魔法先生ネギま~とある妹の転生物語~ (竜華零)
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プロローグ:「卒業式」

私の処女作になります、拙い内容ですがよろしくお願い致します。


Side アリア

 

 

「メルディアナ魔法学校卒業生代表! ネギ・スプリングフィールド!」

「はいっ!」

 

 

薄暗いホールの中を、私の兄であるネギ・スプリングフィールドがゆっくりと進んでいきます。

ネギ兄様は幾分か緊張しているものの、しっかりとした足取りで壇上に上がりました。

10年近い時間を共に過ごしていたせいか、それほど仲が良かったわけでもないのに、胸に来るものがあります。

 

 

・・・ああ、これは申し遅れました。

私は、アリア・スプリングフィールドと申します。

「いないはずの」双子の妹です。

 

 

ここまででお気づきの方もいるかと思いますが、私はいわゆる「転生者」・・・それも、「ネギま」の世界に転生するという、テンプレなタイプの転生者です。

まぁ、前世がどうとか言うつもりはありませんが・・・。

 

 

どうして死んで、そしてなぜこの世界に転生させられたのかは、あまり思い出せません。

気がついた時にはもう、赤ん坊でしたから。

幸い、ここが「ネギま」の世界だと気づくのに時間はかかりませんでした。

だって、兄の名前が「ネギ・スプリングフィールド」ですし、ネカネ姉様やアーニャさんもいましたし・・・。

 

 

まぁ、転生してしまったものは仕方ない、と考えるようにはしていたのですが・・・。

しかし自分のこれからのことを思うと・・・。

そんな自分の第二の人生のことを思うと、あまりの波乱万丈ぶりに、思わず涙が出てしまいます。

 

 

卒業生の中、一人涙を流す私の姿をどう思ったのか。

 

 

『見てみろ、アリア君が泣いているぞ・・・』

『涙を流す貴女も美しい・・・』

『アリア先輩・・・』

 

 

周囲の教師、同期、後輩たちが何やら話しているようです。

まぁ、端的に言って私の成績は上の下くらい。兄と比べると見劣りしてしまいます。

専攻が治癒、補助、結界、魔法具系というのも、地味さに拍車をかけているようですし。

 

 

いや、私だってせっかく「ネギま」の世界に転生したんですから、バンバン魔法使いたかったですよ!

で仕方ないじゃないですか、私魔法使えないんですよ!

 

 

まさか魔力は父譲りの強大さながら、攻撃魔法が一切使えないとは思えませんでした・・・。

その事実に気付いた時はショックでしたが、理由はすぐにわかりました。

どうやら私の眼が魔眼で、それが魔力を絶えず吸収していて、攻撃魔法用に呼び出した精霊をも吸収しているようで・・・自分で魔法を使うのはかなり難しいのだとか・・・。

 

 

はい、もう気付いた方もいるでしょう・・・そう!私は『あの』魔眼を持って生まれたのです!

 

 

殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』。

 

 

伝○伝かよ!!

 

その時私は幼いながらに突っ込みをいれましたよ・・・思えば今生最初の突っ込みでしたね。

せっかく魔法のある世界に生まれたのに、魔法が使えないとか・・・そう絶望しかけた私でしたが、捨てる神あれば、拾う神あり! 私にはもう一つの魔眼と、ある能力があるのです!

 

 

一つは、『複写眼(アルファ・スティグマ)』・・・こちらも伝○伝ですね、わかります。

これは『殲滅眼』と使い分けが可能。

でも魔法は使えないので、あくまで解析、解除、解呪などでしか使えないのです。

私が治癒、補助のコースに進んだのもこのため、『複写眼』使えば大抵の呪いや魔法は解けますから。

この分野では私は兄であるネギ・スプリングフィールドにも負けません。

 

 

そしてもう一つ、むしろこちらが重要ですね。

『魔法具作成』の能力があるのです。

しかも、なんと・・・前世で読んだ漫画や小説に出てきたアイテムや武器を作成できるほどの能力が!

ブリーチの斬魄刀やFATEの宝具まで作れた時には、驚きました・・・。

しかも魔法が使えずとも、直接魔力を注げば使用できるという便利さ。

これだ! と思いましたね。

 

 

いや、だってこれが無いと生き残れないですから。

別に原作に介入したいわけじゃないですが、達成したい目的があるので。

そんなことを考えている間にも、周囲から「アリア」という単語がひっきりなしに聞こえてきます。

 

 

『うぅぅ・・・あ、アリア先輩・・・』

『おやめなさい、年下のアリアさんがしっかりしているのに・・・』

『ご立派です、アリア・・・お姉さま』

 

 

何かおかしな表現もありましたが・・・まぁ、充実した学園生活、でしたね。

中には魔法の使えない私を見下す人も、いないわけではありませんでしたが。

良い、友達に恵まれたと思います。

あ、今度は別の意味で涙がでてきました・・・。

 

 

・・・あ、涙を拭いてる間にネギ兄様のお話が終わりましたね・・・。

聞いていませんでしたが、まぁいいでしょう。

興味薄いですし。

 

 

壇上から戻ってくるネギ兄様と目が合いますが、すぐにそらされました。

 

 

・・・ネギ兄様はどうも私のことを避けているようなんですよね。

特に、悪魔襲撃事件があってからは、一緒に食事どころか、会話すらしていません。

というより、私を含めた周囲との関係を拒んでいるようにも思えますね。

我が兄ながら、先行きが心配になる振る舞いです。

 

 

 

 

 

卒業式が終わり、さぁ退場、という段になって、ハプニングが起こりました。

在校生たちが、出口を塞いでしまったのです。

よほど別れたくない先輩でもいるのでしょうか。

私も前世でやった覚えがありますね・・・。

 

 

「アリア先輩、行かないでください!」

「うぅぅ~、アリアさぁぁ~んいかないでぇぇぇ~!」

「先輩がいなかったら、俺らどうすればいいんですか!」

「もっとアリアさんと学園生活をエンジョイしたいんです~~!」

「お姉さまぁぁぁ~~~~~っ!!」

 

 

 

・・・私ですか!?

よく見ると、20人程のグループが出口を塞いでいて、その全員に見覚えがありました。

 

 

あの人たちは、もう。

 

私は苦笑したくなる気持ちを抑えて、他の卒業生をかき分け、前に出ました。

私が出てきた瞬間、あれほど騒がしかったホールが、静まり返りました。

ネギ兄様が何やらあわてていますが、構うことはないでしょう。

 

 

「・・・まったく、あなたたちは・・・本当に良いお友達ですね」

 

 

苦笑しながら言葉を紡ぐ私に、何人かの生徒が「アリアさん・・・」と泣きそうな声で呟きます。

きっと、私も泣きそうです。

 

 

「魔法が上手くいかないと授業中になだれ込む、課題ができないと研究中になだれ込む、友達と仲直りできないと食事中になだれ込む、挙句の果てには入浴中や就寝中まで騒ぎ立てて・・・本当、心の休まる時がありませんでしたよ。まったく」

 

 

そう言うと、何人かが照れくさそうに笑った。

きっと、私も笑っているだろう。

 

 

「本当にもう、うんざりです。あなたたちの相手をするのは、もう本当に疲れますからね。あなたたちの馬鹿騒ぎに巻き込まれて、何度叱られたことか・・・」

 

 

先生方が、「何をいまさら・・・」といった、呆れているような顔をしていた。

きっと私も、呆れている。

 

 

「でも・・・そんなあなたたちが、大好きでした」

 

 

視界が、歪みます。頬が濡れて熱いのは、きっと気のせい。

 

 

「あなたたちがいたから・・・楽しかった。あなたたちがいたから・・・退屈しなかった。あなたたちがいたから・・・私は、頑張ることが、できました」

 

