この素晴らしい世界にもんむすを! (邪魅魑)
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EP1 サトウカズマは死にました

このサイトだと初投稿になります。
楽しんでもらえればうれしいけれど……果たしてこのすばともんクエを同時にたしなんでいる人はどれくらいいるんだろうか?


 気が付くと、俺は明るい場所にいた。そこは暖かな光が差すような場所でどこか荘厳な雰囲気が感じられた、俺はどこかに浮かんでいるようなそんな不思議な感覚でそこにいる。

 

「サトウカズマさん。聞こえますか?」

 

 そんな声と共に、俺の目の前に美しい姿の女性が現れた。肌は白く、まるで古代のギリシアの神殿で働く女性が身に着けているような衣服を身に纏っている。髪は膝のあたりまで伸びた緩やかなカーブを描く美しい金髪で、目は美しい青い瞳。そして何より、背中には巨大な翼が一対生えていた。

 

「サトウカズマさん。聞こえているのですか?」

 

 俺はその光景に頭が追い付かず、しばし茫然としてしまう。

 

「…………私を無視するとは、良い度胸です。すこしお仕置きいたしましょう」

 

 そう言った彼女が右手の人差し指を上げると、俺の体に、ビリリと激痛が走る。

 

「!?なにすんだてめ―!!」

 

「そちらがこちらを無視するからこういった手を打つことになったのです。そちらこそ反省して欲しいものですね」

 

 そう言うと、彼女はコホン、と一つ咳払いをして俺に向かってこう告げた。

 

「サトウカズマさん。あなたは死んでしまいました。短い人生でしたが、あなたの人生は終わったのです」

 

 それを聞いて、俺は急速に思い出した。そうだ、確か俺は、少女を助けようとトラックに轢かれて……。

 

「ええと、女神さま?でよろしいのでしょうか?」

 

「……そうですね、申し遅れました、私の名はイリアス。あなたたちの世界ではなじみがないでしょうが、確かにとある世界で女神を務めていますよ。そして、あなたの世界、地球で転生を司る神としても活動しているのです」

 

「あの、イリアス様、俺が突き飛ばした女の子は……」

 

「ええ、無事ですよ。良かったですね。まあ尤も、あなたが突き飛ばさなければ彼女は怪我すらしなかったのですけど」

 

 女神さまの言葉に、俺は「え?」と思わず聞き返してしまう。

 

「貴方が何もしなければ、あのトラクターは彼女の目の前で止まったのですよ。あなたはそれを勘違いして彼女を突き飛ばし、轢かれたと勘違いして心肺停止、駆けつけたレスキュー隊や病院関係者、果ては両親にまでその死因を笑われて……全く、あなたが何もしなければ一人の少女が傷つかなくて済んだと思うと……まあ、道化としては一人前なのでは?」

 

「……oh」

 

 女神さまから放たれる辛辣な評価に、俺は手を地面(のようなもの)について頭を下げる所謂orzのポーズだ。

 

「……コホン。そんな道化のあなたに、耳寄りな話があるのですが」

 

 それを聞いて、俺はバッと顔を上げる。

 

「死した貴方は、まあ、一応は、建前としては善行をしようとして死にましたので、天国へと行く権利と、生まれ直す権利があります。ですが、天国というのはあなたの思うような良い場所ではありません」

 

「そうなんですか?」

 

 聞き返すと、女神さまは嫌そうな顔をして頷いた。

 

「えぇ、人の形すら保たない触手と肉を持つ天使たちが、天国の住人を性的に貪る。そんな世界です」

 

「え?Hし放題なんですか!」

 

「……まあ、触手や複乳、果ては大陸一つ丸丸一人の天使とか、そう言った異形と交わりたいというのなら、止めはしませんが……」

 

 そう言った女神さまの顔はとてつもなく冷めた、ごみを見る目だった。

 

「イイエ、ナンデモアリマセン」

 

 俺がそう言うと、コホンと咳ばらいを一つして言葉を続けた。

 

「しかし、記憶を消してもう一度人生をやり直す……それは味気ないのではありませんか?ならば、もう一つ、耳寄りな情報があるのです。あなた、異世界に興味はありませんか?」

 

「異世界?」

 

 聞き返した俺に、女神さまは嫣然と微笑んで芝居がかった様子で手を広げた。

 

「その世界は!魔王軍の魔の手により、滅亡の危機に瀕しています。人々は魔物におびえ、逃げ惑う日々を送っていました……」

 

 そこで悩ましそうな顔を俺に向け、女神さまは懇願する。

 

「その世界を救うことができるのは、異世界からの転生者である、あなただけなのです。勇者カズマ。どうかお願いできませんか?」

 

 そこで思わず頷きそうになった俺は、ぐっと抑えて質問を投げかけた。

 

「言語とか、そういうのはどうなるんだ?それに、そんな危険な場所なら、俺が行っても無駄死にするだけなんじゃ?」

 

「そこは安心してかまいません。私が直々に、現地の言語を脳内にインプットしますので……まぁ、失敗したら常にアヒィることになるかもしれませんが、非常に低い確率のことですので」

 

 アヒィ?ってなんだよ。と疑いの目を向けながら女神さまを見つめると、若干目を逸らしつつまくし立てて来た。

 

「そして、異世界には何でも一つ、凄まじい力を持つ何かを持ち込むことができます。誰にも負けない力、最強の武器。あなたに何物にも負けないものを一つ授けましょう。これは、異世界に行くほかないのではないですか?」

 

「あ、ああ」

 

 女神さまの気迫に負け、俺は異世界転生を決定したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 それからおおよそ一時間ほどが経った頃。

 

「どれほど待たせれば気が済むのでしょうか?ち○こは○漏なくせに、こういったときは遅○なのですね。それともじらしプレイが好きなのですか?私は大嫌いですよこの童○」

 

 ……もはや初期の見た目で判断した清楚な女神さまはどこにもおらず、下品な言葉で俺をなじるクソ女がそこにいた。

 

「全く、手慰みでこの世界を覗いてみれば、このような厄介ごとを押し付けられて……それ自体はともかくとしてこんな遅○野郎の相手をすることになるとは。あぁ、今頃ルカはどうしているのでしょうか。本体に任せていれば安心ですがやはりアヒっているのでしょうか、ああルカ……」

 

 なんだか意味不明なことを言った上に、最終的に俺とは関係ないことを妄想しだす女に少し苛立ちを感じる。

 

「よし」

 

「おや、決まりましたか○漏クソ野郎様」

 

「あんた」

 

「かしこまりました。では、転生特典はわた……し?」

 

 そこまで言い切って、初めて何を言われたのか思い浮かんだのか、その顔が引きつり、焦りで顔がゆがむ。

 

「いえ、何を言っているのですか?私は神ですよ。転生特典に神を選ぶなんてそんなこと……」

 

 彼女がそう言った次の瞬間、どこからか光の線が無数に表れ、女神さまを隙間なく拘束した。

 

「これは!六祖大縛呪!?いったい誰が!」

 

「サトウカズマさん、あなたの願い、承りました。これ以降のオペレーションは、三大天使筆頭ルシフィナが引き継ぎます」

 

 女神さまの声に呼応するように現れた少女はルシフィナと名乗り、俺に笑いかけた。

 

「ルゥシィフェナアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 大の大人でさえも震えがるほどの咆哮を放つ女神さまにビビり散らしながらも俺はルシフィナの言葉に耳を傾ける。

 

「もしも、カズマさんが魔王を倒すことができれば、何でも一つ、願いをかなえて差し上げましょう」

 

「マジかよよっしゃ!」

 

 そう言って喜んだ瞬間に、俺は背中に視線を感じ振り返った。そして俺の後ろにいた、鬼の形相の女神さまを見て「あ、俺選択ミスったのかも」と思ったのだった。

 




 一応設定としては、このイリアス様はパラ時空にあるたくさんの異世界をどうにかして認知したタイプのイリアス様。ルカ君につきっきりになる前段階の暇つぶしをしていたら、本来ここにいるはずの宴会芸さんに見つかり、酒盛りに行ってくる間といって無理やり代行をさせられた。
 対等な関係とか全くなかったイリアス様は傍若無人を絵にかいたような宴会芸さんに戸惑いつつも、なんだか断り切れず、何度か代行業務を分身に任せて行っていたら今回の事態になった……。
 っていう裏設定を考えてたけど本編出すと多分ごちゃごちゃするのでここで吐き出しとく。

 なお、粗筋にもあるが、この世界はキャラクターをもんクエキャラに差し替えてるので、もしかしたら代行してるのはこの人だけじゃないかもしれない……。

 もし、このキャラはこのキャラで差し替えて!とかあったら教えてください!


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EP2 サトウカズマは冒険者になった!

 気が付くと、俺たちは街の一角で突っ立っていた。あたりを見回すと、石造りの堅牢な塀のある中世ヨーロッパのような趣の町だった。

 

「これ、俺ほんとに異世界転生してる……異世界転生してるんだ!よっしゃあ!これから異世界で無双したりハーレムしたりするんだ!」

 

 そうしてひとしきり喜んでいると、ふと、横から視線を感じた。

 そちらを見てみると、なんだかぶつぶつと呟きながら俺を見つめる羽の生えた幼女がいた。

 

「あの、どうしたのかな、お嬢ちゃん?と、いうか、あの口の悪い女神はどこ行ったんだよ!あ、いやまぁいない方がいいかもしれないけど」

 

「……いない方がいい女神で、悪かったですね」

 

 そういう幼女の方を改めてみると……似ていた。先ほど気付かなかったことが不思議なほど、顔だちも、その雰囲気も、あるいは身に纏っている衣服でさえ、あの女神に酷似していた。

 

「え、いや、まさか!」

 

「女神に対しての無礼、後悔しなさい!『裁きの雷!』」

 

 直後、脳天からビリリと電流が走り、体に激痛が……走らない。せいぜいがしびれを感じる程度だ。

 

「くっ!やはり六祖封印をされていてはこの程度ですか」

 

 悔しそうに言う女神に、俺は安心して頬を引っ張る。

 

「ひゃ、ひゃひほすふほへす!」

 

「お前、転生する前に散々童○だとか○漏だとか言ってくれたよなあ?」

 

「ひ、ひゃめ……」

 

 怯えの混じった顔をした女神に、俺はパチンと頬を放すと、代わりに手を差し出した。

 

「なーんてな。巻き込んだのは俺だ。性格はあれだけど、お前は女神なんだし、期待してるよ、相棒!」

 

「あ、相棒!?……仕方ありません、誠に不本意ではありますが、現状あなたと共に魔王を倒すしか帰還の道はなさそうですね。光栄に思いなさい。私が手を貸して差し上げましょう」

 

「なんでそんなに偉そうなんだよ、幼女女神様」

 

「なっ!?これは六祖封印の影響であって好きでこうなったわけでは……それより、これからどうするつもりです?まさか、策なしというわけではないのでしょう?」

 

 女神さまの言葉に、俺は大きく頷いた。

 

「まずは冒険者ギルドに行って冒険者の登録、そしてそのあと宿をとる、今日はここまでやるぞ」

 

「……前世で無職だったくせにそこらへんは頭が回るのですね」

 

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 そんな言い合いをしつつ、俺たちはギルドへと向かった。

 幸いギルドへの道は女神さまが知っていたため、スムーズに向かうことができた。ギルドに入ると、併設された酒場で荒くれたちが酒盛りをしていたり、奥にあるボードで依頼の吟味をしているであろう冒険者の姿が見えた。

 

 おお!これ、めっちゃ異世界って感じがする!

 

 感動している俺に、入り口一番近くにいた女が話かけて来た。胸と股だけを隠した黒い衣服に身を纏い、頭にはおまけ程度の角、背中には服と同色の翼が生えていた。

 

「どうしたの、坊や、ここは冒険者ギルドよ、お○ん○んの皮も剥けない坊やは、帰った方がいいんじゃないかしら?」

 

「剥けとるわっ!ってそうじゃなかった。俺たちも、魔王軍に戦う冒険者になりたいんだ」

 

 最初の一言で少し虚を突かれてしまったが、体勢を立て直し、決め声で俺がそう答えると女性はふっと笑ってこちらを見据え……そして大声を張り上げた!

 

「ようこそ地獄の入口へ!ギルド登録の受付はあそこよ」

 

「ありがとう」

 

 そのやり取りを終えると、女神さまが近寄ってきて言葉を続けた。

 

「なぜ、あれほどにスムーズに会話ができるのです?しかもサキュバスなどに」

 

「そりゃ、異世界転生して冒険者になるシミュレー今なんってった」

 

 サキュバス!確かになんかすごいエロい感じはしたけれど!

 振り返ろうとした俺をしかし女神さまは引っ張って受付へと向かわせる。

 

「今は勝てませんが、必ず強くなって……ふふ、ふふふ」

 

 まぁ、そんなこんなありつつ、俺たちは冒険者登録が……。

 

「それでは、登録手数料として一人1000エリスをいただきます」

 

「え?」

 

 できなかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 突っ伏した俺に、幼女女神さまが呆れたように顔を向ける。

 

「先ほどまで頼りになりそうだったのに、やはり童○は童○ですね」

 

「ど、童○じゃねーよ!というか、こういうのは転生サービスで補填があるべきもんだろ?登録料と最初の宿代くらいは資金があったり、偶然強い魔物が表れて、覚醒した俺たちの力で魔物を倒して報酬をもらったりさ」

 

 そう言う風に愚痴ると、女神さまはため息をついて立ち上がった。

 

「本来であれば私が手を尽くすなどありえませんが、今回はあなたのために手を尽くしましょう。見ていなさい。これが私の力です」

 

 そう言うと、幼女女神が胸を張って近くにいた神官のような恰好をした初老の男性の所へと足を運んだ。そして、そのまま高らかに声を張る。

 

「聞きなさい、私の名前はイリアス。そう、創世の神イリアスとは、私のことです。もしあなたが私の信徒なら……少し喜捨することを認めましょう」

 

「……あの、私、アリス教徒なんですが」

 

 その時、ピシリッと空気が砕ける音がした。ギギギとイリアスは頭を揺らし、腰砕けになったかのようにしりもちをついていやいやと後ずさりを始めた。

 

「あ、アリス教……こコロ、殺されっ」

 

「ああ、待ちなさい」

 

 引き留めると、イリアスはもうこの世の終わりといわんばかりに顔面蒼白になりながら老人を見つめた。

 

「なんでも、アリス様とイリアス様は姉妹同士の関係らしい。これも何かの縁、ほれ、持って行くと良い」

 

「はっ、はっ、……はい?」

 

 投げ渡された硬貨の袋を、意味が分からないとばかりに呆然と受け取った女神さまに、老人はにこりと頷いから、少し厳めしい顔をした。

 

「しかし、いくら信仰心が高くても、女神さまを名乗っちゃいけないよ」

 

「はぃ、はい、すみません」

 

 女神さまは、その後フラフラの足取りで俺のいるテーブルに戻ってきた。

 

「なぁ、大丈夫か?」

 

「アリスって、邪神で、私が封印した神なのです」

 

「え?」

 

「わ、私、敵対してる神の信徒から、お金、お金貰っちゃった、は、ははは、はは」

 

「お、おいしっかりしろ!イリアス!」

 

 その後、俺たちはその金で冒険者登録をした。

 受付のお姉さんの目線がとても冷たかったのは、気のせいだと思いたい。

 




とりあえず書きたかったところ第一弾。
変更箇所
モヒカン男→エヴァ
アクシズ教→イリアス教
エリス教→アリス教

まぁ、アクア様変えるならエリス様も変えるよねっていう。
ただ、この変更によって某白髪のあの人とか、後半の展開がちょっとややこしくなるけど。

今後は本当に投稿未定です。

PS 何度か軽微なものから割と致命的なものまで修正しました。
  昔読んだ記憶で書いてるのがばれる。


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EP3 イリアス様は分裂した!

「それでは、説明させていただきますね。冒険者になろうとしている方ですから、おおむね理解はされていると思いますが」

 

 そう言って、受付のお姉さんは冒険者について説明してくれた。簡単に言えば、冒険者というのはありとあらゆる依頼を受け、達成することを目的とする職業であること、そして、ギルドはそのサポートをすること、最後に、生命を殺したり、摂取したりすることで経験値がたまっていき、より強くなれるということ。

 それらを話し終えると、受付のお姉さんは無記名の冒険者カードと書類を取り出した。

 

「まず、こちらの書類に必要事項をお書きください」

 

 身長、体重、年齢、身体的特徴などを記入していき、お姉さんに渡すと、大きく頷いてカードをこちらへ差し出してきた。

 

「はい、結構です。では、お二人とも、こちらのカードに触れてください。こちらを使えば、普段は見ることができないステータスを参照することができ、それに合わせて職業を得ることも可能になっています。職業を得れば、その職業ならではの専用スキルなどを習得できるようになりますから、そのあたりも踏まえて職業を選んでください」

 

 早速来たな、と思いつつ、俺はカードに手を振れる。これはあれだ、俺のチートな性能が周囲にばれて、大騒ぎになる展開だ。そんな期待を胸に、カードを確認する受付嬢のお姉さんの反応をじっと待つ。

 

「ああ、そうですね、能力は平均的で、ちょっと知力が高いくらい……あ、でも運がかなり高いですね、あ、でも運って冒険者にはあんまり必要がないんですけど……。これだと、基本職の冒険者ぐらいしかなれるものがないですね。商人などになられる方が良いと思いますが……」

 

「……その、冒険者でお願いします」

 

 意気消沈している俺に、受付嬢のお姉さんは気づかわし気に言葉を続けた。

 

「いや、ですが、レベルが上がれば能力値も上がりますし、そうすれば転職も可能になります。それに、冒険者の名前が示すように、あらゆる職業をまとめたようなものでして、決して初級職だから悪いというわけでは……?あの、先ほどから無言でどうしたのですか?」

 

 ふと女神さまに目線を向ければ、そういえば先ほどから黙りこくっていたのに気づいた。先ほど敵対神の信者にお金をもらっていた精神的ダメージがまだ癒えていないのかとも思ったがそれにしてはその横顔は理知的な光を宿していた。

 

「いえ、試してみればわかることです。さぁ、カードを」

 

「あ、は、はい!」

 

 そう言って受付嬢が女神さまにカードを渡し、俺の時と同じように軽く手を振れた。そして……。

 

「あ、あれ?なんで?これ、どういう!?」

 

 受付嬢の狼狽ぶりに、やはり、と悩ましげな顔の女神さまを横目に、俺は彼女のカードをちらりと見た。

 

 バグっていた。数字のところに変な文字が書かれていたり、■で塗りつぶされていたり。おおよそ人間が読める文字ではないとわかる。

 

「やはり、こうなるのですね。少し待ちなさい」

 

 そう言って、慌てる受付嬢からカードを奪い取り、何やらカード片手に神秘的なオーラを纏わせながら何かをいじっていく。

 

「表記を合わせました。これでよいでしょう」

 

 何を言っているかさっぱりだが、何とかなったらしい。手渡す一瞬だが、確かに普通に読める文字に代わっていた気がしないでもない。

 そして、それを読みこんだ受付嬢さんが、またしても驚愕の声を上げる。

 

「な、なんですかこのステータス!運が絶望的なまでに低いですが、そのほかはかなりの高水準ですよ!あれ?でも、クルセイダーやアークウィザードなんかにはなれないみたいですね?その代わり見慣れない職業がたくさん?」

 

 それを聞いて、女神さまは再びカードを受け取り一瞥してから一つの職業を選びだした。

 

「なら、私は聖魔導士になるとしましょう。この先回復役は必要となるでしょうしね」

 

「わ、わかりました!」

 

 そうして冒険者登録を済ませると、周囲にいた冒険者たちが沸き立った。

 

「おい!レア職だってよ!」

 

「いったいどんな職業なのかしら?」

 

「新しい英雄の誕生だ!」

 

 そんな歓迎の波は瞬く間に俺たちを覆い、そのまま宴会の様相を呈すのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 夜、宴会も解散し、俺たちの持っているお金で泊まれるところを探して、結局馬小屋で寝泊まりすることとなってしまった。

 最低限しかない荷物を置くと、俺はふと、今日の冒険者登録の時のことが気になってしまった。幸いまだ女神さまも寝る様子はないし、聞いてみることにしよう。

 

「なあ、冒険者登録の時の一体何があったんだ?」

 

「あなたは何か聞く前に、自分の頭で考えられないのですか?」

 

「んなっ!?」

 

 女神さまの物言いに、カチンときて言い返そうとするが、その前に女神さまがため息をついて言葉を続けた。

 

「いえ、あなたにはわかりようもない話でしたね。折角です。今の私の現状と一緒にお話ししましょう」

 

 そう言って、女神さまは今までにないほどに真剣な瞳で俺を真正面から見据える。俺の胸がドクンと鳴り、その言葉が紡がれる一瞬の沈黙にごくりと息をのんだ。

 

「まず、端的に言ってしまえば、ここにいる私は本物ではないのです。それどころか、偽物ですらありません」

 

「は?いや、一体何を言ってるんだ?実際、お前はここにいて、話しているじゃないか」

 

「……私たちがこの世界に堕ちる際、六祖大縛呪。光の帯に私が封じられたことは覚えていますね?」

 

「あ、ああ」

 

 その際のことを思い出し、同時にあの恐ろしい形相の女神さまを思い出してしまい、思わず身震いしながらも、何とか返答する。

 

「あれは、昔私がアリス……邪神アリスフィーズ擁する6体の魔物、六祖と、そしてアリスフィーズ本人を封印するために生み出した呪法。内部の存在から力を奪い取り、それを結解の維持に使う、囚われた対象が強ければ強いほど逃れえないという大魔法です。当然、女神である私も、一度とらわれてしまえばそこから逃れるすべはありません」

 

 でも、今ここにいるじゃないか!と言おうとした俺の口に、女神さまの指が添えられる。

 

「ただ、例外はあります。例えば、内部の存在に比べれば弱小と言っても過言ではない存在を分体として生み出し、それを遠隔操作する。あるいは、一時的に魔素を爆発的に上昇させ、吸収される以上の魔素の暴力によって一時的に本体を顕現させるなど、ね」

 

 そして、女神さまは憂鬱そうに顔を俯かせる。

 

「尤も、今の話もまだ半分なのです。私、女神イリアスは、本来ならこの世界の転生に関わる神ではありませんし、日本に関わる神でもありません。邪神アリスフィーズと世界をめぐって争い、勝ち取った。そんな世界で唯一崇められていた神。それが私でした。

 何年も、何十年も、何百年も。人と、人ならざる者との戦いを遠いところから眺め、時に導き、時に罰し、天使を派遣してきました」

 

 その話しぶりに、少し自嘲のような物を感じ、俺はいぶかし気に女神さまを見るが、女神さまはそれに気づかず言葉を続けた。

 

「そんな時に、あの私たちが初めて会ったあの場所を見つけたのです。そこには青髪の女……女神がいて、私がお酒飲む間ちょっと仕事替わって!などと……思い出すたびに腹立たしいですが。そういう経験がなかったものですから、驚いて対応を考えている間に、気が付くとあの人はいなくなっていて……」

 

 今度は打って変わってうれし気な顔をする女神さまは、かすかに口の端を上げながら思い出を懐かしむように目を細めた。

 

「でも、なんとなく、その時のことが忘れられなくて、私は分身を作って度々あそこに行くようになったんです。……まぁ、あまりに通いつめすぎて、いつの間にか職務放棄していた青髪の女神がクビになってたのは驚きましたが。今でもたまに愚痴りに来るんですよ……ふふっ。

 だから、私のギルドカードが上手く登録できなかったのは、そのせいでしょう。私は本体の分身のそのまた分身なのですから」

 

「なぁ、女神様……いや、イリアス様」

 

「何ですか、カズマ」

 

「いや、大丈夫か?」

 

「?何がです?」

 

「いや、だってお前、今にも泣きそうな顔してるぞ?」

 

 バッと顔を抑える女神さまは、自身の顔を確認して眦にたまった雫に気が付くと、堰を切ったようにその青い瞳から涙が溢れ出した。

 

「あ、ああああっ!な、なんで……」

 

 泣きじゃくる女神さまに、俺は思わず女神さまの頭を抱えた。女神さまはそれに抵抗せず、何度も何度も俺に頭をこすりつけては嗚咽を漏らした。俺は思わず抱きしめてしまったが、それ以降の対応が思い浮かばず、固まってしまった。

 

「カズマ……サトウカズマ、一つ答えなさい」

 

 一通り泣きじゃくり、少し落ち着いたところで、女神さまがそう聞いてきた。

 

「私は、一体何者なのですか?私の大本は異世界におり、私を生み出した本体は封印されて、残りかすの搾りかす。そんな私は、一体何だというのですか」

 

 俺は一瞬目をつぶり、そして大声を張り上げる。

 

 

「知るかボケぇ!」

 

 

「!?」

 

「俺たちゃ今日あったばかりの仲だぞ!そんな重いこと言われてもなんて返せばいいかわかんねぇし知りたくもねえよこんちくしょう!」

 

「なっ!なんという言いざま!あなたには人の心がないのですか!女が泣いているのに暴言とは、流石童○ですね!」

 

「ど、童貞は関係ないだろ!っと、とにかく俺はあんたが今までどんなこと考えてどんなことをしてきたかなんて知らない……ただ、あんたはあんただ。俺をこの世界に転生させて、その特典で連れてこられた女神さまだ。そうだろ?」

 

「……え?」

 

 呆然とする女神様に、俺は照れ臭くなり、顔を見れないまま語り掛ける。

 

「その、さ、あんたの本体がどうだとか、異世界の原点がどうだとかってさ、本当に大事なことなのか?俺はお前のことはよく知らないけどさ、せっかく異世界に来たんだ。自分は何者か、なんて小難しいことは忘れて、今の自分として楽しんだ方がいいんじゃないか?」

 

「今の自分を……楽しむ?」

 

 話すのをやめてしまった女神さまと同じ場所にいるのがいたたまれなくなり、俺はそそくさと寝藁の方へともぐりこんだ。

 

「お、俺はもう寝るからな!お、お休み!」

 

 なんだかどぎまぎしつつも、慣れない異世界での疲れもあったのか、俺はあっさりと夢の世界に堕ちて行ったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

「おはようございます。サトウカズマ。ご主人様よりも起きるのが遅いなど、出来の悪い下僕ですね」

 

「下僕じゃねーよ!」

 

 思わず聞こえて来た言葉に飛び起きると、そこには満面の笑みを浮かべた女神さまがいた。

 

「あ、ああおはよう。女神様」

 

 その言葉に、少し眉を揺らして女神さまは俺の手に自分の手を置いた。

 

「違いますよ」

 

「え、でも、お前は女神……」

 

「違いますよ。あなたも昨日言っていたじゃありませんか。自分は何者かではなく、何をしたいかが大切だと。あれから考えて、思ったのです。私がやりたかったのは、この手でアリスの手先、モンスター娘どもを駆逐することだと!」

 

「うんう……うん?」

 

 一瞬納得しかけたが、なんか変なのが入ってなかったか?

 

「だから私は、これから創世の女神イリアスではなく、ただのイリアスです。よろしくお願いしますね。サトウカズマ」

 

「あ、ああわかったよ。よろしくイリアス」

 

 何はともあれ、元気になってよかったと思ったのだが、その後、街中にいた冒険者風のミノタウロス(女)に突撃し、斧の一撃でビクンビクンしてたイリアスを見て、説得失敗したかな、と思ったのはまた別の話。




 こんなにがっつり書く気はなかったけど、こういうことになってしまったよ。
 二次創作って難しいね。

 本当はカズマも妖術師とかのもんパラジョブにしようかとも思ったけど、逆におもんなかったので普通に冒険者のままで行きます。
 今後で行くとエクスプロージョン(オーバーロード※もんパラでのマダンテっぽい技)の置換も考えたけど、森羅万象士って現状なれる人がほぼコラボキャラだけだからうーんってなる。
 主要キャラを誰に置き換えるかはとても悩ましい問題です。一応設定的には、クエ世界やパラ世界のもん娘とは同種別個体扱いで記憶引継ぎは無しの形にはなると思うけど。例外は、イリアス様、アリス様関連。

 個人的にはイリアス様の傲慢さの原因の一つって、その唯一無二(初代アリス除く)の実力にあると思うから、分身の分身っていう立場に置かれると大本のイリアス様と、自身の間の線が薄くて「(大本の)自分という絶対存在がいるせいで自分の絶対性に自信を持てないイリアスちゃん」ができるんじゃないかと思ってる。

 変更点
・イリアス様のみパラ世界のジョブシステムを使用
・駄女神が開始時点でクビになっている


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EP4 イリアスは飲み込まれた!

「よーし!今日は上がっていいぞ。ほれ、今日の分だ」

 

「はい!ありがとうございます」

 

 土木工事の仕事を終え、俺たちはその日の給料を受け取った。

 

「まったく、麗しいこの私になんてことをさせるのですか……」

 

 空を飛べるという特性をフル活用し、なんだかんだ俺よりもこき使われているイリアスがぶつくさ言っていると、親方がもう一枚の封筒を差し出し、イリアスの頭を撫でた。

 

「あんたのおかげで、仕事がかなりはかどってるからな。ありがとよ。今日は頑張ったあんたに追加報酬だ!それでいいもんでも食べてくれ!建築の女神様!」

 

「めがっ……! コホンッ。そ、そうでしょうそうでしょう。世界を作り出したこの私なのですから、建物の一つくらいわけありません。これからも頼りにしてくれて構いませんよ」

 

 建築の女神と言われてまんざらでもない女神さまは、親父の頭撫でであっさり陥落したらしい。チョロ女神。と、のどまで出かかったが何とか飲み込み、俺たちは酒場へと繰り出した。

 

 このタイミングのイリアスはたいていの場合上機嫌だ。なんでも女神及び天使という存在は元来食料を必要としない存在だそうで、見ているだけだった食事を摂取するという行為は前々からやってみたかったことの一つなのであったという。

 で、封印されてエネルギー供給が制限されてしまった影響もあり、初めて試みた食事でうちの女神さまは陥落した。

 シェフを呼べ、だのシェフを洗礼して守らなければ、などひと悶着はあったものの、その後もこの食事の時に関してはイリアスの機嫌が必ず良い時間となっていた。

 

 なお、普段のイリアスはあんまり機嫌がよくない。なぜなら、彼女の言うところの邪神アリスフィーズの眷属であるはずの魔物の特徴を持った人々、モン娘が普通に街中を闊歩しているからだ。

 転生してきた当初は、異世界だから当然だと思っていたのだが、もともとはこういったことにはなっていなかった、あるいは、同じような世界だが、住人が違う別の世界へと飛ばされたのではないかというのがイリアスの推測だった。

 

 ……。

 

「……って、そうじゃねーだろ!」

 

 いつの間にか特盛ジャンボパフェを注文し、スプーンでつついていたイリアスがビクリと震え、そして肩を怒らせて俺をにらみつけて来た。

 

「私の至高の時間を奪おうとするとは……サトウカズマ、あなたは天罰を食らいたいようですね」

 

「いや、そうじゃねーよ!なんで俺たち日雇い労働者してるんだよ!俺たちは冒険者だぞ!魔物を倒して、強くなって、英雄譚とかになったりするのが冒険者じゃないのかよ!」

 

 それを聞いて、ハッとしたイリアスがジャンボパフェに二投目を突き刺した。

 

「……たしかに、アム、……ふぉのとふぉり……ング。でふね……」

 

「せめて手を止めてほしいんだが」

 

「ンンッグ、……待ちなさい。何も私もこれまで手をこまねいてきたわけではありません」

 

 そう言って、イリアスはナプキンで口を拭い、ともすれば悪辣にすら見える微笑を浮かべた。

 

「常々モン娘たちを尾行し、その弱点、弱みを探るついでに手に入れた情報がここにあります。それによると」

 

「おい、なんだそれは」

 

「何とは?言葉通りですよ。それとも、童○には難しすぎましたか?」

 

 俺は机をバンと叩き、直後に少し我に返って抑えた声でイリアスを詰問した。

 

「俺はその情報の入手経緯を問題にしてるんだよ!尾行して弱みを握る!?いったい何考えてんだお前は!」

 

 俺はイリアスの持っていた紙束を奪い、ざっと目を通す。

 

『ゴブリンとラミアの子どもを尾行していたら、吸血鬼と竜の子どもと一緒に合流して遊んでいた。それぞれ敏捷性や手先の器用さ等、気を付ける点はあるが、竜の子ども以外は罠にはめてしまえば簡単に倒せる程度の実力。鬼ごっこではラミアに、クイズではゴブリンに、度胸試しでは吸血鬼に勝った』

 

 さっとイリアスの方を見ると、さっと目を逸らされた。続きを読むことにする。

 

『町を歩いていると、人間に化けた和服の金髪モン娘に出会った。かなり強い力を持っていたが、気付かれないように尾行した。たまたま入った店で隠れることができず、たまたま向こうから話かけられたが、飴をもらった。警戒はされなかったようだ。もしかしたらいいモン娘なのかもしれない。少なくとも人間に化けている間は見逃すことにする』

 

 ……無言で3例目に目を通す。

 

『ローパー娘を尾行していたら、狭い裏路地で見つかって拘束されてしまった。しかし、騒ぐとカニ娘がカニ光線を放ち気絶させたのち、衛兵詰め所まで連行してくれた。憎きモン娘を一匹豚箱にぶち込めたのでよしとする』

 

 俺は三度イリアス様の方を見て満面の笑みでイリアスの頭を撫でた。

 

「イリアス様なりに、この世界に馴染もうとしているんですね」

 

「そんなわけないでしょう!?重要なのはその下です!」

 

 憤慨するイリアスの言葉に従い、もう一度視線を落とすと、このような文字が書いてあった。

 

『食事というのは素敵なものだ。今日はジャイアントトードの唐揚げというのを食べた。なんでも初心者冒険者の定番依頼になっているようだ』

 

と。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 冒険者としての生活を鑑みた翌日、俺たちは拠点としている町、アクセルの外に存在する広大な平原で、ジャイアントトードを物陰から見つめていた。

 

 なお、俺たちの武装は、俺がショートソード、イリアス様が初心者用のワンドを装備している。数週間にわたった日雇い労働だったが、流石にその短期間では鎧等は準備できなかった。

 

「それで、どうするんだ、イリアス」

 

「わかりませんか?私の”さばきのいかずち”は雷属性の固有魔法です。そして、ジャイアントトードは水属性。古今東西、水に雷は効果抜群と相場が決まっています」

 

「……ふんふん、それで?」

 

「?」

 

「え、まさか、ほんとにそれだけ?」

 

 心底意味が分からないという風なイリアスは、まあいいか、とすっくと体を起こし、ジャイアントトードを見つめた。

 

「あの邪神が作った魔物でないことが若干残念ですが!我が血肉となりなさい!”裁きの雷”‼」

 

 そう言うが早いか、イリアスの持つワンドからきらめく閃光が走り、ジャイアントトードに激突する。ジャイアントトードは直撃を受け、煙を立ち昇らせ、何度か左右に大きく揺れた。

 

「どうですカズマ!これでわかったでしx……へぷっ!?」

 

「あ」

 

 揺れ動いたジャイアントトードは、何度目かの揺れでイリアスをぱっくり頭から飲み込んでしまった。

 

「い、イリアス―!?」

 

 幸いなことに、ジャイアントトードは一度何かを飲み込んだ後は動かなくなるようで、それを利用して滅多打ちにした結果、何とか討伐することができた。

 

 ただ、その際イリアスが「なっ……どこを触っているのですか、この下郎!」とか、「んっ……んんっ!」とか、主に下半身に悪い悲鳴をあげるものだから、戦闘中なのにそういう気分になってしまい、非常に困った。

 

 救出時にイリアスがこれ以上ないくらい顔を紅潮させて気絶していたのは不幸中の幸いだったのだろう。その顔見て余計に変な気分になってしまったが……うん。多分幸運だったんだ。そうに違いない。

 

 なお、翌日から「幼女を粘液まみれにして楽しむ変態」と噂されたのは少し納得いかなかった。

 

 




というわけで、残念ながらイリアス様もカエルには勝てませんでした。
ワンチャンカエル娘POPさせようかとも思いましたが、それはまたの機会にしようと思います。

本日の変更点
・イリアス様に特別報酬
・モン娘が市民権を得ている世界(特段記述はないが当初から同設定)
・若干カズマの女神さまに対する態度が軟化(知力が高いため、一応信じられる)
・イリアス様が住民とやや敵対的(イリアス様の特性)
・イリアス様が若干チョロい(重圧から解放された&六祖封印の影響)
・ジャイアントトードの攻撃で女神さまが気絶する(イリアス様の快楽弱点が影響)
・初日の討伐数が1体に減少(イリアス様が気絶した影響)

 次回、いよいよ大魔法使いが登場!……今でも配役ちょっと悩んでたり。


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EP5 サトウカズマは仲間を呼んだ!

「……昨日は不覚を取りました。思うに、流石に手駒が少なかったのが問題です。手駒を増やすためにも、人員募集を掛けましょう」

 

 翌日、復帰したイリアス様は朝食のジャイアントトードの唐揚げをつまみつつそう宣言した。

 なお、昨日の依頼でわかったことだが、ジャイアントトードと命がけで戦った結果の素材引き取り報酬は、わずか5千エリス。ギルドからの運搬サービスなどもあるため独自で移動させれば少しは高値で買い取ってくれるだろうが、それを含めてもいつもの土木作業の半分しか報酬が得られなかった。

 確かに時間としては短いが、命を懸けて日雇いの日当の半分というのは、世知辛いにもほどがある。

 

 だから、仲間を募集する、というのは理にかなっているが……。

 

「確かに、イリアスの言うことも尤もだが、俺は初級職なんだぞ?パーティを組んでくれる相手なんか要るのか?」

 

「モンファイ、アリマフェン」

 

「前にも言ったが、口の中の物がなくなってから喋ろうな?」

 

 ごくりと唐揚げを飲み込み、改めてイリアスが悪い笑顔を浮かべながら言葉を続けた。

 

「問題ありません。あなたは確かに役立たずの初級職ですが、私は聖魔導士。この世界には本来ありうべからざる職業です。未知の職業に興味を持った人々は多くいるはず。そこを狙えば、戦闘能力の高い冒険者も味方に引き入れることができるはずです。

 もしかしたら、カズマもいらないほど募集で人が来るかもしれませんね。今のうちに恩を売っておいた方が良いのではないですか?」

 

 なんだか調子に乗っているイリアス様だったが、言っていることはそこまで間違っていないため、仕方ないのでもう一つ唐揚げを注文するのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「…………」

 

 じっと動かずに瞑想をするイリアスは、ともすればその小さな体躯に似合わない威厳すら漂わせ、ギルドの一角に鎮座していた。

 

 朝、唐揚げを思いきり頬張った後、さっそく人員募集の依頼を出したイリアスと俺だったが、現在半日立っても、希望者はだれ一人としてやってきていなかった。

 

「…………」

 

 瞑想を続けるイリアス。だが、その瞑想は始めからそうではなく、最初の方は俺と少し雑談しつつ希望者を待っていたのだ。しかし、一時間待ち、二時間待ち、と時間が過ぎていくにつれ口数が少なくなり、最終的にこのような状態になったのである。要するに、不安で祈っているという単純な理由で生まれたのが、この威厳がありすぎる幼女の図である。

 

「なあ、イリアス」

 

「何ですか、カズマ」

 

「いい加減諦めて、ハードル下げようぜ、そりゃ、最終的には魔王軍に挑む予定だから仕方ない所もあるんだろうが、流石に上級職だけ募集しますってのはちょっと無理があったんだよ」

 

 俺の言葉に、顔を一瞥したイリアスは何も読み取れない顔で言葉を続けた。

 

「何も問題ありません。まだ半日ではありませんか。私がルカの旅立ちを何年待っていると思うのですか?たかが半日くらいで音を上げるなど、情けない」

 

「手、震えてるぞ」

 

 俺の指摘に、顔を赤くして立ち上がったイリアス。これから俺とイリアスの舌戦が開始されようとしたその時。横合いから気だるそうな、しかし、なぜかよく通る声が投げかけられた。

 

「募集の張り紙、見せてもらったぞ。ここでよいのかの?」

 

 そこにいたのは、金髪の幼女だった。手には扇子を握り、頭には赤いひもで結った髪飾りをしている。服装は、少し着崩してはいるが、あでやかな着物だ。

 しかし、どう見ても幼女だった。この世界は現代でないので、別に子供が冒険者になっていること自体はそこまで不自然ではないが。

 どう考えても10代前半のその少女は、服装の中で唯一異様な、右目を覆っている眼帯に手を置き、着物をはためかせて扇子をバッと開いた。

 

「うちはたまも!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操りし者……!」

 

「学芸会の練習か?」

 

「ち、ちがうわい!愚かもの!」

 

 そんなやり取りをしているとイリアスが目をしばたかせて少女に声をかける。

 

「あなたは……以前お会いした時は気付きませんでしたが、その瞳の色、紅魔族では?」

 

「ふむ……左様。うちは紅魔族随一の魔法の使い手。我が必殺の一撃は天を焦がし月を穿つのじゃ。そんな強力な力は欲しくはないか?今ならそんな力が……くぅ」

 

 突然口上をやめ、腹に手をやる幼女が、せつなそうに俺たちを見た。

 

「すまぬが、何か食べるものをくれぬか?何しろ3日ほど何も食べておらなんでな」

 

「まあ、飯を奢るくらいならいいけど、そもそもその眼帯は何なんだよ。もしも怪我してるってんならイリアスに直してもらえば……」

 

「残念ながら、これはうちの力を封じる特殊な呪符を込めた眼帯じゃ。何人たりともこれを外すことは叶わぬ。むろん、うち自身もな」

 

 そう神妙に言うたまもに、俺はごくりとつばを飲み込みながら言葉をひねり出す。

 

「なるほど、封印か」

 

「まあ、実際はそう言う風に見えるただのおしゃれじゃな」

 

 俺は無言で眼帯をひっぱった。

 

「ぬっ!何をするのじゃ、あ、謝るからやめるのじゃ!や、やめろぉー!?」

 

 その光景を見ながら、少し呆れ気味のイリアスが俺たちの間に割って入った。

 

「カズマ、それくらいにするのです。紅魔族は魔法にたけた種族で、生まれつき高い知力と魔力を備えた存在です。生まれつき魔法使いのエリートになる素質を持ち、名前の由来となった赤い眼と……やや古風な話し方をするのが特徴ですね」

 

 なるほど、なんだかおばあちゃんみたいな話し方をしていたのはそれが理由か。

 

「ふむ、おぬし、何か失礼なことを考えておらぬだろうな?」

 

「……この子たちの種族は魔法にたけてるんだよな?仲間に入れてもいいんじゃないか?」

 

「ええ、その方なら、少なくとも人格は問題ないでしょう。それに、ギルドカードは偽造が不可能である以上、彼女が上位職のアークウィザードであることは確実。それに、本当に爆裂魔法が使えるというのなら、彼女の実力はこれ以上を望むべくないものでしょうね」

 

 そういうイリアスの言葉を聞き、俺は彼女を仲間にい引き入れることにしたのだった。

 なお。

 

「なあ、一つ聞くんだけど、たまもって何歳なんだ?」

 

「おや、レディに年齢を聞くなど、礼儀がなっておらんぞ……。まあよいわ。13じゃぞ」

 

 年齢は見た目よりもやや年上だったくらいでほぼほぼ順当だったことを付け加えておく。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 面接の後、俺たちは再び平原まで足を運んでいた。タマモを仲間に入れての初めての魔物討伐。それはタマモの実力を測るという意味もある行為だった。

 

 早速、ジャイアントトードが3体見つかり、そのうちの一体がこちらへと向かってきた。

 

「おーい!たまも、爆裂魔法を頼む!奥の奴にぶちかましてくれ」

 

「よかろう!うちの力、とくとみるがよい!……黒より黒く……」

 

 数秒の詠唱、それは巨大な魔方陣を生み出し、たまもの眼前に巨大なエネルギーの塊が収束する。

 

「ゆくぞ!穿て!エクスプロージョン!」

 

 膨大な光の奔流が二体のジャイアントトードを包み込み、物言わぬ屍に代わるのを驚きと歓喜と共に見た俺は、すぐにタマモに指示を飛ばす。

 

「いいぞタマモ!いったん引いて体勢を立て直せ!次は近づいてるやつに注意を!?」

 

 そう言った矢先、違和感を受ける。先ほどから、たまもが一歩たりとも動いておらず、地面に寝ころんでいたのだ。

 

「どうした!たまも!」

 

「うちのエクスプロージョンは、最強の魔法であるゆえに、必要魔力においてもまた規格外。限界まで魔力を出し切ったうちができることはそう多くない。……まぁ、つまるところうちは一発撃てばもう動くことさえできぬ……む、なんじゃ、こんな近くからお替わりが来るとは思わなんだぞ、ああ、ちょっと助けてくれんか?このままではちとやばそうなんじゃが……」

 

「裁きの雷!裁きの雷!裁きの雷!さばきのいかずちぃ!!な、なんで動きが止まらないんですか!??ひゃわああああぁぁぁ!?」

 

 俺はイリアスとたまもが身を挺して動きを止めたカエルたちにとどめを刺し、何とか依頼を達成することができたのだった。

 

 なお、これは余談ではあるが「幼女を粘液まみれにして喜ぶ変態」が「幼女を粘液まみれにして楽しむド変態」にランクアップしたのはやっぱり納得がいかないのだった。




 ということで、めぐみん役はたまもちゃんとなりました。
ただし、このたまもちゃんはクエ世界の六祖封印状態のロリたまもではなく、ただの九尾の狐(なんだそいつは)であるたまもちゃんでしがらみ塔もほぼありません。
 本来はイリアス様もやばい奴に似てることに流石に気付くはずですが、この一族は人間に紛れるために常時人間に擬態していて耳としっぽを隠しているため金髪の人間に擬態した妖魔だと認識しています。

 設定は大きく違い、このたまもちゃんは職業アークウィザード、使える魔法は爆裂魔法だけです。
 ただし、たまもちゃんらしく大地の精霊と無意識化で仲良しです。……が、あまり硬すぎるとダクネス役の子の出番がなくなるので節々で怪力見せることができるくらいの頑強さに抑えられています。

 また、たまもちゃん登場の影響で、今作の紅魔族が狐一族に占拠されました。具体的に言うと。
・紅魔族は赤い瞳を持つ(原作準拠)
・紅魔族の女は殆どの者が名前に○尾という謎のワードが入る。
・紅魔族の男は変な名前を持っている(原作準拠)
・紅魔族は魔力適正が非常に高い。(ある意味原作準拠)
・紅魔族の体の一部には、しっぽのような模様がある(擬態の影響)

 みたいな設定になっています。要は絶対にモン娘に変換できないひょいさんを残すために男は設定準拠、ついでに男キャラも割かし残す形で後は全部狐に置換されてます。

 本当は月光きゃのんを必殺技にしようかとも思いましたが、エクスプロージョンは原作基準の方が良いという結論に至ったのでたまもちゃんに習得させました。

今回変更点

・めぐみん→たまもに変更
・ジャイアントトードの出現数増加(前回の変更点からの調整)
・面接段階で女神さまが魔法使いと面識がある(イリアス様の魔物嫌い対策)


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EP6 たまもは打ち明けた。

「あぁ、なんということでしょう。このように穢されてしまうとは。これというのもカズマ、あなたが情けないからですよ」

 

「ふむ、ジャイアントトードの内部というのは中々に良い心地なのじゃな……うちの鼻にはかなりキツイ臭いじゃったから二度目は遠慮したいものじゃがな」

 

 ジャイアントトードについて恨み言を言う二人。今回は2回目ということもあってか、イリアスが気絶せずにいてくれたため、爆裂魔法の反動で動けなくなったたまもをおぶさることができたが、これはこれで何とも面倒くさい。

 

 爆裂魔法の反動だが、魔力を使いすぎたことによる魔力の枯渇と、それを補うために使った生命力の摩耗から起きる現象らしい。場合によっては命にも関わる恐ろしいもののようだ。

 

「これは、爆裂魔法は緊急時以外に使わない方がいいな。これからは他の魔法で頑張ってくれよ。たまも」

 

 そう言うと、暫し無言を保ったたまもがぽつりとつぶやいた。

 

「使えぬぞ」

 

「え?」

 

「じゃから、うちは爆裂魔法しか使えん……いや、正確に言えば戦闘技能としては他にも覚えているものはあるが、魔法としては爆裂魔法しか使えぬ」

 

 その言葉に、俺とイリアスは驚きの顔をタマモに向ける。

 

「え……まじ?」

 

「まじじゃ」

 

「ですが、確かこの世界にはスキルポイントというものがあったはずです。爆裂魔法を使えるほどに研鑽を詰んでいるなら、他の魔法の習得条件は満たしているはずですよね」

 

 スキルポイントとは、職業を収め、レベルアップするごとに得られるポイントで、これを消費するごとに、職業にちなんだ魔法や特技を習得することができるといったものらしい。

 初期のスキルポイントの量や、覚えられるものの一部には個人の才覚や努力の差もあるが、爆裂魔法という最上位呪文を使えるのならば、他の上級魔法も覚えられて当然ということらしい。

 

 イリアスの解説に、たまもは俺にしがみついている腕を強く握りこみ、言葉を絞り出した。

 

「うちは、爆裂魔法を愛しておるのじゃ。爆発魔法系ではなく、爆裂魔法のみを愛しておる。確かに火、水、風、土、基本の属性を覚えれば、冒険も楽になるじゃろう。しかし、うちは爆裂魔法しか愛せぬ。爆裂魔法を習得するためだけにアークウィザードとなったと言っても過言ではないのじゃ!」

 

「素の属性は四大精霊のものではないですか!まさかこんなところにまで幅を利かせているとは……!」

 

 なんだか悔しがっているイリアスを無視して、俺は先ほどの話を吟味した。

 

 つまり、こいつは爆裂魔法しか使えないし、他の魔法を覚える気もない。一日一度しか魔法を打てないヘッポコ魔法使いということだ。

 

「あ、ああ、多分いばらの道だろうけど頑張って、今回の仕事はありがとう、報酬はギルドに言ってから山分けしよう!」

 

 そう言って俺がたまもを下ろそうとすると、彼女はがっしりと俺に抱き付いて顔を覗いてきた。

 

「うちの望みは、爆裂魔法を放つこと。それ故に無報酬でも問題ないと考えておる。多少の食費と宿代、雑費だけで世界最強の魔法火力を得られる。これは長期契約以外手はないのではないかのう?」

 

「いやいや、その世界最強の魔法火力っていうのは、俺たちみたいな下級冒険者の手には余るんだよ!だから、ほら、お前には上級職の冒険者パーティがお似合いだと思うぞ!」

 

 俺の言葉に、たまもっは嫌に余裕ぶった態度で答える。

 

「くぅくぅ、うちはまだレベル9。駆け出しも駆け出しじゃ。暫しレベルをあげれば、魔法一発で戦闘不能になることもなかろう。これは早めにつばを付けておくべきじゃ」

 

「そう言いながら!ほんとは誰にもパーティ入れてもらえてないんだろ!そもそも、爆裂魔法なんてダンジョンなんかじゃ完全に役立たずじゃないか!いいから離せ!今回の報酬は払ってやるから!」

 

「そう連れないことを言うでない!……正直、貯えもなくて結構ギリギリなのじゃ。だから、見捨てないでくりゃれ?のう。うち、こう見えて結構な力持ちじゃし、荷物持ちとか何でもするからな?ほら、だから捨てないでくりゃれ!」

 

 そうして抱き付き続けるたまもだったが、街中に入っていたためか、やじ馬がぽつぽつとこちらに近づいて来ていた……。いや、それよりも……。

 

「ちょ!?タマ……モ、く、クビ……」

 

「なっ!?まだうちをクビにするつもりか!?お願いじゃ、本当に何でもするぞ!おぬしが望むなら、そ、その、ご奉仕もしてやろう!カエルのぬるぬる粘液攻めでも何でもするがよい!」

 

「わ、わかっ、だから、く、クビ、を……」

 

 俺はそのままたまもに締め落とされ、意識を飛ばしたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はい、確かに、ジャイアントトード5匹の討伐を確認しました。ご苦労様でした」

 

 冒険者ギルドへの報告を終え、報酬を受け取った。ちなみにあの後、何とかイリアスの回復魔法で復活した俺だったが、説教しようにも一目があったため、さっさと粘液を落とすために公衆浴場へと放り込んでからこちらに来ている。

 

 さて、本題の依頼達成の報告のことだが、討伐の確認は冒険者カードで確認するらしく、懸念材料であった消滅した2匹のジャイアントトードの分も問題なくカウントされており、何とか依頼達成の報告ができた。

 

 俺は先ほど受付に提出したカードに目を落とす。そこにはレベル3に上がった俺のレベルが書いてあった。

 

「本当に魔物を倒すだけで強くなるんだよな」

 

 レベルの下をよく見れば、そこにはスキルポイントとして3ポイントと記入されていた。

 

「これで、俺もスキルを覚えることができるんだよな」

 

 そんな風に考えていると、受付嬢さんが俺に話かけて来た。

 

「では、ジャイアントトードの討伐報酬と、素材の引き取り報酬が二匹分、合わせて11万エリスとなります」

 

 11万エリス。2日の報酬としては確かに悪くない。ただ、それを3等分してしかも命をとして得た報酬と考えると……。

 

「割に合わねー」

 

 俺は冒険者二日目にして、冒険者生活の無常を感じ、早くも日本に帰りたくなってきていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

「はぁ……」

 

 俺が近くの椅子に座り、現状に軽く絶望していると、背後から軽く肩を叩かれた。

 

「……すまない、少し良いだろうか?」

 

 その声に振り向くと、そこにいたのは……なんというか、その、全体的に水色の女性だった。背は俺よりもやや高く、その細く切れ上がった目線はなんだかぞくぞくする色気を発していた。

 

「え、ええと、あなたは?」

 

「私の名前はエルベ……エル。募集の張り紙を見させてもらった。まだ募集はしているのだろうか?」

 

 そう言ってエルが見せて来たのは、人員募集の紙だった。そう言えば、たまもをパーティに入れてから依頼の紙をはがしていなかった。

 

「ああ、まだ募集はしてますよ。とはいってもあんまりお勧めはできませんけど」

 

「どうか、私をパーティに入れてほしい」

 

 やんわりと断ろうとしていた俺の手を握り、エルはかみしめるようにそう宣言した。

 

「え、あの、いや……何でそんなに俺のパーティに入りたいんですか?さっきだって俺のパーティメンバーが粘液まみれでっていだだだだ!?」

 

 粘液まみれ、と言った瞬間に、エルの手が強く握られ、俺の手を握りつぶさんばかりとなった。

 

「やはり、先ほどの粘液まみれの二人はあなたの……ならば、尚更」

 

 さらに目を細める女性に、俺の危機管理センサーがビンビン反応している。これはかなりまずい。おそらくタマモのように何か厄介な特性を隠しているに違いない。

 

「あんな年端もいかない少女が汚されるなんて、見ていられない。私が彼女たちの盾となる。私は上級職のクルセイダー。だから、私にもパーティに入る資格はあるはず」

 

「あ、あの、ほんとにお勧めしませんよ?うちのメンバーって、よくわからない特殊な職業の持ち主と、やたら力は強いけど魔法を一発しか打てない魔法使い、それに俺は最弱職の冒険者のポンコツパーティ!だから、上級職を受け入れるのもおこがましいっていうか」

 

「なら好都合。私は細かいことが苦手で、武器の扱いが不得手。だから攻撃が当たらない。防御力と耐久力は高いから、囮や壁代わりに使ってほしい」

 

 やっぱりどでかい爆弾を抱えていたらしい。しかし、それが分かったからにはこの女を仲間に入れるわけにはいかない!

 エルはもはや俺にのしかかる様に顔を寄せており、軟体のように、というか実際に軟体であるであろう身体を伸ばし、俺が立っているにもかかわらず押し倒さんばかりに上から俺の顔すれすれまで顔を近づけている。

 その端正な顔もさることながら、何だったら捕食されそうな恐怖まで感じながらも、俺は反駁する言葉を探す。

 

「いや、女性が盾替わりなんて、俺たちのパーティ、ほんとに弱いので、かなりあなたに攻撃が回ってきますよ!それが毎日続くかも!」

 

「小さな子どもたちがそれで救われるなら、本望だ」

 

「いやだから、ね」

 

「それとも、貴方は弱い子達がひどい目にあってもいいの?」

 

 ああ、なんとなく分かった。淡々とした口調から誤魔化されかけていたが、こいつの目を見て分かった。こいつの目は俺を見ていない。

 こいつは多分……あれだ、ガチ○ズロ○コンだ。イリアスとたまも、どちらが彼女の琴線に触れたかはわからないが、どうやら彼女は性能だけでなく中身までダメな系だったらしい。

 




というわけで、たまもが正式に仲間入り&エルべぇの顔見せ回です。
ダクネス枠本当はいくつか案があったんですが、結局エルべぇとなりました。
案1 ステファニー(箱入り娘)
案2 サラ(もんクエ、パラ世界でのサバサの姫)
案3 エルべぇ
案4 たまも

 ステファニーは箱入り娘で貴族感あるのと、世間知らずっぽさがある、サラちゃんは立ち位置がダクネスと似てる、エルべぇとたまもは耐久性。

 だったんだけれど、ステファニーは正直この中だと格が一段落ちるうえにパラ世界からの参戦。サラは登場時が人間っていう問題と、耐久性的には他キャラと比べて落ちるっていう問題。たまもはすでにめぐみん枠内定でエルべぇに決まりました。

 なお、エルベディエの○ズロ○コン設定に関しては。クエ世界での「弱い存在である幼いスライム族が生きていけるためなら何でもする」的な行動原理を拡大解釈して歪曲したものです。クエ世界のエルベディエ様にはそう言う設定はないのでご安心……ああ、別のやばい設定あったわ。

変更点
・魔法使いをパーティに正式加入させる理由が物理的(たまもの怪力設定の為)
・魔法使いのレベルを3上昇(前回のカエル2匹討伐の理由付け&9尾の狐に合わせて)
・剣士の加入希望理由の変更(エルベディエがドMは考えにくいため)


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EP7 カズマはスキルを覚えた!

 カエル討伐の翌日。俺たちは酒場で食事をとっていた。

 たまもは今までろくに食事にありつけなかったからか、すごい勢いで食事を摂取していた。それにつられてイリアスも注文を繰り返すものだから、本来美人で羨まれるであろうハーレムパーティのはずが、いまいち嬉しくない。

 そんな中、俺はふと彼女たちに聞いてみることにした。

 

「なあ、スキルの習得ってどうするんだ?」

 

 すると、打てば響くとばかりにたまもから返答が飛んできた。

 

「スキル?それは、お主の冒険者カードに出ておる、現在習得可能なスキルというところから……、おお!そうじゃった!お主は冒険者であったのう♪

 冒険者の場合は、誰かにスキルを教えてもらわねばならぬ。まずは目で見て、そのやり方を教えてもらう。さすれば習得可能スキルという項目が現れるから、後はポイントを使ってスキルを選択するだけじゃ」

 

 なるほど、……そう言えば受付嬢さんからは、全てのスキルが習得可能だと聞いたような気がする。

 

「なら、おれもたまもに教えてもらえば爆裂魔法を覚えられるってことか?」

 

「その通りなのじゃ!」

 

 俺がうかつにもそう言うと、たまもが大きく伸びて俺の胸倉をつかんできた。

 

「何を隠そう、冒険者はアークウィザードを除き、唯一爆裂魔法を覚えることができる職業!爆裂魔法を習得するというのならいかようにも教えようぞ!そもそも、爆裂魔法以外に覚える価値のある魔法なぞ存在せぬ!ほれ、カズマ。はよう爆裂魔法を覚えて、ともに爆裂道をまい進するのじゃ」

 

「ちょ、ちょっと待てよのじゃロリっ子。俺はまだ駆け出しでポイントも3しか入ってないんだぞ!」

 

「のじゃロリっ子……じゃと」

 

 呆然としているたまもをいったん放置し、イリアスを見ると、イリアスは冷めた目で俺を見ていた。

 

「爆裂魔法など、覚えようとするなら年単位の時間が必要でしょうね。……そうですね。仮にあなたが本気で覚えようとすれば、まぁ、節約に節約を重ねても10年はかかるのではないですか?大器晩成……というのは、いささか出来上がる予定の器が小さすぎますが」

 

「うっせーよ!」

 

「うちが、のじゃロリっ子……」

 

 そう言うと、たまもは再び昼食をもそもそと食べ始めた。

 

 とはいえ、俺の就いている冒険者の一番の利点は、どんなスキルであっても覚えられるという点だ。いろいろな便利スキルを覚えておきたい。

 

「なぁ、イリアス」

 

「無理ですよ」

 

 何か言う前に、イリアスに拒否されてしまった。

 

「何も言ってないんだが」

 

「言いたい事は分かります。スキルを教えてほしいのでしょう?ですが、今私の使っている職業は、私が無理やりこの世界の秩序にねじ込んだ、いわばバグです。私一人が管理しながら使うならともかく、複製したうえ正規の職以外で使うとなると、問題しか起きないでしょうね。まあ、今後急に爆死しても良いというのなら教えますよ」

 

「……エンリョシマース」

 

 俺が意気消沈していると、そこに偉そうな声が割り込んできた。それと同時にイリアスががたりと椅子を蹴飛ばし、立ち上がる。

 

「ふむ、なかなか良い余興であったぞ。ほめて使わす。貴様、エルべぇが入りたがっているパーティの者であるな?優秀なスキルが欲しいのなら、我らに伝わる数々の剣技を……と、貴様はまだ駆け出しであったな。なら盗賊技などはどうだ?」

 

 声の方を見ると、そこには二人の人間……もとい人間とモン娘がいた。一人はすらりとした女性で、軽装に剣を携えている。もう一人はやたら青色で……要は先日パーティに入れてほしいという要求をした女性、エルだった。

 

「……まさか、いや、でも、ありえない、アリスフ……」

 

 俺はぶつぶつ言っているイリアスを無視し、相手に言葉を返した。

 

「盗賊技っていうのは、どんな技があるんだ?」

 

「ふむ、様々だ。敵感知に潜伏、鍵開け罠感知罠解除。少人数の冒険だと必ずと言っていいほど必要とされているな。それに習得ポイントも高くない。今ならあまあま団子5串で手を打つが、どうだ?」

 

 なかなか魅力的な話だった。スキルも有用そうだし、投資も少額だ。

 

「よろしくお願いします!あの、店員さん!この人にあまあま団子を5つ!」

 

 

「うむ♪あまい」

 

 こうして、俺はこの女性から盗賊技を教わることになったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 フリーズしているイリアスをたまもに任せ、俺と女性は酒場の裏手で対峙した。

 

「そうだ、まずは自己紹介をしておこう。余はクリス。旅のグルメをして……と、それは旅の目的だな。職業は盗賊だ。この剣は……昔取った杵柄とでも思ってほしい。それと、こいつはエル。親しいものはみなエルべぇと呼んでいるがな。彼女の持つスキルはクルセイダーの技だ。貴様には宝の持ち腐れにしかならんだろう」

 

 そう言うと、クリスは早速スキルの実践に入った。潜伏を実践したクリスが、被検体になったエルに隠れていた樽ごとシェイクされるという事件はあったものの、何事もなかったかのように次のスキルの説明に入る。

 

「次に教えるのは窃盗のスキルだな。これは、対象の持つものをなんでも一つ奪うことができるスキルだ。成功確率はランダムで、盗む対象もこれまたランダム。ギャンブル要素の強いスキル故に幸運値を高く求められるが、うまくすれば敵の武器を奪ったり、相手の持っている宝のみを奪って逃げることも可能なスキルだ」

 

 確かに、それはかなり使えそうなスキルだ。しかも運依存というのがいい。俺の持つステータスで一番高い幸運値を最大限仕えるということだ。

 

「それでは、さっそく使ってみることにしようか。『スティール』!」

 

 アリスがそう言うと、彼女の手元に光が集まり、そこには俺の財布が握られていた。

 

「あっ!俺の財布!?」

 

「ふむ、当たりだな。まあ、こう言う風に使うものなのだ」

 

 そう言って財布を差し出そうとしたクリスだったが、そこで少し考えたそぶりで財布をひっこめた。

 

「なあ、カズマとやら。一つ、勝負をしてはみないか?今、余の手元には貴様の財布がある。これを余がもらう代わりに、貴様は一度だけスティールを使い、余の身に着けたモノどれか一つを盗む権利をやろう。それが何であろうと余は文句を言わぬ。財布の中身からして、武器でも余の財布でも、奪い取れたならそちらの方が得になるだろうな」

 

 いきなりとんでもないことを言い出したクリスに、しかしと俺は頭を回転させる。確かにとんでもない話だが、俺は幸運値が高いらしい。それを考えれば、これは俺にとってかなり有利な条件なんじゃないか?

 それに、こういうやり取りは、なんだか荒くれ者同士のやり取りみたいで憧れるものもある。

 

 そこで、俺は早速冒険者カードを確認し、習得可能スキルの欄に目を向けた。

 そこには〈敵感知〉〈潜伏〉〈窃盗〉のスキルが載っていた。俺は迷わず3つのスキルを取得し、クリスに向き直る。

 

「よし!その勝負乗った!何盗られても泣くんじゃねーぞ!」

 

「ふむ、良い気迫だな。では、始めるとしよう。ああ、そうだなあらかじめ言っておこうか。余が持つ物の中で言うなら、財布が敢闘賞、そして、この4段階強化済みカスタムソードが当たり。外れがこの石ころと言ったところかな?」

 

「あっ!?きったねぇ!」

 

 俺の叫びを聞いて、クリスが冷酷に笑った。

 

「ドアホめ。スキルはすべて得手不得手がある。それを考えずに安請け合いした貴様の落ち度だ。まあ、授業料とでも思っておくがよい」

 

「くっ!?」

 

 確かに、いい勉強になった。ここは日本じゃない、弱肉強食の異世界だ。これからは意識を引き締めなければ。

 

 それに、まだ残念賞が当たると決まったわけではない。

 

「よし!やってやろうじゃねえか!あたり引かれて泣くんじゃねーぞこら!『スティール!』」

 

 そう言うと、俺の手に光が集まり、何かが握られていた。どうやら一発成功したらしい。俺はやはり、運だけは良いようだ。

 

「……?」

 

 しかし、これはいったいなんだ?何やら布らしいが。

 

 俺はそれを両手で広げ、太陽にかざしてみる。

 

 ……ん?なんだか、三角で、リボンが付いているが、なんというか、見た事あるような無いようなというか……。

 

「あ、あのだな……パンツ、返してほしいのだが」

 

「え?」

 

 お互いの間に沈黙が広がり、そして。

 

「大当たりだー!」

 

 俺は、美少女のパンツを持っているという事実と、もう実質前張り状態のパンツを美少女が身に着けていたという興奮で歓喜の声をあげたのだった。




 お待たせしました。
 というわけで、クリス登場回です。偽名を名乗っているという体なので某旅のグルメさんは偽名としてクリスを名乗っていますし、変化した旅のグルメ形態での登場です。(カズマはラミアと気づいていない)
 エリス教をアリス教にした時からこの変更は決まってました。
 
変更箇所
・ロリっ子からのじゃロリっ子に変更
・女神スキルをそもそも習得不可に変更(特殊ジョブの為)
・クリスの中身を腹ペコ魔王に変更(アリス教の使途って言ったらこうなる。なお、まだ伏せますがクリスに関してはまだ変更点があります。多分既に分かる人にはわかる)
・クリスの要求物品をあまあま団子に変更(作者の趣味)
・クリスの持つスキルの変更(クエ時代の師匠ポジから考えて剣技を覚えさせたかったから。剣士→盗賊の変則ジョブ変更を経験している)
・カズマの覚えているスキルから〈花鳥風月〉を削除(代わりに〈裁きの雷〉入れようかとも思ったけど、確実にバグるため却下)
・クリスの持ち物が35万Gするダガーから強化済みカスタムソードに変更。
・アリスの下着をラミア用女性下着(要は三角の前張り※モンスター娘のいる日常1巻のあれみたいなもん)に変更。


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EP8 カズマは確認した

 俺がスキルを覚えて帰ってくると、なんだか俺たちが食事をとっていた場所が騒がしくなっていた。

 

「ええ、ええ、そうですね、あなたの気持ち、とてもよく分かります。ならば、すぐに行動に移すべきでしょう。その思いは、必ずあなたの思い人にも届くでしょう」

 

「そうですね、貴方は、少し自分を見つめ直してみるのが良いでしょう。あなたの手には、ここに剣ダコができていますが、貴方の使う武器であれば、本来剣ダコはここら辺にできるのが一般的です。ここにできるのであれば……そうですね。刺突武器……レイピアなどに一度武器を変えてみてはいかがでしょう」

 

「ふむ……そうなのですね。おじい様が。ふむ、そのようなおじい様で、家の間取りがこれなら……ここと、ここを探してみてはいかがでしょう?あるとすれば、そこに隠し扉があると思いますよ」

 

 ……何故だかイリアスが恋愛相談と戦闘相談と探偵みたいなことをしていた。

 

「何やってるんだ?イリアス」

 

「ああ、カズマですか……すみません皆さん、今日はここまでにいたしましょう」

 

 そう言って、男たちと別れを告げた後、少し涙ぐみながらイリアスは俺を見た。

 

「いえ……実は、先ほどたまもと話していたのですがその時に彼女の相談を受けまして……なんだかそれで目立ってしまって、私も私も、と相談者が……」

 

「断ればよかったんじゃないか?」

 

 俺の言葉に、イリアスは照れ臭そうに続けた。

 

「いえ、私も昔から人々に神託を下して人々を導いた女神。数人くらいなら全く問題ない……などと考えてしまいまして。そしたら後から後から」

 

「あぁ、あるよな、そう言う事。ちなみに、さっきのは出鱈目なのか?やけにいろいろと言ってたが」

 

「……女神を疑うとは不届きな。小さくなったとはいえ、知恵と知識は以前と変わりません。何百万、何千万の人間を見て、覚え、精査してきた私にかかれば、一目見て、話せば大体の事は分かるのです。流石に全て思い通りとはいきませんけどね」

 

 そう言って、腹いせか小さな雷を俺に浴びせかけ、ふと気づいたように俺に顔を向けて来た。

 

「そういえば、先ほどアリスフィーズに技を教わると言っていましたが、覚えて来たのですか?」

 

「アリスフィーズ?」

 

 振り向くと、クリスが驚いたようにイリアスを見ていた。

 

「な、何を言うのだ!余は旅のグルメ。クリスであるぞ!」

 

「……まあ、いいでしょう。で、どうだったのです?」

 

「あ、ああ、もちろん覚えて来たぞ」

 

「それは気になるのう」

 

 気づけば背後にいたたまもに覆いかぶされ、いきなりのことに俺はたまもを放り投げた。たまもはそのままくるくると二回転し見事な四点着地を決める。

 

「え、なにそれすっご」

 

 驚く俺に、たまもは何事もなかったかのようにこちらへと近づきつつ、いつの間にか手に持った扇子を口元にあて、不思議そうにクリスを見つめた。

 

「しかし、クリスと言うたな。先ごろイリアスに声を掛けられるまで自失していたようじゃが、カズマ、お主あの娘に何をしたのじゃ?」

 

「……クリスはパンツを剝かれたうえに有り金を全部巻き上げられて落ち込んでいたの」

 

「って、何を言ってくれてるんだ!いや、間違っちゃいないがちょっと待て!?」

 

「……っ!?あちらはよく見ればエルベディ……いえ、本物ならアリスフィーズの名前を偽るなどしないはず……なら、この世界は……」

 

 なんだか、やっぱりイリアスが騒がしいが、ひとまずはこちらを鎮静化させないと!違うのだ、パンツを手に入れて、ただで返すのはこちらとしても利がないから、交換条件として、パンツの値段を自分で付けさせただけなのだ。それで、俺の財布とクリスの財布を差し出してきたのでそれを交換しただけで、俺は別におかしなことはしていないのだ。

 

 エルの言葉にマジかこいつ、みたいな顔をしているたまもと、考え込んでいるイリアスをしり目に、クリスが何か吹っ切れたのか、両頬を叩いて顔を上げた。

 

「うむ!過ぎてしまったことは仕方ない!いきなり公共の場で下着を脱がされ、その対価として金銭を要求されたがな!あまあま団子を食べるためにも一仕事するとしよう!」

 

「ちょっと待て!ほんとに、他の冒険者たちの目もすごく冷めた者になってるから本当にまって!」

 

「ふん、調子にのったドアホにはちょうど良い仕置きよ。ではな、さて、どんな依頼があるものか。あぁ、エルは自分のしたいことをするとよい」

 

 そう言って、さっさと依頼掲示板に行ってしまった。

 

「……あれ?エル、エルべぇ?さんは行かなくてもいいのか?」

 

 いまだに不動の姿勢を保つエルに、俺は疑問を持って投げかける。

 

「……私は前衛職。あまり人気はない。クリスは盗賊の技能で罠感知や敵感知が使えるし、本人も相応に戦えるから、引く手数多よ」

 

 なるほど、確かに、剣士だった時期もあるようだし、盗賊のスキルも有用だ。この世界では、職業によってパーティでの人気というのもあるんだろ。

 

 しばらくすると、パーティが決まったようで、連れ立ってギルドから出ていくクリスの姿があった。

 

「あれ?もう夜も近いが、今から冒険に行くのか?」

 

「ダンジョン攻略なんかだと、朝一に入るのが良いからのう。基本的には前日からダンジョン前で野宿をするのじゃよ。ダンジョン前だと、その手の冒険者のために、ちょっとした店が出ておることも多い。じゃから、前日である今から出発するんじゃな。……ところで、新しいスキルは見せてくれぬのか?」

 

 そんなたまもの言葉を聞いて、俺はにやりと笑った。

 

「そんなに見たいなら見せてやるさ!行くぞ!スティール!」

 

 そう言うと、俺の手は再び光り輝き、純白の布切れへと姿を変えた。

 だが、あまり見慣れない形だ。ハンカチにしては大きすぎるし、どこにこんなものを持っていたのだろうか。さらしや腹巻を身に着ける歳でもないだろうし。

 

「……ふむ、うちの下穿きを盗るとは、よもやレベルが上がって変態にでもジョブチェンジしたのかの?悪いことは言わぬ。うちが笑っている間に返してくりゃれ?」

 

「えっ、おかしいな、盗むものはランダムで変わるってことだったのに」

 

 慌ててたまもに褌を返し、いよいよもって冷たい目線を向けてくる他の冒険者たちの方を盗み見ていると、突然、エルががたりと近くにあった椅子を揺らした。

 その目はなぜか煌々と怪しい光を称えている。

 

「やはり……私の目は間違いではなかった。こんな幼子の下着を公衆の面前で剝ぎ取るなんて、この男は鬼畜!……しかし、相互理解をしなければ完全解決には至らない。

 男、私をパーティに入れなさい」

 

「いらない」

 

「っつ!?」

 

 正直面倒事しかなさそうなのと、流石にガチ○ズとイリアス、たまもを一緒にするのに危機感を感じたため断ったのだが、すごい形相で俺を見つめてくるエルに若干心が折れかけていた。

 

 しかし、そこで改めて話したことで興味を持ったのか、イリアスとたまもが話に加わってきた。

 

「エルべ……ぇと言いましたね、そこのスライム。あなたが昨日カズマに仲間になりたいと面接に来たクルセイダーなのですね……はぁ」

 

「ふむ、この者クルセイダーなのじゃな。それにスライムの中でもかなり上位のスライムと見た。断る理由はないように思えるが……」

 

 この二人に合わせると、なんだかよくないことが起こりそうだったので会わせたくなかったのだが。昨日も断ったのだが、こうなるのは予想外だった。

 

 仕方ない、あれをするか。そう考え、俺はエルと、ついでにタマモに向かって声をかける。

 

「なあ、エルべぇ聞いてくれ、俺たちは、割とガチで魔王討伐をしようと思っている」

 

 本当は、魔王どころかカエルに苦戦している時点でやる気はごっそりと削られているのだが、まぁ、それは置いておいて。驚いているたまもにも顔を向け言葉を続ける。

 

「たまもも聞いてくれ。俺たちは魔王を倒さなきゃならない。俺たちの戦いは、間違いなく過酷なものになるだろう。特にエル。お前は前衛。盾役だ。何度も攻撃を受けることになるし、もしも捕まったりなんかしたら」

 

「同じく捕まっている子どもたちを救える。望むところ」

 

「えっ!?」

 

 こいつ、ガチすぎるだろ。旗色が悪そうなので、今度はたまもに話を振ってみる。

 

「たまももだ!相手は魔王!俺たちはこの世界で最強の相手に喧嘩を売ろうとしているんだよ?だから、無理してこのパーティに残る必要は……」

 

 言葉の途中で、たまもが地をけり、クルリと一回転してからポーズを決めた。

 

「うちはたまも!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者。月をも砕くうちの爆裂魔法は、魔王にも痛打を与えることじゃろう!最強を名乗る僭主にキツイ一発を決めてやるのじゃ!」

 

 ……こいつもだめだ。ノリノリだった。

 

 と、落ち込んでいる俺の袖を、誰かが引っ張っていた。

 

「カズマ。私は、重大なことに気付いてしまったかもしれません。私は女神イリアスの分体の分体。そして、現在本体であるイリアスとかなり異なった思索を得たと自身で確信しています。もし、この状態で自由の身になった場合、反逆の意志ありとして、本体に消されたりしないでしょうか?なんだかすごく心配に……」

 

 なんか全く関係ないことで消極的になっていた。いや、それ俺に言われても。しかも、それって本当に魔王倒す実力得てから心配することじゃ……。

 

 と、そんなことを考えていると、町中にアナウンスが響いた。

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!街中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!街中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

 




お待たせしました。
 最近は(まだ思いついてないけど)ならではの新規展開からこのすば世界から乖離させていってもいいなと思っている今日この頃です。
 
 とりあえず3番様をオリジンイリアス様から派遣できないか検討中。

変更点
・女神さまが注目を集めている理由を変更(今作の女神さまは宴会芸スキルを習得していません)
・女神さまがある一定の確度でアリスとアリス教の関与を看破(クエ世界知識から)
・アークウィザードの身体能力を大幅に上昇(たまもの特性から)
・クルセイダーのカズマに対する感情がSを見つけたMから変態を見つけた変態に変更(内部ではずっとこの状態だった)
・女神がしり込みする理由の変更(イリアス様が何だか怖くなっちゃったんですけど!とか言うのは考えにくかったので)


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EP9 キャベツが現れた!

 俺はギルドにいたので、そのまま冒険者たちが集まっているところに向かいつつ、疑問を口にした。

 

「なあ、緊急クエストってなんだ?魔物が町を襲いに来たのか?」

 

 そう言うと、エルが首を振って俺を見た。

 

「……恐らくはキャベツの襲来。そろそろ収穫の時期だから」

 

「は?キャベツ?」

 

 そんな疑問を口にした時、いつもの受付嬢さんが姿を現し、冒険者の俺たちに大声で説明を始めた。

 

「お集まりいただきありがとうございます。薄々感づいている方もいると思いますが、今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫で1万エリスでの買取となります!既に街中の住民の皆様は避難を完了しておりますので、皆さんはできるだけ多くのキャベツを納品してください!くれぐれもキャベツに逆襲されてけがを成されないようにお気を付けください!

 なお、報酬と人数が多いので、報酬の引き渡しは後日となります!」

 

 ……この人、なんか変なこと言ったよな?

 

 直後、爆発するように歓声を上げる冒険者たちに何事かと外を見ると、何やら緑色の物体が跳ねたり跳んだりしながら街中を進んでいる姿を見つけられた。

 

 呆然とその意味の分からない光景を見つめていると、いつの間にか近づいて来ていたイリアスが、若干気づかわし気に、しかし厳かに言葉をかけて来た。

 

「よいですか、カズマ。この世界では、キャベツは飛ぶのです。収穫間近になったキャベツは、食べられてなるものかと町や草原を疾駆し、海を渡り……そして最後にはキャベツ娘になったり人知れぬ荒野でその一生を終えるのです。ならば、そうなる前に、私たちが一匹でも多くのキャベツを収穫し、おいしく食べてあげようではありませんか!」

 

「俺、馬小屋に帰って寝ててもいいかな?」

 

 そんなことを言っている間に、冒険者たちは歓声をあげながらキャベツに突撃していく。

 そんな様子を俺は冷めた目で見つめていた。何が悲しゅうてキャベツと死闘を繰り広げにゃならんのだ。

 

 俺はとてつもなく日本に帰りたくなっていた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 俺は、ギルドで提供されたキャベツいためを一口食べた。

 

「……美味い。なんでただのキャベツ炒めがこんなに美味いんだ。納得いかねー」

 

 結局、報酬の高さに惹かれて俺はキャベツの収穫に参加した……が、なんというか参加したことにちょっと後悔しているところだった。

 俺が求めてるのはキャベツ討伐じゃないんだ。

 

「しかし、エル。よく私を守ってくれました。特に、あの体積を増やしてキャベツの群れを弾き切った技はスライムとは思えない活躍でした。特別に、パーティへの加入を認めましょう」

 

「……そう言ってくれると嬉しい。でも、私はただ耐えていただけ。その点たまもは素晴らしかった。キャベツにつられて街に来た魔物を爆裂魔法で一掃していた。あれこそ称えるべき」

 

「ふふ、こそばゆいのう。まぁ、うちの爆裂魔法にかかればざっとこんなもんじゃ。……とはいえ、うちは肝心のキャベツの収穫という意味ではいまいちじゃったからのう。そういう意味ではカズマが一番の金星であろう。魔力を使い果たしたうちを背負って逃げてくれたし、ついでに魔法に巻き込まれたキャベツも回収しておったしのう」

 

「……確かに、今回は称賛に値する。私も、キャベツや魔物に囲まれて防御に専念して動けないときに襲い来るキャベツたちを収穫していってくれたのは助かった。それにたまもやイリアスをしっかりと補助していたのはとても偉い。感謝する」

 

「確かに、今回は珍しく、非の打ちようのない活躍でしたね。潜伏でキャベツに気付かれないよう近づき、敵感知で動きを察知、そしてスティールでの華麗な収穫。……そうですね『華麗なるキャベツ泥棒』なんて称号を与えても良いかもしれませんね」

 

「おいイリアス、その称号で俺を呼んだら、あんたでも許さねえぞ?って、そうじゃねー!」

 

 俺はテーブルに突っ伏した。緊急事態だ。

 

「それじゃあ、改めて、私はエル。どうかエルべぇと呼んでほしい。職業はクルセイダーで、武器はちょっと使い方が分からないのだけれど、両手剣を使っているわ。……攻撃が全然当たらないのだけれど。代わりにようじ……仲間を守るのは得意よ。よろしく頼むわ」

 

 そう、仲間が一人増えました。その様子を見て、イリアスがほうっと嘆息した。

 

「意図していませんでしたが、私たちのパーティも中々に豪華なパーティになってきましたね。女が……メガレイズも覚えられる私に、アークウィザードのたまも、それに守りに定評のあるクィーンスライムにしてクルセイダーのエルべぇ。4人のうち3人も最上級職に達しているパーティはそうはいなかったでしょうね。魔王を倒さんとするパーティでも、一人か二人最上級職についていればよい方……いえ、何でもありません」

 

 ……こいつ、元の世界の基準で考えてたな?

 最近ちょっと分かってきたことだが、この幼女。賢しらなのだが、どこか抜けている。今のところうちの女神様が動いて成功したことがほとんどない。実はポンコツなんじゃないか疑惑が俺の中で浮上していた。

 

 今も、イリアスは褒めたたえているが、内情は小賢しいが失敗続きの聖魔導士と、一日一発しか魔法が使えないアークウィザード、そして攻撃が一発も当たらないクルセイダーでしかない。

 

 なんでも、エルべぇは……というかスライム種があまり武器を使う種族ではなく、武器の扱いをほぼ心得ていない上に防御系スキルに全振りしてスキルポイントがないので武器の扱いに関するスキルを何一つ持っていないという状況らしい。

 

 もちろん、俺だって何の問題もなければエルべぇの加入を断る理由はない。ガチレ○ロ○コンという難儀な性格をしているが、どうやらYES○リ―タNOタッチを掲げる派閥の人らしいし攻撃がきちんと当たるならこれ以上願ってもないことだ。

 ただ、どうやら幼女趣味だけが彼女の問題ではないようで。

 

「今回のキャベツの収穫で採れた野菜。私の体液に濡れたキャベツを、小さな子たちが糧とするのね……。ああ、私のことは頑丈な壁とでも思っておきなさい。小さな子の未来を守るために、環境破壊と子どもへの被害撲滅を目指して頑張りましょう」

 

 こいつ、実は環境団体みたいな思想も持っていた。まあ、其方は弱いスライム族はきれいな水場でないと生きていけないという理由があるようだけど。

 

 俺はため息をついてギルド天井を見上げた。回復特化で特殊職の聖魔導士、最強の魔法を操るアークウィザード、そして、鉄壁の守りを持つクルセイダー。言葉だけ聞けば最高のメンバーなのに、どうしてこうなった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 冒険者レベルが上がり、キャベツの納品で知り合った冒険者に新しいスキルを教えてもらうことに成功した。

 覚えたのは〈片手剣〉スキルと〈初級魔法〉の二つだ。これでレベルアップで覚えたスキルポイントもカラになってしまったが、十分に満足できる結果となった。

 因みに〈初級魔法〉はいつだかイリアスが憤慨していた火、水、風、土の四属性のごくごく簡単な魔法が使えるスキルだ。とはいっても殺傷能力はほぼなく、生活に便利、といった程度なのだが……。

 

 まあ、イリアス様が「なるほど、そのスキルがあれば食材さえあればどこでも食事が作れますね。カズマにしてはよく考えているではないですか」と褒めてるんだかなんだかよく分からない品評をしてくれたのでいいということにしよう。

 

 なお、ここから戦闘に使えるような魔法にしようとすると、一気に10ポイントとかスキルポイントを使うらしい。残念ながら魔法で戦うのは無謀なようだ。

 どうやらスキルポイントというのは生まれつきの才によっては始めから何ポイントか持っていることもあるらしく、恐らくエルやたまもはそう言った手合いなのだろう。

 

 と、まあ、そんなことはともかく曲がりなりにも俺は剣と魔法のスキルを手に入れたのだ。そして手元にはそこそこ潤沢な資金もある。以前のカエル狩りでは十分な装備を身に着けることができなかったが、今なら冒険者らしい武器を買うこともできるはずだ!

