはウイニングライブの準備で衣装をいつもの花嫁ドレスに着替えている。私のすぐ後ろで。女の子なんだからそういうのはダメだって何度も言ってるんだけど……いくら言っても聞かないからもう諦めたよハハハ。

 

 

「背中のホックを閉めて……よ~し、準備完了!それじゃあトレーナーちゃん!眠いのに応援ありがとね!ライブはいつも通りだから、今回は別に見ててくれてなくてもだいじょ~ぶ!ゆっくり寝てていいから!じゃあ、また後でね!」

 

 

着替え終わったマヤノは、マシンガントークの後にすくらんぶる~☆と言いながらライブ会場に行ってしまった。デジタルは最前列でウイニングライブを鑑賞するらしいけど、私はもう眠気が酷いからね……。

 

 

「ではトレーナーさん。デジたんもライブ会場に行きますね」

「いってらっしゃい。私はここで少し休憩するよ。ふああ……」

「えっと……。トレーナーさん、すごく言いづらいんですけど……。帰りの飛行機、頑張ってくださいね」

「……んっ!?」

 

 

そうだった。サイリウムを両手に持って出ていくデジタルを見送りながら理解させられた。もしかしなくとも、ほとんど寝てないのにウイニングライブが終わり次第とんぼ返りだから、まともに寝る時間が……ない。

 

 

「き、気合だ気合。頑張ればなんとかなるはず……!」

 

 

しかし眠気を気合で何とかできるわけもなく……帰りの飛行機で私は速攻で寝てしまった。が、空港到着後のマヤノは何故かものすごく機嫌が良かった。後日のデジタル曰く、私が寝た後に、それに怒ったマヤノが、私とマヤノの座席の間の肘置きを除けたところ、寝たままの私がマヤノに寄り掛かったそうで……。

 

 

「やりますねえトレーナーさん。両想いとはいえ、今をときめく女子高生相手に手を出すなんてぐふふ」

 

 

誤解を招く発言!けどマヤノの機嫌が良かったので……ヨシ!

 

 

 

 



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ハーヴェストとお約束


マヤノの育成評価がUE6→UD2になったので初投稿です。

追記:暇人mk2 様 誤字報告ありがとうございます。


「ちょっとよろしくて?」

「どうしたんだよマックイーン」

「私、今週は学園内でハーヴェストのお祭りをするって聞いておりましたけど……」

「おうよ!今日からしばらくはトレーナーも居ねえし、自由に遊べる時間だぜ~!」

(((いつも遊んでばかりでしょ(じゃない)(だろ))))

 

 

トレセン学園内で開催されるハーヴェスト。本来ならば、チームに所属しているウマ娘は行事に関係なくトレーニングを行うため、こういったモノに関わることはあまり無い。

しかし、溜まりに溜まったツケを払わせるために、沖野トレーナーはおハナさんによってリギル主催のバーのバイト要因として攫われてしまった。そのため、スピカのメンバー全員がハーヴェストの全日程で自由行動になってしまった。

マヤノたちがおかしいだけで、普通のウマ娘はトレーナーの監督や指示のない状況でトレーニング内容を決めたり行ったりはしない。したがって、沖野トレーナーが帰ってくるまで彼女らは何も出来ないのだ。

かといってトレーニングもせず、時間を無駄にするのは流石に勿体ないとのことで、お祭りを楽しんでいた。とあるド派手な看板を見るまでは。

 

 

「ならどうしてハーヴェストのお祭りでスイーツのお店があるんですの!?収穫祭関係ないじゃありませんの!?」

「何言ってるんだよ〜。そりゃお祭りだからに決まってるじゃねえか。お祭りと言ったら商売、これに限るんだぜ?マックイーン、お前ついに気でも狂っtうぎゃああああ!?」

 

 

件のトレーナーのスイーツと感じて反射的に身構えてしまうメジロマックイーンと、それを笑いながら煽るゴールドシップ。しかし例によって例の如く、メジロマックイーンの手から放たれたティーカップがゴールドシップに直撃し、ゴールドシップは地面をのたうち回る羽目になった。

 

 

「やれやれ。雉も鳴かずば撃たれまいってやつ。それはそれとして、マヤノのとこのトレーナーが、収穫祭にちなんで秋の味覚で色々作ってるらしいよ。すごくいい出来なんだ~ってマヤノがドヤ顔してたもん。どうして食べる専門のマヤノがドヤ顔してたのかは分からなかったけど」

「うふふっ。私たちはドリームトロフィーリーグまで時間ありますし、今回もご相伴に与れそうですね」

 

 

スピカのほとんどのメンバーは既にトゥインクルシリーズを引退し、ドリームトロフィーリーグへと移籍している。そのレースはトゥインクルシリーズのグランプリレースの後、年2回しか行われないため、自由な時間が多く取れるのだ。その間に多少デブ活したところであまり問題はない。

要は期限までに痩せればいいだけの話なのである。

 

 

「くぅ~!羨ましいぜ!俺も食べたいのにレースがあるからなぁ」

「ウオッカも食べてもいいのよ?ま、何をしても次のレースもあたしが勝つんだけど」

「俺が勝つに決まってるだろ。スカーレットこそ食べてもいいんだぜ?」

「生憎とアタシは我慢ができるのよ。誰かさんと違ってね」

「は?」「何よ?」

「……まーた始まったよ」

 

 

いつでもどこでも口喧嘩できる2人に呆れかえるトウカイテイオー。そんな口喧嘩する年少組をいつものことだとほったらかして、スペシャルウィークは看板を覗き込む。

 

 

「あ、メニューが書いてありますよ。えっと……林檎のタルトタタン、桃のシャーベット、葡萄とマスカットのパフェ、梨のベイクドチーズケーキ、栗とカスタードのダブルシュークリーム、季節のフルーツ盛り合わせ限定ホールケーキ、etcetc……。えっと……量多すぎません?」