 

ちゃんと、言えているか、自信がありません。

ちゃんと、伝わっているか、わかりません。

 

 

「そして、あなたたちがいるから・・・安心して、卒業できます。あなたたちなら、私がいなくとも・・・きっと、大丈夫です」

 

 

目を閉じれば思い出すのは、楽しかったことばかり。

私をあれだけ楽しませてくれたのです・・・うん、きっと、大丈夫。

 

 

「だから今は、お別れです」

 

 

そう言って、できるだけの笑顔を見せる。

私の後ろでも、何人か泣いていますね・・・もらい泣きという奴でしょうか。

・・・ネギ兄様だけは、困っていますが。

相も変わらず空気の読めない人ですねぇ。

 

 

私は懐から、ある魔法具を取り出します。

桃色のカード、その名もさ○らカード。はい、元ネタは某カードキャプターです。

カードに込められた名前は、『灯(グロウ)』。

効果は、幻想的な光を見せること。

 

 

「魔法具、『灯(グロウ)』」

 

 

私がそう呟くと同時に、カードに込めた魔力が解き放たれます。

そこからあふれ出るのは、赤、青、白、黄色――色とりどりの魔力球。

それは薄暗いホールの中を駆け巡る。それはまるで、銀河の流れ星。

先生も、生徒も、来賓の方々も、思わずそれに見惚れたような表情を見せてくれます。

そんな人たちに、私は心からの笑顔と、感謝の言葉を捧げます。

 

 

「ありがとう―――」

 

 

 

 

 

卒業式が終わり、ネカネ姉様とアーニャさんが私のところへ来ました。

 

 

「アリア、卒業おめでとう!」

「おめでとう!」

「ありがとうございます、姉様。アーニャさんもおめでとうございます」

 

 

祝福の言葉と共に私を抱きしめてくれるネカネ姉様。

なんだか恥ずかしいのですが、でも嬉しくもあります。このぬくもり、大好きです。

ネカネ姉様には本当にお世話になって、感謝してもしきれません。

それにしても・・・。

姉様から身体を離して、私は首をかしげながら。

 

 

「姉様、アーニャさん、ネギ兄様は?」

 

 

私がそう言うと、2人は若干顔を哀しげに歪めました。

私は、そうですか、と呟くと、それ以上は何も言いませんでした。

それをどう思ったのか、アーニャさんが慌てたように。

 

 

「あんたの修行地はどこだった? 私はロンドンで占い師よ」

 

 

と言ってきました。

アーニャさんに言われて、私は初めて修行地のことを思い出しました。うっかりです。

慌てて内容を確認してみると、そこには・・・。

 

 

「日本の学校で教師をすること」

 

 

と書かれていました。まぁ、ある程度予想はしていましたが。

2人に聞いた話では、どうやらネギ兄様も、原作通りなようで・・・。

会いたい人もいることですし、ありがたい限りです。

 

 

「・・・ネカネ姉様」

 

 

私は姉様を見上げると、真剣な目で彼女に頼みごとをしました。

 

 

「私が戻るまで、スタン爺様とアーニャさんのご両親、村の人たちと、シンシア姉様のお墓を、お願いします」

「アリア・・・」

「次に戻ってくる時までには、必ず、治せるようになっていますから・・・お願いします」

 

 

大事なことなので、2回頼みました。

そう、悪魔襲撃事件で石化した人達は、どういうわけか、私の『魔法具作成』でも治せなかった。

原因と、解決策のアテはあります。

そのためにも、魔帆良に行く必要があります。

・・・多少の危険も、許容しましょう。

死にたくはありませんけど。

 

 

その後校長室に抗議しに行ったネカネ姉様が倒れたり、ネギ兄様とアーニャさんが青春したりといろいろありましたが・・・いよいよ原作に介入、もとい、第二の人生における正念場です。

 

 

 

 

「待っていてください、みんな。そして・・・シンシア姉様」

 

 

アリアは、結構、がんばります。

 

 




小説というのはもっと簡単に書けるものだと思っていましたが、とても難しいものなんですね。

これからももっと精進して、楽しんでいただけるよう努力したいと思います。

拙い腕前ではありますが、よろしくお願いいたします!


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主人公設定(原作開始時点)

物語開始に先立って、この時点の主人公アリアの初期設定を公開します。
まだ設定が甘い部分も多いかと思いますが、よろしくお願いします。
なおここにあるのは最低限の設定で、細かくは本編中に説明します。

*関心の無い方、設定なしで本編を楽しまれたい方などはスパッと読み飛ばして頂いた方が楽しめると思います。

では、どうぞ。


名前:アリア・スプリングフィールド

 

年齢:10(数え年) 性別:女性

 

身長:135  体重:秘密です。

 

髪の色:腰まである白の髪(もともとは金色) 目の色:赤(右) 青(左)

 

 

<好きなもの>

シンシア姉様(お墓あり)、ネカネ姉様、アーニャ、学友。

紅茶、甘いもの。

 

 

<嫌いなもの>

家族(兄、両親):表だって嫌うことは少ないものの、好意を示すこともない。

刺激物(辛いもの食べ物など)。

 

 

<能力>

①魔眼:基本能力は伝○伝からいただいていますが、若干のオリジナル要素を加えています。

 

「殲滅眼」(左眼):

全ての魔法、気、精霊を吸収し、強力な身体、回復能力を得る。

ただし吸収できる魔力量には上限があり、許容量以上の魔力を吸収すると、一定時間魔眼としての機能を失うと同時に視力を失う(オリジナル設定)。

 

 

「複写眼」(右眼):

全ての魔法、気、精霊を解析し、解除することができる。

ただし解析対象の魔法があまりに巨大であったり、強大であった場合は、一定時間魔眼としての機能を失うと同時に視力を失う(オリジナル設定)。

また、『殲滅眼』と違い、意識的にオンオフを切り替えることが出来る。

 

 

②魔法具作成

頭で思い描いた武器、アイテムを創造することができる。

創造したものは例外なく、魔力を直接注ぐことで使用することが出来る。どの程度の魔力が必要かは使用者によって異なる。

ただし、あくまでも「似た効力を持つ魔法具」であり、本物ほどの効果は望めない。

原則同じものを同時に2つ創造できないという制約がある、ただし複数あることが前提にあるものは例外である。

 




小説だけでなく、設定を作るのもとても大変なんですね。
他の方々がきちっとした設定を公開しているのをみると、尊敬の念を抱いてしまいます。
私も少しでも近づけるよう、がんばっていきたいと思います。


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第1話「麻帆良」

 

Side アリア

 

 

・・・シンシア姉様、ネカネ姉様、アーニャさん、故郷のみなさん、事件です。

なんとネギ兄様とはぐれてしまいました。

 

 

「・・・などと言っている場合では、ありませんね」

 

 

あれからそれなりの時間をかけて、私たち兄妹は日本の麻帆良学園にやってきました。

ところが、私が迎えの方を目で探している間に、隣にいたはずの兄様が忽然と姿を消したのです。

土地勘のない妹をおいてけぼりとは、なかなかどうして兄様もやってくれるではありませんか。

 

 

「・・・ここに来るまでに、会話もありませんでしたし・・・」

 

 

飛行機や電車の中でも、いくら話を振ってもろくな返事をしてくれませんでしたからね。

少しばかり回想してみますと・・・。

 

 

 

~飛行機の中~

 

「兄様、日本とはどんな場所なのでしょうね」

「そうだね」

「なんでも緑茶という、おいしいお茶があるのだとか、これは楽しみですね」

「そうだね」

「・・・いくら仕切りがあるとはいえ、こんな場所で堂々と魔法書読まないでください兄様・・・」

「そうだね」

「・・・・・・良い天気ですね」

「そうだね(パラパラと魔法書を読みながら)」

「・・・・・・・・・・・・はぁ(倦怠期の夫婦ってこんなのなんでしょうか)」

 