 そこで、俺はイリアスを連れて町へと向かったのだった。

 

「……なぜ、私もついて行くことになっているのですか?」

 

「何故って、そりゃ、お前も装備を整えるためだよ!お前、そのケープ……っていうんだったか?そのひらひらの服しかないんだろ?あと腕輪とか頭のわっかとかはあるけど」

 

「……そうですね。たまにはこの服を変えるのも良いかもしれませんね。尤も、あまり意味をなさないかもしれませんが」

 

 しみじみと告げるイリアスに、俺は疑問の言葉を投げかける。すると、イリアスは服を名残惜しそうに撫でさすった。

 

「カズマには言っていますが、この身はあくまでも分身、封印元の私の本体も密閉空間とはいえまさか全裸で過ごすわけにもいきませんし。そもそも、ロリ化してるのでサイズが合いません」

 

 ……ん?封印しているときの服は使えず、次の瞬間まで俺と離れる時もほとんどなかったという事は……。

 

「もしかして、イリアス様って今……」

 

「……はっ!?な、なにを考えているのです失敬な!私はただ世界創世の要領で衣服を作ったと言いたかっただけで、服が体の一部とか、そう言うことは有りませんからね!」

 

 そう言ってから、コホンと息を吐いてイリアスは言葉を続けた。

 

「話が逸れましたね。何しろそう言う形で作ったものですから、私のこの服はかなりの力を有しています。最強とは言えないかもしれませんが」

 

 その後、勘違いが勘違いだったので、しばらくイリアスの顔を見ることができなかった。

 




……おかしい。原作準拠ならたまもルートに入りそうなのに、急速にイリアスルートに入ってる。やはり精神性がまともなら女神一強なのか?
 実は次話も書いてるんだけど、次は原作とかなり乖離があります。ただ、前回のストーリー自体を別方向に持って行く感じではなく、すぐに本筋に戻るタイプの改変になります。


 なお、パラ世界のイリアス様と異なり、この世界のイリアス様はなぜかかなりの強化装備を身に着けています。一応、あっちが時空のひずみの聖で対応する暇もなく六祖封印対策もままならないまま放り出されたのに対し、激昂しつつも猶予自体はあったことの差だと思ってください。

変更点
・キャベツがモン娘になる設定を追加(クエ世界でもまだ出現していない)
・クルセイダーの問題点を一つ追加(スライムの特性から)
・女神さまとカズマの買い物へ向かう際の話題を変更(イリアス様は羽衣を身に着けていないので)


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EP10 イリアスは激怒した

「……おぉ!カズマではないか!ほうほう、装備を新調すると、いっぱしの冒険者の貫禄が出るのう♪なかなかの益荒男ぶりじゃ」

 

「……そうね、一般の冒険者に紛れられるようになって、余計厄介になったかもしれないわ」

 

 たまもはともかく、エルの言いようは要するに今までは一般人に忌避されるような不審者だったと言っているような物ではないだろうか。

 

 因みに俺の今身に着けている装備は、こちらの世界の服の上から皮の胸当てと関節部に金属製の部分鎧を身に着けている感じだ。

 服に関しては、ジャージよりも耐久性が高く、仮に破損しても補充が効く現地産の者の方が良いだろうとイリアスにアドバイスを受け、エンリカの服とかいう服を何着か購入していた。

 現地の服としては肌触りもいいのだが、地味な色合いだからか性能の割には安めに購入できた。

 

 魔法を使うなら片手は開けていた方が良いということだったので、盾は装備せず魔法戦士スタイルだ。

 

 さて、こうして装備を整えると、世知辛いことを知っている冒険にも出てみたくなるというものだ。

 

「……冒険に出たいという顔ね。なら、ジャイアントードが繁殖期に入っているからそれを……」

 

「「ジャイアントトードはやめましょう(るのじゃ!)」」

 

 提案しようとしたエルの言葉を、イリアスとたまもは強い口調で否定した。

 

「……大丈夫、私があなたたちを守る。たとえ食べられても、内部から粘液を全部吸収して倒してあげる。仮にあなた達が捕まっても、すぐに救い出す」

 

 ……目があらぬ方向を見ているエルは、妙な威圧感をもって二人に語り掛けていた。……これ、場合によってはこいつ自身が粘液まみれの二人を見たいだけだな?

 

「と、とりあえず、今回は俺の装備の試運転だ。ぎりぎりの戦いよりは、少しづつ慣らしていきたいし、簡単に達成できるクエストがいいな」

 

「……。そうね、ジャイアントトードは今度にしましょうか」

 

 俺の意見に理があると判断したのか、エルは威圧感を収めて俺に同意した……俺がいない間に勝手にジャイアントトード討伐に二人を誘わないよな?

 

 なるべく監視に着くことを内心で決めていると、いつの間にかエルとたまもが依頼を見に行ったのかいなくなっていた。そんなわけで一人になった俺に、イリアスが訳知り顔で目を向けて来た。

 

「カズマ、確かに、慎重になるのは大切です。ですが、慎重になりすぎるのも問題ですよ。一度チャンスを逃せば取り返しのつかないことなどいくらでもあるのですから。

 カズマ。あなたには私が付いています。それに、タマモや、エルベェもいるのです。魔王軍四……、いえ魔王軍に挑もうとする仲間たちなのですから、カエルはともかく、もう少し高い依頼を望んでも良いのではないですか?」

 

 ……。

 

「ん?私の顔に何かついていますか?」

 

「ああ、いや。お前ってさ、普段はともかく、戦闘の時って大して役に立ってないよな、と思って」

 

 それを聞いて、イリアスは目を見開き、口を大きく開けた。

 

「…………は?」

 

 そして、それはそれは間抜けな声を出した。しかし、その目はすぐに吊り上がり、俺を軽蔑の目で見つめて来た。

 

「今、なんと言いましたか?」

 

「えっ、と」

 

「な・ん・と言いましたか?」

 

 俺に詰め寄るイリアスは、なんというか、完全にゲームのラスボスが放つような威圧感を発し、俺を見下す目線でこちらを見つめていた。

 

「そ、そのだな、さっきのは、ちょっと口が滑ったというか。ほら、イリアスって頭もいいし、人生相談とかもしてるじゃないか。だけど実際、戦闘の場面じゃまだ功績がないのも事実だろ?だから、イリアスを全否定してるわけじゃなくてだな……」

 

「弁明はそれで終わりですか?」

 

 ガチ目に切れているイリアスだが、その様子を見ていると俺もなんだか腹が立ってきた。

 

「なんだよその言い方は!戦闘で役に立ってないのは事実じゃないか!それとも何か?お前は俺が見てないところで功績をあげたとでも言うのかよ!そんな証拠があるなら見せてほしいもんだな?おい!大体、事実言われて切れ散らかすとか、あんたは子どもかよ!女神って肩書は、子どもにつけられる称号なんですね!この駄女神が!」

 

「……」

 

 言い切ってしまってから、やべっ、と思ったが、言ってしまったものはしょうがない。せめて逃げずに真正面からイリアスを見た。

 

「……え?」

 

 そこには、一言も言葉を発さずに涙するイリアスの姿があった。顔は苦悩と絶望を煮詰めたかのように歪んでおり、しかしそれでも俺を見据えて歯を食いしばっていた。

 

 そのまま、無言で相対する俺たち。その均衡は、依頼を探しに行っていたタマモたちが帰ってきたことで崩れてしまった。

 

「おまたせしたの……って、どういう状況じゃ、これ」

 

 そう声を掛けられた途端、イリアスはバッと俺に背を向け、走り出してしまった。

 

「貴様……!いたいけな少女に何をした!」

 

 激昂するエルの粘液にまみれながらも、俺はイリアスを目で追うことをやめることができなかった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はぁぁ。やっちまったなぁ」

 

 あの後、どうやら予想以上に呆然としている俺がやばい状況に見えたらしく、エルとたまもがイリアスのところに話を聞きに行ってくれた。その間、俺は頭を冷やしておけと酒場でお留守番だ。

 

 俺は悪くない!と開き直ることはできなかった。きっと、俺はあいつの一番弱い所を攻撃してしまったのだ。まだ長い間関わったわけではないが、彼女が己自身が女神であることに何らかの思いがあることは日々の付き合いの中で理解しているはずだった。しかし、それを俺は無遠慮に踏みにじったのだ。

 

 そうして突っ伏していると、ふと俺の上に誰かの影がかかっているのに気が付いた。

 見上げると、そこには金髪碧眼、まさに女神を体現した女性が立っていた。

 

「イリアス……」

 

「カズマ、私は非常に怒っています。私の偉大さを知らず、あまつさえ駄女神と呼びならしたあなたに天罰を加えようと思うほどには……しかし、あなたの言うようにあなたの目に見える形で戦果を挙げたことは有りませんでした。

 故に、寛容な私はその機会を与えましょう。

 私の御業を、私の力を、愚かなるあなたにお見せいたしましょう。そして、私の偉大さを知った時、貴方を正式に、私の下僕といたしましょう」

 

 そう言うと、イリアスは一枚の紙を俺に向かって投げ渡してきた。

 

「アンデッドの駆除依頼。ここで、私の実力のほんの一端をお見せいたしましょう」

 

 それだけ言うと、イリアスはそのままギルドを出て行こうとする。俺はイリアスの手をつかみ、彼女を引き留めた。

 

「その、さっきはすまなかった。言い過ぎたよ、腹の虫がおさまらないって言うんなら、お前の好きなジャンボパフェでも何でも奢るからさ、だから……」

 

「話は、それで終わりですか?」

 

 そう冷たく言い放つと、イリアスは俺の手を払いのけてさっさと行ってしまった。

 

「……取りつく島もなし、じゃな。一通りはイリアスから聞いておるが、本当に何を言ったんじゃ、お主は」

 

「もし貴様が追放されても、私があの子を守る。安心して」

 

 ああ、それは……。

 

「もし、本当に俺が捨てられたら、その時はよろしく頼む……」

 

 なんだかそんな言葉が出てしまうほど、俺は捨て鉢な気分になっているのだった。




というわけで、イリアス様の地雷を踏みぬきました。
イリアス様はルカ君ほどではないですが、カズマに執着をし始めています。ので、こんな感じになりました。

次回はウィズ役の登場回です。

変更箇所
・アンダーウェアをエンリカの服に確定
・ジャイアントトードの依頼を受けようとするクルセイダーの動機を変更
・女神様の依頼に対するコメントのニュアンスを若干軟化
・女神さまとの口喧嘩の内容を過激化
・依頼を受ける過程を大幅に変更


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EP11 イリアスは浄化した!

 俺たちは、町から少し離れた墓地で、無言の食事をとっていた。空気は最悪で、とにかく威厳と威圧感極振りの女神さまが何も言わずに焼いた肉を頬張り、そこから少し離れてたまもとエルが寄り添うようにしてこちらの様子をうかがっており、何の因果か激おこ女神さまの正面に俺が配置されていた。

 

「し、しかし、この肉はさすがじゃな、エル」

 

「……ええ、家から持ってきたのだけれど、喜んでくれて何よりよ」

 

 何とか会話の糸口を作ろうとしてくれたたまもだったが、俺もイリアスも話に乗ろうとしないので不発に終わった。

 

 と、皿の上の肉が無くなったイリアスが、伏していた眼を上げ、俺たちに語り掛けて来た。

 

「今回の依頼は、ゾンビメーカーの討伐。ゾンビを作り出す悪霊の類です。今宵はこれを討伐いたしましょう。私が相手するには役者不足な相手ですが、仕方ありません」

 

 そう言って目を墓地の方へと向け、その口の端をいびつに歪ませる。

 

「……まあ、実際は、相手にとって不足なし、と言ったところでしょうか?」

 

 そう言って笑うイリアスが見つめる先に、いつの間にか人の姿があった。……一人ではない。幾人もの異形が付き従うようにその女性の後をついて来ている。

 

「……ふむ、明らかにゾンビメーカーではないのう。というか、なんで依頼者はゾンビメーカーと間違えたんじゃ。あれ」

 

 明らかにやばい様子に、俺たちが身を隠しながら眺めていると、人影を照らすように墓地から青白い光を湛える魔法陣が出現した。

 

 その中で明らかになったのはあまりにもやばい見た目の人影だった。漆黒のローブに、顔にはとがったくちばしの仮面。ちょうどペスト医師を黒く塗りつぶしたような意匠は完全にボスの風格を漂わせていた。

 

「……ふふふ、あはははははははは!リッチーではないですか!消え去りなさい!『ターンアンデッド!』」

 

「うあっ!?」

 

 直後、イリアスが放った一撃で存外かわいい声がそのペストマスクからこぼれ出た。そして、そのタイミングで俺たちに気付いたペストマスクは、こちらを見つめながら言葉をかけて来る。

 

「君たちは、いったい……それよりもなぜいきなり……」

 

「その魔法も、ろくなものではないのでしょう!消して差し上げます!」

 

「!?まて、これはここの墓地の迷える魂を冥府へと送るものだ。決してやましいものでは……」

 

 それを聞いて、イリアスがぴたりと動きを止める。

 

「……分かってくれたか」

 

「『セイクリッド……」

 

「待て待て待て!」

 

 全く状況が把握できていないが、とりあえず相手が話し合いの姿勢を取っているため、俺は攻撃しようとしたイリアスの口を押えて魔法の発動を妨害した。

 

「落ち着け、この人は明らかにやばい見た目だがどうやら話は通じそうだ。どうするかは話を聞いてからでも……」

 

「危ない!よけてくれ!」

 

 イリアスの説得をしようとしていた俺に、金切り声が聞こえる。あたりを見回すと、先ほどイリアスが浄化したアンデッドの中で、鳥人だった者が空中からイリアス目がけて墜落してくるのが見えた。

 

 俺は思わずイリアスを突き飛ばし……そして、あまりの衝撃に、そのまま意識を手放した。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 気が付くと、俺はどことも知れない光あふれる場所に立っていた。

 

「サトウカズマよ、目を見開くがよい」

 

「……いいっ!?」

 

 そして、目を見開くと目の前には異形が座っていた。俺と目が合っている場所。それは良い。上半身は色合いが青に近い褐色で、人間ではありえない色合いをしているものの、逆に言えばそれだけだ。

 しかし、下半身に目を向ければもはやそれは異形という一言で言い表すのがおこがましいほどに異常な姿が存在した。

 基本は蛇だろうか。人間を何人かまとめて捕食できそうなほどに大きな蛇の胴体から、ちろちろと触手や植物の蔓が見え隠れしている。

 

 そんな異形にたじろいでいると、そんな存在とは思えない柔和さで彼女が語り掛けて来た。

 

「サトウカズマよ。そなたはこの世界で精いっぱい生き、女神イリアスを救うために身を挺して……そして亡くなったのだ。

 短い人生ではあったが、そなたの人生は終わったのだ」

 

「……」

 

 そのフレーズに聞き覚えがあり、俺は思わず彼女をまじまじと見つめる。

 

「あの、間違ってたらすみません。もしかして貴方は、この世界の女神、様?」

 

「……ふむ、その通り。わらわこそありとあらゆるモンスター娘の祖にして、アリスフィーズの始祖。邪神アリスフィーズである」

 

 傲然と言ってのけるその姿は、なるほど、以前転生前に見たイリアス様の威厳とそん色ない神々しさを放っていた。

 

「さて、サトウカズマよ。わざわざこの世界に来たというのに、このような結果となってしまい、本当に申し訳ない。戦争のない国へと転生させるゆえ、そこで暮らすがよい」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

 そう言って、ことを進めようとするアリスフィーズに、俺は慌てて待ったをかける。

 

「あいつらは、俺の仲間たちはどうなったんだよ!」

 

「……ふむ、イリアス達なら、問題はない。そなたがイリアスをかばった後、リッチーがリフレツィアを止めたようだ。あぁ、リフレツィアというのはあのハーピーの名前だ」

 

 それを聞いて、俺はほっと一息を吐く。

 

「よかった……って、よく考えると、アリスフィーズ……様、ってイリアスと敵対していたんだよな?それにしてはなんだかイリアスを敵視してる感じがないような気がするんだけど」

 

 そう言うと、アリスフィーズは薄く笑って顎をさすった。

 

「ふふ、それはそうだ。わらわは闇、彼奴は聖。相容れぬ存在故に交わらなんだ我らではあるが、唯一無二の同胞でもある。わらわたちというのは、本来日に照らされた影がその座を譲る様に、あるいは日の陰りと共に、影が夜を支配するように、交わらずともつぶし合うような類の関係ではないのだ。

 実際には、我が子らのために戦い、そして滅ぼし合ったわけだが……全く、不出来な妹に恵まれたものだ」

 

 そう言うアリスフィーズの顔は、この上なく嬉しそうに吊り上がっていた。

 

「尤も、そう言った風に考えられるようになったのも、封印されてここで転生の神として仕事を始めてからなのだがな。六祖封印は力の強い者こそを封印する呪縛。制約は多いが、転生の神としても問題なく仕事ができ、無聊を収めることができたのは幸いであった。

 それに、元の世界を再現し、我が血筋も平穏に暮らしておるのを見るのは……」

 

 そこで、言葉を止めたアリスフィーズが俺を見た途端。俺は言い知れぬ恐怖に全身を震わせた。

 

「そう言えば、お主、わらわの可愛い娘子の下着を公衆の面前で奪取してはいなかったか?」

 

 その一瞬で、俺はイリアスの言葉を思い出す。確か、盗賊のクリスのことをイリアスはアリスフィーズと呼んで!?

 

 そう認識した瞬間、バリン、という轟音が聞こえたかと思うと、俺はとんでもない力で引っ掴まれ、そしてそのまま空間に空いた穴に引きずりこまれてしまった。その時見得たのは、金色の髪だけだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 静寂に包まれる神の間にて、邪神アリスフィーズは、先ほどのことを反芻していた。

 

「……くっ、くくくく。まさか、世界全てを人質にしてわらわを封印したあのイリアスが、たった一人の人間のためにここまで来るとはな」

 

 そして、誰もいない空間で、邪神は上を見上げる。

 

「そなたは望まぬのだろうが、イリアス。そなたのもがく様わらわが見守ってやるとしよう」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 再び、目を見開くと、そこは先ほどの場所と似た空間だった。そして、そこには縮んでいないイリアスの姿があった。

 

「イリアス?」

 

「勇者カズマ。あなたは先代ハーピークィーンに風穴を開けられ、情けなく死んでしまいましたね。

 全く情けない……と言いたいところですが、現状のあなたでは彼女に勝つ術はありません。徹底的に交戦を避けなければ生き残ることはできないでしょう。

 幸い、彼女は単体で存在するわけではありません。使い手も現状攻撃的ではありませんから、ひとまず彼女が止めるまで生き残るのが良いでしょう。

 さて、それでは勇者カズマ、行きなさい。私はあなたが魔王を倒してくれると信じていますよ」

 

 その言葉を聞き終えるとともに、俺は再び目の前が暗くなっていく感覚を味わったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「危ない!よけてくれ!」

 

 気が付くと、俺はそんな声を聞いていた。俺は咄嗟にイリアスを押し倒し、ゴロゴロと更に転がり、その場から退避した。

 

 直後、ドスンという音がして、鳥人がこちらをにらみつけた次の瞬間、リッチーの女性がハーピーを制止する声を発した。

 

 どうやら、危機は去ったらしい。とほっとしていると、俺の天地が逆転した。気づけばイリアスが俺の上に馬のりになり、大粒の涙を浮かべながらこちらを見つめていた。

 

「何をしているのですか!この愚か者!馬鹿!アホ!カズマ!」

 

 そして、俺の胸にドンドンと拳を叩きつける。

 

「あなたがあのアリスフィーズの前にいると知った時、私がどう思ったか、分かっているのですか!カズマ!あなたは、あなたは……」

 

 まとまらない言葉をつぶやき続けるイリアスは、いつの間にか俺の胸に顔をうずめて泣きじゃくっていった。

 

「……ありがとう、イリアス。それと、ごめんな、心配かけて」

 

 そう言うと、イリアスが涙交じりの顔で俺に顔を向けて来た。

 

「許しません!そんな言葉だけじゃ許しませんから!」

 

 どうすればいいのか分からず、とりあえず俺はイリアスの頭を撫でてみた。

 

「……///」

 

 何も言ってこないから、正解だったのだろうか。

 

「そろそろいいだろうか」

 

 気が付けば目の前にあのペストマスクの女性が立っていた。俺とイリアスは慌てて跳ね起き、その人物に対峙する。そして、彼女は見た目の怪しさとは裏腹に、何とも優雅に礼を返した。

 

「私はラ・クロワ。生前はシロムと名乗っていたものだ。訳あって、現在はこんな体だが、人間に敵対する意図はない」

 

「ならば、ここにいる理由を聞かせてもらえるかの?」

 

 

 そう言うラ・クロワを名乗る人物に、たまもが問いかけ、その言葉に彼女は悩まし気にくちばしをさすった。

 

「ここにいる理由……と言っても、大したものではない。私はリッチー。死者の王だ。故に、死霊の声も聞こえる。ここの者はまともに埋葬もされぬ貧乏人の墓地でな。冥府へと向かいたくても向かえぬ者の魂が多くさまよっているのだ。

 そのようなものを打ち捨てるよりは、望む者を定期的に冥府へと送ってやろうと出張ってきているのさ」

 

「そうなのか……それは、素晴らしいと思うんだけどさ、なんかリッチーの仕事じゃないような気がするんだが……」

 

「ここのプリーストどもは拝金主義者だからね。金にならないこの墓地には寄り付かないよ」

 

 手を広げてそう言うラ・クロワはパチン、と手を合わせてイリアスに目線を向けた。

 

「そうだ!君、一つお願いを聞いてくれないか?」

 

 そう言うと、彼女は先ほどのハーピーに目を向ける。

 

「私はリッチーの性質からか、新鮮な死体があると私の意思の有無にかかわらず、勝手にアンデッドにしてしまってね。しかも生前の意志や力が強いと、除霊もできない存在を生み出してしまうんだ。

 死後、ここまで来るまでに、ハーピー、フェアリー、ラミア、スキュラ、エルフ、人魚と、アンデッドにしてしまって、しかも相応に強いものだから除霊もできなくてね。みんな冥府へと向かいたがっていたんだけど、私の力ではどうにもできなかったんだ。

 だけど、先ほどのターンアンデッドで、皆、逝けたようでね。だから、どうかこの子も。みんなのところに送ってほしい」

 

 そう言うと、ばつが悪そうに先ほどの鳥人、リフレツィアが進み出た。

 

「……ご要望なら、あなたも一緒にお送りしますよ」

 

 そう言うイリアスに、ラ・クロワは静かに頭を振った。

 

「魅力的な提案だが、遠慮しておくよ。私にはまだ、やることがあるのでね」

 

 

 ……結局、俺たちはリフレツィアを土に還し、ラ・クロワは見逃すことになった。

 ラ・クロワの強い意志に、俺たちが折れた形だ。

 

「カズマ……私は、役立たずなのでしょうか」

 

 帰り道、先に進んでいるたまもとエルを眺めながら、イリアスがつぶやいた。

 

「ん?」

 

「私がこの依頼を受けたのは、カズマ、あなたを見返すためです。私の実力を発揮し、こんなことができるのだと、あなたに証明したかった……。ですが、そのせいであなたを死なせてしまって……私は、本当に役立たずではないのかと、そう思ったのです」

 

 そんな言葉を聞いて、俺はイリアスのおでこにデコピンをする。

 

「!な、何をするのです!」

 

「難しいこと考えすぎだ。イリアス。ハーピーを浄化した時の、ラ・クロワの顔は見ただろ。戦闘ではあんまり役に立たなくても、お前は十分すごい奴だってのは、分かってるつもりさ。

……俺も悪かったよ。あんなこと言って」

 

 その言葉を聞いて、少し顔を赤くしながらイリアスがそっぽを向いた。

 

「そ、そこまで言うのなら今回だけは許しましょう。ええ、寛大な女神の心に感謝することですね」

 

「はいはい、ありがとさんっと、しかしこの世界、リッチーが普通に街に住んでるとか、意外過ぎるよな」

 

 なんと、ラ・クロワはこの街に店を構えて商売をしているらしい。リッチーと言えば、ダンジョンの奥で冒険者を待っているようなイメージだったが、本人曰く「研究目的でもないのにダンジョンなんて不便な場所に引きこもるわけないだろう?」と言われてしまった。おっしゃる通りだ。

 

 と、そんなことを考えていると、たまもがこちらに近づいてきた。

 

「のう、カズマなんとなく流れでここまで来てしまったが、うちら、ゾンビメーカー討伐しておらんよな?」

 

「あ、、、」

 

 討伐依頼、失敗。

 




 というわけで、仲直り回&神様関係の伏線回収回でした。
次回からまたこのすば路線に戻ります。(若干省略有り)
しかし、ドブ川様がきれいなドブ川様になってしまう。あの人反省させずにストーリが作れる才能があればなぁ……。
 アリスフィーズ様に関してはまだ詳細が出ていないのでイリアスに悪感情を持っていないという設定にしました。
 ふと考えると、アリスフィーズのモン娘に対応するのって、イリアスの天使なんですよね。
 そう考えると「なんか自分の被創造物でもないものに手を出したらガチギレして攻撃吹っ掛けて来たんだが。わけわからん」くらいのスタンスの可能性もあったのかな……とか。終章が出てない今のうちに書いちまおう。と思ってできたのが今回のアリスフィーズ様です。
 なお、今後カズマが死んだ場合はアリスのところじゃなくて反省会(六祖封印されたイリアスのところ)に直行します。
 多分細かく考えると封印されつつ同格のアリスがいるのに時を巻き戻すとかできるわけないような気もするけど、細かいことは気にしない。

 あ、イリアス様は聖魔術師で習得できるスキル+浄化系スキルを習得している設定です。

 因みに私事ですが、資料確認とこの作品書き始めてやりたくなったのでもんパラをやってるときに、おねだりが弾かれて初めて中章と前章が統合されていないことに気付きました。最低でも3回ループさせてるはずなのに……。

 まあ、エ○ゲーじゃなくてRPGメインで遊んでるからしょうがないね!

変更箇所
・食事後、すぐにリッチーと遭遇
・カズマ死亡(イリアス改心のためには激烈な刺激が必要との判断から)
・女神をエリスから初代アリスフィーズに変更
・クリスの正体が女神の地上での姿から女神の子孫に変更
・蘇生魔法を、反省会行きに変更
・リッチーの近くにいるゾンビを有象無象からシルク・ドゥ・クロワに変更。


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EP12 イリアスは金欠だ!

「装備を新調してみた。似合うかしら?」

 

「……成金趣味のおっさんが好きそうなスケスケの服を着ながら言われてもなぁ」

 

 俺は、エルの装備をそう評しながらエルの姿をじっと見つめる。ちなみに、スケスケの服はスケスケではあるのだが、その下に割としっかり目にアンダーウェアを着ているのでエロくはない。

 

「……私に欲情したりはしない?」

 

「いや、いくらスケスケの服とは言っても、下にしっかり着込んでる女に欲情したらちょっと変態っぽくないか?」

 

「……もし、あの子たちに手を出さないと約束するなら、下を脱いで装備しても、いい」

 

「!?」

 

 そ、それはつまり、あーんなところやこーんなところも余すところなく!

 俺はそこまで考えて、ぶるぶると頭を振って邪念を追い払った。

 

「いや、遠慮しておくヨ。なんか、イリアスとかにばれたらやばそうだし」

 

「……そう」

 

 なんだかもったいない気もするが、よく考えればあれは戦闘服だ。戦場でいやらしい気持ちになるとか、死にますと言っているのとほぼ変わらない。だから、これが最善の手なのだ!彼女は基本的に普段着と戦闘服をきちんと分けるタイプだし、まさか俺だけのために普段着にあのスケスケ服を着てくれるわけではあるまい。

 

「あぁ、この扇の滑らかさよ。それに、この月飾りも良い。力がもりもりわいてくる気がするのじゃ」

 

 そんな俺たちの横では、話など聞こえないとでも言うように新しい武器を手に入れたたまもが「月喰い」と銘打たれた武器に頬ずりしていた。その様は、なんというか、幼子程度の身長であることを兼ね合わせたとしても相当に執着している様子が明らかで、ありていに言えば若干引くほどであった。

 

 こんなことになっているのは、少々伸び伸びになっていたキャベツ収穫の報酬がようやく支払われたからだ。エルがまだ正式にパーティ入りしていなかったこともあり、今回の報酬はそれぞれが得た報酬をそれぞれが得るということになっており、今回の二人の買い物も、つまるところその報酬で買ったものだった。

 

「……どういうことなのですか!私の報酬がたった5万エリスというのは!」

 

「その……大変申し訳ないのですが、イリアス様の納品したものは、そのほとんどがレタスでして……」

 

「……そうですか」

 

 最後の一人であるイリアスは、何やら受付で騒いでいたが、その後すたすたとこちらへと近づいてきた。冷静に見えるが、付き合いが長い俺には、その顔が青ざめているのがよく分かった。

 

「カズマ、一つ聞きます。今回の報酬、いくら程度になりましたか?」

 

「……ざっと百万ほど」

 

「「「百万!?」」」

 

 そう、俺は、キャベツ討伐の報酬で、ちょっとした小金持ちになっていた。

 

「……カズマ、私に喜捨する栄誉を与えましょう。ざっと五万ほど」

 

「…………」

 

 俺がじっとイリアスを見つめると、イリアスは焦ったように俺を見つめ返す。

 

「これほどの栄誉はそうないのですよ!私に直々に喜捨できるなど……」

 

「…………」

 

「ごめんなさい、正直に言います。お金がないのです。いつかお返しするので、少し融資してください」

 

 根負けしてそう言うイリアスに、俺はため息をついて声をかける。

 

「そりゃ、仲間だし力にはなりたいけどさ、五万エリス出すって結構なもんだぜ?いったい何を買ったんだよ?」

 

 そう言うと、イリアスは俺の耳元に口を寄せて、一緒に外に行くように伝えて来た。

 とりあえず抵抗せずに人気のないところまで来たところで、イリアスが話し出す。

 

「実はですね。私の元の世界の物品を見つけてしまいまして、思わずツケで買ってしまったのです」

 

 そう言って、イリアスは二つのものを見せて来た。一つはおどろおどろしい城の模型、もう一つは古びた本だ。

 

「こちらの城はポケット魔王城。元の世界の魔王一族が所持していた秘宝で、小さいながらも居住が可能な魔道具です。そして、もう一つが六祖大縛呪について六祖の一人が書いた学術書です」

 

「居住が可能な魔道具!すごいじゃないか!これがあれば馬小屋に泊まらなくても済むわけか!」

 

「……そのはず、なのですが、買ってから試してみたものの、使い方が分からずで……」

 

 俺がジト目を向けると、イリアスが慌てて弁明する。

 

「ち、違うのですよ!確かに、前の世界で見た時に歴代の魔王が使っていたポケット魔王城の使い方は覚えています。ですが、どうやらこのポケット魔王城はその時のものとは少し異なるようで……ただ、内包する魔力や形からして、本物であることは間違いがないと考えられるのです」

 

 ……とりあえず、俺はポケット魔王城への追及を止め、もう一つの方に目を向ける。

 

「もう一つが、六祖……封印に関しての本……六祖封印って言ったら、確かイリアスがこっちに来る時にかけられてた魔法だったよな」

 

「ええ、その通りです。カズマ、以前私がその封印について説明したことを覚えていますか?」

 

 そのことについて、俺は少し前のことを反芻する。確かあの時はまだこのイリアスが本物のイリアスだと思っており、彼女が偽物だと自分を言い張ったのに、何言っているんだと思わず突っ込んでしまったんだったな。そして、肝心の六祖封印については。

 

「……確か六祖封印は封印している相手から魔力を奪うため強い奴ほど逃げにくく、それを避けるためには自分を弱体化した分身を作るしかない……だったか?」

 

「惜しい。50点」

 

 いや、かすってもなくない?その点数。

 

「六祖封印を抜け出すすべはもう一つあります。それが、力を一点に集中させることで無理やり封印を突破する方法。ただし、これに関しては私は封印にかかったことがありませんでしたから、具体的なことは全く分からなかったのです。

 ただし、先駆者の残した書物があれば、話は別です」

 

 そう言ってイリアスは本を示した。

 

「つまり、それがあれば、イリアスが本来の力を発揮できるってことか?」

 

「そういうことです。尤も、そこまでしても、元に戻れるのは一瞬ではないかと思いますが」

 

 俺は少し考えて、財布から硬貨を取り出した。

 

「まあ、そう言う話なら分かったよ。ただ、借金するなら先に相談が欲しかったな」

 

 金を受け取ったイリアスは早速ツケを払いに行った。イリアスを待ちながら酒場で待っていると、すっきりした顔でイリアスが帰ってきた……。

 

「カズマ。感謝します。……早速腹ごしらえ、と行きたいところですが、残念ながら持ち合わせがありません。早速依頼を受けたいのですが、構いませんか?」

 

 その言葉に俺たちはうなずいて、早速依頼の掲示板へ向かう。さてと、良い依頼は……。

 

「うん?ギガントウェポンの討伐?……ギガントウェポンってなんだ?」

 

「ギガントウェポンはギガントウェポンじゃ。とにかくでかくて妙に男子に人気がある奴じゃな。それよりカズマ、この依頼なんかどうじゃろうか?」

 

 なんだかよく分からなかったが、とりあえずたまもの依頼を確認する。

 

「えーと。百匹規模のゴブリンの討伐?ダメだ、危なすぎる」

 

「なら、こっちはどう?」

 

「エルの方は……発情期を迎えたオークの鎮圧……ごくり。ダメだダメだダメだ!」

 

 俺は一瞬迷いつつも、鉄の意志で断った。最悪俺だけ殺される可能性もあるし。

 よく見れば、掲示板には難易度の高そうな依頼ばかりが掲載されている。

 

「……あら、死にたがりかしら?」

 

 声を掛けられた方を見ると、そこにはこのギルドに来て最初に声をかけて来たサキュバスのお姉さんがいた。

 

「死にたくないなら、今は依頼を控えた方がいいわよ。最近近くの廃城に魔王軍の幹部が出張ってきて滞在してるから、弱い魔物はおびえて隠れてしまって、依頼自体が少なくなってるわ。残っているのは難易度が高すぎる仕事だけよ」

 

 言うだけ言ってしまうと、お姉さんは妖艶にギルドから出て行った。

 ただ、そう言うことなら仕方がない。冒険者として一番重要なのは危機管理能力だ。幸い俺の持ち合わせもあるわけだから、良い依頼が無かったら無理をせずに行くことにしよう。

 

「……あ、あ、ジャンボDXパフェ……」

 

 なんだかかわいそうなので普通のパフェを一つ奢ってあげた。




 Ci-en様の方で、終章に関する情報が出ましたね。年内の発売が無いのは少し残念ですが……。まあ、その間の暇つぶしにでも読んでいただければ幸いです。

 本作のイリアス様は食の魅力に取りつかれてました。
 そんなイリアス様ですが、お金の使い方はかなり下手な設定です。何しろ一度も買い物したことないはずなので。ただ、今回のように明らかに重要アイテムと分かるもの以外に関しては、一応有り金全ベットまで行けば止まる程度には理性があります。また、お金に無頓着なのはそもそもイリアス様自身が生き残るためにあまりお金を必要と思っていないことが関係するので、これから地上で生活していくにつれて金勘定が上手くなっていくのは間違いありません。

 また、承認欲求に関してはイリアス様相談所である程度満たされ、自分以上に美しいものはないと己惚れているイリアス様なので、基本的に金銭は食料に消えていっています。

話は変わりますが、実は最初のボス、デュラハンのベルディアを差し替えるかどうかを少し悩んでたり。意外と該当者が少ないので、無理に原作に合わせるよりもカズマ、イリアスに合わせた感じの戦闘を考えた方がいいかもとも思っているんですよね。

変更点
・クルセイダーの服装を変更。何だったら普段着も変更(スライムに鎧とか何それおいしいの?)
・アークウィザードの杖をレジェンド扇に変更(ただし本編ではパラ本編でほぼ入手不可能な+値無しの「月喰い」多分いい品なだけでそこまでアークウィザード向けの能力でもない)
・女神の散財理由を変更(上記の通り)
・カズマの財布の紐が若干緩い(無駄遣いでないため)
・ポ魔城登場(幽霊屋敷騒動のこともあるため、封印済み)
・大縛呪の学術書(著たまも)の登場
・デストロイヤーさんをギガントウェポンさんに変更(古代兵器つながり)
・アークウィザード、クルセイダーの持ってくる依頼を変更
・ようこそ地獄へ!の人(エヴァ)の登場機会微増
・カズマが女神様にパフェを送る。


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EP13 たまもは爆裂した!

「どうやら、幹部対策には王都の方から上級冒険者が来るみたいだな。それまではまともな仕事ができないって感じみたいだ」

 

「なれば、うちの日課に付き合ってほしいのじゃ。うちは一日一回爆裂魔法を打つことを日課にしておるゆえの」

 

 俺たちは、連れ立って町の外に出ていた。

 今は魔王軍幹部におびえて魔物たちは姿を現さない。一方で、依頼がないため爆裂魔法を撃てず、たまもは悶々とした生活を送っており、この度俺に頼んできたということだ。ひとりで行けと言ったのだが、そうすると「うちが爆裂魔法を使った後に倒れた時、誰がうちを連れて帰るのじゃ?」と聞き返されてしまった。

 

 なお、イリアスは金欠の為、建築の女神さまにジョブチェンジしている。最近はコロッケ屋のバイトも始めたらしい。

 

 と、そんなことはともかく。

 

「なあ、ここら辺で良いんじゃないか?」

 

「ダメなのじゃ。町に近いとまた守衛さんに怒られてしまうのじゃ」

 

「……いま、また、っつったか?もしかして、前に怒られたことがあるのか?」

 

 そう聞くと、たまもはこくりと頷いた。

 呆れつつも、そう言えばこの世界に来てから自然に触れながら散策なんてしたことが無かったと思い返す。まあ、そもそも、魔物のはびこるこの世界で安全なピクニックなどできようはずもないので当たり前と言えば当たり前なのだが。

 

 この際だ、と思いながら俺はたまもとのピクニックを楽しむことにしたのだった。

 改めてみれば、この世界は近場の林であっても地球と比べて自然が豊かだ。青々とした木々を眺めていると、たまもが草を漕いで何かを拾っていた。

 

「……何してるんだ?」

 

「おぉ、カズマ、良いものを見つけたのでな。ちょっと寄り道じゃ」

 

 そう言うたまもの手にはなにやら野草が握られていた。

 

「何だその草」

 

「わらびじゃ。帰ったら、わらび餅でも作るとしよう」

 

 ……なんかそんなことを言われると、見た目とか全部無視しておばあちゃん味を感じてしまうんだが。

 

「さて、そろそろ良いと思うんじゃが……おお!あれがよい!」

 

 そう言うと、たまもは目をきらりと光らせて遠くを見つめた。

 そこには大きな廃城が姿を見せていた。

 

「あれほどの大きさ、形。爆裂魔法を放てば、さぞ爽快であろう!それに……」

 

 そう言って、たまもは目を細める。

 

「あのような場所に人は住むまい。もし住もうとするのなら、よっぽどの物好きか……くぅくぅ」

 

 そして、すぐさま構えを取る。

 

「よく見ておるがよい!」

 

 そう言って、たまもの扇に力が集まり、巨大な魔方陣が形成される。

 

「穿て!エクスプロージョン!」

 

 そして、力が収束し、巨大な熱線が廃城に突き刺さったのだった。

 

 

 こうして、

 俺たちの爆裂魔法を放つための遠出、いうなれば爆裂散歩が始まったのだった。

 

 それは爽やかな午後の昼下がり。

 

「エクスプロージョン!」

 

 それは氷雨の降る朝。

 

「……プロ―ジョン!」

 

 それは食事ごの腹ごなしに。

 

「……ジョン!」

 

 そんなこんなで、何度もたまもの爆裂魔法を見続けている間に、俺はその日の爆裂魔法の良しあしが分かるほどになっていた。

 

「エクスプロージョン!」

 

 今日も今日とてたまもの爆裂魔法が廃城へ突き刺さる。余波の爆風がこちらまでやってきて、俺の髪をかき上げてくる。

 

「おっ、今日は良いな。爆発の余波がズンっと腹の奥まで響く感じだ。ナイス爆裂!」

 

「ナイス爆裂、じゃ。カズマ、お主も爆裂魔法が何たるかを分かってきたようじゃのう♪どうじゃ、本当に爆裂魔法を習得する気はないか?」

 

「うーん。確かに爆裂魔法の威力は魅力的だけどな。ま、一通りスキルを覚えて、それでもポイントが余ったら、最後に取得するのはありかもな」

 

 そう言って、俺はたまもを抱きかかえる。たまもも特に何事もなく俺に身体を預けてくる。まあ、単純に俺を男としてみていないだけかもしれないが。

 

「……それにしても、たまも。お前めっちゃ軽いよな」

 

「なんじゃ?セクハラか?エル辺りに告げ口しても良いんじゃぞ?」

 

「ばっ!?やめろ!あいつ割と本気で怖いところあるんだよ!そうじゃなくて、あんだけ馬鹿食いしてるのに、すごい軽いんだなって思ってさ。それこそ犬か狐あたりの中型動物を抱えてる気分だ」

 

「んなっ!?」

 

 驚愕するたまもの声と同時に、彼女のお尻からなにやらもりもりと何かが盛り上がってくる感触がする。俺は慌てて彼女を放り出した。

 

「痛っ!?」

 

「な、何するんだ!驚いたからって脱ぷ……ん?」

 

 振り向いて抗議しようとした俺の目の前にいたのは、うまく木にもたれ掛かった、たまもっぽい見た目の狐耳の少女だった。

 

「……しもうた。お主が狐などというから、動揺してしまったではないか」

 

「え?いや、え?たまも……だよな?」

 

 俺がそう言うと、たまもは木に寄りかかったまま頷いた。

 

「まあ、ばれてしまってはしょうがない。そうじゃ。うちは紅魔族のたまも。かくしてその正体は紅魔族の九尾たまもじゃ。紅魔族の女は実は皆狐なのじゃ。じゃが、村の掟で人里に降りるときは変化をせねばならんでの。こうして隠しておったのじゃが、先ほどの動揺で術がとけてしもうたわ。

 術を掛けなおすにも魔力が回復してからでないといかんし……仕方ない。しばらくここで休ませてもらっても良いか?」

 

「あ、ああ。いや、まあいいんだけど。そうか……たまもって狐だったのか。もしかして、軽いのもそれが理由か?」

 

「うむ、うちら狐は身軽さを身上にしておるからのう。それに常に変化しておると力の消費も早い。うちなんかは熟練者じゃから維持に魔力は殆ど使わんがの。その代わり体力がいるのじゃ」

 

 そう言ってくぅくぅ笑うたまもに、俺は気の抜けたように同じ木に寄りかかる。

 

「全く、びっくりしたよ」

 

 そう言って地面に手を突くと、そこにあったつややかな尻尾が手に触れた。俺はなんとなくその尻尾を手で弄ぶ。

 

「ひゃ……!?」

 

「この尻尾、すごい滑らかだな。ずっと触っていたくなる」

 

「ちょ、やめ、やめるのじゃ!」

 

 俺はじっくりと尻尾を撫で上げる。すべすべしていて、温かいその尻尾は天日干しした布団にも似た暖かなにおいと、極上の絹のような肌触りをしていた。しかも内部に肉があるからか程よく温かく、いくらでも触っていられる気分になる。

 

「尻尾……、尻尾……」

 

「い・い・か・げ・ん・に!せぬかっ!?」

 

 頭に鈍い衝撃を感じたかと思うと、俺はそのまま意識を失ったのだった。

 

 

 ……気が付くと、俺はたまもに負ぶさられて歩いていた。

 

「おう、起きたの。全くあのような暴走は控えてほしいものじゃが」

 

 そう言うとたまもは苦笑しながらも舌を出してこちらを振り向いた。

 

「今回のはうちも悪かった。故に不問にしよう。次があるかは……お主次第かのう?」

 

 その言葉に、どことは言わないが熱いものが滾ってしまったのは仕方ないと思う。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

「緊急警報!緊急警報!冒険者の皆さんは、直ちに武装し、街の正門へ集まってください!」

 

 もはやおなじみになった放送を聞き、俺はすぐさま武装を整え、急いで正門へ行こうとして……たまもに引き留められた。

 

「カズマ、そう急ぐでない。もちろんうかうかはしておられんがな」

 

 そういうと、たまもが俺たちに深呼吸をするように促した。

 

「さて、うちの予想では、これから一世一代の大勝負となるじゃろう。心の準備はよいかの?」

 

 そう言ってたまもを先頭に到着した街の正門で、俺たちはその威圧感に身構える。

 

 そこにいたのは、デュラハンだった。しかもただのデュラハンではない。メデューサのように頭に大量の蛇を湛えた異形の姿をしたデュラハンだった。

 

 そのデュラハンが、俺たちが来ると同時ぐらいのタイミングで、街の前の数多の冒険者に言葉を投げかけてくる。

 

「……私は、最近この街の近くの廃城に引っ越してきたものだが……」

 

 そう言っているうちに、そのデュラハンはわなわなと体を震わせ、その声量を増していく。

 

「私の城に、何度も、何度も、何度も何度も何度も!爆裂魔法をぶっ放す頭のおかしい奴はどこのどいつよ!」

 

 その言葉が響くと共に、一瞬で冒険者の目線がたまもに向けられた。そして、その目線を、たまもは一身に受け、嫣然と微笑んだ。

 

「ねえ、なんでこんな陰湿なことするの?ほんとに意味が分からないんだけど?いやがらせ?言いたいことがあるなら正々堂々言いに来なさいよ!」

 

 ヒステリックに叫ぶデュラハンに、たまもは扇をパチンとたたんでデュラハンを指し示す。

 

「愚かよのう、そうしてまんまとおぬしはこのアクセルの街に単身でやってきてしもうたというわけじゃ。いくら初心者の街とは言え、この街の冒険者は多い。なれば、お主であってもたやすく討ち取れるとは思わんか?」

 

「!?」

 

「さあ!冒険者たち!町を守るために力を合わせるのじゃ!」

 

 そう言って、たまもは先頭に立ってデュラハンに突撃する。二度の鋭い爪撃を剣で受け止められ、クルリと宙返りをしながら後方へと後退する。

 

「魔法使い!攻撃魔法を放て!」

 

 そう言って自身も扇を構えて魔法詠唱の体制に入った。そんなことをすれば格好の的である。

 だが、とたまもはほくそ笑んだ。これほどの冒険者がいれば、仮に一割であっても攻撃に参加すれば足止めになるはずだ。そして、爆裂魔法なら魔王軍幹部といえども大ダメージを与えられるはず。爆裂魔法の励起状態から冒険者の退避までの時間をとるのが少々難ありだが、遠距離攻撃を持っている冒険者で全力の妨害をすれば可能なはずだ。

 

「深紅の混交を望み給う!……」

 

「ライトオブ、セイバー!!」

 

 そんな風に思っていたたまもだったが、一つ、大きな間違いを犯していた。たまもはこの街の冒険者なら、デュラハンに勝てると本気で信じていた。だから、半ば強制的にこの街の冒険者を戦闘に参加させる状況を作り出した。しかし、そんな状況で、しかも見た目幼女の元凶に指図されて、指示に従いたい者など要るだろうか。

 だからこそ。放たれたのがたった一条のライトオブセイバーだったことは、仕方がないことだったのだろう。

 

「ふんっ!」

 

「無謬の理とな……ガハッ!?」

 

 たった一条の魔法ではいくら威力が高くても目くらましにすらならない。デュラハンは何の抵抗もなくすり抜け、ボールのようにたまもの腹を蹴り抜いた。

 たまもは、二度、三度と地面を跳ね、地面に力なく横たわった。

 

「おイタが過ぎたわね。クソガキ」

 

「あ……あ……」

 

 何が起こったのか分からない、どうしていいかわからない。困惑と、焦燥を浮かべたたまもは、恐れと恐怖を抱いた目でデュラハンを見つめ、何とか逃げようと必死に体を動かした。

 

「残念だけど、あなたはもうおしまい!少しづつ身体を石にされる恐怖に身もだえながら死になさい!”石化の邪眼”‼」

 

「させない!」

 

 デュラハンが邪眼を使う直前、たまもを庇うようにしてエルがその身を滑り込ませた。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」

 

「エル!エル!?」

 

 邪眼を受け、がくがくと震えたエルは、そのまま力なくたまもに寄りかかる様にして倒れてしまった。

 

「……。当初の予定とは少し違ってしまったけれど。まあいいかしらね。いや、むしろこちらの方が面白くなるかもしれないわね。

 そこの頭のおかしい娘よ。今私は、この女に石化の呪いをかけた。これから一週間かけてこの女は自らの体が石になっていく恐怖にさいなまれ、そしてその後二週間、自我が失われる恐怖に襲われることになる。

 呪いを解いてほしければ、私のところに来ると良い。……もし私を倒すことができれば、呪いは解ける。尤も、私を倒せるとは思えないけれど」

 

 そう言ってしまうと、デュラハンは高笑いをしながら立ち去ってしまった。

 

「……あ、ああ、エル、エル」

 

 何度かエルの体をゆすり、その体がいつもの透明感のある水色から、一部が固い灰色になっているのに気づき、たまもは立ち上がって歩き出した。

 

「おい、どこに行くんだよ」

 

 俺が思わずそう聞くと、たまもは貼り付けたような笑みで振り返った。

 

「あの古城へ行ってくる。安心せい。あのいけ好かぬ女を張り倒してくるだけじゃ。すぐに戻る」

 

 そう言って前を向いた瞬間、吐血して倒れ伏した。

 

「たまも!」

 

 慌てて駆け寄ると、たまもは浅い息をして震えていた。明らかに状態が悪い。

 

「おい!誰かお願いだ!回復魔法を頼む!」

 

 俺が慌ててあたりに叫ぶと同時、一帯に巨大な魔法のヴェールがかかった。

 

「オールメガヒール!そして、セイクリッドブレイクスペル!」

 

 その影は空から急降下し、俺とたまも、そしてエルの前に降り立った。

 

「すみません、遅れました。魔物は去った後のようですね。エルに妙な呪いがかかっていたようですが……何とか解呪できたようです。空からちらりと見ましたが、今回襲来したのはキメラデュラハンのようです。

 ……厄介な相手に目を付けられました」

 

 そう言って、イリアスがもう姿が見えないキメラデュラハンを見つめているのを見ながら、何とか誰も失わずに済んだことに嘆息するのだった。

 




 たまもちゃんが幹部の城だと分かって爆裂した結果、ストーリーラインがすごい勢いで撓んでる……。
 自分にはギャグは無理かもしれないと思い知らされながら書いていたり。
 今回、デュラハン役の方が割とマイナーな方のモン娘になってしまった。分からない方はもう一度もんクエ終章をプレイするんだ!(パラ未登場キャラ)


 どうでもいいけど、頭の中で

イリアスフィール・フォン・アインツベルン「やっちゃえバーサーカー!」
謎の鎧男「ウォォォォォ‼」

 って小ネタが思い浮かんだけど、そもそも何ンリヒさんが鎧男になってる時点でイリアスと敵対関係だし、なんだかんだと考えた結果、そもそも出オチすぎて作品にも差し込めないという結論に至りました。

変更点
・アークウィザードが和菓子作りに通じている
・アークウィザードが廃城の主に気付いている。(知識面や知能面というよりは野生の勘に近いもの)
・アークウィザード及び紅魔族の女性を狐化(以前のあとがきの通り)
・カズマがアークウィザードに割かし直接的なセクハラを行う。
・アークウィザードがカズマを背負って帰る。
・カズマたちが正門に向かうのが少し遅れる(たまもがおおよそ察しているため)
・デュラハンのベルディアからキメラデュラハンに差し替え。
・デュラハンが町に来たことが実際にアークウィザードの作戦のうち。
・第一回目の接触で割とガチ目にバトルが始まる。
・クルセイダーにかけられた呪いを、死の呪いから進行が遅い石化の呪いに差し替え。(なお、クエ本編でキメラデュラハンが石化攻撃してこないのは内緒)
・アークウィザードが割とシャレにならないダメージを受ける。
・女神さまがそもそも現場におらず、遅れて登場する。

 次回は全部原作にない回になるので、ちょっと反響が不安だったり。カズマの悪友と、ライトオブセイバーぶっ放した人が登場する予定です。


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EP14 たまもは落ち込んだ!

「おーい、たまも」

 

「……」

 

 幹部の襲撃があった次の日。たまもは魂の抜けたような様子で酒場の椅子に座っていた。冒険者たちも半強制的に巻き込まれたようなものだ。周囲から見つめるその視線は、決して温かいものではなかった。

 

 一方で、エルに向かう視線は非常に熱いものだ。仲間の窮地に身を挺して飛び出したその姿はまさにクルセイダーの鑑だともてはやされ、割と堂々と引き抜きの相談をしているのが聞こえて来た。

 

 エルはそれが不満のようで、いらいらした様子で周囲を見回していたが、ストレスが限界を超えたのか、さっさと帰ってしまった。

 

 俺としては、まあ、たまもが冒険者をやめるというのなら、それも選択肢の一つだ。もともと地雷みたいな人材だったわけで、これを機にまともな魔法使いを……と思わないでもない。ただ、そうすると爆裂魔法しか覚えておらず、冒険者たちと微妙な雰囲気になっている彼女が一体どんな道をたどるのか……そう考えると、どうしてもパーティを解散すると決定する気にはなれなかった。

 

 かといって、何をすることもできない。先ほどから何度も声をかけているのだが、呆然としたまま返事をしないので、どうしようもなかった。

 

「おっ!いたいた」

 

「そうですね、ここにいましたか、たまも!」

 

 そんな声が響いたと思ったら、二人の女性が俺たちの前に姿を現した。

 一人は魔法少女風の服を着た爬虫類を思わせる鱗を身に纏った女性。もう一人は金髪でスラッと背の高い、魔法使い風の女性だった。

 

「ひっ!ご、ごめんなさいなのじゃ!」

 

 敵意を感じたのか反射的に謝るたまもに、二人の女性はキョトンとした顔をしてから大きく笑い出した。

 

「はっはっは、違う違う。私は君と話をしに来たんだ。たった一人で魔王軍幹部に立ち向かうなんて、なかなかできるもんじゃない。それを認められないなんて、ここの冒険者は心が狭いな。どうだ?今日食事でも」

 

「……全く、ベリア殿は調子いいんですから……ですが、ここの冒険者の心が狭いというのは同意ですね。全く、私のライバルであるというのに、この程度のことでへこたれるんですか?しっかりしてください、たまも」

 

「……む、なんじゃ、よう見たら七尾ではないか。……うちのことは放っておいてくりゃれ」

 

 そう言って、そっぽを向くたまもに、空気を読まないベリアがなおも話かけてくる。

 

「何言ってんだよ!話聞いてなかったのか?俺は、お前と話したいんだよ。良ければお近づきになりたいし、何だったら引き抜きたいくらいだ」

 

「私としては、そこはどっちでもいいのですが、ライバルであるあなたがここで落ち込んで落ちぶれたら、私もその程度だと思われますからね。まあ、それならそれで私が紅魔一の魔法の使い手になるだけですけれど」

 

「……何じゃと?」

 

 ベリアの言葉をまるっとスルーして、たまもはむくりと起き上がった。

 

「先ほど、なんといったかのう?七尾が紅魔一の魔法の使い手?はんっ!」

 

「なっ!なんですかその顔は、あなたと私は同期で、成績も主席と次席で卒業したこと、忘れたとは言わせませんよ!」

 

「そうじゃったのう♪うちと戦う気概のあるやつがおらんかったから、結局うちと一対一で戦って、惨敗のお情けで次席になれた七尾じゃものなぁ?」

 

「‼」

 

「……」

 

 にらみ合ったたまもと七尾は無言で席を立ち、そしてたまもがゆっくりと俺に目を向けて来た。

 

「すまぬ、カズマ。少しこやつと話をしてくる」

 

「そうですね、じっくりと(拳と拳で)語り合いましょう」

 

「あ、はい」

 

 そんなこんなで、たまもたちはそのまま酒場を後にした。……何ともいえないところではあるが、とりあえずタマモの元気が少しでも出てきたようで助かった。

 

「何はともあれ、ありがとな、確かベリアって言ったか?」

 

「……ちぇ、せっかくすごい子とお近づきになれると思ったのに……」

 

「……は?」

 

 あんまりな言い草に、俺は思わずそいつを威圧してしまった。いや、これは悪くないはずだ。多分。

 

「ああ、いやそうじゃなかった。いやいや、元気になったようで良かったよ。だが、あいつがすごいと思ったのは本当だぞ。あんだけ実力に差があるのに、挑んでいけるのは一種の才能だ。それに、他の奴らだってその事は分かってるさ」

 

 そう言うと、にやりと笑ってベリアは酒場全体に響く声で、叫び始めた。

 

「まさか、魔王軍幹部に突撃できるような馬鹿、あの嬢ちゃん以外にいないよな?この弱虫ども!」

 

 一気に殺気立った酒場内だったが、不思議なことにその熱はすぐに自然と沈下してしまった。

 

「……確かに、魔王軍幹部に立ち向かったあの嬢ちゃんはやべーよな」

 

「同じ事しろって言われても、無理よね……」

 

「魔王軍幹部との戦いに無理やり巻き込まれて、納得できなかったが、よくよく考えてみれば、確かにあの時は魔王軍の幹部を倒す好機ではあったんだよな。実際に倒せるかはまた別問題だが……」

 

 そして、酒場のあちこちから漏れ聞こえるのは、不満を持ちながらも、確かにたまもを認める冒険者たちの声だった。その声に頷きつつ、ベリアは更に声を張り上げる。

 

「けつの青い冒険者ども!まさかとは思うが、次来た時にも尻尾巻いて逃げ出すビビりな奴なんていないだろうな!そんな臆病者は、今すぐ冒険者なんてやめてしまえ!」

 

「なにを!」

 

「馬鹿にすんなよ、というか、お前も今回なんもしてねーじゃねーか‼!」

 

 冒険者たちはベリアの発破によって反骨精神に火がついてしまったらしく、思いきりいきり立っていた。そして、売り言葉に買い言葉と言った感じで、ベリアに食いかかっていく。

 

「おうおう!そんなら俺は、今度あのデュラハンの野郎が来たら先陣切ってやるよ!」

 

「なら、私は魔法を撃ちまくってやるわ!」

 

 そう言って上がっていくボルテージの中、ベリアは「な?」と俺に笑いかけて来た。

 少しそのちゃらんぽらんな雰囲気に警戒していたが、割といい奴のようだ。

 

 冒険者たちは、発奮したあと、すぐに鎮静化したらしく、そもそもの話の元凶であるたまもについて思い出したようで、そのことについて話あっていた。

 

 そして、しばらくすると酒場の表から少しほこりにまみれたたまもと七尾が姿を現した。

 

「「「「たまもさん、すんませんっした‼」」」」

 

「お、おうっ!?」

 

 その場にいる冒険者のほぼ全員が頭を下げて出迎えるという異常事態に、さしものたまもも目を白黒させて戸惑いを見せる。

 

「俺たちは、魔王軍幹部が倒せるかもしれないっていう好機に、あんたに利用されたと思って手を出さなかった腰抜けだ。あんたの仲間のクルセイダーが、今は治っているとはいえ呪いを受けたのも、遠因は俺たちと言えるかもしれない」

 

「私は、突然現れた魔王軍幹部に驚いて足も口も震えて戦えなかった。たまもちゃんはいつも魔王軍幹部に備えよって言い続けてくれたのに」

 

 そんな風に何人もの冒険者がタマモに向かって語り掛けていると、たまもは目から大粒の涙を浮かべながら一人一人の顔を見回した。

 

「謝らなければならぬのは、うちの方じゃ。うちは自分だけが分かっているつもりで、勝手に魔王軍幹部を挑発して、みんなを危険な戦いに巻き込んだのじゃ。確かに、うちには勝算があったし、実際手ごたえはあったのじゃ。

 じゃが、それでも、皆にはしっかり相談すべきだったのじゃ」

 

 そうして、たまもは上目遣いで冒険者たちを見つめた。

 

「こんなうちじゃが、次に魔王軍幹部が来たら、共に戦ってくれんじゃろうか?」

 

 そのたまもの言葉に、冒険者たちは大きく頷いた。

 

「あ、ありがとうなのじゃ!」

 

 そして、たまもは冒険者たちに、涙交じりの笑顔を見せたのだった。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                




ひゃぁ我慢できねぇ!投稿だぁ!

 というわけで中途半端なタイミングですが投稿します。

 今作のたまもちゃんですが、めぐみんと比べれば身体能力は優れていますが、若干ボッチ気味です。というか、野生の勘が高すぎて、他の人といまいち感性が合わない感じです。
 そのため、波長さえ合わせればそこそこどんな相手でも対応できますが、そもそも他人を思いやるよりも自分の中の最適解で完結してしまうため、そもそも他者に相談しない……みたいな感じの背景がありそうな感じです。多分そこまで書かないけど。

 そして、気になるあの人。四天王3人目のあの人ですが、まさかのダスト枠です。うん、これについては単純にグランベリアファンの人に謝りたい。でも、ダストの背景考えると、この人当てはめる以外思いつかなかったんだ。うん。
 本作では剣でなく槍を持っています。はい。
 あと、このすば原作スピンオフ「愚か者」の設定に+して四天王最後の一人に骨抜きにされたうえで調教されて堕ちた設定も加えたかったり加えたくなかったり。
 でもそれ加えるとアルマエルマさんがサキュバス娼館の女主人になるのが(私の中で)ほぼほぼ確定するのでちょっともったいない気もするんですよね。

変更箇所(本項は原作にないオリジナル展開の為、展開に関する事項は大幅に割愛)

・不良冒険者をダストからグランベリアに変更。それに伴い剣士から槍使いに変更。
・ボッチ魔法使いをゆんゆんから七尾(人間に変化済み)に変更。
・不良冒険者、ボッチ魔法使いの遭遇時期を調整。
・冒険者たちが魔王軍幹部に対しての対抗意識を持つよう変更。


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EP15 イリアスは浸けられた。

「きつくても良いので、依頼を受けましょう」

 

 魔王軍幹部襲来から一週間たち、何事もなく過ぎた冒険者ギルドの酒場で、イリアスはそう宣った。

 

「ええ~」

 

「……むぅ」

 

 そこに、俺の不満の声とたまもの悩む声が重なる。俺たちの懐は温まっており、高難易度の依頼しかない今、わざわざ依頼を受ける意味はあまりない。それに……。

 

「イリアス。うちもお主の気持ちは分かるのじゃが、うち、結局魔王軍幹部討伐作戦の発起人みたいな扱いになってしまっておるからのう、あんまり街を離れたくないんじゃが」

 

 そう、たまものやらかしは、ベリアの扇動をうけて最終的に魔王軍幹部討伐作戦として町全体の冒険者が参加する大規模作戦の様相を呈していた。

 とはいえ、本来は王都の上位冒険者が対応することになっている案件の為、あくまでももう一度魔王軍幹部が町にやって来た時のための作戦だ。そして、当然と言えば当然だが、その際の最重要人物として、たまもとエルの名が挙がっているのだ。

 

 一応、建前としては冒険者たちを縛るような契約ではないため、街を離れようがバックレようがペナルティはないが、まあ、たまももエルもそんなことをする気はさらさらないだろう。

 

 その様子を見て、しかしイリアスは熱烈な視線で俺たちを見つめた。

 

「だからこそ、今出るべきではないかと思うのです」

 

「……どういうわけじゃ?」

 

 たまもの言葉に、イリアスは指を回しながら言葉を続けた。

 

「今、魔王軍の幹部がこの街に来て一週間が経ちました。それまでこの街は一度も襲撃を受けていません。もし魔王軍幹部がこちらに来るとすれば、本来は今日、完全に石化するであろうエルの様子を見に来るくらいでしょう。逆に言えば、今日来なければ明日、明後日に来るという線はないと思うのです。

 ならば、幹部が来ない今のうちに、少しでもレベルを上げて、そしてお金を稼いでおくべきではありませんか?」

 

「……ふむ、確かに一理あるのう」

 

 俺は、イリアスの目が建てられているメニュー表のパフェにくぎ付けになっているのに目をつぶりつつ、小さく頷いた。

 

「そこまで言うなら、よさげな依頼を選んで来いよ。……ただ、あんまり時間がかかりそうなのはだめだぞ。少なくとも日帰りできる奴にしてくれ」

 

「当然、そこはわきまえています」

 

 そう言って、依頼を見に行ったイリアスを見送った後、たまもがぽつりと俺に話かけて来た。

 

「のう、イリアスの奴、少々切羽詰まっておるようじゃったが、無茶な依頼を受けてこんじゃろうか?」

 

「まあ、イリアスなら大丈夫だと思うが……まあ、一応見に行ってみるか」

 

 そうして席を立ってイリアスの様子を見に行くと、難しい顔で掲示板をにらみつけていた。

 

 そして、一枚の紙を引っぺがす。

 

「って、待て待て待て!」

 

「……カズマ、いつからそこに?それで、どうしたのですか?」

 

「どうしたのですか?じゃない!なんだこれ!」

 

 そう言いつつ、俺はもう一度依頼書に目を通す。

 

『ワイバーン娘とベヒーモス娘が大げんかを始めてしまった。放っておくと被害が拡大するので両方とも成敗してほしい。報酬50万エリス』

 

「あほか!ワイバーンとベヒーモスっつったら、俺でも知ってるバケモンだぞ!」

 

「勘違いしてもらっては困りますね。この依頼はワイバーン娘とベヒーモス娘ですよ。レミナ付近に生息する一般的な魔物娘です」

 

「……因みにそれってどれくらい強いの?」

 

「……そうですね、魔王城の外縁部に生息する野生の魔物、と言ったところでしょうか」

 

「余計にダメだよ!」

 

 俺は頭を抱えてイリアスに詰め寄った。

 

「その、ラスダン手前に出現する魔物に対して、お前はどうやって成敗するつもりだったんだ!あぁ!いや、いい、どうせたまもの爆裂魔法で二人いっぺんに倒せばいいとか思ってたんだろ!」

 

「いや、そのような……」

 

「そもそも、二人いっぺんに都合よく倒せると思うか?失敗したら俺たちなんか一撃だぞ!一撃!」

 

「…………」

 

 次の瞬間、旋風が吹いたと勘違いするほどの威圧がイリアスから噴き出した。

 

「な、なんだよ。威圧しても無駄だぞ!流石にメンバーが死ぬ可能性が高い依頼はダメだ!というか、失敗したら一番死にかねないのはイリアス、あんたなんだぞ?そんなに切羽詰まってるなら、追加融資も検討してやるから」

 

 そう言うと、イリアスは静かに目を閉じ、そして大きなため息をついてから目を見開いた。

 

「えぇ、えぇ、分かりました。そこまで言うのであればこの依頼を受けるのはやめましょう……。ただ、他によい依頼も……この依頼などどうでしょう?」

 

 そう言うと、イリアスは一枚の依頼書を俺に差し出してきた。

 

「えっと、何々?」

 

『-湖の浄化-町の水源の一つである湖の水質が悪くなり、ワニ娘たちが住み着き始めている。湖を浄化すればワニ娘たちは住処を他に移すため、討伐の必要はない※浄化魔法習得済みの冒険者限定、報酬30万エリス』

 

「おまえ、浄化魔法とか使えるのか?」

 

 俺の疑問に、イリアスはむっとしながら答えた。

 

「先ほどからあなたは!……問題ありません。私は聖素が集まって生まれた女神、創世の女神イリアスですよ。穢れや汚染など、私に触れるだけで浄化されます。ええ、手慰みに湖の女神をしたこともあるのですよ。聞いたことは有りませんか?穢れた者を落とし、正直に答えるととても強力な武具を与える湖の女神の話を」

 

「俺の知ってる湖の女神とちょっと違うんだが」

 

「因みに落としたものを返したことはありません」

 

「無いのかよ」

 

 頭を押さえながら俺はイリアスに声をかけた。

 

「はぁ、まあいいや。というか、その依頼なら俺たちいらないんじゃね?お前だけで受ければ報酬総どりだぞ」

 

 イリアスはその言葉に嫌な顔をして苦言を呈した。

 

「せっかく私が奉仕の機会を与えているというのに……。そもそも、浄化を進めていればそこに住むワニ娘が襲ってくるに決まっているでしょう?残念ですが、まだ私にそれらをすべて跳ねのける力があるかは、怪しい所でしょう。ですからその防衛を任せたいのです」

 

「なるほど……ところで、どれくらい時間がかかるんだ?」

 

「そうですね……おおよそ半日ほどかかるでしょうか?」

 

 それを聞いて俺は手で×を作る。

 

「半日防衛なんて出来ねぇよ!」

 

 そう叫んだが、その時ふとギルドの端に置いてあるものを見つけ、俺はイリアスに問いかけた。

 

「なあ、さっき、触れるだけで浄化できるって言ってたけど、それって本当か?」

 

「なんですかいきなり。えぇ、もちろん本当ですよ」

 

「なら、何とかなるかもしれない」

 

 俺は悪い笑みを浮かべながらイリアスに作戦を話したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 街から少し離れた場所にその湖はあった。

 小さな湖は川を通して、街に水を供給しているのだそうだ。

 

 そして、湖をよく見てみると確かに水が濁っているように感じた。

 

「カズマ……なぜ私はこの作戦に賛同してしまったのでしょうか?」

 

 その言葉に振り向くと、とても落ち込んだ顔のイリアスと、狂暴な顔をしたエルの姿があった。

 

「私、身売りされる奴隷の気分ですよ。創世の女神とあがめられる私が、封印の上奴隷ですか……はぁ」

 

「このクズが」

 

 もはや怒る気もなさそうなイリアスと、その分いきり立っているエルを見ながら、俺は肩をすくめた。

 

「だから、これはそう言うんじゃないって。この檻は魔物用の特別なもので、そう簡単に壊れない。だから、中のイリアスがワニ娘に万一襲われても大丈夫ってわけだ」

 

 そう、俺が建てた作戦は、イリアスを檻の中に入れて、その中から浄化魔法を使うという作戦だ。イリアス自身は本来呼吸も必要なく、浄化自体も浄化魔法を使わずとも触れれば浄化されていくらしい。だからこの檻を水の中に投入すれば、後は時間を待つだけ、ということだ。

 

 もしも、何か問題があって逃げなければいけないときは、檻につながっている鎖を、クルセイダーのエルと野生のパワーを持つたまも、それとついでに借りてきた馬車を使って全力で引っぱりあげて逃走する予定だ。

 

 と、いうわけでイリアス以外のパーティで湖にイリアス入りの檻を投入し、時間を待つことになったのだった。

 

「……なんでしょうね。泥水に塗れていると。とてつもない不快感と共に、なんだか妙な親近感を感じますね……ドブ川……何故だかしっくりきます……」

 

 妙なことを口走っているが、本当に大丈夫だろうか?

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 浄化装置、もといイリアスを湖に放置してから二時間。いまだに魔物が襲ってくることは無かった。

 

 俺とたまもとエルは20mほど離れた場所で観察している。ちなみに、一時間ほどイライラして様子だったエルだったが、一時間越えたあたりで何かに目覚めたらしく、怪しい顔と荒い息遣いで熱烈な視線を送っていた。

 

 俺はエルのその視線を見なかったことにしてイリアスに声をかける。

 

「お、おーい!イリアス!浄化の方はどうだ?湖に浸かってると冷えるだろ?トイレ休憩したかったら言えよ!檻から出してやるから」

 

 遠くから叫ぶ俺に、イリアスが声を張り上げて応答する。

 

「浄化は順調です!ただ、訂正しておきます。聖魔導士はトイレになど行きません!」

 

 昔のアイドルみたいなことを言うイリアス……いや、もしかして女神とはそう言う生態何だろうか。昔、天界にいるときは天使含め食事がいらないとか言ってたし。

 

 水につけっぱなしで大丈夫かと思ったが、なんだかまだまだ余裕がありそうだ。

 

「どうやら、まだまだ大丈夫そうじゃの。しかし、トイレに行かんとは……なんの見栄なのじゃ」

 

「たまもは『アークウィザードだからトイレにはいかんのじゃ!』とか言わないのか?」

 

 そう言うと、たまもは嫌そうな顔をしながら頭を振った。

 

「んなわけあるかい。なんじゃったら外でもできるぞ。流石に人前ではせんがな」

 

 そこは狐寄りなのか。

 

「んで、エルは……」

 

「?スライムが尿なんか出すわけないじゃない。過剰に水分を摂取した時に排水することは有るけど」

 

 うん、聞いた俺が馬鹿だった。

 

「だけど、遠出してもトイレ関係は問題なさそうだな。何だったら魔王軍幹部の件が済んだら遠出する依頼を受けてもいいかもしれないな」

 

「それ、さっきのトイレの話で思いついたのかの?遠出に関しては構わんが、実際に依頼を受ける時にはしっかり計画を立てるのじゃよ?」

 

 たまもが苦言を呈した後、イリアスを見て緩く微笑んだ。

 

「しかし、ワニ娘は来んようじゃの。これで、これからもワニ娘が来んようなら楽なんじゃがな」

 

 たまもがフラグみたいなことを言うと、それが原因ではないだろうが、イリアスの方でも動きがあったようだ。

 

 ワニ娘の到来である。大きさは地球のワニとそう変わらないが、通常のワニの胴体の上から人の女性の上半身がくっついていた。

 

「え、何あれ」

 

「ワニ娘じゃの。まあ、沼のケンタウロスとでも思っておけばよい」

 

「来ましたね!ワニ娘……って、ちょっと待ってください!何人いるんですかこいつら!」

 

 そして、ワニ娘は群れを作る習性があるようだった。

 

 

 浄化作業開始から4時間

 

 イリアスはとっとと作業を終わらせたいからか、必死の形相で浄化魔法を連発していた。その檻の周りには、興奮したワニ娘が群がっている。

 

「ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ヒッ!さっき髪を掴まれかけましたよ!ちょ!そこ、なんかメキッて!メキッて言いましたよ!」

 

 そうやってにぎやかなイリアスだが、残念ながらこの状態では爆裂魔法で纏めて爆散させるわけにもいかない。

 

「イリアス―。どうしてもだめだったら言えよ!引き上げてやるからー!」

 

 叫びながら言うのだが、イリアスは頑なにクエストのリタイアを拒んでいた。

 

「ば、馬鹿にしないでください!たかがワニ娘に屈するなど、創世の女神として看過できません!ふ、ふふふ、アリスフィーズの子孫の住処を合法的に奪え、報酬まで出る!これほどおいしい仕事はありませんよ!」

 

 そんな風に敵意むき出しの女神さまが目の前にいるからか、ワニ娘たちは俺たちの方をちらりと見たりはするものの、向かってくることは無かった。

 

「‼見てられないわ!」

 

「あ!エル!待て!」

 

 何かが耐えられなくなったのか、エルが飛び出し、湖に飛び込んだ。

 一瞬、危ないと思ったが、湖に入り込んだエルは水の色と同化し、ワニ娘たちも補足できなくなったようだ。

 

「エルー!大丈夫なのか!?」

 

「まあ、自分でやったことじゃ。大丈夫じゃろ」

 

 楽観的に言うたまもに若干安心できないながらも様子をうかがっていると、驚くべきことが起こった。湖の中心に勢いよく水が集まり、そしてきれいな水が噴水のように吹き上がったのだ。

 

「え、何あれ?」

 

「ふむ……魔力の感じからして、エルべぇの奴が水を浄化しておるのう。まさに上位スライムの面目躍如というやつかのう」

 

 そして、4時間もかかって浄化していた湖はものの10分で10m以上もある水底が見通せるほどの清流へと変貌したのだった。

 

「……これ、なんで私4時間も湖に浸かっていたんでしょうか……ってひゃ!」

 

 ……その後、突然の浄化に油断したイリアスが、浄化されても残っていた数匹のワニ娘に手を掴まれ、檻越しにいろいろされ、地上波に写せないあられもない姿になってしまったのは俺としても不覚としか言いようがなかった。




 というわけで、ブルータルアリゲーター戦。もうこの時点で(というか前々回の段階で)一巻のラストバトル展開がアホみたいに変わることが確定しているのが……。
 なるべくお気楽展開にできるように意識しなければ……。

 変更点
・魔王軍幹部がまた襲来した時のための作戦が進行している。
・上記に伴い、アークウィザードが作戦の中枢にがっちり組み込まれており、街外へ出ることに精神的な制限がかかっている。
・依頼の内容をもん娘に変更。(もんくえでももんパラでも大体同じ場所に出るし、多分喧嘩してるでしょ。)
・依頼を諦めさせる舌戦の内容を少し変更
・エルの対応を変更(性格の為)
・ブルータルアリゲーターをワニ娘に変更
・引き上げ予定のキャラクターを追加(たまもの怪力設定から)
・女神さまが泥水に不快感を感じるように変更
・メンバーのトイレ会談の内容を変更
・浄化の解決方法を変更(くえ原作でできそうな感じだったし実際できるでしょ)
・最終的に女神さまがある程度被害を受ける形に変更。


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EP16 勇者が現れた!

 エルが湖から上がってきた後、俺たちは檻を引き上げ、イリアスに群がる数匹のワニ娘を追い払った。

 

 そして、少し休憩をはさんだ後、イリアスが目を覚ました。

 

「お、イリアス目が覚めたか。……なんか、すまなかったな。結局被害もあったみたいだし。俺たちお前が寝てるときに話し合ってさ、今回、俺たちは報酬受け取らないことにしたから、お前だけで報酬30万エリス独り占めだ」

 

「……私は、イリアスの依頼を取ってしまったから、その償い。むしろ増額して払ってもいい」

 

 そう言う俺たちに、イリアスは死んだ魚のような眼を向けて来た。

 

「のう、こう言っておるのじゃ、そろそろ出てきてはどうじゃ?」

 

「ひっ!?」

 

 たまもの言葉に、イリアスは恐れをなしたかのように後ずさりをした。

 

「ち、近づかないでください……」

 

「……は?」

 

「もう、モンスター娘に蹂躙されるのは嫌なの……もう、この檻の中に入って過ごします……」

 

 俺たちは3人で顔を見合わせたまま、お互いに肩をすくめたのだった。

 

 どうやら、ワニ娘たちはイリアスに結構なトラウマを植え付けてしまったらしい。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ドナドナドーナドーナ」

 

「おい、イリアス。もう街中なんだ。その歌やめてくれ。ただでさえ檻の中に女入れてるってことで目立ってるんだから。というか、もう街の中で安全なんだからさっさと出てくれよ」

 

「いやです。だって、街の中でもモンスター娘はたくさんいるから」

 

 ……そう言えばこいつ、この街に来てすぐのころにローパー娘に襲われかけてたんだったか。

 

 約一名にトラウマを植え付けた依頼は、とりあえずそれ以外の被害を出さずに依頼を達成することができた。レベルアップという点では、何匹か討伐できれば一番だったのだが、まあ、楽に済んだので良かったということにしよう。

 

 現在、依頼を達成してギルドに向かうところだが、イリアスが歩いてくれないのでゆったりとした行軍となっていた。

 

「……め!女神様!?女神さまじゃないですか!?」

 

 そんな油断した雰囲気が悪かったのだろうか。珍しく厄介ごとがないと思っていたら、厄介ごとの種が向こうからやってきた。

 

「な、なんでこんなところに入れられているんですか!」

 

 そう言って鉄格子を掴んだ男は、あろうことかワニ娘でさえかみちぎれなかった檻を、両手で容易くへしゃげさせてしまった。

 

 唖然としている俺とたまもをしり目にイリアスにかけより、手を取ろうとする男の目の前に水色が割り込んだ。

 

「私の仲間に何か用かしら?知り合いにしてはイリアスの反応がないようだけれど」

 

 手を取ろうとした男にエルが詰め寄った。その姿は、変な扉を開いて水につかるイリアスをハアハアしながら見ていた人物とはまるで別人だ。

 

 ……ずっとこの調子ならなぁ。

 

 男はエルを見て一瞬ぎょっとしてから、しかし何事もない風を装って首を振った。

 その所作に、○リと環境破壊以外では割と温厚なエルが明らかにいらだったように顔をゆがめる。

 

 なんだかきな臭い雰囲気になってきたので、俺はいまだに檻の中で三角座りしているイリアスにそっと耳打ちした。

 

「お前、創世の女神なんだろ?自分に来た客くらい自分でさばけよ」

 

「女神……裁き?……そう、そうでした!私は創世の女神イリアス!数多のモン娘を裁かなくては!」

 

 ……まさかとは思うが、あまりのショックに自分が女神であると忘れてたんじゃないだろうな?

 

 まあ、それはともかく、イリアスはやっと檻から抜け出して……。

 

「……あなたは、……えーと、待ってください、思い出しますから」

 

 んー?これ、知り合いなのか?

 何とも微妙な反応に、男は驚愕の表情でイリアスに詰め寄った。

 

「何言ってるんですか!俺ですよ!御剣響夜ですよ!あなたに天軍聖剣を頂いた!」

 

 イリアスが納得の顔をして男を見る中、俺もなんとなく状況を察した。こいつはあれだ。俺よりも先にイリアスに送り込まれた転生者だ。

 

 正義感の強そうな顔をしたそいつはかなりのイケメンで、青い高級そうな鎧を見に纏い、そして腰には純白の大剣を携えていた。

 ついでに背後にはそれぞれ槍とダガーを持った美少女を侍らせている。

 

 歳は俺と同じくらい……言ってしまえば、漫画の主人公のような奴だった。

 

「そうでしたね。勇者ミツルギ。確か私が18番目に送りこんだ勇者でした。それで、壮健ですか?天軍聖剣を与えたのです。魔王軍幹部の影くらいは掴んだのではないのですか?」

 

「は、はい、あなたに選ばれた勇者として、日々頑張っています。職業はソードマスター、レベルは37まで上がりました。魔王軍幹部の影は……申し訳ありません。恐らく女神さまも知っておられると思いますが、この街の近くの廃城にいる幹部のこと以外は……。ええ、その幹部の話を聞いて、久々にこの街に舞い戻ったところでして……ところで、なぜ女神さまはここに?というかなぜ檻の中にいたのでしょうか?」

 

 ちらちらと俺を見ながら言うミツルギ。というか、多分イリアスも適当に選んでこいつをこっちに転生させただろ。本人の目の前で18人目とか言ってるし。幸い鈍いのかミツルギは気にしていないみたいだが。

 

 というか、こいつ、俺がイリアスを檻に閉じ込めてると思ってないか?いや、まあ客観的に見ればそれ以外の回答はないか。仕方ないので俺は転生からこれまでの経緯をミツルギに語って聞かせた。

 

「……馬鹿な!ありえない!君はいったい何を考えてるんですか!女神さまをこの世界に引き込んで!?あまつさえ今回のクエストでは檻に入れて湖に浸けた?」

 

 俺はいきり立ったミツルギに胸倉をつかまれる。それを見て、イリアスが静かに手を添えた。

 

「待ちなさい、勇者ミツルギ。私はこの生活に存外満足しています。それに、この地で目指す目標もできました。今回の報酬も30万エリスとなかなかのものですし。あなたがその力をふるうのはこの男でなく、ふさわしい敵が出て来た時のために取っておくべきです」

 

「しかしイリアス様!あなたの待遇はいかにも不当だ!しかもこのような仕打ちを受けてたった30万エリス……あなたは女神なのですよ!因みに、今はどこで寝泊まりしているのですか?」

 

「今は、皆と馬小屋で過ごしていますが」

 

 イリアスが何をいまさら?みたいな風に言うと、俺の胸倉をつかむ腕がさらに強く引き絞られた。そしてその腕をさらにイリアスが掴む。

 

「今、馬小屋を馬鹿にしましたね?いえ、口にせずともわかります。よいですか?馬小屋とは古来から聖人の生まれる神聖な場所ですよ?そうでなくても、私という存在が起居する場所が不浄の場所とそう思っているのですか?」

 

 意味不明な切れ方をしているイリアスにビビったのか腕を緩めるミツルギに、更に俺の仲間から援護の言葉が続いた。

 

「ふむ、イリアスの言の正否はともかくとして、カズマに対してのお主の対応は、初対面の相手にとるものではないのう。正義の味方を気取るなら。せめてお主が正義を振りかざせる程度にはメンツを大切にしたらどうじゃ?」

 

「この度ばかりは、たまもに同意よ。いくら何でもあなたの行動は目に余るわ」

 

 普段は俺を不審者扱いするエルでさえ俺に対して全面的に味方になってくれるようだ。

 そんな二人に興味を惹かれたのか、ミツルギは俺から手を放して二人をまじまじと見つめた。

 

「クルセイダーの上位スライムに、アークウィザード?……それにずいぶんと美人じゃないか。君は、どうやら仲間には恵まれているようだね。それなら、余計に女神さまやこんな優秀そうな人たちを馬小屋なんかに泊まらせて恥ずかしくはないのかい?それに、さっきの話じゃ、君は最弱職だそうじゃないか」

 

 こいつの言い分だけ聞いていると俺はすごく恵まれた環境にいるように感じる。他の人から見ればそんなもんなんだろうか。

 

「なあなあ、イリアス。この世界じゃ冒険者が馬小屋暮らしなんて普通だろ?なんでこいつこんな過剰に反応してるんだ?」

 

「彼には天軍聖剣を授けていますからね。以前カズマも言っていましたが、最初になんだかんだあって高位の魔物を討伐して最初の宿屋や武器をそろえて……とそんな流れでお金に困ったことが無かったのでしょうね。まあ、能力を武具や戦闘系のスキルにした転生者はおおよそ同じようなことになりますね」

 

 じゃあ何か。俺はただで貰った聖剣で悠々自適に暮らしてるやつから説教受けてるってことか。俺はゼロから始めて苦労してきたのに?

