Muv-Luv IGLOO [M.L.I] 記録無き戦人達への鎮魂歌 (再投稿) (osias)
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第0章「別の世界(ソラ)で」
プロローグ「あいとゆうきときぼうのおとぎばなしのはじまり」


高貴な装飾物で彩られた赤色と金色の配色が目立つ、応接間。

 

二人の男性が初老の男に頭を垂れるように跪いていた。

初老の男性は気品に溢れ、清楚な髭を伸ばし、何か満足げに二人を見つめる。

 

男性の一人は若く、日系で幼い顔立ちをした中肉中背な若き兵士、どこか“ガキ臭さ”が残る。もう一人は金髪碧眼の20代後半の男性、見た目からして技術仕官ぽく、軍人というより、運動をする一般人的な体系である。

 

「そんなに畏まるな、頭を上げよ」

 

「「ハッ」」

 

二人は同時に頭を勢い良く上げ、立ち上がり敬礼をする。

 

「君達の話は聞いている、今まで我らジオンのため、アクシズで良く働いてくれた」

 

二人の男の内、年上の金髪の男性が答える

 

「勿体無いお言葉です、マハラジャ=カーン閣下」

 

マハラジャ=カーン、小惑星アクシズを預かる、穏健・ダイクン派の将官である。アクシズは一年戦争で敗れたジオン兵の寄り代となっていた。

 

「そう謙遜するでない、両名共に一年戦争を生き延びた猛者ではないか」

 

「いえ、私はただ試験運用部隊で解析をしていただけですから」

 

「俺・・・いや、私に至ってはジオン軍に入ったのは一年戦争後ですし。今頂いている中尉の階級も不相応だと思っているくらいです」

 

日系人の兵士が敬礼したまま、答えた。

 

マハラジャ=カーンは自分の髭を触り、若い方の男性に向く

 

「“リヴァイヴァー(再生者)”と“ツィマッドの侍”とも言われる者達がこれ程にまで謙虚だとはね、気をつけたまえ、余りに謙虚である事は時に嫌味に成りかねない。先日シャア大佐を模擬戦で倒した事、このマハラジャ=カーン耳にしていないと思ってか?」

 

「いえ、あれは・・・「彼がザクIIを駆り、君が彼より高性能なケンプファーを駆っていたとしてもだよ」・・・」

 

若い男性は黙り込む。実際、一年戦争、ジオンの英雄、シャア=アズナブルを模擬戦とはいえ倒した。だが、お互い駆ったMS(モビルスーツ)の性能差は段違いである。負けた本人はMSの性能の差が戦力の決定的差ではないと豪語していた人物であるため、潔く負けを認め、若き兵士を賛美している。しかし、若き兵士も“勝たせてもらった”様な気がして、勝った本人の方が納得がいかないという不思議な状況になっている。

 

「それらは誇って良い事だと私は信じる、それにそういう経歴、実力、技術を持っている君達だから今回の任務を任せられると私は思っている。」

 

優しく、マハラジャ=カーンは彼らに語り掛けた。

 

「ありがとうございます」

 

二人は今一度頭を垂れる

 

「では今回はデラーズ中将以下、デラーズ・フリートが潜伏している『茨の園』に向かい、試験兵器の試験運用及び評価、結果が良好の場合そのまま配備ができるよう手助けしてやってくれ。先ず、月のツィマッド・・・いや今はアナハイムだったな、彼らは試験兵器はほぼ完成していると入っている、君達は今から月に向かい、それらを回収してくれ。月では更に二名今作戦に参加する者がいる、彼らとも合流してくれ。武運を祈る!ジーク!ジオン!」

 

「「ジーク!ジオン!」」

 

二人は綺麗な敬礼を同時に決め。渡された作戦命令書を受け取り、素早く応接間を退室した。

 

「どれだけ彼らの行動が無謀であっても同胞は見捨てられまい・・・」

 

マハラジャ=カーンは深いため息をつく。そこには穏健派としての考え、そして一ジオン将官としての苦悩が垣間見れた。

 

 

 

二人は出向デッキに向かう廊下を歩いていた。

 

「ははは、何処に行っても人気だね、流石“ツィマッドの侍”だ」

 

そう笑いながら年上の男性は若い男性をからかい、小さく彼の肩を小突く。

 

「止めて下さい、大尉だって“リヴァイヴァー”なんて言われているじゃないですか・・・昔は二つ名はカッコイイと思ってましたけど、実際つけられて呼ばれると何かむず痒いです。それに「赤い彗星」、「青い巨星」、「真紅の稲妻」、「白狼」と・・・」

 

そう言いきる前に前から二人の男女が歩いてきた。

 

一人は赤服を纏った金髪の男性、サングラスを着けているため、表情は完全には読めない。もう一人はピンク色の髪をした若い女の子だった。

 

「噂をすればだね」

 

男女は男性達に気づいたようで向かってくる。

 

「やぁ。先日はやられたよ」

 

赤服の男性が若い男性にまるで友達に語るかのよに話しかけた。

 

「恐縮ですシャア大佐!」

 

二人は敬礼をする。その三人の間に割るように女の子が若い兵士の顔を覗き込んだ。

 

「本当にこんな、ヘタレそうな男の子が大佐を倒したの?」

と突然女の子は若い男性の顔を覗き込む、それに驚いた男性は一歩後ろに下る。

 

「恐れながら本当ですよ、ハマーン様。」

 

年上の男性が答える

 

「いえ・・・あれは何せ、性能の差がありますよ、それに俺のは大尉が完璧に整備したものですから」

 

そう、若い男性は苦笑いをしながら答える

 

「私を見くびらないで欲しい物だな。性能の差、整備状態、全てひっくるめて、私は君のケンプファーにザクで勝てると思ったのだよ。実戦経験が数えるくらいしかない、戦闘から遠ざかった者にやられたのだからな。“ツィマッドの侍”という名に偽りなしと言った所か?」

 

シャアは一瞬刺す様な視線を若い男性に向けた

 

「“ツィマッドの侍”?」

 

ハマーンはシャアを見上げながら問う。

 

「ああ、悪かったなハマーン、彼らの紹介を忘れていた。」

 

そして年上の男性を指すシャア

 

「彼は元第603技術試験隊、“リヴァイヴァー”ことオリヴァー=マイ技術大尉だ。パーフェクトジオングやゼロ・ジ・アールの整備、試験、評価も彼が参加した事で大幅に進んだと整備士達は言っている。」

 

「オリヴァー=マイ技術大尉です、以後お見知りおきを!」

 

オリヴァーはハマーンに敬礼をする。シャアは今度は若い男性に手を向ける。

 

「そして彼が・・・“ツィマッドの侍”・・・時に『白銀(ハクギン)の武士(モノノフ)』と呼ばれた、タケル=シロガネ中尉だ」

 

ハマーンは再びタケル=シロガネを視る。そして彼女は彼の目を見て、一歩下がり、自問する、“何故一度目に気づかなかったんだろう?”彼の目は何人もの人々の死を目の当りにしたようなベテラン兵士の目をしていた。

 

時に宇宙世紀0081、10月20日。一年戦争が終わり2年の月日が流れようとしていた。



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第一話「白銀の武士は信念を見せて」

第0章「あいとゆうきときぼうのおとぎばなしのはじまり」



宇宙世紀0079, 11月22日

 

「・・・以上が、今回のプロトギャン第2期トライアルの予定です。」

 

ムサイ級の艦内ブリーフィングルームで、簡略的な説明が終えられる。

 

「質問は?」

 

一人のジオン軍人が手を上げる

 

「ドゥエン中尉どうぞ」

 

中尉と呼ばれた男は手を下げ、疑問をぶつける。

 

「俺と俺の小隊は今回のトライアルに“わざわざ”呼び出された、護衛任務だと、こんな忙しい時期にだ。確かに俺のリックドムはツィマッド社の物だ、素晴らしい機体だ、感謝はしている、だが今回のテストパイロットがこんな小僧だとは納得いかないな」

 

そう言いドゥエンは部屋の隅に座るタケルを指差した。中尉の言う事も最もである。現在ジオンの情勢は良くなく、各地域で戦闘が行われ。撤退しなければならない地域も多くなっていた。

 

「・・・」

 

タケルは敢えて何も答えない、何故か知らないがトライアルというものでは実力さえ見せれば古参のパイロットは納得してくれるだろう、そんな気がしていた。

 

「ドゥエン中尉、タケル=シロガネ試験パイロットは我が社が誇る、一流のMS乗りです。実際彼の腕前を見ていただければ納得いくと思います」

 

「ああ、そうかよ、じゃ、見せてもらいますよその実力とやらをな」

 

皮肉を言いドゥエンは部屋を出ていった。

 

 

その後ろ姿を見つめるタケルに、ドゥエン中尉の部下が近づいてきた。

 

「シロガネ君、悪く思わないでくれよ、今は我が公国も厳しい時期なんだ、それなのにここで護衛任務を与えられたことが気に入らないのだよ。それに、トライアルとは言え君みたいな若い人間が戦争に関わる、そんな時代自体にも彼は嫌気をさしている。まぁ、何も無いとは思うが、君は気にせず全力尽くしたまえ。」

 

この時期、ジオン兵士達の中には疑問や不満、不安と恐怖、そういったものを持つ者が増えてきた。

 

「はい・・・ありがとうございます。えっと・・・」

 

「グレッグだ・・・グレッグ=ダム少尉だ。」

 

男はニコリと笑い、タケルと握手をした。

 

男の手は大きく、暖かく、タケルの緊張を少し解してくれた。

 

「シロガネ君、全力で君の護衛に回ろう、我々ジオンに新兵器が足りないという事はないんだ。君を護る事はサイド3にいる家族を、娘を護るくらいだと思って事にあたるよ」

 

グレッグはそう言うとタケルの背中を叩き、退室していった。

 

「ではシロガネさん、デッキに向かって下さい」

 

今回のトライアル、タケルにとって、恩を返す絶好のチャンスであった。彼は一年ほど前に戦場の真ん中に現れた、と言うより気づいたらそこにいた。何かに呼ばれた様な気もしたが、名前以外、何も思い出せなかった。所謂『記憶喪失』であった。

 

彼が覚えているのは戦場で必死に生き抜いた記憶。何処も彼処も戦場の地球で彼は生き残った、何故かサバイバル技術を知っていたためそれらが役にたった。泥水を啜り、人の屍を乗り越え、生き抜いた。転機が訪れたのは彼が放置された旧ザクを見つけた時である。彼はそれに乗り戦場から遠ざかったのである。その最中、彼はツィマッド社に拾われる。ツィマッド社は彼の操縦技術を買い、タケルは試作機の試験機動、試験運用を始めた。ヅダ、ドムも試験部隊に送られる前に多少運転をした事があった。

 

「プロトギャン2号機カタパルトデッキに上がりました」

 

オペレーターの声が耳に響く、思ったよりもタケルは落ち着いている。

 

「タケル!今回でギャンの性能をジオンの連中に知ら占められなければジオニック社にシェア全部もってかれる!全力で当れ!」

 

「ハイ!」

 

ツィマッド社の技術屋が必死にシロガネに叫んでいる。

ギャンにしてみれば今回のトライアルがラストチャンスである。噂では対抗馬のゲルググ正式採用されるような話をタケルは小耳に挟んでいた。

 

「シロガネさん、今回のテスト内容は機動性能を示す、アクロバットと、大型ビームサーベルでの立ち回りです。ダミィーをここの宇宙空間に大量に設置したので「できるだけ派手に破壊しろ!!!」・・・だそうです」

 

「落ち着けよ、ヒヨッコ!俺達もいるんだ、何かあったらケツは持ってやる」

 

そうタケルに護衛任務で来ているエド=ドゥエン中尉が声をかける

 

「何かあったら俺のリックドムで助けてやるよ!」

 

ガハハと音割れするほどの大声を飛ばす中尉。

 

「・・・有難うございます、中尉。タケル・シロガネ、プロトギャン2号機、出撃します!」

 

タケルはそれを単に好意と受け止め出撃する。

 

●●○○○

 

プロトギャンは淡々と宇宙空間での機動を見せ付ける

 

「推進力に問題があると言われてたけど、リックドムに比べたら、全然出力高いじゃないか」

 

そんな事をぼやきながらタケルは決められた機動をこなして行く。

 

 

そんな光景を遠くから観測する者達がいた

 

「・・・なんだ、あれは・・・機動に問題があったのじゃないのかね?あれでは我が方のゲルググが劣っているように見えるではないか」

 

男はモニター越しにプロトギャンを見てそういった。

 

「・・・データが来ました、今回のテストパイロット腕が良いみたいですね、今まで表にでなかったのはツィマッドの・・・差し詰めワイルドカードということでしょうか」

 

「大丈夫なのか!!」

 

男は激怒し部下に当り散らす

 

「大丈夫です、今回は不運な事に近辺に連邦の1個大隊がいるそうです」

 

「ほう・・・それは確かに不運だな・・・クククでは、我々はショーの続きを見ようじゃないか。」

 

○○○●●

 

「これで、終わりだぁぁぁぁ!」

 

プロト・ギャンの大型ビームソードがダミーを貫く。

 

「これにて、第二期トライアル過程、全て終了です。お疲れ様です」

 

終りを告げるオペレーターの声を聞き

 

「ふぅー」

 

タケルは一息ついた、そこにドゥエン中尉からの無線が入ってきた

 

「ヒヨッコとさっき言ったのを謝らないとな、ツィマッドが言うだけの腕はあるって事だ」

 

タケルは照れくさそうに鼻の頭をかく。

 

「しかし、コイツが量産されれば、ジオンはまだ戦えるな、そもそも、我々は・・・」

 

ドゥエン中尉の声が遠ざかり、悪感がタケルを襲った。

(・・・タ・・・ちゃん・・・とらないで!)

一瞬の頭痛に頭を抱えるタケル。

 

一瞬の頭痛が止まった瞬間、周りの音が再び聞こえるようになった。

会話に戻ろうとしたタケルはもう一人の兵士、グレッグが何か興奮しながら言っている事に気づく。

 

「・・・隊長!行けますよ、我々は勝てま・・・」

 

<バアァアアアァァァア>

 

・・・そう言い終わる前に一機のザクIIがメガ粒子の光に消えてなくなった。

 

タケルは咄嗟にマーカーを確認する・・・アルファ2・・・グレッグ機

 

「グレッグッゥゥゥゥぅー!!!!」

 

<ビービービー!!!!>

 

ドゥエン中尉の叫びの後に遅れるように鳴る警報

 

「シロガネさん!敵襲です、連邦一個大隊がこの領域に侵入、攻撃を加えています!」

 

オペレーターが叫びマップに敵戦力がポツポツと表示される。

 

動揺しつつ回避行動をとるリックドム、ザクIIとプロト・ギャン

 

「どういう事ですか?ここは戦略目的も無いアステロイドですよ!」

 

「小僧!今はそんな事を言っている場合じゃねぇ!戦闘準備をしろ!」

 

「中尉!シロガネさんの機体は我々のムサイに向かわせて下さい、そこで拾います」

 

「オペレーターの姉ちゃんそれは無理だ!距離があり過ぎる、・・・それに既に連邦のMSに捕捉されている。我々は独自にランデブーポイントへ向かう!ルバヘ少尉!数は?」

 

アルファ3、ルバヘ少尉はレーダーを確認する。

 

「最悪です、分かっているだけで『棺おけ』が20機、ジム、キャノン、スナイパー混成で20機、サラミス3機です」

 

「チッ、何たってそんな規模のお客さんがこんな所に・・・」

 

皆が慌ている中、タケルは何故か落ち着いていた。グレッグ少尉が目の前で死んだ、悲しい筈なのだが、何故か動揺はせず、慣れた感覚があった。そして 報告される敵の数が何故か『少ない』と感じてしまう。実際はそんな事は無いのだろうが不思議と沸く感情は現状に絶望を感じさせない、まるで自分はもっと 酷 い 状 況 を味わったことがあるような・・・

 

(・・・ケル・・ゃん!!!)

 

タケルは急遽頭に響く声を元に引っ張られるように機体を動かした。

 

一筋のビームがタケルが居た所を貫く。

 

「隊長!スナイパーです!」

 

「隕石の後ろに隠れろ!っておい小僧!」

 

タケルは命令を無視し、岩から岩へ隠れるながら、スナイパーへの距離を縮めた。

 

「す・・・凄い」

 

「感心している場合じゃない、俺達の任務はあいつの護衛だ!追うぞ!」

 

二人は咄嗟にタケルの後を追う。

 

 

ジムスナイパーに乗る連邦兵は息を飲んだ。

さっき狙ったジオンの新型機は突然自分のビームを避け、高速で近づいてくる。更に周りにいた味方のジムは隕石の影に隠れる敵に狙いをつけれず接近戦を挑み各個撃破されていた。自分が放ったビームから数十秒、数十秒の内に既に4機の味方が討たれていた。

 

そして目の前に白銀に輝くMSが現れる。

 

「ニュー・・・タイプ・・・」

 

そう一言残し、ジムスナイパーは貫かれた。

そして周りに取り囲むボールとジムキャノンにタケルは襲い掛かった。

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

ジムスナイパーの周りに居た敵を殲滅し、タケルはコクピットの中で息を整え。母艦への通信を試みる。

 

ザーザーザー

 

「ミノフスキーが濃くなっているのか・・・」

 

ドゥエン中尉達の機体が追い付く。

 

「新型が凄いのか、小僧の腕が凄いのか・・・おい、小僧、お前のお陰で相手は大分混乱している、お陰でこっちもMSを2機と『棺おけ』を6機程落とせた」

 

「隊長、大分ルートから離れましたですが・・・」

 

「ああ、この状況で背を向けるのは危険だな・・・アステロイドを抜け、ここを離れるのが得策かもしれんな、時間がかかるが、多少安全にムサイとのランデブーポイントにも近づける。小僧聞こえているな!?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「良い返事だ!」

 

三機は隕石群の間を抜けていく。

 

―――連邦艦隊

 

「どういう事だ、一機のMSを破壊するのに何を手間取っている!」

 

連邦軍士官は怒りを露にして、艦長席の肘掛に拳を叩きつける。

 

「戦闘が開始して2分!既にMSを8機にボールを10機もやられているんだぞ!」

 

「艦長!敵はアステロイドを抜ける模様です」

 

「クソ!他に出せる機体は無いのか!」

 

そう焦る連邦軍艦長に一人の男が話しかける

 

「艦長、深追いをすると被害がでかくなるだけだと思うがな・・・。あの白銀の機体、戦い方を良く理解している。地の利を活かしての接近戦、そしてそれを成せる・・・人の利とも言える腕も確かだ。護衛のリックドムとザクIIの腕も悪くない」

 

艦長は振り返る、そこには連邦軍のユニフォームをラフに来た、褐色肌の男が立っていた。

 

「ケニー=ロンズ中尉か・・・傭兵風情が分かったような事を・・・そこまで言うなら貴様が出たらどうだ中尉!」

 

ロンズは肩を上げ、首を振り否定をする。それは何処か馬鹿にするような白人特有の大げさなリアクションを思い出させる。

 

「ハッ、冗談!俺のジム・ストライカーは地上戦用、俺の部下の機体もそうだ。簡易チューンで宇宙に出せるようにしても溺れるだけだぜ。言っておくがここで引くのが吉兆。奴さんの機体性能が確認出来ただけで良しとするべきだな」

 

「五月蝿い!全軍前へ出るぞ、なんとしてでもこの機体はここで落とす、さもなくば我ら連邦の脅威となる!」

 

ロンズはヤレヤレというような顔をして、ブリッジを出る

 

「忠告はしたぜ・・・さて、部下には出撃準備させるか・・・天の利は誰にあるのかね・・・」

 

 

―――アステロイド

 

「連邦の奴らしつこいですな、隊長」

 

ルバヘは玉になった汗を額から拭き、そう呟いた。

 

「そうだな、数だけは蟲のようにいやがる」

 

無言でタケルは敵MSを貫く。

 

「12機目か・・・小僧、これが初陣とは思えねえな、お前、戦ったことあるな?」

 

「・・・まあ・・・」

 

それ以上タケルは何も言葉にしなかった、MSを討つ度に人類はこんな事をしている場合じゃないんじゃないかと、そういう思いに駆られる。

 

「隊長!」

 

「どうした、ルバヘ?」

 

「ザクのモノアイじゃ確実とは言えませんが、この隕石郡を抜けた先・・・あそこにムサイがいるみたいです!」

 

「小僧!」

 

タケルはプロト・ギャンで指定位置を望遠で覗いた。

 

「確認しました、ムサイです」

 

「・・・ランデブーポイントより大分離れているが・・・別部隊か?どちらにせよ、収容して貰おう、俺達の弾薬も残り少なくなってきている」

 

三機はムサイへと進路変更をする。

 

(・・・ちゃ・・・そっ・は駄目・・)

 

また頭に何かが響き、咄嗟にタケルは機体を止める

 

「(何だ、今日はやけに頭痛が激しい、それに空耳じゃないような何かが・・・)」

 

足を止めたタケル機に気づき、ドゥエンが機体を振り向かせる

 

「どうした、小僧。今頃になって吐気でもしてきたか?」

 

「隊長!さっきから通信を試みているんですがあのムサイ反応が無・・・」

 

次の瞬間ムサイが一斉射撃を開始する。

 

少し離れていた、タケルとドゥエンは回避行動をとる。

 

ルバヘ機は回避行動をとるも、無慈悲にミサイルはルバヘ機の下半身を食らった。

 

「隊長!何故味方が!!?」

 

そう言い残し、ザクIIの核エンジンが爆発した。

 

「ルバヘ!・・・お前もがここで・・・ッ!!!」

 

二機は再び隕石郡に姿を隠す

 

 

「艦長!ミサイル来ます!」

 

「面舵!回避!!!」

 

連邦艦隊は急な攻撃を回避する。

 

「敵ザク、消失しました」

 

「味方ごと・・・撃ったのか・・・?各艦隊はあのムサイを落とせ、MS隊は引き続きジオンの新型を狙え!」

 

「艦長!」

 

「何だ!!!」

 

「ケニー・ロンズ中尉が出撃許可を求めています」

 

「あの、傭兵め、何が溺れるだ、出れるのではないか!構わん出せ!」

 

「了解しました、許可します」

 

 

――――連邦艦隊ハンガー

 

「中尉許可が出ました、出撃してください」

 

「了解、全機出るぞ!」

 

「「「了解」」」

 

ロンズはクローズドチャンネルに変える

 

「皆、ちゃんと予備のエアーとレーションを持ったな?」

 

「「「ハイ!」」」

 

「では、出撃後、俺達はこのサラミス艦隊から離脱、救援を一番近い別艦隊に送る。その間出来るだけ情報の収集。交戦は必要な時以外は禁止。分かったな?」

 

「「「了解」」」

 

ロンズ中尉達が駆るジム・ストライカーとジム陸戦型が出撃する。

 

「皆さんには悪いが、ここで死ぬ気はないんでね」

 

戦力的に圧倒的なはずの連邦陣営。それでもこの場では離れる事を選らんだのロンズの経験則である。

 

―――アステロイド

 

ミサイルとメガ粒子が飛び交う戦場を二機は隕石を盾にし、移動していた。

 

「前門のトラ、後門の狼。中尉どういう事ですか?何で味方のムサイが?」

 

「さあな、俺にも分からん。だが連邦にあのムサイ、両方とも俺達・・・いや、小僧の機体を目指して移動している」

 

タケルは考え込む。

 

「(逃げるにも両陣営が接近させすぎた)・・・クソ・・・じゃあ、漁夫の利で、両陣営戦わせた方がいいですね」

 

「ああ、俺達は連邦の数を少なくしながら、共倒れを願うしかないな」

 

タケル達は行動を開始する。

 

 

―――ロンズ小隊

 

「凄げぇな、あの白銀の機体は、この場にきてまだ諦めていない。それどころか動きが良くなっているようにも見える。戦場を駆ける武士(モノノフ)か・・・」

 

「ロンズ隊長!もうMS14機、ボールを16機あの白銀の機体に落とされてます」

 

「ははは、『連邦の白い悪魔』も真っ青だな」

 

「隊長どうしますか?」

 

「どうすると言っても、ここで待機だ。俺達陸戦型の機体であの戦場に飛び込んだら自殺行為だ。それに俺達の任務は別にここでの戦闘ではなく地上でのジオン掃討だからな。ん?あの2機何か行動をとる気だな・・・まぁ動揺している今が確かに好機だが・・・」

 

ロンズは光り輝く宇宙を見つめた。

 

 

―――連邦艦隊

 

オープンチャンネルで声が聞こえる

 

『アンタらはここで散って満足なのかぁ!!!』

 

その叫びとともサラミスが一機のMSに破壊される。

 

「ルウムの悪夢だ・・・」

 

それは正に一年戦争開戦時さながらの光景、MSに戦艦がいとも容易く沈められる。

 

続き白銀のMSは2機のGMを蹴散らし、もう一隻のサラミスを落とす。

 

「し、集中攻撃を加えろ!早く、早くアイツを落とすんだ!」

 

残りのサラミス一隻とMS達が一斉射撃を加える。

 

白銀のMS複雑な軌道を描きビームを避け、ミサイルを切り裂く。数十秒の攻撃に終に一撃入る、白銀のMSの左腕は吹き飛び、MSは吹き飛ばされる。

 

「よ、よし、やったか!」

 

その叫びと共にサラミスは被弾する。

 

「ムサイからの攻撃です!」

 

先程、タケルに被弾させたのはムサイであった。そしてムサイはそのまま連邦軍に攻撃を加えていた。今まで白銀のMSに集中攻撃をしていた連邦軍は一瞬の油断を狙われた。

 

「チッ!ジオンが!落とせ」

 

 

―――アステロイド

 

タケルはバランスを崩す機体をどうにか制御しようとしていた。

アラームが五月蝿く鳴り響く。さっきも変な声のおかげで撃墜だけは免れた。

 

「くッ、もってくれプロト・ギャン!オレはこんな所でやられてられないんだよ。“また”死ねないなんだ!」

 

遠くでリックドムが他のMSを相手にしているのが目に入る。

 

そこで近づいてくるムサイにタケルは目をやる。

 

ムサイは隙を突く形で残りのサラミスを落とし。

 

そして、タケルに向かって回頭を始める。

 

タケルには次の数秒がユックリと流れた。

 

戦場の音は消え、全てがモノクロとなる。

 

さっきまで激しく脈を打っていた心臓は止まったのじゃないかと思うほど静かである。

 

ムサイから放たれる粒子には色が無く、流れるように白いトンネルがタケルに向かってくる。

 

自然とタケルは回避運動をとり始める・・・間に合わない、間に合わないが身体が勝手に動くのである。

 

「(死ぬ・・・またしぬ・・・オレはまた・・・何もできないのか!『スミカ』!!!)」

 

突然、タケルの身体に振動が伝わり、機体は吹き飛ばされる、そして耳に怒号が響く

 

「ジオンの!!!面汚しがぁぁぁっぁぁぁ!!!!」

 

リックドムが放ったジャイアントバズーカがムサイの艦首を打ち抜くとほぼ同時にリックドムはメガ粒子に吹き飛ばされた。

 

タケルの機体に無線が入る

 

「ザザザッ・・・へへ・・・助けてやる・・・て言ったろ?・・・ジーク・・ジ・・」

 

八方に広がるその光は、混沌とした戦場の終わりを告げ、

気を失っているタケルの頬を一筋の涙が流れた。




近接型次世代MS試作型「プロト・ギャン」第2期トライアル試験報告記録。

我がツィマッド社技術開発部はさる10月22日プロトギャンの第2期トライアルを実施せり。しかれども、敵との遭遇により実戦戦闘へと発展せり。この戦闘 において試験パイロットタケル=シロガネは複数の連邦軍MS及びモビルポッドと交戦。その尽くを蹂躙、計16機のMS、16機のモビルポッド、そして2機 のサラミス級巡洋艦を撃破、トライアル任務を全うす・・・・。戦闘は・・・我が社の試作兵器を損失するも、それ以上の戦果を持って実用性を証明したものと 信じる。この戦闘において、護衛についたジオン兵三名は殉職す。タケル=シロガネは何者かにより爆発寸前のプロト・ギャンより救出され、後に我が社員が乗 るムサイに回収される。
              ―ツィマッド社録「ツィマッドの侍」より


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第二話「再生者は活路を見出して~前編~」

宇宙世紀0080、1月5日

敗戦したジオン公国軍は降伏勧告を呑んだ。しかし、戦場だった場所の所々では白旗を揚げても撃たれ続ける兵士達と降伏に異を唱え戦い続ける兵士達がいた。

死神は未だに現れていた。

 

地球圏内上空・技術支援艦ヨーツンヘイム

 

「マイ技術中尉!」

赤髪の女性“中佐相当の大尉”が整備士達に命令を出している男を呼ぶ。

その金髪碧眼の男は終戦から殆ど不眠不休で働いているために目の下にクマを作っていた。

 

「キャディラック特務大尉!」

 

オリヴァー=マイは素早く振り返り敬礼をした。『特務』という言葉にモニク=キャディラックは少し反応をした。ギレン=ザビ総統閣下が亡くなり、ジオン公国が事実消滅し『特務』も既に形だけのものになっていた。モニクはそのまま質問を続ける。

 

「整備状況はどうか?」

 

「ワシヤ中尉のヅダ2号機は何とか活動できるようになっています。予備機は活動可能ですが片腕の修理は目処が立たなかったので、機動に若干不安は残ります。ヅダと送られてきた機体の地上戦用調整も完了しました。それ以外にもオッゴを自動操作でもある程度戦闘できるように改修はできました。HLVもデブリの後ろ、破棄されたムサイ級の後ろに隠れるように配置、降下準備は何時でも行えます。ムサイ級もまだ生きている箇所もあるみたいです、時間があれば何かに使えたかも知れません」

 

淡々とオリヴァーは報告書を見ながら答える。

 

「本当にこの短期間によく『ゴミ』として押し付けられた物にそれだけの使い様を見出せた物ね・・・『リヴァイヴァー』とは良く言ったものです・・・」

 

小さくそうモニクはそう呟いた。

 

「真に価値のある技術は、使う者によって無限の可能性があると、私は思います・・・」

 

「そうね、貴方はそういう人だったわね・・・」

 

終戦後第603技術試験隊に言い渡された最後の指令は試験兵器及び簡易地上チューンを施した宇宙戦用MSの地上稼動試験及び、味方機援護の実用性という支離滅裂としたものであった。実際の命令内容はアフリカに残り、未だ戦い続ける同胞の説得、又は味方の脱出援助というもある。ア・バオア・クー防衛戦で多くの兵士、技術士、士官を失ったジオン軍、第603技術試験隊もその例外ではなかった。ヘルベルト=フォン=カスペン大佐を始めとした学徒兵、整備士を喪い、更に学徒兵全員を解放したために603技術試験隊は人手不足に悩まされていた。実際MSを操縦できるのはモニク=キャディラック特務大尉、ヒデト=ワシヤ中尉、オリヴァー=マイ技術中尉だけだった。故に大量に残ったオッゴは自動砲台として使うようオリヴァーは打診し、多少の整備知識もある事から彼はア・バウア・クー撤退戦で亡くなった整備班長の代りをしていた。

 

―――ヨーツンヘイムブリッジ

 

「・・・今回の作戦の概要は以上の通りです。」

 

沈黙が部屋の中を包み込む、その雰囲気に耐えられず日系人のヒデト=ワシヤ中尉が声を上げる。

 

「ヒェェェー、それ本当にいっているんですか?!HLVにヅダ2号機、高機動型ゲルググとオッゴ何機か突っ込んで、地球に突っ込むって?!それにオッゴを本当に地上で使うんですか?!?!?!」

 

「そうだ」

 

冷静にモニクはワシヤに返す。

 

「今作戦、参加するのはヒデト=ワシヤ中尉、オリヴァー=マイ技術中尉、そして私の三名。ワシヤ中尉はヅダ2号機に、私はゲルググに乗る。マイ技術中尉にはHLVの操作及び、現地にあるギャロップの操縦を頼む。」

 

「それだって、『あるはず』って事じゃないですか!」

 

「ワシヤ中尉、随分と文句が多いが私の記憶では貴様は自ら今作戦に志願した筈でしたが?」

 

「うっ・・・・」

 

言葉を詰まらせる。実際ワシヤはヨーツンヘイムを学徒兵と一緒に降りる事が出来たが、「オリヴァーが降りないなら俺も~」という簡単なノリで降りなかったのである。

 

「大尉」

 

「なんだ?マイ中尉?」

 

「本作戦・・・試験評価なんですよね・・・?」

 

全員、命令の裏に隠された本当の命令は分かっていた、終戦後に試験評価なんてものがあるはずがない、実際は無謀な救出ミッションである、それでいてもオリヴァーは聞かずにはいられなかった。

 

「そうだ」

 

声も荒げず、モニクは冷淡にそう、それが当たり前かのようにオリヴァーの問いに答えた。

 

「そうですか。ならば私は最終調整に向かいます」

 

オリヴァーは立ち上がり敬礼をする。

 

「出発は・・・」

 

<ビービービービービー>

 

警報が艦内に鳴り響く。

 

「何!?」

 

更に艦内アナウンスが響く

 

『本艦索敵範囲内で戦闘発生、我が軍の敗残兵が連邦軍との戦闘を行っている模様』

 

「状況が掴めん、ブリッジにいくわよ!」

 

ブリッジにつくとそこには複雑な顔をした老紳士プロホノウ艦長と冷静な目をした中年のクリューガー副長がいた。

 

オリヴァーは二人に声をかける

 

「艦長どうなってるんですか?」

 

「どうやら、マナーを知らないお客さんがいるようだね」

 

プロホノウ艦長はそう重く静かな声で答えた。

 

「それはどういう・・・」

 

「我が軍の兵士は既に白旗を出し降伏しているにも関わらず連邦軍は攻撃しているようだ」

 

「何だと!」

 

モニクは声を荒げる。

 

「じゃぁ、出撃して助けなきゃ行けないじゃないですか!」

 

ワシヤは急いでブリッジを離れようとする。

 

「待ちたまえ」

 

「でも、艦長、味方が!」

 

「今、我々の任務は『地上でのMS試験運用』だ。今出撃して万が一大気圏突入のタイミングを間違えたら、君達は全く別の所に送り込む事になる。その場合・・・任務は失敗だ」

 

「クッ・・・」

モニクは唇を噛み、悔しそうな顔をする。

 

「艦長!」

 

「なんだね、中尉?」

 

「出撃の許可を。高機道型ゲルググとヅダの推進力ならば、一撃離脱を行い、時間までにHLVに帰還、大気圏突入を行える筈です」

 

「しかし、それでは君達は・・・」

 

「俺からもお願いしますよ艦長!」

 

「私もただ同胞がやられるの見る事はできない」

 

「・・・では出撃を許可しよう・・・すまんね・・・」

 

三人は敬礼をする。

そして素早くモニクが命令を出す。

 

「ワシヤ中尉はヅダ2号機に!私はゲルググで出る!マイ中尉は予備機をHLVに搭載後、降下準備とオッゴの遠隔操作できるか?」

 

「できます!」

 

「了解~!」

 

三人は駆ける。名も知らぬ同胞達を助けるために・・・

 

 

―――戦闘領域

 

ジム一個中隊が負傷した旧ザク一個小隊を追い回す。圧倒的な戦力にも関わらず、仕留めようとせず、旧ザクを嬲り続ける。

 

それの様子を傍観するように、横切る一隻の調査艇。

 

「・・・あれが、人間のやる事か!人は・・・人類は・・・!!」

 

表しようのない嫌悪と苛立ちに声を上げる一人の青年・・・タケル=シロガネ。

 

艦内アナウンスが流れる。

 

『タケル君、ノーマルスーツ(宇宙服)に着替えてくれ、戦場が近づいてきている、我々は出来るだけ離れるようにするが、万が一の可能性がある』

 

タケル達が乗る、ツィマッド社の調査艇は地球上空にあるデブリ、つまり戦後に残った『ゴミ』を回収する目的でマイ達がいる戦域にいた。ツィマッド社にしてみれば、安全にライバル社の機体等を手に入れる機会だった『はず』だ。当然、他の宙域でもこの様な調査が行われている。そんな中、戦闘に巻き込まれたタケル達は不幸である。

 

『キャプテン!俺はプチモビに乗ります、いざというときは・・・俺が囮になります』

 

乗りますと言いつつ既にタケルはプチモビに乗っていた。

 

『・・・本来は止めるべきなのだろうが・・・感謝する我が社の・・・「侍」よ』

 

戦域は素早くタケル達の所に迫っていた。

 

○○○●●

レリー=ヴァン伍長はヘルメット内を涙で濡らしながら、

必死に連邦の一個中隊から逃げていた。

元々中隊規模を誇っていた自分達の隊も今や残り4機

<ドゴーーーン>

・・・残り3機にまで減少していた。

 

「俺達が何をした!俺達が!白旗揚げたろ!もう戦いはないんだろ!」

 

3機の旧ザクは漆黒の空間を駆ける。後ろには一個中隊規模の連邦軍。援軍の可能性もなし、絶望、恐怖、不安、その思いが彼らを襲う。それでも逃げるしかできない3機は必死にバーニアを吹かす。そんな中、内の1機が突然無線を開く。

 

「おい!」

 

「「なんだ!」」

 

突然の叫びに驚く残りの二人

 

「民間機と思われる調査艇を発見した!」

 

「それがどうした!」

 

「流石に連邦も民間人を巻き込まないだろ!近づいて・・・・!!」

 

レリーは仲間が言わんとする事が分かった。詰りは民間人を盾に捕虜にして貰うという物だ。実際、人質を取って反撃して勝てる見込み何てものはない、そして捕虜にされても命の保障なんてものは分からない。しかし、今の彼らが置ける状況で一番良いと思える策をとる・・・それがいかに愚策であったとしても・・・

 

タケルは近づいてくる3機の旧ザクがいることにキャプテンから知らされる。

 

『タケル君念のために、出撃頼めるかな・・・』

 

『はい・・・』

 

タケルはジオン軍ではない、彼らを守る義理も義務もない、しかし彼も又、物資搬送とは言えア・バウア・クー防衛戦を目の当たりにした一人である。悲惨で無益な戦いを見てこれ以上人が死ぬのを止めたいと何処か思っていた。だから、彼らが必死に生き残るためのその僅かな藁に手を伸ばす事に怒る事は出来なかった。俺達を巻き込むなとは言えなかった。

 

『こ、こちら!ジオン軍レリー=ヴァン伍長!我々は貴殿らに危害を加える気はない!繰り返す!我々は貴殿らに危害を加えない!どうにか・・・どうか!我々が無事に投降できるように手を貸してくれ!』

 

声の震えた、若い青年の声がコクピット内に響き渡る。

タケルのプチモビはゆっくりと調査艇から離れる。

出撃さえしていれば、何か出来るだろう、そうタケルは思った。

 

ジオンの旧ザクは調査艇を囲むと、連邦軍に振り返る。

タケルには聞こえなかったがジオン軍が何か無線で連邦軍とやり取りをしていた。

その間は連邦のジムは彼らに近づくが攻撃はしてこなかった。

 

(・・・ッ・・・!)

タケルは何か叫び声を聞いた気がし、周りを確認する。

その時、物理的には見える筈がないのに、後方のジムが彼らに銃身を向けている事に気づく。

 

「罠だ!キャプテン!回避を!!!!」

 

その叫びに調査艇は緊急回避をするも、着弾、宇宙(ソラ)の星となる。

 

「・・・ッ!キャプテン!」

 

タケルの叫び声に反応し、旧ザク3機は滅茶苦茶ながらも反撃する。

しかし、最終局面にすら呼ばれなかった、又は間に合わなかった兵士達である。

いとも容易く1機落とされる。

 

タケルの乗るプチモビは近くに飛んできた、調査艇の一部を掴むと、ジムの集団に投げ込む。そのまま、落とされた旧ザクが持っていたザクマシンガンに向かって飛びこみ、プチモビの全身を使い銃を固定し撃ち始める。

 

突然飛んできた物体に前方のジムは避けるが後方にいたジム1機は高速で飛ぶ鉄の塊に当り行動不能となる。続けて、今まで狙いが甘かった銃撃がメインカメラ目掛けて飛んで来るようになり2機のメインカメラが大破する。そして優勢を信じきっていた連邦軍は混乱した。

 

「な、なんだ!」

 

隊長を務める連邦士官が望遠で状況を確認する。そこには旧ザク2機を援護するプチモビの姿があった。

 

「何の冗談だ!」

 

連邦士官は不可解な軌道を描くプチモビを必死でロックオンしようと追いかける。

 

<ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピ、ピーーー>

 

「消えろ!!」

 

ロックオンを確認し、トリガーに指をかけた瞬間、味方機が吹き飛ぶ。

 

「今度は何だ!」

 

攻撃をかけていた連邦軍中隊の横から、2機のMSと6機のモビルポッドが奇襲をかける。

 

無線が必死に戦いを続けるタケル達にはいる。

 

『そこのザク2機とプチモビ!援護するからこれから送る座標に逃げろ!そこに私達の母艦がある!』

 

そう叫んだゲルググはビームライフルで素早く2機のMSを落とすとそのままタケル達と連邦軍の間に割ってはいるように移動する。

それを援護するように青いMSが銃撃を加える。

それを見たタケルは驚き叫ぶ。

 

『EMS-04・・・ヅダ!・・・ジャン=リュック=デュバル・・・?』

 

今や幻となった青いMS、EMS-10(旧EMS-04)に乗るような男をタケルは一人しか知らなかった、ツィマッド社先任テストパイロット『ジャン=リュック=デュバル』である。タケルはデュバルが抜け空いたテストパイロットの席を埋める形でツィマッドに入社した。この時、タケルはデュバル少佐が亡くなった事を知らされていなかった。

 

タケル達は戦域を離脱し始める。

 

○○○●●

 

『・・・ジャン=リュック=デュバル・・・?』

無線から聞こえた声にモニクとワシヤは驚く、それは一度一緒に戦い、散った仲間の名前であった。ワシヤはそこにかつての仲間を知る人がいると思うと普段は見せない真剣な顔で操縦桿を握った。

そこにオリヴァーからの無線がはいる。

 

『ワシヤ中尉、大尉!これからオッゴをオートで突っ込ませます、その後は直ぐに引き返してください、突入に間に合わなくなります』

 

二人の機体から送られる情報を元にオリヴァーは戦況を把握していた。ミノフスキー粒子が邪魔をして完璧な情報は手には入らない。だが、無人機になったオッゴは戦闘は出来るものの、回避運動などの高度な事はできず、敵の捕捉、攻撃、突撃くらいしか出来ないため、不明瞭な情報でも戦闘をするには十分であった。

 

『おぃおぃ、そんな事していいのかょ~!』

 

『どちらにせよ、オッゴの機動性では大気圏突入には間に合わない、ここで突っ込ませて足止めに使う方が効率的かと・・・』

 

『了解した、マイ中尉!そちらは任せた我々は、これよりザク2機とプチモビ1機を護衛しながら戻る!』

 

『は?プチモビ?』

 

何故プチモビがこんな戦場にいるのかオリヴァーは疑問に思った。

 

『民間機かもしれんな、戦闘に巻き込まれたらしい』

 

『民間機なら敵に狙われる事は・・・』

 

『いや、我々の味方を守ってくれたみたいだ、置いていった場合確実に連邦軍に落とされるわね』

 

連邦軍1個中隊は母艦を引き連れていない、近くにはいるだろうが、その母艦から出来るだけ離れ、消耗させれば、相手は撤退し、自分達は退避が出来るはずだとオリヴァーは考えていた。足が遅くても普通のMSならばヨーツンヘイムの近くまでいけば、艦砲射撃の援護を受けられる。自分達に関しては大気圏突入ラインに逃げ込むため、追っては来ないだろうという作戦だった。しかし、足の遅いプチモビを連れて離れたヨーツンヘイムまで敵MSに追いつかれずに辿り着くのは不可能である。それは他のMSがプチモビを牽引しても同じ事であった。

 

『進路変更です。ザク2機とプチモビのパイロット聞こえるか?進路を変更し、我々のHLVまで来てください!』

 

『中尉!作戦と違うぞ!』

 

『大尉!このままでは作戦は失敗します、今我々が取れる最善策はこれだと愚考します!』

 

モニクは一瞬、何故オリヴァーが突然作戦の変更を言い出したのか考え、そしてプチモビという不確定要素を考慮し、素早く答えに行き着く。それがリスクが高いと分かっていても許可しなければならなかった・・・

 

『了解した・・・』

 

『何でも良いが奴さん、追いついてくるぜぇ!急ごう!』

 

『ワシヤ中尉!プチモビを引っ張れ!私が殿を勤める!』

 

オッゴは次々突撃し、爆散する。6機のオッゴにより全弾一斉発射及び突撃により、数を減らす連邦軍中隊。爆発と硝煙により出来た煙幕は連邦軍の視界を奪った。

 

「チッ!ジオンの蟲どもめ!悪足掻きを!」

小隊長らしき連邦兵が叫ぶ

 

「隊長!危険領域です!地球に引っ張られます!」

 

既に戦域は大気圏突入領域に入っていた。

何機かのジムが引き返す用に反転しバーニアを吹かす。

 

「てめぇーら!根性無しが、宇宙人共がそんなにこわいか!俺はいくぞ!」

 

頭に血が上った3人がタケル達の後を追う。

他のジムは付き合ってられないと言いたげそうに、振り向かず帰艦していった。

 

○○○●●

プチモビはヅダに引っ張られガタガタと機体を軋ませていた。

 

「もう少し!踏ん張って!」

 

後方のゲルググに乗ったモニクがそう声をかける。

 

「見えてきたぜぇ!」

 

ワシヤは破棄されたムサイ級を確認すると歓喜と安堵を織り交ぜ、そう叫んだ。

 

「回避しろ!!」

 

モニクの叫びに散開する各機。ジムが放つビームが宇宙(ソラ)を横切る。

 

「アイツら正気かよ!もう直ぐ大気圏突入領域だぜ!」

 

反転し反撃に移る各機

 

「プチモビのパイロット!貴様はムサイの後方にあるHLVに向え!」

 

「了解した!」

 

 

タケルがムサイに接近した時、オリヴァーから無線が入る。

 

『プチモビのパイロット聞こえますか?』

 

『はい!』

 

『悪いがこちら(HLV)に来るまでに一仕事してくれませんか?』

 

タケルは沈黙する、既に推進剤もエアーも空に近かった。やれる事には限界がある。

そんな心配をよそにオリヴァーは話し続ける。

 

『そのムサイのエンジンはまだ生きている、数時間前に機動実験にも成功しています。残念ながら武器各種は使えません。なので、今から君にはエンジンルームに向かい、自動で出力を上げ続けるようにしてほしい』

 

『・・・!!!詰り、自爆させろって事ですか!?』

 

『そういう事です』

 

『・・・了解』

 

『細かい指示はこちらで出します、時間がありません急いでください』

 

作業は何の問題もなく行われる。外で迎撃に回っている仲間達が作った数分で作業は終る。

 

『エンジン点火!』

 

『では速やかに脱出し、こちらに向かってください180秒前後で臨界点に達します』

 

『了解した!』

 

タケルはいち早くHLVに到着する。

 

○○○●●

タケルがHLVに向かった後、モニク達はムサイを盾に防戦を張っていた。

 

『カウント120秒を切りました、撤退を開始してください』

 

オリヴァーの通信がコクピット内に響く

 

「丁度良かった!弾切れです!撤退します!」

 

ヴァン伍長は空になったザクマシンガンを敵にの方向に投げ捨て、HLVに向かう。

それを追うように各機後を追う。

 

―――連邦軍

「形振り構わずだな!足掻けよ!」

ジムは投げられたザクマシンガンを回避する。

 

「隊長、あいつらムサイの影に隠れみたいですぜ!」

 

「野郎!逃がすな追え!!」

 

彼らは弾幕に足をとられながらも、敵影を追いかける。

距離があるため、当る心配はなくともそれでも、モニク達の攻撃は心理的に彼らの進行速度を遅らせていた。

 

連邦兵はHLVを視認する。

 

「ハッハー!あれで逃げようってのか!やらせるかよ!おぃ。てめぇーら、攻撃をあのダルマに向けろ!」

 

モニクのゲルググが攻撃を盾で防ぎながら後退する。

 

『そろそろ、時間です』

 

オリヴァーのその声に反応し、一同は後ろを振り返る。

 

『10』

 

モニクとワシヤは弾を撃ちつくす勢いで攻撃を続ける。

 

『5』

 

ジムはジリジリとモニク達に近づく。

 

『3・・・2・・・1・・・!!!』

 

その宙域を核の光が包む。

通信が乱れ、数秒の振動がHLVを襲う。

オリヴァーの作戦は成功した、敵ジムを全部巻き込む事ができたからだ。

だが同時に失敗もしていた。

 

・・ ・・・・・

威力があり過ぎたのである

 

衝撃波によりHLVは本来とは違う軌道に入り、重力に引っ張られ始める。

<ビービービービービービー>

警告音がHLV内に木霊する

衝撃から身を戻し、状況を確認する、オリヴァー。

『ワシヤ中尉!大尉!応答願います!応答願います!』

焦り普段は出さない程の大声でオリヴァーは叫んだ

 

『聞こえている!こちらは大丈夫だ!直ぐにでもそちらに迎える!』

 

『同じく』

 

『現在HLVは当初の突入コースより離れています。ワシヤ中尉と大尉は機動力を使い、HLVを本来の位置に押し戻してください』

 

『全く、お前は無茶ばかりだなぁ!わかったよやればいいんだろ!』

 

愚痴を垂れながらも一番近くにいたワシヤのヅダがHLVに取り付き押し戻し始める。

 

『伍長達はどうした!?』

 

冷静に思えて誰もが混乱していた、モニクは旧ザクの姿が見えないのに驚く。

 

『大丈夫です、危険領域ですがHLVに着艦できます!』

 

それはレリー伍長の声であった、もう一体の旧ザクも何とか無事に爆発の衝撃に耐え、レリー伍長の後方にいた。二機の旧ザクが近づいているのを確認するとモニクは素早くHLVに向かった。

 

全員の機体は既に大気圏突入の熱から赤く染まり始めていた。

HLV下部から押し上げているヅダの装甲は少しずつはがれ始めていた。

 

「位置固定確認。ワシヤ中尉、大尉。素早く機体を収容してください。大気圏突入絶対領域に入ります。」

 

右ハッチから入ったヅダとゲルググは後ろに続くレリー伍長の旧ザクを掴み引っ張り、HLVのハッチは閉鎖する。

 

左ハッチにいるタケルも同じくもう一機の旧ザクにプチモビのマニュピュレーターを伸ばす。

 

手が届きそうになったその時

 

<ボゴーーーーーン>

 

旧ザクのエンジンが限界を超える。

咄嗟にタケルはもう片方のマニュピュレーターをハッチに固定し、距離を稼ぎ、手を伸ばす。

 

3m

 

「うぉぉぉぉぉ!」

旧ザクのパイロットが叫ぶ

 

2m

 

「踏ん張れ!」

タケルが答えるように声を上げる

 

1m

 

「よし!!捕まえ

 

一瞬の安堵

 

ほんの一瞬の希望

 

それを打ち砕くように、

 

赤い、

    赤い、

        赤い光が旧ザクの肩を打ち抜く

 

『ハ・・ハハ・・・宇宙人が・・・星になりやが

 

そのジムは地球に吸い込まれ、

吹き飛ばされたザクは宇宙(ソラ)に舞い、闇に吸い込まれ、

残されたタケルは残ったザクの腕を見つめ、

HLVのハッチは強制閉鎖した。




宇宙世紀0080、1月5日
駆逐モビルポッド「オッゴ」自動操縦による戦力評価報告書
我が第603技術試験隊はさる1月5日自動操縦に改修せし駆逐モビルポッド「オッゴ」の試験運用を実施せり。救援を要す同胞を救うため敵と遭遇、実戦戦闘へと発展せり。この戦闘において駆逐モビルポッド「オッゴ」6機は無人機ながらも連邦軍MSと奮戦。有人MS5機及び小型MS(プチモビ)と共に戦闘せり、ムサイ級熱核エンジンの暴走による自爆攻撃の支援があるも、ジム一個中隊(16機)を撃退せり、任務を全うす。戦闘は・・・駆逐モビルポッド「オッゴ」を全機損失するも、それ以上の戦果を持って実用性を証明したものと信じる。この戦闘において、救援要請をした我が軍一個中隊は一人を残し殉職す。民間企業であるツィマッド社の調査艇も戦闘に巻き込まれ爆散せし。しかし職員の一人を無事保護せり。
      ―宇宙世紀0080、1月5日オリヴァー=マイ技術中尉


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第三話「再生者は活路を見出して~後編~」

第603技術試験隊活動記録

コレハ正式ナ記録ニ在ラズ。第603技術試験隊ガ受ケタ最後ノ任務ヲ記録スルタメ、第603技術試験隊、隊員デアル『モニク=ギャディラック特務大尉』、『ヒデト=ワシヤ中尉』、『オリヴァー=マイ技術中尉』、及ビツィマッド社社員『タケル=シロガネ』ガツケタ音声記録デアル。



宇宙世紀0080、1月5日

 

<カチ、ジーーージーーー>

 

私達は『試験兵器及び簡易地上チューンを施した宇宙戦用MSの地上稼動試験及び、味方機援護の実用性』という任を受け、地球衛星上にてHLVを受け取った。高機動型ゲルググはア・バウア・クー撤退時に収容した機体である。技術バカのお陰で形だけでも何とか任務をこなせられるようになった。近頃アイツは『リヴァイヴァー』と呼ばれているらしい。何でも大破に近い兵器でも見捨てずに使い道を見つけるからとか・・・終戦後に二つ名がつくとは皮肉ね。私達は大気圏突入時に救援を求める同胞に遭遇。救援に向かうも結局一人しか助けられなかった。アイツは『邪道に始った戦争は邪道に終る』と呟いていた。私達が『ブリティッシュ作戦』で背負った業が今になって返ってきたのかもしれない。予想外の事件はあったが予定ポイントに突入でき、アフリカ大陸最南端、ケープタウン付近に着陸した。地上についた私達はHLVから離れ、北を目指す、先ずは367物資集積所跡に向かいギャロップの回収が先決だろう。今日の所は即座に安全領域まで入ってから野営をした。私達が降下した直後、暗号通信によりアフリカに残った同胞にはあるポイントに集合するよう伝わっている。できれば多くの同胞がそれを聞きアフリカから脱出してくれる事を私は願う。今日は・・・同胞を一人(レリー=ヴァン伍長)しか助けられなかったが戦闘に巻き込まれたツィマッド社社員の保護に成功する。明日彼が起きた時に名前を聞く事にしよう。そういえばその社員とアイツが隻腕のヅダに何かしていたが・・・まぁ問題はないでしょう。今日の記録はここまでとする。

 

<カチ>

 

 

宇宙世紀0080、1月6日

 

<カチ、ジージッジ、ジーーー>

 

え、記録ボタンこれでいいの?あれ、始ってる?ああーテステス、本日は雨なり、本日は・・・良いから始めろって?はいはい、じゃ取りあえず、いやー驚いたねーマジで。603技術試験隊に配属されたから生きた心地がしない事は度々あったが昨日もその一つだね。本当に泥のように眠るっての?春眠暁を覚えズ?まぁいいや良く寝れたわ。ちなみに助けたレリー伍長だけど、大と小両方もらしてて、ザク内は大惨事だったわ、ハハハ。もう一人はタケル=シロガネっていうツィマッド社、社員でテストパイロット。・・・デュバル少佐の後任としてツィマッド社で働いているらしい。デュバル少佐の事・・・教えたら、何か落ち込んでた、昨日の事もあるし無理はないかもな・・・。そういえば、オリヴァー曰く『ツィマッドの侍』とか『白銀の武士』とかいう名前で知られているらしい、俺もそういった二つ名がほしいな、オリヴァーでさえあるんだし。そうだなー『蒼い箒星』なんてどうかな?まぁ、俺の2号機は昨日ので塗装剥がれて銀色になっちゃってるけど。名前とか関係なく同じ日系人としてタケルとはノリが合うね、仲良くできそうだわ~。俺達はこれから北に向かい味方を助けたり援護したりして、アフリカ中央にあるバミグ・・・えーっとなんだっけ!?<『バミングイ・バンゴランだ中尉!全く私は急がしいのに』・・・>そうそのバミグ・ブランコランに向かうらしい。何でもまだそこの付近はジオンのゲリラ勢力が大きく、簡易打ち上げ施設もあるらしい。まぁ、いざとなったら普通に降伏するんだろうけど。そういえば今日起きたら、予備機の腕が直ってたな、残った旧ザクの腕を応急処置だけどくっつけたって。ちなみに予備機には昨日からタケル君が乗ってる。元々ツィマッドのテストパイロットだから難なく操縦したね。まぁ!俺の方が

 

<ブツ>

 

【録音機記録スペース満杯によりこれ以降の記録無し】

 

宇宙世紀0080、1月7日

 

<カチ、ジーーージーーー>

 

昨日の記録機のメモリーが一杯なので新しいのにしました。僕達は引き続き北を目指し、ギャロップが放置されているとある367物資集積所に向かった。僕が乗るはずだったヅダをタケル君に渡したため、一番情報収集率、索敵能力の高いキャディラック大尉の14B・・・高機動型ゲルググに載せてもらった。元々宇宙空間戦闘を目的として作られた機体のため、地上用に多少チューンしても、操縦は困難のようだ。乗り心地もお世辞にも良いとは言えない。この日、僕達は連邦軍と味方の戦闘を確認。連邦軍というのは正しくないな。実際は陸戦型ゲルググと陸戦型ガンダムの2体がジオン地上機甲小隊を説得しようとしていた。この2機は終戦を知らせようとしたようだが、地上部隊は信じようとしなかったようだ。実際僕達もどうにか戦闘を止めさせようとしたが。こっちの通信を全く受けてけようとしなかった。それに痺れを切らしたタケル君が単身戦場に飛び込み、尋常じゃない機動で残った地上部隊のドムとザクの戦力を無効化した。ワシヤ曰く、14Bよりは操縦は楽でも、まだプログラムを洗い直す必要があるくらい癖のある機体のはずなのに、タケル君はそんな問題がないようなくらい奇妙で・・・言葉で表すなら『変態的』な機動を見せた。この後ワシヤが『俺の方が~』と言って自分の腕前を自慢するのを止めた。僕達は連邦軍のパイロット、実験部隊隊長マット=ヒーリィ中尉と話をし。更に陸戦型ゲルググのパイロット、外人部隊小隊長ケン=ビーダーシュタット少尉と相談した結果。ここで保護した同胞は彼らに任せる事にした。ヒーリィ中尉はコーウェン准将との会談をさせてくれた。そして、コーウェン准将はジュネーブ条約に則った人道的捕虜の待遇を約束してくれた。更に、僕達の事も黙認してくれたようだ。ヒーリィ中尉とビーダーシュタット少尉は戦争が終って尚戦い続けるのは不毛だといった。僕も同意見だ。レリー=ヴァン伍長は保護を拒否し、僕達といく事にしたらしい。出来ればだが、復讐なんてことを考えていないでほしい。余談だが、その夜は彼らと過したのだが、タケル君がものスゴイ勢いで両隊長に駄目だしされていた。貴重な実験機を任される実験部隊隊長と常に物資不足の外人部隊隊長である、タケル君の機体に大量の負担をかける戦い方に思う所があったようだ。このままだとタケル君は徹夜で二人の講義を受ける事になるだろう。ワシヤと大尉もその講義に参加するらしい。僕も興味があっるので聞く事にした、技術に関して知っておいて損をする事はないだろう。以上記録終了。

 

<カチ>

 

宇宙世紀0080、1月8日

 

<カチ、ジーーージーーー>

 

えーっと・・・今日は367集積所って所に到着して、ギャロップを発見したので、皆さん忙しく。俺が代り・・・ハァ~~マジ、寝みぃ・・・代りに記録をとる事になりました。実際今日は比較的に平和ですね。ワシヤさんもちょっかい出してこないですし。まぁ、何時もの良く分かんねぇハイテンションなノリで話されますけど。EMS-10ヅダの地上運用は順調。デュバルさんが戦場に出る前に一度乗った事があったけど、戦場改良がされていて、プログラムのお陰か知らないけど、出力が安定している。昨日はヒーリィさんとビダーシュタットさんに交替で扱かれて大変だった。細かい操作方法を淡々と叩き込まれた。確かに俺の今までの機体の動かし方はまるで『整備を必要としない機体を操る』ようなもんだったんだと本当に思った。確か前に会社の整備班長に『テストパイロットとして最高、MS乗りとしては最悪』て言われたのが今になって理解したよ・・・。そういえば、ここら辺で注意しないと行けない部隊が複数あるらしい危険度の低い順で「インビジブル・ナイツ」―投降拒否をし続けるジオン残党らしい、まだ戦力が整っておらず同じジオンだから攻撃はしてこないだろうとの事。まぁ、売国奴と思われたら襲われるって言ってたな。次に連邦軍の「ファントムスィープ隊」、これは急遽編成されたジオン残党討伐部隊。まだ招集されたばかりなので戦力は整っていない。さらに遭遇の確立は低いとか。危険度中くらいのが「砂漠のロンメル」率いるサハラ砂漠部隊。こちらも投降を完全拒否し、未だにゲリラ活動しているそうだ、俺らの近くにいるらしく、間違って投降を促したらアウツ!デザートザクを使う部隊なので見たら即効逃げる。下手に一緒に戦わされたら本末転倒だそうだ。最後に危険度『高』なのが通称「黄昏コウモリ」という傭兵団。今は連邦に雇われていて、ジオンと見たら直ぐ襲ってくる。何でも夕方時の奇襲を多くしたから「黄昏」、元々戦争当初はジオンに雇われて、今は連邦に雇われているから「コウモリ」らしい。隊長機がオレンジ色のジムストライカーで僚機は陸戦型ジムだそうだ。・・・俺は無事に帰れるのか?まぁ、考えても仕方ない!いいわ落ちます!

 

<ガチ>

 

宇宙世紀0080、1月9日

 

<カチ、ジーーージーーー>

 

記録を今確認したけど、ひどいわね。確かに正式な記録じゃないにしろ・・・ともかく、私達はギャロップを回収し、今朝修理が完了したわ。流石としか言い様がない、最初みた時は本当に動くのか疑問に思ったけど、技術屋の観点との違いというのかもしれないわね。今日は北上の途中、我が軍の歩兵部隊と遭遇、ギャロップに収容する。何とか私達の本分は遂げられそうである。アイツは・・・マイ中尉は働きづめで顔色が悪い、ちゃんと寝てるのだろうか?逆にワシヤ中尉とシロガネは元気が有り余っているようだ。ヴァン伍長に関しては数日前から口数が減っている。何か思い悩んでいるようだ。そしてあの目・・・彼の目が気に入らない。私はあの目を何度か見た事がある。戦士が死兵となった時の目、野良犬の目・・・明日にはバミングイ・バンゴランに着く・・・降下時から発信している暗号通信も連邦軍に解読されるのも時間の問題だろう・・・急がねば。噂では未だに生きている戦艦があるらしいけど・・・記録は以上だ。

 

<カチ>

 

宇宙世紀0080、1月10日

<カチ,ジーーージーーー>

 

ザンジバル級だぜ!ザ・ン・ジ・バ・ル・級!艦長とヨーツンヘイムには悪いけど、やっぱこういう高性能艦は燃えるぜ!今日バミン・ブランコに着いて<『バミングイ・バンゴランだ中尉!何度いったら』・・・>大尉今日は俺の番ですよ!<『そう思うならしっかりやれば良いだろう!』・・・>まー!そこで我々はザンジバル級を発見したのであります!今オリヴァーとタケル、それにここで合流した人達とギャロップのパーツ剥がして修理している。『パーツの流用性・・・論理的だ!!!』とオリヴァーが叫んでいた、この頃アイツの言動が意味不明になりつつある。タケル曰く『徹夜ハイ』らしい。元々ザンジバルの状態は悪くないらしく明日の夕方には発進できる予定。基地に放棄されたマゼラアタックもオリヴァーの指示で手の空いた者が自動トーチカ代わりにするため作業に入っている。全く何時の間にそんな命令も出したんだアイツは?・・・集まった兵士も結構な数でザンジバルが一杯になりそうだ。問題としては、集まった兵士達の情報から連邦の動きや『砂漠さん』の動き、更には『バット・アット・ダスク(黄昏コウモリ)』の動きが活発になっている事が分かったんで。んで、今俺達は見張りをしているわけだわ。そういえばレリーの奴が自分の旧ザクを改造してたな。現地改良型っていうのか?ザクのミサイルポッド着けたり、マゼラ・トップ砲拾ってきたり、追加シールド着けたり。出力足りなくなると思うんだけどなー。そういえば時間がある時タケルがなにやらレリーに話しているな。心のケアも得意なのかあの『侍』は?さて!ここまで来たら祈るだけだぜ!今日はここまでだな!