 

 

~電車の中~

 

「こ、これが日本の満員電車・・・!(10年ぶりに体験する感触です・・・!)」

「そ、そうだね・・・!」

「この期に及んでその一言で済まそうとする兄様は正直すごいです・・・!」

「そ、そ・・・そう、だね・・・」

「意識を保ってください兄様! もうすぐ駅ですから!」

「そ・・・・・・・・・」

「兄様~~!」

 

 

 

回想終わりです。

 

・・・今思うと電車の中は比較的親近感を持って接することができたような気がします。

それも放置というこの仕打ちで失われましたが。

さて、どうしましょうか。

兄様・・・面倒事に巻き込まれている可能性が大いに高いですね。

 

 

ウェールズでも人付き合いが少ない割に面倒事は良く持ってきていましたからね。

私もよく巻き込まれたものです。

あれが主人公体質というものなのでしょうか。

ふぅ、と溜息一つ。

さて、魔力の波長でも探査して兄様を探しますか、それとも・・・。

 

 

 

「なぁんですってこのガキぃ―――っ!?」

 

 

 

・・・涙声で叫ぶ女性の声が、耳に入りました。

どうやら、予想通りに巻き込まれたようです。

探す手間が省けたと喜ぶべきか、正直微妙です。

 

 

「取り消しなさいよおぉぉぉっ!」

「あう~~~~~っ」

 

 

声を頼りに来てみれば我が不肖の兄様が、ツインテールの女性に頭を鷲掴みにされていました。

・・・コレに声をかけるのは、少々勇気がいりますね。

そこで、少し離れたところにいる黒髪の女性に声をかけることにします。

 

 

「・・・あの、これはいったい・・・?」

「ん? あの子が明日菜・・・あ、あのツインテールの娘な? 明日菜に失恋の相が出とるって言うたんよ」

「それは・・・兄様が大変失礼いたしました」

 

 

まぁ、予想の範囲内と言うべきか。

本来ならば多少の感動を覚えるところですが、後回しです。

 

 

兄様の発言は人として、また同じ女性として、看過できる問題ではありません。

よもや兄様の固有スキル『AKY《あえて・空気・読まない》』が初対面の相手にも有効とは思いませんでしたよ。

 

 

「兄妹なん?」

「ええ、まぁ・・・」

 

 

正直認めたくないところですが。

まぁそれはいいとしても、どう収拾をつけましょうか。

と、私が考え込んでいますと。

 

 

 

「ネギくーん! アリアちゃーん!」

 

 

 

出ました! この私を唯一「ちゃん」付けで呼ぶお方!

眼鏡にお髭がとってもダンディな、高畑・T・タカミチさん。

 

 

「た、高畑先生!?」

「タカミチ!」

 

 

明日菜さんの手から逃れた兄様が、パタパタとタカミチさんに駆け寄っていきます。

・・・なんというか、親鳥を見つけた雛のようですね。

ある意味では間違っていない表現ではないかと思います。

まぁ、今はこっちが先でしょう。

 

 

「・・・・・・先ほどは兄様がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありませんでした」

「え? あ、い、さっきのガキの、妹さん?」

「はい。同じ女性として、謝罪させていただきます」

 

 

そう言って、深々と頭を下げます。

まぁ、私は肉体年齢10歳なので説得力皆無かもしれませんが。

すると、明日菜さんは慌てたような声音で。

 

 

「べ、別にあんたが頭下げなくてもいいわよ! 悪いのはあっちのガキなんだし」

「・・・ですが、兄様が失礼を働いたようですので・・・」

「ああもう、頭上げていいから! まったく、妹さんにこんなことさせるなんてなんてガキよ・・・」

 

 

・・・どうやら兄様の株をさらに下げてしまったようです。

まぁ、いいですかね。

私の株は上がったような気がしないでもありませんし。

 

 

「それよりも! あんたたち高畑先生と知り合いなの?」

「ええ、父のご友人ということで、兄様は特にお世話になっていましたから・・・。あ、申し遅れました、私、アリア・スプリングフィールドと申します。あっちは兄のネギ。お見知りおきください」

「あ、私は神楽坂明日菜。で、こっちが・・・」

「近衛木乃香やえ、よろしくな~」

「神楽坂さんに、近衛さんですね。覚えました」

「木乃香でええよ~」

「アタシも明日菜でいいわよ、というか、なんで子供がここにいるのよ?」

 

 

自己紹介を終えて、質問に答えようとした時、タカミチさんとネギ兄様がこちらにやってきました。

・・・どうでもいいですが、兄様。タカミチさんの後ろに隠れないでください。

なんだかとても情けないです。

 

 

「た、高畑先生!!」

 

 

そして、とっても笑顔な明日菜さん。

その様子に木乃香さんの方を見ると、小さく頷かれました。

なるほど。

 

 

「久しぶりだね、アリアちゃん。明日菜君も木乃香君もおはよう」

「はい、おはようございます!」

「おはようや~」

 

 

・・・「ちゃん」付けはやめていただけませんかね・・・。

この人昔から私のこと子供扱いなんですよ、仕方ないですけど。

そんなことを思いながら、タカミチさんに軽く一礼します。

 

 

「お久しぶりです、タカミチさん」

「とりあえず、学園長室まで案内するけど、大丈夫かな、疲れてないかい?」

「ええ、大丈夫です」

「明日菜君と木乃香君も一緒に来てもらえるかな?」

「はい! 高畑先生!」

「わかったえ」

 

 

 

途中兄様がくしゃみをして明日菜さんの服を弾き飛ばそうと画策したようですが、そこは私、魔眼所持者ですから。

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で暴発した魔力を吸収して防がせてもらいました。

タカミチさんを含めるみなさんにバレていないかドキドキものでしたが、大丈夫なようですね。

生粋の魔法使いがこの場にいなくて助かりました。

 

 

 

 

こうして、私と兄様の麻帆良での生活が始まりました。

いよいよ本格的に原作に介入ですね。楽しみです。

 

 

しかし最初からこれはなかなか疲れますね、明日菜さんの服を弾き飛ばさなかっただけ、マシなのでしょうが。

前途は多難ですが、見ていてください、シンシア姉様。

 

 

アリアは、やってみせます。

 

 




原作キャラクターの表現が難しいと感じる今日この頃です。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

まだまだ手探り状態の部分が多いですが、なんとか頑張りたいと考えています。

最初はとにかくゆっくりとしたペースで話を進めていこうと考えています。
次は学園長先生が出てきます。

どう演出するか、悩ましいところですがよろしくお願いします。


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第2話「学園長」

 

 

Side アリア

 

学園長室に案内された途端、私に衝撃が走りました。

故郷のみなさん、どうやら私に早くも第一の試練が訪れたようです。

まさか、まさか、麻帆良学園の長がこんな存在だったとは!

 

 

「兄様、下がってください! あれは妖怪です!」

「ええ!?」

「ふぉ!? 違うぞっ!?」

 

 

涙目で否定する学園長を名乗る妖怪、しかし私の眼はごまかせません。

魔法生物・・・否、これはもはや妖怪レベル。

私の魔眼にも、そこはかとなく妖気的な物が見える気がします!

 

 

「笑止! 人間の後頭部がそんなに長くてたまるものですか!」

「くっ・・・」

 

 

私の言葉に、誰かの笑いをこらえたような声が響きました。

しかし、私は至極真面目です。

 

 

「アリアちゃん、この人は人間だよ。僕が保証する」

「・・・・・・・・・本当ですか?」

「もちろん」

 

 

タカミチさんにそう言われて、とりあえず納得することにします。

というか、最初からわかっていました。けれどなぜか言わずにおけなかったんです。

・・・それにしても、本当に長い後頭部ですね。

 

 

「子供が教師なんて、どういうことですか!? しかも2人も!」

 

 

そうこうしているうちに話が進み、明日菜さんがもっともなことを言います。

たしかに、旧世界の法律には違反してますしね。

多少は知っています、労働基準法でしたか?