 なんだか無性に腹が立ってきた。

 

 そんな俺の怒りも知らず、ミツルギは同情するかのようにたまもやエルの方を向き直った。

 

「君たちもだいぶ苦労してきたみたいだね。そうだ!今後は君たちも僕と一緒に来ると良い。もちろん馬小屋でなんて寝かせないし、武具も高級なものを買い与えてあげよう。それにパーティの構成的にも言うことなしだ!ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士にクルセイダーのあなた。後衛はアークウィザードの君に斥候役には僕の仲間の盗賊!うん、ぴったりなパーティだ!」

 

 おっと、俺は仲間外れか……いや乞われたって仲間に入りたいとは思わないが。

 身勝手なミツルギの提案に、3人はヒソヒソと何やら話し始めた。

 まあ、性格はあれだが、実力的には確実に俺よりも上だしな。魔王討伐もやりやすいだろうし、もしかしたらここでパーティ解散か?と思いながら、彼女たちの話に耳を傾ける。

 

「……何ですかあの勇者は、本当に怖気が走りますね。私、私を無視して話を進める愚か者が一番嫌いなんですけれど。本当に私が召喚した勇者なのでしょうか?あぁ、いましたね、いたんでしたね。全く、もう二度と会わないからと適当に転生させた過去の自分が憎らしい」

 

「ああいった自分が正義と考えている人間が、結果的に自然を汚す。対話を出来ない存在は害虫に劣る」

 

「なんじゃろうな、あの男。殊更に金持ちアピールをしよって。いっそのこと、夜中に宿屋に入り込んでその首をキュッとやってやろうかの?うち、結構そう言うの得意なんじゃが」

 

 おおっと、結構な不評だ。というかこれ、逆に俺が止めないとイリアス達がやばいことやりかねないくらい嫌われてないか?

 

「カズマ、行きましょう。あの男を転生させたのが間違いでした。関わっても益はないでしょう。さっさと行きますよ」

 

 かなりイラつく相手ではあるが、まあ、イリアスの言う通りこのまま立ち去るのが正解なのだろう。

 

「えーと、俺たちのパーティは満場一致であなたのパーティには入りたくないそうです。俺たちは依頼の達成報告があるのでこれで……」

 

 俺はそう言うと馬を引いてその場から立ち去ろうとした。

 

 …………。

 

「あの、そこ、どいてくれます?」

 

 俺の前に立ちふさがったミツルギに、いらいらしながらも言葉を交わす。

 

「僕は、それでも僕に聖剣を与えてくれたイリアス様をこんな境遇においては置けない!カズマ!君は転生特典で持ってくることができる物としてイリアス様を選んだんだったよね!」

 

「ああ、そーだよ」

 

 漫画でよくある流れとして、俺はこの後の展開が手に取るように分かった。

 

「なら、僕と勝負をしないか?僕が勝ったらイリアス様は僕のパーティに入る。もし僕が負けたら、君の言うことを一つ聞こう」

 

「よし乗ったじゃあ行くぞ!」

 

 予想通りの展開に、俺はためらうことなく短剣を振りかぶった。話している間中、ずっとイライラしていたのだ。

 奇襲じみた先制攻撃だが卑怯とは言うまいな!というか、高レベルのソードマスターが最弱職の冒険者に勝負を吹っ掛ける方がよっぽど卑怯だ!

 

「え、ちょ、ま」

 

 まさか話の直後に攻撃されるとは思っていなかったようだが、そこはさすがに上級職。即座に剣を抜いて一撃目を防ぎにかかった。

 

 俺は俺の短剣がミツルギの剣に触れる直前に左手を伸ばしてスキルを発動させる。

 

「スティール!」

 

 直後、左手にずしりと重い剣の感触が伝わる。お、一発目から大当たりを引いたようだ。

 

「え?あ?あれ?」

 

 困惑するミツルギの頭に俺の短剣が振り下ろされ、額を強く殴打されたミツルギは簡単に意識を手放した。

 

 

「卑怯者卑怯者卑怯者!あんな方法でミツルギ様に恥をかかせるなんて!」

 

「そうよそうよ!もっと正々堂々と戦いなさいよ!」

 

 ピーチクパーチクうるさい二人の声を甘んじて受けつつ、俺は彼女たちに一方的に宣言した。

 

「勝負は俺の勝ちだ。あ、俺が勝ったらなんでも言うこと聞くってことだったよな。じゃあ、この天軍聖剣ってのを貰うわ」

 

 その言葉に、取り巻きの一人がいきり立つ。

 

「ちょ、何言ってんのよ!そ、それに天軍聖剣はミツルギ様の専用装備よ!あんたが使っても意味がないんだから!」

 

「え、そうなのか?せっかく最強装備巻き上げられたと思ったのに」

 

 その言葉にイリアスが残念そうに首を振った。

 

「ええ、残念ながら、天軍聖剣はあの男の専用武器です。まあ、本来は天界の戦闘天使用の装備なのですが、それを人間にも使えるようにした装備なのです。一応使えることは使えますが、あなたが使ってもこの剣の恩恵である聖なる力や剣技が冴えわたる効果は得られません」

 

 なんてこった。まあ、せっかくだし貰っていこう。

 

「ってなわけで、この剣は貰っていくから、そいつが目覚めたら、お前が持ちかけた勝負なんだから恨むなよって伝えておいてくれ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!私は、あんな勝ち方認めないわよ!」

 

「そうよそうよ!キョウヤの聖剣、返してもらうんだから!」

 

 そんな言葉を吐く女たちに俺はゆっくりと向き直って言葉をかけた。

 

「まあ、あんたたちがそう言うつもりだって言うんならいいんだけどさ。俺は真の男女平等主義者にして、女にドロップキックを食らわせられる男。手加減を期待してるなら、それは無駄な希望だ。いや……相手が女ってなら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂することになるなぁ」

 

 そう言って笑うと、別の危機を感じたのか女たちは身を寄せ合って急いで立ち去っていった。

 

「……あの、じゃな、うち、公衆の面前でそう言う顔するの、やめた方がいいと思うのじゃ」

 

 ドンびく二人と、すごくよそよそしく指摘してくれるたまも。……むしろ指摘してくれなかった方が傷が小さかったかもしれない。




 投稿して1日経ったらお気に入りがかなり増えていた件。
 感謝の追加投稿です。今回は変更点少なめ。

なお、主要人物のなかで転生者は無条件で入れ替わりが起こりません。あくまでも、現地人達が変更の対象です。
 つまり、チョーさんもチョーさんのままです。……あの人の断片的にでも分かる情報的になんだったらもん娘達に搾られてそうな気もするんだよなぁ……。

変更点
・ソードマスターが持っている武器を魔剣グラムから巨剣のレジェンド装備「天軍聖剣」に変更。(以前の「月喰い」と状態はほぼ同じ。女神アイテムのため多少+がついてるかも)
・仲間に誘われたメンバーがやたら攻撃的
・アークウィザードが最後に一言今回の所業にコメントする。


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EP17 勇者の追加攻撃!

 俺たちはやっとのことで馬車を引き、ギルドに到着することができた。

 報酬は全額イリアスが受け取ることが決まっているので、報告もイリアスにしてもらうことになった。

 俺は所用があるため少し遅れてギルドに到着したのだが……。

 

「ちょ、どういうことなのですか!」

 

 ギルドの中からイリアスの悲鳴が響いてきた。

 

「どうしたイリアス!」

 

 慌ててギルドに飛び込むと、胸倉をつかまんばかりに詰め寄ったイリアスに、ギルド職員が申し訳なさそうに言葉を続けた。

 

「いや、ですから、この檻は特殊な素材、製法が必要でして、ここまで破損しておりますと、買取していただくしかなくて……」

 

「その費用が20万エリス、というわけですか」

 

「ええ、例えば、そこの噛み跡とか、あれくらいなら、まあクエストの必要経費として多少の貸与料だけでいいのですけど」

 

 それを聞いて、イリアスは力なく腕を下ろし、そして悩ましそうに言葉を続けた。

 

「その檻が壊れたのは依頼時ではなく、依頼後なのです。しかも、街に入ってから、とある冒険者に破損させられたのです。そちらに請求することはできないのですか?」

 

「ええっと……。申し訳ありません。こちらはあくまでも貸与しただけなので、破損の原因は関係ないんです。言ってしまえば、今回の依頼で破損したとしても、『ワニ娘が壊したんだからワニ娘に請求してくれ』とか言われかねないので」

 

「……そうですか」

 

 その言葉であきらめたのか、イリアスは落ち込んだ様子で帰ってきた。

 

「今回の報酬は壊した檻の代金を引いて10万エリスだそうです。意外と檻も高いものなのですね」

 

 ずーんと沈み込んでいるイリアスにはさすがに同情してしまう。まさかこんなところに落とし穴があるとは。

 

「そうというのも、あのミツルギのせいです。全く過去に行くことができれば、私にあの男をこの世界に送らないように言うというのに」

 

 と、そんな話をしていると。

 

「見つけたぞ!佐藤和真!」

 

 ちょうど、話題のミツルギが教えてもいない俺のフルネームを叫びながらつかつかと歩み寄り、バン!と手を叩きつけた。

 

「君のことは、剣士風の女性に話を聞いたよ。パンツ脱がせ魔のカズマとして有名なんだって?ほかにも、幼女を粘液まみれにして喜ぶ変態とか、鬼畜のカズマだとか言われているそうじゃないか」

 

「おいちょっと待て、それ、誰が言ってたんだ!」

 

 パンツ脱がせ魔は……まあ不可抗力ながら否定ができないが、他のことに関しては事実無根だ!誰がそんなことを吹聴したんだ!まぁ、約一名心当たりはあるが。

 

 と、そんなことを考えていると、イリアスがゆらりと立ち上がった。

 

「……イリアス様、私はこの男から聖剣を取り返……ヒッ!?」

 

 そう言うと、ミツルギは思わずイリアスに剣を向けようとして、失敗した。

 

「……命拾いしましたね、ミツルギキョウヤ」

 

 静かにそう言うイリアスは、少なくとも雰囲気以外は穏やかに見える語り口だ。だが、先ほどまでは、単純に不機嫌であったために漏れてしまった神聖さをにじませた怒りの雰囲気だったのが、ミツルギが剣に手を向かわせた段階で、以前俺が転生直前に不本意にも味わうことになった、あのイリアスと入れ替わりになった天使、ルシフィナに向けられたものと同質な殺気へと変化していた。

 

「わ た し に 、 け ん を む け よ う と し ま し た ね ?」

 

「あ、ああ、もももも、申し訳あ、あり、ありま……」

 

 端正な顔が狂気にゆがむというのは、まさにこういうことなのだろう。その狂相は、もはやだれにも止められないと確信ができるほどに恐ろしい顔だった。それと同時になんだかイリアスの周囲にチリチリとした何か鉄が焦げたような臭いがあたりを包み、時空がゆがむように視界がおかしくなっていた。

 

 なお、そんなことをされたミツルギはもはやプルプル震えるだけの生物となり果てており、その後ろで余波を受けた取り巻き二人も腰を抜かして……これ以上は彼女たちの名誉のために黙っておくことにしよう。

 

「ちょっと待て、イリアス。深呼吸。深呼吸だ」

 

 たまもが頭を抱えてうずくまってたり、エルがたまもを庇う場所に移動していたりとイリアスの雰囲気に飲まれている中、唯一一度この殺気を感じたことのあった俺がイリアスに落ち着くように声をかける。

 

「……………………はぁ、私としたことが。少し熱くなってしまいました。感謝します。カズマ。……ミツルギキョウヤ。面をあげなさい」

 

 たっぷり10秒はかけて無言を貫いたイリアスは、しかし落ち着いたのか、そこでため息を一つついて威圧感を霧散させ、ミツルギに語り掛けた。

 

「は、はははい」

 

「この度の事、今後五戒を順守するならば、不問といたしましょう。『神に剣を向けることなかれ』『魔物と交わることなかれ』『祈りを欠かすことなかれ』『神を汚すなかれ』『他の神を頼むなかれ』……最後の一つは、この世界には合いませんか。とにかく、先の4つの戒めを常に心に置き、敬虔なるイリアスの信徒となるのならば、この度の罪を許し、再び我が信徒の末端として迎え入れましょう」

 

 その言葉に、ミツルギは祈るように手を合わせ、涙を流してイリアスを見た。

 

「あ、あぁ!イリアス様!なんというお慈悲だ!そんなお方に私は、私は何ということを!何か、懺悔を、罪を雪ぐ機会をお与えください!」

 

「その罪の意識を持つことこそ、あなたの贖罪の始まりなのです……。ですが、そうですね。そこまで言うのなら、あなたが犯した罪科、ギルドの備品である檻を壊した罪を金銭で支払う機会を与えましょう。20万エリスを納めるのです。そうすればほんの少しではありますが、あなたの罪は贖われるでしょう」

 

 その言葉にすぐさまミツルギは懐から20万エリスを差し出した。

 

「罪を償おうとする姿勢、確かに見届けました。私はこれから、あなたの同行者と少し話してきましょう。しばらくこの酒場で時間を使うとよいでしょう」

 

 そう言うと、イリアスはエルに一声かけてから二人を連れて行ってしまった。多分大丈夫だと思うが、少し不安だな。

 と思っていると、エルがさりげなく二人のいた地面の上を通り、そしてエルが去った後にはきれいな床が姿を現していた。

 

「……なあ、エル」

 

「私はイリアスに頼まれただけよ。女の子二人があんな恥をかくなんて、トラウマものだからって」

 

「……顔、にやけてるぞ」

 

「……っ!気のせい」

 

 本当に気のせいなのだろうか?まあ、実際にエルが言った側面もあるのだろうし、見た目的にもぎりぎりセーフなので見なかったふりをしよう。

 

 と、仲間のことで遠い眼になっていると、後ろからミツルギが声をかけて来た。

 

「その、カズマくん!少し、話があるんだが」

 

「あ?何?」

 

 去ったと思った厄介ごとに声を掛けられ、若干適当に返答すると、ミツルギは目を少し逸らしながら俺に話かけて来た。

 

「正直、君との決闘の結果は納得いかない。……ただ、それでも君の勝ちは勝ちだ。そこは否定できない。だから、こんなことを頼むのは虫がいいことだっていうのは理解している。それでも頼む!俺にあの聖剣を返してほしい!君も、イリアス様の信徒ならわかるだろう!イリアス様に全力で応えるためには、俺にはあの聖剣が必要なんだ!それに、あの聖剣は君が使っても、多少普通の剣よりも切れ味がいいだけのただの剣だ。切れ味のいい剣が欲しいなら、僕がこの街の最高級の剣を買ってあげよう。だから、どうか、僕の聖剣を返してくれないか?」

 

 本人も言っていたが何とも虫のいい話だ。そもそも、イリアスは俺の転生特典としてついてきた女神だ。つまりは、こいつの持っていた天軍聖剣と同じものを賭けたということだ。

 

「……つまり、私を賭けた賭けの対価がそれという事は、私の価値は駆け出しの街の最高級武具程度だと、あなたはそう言いたいわけですね。ミツルギ」

 

「いいいいいいえいえ、そ、決してそんなことは!た、ただあなた様に十全に尽くすためには、あの剣が無ければ、と。だ、だからカズマくんの、じ、慈悲にすがりたい、と」

 

 地獄耳なのか、かなりの距離にいたにもかかわらず顔を出して指摘したイリアスに、いっそ哀れなほどに取り乱すミツルギの袖を、たまもがちょいちょいと引っ張り気を引いた。

 

「あ、ど、どうしたのかな?お嬢ちゃん」

 

「いや、盛り上がっとるところ悪いんじゃが、あの男をよーく見てみるのじゃ?なんかないと思わんか?」

 

 そのたまもの言葉で、ミツルギはじーっと俺を見つめ、そして焦ったように俺を指さした。

 

「さ、佐藤和真、ぼ、僕の天軍聖剣をど、どこにやったんだ!?」

 

 にじり寄ってくるミツルギに、俺は一言。

 

「売った」

 

「チックショー‼君は悪魔か!」

 

 ミツルギは先ほどとは別の涙を浮かべながらギルドを飛び出した。

 ついでになぜか、な・ぜ・か。トイレの方から姿を現した取り巻き二人がミツルギを追って走り去っていった。

 

 

「……全く、一体何の騒ぎだったの?……ところで、先ほどからイリアスが女神だとかなんだとか言っていたけど、あれって……」

 

 ……ちょっとまずいかもしれない。確か、イリアスはモン娘を作り出した邪神、この世界の神のアリスフィーズと敵対しているはずだ。実際はアリスフィーズはそこまでイリアスを毛嫌いしているわけではないようだが、その子孫であるモン娘たちが、女神であるイリアスを恨んでいないという保証はない。

 

 ここは、少し誤魔化すべきか?と思索していると、イリアスが俺を押しのけ、意を決した顔で二人に語り掛けた。

 

「……この際です。二人には言ってしまいましょう。私はイリアス。イリアス教団が崇拝する、創世の神。……そう、私こそが創世の女神イリアスなのです」

 

 そう言いきって一瞬の沈黙。その後、二人の声が重なった。

 

「「え?いや、あなた(お主)グレーターデーモン娘か何かよね(じゃろ?)」」

 

「ちょ!それは承服できないのですけれど!というか、なぜ意見が一致するのです!?」

 

 ……まあ、あの邪悪な威圧感を聖なる女神様のものとは、とてもではないが思えないよなぁ。

 

『緊急!緊急!冒険者の皆さんは、至急、武装を整え、戦闘態勢で正門に集まってください!なお、これはB想定です!心してかかってください』

 

 その言葉に、ミツルギのことで弛緩していた意識が一気に引き上げられた。

 B想定。それはBossの頭文字を取って俺たちが名付けた符丁だ。つまりBoss戦が想定される状況。魔王軍幹部の到来だった。




 というわけで勇者君の後半戦でした。
 なおイリアス様が自分よりもレベル上格上のミツルギくんをビビり散らかすほどの威圧感を放っているのは仕様です。
 まあ、ちょっと文句言おうと話しかけてみたら、相手が剣取り出しそうな仕草してるとか、あの人ならブチギレるよねっていう。

 それと、作中に出てきたイリアス五戒の一つが不適切って話は、イリアスがアリス教を認めたとかいう話では全然なくて、自身が本来この世界の神ではないということと、友人に近い感情を持っている青髪の駄女神様に多少なりとも感情が向いたからです。

次回からいよいよ一巻のラスボス戦!原作のシナリオがフレーバーくらいにしか香ってきませんが、それでもよければ、楽しみにお待ちください。

変更点
・女神の聞き分けが良い
・女神のソードマスターに対する風当たりが強くなっている。
・上記の巻き添えで被害拡大。
・徴収額を適正価格に変更
・緊急警報の内容を変更(大規模作戦が存在するため)


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EP18 イリアスのそらをとぶ!

 俺たちは装備を整え、急ぎ足で正門へと集まった。たまもは総指揮をするために持ち前の身体能力で先行し、俺とイリアスはその後を走って追いかける。

 唯一エルに関しては、昼の依頼で吸収した汚れや、先ほどの液体を排出するため、一旦離脱している。

 

 正門に着くと、既に多くの冒険者が配置についており、てきぱきとたまもが指示を飛ばしていた。だが、その顔を見ると、少し焦ったように引きつっていた。

 

「どうした、たまも!」

 

「カズマか……見てみよ」

 

 見れば、そこにいたのは魔王軍幹部。だが、彼女は一人ではなかった。たくさんの騎士風のアンデッドがその後ろに続いていたのだ。しかもその数は10や20ではない。

 

 そんなキメラデュラハンは、静かにこちらに近づくと。心底軽蔑した視線で俺とたまもを見つめた。

 

「あなたたちは、私の城に来ることもなく、自らの巣に籠る臆病で卑怯な害虫なのね!この人でなし!おまけに、その害虫は毎日毎日私の家に爆裂魔法を撃ちこんでくると来た。

 これは、挑発と受け取ってもいいのよね?ねぇ?」

 

 爆裂魔法を撃ちこんでいるのも、作戦の一環だ。毎日毎日魔法を撃ちこんでいれば、そのタイミングは拠点防衛のために城にいる可能性が高い。それに、爆裂魔法が鳴り響く中過ごすのは結構なストレスだろう。

 そんなわけで俺たちは毎回位置を変えつつ、(今日は依頼があったので休んだが)爆裂魔法を廃城に打ち込み続けていた。

 

「その挑発でのこのこやってくるのじゃから、ずいぶんと弱いおつむをしているようじゃの?おぉ!そうじゃった♪そりゃ、頭と体は別々に動いておるんじゃものな♪体の方は、正真正銘の脳無し、というわけじゃ!」

 

 そんなたまもの挑発に、思わず手に持ったものを投げつけようとしたキメラデュラハンだったが、自分の手にある物が自分の頭であることを思い出して、慌てて小脇に抱え直した。

 

「……まあ、そのことはここに来た半分よ。私が真に怒っていることは別にある。あなたたちは、仲間に報いようという気概はないのかしら?冤罪で首を落とされたけれど生前は清廉な騎士であることを心がけていた私からすれば、自らが石化する恐怖に耐え、今なお石となり果てても意識のみで恐怖に抗うクルセイダー。恐怖に打ち勝ち、仲間の代わりに呪いを受けたあの騎士の鑑のようなクルセイダーを見捨てて、亀のように街に引っ込むなん……て?」

 

 その時、汚れの排出が済んだエルが、静かに俺の横に立ち、少し顔を赤くしながらキメラデュラハンを見つめた。

 

「そこまで褒められると。少し照れる」

 

 エルが少し申し訳なさそうにそう言うと、キメラデュラハンは天を仰ぎ……。

 

「なんでなのよ!」

 

 大声で叫んだ。その声に、イリアスがいびつに唇を歪めた。

 

「ふふふ、しょせんは死にぞこないのキメラデュラハンですね!つぎはぎの脳では、呪いが解呪されるなんてことは想像もできないのでしょう。自身の力を過剰に信じ、突破されたときの対策も打たない。あなた、もしかして生前は騎士ではなく道化であることを心がけていたのでは?」

 

 イリアスが嘲るように言葉を重ねるのを、キメラデュラハンは肩を震わせて聞いていた。表情を見るに恐ろしく怒っていることは間違いない。

 

「……口を慎みなさい。このアバズレ女。私にかかれば、この疲れを知らない不死の体を使って、あなた達を街ごと滅亡させることもできるのよ?いつまでも優しくするとは思わないことね!」

 

「……それはどうかのう?P隊、ってェ!」

 

 そのたまもの言葉と共に、外壁の上や正門の周囲から主に白いローブを着て杖を持った者たちが詠唱を始める。

 

「我らが力を見せつけるのです、アリス様の御力を示すのです!」

 

「「「「「「「「「「ターン・アンデッド!」」」」」」」」」」

 

 外壁の上で一足先に詠唱を終えた蛇の下半身を持つシスターの掛け声とともに30を超える聖光がたった一人のアンデッドに降り注いだ。

 

「……っく!」

 

「ここにいるのは冒険者だけではない!町の教会、衛兵、商店に至るまで、うちらの戦いのために手を貸してくれているのじゃ!うちらが容易く崩せるとは思わんことじゃ!」

 

 たまもの宣言に、しかしキメラデュラハンはくつくつと笑った。

 

「ふ、ふふふ、ははは、確かに人間としてはよく考えたようね!だけど地力が足りなさすぎる。……残念ねぇ、もしも全員が高位神官なら、少しは私にもダメージが「ターンアンデッド!」……うぐぅ!?」

 

 一斉斉射から遅れくこと少し、自慢げに自分の耐久力を自慢していたキメラデュラハンにイリアスの放ったターンアンデッドが突き刺さり、その体を蝕んだ。その威力はどう甘く見てもキメラデュラハンにそこそこの痛打を与えることができたようだ。

 

 しかし、キメラデュラハンは持ちこたえ、身体のいくつかの場所から黒い煙を出しながら、もイリアスをにらみつけた。

 

「あ、あなた。いったい何者なの?魔王軍の力により、私は神聖な属性にもかなりの抵抗があるはずなのだけれど」

 

 言いながら、キメラデュラハンは首を傾けた。それにイリアスは酷薄は笑みを浮かべて立ち向かう。

 

「……まあいいわ。本来なら占い師が言っていた、この街の周囲に強い光が落ちた……という事象の調査をするべきなのだけれど」

 

 そこまで言って、キメラデュラハンはその顔に狂相を浮かべる。

 

「!いかん!エル!」

 

 たまもの言葉に、反射的にエルが体を広げた瞬間、キメラデュラハンの蛇の目を含めたすべての目が赤く輝いた。

 

「この街の人間をすべて殺せば事足りることよね!」

 

「……っ!」

 

 そして、次の瞬間、膨大に膨れ上がったエルの体のいたるところが、灰色に変色していく。

 

「!セイクリッド、ブレイクスペル!」

 

 しかし、次の瞬間、イリアスの呪文によって、石化は止まり、元の柔らかい水色へと戻っていった。

 それを見て、キメラデュラハンは荒い息を吐きながら驚嘆の声を発した。

 

「へぇ、前のに比べれば使った術は弱いとはいえ、さっきのを解呪できるのね……。

 分かったわ。前の呪いを解呪したのは、あなたね?」

 

「セイクリッド、ターンアンデッド!」

 

「うっ、あああああああああああっ!」

 

 先ほどよりも激しい叫びが戦場に響き渡り、しかし、それも数秒で途切れた。

 

「ふ、ふふふ、あははははは!いいわ、いいわ!いいでしょう。軍の半分は冒険者どもを押しとどめなさい!そして、残りの半分は……女天使!あなたのお相手よ」

 

 その号令と共に、アンデッドナイトたちがこちらに向かって進軍を始めた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

「……くっ!」

 

 アンデッドナイトの進行が始まってすぐ、イリアスはすぐさま空を舞い、移動を開始した。

幾ら集結していようとも、ここは駆け出し冒険者の街、全軍で攻められればさばききれないと考えられたからだ。

 

「流石、脳まで腐ったアンデッドですね!空を飛べる私にアンデッドで挑むとは!単純に戦力を分散させているだけの愚行に気付かないのですか?」

 

「ほざけ」

 

 そう言うと、キメラデュラハンは目線をイリアスに向け、そしてイリアスは咄嗟にその場から退避する。そして、次の瞬間、イリアスが急にバランスを崩し、数メートル落下する。

 

「イリアス!」

 

「こちらは大丈夫です!そちらに集中しなさい!」

 

 そう言って、石化された部位を直しつつ、イリアスは高度を維持しての逃走を再開した。

 

 そう、イリアスは孤立させられたうえでキメラデュラハンの石化の呪いを放たれ続けていた。幸いなのは、戦闘開始時に放たれた範囲攻撃がいまだに放たれていないことだろう。恐らくあれは、消耗の激しい必殺技のような物だったのだろう。

 

 そして、もう一つキメラデュラハンの誤算があった。それは、冒険者の方に向かったアンデッドナイトが思ったよりも少なかったということだ。敵戦力が10がとすると、8~9はイリアスの方に向かっていた。ゾンビの上位互換であるアンデッドナイトとはいえ、5~6人で相手をすれば駆け出しでもそこそこいい勝負は可能だ。だから、八割がたの戦力がたった一人にかまけている今の状況は俺たちにとって非常に都合が良かった。

 

「……もしかして、この世界のアンデッドって、女神に寄っていく性質があるんだろうか?」

 

 そう言えば、以前シロムのところのルフレツィアもイリアスに襲撃をかけていたし……まあ、あの時はイリアスが先制攻撃したようなものだが。

 

「……!?ちょっと待て、たまも!」

 

「なんじゃカズマ!数は少ないとはいえ、こちらにも敵はおるんじゃぞ!」

 

「爆裂魔法を準備しろ!大至急だ!」

 

 その言葉に、たまもは双爪を振るい、目の前の敵を吹き飛ばした後、苦言を呈する。

 

「イリアスが大事なのはわかるが、あのままならもうしばらくは……いや、分かったのじゃ。しかし、こちらの相手は」

 

「ライトオブセイバー!」

 

 残敵の対処のため躊躇するたまもの目の前の敵が、光の剣により両断される。

 

「全く、なぜ私に声をかけてくれないのですか?あなたの尻拭いをするというのはいささか納得できないところもありますが、こんな祭りに招待してくれないとは、あなたの狭量さには驚きますよ」

 

「ふん、七尾め、好きかって言いおるわ。じゃがそうじゃな、此度ばかりは感謝を述べるとしよう!任せたぞ!七尾!」

 

「承知!」

 

 そう言って、驚くほどの速度で放たれる光の剣で、アンデッドナイトたちは塵と化していく。

 

 そして、イリアスの方を見ると、俺の恐れていたことが現実になっていた。イリアスが、空を飛んでいるアンデッドナイトに背中から刺されていたのだ。

 

「……っつ!離れな、さいっ!ターンアンデッド!」

 

 そのアンデッドナイトは、至近距離のターンアンデッドで消し飛ばされるが、同時にイリアスの翼が灰色に変色する。

 

「……しまっ!?」

 

「堕ちなさい!」

 

 愉悦に混じる声で言うキメラデュラハンの目線の先で、絶望的な状況に思わず目を背けそうになった次の瞬間、地面とイリアスの間に、急に漆黒が割り込んだ。

 

「お嬢ちゃん、無事?」

 

「……あなたは!」

 

 胸と腰だけを守る服を纏ったその人物は、今まではなかったはずの大きな翼をはためかせ、落ち行くイリアスを受け止めた。

 

 イリアスは驚愕しながらも自分の翼を治癒し、再び空へと舞い戻る。

 

「なぜ、助けに来たのです!?」

 

 そんなイリアスの詰問に、女は微笑んで答えた。

 

「前途ある若者を助けたい、それがおかしなことかしら?さあ、行きなさい。地獄への一番槍は、私がもらうわ!」

 

 そう言って、イリアスの前に立ちはだかった女は、次の瞬間、先ほどのイリアスのように翼を固められ、地面に墜落していく。

 

「イリアス!まっすぐ戻って来い!」

 

 そして、その光景を見るまでもなく俺は遠くまで飛翔していたイリアスに叫んでいた。

 直線での飛行。それは、キメラデュラハンからすれば絶好の襲撃タイミングだ。何しろ石化の呪いの発動条件は、恐らく視界に収めること。円を描くように移動したり、激しく進路を変えるならともかく、速度が速くても直進しかしないなら、視界に収めるのはたやすい。だから、この指示は悪手だ。本来なら。

 

「愚かね!食らいなさ「エクスプロージョン‼」……っああああ!」

 

 だが、それに集中するということは同時に、狙った相手、イリアス以外には視界に入りにくいことも意味する。本来ならば逃すはずもない爆裂魔法の起動もイリアスに集中しすぎていたキメラデュラハンにとっては反応が遅れる結果となった。

 

 そして、その爆発は追いかける対象がキメラデュラハンの頭上を通過する形で通り過ぎた結果、合流することとなったアンデッドナイトたちを巻き込み、そして全滅させた。

 ついでに誘導役を担ったうちの女神さまも爆風にあおられ吹っ飛ばされたが、エルが受け止めたことで事なきを得た。

 

 こうして、残りは手負いキメラデュラハン一人きり。それは俺たちにとって間違いのない好機だった。

 もちろん、こちらだって無傷ではない。多くの冒険者が傷つき、またたまもも先の爆裂魔法で俺の背中に身を預けている。

 

 いよいよ戦いの大詰め。俺は冷や汗を拭いながら、戦場を見つめるのだった。




P隊→プリースト隊

 エヴァさんの、ちょっといいとこみてみたい!
 ……これは未来のクイーンサキュバスなのも納得やな(笑)
 そして、この部分書くときにもう一度エヴァ見たけど、こいつ角ないじゃないか!ラリルトリオにすらあるのにこいつは……。(まぁ、人間から淫魔にかわったミルク絞りさん達も角ないから唯一ってわけじゃないけど)
 本来なら本文を修正すべきかもですが、ここまで来ちゃったのでこの世界のエヴァさんにはルミよりも小さい角があるという設定にします。
 そして、前回も書きましたが、バトルの内容がかなり改変されています。

変更点
・冒険者以外にも町の門に集まっている。
・初撃をイリアス様ではなくシスターラミア率いるプリースト隊に変更
・魔王軍幹部の殺意が高い
・キメラデュラハンの襲撃対象を変更


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EP19 イリアスはみなごろしを放った!

 緊迫した空気の中、最初に動いたのは冒険者たちだった。

 

「よくも、よくもエヴァさんを!あいつだって弱ってるんだ!囲んじまえ!」

 

「ああ、それに、こいつを倒せば報奨金が出るんだ!こいつを殺して、その金で墓でも立ててやらねえとやり切れねえよ!」

 

 殺気立った冒険者たちが各々の得物を片手にじりじりとキメラデュラハンに近づいていく。

 そこで、爆裂魔法で俯いていたキメラデュラハンが哄笑を始めた。

 

「ふふふ、あははははははははははは!!まさか、配下を全滅させるどころか、私自身すら痛手を受けるとはね。……残念だけど、私の蛇たちも伸びてしまって、しばらくは石化もできそうにないわ……でも、それだけで勝てるとは思わないことね!」

 

「はんっ!石化が使えないなら楽勝じゃねーか!いくら幹部っつっても背中に目はついてねーんだ!囲んで袋叩きにしちまえ!」

 

 そんなフラグみたいなことを囲んでいる冒険者の一人が言うと、それを合図に冒険者たちが一斉にキメラデュラハンに殺到する。

 そして、それと同時にキメラデュラハンは自らの頭を思いきり放り投げた。その頭は常に地面を見ながら上空を飛翔する。

 

 ……、いや、まさか!

 

 俺はキメラデュラハンの意図を悟り、慌てて声を張り上げる。

 

「やめろ!」

 

 しかし、その思いは届かず、幹部に襲い掛かった冒険者たちの攻撃は、空しいほどにすべて躱されそして、かわりにキメラデュラハンの持つ剣が冒険者たちに振る舞われる。

 

「……え?」

 

 そんな間抜けな声が、冒険者たちの最後の言葉となり、先ほどまで動いていた冒険者は数十のさっきまで生きていた肉片に姿を変えた。

 

 その光景に、冒険者たちに沈黙が走る。イリアスの攻撃を耐え、最強の攻撃魔法である爆裂魔法の一撃でさえ致命傷にならなかった。これ以上、どうすればいいのだろうか。

 

 そんな絶望的な状況に、ゆらりと、水色が戦場に現れた。

 

「私は、環境を汚す人間を、本当はそこまで好きではなかった。そう思っていた」

 

 皆より、一歩前に進み出たエルは、しかしすぐにその歩みを進める。

 

「次はあなた?」

 

「だけれど、あなたのやったことは、許せない」

 

 かみしめるように言った言葉の後、まるで援護射撃のように後方から少女の声が響いた。

 

「あんたなんか!ミツルギ様が来たら一撃でやられちゃうんだから!」

 

「そうだ!時間稼ぎさえできれば、俺たちの勝ちだ!」

 

 ……いや、ちょっとまて、今なんて?

 ミツルギ、ミツルギって言ったか?

 

 俺はだらだら冷や汗を流しながら、何も握っていない自分の手を見つめた。もしかして、俺は反撃が可能だったはずの作戦を一つ潰してしまっていたのだろうか?

 焦りながら周囲を見渡すと、イリアスはエルを無視して真剣な顔で切り捨てられた冒険者たちを検分していた。……何してるんだあいつ。いや、今はあいつを気にしている場合ではないだろう。

 

 イリアスのことはともかく、エルは歩みを止めず、キメラデュラハンの前まで進み出た。

 

「お手合わせ願おう」

 

「私こそ、あなたみたいな騎士となら喜んで」

 

 そう言って、緊張感が際限なく膨らんでいく。先ほど挑んでいった冒険者だって無手ではなかった。重厚とは言えないまでもしっかりとした鎧を見に纏っていたはずの冒険者たちがなすすべもなく剣の一撃で両断されたのだ。常々耐久力には自信がある、と言っているエルでも、どれだけ太刀打ちできるのかは未知数だ。

 

「……カズマ、不安そうな顔をしないで、気が散るわ。安心しなさい。私はスライムの中のスライム。その耐久性においても、生命力においても、最高位に位置するのだと教えてあげる」

 

 そう言うと、エルは剣を振りかぶり、そして振り下ろした。……キメラデュラハンの近くの地面に。

 

「……は?」

 

「……///」

 

 やだもう、動かない的ですら外すなんて。しかもそれが俺のパーティメンバーとか。

 若干恥ずかしそうにしながらも、こんなの日常茶飯事ですよ。的な雰囲気を醸しながら、更にエルは前進し攻撃を加えた。

 が、やはり盛大に外した。

 

「……ふん、所詮こんなものなのね。いいわ。死になさい」

 

 何度振るわれても自分に当たらない剣にあきれを通り越し興味を失ったのか、無造作に剣を振りかぶり、エルに向けて振り下ろした。

 

「エル!」

 

「ふん、あっけな……は?」

 

 再びキメラデュラハンの口から漏れ出た声の示す通り、エルの身に纏っているスケスケの服には小さなほつれしか見受けられなかった。

 

「え?あ?何この服。私の剣でちょっとほつれるくらいとか。え?装備の質が伝説級の装備だったりするの?いや、でも」

 

 それを見て、俺は声を張り上げた。

 

「デュラハンの攻撃はエルが受け止められる!魔法使いたち、とにかく攻撃をするんだ!」

 

 俺の言葉で魔法使いたちが詠唱を開始する。

 

「……カズマ」

 

 そして、火や水が飛び交う中、イリアスが俺に話かけて来た。ちなみにたまもは安全な場所に移動済みだ。

 

「イリアス?どうした」

 

「はっきり言いましょう。このままでは勝てません」

 

 それを聞いて、俺は反論しようとするが、エルに攻撃を加えながらも攻撃を受け続けて耐えきっているキメラデュラハンを見て口をつぐんだ。

 

「……で?どうするんだ?逃げれるもんなら逃げたいが、そんなことができそうな感じでもないぞ」

 

「私が、奥の手を出します」

 

「……できるのか?たまもの爆裂魔法でも無理だったんだぞ?」

 

 イリアスはそれを聞いて、少しの不安を拭い去る様に微笑んで宣言した。

 

「私を誰だと持っているんですか?偉大なる創世の女神、イリアスですよ!」

 

「なら、信じる。その奥の手とやら、使ってくれ!」

 

 それを聞いて、イリアスは大きく頷き、そして、小さくつぶやいた。

 

「……もし、私が私でなくなったら、あなただけでも逃げてください」

 

「え?」

 

 イリアスのそんな声に思わず振り向くと、既に詠唱の準備に入ったイリアスの姿があった。

 

「仮身に問わん、悠遠の刻、我が身を縛りし星霊の箍、日輪の聖光にて焼き尽くさん」

 

 そして、カッと目を見開き、最後の一言を絞り出す。

 

「我が仮身よ、ここに在れ!」

 

 そして、莫大な落雷と共に姿を現したのは俺があの神聖な空間で見た大人のイリアスの姿だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

「仮身に問わん、悠遠の時」

 

 私は自らの枷、六祖封印を解くための呪文を詠唱する。

 

「わが身を縛りし星霊の箍」

 

 その身を縛る巨大な力がほどけ、自分以上の大きな存在がおりてくるのを感じていた。

 恐怖はある。私は私であって私ではない。ただの分け身が分身とはいえ本体の意志に逆らえるわけもない。

 伝えることができるのは、私の体験と経験だけ。はっきり言って私は自分を信頼なんてできない。

 

「日輪の聖光にて焼き付くさん」

 

 だから、私の意にそわない形で、私は暴走してしまうのかもしれない。

 だから、カズマ。せめて、せめてあなただけでも生き残れるように……。

 

「我が仮身よ、ここに在れ!」

 

 久々にすっきりした頭に、私は一度頭を振ります。

 あぁ、本当に久しぶりの感覚です。力がみなぎり、思考が冴えわたるこの感覚。解放の瞬間に力がほとばしり、雷となっていくらか落ちてしまいましたが、まあいいでしょう。

 

 さて、それでは、

 

 

 

 

 

 

 モ ン ス タ ー 娘 を 根 絶 や し に し ま し ょ う か。

 

 私はこれから味わえる愉悦に、思わず笑みをこぼすのでした。




 邪神がINしました。
 中ボス戦を攻略するためにラスボスを顕現させる愚行よ。
 因みに、イリアス様が唱えた解呪の詞はイリアス様オリジナル。しかもあえて真身じゃなくて仮身を召喚してる。まあ、六祖封印されてるのがそもそも仮身だからだけど。
 これでも大本のイリアス様と比べたら実力の1割も出せてないってマジ?

 気が付いたらお気に入りが100を超えていました。
2~3話前は、一巻分超えたあたりで来るかな、と思っていたので結構うれしいです。

 あと2話くらいで1巻分が終わりますが、ちょっと読者の皆さんにもご意見を頂きたい&機能を使ってみたいので、アンケート機能を使ってみようと思います。

変更点
・冒険者が取り囲んだ時点で被害者が出ている。
・爆裂魔法に魔王軍幹部が巻き込まれている。
・クルセイダーが魔王軍幹部に挑む理由が少し違う。
・女神がラスボス化する。


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EP20 其はラスボスの如き嵐

 大人の姿になったイリアスは、ゆっくりとあたりを見回すとキメラデュラハンを見たところで、その顔に笑みを浮かべた。

 

 次の瞬間。

 

「……っ!」

 

 ゾクリ悪寒が走り、思わず平伏してしまいそうな威圧感が周囲にまき散らされる。そして、涼やかな声でそれは放たれた。

 

「裁 き の 雷 ‼」

 

 それは、神の怒りだった。俺が転生前に放たれたものとも違う。当然、いつも蛙に放っているそれ等児戯どころか静電気程度に感じてしまうほどの膨大なエネルギーの暴力。

 たった一度の攻撃で、あれほどの暴威を振るったキメラデュラハンは黒い灰になり下がった。

 

「うっそだろ、おい」

 

 冒険者たちが戦慄する中、俺はイリアスに向かって声をかけた。

 

「すごいなイリアス!でも、もう魔王軍幹部は倒れたし、奥の手ってのもそろそろやめてもいいんじゃないか?」

 

 そう言う俺に、イリアスは微笑みを浮かべ、そして素早い正拳が俺を貫いた。

 

「がっ……は」

 

「私に指図するとは、ずいぶん偉くなったものですね、佐藤和真」

 

 そう言って、イリアスは俺の頭を掴み、持ち上げる。

 

「それに、間違っていますよ。魔王軍幹部が倒れたからと言って、戦いが終わるわけではありません。佐藤和真、あなたが私に道を示したのではないですか?モンスター娘をこの手で亡ぼすことが、私の目的であると」

 

 その言葉に俺は動かない口を必死に動かし、声を張り上げた。

 

「逃げろ……!特に、魔物の特徴を持っている奴は!」

 

 その声を聞いて、イリアスは俺を掴む力を強くする。

 

「……あなたも、あなたも私を否定するのですか!佐藤和真!」

 

 激昂するイリアスの手が、再び俺の腹部に迫る。

 

(あぁ、こりゃ死んだかな?)

 

 薄れゆく意識の中そんなことを考えていた俺だが、しかし、その後、衝撃は一向に伝わってこなかった。

 目を開くと、そこには紫の肌のラミアの少女がイリアスの拳を細剣で受け止めていた。

 

「……全く、余は旅のグルメをしていたいだけなのだがな。まさかこんなことになるとは……」

 

 そう言うと、クリス……否アリスフィーズは細剣を構えてイリアスを見据えた。

 

「その風貌、その聖気、ただの天使ではなく、貴様は女神イリアスだな?まさかあのようにこの街に紛れ込んでいたとは。思ってもいなかったぞ。

 尤も、あのまま世界に紛れて過ごすというのなら、目こぼしもできたのだがな。

 今のお前は看過できん、ここで滅びてもらうぞ!」

 

「アリスフィーズ16世……。ふふふ、フフフフフフフフフフアハハハハハハハハハハ‼‼!一番の怨敵の娘がそちらから出向いてくれるとは!これぞ重畳!良いでしょう!栄光ある私に滅ぼされるモン娘の最初の一人にしてあげましょう!」

 

 そう言うと、イリアスは何度も雷を放ち、そしてイリアス自身もその拳を振るって前に出る。

 アリスフィーズの方もその蛇体をくねらせ、雷をよけると、細剣をイリアスに突き立てた。

 何度も行われる攻防、交わされる剣戟に、双方とも傷つき、消耗していく。

 

「はぁ、はぁ、流石に、分体では魔王の直系の相手は厳しいですか」

 

「……、貴様こそ、やるではないか。これほどの消耗したのはいつ以来か」

 

 二人して攻撃が止まった時、俺は呆然としていることに気付き、慌てて頭を振った。

 

「何かないか?何かないか!あの二人を止める方法!あのままじゃ、どっちかが死んじまう!」

 

 そんな俺に、見慣れた金髪が近づいてきた。

 

「くぅくぅ、お困りのようじゃのう♪」

 

「たまも?」

 

 その姿は尾を耳を隠さないたまもそのもので……しかし、俺は直感的にたまもでないと感じていた。

 

「うむ、そうじゃ。ただ、お主の知っておるたまもとは少し違うがのう。まあ、そこは良いのじゃ。いやはや、見事に暴走したもんじゃのう。イリアスの奴」

 

 そう言って、あっけらかんとした風にたまもは二人の戦いを見た。

 

「っと、こんなことをしておる場合ではないのう。カズマとやら。一つ良いことを教えてやろう。うちが編み出した解呪の詞は、確かに六祖封印を解き、元の姿に戻ることができる。

 じゃが、術自体を失わせるものではない。時間が経てば、術は切れて再び六祖大縛呪に囚われる。あの様子じゃと……そうじゃな、戦いの趨勢にもよるが、あと10分と言ったところかのう?」

 

 あと10分、時間を稼ぐ。それだけなら、何とかなるかもしれない……それに、あいつは言っていた。俺が、あいつに道を示した、と。つまりそれは俺とこの世界で生きた記憶は持っているということだ。何かないか、暴走しているあいつを止められる、そんな妙案は……!

 

 そこで、俺ははっと気が付き、街の前で不安げにこちらを見ている人々の中から、ある人物を探しだす。

 

「……っ!イリアス!」

 

「何ですか?佐藤和真、いま大変忙しいのですが……その男は誰です?」

 

 俺の連れて来た男に、イリアスもアリスフィーズも手を止めた。見覚えのある男だったからではない。むしろその逆、全く見たこともないような少年だったからだ。

 

「その、イリアス様に、クリス、様ですよね?戦いなんてやめてください!お二人とも、僕の料理、おいしそうに食べてくれるから!だから、二人には争ってほしくありません!

喧嘩をやめないなら……ぼく、もう料理作りませんから!」

 

「……はっ!ま、まさか和真、この方は、ギルドの料理人なのですか!?何という事でしょう。アリスフィーズ、勝負は一旦お預けです。彼に祝福を施さなければ!」

 

「待てイリアス!あの酒場に先に通っていたのは余の方だ!余が保護するのが順当に決まっておろう!」

 

 再びにらみ合う両者に、少年は懐から二つの飴玉を取り出した。

 

「その、今はバタバタしてて、こんなものしかないけど、落ち着いたらまたたくさん料理を作るから、だから喧嘩しないでください」

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙して、お互いをけん制し合う二人は、イリアスが静かに一つの飴玉を取ることで動きを見せた。

 

「飴を食べ終わるまでです」

 

「……分かった」

 

 そう言って、お互い戦場でコロコロと飴をなめ合う奇妙な時間が発生する。因みに飴はこの少年が作ったものではなくたまもが懐にしまっていたものを拝借している。まあ、ばれなきゃセーフだ。

 

 そして、俺は少年の一歩前に進み出た。

 

「なあ、イリアス。お前さ、本当にこれでいいのか」

 

「何を言っているのです」

 

「俺、口の中にモノが入ってるときはしゃべるなっていつも言ってるよな」

 

 そう言うと、反射なのか何なのか、イリアスが口を閉ざす。

 

「あぁ、確かに俺は、お前にやりたいことをやればいいって言ったさ。だけどさ、お前がやりたいのって、本当にモンスター娘たちを亡ぼすことなのか?お前がモンスター娘をすべて滅ぼしてしまったら、たまもや、エルだっていなくなるんだぞ?シロムも、ミナも、みんないなくなっちまうんだ。

 そうなったら、この街も無事じゃすまない。普通の人間だって、何人路頭に迷うかわかったもんじゃない。そんな、皆の平穏を失ってまで、それってやらなきゃいけないことなのか?」

 

「言わせておけば!」

 

 イリアスが拳を握る。構うものか。

 

「それにさ」

 

 拳が俺目がけて飛んでくる。だが、俺の口は止まらない。

 

「この街の人と話してるお前、すっごく楽しそうだったじゃないか!」

 

 拳は、俺の目の前1センチで止まった。

 

「……なにを、馬鹿なことを……っ!カズ、マ」

 

 イリアスが悶え、そして俺の名前を呼ぶ。

 

「イリアス!」

 

 その目は、確かに先ほどと違い、あの小生意気で、小賢しくて、モン娘にとにかく厳しくて……でも内心ではとても優しいうちの女神さまの目だった。

 

「手を、握ってください」

 

「あぁ!」

 

 俺と手を握ると、その温かみが伝わってくる。そして、その震えも。

 

「私は、今でもアリスフィーズを、邪神を憎んでいます。今でも、モンスター娘を殲滅したい。それは間違いありません。

 ですが同時に、モンスター娘たち個人に関しては、どうやらそこまで嫌っていないようです」

 

 そう言って、イリアスは晴れやかな顔で微笑んだ。そして、思い出したかのように魔力を込めて宣言した。

 

「この時をもって、イリアス五戒を、イリアス四戒へと緩和します。敬虔なイリアス教徒よ、イリアス以外の神に祈ることを許しましょう。しかし、それ以上に私に祈るのですよ」

 

 そう言い切ると、イリアスは力を失って縮んでいった。

 最終的にいつものロリアスに戻ったところで、俺にもたれ掛かる様に体の力も抜けていく。

 

 そして、そのイリアスの首に剣が突きつけられた。

 

「待ってくれ、アリスフィーズ!いや、クリス!」

 

 その言葉に、ピクリと反応したが、クリスはその構えた手を下ろそうとはしなかった。

 

「そいつは、この世界のモンスター娘全体を亡ぼそうとした危険人物だ。気を失っている間に殺さなければ、災禍をもたらすぞ」

 

「それは、奥の手の副作用だ!奥の手を使わなければ、そんなことは言い出さないはずだ!」

 

「どうだかな?」

 

 そう言って冷笑するアリスフィーズに、横合いから声がかかった。

 

「そうやって意地悪するなら、あまあま団子もう作ってあげないよ」

 

「……んなっ!?」

 

 そう、ギルドの料理人の少年が、俺に援護射撃をくれたのだ。

 

「僕、言ったよね?喧嘩するなら、もう料理作らないって!」

 

「ま、まあまて、少年、私はただ、この女が君たちに被害を与えないようにだな……」

 

 そう言うとクリスはコホンと咳払いをして、剣を納めながら言った。

 

「分かった。なら譲歩しよう。この女が目を覚まして、それでこの街を破壊しないと確証が取れたなら今回は見逃すとしよう。それと、今後はその奥の手とやら使わないことを約束してもらうぞ」

 

 それに、俺は頷いた。本当はこの時点で安全を確保したいところだが、流石にそれは虫が良すぎる話だ。

 

「あ〝な〝だだぢ!ゆるざない!」

 

 地獄に響くような声が響き、俺たちは思わずそちらを見た。

 そこには、エルの足にがっしりとしがみつく、半分以上炭化したようなアンデッドの姿があった。

 

「あいつ!あの状態でも死んでないのか!?」

 

 そして、エルの様子もおかしい。いつもは物理的に透けているエルの体が、濁っているように見えたのだ。

 

「いづもなら゛、恨む゛どごろだげど、ごんがいはだずがっだわ゛

アンデッドの、はい゛は、ぎぐでじょう?」

 

キメラデュラハンがそう言うと同時に、エルが耐えきれずにどっと倒れた。

 

「づぎは、ぎざまよ!でんし!」




 小生意気で、小賢しくて、モン娘にとにかく厳しくて……でも内心ではとても優しいうちの女神さま
 ……多分カズマ君の目は濁ってますね。うん。クエでの性格考えたらこんな短期間で改心するはずがない。

 イリアス様の内心は、作中でつぶやかせた通り、エルやたまもと言った個人との関わりを思い出して「いま滅ぼす必要はない」と感じただけです。あと、直前にエヴァに助けられていたのも大きい感じ。
 他のもん娘に関してはまだまだ隙あらばどうにかしたいと思っています。

 途中出て来た、謎のたまもですが、今後も何かしら神話関係の話があれば出てくるかもしれません。一応設定としては。クエ世界から流れ着いた大縛呪の研究書(イリアス所持)が現地のたまも(要はめぐみんポジの九尾)と感応して、一時的に魂の残り香的なものが憑依したか、そこら辺を媒介に本家クエたまもが乗り込んできたか、とかそんな感じ。

 そして、これ言っとかないと多分勘違いする(というかさせるように書いてる)ので言っておきますが、イリアス様の最後の宣言は、以前のミツルギ回の時と同様、某青髪様に配慮したものであって、決して邪神アリスフィーズを信仰の対象として認めたわけではありません。
 ただ、あの世界の人々がそう受け止めるかどうかは別問題ですが……。

ちょっとした設定
・ミナはミノタウロス娘(斧の一撃でイリアスをビクンビクンさせたもん娘)の名前
・ギルド食堂の料理人は紫がかった青髪の少し低めの背をしたかわいらしい少年で、イリアスやアリスが好きそうな雰囲気をしている。要は某まものの餌に似た人。
・この世界のたまもは飢えていた経験があるからか、飴玉を常備している。たまに自分でも食べるが、基本は子どもにあげる用。イリアスとの初対面時にもあげていた。
・キメラデュラハンの体細胞×魔王の加護×炭化組織=クィーンスライムすら浄化しきれない猛毒。


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EP21 ラスボス前の中ボスってラスボスより強いことありますよねっていう話

 エルを、アンデッド特有の呪いだか瘴気だかを粉々になった自らの体を吸収させることで倒したらしいキメラデュラハンは、今度は俺たち、正確に言えばイリアス目がけて、ゆっくりと歩みを進め始めた。

 

「いけません!もう一度、行きますよ!」

 

 そう言って、街門に密集していた聖職者たちが再び呪文を唱え始める。

 

「ターンアンデッド!」

 

「「「「「「「「「「ターンアンデッド!」」」」」」」」」」

 

 数十の聖光は、しかし今度はするりとよけられてしまった。

 

 やばい。あちらは確かに満身創痍だ。もう歩くのがやっとといった感じである。だが、敵の攻撃を把握しよける程度はできている。

 

 一方こちらは死者こそ少ないものの、勢力はガタガタだ。

 総指揮官のたまもは爆裂魔法の行使の影響でろくに動けず、守りの要であるエルは先ほど倒された。奥の手、という名の壮大な地雷だった女神さまはその力を納め、対抗したクリスも連戦できるコンディションではなく、そもそも女神を危険視しているため少なくとも女神が討たれるまでは動くことは無いだろう。

 たまもの友人の七尾の魔法攻撃の音も耐えて久しく、後に残るのはまさに駆け出しというのがふさわしい程度の有象無象の冒険者たちばかり、それと一般の人々ばかりである。

 

 俺が、やるしかない、のか?

 

 もしかしたらそうではないのかもしれない。だが、今動けるのは間違いなく俺しかいない。そう確信した。

 方法なら、有る。あのミツルギにさえ打ち勝った戦法。完全に運任せ。だが、運の勝負なら!

 

「俺が、運がいいらしいからな!行くぜ『スティール!』」

 

 そうして、俺の手が光り輝き、ズシンと思い何かが手に落ちてくる。驚いて両手で支える。そして、何を取ったかを確認する……。ほぉ。

 

 それは、あのキメラデュラハンの首だった。

 

「な゛な゛に゛が……」

 

 俺は思わず悪い笑みを浮かべ、ずだ袋に頭を放り込み、残った冒険者に声をかける。

 

「なあみんな!サッカーしようぜ!」

 

 いきなり俺から発せられた明るい声に、冒険者たちは戸惑いの声を発したが、なんだよそれ、という声を発した冒険者に、俺は明るい声で答えた。

 

「ああ!サッカーっていうのは、足だけを使ってボールを操る遊びだよ!」

 

 そう言ってキメラデュラハンの首を蹴り飛ばすと、さすがは常に戦って体を鍛えている冒険者というべきか、非常に軽やかに足で首を蹴り上げた。

 

「なるほどなっ!」

 

 そう言って、冒険者たちは近くにいる冒険者に向かって首を足で渡していく。

 ずだ袋の中から変な声が聞こええてもそんなのは無視だ無視。

 

「……っ!今です、これが最後になるでしょう!とびっきりの奴を行きますよ!」

 

「はいっ!」

 

 三度、街門の上の聖職者たちが結集し、詠唱が続く。

 

「さていき「「「「「「「「「ターンアンデッド!」」」」」」」」」っターンアンデッド!」

 

 なぜか少しタイミングがずれたが、30を超える光がキメラデュラハンに襲い掛かり、そしてボロボロになっていたキメラデュラハンを今度こそ完全に消し飛ばした。そして、遅れて放たれた聖光に首を放り込み、今度こそ完全に、キメラデュラハン襲撃は完結したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~

「……あぁ」

 

 エルを迎えに行くと、エルが呆然とした顔で座り込んでいた。

 

「……倒したのね」

 

「あぁ。立てるか?」

 

「問題ないわ」

 

 しかし、そう言いながらもエルは立ち上がらずに手を合わせた。

 

「どうしたんだ?エル」

 

「デュラハンというのは、不条理な理由で処刑された騎士が、恨みによってアンデッドになった結果現れるモンスターらしいの。彼女も進んでアンデッドになったわけではない。せめて、私くらいは祈りたいと思ったの。

 ……キメラデュラハンに翼を固められたエヴァは、一番最初に酒場で話かけてくれた。

 腕相撲勝負に負けて、私の体の成分が硫酸だと吹聴し回ったセドル、私に暑いから大剣で青いでくれよ?あ、何だったらお前の体プール代わりにしてもいいぜ!とセクハラをかましたヘインズ。

 思えば、私が避けていた彼らも、別に悪い者達ではなかった。生きていれば酒でも酌み交わしてみたかったわ」

 

「あら、私は大歓迎よ」

 

「……え?」

 

 エルが呆然と振り返ると、そこにはノリノリのエヴァと、少し申し訳なさそうなセドルとヘインズがいた。

 

「その、悪かったな、お前が俺たちをそんな風に思ってたなんて……」

 

「おう、な、なんだかすまなかったな。そんなに気にしているとは思わなかった……わぷっ!?」

 

 話を聞き終わる前に、エルが三人を捕食するように広がり、三人同時に抱きしめる。

 

「生きていた!よかった!本当によかった!」

 

「そんなにうれしかったの……ってくっさ、びっくりするぐらい臭いわよ!あなた!」

 

 エヴァがそんな風に言うように、アンデッドの粉塵まみれのエルがかなり匂ったり、それによって意図せず復讐が完了したりとあったものの、和やかな雰囲気のまま、死んだはずの冒険者たちとの再会がかなった。

 

 なお、冒険者たちが生き返ったのはイリアスのお蔭らしい。六祖封印を解く前に、見える限りの冒険者たちを蘇生させていたようだ。もん娘も人間も隔たり無く、である。

 

 結果、落雷による物的被害はそこそこあったものの、人的被害は心的外傷以外はほとんどなく魔王軍幹部の討伐を達成することができたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 魔王軍幹部討伐の翌日、俺はパレードのようになった街中を歩いていた。

 なにしろ町全体を巻き込んだ大規模作戦だ。町全員が一心になって戦ったことで、まるで文化祭の打ち上げのような一体感を伴った浮ついた雰囲気が町中にあふれていた。ふと周囲を見渡せば、感謝祭だのなんだのと理由を付けて、商店は在庫を吐き出し、何だったら店主自身が進んで客と酒やつまみを片手に語らっている始末だ。

 

 もちろん俺としても満足感はある。これほどのことを成したことに、その一因となれたことに誇らしさと優越感を感じている。だが、こうも思うのだ。今後、本気で魔王を倒そうというのなら、こんなことをどれだけ続けることになるのだろうか、と。

 だから、俺は思うのだ。俺は商売で生きていこう!と。もちろん冒険者をやめるわけじゃない。折角の異世界だ。ファンタジーな刺激だってほしい。だけど、それを正業にするなんて必要は全くない。今回の報酬を原資に、資産を増やして左うちわで暮らすのだ。

 そして、その余暇のタイミングに、簡単な依頼をこなし、ファンタジーを楽しむ。これが俺の考える一番良いプランだ。

 

 そんなことを考えながら、俺はギルドへの扉へと手をかける。

 扉を開けると、そこは酒と人いきれでひどく熱くなっていた。ここでも、もうすでに宴会は始まっているようだ。

 

「おや、カズマ、遅かったですね。まぁ、今日ばかりは寝坊しても誰も咎めませんか」

 

「ふん、貴様が暴走しなければ、その男も寝坊せずに済んだのではないか?」

 

 そんなことを言い合ってにらみ合うイリアスとクリスの前に、ドン!と骨付き肉が山盛りにされて下ろされる。

 

「ほらほら、喧嘩しないで、僕の料理、たくさん食べてください!」

 

「……アリスフィーズ、勝負は大食いという事にしましょう」

 

「よかろう。ただし、きちんと味わって食べるのだぞ?」

 

 そんなことを言いながら、二人は骨付き肉の山に飛び込んでいった。なんだかんだ仲良くなって何よりだ。

 

 見れば、もうすでに出来上がっている冒険者も多くいた。ベリアなんてもうべろんべろんだし、七尾は……なにあれ、目の前に瓶で7本くらい転がってるけど、全然顔色変わってないぞ。

 

 と、周りの冒険者の浮かれ具合を見ながら俺はギルドのカウンターへと向かう。そこには俺のパーティメンバーの二人の姿があった。

 

「おぉ!カズマではないか!早うこっちへ来い!あのな、エルべぇがひどいのじゃ!うちが酒を舐めようとしたら、『あなたにはまだ早い!』って酒をくれんのじゃ!ケチじゃろう?」

 

「いや、未成年がお酒を飲むのは問題がある。ケチとかそう言う話じゃ……と、そんなことより、あなたも早く報酬を受け取ったらどうかしら?私たちも受け取るわ」

 

 そう促され、俺たちは受付嬢さんの方を向き直った。受付嬢さんはなんだか微妙な顔をしながら俺たち、とくに俺とたまもを見つめた。

 

「えーっと、とりあえずまずはこれをどうぞ」

 

 そう言って、俺たちは報酬金を受け取った。だが、何かまだ受付嬢さんは言いたいことがあるらしい。

 

「どうしたんですか?もしかして、将来有望な俺に告白、とか?」

 

「あ、それはないです」

 

 バッサリ切られてしまった。というか口に出てたのか、恥ずかしい。ジト目で仲間たちに見下される中、受付嬢さんが続きを話す。

 

「えっとですね、カズマさんたちのパーティには特別報奨金が出ていまして」

 

「特別褒章金!?そりゃすごいな」

 

 そう言って、俺はたまもとエルを見る。何しろ今回の作戦における中核人物の二人だ、この特別褒章は彼女たちのものと言っても過言ではないだろう。

 

「すげーなカズマ!ま、お前がとどめ差したようなもんだしな!」

 

「あんたらがいなきゃキメラデュラハンなんて倒せっこなかったよ!」

 

 そんな声を聞きながら、俺たちは顔を見合わせ、たまもがふっと笑った。

 

「このパーティのリーダーはお主じゃ。お主が受け取ってくれ」

 

「私も同意。それでいい」

 

 と、いうわけで、四人の代表として俺が特別褒章を受け取ることとなった。

 周囲の冒険者たちは相変わらず俺たちをはやしており、それが騒々しいと思うと同時に、この苦労続きだった冒険者生活が報われる気がして、なんだか涙が出るくらいうれしかった。

 

「それでは、えーっと。サトウカズマさんのパーティには、魔王軍幹部キメラデュラハンを見事打ち破ったことを称え、その褒章金として、3億エリスが支払われます!」

 

「「「さ、三億!?」」」

 

 予想以上の報奨金に絶句する俺たち、そして、周囲の冒険者も黙り込み……そして。

 

「すっ」

 

 爆発した。

 

「すっげーじゃねーか!3億エリス!やったなカズマ!」

 

「おめでとう!ついでに私にもなんか奢ってよ!」

 

 次々と来る俺たちを称えるに照れつつも、俺ははっと二人に声をかける。

 

「おい、二人とも、こんだけ報酬を得たんだ!冒険に出る回数を減らしていくぞ!これを元手に商売をして、安全に楽しく暮らしていこう!」

 

「待ちなさい、それでは各地にいる虐げられている子どもたちはどうするというの?」

 

「それに、それはパーティの資金のはずじゃ、活躍の度合いで分配するにしろ、パーティの共有資産にするにしろ、お主一人で決めることではないのう?」

 

 若干剣呑な空気になった俺たちの前に、申し訳なさそうに受付嬢さんが一つの紙を差し出してきた。そこにはいくつものゼロが書き記されている。

 

「あの、ですね、実は、今回の作戦でカズマさんたちのパーティメンバーであるイリアスさんが使った落雷の魔法でですね、街壁や、入り口付近の家屋に被害が出ておりまして……あぁ!もちろん魔王軍幹部を倒した功績もありますから、その、全額とは言わないから、せめて一部だけでも返済してくれないか……と」

 

 そこまで言うと受付嬢さんはそそくさとその場を後にしてしまった。

 

 固まる俺、そして、それをのぞき込んでエルは少し微笑みながら俺の肩を叩いた。

 

「報奨金が3億エリス、そして、弁償金額が3億4千万エリスね。カズマ。明日は報酬のいい依頼を受けることにしましょうか」

 

 そう言われても、俺は納得できず、心の中で魔王討伐を決意するのだった。

 

 このくそったれな世界を脱出するために!




 ということで一巻分が完結しました。
 アンケートの結果、次回は本体イリアス様視点の物を挟みますが、単体で更新するのが忍びないので、明日投稿しようと思います。

変更点
・デュラハンの攻撃対策にずだ袋を使っている。
・クルセイダーの会いたい人物と、その後の反応を変更。
・戦いの後の宴会の規模が大きくなっている。
・様々な冒険者との関係性を変更。


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EX1 純白の翼と蒼の瞳

「…………

 正攻法で行くなら、シルフとノームの二段構えが定石でしょう。

 シルフはあえて外し、強力な剣技で速攻を掛けるというのも悪くないですね。

 では行きなさい、勇者ルカ。

 魔の大陸のモンスターは強力ですが、決して負けてはなりません」

 

 そこまで言い、ルカを送り返して私は一つ大きなため息をつきました。

 流石に創世の女神、唯一絶対の神として君臨する私、イリアスと言えども時空を捻じ曲げ時を遡るためにはそれ相応の労力を掛けなければなりません。

 まあ、それも矮小な人間に例えるならば、細い木の枝を手折る程度の手間ではありますが……。

 

「ちょっと、あんた聞いてるの!?そもそも私がこんなことになってるのは……!」

 

「聞いていますよ、アクア。それで、結局何を求めているのですか?」

 

 ……唯一絶対の神、というのは誤りでしたね。正確に言えば、この世界においては唯一絶対の神。というべきでしょう。何しろ事実としてここに……神らしくないとはいえ、一応神としてあがめられる存在がいるのですから。

 

「だから!私がもう一回地球担当の神になれるようにして欲しいの!?」

 

 そう言うアクアに、私は困ったように言葉を返す。

 

「だから、それに関しては私にはどうしようもないと言っているでしょう?そもそも、私はあなたに会うまで他の神には……一人の例外を除き出会ったことがありませんでしたし、他の神と関わる気はありません。他の神に認められることが地位が高い証明であるというのであれば、あなた以外に認識されていない私は、不本意ながらあなたよりも下位の神ということになるでしょう」

 

 尤も、アクアの持つエネルギー量から言って実力という意味の神格では私の方がはるかに高いのでしょうけれど。

 

 そう考えていると、アクアは悪い顔をして私に耳打ちしてきた。

 

「そこでよ、イリアス。あんたって結構デキる神様でしょ?神の集会に出ても結構いい所行けそうな気がするのよ!だから、私の紹介ってことであんたを神様の集会に連れて行って、そこであんたが私達神々のトップになる!そして、紹介した私もついでに昇進!もう一回地球担当に返り咲くっていうのはどうかしら?」

 

「……ほう。なるほど」

 

 確かに、アクアの実力程度の神々が殆どなら、掌握するのはあまり手間もないかもしれませんね。そして、神を掌握すればその世界を掌握するも同然。それは即ち、今後復活する可能性のあるアリスフィーズに対する対策とするもよし、創世計画を行い、複数個所で実験を並行することも可能になる……。

 

「え?ちょ、イリアス大丈夫?なんだか悪魔が乗り移ったような顔してるわよ!ターンアンデッド!ターンアンデッド!」

 

「……何をしているのですか?」

 

 ふと気が付くと、アクアが浄化魔法を連打するという奇行を行っていました。

 まあ、とりあえず神々に喧嘩を売る前に、少し情報収集をするとしましょう。

 

「アクア、一つ質問なのですが、それは本当にうまくいくのですか?もちろん私は自身が力ある存在であると自負していますが、それでもまともな神と言える者にはあなたとしか会ったことがありません。それに……ここだけの話ですが、この世界で私と敵対した邪神、アリスフィーズは私と対等に渡り合いました。故に、私は自身を精強だと自負はしていますが、無敵だとは思っていません。そちらの神々の実力如何によっては、目的の達成に支障をきたすのではないですか?」

 

 そう聞くと、アクアは指を下唇に当て、上を見上げながら答えた。

 

「えーっと、一応言っておくけど、私はそんなに戦い得意じゃないし、まだ神様としては若い方だから、具体的に何番目とかは分からないんだけど、少なくともイリアスの雰囲気的にはバトル大好きっていう脳筋連中と対等に戦える雰囲気はしてると思うわ!そう言う神様は基本的に他の神様に仕事丸投げしてるし、統治もしっかりしてるイリアスとは雲泥の差ね!つまり総合力的には一番ってことよ!」

 

 それはつまり、実力行使するには自分と同等の相手を薙ぎ払っていかなければならないということ。

 

「……そうですね、アクア。申し訳ありません。今現在は、この世界でも勇者が魔王を倒そうと冒険を続けている大切な時期です。少し手が離せません。……どうでしょう?私の世界が落ち着いてから、その神の集会とやらに案内してくれませんか?」

 

 流石に創世計画を並行して進めながらなんとかなる程容易い相手ではなさそうなので、私はひとまずそう告げます。それに、うまく事が進めば、私は更に力を付けているかもしれないのですから、万全を期すためにも今は見送った方が良いでしょう。

 

「あら、そう?分かったわ!また、行きたくなったら言ってね案内するから!」

 

 そう言うと、私が手慰みに出したゴルドワインをもって青髪の女神はその姿を消しました。

 

 それと同時に、一人の天使が姿を見せます。

 

「何なのですか!あの態度は!あれが女神?ただの破廉恥で、実力も分からない馬鹿な女ではないですか!イリアス様!私に一言、消せと命令してくれればあんな女!」

 

「口を慎みなさい、エデン」

 

 私が一にらみするとエデンは息をのんでその口を閉じる。

 

「主人の客人にそんな暴言を吐くなど、あなたは私の忠臣、熾天使の自覚があるのですか?そして、アクアの話を聞いていなかったのですね?彼女の知り合いには、私に伍する存在がいるのですよ」

 

「お言葉ですが、あの女の大言壮語なのではないですか?イリアス様に伍する者がいるなど」

 

 その言葉に、私は頭を抱えてため息をついた。

 

「この世界でさえアリスフィーズという私に比肩しうる存在がいたのです。なぜ他の世界の神が私に伍する実力がないと断言するのですか……まあ尤も、私も他の神々が私に匹敵する存在だとは思っていません」

 

「ならば!」

 

 エデンのその言葉に、私は更にかぶせるように言葉を続ける。

 

「ですが!私に傷をつけうる存在であることは十分に考えうることでしょう?我々は先の聖魔大戦で、邪神率いる六祖に苦しめられました。邪神の眷属でさえ、私を、神を殺しうる存在になりえたのです。況や神ならば、確実な神殺しも可能でしょう。

 そして、アクアは組織に属しているようです。組織を構成するほどの神の集団。そしてその中に存在する戦いに長けた神も、まあ相応の数がいるでしょう。一人一人は確かに私に勝てないでしょう。ですが、集団で襲ってこられたら?六祖を超える実力者が10人も20人も襲ってきたならば……口惜しいですが、現在の私では滅ぼされるしかないでしょうね」

 

「そこまで考えて……失礼しました」

 

 エデンを言い負かし、そこでふと、私は一つの事象を思い出しました。

 

「そう言えば、今日はあの世界の私は帰ってきていないのですね?いったい何をしているのでしょうか」

 

 水の女神を名乗るアクアが関わっていた世界。私はその世界で今、転生をつかさどる神として活動をしています。とはいえ、流石に世界をまたいで存在し、仕事をするのは不可能。そのため私は自分の力の一部……具体的に言えば、別に戦闘をするわけではないため、戦闘面は控えめに、事務能力や神の権能に多くを振った分身をその世界に派遣していました。

 

 その分身は世界をまたいでいるため、常時意識を共有することはできないけれど、それでも一日に一度……向こうの世界で言えば10~12日程度に一度はこちらに戻ってきて意識を共有していたのだけれど……。

 

「そろそろルカが魔王城に入りますし、そうすれば創世計画が始動する可能性がありますから、もしかしたら意識共有できるのも今日を最後に暫くはできなくなるかと思っていたのですが……」

 

 私は少し考えて、先ほどから変な顔で固まっているエデンに目を向けます。

 

「そうです、エデン。向こうの世界の私の様子を見てきてもらえませんか?それと、伝言を頼みます。そろそろルカの魔王討伐が大詰めになるので、雑念を抱きたくありません。しばらくは……そうですね創世計画が始まった時のことを考えればそちらの世界で一年程度でしょうか。それくらいの間は、そちらの世界での活動に終始してください、と」

 

「はい!分かりました!」

 

 そう言って嬉しそうに走り去っていくエデンの後ろ姿に、私はなぜか不穏なものを感じながらも、今度こそ巨大な竜に打ち勝ったルカの姿で、その不安を拭い去ったのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~

「全く、イリアス様は心配性なのですから。イリアス様なら、たとえ他の神々であっても容易に打ち破れましょうに」

 

 エデンは、イリアスが用意している次元のはざまに向かいながらそんなことをつぶやいていた。……そんな考えだから下々の天使にも馬鹿にされるんですよ……。とどこかの研究気質の天使が聞いていれば突っ込まれそうな独り言だったが、幸いなことに現在の彼女の周りには誰もいなかった。

 

「さて、それでは、ここをこうして……っと」

 

 現在イリアスは魔王城に突入する勇者に注目しており、それ以外の大規模作戦も進行中である。にもかかわらず、一応、立場上は天界に残った唯一の最高位天使にして、イリアスや天使以外の実力ある部外者を除けば最高位の戦力であるエデンを、イリアスが異世界に向かわせたのは、決して近くにいたからという理由ではない。

 

 何だったら、この考えなしに舞台を引っ掻き回されたら厄介だからと厄介払いされたということも……少なくとも主目的ではない。

 その理由は、熾天使の生み出され方が関係している。天使の最高位、熾天使とはイリアスがその身を削って作った存在。つまり熾天使であるエデンの構成要素には、イリアスの成分が色濃く残っており……それは即ち意識と構成比重こそ違うものの、異世界を任せることになった分身体にきわめて酷似した製造方法で作られた存在ということだ。

 

 そして、分身体イリアスのために作られたこの時空のはざまは、余計な影響を世界に与えないよう、通常時はイリアスの聖素によって封印されている。それを通り抜けられるのは、同じくイリアスの聖素と同じ性質を持つ存在だけだ。

 

「さて、それでは、行きますか!」

 

 そう言って飛び込んだ先にいたのは、弓を携えてこちらに構える少女の姿だった。

 

「……なんだ、エデンですか」

 

「る、るるるるるルシフィナ!?」

 

 エデンは予想外の相手の登場に慌て、槍を構えることもせずに無造作にルシフィナに近づいていく。

 

「い、一体何をしているのですかこんなところで!と、いうか、あなたは人間としてはやり病に罹り死んだはず!」

 

 驚愕と、そしていくらかの憎悪を向け詰問するエデンに、しかしルシフィナは動じずに弓を引き絞る。そして、射撃。

 狙いは過たずエデンの服に突き刺さり、床にエデンを縫い留めた。

 

「こちらもいろいろあったのですよ。エデン……とはいえ、私はあなたの知っているルシフィナとは、正確には別人なのですけれど」

 

 ルシフィナはそう言うと、エデンの槍を取り上げ、魔方陣を浮かび上がらせる。

 

「いま、あなたの探しているイリアス様はいろいろと重なって、異世界に力を失った状態で転移しています。助けられるのは、あなただけですよ」

 

 そう言って、魔方陣を指さした。

 

「私は、イリアスの味方というわけではありません。もしも行くのなら、あなたが起動させてください」

 

 エデンはノータイムで魔力を注ぎ、すぐさま転移されていった。

 

「……流石に熾天使一人分の魔力は過剰な魔力になりますね。しかし、これで時間が稼げるはず……。イリアス、カズマ。あなた達に幸あらんことを。そして……」

 

 そう一言呟いて、ルシフィナは再び下界へと視線を向けるのだった。




 イリアス様視点です。ルカ君は中章終盤まで行っています。つまるところ、本体イリアス様は今後創世計画で手いっぱいになるので動けなくなります。

 エデンさんは六祖封印こそされていないものの、聖素を極限まで吸い尽くされて弱体化しています。簡単に言うと、ぱら本編の結解によって極限まで消耗した裸エデンくらい追い詰められてる状態です。何だったらルシフィナが徹底的に搾り取る術式を組んだので裸エデンさんよりも限界かも。

 ルシフィナさんはクエラストに出て来た思念体ルシフィナさん……ではありませんが、性格としてはそれに近いものがあります。
 智の同盟とかに参加してる可能性すらあります。

PS ci-en様より、とろとろレジスタンス様の続報がありましたね。
七大天使&六祖の人間?関係相関図。ちょっと笑いました。

 天使勢は仲いいけど、六祖はほぼ敵やん。こんなもん。

 恐らくみんなをまとめたい沙蛇、主導権を握りたい玉藻、それを横目に見ながら邪神のために動く魅凪、
 その下で自分と自己種族のこと以外は興味がない禍撫と、植物族のトップという誇りを過剰に持っている華音、強ければだれでも捕食対象の蛭蟲が三つ巴になってる、と。

 さてはクエ世界でも実質的に動いてたのは上の3人だけだな?

 そして、ルシフィナさんの超絶バッシングに見逃しそうになるけど、ルカのおばさん!あんた完全に天使たちの事部下としか見とらんやん!いや、もちろん部下ではあるんだけどすごく私生活が充実してないキャリアウーマン感が透けて見えるというか。

 禍撫さんをエルベディエの親族として出そうとも思わんでもなかったけれど、ちょっと考えものかなぁ。


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EP22 カズマは金欠だ

「……金が欲しい!」

 

 俺は血反吐を吐く気持ちでそう呻いた。

 金が欲しい。しかもそこそこ大きい額が欲しいのだ。

 

 冒険者ギルドの机に突っ伏し、俺は頭を抱える。

 

「カズマ、いつまで俯いているのですか?あなたは、この私、イリアスが認めた勇者なのですよ?顔を前に向けなさい。そして、魔王を倒すのです!」

 

 俺はそう宣う女神さまを見つめる。

 

「なあ、俺が何でこんなに打ちひしがれてるか分かってるのか?」

 

「……自由にできる資金がないのは確かに悲しいことです。ですが、それでも、稼いでいけばいいではないですか!私も……くっ!一日にパフェ一個で食事は我慢しますから」

 

 それを聞いて、俺の中の何かのスイッチが入った。

 

「自由にできる資金!?馬鹿言ってんじゃねー!自由にできる資金どころか、本来なきゃいけない資金までどっかの誰かさんが作った借金のせいでクエスト報酬から容赦なく天引きされていくんだよ!そろそろ冬だぞ!今朝なんて、朝起きたらまつげが凍ってたんだぞ!?ほかの冒険者ももう宿を取って寝泊まりしてんだよ!このまま本格的な冬になったら、俺たちは凍死待ったなしだ!あぁ、違うな、女神パワーだか何だか知らないが、イリアスは寒冷地でも大丈夫だもんな!?自分だけ安全地帯で高みの見物ですか!?あぁ!?」

 

「……言わせておけば!そもそも、借金の原因となったあの奥の手も、あれが無ければキメラデュラハンを倒すことは不可能だったでしょう?それとも、カズマにはあれを何とかする方法が思いついていたのですか?ないでしょう!?ないのですよね?それでよく私に意見しようと思いましたね。流石は女心どころか物事の理非も知らないチンパンジー童貞野郎様ですね!」

 

 その言葉を聞いて、俺もヒートアップする。

 

「ばっ!ど童貞じゃねーよ!というか、その時は俺のスティールが炸裂したさ!爆裂魔法も直撃してたし、首さえこっちが抑えてれば勝ち目はあったはずだ!」

 

「やはり運頼みではないですか!しかも直撃した爆裂魔法というのも私を囮にして放ったものでしょう?あなたの功績など、ないに等しいことをことさらに自慢されても……」

 

「……あぁ、そうかい分かったよ!確かに今回はイリアスの功績が大きいかもしれないな!ならあの時の報酬も手柄も借金も全部あんた一人の物ってことで良いんだな!もう俺は何も言わないから、ちゃっちゃと借金返してこい!」

 

「……!ちょ、それは卑怯です。……その、私にも非があったことは認め……認めますから!だから帰ろうとしないでください!」

 

 そんな風にギャーギャーやっていると、エルとたまもが姿を現した。

 

「全く、朝からうるさいわね。ギルドの皆も注目を……あら、あまりしていないわね。もう日常になってしまったってところかしら」

 

「二人とも、えらく早いのう。いい依頼は見つかったかの?」

 

 そう言いながら俺たちの向かいに座る二人に、俺は首を横に振った。

 

「いや、まだだ。どうせ皆あんな感じだし、皆集まってから依頼を探しても変わらないと思ってな」

 

 初心者冒険者たちの拠点にして始まりの街、アクセルに住む冒険者は決して強い冒険者ではない。そして、冬という季節は、雪や寒さという厳しさとは別に、出現する魔物たちが非常に強くなってしまうという厳しさがあった。そのため、この時期にはあまり依頼を受けずに宿を取ってゆっくりする冒険者が多いのだ。

 しかも、今回は魔王軍幹部の討伐報酬が参加した冒険者を始めとする人々に配られている。

見れば、朝っぱらから酒を飲んでいる冒険者もいるくらいで、ひと冬を越すくらいなら十分に足りる金額を持っているのにわざわざ依頼をこなそうとする冒険者なんて、少なくともこの街には存在しないようだった。

 

 と、いうわけで掲示板はほぼ選び放題なわけだが……。

 

「やっぱり、報酬自体は高いが、本気でろくなクエストがねえな」

 

 

 冬ごもりのために、アルラウネたちが活発になっているため鎮静化させてほしい。一株鎮静化するごとに5万エリス。完全に鎮静化させれば追加で報酬100万エリス。

 人里にシロクマ娘が迷い込んでしまった。ダンジョン内にある彼女の故郷まで追い返してほしい。報酬100万エリス。※シロクマ娘の故郷は3000m級の霊峰の中腹です。

 アルラウネの密集地とかやばいだろ。この人数だと確実に人手が足りない。

 シロクマ娘は……まあ、迷い込んでしまった、とかあるしもしかしたら道案内だけでいいのかもしれないが、そもそも3000m級の雪山に登るのが厳しすぎる。

 

 

 

「お、民家に入り込むスライム娘たちを追い出してほしい、報酬は30万エリスだが、これなら」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……カズマ」

 

「はい」

 

 俺はそっとクエストの紙を元に戻す。決して、決してエルの威圧感に屈したわけではない。民家に入り込んだなら、それはスライム娘たちが悪くない?とか思ってない、思ってないったら思ってない。

 

 と、紙を戻す際に、スライム娘の依頼の後ろに隠れるように張ってあった依頼を見つけることができた。

 

「……そう、あそこの森のスライム娘たちね、これは私が対応しておくわ」

 

「あぁ、そう。ところで、この凍えるちいぱっぱの討伐って言う依頼があるんだが、凍えるちいぱっぱってなんだ?アホっぽい響きだが」

 

 ……結局スライム娘はエルが何とかするらしい。なら威圧するんじゃなくて依頼受けろよ。と思わないでもないが、イリアス曰く”クイーン”スライムらしいし、冒険者としてではなくスライムとして何とかするのかもしれない。

 気を取り直して仲間の方を見ると、たまもが世話好きの血をたぎらせたのか、やたら嬉しそうに解説してきた。

 

「うむ♪ちいぱっぱというのは、簡単に言えば精霊未満の力の塊、と言ったところじゃのう。正確に言えば精霊ではあるのじゃが、自我も薄く力も弱いゆえ、一般的に精霊としては数えられておらん。

 そして、冬場に現れる凍えるちいぱっぱはちいぱっぱの中でも氷属性の力が集まったものでのう。一匹倒せば半日冬が短くなると言われておるのじゃ」

 

「そいつって強いのか?」

 

「強いわけあるまい?自我も力も弱いからこそのちいぱっぱじゃぞ?そりゃ、普通のよりは冷やっこいが、それだけじゃ。その依頼を受けるのかの?うちは構わんぞ」

 

 目線を向けるとイリアスとエルも頷いて同意を……いや、なんかエルの顔がやや強張っているのだが。大丈夫なんだろうか。

 

 とにかく、俺たちは凍えるちいぱっぱ討伐に出発したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 街から少し離れた平原地帯。他の場所より少し離れたそこには、鳥よりは虫に似た軌道で、薄黄緑色の小さな影がふわふわと浮かんだり、飛び交ったりしていた。

 

「ちいぱっぱ!ちいぱっぱ!」

 

「ちいぱっぱ!ちいぱっぱ!」

 

「…………」

 

 なんか妙な声をあげているが、まさかこれが討伐の理由ではあるまい。

 討伐すると一匹ごとに半日冬が早まるらしいし、早く春が来てほしい金持ちが依頼を出しているのかもしれない。

 

 まぁ、このちいぱっぱ討伐で、なぜ高額な報酬がもらえるのかというのも気になるものではあるのだが、他に気になることがある。

 

「なあ、もしかして、エルって寒いの苦手なのか?」

 

「……っつ!大丈夫。子ども達を置いて私が帰るわけにはいかない!」

 

 エルは見た事ないほどもこもこの服を着こんでこの冒険に臨んでいた。もちろんキメラデュラハン戦の時のスケスケ服も無しだ。

 

「……まぁ、そう言うなら、いいんだけどさ。無茶するなよ」

 

 とりあえず無茶してそうなのが気になるが、服装自体は現在の状況に即しているので、もっと気になる人物に目線を向ける。

 

「で、イリアスは何でそんな恰好なんだ?」

 

 イリアスは、なぜか虫取り網と籠を持ったスタイルでこのクエストに挑んでいた。

 

「……精霊とはその世界の法則そのもの、いわば魔法陣の一部、機械の歯車のようなもの。凍えるちいぱっぱだけでは無理ですが、いくつか調べれば魔王討伐に寄らず、元の世界に帰る方法もわかるかもしれません

 

 それに、クリスがこれを使って夏に酒を冷やして飲むと美味しいと自慢していましたし……」

 

「……ちなみに、その方法で帰るためにはどれくらいかかるんだ?」

 

「そうですね。世界一つを解析するわけですから、上手くことが進んで200年と言ったところでしょうか」

 

……よし、討伐数が振るわなかったらこいつの捕獲した分も討伐しよう。

 

 密かにそう決めて、俺は凍えるちいぱっぱの討伐を開始したのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「たまも!そっち行ったぞ!」

 

「わかっておる!」

 

 主に俺とたまもが主体になり、凍えるちいぱっぱ狩りは順調に進んでいた。今回の相手は小さく数が多いので、爆裂魔法はお預け……と言いたいところだが、たまもがうずうずしているので10匹のノルマをこなしたらまとまっているところにぶっ放しても良いと伝えてあった。

 

「10匹倒したぞ!撃って良いよな?な?」

 

「あぁ!あそこに固まってる!デカイの1発頼む!」

 

 その言葉に、嬉しげに詠唱を始めるたまも。術はすぐに完成し、轟音を上げて雪野原を荒野へと変貌させる。結構な数のちいぱっぱも巻き込んだと思うが……。

 

「9匹追加じゃ!」

 

 雪の中を寝転びながらたまもが自慢げにつぶやいた。

 

「でかした!」

 

 そう言いながら、俺は顔をニヤつかせた。

 なんだ、冬の依頼は厳しいのしかないと思っていたが、凍えるちいぱっぱの討伐、美味しすぎるだろ!