 

<カチ>

 

 

宇宙世紀0080、1月11日

 

<カチ、ザザ、ザーーーー>

 

現在・・・宇宙世紀0080、1月11日1546・・・まだ日は沈み初めていない。予定より早く僕達はザンジバルの修理を終えた。ギャロップは使用不可能になったが、カーゴはまだ使い様があるので基地外部に置いてある。出来れば使わない方向が好ましい、それにここ最近同じような事をした気が・・・いや今はそんな事はいいか。兵士達の搭乗は8割完了している。後は最後に僕達の機体を乗せたら終了だ。息苦しく、広い宇宙が恋しくなるのは不思議な気分だ、早く任務を終わらせ寝<ビービービービービービー!>な、どうしたんだ?大尉!<ザザーザー、『マイ中尉!我々は敵の襲撃を受けている!敵勢力、敵戦力共に不明!ザンジバルの発進はどれくらいで完了する!?』>1600には完了します。<『15分前後か・・・我々で時間を稼ぐ!中尉は発進準備に集中しろ!』>了解!いざとなったらギャロップのカーゴを使ってください!<『カーゴをか?』>中に爆薬を積めました、先の・・・いえこの戦争で使われた戦法です・・・その時は失敗したそうですが・・・使える筈です!<『了解した!』>・・・・また戦いが始る。

 

<カチ!>

 

○○○●●

開戦は無人マゼラアタックの爆発で始った。

連邦軍は北北東及び西からの二面進行を開始。

バミングイ・バンゴランから離れた場所でも戦闘が発生している。

 

「・・・降伏勧告無しの攻撃・・・連邦は私達を殺る気みたいね、状況はどうなってるか?」

 

モニクは戦闘が見える北北東に向いながら、回線で他のメンバーに呼びかけた。

 

「こちらレリー=ヴァン伍長!敵は西側から進行、ジムと61の混合部隊!数は不明!既にマゼラアタック自動射撃はオンにしました!ジムの肩についてるマークは・・・髑髏!」

 

東を守っていたレリーは敵を迎撃しながら、叫ぶ。

 

「噂のファントムスィープか・・・厄介な・・・」

 

苦い顔をするモニク

 

「北北東からも敵が進行!同じく髑髏のマークだ!しかしこちらの部隊は後方より攻撃を受けているみたいだぜ!」

 

ワシヤも同じくヅダで敵を撃退しながら報告した

 

「どういう事?」

 

そんなモニク達の疑問を答えるかのように通信が入った

 

『・・・こちら、ロンメル少佐・・・応答願う・・・』

 

「“砂漠のロンメル”・・・いえ、ロンメル少佐、こちら第603技術試験隊、モニク=キャディラック特務大尉であります」

 

『ほう、中佐相当官殿ですか。我々はジオンの意思を継ぎ戦い続けている。一度掲げた銃を下げ戦いを止める事に思う所はある・・・だが、だからと言って同胞を見捨てる気はない!援護する』

 

「ご協力感謝いたします、ロンメル少佐」

 

心強い味方が出来、モニクの気持ちに余裕ができた

 

「モニクさん!俺はレリーさんの援護に回ります!」

 

南に配置されていたタケルはヅダを駆りレリーの守る西に向かった。

 

「頼む・・・我々は北北東の敵勢力を殲滅次第、そちらに向かう・・・」

 

オリヴァーの通信が入る

 

「ザンジバル級の発進準備は順調です、戦闘終了前に発進する事も考えて、積極的にキャノン系とスナイパー系を落としてください」

 

「「「了解(した)!」」」

 

モニクは個人通信を開きタケルに話しかける

 

「タケル君・・・」

 

「何ですか?」

 

「ヴァン伍長の事だが・・・」

 

「大丈夫です・・・俺は守りたいものを本当に守りたいという意思でここにいて、このヅダに乗り、戦っています・・・守ってみせます、レリーさんもモニクさん達も、ザンジバルの皆さんも・・・こんな人と人との争いで命は散らせません、やってみせます!」

 

「・・・フフ」

 

モニクにはタケルの言葉に一瞬自分の弟を思い出した

 

「俺・・・おかしい事いいましたか?」

 

「いや、違うわ、この戦争・・・本当に貴方達のような若い子の方が覚悟を持って戦っているんだと思ってね」

 

「若いから・・・無謀なだけかも知れません・・・」

 

「・・・そうね、死なないでね・・・」

 

「モニクさんも!」

 

通信を切り、二人はバーニアを更に吹かす。

 

 

○○○●●

レリーは一人西より攻める部隊に食い込んでいた。

 

「はは、僕にも出来るじゃないか!連邦が!仲間の仇だぁぁぁぁぁ!!!」

 

西は陽動部隊だけであったため数は少なく、罠やトーチカ等が配置されているこの場所を守るのは楽であった。タケルの判断でマゼラアタックは時間差で攻撃を行い、止め処なく敵に攻撃を加えていた。その猛攻と森中に広がる罠が連邦の足を鈍らせる。そこをレリーのミサイルポッドとマゼラ・トップ砲が狙い、結果レリーは難なく敵を撃墜していた。

しかし実戦経験の少なさ、そして高揚感がレリーの判断を鈍らせる。

 

優位を保てる距離から、敵のキリングディスタンス(攻撃範囲)に自ら足を入れた。

 

レリー機のマゼラ・トップ砲がジムを吹き飛ばした

 

「これで!4機目!大した事ないな!連邦も!」

 

そう叫ぶレリーに対しタケルが激を飛ばす

 

「レリーさん、油断しないでください!!前に出すぎです!」

 

『その小僧の言う通りだ、素人が!』

 

レリーが気づかない内に、沈み始めた太陽を背に一機のジムが迫っていた。

太陽と同じくらいの橙色、手に持つツイン・ビーム・スピア。

 

「うわぁぁぁっぁー」

 

『散れ!』

 

ツイン・ビーム・スピアは旧ザクに向かって伸びる

 

 

・・・しかしそれは当る事はなかった・・・二機の間をマシンガンの弾が割ってはいる、一発はビーム・スピアを捉え、破壊はせずとも弾き飛ばす。

 

『・・・でこっちはエースか!あんな距離から、マシンガンの弾を当てるのか・・・距離をとるか・・・』

 

橙色のジムは避けながら、ビーム・スピアを拾い、森の中に後退する。

 

「レリーさん!大丈夫ですか?一旦下りましょう」

 

タケルはレリー機に近づき、警戒しながら後方に下る

 

「あ、ああ・・・」

 

放心するレリー。画面越しにその動揺が目に見える。本気でに死ぬと思ったレリーの目は死に囚われていた。そこにタケルは言い放つ

 

「死力を尽くして任務にあたれ、生ある限り最善を尽くせ、決して犬死にするな・・・」

 

「え・・・」

 

「俺はそう・・・誰かに教わりました・・・誰に言われたか思い出せませんが、俺はこの言葉に従い今日まで生きてきました・・・レリーさん、死に急ぐ様な戦い方は止めてください、死んで逝った仲間のためにも・・・」

 

「・・・」

 

自分と同い年くらい青年にそう言われ言葉を失い、レリーは少しずつ冷静さを取り戻す

 

タケルは回線を開きオリヴァー達に通信を送る

 

「こちら西エリアのタケル・・・橙色のジム・ストライカーと遭遇、そのジムが引き連れた陸戦型も遠くに確認しました」

 

「それって、黄昏コウモリじゃねぇーか!?」

 

「・・・日の入りと同時の攻撃、橙色のジム・ストライカー・・・間違い無さそうね、増援を送りたいのだけど、こちらも手が離せないわ」

 

ワシヤとモニクが言う様に、ファントムスィープの攻撃に連動し、黄昏コウモリの部隊は別方向からの攻撃を開始していた。

 

「・・・カーゴを使おう」

 

オリヴァーが冷静に言い放つ

 

「カーゴには大量の爆薬が積んである、それにホバー機能も健在だ、誰かがとりに来てくれれば、そちらに運ぶのは難しくない。幸い罠とマゼラアタックの設置位置で敵の大体の移動経路は分かります。その移動経路上に置き、爆発させれば、敵勢力を崩す事も可能かと」

 

「しかし、マイ中尉!その場合西側を実質MS一機で押さえないといけないではないか!」

 

オリヴァーの提案にモニクが疑問をぶつける

 

「肯定です」

 

「相手は、名のある傭兵団だぜ、連邦の陽動部隊と同時に相手すんなって無謀じゃ・・・」

 

「記録が正しければ・・・タケル君なら・・・もしかすると・・・」

 

話を振られたタケルは大きく深呼吸をする

 

「フーーー、レリーさんカーゴとりに行ってください、ここは俺が抑えます」

 

「タケル君!」

 

「それが“最善”です、決して“犬死”はしません、何より俺は一対多数は得意ですから」

 

ニコリと自信ありげに微笑むタケル

 

「じゃ・・・僕も死力を尽くすよ!」

 

旧ザクはザンジバルのいる中央エリアに向かった。

 

「さて・・・来い!」

 

目に見える敵にタケルは襲い掛かる

 

 

○○○●●

巷で『黄昏コウモリ』と呼ばれる傭兵部隊を率いる、ケニー=ロンズ大尉は悪夢を見ている思いで原状を確認していた。珍しいMS、それはオデッサ作戦前に連邦のプロパガンダ放送がポンコツと称していた青いMS・・・ヅダ。

 

「ハッ・・・冗談じゃない、何がポンコツだ」

 

笑うしか、彼には出来なかった、確実に落ちていく連邦のジムと61式戦車。ヅダはポンコツなんて程遠い機動性を誇っていた、しかも腕の一つは応急処置で直したのか、別の機体のをつけている、そんな機体一機を落とせないでいた。彼の部隊は流石に無茶な任務ばかりを与えられて生き延びた部隊だけあり、まだ被害は出ていない。しかし、それも長くは続かないだろうと彼は感じていた。先の狙撃もありヅダのパイロットが射撃が得意だと目星をつけ、弾切れを狙うように部下に命じた。弾切れし、接近戦になったヅダ更に強くなり、奇妙な機動も合わさり手がつけられなくなっていた。こんな奴を相手にするくらいなら、数ヶ月前に与えられた陸戦型を使い宇宙で索敵を行うミッションの方が遥かに容易いと思えてきた。

 

「・・・ジオンのテロリストかゲリラね・・・こんだけ強い奴がいるなら、そんな事しなくても正面から基地落ちそうなんだがな・・・」

 

そう思える程、目の前のヅダは多対戦を得意としているようだった。

 

「しかし・・・ふむ、あの戦い方何処かで見た事があるんだがな・・・今は戦闘に集中するか・・・まぁ、しかし結局は一体だしな、悪いが、本当の集団戦というのをご披露しよう」

 

黄昏コウモリは連携をとりタケルに攻撃をかけはじめる

 

○○○●●

タケルは弾切れになりつつもトラップと無人マゼラアタックを利用し粗方の陽動部隊を片付けていた。オリヴァー達との通信は続けている、既にカーゴを回収したレリーがタケルのいる所まで向かっている事を知った。しかし本格的に動き始めた傭兵部隊に苦戦を強いられていた。

 

傭兵部隊の連携は抜群であり、止めどない波状攻撃をタケルは受けていた。

 

「クッ・・・部隊の錬度の差でここまで違うのか・・・」

 

既に左肩に取り付けられている盾はボロボロになり、白兵用のピックは使い物になっていなかった。タケルの武器はヒートホーク一本とヅダの機動性のみという状況に追い込まれていた。

 

『ここまで、凄腕とは・・・敵ながら天晴れだよ!』

 

何度目になるか分からないジム・ストライカーとの接近戦、ビーム・スピアをヒートホークで上手くいなす。

 

「ああ、天晴れついでに撤退してくれないかね!」

 

ヅダは体当たりでジムを弾く。

 

『こっちも契約てのがあってね!出来ない相談だ!な!』

 

弾かれたジムはバルカン砲を発射する。それを盾で受けるヅダ。そこを狙ったように後方から陸戦型ジムのミサイルが襲う。

 

今まで通り避けようとするタケルだが、一瞬ヅダの動きが鈍る

 

「しま・・・」

 

向かってくる、ミサイルの何発かが、マシンガンに落とされる。

一発をヅダの盾で受け、盾は大破する。

 

「タケル君!」

 

レリーの旧ザクがカーゴを操作し戻ってきた。

それを確認すると敵にカーゴ爆破の邪魔をされないため、タケルは敵に突っ込む

 

『おおーっと、行き成り勢いが良くなったね!』

 

ヅダのヒートホークを咄嗟にジムはスパイクシールドで受ける

 

「ああ、そろそろ、終わりにしようと思ってね!」

 

接近戦闘をしながらタケルはレリーとの個人通信を行っていた

 

「レリーさん、準備は?」

 

「何時でも射出して、爆発させる事ができるよ・・・オリヴァー中尉の準備の良さには驚きだね」

 

レリーはカーゴを目標ポイントまで移動させはじめた。

 

『小僧、俺も同感だ、終わりにするぞ!』

 

後方の陸戦型ジムが一斉射撃を始め、咄嗟に空中に逃げるタケル

 

それを読んだようにジム・ストライカーも空中に上がる

 

『小僧、教えておいてやる、お前は凄腕だが、パターンが決まり過ぎている』

 

そう言い放つと同時にツィン・ビーム・スピアをタケルに目掛け投げつける

 

「させるか!!」

 

それを難無く避けるタケル

 

『・・・そして、戦場という生き物が見えていない・・・』

 

その言葉を聞いた、タケルはハッとなり後方を確認する

 

そこにはビーム・スピアで貫かれているカーゴがあった。

 

カーゴは目標ポイントに到達する事なく・・・爆発した

光が周辺を包み込み、爆風が機体を揺らす。

 

「レリーーーーーさぁぁぁっぁぁぁん!!!!!」

 

地上に着陸したタケルはバーニアを吹かし、ヒートホークを掲げ、ジムの着陸を見計らい袈裟斬りを加える。

 

「アンタはぁぁぁぁあああーーー!!!」

 

攻撃をビームサーベルで受けるジム・ストライカー

 

『それが戦場という物だろ!テロリスト、ゲリラがそんな覚悟も無しに戦場に立っているのか!!!』

 

ジムはヅダに蹴りを加え後方に飛ぶ。

 

「誰が!テロリストでゲリラだ!」

 

その反応に一瞬ジムの動きが鈍くなる。

その隙を突き、再度タケルは攻撃を加える。

 

ロンズは避けそこない、右腕を持っていかれるがスパイクシールドを叩きつけ再び距離をとる。

 

『小僧・・・本当にやる、この戦争で、今日の契約程割に合わないと思った事はない・・・いや、ジオン側でのオデッサも酷かったな・・・俺はケニー=ロンズ大尉だ・・・お前は?』

 

静かにそうロンズは問いた

 

「・・・タケル=シロガネ・・・唯のタケル=シロガネだ・・・」

 

その官位を述べない、タケルにロンズは疑問を持つ・・・そして、その聞いた事のある名前を思い出し、疑問の回答に素早く辿り着く

 

『タケル=シロガネ・・・ツィマッド社の・・・“白銀の武士”・・・』

 

「ああ・・・」

 

タケルはロンズの言葉を肯定し、ゆっくりとヒートホークを構える

 

『民間人がこんな所で何をしている?』

 

ロンズは聞かずにはいられなかった。

 

「・・・ジオン残党の・・・恩人の・・・脱出を手伝っている」

 

『・・・ハッ・・・これも縁かね・・・』

 

それを聞いたロンズは考えた末・・・戦闘の構えを解き、後方に下り、一般回線を開く。

 

『こちら、傭兵団のケニー=ロンズ大尉だ。我々はこれよりこの戦域より離脱する』

 

その通信と同時に陸戦型ジムも撤退し始める

 

疑問に思ったモニクが一般回線に割り込む

 

『何故だ!?』

 

『我々はここにジオン残党の“民間人を襲う”テロリストかゲリラが集結していると言われ雇われてきた、しかし実際はそのような者はいない。これは契約主が契約違反をした事になる。契約外の仕事をする傭兵はいない。まぁ、ゲリラはいるようだが、たまたまこちらに来ただけであり、目的地に元々いたわけじゃないみたいだしな』

 

「アンタ!逃げんのか!!」

 

タケルの叫びが紅に染まる空に響く

 

『ああ、シロガネ君よ、俺達を追撃するのは構わないが、さっきの旧ザク、大破してないぞ』

 

「なっ!?」

 

タケルはカーゴがあった所を見つめる

 

『追加装甲をつけていたみたいだが、どうやら耐熱パネルだったようだな、それに爆発の瞬間に後ろに飛んでバーニアを全力で吹かして、威力を軽減していたようだ』

 

タケルはレリーのいる所に向かう

 

『んでは、ジオンの皆さん出来れば縁もなく合わないよう祈りましょう。連邦の皆さんは上司がちゃんと契約を守る事を祈りましょう』

 

そう言い残し、傭兵部隊は夕陽に消えた。

 

○○○●●

レリー機中破、タケル機小破、ワシヤ機弾切れになるも、黄昏コウモリが撤退した事により、形勢はジオン軍有利となる。モニク、ワシヤ、タケル、そして、レリー各機はザンジバル周辺に集まり、警戒態勢を引く。残りの連邦軍はロンメル少佐に任せていた。

 

「ザンジバル発進準備できました」

 

「マイ中尉、急いで発進する必要もないだろう敵を殲滅した後で・・・」

 

<ピピピ、ピピピ、ピピピ>

 

暗号通信がモニク達の機体に送られる。

それをワシヤが読み上げる

 

「敵、連邦軍・・・増援ヲ送リ・・・素早ク、退避スベシ・・・不可視ノ騎士」

 

「不可視ノ騎士・・・インビジブル・ナイツ・・・!!マイ中尉!」

 

「分かっています、ザンジバル発進カウントに入ります。ロンメル少佐にも連絡を」

 

『こちらにも暗号通信はきている、大丈夫だ我々は北の砂漠に退避する、砂漠までいけば我々のホームグラウンドだ。連邦共には遅れはとらん』

 

「ロンメル少佐・・・有難うございました、御武運を」

 

『大尉こそ、我らが同胞任せましたぞ・・・ジーク・ジオン!』

 

「「「「ジーク・ジオン!!!」」」」

 

ジーク・ジオンの勝鬨と共にザンジバルは宙を目指す。

 

<ビービービービー>

・・・しかし、事は簡単にはいかなかった。

 

「ミサイル、南より来ます!」

 

「よりにも、よってロンメル少佐達がいない方向から・・・マイ中尉後方のハッチを開け迎撃する!」

 

「了解。ハッチ開きます」

 

後方ハッチからモニク機、レリー機は攻撃を開始した。弾切れのタケル及び、ワシヤは砲撃手として迎撃に加わっていた。

 

確実に落ちていくミサイル

 

(・・・・ッ!!!)

「オリヴァーさん!!速度落として!!!!」

 

タケルの突然の叫びに驚きながらも一瞬速度を落とすオリヴァー

 

ザンジバルの前方を掠めるようにビームが光る

ブリッジのガラスは衝撃で弾け、衝撃がオリヴァーを襲う

 

「う・・・うっ・・・」

 

「オリヴァーぁぁぁぁ!」

 

モニクはオリヴァーの名前を叫ぶ

 

「だ、大丈夫です。隔壁閉鎖、密封化・・・僕は・・・僕達は・・・!!!」

 

ザンジバルは速度を上げ、その周りをビームが抜ける

 

「ここからじゃ、撃てないぜぇ!」

 

ワシヤは限界ギリギリまで砲塔をビームがくる方向に向ける

 

「私も、駄目だ・・・」

 

「こっちも同じです、このままじゃ!!」

 

「・・・」

 

一人無言のレリーの旧ザクがハッチギリギリの位置に立つ。

 

「レリー伍長なにを・・・バカな事はやめろ!その機体では無理だ!」

 

そして、旧ザクはザンジバルから飛び出した

 

バーニアを吹かし、マゼラ・トップ砲を狙撃方向に向って連射する旧ザク

 

静かにレリーは語り始める

 

「キャディラック大尉、マイ中尉、ワシヤ中尉、そして・・・タケル君・・・僕は貴方達と共に歩み、初めてこの戦争で戦う意味を見つけた気がする。僕は戦うよ、死んだ仲間のためじゃなく、生きている仲間のために・・・」

 

下から突き上げるビームの雨が止む、そしてパラシュートも無く高度からレリーの機体は自然落下していった

 

「伍長!!!」

「レリー!!」

「レリー伍長!」

 

「タケル君・・・死力を尽くして任務にあたれ、生ある限り最善を尽くせ、決して犬死にするな・・・この言葉、僕も貰うよ・・・」

 

タケルの視界は滲んでいた。決して今の結果をタケルは彼に求めていなかった。

 

「はい・・・」

 

そしてザンジバルは大気圏を抜け・・・連邦軍の追撃を逃れたのである。

 

 

○○○●●

――――地球衛星上

青い、母なる地が足元に広がっていた

 

タケルは重い空気の漂う艦内、ブリッジに向かった。

途中、ワシヤとモニクに合流する。

そして、ブリッジの扉を開けると・・・そこには宙に舞う赤い液体とオリヴァーがいた。

 

「オリヴァーーーーー!!」

 

モニクは素早くオリヴァーがいる方向に行き、彼を抱き上げる

 

「死ぬな・・・オリヴァー・・・お前まで死んだら・・・私は・・・」

 

タケルはただただ息を飲み

ワシヤは唖然としていた

そして涙を浮かべるモニク

 

沈黙がブリッジ内を包み・・・

 

<グーーーーー>

 

「へッ?」

 

タケルはゆっくりとオリヴァーに近づき、顔を覗き込む。

 

「グッスリ・・・寝てますね・・・」

 

「な、なっなーーー!」

 

モニクは爆睡するオリヴァーをワシヤに投げつける

 

「ちょ、ちょ、ちょーーー!」




第603技術試験隊活動最終記録
我々第603技術試験隊は宇宙世紀0080、1月11日最終任務を完了せり。我々は大気圏より突入せし。この時MS-05ザクに乗るレリー=ヴァン伍長とツィマッド社社員タケル=シロガネを保護。地上にて陸戦艇ギャロップを回収し、バミングイ・バンゴランに向い北上せし。途中味方を保護し、バミングイ・バンゴランではザンジバルを発見しこれを修理す。しかし、脱出前に敵と遭遇、戦闘へと発展せり。この戦闘においてEMS-10ヅダ、地上チューンせしMS-14B高機動型ゲルググ、及び現地改良せしMS-05ザクは複数の連邦軍MSと交戦。ロンメル少佐率いるMS-06Dデザート・ザク部隊の援護もあり見事撃退せし。この戦闘時にタケル=シロガネ駆るヅダは傭兵部隊『黄昏コウモリ』及びジオン残党討伐部隊『ファントムスィープ隊』を圧倒せり。地上チューンの高機動型ゲルググ及び、現地改良型ザクも有効兵器であると証明せし。この戦闘において、レリー=ヴァン伍長はザンジバルを守るため空中より降下戦闘をせし・・・生命の確認は出来ずMIA認定されし。我々第603技術試験隊は今日をもって、解散。私オリヴァー=マイ技術中尉は任を解かれる。
―宇宙世紀0080、1月11日オリヴァー=マイ


宇宙世紀0080、1月15日

<カチ、ジーーージーーー>

タケル=シロガネです。俺達はあの後、オリヴァーさん達の母艦、ヨーツンヘイムに回収された。助けた兵士達も無事サイド3に届けられるようだ。オリヴァーさんは一昨日目が覚めた。そして、お約束ぽくモニクさんがすげぇーマジで怒ってた。あの二人は仲良くならんのか?・・・オリヴァーさん達は任を解かれて皆違う事をするようで。ワシヤさんはサイド3に帰った、結局何をやるのか最後まで教えてくれなかった。モニクさんは少し政治を学ぶといっていた。宇宙に戻ってきたらツィマッド社が無くなっていて、ビックリした。元々戸籍がなくて、ツィマッドのお世話になっていた。困った所をオリヴァーさんがアナハイムに知り合いがいるから何とかしてくれるそうだ。彼も、ヅダと今までの記録を件の彼に届けたいとか・・・。まぁ、良くわからんけど何とかなるっしょ!以上!

<カチ>


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第四話「涙は扉を開いた~前編~」

宇宙世紀0081、10月20日

 

「・・・というのが私の聞いた話の全容だな」

 

とシャア=アズナブルはタケル達の話を語り終える。

オリヴァーとタケルから多少の修正(主に、タケルが「いや、MS300機とか!そんなに倒してませんよ!」とオリヴァーが「流石に05(旧ザク)を14(ゲルググ)並みに現地改良なんて出来ません」)を加えながらもシャアは人伝に聞いたタケル達の話をハマーンに聞かせた。

 

「へぇ~こんなヘタレとオタクっぽい人がね~」

 

「うっ!」

「んん?」

 

何気ないハマーンの一言はタケルに大ダメージ、オリヴァーに疑問を残した。

 

「はは、ハマーン、余り人を見た目で判断する物ではないよ」

 

<ピピピ、ピピピ、ピピピ>

タケルがセットしていた腕時計のアラームが鳴る。

 

「あ、大佐、俺達はこれで失礼します」

 

「何処かに行く途中みたいだったね、引き止めてしまって悪かった」

 

「任務で月のフォン・ブラウンまで高速連絡船を用意してもらっていたので・・・」

 

それを聞くとシャアは目を細める。

 

「・・・何をしに行くのか分からんが、気をつけたまえ、この頃月の辺りでは良い噂を聞かない」

 

「テロリストの事ですか・・・」

オリヴァーはそう呟く

 

「マイ大尉は知っているようだね」

 

「ええ、まぁ月の件は特殊ですからね」

 

「ねぇーねぇー何の話?」

ハマーンは無邪気に問う

 

「ハマーン、今、月ではテロリストによる襲撃が頻繁でね。アナハイム社の工場などは手酷くやられているみたいだ」

 

「人的被害は少くなくはなく、襲撃時に物資や兵器も奪っていく・・・合理的です」

 

沈黙。戦争が終わってもなお、戦いが終わる事はない。一年戦争に囚われた過去の亡霊達は未だに戦い、そしてその死骸に群がる害虫もいまだに多く残っていた。

 

「・・・と、ともかく、オリヴァーさん行きましょう。大佐、ハマーン様失礼します」

 

敬礼する二人

 

「ああ、気をつけてくれたまえ」

 

敬礼を返すシャア、それにつられて慌てて敬礼をするハマーン

 

タケル達はその場を離れた

 

「・・・ハマーン・・・彼の事、どう思う?」

 

「彼とは、タケル君の事ですか?」

 

「ああ」

 

「純粋で、強く、信念がある人だと」

 

「・・・ニュータイプとは?」

 

その言葉にハマーンは悩む。見て感じたタケル=シロガネという青年は余りにも彼女が知る、ニュータイプとは違う感じであった。ただ、何か彼がこの世界に干渉している・・・そして、何処かこの世界に存在していない、そうハマーンは感じていた。

 

「分かりません・・・何か違った感じがします・・・でも、暖かい感じかな?」

 

「・・・タケル=シロガネ中尉か・・・私達は違う、人類の革新なのかもしれんな・・・」

 

二人はタケル達が去った方向を見つめ続けた。

 

○○○●●

 

――――超高速連絡船

 

タケル達はフォン・ブラウンに向かう間に試験評価する機体のデータを確認していた。

 

MS-09F/TROP ドム・トローペン(先行量産型)

頭頂高 18.5m 本体重量 44.8t 全備重量 79.0t 出力 1,199kw 推力 57200kg (20500kg×2、3100kg×2) センサー有効半径 6,300m

・砂漠・熱帯用ドムの先行量産型。

今試験兵装:90mmマシンガン、ラケーテン・バズ、ヒート・サーベル、シュツルムファウスト

カラーリング:黒、赤紫

 

「・・・オリヴァーさんドム・トローペンはもう完成したもんだと思ってましたが」

 

「ああ、今回は最終試験運用そして評価だ。何時も回ってくる不安定な試験機とは違い、ほぼ完成された機体だ。問題なく、評価できるだろう」

 

「そうですね、他の報告書でもこれといった問題もありませんし、普段からこういう機体優先的に送ってほしいですね」

 

ここ最近パーフェクト・ジオングやゼロ・ア・ジールなどの規格外超弩級機動兵器を評価していたため、安堵の溜息をつく

 

「愚痴をいってもしかたないだろう」

 

そして、次の資料に目をやる

 

 

YMS-15K試作改良型ギャン

全高 20.0m 本体重量 50.3t 全備重量 60.6t 出力 1,700 kw 推力 150,200kg センサー有効半径 8,000m

・MS-15Rギャン高機動型の後継機として試作改良された機体。

・フレームの強化と機動実験を目的とする。

・マニュピュレーターが同じなため、手に持つ装備ならザクやゲルググのものも使える。

今試験兵装:ヒートソード、ビームソード、ビームランサー

カラーリング:銀、オレンジ

 

資料を見つめるタケル

 

「・・・ツィマッドの侍としては感慨深いかい?」

 

「いえ・・いや、そうですね、俺はコイツとは縁があるみたいですね・・・それにしてもすごい性能ですね、推力が通常のギャンの3倍ありますよ」

 

「それもそうだが、今回はフレーム強化に使われたガンダリウムαの性能評価もある」

 

「まぁ、コイツも他の報告書からする所に問題は無さそうですね、接近戦オンリーで回避重視でパイロット任せな機体ですけど・・・一応マニュピュレーターの統一性のお陰で他の遠距離武器も装備できるでしょうけど・・・」

 

けど、けど、けどっと機体性能に不安を覚えるタケルであった。

 

「次に行うか」

 

MP-02Aa-YOP オッゴ大気圏使用型・バロール装備

 

全高 7.8m全長 11.6m 全幅 14.7m全備重量 65.7t 出力 1021kw 推力 52,400kg

・オッゴを大気圏でも使用可能に改修した機体。

・試験用にYOP-04バロールのコンセプトを引いた観測ユニットを装備している。

・バロールには及ばずとも観測距離は最大400km±50kmであり、サーモグラフィ、振動計など他の索敵機能もついている。

・自律・半自律・手動と機体操縦方法を変えられる。

今試験兵装:6連装ロケット弾ポッド(対艦ロケット弾等装填)、90mmマシンガン、シュツルムファウスト

カラーリング:茶

 

「・・・バロール・・・聞いたことないな・・・」

 

「バロールは僕が第603技術試験隊に居た時に評価した試験観測ポッドの名称だ、これはその時にとった記録を元に月で残ったオッゴを再利用して作ってもらったものだ」

 

「大気圏運用可能ってありますけど、まんまドラム缶に羽着けて目玉着けただけじゃないですが!空気抵抗無視したフォルム!絶対戦闘能力ないですよ!」

 

「元々、戦闘目的ではないからね・・・」

 

頭を抱えるタケル

 

「何かそろそろ、怪しくなってきたな・・・」

 

QCX80-A ミドガルオルム

 

全高 2.8m 全長 23.1m 全幅 1.24m 重量 59.2t

武装 核融合超電磁投射砲

* 有効射程距離500km

* 最大射程距離800 - 1200km

* 射出速度200km/s

・ヨルムンガンドのコンセプト、長距離砲のコンセプトを元にした

・大気圏運用可

・8分割可

・弾丸制限無し(帯電性があるなら何でも可)

・連射性悪し

・最大射程最大出力正射後再発射に30分以上必須。

 

「・・・オリヴァーさんこれ、どうするんですか・・・?ヨルムンガンドってルウムで沈んだ大砲ですよね?」

 

「問題ない、エネルギーは今試験で運用する戦艦のエネルギーを応用できるように製作されている筈です」

 

 

「今更、大砲ですか・・・」

 

「今回は戦艦の兵装として運用しますから問題はない筈です」

 

「筈・・・ね・・・」

 

多少呆れ気味に次の試験運用兵器の資料に目を通す

 

<ペラ、ペラ、ペラ・・・ガタ!>

 

その資料を見て驚きに立ち上がるタケル

 

「オリヴァーさん!流石にマジでこれはないわ!」

 

EMS-10ZFb 最終調整型ヅダ・試験運用装備

 

全高 18.0m 本体重量 43.2t 全備重量 74.0t 出力 2,200kw 推力 334,000kg

・EMS-10ヅダ2号機及び予備機再利用

・MS-18Eケンプファーの技術応用及び、アナハイム社試作スラスターユニット装備

・マグネットコーティング完了

・試験用ビームコーティング

・間接部強度強化(ルナ・チタニウム合金使用)

今試験兵装:専用ショットガン×2、ラケーテン・バズ×2、シュツルムファウスト×2、ビームサーベル×2、ビームマシンガン、60mm頭部バルカン砲×2、チェーンマイン、ヒートホーク、135mm対艦ライフル、シールド(白兵戦用ピック装備)、

 

叫んだタケルを落ち着かせるように静かに語り始めるオリヴァー

 

「EMS-10ZFb最終調整型ヅダ・試験運用装備、通称・・・ヅダ改フルバーニアン。終戦後ヅダ2機を元ツィマッド社社員に預けてね・・・僕が改修案を出した。アナハイム社も試験装備を運用、評価してくれるならと、快く改修の件・・・受けてくれた」

 

タケルは素早く出力、推力、装甲強度のデータをいれ、一般的パイロットのデータを入れる。

 

そして、メインモニターに出た結果をオリヴァーに見せる

 

「・・・俺だって1年以上オリヴァーさんや他の整備士の下で働いた・・・装甲と間接の強化で『もう』空中分解をしないのはわかる・・・」

 

そう、EMS-10ヅダは過去EMS-04と呼ばれていた時期も含め空中分解事故を起している

 

「・・・その問題は解決したようですね・・・でも、このデータ見てください!最大推力・・・過去の6倍・・・これを全力で出した場合・・・全力で出さなくても!普通のパイロットなら良くて気絶!悪ければ死にますよ!?」

 

「・・・その問題はついたら解決します」

 

「どういう事ですか?」

 

「戦略戦術研究所の知り合いにも頼み、この機体の再設計を手伝ってもらいました。そして試作ではあるもののパイロットとMS、両方の性能を最大限に上げるための試作コンピューターを搭載する予定です。これによりパイロットのデータを元に自動的にリミッターを設定します」

 

「・・・それでも、この機体、扱えるものになるんですか?」

 

「タケル君なら出来ますよ」

 

そうオリヴァーは確信を持った笑みを見せる

 

タケルは溜息をつき資料の続きを読む

 

―――30分後

 

「・・・帰っていいっすか?」

 

「残念ながら、駄目です」

 

すっぱり切り捨てるオリヴァー

 

「何ですか、この他の資料・・・後1機のMSは『ルピナス』て名称以外は不明、運送用の戦艦も決定されていない、残り二人の追加要員も不明・・・そして、またデラーズ閣下に部隊運用について淡々と講義を受け、ガトー大尉にMS戦闘でしばかれると思うと鬱です」

 

タケルとオリヴァーは一度デラーズ・フリートに接触しており、その際、“気に入られた”タケルは訓練に強制参加させられ、エギーユ・デラーズ大佐に戦略を、アナベル・ガトー大尉に戦術を他の士官・兵士と共にに叩き込まれた。そして終了後“特別授業”も受けさせられた。

 

「タケル君、これも任務です、我慢してください。もうすぐ、フォン・ブラウン市に着きます。先ずは工場に向かい、試験兵器の確認、次にドックで運送用の戦艦を確認、その後、試作コンピューターの回収、時間があれば月の裏で機動実験はしたいですね」

 

「りょ、了解・・・」

 

○○○●●

 

宇宙世紀0081、10月21日

 

タケル達は問題なく、フォン・ブラウン市に入り、兵器を預けている工場へと向かった。

工場はフォン・ブラウン市の外れに位置し、外からは廃鉄処理工場にしか見えない。

中に入ると、女性の怒声が響き渡る。

 

「これは、どういう事だ!8割も完成していないではないか!」

 

「大尉、ここ最近テロリストの動きが活発で材料の入手が困難でして、それに連邦の警備も厳しくなっています!」

 

「チッ・・・」

 

タケル達が工場の格納庫に入るとそこには赤髪、赤服、20代の女性と、整備士らしき男性がいた。そこにはタケル達が資料で確認したMS達が並んでいた。

 

「「モニク(姉さん)!?」」

 

その声に反応し振り返るモニク、そして時計を確認する。

 

「着いたのね・・・時間通りね」

 

「あの・・・“マイ”特務大尉、彼らが?」

 

整備士もタケル達を確認し、モニクに質問する。

 

「そう・・・そっちの金髪でヒョロイのが技術馬鹿で有名なオリヴァー=マイ技術大尉・・・“一応私の旦那だ”・・・そっちの東洋系のヘタレっぽいのがテストパイロットをやっているタケル=シロガネ中尉、腕だけは確かだ」

 

その自己紹介に溜息をつく二人

 

「相変わらずですね、モニク姉さん・・・」

 

「相変わらずの毒舌だと言いたいのかシロガネ中尉?」

 

タケルを睨むモニク

 

「・・・いえ!マイ大尉殿!失言でありました!」

 

「モニク・・・何で君がここにいるんだい!?」

 

「へぇ・・・数ヶ月ぶりに会う妻に対して言いたい事はそれだけ?」

 

「元気だという事は理解しました」

 

オリヴァー=マイとモニク=キャディラック=マイは戦争後に婚約し結婚をした。実際はモニクが一方的にオリヴァーと婚約。自分に恥をかかせたやら、心配させてやら、責任とれなどのゴタゴタ後に結婚。そんな二人を見ていたタケルは一人「ツンデレ・・・」と呟いたとか呟かなかったとか。戦後数ヶ月は新婚生活を送っていたが、オリヴァーとモニクは穏健派のマハラジャ=カーンに引き抜かれ仕事を再開する。タケルは彼らが軍に復帰する以前にカーンの下で働いていた。オリヴァーは技術大尉としてMS、MA開発、研究、評価をし、モニクは特務大尉として政治、内政などを行っていた。ちなみに、モニクの弟と同い年だったタケルはモニクの事を「モニク姉さん」と呼ぶ事に何故か決定されていた。

 

「政治関係の仕事をする姉さんが何でここにいるんだ?」

 

「タケル、私は今作戦ではカーン閣下とデラーズ大佐の仲介役として派遣されたのよ」

 

「それは詰り、デラーズ大佐の説得役って事ですか?」

 

「ここで暴れている低脳共(テロリスト)よりは組織だっており、計画もしっかりしているが、実際は連邦を打破するにはデラーズ・フリートだけでは不可能だとカーン閣下は思っているのよ。やるならばジオン残党全員で行動を起すか・・・良く分からないけど“箱”とかいう機密単語の物を手に入れないといけないらしいわ」

 

「僕はデラーズ大佐達がその説得に応じるとは思えないな」

 

「俺もです」

 

「それでも、やらないわけには行かないのよ・・・兎も角この話は後でしましょう、今は・・・これを見て」

 

モニクは整備士が手に持った資料を奪い取るとオリヴァーに手渡す

それを確認するオリヴァー

 

「・・・!!これは・・・先、言い争っていたのはこういう事ですか」

 

「どうしたんですかオリヴァーさん?」

 

「タケル君、この資料が正しければ、09F・トローペンの整備は100%完了、15Kは8割、しかも盾は届いていない、EMS-10ZFbは9割、塗装はされていないから銀色のまんまです、オッゴは7割、ミドガルズオルムは6割・・・」

 

「な!?」

 

タケルは信じきれずオリヴァーから資料を取り確認する。

 

「そして、俺の『ルピナス』は5割以下ときたもんだ・・・」

 

男の声が通路奥から響き、タケル達は振り向く。そこには20代後半、190cm前後、ヒスパニック系の褐色肌、長い茶髪を束ね、室内にも関わらず鏡のように反射するサングラスをかけた男がいた。

 

「おや、何時から・・・蝙蝠なだけに暗い所が好きという事ですか?」

 

モニクの毒舌にハハと苦笑する男

 

「モニク、彼は?」

 

「オリヴァーもタケルも“良く”ご存知の方ですよ」

 

タケルは男を凝視するが、全く見覚えがない

 

「彼は、元連邦軍中佐、黄昏コウモリ、ケニー=ロンズよ」

 

「「!?」」

 

驚く二人そして、身構えるタケル。名前を聞いてタケルはやっと何故声に聞き覚えがあるのか理解した。

 

「おいおい、白銀の武士さんよそんなに睨むな照れちゃうだろ。それに嬢ちゃん俺の最終官位は大尉だよ」

 

「嬢・・・!んっん!貴方は記録ではMIA(作戦任務中消息不明)認定されて二階級特進し、中佐であっているはずよ」

 

「そうかい、まぁ今更階級なんて関係無いな、今はフリーの傭兵だ、仕事をするだけさ」

 

「では、ロンズさん貴方は何故ここにいるのですか?」

 

冷静に質問をするオリヴァー

 

「俺はAE社に雇われてな、あるMSをコンバットプルーフ(実践テスト)するように言われたんだよ。だが、このMSが曲者でな・・・まぁ、百聞は一見にしかずだついて来い」

 

そういい、ケニーはそのまま振り返り来た通路を戻る

 

タケル達はケニーの後を追った。

 

彼らは工場の地下に向かう。

 

「ここは先の格納庫に繋がっていてな、俺達が乗る戦艦もそこにある。なぁ?整備士のあんちゃん?」

 

「は、はい」

 

「地下に戦艦、どういう事?」

 

疑問を口にするモニク

 

「俺も、驚いたが、ここの地下はそのまま宇宙ドックに繋がっていて、そこから出航できる・・・こんなもんが隠されていて気づかない連邦も末期だな」

 

ハッと笑うケニー

 

「ついたぞ」

 

ドックには赤紫色の小型戦艦らしき兵器と搭載準備中で布を被せられたMSがあった。

 

オリヴァーとモニクは驚く

 

「「ビグ・ラング・・・」」

 

それはオリヴァーがア・バウア・クー防衛戦で命を預けたMA、ビグ・ラングに酷似した戦艦であった。

 

「いえ、これはMA-06MSSヴァル・ラングです」

 

整備士は資料をオリヴァーに渡し、口頭でヴァル・ラングについて説明をする。

全高 150m 全長 312m 全幅 175.1m 本体重量 14,000t 全備重量 20,500t 出力 25、500Kw 推力 5,500,000kg

・MA-05Adビグ・ラングのコンセプトを引き継いだモビル・フォートレス

・YMT-05ヒルドルブの可変機能があり半人型にもなる。

・弱点が克服されており、ヴァル・ヴァロの部分だけ戦闘中に切り離せる、正し戦闘中に再合体はできない。

・後方支援用の機体であり、MSやMAの補給整備を行える機能は残っている。

・ホバー機能と飛行機能が足され大気圏運用も可能。

・単機での大気圏突入も可能であり、水中でも『移動だけなら』可能で、実質水陸空宇の機体である。しかし、あくまで後方支援であり、回避能力は低く、戦艦・モビルアーマーとしてみた場合の移動速度は遅い。

・モビル形態では、両腕に武器が持てる。

・補給物資スペースを若干少なくし、搭載可能機体を増加した。機体を外部取り付けもでき、最大MS4機とモビルポッド又は戦闘機1機を同時に運ぶ事が可能。

・MSSはMaintenance Supply & Support、整備補給支援機の意味を持つ。

今試験兵装:大出力メガ粒子砲、ミサイル・ランチャー×8、ガトリング砲×2、30連装ビーム撹乱弾発射機×4、3連装大型対艦ミサイル×2、30cm(サンチ)砲、ミノフスキー粒子散布装置、ジャミングフィールド、対ビーム装甲。

 

「ヒュー、こいつの説明は今日初めて聞くが、MAというより戦艦だな」

 

ケニーは説明を聞いた後またヴァル・ラングを見上げた

 

「それだけじゃありません、CAD=CAMシステム等のMS設計に必要な機械、機材、プログラムも搭載しているので、動く工場というのが正しいでしょう」

 

整備士のいった事に呆れる面々。

 

「しかし、これも完成はしていないようですが」

 

「流石、マイ技術大尉、分かりますか。この機体はI-フィールドと有線式兵器を積む予定でしたが・・・未だに配備の予定が立ちません・・・兎も角、ヴァル・ラングがあれば、整備が完了していない機体でも材料さえ積めば現地での整備や改修ができます!」

 

「なるほどね、理解したわ、ではそこの機体が『ルピナス』ね?」

 

モニクは布の被さったMSに指差す

 

「ああ、嬢ちゃん達驚くなよ?」

 

そういい、ケニーは近くの機械を操作し、布をが自動的に巻かれていく。

そこには頭部に2本のアンテナを生やした白とオレンジの機体があった。

 

「こ、これは!」

 

オリヴァーは息を呑み

 

「ガ、ガンダム・・・」

 

タケルは唾を飲む

 

「何でこんなものがここにある!」

 

そしてモニクは叫んだ。

 

「ガンダムね、いや、正確には違うな。これはRX-81X-2、試作量産型ガンダム2号機『ルピナス』だ。量産機は元々ガンダムヘッドにする気はなかったらしいが、開発者の一人がガンダムを名乗るならせめて一機はガンダムヘッドにすると駄々をこねたらしい。」

 

そして説明を始めるケニー

全高 20.2m 本体重量 38.0t 全備重量 78.0t 出力 1,750kw 推力 150,000kg センサー

有効半径 10,000m

・ガンダムの完全量産機開発のための試作機。

・大量の試験兵器を積んだ結果失敗に終った。

・主に新型エネルギー供給によるショートビームライフルと弾種変更可能な中~遠距離支援キャノンが特徴。

・後に増加ウェポンシステムが正規採用され、安定できなかったEパックは一時研究中断、多目的キャノンも別々のキャノンをオプション運用する事となった。

・試験機にはコアブロックシステムがまだ搭載されている。

・正規記録には実験中に大破した事になっている。

・ちなみに花言葉で「多くの仲間」とという意味がある。

今試験兵装:ビーム・サーベル、ツィン・ビーム・スピア、試作Eパック・ショートビームライフル、90mmマシンガン、胸部バルカン、大型シールド、シールドガドリングガン、多目的キャノン、多目的ロケットランチャー

 

「量産機としてのトライアルには既に負けている。1号機の方をベースに『ジーライン』の名称で量産された。こいつを作った科学者がそれが気に食わなかったらしく再度データをとりたいんだそうだ。まぁ、俺から言わせてもらえばこんな高級で不安定な機体が量産目的の試験機だって事自体がおかしいと思うんだけどな」

 

「確かに、そうですね」

 

オリヴァーは相槌を打つ

 

「そして、見ての通り、組み立てすら完成していない、まぁ、航路中か着いてから完成させるんだろうけどな」

 

「これで試験品目は全てですね・・・」

 

「ああ、まぁ数週間の仕事だが仲良くやろうぜ!」

 

笑いながら、タケルの背中を叩き、そしてケニーはドックから出て行った

 

「ロンズ!まだ、話は終ってないぞ!」

 

モニクが叫ぶが、ケニーは無視しそのまま見えなくなった

 

「昔戦った時もそうですが、良く分からない人だな」

 

「パイロットってのはああいうのばっかね!」

 

「姉さん、それは俺も入・・・」

 

余りにも答えが分かる質問だったため、タケルは途中で聞くの止めた。

 

「オリヴァーさん、これからどうしましょう?」

 

「品目も確認したしね、モニク、僕達はヅダ改のコンピューターを回収しに行くよ」

 

「そう、じゃ私は搭載と整備作業の指示とデラーズ大佐への暗号通信を送るわ」

 

そしてタケルとオリヴァーは工場を後にし、フォン・ブラウン市内へと向かった。

 

○○○●●

フォン・ブラウンのとある一室

 

<コンコン>

呼び鈴を使わず態々ドアをノックするオリヴァー

 

「はい・・・」

 

<カチ、カチ>

 

中から金髪の青年が現れた

 

「君が戦術戦略研究所の?」

 

「はい、ジョブ=ジョンです」

 

そう言いジョブはオリヴァーと握手をした

 

「AE社のオリヴァー=マイ技術主任だ」

 

「同じくAE社のタケル=シロガネ技術職員です」

 

タケルもジョブと握手をする。

 

「そういう事にしときますよ、リヴァイヴァーに白銀の武士さん」

 

ニヤリと笑うジョブ

 

「では立ち話も何なんで入ってください」

 

部屋の中に入るとそこには長い青っぽい髪の少女がいた

 

「彼女は?」

 

オリヴァーは場違いとも思える少女に疑問を覚えた

 

「彼女は知り合いから預かってる子です」

 

「マリオン=ウェルチです」

 

少女はそう小さく言った。

 

「彼女も今回のコンピューター製作に参加していますから、完全に無関係というわけではありません」

 

4人はテーブルを囲み座る。ジョブは資料を広げ、コンピューターを運び込む。

 

「ではEARTH(アース)コンピューターについて話しましょう」

 

ジョブの会話の要約すると以下の通りである:

 

EARTHコンピューター(Enhancing Action and Reaction of The Human)

・人間の行動と反応を強化するシステムであり

・パイロットのデータと脳波から、機体性能の限界を自動で判断し、パイロットの体力と反応速度に合わせたサポートをする。

 

「今の我々の技術力じゃここいらが限界ですね。ちなみに自動殲滅プログラムのTHEAR(ティア)システムが搭載されていますが、出きれば使わないでください」

 

「あるのに使わないでくれってのも不思議ですね」

 

「どうにもシステム自体が安定しなくてね、だからといって削除するとコンピューター自体の作動に支障をきたすため、放置されているんだよ」

 

「ジョブさん、発動したらどうなるんだ?」

 

「分かりません、シュミレーションでは普通に全範囲自動索敵、半自動殲滅を行いました。実際にMSに搭載した事がありませんから」

 

「また、こんなんかよ」

 

天を仰ぎ、愚痴をこぼすタケル

 

「僕達への“善意”の提供だからね、試験評価という代価を払うが破格と言えるでしょう」

 

オリヴァーは軽くタケルの肩を叩き宥める

 

「オリヴァーさん、コンピューターをMSに設置するマウントのパーツ確認してくれませんか?」

 

そういいオリヴァーとジョブは別の部屋に行く。

 

部屋に残されたタケルとマリオンはお互いを見つめ、何ともいえない、気まずい雰囲気が漂う。そんな雰囲気に耐えられずタケルがマリオンに話しかける

 

「あ、あの「貴方を傷つけないで」・・・え?」

 

マリオンに言われた事が理解出来ず困惑するタケル

 

「どういう・・・意味?」

 

「優しい人は、好きです・・・、だから」

 

「・・・」

 

「貴方は貴方が取り戻すべき宇宙(ソラ)を持っているわ、その宇宙(ソラ)は貴方を今も待っている。タケル・・・貴方を待っている人がいる」

 

(・・・タ・・・ちゃ・・・)

「クッ!」

 

突然の頭痛に頭を押さえるタケル

 

「あの子は貴方を導いてくれるわ、より良い未来へと、優しい世界になるために、もうあの子は昔の私じゃない、人を救える子になっているだから・・・」

 

マリオンの言葉に反応するかのように見た事のない映像が浮んでは消えていった。

 

そこで自分は何かと戦っていた気がする

そこで自分は誰かを愛していた気がする

そこで自分は悲しみに涙を流した気がする

 

怒りが悲壮が悔しさが心を埋める

 

嘔吐しそうな気持ちを抑える

 

そんなタケルをマリオンは優しく包み込む

 

「もう、貴方を傷つけないで。大丈夫、今度は優しい世界を作れるから・・・」

 

彼女が触れると気分が少し落ち着く

 

オリヴァー達が戻ってくる、頭に手を当て、苦しむタケルを見て、素早く機材を地面に置き、タケルに近づく

 

「タケル君、大丈夫かい?」

 

「マリオン?彼はどうしたんだい?」

 

オリヴァーがタケルに触れると、不思議にも頭痛が和らいだ

 

「だ、大丈夫ですよ、ちょっとした持病ですから・・・」

 

タケルは何事もなかった様に立ち上がり、機材に近づき持ち上げる

 

「オリヴァーさん、行きましょう。ジョブさん有り難うございます。マリオン・・・」

 

少し考えてから答える

 

「多分、ありがとうで・・・いや、ありがとう」

 

「いえ、私は何もしてませんよ」

 

タケルは部屋の外に出た、それを慌てて追うオリヴァー

 

「タケル君!待ってくれ。ジョブさんありがとう、マリオンさんタケルがお世話になりました」

 

「待った」

 

急ぎ出ようとするオリヴァーを呼び止めるジョブ

 

「気をつけて、何か最近のフォン・ブラウンはきな臭い・・・下手したらここ数日で大きな動きがある、工場を狙った資源強奪も有り得る・・・」

 

「これでその注意は二回目です、信憑性が増しました。行動に出るのはテロリストだけですか?」

 

「いや、連邦とテロリスト両方、どちらもだよ」

 

「出航作業を急がせます、そちらも気をつけてください」

 

「僕達も明日の朝には出発するからね」

 

マリオンがオリヴァーの袖を引っ張る

 

「彼を助けて上げて、彼を一人しては駄目」

 

「ああ・・・彼は大切な仲間ですから」

 

オリヴァーはタケルの後を追う

 

○○○●●

工場に到着した、オリヴァーはコンピューターをヅダ改に設置し始める。

タケルは最初整備の手伝いをしていたが、ケニーに捕まりシュミレーターを遣った模擬戦を行う。この時データ上のヅダ改にタケルが搭乗と試作改良型ギャンにケニーが搭乗した。結果はシュミレーターの誤作動による勝負無効。ヅダ改のデータが問題だと分かり、それを考慮した整備は夜中を通して行われた。

タケルはその後気を失う様に眠る。

 

日にちは10月22日に変ろうとしていた・・・




アクシズ技術試験課活動記録報告書
我々アクシズ技術試験課は宇宙世紀0081、10月21日フォン・ブラウン市にて試験品目を回収せり。ここにて、マハラジャ=カーン閣下直属のモニク=C=マイ特務大尉と元連邦軍中佐ケニー=ロンズと合流。フォン・ブラウンでの連邦とテロリストの抗争が整備作業に影響を与え、回収時各機体の整備状況は以下の通りである:
・MS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)100%
・YMS-15K試作改良型ギャンは84%、盾未装備
・EMS-10ZFb最終調整型ヅダ・試験運用装備92%、塗装未完了、専用コンピュターEARTHは回収、今日22:20に設置完了、22:30にシュミレーター実践を行うも、問題が発生しバグ解除を開始す、作業25:03に完了。
・MP-02Aa-YOP オッゴ大気圏使用型(バロール装備)74%
・QCX82-Aミドガルオルムは64%
・RX-81X-2試作量産型ガンダム2号機『ルピナス』45%
・MA-06MSSヴァル・ラング86%
出航は明日に予定されているが、デラーズ大佐に連絡し、延期する場合もあり。
現在全力で整備、組み立てに取り組んででいる。運用には各機・兵装8割以上の整備状況が必須。その場合全機活動可能になるまで1週間前後かかると想定せし。
―宇宙世紀0081、10月21日オリヴァー=マイ技術大尉


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第五話「涙は扉を開いた~後編~」

マハラジャ=カーン閣下の命を受け、試験評価機体の受け取りに向ったタケル=シロガネとオリヴァー=マイ。そこで出会ったのはオリヴァーの(恐)妻であるモニク=キャディラック=マイとかつての敵、傭兵団黄昏コウモリ元団長のケニー=ロンズであった。二人は試験評価の機体の整備が万全ではない事をタケル達に伝える。

タケル達は改造されたヅダの制御コンピューターを戦術戦略研究所所属のジョブ=ジョンから受け取る。この時、タケルは不思議な少女マリオンと出会う。

その出会いはタケルに何かを感じさせるものであった。

ジョブ=ジョンはシャア=アズナブルと同じ様にタケル達にフォン・ブラウン市を狙うテロリストを警戒するように伝えた・・・


宇宙世紀0081、10月22日

 

<バタバタバタバタバタ>

 

廊下を慌しく走る足音でタケルは目を覚ました。

 

「ん・・・・?」

 

タケルは起き上がり、素早く“迷いもせず”パイロットスーツに着替えた。

顔を洗い終ったと同時に部屋のドアが開く。

そこには既にパイロットスーツを着て、サングラスを光らせる、ケニー=ロンズがいた。

 

「少年、流石に起きていたか。そろそろ第2種戦闘配備になる、ブリーフィングルームまでいくぞ!」

 

そう言い立ち去るケニーの後をタケルは追った。

 

 

―――ブリーフィングルーム

 

「タケル=シロガネ中尉入ります」

 

「少年を連れてきたぞ」

 

ブリーフィングルームでは映像と通信傍受から得られる情報を処理するオリヴァーとモニクの姿があった。モニクはヘッドフォンを耳にあて、情報を書きとめ、オリヴァーは映像を解析していた。

 

『フォン・ブラウン市民の皆様、現在緊急避難勧告が発令されました、速やかに近くのシェルターまで避難し、係員の誘導に従ってください。繰り返します、フォン・ブラウン市民の・・・・』

 

『敵は何人だ?どこにいる!!!』

 

<ザ・・・ザ・・・>

『・・・・・地区・・攻撃ヲ・・受・・テイル・・・我ガ・・壊滅・・』

 

『基地を守れ!基地が攻撃を受けている!』

 

『・・・聞いて・・・人・・・助け・・れ!・・・区の・・・だ!・・・子供・・・助・・・』

 

フォン・ブラウン市の放送、軍通信、一般緊急通信。様々な電波が交差し、混乱がフォン・ブラウン市内で発生している事だけは分かった。

 

タケルはその悲痛な叫びに顔を歪める

 

モニクは一通りの情報を紙に書き終えると方耳をヘッドフォンから外す。

 

「・・・こんな所ね」

 

「モニク姉さん、状況は?」

 

「最悪ね、最悪だけど・・・戦略としてはすばらしいわ。テロリストはジオン公国軍を名乗り、同時にフォンブラウン市内にある重要拠点・・・基地、兵器工場、研究所などを攻撃。今までは歩兵による白兵戦しかしていないのにここに来て彼らはMSを使ったわ。編成はジオン軍MSと連邦軍MSの混合部隊。連邦軍のMSは未だに味方識別がされていて、結果はこの・・・混乱よ」

 

「で嬢ちゃん、俺達はどうするんだい?」

 

「モニク=マイ特務大尉です“ロンズ中佐殿”。我々の工場は表向きには廃鉄工場よ、ここは狙われるとは思わないが、用心をするに越した事はない、備品などは既にヴァル=ラングに積み込みはじめている。積み込みが終り次第、我々はフォン・ブラウンより離脱。整備士達も避難する」

 

「この状況を見て見ぬフリをしろと!俺達(ジオン軍)の名を騙る奴らをのさばらせると?」

 

タケルがテーブルに手を叩きつけ、吼える

 

「落ち着け少年、お前はスーパーヒーローか何かか?俺達の仕事は兵器の運送、試験評価だけだ。降りかかる火の粉を払うならまだしも自分から火の輪にダイブしたけりゃサーカスにでも行け」

 

そう言いケニーはタケルを笑い、食いかからんとするような目でタケルはケニーを睨んだ。

 

「ケニーさん、どうやら降りかかる火の粉が来たようです。第2種ではなく第1種戦闘配備でお願いします」

 

フォン・ブラウン市内にあるセキュリティカメラの映像を傍受していたオリヴァーが静かに状況を説明する。

 

「どういう事だ?技術屋さん?」

 

「MSがこちらに向かってます。ジムコマンドですが連邦なのかテロリストなのかわかりません」

 

「だが、向かっているだけだろ?」

 

「テロリストよ」

 

モニクはヘッドフォンを抜き、スピーカーに換え、他の周波数をフィルター、シャットアウトする

 

<・・・ザ・・・ザ・・・>

 

『おい、こっちであってんのか!?』

 

『おお、その先にある廃鉄工場でジオンが新型を開発してるってさ』

 

『ハハハ、負けたのに諦めが悪いこった!』

 

『そのお陰で俺達の戦力が増えるわけだ!いや、“軟弱な同志ではなく我々が有効活用してよろうではないか諸君!ジオンとして!”』

 

『ちげぇねぇな!ジーク・ジオンてか?』

 

『『『『『ハハハハハハハハハハ』』』』』

 

<ブツ!>

 

モニクは通信機の電源を切る

 

「下種が我々の同志でもないのか」

 

「テロリストが我々ジオン軍関係者が暴走しているのかと思いましたが、違いましたね」

 

「な、何なんだよこいつら!」

 

「少年よ、先の大戦、まさか本当に連邦対ジオンだけだと思ったのか?世の中常に利益を得ようとする第3勢力はいるもんさ、俺だってそれに入る」

 

「兵器を奪い戦力を整え、新たな力を得る、それらの武器を売るため、自分達の力を売るために戦いの火種を撒く、そんな俗物と言ったところですか?ロンズ中佐殿?」

 

「・・・何か俺もその俗物に入れらている気もするが・・・まぁ嬢ちゃん「マイ特務大尉です」の読みで当りだ」

 

「クソ!」

 

タケルはブリーフィングルームを出て、MSハンガーに向かって走った

 

「若いねぇー」

 

「何をしている中佐殿?私も出ますが、貴方も出撃ですよ?」

 

「なんで?契約じゃ試験評価だけだろ」

 

「試験評価にうってつけの状況じゃない?」

 

「コンバットプルーフ・・・論理的です」

 

「はぁ~・・・分かったよ俺はギャンで出るぞ」

 

「じゃ私はドムだな、オリヴァーはヴァル・ラングを頼む」

 

「了解しました」

 

三人もブリーフィングルームを出た

 

○○○●●

 

いち早く出撃したタケルはヅダ改を駆り敵と接触していた

 

「クッ・・・新しいコンピューター(EARTH)をつけてもまだこれだけピーキーか!!」

 

敵からの攻撃を空中で大きく宙返りし回避する。機体は過度のブーストにぶれる。

 

「落ち着け・・・デュバルさんは言っていたツィマッドの機体はどれも繊細でレディみたいだと・・・レディを扱うように優しく、その動きの一つ一つに集中して、会話のタイミングを合わせろって!」

 

ジムコマンド3機の攻撃を今度は小さく余分な動きをせず回避する、1撃は全く別の所を攻撃した

 

「ブレからくる不規則軌道に騙されたか・・・こいつはこう使うんだな・・・しかし久々の実戦でビビるかと思ったけど・・・シャア大佐の模擬戦に感謝だな・・・」

 

戦場は機体に慣れたタケルの独壇場となった

 

『なんだ、よコイツ!こんなの聞いてねぇぞ!』

 

『ジオンの新型は動かねぇんじゃねぇのか!?』

 

タケルは回避運動と共にチェーンマインを放ち、それをショットガンで爆破させ煙幕を作る。この時点で2機が落ちていた。

 

『おい、お前ら返事しろよ!おい、クソォ!クソォ!クソ!!!!』

 

そしてそのパイロットが最後に見たのは煙をシールドピックで突き破った銀色のMSであった

 

○○○●●

 

『敵、小隊全滅したもようです』

 

オリヴァーはヴァル・ラングから情報をモニク達に送っていた

 

「流石はツィマッドの侍て所か、しかし離れすぎて追いつくのだけで大変だわ、こっちの推進力も考えてほしいな」

 

『モニク、ロンズさん前方から別部隊が来ます。後こちらの出航デッキが故障か破壊されてか分かりませんが開かないので、積荷を搭載しだい、フォン・ブラウン市に上がります。その後は全機帰艦し、離脱したいと思います』

 

「了解したわ、セキュリティーカメラの傍受が出来てて助かったわね」

 

レーダーに4機MSが捉えられる

 

「ジムコマンド、量産型ガンキャノン、ザクが2機・・・汚物の方ね、ゴミ虫は早々に駆除しましょう」

 

「お嬢ちゃんのその言い・・・いや、何でもない、援護を頼む」

 

「言われなくたってそうするわ!あいつらには私達に会った不運を嘆かせてやるわ!」

 

モニクのドムは地面を滑走しながらラケーテン・バズとシュツルムファウストを同時に発射、着弾を確認せずにビルの後ろに隠れる。

 

攻撃によりザク1機はバズーカの砲弾で吹っ飛び、ジムコマンドはツェツルムファウストを盾で防ぐも左腕をもっていかれる。

 

ケニーのギャンはビルの屋上から屋上に跳ね、敵に近づいていった。

それを視認したガンキャノンはギャンに向けてキャノンを撃つ。

 

「ロンズ中佐!」

 

注意するように叫ぶモニク

 

「落ち着け、これくらい無問題だ」

 

そして何事もないかのように砲弾をビームソードで切り払う

砲弾は後方に飛びビルに当り爆発する。

 

「非常識だな貴殿は」

 

「誉め言葉と受け取っておく、よ!」

 

その光景に一瞬硬直した敵の隙を突き、ヒートソードをもう一機のザクに投げ撃破する、

そのまま飛込みビームランサーでガンキャノンを串刺しにした。

 

ジムコマンドは反転し逃げようとする

 

「嬢ちゃん!」

 

叫んだ時には既にバズーカの砲弾がジムコマンドを追い・・・破壊した

 

「良い判断だ」

 

「有難うと言っておくわ、そして、マイ特務大尉です。しかし貴殿の思惑通りというのは気に入らない・・・相手が逃避行動に出るのを予測していたのでわ?」

 

「ノーコメントだ」

 

ケニーは笑う。モニクは気に食わないが、それでもケニー=ロンズの実力は今の状況では心強かった。

 

「少年を追うぞ!」

 

二人はタケルの後を追いかけた

 

 

○○○●●

 

タケルは廃鉄工場に向かっているであろう機体を粗方撃破し、撤退準備に入っていた。

 

「連邦軍が来る前にオリヴァーさん達と合流し、クッ・・・」

<助けて>

 

普段よりは軽い頭痛に一瞬頭に手を伸ばす。

 

「こっちか?」

 

タケルは崩れたビルの側に寄った。

そこには見覚えのある青髪の少女が瓦礫の下敷きになった金髪の青年を助けようとしていた。

 

タケルは素早く集音機とスピーカーのスイッチをいれる

 

「マリオンさん、ジョブさん!」

 

「タケルさん・・・」

 

「・・タケル君か!」

 

ジョブ=ジョンの生存を確認し、安堵するタケル

 

「大丈夫ですか?」

 

「下半身を挟まれただけです、悪運は強い方で助かりましたよ」

 

タケルはマニュピュレーターを操作し、瓦礫を撤去しはじめる。

 

<・・・タ・・ゃ・・避け・・>

「敵!」

 

「タケルさん!!」

 

後方からタケルのヅダ改にビームが当る

 

『やったか!亡霊が!!!消えろ!』

 

しかし、ビームは装甲に弾かれる。

その間に瓦礫を撤去し終えるタケル。

 

 

「ここには民間人がいます!俺に戦う意思はありません!」

 

『しるかよ!』

 

『やっちまえよ!』

 

ジム1個小隊は攻撃を開始、ヅダ改はマリオン達を守るようにしゃがむ。

 

<ダダダ、ダダダ、ダダダ>

 

攻撃はシールドを少しずつ削り、試作ビームコーティングを剥す

 

『何て固い機体だ!』

 

『だが、動かなきゃタダの的だな!』

 

『ヒャハハハハハ』

 

防御し続けるタケル、

 

街の所々では煙が上がり、

 

人々の悲鳴が木霊する、

 

銃撃は空に響く

 

「アンタらの仕事は人助けじゃないのかよ!!!こんな所で・・・!アンタらは!!!人の命を・・・ッ!」

 

<―――――――^ⅴ―――――――>

 

突然の違和感と吐き気がタケルを襲う

 

<助けてくれ!>

<死にたくない!>

<ママ、パパー>

<来るな!来るな!>

 

タケルは身体の中に何かが入ってくる

 

嫌悪感、

 

悲しみ、

 

絶望、

 

自然と一滴の雫がタケルの頬を濡らし

 

タケルの中の何かが切れる。

 

「タケルさん、ダメ!」

 

次の瞬間ヅダ改のモノアイが縦横無尽に動き、赤いモノアイは白銀色に変る

 

<SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL HUMANKIND SAVE ALL >

 

<TEAR System Stand By>

 

Terminate

Enemies at

All

Range

 

<我全範囲ノ敵殲滅ヲ優先ス>

 

それは正に幻影

 

連邦の兵士には一瞬にして敵が消えたかのように見えただろう

 

ヅダ改が暴走しはじめて、僅か10秒・・・連邦軍のジム小隊は沈黙し

 

何かを求めるようにヅダ改はフォン・ブラウンの戦場に消えた。

 

「タケルさん・・・」

 

ヅダ改が消えた方向を心配そうにマリオンは見つめた。

 

○○○●●

 

ヅダ改が謎の暴走をしたその頃・・・

 

「連戦と民間人の救出で少年には追いつけないな・・・」

 

「しかたないわ、攻撃されるなら反撃はしざるおえないし、それに民間人を無視するわけにもいかないわ」

 

二人が民間人を誘導し終えるとオリヴァーから通信がはいる

 

『モニク、ロンズさん、無事ですか?』

 

「オリヴァーか?無事だそちらの状況はどうなっている」

 

『デッキから都市内部に入り、近くまで来ているので直ぐに合流できると思います』

 

「技術屋!現在の状況は分かるか?」

 

『はい・・・状況は連邦有利です、連邦軍は軍艦を都市内で展開し始めました。作戦の一部なのか、又は実際に負けているのかは分かりませんが、テロリストと思われる部隊は撤退を開始。民間人の非難は9割以上完了している模様です』

 

「タケルの方はどうなってるの?」

 

オリヴァー達が乗る試験機には全て情報を記録、分析、送信する機能があり。情報は全てヴァル・ラングのメインコンピューターに流れるようになっている。

 

『タケル君は・・・ん!?』

 

その情報からタケルの状況と位置を確認しようとしたオリヴァーは異変に気づく。

 

「どうしたの?」

 

『タケル君の機体に異常があるようです・・・これはErr・・暴・・走・・しているのか?・・・なんだこのデータは!?ピークでの推進力は06の9倍?』

 

パイロットの身体状況が分からずともタケルが危険な状況にいる事は一目瞭然であった。

 

「06・・・?ザクの9倍といったら1800トンくらいか!?人間がそんなんに耐えられるのか!?」

 

当然それほどのインパクトがダイレクトにパイロットに伝わるわけではない。だが、機体の構造上そこまでのインパクトを吸収するようにできていない。通常のザクで良くて250~300トンくらいの推進力のインパクトを吸収する。故に、改造されているとはいえ所詮ザクと同時期に開発されたヅダがそれだけのインパクトをパイロットに伝えずに吸収するとは考えにくいのである。

 

『・・・データを送ります、素早くタケル機を回収し、フォン・ブラウンを離脱しましょう・・・皆さん気をつけてください、タケル君のいる地点では軍艦が展開しているようです』

 

モニクとケニーは途中でオリヴァーと合流し、タケルのいる場所に向かった。

 

○○○●●

 

<ビシャーーー>

 

化け物の鮮血が宙に舞い、ヅダ改のヒートホークが勢い余って地面に刺さる。

何匹同じ化け物を殺したのかタケルにも分からない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

タケルは息を整え。

そして眼前の化け物達を見る。

化け物は数種類いて、全て同じ特徴を持つ。

それは人類から見て、嫌悪感を抱かせる風貌。

一匹一匹何処となく人の特徴を持つが、一目で異形と認識できる。

 

この化け物達には名前があった筈だが、タケルには思い出せない、思い出す余裕もない。

 

また何匹か殺した時、一匹がタケルに突進し、タケルを捕らえる。

それはカニみたいな腕を持ち、蛸のような形をした化け物であった。

 

今まで敵の攻撃が掠りもしなかったため、この状況にタケルは驚く。

 

敵の攻撃をヒートホークで受ける。

 

後方に下ろうとするが、一つ目の化け物からの遠距離攻撃で上手く離れられない。

 

<・・・ね・ん・>

 

タケルには眼前の化け物が何か言った気がした

 

<タ・・・ル・・>

 

後方の目玉も同じ様に声をかけてくるような気がした

 

<・・・ケ・・・く・・・ん>

 

見えない所からも声をかけられる

 

<タケルさん・・・>

<タケルちゃん!>

 

「・・・ぁぁ・・・俺は皆・・・ごめん・・・ごめん・・・俺は・・・スミカ!!」

 

その呼び声に答えるように涙で顔を濡らすタケルは叫び

 

そしてタケルの意識は途絶えた

 

○○○●●

 

<ビービービー>

「ちっ・・・」

 

コクピット内に響く警告音に対して舌打ちをするケニー。

暴走するヅダ改をモニクの援護、オリヴァーの誘導、連邦とテロリストの犠牲の上で何とか押さえつけたが、その代償にギャンの駆動系部分とエンジンは悲鳴を上げていた。

ビームソードでヒートホークを受け、動力を切ったヒートサーベルでヅダ改を押さえた。

 

「・・・いい加減目を覚ませ少年!!!」

 

額に若干の汗を流しながらケニーはタケルに話かける。

 

「シロガネ=タケル中尉!気を確かに持て!」

 

モニクの声が響く

 

「危険領域です!エンジンカットをしてください、タケル君」

 

オリヴァーは何時ものように冷静さを保とうとしていた。

一番索敵範囲の広いヴァル・ラングはいち早く戦域に入る敵艦を捉えていた。

 

「ここから早く退避しなければ、敵大隊と接触し、艦隊戦になります・・・!!!!」

 

「チッ、鈍重な連邦もこんだけ時間やれば動くか・・・」

 

ケニーは舌打ちをし、操縦桿を再び強く握る。

 

「オリヴァー!敵との接触までどのくらいだ!」

 

「もう戦闘区域には入ってます」

 

焦りが一同を襲う・・・

<タケルさん・・・>

<タケルちゃん!!>

と三人は少女達の声に驚く

 

「・・・・め・・ん・・俺は・・・・ス・・カ!」

 

そしてその声に答えるようにタケルが何かを叫びヅダ改は停止する

 

「何、今の・・・」

 

「声・・・少年を止めたのか?」

 

「・・・!敵、連邦軍、サラミス級撃って来ます!」

 

<ヴォォォォォーン>

 

砲撃が空を裂く

 

「ロンズさん、タケル君を回収してください。このままでは的にな・・・」

 

オリヴァーは画面に映るヅダ改の異常な数値に気をとられる、ヅダ改を見つめると一瞬涙のような光が銀色のモノアイより漏れる

 

「技術屋どうした!?」

 

ケニーの怒鳴り声にオリヴァーはハッとなり意識を戦場に戻した

 

<ビービービー>

 

ロックオンの警告音が耳に響き、オリヴァーは冷たい汗を背中に感じた。

 

「敵艦隊砲撃回避を!「オリヴァー間に合わないわ!」なら僕が!盾になるくらい!「技術屋!」」

 

オリヴァーはタケル、モニク、ケニーを守るように前に出た。

 

画面一杯に閃光が広がる・・・そしてオリヴァーはビーム撹乱幕発射ボタンに指を伸ばすが間に合わない事に気づく

 

死を覚悟した三人を別の暖かい光が包む

 

それは優しくも悲しいそんな感覚の

 

ハレーションが機体のモニターを覆い

 

そして

 

艦砲射撃が通過したそこには何もなかった・・・

 

そして遠くからタケル達が消えた方向を見つめる少女、

 

マリオンは何も無い宇宙(ソラ)を眺めていた

 

「貴方の理想(ゆめ)はここで叶えられないから・・・

行方しらぬ明日は貴方が光となりて導いて、

例え未知をたどり、例え傷つき、力尽き、飛び立つためのツバサを傷めても、

貴方には新たな仲間が力があるから。

ただひとつ進むべき路の彼方を眺めて、時を越え、果てしない未来へ旅立って・・・

天命(さだめ)に負けないで

 

・・・バイバイ・・・タケルさん」




アクシズ技術試験課活動記録報告書

我々アクシズ技術試験課は宇宙世紀0081、10月22日フォン・ブラウン市にて連邦軍及びテロリスト部隊の戦闘に巻き込まれ試験機の実戦試験を実施せり。整備未完了ながらも各機奮闘せり。シロガネ中尉はEMS-10ZFbに搭乗し、先行、敵を殲滅。後を追うようにマイ特務大尉はMS-09F/TROPにロンズ元中佐はYMS-15Kに搭乗、シロガネ中尉に合流すべく後を追う。されど、民間人の救助に時間をとり、シロガネ中尉は孤立。この時EMS-10ZFbは謎の暴走をせし。マイ技術大尉乗るヴァル・ラングは物資搬入を終了し、マイ特務大尉達と合流せし。暴走するEMS-10ZFbを我々三機及び敵を囮に使いつ、捕縛に成功。されど、連邦軍艦隊による艦砲射撃により我々はこの世界より消滅せり。

―宇宙世紀0081、10月22日



        ―西暦1999、10月22日   オリヴァー=マイ技術大尉


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第五・五話=幕間「西暦への呼び声」

タケルの意識はマドロミの中にいた。

 

それは何時かの記憶。

 

赤ピンク色の髪をし、アホ毛が目立つ幼馴染との記憶。

 

時に泣き、時に笑い、時に怒り、そして愛し合った。

 

その全てが懐かしく。それを見る度にタケルの中の何かか軋む感じがする。

 

痛いのか、悲しいのか、寂しいのか、怖いのか、怒っているのか分からない。

 

何もかもが混ざった感情の波が彼の中で渦巻く。

 

そして、その感情がピークに差し掛かった所で、突然映像が変わる。

 

ただの高校生をしていた自分。

 

友人と帰りゲーセンにより、宿題をして、たまに分けの分からない状況に巻き込まれるも、一部を除けば“普通”な世界。

 

そして、また映像は変わり、

 

永遠と血反吐吐きながらも、走り続ける自分。

 

友の足を引っ張りたくない一心で頑張り続けた自分。

 

が、最後は“いつも”納得が生き物ではなかった。

 

具体的に分からなくても、感じる

 

“敗北”の苦痛。

 

そして、最後にまた一度同じ様な映像

 

しかし、自分は今度は何か違う事をやろうと粋がっていた。

 

だが結果として、大切な恩師を殺してしまい、仲間が死ぬ未来でしかなかった。

 

人類は・・・”勝利”した・・・

 

が犠牲は納得できるものではなかった。

 

 

もう一度あるなら・・・どうしたであろう。

 

もう一度あるなら・・・

 

そう、平和なあの世界に戻ってもどこかタケルの魂はそれを問い続けた。

 

戻りたいのか?