 

 

「大丈夫じゃ。2人とも外国の大学を飛び級して、教員免許も持っておるからの」

 

 

持ってませんよ。

というか、ネギ兄様はなぜさも当然というような顔をしているのでしょう。

 

 

「で、でも・・・」

「ええやんか明日菜、子供先生言うのも楽しそうやん」

「こ、木乃香まで何言って・・・」

「大丈夫だよ明日菜君、ネギ君もアリアちゃんも優秀だから」

「・・・高畑先生がそう言うなら、まぁ・・・」

 

 

高畑先生の言うことには素直な明日菜さん。

・・・素直に、可愛らしいなと、思いました。

これから兄がかけるであろう迷惑を思うと、少々胸が痛いですね。

しかし私には、どうすることもできません。

 

 

「それで、ネギ君とアリア君には2-Aの担任、副担任を担当してもらうことになっておる。担当は英語じゃ。それに伴い、タカミチ君には担任をやめてもらうことになるの」

「ええ!? タカミチ先生、担任辞めちゃうんですか!?」

「うん、出張がたまっていてね」

「そ、そんな~~~」

 

 

あからさまに落ち込む明日菜さん。木乃香さんが肩を叩いて慰めています。

まぁ、恋する相手との接点が減るというのは、女性として辛いですよね・・・。

・・・・・・よし。

 

 

「あの、学園長先生」

「うん? なんじゃ、アリア先生」

「タカミチ・・・高畑先生のことなんですけど、できれば2-Aの担当のままにできませんか?」

 

 

私がそう言うと、その場にいたみなさんが、少し驚いたような顔をしました。

まぁ自分でも結構無茶なこと言っている自覚はありますが、これくらいしても罰はあたらないでしょう。

学園長は豊かな髭をなでながら、困ったように眉根を寄せています。

 

 

「しかしのぅ」

「私と兄様のことを思ってのこととは、理解しています」

 

 

私たちの修行のためには、タカミチさんのような方は、言い方は悪いですが、邪魔でしかありません。

特に兄様には、良い影響を与えないでしょうね。

私はそうでもありませんが、といってあれこれ構われるのも面倒ですし。

 

 

「でも、それはあくまでもこちらの都合です。生徒のみなさんのことも、考えてほしいのです」

「何が言いたいのかな?アリアちゃん」

「高畑先生を慕って、高畑先生の指導を楽しみにしている生徒の方もいるのではないか、ということです」

 

 

ね? と明日菜さんと木乃香さんを見ると明日菜さんは激しく頷き、木乃香さんは苦笑しながら、小さく頷いた。

 

 

「うーん、でも僕も出張がたまっていて、とても担任の仕事まではできそうにないんだよ」

「はい、ですから担任に、という無理は言いませんので・・・なんとか、2-Aに何らかの形で関わる役職に就いていただけないでしょうか? カウンセラーとか、進路指導員とか、副担任補佐とか・・・」

 

 

お願いします。そう言って深々と頭を下げる私に、場が静まり返りました。

・・・今日一日で、すでに二回頭を下げています。

考えたくないことですが、まさかここにいる間中、頭を下げ続けることにはなりませんよね・・・?

 

 

「そこまで、生徒のことを考えてくれるか・・・」

 

 

学園長が、溜息と共に、感慨深そうに言いました。

 

 

「・・・わかったぞい。それなら、タカミチ君には2-A専属の不定期の生活相談員になってもらうとしよう、よいかの、タカミチ君?」

「・・・わかりました」

「ありがとうございます」

 

 

明日菜さんの顔を見てみると、さっきよりは表情が明るくなっていた。

その顔を見て、ほっとしました。

100点満点とは言えませんが、少しはお詫びができていればと、そう思います。

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「・・・・・・優しい子じゃのう」

「・・・・・・そうですね」

 

 

あの後、明日菜君と木乃香を下がらせた後、魔法使いとしての話をネギ君とアリア君にした。

今頃は、しずな先生に導かれて、2-Aの教室に向かっている頃じゃろう。

 

 

「生徒の想いも汲んでほしいとは・・・まだ年端もいかぬ子供なのにのぅ」

「思えば、アリアちゃんは昔から、周囲に対する気配りのできる子でしたから」

 

 

タカミチ君の言葉に、深く頷くことで答えた。

そして、ネギ君とアリア君についてのことが書かれた資料に目を落とす。

ネギ君は成績優秀で、純粋にマギステル・マギを目指す将来有望な魔法使い見習いじゃと言える。

対して、アリア君は・・・。

 

 

「・・・魔法が使えない、とはの」

「はい。でも僕とはまた違う体質のようで、魔力自体はネギ君同様高いようなんです」

「資料にも書かれておるのう。ふむ・・・治癒術師志望、とな・・・」

 

 

まぁ、人には得手不得手があるからの、それは良いのじゃが・・・。

 

 

「保護者の欄が、空白のままじゃの・・・」

 

 

事前に提出させたアリア君の書類の保護者欄が、空白のままじゃった。

 

 

いや、ネギ君とアリア君は両親の保護下にはないので、そのこと自体は間違いではない。

ただ、ネギ君は父親の欄にナギ・スプリングフィールドと誇らしそうな字で書いておるのに、アリア君は何も書いておらん。

かわりに、保護者代わりの従姉妹の名前を欄外に書き込んでおる。

 

 

それだけがすこし、気になった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

 

教室に向かう途中、ネギ兄様のやる気に満ちた背中を見ていると、なんとも言えない不安感が募ります。

空回りしないといいんですけど・・・。

まぁ、がんばってフォローしてみましょう・・・どこまでやれるかは不安ですが。

兄様自身はともかく、周囲に迷惑がかかることは阻止しなければなりません。

 

 

・・・でないと、私まで修行を失敗してしまいますからね。

それほど執着はありませんが、好き好んで失敗したいわけではありません。

 

 

ただでさえ、明日菜さんと木乃香さんの部屋に居候するという無茶な状況に陥っているのです。

原作を読んでいたころも何度か思いましたが、本当に何考えているんでしょうねあの学園長。

男女を同室とか、教師と生徒で相部屋とか、あらゆる意味でぶっちぎってますよ。

 

 

私ですか? まだ未定です。

放課後にまた来るよう言われています。

・・・よもや男性と相部屋とか、ないですよね?

 

 

・・・・・・もしそうなら修行とか無視して暴れましょう。

たぶん許され・・・ないでしょうね。

 

 

と、私がこの世の理不尽について考えていると、どうやら教室の前についたようです。

教室の前につき、しずな先生という、私と兄様の指導をしてくださるという女性と別れた時、兄様が突然、私の方を向きました。

・・・なんだか久しぶりに、兄様の顔を正面から見た気がします。

 

 

「ねぇ、アリア」

「はい、なんでしょう兄様」

 

 

珍しい。

兄様から話しかけてくるなんて・・・。

 

 

「アリアは、マギステル・マギにはなりたくないって、ほんと?」

 

 

・・・・・・藪から棒に何を聞いているんでしょう。この人。

たしかに私は正義の魔法使いとか興味ないですけど、なんで兄様がそのことを知っているんでしょうね?