「ざっと20品目か~。しかも条件付きで割り引いてほぼ無料……?これ採算取れないじゃん。資金どこから調達したんだろ?あのトレーナー、確かフラワーにカード管理されてるって聞いたけど?」

 

 

スペシャルウィークが読み上げたメニューのレパートリーと、それにそぐわないトレーナーの置かれている状況に、トウカイテイオーの頭には疑問しか出てこない。フラワーにカードを取り上げられているのは、愚痴と言う名の惚気でマヤノから散々聞かされている。よって彼がこんな商売を出来るはずがないのだ。

 

 

「あら、よく見たら1番下に何か書いていらますわね?ええと……割引はデジタルさんと2人でのチェキを撮ることが条件……?ああ、なるほど。資金源はこれですわね」

「デジタルさん、学園をお酒を飲む夜のお店と勘違いしてません?」

「ま、まさか〜?流石にデジタルでもそんなことは……あるかもしれない」

 

 

あのウマ娘ちゃんマニアのことだ、もしかしなくともありえる、と苦笑いを隠せない3人である。

 

 

「デジタルさんといえば、凱旋門賞で5000人の諭吉が50000人の諭吉になったとかで、学園内で話題になってましたわね。いくらあのマヤノさんとはいえ、単勝に5000万は突っ込めませんでしたけど」

「あれ?マックイーンもマヤノに?」

「ええ、20枚ほど。新しいトレーニング器具の購入資金にさせていただきましたわ」

「すごいですね!」「いいな〜」

 

 

やいのやいので盛り上がるチームスピカ。開店の時間は目前に迫っていた。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「トレーナーさん。あたしから良いお話があります」

「ふーん。じゃあ今日の3時のおやつは……」

 

 

ハーヴェスト開催の1週間前、チーム部屋にて私に良い考えがある、と笑顔で言い切ったデジタルをスルーするトレーナー。さっくり流されてしまったデジタルは慌てて彼の裾を引っ張った。

 

 

「ちょ、スルーしないで!?流石のデジたんでも完全スルーは心に来ますので!」

「でもそういうのは大抵碌な話じゃないしなあ」

「それはそうですけど」

「だろ?」

 

 

自分でもヤバい言い方になってしまった自覚はあるので、あまり強く言い出せない。が、ここで引き下がってしまうとせっかくの大チャンスを逃す羽目になるので、デジタルは食い下がった。

 

 

「そうじゃなくてですね、実はトレーナーさんにお願いがあって。次のハーヴェストで激安スイーツのお店を開いて欲しいんです」

「激安スイーツ?作るのは構わないけど……」

 

 

トレーナーとしては、お菓子に関わる案件なら断るつもりはない。さらに今回のように質に拘らずに量を作るだけなら時間も掛からないが、了承するか悩む。先立つモノが無いと何もできないからだ。

 

 

「ああ、資金なら問題ありません。あたしがスポンサーになりますので」

「ふーん?凱旋門賞の利益使っちゃうんだ?」

「そうなんですマヤノさん。たまには還元しないと、周りがうるさいですからね。……ってひょええっ!?マヤノさんにフラワーさん!?いつからそこに?」

「最初から居ましたけど……」

「チーム部屋の扉を開けるなり開口一番から捲し立ててたから、話しかけづらかったね」

「あわわわ」

 

 

デジタルはマヤノとフラワーを見てソワソワし始める。明らかに挙動不審だ。

 

 

「んー?デジタルちゃん、マヤたちに何か隠してない?」

「いえいえそんなことは!あたしもトレセン学園の一員として、奉仕していく所存でありますぞ!」

「そうなんですか。……では本音は?」

「それはもちろん資金力にモノを言わせてウマ娘ちゃんへの推し活を……ハッ!?」

 

 

流れに任せて本音をぶちまけるデジタル。ハッとなるももう遅い。既に全員知ってるので。

 

 

「いやまあそんなに慌てなくても良いんじゃない?元はと言えばデジタルちゃんのポケットマネーだし」

「同人活動で集めたお小遣いをどう使おうと自由ですしね」

 

 

本音をぶちまけられたマヤノとフラワーだが、ああ、いつものデジタルちゃん(さん)だ。と思うだけで、特に問題があるようには感じていなかった。

 

 

「……あれ?思ってたより悪くない反応です?」

「学生の常識の範囲内でやる分には構わないんじゃない?誰かに迷惑かけてるわけじゃないでしょ?」

 

 

説教を覚悟していたデジタルだが、結果的に3人全員からの反応が悪くなく拍子抜けだった。

だからこそ開き直った。そうだ、この機会に計画を成就させてしまおうと。

 

 

「なら色々と注文してしまいましょうかね!」

「……色々と?」

 

 

デジタルは鞄を肩にかけて立ち上がる。と同時にチーム部屋の扉を全力で開け放った。

 

 

「皆さまそれでは今日は失礼します!トレーナーさん、激安スイーツの材料の発注はお任せを〜〜〜……」

「え、ちょっとデジタルちゃん!?」

 

 

そして颯爽と部屋から駆け抜けていった。

 

 

「……うーん?去り際にこちらを見てたのが少し気になりますね」

「デジタルちゃんだし、フラワーちゃんが困るようなことはしないだろうから大丈夫じゃない?」

「それはそうですけど」

 

 

 

━━━━━━━━━━━

 

 

 

「しょぼんぬ」

「いやまあこれは……うん」

「デジタルちゃんの観察眼って本当にすごいな〜と思うよ」

 

 

3日後、チーム部屋では顔を真っ赤に染めたフラワーによって、デジタルが正座させられていた。

 