あの悪夢にまた一度?

 

恐怖より後悔、それよりも希望に向かい走り、走り、走り、飛び・・・

 

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貴方の意識は

 

深く

 

深く

 

深く

 

沈む

 

春の陽だまりの中にいるような眩しさ、暖かさ

 

そして水の上にいるような静かな音と浮遊感

 

息を静かに全て吐き

 

また吸い込み、

 

肺を満たし

 

それを繰り返し

 

息をする

 

 

貴方は

 

安堵感に

 

包まれ

 

そして

 

貴方の

 

目の前に道が現れる

 

貴方は一歩ずつその道を辿る

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

すると目の前に扉が現れる

 

さぁ、ノブに手をつけよう

 

鍵はかかっていないから

 

ノブに手をつけると

 

貴方の中で

 

勇気が

 

力が

 

愛が

 

溢れてくる

 

さぁ

 

恐れはない

 

君よ

 

扉を開き

 

旅立て

 

より良き未来のために・・・

 

 

○○

 

○○○

 

○○○○

 

○○○○○

 

○○○○○○

 

○○○○○○○

 

○○○○○○○○

 

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第一章「魔女の鍋に再度火は焼(くべ)られる」
第六話「洞窟に射す希望(ひかり)」


武は目を開き、脳を覚醒させる。

ここ数年ないくらいハッキリする思考。

 

「頭痛は・・・無いな・・・と、今回は俺の部屋からじゃないのか」

 

怪我などはないが武は全身に疲れを感じ、

自分がヅダ改のコクピット内にいるのを確認する。

 

武は“思い出していた”自分が誰で、何であるかを。

 

次に武は再び自分の身体を確認する。

そこには宇宙世紀に居た時と同じ20歳前後の鍛えられた身体があった。

 

そして、モノアイを起動させ周りを見渡した

 

「洞窟・・・いや・・・違うか・・・」

 

見覚えのある構造、生物によって掘られた、大きな空洞

 

自分がBETAのハイヴ内にいるのを理解する

しかし、視認できる範囲では全くBETAの気配がしない。

 

「ヅダは・・・レッドアラートの部位が64%、イエローが21%か、形が残っている大破だなこりゃ・・・」

 

未完全の整備で無茶をしたヅダ改の状態は芳しくなかった。

特に間接部位とスラスターは完全なオーバーホールが必要なくらい損傷していた。

 

そして武は起動停止している周りの三機を見渡す

 

「・・・オリヴァーさん、モニク姉さん、ロンズさん起きてください」

 

暫くして、オリヴァー達が起きる

 

「ん、タケルくん・・・僕達はどうなんたんだ」

 

「ここは、何処だ・・・私達は・・・」

 

「ん、何だ殆ど機体が動かねぇな」

 

予想はしていたが考えたくなかった結果に武は軽く頭を垂れて息を吐く

 

「巻き込んでしまったみたいですね・・・」

 

武は一拍起き、話始めた・・・

記憶が戻ったこと、自分が何であるか、

この西暦、世界の事、BETAのこと・・・

 

・・・

 

「少年、頭をおじさんに見せてみなさい、多分脳震盪とかそこらから来る混乱だろ」

 

ケニーは哀れむような目をし、武に語りかけた

 

「ロンズさん、信じられないと思いますけど・・・スグに分かると思います」

 

それを軽く流す武

 

「タケル君、君の話が本当だったら、これで君はこの世界に3回来た事になるんだよね?」

 

オリヴァーはヴァル・ラングのチェック及び、ギャンの応急整備をしながら話しかけた

 

「ええ、予想が正しければですけど、普通だったら俺は自宅で目を覚ます筈なんですけど」

 

「うーん、そして今回は別の場所、しかも僕達も巻き込まれていて、理由は不明と」

 

「すみません、俺はそこの所は専門じゃないんで、夕呼先生辺りに聞けば理由が分かるかも知れません」

 

「タケルが言っていたこっちの世界での協力者だったな?」

 

機体の損傷が少なかったモニクは既に状況確認の作業を終えていた

 

「はい、ただ、俺の事を現時点では知りませんから」

 

また、香月夕呼博士から信用を勝ち取る作業をしないと行けないと思うと憂鬱になる武であった。

 

「・・・取りあえず最初の内は適当に俺に合わせてください、その方が問題も少なくてすみますし」

 

「確かにタケルの説明が正しければ、ここは旧時代のしかも違う並行世界なんだろ、我がジオン公国軍もなければ連邦(モグラ)もいないならば、下手に話して狂人扱いされる必要もないだろう」

 

<ピピピ>

熱源レーダーに反応がする

 

整備が完了していないギャンを抜いた三機が銃を構える。

大空洞の先、小さな穴からMS(モビルスーツ)と同じサイズか若干大きめの黒い機体が現れた。

 

武は素早く全員に通信を送る

 

「ここじゃ、MSぽいのは基本味方です、銃を下げてください」

 

そう言われ、オリヴァーとモニクはロックを外し、モニクのドムはラケーテン・バズを下げる。

 

黒い帝国軍仕様の撃震は武達に近づき、通信を開く

 

『こちら日本帝国軍技術科第8調査隊所属、黒藤文縁(つづら=ぶんえん)少尉。貴殿らの所属を確認したい』

 

それに武は応答する

 

「こちら国連太平洋軍所属の白銀武中尉です、現在極秘任務中により詳しい所属は言えない、了承してくれ」

 

『了解した』

 

「それと、こちらのモニターが故障したんで、年月日、時間を教えてくれると助かる」

 

『1999年10月22日0836時だ』

 

「な!」

 

年を聞いて武は驚く

 

オリヴァーはジオンの秘密回線を開く

 

[タケル君、どうしたんだい?]

 

[いえ、“何時”もより2年早いんです]

 

[どういうことだい?]

 

[何時も、起きる時は西暦2001年の筈なんですが・・・]

 

[それも僕達のイレギュラーが関係しているのかも知れないよ]

 

『・・・し・・い・・・白銀中尉!』

 

「はい!」

 

『どうした?』

 

「いえ、思ったより時間が・・・早かったので驚いただけです」

 

『何の任務か知りませんが早く終わったなら良いのでは?』

 

「ええ、すみません、一つよろしいですか?」

 

『ああ』

 

「国連軍所属の香月夕呼博士に繋いで頂けますか、指示を得たいのですが、長距離通信もイカレているので」

 

『香月博士・・・ああ、“この横浜ハイヴ”に基地を建てろと言った博士か、お陰で俺達も今週いっぱいで調査できなくなるしな・・・なる程、君達はその人の部下か』

 

黒藤少尉は一人納得し、通信を行う

 

「(ここは横浜ハイヴか、なる程見た気がするわけだ・・・)ああ、それと多分知らないと惚けると思うので、そちらを通してこっちに通信まわしてください」

 

数分後、武のヅダ改に通信が入る、通信はオリヴァー達にも聞こえるように設定されていた。

 

『香月よ・・・アンタが白銀武中尉?アタシはアンタなんか知らないわよ?』

 

「またまた、香月夕呼(こうづき=ゆうこ)博士、第4計画直轄の俺達を忘れる筈がないじゃないですか、半導体150億個分の処理装置を手の平サイズにするために、A-01とは別に俺達技術試験部隊がいるんじゃないですか。流石にまだ急がなくても良いですけど、その内宇宙(そら)に船が飛んじゃいますよ」

 

『・・・!!!』

 

夕呼は息を呑む、それは機密情報のオンパレード、しかも自分しか知り得ない情報を白銀武中尉と名乗る青年は言い当てた。

 

『・・・たまには・・・ふざけたくなるのよ、じゃなきゃ息が詰まっちゃうわ。・・・で要求は何?』

 

「“ご存知”の通り俺達の機体は機密性が高い上に、一機はアメリカのXG-70に匹敵する大きさですから、どうしましょう?」

 

『その大きさでその位置になると・・・第6区画03格納庫が良いわね、つい先日完成したから、そちらに移動して頂戴・・・位置は・・・貴方達の機体には情報が送れないから、そこの帝国軍衛士に途中まで送らせて、その後にこっちの衛士に03格納庫まで送らせるわ』

 

「夕呼先生、回線黒藤少尉と開きっぱなしでいいんですか?機密は?」

 

『(先生・・・?)今更いいわよ、どうせ見られちゃったんだし。それに・・・と言う事で、黒藤少尉頼むわね』

 

『・・・了解しました、皆さんこちらです』

 

ギャンの応急整備も終わり移動するだけには問題がないので、4機は黒い撃振の後を追う。

 

[一応上手くいった、て事で良いのか?少年?]

 

[この後が大変なんですよ・・・ああ、心読める子がいるんで気をつけてください]

 

[ニュータイプか?]

 

[の強化版というか別物ですね、本気(マジ)で心を読みます]

 

[・・・宇宙人に、超能力者、旧時代に次元移動か・・・Welcome to Science Fiction World(SF世界へようこそ)てな・・・]

 

ケニーが皮肉そうに笑う

 

[それより、タケル君、後でこの世界のMS・・・いやTSF(戦術機)と言いましたね、それについて教えてくれないか?興味があります]

 

[オリヴァー・・・アンタはそればかり]

 

少しして、帝国カラーの撃振は青色の不知火に合流し、武達は後を追うように指示される。

 

帝国衛士はその青色の国連不知火と何やら会話をした後、武達に別れを告げハイヴに消えた。

 

「ここから先は私が案内しよう・・・」

 

通信からは若い女性の声が響く。

 

武には聞き覚えの無い声だった。

 

「(2000年以前に殉職した人か・・・?)白銀武中尉です、宜しくお願いします」

 

「そういえば、貴殿らは我々の事を知っているんだったな。A-01連隊・・・いや今はA-01大隊だったな、第07中隊隊長碓氷奈々(うすい=なな)大尉だ」

 

やはり武にとって知らない人であった。そして武の記憶では特殊任務部隊A-01は2000年までに1個中隊しか残らないはずである。しかし、1999年現在どうなのかは彼には分からなかった。

 

「ついてきたまえ」

 

4人は碓氷大尉の不知火を追う

 

[随分厳重な警備だな、何があるんだ?]

 

[第6区画の03格納庫なんてのは“前”の世界では聞いた事がない、あったのかも知れないけどいった事がないのだと思う。どちらにせよオルタネィティブ4関連じゃないかな]

 

[宇宙人〔BETAだロンズ中佐〕・・・細い女は結・・・いやもうしているか、旦那に逃げられるぞ嬢ちゃん〔逃げたら本人がどうなるか良く理解している筈だ〕・・・技術屋・・・いや、ともかくそのベータとかいう化物相手の諜報員を作る計画だろ?]

 

[タケル君の話じゃ、結局上手くいかないみたいだけど]

 

[今の段階なら何かしらのアクションは取れると思います・・・]

 

武の脳裏に一瞬だけ第4計画の犠牲になり、命を“2度”落とした幼馴染の顔が横切る

 

[・・・オリジナルハイヴさえ叩けば有効的な戦略ですから]

 

[・・・にしても、いきなり機密区域に連れて行かれるとは、信用されているな。一歩間違えれば消されるという所か]

 

モニクの言葉に一同沈黙する

 

[ともかく、政治的取り引きが必要になるなら、私がやろう。お前達よりは幾分かマシだろう、タケル取りあえず知っている事を教えられるだけ教えろ!]

 

[は、はい!]

 

タケルはモニクに質問される事を全て答え、そうしている間に4人は碓氷大尉に連れられ薄暗い洞窟、明るく整備された格納庫に出た。

 

そして4人は機体にロックをかけ降りると、短い金髪の女性士官、イリーナ=ピアティフ中尉が彼らを迎えた。

 

碓氷大尉の不知火は既に03格納庫から離れていた。

 

「イリーナ=ピアティフ中尉です、香月博士のもとまでご案内いたします」

 

ピアティフ中尉は手を武に差し出すと、武は軽く握手をする

 

「宜しくお願いします」

 

武がピアティフの手を話した直後にケニーがピアティフの手をとる

 

「いやー美人さんにイキナリ会えるとは運が良い!この世界も捨て<ドン>どぅふぉ!」

 

モニクが自重しないケニーの背中、左下に向かって右のキドニーブローを放っていた

 

「モニク、いくらなんでも反則打はどうかとおもいます」

 

「モニク姉さん・・・」

 

「さぁ、ピアティフ中尉、そこで子供のポーズをしている下種(ゲス)は気にしないで先を急ぎましょう」

 

「ヨガのポーズに例えるとは、モニク博識ですね」

 

「ありがとう」

 

「この夫婦は・・・」

 

武は右手で頭を抑え左右に振り

 

ケニーは地面で悶え

 

ピアティフはそんなやり取りをする4人をみて苦笑するしかなかった

 

○○○●●

 

一行はケニーが遅れるものの、何事もなく、香月博士の研究室についた

 

部屋は武の記憶よりも新しく、そして綺麗だった。まだ、書類は整頓され机の上に置かれ、地面に散乱していなかった。

 

机の前には軍服の上に白衣を着た妖艶な女性がいた。

彼女は振り返り紫色の長髪を手で払い肩の後ろに押す

 

「ピアティフ、ご苦労さん、下っていいわよ」

 

ピアティフは何も言ず、部屋の外に出る

彼女が外に出る瞬間、ケニーは彼女にウィンクをし、またモニクに冷ややかな目で見られる。

 

「さて、じゃ話しましょうか」

 

夕呼は立ったまま腕を組四人を見つめ

 

「取りあえず、夕呼先生、書類の後ろにある拳銃、詳しく言うとグロック26は使わないでくださいよ。超小型といっても先生みたいな訓練していない人が使うと逆に危ないですから」

 

武は過去の知識、夕呼の視線、そして“勘”から彼女に鎌をかけた。

 

「!!」

 

驚きを顔に出す夕呼

 

「それと、隣にいる霞・・・社霞・・・は別にいいか、嘘つくわけじゃないし」

 

「・・・アンタ達、何者よ?」

 

睨む夕呼を無視し、モニクが会話に入る

 

「自己紹介ね、私はジオン公国軍アクシズ最高責任者マハラジャ=カーン直轄文官モニク=キャディラック=マイ特務大尉だ」

 

モニクは夕呼を真似て同じく腕を組む

 

「同じくジオン公国軍アクシズ技術部、技術試験課所属、オリヴァー=マイ技術大尉であります」

 

オリヴァーは直立姿勢のまま答えた

 

「俺は偉そうな名称は無い、ケニー=ロンズ・・・傭兵だ」

 

壁に寄りかかっているケニーはダルそうに答えた

 

「私が代わりに答えよう、彼は元連邦軍アフリカ方面第5師団第09独立掃討部隊「黄昏蝙蝠」隊長・・・ケニー=ロンズ中佐だろう」

 

モニクはケニーを見て笑う

 

「そのネタ引っ張るね・・・まぁ、なんだっていいさ、今はただのケニー=ロンズだ」

 

両肩を上げ、困ったと言わんばかりのジェスチャーをする

 

「最後に俺だな。色々あるけど、新しい順でいったら、ジオン公国軍アクシズ技術部、技術試験課所属、タケル=シロガネ中尉。国連太平洋方面第11軍横浜基地、横浜基地副司令直特殊任務部隊A-01第9中隊所属、突撃前衛(ストーム・バンガード)隊長、白銀武少尉。まぁ、その前も大尉とかやってた『記憶』はありますけどね」

 

夕呼は懐疑的に四人を見つめる

 

「・・・あ、それと俺は『因果導体』です。夕呼先生ならその意味がわかりますよね?」

 

「!!!なる程、そういう事ね、色々とそうなると辻褄が合うわね、でもそれだと・・・<ブツブツ>」

 

因果導体という単語を聞き、一人考え込む

 

「夕呼先生!」

 

「ん?ごめん、続けてちょうだい」

 

「はい、では先ず俺の存在とこれから起きる事、それと彼らと俺達のMS(モビルスーツ)について・・・」

 

武は淡々と話し始めた

一回目の事、オルタネィティブ4が失敗し、5が発動し、最後まで戦うものの人類は負ける事・・・二回目のループ、過去の知識を元に積極的に加入し、幼馴染の鑑純夏(かがみ=すみか)は00ユニットになるものの再開を果たし、桜花作戦を成功させ、自分はその世界から消えた事。そして三回目になる今回は別次元で目を覚まし、全く記憶のないまま宇宙世紀で数年を過ごし、今また、西暦のこの時代に戻ってきたこと・・・

 

夕呼は複雑な顔をしながら武の話を聞いた

 

それに気づいた武は夕呼に声をかける

 

「・・・夕呼先生どうしたんですか?」

 

「・・・いやね、白銀・・・白銀でいいわね、アンタの話しを聞いてると、自分の理論が合っていたという事、オルタネィティブ4が成功する事、喜ばしい事ではあるんだけど、同時に00ユニットから逆にBETAに情報が渡る弱点や、BETAが生き物では無く、意思もなくロボットのように働くモノだという事、そしてそんなのが宇宙に10の37乗だっけ?アボガドロ定数よりいると思うと・・・喜ぶに喜べないのよ」

 

「まぁ、気にしてもしょうがありませんよ、今回は理由はわかりませんが、前回より前の時間に飛べたわけですし、最良の結果に出きると思いますよ。それにしても先生、今回はすんなりと俺の事信じてくれましたね」

 

そんな武の問いに馬鹿を見るような目で夕呼は武を見つめ答える

 

「馬鹿にしないでよね、報告はきているは、ラザフォード場(重力場)も発生させず、あんな巨大な物(ヴァル・ラング)を浮かせている時点で貴方達の存在は通常じゃ『ありえない』のよ、それに他の要因もあるし、アンタだって信じさせるために色々言ったでしょ」

 

「なんだ、頑張って損した気分です」

 

「・・・っでアンタ達はアタシに何をさせたいわけ?」

 

「そこからは私が話そう」

 

そう言ってモニクが前に出る

 

「マイ特務大尉だっけ?」

 

「マイの苗字が二人もいるし、モニクで結構よ」

 

「そう」

 

「私達の要求は至ってシンプル、目的を果たすために貴方に助力を頼みたいだけ。私達は元の世界に戻りたいし帰りたい。貴方が00ユニットというものを作り、人類に希望が生まれれば、そうすれば私達は帰れるとタケルは予測している。00ユニットとなった鏡純夏が私達を呼んだのではなくても、この世界で一番、時空や次元を移動する事について知っているのは貴方。だから私達にとっての最良の選択は貴方が誰の妨害も受けず、オルタネィティブ4を完成させる事。そして、そのために私達は持てる全て、知識を、技術を、人材を、知恵を、力を、貴方に貴方達に託すわ」

 

モニクは一息でそれを言うと夕呼を真っ直ぐ見つめる

 

「・・・全くやり難いわね・・・こっちの手の内が丸分かりなのに、そっちの手札は全くのブラインド、それにディラーの腕が良かったら、お手上げね・・・最初はどうするのよ?」

 

「(こんなに素直な夕呼先生は見た事がないな)」

 

「先ずは戸籍などの身分証明と衣食住ね。身分の設定等はそちらに任せるわ。私の知識と予測が正しければヨーロッパ、中近東系の人間の身分等どうにでもなろう、国が崩壊して戸籍等の記録は怪しいだろう?」

 

「先生、俺の場合はどうなってます、やっぱ死んだ事になってますか?」

 

「シロガネ、さっき調べたけどアンタの言う“やっぱり”死んだ事になってるわ。まぁ、明星作戦での死亡判明だし、たった2ヶ月だから、なんとでも出来そうね。でも、流石に童顔でも・・・」

 

夕呼は武の身体をノーマルスーツ越しに見る

 

「・・・その体格で15歳は無理がある気がするわ」

 

「・・・できるだけ大きめの服着ますよ「少年それで誤魔化せる問題でもないだろ」・・・後帝国の方にも報告してください、前の時はそれで帝国斯衛に目をつけられましたから・・・」

 

「そう言えば、帝国側は独自に情報管理していたわね。で、貴方達には一度国連軍に入ってもらうわ、入ってもらわないと動きが取りにくいしね」

 

「また訓練ですか、はぁ・・・」

 

これで国連軍での訓練学校経験は3回目になる武はため息をつく

 

「何言ってるのよ、そんな無駄するわけないでしょ。もう直ぐ、試験があるから、受けて、戦術機の機動訓練したら、とっとと任官よ。指揮経験のある人間4人も遊ばせておく程人類には余裕はないわ」

 

「この年で正規の訓練を受けるとはな・・・」

 

「士官学校を思いだすわね」

 

「・・・僕は肉体的訓練は余り得意ではないのですが」

 

オリヴァーだけが暗い顔をする

 

「任官したらまた少尉からだけど、任官さえすればこっちで何とかできるわ」

 

そう言いニヤリと夕呼は笑う

 

「で、最初は何をくれるのかしら」

 

「タケルが説明した通り00ユニットに必要な図式は2001年にならないと手に入らない。だが、オルタネィティブ4の副産物として私達の技術を有力者に提供すれば支持する者も増えるし、人類の戦力自体も増える。オリヴァー、タケル」

 

「はい、先ずはミノフスキー=イヨネスコ型熱核反応炉ですね。先ヴァル・ラングがミノフスキー粒子かそれに酷似したものを確認したので何とかなると思います」

 

「核反応炉!?アンタ達の戦術機はそんなものを動力にしてるの?」

 

20世紀~21世紀初頭にはまだ核反応炉は無いために夕呼は驚く

 

「詳しい事は後程報告書に纏めます・・・問題としては燃料のヘリウム3が地球上には少い事でしょうか・・・」

 

「ヘリウム3ならあるわよ?」

 

「本当ですか、地球上には殆どない筈ですが」

 

「ここ(ハイヴ)の地下とアトリエと呼ばれるBETAの工場付近で発見できるわ、当然他のガスと一緒にだけど」

 

「それなら問題ない筈です」

 

「後はXM-3(エクゼムスリー)ですね」

 

武は自信ありげに話す

 

「何なのそれ?」

 

「新概念のOSです!」

 

「OSならここ最近、新しいのが出来た所よ」

 

それを聞き、武の中で引っかかっていた謎が解けた、それは自分の記憶にある旧OS戦術機より帝国の撃振とA-01の不知火の動きが良かった事だ。

 

「で、そのOSの特徴は?」

 

武はキャンセル、コンボ、先行入力、そしてMSの基本OS機能を説明をする

 

「・・・確しかに、私の研究、更新されたばかりのOS、そして貴方達のOSの情報を使えばすぐに作れそうね。それがどれだけスゴイ物なのかは私にはわからないけど、どうなの?」

 

「そうですね、取りあえず衛士の戦死者を半数以下にして、死の8分を死語に出来るくらいですかね」

 

「死語て言葉を久しぶりに聞いた気がするぜ」

 

ケニーが横でちゃちゃを入れる

 

「それらを含めて、これからどうするかを詳しく報告書に纏めるわ」

 

「そうね、そうして頂戴。貴方達の部屋まではピアティフが案内するわ」

 

後ろのドアが開き、4人は外に出ようとする

 

「・・・そうそう、白銀、社に挨拶しなくていいの?」

 

考える素振りをする武

 

「う~ん、挨拶に似たような事はしましたけどね。まぁ感じでは元気そうなんで、また今度にします。今は早く飯を食って寝たいです」

 

「そう」

 

そして武達はピアティフに案内されるまま、夕呼の部屋を出る

 

・・・

入れ替わり、黒のスカート形式の軍服をまとい、ウサ耳のような髪飾りをした銀髪の少女が部屋に入る。

 

「社、どう?」

 

「モニクという方とオリヴァーという方は嘘をついていません」

 

霞の答えに疑問を持つ夕呼

 

「他の二人は?」

 

「分かりません。ケニーという方は読めませんでした。タケルさんは・・・話みたいな事をしました」

 

「!!白銀も貴方と同じ・・・?」

 

「違うと思います」

 

「本当に謎ね。彼らは私達の希望と成り得るのかしらね・・・」

 

○○○●●

 

一度部屋に案内された武達は暫くして、IDを渡される。

階級は武が臨時中尉で他3人が臨時大尉となっていた。

流石に臨時中佐なんてものはないらしい。

 

武が確認した時にはケニーはドアにロックもかけずパンツ一丁で寝ていた。

武、オリヴァー、モニクは一度、03格納庫に戻り、ヴァル・ラングから私物と重要データだけをとった。

 

モニクとオリヴァーの部屋は気を効かせてか嫌がらせか、二人部屋になっていた。

部屋に戻りモニクとオリヴァーは二人共報告書を書く作業に始める

だが、その時に疑問に思う

 

「モニク姉さん荷物ここに置きますよ」

 

トランクケースと箱をベッドの横に置く武、背中には自分の私物であるリュックを背負っている。

 

「ねぇ、タケル」

 

「タケル君」

 

「何ですか?」

 

「「何で僕(私)達は日本語を喋れるんだ(の)?」」

 

指摘されて、初めて武はその異常性に気づく。が同時、自分(因果導体)に巻き込まれたからその影響かと安易に思う。

 

「多分・・・次元を飛んだ影響じゃないかとしか思えません」

 

三人はアレコレ考えるが、時間の無駄と理解し二人は作業を始める

 

「オリヴァーさん、その報告書アクシズへのじゃないですか」

 

「まぁ、届かないくとも記録をつけるのが僕の仕事だからね、これとは別に日記もつけようと思うよ。っで、今日は何日だっけ」

 

「00(ダブルオー)・・・いえ、西暦・・・西暦1999年10月22日木曜日です」




我々は宇宙世紀0081、10月22日フォン・ブラウン市より西暦1999年10月22日木曜日の地球、日本帝国、横浜のハイヴという所に時空転移せし。シロガネ中尉の記録が戻り元々彼が転移者(トラベラー)である事が判明す。我々は彼の知識と経験を元に現在工事中の横浜基地副指令、香月夕呼博士と面会し彼女の助力を得る。彼女はこの世界では『天才』や『魔女』と知られる物理学者であり、即座に我々という異常(イレギュラー)を理解せし。我々は彼女に技術等を提供する代わり身元の保証と元の世界に帰る助けをしてもらう事を約束す。先ずはミノフスキー=イヨネスコ型熱核反応炉の技術提供、及びミノフスキー粒子の説明、そしてシロガネ中尉のXM-3という彼らのMS、TSF(戦術機)の新型OSの開発を手伝う事となる。そして我々は国連軍に任官するため、再度訓練を行う。
現在我々の機体の整備状況は以下の通りである
・MS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)86%
・YMS-15K試作改良型ギャンは66%、盾未装備
・EMS-10ZFb最終調整型ヅダ・試験運用装備54%、塗装未完了、専用コンピュターEARTH設置完了
・MP-02Aa-YOP オッゴ大気圏使用型(バロール装備)74%
・QCX82-Aミドガルオルムは64%
・RX-81X-2試作量産型ガンダム2号機『ルピナス』45%
・MA-06MSSヴァル・ラング96%
MS-09F/TROP及びYMS-15Kの修理を優先す。EMS-10ZFbは暴走原因を突き止めるまで、起動を禁止す。
―西暦1999、10月22日   オリヴァー=マイ臨時大尉


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第七話「先達になりて光と水となり芽を守る~前偏~」

白銀武は元々、極々普通の一般学生だった。

白陵大付属柊学園3年・・・幼馴染の鑑純夏、親友の鎧衣尊人(よろい=みこと)とふざけ、下校後にはゲーセンで対戦型ロボットゲーム『バルジャーノン』を遊ぶ、そんな生温くも幸せな時間を送っていた。

しかし、その平穏は何の前触れも無く崩れ去った。

2001年10月22日、運命の日。

武は起きると、彼は自分が平行世界(パラレルワールド)にいる事に気づく。

破壊された自分の故郷、そして同じ名前でも違う価値観と理念で動く人々。

 

そして、人類に敵対的な地球外起源種

Beings of the

Extra

Terrestrial origin which is

Adversary of human race

『BETA』の存在

 

1998年までに人類はその人口を30%まで落としていた。

(当初これを聞いた武は驚いたが、現在の武は一週間で28億人、世界人口(110億人)の約3割を死なす世界から来ているため、その心情は複雑である。)

彼は国連軍訓練兵になり、元の世界でのクラスメート達がいる207B分隊に入る。

武は足を引っ張りつつも、持ち前の性格で生まれや過去、政治的な理由で集められた207B分隊を纏め。彼は様々な人に会う、元の世界での担任、この世界の訓練校教官神宮司まりも、天才物理学者の香月夕呼博士、シュリンダーに浮かぶ謎の脳髄を守る少女社霞。彼はバルジャーノンで鍛えた操縦技術を駆使し、滅びに近づく世界を精一杯生きる。

後々に彼は気づかされるが、この世界を彼は何度もループする事になる。

 

 

2度目の2001年10月22日、正しくは前ループの記憶を持ったままの2001年10月22日。

彼は起きると自分の前世界での記憶が蘇る。

必死に生き、そして死んだ世界。

今度はその記憶をもとに世界を変えようと動く。

積極的に香月夕呼博士に近づき、情報を提供する。

知る災害(BETAの奇襲)を予言し、敢えて何もせず、的中させる事で信頼を得る。

戦術機用OS:XM-3(エクスエムスリー)を開発し、

衛士(パイロット)達の寿命を延ばす。

訓練兵207B分隊に入り、成長した武は彼らを引っ張り、成長させる。

 

順調に、順調にいっていた、いっていたと思っていた。

だが、運命は、世界は彼を嘲笑うかのように、不幸を運ぶ。

日本帝国内でのクーデター。

XM-3トライアル時のBETA襲撃

それにより、恩師、神宮司まりもの死、

まりもの死は未熟な武の責任であり、

その重荷に耐え切れず、武は元の世界に逃げる。

 

しかし、因果導体の彼は死という運命を運び、

元の世界のまりもすらも殺してしまう。

世界はバランスを保つために、人々から武の記憶を消し始める、

幼馴染の鑑純夏さえもその運命に逆らえなかった・・・

 

不運は続く、

純夏は事故にあい、植物状態となる。

武は決意する

全てを終らせるためにBETAのいる世界へ戻る。

そこで待っていたのは00ユニット(生体反応ゼロ、生物的根拠ゼロの人型人工生命体)になった幼馴染であった。

そう、社霞が守っていた脳髄こそ、彼の幼馴染である。

幼馴染がこの世界にいなかったわけではなく、彼が『認識』しなかっただけであった。

武は00ユニットとなった純夏を支え、支えられる。

(彼女と結ばれなかった事がループの原因であったが詳細はここでは割合させてもらう)

最後には仲間全員と彼女の犠牲の上で中国に位置するオリジナルハイヴを破壊する。

日本に戻った彼は、役目を果たしたように世界から消滅した。

 

そして、3度目・・・彼は全く違う世界、宇宙世紀0079年10月22日に目覚め、今にいたる・・・

 

○○○●●

西暦1999年10月28日

 

オリヴァーは武から聞いた彼の人生(ものがたり)を纏めていた。

その情報はオリヴァー達にとって最も重要なものである。

宇宙世紀(UC)世界に帰還するヒント。

これからとるべき行動。

この世界での常識。

そういったものを知り、決めるために必要な事であった。

 

武達がこの世界に着て一週間が経った。

その間オリヴァーと武はミノフスキー粒子についてのレポートを纏めた。

実際この世界にはミノフスキー=イヨネスコなる人物はいないが今更名前を変えるのもめんどくさいし、偉人に対しての冒涜になるという事で同じ名前が使われた。

オリヴァーと武は殆ど寝ておらず、目の下にクマをつくっていた。

学術雑誌に投稿する物になると、参照する論文などこの時代の物を全く知らないオリヴァー達は夕呼の助けを借り、取りあえず『粒子を発見したのが不自然じゃない』ように見せる論文を書き上げた。

第一著者をオリヴァー=マイ、第二を香月夕呼、第三を白銀武とし、オリヴァーが無名であっても、夕呼の名声を借り、確実に信憑性のあるものが仕上がった。

当然、自分達が不利になるような電波妨害の効果などは伏せられ、核反応炉を作るのに必要な効果についてのみ書かれていた。これによりミノフスキー=イヨネスコ型熱核反応炉を発表しても多少の不自然さをカバーできる。武達が持つ技術が無ければミノフスキー粒子を観測できないため、電波妨害効果を発見される確立は低い。

 

モニクはこの世界の情勢を学び、自分達の立場が有利になるように夕呼と交渉を続け。

現状として夕呼と同盟関係を結び、人類全体、特にハイヴを持つ国々(アジア、ヨーロッパ内の国)の戦力を増強するための準備を行った。

 

ケニーは一人、MSの整備を続け、武とXM-3の制作をしていた。

XM-3の基礎はオリヴァーと霞で3日で作り上げ。

その後、霞は自室で2日ほど眠り続け。

最初の3日間武はミノフスキー粒子についてのレポートを書いていた。

交替する形でオリヴァーは武が書いたレポートの肉付けを開始し、

武とケニーはバグ取りを始める。

最初、戦術機の操縦にケニーは戸惑ったが1分後には「何か、慣れたな」と言い放ち問題なく操縦していた。

武はXM-3が記憶よりも早く、そして上質な物が出来上がるという確信をもっていた。

それも、現在使用されている戦術機OSが1度目、2度目のループよりも良く、更にUC世界の知識と技術で底上げされているからである。

 

そして、現在XM-3のβ版が完成し、レポートも終了し、一息ついた彼らは夕呼から手渡された資料を見ながら今後についての会議を行っていた。

 

「しかし、この資料を手に入れてて良かったな、生で見ていたら吐いていた自信あんぜおりゃ」

 

ケニーがBETAの写真付き資料をヒラヒラと扇ぎながら、冗談めいたセリフを吐く

 

「ロンズ中・・・大尉の言う通りですね、私もこの化物共には正直驚かされました」

 

モニクは何時ものように中佐と言おうとして咄嗟に現在の階級に言い換える。

4人は既に国連の軍服に着替え、襟には新品の階級章が光っていた。

 

「しかし、敵戦力を考慮した上でこのMS・・・TSF(Tactical Surface Fighter戦術歩行戦闘機)を評価した場合、お粗末としか言えません。人材が足りないのに、生き残るための機構が全くない、ある所か自爆システムまであります」

 

全高18~30m超、『戦術歩行戦闘機』Tactical Surface Fighter(TSF)、通称『戦術機』はこの世界の人型機動兵器である。兵器特性は3次元機動と柔軟な任務適応能力、高い運動性、兵装の汎用性で対BETA戦の要とも言える。現在第3世代まであり、第1は重装甲による高防御性、第2世代は機動力の強化、第3世代は反応性の向上が行われた。構造には連邦軍のコアブロックシステムのような脱出機構はついておらず、逆にS-11 SD-SYSTEM (SELF-DESTRUCTION-SYSTEM)と言われる自爆システムが搭載されている。S-11は戦術核に匹敵する高性能爆弾である。高威力ではあるがハイヴの反応炉を破壊するのには設置位置が良くて2-3発必要である。実際は脱出した所でBETAに捕食されるので現在の戦術ではS-11が取り付けられている。ちなみにアメリカ軍の戦術は若干違うので取り付けられていない。

 

「オリヴァーさん、この時代では上出来な方ですよ、俺が元いた世界じゃ、精々人間サイズのロボットが下手なダンスか歩く程度。人の乗れる程の人型機動兵器はありませんでしたよ」

 

「・・・僕は未だに自分が西暦1999年にいると意識できていないのかもしれませんね・・・」

 

「それは私とて同じだ・・・」

 

二人は溜息を吐く、こっちの世界にきてから二人の溜息は増えていた

 

「ロンズ大尉は何か余裕ですね」

 

武は飄々としているケニーに尋ねた

 

「少年、分からない事、如何しようもない事は考えてもしょうがない。それ即ち杞憂なり」

 

皆が珍妙な動物を見るようにケニーを見つめた

 

「な、なんだ?」

 

「ロンズ大尉もそれなりに教養があったのだと驚いていた所です」

 

モニクは肩を軽く上げる

 

「嬢ちゃんなぁ。喧嘩売ってんのか?」

 

それに反応するようにケニーがモニクを睨み、ドスのきいた声を出す

 

「しかし、この世界にある現在のレベルだと、合金、加工などの技術にも手を加えなければミノフスキー=イヨネスコ型熱核反応炉も大きくなってしまいます。他の企画で上がっている兵器を作るのにも材料も機材も足りません」

 

「オリヴァーさん、相変わらずスルースキル高いすね・・・」

 

「技術屋。ヴァル・ラングは使えないのか?」

 

「ご存知の通り、現在06MSS(ヴァル・ラング)は優先して09(ドム)、15(ギャン)の整備をしています。材料さえあれば新しくMSは作れますが、素材に合わせて設計やプログラムを変える作業をしないといけないので、整備をしながら、設計、開発、生産を同時にやるとなると、現実的ではありません」

 

「・・・それについては香月副指令と話して、何とか日本帝国の工場を借り、材料も手配してもらえるようにした」

 

「ほー、で嬢ちゃん、奴さんは何で釣ったんだ?」

 

「手始めにギャンの情報と核反応炉の可能性、将来的に新兵器を一つとXM-3」

 

「結構吹っ掛けられたな」

 

「これで、日本帝国(スポンサー)と強固な同盟関係が結べると考えるならば問題はないでしょ?」

 

モニクは微笑む

 

「しかし15(ギャン)の情報も渡したんですか?」

 

「オリヴァーさん、それは俺がモニク姉さんに頼んで、情報を流してもらったんです」

 

「何故ですか?」

 

「現在、帝國の方では新型の戦術機TSF-TYPE00『武御雷』を開発しています。コンセプトがギャンに近いんで、上手くいけば戦力の増強になります。それに“昔”俺はその機体に命を預けましたから・・・」

 

「なるほど、この世代で最高峰の機体ということですか、強化しといて損はなさそうですね」

 

「さて、これからの事だが。整備の方はドムとギャンを引き続き行う。少なくとも11月の頭までには両機は使えるようにしたいわね。私達はもっと自由に動くために正式な任官が必要となる。そのために明日から帝国軍練馬駐屯地に仮移設されている衛士訓練学校に移る。3日後には総合技術演習に参加。TSF操縦訓練の参加は予定されていない。この基地のシュミレーターで慣れているから必要ないとも言える。一週間以内には任官の予定だそうよ」

 

モニクはスケジュール表を見ながら淡々と語る

 

国連軍で正式に任官する場合、訓練学校に通い、総合技術演習という試験に合格し、衛士(パイロット)は戦術機の操縦訓練を始めて卒業、任官する。正規の軍人である武達が長々と訓練学校に通い、操縦訓練を受ける必要ないため、必須事項、宇宙世紀との違いと形式のために3日訓練校に入り、総合技術演習に参加する事となった。

 

「任官後はどうすんだ?」

 

「今の所副指令は何とも言っていないが、私の方としては私達一人一人の発言力と行動の制限を減らしたいわね」

 

「つまり、手柄を立てるって事か」

 

「そう、私は文官として副指令と帝國軍の仲介をしていれば何とかするわ。オリヴァーと武はミノフスキー粒子などの技術関連のレポートで名声は買えるでしょ。問題はロンズ大尉ね・・・前線で頑張ってもらう事になると思うわ」

 

「俺一人やたら命の危険があるな」

 

「私達もMSかTSFで戦闘に出るわよ、只ロンズ大尉は私達より出撃回数が多くなるってだけよ」

 

「人事だと思って・・・」

 

ケニーは怒りを通り越し、呆れた

 

「後は肝心なタケル君の幼馴染、鑑純夏くんと僕達が帰れる可能性だな」

 

「鑑については私達が任官してから“面接”できるように手配した」

 

「少年の幼馴染は現在、脳髄だけの存在なんだろ?・・・少年が会うのは兎も角俺達まで見に行く必要あんのか?」

 

「僕達が呼ばれた理由が彼女にあるなら、会って分かる事もあると思います、確証はありませんが。他に帰れる可能性を上げる方法としては2002年元旦までに出きるだけの変化をこの世界に与える事ですね・・・(後、可能性が残っているとしたら香月博士が因果律量子論を更に研究してくれる事と・・・G弾、五次元効果爆弾・・・)」

 

五次元効果爆弾、通称『G弾』はBETA由来の人類未発見元素で重力制御を行うグレイ・イレブン、11番目に発見されたG元素をわざと暴走させ超重力爆発を起させる兵器である。この爆弾は重力場であるラザフォード場(フィールド)を纏う。ラザフォード場の潮汐変形、重力偏差効果で光線や物理攻撃を無効化されるので迎撃不可能な爆弾と言われている。2発のG弾が横浜ハイヴで使われ、現在も重力異常が起きている。そのため横浜ハイヴ周辺では何も育たない。そして、武が過去この世界に呼ばれた原因もG弾による時空間の歪みがだと思われる。

 

「後2年と1ヶ月か・・・元々数週間の契約だったんだがな・・・追加料金とか払われるのか?」

 

「精神病院を恐れずに“異世界に飛んで2年と1ヶ月過したから契約違反だ”と言いたければどうぞご勝手に。私にそんな勇気はないわ」

 

「嬢ちゃん、本当に俺に含むものがあるようだな!」

 

ケニーは立ち上がる

 

「まぁ、まぁ、まぁ」

 

武は二人の間に入り、仲裁に入る

 

「では、僕は論文を香月博士に渡してきます。皆さん、明日の準備を怠らずに。モニクも程々にしてくださいね」

 

そう言い終えるとオリヴァーは一人会議室から出る。

 

モニクとケニーの口論(口喧嘩)が終ったのはそれから30分後であった。

 

○○○●●

 

西暦1999年10月29日

帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校

武達は自分達の荷物を寮の部屋に置き、武達は待合室に向かう

 

待合室に向かうと、そこには国連軍軍服を着た女性がいた

20代前半、茶色い長い髪をした、武の恩師、衛士訓練学校教官、神宮司まりも軍曹である。

彼女は綺麗な敬礼で武達を迎えた

 

「大尉殿、中尉殿、お待ちしておりました!」

 

「まり・・・神宮司まりも軍曹・・・」

 

武は“昔”のように名で呼びそうになり訂正する。

 

「ジングウジ軍曹、出迎え有難う。モニク=キャディラック=マイ臨時大尉です」

 

「オリヴァー=マイ臨時大尉です、苗字が同じなので名前で呼んで下さい」

 

「ケニー=ロンズ、同じく大尉だ」

 

「白銀武中尉です」

 

四人は交互に自己紹介と敬礼をする。まりもは流暢に日本語を喋る三人を見て多少驚き、既婚者の二人を羨ましがる。

 

「軍曹、話は香月副指令から聞いていると思うが、これから世話になるわ」

 

「はい、前線で活躍していた大尉達です。今更訓練、そして私程度の者が教官として物を教えるのもおこがましいと思いますが、宜しくお願いします」

 

武達と夕呼が決めた設定は以下の通りである

1. オリヴァー、モニク、ケニーはそれぞれドイツ及びイタリア出身とする。両国とも戸籍情報は完全に把握不能なため本人がそう言った場合確認のとりようがない。

2. 彼らは前線で徴兵され戦う、部隊が全滅し前線より撤退、再編入前に腕を買われ香月夕呼博士に第4計画の人員としてスカウトされる。軍歴(戦歴)は一番長くて29歳のケニーが16歳で傭兵業を始め、13年としてある。

3. 武はBETA襲撃を生残る。その際戦術機を強化装備(パイロットスーツ)無しで操縦し脱出(話は一年戦争を生き残った時とほぼ同じにした)。生身、そして初搭乗にも関わらず操縦できた異様性からその存在は隠蔽され、今まで死亡扱いされていた。

 

「そんな畏まらないでください。神宮司軍曹はすばらしい教官だと聞いています。訓練期間中は訓練生として扱ってください」

 

“何時”も神宮司軍曹の生徒で始めていったため、武にとって最初から上官扱いされるのに慣れなかった。

 

「教官ちゃんも一々訓練生と俺達とで態度変えていたら疲れるだろ?」

 

サングラスを光らせるケニー

 

「ロンズ大尉は相手を教官として態度変える気は「ねぇな!」・・・聞いた俺が馬鹿でした」

 

「馬鹿はほっといてジングウジ軍曹、早速訓練を始めましょう」

 

「は、はぁ」

 

 

○○○●●

 

訓練所

仮建設された訓練学校の後ろには簡素な訓練所が設けられていた。

トラックでは数名の訓練兵と思わしき生徒が走っている。

 

「全員、集合!」

 

まりもの号令を聞き走り終わった順に訓練生が集まってくる

 

「先日話したとおり彼らは戦場で臨時徴兵され、生き残った臨時大尉及び臨時中尉だ。今度(こんたび)彼らは正式に任官する事になり、我々と共に訓練することになった。兵士としては先輩だ、短い間ではあるが出きるだけ彼らから学べ!」

 

まりもは眼前にいる4人の訓練兵にそう告げる

 

「軍曹、訓練生は彼女ら4人しかいないんですか?」

 

オリヴァーは学校というには少なすぎる生徒数に疑問を抱く

 

「いえ、彼女ら以外にもいるんですが、現在、明星作戦や訓練校移設などの影響で人員不足でして。他の訓練生は研修という形でいません。彼女らは訓練成果も良く総合技術演習を受ける資格があるため、残って訓練を終らせている所です」

 

「なるほど。では我々から自己紹介しましょう」

 

オリヴァーは訓練生達を見渡す

 

「オリヴァー=マイ臨時大尉です。出身はドイツです。戦場ではTSFの操縦もしましたが主に整備など技術士官としての仕事をしていました」

 

「モニク=キャディラック=マイ臨時大尉だ、同じくドイツ出身。TSFの操縦は勿論するが、文官が本業よ」

 

同じ苗字なため訓練生は不思議そうに二人を見た

 

「ああ、オリヴァーと私は夫婦だ、階級も同じなため名と階級で呼んでくれると助かるわ」

 

「俺はケニー=ロンズだ」

 

短く自己紹介をするケニー

 

「・・・ロンズ大尉は傭兵として戦場に立っていた御人だ、10年以上の軍歴を持つ衛士だ」

 

説明不足を感じたまりもがケニーの自己紹介を代りにした

 

「最後に、私は白銀武臨時中尉です。衛士として戦術機を乗っていました、主なポジションは突撃前衛(ストーム・バンガード)です。皆さんとは歳は余り変わらないので気軽に武か白銀と呼んで下さい」

 

やたらフランクな若い衛士な言葉に驚く訓練生

 

「お前たちも自己紹介せんか!」

 

まりもは何も言わない4人を叱る

 

「速瀬水月(はやせ=みつき)訓練生です!大尉達の胸、大いに借りるつもりです!」

 

アスリート体系の青いポニーティルをした活発そうな女性が元気に答える

 

「涼宮遙(すずみや=はるか)訓練生です。第205A分隊、隊長をしています」

 

薄茶色のショートヘアにピンクのリボンをつけた、おっとりとしたスレンダーな女性が水月に続いた

 

「大空寺あゆ(だいくうじ=あゆ)訓練生。宜しくお願いするわ」

 

金髪を赤いリボンでツィンテールにした小柄な女性が何故か武を睨みながら答えた

 

「玉野まゆ(たまの=まゆ)訓練生でござる。宜しく頼み申す!」

 

黒髪、ショートヘアに不思議な猫の髪飾りをつけた先に紹介したあゆより小柄な女性が時代錯誤した言い回しで答えた

 

「「「「(ござる?)」」」」

 

「大尉、中尉・・・玉野訓練生の喋り方は余り気にしないでください。直そうとしたんですか我々には無理でした」

 

少し疲れたようにまりもが答えた

 

「では、大尉殿(軍曹口調は訓練生相手のもので構わないわ)・・・んん、よし、お前達、訓練を続けるぞ!軽くストレッチした後に20週を30分で走るぞ!遅れた者は8週追加だ!」

 

「「「「「「「「はい!((了解!))(御意!)(おぉ~)」」」」」」」」




西暦1999年10月29日、僕達は帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校にて訓練を開始する。技術士官である僕と文官であるモニクが衛士として任官するのは今後僕達もTSFに乗る必要性があるためである。体力訓練は流石にタケル君とロンズ大尉が断トツだった、実際何度も訓練していて若いタケル君がロンズ大尉を抜いていた。僕とモニクは何とか他の訓練生に追いていける程度だった。体力作りは多少はやるが元々パイロットとして鍛えている人達とは違いが出る。ちなみに座学はモニクとタケルの独壇場であった、タケル君は既に最低3度目の訓練だから分かる、僕も多少は資料を見ているため話についていけるが、モニクは何時のまにかこの世界で必要な情報を記憶したようだ、後は文官なため応用問題も問題なくといていた。
ミノフスキー粒子のレポートは問題なく受理され、学術雑誌に載るようである。これで続けて熱核反応炉を発表しても疑問に思われないだろう。整備の方はオート設定した。実際マニュアル整備でなければ出来ない事もあるが、09(ドム)は既に06MSS、ヴァル・ラングのオート整備でも直せる程になっている。取りあえず全て順調である。今の所不安があるとすれば明日の筋肉痛くらいである。


―西暦1999、10月29日   オリヴァー=マイ臨時大尉/訓練生


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第八話「先達になりて光と水となり芽を守る~中偏~」

1999年10月29日

東京某所

 

一尉官の昇進にしては豪勢な顔ぶれが円卓を囲み、一人の青年を多くの目が見つめていた。

 

「・・・では沙霧尚哉(さぎり=なおや)中尉、貴様は本日付で大尉に昇進・・・任務を全うしてくれたまえ」

 

帝国軍の高官達がそう沙霧と呼ばれた青年に言い放つ。

 

中肉中背、短い黒髪に眼鏡をかけた青年は敬礼し、声を上げる。

 

「は!殿下を誑かす輩は私めが成敗いたしましょう」

 

そう彼は言い、一礼すると、クルリと180度回り後ろのドアから颯爽と出て行った。

 

<バタン>

 

ドアが閉まり、青年の歩く音が遠くなる

 

「若いな・・・」

 

高官の一人がそう呟く

 

「言ってやるな・・・まぁ彼には頑張って女狐の尻尾を掴んで欲しいものだな」

 

別の高官がニヤリとほくそ笑む

 

「しかし今度ばかりは横浜の魔女に感謝せねばな」

 

一人が資料を見ながら言う

 

「何処でこの人材を手に入れたかは知らんが、このオリヴァー=マイと白銀武は天才だな、この技術を提供してくれるならば我が国も『かの』国と対等に交渉が出来るというものだ・・・交換に使った材料も悪くない・・・何より我が軍の『道化(クズ)』と『目の上のタンコブ』、それに技術部のゴミも引き取ってくれるのだから、言う事なしだな」

 

高官達は各々に笑みを浮かべた

 

「何にしろ、魔女は利用できるだけ利用させて頂こう・・・『第4計画』は頂けんがな・・・」

 

「ああ、このまま小娘を将軍に置く我が国に未来はない・・・」

 

「重要なのは第5計画が発動した時、我らが“君”と我々の安全・・・そして立場だ」

 

「「「日本帝国に栄光あれ!」」」

 

○○●●●

10月30日早朝

国連太平洋方面第11軍

横浜基地

 

青い不知火が2機、銀色の機体を追っていた

 

「みちる!そっちに行ったぞ!」

 

碓氷奈々は87式突撃砲の36mm弾をばら撒き、銀色の機体を誘導する

 

「奈々、捕らえたわ」

 

伊隅みちる(いすみ=みちる)はビルの後ろから出てきた敵機に対し120mmを放つ

 

しかし、敵機はそれを予想していたかの様に即座に真上にジャンプする

 

「また!」

 

二人は36mmを空中に放つ

 

弾道を読み、その間を縫うように避ける敵機

 

「どうやったら空中であんな機動を!」

 

『碓氷大尉、伊隅大尉、5分経ちました敵機はこれより攻撃に転じます』

 

イリーナ=ピアティフ中尉の通信が入る

 

「もう、5分か!」

 

イリーナの通信を受け、構えるみちる。

 

そして敵機の赤く光るモノアイは周りを確認するように縦横無尽に動き、

中央でその動きを止める

 

「・・・来るぞ・・・」

 

奈々の呟きが終わった瞬間に敵機は回避行動を止め、反撃に移る

 

敵機は頭部バルカンとショットガンで弾幕を作り、そして弾切れになったショットガンと“何か”を奈々の方に投げ、その隙に一瞬でみちるの機体に接近

 

みちるはそれに反応し左手に持った長刀を振りかざすが既にシールドピックが機体を貫いていた

 

『伊隅機大破』

 

みちるの機体を横に投げ、敵機はそのまま逃げるように直進し、奈々から離れる

 

「ち、やってくれる」

 

奈々は追うように一歩踏み込んだ

 

<ドーン>

 

『碓氷機、行動不能』

 

ショットガンと共に投げられたチェーンマインが爆破し、不知火の下半身が爆発した

 

『状況終了します』

 

シュミレーターの電源が落ち暗くなったコクピット内で呟く

 

「「これがMS(モビルスーツ)・・・」」

 

○○●●●

二人はシュミレーターを降り、ブリーフィングルームに入る

 

そこにはニヤニヤしながら二人を待つ夕呼がいた

 

「では、結果確認でもしましょうか」

 

二人は席に座り、ピアティフ中尉がプロジェクターの電源を入れる

 

「第一戦目、対撃震XM-3[エクゼムスリー]搭載型、5分経過後、54秒後碓氷機撃墜、1分18秒後伊隅機撃墜」

 

ピアティフ中尉がそう言い終えると夕呼はみちる達に意見を聞く

 

「で、感想は?」

 

「副指令・・・あれは私達が知る撃震とは別物です、OS一つであそこまで機動が変わるとは・・・それに空中を使った戦法は我々の予測範囲外でした」

 

「伊隅は?」

 

「同じですね、BETAのレーザー級を考えると空中を利用する回避法は定石ではありません、危険と見なされています・・・が・・・最後の一戦でも見た通りです、あんな回避行動が取れるなら無茶ではありません」

 

「・・・ふーん、操縦している本人はレーザー級がいないハイヴ内の戦闘も考えた戦法だと言っていたけど・・・」

 

「「!!」」

 

二人は夕呼の言葉に驚く

 

「・・・確かにハイヴ内なら・・・有効な戦術です・・・」

 

「みちる、目から鱗だな」

 

「このOS、XM-3のβ版は完全に仕上がったから、A-01の方で試験運用してもらうわ。発案者曰く、これで3割は衛士の被害が減少するそうよ」

 

「・・・!そこまでとは・・・今から乗るのが待ち遠しいな」

 

奈々は本当に嬉しそうに笑う

 

「次に行きましょう、ピアティフ!」

 

「はい、第二戦目、対次世代戦車、同じく5分経過後、36秒二機同時大破」

 

「これには驚いたな、広範囲の榴散弾を積んでいるとは・・・」

 

「そうね・・・それにあそこまで巨大な戦車が、あれ程の機動力を持つとは・・・」

 

「新型動力、核反応炉の試験運用も兼ねているからね。それと今回は見れなかったけど結構隠し玉が多いのよ、この機体・・・詳しい事は作った本人に聞くのが一番ね。それとこの戦車は11月中旬には実戦試験投入されるから」

 

「実際後方支援機の強化は何処の国も目をつけていませんし、着眼点としては素晴らしいと私は思います」

 

そう言い奈々はうなずいた

 

「最後です。第三戦、対EMS-10ZFbヅダ改戦、5分経過後、5秒41伊隅機大破、6秒36碓氷機行動不能」

 

「・・・副指令、シュミレーターだからと言ってこんな夢物語のような機体・・・」

 

余りの機体性能差からみちるは夕呼にそう言った

 

「そんな事無いわ、そうよね・・・碓氷?」

 

「ああ、私はこの機体を一度、見ているからな・・・まぁ、見た時は相当損傷していたが」

 

「もう完成しているの!?」

 

余りの驚きにみちるは敬語を使うのすら忘れていた

 

「ええ、このMS(モビルスーツ)は完成しているわ、ただ先の戦闘でかなり負傷して、修復の目処が経っていないのが痛い所ね、今年中には多分無理ね」

 

「副指令、このMSの詳しい資料は・・・?」

 

「Need to knowよ、碓氷」

 

「機密ですか・・・」

 

「所で副指令、これを操縦している衛士は何処に?降りた時に私達以外にシュミレーターに乗っている者はいなかったようですが」

 

「ああ、そいつなら、正式な衛士になるために今は練馬にある国連軍衛士訓練学校にいるわ、今回は試験的にネットで繋げたシュミレーター戦を行ったわ」

 

「ネットを利用したシュミレーター戦ですか・・・これもその人物が考えた物ですか?」

 

「いいえ、これは文縁・・・帝国軍の黒藤文縁少尉が考えた物よ」

 

「帝国軍・・・『黒の道化』ですか、相変わらず奇妙な発想ですね」

 

みちるは妙に納得したようにうなずく

 

「じゃ、今日はこれで解散、XM-3についての資料は追って送るから、読んでおきなさい、スグに訓練に移るから」

 

「「は!」」

 

二人は敬礼する

 

「いいわよ、相変わらず堅っ苦しい」

 

夕呼は手をヒラヒラさせる

 

みちる、奈々、両名は敬礼の後ブリーフィングルームを後にする

 

「さて・・・ピアティフ」

 

「はい」

 

「帝国軍の交渉はどうなった?」

 

「はい、モニク大尉も同席し、問題なく進みました」

 

「どう、彼女は?」

 

「交渉慣れしていましたので、助かりました」

 

「そう・・・で、結果は?」

 

「川崎にある工場を使えるように手配してくれるそうです、物資もその工場へ運ばれるようです」

 

「・・・横浜と東京の間・・・面白い所ね」

 

「それと、総合技術演習での合同訓練も許可してくれました」

 

「誰が来るって?」

 

「大泉純志郎(おおいずみ=じゅんしろう)大佐と巌谷榮二(いわや=えいじ)中佐と帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団、第1戦術機甲連隊と日本帝国斯衛軍、装備実験部隊『白き牙中隊(ホワイトファング)』から数人、後は帝国軍の訓練兵、計50名が来るようです」

 

「随分大物が釣れたわね・・・『革命の獅子』に『伝説の開発衛士』・・・まぁ、こっちが総合技術演習に合せて会合を要求したせいもあるんだけど」

 

「後は、黒藤文縁少尉の編入はオリヴァー大尉達の卒業後に行われるよう手配しました、彼が作った物と草案計708個、技術課から受けとる準備も完了しました」

 

「そう・・・後は帝国、国連に米国の上層部を相手にするだけね・・・フフ、面白くなってきたわね」

 

○○●●●

10月30日昼

帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校

グラウンド

 

「後、5週だ気合を入れろぉ!」

 

まりもの怒声がグラウンドに響く

既に走り終わったケニーと武はグラウンドの横で徒手の模擬戦をしている

 

「お~い、まりもーん」

 

間の抜けた呼び声が後方から聞こえ振り向くまりも

 

そこには帝国軍の制服を着た男がいた。

男は走って近づいてくる

ギリギリまで短く刈上げられた黒い短髪、軍人には有るまじきヒゲを蓄え、黒の色眼鏡をかけた男がまりもの前までくる

 

「文縁、呼び方どうにかならないの?特に訓練生の前で」

 

ジト目で文縁を見るまりも

 

「そういうまりもんだって、まりもんも俺の事呼び捨てじゃないですか」

 

アメリカ人ぽい、肩を上げるリアクションを取る文縁

 

「貴方の場合、会うたんび階級が違うからメンドクサイのよ、大尉に戻ったの?それとも中尉のまま?」

 

「いや、少尉に落とされた」

 

こいつは馬鹿なんじゃないかという顔をし、手で顔を隠すまりも

 

そこへケニーと武の二人が来る

 

「誰だこのハゲヒゲは?」

 

ケニーは相手を気遣う気も無く聞く

 

「ハゲってあんた・・・毛あるっしょ、タダ短いだけですから!」

 

「え~と、白銀武臨時中尉とこちらがケニー=ロンズ臨時大尉です」

 

「おぅ、宜しく」

 

<・・・>

 

自己紹介を待つ沈黙が場を支配する

 

「・・・こいつは、黒藤文縁・・・少尉ね今は」

 

その名前を聞き武は

 

「あ!あの時の撃震!」

 

「ああ、ハイヴで会ったMSか」

 

武の叫びにケニーは思い出す

 

「ん?・・・ハイヴ?前に会いましたっけ・・・ああ、白銀武中尉!ハイハイ、思い出した」

 

武は文縁に近づき耳打ちする

 

「(ハイヴでの事は機密なので、他言しないでください)」

 

「(・・・ん~了解しました)」

 

武は文縁から離れる

 

「で、文縁、何しにきたの?」

 

「ああ、そうだった、聞いてくれよ>マリモンよ」

 

「まりもん・・・?」

 

「余り気にするな白銀中尉」

 

「終に念願の衛生科、軍樂部所属になったんだ!」

 

そう良い喜びを肉体で表す文縁

 

「軍楽って音楽のアレか?」

 

「そんな部隊あるんですか?」

 

ケニーと武は疑問をぶつける

 

「ああ、帝国軍には未だに軍樂部は実在する、実際は形だけだがな・・・普通は自分から行きたがる場所ではないんだが・・・」

 

「アンタラ、分かってないヨ!音楽!心のオアシス!おk?」

 

「意味不明だな・・・で本当にそれだけのために来たの?」

 

「つれないなー、俺と君の仲やぁ~ん」

 

「誤解を招く言い方しないで」

 

「ハイハイ、総合技術演習が帝国軍との合同訓練になったのとその詳細を書いた資料を渡しに」

 

そう言い服の中から資料を取り出す文縁

 

「・・・何処から出して・・・いや合同訓練って!聞いてないわよ!」

 

「殿、暖めておきました」

 

「草履か!!」

 

「ナイスツッコミだ、タケル君!」

 

サムズアップする文縁

 

「はぁ~」

 

溜息を吐きながら資料を流し読みするまりも

 

そんな事をやっていると訓練生達がランニングから戻ってくる

 

一番最後はオリヴァーであった

 

「僕は・・・ハァハァ・・・今、学ぶべき・・・ハァハァ・・・訓練生として・・・ここにいる・・・」

 

そう迷言を放ち倒れたオリヴァーの横でモニクがオリヴァーに水を飲ませていた

 

「皆、5分休憩、後に射撃訓練だ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

「じゃ、俺達も水飲みに行くんで失礼します」

 

武達二人は水飲み場に向かった

 

「・・・まりも・・・今回の訓練生は『8分』を越えられそうか?」

 

死の八分、それは新兵が初陣で死ぬか生きるかを分かつ時間帯。

8分以内に殆どの新兵がその命を燃やし尽くす。

 

「今回は短時間だけど運良く、実戦を経験した人達と訓練できるからね・・・超えて欲しい・・・いえ、超えるわ全員」

 

「そうか・・・」

 

「ところで、文縁、今度の総合技術演習は邪魔しないの?貴方のせいで何人が予定通り卒業できなかったと思ってるの?」

 

「手厳しいですな!ハハハハ、別に俺だけのせいじゃないだろ?」

 

「確かにそうかもしれないけど、中心人物の名前に貴方の名前が出てるわよ」

 

「さてな・・・」

 

文縁は誤魔化し、振り返り歩き出す

 

「文縁!」

 

「なんだ?」

 

「今回は何したのよ?」

 

「ハハ、いや、ちょっと川本・ザ・ストーカーとO☆HA☆NA☆SHIしただけだ」

 

「川本少佐と?何で?何で話をしたら降格になるのよ?」

 

「さぁ、何でだろうなー、なーなーなーにー何○郎君チョップ~♪○太郎君キッーク♪」

 

奇妙な歌を歌いながら文縁は去っていった

 

○○●●●

10月30日午後

帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校

教室

 

「明日は待ちに待った総合技術演習だ!今回は何時もとは違い帝国軍と合同演習を行う!」

 

「「「「!!」」」」

 

武達以外の4人娘はその言葉に驚く、国連軍と帝国軍の関係は良いとは言えず、普通は合同演習を行うような仲ではなかった

 

「状況説明は明日現地についてから説明する。明日は0430に起床、0500に集合だ、遅れるなよ!」

 

「「「「「「「「はい!((了解))(御意)(うぃ~)」」」」」」」」

 

「では、解散!」

 

まりもは教室を後にした

 

<・・・>

 

沈黙を破るようにケニーが声を上げる

 

「ふぅー教官ちゃんは本当に固いねぇー」

 

「そんな事言えるのはロンズ大尉だけですよ」

 

遥がケニーを見ながら言う

 

「確かにロンズ大尉と武は実力に差が在り過ぎて競う気も無いわ」

 

水月は机の上でだらけながら言った

 

「良く言うわよ最初の日は競ってたくせに」

 

あゆは筆記用具を片付けながら言った

 

「・・・そんな事もあったわねー」

 

窓の外の夕日を眺める水月

 

「ロンズ殿達以外も凄いでござるよ、モニク殿の知識には感服したでござる」

 

まゆは目をキラキラさせながらモニクを見る

 

「有難う、これでも私は文官だからね、出来て当たり前よ」

 

モニクは照れながらも答えた

 

「オリヴァーさんも運動系は兎も角、銃の組み立ては神業ね」

 

あゆの一言が深くオリヴァーに刺さる

 

「ハハハ!技術屋は嬢ちゃんにも負けていたからな」

 

「オリヴァーさん、気を落とさず、射撃は『まぁまぁ』でした」

 

武は褒めているつもりなのだろう

 

「・・・タケル君・・・」

 

「タケル、人には毒を吐くなと言いながら・・・」

 

「兎も角、皆さん寝ましょう、明日早いですし」

 

遥はそういい会話を終わらせようとする

 

「ご、合理的です」

 