ネカネ姉様か、アーニャさんにでも聞いたんでしょうか。

あの2人にだけは、私の目的を話してありますから。

 

 

・・・兄様が待っていますね。早めに答えてあげましょうか。面倒ですし。

私は、努めてにこやかに、兄様に答えました。

 

 

「ええ、私はマギステル・マギにはなりたくありません」

「どうして? 僕はアリアよりは成績はいいけど、アリアだって頑張ればマギステル・マギになれると思う」

 

 

・・・若干、馬鹿にされたような気がしますが、兄様に悪気がないのはわかっています。

 

 

「・・・私には、マギステル・マギになるために必要な資質が欠けていますから」

 

 

正義感とか、正義を信じる心とか、悪を憎む気持ちとか、赤の他人を救うという奉仕の心とか。

そんな面倒なもの、私にとっては何の役にも立ちません。

私はあくまで、私の目的のために、魔法を求めたのですから。

 

 

「でも」

「兄様? その話は後にしませんか? 今はお仕事中ですよ?」

「あ・・・そっか、そうだね」

 

 

というか、廊下でする話でもありませんよ。一般人も通るのですから。

改めて教室の扉を前にすると、兄様は緊張のためか、がちがちに固まっていた。

 

 

「がんばってください、担任なんですから」

 

 

私がそう言うと、兄様は意を決したように、扉を開きます。

私たちにとって、新しい世界を開く、そんな扉を。

 

 

 

見ていてください、シンシア姉様。

 





引き続きの投稿になります。
原作キャラクターの動きは難しいですね。
まだまだ精進が必要なようです。


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第3話「2-A」

今回は2-Aの生徒の何人かと触れあうことになります。

特に一人、なんとか絡めたいキャラクターがいるのですが、うまくできたか不安です。

あと今回、ネギファンの方にはちょっと厳しい場面もあるかもしれませんので、ご注意ください。

では、第3話をお楽しみください。


Side アリア

 

ネギ兄様が教室の扉を開くと同時に、黒板消しが落ちてきました。

兄様が無意識に張った障壁で一瞬止まるも、ほぼ同時に黒板消しを手に取ることに成功。

しかしその勢いで兄様を追い越してしまいます。

 

 

続いて床に張ってあるロープを足に微細な魔力を通すことで切ります。

傍目にはただ足で踏み抜いたように見えるはずです。

続いて飛来する玩具の矢を左手でまとめて掴み、水の入ったバケツは水を落とさないように右手で受け止め、床に置きます。

これでどうやら、仕掛けは終わったようです。

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

・・・気がつけば教壇の上、生徒のみなさんが呆然と私を見つめています。

何人かは、別の感情のこもった視線を私に投げかけていますが・・・とりあえず、挨拶をしませんと。

 

 

「・・・お初にお目にかかります。本日よりこのクラスの副担任になりました、アリア・スプリングフィールドと申します。未熟者ではありますが、兄ともども、よろしくお願いいたします」

 

 

深々と、頭を下げます・・・・・・はっ、今日3回目ですか・・・。

そんな風に少し落ち込んでいると、未だに扉で呆然としている兄様が目に入りました。

 

 

「・・・兄様? 兄様も自己紹介をしてくださいな」

「あ、うん!・・・えっと、今日からこのクラスの担任になりました。ネギ・スプリングフィールドです。担当教科は英語です。よろしくお願いします」

 

 

ぺこり、と頭をさげる兄様。

クラスの方々は一瞬沈黙しましたが、次の瞬間には。

 

 

「「「「かわいい~~~~!!!!」」」」

 

 

なかなか元気なクラスのようですね。

あ、明日菜さんと木乃香さんもいますね、目礼すると、軽く手を振り返してくれました。

いい人たちです。

その後は、クラスの方々が口々に質問を口にしますが、統一性が無いせいか効率が悪いですね・・・。

 

 

「はいは~い、それじゃクラスを代表して、この朝倉和美が質問させてもらうよ! えっと、まず年齢は?」

「「数えで10歳です」」

「追記するなら、飛び級で大学は出ていますよ」

 

 

嘘ですがね。

 

 

「ファミリーネームが同じだけど、兄妹なの?」

「「はい」」

「失礼だけど、あんまり似てないね?」

「えっと、僕は父親に似ていて・・・」

「私はよく母に似ていると言われます。加えて言うなら、二卵性の双子ですから」

 

 

・・・髪の色は後天的なものですが。

 

 

「では最後に、このクラスで気になる人はいますか?」

 

 

明らかに、兄様向けの質問ですね。

兄様は困惑したように眉を寄せて、最後にはう~んと考え込んでしまいました。真面目ですね。

ちょうどその時、授業開始のチャイムが鳴りました。

 

 

「・・・時間ですので、質問はこれで終了させていただきます。兄様、授業を」

「え、あ、うん。みなさん、教科書を開いてください!」

 

 

中途半端に終わってしまったせいか、不満げな表情をしている方が何人かいます、なだめつつ授業に入ります。

兄様が教壇に立ち、私は教室の後ろに下がります。

その途中で、ある生徒の前で立ち止まります。

 

 

「絡繰さん」

「はい、なんでしょうか? アリア先生」

 

 

絡繰茶々丸さんです。緑色の髪をした、可愛らしい女性です。

そして、私の目的の人の、関係者でもあります。

 

 

「貴女の主に伝言をお願いします。明日の夜にでも時間を頂けますか? 有益な情報を提供させていただきます。と、そうお伝えください」

「・・・・・・わかりました」

 

 

おそらく、意図は伝わるはずです。

絡繰さんの様子に、私は頷くと、主のいない机に目をやった後、今度こそ教室の後ろに下がりました。

 

 

 

 

 

Side アスナ

 

英語の授業が始まって数十分、あのガキンチョの授業が続いている。何を言っているかはなんとなくわかるんだけど、黒板に書いてあることはほとんどがわからない。

英語って苦手なのよ・・・他のは・・・苦手だけど。

 

 

「えっと、つまりここは過去形ですから・・・」

 

 

ガキンチョが教室内を歩きながら、教科書の英文を流暢な英語で読みあげている。

さすが外国人だけあって、えらく堂に入っている・・・気がする。

でも子供が先生とか、やっぱりおかしいわよ!

高畑先生も担任やめちゃうし・・・。

 

 

そこで、ふと後ろの、妹の方を盗み見る。

あのガキンチョの妹とは思えないほど、大人びた女の子。

さっきだってガキンチョのことをフォローしてたし・・・というか、クラスメイトの仕掛けたいたずらを全部突破するとは思わなかった、正直言って驚いた。

思えばあれも、あのガキンチョ・・・お兄さんをかばってたみたいだし・・・。

 

 

さっきの騒動の中で、お兄さんが迷惑をかけたと、謝ってきたし・・・。

 

 

(お兄さん想いな、いい子なのね)

 

 

うんうん、と、なんとなく頷いてみる。

 

 

(担任はやめちゃったけど、高畑先生がこのクラスに残れるようにもしてくれたし・・・)

 

 

それだけでもう、私の中での妹さんの評価はうなぎ上りなのである。

それに比べて・・・と、ガキンチョの方を見ると。

 

 

「えっと、じゃあこの訳を・・・」

 

 

やば! 当てられたくないので、慌てて目をそらす。

間違っても私を当てるんじゃないわよ!

 

 

「神楽坂さん、お願いします」

 

 

ってなんで当てるのよ!?

 

 

「ちょっとなんでアタシなのよ!? 出席番号とか関係ないじゃない!」

「えっと・・・朝のお詫びを兼ねて・・・」

 

 

お詫びになってないわよ!

後ろの方で、誰かが溜息をつくのが聞こえた。

絶対妹さんだろう。

根拠はないけどそんな気がする。

 

 

「要するに、わからないんですわね。では委員長のわたくしが・・・」

 

 

横から、委員長であるあやかが口を出してきた。

馬鹿にするような口調に、思わずむっとしてしまった。

これくらい、わたしだって!