 

「ど、どうして私のスリーサイズが知られているかのようにピッタリなんですか!?というか何ですかこの花嫁ドレス!?」

「不肖デジタル、フラワーさんのために新しい衣装を用意させていただきました!」

「誰も頼んでないのですけど!?」

「頼まれていませんからな!」

 

 

デジタルが発注したのは、ハーヴェストの露店で使う大量のスイーツの材料とマヤノ及びフラワーの花嫁衣装だった。衣装に関してはデジタルが仕様書を作り、それを元にビューティーな人が一晩でやってくれたようで。だからこその圧倒的な速さでの納品となったわけだ。

 

 

「というかマヤのもあるし。最近ちょ〜っと胸の周りがキツいな〜とは思ってたけどさ。ぴったりフィットさせてくるのは流石だよね」

「……そこでこっち見ないで。私まで正座しなきゃいけなくなるでしょ……!」

 

 

サイズ調整についてマヤノに同意を求められるが、口を挟めばまず間違いなく巻き込まれて説教コースなので、知らぬ存ぜぬでそっぽを向くトレーナー。マヤノもそれを分かっているので、深くは追求しなかった。たとえトレーナーの視線が自分たちの胸に釘付けだったとしても。

 

 

「ま、頼まれていなくとも作るのがファンというモノです。さあフラワーさん、是非ともこれを着てお店で接客を!」

「どうしてそうなっちゃうんです!?」

「衣装に罪はありません!そしてこの衣装はフラワーさんのサイズに合わせて作られているので、フラワーさんにしか合いません!つまりッ!フラワーさんにはこの衣装を着る未来しか残されていないのです!」

「そんなことないですよ!?」

「さあ早く着てください!最終調整をしますので!ハリー!ハリー!!ハリーアップ!!!」

「えっ、ちょっと!?」

 

 

デジタルはここが攻め時!とばかりに正座から立ち上がると、その勢いのままにフラワーを壁に追い詰める。気づけば完全に攻守逆転し、デジタルがフラワーに衣装を着せるのをゴリ押しする展開に。

 

 

「ど、どうしてこんなことに……?」

「勝ちましたッ!我々の勝利ですッ!」

「「我々……?」」

 

 

そしてそのまま押し切られ、フラワーは花嫁ドレスを着せられてしまう。さらにその衣装で接客することも承諾させられてしまうのだった。ウマ娘含めて誰しもゴリ押しモードになった厄介オタクには敵わないのである。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「むぐむぐ。これは何個でもイケますわね」

「このケーキ美味しいです〜。減量を気にせずお腹いっぱい食べられるなんて、なんて幸せなんでしょう〜」

「ホント、美味しくできてるよね。量産型なのにこの出来かぁ。腕上がりすぎじゃない?……というか2人とも食べ過ぎでしょ」

「「そんなことないです(ですわ)」」

「……ボクはちゃんと言ったモンニ。……あ、フラワーちょうど良かった。悪いんだけど、この蜜柑丸ごと牛乳寒天ってやつをお願いしていいかな?」

「はーい」

 

 

午前11時、お昼直前に開店したアンタレスのスイーツ店。レース前で食べられないウオッカとダイワスカーレット、そして轟沈させられたゴールドシップを除いた3人は、そのスイーツに舌鼓を打っていた。

何かを察して甘さ控えめの注文をするトウカイテイオーを除き、店を訪れたほとんどのウマ娘が超高カロリーの激甘スイーツを注文していたため、辺りには遠くからでもわかるほどの濃厚な甘い匂いが漂っている。

 

 

「トレーナーさんっ。5番テーブル、蜜柑丸ごと牛乳寒天ですっ」

「りょーかい。……デジタルはムフムフ言ってないで5番テーブルにこれ持っていって」

「かしこま!」

 

 

そのお店では、約束通り(?)花嫁ドレスを着させられたフラワーがテーブルを回りながら注文を取り、デジタルが配膳しながらチェキを撮ってムフムフ。

厨房ではデジタルによってお菓子の材料という名の水を得たトレーナーが、無限の菓子製(アンリミテッドスイーツワークス)の固有結界を発動させ、ひたすらお菓子を作っていた。

いくらお菓子作りが得意だとはいえ、冷やしたり焼いたりする時間は必要なため、在庫が目減りする一方だからだ。

 

 

「トレーナーちゃ〜ん。そろそろ飽きないの〜?」

「この機会に速度の方を上げておきたいんだよ。最近ずっと凝ったモノばかりで、数は作れてなかったから」

「うぐっ。原因マヤだから強く言えない……」

 

 

花嫁ドレスこそ着たものの、今週はトレーナーにあまり構ってもらえないことが確定しているため、マヤノの機嫌はあまり良くない。

だが大好きなトレーナーちゃんのためなら……と、あまりわがままを言わずに我慢するとも決めてもいた。

だがそれはそれとして構って欲しいのが我らがマヤノさんなのであり。

 

 

「ぶーぶー!それでも寂しいよー!」

「はいはいそうだね」

「遊んでよー!」

「はいはいそうだね」

「……じゃあマヤがトレセン学園を卒業したら、マヤと結婚してね☆」

「はいはいそうだね……ん?」

「……ふふっ」

 

 

反応が雑になった瞬間言質を取った。もちろん、前後の会話は残さず、マヤノと結婚する、の部分だけを録音して。

当然、マヤノの機嫌は絶不調からスーパー絶好調まで跳ね上がる。

 

 

「むふふ〜。マヤ、フラワーちゃんを手伝ってくるね☆」

「え?うん。いってらっしゃい」

 

 

突然機嫌が良くなったマヤノに困惑するトレーナーだが、今は目の前の注文のことしか考えていなかった。

大マヤ王からは逃げられない!