今にも深い眠りに入りそうなオリヴァーはただただ今日一日が終わった事に感謝していた。




西暦1999年10月30日、

僕達は帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校にて訓練を続けている。今朝方、タケル君はネットで繋げたシュミレーターに乗り、横浜基地にいる衛士と模擬戦を行った。TSF-94不知火2機を圧倒し、模擬戦は終了した。その後僕達は昼間で体力作り、そして射撃訓練、座学を行った。昼頃にタケル君達と神宮寺教官が帝国軍兵士と何かを話していたが聞き取れなかった。午後に今期の総合技術演習は帝国軍との合同演習になると説明された。これが良い事なのか悪い事なのか現在の僕には分からない。前に一度総合技術演習に何かしらの“ハプニング”によって参加できなかった遥君達の士気は高い。
取り合えず明日に供え早く寝たいが、MSの設計図を頼まれているので早く寝れるか分からない。筋肉痛は・・・未だに僕の身体を蝕んでいる。

―西暦1999、10月30日   オリヴァー=マイ臨時大尉/訓練生


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第九話「先達になりて光と水となり芽を守る~後偏~」

西暦1999年10月31日07:00

 

照りつける太陽

 

何処まで蒼い空

 

透き通るような海

 

そして死んでいる様な白い顔」

 

タケルはオリヴァーの顔を見ながらそう言い放つ

 

彼らは日本から南に位置するであろう無人島の暑い砂浜の上にいた

 

オリヴァーと武以外の面々は既に集合場所に向かっている

 

「オリヴァーさん、本当に大丈夫ですか顔色・・・マジでヤヴァイですよ・・・そしてその手に持っている多分寝不足の原因である資料はなんですか?」

 

眠気を覚ますように頭を振るうオリヴァー

 

「これは、香月博士に頼まれて、訓練校に来る前から書いていた設計図です。まぁどれも白紙から始めた物ではないし、一番難しかった奴でさえAE社の量産型計画をモデルにしています。どちらにせよ、何とかデッドライン(〆切)の今日までになんとか終わらせられました」

 

「睡眠時間は?」

 

「3分です」

 

「OH! NISS○N!」

 

「個人的には○王を押します」

 

「自分は○達が好きですね」

 

「え~麺○ですか?俺は古き良きカ○プヌードルですかね、あのチープさが堪らない」

 

「確かに・・・合成食材になっても味が変わった気配がありませんからね、アレは」

 

「「って貴方(アンタ)誰(ですか)?」」

 

そこには黒い国連軍のマークが入ったライダースーツを着ながらも汗一つかいていない、メガネの青年が立っていた。

 

「自分は帝国本土防衛軍帝都防衛第1師団、第1戦術機甲連隊所属、沙霧尚哉大尉です」

 

彼は軽く敬礼する

 

「私は帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校で訓練生をしているオリヴァー=マイ臨時大尉です」

 

多少フラフラしながらも敬礼をする

 

「!!・・・同じく臨時中尉の白銀武です」

 

武は目の前の青年が沙霧尚哉と知って反応が遅れた。

 

それは彼が“知っている”『沙霧尚哉』より若く、一瞬分からなかったからである。

 

これで彼が沙霧尚哉に会うのは二度目、

 

一度目は『二度目のループ』での戦場で、米国贔屓になっていた日本政府に対してクーデターを起こした敵の首領として武は彼と彼が率いる部隊と戦闘している。

 

「・・・知っているよ、今話題にもなっているしね」

 

「我々をご存知で?」

 

「帝国軍内では有名だよ、新しい技術を国連に持ち込み、我が日本帝国とも交渉を行っている」

 

「「・・・」」

 

武達にとって自分達が有名になっている事は驚く所だった、ミノフスキー粒子の発表は数日前、そして交渉もここ最近の事である。

 

それが、既に目前の尉官は知っているという

狙った事とは言え些か早すぎる気もした

 

「武君、君は日本人だな?」

 

「はい」

 

「何故、帝国軍ではなく国連軍に・・・!!」

 

怒気を孕んだ沙霧大尉の質問に対し、武は答えに詰まる・・・

 

確かに日本人なら『特別な理由がない限り』帝国軍に志願するのが普通だろう

 

「・・・矢張り・・・あの『魔女』が・・・!」

 

「いえ、確かに夕呼先・・・香月副指令にスカウトされました、ですが自分から国連軍に入隊するつもりでした」

 

「なぜだ!君も日本男「自分の故郷は横浜です」・・・」

 

「君は我々(帝国軍)を怨んでいるのか、故郷を守れなかった我々を・・・」

 

沙霧も、BETAのハイヴにされ五次元効果爆弾『G弾』の餌食になった横浜出身者と知って、一瞬居た堪れない気持ちになるが沙霧はまた観察するように武を見つめた。

 

「いえ・・・怨みの感情はありません、強いて言うなら怒りです・・・何もできない自分への・・・BETAへの・・・そしてG弾に対しての」

 

「G弾か・・・」

 

「あれはあっちゃ行けません、撃たせては行けません、頼ってはならない物なんです」

 

「君の言い分は解かるが、それが国連軍と何の関係がある」

 

武は笑う、普通の兵士がオルタネィティブ4・・・G弾に頼らない、人類を生かす計画について知るはずも無いからである。

 

「あ~それはですね「おーい!白銀!オリヴァーさん!集合ですよ!」あ、はい!沙霧大尉、すみません自分達は演習があるんで、又今度!オリヴァーさん走りますよ」

 

武は叫ぶ水月に急かされオリヴァーを引っ張りながら走り去った

 

<ヒラ、ヒラ>

 

オリヴァーの手から資料が数枚落ちる

 

「白銀中尉!マイ大尉!」

 

沙霧は彼らを呼び止めようとするが、既に二人は遠くへ行ってしまった

 

「私を嘲笑うか・・・白銀武!!・・・己(おの)が死を隠し、己が意思で祖国を捨て、米国の犬となり、殿下の敵となるか・・・ならば討たせて貰おう」

 

そして沙霧は落ちている資料を拾う

 

「これは・・・戦術機か・・・?」

 

 

○○○○●

同日07:45

クルーザー内

 

威風堂々と胸の下で腕を組む夕呼の前に二人の帝国軍佐官が座っていた。

 

一人は灰色の長いライオンの様な髪型をした大泉純志郎(おおいずみ=じゅんしろう)。帝国軍内の意識改革や新技術の追求及び必要性を訴え続け、『革命の獅子』と謳われる男である。元々は小将であったが、1998年、国連軍と大東亜連合軍の朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦、後に光州作戦の悲劇と呼ばれる彩峰中将事件のおり、最後まで彩峰中将が下した命令の妥当性を訴え、大佐に降格となり現在は日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局部長を勤める。

 

もう一人は茶色い髪をオールバックにし、左のこめかみから口の左側まで伸びる傷跡を持つ巌谷榮二(いわや=えいじ)、日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局副部長で、階級は中佐。過去に斯衛軍のテストパイロット(当時のコールサインは「ヴァンキッシュ1」)として82式戦術歩行戦闘機「瑞鶴(ずいかく)」の開発に参加していた。1986年に北海道・矢臼別演習場で実施された模擬戦で米軍のF-15C「イーグル」を相手に「瑞鶴」で勝利したほどの腕前で、「国産戦術機開発の礎を築いた『伝説の開発衛士』」である。

 

二人は一通り渡された書類に目を通した

 

そしてそれを確認し、夕呼は口を開く

 

「先ずは忙しい中、来て頂き有難うと言っときましょうか、約束通り、工場の手配も・・・(余り帝国軍の息がかかっていない御剣財閥の管轄、大空寺重工と御剣電工てのも考えてくれたもんだわ)今回の合同演習も問題なく進みそうね」

 

「この程度の約束を守るなど、大したことではない」

 

そう堂々と放つ大泉

 

「・・・お陰でスグにでも作業に取り掛かれるわ・・・で提供した技術に関しては満足頂けたかしら?」

 

「ああ、満足し過ぎて、斯衛にも睨まれるし、富嶽重工と遠田技術・・・後、光菱と河崎を説得するのも大変そうだ」

 

巌谷は資料を見ながら言った。

ミノフスキー粒子の研究発表をした人物が目前の女性の部下をしている事は知っていた。それでも核反応炉は驚くべき技術である。巌谷は開発局副部長として理論は理解できたが、そこへ行き着く事、それ自体に驚いた。しかしながら、現在の彼らにとってそれは価値が低い物である。燃料のヘリウム3が入手困難であり、全戦術機が核反応炉に換装するとして、その分を確保するにはハイヴが必要だからである。それに比べ、XM-3というOSは価値が高い。OSならば現存の戦術機にスグにでも換装が可能である。実用性としても、コンバットプルーフのみ行えば良いという完成品である。

 

そして次に驚かされたのはYMS-15K試作改良型ギャン、及びTSF-Type-MS-15K 鳥兜と名づけられた二機である。香月の言う所MSというのは新概念を含んだ戦術機で現在は試作機のみしかないという。嘘か真かは判断が付かぬ物の、資料だけをみたらこの試作機で新型のTSF-94不知火(しらぬい)とのキルレシオは軽く見積もって200対1である。そして装備のヒートサーベルと呼ばれる“熱した長刀”も新技術が注ぎ込まれている。ギャン自体、核反応炉を使うため現在の彼らには情報的価値以外はない、逆に提示されたギャンの戦術機量産型TSF-Type-MS-15K鳥兜(とりかぶと)は現在ある材料だけで作成が可能であり、将来的には核反応炉を換装する事も出来るため実用性が高い。そして何より日本人が好む接近戦型の機体なため多くの衛士に受け入れられるだろうと巌谷はふんだ。

 

一番の驚きはTSF-TYPE00Z武御雷改と書かれた設計図である。

TSF-TYPE00、00式戦術歩行戦闘機、武御雷(たけみかづち)は帝国軍のうち、将軍家直属である斯衛軍が、F-4J改-瑞鶴の後継機として現在開発中の純国産、第三世代戦術機である。今回の取引の一部として先に武御雷の設計図を要求されたがこの様な形で返されるとは大泉も巌谷も思っていなかった。

 

武御雷は94式戦術歩行戦闘機-不知火の開発によって培われた技術を応用し、富嶽重工と遠田技術によって共同開発が行われている。不知火よりもさらに進んだ第三世代戦術機であり、開発コードは『零式』。ずば抜けた機動性と運動性能を持つが、性能を最優先にしているため予定では年生産数が30機程度と非常に少なく、また整備性も良くない。斯衛軍以外は配備の予定が現在無いのもそのためである。

 

しかしTSF-TYPE00Z武御雷改は統合整備を視野に入れ、TSF-Type-MS-15K鳥兜の部品やコンセプトを取り入れた機体である。TSF-Type-MS-15K鳥兜自体が現存の部品と材料で作れるため、コストがオリジナルの武御雷とは比較にならない程安い。それでいて、性能はオリジナルの7~8割増しである。

 

「これら以外にも更に量産性の優れた機体を設計したのだけど、作った本人が資料を無くして、悪いけど今はないわ」

 

夕呼がそう足す

 

「いや、これで十分以上だ武御雷改だけでも来年下旬までかかるような仕事になりそうだからな!」

 

大泉は笑いながら答える

 

「そう言って貰えると助かるわ」

 

「しかし、問題はこれらが卓上の空論ではないと証明する事だな・・・」

 

「それなら問題ありませんわ、今日演習に当たっている者達が卒業した頃に、帝国の方では列島奪還作戦を決行する予定ですよね?それに彼らとこれらの試作機を投入します」

 

「・・・流石は『横浜の魔女』と謂われるだけある・・・知っていましたか」

 

巌谷は鋭い目で夕呼を見る

 

「しかし、香月博士、取らぬ狸の、とは言いませんが、彼らが今日の合同総合技術演習を問題なく終わらせるような言いぶりですな」

 

「この程度で躓かれたら人類を救えないわよ」

 

「人類を救うか」

 

大泉は夕呼の一言にうなずく

 

「大泉大佐・・・そろそろ」

 

「ああ、直に指示は出さなくとも上官として今日は監督をせねばならんのでな、香月博士・・・有意義であった!ありがとう!」

 

バッと出された手を咄嗟に夕呼は取り、大泉は強く握手をし笑いながらクルーザーの外に出行った。

 

「・・・香月博士、私からも礼を。丁度技術的に行き詰まっていたいたので助かった」

 

「ええ、こちらも必要な物が手に入ったし、等値交換よ」

 

「我々が頂いた物の方が遥かに価値が高い気もするが・・・そうしておこう」

 

巌谷は敬礼をし、船を後にした

 

「う~ん」

 

身体を思いっきり伸ばす夕呼

 

「さて、折角のバカンスだし、浜辺にいって白銀でもからかいましょう」

 

○○○○●

同日08:15

孤島北部、帝国軍指令本部キャンプ

 

黒いクルクルの癖ッ毛に小太りの男が帝国軍訓練生を前に激を飛ばす

 

「い、いいか!お、お前ら!勝利は卒業に関係ないと大泉大佐や巌谷中佐は言っているがな、僕は認めない!この川本実(かわもと=みのる)は断じて認めない!僕には敗北などない!」

 

しかし訓練生の多くは全く耳を貸す様子もなく各々に話している

 

「整れぇぇぇぇつ!貴様ら!上官が話しているんだぞ!」

 

川本の隣にいた女性が渇を放ち、今までダラけていた訓練生達は前を向き、直立不動となる

 

女性は茶色い長い髪をかきあげる

 

「フン、やれば出来るじゃないか」

 

訓練生の一人が手を上げる

 

「篁少尉」

 

「なんだ?」

 

篁唯依(たかむら=ゆい)は手を上げた太った長髪に迷彩バンダナとオープンフィンガーグローブを着けた訓練生を睨む

 

「い、いや。多少は仕方ないんだな。本部に大泉大佐、巌谷中佐。後方支援に星乃(ほしの)大尉と石沢(いしざわ)中尉。作戦指揮に川本少佐、沙霧大尉、篁少尉。それに我々訓練生43名。それに対して相手は国連軍訓練生8名です、我々の方がズバ抜けて有利なんだな」

 

「確かに人数では有利だ・・・訓練生名前は?」

 

「竹尾タケオ訓練生なんだな」

 

「竹尾訓練生!「ヒッ!」状況によっては数の有利などヒックリ返されるぞ!そこの訓練生、名と今回の作戦復唱!」

 

グルグル眼鏡を書けた緑色の短髪の女生が指された

 

「え、え。あ、天野原翠子(あまのはら=すいこ)訓練生です!こ、今作戦は島北東、ここより南東5km地点にある守備目標(ターゲット)へと進軍る敵軍を全滅させる事です!」

 

「そうだ!そして、今回の演習でのルールは何だ!」

 

今度は黒髪に赤い鉢巻きをした男性が指された

 

「え、お、俺?剛田城二(ごうだ=じょうじ)訓練生!今回はペイント弾を使います、当たった場合は死亡判定。尚、罠にかかる、ナイフアタックも死亡判定があります!俺達の場合は死亡判定後本部に帰還すれば前線復帰できます」

 

「そうだ、つまり我々は理論上無限に戦える。これだけ見ればこちらが有利だ。だが相手は目標さえ破壊すれば勝てる、我々の相手をしなくても別段問題ない」

 

「しかし篁少尉、それでも相手は訓練生のみです実戦経験のある衛士が数名ついている我々が負「そうでもないぞ」・・・沙霧大尉」

 

モトクロスバイク、両脇には刀を入れられるホルスターがついたCR500Rに跨った沙霧が会話に参加する

 

「さ、沙霧大尉、ご、ご苦労だった、調査の方はどうだった?」

 

「川本少佐、相手側には少なくとも実戦を経験した大尉と中尉が一人ずつ居ます」

 

<!!!>

 

周囲がざわめく

 

「聞いたな!訓練生!気合を入れてけ!」

 

「ふ、ふん、関係ないな、僕は勝つ!それだけだ!」

 

「所で、川本少佐。黒藤さん・・・黒藤少尉も来ていると聞いたのだが」

 

沙霧の質問にニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる川本

 

「あっ、あ、あアイツは雑用を言い渡した。今は何処にいるか僕にも分からないな?それにあんな『道化』は邪魔なだけだよ」

 

「なっ!(この人は本気で言っているのか?あの人は歩兵部隊の出だぞ、この演習形式なら・・・)そうですか」

 

思う所もあったが上官なため何も言わなかった

 

「皆さん準備はいいか!」

 

通る大声が帝国軍キャンプ内に響き渡る

 

「大泉少将!」

 

「わたしは大佐だよ・・・沙霧君」

 

「準備はできたか?川本少佐」

 

「は、はい、巌谷中佐、大泉大佐と共に指令本部で良報をお待ちください」

 

「・・・そうか・・・」

 

二人は指令本部がある方に行く

 

「よ、よしお前ら!準備にかかれ!」

 

「各部隊!位置に付け!」

 

川本と篁の号令を皮切りに訓練生達は走り出す

 

沙霧はそれを見ながら一人考え込む

 

「・・・(隙あらばここで成敗してくれよう、白銀武!!)」

 

 

○○○●●

同日10:32

孤島東部草原

 

訓練生の小隊が草原を横切る

 

「全く影も形もねぇな」

 

「国連軍の奴ら本当にいんのか?」

 

「8人をこの島で探すってのは難しいぜ」

 

「誰だよ“ズバ抜けて有利”とかいった奴」

 

「ちげぇねぇな」

 

「それより、気合はいんねぇよな、上官がアレ(川本)じゃな」

 

「分かる」

 

無線が入る

 

『アルファ隊、応答しろ』

 

篁の声が骨伝導フォンを通し伝わる

 

『こちら、アルファ1』

 

『状況は?』

 

『敵影確認できず』

 

『そうか、貴様ら引き続き索敵、ポイントE-5まで到着したら引き返せ』

 

『了解』

 

「よし、皆もう少し進軍するぞー!佐藤!田中!遅れんなよ!」

 

「「「おーー!」」」

 

小隊は島を南下する

 

 

帝国軍訓練生の去った後、草が揺れる

 

<ガサ、ガサ>

 

「・・・行ったようだな・・・おぃ、嬢ちゃん達もう良いぞ」

 

「本当にバレないのね」

 

「凄いでござるぅー」

 

「・・・流石に下種な戦法は得意ね」

 

ギリースーツを纏ったケニー、あゆ、まゆ、モニクが立ち上がる

 

「何とでもいえ・・・傭兵の嗜みだ」

 

「ギリースーツを1時間で4着作るのを嗜みですます、ロンズ大尉も凄いですね」

 

顔に付いた土を軽く払いながらあゆは言う

 

「小僧も手伝ってたろ」

 

「・・・白銀中尉もそうですね、規格外です」

 

「戦闘技術だけじゃなくて、戦略、戦術を考え、何が何でも生き残る。新兵なんてのは戦場で生き残ってなんぼさ」

 

「たまに的確な助言をするな、ロンズ大尉は」

 

「ちっ、その口からは毒しか出ないのか?こんなんだったら技術屋に付いて来て欲しかったぜ」

 

「そうも、いかんだろ囮部隊と攻撃部隊に分けた場合、タケルの言い分を考慮するとこの分け方が一番利に適ってい「お前の旦那が言う所の“論理的”ってやつか」・・・そうよ」

 

ケニー達は戦力を考慮し部隊を二つに分けた。

ケニー、モニク、あゆ、まゆの攻撃部隊は隠れながら島の東を通り目標を破壊するルート。武、オリヴァー、水月、遥の四人は囮部隊となり島、中央から目標に向かうルートをとっていた。

 

「OK、作戦時間は72時間だが、出来れば今日中には相手の鼻先までは行きたいな、嬢ちゃん!ツンデレ!時代錯誤!行くぞ!」

 

「わかったわ、行きましょう」

 

「呼び方どうにかなんないの!?」

 

「御意」

 

○○●●●

同日16:26

孤島中央、基地跡

 

ボロボロに放置された基地内に、同じくボロボロになった武と水月は居た。

来た道に罠も無く、武にとって『前より速くここに辿りついた』。

 

「エリア、クリアー」

 

水月が手招きをしながら言う

 

「待て、まだ死んだ振りしている奴らもいるかも知れん、倒れた奴にも一発ずつ入れてくぞ」

 

隣にいた武は水月を注意する

 

「白銀、えげつないわね、そこまでする普通?」

 

<プシュ、プシュ>

 

基地内にペイントガンの音が響き、「痛!」やら「うっ!」などの帝国軍訓練生の呻き声が木霊する。演習のために改良された高圧高速のペイントガンは至近距離で打たれれば骨が折れる程に強い。

 

「速瀬さん、戦場じゃ油断した者から死んでいく・・・ん!?これで最後だ!!」

 

物陰に隠れ武達を撃とうとした最後の一人を撃つ

それを見て水月は息を呑む

 

「(何で白銀は敵がいる場所わかんのよ!)」

 

「よし、お前ら帰れ!武器は置いてってもらおう!」

 

そういうと帝国軍訓練生はゾロゾロと基地跡を出て指令本部のある北に向かった。

 

「何かシュールな絵ね」

 

そう、水月が帝国軍訓練生が去るのを見ていると、そこにオリヴァーと遥が合流する

 

「水月お疲れ様、基地内は完全に掌握できたわ。それと車庫にまだ使えそうな車を発見したわ」

 

そして会話を始める水月と遥の横を通り、オリヴァーは武に近づく

 

「(タケル君が言った通り、軍用車両を一両確認できました)」

 

「(どうです、『リヴァイヴァー』としては?何とかなります?)」

 

オリヴァーは笑う

 

「(可能です。パイプが壊れていて空気圧が逃げているだけなので、基地内の部品で代用できます)」

 

「(流石です、作業時間的にはどのくらいかかります?)」

 

「(部品さえ揃えば、60分標準偏差15分という所です)」

 

「(了解)、涼宮さん、速瀬さん」

 

「何「何ですか」?」

 

「オリヴァーさんが倉庫にある軍用車両直せるそうです」

 

「も、問題があったんですか?」

 

「ブレーキ部分にね、あのまま走ってたらそのまま事故ってましたね」

 

サーと遥と水月の血の気が引いた、二人は件の車を使おうと考えていたためである

 

「で、修理に最高75分、部品探しは・・・まぁー30分て所ですかね。涼宮さんどうしましょうか?」

 

一応分隊長としての経験を積ませるために今回の進軍は殆ど遥に任せていた

 

「そうですね、そうなると日も沈みますし、軍用車を使うと考えて基地内で敵を警戒しながらキャンプになりますね。夜の進軍は危険ですし・・・では私達は部品を探してキャンプの準備をしましょう」

 

「うん、それが良いと思う。ただ、僕は少し先に斥候をしながら罠を張ってくるよ」

 

「白銀、アンタそんな事もできんの!?」

 

「ははは、昔サバイバルに詳しい師匠に習ったからね・・・じゃ行って来る!」

 

武は辺りに散らばるペイントガンを何丁か拾い、脇に抱え走っていった

 

「・・・本当にこれが実戦を経験した衛士との差なの?」

 

多少呆れた様な顔をする水月

 

「うん・・・それに今日だけで3回は襲撃されたけど、全部白銀中尉が事前に敵を発見してたけど・・・あれ、どうやってるんだろ?」

 

自分に才能が無いのではないかと落ち込む遥

 

「二人共気にしてはいけません。元々貴方達は彼らから学ぶのが目的です。それにタケル君それにロンズ大尉は一流の軍人です。まだ、新兵にすらなっていない自分達と比べるのは間違っています」

 

オリヴァーは淡々と二人を慰める

 

「それに・・・彼はNT(ニュータイプ)かもしれませんし・・・」

 

「「NT?」」

 

「僕達のせ・・・戦場では勘がやたら鋭くなった人達・・・総して新人類・・・ニュータイプと呼んでました」

 

「白銀中尉がそうであると?」

 

「・・・いえ、忘れてください、世迷言を言いました、部品を探しましょう」

 

「ニュータイプ・・・」

 

水月は噛み締めるように呟いた

 

 

○●●●●

同日21:00

孤島北部帝国軍司令本部

 

<バン!・・・バンバンバン!>

 

川本は思いっ切り何度も机を叩く

 

「な、何だ!役立たずどもが!それでも帝国軍に入ろうとする兵士か!ふざけるな!たかだか8名、何で捕まえられない!それに何だこの白銀武という餓鬼は!化け物か!?こ、これじゃまるで僕が無能じゃないか!」

 

「「(確かにそうであろう[でしょ])」」

 

怒りをあらわにする川本を冷やかな目で見つめる沙霧と篁。

 

「やっているな!」

 

そこに大泉と巌谷が入ってくる

巌谷は報告書に目を通す

 

「中央部に向かった連中の被害がデカイな・・・そして東部を通り南下した部隊は消息を絶ったか・・・」

 

「ほう、やられているな。今日で半数以上が一度やられたか」

 

「唯依くん、どう見る?」

 

「やはり、実戦を経験のある兵士がついている事が戦果に影響していると思われます。我々も出るべきでしょう」

 

「い、良いこと言った少尉!そうだ僕が直々に出てやる!僕の顔に泥を塗ったこと後悔させてやる!そ、そうと決まれば僕はもう寝るぞ。大泉大佐、巌谷中佐先に失礼します」

 

「少佐!指揮の方は!?」

 

「き、君達に任せる、交代で休憩してくれたまえ、何だったらどっかで油売ってる『道化』に任せても構わない!と、ともかく僕は寝る」

 

そう言って川本はドタドタと足音を鳴らしながらテントを出て行った

 

「・・・はぁ~」

 

深い溜息を吐く篁

 

「疲れているね唯依くん」

 

「巌谷おじ・・・中佐・・・そう思うなら指揮をとってください」

 

「・・・それは出来ないな、元々これは君達下の者達を育てる意味があるからな」

 

「・・・巌谷中佐・・・篁少尉とは親類で?」

 

沙霧がそう言うと微笑む巌谷

 

「いや、唯依くんの亡き父とは親友でね」

 

「父が亡くなってから巌谷中佐には面倒を見て貰ってるの」

 

「なるほど」

 

「・・・所でくだんの黒藤のセガレは何処だ?」

 

大泉が回りを見渡しながら言う

 

「今回の合同訓練。形式を考えた張本人が司令部にいないとはな」

 

「大泉、大佐、黒藤さんなら川本少佐に雑用言い渡されて・・・現在位置は掴めておりません」

 

「なんと!」

 

「大佐、黒藤少尉が今回の形式を考えたというのは?」

 

「ふむ、篁少尉と言ったね。今回の合同演習の真意は何だと思う」

 

「真意ですか?訓練生の訓練成果を見、戦術機訓練に移れるかどうかを見るためじゃないのですか?」

 

「それは確かに正しい!だがもっと深い意味での理由だよ、彼らは、君達は何を学んでいるんだい?」

 

「・・・」

 

考え込む篁

 

「・・・唯依くん、ヒントをやろう。我々の真の敵とは何か?」

 

「BETAです」

 

その質問と答えに誰も見ていない所で沙霧は一瞬顔を歪める

 

「では、今回の演習何に見立てている?」

 

「!!!」

 

「分かったようだね」

 

「はい、国連軍はハイヴ進入、そして反応炉を破壊する事に見立てています。復活する兵士はさしずめ・・・BETA。私達は逆に防衛戦と殲滅戦です。現実では兵士級一体逃がしても生身の人間には脅威です」

 

「そうだ、それに君達の指揮訓練にもなるしね」

 

「それを考えた黒藤少尉とはどういった人なんですか?」

 

「奇妙で快活な冗談を飛ばす頭の回転の速い男だ」

 

そう大泉が答える

 

「光州作戦に参加した歩兵部隊の数少ない生き残りです」

 

と続ける沙霧

 

「技術科の変人だな」

 

と短くしめる巌谷

 

「???よく分かりません」

 

「さて!沙霧君、明日はどうすかね?」

 

「そうですね、自分は中央に向かいます、被害が一番大きいですし、何より自分が確認した大尉と中尉らしき人物がそちらにいると報告が来ています。川本少佐もこちらに来るでしょう。篁少尉には東部から南下してもらいます。そちらも怪しい」

 

「了解です」

 

「決まったようだね!なら君達は寝たまえ!」

 

「は、し、しかし!」

 

「大丈夫だ、ここはわたしと巌谷君が持とう、黒藤君も探して、朝までは彼に任せる!」

 

「・・・行きたまえ、大泉大佐がこう言い始めたら聞かん」

 

「分かりました、では私達は失礼させて貰います」

 

二人は敬礼をしテントを出る

 

<・・・>

 

「・・・巌谷くん、香月博士は中々面白い部下をお持ちのようだね。そしてそれに付いて行ける国連軍の訓練生も中々だ」

 

「そうですね、局長。元々その訓練生ももっと早い段階で正式な衛士になってた筈の人材だと聞きます・・・彼らが我が帝国軍にも良き風を持ってきてくれると願います」

 

「持って来るさ、言うならば香月旋風」

 

●●●●●

同日23:00

帝国軍キャンプ内

 

<ガサガサ>

 

物陰で何かが動くの見て止まる黒藤

 

「・・・こんな時間に武器庫に誰が・・・?」

 

「ククク、こ、これだよ、実弾もあるじゃないか・・・白銀武・・・君は僕の出世には邪魔だ・・・ふふふ、出世して今度こそ、まりもと・・・」

 

咄嗟に身を隠す黒藤

 

「(川本・ザ・ストーカーか・・・また面倒な事になりそうだな・・・)」

 

 

○○○○●

 

11月1日08:21

国連軍クルーザー前、浜辺

 

キワドイ黒のビキニを着、パラソルの下、ビーチチェアーに優雅に寝そべり、小さなテーブルにはフローズンダイキリを置いた夕呼の隣でソワソワと落ち着かずウロウロするまりも。

 

「も~、何まりも?あの子達の事が心配?少しは落ち着いたらどう?見てるこっちが落ち着かないわよ、アンタも少しはバカンスを楽しみなさいよ」

 

「・・・昨日夜中の11時くらいに悪寒があって、それから余り寝れなかったのよ」

 

と言いながら自分の肩を抱くまりも

 

「何?勘とかいう非科学的・・・って事でも『もう』ないわね。兎も角そんなん気にしてんの?もう始まっちゃってるのよ?結果出るまで私達は何も出来ないわ。私は今回全部、帝国軍に任せちゃったし」

 

「うぅぅぅー」

 

「まりも、いい加減に諦めて南国の島を楽しみなさい」

 

「・・・涼宮、速瀬、大空寺、玉野・・・無事に帰ってきなさい・・・オリヴァー大尉、モニク大尉、ロンズ大尉、白銀・・・彼女達を頼みます・・・」

 

 

○○○●●

同日09:22

孤島中部~北東部

 

ジープ型のオープンな軍用車両がオフロードを疾走する

操縦席にはオリヴァー、

ナビゲーターシートに身を乗り出した武、

武側は急な斜面になっている

武の後ろ座席に遥

その横に水月

二人とも武と同じく身を乗り出している

 

<パシュ、パシュ、パシュ>

 

武が放つペイント弾が遠くの帝国軍訓練生に当る

 

「本当に卑怯よね、相手は当るか分からない距離で撃ってこないけど、こっちは確実にその距離で当てる奴がいるんだもん」

 

「そんな事ないですよ速瀬さん、俺も三発撃ってますから」

 

「私が撃ったら三発とも外れるわよ!」

 

「でも、このまま行けばまゆちゃん達を待たずに私達が目標を破壊できるか「そうでも無いようです」・・・」

 

オリヴァーが遥の台詞を切る

 

「ああ」

 

オリヴァーと武が見つめる先に砂塵を巻き上げ近づく一台のバイク

武は無言で銃を構え撃つ

 

<パシュパシュパシュ>

 

しかし、それを読んでいたかのようにバイクは避ける

 

「流石、沙霧大尉!!涼宮さん!銃を渡してくれ!」

 

武は今度は二丁拳銃でバイクを撃ち始める。

左手の銃で位置を誘導し、その位置に数発叩き込む。

高速移動するバイク上で低姿勢を保つ沙霧には当らなかったが何発か前輪部分に当り。

バイクはコントロールを失い、大きく左に曲がってから・・・

 

「突っ込んでくるわ!」

 

水月が叫ぶ

 

バイクに乗った沙霧はそのまま両脇の刀を鞘事とり、バイクからジャンプし、武に目掛けて蹴りを放った

「そんな!マジか!」

 

咄嗟に銃を交差して蹴りを受けるが、

 

バイクと蹴りの衝撃で武は車両の外に弾かれ、

 

それを見た遥が武に手を伸ばし・・・

 

掴む

 

 

<ガタン!>

 

コブシ大の石を蹴った車両が大きく傾き二人を弾き飛ばす

 

「遥ぁぁぁぁぁ!白銀ぇぇぇぇ!」

 

水月の叫びが広がり

 

武は遥の頭を抱えながら、斜面を転げ落ちていった

 

急ブレーキとドリフトでオリヴァーは車を一旦止める

 

「速瀬訓練生。この車じゃこの斜面は無理です遠回りですが下に行く方法を探します。前に座ってください。飛ばします」

 

冷静でも、熱くオリヴァーが水月に命令する

 

「クッ・・・」

 

唇を噛み締め水月は助手席に座り込む

 

 

○○○○●

同日09:45

孤島中央~北東部、崖下

 

「・・・や・・・さん・・・す・・みや・・ん・・・涼宮さん!」

 

遥は武の呼び声に目を覚ます

 

「涼宮さん、良かった気がついたみたいで」

 

「私はどれくらい寝てた?」

 

「数分です大した事ありません、足は大丈夫ですか?」

 

「白銀中尉、敵は?」

 

「それより!足は!足はどうなんですか!?」

 

やたら足にこだわる武を不思議に思ったが、言われた通り足を動かし確認する。

 

「痛みもないし、問題なく動くわ」

 

「よ、よか「白銀くん後ろ!!」分かってる!」

 

サバイバルナイフを抜きながら後ろを振り向き、沙霧の袈裟切りをソレで受け流す

 

「沙霧大尉・・・!!」

 

沙霧の目は真っ直ぐ武の目を捉え放そうとはしなかった

それは武に彼が自分だけを狙っている事を確信させた

 

武は横に走り出し、遥から距離をとり始める。

それを追うように沙霧も走る

 

やや開いた場所に出た瞬間、沙霧は速度を上げ武に切りかかる

 

<キン>

 

一合

 

<キン>

 

二合

 

<キン>

 

三合し沙霧は距離をとる

 

「・・・まさか、これ程の腕前とはね」

 

素直に関心する沙霧

 

「アンタに褒められるとはね、マジで嬉しいよ」

 

笑顔を見せるが内心、武は焦っていた

 

「成らば敬意を表して正々堂々と戦おうじゃないか」

 

そういい沙霧は右のベルトに付けていた刀を取り武に投げつける

 

それを空いている手でとり、一旦サバイバルナイフをしまい、刀を抜く

 

「真剣・・・何でこんなもんで・・・・何で俺を狙う!まさか!夕呼先・・・香月博士(が仕組んだ事か!?)」

 

緊張の余りカラカラになった喉は最後まで武の台詞を言わせてはくれなかった

前回も前々回のループ時も夕呼は総合技術演習で危険な罠を張っていたため今回も沙霧や帝国軍を使い自分達を襲うように言ったのでは無いかと武は睨んだ。

 

「・・・(自分が牝狐を狙っている事も知っているのか、面白い!)そうだ」

 

<ゴク>

 

唾を飲む武

 

「(やはり、又こんな死に直結したような・・・!!)そうか・・・アンタら(クーデター派)には(前ループでの)借りもある容赦はしない!」

 

「!!!(帝国軍への怒りは本物か!やはりこの男は殿下にとって・・・危険!!!)なら、かかって来い白銀武!!!」

 

飛び出す沙霧

 

「言われなくても!」

 

真っ向から唐竹に斬る

 

「甘い!」

 

それを横に避ける沙霧

 

武は剣を返し避けた沙霧を追う

 

「チッ、やる!」

 

右手で鉄製の鞘を抜き受け止める

左手の刀をそのまま武の首を目掛け振り下ろす

 

しかし姿勢を下ろし、首を横にし避ける

 

<パラパラ>

 

武の髪が何本か斬られる

武は乾いた唇を舐め、刀の刃を横にし沙霧を押し距離を取り、そのまま沙霧の足、アキレス腱を狙い斬る!

 

沙霧は足を上げる事で避け、後ろに跳ねる

 

「貴様・・・どういう事だ!(白銀の剣には確実に斯衛軍に伝わる無現鬼道流剣術の太刀筋がある・・・内部にも敵がいると言う事か!)」

 

「(驚いてくれているな、まさか無現鬼道流剣術を現政威大将軍、煌武院悠陽[ほうぶいん=ゆうひ]の妹、御剣冥夜[みつるぎ=めいや]とその師、紅蓮醍三郎[ぐれん=だいさぶろう]中将に教わったとは思うまい)・・・戦い方は身体が覚えているか」

 

刀を左手で突く武

 

「(身体が覚えている!?それ程長く戦ってきた?いや元々将軍家に関係する者か?)なめるな!あたらなければ!どうという事はない!」

 

それを武の右に避ける

 

「そこ!迂闊だ!」

 

武は既に右手にサバイバルナイフを持ち突きを放っていた

 

「チィ!」

 

刀を振り上げる沙霧、それを戻した左手の刀で受ける武・・・だが受けきれず軽く左肩を斬る。

 

沙霧は右わき腹を押さえ距離を取り、息を荒くする

 

「当り所が悪いとこういうものか!」

 

「沙霧大尉・・・引いてはくれませんか?」

 

武の黒いタンクトップの左肩は更に濃い黒へと血で滲む

 

「引けんな!こちらにも引けぬ理由がある!」

 

「・・・(夕呼先生、どんな脅しかけたんだよ。マジの殺し合いになってんぞ!)」

 

「それにな!帝国軍大尉としての意地もある!行くぞ白銀武!オオオオオオォォォォォォ!」

 

沙霧の雄たけびが大気を振るわせる

右手に刀をかかげ、左手に鉄鞘を逆手に持つ

 

「俺はまだ死ねない!!純夏を!仲間を!世界を救うまでは!!」

 

武は刀を右手に持ち替え、サバイバルナイフを左手に持つ

 

「白銀武ゥゥゥゥゥ貴様はここでぇ!!!!!」

 

素早いに袈裟斬りに武は右手の刀で受け止めようとするが、

刃を横にするタイミングが遅れ、

沙霧の刀が武の刀を根元から斬り、

武の右ひじの皮を斬る。

 

咄嗟に武は柄の部分をひっくり返し、柄の底で沙霧の鞘を弾く。

そしてそのまま左手のナイフを沙霧の首元に振るう

 

この瞬間、両者の思考は高速化する

 

「(・・・ここで沙霧大尉を斬っていいのか?何故この人はここまで俺を殺したがる??)」

 

一瞬の迷いが生じる

 

「(・・・白銀の動きが遅くなった!?今だ!)」

 

沙霧は時計回りに回転し、右足で回し蹴りを放つ。

 

それを胸に受けた武は吹っ飛ぶ

 

後方に回転し受身をとるがそのまま勢い余って立ち上がれず大の字に倒れる武

 

「仕舞いだ!」

 

「駄目!!」

<タケルちゃんをいじめないで!!!>

 

<ダーーーーーン>

 

<ドーーーーーーーーーーーン>

 

「!!!???」

 

多くの出来事に混乱する沙霧

 

一つは、訓練生の少女(遥)が武と彼(沙霧)の間に入った事

 

一つは、一瞬見知らぬ別の少女の幻影を見た事

 

一つは、後方の作戦目標が破壊(爆破)されたであろう事

 

一つは、間に入った遥かの両足が何者かによって打ち抜かれた事、そしてそれが倒れている武のもう片方の肩に当ったこと

 

沙霧にハッキリと分かる事はただ一つ

 

「誰だ!無礼者が!出て来い」

 

死合を邪魔された事である

 

<・・・>

 

遠くで銃撃、叫び声、続く爆発音が聞こえるものの第2射は起きなかった

 

沙霧は静かに刀を鞘に納める

 

「興が冷めた・・・我が方の無礼を詫びる」

 

そう言い、その場から走り去る沙霧

 

・・・

 

そして戻ってきた沙霧の手にはトランシーバーと小型緊急治療キットがあった

 

そして手際良く、蹲る(うずくまる)遥を治療する

 

「染みるぞ」

 

「うっ!」

 

<ドドドドド>

 

治療する沙霧の所に軍用車に乗ったオリヴァー達が来る

 

「遥!白銀!」

 

ペイントガンを沙霧に向ける水月

 

が所詮ペイントガン、沙霧は気にせず話し始める

 

「そこの少女は足を撃たれている、白銀武の方は両肩に傷がある、治療用具は置いていく、それとこのトランシーバーもだ。応急手当が済んだら、ここから北、あの爆発があった目標(ターゲット)から北西の方に帝国軍本部がある、そこに衛生部隊がいるから早く連れて行け」

 

水月とオリヴァーは何も言わず、遥と武を車に乗せ走り出す。

 

「白銀武・・・その命、今は預けるぞ・・・さて・・・」

 

漏れ出す怒気と殺気を抑えながら歩き出す沙霧

 

 

○○○●●

同日

 

数分前

 

10:18

 

武達が落ちた地点より北東数百メートル地点

 

「さ、沙霧め!早く片付けろ!」

 

・・・

 

「な、何をやってるアイツ!餓鬼一人に!」

 

・・・

 

「チ、チッ、なら僕が始末してやる!」

 

川本は腹ばいになり狙撃ライフルで武の頭を狙い撃つ!

 

「な、な!」

 

<カーーン>

 

<ダーーーーーン>

 

<ドーーーーーーーーーーーン>

 

が、狙いはライフルに当った鎖のような物と武をかばった遥によって外れる

 

「狙いが正確だと、本気で彼を殺そうとしたのが分かってしまったなぁ」

 

後ろを振り向くとそこには黒藤が何時ものようにふざけた顔をしながら立っていた、手には鎖が巻かれている

 

「どうやら川本・ザ・ストーカーは拳のティクアウトが足りなかったご様子で☆」

 

「な、な、お前こんな事やって・・・す、すむと!」

 

<ドーーーン>

 

<ドーーーン>

 

<ドーーーン>

「・・・・・・・・」

 

続く爆発音に黒藤が言った言葉は掻き消されたが、川本にはその口が言った事が分かった

 

(お・ま・え・の・つ・み・を・か・ぞ・え・ろ)

 

西暦1999年11月1日10:22の事である。

 




西暦1999年11月1日、

僕達は二日間の合同総合技術演習から帰って来た。結果として、皆問題なく合格できた。作戦は囮部隊と攻撃部隊を作るというもの。僕、タケル君、涼宮訓練生、速瀬訓練生の4人は囮としてその任務を全うした。ギリースーツを着込んだロンズ大尉、モニク、大空寺訓練生、玉野訓練生は途中帝国軍の少尉と戦闘があったものの問題なくロンズ大尉を囮に作戦通り大空寺訓練生及び玉野訓練生の連携により帝国軍少尉を退け、その間先に進んだモニクが目標を爆破に成功。・・・しかし、タケル君と涼宮訓練生は怪我をした。タケルは両肩を軽症、涼宮君は両足を中傷だ。応急処置が早かったため重症にならずにすんだ。爆破用の火薬以外ペイント弾しか使っていない筈なのに普通は怪我をする筈が無い。しかし、帝国軍の佐官が一人暴走し、狙撃ライフルを取り出したそうだ。犯人はタケル君と死闘を繰り広げた沙霧大尉によって発見された。発見された時、その佐官は全裸で木に縄で貼り付けられ、顔は殴打された後があったそうだ。
タケル君は全治一週間、涼宮訓練生は二週間程度だそうだ。この世界の医療技術には驚愕である。別途、調べる必要があると思われる。

―西暦1999、11月1日   オリヴァー=マイ臨時大尉/訓練生


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第九・五話=幕間2「西暦での休息」

<ピッピッピッ>

 

<ポトポトポト>

 

オレは目を開ける、心電図と点滴の音がする世界に目覚めた

 

「・・・知って・・・いや、知らない・・・病院の天井だ・・・」

 

「良く分かりますね、タケルくん、もう少し意識が朦朧としているかと思いました」

 

首を横にするとそこには、同僚で先輩の金髪、『図に描いた様に尻に敷かれている男』事オリヴァーさんがいた

 

「また、失礼な事を考えてましたね」

 

この人は本当に基本変人で「鈍感で機械オタク、姉さんには頭が上がらず、ピントはズレまくっている癖に変に勘がするどい、NTじゃねぇのか、いやオリヴァーさんこそNTでいいよ、何(嫁)にも恐れずに挑戦する、まさしくNT(新人類)じゃないか!てかNTの意味を誰か説明してくれ、NTがゲシュタルト崩壊しそうだ。まぁ、ともかくオリヴァーさんは奇人という事で」

 

「声に出てます」

 

「ハッ!?」

 

「そんなワザとらしい驚き方をしても騙されません」

 

そういいオリヴァーさんはオレの方に書類の入った極太のバインダーを投げる

咄嗟に両手で掴み

 

「痛っぅ!」

 

両手、特に肩と右肘に痛みが走り、バインダーをベッドの上に落とす

 

「やはり、この世界の医学が進んでいても流石にまだ治ってませんでしたか」

 

そう、観測するように目の前の変人はオレを見る

そこでふとした事に気づく

 

「オリヴァーさんオレ何日くらい寝てました・・・あと起きるまでオレの事待っていたんですか?」

 

「1日と19時間です・・・それと起きるまで待つなどという非効率的な事はしていません。ここの医者が君が起きるであろう時間を割り出したんです。素晴らしい技術です。それに先ほど別病棟の涼宮訓練生にも会ってきました。彼女は元気でしたよ・・・足も順調に治っているようです」

 

オレが気を失ったのが正確には11月1日の13時くらいだから、今日は11月3日の8時くらいか。そして・・・涼宮さんの足・・・治るのか・・・良かった、少しは世界を変えられたのかもしれない。

 

「タケル君も無理をし過ぎです、その怪我で総合技術演習の評価に影響するからと無理に結果を聞きに帝国軍キャンプのベッドから出るとは・・・」

 

少しずつ記憶が戻ってきた、沙霧大尉と文字通り死合って、撃たれて、気づいたら帝国軍キャンプ内、治療が終わっていたからそのまま、まりもちゃん(神宮寺教官)に結果を聞きに行ったけ。何故か帝国軍キャンプ内にいたな・・・後、オレが無理して行くって言ったせいで涼宮さん意地になって速瀬さんに担がせてまりもちゃんい会いに言ったな・・・まぁ、取り合えずは合格した・・・そう言えばその場に居た帝国軍の大佐に『痛みに耐えてよくがんばった! 感動した! おめでとう!』て言われたな・・・

 

「しかし、真剣で斬り合うとは無茶をしますね。下手したら肩や右腕が使い物にならなくなっていたかもしれません」

 

確かに今回はマジでラッキーだった、何せあの『沙霧大尉』だ。前ループじゃウォーケン少佐の犠牲、月詠中尉の武御雷と彩峰が沙霧大尉の注意を奪った事で何とか勝てた相手だ。生身だったら何とか分があるかと思ったが・・・

 

「・・・もし、腕を失ってもこの世界の医術なら治せたかも知れません。残念ですねタケル君、最先端技術を用いて右手に銃を埋め込むとかも出来たかもしれません」

 

「オレはコ○ラか!」

 

西暦にして数日たって気づいたが、

俺が覚えているよりも多少この世界の技術が進んでいる。

 

「冗談はおいといて。演習から帰ってきてこの世界の医療技術をすこし調べたのですが、肉体の再生、人体部位の機械化、精神科も結構進んでいます。下手したら精神世界に潜り込むなんて技術もあるかもしれません・・・中には非人道的な技術もあります・・・そこは我々の世界と変わりません」

 

オレ達の世界にもニュータイプを研究するという名目で非人道的研究を行っていた所はある。連邦側も同じような事をしているらしい。そして月であったあのマリオンという子も何かの実験の被検体だったらしい・・・霞も似たようなもんだな・・・

 

「・・・で、この書類は何なんですか?」

 

さっき落としたバインダーを手に取る、中には計画書、設計図、レポート、スケッチなど色々入っていた

 

「香月博士から預かって来た技術評価品目です」

 

「はぁ!?」

 

少なくとも計画書などが区切った感じでは300以上ある

 

「博士が帝国軍技術科から譲り受けたものらしいです。どれも奇抜、不可能、非効率、生産性無しと思われた草案を含む708品目です」

 

「な、ななひゃくぅはちぃ!?」

 

「タケル君にはその半分354品目の書類を渡しました。博士がタケル君が目を覚ましたら渡すようにと」

 

眩暈がしてきた・・・先生はオレ達を過労死させる気か?

 

「退院は5日後です、その後に任官式だそうです。それまでに終われば休暇をくれると言ってましたよ」

 

「・・・」

 

オレは目の前のモンスター(書類)を見る・・・やる気は全然出ない

 

「終わらないとどうなるんですか・・・?」

 

「知らないが『罰ゲーム』だそうだ」

 

全くいい響きはしない、“アノ”夕呼先生の罰ゲームだ良い事があるわけがない

 

「じゃ気合入れてやりますか・・・」

 

「それが良いかと」

 

「オリヴァーさんもこれからこのモンスターの処理ですか?」

 

と指を刺しながらオレは問う

 

「いえ・・・他の兵器開発もあるんですが・・・この後・・・モニクと・・・デートです」

 

「え!?」

 

何か変な事を聞いたような・・・

 

「デートです・・・」

 

聞き間違いじゃないようだ・・・しかし何で嫁とのデートでこの人は

ここまで震えるのだろう・・・

 

「頑張って下さい・・・」

 

「ああ」

 

そしてオレはオリヴァーさんに敬礼し(何故かしなければならない気がした)、彼は病室を出ようとして止まる

 

「おっと、忘れる所でした。MSの整備状況ですが09(ドム・トローペン)と15(試作高機動型ギャン)は整備を完了したました。15の盾も完成しましたのでシールドミサイルが使えます。モニクや博士と話した結果まだ光学兵器を使うのは早いので接近武器はヒートソードなどになります。ロンズ大尉の要望でツィン・ヒート・スピアも現在開発中です。それに、BETAの性質を考えた場合、現状のビームライフルの連射性では対応できません。その他に06MSS(ヴァル・ラング)は整備が完了しました、後は有線兵器とI・フィールドだけです。この後はミドガルオルムとオッゴを整備します。ガンダム(ルピナス)も後々整備できるかと」

 

相変わらず技術関連の事となると饒舌になる

 

「後はヅダですか・・・」

 

「はい、香月博士の助力を得ればEARTHの安定が図れるかもしれません。それまで使用は厳禁です。何が起きるか分かりません。では、タケル君また」

 

そういってオリヴァーさんは病室の扉を閉めた

 

・・・

 

・・・純夏・・・オレ頑張ってるよ・・・

 

オレは病室の窓から見える青い空を見つめる

 

○○○○●

11月3日9:13

国連太平洋方面第11軍横浜基地・病院3階

 

<バタン>

 

僕はタケル君の病室の扉を閉めた

 

タケル君も涼宮訓練生も元気そうで安心した。

 

本当にこの世界の医術は素晴らしい・・・素晴らし過ぎて逆に怪しい・・・もう少し調べた方がいいかもしれません。

 

僕は国連軍の病院を出るために階段に向かい歩き出す

 

・・・708品目の半分はタケル君が処理してくれるとしても・・・

この708品目全て、一人の人物が考えたと思うと・・・恐ろしいですね、何処からそれ程のアイディアが来るのか・・・

 

タケル君はこの世界に来て少し変わった気がします。

いや元に戻ったというべきなのでしょう。

彼は元々少し明るい性格だったのでしょう。

あっち(UC)に居た時より自然です。

しかし、MSの操縦だけじゃなく、eXtra Maneuver – 3 (XM-3)の開発、サバイバル技術、それに刀を使った生身の戦闘・・・彼も多才・・・いや、世界を3順し、生き残るためについた術(すべ)なのかも知れませんね・・・

 

さて、兎に角やらなければ成らない事が山済みです

 

頼まれている指揮車両などの援護兵器開発、武装開発、整備に帰るための情報集め・・・

 

「はぁ~」

 

僕は溜息を吐きながら階段を下りていく

 

それに・・・先ずは目先の問題を解決しなければなりません・・・モニクとのデート・・・

 

実際、毎回何をしていいのか分からず、結局モニクは段々と機嫌が悪くなっていきます。

だからと言ってデートしなければその日が僕の命日となります・・・

 

結局僕が彼女からリード(主導権)を握れるのは床の・・・

 

<ドン>

 

「わ!」

 

「アッ・・・」

 

階段を下りた先のT字路で車椅子を押している少女に当った

 

「大丈夫ですか?」

 

「(コク)」

 

「君は・・・社・・・霞ちゃんだったか?」

 

「(コク)」

 

少女は前にあった事のある子であった。黒いロングスカート、銀髪に黒いウサ耳のような髪飾り、彼女の感情を表すように動くがどういう仕組みなのだろう・・・

 

「しりません・・・」

 

・・・そう言えば彼女は何となくだが人の考えが分かるんだったな

 

「貴方は」

 

「オリヴァーでいいよ」

 

「オリヴァーさんは・・・オリヴァーさん達は私の事を怖がらないんですね」

 

・・・完全に思考を読まれるならそうかも知れないが、曖昧な表現らしいし、何より本人が意識しなければ出来ない事だと聞いた。それに・・・

 

「NTがいる世界から来ているからね・・・」

 

「そう・・・ですか」

 

そして僕は彼女が押す車椅子に目をやった、そこにはピンクのブランケットで全身を隠した少女がいる。車椅子の後ろには点滴がぶら下っている。

 

「友達かい?」

 

「(コク)・・・大事な人です」

 

その少女は特徴的な・・・タケル君が言う所の『アホ毛』を生やした赤髪の・・・

 

そう・・・モニクと同じ赤髪・・・

 

「あッ!!」

 

「(ビク)」

 

霞ちゃんを驚かしてしまった

 

「ごめん、妻を待たせているんだ。僕は失礼するよ。友達・・・治るといいですね」

 

そう言い僕は出口に向かい走った。

 

まだ・・・時間はある!・・・はず!!!

 

○○○○●

同日9:47

国連太平洋方面第11軍横浜基地・病院1階

 

私は走り去るタケルさんの友達のオリヴァーさんを見つめていた

 

「・・・ヶぅ・・・」

 

「!!」

 

一瞬だけど彼女が喋った気がしました

 

「そうです・・・タケルさんの友達のオリヴァーさんです・・・」

 

彼女の意思が暖かい・・・

 

「大丈夫、スグに会えます・・・」

 

私は彼女を連れて、彼女に病室に向かいます

 

彼女の病室はここの一番奥・・・庭が見える綺麗なお部屋

 

看護婦さん達が彼女をベッドに寝かせました

何時もより寝顔が穏やかな気します

タケルさん達が来てから彼女の思考には色が増えました。

 

タケルさんは不思議な人です。

知らないのに・・・知っている

優しくて暖かいけど悲しくて怒っている人

 

 

私は彼女の病室を出て基地に向かいました

 

・・・

 

夕呼博士の研究室を開ける・・・

凄く機嫌が良さそうです

 

「あら、社~お帰り。彼女はどうだった?」

 

「・・・凄く安定しています・・・色が・・・増えました」

 

「そう、それは良かったわ、やっぱり白銀のお陰かしら?」

 

「(コク)」

 

「白銀達が来てから、物事上手く行って嬉しいわ。国連の上層部(バカ)も帝国軍の高官(むのう)も米国の政治屋(じゃまもの)も皆黙らせられてスカっとするわ。それに、シュミレーターと演習の結果、それに彼らの技術・・・本当に白銀達は『英雄』になれるかもね」

 

「言ってました・・・タケルさんは・・・この世界の宇宙(ソラ)を救うって・・・」

 

「何?白銀はそんな事言ったの?」

 

「(フルフル)・・・マリオンさんです」

 

「・・・誰?」

 

「・・・」

 

「まぁ、良いわ社は今日はもう自由にしていいわよ」

 

「(コク)」

 

私は博士の部屋を出ました

 

・・・今日は・・・オリヴァーさん達のシュミレーターを借りに行きます

 

○○○●●

同日10:05

国連太平洋方面第11軍横浜基地

 

フフフ、本当に順調で気分がいいわ。

 

最初白銀達に会った時は眉唾だったけど、本当に凄いわ

 

文官として文句なしのネゴシエーター、モニク=C=マイ

嫌味たらしく毒舌・・・気に食わないけどその手腕は本物。白銀が『それは同属嫌・・・』と何か言っていたわね・・・思い出したら腹が立ってきたわ、アイツの仕事増やしましょう。そうそう、モニクは交渉にきた帝国軍の高官達を全員黙らせて帰らせたとピアティフが言っていたわね。まぁ、優秀し過ぎて私も油断したら不利な状況を作らされそうになるけど・・・

 

そしてそのモニクの旦那で一流の技術士である、オリヴァー=マイ

技術評価が専門と言っているけど、この時代の戦術機整備士を何人束ねても彼の技術と知識には及ばないわ。それに妻の知識と合せる事で戦略性の高い兵器ばかり計画してくるわ。前に大泉大佐達に渡したTSF-TYPE00Z武御雷改なんてのが良い例ね。ちゃんと整備や費用を考えているわ。考えない帝国軍が異常とも言えるけど・・・ある意味、彼一人で国を動かせるだけの力があるわ。性格は・・・良く分からないわね、恐れ知らずというか・・・あのモニクの旦那をする程だから大物なのかもしれない・・

 

傭兵のケニー=ロンズ

ロンズの操縦技術は白銀と同じかそれ以上。年長者だけあって実戦経験の差が白銀との戦力差を作っているみたいね。伊隅達に彼のシュミレーターデータを見させたけど、その操縦技術と指揮能力に驚いていたわ。確実にこの世界で最高の衛士ね。性格は・・・やはり癖があるわね・・・一言で言ったら・・・エロイ・・・私の事を嫌らしい目で見るけどそれを全く隠そうとはしないわ、それどころか『男はすべからくエロイ!それが真理だ!隠すなど臆病者のする事だ!』と言っていたわ。私は年上好きだけどアイツは・・・好きにはなれそうに無いわ。

 

因果導体の白銀武

流石に過去に2度もこの世界を体験さただけの事はあるわ。オルタネィティブ計画の事は筒抜けね、米国が考えている事も大体コイツは知っているわ。それだけじゃなくて衛士としても一流ね、ロンズが『潜在能力は俺より上だ・・・回避能力だけとれば俺達の世界でもトップだ』と言うだけあって、強いわね・・・伊隅が『最高ではないが最強だな』と言っていたわ。そしてBETA戦を考慮した戦術やこの世界の情報を他の3人に渡す・・・ハッキリ言ってこの4人は隙がないわ。

 

さてと・・・ここに文縁・・・黒藤文縁を入れれば完璧ね。

 

アイツは相変わらず私を避けているみたいだけど・・・

 

部隊名は何にしようかしら~

 

<ジリリリリリ>

 

電話が鳴りそれを取る

 

「もしもし~何、まりもじゃない?」

 

まりもから私に電話をかけるとは珍しいわね

 

「え、沙霧と川本の事?知らないわよ『今回は』本当に私は関係ないわ」

 

先の演習での事件が私のせいじゃないか聞いてきた、言いがかりは止めて欲しいわ

まぁ、面白い余興だったけど・・・あの程度で白銀達がやられるとは思えないわね

付いて行けた訓練生も中々ね。

 

「・・・今度はなに?・・・え?何処で白銀達を見つけたか?」

 

まりもが興奮しながら、彼らの凄さを言っている。

オリヴァーとモニクの成績は高いものじゃないが、二人は技術仕官と文官である。

それが衛士の訓練について行ければ確かに異常ね。

それに今回の演習、最速の2日以内での終了だったし

 

「・・・機密に決まっているでしょ・・・まぁ~今度ここ(横浜基地)が完成してまりもがこっちに来たら教えてあげてもいいかもね~」

 

電話の向こうで「またアンタは!」みたいな事を言っている

 

「他に無いなら切るわよ・・・あ~はいはい、分かったわ、切るわよ~」

 

私は電話を切り、椅子の上でストレッチする

 

「う~ん」

 

・・・さてと、最後の〆が2001年にならないと出来ないと分かっていても、やりましょうか私の研究を!

 

○○○●●

同日10:51

帝国軍練馬駐屯地、国連軍衛士訓練学校

 

また夕呼は・・・

 

適当にあしらわれた気がした。

 

それにしてもロンズ大尉達は凄い・・・

私も相当の修羅場を潜ったつもりなのに、その比じゃないわね

一番若い白銀中尉ですら年下なのに彼には迫力・・・覚悟がある・・・

それに兵士としての技術、知識・・・戦術機訓練も飛ばすというから操縦技術も凄いのでしょうね・・・あんな人達が正規の兵士をせずに戦場にいたとは・・・世の中わからないわね・・・

 

涼宮達には良い経験になったわね、同い年ぐらい(だと思う)白銀中尉をみて何か思ったようだし。

 

それにしても・・・川本少佐と沙霧大尉の事は夕呼が関係していないとなると・・・本当になんだったのかしら・・・沙霧大尉に関しては全く問題になっていないし。

 

取り合えず二人共怪我は治るみたいだし良かったわ

 

私は校舎から国連軍基地内に入ろうとしてグラウンドを見ると

速瀬、大空寺、玉野の3人が走っているのを見る

 

「あの、バカ共は・・・」

 

私は三人に向かい走る

 

「集合ぉぉぉぉぉ!!!」

 

私の声を聞き三人が集まる

 

「お前達は何をしているか!総合技術演習後3日間は自主訓練禁止の休暇を渡しと私は記憶しているが!」

 

速瀬が口を開く

 

「しかし軍曹・・・私は・・・悔しいんです・・・私のせいで遥と白が「甘ったれるな!!!」・・・!!」

 

速瀬は誰よりも責任感が強く、負けず嫌いだ・・・気持ちは分かるが・・・

 

「だから強ければ!誰でも救えると!全員を救えると本気で思っているのか!?」

 

彼女達は私に言われなくても分かっている、それを証拠に苦虫を噛んだような顔をしている

 

「しかし、軍曹、だからといって私には・・・ジッと何ては出来ません!」

 

今度は大空寺が言う、彼女はたまに上官に対しても恐れ知らずな事を言うが根は優しい子である

 

「拙者も!今回ロンズ大尉殿やモニク大尉殿を見て己(おの)が未熟を感じたでござるよ!」

 

軍人には有るまじき口調で玉野が叫ぶ。彼女は他者の実力を一番肌で感じる子だ。

 

「当たり前だ!彼らは貴様ら訓練生とは違いベテランだぞ!未熟?つけあがるな!そう思って当然だ!お前達はやっと殻から出て、尻にまだ殻を着けたヒヨッコだぞ!」

 

三人は押し黙る

 

「・・・彼らならどうするだろうな・・・身体を動かさずともやれる事はある・・・考える事も立派な衛士になるためには必要な事だ・・・」

 

「「「はい・・・」」」

 

「分かったらお前らは着替えて昼食をとりにPX(食堂兼売店)に行け!」

 

「「「はい!!」」」

 

三人は校舎に走っていく

 

「ちゃんと良い顔できるようになったじゃないか、ヒヨッコ・・・」

 

○○○●●

同日11:31

帝国軍練馬駐屯地

 

私達は運動着から着替え、帝国軍基地内にあるPXに向かっていた

 

神宮寺軍曹が言う事は分かる・・・でも同い年(?)の白銀があそこまで立ち回れるのに私は何だ?何をしていたんだ?こんなんで私はBETAと戦う?ハッお笑い草だよ!

あの時・・・私がしっかりしていれば白銀も遥も怪我せずに・・・

 

「水月行くわよ!早くしなさい!」

 

あゆが私を呼ぶ。あゆとまゆだってロンズ大尉の後を突いていっただけだと思っている。

私達は本当に自分の力で今回の総合技術演習を合格したの?

合格した時は嬉しくて涙が出たけど、今思うと恥ずかしさしか出ないわ

 

・・・

私達がPXに入ると帝国軍兵士達が私達を睨む、

居心地は悪いがもう慣れた。

日本人なのに国連軍に居る私達は売国奴と思われていて話かけてすら来ない

 

「よ~速瀬とU2じゃねぇーか」

 

コイツ・・・黒藤文縁以外

 

「誰がアイルランドのバンドよ!」

 

あゆがまた黒藤文縁に叫んでる

 

「ツッコミアザース」

 

45度の綺麗なお辞儀・・・ムカつくわ

 

「何故U2なのでござるか?」

 

「あゆ&まゆ、ゆが2つでU2」

 

「おおー」

 

まゆ!アンタそれでいいの?

 

「それに、音楽のジャンル的にもピッタリじゃね?世界的な意味で」

 

「なんで、ロックが・・・」

 

「いや~特殊なロックでしょヒントは○○○○○○○○」

 

「全部伏字じゃない!」

 

「じゃ最初の一文字はA」

 

「拙者英語は苦手でござるよ~」

 

黒藤は「よしよし」と行ってまゆを撫でる

 

黒藤・・・今は・・・えーと少尉の階級証ね、は変人である

私達が国連軍でも関係無く話してくる

 

「よしゃ、飯をオーダーするぜ!」

 

そういい彼は売店に向かう

 

「お、兄ちゃん新顔だね、ホゥアチャネー?」

 

「え、え?」

 

新しいPXの職員をおちょくっている・・・

 

「名前は?」

 

「伊吹純(いぶき=じゅん)です」

 

「へー髪長いね、軍人なのにいいの?」

 

「「アンタだってヒゲ(ハゲ)じゃない!」」

 

私とあゆが同時に言う・・・あゆ・・・ハゲは酷いような・・・

 

「誰がハゲだ!物凄く短くしているだけだ!1ヶ月もしたらフサフサやんよ?」

 

「ハン、どうだか?フサフサな所なんて見た事ないわよ?」

 

あゆが挑発しているわね・・・あの子普段から容赦ないけど、黒藤と・・・後は孝之(たかゆき)と慎二(しんじ)には本当に容赦ないわね。

 

「く~このツンツン娘め!何時になったらデレるねん!?元祖だから図に乗り腐って!」

 

また意味不明な事を言っている、取り合えず黒藤の言う事の半分以上は意味不明ね

 

「ん~この怒りはぁぁぁぁぁ!!兄ちゃん!ごぉぅぅぅせぇぇいシャァァケェNATO定職一丁(合成シャケ納豆定職)!とGO☆SAY!三度ウィィッチィ!」

 

<バン!>

 

「は、ハイ!」

 

あの売店の人分かるんだ・・・あれで・・・

 

・・・

 

私達は騒ぎながらも席に着いた

 

「で、何で帝国軍首都勤務の黒藤少尉がここにいるんですか?」

 

てかこの人、練馬所属じゃないのに何時もここにいるような気がする

 

「それはだな・・・速瀬・・・ズバリ!」

 

「ズバリ?」

 

「本部に居づらいからだ」

 

<ズコー>

 

あゆとまゆが椅子からずり落ちる

 

「ド○フ的ズッコケあざ~す!」

 

「はぁ~何か黒藤さん見てると悩んでいた私がバカみたい」

 

それを見て黒藤が一瞬笑ったようにも見えた

 

「・・・取り合えず、お前ら総合技術演習合格おめでとう」

 

「・・・ッ!!」

 

「怖い顔すんな速瀬、俺もあそこに居たんだお前らの活躍は直に聞いて見たんだ・・・誰が何と言おうと合格はお前らの実力だ・・・実力が無い奴らが実戦経験のある衛士についていけるものかよ・・・それが証拠にお前らはハプニングを乗り越え作戦を成功させたじゃないか・・・足を引っ張っていない証拠だ。もっと自分に自信を持て」

 

「黒藤殿~~」

 

「フ、フン、あ、あんたに言われなくても分かってるんだから!!」

 

「・・・」

 

「おぃ、速瀬、何泣いてんだ?」

 

気づいたら私の頬に一筋の涙が流れていた

 

「な、泣いて何かいないわよ!ちょっと鼻にツンと来ただけよ」

 

「鼻にツンとくる辛さの麻婆豆腐って・・・あのPXの兄ちゃん何作ってんだ??」

 

・・・そうか私は誰かに認めて欲しかったんだ・・・自分の力だって・・・

 

「さてと、俺はちょっくら本部に行くから失礼するわ。涼宮にも宜しくなー」

 

「そういう場合は『本部に帰る』というのでござらんか?」

 

「そうとも言う」

 

そう良いながら黒藤はPXの外に出て行った

 

私達は無言で立ち上がり彼に敬礼していた

 

 

○○●●●

同日12:11

帝国軍練馬駐屯地・PX前

 

「・・・立ち聞き、立ち見はお客さんご遠慮ください」

 

PXを出た文縁の横にまりもが居た

 

「・・・ありがとう」

 

「何を言っているか分からないな、これは僕のサンドイッチだよ、さっきPXで買ったんだ」

 

と手に持っていたサンドイッチを懐に隠す文縁

 

「・・・誰もアンタのサンドイッチの催促なんてしてないわよ」

 

「そうか」

 

そう言いながら文縁は歩きだす

 

「アンタ、今日はこれからどうするの?」

 

「何、デートのお誘「違うわ、ただの興味よ」・・・本部に帰って移転の準備だよ、色々挨拶しなきゃならん人もいるし」

 

「そう、今度行く所では迷惑かけないのよ」

 

「誰にもかけた覚えはないな」

 

「どの口が」

 

文縁は練馬基地を後にした

 

「・・・PXにサンドイッチなんてあったけ?」

 

・・・・

同日13:25

日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局

 

文縁は技術関連の各部署に挨拶周りをしていた。

各方面に『助けて貰った』のは本人も自覚している。

 

最後に第壱開発局に訪れ、ドアを開けようとした時別の誰かの手が伸びる

 

「あっ」

 

「おや」

 

そこには篁がいた。

 

「・・・え~と、篁少尉でしたっけ」

 

「はい、そういう貴方は・・・」

 

「色の黒に、植物の藤で読みがつづら、フミの文に、ご縁の縁でぶんえんです。今は少尉です」

 

「あ、貴方が噂の『黒の道化』・・・」

 

「え、その呼び名はちょっと・・・」

 

「失礼しました。で黒藤少尉はどこに?」

 

「いや、大泉さんと巌谷さんに挨拶しに」

 

「おじ様に?」

 

「おじ様?」

 

「い、いえ。私も丁度巌谷中佐に会いに来た所なので」

 

「それは良かった、どうせ道を聞かなきゃ行けなかったんで手間が省けた」

 

「はい、では付いて来て下さい」

 

二人は第壱技術局に入った

 

○○●●●

同日13:29

日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局内

 

私の隣に今、件の黒藤文縁少尉がいる

中央では結構知られている人物である

何故『黒の道化』と呼ばれているかは知らないけど

おじ様曰く、何でもある程度出きるけど、やりたい事以外やらないから出世しない人らしい。それ以外にも結構な激戦を生き抜いてきた兵士である。

 

私達はおじ様の部屋の前に着く

 

<コンコン>

 

「篁少尉、及び黒藤少尉です」

 

「入りたまえ」

 

「はい」

 

中に入ると書類を山のように積んだ机に座るおじ様がいた

 

「面白い組み合わせだね」

 

「いえ、そこで会いまして」

 

「唯依くん少し待ってくれるかな、黒藤少尉の用件を聞いてしまいたい」

 

「はい」

 

「で、何の用かな」

 

「用という程の事ではないですが、転属が決まったんで・・・挨拶に」

 

「・・・ほぅ、で何処に決まったんだい?」

 

一瞬おじ様が変な反応をしたが気のせいだろう

 

「衛生科の軍樂部です!」

 

黒藤少尉は本当に嬉しそうに言う

 

「・・・そう言えば君は昔から音楽をしたいと言っていたね」

 

何故か目尻を押さえて顔を上に上げるおじ様・・・寝不足だろうか

 

「はい、やっとですよ!PXのコックに始まり、補給兵、機械化歩兵、衛士、技術科でやっと書類が通りまして」

 

「そうか・・・歩兵を2年、衛士としても2年だったかな」

 

「はい」

 

「光州作戦、明星作戦、その他多くのBETA戦を生き残り・・・軍樂部隊か・・・」

 

黒藤さんはそんなにも多くの戦場を生き延びて、寂れた軍樂部隊に何をしに行くのだろう?