 

 

「わ、わかったわよ、訳すわよ! えっと・・・」

 

 

訳そうとしたけど、やっぱり全然わからなかった

そんな私に、ガキンチョは・・・。

 

 

「明日菜さん、英語だめなんですねぇ?」

「なっ!?」

「明日菜さんは英語だけでなく、体育以外が苦手なんですのよ」

 

 

ガキンチョとあやかの声に、クラスメイトたちが笑った。

悔しくて、拳をにぎりこんだ。でも、私が勉強が苦手なのは事実だった。

だけど・・・。

 

 

「何をやっているのでしょうか、兄様・・・?」

 

 

その時、私の横から呆れたような声が聞こえた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「何をやっているのでしょうか、兄様・・・?」

 

 

読者として原作を読むのと、実際の現場で見てみると、感じる気持ちは違うものです。

私の感情が伝わったのか、先ほどまで笑っていたクラスの方々が、静まり返っています。

 

 

「え、な、何って・・・」

「兄様は今、教師としてしてはならないことをしました」

 

 

私の言葉に、困惑したような顔をするネギ兄様。

・・・本当にわからないのですね。

純粋もここまで来ると害悪でしかありませんね。

若干、苛々します。

精神年齢的に。

 

 

「・・・たしかに、明日菜さんの成績は現状、お世辞にも良いとは言えません」

 

 

横にいる明日菜さんが、身を固くする雰囲気が伝わってきた。

 

 

「でも、明日菜さんは努力ができる方です。事実、体育の成績は良いのです。一つでも得意なことがあれば、頑張ることの大切さを知っているはずなのですから。そんな方を捕まえて、だめとはなんですか」

「で、でも、委員長さんだって・・・」

「雪広さんと明日菜さんは、数年間の付き合いがあります。それはお互いのやりとりや距離感を作るのに十分な時間です。でも、私や兄様は今日会ったばかりで、そんな信頼関係はないでしょう?」

「あ・・・」

 

 

やっと伝わってきたようですね。

・・・まぁ、10歳でそこまで心の機微に敏感なわけもありませんけど。

でも兄様は今、教師ですから。

ちゃんと考えていただかないと困ります。

主に周囲の方々が。何より私が。

 

 

「兄様だって、まだ実現できていない目標があるのに、今できないからだめだと言われたら、いやでしょう?」

 

 

マギステル・マギの目標を否定されたら、怒るでしょう?

言外にそう込めて、言葉を続ける。

 

 

「ある程度の努力をしている人に、今がだめだからもうだめ、なんて言ったら、その人はもう努力しなくなります。それはもう、取り返しがつかないことなんです。兄様は今、明日菜さんに対してそれをしたんです」

「・・・うん、そうだね、明日菜さん、失礼なことを言ってすみませんでした」

「べ、別にいいわよ・・・目の前でそんなやりとりされたら、怒れないし・・・」

 

 

ぺこりと頭を下げる兄様に、明日菜さんが照れたように言いました。

本当に良い人ですね。

さらに私は雪広さんの所に行って。

 

 

「雪広さんも、あんまりからかわないであげてくださいね」

「わ、わかりましたわ」

 

 

こくりと頷いてくれる雪広さん。

この方も、良い人ですね。

良い人多いですね、このクラス。

 

 

『わ~、アリア先生ってお若いのに、すごい人なんですね~』

「いえ、大したことはしていません」

 

 

横から聞こえた声に、そう返しました。

まぁ、褒められて嫌な気分にはなりませんね。

照れます。

 

 

「・・・先生、誰と話してるの?」

 

 

朝倉さんが、そんなことを言ってきました。

誰って・・・。

 

 

「この方ですよ?」

「先生・・・誰もいないよ・・・?」

 

 

はい?

 

 

「ちゃんといるじゃないですか・・・って、半分透けてますね、具合でも悪いんですか?」

『大丈夫ですよ、幽霊ですから』

 

 

幽霊・・・ですか、なるほど言われてみれば・・・。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』の解析能力にひっかかったんでしょうか?

 

 

『って、私が見えるんですか?』

「はい。見たところ制服が違いますけど、このクラスの方ですか?」

 

 

だとしたら、ちゃんと覚えなくては、ですね。

 

 

『そうです!わ、私のことが見えるなんて・・・60年ぶりです~~』

 

 

そう言って泣き出す幽霊さん。

これはいけません。

 

 

「はいはい、泣かない泣かない・・・」

 

 

よしよしと頭をなでてあげます。

掌に微弱な魔力を通して、幽霊さんに触れるようにします。

 

 

『ふぇ~、あ、あたたかいです~』

「ああ、泣かないで・・・」

『す、すみませっ・・・60年ぶりのぬくもりで、嬉しくて・・・』

 

 

なるほど、60年・・・想像するしかありませんが、きっと辛かったことでしょう。

・・・ふむ。

 

 

「では、今日から私たちは友達です」

『ふぇ? と、友達になってくれるんですか~?』

「はい、よろしくお願いしますね」

『は、はい! わ、私は相坂さよです!さよって呼んでください!』

「私はアリア・スプリングフィールドです。アリアとお呼びください、さよさん」

『はい! アリア先生!』

 

 

嬉しそうに笑ってくれるさよさん。

うん、よかったです。

 

 

「あ、あの先生、大丈夫・・・?」

「はい、大丈夫ですよ。ちょっと幽霊・・・さよさんとお話を」

「「「幽霊!?」」」

 

 

どよめくクラス。これはいけませんね。注意しなければ。

 

 

「みなさん、今は授業中です。静かにしてください」

「「「いや、それどころじゃないよ!?」」」

 

 

その後もなかなか静まれず、授業終了のチャイムが鳴ってから落ち着きました。

兄様はオロオロしてるばかりで、大して役に立ってくれませんでしたし・・・。

まぁ、初日、初授業ならばこんなものですか。

さよさんとお友達になれただけ、よしとしましょう。

 

 

しかしまさか幽霊に出会うとは、何が起こるかわかりませんね。シンシア姉様。

教師になった以上、幽霊とはいえ生徒の将来のため、頑張る義務があります。

 

 

 

アリアは、がんばっております。

 




最後まで読んでくださってありがとうございます。

今回は思った以上に主人公とネギが比べられる状況になってしまったかもしれません。ネギファンの方、ごめんなさい。

今回は出会いませんでしたが、主人公の目的の人物とも、近く接触することになります。


まだどうなるか不透明な部分もありますが、楽しんで頂ければ、嬉しく思います。


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第4話「歓迎会・表」

自分が昔書いた小説って、どうしてこうも・・・いえ、何でも無いです。
では、どうぞ。


Side アリア

 

初日の授業を終え、学園長先生から住居についての説明を受けた後、木乃香さんに伴われて教室に戻りました。

その間に誰かが魔法を使った反応を感知しましたが、あれは兄様の魔力反応・・・?

かなり不安ですが、ここからではどうすることもできません。

 

 

「アリア先生連れてきたえ~」

「「「「ようこそ! 2-Aへ!!!」」」」(パンパカパ~ン!)

 

 

教室についた途端、クラッカーの音が鳴り響きました。

これは・・・?

 

 

『ネギ先生とアリア先生の歓迎会ですよ~』

「歓迎会・・・それは、また」

 

 

そんなことを言いながら、幽霊のさよさんがふよふよと近づいてきました。

歓迎会・・・あ、ネギ兄様も、教室の中ほどで生徒のみなさんといますね。

何やら明日菜さんと話し込んでいる様子。

 

 

「・・・ありがとうございます」

「いいっていいって! で、ね? ネギ君の妹さんであるアリア先生にも、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・いいかな?」

 

 

朝倉さんが、テープレコーダー片手に話しかけてきました。

この年齢で大したジャーナリズム魂ですね。

 

 

「私などよりも、兄様の方が記事になるのでは?」

「ネギ君にはもう聞いたよ」

 

 

仕事が早いですね。

 

 

「ええっと、まず・・・ネギ君よりもずっと落ち着いて見えるけど、本当に妹?」

「生まれる順番としては、妹ですよ」

 

 

初日でこんなことを言われるネギ兄様は大丈夫でしょうか・・・?