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「注目ッ!それではこれより身体測定を開始する!」

「「「な、なんだってー!?」」」

「あーあー。やっぱり。懲りないよね〜みんな」

「……マヤは悪くないよ?」

「誰も責めてないってば」

 

 

後日、学園全体のウマ娘たちの体格が明らかにふくよかになっているのを危惧した秋月やよいによって、緊急の身体測定が行われた。

当然のようにスピカの食いしん坊ズや芦毛の怪物が引っかかるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 





もうすぐ完結。話を最後まで書き切って、最初期の頃の修正を入れたら完結とします。
見切り発車だったので、エタらないとは思わなかったのが本音。


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まるで成長していないウマ娘たち

「おかしいですわね?先々週のハーヴェストが終わった後に酷い目に遭ったと思いましたけど、今度はハロウィンで酷い目に遭う未来が見えますの……」

「あはは、そんなわけないじゃないですか~」

「現実を見てくださいまし!このカボチャのスイーツを!どう見てもあの方の罠じゃありませんの!?」

 

 

秋の天皇賞が終わり、エリザベス女王杯やマイルCSが控える10月最終日の31日。ハロウィンのお祭りだと騒ぎ立てるデジタルによって、またしてもスイーツのお店が開店することになった。

変態に行事と資金を与えた結果がこれだよ!!!

 

 

「罠……?食い意地張らずに食べ過ぎなきゃ良いだけじゃん」

「「こんなに美味しそうなスイーツを見逃せって言うんですか!?(言うんですの!?)」」

「ダーメだこりゃ」

 

 

昨年まではレースの準備時間として使っていた期間を地獄の減量で使い果たしたメジロマックイーンとスペシャルウィークだが、全く懲りずに新たなスイーツに手を出す模様。そんな2人を見たトウカイテイオーは、これは処置なしだー!と早々に諦めてしまった。余計な口を出して巻き込まれるのは、既に転がされて床を舐めているゴールドシップだけでいいのだ。

そんな愉快なスピカのメンバーの横では、ハルウララ、ライスシャワー、そしてミホノブルボンが看板を眺めている。

 

 

「ねーねー、ライスちゃん!マヤちゃんのトレーナーが今回はパンプキンパイを作ったみたいだよ!しかも、たくさん食べるとご褒美が貰えるんだって!」

「そ、そうなんだ……」

「つまりライスちゃんの出番ってことじゃない!?」

「ふええっ!?そ、そんなことないと思うよ!?」

 

 

謙遜するライスシャワーだが、実際彼女はよく食べる。それを考慮して演算し、シミュレートした結果をミホノブルボンが出した。

 

 

「いえ、もし大食いチャレンジにライスさんが出場した場合の完食確率は33.4%。決して悪くない値です」

「ブルボンさんまで!?」

「さらにライスさんの運動量を考慮すると、次のレースまでに減量が間に合う可能性は150%。ここは行くべきかと」

「ふええっ!?崖で落ちそうになってるから一所懸命に踏ん張ってるのに、後ろから笑顔で押されてる気分だよっ!?」

「頑張ってねライスちゃん!」

「どうあっても出る流れになっちゃってる!?」

 

 

ミホノブルボンがポンコツロボットと化してしまい、ハルウララと合わせてボケ担当2人に押し切られてしまうライスシャワー。彼女が諦めて大食いチャレンジに出場することを決めるのに、そう時間はかからなかった。

そして、そんな話を横で聞いていたメジロマックイーンとスペシャルウィークの目が光る。

 

 

「なるほど豪華景品ですか。これはメジロの誇りを賭けて負けられませんわね」

「こんなことに誇りを賭けないでいいから」

「私も豪華景品欲しいです!あのトレーナーさんのことですし、きっと新しいスイーツに違いありません!」

「な、なんですってー!」

「誰もそんなこと言ってないでしょ」

 

 

トウカイテイオーのツッコミが追いつかない勢いでボケまくるメジロマックイーンとスペシャルウィーク。彼女たちの明日はどっちだ。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

「また、これを着るんですね……」

「むはーっ!堪りませんなーっ!あたしの中の荒ぶる勇者の魂の昂りが止まりま……ぐふっ」

「あっ。デジタルちゃんが尊死した」

「……ハッ!?危うくウマ娘ちゃんハーレムという名の桃源郷へと旅立つところでした」

「その時は笑顔で見送ってあげるね☆」

「辛辣ッ!?」

 

 

フラワーに花嫁ドレスを着せてご満悦のデジタル。またしてもごり押しで接客させられることになったフラワーだが、このヘブン状態のデジタルには何を言っても話にならないのが目に見えているので早々に諦めていた。

 

 

「それで?フラワーのことはともかく『ともかく!?』ハロウィンと言ったらカボチャしかないけど、パンプキンパイで良いの?」

 

 

まあ一般的なハロウィンで使われている無駄にどでかいカボチャは食用には適さない。だから実際には食べられないんだけど、お祭りとしてはカボチャのお菓子が使われてるんだよね。

 

 

「そうですね。やはりハロウィンならカボチャかと。というか既に発注済みなので、変更されると困りますね」

「既に発注済みなのか……」

 

 

ドヤ顔で発注書を見せつけてくるデジタル。うわ、金額やっば。最高級の素材ばかりじゃないか。

 

 

「最近のデジタルのお金の使い方が荒すぎる件について」

「「「トレーナーちゃん((さん))は人のこと言えないからね(言えませんよ)(言えませんぞ)」」」

「ハモらないで?」

 

 

3人して真顔で言ってくるんだからこの子達はまったく。

 

 

「で?さりげなく置いたみたいだけど、堂々と書いてある大食いチャレンジってのは?」

 

 