 

「いやー楽しみですよ、巌谷中佐にもお世話になりました」

 

「う、うむ」

 

「それで、俺がココで研究していた資料や機材、研究機がどうなったか知りたくて」

 

「それなら、引き取り手が出たので、既に我々の手にはない」

 

「・・・そうですか、最後に俺の機体や兵器は見たかったですね、実戦で結局使えなかったですけど」

 

「(いや、機会はあるかもしれんぞ)」

 

何かおじ様が言った気がした

 

「で、大泉少将・・・大佐はいますか?」

 

「残念ながら、大佐は今会議に出ている」

 

「う~んタイミング悪かったかー、まぁ、また今度くれば良いか。では失礼します他の局にも研究資料とか置いてあるはずですから」

 

「(もう無いと思うがな)しかし、君のような熟練兵が軍樂に行くとはな」

 

何か最初に呟いたような・・・それにしても、大泉大佐や沙霧大尉が言うように凄い人なら何で・・・

 

そして黒藤少尉は部屋を出て行こうとする。

 

「黒藤少尉!」

 

「ん?」

 

彼は振り向かずに答える

 

「もう、た・・・戦わないんですか・・・?」

 

聞いて良いのか分からなかったけど聞いてしまった

 

「地獄を見れば・・・心が乾く・・・戦いは飽きたのさ・・・」

 

「!!!」

 

矢張り聞くべきじゃなかった

 

「定めとあれば心を決めるが、選べるなら・・・」

 

「し、しかし」

 

「そっとしておいてくれ・・・」

 

彼はどれ程の事を見てきたのだろう

 

そして彼はドアを閉めた

 

「唯依くん・・・」

 

「おじ様・・・私は・・・聞くべきじゃなかったんでしょうか?」

 

「彼は・・・」

 

「そう言えばさっきから何を呟いて?」

 

「いや、彼が不憫でね」

 

「???」

 

不憫?彼の過去と関係があるのだろうか?

 

「いや、気にしないでくれこっちの事だ」

 

「で、唯依くんを呼んだのはテストパイロットの件でだ」

 

「新型ですか!?」

 

「ああ、これを見てくれ」

 

おじ様は私に書類を手渡す・・・TSF-99・・・99・・・1999年と言う事はもう完成しているのね、全くそんな噂は耳にしなかったけど・・・Type-MS-15K 鳥兜。

 

「MS?聞かない形式番号ですね」

 

「モビルスーツと言う」

 

「モビルスーツですか・・・」

 

「オリヴァー=マイと白銀武という名前に聞き覚えはあるね」

 

「!!はい、この前の演習にも参加していたらしいですし、後、新粒子の研究発表で物理学界では一躍有名人です」

 

「彼らが研究していた新概念の戦術機をMS(モビルスーツ)という」

 

「!!ではこれは!」

 

「香月博士と取引をしてね」

 

「横浜の魔女と!いや、国連軍の力を借りるなど!おじ様!」

 

「我々は技術的挫折をしていた・・・もうそんな事を言っている場合ではないのだよ。それにコイツのライセンスは日本が持つ事になっている」

 

「・・・それでも・・・!!」

 

「残りの資料も見てくれ」

 

そう言われ私は他の資料を見る

 

・・・

 

接近戦特化型・・・確かに私達には合っているわね

 

・・・加熱長刀(ヒート・ソード)!?凄い技術・・・

 

・・・ウソ・・・核反応炉に換装可能?

 

「・・・どう思う?」

 

「凄い、この機体5倍以上のエネルギーゲインがある!」

 

反応炉換装時だけど、それでも普通の機体とは比べ物にならない・・・

 

「これなら!おじ様!」

 

「ああ。日はまた昇る・・・」

 

<コンコン>

 

「おや、今日はお客様が多いな・・・誰だ?」

 

「沙霧です」

 

「入りたまえ」

 

そういうと軍服をピシッと着込んだ沙霧大尉が入ってきた

 

 

○○●●●

同日15:00

日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局内・巌谷副局長室

 

「入ります」

 

俺は巌谷中佐の部屋に入る、そこには先日あった篁少尉がいた。

 

「今日は何の用かね」

 

「いえ、用という程の「君もかね」・・・は?」

 

素っ頓狂な声を上げてしまった

 

「先ほど黒藤少尉が来て、彼も同じような事を言ったもので」

 

「黒藤さんが・・・行き違いでしたか・・・」

 

黒藤さんには聞きたい事があった・・・今の我が国の状況について・・・光州作戦と明星作戦の事・・・

 

「聞きたかった事があったんですが残念です」

 

「で、その用とも言えぬ用は何かね」

 

「はい、ここの局員に用があったので来たのですが、来たからには挨拶をしなければ無礼に当ると思いまして」

 

「君も唯依くんも真面目だな」

 

「恐縮です」

 

「特に黒藤くんの後だとな・・・」

 

「「は?」」

 

黒藤さんの後だと何なんだ?

 

「んん・・・先日の合同演習ではお世話になりました」

 

「ああ・・・事件もあったが・・・ご苦労様・・・」

 

「はい、川本少佐の事は残念です」

 

「彼は前々より、心を病んでいたからね・・・明星作戦以降悪化していたようだ・・・それがこんな形で終わるとは残念だ」

 

川本少佐はあの後軍事裁判にかけられるため、現在中央本部の留置所に入れらている

 

「君も何かしていたようだが・・・」

 

巌谷中佐の目が鋭くなる・・・

 

「お答えできません」

 

「そうか、私より上の者の命令か・・・」

 

「!!!」

 

流石・・・か・・・

 

「・・・君も気をつけろ、中央には魔物が住む」

 

「魔物ですか・・・」

 

「ああ、人の皮を被ったな・・・」

 

巌谷中佐の言葉が何故か頭から離れなかった

 

「はい、では私はこれで」

 

「ああ」

 

「では少尉も」

 

「はい」

 

俺は局を後にする

 

この後、その中央に行かなければならない、香月夕呼、白銀武とその一派についての報告だ・・・

 

・・・

 

<バタン>

 

俺は会議室から出てきた

 

「フン」

 

事は現場で起きている、会議室で話し込んでいる者に何が分かるという?

 

俺は廊下を歩き始める

 

白銀武か・・・敵にしとくには惜しい男だな、あの歳であの技量か・・・

あれ程の者が魔女に飼われているのか・・・いや・・・犬ではなく狼かも知れんな。

全員が騙されているのかも知れん・・・どちらにせよ、殿下に牙を向くのであれば、その牙ごと討ち果すのみ!

 

俺は地下に続く階段の前で止まる

 

「地下留置所か・・・」

 

そして地下に下りる・・・

 

人の気配は薄く、全体的に薄暗く、アンモニア臭かほのかにする。

 

俺は唯一人が入っている檻の前に止まる

 

<ブツブツブツブツブツ>

 

そこにはブツブツと呟く川本がいた

 

「・・・ま、まりもちゃんなら、そうだよ分かってくれる、僕じゃない、僕は、僕は?何を?殺す?いや殺すべきだろ!死ぬ?死ぬのは嫌だ!撃つな!殴るな!ぼ、僕は悪くない、なんだ暗いよ暗いじゃないか!あ、明りをつけろよ!耳の横で怒鳴るな!僕に命令するんじゃない!!・・・ぼ、僕はわわわわわ僕だだだだ、お前じゃない、お前は、お前は。お前は誰だ?」

 

と言うと川本が俺の方を振り向く

 

その漆黒の双眼が俺を見つめる

 

「・・・哀れだな・・・川本」

 

「か、川本・・・かわくぁくぁぅわ?誰だ?」

 

「・・・」

 

俺は見るに耐えられず留置所から出た

 

○●●●●

同日22:20

帝国軍中央本部留置所

 

おい、僕、俺、お前、君、殺せよ、何してんだ彼女、が欲しいんだろそうだろ?わかってんだぞ、お前は俺で俺は僕でお前なんだから、なぁ?何やってんだよ、蹲って惨めだな。抑えるなよ、解き放て、楽になんぞ、ホラホラホラホラほら。誰が誰のせいでこんな思いしてると思うんだ、お前のアイツの俺の僕のいやアイツの黒藤か?白銀か?国連軍だろBETAだ!本当に?本当に?僕のせいだろ、いや君でいいんじゃないか、あいつだよ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ手に入らないなら奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え奪え

 

「う、うっさい!!!!ぼ、僕に命令するな」

 

誰か助けてくれ!た、た!

 

<コツコツ>

 

誰かが入ってくる、何人?僕、君?俺、アイツだよアイツらだアイツらか!ぼ、僕を苦しめた苦しめる苦しめに来たのはアイツ?殺れ殺れ殺れ殺れ殺れ殺れヤレヤレやれやれ

 

「・・・評価は・・・成功・・・したというのか・・・これで?」

 

「命令は聞いたぞ・・・」

 

「・・・壊れたようだな・・・」

 

「・・・元々脆弱な被検体だ仕方あるまい・・・」

 

「始末するか?」

 

「いや、まだ使いようがあるだろ。腐っても衛士だ」

 

「・・・ははははははは、確かにそうだな?では見事に散って貰おう」

 

誰かの手が手手手手てててててぼぼぼぼぼく僕を放せ!

 

「・・・連れてけ」

 

西暦1999年11月3日22:22

 




西暦1999年11月3日

死ぬかと思いました

オリヴァー=マイ臨時大尉


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第十話「死せし大地に軍靴が木霊した~前編~」

西暦1999年11月9日

国連太平洋方面第11軍横浜基地、第6区画03格納庫

 

流れる様にコンテナが格納庫に運ばれるのを武達4人は見つめていた

 

4人は予定通り、武の退院と同時に任官式を終え、4人とも臨時階級から正規の少尉になっていた

 

「で、なん何だアレは?」

 

ケニーが問う

 

「香月副指令曰く、技術評価対象だそう「そうよ」・・・副指令・・・」

 

モニクの後ろに夕呼が立っていた

 

「おや、博士さん、相変わらずお美しい」

 

「あれは、白銀とオリヴァーが昨日終わらせた708品目の内スグに使えると判断した物と、工場で生産が終了した車両よ」

 

彼女はケニーの妄言に対し無視を決め込む

 

「だからオリヴァーとタケルはこんなに疲れているのね」

 

「ホント、嫌になるわ、折角の『罰ゲーム』が無駄になったじゃない」

 

「先生・・・勘弁してください」

 

4人の所にオリヴァーがクリップボードを持ちながら来る

 

「博士、技術評価対象108品目全て受け取り完了しました」

 

「ご苦労さま」

 

「あ、あの~」

 

横から別の男の小声がする

 

「・つ・・縁少尉、序でに到着しました」

 

「「ワシヤ?」」

 

二人は振り返る

 

「いえ、黒藤です」

 

そこには帝国軍服を着、右手で頭をかきながら気ダルそうにする文縁少尉がいた

 

「ヅラか?」

 

と茶々を入れるケニー

 

「ヅラではない、黒藤(つづら)だ、黒葛(つずら)じゃないから間違えんなよ、いや・・・俺が間違いか・・・?」

 

「何してんですかアンタ達は・・・」

 

顔に手をやる武

 

「変わらないわね、文縁・・・」

 

「おお、香月先生、相変わらずおうつ「それはもうやったわ」」

 

言葉を切られる文縁、その言い回しを見て、ケニーが彼を凝視する

 

「フッ、俺も見る目が落ちたな・・・ハゲと・・・ヅラと呼んですまなかった、ヒゲと呼ばせてもらおう」

 

「ふっ、ならば俺はお前をグラサンと呼ぶ!」

 

そして熱い握手を交わす二人

 

「お前とは上手くやって行けそうだ、ヒゲ!」

 

「ああ、同感だ、グラサン!」

 

不思議な漢の友情が生まれた瞬間である

 

「・・・ん、でアンタなんで私にはそんなに他人行儀なのよ?」

 

「副指令、彼とは知り合いなのですか?」

 

「腐れ縁よ、コイツとは・・・この『黒の道化』とは」

 

「『黒の道化』ですか、カッコいいですね」

 

武が文縁の方を見ると、それに合せ彼はボディビルダー的なポーズを取る

 

「格好良いね・・・まぁ真実はコイツが帝国軍訓練学校の時、色々と低脳な悪戯をしてね、それで『道化』・・・9割がた問題が発生したらコイツがホシだから『黒』・・・故に『黒の道化』・・・」

 

「ちょ、ちょ何イキナリ!?ネタBARE!?俺の異名滅茶苦茶チープになったじゃないっすか!!」

 

「事実でしょ」

 

「「「「・・・」」」」

 

唖然とする4人

 

「取り合えず、アンタちゃんとした自己紹介しなさい」

 

「おぅ、いや。んん、自分は帝国本土防衛軍衛生科、軍樂部所属、黒藤文縁少尉であります!」

 

「うそよ」

 

言い切る夕呼

 

「「「「「えぇー(は)?」」」」」

 

再び唖然の4人プラス1

 

「えーっと、おりゃぁ、黒藤文縁、26歳、独身、しがない帝国軍少尉さ!軍樂所属の俺の歌・・・聴いていくかい?」

 

言い直す文縁

 

「別に、言い方の事を言ったわけじゃないわ。文縁、貴方今日からここの配属よ?」

 

「オカマゲイ?ん、スキューズミィ、カマゲイ?」

 

「Come Again・・・もう一回ね・・・「副指令良く分かりますね」言ったでしょ腐れ縁って・・・さて、何度でも言うわ、貴方はここ、第6区画03格納庫技術試験隊所属よ!」

 

ハニワの様なポーズをとって動かなくなる文縁

 

「モニク・・・これを読みなさい、ちゃんとした辞令よ」

 

茶色い封筒をモニクに手渡し、モニクは中身を確認する

 

「はい・・・ロンズ少尉、オリヴァー=マイ少尉、モニク=キャディラック=マイ少尉、白銀武少尉、黒藤文縁少尉、以上5名を本日付で・・・“第603・・・技術試験隊”転属せし・・・!!」

 

「僕達はまた『魔女の鍋』の中か・・・」

 

<ピクリ>

 

その呟きに夕呼が反応

 

「魔女の鍋?」

 

「昔、モニクと自分がいた部隊、第603技術試験隊は『魔女の鍋』と呼ばれてました」

 

それを聞きニヤリとする夕呼、長い髪をかきあげる。

 

「ふ~ん、良いじゃない私達にピッタリね。今日から貴方達と私「・・・私も・・・」あら、社いたの?・・・そうね、社を入れた7人が第603技術試験隊『魔女の鍋』よ」

 

「「「「「・・・了解(はい)(あいょ)」」」」」

 

文縁を抜く5人が夕呼に言い返す

 

「・・・ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁ!異議有り!」

 

再起動する文縁

 

「却下よ」

 

またも一言で切り捨てる夕呼

 

「いや、ちょっと待ってくださいよ先生、わしゃ、帝国軍仕官よ?国連軍の部隊に入隊ってなんばちょってるでごわすか!」

 

「落ち着きなさい。文縁、貴方白銀達の機体をハイヴ内で見たでしょ?」

 

「お、おぅ」

 

「あれは機密なのよ「喋らん!絶対喋らん!」・・・口約束でどうにかなるような事でもないでしょ、それにアンタがいたエリア、あそこは帝国軍にとっては立ち入り禁止地域のはずよ」

 

「・・・だが!それで俺が国連軍入りする理由には!」

 

「いいのよ~でもアンタ色々帝国軍内で問題起こしてきたでしょ、今日付けでクビになってるわよ~」

 

「嘘だ!」

 

鬼の様な形相で叫ぶ文縁

 

「嘘じゃないわよ、だから、アンタには選択肢が二つ、一つはこのまま603に入隊する事、もう一つは無職になり帝国軍と国連軍両方から監視される事」

 

「夕呼先生・・・それ実質1択じゃ・・・」

 

哀れむ武

 

「どうするの、このまま「・・・分かった・・・分かった、因果応報的な理解をした・・・だが音楽は捨てんぞ」・・・良いわよ、好きにしなさい。じゃ、先ず白銀達に付いて話しましょうか。モニク、頼めるかしら?」

 

「ハッ!」

 

~数分後~

 

文縁はモニクから大体の事情を聞く

宇宙世紀の事、武のループの事、MSの事、彼らの目的・・・

 

「・・・信じられるかよ・・・何処の所属だ!?異世界から来た!僕の名は武・・・地球は狙われている!・・・って何処の蒼い○星ですか・・・」

 

「蒼○流星?」

 

「気にしないでくれ」

 

疲れたように武に返す文縁

 

「・・・所で、文縁アンタ、私の質問に答えてないわよ」

 

「何だよ?」

 

「何で、そんなに私に他人行儀で避けようとするのよ?」

 

「ハハハ、ワロス。だって夕呼、歩く死亡フラグじゃん」

 

光の篭らぬ目で答える文縁、そしてそれを睨む夕呼

 

「・・・アンタ・・・何を知ってるの?」

 

「何も知らん」

 

はち切れんばかりの勢いで首を横に振る文縁。

 

「・・・そう、いいわ、そうそう3日後、帝国軍が大規模なBETA掃討作戦を九州と四国で行うわ。貴方達はその2日後にその作戦に参加して貰うわよ」

 

「ほらキタ・・・よりにもよって列島奪還作戦か」

 

列島奪還作戦、それは本州以外の島に残るBETAを掃討する作戦である。

数は少なくとも(と言っても数1000単位でいる)BETAが九州及び四国に残っているため、日本はそこからの資源採取ができない状態である。それを打破するために今作戦が結構された。作戦自体の規模は大きくなくとも帝国軍にとって、日本にとっては死活を分かつ大事な作戦であった。

 

「知ってるのか黒藤少尉・・・腐っても元帝国軍だな」

 

モニク節が炸裂する

 

「元ね・・・はぁ~」

 

「で博士さん、何で作戦開始の2日後なんだ?同時展開しないのか?」

 

ケニー=ロンズのサングラスが室内なのに光る

 

「ロンズ少尉、それは私が答えよう・・・正式な出撃要請が無いからな、帝国軍には頼み込む形で我々は出撃する。そのため相手は戦力が分からない小隊が戦場を混乱させないようにするため2日遅らせて出撃させるようだ。真意は兎も角そういう“名目”だ」

 

「政治か意地(プライド)か・・・どちらにせよ、くだらねぇな・・・」

 

帝国軍にとって国連軍は米国に掌握されているイメージがあり、一度とはいえ光州作戦のおり米国軍は帝国軍を見捨てた。当然良い印象を持つはずがない。

 

「副指令・・・」

 

「あら、ピアティフ。時間通りね。じゃ、白銀、オリヴァー、文縁と社を連れて仕事を始めて」

 

「はい・・・皆さん行きましょう」

 

5人は運ばれてきたコンテナの方に向かった

 

「・・・副指令・・・」

 

モニクは頭から離れない疑問を夕呼聞こうとした。

 

「何・・・?」

 

「本当に私達の事を知られた『かも』知れないという理由で彼を?」

 

確かに文縁はハイヴ内でモニク達にあった、しかし変わった戦術機(MS)を見たというだけであり、その他諸々の事がバレるとは考えられない

 

「それこそ貴方が言った“名目”よ」

 

「・・・ヒゲはそんなに使えるのか?」

 

「・・・モニク、資料は手元にあるでしょ?」

 

「はい、今見ていますが突出したものは何も・・・色々な作戦を生き延びたのは目を見張りますが、別にこれといった戦果を出してませんし。後は部署を転々としている所でしょうか」

 

「訓練校時代の技術検査結果はどう?」

 

ケニーはモニクの後ろに回り資料を覗く

 

「何だ、戦闘適正平均15標準偏差5のテストで17.5、繰上げで18、技能適性平均7標準偏差2で8・・・アベレージ・ジョー(一般兵)よりはマシだが、平均よりちょっと高いだけじゃねぇ~か、ヒゲより強い奴は3割以上帝国軍にいるって事だろ?」

 

モニクは何かに気づく

 

「・・・気づかんかロンズ?「何だ?」・・・彼の技術適性の量と数字が異常だ」

 

そう言われ、ケニーもその不思議に気づく。どこの人間の資料に同じ番号が永遠と続く事があるのだろうか?

その二人を見てまた夕呼は面白そうにニヤリとする。

 

「・・・アイツは何処に行っても平均以上、エース以下、性格もあれだからね~帝国軍じゃ使い切れないわよ」

 

「面白い」

 

サングラス越しに目を見開くケニー

 

「それに・・・アイツは何か隠してる気がするのよね・・・じゃ、私は研究に戻るわ~後は任せたわよ」

 

夕呼は格納庫を出て行った

 

○○○●●

11月12日

 

あっと言う間に4日間が過ぎた

 

この間、武達は忙しく走り回っていた。先ず、列島奪還作戦に参加するため、出撃可能なYMS-15K試作改良型ギャン、及びMS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)のコクピットを99式衛士強化装備用に換装することであった。

 

強化装備はこの世界でのノーマル(パイロット)スーツであり、その性能はオリヴァーに「信じられない・・・オーパーツだ・・・素晴らしい」と言わせたほどに高性能である。余談だがケニーは別の意味で「素晴らしい・・・このデザイン考えた奴は天才だ」と言い、武と文縁はそれに同意していた、モニクは汚物を見るような目をした事は言うまでもない。

この装備は高度な伸縮性を持ちながら、衝撃に対して瞬時に硬化する性質をもった特殊柔軟素材と、各種装置を収納したハードプロテクター類で構成されている。耐Gスーツ機能、耐衝撃性能に優れ、防刃性から耐熱耐寒、抗化学物質だけでなく、バイタルモニターから体温・湿度調節機能、カウンターショック等といった生命維持機能をも備えている。他にも色々便利な機能があり、戦術機の弱さをある程度カバー出切るほどに性能が良い。

 

更に戦術機操縦においては、ヘッドセットとスーツ全体で脳波と体電流を測定し、装着者の意思を統計的に数値化し常にデータを更新、戦術機や強化外骨格の予備動作に反映させるという、間接思考制御のインターフェイスとして機能する。この機能を知り、オリヴァーと武はヅダ改に搭載されているEARTHコンピューターとの違いを分析し始め、夕呼と社に助けを借り改造し始めた。そして将来的にXM-3の強化版を作る予定を立てた。

 

ヘッドセットは戦域情報のデータリンク端末であり、それ自体に高解像度網膜投影機能を有しているため、ディスプレイ類を必要としないだけでなく、視力の強弱も影響しない。そのためMS全部のコクピット内モニターを取り外さなければならなかった。機体側コンピューターとの回線接続は、シート全体でコネクトする接触式と無線式の二系統であり、これにも適応するようにコクピットを改造。

 

前々より、計画をしていたため換装自体は一日で何とかなった。

 

二日目にオリヴァーは夕呼の研究室に呼ばれ、試験評価する機体と車両を紹介された。その折、夕呼の室内には音楽が流れていた

「ボレロですか?」

「文縁曰く、603ボレロらしいわ。オリヴァーと試験評価品目について話す時に流せって。軍樂家としては譲れないそうよ」

「はぁ」

なんというやり取りをしながら評価品目を見せられた。

一つは99式ホバートラック。宇宙世紀で連邦軍が使っていた74式ホバートラックの正にそれである。形式番号には年号の99が使われている。違いは20mmガドリング砲ではなく、戦術機の87式突撃砲に使われる36mmが搭載されている事とそれに合わせてホバートラックの性能が向上している以外は殆ど機能に違いはない。振動を音で索敵する方法や、レーダーもあり。指揮車両として開発された。

 

次にTSF-TYPE77/F-4JT 77式戦術歩行戦闘機――撃震T型(げきしん、ティーがた)、撃震の黒藤文縁改良(改悪)機である。元々は文縁が帝国軍の第壱開発局で魔改造していた機体にXM-3と核反応炉を着けた機体である。反応炉は小型化の最中であり、その大きさのため機体に拡張スペースのある撃震ですら外に飛び出しており、そのバランスの悪さは追加スラスターで補うという怪しい機体である。

 

武、オリヴァーと文縁はホバートラックと撃震の調整や機動試験などを行った。

ちなみに、この撃震を見た時文縁は「俺の撃震王!」と叫び「王を付ければ格好良いと思うとは哀れだな」とモニクに罵られ、「だがそれこそ王道なり!」と返していた。

 

 

3日目以降は最終調整及び、武器の確認に殆ど時間を対やした。

その他にオリヴァーはヴァル・ラングに搭載されているCAD=CAMシステムを利用し、MS-09F/TROPの戦術機版、TSF-99Type-MS-09F/TROP黒法師(くろほうし)の設計や他の兵器の設計を行っていた。

武は川崎の工場に出向き、TSF-99Type-MS-15K鳥兜の開発状況を確認したり、職員にアドバイスをしていた。

文縁は雑用の他にヴァル・ラング内の情報を利用しながら自分の作った708の書類を検証し、暇を見て機体の左側に603Witch's Pot(魔女の鍋)と禍々しい鍋を描いたエンブレムを描いていた。

 

この間、モニクは列島奪還作戦の詳細を確認し、その情報を武達に渡していた。それ以外にも夕呼の替わりに国連軍の上層部や帝国軍と交渉を続けていた

ケニーは作戦の詳細や地形を見ながら作戦を練り。武と共にネットワークで繋げたシュミレーターを使い夕呼の私兵とも言えるA-01を自身の訓練も踏まえ、鍛えていた。この時A-01の隊員達には武達の事は知られておらず、アンノウン1&2と呼ばれていた。夕呼、曰くまだ名前を出すには早いらしい。

霞は引き続きXM-3及びEARTHの改良に手を加えていた。何故か彼女が作業するとEARTHがエラーを出す回数が少ない。

 

ちなみに文縁は皆と交流を深め、ケニーとは漢の絆(ライバル)を結び、武とは心の友(親友)となった。色々と武から宇宙世紀や元の世界の事を目を輝かせながら、「キモイ、近づくな、息をかけるな」と言われながら聞いていた。

 

そして11月12日11:00

第6区画03格納庫、ブリーフィングルーム

 

「・・・と言う事で、第603技術試験隊『魔女の鍋』隊長はケニー=ロンズ少尉、副長は白銀武少尉だ」

 

言い終えるモニク

 

「モニク姉さんは?」

 

「俺は構わねぇが・・・いいのか?」

 

「私は戦場に出るが本職が文官だ、オリヴァーは技術仕官だし、ついこの間着任した元帝国軍の黒藤少尉は当然除外だ。それにこの先この部隊は人数が増える可能性がある、その場合私とオリヴァーが戦場に出る回数が少なくなるだろう。それを踏まえ、戦闘経験、パイロットとしてのスキル、戦闘での指揮能力を考えた場合。この選択しかないでしょ?」

 

「了解しました」

 

「おう、大船に・・・もとい泥舟に乗ったつもりでいろ!」

 

ケニー=ロンズはサムズアップで答える

 

「何故、言い直したし」

 

武は呆れる

 

「さて、今回の試験品目についてはオリヴァー頼むわね」

 

そしてオリヴァーはモニクに代わりモニターの前に立つ

 

「では、今回の試験品目です。ご存知の通り、YMS-15K試作改良型ギャン、及びMS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)のコクピットは99式衛士強化装備用に換装され出撃可能となりましたので出します。装備は15がヒートソード2本、ツイン・ヒート・スピア、シールドミサイル、ショットガン、99式超振動短刀、87式突撃砲です。09がラケーテン・バズ、ヒート・サーベル、シュツルムファウスト、ショットガン、99式超振動短刀、90mmマシンガンに代わり87式突撃砲です。87式突撃砲はMSのマニュピュレーターでも操作可能に調整しました。MSの大きさが基本的に戦術機に近くて助かりました。99式超振動短刀(ソニックブレイド)は黒藤少尉の計画を元に我々(宇宙世紀)の技術を応用し作られたものです。シールドミサイルのミサイルはこの世界の物を利用します。09にはモニク、15にはロンズ隊長でお願いします」

 

「分かったわ」

 

「了解だ」

 

「次にTSF-TYPE77/F-4JT 77式戦術歩行戦闘機、撃震T型です」

 

「俺の撃震王!当然、搭乗は俺だよな?」

 

と興奮する文縁

 

「いえ、文縁少尉は僕と一緒に99式ホバートラックです」

 

「えっ!?・・・いや、ここは・・・僕が一番ガ「続けます」・・・(分かっていたんだけどね・・・銀色(武カラー)に塗られている時点で・・・)」

 

「このF-4JT、撃震T型ですが、元々の機体も変な改造がされていて使いにくいですが「大きなお世話だ」、XM-3、試作戦術機用核反応炉とそれを抑える追加スラスターの所為で非常に扱い辛くなっています。関節部分の負荷を軽減するためにマグネットコーティングなども施してありますが、それでも機体の不安定さは拭い切れません。そのため、操縦技術は勿論、戦術機乗りとして一日の長があるタケル君にこの機体には乗って貰います。装備はヒート・ソード2本、ショットガン、99式超振動短刀、87式突撃砲。左腕部に36mmガドリング砲が搭載されていますね、右腕部にも、計画書によると“ノーススター”とありますが、これは?」

 

「撃震王の必殺技だ!」

 

「続けます。それ以外にもヴォイスコマンドシステム(VCS)という物がこの機体には取り付けられています。VCSは声によって兵装の変更や発動をコントロールするシステムのようです。便利といえば便利ですね」

 

と真剣に頷くオリヴァー

 

「スーパー系には必須の漢装備だ!」

 

両手を挙げる文縁

 

「さて、99式ホバートラックですが、装備は36mmガドリング砲のみで、指揮車両として今後も配備される予定です。核反応炉もF-4JTと同じく積んであります。後は弾薬と食料が積んであります。積んである電子機械での索敵範囲は20km±3kmです、この機能はMP-02Aa-YOP オッゴ大気圏使用型(バロール装備)から応用しました。最もオッゴが使えるなら索敵範囲はホバートラックの比じゃありませんが。今回は主にホバー機能の試験とも言えます、運転手は文縁少尉、記録係と砲撃手は僕となります。ガドリング砲は運転手が操作する事も可能ですが試験的に積んだ核反応炉や他の物資が機体を不安定にするため、文縁少尉には操縦に集中してもらいます。今回試験的に衛士強化装備を軍用車両で使う目的でコクピット周りを改造したので、僕達も衛士強化装備を着用します」

 

「戦術機に乗れないのに強化装備なんて、それ何て罰ゲーム・・・」

 

項垂れる文縁

 

「では、作戦についてはロンズ隊長」

 

「おぅ」

 

今度はロンズがモニター前に立つ

モニターには四国が移し出される。

 

「俺達は今回退役した空母を再利用し、四国徳島県橘港に入る。帝国軍の大部分は徳島市を中心に反時計回りに殲滅戦を仕掛けているので、俺達は逆に時計回りに行く。そうしないと化物(BETA)に会えないからな」

 

「順打ちか」

 

「遍路ですか」

 

文縁の一言に反応する武

 

「化物は機械や人が多い所に集まるからな、人口密度が高かった北側に多いのだろう。詰り俺達は余り旨みが無い所を回るって事だ。まぁ、核反応炉を積んでいる機体ばかりだから俺達の方が補給なしで長時間作戦行動を取れる、というか帝国軍がいる辺りまで行かないと俺達に補給はない。素早く行動すれば愛媛県大洲市に帝国軍がつく前に進軍できるはずだ」

 

画面の映像が街を移しだす

そこには廃墟となった街があった

 

「数週間前に取られた、高知市だ、ゴーストタウンだな。四国全土に人はもう住んでいない。居るとしたら少数の動物、虫と化物だけだ。化物の種類は主に小型種の兵士級、闘士級、戦車級。ホバートラックには36mmとショットガンの弾しか積まないが弾数には気をつけろよ?割合としては小型種は街の方が多いみたいだがな。大型種がいるとすれば俺達の方が遭遇率は高いだろうよ。要塞級、重光線級、光線級は四国では確認されていないらしい。あくまでらしいだけであって、いる可能性はある。当然、武がいった母艦級という超大型のキャリヤーは現時点ではいないと見て良いだろう」

 

次のフォーメーションを移す映像が出る

 

「フォーメーションは逆三角型だな、ツートップで俺のギャンと少年の撃震、この世界で言う突撃前衛(ストーム・バンガード)の位置だ、その後ろ、中央、強襲掃討(ガン・スイーパー)の位置に嬢ちゃんのドム。更に後ろ、打撃支援(ラッシュ・ガード)の位置にホバートラックで技術屋とヒゲだ」

 

「「「「了解」」」」

 

「じゃ今日、19:00出航だそうだ。明日の朝には四国だ」

 

5人はブリーフィングを終了した。

 

○○○●●

11月13日8:00

徳島県橘港・国連軍空母

 

狭くも強化装備で快適なコクピットの中に武達はいた

空母は橘港の前で止まっている

 

「13時間で徳島か・・・流石軍艦早いな・・・」

 

武は鉛色に白色のタッチがある強化装備を着ながら港を見つめて言った

 

「・・・よし、ホバーできる。嬢ちゃん、技術屋とヒゲは先行してエリアをクリアしてくれ」

 

ケニーの強化装備は濃い橙色をしている。

 

「「了解」」

 

モニクは赤茶色の強化装備、オリヴァーは深緑の強化装備を着ていた。

空母の先端にドムとホバートラックが行き出撃する

 

『マイ少尉どうぞ』

 

オペレーターの声がヘッドフォンを通し聞こえる

 

「モニク=キャディラック=マイ、ドムトローペン出すぞ」

 

ドムが滑走し海に下りるとそのまま滑るように港に向かう

 

『黒藤少尉どうぞ』

 

「黒藤文縁、ホバートラック、行っきまーす!」

 

文縁の強化装備は通常の黒い帝国軍強化装備(本人と共に何故か送られてきたもの)である。

 

ホバートラックも空母からユックリと着水すると、同じく海の上を走る

 

「記録開始します」

 

オリヴァーはゆっくりと各機に取り付けられたカメラの録画ボタンを押す

 

 

BETAは人や機械そしてハイヴ、G元素に惹かれる、

そのため港には小型種が待っていたかのように束になっていた

 

「早速お出ましだ、ワラワラと・・・私の前に出た事を呪いながら死ね」

 

<ドン!>

 

ドムのラケーテン・バズが火を噴き、BETAの小型種はまるでボーリングのピンが如く弾け飛ぶ。

 

「おお、ストライク。オーリー!撃ち漏らしは俺達が処分するぞー、ちゃんと狙え!」

 

「分かってます、文縁少尉」

 

軽口を叩く文縁にオリヴァーは36mmガドリング砲のスイッチを押す

キィーンという回転音と共に、発射される36mmは鉄の雨を作る。

港に近づくにつれ、モニクはショットガンに武装を換え、無差別に小型種を撃つ。

暫くして、港にはBETAの死骸の山が残った。

 

「黒藤少尉索敵!」

 

「もう、やっている!・・・BETA認識の振動音・・・0、生体反応、熱量・・・0・・・オールクリア!」

 

「よし、ロンズ少尉!タケル!エリア確保!」

 

『了解した、そちらに向かう』

 

近づいた空母からギャンと撃震はスラスターの推進力を使い港に飛ぶ

 

「何て、不安定なんだこの撃震・・・」

 

空中でフラフラとする撃震を武はスラスター操作で安定させようとする

 

「大丈夫か少年?」

 

「今、誤差修正しています」

 

武は機械操作用のキーボードを出し、プログラムを書き換え始める

 

「・・・後ろに重心が行くのは分かっていた、空中だと前のめりになって今度は前に引っ張られる、なら前部スラスターの開きを・・・」

 

<カタカタカタカタカタカタ>

 

「・・・よし!」

 

そして、撃震のブレはピタリと止まり、武は空中で撃震を一回転させ、港に着陸させる

 

「少年、規格外な事をするな」

 

ケニーは実戦でプログラムを変える武の異常性にコメントをしながら、ギャンを港に着かせる

 

「・・・範囲20km以内、敵影なし」

 

文縁がそう告げる

 

「・・・文縁さん、戦闘中は真面目ですね・・・そう言えばハイヴ内であった時もそんな口調でしたし・・・」

 

武は撃震の状況を確認しながら答える

 

「TIMって奴だ」

 

「TPOでしょ」

 

モニクは素早く修正する

 

「アザース」

 

「真面目っての訂正します」

 

「さて俺達はこれから南東に向かう。索敵範囲を上手く使い出きるだけ南エリアをカバーするぞ。技術屋!今の戦闘記録は?」

 

「取れています」

 

「・・・しかし、見たところ70から90体は今ので倒したな。足の踏み場が無くなるって事も考慮すると、ホバー系の移動機の運用考えねぇとな・・・UCなら5機以上でエースらしいが、ここ(この世界)の場合何体倒したらエースになるんだ?」

 

「千単位で倒したらエースって言われましたよ」

 

そう小さく言う武

 

「桁外れだな・・・時間と補給さえあれば小僧一人でこの島を開放できるって事か」

 

「まさか・・・仲間がいたから・・・俺は生きていけたんですよ・・・」

 

「そうかい・・・では603技術試験小隊行くぞ!」

 

「「「「了解!」」」」




MS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)
及び99式ホバートラック戦力評価報告書
我が第603技術試験小隊はさる11月13日、四国橘港にてMS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)及び99式ホバートラックの実戦試験運用を実施せり。ホバーによる海からの進軍は戦術的にも効果有り。この戦闘においてドム・トローペンはラケーテン・バズ及びショットガンを使いBETA小型種を駆逐せし。両兵装は広範囲に威力を見せしも全ての敵を捕らえる事は困難なり。今回運用せし99式ホバートラックの36mmガドリング砲は捕らえ切れぬBETAを殲滅し、兵装の弱点を補ったと信じる。橘港を占拠せしBETAを殲滅し、港を解放する事で任務を全うす。この戦果を持って両機に実用性があるものと信じる。しかし、両機体のホバー移動は乱戦時、主にBETAの死骸が増えるにと共に困難になると思われる。この問題の解決が必要とされたし。我々は引き続き列島奪還作戦に参加し、これら兵器の実用性検証と評価を続ける。
               ―西暦1999年、11月13日オリヴァー=マイ技術少尉


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第十一話「死せし大地に軍靴の足音が木霊した~後編~」

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西暦1999年11月15日11:32

四国、高知市

 

無人の街にBETAの叫び声、弾丸の飛ぶ音と機械音が響く

それは一種の音楽の様に

地獄にBGMがあるとしたらこんな感じなのだろうか

 

「化物如きに俺の弾が避けられるかよ!」

 

接近戦に成らない為、ケニーのギャンはシールドとツィン・ヒート・スピアを背中に背負い、左手に87式突撃砲、右手にショットガンを持ち弾をばら撒いていた。

 

「虱潰しだ!」

 

ビチャビチャグチャグチャと言う音を立てながらBETAの小型種は潰れていく

道路の上はBETAの死骸で溢れかえる

 

「チッ、こういう風に行動範囲を狭められるとは思った事がねぇぜ」

 

悪態をつきながら、足場を確認するケニー

 

「どけ、傭兵!」

 

モニクの言葉に、ギャンは空中に逃げる

開いたスペースにドムのラケーテン・バズが炸裂し、死骸を含むBETAが吹き飛ぶ。

毒々しい紫色の液体が回りのビルに着く

 

「ロンズ隊長、モニクも遠距離兵装を使うのは構いませんが、接近戦兵装も使ってもらわないと、評価のしようがありません」

 

モニク達の視界、右下に何時ものように冷静なオリヴァーの顔が浮かび上がる。

 

「分かっちゃいるがな」

 

「あの、怪物に近づく気にはならないわ」

 

二人共苦笑いをする。資料を前もって見て、戦闘もしたとはいえ、まだUCから面々にはBETAの姿には抵抗がある。

 

「・・・ではタケル君」

 

「オレ!?マジで?」

 

「マジです」

 

「はぁ~」

 

溜息をつきながらも兵装を右手ヒート・ソードと左手99式超震動短刀に切り替える

沙霧と戦った時と同じ構えを取り

 

「では、白銀武押して参る!」

 

武の撃震T型はBETAの群れに飛び込む。

それは正に竜巻。

ヒート・ソードの一振りはBETAを溶かし

99式超震動短刀の一振りはBETAをバターのように切り裂く

 

「おぅ、行け行け、小僧援護は任せろ」

 

ケニーはコクピットで観戦モードになりリラックスしながら

武を援護するように周りのBETAを36mmで倒すダックハントのゲームをするように潰していく

 

「武の腕も尋常じゃねぇが、グラサンの腕も異常だな、どうやったら武に当てずに周りのBETAだけ倒せんだよ?」

 

文縁は網膜に映る映像を見ながら呟く

 

「ヒート・ソード、及び99式超震動短刀は両方とも小型BETAには効果ありと・・・問題は大型種にどのくらい効果があるかですね」

 

「オーリー!観測と評価も良いがちゃんと撃ってくれ!」

 

「分かってます・・・引き金を引くくらい!」

 

<キュィーン・・・ダダダダダダダダダダダ>

 

武達とは別方向にいるBETAをホバートラックとドムが掃討する

 

「武、正面のBETAでここのは最後だ!撃震王のとっておきをお見せしろ!」

 

「了解!」

 

撃震T型は両手の武器を振り、周りのBETAを一掃すると、正面に向き99式超震動短刀を地面に突き刺し、左手を前に出す。

そして武の網膜にVCS用のテロップが流れる

 

「アームドガドリング!セットアップ!」

 

その声に反応するように、左腕部からガドリング砲が現れる

 

「劣化ウラン弾のシャワー存分に浴びろ!」

 

<シュィィィィン・・・バラララララララララララ>

 

ホバートラックが装備しているガドリング砲より高い回転音を奏で、

36mmが空を埋める。

 

<ララララララララララララララ>

 

火薬の煙と光に包まれ

その双眼は撃たれるBETAを只々見つめる

 

<ラララララララ・・・・ィィィィン>

 

一通り撃ち終わると、そこに動く物は無かった

 

「中々の威力ですね、武器を落さずとも使える方法があれば良いのですが・・・後は移動時と飛行時での使い勝手を調べるだけですね」

 

オリヴァーはコンピューターにデータを叩き込む。

 

「・・・オールクリア、高知市確保!」

 

文縁の声が戦いの終了を告げる

 

 

 

武達は高知駅前の広場で戦術機から降り

昼食を取っていた

 

「<モグモグ>・・・中々デカイ奴には会わないな、ング・・・このカツヲの叩きてのは旨いな」

 

生姜独特の香りが立ち昇り、

それに合わすように出し汁が円やかにカツオの肉を包み込む。

 

武達は太陽光発電を行っていた工場を発見し、

今だに冷凍されていた食材を文縁が発見(奪取)、調理し、

彼らは持ってきたレーションと一緒にそれを食べていた

 

「・・・酒が飲みたくなる味だな・・・それにしても技術試験としては大型にも会わないと話にならんな・・・もっと西に行くしかねぇようだな」

 

ケニーが言うように、これまで彼らがエンゲージしたBETAは全て小型種であった

 

「まぁ、相手からこっちに向かってくれるから楽って言っちゃ楽だがな」

 

そしてBETAは武達に向かい現れる。殲滅戦をする上では楽である。

 

「・・・それにしても本当に誰もいねぇなぁー」

 

ケニーが見渡すと、そこにはビル街が学ぶ

先ほどの戦闘で所々煙が出ているが

それ以外には全くの静寂・・・

街の中にはBETA以外の死骸はなく、

他の生物は全て食べられたと思われる痕跡の黒ずんだ血の跡が所々にある

 

「昔来たときは結構賑わってたんだけどね」

 

そう思い出す様に言う文縁

 

「・・・はい、“どろめ”、冷凍で臭いついてるから、ちゃんと生姜、レモン、薬味と一緒に食べてくれ」

 

武は軍用の鉄製の器に入れられたどろめをフォークでかき混ぜる

臭いは気にしなければ感じず、逆にレモンの酸味、

薬味の香ばしい香りと生姜のサッパリとした香りが器内を支配する。

口入れると甘いとろみのある食感が口内に広がり、

つるりと喉を通る

 

「・・・美味い、これに白いご飯があったらマジ最高だったな・・・」

 

「・・・はは、高知名物も食い収めだな」

 

<・・・>

 

「オリヴァー、帝国軍の動きはどうなってるの?」

 

モニクはオリヴァーの隣に座り

オリヴァーは小さく震えるモニクの手を持っていた。

彼女とて気丈に振舞っているが、

BETAという未知の生物との戦闘に恐怖しないわけではない

 

「・・・今確認しているよ・・・」

 

オリヴァーは無線のヘッドフォンに片耳を預けながらレーションを頬張る

ケニー達のように不可思議な和食を食べる気がしなかった。

 

「・・・九州の方は予想よりBETAの数が少なく上手く殲滅をしているようです・・・四国の帝国軍は西条市周辺を抑えたようだね」

 

他の三人は地面に置いてある地図に目をやる

 

「・・・俺達より時間があって、まだそんな所か」

 

「グラサンそういうなや、あっちの方がBETAは多いからな」

 

「それに、MSの方が性能が高くて、進軍速度は倍以上ですし」

 

「・・・しかし、四国の北、愛媛の西条市か・・・このスピードだったら俺達と八幡浜市辺りでぶつかるな・・・」

 

「・・・おいヒゲそれはどこら辺だ?」

 

文縁が指差したそこは、佐田岬半島の南、九州の北東にある港を持つ街であった。

 

 

○○○●●

同日12:11

西条市

 

赤い衛士強化装備を着た女性が二人が丘から西条市を見つめていた

 

「こっちは一人やられて、2機中破だ、真那の方は?」

 

一人は青緑色の髪をおろし、眼鏡をかけた月詠真耶(つきよみ=まや)中尉

 

「中破1小破1よ」

 

そしてもう一人は緑色の髪を後ろに纏め団子にした、従姉妹の月詠真那(つきよみ=まな)中尉

 

「小型種だけを相手して、この体たらくか・・・そっちの被害はさほど酷くないな・・・連隊長は渡辺(わたなべ)少佐だったか・・・」

 

「ええ、可も無く不可も無くといった所でしょうか。実際は鳩木(はとぎ)旅団長がもう少しマトモな指揮を出し、洒論(しゃろん)中佐が上手く連携を取ってくれていれば被害は少なかったでしょう」

 

眉間に皺を寄せるマナ

 

「鳩木之宗(はとぎ=ゆきむね)大佐に洒論天不(しゃろん=てんぶ)中佐か・・・ほぼ新兵で構成された部隊に、指揮能力がほぼ皆無の旅団長と唯我独尊の連隊長・・・我々が呼ばれたのも頷けるな・・・」

 

二人は斯衛軍のため帝国陸軍引率の今回の様な作戦に組み込まれるのは稀、

それだけにキナ臭さを戦場で感じていた

 

「・・・BETAは狙ったように我々に向かってくるし・・・・国連軍も南で動いているという・・・今回の作戦・・・何かあるの・・・?」

 

マナは再び街に目をやる

 

「中尉殿!」

 

二人は呼ばれ振り向くと一人の青年がいた

 

「貴様は・・・?」

 

眼鏡を光らせマヤが問う

 

「ハッ!渡辺少尉であります!」

 

マナはその面影が連隊長に似ている事に気づく

 

「連隊長のご子息か」

 

「はい!」

 

「で、何の用だ?」

 

マヤは渡辺少年を見る、渡辺少年にとってそれは睨まれているようにも感じ一瞬ビクつく。

 

「れ、連隊長殿が大休止の終わりを告げ、進軍せしと」

 

二人はそれを聞き、頭を抱えた。

大休止を言い渡され、まだ1時間も休んでいない。

後方で何もしていない連隊長にとってはさほど重要じゃないだろうが、

前線に立つ衛士達にとって大休止や小休止は食事と同じくらい大事である。

 

「鳩木大佐は何を考えている・・・分かった今出撃準備にかかる」

 

マヤは歩きだした

 

「マナ・・・?」

 

マナは今にも降り始めそうな曇天の空を見上げ呟く

 

「嫌な感じだな・・・」

 

○○●●●

(二日後)

11月17日15:00

四国西側、西予市三瓶町周辺

 

ギャンと撃震のスラスターは火を噴き空を舞う

それを高速で地面を滑る様に追うドムとホバートラック

 

「雨が激しくなってきたな・・・ホバーで足を取られるという事は無いけど・・・こう視界が悪いとやり難いわ!」

 

モニクは過剰な程の36mmを撃ちBETAを仕留める

地面に散ばる紫色の液体は雨によって薄れていく

 

「嵐の~中で~♪」

 

「姉さん危ない!」

 

武がモニクの機体に取り付こうとしたBETAを撃ち落す

 

「その~夢も~♪」

 

「助かったわ、タケル」

 

「技術屋!八幡浜までどんくらいだ!」

 

「直進して12kmくらいです」

 

「諦めないで~♪」

 

「「「「う(る)さい(です)(わ)!!!」」」」

 

「・・・」

 

4人に叫ばれ黙る文縁

 

「ヒゲ、BGMまで用意して・・・歌って誤魔化そうとしているようだが・・・進軍に遅れが出ているのはお前のせいだぞ!」

 

前日文縁は撃震に乗りたいと駄々をコネ、搭乗し

調子に乗り高高度にジャンプしたさいにバランスを崩した撃震を操れず、

落下

転倒

小破

その整備を行うために半日603小隊は足止めをくらった

 

「ついカッとなってやった、反省もしないし、後悔もしていない」

 

「性質悪(ワル)!」

 

武はたまらず叫ぶ

 

「取り合えず小休止を取るぞ!予備弾の詰め替えとリロードをちゃんとやっとけ!」

 

各々は機体の状況確認(ステータスチェック)を行い、ホバートラックに詰まれた予備弾を取る

 

「技術屋!ホバートラックに積んであった弾薬はこれで全部か?」

 

「はい」

 

「いよいよ、もって無駄玉が撃てなくなってきたな・・・『戦いは数』か・・・」

 

「ドズル=ザビ閣下もそう言っていたそうです」

 

ケニーが言った言葉にオリヴァーが反応する。

宇宙世紀0079、一年戦争時、ジオン公国軍は圧倒的に物資や人員で連邦軍に後れをとっていた。それは連邦軍総司令官ヨハン=イブラヒム=レビル大将に『ジオンに兵なし』と言わせる程明らかであった。そしてジオン公国軍宇宙攻撃軍司令ドズル=ザビ中将は一年戦争末期、ジオン公国軍総帥で兄のギレン=ザビに『戦いは数だよ』と不満を漏らしたのは後々のジオン軍人が知る事になるほど有名なエピソードである。

そして、この世界、BETAの脅威は何にしても圧倒的な『数』である。恐れを知らず、物理的にしか止める事の出来ないBETA。ジオン公国軍として『数』を相手にしたオリヴァーとモニク、そして『数』を武器にした連邦軍にいたケニー、想像ではその恐ろしさを知るが、彼らはこれから『本当』にその脅威を知る事になる。

 

「文縁少尉、本当に何故、無理してF-4JT(撃震T型)に乗ったんですか?」

 

オリヴァーは通信を切り、ホバートラック内でハンドルを握る文縁に話しかけた

 

<・・・>

 

少し考えるような間があり、文縁は頭だけを後ろに向け答える

 

「いやさ、元々俺が俺のために作った機体だからさ・・・実戦で一度も乗ったこと無くて・・・まさかあそこまで安定性が悪く、操作し難いものになっていると思わなくてさ・・・」

 

文縁が言うように、核反応炉、XM-3、追加スラスター、マグネットコーティングが追加された撃震T型は最早彼が知る物ではなかった。問題は多大な馬力とそれを操作するための繊細さである。背部から飛び出ている核反応炉と通常の撃震より大きい両腕を持つT型はミリ単位での操縦を要求され、文縁にそれをコントロールする技術は無かった

 

「・・・それに調べたい事もあったしな・・・」

 

「はっ?」

 

文縁の呟きにオリヴァーは問いかける

 

「いや、武・・・お前がナンバーワンだ!・・・て事っすよ!」

 

何時ものようにサムズアップと溢れんばかりの笑顔を見せる文縁に呆れるオリヴァー

 

「そうですか」

 

<ピピピピ・・・ピーーーーーー>

 

ホバートラックに詰まれた振動計が鳴り、文縁の横にあるモニターは音の波を作り、そしてが何かと一致するように合わさる。それを見て自分の色眼鏡を目の位置まで上げる文縁

 

「・・・この波紋・・・このパターンと位置は・・・なんて事だ、これは偉い事ですよ!!オーリィー、グラサン隊長に連絡だ!!!!!」

 

○○●●●

同日15:05

八幡浜市南部

 

「中尉!月詠中尉!助けてください!ちゅう・・・」

 

<ドギャ>

 

帝国軍新兵の乗る撃震は戦車級BETAに取り付かれ身動きが取れない所をモース硬度15を誇る装甲に170km/hの速度で突っ込んでくる突撃級BETAにより、コクピットは勿論、機体全てが潰れる。そしてそれを漁るように戦車級や兵士級といった小型種が撃震に群がる。マナの網膜に映るバイダルデータは中の衛士が生きている事を知らす。

周りのBETAを120mmと36mmを使い分けながら潰しその機体に近づこうとする・・・が・・・戦車級の黄色い唾液が撃震を覆い、乗っていた衛士のバイダルデータは急激に上昇、心拍数が180を超えた時点で一気に0に落ち・・・平らな線がマナの視界右端を横切り続ける。

 

<ピィーーーー>

 

「・・・少尉・・・!!」

 

マナにとって唯一の救いは最初の一撃で撃震の通信機が壊れ、衛士の断末魔を聞かずにすんだ事であろう。

 

<ザーザーザーザーザー>

 

聞こえていたとしても降り注ぐ雨がその声を掻き消していたかもしれない

 

この時点でマナのいる小隊はマナ駆る赤いType-82F 高機動型瑞鶴を残し全滅した。

 

<ダダダダ>

 

マナを援護するように銃撃がBETAを襲う

 

「斯衛殿大丈夫か!」

 

そこには黒い帝国軍カラーの撃震が2機。

 

「助かった、貴様らは?」

 

「帝国陸軍131連隊、児島(コジマ)連隊所属、第八小隊・・・、臨時小隊長の天田(あまだ)先任少尉です!」

 

そこに移ったのはまだ幼さが残る童顔、黒髪の少尉だった。

 

「その声、月詠中尉ですか!僕、いえ私です、渡辺少尉です!」

 

三機が敵を殲滅しているとマナの機体に似た赤いType-82F 高機動型瑞鶴が近づいてくる

 

「マナ無事か!?」

 

「マヤ?・・・無事とは言い切れんな、私以外は全滅だ・・・で、どうした?」

 

「鳩木旅団長が全軍、北にある八幡浜市役所まで後退するようにとの事だ」

 

「撤退命令じゃないのか!俺達の連隊だけじゃなく、渡辺少佐の133連隊もボロボロだ、唯一無事なのは洒論中佐の132連隊ぐらいじゃないのか!?」

 

天田少尉が言うように、彼らの旅団の被害は多大なものであった

最初は八幡浜市で問題なくBETA殲滅を行っていたが、南部に食い込みころになり、突然八幡浜港から師団数(約3万)はいると思われるBETAが奇襲。

八幡浜市、最南端に食い込んでいた131連隊は勿論、133連隊は南にいるBETAと西からの奇襲により二面戦に追い込まれる。これにより新兵達はパニックを起こし、たった数分の内に131連隊は4割、133連隊は3割の被害を出した。陸軍旅団は3連隊、戦術機324機からなっている。この時点で彼らは全軍の2割弱、約75機の戦術機を失った事になる。ほぼ被害が無いのは北東にいた洒論中佐の132連隊と指揮本部だけである。

 

「天田少尉!言っても始まらん、行くぞ!」

 

「「「了解」」」

 

マヤの高機動型瑞鶴を三機が追う

 

○○●●●

同日15:09

八幡浜市北西部市役所

 

マナ達が市役所に付く頃には既に市役所周辺をBETAが包囲していた。

BETAの波を止めるように数機が市役所に留まり応戦している

 

「渡辺少佐!」

 

マナが帝国軍の不知火を見て、そう叫ぶ

 

「月詠中尉殿か!指令本部は一時撤退し始めている、北東に抜け、131連隊に合流しろ!殿(しんがり)は我々が行う!」

 

「な!本部は俺達を見捨てたのか!?」

 

天田先任少尉は声を上げる

 

「少佐!我々も!」

 

マナは撤退するように渡辺少佐に提案する

 

「これは命令だ月詠真那中尉、貴殿らが斯衛と言えどもここでの指揮権は私にある。行け!」

 

「父ちゃん・・・」

 

「一端の衛士が情けない声出すな!さっさと行け!」

 

渡辺少佐の命令に従い4機は北東に抜ける。

 

それを確認し、渡辺少佐は回りの僚機に告げる

 

「灘(なだ)中尉!新井少尉達を連れて引け!」

 

「な、何を言っているんですか連隊長!」

 

灘中尉と呼ばれた女性が驚く

 

「ここはもう維持できない・・・だが、友軍が後方に引き・・・立て直すまでここを維持してやるさ」

 

「・・・連隊長、死・・・」

 

言い切らずに言葉を飲み込む灘中尉

 

「・・・すまんな、児島少佐と合流し指揮下に入れ」

 

「了解・・・お前ら聞いたな!行くぞ!」

 

光線級がまだ確認されていないため、灘中尉達はスラスターで上空に飛び、最後に92式多目的自律誘導弾システムを積んだ機体はミサイルを全部放ち、それを援護するように僚機は120mmと36mmを撃ち、そして退避した。

 

「・・・さて・・・殺れるだけ殺ってやろうじゃないか」

 

そう言い渡辺少佐は市役所の上に上がる。

雨が渡辺少佐の不知火を濡らす・・・

左手の突撃砲は36mmをオートにばら撒き、右手の120mmは比較的動きの鈍い要撃級を、そして92式多目的自律誘導弾システムのミサイルは突撃級だけを狙うように打ち出す。

 

<バララララ、ドン、ドン、ドン>

 

溜まるBETAの死骸が他のBETAの動きを遅くする。

 

右手の120mmと左手36mmを打ち終わる頃に変化が訪れる。

港から巨大な影が海面より、現れる。全高66m、蜂の様な姿をした、要塞級と呼ばれる、現段階で人類が確認している最大級のBETAである。

 

「・・・予測はしていたが、終に来たか!!」

 

素早く渡辺少佐は指令本部及び、他の連隊長に『要塞級確認』のメッセージを打つ

そして、左手の120mmの的を要塞級に絞り、右手は36mmを放ち、撃ち終えた92式多目的自律誘導弾システムをパージ。

 

<ドン、ドン、ドン、ドン、ドン>

 

5発程撃ち込むころには要塞級は沈黙、

しかし、次々と要塞級は海面より現れる。

そして、要塞級の内部にいた生き残りの小型種も出てくる。

 

<ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、カチカチカチ・・・>

 

弾数0を告げる音が渡辺少佐の耳に入る

無言で突撃砲2丁を正面に投げると、背部に積んである長刀を2本抜く

 

敵に捕らわれず、避け続けながら、長刀を振り続けるという芸当はエースと呼ばれる沙霧大尉や武だから出来る事であり、元々突撃前衛でもない渡辺少佐にとってこれは神風にも近い特攻である。

 

要塞級に近づくと、触手が伸び、渡辺少佐が駆る不知火の左腕をもぎ取る。渡辺少佐には長刀で三胴構造各部の結合部を狙うほどの近接戦闘技術はない。

 

「・・・よし、来い、私に集まって来い!」

 

<バキ>

 

右手の長刀が触手により破壊される

 

「・・・頃合か・・・息子よ・・・生きろ!」

 

S-11の光が市役所周辺を包みこむ。

 

<~♪~~♪~~♪>

<ザーザーザーザー>

 

渡辺少佐が最後に聞いたのは爆発音、雨音・・・そして軽快だが哀愁が漂う音楽・・・

文縁が『ターニングポイント』と呼ぶBGMだが

 

渡辺少佐がそれを知る事はもう無い

 

灘中尉が市役所を離れ、この瞬間まで『たったの4分』、

後世ではこの四国八幡浜市殲滅戦において3万を1機で抑え(誇張とも言われているが)、殲滅戦の勝敗を決めたとまで言われる『渡辺の4分』である。

 

○○●●●

同日15:13

八幡浜市北東部

 

灘中尉達と合流したマナ達はひたすら指令本部を目指し移動していた

 

<ドーーーーン>

 

「「「「「「!!!!」」」」」」

 

雨雲により太陽は遮断され暗くなった地上を

後方から迫る独特の光が照らし

それを追うように爆発音がする・・・

 

戦場を何度か渡りあっている者達にとって

 

その光は死の光、

 

絶望にて希望を託す光

 

「S-11・・・」

 

天田少尉が息を吐くように小さく言う

 

「連隊長・・・」

 

「少佐か・・・」

 

「クッ・・・渡辺少佐・・・」

 

灘中尉、マヤ、マナがそれぞれ短くそして静かに黙祷する

 

「と、父ちゃぁぁぁぁん!!!!」

 

まさかと思う行動、

 

誰もが戦場で仲間を亡くした事がある、

 

しかし多くは戦場で親類を亡くした事がない、

 

ましてや初陣で父親を亡くす子供の、

 

新兵の気持ちなど誰にも分からない

 

渡辺少尉は機体を反転させ元来た道を逆走し始める

 

「・・・渡辺少尉!馬鹿か!?」

 

一番最初に反応したのはマヤであった

罵りつつも彼女は一番最初に、BETAの群れに飛び込まんとする渡辺少尉を止めるべく彼の機体を押さえる

 

「貴様!自分が何をしているのか分かっているのか!!!!??」

 

「ァァァァァ、ウワァァァァァァアアァ」

 

撃震は捕縛しようとする高機動型瑞鶴を弾き飛ばす、

 

「なっ!」

 

倒れる事がなくとも、現状の戦術機は倒れないようにバランスを取ろうとする行動にでる、そして雨によりぬかるんだ地面は足の踏ん張りを奪う、

その一瞬の硬直が時として命取りとなる

 

「マヤ!!!」

 

マナは叫ぶ、マヤの機体の目の前に突撃級が向かっていたからである。

射軸からして援護は間に合わない。ただ叫ぶ事によりマヤか渡辺少尉が対処してくれる事を祈る

 

突撃級は最高速度を維持し続ける、バランスを取るために反応しないスラスター及び足部を無視し、左手の120mmを放つという判断をしたマヤは流石と言えるだろう、それが確実に一番最良の選択である。だが、モース硬度15を誇る突撃級の前面は1発2発では破壊できない。

 

「マヤ!!!」

 

「月詠中尉!!」

 

「中尉!!」

 

悲痛の叫びが戦場に広がり・・・

 

<~~♪~~♪~~♪>

 

<ザシュ!ザァーーーーー>

 

不可思議な音楽と共に空中から赤く光る二本槍を突き刺す、西洋騎士のような戦術機が現れる。騎士の様な戦術機は突き刺した勢いを殺さず突撃級を『吹き飛ばした』。それに巻き込まれるように他のBETAも潰される。

 

「なっ!」

 

マヤの思考は追いつかない。

何が起きた?何だこの戦術機は?新型か?帝国軍?国連軍?オレンジと白色のカラー、エースか?いや、それよりどれだけの馬力を持てば突撃級を吹き飛ばせる?何だこの音楽は?戦場で音楽?ふざけているのか!?

 

「モース硬度15も大した事はないな」

 

目の前の騎士は通常回線(オープンチャンネル)でそう言い放つ

この予想外の状況に隣にいる渡辺少尉も唖然としている。

 

「貴様は何だ!?」

 

マヤの網膜に地平線に沈む夕日をバックに飛ぶコウモリのロゴが映り、そこにはVoice Only(音声のみ)と表記される

 

「俺達は国連軍第603技術試験小隊。俺は小隊長の・・・悪いが機密なんで俺の事はエインヘリャル1と呼んでくれ」

 

「貴様らが南に展開していた・・・」

 

「話は後だメガネっ子!」

 

「な!!」

 

フザケタTACネームで呼ばれ激怒するマヤ

 

「こんだけいりゃロックの必要ねぇーな」

 

左手に持ったシールドを掲げる、そこからミサイルが一斉発射しBETAを襲う

しかし、それはBETAを止めるには至らなかった

 

「ち、こう数が多いと・・・」

 

合流したマナ達も応戦し始める

 

<孤独の心に志をともし~♪>

 

「・・・またか・・・何なんだ!」

 

 <♪御言葉に~ 染める~ 我らよ!>

 

「ん、少年か?」

 

<GEKISHIN!GEKISHINーOH! OH! OH!>

 

空中から水滴に混じり、高速の36mmが降る

そこには白銀色に染まった通常より一回り大きい撃震がいた

左腕部からは白い水蒸気の煙が立ち昇る

 

「第603技術試験小隊、魔女の鍋(ウィチズポット)副長エインヘルヤル2、これより貴殿らを援護する!」

 

今度は抜き身の刀二本が蓋の様に砂時計の上に置かれた、T字に二つの翼が覆うロゴが現れる。銀色の砂は物理法則を無視し上に昇っている様にも見える。

 

○○●●●

同日同刻

八幡浜市西フィリピン海

 

ドムとホバートラックは海上を滑走しながら、海面から浮上するBETAの頭を押えていた

 

[おうおう、武達はやってるねーー。グラサンは助ける時は『待たせたなヒヨッコが!』と言わんとアカンやろが~]

 

[(何か懐かしい台詞ね)・・・黒藤少尉、一々BGMを変える意味はあるのか?命令を聞き逃す程の音量ではないが]

 

[形式美というやつですよ、無ければ燃えません]

 

[・・・本当に603という部隊は変人しか集めんのか?]

 

[奥さんそれ、アンタも[何が言いたい黒藤?]・・・いえ、何でもありません]

 

クローズ回線にケニーと武が参加する

 

[まるで世界の終末(アルマゲドン)のようだなこの光景は・・・「エモノがいたぜ!♪」ヒゲ、それは分かってる、と行き成り音楽変えるな!エインヘリャル1より各機へ、見えるBETA全部殲滅しろ!帝国軍は200機くらい残っているらしい、俺達で1万倒せば奴さん達は単純計算で一機当百でなんとかなるだろ]

 

軽快な三味線を加えたBGMに変わる

 

[エインヘルヤル2了解、本当のBETA戦にようこそ]

 

[アインヘリヤル3了解したわ。今回は海上から安全に撃つだけの楽をさせて貰うわ]

 

[アインヘリヤル4了解しました。そっちの記録はタケル君に任せます]

 

[エインフェリア5了~解~。まぁ俺は運転だけだからなーまぁDJは任せろ]

 

[・・・てかマジで皆さん、英霊(エインヘルヤル)の読み同じにしましょうよ!文縁さんの何て読み確実に違いますよね!?]

 

武達603技術試験小隊のコールネームはA-01のヴァルキリーズに似せてエインヘリャル、英霊にした。

 

[何も残らないだけゴミよりマシよね?]

 

[意味が分かりません、物凄くBETAてゴミが残ってます!死んでも残ります!]

 

[あ~お前ら取り合えず仕事するぞ!]

 

[[[[了解!]]]]

 

○○●●●

同日15:20

八幡浜市北東、指令本部

 

生え際の後退した中年男性佐官は指揮車両の中で踏ん反り返りながら画面に映る洒論中佐を睨む。

 

[ど、どういう事かね?中佐、前線は押し返しているようだが?]