・・・・・・・・・まさか。

 

 

「・・・私、見た目より・・・年上に、見えますか・・・?」

「え!? いや! そんなことはないよ!?」

 

 

朝倉さんが慌ててそう言いましたが、まさか、ふ、老け・・・。

 

 

「大丈夫ですよ、先生。年相応に見えますよ」

「そうとも、先生は10歳だよ・・・ちゃんと、10歳に見えるよ」

 

 

そう言って肩を叩いてくれたのは2-Aの生徒の・・・龍宮真名さんと那波千鶴さんです。

なぜでしょう、とても親近感というか、共感するものが・・・。

 

 

「・・・ちゃんと、年相応な所も、あるんです」

「ええ、少し人より落ち着いて見えるだけです」

「ああ、ちゃんと・・・ちゃんと年齢相応なんだ、中学生なんだ・・・」

 

 

朝倉さんには申し訳ないですが、しばし真名さんと千鶴さん(そう呼んでいいとのこと)と親睦を深めます。

・・・ふとネギ兄様の方を見ると、タカミチさんの額に手を置いていました。

 

 

・・・・・・あの術式構成は、読心術ですね。

明日菜さんが一緒にいるところを見ると、そういう関係ですかね。

・・・でも明日菜さんは魔法を知らないはずで・・・いや、それ以前の問題として。

 

 

これ、私どうすればいいんでしょう。

普段なら慌てる所なんですが、監督すべき立場であるタカミチさんがなぜかニコニコ笑ってるんですけど。

どうすればいいんですかこれ。

 

 

判断に困ってそのまま見ていますと、明日菜さんがショックを受けたらしく教室を飛び出して行きました。

兄様と何人かのクラスメイトがそれを追いかけていきます。

・・・・・・なんですかあれ。

 

 

 

「アリア先生、勝負アル!」

「・・・・・・・・・・・・はい?」

 

 

私が脳内で今後の対応を協議していると、横から突然声をかけられました。

しかも勝負を挑まれました。

 

 

振り向いてみれば、褐色の肌の元気そうな女の子と、長身で細目の女の子。

えーと・・・。

 

 

「・・・クーフェイさんと、長瀬さん?」

「勝負アル!」

 

 

二回言われました。

そんなに大事なことだったのでしょうか。

そして初日で顔と名前を一致させるという偉業を軽く無視されました。

激しくショックです。

 

 

「・・・さきほどの動き、アリア先生はタダモノではないと感じたでござる」

「だから勝負アル!」

 

 

だからの意味がわかりません。

そしていまさらながらに後悔します。兄様見捨てれば良かったです。

 

 

・・・やめてくださいクーフェイさん。

そんなキラキラした目で私を見て、いったいどうしたいんですか。

大体私年下ですよ、しかも女の子ですよ、ついでに教師です。

殴っても殴られても大問題じゃないですか。

 

 

「(キラキラ)」

「・・・」

「(キラキラ)」

「・・・・・・」

「(キラキラ)」

「・・・・・・・・・」

「(キラキラ)」

「・・・・・・・・・・・・き、今日は仕事が残ってますので・・・・・・・・・」

 

 

私は逃げました!

 

 

「じゃあ今度の休日に勝負アル!(キラキラ~)」

 

 

しかし回り込まれました!

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・で、ではそれで・・・・・・・・・・・・・・・」

「絶対でござるよ?」

 

 

なぜかドサクサで長瀬さんも約束の内に入ってしまいました。

ど、どうしましょう・・・。

 

 

『諦めるしかないんじゃないでしょうか~』

 

 

さよさんにふわふわとひどいことを言われました。

 

 

 

 

 

 

「・・・ずいぶん、遅くなってしまいました」

 

 

歓迎会も終わり、初日の報告書をまとめていると随分な時間になってしまいました。

え? ネギ兄様ですか? 歓迎会終了と同時に帰りましたが何か?

 

 

「・・・うん・・・と。まだスーパーとかあいてますかね・・・?」

 

 

コンビニ弁当とかは、哀しくなるんでいやですね。

そんなことを思いながら、夜勤の先生にお店の場所を聞いて晩御飯の買い出しに行きます。

急がないと。

まぁ、今日は簡単なものでも・・・。

 

 

「おお、すっかり夜ですね~・・・」

 

 

空を見上げてみれば、満天の星空。

場所が違えば見える星も違うんですね~とか思いつつ、そんなことを呟いています。

そんなことを呟いた、次の瞬間。

 

 

やたらと物凄い衝撃が、私を襲いました。

 

 

 

 

 

Side ???

 

ドゴンッ!!

 

 

大きな鈍い音を立てて、私の召喚した大鬼が、ターゲットの少女を殴り飛ばした。

いや、殴り飛ばしたという表現は正しくはないな・・・叩き潰したと言った方が良いだろう。

 

 

「年端もいかぬ子供が相手、というのはあまり気が進まなかったがな・・・」

 

 

栓もないことを呟いていると、契約を果たしたのだろう、大鬼が消えた。

あれは強いが、こちらのコントロールが効かないのが難点だな。

その代わり、一つの事はきっちりやってくれるのだがな。

 

 

・・・後味は良くないが、しがない雇われの身だ、こういう仕事もあるだろう。

 

 

「・・・さて、他の者たちに気付かれる前に、消えるとするか・・・」

「どこへ?」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・やっちまいましたね。

 

 

不意打ちを喰らったのは久しぶりだったもので、思わず過剰防衛してしまいましたよ。

いきなりだったもので、怒ってもいましたし。

 

 

「・・・一応、生きてはいるみたいですけど・・・」

 

 

私が何をしたかというと、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で私を殴った鬼を喰って身体強化及び自動回復、ならびに『複写眼(アルファ・スティグマ)』を使用し、魔法か何かで隠れているいかにも妖しい人物を補足、思いっきり殴り飛ばしてしまいました。

 

 

「かなり嫌な音がしたんですけど・・・まぁいいですかね。他人ですし」

 

 

話を聞けないのは困りますが、どうせ大した情報も持ってない下っ端でしょう。

残りの魔力を根こそぎ奪って、縛って放置しときましょう。

そのうち誰かが見つけてくれるでしょう。

それより・・・。

 

 

「・・・どうも、にわかに活気づいてきたようですね」

 

 

遠くから感じる音と、声。

そして戦いの雰囲気。

 

 

「今度から、夜は出歩かないようにしましょう・・・出来る限り」

 

 

その中には、軽く知っている反応もあります。

まぁ放っておいてもいいんでしょうけど。

そこまで人でなしなつもりもありません。

何より私が静かに食事することができません。これは大問題です。

 

 

・・・・・・私も存外いい人ですよね。シンシア姉様。

それでは。

 

 

 

アリアは、行ってまいります。

 




最後までお読みいただき、ありがとうございます。


登場させたいキャラクターが多くて、なんとなく混乱気味です。

次回はあるキャラクターとちょっぴりお近づきになる予定です。


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第5話「歓迎会・裏?」

みなさまの応援をいただき、なんとか5話まで書くことができました。
本当にありがとうございます。

今後もみなさまから力をもらいつつ、がんばっていきます。

では、第5話です。


Side 刹那

 

「・・・数が多い・・・」

 

 

学園長の連絡を受け学園への侵入者を排除しに来たはいいが、次から次へと召喚される鬼は一向に得る気配を見せない。

術者の姿も、いつの間にか見失っていた。

 

 

「不味い・・・」

「刹那!」

「なんだ!?」

 

 

鬼と切り結びながら、相棒である真名の声に応じる。

 

 

「何か来る!」

「何かってなん・・・あぅ!?」

 

 

真名に気を取られたためか、横からの鬼の攻撃に対応できなかった。

吹き飛ばされ、木に叩きつけられた。

刀は手放さなかったが、まずい・・・!