発注書の横に置かれた紙には、『大食いチャレンジ開催のお知らせ!豪華景品もあるよ!』と書かれている。

 

 

「前回は何だかんだで食べ損ねたウマ娘ちゃんが多かったようなのd『そうだったの?』『デジタルちゃんはウマ娘に関してはアンテナと頭がおかしいから』はいそこ!デジたんの悪口になってますよ!」

 

 

紛れもない事実だよ。

 

 

「でもどうしてそんなことがわかるんです?私注文取ってましたけど、全然気づきませんでした」

「見てればわかりますよ普通」

「「「いや無理でしょ(ですよ)」」」

「ひょええっ!?」

 

 

驚きの声を上げてひっくり返るデジタル。大げさすぎるリアクションだけど、この子分かっててやってるからもういいや。

 

 

「……とりあえずここに書いてある通りの仕様で作るけど、問題ないんだね?」

「大丈夫ですぞ!」

「なら用意するか。パパっと作っt『トレーナーちゃん?』……どうしたのマヤノ。顔が怖いけど」

 

 

腕をまくっていざ鎌倉ってところでマヤノからその腕を掴まれた。心なしかマヤノの背景に般若が見えるんですが……。

 

 

「あのね、トレーナーちゃん。もしかしなくとも、ここ最近でかなり痩せたでしょ。……1週間で10キロぐらい」

「ギクッ!?」

「え……?10キロを1週間で……?それもう病気じゃないですかっ!」

「びょ、病気……」

 

 

病気扱いは流石に酷くない?

 

 

「お菓子作りに夢中になるのはいいけどさ~?それでご飯食べないのは……話が違うよね?」

「……そうですね。流石にそういうのは、よくないですよね……」

 

 

笑顔でこちらを見る担当ウマ娘たち。……あ、あのねマヤノさん腕はそっちには曲がらないんですよ。フラワーさんも、空いている方の腕を掴んで持ち上げないで?身体浮き上がってるんですけど!

 

 

「トレーナーちゃん。あっちでちょっと……O・HA・NA・SHI。しよっか?」

 

 

ハイライトの消えた目で口だけ笑いかけてくるマヤノ。こ、これはまずいぞ!

 

 

「……た、助けてデジタル!」

「すみませんトレーナーさん。既にあたしも捕まってしまいまして……」

「Oh……」

 

 

しかし頼みの綱のデジタルは既に縄で縛られて転がされていた。原因を作ったのがデジタルなので、連帯責任らしい。

この後めちゃくちゃお説教されて、ご飯食べさせられた。

……体重は戻らなかった。

 

 

 

──────────

 

 

 

「行きますわよ~!」

「ちょ、待ってください~!」

「全てのメニューを制覇すれば大食いチャレンジは勝ったも同然!豪華賞品をゲットですわ!」

 

 

迎えたハロウィン当日。開店と同時に駆け込み、キッチンとの距離が最短のカウンター席を確保するメジロマックイーン。追いついたスペシャルウィークがその横に座るのだが、2人とも着席と同時に置かれていたメニューを開き、書いてあった全てのスイーツを注文した。こいつらまるで成長していない……と、沖野トレーナーがこの状況を見たら頭を抱えるのは間違いないだろう。

そんなチームメイト達から目を逸らし、トウカイテイオーとゴールドシップは、彼女らとは少し離れた2人用の席に座った。あの2人のペースに巻き込まれず、かつ問題が起きたときにすぐに対応できる位置である。

 

 

「……最近アタシ、こういう時って何も出来ずに全てが終わってるんだよな~。いっつも突然フォークが飛んできてて、気づいたときには全てが終わってるんだよ」

「あー……。食べ物の恨みは恐ろしいモンニ。仕方ないよ」

「ん~?アタシ何かやったか~?」

 

 

そんな覚えは無いぞとゴールドシップが記憶を呼び覚まそうとするも、一向に出てこなかった。トウカイテイオーとしては荒れに荒れたメジロマックイーンを宥める役目を押し付けられて酷い目に遭ったため、記憶に大いに残ってしまっているのだが。

 

 

「ゴルシちゃんスーパートルネード!!!とか叫びながら、マックイーンが食べてたミルクレープに一味唐辛子ぶちまけたじゃん!アレだよアレ!」

「……一味唐辛子……?いえ、知らない子ですね?」

「どうしてスピカってスイーツ狂いとこんなのしか居ないんだ……ッ!」

 

 

そういう自分ははちみー狂いだろ……とボヤいたらまず間違いなく全てが終わってしまうので、ゴールドシップはそこには突っ込まなかった。彼女の中では、彼女は賢いボケ担当なのである。

 

 

「ご注文はお決まりですか?」

「……ボクはこのスペシャルはちみーウルトラスーパーデラックスパイってやつ」

「アタシは普通のパンプキンパイで」

「かしこまりました」

 

 

手を上げてホールを回っていたフラワーを呼び、普通に注文する2人。片っ端からパクパクして、空になった皿が積みあがったカウンター席は見えない。見えないのだ……。

 

 

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「あ、フラワーちゃんだ!今日もドレス似合ってるね!……ってあれ、マヤちゃんは?」

「マヤノさんは厨房でトレーナーさんの監視ですね。トレーナーさん、前回のハーヴェストで、まともに食事をとらずに10キロ瘦せたそうなので」

「えぇ~?それ病気じゃん」

「ですよねぇ……っと。ブルボンさん、ライスさんと3人ですね。奥の席へどうぞ」

「ありがとうございます。フラワーさん」

「ふえぇ……」

 

 

結局連れてこられてしまったライスシャワーは、終始ふえぇ……しか言えていない。が、今日のメインはライスシャワー。ハルウララは、自分はライスちゃんの応援団長なのだ!と気合の入ったハチマキを頭に巻いて戦闘態勢で、ミホノブルボンもそれに続いてしまっている。もう逃げられないぞ!