 

[ん~鳩木大佐さ~ん、南に展開していた国連軍小隊が参入してくる可能性は分かっていたがここまで強いよはね~魔女の私兵は中々の英傑のようだ~]

 

黒い衛士強化装備に黒いテンガロンハットを被るという珍妙な格好をした、20代後半の男性。彼は132連隊隊長の洒論天不中佐である。

 

[まぁ、小娘(将軍)派の渡辺少佐がいなくなったのは幸いか・・・ここで日本に力を付けて貰っては困るのだよ私のためにもね・・・そのためにG元素なんという餌を用意し、斯衛も呼びつけてこの体たらくか!]

 

[んで~どうすよ~鳩木さ~ん、本腰入れて殲滅に向かうかい?]

 

[いや、このまま防衛戦だ・・・131連隊の児島と133連隊には前に出て貰おう]

 

[んん~?そうなると後々大変な事になるかもしれんよ~?]

 

[確かに問題が起きるたびにやれ私が悪い、無能だと言うがね、もうそんな事は関係ないんだよ。近々私はかの国で大成を果たす!]

 

[そうかい、じゃ俺はアンタの命令に従うだけだよ]

 

洒論は鳩木大佐との回線を閉じ、別の回線を開く

 

[で~どうだ大尉達から見て、魔女の具材は?]

 

洒論は自分の連隊に所属する三人の大隊長に機密(クローズ)回線を繋いでいた

 

[ご機嫌だねぇ~人が死に!そして生きるために戦う!戦争はこうでなくちゃなー!]

 

最初に口を開いたのは頬骨が出、金髪の髪をバックにした男、家古野斬(かこ=やざん)大尉である。

 

[・・・あれが私の息子の名を語る仇か・・・何とも凄まじい動きをする]

 

茶色い短髪の中肉中背で何処となく武を思わせる中年男性が語る

 

[難しくても・・・私達の子の仇取らない訳には行かないわ・・・!]

 

長い黒髪をアップにした妙齢の女性がその男性に続く

 

[ククク、白銀影行(しろがね=かげゆき)大尉に白銀光(しろがね=ひかり)大尉・・・ちゃんと動きを見ててな~あの撃震の兄ちゃんとは何時か戦わないと行けないからね~]

 

[・・・ああ、だが今は引く友軍のために防衛線を張る!私達は前に出るぞ!]

 

[ああ、ちゃんと鳩木旅団長の命令通り防衛線を張ってくれ~前線のやつらには引くように命令は出ているからなぁ~]

 

132連隊はただただ、防衛線を張り嵐の戦場を見つめる

 

○○●●●

同日15:33

八幡浜市前線

 

武達は一進一退の攻防戦を行っていた

最初は押していたが、味方機が遣られ、弾数が少なくなるにつれ、BETAに押され始める

 

<バン、バン、バン、ガッ!>

 

ギャンのショットガンが詰まる

 

「チッ!ジャムりやがった!セミオートだとジャムるか!だからといってポンプ式ではこの数に対応仕切れん!」

 

左のショットガンを投げ、小型の闘士級を潰す。

そして87式突撃砲に持ち変える

 

「今までデカ物(大型種)に会わなかったから120mmは余裕がまだあるが、36mmはそろそろ切れるな・・・そして何より・・・」

 

ケニーはBETAの群れを飛び越え後ろから一発ずつ120mmを突撃級のケツに撃っていく

それを援護するように一機の帝国軍撃震が36mmを回りに撃つ

 

「俺はやる!一匹でも多くの敵をッ!銃身が焼きつくまでまで撃ち続けてやる!!!」

 

そう、天田少尉が言うように、長期の戦闘で武達の突撃砲の銃身は徐々に焼ききれ始めていたのである。現に横浜基地から持ってきた武の突撃砲は既に使い物にならず、武はやられた味方の銃を拾い戦っている

 

「指令本部と132連隊は何をやっている!我々だけで殲滅しろと言うの!?」

 

マナは長刀を二本振り要撃級を切り刻んでいく、マナの突撃砲は既にマヤに渡してある。

 

そこに絶望的なオリヴァーの通信が入る

 

『こちら国連軍603技術試験小隊、アインヘリヤル4、八幡浜港にて光線級及び重光線級を確認。各機は飛行時に注意してください』

 

[おぃ、技術屋そっちは大丈夫か?]

 

[はい、海中からは撃って来ないようです、レーザーを撃ってもさほど威力は無いかと]

 

[それよりもだ傭兵!我々の弾が切れそうだ、重光線級、光線級、要塞級と攻撃重要度を設定し殲滅にかかるが、全ては倒せんぞ!]

 

[ああ、分かっている・・・]

 

他の衛士達の通信が戦場に響く

 

『オイ!ドウイウ事ダ!コレ以上持タナイゾ!ウアアアアア』

 

90式戦車がBETAの波に飲まれる

 

『増援ヲ!我ニ戦力ナシ!』

 

武器を全て使い切った陽炎は避け切れずに要撃級の豪腕で吹き飛ばされる

 

『弾ヲ寄越セ!早ク!』

 

そう言い振り返る撃震は自分が孤立している事に気づき、

突撃級に潰されるのを避けるため飛び上がり、

空中でレーザーに撃たれ撃墜される

 

渡辺少佐のように“上手く”S-11を作動させるのは極少数でしかなかった。

最後の最後で『死にたくない』という極々普通の、

人間的な生への渇望がS-11を有効活用する邪魔になっていた。

 

「このままじゃジリ貧だ!」

 

既に千体以上と渡り合っている撃震T型のヒート・ソードは少しずつ刃こぼれや曲がりはじめていた。

 

「邪魔だ!消えろ!!」

 

武は要塞級達の三胴構造各部の結合部を斬る

体液と雨でヒート・ソードからは白と紫の煙が立ち昇る。

 

「凄いなあの撃震は・・・一人でどれ位倒す気なの?」

 

灘中尉は後方で見ながらそう思う

 

「あれが・・・正に・・・嵐の前衛(ストームバンガード)」

 

灘中尉を援護する新井少尉はそう言う

 

「(あの近接武器は正面から突撃級を切り伏せるとは・・・異様だな・・・何より・・・騎士の様な戦術機は別として、撃震をベースとしたあの白銀の機体・・・動きが全く違う・・・不知火以上だ・・・!!!)」

 

マヤは横目で撃震T型の戦闘を見ながらその性質を分析する

 

「おい!ヒゲ全然減ってる気がしないぞ!?」

 

「減ってますよ!索敵結果からしてアンタらだけで予定の1万はゆうに食ってますよ!」

 

「チッ、となると後方が動かないの何故だ」

 

「傭兵考えても仕方あるまい、そこの小隊長達全員援護を要請している、天田少尉も先程『守ったら負ける攻めろ!』と叫んでいただろ?・・・それでも動かないとなると・・・(ただ無能ってわけじゃなさそうね・・・)」

 

「いや、これ・・・もっと悪化した!132連隊の動き・・・これ退いてんぞ!?」

 

「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」

 

武以外にも通信を聞いていたマナ達帝国軍衛士達も驚く

 

「どうする?俺はもう近接武器しかねぇぞ!」

 

ギャンはツイン・ヒート・スピアをBETAに突き立てる

 

「それに関節部分のコンディションが警告(イエロー)から危険(レッド)になんぞ!」

 

数日間に渡り簡易整備のみの戦闘が武達の機体を蝕んでいた

それはケニーのギャンだけじゃなく他の機体にも言える事である。

ただ一番多く戦っているケニーと武の機体が先に悲鳴を上げたに過ぎない

 

「広範囲殲滅兵器でも使わなければ殲滅は無理だぞ・・・撤退するにしてもどのくらいの被害が出るか分かったもんじゃねぇ」

 

「それは私とて分かっている・・・」

 

<・・・>

 

絶望的な無言

 

「・・・あるぜ・・・方法が・・・」

 

文縁は口を開く

 

「な、本当か?」

 

ケニーが返す

 

「・・・BETA群中心部にエインフェリア2の撃震王を突っ込み右手の特殊兵装を使えば・・・この範囲の敵は最低でも消せる・・・」

 

武達の網膜に映ったそれは半径1~2kmの範囲であった

 

「この前乗ったとき調べたが、ちゃんと積んであるし、使える・・・」

 

その言葉にオリヴァーは数十分前の会話を思い出す、文縁が無理を言って撃震T型に乗った理由だ。

 

「そんな事出来るのか?」

 

爆弾であろうと思われる兵器をBETAの中心で爆破させる・・・無理とも思える作戦にマナが問いかける

 

「出来る出来ないじゃない、やるんだよ!団子!」

 

「!!!(私は団子か!)」

 

「そうと決まれば、少年俺が援護する!行くぞ!」

 

「なら俺達が梅雨払いをする!仲間を・・・皆をやってくれたな倍返しだぁぁぁぁーーー!」

 

叫びと共に天田少尉は両手の突撃砲を放つ!

 

「行くわよ!BETA!!!」

 

「私はまだ死ねません!!」

 

「・・・父ちゃん・・・仇は討つ!!!」

 

「撃つ!」

 

「行けぇぇぇ!白銀(ハクギン)の!」

 

天田少尉に続き、灘中尉、新井少尉、渡辺少尉、マヤ中尉、マナ中尉が叫ぶ

 

武の撃震は突っ込む様にスラスターを開ける、その後ろにケニーが続く。

BETAの群れに当たるギリギリで上昇し、空を飛ぶ

光線級のレーザーは急降下と急上昇で避け続ける

急降下時には大型種を蹴って移動する

 

「凄い・・・あんな戦い方が出来るのか・・・」

 

二人の動きに見とれるマナ、それは彼女らがやってきた方法とは別次元の戦い方である

飛び上がり、高速で移動、レーザーは腕で避けるという荒業、蹴る殴る吹き飛ばすという戦法、普通の戦術機では不可能な事である。

 

武達の行く手を要塞級が阻む。

ケニーは右手のスピアを投げ一体を串刺しにし、ヒート・ソードを抜き、迫り来る要塞級達の触手を切り払い武の道を作る。

 

「少年行け!ここは俺が食い止める!」

 

「了解!!」

 

武は更にスロットルを開け、レーザーをバレルロールで避けると全速力で突っ込む。

レーザーが飛んできた方向に二匹の重光線級とそれに挟まれる形で一際大きい要塞級を確認する。

 

[武!そこら辺が中心だ!]

 

武の足元には地面を覆う程のBETAが蠢いている

99式超震動短刀とヒート・ソードを一本ずつ重光線級の目玉に投げる。

刃は吸い込まれるように目玉にはいり、<グチャ>という音共に弾ける

残り一本のヒート・ソードで触手を切り落とし、要塞級に零距離まで近づく

 

[撃震王!アァァァクション!]

 

「ノーススター!セットアップ!」

 

撃震T型の右手の指が直立しさらに突起物が2本横から出る

 

[打ち込め!!!武!!!]

 

「ウオオオオオオォォォォォォ!」

 

<ガン!!!>

 

七つの傷をつけ、右腕事要塞級に減り込む

 

<・・・>

 

「・・・何も起きないですよ・・・」

 

[武、馬鹿、離れろ!!!]

 

文縁の慌てる声に急かされる武

 

「いや、でも、右腕減り込んで動けんっておい「切り離せ!」・・・は?「早く!」ああ!」

 

左手のヒート・ソードを使い右腕を切り落とす

 

『戦域にいる全機体に告ぐ!これより送られる範囲から離れろ!巻き込まれんぞ!!!』

 

武は急いで、反転しスラスターを吹かす

 

「少年!やったか?」

 

ケニーのギャンと合流する

 

「ええ、でも、この後どうするのか・・・ん?」

 

武の網膜に数日前と同じ様にテロップが流れる、その文字を読み始める

 

「何だ・・・ななひゃくはちある・・・兵器の内・・・ノーススターを使った?・・・オマエハモウシンデ「アホ、タケル、ハエエ」イル?「あ」」

 

<ピピピピピピピ>

 

言い終えると何かに反応するように警戒音が鳴る

 

「・・・・・・・・・てれってー・・・」

 

気の抜けた文縁の声を皮切りに

 

<ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン>

 

大爆発が起きる・・・

 

その熱量・・・渡辺少佐の時の約3倍・・・

 

そう戦術核に匹敵するとも言われ、ハイヴの反応炉を2~3発で破壊する高性能爆弾・・・S-11の指向性を無くした3発分の爆発である。

 

その光は

 

列島奪還・四国解放作戦、八幡浜市殲滅戦の終わりを告げる光であった。

 

○○●●●

同日同刻

八幡浜市より北北東、鞍掛山、山頂

 

帝国軍不知火の望遠レンズで状況を見ていた男が一人

 

「・・・白銀武は日本を焦土とする気か・・・!!!殿下!!あやつはやはり危険です!」

 

<ザーザーザーザーザー>

 

雨は熱くなった大地を冷やすように、

 

死者の無念を流すように、

 

降り続けた。




YMS-15K試作改良型ギャン、TSF-TYPE77/F-4JT 77式戦術歩行戦闘機――撃震T型、
及び兵装技術評価報告書
我が第603技術試験小隊はさる11月15日、四国八幡浜市にてMS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)、99式ホバートラックを含むYMS-15K試作改良型ギャン、TSF-TYPE77/F-4JT 77式戦術歩行戦闘機――撃震T型の実戦試験運用を実施せり。BETAの海よりの奇襲により打撃を受けた帝国軍を援護すべく我々は戦闘に参加せし。この戦闘において試作改良型ギャンはツィン・ヒート・スピアを使用せし、その威力BETA大型種に対し抜群なり。撃震T型はヒート・ソード及び99式超震動短刀(ソニックブレイド)を使用、両兵装はモース硬度15を誇る突撃級、要撃級に効果を見せし。比較せし場合99式超震動短刀の方が短いという理由で同等の評価を得ているものの、ヒート・ソードと同じ長さであれば同等以上の戦果が望めていた思われる。生物系のBETAには超振動の方が威力が高いと確認される。今戦闘においてショットガンの致命的問題を発見せし。それは連続使用による故障。半自動(セミオート)の場合速射性は上昇するも故障の確率も上がる、されどポンプ式では物量で押すBETAに対し戦果は見込まれぬ。検討すべし。撃震T型の特殊装備、左腕部、アームガドリングの性能は良好、高速度により、大型種にも多少の効果を見せし。右腕部ノーススターは今作戦において、敵を殲滅せし高威力を見せるもその扱いにくさと使用上の危険度は高い。運用には注意が必要とされる。尚、今作戦の立役者は国連軍133連隊隊長渡辺少佐と思われる。彼が作くりし4分が我々を援護に間に合わせたものと信じる。S-11は他の機体に積まれているものの彼のように有効的に使用したものは他には確認されていない。S-11の運用方の再検討を願う。今作戦、国連軍132連隊と指令本部との連絡がしっかりしていた場合、我々はノーススターに賭けるという事をせずにすんだと信じる。我々は引き続き列島奪還作戦に参加し、これら兵器の実用性検証と評価を続ける。
               ―西暦1999年、11月15日オリヴァー=マイ技術少尉


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第十二話「ツイマッドの系譜は静かに」

感想や評価をくれている方々に感謝を!
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原動力になってます。
さ、サクサクと過去アップした分は編集して上げちゃいましょう。


西暦1998年初頭

 

日本は朝鮮半島撤退支援作戦、『光州作戦』を発動する。これは国連軍と大東亜連合軍の朝鮮半島撤退支援を目的とした作戦であった。この時、脱出を拒む現地住民の避難救助を優先する大東亜連合軍に彩峰中将が協力。当初、国連軍の指揮系統は混乱したが、大泉純志郎少将(現大佐)とその部下は作戦決行以前から、脱出を拒否する原住民の可能性を指摘し、それに対し現地の兵士と将校の行動を予測していた。そのため国連軍の損害を最小に抑える。結果、国連軍司令部は損害を被るも陥落は免れる。

 

しかし、それでも国連は日本政府に抗議し、彩峰中将の国際軍事法廷への引き渡しを要求。国連の要求に従えば軍部の反発は必至、逆らえばオルタネイティヴ4が失速すると考えた内閣総理大臣榊是親は、最前線を預かる国家の政情安定を人質に、国内法による厳重な処罰という線で国連を納得させた。それに先立ち榊首相が彩峰中将を密かに訪ねた際、日本の未来を説き土下座する榊に対し彩峰は笑顔で人身御供を快諾。話しを聞いた大泉少将は軍内での立場を省みず軍事法廷で彩峰中将の正当性を主張。この時、大泉少将は「俺の信念だ!殺されてもいい」と咆え、法廷内の人間を怯ませた。彼の主張により彩峰中将は軍内より追放、封鎖されていた網走監獄にて保護と言う名の流刑に会う。大泉少将は1階級降格になり准将となった。同じく大泉少将の部下で光州作戦の危険性をとい、彩峰中将を支持していた少佐も大尉へと降格させられた。彼らの働きと志に榊は心打たれ、静かに涙したという。

 

与えられた選択肢の中、最高の選択をし、信念を見せた戦士達が受けた処罰。皮肉をこめ後にこれは『光州作戦の喜劇』と呼ばれる。

 

1998年、夏

重慶ハイヴから東進したBETAが日本上陸に上陸する。北九州を初めとする日本海沿岸に上陸する。大泉准将は独断で部隊を展開。しかし、僅か2週間で九州、中国、四国地方にBETAは侵攻。大泉准将率いる陸軍師団の活躍も空しく、犠牲者2400万人、日本人口の20%が犠牲になる。しかし、彼らが早期に行動を起さなかった場合、予想された被害は3600万人 日本人口の30%であった。

 

しばらくして、近畿・東海地方に避難命令。3000万人が大移動を開始する。オーストラリア、オシアニア諸国にも避難する。

 

一ヶ月半に及ぶ防衛戦の末・・・京都は陥落。首都は京都から東京に移される

それと同じくし、無断で陸軍師団を動かした大泉准将は謹慎及び降格を受け、大佐となる。中核となっていた部下数名も同じく階級を落とされる。

 

暫くして、佐渡島ハイヴの建設に伴い長野県付近でBETAの侵攻が停滞。その間に米国は日米安保条約を一方的に破棄し在日米国軍を撤退させた。

 

仙台第二帝都への首都機能移設準備が始まる、それに伴いオルタネイティヴ4本拠地の移設を開始、共に仙台への移設を開始。白陵基地の衛士訓練学校も同様の措置が採られた。

 

元大泉陸軍師団の面々は機械化歩兵部隊として前線に送られる。

 

BETA、東進再開、首都圏まで侵攻し、西関東が制圧下に し、帝国軍白陵基地は壊滅。

BETA群は帝都直前で謎の転進。伊豆半島を南下した後に進撃が停滞、以降は多摩川を挟んでの膠着状態となり、24時間体制の間引き作戦が続く。

 

BETA、横浜にハイヴを建設開始、偵察衛星の情報により横浜ハイヴ(H22:甲22号目標)確認される。

 

国連軍総司令部は、カムチャツカ、日本、台湾、フィリピンからアフリカ、イギリスに至る防衛線による、ユーラシア大陸へのBETA封じ込めを基本戦略として決定

 

香月夕呼博士、国連に横浜ハイヴ攻略作戦を提案、国連司令部はこれを即時承認し

大東亜連合に参戦を打診する。

 

大泉大佐は謹慎を解かれ、日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局に編入される。これに伴い元大泉陸軍師団も同じく技術廠に送られる。大泉指揮の下、開発局は低迷する新型戦術機の製作を一時中断し、新型OS、新兵装、現存の戦術機の改修に着目する。新型OSはコード『知恵の実』の名で開発、開発者の一人は『南極の飛べない鳥』を勧めるが名の不気味さから却下される。

 

1999年

国連は本州奪還作戦、明星作戦を決行。

国連軍と大東亜連合によるアジア方面では最大、BETA大戦においてはパレオロゴス作戦(ソ連軍第43戦術機甲師団、「ヴォールク」連隊が人類史上初のハイヴ突入に成功し、3時間半で全滅する作戦)に次ぐ大規模反攻作戦で戦略目的は横浜ハイヴの殲滅と本州島奪還である。作戦前に第壱開発局により改善された新型OSお呼び追加スラスターが帝国軍の戦術機に搭載される。帝国産のOS、OS-A(Accelerated/加速型)はXM3のようなキャンセル、コンボ、先行入力などは無いもののRAMを分ける事で同時処理を行い処理速度を速め、フリーズ間隔(操作受付付加時間)を短縮したものである。これとハイヴ内戦闘を目的とし飛行距離を伸ばした追加スラスターの恩恵により、帝国軍は国連軍と大東亜連合、全体から見て損害を3割低く抑え、これにより予想より1割ほどの国連軍も大東亜連合も助かったと思われる。これを枷に帝国軍は国連軍及び大東亜連合に援助を要請、戦後処理のため訓練生を含む少なくは無い兵士が帝国軍の雑務をする事ととなる。これにより予定していた国連軍の総合技術演習が延期される。

 

1999年8月5日

米軍が二発のG弾を横浜で使用する、これにより人類史上初ハイヴの奪還に成功するも、同時に日本はG爆国となり、その威力にユーラシア各国、アフリカ諸国の一部でも脅威論が噴出し始める。それとは逆に、米国案を元々支持していた国々は、威力の実証によってより強硬にG弾の使用を主張し始める。

 

作戦の終了と共に香月夕呼博士は国連に横浜基地の建設を要請。

オルタネイティヴ4(AL4)の本拠地として、横浜ハイヴ跡地上に国連軍基地の建設を要請。国連は即時承認。横浜基地建設着工と同時に国連軍司令部は米軍に即時撤退命令を下す。

即時承認の主な理由は、米国が強引に推進する第五予備計画に対するG弾脅威派の牽制。

 

帝国軍は未だBETAの支配化にある日本列島の奪還、列島奪還作戦を発表。それに向けて国連軍から発見されていた兵士達の援助期間の引き延ばしを要請。主だった兵士達は国連軍の通常軍務に戻るも訓練兵達及び下仕官達は帝国軍の雑務を続ける事となる。

 

1999年10月28日

香月夕呼博士は更にAL5(G弾+宇宙逃避派)を牽制する意味で、ドイツ人学者オリヴァー=マイ及び日本人と思われる白銀武の研究を支援、発表する。微弱な電気を持ち、密度によりその電力が変わるミノフスキー粒子の発見、それを利用したミノフスキー=イヨネスコ型熱核反応炉。ミノフスキー=イヨネスコなる人物はオリヴァー=マイ曰く「我々(ジオン軍)にとっては恩師のような人」であり故人である。ドイツ人と思われるも、現段階での詳細は不明。続き帝国軍と共同開発でeXtra Maneuver – 3(XM-3)という新型OSが開発される。これは上記で記された通り、キャンセル、コンボ、先行入力という新型概念を含むOSである。これに伴い機動概念習得用のシュミレーターも開発される。

 

1999年11月11日

そして通常兵器(戦車、戦闘車両)の強化、及び統合整備及び核反応炉の使用を視野に入れた新型戦術歩行戦闘機(TSF)、モビルスーツ(MS)タイプ製作計画、

 

 

通称『ツイマッド計画』提案される。名前はイカレていると言う意味なのか怒れるという意味なのか、二つという意味なのか、凄くという意味でTooなのかは謎である。

 

 

香月夕呼博士は完成されている試作機を国連太平洋方面第11軍横浜基地、第6区画03格納庫、技術試験小隊『魔女の鍋』が試験運用するために列島奪還作戦に参加する事を表明、今に至る。

 

・・・・・・・・・

 

綾峰中将の生存、日本列島被害の減少、OS―A、追加スラスター、明星作戦での被害減少

 

『正史』との若干の違い、劇的では無いものの白銀武の知らない歴史がそこにはあった。

 

太陽は、再度浮上しようとしていた

 

しかし雲は未だに太陽を覆う

 

○○○●●

1999年11月13日

武達603技術試験隊が四国に到着した頃・・・

 

川崎、御剣電工・大空寺重工共同兵器工場・会議室

 

「やはり香月博士の方もやられましたか・・・」

 

巌谷中佐は苛立ちを見せる夕呼を見る

 

無言が部屋を包み

 

換気のためのファンがブンブンと音を立てる

 

「国連軍の・・・『あの』計画に関わっている香月博士や帝国軍開発局だけでなく、我々の工場にも間諜が入り込むとはなァ・・・」

 

紫のスーツにピンクのシャツとタイを着、龍の様な金髪の大空寺財閥総帥、大空寺真龍(だいくうじ=まりゅう)は静かに怒りを露にする

 

「中々ワシらも舐められたもんだのう」

 

煌武院雷電の髪型を逆さにしたような、大柄の老人、御剣財閥総帥にして、元日本空軍大将、御剣神鳥(みつるぎ=しんちょう)は黒色の着物を纏い、自分の髭を撫で、鋭い目付きでデスクの上に散ばる書類を見つめる。

 

「言われるまで気づかない程に隠蔽されているなんてね・・・やってくれるわ・・・!!」

 

夕呼は強く唇を噛む

 

「両軍内に裏切り者がいると見て問題ないだろう・・・あたりをつけるなら・・・第5計画派・・・いや・・・それよりも複雑かもしれんな・・・」

 

大泉大佐は腕を組みながら、皆に確認するように言う

 

「取り合えず、盗まれた情報が何か、お互いに確認しておいたほうがいいだろう・・・我々の方は川崎計画の一環として組み込まれた、陽炎改良型の情報と、我が財閥が開発していた合体機構搭載型の『特機』の情報だ。香月博士や大泉大佐達からの技術提供で事が上手く運び油断した・・・物理的に何も取られなかったのが不幸中の幸いかァ・・・」

 

「御剣電工の方では、ミノフスキー=イヨネスコ型核反応炉エンジンの情報じゃが、白銀武殿やオリヴァー=マイ殿の知識なくして複製は難しいじゃろう。他は加熱長刀の設計図と99式超震動短刀(ソニックブレイド)の試作型が倉庫から無くなっているという報告がきているのう」

 

「私達の方は侵入者数名を発見し、交戦後にこの者達は服に付けられた爆薬を起爆させ自決・・・帝国軍兵士と国連軍兵士の制服を着ていたという以外は何も分かりませんでした。その際我々が保有する実験部隊白き牙(ホワイトファング)隊長、公主人(おおやけ=おもひと)大尉が重症、部下数名も負傷、幸い死者は出ませんでした・・・彼らのお陰で何も盗れず、相手のが奪取したデータも破壊でき、今回の件が明るみに出たわけですが・・・」

 

「・・・」

 

大泉の髪は巌谷の報告に反応するように蠢く

 

「大佐」

 

「ああ、俺が怒っても仕方ない事だが、自身の不甲斐無さにどうしても怒りを覚える」

 

「・・・私の方は結構深刻ね、第4計画だけじゃなく独自に集めた第3計画のデータとそれに関連したオリヴァーの報告書もやられたわ。その他にXM-3βのデータと白銀が乗ったシュミレーターのデータにも侵入した形跡があるわ」

 

「AL3とAL4のデータというのは?」

 

大泉が問う

 

「詳しくは流石に言えないけど、AL4は擬似人体関連と・・・AL3はESP能力発現の研究、オリヴァーの言う所の『強化人間』の研究書類を根こそぎね・・・確かにプロテクトは他の物に比べると低いし、一番大事な事は私の頭の中に入っているけど。だからと言ってタダで盗られるのは癪ね・・・それにここ最近、春戸(はるど)とかいう帝国軍の研究者もやたら私達の事嗅ぎまわっているし・・・」

 

イライラと組んだ腕の上で人差し指をタップさせる夕呼

 

「春戸・・・?聞かん名前だな・・・巌谷君知っているか?」

 

「いえ・・・」

 

「・・・ふむ、兎も角、これを教訓にするしかなかろう。他に何かあった場合各々に連絡をいれるということでやいじゃろう」

 

御剣神鳥が苛立ちと怒りを見せる面々を落ち着かせる

 

「・・・そうね~じゃ計画、開発、生産の方がどうなっているか確認しましょう~」

 

頭を少し掻いた後に夕呼は手をヒラヒラさせる

 

「では私の方から始めましょう」

 

巌谷はプロジェクターのスィッチを入れ、前に立つ

 

「現在、民間の大空寺重工と御剣電工、香月博士及び国連軍、そして我々日本帝国陸軍技術廠・第壱開発局共同で行われている戦術機・兵器開発強化プロジェクト、通称『ツイマッド計画』は書類上今日開始されます。この川崎工場は正式に両軍共同兵器開発を行う川崎工廠として認知されました」

 

スクリーンに各団体のシンボルが現れ、次にヅダ改、試作改良型ギャン、ドム・トローペン(先行量産型)の映像が出る

 

「戦術機改良計画は川崎に完全移転し、これより川崎計画となります。『ツィマッド計画』はその下に多数の小プロジェクトを抱えています。そして便意上これらの小プロジェクトはアルファベット表記します。現在進行している計画は統合整備計画―Uプロジェクト、兵器兵装強化計画―Wプロジェクト、OS強化普及作戦―Xオペレーション、試作MS系戦術機生産計画―Yプロジェクトです。先ずは主な情報提供者であり、『ツィマッド』の核となるモビルスーツを保有する香月博士お願いします」

 

夕呼は立ち上がり、巌谷と変わるようにスクリーンの横に立つ

 

「まぁ、詳しい性能は資料をみてね。MSと言われる兵器はオリヴァー=マイ、白銀武と彼らが先人と呼ぶ人々によって作られた兵器よ。実際これらに計画名はないわ・・・付けるとしたら、差し詰め・・・最後の文字は既に発動する予定あるし・・・抜けているアルファベットを取って『V計画』かしらね」

 

「V・・・か・・・」

 

大泉は何かを考えるように呟く、Victory・・・

 

「しかし、何度この資料を読んでも信じられんのう、これらを本当にどう作ったのやら」

 

「残念ながら、白銀とオリヴァー以外は故人よ」

 

「ふむ」

 

神鳥は髭を撫でながら不服そうに資料を眺める

 

「我が見たところ、この『ヅダ』といわれる機体は無重力空間を想定しているようだが・・・」

 

“鋭いわねこのジジイ”と夕呼は頭の中で顔に出さずに言う

 

「技術試験用だからとしか言えないわね、現在地上用に改良している所よ。兎も角、このMSといわれる兵器はワンオフ機で複製が作れない以上、その技術を応用し新型を作ったり、改造したり、兵器兵装を作ろうて事ね。装甲に関しては603の連中がハイヴ内にある物質を使って何か新しい物を作っているみたいね。エンジンに関しても、核反応炉の製作とヘリウム3採取の問題があるから、今はオリヴァー達が提案した新型ハイブリットエンジンに切り替えるしかないわね」

 

「ふむ、わしとしては詳しい事をマイ少尉達に聞きたかった所ではあるが・・・」

 

「残念ね、603技術試験隊は現在四国に送られているわ、MSと新兵装のコンバットプルーフとロールアウトしたホバートラックの試験にね」

 

「話しは彼らが戻ってからとなるか・・・」

 

「白銀達には九州奪還にも参加してもらうから帰ってくるのは早くて12月の頭かしらね~、どちらにせよ、試験報告だけは頻繁に送られてくるでしょうからそれらのデータは回すわ」

 

もうこれ以上話すことはないと表すようにささくさと夕呼は席に戻る

 

「・・・では先ずは我々、第壱開発局の方から・・・現在我々の計画は煌武院殿下の許可と威弟(いで)大将及び国連軍のラダビノット准将の元行われている事になります」

 

巌谷は多少呆れ気味に話し始める

 

「ほう、殿下直々とはなァ、どういう関係で許可を得たのか気になるところだが」

 

「それに『あの』威弟銀河(いで=ぎんが)斯衛軍大将が戦闘、戦争、殲滅以外の事で興味をしめすとはのう・・・」

 

御剣総帥が大空寺総帥に続く

 

「(殿下に関してはモニクが白銀の名前を出したら・・・暫くして許可がでたわね・・・あいつは将軍閣下と何か・・・まだ色々隠し事がありそうね・・・威弟大将は・・・良く分からないわ)」

 

ぶつぶつと夕呼は頭の中での人間関係図を作り上げる

 

「私にはお答え出来ません、交渉人が凄腕だったと考えていいでしょう」

 

「そうかァ」

 

「ふむ」

 

「では、我々が単独で作業をしている試作MS系戦術機生産計画―Yプロジェクトの状況ですが・・・現在YMS-15K試作改良型ギャンを元とした白兵戦型凡用戦術機動兵器YMP-01A 試作型MS01A“エーコンニタム”の開発は終了ロールアウトしました。同じくMS-09F/TROPドム・トローペンを元に開発した重戦型戦術機動兵器、突撃仕様のYMP-02A試作型MS02A“アルボレウム”及びハイヴ攻略仕様のYMP-02B“バラサミフェルム”もロールアウト済みです。元々ホワイトファングから数名がテストする予定でしたが予定外の負傷者が出て復帰も未定のため、エーコンニタムは篁唯依少尉、改めホワイトファング隊長篁中尉が搭乗。残り二機は追加隊員が付き次第テストを行います。どちらにせよ現在調整中なため予定通り事は運べると思われます。そして残りの第三計画、EMS-10ZFbヅダ改を元にした戦術機は12月中旬までには完成する予定です。第四計画に至っては香月博士が最後の機体のデータを渡してくれるまでは何とも言えません」

 

「しょうがないじゃない、“ルピナス”もまだ整備中なのよ」

 

「・・・我々の方は以上です」

 

巌谷が席に付き、御剣総帥が立つ

 

「ふむ、次はワシか・・・機密が多いとは言え、ワシ直々に品物の説明をするとはのう、そもそも「はいはい、年寄りは色々話が長くなるから嫌なのよ」・・・」

 

「・・・ではワシら御剣電工は主に兵器兵装強化計画とOS強化普及作戦を受け持っている。実際は他計画の電気系統全てじゃがのう。99式超震動短刀及び加熱長刀は既にロールアウト済みじゃ。えぐずえむすりー(XM-3)最終調整は完了、普及の方は上手く言っているようじゃ。大泉大佐の所の第三計画で使われる試作簡略型あーす(EARTH)も香月博士の所の技術者が提供してくれたデータで何とか形になったが・・・下からの報告では相当危険なモノのようじゃ・・・良くマイ少尉や白銀少尉が提案したものじゃ・・・」

 

「(実際は白銀もオリヴァーも603の誰も知らないわよ、私の独断だしね)」

 

「光菱重工と大空寺重工の協力の元、戦術機用の大筒や散弾銃も開発完了、新型戦車『戦狼』完成、これは前線に送られる事になっておる。さぶふらいとしすてむ(SFS)と言う戦術機援護用兵器と新型の強化機動歩兵『猟犬』も完成じゃ。殆ど光菱重工と大空寺重工が仕事をしたのでワシら偉そうに言うのも気が引けるがのう・・・」

 

「・・・しかし、御剣殿の支援なしに完成はしなかったであろう。我らの方も報告をいたそう」

 

御剣総帥に変わり今度は大空寺総帥が立つ

 

「我々の管轄は統合整備計画―Uプロジェクトと川崎計画だァ。資料を見れば分かると思うが、両計画共に並行して行っているために似た結果がある。何より統合整備は必須であるからな・・・川崎計画にも組み込まれている。強いて言えば川崎計画は新技術を多く使い、一種を抜いて高級になってしまっている。武御雷の改良型もここに組み込まれる。統合整備は現在日本帝国で使われている機体全てに適応し、元々改良計画が無く大幅な改造が行われなかった機体の表記はJ。これに該当するのが吹雪、瑞鶴、撃震。陽炎改及び不知火弐型は改良計画のあった機体だな。海神(わだつみ)はほぼ別機種となるぐらい改造される。不知火弐型とは別に技術試験型不知火―不知火E型も開発されているなァ」

 

「両社とも張り切りすぎではなくて?」

 

「大泉大佐の所もそうだが、我々の方も陽炎改に手間取っていてなァ。それが問題なく、そして当初よりも大幅に強化されると分かれば力もはいろう」

 

大空寺総帥は笑っているのか睨んでいるのか分かりにくい表情で夕呼の質問に答え、そのまま席に戻った

 

「そう・・・それと元々計画に組み込まれていなかった会社が入っているけどこれは?」

 

「それは仕方ないのう、夕呼君、ワシらの会社は戦術機生産に関しては新参者じゃ、どうしても古参の光菱重工などの助けが必要になる。当然機密は守っておる、詳しい契約内容と交渉結果は資料に纏まっている筈じゃ」

 

「目の前の資料を読まない事には始まらないってこね・・・」

 

テーブルに並ぶ計画書、開発プラン、予算表、契約書、結果報告書などなど各自読み始める。

 

<数時間後>

 

「ふむ、年寄りには堪えるのう、流し読みをするだけでも肩が凝るわい」

 

御剣総帥は肩を揉む

 

「これだけの事をして総費用が2000億(円)以下ってのは驚きね。3兆(円)も玩具(ラプター)に使った『あの』国が阿呆に見えるわね」

 

夕呼は予算表を手にし、ケラケラと笑う

 

「それは単に博士達のお陰でしょう。設計図が完全に出来ており、パーツの流用も考慮されている、しかも技術的に難しい部品は生成され実物のサンプルがあるなら、開発費が抑えられるのは至極当然かと・・・」

 

巌谷は淡々と説明する。

実際、完成品がある実物を見てコピーするだけの作業も含んだ開発計画である。優秀な技術者を持つ日本帝国が短期間低費用でこれらの物を作れない道理はなかった。

 

「モノ、カネは良いとして・・・ヒトが足りないなァ」

 

大空寺総帥が言うように一度に大量の試作機出来てしまい、テストパイロット、技術者、科学者などの需要が一気に増えてしまった。

 

「・・・私の所で使っている教導隊の1個中隊が明星作戦(横浜ハイヴ殲滅作戦)で壊滅的被害を受けて再編成しないと行けないのよ、だからそこから何人かは回せるわ、帝国軍はどうなの?」

 

「それでも間に合わんだろ俺達の方も上に頼んでみるが良い所で新兵を回されるだろうな、人事局の方はキナ臭いからな・・・国連軍の方がキナ臭かった時は俺達が何人か“優秀で有能”な連中を預かっていたが、今度はうち(帝国軍)が預かってもらわないといけなくなりそうだな。実際もう大空寺のお嬢さんも預かってもらってるしな・・・本当に公大尉達をやられたのは痛いな・・・」

 

大泉大佐は溜息を吐きながら答える。

 

「我々の所のテストパイロットを回すが数はそれ程いないぞ?」

 

「白銀達に頼んで徹底的に新兵を鍛えさせようかしら・・・それとも白銀自身に連続でシュミレーターにいれて操作サンプルを・・・70時間アイツをシュミレーターに入れれば何とかなるでしょう・・・」

 

ブツブツと不吉な事を言う夕呼を見て一同は武の事を心から真剣に心配した

 

 

○○○●●

会議終了後

会議室前

 

「副指令!」

 

会議後から未だにブツブツと独り言を言う夕呼を紺色の髪をした青年が呼び止める

 

「・・・何、阿野本にロス?」

 

オレンジ髪を靡かせた女性が青年の後を追う

 

「副指令、セシリア=ロス少尉および、阿野本海(あのもと=かい)少尉、両名試作兵器の授与完了しました」

 

女性は夕呼に向かって敬礼する

 

「・・・何でウチの連中はこう固っ苦しいのかしらね・・・じゃ取り合えず手はず通り、安定性が確立されている機体は伊隅の所に回して、怪しかったり戦術機じゃないのは603に送ってちょうだい」

 

「「は!」」

 

二人は綺麗に敬礼をする。

 

「はい、はい、何回私は敬礼は良いと言わせる気よ・・・」

 

○○○●●

同刻、川崎工廠

 

「すげぇーやぁー本当の戦術機だぁーー」

 

場違いにも思える茶色の髪の少年が大ハシャギに格納庫内を走り回る

 

「お、おい!出(イズル)バレたら俺が大変なんだぞ!」

 

短い金髪に茶色のジャケットを着た幼顔の青年が後を追う

 

「バー兄ぃー!こっちに見てよー!この機体変わってる!」

 

イズルと呼ばれた少年は二体の戦術機を見上げる

 

「その渾名止めてくれよ、先輩も良くその渾名で馬鹿にされてたんだから」

 

「僕の事を渾名で呼んでくれたら止めるよ」

 

「はぁ~・・分かったよア「貴方達ここで何しているの!」」

 

二人は驚き振る向くと長い赤い髪の女性が立っていた

イズルは咄嗟に青年の後ろに隠れる

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止よ・・・」

 

「(イズルの奴・・・)いえ、関係者です」

 

女性は何かに気づくように近づく青年の後ろに隠れる少年に近づく

 

「・・・ねぇ貴方・・・昔私の隣に住んでいたイズル君?」

 

少年は何かを確認するように女性を見る

 

「・・・クリス姉ちゃん?」

 

「やっぱり!その呼び方或赤出(あるせき=いずる)君ね?」

 

「何だ知り合いかよイズル?」

 

「うん」

 

「私は大空寺重工の来栖千夏(くるす=ちなつ)です」

 

咄嗟に手を出され照れながらも手を取る青年

 

「ああ、どうも」

 

そしてスグにイズルに振り返る

 

「イズル君!駄目でしょまたこんな危ない所に!このお兄さんにも迷惑かけ「姉ちゃんバー兄―は兵士なんだよ!」・・・帝国軍の方でしたか」

 

「いえ、もう除隊しました・・・御剣電工技術開発部の花土賢人(ばなど=まさひと)です・・・こちらの機体・・・大空寺と帝国軍の“出来損ない”ですか?」

 

その一言に眉間に皺を寄せる来栖

 

「・・・この子達はもう“出来損ない”何かじゃありません・・・!!」

 

「そうだぜ!それにもっとすげぇ奴が出来上がっているんだぜ」

 

割ってはいるように黒髪短髪の女性が話しかけてくる

「風織菜(ふぉるな)・・・またそんな男っぽい口調を・・・」

 

その後ろに続くように金髪のやたらデコが目立つ女性が現れた

 

「涙守(るいす)は相変わらず細かい事気にしすぎ!禿げるよ!」

 

「禿げないわよ!」

 

「アナタ方は・・・」

 

やり取りに呆れ気味の来栖が聞く

 

「良くぞ聞いてくれた!御剣電工エースパイロットの呂無風織菜(ろむ=ふぉるな)様ってのは俺の事だ!」

 

「はぁ・・・御剣電工テストパイロット勝瀬涙守(かつせ=るいす)です・・・偉そうに言っていますが出来上がっていると指している機体は大空寺重工のものです」

 

親指で自分指す呂無を横に勝瀬は「はぁー」と再び大きい溜息を吐く

 

「大変そうですね、相変わらず・・・」

 

花土は髪の毛のう・・・同僚に同情する

 

「しかし、これだけの新型!しかもモノによっては戦車より安いんだぜ!人類は勝てるぜ!俺がいるんだからな!」

 

そう堂々と言う呂無、誰もが彼女を訂正しようとはしなかった。

 

皆が聳え立つ陽炎改と不知火弐型を見上げる、それはもう“出来損ない”と呼ばれるものではない。

 

少年の目にはその二機はどう映ったのであろうか・・・

 

・・・




1999年11月13日
         -ツイマッド計画発動セリ-

川崎計画[計510億]
1)磁気加工による旧型強化計画[60億]
2)川崎工場整備の欧州産新型戦術機[90億]
3)量産型中遠距離支援機[10億]
4)先進技術実証機[300億円]
5)斯衛軍専用高性能戦術機改良計画[50億]

U―Project(United Maintenance Project)統合整備計画 [計500億円]
1)陽炎改良計画[60億]
2)04式戦術歩行戦闘機開発計画[120億]
3)一般機改良計画、通称“狩人計画”[50億]
4)強襲用新型戦術機開発計画[100億]
5)新型技術試験機[170億]

V-Project V計画[総費用550億]
1)無重力間戦闘試験機
2)近接強化型試験機
3)ホバー試験戦術機
4)観察用小型戦闘機
5)支援型高性能機
6)戦略試験砲
7)整備用艦
8)潜水陸両用艦

W-Project(Weapon Enhancement Project)兵器強化計画[総費用150億]
1)超震動方近接兵器
2)加熱型近接武器
3)超弩級戦車
4)ホバー型戦車
5)補助飛行機
6)ホバー型指揮車両

X-Operation(X作戦)OS強化普及作戦[費用40億]

Y-Project(Y計画)試作戦術機計画[総費用240億]
1)白兵戦型凡用戦術機動兵器
2)重戦型戦術機動兵器
3)超高機動型凡用戦術機動兵器
4)高性能支援型戦術機動兵器

・・・Z-Project・・・(???)


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第十三話「遠吠えは落日を染めた~前編~」

11月16日0832

四国、愛媛県八幡浜市

 

列島奪還・四国解放作戦、八幡浜市殲滅戦から一夜明け、昨日までの雨は噓の様に上がっていた。最終的被害は131連隊が戦術機76機を失い(約7割)によるほぼ殲滅、133連隊は50機(約5割)の被害により壊滅。132連隊も15機(約1割)を失い、陸軍第13旅団3連隊、合計141機の戦術機が戦闘不能になる。壊滅は免れるも全滅以上の被害(約4割)を出す。物理的被害以外にも精神的被害も多く、戦闘中は暗示と薬物投与で恐怖を麻痺していた新兵の多くは戦闘終了と共に恐怖と不安の津波に押しつぶされた。これにより実質旅団としての機能は完全に停止。元々四国より九州へ援護に向かう予定だった旅団は八幡浜市で再編成行う事となった。

 

殲滅戦が終わった後の八幡浜市は慌しかった。先ず主に新兵に対してのβブロッカー(精神薬、元は血圧を下げる薬)の投与を行いPTSDの発症率を抑え、その後に重機を使い市内のBETAを一ヵ所に集め、火炎放射器で燃やす。生物、血、と金属物質が燃える臭いはお世辞にも良いものではなく、放置していてもそのBETAの腐臭がするので食事を取るどこれではない。そのため食事は作業が一段落してから行われた。他にも溝などに嵌った戦術機は重機により引っ張り出されたり、整備の開始や二個一的戦術機の修理が行われ始めた。

 

・・・

 

「この泥臭さ、鉄の様な血の臭い、独特なBETA臭とむせ返るような湿気・・・これこそが戦場だな・・・」

 

未だに雨合羽を着ているケニーはそう言うと配給されたシチューを一口食べ、苦い顔をする。隣に座っているオリヴァーはそれを見て、さり気なく文縁から渡されたカレー粉をスチューに塗す。

 

「・・・ロンズ隊長はこういう戦場の方が慣れてそうですね・・・」

 

余り臭いに慣れないオリヴァーはスパイスを使っても、食事が進まなかった。

 

「まぁな、技術屋は宇宙(ソラ)での戦いが多かっただろうから、こういう生々しいのは慣れんだろ」

 

「・・・はい、そういえば文縁少尉も『ふふふ、この肌触り、この風こそ戦場よ!』と言っていましたね、彼も結構慣れてそうです」

 

「いや、あいつの場合9割9分9里世迷言だろ」

 

「はは、そうかもしれませんね」

 

オリヴァーは四国に来て初めて笑った

 

「さて、技術屋作業に戻るか・・・ギャンはどうだ?」

 

「15(いちご)ですか・・・帝国軍から87式自走整備支援担架を借り、09(ぜろきゅう)は整備が完了しましたが、15は損傷が激しく香月博士から補給待ちですね、一応バラして、パーツが届き次第素早く組み立てられるようにはしてありますが」

 

「そうか・・・となると後からくる新しい試作兵器と一緒に九州入りとなりそうだな」

 

「はい、幸いホバートラックは全く問題ありませんし、何より今回の戦闘データを利用し操作を簡易化し、一人でも操舵と射撃ができるようにタケル君がプログラムを弄ってくれました」

 

「少年は相変わらず仕事が速いな」

 

呆れ気味に放つ

 

「撃震の方もタケル君と文縁少尉が修復しているみたいですから。モニク、タケル君、僕の三人は先に九州に入りますね。整備の方大丈夫ですか?」

 

「ああ、これでも戦場じゃ、整備士何ていなかったか時もあるからな、マニュアルがあって組み上げるだけなら俺でも出来る・・・しかしアイツらちゃんと仕事してんのかねぇ?」

 

「してる“はず”です」

 

○○○○●

 

同刻

 

武と文縁は帝国軍より撃震のパーツを受け取り撃震T型の修理を行っていた

 

「これで、パーツは最後だ」

 

天田少尉は空になったトラックの荷台を叩きながら言う

 

「天田少尉、無理言って申し訳ない」

 

パーツの交渉は全て元帝国軍兵士であった文縁が行った。当然の様にモニクが交渉内容を考え、ボディランゲージから言う台詞まで徹底させた。

交渉は上手く行き整備器具、パーツ、それと食料を分けてもらう事となった。機密の問題も考慮し、運送役として一人だけ帝国軍から来る事になった。この時、天田少尉が臨時で受け持った隊は既に解散していた。そして比較的精神的、肉体的に疲労が少なかった天田少尉に運送役としての白羽の矢がたった。

 

「いや、俺達も君達には助けてもらったからね、もし君達が来なかったら・・・少なくとも俺達はBETAの餌だったろうさ。後、もっと気楽にしてくれ、その方がやりやすい」

 

「そう言って貰えると助かる・・・じゃついで、一言叫んでくれないか?」

 

「は?」

 

「“光にな「文縁さん!撃震の右腕直りましたよ!」チッ、相変わらずのタイミングだ」

 

文縁にそう舌打ちし、武は87式自走整備支援担架から降りてくる

 

「これで何とか昼前には出撃できそうです、っとこの人がッ・・・」

 

目を天田少尉に向けたとたん、軽い痛みと目に霧の様なものが映り目を瞑る

 

「何してんだ、武?あれか“んちゃらを持たぬ者にはわからんだろう”とか“こんな時にまで・・・しつこい奴らだ”て奴か?咲き遅れも良い所だろ、ヤメナサイ」

 

「意味は分からないけど、馬鹿にされたのだけは把握した・・・って違います、ちょっと疲れてるのか分からないんですけど、視界に靄が・・・天田少尉の足の付近に・・・」

 

「何という露骨なセルフモザイク・・・いやらしい・・・」

 

「人聞きの悪い事言わないでくださいよ!」

 

「と、ともかく俺は出撃の準備があるのでこれで失礼する!」

 

二人のやりとりにやや引きながらも敬礼し、天田少尉はトラックに乗り、走り去った。

天田少尉が視界から離れて直ぐ武は目が正常になったのを確認する

 

「・・・なんだったんだ・・・」

 

「まぁ、ごっこ遊びも良いがとっとと残りの整備終わらせるぞ」

 

「・・・文縁さん、そういえば・・・詳しく聞きませんでしたが、何してこの撃震墜落させたんですか?」

 

横を通り撃震に向かう文縁を呼び止める

 

「いやさ、マニュアルのギア操作できんじゃんこれ」

 

「確かにありましたね、オレは触りませんでしたけど」

 

「それを6速から3速に入れてさ」

 

「何で!?そんな事したら急にエンジンブレイクがかかって大変な事になりますよ!?」

 

「男は、いやWODOGO(漢)は・・・時にドリームカラーを追い求めてしまうものさ」

 

「そんな、ハードラックとダンスしちまったみたいに言って誤魔化さないでくださいよ!」

 

「<↑←↑>」

 

「何ですか・・・手旗サイン?・・・上左上???」

 

「だからお前は阿呆なのだぁ!」

 

文縁は独特な構えを取り左手の甲で武を叩いた

 

「理不尽だろ!!明らかに関係ない台詞だってどく「お前達は何を遊んでいる!」・・・姉さん」

 

普段着ている軍の正装ではなく動きやすい赤茶色の軍服を着たモニクが二人に近づく

 

「お前達は目を離すとスグに・・・」

 

「「いや、これは・・・武(文縁さん)が悪い!ってマネすんな(しないでください)!」」

 

「仲の良い事だな・・・でその撃震(ポンコツ)の修理状況は?」

 

「そう怒りなさんな、皺がふ<ギロ>・・・失礼しました・・・失った右腕を大破した帝国軍の撃震を利用、修復し、問題なく活動可能です」

 

モニクに睨まれた文縁は綺麗な敬礼をしながら、

スラスラと撃震のコンディションを説明する

 

「・・・そう、では予定通り、タケル、オリヴァーと私で先に九州に入り帝国軍の殲滅作戦に参加、傭兵・・・ロンズ隊長はギャンの整備があるため後から来るわ」

 

「・・・俺は?」

 

「黒藤少尉は今日か明日届く新兵器に搭乗することになっている」

 

その言葉に文縁の目を大きく開く

 

「新・兵・機!キターーーーー!俺の時代が来た!着た!もうー(中略)-これで勝つる!」

 

「モニク姉さん新兵器って・・・?」

 

「黒藤少尉は新兵器が気になるみたいだな、なら態々楽しみを壊す事も無かろう、明日の楽しみと言う事で詳しい事を話すのは止めておこう」

 

「はぁ・・・」

 

「フフフ・・・メタルジェ(略)・・・俺にも戦術機がくるか・・・ホバートラックアッシー(運転手)の時代は終った!」

 

「・・・タケル・・・昼までには出撃するぞ」

 

「・・・了解」

 

一人テンションを上げる文縁を横目に二人は出撃準備にかかる。

 

・・・

 

「・・・光州作戦・・・明星作戦の帳尻合わせがここで来る・・・これだけで済んでくれれば良いんだがな・・・」

 

一人佇む文縁は誰に聞かれる事なくそう呟いた

 

○○○○●

0913

 

<数十分後>

 

ホバートラック内

 

「じゃ、ブリーフィング始めんぞ「文縁さん押さないでください、狭いんだから「無理ゆうな」」小僧、ヒゲ、うっさいぞ、それとヒゲ、何食ったんだ?臭いぞ?」

 

「魚介類ですよ。八幡浜市は漁業が盛ん“でした”から」

 

「人がレーションの糞不味いスープ食ってるのによぉ・・・何所で見つけてくるんだ?・・・兎も角状況説明、嬢ちゃん!」

 

「・・・現在、帝国軍陸軍第8及び11旅団は九州南方より進軍中。四国と比べBETAの数が多く、現在帝国軍は九州中央、阿蘇山付近まで展開。そろそろ阿蘇山を確保する所だろう。山口県を確保した第12旅団もこれより九州に入る。作戦目標は佐世保市となっている」

 

「ヒゲ、佐世保には何がある?」

 

「花の名を持つ宇宙戦か・・・じゃなくて、帝国軍と国連軍共同で使われていた基地がある。高性能コンピューターと機械がうじゃうじゃあるから、今じゃBETAホイホイになってるだろうな。まぁ、取りかえす事によって後々にある朝鮮半島ハイヴ攻略を視野に入れてんじゃないか?」

 

「佐世保ってのはアッチ方面か?」

 

ケニーは北北西を指す

 

「まぁ、アバウトではそうだな」

 

「んんん」

 

腕を組み唸るケニー

 

「!!何がんん「いや、何か感覚的に良い気配がしない」て人の台詞を・・・」

 

「言われてみればオレもザラつく感じがしますね」

 

「タケルと傭兵がそう言うなら気をつけた方が良さそうね」

 

「あんたらニュータイプかよ」

 

「確証はありませんが可能性はありますね。それにしても良く知ってますね文縁少尉、香月博士から聞いたんですか?」

 

「・・・」

 

オリヴァーの問いに黙る文縁

 

「・・・ブリーフィングの続きだ」

 

「知っている通り帝国陸軍第13旅団は全滅的被害を被り、再編成が必要となる。斥候は出すみたいだが、小数だろう。第8,11,12旅団は予定通り佐世保に進軍。今日中には行動を開始するだろう。何を焦っているのか知らんが迷惑極まりない・・・ともかく、それに伴い私達も行動を開始する必要がある。整備と新兵器を待って、害虫(BETA)を皆殺しにされたら実戦試験のデータが手に入らないからな」

 

「そう言うこった、出遅れてデータ収集できなきゃ本末転倒だ。という事で小僧、技術屋と嬢ちゃんは先に九州に入り、西に進軍、佐世保に向かってくれ。まぁ、目的地に着く前に帝国軍とは合流出来るはずだ。俺達は新兵器の授与と整備が完了次第後を追う。技術屋!整備状況は?」

 

「09(ドム)は遠中距離支援ばかりだったので、3機の中では一番状況が良いです。逆に15(ギャン)とF4-JT(撃震T型)両機共に関節部分の疲労が激しく。F4-JTの方はパーツ等は文縁少尉が帝国軍と交渉し入手してくれたので整備は終わりましたが15はパーツ待ちです。F4-JTは失った右腕を帝国軍の撃震から取り修復、ガドリングの付いている左腕とウェイトバランスを取るため右腕には盾を固定しました。ホバートラックはほぼ損傷無し」

 

「最後の爆発を抜くと、傭兵が一番撃墜数が多いのか?」

 

「そうだね、四国殲滅戦ではロンズ隊長が約7500匹、ノーススターの一撃を抜いた場合タケル君が5000強。これだけ戦って、まだ整備すれば機体が動かせるんですから二人共流石としかいえませんね・・・まぁ、横浜基地に戻ったらオーバーホールでしょうけど」

 

「どっちが化け物(ばけもん)か分かんねぇな」

 

文縁は只々二人の戦績を聞いて唖然とする

 

「TSFでこれだけ戦えるのはビダーシュタット少尉とヒーリィ中尉に感謝っすね」

 

「・・・ああ、あの二人ね・・・タケルを徹夜で鍛えた・・・」

 

モニクは懐かしみようにしみじみと語る

 

「さて、じゃフォーメション確認すんぞ・・・三機は線状に並ぶ、トップが嬢ちゃん、センターが技術屋、バックが小僧だ」

 

「・・・グラサン・・・何故ホバートラックをセンターに持ってきて、ストームバンガード(突撃前衛)の武を後方に置く・・・?」

 

「いや・・・説明し難いな、漠然とした感じで」

 

「勘か?」

 

「勘だな・・・まぁ、小僧の方が技術高い、故に援護しやすい。それに何気に嬢ちゃんは格闘戦の方が得意っぽいしな」

 

「傭兵、お前の前では格闘戦をやった覚えがないんだが・・・」

 

「年の功って事で、俺も一応隊長だしな、それくらいは把握しているさ。でだ、俺達が合流したら、元のツートップのフォーメーションに戻す。ヒゲのポジションは新兵器しだいだな。合流までの指揮は小僧がしろ、一応副隊長だろ。・・・では0945に作戦開始だ」

 

「「「「了解」」」」

 

○○○○●

 

同刻、九州、阿蘇山

 

<ドーーーーーーーン>

 

200mを超える大砲が火を噴き、その弾道上に居たBETAは一瞬にして吹き飛ばされ、挽き肉だけが残る

 

「何たる脆弱なるモノ達だ!!」

 

金髪、細身の日本帝国陸軍技術廠・帝国軍第弐開発局、局長沙梁(さはり)技術准将は吹き飛ばされるBETAを見、歓喜した。彼は超大型移動砲台『大蛇(オロチ)』を作り続けていた。長年彼を悩ませ続けた技術的難題は春戸と呼ばれる者の技術提供により解決。

 

「これで再び我が沙梁家は斯衛に舞い戻る事が出来る」

 

沙梁家は過去斯衛の赤を着る名家であったが、先代の失敗により没落した。

 

「ククク、中々の威力、こちらとしては技術を提供したかいがある」

 

茶色いトレンチコートを着、見える範囲を包帯で隠した長身の男はそう答える

 

「春戸・・・貴殿があの技術を発見したのか?」

 

「いや・・・だが出所は言えんな」

 

「・・・戦果さえだせればな、出所など構わん」

 

「沙梁様!」

 

一人のモヒカンの様な奇抜な髪型をした中年男性が指揮車両に通信を入れる

 

「則守(そくもり)か、どうした?」

 

「士気は十分、頃合かと!」

 

「よし、一気に殲滅する・・・全軍に突撃命令を!」

 

「は!」

 

<ピピピ>

別の通信が割り込む

 

「・・・お兄様・・・」

 

そこには青緑がかった髪をした女性が画面に映る

 

「・・・お前か、どうだ・・・その機体は?」

 

「高機動試験型吹雪の運用は順調です」

 

「そうか、では引き続きデータの採取を行え」

 

「はい・・・」

 

沙梁准将は素早く通信を切る

 

「・・・クッ、失った栄光・・・再び手に入れさせていただく」

 

「ククク、面白いなお前達は、歪でありながら実に形に嵌っている・・・」

 

「何が言いたい春戸!」

 

「これは失言だったかな、ククク」

 

「ふん!お前は黙って我が沙梁家再興の生き証人となりたまえ」

 

「ククク(後は色々かぎ回っている犬と帝国軍の犬がどう動くかだな)」

 

○○○●●

九州北東部、別府湾→阿蘇山北西、酒呑童子山に向けて移動中

 

九州大分県万年山

同日11:38

 

「タンゴダウン!エリアクリア!」

 

武は120mmで突撃級と要撃級を落とし、弾を再装填する

 

「確認した、オリヴァー!」

 

「既に周囲をサーチしてます・・・反応無し、周囲にBETAはいません」

 

三人は一息入れ、状況確認をする

 

「このまま行けば酒呑童子山付近で第8,11旅団と合流できるわね」

 

「細かい詳細は分かりませんが、南南東に移動する部隊がいます、これが第8、11旅団でしょう、北北東にいるのが第12旅団、それと僕達を追うように数機来ていますが、これが第13旅団の斥候かと」

 

「・・・ん霧・・・?」

 

三機を取り囲むように白い煙が包む

 

「霧じゃない、後方の機体より来ます!」

 

<カッ!!!>

 

閃光が三機を包み、オリヴァーの叫びと共に一番後ろの武にロックオンの警告音が響く

 

警告音より一足早く武は回避行動に入っていた

 

「ちっ、悪意が来たか!」

 

空中に上がり、反転、スモークに向かって36mmを発射する。

36mmは何かに当り大爆発を起こす

 

「!!誘導兵器!!」

 

音を聞き、ミサイルだとあたりをつけるモニク

 

「・・・この時代にはまだある事を忘れていた、オリヴァー!」

 

「ミノフスキー粒子散布します!」

 

ホバートラックを中心に粒子が散布され、一定の濃度になった途端、警告音が止まる。

 

「敵は!?」

 

「一つは識別・・・TSF-TYPE94『不知火』が1機、所属識別不明!他に震動音があり数機存在すると思われますが、レーダーに反応なし、ステルスだと思われます!」

 

「ステルス戦闘機・・・戦術機・・・モニク姉さんオレが切り込みます!」

 

「しかし、この視界じゃ「敵の位置は分かります!」・・・そうかなら、頼む!オリヴァー索敵は頼んだわ、私もタケルの後ろに付き接近する!」

 

「了解」

 

「各自散開!」

 

視界が戻り始めたのを確認し、武が号令を出す

 

○○○●●

 

11:40・所属不明機

 

『Tango approaching, see it?』[ターゲットに接近中、見えるか?]

 

『In sight, just three? What kind’a joke is this?』[視認した、たった三機?どんな冗談だよ?]

 

『Shut your bloody mouth job is a job』[無駄口を叩くな仕事は仕事だ]

 

『Hey JAP! Are you ready? We are rush’n in Ooray?』[ヘイ、ジャップ!準備は良いか?俺達は攻撃を開始するぞ、オーライ?]

 

「・・・」

 

『Silence huh? Ladies lets get the party roll’n!』[ハッ、沈黙か?レディーズ(お前ら)パーティを始めんぞ!]

 

『Fire in the whole!』[閃光弾を飛ばすぞ!]

 

スモーク弾と同時閃光弾が放たれる

 

『Rock on baby!』[ロックしたぜ!]

 

『Smoke them!』[ぶっ放せ!]

 

ミサイルが放たれ・・・着弾しなかった

 

『What the hell!?』[何だ?]

 

『R U Serious!? Who the F!?k can shoot directly towards a missy』[マジかよ!?どんなフ○Xク野郎がミサイルを直で打ち落とせるんだよ!?]

 

『Go Second round!』[2発目を撃て!]

 

<ピピピピッ・・・>

 

ミサイルを構え、ロックオンを持つが、突然ロック不可の文字が画面に現れる

 

『Damn it! Can’t lock』[クソ!ロックできねぇ]

 

『Tango lost! No sign on rader!』[ターゲットロスト!レーダーに反応なし!]

 

『Wha!? Chaff?』[な!?チャフか?]

 

『Open Fire guy le…』[撃って出るぞ、お前ら行・・・]

 

<バラララララララ>

 

一機が通信を終える前にスモークを切り、36mmの嵐がUnkownを撃ち、破壊する

 

『Shit! Man Down! MAN DOWN!』[クソ!一人やられた!一人やられたぞ!]

 

『Tango Com’n!』[ターゲット来るぞ!]