 

 と、ふと気がつくと、風が吹き荒び、雪が強くなっているのに気がついた。

 

 そんな中、今までちいぱっぱを追い回し、数匹のちいぱっぱをカゴに入れることに成功していたイリアスがこちらを見て語りかけてきた。

 

「そういえば、カズマには言っていませんでしたね。凍えるちいぱっぱの討伐依頼を。他の冒険者が受けない理由を。

 

 あなたも、日本出身なら、名前くらいは聞いたことがあるのではないですか?そう、冬の風物詩にして、凍えるちいぱっぱ達の主人!冬将軍の到来です!」

 

イリアスのその言葉が終わると同時に旋風が巻き上がり、その中から凄まじい力を持った存在が姿を現した!

 

 ……ん?

 

 俺は目を擦りながらもう一度旋風があった場所を見る。大男でも出てくるのかと思ったが、誰も出てこない……。いや。

 

「うぅ、さむいよ……」

 

そこにいたのはとても寒そうな格好をした、身長20センチ前後の緑髪の少女だった。

 




 大変遅くなって申し訳ありません。
 一巻分が終わったことで気が抜けた&年末の忙しさで筆が止まっておりました。
 今後も少し筆が遅れそうですが、ボチボチやっていきます。

 ……そして、2巻分は一巻分以上にもんクエに寄り(改変多めになり)そうです。

 変更点
・女神さまとカズマの金欠に対する認識を少し変更
・張られている依頼をもんクエ風に変更
・雪精を凍えるちいぱっぱ(なんだそいつは)に変更
・アークウィザードの討伐数大幅上昇(身体能力の為)
・冬将軍じゃなくてちいぱっぱの親玉が出現


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EP23 ちいぱっぱの親玉が現れた!

「あ、あれは……カズマ、他の者も!頭を下げなさい!」

 

 その言葉を受け、俺はイリアスに問い返した。

 

「どういうことだよ!イリアス!というか、あいつは何なんだ?冬将軍って感じじゃないぞ?」

 

「あれは、そんな者ではありません!精霊の中の精霊、4大精霊の一人、風の精霊シルフです。あれに理論は通じません、いたずら好きで、遊び好き、力を持った子どもと考えて間違いない存在が彼女なのです!……まさかこんなところに出張ってくるとは」

 

「……ねぇ、話していい?」

 

 俺はそれを聞いて慌ててそちらに向き直り、頭を下げる。

 

「な、何のようだ、でしょう?」

 

「あのね~、私、春になるまで寝ようと思ってたんだけど、すごい音がして目が覚めたんだよね~。それで、ちいぱっぱたちがびっくりしてたからこっちに来てみたんだ~」

 

「そ、そうか?」

 

 ……ま、まずくないか?これ、俺たちがちいぱっぱを倒してたのばれたら攻撃されるんじゃ……。見た感じ、弱そうに見えるが、4大精霊というだけの存在なら普通に強いに違いない。

 

「ん?なんか、こっちからちいぱっぱの声が……」

 

「くっ!か、かくれんぼです、いま逃がしますから!」

 

 そう言ってイリアスが捕まえていたちいぱっぱを開放する。

 

「ん~?なんか数が足りないかなぁ?ちょっと確認するね」

 

 そう言って、シルフは再び風を巻き上げる。そして、その中から、いかつい鎧武者まで姿を現した。

 

「あぁ、そんな、冬将軍まで」

 

 そう言いながらイリアスは雪の上に頭をこすりつける。

 

「……っ!」

 

 すごく悔しそうな顔をしているけど。……って。

 

「エル!頭、頭下げろ!」

 

「…………ェ?」

 

 こ、凍ってる!?いや、確かに寒そうにはしてたけど、凍るほどだとは……。一応ぎこちなくも動いているようではあるが……。

 

「ん~?なんか雪像に話かけてるの、あやしくない?ねえ、どう思う?しょーくん?」

 

「しょーくん!?偉くかわいく言うね!?おい!」

 

「そ!私としょーくんは友達なんだよ!私、寒いの苦手だからあんまり遊べないんだけど」

 

 そう言うと、ぶるぶると体を震わせて俺を見つめる。

 

「君、さっきからちょいちょい失礼だよね?何?実は私を馬鹿にしてるの?」

 

「いやいや、馬鹿にはしてないけど!ほら、エルも頭下げるんだよ!」

 

 俺が凍っていてなかなか頭を下げないエルの頭を押さえつけつつ俺もなるべく頭を下げる。

 

「ん~?ってあれ?この雪像、もしかして生きてるの!?」

 

「おわっ!?」

 

 急に目の前に出て来た物体に、俺は驚いて手を払ってしまう。そして、直後に気付いた、それが先ほど現れた薄緑色の少女。シルフであることに。

 

 その直後、俺はひらめく銀色と「え?しょーくん!?あ、あわわわわ、えっと、どうしようどうしよう!」と慌てるシルフを時々見ながら、くるくると回り、雪の上に視線が移ったところで意識を失ったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……気が付けば、俺は三度荘厳な光あふれる場所に立っていた。

 

「……シルフと冬将軍のコンビにあっけなく首を飛ばされてしまったようですね。もしかして、あなた、先ごろ討伐された魔王軍幹部に憧れでもありましたか?デュラハン同士なら親近感で吸い殺してくれるとでも考えているのであれば、どうぞこのまま冥府へ送って差し上げましょう。……。

 と冗談はともかく、シルフも冬将軍も非常に強力な魔物です。まともにぶつかれば基本的にあなた方に勝ち目はありません。例外も……ないことは有りませんが、それを使えば最後、憎らしいアリスフィーズに私が殺されかねないので却下です。

 幸い、シルフは寝起きで寝ぼけており、冬将軍もシルフが呼ばなければ出張ってくることは無いでしょう。あの精霊は愚かで考え成し、子どものような思考をする存在です。舌先三寸で騙くらかせば、戦いに持ち込むまでもなく勝負を終わらせることができるでしょう。

 

 さて、勇者カズマ。私はあなたが魔王を倒すと信じていますよ」

 

 やはり俺が何も言うことができず、一方的に言葉を告げられ、意識を薄れさせていくのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~

「……はっ!?」

 

 気が付くと、俺の目の前につむじ風が巻き上がり、巨大な力の奔流と共に、小さな少女が現れた。

 

「うう、寒いよ……」

 

 俺は慌てて、少女に魔法で火を差し出した。

 

「ティンダー!っと、それとそこら辺の木の枝を使って……っと。どうだ?寒くないか?」

 

 とりあえず心証をよくしておこう。ワンチャンばれても助かるかもしれないし。

 

「うぅ、ありがとう。あったかさが骨身に染みるよ」

 

 と、そんなときに、俺の掲げるたいまつに、一匹の凍えるちいぱっぱが飛び込んできた。

 

「ちいぱっぱ!ちいぱっぱ!あたまのうえがちいぱっぱ!」

 

「あっ!ちょっと、こっちへ!」

 

「ちいぱっぱぱぱぱぱぱぱ!」

 

 シルフがそう言っている間に、そのちいぱっぱは燃え尽きてしまった。

 

「……」

 

「なるほど、こういう理由か。ちいぱっぱたちも、考えなしだからなぁ。お兄さんたち、ここに何しに来たの?」

 

 そう聞かれ、俺は一瞬言葉を詰まらせたが、一呼吸おいてから返事をする。

 

「えーとだな、俺たち、実は借金があってな、依頼のためにここに来たんだが、そこにちいぱっぱがいてな」

 

 嘘はついていない。ちいぱっぱの討伐が最終目標だが、借金があるのも依頼で雪原に来たのも、ちいぱっぱがそこにいたのも事実だ。

 

「そっかー。大人は大変なんだね~。うーん。私も大したことはできないんだけど、それじゃあこれあげるね」

 

 そう言うとシルフは小さな木の実を取り出した。

 

「妖精のドングリだよ。私のとっておき。でも、君たちがここでキャンプしてると、ちいぱっぱたち、興味をもって近づいてきちゃうと思うんだ。だから、別の場所に行ってくれないかな?」

 

 俺は強張った顔で頷いた。納得はできない。だが、これを拒否すれば冬将軍が出張ってくる可能性もある。手を引くのが正解なのだ。だが……。

 

 そうして悩んでいると、またしてもちいぱっぱが火の中を通り抜けた。そして、その地位ぱっぱは俺目がけて飛んできた。

 

「うおっ!?なんだなんだ!?」

 

「あー。燃えてても構わずに飛び回ることがあるから気を付けてね」

 

 ……これ、日常茶飯事の光景なのか。俺は急いで帰り支度を始めた。どうせシルフがいる以上ちいぱっぱ討伐はできそうにないし、それに加えて暖を取っていたら、火種が飛び交う可能性があるとか、流石にここにとどまるメリットが無さすぎる。

 

「あー、でも、エルをどうしよ」

 

「える?エルってなに?」

 

「ああ、エルってのはこの雪像だよ。いや、本当は雪像に見えるだけだけど、エルはスライムで、この寒さで体が凍っちゃってるんだよ」

 

 それを聞いて、シルフが驚いたようにエルの周囲を回った。

 

「えー!これ、ほんとに生きてるの!?すごーい……でもこんだけカチコチだと、いたずらしても気づかなそうだね!」

 

 そう言った途端、彼女の上からハエを叩くように剛腕が振り下ろされ、それに巻き込まれて地面にたたきつけられた。

 

「……聞こえてるわよ」

 

 そこには、氷の割れ目から瞳をのぞかせるエルの姿があった。

 

「カズマ、もうちょっとその火をこちらに寄せなさい。もうちょっとで普通に動けるくらいには溶けそうよ」

 

「うう、ひどいよ」

 

「ひどいのはあなたよ。動けない相手にいたずらをしようとするなんて、私が溶けて意識が戻ってなかったらもっとひどいことになってたわよ」

 

 そう言って説教するエルに気おされたのか、シルフはふよふよと漂いながらも申し訳なさそうにエルの話を聞いていた。

 

「……まあ、エルもそれくらいにしてやれよ。子どものやることだろ」

 

「カズマ、違うわ。子どもを甘やかすのは当然だけれど、間違った道に進まないようにするのも、私たちの役目よ。そこを取り違えれば、他人のことを考えず自然を汚すクズになり下がるの。今のうちに正しい心を得ることができるようにすることが、私たちの役目なのよ」

 

 冷静にそう言うエルは、今までの印象とは180度変わって、普通に子どもを導こうとする教職者のように見えた。

 

「……それに、慕ってくれればいずれ……」

 

 ん?んんー?

 いずれ……なんだろうか。いや、深くは聞くまい。俺の予想通りなら、俺が人間不信になりかねない。明確にしなければそれは俺の考えすぎだと言い張れる。実害は……。あった時に考えよう。

 

「さあ、準備はできた。さっさと帰るぞ」

 

 こうして、俺たちは無事に街に帰ることができたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~

「それで、俺が倒した3匹と、たまもが倒した19匹で、220万エリスか」

 

 なかなかの報酬だ。ただ、俺が一回死んでいるのでそこで大幅なマイナスだろう。

 

 酒場で久々にごちそうと言えるくらいの食事を囲みながら、俺たちは集まっていた。

 

「なあ、あの冬将軍とか、シルフって討伐依頼とか出されていないのか?」

 

「確か、冬将軍の方は特別指定モンスターじゃったな。どれくらいの報酬じゃったかのう?」

 

 たまもの言葉を受けて、エルが少し考えるように答えた。

 

「冬将軍は……魔王軍幹部みたいにこちらに積極的に戦いを挑むような存在ではないから、強さとしては報酬は高くないはずよ。それでもおおよそ2億エリスだったと思うけど」

 

 2億……それだけあれば、借金を返して、家を買ったとしてもしばらくは遊んで暮らせるだろう。

 

「なあ、たまも……」

 

「言いたい事は分かるが、無理じゃぞ。そもそも、うちの爆裂魔法では冬将軍もシルフも倒せん。精霊というのは実態を持たぬ魔力の塊のような物。精霊未満と言われるちいぱっぱならともかく、本来の精霊というのは魔法抵抗力はそれ相応に高いものじゃ。まして冬将軍は上位精霊、シルフに至っては4つしかおらぬ属性の最上位じゃ。まぁ、10人がかりで爆裂魔法を連打すれば倒せるかもしれぬのう」

 

 そうか、まあ、そんなに上手い話はないということだ。とはいえ、その気分が沈むのは抑えられない。それを見て、イリアスが思わずと言った感じで声をかけて来た。

 

「言っておきますが、そんなことで私も奥の手は出しませんからね」

 

「いや、お前は何があっても今後一切その切り札を切るんじゃねえ。借金がまた増えるじゃねえか!」

 

「んぐっ!?カズマ、あなたという人は!……ふふふっ。そんなことを言うと、この子達の恩恵をあげませんよ」

 

 そう言って、イリアスが取り出したのはちいぱっぱが4匹ばかり入った入れ物だった。

 思わず二度見したが、よく考えればイリアスがちいぱっぱを逃がしたのは、俺たちがシルフに出会った後だ。つまり死んで巻き戻った時間に逃がしてはいたが巻き戻った後は戻していなかったのだ。

 

「これだけ冷たいのですから、冷蔵庫の代わりになると思いませんか?そうすれば夏場に氷を売って儲けることも可能です。画期的な道具なら、売るもよし独占するもよしというわけです」

 

「無理じゃな」

 

「何故です!」

 

 即否定されたイリアスに、否定した張本人であるタマモが含めるように声をかけた。

 

「そもそもじゃな、イリアス。凍えるちいぱっぱは少しばかり氷属性を含んでしまったちいぱっぱじゃ。あれは冬の精霊や雪の精霊のように見えるが、その本質は風の精霊じゃ。……ゆえに、冬が過ぎればこやつらは氷属性が抜けて只のちいぱっぱになる。

 ……それにこやつら案外大飯ぐらいじゃしな。仮に氷属性が抜けずとも夏までの食費で利益が消えかねん」

 

「な、なんてことですか」

 

 イリアスが愕然として籠を落としたと同時にちいぱっぱが四方八方に散っていってしまった。

 

 もったいない、こいつら一匹10万エリスなのに……と思わないでもなかったが、もうすでに見えなくなってしまったので考えるだけ無駄だ。

 

「……そう言えば、冬将軍の方は分かったが、シルフの方は懸賞金とかかかってないのか?倒せないのは分かってるんだけどさ」

 

「シルフは信者もいるれっきとした信仰対象よ。数はイリアス教と同じくらいだけど、アリス教徒にも親しみを持っている者がいるわ。もし討伐なんて……というか敵対した時点でこっちが賞金首に早変わりね」

 

 ……どっちにしても無理なんだろう。俺はもう一度大きくため息をついて、今度こそ高額報酬を諦めるのだった。




お待たせしました。

凍えるちいぱっぱは独自解釈の冬のプチシルフです。次回はアニメ化してないパーティ交換回の導入です。

変更点
・討伐数の変更
・氷性の有用性の変更


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EP24 カズマは入れ替えた!

 それは、俺がギルドで情報収集をしている時だった。

 

「全くさぁ、カズマは本当にだらしがないと思わないか?」

 

 そんなことを割と真剣な声色で、しかしだらしない口調で酒場中に響くように話す声が聞こえた。まあ、要するに酔っ払いが説教するような声色ということだ。

 

「あいつの仲間は、クルセイダーにアークウィザード……あと一人はよくわからん職業だが、上級職ではあるんだろ?それなのに馬小屋生活ときてる。本当に情けない奴だ!」

 

 仲間たちがまぁまぁと抑えているが、それでもそいつの愚痴は止まらない。

 

「ふん!どうせカズマが足を引っ張っているのだろう!全く情けない男だ!」

 

 そう言って同意を求めるそいつに、流石に俺も声をかけた。

 

「酔っぱらってるのは分かるが、せめてそう言うことは本人がいないところで言ってくれませんかね?……って、お前。たしかベリア、だったか」

 

 俺のことを盛大にこき下ろしていたのは、なんと俺とも面識がある冒険者。ベリアだった。ベロンベロン、とまではいかないがそこそこ酔っぱらっているのだろう。非常に酒臭い。

 

「あぁ!?お前カズマかぁ?カズマだな!?全く!貴様というやつは!あんな美人所を捕まえて、よく馬小屋暮らしなんかできるな!この甲斐性無しめ!?」

 

 そう言うが早いか、俺の頭を小脇に抱えてぐりぐりと頭を締め付けて来た。

 

「ちょ、やめろよこの酔っ払い!」

 

 若干胸を押し付けられているという事実に名残惜しさを感じつつも、酒臭さと皮鎧の生臭さにすぐさまベリアを押しのける。

 

「全く、代われるものなら代わってほしいものだ。なぁ、カズマ」

 

「……そこまで言うなら代わってみろよ!」

 

 俺は常々俺の頭を悩ませているあいつらへのストレスと、こいつの酒臭さへのうっとうしさでそう叫んだ。

 

「……えっ」

 

 そうすると、一瞬にして酒が抜けたかのようにベリアが変な顔をする。

 

「いやっ、仲間だぞ!?しかも、あんな上等な、そんな簡単に決めていいのか?」

 

「いや、代わりたいって言ったのお前じゃん!責任もってやってみろよ」

 

「……そうか。分かった!なら明日はパーティを交換して依頼を受ける。いいな?」

 

 そうして、俺たちはパーティを入れ替えることになったのだった。

 

「少し酔いを醒まさなくては……店主、コーヒーを頼む」

 

 本当に大丈夫か?

~~~~~~~~~~~~~~~

「……はぁ、そう言うことは、私たちに確認してから決めてほしいのですが……」

 

 そう言って頭を抱えるイリアスを、まあまあとたまもがなだめにかかる。

 

「カズマは頼りないが、それでも考えなしではない。うちらだっていつ死ぬか分からん冒険者。今のうちに他のパーティと顔をつないでおいて損はあるまい。

 それに……カズマだってうちらをそうそう手放すような事はすまいて。おおよそうちらの悪口を言われたとかそんなことがあったのではないかのう?」

 

 いや、普通に手放せるなら手放したいが……。しかも、別にベリアは悪口は言ってなかっ……あ。いや。

 

「そういやベリアは、イリアスのことをなんだか分からん一応上級職って言ってたな」

 

「何ですって……。いいでしょう。グランベr……ベリアに私の偉大さを存分に知らしめてあげましょう」

 

 イリアスが乗り気になったことで、割とスムーズにパーティの入れ替えの話が進んだのだった。

 そして当日。ベリアとたまも、エル、そしてイリアスが連れ立って出て行くのを横目に見ながら、俺はベリアのパーティで自己紹介をしていた。

 

「まずは俺からだな、俺はテイラーだ。このパーティのリーダーをしている。それと、盾職として皆を守る役目だな」

 

「俺はキース。弓使いをしている。」

 

「私はリーン。魔法使いよ。中級魔法くらいは使えるから、頼りにしてよね」

 

 

「俺はカズマ、佐藤和真だ。よろしく。それで、今日はどんな依頼をするんだ。いやーいつものパーティだと俺がリーダーだったから、ついて行くだけってのは新鮮だな」

 

 俺がそう言うと、テイラーが驚きながらも答えてくれた。

 

「あの上級職ばかりパーティでリーダーが君なのか。意外だな。と、依頼だったな。依頼は盗賊団の相手をすることだ。これが結構おいしい依頼でな」

 

「ちょっと待て、盗賊団退治がおいしい仕事?うそだろ?」

 

 そもそも人相手の討伐依頼がおいしいとか、ありえないだろう。ありえるとすればそれはこいつらが予想以上に実力があるという可能性位だが、そんな感じでもない。

 

 そう考えていると、リーンが苦笑しながら肩をすくめて同意してきた。

 

「確かに普通の盗賊討伐ならそうね。でもこの街の盗賊討伐は大丈夫なのよ」

 

「どういうことだ?」

 

「この街には代々『ちびっこ盗賊団』っていう子どもたちの集まりがあってね。名前の通り盗賊団っていうのは名ばかりのいたずらっ子の集団なんだけど、この子達が不定期に盗賊団を名乗って近くの洞穴に拠点を構えるの。で、私たちはそこに行って盗賊団討伐をするってわけ」

 

 えーと、つまり。

 

「要は子どものごっこ遊びに付き合えってことか?」

 

「まあ、平たく言えばそう言うことだな。ただ、ごっこ遊びと思って油断するなよ。相手は魔物娘たちだからな一般人じゃ太刀打ちできんくらいには強い。しかも盗賊気分だから容赦もしてくれないぞ。あんまり弱すぎると心配してくれるらしいが……。で、俺たちはそいつらを全員倒して街に連れ戻せばクエストクリアというわけだ」

 

 なるほどな。

 

「内容は理解した。それで、俺は何をしたらいいんだ?職業は冒険者なんだが。使える魔法なんかも言った方がいいか?」

 

「いや、今回は君も言っていたが、ごっこ遊びだしな。ひとまず荷物持ちってことでお願いしようか。一般人じゃ太刀打ちできないとは言ったが、それでも子どもだからな、油断はできないが、連携の取れたパーティなら大丈夫だ。……そうだ!治癒系の特技か魔法を持ってるか?それがあるなら倒した後に治療してやってほしいんだが」

 

 それを聞いて、俺は肩をすくめた。

 

「残念だが、うちには呪いも跳ねのけられる実力の聖魔導士様がいるんでね、そっち方面は門外漢だ……とはいえ、簡単な手当て程度ならできないこともないぞ。これでも手先は器用な方だからな」

 

「ふむ、ならちょっと包帯とポーションを多めに用意しとくか。準備は良いな?なら、さっさと行くことにしよう」

 

 そんなこんなで、俺たちは冒険に出発したのだった。

 

~~~~~~~

 ゴブリン、と言えば、どのような存在を想像するだろうか?ファンタジーの定番、ザコ中のザコ。身長は成人男性の腰程度しかなく、その力は極めて脆弱。

 ただし、その繁殖力と闘争心は大したもので、油断していると大量の手勢に足元を掬われる。あと、ファンタジーモノではオークに次いで定番の竿役……といったところだろうか。

 

 と、ここまで言ったところで、実物を見てみよう。

 

「来たなー!ぼうけんしゃめ!盗賊団四天王、土のゴブリンがあいてだー!」

 

 小さいとはいえ、小学校の3,4年生くらいの背丈を持つ少女の姿がそこにはあった。浅黒い肌と、大きな目がヘルメットから覗き、少しよれた簡素な服装ながらも結構な美少女具合を強調していた。

 

「こりゃまた……なんとも頼りない四天王だな」

 

 そんな俺のつぶやきに、仲間からもゴブリンからも突っ込みが入る。

 

「おい!カズマ油断するな!相手は手加減を知らない魔物娘なんだぞ!」

 

「そうだそうだ!私の力をよく見ろー!」

 

 そう言って、若干ふらふらしながらもそこそこの速度で俺に接近し、その手に持った身長ほどもある長い柄のハンマーを振り下ろした。流石にそんなものを食らってしまえば、エルのような高耐久を持たない俺は何とかなってしまうので、狙いを定める前に素早く身をかわした。その直後。

 ガチン!という鈍い音がして、俺がよけたことで地面にハンマーが直撃し、そこそこ立派な穴が地面に出現した。

 

「……オゥ」

 

 予想以上の威力に俺は絶句する。ゴブリンなんて名乗るからどれだけ弱いのかと思ったが、コントロールはともかく威力だけを見れば絶対に油断できないレベルの存在だった。

 

「カズマ!」

 

 次の瞬間、テイラーが俺とゴブリン娘の前に立ちふさがり、盾とハンマーでのつばぜり合いを始めた。リーンとキースはタイミングを計っているようだが、そこそこの速さで急接近されたので直後の対応ができないでいるようだ。

 

「大丈夫か!テイラー!」

 

「大丈夫だ!……だが、この子は四天王って言ってたよな?4連戦だとすると、結構厳しいかもしれないぞ!」

 

 その言葉にゴブリン娘は得意げに肩を震わせた。

 

「ふっふっふ、そうだろう!土のゴブリン、水のラミア!風のヴァンパイア!火のドラゴン!私達四人が集まれば、負けなしなんだ!」

 

 ……ん?なんだかその組み合わせ、聞いたことあるぞ……。確か、この世界に来てすぐの辺りに、イリアス関係で聞いたことが……。確かゴブリンは……。

 

「なあ、ゴブリン、ちょっと勝負の内容を変えないか?」

 

「うん……?なんで今更勝負の内容を変えなきゃいけないんだ?」

 

 そう言いながらも、ゴブリン娘は攻め手を一旦止めてこちらを見た。テイラーたちからすれば好機なんだろうが、それも手で制する。

 

「なあ、お前、こんなちっこさの天使、見た事ないか?」

 

「…………?…………あぁ!」

 

 ややあって、思い出した顔をした。確定だ。

 

「俺は男女平等主義を標榜しているが……それでも知人の知り合いを問答無用で殴り飛ばすのはちょっとな」

 

 まあ、実際は殴った方がいい場面なら俺はためらいなく殴りつけるが、まあ、そこはそれ……。俺はゴブリン娘に提案をした。

 

「だからさ、けがをしないような勝負の内容に変えたいんだよ……。そうだな、例えば俺とあんたがお互いにクイズを出す、それで問題を出す側と答える側、二連続で勝った方が勝ちってのはどうだ?」

 

 ゴブリン娘はさんざん悩んでいたようだが、最後には友達の友達を叩きのめしたら嫌われるかも……と呟きながら、俺の提案を飲んだのだった。

 

「それじゃ、俺からだな。ちょっと待て、それじゃあ、こんなのはどうだ?「朝は四本、昼は二本、夜は三本足になる」のは何だ?」

 

 ゴブリン娘はうんうん唸りながらポン、と手を叩いて答えた。

 

「それはフェニちゃんだ!朝は寝ぼけて羽根と足を使って体を起こしてるから4本、昼は空飛んでるか、二本足で立ってる!そして、夜は止まり木に止まって、尻尾を地面につけて寝てるから3本だ!」

 

「……答えは人間な」

 

「え、うぇ!?人間ってそうなのか?」

 

 びっくりしているゴブリン娘に俺はゆっくりと説明する。

 

「人生を一日に例えてるんだよ。朝はつまり生後間もなく、ハイハイする赤ちゃんだ。昼はほら、二本足。そして、人生も終わりに差し掛かれば杖を突いて三本足、な?」

 

「な、なるほど!」

 

 納得したようで、今度は俺に問題を出そうとうんうん唸りだした。

 

「私、あんまり頭良くないからこうする、あっちの端から、こっちの端まで行くのに5秒かかるかかからないか」

 

 俺は少し考えて、ゴブリン娘に聞いた。

 

「なあ、それってさ、予想した後に、俺たちが何かすることは考えないのか?」

 

「……それって、私が走ってるのを邪魔するってこと?」

 

 そう言うと今までの顔から一変し、獰猛な笑顔を浮かべる。

 

「悪いけど、君たちくらいのスピードじゃ、妨害しても大したことないよ。それに、そう言うんなら、私も考えがあるよ」

 

 そう、一見選択肢があるように見えて、実のところ俺たちが当てるためには5秒以上かかると予想しなければならない。なぜなら、5秒以内と予想すれば、ゴブリン娘がただゆっくりと歩くだけで予想は簡単に外れてしまうからだ。

 

「なら、妨害してもいいってことだな?」

 

「うん、できるもんなら、やってみろー!」

 

 そう言ったゴブリン娘が、ゆっくりと洞窟の端へと向かう。公正も何もないが、一応判定とカウントはリーンに頼んだ。

 

「それでは、よーい、どん!」

 

 そう言った途端、ゴブリン娘は信じられないスピードで洞窟内を疾駆した。俺は慌てて用意していた魔法を放つ。

 

「フリーズ!」

 

「ダメだよ!このくらいの時間、凍えなんて……わひゃ!?」

 

 俺が魔法を放ったのはゴブリン娘ではなく、その先の地面だった。恐ろしい加速ではあったが、流石に滑り止めはついていなかったらしい。

 足を取られてたたらを踏み、再び走り出した時にはすでにリーンのカウントは5を数えていた。

 

 こうしてようやく、俺たちはちびっこ盗賊団、土の四天王を倒したのだった。




大変お待たせしました。
 というわけで(本来は)メンバー入れ替えからのゴブリン討伐依頼編。
ですが、もんクエの設定と依頼内容が鬼ほどミスマッチなので依頼内容ごとごっそり入れ替えてイリアスベルクのちびっこ盗賊団騒動を投入しました。

 そのせいで話の目途を付けるために時間がかかったという。
 ……ごめんなさい嘘ですちょっとさぼってました。

 変更点
・依頼内容がゴブリン退治からちびっこ盗賊団退治に変更。
・入れ替えのタイミングをカズマ一人の時に変更。
・入れ替えの話が出てから実際に入れ替えるまでに一日のタイムラグがあるように変更。


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EP25 ラミアは追いかけた!

「さて、土のゴブリンはやられた様だけど、私、水のラミアにかなうかしらねぇ?」

 

 そう言いながら姿を現したのはとても小さいラミアだった。先の戦場で一瞬だけ見た、クリスの蛇体など比べるべくもなく小さい、とはいえ人間の子供が上についているので蛇として見ればそこそこ大きいのは大きい。そんな中途半端な大きさだ。

 

「なあ、戦う以外の方法で決着をつけるのはどうだ?」

 

「?なんでそんなことしなきゃいけないのよ?」

 

 その言葉を受けて、俺は後ろを振り返った。

 

「よし、プランBだ!」

 

 そう言うと、俺たちは一斉に彼女の間をすり抜けて走り出す。

 

「えっ!?あ、ちょ、待ちなさい!」

 

 彼女はかけっこで負けていたはず、だからこそ。

 

「待ちなっ、待ちっな、さい、よぉ!」

 

 

 全力で追いかけようとすれば、それは速度が出ないという問題以上に、体力と集中力を奪っていくだろう。

 

 つまり……。

 

「隙あり」

 

「しまっ!?」

 

 こうして、闇討ちも可能というわけだ。

 

「…………」

 

 気絶するラミアをじっと見つめるゴブリン娘に、俺は苦笑しながら答えた。

 

「ゴブちゃんの友達なのは分かってるんだが、俺たちも余裕があるわけじゃないからな。悪いがなるべく素早く終わらせたいんだ」

 

「……むぅ、まあ、私は負けたからな、口は出さないことにするよ」

 

 そう言って、ゴブはそっぽをむいた。

 さて、次は……。

 

~~~~~~~~

「ふむ……そろそろ来ても良いはずなのだが……遅いな」

 

 我はヴァニラ。誇り高きヴァンパイアガール。今は仲間たちと共にアジトで仲間たちと共に愚かにも入り込んだ冒険者を返り討ちにする日であった。

 しかし、先達たちの話によれば、四天王のうち1、2人は一時間ぐらいすれば倒されてしまうという話だ。スタンバイしてから1時間経ち、もう大分手持ち無沙汰になってしまっている。

 

「……ん?」

 

 ふと、視界の端に見慣れぬものがよぎった気がした。

 

「……ふぇ?」

 

 そちらを見ると、風に揺られるようにふよふよと白いものが浮かんでいた。

 

「な、なんであるか?これは」

 

 驚いている我の目の前で浮かぶそれは、まるで風が吹いているかのように浮かんでいる。

 

「…………はっ!まさか、ゆ、幽霊、か?」

 

 いや、そんなはず。

 

 次の瞬間、背筋にゾクリとした寒気が走る。

 

「な、ななな、なんだこの悪寒、これは、ほ本当に?」

 

 そして、そのうえ、どこからか女性の笑い声が聞こえてくる。

 

”アハハハハハ、アハハハハ!”

 

 その哄笑に我はあたりを見回した。

 

「な、なんなのだ、これは、なんなのだ!え、ええい!あの布っきれみたいなのが何か分かればよい!」

 

 我は蝙蝠を使ってふわふわした何かを貫いた。

 

「……え?」

 

 布は何事もなかったかのように力なく蝙蝠に搔っ攫われた。蝙蝠は布を持ったままこちらへと戻ってくる。

 

「な、何もない!糸もついてないし、中にも何もいないっ!ってことは、ほ、本当に!?」

 

 その時、不意に入り口から声が聞こえて来た。

 

「ヴァニラ!ヴァニラ、た、助け、きゃああああああ!?」

 

 それは、仲間の断末魔の悲鳴だった。その声に、私は……。

 

「あ、あ、あ、…………きゅう」

 

 あっさりと意識を手放したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~

「いきなり水を掛けるなんてひどいじゃないか……って、なんでヴァニラが気絶してるの?」

 

 そう、吸血鬼っ子を襲った怪奇現象の数々は、実のところ俺の仕込みだ。生活魔法のウィンドで落ちそうになった布を適宜浮かせつつ、そっちに注意が言っている間にこっそり背後に回ってフリーズで吸血鬼っ子の首筋を冷やし、そして丁度いいところでテイラーに頼んでおいた仲間の悲鳴が発動したわけだ。

 

「あ~まあ、気絶してたならちょうどいい。ゴブ、介抱してやれ」

 

「まあ、いいけどさ」

 

 さて、それじゃあ、最後の一人、彼女らの話によれば、火のドラゴンとの戦闘だ。残念ながらイリアスはこいつの弱点を言ってなかったから、ガチの戦闘になるだろう。

 

「みんな、気を引き締めていこう!」

 

「「「おう!」」」

 

 そう言って、俺たちは洞窟を進んでいく。だんだんと洞窟はごつごつとした岩場から、滑らかな石質へと変わっていった。

 

「……なあ、なんか嫌な予感がするんだが」

 

「ん?そうか?歩きやすくなっていい感じじゃないか?」

 

「……確かに、気になるわね。ゴブちゃん、ここ、なんでこんなに床が滑らかなの?」

 

 俺の違和感を受けて、リーンがゴブにそんなことを聞いた。

 

「……それは……って、言わないぞ!捕まっちゃったけどもともと私と君たちは敵同士なんだから!パピが戦いやすいようにって火……一人でやったんだ!パピはすごいんだぞ!」

 

 ……いや、言ってるじゃないか。

 

「まあ、なんとなく分かった。テイラー、火の対策は?」

 

「そりゃ、盾役だからある程度はしてるよ。ただ、そこまで本格的なのはしてないからな。まあ、今までの戦いを考えると、3回は耐えられると思う」

 

 そうか……。

 

 とりあえずぶつかるだけぶつかってみようと俺たちは先へと進み、そしてその姿を見つけた。

 

「わっはっは!待っていたのだ!早く戦うのだ!」

 

「よし、行くぞ!」

 

 そして、俺たちの本当の戦いが始まった!

 

 最初に動いたのはドラゴンパピーの少女だった。少女はその腕をテイラーに振り下ろす。

 

「っぐう!?こいつ、やばいぞ!」

 

 真正面からほぼ完ぺきに攻撃を防いだにもかかわらず、そして、少女が拳で攻撃したというのに、攻撃を受けたテイラーはその顔を焦りで歪ませた。

 

「この威力、盾が割られかねないぞ!」

 

「っ!アイスバレット!」

 

 リーンの放った魔法が、少女に直撃する。驚く少女だが、それで大きなダメージを受けた感じはない。

 

「っつ!フリーズ!」

 

「‼冷たいのだ!」

 

 俺はフリーズを相手の手に向けて放つ。その分俺に意識を割かれているが、予定通りだ。

 迫ってくる少女の姿が、一瞬で見えなくなる。

 

「痛いのだ……」

 

 否。俺が使ったフリーズの余波、というかあらかじめ地面に向けて放っていた一発目のフリーズで凍った床で転んだのだ。

 

「うがー!でも負けないのだ!」

 

 そう言っていきり立つ少女に、リーンの氷の魔法が突き刺さる。さらにテイラーのシールドバッシュが続き、キースの弓が襲い掛かった。

 

「う、うがー!ま、まだまだなのだ!」

 

 これだけの総攻撃をかけても倒せないというのはどれだけ彼女が強いかを証明していると言えるだろう。さて、どうするか……。

 

 そう考えていると、急に少女が動きを止めた。

 

「う、うが?」

 

 そして、いきなり少女が空中に吊り上げられる。

 

「な、何なのだ!?」

 

「おいしそうな餌が捕まったわね」

 

 そこにいたのは、八本の足を持つクモの魔物娘だった。

 

「な、何なのだお前!離すのだ!」

 

「ふふふ、どうして餌と話す必要があるのかしら?あら、でもかみつかれたら怖いわね、口をふさいでおくわ」

 

 そうして、見る間にドラゴン少女ががんじがらめにされていく。

 

「……おいおい、まずいんじゃないのか?あれ」

 

「助けるぞ!」

 

 俺の声に応じて、テイラーが声を上げて突撃していった。それに応じてリーンとキースもクモ娘に攻撃を始める。

 

 まずい!まずいまずい!そりゃあ、勝てる可能性もあるが、俺たち全員で苦戦したドラゴン少女を戦闘不能にできる魔物だ、下手したら全滅もありうる。

 どうすれば……あのクモ娘に有効な手は……!

 

 俺はバッと後ろを見た。後ろには伸びているラミアとヴァンパイア、そしてそれを担いでいるゴブリンの姿がある。

 

「おい!お前ら!お前らの中で一番足が速いのは誰だ!」

 

「え?それは、私だけど……」

 

「なら、頼みがある!あんたらの仲間を助けるために買ってきてほしいものがあるんだ!」

 

 街からここまでの距離はそこまで遠くない。時間さえ稼ぐことができれば、間に合うかもしれない……。俺は、そんなことを考えながらゴブリン娘に金を握らせて送り出した。

 

「わかったよ!急いでいくね!バビューン‼」

 

「濃い目のを頼むぞ‼」

 

 ゴブリン娘は、残像を残すレベルで素早く走り去っていった。……あいつ、でかいハンマーじゃなくて素手で殴りかかってきたら実のところ俺達勝てなかったんじゃないだろうか。

 

 そう考えつつも、俺は時間を稼ぐためにクモ娘に対峙する。幸いなことに、テイラーたちはそこそこ善戦しているようで、多少糸に巻き付かれながらも、何とか全員無事であった。

 それは、クモ娘が巣から離れようとしないのも関係しているのだろう。

 

「テイラー!シールドバッシュはしちゃだめだよ!盾を囮にしてでも、太い糸には捕まらないで!」

 

「もちろんだ!」

 

 リーンの言葉もあり、全員糸に捕まらないことを最優先に来たらしい。俺ができることは……。そうだ!

 

「クリーン!からのウォーター!」

 

 俺はクモ娘の足を狙って油汚れもこれ一つ、の生活魔法クリーンを使い、すぐ後に水を出す魔法、ウォーターを放った。

 アリなどの昆虫は足に呼吸器を持つため、水の侵入を防ぐ油を消し、そしてすぐに水を放てば、相手はおのずと窒息で……。

 

「何してるのかしら?」

 

「あ、あれ?息は?」

 

「息?何のことかしら?」

 

 そうだよ、よく考えたら上半身人なんだから、そりゃ呼吸できるよ。何やってんだ俺!

 

 だが、それであのクモ女の意識がこちらに向いた。これで俺は逃げられなくなったが、時間稼ぎという意味では悪い手じゃない!

 

「な、なあ、あんた、あんたの捕えてるドラゴンっ子。息は大丈夫か?結構ぐるぐる巻きにしてるみたいだが」

 

「……あら、確かに。助かるわ。踊り食いが一番美味しいものね」

 

 そう言って、クモ女はドラゴン少女の顔全体に掛っていた糸をほどいていった。ありがたいことに、何かするつもりかとテイラーたちも攻撃の手をやめていた。

 

「ところでなんだが、あんたは普段何を食べてるんだ?こんなところにいつも人が来るわけじゃないだろう?」

 

「あら?そんなことないわ。私と同じ、魔物娘ならしょっちゅう来るわ。まあ、大体警戒心が強い子が多いから、なかなか罠にかかってはくれないけどね。……そうね、どうしても耐えきれないときはネズミとかで飢えをしのぐこともあるかしら」

 

 それを聞いて、俺はクモ娘に提案した。

 

「なぁ、あんたの口を見ると、どうしてもそのドラゴンっ子を食べられるとは思えないんだ。町で作った料理を持ってくるから、それとドラゴンっ子を交換とかできないか?」

 

「私は生肉しか食べないわ。それに、口の大きさも関係ないし」

 

 そう言うと、クモ女はどこからかネズミを取り出し、舌を出してそのネズミに突き刺した。

 すると、みるみるうちにネズミは空気の抜けた水風船のように揺らめき、だらしなく垂れさがっていく。

 

「私たちはこうして、生き物の中に溶解毒を注入してドロドロになったものを吸い上げて食べるわ。流石にこれだけ大きいと、一旦眠らせてから毒を入れるけれど、口の大きさと食べられる大きさにあまり関係がない事は分かったでしょ?」

 

「そうなのか、そりゃすごい」

 

 提案は簡単に却下されてしまった。ただ、そこまで悪くはない。あちらは、こちらを話し相手として認識している。うまいこと乗せれば、時間が稼げるだろう。

 

「……あなた、この竜の娘を助けたいのよね?」

 

「?あ、あぁ」

 

「あなた、ちょっとおもしろいし、見逃してあげても良いわよ。ただし……」

 

 そう言って、テイラー、リーン、キースの三人を指さした。

 

「あいつらのうち、誰かと引き換えならね」

 

「…………」

 

 少しの後、俺は無言でテイラーに突進する。

 

「ちょ、カズマ、嘘よね?」

 

 慌てて呪文を唱える体制にかかるリーンに対しスティールで下着を盗み、更にテイラーに接近、かぶりつくくらいの距離で短刀を振りかぶる。そして、小さく一言。

 

「長引かせるぞ」

 

 テイラーが振りかぶった盾の攻撃に逆らわず距離を取ると、三人は身を寄せ合って何やら話し合っている。その間に俺は今この場にいる残った二人……ラミアとヴァンパイアの頬を張る。

 

「おい、起きろ!」

 

「ん、なによ」

 

「なんだというのだ……って、何なのだこの状況は!」

 

 二人が目覚めたところで、俺はざっと今までの状況を説明し、捕まっているドラゴンっ子を助けるために戦いを長引かせる作戦を説明する。

 

「わかったわ!パピを助けるためなら、協力は惜しまない!」

 

「そうだな、我の偉大なる呪術の神髄を見せてやろう!」

 

 ピリピリとした空気、そして、それを肴ににやにやと笑いを浮かべるクモ女の思惑を遮るように、爆音にも似た音が洞窟内に響き渡った。

 

「な、なんだ!?」

 

「わーっ!どけてどけて~!」

 

 見れば、それは巨大な樽を背負って爆走するゴブリン娘だった。急停止しようとして転んだゴブリン娘の背中から放たれた樽は放物線を描いてクモ娘の頭上にぶつかり、クモ娘の全身に真っ黒い液体が降り注いだ。

 

「!!ぺっぺっ!なによ、こ、え?」

 

 クモ娘はその液体がかかってすぐろれつが回らなくなり、しっかりと握っていたはずのドラゴンっ子も取り落とす。

 慌てて受け止めるちびっこ盗賊団を見ながら、俺たちはクモ女の方に近づいていった。

 

「なんだ?こりゃ」

 

「うぃー、ヒック、あらしは、クモむふゅめらぞー!!ヒック」

 

「完全に酔っぱらってるわね」

 

「ああ、蜘蛛はコーヒーで酔っぱらうっていう話を知ってたからな。買ってきてもらってたんだ」

 

 俺がそう言うと、テイラーたちは感心したように声を上げる。

 

「意外と博識なんだな、カズマは」

 

 そんなことを話しつつ、俺たちはてきぱきとクモ女を縛り上げていった。これで一見落着だ。

 

「それより、わたしの、ぱ、パンツ返してよ」

 

「ア、ハイ」

 

 俺は思わずポケットの奥底にしまい込んでいたパンツを返すのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「しかし、今回はカズマの策で上手くいったな。助かったよ」

 

「本当にな。どうだ?臨時と言わず、これからも固定パーティってのは?」

 

「何言ってんのよ!私、ぱ、……取られてるのよ。ま、まぁ、機転が利くのは認めるけど……」

 

 依頼の達成とクモ女の引き渡しの結果、予定の倍ほどの報酬が得られることになった。だからこそ、こうして軽口をたたきながら俺たちはギルドを後にしようとしているのだ。

 

「……あ」

 

「……あ」

 

 ギルドの扉を開いたところにいたのはベリアとたまも、そして二人に背負われた白目をむいているイリアスとでろんと伸びているエルの姿があった。

 

「……カズマ、すまん。私の勘が間違っていたようだ」

 

「おう、何があったんだ?」

 

 俺が聞くと、ベリアがわなわなと震えだし、大声でわめき始めた。

 

「広場で各人の使えるスキルを聞いて、爆裂魔法を使えるってことに驚いただけで、「なら、早速お見せするのじゃ!」とか言って、何もない所に爆裂魔法放つか?それで、様子を見に来たサキュバスの衛兵に何も言わずに襲い掛かるか?謝り倒して何とか見逃してもらったけれど、一歩間違えれば前科者だったぞ!そして、こいつ!この水色!野生のフェニックス娘が襲い掛かってきたとき、言うに事欠いてこどもだからって私たちの攻撃を全部受け止めるんだよ!その後なんだかコーヒー臭いクモ系の魔物が大挙して襲い掛かってくるし……。本当に、本当に……はぁ」

 

 俺は頭を押さえ、天を仰いだ。はぁ、なんというか、はぁ。

 

「なあ、テイラー。さっきのパーティの話だけどさ」

 

「な、何を言おうとしておるんじゃカズマ!」

 

 ギャーギャーわめくタマモの声が響き、騒がしい夜が更けていくのだった。

 

 




お待たせしました!

 なかなか難しい展開だった。
 なお、最後の方に出てきたクモの魔物は娘ではなくただのクモの魔物です。
 多分クモ娘は意図せずカフェインを腸とかで摂取してる気がする。

変更点……サボっていいか。

・初心者殺しをクモ娘に変更
・リーンがセクハラの被害に会う
・不良冒険者と一緒にギルド前まで来た仲間を女神から魔法使いに変更


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EP26 カズマはダンジョンに入った!

「というわけで、明日はダンジョンに行きます」

 

「いや、いやじゃが?」

 

 次の冒険者としての仕事を決める話し合いでの俺の第一声を、たまもがきれいにぶった切った。

 なお、凍えるちいぱっぱ依頼から4日後の話である。俺の主観では一度死んでいるわけだが、時間遡行した感じで復活したので、皆にとっては臨時収入が入ったための休憩タイム程度の扱いであり、途中でメンバー入れ替えで依頼をこなしたものの、借金のこともありそこまで休むことは許されない。

 

 というわけで冒険の定番、ダンジョンを提案したのだが、あっさりと却下されてしまった。

 

「そもそも、うちとて爆裂魔導士じゃぞ?まあ、確かに洞窟内でも戦えんことは無いが、耐久性は並みじゃ。洞窟の中で素早さを殺されればそのまま自分自身もあの世行きじゃ。それとも、カズマは仲間に自爆特攻を強要する鬼畜じゃったのじゃろうか?」

 

「いや、そもそも俺、お前がパーティ入るときにそのこと言ってたよな?むしろ普通の魔法使いと思ってた段階で言ってたから現実の方がいくらかマシじゃないか?それ聞いてもパーティ入れてくれって言ってたのはどこの誰だよ」

 

「……むぅ、それを言われると弱いのう」

 

 そう言って唸るたまもは、仕方なしに頭を振った。

 

「まあ、仕方あるまい。そのダンジョンの難易度次第ではあるが、同行するのもやぶさかではないのじゃ。ただ、その場で放置とかはやめてくりゃれ?」

 

「あぁ、すまん、言い忘れてたが、たまもはダンジョンの手前で待っててくれればいいから。道中の強敵に爆裂魔法をぶっ放してくれればいい」

 

「……ふむ。なんぞそんな言われ方をすれば中までついて行きたくなってしまうのう……」

 

「おい、絶対やめろよ」

 

 そんな風にたまもとじゃれていると、横合いからイリアスの声が聞こえて来た。

 

「ダンジョンですか……。カズマはダンジョンに行くことを既定路線にしているようですが、正直今のパーティでは不足を感じますね。通り抜けるだけならともかく、十分に利益を上げるなら盗賊職の助力は必須でしょう。それに、罠の心配もあります。……少し業腹ではありますが、あのクリスとか言うラミ……女盗賊に助力は乞えないのですか?」

 

「クリスも誘ってみたんだが、なんでもちびっこ盗賊団がらみで忙しいらしくてな。方々に話を付けに行っているらしい。それと、ほら、クリスって……あれだ、お宝に詳しそうだからさ、ポケット魔王城についても話してみたら、ちょっと調べてみてくれるって話だったからそのこともあるんじゃないか?」

 

 一応、俺もイリアスもちょっと口走りそうになったクリスの正体について口をつぐみつつ、言葉を続ける。

 

「一応その話をするタイミングでダンジョン探索に必要な罠解除と罠感知は教えてもらったし、パーティ入れ替えの時の冒険でちょっと前に取った新スキルの有用性も分かってきたからな。ダンジョンなら季節に合わせて急に危険なモンスターが現れる、みたいなことは無いし、きっちり安全マージン取れば行けると思うんだ」

 

 それを聞いていたエルが、少し胡乱な顔で俺を見た。

 

「申し訳ないけど、まだキメラデュラハンの灰の排出が間に合ってないの。盾になろうにも、いつもみたいには耐えられないわよ。それに剣もメンテナンスに出してしまったし」

 

「お前、剣持っててもあたらねぇじゃねえか」

 

「まぁ、確かにそうなのだけれど……」

 

 そうぼやくエル含め、俺は3人に告げる。

 

「言っておくが、今回は俺一人でダンジョンに潜る。お前らはダンジョンに入るまでの護衛をして欲しいんだよ

 

「「「?」」」

 

〜〜〜〜〜〜〜

 街を離れて半日。俺たちが向かったのはキールダンジョンという名のダンジョンだ。

 はるか昔、キールという名の王子が罪人に恋をし、王子の身でありながら最高の魔術師となるまでに己を鍛え上げ、その武勲を持って父王にかの罪人を妃にすることを要求したのだという。

 

 このダンジョンがあることから、その結果は推して知るべし、と言ったところだが、王子は王位継承権を放棄し、罪人と共にこのダンジョンに立てこもったのだという。

 

 その結果は詳らかにされてはいないが、まぁ、いくら優秀な魔法使いといえ、たった一人で戦い続けることは出来なかっただろう。

 

 今ではそんな逸話もほとんど忘れ去られ、駆け出し冒険者のいい練習場所になっていた。

 

「よし!それじゃあ行ってくる。もし一日たっても帰って来なかったらテイラーたちに救援を頼んでくれ」

 

「本当に一人で行く気か?危ないと思ったらすぐに引き返すんじゃぞ?」

 

「だから、言ったろ?敵感知と潜伏スキルを活用すればお宝だけゲット出来るって。心配すんなよ」

 

「必ず帰ってきなさい。どんな魔物を引き連れてきても、一撃くらいは庇ってあげる」

 

なんだかいつもと比べて嫌に心配されつつ、俺はダンジョンの暗闇へ続く仄暗い階段を降りていった。

 

「よし!《千里眼》!これでよく見えるな」

 

周囲が闇に飲まれる前に、キースから教えてもらったアーチャースキル《千里眼》を発動する。あとは、敵感知を常に発動させれば……。

 

「なんでついてきてるの?」

 

 振り返るとそこには、なぜかついてきていたイリアスの姿があった。

 

「いえ、このダンジョンについた時、アンデッドの気配を感じましたから。アンデッドは普通の魔物と周囲の感知方法が違うからか、『潜伏』スキルが役に立たないことがあるのです。ですからアンデッドの対策が必要だと思って急いでついてきたのです。崇めても構いませんよ」

 

「お、おう、そりゃありがとう……じゃねーよ!『潜伏』で隠れるのにあんたがいたら隠れられないだろうが!そもそもイリアスは視界は大丈夫なのかよ!スキル無しで見通せる暗闇じゃねぇんだぞ!」

 

 俺がそう言うと、イリアスは嘲るような眼で俺を見た。

 

「哀れな人間と違い、私の目は闇夜の中でもある程度見通せます。何しろ、以前は全ての人間を天上から見守っていたのですからいうなれば千里眼のオリジナルですよ?」

 

 ……こいつはきっと降りるのをやめないだろう。本来ならこの方法で通用するかどうかを俺でもレベル的に余裕のあるこのダンジョンで確認するつもりだったのだが、まあ、仕方ないか。

 

 俺はあきらめつつダンジョンを降りていった。

 

~~~~~~~~~~~~

 暗い階段を黙々と降りていく俺達……というか、あまりに深い。その深さは、初心者ダンジョンとは思えないほどだ。果てのない深淵に挑むつもりで、俺は階下をにらみつけた。

 

「……全く、何が一人で行く!ですか。そのように怖気づいたへっぴり腰で、よく大言を吐けたものですね。それとも、もしかして自殺志願者でしたか?これは失礼」

 

 そう言って冷笑するイリアスに反論しようとするが、こいつはこの暗闇の中でもここが己のための宮殿だとでもいうかのように優雅に階段を下っている。ビビっているなんて間違っても言えないだろう。

 とはいえ、そんないつも通りの言葉に救われるところもある。少なくとも心細さは感じずに済んだ。

 

 何もない場所、しいて言えば近くに朽ち果てた人のような物がある、だ、けで?

 

「ふわー!?」

 

 それは俺のように一人でダンジョンに潜ろうとした人物の成れの果てか、それとも仲間に置いて行かれたのか……。ともかく俺たちの先輩だったらしい。

 

「ふわーっって、くっくくくくく。ふわーって。ふ、ふぐっ。カズマ、少し離れます、ぷっ、くくくっ」

 

 そして、イリアスが少し距離を取った後、驚くほどに大きな笑い声が響き渡った。

 

「ちっ、あいつ……」

 

 しばらくすると笑い声が収まり、イリアスが帰ってきた。

 

「おい、イリアス!お前なぁ……」

 

「少し待ちなさい。この死体、アンデッド化しかけています」

 

 そう言うと、イリアスは手で印を結びながらぶつぶつと何かをつぶやき、死体に触れていく。

 すると、死体が淡く青色に発光し、そしてすぐに消えた。恐らく女神の力でアンデッド化を防いだのだろう。普段からこういうことをやっておけば、多少は女神らしいのに。

 

「さて、それじゃあ行きますよ。カズ……マ、ふわーっ、ぷっ」

 

 こいつ!

 

 殴りかかろうとして、俺は動きを止めた。どうやらイリアス以外の動く者がいることを敵感知がとらえたからだ。敵感知できる領域まで来てしまうと、物音を立てるのも得策ではない、手で逃げるように伝えるが、思ったよりその動きは迷いなくこっちに来ていた。

 

「……お前が馬鹿笑いしてたから敵呼び寄せちまったじゃねーか!」

 

 理由に気付いて思わず怒鳴った俺にその人型の影は飛び掛かった。しかし、あらかじめ気付いていた敵だ。俺も無策ではなく、そのまま手持ちの剣でそいつの胴体を薙ぎ払った。

 当たり所が良かったのもあるだろうが、それだけでそいつは真っ二つになり息絶えた。

 

「なんなんだ、こいつは」

 

 残念ながら、千里眼を使って見えるのは輪郭までで、色などはさっぱりだったので何の魔物か分からないのだ。

 

「それは……恐らくグレムリンですね。魔物娘ですらない下位の悪魔です。因みに、魔物娘だと……ほら、あそこにいるみたいな」

 

「はわわっ!見つかっちゃった!?」

 

「びくびく……」

 

「くたー」

 

 指さした方向には、なんだか胸のあたりにクッソでかい球体を付けた影と二人のつるぺたすっとんの影が見えた。

 

「あれが、悪魔系の最底辺ですね。大体。ついでに浄化して差し上げましょうか」

 

 そう言って恐らくにやりと笑ったイリアスの圧に屈したのか、バタバタとせわしなく羽ばたく音が聞こえ、姿を感知できなくなる。

 

「……とまあ、あれくらい脅かしてしまえばもう襲ってこないでしょう。元来悪魔は最低限の知恵を持っていますから、低級悪魔は臆病なものが多いのです。まあ、次に見つければ容赦はしませんが」

 

 そう言って胸を張るイリアスに、俺はふと思いついてしまい、恐る恐る声をかけた。

 

「……すまん、イリアスって、もしかしてこの暗闇もかなりしっかり見えちゃう感じか?もしかしてなんだが、俺が馬小屋で夜何してたか見てたりとか……?」

 

「……カズマ。あなたのために口をふさぐことをお勧めします。まぁ、安心しなさい。私にとっては一日に何度も見守っていたものです。今更見ようとも思っていませんでしたから、すぐに後ろを向いていました」

 

「……助かる」

 

 俺は状況を忘れて、安堵のため息をつく。

 

「それよりも、来たようですね。ターンアンデッド!」

 

 イリアスがそう言うと、やってきたゾンビがすぐさま浄化され、光の粒になって消えていった。

 

「さぁ、まだまだ来ますよ!」

 

 イリアスの声によってきたわけではないだろうが、ゾンビや幽霊っぽい見た目の魔物が大挙して現れる。本格的な戦いの始まりだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

「ターンアンデッド、ターンアンデッド!ターンアンデッド!」

 

 ダンジョンというのはかようにもアンデッドがはびこる場所だとは知らなかった。もはや四方八方から襲い来るアンデッドは波かと見まがわんばかりだ。そして、そんな波を片っ端から浄化して回るイリアスも、普段とは違いいっぱしの聖職者に見える。

 

「いと貴き女神、イリアスの名のもとにあなた達の未来の安寧を約束しましょう。長い停滞を離れ、黄泉への旅路を進みなさい。《セイクリッド・ターンアンデッド》!!」

 

 膨大な魔力があふれ、その場に動く者がイリアス以外にいなくなると、彼女は自慢げに俺に振り返ってきた。

 

「どうですカズマ。私を崇める気になりましたか?」

 

「その言葉が無ければな。っつっても、ついて来てくれたことには感謝してる。こんなの俺一人じゃ絶対対処できなかったよ。助かった。ありがとう」

 

「っ……!当然です。もっと崇めなさい。カズマ。……と、そろそろ本腰を入れて探索をしましょう。まあ、もう探索しつくされたダンジョンです。期待は薄いですが」

 

 そう言って探索を続けて暫し。大量のアンデッドにたかられながら探索を続けていると、ふとイリアスが動きを止めた。

 

「……妙ですね」

 

「妙って、あれか?アンデッドが多すぎるって話か?確かに下級職のプリーストじゃさばけないくらいアンデッドの数は多いけど」

 

「あぁ、それもありますが、違います。一番の問題は、このダンジョンの構造です。脳内でマッピングしていたのですが、丁度この先、ここがこの階層だけすっぽり二部屋分ほど抜けているんですよ。下り階段も入って来たものしかありませんでしたが、ここだけ何も作らないというのは……」

 

 そう言って、イリアスが行き止まりの壁に手をかざすと、急に壁がクルリと回転する。

 

 

「きゃぁ!?」

 

「回転扉!?」

 

 慌てて回転扉をくぐると、そこには巨大な人影があった。そして、そいつはこういったのだった。

 

「おや、久々の訪人じゃな」

 

 




ということでキールダンジョン編です。
ただし、感動の浄化イベントは既にシロムでこなしてるので、そこはガバッと入れ替えます。

変更点
・全体的にパーティメンバーの物分かりが良い
・体調が悪いのはクルセイダー
・クリスの用事のを変更
・インプ3人組がゲスト出演
・隠し部屋に気づくプロセスの変更


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EP27 カズマは謎解きした!

「久々の尋人じゃな」

 

そこにいたのは巨大な女性だった。見目は恐ろしく整っており、その豊満な胸を隠すことなくこちらを睥睨している。

 

 しかして、それはただの美人ではなかった。上半身から続く体は何か大きな獣の口となっており、その背には純白の翼が、その尾には6匹の蛇が生えていた。

 

「スフィンクス娘!?」

 

 驚愕するイリアスに目を細めたスフィンクス娘は、手を鷹揚に動かしてイリアスを制した。

 

「スフィンクス娘とはまた情緒のない言い方じゃのう。妾はサバサ。王子の手により連れ去られた、悍ましき罪人じゃよ」

 

 

 

「じゃあ何か?お前は罪人じゃなくてただの魔物で王位継承者が魔物に誑かされたって追いかけ回されてたってことか?」

 

「ま、そういうことじゃな。長年生きてきたが、あれほど熱烈な求愛はまたとなかった。ちなみにそこにおるのが旦那様じゃ。下顎のあたりがシュッとしとってなかなかに良い面構えじゃろ?」

 

……どうすりゃいいんだ、これ。イリアスは居心地悪そうにもじもじしている。

 

「おぉ!そうじゃ、せっかくじゃし、少し謎かけでもしていかんか。何、本来なら間違えれば食ろうてしまうところじゃが、そのようなことはせんでの」

 

なんか恐ろしいことを言いだした。この人に恋をしたという王子さまは何を思ってこの人を好きになったのだろうか。いや、見目は下半身無視すればすごくいいんだが……。

 

「嫌か?魔物の願いは叶えてくれぬかえ?もし叶えてくれるなら褒美を授けても良いのじゃが」

 

「……分かったよ。だけど、もし答えられなくても怒るなよ?」

 

 そう頷くと、早速彼女はなぞかけを出題する。

 

「朝は四本、昼は二本「人間」夜は……と、知っておったか」

 

「あぁ、というか実のところちょっと前に俺自身が出題したくらいだし」

 

「おぉ!謎かけ友であったか!」

 

 そう言って笑う彼女は、そのままの笑顔で二問目を出題した。

 

「なら次じゃ。なぜ妾はなぞを出していると思う?」

 

「そんなのあんたの主観だろうが……まあ、でも、こんな時になぞかけをするんだ。好きだからじゃないのか?」

 

 それを聞いて、サバサは更に笑みを深くする。

 

「まさにまさに!その通りじゃな!よいよい。まさしく真理じゃ」

 

 何が面白いのかしきりに笑みを深め、ひとしきり笑った後その目の俺をとらえて言葉を続ける。

 

「それでは、最後の問題じゃ」

 

 そう言って、すっと目を細めた彼女は先ほどまでと打って変わって厳かにその問題を告げた。

 

「妾を、このダンジョンから、誰にも知られることなく地上へ出る方法は何か。……妾はこれしか思い浮かばなんだ」

 

 その言葉と共に、スフィンクス娘は自らの首前で親指を横に引く。そして、続けてこう言った。

 

「この問いに正答したのなら、妾のすべてをお主らに捧げよう。この尾の一つだけでも、貴重な薬の材料になるようじゃぞ?」

 

 この問い、そして直後のジェスチャーから、こいつが言いたいことが分かる。つまり、こいつは俺達に、自分を殺してほしいと言っているのだ。

 沈黙が支配する中、イリアスがぽつりとつぶやいた。

 

「分かりました。責任をもって、私が引導を渡しましょう」

 

「おい、イリアス!いくら何でも……!?」

 

 思わずイリアスの肩に手をかけた俺は、彼女の顔を見てぎょっとした。なぜなら、その顔は魔物を倒せる歓喜の顔でもなく、強者を殺さなければならない緊張の顔でもなく、苦しさと悲しさ、そしてわずかな後悔さえ感じられる涙の表情だったからだ。

 

「カズマ。孤独というのは、心を殺すのです。例え己を慕う部下がいようと、例え輝かしい思い出があろうと、心は削れ、抉れ、いびつになっていく。私は、一番初めに私に手を合わせた人間を覚えています。覚えて……覚えているのです。ですが、本当に彼は、彼だったのでしょうか。

 あの純粋な信仰を、あの輝くようなまなざしを、私は本当に、受けていたのでしょうか?孤独だと、そんなことばかり考える。そして、仮面をかぶるのです。私はそれを本当に受けていた。いや、受けていないのならば、それは私ではない、と。そして、幻想に浸りながら、真実が迫りくる足音に怯えながらその場に停滞するか、それともすべてを壊すかを天秤にかけて日々を過ごすのです。

 勿論、私は、今の生活も悪くはない、と思っていますよ。えぇ、多少業腹なことがあろうと、私はあなたを評価していますから……。ですが、この旅が終わり、貴方が輪廻の渦に帰ったあと。あなたは私に永劫の中であなたの記憶を持って過ごすことを強いるのですか?」

 

 しばしの沈黙、恐らくサバサとイリアスは先ほどイリアスが言及したことについて共感できるのだろう。少しの驚愕を浮かべながらも小さく頷くサバサの姿を見ればよく分かる。だが……。

 

「……俺は難しいことは分かんないけどさ、言いたい事は分かったよ。つまり、独りぼっちはかわいそうだから、このまま出られないならここで殺した方がましってことだろ?なら、答えは決まりだ。解決法を考えて考えて、それでもだめならたまもやエルも呼んで考えるんだよ!心が削れるって言うがな、話して、なぞかけした相手が、はいそうですかってすぐに殺しにかかったらそれこそ心が削れるだろ?それにさイリアス。あんたが俺たちとの生活を悪くないって言ってくれたんだ。なら、こいつにだって、悪くない出会いがまだあるかもしれないだろ?」

 

 それを聞いて、イリアスはぽかんと口を開けたまま、しばらく動きを止めていた。

 

「……カズマのくせに生意気ですね」

 

 そう言うと共に、小さい雷撃が俺を襲い、イリアスはそっぽを向いてしまう。

 

「それで、どうするのですか?解決策は何もないではないですか?」

 

「それを今から考えるんだよ。なあ、 あんた、人化とかできないのか?」

 

 俺の言葉にサバサは腕を組んで頭を振った。

 

「覚えておったらとっくの昔にここから出ておるわ。何しろ、旦那様が人ではなく魔物として自分と一緒に過ごしてほしいというのでな。使わずとも覚えておけばこのようなことにもならんかったのじゃが、気が付いた時には地上と連絡は取れず、もはや人化するための方法を知るすべもないというわけじゃ」

 

 そう言って自嘲気味に笑うサバサにイリアスがぽつりとつぶやいた。

 

「なら、教本か何かで人化の術を知る……いえ、何だったら六祖大縛呪を使って……」

 

 イリアスの教本、という言葉を聞いて、俺は少し頭を巡らせる。なんとなく今できること、この二人でできることで考えていたが、別に今解決法が無くてもいいのか。

 

「なあ、イリアス。これって、使えないか?」

 

 そうして見せたのはポケット魔王城だった。

 

「確かに、その魔道具は中に人がいる状態で運搬が可能だったはずです!起動さえできれば、ここでサバサを入れて外で出せば!」

 

「そして、使い方は今クリスが調べてる!いけるぞ!」

 

「ええ、いけますね!」

 

 そうして、二人でサバサを見た。サバサは、力なく肩を下げ、うなだれていた。どことなしか、蛇や獣の顔も落ち込んでいるように見える。

 

「そうか、お主らも、妾を殺してはくれぬか」

 

「死ぬか死なないかは、あんたが決めることだと思う。この世界に絶望したなら、旦那の後を追うなり好きにすりゃあいい。だけど、こんなところで生きてるんだから、心残りもあるはずだ。地上に出て、今の世界を見てからでも、死ぬのは遅くないんじゃないか?……まぁ、尤も今言った方法も、まだ実現できないんだけどさ」

 

 静かに瞑目したサバサは、覚悟を決めた目で俺達を見て、そして柔和に笑った。

 

「よかろう。そこまで言うのなら、お願いしよう。そして、その知恵と心根に敬意を表し、今より妾自信をお主に捧げよう。旦那様への恋慕を除きその全てをお主のために使うことを約束する」

 

 結局、そう言うことになったのだった。




というわけで、キールダンジョンにいたのはスフィンクス娘でした。
もんクエ原作と比べると、竜の試練の試験官でもないため数百年、あるいは数千年間誰とも関われず、ただただ愛した者の亡骸と共に過ごすという地獄かな?という環境のせいでクエスフィンクスよりも精神が病んでいます。
そして、その影響で数千年友達を探し続けたイリアスの涙腺が崩壊しました。そりゃ、軟化したメンタリティと同レベルの経験考えたらそうなるよねって言う。

変更点
・虐げられた姫君を奴隷の少女=スフィンクス娘に変更
・スフィンクス娘に名前を設定(クエ世界ではそのままスフィンクスを名乗っている。本作の名前、サバサはクエ世界においての彼女の末裔たちが名乗っている名前)
・生き残っている方を姫君に変更
・女神様が囚われた者に感情移入して同情するように変更
・囚われた者が生存するルートに変更
・事件がまだ終わっていないように変更


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EP28 サザーランドのおかみの依頼だ!

 ダンジョンから出た翌日、俺は街に繰り出していた。行く先はギルドで落ち合う約束をしたとある店だ。

 

「……で、なんでイリアスが付いてくるんだ?」

 

「ついて来てはいけませんか?それともどこかいかがわしい所にでも行くというのですか?最低ですねこの遅○様」

 

 イリアスは昨日からご機嫌斜めだ。理由は単純。ダンジョンからの帰り道、アンデッドがイリアスによってきているという半ば確定した事実を俺が彼女に告げてしまったからだ。

 指摘以前から若干気付いていたようなのだが、事実陳列罪で雷が落ちたというわけだ。

 

 まあ、とはいえ、こちらからちょっかいをかけなければそれ以上の被害はない。俺はイリアスと共に店の前に立った。

 

「おーい、シロム、いるか?」

 

「……む、カズマか。ああ、いるぞ。ただ、それは生前の名前だ。今はラ・クロワと呼んでくれたまえ」

 

「まあ、いいじゃないか」

 

 そう、俺は以前であったアンデッドの女性、シロムに用があってここまで来たのだ。

 

「ふむ、貴方はここに店を構えていたのですね」

 

 そう言ってきょろきょろと店内を見渡すと、そこにあった椅子にどっかりと腰かけた。

 

「……おや?もしかして、この店は客にお茶も用意しないのですか?なるほど、流石魔物の営む店、野蛮ですね」

 

「おいイリアス!」

 

 窘める俺に、しかしシロムは笑って返す。

 

「いや、構わないよ。確かに彼女には少し待ってもらうことになるんだ。ラディオ、頼む」

 

「カシコマリマシタ、マスター」

 

 そんな声が聞こえると、店の奥から謎動力で浮遊するメイド服のような物を見に纏った小柄な機械少女が姿を現した。

 

 ラディオと呼ばれたその機械少女は、おずおずとイリアスの前にやってくると、手に持った盆から茶を差し出した。

 

「……ふむ、はぁ、なんとも貧しい茶葉を使っていますね。この店の品格が知れるというものです」

 

「おい、イリアス、いい加減にしろよ!……っと、まあイリアスにはあとで話すとして、シロム。来て早々だが、前話した通り、リッチーのスキルを教えてくれない「ちょっと待ちなさい、今何と言いましたか、カズマ」……」

 

 イリアスを無視して話を進めようとしたら、イリアスの方から絡んできた。

 

「聞き間違いですよね?リッチーのスキルを教えてもらう?頭でも打ちましたか?あなたは勇者なのですよ?しかもリッチーのスキル!そのようなスキルを覚えるくらいならば魔界の剣技を身に付けていったルカの方が何倍もマシです」

 

「いや、誰だよルカって。……って、それは良いんだ。そもそもリッチーのスキルなんて、滅多に取れるもんじゃないし、取得できれば結構な戦力アップになりそうじゃないか?現状が戦力不足だってことは、イリアスだってわかってるだろ?俺が勇者とかどうとかってのは戦力がそろってから気にすりゃいい話だよ」

 

 そう言うと、腕を組みながらイリアスは俯いた。

 

「ふむ……女神としては、そのような勇者らしからぬ振る舞いは控えてほしいものですけれど……」

 

 その言葉を聞いて、シロムが眉根を寄せてこちらに問いかけてきた。

 

「女神?強力なアンデッドを浄化した実力と言い、まさか君は本物の女神なのかい?」

 

 あ、まずい。流石にここまでの条件がそろっていて、リッチーなんていう魔法と知恵に優れた種族だと、女神というものを見分けることも十分に可能なのかもしれない。

 

「……まあ、いいでしょう。私は女神、偉大なる創世神、創世の女神イリアスです」

 

「!?……っ!」

 

 その言葉を聞いて、シロムは一瞬でラディオを自分の後ろへと引きずり込み、自身はメスを握りしめてイリアスを凝視した。

 

「お、おいおい、警戒しなくていいって、女神ったって、無差別にアンデッドを浄化しているわけじゃないんだから」

 

「い、いや。イリアス教徒と言えば、排他主義が強く、魔物娘と見做せばすぐさま排斥にかかり、時には同族でさえも差別し貶めるから、あまり関わり合いにならない方が良いというのが世間の常識でな。特に魔物娘たちからは避けられている……。そんな宗教の親玉と聞いて、つい、な」

 

「ちょ、ちょっと待ってください、なんですかそれ、詳しく聞かせてください!」

 

 怒っているわけではないようだが、イリアスはシロムに掴みかかって前後に思いっきりゆすっていた。……いや、俺のスキルの話は?

 

「話が進んでねぇ」

 

 結局、イリアス教の世間一般の評価の話については後回しにしてもらい、この店の商品を見てくるように促して、こっちの話をすますことにした。

 

「……ラディオ、案内をしておいで、何かあったら、大声を出すんだよ」

 

「ハイ、カシコマリマシタ」

 

「っと、すまなかったね。しかし、たしか君たちはあのキメラデュラハンのラデュを倒したんだろう?それを考えると、どれを伝授したものか……。あの人は魔王軍幹部の中で比べても、剣技や呪術の面で高水準にまとまっていたしね」

 

 その口ぶりに、俺は思ったことを口にした。

 

「なんだか、キメラデュラハンについて、詳しい感じだな?もしかして、知り合いだったりしたのか?」

 

「ああ、何しろ、私は魔王軍幹部の一人だからな」

 

「確保―!」

 

「ゴシュジン様!?」

 

 先ほどまで店内を見回っていたはずのイリアスが、いつの間にか目の前におり、シロムを羽交い絞めにしていた。

 

「尻尾を見せましたねリッチー!カズマ!この女を衛兵に突き出せば、借金も払いきれるかもしれませんよ!これはお手柄でしょう!」

 

「待ってくれ、イリアス殿。そもそも私を衛兵に突き出しても無駄だ!私は、まぁ私の特性として死者を生き返らせてしまったことは有るが、それ以外には悪いことはしていない!」

 

 それを疑わしそうに見るイリアスだが、俺に目を向けると完全には腕を解かない者の、ある程度はその腕を緩めた。

 

「私は、魔王軍の関係者と面識があってね。まあ、それほど親密にしていたわけではないのだけれど、その者経由で、魔王城の結解の維持を頼まれてしまったんだ。私は人と敵対するのは避けたかったんだが、ならば結解の維持だけでも、と強く頼まれてな、断れなかったんだ」

 

「それって、あなたがいる限り魔王城を攻略できないということではないですか!」

 

 再び締まる腕に、シロムは少し慌てて答えた。

 

「いや、イリアス、君の力であれば、魔王軍幹部2~3人の結解なら十分に破壊することができるだろう!わざわざ私を倒さなくても、十分に魔王城攻略は可能だ!」

 

「それが、私があなたを始末しない理由になると?」

 

「おいイリアス!」

 

 俺がそう叱責すると、イリアスはやれやれ、と言った風に今度は完全に手を解く。

 

「……はぁ、あなた自身に感謝することですね。私は創世の女神イリアス。約束は守らなければなりません。以前墓地で出会った時に、貴方を見逃しその意識を今後も保つことを認めました。今それを反故にするには、貴方の罪は軽すぎます……。良いでしょう。あなたは最後にして差し上げます。存分に感謝することですね」

 

「ああ、感謝するよ。恐らくそのころには、私の目的も達せられているか……もしくはもはや叶わぬことが分かり切っているはずだ」

 

 そう言って、俺たちはほっと溜息をついたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

 

「……っと、そうだったそうだった。リッチーの技を覚えたいんだったね。それじゃあ、ドレインタッチなんてどうだい?この技は、手のひらで触れた相手の生命力を奪う技だ。吸収効率や有効な使い方なんかはまた話すが早速実践してみようか……ラディオは機械生命体だから耐性がかなりあるしな……イリアス殿、お願いできるか?」

 

「……私の高貴な生命力を奪おうとは、たかが動く死体ごときがずいぶんと調子に乗りましたね。……良いでしょう。そこまで言うならやってみなさい?」

 

 意外なことにあっさり手を出したイリアスの手を掴み、シロムは力を籠め……そして変な顔をする。

 

「……ふむ、こうか?いや、むしろこうして……」

 

 そして、イリアスの手を四方八方撫でまわしながら何やら唸っていた。

 

「……んっ、……あぁっ……」

 

「ちょちょちょ、ストップ、ストーップ!!」

 

 さらに、イリアスが怪しげなため息をつき始めたところで、慌ててシロムを止めた。

 

「何なんだよさっきのは!?」

 

「いや、ドレインタッチをしようとしたのだが、上手くできなくてね。要は相手の生命エネルギーや精神エネルギーを吸収する技だから、相手の警戒を解き、よりエネルギーを取り込みやすいようにマッサージのような事をしたのだが……」

 

「それ、頭に性感ってついてないよな?」

 

 そもそも手だけだが。

 

 まあ、何はともあれこれでは何も始まらないため、もう一度、今度はイリアスにもきっちり言い含めてからドレインタッチを実践してもらった。

 

「と、まあ、こういうものだ。先ほどは吸収の話だけしたが、このスキルの神髄はエネルギーの受け渡しにある。つまり、スキル保持者からエネルギーを他者に受け渡すことも可能なわけだ……。ふむ。なるほど、女神のエネルギーを吸収するとこうなるのか、興味深い……あぁ、なんだか意識が遠く……」

 

「ゴシュジン様、成仏シカカッテイマス」

 

「ちょ、イリアス、手離せ!手を!」

 

 なんとかスキルは入手できたものの、その後はシロムが倒れかけ、それをラディオが受け止めるドタバタ具合だ。

 

 そんなとき、店の扉が勢いよく開き、一人の女性が店の中に入って来た。

 

「ラ・クロワの嬢ちゃん!いるかい?」

 

「え?」

 

 俺たちは、思わずその女性を凝視したのだった。

 

 




 というわけで、2巻分もようやく半分くらい?……とはいえオリジナル展開になりすぎて消費的には1巻の時の倍くらいの分量で消費してますね。まあ、しゃーない。

 というわけで幽霊屋敷騒ぎになりますが、ここも結構変更があります。さて、どうなることやら……。
 因みに本編に明示する気はありませんが、依頼者は題名の人です。

変更点
・リッチーの店に女神が来たのはイレギュラーなことだと変更
・リッチーの店に最終兵器PONKOTUが配備されているように変更
・リッチーが魔王軍幹部だと明かした後の弁明を多少変更
・リッチーがドレインタッチする際の反応を変更
・幽霊屋敷の原因が幽霊でない?ように変更(この世界の女神は邪悪であっても無責任ではないため)
・幽霊屋敷の依頼者を、男性から女性に変更


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EP29 商人の頼み事

「「「幽霊屋敷?」」」

 

 シロムと、ついでにということで俺達も同席して話を聞くと、そんな話が始まった。

 

「ええ、最近の幽霊騒ぎはラ・クロワの嬢ちゃんも知ってるだろうが、あたしが世話してる不動産屋でも起きちまってねえ」

 

「あぁ、話は聞いている。なるほど……そのことだったか」

 

 改めてペストマスクを目深にかぶり直したシロムは、先ほどよりも幾分か低い声で女に対応していた。

 

「……って、ちょっと待て、ここって道具屋だよな?シロ……じゃなくて、ラ・クロワさんになんで依頼の話を持ってきてるんだ?」

 

「おや、知らないかい?ラ・クロワの嬢ちゃんは、ここに店を構える前は凄腕のウィザードとして冒険者や町の者たちの間でも有名だったんだよ。特にアンデッドに対する造詣と対応力は一線を隔しててね。商店街の者は、何かあればラ・クロワの嬢ちゃんに助けを求めているんだよ」

 

 それを聞いて、ラディオが無表情に胸を張っていた。

 

「それよりも依頼の話だったね。詳しい話はまた話すけど、その屋敷で怪異現象が収まらなくてね。どうも悪霊の類がすみ着いてるみたいなんだけど、除霊しても除霊しても、怪異現象が収まらないようなのさ。それで売り払いたくても、屋敷も処分できないと大層困っててね。どうにか怪異現象が収まらない理由だけでも分かれば、対策が立てられるかもしれないんだけど……そうだね、今日はこれくらいにしようか」

 

 そう言うとその女性は話を切り上げた。

 

「どうやらお嬢ちゃんは体調がよろしくないようだしね。来週位にまた来るから、体調を戻しておいてくれると助かるよ。ちょうど、イキのいい従業員も入って来たところだしね。いろいろと忙しいのさ」

 

「いや、私は……」

 

 そう言って立ち上がろうとしたシロムは、しかし少しバランスを崩してその場でたたらを踏んだ。それを見た女性はうなずいて帰ろうとする。

 

「……」

 

「……」

 

 俺がイリアスを見つめると、流石に原因が分かっているからか、イリアスが少しばつが悪そうに座っていた。

 

「……」

 

「……っ、ええ、ええ分かりました!いいでしょう!その依頼、私達が引き受けます!いいですね!カズマ」

 

 結局そう言うことになった。イリアスにも良心の呵責があったようで何よりだ。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺たちがたまも、エルと共に以来の屋敷に行こうとすると、声をかけて来る者があった。

 

「久しいな、カズマたちよ」

 

「クリス!そっちは良いのか?」

 

 声をかけて来たのはクリスだった。クリスは静かに頷き、不敵に笑う。

 

「うむ、商店街の者に世話になってな、結局盗賊ごっこはやめて、奉公修行に出ることになった。それと、例の件も目途がついたぞ」

 

「本当か!あぁ、そりゃ……あー、タイミングがいいのか悪いのか」

 

 苦笑する俺に眉根を寄せるクリス。どうせならと俺はたまも、エル、クリスの三人に今回の依頼を受けることになった経緯を説明をした。

 

「……ってわけでイリアスがラ・クロワの代わりに依頼を受けたんだが、その時の報酬でその家の悪評が消えるまでは住み続けていいって話になっててな」

 

「ふむ、なるほど。商店街からの依頼であったか。それなら余も手を貸そうではないか!先ごろチビ共を預けた借りもある。余の力、存分に使うがよい!」

 

 そう言うと俺の肩に手をかけた。

 

「して、具体的にはどのようにすればいいのだ?」

 

「除霊と怪奇現象の解明」

 

 ピシリと、空気が凍った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「なあ、クリス。俺たちが受けた依頼なんだから、そんなに怖いんなら帰っていいんだぞ?」

 

「なななな、何を言うのだ!私は誇りあるアリス……ではなく、旅のグルメ!約束を破るなどそんな不義理なことができるものか!そ、それに、怖いとはななんだ?だれが怖がっているというのだ?」

 

 明らかに怖がっているクリスだが、邪神の末裔であるプライドからか、一向に帰ろうとせず、結局こんなところまでやってきたのだった。

 

「……おるのう」

 

「おる!?な、なにがいるというのだ!?」

 

 たまもの言葉に敏感に反応するクリスに、追い打ちをかけるようにイリアスが言葉を続けた。

 

「安心なさい、クリス。悪霊ではありませんよ。あれは地縛霊の類です。どうやら生前は熱心なイリアス教徒だったようですね。名前は、”アンナ・フィランテ・エステロイド”皆に愛されるような素直な少女。ただ、現実は非常で、病弱な父親は病死し、母親であるメイドは行方知れず。腫れ物に触るかのような周囲の反応に、自分への愛を感じながらも寂しさを感じていたようです。とはいえやはり子供、少しいたずらをすることは有ったようですね。好きなものは……」

 

「……なあ、あれって本当なのか?」

 

 ぺらぺらとしゃべりだしたイリアスを不審に思い、たまもに問いかけると、たまもは肩をすくめて答えた。

 

「知らぬよ。うちは聖職者でも呪術師でもないのでのぅ。ほれ、うちはあれじゃから、ここに何かいる、というのはなんとなくわかるのじゃが、それが何かとかはようわからんのじゃ」

 

 つまり、狐ならではの勘の鋭さ、という事か。

 

「ただ、そこに何かおるのは間違いない。まあ、恐らく敵意はないじゃろう」

 

 実際にいるのはいるらしかった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺たちは一旦荷物を置き、少しリラックスする。早めに到着したが、異変が起こるのは真夜中だそうだ。だから、今日はここに一泊泊まることになる。

 

「……ん」

 

 ふと、俺は部屋の中を見回した。品のいい調度品に紛れて、精巧な人形がいくつか配置されている。いわゆる西洋人形と言われる人形に近いものだろう。正直精巧過ぎて少し怖いくらいだ。

 

「ここの家の持ち主は、結構そう言うのを集めていたのかもしれないな」

 

 とはいえ、怖いのは怖いので、部屋の中にある西洋人形は壁の方を向かせておく。その後は特に何が起こるでもなく、食事を済ませた後はさっさとベッドに潜り込んだのだった。

 

 そして暫し。トイレに行こうと目を開くと、部屋の隅に置いた西洋人形がこちらを見ていた。

 

「……ん?何でこっち見てるんだ?ひっくり返し忘れたか?」

 

 そう考える俺だったが、違和感がぬぐえない。そもそも、あんな場所に人形は置いてあっただろうか?