 

 

「ねえねえフラワーちゃん!ライスちゃんが大食いチャレンジってやつにチャレンジするんだけど、メニュー表に書いてないよ?」

「あ、大食いチャレンジに挑戦するんですか?」

「えっと……はい」

 

 

ようやく喋れたライスシャワー。そしてそれは彼女の大食いチャレンジ挑戦が確定した瞬間であった。

 

 

「わかりましたっ。準備してきますねっ」

 

 

フラワーが注文をキッチンに伝えるために戻っていく。しかし、まだ自分の注文をしていないことに気づいたミホノブルボンが、慌ててフラワーに注文を伝えた。

 

 

「ああ、フラワーさん。私は季節のフルーツ盛り合わせ限定ホールケーキを」

「えっ!?それもう終わってますっ!?」

「……?」

 

 

しかし、ミホノブルボンが注文したそれはハーヴェスト限定品だった。注文不可の衝撃で、宇宙の背景を出しながらミホノブルボンは口を半開きで硬直する。

そうして硬直したミホノブルボンを気にしつつも、大食いチャレンジの準備をしなくてはならないフラワーは、キッチンへと入る。代理でマヤノがキッチンから出てきて配膳していくが、マヤノはフラワーと違って注文前に求めているスイーツを配膳してくるため、マヤノのことを詳しくないウマ娘からは畏怖の目で見られることになってしまった。勘はほどほどにね!

それから10分ほどで、フラワーが戻ってきた。

 

 

「お待たせしましたっ」

「おお~。やっと来たみた……えっ?」

「こ、これは想定外です……」

 

 

フラワーが運んできたのは超特大パンプキンケーキだった。パイじゃないじゃん!と思われつつ、そびえたつケーキの段数は7段。最下段の直径は60センチ程ある。即座に、これは1人で食べるモノじゃない!と散々ライスシャワーを煽ってきたハルウララとミホノブルボンはドン引きしてしまった。

 

 

「うーん……足りるかなあ?」

「「「ええっ!?」」」

「ふえ?」

 

 

しかし、ライスシャワーはこれで足りるかどうかを心配していた。というのも、彼女は大食いチャレンジのために朝食を抜いていたのだ。そのため、出てきたケーキが昔サクラバクシンオーらに聞いたケーキと比べて小さかったために、そう呟いてしまったのだ。

勿論、大きすぎて驚いていた2人と、食べられなくても持ち帰りが出来るから問題ないことを伝えようとしていたフラワーは更にドン引きしてしまう。

 

 

「えっと……時計、要りますか?一応制限は30分なのですけど」

「うんと、それだと長すぎるから要らないかも……?むしろ、もう1つ同じのを注文はできないかな?」

「は、はい……わかりました……」

 

 

この後ライスシャワーは、当然のようにペロリとパンプキンケーキを完食した。景品は勝負スイーツ体験招待券で、ライスシャワーは更に幸せになった。

 

 

 

「おかしいですわね?大食いチャレンジって書いてあったのに、そのスイーツが出てきませんわ!」

「でもお腹いっぱい食べれて満足です~~~」

「……マックイーンやスぺちゃんはいいかもしれないけどさ!動けなくなるまで食べないでってボク散々言ったよね!」

「こうなるのは知ってた定期」

 

 

キッチンとホール間をフラワーに40往復させた上でそれらを全て完食して丸くなったメジロマックイーンとスペシャルウィークは、トウカイテイオーとゴールドシップに転がされて寮に戻ったのだった。

 

不幸はなかった。

 

 



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長い旅路の終わり


最終話ですが、いつも通りです。



『豪雪吹き荒ぶあいにくの天気となってしまいました今年の有馬記念。今年もあなたの、そして私の夢が走ります』

『この天気ですが紛れはあるのでしょうか。怪我には十分注意して欲しいですね』

 

 

とうとうマヤノのラストラン(といってもトゥインクルシリーズのだが)の有馬記念のゲートインが始まった。思えば彼女におんぶに抱っこされ……?いや振り回されてただけ……?な数年間だった。

……楽しかったからこれはこれで(と思いたい)。

 

 

「いよいよ始まりますねトレーナーさん。マヤノさんのラストランが」

「ちゃんと見えてるよ。……こっちにばかり手を振って、ひたすら投げキスし続けてるマヤノが……」

「あ、あはは……」

「………けぷっ」

 

 

フラワーと一緒に手を振り返したら、その瞬間マヤノの周りから他のウマ娘がざっと逃げるように離れていった。雪で滑るから慌てると危ないぞ。

なおデジタルは。

『マヤノさんの心からの笑みがっ!?と、尊みっ!……ば、馬鹿なっ。同じチームに入って耐性を得たというのに耐えきれぬというのかっ……!?ううぅぅぅぅ……ウボァー!!!』

とか言いながら後ろに倒れてた。久しぶりに見たねそのオタク芸。

 

 

『さあ本日の主役はこの子をおいて他にいない。この有馬記念がラストランの3枠5番マヤノトップガン。他のウマ娘を突き放しての堂々の1番人気です』

『なんと言っても今年の凱旋門賞を制し、日本の夢を叶えたウマ娘ですからね。トゥインクルシリーズの総決算、期待がかります』

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました……スタートしました!各ウマ娘一斉にスタートを切りました。先行争いはマヤノトップガン、ビターグラッセ、リトルココン。……おおっと、この組み合わせは?』

『春の天皇賞と同じ3人の鍔迫り合いからスタートしましたね。グングンと前に出ていきましたよ』

 

 

 

なるほど。今回もマヤノは逃げを選んだみたいだ。……頑張れ、マヤノ。

 