 

スモークを抜け、飛行機雲を作りながら一機の撃震が突っ込んでくる。

 

<カカカカカン>

 

WS-16C突撃砲を構えその撃震に向かい撃つが、右腕の盾と回避行動により当たらない。

 

撃震はそのまま懐にまで飛び込み、赤い線を作り、敵の突撃砲ごと一刀両断にする。

手に接近戦武器しかもっていないのを見て、一機が飛び込むが、突如左腕から現れたガドリングガンをくらう

 

『Mayday Mayday Mayda』[メーデーメーデーメーデ]

 

また一機黒煙を上げ爆発する

 

『What’s go’in on…』[何が起こっているんだ・・・]

 

唖然する一機の横を漆黒の不知火が通り過ぎる

 

『オ前ノチカラヲ見セテミロ白銀武』

 

○○●●●

第603技術試験隊白銀分隊

 

武は突如あらわれた不知火の一撃を退き、距離を保っていた

 

『タケル君大丈夫ですか?』

 

オリヴァーからの通信がはいる

 

「なんとか・・・オリヴァーさん何か分かりましたか?」

 

『敵機体を確認しましたが、照合結果ではF-117ナイトホークとあります』

 

その名前を聞き、武は数年前・・・元の世界でその名前を聞いた事を思い出す

 

「・・・初代ステルス・・・戦闘機・・・」

 

『その通りです』

 

『となると、私達を暗殺しにきたと見て良いみたいね、古い機体なら他の国でもつかっているでしょうし、特定は難しくなるはずだから・・・ともかく今、このゴミ虫を捻り潰す事が先決ね』

 

モニクがそう言い、一機をヒート・ソードで敵の装甲を容易く切り裂く。

 

「こっちはこの一機で手が一杯です・・・この不知火、プレッシャーは感じないが上手い!」

 

不知火は一太刀真正面に打つ、これを武は左への入り身(斜め移動)で避ける。

それを予想していたかのように、不知火が後ろ回し蹴りを放つ

右腕の盾で受け止め、左のガドリングを放つ武

 

再び最初の距離を二機はとった

 

「(旧型のOSであれほどの動きを不知火でやるのか・・・)」

 

ジリジリと移動し距離を保つ、二機の攻防を見て他の機体は援護が出来ないでいた。

 

『ソレ程ノチカラガ有リナガラ、何故祖国ノタメニ戦ワナイ!白銀武!』

 

突然の通信に驚く武。その通信の主は声を変えているようであり、酷く機械的な声であった。

 

「何だ、突然!アンタ達は何なんだ、何で俺達を狙う!?何故人間同士で戦おうとする!?」

 

『貴様ガソノチカラヲ己ガタメノミニ使イ自国ヲ、他ヲ踏ミニジルノナラバ俺ガ立チ向カウ!』

 

再び長刀を振り下ろす不知火、それを盾で受け流す武

 

「何を勝手な事を!俺は何時も皆の未来のために戦っている!アームガドリング!」

 

ヒートソードを振り、ノーモーションで36mmが火を噴く。

VCS(ヴォイスコマンドシステム)を使う事によりほぼラグなしに武器が操作できる、それ故に行える戦術である

 

放たれた36mmは不知火の右半身に被弾する

 

『チィィィ!当タリ所ガ悪イトコウイウモノカ!』

 

その台詞にハッとなる武

 

「あんた!もしかして」

 

言い終える前に再びスモークが発生し、上空に何かの信号弾が上がる

そして、再び閃光弾が武達の画面を焼く

 

『タケル君!敵が撤退を開始しました!』

 

「確認した!やってみる!」

 

背中に背負った突撃砲を再び装備し、左腕のガドリングを起動させる

武は勘を頼りに撃ち始める

 

<―――^v―――>

 

「そこ!」

 

遠方で爆発音がし、それと同時に武達の前方にミサイルが当り土煙を巻き上げる

 

「ロック無視で撃って来たか・・・」

 

『敵振動音射程範囲を出ます、中々の逃走能力です』

 

『しょうがないわね、対戦術機戦は完全に想定外よ、良いデータは取れたけど・・・いや』

 

モニクはドムが持つ対装甲に適したヒート・ソードに目をやる

 

『これも想定内なのかもしれないわね・・・』

 

「オリヴァーさん、敵機回収して、先生に連絡を入れて、詳細を報告してください、周りの帝国軍にも・・・今の奴ら捕まる気はしないですけど何もしないよりマシです。小休止の後は、このまま佐世保に向かいます」

 

『『了解』』

 

○○●●●

四国、愛媛県八幡浜市、陸軍第13旅団キャンプ横、

12:00

 

「おい、ヒゲ何時まで、そうやっている気だ」

 

文縁は地面で図に書いたようなorzのポーズをとっていた

 

「・・・殺したい、新型の戦術機が来るとはしゃいでいた過去の俺を殺したい、うあああああ」

 

ゴロゴロとのたうち回る文縁

 

「大丈夫ですか彼?」

 

ケニーの隣に立っていたロス少尉が聞く

 

「ああ、まぁ、アイツはほって置いて続けてくれ」

 

「はい、試作鳥兜(ギャン)の整備は完了しました、このまま試作新型兵器と共に九州に向かい、運用試験を行います。ウィリアムズ中尉、阿野本少尉と私はこのまま貴方がたと一緒に九州に向かいます。碓氷大尉は受け取った資料を持ち、横浜基地に戻ります。そして今日からロンズ少尉、両マイ少尉は中尉に昇進です、おめでとうございます」

 

「了解した。まぁ、今更中尉に上がってもな・・・お、大丈夫みたいだ、立ち直ったぞ」

 

文縁は立ち上がりヨロヨロとケニー達に近づき、近くにいた阿野本少尉の手を掴む

 

「へへへ、今時戦術機戦術機と騒ぐがな、戦車の時代はまだ終わっていない。こいつはどうだ?45口径、20インチ紀伊級砲を積んだ超弩級戦車、TSMT-05戦狼、別名ヒルドルブ・・・こいつがあればBETAの野郎どもに一泡吹かせられるぜ」

 

<シャカシャカ>

 

文縁はポッケから何か長方形の入れ物を出し、その中のタブレットを飲み込む

 

「ふ、フリスク(ミント)だ、兄ちゃん食べるか?」

 

「い、いえ結構です(誰か助けてください!)」

 

話をふられた阿野本少尉は驚きながらも拒否する

 

「・・・大丈夫ではなさそうですが・・・」

 

ロス少尉がそう心配そうにそうケニーに言う

 

ケニーの深い溜息は空に消え

 

大型の大砲は九州を静かに見つめた




ミノフスキー粒子散布装置――技術評価報告書

我が第603技術試験小隊はさる11月16日、四国九州大分県万年山に所属不明機の奇襲を受けし、これに応戦せし。所属不明機一機は不知火、その他はF-117ナイトホークと判明、何れも所属識別反応なし。この時、我々はスモーク弾及び閃光弾により視界を奪われた上で誘導弾(ミサイル)の攻撃を受ける。それに伴いミノフスキー粒子を散布せし。一定濃度に達した時、所属不明機はミサイル攻撃を止め、更には混乱したように見受ける。これによりミノフスキー粒子が対戦術機戦で有功だと証明せし。戦闘は白兵戦に移行せし。F4-JT撃震T型、及びMS-09F/TROPドム・トローペン(先行量産型)の威力抜群なり、敵を翻弄せし。両機の対戦術機能力も高いと思われる。尚、戦術機に対しヒート・ソードはBETA戦以上の戦果を上げる。我々は引き続き列島奪還作戦を続行、帝国軍と合流し、後に佐世保殲滅戦に参加、これら兵器の実用性検証と評価を続ける。
               ―西暦1999年、11月16日オリヴァー=マイ技術少尉


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第十四話「遠吠えは落日を染めた~後編~」

11月16日13:00

 

武達が奇襲を退いた、数時間後

 

某国、某五角形建造物

 

将官と思わしき初老の白人男性が書類を処理している所に

ゴーグルを付けた白人佐官がドアを激しく開け入ってくる。

 

「Sir, we have a problem」[閣下、問題が発生しました]

 

[以下和訳]

 

「何かね、この忙しい時に?」

 

将官は冷静に答える

 

「373(スリーセブンスリー)の一部が連絡を途絶えました」

 

373部隊・・・・

それは計画的暗殺を行う某国の特殊部隊である。

 

一度空気を呑むと佐官はそう答える

それに反応するようにペンを置き険しい顔をする将官

 

「・・・何処に向かった部隊かね?」

 

「日本です」

 

「・・・彼らには旧式ではあるがナイトホーク(F―117)が与えられていたはずだが?」

 

「信じられませんが、ほぼ殲滅、黄色猿(エイローモンキー)共が調子に乗り始めたようです」

 

無くした視力を補助するためと思われるゴーグルは機械音を立てる目の前の上司にピントを合わせる

 

「・・・君は先日諜報部から届いた資料を見たかね?」

 

「はい、ハッキリ言って眉唾でした・・・今日の映像記録を見るまでは」

 

とゴーグルの佐官は一枚のディスクを将官に渡す

 

「ほう、準備が良いな」

 

「無様に負けてもこれだけは送信出来たみたいです」

 

将官はディスクを受け取ると、PCに入れる

 

無音の戦闘映像が映し出される。所々衝撃で砂嵐になったり、映像が飛ぶ。

そこには白煙を切り裂き縦横無尽にナイトホークを蹂躙する白銀の戦術機が映し出されていた。そして、それを止めに一機の不知火が入る・・・

 

だが、今度は重圧感のある戦術機がホバーをしながら一機ずつナイトホークを吹き飛ばし、何とか接近した機体も右手に持つサーベルで切り裂かれる。

 

「このプラチナカラーの奴は、ファントム・・・いや、日本製の撃震の改良型か・・・信じられん、これが戦術機の動きだと言うのか?それにもう一機の奴はホバーを使っているのか?そしてこのバズーカ、ほぼ無反動でこの威力・・・圧倒的ではないか」

 

「それだけではありません、視界が限定されている中、相手だけ何故か正確に我がほうを殲滅しています・・・特殊な技術が使われていると思われます」

 

「これは本格的に潰すか?・・・いや、日本の技術力は惜しいな・・・何とかせねばいかんかも知れんな・・・我が国が目指す未来のためにも日本・・・極東の魔女は危険だ」

 

「同感です、これ以上極東の猿どもに良い顔はさせられませんな・・・『AOD(アームズオブデスペア)』を出すのはいかがでしょうか?」

 

「『絶望の矛』か・・・面白い、許可する」

 

 

○○○●●

 

同日同刻

 

川崎工場

シュミレーター

 

追加スラスターとタンクを着けた国連軍カラーの吹雪J(イェーガー)が同じ追加装備をしたグレー(無色)の瑞鶴Jの相手をしていた

 

『クッ!この機体やる!!だがそれでは私は倒せん!』

 

濃い紫色をした長い髪を武士のように上に纏めた少女が叫ぶ

 

それに答えるように姿勢制御を含めた変則的空中移動で吹雪はグレーの瑞鶴追い詰める。

 

移動に惑わされ、瑞鶴が放つ弾は空を切り、

 

『そこ!』

 

吹雪は両手でヒートソードを振り下ろす

 

 

『な?!』

 

それは瑞鶴の背に隠されていた薙刀で防がれる

瑞鶴は右手に持った薙刀を回転させ、円運動でヒートソードを弾くとそのまま、威力を殺さずに切り付ける

 

『・・・!!・・・ちっ!』

 

一瞬の動揺を見せたあと、吹雪は頭部バルカンを発動させる

36mmバルカン砲は瑞鶴の頭部を吹き飛ばすも、振り上げられた薙刀により一刀両断にされる

 

〔敗北〕

 

その二文字が出ると、少女は深い息を吐き、シュミレーターを出る

 

「冥ちゃんらしくもないのう、一瞬油断があったようじゃが?」

 

そこには巨大な2m級の老人、御剣神鳥が髭を撫でながら立っていた

 

「御爺様・・・」

 

「カッ!!!」

 

一瞬の怒気に身構える少女

 

「ほっほっ、御剣冥夜(みつるぎ=めいや)ともあろうものが情けない、一回負けた程度で」

 

「・・・」

 

「・・・それとも何か気になる事でもあるのかのう?」

 

「・・・相手の使う薙刀に何か懐かしい感じがあったので・・・」

 

そういうと神鳥は優しい目で冥夜を見つめる

 

「そうか、そうか。まぁ、善戦したから良いじゃろう、ここ数年で一番伸びておるな、やはり“てぃーえすえぃち”(TSH)機動を会得したおかげかのう?文倶琉(ぶんぐる)の孫の目は間違っておらんかったて事かのう」

 

神鳥がいうTSH機動というのは、武の動きをベースにした機動であり。その会得には理論的説明ビデオを見た後、彼の動きを真似たシュミレーターに乗り身体で覚えるというかなり乱暴なものである。後に衛士達に『もんじゃストームメーカー』、『衛士の洗礼いらず』、『吐き気かな?いや違う、違うな。吐き気はもっとウボぁぁー(修正)』と言わしめるほど辛いものである。TSH「TakeruShiroganeHentai」機動の略である事は本人すら知らない、当然のように夕呼の命名である。名前の略“だけ”を知った海外のオタクが白銀武作のエロゲーだと思って検索し、キーボードを破壊したのはまた別の話。人類滅亡の危機であってもオタクは不滅らしい。

 

さて真面目な話、武の機動は対BETA戦を考えた三次元空間戦闘法であり。光線種が視認してから発射するまでの間の回避を考えたものである。これに一年戦争で培った、姿勢制御によるランダム回避を行う。宇宙空間という上下の無い、自由な空間での戦闘を体験し、BETAを知る武故に編み出された特殊な機動戦術である。武が見せる機動はまるで『翼が生えた鳥の様に天空を自在に飛翔し、河を泳ぐ魚のように自由であった』ととある老人に言わせた。ちなみにそれを聞いた文縁が右手を胸の前で左手で包む、抱拳礼をしながら「こころじゃよ・・・」と呟いたとか呟かなかったとか。

 

「よしてください、御爺様、私は『白銀の』にはまだまだ遠く及びません」

 

「目標を大きく持つ事は良いが、流石に数日で“彼”並に強くなるはずもなかろう(しかし、既に古参衛士以上の実力か・・・本当に奴の助言通りに衛士訓練をしたが・・・ここまでの成果がでるとはのう)・・・時に冥ちゃん、吹雪いぇーがーの乗り心地はどうかのう?」

 

「素晴らしいです、現存の戦術機に多少手を加えるだけでこれほどの安定性を得られるとは。それに頭部バルカン砲など手が使えない時の牽制に打って付けです。小型種の相手も楽になるでしょう」

 

「ふむふむ、順調じゃのう、量産型中遠距離支援機と超弩級戦車も先行型が603に配備され。日本の未来は明るいのう・・・後は米軍からのちゃちゃをどう受け止めるか・・・えっくすえふじぇい(XFJ)計画の奴らもこっちに無理矢理送り込むみたいだしのう」

 

「XFJ計画ですか、米国の技術を吸収し改良型の不知火を作るという・・・」

 

「そうじゃ、しかし技術的問題も解決し、計画を凍結させようとしたんじゃが、一方的過ぎたようじゃのう、相手側は納得出来ずに色々交渉しておるようじゃが、そこの所は大泉大佐、巌谷中佐、そして大空寺の管轄じゃ。どうなるかは分からん。取り合えず今日はこのぐらいにして、帰るとしよう。心神のぷろぐらむ作りは飛行機乗りがいないことには始まらんしのう」

 

「飛行機乗りですか?」

 

「ほっほっほっ、まぁ、昼食を食べに行くとしよう」

 

「御爺様!」

 

色々と疑問の残る物言いをした神鳥を冥夜は追う

 

○○○●●

13:30

 

九州中央部、ひたすら破棄された国道442号線を使い北西を目指す二機と一両。

 

「オリヴァーさん!全く帝国軍見えないんですけど!?」

 

ホバートラックを追うように撃震T型が後ろを走る

 

「かなりの速度で進軍しているよです」

 

そのホバートラックはドムのあとを追う

 

「強行軍ね、他の帝国軍も合流できていないだろう、この速度では」

 

ドムは器用に道路上の瓦礫を避け、時には吹き飛ばしながら滑っていく

 

「何を急いでいるのか知らんが、参戦する前に戦いが終わらない事を祈るだけね」

 

「しかし、戦略を使わない敵で助かります・・・こうやって堂々と道路を使えますからね」

 

アクセルを全開にしているホバートラックはガタガタと揺れる

 

「ですね・・・急ぎましょう!」

 

 

○○○●●

 

14:44、横浜基地、香月博士研究室

 

夕呼は親指の爪を噛み、スパイによる被害報告を再度確認していた

 

「(どこのスパイか知らないけど、思った以上に荒らしてくれたわね)」

 

<コンコン>

 

「入りなさい、開いてるわよ」

 

ピアティフ中尉が入ってくる

 

「副指令、603技術試験隊、試験品目を授与し、佐世保に向かったと連絡が入りました」

 

「そう・・・佐世保基地ね・・・」

 

パソコンを操作し、佐世保基地の資料を出す

 

佐世保基地

九州北西、長崎県佐世保市にある、表向きは国連軍と日本帝国軍共同軍事基地。

 

しかしその裏では様々な研究が行われる。前将軍の時代に解散された731部隊が1960年、極秘裏にこの基地にて再編成、研究所は国連軍管轄の区域に建設された。彼らはいち早くBETA対策を始める。当初からBETA打倒を目指した研究をし、それは対話や相手を知るといった保守的オルタネィティブ計画とは違い攻撃的思想を軸としていた。

去年[1998年]の光州作戦の失敗と共に北九州にBETAが襲撃し、その際、地下にある研究施設は突如沈黙。現在佐世保基地内はBETA小型種が徘徊し、研究データは佐世保基地に封印される形となった。

 

「・・・ピアティフ、『猟犬』を佐世保基地に回して。今から出せば、白銀達が占領するころに届くでしょ。その後白銀達には『猟犬』を使って佐世保基地国連軍管轄区の調査を行うように言って。優先させるのは研究資料よ(交渉材料は多いに越したことはないわ、身内[国連軍]にしろ帝国軍にしろ・・・それに違う可能性も見ておきたい)」

 

「『猟犬』の方はまだ調整が完全ではないとの事ですが」

 

「急がせなさい、川崎の連中が私の『頼み』を無視できなるはずがないわ、無理なら現地調整できるまでにしとけば十分よ」

 

「しかし・・・彼らが危険なのでは?」

 

歩兵は強化機動歩兵装甲をつけたとしても、その生存率は極めて低い、それはこの世界での常識である。

 

「そのためにウィリアムズ達を送ったのよ?ロンズも白銀も戦術機なしの戦闘が出来る事は総合技術演習で証明しているわ。それにアイツもいるしね・・・まぁ、ここで死んだらそこまでの奴らって事でしょ?解ったら、とっとと手配しちゃって」

 

「・・・それと白銀少尉、両マイ中尉達が所属不明の戦術機に襲われたと報告が入りました」

 

「・・・分かったわ、『猟犬』の手配が出来たら、その件に探りを入れなさい」

 

「了解しました」

 

「(・・・同じ組織か・・・別物か・・・全くなめた事してくれるわ)」

 

ピアティフ中尉が振り返り、研究室のドアを開くとそこには何時もの黒いドレスにウサ耳バンドをつけた霞が立っていた

 

「佐世保に・・・行きます」

 

「社、何言って「行きます」・・・」

 

霞は真直ぐと夕呼を見つめる。そしてその沈黙に何かを感じた夕呼は目を閉じ、ゆっくりと開く。

 

「そう・・・好きにしなさい、ピアティフ、悪いけど貴方も社についって行って、社だけを佐世保に送るわけには行かないしね。所属不明機に関しては別の人間にやらせるわ」

 

「・・・了解しました」

 

○○●●●

 

15:00

 

佐賀県、白銀隊

 

「戦闘区域に入る・・・その前に姉さん!作戦はどうする?」

 

「今、オリヴァーから情報を受け取っている所だ・・・きたな・・・」

 

「BETAは佐世保基地周辺に展開、規模は現在既に1万前後。南南東から進軍してきた第8、11旅団に反応し、水滴状に前線が伸びています。帝国軍は第8旅団が突出し、その後を11旅団が追う形となっているようです。第12旅団はまだ戦域に入っていない・・・全く足並みがバラバラじゃないか・・・!!」

 

長崎自動車道及び西九州自動車道が点滅する

 

「ふむ・・・こうすると我々は一度北上して北北東から攻める形が良いでわね、タケル・・・何故だかわかるか?」

 

モニクは佐世保市北東より延びる国道202及び498号線をマークする

 

「・・・今いる帝国軍と同じ方角から攻めたら、国連軍の自分らは混乱を起こす可能性がある、何より前線に出るのに手間がかかる。ならばまだ第12旅団が展開していない北東から攻め、データ収集するのが得策・・・」

 

「そういう事だ、そして我々の速度と戦力がなければできん」

 

「よし」

 

パシンと両手で頬を打ち気合を入れる武

 

「エインヘルヤル2(武)より各機へ、これより戦域に入る、後々帝国軍との連携を考慮し回線はオープン。必要に応じ秘密回線は開け。我々は第一目的である実戦データの収集を行いながら、第二目的である帝国軍の戦力低下を抑える。エインヘルヤル3(モニク)はバズーカで大型種を一掃しながら切り込む、エインヘルヤル4(オリヴァー)は周囲の索敵を重視、戦況把握を優先し、情報は帝国軍にも提供、そして出来るならば36mmで小型種を殲滅・・・自分は援護に回りながら、敵殲滅優先度順に倒していく!」

 

「アインヘリヤル3(モニク)了解」

 

「アインヘリヤル4(オリヴァー)了解しました」

 

「・・・コールネーム・・・あぁ兎も角・・ん、ん!行くぞ!」

 

「「了解!」」

 

 

○○○●●

 

15:10

 

佐世保市、市外南東部

 

第8旅団

 

「BETAよ、怯えろ!竦め!」

 

薄青い線の入った一機の不知火が長刀を大型光線種の目玉に突き立てる。

その長刀は赤く燃え、切り口から蒸気がたつ

 

「貰った!」

 

振り向き様に盾に着いたガドリングを放ち小型種を殲滅する

 

『則守どうだ、新兵装の具合は?』

 

沙梁准将が通信を入れる

 

「沙梁閣下、最初はあの春戸とかいう輩が持ってきた物であり、疑いましたが中々素晴らしい威力ですぞ」

 

『そうか、ならば引き続きお前は護衛をしつつ東の部隊を指揮、私はこのまま大蛇を使い中央を一掃する』

 

「了解しました。時に閣下」

 

『何だ則守?』

 

「そちらでも確認していると思いますが北北東より、国連軍の小隊が敵と交戦していますがいかが致しましょうか?」

 

『たかが三機、邪魔にならないならば、捨て置いて問題ないだろう』

 

「はっ!」

 

通信が切れ、則守は目をレーダーに向ける

 

「(閣下は“邪魔にならないならば”と言ったが、邪魔になるどころか我々以上BETAを殲滅している・・・国連軍のエースか・・・フッ、頼もしい、これで私は護衛に専念出来る・・・)」

 

別の通信が入る

 

『則守・・・お兄様は何と』

 

「沙梁少尉、閣下はこのまま東の前線を押し込むようにと」

 

至極他人行儀の反応に沙梁少尉と呼ばれたショートヘアーの女性は寂しそうな顔をする

 

『そうですか・・・分かりました。それにしても国連軍の方々は凄いですね。送られてくる情報の正確さもそうですが、遠目でも分かる戦闘能力の異常性が目立ちます。動きに関してはこの高起動試験型吹雪を超えているでしょう。そして、あの撃震の武器、貴方のに良く似ています』

 

「それは私も思いました。春戸とアノ国連軍部隊は何か関連性があるのかも知れませんな・・・兎も角我々は我々の仕事をこなしましょう。ア・・・沙梁少尉は私の後ろを着いて来てください」

 

『分かりましたわ』

 

『ビー3(則守)より各機!これより我々はこの戦線を押し込む。国連軍機に関しては無視して構わない、援護の必要は無し、我々は我々の任務に専念する!各機落ち着いて対処しろ!』

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

○○○●●

 

15:30

 

佐世保市、市外南南東部

 

第8旅団本隊

 

超大型移動砲台『大蛇』により迫り来るBETAは軒並み吹き飛び、後には線状の空間が残る

 

「ふん、こんな所か・・・これ以上は佐世保市に被害が出るな。呆気無いものだ・・・大蛇は下げて・・・ん、何だ!」

 

<ドドドドド>

 

○○●●●

 

同刻

 

佐世保市、市外北北東部、白銀隊

 

「敵戦力ほぼ殲滅完了」

 

要塞級を武の撃震が切り裂く

 

「それにしても、あの巨大な自走砲のおかげで結構簡単に制圧できましたね」

 

「そうですね(・・・フォームがヨルムンガンドに似ているが・・・そんな偶然あるのだろうか・・・それに帝国軍の一機が使っている武器もF-4JTが使っているガドリングとヒートソードに似ている・・・副指令からは聞かされていないが既に量産されているのか?)」

 

相槌を打ちながらオリヴァーはモニター横に写る『大蛇』と則守が駆る不知火を見つめる

 

「データも十分取れたわね、ただ傭兵達が間に合わなかったのは痛いわね」

 

<ドドドドドドドド>

 

突然の震動が武達を襲う

 

「な、何だ!」

 

「オリヴァー!」

 

「確認しています・・・これは・・・地下から、巨大な何かが着ます」

 

「オリヴァーさん、位置は!?」

 

震動と熱反応からの計算を高速に行う

 

「・・・南西・・・第8旅団本隊の真下です!!」

 

オリヴァーの叫びと同時に武達は視線を本隊に向ける、そしてその中心を食い破るように巨大な生物が現れる。一番似ている生き物としては多毛類のイソメであろう。無数の牙を開き、地上に顔だす。その震動だけで数機の戦術機が吹き飛ばされ。始めて見るBETAに陣が崩壊し、混乱の波が全体を覆う。

2体の大型BETAは帝国軍本隊を食い破り、1体は後方の退路を立つように現れた

 

『お兄様!!!』

 

『いけません!』

 

隊長機の不知火が形の変わった吹雪を止めようとするが

吹雪は不知火を振りほどきスラスターを吹かす

 

「・・・あれは・・・母艦(キャリアー)級3体も!!・・・あの吹雪危ない!」

 

吹雪が空中に飛び上がると同時にコクピット内に警告音が鳴る

 

「レーザー警告!?」

 

母艦級・・・

それはその名が示す通り、BETAの母艦、本来この時点では未確認のBETA・・・

その内部には当然光線級も搭載されていた

 

『愛奈様ぁぁぁぁぁぁ!』

 

その叫びと共に吹雪の前に盾を持った不知火が立ちはだかる。

束となったレーザーは盾を砕き後方の吹雪をも貫く

 

『則守!!!!』

 

二機は抵抗なく落下する

 

「・・・!!ここからじゃ間に合わない!」

 

武は超低空で飛びながら弾を母艦級の方に120mmと36mmを放ち

モニクは援護するようにバズーカを放つ

 

『うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

一機の撃震が突如飛び上がり二機を掴んだ

 

「とった!?でもあの高さはまだ危険だ!」

 

『良くやった天田少尉!ヒゲ!』

 

『もうやっている!』

 

警告音が天田少尉を包む

 

レーザー光が天田少尉達に伸び・・・

 

 

 

 

 

拡散する

 

 

 

その周りにはキラキラと黄金色に輝く粒子が舞う

 

「・・・あれは・・・ビームかく乱幕!?・・・」

 

 

 

『『やはり!効果は絶大だッ!!』』

 

オリヴァーと文縁の声が重なる

 

 

 

天田少尉達の機体は地上に立つと同時に二発の砲弾が母艦級目指し飛ぶ

 

飛来する砲弾に向け光線級はレーザーを放つが空中に舞うビームかく乱幕に阻まれる

 

一発は母艦級を貫き、その巨体を後方に押し、崩す

BETAの集団が母艦級に潰され、母艦級の口は堅く閉じ他のBETAの出撃を困難にした

 

「母艦級を貫き、吹き飛ばす・・・何て弾使ってるだぁぁぁ!?」

 

武はその光景に驚く、軽く言葉を噛む

 

そして、もう一発は前方の要塞級を吹き飛ばし、弾は上に上がり、母艦級を掠るように外れる。それに驚いたようにその母艦級は地下へと潜った

 

『エインヘリャル1(ケニー)及び5(文縁)、国連軍教導隊(A-01)第7大隊第1小隊、帝国軍第13旅団133連隊第3大隊援護に入る!』

 

『こちらエインフェリア5(文縁)、初弾命中、敵未確認大型種撃破!次弾、上に逸れやがった、撃破ならず!温まった砲身に制御が追いついていない!それに周りの大型種が邪魔だ!』

 

武達は弾が飛んできた方向

 

東を見る

 

そこには、超大型の戦車が夕日を背負い疾走していた

 

「来たか・・・ヒルドルブ」

 

モニクはその戦車を見て呟く

 

『いまのデータを解析すれば、射撃プログラムを修正する事ができます』

 

文縁の報告にオリヴァーが返す

 

『で、今日射撃する分はどうすんだよ?』

 

『少尉の経験で修正してください・・・とは言いません、その手のデータは既にあります、直ぐにでも修正プログラムを書きそちらに転送します・・・主砲のデータを!』

 

『紀伊級45口径50.8センチ(20インチ)砲だ!頼む、俺に勘で修正できる程の腕はないし、こっちはBETA共で手一杯だかんな!』

 

オリヴァーはホバートラックに移しておいた過去の記録から大型戦車の射撃プログラムを出し素早く修正を加える。ここに来て過去の戦友の置き土産が役にたった。

 

「中々の大群さんだ。上等じゃねぇか。これなら普段の俺の評価が不当だってのが証明できるってもんだ!」

 

文縁はBETAの大群を前に意気込む

 

『よし、お前ら聞いたな?アーク1(ウィリアムズ中尉)、2(阿野本少尉)、3(ロス少尉)は中遠距離支援機“独眼”の特徴を活かし帝国軍を援護、主に光線級を優先。3大隊の第7小隊は教導隊(A-01)の連中を護衛、敵は近づけるな!第9小隊は帝国軍を救助。第8小隊は俺達についてこい!第603技術試験小隊は大物を一掃する!技術屋がプログラムを完成させるまでエインヘリャル5(文縁)を援護。ヒゲはデカブツ(母艦級)を抑えろ、お前の機体でしかアレはやれんだろう。技術屋は作業終了次第、戦況を全軍に伝達、出来るだけ混乱を抑えろ!』

 

ケニーの命令が戦場に響き渡る

 

『『『『『『『『『『『『『『『『了解!!!』』』』』』』』』』』』』』』』

 

 

 

叫びと共文縁は機体の性能を確認するかの様にヒルドルブの巨体を360度回転させ、ピタリと砲身を母艦級に向ける

 

「このTactical Mobile Tank(戦術起動戦車TMT-05)戦狼・・・ヒルドルブがただのデカイ戦車じゃない事・・・見せてやる・・・『こちら国連軍第603技術試験小隊エインフェリア5、今より榴散弾を放つ、各機は指定位置より離れろ!』・・・来たなBETA・・・殲滅戦と言うのを教えてやる」

 

文縁はオープンチャンネルで周囲の帝国軍衛士に注意をし

ヒルドルブの砲身を空中に向け無造作に榴散弾を放つ

空中で拡散した弾はBETAに鉛の雨を降らし、ビチビチと音を立てて殺していく

 

ヒルドルブの後ろを戦術機の上半身と下半身に車輪を着けた様な機体、『独眼(ドクガン)』が走る。この時代では見慣れないモノアイが赤く光り、機体の天辺に180mmキャノン砲と36mmの副砲、右腕に4連装120mm砲、左腕にクローアームが装備されている

 

『アーク1(ウィリアムズ)より僚機に告ぐ、オールウェポンフリー、180mmと120mmの嵐をBETA共に味あわせてやれ!』

 

『アーク2(阿野本)了解!』

 

『アーク3(ロス)了解しました』

 

『エインフェリア5(文縁)援護する』

 

スモークディスチャージャーの代わりに設置されたビームかく乱幕を前方に発射する。

それにより再び空中には輝く粒子が舞う

 

『(かく乱幕は)長くは持たねぇ!こっちは焼夷榴弾で足を止める!』

 

独眼の主砲と右腕武装が火を放ち、

それに答えるようにヒルドルブも焼夷榴弾を数発放ち小型種を焼殺する

 

 

○○●●●

 

第8旅団

 

突如のBETA襲撃により、帝国軍内の命令系統は混乱し、パニックが発生していた

 

『閣下、部隊の陣!崩れました!』

 

大隊長の一人が沙梁准将に報告を入れる

 

『ええい!何をしている、ならば立て直せ!』

 

『混乱していて、陣、形成できません!』

 

『私の大蛇はどうした!』

 

『BETA襲撃時に横転!一回転して正位置にありますが、操縦士の反応はありません!』

 

『誰か向かわせたまえ!あの大型種をやるのに大蛇は必要だ』

 

『現在の状況では・・・』

 

『ならば私が出る!』

 

沙梁准将はインカムを耳にかけ、立ち上がる

 

『後は任せる!春戸!』

 

沙梁准将は振り返るが立っているべき場所に春戸はいなかった

 

『(こんな時に何処に行った?・・・逃げたか!)我が不知火を出せ!』

 

『はっ!』

 

・・・

 

沙梁准将が不知火に乗り込むと

 

インカムを通し兵の動揺を察した

 

『どうした!?』

 

『未確認BETAの一匹が撃ち抜かれました?』

 

『打ち抜かれた・・・どういう事だ詳しく報告をしたまえ!』

 

『1時方向に発砲炎!団長、機影を確認!巨大な自走砲のようです!』

 

『見えた!でかいぞ!』

 

別の兵士が叫ぶ

 

『ザザ・・・こちら国連軍第603技術試験小隊エインフェリア5、今より榴散弾を放つ、各機は指定位置より離れろ!』

 

『こいつは、やばいぞ! 下がれ!!』

 

突如入ってきた通信から数十秒経って、砲弾の嵐が降り、BETAが炎に包まれる

 

『・・・まるで陸上の艦砲射撃・・・私へのあてつけか!』

 

沙梁は拳を強く握る。

彼が作った『大蛇』は戦況を引っ繰り返すための戦略兵器

そのコンセプトは動ける超巨大砲・・・

夢を実現するも、問題が残った

あまりに巨大ゆえに、鈍重

だが目の前にその問題を解消した兵器があらわれる

ハイヴに打撃を与えるほどの攻撃力は目の前の兵器には無いだろう

だが、そのスピード、旋回能力の高さ、そして数種類の弾による戦略の幅

技術者として沙梁の脳裏にある二文字が浮かぶ

 

 

〔敗北〕

 

 

<ドン!>

 

沙梁は力強くコクピットのパネルを叩く

 

『そんな事があってたまるか!私の大蛇の方が優れていると証明してみせよう!』

 

不知火はスラスターを吹かし沈黙した『大蛇』に向かう

 

 

○○●●●

 

15:42

 

『エインフェリア4(オリヴァー)まだか!?』

 

文縁は焦りを見せる

 

『もう少しです!』

 

『堅忍不抜でいろってか?』

 

『ヒゲ!前に出すぎだぞ』

 

ケニーが叫ぶ

 

『ハッ、このヒルドルブの実力見せてやるぜ!』

 

前線に近づくヒルドルブは突如変形し、人型の上半身をあらわにする。

その変形に周りにいる帝国軍衛士達は一瞬唖然とした。

 

『36mmと120mm食らっとけ』

 

腕に持った二丁の突撃砲を乱射する

見える範囲を虱潰しに打つ文縁。

 

休む事無く連射した突撃砲の弾数はスグに底をついた

 

『突撃砲が弾切れ寸前だ!自力で調達する!』

 

文縁はヒルドルブを大破した撃震に向かわせる

 

『良い銃だ借りるぞ・・・』

 

撃震の腕から突撃砲を抜く

 

『オラオラ!残りは何処だ!』

 

主砲から交互に榴散弾と焼夷榴弾を放ちつつ、突撃砲の弾をばら撒く

ヒルドルブを中心にBETAが殲滅されていく

 

『お待たせしました。プログラム完了です』

 

『よし!今出ている母艦級は帝国軍後方・・・ここから30km前後の距離か・・・ギリギリだな・・・だが無用心に頭を高く出しすぎだ!狙い打つぜ!』

 

両肩に付いたシャベルアームで機体を固定する

『APFSDS弾(装弾筒型翼安定徹甲弾)を食らえ!』

 

衝撃音が辺りに響き、砂塵が舞う

弾は直進し母艦級を貫く。劣化ウランで出来た弾は高温により溶け、母艦級は炎上した

 

それに反応するように最初に捕らえ損ねた一体が地中より再び現れる

 

『最後のお客か!』

 

ヒルドルブ内に警告音が鳴る

 

『チッ、撃ち過ぎたか?砲身がオーバーヒートし始めた!冷却が必要だが・・・もって後一発二発か!?』

 

状況に舌打ちをする文縁

 

 

『お兄様!』

 

 

『何だ!?』

 

女性の叫びに驚く文縁

 

『こちらアインヘリヤル4(オリヴァー)!今現れたBETAの近くにある移動砲台に向かう機影あり!』

 

『技術屋!識別コードは!?』

 

『・・・帝国陸軍第8旅団、団長沙梁義明(さはり=よしあけ)技術准将です』

 

『最高責任者が最前線で何やってやがる!!!?一番近い奴はどいつだ?』

 

ケニーの怒号が戦場に響き渡る。

 

『俺が行きます!』

 

天田少尉が名乗りを上げる

 

『頼む!小僧と嬢ちゃんはアマちゃんの道を作ってやれ!他は移動砲台に化け物(BETA)が向かわないようにしろ!ここで最高責任者がやられたら崩壊するぞ!』

 

『『『『『『『『『了解!!!』』』』』』』』』

 

○○●●●

 

その頃沙梁は『大蛇』に取り付きコクピットに入っていた

 

「・・・くっ、酷い状態ではあるが撃てないわけではない!」

 

『お兄様!もう止めて!』

 

妹からの通信が入る

 

『お前か、何のようだ?』

 

『お兄様、お兄様のやるべき事がおありでしょう?』

 

『そうだ、今から我が“大蛇”の有用性を実証しよう!』

 

『止めてください!もう良いのです!今お兄様がやるべき事は指揮ではなくて?』

 

『うるさい!お前には分かるまい技術者の意地が、沙梁家の長子としての義務が!』

 

沙梁准将はスイッチを入れ、弾を装填する。

コクピット内部はバチバチと電気が放電し、今にも破壊されそうであった

 

『いい加減にしろ!アンタの詰まらない意地が義務が!俺の仲間を死なすのを見ていられるか!?』

 

天田少尉の撃震が『大蛇』のコクピットに向かう

 

『ふん!一発あれば十分なのだ!この一発が!この一発さえあれば戦況を返せる!』

 

沙梁准将はトリガーを引く

 

蒸気を放ちながら砲弾が発射される!

 

だが、弾は砲身から放たれる事は無かった

 

そして砲身の天辺から暴発しはじめる

 

『不味い!』

 

天田少尉は素早く『大蛇』に隣接し・・・爆発に巻き込まれる

 

『天田少尉!!!』

 

一番近くにいた武が声を上げる

 

 

 

『・・・大丈夫です・・・』

 

『大蛇』の後方にコクピットを無理やり抜き取ったボロボロの撃震が現れる

 

 

『ハァハァ・・・沙梁准将は無事です』

 

画面には頭部から血を流す天田少尉が移る

 

 

『無駄な手間ばかりかけさせやがって・・・ヒゲ!』

 

『・・・一発あれば十分か・・・』

 

ヒルドルブの主砲が再び火を噴き

 

『へへ、惜しかったな・・・コイツが無かったら勝てたかも知れんなBETAさんよ!』

 

最後の母艦級を射抜く

 

『よし!小僧は素早くアマちゃんとボンボン准将を救助!残りは敵を殲滅、佐世保市を占領するぞ!』

 

 

この日、落ちし日ノ本にて

 

一匹の狼が遠吠えを上げる

 

それは日の出の始まりを歓喜する声なのか

 

人類の未来を悲しむ声なのか

 

誰にも分からない




TMT-05戦狼“ヒルドルブ”及びTSF-99TYPE-MS12独眼
――技術評価報告書

我が第603技術試験小隊はさる11月16日、四国九州長崎県佐世保市にて未確認巨大BETA『母艦級』の奇襲を受けし帝国軍を救援せし。TMT-05ヒルドルブの初弾は見事母艦級に命中、これを撃滅せし。されど二発目は熱された砲身により外れる。過去のデータを元に即座に射撃プログラムが組まれこの問題は解決せし。TSF-MS12独眼もその長距離射撃能力を遺憾なく発揮し、BETAを殲滅す。両兵器の威力抜群なりて、敵を翻弄せし。その戦闘能力を証明したと信じる。尚、ヒルドルブの砲身は連射により高熱化せし、冷却方法の検討をすべし。我々は引き続き列島奪還作戦を続行、佐世保基地の占領にあたる。
               ―西暦1999年、11月16日オリヴァー=マイ技術少尉


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第十四・五話=幕間3「戦場の休息」

茶番回

マージャン分からない人達はノリを楽しんでください。

そして、本当の地獄の前に一休み一休み(作者にとっても)。

ここまで読んでくれている方々に感謝を!


11月17日10:00

 

国連軍管轄下佐世保基地

 

一日が経ち、佐世保市及び、佐世保基地周辺は完全に制圧された

 

そして戦人達は束の間の休息をとっていた

 

<パチン>

 

右の耳にイヤホンを入れた文縁がリズムを取るように指を鳴らす

 

「はぁ~、しかし本当に休みくれねぇなこの部隊は、今日だって新しい兵器の調整が済み次第別任務だろ?」

 

<カタ>

 

目の前に牌を置く文縁

 

「軍隊なんてもんはそんなもんだろうが?」

 

「そりゃ、そうだがよ、てか今度こそ戦術機だろうな。戦車も男の浪漫回路が高速回転するが、やっぱ人型に乗りたいじゃん?」

 

「人型らしいぞ新しい兵器」

 

<カタ>

 

文縁に続き、牌をとってから、別の牌を置くケニー

 

「あ、その“發”ポンだわ」

 

「また、ですか・・・」

 

オリヴァーが呆れる

 

「げ、マジか!?」

 

そして武が焦りを見せる

 

そう、彼ら、603技術試験部隊の男衆は空いた時間で青空の下、

 

・・・・麻雀をしていた

 

4人は各々違った迷彩色の軍服を着、左腕にはAlternativeIVと書かれたバッジを着け、右腕には603rd Technical Evaluation Unit “Witch’s Pot”と書かれたコンバットバッジが光っている

 

「貴方達は何をしているのよ・・・」

 

そこにモニクが霞を連れて現れる

 

「麻雀という中国発祥のゲームです。ルールは日本式のを採用していますがね」

 

オリヴァーがそうモニクに説明する

 

「何か賭けているのか?」

 

「そ、それは・・・」

 

「ほぅ、私に言えない事か?」

 

言葉に詰ったオリヴァーをモニクが睨む。この夫婦間での力関係を垣間見る面々

 

「・・・コールネームの統一をすべく、そのネーム・・・「それと?」・・・給料です・・・」

 

「そう・・・傭兵!」

 

「お、おぅ。何だじょ「ルールブックは?」・・・

 

・・・そこに置いてあるぞ、たまに点数計算で必要だからな」

 

「借りるぞ・・・」

 

「「「は?」」」

 

モニクの意図が分からず聞き返す、武、ケニーと文縁

 

「・・・いいな?」

 

「「「「イエスマム!」」」」

 

男4人は敬礼する。その光景にどうするべきかオドオドする霞。

 

「・・・あー霞もこっち来いよ。ルール知らずに見て面白いか分からないけど」

 

「(コク)」

 

武の誘いに頷き、武が引っ張った丸椅子に座る霞

 

<パチンパチンパチンパチン>

 

「いやーノッて、来たねぇー」

 

更に素早く指を鳴らし、場を誤魔化そうとする文縁

 

「・・・しかし、今回も結構被害出たな・・・まぁ全てが司令官のせいではないにしろ、酷いもんだな・・・」

 

ケニーは七筒を切る

 

「司令官のせいでしょ完全に、どんな状況でも的確な指示をだす。奇襲されたから壊滅しました何て言い訳が通るわけないでしょ。今回も、前回も、司令官は完全に無能のクズね」

 

足を組み、本を読んでいるモニクはそう辛辣な事を言う

 

「しかし、それでも旅団一つで師団クラスのBETAを相手にできたのは、一重にあの大型移動砲台『大蛇』と正確な艦砲射撃指示と情報のおかげでしょう・・・我々の時もそれほどの支持(サポート)があれば・・・ヨルムンガンドも・・・」

 

武の記憶ではBETA新潟上陸にて、BETA旅団規模の奇襲により、帝国本土防衛軍の1個師団が壊滅した。それを考えれば今作戦においての帝国軍新兵器の有用性が伺える。そしてそれ以上に八幡浜市殲滅戦及び佐世保市制圧戦がいかに危険であったかが分かる。帝国軍一個旅団で両戦闘共にBETA数個師団を相手どった。これはBETAとの戦争始まって以来の快挙であると軍上層部は歓喜し大声を張り上げるであろう・・・

 

「あの砲台とヒゲが乗った戦車、それに新型の支援兵器が無かったらと思うとぞっとするな、俺達が殲滅されていてもおかしくなかった」

 

それでも、帝国軍第八旅団は5割の被害を被り、壊滅となった

 

「オレ達がもっと上手く立ち回れたら、被害はもっと抑えられたんだろうか・・・」

 

武はそう静かに呟く

 

「先、報告が入りましたが、今回ロンズ中・・・いえ今日付けで大尉でしたね。ロンズ大尉達と一緒に救援に来た天田少尉は先の戦闘で足をやられ。命に別状はないですが、重体だそうです・・・今後戦術機に乗れるかは分からないそうです・・・」

 

オリヴァーは言い難そうに天田少尉の状況を報告する。

 

「(・・・足・・・戦術機に乗れない程の怪我・・・あの靄・・・涼宮さん・・・因果・・・)」

 

武は何か、引っかかって、思考の海を泳ぐ。

 

「余り辛気臭い話すんの止めようぜ、おい武!」

 

文縁が空気をかえる様に叫ぶ

 

「タケル君、番ですよ」

 

「早くしろ小僧!」

 

「は、はい」

 

タケルは牌を拾う

 

「(一萬か・・・別にいらないけど・・・<―^v―>別の捨てるか・・・)」

 

タケルは余っていた東牌を捨てる

 

「(・・・)」

 

霞は静かに場を眺める

 

<パチンパチンパチン>

 

「いけ好かねぇ上官しかいねぇのかねぇ、軍ていうのは?暴走するわ、味方見捨てるわ、ここ最近の戦闘、禄な奴がいねぇ・・・603に入ってから本当に禄なことがねぇ、態々夕呼から距離とってたのも裏目ったし・・・」

 

はぁーーと深いため息を吐く文縁。

 

「おい、ヒゲそれは俺に対するあてつけか?」

 

「ポン、確かにアンタも上官になるが、別にお前の事を指しているわけじゃねぇよ。てかさ、俺達同時期に少尉で始まったのに何でグラサンとマイ夫妻が大尉で俺と武が中尉なわけ?」

 

文縁はケニーの捨てた一索を拾い、二索を捨てる

 

「知らんな。実際俺の大尉は隊長としてだろ、技術屋のは技術大尉、嬢ちゃんのも文官としての大尉だろ。武官としての大尉とは扱いが違う。後は他の仕事での功績じゃないのか?二人とも技術提供と外交、内政関係で功を上げてるからな、何気なく。そんな事いったら小僧の方が功績多いんだから、お前が中尉に上がるのが不当だろう。まぁどうちらにしてもこの昇進速度は異常だがな」

 

「クッ」

 

文縁はケニーの正論に黙る

 

「おっとグーの音も出ないくらいに凹ました感」

 

「何であんたがその台詞を知っている!てか実際に言われるといらつくな!!」

 

髪の毛を掻き毟る文縁

 

「何言ってんだヒゲ?それとあまり頭皮に刺激与えすぎると禿るぞ?」

 

「てか、文縁さん出番ですよ!」

 

武が文縁とケニーの口論に割ってはいる

 

「え、もう周ったのかよ早えぇよ!」

 

<パチンパチン>

 

「いいよ!もう俺は何も言わん!大尉良かったじゃないか、このミラーグラス大尉!」

 

「どんな返しだよ・・・」

 

ケニーのミラーグラスが光る

 

<カタ>

 

「ポン!」

 

文縁は再びケニーが捨てた牌、一筒を鳴く

 

「文縁さん、鳴き過ぎですよ、この半荘(ハンチャン)始まってからずーと鳴いてるじゃないですか」

 

「鳴けるから鳴いているだけだよ。お前だって始まってから2万5000(点)から変動してねぇじゃねぇか」

 

オリヴァーに順が周り、牌を切る

 

「悪いな、オーリィーその一萬、高目でロンだわ」

 

一筒x3、一索x3、發x3、南x2、一萬x2+一萬x1(ロン)

 

「対々(トイトイ)、三色同碰(サンショクドウポン)、混老(ホンロウ)、發、跳満(はねまん)、1万2000(点)」

 

「な・・・」

 

オリヴァー12800→800

 

「オーリィ、しぶといな」

 

「雀士の力量差を運がどこまで埋めてくれるのか・・・!」

 

前のめりになり力強くそう放つオリヴァー、それは過去の戦いを思い出させるほどの血気迫るものである。

 

「・・・ハッ、オーリィー世の中、運じゃどうにもならねぇ事もあんよ?」

 

挑発するように言う文縁

 

この時点でトップが文縁、2位にケニー、3位武、4位オリヴァーとなっていた

 

そして武の親であり、オーラス(最終局)である

 

「小僧、流石NTだ・・・その勘の良さは立派だ。全く振り込んでいない。だが勘の良さが命取りだな。臆病過ぎは勝ちを逃す、心に弱さを持っている内は危険だ」

 

ケニーはニヤリと武を笑うようにそう言い放つ

 

牌が配り終わり、皆が牌を整理していく

 

南4局オーラス、ドラ四萬

 

その際、武がニヤリと笑みを浮かべる

 

「おい、武、番だぞ、早く捨てろよ」

 

「・・・やっと風が吹き始めた・・・ダブリーだ!」

 

タケルは千点棒を乱暴に卓に投げ捨てる

 

「ダブル・・・リーチ・・・」

 

息を呑むオリヴァー

 

<パチンパチンパチンパチン>

 

「・・・急に来るね~・・・だがな・・・勝負はこれからだぜ」

 

牌を拾う文縁

 

 

その後、早い聴牌、そしてダブルリーチも虚しく、武は上がれずにいた

文縁は先の局と変わらずに鳴き続ける

 

そして運命の第6順目ケニー

 

「フッ・・・小僧、勇敢さの取り違いが隙を作る、勝負を焦るとどうなるか教えてやる・・・オープンリーチ」

 

三、六、九萬の三面待ちを開く

 

「なん・・・だと・・・?」

 

ケニーの手に武は息を呑む

 

「多面待ちのプンリーか・・・グラサン勝負に出たな・・・」

 

「しかし、タケル君は振り込んでも唯の2役・・・役満にはなりません」

 

「そうだな・・・もしかしたら一発があるかもしれんぞ」

 

牌を捨てるロンズ

 

「そうですね」

 

牌を拾い、手堅く安牌を捨てるオリヴァー

 

「・・・大丈夫・・・か・・・」

 

続いて牌をすてる武

 

「怖い怖い」

 

そういい裸単騎(一枚のみ)の文縁は牌を捨てる

 

そしてケニー

 

「一発・・・!!」

 

牌を拾い・・・そのまま捨てる

 

その瞬間安堵がオリヴァーと武を包む

 

「そう上手く行かんか・・・が、そのための保険だしな・・・」

 

 

・・・そして第11順目

 

「(この空気・・・耐えられない、早く来てくれオレの牌!)こいつで!」

 

牌を拾う武・・・

 

<――――^v――――>

 

その時武に電流走る!

 

「どうした武?あがっていないなら捨てろよ」

 

文縁が武を急かす

 

その一手に賭けた武、上がれば親続行、そして勝ちの可能性を残す

 

<が・・・>

 

「・・・お互い嘘か真か勘が鋭い者(ニュータイプ)同士だ・・・ククク、分かってしまうと言うのは時に辛いものだな・・・そして分かっていても回避出来ない事がある・・・」

 

武の手から牌が零れる

 

 

<駄目!>

 

 

それは・・・九萬

 

「クク、では失礼して・・・ロンだ・・・」

 

一萬x2、二萬x2、三萬x3、四萬x3、五~八萬x1+九萬(ロン)

 

「清一(チンイツ)、一貫(イッツー)、一盃(イーペイ)、平和(ピンフ)、プンリー、ドラ1、丁度・・・13役・・・数え役満、3万2000点だ」

 

マッチを打ちタバコに火を着けるケニー

 

そして武は力なくうな垂れる

 

「おぃ、武、絶望するのは早いぜ。頭跳ねはないからな、俺もロンでダブ(ル)ロンだわ」

 

南x3、白x3、中x3、六萬x3、九萬x1+九萬(ロン)

 

「混一(ホンイツ)、対々(トイトイ)、ダブル南、白、中(チュン)、倍満、1万6000だな」

 

<ぐにゃぁ~>

 

武の世界が崩れる

 

「これでトップは俺って事でコールネームはエインフェリアで決定な!いやー武の半月分の給料&オーリィーの1週間分はスタッフが美味しくゴチんなりやす!」

 

ニヤニヤとドヤ顔で二人を見下す文縁

 

「少年、技術屋。勝負の世界というのはそういう物だ・・・じゃ、払う物払ってもら「待ちなさい!」・・・なんだ嬢ちゃん、コールネームの事が不服か?嬢ちゃんと・・・ウサっ子も抜きで決めちまったが」

 

そう言いケニーは煙を中に吹かす

 

「いや、それは構わないわ・・・だけど、自分の旦那と弟分が給料を盗られる所をただ黙ってみている分けにも行くまい」

 

「しかしこの勝負既に付いているぞ、それにもう半荘やる時間もない」

 

「ならこのまま西入して西風戦をやりましょう」

 

「「!!」」

 

「点数持ち越しと言う事か?」

 

ケニーはタバコの灰を落としながらモニクに話す

 

「そうよ、私と社が入って、社の点数は2万5000にして、その分も差し引いてマイナスの全ては私が持つわ」

 

「な・・・マイナス4万3200点から始めるって事か・・・奥さん俺達を馬鹿にしてないか、そんなの西風戦、一戦で引っくり返せるわけがない!」

 

「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。素人の私と社、そして点数と一戦のみというアドバンテージ・・・」

 

「だからと言ってだな奥さん・・・「倍プッシュよ」・・・賭ける金倍にする気か!」

 

「まさか断ったりはしないわよね?」

 

モニクは立ち上がり霞に近づき、何か耳打ちする

 

その後、席に座る

 

「・・・霞、いいのか?」

 

武は隣に静かに座る霞に問いかける

 

「(コク)」

 

霞は静かに頷く

 

その目には闘志のようなものが窺える

 

<スゥーーーハァーーーー>

 

大きくタバコを吸い、吐き出すケニー

 

煙は卓に辺り、卓から零れ落ちる

 

「いいだろ、かかって来な・・・ヒゲも良いな?」

 

「勝ったら少なくとも大尉2ヶ月分の給料か・・・遊んで暮らせるな<ジュル>・・・いいぜ」

 

涎を拭き勝負を買う文縁、

 

モニクはオリヴァーの席に座り、霞は武と交代する

 

「さて、じゃ始めましょうか、ルールの変更をしたいわ」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「傭兵か黒藤どちらかが箱下(マイナス)になった時点で終了、途中流局は親流れ、そしてローカルルール有りで打ちましょう」

 

「ハッ、更に自分に不利な状況を作るか、舐められたもんだぜ、いいぜ。いいなヒゲ?」

 

親が速く流れると言うことはそれだけ勝負が早く終わってしまうという事、これはそれだけモニクの逆転のチャンスが少なくなるということである!

 

「俺も良いぜローカルルールはあった方が面白いしな」

 

 

西風戦第一局

一位黒藤文縁    60100(親・東風)

二位ケニー=ロンズ 58100(南風)

三位社霞      25000(北風)

四位モニク=マイ ―43200(西風)

 

文縁とモニクの差、約2倍!

 

無謀とも思われる一戦が始まる・・・

 

「・・・にしても、今日は“天気が良いな”」

 

「そうですね、たまにはユックリと太陽の下でこのような事をするのも良いでしょう」

 

オリヴァーが文縁の言葉に同意する

 

ケニー達は牌を洗牌(シーパイ)し、山を作ってく

 

各自壮絶な牌取合戦を行う

 

「あ・・・あ・・・」

 

ただ一人、霞は四苦八苦していた

 

「霞・・・オレがやるよ」

 

武が変わりに山を作る

 

「少年・・・積んでいないだろうな?」

 

「その言葉、ロンズさんにそのままお返しします」

 

「へっ、親はヒゲからだな、とっとと(サイコロを)振れ」

 

「急かすなよ」

 

文縁は人差し指と中指を曲げサイコロを二つ取る

 

そして振るう

 

目はぞろ目の1

 

「・・・(嬢ちゃんとウサっ子に邪魔されて『ニノニ』は出来なかったが、配牌は悪くないはずだ)・・・」

 

ケニーは無言で端の牌四つを分ける。『二ノ二』、それは予め牌を予定の場所に入れ、『ツバメ返し』という技で入れ替えを行い、一気に勝負を終わらせる、『イカサマ』!!

 

<パチンパチンパチン>

 

「にしても・・・奥さん、そんな短時間で読んだだけで大丈夫か?てか社ちゃんも打てるのか麻雀?」

 

「・・・大丈夫です・・・」

 

「ふん、見くびってもらっては困るな」

 

「嬢ちゃん番だぞ。間違って王牌(ワンパイ)から取るなよ?」

 

「わかっている!」

 

牌を拾い、二索を捨てるモニク

 

「ポンだわ」

 

「あ・・・」

 

悲しそうに霞は手牌を見る

 

「そういう事もあるよ、霞・・・(しかし、霞の手は酷いな・・・・この局は捨てたほうが良さそうだな)」

 

武は励ますように霞の頭に手を置く

 

「・・・はい・・・」

 

顔を赤くし、頷く霞

 

<パチンパチンパチンパチン>

 

「さっさと、もげろ・・・」

 

文縁の指パッチンが加速する

 

「何ですか・・・」

 

「その嫉妬はないだろう、ペドか?」

 

モニクの毒が飛ぶ

 

「紳士と呼びたまえ!」

 

が、全くそれをものともしない(変態)紳士黒藤文縁

 

「真正の変態だな」

 

「失敬な!俺はウサギっ子のみならず、義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテールお下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まであらゆる女性を迎え入れる包容力を持っているんだが?」

 

武、ケニー、モニク、そしてオリヴァーまでもが深い溜息を吐く

 

霞は一人分けがわからずにいた

 

そして静かに牌を捨てる

 

「分かった?社。こういう大人が半径15m以内に入ってきたら射殺しろ」

 

<パチン!>

 

「笑止!この俺をそんじょそこらの変態と一緒にしてもらっては困る!YESロリータ!NOタッチ!は紳士三原則だ!」

 

「そんな大人は修正してやる!」

 

武は大振りのパンチを文縁に食らわすが

 

「これが・・・若さか・・・」

 

ビクともせず堂々と受ける文縁

 

「ヒゲ・・・他の二つは何な「貧乳は希少価値!諫め、虐待、罵りは我らが業界ではご褒美です!」・・・腐ってやがる・・・修正が遅すぎたんだ・・・」

 

「て!今自分で変態なの認めましたよね!?」

 

武の鋭いツッコミが炸裂する

 

「さて、何の事かな?・・・グラサン、それポンだわ」

 

文縁はケニーが捨てた白牌を鳴く、この時点で文縁は一向聴(イーシャンテン)となる

 

「フフン、この局もいただきだな」

 

「そうかしら・・・」

 

モニクは自分の顔を隠すように片手に千点棒を掴む

 

「何が言いたい?」

 

「この国風に言えば・・・ホトトギスは鳴かされている事も気づかずに鳴いている・・・て所かしらね・・・リーチ」

 

「(早いな・・・ウサっ子の手に聴牌の雰囲気はない・・・が嬢ちゃんの手が早いのは、『ニノニ』の失敗が響いたか・・・)」

 

順は文縁に周り、手が進む。

これにより文縁、聴牌(テンパイ)

彼はモニクに一瞬目をやるとニヤリと笑う

 

「(ヒゲの待ち牌は最初のアレだろうが・・・生憎持ち合わせはない・・。振り込んででもヒゲに親を維持させるべきなのだろうが・・・自分の山を把握し、ああ笑っているわけだから・・・大丈夫だろう)」

 

ケニーは安牌を切る

 

そして、モニク

 

山に手を伸ばすモニクを見て、何かを確信したように文縁は再びニヤリと笑う

 

 

だが

 

 

彼女は牌を取った瞬間、それを裏返し親指で空中に弾く!

 

自然落下する牌を指で更に加速させ、卓上に叩き付ける

 

<ドン!>

 

その音と行動に一同驚愕し、固まる。

それはその場だけ衝撃波が出たような気さえする、そんな力強い叩き付けであった。

 

霞は目を丸くする

 

「・・・リーチ、一発、ツモ・・・のみ」

 

指は退けられ、そこには三萬が現れる

 

そしてモニクはそのまま、自分の牌を倒していく

 

「・・・1000、2000よ」

 

「あぁぁぁ、姉さん、客風牌(おたかぜ)だけどもう少し待って、萬子で揃えれば混一色(ホンイーソー)狙えて、満貫以上いったのにな」

 

悔しがる武、だが、この時、ケニー、文縁両名は背中に冷たい物を感じていた

 

「どうした?二人ともたったの1000、2000。青い顔をする程のものじゃないでしょ?」

 

<ゴクリ>

 

唾を飲み込む文縁

 

「・・・」

 

この時、文縁の上がり牌は

 

・・・三萬

 

「・・・(ヒゲはあの三萬が切られると思っていた・・・だが、嬢ちゃんの手札は三萬、頭待ち以外は字牌と筒子・・・少年の言うとおり容易く混一(ホンイツ)を狙えたのに、そうしなかった・・・役を知らないという線もあるが・・・流れを持っていかれるわけにもいかねぇし、仕掛けるか!)」

 

点棒の交換が住み、親はケニーへと流れる

 

セイコロの目は2・3の5

 

配付はケニーの山から始まる

 

「(手は悪くない・・・さて、確認のために么九牌(1・9・字牌)を多めに嬢ちゃんの所に送ったが・・・どう出る?役を全て把握しているなら混老(ホンロウ)、国士を狙う、もしくは九種九牌で場を流すが・・・)」

 

牌がきられる

 

そしてモニク

 

牌を拾いそのまま、切る

 

「(役牌の東牌・・・矢張り素人か?勘繰りし過ぎたのかも知れんな)」

 

霞の番

 

「カンです・・・」

 

西四枚の暗カン

 

「(国士無双は無くなったか・・・)」

 

そして、順は巡り、文縁

 

<パチンパチンパチンパチン>

 

「早めに勝負を終わらせて、飯食いに行きたいな」

 

そう言い、山に手を伸ばす文縁

 

「黒藤・・・牌を拾うのに、手に牌を持つ必要はあるまい?」

 

<ピクリ>

 

伸ばした手を宙で止める・・・

 

その掌には牌が一枚、収められていた

 

「ははは、捨て牌と拾うの同時に考えてたらこうなっちまった、ははは」

 

そう笑いながら牌を手札に戻し、再び山に手を伸ばす

 

この時、文縁が行おうとしたのは、手業芸の一つ、すり替え・・・

それは予め掌に収めた一枚を拾う時にすり替える、それにより邪魔な一枚を交換、手を加速させる初歩的不正行為

 

「それにそんな事をせずとも“八萬”が欲しいなら、言ってくれ。まぁ、生憎今は無いがな」

 

「・・・誰か呼んでる、気がする~来てよ八~萬~僕の所へ~♪」

 

歌って誤魔化してはいるものの、内心焦っていた

 

「どうして分かった・・・?」

 

ケニーがモニクに問いかける

 

<パチン>

 

モニクは指を鳴らす

 

「字牌」

 

<パチンパチン>

 

「筒子」

 

<パチンパチンパチン>

 

「索子」

 

<パチンパチンパチンパチン>

 

「最後に萬子・・・その後に続く言葉の最初の一文字で1~9又は字牌の何かを決める。この場合“さ”・・・三の萬子ね」

 

「な、じゃ、今までロンズさんと文縁さんは!」

 

「そう・・・イカサマね」

 

すり替え、積み込みだけではなく

 

通し、ローズと呼ばれる隠語を使い、ケニーと文縁はコンビ打ちをしていた

 

「これは・・・勝負の外道じゃないか!」

 

「何を勘違いしている、技術屋・・・勝負の世界に綺麗も汚いもありはしない。それに俺達が今までイカサマをしていた証明はない。“仮に”やっていたとする、その場合お前達は気づかなかった事になる・・・バレなきゃイカサマじゃねぇ」

 

ケニーは二本目のタバコを吹かし、空中に煙を吐く

 

強がっている物の、実際はここから先、小技が使えないという事である

 

「(ヒゲの手牌は聴牌の兆しはある、後の二人は手が悪そうだな。最悪聴牌まで持っていければ俺の親は流れるが、まぁ点数は貰えるな)」

 

 

・・・

 

そして、元々の積み込みにより荒れた手配は何の進展も見せず流局へと繋がる

 

「よし、聴牌だ!」

 

「同じく聴牌だ」

 

文縁、ケニー両名は牌を倒し聴牌を宣言する

 

「・・・何もありません・・・」

 

霞は不聴(ノーテン)

 

同じくモニクも無言で牌を裏に倒し、不聴を表示

 

「嬢ちゃんとウサっ子は1500の罰符だな」

 

一本場を示す、100点棒を取り出すケニー

 

「何を勘違いしている?」

 

赤い髪を顔の前から払いのけるモニク

 

「とっとと、2000、4000払いなさい」

 

モニクの前には綺麗に么九牌17枚が並ぶ・・・これにより

 

「流し満貫・・・」

 

が成立する

 

「傭兵、タバコが消えているぞ」

 

ケニーのタバコはギリギリまで吸われ、消えていた

 

 

そして親はモニクとなり

 

流れは変わる

 

モニクは止まらぬ早上がりを見せる

 

「・・・こちらの手を悉く潰してくれるな」

 

怒涛の巻き返しを見せるモニク

 

この時点、4人の点数は

一位、文縁32100

同位、ケニー32100

三位、霞18600

四位、モニク17200

 

モニク自身怪しい動きを見せるも、

ケニー達にはそれは指摘し辛かった

 

そして6本場(モニクが連続で上がっている)も中盤に差し掛かっていた

 

「まさか、あのマイナスを引っくり返されるとはな・・・奥さんやるね~」

 

文縁の手札は・・・悪い

 

「ここでその勢い、止めさせてもらう」

 

ケニーの手も同じく、けして良いものとは言えなかった

 

「その方が良かろう」

 

二人の言葉に同意するモニク

 

「なんだと?」

 

「貴様らは何か、重要な事を忘れていないか?私は“ローカルルール”有りと言ったんだぞ?」

 

「知っているよ、奥さん、だってまだ6本場だろ?」

 

「・・・ヒゲ、迂闊過ぎた・・・6本だが・・・嬢ちゃんの上がった回数は7回・・・」

 

<ざわ・・・ざわ・・・>

 

モニクが牌を拾う

 

「気づくのが遅かったわね・・・リーチ、ツモ、平和のみ・・・そして、これで8回目」

 

八連荘(ぱーれんちゃん)・・・

ローカルルールの枠を出ない、特殊な役満、それは一人が連続で8回上がる事で成立する

 

「1万6000オールよ」

 

ここでモニク、逆転!