 空恐ろしくなって俺はトイレも忘れて布団をかぶった。

 

 なんだか、ザリザリとした音が聞こえる気が……いや、気のせいだ気のせい!俺は目を閉じ続けた。……すると、ふと音が止まる瞬間が訪れた。俺はほっと溜息をつく。あれは気のせいだ、俺がビビッて幻聴を聞いたに決まってる。しかし、それを確信に変えるために、最後に一度だけと決めて、俺は目を見開いた。

 

 俺の目に飛び込んだのは、先ほどの西洋人形が、俺の顔をじっと見降ろしている姿だった。

 

「あああああああああああああああああああああ!?????」

 

 俺は西洋人形を突き飛ばし、屋敷内を走り出した。

 

「イリアス!イリアス様ぁ!助けて!助けてぇ!?」

 

 俺は全力でイリアスの寝泊まりする部屋のドアに突撃し、中に転がり込んだ。そこにイリアスの姿はなく、替わりに巨大で細長い体をした化け物が……。

 

「うあああああああっ!?」

 

「もう、いやだあああああ!?」

 

 混乱する俺達だったが、その声に聞き覚えがあることに気付いた俺は、その声の主に声をかける。

 

「な、なあ、もしかして、クリスか?」

 

「ガクガクガクガク……、ふ、ふぇ?も、もしやカズマなのか?」

 

 ラミア状態のクリスはこちらをちらりと見ると、ハッとして姿勢を正した。

 

「カズマも、ここに来たのだな。うむ、ということは、其方でも、異変が起こったのだな?」

 

「今更取り繕っても意味ないと思うぞ?」

 

「ぐっ……」

 

 俺の言葉にぐうの音の出なかったのか涙目でにらみつけるクリスに、俺は問いかける。

 

「それで、イリアスはどこなんだ?ここ、イリアスの部屋だったろう?」

 

「……どうやらイリアスはここを出て行ってしまっているようだ。たまもの臭いも残っているから、おそらくはこの異変の元凶を探しに行ったのではないか?」

 

 そう言うクリスはぎゅっとシーツを掻き抱いた。

 

「くっ、恥を忍んであの女神の所に来たというのに……何たることか」

 

 そう言うと、引き裂かんばかりにシーツを抱きしめる。

 

「……まあ、お互い大変だよな」

 

 俺も同じ口だから大きなことは言えない。……二人になって安心したからだろうか。忘れかけていた尿意を思い出し、俺はブルリと身を震わせた。

 

「……あーすまん。クリス、ちょっと後ろ向いててくれるか?ちょっと窓から失礼して……」

 

「いやちょっと待て、貴様、何をしようとしている……まさか、一人ですっきりする気ではあるまいな?」

 

 その言葉にクリスを凝視すると、ラミアでわかりにくかったが、人間で言う腰のあたりを小刻みに揺らし、顔を赤らめる姿は、人間でもたまにやるある姿に酷似しており……。

 

「なあ、もしかしてクリス……」

 

「ち、違うぞ!邪神の末裔たる余はトイレなど行かぬ!行かぬが……」

 

「ああ、行かないのか、ならいいよな。うん、どいてくれ、俺はただの人間だからそう言うのが必要なんだ」

 

「まてまてまて!」

 

 俺の言葉にクリスは俺の襟首をつかんで引き留める。

 

「は・な・し・て・く・れ!このままじゃ俺の膀胱がエクスプロージョンすることになるぞ」

 

「何とは言わぬが離さぬぞ!何を一人で気持ちよくなろうとしておるのだ、行くならば余も一緒だ」

 

 邪神の末裔とは思えない良い顔でそう言うクリスに、しかし俺はなおも反駁する。

 

「いやいやいや、ホントで限界だから!何だったらほら、お前にはこの壷をだな……」

 

「な、貴様、今何を言おうとした!まさか貴様余にこれで、用を……」

 

 急に声が止まったことを不審に思い、クリスの視線の先、窓の方を見る。

 

「……ひぇ」

 

 そこには、窓にびっしりと張り付いた人形、人形、人形。恐ろしいほどの数の人形がこちらをのぞき込んでいた。

 

「う、うあああああああああああ!」

 

 俺は呆然とするクリスの手を引いて、全力でその場から退散するのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「な、なあ、カズマ、そこにいるのだな?」

 

「ああ、いるぞ、というか、少し早くしてくれないか?正直おれも限界なんだが……」

 

 人形たちから逃げ出して少し、追手がいないことを確認して、俺たちはトイレに向かっていた。

 

「いや、暫し待て、その、人間用の便器というのは、あまり慣れなくてな。……うむ、これでよいはず……」

 

 不安にさせる言葉を吐きながら、クリスは準備を済ませたようだ。

 

「……」

 

「……」

 

「なあ、少し歌でも歌ってくれないか?その、音を聞かれるのは、ちょっと……」

 

「言ってる場合か!さっさとしろ!」

 

 俺がそう言って扉をドンと叩いたその時だ。……。

 

「?」

 

 なんとなく寒気を感じ、俺はちらりと曲がり角を見た。そこにはじっとこちらを見つめる目が……。

 

「クリス‼クリス!」

 

「な、なああっ!?」

 

 俺はクリスにかまわずトイレのドアをこじ開け、幸い人の姿になっていたクリスを抱えて逃げ出した。

 

「この下郎!ゲス!ドアホ!」

 

「言ってる場合か!後ろ見ろ後ろ!」

 

 視界の先で人形を見た俺は、慌てて近くに空き部屋に飛び込んだ。……だが、万事休すか。扉の前に何者かが集まってくる音が聞こえていた。

 後ろのクリスを見て、俺は心を決めた。

 

「ガクガクガクガク……」

 

 ここは、俺がやるっきゃない!俺はドアを思いっきり開け、そして手を振り回す。

 

「オラッ!人形ども散りやがれ!しまいにゃうちの狂犬女神けしかけるぞオラァッ!!……あれっ?」

 

 そこにあったのは、散乱した人形と、それを弄ぶたまも、そして、なぜかはいつくばっているイリアスの姿だった。

 

「……どうやら、術は解けたようじゃの。何よりじゃ」

 

「じゅ、術?どういうことだ?」

 

 たまもに聞くと、どうやらこの大騒動、幽霊の仕業ではないらしい。

 

「恐らくは魔芸師がおるのじゃろうて。多少は本物がおるのかもしれぬが、少なくとも今動き回っておったのは全て誰かが操っておったまがいものじゃ」

 

 そう宣うたまもの言を聞き、先ほどまでガクブル震えていたクリスがこちらへとやってきた。

 

「……そうであったか。全く、余をこれほどに追い詰めるとは、許しておけぬな」

 

 そう言って、先ほどの怯えはどうしたのかというほどに落ち着き払ってあたりを見回した。

 

「イリアスは……気絶してるな」

 

 見れば、顔に痛々しい縦の跡が付いている。

 

「……」

 

「……」

 

 無言でたまもを見ると、あきらめたように頷かれた。つまり、俺のせいということだ。

 

「よ、よし、イリアスは今まで頑張ってくれてたみたいだし、一足早く部屋で寝ててもらおう、俺たちは、原因を探るぞ!」

 

 俺たちは一旦イリアスを部屋へ返した後、たまもが人形を捕えて確認した、術者の場所へと急ぐのだった。

 

 

 




と、いうわけでホラー回です。
 ここのアークウィザードはどっちかって言うとオカルト系にクッソ強そうなので、女神様と一緒に討伐隊で出張ってもらいました。

 そのせいで割を食う盗賊さんェ……。こいつの対になってる女神がガチで排泄不要な可能性あるから実際排泄不要言い張ってもおかしくないんだよなぁ。(なお実際)

 もんクエやってる人の中には職業で察した人もいると思いますが、犯人は例のちんちくりんです。そして、リッチーがあの人という事は……?

変更点
・依頼を取り下げる理由を変更
・依頼前に盗賊に出会うよう変更
・アークウィザードが何者かの存在を察知


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EP30 あ、野生のクロムが飛び出してきたぞ!

 俺たちが人形を操っていた術者を探して向かった地下。そこは地獄絵図だった。

 

「な、何なんじゃあ!おぬし!」

 

「「「いいじゃないちょっとくらい……じゃなくて、そのいたずらをやめなさい!」」」

 

 それは、見た目こそ黒いナース服を着た紫色の肌をした幼女という、ちょっと異色の存在に対してではあるものの、完全に幼女とそれを追いかけまわす水色の変態の姿だった。しかもなぜかその変態は数が3人に増えている。

 

「お、おぉ!お前たち、この変なスライムを止めるのじゃ!ずっと追いかけまわされて困っているのじゃ!」

 

「あなたが悪いことをしているから捕まえようとしているんでしょう?」

 

「嘘なのじゃ!ならなんでフレデリカの包帯だけが溶けて消えちゃったのじゃ!」

 

 見れば、隅の方に全裸でうずくまっているゾンビっぽい人の姿があった。

 

 というか、エルはエロ同人御用達の装備だけ溶かすスライムだったのか。いや、そんなバカな。

 

 若干エルに対する認識が下方修正されつつも、俺たちはエルに制止の声をかけた。

 

「おーい、エル!そろそろいいんじゃないか?上の人形たちも全部止まったみたいだぞー」

 

「……」

 

「おーい、エル―!」

 

「……」

 

「おーい、エル―!」

 

「……」

 

「おーい、○リコンスライムのエル―」

 

「……っ!分かったわよ!」

 

 四度目の声掛けでやっとエルは追いかけるのをやめ、出していた分身も一つにまとまった。

 

「ふぅ、助かったのじゃ」

 

「……クリス」

 

「バインド」

 

 安心してこちらに近づいてくる少女に対し、クリスに目くばせをするとその意図を察してクリスがさっと少女を捕縛する。

 

「な、なんでじゃあ!?」

 

「いや、勘違いしないで欲しいんだけどさ、俺達、この屋敷の持ち主に頼まれて、怪異現象の原因を探ってる冒険者なんだわ」

 

 その言葉を聞いて、少女の顔がサッと青ざめる。

 

「そ、それは、その、あの」

 

 しどろもどろになる少女に、いっそ安らかな顔でクリスが笑いかけた。

 

「ふむ、話さぬか。良いぞ、話さんで、話したくなるまで、じっくり、たっぷり、余が相手をしてやろう」

 

 そう言って、その笑みを嗜虐的なものに変えたクリスに、少女はすぐに限界を迎えた。

 

「は、話すのじゃ、全部、全部話すのじゃ!!」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「儂の名はクロム、クロム・アルティストなのじゃ。栄えある魔芸三大大家の一つ。偉大なる魔術の深淵を覗く家だったのじゃ」

 

 それを聞いて、クリスが驚愕の表情を浮かべ、そして次にそれが憐みの表情に変わる。

 

「そうか、貴様、アルティスト家の者だったか。アルティスト家は、現在、没落しているのだったな」

 

「なのじゃ。栄華を極めたアルティスト家が没落することなど本来はないのじゃ。じゃが……儂のせいで……姉さまは……」

 

 クロムの口から語られたのは、暗い過去だった。

 素材を求めるために冒険者としても名をはせていた姉について行きそして研究と称してダンジョンのあちこちを調べているうちに、ランダムテレポートの罠にかかり深層に転移。そこにいた機械仕掛けの悪魔と相対した彼女の姉が取った手段は、クロムを再びランダムテレポートで緊急避難させることだった。

 

「儂はるか遠くまで飛ばされ、それでも姉さまなら窮地を脱しておると信じておった。しかし、屋敷に戻ると、そこはもうアルティスト家のものではなかったのじゃ」

 

「……アルティスト家はある時期から当主とその唯一の血縁が行方知れずとなり、捜索の手掛かりすら掴めなかったため、血が断絶したとして取り潰されたはずだ」

 

 クリスの言葉に、俺達は同情の色がこもった目でクロムを再び見る。

 

「じゃが!儂はあきらめぬのじゃ!儂が魔芸を極め、そして再び貴族として返り咲くことで、姉さまの威光も知らしめられるはずなのじゃ!」

 

 その、底抜けに明るい言葉に、しかしから元気を感じ、俺たちは微妙な顔で顔を向け合った。

 

「……その、この屋敷を使ったのは、研究には広い場所が必要だったからなのじゃ。じゃから、その、……ごめんなさいなのじゃ」

 

 先ほどの元気さは鳴りを潜め、項垂れるクロムだが、俺たちの中のクロムを衛兵に突き出そうという気持ちはかなりしぼんでしまっていた。

 

「なあ、どうする?これ」

 

「ふむ……じゃが、放置するわけにもいかんじゃろう?同情できるからと言って、このまま放置していい案件でもないじゃろうし」

 

 そう言う俺達の言葉を聞いて、クリスは腕を組んで答えた。

 

「クロム、貴様は貴族になって何を望む?」

 

「なんでそんなことを聞くのじゃ?……意味が分からぬが、そんなもの、一つしかないのじゃ。アルティスト家の復権。姉さまの威光を世に知らしめることなのじゃ」

 

「その威光と力を使って、貴様は何を成したい?」

 

「……」

 

 立て続けの問いに、クロムはやや黙って、そしてにこりと笑った。

 

「何も、ただ、私の大好きな、シロムお姉ちゃんがどれだけすごかったかを皆に教えたいだけなのじゃ!」

 

 その言葉で、彼女の対応が決定したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おーい、シロム、屋敷の依頼、行ってきたぞ!」

 

「全く、だから私はラ・クロワだと、なん、ど、も……」

 

 シロムの雑貨屋に顔を出した俺達、俺、イリアス、たまも、クリス、そして最後にクロム。その全員を見渡して、シロムはペストマスク越しでも分かる驚愕を全身で表していた。

 

「おねえ、ちゃん、なのじゃ?」

 

「違う」

 

 先ほどとは違う、ラ・クロワと名乗るときに使う低い声が、ペストマスク越しに響く。

 

「いや、お姉ちゃんなのじゃ、儂にはわかる」

 

「違う」

 

「シロム、お姉……「違う!」」

 

 あの穏やかなはずのシロムが激昂して机を叩いた。

 

「私はラ・クロワだ。貴様の姉はダンジョンの奥深くで機械仕掛けの悪魔に殺されたのだ」

 

「……そんなはずがないのじゃ!姉さまは、誰よりも強くて、優しくて、すごい人だったのじゃ!」

 

 その言葉に、シロムはしばし沈黙し、そしてペストマスクを外した。

 

「!やっぱり、シロムお姉ちゃんなのじゃ!」

 

 喜色を浮かべるクロムに、シロムはため息をついてクロムを見つめた。

 

「分からないか?クロム。私はお前に、会いたくないんだよ。こんなこと、私の口から言わせないでくれ」

 

 その突き放した口調に、しかしクロムは妙な納得を伴った表情で姉を見据えた。

 

「お姉ちゃん。やっぱり、そうゆうことじゃったのか。お姉ちゃんの死因は、儂、なのじゃな?」

 

「何を馬鹿な、お前ごときが、私を殺しうるとでも?」

 

 そう言うシロムの声は、しかし動揺に上ずっていた。

 

「なら、お姉ちゃんのお腹を見せてほしいのじゃ」

 

「……っ!」

 

 シロムは思わずと言ったように腹を押さえて後ずさった。

 

「そんなことないって、思っていたのじゃ。きっとお姉ちゃんは無事だって思っていたのじゃ。だけど、だけど、お姉ちゃんがランダムテレポートで儂を逃がしてくれた時、お姉ちゃんの脇腹から、何かが出てくるのを見た気がしたのじゃ。きっとあれは、あの悪魔の攻撃だったのじゃ。

 

 もし、儂が冒険について行っていなかったら……儂をランダムテレポートで逃がそうとしなければ、きっとお姉ちゃんは悪魔も倒して、生きていたのじゃ」

 

「違う!あれは私の不注意が……あ」

 

 思わず出てしまったシロムのその一言は、遠回しにクロムの予想を肯定するものだった。

 

「……はぁ、どうやら私も焼きが回ったようだね」

 

 そう言って、シロムは疲れたように椅子にもたれ掛かり、そして一筋の涙を流した。

 

「……さっきはああ言ったが、本当は、会いたいと思っていた。どうか、生きていてくれと。そして、矛盾するようだが、あの場にいた中で、唯一生死が確認できなかったお前が、どうか私にかまわずに、自分の生を謳歌してくれと、そう思わない日はなかった。お帰りクロム。こうして会えて嬉しいよ。そして、私なんかにかまわず、君は先へ進むんだ。アルティストのためじゃない。私のためでもない。君自身のために。君は進まなくちゃいけないんだ」

 

 その言葉を受けて、クロムは顔を伏せて暫く黙った後、一筋の涙を浮かべながらそれでも満面の笑顔を浮かべて、姉に……否。偉大なる魔芸師、シロム・アルティストに宣言する。

 

「シロム・アルティスト!儂はここに、世界一の魔芸師になることを宣言するのじゃ!そして、この国に、この世界に偉大なる魔芸師の遺志を継ぎ、その思いを継いだ魔芸師としてその威光を知らしめるのじゃ!だから、どこでもいいから、儂のことを、どこかで見ていて欲しいのじゃ」

 

 その宣言にシロムは淡く頷くことで答えたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふう、荷物の運び込み、終わったな」

 

 最後の荷物を屋敷に運び込み、俺は大きく伸びをして新しい住処となる屋敷を見回した。

 結局、怪異騒動の主犯であるシロムを突き出さなかったため、あわや依頼未達成になる可能性もあった今回の事件だが、同行していたクリスの口添えと、後日確認という言い訳で一日滞在したシロムの「今後怪異が起こる可能性は低い」とのお墨付きを用意した結果、依頼は成功、俺たちが無料でしばらく住んでもいい契約が履行されることとなった。

 そして……。

 

「ほうほう、それで、どうするのじゃ?」

 

「ここをこうして、こうなのじゃ!すると、ここがこうなって」

 

「なるほどのう」

 

 のじゃロリ二人が魔芸の術に関して議論を交わしている。結局、最高の魔芸師になることをシロムに宣言したクロムはこの屋敷に引き続き逗留することになった。その理由の一つが、所在さえ分かっていればシロムが万一会いたいときに会いに行きやすいこと、そして、もう一つが……。

 

「カズマ、頼むのじゃ」

 

「おう」

 

 そうして、俺はポケット魔王城を取り出し、ボタンを3回おし、底の台座をぐるりと回す。すると俺とクロムが吸い込まれるように小さくなっていき、気が付けば巨大な禍々しい城。つまりポケット魔王城の前へと移動していた。

 そう、前回の依頼の帰り際に、クリスが教えてくれたことによりとうとうポケット魔王城の利用も可能になったのだ。現在ポケット魔王城は、いろいろと道具を持っているクロムの住居兼物置のように利用されている。

 

 これが使えることになったのなら、サバサも迎えに行ってやらなきゃな、と思いながら俺は久々ののんびりした昼の時間を謳歌するのであった。




 お待たせしました。幽霊改め、野生のクロムちゃんが原因でした。なお、もんクエのクロムちゃんはお金がないという理由で死霊術に手を出していますが、この世界のクロムちゃんはどこかから資金を調達したらしく、魔道人形術に手を出しています。

 あと、作中でも語られていますが、クロムちゃんと出会うことはシロムの目的ではありません。彼女の目的は、ウィズと似た感じです……。ただ、機械の悪魔さん(意味深)から逃げられるかって言うとね……という話もあるので、そこは別行動してた体で行きます。

変更点
・幽霊騒動の原因を変更
・貧乏店主に妹が生える
・貧乏店主の仲間が少なくとも一部死亡している
・見通す悪魔を見通す悪魔(機械)に変更
・貧乏店主の妹が屋敷にすみ着くことに決定
・超絶便利アイテム「ポケット魔王城」の仕様が可能に!(まだ過去の姫君は収容されていない)


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EP31 ベリアは堕落した!

 街を歩いていると、不審な人物二人を見つけ出した。

 

「おい、ベリアとテイラー、こんなところで何のぞき込んでるんだ?」

 

「……っ!っと、なんだカズマか……って、ちちち、違うぞ私は、テイラーがこんなところにいるから止めようとだな!」

 

「いやいや、お前がこんなところにいるから声かけたんだろうが!」

 

 言い合いを始める二人に疑問符を浮かべつつ、俺はとりあえずその先に何があるかを見つめる。

 

「……ん~?」

 

 ピンクのネオンが輝くそれは、蠱惑的な雰囲気を漂わせる……まあ、ありていに言ってしまえばそっち系のお店のようだった。

 

「え?ベリアってああいう店に行くの?」

 

「ち、ちちち違う!ただあそこにはこの街に来る時にお世話になった人がいて……」

 

「下の世話か?」

 

「…///」

 

 冗談交じりに行ったセクハラでベリアが黙り込んでしまった。

 

「え?もしかしてマジで?」

 

 さらに顔を赤くするベリアに野郎二人は顔を見合わせる。

 

「……なんつーか、すまん」

 

「まあまあ、ベリアもお年頃ってことだよ」

 

 そう言って赤くなるベリアを楽しみつつ、俺は頭を巡らせた。

 

「なぁ、もしかしてベリアはその恩人にお礼を言いたいんじゃないか?でも、女性でこんな店に一人で入るのは勇気がいるよな?いいぜ!俺があの店に行く付き添いって感じでついてくれば良い!」

 

「みずくさいぜ、カズマ。そういうことなら俺も手を貸してやる」

 

「あ、いや、その……お願いします?」

 

 俺たちはベリアが正気に戻る前にさっさと店の扉を開き、中に入る。

 

「あら、いらっしゃい」

 

 中で出迎えてくれたのは多少ふくよかな、しかしとんでもない色気を持った女性の悪魔……いや、サキュバスだった。

 淡い紫の紙から生えた耳の上にはその力の強さを示すように巨大な角が二本のび、背中には大きな蝙蝠のような翼、尻にはともすれば植物のツタのようにも見える巨大な尾が伸び、その先端が男を誘うようにくぱくぱと四つに分かれ開閉していた。

 

「あ、ど、どうも」

 

「えぇ、どうもこんにちは。それで、何の御用かしら?まあ、この店に来るなら、理由は決まっているようなものだけれど」

 

 蠱惑的な流し目に、俺は思わずベリアの方を見て言い訳してしまった。

 

「いや、俺たちは、そのこいつが恩人に会いたいって言うから……」

 

「ちょ、待てカズマ、話が違っ!……いや、違わないけど違っ!」

 

 混乱して意味不明なことを話し出すベリアに、何かに気付いたかのように笑みを深くするサキュバスさんはこちらに近づいてベリアの顔を撫でた。

 

「あら、また来てくれたのね。ベリアちゃん。うれしいわ……。あなた達もありがとう。サービスしちゃうわよ」

 

 そう言って微笑むと、改めてと言う風に居住まいを正して店の説明を始めた。

 

「さて、ベリアちゃんから聞いているかもしれないけれど、このお店のことを説明させてもらうわね。

 ここはサキュバスの集まるそう言うお店。あなた達冒険者は馬小屋生活の肩が多いでしょう?だから欲望を発散しようにも、環境がなかなか整わない。

 だからと言ってもし仲間の女性冒険者を遅いなんてすれば……」

 

 そう言って目を眇めたサキュバスさんを見ていると、心臓がドクンと鳴る。どうなるのだ、という視線を受けて、十分なためを作ったサキュバスさんは言葉を続ける。

 

「よくて武の心得のある女冒険者に逆襲され、最悪もん娘に逆レ○プされて金も精もすべて失い枯れ果てて死ぬまでその女性の奴隷となってしまうでしょうね」

 

 その言葉に、ぞっとするものを感じ、俺とテイラーは顔を見合わせる。

 

「だからこそ、私達がいるのです。私たちサキュバスは性の種族。性に長けているという事は、逆に言えば手加減も、手心も思いのままという事。もちろん拒否もしないし、搾り取ることしか考えない他のもん娘とは違う。そして、私達は夢を通じてあなた達の元へと向かうことができる。ほんの少し精気を頂くことになるけれど、それも次の日の冒険に支障がない程度……もちろん、ご希望であれば精も根も尽き果てるほどの快楽も与えられるけど……。

 

 とにかく、この店をご利用のお客様に快楽と明日への活力を与えること、それがこの店の存在意義というわけね」

 

 話が終わったのを見計らって、俺はおずおずと問いを投げかけた。

 

「あの、夢を通じてってことは、もしかして現実とは違うこととかも」

 

「ええ、可能よ。だって夢だもの」

 

「も、もしかして、同じパーティメンバーのあの子とか、アニメのヒロインとかも」

 

「もちろん可能よ。アニメ……というのはよく分からないけれど、夢だもの。認識さえしっかりしていれば……」

 

「例えば、条例に引っ掛かりそうなロ○とかでも」

 

「もちろん、夢だもの」

 

 俺とサキュバスさんはお互いに笑い合い、そして俺は答えた。

 

「で、ですよねー!だって夢なんだから!」

 

「あら、ノリノリね。必要事項があるから、こちらへどうぞ」

 

 そう言うと、たくさん机が並べられた場所へと案内された。見ればたくさんの男たちが自分の欲望を紙に書き記している。……いや、違う!

 

「女が……いる!」

 

「あら、あなたは英雄様じゃない」

 

 そうしてちょうど書き終わったのか立ち上がった女は、あのエヴァだった。

 

「ここは良い店よ。楽しみなさい」

 

 そう言ってすたすたとエヴァは歩いていく。

 

”あいつ、女王様願望とかあるのか”

 

 一瞬見えたクィーンの文字を見て少しどぎまぎしつつ、俺は自分の契約票を作成するために机に座ったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 サキュバスのお店によった夜。今日来るサキュバスの出張サービスに、俺はドキドキしながら屋敷で待機していた。

 

「口臭大丈夫か?それに、身体もよく洗っとかないと……いや、夢の中だから問題ないのか?あと、泥酔しないようにお酒は控えて、さっさと寝ること、だったよな」

 

 そう言う風に考えていると、すごくはしゃぐたまもの声が思考を遮った。

 

「カズマカズマ!早ぅ降りてこい!すごいのじゃぞ!」

 

 それを聞いて降りてみると、そこにはとても立派なカニが食卓を占拠していた。

 

「おぉ!カニか。こりゃすごい……が、どうしたんだ、これ」

 

「実家から私宛に送られてきたのよ。世話になっているパーティの皆様で召し上がってくださいって。ついでにお酒もあるわ」

 

 そう言うエルの言葉に、全員が歓喜の声を発した。おずおずと食卓に座り、早速カニに手を付け、食べ始める。プリプリのカニは霜降り赤ガニというようで相当な高級品らしい。少し火であぶった後に、足を折って身を取り出す。

 

 !!こりゃすごい。取り出すととてもいい色つやの身がぎっしりと詰まっている。恐る恐る口に運ぶと、電撃が走った。これはうますぎる!思わず次のカニの足に手が動く。

 そうして3つ目の足に手が行こうとしたとき、クロムがその手に待ったをかけた。

 

「待つのじゃ、皆の者。折角いい酒もあるのじゃ。ここは儂が、この霜降り赤ガニと酒の、本当に美味い楽しみ方を教えてやろう!まずはこのカニ味噌を酒と合わせて……火であぶって……、そして、こうじゃ!」

 

 その冒涜的な所業に、そして、それを飲み干した後のクロムの恍惚の表情に、思わず俺たちの喉もゴクリと生唾を飲み込んだ。……これは、分かる。絶対に旨い奴だ。しかも、一度手を付けたらもう止まることなどできないほどに!あぁ、どうして今日なのだ!今日でなければ思う存分この美味を堪能できるというのに!

 

 この食事を楽しみ、泥酔するべきか、それとも食べずに済ますべきか。そう葛藤する俺に心配そうにイリアスが声をかけて来た。

 

「どうしたのですかカズマ?先ほどから手が止まっているようですが……?もしや、なにかありましたか?あなたは私の大事な眷属なのです。何かあったらすぐに言うのですよ?」

 

 その言葉に、俺ははっとしてイリアスを見つめ返す。そうだ、何を考えていたんだ俺は。一番大事なのは仲間、そうに違いないじゃないか。今日はサキュバスのことなんて忘れて、この時間を楽しもう。それでいいじゃないか!

 

 そう思い、俺は全員を見回して、一言。

 

「じゃ、俺は先に寝るから」

 

 ……欲望には勝てなかったよ。




 今日は筆が乗っているので早めに投稿します。

 今回から某決戦兵器対策前の卑し枠、サキュバスデリバリー編(超短編)です。
 なお、店にいるサキュバスさんが誰かはご想像にお任せします。正直今でもちょっともったいないと思うところもあるので明言はしません。
 あ、ベルアちゃんはあの後無事にお召し上がられました。

 変更点
・不良冒険者が店に入ることをためらう(性別の違いから)
・店長サキュバスと不良冒険者が知り合い
・機織り職人をクィーン○○。○○に変更(性別の違いから)
・お酒の飲み方を女神ではなく貧乏店主の妹がレクチャー

 今回も終わりが近づいてきたのでアンケートを置こうと思います。


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EP32 クロムは混乱している!

 夜、静寂があたりを包む中、俺は湯船に浸かってのんびりしていた。

 

「はぁ~、いい湯だなぁ」

 

 こうして浸かっていると日々の疲れが抜けていく、よう、で……。

 

 ……どうやら、あまりの心地よさに意識を飛ばしていたようだ。気が付くと電気が消え月明かりのみが浴室を照らしていた。そして……。

 

「ふぅ、疲れた時には風呂が一番なのじゃ……まあ、フレデリカがおるとうるさいからそこは嫌じゃ、が……」

 

 おい、なんでクロムがここに……と思ったが、確かに俺は先ほど意識を飛ばしていた……つまり、これは夢!

 

「な、ななななな、なんでじゃ!?」

 

「クロム、こっち来いよ?」

 

 俺はキメ顔でそう言う。

 

「な、何を言っておるのじゃカズマ!いや、おかしいじゃろコレ、おかしいよな?」

 

「いやいや……でもなんでクロムが出て来たんだ?確かに世間知らずのお嬢様って書いたし、お前は没落したとはいえ貴族令嬢だから当てはまってはいるけど……まあ、いいや、早くこっちに来て背中流してくれ」

 

「な、なんでお主はそんなに堂々としておるのじゃ!これ儂がおかしいのか?」

 

 慌てるクロムに、俺はあきれつつも言葉を続ける。

 

「おいおい、無知設定にしてもちょっと凝りすぎだって、寒くなってくるし、早くしてくれよ」

 

「え?これ、儂がおかしいのか?いや、え?」

 

 そう言いつつも、クロムはおずおずと俺の目の前までやってきて背中に手を当てる。

 

「えっと……」

 

「早く洗ってくれ。はよう!はよう!」

 

「わ、分かったのじゃ」

 

 ペタペタと触れる小さな手に心地よさを感じながら、俺は背中をクロムに預ける。

 

「うう……儂は偉大なるアルティストの血族……何じゃったら、お姉ちゃんがその身を偽っているいま、当主と言っても過言ではないのじゃぞ?こんなことをしていては……」

 

 そう言うクロムは、しかし俺の言葉に促されるように、ぎこちなくその手を背中に滑らせる。

 

「ああ、良い感じだ……。今度は、その胸を使ってくれよ」

 

「……な、なななな、なにを言うとるんじゃ!流石にそれはおかしい!おかしいのじゃ!」

 

 そうイきるクロムに、呆れて俺は振り返る。

 

「もう、そういう小芝居はいいからさ、あぁ!もし小さいのを心配しているっていう話なら大丈夫だ!俺は小さいのも良いと思うぞ!」

 

「な、ななななな、あ、ああああ……」

 

 もはや言葉を発しなくなったクロムに、俺は少し違和感を抱きつつ、しかしこれを趣向を変える機会ととらえた。

 

(……そうか、世間知らずのお嬢様を、俺がきれいにしてやるってシチュもありか……)

 

 俺はそう思い直し、そしてクロムに手をかけようとしたとき……。

 

 ドゴン!と玄関の方から凄まじい音が鳴り響いた。

 

「おいおいおい、何だこの音」

 

 こんなことで俺のお楽しみの時間を不意にされてはたまらない!俺は呆然とするクロムを置いてタオル一枚で玄関へと走っていった。

 

「てめー!時間考えろ!一体何があ、った?」

 

 俺が視界に捉えたのは、イリアス、たまも、エルの姿と、紫髪の小さな少女の姿だった。その少女は頭に小さめの角が生え、背中には蝙蝠を思わせる羽が、尻には逆ハート型の尻尾が生えている。

 

「え……?(あそこにいるのは、サキュバス?なんで?)」

 

「おや、カズマ、来ましたか……って、なんて格好をしているのです。あなたの変態性は置いておいて、早くここから去りなさい。下級とはいえ淫魔に裸同然の格好で相対するなど、搾り取ってほしいと言っているような物ですよ」

 

「全く、人形騒動の後は下級淫魔が忍び込んでくるとは、この屋敷には何かそう言う因縁でもあるのかのう?」

 

 その理知的な言葉に、俺は己の勘違いを確信し、各々の得物を握りしめる仲間たちの前に立ちはだかった。

 

「……何のつもりですか?カズマ。まさか、下級淫魔に魅入られでもしましたか?」

 

「……ふむ、多少きついお灸をすえねばならぬかのう?」

 

 イリアスとたまもの目が吊り上がる中、それでも俺はサキュバスの少女を目に収めることなく声をかける。

 

「ニゲロ」

 

「……ガクガクガク。だけど、私が逃げたら、あなたが……」

 

「ニゲロ」

 

「……ガクガク」

 

 震えが止まらない少女を後ろに庇いながら、俺は不倶戴天の決意で少女の前に立ち続ける。

 

「気を付けるのじゃ!カズマは、そのサキュバスに操られておる!先ほども儂にいやらしい命令を!」

 

「……なんですって!?」

 

 それを聞いて、静観していたエルが剣呑な空気を纏う。

 

「ロリに手を出すとはうらや……許せないわ!ぶっころしてやる!」

 

「ハヤク……ニゲロ!」

 

 そう言うと、俺は仲間たちに向かって飛び出した。俺の決意が変わらないうちに、そして、俺の招いた不始末で彼女が討伐されないために!

 

「ショウ、ワッツ!!」

 

 こうして、俺と彼女たちの戦いが幕を開けたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

「……なあ、本当に何も覚えておらぬのか?」

 

 俺が庭にある石碑近くで草むしりをしていると、そんな声が降り注いできた。

 因みに石碑につづられた名前は「アンナ・フィアンテ・エステロイド」ここを例のおかみさんから借り受けるときに、どうか墓の世話をして欲しい、と教えられたこの屋敷に住んでいたらしい元住人の墓だった。なんでも冒険の話が好きだったそうで「冒険者なら、冒険の話を屋敷ですれば、天国でこの子も喜んでくれるさね」と笑うおかみさんの顔が印象的だった。

 と、そんな感傷もそこそこに、俺は声の主に振り返る。

 

「何も覚えてないってのは、昨日の話か?ああ残念なことにさっぱりだ」

 

 俺はサキュバス騒動で彼女たちに襲い掛かってからモノの五分もかからずに伸され、そのままボコボコにされたのだが、良い感じにサキュバスに操られている、というのを皆信じたため、その勘違いを利用させてもらい、そのまま「操られて記憶を失った」ことにした。真実を話しても波風が立つだけだ。利用させてもらおう。

 

「む、むぅ」

 

 あんまり納得していなさそうなクロムだったが、しかし俺がしらを切ればそれ以上の追及はできない。

 

「だけどさ、そもそも、聞いた話、お前インプの家系なんだろ?下級とはいえ淫魔に連なる一族なんだから、たかが男の体洗ったくらいで大げさだぞ」

 

「儂は研究一筋でそっち方面には疎いのじゃ!というか、お主、本当に記憶がないんじゃろうな?なぁ!」

 

 そんなにぎやかな声を聞きつつ、緩やかに時が過ぎていく。

 

”緊急!緊急!ギガントウェポン警報!ギガントウェポン警報‼現在古代兵器ギガントウェポンがこの街へ接近中です!冒険者の皆さんは装備を整えて至急ギルドに!そして、住民の皆さんは直ちに避難を開始してください!”

 

 そんなすべてをぶち壊す声が聞こえるまでは……。

 




お待たせしました。サキュバス編後編です。

if 原作準拠なら

エル「はあ、ちょっと汚れちゃったわね。あら、カズマ。入ってたのね」

カズマ「(なんか反応薄いな)俺の背中洗えよ」

エル「……まあ、それくらいならいいけど」

カズマ「(なんか反応薄いな)胸触らせろよ」

エル「……はい」ズポッ

カズマ「ぎゃああああ!?手が、手がああああっ!!」

 強酸による化学火傷END
~~~~~~~~~~~~~~~
if アークウィザードなら
たまも「くぅくぅ。風呂は良いものじゃのう……ん?おお、すまなんだ!もうカズマが入っておったか。うちはあとで出直すゆえ、ゆるりと過ごすがよいのじゃ」

カズマ「……こっち来いよ」

たまも「……ふむ、どうやらうちの耳が悪くなったらしい。うちは聞こえておらぬよ。うむ」

カズマ「こっち来いよ!洗えよ!こちとら待ちわびてんだよ!」

たまも「……カズマ。少し黙りおれ」

カズマ「なっ……(死ーん)」

…………

カズマ「はっ!?」

書置き”つぎはないのじゃ たまも”

 何とか許されたEND

~~~~~~~~~~~~~~
if 女神様だったら

イリアス「ふぅ、やはり湯あみは良いものですね……おや、そこの下郎、今から私が入浴をするのです。早くこの湯から立ち去りなさい」

カズマ「いや、俺が最初に入ってたじゃん!?」

イリアス「……それもそうですね、やはり私には一番風呂がふさわしい。そう言うことですね。いいでしょう。ならば、カズマ、貴方は私のために風呂を徹底的に磨きなさい」

カズマ「なんでそんなことしなきゃいけなんだ!そして、さっきから思ってたがちょっとは恥じらえよ!隠せよ!」

イリアス「?いや、だってここには、私とあなたしかいませんし?下男程度に見られたからと言って、何になるというのですか?」

カズマ「さっきから下男下男うるせーよ!ああ!分かったよ!なら俺がお前を何とかしてやるよ!」

イリアス「裁きの雷」

カズマ「ぎゃああああああああああ!?」

イリアス「……ふう、仕方ありませんね」

…………

カズマ「……はっ!」

イリアス「目覚めましたか、カズマ。ここまで運ぶの結構大変だったのですよ」

カズマ「あ、あぁ、ありがとう?」

イリアス「まあ、その過程で、エルとたまもに今回のことを話したわけですが」

皆「覚悟は良いですか(かの)?」

カズマ「ぎゃああああ!?」

 みんなでお仕置きED

 みんな動揺しそうにないのでよそ者であるクロムちゃんを使いました。


 変更
・セクハラ相手をクルセイダーから貧乏店主の妹に変更
・サキュバスをサキュバス三姉妹の一番震えてる子に変更


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EP33 ギガントウェポン‼

 俺たちが急いで屋敷に戻ると、慌てた様子でイリアスが荷物をまとめていた。

 

「イリアス、何してるんだ?早くギルドに行く準備をするぞ!」

 

「何って、避難の準備に決まっているでしょう?……まさかと思いますが、貴方、ギガントウェポンと戦う気ですか?正気を疑いますよ」

 

 そう言って信じられないものを見るイリアスに、俺は不満と共に疑問を漏らした。

 

「だから、そのギガントウェポンってのは何なんだよ!」

 

 その問いに、横合いから言葉が帰ってくる。

 

「ギガントウェポンとは、古代の兵器じゃ。はるか昔人間の科学者が、魔物娘たちの力を研究し、掛け合わせ、そして生み出した狂気のキメラと魔道工学と魔法化学の最高峰。その力は大地を割り海を燃やし、そしてただのエネルギー補給のみで村一つが地図から消えるという。ひとたびそれが通ればイリアス教徒以外塵一つ残らぬというほどの最悪の大物賞金首じゃ」

 

 そう言ってあきらめたように荷物をまとめるたまもに、しかし俺は言葉を続けた。

 

「爆裂魔法で倒せないのか?」

 

「無理じゃな。あれには膨大な魔法防御結解が張ってあるそうじゃ。一発や二発なら容易に防ごう。それどころか、結解を突破しても一発で破壊できるかと言えばそれも怪しいじゃろうな。せめて二発……欲を言えば三発は欲しい」

 

 そう言うたまもに、げんなりしたイリアスが合いの手を入れた。

 

「……やはり、この世界のイリアス教徒の扱いはひどすぎませんか?……まあ良いでしょう。いえ、本当は認めたくありませんが、良いことにしましょう。早く逃げますよ」

 

「いや、待てよ。というか、クロムとエルはどうしたんだ!」

 

「クロムは、フレデリカと一緒に屋敷の地下に行きましたよ。エルは自室に飛び込んでいきました」

 

 あぁ!どいつもこいつも!せっかく屋敷を手に入れたのに、簡単に逃げ出す準備に走りやがって!

 それに、屋敷だけじゃない。行きつけの店も増えて来たし、なによりも俺は昨日失敗してしまったあのサービスをまだ受けていないのだ!

 

「遅くなったのじゃ!……どうしたんじゃ、カズマ。早うギルドに行くぞ」

 

「ごめんなさい、遅くなったわ。何しろあまり使わないものだから」

 

 少しイラつきながら振り返った俺は、一瞬怒りを忘れて呆然としてしまった。それはやってきた三人が少々突飛な出で立ちだったからだ。

 

「……まずクロム、その、フレデリカさん?はどうしたんだ?」

 

 そこには、両肩に砲台を搭載したゾンビ、フレデリカの姿があった。

 

「これはフレデリカの決戦装備じゃ!動きがちょっと鈍くなるのと、フレデリカに負担がかかるから普段は使っておらんが、あのギガントウェポンと相対するとなれば最低この程度は必要じゃろう!」

 

 そう言って胸を張るクロムにマッドの片鱗を感じつつも、まあ、戦う気があるのは良いことだ、ととりあえず良いことにして、エルの方に視線を向ける。

 

「えっと、エルさん?その折れ曲がった魚は一体?」

 

「これは、わが家の家宝にして武器、エンジェルおさかなメランよ」

 

「はい?」

 

「エンジェルお魚メラン。天使の力を宿したおさかなブーメランね」

 

「……」

 

 俺はたまもを振り返る。

 

「……ふむ、これはなかなか良い武器じゃのう。家宝というだけあるわい」

 

 この世界の住民的にこれは武器らしい。俺は再び頭を抱えた。

 

「って、何をしているの?早くギルドに行くわよ。そして、いたいけな子どもたちの未来を救うの!」

 

 俺は悪くないと思いつつ、急いでギルドへと向かったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺たちがギルドに着くと、既に多くの冒険者たちが集まっていた。というか、顔なじみは大体いる。何だったら、避難したはずの一般人や教会の神官たちまで数人混ざっていた。それもこれも、前回のキメラデュラハン戦での総力戦と、街を愛する心ゆえだろう。

 心なしか男の比率が高い気もするが、まあ気のせいだろう。

 

「おお!女神イリアス様!会いたかったです!」

 

 俺が気付く前にミツルギがやってきてしまった。自分で蒔いた種なので、イリアスに処理してもらうことにして、俺は受付の方を見る。

 おい、イリアス、そんな恨みがましい眼で俺を見るな。そろそろ話が始まるだろ。

 

「お集まりの皆さん!本日は緊急クエストにお集まりくださり、ありがとうございます!ただいまより、古代兵器ギガントウェポン討伐の緊急クエストを行います!この依頼はレベルも職業も関係なく、全員参加でお願いします。もし討伐に失敗した場合はここにいるメンバー全員でこの街から脱出し、逃走することになります。あなた達が、この街の最後の砦です。どうか、よろしくお願いします!」

 

 そう言うが早いか、職員たちがテーブルを寄せ集め、会議室のようにセッティングし直した。

 そこから感じられる空気は非常に重たく、緊張感が半端ない。

 

 それにしても、と俺はギルド内を見渡した。あたりには、人、人、人。いったい何人いるというのだろうか。いくらギルドが広いと言っても100人ではきかない人数が集まっているとどことなく手狭だ。

 

「それでは、ギガントウェポン討伐の作戦会議を開始します。席についてください」

 

 そうして、皆が席に着いたことを確認して、ギルドの職員さんが声を上げる。

 

「それでは、現状から説明をしますが……その前にギガントウェポンについて説明が必要な方はいますか?」

 

 その言葉に俺含め数人の冒険者とその数倍の一般人の手が上がる。……というか一般人に関してはほぼ全員が手を上げている。それを見て、職員は大きく頷いて言葉を続けた。

 

「古代兵器ギガントウェポンは、魔物娘と人間が共存していた町、レミナにおいて研究されていたとされる超強力なキメラであり、巨大ゴーレムです。時の邪神の巫女による多額の支援があったとされ、その額は小さな国の国家予算にも匹敵したと言われています。その大きさは巨大で、人工生命体であるキメラでありながら、内部には居住できる空間があり、小さな山と同じ程度だという目撃証言もあります。見た目は巨大な六対の足を持ち、背にびっしりと金のとげが生えた獣の胴体に、巨大な女性の上半身と無数の触手を纏った姿をしています」

 

 ギガントウェポンはよほど有名なのだろう。冒険者たちは、そんなことは知っていると、静かに頷きながら話を聞いている。

 

「特筆すべきなのは、その巨体と進行速度、そしてそんな規格外の能力を持ちながら、ある程度の知性を有しているところです。その移動速度は非常に早く、その巨体に立ちはだかるだけでひき殺されてしまいます。そして、その体には世界最高ともいわれていたレミナの魔道科学の粋を集めた魔法結解が常時展開されています。これにより、魔法攻撃はまず意味を成しません」

 

 その言葉を聞いている冒険者の顔がだんだんと青ざめていく。それだけ部の悪いかけということだ。

 

「ですので物理攻撃、と言いたいところですが、小山ほどの相手です。サンドワーム娘さんや巨竜娘さんが止めようとしたこともありましたが、一度ぶつかられただけで吹き飛ばされてしまったそうです。同じ小山ほどの巨体を持つ彼女たちでさえそうなるなら、私達がそれを受ければ……いえ、これ以上はやめましょう。それに、現在はギガントウェポン側も彼女たちを無視して進行してきます。速度はギガントウェポンの方が早く、防衛にはほぼ役に立ちません。

 一方、投石に関しても、体の表面が魔道金属を組成の基礎としているため生半可な攻撃ではびくともしません。弓の特異なエルフ族の助力を頼んだり、動きを止めるためにクモ族の糸を吐きかけたりしましたが、それらが効果を結ぶことは有りませんでした。

 また、飛行する魔物や魔物娘対策にか、身体についている大量の触手はかなり伸縮自在で、まともに攻撃できる場所まで向かうことはできませんでした」

 

 ……。

 

「そして、ギガントウェポンが暴走した理由ですが……これは、研究開発を担った責任者がギガントウェポンを乗っ取った、と言われています。そして、今でもギガントウェポンの内部で指示を出している、と言われています。

 速度が速度ですので、今もって荒らされていない場所などほとんどなく、姿を見せれば町を捨てて逃げるよう各地でマニュアルが組んである。と天災扱いされているのが、古代兵器ギガントウェポンという兵器なのです。

 そして、現在ギガントウェポンは北西方向からこの街にまっすぐ進行中です。何か意見のあるからは、積極的に意見をお願いします」

 

 そう投げかけられても、冒険者たちは沈黙を貫いていた。はっきり言って無理ゲーだ。

 

「あの、たまもさん、どうですか?」

 

「うぇ!う、うちか?む、むー。正直な話、うちの爆裂魔法でも障壁に穴をあけることすら困難じゃ。はっきり言ってお手上げじゃよ。……じゃが、そうじゃな。例えば各地に連絡して、サンドワーム娘や巨竜娘なんかを大量に呼びつけて、街を囲うというのはどうじゃ?ギガントウェポンはそ奴らを避けるのじゃろう?」

 

「残念ながら、小規模ですが実践例があります。なんでも貴族の避難場所の周囲を取り巻く形で二人配置したことがあったようで。その場合は魔物娘ごと張り飛ばしていったようです」

 

 そう言った言葉に、たまもはだろうな、と言った風におとなしく後ろへ下がった。

 しかし、たまもの口から突拍子のない言葉が出たからか、他の冒険者からもぽつぽつと意見が飛び出し始めた。

 

「その、レミナって町はどうなったんですか?作った国だって言うなら、対抗策だって作れたりしないですか?」

 

「レミナは、ギガントウェポンの暴走の最初の犠牲者となり、滅びました」

 

 そう言うと、今度は神官風の男が手を上げる。

 

「なら、大きな落とし穴を掘ってみるとか」

 

「ギガントウェポンは、多少の知能を有します。我々が何人で取り掛かろうと、逃げる動作へ移行する前に脱走不可能な深さの落とし穴を作るのは不可能です。

 また、土の精霊ノームの協力により、半径数十メートル規模の大地の真下を空洞化させた落とし穴を作り、そこに落とす作戦を行ったことがありましたが、残念ながらその時も六本の足で全力ジャンプをすることで落とし穴から脱出しています」

 

 少しの沈黙ののち、次の冒険者が手を上げた。

 

「なら、魔王軍の奴らはどうしてるんだ?さっき無差別に攻撃するって言ってただろ?なら、あいつらも困っているんじゃないか?」

 

「……残念ながら、魔王軍は被害に会っていないようです。強力な魔力結解が張ってあり、ギガントウェポンと言えども侵入は困難なのでしょう。そして、魔王軍はギガントウェポンの破壊には興味がないようです。野良の魔物が襲われるのは軽微な損失とでも思っているのでしょうね」

 

 そう言うと、職員は静かに俺達を見て、続けた。

 

「他に、意見はありませんか?」

 




 先週は熱でぶっ倒れて投稿できませんでした。例のあれです。

 アンケートはIFアクアが大多数ですね。了解です。⑵を描くかは反応次第で。

変更点
・クルセイダーの武器が例の意味不明武器
・ギルドの古代兵器対策にアークウィザードがご意見番として期待されている。


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EP34 ギガントウェポン迎撃作戦!

 あーでもないこーでもないと話を重ねた俺達だったが、一向に結論はまとまらなかった。なにしろ相手が相手だ。

 

 例えば落とし穴はダメでも泥の底なし沼ならどうか、という意見に関しては、そもそも誰がそれをするのか、そして、以前雪で似たようなことをして失敗したと意見が出て黙り込み。

 植物系のモンスター娘にツタで拘束してもらおうと提案すれば、危なすぎるうえに恐らくギガントウェポンを止めるには強度が圧倒的に足りないと言われてしまい口をつぐまざるを得なくなっていた。

 

 なるほど、確かに厄介で、イリアスとたまもが逃げるのもわかるというものだ。

 今もクロムが唾を飛ばしながらフレデリカでヒット&アウェイすると豪語しているが、失笑されていた。

 

 そんな中、意見も出尽くして暇になったテイラーが俺に声をかけて来た。

 

「なあ、カズマ、カズマは結構知恵が回るし、何とかなるような手は思いつかないのか?」

 

 突然の無茶振りに、俺は嫌な顔で答える。そもそも、俺だってたまもの爆裂魔法で吹っ飛ばしてもらおうと思っていたくらいで、それも結界があって上手くいかない。

 ……結界?

 

「なあ、イリアス。お前って、魔王城の城の結界でも、力が弱まれば解除できるんだよな?なら、ギガントウェポンの結界も解除できるんじゃないか……って、なんだこれ!?」

 

 気が付けばイリアスの前にはそれはそれは見事な砂絵が完成していた。

 

「おや、カズマ。そうですね、結界を解除ですか……。少なくとも、封印される前の私なら片手間で可能だったでしょうね。現在でも苦手とはしていません。シロムの目算が間違っていないのならば、可能性は低くはないと思いますよ」

 

 そう言いながらイリアスは砂絵を只の砂の塊に戻していってしまう。

 

「あぁ、もったいない」

 

「……ただの手慰みです。この程度ならいくらでも描けますよ。凡愚」

 

 そんな風に言っていると、ギルド職員が身を乗り出してイリアスに顔を近づけた。

 

「ギガントウェポンの結界を破壊できる!?それは本当ですか?」

 

「落ち着きなさい。えぇ、できるかどうかは分かりません。ですが、全く勝ち目が無いのと、少しは勝ち目が出てくるのでは、かける手は決まっているでしょう?」

 

 そのイリアスの言葉に、職員は頭を下げた。

 

「ええ!お願いします!」

 

 そう言った職員の姿に、しかし冒険者たちは依然暗い顔であたりを見回していた。

 

「しかし、結解が壊れたとして、誰が攻撃するんだ?生半可な呪文は無意味なんだろ?」

 

 その言葉でしんと静まり返った中、誰かが言葉を発した。

 

「いるだろ。この街にも、頭のキレるやつが」

 

「そうだな、よく冴えわたるキレた頭の奴が一人いる」

 

「よく切れる頭の子が、確かにいたな」

 

「ちょっとまて、その略し方じゃと、なんか怒りやすい子みたいに聞こえるからやめぬか!」

 

 そう言って冒険者を止めたたまもは、ため息をついて続けた。

 

「残念じゃが、一撃ではあのギガントウェポンは倒せぬ。二人、欲を言えば三人は欲しい」

 

 そうタマモが言い、皆が誰か凄腕の魔導士はいないものかと考えたところで、ギルドの扉が開く音がして誰かが入って来た。

 

「すまない!雑貨シルク・ドゥ・クロワのラ・クロワだ!冒険者の資格も持っているため、微力ながら力添えしに来た!」

 

 それはクロムの姉、シロムであった。そして、シロムの登場に、冒険者たちが沸き上がる。

 

「貧乏店主さんが来てくれたぞ!」

 

「これで、これで勝てる!」

 

 湧き上がる冒険者たちに呆然としていると、それに気づいたベリアが声をかけて来た。

 

「あぁ、ラ・クロワ殿は上級魔導士としてかなり有名だったんだ。引退後一時期姿を見せなかったんだが、結局この街に落ち着いてな。ああ、貧乏店主っていうのは始まりの街であるここで、上級のポーションなんかを売っているからだな。いくら品が良くても初心者の街では売れないんだ」

 

 そんな話をしている間に、シロムはギルド職員に連れられて、今までの話を受けていく。

 

「ふむ……それでは、足を狙った方が良いだろうな。それと、クロム。他にも人形師がいれば足止めを頼む。左右の足を我とタマモで狙う……だが、できればもう一つ欲しいな。恐らくそこまで行けばギガントウェポンも撤退するだろうが、討伐は無理だ。我らが足止めした後に頭を狙えるような存在がいれば、一気に討伐まで持って行けそうなのだが……」

 

「とにかく、撤退まで行けるのなら十分です!早速準備しましょう!」

 

 そう言う職員の声を聞き、一人の冒険者が視線を集めた。それは、以前の実績によるものだ。

 

「う、うちが仕切るのかの!?え、ええい!わかったのじゃ!緊急クエスト!開始じゃ!」

 

 たまもの一言で、冒険者たちは歓声を沸かせたのであった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そんな作戦会議を経てすぐ、俺、イリアス、そしてシロムはケンタウロス娘に背負われてキールダンジョンに急いでいた。

 

「イリアス!本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「えぇ!スフィンクス娘は、はるか昔から生きる強力なモンスター娘です!超古代の魔法を覚えていてもおかしくありません!」

 

 そう、時間が合わずいけていなかったサバサを今の段階で迎えに行っているのだ。

 

「今回帰りはシロムのテレポートになる!ケンタウロスの二人に関しては、悪いけど走って帰ってほしい」

 

「分かっているさ」

 

 そう言うケンタウロス娘たちに別れを告げ、俺たちは再び迷宮に入っていく。

 そして数分後。俺たちの背後には無数のアンデッドがついて来ていた。

 

「……リッチーやべーな」

 

 そのアンデッドたちは、元々敵だったはずのアンデッドだ、だが、イリアスに釣られてできた彼らは、リッチーの威光の前に降り、膨大な数のアンデッドの兵として俺たちの後をついて来ていた。

 

「死者を冒涜するようだが、彼らも街の防衛に出てもらおうか」

 

「安心してください。町の防衛で滅んだアンデッドは、私が祝福し、良き輪廻へ向かえるように導きましょう」

 

 別の意味ではあるが、両者とも死者のエキスパートの二人である。仲間が増えることは有っても戦いは無く、あっさりとサバサのところまでやってきた。

 

「サバサ」

 

「……ん、おう、カズマではないか……。まて、カズマ、お主が来たという事は、まさか……」

 

「そのまさかだ。それと、ちょっと困ったことも起きててな」

 

 俺が手短に説明すると、サバサは薄く微笑んで答えた。

 

「よかろう。妾はお主の物。我が秘術、お主のために振るおう」

 

 そう言ったサバサと、ついでにアンデッドの大群を収容し、俺たちはテレポートで街へと帰ったのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 サバサや大量のアンデッドの出現にいろいろと戸惑う冒険者の姿もあったが、シロムの人望と、そもそもそんなことに関わっている時ではないというたまもの鶴の一声で速やかに配置に着くことになった。

 進行してくるであろう方面に大量のアンデッドの軍勢、そして、次が大量の冒険者、そして、更に後ろ、巨大な外壁の上に三人の姿があった。

 

「ふむ、生きる伝説に会えるとは、長生きしてみるものだな」

 

 右にいるのはラ・クロワ。手に大きな錫杖を持ち、遠方を見据える。

 

「む、これは緊張感がヤバいのう。正直すっごく自信がないのじゃが」

 

 左にいるたまもは、いつものふてぶてしさが無く、不安そうだ。

 

「若いの、もしや委縮しておるのかえ?ほほ、安心せい、もし失敗したなら、妾が二発はなってやるわ」

 

「な、何を!良いのじゃ!百年単位で引きこもっていた老いぼれに負けるものかや!とくと見よ魔術の深淵を!」

 

 サバサのからかいに、たまもも奮起したようだ。そして、その上空にはイリアスが控えており、極限の集中からか、まるで後光のように周囲に力があふれていた。

 

「正面!ギガントウェポン接近中、数分後に接敵します!」

 

 そんな声が響き渡り、全員に緊張が走る。そして、すぐに巨大な姿が見えた。

 ……でかい。それが人の姿をしていることが、遠近感がバグったような見た目に拍車をかけていた。その見た目は麗しい女性の上半身と、おぞましい六足獣の下半身。サバサも似たような見た目ではあるが、その攻撃的な見た目は彼女とは比べ物にならないほどの威圧感だ。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

「いけません!急激に接近中!早急に、早急に作戦を!」

 

 跳ねるように駆け出したギガントウェポンは巨大な足跡を作りながら超高速で接近してくる。

 それに立ち向かうは、小さな天使だ。

 

「悪しきものよ。その身を隠す悪しき霧を霧散させん。『セイクリッド・ブレイクスペル』‼」

 

 強力な閃光が光り、真正面からギガントウェポンに直撃する。

 

「UAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA‼」

 

 叫ぶギガントウェポン、その言葉に、イリアスが目を見開く。

 

「人間が神を超えることを夢想するなど、恥を知りなさい!勝つのは私です!」

 

 そう言って、イリアスが気合を入れ直すと、更に光った閃光がギガントウェポンを包み込み、そしてその結界を消失させる。

 

「GYAO!?」

 

 驚愕の声を上げるギガントウェポンに、中指を立てつつイリアスが降下していく。

 

「任せましたよ!皆さん!」

 

 その言葉で、シロムとタマモが詠唱を始める。

 

「「黒より黒く、闇より昏い漆黒に、深紅の混交を望み給う。覚醒の時来れり、無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

「UGAAAAA!?」

 

 その詠唱に危機を感じたのか、少し硬直していたギガントウェポンがもう突進を始めた。が、直後にその顔が唐突な爆発でのけぞった。

 

「ふん!どうじゃ儂のフレデリカは!」

 

 クロムがそう言ってガッツポーズを取った。見れば、戦車モードのフレデリカが真下にで主砲をぶっ放していた。そして、彼女はすぐにシロムの集めて来たアンデッド軍団の中に紛れた。

 ギガントウェポンはよほど先ほどの攻撃が気に障ったらしい。その巨大な足でアンデッド軍団を潰しにかかる。なお、フレデリカ自身はすぐさま主砲を脱ぎ捨て、こっそりとこちらへと走り出していた。

 

 そんな時間稼ぎを経て、シロムとたまもの詠唱が続く。

 

「踊れ踊れ踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!これが人類最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法、穿て!エクスプロージョン!」」

 

 魔力の奔流がきらめき、莫大な魔力がギガントウェポンに飛来した。瞬間、巨大な轟音と爆音が響き、ギガントウウェポンの巨体が浮き上がる。

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」

 

 絶えることのない悲鳴が響き渡り、ギガントウェポンが何もできずにうずくまった。

 

「よくやった二人とも。では、妾も見せるとしよう。古き魔術の深淵を!」

 

 そう言ってサバサは六本の蛇の尾を逆立たせる。

 

「古き理、偉大なる精霊よ。我が魔力を喰らいてその力を示せ。回れ、回れ、回れ。巡る世界の果てに、終末を詠う果ての王よ。我こそが天蓋の破壊者、我こそが滅びの足音である。この顎にてそこに躯を曝せ。疾く果てよ『オーバーロード』」

 

 膨大な魔力が空気を揺らし、先ほどとは異なる魔力が剣のような鋭さでギガントウェポンに迫った。

 

「GYA……O?」

 

 そして、その一撃をもって、ギガントウェポンは頭を完全に俯かせ、沈黙したのだった。




お待たせしました。もうギガントウェポン沈黙まで行っちゃいました。
サバサちゃん大活躍の巻。

 因みにギガントウェポンは若干デストロイヤーより強いイメージで書いていますが、耐久的にはそこまで変わりありません。足六本ある+生物的な思考ができるので、残った脚四本で逃亡可能なだけです。気絶させないと状況判断で逃げます。

 多分、本作ギガントウェポンVSこのすばデストロイヤーすると、決着がつかない感じ。どっちも踏みつぶし以上の威力を持った攻撃が自爆以外ないので、どっちかが撤退して終わります。

変更点
・女神さまが乗り気
・古代の姫君参戦!
・貧乏店主の妹参戦!
・古代兵器への攻撃が執拗


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EP35 【ダンジョン】ギガントウェポン!

 浮足立つ冒険者に、ラ・クロワとサバサからほぼ同時に声が飛んだ。

 

「油断するな!ギガントウェポンがこの程度で滅ぶはずがない!」

 

「冒険者たち!急ぎ内部へ向かえ!あのキメラが機能停止している間に内部の統括機能を叩け!妾の一撃で大分痛打は与えたが、まだ倒せた手ごたえはない!進め!」

 

 その声で、警戒をする冒険者と突入する冒険者に分かれた。俺はたまもの方へと向かう。

 

「やったな、たまも!」

 

「くっ!なんじゃあのスフィンクス、『オーバーロード』じゃと!あの威力、もしや爆裂魔法よりも……いや、そんなことは無いはず、爆裂魔法が最強のはずなのじゃ!」

 

「言ってる場合か!いや、まあたまもは十分すぎるほど働いているから、休んでればいいかもしれないけどさ」

 

 そう言って、肩を叩くと、たまもは不満そうに口をとがらせる。そして、一言言おうとしたとき、莫大な音が響き渡った。

 

『生体活動の低下を確認、生体活動の低下を確認、生命エネルギーを電気エネルギーに変換、エラー、エラー、異常な体温の上昇を確認、生体を開き、排熱を開始します。排熱を開始します。

 生命エネルギー異常、生命エネルギー異常、制御コアの安定性が著しく低下しています。暴走の可能性があるため、乗務員の皆さんは直ちに避難してください』

 

「!……こんな近くで暴走されたら、結局まずいのじゃ!皆!急いで中枢を破壊するのじゃ!逃げるものはいち早く逃げよ!」

 

 その言葉を受けて、冒険者たちはいきり立ってギガントウェポンに挑んでいく。どうやら生体部分は大分いかれてしまったらしく、触手含む体に障っても反応はない。これ幸いにとアーチャーがロープの付いた矢を射ってそのロープを伝ってギガントウェポンの内部に侵入していく。

 

「なんだこいつら!」

 

 しかし、俺たちを迎え入れたのは何もない場所ではなかった。

 

「おい!そこの肉球みたいなのに触れるな!取り込まれるぞ!」

 

 紐のようにぶら下がった触手の上が不自然に膨らんでおり、紐に触ると勢いよく巻き上げられて咥えられる、そんな罠があった。他にも。

 

「ゴーレムだ!囲め!」

 

「こっちにはキメラもいるぞ!結構素早い!まずは足を狙え!」

 

 身体が全部石でできた人型の魔物や、ヤギのような角を持ち腕は獣、身体は人間で複乳が特徴的なキメラが闊歩していた。だが、それらも冒険者を止めることはできず、そのまま冒険者たちはギガントウェポンの仲へとなだれ込んでいく。

 

 そして、進んでいくと、冒険者たちが金属製の扉をこじ開けようとしているところに遭遇した。……まるでこっちが侵略者だな。

 

 そんな風に思っている間に、扉はガコンと外れ、冒険者たちが中になだれ込む。俺たちが入り込むそのわずかな間に、室内はかなり効率的に破壊されていた。

 本当に、どっちが悪役かわからねえな。

 そんな風に思っていると、テイラーが俺たちを見つけて声をかけて来た。

 

「カズマ、いい所に来たな、見ろよ、これ」

 

「これって……ん?」

 

 テイラーが指していたのは一つの白骨死体だった。玉座のような椅子にたった一人で眠っている。それを見て、イリアスがぽつりとつぶやいた。

 

「これは……ダメですね、未練もなくすっきりと輪廻の輪に帰ってしまっています。欠片すら残っていない」

 

「いや、おかしいだろ!だって、これ、完全に一人で孤独に死んでいった、みたいな感じじゃないか!?」

 

 と、ふと見ると骸骨の近くの机に一冊の本が置いてあった。黙り込む冒険者たち、その中で、イリアスがその本を手に取り読み始めた。

 

「○月×日、国のお偉いさんが無茶を言い出した。魔道技術にキメラ製造術、魔芸術に魔法化学まで全てを網羅した究極の生命体を作れと言ってきた。しかも、他国の技術者が作ったアルカンシェルなんて言う化け物を例に出しながらそれ以上の物を作れと言ってきた。泣いたり謝ったりしても駄目だった。辞職したいと言っても受理されなかった。馬鹿になったふりをして裸になって走り回ったら、職員のサキュバスに骨抜きにされて、製造を約束させられた。俺はもうだめかもしれない」

 

 ……思わず、皆の視線が白骨死体に向いた。

 

「○月×日、設計図の機嫌が今日までだ、どうしよう。まだ白紙ですとか、今更言えない。だってやけになって前金全部飲んじゃったし、サキュバス職員にはバックレたら死ぬまで吸い尽くすって言われちゃったし。どうしようと思って荒い紙に亀だのハリネズミだのエロ触手に襲われる女性冒険者だのを書いていたが、気が付くとちいぱっぱどもがスタンプみたいにして清書用の紙に押し付けて遊んでやがった!

 足は六本に見えるし、触手はうねってるしどことなくきもいが、きれいな紙は高い。請求されても困るし、このまま提出してしまう事にする。もう知らない」

 

 ……知らないのはこっちのセリフだよ。

 そう思う俺達の思いなど関係なく、イリアスがさらに文章を読み進める。

 

「○月×日、あの設計図が思ったよりも好評だ。ちいぱっぱのいたずらの産物なんだけど、ほんとにいいの?とかもう言えない。コンセプトは何ですか?って、知るかんなもん!だけど、どんどん計画が進んでる。今日から私が所長です、ひゃっほう!」

 

 ……これ、人が人ならそいつの創作だと思う程度にはひどいぞ、イリアスがそんなつまらないことをすることは無いと思うが……。

 

「○月×日、俺が何もしなくても計画が進んでいく。ねえ、何なの?俺いらないの?もういいや。もう知らん!勝手にしてくれ、俺は俺で勝手にする。……何か、動力をどうとか言われたけど、俺が知るか!キメラ術使うんだから、精力を無限にためることができるというクィーンサキュバスの生命核でも持って来いと言ってやった!無理だって言うのに作り始めるからだ!ざまーみろ!」

 

 ……

 

「○月×日、ホントに持ってきちゃったよ、生命核!え?もしかして、これ、動かないと俺処刑じゃない!?動いてください!お願いします!」

 

 イリアスが、何か暗黒のオーラを発している気がする。

 

「○月×日、明日が起動実験と言われたが、正直何もしていない。したことと言えばちいぱっぱに落書きをいたずらされただけだ……。今日がこの椅子でふんぞり返っていられる最後の日か……ああっ!もういい!今日は飲むぞ、そして、どうせサキュバスに搾り取られるんだ!嫌がらせにオ○ニーで限界まで出し尽くしてやる!」

 

 イリアスがわなわなと震えながら読み進めていく。

 

「○月×日、終わった、ギガントウェポン、ただいま暴走中、これ、絶対おれがやったと思われてるよね!ね!?これ、引きずりおろされて処刑されるんじゃない?ああ!もう嫌だ、幸い食料はあるし、飯食って酒飲んで寝る!」

 

 もはやどす黒いオーラで人を殺せそうなイリアスは、しかし最後まで日記を読み終えた。

 

「○月×日、やっべ、国滅んだ、まじやっべ!でもちょっとすっきりした。もういいや、俺、この上で過ごすわ。っつっても、そもそも降りられないしな。これ作ったやつ馬鹿だろ!……おっと、これ作った責任者、俺でした」

 

 読み終わった直後、白骨死体が電撃の直撃で爆散する。

 

「ふ、ふふふ、いいでしょう!ええ!私が天界に戻ったら真っ先にこの愚か者の魂を地獄に突き落としましょう!」

 

 そう言ったイリアスに、俺たちは何も言えずにいたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

「それで、これが日記にあったクィーンサキュバスの生命核ってやつか」

 

 人数がいても仕方ないということで、俺、イリアス、シロムの三人で向かった最奥に、その物は存在した。それは眩く光る小さな宝石だ。その周りは鉄格子で封鎖され、取り出すことができないようになっていた。

 

「……!!あのバカは!一体なんてものを動力源に使っているのですか!これは明らかに魅凪の……いえ、今言っても仕方ありませんか」

 

 そう言うイリアスは、そのままその石を見つめる。

 

「とにかく!あの石をどうにかしましょう!」

 

「なら、俺の出番だな『スティール!』」

 

「あ!待ちなさい」

 

 イリアスが止めるも、もう遅かった。スティールによってクィーンサキュバスの生命核は俺の手に握られる。

 そして、握ってみて分かった、これは素晴らしいものだ!持っているだけで幸せな気持ちになり、その幸福感だけで絶頂しそうになる。もはや、持つ麻薬と言っても過言ではないほどの幸福感が俺を包みこむ。

 

「放しなさい!カズマ『セイクリッドブレイクスペル!』それに『メンタルガード‼』」

 

 イリアスがパシリと手をはたき、そしてイリアスの魔法の波動を受けた途端、俺ははっとして後ろに後ずさった。

 

「おいおいおい、触っただけで、俺ちょっとおかしくなってなかったか?やばいぞ、この石」

 

「私の予想が正しければ、あれは私と同じ、六祖封印された魔物の成れの果てです。……といっても、恐らくこれが本体というわけではないでしょう。精力を奪うための分身……いうなれば姿かたちは違えども、今の私と同じような存在です」

 

 そう言うが早いか、クィーンサキュバスの生命核は不気味に白い光を発し始めた。

 

「まずい!爆発するぞ」

 

「恐らく長期の採取による経年劣化と、ギガントウェポンの機関部から外された環境の変化で自壊を始めています!良くて爆発、最悪こちらを殺す気満々の大量のサキュバスがわいてきますよ!」

 

 その言葉を聞いて、俺は顔を青くする。

 

「おい、どうにかならないのか!?」

 

「方法は、ある!」

 

 シロムの言葉に思わず振り返った俺だったが、彼女はやや気の乗らない顔で言葉を続けた。

 

「とりあえず急を要する。カズマ、少し吸わせてもらうぞ」

 

「え、ちょ、ちょっと強引、でもそう言うのも悪くないってぎゃああああ!?」

 

 眼前まで顔を寄せたシロムにどぎまぎしていた俺だったが、『ドレインタッチ』によって凄まじい勢いで生命力が吸い取られていった。

 

「ちょ、ま、待ちなさいシロム!それ以上吸ったら、カズマがひもの以下になってしまいますよ!」

 

「……あっ!す、すまない。コホン、とにかく、だ。これで、準備は整った……のだが、少々問題があってな」

 

 続きを促すと、シロムはため息をついて言葉を続けた。

 

「まず、正規の方法で封印なり消滅なりするのは待ってくれないだろう。だから、私がこれからやるのは投棄。要はテレポートでこのアイテムを捨てることなんだが、今確実に飛ばせるのは街と、王都とダンジョンくらいなんだ」

 

「ダンジョンはどうなんだ?」

 

 その言葉に頭を振ってシロムは窘めて来た。

 

「ダンジョンと言ってもかなり人気の場所でね、階層によっては観光ツアーまである大ダンジョンだ。悪いが被害が出ないとは思えない。結果、もし可能性に欠けるとするなら、私はランダムテレポートでこれを捨てるべきなのだが……それこそ大量の人間を殺してしまう可能性だってある」

 

 そう言って俯くシロムに、しかし俺は肩を叩くことで答えた。

 

「心配すんな、シロム、俺は、運だけは良いらしいからな。そのまま、ランダムテレポートをしてみてくれ。全責任は俺が持つ!」

 

 俺がそう言うと、イリアスがコツン、と頭を叩き、そして魔力を纏わせた。

 

「『ブレッシング』このような言い方は良くないのでしょうが、今は私たちが生き残るのが最優先です。最大限の努力はしました。後は天運に任せましょう」

 

 ……かっこいいこと言っているが、それ、お前が祈られる側だよな?

 

 内心そう思いながら、しかし俺は黙っていた。

 

「分かった。ならいくぞ!”ランダムテレポート”!!」

 

 シロムがランダムテレポートで生命核をどこかへ飛ばし、俺たち含む冒険者はギガントウェポン内部を立ち去ったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺たちが、ギガントウェポンの前で、あの巨体をどう処理しようかと話し合っていた時の話、またしてもけたたましい音が響き渡った。

 

「エラー、エラー、エネルギーの枯渇を確認、エネルギーの枯渇を確認、生体制御不能、生体制御不能、聖tュアし是お軍msiykoanitea……」

 

 そして、そんな警報が収まった瞬間、先ほどまでしなびていた触手が一斉にうぞうぞと蠢き始めた。

 

「おい!あいつは倒されたんじゃなかったのか!」

 

 その言葉に、サバサ、クロム、シロムの三人がしまった、とでもいうように頭を抱えた。

 

「不覚じゃった!あやつは単純なキメラでなく、キメラと絡繰りの融合体か!」

 

「どういうことなんだよ!サバサ!」

 

「つまり、本来ギガントウェポンとは、制御できない強大な魔獣、仮にウェポンビーストと呼称するが、それを魔道科学の枷を付けることで制御していたということじゃ。それこそ死の間際まで全く動かなくなるほどに完璧にじゃ!」

 

 クロムの言葉に続いて、シロムが冷や汗を流しながら言葉を続ける。

 

「まずいな、あいつは重傷を受けた上にエネルギー源を取り上げられた存在だ。見境なく周囲のものを取り込み、エネルギーに変えかねない」

 

 その言葉を聞いて、状況が周囲の冒険者にも伝播する。そして、今度こそクモの子を散らすように冒険者たちが逃げ出した。

 

「お、おい!」

 

「放っておきなさい、ウェポンビーストの動力源は人間の精力。有象無象がいくらいたところで、稼働時間が延長されるだけです。あれほどの巨体、一時間も暴れれば、最悪機能は停止するでしょう」

 

 確実に討伐が可能、それはうれしい話だ。だが、一時間もあれば、あの巨体でこの街は蹂躙しつくされてしまうだろう。

 

 俺は、イリアスの手を握って声をかけた。

 

「こうなったら、イリアス!サバサに魔力を送ってもう一回『オーバーロード』を!」

 

「すまぬ、カズマ、『オーバーロード』は古代の秘術。魔力だけでなく生命力も、多量に使う。お主がどうしてもというなら構わぬが、例え魔力が回復しても二度使えば妾の命は尽きるじゃろう。次に使えるのはおおよそ一年後じゃ」

 

 そう言われてはしょうがない、今度はシロムを見る。

 

「なら、シロム!あんたの爆裂魔法で!」

 

「すまない。イリアス殿の魔力は我には毒だ。爆裂魔法に十分な量の魔力を受け入れれば、仮に一撃放てたとしても、次の瞬間我は消滅するだろう」

 

 八方ふさがりの俺たちに、上空から声が降り注いだ。

 

「真打登場!じゃな!」

 

 そこにいたのは、漆黒の翼をもつ女性に背負われた、金髪の和服少女。我らがアークウィザードの姿だった。

 

 




お待たせしました。

次回も多少触れますが、前回のオーバーロードはエクスプロージョンと関係がある設定です。具体的に言うと、命まで絞りつくす99%メガ○テがオーバーロード、それを回避して基本魔力、不足分を体力で補う改良版(マダ○テ)がエクスプロージョンの設定です。
 それと、サキュバスクィーンの生命核はオリジナルアイテム、というか実際の所本作世界でもそんな品は有りません。
 本作の生命核と言われているアイテム?は六祖封印により封じられた魅凪が作りだした遠隔操作できる分身体です。たまもが生み出した解呪の詞とは違い、自由には動けませんが、眷属を生み出したり催淫効果のある特殊フィールドを生み出したりできる。意志は薄めだけどないわけじゃない感じ。
 おとなしくギガントウェポンの燃料になってたのは、ギガントウェポンが栄養補給で性を貪るのが定位置で催淫フィールド張るよりも効率よさげだったからです。

変更点
・古代兵器に搭載された魔物を”ゴーレム娘””サックボア””キメラビースト”に変更
・女神さまが読んだ手記への感想の変更
・コロナタイトを謎のアイテムに変更
・”オーバーロード”をメガ○テ仕様に変更(本来はマダ○テ)仕様


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EP36 たまもの爆裂道

めぐみん好き注意


 俺はイリアスとたまもの首筋を触りながらドレインタッチを発動する。

 

「いいか?ドレインタッチは皮膚の薄い所、そして心臓から近い所ほどより吸収率が高い。まあ、例外的に粘膜同士の接触でも効率は良いが、流石に今それをするのはな」

 

「そもそも胸に手を突っ込む時点でためらっている童貞にそんなこと言っても無為ですよ。ラ・クロワ」

 

 シロムの説明に、すげなくそう答えるイリアス。ちょっとむかつくので頑張って吸収力を増してみたが、全く痛痒を与えているようには見えない。そもそも、たまもがどれほどの魔力を貯めておけるかもわからない。いっそのことこんな女神の態度には目をつぶり、たまもに集中することにしよう。

 

「たまも、大丈夫か?」

 

「おう、ちょっと不思議な感覚じゃが、問題ない。お”お”う”っ”。来た、ブットいのが来たのじゃ。あ~そこ、もうちょっとなのじゃ!あ、ちょっと漏れそう、いや、大丈夫なのじゃ!」

 

 そう言って魔力をみるみる回復するたまもに、サバサが声をかけた。

 

「たまも殿、一つ言っておこう。爆裂魔法と『オーバーロード』は別系統の魔法ではない。『オーバーロード』の肉体的なダメージを取り除く努力をした結果、魔力のみを極限まで絞り出すように改変されたのが、爆裂魔法じゃ。

 つまり、はっきり言ってリスクを抑えた爆裂魔法は威力面では『オーバーロード』の劣化じゃ。しかし、爆裂魔法と『オーバーロード』では明確な違いがある。それは生命エネルギーが混じるか、純粋な魔力であるかじゃ。純粋な魔力であるならば。力を借りることができるものもいるかもしれぬぞ」

 

 魔術に疎い俺には全く理解できなかったが、たまもはそれで何かを得たらしい。考えた様子で目をつむり、そして見開いた。

 

「風よ」

 

 何も起こらない。

 

「水よ」

 

 何も起こらない。

 

「風よ」

 

 ……何も、怒らない。

 

「大地よ!」

 

 そう言った途端、何かの少女の幻影が、たまもに重なった気がした。

 

「世界に秘められし狂乱よ、大地に眠りし厄災よ!我が呼びかけに応え!ここに顕現せよ!……っ!誰が何と言おうと、爆裂魔法のことに関しては!誰にも負けたくないのじゃ!行くぞ!『エクス・プロ―ジョン』‼」

 

 そうして放たれた爆裂魔法は、今までの爆裂魔法とも何か違い、黄色の光を湛えながらギガントウェポンにに吸い込まれていき。そして、そのすぐ後に轟音を上げて爆発した。

 

「……はい?」

 

 呆然とするたまもに、こちらも驚いた顔のサバサが呆然と答える。

 

「これは、驚いた。失敗とはいえ、まさか一度で変化するとは」

 

 そう言うと、サバサはたまもに問いかけた。

 

「爆裂魔法がどういうものかわかるかの?」

 

「自身の魔力を凝縮し、敵に向かって放ち、半暴走状態にして爆発させる魔法じゃ」

 

「そう、爆裂魔法というのは多量の魔力を無属性の爆発力に変え放つ究極魔法じゃ。しかし、実のところ、属性魔力でも爆発のエネルギーに変化させることが可能でのう。尤も、属性を付与した分爆発力に割く力が削がれるゆえ、威力が落ちてしまうがの」

 

 そうしてサバサの視線の先を見ると、しかし先ほどとそん色ない……否、むしろやや強力になったように見える魔法の跡が見えた。

 

「しかし、この、属性を付与して爆発力に変えられる、というのは、メリットもある。それが、精霊の力を借りることができるということじゃ。精霊は属性を持った魔法が意志を持ったようなもの。無属性の精霊はおらぬゆえ、そなたらが使う爆裂魔法では力を借りることができぬ。そして、お主の着眼点も良い。四大精霊彼らに力を借りるが最も良い、さらに、その全ての属性を合わせると、全ての魔力が溶け合い、数十倍に膨張して強力な一撃となる。もはや魔法形態としても爆裂魔法とは離れて別の魔法になっておるが、原理は一緒じゃから爆裂魔法の亜種と呼んでも良いじゃろうな」

 

 そう言って虚空を眺めるサバサは言葉を続ける。

 

「昔、四属性を極めた魔導士が、全ての魔力と四大精霊の協力を得て、放った究極魔法。儂も一度だけ見た事がある。すなわち、我が旦那様が、追手に対して放った一撃『カドラプル・エクスプロ―ジョン』と旦那様は言っておった」

 

「そうか」

 

 それを聞いて、たまもはその顔を俯かせる。

 

「なら……忙しくなるのう!爆裂の道はまだまだというわけじゃ!」

 

 そう言って、たまもははるか遠くを見通したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ギガントウェポン討伐。それは、町中に響き渡り、そして街を飛び越して世界中へと広がった。

 

 そして、俺たちはいつものギルド酒場で頬を緩ませる。周囲には人数が増えて少しにぎやかになった仲間たちがいた。

 

「いやーそれにしても、魔王軍幹部の次は古代兵器!討伐した奴らだけ見たら、俺たちもいっぱしの冒険者だよな!」

 

「いっぱしどころか、伝説の冒険者と言われても誰も疑わんじゃろうな。ま、実際は他の冒険者や街の人々の協力があるのじゃ。天狗になっておっては足元を掬われるぞ」

 

「ま、まあそうなんだけどさ」

 

 たまもの突っ込みにたじたじの俺だが、珍しくイリアスが手を添える。

 

「よいですか、カズマ。英雄というのは一人では成れぬ者なのです。人を束ね、意志を繋ぎ、そして道を示す。それが英雄の、勇者の役割なのですよ。あなたは私の勇者として立派……しっかり……うまく……とにかく、役目をはたしているのではないかと思います。自信を持ちなさい」

 

「あぁ!お前がそこまでどもらなきゃ、もうちょっと自信持てたんだがなあ!?」

 

 そう言ってにらみ合う俺とイリアス。だが、お互いにほぼ時を同じくして吹き出してしまう。

 

「ぷっ、あはは、なんだか、そんなこと言われると、俺がほんとに英雄みたいじゃないか」

 

「ふふふっ、安心なさい、今でも十分英雄ですよ。今はまだ、この街の英雄、であったとしても、ですが」

 

 そうやって笑う俺たちに、仲間たちもつられて笑顔を見せた。そして、ひとしきり笑った後で、クロムがふと気が付いたように声を上げた。

 

「そうじゃ!そう言えば、報奨金はどうなったんじゃ?確か、ギガントウェポンには非常識な額の報奨金が出とったじゃろ?」

 

「あぁ、それなんだが、今王都の方に問い合わせ中らしい。何しろ、報奨金もそうだが、前代未聞の状況だろうしな」

 

 と、話していると、ギルドの扉がバン!と開き、物々しい出で立ちの兵士と戦闘に見目麗しい女性の姿があった。そして、女性が大声で、周囲に言い放つ。

 

「サトウカズマ!サトウカズマはいるか!」

 

 それを聞いて、一同は俺を見つめた。つまるところ、そう言うことなんだろう。

 報奨金に期待を持ちつつ、俺は手を上げた。

 

「そんな大きな声を出さないでも聞こえてるよ。俺こそが、ギガントウェポンを討伐した冒険者、佐藤カズマだ」

 

 そう言って決めポーズをすると、女性は大声でこう叫んだ。

 

「いたぞ!捕えろ!?」

 

「は?」

 

 その言葉に俺は一瞬意識が飛び、その間に取り押さえられてしまった。

 

「何をするのですか痴れ者!その者は先のギガントウェポン討伐の中心人物ですよ!」

 

 そう言うイリアスに、女性は臆することなく声を上げた。

 

「この者には、この街の領主、アルダープ様暗殺の嫌疑がかけられている。突如としてアルダープ様の屋敷に大量のサキュバスが現れたかと思うと、完全に生命力を奪う勢いで襲い掛かってきたそうだ。近衛たちの尽力もあり、何とか屋敷内のサキュバスはすべて討伐済みだが、その際サキュバス共が、サトウカズマという名前をしきりに呼んでいたという証拠が出ているんだよ!」

 

 その言葉に、周囲の冒険者たちも言葉を失うのだった。




 正直改変度合いで行くと結構な感じになったのでちょっと不安に思ったり。
 爆裂魔法周りの設定はほぼほぼ私の自己解釈です。
 前回の解説も含めて例えると
 ”オーバーロード” メガ○テ
 ”エクスプロージョン” マダ○テ
 ”カドラプル エクスプロージョン”メド○ーア+カドラ○ル ギガ

 この作中のたまもちゃんは無意識に大地の精霊に愛されているのでノームちゃんが手を貸してくれました。威力的には

 エクスプロージョン=自己魔力(100%)=無属性100%威力

アース・エクスプロージョン={自己魔力(100%)+地属性魔力(100%)}÷40%(属性変換ロス)=大地属性120%威力

 みたいな感じです。属性魔法を覚えたり、精霊と仲良くなったりする毎に属性を増やすことも可能ですし、属性を重ねることも可能ですが、属性の相性や変換ロスがあるため、逆にしょぼくなる可能性もあります。

 ファイア+ウォーター{(50+100)÷2(威力減衰)+(50+100)÷2(威力減衰)}÷45%(属性変換ロス)=約70%複合属性威力

 みたいな。

 因みに弁明ですが、純粋な爆裂魔法がカドラプル爆裂魔法に劣るわけではありません。何より今後たまもは最低レベルであっても属性魔法に触れざるを得ないので。


 今回はどこをどうって言うのが難しいので変更点紹介はお休みです。


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If もしもアクアがもんクエ参戦(1)

「あーっ!もう頭来るんですけど!」

 

 私は水の女神アクア!地球の若くして亡くなった人々を導くことを担当としている女神……だったんだけど……。

 

「何よ何よ!あいつら!何が『アクアくんはちょっと仕事をイリアス?さんとやらに押し付けすぎだね。それに、イリアスさんが君の代わりに転生を導くようになってからの方が、評価は高いようだよ。だから、今後はイリアスさんを地球の転生担当の神として任命することにしたから』よ!そりゃ、確かにイリアスはすごい奴だけどね、だけど、長年仕事をしてきた私へのリスペクトが足りないと思わない!?」

 

 そうしていきり立つ私は、ずんずんと何もないように見える虚空を歩き続ける。次元のはざまを通り、世界の間を渡り、私から仕事を奪った、あのイリアスの所へとたどり着いたのだ。その場所は楽園と言って差し支えないだろう。美しい花が咲き誇り、良き行いをした亡者が、天使たちと、あるいは同じ亡者どうしで触れ合い、語り合っている。

 

 と、そこで一人の女が声をかけて来た。

 

「貴様、ここをイリアス様の治める天界の地であることが分からぬか?何用だ!」

 

 そう吠える槍を持った天使に、私は慌てて手を振った。

 

「いやいや、違うわよ!私、アクアって言うの。イリアスの友達なのよ」

 

「馬鹿を言うな!イリアス様は唯一絶対の存在!友達などという甘っちょろい仲の存在がおられるとでもおもっているのですか!」

 

 それを聞いて、私はドン引きした。

 

「え?イリアスって友達いないの?えー。引くわー」

 

「な、なぜイリアス様を憐れむのです!それに、イリアス様には忠実な天使が幾千と存在するのですよ!憐れまれる存在であるはずがないでしょう!あぁ!なるほど!こいつはイリアス様が友達がいないと馬鹿にすることで、自分の優位性に悦に浸っているのですね!分かりました、この背信者に天罰を下します!」

 

「いや、部下と友達は全く別の関係じゃない?なに?イリアスって、もしかして天使にそんな教育もしてないの?……確かに真面目ちゃんぽかったけど……。まあ、とにかく通してくれない?」

 

 いきり立つ天使が私に詰め寄ろうとしたとき、彼女の背後からポン、と手が置かれた。

 

「少し落ち着いた方がいい。エデン」

 

「プロメスティン……何の用です!いまこの愚か者に天罰を!」

 

「だから、それを控えろと言っているんだ。彼女の名前は聞いたのか?イリアス様に会いたい理由は?事前連絡はしていたのかは確認したか?」

 

「あ、う、それは……」

 

 白衣姿の天使の言葉に、エデンと呼ばれた天使は口ごもり、黙り込んでしまった。

 

「つまり、そういうことだ。すまなかったね。名前を伺っても?」

 

「アクアよ。水の女神アクア」

 

「……ふむ、確かにイリアス様が最近その名前を口に出していたね。……いいだろう。入るといい。イリアス様はこのまままっすぐ行って一番奥だ」

 

「プロメスティン!」

 

 噛み着かんばかりに詰め寄るエデンを、プロメスティンは鷹揚に受け止めた。

 

「エデン、貴方は今やこの天界のナンバー2だ。それをよく考えて行動しなければならないだろう?アクアという名前はイリアス様の口からも、何度も聞かれた名前だ。君はイリアス様の知り合いを、一方的に天界から追放できるほどの権限を持っているというのかい?