 

 

──────────

 

 

 

「「このまま勝ち逃げなんて許さないぞ!」」

「ふふ~ん☆マヤに追いつけるかな~?」

 

 

泣いても笑っても最後のレース。マヤのトゥインクルシリーズはここで終わり。

いつも通りの場所にしまってあったトレーナーちゃんのハンコ。それを勝手に使って出走したホープフルステークスから始まった、長いようで短いG1戦線の終着点。

……ううん、トレーナーちゃんと初めて会えたあのチーム部屋から始まった、長い長いマヤの旅路がようやく終わる。

 

 

「2500、しかも豪雪で大荒れの重バ場で大逃げはスタミナが持たないはず。ここは温存して終盤で仕掛ける!」

「今はあまり離されずについて行って中盤で巻き返すわ!」

 

 

アオハルの赤青以外はマヤについてくる子は居ないみたい。流石に春の天皇賞でもボコボコにしただけあってマヤのひとり旅は警戒してくるよね。まあその考えは甘いんだけど。

1回目のホームストレッチは特に問題なし。やたらうるさい2人が後ろにいるけど。さーて?トレーナーちゃんはどこかな?……むっ!見つけた!

 

 

「トレーナーちゃ~ん!マヤの愛を受け取って~☆」

『ちょ、マヤノ!?』『マヤノさん!?』『もうデジたんのライフはゼrあばばば!?』

 

 

笑顔で手を振ったら反応が返ってきた!よ~し!マヤの愛が届いたよ!マヤのやる気がすご~くアップ!

 

 

「「くっ……!真面目に私たちとレースをしろ!!!」」

『なんということだ!マヤノトップガン、正面スタンド前で余裕の表情!観客席に手を振りながら走っているぞ!確かに戦績の差は歴然だが、これは他の娘の心を折りに来ているのか!?』

『これも彼女の作戦でしょう。過去のレースでもメジロマックイーンやスペシャルウィークといったG1で活躍していた名ウマ娘も掛かってしまっていますし、現に後方のウマ娘のペースが上がっています。冷静さを取り戻せるといいのですが……』

『『そんなところで名前を出さないでください(まし)!?』』

 

 

あ。マックイーンちゃんとスぺちゃん居たんだ。あれ?でも今日はスピカの子は出てないし、どうしたんだろ。ただの観戦……なわけないよね。ドリームトロフィーリーグでまた一緒にレースすることがあるはずだから、マヤの走り方の調査ってとこかな。

……そんなことを考えていたら正面スタンド前を超えて第1コーナーへ入ってた。どんどん行くよ!

 

 

『第1コーナーに入って相変わらず先頭はマヤノトップガン。そのすぐ後ろにビターグラッセ、さらに横にリトルココン。10バ身ぐらい離れて6番……』

 

 

ん~……。離されずについてくるって言ってた子は結局ついてこれてないね。……まあ仕方ないか、これ短距離のペースだし。それに重バ場なのもあって普通は走りづらいはず。

今までこういうレースはたくさんあったからマヤには関係ないんだけどさ。

 

 

「……っ!ここで仕掛けて前に出させてもらう!」

「前を塞げばお得意のロングスパートも出来ないはず。勝負はここからだ」

「おおっと~?」

『向こう正面に入ってビターグラッセが上がっていく!リトルココンもそれについて行ってここで先頭が入れ替わった!先頭はビターグラッセだ!2番手にリトルココン!マヤノトップガンは3番手に後退した!』

『まだまだゴールまで長いですが、今までマヤノトップガンは向こう正面からのロングスパートでしたからね。前を塞いで簡単にスパートさせない作戦でしょうか』

『これは面白い展開だ!マヤノトップガンはどうするのか!?ロングスパートをするなら大外を回らされてしまうぞ!』

 

 

第2コーナーを過ぎて赤青が強引に前に出てきた。マヤノトップガン前が壁!ってやつかな。マヤもブライアンさんやモンジューさんに相手に前が壁は使ったけどさ……。この2人はちょ~っと考えが足りなさすぎだよね。あれは狙いたい子"以外"を掛からせて、前と横を塞がないと意味が無いんだよ。まあ風避けには出来るから有効利用させてもらっちゃうね。

 

 

『さあ向こう正面も終わりが見えてビターグラッセがスパートを掛けた!僅かに遅れてリトルココンもスパート!さらに遅れてマヤノトップガンもラストスパートだ!』

『3番人気までのウマ娘がほぼ一斉にラストスパートに入りましたね』

『中山の直線は短いぞ!後ろの娘たちは間に合うか!?』

 

 

残念だけどもう間に合わないし、間に合わせないよ。大事なトレーナーちゃんとの時間を削ってトレーニングしてきたんだもん。ステップレースで出走権を得ただけの子たちに、本気の本気でトレーニングしたマヤとの実力差を見せてあげる。

 

 

『最終コーナーを回って先頭はビターグラッセ!すぐ横にリトルココン!先頭2人の競り合いだ!』

「このまま行って私が勝つ!リトルココンは引っ込んでな!」

「私が勝つって前から言ってる。ビターグラッセは詰めが甘いんだからさっさとスタミナ切れでバテて『おおっと大外から何か1人突っ込んでくるぞ!』……ん?」

『トップガンだ!トップガン来た!大外からマヤノトップガンが突っ込んできた!』

「「……んなぁ~っ!?」」

 

 

内がダメなら大外から追い込めばいいってみんな言ってる。全力で逃げて最後に差す、これに限るよ。それと根性で粘ろうとしてるところを悪いけどマヤは並んですらあげないよ。最後まで油断しないで有終の美を飾るって決めてるからね。

 

 

『マヤノトップガンがグングン伸びる!先頭で競り合っている2人に並ばない!そのまま一気に抜き去ってゴールイン!1着はマヤノトップガン!圧倒的な実力差を見せつけレースを制した!2着はリトルココン、3着に入ったのはビターグラッセ!』

 

 

ゴール板を駆け抜けて後ろを見ると、赤青が絶望の顔をしてた。マヤは2人が追い抜いたところで少し息を入れたけど、2人はそうじゃなかったし……大外を回っても余裕だったね。まああれだけのペースで走ればスタミナ切れは当たり前っちゃ当たり前。掛かるのはトレーニング不足だよ、本を読もうね。

 

 

……ということで~?