 

一位モニク 65200

二位文縁  16100

同位ケニー 16100

四位霞   2600

 

西風戦7本場、親・モニク

 

 

「ちっ、これ以上やらせるか、まだ反撃の目はある!」

 

文縁が叫ぶ

 

各自理牌(牌を整頓)させ

 

「弱い犬ほど・・・」

 

「何!」

 

文縁はモニクを睨む

 

彼女は視線を無視し牌を置く

 

そして霞の番

 

「・・・」

 

「どうしたウサっ子?」

 

「・・・何もありません・・・」

 

九種九牌・・・場は流れる

最初の決め付け通り、モニクの親は流れ、霞のオーラス(ラス親)

 

「「クッ・・・」」

 

反撃のチャンスが少なくなり、厳しい顔をする男二人

ここに来て最初の取り決めが彼らを苦しめる。

 

再度、洗牌が行われる

 

「貴様らの敗因は・・・そうだなこの遊戯に的に言えば天地人と言った所だろう。人、確かに技術は貴様らのが上だろう、そしてこの遊戯を選んだ時点で地の利は貴様らが持っていた。だが、所詮、天も地も小手先の技術で作り上げた幻。一度崩せば脆いもの」

 

再び理牌が行われる

 

「もう、勝ったつもりか?」

 

ケニーが口のタバコを吐き捨てる

 

モニクは一瞬何かを考えるような表情をし、そして口を開く

 

「・・・もう、勝っているわよ。真の天命には勝てないわ」

 

「どういう意味だ・・・」

 

沈黙が卓上を支配する

 

・・・

 

・・・

 

・・・

 

「社ちゃん、親だから何か切らないと、始まらないよ?」

 

「どうした、ウサっ子また九種九牌とか言うんじゃないだろうな?」

 

「(フルフル)」

 

首を振るい、否定する霞

 

「じゃ、なんだ?」

 

「・・・いらない子がいません・・・」

 

「霞・・・お前」

 

後ろで手(牌)を除いていた武は息を飲む

 

霞は一つ一つ牌を倒していく

 

「まさか・・・」

 

ケニーは睨む

 

「嘘だろ・・・」

 

文縁の心臓は素早く鼓動する

 

「・・・和了(ホーラ)です」

 

「天和・・・運が打ち手の技術を補った・・・」

 

オリヴァーはこの状況にそう呟く

 

1万6000点オールにて

 

一位霞   50600点

二位モニク 49200点

三位文縁  100点

同位ケニー 100点

 

男二人の顔に影が指す

 

「戦は止めを刺すまで油断しない事ね・・・」

 

静かに最終局は進む

 

「(おかしい、ウサっ子の天和はともかく、八連荘は出来過ぎだ、何故俺達の上がり牌が尽く抑えられている?)」

 

<――――^v―――――>

 

何かを感じ、ケニーは霞を見つめる

 

「気づくのが、遅かったわね・・・バレなきゃイカサマじゃないんでしょ?・・・ツモ、食いタン、300、500で仕舞いよ」

 

そのやり取りに一足遅く、文縁はカラクリに気づく、そして最初、モニクが霞に耳打ちしていたのを思い出す

 

「リーディング・・・そしてプロジェクションか・・・最初から俺達は掌の上という事か・・・」

 

西風戦、最終成績

一位  モニク=C=マイ 50200点

二位  社霞      50100点

最下位 黒藤文縁    -200点

同位  ケニー=ロンズ -200点

 

 

「603技術試験隊の皆さん、調整完了しました、作戦に移行できます」

 

ピアティフ中尉が報告をするため皆が休憩している部屋に入ってきた

 

ピアティフは項垂れるケニーと文縁を見て不思議そうに尋ねる

 

「何があったんですか?」

 

ピアティフは近くに立っていたオリヴァーに質問した

 

「僕は今日見た、奇跡を言葉にする術を知らない・・・」

 

西暦1999年11月17日昼の出来事であった




西暦1999年11月17日

奇跡とは常に日常にあるものなんですね。

-オリヴァー=マイ技術大尉


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第十五話「封じられし悪の先に~前編~」

11月17日1200

国連軍管轄下佐世保基地格納庫

 

「久しぶりだな」

 

「元気にしてた?」

 

五十年代後半に入る中年夫婦の二人は人の目を避けるように一人の青年と会っていた

 

「やはり第八旅団にいましたか・・・義槍さん、歩さん・・・」

 

「父と・・・母とは呼んでくれないのだな」

 

男性の方は溜息を吐くようにそう呟いた

 

「・・・この愚息・・・そのような言葉は・・・」

 

「貴方は何時もそうね」

 

「階級を下げ、今度は国連軍か、何時まで道化を演じるつもりだ?」

 

「演じてなど・・・いませんよ。これが自分の本質です」

 

「そうか・・・アイツらには連絡をしているのか?話たがっていたぞ」

 

「・・・愚兄が弟や妹に言うべき言葉など自分には分かりません、元気にやっていると伝えておいてください」

 

「・・・血は繋がって無くても、貴方は私達の息子、我が家の長子よ」

 

「その心遣いだけで結構です。でなければ祖父の名を汚してしまいます。自分は任務がありますので失礼します」

 

「・・・お前は・・・」

 

そう言うと青年は一人格納庫から歩き出した

 

○○●●●

 

同刻

川崎協同兵器開発工場

 

「おじ様!私は反対です!断固反対します!!!」

 

篁唯依の張り上げた声が室内に響く

 

「ユイちゃん・・・君がどれだけ反対しようともこれは決定事項だ」

 

巌谷中佐は宥めるようにそう言う

 

「しかし、だからと言って他国の・・・米軍の衛士に我々の機体を任せるのは!!」

 

XFJ計画・・・撃震の耐用期限が迫り代替機として不知火の強化をする目的で巌谷中佐発案の元進められていた計画。ユーコン基地で行われている先進戦術機技術開発計画、通称『プロミネンス計画』に便乗する予定であった。だが、香月夕呼(白銀達)の技術提供により、その必要がなくなり。計画自体が凍結。逆に日本が新兵器開発をしたという情報を得た米国及び他国は川崎工場で作られている新兵器の情報を得るために手を打ち始める。その一つが米国開発衛士の派遣である。帝国陸軍参謀本部の大伴忠範(おおとも=ただのり)中佐は一方的にそれを許可。

 

「・・・という事だ、相手側からの資源資金ならびに試作機の提供もあり・・・実際一方的に計画を持ちかけ凍結させた我々にも落ち目はある。ここらへんが落とし所だろう」

 

「く・・・!!失礼します!」

 

篁はそう放ち、部屋を飛び出た

 

「ユイちゃん・・・まだまだ若いな・・・」

 

○○●●●

 

同刻

 

太平洋海上、米国軍空母

 

「日本製?そんなダサい物に乗れるか。乗らなきゃいいさ」

 

日系ハーフの青年、ユーヤ=ブリッジスがそう毒吐く

 

「そういうなよユーヤ、先方から届いた資料は読んだか?どうやったか知らないが性能が今までの戦術機と比べてダンチだぜ?」

 

チャラチャラした金髪白人男性のヴィンセント=ローウェルがそうコメントする

 

「だけど、俺達のヴァイパー、コブラ、ブラックウィドウII、アクティブイーグルを手土産にしてまで“乗せてもらう”価値があるのか?」

 

「お前の日本嫌いは相変わらずだな。だが、ここ1ヶ月で日本の技術は確実にトップ・オヴ・ザ・ワールドという噂だ」

 

ヴィンセントはそう言うと鼻歌を歌えはじめる

 

「カーペンターズかよ。俺は信じないぞ・・・日本なんか・・・」

 

ユーヤ=ブリジッスは憎しみを持った瞳で太平洋を見つめた。

 

○○○●●

 

同刻

 

603技術試験隊

 

佐世保国連軍基地、軍港

 

国連軍巡洋艦内ブリーフィングルーム

 

一同席に着きオリヴァーが開いた画面を見つめていた

 

「大空寺重工製作の99式機械化歩兵装甲(MFSA; Mechanization Foot Soldier Armoring)『猟犬』、“ハウンドドッグ”、全高(降着時) 3506mm(1603mm)、乾燥重量 5347kg、装甲厚 12mm、巡航走行速度 45.0km/h、限界走行速度92.5km/h、最大出力250馬力、最大トルク 62kg/m 、標準稼働時間 180時間」

 

画面に機体が表示される

 

「大空寺重工が開発した97式と第壱開発局が試作開発していた次世代機械化歩兵をプチモビから得た技術を統合し作られた機体です。電子器具類は御剣電工が製造。武装は12.7mm及び36mm重機関砲。追加武装は携帯用小型ミサイル、スクエア・クレイモア、マルチディスチャージャー、インプラントナイフ及びリボルビング・ステークと呼ばれるパイルバンカーです。尚、マルチディスチャージャーからはビームかく乱幕の射出が可能。他、追加装備として工作用器具、修理装置、追加装甲などがあります」

 

「パイルバンカーか・・・随分男臭い武器を搭載するんだな」

 

ケニーは書類を皆がらそうコメントする

 

「元々大空寺の方がパイルバンカーを97式の純正装備として開発したのですが、それを第壱開発局に所属していた方が改良したようです。コンセプトがF-4JT(撃震T型)のノーススターに近いですから誰の発案かはご想像にお任せします」

 

オリヴァーは両肩を上げ、ケニーに伝えた。

 

「・・・その件の奴がいないな」

 

ケニーは周りを見渡し、何時ものヒゲがいないのに疑問を抱く

 

「そういえば・・・何処いったんだ?」

 

武も言われるまで気づかなかった

 

「黒藤中尉でしたら、国連軍からお会いしたい人がいたみたいで先ほど私が案内いたしました」

 

ピアティフ中尉はそう答える

 

「黒藤が開発に多少なり関係しているなら、この説明は不要でしょう。オリヴァー続けて」

 

モニクは腕を組みながら急かす

 

「はい、このMFSA-99は従来の機械化歩兵装甲とは異なり、対BETA大型種さえ視野に入れて開発されました。流石に両腕に装着された12.7mmや36mmでは不可能ですが、リボルビング・ステークやスクエア・クレイモアならば大型種さえも撃滅できます」

 

画面にスクエア・クレイモアの構図が現れる

 

「今作戦では指揮官用が2機、通常型が4機が配備されます。指揮官用にはブレードアンテナが装備されそれにより通信範囲、索敵範囲を広めています」

 

「ちょっと待て技術屋、今回お前も機体に搭乗するんだろ?それにA-01の奴らも参加する」

 

部屋にいたウィリアムズ中尉、阿野本少尉、ロス少尉が肯く

 

「だと、俺、ヒゲ、小僧、お前、嬢ちゃん、プラス3人で8人。計算が合わないぞ?」

 

「元々MFSAの正式形式番号00、完成はしましたが量産は来年の頭に行う予定のものでした。それが何故か急かされ・・・ここに。故に6機しか間に合いませんでした」

 

事実来年に生産されるべきこの兵器は夕呼の頼み(脅し)により急造されたものである

 

「不安になる事・・・言ってくれるな」

 

顔に手をやり頭を振るうケニー。整備不良や調整不完全など嫌な言葉だけが脳裏に浮かぶ

 

「そして、数を補うために、第壱開発局の試作MFSAであった90と91が送られてきました」

 

「そこは、97式が送られてくるべきじゃないのか?じゃなければ旧式でも正式生産の89式が来てもおかしくないだろう?」

 

「お言葉ですが、ロンズ隊長」

 

「傭兵、我々の部隊名を忘れたか?」

 

マイ夫妻が何を今更という風に答える

 

「あぁ~そうだったな。そりゃ“技術試験隊”に正式兵器が送られてくるわけが無いわな」

 

「この試作機ですが、その後第壱開発局での改良が続き、“データ上”ではMFSA-97を上回ります」

 

「で、問題は何だ言ってみろ?」

 

疑いの眼差しでケニーはオリヴァーを睨んだ

 

「・・・操作性能が敏感で搭乗者を選びます」

 

「またか・・・」

 

ケニーは何気にこの頭を抱えた手は今日のブリーフィング中ずっと固定されたまま何じゃないかと思い始める

 

「で、適正的にはどうなんだ?もうデータ検証したんだろ」

 

「90には白銀中尉、91には阿野本少尉が適正かと」

 

「そうか」

 

「12.7mmバルカンと送られてきたMFSA用ヒートソードx2は両機とも装備しています。それに加えYMFSA-90は36mmマシンガン、対大型BETA用グレネード。YMFSA-91は胸部36mmマシンキャノン、小型の盾に加え、第壱開発局がここ最近開発したVariable Speed Anti-Material Rifle、通称VSAMR(“ヴィスアマー”:可変速対物ライフル)を装備しています・・・簡単に言えば電磁投射砲の技術応用です。速度調整により高速で貫通能力を上げたり、低速でダムダム弾のような威力を与えることも可能です。要塞級の破壊もできます」

 

スラスラとオリヴァーは武装の説明をする

 

「素晴らしい威力ね・・・でもやはり何かあるんでしょ?」

 

モニクはオリヴァーの説明を疑う

 

「・・・VSAMRに放熱、問題あり、2発目を放てる保障がありません」

 

「使い捨てか・・・」

 

ケニーは画面を睨む

 

「・・・以上です」

 

オリヴァーは席に着き、モニクとピアティフが前に立つ

 

「今回の任務を説明するわ、先ずは・・・「遅れて現れてジャジャジャジャーン☆」・・・黒藤中尉かさっささと席に着け」

 

滑った空気に耐えられず大人しく席に着く文縁

 

「さて、先ずはまだ正式に今作戦のために配属された者達の自己紹介を」

 

衛士三名が前に出る

 

ウィリアムズ中尉が敬礼をする

 

「元A-01第1中隊所属キッド=ウィリアムズ中尉だ!ポジションは制圧支援(ブラスト・ガード)」

 

続いて阿野本

 

「元A-01第2中隊所属阿野本海少尉、突撃前衛(ストーム・バンガード)です」

 

最後にロス少尉

 

「元A-01第3中隊所属セシリア=ロス少尉です強襲前衛(ストライク・バンガード)」

 

「何とも淡白な自己紹介だな、そこの亜麻色の彼女はスリーサイズと初体験談でも」

 

「え?」

 

ケニーの問いに引き阿野本少尉の後ろに隠れるロス少尉

 

「♪優しい彼の元へ~、引いた戸惑いは 恋をしているから~♪青色の引き顔 セクハラ~♪」

 

文縁は突如歌いだす

 

ロスは阿野本に更に近づき、怯えるように腕を掴み、

 

「♪リア充な二人は~ 「「死☆ね♪!」」

 

そして鬼の形相で睨むケニーと文縁

 

<パコン!パコン!>

 

ケニーをピアティフが、文縁をモニクがクリップボードで殴る。

それを見て霞のウサギ耳はピーンと伸びる

 

「新人を脅す真似は止めろ、そして見苦しいぞ黒藤!」

 

「チッ、既婚者は余裕ですな」

 

「何か言った?負け犬?」

 

「クッ・・・おいグラサンお前も何か言えよ」

 

援護を求め振り返る文縁・・・がそこで見た状況は文縁にとって地獄でしかなかった

 

「・・・おぃおぃ、イリーナ痛いぞ、本気で殴ったな」

 

「・・・知りません、ケネスのバカ・・・」

 

怒って顔を赤くするピアティフ

 

唖然とする603の面々

 

「は!?いや、ケネスぅ!?「本名だぞ、知らなかったのか?」いやいや、それより何時そんなフラグ立ったよ!?」

 

あたふたとする文縁

 

「神 は 死 ん だ !」

 

腕を組みながら高らかに宣言する武

 

「お前が言うか!この鈍感ハーレム優柔不断チ●コ!」

 

文縁の拳が武に飛び、席から飛ばされる

 

「痛!何その理不尽!?」

 

地面に倒れ、頬を押さえる武

 

「ブ○リーがトラ○クスを殴るみたいに殴るぞ!」

 

「殴ってから言わないでくださいよ!」

 

そして追撃する霞

 

「何で霞も殴るんだ!?」

 

ボコボコにされる武を横目に文縁は席から崩れ落ちる

 

「・・・もう疲れたよ大吾朗〔見えない大型犬ぽい何かを撫でる〕、あぁ、北島の親父(演歌の)が迎えに来た(*死んでいません)・・・」

 

・・・

 

「あ、あのマイ技術大尉・・・これは・・・」

 

ウィリアムズは比較的冷静な態度を保つオリヴァーに問いかける

 

「ウチ(603)ではこれが平常運転です、貴方がたも一時我々の部隊に編入されるわけですから慣れてください。603は実力さえあれば性格は問いません」

 

「「「はぁ・・・」」」

 

ウィリアムズ達3名の溜息が部屋に広がる

 

「では、続けるぞ、三人は席に着きたまえ、黒藤、今作戦が終ったら女性を紹介してやる」

 

全く根拠の無いでまかせを吐くモニク

 

「マム、イエス、マム!」

 

素早く席に戻り、真直角、背筋を伸ばし、座る文縁

 

「おぃ、武!地面でヘタリこんでないで早く席に戻れ」

 

「何たる理不尽・・・」

 

未だジリジリと痛む頬を撫でる武

 

・・・

 

「では、香月副指令からの指令を伝えます『第603技術試験隊はこれよりMFSAを使い佐世保基地国連管轄区に進軍。基地内に未だいると思われるBETA群を殲滅。そして放棄された731部隊の研究資料及び研究成果を回収せし』との事です」

 

「!!・・・」

 

今までお気楽な雰囲気を出していた文縁は作戦内容を聞き顔色を変える

 

「731部隊・・・?・・・!!731!!」

 

同じく咄嗟に部隊名を連呼してしまう武

 

731部隊の名前を聞き文縁と武が反応する。武は自分の記憶の奥底、学生をやっていた時の記憶が蘇る。そして、それが正しければ「731」の名はけして良いものではない。

 

「黒藤とタケルは知っているようだな」

 

その二人の反応を見てモニクは二人に問いかける

文縁はユックリと口を開く

 

「関東軍防疫給水部本部、通称・・・満州第七三一部隊。大東亜戦争(第二次世界大戦) 時に満州周辺に拠点をおいていた。表面上は防疫給水の名のとおり兵士の感染症予防や、そのための衛生的な給水体制の研究を主任務としていた。だが裏では細菌戦に使用する生物兵器の研究、開発を行う機関・・・非人道的な人体実験も行い・・・戦争後速やかに解散されたとされる部隊」

 

「と、されるか」

 

ケニーはそう返す

 

「・・・噂では何処かで再編成され、生物兵器の開発、人体実験、人体強化などを続けたと聞いたが・・・ここか・・・」

 

「・・・生物兵器に人体強化ですか・・・」

 

武は自分が知る歴史との相違について考えていた・・・彼が覚えている限り、731部隊は第二次世界大戦後全く歴史には現れぬ部隊である。だが、この世界ではそうでは無いらしい。

 

文縁は続けて語る

 

「ああ。これは推測だがな。もしここでその研究が行われて対BETAを目的とした物が作られていたとなると相当ヤバイ生物兵器があると見て間違いないだろ。まぁ、人体強化も大空寺の所で無限力(ナユタ)つう分け分からん研究も行われてるくらいだしな。つまりはそれ以上に意味不明な研究が行われていてもおかしくないつう事だわ」

 

「余りピンと来ないな、実際目に見ていないからその731部隊ってのがどれ程酷いものなのか」

 

ケニーは文縁の説明に頭を傾げる

 

「・・・そうですね、オーガスタ研究所とかEXAM研究所を二乗に悪化させて、“人権何それおいしいの?”みたいにしたと言えば、ロンズ大尉、オリヴァーさん、モニク姉さんには分かるじゃないかと」

 

武の例えに三人は苦い顔をする・・・二つの研究所はNT研究や対抗のためかなり無茶をた(している)研究機関である。

 

「成る程言いたい事は何とか分かりました・・・技術を冒涜する・・・忌むべき物ということですね」

 

そしてオリヴァーは技術者として武が言わんとする事を一番理解していた。それ故に、731部隊がいかなるものか想像しやすく・・・そして嫌悪する。

 

ピアティフとウィリアムズ達は全く知らない機関名を出され首を傾げる

 

「・・・それでは今作戦を説明する前に現状報告だ。TSMT-05ヒルドルブ(戦狼)はこのまま現地配備される。パイロットは国連軍の江戸川少尉という戦車隊の者だ」

 

「ちょっと待ってくれよ奥さん、ヒルドルブはこのまま603に配備されんじゃないのか?てか俺、また乗る機体が無いんですけど!?」

 

武達と違いMSの搭乗機を持っていない文縁は慌てる。

 

「ヒルドルブは元々量産予定機、そして今試験が最終試験だったからな。心配するな、今作戦終了後、川崎で試作戦術機を受け取る事になっている。それと今回の戦闘でF-4JT(撃震T型)は完全にオーバーホールしなければならない。まぁ運が良ければヅダの改修が終っているはずだからタケルの方も問題はないでしょう」

 

「・・・暴走したシステムはに関しては・・・?」

 

「・・・説得しました・・・」

 

武の疑問に霞が答える

 

「・・・と言うことだ、MS(戦力)をこれ以上遊ばせておくわけにはいかないからな。でわ、今作戦について。ピアティフ中尉」

 

「はい」

 

ピアティフは画面に佐世保基地のブルーマップを出し

それを指しながらモニクが説明を始める

 

「佐世保基地国連管轄区。元々の地図には書かれていないがこの基地には地下が存在する。入り口は三ヶ所。北、西と東だ。構造から北には司令部、西に倉庫、東に研究所があると思われる。中央部にもしロックがかかっている場合構造上それら三箇所からロックを外さなければならない。故に我々は部隊を三つに分け各入り口より進入する。通路はバウンドドッグでも移動可能だが場所によってはES(Exoskeleton)を脱ぎFP(Feedback Protector;準等身大の軽装備)で探索しなければならぬ場所もある。ホバートラックの索敵では生体反応や震動音があるため小型のBETAがいる事は確認。そうよね、オリヴァー?」

 

「はい、ただ、それ以外にも波紋が一致しない震動音があるため基地防衛システムが生きているか他に何かいる可能性があります」

 

「他に何かって何だよ?」

 

ケニーが疲れたような声で聞く

 

「調査中だ。関係あるかどうか分からんが先の調べではここ最近何者かがこの基地に潜入した跡が残っている」

 

モニクは報告書をめくりながら答える

 

「BETAがウジャウジャいる所に自ら飛び込む奴がいるとわね~余程素晴らしい宝でも眠っているのか?」

 

「パンドラの箱かも知れないわよ?」

 

「絶望と厄災か?」

 

「最後には希望があるでしょ?」

 

「“一繋ぎの大秘宝”ならまだしも、一握りの希望のために飛び込みたくねぇなぁ」

 

文縁は一人やる気なく答える

 

「・・・危険です・・・」

 

霞は呟く

 

「ほらな~社ちゃんも危ないってさ・・・」

 

「最初は勢いがあったのに、失速しているな黒藤。そんなに昼間(麻雀で)負けたのが悔しいか」

 

モニクはニヤニヤとし、勝ち誇ったように言い放つ

 

「・・・・・・アンタに黒藤の悲しみの何が分かるっていうんだ!こちとら二ヶ月は冷や飯だぞ!!!」

 

「はいはい、ではロンズ大尉殿編成を」

 

「あいよ」

 

モニクに変わりケニーが前に立つ

 

「先ずはホバートラックの索敵結果だ」

 

基地地下の地図が各地点滅する、北が若干多く、次に西、そして東である。そして地下中央下の付近はシグナルが完全に消滅している。

 

「見ても分かる通り。パーティは北が一番盛り上がっている、次に西そして東だ。編成は地上ホバートラックにCP(コマンド・ポスト)としてイリーナ、索敵にはウサっ子、第一分隊がMFSA-99S(指揮官用)俺とMFSA-99ヒゲ。第二分隊がYMFSA-90小僧、MFSA-99嬢ちゃん、MFSA-99技術屋。技術屋のバウンドドッグは工作、修理仕様だ。そして第三分隊がMFSA-99Sギッド「キ、キッドです大尉!」・・・ああ俺は名前覚えるの得意じゃねぇんだよ、MFSA-99姫ちゃん「え、私ですか!?」とYMFSA-91は普通で「ちょっ、まっ」、陣形は各部隊臨機応変に行え」

 

A-01の三名の動揺を無視しマイペースにブリーフィングを進めるケニー

 

「第一は北、第二は東、第三は西から進入。見敵必殺(サーチ&ディストロイ)しながら情報収集。最終目標は中央地下だ」

 

「はい!ケニパチ先生!」

 

右手を勢い良くあげる文縁

 

「誰がケニ八先生だ」

 

「一番敵が多い場所に一番戦力が低い面々(文縁とケニーのみ)が行くのはどうしてですか?」

 

「何だ?嬉しくないのか、手柄は取り放題だぞ?」

 

「・・・僕は死にたくありましぇ~ん!!」

 

「101回異議を唱えようとも決定は変わらんぞ。それに今日の朝、昇進が云々ほざいたのはお前だろ」

 

「余計な 事を 言ったね~♪」

 

武が歌いだす

 

「大量の無茶や無理も~まるで俺を試すような~♪」

 

文縁が繋げる

 

「何度も言うよ~君は確かに~ 選択肢が無い~ 迷わずに~ SAY  YES 迷わずに~♪

 

てか、ヒゲ命令の拒否権がお前にあると思うのか?」

 

ケニーは急に冷めたように言い放つ

 

「ですよねー」

 

「「「(本当に、なん、なんだこの部隊・・・)」」」

 

A-01の三名は言葉を殺し、不安になる

 

「実際歩兵戦闘経験が豊富な俺達二人で北は対処した方が得策だろ。お前以外は機械化歩兵装甲の訓練時間はそこそこ150時間だからな。それに、喜べ!MFSAは漢装備にしてやる」

 

「漢装備って・・・てかMFSA!!!・・・人型だけどさ・・・また戦術機じゃないのかよ・・・」

 

「いくら基地地下が広くても戦術機が使えるわけないだろう黒藤、お前の脳はそんな事も考えられんのか?」

 

モニクの毒が文縁に止めを刺す

 

「では、総指揮は俺、第二は小僧、第三はギッドが指揮。ギッドやれるな?」

 

「はい!任せてください!」

 

ウィリアムズ中尉がそう答える

 

「よし!1300時までには出れぞ!各自解散」

 

<バッ>

 

各員敬礼をしブリーフィングルームを後にする

 

 

 

 

○○●●●

 

同日12:30

 

佐世保基地、地下

 

???

 

包帯姿の男がガラス越しに気味の悪い、植物とも動物とも言えぬような生物を前にニヤニヤと笑う。

 

「これが真実か!素晴らしい・・・フフフ村井博士・・・貴方の研究は私が日の当たる所へと導こうではないか・・・」

 

<ビービービー>

 

警告音が鳴り響き、それに反応するように生物のツタが動き真ん中の花びらが少し開く・・・

 

「・・・まだ完全に目覚めていないようだな・・・さてとオーディエンス(観客)を盛大に持て成そうではありませんか」

 

男は優雅にオルガンを弾くかの如く目の前のキーを叩き始める

 

「・・・(た・・・け・・・て)・・・」

 

生物は再び寝るように蕾を閉じる

 

 

○○●●●

 

同日12:45

 

横浜基地、香月研究室

 

春戸醜通(はるど=しゅうつ)年齢不明、推定40歳、男性

第731部隊所属。技術者として雇われ、正規の方法で入隊していないため階級はない。主に731部隊が作った技術を試験的に運用し評価、記録する仕事を行っていた。去年[1998年]の北九州BETA襲撃時に行方不明となる。

 

「何よ、これ殆ど分からないって事じゃない」

 

夕呼はその他の資料を見るが全く有用な情報がないのを確認すると、資料をテーブルに投げ捨てる。

 

「ふぅ~、これはこれは手厳しいですな香月博士、私が汗を垂れ流しやっとの思いで突き詰めた情報なのですが」

 

一昔前の探偵の様な格好をした胡散臭そう男はそう呟くと

茶色いロングコートを直し、パナマ帽子の位置を直す

 

「帝国のほうでも掴めない相手ってことね」

 

帝国情報省外務二課、課長鎧衣左近(よろい=さこん)は肩を上げ降参のポーズを取る

 

「他には・・・春戸は731部隊の村井博士の研究に多大な興味と関心をもっていたとのことです」

 

「村井・・・脳神経学者・・・元々は生物学者だったからしら・・・相当の異端者と聞いたわ(00ユニットも彼の研究を参考にしている箇所がある)・・・興味ないから余りしらないけど」

 

「そうですか・・・では、私も手ぶらでは帰れないので」

 

「何よ?こんな曖昧な情報で報酬を強請る気?」

 

「いやはや本当に手厳しい・・・」

 

鎧衣課長は研究所を出る素振りをし、

振り返る

 

「では、一つだけ・・・シロガネタケルは白銀武なのですかな?」

 

「!・・・アンタ何言ってんのよ?」

 

不可思議な質問に夕呼は眉をピクリと動かす

 

「いやはや、失礼、間違えました、噂のシロガネタケルは今何をしているのかと聞きたかったのですよ」

 

「・・・白銀なら、九州よ」

 

「・・・ふむ、佐世保と言った所ですか、成程、故に731部隊・・・では私は失礼させて貰います」

 

ふむふむと唸りながら、立ち去ろうとする鎧衣

 

「おおっと行けない、博士これを」

 

何処からともなく茶色い布に巻かれた長物を取り出し夕呼に渡す

 

「先日アフリカに行きまして、その時のお土産です、シロガネタケルにでも渡してください」

 

「何よこれ?」

 

「コテカと呼ばれる物です、では私はこれで」

 

そして、足音も立てず鎧衣は去った

 

「・・・後で白銀の部屋に送らせておきましょう・・・(春戸・・・村井に・・・731部隊・・・まだパズルのピースが足りない感じね)・・・」

 

○○●●●

 

同日13:00

 

第二分隊東口研究所前

 

『エインヘル・・・フェリア2(武)準備完了何時でも突入できます』

 

『3(モニク)、同じく行けるわ』

 

『4(オリヴァー)もです』

 

『こちらエインフェリア1(ケニー)了解した。おいヒゲ準備は良いか!?』

 

『・・・機関砲にリボルビング・ステーク、スクエア・クレイモア・・・そしてバウンドドッグ・・・俺は“むせる”と言うべきなのか“分の悪い賭けは嫌いじゃない”と言うべきなのか』

 

『ヒゲバカ[エインフェリア5(文縁)]も大丈夫そうだ、ギッド!』

 

『アーク1(ウィリアムズ)行けるぞ!』

 

『アーク2(阿野本)大丈夫です』

 

『アーク3(ロス)オールグリーン』

 

『・・・エインフェリア6(霞)準備できました・・・』

 

『こちら・・・「ヴァルキュリアでFA」・・・ヴァルキュリア(CP:イリーナ)より各機へ。映像記録器具はエインフェリア4(オリヴァー),5(文縁)、及びアーク3(ロス)が所持。破壊されないように気をつけてください。再度確認します。今作戦第一目標が731部隊の記録回収、第二目標が基地地下制圧です。これよりミッション開始します』

 

文縁は勝手にイリーナのコールネームを決める。

一応その部分では麻雀に勝った特権なのであろう。

 

『・・・エインフェリア1(ケニー)より。ここは嫌な雰囲気がする決して油断するなよ』

 

「武も感じるか?」

 

モニクが武に問いかける

 

「ああ・・・ザラついた感じがする・・・シャア大佐ともハマーン様とも違う何かが・・・」

 

『・・・皆さん・・・気をつけてください・・・』

 

『よし!603出撃(で)るぞ!』

 

ケニーの声を皮切りに武は扉を撃ち蹴り破る

そして開いた扉に向かいモニクがグレネードを一発打ち込む

その爆発の後に別の場所で爆発音がする

 

「あちらも、始めたみたいですね」

 

武は先に内部に入り12.7mmを撃ち始める

 

「ああ、邪が出るか蛇がでるか」

 

それをモニクが追い

 

「何か危険な臭いがしますね・・・」

 

オリヴァーは記録カメラのスイッチを入れ

ピントを合わせるモーター音が静かに鳴る

 

「・・・MFSA-99“猟犬”の実戦試験の記録開始します」

 

3人は基地の中に消えていく

 

○○●●●

 

同日1305(突入より5分経過)

 

第一分隊北側大広間

 

 

「ただ打ち貫くのみ!」

 

文縁はリボルビング・ステークを近くのBETAに打ち込み振り払うように吹っ飛ばすと肩部のスクエア・クレイモアを解放する

 

「遠慮すんな、全弾持ってけ!」

 

弾は縦横無尽に部屋を駆け巡る、べアリング弾はその性質上跳弾し部屋内をくまなく覆いつくす。

 

そして、静まった部屋には動くものは無くBETAの死骸が横たわっていた

 

「・・・エリアクリア」

 

文縁はそう言うと機関砲を地面へ向ける

 

「ヒュー、凄い威力だねぇー。切り札みたいだが早速使って良かったのか」

 

ケニーは周囲を探索する

 

「ああ、どうせコイツ(スクエア・クレイモア)の使える所なんて限られてくるしな、こういう室内での殲滅戦くらいでしか使い道ないからな。奥にいって重要機材やPCがある所じゃ絶対使えねぇし、合流したらフレンドリーファイアー(誤射)の危険性があって使えたもんじゃねぇよ」

 

「また欠陥兵器か・・・・それにしても、お前が人型兵器で戦う所を見た事ないが・・・中々の実力だな軍での評価以上じゃないのか?」

 

「・・・面制圧と接近戦は比較的得意なほうだけどなぁ・・・でも、買い被り過ぎだ。今回はコイツの機体性能と戦闘状況のお陰・・・そういうならアンタだってベアリング弾に当たらなかったBETAだけ狙って撃っていたじゃないか・・・どんな神業だよ・・・」

 

「年季が違うんだよ年季がよ」

 

「流石最年長者。その毒牙でピアティフちゃんを・・・許せん!」

 

「なんだ狙っていたのか?て、本気でロックオンするな!<パン>て撃つな!!!」

 

ケニーは咄嗟に避け36mmは宙を切る

 

「いや、俺はまりもん一筋だ!」

 

「まりもん?・・・ああ、教官ちゃんか・・・なら良いじゃないか」

 

「それと、これとは話は別だ!我は全国の一人身を代表しお前を討つ!覚悟「おい!ヒゲこれを見ろ!」往生際が悪いぞケニー・・・いやケネス=ロンズ!「良いから、来い」・・・ノリ悪いな、何だよ」

 

ケニーの銃が死骸を指している

 

「・・・人・・・か?」

 

それは辛うじて人のような形をした死骸。

その腕と足は異形であり、人には到底見えない

 

「ああ、そして、サーモ(グラフィ)で見れば分かると思うがまだ温かい。つまり先まで生きていたという事だ」

 

「BETA群に人間・・・有り得ない」

 

「・・・やはりこの世界の人間としてはそういう反応か・・・データをイリーナに送り解析させ・・・」

 

<――――^v―――――>

 

何かを感じ一瞬息を止めるケニー

 

「どうした?」

 

「いや、入る前から嫌な雰囲気はしていたが。中々素晴らしい殺気と狂気がこの先に広がっている、俺達はテリトリーに入ったみたいだな・・・行くぞ!」

 

「応!」

 

二人は次の部屋を目指す

 

○○●●●

 

同日13:11

 

第三分隊

 

倉庫

 

ケニーと文縁のギャーギャーと叫ぶやり取りが通信の先から聞こえてくる

 

[・・・キッドさん・・・どう思いますか彼ら?]

 

阿野本は秘密(プライベート)回線を開きウィリアムズに問いかける

 

[・・・正直副指令のパラノイヤ(被害妄想)だな・・・監視しろと言われたが、何か策謀している気配なんぞ微塵もないぞ]

 

[中尉・・・それ自体が演技ではなくて?]

 

ロスがそう疑うが

 

『<パン>!オイ!mす、ヒゲ、ふざけんなきいてんのか?』

 

『ヒュ~、何の事ですかな、どうやって俺が撃ったって証拠だよ!?』

 

『良い度胸してんな?喧嘩売ってんだな?そうなんだな?買うぞ?ああ!?』

 

『いい加減にしないか!傭兵!道化!』

 

モニクの一括と共にガミガミと説教が始まり、ケニー達の声は次第に小さくなって行く

 

[・・・あれが演技だと思うか・・・]

 

ウィリアムズは呆れ顔でロスに問いかける

 

[・・・]

 

ロスは言葉を失う

 

[・・・二人共BETAが来ます!!!]

 

「俺はあいつらを信じる事にするぜ!この地獄(セカイ)をどうにかしてくれそうな気がする!」

 

そう叫びウィリアムズは飛び出す

 

阿野本とロスの二機は後を追い、

 

三機はBETAに突撃する

 

 

 

603は薄暗い闇の奥へと潜る

 

731部隊

 

人型の化け物

 

村井博士の研究

 

そして狂気の男・・・

 

 

彼らは先に待つ本当の悪意に

 

 

まだ気づいていない

 




99式機械化歩兵装甲(MFSA)『猟犬』、“ハウンドドッグ”及びMFSA-99S指揮官機
――技術評価報告書

我が第603技術試験小隊はさる11月17日、四国九州長崎県佐世保市にて99式機械化歩兵装甲及び90式、91式試作機械化歩兵装甲を授与。我々は指令通り、佐世保基地国連管轄区の地下へと侵入す。12.7mm及び36mm機関砲は小型BETA種に抜群の威力を発揮。リボルビング・ステークもデータ上大型種をも撃滅できる威力があると推測される。スクエア・クレイモアは室内でその面制圧能力を大いに発揮す。しかし、当初の疑惑通り、誤射の危険性は拭えない。我々は引き続き機械化歩兵装甲、新武装の試験評価及び佐世保基地地下の探索を続行す。
               ―西暦1999年、11月17日オリヴァー=マイ技術大尉


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第十六話「封じられし悪の先に~後編~」

グロ注意
人間の悪意に注意


西暦1999年11月17日13:30

 

日本帝都、???

 

「大尉・・・仕留め損なったそうだな・・・これで二度目だ。我々とて何度も貴様の失敗を見逃す程寛大ではないぞ?・・・まさか、討てない理由でもあるまいな?」

 

「BETAでも、米国軍でも、国連軍でも、殿下に危害を加えるものあらば・・・斬る」

 

そう言い放ち、沙霧は部屋を出る

 

「殿下に危害を加えるものあらば・・・ですか・・・」

 

部屋にいた下士官がそう呟く

 

「川本の調整はどうなっている?」

 

「春戸が例のものを手に入れれば更に安定するかと」

 

「ふん、あの狂人か、今やBETAの巣窟である佐世保基地にいった筈だな?」

 

「ミイラとりがミイラにならなければ良いのですが」

 

「駄洒落のつもりか?」

 

男は春戸の姿を思い浮かべながらそう答える

 

・・・

 

「・・・しかし、超越強化兵士計画か・・・冗談の様な名前だが、中身は本物のようだな・・」

 

「はい、ですが村井博士亡き今・・・研究資料を手に入れたとしても、元の計画通りの性能が出るとは限りません」

 

「そのために雌狐から第3、第4計画の情報を盗んだのではないか」

 

「・・・しかし、アレを応用した場合、川本は・・・」

 

「“あの国”に媚を売り、貴重なオリジナルのサンプルまで渡し、うっさん臭いミイラ男まで利用し、何とか量産可能な状態まで持ってきたのだ。アレ(川本)がどうなっても構わん、結果を出せ。失敗は許されん」

 

「分かっております」

 

「急げよ、来月には長年の計画が開始する、上手く行けば小娘に顎で使われることもなくなろう・・・ククク、沙霧・・・我々も斬る対象かね?」

 

○○●●●

 

同刻

 

佐世保基地、地下、研究所跡

 

<ゴロゴロゴロゴロ、グシャグシャ>

 

「タケル君・・・さっきからタルを見つけたら敵に向かって投げるのは何故なんですか?」

 

「オリヴァーさん、何かしないと行けない脅迫概念にかられるんですよ。ちなみに木製だったら中からネクタイを着けたゴリラとかベースボールキャップ着たチンパンジーが出そうじゃないですか?」

 

虚空を見つめながら武はそう答える

 

『アッアッアッアゥウ!』

 

奇声と共にMFSAで地面をスラップする音がオープンチャンネルで受信される

 

タケルが寝ている間、文縁は耳元で「タルを待ち上げて投げつける、真正面から投げつける、タルを持ち上げて投げつける、真正面から(略)」、他にも「BETAをセンターに入れてスィ(ry」、「KOOL,KOOL,トリッキー、KOOL、KO(r」等、淡々と睡眠学習(洗脳)施していた。一種の陰険な嫌がらせである。ちなみにケニーにもやろうとしたら、半殺しに会ったらしい。

 

『また・・・道化(黒藤)の悪影響か・・・はぁ・・・エインフェリア6(霞)状況は?』

 

『・・・エリアクリア・・です』

 

索敵を行っていた霞の声が入る

 

『嬢ちゃん、ため息を吐くと幸せが逃げるって言うぜ?気をつけな』

 

『そう思うのでしたら、隊長殿、もう少し隊の引き締めをしていただけるかしら?』

 

『無理というより無駄な気がするな!』

 

『・・・期待はしてなかったわ』

 

はぁ、とまたモニクは溜息を吐く

 

「モニク、タケル君、目の前のロック外れました。研究所に進入可能です」

 

黙々と閉じられた扉を開ける作業を行っていたオリヴァーが二人に声をかける

 

「まさか、技術馬鹿のアンタが私以外で隊の常識人になると思わなかったわ」

 

「ええ、姉さんオレは!?」

 

その台詞に反応する武

 

「・・・自覚がないとは・・・哀れね」

 

「酷!」

 

「さぁ、二人とも行きますよ、中は狭くなっているのでESを脱いでください」

 

オリヴァーはいち早くES(外骨格)を脱ぎ、FP(軽装備)の武器を確認する

 

『・・・中に・・・嫌な感じがします・・・気をつけてください』

 

霞が注意を促す

 

『ああ、オレの方でも感じている・・・さっきからノイズが酷いけど、何かが語りかけている気がする・・・』

 

撃鉄を引き、ゆっくりと研究区画に入る第二分隊(武、オリヴァー、モニク)

 

○○●●●

 

同刻

 

第三分隊(ウィリアムズ、阿野本、ロス)は順調に西側にある倉庫を制圧していた。

倉庫は研究所や司令室と違い、元々の警備体制や作りが強固ではなかったため、既にBETAにより殆どのエリアが破壊されていた。進入した当初は一区画事に調べていたが、めぼしい物は無く、ケニーは殲滅を優先させるようにした。武達と違い慎重に、重要施設を守るような戦いをしなくて良くなった第三分隊は一足早く、敵の殲滅を完了させた。

 

「ウィリアムズさん、一段落つきましたね」

 

「途中、コレ(機関砲)の36mmを手に入れたのが大きかったな」

 

「考えずにバラ撒けますしね」

 

「でも、流石に人型の敵を相手にするのは抵抗があるわね」

 

ロスはそう良いながら周りに散乱する死骸に目をやる

 

「こいつらの正体はまだ分からず仕舞いか」

 

ウィリアムズは銃身で死体を転がす

死体は小さく、子供程度の大きさである

そしてそれは絶望を嘆くような顔をしていた

 

「はい、ピアティフ中尉が情報を検索したようですが・・・まだ確認されていない新型BETAか・・・もしくは・・・」

 

静かにロスは答え

 

「読み通り・・・生物兵器か・・・」

 

ウィリアムズは息を呑む

 

ウィリアムズ達は人型の敵とファーストコンタクトをした時、一瞬戸惑いを見せたが、通信の向うで『これでゾンビ犬とカラスが入れば完璧なのにな?』『そんな事言ったらその内ロケットランチャーで倒さないといけないような上位種出てく可能性が・・・やめてください』と文縁と武の気の抜けたやり取りに、スグに持ち直していた。

 

「にしてもこのMFSA凄いですね」

 

「ああ、小型種は全く相手にならんな、インプラントナイフも超振動が加わっているからBETAもTOFU(トゥフゥー)みたいに切れるな」

 

インプラントナイフを確認するように左右に切るウィリアムズ

 

「それにシー君のYMSA91も凄い機動性ね、時間が過ぎる事に複雑な機動をとるようになってるし」

 

「・・・セシリー・・・そのシー君ってのは止めてくれないかい?僕ももういい歳だし・・・それに機動は白銀中尉がデータリンクしてくれていて、マイ技術大尉が即座にプログラム修正してくれている結果だよ」

 

「そう考えると、白銀中尉の機動は異常ね」

 

「お前らも聞いた事があるだろうTSH機動は彼の動きを元に作られたものだ」

 

TSH機動、その学習過程が公にされ、数日間の内に会得すれば生きて帰れると言わしめたほどの奇跡のマニューバーである。そして二回目であるがTSHはT武、S白銀、H変態、機動の略である。

 

「・・・しかし、これ程の技術、それ程の技能を持っている方々こんなにフランクなんて「それは違うぞ、阿野本」・・・え?」

 

ウィリアムズは静かに言葉を発した

 

「昔さ、まだ空を飛行機が飛んでいたころ、旅客機の事故を研究した者達がいた。その過程で彼らはとある調整因子を発見した・・・それが、上司部下の関係からくる問題。問題を発見した部下が直接上司に注意を与えられない問題だ。彼らの関係は軍の規律に則っていないかもしれんが・・・もし危機的状況、ハプニングが起きた場合は強いだろうさ。遠慮無く注意を出来る関係、そしてそれを受け入れる上司の度量・・・」

 

阿野本とロスはウィリアムズの話を聞きながら考える、実際上下関係の厳しい軍では時として上官に注意をするという事は難しい。しかし、それをしなければ無い場面は多くあった、そしてその注意を強く言うころには大体が手遅れな事が多い

 

「・・・お互い馬鹿にしているような発言をしているが、同時に不思議な信頼関係がある。・・・副指令は彼らを疑うと同時に能力を高く買っていた・・・しかし、副指令の予想以上かもしれんな・・・お前ら、疑問を持ったらハッキリ言えよ?」

 

<ピピピ>

 

「なんだ?」

 

ウィリアムズはロスに問いかける

 

「中尉、マイ大尉達からです・・・村井博士の研究日誌を発見し、そのデータを送ってきたみたいですが・・・強固なロックがかかっている上に言語がバラバラなようですね・・・今から解読にかかるようです」

 

三人は霞、ピアティフ、オリヴァーと武によって解読されていく情報を眺めていた

 

○○●●●

 

同日14:13

 

30分以上が経ち、ようやく発見された研究資料が読めるようになった。

研究資料は日本語の他に、主に英語、イタリア語、ドイツ語、ロシア語、中国語、アラビア語を織り交ぜ書かれていた。所々虫食いのようにデータが破損しており、一番古い資料も1996年からのものしか確認できなかった。

 

1996年10月21・

我々の研究は終・・・材料を手に入れる

多くの・・・を出し、出来損ないを我々は見て来た

そして研究による・・・にて我々は問題の原因を発見する

我々は・・・という遺伝的にも非常に優れた少女を手に入れた

彼女は・果に好かれているようであり、これが・・・・であった

これより彼女は・ES-00に生まれ変わる

 

1996・1・月22日

扁・体への・・が上手く行かない

まだ技術的問・・残っているのかもしれない

どうも・・・が馴染まないようである

 

19・6年11月23日

この地下基地に侵入者・・・る

ふざけるな!アレは・の研究成果だぞ!

また・・験・が必要だ・・・

 

1997年01月3・日

S・S-・1破棄

実・体は頭を・・て血を吐き・・だ

 

・997年02・0・・

SE・0・破棄

同じ症・・・る

 

1・・7年03・1・日

・E・・3破棄

何がいけないんだ・・・

やはり・・00が特・なのか

 

1997年・7・07日

・・・・04成功

・・・・0の遺伝子を・・し・・-ンを作った

助・が父・役をか・・出た

 

1・・7年0・・13日

・・が・・・・・を強・し・・も目標の数値・出る

・波・パタ・・は前の・・・とは違・

やはり因・・・系している

人がB・・Aを・・を操れるものなのか?

一昔に香・夕・という学者がそれ・・・事を発表して・・

し・・、私・・て・・事は・当に世・の、・・国のた・・・・・うか?

 

1997年08・3・・

別の・究のBE・・の・・を利用し作った

生・・動兵器の目処も・・・が安定できずに・・・

・ES0・を生・・アにし・御する事・・定す・

SES・・はS・・・00の遺伝子を使い男・・だが

失敗・、破棄

 

1997年・8・11日

S・・・6及・07、破棄

・・・04は・・・アモル・・ファルスの・・コアに・・

 

・・97年09月・・

・・・・・破棄

 

・997年・0月15日

助手の・戸が・年を・・・きた

彼・00以上の・・・である

過去の・・を洗い・・は理解している

・・・を一度殺し再・・・・良い

これなら上手く・・であろ・

しか・・れで・・のであろう・か

 

・・・・年11月22日

最高傑・の・・・09の誕・だ

私・・う戻・・・所ま・・てしま・・の・・・・ない

だが・・で、これと・・・・が合わさればBE・・など根絶やしに・・・

 

1997年12月・・・

上層部・!!!米国と取引をしS・・・9を・・・!!!

・・・!!!!(支離滅裂であり、文字があっても意味が理解できない)

 

1998年・・月・・・

・・・04を・・・フォファルス・・解・・つ

 

1998年・・・・・・

・・TAがこちらに・・・てきている!!

だが、アモル・・・・・を・・・・ければ!!

 

・・・8年・・・・・・・

・・が故障・・・の温度が下がりすぎている・・・

・・・フォ・・・・の弱点か・・・

・・してきた・だ・・罰か・・・

デスペロ・・でも・棄・・・

志穂、ギ・・すま・・

(日誌はここで終わっている)

 

 

日誌以外の研究資料をオリヴァーは食い入るように見る

 

研究資料は生物、科学、物理、ロボット工学と村井博士が専門とする脳神経関係のものだけではなかった。人体実験は当たり前であり、生きた人間の脳に電気ショックを与える、メスを入れる、カビや胞子を体内にいれ繁殖させる、プリオン蛋白質を脳に入れ人体影響を事細かに記録する、放射線を一定時間浴びさせるなど目に余る研究が行われていた。

そしてオリヴァーが一番目についたのが『生物機動兵器』の項目である

それは生物と機械を融合させ、更に人間を生体コアとした兵器である。

ものによっては一回の戦闘に人一人が必要と記されるものさえある

そして何より、その多くが年端も行かぬ子供達であった

 

『・・・邪道!論理というものを全く無視した、邪道・・・』

 

震えるような怒りを静かに放つオリヴァー

 

「うっ・・・・・」

 

ノイズ頭の中に響き、武は額に手あてる

日誌を見ると同時に頭痛がおき、読み終えるころには耐えられるものではなくなっていた

 

『吐き気をもよおす邪悪とはッ抵抗できぬ無力なるものを利用する事だ、、、!自分の利益のためだけに利用する事だ、、、。大人が何も知らぬ子供を!!てめ『ビービービー』・・・』

 

文縁の台詞を割るように警告音が鳴る

 

『ヴァルキュリア(ピアティフ)!状況を!』

 

ケニーが叫ぶ

 

『中央へのロックが解除されると共に北、東、西口、全ての出入り口が封鎖されました!そして、機能が停止していた基地防衛機能が再活動しています!!』

 

<ビビビ・・ザザ・・>

 

通信に割り込み、一人の包帯を巻いた男が画面に浮かび上がる

 

『ククク、“リヴァイヴァー”オリヴァーはお気に召さないようだな。私の中では高評価な兵器なのだがな?』

 

『てめぇ、何もんだ?』

 

ケニーは冷静に包帯男に語りかける

 

『これはこれは、私とした事が失礼した、元第731部隊所属の春戸醜通(はるど=しゅうつ)以後お見知りおきを』

 

紳士の如く優雅に画面越しにお辞儀をする春戸、

しかしその包帯姿がその絵を不気味にしている

 

『ヴァルキュリア(ピアティフ)、脱出は可能か!?』

 

そうケニーに言われ、状況を整理し、防御機能稼動範囲、そして防御壁の性能を洗うピアティフ

 

『・・・難しいです。出口を封じている防御壁は対核兵器ように作られ、4層あります。MFSAに搭載された小型S-11だけでは破壊は難しいでしょう・・・全機を一箇所に集めれば何とかというレベルです。何より、出口に近づくにつれて、セキュリティシステムが強固になっています。防衛機能を回避しながら出口の防御壁を破壊するのは・・・』

 

『チッ』

 

舌打ちをする、ケニー。出来れば目の前の透明人間もどきの相手をしたくなかったがその選択肢は消えた

 

『つれない男だな、黄昏コウモリよ。ククク、折角遠くまで来たんだ村井博士の傑作を見ていきたまえ』

 

『(論文を書いて名が売れている小僧や技術屋だけならまだしも・・・俺の事まで調べ上げてあるのか・・・男の熱烈なストーカー行為はご遠慮願いたいな・・・とりあえずは・・・)エインフェリア・リーダーより各機へ!これより中央区画に向かい、コントロールを奪う・・・序に奴さんが言う“傑作”とやらを拝ましてもらおう!』

 

『『『『『『『了解!!』』』』』』

 

武達はES(外骨格)に向かい走り出す

 

○○●●●

 

同日14:15

 

作動したセキュリティシステム(防衛機能)により武達の行く手をBETAや正体不明の生物兵器だけでなく、小型の戦闘兵器が阻む。警備用機動兵器は人型、車両型、トーチカと種類が多く、そして何よりもBETAや生物兵器には攻撃をせず、武達だけを攻撃した。

 

『人間だけを殺す機械かよ!』

 

対BETAではない、対人兵器に嫌悪を抱きウィリアムズはたまらず叫ぶ。

彼は腕のインプラントナイフを回転させ兵器を破壊する。

 

そして中央に向かう武達を待つ春戸は静かに語り始める

 

『昔々、ある所に一人の少女がいました・・・

少女の名は志穂(しほ)

幼くして、母と姉妹を亡くし

身内は父親のみ

少女自身も生まれながら病弱で病室の外を知らない

人はそれを不幸と呼ぶだろう

だが、今の時代、不幸は何処にでもあり、珍しくもない

少女はそんな環境にめげず、希望を持ち生きてた

 

父親は少女に優しく、何時も彼女が喜ぶ事をしてあげた

看護師達も少女を心配し、見守った

少女もそんな父のため、皆のために何かしたかった

 

とても心温まる話だ・・・』

 

武を先頭に、モニク、オリヴァーと後に続き、目の前の障害を取り除いていく

12.7mmの銃身は赤く熱を放ち

武がのるYMFSA-90のヒートソードは赤紫に染まり、

血とBETAの体液が刃から滴り落ちていた

 

「何を話しているんだ、あのミイラ男は!?」

 

モニクは苛立ち、叫ぶ

 

 

 

『話を変えよう

1990年代の初頭

オルタネィティブIII(AL3)の情報が接収されIVに移行する少し前

AL3―ESP能力者によるBETAへの対話

結局は徒労に終わる計画だが

幾度にも渡る生贄を観測し、面白い仮説を立てた者がいた

それは、BETAに対し強い恐怖心を抱いた能力者が

平均して4分早く死ぬと言ったものである

逆にどんな絶望的状況でも恐怖を抱かぬ者は4分以上は生き残るという

実に面白い研究結果である

 

ちなみに君達・・・

特に“黒の道化”あたりは知っているだろうが

衛士が戦場に出て、戦闘態勢に入り、敵とエンゲージするまでの平均は3分

人が恐怖し、パニックになり、それがピークするのに45秒

3分45秒と4分・・・合計して約8分、ククク・・・

“死の八分”とはよく言ったものだ

面白い偶然だと思わないかね?』

 

 

「・・・奴さん、俺まで知っているのか?俺も有名になったもんだな!」

 

<ダン!>

 

文縁がリボルビング・ステークで戦車(タンク)級を空中に打ち上げる

 

<バン、バン!>

 

「悪名の間違いだろ!?」

 

ケニーが36mmでそれを追撃する

 

 

『・・・ところで君達は扁桃体という脳の部分を知っているかね?

海馬に隣接する形であるその部分は人の感情・・・

特に恐怖と絶望によく反応する

それは人が最初に持つ感情が恐怖だと言われているのに関係するのかもしれない

 

海馬は記憶を司る

故に多大な恐怖を味わうと人はそれを強く記憶する

だから恐怖の悪夢やフラッシュバックなどを見る

 

BETAと恐怖心の関連性、そして篇桃体が脳全体に及ぼす影響

この二つを研究していた人物

それが村井博士であり

その研究が行われていたのが

ここ、佐世保基地地下研究所だ』

 

 

 

「抜けます!」

 

ロス少尉がそう叫び、扉を破壊する、

それは広間に繋がっていた

そして、レーダーのマーカーに味方の識別信号が近づく

 

「全員無事か!?」

 

ケニーが確認する

 

「大丈夫です」

 

「愚問ね」

 

「行けます!」

 

「まだ、チップ(弾)は十分だ」

 

「オールグリーン」

 

「同じく!」

 

「大丈夫です、行けます!」

 

オリヴァー、モニク、武、文縁、ウィリアムズ、阿野本、ロスの順に答える

 

『ヴァルキュリア(ピアティフ)より各機へ、そこの扉を抜けた先が中央区画です。

タンゴ(ターゲット)が基地のコントロールをしている場所もそこだと思われます』

 

『上に上がる階段があるようだが?』

 

ケニーが問いかける

 

『そちらは・・・行き止まりです。空調や水道、気温のコントロールをする部屋へ続いているだけのようです』

 

『選択肢は一つのみか・・・ここの扉のロックは!?』

 

『閉じられています』

 

「チッ、透明人間モドキが、招待するような素振りをして、最後の扉は閉めやがって!まるで安いストリップショーだな「最後の一枚は絶対脱がないか?」・・・ヒゲ・・・全くその通りだ・・・技術屋!こういう時のためにお前のMFSAを工作仕様にしたんだ、いけるな!?」

 

「はい、大丈夫です」

 

BETA、生物兵器、警備用機動兵器が迫る

 

『各機!技術屋が扉を開くまで!この防衛線を維持するぞ!』

 

各機武器を構える

 

『ファイア!!』

 

各々にBETA達に向かい撃ち始める

 

 

 

『村井博士の研究は実に興味深いものだ

彼はBETAが察知する人の脳波を使いBETAを操作しようとした

 

しかし、事はそんな簡単には行かなかった

 

炭素生命体という以外殆ど未知であるBETA

操作できるほどの脳波を出せる人間

 

問題は山積みであった』

 

 

<ジジジ、ゴゴゴ、プシュー>

 

扉が開く

 

「よし、各機、小僧を先頭、入れ!!」

 

武は扉を抜ける、

そこは長い通路になっていた

 

「ヒゲ!」

 

「応!なんだ?」

 

「ここの防衛、任せても・・・良いか?・・・スグに終わらせる、誰かがここに残り退路を確保しなければならん・・・透明モドキに人数が必要なさそうなら「任せろ!グラサン隊長!」」

 

ケニーは「時間稼ぎのための応援を送る」と言おうとしたが、言い終える前に文縁が叫ぶ。

文縁はMFSAの背を見せ、チラリと首だけを後方をに回し、眺めながら

 

「・・・倒しきってしまっても構わんのだろう?」

 

そんなトンデモナイ事を言い放つ

 

「黒藤、アンタ・・・」

 

モニクはそんな馬鹿げた台詞に言葉を失う

 

「―――ああ、遠慮はいらねぇぞ。痛い目を見せてやれ、ヒゲ」

 

「そうか。ならば、期待に応えるとしよう」

 

文縁は姿勢を低くし、重心を落とす

 

「よし、各機とっとと行って、終わらせるぞ!」

 

全員が中央区画に向かい、文縁の後ろで扉が閉まる

 

「スクエア・クレイモアをもう少し残しておくべきだったな・・・残り2回、それでどれだけ潰せるかが勝負だな・・・へ、色々と・・・マジで言う事になるとは思ってもみなかったぜ。取り合えず・・・」

 

<バシュ!>

 

文縁はスクエアクレイモアのハッチを開く

 

「分の悪い賭けは嫌いじゃない」

 

 

 

『・・・同時期にこの研究所では

全く新しい生物兵器の開発に成功する

最初はBETAと人間を合併した兵器

君達が見た“人っぽいもの”はそれの慣れの果てだ。

 

次に有機珪素化合物を含む機械、ナノマシン、そして植物の融合

有機珪素化合物を含む物は何故かBETAに攻撃され難い事が分かり

研究者達はBETAに破壊されない兵器の開発に着目した

“アルム”と名づけられたこの兵器は制御不能という欠陥を持っていた。

 

だが、そこに村井博士の研究成果が加わる

この生物兵器、人の脳波・・・主に自己防衛機能に反応する。

 

彼らは村井博士の実験体を生体コアに置き“アルム”を操作し、

“アモル”を完成させた』

 

長い通路を武達は駆ける

通路は無人、全く敵の気配がしない

それは、ただ深く深く、地下へと伸びていた

 

そして遠くに、また扉が見える

 

『ここで話は最初に戻る

 

人間に対しての最大の恐怖は何だ?

死か?

しかし、死を与えてしまえば研究は意味を成さない

彼らは生きた実験体を欲した

 

では、身体への拷問か?

最初の実験体以外は耐え切れず息絶えた

 

精神的な、死なない程度の拷問?

 

正解だ

 

少女、志穂は

 

信じる父親を含む数名に

 

強姦(レイプ)された

 

一回という事は無い、

何度も、何度も、何度も、何度も、何度も

 

彼女の脳には直接電極が付けられ

逃げる事も

気絶する事も

精神を崩壊させる事も

許されず

 

その最中真実が告げられる

少女は“父”である実の娘などではなく

オリジナル00と呼ばれる少女のクローンであると

 

ククク、実に心温まる話だ』

 

そして、武達が扉に近づくと、それは自動的に開いた

むせ返るような生暖かい風が死臭を運ぶ

 

「く・・・これか・・・」

 

悪意と絶望に武は少しよろめき口に手をやり、吐き気を押さえ込む

 

「ち、嫌な感じの元凶だな・・・」

 

ケニーのミラーグラスは鈍く光、彼は眉を細める

 

抜けた先、ドーム状の部屋に

正にスマトラオオコンニャク、

学名“アモルフォファルス・タイタナム”の形をした

白と赤そして植物特有の緑色をした

機械的な・・・不気味な何か・・・

その中心の仏炎苞からチラリと15~6歳の黒ずんだ赤毛の少女が見える

その植物の下に横たわるように白いラボコートを着た中年男性の死体がある

 

「そして、彼女は脳にこの対BETA用生物兵器“アモルフォファルス”の生体コアとなるために必要な記録を植えられる。全ては順調のようであったが、村井博士達の予想を超え一つの問題が発生する。それはコアの脳波がアモルフォファルスによって増幅する事である。つまりは恐怖の増幅。アモルフォファルスは虫を誘うようにBETAを誘い。

そして、この基地はBETAによって全滅した・・・ククク、元々の植物のように」

 

春戸の声が今までに無いくらい近くに聞こえ

武達は声がするほう、上方を見上げると、ガラス越しに包帯を巻いた春戸がニヤニヤと武達を眺めていた。

 

「おお、彼に挨拶したまえ、ご高名な村井博士だ。

彼は愚かにも自身の傑作であるアモルフォファルスを止めようとして亡くなった」

 

そう、アモルフォファルスの下にある死体を指差す

 

「あの子を開放しろ!あの子は人間だぞ!」

 

武は溜まらず春戸に向かい叫ぶ

 

「だまれ、小僧・・・おまえにあの娘の不幸が癒せるのか?彼女を犯した人間がBETAの脅威から逃れるために生贄にし、そして見捨てた娘だ・・・人間と化け物の狭間にいる、哀れで醜い娘だ。おまえにその娘がすくえるか?」

 

「わからない・・・だけどここよりましな生き方はある!」

 

「ククク、どうやって救う?その娘とアモルフォファルスは貴様らと戦う気だぞ?」

 

「各機!避けろ!」

 

ケニーの警告と同時にアモルフォファルスの触手が武達に伸びる

 

武は避けながらその触手に12.7mmを撃つが、弾は硬い皮に弾かれる

武は驚愕し瞳孔が開く、ちなみに某人物がこの場にいたならば武と春戸の一連のやり取りに違った意味で驚愕し目を丸くしたであろう。

 

「各機!36mm、ミサイル、グレネードを使え12.7じゃ無意味だ!」

 

「大尉!捕らえられている少女はどうするんですか!?」

 

ウィリアムズは銃を撃ちながら問う

 

「どうするって言っても、開放できるかどうか・・・『できます!』ウサっ子か・・・」

 

『・・・シホさん・・・助けてって・・・じゃなければ・・・死なせてって・・・それを止めれば・・・彼女は救えます』

 

霞は泣きそうな目でそう呟く

 

「・・・はぁ・・・今回の仕事は貧乏くじばかりだな」

 

「傭兵、諦めなさい、603技術試験隊が貧乏くじを引かされるのは今に始まったことじゃないわ」

 

「ですね」

 

オリヴァーは短くモニクに同意する

 

「よし、行くぞ!中央を避けて各機!撃て!!!」

 

<ババババババババババババ>

 

銃撃が集中し、煙が部屋を包み込む

 

「Cease Fire!(撃ち方止め!)」

 

<・・・>

 

無言に7人は煙に包まれたアモルフォファルスを見つめる

 

<シュッ!>

 

「きゃ!」

 

突如煙の中から触手が伸び、ロス少尉の機体を弾く

機体は壁まで吹き飛ばされる

 

「セシリー!!!」

 

阿野本が触手をヒートソードで切り裂き、ロスの機体を守るようにその前に立つ

 

「おいおい、冗談じゃねぇぞ」

 

ケニーは目の前の光景にそう漏らす

 

アモルフォファルスの葉や根は確かに燃え、そして打ち抜かれ、ダメージを受けていたが

 

それは目に見える速度“修復していった”

 

「俺が牽制に回る!貴様が落とせ!」

 

ウィリアムズが36mmで援護射撃をし、阿野本に命令を出す

 

「クッ!ならVSAMRで!!!」

 

阿野本は背に担いでいた、VSAMRを腰に構え低速モードで撃ち出す

 

<シューーーー、バシューーーーー>

 

撃ちだされた弾はアモルフォファルスの1/3を削りとる

あわや中心の少女を巻き込む威力である

 

「コイツは・・・強力過ぎる!」

 

だが、それをものともせず攻撃が阿野本に集中する

 

「な、さばき切れない!!」

 

VSAMRを背に戻し、36mmとヒートソードで触手を迎撃するも

数回、YMFSA-91を掠る

 

アモルフォファルスは再度修復し始める

 

「ククク、素晴らしい、これが村井博士の言っていた自己回復か!!」

 

春戸が歓喜の声を上げるころには、アモルフォファルスは完全に回復していた

 

「マジかよ!あれだけ削られたのに、質量保存の法則を無視していないか!?」

 

武は驚くも攻撃の手を緩めない

 

『ヴァルキュリア(ピアティフ)!こいつの弱点は分かるか!?』

 

『調べています・・・!!研究資料に・・・項目・・・“アモルの自己回復はナノマシンよりも生物的細胞に依存する、よって氷点下の温度ではその活動が停止・・・”!!』

 

ピアティフがそう読み上げる

 

「氷点下・・・傭兵!どうする?私達の武器にそんな器用な真似はできないわよ?」

 

迫る触手にグレネードランチャーを放つモニク

 

「今考えている!」

 

射撃で敵の攻撃を撃ち落しながら

全体を見渡すケニー

 

「(考えろ!考えろケネス=ロンズ!村井とかいう研究者は止めようとしたんだ、何かこの部屋にあるはずだろ!?)」

 

そして村井の遺体があった場所を見る、

何故か未だに完全な形でその遺体はあった

そして、その遺体に一番近い、壁に箱状のパネル

そこから壁沿いに天井に向かいケーブルが延びている

ケニーはそのパネルをロックし、情報をピアティフに送る

 

『あれは何だ?』

 

『・・・内部・・・コントロールパネルです・・・そこからその室内の温度をコントロールできます!!』

 

「技術屋!」

 

「ハイ!」

 

オリヴァーはそのパネルに向かい走り出す

 

「各機援護!おい!普通(阿野本)!姫ちゃん(ロス)は大丈夫か?」

 

「大丈夫です大尉!僕達も援護に回ります!」

 

ケニー達はオリヴァーを守るように陣を取る

 

「焦らせる気は無いが素早くな!もう弾が残っちゃいねぇ技術屋頼むぞ!」

 

<ババババ>

 

「技術屋!」

 

<ババババ>

 

「オリヴァー!」

 

<ピピピ、プシュー>

 

「行けた!」

 

突然、空調より白い煙が室内に入り込み、

温度が低下し始める

 

「魔女の犬にしてはたいしたものだ・・・だが!」

 

空調がとまり始める

 

『コントロールハックされています!』

 

「ミイラ野郎ッ・・・!!!」

 

ケニーはガラス越しの春戸を睨む

 

「万事休すか」

 

モニクはそう呟く

 

『諦めんなよ・・・

諦めんなよ、お前!!

どうしてそこでやめるんだ、そこで!!

もう少し頑張ってみろよ!』

 

やたら暑苦しい言葉が各自のインカムに流れる

 

『ヒゲか!』

 

『ああ、コントロールルームに来ている、オーリィーの内部コントロールと同調すれば春戸のインプットを上書き出来るが・・・相手の方が技術は上だ・・・俺達・・・いや俺がコントロールできるのは数十秒が限度・・・その瞬間氷点下までその部屋を持っていける』

 

『聞いたな!?小僧!普通!お前らが一番機動力がある!任せるぞ!』

 

『『了解!!』』

 

『よし、10カウントで行くぞ・・・10、9,8,7,6,5』

 

各自弾幕をはりながらタイミングを見計らう

 

『4,3,2,1、ゴー!!』

 

『オーリィー!!』

 

『はい!』

 

部屋に大量の白い空気が入り込む

壁には霜がつき始める

 

武と阿野本は触手の合間を縫って近づく

お互いコンビネーションをとるのは初めてなのに

まるで自分が何をするべきなのかを知るように

二人の機体は放熱と外の温度差から、煙を上げ、

まるで空中に残像を残すように動く

 

寒さにより動きが鈍くなったアモルフォファルスの触手は武達が通り過ぎた後を通過する

それは、まるで残像を攻撃しているようにも見える

 

『『なんとぉぉぉぉぉぉ』』

 

武と阿野本が完全にシンクロする

 

「どこだ!?」

 

武は少女がいる所を探す

 

<・・・こ・・けて・・>

<――――^v――――>

 

武はヒートソードで仏炎苞を切り裂き、少女を抱える

 

『抵抗するんじゃない!いっちゃえよ!』

 

阿野本はVSAMRを高速モードで一発・・・二発・・・三発・・・

アモルフォファルスの中心に打ち込む

 

そして、コアを守るように触手が武達を攻撃するが、

既にそこに武達はいなく、

自滅する形で触手が中心を貫く

 

それを確認し、ケニーが号令を出す!

 

『ALL WEAPON FREE!TERMINATE!』

 

全員が全弾打ち込む

 

・・・そして、アモルフォファルスは沈黙する

 

「ククク、まぁ、こんな所か。まだ、検討が必要か・・・赤道辺りでコイツを放ったら面白い戦果を期待できると・・・そうは思わないかね?リヴァイヴァー・オリヴァー貴様の評価はどうだ?」

 

春戸はそう語りかける

 

「・・・こんな邪道な技術、試験をする必要もなく、評価は最低だ!」

 

<ドドドド>

 

<ウーウーウーウー>

 

警告音が基地内に響き渡り

全員が赤く光るアラームに注目する

 

『ヴァルキュリア(ピアティフ)!?』

 

モニクがピアティフに問いかける

 

『・・・地下が崩落します・・・自己破壊システムです』

 

「クソ、忌々しい、ミイラ野郎が!」

 

振り返ると既に春戸醜通の姿は何処にもなかった

 

「逃がしたか・・・各機脱出するぞ!」

 

各機は撤収作業を開始する。

 

<ピク>

 

「何か動きませんでしたか?」

 

何かに気づきウィリアムズが問うがその問いは誰にも聞かれる事がなかった

 

 

そしてケニーを先頭に武達は元来た道を戻る

 

最後尾の武とウィリアムズが長い通路を抜けようとした瞬間

 

<―――^v――――>

 

<ドン!>

 

武は後ろから押され、抱きかかえていた少女を庇うように転がる

 

「なっ!」

 

振り向くと、そこにはアモルフォファルスに捕らえられたウィリアムズのMFSAがいた

触手が更に武に向かい伸びるが

 

<ドン!!!>

 

ウィリアムズのグレネードが当たる

 

その衝撃でバラバラと天井が落ち

通路が封鎖される

 

<――――^v―――――>

 

『ギッド!!』

 

ケニーは後方の異変に気づき叫ぶ

 

『しくじったな・・・』

 

『ウィリアムズ中尉!今『くるんじゃねぇ!時間がねぇんだ!とっとと行け!』』

 

焦る阿野本に叫ぶウィリアムズ

 

『・・・各機、脱出だ・・・』

 

ケニーは少し躊躇しつつも命令を全員に出す

 

『しかし、ロンズ大尉!!』

 

ロスが問う

 

『脱出しろ!ロス、阿野本!分隊長命令だ!』

 

ウィリアムズ中尉の叫びが通路に反響する

 

『『中尉・・・』』

 

『行け!!!』

 

全員その場所を後にした

 

 

「・・・疑問を持ったらハッキリ言えと言ったが自分が出来ないとはな・・・」

 

ウィリアムズはインプラントナイフで触手を切り落とすと、アモルフォファルスのコアがあった部分に向かいバーニアを吹かす。

 

ウィリアムズはゆっくりとS-11の起動ボタンを開け・・・

 

そして、基地内にS-11の爆発音が響き渡る

 

封じられし悪の一つは光と共に消えた

 

しかし、それはそこにあった悪の一つに過ぎない

 

春戸醜通により

 

悪は光の当たる場所へと出される

 

 

戦人達は待ち受ける苦難を知らずに帰路に着く

 

そして少女はただ安らかに眠り続ける

 

 

○○●●●




90式及び91式試作機械化歩兵装甲(YMFSA)及びVariable Speed Anti-Material Rifle、(VSAMR:可変速対物ライフル)
――技術評価報告書

我が第603技術試験小隊はさる11月17日、指令通り、佐世保基地国連管轄区の地下へ深くへと侵入す。中央区画は春戸醜通と名乗る男によって占拠され、基地防衛システムのコントロールを奪われる。小型BETA種、防衛システム、人型生物兵器と戦闘、これらを打ち倒す。奥でアモルフォファルスと呼ばれる有機珪素化合物を含む機械、ナノマシン、そして植物を融合し、人間を生体コアとする醜悪な生物兵器と遭遇。これは、自己回復機能があり苦戦するも、村井博士が残した記録から弱点を推測す。我々は氷点下の空間を作り、YMFSA-90・91によってアモルフォファルスは沈黙。生体コアとなっていた少女は白銀中尉により救出される。この際、VSAMRは驚異的威力を見せた。室内が氷点下であった事により、予測を上回る連射を阿野本少尉は行った。これはVSAMRの放熱問題さえ解決すれば、有効的兵器である事を証明している。
この戦闘で、キッド=ウィリアムズ中尉がアモルフォファルスに捕われ、S-11を使用。虫の息にあったアモルフォファルスにトドメを刺したと思われる。
我々は春戸醜通を逃がした。彼はこの恐ろしき兵器を作れる情報を持って逃げたと推測す。これ以上犠牲者を出さぬために、素早く彼を捕える事を願う。

これにて列島奪還作戦での我々第603技術試験隊の試験評価を終了。
横浜基地へと帰還す。
               ―西暦1999年、11月17日オリヴァー=マイ技術大尉


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