 それに、彼女に危険なものはないよ。中級位までの天使ならともかく、上位天使なら抑え込める程度の実力だ。万に一つでも、イリアス様がどうにかなることは無いだろう?」

 

「ぐぬっ……確かに、それはそうですが……」

 

 そんな風に言っている声をしり目に、私は長い廊下を進み、巨大な扉の前に立ち、ためらいなく扉を開けた。

 

「はあああああああっ!死に曝せっ!」

 

「それは、こっちの!セリフです!」

 

「…………は?」

 

 そこでは、紫色の肌と蛇の体を持った存在と、イリアスがドンパチやっている姿があった。

 

「……!!アクア!?なぜここに!?」

 

「貴様!援軍か」

 

 二人に凝視された私は思わず扉を閉めようとしたが、一瞬で近づかれて蛇女に締め付けられる。

 

「ちょ!何するのよ!この馬鹿!悪魔!『セイクリッド・エクソシズム』!」

 

「ぐっ!やはり貴様!」

 

 思わず締め付けを緩めた蛇女に私は渾身の拳を握り、力を貯める。

 

「アクア!離れなさ……「ゴッドブロー!!」ちょ、ちょちょちょちょ!」

 

 焦る声に思わず目を向けると、目の前にあったのは膨大な光の渦だった。

 

「……ふぇ?」

 

「なっ!おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼‼」

 

 そして、私と蛇女は一緒に下界へと弾き飛ばされたのでした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

「……えっと、その、大丈夫ですか?」

 

 気が付くと、目の前に一人の少年が立っていた。見目は整っており、なんとなく冒険者風の服装だ。

 

「はっ!ここ、どこかしら!それにあなたは?」

 

「えっと、僕はルカ。ここはイリアスヴィルって町の近くだよ。その、そこにいる魔物娘さんと、貴方が倒れてたから、声をかけたんだ」

 

 見ると、そこには見覚えのある魔物娘の姿があった。イリアスとドンパチやっていた蛇女だ。

 

「あーっ!こいつ!こいつが私を天界から落としたのよ……いや、落としたのはイリアスだったかしら?いえ、でも結局、こいつがいなければ私は天界から落ちることもなかったわけだし……とりあえず討伐しましょう!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。この子だって、今気絶してるだけだしさ、もしかしたらいい魔物かもしれないじゃないか!」

 

 それを聞いて、私はあきれてこのおこちゃまに説法を解いてあげることにした。

 

「いい、君みたいな子どもにはわからないかもしれないけど、悪魔や魔物ってのはみんな人間を滅ぼしたり困らせたりするような、頭も精神もねじ曲がった存在なのよ!だから、同情なんてしちゃダメ!魔物は見つけ次第、しばいて、しばいて、しばきまくるのが正解なのよ」

 

「うーん。そりゃ、確かに悪い魔物もいるかもしれない……というか、話が通じないののほうが多いかもしれないけどさ、もしかしたら、話の分かる魔物もいるかもしれないじゃないか。僕は魔物と人間の懸け橋になるような人になりたいんだ」

 

 私はその言葉にショックを受けて、少し後ずさってしまった。

 

「あなた、本気でそんなこと言ってるの?魔物と人間が共存なんてありえないわ!あなたはまだ若いのだから、まだ正しい道に進めるわ」

 

 そう言うと、ルカは気分を害したようにそっぽを向いた。

 

「そんな風に決めつけるのは、間違ってると思う。僕はこれからこの人を助けるから、ちょっとどっか行っててよ」

 

「……あーっ!もういいわ、分かったわよ!ただし、こいつ直したら、すぐに逃げるからね!って、あら?」

 

 私は蛇女を見ておかしなことに気付いた。

 

「まあ、いいわ、魔物ごときが私の回復魔法を受けられることに感謝しなさい『エクストラヒール』」

 

 そう言って回復魔法を撃った私は、すぐさま少年の所へと走る。

 

「さ、これであの魔物は完全回復よ。あなたの望み通りにしたんだから、貴方、アクシズ教に改宗しなさいな」

 

「えっ、ちょ、そんな話聞いてないよ。僕、今からイリアス様の洗礼を受けに行くんだから」

 

「あー。イリアスの信徒だったのね……。なら無理強いするのも……いえ、イリアスよりも私の方がいろいろと特典あげられるわよ!」

 

「いや、神様を信仰するのって特典で選ぶとかそう言う話じゃないような気が……」

 

 後ろで何かが動く気配を感じながら、私達は少年の村へと走り出したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「……おわった」

 

 少年の村の教会前、イリアスの洗礼とやらを受に行った少年を見送ってすぐ、少年が項垂れた様子で帰ってきた。

 

「あら、洗礼を受けられなかったみたいね」

 

 私がそう言うと、少年が驚いたように私を見つめてくる。

 

「な、なんでわかるの?」

 

「いや、そりゃ、私女神だし?あんだけ魂が変質してる人たちがいてあんたがそうなってないんだったら何があったかくらいわかるわよ。

 というか、イリアスも結構エグいことするわね。まあ、こうするしかないくらい魔物と人間の距離が近いのかもしれないけど、これ、下手したら肉体ごとジュッってなるわよ」

 

「肉体?ジュッ?」

 

 困惑する少年に私は手を差し出した。

 

「ま、とにかく、くよくよしてたってしょうがないわ!これからどうするの?」

 

「……僕は、勇者になるんだ。洗礼を受けられなくても、それは変わらない。洗礼を受けられなかったのはとても残念だけど、少しでも世界のためになる様に、僕は旅に出るよ」

 

 それを聞いて私は少し目を閉じて、そして微笑んだ。

 

「よろしい。ならば、この、水の女神アクアが、イリアスに変わって祝福を授けましょう。流石に天界にいるときのようにというわけにはいきませんが、多少なりともあなたの旅の助けになるはずです」

 

「あ、いえそれは結構です」

 

「なんでよー!!」

 

「だって、イリアス様の教えに『他の神を頼むことなかれ』という教えがあって……」

 

 そんな風にワイワイ話しながら、私達は少年の家に向かうのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

「それで、ルカ、あれがあなたの家……悪いことは言わないわ。準備はあきらめて、さっさと旅に出ちゃわない?」

 

「いや、なんでさ。旅の荷物も無しに旅に出るとか、戦いとか以前に死んじゃうよ」

 

 イリアスの洗礼を受けることができなかった少年、ルカの家の前で、私は感じるものがありルカに提案したのだけれど、即刻却下されてしまった。

 

「あのね、私はあなたのためを思っていってるのよ!はっきり言うけど、貴方の家の方からとっても嫌な気配が……」

 

「ほう、どんな気配か教えてもらえるか?」

 

 その言葉に私は慌てて構えを取る。

 

「……ふむ、見たところやはり貴様、あのとき……。いや。治療をしてくれた礼だ。早々に立ち去るがいい。そうすれば襲いはすまい」

 

「誰が逃げるもんですか!少年を襲うつもりでしょう!そんな魔族は私が女神として倒してあげるわ!」

 

「ちょっと待ってよ!喧嘩しないで!たまたま会っただけだけど、知り合いが喧嘩してるところなんて見たくないよ!」

 

その言葉を聞くと、蛇女が意味ありげな顔で笑いかけてきた。

 

「どうやら信者の少年は余と貴様が対立するのは好まんようだな?女神とは信者の言葉を蔑ろにするものなのだな?」

 

その声に、私は胸を張って答える。

 

「残念だけど、ルカはまだ私の信者じゃないわ!私の可愛い信者たちに頼まれたならともかく、まだ信者になってないルカの頼みなら、私はあんたを倒す方を優先するわ!」

 

 それを聞いて、なぜか虚をつかれたような蛇女がルカと私を交互にみた。そして、少しの沈黙の後、蛇女はルカに声をかける。

 

「ルカとやら、どうやら、貴様がこの自称女神の信徒にならん限り、この女は余と戦うつもりらしいぞ?余としては、売られた喧嘩を買わん道理はない。必然、余かこのドアホか、どちらかが死ぬことになるな」

 

「……わかったよ!僕はイリアス教だけど、アクアさんにも祈るよ。これで喧嘩をやめてくれる?」

 

「なんか釈然としないけど、まぁいいわ。ルカに免じて、見逃してあげる。さ、早くいきましょ」

 

 そう言って歩き出そうとした私に、しかしルカはついてこない。

 

「……どうしたのよ?」

 

「だから、旅の準備をしないと戦い以前に行き倒れちゃうから!」

 

「アクアとやら、安心せい。余も下賤で考え無しな魔族ではない。貴様の回復魔法があの少年の要請によって行われたことについても知っている。余がこの小僧を無理に害する気はない」

 

 にらみ合う私たちに、ルカが慌てて声をかけた。

 

「とにかく、一回家に入りましょう!せっかくだからご飯も作りますから」

 

 そのルカの言葉に渋々同意して、三人そろってルカの家に入る。

 

 その後、私達は一緒に冒険をして、最終的には魔王どころか邪神なんかと相対することになるのだけれど、それはまた、別の話。

 

~~~~~~~~~~

予想されるアクアの反応

 

アクア「うわぁ、何この剣。エンジェルハイロウ?いや、これ、剣の形しただけ……っていうか剣の形すらしてないけど、ぶっちゃけ天使への恨みと、天使自身の恨みが凝り固まった特級呪物よ、これ。って、ルカ!これ使うの?駄目よ!捨てちゃいなさい!」

 

アクア「え?ナメクジ娘?あんなの、塩撒いときゃ良いのよ。ほら、しっ!しっ!……って、何この金色のナメクジ!あ、ちょ、ま、まって、話し合いましょ、や、やめ……ひやぁぁぁぁ!!」

 

アクア「インプ!あいつ悪魔よ!ほら、ちゃっちゃとやっちゃいなさい!最高火力で焼き払うのよ!」

 

アクア「ねえ、アリス。あなた、もしかして料理とかできないの?プークスクス。……って、ちょっと待って、ねえ、なんでレイピアを構えてるの?ええ、分かったわ、苦手なことからかったのはちょっと悪かったわ。だから、その剣を置きましょう?ね?うんうん、そうよ。落ち着きまs……ねえ、待って?なんで呪文唱えてるの?ねえ、ねえねえねえ!まってまってまってごめんなさい許してだからちょっと待ちましょう落ち着きましょうおちt……」

 

ルカ(……この人、本当に女神なんだろうか。でも、アンデッド系に関してはかなり強いし、旅芸人として資金面ですごく助かってるから強く言えないんだよなぁ)

 

アリス(……この馬鹿、天使ではないよな?そもそも天使ならイリアスの信者を引き抜こうとはせんはずだ。だとすると堕天使……ないな。こやつにそのような翻意は感じられん。

 まあ、良かろう。こちらとしてはイリアス以外に信仰を得る者がいることはそれだけでイリアスへの妨害になるだろうしな。

 ……それに、幽霊とか簡単に退治してくれるしな。たまも辺りにアクアの術を解析してもらうか?)

 

たまも(……何で異界の神がこんなところにおるんじゃ?明らかにこの世界の存在ではないのぅ。……いや、あやつ神か?持つ力や性質は神というにふさわしいものじゃが。本人の性格が……まあ、静観しておこうかの)




 前回明言していませんでしたが、2巻分完結しました。
 と、いうわけで、以前アンケートを取ったアクア回です。やるとしてもダイジェストとなりますが、これで人気が無かったらこれっきりです。

 因みに、今作の設定ではアクアセンサーに引っ掛かるのは淫魔、妖魔系だけです。

 具体的に言うとクィーン系が魔王軍幹部扱い、淫魔、妖魔系が悪魔扱い、アンデッドとかもん娘によっては好き嫌いがあるけど、他のモン娘はジャイアントトードとかの、倒さなくてもいいけど倒せるなら倒す、くらいの感じ。

 あ、近々また新しいアンケートを出します。
 具体的には、最近爆炎で出て来たあの人の配役についてです。


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EP37 檻の中にいる

「はぁ……」

 

 俺は肌寒い牢屋の中で深い、大きなため息をついた。あの後名乗ったセナという女性について、俺たちの仲間も最初は庇いだてしてくれた。彼女の言葉で結局人的被害なくサキュバスたちは消滅させられたことが判明したというのも擁護に拍車をかけただろう。

 また、たまもがこちらの肩を持ったことによって、冒険者たちもその反駁に一緒になって抗議してくれた。

 だが、それもセナによって「国家反逆罪」であること、そして国家反逆罪は認められれば関与した人間にも「死刑」が求刑されることがあることを強調され、皆黙らざるを得なかったのだ。

 

 そんなこんなで連行され、取り調べを受ける前に一晩、この牢屋で過ごすことになったのだった。

 

 と、三角座りでうずくまっていると、外から誰かの声が聞こえて来た。

 

「うるさいな、分かっているさ!自分で歩く!」

 

「だから何でお前はそう喧嘩腰なんだ。もう少し神妙にしろ。神妙に」

 

 そんな会話の後カニ娘と一人の女が牢屋にやってきて、そして女が牢に入って来た。

 

「全く、そこで少しは反省するんだな」

 

「言われなくとも……っと、先客は……カズマではないか!」

 

「ベリア!?」

 

 声の主はベリアだった。

 

「おいおいおい、どうしたんだよベリア!あんた、牢屋入れられるような性格してたか?」

 

「あ、あー。その、だな。ちょっとやらかしたというかなんというか」

 

 目を逸らすベリアだったが、じーっと見ていると観念したように言葉を続けた。

 なんでもベリアは例のサキュバスさんの店に今日も行っていたらしいのだが、彼女の来店中に別の客が来店し、店主と話しているベリアを嬢と間違えて揉みしだいてしまったらしい。混乱したベリアはその男をひっかき、蹴飛ばし、首を絞めて殺害……まではいかなかったが気絶までは行ったらしい。

 流石に店側も見逃すわけにはいかず、ベリアが出頭することで手打ちにしたらしい。なお揉みしだいた野郎は起きてから「ご褒美です!」とのたまったらしい。

 

「ああ、そりゃ、災難だったな」

 

 俺がそう言うと、全くだ、とベリアも肩をすくめた。

 

「ところで、カズマの方はどうしたんだ?あ、いや、そう言えばテイラーが言っていたな。カズマがしょっ引かれたとか何とか」

 

「え?お前知人が逮捕されてたの知っててエロい店行ってたの?」

 

「逆に聞くが、大借金こさえて毎日ひーひー言いながら冒険に出てる知り合いがしょっ引かれたくらいで大騒ぎするとでも?」

 

 ……まあ、確かに冒険者は自己責任が基本。そんなもんなのかもしれない。

 あきらめて俺はベリアに事情を説明する。

 

 そこから話ははずみ、たった一人で震えるはずだった牢はなんだかんだ不安を感じることもなく楽しく過ごすことができた。

 

「さて、それじゃあ、寝るとするか」

 

 そう言って布切れを広げるベリアに、俺は慌てて抗議の声を上げた。

 

「ちょっと待てよ!二枚とも持って行くな!一枚は俺のだろ!」

 

「む、肌寒いのは苦手なんだが。……ここでは酒で体を温めることもできないしな。そうだ!こうすればいいじゃないか!」

 

 そう言うと、俺の天地は逆転し、柔らかいものに顔を埋めていた。

 

「せっかくだ、こうして寝れば、二人とも暖かいぞ」

 

 屈託なく笑うベリアの顔が俺の顔の上で輝く。ちょ、まて、まてまてまて、これって!?

 

「懐かしいな。竜人種は変温性だから、よく家族とこうして身を寄せ合って眠るんだ。お前もとっても温かいよ」

 

 そう言って頭をなでるベリアに我慢できなくなって俺はベリアを突き飛ばして窓際へと逃げ出した。

 

「そ、それはお前が使っていいから、さっさと寝ろよ!」

 

「そう言わずに一緒に……。あ……、わ、分かった。そ、その、私あっち向いてるから。うん」

 

 鷹揚に対応していたベリアだったが、不本意にも屹立した俺を見てしまったのだろう、一気に受け答えがぎこちなくなった。

 

((…………死にたい))

 

 多分その夜だけは、ベリアと同じことを考えたと思う。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 死にたいと思っていても、人間眠くなるもので、コツコツという音で覚醒をする。

 

「ん、寝てたか……って、なんだこの音」

 

 目を上げると牢屋の窓に金髪の天使の顔があった。

 

「カズマ!大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ、何しに来たんだ?」

 

「そんな悠長なことを言っている場合ですか!国家転覆罪は最悪死罪になる重罪ですよ!さっさと姿をくらませてしまいましょう」

 

 そう言うと、窓から何かが降り注いできた。

 

「それは、最後のカギ、ありとあらゆるカギを開けることができるカギです。使い捨てですが、この牢を逃げるまでは問題ないでしょう。……っ!すみません。たまもに頼んで起こしてもらった爆裂魔法の目くらましも、もう効果を失ったようです。カズマ、外で待っていますよ」

 

 そう言って足早に飛び去る羽音を聞きながら俺は静かに最後のカギを拾い、そして牢にかかっているダイヤルロック式のカギを見つめる。

 ……鍵穴、ないんだが。

 

 一応、最後のカギというのはファンタジーの定番だ。だから、そう言った魔法的な何かしらでダイヤルロック式でもなんとかなるかと思い、最後のカギで錠を叩いたり、こすったりして見たが、やっぱり何ともならなかった。

 

 正直、俺が持っているとなんかやばそうなので、ちょっとどぎまぎしつつベリアの懐に最後のカギを押し込んだ後、ふて寝した。

 

 




 ちょっと裁判の所で考えているので、もうちょっと時間がかかるかもしれないです。

 それと、前回予告したアンケートを開始します。今回のアンケート、だいぶ先の話ですが、それに連動してとあるキャラの見た目も変わります。
 具体的に言うと、1を選ぶと熊の人形、2を選ぶとこのすばから変更なし、3を選ぶとミニシアエガみたいなオリジナル生物となります。

変更点
・不良冒険者の投獄理由を変更
・ピッキングツールを最後のカギに変更
・不良冒険者とのやり取りを変更


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EP38 セナの尋問

 朝早く……かと思ったが、実際は真昼間まで寝こけていた俺はたたき起こされ、セナに取調室に連れていかれた。

 

 現代のドラマでもありそうな小さな取調室にいるのは俺とセナ、それにセナの護衛兼俺が逃亡するのを止めるための騎士二人だ。

 厳戒態勢の向こうの対応にびくびくとした俺に、セナは一つのベルを取り出した。

 

「この道具を知っているか?こういった取り調べや裁判で使われる道具で、嘘を吐くとベルを鳴らす。つまり、今後、ここでは気を付けて発現するべきということだ」

 

 そう言うと、俺が座っているのと反対の椅子に座り、トントンと威圧するように机を叩く。

 

「それでは、サトウカズマ、16歳で冒険者、か。それではまず、出身地と冒険者になる前は何をしていたかを聞こうか?あぁ、野で暮らしていたというのは無しだぞ?たまにモン娘の中にはそう言ったのもいるが、それでもどこら辺に住んでいたのかくらいは知っているはずだし、そもそも貴様は人間だ」

 

 ……いきなり答えにくい質問だ。日本ってどうやって説明するんだよ。

 ベルの影響で嘘もつけないし……。まあいいか。

 

「出身は日本です。学生をしていました」

 

 チリーン

 

 おいおい、嘘なんかついていないぞ。

 

「おい、サトウカズマ……?」

 

「いや、本当に嘘なんかついて……!」

 

 俺は確かに嘘なんかついていない……俺は本当に日本出身だし、学生を……学生、を。

 

「……出身は日本です。実家に引きこもって自堕落な生活をしていました」

 

 ベルは、ならない。それを確認して、セナは呆れたように俺を見つめる。

 

「どうして見栄など張った」

 

「いや、見栄じゃなくて……」

 

 俺、この魔道具嫌いだ!

 

 その後もいくつかの質問をされたが、何度もベルはなり、その音が鳴るたびに、そして、その音によって訂正された回答を聞くたびに、セナの呆れ顔が大きくなっていった。

 

「……ええ、正直、俺自身もまあイリアスの暴走って面もあるので多少罰金があるのも覚悟していましたが、正直暴走したのもイリアスの責任だし、何で俺が中心になって借金返すことになってるのかとか、せめて賞金相殺くらいにできなかったのかとか考えて、その判断をした奴は頭おかしいんじゃないか、死ねばいいのにと思いました」

 

「そ、そうか。それじゃあ次は……」

 

「ちょっといいですか?せっかくならもっとストレートに聞いてくれません?お前は魔王軍の手先なのか?とか領主に敵意をもって攻撃したのか?とか。何度も言ってますけど、ランダムテレポートを指示しただけで、それが領主の館に転移するとか思ってもいなかったですし。もちろん狙ってもいません。テレポートの指示も街を救うためだったんです」

 

 その言葉にベルをじっと見るセナ。もちろんベルはならない。

 

「……どうやら、先ほどの言葉に嘘はないようですね。大変失礼いたしました」

 

 セナは、居住まいを正して俺に頭を下げて来た。

 

「ねぇ!やっぱりそうだったでしょ!俺は魔王軍幹部を倒し、ギガントウェポンを打ち倒した英雄ですよ!その英雄様に?こんな仕打ち、していいと思ってるんですかぁ?取り調べが始まってからお茶もカツ丼も出ない!?どうなってるんですかねぇ!?」

 

「す、すみません。カズマさんの功績は聞き及んでいたのですが、同時に悪評も聞いていたものですから。パーティメンバーの下着を公衆の面前で剥ぎ取り、カエルの粘液に塗れさせては喜んでいる、と」

 

「誰だ!そんな根も葉もない噂流したやつは!」

 

チーン

 

「……」

 

「ま、まぁ、パーティ内の話ですので何も言いませんが、もう少し節操というものを持った方がいいと思いますよ?それで、念のためにもう一度聞いておきますが、あなたは魔王軍の幹部とは関係がないのですね?魔王軍幹部と交流があるとか」

 

「おれがそんな大それた人間に……」

 

 チリーン

 

 見えますか?と言おうとして、俺はとんでもないミスをしたことに気が付いた。

 俺は取調室に響くベルの男を聞きながら、俺は、魔王軍幹部のシロムのことを思い出していた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「な、何をするんだ!まて!それに触るな!」

 

 大変な失敗をして落ち込んで帰ってくると、何やらベリアが騒いでいた。

 

「あ、カズマ!このカニ娘がひどいんだ!日々の訓練のために、短槍を取り出したらいきなり取り上げに来るんだ!」

 

「牢に入っている危険人物にそんな危険物持たせられるわけないだろう!」

 

 うん、これはベリアが悪い。

 

「というか、そんなでかい槍どこに入れてたんだよ」

 

「それはこう、鱗の間にこうしてな……ん?何だこの鍵」

 

 ベリアが、俺が昨日懐に忍ばせた最後のカギに気付いたところで、カニ娘がため息をつきながら言葉を吐き捨てた。

 

「釈放を撤回させられたくないならその槍をしまえ」

 

「釈放?」

 

 聞き返すベリアにカニ娘は頭を抱えながら答えた。

 

「貴様を投獄してからの話だが、被害者が「あれはプレイの一環だった」という証言しか出ていなくてな。誤認逮捕ということで釈放だよ。尤も、留置所でそんなブツを振り回してるんだ。今からでもしょっ引いても構わんが」

 

 そう言われたベリアは慌てて槍をしまい込む。太ももの辺りの鱗がゾロリとめくれて、そのまま槍が隠れてしまった。

 

「あー、お先に失礼する」

 

 そう言うベリアに俺は緩く手を振りつつ、またしても一人になった牢屋の中で寂しく座り込むのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 深夜、昨日と同じようにかすかな振動が聞こえ、意識が覚醒する。

 

「カズマ、カズマ!」

 

「ん?ああ、イリアスか」

 

 その声掛けに、イリアスは不満そうな声を上げる。

 

「なにが、ああ、イリアスか!ですか!何故昨日逃げ出さなかったのですか!」

 

「いや、それがさ、牢のカギが南京錠だったんだよ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ショックを受けたようなイリアスは、しかし気を取り直したように言葉を続けた。

 

「……いえ、大丈夫、大丈夫です。南京錠も、魔力を込めて触れれば解除されることもあります。最後のカギは持っていますね?それを、初級魔法を使っている感覚で……」

 

「すまん、脱獄できないのに持ってるとまずいと思って、一緒に牢に入ってたべリアにこっそり持たせちまった」

 

「……」

 

 俺がそう言うと、今度こそ思考が停止したのか、イリアスが固まったまま動かなくなる。

 

「それよりもそっちは大丈夫だったのかよ。昨日は爆裂魔法を目くらましにしたんだろ」

 

「あ、あぁ、流石に爆裂魔法はダメでしたね。意識は引けましたが、たまもが厳重注意を受けてしまいました。って、だまされませんよ!あなたは貴重な道具をそんな!……こほん、時間がないので、説教は脱出してからにしましょう。今回はクロムに頼んで人形で気を引いてもらっています。もしばれても彼女ならいたずらってことで厳重注意くらいで済むでしょう。もしとっ捕まって有罪になっても別に惜しくありませんし……おっと。それよりも今後のことですね」

 

 おい、こいつさりげなく腹黒いこと言わなかったか?

 

「最後のカギが失われたのは予想外でしたが、今回は、これを使おうと思うのです」

 

 イリアスはそう言うと、一つの模型を取り出した。

 

「それは、ポケット魔王城か!」

 

「そう、ポケット魔王城は人をその中に入れるとき、物理法則を無視して縮小させます。この力を使えば、カズマをポケット魔王城の中に収容し、そのまま逃げることができるというわけです!」

 

 おぉ!なんだかいけそうな気がするぞ。

 

「……ん?あれ?でも、その鉄格子からそれ、入れられないよな」

 

 かなり縮小してあるとはいえ元が魔王城だ。ポケット魔王城の大きさはそこそこあり、牢の鉄格子を通すには無理がありそうだ。

 

「いえいえ、それは、こうすればいいのですよ!」

 

 そう言うと、イリアスはポケット魔王城を地面に置くとボタンを押して台座を回し、一度ポケット魔王城内部に入り、そしてすぐに外へと飛び出した。

 

「……ん?」

 

「あ、あれ?私の計算によればこの角度で行けば牢屋の中へ転移できるはずなのですが……」

 

 そう言って、何度かポケット魔王城への出入りを繰り返していたイリアスだったが、結局建物内への侵入は不可能だったらしく、あきらめてすごすごと帰っていったのだった。




今回意外と変更点無いな……と思ってみたり。
そして、たくさんのアンケート回答ありがとうございます。
最終的にどうなるかはわかりませんが、現状、彼女が本格的に参戦した時点でカズマさんたちの道行きがスーパーハードモードになりそうで爆笑しています。そこまでストーリーたどれるように頑張らないとですね。

因みにですが、今回、仮にイリアスが牢屋の中に入れたとしてもカズマさんを持ち上げたままポ魔城の複雑な操作をするのが難しいので結局試行錯誤の結果すごすごと帰ることになります。(そもそも粘体生物であるエルべぇが体を伸縮させればこの脱獄は成功していたりする)

・変更点
 不良冒険者が釈放されている
 脱獄方法を糸鋸から魔法道具に変更


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EP39 イリアス「えぇ、まさかこんなことをやらかすなんて」 

思ったより筆が乗りました。


 この世界での裁判は、えらくシンプルだ。検察官が調べた証拠を提示し、弁護人が反論、そしてその結果を裁判官が判断する。

 弁護士なんて職業は存在しないため、被告の弁護は友人や知人が行うこととなる。

 

 俺たちは見やすいようにか開けた場所に設置された策に囲われた裁判場で、開廷の時を待っていた。

 

「ねぇねぇ、オジサマ。私を寵姫に加えてくれないかしら?いっぱいサービスするわよ?」

 

「下民が口をきくな、煩わしい!」

 

 ……なぜかエヴァが原告であるおっさんに言い寄っていた。いや、確かに金持ちなんだろうが、脂ぎったデブのおっさん、しかも性格も悪い相手によくやるものである。

 

「安心せい、カズマ、我々が付いておる」

 

「えぇ、私達に任せておきなさい」

 

 そうだ、俺には心強い仲間がいるのだ。

 

「そうなのじゃ!儂に任せておくのじゃ!」

 

「うん、クロムは他の人に任せておこうか」

 

 若干気が短いが、それ以上に頭の回転が速いたまもや、若干抜けているところはあるが老獪なイリアスはともかく、正直クロムは単純で気が短い。いわゆる技術馬鹿なため、この裁判ではあまり活躍できないだろうと思われた。

 

「な、なにぉう!?」

 

「カズマ、もし本当にどうしようもなくなったら、私が何とかしてあげる。今回のことに関しては、カズマは全くの無実よ」

 

 エルのその言葉に頼もしさを感じつつ、前を見ると、丁度裁判が開始されそうな様子だった。

 

「静粛に、これより、国家転覆罪で起訴されているサトウカズマの裁判を始める!告発人は、アレクセイ・バーネス・アルダープ!」

 

 でっぷりと太った男が裁判長の言葉に立ち上がり、そしてこちらを値踏みするように見つめて来た。俺のことをちらりと見た後は、俺の後ろにいる三人だ。

 たまもを好色そうな顔で見つめ、次にイリアス。そして、エルに目が留まると、その目を驚愕で見開き、暫し固まった。

 

「……あのような下衆、負けるものですか」

 

 ふつふつと燃えるような闘志をにじませながらイリアスが宣言すると、それを聞いていたわけではないだろうが小さく頷いた裁判長が木槌を打ち鳴らした。

 

「静粛に!裁判中は私語を慎むように!では、検察官は前に!ここで嘘をついても、魔道具ですぐにわかる!それを肝に銘じて発言するように!」

 

 裁判長の言葉と共に再び木槌化振り下ろされ、それと同時にセナが立ち上がった。

 

「それでは起訴文を読み上げさせてもらいます。被告人サトウカズマは、古代兵器ギガントウェポン襲来の際、これを他の冒険者と共に討伐、この際、暴走寸前であったクィーンサキュバスの生命核をテレポートするように指示。転送された生命核は、告発人であるアルダープ様の屋敷に出現し、大量のサキュバスを呼び出しました」

 

 アルダープを見れば、まだエルを凝視したままだ。正直不気味すぎる。

 

「毒物、爆発物、生物をランダムテレポートさせることは、法によって禁止されている!それを指示し剰え、領主という地位のある人物の命を脅かしたことは、国家を揺るがす事件であるため、私は国家反逆罪の適用を求めます」

 

「異義あり!」

 

 セナの言葉に半ばかぶせるようにして、イリアスが異議を唱えた。

 

「……、弁護人の陳述の時間はまだです。意見がある場合は許可を取ってから発言するように。裁判は初めてでしょうから、今回は大目に見ましょう。発言を許可します」

 

「……それでは失礼します。とはいっても、これは検察官に対する異議ではありません」

 

 その言葉に裁判長は不可解な顔をする。

 

「此度は、国家反逆罪という重大な罪の可否を問うもの、そして、被告が先ごろギガントウェポンの討伐の中心人物ということで、普段以上に裁判の傍聴者が多くなっています。一度裁判の流れを確認すべきだとは思いませんか?」

 

 イリアスの言葉に、裁判長は少し考えた後、小さく頷いた。

 

「弁護人の意見を認めます。確かに、此度は初めて裁判に参加した者も多くいることでしょう。ただ、時間を多くとることはできません。軽く本日の流れを説明しますから、質問があれば声を出してください」

 

 そう言うと、裁判長は裁判の日程を語っていく。とはいえ、そこまで難しいものではない。開廷、起訴分の読み上げ、そしてこれから行われる被告人、弁護士による被告人弁護、検察官による証拠の提示、その証拠に対する反論、そして、判決という流れだ。

 

「……証拠人は誰でも構わないという認識でよろしいですか?」

 

「言っている意味が分かりませんが、弁護人、証拠人はどなたでも構いません。ただし、いま、この場にいる、もしくは弁論に間に合うものだけです。よろしいですか?」

 

 それを聞いて、小さく頷いたイリアスを受けて、裁判長は改めて木槌を振った。

 

「それでは、改めて裁判を再開する!被告人、弁護人は、弁明をするように!」

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ですから、俺たちはキメラデュラハンを討伐し、そして今回ギガントウェポンを倒しました。こんなにこの街に貢献している俺が、国家転覆罪なんておかしいと思うんですよ!というか、むしろこれ表彰されてもおかしくないと思いませんか?」

 

 俺がどれだけかっこよくキメラデュラハンと戦ったか、熱弁を振るっていると、裁判長はもう結構、とでもいうかのように手を振った。

 

「わ、分かりました。それでは、次は検察官。被告人に国家反逆罪が適用されるべきとの証拠の提示をお願いします」

 

「では、これより、被告人サトウカズマが国家反逆罪にふさわしいと思われる証拠を提示します。証人の方々、前へ!」

 

 そうしてやってきたのは殆どが冒険者……というか、そのほぼすべてが俺の知り合いだった。

 一番最初にやってきたのは、銀色の髪が美しい女剣士風の盗賊だ。

 

「では、アリスさん、あなたがカズマさんに公衆の面前で下着を剥ぎ取られたというのは本当ですか?」

 

 その言葉に少し考えた後、アリスは口を開いた。

 

「うむ、余が持ち掛けたスティールでのギャンブルによる景品だ。まあ、その後返還を要求したが、そのこと自体に不正はないし、余も合意しておる」

 

 言い切ったアリスに、セナはたじろいだように身を強張らせ、慌てて次の証人を呼び出した。

 

「つ、次は、ミツルギキョウヤさん!あなたは、天軍聖剣をカズマさんに奪い取られたと聞いています!それは本当ですか?そして、其方の二人は取り返そうとしたときに下着を奪い取ると脅されたとか」

 

「検察官殿、その前に一つ言わせてほしい、僕とカズマ君は同じ神を信仰する同士だ。確かに天軍聖剣を売り払われはしたが、それは信仰が足りない僕を戒めるためのもの、むしろ僕はカズマ君に感謝しているんだ」

 

 その言葉にミツルギ以外の皆がドン引きする中、何とか気を取り直してセナが取り巻き二人に声をかけた。

 

「そ、その、後ろの二人はどうですか?」

 

「え、えっと、確かに俺のスティールが炸裂するぞって!」

 

「そうよそうよ!」

 

「よ、よし、それじゃあ最後です!」

 

 やっと有用な証拠を掴めたからか、少し笑みながら最後の証人を呼び出した。

 

「……えっと、なぜ私はここにいるのだ?」

 

 最後の証人はベリアだった。

 

「ベリアさん、あなたは先ごろとあるお店での乱闘騒ぎから投獄されていましたね」

 

「……それが何だというのだ?」

 

 不機嫌そうに答えるベリアに、セナは一呼吸おいて言葉を続けた。

 

「その際、そこにいるサトウカズマに辱めを受けた、と聞き及んでおりますが、それは真実ですか?」

 

「な……!」

 

 驚愕に目を見開いたベリアは、みるみる顔を紅潮させ、顔を隠して俯かせた。

 

「そ、その日のことは、聞かないでくれ、思い出したく、ない」

 

「ちょ、ま、まて!その言い方は誤解を招くだろ!そもそもあれはお前の方が!」

 

「わーっ!わーっ!な、なななな何のことだカズマ!なあ!なあ!」

 

 俺の言葉にかぶせるようにして大声で俺の声をかき消すベリアと、さらに言い募ろうとする俺の声は、すぐさまセナの声に遮られた。

 

「お判りでしょうか!つまり、被告人、サトウカズマは反省すべき投獄中でさえ女性との交流にうつつを抜かし、そして相手の女性に責任を押し付けるクズなのです!」

 

 そう声高らかに言ったセナに反論しようとしたが、涙目で見つめるベリアの目に思わず一瞬声を出すのが遅くなってしまった。

 

「ふむ、分かりました、これは……少々難しいですなぁ」

 

 裁判長がそう言って木槌を振り上げる。その瞬間。

 

「異議あり!」

 

 再びイリアスの鋭い声が響き渡った。

 

「またあなたですか?いったい何の御用で?」

 

「こちらも話を聞きたい方がいるのです」

 

「ほう?それはこの会場にいる方ですか?」

 

 小さく頷いたイリアスは静かに告発人の席を見る。

 

「アルダープ卿、いくつか質問を致します。お答えください」

 

 イリアスのその言葉に、アルダープは冷笑する。

 

「ふっ、何を言うかと思えば、下民の言葉に応える気などない」

 

「……(今怒ってはいけません、冷静に、冷静に)いえ、貴方は答えなければなりません。もしあなたが発現を拒否するなら、それはあなたの言葉に裁判で負ける要素があると認めるようなもの、そうではありませんか?」

 

 イリアスが流し目で裁判長を見ると、いきなり質問を放り投げられた裁判長は多少慌てつつ言葉を発した。

 

「む、あ、いや……。そうですな、質問も聞かず、全て質問を拒否は、確かにやりすぎかもしれませんな」

 

 それを聞いて、アルダープはいらだったように頭をコツコツと人差し指で叩き、そして声を出した。

 

「よかろう、そこまで言うなら答えてやろう。だが3つだけだ。そして、もしそれでこの男の無実が証明できなければ、その時は……」

 

「そうですか。ではまず、貴方はこの裁判、正当なものだと思っていますか?」

 

 アルダープの言葉を軽く流したイリアスは早速質問を始めた。鼻白むアルダープは、しかし皮肉下に笑って答えた。

 

「当然だ!儂の命が危ぶまれたのだぞ!死刑が妥当だ!」

 

 その言葉に冷めた目をしながら、イリアスが頭を振った。

 

「すみません、言い方が悪かったですね。あなたはこの小男が、本当に、100%国家反逆の思想をもってあなたを害そうとしていたと考えていますか?」

 

「……ふんっ!その可能性が一番高いだろう!いや、それ以外のことは考えられんな」

 

 その言葉に少し瞑目し、イリアスは静かに言葉を続けた。

 

「それでは、アルダープ卿、悪魔と言葉を交わしたことは有りますか?」

 

 唐突な質問にアルダープは一瞬呆けた顔をし、そして烈火のごとく気炎を上げた。

 

「なっ!何を言いだすか!あのような下賤な連中と話をすることがあるわけが無かろう!そして、この裁判に関係ないことを聞くとは何事だ!もういい!この女も法廷侮辱罪でひっとらえろ!」

 

 そう言い切った後、がやがやと少し騒がしくなった会場で、イリアスは意外そうな顔をしてから、クスリと笑った。

 

「ふふ、ふふふ、あははははははははははははははははは!」

 

 あまりの異常さにアルダープでさえぎょっと動きを止めたその直後、イリアスの目がギョロリとアルダープを見据えた。

 

「あらあらあら、おかしいですね?あなた、さっきエヴァと話していましたよねぇ?どうして嘘を感知する魔道具に反応がないんでしょうか?」

 

 その一言で、その場にいた全員が思わず魔道具の方を見つめた。確かに言われてみれば、先ほどから一度も魔道具はその音を鳴らしていなかった。

 

「エヴァはサキュバス、れっきとした悪魔ですよねぇ?彼女と言葉を交わしたのに、なぜ魔道具は反応しないのでしょう?」

 

「貴、貴様!儂を愚弄するか!」

 

 アルダープの言葉を聞いて、イリアスはさらに目を鋭くする。

 

「愚弄?愚弄しているのは誰なのでしょうね?魔道具が反応しなかったという事は、悪魔とあなたの関係が出た時点で、何らかの方法を使って魔道具を無効化したという事。

 ……おかしいですね?エヴァと話したのは裁判の直前、しかもこの場にいる多くの人物が見ている公然の事実。それを隠し立てする意味はなく、だからと言ってあなたが悪魔に指示を出すタイミングもありません。つまり、”あなたが事前に悪魔との関係性がばれないように細工をした”か、”悪魔が自己判断であなたとの関係を隠匿した”かということになりますね?」

 

 コツコツと足を踏み鳴らしつつ、イリアスはアルダープの顔を覗き込んだ。

 

「裁判を愚弄しているのは、一体どちらなのです?」

 

「え、ええい!うるさいわ!こいつは国家反逆罪で死刑!そうに決まっておる!裁判長!そうであろう!」

 

「え、あ、あぁ。確かに、そうかも、しれませんなぁ?」

 

 明らかに無理筋の、というか全く別の方面で炎上しかかっているアルダープの言に同意する裁判長。その不自然さに、敵側として立っているセナでさえも変な顔をして裁判長を凝視した。

 

「……アルダープ卿。私は厳正な裁判を望みます。魔道具の故障という線も一応考えられますし。もし、厳正な裁判の結果、こちらに過失があったというのなら、罰金や、多少の禁錮であるならば甘んじて受けましょう。ですが、もしこのままこの男の死刑を断行するというのならば」

 

 そう言うと、イリアスはラスボスの如き威圧感を放ちながらアルダープを威圧し、言い放った。

 

「我々は有志を募り、その全員で王都へ上り、不正裁判をする貴族について陳情しましょう。果たして国王陛下はあなたのことをどう判断するのか、楽しみですねぇ。あぁ、言っておきますが、私に洗脳の類は効きませんよ。尤も、仮に私一人を洗脳したとしても、この場にいる誰か一人でも王都までたどり着ければそれで最低限の目的は果たせるわけですが……」

 

 その言葉に、焦ったようにアルダープは周囲を見渡した。

 そして、俺自身は冒険者たちの視線を浴びながら冷や汗を流していた。

 イリアス、陰険すぎるだろ!要するに正当に裁判を行うというのは和平条件なのだ。これ以上は要求しないという手打ちの条件。それを飲むのであれば、アルダープへの不信感は残りつつも、『魔道具の故障による不具合によって少し問題のある裁判だったが、改めて正しい裁判が行われた』だけの裁判となる。

 だが、もし、それを飲まなかった場合、アルダープは不正裁判を断行した者となり、そしてそれは貴族とはいえ一個人が簡単に誰かを死刑にすることができる権力を持つということになる。そしてとどめにイリアスが周囲の人間の存在を強調したことにより、この場にいる全員が、アルダープを野放しにしていればいずれは自分自身が処刑台に上がる候補者として認識されたことを自覚することになったのだ。

 

 それはアルダープにとっては数百人規模の敵が一瞬で目の前に出現したに等しく、傍聴人たちにとってはいざとなれば絶対に王都へと向かわねばならない理由が発生した瞬間だった。

 

 そんなある意味どちらにとっても最悪な状況を作り出した女神さまは、勝ち誇った笑顔でアルダープに言い含めるように言葉を重ねる。

 

「さぁ、では再審を致しましょうか。えぇ、いい結果になることを期待していますよ。何しろあの男は、魔王軍幹部を倒し、古代兵器を倒した英雄!過去一度たりとも、魔王軍の幹部と情報を共有し、パーティを組むような関係になったことなどないのですから!」

 

 リーン!

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

 もはやイリアスの独擅場となった裁判所内に澄み渡ったベルの音が響き渡り、その場にいるほぼ全員が、イリアスやアルダープでさえも呆けた声を出すことになったのだった。

 

 




※たまも→もんクエ世界で魔王の教育係かつ四天王
 エルベディエ→もんクエ世界でクィーンスライムかつ四天王
 グランベリア→もんクエ世界で勇者ルカと最初に戦うことになる四天王
 アリスフィーズ・フェイタルベルン→旅のグルメとは仮の姿、真の姿は魔王 つまり、そういうことです。

 なお、イリアスはああいっているが、実のところここまで上手くいくとは思っていなかった。本当は悪魔特有の嫌な気配を感じたので、エヴァに話かけさせ、悪魔の質問で罠にかけ魔道具を起動、もしくは嘘をつかなかったとしてもどんな悪魔と関わりがあるのか、とかを聞いてそっち方面から傍聴人たちを先導していくつもりだった。今回はアルダープ側の用心が裏目に出て思わず悪魔に関する質問に過剰反応して魔道具を止めてしまったためある意味不自然すぎる状況が生まれました。イリアス様もウッキウキです。むしろはしゃぎ過ぎてポカをしました。


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EP40 裁判その後

「え、あ、まさか!?」

 

 嘘発見の魔道具が鳴るという思わぬ結果に、思わず、と言った風に声が口から漏れ出たイリアスは、慌てて口を閉ざす。しかし、それを見逃すアルダープではなかった。

 

「まさか?まさかなんだというのだ?よもや、貴様の方こそ悪魔と契約して儂をはめようとしておったのではないか?」

 

「そんなはずがないでしょう!そもそも、カズマだって、本当に!この世に存在する魔王軍の幹部と戦闘を共にするような深い仲になったことは無いんです!」

 

 ばっ、と全員の目線が魔道具に向くが、今度は魔道具が鳴らなかった。

 

「先ほどと聞いた質問と同じなのに音が鳴らぬ!貴様が細工をしているのだろう!」

 

「そんなわけがないでしょう!ほら吹きもいい加減にしなさい!」

 

 言い合う二人だったが、それを裁判長が制止した。

 

「静粛に‼静粛に、現状のままではらちがあきません、ですから「さっさとこの平民を死刑にして終わればいいのだ!」……この裁判を迅速に終わらせ、原因究明をすべきでしょう」

 

 …………。こいつ、今すごい墓穴掘らなかったか?

 

「見たことですか!裁判長の口から、あなたの望んだとおりの歪んだ言葉が紡がれましたよ!それこそがあなたがこの裁判に細工をした証拠です!」

 

「何を言うか!そ、それは偶然というものだ!」

 

 

 そう言い合いをしている前で、それまで沈黙を貫いていたエルが一歩前へ進み出た。

 

「裁判長、これを」

 

 そう言うと同時に、どこから出したのか高価そうな材質の紋章のような物が施されたペンダントを取り出した。俺にはそれが何か分からなかったが、裁判所の人間には周知の物だったらしく、驚きで裁判長は立ち上がった。

 

「あ、あなた様は、まさか!」

 

 そう言って皆の視線を一身に受けたエルは、全体に向かって宣言した。

 

「申し訳ないけれど、この裁判、私に預けさせてもらえないかしら。もちろんなかったことにして欲しいというわけではないわ。時間をもらえるならば、この男の身の潔白を完璧に証明して見せる。そして、サキュバス襲撃に対する損害があるのならばその損害は必ずさせましょう」

 

 その宣言に、黙って紋章を見つめるしかないセナと裁判長。しかし、アルダープだけは苦しそうに呻きながらこちらを凝視していた。

 

「いや、しかし、それは……」

 

「アルダープ。此度はとても不幸な偶然が重なった。まさか、魔道具が故障し、適当な場面でベルが鳴るようになっているなんて」

 

リーン

 

 エルの言葉に魔道具の音が響くが、そのことに関して決して誰も突っ込まなかった。ほぼ全員がこれはそう言う体の話だと理解していたし、ごくわずかの例外はエルの言葉を真にうけて、そうだったのか!と納得したからだ。

 

「このような場面の不幸な勘違いを世間に吹聴するのは、私としても本意ではない。だけど、壊れた魔道具の「リーン」結果で裁判を断行しようとするのなら、私は上に報告しなければならなくなるわね」

 

「そ、それは……」

 

明らかに狼狽するアルダープの様子を見れば、上に報告されるのはよっぽどまずい状況らしい。

 

「それと、あなたの家には嫡男が1人いたわよね?」

 

「そ、それがどうしたというのだ!」

 

 エルはその顔を真面目な顔で……否。若干にやけそうになる口元を押さえつつ答えた。

 

「いえ、ただ、知り合いになりたいだけよ。なにしろ10にならない少年らしいじゃない。可愛い盛りの子と遊びたいと思うのは当たり前の事よ」

 

 俺は思わずエルを止めそうになり、慌てて口を押さえた。

 確かに一見すると、これは職権濫用した身分を隠したお嬢様がはあはあしながらショタを差し出すように脅迫している場面に見えるが、周囲の人間的には、それを口実に悪徳領主から嫡男を引き剥がし正当な教育を施すための下準備に見えているのだ!

 

 なお、現実は非情である。ベルがなっていないのが何よりの証拠だ。

 

「う、ぬぬ、わかった。確かにこちらの不手際があったようだ。この裁判は、一旦そちらに預けよう」

 

 アルダープがそう告げ、裁判は一旦幕引きになったのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

裁判が終わり数日、俺が屋敷の居間へと向かうと、そこには西部劇でコロコロ回ってる草を黒くしたみたいな見た目の何かを手で弄んでいるたまもの姿があった。

 

「ん?なんだそれ?植物か?」

 

「おぉ、カズマ。おはようなのじゃ。残念ながら、これは植物ではないのう」

 

そう言いながらたまもがそれを手で弄ぶのをやめると、それはひとりでに末端を伸ばし、ウニョウニョと蠢きつつ宙に浮いた。

 

「触手じゃ」

 

「捨ててきなさい」

 

 触手の中央にある目と目が合った瞬間、俺は思わずそう言った。

 

「そんなに嫌わんでよかろう?別に悪さするようなもんじゃないのじゃ。結構なれると可愛いんじゃよ」

 

 そう言って頭?をタマモが撫でると、触手の目が気持ちよさそうに閉じられた。

 

「……そこまで言うなら、様子見するけど、お前がエロ同人誌みたいな展開になっても助けないからな」

 

「なんじゃえろどーじんしって。まあ、一緒に住めるなら問題ないのじゃ。のう、トロ8世」

 

「トロ8世?」

 

 じっと触手を見ると、たまもの懐から勝手に魚を取り出して、目からビームを出して魚を灰色に変色させてから目の直下辺りに押し込んでいた。

 

「……えーと。この触手、魚を石化させてから食べてなかったか?」

 

「触手ではない、トロ8世じゃ」

 

 そう言う俺とたまもに突如現れたイリアスに覆いかぶさられた。

 

「二人とも!隠れなさい!邪神の気配が!……おや?何だただの触手ですか」

 

「てめー!イリアス!なんなんだよ!」

 

 そう言って抗議した俺だったが、イリアスはすました顔でこちらに向き直った。

 

「ここに邪神の気配があったような気がしたのですが、気のせいだったようです。その触手もよくある触手のようですしね」

 

 そう言ってすました顔のイリアスは、一転少し不安そうな顔を浮かべた。

 

「それよりも、エルを知りませんか?昨夜から姿が見えないのですが」

 

「あぁ、エルなら、いまアルダープの野郎との諸々を処理するために実家に戻ってるらしいぞ」

 

 俺はあきれ顔で周囲を見回した。何しろ、結果的に痛み分けみたいになったあの場だが、正直中身を見ればエルやイリアスの脅しに屈したようなものだ。あまり心配はしていなかった。

 

「え……」

 

 それに絶句するイリアス。……まぁ、気持ちは分かる。この段階でエルが一夜を明かすという事は、領主のショタ息子との一晩中通しての交流(意味深)を敢行したということであり、それは即ちエルが合法的に外道に堕ちたということだ。

 

「エル、あの子ときたら……」

 

「あぁ、帰ったら取り囲んで尋問しよう」

 

 エルが帰った段階でこの屋敷がエルにとっての敵地になることが決まったところで、玄関から音が響き、慌てた様子の声が上がってきた。

 

「サトウカズマ、サトウカズマさんはいらっしゃいますか!」

 

 そうして扉を開けたのは、見目の整ったメイド姿の女だった。

 




遅れました。

 基本、裁判結果は痛み分けですが、原作と比べればカズマたち有利で終わってます。
 そして、例の方の姿が確定しました。

トロ八世の由来

 とある封印から解き放たれた(とたまもは考えているが確証はない)触手。

 トとロを組み合わせると占となり、これはトロ八世の発見の経緯が、彼女の妹である狐二尾が占いを行い、占い結果として向かった先で捕獲したからという経緯がある。その後、名づけの際自分の直属の眷属、ということで九尾よりも一つ下げた8、そして尾が無いので適当に世を付けた。とか言う理由かもしれない。

 

 尚現実問題としては某八世さんの偽名を短縮しただけである。


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EP 41 Q クエ世界で運ゲーを強要してくる強敵といえば?

 屋敷に転がり込んできたのは、ランと名乗るメイドだった。

 

「で、ランさんはなんでここに?」

 

「ええ、実はお嬢様のことでお話が……」

 

「お嬢様?」

 

 俺たちが首をかしげる中、ランさんは言葉を続けた。

 

「詳しい話は屋敷の方でさせていただきます。身ぎれいな服装に着替えて、ついて来てはいただけませんか?」

 

 その言葉に、俺たちは顔を見合わせて困り顔で答えた。

 

「いや、いきなり要件も言わずについて来いって言うのはなぁ、まあ、いいとこの貴族のメイドなのは予想できるけどさ」

 

「……それは、その御屋形様がお伝えされることですので。それに、お嬢様、エルべぇ様のことに関わることで、おいそれと他言できないというか……」

 

 その言葉に、俺たちは三度顔を見合わせた。

 

「まぁ、そう言うことなら」

 

「ありがとうございます!早速馬車で出発しましょう!」

 

 そんなわけで、俺たちは馬車に乗って屋敷とやらに向かおうとしたのだが……。

 

「……おい、サバサとシロム、ポ魔城にもいないんだが」

 

「あぁ、そう言えば、ギガントウェポンの戦いとその後の脱獄騒ぎの時ので人形が殆どなくなったから、おねえちゃんの所で素材を調達してくる!と言って出て行っておったのう」

 

「……タイミングの悪い。まぁ、場所が分かってるんならいいか。ランさん、シルクドゥ・クロワ魔道具店に寄り道して、仲間を拾っていっても良いか?」

 

「えぇ、もちろん構いません。仲間全員にお話しすることになるでしょうし」

 

 そう言うことで、俺たちはシルクドゥ・クロワ魔道具店に寄り道することになったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 少し雪の積もった街を馬車で抜けていくと、目的のシルクドゥ・クロワ魔道具店が見えてくる。俺たちは特に気兼ねすることなく店の扉に手をかけた。

 

「よく来たな、我が店に!……なんだ、カズマたちか」

 

「よっシロム」

 

「だから、余はラ・クロワだと……。まあいいか。それで、何のようなんだい?」

 

 俺たちだと分かった途端にお客様用のハイテンションの語りをやめたシロムといつものやり取りをしてから、俺たちはクロムの所在を聞くと、シロムは少し驚いたように言葉を続けた。

 

「む?君たちは知らないのか、我が愚妹ならカエル狩りに行ったぞ。流石に愛しい妹と言えど、タダで商品を渡せるほど私も余裕はなくてね。てっきり君たちに助力を仰いでいるものかと思ったが」

 

 そう言ってやれやれと頭を振るシロムは、しかし言葉の端々や些細な所作に嬉しさをにじませていた。

 とはいえ、再び関わりを取り戻した姉妹がささやかな幸せを噛み占めている様子をいつまでも観察しているわけにはいかないので、俺はランさんに視線を向けた。

 

「……そうですね、出来れば全員でお越しいただければ一番です。迎えに行きましょう」

 

 そう言うことになった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 俺たちがシロムに確認を取った場所へと到着すると、そこには大量のカエルが犇めいていた。

 そして、その中には特徴的な二人の影が見える。一人はカエルと比べてもそん色のない巨体で、もう一人はその巨体に抱かれるように重なっている。

 

「これはちと、多すぎるのう」

 

 そう言ってぼやく声が聞こえたと思うと、巨体が蠢き、カエルがお手の一打で引きつぶされる。しかし、カエルたちはそんな様子に頓着することなく彼女に近づいていっていた。

 

「うっわぁ」

 

 思わずこぼれ出た俺の声に、目の前の巨体の持ち主が反応し、やや嬉しそうな声が帰ってきた。

 

「おお!主様ではないか!今はちと厄介な状況じゃが、とりあえず妾とシロムは心配いらぬ!」

 

 そう言うと同時に再び前足が動き、また一つのカエルが踏みつぶされる。

 

「うっわぁ。あいつの戦闘とか見てなかったけど、もうあいつ一人で良いんじゃないかな」

 

 その姿は、さながらネズミを仕留める猫といった風情だ。

 

「って、見てる場合ですか!助太刀しますよ!」

 

 そう言って、飛び上がったイリアスと、杖を構えるたまも、二人の連携の甲斐もあり、ジャイアントトードたちは一転に集結する。そして……。

 

「行きますよ!」

 

「ちょ!待て!妾は足腰が弱っとるから、急激な移動はできな……」

 

「穿て!エクスプロージョン!!」

 

 轟音が鳴り響き、爆裂魔法がその場にいる殆どのカエル、ついでに逃げ遅れたサバサを巻き込んで爆発する。

 

「これで敵は殆どやっつけたのじゃ……ナイス、爆裂」

 

「仲間巻き込んでんじゃねーか!」

 

 あおむけに倒れるたまもに、拳骨をくらわそうとして気付く。サバサはともかくクロムの反応がない。

 慌てて爆裂魔法が爆発した辺りを見ると、その先にクロムの姿があった。

 

「ちょ、ま、やめるのじゃ!ど、どこ触っておるのじゃ!」

 

「げこ~。君かわいいね~」

 

 そこには、緑の肌色をした魔物娘がわらわらとクロムに集まっているのが見えた。

 

「クロム!」

 

 上空から叫び声をあげるイリアス。助けようと様子をうかがっているようだが、その声で相手側にもイリアスがそこにいると意識したようだ。一人が上空を見つめ。

 

「え?」

 

 一度の跳躍でイリアスの元まで飛びこんだ魔物娘に押し倒され、イリアスが墜落する。弓を構える暇さえなかった。

 

「お、おう、こっちにもきおったか、これ、ちょっとまずくないかの?」

 

 気が付くと、たまもや気絶したサバサの方にも魔物娘が近寄ってきていた。

 

「まて!それ以上動くな!」

 

 弓を構えて、手近にいるたまもに寄ってきた魔物娘に向けると、ゲコゲコ笑ってその魔物娘は返事を返した。

 

「安心してほしいわ。私達カエル娘は人間も魔物娘も食わない。ただ私たちの欲望を発散するのを手伝ってもらうだけ、ことがすめばそのまま返してあげる」

 

 そして、その顔が邪悪に歪む。そして、悪寒に体が震えるよりも早く、背中に重量級の何かが張り付いた。

 

「それよりも君、おいしそうだね」

 

 それは、別のカエル娘の声だった。

 

「くっ!離れろ!」

 

 ゲコゲコとカエル娘たちの笑い声が大合唱となって響き渡る中、一条の雷鳴が通り抜けていった。

 

「ライトオブ・セイバー!」

 

 轟音が鳴り、俺の背中が軽くなる。見れば気絶したカエル娘がプスプスと焼けこげながら白目をむいていた。

 

「さて、次にこれを喰らいたいのは誰かしら?」

 

 その一言を受け、カエル娘たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げていった。

 

「……何してるの?あなたたち」

 

 そこにいたのはたまもの同郷、七尾の姿だった。肝心のたまもは存分に舐り回されたのかなんかネチョッとしてたので、ドレインタッチで俺の魔力を分けてやる。

 

「……くぅくぅ。カズマ、もうよいぞ。爆裂魔法には足りぬが、ある程度魔力がたまったでの」

 

 そう言うと、たまもはふらりと立ち上がり、そして俺に目を向けて来た。

 

「とりあえず、サバサたちを起こすのは面倒じゃ。ポ魔城に突っ込んで、屋敷の方で何とかしよう。さっさと帰るのじゃ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

 いきなり帰る手はずを整えようとするたまもに、七尾が焦ったように声をかけた。

 

「何を言っているのですか!そもそも、あなた達はそこのメイドとどこかに行く予定だったのでしょう!?」

 

 七尾の言葉にハッとしてランさんの方を見ると、ランさんは苦笑して手を振った。

 

「流石に、御屋形様に会うにあたってその粘液まみれの体で会わせるわけには参りませんので、また明日、お迎えに上がります」

 

 そう言うことになった。……ん?

 

「いや、まて、なんでお前がそのことを知ってるんだ?」

 

 俺たちが彼女の言う御屋形様の所へ行くことは、他の冒険者たちどころか街の人々にも行っていないことだ。このメイドが屋敷に来てすぐに出発となったので当たり前と言えば当たり前、例外と言えばシロムくらいのものだ。

 

 なのになぜ、七尾はそれを知っている?

 

「のぅ、まさかとは思うが、七尾、うちらのことをつけておったりするのかの?」

 

「なっ、違う!これはたまたま、そう、たまたまたまもに用事があって、探していたら偶然馬車に乗るお前たちを見かけただけで、決してストーカーしていたわけではっ!」

 

「へー」

 

 

 感情のない声で応じるたまもに七尾は焦ったように話題を変える!

 

「そ、それより、たまも、あなた私と勝負しなさい!族長の娘として、九……であり幼馴染のあなたを倒さずして、次期族長になることはできないのです!」

 

「いや、七尾、お主目は大丈夫か?いま、カエル相手に激戦した直後じゃよ?なんだったら命に別状はないが、介抱せねばならぬ仲間もおる。そのようなことも考えつかんで、何が次期族長じゃ」

 

「うっ……」

 

言葉に詰まった七尾はしかし、思うところがあったのか、少し早口に言い返した。

 

「は、はんっ!何がカエル退治だ。そこの男も、あっちの三人もカエルに捕まっていたじゃないか。果たして、本当に戦っていたのか?」

 

その言葉に、たまもが真顔で七尾を見つめ、そしてため息をついて口を開いた。

 

「よかろう。そこまで言うなら相手になろう。とはいえ、うちも魔力は回復しておらぬ。故に、徒手格闘での勝負でどうじゃ?」

 

「良いのですか?格闘戦はリーチの長さが肝要。手足長さなら、私の方が数段有利……そのカエルの粘液への忌避感を差っ引いても私の有利は揺るぎませんよ」

 

 若干嫌そうにたまもを見つめる七尾に、たまもは不敵に笑って手招きする。

 

「どうした?来んのか?」

 

「上等です!」

 

そう言って数秒後……

 

「アイタタタ!ギブ!ギブ!私の、私の負けでいいから!」

 

 さりげなく高度な攻防の後、普通に押さえつけられてギブアップする七尾の姿があるのだった。

 

 




A カエル娘

 半ば行動パズルゲーであるモンクエにおいて、何故か難易度ノーマルであるにも関わらず、こちらが最善手を打ってもカエル娘に最善手取られると負けが確定するとかいうくs……強キャラ。無敗勝利1番の難敵である。

本来はセナさんがカエルの大量発生の原因をカズマたちと考えますが、裁判の結果が結果のため猜疑の目がアルダープの方に向いています。
割とゆんゆんのストーリーが長かったので、急遽こっちでもカエル討伐するように軌道修正したのは内緒。

ちなみにランさんはモンクエに登場するメイドさん。つまり……?
この世界のランさんは元の雇い主とは別の人に仕えています。元の雇い主は全く別の役で出てくる予定。

変更点
・ランさんがまとも
・クルセイダーが結婚に乗り気
・仲間を回収するためのサブクエスト発生
・次期族長との会話変更(一度対面しているため)


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EP42 お風呂回

「ふむ、……カズマ、これはお主にやろう。借金返済の足しにするとよい」

 

 そう言ってたまもは一つの石を投げ渡してきた。それは赤く輝く石で、具体的に言うと先の格闘戦で、ギブアップした七尾がなかなか技を解かないたまもに降伏の対価として提示されたものだった。

 

「なんだ、これ?」

 

「マナタイト結晶と言っての。この内部の魔力を自身の魔力の代わりにすることで、魔力消費無しに魔法を扱える、言ってしまえば使い捨ての外付け魔力容器じゃ。……じゃが、爆裂魔法の魔力を賄うにはちとこの大きさと純度では役不足での。うちには無用の長物なのじゃ」

 

 ……それって、要はすっごい扱いにくい魔法を常に使っているってことなのでは?

 

「なあ、たまも、別の魔法を覚える気とかって……」

 

「ない……と言いたいところじゃが、精霊との契約のこともある。何か覚えんといかんかと吟味しているところじゃ。尤も、それもポイントの少ないものにするつもりじゃから戦闘ではあまり役に立たんと思うがの」

 

「だよなぁ」

 

 俺は一つため息をつく。

 まあ、たまもも頼りがいのある時はある……徒手空拳を使っている時や作戦指揮をしている時という、どっちかって言うと魔法使いとしてではない場面で活躍しているのがなんとも残念だが。

 

 それに比べて……と俺は七尾を思い浮かべる。先ほど見たライトニングセイバーは一撃でカエル娘を薙ぎ払っていたし、まだまだ余裕はありそうだった。しかもプロポーションはボンキュッボンと大したものだった……。

 

「のう、カズマ。紅魔族というのは魔力だけでなく知力でも有名な種族じゃ。お主のため息の理由、当ててやろうか」

 

 少しドスを聞かせてそんなことを言うたまもに、俺は少し詰まってからたまもに向き合った。

 

「七尾よりもたまもの方が美人だな、と思ってました」

 

「ほほ、面白いことを言うのう。では、その美人さんがお主に抱き付いてやろう。光栄に思うがよい」

 

「おいちょっとやめ!ったたたたた!」

 

 気に食わなかったからって関節を決めるな!関節を!

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 屋敷に戻ってもポ魔城からイリアスを始めとして仲間たちが姿を現すことは無かった。まだ気絶しているらしい。

 とりあえず俺たちは連れ立って風呂場に向かう。

 

「むぅ、カエル臭くてたまらんのじゃ」

 

「俺のカエル臭いのも半分はたまもが抱き付いたからなんだが?」

 

「役得であろう?ヌルヌルのおなごに抱き付かれるなど、場所によっては多少払ってもされたいと思う男は多かろう?」

 

 しれっとそんなことを言い放つたまもをスルーして脱衣所に入ろうとすると、その服の袖が引っ張られた。

 

「……なんだよ」

 

「鼻がひん曲がりそうでのう。先にうちが入りたいのじゃが」

 

「俺だってヌルヌルが気持ち悪いし、臭いからさっさと汚れ落としたいんだが。そもそも、お前じゃお湯沸かせないだろ。魔力すっからかんなんだから魔力式湯沸かし器動かせないんだから。分かったら俺が出るまで暖炉であったまってきなさい」

 

 そう言ってシッシッと手で追い払うと、嫌そうな顔をしながら反論をしてきた。

 

「この着物、そんな乾かし方したら確実に痛むのじゃ。においが定着して取れんくなったら、新調するしかないのじゃが、お主がその代金を持ってくれるかえ?」

 

「それはそれ、これはこれだ」

 

 俺はさっさとお湯を張り、上着を脱ぎ始める。

 

「むぅ、お主、ためらいなく乙女の前で服を脱ぐのう」

 

「何が乙女だ、ちみっこ。そう言うセリフは、もうちょっと成長してから言ってくれ」

 

 その言葉にむぅとうなるたまもだったが、にいっと笑って着物に手をかけた。

 

「致し方あるまい。カズマはうちのことをロリっ子と思うておるようじゃし、共に湯船に入ろうではないか」

 

「あぁ、それなら万事解決だな!」

 

「……お主、少しは躊躇いとかないのかや?まあ良いか」

 

そう言ってたまもは割と躊躇なく服を脱ぎ捨てるのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「「ふぃー」」

 

 俺たち二人の気の抜けた声が重なり、くたりと体の力が抜けていく。

 

「あぁ、やっぱり風呂はいいな。疲れが抜けていく」

 

「全くじゃな。どうじゃ、借金の方も、ある程度目処がついたら温泉にでも行くというのは」

 

「あぁ〜それもいいなぁ」

 

そんなふうにリラックスしていた俺は、チラリとたまもの肢体を盗み見る。体はもう、完全にチミっ子であり、欲情のよの字も出ないつるぺたすっとんとんだ。逆にこれで欲情したらそれだけでロリコン認定不可避だろう。

 

……。いや、しかし、俺はある一点に視線を向ける。それは彼女の尻の付け根から生えた九つの豊かな毛並みの塊である。

 

「む?……ほほう?なんじゃカズマ?お主、うちには欲情せんと言うておきながら、いやらしい目でうちのチャーミングな尻尾を舐めるように視姦しおって……。ほほ、愛いやつじゃのう」

 

「ばっ!違っ!」

 

慌てて否定するものの、少し前を気にしているのを勘づかれてしまったらしい。揶揄うように含み笑いされてしまった。

 

「よいよい。うちの尻尾は極上じゃからの。それを思い出して反応してしまうのは男の性と言うものよ。

 とはいえ、今は風呂に入って濡れ鼠。流石に普段の尻尾と比べれば触り心地も見た目も半減じゃな」

 

 そう言ってしゃなりと尾を振るたまもの姿に、思わず顔を背けてしまった。幸いなことにそこで満足したのだろう。彼女はニヤリと笑った後はそのことには何も触れずに話を変えた。

 

「しかし、エルべぇは一体何をしとるんじゃろうな?明日、あのメイドについて行けばわかるとは思うが」

 

「まぁ、心配しなくても大丈夫だろ。メイドが来たってことはどこかのお屋敷にいるってことだろうし」

 

 そんなふうに話していると、何やらゴソゴソと音がし始めた。

 

「全く、酷い目に遭いました。というか、なんですかあのカエル娘は。うぅ。お陰で体がぬるぬるです」

 

「イリアス、起きたみたいだな……って、たまも!風呂の鍵閉めたか!?」

 

「忘れておったのう。こりゃ、ちとまずいかもしれん」

 

割と慣れてきたとはいえ、潔癖症の気のあるイリアスのことだ、この状態を見られたら、雷を落とされる可能性は高い。

 

「早く鍵を!」

 

「いかん!悠長に閉めておったら間に合わんぞ!」

 

「っく!間に合え!『フリーズ』!!」

 

冷気が当たりを包み、錠前を凍結させる。

 

「む、カズマ、中にいるのですか?まあ、良いでしょう。上がったら私に声をかけるのですよ」

 

そう言ってイリアスはその場を離れていった。

 

 良かった。まぁ、良く考えればイリアスが好き好んで俺の裸を見ようとする訳がなかったのだから、中に俺がいることをアピール出来れば良かったのだ。

 安心感も手伝い俺の全身から力が抜けていく。いや、これは。

 

「大丈夫か?カズマ」

 

「イリアスに関しては大丈夫だだけど魔力切れで全く動けないよ。まぁ、なんとかなっただけありがたいけど」

 

 そう言って脱力する俺をたまもが担ぎ上げる。

 

「まあ、とりあえず湯船に浸からせてやろう。凍結魔法で風邪をひかれても敵わぬ」

 

「あぁ、ありが、あ」

 

 その時、ハラリとタオルが落ち、休眠状態のアレがたまもの目に晒される。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙して暫く。侮蔑か、羞恥か、そんな感情の爆発を予想していた俺は、その予想を大きく裏切られることになった。

 

「うちと風呂を共にしておいて、その反応かや?気に食わんのう……お主もうちの尻尾を無断で触ったことがあったわけじゃし、股座についた前尻尾をうちが弄ろうが問題あるまいな」

 

「た、助けてくれイリアス!のじゃロリ幼女に悪戯される!」

 

その後、イリアスに助けられ、ロリコンカズマと、雷撃と説教を喰らったが、間に合って本当に良かったと思う。

 




大変お待たせしましたお風呂回です。
なおこの世界のたまもの羞恥心はめぐみん準拠でなくエロゲ内の魔王軍四天王、たまも準拠です。
彼女は普段はのじゃのじゃ言いながら遊び感覚で勇者と戯れるたまも様ですが、魔王城でのガチ戦闘(本気ではない)の時はなぜか初めから全裸で戦うとかいうアルマエルマですらしなかったことを平然とやってのける羞恥心皆無なお方なので。まぁ、お風呂で裸体晒すのもまぁわかるかなー。と。

 因みにサバサとシロムも起きていますが、サバサはさもありなんと静観しており、シロムははわはわしてます。

変更点
・アークウィザードの抵抗感が全体的に低め
・風呂場での会話内容を変更


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EP43 令嬢の欲望

 俺がロリコンの誹りを受けた翌日。俺たちはランに連れられ、彼女の雇い主である貴族様の屋敷へと連行されていた。なお、馬車の為、大きすぎるサバサはポ魔城の中で待機している。

 

「……えっと、つまりなんだ。エルはお貴族の一人娘で、いまアルダープの息子との婚約をノリノリで進めてるってことか?」

 

「はい、そうなのです」

 

 貴族邸へと向かう道中に聞かされたその言葉に、俺たちは口がふさがらなくなる気持ちでいっぱいだった。

 いや、確かに思い返せば、クィーンスライムなのをいいことに、スライム族の問題を自分で解決するとか言ってたな。片鱗は有ったようだ。

 

「御屋形様は、それでもお嬢様の望んだものなら、と結婚に反対する気はなかったようなのです。そもそも、お嬢様は貴族の結婚適齢期に差し掛かっておりますし、どちらかというと婚約を早くしろとせっつかれる立場でしたので……ただ、今回の婚姻に関しては、その……なんというか」

 

「あぁ、うん、分かった。まあ、そうなるよな」

 

 まあ、エル自身も別に歳が行っているわけではないが、流石に相手方が幼すぎるということだろう。そんなことを話していると、俺たちは貴族邸へと到着し、そしてすぐさま屋敷の主の所へと通された。

 そこは室内にもかかわらず巨大な池が形成されており、その中に質素ながら見事な出来栄えの執務机が誂えられた場所であった。

 そんな場所で、静かにペンを走らせていた妙齢の女性が俺たちに気付いて顔を上げた。その見た目はエルに似た水色の肌と青い髪、それに足、というか下半身が人魚のように魚の尾を思わせる形状になっていた。

 

「あら、あなた達がエルベディエのお友達かしら?私はアクアリウス=フォード=ウンディーネ。アクアリウス家の現当主よ」

 

「アクアリウス家じゃと!建国と同じ年月を経た大貴族の一角ではないか!」

 

「ここにも四大精霊がっ!?」

 

 なんか後ろの二人が全く別ベクトルで驚きを表した。そのことにウンディーネさんも困惑気味だ。

 

 そして、そんな二人の衝撃が収まったあたりで、後ろからぬっと顔を出したサバサがカラカラと笑いながらウンディーネさんに語り掛けた。

 

「ほほ、久しいのう、ウンディーネ。覚えておるかの?」

 

「……?……!いえ、その獅子の体躯とご尊顔!もしや、古代王国の奥方様では!」

 

「そのような他人行儀な言葉はいらぬ。旦那様との逃避行の際は世話になった。妾も此度恩を返せるのを楽しみにしているのじゃ」

 

「……。我が家の伝承によれば、お婆様が古代王国の奥方様に恩を受けたと伝わっているのですが……。我が家系がさらなる飛躍を果たしたきっかけにもなった、と聞き及んでおります」

 

 からからと笑っていたサバサの顔が、一瞬で呆けた顔となった。

 

「なんと、なれば、お主はあの時の水精ではないと……。時の流れは残酷じゃのぅ」

 

「え、ええと、話を進めていいかしら?」

 

「あ、はい」

 

 呆然として過去に囚われているサバサを一旦置いておいて俺がウンディーネさんに頷くと、彼女はコホン、と咳ばらいを一つして、俺たちに呼び出しの理由を告げた。

 

「娘から事の経緯は聞いているわ。大分災難に見舞われたようね。しかも、あの子が無茶を言ったようで。我が娘ながら恥ずかしいわ。……っと、そうじゃないわね。今回の話をしましょう。正直、私からすればアレクセイ家との繋がりを作るのは政治的に見ればそこまで悪手ではないし、静観したいところではあるのだけれど、ちょっとあの子の様子が気になっているの。

 知っているかもしれないけれど、あの子は少し好きになる人種に癖がある。経緯が経緯だから、自分の好みに合わなくなった途端他の一切を無視して出戻って来ないかと心配なのよ」

 

「……えぇと、つまり?」

 

 詳しく話しているようで具体的な内容を一切言っていないウンディーネさんの言葉にそう聞き返すと、彼女は俺を指さしてこう告げた。

 

「あの子がどう思ってこの婚約に挑んでいるのか、それを探ってきてほしいのよ。例え自分の好みから外れても添い遂げようとしているならばよし、途中で捨てようと考えているのなら、そもそも婚約なんてしない方が幾分かマシだわ。その判断はあなた達に任せようと思うのだけれど、娘から真意を聞きだして、それに基づいて婚約を支援するなり、妨害するなり手を打ってほしい、これが依頼の内容よ」

 

 なるほど……。

 

「ふむ、委細承知した。もとよりエルのこと。逆にこちらが関われることに感謝するのじゃ」

 

 考えていたら、たまもが勝手に返事をしてしまった。まあ、俺としても別に断る気はなかったから良いと言えば良いのだが……。

 

「それで、報酬の話なのじゃが」

 

「ちょっと待て!」

 

 たまもがすぐさま報酬の話に行こうとしていたので、俺は慌ててそれを止める。

 

「……なんじゃ?報酬の話は早くにやっておくべきじゃろう?」

 

「そりゃそうだが、相手はお貴族様だぞ!それに、こっちの判断如何ではその後の状況も変わるんだ!そんな不確定なことが多い中、報酬が不相応なものになったら……。ほぼ解決したとはいえ、今アルダ……今こっちをにらんできてる奴もいるんだぞ!」

 

 勿論、目の前の女性がこちらを罠にはめたりすることは無いとは思うが、お貴族様というのはどこの世界でも庶民の常識とは違う尺度の世界で生きているものである。もし下手に逆鱗に触れて敵対したりなんてすれば、それこそ目も当てられない。

 

「……そうですね。では、こうするのはどうでしょう。まず、私達は冒険者ですので、お嬢様の護衛、という名目で逗留分の日数分護衛費用を頂きます。そして、依頼の達成如何に関わらず、アクアリウス家に貸し1、というのは」

 

「貸し1?それはどういうことかしら?」

 

 ウンディーネさんの問いかけに、イリアスは微笑んで答える。

 

「私たちは冒険者……ですが、あなたもご存じの通り、この度ギガントウェポン討伐の際の不手際でアルダープ卿の不興を買い、裁判まで起こされる結果となりました。再審の目途はたっていませんが、今後私たちが魔王退治を進める中で、再び貴族関係のトラブルに巻き込まれるリスクは常にあると私は考えているのです」

 

 そこまで行ったイリアスの言葉に、ウンディーネさんはなるほどと言う風に頷いた。

 

「なるほど、つまり、そう言った相手に、ウンディーネ家があなた達に対して貸し1、つまり何かあった時に動くかもしれない、という脅しを掛けたい、ということね」

 

「ええ、その通りです。それに、正直な話今回の依頼、正当な報酬を決めることができるのは、お嬢様が婚姻された後か、破断して数年たった後になるでしょう。はっきり言って数年報酬を待つ気はありませんし、こちらで勝手に成功を判断してよい案件でもないと考えます。ですので、貸し1の程度はその時のウンディーネ卿に決めてもらうのが良いかと考えます」

 

 頷いて続けたイリアスの言葉に、ウンディーネさんがくつくつと小さく笑った。

 

「ふふっ、面白いわね。いいわその話乗ってあげる。アクアリウス家は、あなた達を娘の護衛として娘の進退が決定するまで雇い、日当を払う。そして、契約終了と同時に、対価としてアクアリウス家が、妥当と判断するあなた達の要求を叶えるために動くという宣言をする。ただし、報酬の対価として妥当か判断するのはこの私である。……契約はこれで相違ないわね」

 

「えぇ、そうですね」

 

「なら、面白い提案をしてくれたあなたに免じて、もう一つ、冒険者なら垂涎の報酬を上乗せするわ」

 

 そう言うと、ウンディーネさんはランに目くばせして水色の宝石の付いたペンダントを持ってきた。

 

「これは激流青水石をあしらったペンダントよ。本来ならば使い切りの激流青水石だけど、ペンダントに加工した時に少し手を加えてね。これを通じて、私の力を貸すことができるの。あぁ、別に力を貸したからと言ってこっちに大きな負担があるわけじゃないから気にしないで良いわ」

 

「これは……、普通に考えておまけで上乗せしてくれるマジックアイテムではないのではないか?」

 

 たまもの声にウンディーネさんはにこりと微笑んだ。

 

「あなたたちは、魔王を倒すのでしょう?それなら、これくらい受け取っておきなさい」

 

 そう言ったウンディーネさんの言葉に、たまもはうれしさで顔を緩ませ、イリアスはなんだか余計なことをという感情と、それはそれとして有用だ、と言った風な嬉しさと悔しさがないまぜになったように変な顔を、そして、俺自身は思った以上に彼女の期待が高まっていることを察し、俺の志が低いことを察されないように顔を背け続けたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~

 俺たちは依頼を受けてから、ランの案内を受けて一つの部屋へと向かった。今回の護衛対象。つまり、エルの待つ場所だ。今日は都合のいいことに、アルダープの息子との面会の日のようだ……まあ、タイミングが良かったというよりは、そう言う段取りになったから事前にランさんがこっちに話をつけに来ただけなのだが。

 

 とにもかくにも俺たちは屋敷の一室に案内され、エルのいる扉を開ける。

 

「……ラン、丁度良かったわ。お菓子と飲み物をあと少し用意して頂戴。その後庭も見回るつもりだから、日傘の…準、び……」

 

 矢継ぎ早にそう指示を出そうとしたエルだったが、話の途中で振り向き、その言葉が止まる。

 

「よう」

 

 軽く答えた俺に、エルは何とも言えない顔で俺とランの顔を交互に見回した。なお、俺の後ろには彼女が声をかけた相手であるランのほかに、たまも、イリアス、サバサ、クロムと勢ぞろいしている。

 

「なんで、っぷ!」

 

 抗議の声を上げようとしたエルはしかし飛び掛かってきた二人を受け止めたことで防がれた。

 

「私に断りなくパーティを抜けるとは、全く、不敬ですね。私達に言うこともない、という事ですか?」

 

「イリアスの言う通りじゃ。うちらは仲間じゃろう?こういうことを言いたくはないが、感情的なことを抜きにしても、お主が結婚すれば冒険にもおいそれと出れなくなろう。なれば、うちらにも影響がある。うちは、お主が真剣に冒険者を生業にしておると思っておったのじゃが……。お貴族様の道楽じゃったのかのぉ」

 

「たまも、それはちがっ……いえ。確かに、そう言われても仕方ないくらいには軽率だったわね」

 

 エルは、意外にあっさりと俺たちに頭を下げる。改めてみれば、普段の冒険者装束と異なり、純白のワンピースと同じく白く幅の広い帽子という割と上等な着物に身を包み、どこぞの深層令嬢の様な出で立ちだ。

 そんな彼女が二人に対して深く頭を下げる。

 

「この結婚が成立しても、冒険にはなるべく出られるようにするわ。旦那様とあまり過ごせないのは少し残念だけれど、貴族の結婚というのはそう言うものよ」

 

 その言葉を聞いて、たまもとイリアスが顔を見合わせてため息をつく。

 

「そんな冗談を言ってないで、さっさと帰りましょう」

 

「……そうじゃな。そう言う考えなら、うちらも遠慮する事はないの」

 

 そう言う二人に、エルは鋭い眼で二人を見つめる。

 

「……言っておくけれど、あなた達が何と言おうとこのお見合いは続けるわよ。もし仮にあなた達とパーティを解散することになっても、ね」

 

「ふぅ、それを聞いて少し安心しました」

 

 そう言って、先ほどのあきれた様子を引っ込めてイリアスがエルに向き合った。

 

「あなたの母親、ウンディーネ卿からは、この度のお見合いについて、私達の目で判断してほしいと言われています。正直、先ほど、冒険を続けながら結婚の話も進める、と言ってきた段階で、もう連れ帰ろうと思っていました」

 

 そう言って、イリアスはじっとエルの目を見つめた。

 

「あなたは、此度の婚約者、バルター氏のことをどう思っているのですか?婚姻とは、自分と相手との縁を結ぶ神聖なもの。片手間に冒険をしよう。とか、お見合い前から結婚前提の予想を立てている時点で自覚が足りないのです。

 ……エル。いえ、エルベディエ。もう一度聞きます。他の何を犠牲にしてでも、このお見合いに賭ける気概はあるのですか?」

 

 その言葉を聞いて、エルは覚悟を決めた顔で頷いた。

 

「……アルダープ卿の所からバルター様を引き離すこと、お母さまからの婚約の催促の事、このお見合いを設けた理由は様々あるけれど、何より私のために、引く気はないわ」

 

「よろしい、それで「それでは、儂が夫婦になるための試練を課そうかのう?」……」

 

 エルの言葉を聞いて女神らしく言葉を続けようとしたイリアスの声にかぶせて、ポ魔城から飛び出したサバサが、胸をそってそう宣言したのだった。

 




中々筆が進みません……。

なお、エルベディエさんが本気なのと、サバサが頑張ったせいで今後バルター氏との展開が全く別の方向へ進みます。
一応ベースはもんクエ側の竜の試練ですが、そっちはそっちでキャラが足りないので流れが変わります。


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EP44 面会初日

「……うん、ちょっと黙ろ、な?」

 

 イリアスの真剣な問いかけにこれまた居住まいを正して意志の固さを見せたエル。貴族様の結婚というのを差し引いても、これ以上試練を与えるとか何とかというのは蛇足だろう。というか、そう言うのはせめて見合いが成功してからにして欲しい。

 そう思う俺だったのだが、サバサが諭すように声をかけて来た。

 

「カズマ、そうは言うが、魔物には魔物の法というものがある。作法もいくつかあるにはあるが、古きしきたりによれば、人と婚姻する人間と魔物は竜の試練というものを受けねばならぬとされておる。真に婚姻を望むのであれば、拒否する理由はないと思うがのう」

 

 バッとイリアスを振り向くと、イリアスが少しためらいがちに頷いた。

 

「え、えぇ、まあ、確かに、骨董品並みに形骸化しているとはいえ、現在も信心深い人々や一部の王族の間では執り行われていますね。ただ、それはあくまでも一部であって、海の主の所へと宣誓書を持って行く、と言った別の儀式を採用しているところもあるようですが」

 

 その言葉を聞いて、エルは深く頷いた。

 

「……意味はないのかもしれない。けれど、そう言うのなら、私はその試練を受けたい」

 

「うむ!よう言うた!では、妾は支度をするゆえ、そちらはそちらで話をまとめておくがよい。必ず婚姻を結ぶ相手を連れてくるのじゃよ。では行くのじゃ!クロム」

 

「えっ、ちょ、待つのじゃ、儂は行くなんて一度も、あぁぁぁ、せめて歩かせて、ある、あるっ、やぁぁぁぁ!!」

 

そんな騒々しさを残して二人は去っていった。

 

「……とりあえず、もうバルター様が来るわ。服装は……とりあえず問題ないわね」

 

 そう言うとエルは少し瞑目してから再び目を見開いた。

 

「イリアス、たまも、……そして、カズマ。私の判断を、後ろで見ていてくれるわよね?」

 

「あぁ、まずいことを言いそうになったら止めてやるよ」

 

 そう冗談を飛ばすと、エルはそれに思わずと言ったように小さく噴き出した。

 

「そうね、その時は頼むわ」

 

 そんな和やかな雰囲気の中、ランさんがゆっくりと室内に入り込んできた。

 

「お嬢様、それと、お友達の皆さん。ただいま、バルター様がお越しになられました」

 

 その一言で、エルは居住まいを正して再び椅子に座り直す。

 

「分かりました。では、バルター様をこちらに呼んでください。お願いしますね、ラン」

 

「畏まりました」

 

 静かに退出したランを横目に見ながら、俺たちはエルに意識を向けていた。誰も言わないが俺たちの心は多分一致していたと思う。

 

(エルって、こんな貴族っぽい立ち振る舞いできたんだ)である。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「は、はじめまして!ぼくは、アレクセイ・バーネス・アルダープの息子、アレクセイ・バーネス・バルターです!どうか、よろしくお願いします」

 

「ああよろしく私はアクアリウスフォードエルベティエよさあ婚姻の話wうぐぇ」

 

 まさかの少年であるバルターの自己紹介を聞いただけでこの調子である。正直甘く見ていたが、どうやらエルのショタコンはかなりの重症のようだ。

 

「え、エルベティエ様!?おい!そこの使用人!一体何をした!」

 

 こちらに向かって鋭い視線を向けるバルターに、俺は少し困ったように眉を寄せる。何をしたかと言えば、クィーンスライムであるエルは変幻自在であることを悪用して、あらかじめ少しだけ握っていた体の一部を思いっきり引っ張っただけだ。

 とはいえ、そんなことを言えば、非常識と言われるかもしれない。

 

「い、いえ、良いのよ。バルター様。えぇ、えぇ何ともないわ」

 

 疑いの目、というか敵意のこもったそれを向けつつも、バルター君はエルの方を見て、キラキラした目でエルの手を包み込んだ。

 

「勇名は以前から耳にしていました!孤児院を始めとした福祉事業に積極的に参加し、それのみならず自ら剣を取り、民のために身を削りながらも戦っていると!僕は、あなたような貴族になりたいのです!それが、まさか僕を婚約者に選んでいただけるなんて!」

 

 そう言ってウルウルと目をきらめかせるバルター君に、俺たちは小声で声を掛け合った。

 

「……なあ、あれ、どう思う?」

 

「まぁ、お似合いと言えばお似合いなのではないですか?相手も乗り気であるというのなら、問題が一つ減ったことに違いはありませんから」

 

「じゃが、あのような幼子に、そのような重大毎を……それに、恐らくじゃが、あの者エルの性格を盛大に読み間違えておるじゃろ?」

 

 二人の言ったことは、俺の考えていたのとおおむね同じだった。

 確かに、バルター君が言ったようなことをエルはやっているのだろう。しかしそれは使命感からではなく、恐らく彼女の性癖によるものが大きい。とはいえ、無理やりショタコンにショタを差し出すわけでないのなら、ここは日本ではない。婚約は幼少期から結ぶ、というのはファンタジーの定番ではあるし、双方が乗り気であり、お見合いが成立している以上、部外者が口をはさむことでもないのかもしれない。

 だが、一方でエルの性格を知らない少年に、しかもまだ自己判断のおぼつかない年齢であると日本では判断されそうな少年の一存一つでこちらの方針を決めてしまうというのは、何とも不安に感じてしまう。そもそも、ウンディーネ卿の心配は彼がショタでなくなった時にエルがどういう反応をするか、という点だ。問題が解決されたとはいえ、そのまま放置していいものではない。

 

 そんな風に話していると、どうやらエルとバルター君は庭に散歩に出かけるらしい俺たちもその後をついて行くことになった。

 