 

 

「ライディングキ~ッス☆マヤちん大勝利☆」

 

 

 

──────────

 

 

 

「トレーナーちゃ~ん!はやくはやく~!」

「ぜぇ……ぜぇ……!ま、待ってマヤノ……。人間は……ウマ娘みたいには……走れな……」

「ならマヤがトレーナーちゃんのこと抱えちゃうね!」

「ちょ、それは恥ずかしいからやめうわっ!?」

「ハハハ。相も変わらずトレーナーさん殿がマヤノさんにだっこされておられますぞ」

「トレーナーさんは人間さんですからね……」

 

 

今日はトレセン学園の体育館を貸し切ってチームのみんなでパーティ。トレーナーちゃんお手製の料理とお菓子を並べて、ね。

え?トレーナーちゃんが食べ物を用意したならマヤは何やったのかって?もちろんマヤは、やよいちゃんを脅h……じゃなかった。やよいちゃんとお話して貸し切りの許可をもぎ取ったのだ☆

 

 

「ちょっとマヤノ!久しぶりに全員が集まったからってはしゃぎ過ぎだってば!?」

「だって本当に久しぶりなんだもん。デジタルちゃんは海外に行ったままなかなか帰ってきてくれなかったし、フラワーちゃんは高等部に入ると思ったら更に飛び級して大学に行っちゃうしさ~?」

「マヤノさんの凱旋門賞で海外のウマ娘ちゃんを見る機会が得られましたので!せっかくなので世界中のウマ娘ちゃん観察をしようと思った次第ですハイ!」

「えへへ。大学入試の試験を受けてみたらありがたいことに合格できましたし、早く大人になりたかったので頑張っちゃいました」

 

 

 

マヤがトゥインクルシリーズを引退して3年が経った。その間、短距離が得意なフラワーちゃんが出走を疑問視されつつ長距離レースに出て春の天皇賞や有馬記念を勝って春秋3冠を勝ったり、デジタルちゃんが海外のレースで芝ダートのG1を勝ったりした。

トレーナーちゃんはマヤの戦績を考慮されて理事会のメンバーにされちゃったせいで事務処理で忙しくなっちゃって、マヤはマヤで招待レースで海外に出かける(もちろんトレーナーちゃんも一緒だよ?)ことも多かったの。

だから全員が揃うのは本当に久しぶりなんだよね。

 

 

「そういえば私もデジタルさんも今年でトゥインクルシリーズを引退しましたけど……。トレーナーさんはどうするんです?」

「え?何が?」

「だってトレーナーさん。マヤノさんにデジタルさん。そして私が引退してしまったので、来年から担当ウマ娘誰もいないじゃないですか」

「……ああっ!?」

「気づいてなかったんですね……」

 

 

フラワーちゃんの指摘で担当ウマ娘が居なくなってしまったことに気づいてしまったトレーナーちゃん。そうなんだよね。フラワーちゃんとデジタルちゃんが同じタイミングで引退しちゃったから、猶予なく無職になっちゃったんだ。

 

 

「どどどどうしよう!?たづなさんから来年の担当ウマ娘の最低ノルマが3人になるって言われてるのに!?」

「……え?それ有情すぎません?」

「スピカやリギルなんて5人以上いるのにね」

「ぐふっ」

「あの……えっと……。わ、私と同い年の子はほとんどチームに加入済みですから、紹介できないかもです」

 

 

飛び級のフラワーちゃんは高等部に知り合いが居るみたいだけど、まあそうだよねって感じ。

……ということで~?

 

 

「ふっふっふ。マヤに良い考えがあるよ!」

「そうなんですか?」

「もちろん!それはね~?」

「……それは?」

「その辺で走ってる子を適当に攫ってきちゃえばいいんだよ☆」

「は、犯罪じゃないですか!?」

 

 

ドヤ顔で提案したマヤの考えはフラワーちゃんからバッサリ却下された。良い考えだと思うのにな~?

そしてそれを見たデジタルちゃんがドヤ顔。次はデジタルちゃんが提案をするみたい。

 

 

「何言ってるんですか……。大丈夫ですよフラワーさん」

「そうですよね、冗談ですよね」

「バレなきゃ犯罪じゃないんですよ!」

「デジタルさんも何言ってるんです!?」

 

 

デジタルちゃんも大概だった。

 

 

「ということで食べ終わったら探しにいこっか」

「ですね。フラワーさんにも手伝ってもらいますよ?」

「……トレーナーさん、このままでいいんですか?この2人に任せておいて」

「私がスカウトしても何故か失敗するしね。……もうどうにでもな~れ!」

「トレーナーさん!?」

 

 

あはは!やっぱりトレーナーちゃんはこうじゃなきゃだよね!

 

 






この後マヤノが小悪魔系妹ギャルなウマ娘や、普通で平凡なウマ娘を攫って加入させたりしたけどそれはまた別のお話。


ということで完結とします。クリスマスorバレンタインデーに最終話を持ってくるのは執筆当初からの決定でした。
見切り発車な上にゲーム自体の運営に問題が多くてモチベ維持が非常に困難でしたが、なんとか完結までこぎつけて良かったです。ありがとうございました。


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