~~~~~~~~~~~~~

「素敵な庭ですね!エルベティエ様!」

 

 アクアリウス家の庭は、その主が水の精霊であるからか、中央に大きな池とそこに浮かんだ大小の陸地で構成された洒落た庭となっていた。

 

「ええ、うちの自慢の庭だもの」

 

 そう言うと、エルはパンパン、と二回手を叩く。すると、池を泳いでいた魚たちが、水面に浮かび上がって口をパクパクと動かした。

 エルはその口目がけて、多少の欠片(恐らくパン)を放り込む。

 

「すごいすごい!」

 

 キラキラ目を光らせるバルター君。まあ、気持ちは分かる。あの技はインパクトバッチリだ。というか俺も教えて欲しい。

 

 そして、そんなバルター君の態度に、面映ゆそうな顔を見せるエル。どうやらさっきの芸をまねすることは難しいようだが、一緒に鯉の餌やりをして仲睦まじそうだ。

 しばらくそんなゆったりした時間が流れた後、エルが覚悟したような顔でバルター君を見据えた。

 

「バルター様、一つお願いをしてもよろしいかしら」

 

「!えぇ、もちろんです!」

 

 喜び勇んで話を聞こうとするバルター君に、エルは彼の頬にてをそえて耳打ちをする。

 

「私は、バルター様との結婚を十全なものとするために、竜の試練を受けようと思います。一緒について来て下さいますか?」

 

「竜の試練!試練を受ける者が死ぬ可能性すら低くないと言われる、古から伝わる婚姻の風習ですね!……え?」

 

 そこで言葉が止まり、バルター君が小刻みに震えだしたのは、彼が聡明な証だろう。現実的な死の実感を今の話で感じ取ったのだ。……というか、命に係わる話だったのかよ!

 

「お、おい、バルター様、やめといたほうがいいって。エル……ベティエ様も、バルター様も、命を簡単に投げ出していい立場じゃないだろ?」

 

「……そうね。ごめんなさい。あなたに言うようなことではなかったかもしれないわ」

 

 目を伏せて言うエルの言葉に、バルター君は……いや、バルターはきっと顔を上げて声を張り上げた。

 

「いえ、行きます!行かせてください」

 

「……本当にいいの?」

 

「えぇ!あなたを守る騎士として、そして伴侶として認めて下さるというのなら、この命かけて見せます!」

 

 ……正直、その時のバルターは男の俺から見ても立派な一人の男だった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 流石に、貴族の子息が命のかかった迷宮に入るためには数日の準備を必要とする。……うちのスライムは令嬢のはずだが……まあ、例外中の例外だろう。

 そんなわけで、少しの時間暇になったので、俺は街に出かけていた。エルとバルターが顔を合わせていなければ護衛の必要はないしな。

 

「……ん?あれは?」

 

 見れば、串焼き屋の前に、すらりとした長身の女性が立っていた。あれは、七尾?お金を渡した後、50本くらいの串焼きを手渡されていた。少し慌てるように受け取っていたが、一口食べてからは機嫌よさそうに歩いて行った。……あんまりな様子に声をかけるのを忘れてしまった。

 

「なんでも、最近妙なモンスターが現れたらしいぞ。強さ自体はそれほど強くないらしいが」

 

「ああ、聞いたぞ。なんでも、関節のない人みたいな姿をしていて、近づいて自爆するらしいな」

 

 ……何それこわっ。偶々聞こえて来た冒険者たちの言葉にゾッとしつつ、俺はその情報を記憶した。

 そんな風に歩いていると、一つの射的場の近くでじっと見つめている七尾の姿を見つけた。見れば、射的場でイチャイチャしながら射的を楽しんでいるカップルを見て、自分もしようかどうか悩んでいるようだ。えらく長いこと悩んでいるようなので、俺は七尾に声をかけた。

 

「どうしたんだ?七尾」

 

「おや、カズマ。ちょうど良かった。一緒について来て」

 

 そう言うと、返事をする前に俺は手を取られて引っ張り出される。

 

「ちょ、まてよ。何だってんだ」

 

「おや、お嬢ちゃん、恋人かい?」

 

「はい」

 

「ちょ……いえ、はい!」

 

 なんだかよく分からなかったが、七尾が恋人を肯定したところで思わず俺もそれを後追いしてしまった。

 

「それで、射的、するんだろ?あ、言っとくけど、アーチャースキルは使用禁止だからね」

 

 そう聞くと、すぐさま七尾は受け取った弓を射る。

 何度も何度も弓を射るが、なかなか当たらない。

 

「…………」

 

 俺は七尾の手に肩を置く。

 

「まあ、貸せよ、カ レ シの俺が、何とかしてやるよ」

 

 ……とはいえ、アーチャースキルは使用禁止だ。少し厳しいかもしれない。だが、それでもシューティングゲームの経験もある。それを思い出しながら。

 

「ここだ!」

 

 スカッ

 

「……」

 

「……」

 

「あ、あんちゃん、まだもう一個あるから、な、そんな落ち込むなって」

 

「……グスッ」

 

 こんなことなら、大声なんか出さなきゃよかった。結局2発目で人形を落し、……結局七尾の御所望の人形でなかったのでもう一セット矢を買ってギリギリの個数で目的の人形を手に入れたのだった。

 

「……ありがとう、こんなことに付き合わせて」

 

 そう言う七尾に、俺は疲れた顔で応答する。

 

「いや、それは良いんだけどさ、なんであんなところでもじもじしてたんだ?」

 

「あ、あぁ、それは、その……カップル専用のお店に、一人で行くのはは、恥ずかしいだろ?」

 

「あそこは別にカップル専用じゃないと思うが……」

 

 まあ、確かにカップルの方が数は多いかもしれないが。

 

「そ、そうなのか!……こ、コホン。しかし、カズマのおかげで16分の1アリスフィーズ様フィギュアが手に入った。感謝する」

 

 あぁ、なんか見覚えがあると思ったら、どうやら邪神の方のアリスフィーズの人形だったようだ。邪悪さというかおどろおどろしさが無かったから気が付かなかった。

 

 そんな話をしてから、俺たちは軽く挨拶をして別れた。

 また、ぶらぶらと街を歩いて暫く。軽食を取って街を歩いていると、にぎやかな一角があった。

 

「どうだい!アダマンタイト砕き!やってみないかい?」

 

 そう言う声に、褐色肌の胸丸出しな角を持った巨人が巨大なハンマーで石を叩き潰す。

 

「うおりゃ!」

 

「あー残念でしたね」

 

「くっ!牛丼で家計が苦しいというのに……」

 

「さあ!それでは、次は12万5千エリスの報酬です。参加者が失敗するごとに成功報酬が5千エリス上乗せされますよ!様子を見るのか、いち早く参加するのか!スキルや魔法を使っても構いません!参加者はいませんか?参加費は一万エリスです!」

 

 そう煽られた冒険者たちは、わらわらとその商人に群がっていく。それをみていると、俺と同じようにそれを見ている相手を見つけた。

 

「あ、さっきぶりだな」

 

「おや、カズマさん。先ほどはどうも」

 

 そう言うと、アリスフィーズ人形を抱えたまま、七尾は無感動にアダマンタイト砕きを見ていた。

 

「七尾はあれ、参加しないのか?上級魔法が使えるんだろ?」

 

「私はムダ金は使わない主義なのですよ。アダマンタイトは世界最硬の金属。魔法で言うなら爆裂魔法、特技でも……そうですね。かの剣聖の使ったとされる、乱刃・気炎万丈でようやくと言ったところではないかと思います。上位魔法が使えるとはいえ私には壊せませんね」

 

 そう言っている間に、挑戦を続けた冒険者たちもあらかた失敗し、挑戦者の列に空白ができた。

 

「おや、もうおしまいですか?ギガントウェポンを討伐した冒険者たちならば、誰か達成してくれると思っていたのですがね」

 

 そう言ってうそぶく商人の後ろから、にやりと笑う金髪が、くるくると宙を回りながら飛び込んできた。

 

「真打、登場、じゃ!」

 

 直後、事態を把握した冒険者に総出で取り押さえられ、たまもの姿は見えなくなった。

 

「ちょ、待つのじゃ!まだ何もしておらぬわ!それなのにこの仕打ちはあまりにも、あまりにもひどいじゃろ!?放せ!離すのじゃ!」

 

 くぐもった声が聞こえてくる中、取り押さえている冒険者の一人が慌てて商人に声をかける。

 

「おい、お前さん、こいつに見つかったからには、早く店をたたんで逃げろ!こいつは噂の爆裂狂だ、下手しなくてもお前ごと爆裂させられるぞ!」

 

 青い顔をして店じまいを始める店主に、たまもが腕を大きく振りながら講義の声を発する。

 

「待て!逃げるのかえ!うちの、うちの爆裂魔法なら確実に破壊できるというのに!ああ、もう面倒なのじゃ!」

 

 そう言うと、恐らく獣が水浴びの後に水気を飛ばすときのように体を震わせたのだろう。吹き飛ばされた冒険者の中から、四つん這いのたまもが姿を現した。

 

「さて、それじゃあ、勝負をするとしよう。幸いなことにまだアダマンタイトはしまっておらんようじゃし、早速勝負とミギャッ!」

 

 さりげなく俺がたまもの尻から尻尾を引っ張り出し握ったことで、たまもは余裕のある顔を驚愕に染め上げる。

 

「な、ななな、何をするのじゃカズマ!こ、こここ、こんな公衆の面前で!」

 

「お前こそ落ち着け、こんなところで爆裂魔法を放ったら、それこそお尋ね者にまっしぐらだぞ」

 

「じゃ、じゃからと言って!」

 

「それにほら、もう行商人さんもいなくなったみたいだし」

 

 俺のフォローの甲斐もあり、行商人はさっきの一瞬でその姿を晦ましていた。

 

「む、むぅ」

 

 それを見て、たまもは不満そうな顔をしながらパンパンと膝を叩いて立ち上がった。

 

「まぁ、仕方あるまい。あいつは見逃してやることにしよう」

 

「……何をしているのですか?」

 

 とても冷たい声でたまもの後ろから声をかけた女性の声に、たまもも苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「む、七尾ではないか」

 

「七尾ではないか、ではありませんよ。あなたは紅魔族としての矜持は無いのですか?」

 

「うるさいのう。そもそも、紅魔族はそんな格式ばった一族ではないではないか」

 

 その後ふんっと鼻を鳴らしたたまもは俺に腕を絡めて来た。

 

「まあよい。のう、カズマ、どうせならうちと一緒に少し歩かんか?あのような店を後幾つか見つけたからの」

 

「こら、腕組むなちみっこ。それと、その店を潰しに行くのは却下だ。なあ、七尾、あんたも一緒にこいつを止めてくれないか?」

 

 七尾に声をかけると、七尾はこちらを気にしながらもこちらに背を向ける。

 

「な、なぜ私があなた達と共にいかなければならないのですか。そもそも、私達は紅魔族であり、私のライバルであるたまもとの勝負をつけるためにここにいるのですよ。そ、その。だから、えーと。一緒に行動するというのは、違うのではないかと」

 

「……そうか。なら仕方あるまい。ほれ、行ってよいぞ」

 

「おい、たまも」

 

 あれは明らかに誘ってほしい感じの雰囲気を醸し出している。

 

「ふんっ、好意を素直に受けぬからこうなるのじゃ。放っておけ」

 

 そう言っている間に、七尾はやや肩を落として足を進めた。

 

「さて、では行くかの。行為を素直に受けぬ愚か者の観察じゃ」

 

「……おまっ」

 

 性格悪すぎだろ!……いや、もしや逆に心配で見守るためなんだろうか?よく分からないが、少なくともばれた場合七尾にとてつもない精神負荷がかかりそうなのでそのまま家に連行したのだった。




なんか知らんがバルター君がクッソイケメンムーヴする少年になってしまったでござるの巻。
 
変更点
 ・バルターショタ化
 ・お嬢様が護衛に前向き
 ・鯉の餌やりの芸がお嬢様の持ちネタに。
 ・街中で次期族長に会うイベントが前後
 ・次期族長とのやり取りをやや変更
 ・大人の階段勝負の箇所を○○カット(赤面して逃げる七尾は書きたかったかと言えば書きたかった)


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EP45 サバサの試練

 あのお見合いから数日たち、いよいよ竜の試練にエルとバルターが向かう日となった。

 因みにそのスライムはバルター君の写真を見ながらため息をついたりしている。

 

「……なあ、あれ、タダのショタコンだと思うか?」

 

「……それ、本気で言っていたらあなたを軽蔑しますよ」

 

「だよなぁ」

 

 ぶっちゃけた話、多分バルター君はエルを堕とすことに成功していた。もう竜の試練とかいらないんじゃないかとも思ったが、まあ、段取りも決まっているのだから、行かないという選択肢はないだろう。

 

「エルベティエお嬢様、時間ですよ」

 

「人前でエルベティエはよして。カズマ。全く」

 

「……顔、にやけてるぞ」

 

「!?」

 

 とてつもなく柔和な顔で対応するエルにそのことを指摘すると、物理的に顔を揉んでいつもの楚々とした顔を作る。

 

「……そうね、気を引き締めないと。これから、バルター様に会うんだから」

 

 そう言うと、先ほど引き締めた顔の端がぴくぴくと動き、頬が緩もうとする。

 

「……もうこいつ、バルターのとこにおいてきたらいいんじゃないか?」

 

「確かに、こやつの幸せを考えたらそれが良いかもしれんのう。ま、そこはそれ、これはこれじゃ」

 

 なんとなく白けた空気を醸しながら、俺たちは竜の試練へと向かう。場所は、以前ちびっこ盗賊団がいた洞窟を借りて会場を作ったらしい。

 

~~~~~~~~~~~~

「oh……」

 

 洞窟に向かうと、そこは金ぴかの洞窟に変貌していた。正確には内部は石畳になっており、入り口にピラミッドを模したような金色の入口が組み立ててあった。

 

「あ!エルベティエ様!」

 

 先に到着していたバルター君が、入り口にいた下半身が何かいかつい尾を持った女性から目を離してこちらに声をかけて来た。

 

「すごいですよ!この蠍娘の商人さんは、厄介な石化の解除に仕える金の針を売ってくれるそうですよ!」

 

「ふむ、武器や手裏剣も置いているのね。それでも一番最初に不測の事態に対応するための道具に注目するなんて、バルター様は冒険のことをよく分かっているのですね」

 

「え、あ、こ、光栄、です」

 

 顔を赤くして俯いてしまうバルター君にエルは申し訳なさそうに頭をなでる。

 

「ですが、イリアスは石化も直すことができる聖魔導士です。ですから、金の針は少しだけにしましょう。我々の使うお金は、民草の血税なのですから」

 

「あ、そ、そうですね!」

 

 そう言うと金の針を少しだけ購入して、入り口に向き直った。

 

「それでは、行きましょうか、エルベティエ様。そして、護衛の方々、今日はどうかよろしくお願いします」

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 そう言った俺たちを引き連れて、二人は竜の試練へと足を踏み入れた。

 荘厳な墳墓を思わせる石畳を歩いていくと、そこから何者かが姿を現した。

 

「ふむ、試練を受けし者か」

 

 それは女性だと分かるミイラだった。

 

「我はフェルメサーラ。かの者に仕えし者。試練を受ける者よ。まずはその力を示すがよい」

 

 そう言うと、手に持った杖をこちらに向けた。

 

「セイクリッド・ターンアンデッド!」

 

「あふん」

 

 直後、うちの空気を読まない女神さまに強烈な浄化を喰らった。

 

「ちょ、おま、マジでふざけんなよ!そりゃ俺たちゃ護衛だがな、だからってさっきのはねーよ!」

 

「うるさいですねぇ、そもそも、フェルメサーラは高位のアンデッドです。あれしきでは滅びませんよ。そして、とてもエロいことでも知られています。最悪バルター君が寝取られます」

 

「……っく、構わぬ。これも試練、じゃ、じゃが、後はこの二人に任せるべきではないか?」

 

 フェルメサーラが震えながらそう言うとイリアスはつまらなそうにそちらを見た。

 

「まぁ、良いでしょう。どうせもう大したことはできないでしょうし」

 

「……エルベティエ様、ここは僕に任せてください!」

 

 そう言ってバルターが剣をもってフェルメサーラに向かった。

 

 そして、数分後、フェルメサーラが倒れることで決着がついた。バルター君の正式な剣技を学んでいるのだろう。拙いながらも実直な剣だった。

 

「見事、先へ進むがよい」

 

 こうして、俺たちは先へ進んでいくのだった。

 

 その後も、ゾンビ娘、グール娘等アンデッド系と遭遇し、最後にはクロム&アンジェリカをシバキ倒してとうとう最奥まで到達することとなった。

 

「ふぅ……思ったよりクロムは強かったな」

 

「そうですね……というか、クロムだけ本気でこちらを潰しに来てなかったかしら?」

 

 まあ、夜通しでこのダンジョンを作り出したらしいし、仕方ないかもしれない。

 それはともかくとして、俺たちはいよいよ今までとは違う、巨大な扉の前に立っていた。

 

「……バルター様」

 

「うん、エルベティエ様」

 

 二人はうなずき合って、その扉に同時に手をかける。

 

「……なあ、俺たちは何を見せられてるんだ?」

 

「ん?うらやましいのかの?何だったらうちらもするか?」

 

「いいよ、ちみっこ。逆に空しくなる」

 

「はぁ!なんじゃと貴様!それはどういう意味じゃ」

 

 そんな風にわちゃわちゃしている間に巨大な扉が押し広げられる。

 その先に映った景色に、俺たちは諍いも忘れて見惚れてしまった。

 

 そこにいたのは巨大な女性だ。下半身は獰猛な肉食獣の体、そして、その上に、美しい女性の体が存在していた。

 普段から見るサバサの姿。しかし、その顔立ちは、同じとは思えないほどに神聖さをにじませていた。

 

「よくここまでたどり着いた、挑戦者たちよ。そなた達には二つの道がある。一つはこの試練を辞退すること。諦めて密かに愛し合ったとしても、妾は責めはすまい。

 そして、試練を最後までやり通すこと。しかし、これは竜の試練、もし妾が試練に不適だと判断したならば、お主らを頭から食い殺してしまうであろう」

 

 薄く目を開いたサバサの言葉の重さに、イリアスが怒気のこもった気炎を上げる。

 

「貴様、今私の目の前で人を食い殺すと言いましたか?冗談にしても笑えませんよ!」

 

「冗談ではない。竜の試練とはそう言うもの。仮にそなたと矛を交えようとも、変えられるものではない。それと、それを決めるのはそこの二人だ。そなたではない」

 

 イリアスの怒気を風のように流し、サバサはじっと二人を見つめた。

 

「それで、如何に」

 

 小さく俯いたエルは、しかしすぐに顔を上げて声を発した。

 

「なら、このような場所を用意してくれたあなたには申し訳「受けます!」……え?」

 

 呆然としたエルは、しかし状況を理解した途端、青い顔でバルター君に縋りついた。

 

「バルター!何を言っているか分かっているの!?失敗したら死んでしまうのよ!」

 

「それでも、僕は、あなたにふさわしい人だと胸を張って欲しいのです。どうか。受けさせてください」

 

「……死ぬときは一緒よ」

 

 そう言って二人は固く手をつないで前を向く。その間に俺は後ろでたまもとイリアスを呼んであることを耳打ちしていた。

 

「……ってわけで、あれは演技だからな」

 

「む、なるほど、覚悟を試すため、という事ですね」

 

 実際は、最終確認をした時に竜の試練だと失敗者を食い殺す、ってのを聞いて、俺が主人権限でそこを捻じ曲げさせたんだが、まあ、言う必要はないだろう。

 失敗した場合、ガチ戦闘の後、エルたちが全身よだれまみれになったあたりで解放される段取りである。

 

「うむ。その意気や良し。それでは竜の試練、最終試練を始める。とはいえ、何も戦おうというのではない。妾の質問に答えればよい。それでは行くぞ。

 一つ、朝は四本、昼は二本、夜は三本とは、これ如何に」

 

 それを聞いて、エルとバルター君が悩み始める。

 

「なあ、これって」

 

「勿論、試練を受けるもの以外は答えるでないぞ」

 

 それを聞いて、俺は口をつぐむ。ついでに横にいたイリアスもだ。

 しばらく悩んだ後、バルター君がおずおずと口を開いた。

 

「えっと、確かどこかの本で読んだことがあります。それは、確か人の生涯を示したものだったんじゃないかと」

 

「ふむ、正解じゃ。四つ足は赤子、二つは成人、三つは杖を突いた老人というわけじゃ。

 それでは、二つ、実はこの問いは、後ろにいるカズマも答えを知っている問いじゃ。それほど無名の問いというわけではない。ではなぜ竜の試練で妾はこの問いを最初に出したのだと思う?」

 

 その答えは、今度はエルが前に出て答えた。

 

「それは……もしかして、魔物と人間の違いを伝えるためではないかしら。魔物は生まれてすぐに自分で行動し、そして老いさらばえて死ぬ時まで成長を続けるわ。老衰よりも戦場で死ぬことが多い種族。それが魔物よ。だからこそ、人というはかない生を知らしめるために、問いを出したのではないかしら」

 

 瞑目したサバサは、そのことには何も言わず、そして次の問いを発した。

 

「では、3つ。そなたたちは、何故この試練に挑んだのか。これが最後の問いじゃ」

 

 その言葉を得て、二人はそれぞれ思わず、と言った風に声を出した。

 

「「バルター様(エルベティエ様)のためです」」

 

 そして、声が重なったことに二人で笑いつつ、サバサを真正面から見つめた。

 

「僕は、エルベティエ様に憧れていました。自分の身を挺して民を守る偉大なお方だと。僕はまだまだそこまでのことはできません。ですが、それでも、気持ちだけでも卑屈になってはいけないと思うんです。どんな小さなことでも、どんな困難な道でも、少しづつでもいい。彼女にふさわしい男になるために。その為に、僕は逃げたくないんです」

 

「私は、バルターの先を見たい。どのような道を進むのか、隣で見守りたい。だから、それを認められるなら、私は何でもしたいと思ったの。道中の危険性でなくて、失敗すれば殺されてしまう試練だと知って、そんなものに巻き込んでしまったのには申し訳なさを感じてしまったけれど、それでも、彼がそれを望むなら、最後まで、死ぬまで付き合いたいと、そう思ったの」

 

 そう言った二人に、サバサは小さくため息をつき、そして二人に手をかざした。

 

「よかろう。手を出すとよい」

 

 そう言うと、サバサの手から二人の差し出した手に魔力が伝わり、複雑な模様が二人の腕に刻まれた。

 

「これより、そなたらを竜の試練達成者と認める。……最後に、老人の戯言を聞いてもらっても良いか?」

 

 頷いた二人に、サバサはゆったりとした声で言葉を続けた。

 

「昔、はるか昔のことじゃ。とある地方に、一人の高貴な男がおってな。砂漠で彷徨っておった一人の魔物娘と恋に落ちたのじゃ。彼はその魔物娘にすべてをなげうって愛を貫いた。家も、金も、彼が持ち出したものと言えば、言え秘伝の魔法技術と着の身着のままの装飾くらいのものじゃった。

 幸せで、ゆったりとした日々じゃった。真綿のように柔らかく。楽しい時はあっという間に過ぎていった」

 

 そう言って目を細めるサバサの様子に、事情を知らない者も、それが誰の昔話かを理解した。

 

「しかし、時は残酷じゃ。数百を生きる魔物娘と、人間の寿命は全くかみ合わなんだ。気が付けば、愛情を注いだ相手は、足もたたぬ老人となり、そして、命の火を消そうとしておった。旦那様は妾に、魔物の姿でいてくれと言い、そして妾の調べた魔物化の法で転生することを提案すると、困ったような顔を浮かべて、やんわりとその提案を断った……。

 魔物娘は、妾は、一体どうするべきじゃったのじゃろうな……」

 

 答えのない問い。多分、それはサバサがよく分かっているのだろう。今ではクロムと楽し気に語らっている姿もよく見られるサバサだが、やはり何百年も降り積もった懊悩は根深いものがあるのだろう。

 エルとバルターはサバサの語りに息を呑み、イリアスはガラにもなく口元を抑え、嗚咽を耐えていた。

 

 だからこそ。これは、俺が答えなければならないと思った。

 

「知らねーよ!」

 

 突然の大声にビクリとした皆に、俺は畳みかける。

 

「その場にいなかった俺達が、ああすればいい、こうすればいいって言える問題じゃないだろ!どうすればよかったかなんて、俺たちにはわからねーよ!」

 

「カズマ……いくら主だからと……!」

 

 スフィンクス娘がいきり立つその様子を見ながら、俺は言葉を続ける。

 

「だけどさ、俺としては、お前が魔物娘として今まで生きてくれたことには感謝してるよ。だって、そうじゃなきゃ、俺たちは出会えなかったろ?」

 

「……む、まあ、確かにそれはそうじゃな」

 

「だからさ、お前が魔物娘として生きていてよかったと思えるような生き方をすることが、あんたの旦那さんへの手向けにもなるんじゃないか?

 あんたを仲間にした責任もあるし、俺も手伝えることがあったら手を貸すよ」

 

「……言っておくが、妾の操は旦那様に捧げておるからの?」

 

「口説いてんじゃねーよ!」

 

 肩を怒らせながらそう叫ぶと、にやにやと笑うサバサが思わせぶりに体をゆすった。

 

「いやはや、まさかこんな婆になってこのように熱烈な言葉をかけられるとはのう」

 

「す、素晴らしいと思います!カズマさん!」

 

「この!っ!ば、バルター様、お戯れを」

 

 思わず殴り掛かりそうになったのを必死に止めて、俺は顔を繕った。ここで殴り掛かったら俺が犯罪者だ。

 

 俺がそうして心を静めていると、バルター君がしっかりと顔を上げてエルの方を見つめた。

 

「エルベティエ様。申し訳ありません。婚約を、一旦破棄させてください」

 

「……え?」

 

 バルター君の言葉に、エルが衝撃のあまり人の形が保てないレベルでその姿を崩壊させる。

 

「あ、ああごめんなさい、違うんです!エルベティエ様が嫌いになったとか、そう言う話じゃないんです」

 

 その反応にどう思われたのか察したバルター君がすかさずフォローを入れる。それに反応してアメーバ状になったスライムから、エルの顔だけがひょっこりと出て来た。

 

「先ほど、試練の守護者様の話を聞いて、そして、カズマさんの言葉を聞いて、思ったんです。僕はそこまでしてエルベティエ様を愛せるんだろうか、って。もちろんエルベティエ様はとても大好きです。だけど、死ぬまで一緒にいられるのか、とか、あなたにふさわしい男に本当になれるのだろうかとか、考えてしまうのです」

 

「いえ、でも、それは……」

 

「ですから!」

 

 今までで一番大きなバルター君の声にエルはビクリと身を震わせた。

 

「僕が領主を継いで、あなたにふさわしい男になったら、今度こそ、結婚してくれますか?」

 

「…………そう」

 

 そう言って、エルはバルターに背を向けた。

 

「もしかしたら、あなたより素敵な人が見つかるかもしれないわよ。例えば、一緒に冒険する仲間とかね」

 

「えっ、あ、その……いえ!カズマさんにだって負けませんから!」

 

「ふふっ。待ってるわ」

 

 そう言って二人は甘い空気を醸し出していた。

 

「……なんか恋愛のダシにされたんだが、この気持ちどうすりゃいい?」

 

「寝取ればいいんじゃないですか、そう言うの大好きでしょう、ゲスマさん」

 

「成功しても失敗しても地獄な提案するのやめてもらっていいですか?」

 

 俺とイリアスがそう言う風に話している間も、エルとバルターは仲睦まじく話し続けたのだった。




 なんかカズマさんがゲスマさんから普通の主人公になってしまってる気がする。

 そして、すまぬ、カズマさんパーティに実質別カプが出来てしまった……。
 でも、本人が乗り気な以上割と不可避だったんや……。
 バルター君が成長するのは全ストーリー消化後なので許してくりゃれ?

変更点?
・二人が龍の試練を受けている
・バルター君が大人にも程がある


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EP 46  縁談リザルト

「こっ、こっ、こっ、この馬鹿娘!!」

 

 ここはアクアリウス家の応接室。エルとバルター君がせっかくだから報告を、とウンディーネ卿がいるここにやってきて、数秒後のことである。

 

「お、お母様。落ち着いてください」

 

「落ち着いていられるわけがないでしょう!あなたという人は、人様の息子に命をかけさせるなど、一体何を考えているの!それに護衛の冒険者は何をしていたの!止めるべきでしょう!」

 

 激昂するウンディーネ卿にアワアワとするエルとバルター君。俺たちもその剣幕に言葉を無くす中、サバサがぬっと顔を出した。

 

「ウンディーネ卿、落ち着かれよ」

 

「……っ!しかし」

 

「こうして無事に戻ってきたのじゃから、まずはそれをねぎらうべきであろう?それに、竜の試練を提案したのも二人に課したのも妾じゃ。誹りを受けるべき咎人はまずは妾ではないか?」

 

 ウンディーネ卿はうっ、と唸り、そして批難を込めた目でサバサを見つめた。

 

「うむ、妾はエル殿とバルター殿の愛と誠実さは必ずや竜の試練を達成できると信じて竜の試練を課した。……が、確かにお主やアルダープ殿にも話を通しさなくてはならなんだかも知れぬ。済まなかった。我が謝意を受け取ってくれぬか?」

 

「……そのように言われても」

 

 言い募ろうとしたウンディーネ卿は、頭を下げてもなお高い位置にいるサバサから何かを耳打ちされ、その表情を緩ませる。

 

「む……そうね、考えれば、過ぎてしまったことはしょうがないわ。……エル、バルター。さっきはああ言ったけれど竜の試練を突破したというのはとても名誉なことよ。そして、よく無事に戻ってきたわね」

 

 どうやら、サバサが例のネタバレをしたらしい。チロリと舌を出して俺にウインクをしてきた。そんなことには気づかず、エルとバルターは嬉しそうに手を取り合って、しかし、申し訳なさそうにウンディーネ卿に言葉を続けた。

 

「ウンディーネ卿。申し訳ありません。そのことなのですが、僕はエルベディエ様と婚約することはまだ、出来ません」

 

「…………うん、ちょっと待って。えっと、んー。んっ、よし、ラン、アレクセイ家に宣戦布告しに行くわよ」

 

「落ち着いてくださいお母さま!」

 

 一瞬で沸騰したウンディーネ卿とぞろりとスカートから巨大な蛸のような触手をむき出しにしたメイドのランをエルが慌てて止めるが、ウンディーネ卿は止まらない。

 

「これが落ち着いていられますか!竜の試練をこなしたというのに、婚約を破棄するというのよ!これほどの侮辱はないわ!」

 

「落ち着け、ウンディーネ嬢。妾がそのような者を試練の達成者として認めるわけが無かろう?」

 

 サバサのその声掛けで、ウンディーネ卿の動きが止まる。

 

「……確かに、そうね。失礼、早とちりしたわ。バルター殿、説明をお願いできるかしら?」

 

 酷く冷たい眼でバルター君を見るウンディーネ卿に、バルター君は臆することなく言葉を続ける。

 

「僕は、まだエルベディエ様にふさわしい男とは言えません。だから、僕が彼女にふさわしい男となった時に、もう一度エルベディエ様との婚約を結びたいのです」

 

「……エルベディエ、あなたはそれでいいの?もしかしたら、この男は約束を守らずにあなたを置いて別の女に靡くかもしれないわよ?」

 

「お母さま。それでも、私は彼の意志を尊重したいのです」

 

 エルのその言葉を聞いて、ウンディーネ卿は目を閉じて小さく頷いた。

 

「分かったわ。あなたがそう言うなら、私もあなたを認めましょう。ただし、期限は15年。それ以上は待ちません。約束を違えたなら、分かっていますね?」

 

「……えぇ!間に合わせて見せます!」

 

 そう言ったバルター君を見て、今度こそ、ふっとウンディーネ卿の顔が緩んだ。

 

「カズマさん、今回はとても世話になったわね」

 

 そう言うと、ウンディーネ卿は遠い眼をしてつぶやき始めた。

 

「思えば、エルベディエは人と関わるのが苦手でね。カズマさんたちにも自分のことを話してなかったんじゃないかしら?それでも、エルベディエのためにこんなにいろいろとしてくれて……」

 

 普段のエルベディエを思い出し、そう言えば俺たちは本当に最近までエルが貴族であることすら知らなかったことを思い出す。クィーンスライムだと判明したのも、イリアスからの情報だったし、本当にエルが俺たちに話してくれたことが少なかったのだと思い至った。

 

「あの子の父親は行方不明でね。ずっと水と領地の統治の仕事をしながら、女手一つで育てた者だから、男の人に対して変な認識を持ってしまって……。それでも、今は楽しそうにあなた達のことを話してくれるのが、とてもうれしくてね……。カズマ君。うちの娘を、今後もよろしく頼むわ。

 そして、バルター君。娘を選んでくれて、ありがとう」

 

 そう言って、ウンディーネ卿は俺たちに頭を下げたのだった。




ちょっと蛇足気味の縁談回ラストです。蛇足だから短めなのは申し訳ない。
あと、そろそろ3巻分も終了なので、恒例のアンケートします。


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EP47 キールダンジョン再び

「サトウカズマ、サトウカズマはいるかー!」

 

 冒険者ギルドで食事をとっていると、そんなにぎやかな声が聞こえて来た。

 

「あ、セナさん」

 

「そこにいたか、サトウカズマ!貴様に魔物の繁殖の嫌疑がかかっている。神妙に縛に着くがいい!」

 

「は!?」

 

 驚いて聞き返すと、セナさんは若干目をそらしつつ言葉を続けた。

 

「いいか、貴様が先ごろ向かったキールダンジョン!あそこで妙な魔物が大量に発生しているのだ。そして、公式の潜入記録はお前たちを最後にこれまで踏み入られたことは無いんだよ!つまり、貴様が何かダンジョンの中でしたことで、魔物が溢れ出したに違いないのだ!」

 

「いや、待て、最後に行ったのってあれだろ?ギガントウェポン討伐のために、サバサを連れて来た時だろ?そんなら中には入らなかったが、ケンタウロス娘も同行してたぞ。流石にあんな状況で妙な気は起こさないって。何ならケンタウロス娘たちに確認してもらってもいいぞ」

 

「ふむ、妾からも、一応言っておこう。少なくとも妾の知る限り、つまりキールダンジョン最奥部の隠し部屋において、この者達が妙なことをしていたことはない。それは保証しよう」

 

 俺の言葉とサバサの証言から、セナの目がさらにあっちこっち泳ぎだす。

 

「しかし、それは困りましたね。あなた方に何か関係があると考えていましたので……あぁ、どこかにキールダンジョンに詳しい冒険者の方はいないのでしょうか、あなた方でないとすれば調査の必要があるのですが」

 

 そう言いながらちらちらとこちらを見るセナ。

 なんだその目は。

 

「まさかとは思うが、疑いをかけたこちらに仕事を任そうなどという事は考えておるまいな」

 

 たまもに言われて、セナがぐっと言葉を詰まらせる。

 

「え、ええ、そうですね。それでは、私はギルドに依頼を出してきます。もし、お手伝いいただけるならお声掛けください」

 

 そう言って、去っていくセナを見て、イリアスが不安そうにつぶやいた。

 

「カズマ、あの対応でよかったのですか?」

 

「?……なんか問題あったか?ケンタウロス娘たちも現場は見てたし、実際俺たちは関与してないんだから、別に何かあるとは思えないんだが」

 

 そんな俺の言葉に、イリアスはじっとサバサを見つめる。

 

「いえ、そもそもの話、サバサがあの場所を離れたということ自体が、事件の発端の可能性もあると判断されてもおかしくないと思うのですが」

 

「む?」

 

 サバサが思案顔で顎をさすり、続きを促す。

 

「サバサは上位魔獣……魔物のくせに神の名を冠するなど不敬にもほどがありますが、神魔と呼ばれる上位魔族の更に上に属する存在。スフィンクス娘というだけで世界有数の実力者だと知らしめる程度の力を持った大魔族です。例え彼女が生に絶望し、能動的に動かなかったとしてもまともな上位魔族なら戦闘どころか遭遇を避けるはず。つまり……」

 

「……妾が知らぬうちに、魔族の発生をあの隠し扉のさらに奥へと押し込めておった、と言いたいわけじゃな……下らんな。あの隠し扉の先に他の隠し部屋などはない。伊達に百年単位であそこに引きこもってはおらんぞ」

 

 そう言って冷笑するサバサと対照的に、俺は少し冷や汗をかく。

 

「いや、待て、サバサ。今回の新種の魔物の発生は、結構規模の大きい物だったんだ。キールダンジョンを拠点にするなら、そして、ダンジョンの最新情報を持ってるなら、あの隠し部屋は潜伏先にうってつけだろ?もし改装なんかして、奥の部屋が増えてたりしたら……」

 

「む……それでも新しく取り付けたとかでわかりそうなものではあるが……」

 

「その場合も、サバサ、お主が何かしらの魔族を作り出して隠し部屋に置いておいたのを忘れとったとか、いちゃもんはいくらでも付けられるのう?というか、お主がキールダンジョンに百年単位で住んでいた以上、いくらでもでっち上げようと思えばでっち上げることはできるのではないか?セナはそのことには気づいておらんかったようじゃが」

 

 確かに、よく考えればサバサがあのダンジョンでどうやって過ごしていたかなんて言うのは、時たま俺たちに話してくれる昔語りでもなければ殆ど分かっていないことだ。俺の言葉とたまもの指摘に、徐々に顔色を悪くするサバサは、すがるような眼で俺を見つめた。

 

「か、カズマ、こ、こういう時この時代の法ではどうすればよいのじゃ?いや、勿論昔のやり方は知っておるのじゃが、今も同じかとか、そういう」

 

「まあ、サバサをしょっ引かれても困るし、俺たちが調査隊になって、なんかおかしなところがあっても何とかできるようにするしかないか。はぁ……というか、なんでサバサはこんなにおびえてるんだ?」

 

 その言葉に、イリアスが端的に答えた。

 

「魔族の場合、無計画な繁殖や下級魔族の繁殖で大きな被害を出したなら、アリスフィーズ王家の名の下に、問答無用で討伐対象になる。という時代がありましたから、それでではないですか?」

 

 なるほど、そう言えばクリスも裁判とか経ずにイリアスを討伐しようとしていたな、と俺は納得したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

「すまん、妾が原因のようなものなのに……」

 

「まあ、仕方ないさ。今回は俺たちに任せとけって」

 

 珍しくしょげ返るサバサを見て、俺はそうフォローを入れた。そうして歩いていると、キールダンジョン付近で奇妙な魔物を見つけることになった。

 

 それは、全体的に白い魔物だ。大きさは腰よりも少し低いくらい、見た目的には、触手を人間の形に加工したような見た目だった。足は複数の細い触手であり、手も人よりもはるかに大きい掌に、吸盤のないイカの足のような触手が付いている。髪は無く代わりに二対の触手が生えており、顔に口や目はうかがえず、代わりに額の真ん中と顔の側面に青いひし形の水晶の様な器官が備わっていた。

 

「な、なんだこいつ」

 

 それは今まで見たどの魔物とも全く違う魔物だった。及び腰になっている俺に対して、イリアスがおもむろに近づいていった。

 

「……?何を不思議にしているのです?彼女は人間の女の子ではないですか」

 

「は?何言ってるんだ?イリアス」

 

 イリアスの口から出た、そんな突拍子もない言葉に、呆然としている間に、イリアスはその謎の魔物の頭をなでる。

 

「少し見た目は違うかもしれませんが、ゲノムの99.9%は人間と一致しています。その肉体の精強さも、寿命の長さも。そして女神に対する従順さも、まさしく新人類というにふさわし……」

 

 そして、撫でられた魔物は彼女の手の中で思いきり爆散した。

 

「……おーい、イリアス、大丈夫か?」

 

「……えぇ。まさか彼女にも裏切られるとは……これはもう少し調整が必要かもしれませんね」

 

 なんだか妙な話をしているが、それについて問いただす間もなく、更に大量の魔物、イリアス的には新人類が現れた。

 

「ちょ、ま」

 

 俺が思わずそう言って動揺していると、目の前を水色の粘体が覆った。そして、そのまま捕食するように取り込まれた新人類が、粘液の中でボンボンと爆発する。

 

「ふぅ、これくらいならなんてことないわね」

 

 とりあえず、エルを盾にしておけば、何とかなりそうなので、俺はイリアスに声をかける。

 

「なあ、イリアス、もしかしてあいつらって、お前と関係あるの?」

 

「……そうですね……元の世界で人類が滅んだあとの新人類として、私の本体が用意していた人類、レプリカントの近縁種でしょう。大きさはやや縮小しているようですが」

 

「女神様、なんで人類絶滅なんてことを想定してたんですかねぇ?」

 

「……」

 

 俺の質問にイリアスはツイッと目を逸らす。

 

「い、良いではないですか、今はそのようなこと考えていないのですし、そんなことはどうでも!」

 

 ……こいつ、暗に自分が原因で人類が滅ぶような行動をしていたことを認めたよな?

 

「……まあ、今はそんなことを話してる場合じゃないか。だけど、新人類を知ってたことは絶対に表ざたするなよ!絶対厄介なことになる」

 

「そうですね、分かりました」

 

 とりあえずそれだけ取り決めて先に進むことにしたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おや、カズマさんたちではないですか?どうしたのですか?」

 

 キールダンジョンの前まで来ると、セナがそう声をかけて来た。

 

「いえ、よく考えれば、これだけ街に近いダンジョンだと、俺たちにも影響があるかな、と思って手伝いに来たんだ」

 

 それを聞いて、セナが、薄く笑みを浮かべた。

 

「それは本当にありがとうございます。どうか、ご協力をお願いします。……そうですね、ご協力いただけるという事でしたら、これをお持ちください」

 

 そう言うと、セナは、一つの紙きれをこちらに手渡してきた。

 

「これは?」

 

「これは、封印のお札というものです。なんでも、はるか昔に女神、アリスフィーズ様を封印したとされる術式を解析して作ったという曰く付きのお札で、流石に神様を封印するほどの力はないとは思いますが、それでも大悪魔クラスでも封印してしまうことができるとされている強力な結界を張ることができる魔道具です。性質上魔素を肉体の基本構成に持つ魔物娘たちが持っていると悪影響があるのですが、カズマさんとたまもさん、それにイリアスさんは使えるはずですので……」

 

「いや、いらないだろ。よし、たまも、いけ」

 

「黒より黒く……」

 

「ちょちょちょ、何をしてるのですか!」

 

 慌てるセナに、俺は言い含めるように言葉をかけた。

 

「あそこから新種の魔物が出ているんだろ?なら入り口を潰せば問題ない。だろ?」

 

「いえ、こんなに新種の魔物が出てくるとなるとこの中に相当に強い相手がいるのが明らかです!ですから、その原因をきっちりと討伐しておかないと後々壮途にまずいことになりかねないですから!」

 

 そう言われては仕方がない。というか断行したらそれこそそのまま犯罪者ルートだ。

 

「仕方ない。ダンジョンに行くか。……とりあえず」

 

 そうして俺は仲間を見回した。サバサ……は当然その大きさから同行は無理、イリアスは以前のアンデッド大量引き寄せの前科があるためやはりこっちに残っていた方がいいだろう。クロムは、有りっちゃありだが、クロム自身の戦闘能力がそこまで高くない上に、相方のフレデリカさんはゾンビとしてはかなりの大柄で狭いダンジョン内ではやや手狭なうえ、クロムがいないと動きが鈍る。たまもは頼りにはなるが、肝心の爆裂魔法を使えないとなるとあの魔物に囲まれた時など話すすべがないだろう。そして、封印の札が使えるのが人間や天使である以上俺が降りるのは必須。となると。

 

「エル、護衛を頼めるか?」

 

「ええ、任せなさい」

 

 ということで、俺とエルの二人でキールダンジョンに潜ることになったのだった。




 というわけで、とうとう登場しました見通す悪魔。
 もんクエ民からすればバレバレだったと思いますが、見通す悪魔は全知の悪魔が名前の元であるラプラスさんです。
 ただし、原作のラプラスさんはどっちかって言うとドレインラボ自体が本体で人間部に見えるのは内部の意志表出器官という扱いなのですが、このすばナイズされたラプラスさんは本作の通り、ヘルメットが本体となっています。

 ラプラスさんについては、ロイド系最高位の魔物娘であることは間違いありませんが、ギガントウェポンの際に名前だけ出たプロメスティン作かつ、別に天使として活動していないので、コンセプトが異なり、内部に悪魔の魂を封印し、ロイドの肉体と悪魔の精神を融合させたとか多分そんな感じ。

 彼女もロボット工学三原則を設定はしていますが、マッドよりなうえ、戦乱の最中だったため、敵を殲滅することも考慮に入れた設計を行いました。
 しかし、その際、魔族の多彩な性質が邪魔をして、正確な数値を入力できなかったため、苦肉の策として、プロメスティン自身が一緒に過ごせる仲間としての認定したものと、ある程度に力とラプラス自身の人工知能によって仲間になりえると判断した者を人間の定義として設定する特殊なルールを設定しました。
 ただ、見た目が異形なこと、そして何しろその巨大なツインテ―ルの破壊力がうっかり壁とか破壊するレベルの為、ある程度の実力が無ければうっかりで人を殺しかねないという事実から、仲間になれるものはいませんでした。
 そして、とあるきっかけによりプロメスティンが死に、その最後の願いとしてプロメスティンは魔族の王に彼女の保護を願い出ました。ラプラスに対しては、魔王を仲間と設定せず、ラプラス自身の判断で魔王の善悪を判定できるようにしたうえで、です。

 この結果、ラプラスは魔王軍の幹部として取り立てられつつも、魔王に懐疑的な存在となりました。そして、長い時を過ごし、経験の蓄積により、自己意志がよりはっきり確立してきたことで、魔王が人間や魔物娘を滅ぼそうとすることに疑問を感じ、積極的に幹部として動くことは無くなりました。

 みたいな裏設定があるんだと思う。多分、きっと、メイビー。

 あ、口調に関しては、能力を使って事象を確認したり、事実を言及する際は事務的口調、本人の思いやただの会話の際は砕けた口調で話しているつもりです。

 そして、前々回すごい甘々な空気を醸していた片割れがこのザマだよ。ま、まあ、他のショタを襲ったわけじゃなくて自身がショタになる素敵空間に耐えられなかっただけだから……。
 なお、もし生還した場合はバルター君にちょっと心配そうな目をされながら「こんなうわさ有りますけど、僕はあなたがそんな人じゃないって知ってますから!」って言う割と精神をえぐり取る光属性と、その後ろで若干軽蔑すら籠った視線でにらみを利かせるお母さまという地獄絵図が繰り広げられます。

変更点
・見通す悪魔(男)を見通す悪魔(機械生命体)に変更
・クルセイダーの変態具合を強化


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EP48 見通す悪魔

 剣を振りかぶる音が響き、そしてすぐにザクリという音と、ボン、という爆発音が響く。ランタンの光に誘われるように群がった奇妙な魔物はそのまま吸い込まれるようにエルの振り下ろした剣に切り裂かれ、小さな火花を散らしてその姿を消していく。

 

「カズマ……これ、楽しいわね」

 

「それを楽しめるのはエルだけだと思うぞ」

 

 何しろ、傍で見ている俺の方にさえ爆発の衝撃が伝わってきているのだ。これで普通の防御力だったら、爆発に耐えられなくてやられていただろう。

 実際、耳を澄ませてみればあちらこちらから冒険者のうめき声が聞こえてくる。

 ただ、奇妙と言えば奇妙なことに、このダンジョンに入ってから一度として冒険者の死体を見ていなかった。これほどの爆発力があるのに、死者がいないというのはある意味で非常に奇妙だった。

 

「まあ、何はともあれ下に行ってみるか?」

 

 一応ギガントウェポン戦の時にサバサのいた隠し扉のことはギルド側に伝わっているが、実際にそこに行った事があるのは(セナの語り口からして)俺とイリアスだけのはずだ。やや分かりにくい場所にあるし、俺たちが向かうのが一番いいだろう。そう言うわけで、俺たちは先へ先へと急いだのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 そこにいたのは一人の少女だった。巨大なツインテ―ルのような器官を空中に張り巡らし、顔は巨大な一つ目。生育の悪い肢体は隠すのすら面倒というように機械的なパーツが各所に取りつけられている以外は特に何もくさらけ出されていた。

 

「……カズマ?いかないの?」

 

「いやいやいや、多分あいつが黒幕だろ?もう少し慎重に」

 

 ここはサバサのいた隠し部屋のさらに奥。俺の懸念したとおりに増設されていた隠し部屋の手前だった。そこには今回の黒幕と思しき少女と、それを取り囲むように配置された巨大な培養槽のような機械が設置されていた。

 

「ん?そこに誰かいる?」

 

「見つかった!?」

 

 俺とエルは、警戒しつつその声の方に武器を向けて立つ。

 

「……そんなに警戒しなくていい。私はあなた達を殺す気が無い」

 

「それを信じられるとでも?」

 

 俺の言葉に、その少女は感情のうかがえない顔と声色で言葉を続けた。

 

「私は魔王軍幹部が一人、見通す悪魔のラプラス。あなた程度の冒険者に、そんなつまらない嘘は言わない」

 

 その言葉に、俺とエルの体が強張る。まさか、魔王軍幹部が原因だったとは!というか、この状態はまずい!まさか俺とエルだけで魔王軍幹部の前に立つことになるとは思っていなかった。

 ただ、幸いなことにこちらに攻撃するそぶりは見せていない。俺はラプラスを見つめながら、隙を見るために会話を続ける。

 

「いや、魔王軍幹部だろうが、なんだろうが、信じられないものは信じられないね」

 

「……私はとても高性能な機械と悪魔の融合体。そして、旧世代の科学技術を駆使して作られた偉大なるアンドロイドの到達点。それゆえ、搭載AIも旧世代仕様。システム的にロボット工学三原則に一部縛られている」

 

「ロボット工学三原則?」

 

 エルの問いに、俺は頭を高速回転させ、その指すものを思い出す。

 

「確か、昔の小説か何かの設定だったか?ロボットは人間を傷つけてはならない、とか何とか」

 

「そう、ロボット工学三原則とは、ロボットは人間に危害を加えてはならない。ロボットは第一原則の及ばない限りにおいて人間の命令に従わなくてはならない。ロボットは第二原則の及ばない限り自己防衛をしなければならない、というもの。

 ただし、私の作り主は変わり者だった。人間の定義を歪めて、このロボット工学三原則を運用した」

 

 そう言うと、ラプラスは宙に浮きつつその眼球にも見える顔中央部にある器官で俺の顔を覗き込む。

 

「私の作り主が私に設定した人間の定義は、私と共に過ごせる存在。見た目や種族と関係なく、私が自己判断する。また、危害に関しても、私がリカバリーできる損傷までは許容されている。それ故に、私がリカバリーできない魂及び精神の損耗や肉体部位の欠損に関しては許可されない。また、私と共に過ごすに値しないと判断した場合はその限りではない。

 尤も、そう言った存在も研鑽を積めば私と共に過ごせる可能性がある以上、むやみに排除することはない」

 

 そう言うラプラスは、静かに話し終わった、というように静かに俺を見つめて来た。

 

「それが、お前が人を殺さない理由、ってわけか。で、それじゃあ何でお前はあんな魔物を作って冒険者を襲ってるんだよ?」

 

 それを聞くと、ラプラスは感情を伺わせない口調で返してきた。

 

「それは、私の野望によるもの。私はアンドロイドの到達点。感情を持つ機械。私のささやかな望みをかなえるために、あのレプリカントたちは必要だった」

 

 そう言うと、ラプラスは瞳を紅潮させ、言葉を続けた。

 

「私は私と共に過ごすことのできる者を探している。その過程で生み出されたのが新人類、レプリカント。だけれど、彼らは私が作った、被創造物。私が創造してしまった以上、私に逆らうことができない、既に序列が決まってしまっている存在になってしまった。

 だから、彼らを使って私は私と共に過ごすことのできる者を探すことにした。魔王は共存を良しとしない、人間は私を受け入れない。そして、どちらも弱すぎる。

 本当は、この街にいる知り合いを探すついでに調査をするために来たのだけど、丁度いい所にダンジョンを見つけたので、試しに利用しようと考えた。

 つまり、このダンジョンは、私と共に過ごすに足るかどうかを確かめるためのもの。

 貴様は、私を受け入れられるのか?」

 

 ゾクリとして後ろに下がると、そこに鞭のようにしなるツインテ―ルの片割れが振り下ろされていた。

 

「まだまだ行くよ」

 

 そう言うと、両翼のように天井へ掲げられたツインテ―ルが、俺たち目がけて襲い掛かってきた!慌てる俺の前に立ちはだかったエルはその体を精いっぱいに伸ばし、攻撃を一身に受ける。

 

「……情報修正。精査。判定。依り代として最適と判断」

 

 そう言うと、ラプラスは急に動きを止め、そしてやや大きな音をさせながら、一人の少女がぐったりと倒れ伏した。

 どこにでもいそうな少女で、倒れた衝撃か、大きな目のように見えた被り物が取れ、端正な顔が現れた。

 

「……まさか、こんな少女が正体だったなんて。早く保護しないと!」

 

「おい待てエル!何もしてないのに動きを止めたのがおかしい、明らかに罠だ!」

 

 そんな俺の言葉を歯牙にもかけず、ずかずかとエルは少女に向かって近寄っていく。

 そして、不用意に近づいたエルを、大量の金属の線が貫いた。

 

「エル!」

 

 そうこうしている間にも大量の金属線はエルを貫き、囲み、そして、その大本である目のように見える被り物が浮き上がり、エルに装着される。

 

「掌握。肉体機能の奪取に成功。続いて、個体名エルベディエの精神機能の休眠措置を試行する」

 

 今までもがいていたエルがその抵抗を止めると、そんなことを話しつつ、こちらを向いた。

 

「おい、エル!どうしたんだ!まさかあの悪魔に乗っ取られたとか言うんじゃないだろうな!」

 

「是、私はこのからd「カズマ、すごいわ!小さな女の子だった時の体感が、とてもリアルに感じられるわ!」を掌握して、肉体の操作権げ「しかも、一人ではないの!男の子も、女の子も、いろいろな幼い少年少女だった時の質感が感じられるの!」……訂正、精神機能の異常な活性状態により、肉体機能の掌握に不備が生じていることを観測。速やかに精神機能の鎮静化を試行」

 

 何はともあれ、エルもまだ余裕がありそうだ。そして、俺はふと現状を確認する。

 恐らく、あそこで倒れている少女は、ラプラス本人でなく、憑依された被害者。そして、気絶している。一方、エルはどうやら極限定的ではあるが、ラプラスの憑依に抵抗しているらしい。

 

「なあ、エル、ラプラスってのは悪魔なんだよな?悪魔なら、神聖魔法が苦手なはずだ!そのまま地上まで走れるか?」

 

「警告、現在、個体名称エルベディエは私の浸食により継続的な苦痛を受けて……情報修正。計測により、苦痛の感情より喜びの感情が大きいと判明……。しかし、苦痛を感じているのは事実。このまま更に負荷をかければ、精神の崩壊を誘発します」

 

「くっ!それなら、あんたを無理やりはがして、誰も近づかないようにしてアークプリーストを呼び込んでやるよ!」

 

「あ、お構いなく」

 

「「……ん?」」

 

 何故だか俺とラプラスの声が被ったのだった。

 

「「今、丁度12歳くらいのショタの体になった時の記憶をじっくり味わってるところなの」理解不能、操作個体としての重大な欠陥を認識、この肉体を放棄します「待て!まだ堪能しきって……ではなくて、これ以上あの少女の肉体を使わせるものか!カズマ!私ごとこの悪魔を封印しなさい!」」

 

 その言葉に、俺ははっとなって思わずセナから貰った札を張り付ける。

 

「…………試行、貼付物の除去を実行。失敗。……なにこれ」

 

「封印のお札」

 

「……なにこれ!」

 

 あまりに予想外だったのか、ラプラスは口調を崩して驚愕したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「エル、大、丈夫、か?」

 

「無駄、今個体名称エルベディエは、「こちらは何とか大丈夫よ、それより、其方こそ」精神の休眠誘導、強化!」

 

 俺はラプラスに乗っ取られたエルを引き連れて、ダンジョンを駆け上っていた……気絶した少女を連れて。

 

「ゼェ、ゼェ。冒険者になって鍛えてるとはいえ、こちとら文明に囲まれた現代人だぞ!」

 

「「なら」個体名称エルベディエの精神を休眠状態にする新シークエンスを構築、実行します」

 

「お前に、任せたら、なんかあった時にまずいだろうが!」

 

 エルの言いたいことを察してそう言い返した俺は、切れる息をそのままに、エルと並走して走っていく。

 

「ゼェ、ゼェ。あと、あとちょっと、だ」

 

「では、私が先に行く」

 

 そう言って、エルはその速度を一段上げた。……違う、あれは……。

 

「まさか、お前!」

 

「今、エルの意識は完全に休眠状態に入った。忌々しい神聖な力の奔流も感じる。だから、手始めにこの体で油断させて、この先のアークプリーストにキツイ一撃を加える」

 

「ま、まて!」

 

 そう言っても、俺も体力が限界でこれ以上スピードを上げることができない。どうか間に合ってくれと必死に体を動かすが、それでもはるかにエルの方がスピードが速い。

 

 そして、とうとうイリアス達が待つダンジョンの入口にラプラスがたどり着き。

 

「セイクリッド・エクソシズム!」

 

「!!!!!????」

 

 高らかに唱えられた神聖魔法の中に、ラプラスは放り込まれたのだった。




またミスってる!
追加投稿です。


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EP49 悪魔の矜持

 ぷすぷすと煙を吐きながらも立ち上がったラプラスは、キッと冒険者、否、たった一人、アークプリーストを、一つしかない帽子の巨眼で見つめていた。

 

「全く、カズマのなかなかの大物を見つけてくれたものですね。ラプラス。ロイド系の最高位の魔物娘……いえ、それにしては悪魔の臭いが強い。この世界とあちらの世界では設計者のコンセプトが違うのでしょうか。大変興味深いですが、……まあ、その情報を知るのは別に解体してからでもいいですよね?」

 

 そう言うイリアスに対して、ラプラスはじっくりと観察をした後に呟いた。

 

「……簡易鑑定完了。驚いた。「いま解体と言ったかしら?」あなたは女神イリアスと「この素晴らしい情報を共有できるものを解体するのは良くないと思うのだけれど」一致している。……もしかして、女神イリアス本人?」

 

「機械のくせに、相手の掌握すらできていないのですか?」

 

「個体名称エルベディエの精神浮上を確認「ちょっとくらい残してもいいと思うの」……現状対処に割くリソースが無いと判断。ある程度は放置する。

 仮称、女神イリアスに再度質問する。あなたは女神イリアス本人?」

 

「さて、もしそうだ、と言ったら?」

 

 イリアスのその言葉に、ラプラスは無表情に言葉を続ける。

 

「簡単なこと、あなたを倒して、地獄への手土産にする」

 

 そう言うと、地下で見た時のように髪に見える金属線が蠢き、その大質量をイリアスに叩き付ける。

 

「おっと」

 

 そしてそれを、サバサが叩き落した。

 

「ふむ。無事かや?」

 

「ええ、感謝します。サバサ」

 

「何、あの程度なら構わぬ。ただし、妾が防げるのはあの髪の方だけじゃ。本体の方は追いきれん」

 

 そう言っている間に、サバサ髪での攻撃は意味がないという結論に至ったのか、自ら接近して直接イリアスを攻撃しようとした。

 だが、ここにいるのは俺たちだけじゃない。何人かの冒険者が、ラプラスの前に立ちはだかった。

 

「その体はエルべぇさんのものだ!返せ!」

 

 そう言って向かっていった戦士は、しかし一刀のもとに転ばされ、そのうえで剣を取り込まれて無力化されてしまった。

 

「おい、エルべぇの奴、なんか強くないか?」

 

 その後、何人かが挑みかかるが、剣をいなされ、躱され、あるいは武器ごとその体内に取り込まれて、瞬く間に無力化されてしまった。

 

 ……というか、あいつ、戦い方によってはあんなに厄介だったのか。そんな風に思いながら、俺はイリアスがつぶやく言葉を聞いていた。

 

「どうやら、エルの職業、クルセイダーにある強力な聖属性耐性が私の神聖魔法を防いでしまっているようですね。もし、聖属性魔法で倒そうとするのなら、彼女から引きはがさなければいかな私と言えど出力不足が否めません」

 

「なれば、この際エル毎巻き込む手も考慮に入れるべきではないかの?要はあの頭の絡繰りを何とかすればよいのじゃろう?」

 

 イリアスとサバサがそのように言い合っている間にも、俺は注意深くラプラスを見つめる……いや、待てよ……。

 

「これって、キメラデュラハンの時と同じシチュエーションなのでは?」

 

「「カズマ!まさか、スティールをするつもり!まだ、まだちょっと待ってくれないかしら!」精神状態確認。言及が真実だと確認。警戒を高めます」

 

 俺はエルの変な場所での抵抗に頭を抱えつつ、たまもに声をかけた。

 

「たまも、新しいペンダントは持ってるな?準備を頼む!」

 

「!分かったのじゃ!」

 

 そう言って、俺はラプラスに目を向ける。ラプラスは意識を集中しているのだろう。こちらを凝視してスティールに対抗しようとしているようだ。

 俺は、今度はサバサに目を向けた。

 

「サバサ。なんか俺緊張しすぎて暑くなってきたんだけど、ここら辺を涼しくすることってできるか?」

 

 敏いサバサのことだ。もしかしたらラプラスにもばれたかもしれないが、それでもその意図を正確にくみ取ったサバサの行動は早かった。

 

「妾を誰だと心得る!その程度、児戯にも等しいわ!妾からの贈り物じゃ!『カースド・クリスタル・プリズン!』」

 

 突如発生した巨大な氷の塊を、ラプラスは危なげなく避けた。しかし、その一撃は、避けただけでは意味がない。

 

「!?障害発生、依り代の運動性能が著しく低下中……。検証。これは凍結によるものと暫定。運動性能が危険域まで到達するまで、あと3分」

 

 そして、俺はその隙をついて、一つの魔法を唱える。

 

「着火!」

 

 外野による凍結魔法の行使、そしてその間隙を突く形で行われた、窃盗魔法、と見せかけた着火魔法。それにより、機械の帽子とエルを繋いでいた封印のお札は、きれいさっぱり燃え尽きた。

 

「さて、ラプラス。エルの体から出て、最高位のアークプリーストに浄化されるか、それとも、爆裂魔法で消し飛ぶか、選んでもらおうか」

 

 たまもの魔法詠唱が続く中、ラプラスは完全にこの状況が詰みなことを認めたのだろう、いっそ清々しいとでも言うように、静かに顔を上げた。

 

「全く、私がしてやられるとは、驚嘆いたしました。……個体名称エルベディエ。私の精神支配にここまで抵抗する者がいるとは思いませんでした。あなたはとても興味深い。できれば、もう少し、あなたの内面を探ってみたかった。……とはいえ、私も悪魔の一端。あなたには悪いけど、付き合ってもらうわよ」

 

「私も、とても貴重な体験をさせてもらった。あなたとは、話が合いそうだと思ったわ」

 

「……それは、少し心外なのだけれど」

 

 そう、静かに語り合うラプラスとエルを、たまもの生み出した水色の魔力が包み込む。

 

「其は暴虐の濁流、流転の果てにすべてを飲み込む渦潮なり!爆ぜよ!エクスプロージョン!」

 

 たまもが呪文を結び、そこには荒れ狂う水流と見まがうような魔力の奔流が生まれ、そして膨大な爆発を伴いながらラプラスとエルを吹き飛ばしたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 シャクリと甘い蜜がかかった氷菓子を食べながら、俺たちは屋敷の一室でしんみりと宅を囲んでいた。

 

「なんだか、季節外れの氷菓子を食べているとエルべぇのことが恋しくなりますねぇ。あまり魔物娘は歓迎できませんが、いないとなるとこんなに寂しくなるなんて……」

 

「そうだな、でもエルは……」

 

「うむ……」

 

 そうして、しんみりと氷菓子を見つめている俺たちの頭を、静かに入って来た何者かが引っぱたいてきた。そちらを見ると、見慣れた水色の透き通ったからだが見えた。

 

「なんだ、エル。帰ってきてたのか」

 

「何だとは何よ。全く。私はただ、最近はやっている変な噂をバルター様が真に受けないように説明に行っていただけよ。それなのに、まるで私が死んで氷菓子になっているような話をして……」

 

 そう。エルはあの後、普通に生還していた。たまもが水属性のエクスプロージョンを放ったおかげで、水属性のエルはダメージを軽減し、モロ機械生命体であるラプラスは逆に致命的なダメージを受けて破壊されたのだ。

 ただ、流石にエクスプロージョンを喰らってまともでいることができるわけもなく、相当な大けがにはなってしまっていた。そして、それに輪をかけてまずかったのがエルのそれまでの醜態だ。自分が少年・少女になっていたという感覚を得るために魔王軍幹部という大物とはいえいいように体を操られていた、というのがウンディーネさんにばれてしまったらしいのだ。

 なんでもたまもが精霊の力を借りて力を行使するとき、その場の状況をある程度把握できてしまうのが精霊なのだそうで、特に対象が娘であったため、思考さえもある程度分かってしまったそうなのだ。

 そして、当たり前だが、その場には俺たち以外の冒険者たちも居たし、その冒険者たちは断片的とはいえエルの妄言を聞いている。

 そのため、エルは弁明と誤解(?)の釈明に追われることになったのである。

 

 

 と、そんな話をしている間に時間が過ぎたことを確認して、俺たちは立ち上がった。行く先はギルド。俺たちは冒険者ギルドに呼び出されていたのだ。

 

 冒険者ギルドへ向かう道行きでも、俺たちは声をかけられたりからかいの声が投げかけられる。何しろ天使とスライムとスフィンクスとインプと人間2人(正確には一人狐だが)のパーティだ。いくら魔物娘が多いとはいえ、ここまでまとまりがないパーティは珍しい。そのため、とても目立つのだ。

 

 いろいろな人に声をかけられながら、俺たちは冒険者ギルドに到着した。

 そして、そこにはまたしても多くの冒険者と、そしてセナの姿があった。

 

 待つこと少し、ギルド内では、エルベディエ様、とかいろいろな冒険者から名前を揶揄われるエルの姿があったりなど多少の悶着は有りつつも、冒険者ギルド側の準備が終わり、セナの声と俺たちが向かい合って、式が始まった。

 

「冒険者、サトウカズマ殿!貴殿を表彰し、この街から感謝状を与えると共に、嫌疑をかけたことに対して、深く、謝罪を致します」

 

 そう言って、深く頭を下げるセナから俺は感謝状を受け取った。

 

 俺たちは、魔王軍関係者があれほど身を犠牲にして魔王軍幹部を倒すはずがないとの理由から、なんとなくあやふやになっていた魔王軍のスパイ疑惑は完全に払しょくされることとなった。

 

 そして、ラプラスとの戦いを間近に見ていたセナの証言から、国家転覆罪の嫌疑が完全に晴れた俺は、他の冒険者に遅ればせながら、ギガントウェポン討伐の報酬を受け取れることとなった。

 

 まず、割とアルダープの奴の信用が地に落ちたために執行自体出来るのか?というくらいあやふやではあったものの、それでも死刑の可能性が完全になくなったというのは大きい。

 そして、それと同時に借金返済の目途もたったというのが非常にうれしいことだった。

 

「そして、アクアリウス・フォード・エルベディエ卿、今回の貴殿の活躍は素晴らしく、まさにアクアリウス家の名に恥じぬ活躍だったとして、王家から感謝状及び、先の戦いで失われた防具に代わり、一級技師たちによる全身鎧を送ります」

 

 セナのそばに控えていた騎士からそう言われると、エルはとてつもなく微妙な顔をしつつそれを受け取った。

 

 ……まぁ、そりゃ確かに母親にしこたま怒られた後に、他人からその家にふさわしい行いだ!とか言われれば微妙な顔にもなろうというものだ。

 なお、そのような状況の為、彼女が周りからはやし立てられる毎に、眉が不快そうに動いていた。

 

「……続きまして、サトウカズマさんへの報奨金の授与へと移ります」

 

 話を戻すようにセナは柔和な表情を浮かべつつ、俺に話かけていた。

 

「先のギガントウェポン討伐への多大な功績、そして此度の魔王軍幹部ラプラスの討伐は、サトウカズマさんたちの協力無くしては決してなしえなかった異形であると言えるでしょう。よって、あなたの背負っていた借金、および領主殿の返済金を差し引き……」

 

 そう言って、セナはまず一枚の紙を差し出し。

 

「残った4千万エリスを進呈し、その栄光を称えます!」

 

 さらにずっしりと思い袋を差し出してきた。

 

 それを確認した途端、ギルド内は盛大に沸き上がり、まさにお祭り騒ぎと言った様相を呈してくる。

 そんな様子を見ながら、なんだか最近みんなで一緒に騒ぐことを楽しむようになった女神さまと、ギガントウェポン、ラプラス双方にとどめをさしたことでひっきりなしに人の波が詰め寄せているアークウィザード。それに久々の宴に浮かれているスフィンクスを置いて、俺たち三人はギルドを後にしたのだった。

 

 借金が無くなったことは喜ばしいが、俺たちは浮かれ騒ぐ気にはなれなかった。なぜなら、俺たちにはいかなければならないところがあったからだ。

 

「……おねえちゃんは、落ち込まないじゃろうか。おねえちゃんはとっても優しい人じゃから……」

 

 ラプラスが出会った際に行っていた、この街の知り合いというのは、恐らく同じく魔王軍幹部の一人、シロムのことに違いなかった。クロムも言っているが、シロムは魔王軍幹部と思えないほど優しい心の持ち主だ。

 イリアスを狙っていたし、冒険者という仕事の特性上、倒さないという選択肢はなかったものの、彼女の知人を倒してしまったというのは、なんとも後味の悪い気持ちが残ってしまっている。

 

「私は、あの悪魔と意識を共有した時、あの悪魔が子どもを依り代にして今まで過ごしてきていたことを体感したわ。それと、その子どもたちも無碍にしてないことも。きっと、あの子は私と同じ、子ども達を愛するものだったに違いなかった。生きていたなら、きっと良い関係になれたと思うわ」

 

 シルクドゥクロワ魔道具店の扉の前で、なんとなくいい雰囲気でそんなことを語り始めるエル。だが、彼女の今までの行いを考えると、それは逆にラプラスに対して失礼なのでは?と思わず考えてしまった。

 

「それは、とても心外なのですが」

 

 そして、それを実証するかのように、非常に不満げな声が扉を開けた途端飛び込んできた。

 驚く俺たちにちょっとちっちゃくなったツインテ―ルがふよふよと揺れる。

 

「私はあくまでも、操作の難易度や、入手の簡便さ、そしてお互いのメリットの面から少年少女の体を依り代にしていただけ。実際、今はこの店で調達した人形を依り代にしている」

 

「いや、それよりも何でお前生きてるんだよ」

 

 俺が思わず聞くと、ラプラスは若干誇らしげに胸を逸らして答えた。

 

「よく見てほしい、ちゃんとここの期待番号が一つ増えてる。コアの魂をデータ化して接続待機中の別期待に送信すれば、何の障害もなく新しい肉体に移動すれば復活できる」

 

 無茶苦茶だが、まあ、機械だしそう言う無茶苦茶もありなのかもしれない。

 

「サトウカズマ。貴方の知識を私に貸すことで、より良い結果が出ると予言する。是非、そのアイディアを提供してほしい」

 

そう言ってラプラスは無感情な顔でこちらを見つめるのだった。

 

 




うそ、だろ……

前回の後書きで今回の解説をしてる件について。
何回か投稿ミスしてるけどこのミスは初めてだよ!(うれしくないし誇ることでもない)

追加でミスしたよ!焦りすぎたよ!

出すつもりがなかったので、最後の方もうちょっと微修正するかも。


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If もしもアクアがもんクエ参戦(2)

 故郷を飛び出し、少し。いくらか魔物娘たちに追いかけられ、アクアとアリスがご飯の取り合いや意見の対立で言い合うのを仲裁しつつ進んだ旅の道中は、ひとまず第二の村、イリアスベルクへ着くことで一旦の終わりを迎えることになった。……はずだった。

 

「……なんだか、おかしい?」

 

 僕はカスタムソードを握りながら周囲を警戒する。時刻は夕暮れ、確かにもう食事の準備に忙しくなる時間かもしれないが、それにしても人が一人もいないというのはおかしい。それに飯炊きの煙もなく、極めつけに姿は見せないのにあたりを警戒するようなピリピリとした感覚だけはひしひしと感じるのだ。

 

「……ね、ねぇルカ。ちょっと、この村に泊るのやめとかない?なんかとってもまずい気がするの?」

 

 そう言うアクアの声に、アリスの意見も聞こうとすると……すでにアリスの姿は跡形もなかった。アリスはいつもこうだ。僕が魔物娘と戦おうとすると、いつの間にか姿を消している。

 

 逆に言えば、今のこの現状は、魔物娘が関わっている、ということだ。

 

「!あっちの方から音がした!」

 

 僕がそちらへ向かうと、こわごわとした様子でアクアが後をついてきた。

 そして、そこには……。

 

「うぅ……」

 

「ちくしょう……」

 

 死屍累々と転がる戦士達と、僅かに残った武器を持つ男たち、そして……。

 

「もう私に挑む者はいないのか!挑む者がいないのならば、この街を魔王軍が占領し、魔王領として統治することになるぞ!」

 

 そんな、規格外な大剣を携えた鱗を纏う女戦士の姿があった。

 その言葉は、自身に向けられたものではない。それがわかっているのに、肌が泡立ち、まるで剣を突きつけられているかのような怖気が背中を走る。

 実際にそれを受けた戦士たちは色を失って逃げ出してしまった。

 

「あれは、魔王軍四天王よ!折り紙つきの賞金首!ま、まずいんじゃないかしら。逃げちゃいましょう!」

 

 こそこそとそんなことを言うアクア。だけど、僕は……。

 

 注意深く見れば、家々からは、不安そうに覗く顔が見える。僕が逃げれば、この罪のない人々はどんな仕打ちを受けるか……。

 そう思うと、僕は立ち上がり、声を上げていた!

 

「こ、ここにも戦士がいるぞ!」

 

「ほう……少年。これは遊びではないのだ。私とお前の実力差、わからぬわけではあるまい?今なら見逃してやろう。遊びなら疾く立ち去るがいい」

 

 諭すような、しかし明らかな軽蔑を内包したその声に、僕はそれでも剣を向ける。

 

「それでも、僕はこの街の人たちを見捨てない!」

 

 その言葉に、ベリアは静かに瞑目し、先ほどとは一転、少しの尊敬と、そして憐れみを纏った視線で僕を見据えた。

 

「よかろう。ならば、一人の戦士として、貴様を潰してやろう」

 

そうして、戦いの火蓋は切って落とされる。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 戦いは、意外なことに5分の状況で推移した。もちろん、実情は全く別、必死で避けつつも何とか致命傷を避けている僕に対し、ベリアは危なげなく攻撃をいなしている。

 ただ、それでも両者に横たわる絶望的なまでの実力差を鑑みれば奇跡のようなものだ。

 

 そして、その奇跡の元凶は、明らかに最初に僕が放った技にあった。

「秘剣・首刈り」アリスから教わったその剣に、ベリアは反応し、その分だけ攻撃がおざなりになっていた。

 

「貴様がなぜ、魔族の剣技を使っていたのか、それは分からんが見込みはありそうだ。せめて、私の最高奥義で葬ってやろう」

 

 その言葉と共に、彼女の剣が炎を纏う。

 

「紅蓮の業火に焼かれ、辱められることなく滅ぶこと、誇りに思うが良い」

 

「セイクリッド・クリエイトウォーター!」

 

その時、それこそこの街全てを飲み込むほどの濁流が、空から降り注いだ。

 

「!ちぃ!『炎刃・気炎万丈!』」

 

 その濁流を、グランベリアが非常識な熱量で切り込んでいく。

 

「え!?嘘!」

 

 グランベリアが飛び上がり、濁流の中に消えた直後、恐ろしい轟音と共に水が膨れ上がり、そして恐ろしい爆音を響かせて破裂する。

 膨れ切り破裂した濁流は、その範囲を町全体から、街の周囲一帯まで規模を拡大させながらも、驟雨というレベルまでその密度を低下させて降り注ぐ。

 

「ゼェ、ゼェ。ぐっ……!流石にこれほどの聖素を浴びると、キツイものがあるな。だが、貴様と、そこの女僧侶に引導を渡してやることくらいはできる」

 

 満身創痍ながら、瞳をギラつかせるグランベリアが僕たちを見つめる。グランベリアが剣を構え、そしてアクアがもう一度詠唱をしようとしたとき、涼やかな声が俺たちを遮った。

 

「やめよ。馬鹿者ども」

 

「……!あなた様は!」

 

「なんで止めるのよ!今あいつは弱ってるのよ!」

 

 姿を見せたアリスに驚愕するグランベリアと抗議するアクア、しかし二人にアリスはぴしゃりと言い伏せた。

 

「それで街ごと相打ちになるつもりか?グランベリア、そなたの命はそれほど軽いものだったか?

 アクアもだ。魔力にはまだ余裕がある……む、なんで貴様そんなに魔力が余っておるのだ?……まあよい。とにかく、グランベリアは貴様が脅威だと認識した。このまま戦うというのなら、グランベリアは貴様を真っ先に殺そうとしてくるだろう。貴様はそれを防ぐことができる方策があるのか?

 此度の戦い。誰が何と言おうと余が預かる。双方武器と魔術を納めよ。否というならば、殴ってでも止めねばならぬ」

 

 その言葉に、グランベリアが片膝をついて、アクアが渋々と言ったように了承の意を示した。

 

「はっ、あなた様がそうおっしゃるのであれば」

 

「納得できないわね……ま、とりあえずそいつがどっか行くなら今は良いわ」

 

「貴様…………様が止めたからと言って……」

 

「やめよベリア。それと、貴様もだアクア。それと、一応言っておくが双方暗殺など企てようとはせぬことだ。感知した時点で残った方も余が相手をすることになる」

 

 そんな声を聞きながら、僕は急に視界が狭まっていく感覚を覚えた。

 よく考えれば、少し前から体が冷え切っていて、段々、いしきが……。

 

「えっ!ルカ!ルカ!?」

 

 最後にそんなアクアの声を聞きながら、僕は意識を手放したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 温かい、まるで、母親の膝の上でまどろんでいるかのような心地よさを感じて僕はそこに手を伸ばす。

 

「……かあさん」

 

「ほーら、よしよし。って、私はあんたの母さんじゃないんだから!」

 

「……ふぁ?」

 

 目を開ければ、そこには割と大きい二つの双丘と、その上に除くアクアさんの顔があった。

 

「……っ!?」

 

「あ、ちょっと待ちなさい、そんな急に動いたら」

 

「っつ!」

 

 ガバリとアクアさんの膝枕を振りほどいた僕は頭の後ろの鈍い鈍痛に顔をしかめる。

 

「一応回復魔法はかけて傷は全部直したけど、あんた殆ど死にかけだったんだからね。もうちょっと座っときなさいな」

 

 そう言ってポンポンと自分の膝を叩くアクアさんに僕は再び寝転ぶ気は起きずさりとてベッド以外に座るところもなさそうなのでアクアさんの隣に座る。

 

「あの、街は?」

 

「街?あぁ、あのラミアが何とか収めたわよ。今ならちょっとは落ち着けるんじゃないかしら」

 

 そう言うと、大きな皿を持った宿の女将らしき女性と、人間の姿を取っているアリスの姿があった。

 

「アリス!街のこと、何とかしてくれたんだって?」

 

 そう言うと、女将が大声で笑い始めた。

 

「あはは!何言ってんだい!この街を救ってくれたのはあんたたちだろ!」

 

 そう言って背中をバシバシ叩くものだから、僕はその痛みに少し顔をしかめてしまった。

 

「あっ、ごめんね、ちょっと調子乗っちまったよ。そりゃ、あんだけ激しく戦ったらそりゃ身体にがたも来るさね」

 

 そう言うと、女将さんは皿を俺に差し出してきた。見れば、最初に見た時と比べて数がだいぶ減っている。横には頬を膨らましたアリスがいた。

 

「うちの名物あまあま団子さ。たんと食べておくれ」

 

「あまあま団子……ってことは、ここはサザーランドなんですか!?あの、すみません!僕たちただの旅人で、お金なんてなくて!」

 

「ん?何言ってんだい?宿泊料ならそっちの剣士さんから受け取ってるよ。勇者料金適用で5Gね」

 

 その言葉に、僕は更に顔を青くする。

 

「いや、僕は洗礼を受けてなくて……」

 

 その言葉に、女将はキョトンとした顔をした後あっはっはと笑った。

 

「何を言ってるんだい!さっきも言ったが、この街を救ってくれたのは他の誰でもないあんたじゃないか。洗礼を受けたとか受けてないとか、そんなことは関係ない。あの時この街を救ってくれた、私たちにとっての勇者はあんたなんだ」

 

「お、女将さん」

 

 僕が女将さんの言葉に感動している間にアリスとアクアがひょいひょいとあまあま団子をつまんでいき、気が付けば団子は一つもなくなっていた。

 

「……あ」

 

「あっはっは、心配しないでおくれ。街の英雄様だからね。材料がある限りいくらでも作ってあげるさね」

 

 そう言って女将が去ると、アリスとアクアがこちらを向いた。

 

「とりあえず、貴様のドアホ加減には驚かされるばかりだ。貴様、ベリアが本気であれば手も足も出なかった事は分かっておろう?」

 

 それを聞いて、僕は小さく頷いた。確かに僕に勝ち目なんてなかっただろう。だけど……。

 

「だけど、あそこで見てみぬふりをしていたら、僕は勇者と名乗れなくなっていたと思う」

 

「ドアホめ。無謀と勇敢をはき違えるな」

 

 アリスに辛らつな言葉をかけられた僕を擁護したのは、意外なことにアクアだった。

 

「いいじゃない。それくらいで」

 

「何?」

 

 鋭い目を向けるアリスにアクアはひょうひょうとした風に答える。

 

「英雄ってのは最初はみな無謀に見えるものよ。どんな戦士だって、最初は見習いから。なら、私はこの世界の信徒として、彼を守ればいいのよ」

 

 その言葉にアリスが白けたように目を逸らした。

 

「まあよい。こいつの言うことも尤もではある。そんなド阿呆は早晩死体を晒すことになることを勘案せねばな。さて……」

 

 そう言って、アリスは腰を上げた。何事かと思ってアリスを見れば、アリスは酒瓶をもって僕の前に顔を寄せて来た。

 

「さて、此度は余の技が随分と役立ったようだ。貴様に、対価を請求しようと思うのだが……」

 

「待ちなさい。何をするつもりかしら?うちの信徒に変なことをしようってことなら抗議するわよ」

 

 そんなアクアの言葉に、しかしアリスは鷹揚に手を振って頷いた。

 

「ふん、何も変なことはせぬさ。我らの糧は精。行為とまではいわぬこのド阿保の若く猛る性を有効活用してやろうというものよ。おぉ!それとは全く関係ないが、実は良い酒が手に入ってな。我らのそう言った諸々を見るのも暇であろう?下の食堂で飲んできてはどうだ?」

 

 そんなあからさまな賄賂を、アクアは、ためらうことなく受け取った。

 

「アクア!?」

 

 勿論、僕はアクアの信者じゃないし、魔法を使えるから天使様かもしれないとは思っているけれど、彼女自身が神様かもしれないとは微塵も思っていない。だけど、それでも、今までの話の流れから、まさか賄賂を堂々と受け取るとは思わなかった。

 

「なんだ、そんなことなのね。いい。私は水の女神でもあるけれど、豊穣を司る愛の女神でもあるの。私の教義ではね『恋愛は、それが犯罪だったり悪魔っ子やアンデッド娘だったりするわけでなければ、それがどんな種族であったとしても受け入れるべきだ』としているの。だからあなた達が合意の上でそう言うことを行うなら、私としては全く問題ないわ」

 

 そう言ったアクアは少し心配そうに僕を見た。

 

「一応あなたが望んでいないって言うのなら私は止めるけど……」

 

 その一言で、僕は思わず、アリスに迫られている内容を思い浮かべ、赤面してしまう。やめなければと思うのに、妄想は膨らみ、身体にも影響が出始める。

 

「どうやら、このド阿保はまんざらでもないらしいぞ、アクア」

 

「そ、なら私は食堂で飲んでくるから、後から来るのよ」

 

 そう言ってアクアは立ち去ってしまった。これも、僕が強く拒否できなかったからだ。そして、それからのことは……。

 翌朝女将さんに「昨日はお楽しみでしたね」という一言と、結局宿泊料がもう5G必要になったことで察してほしいと思う。




ちびっこ盗賊団の面々
アクア「花鳥風月!」
土のゴブリン「な、なんなんだそれ!お前すごいな!」
水のラミア 「何よゴブちゃん、さすがにうるさ……って、何々、あなた大道芸人?すごいわね、この芸」
風のヴァンパイア「蝙蝠が騒いでいたから来てみればなぜゴブリンとラミアがここに……な、なんなのじゃ!それは、こ、この芸を前面に押し出せば、いい商売に……」

 数十分後

火のドラゴン「うがー!なんでみんな呼んでくれないのだ!私も見たかったのだ!」
ルカ「ほら、アクアが悪い子にはもう見せたくないって言ってるから、街のみんなに謝りに行こ?」
火のドラゴン「う、うぅ、うがー!というか、なんでほかのみんなは見てるのだ!」

 ドラゴンパピー(憤怒)が現れた!

火のドラゴン「みんな、許さないのだ!」
ルカ「ちょっと、待って!喧嘩は良くないよ!」

アクアが花鳥風月を使っている辺りで観戦に来たアリス(これで悪事を白状する気になるとは……やはり子供だな)←最前列で見ていた

 このあと無茶苦茶謝った。
~~~~~~~~~~~~~~
 お待たせしました。
 とりあえず次回があってもちびっこ盗賊団編はカットです。
 ハピネス村編は悩み中だけど、今回アクアさんが魔物娘(悪魔っ子除く)のチョメチョメを肯定するシーン入れたので、ぶっちゃけハピネス村も肯定するのが目に見えてるんですよね。

 今度ifのアンケート取るときはシーンも出そうかな。
 海鳴りの洞窟編とかアリを奴隷にしている魔道王の顔に女神パンチを叩き込むグランゴルド編とか、魔王城編とかは面白そう。


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EP50 カズマの発明?

「ふむ、これは……良いものですね」

 

「だろ?」

 

 冬の寒さ厳しいある日、俺とイリアスは屋敷の今でぬくぬくと寛いでいた。そう、こたつである。

 

「まるで私を包み込むように暖かな……はっ!ダメです。これは私をダメにします!あぁ~!でも、ここから抜け出すのは……」

 

「そうだろうそうだろう」

 

 イリアスの声に腕を組んで俺は何度もうなずく。何しろ、これはこの世界においては俺が開発者だ。つまるところこの製品の勝算は俺への称賛に等しい。

 

「いや、これはあくまでもあなたの世界での発明品で、あなたの発明ではありませんよね?」

 

「文句があるならこたつ様から出てもらおうか」

 

 俺がそう言うと、イリアスは静かに手を合わせた。

 

「カズマ。何を言っているのですか?あなたの世界のものでもこのアイディアを覚えていたのはカズマ、あなたではないですか」

 

「さっきと言っていることが違うように思うんだが?」

 

 そんなやり取りをしていると呆れたようにたまもとエルが姿を現した。

 

「何をやっとるんじゃお主ら。ほれほれ、そこでくつろぐのも良いが、そろそろ依頼に行くぞ」

 

「そうよ。この瞬間にも困っている子ども達がいる。だからこそ、私達は少しでも彼らを救うために動かなくてはいけないの」

 

 そう言う二人に俺とイリアスが顔を見合わせた。外は寒い冬だ。こたつ様の魔力に魅了された俺たちは、懐も温かいこともあり、わざわざ依頼を受けるなんて……。

 

「そうですね、勤勉に働かぬ者に明日は有りません。カズマ。こたつから出るのはいささか後ろ髪を惹かれますが、依頼に行きますよ」

 

 ……あれぇ?

 

 イリアスはこたつ様の呪縛からあっさり抜け、たまもやエルの所へと行ってしまった。

 

「……カズマ?」

 

「やだ」

 

「「「……?」」」

 

「嫌だ!なんで金があるのにわざわざ寒い冬に依頼に行かんといかんのだ!俺はこたつ様とここにいるんだ!」

 

 俺の咆哮にたまもがあきれ顔で俺を見て近づいてきた。

 

「そんなわがまま言わんと。というか、ひと冬中そうしておる気かや?うちは春先にでっぷり太ったカズマなんぞ見とうないぞ」

 

 そうして近づくたまもに、俺は肩までこたつに埋まって防御態勢をとる。そして、近づいてきたたまもの足を握り、ドレインタッチを発動した。

 

「みぎゃっ!こ、こやつ、ドレインタッチをしおったぞ!何考えておるのじゃ!」

 

「幼女に手を出した?これは……」

 

 そう言ってチャキリと剣を構えるエルに俺はビビりながらも声をかける。

 

「ふ、ふふ、そんなことをしても無駄だぞ。お前、自分の命中精度を忘れたか?」

 

 俺の言葉にエルがぐぬぬと剣を下げる。勝ち誇る俺は、しかし違和感に気付いた。

 

「……?なんだ?こたつの中に何か……って、ちょちょちょちょっと待て、いや、マジで何?ちょ、ズボンの中に入るな!ってうぉい!足が動かないんだが!なんだよこれまって、まって、いやマジて、ってか見てないで助けてくれよ!」

 

「あ、トロ8世がおらんのう」

 

「おらんのう、じゃねー!!野郎の触手緊縛なんてどこにも需要ねーんだよ!」

 

 気が付けば、トロ8世はその小さいからだからは想像できないほどに触手を伸ばし、俺の股間部を中心に広げた触手で俺の足、股間部、あと脇の辺りをがっちりホールドしていた。

 

「いえ、割と一般的な性癖なのではないですか?腹立たしいですが魔物娘たちはよくそう言う風に男たちを嬲っていましたが。」

 

「お前は!どんな世界に住んでたんだよ!この駄女神!」

 

 イリアスはイリアスで、なんだか変な方向に解釈しているし。

 

「……もう、見るに堪えないので、窓から捨てましょう。これ」

 

「あ、ごめんなさい調子乗りましたイリアス様。だからちょっと待って、って言うか初めてが触手ってのは勘弁というか、ってマジで移動させんなっふざけんな!待って待って!ちょっとま、あ……」

 

 そして、俺はトロ8世と共に窓から捨てられたのだった。畜生。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「つつつ、ったくやりすぎだろあいつら」

 

 俺が頭をさすってあたりを見回すと、辺り一面雪景色だ。まぁ、それは俺がこたつに潜る前からそうだったから問題ない。

 そして……。

 

「……Oh……」

 

 そのこたつは、見るも無残な姿となっていた。

 

「なんてこった……これ、発案者だからってことで試供品としてもらったんだぞ。はぁ……」

 

 落ち込む俺の視線の先には、落下の衝撃なのか寒さなのか分からないが動きを止めているトロ八世が見つかったが、反応する気力も起きない。

 あぁ、なんでこんな寒い中、こんな気持ちにならないといけないのか。

 俺はそう思いつつ、こたつの残骸を集め始めた。もしかしたら治るかもしれない。

 

「バビューン!」

 

「ん?」

 

 そんな傷心の俺の前を何かが高速で通り過ぎていった。

 

「いや、お前は……」

 

「あ、こっちにいたのか。お届け物だよ!」

 

 それは以前俺がイリアス達以外のパーティで冒険した時に出会った少女、ゴブリン娘のゴブだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~

 何はともあれ、外は寒い。ゴブを家へと招き入れ、俺はゴブに温かいお茶を入れて手渡した。

 

「ありがとうございます。っちち」

 

「おいおい、落ち着けよ。それで、そっちは頑張ってるのか?仕事を始めたってのは聞いたけど」

 

 猫舌なのか、舌を外気で冷やしてから恐る恐る再度コップに口をつけるゴブに、俺はそう問いかけた。

 

「……目の錯覚でしょうか。あの下男、年端も行かぬ少女を連れ込みましたよ」

 

「手を出したら私が……!」

 

 あいつらの俺の評価はどうなってんだ。背後から聞こえてくる声を無視しつつ、俺はゴブの話を聞く。

 

「うん!おにーさんに倒されてから、私達街の人たちの所で弟子入りしてね!プチは宿屋で働いてるし、ヴァニラは商人さんから仕事をもらって行商人見習いをしてる。パピは鍛冶屋で働いてるよ!あ、そう言えば、パピはカズマさんをちらっと見たって言ってたよ。

 それで、私は運び屋……って!そうだ!お届け物!」

 

 そう言って、ゴブは俺に二つの手紙を差し出した。

 

「えっと、一つが、げっセナさんから。それと、もうひとつは……おぉ!」

 

 俺は思わず立ち上がった。差出人は鍛冶屋の店主!俺が頼んでいたあれができたに違いない!

 

 とはいえ、内容を検めないことにはどうしようもない。俺は懐にしまっているナイフを使ってセナさんの手紙を開封する。

 

「ふむ、ふむ……ん?えぇ」

 

 俺は思わず嫌な顔をしながら後ろで興味ありげにしていたイリアスに手紙を渡す。

 

「ふむ、なるほど、……え?なんでこの人、指名依頼を手紙一つで済ませようとしてるんですか?」

 

 そう、その手紙は、セナからの冒険者の依頼だったのだ。一応指名依頼という体ではあるのだが、ギルドから連絡をするでもなく、自分で足を運ぶでもなく、まさかの手紙での伝達である。

 

「あぁ、セナさん、だっけ?その手紙の女の人は、なんだか歴史的な建造物の封印が解かれたことによる現地調査?とかで紅魔の里行くことになったらしいよ。しばらく帰ってこないかもだって」

 

「それで手紙ってことか。でもなぁ」

 

 依頼内容は「リザードランナーの討伐」特殊個体である「王様ランナー」と「姫様ランナー」が誕生したことにより、他のリザードランナーも興奮し、一軍を成して爆走していて危険なので討伐してほしいとのことだ。なお、手紙によれば二体の特殊個体を倒すことができれば、普通に止まるらしい。

 だが、当たり前だが依頼を受けるとなると外に出なければならない。しかも、今は冬だ。魔物は強くて厳しい冬というのは冒険者にとってだけでなく、旅するものにとっても鬼門と言える時期。

 正直町々の行き来も極端に減るこの時期に街の外でリザードランナーだろうが、スズキのトラックだろうが、別に走っていて困るような人間はいないと思うのだが……。

 

「よいではないか。丁度依頼が舞い込んできた。これぞ重畳というものじゃ」

 

「えぇ、私達にちょうどいい依頼じゃないかしら」

 

 だが、たまもとエルはこの依頼を受けるのに乗り気なようだ。

 

「これって、依頼の手紙だったんだね。でも、僕たちを倒した冒険者なんだし、きっとすごく強いんだよね!私はまだレベル14だから、もっと頑張らなくちゃ!」

 

「いやいや、その年でレベル14とはなかなかではないか。そう卑下するでない。尤も、流石にうちもお主に負けてやれんがのう。何しろ、魔王軍や強敵は大概うちが倒しておるからの!」

 

 そう言って、フォローするふりをして自身の冒険者カードに燦然と刻まれたレベル25の文字を見せつけるたまも。

 それに呆れつつ、声をかけたのはイリアスだ。

 

「全く、何を子どもと張り合っているのですか?そこは正規の冒険者として、きちんと先輩として接して然るべきでしょう」

 

 そう言って、さりげなく冒険者カードを机に出した。

 

「ほら、私はあなたと比べて、6ほどレベルが高いですが、その強さは大きく違います。レベルだけでなく、戦い方や自身の強みをよく理解しなさい。そうでなければただ嬲られるだけのゴミになってしまいますよ」

 

 そう言うイリアスと、ついでにたまもの頭も軽くはたきつつ、エルが前に進み出た。

 

「私はこの中でも、レベルが高い方。それに守りが得意。何か困ったことがあったら、私を呼んで。絶対に力になる」

 

「みんな、すごいんだね。……そういえば、カズマのレベルは?」

 

「そ、そんなことより依頼に行くぞ!」

 

 まさか、通りすがりの幼女にまでレベルで負けているという衝撃的な事実が発覚した直後、俺はそう叫んで誤魔化したのだった。

 




お待たせしました。
だいぶん原作と変わりました。

変更点
こたつむり討伐方法の変更
セナさんが調査に出ている


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EP51 龍の鍛冶師

「おっす、親父。来たぞ」

 

「おっ、カズマか、待ってたぞ」

 

 俺が鍛冶屋に向かうと、鍛冶屋の主人が軽く手を上げて応じてくれた。

 

「それで、俺の頼んでたのは?」

 

「……まさかお前、手紙読んでないのか?」

 

 ……思えばセナさんの手紙に気を取られて鍛冶屋の方の手紙は目を通してなかったな。

 

「まぁ、来てくれたんなら問題ない。ちょっと来てくれ。おい!パピ。あれ、もってこい」

 

「分かったのだ!」

 

 奥の方から聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、ガチャガチャと鎧と肩慣らしき武器をもって一人の少女がやってきた。

 

「おい、親父、脅かすなよ。ちゃんとできてるじゃないか」

 

 そう言うと鍛冶屋の主人は肩をすくめてドラゴンパピーの少女、パピの持ってきた鎧と刀を指さした。

 

「まあ、いろいろあるんだよ。とりあえず、鎧の方はプレートメイルを基本に、アダマンタイトを各部に混ぜ込んである。ここらで手に入る防具の中じゃこれ以上を手に入れるのはそうそうできないだろうぜ」

 

 そう言いながら、俺に防具を着せていく。

 

「ほう、なるほど。カズマ、お主、なかなか男ぶりを上げたのう」

 

「……ふむ、ハインリヒにはまだ足りませんね。しかし……なかなかいいのではないですか?」

 

 鎧を着こんだ姿を見た仲間の返答に嬉しくなりつつ、歩き出そうと……。

 

「……どうしたの?」

 

「いや、その。重くて一歩も動けないんだが……」

 

「「「……」」」

 

 仲間たちの視線が非常に微妙なものになっているのを感じつつ、俺は店主に鎧を脱がしてもらう。

 幸い、中肉中背だったこともあり、買取してもらえたので、資金的なダメージは無いが、精神的な落胆は抑えきれない。

 

「その、落ち込んでるところ悪いんだが、話を聞いてくれないか?」

 

 はっとしてそちらを見ると、鍛冶屋の親父が一振りの武器をもってこちらに向かってきた。

 

「まず、お前の言っていたkatanaって武器なんだがな、そこで話を聞いてた弟子が、勝手にやっちまってなぁ」

 

 そう言って親父がパピを見ると、パピが委縮したように身を縮こませた。それを見て親父が大きくため息をつき、頭を振りながら武器を机に置いてきた。近くで見れば、それはやはり刀だ。ただ、腰佩きの刀にしては短く、小太刀というのが適当な大きさだろう。

 

「本来なら、まだ半人前にもなってねぇ弟子の武器なんぞ客に渡すわけにはいかねぇんだが……何しろ俺もkatanaなんて武器を作ったことがねぇし、こいつはドラゴンだからか、鍛冶の覚えも早くてなぁ……」

 

 親父が顎で刀を差すので、俺は刀を抜き放ってみる。

 

「……おぉ」

 

 まず、俺は素人だ。武器の良しあしなんてのは分からない。だが……だが、だ。それはいささか完璧に過ぎた。しなやかに伸びる緩いカーブを描く曲線に、肌に触れる冷ややかな鋼の感触。流麗に伸びる白く波打つ刀身は、柄飾りの美麗さと相まって、大きさを除けば俺の創造したとおりの日本刀だった。

 

「ふむ、これ、素材をケチりましたね。質の低い鉄を使ったせいで、性能が落ちていますよ。それに、精錬も造成も甘いですね。これでは花神楽の半分も性能を発揮できないではないですか」

 

 俺の横から発言したイリアスの言葉に再び涙目になるパピに、俺は慌てて声を張り上げる。

 

「俺は、これ、気に入ったぞ!親父!これをくれ!」

 

「おぉ!そうか。まぁ、素人……ではねぇが、半人前の作品だ。安くしとくぜ」

 

 そう言うと、親父は少しきれいに包んだ剣と共に、一つの札を取り出してきた。

 

「この武器は、お前さんと共に戦う相棒だ。いい名前を付けてやってくれ」

 

 どうやら、銘を入れることができる道具のようだ。しかし、銘、銘かぁ。

 俺は思わず顔が緩むのを止められなかった。何しろ銘を入れた武器を持てるのだ。まるで上級冒険者の様じゃないか。

 

「それじゃあ、かっこいい名前がいいよな。……アロンダイト、デュランダル……いや、ここは日本っぽく雨の叢雲とかがいいかな……ん?」

 

 ふと気が付けば、パピが俺と刀をじっと見つめていた。そして、俺に気付くとおずおずとこちらに近づいてくる。

 

「あ、あの、パピのお願い、聞いてくれないか?」

 

「いや、今名前つけてるから、それが終わってから」

 

「それじゃ遅いのだ!」

 

 俺があしらおうとすると、それ以上の声でパピは俺の声を遮った。

 

「本当はダメだって分かってるのだ。その剣はおにーさんのものなのだ。だから、だから……ほんとは、おにーさんが名前を付けるべきなのだ。だけど、それは、パピにとっても、最初に作った刀なのだ……だから」

 

「……つまり、お前はこの剣に名前を付けたいってことか?」

 

 パピが頷くと、鍛冶屋の親父が肩を怒らせてパピに向かっていった。

 

「お前は!」

 

「待ちな、親父」

 

「いや、しかし」

 

 俺はその親父を制して、パピと親父を交互に見る。

 

「彼女にとっては特別な剣なんだ。それにこれは作った彼女と、俺の間の話だ。違うかね?」

 

「いや、まあ、そうだが……しかし」

 

「なら!俺が決めればいいことだ。気持ちはありがたいが、今回は遠慮してくれ」

 

 かっこつけてそう言うと、親父は渋々と言ったように下がってくれた。そして、俺はパピの頭を撫でながら言葉を続ける。

 

「この刀は、お前がいなければできてなかったんだ。それに、特別な武器だってのもわかる。だからさ、教えてくれよ。俺の新しい武器の名前をさ」

 

 そう言うと、パピの顔が花が咲いたかのように綻んだ。

 

「この武器はすごいんだ!だけど、きっと私はもっとすごい武器を作れる。だから、この武器は鍛冶師として雛みたいに未熟なパピが最初に出した産声なんだ。だから、ひなの声を取って、ちゅんちゅん丸って、そう言うんだ!」

 

「……えっ」

 

 ダサい。圧倒的にダサすぎる。正直、武器の名前を聞いたのを軽く後悔するレベルのネーミングセンスのなさだった。だが、その謂れも、花のようなパピの笑顔も、何だったら後ろでじっと見ている仲間たちの視線も、その全てが俺に一つの結論を迫っていた。

 

「えぇい!しょうがねぇなあ!」

 

 俺は内心泣きながら、札に文字を書きつけ、柄にその札を叩きつけた。

 

「ほら!この武器の名前は、今日からちゅんちゅん丸だ!その代わり、次の武器もお前に頼んで、今度は俺が名前つけるからな!」

 

「!なら、それまでに腕を上げておくのだ!」

 

 そう言って嬉しそうに笑うパピの姿と、後ろで訳知り顔で頷く仲間たちに、俺は乾いた笑いを張りつけながら、俺の新しい武器となったちゅんちゅん丸を見つめるのだった。

 




※ちゅんちゅん丸 今作のちゅんちゅん丸はネタ武器の域を超え普通に上等な武器です。そもそも、イリアス様が例に出した花神楽はモン娘世界において、現在公開されている中で混沌武器(エンドコンテンツ)を除き最高品質のアイテムであり、正直な話武器種としての刀が強力すぎるため最弱の刀よりやや劣るステータスだけど、普通に初心者武器ではありえない性能をしています。

変更点
チュンチュン丸作成者変更
命名者を変更


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EP52 姫様・ランナー?

良い話と悪い話と、もっと悪い話があるが、どれから聞きたい(本作の展開とは何も関係ないニュース)


 武器を新調してすぐ、俺たちは雪がちらほらと残る平原へと向かった。

ここは最近リザードランナーが出没する場所で、俺は遠くまで見渡せる木の上へと上り長距離狙撃の姿勢を取る。

 

「よし、こっちは準備できたぞ!」

 

「こちらも準備完了しています!」

 

 俺たちはそう言ってそれぞれの準備の完了を確認し合う。

 

「よし、ならもう一度確認だ!イリアスは補助呪文で全体の支援!基本的には俺が弓で王様ランナーと姫様ランナーを仕留める!もし仕留め損ねたら、エル!お前が耐えてる間に俺がもう一度狙撃!それが無理ならたまも、爆裂魔法で全部爆破!うち漏らしを俺が狙撃する!」

 

 珍しく失敗まで考慮した作戦を立て、俺たちは依頼に挑んでいた。もうすでに俺以外のレベルは20を超えている。立派な中堅冒険者なのだ。

 

 俺は弓師のスキル、千里眼を使ってリザードランナーを探す。

 

「…………うーん。視界内にはリザードランナーはいないな。ここらへんにいるって話だったが……」

 

 とはいえ、野生の魔物のことだ、そう言うこともあるだろう。そして、魔物が出てくる以上、気を抜くのも危険だ。

 

「とりあえず、そのまま待機して様子を見よう」

 

 そうして待つこと一時間。指が動くよう、少し手をこすりながら周囲を見回していると、いよいよそれを見つけることができた。

 

「!?来たぞ!」

 

 それは土煙を上げてこちらに向かってくる。

 

「速っ……!?って、なんだあれ!?」

 

 千里眼で改めてみると、そこには俺の予想通りの二足歩行の恐竜に似た姿のトカゲと……その先頭を走るトカゲに似た姿をした少女の姿があった。

 

「おい!イリアス!なんか先頭に女の子がいるんだが!?」

 

「ここはキャベツが少女になる世界ですよ!トカゲが少女になったって不思議はないでしょう!」

 

 言われてみればそうだが、そんなの予想できるか!

 

「え、ええい!」

 

 俺は邪念を振り払ってトカゲ少女に弓を向ける。どう考えてもあいつが姫様ランナーだろう。そもそも、キメラデュラハンだって俺が倒したのだ、なら、少女の姿はあの娘を殺さない理由にはならない……いや、しかし。

 

「……すけて!」

 

 と、ふと見ると、姫様ランナーが息を切らしながら、何かを叫んでいた。

 

「助けて―!」

 

「!?」

 

 なんだかわからないが、助けを求めている!?俺は咄嗟に彼女の近くにいるリザードランナー数体に狙いを定め、それを射抜く。

 

「ギャッ!?」

 

 射られたリザードランナーは変な声を上げて倒れ伏す。だが、その勢いは止まることなく、むしろいきり立ってリザードランナーはその走りを早くする。

 

「おい!エル!?」

 

 俺はこういう時に一番役に立ちそうなエルに声をかけたが……反応がない。

 

「エル!おい!聞いてんのか!」

 

「……ぁえ?」

 

 こ、凍ってやがる!?

 

 と、呆然としたのもつかの間、作戦の失敗を悟ったたまもが、爆裂魔法を詠唱する。……が。

 

「む、た、足りぬ!爆裂魔法のための魔力が足りんのじゃ!」

 

 驚愕するたまもを見て、俺は彼女との朝のやり取りを思い出す。

 

「……あ、あの時の」

 

 畜生!ドレインタッチなんてしていなければ!と思ったが、後の祭り。リザードランナーはたまもの隠れている茂みをスルーし、彫像と化したエルの前を通り過ぎ、俺のいる木の下まで進んできていた。

 

「助けてほしいっすー!」

 

 先頭を走る姫様ランナーはそう言って俺のいる気を目がけて……激突した。

 

「あ」

 

「……っす?」

 

 少しの浮遊感の後、俺はリザードランナーの中に落ちて行き……そして、何度も衝撃を受けた後、その意識を手放したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 三度の真っ白い空間。そこで俺はまたしてもイリアスの前に立っていた。

 

「勇者カズマよ。リザードランナーに踏みつぶされるとは何と不甲斐な……いや、踏みつぶされた?何やってるんですか?もしかして踏まれることを喜ぶどMなのですか?それなら私があなたをカーペットの代わりに使って差し上げましょうか?転生したらカーペットだった件、負け犬にふさわしい転生先ですね。

……コホン。カズマよ。リザードランナーは姫様ランナーと王様ランナーを殺せば群れが解散します。まず、姫様ランナーを射抜き、殺しなさい。そしてその後、姫様ランナーの一番近くにいる一番足が速いリザードランナーを殺すのです。そうすれば、リザードランナーの群れは自然に解散するでしょう。私はあなたが勝利することを信じていますよ」

 

「いや、ちょ、出来れば姫様ランナーを殺さない方向d……」

 

 俺の言葉が聞き入れられる前に、視界は更に白く染まっていき、俺は意識を失うのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「はっ!?」

 

 俺は意識を取り戻すと同時に千里眼を発動し、リザードランナーを確認する。どうやら、俺がリザードランナーを見つけたあたりに戻ってきたらしい。

 俺は一瞬迷った後、弓を構えた。

 

「ティンダー!」

 

 俺は着火の魔法で矢に火を灯し、そしてそれをエルに向かって放った。

 

「カズマ!?何を!?」

 

 そして、大声で叫んだ!

 

「エル!幼女がリザードランナーに追いかけまわされているぞ!早く起きろ!」

 

 そう叫んだあとのことは、ある意味圧巻だった。俺の火によってわずかに温まり意識が戻ったエルは、その後、気合で氷を解凍。その身を数十倍に膨れ上がらせ、そこにいた全てのリザードランナーを、突撃と同時にその体に取り込んだのだ。

 

「そもそも、幼女を雄全員で追いかけまわすというのがそもそもの間違いで、きちんと一人一人アピールを……」

 

 で、その後俺に追加の熱源を要求しつつ、エルは捕縛したままの群れ全体に説教をかましたのだった。

 その間に、俺は姫様ランナーの方に話かける。

 

「なあ、お前って、話はできるんだよな?」

 

「あ、助けてくれてありがとうっす。話も全然よゆーっすよ」

 

 なんか陸上部の後輩みたいな口調に若干苦手意識を感じつつ、しかし俺は質問を続けた。

 

「えっと、だな。そもそも、どうしてこうなったんだ?場合によっては討伐しないといけないんだが」

 

「それに関してはちょっと悪いと思ってるっす」

 

 そう言って手を合わせた姫様ランナーが話すには、まずリザードランナーは足が速い奴がモテる、という小学生みたいな習性を持っているらしい。そして、その習性に従えば、リザードランナーは比較的平和に勝負をすることができる。何しろ、姫様ランナーは高確率で人型らしく、何だったら街中で買い物とかすることもあるくらいなので基本繁殖期には人間の街には近寄らないことを母親から教わるそうだ。

 なのだが、この姫様ランナー少しばかり普通の姫様ランナーと違った。なんでも、通りすがりの小鬼に少し指導してもらい、どのリザードランナーよりも速く走れるようになってしまったのだ。

 いや、まあ、それでも姫様ランナーが繁殖相手を決めればまだよかった。だが、自分よりも早い相手に対して魅力を感じる彼女はあろうことかこう言ったのだ。

 

「あの小鬼の少女と添い遂げたい」

 

 と。そう、少女である。自分の群れの自分よりも強い雄に負けるならまだしも、どこの誰とも知らない馬の骨、しかも生殖できないメスに負けただけで繁殖の機会を失うというのは速さ至上主義のリザードランナーも我慢ができなかったようで、

嫌がり逃亡した姫様ランナーを追いかける大行列ができた、とこういうことだったらしい。

 

「……」

 

 俺はひとまずその場をエルたちに任せ、街から一人の少女を連れて来た。

 

「どうしたんです?カズマさん」

 

「えっとだな、ゴブ。とりあえずこのトカゲたちの前で、全力で走ってくれないか?」

 

 その日以来、ゴブリン少女ゴブの仕事に、リザードランナーを追い払うことが追加されたのであった。

 




 いい話は、とろとろレジスタンスさんがファンザに終章の体験版をUPしたことだ。
 悪い話は、とろとろレジスタンスさんが、今年中の終章発売を明確に撤回したことだ。
 もっと悪い話は、ファンザでの販売予定価格がもんクエ中章と比べて200円くらい高いだけの3,520円なことだ。

 いや、マジで序章、中章合わせたのと同じくらいのボリュームあるならせめて序章の半額上乗せした4500円くらい払わせてください。という気持ちです。開発費を回収できるのか心配になる。
 今後しばらく終章体験版並行プレイしながら書くので、公式設定との乖離もあるかもしれませんが、ご容赦ください。

変更点
・姫様ランナー女体化
・依頼達成
・エクスカリバーキャンセル


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EP53 湯治へのお誘い

狸を乱獲してました。


「カズマよ。トロ8世を止めんかったのは謝る。だから、それくらいで勘弁してくりゃれ?」

 

「何を言ってるんだい?俺はいつも通りだよ」

 

 俺がそうたまもに答えると、ニコニコしたイリアスがお盆を持ってやってきた。

 

「カズマさん、お茶が入りましたよ」

 

「ありがとう……って、色がすごいんだが」

 

「高級なお茶にしようと思って、フレデリカから一部を貰ってきたんですよ」

 

 こたつでくつろいでいるクロムの隣にいるフレデリカを見ると、なんだかいつもより露出が激しいような……。

 

「これ死体の包帯から取った茶ってことはないよな?」

 

「そうですが」

 

「飲めるか!」

 

 俺はお茶を放り投げた。流石にそれは飲めない。と、思っていたのだが、クロムがこたつから出て「あ、戻ったのじゃ」とか言っているたまもをおしのけ、ムカつく顔で言葉を続けてきた。

 

「カズマ、ミイラのカケラは昔から漢方を始めとした様々な場面で薬として重宝されていたのじゃ。茶にならぬなど、カズマはミイラへの造詣が薄い!」

 

 少しムカッときたが、まあ、これもご愛嬌。むしろ新しいことを知れたと喜ぼう。

 

「まぁ、尤も、フレデリカは新造のミイラ。熟成もされておらねば、収納されているミイラと違い、外を連れ回しておるから、新しい雑菌も着き放題。飲んだら普通に腹を下すじゃろうな。防腐剤直接飲んだ方がまだ健康的じゃ」

 

「いや、ダメなのかよ!」

 

 思わず突っ込んでしまったが、俺は気持ちを落ちつかせる。

 

「いや、まあ、高級品だと思って作ってくれたんだよな?このお茶はちょっと飲めないが、気持ちはうれしく思うよ」

 

「いや、気持ち悪いのじゃ」

 

 バッサリいうたまもに、頭に疑問符を浮かべたサバサがクロムに静かに耳打ちする。

 

「妾はよう分からんのじゃが、なぜカズマたちはあのような小芝居をしておるのじゃ?」

 

「あぁ、そういえば、サバサはあの時いなかったのじゃ。実は……」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「だ~か~ら!別に敵対してないんだから放っとけばいいだろ!」

 

「この者は罪人ですよ!討伐依頼が出された犯罪者!ギルドに突き出すのが順当です!」

 

 カズマとイリアスが角を突き合わせて喧々諤々の言い合いをしていた。その間には慌てた様子のリザードランナー娘がいる。

 

「あの、喧嘩はやめてほしいっす。その、罰なら受けるっすから」

 

「いや、お嬢さん、それはあんたの意に沿うものじゃなかったんだろ?なら、そこで泣き寝入りする必要なんかないさ」

 

「な~にをかっこつけてるんですか!そんなに魔物にいい格好をしたいんですか?はー。これだから童貞は!」

 

「どどど、童貞じゃねーよ!」

 

 そうして言い合いをしている三人の前で、ノックの音が響いた。

 

「あの、こみ入った話をしとるんじゃろうが、お客が来たぞ」

 

 クロムの案内によってやってきたのは、巨大な頭装備を付けた少女だった。

 

「悪魔!何故ここに!ここには悪魔よけの結界を張ったはず!」

 

「ふっ……あのような結界、全く問題ない」

 

「なっ!」

 

 いきり立つイリアスに、ふっと笑ってラプラスは言葉を続けた。

 

「なぜなら私は機械生命体。重厚な装甲に魔核は守られていて、聖素の影響を受けにくいようにしている。何だったら、魔核が機能停止した場合は機械部分に自動操作させている」

 

「力技ではないですか!」

 

 驚くほどの力技だったらしく、イリアスがそう突っ込む中、ラプラスはイリアスを無視してこちらに向いた。

 

「個体名カズマ。先ごろはいろいろなアイディアを送ってくれて感謝する」

 

「あ、あぁ。というか、良いのか?イリアスがかみついてるが」

 

「こんな礼儀を知らない天使は無視して」

 

「ア、ハイ」

 

 冷たく言い切ったラプラスに、食って掛かろうとしたイリアスだったが、しかし礼儀を知らない、との言に思うところがあったのか、イリアスはぐぬと口を結んで場を離れた。どうやら悪魔に礼儀知らずと言われたのがよほど堪えたようだ。

 

「そこで、契約に伴い、現在の売却額の一割を渡しに来た」

 

 そうして投げ渡された袋の中身を見て、俺は目を見開く。

 

「お、おま、これ中身金貨じゃねーか!間違ってねーか?」

 

「それだけ売れているという事。こちらも十分に利益は出ている。……ラ・クロワがクロムを甘やかす分でだいぶ溶けているけど」

 

 俺がばっと背後を見ると、なんだか巨大な黄金の何かを溶接しているクロムの姿があった。そう言えば、前にポ魔城に顔を出した時に、黄金の色をした残骸の山があった気がする。

 あの色は確か……。

 

「それで、私はカズマに提案する」

 

 ラプラスの言葉に、俺は一気に現実に引き戻される。

 

「私に情報の権利を売る気はない?もし今まで提供してもらった情報の権利をこちらに譲ってくれるなら、こちらは3億エリスを支払ってもいい」

 

「さ、さささ、三億(じゃと)ぅ!?」

 

 驚く俺とクロム。イリアスも、叫ばなかっただけで大口を開けて呆然としていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

「と、まぁ、それ以降あの調子というわけじゃ」

 

「なるほどのう……」

 

 サバサがそう腕を組むと、たわわな双丘がたゆんと弾んだ。いや、あれはサキュバスに淫夢を頼んだとしてもなかなか見られないような……。

 

「あ、カズマ、そうじゃ、お主、湯治に行かぬか?」

 

「いや今忙し……今湯治と言ったか?」

 

 俺が聞き返すと、クロムは胸を張って頷いた。

 

「うむ、実は今、ポ魔城の方でちーと最強の人形を作ろうとしておるのじゃがの?何せ昔のものじゃから、なかなか内部もボロボロで、構造と核は分かったものの、材料が足りないのじゃ。そこで信仰と温泉の街、アルカンレティアにとある素材を取りに行こうと思うのじゃが、それだけでお主を連れるのも、悪いと思っての。借金も無くなったことじゃし、遊行がてらどうかと言う話じゃ」

 

 いや、最強の人形ってなんだよ!とか、突っ込みどころはあるがまあ、それより何より湯治、湯治である!

 

「よ、よし、行くぞ!アルカンレティアに!」

 

 こうして俺は、アルカンレティア行きを決定したのだった。

 




ちなみに、ラプラスの行った結界突破術は水の中に酸素ボンベ無し(ただし空気が入ったビニール袋はある)で突入して、気絶しても機械で無理やり移動させて陸地に着いたら即心肺蘇生させて何事もなかったように活動するくらいの無茶です。

そして、困ったときに設定を原作に寄せてくれるクロムちゃんすごい助かる。
クロムちゃんの製作してるのは、討伐後にシロムが確保して、そのまんま横流しした巨大魔道兵器です。建前としては古代人であるスフィンクス娘がこのことに詳しかろうと言う判断ですが、実情は妹に強請られて絆されただけです。


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EP54 進行と温泉の都?

あけましておめでとうございます


「すまないね、カズマ君。クロムのわがままに付き合ってもらって」

 

 大きな荷物を持ったシロムは、俺たちに軽くそう言って頭を下げて来た。

 

「いやいや、こっちこそ、姉妹水入らずの旅に同行するんだし。それより、ホントに良かったのか?こっちの旅費も出してもらって」

 

「あぁ、構わないよ。最近はラプラスが来てくれたおかげで、多少は潤っているしね」

 

 そう言って胸を張るシロムの胸に、思わず俺は目を奪われる。そして、直後に後ろで黙っていたイリアスに頭をぶっ叩かれた。

 

「何をリッチーに発情しているのですか。カズマ」

 

「おや、もしかして、私の肢体に魅力を感じているのかい?しかし、それは残念だね。私はほら、中身がこうだから」

 

 そう言ってシロムがちらりと服をめくると、そこにはゆらりと揺れる、薄く光る背骨だけがあった。

 明らかに生きているように見えるシロムと明らかに死んでいるはずの見た目。そのギャップに混乱しながらも、美人さんが自分のために服の裾をまくるというシチュエーションに、思わず顔をそむけてしまった。

 

 仲間たちの反応は三者三様で、呆れたり訳知り顔で笑ったりだ。

 

「え、ええい!もう行くぞ!」

 

 恥ずかしくなったのを大声で誤魔化しつつ、俺たちはアルカンレティア行きの馬車を探しに馬車の乗り合い所へと向かったのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

「……ん?無いんだが」

 

 俺たちはアルカンレティア行きの馬車を探していたのだが、一向に見つからないので、困惑していた。

 

「おかしいな、アルカンレティアとアクセルの交通はそこそこ頻繁にあったはずだし、定期便が出るはずなんだが」

 

 方々で探している仲間たちを見ながら俺とシロムがそう言っていると、イリアスが一つの馬車を凝視して固まっていた。

 

「な、ななな、なんでこの地名がこの世界にあるのですか!」

 

 そんな声にイリアスが見ていた馬車に書いてある行き先を確認して、俺も変な顔になる。

 

「なぁ、イリアス。流石に、いくら自己顕示欲が強くたって、これはないだろ」

 

「いや、元居た世界ならともかく、この世界でそんなことしませんよ!」

 

 俺たちが見る先には『イリアスヴィル』と行き先が書かれた馬車の一団が停まっていた。

 

「あぁ、お客さんかい?びっくりしただろ。アルカンレティアに行くならこの馬車に乗りなよ」

 

「これがアルカンレティア行き?だけど親父、ここにはイリアスヴィルって」

 

 俺が聞くと、馬車の御者の親父はため息をついて首を振った。

 

「なんでも、少し前にイリアス様が熱心な信徒全員に神託を下したそうでな。それにいたく心を打たれた流浪の天使と街の創始者の血を引くアルカン家の御当主様が、「イリアス様を信仰するなら名前もイリアス様を関したものを」と、議会で押し切って街を改名したそうだよ。全く、いくらイリアス教の聖地といえど、迷惑なもんだよねぇ」

 

 そう言ってぼやく親父の言葉に、イリアスが頭を抱える。

 

「誰です。こんな馬鹿なことをしているのは……片方はアルカンシェルの血縁なんでしょうが。流浪の天使……ミカエラやルシフィナはあり得ませんね」

 

まあ、そんな一幕はありつつも、俺たちはアルカンレティア改め、イリアスヴィル行きの馬車を見つけたのだった。

 

 そして馬車にお金を払い乗ることになったのだが……。

 

「座席が一つ足りない?」

 

  まぁ、よく考えれば、俺、イリアス、たまも、エル、クロム、シロム、フレデリカとそこそこの大所帯だ。馬車に乗るからとポ魔城に引っ込んでいるサバサは論外として、一台の馬車に割り込むにはいささかスペースを取りすぎかもしれない。

 

「何人かポ魔城に入るか?」

 

と、言ったものの皆不満そうだ。まぁ、旅行は道中もお楽しみの一つだしな。

 

「御者台も含めれば乗れるそうじゃし、良いのではないか?席はじゃんけんで決める、とかでよかろう」

 

 出資者のシロムが頷いたので、そうすることにした。流石に出資者を御者台に押し込む気にはなれず、そうなると妹のクロムも馬車の中へ、残りは俺、たまも、エル、イリアスの4人だ。

 

「というか、別に持ち回りで良くないか?」

 

「確かにそうね」

 

 俺とエルがそんな話をしていると何故かイリアスが俺の後ろに回って囁いてきた。

 

「カズマ、カズマ。今私はあなたに小声で神託を下しています」

 

「なんの遊びだ?」

 

「うぐっ……いいから聞きなさい!カズマよ。あなたは御者台に乗るのです。そうすれば災難を回避することができるでしょう」

 

「はっ、そんなこと言って、俺を御者台に押し込もうってか?良いぜ、じゃんけんで負けたら、ずっと御者台にいてやるよ」

 

「んぐっ……いえ、良いでしょう。寛容な私に感謝するのですよ、ブレッシング」

 

 イリアスの行動に俺は指を指して非難する。

 

「おい!幸運上昇魔法はずるいだろ!」

 

「カズマこそ、負けてくださいよ!最初はグー」

 

「ちっ、じゃんけん、ぽん」

 

 俺が勝った。

 

「俺、じゃんけんじゃ負けたことないんで」

 

 したり顔でそう言う俺に、イリアスは不満顔になる……と思いきや、何だか怒りとも呆れともつかない顔をしていた。

 

「神託は下しました。あとは自分で何とかするのです」

 

 そうして、さっさと御者台に上がり込んでしまった。

 俺は、何だか不安になりながらも荷台に乗り込む。

 

「おぉ!カズマカズマ!あれを見てみよ!」

 

 たまもの視線の先にはカゴに入った卵があった。

 

「あれはドラゴンの卵じゃ!良いのぅ、良いのぅ!あの席はうちが座るのじゃ!」

 

 真っ先に走って行ったたまもに続き、クロムが向かいに、シロムがその隣に陣取り、フレデリカが端に。

反対はたまもとエルに挟まれるように俺が座る形となった。

 

 ワクワクと体を揺するたまもと、それを微笑ましく見るエル。シロムとフレデリカもクロムを気にしているようだ。

 

「お客さん。そろそろ出発しますよ」

 

 その御者の言葉と共に、馬車は動き出した。

 

「いやーそれにしても湯治、楽しみだな」

 

「えぇ、スライムにとっても良いお湯は貴重よ。ぜひ視察したいわね」

 

 エルがしみじみと語る一方で、クロムたちも顔に期待を浮かべて馬車に揺られていた。

 

「あ、そういえば、クロム、今回の目的の素材って……」

 

「それは私がせつめいしうわっ!?」

 

 シロムがそう言って顔をこちらに近づけた途端、馬車が揺れてシロムがこちらに吹っ飛んできた!

 

「ちょ!ふが!」

 

 柔らかいものが顔を覆い、息が苦しい。俺は遮二無二に腕を突き出して、シロムを押し返した。

 

「はぁ、はぁ、びっくりした」

 

「す、すまないね。……おや?」

 

 驚愕を表す俺に、反応するシロム、最初はいつもと変わらぬおっとりした応対だったのが、俺の様子を確認したところで声の質が一段、低くなる。

 

「どうやら、本当に迷惑をかけたようだね。思えば君には妹のことで世話になっているのに、大した礼も出来ていなかったね。どうだろう。私を魅力に感じてくれているみたいだし、ココ、にお礼をしようか」

 

 妖艶にそんなことを言うシロムにドギマギしていると、あちこちから声が上がった。

 

「おねーちゃんずるいのじゃ!そう言うお礼ならわしもするのじゃ!」

 

「クロムがするなら私もする」

 

「ええい!好き勝手言いよって!順番的にうちらが先じゃろうが![

 

「カズマ……わかってるわよね?」

 

 まさかの展開にもう何も分からない俺だったが、その目が段々とヤバい光を宿し始めているのを察して、俺は大声で助けを求めた。

 

「助けて!リッチーと幼女たちに逆レ○プされる!」

 

 その直後、御者台から飛び出した人影が、俺を上空へと連れ去った。

 

「……ふぅ、分かりましたか。あれらは人の姿をしていても魔物です。その本性は、男の精を求める存在なのですよ。……あなたが忠告を無視するから悪いのですよ」

 

「今回は本当に助かった。女に迫られるのってあんなに怖いんだな」

 

 そう言ってため息をつく俺に、無言のイリアス。下では、たまもとクロムがわいわいとシロムに何か詰め寄っていた。

 

「……イリアス?」

 

 無言のイリアスに、俺が顔を上げると、イリアスは静かに俺を見つめていた。

 

「カズマ。一つ言っておきます。私は決して良い神ではありません。少なくとも。あの魔物娘たちにとっては……。ですが、少なくとも今の私は、あなたと、あの子たちの期待を裏切らないつもりです。それだけは分かってください」

 

 そう言ってしばらく上空を飛びながら過ごし、ほとぼりが冷めてから馬車に戻ったのだった。今度は俺が御者台で過ごすことになったり、シロムを見るたまもやクロムの目がややきつくなっていたが、まあ些細なことだろう。

 

 

 

 




前提として貞操観念がバカ低い世界ってのはあるんですが、
シロム 設定上大量の精が必要な存在お礼と称してエネルギー補給もしようとした。
クロム おねーちゃんがするなら自分がするのが筋では?と言う考えから
フレデリカ クロムの判断に準ずる
たまも クエ世界でも珍しく、イチャラブしたら旦那になる、みたいな愛が深い種族なので。
エルベティエ ロリコン○す

これが一つの馬車の中で起きました。

因みにアルカンレティアにいるのはいろいろあって5年の寿命で子どもを成したアルカンシエルの子孫(登場予定なし)と流浪の三番様です。

 私事ですが、正月にSHRIFTのコラボルートを攻略するためにやりこんでました。去年のこの辺りの時期に一回諦めてたんですが、何とかなりました。……結構情報過多でした。


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EP55 トラブルが舞い込んできた!

 俺たちが馬車に戻ってから少し、気分転換なのか、まだ上空を飛んでいたイリアスがこちらに舞い降りて来た。

 

「カズマ。何やら、こちらに近づいているようなのですが……」

 

 そう言う俺たちに、御者の親父が言葉を返してきた。

 

「何かが近づいてきた。そいつぁ、恐らくハシリタカトビじゃないかねぇ」

 

「ハシリタカトビ?」

 

「あぁ、丁度これくらいの時期に度胸試しに固いものに向かって走るって言うチキンレースをすることで有名な魔物さ」

 

 そう言っている間に、俺にも見える砂煙が遠くに見え、そしてその中にぽつぽつと米粒程度の大きさの爆走する何かが見えた。

 

「あぁ、やっぱりあれはハシリタカトビだね。……何かこっちに近づいている気がするが、気のせいかね」

 

 のんびりそう言う御者だったが、俺は嫌な予感がして砂煙を注視する。

 

「おい親父、あれ、確実にこっちに近づいてきてるぞ!」

 

 俺の言葉に、俺たちの乗る馬車含めた馬車の一団が止まり、少しの協義の後に護衛に雇われた冒険者たちが外に飛び出した。

 

「おい、何かあいつらを刺激する硬いものを持ってる奴は居ないのか!」

 

 そう言う商人たちの声に俺たちもなんとなく顔を見合わせる。

 

「俺たちの中で一番防御が高いと言えばエルだけど……お前は固いって感じじゃないよな……。シロムは何か持ってないか?」

 

「私は後衛職だよ。勿論上級冒険者だったからアダマンタイトやミスリルを扱ったことだってあったけど、今はそんな武器は持ってないね」

 

 武装ということなら、以前フレデリカがガチガチの大砲とかつけていたが、現在は完全に武装解除している。

 

「ってなると、俺たちは関係ない……いや、そういやこのポ魔城って何製だ?」

 

 思えば、効果としても規格外なポ魔城は、もしかしたら異常な耐久力を持っているのかもしれない。

 そう思ったが、ポ魔城の内部からそれに否定の意見が出る。

 一瞬ポ魔城が光り、巨大な獣の体が浮かび上がる。

 

「それはあり得ぬ。ポ魔城は確かに破壊不能じゃが、それは位相変更の魔術がかかっておるからじゃ。詳細な理屈は省くが、要は壊れるような力がかかると、ポ魔城に力が行かぬように別の場所に力が逃げるように魔術がかかっておる。故にポ魔城の材料自体はそれほど物質的に硬いわけではない。そしてポ魔城の世界断絶能力は高い。時空の観測ができる一部の上位魔族や天使ならともかく、野良の中級か下級の魔物に内部に硬いものがあるかなど分からぬ」

 

 サバサの言葉に、やっぱり俺たちは関係ないか、とハシリタカトビの方を見ると……なんか先頭に妙な人影が見えた。

 

「ほらほら!あそこ目がけていくっすよ!!」

 

「ん!?」

 

 相当遠くだったので、弓使いのスキルを使ってもぎりぎりしぐさが分かったくらいではあったが、明らかにまっすぐ俺たちを指さして走ってきていた。声もよく分からないが、何か話しているようだ。

 俺がそれを言うと、イリアスが顔を青くして一人の人物を見つめた。

 

「まさか!」

 

「な、なんじゃ、うおっ!?」

 

 そう言うと、イリアスはたまもを掴んで上空に飛翔した。

 

「なんじゃなんじゃ!?」

 

「カズマ!ハシリタカトビはどうですか!?」

 

「んっ……イリアス達に、指、さしてるな」

 

 つまり彼らのねらいは俺たちということだ。

 

「おい!どういうことだ、イリアス!」

 

「言ってる場合ですか!まずは対処しなければ!」

 

 確かにその通りだ。俺は走り抜けるハシリタカトビと、標的のたまもを見つめる。

 

「!……御者さん、ここらに池か大きな穴はないか?」

 

「え、えぇ、ここから少し行ったところに小さな池があったはずです。って、まさか戦うつもりですか!?いけません!貴方たちはお客さんなんですから!」

 

「そうは言ってられるか!エル、こういうのは出来るか?」

 

 エルは俺の作戦を聞いて、大きく頷いた。

 

「可能よ。でも、急がなくてはならないわね」

 

「妾に乗るが良い。まだかつて野を駆けていた時ほど本調子ではないが、それでも馬よりは速かろう」

 

 そう言って俺とエルを乗せたサバサは、驚くほどの勢いで馬車から離れ、あっという間に小さなオアシスにたどり着いた。

 地上で細工をしていると、その様子から作戦を察したイリアスが空は空で調整を始めた。

 

 迫り来るハシリタカトビ。先頭にいるのはダチョウのような足をした少女だ。砂煙をあげてやってくるその一段は、やはり、少し恐ろしいものがある。

 

「いくっすよー!突撃ー!」

 

 そんな声が響き、ハシリタカトビが甲高いピーヒョロローという鳴き声を響かせる。そこから三歩、ハシリタカトビたちが次々に飛び上がった。

 その瞬間!たまもが素早く口を開いた。

 

「シルフ!頼む!」

 

「はいはーい!」

 

 そんな言葉が聞こえるが早いか、小さな少女の姿が現れ、それと同時に凄まじい下向きの風が吹き荒れた。あまりの強さにハシリタカトビ達はイリアス達に届くことなく墜落していく。そして。

 

 ボチャン……

 

「……あの、動けないっすけど」

 

 下に待機していたエルにハマり、動きを止めたのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 結局、あのハシリタカトビ娘たちは迷惑行為をしたとして、罰として暫く商人達を手伝うことになったらしい。ハシリタカトビ自身は人慣れする魔物ではないが、運がいいのか悪いのか人化した個体がいたため、無駄に血が流れずに済んだ。

 なんでも硬いものに突進する本能が否応なく刺激されてしまった、とのことで、酌量の余地ありという認識らしい。応急処置としてサバサがポ魔城内から何かの粒を持ってきて、ハシリタカトビの背中に貼り付けていった。

 

「うむ。これはアダマンタイトのカケラじゃ。硬いものに突進する性質を悪用して、まず自身の背中に意識を向けさせ、スピードを削ぐという処置じゃ」

 

「いや、まて、アダマンタイトなんてあったのか?しかもこんなにたくさん」

 

「あぁ、これは例の最強の人形とやらの残骸の一部じゃよ。アダマンタイトは世界で一番硬いが、その加工技術は非常に限られておる。正直扱いにくくてしょうがない物じゃから大きな塊ならともかく小さな欠片は大して価値はないのじゃ。いうなれば「絶対に欠けない小石」と同じじゃからな。それと、最強の人形とは言うたが、あのデカブツを製造して維持するのは不可能。それ故に妾らが今作っておるのは、コンセプトを同じくした小ぶりな物じゃ。故にアダマンタイトもそれほどいらんのじゃよ」

 

 俺の問いに答えたサバサを見て、呆れた俺はジト目をサバサに向ける。

 

「いや、それでも俺にも声をかけてくれよ。何かに仕えるかもしれないだろ」

 

「何、残骸は城ほどあるんじゃぞ。むしろ適度に放出せねばポ魔城の一角が埋まったままになるぞ」

 

 そう言って笑うサバサに、もうだめだと感じてあくせく働く金髪のハシリタカトビ娘とその後ろをついて行くハシリタカトビを見やる。

 

「……まぁ、いいか」

 

 そもそも、元々の原因はうちのたまもみたいだし……。

 

「というか、なんでたまもが狙われたんだ?そもそもたまもってそんなに硬くないだろ?」

 

 そんな問いにイリアスが少しため息をつきながら答えた。

 

「実のところ、あの鳥頭は実際にそれが硬いかを判断しているわけではないという事ですよ」

 

「……いや、全然わからないんだが」

 

 俺のそんな言葉に、イリアスは言葉を選ぶように説明を続けた。気づけば、そこらで後始末をしていた仲間たちも集まってきていた。

 

「そうですね。カズマ。四大精霊のの中で一番硬いと思うのは何だと思いますか?」

 

「風と、水は違うわね。氷になれば話は変わるけど」

 

「火も、硬いとは言えぬのう。なれば、まぁ、地の精霊、ノームが一番硬かろうのう」

 

 エルとたまもの言葉に、イリアスはちょっと釈然としない顔をしながらも頷いた。

 

「私はカズマに聞いたのですけれど……まあ、良いでしょう。そうノームが最も守りに優れた精霊です。しかし、恐らくあなた達の考えるよりも土の精霊は頑強です。火の精霊が世界の温度を管理するように、水の精霊が世界の液体を管理するように、風の精霊が世界の大気を司る様に、土の精霊は世界の大地を統べるもの。どのような大男でも、いかなる魔人でも自身の両足で立つ大地を壊そうというものは……いないでしょう?」

 

 なぜか言いよどんだイリアスにしかし俺は頷いた。

 

「まあ、確かに大地に喧嘩を売るとか馬鹿な話だよな。で、さっきの話とたまもが狙われたのはどういう関係があるんだ?」

 

 そう言うと、イリアスは口を大きく膨らませてそっぽを向いていた。

 

「気分が悪くなりました。もう話しません」

 

「えっ……?」

 

 そのまま飛び去ってしまったイリアスに代わって、今度はシロムが話を繋いだ。

 

「なら、続きは私が話そうか。とはいえ、これは学会の定説、程度の話だけれどね。ハシリタカトビは、別にそれが本当に硬いかどうかを判断しているんじゃないんだ。じゃあ、どうやって硬いと判断しているか。それがノームの精霊の力、つまり土の魔力なんだ。ノームの力が宿ったものは、即ち大地の延長線も同じ。大地の力を貯め込めるものはそれだけ硬いもののことが多いし、魔力が宿ったことによる強化もしっかり受けている。だから、大地の力を無意識に放っているたまも君にハシリタカトビは惹かれたんだろうね」

 

「つまり、本当は硬くないのに硬いと思えるような雰囲気、というか魔力を持ってたから、たまもは襲われたってことか?」

 

「まあ、かみ砕いていってしまえばそうだな」

 

 そこまで聞いて、俺はどっと脱力した。

 

「なぁ、たまも、その大地の魔力とやら、隠せないのか?」

 

「うむ……少し試しておる……ふむふむ……完全には無理じゃが、抑えることはできそうじゃな」

 

 そんな会話をしていると、この馬車隊のリーダーらしき男がこちらに走ってきていた。

 

「おぉ!ここに居ましたか!護衛の依頼も受けていないのに、この活躍!ぜひとも報酬をもらってください!」

 

「いや!いいですから!」

 

 小心者の俺には、原因が自分のパーティにあるマッチポンプなお金を受け取る勇気はなかったのだった。




イリアス「……」←聖魔大戦の時に脅すためとはいえ世界を破壊して邪神を倒そうとした人。

オリジナルモンスター娘三匹目。ハシリタカトビ娘ちゃんです。というか書いてて思いましたが、この巻求婚関係で魔物が騒ぐのが続いてたんですね。
 ハシリタカトビ娘ちゃんも体育会系女子で、ダチョウ娘ちゃんの色違いです。
 たまもちゃんがシルフを呼べたのは、属性爆裂を使うためにもう一回会いに行ったからです。


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EP56 貴婦人たちの入浴

 アルカンレティア改め、イリアスヴィル。少しの旅の果てに、俺たちはそこにたどり着いた。

 

「ふぅ、ひどい目にあった」

 

 ハシリタカトビを撃退したあの夜、俺たちは更に、アンデッドに遭遇することになった。十中八九女神とリッチーのせいである。シロムの能力があるので、襲われることは無かったのだが、興奮した馬車隊のリーダーからのお金を固辞するのに余計な精神を使った。流石に自分たちが原因の報酬は受け取れない。

 

 ……と、非常に疲れた道中ではあったが、いよいよ温泉が有名な街に入ったのだ!喜び勇んで、俺は皆とチェックインが済んだ後に早速温泉へと向かうのだった。……なお、他の仲間とは別行動だ。クロムは以前の一件で警戒しており、シロムは仕入れの確認をしてから入ると言っていた。たまもは何やら用事、イリアスはここの教会本部に街改名の真意を問い質しにエルはそんなイリアスについて行くらしい。

 

……寂しくない。寂しくないんだ。本当だ。

~~~~~~~~~~~~~~~~

 混浴温泉なんて、どうせ老人かスケベ野郎のたまり場になっていると相場が決まっている。俺だって、あわよくば美人が一人くらいいれば、くらいの下心だった。だが、予想外に俺より先に入っていたのは、2人の美女と一人の美少女だった。

 

「ふふふ……ここのお湯はとても気持ちいいですね。夜にここでお茶会を開いてみようかしら」

 

「それも良いかもしれませんわね。しかし……再びこうして相まみえられるとは何たる光栄でしょうか」

 

「ねえねえ、お母さん。そろそろお話終わった?」

 

「エミリ、少し落ち着きなさい。常に淑女たれ、そう教えているはずですよ」

 

 金髪と灰色が混じったような不思議な髪色の女性が、緑色の髪と切れ長の目をしたやや年かさの女性と語らっている中を、つまらなさそうに金髪で大きなツインテ―ルを作った少女が聞いている構図だ。話からして、緑髪の女性が金髪の少女の母親なのだろう。

 

 と、そこで俺の姿を金髪の少女が見つけた。

 

「あ♡お母さん。生きのいい男がいるよ」

 

「あら、本当ね、そんなところにいないでいらっしゃい」

 

「ふふふ……招かれざる客、ということかしら?それとも待ちに待ったお茶請け、というところかしら?」

 

 そうして、まるで品定めをするかのような三人の視線に、俺はゾワリと毛を逆立てた。なぜかは全く分からない。だが、俺の生存本能が告げていた。

 

 あの温泉に入ったら、取り返しのつかないことになる気がする。

 

「……おや、どうやら、何か感づかれているようね。うふふふふ」

 

「そんなこと、私達には関係ありませんわね。『来なさい』」

 

 緑髪の女性がそう言うと、俺は心臓を射抜かれたように鼓動が高鳴った。意識が朦朧とし、力が抜ける。

 

「あ……あぁ、お、おっぱ」

 

「あー!お母さまずるい!」

 

 突然近くで響いた声に、俺は思わず顔を上げた。気づけば、いつの間にかあの三人の目の前に来ていた。くらくらする匂いが鼻につく。

 

「この男は、私が見つけたの!だから私のもの!いいよね、お母さま!」

 

「あらあら……うふふ」

 

「……いいでしょう。いい機会です。篭絡の練習に使いなさい」

 

「はーい!じゃあ行こ?」

 

 再び朦朧とした意識の中。俺は体を洗っただけで温泉にちっとも入らずにその場を後にしたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ほら、身体を拭いて。私の部屋で楽しみましょう」

 

 えみりさまにいわれて、おれはふくをきる。えみりさまにはやくおれをささげなければ。

 

「ふふふ。私の部屋でたっくさん可愛がってあげる」

 

 きがえおわったときに、だれかきた。みたことがあるようなきもするけど、よくわからない。

 

「おや、カズマ。温泉はどうだった……と、おや?君は……もしかしてネ―レイド嬢かい?」

 

「えっ!?えっと、えっ!?もしかして、アルテイストのシロム様!?」

 

 しろむ……?あ、えみりさまのて、やわらかい。

 

「よしてくれ。私はただのシロム……いや、謎の商人、シルク・ドゥ・クロワだ。どこかの迷宮で愚かな女性貴族は死んだんだよ……とはいえ、そうだね、もし君が私をシロムだと思ってくれているなら……君の隣にいるのは私の友人なんだ。分かるね?」

 

「は、はは、はい!」

 

 あ、えみりさま。はなれないで……。

 

「カズマくん。おい、カズマくん!……うん。これはダメそうだね。一先ず一度宿に戻ろうか。君はどうする?」

 

「えっ、それは……うぅ。ついて、いき、ます」

 

 えみりさま。はなれないで……。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「………から、真芸の極みというのは、じゃな」

 

「……も、あなたがその全てを操れるわけじゃないでしょ?」

 

「じゃが、拡張性が高い技術なの確かなのじゃ!知っておるか?かのアイドルサキちゃんも、お抱えの魔芸師に舞台の手伝いをさせているそうじゃぞ」

 

「え!?なにそれ!もしかしてあんたにもできんの!?」

 

 そんな誰かの言い合う声を聞きながら、俺は目を開いた。

 

「お、目が覚めたか」

 

「おお、クロム。おはよう。それと、エミリさっ‼」

 

 俺は最後の記憶を思い出し、警戒態勢をとる。

 

「お前!温泉の!」

 

「あぁ、それについては、謝っとくわ。でも、もうこれ以上何かする気はないから」

 

「いや、そんなこと言ったって……」

 

 俺が詰め寄ろうとすると、飲み物を持ったシロムが部屋に入って来た。

 

「おや、起きたか。……うん。なるほど。カズマ君。エミリ君にも事情があるんだ。責任は私が負う。今は責めないでやってほしい」

 

「……む。まぁ、シロムがそう言うなら。ただ、説明はして欲しいな」

 

「あぁ、勿論だとも」

 

 俺がベッドに座り直すと、部屋にいるシロム、クロム、エミリ、フレデリカの椅子を用意して、皆座り、飲み物を手に持ったのを確認してからシロムが口を開いた。

 

「まず、最初に言っておくと、放っておけば君は彼女に犯しつくされ干物になった後に捕食されていただろう」

 

「ちょ!?」

 

 あまりに絶望的な事実に、俺は思わず突っ込みを入れた。

 

「まあ、その前にイリアスやたまもに止められるとは思うがね。そもそも、彼女の親は魔王軍の幹部だ。そう言った残虐な面も仕方がない所ではあるのさ」

 

 いきなり出て来た魔王軍幹部という言葉に、全員が身体を固くする。

 

「ちょっと、シロムお姉さま!そこばらさないでくれるかしら!?」

 

「どうせいつかばれるだろう?別にうちの妹はそんなことで差別はしないさ。勿論、こちらに被害がないなら、という話だけどね」

 

 割と重い信頼に目を白黒させるクロムと、やっぱり安心できない俺の視線を受けながら、シロムは言葉を続ける。

 

「まあ、彼女の家、ネ―レイド家は弱肉強食が家訓でね。かの黒のアリスの時代に重用された過激派だ。だからこそ、黒のアリスが姿を消した後、今の魔王に鞍替えしたのでしょうね。まぁ、エミリがいればこちらに危害は加えないだろう。イリアス達にも私から話しておくさ」

 

 そう言って、あんまり安心できないことを言って、シロムは部屋を後にしたのだった。

 




というわけで、ハンスさんはあの人になりました。また、もうこの時点でハンスさんの正体はばれています。正直、貧乏店主さんのあの天然っぷりも才能ではあるし。
あ、でも安心してください。この貴婦人はクエ時空の貴婦人なので、パラの迷宮から迷い込んできた魔王タイプではありませんので、非常識な鍛え方をしなくても倒せます。

そして、エミリもいるという事は……?
多分クエやってる人はエミリちゃんの役回りも察せられるはず……。


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EP57 野生の聖職者が現れた!

お待たせしました。


 そんなこんなで残された、俺とクロムとエミリ、後おまけのフレデリカだったが、クロムはシロムの言った通り、魔王軍幹部の娘だとかそう言うことを全く気にせず、どこかに出て行ってしまった。取り残された俺が、少し呆然としていると、誰かが扉をノックして、すぐに扉を開けて来た。

 

「カズマ。戻ってきているかしら」

 

 そう言いながら入って来たのはエルだった。

 

「あぁ、エルか。どうしたんだ?」

 

「えぇ、すこし街を歩こうかと思って。一緒にどうかしら?」

 

 それを聞いて、俺は少し考える。

 

「……まぁ、そうだな。荷物持ちくらいはできるだろ。温泉に入る気分でもないし、いいぜ」

 

 そう言うわけで、俺はエルと共に街へと繰り出したのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~

 俺たちが町で散策していると、何やら言い合いしている声が聞こえて来た。

 

「全く、あなたのせいでこちらの商売あがったりですよ」

 

「はん!下級の天使のくせにえらそうですねぇ」

 

 見れば、明らかに天使っぽい見た目の人と、八重歯とマントが特徴的な人が言い合いをしていた。ついでにその前にはクロムとエミリの姿があった。

 

「あれは、もしかして、天使と……吸血鬼か?」

 

「えぇ、どうやらそうみたいね。しかし……イリアス以外の天使は私も初めてね」

 

 見ていると、二人の店主はクロムたちに向けて声をかけていた。

 

「お客さん、あのわからずやの夜行性のことは無視して、アルカン饅頭……ではなかった。イリアスヴェル名物、イリアス饅頭を買ってはどうですか?」

 

「ふん、そこの弱小天使なんて無視して、商売の天才、ヴァンパイアの商品をみてみるといい。値打ち物ばかりだよ」

 

 二人はそう言うと、またしても火花を散らせる。

 

「ど、どうしようかのう、エミリ」

 

「どっちも買う必要はないんじゃないかしら?」

 

 エミリが冷たくそう言うと、二人はどちらも相手のせいにしてまた喧嘩を始める。

 

「天使と吸血鬼って、やっぱり仲悪いんだな」

 

 俺はそう言って、クロムに声をかける。

 

「よっ」

 

「お!カズマ!どうすればいいんじゃろうか!?」

 

 俺は少し二つを見比べて、店主に声をかける。

 

「これって、この街の名物だよな?イリアス饅頭とこの木刀を買うから会計頼む」

 

「「まいど」」

 

 喧嘩していたはずの声は驚くほどきれいにそろったのだった。

 

 あきれ顔のエミリと結局買い物したシロムを見送った後、俺は歩きながらイリアス饅頭を一つつまむ。

 

「おっ!これ、マジ美味いな。ほら」

 

「……んっ。確かにこれは美味しいわね」

 

「ちょっと、皆で食うには足りないな、ちょっと待っててくれ。買い足してくる」

 

 そう言って、エルを待たせて俺は来た道を戻り、先ほどの店に向かった。だが、折り悪く先ほどの場所に戻っても吸血鬼と天使の店主は立っていなかった。

 俺は誰かいないものかと店の裏手をのぞき込む。

 

「ほら、ヴィルヘルミナ。顔をこっちに向けてください……。やっぱり、少し字になっていますね」

 

「気にしないで。というか、顔が近いわ」

 

「……」

 

 なんか店主二人が百合百合しい感じで絡み合っていた。

 

「……!なんでこっちまで入ってきているの!」

 

 吸血鬼の方が俺に気付いて大声を上げた。それを驚いたように見た天使が、巨大な注射器をもって俺に接近する。

 

「うわ、待て待て、今見た事絶対言わないから!」

 

「その言葉、嘘ではありませんね」

 

 咄嗟に見てはいけないものを見たと判断しそう言ったことが功を奏したのか、天使は注射器を俺に刺す直前で動きを止めていた。

 

「あぁ、勿論だ。俺も馬鹿じゃない。……とはいえ、ちょっと驚いたよ。あんときはすごい仲悪そうだったろ」

 

「何故詮索をするのです?やはり……」

 

「いいじゃない。この人は旅人よ。気にすることじゃないわ」

 

 そう言って、吸血鬼の方が事情を説明してくれた。なんでもこの国はイリアス教の総本山というだけあって、魔物排斥の気風が強いらしい。まだ、スライム娘や狐娘などなら冷たい目線を向けられるくらいで済むらしいが、悪魔娘やサキュバスなどだと割と激しい迫害まで発展することもあるそうだ。

 

「そこで、私が彼女に因縁をつけることで逆に彼女への迫害を抑制しているのです」

 

「……つまり、天使が対応しているから、この悪魔は任せておいていいって思わせてるってことか?」

 

 俺の問いに二人は頷いて、更に吸血鬼が言葉を続けた。

 

「それに加えて、天使が対処できないなら人間にはどうしようもないって思わせるって言う意味もあるわ。大体過激派って、弱そうなら容赦なく攻撃するけど強そうならビビッて放っておいてくれるね」

 

 そう言うと二人はじっと俺を見た。

 

「それで、この話を聞いてどうするのかしら?」

 

「……いや、信用できないのは分かるが、流石にこんな話を聞いてぺらぺら話すほど俺も鬼じゃないって……黙っとくよ。……仲間にもな。あ、そうだ。あの饅頭あるか?追加で買いたいんだが」

 

そうして、たくさんの饅頭を購入して、俺はその場を後にしたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「おそかったのね。何かあったのかしら?」

 

「……いや。何も」

 

 そう言う俺の言葉に、エルは微妙な顔をしながらもそのまま街をぶらついた。街は閑静な様相を呈し、ゆったりとした空気が漂っている。

 

「あっ!」

 

 エルの声にそちらを見ると、とてとてと歩いていた幼女が今にもこけそうになっていた。

 

「危ない!」

 

 エルがその体を液状化させてクッションになろうと飛びついたその時、幼女の後ろから大きな手が彼女の体を支えた。

 

「大丈夫かね?」

 

「うん!有難う、おじいちゃん!」

 

 幼女は老人にそう御礼を言うと、こちら……具体的にはエルに向けてキッとにらみつけて歩いて行ってしまった。

 

「あ、あぁ」

 

 幼女には敏感なエルだ。よっぽどこたえたのか、液状化した体が戻ることもなく項垂れている。

 そして、その液体に、老人が手を差し伸べる。

 

「ありがとう、スライムのお嬢さん。君の声が無ければ、あの幼い者の危機に手をさしの得ることができなかかっただろう。ほんとうに感謝する。……そして、すまなかった」

 

 そうして頭を下げる老人に、エルは怪訝な顔を向ける。

 

「どういうことかしら?少なくとも私は、あなたに非礼な態度を取られた記憶はないのだけれど」

 

 老人は悲しそうにエルに目を向ける。

 

「いや、あの子の態度のことだ。我らアルカンレティアの民は皆、敬虔なイリアス教徒だ。だが、近頃一人の天使がやってきたころから、魔物を排斥して、イリアス様を唯一絶対の存在とするクロイツ思想という過激思想が流行しているのだ。全く。イリアス様がそのようなことを望んでおられない心清きお方だというのは、自明の理だというのに」

 

 ……いや、お宅の神様、バッチリ魔物を目の敵にしてましたよ。今でもちょっと討伐したがる風潮がありますよ。

 内心そんなことを考えて微妙な顔になっていたからか。老人が少し不思議そうな顔でこちらを見つめて来た。

 

「おや?何か私の顔に変な物でもついていますかな?」

 

「あぁ、いや、何でもないよ。しかし、あんたは、ずいぶんイリアスを信仰してるんだな?もしかして、えらい神官様だったりするのか?」

 

 それを聞いて、老人はかすかに俺に笑いかけた。

 

「はっはっは、そう言ってくれると嬉しいが、私はただの信仰心の強いだけの男だよ。何しろ、時計職人として何十年もやってきたような身分だからね。……いや、そうだな……」

 

 そう言って、顎に手を当てると、老人は俺に一つの言葉を投げかけて来た。

 

「旅人の君になら、聞いてもいいだろう。忌憚ない意見を教えて欲しい。君は例えば、イリアス様が人類の敵となり、魔物と共に4つの大国を滅ぼすような世界があると言われたら、どう思うかね?」

 

 その言葉に、俺は思わず身を固くする。その話自体は、全く聞き覚えのないものだ。イリアスからもそんな話は聞いていない。しかし、イリアスの言動から、人類と敵対する世界がある、もしくは人類を殲滅する準備をしていたことは言動の端々から感じ取れていた。ならば、もしかして本当に……。

 

「あの、それはどこで?」

 

「……はっはっは!私の夢の話だ。本当のことではない。……しかし、どこで……か。いや、何でもない。ただ、面白い返答だったのでな」

 

 そう言うと、老人はクルリと踵を返して、俺たちの前を立ち去っていく。

 

「老人の話に付き合ってくれて感謝する。私の顔が聞くところには、君たちのことを話しておくことにしよう。アルカンレティアを楽しんでくれると嬉しい。どうか、君たちにイリアス様のご加護があらんことを」

 

 その一言を残して。

 

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「ペテロ様!ペテロ様」

 

 スライムと人間の少年の二人組との邂逅から少し。見知った顔が私に声をかけて来た。

 

「おお、ヨハネか。どうした」

 

「どうしたではありません!何を考えているのですか!あなたは大司教なのですよ!」

 

 その声に、私は少し顔を顰めてヨハネを窘める。

 

「大司教の何が偉いものか。我らはイリアス様から見れば等しく力なき庇護すべく存在に過ぎぬ。だからこそ、我らは自らを律し、イリアス様に尊崇の念を抱き続けなければならぬ。ただその当たり前をし続けたという、ただそれだけのことを愚直に続けただけの存在だ。私などよりも価値のある者などこの街にも多くいる。ヨハネ。君だって、私などよりもその剣で民たちを安んじることができるだろう」

 

「憚りながらペテロ様。あなた様がイリアス教の表看板として教会のかじ取りをしていることで、どれほどの信徒が心安くいられるかをお考え下さい」

 

 短く切り返されたその言葉に、私は言葉を詰まらせ、そして、先ほどの少年たちとの会話と、最近あった種々のことを合わせて、一つの言葉を紡ぎだした。

 

「ふむ。まぁ、確かに、此度は私が動くべきであるのかもしれぬ」

 

「!ペテロ様自らですか?」

 

「私の夢見のこと、君には伝えていたな?それが、予見に近い物であると先ほど確認が取れた。それとイリアス様のこの世界への来訪もだ」

 

 その言葉に、ヨハネははっとして私を見る。

 

「それは、もしや例の少年ですか?」

 

「あぁ、そうだ先ごろあった、聖素の残滓を付けた少年に接触してきた。どうやら、私の夢の内容に心当たりがあったようだ。……私の夢が何を示すのか、そこまでは分からないが……イリアス教信徒一同の力を結集させねば乗り越えられぬ難局が待ち受けていることは確かであろう。いつ何時でも対応できるよう、こちらも手は打たせてもらおう。良いな」

 

「はっ!」

 

 そうして、教会騎士団長と大司教は闇夜の中に消えていったのだった。

 




年度末のバタバタで更新が滞りました。しばらくはゆっくり更新です。

あともんパラ勢の皆さま。ご安心ください。この人はマキナ人間ではなく、只の機械いじりが大好きなイリアス教の最高位神官です。
夢の内容ですが、クエ時空からのパラドックスによる記憶の流入が入っています。パラの記憶は今のところ表出していません。


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