 

 

「刹那!」

 

 

真名が援護に来てくれようとするが、別グループの鬼たちに阻まれ、できない。

その間に、鬼たちが私にとどめを刺しに来た。

 

 

(お嬢様・・・!!)

 

 

目を閉じて思うのは、大切なお嬢様。

 

 

(私が死んだら、お嬢様は悲しんでくださるだろうか・・・?)

 

 

場違いとは思いつつも、そんなことを考えてしまう。

そして私は、次の瞬間に来るだろう衝撃に、覚悟を決めた。

そして・・・。

 

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

 

いつまでも来ない衝撃。

不審に思って、おそるおそる、目を開ける。

すると、そこには・・・。

 

 

「・・・・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 

真っ白な女の子が、そこにいた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

 

鬼というものは初めて見ました!

とはいえあまり可愛くありませんので、大して興味は湧きませんね・・・。

と、あれは・・・?

 

 

(真名さんと・・・桜咲さん・・・?)

 

 

って、桜咲さん殴られました! 殴られましたよ!?

あの野郎・・・鬼? とにかくとっちめましょう!

そう考えた私の手には、一冊の本がありました。

 

 

この本の名は、『魔法事典』。

本自体は何も書かれていない白紙の本ですが、そこに魔法の効果を書き込むことで、その通りの魔法を使用することが可能となります。

ド○えもんですね、わかります。

 

 

本来ならば『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で魔法の使用できない私ですが、魔法の使用条件に「殲滅眼による吸収効果を受け付けない」などの条件付けを行うことで、巧妙に魔眼を騙しています。

ただやはり限界があり、あまり攻撃的な魔法には使用制限がかかってしまうのですが・・・。

そこで。

 

 

「『コズミック・マリオネーション』・・・!」

 

 

本を持っていない方の私の手から、魔力で編まれた無数の見えない糸が放たれ、刹那さんを取り囲んでいる鬼たちを拘束しました。

この糸に拘束された者はもはや、自分の意志では身体を動かすことが出来ません。

すべからく、私の操り人形と化すのです。

 

 

よもやド○えもんの道具で星○の技を使うとは、私の発想力も底が知れているのやもしれません。

でもやめませんけど。

かっこいいじゃないですか、ミー○ス様。

 

 

何よりこの『糸』の良いところは、傍目には私が何をしているのかがわからないところです。

通常の魔法術式とは根本からして異なりますから。

「何かしている」ことはわかっても、「何をしているか」はわからないはずです。

 

 

「・・・・・・・・・大丈夫ですか?」

 

 

何やら呆然としている桜咲さんに、声をかけます。

そしてその片手間に、拘束している鬼たちの首をもいでおきます。

真名さんの方の鬼も同様に拘束、全身の骨を砕いて還しておきましょう。

話もできやしません。

 

 

「・・・2人とも、大丈夫ですか?」

「あ、アリア先生・・・?」

「これは・・・」

 

 

真名さんと桜咲さんが、目を丸くして驚いています。

ふむ、残りを殲滅しつつ事情を説明しますかね。

 

 

「それはですね」

 

 

ミシミシ・・・・・・バキッ!

 

 

「私は2人の担任ということになってますから」

 

 

ゴキッ・・・バキンッ!

 

 

「・・・で、来てみたらピンチのようでしたから・・・」

 

 

ゴリッ・・・バキビキィッ「ぎゃ!?」!

 

 

「助けに来たと・・・おや?」

 

 

2人に話しながら背中越しに『糸』を放っていたのですが、何か悲鳴のようなものが聞こえましたね。

鬼? も、どうやらいなくなったようですし。

 

 

「い、いてぇ、いてぇよ~・・・っ!」

「おや・・・」

 

 

茂みから、両足を折られて転がり出てきた人がいました・・・ふむ、この方が鬼の召喚師でしょうか?

何やら「足が」だの「痛い」だのとうるさいですね・・・。

 

 

「・・・うるさいですよ」

 

 

話ができないじゃないですか。

私は『糸』でその方の全身を拘束し、地面に叩きつけてさしあげました。

まだくぐもった叫び声がしてうっとうしいので、さらに骨盤を砕いてあげます。

のたうちまわる音がさらにうるさいので、両腕を折り、肋骨の半分を半ばから砕きました。

・・・そこまでしてようやく、静かになりました。

あ、一応聞いときませんと。

 

 

「生かしたままの方がよいですか?」

「え、ええできれば・・・」

 

 

いくらか強張った表情で、桜咲さんが答えます。

まぁ危機的状況でしたから、今になって怖くなったのでしょう。

よくあることです、私もウェールズにいた頃はありました。

私は『糸』を消し、『魔法事典』をしまいました。

えっと、どこまで話しましたっけね。

 

 

「・・・アリア先生は・・・」

「はい?」

「何者なんですか?」

「・・・?」

 

 

なかなか哲学的なことを聞きますね。

というか、なんだか心なし怖がられているような?

 

 

「・・・あれ、もしかして私、怖かったりします?」

「そ、それは・・・」

「あんなものを見せられては、仕方がないんじゃないかな?」

 

 

桜咲さんは困惑したように、真名さんは苦笑して、そう言いました。

ええっ!?・・・軽くショックです。

 

 

「・・・敵を薙ぎ払っただけじゃないですか・・・」

「問題はそこじゃないんだけどね」

 

 

困りましたね・・・。

魔法に関してはまぁ、関係者のようですから良いとして、私のことを話してよいものかどうか・・・。

どうしますか・・・。

 

 

 

 

 

Side  学園長

 

「どういうことじゃ・・・?」

 

 

タカミチ君からもたらされた報告に、ワシは困惑を隠せんかった。

 

 

今夜の警備中に、一部の魔法生徒が危機に陥った。

対策が必要じゃが、これはそれほど驚くことではない。

 

 

2人の侵入者らしき者が、縛られて放置されておった。

内一人は、タカミチ君が回収する前に、自害してしまったらしいが・・・。

問題なのは、その2人を無力化した者の名前じゃ。

 

 

「アリアちゃんです」

 

 

タカミチ君自身、困惑しておるようじゃが、ワシはもっと混乱しておる。

 

 

「アリア君は、魔法が使えんはずじゃろう?」

「はい、その・・・魔法は、使っていませんでした」

「・・・・・・どういうことじゃ?」

 

 

タカミチ君の話によると、アリア君は生徒の危機にさっそうと現れ、十数体の鬼をものともせず、こともなげに相手を無力化して見せたらしい。

しかもその方法が、タカミチ君にはわからない、というのは・・・。

 

 

「何か、本を持っていたようなのですが・・・すみません、僕も純粋な魔法使いではないので・・・」

「むぅ・・・」

 

 

情報が不足しておるな。判断がつかん。

だが、アリア君がこちらに何かを隠しているのは、わかった。

 

 

一度呼び出して・・・いや、おそらく素直には教えてくれんじゃろうな。

確たる証拠もないようじゃし。

今のところこちらに害があるわけでもない。

 

 

「・・・・・・しかたないの、この件はとりあえず保留しておこう」

「はぁ」

「今は警備の強化の方を優先したいしの」

 

 

ただでさえ人手不足なのじゃ、不確定要素にまで手が回らんわい。

じゃが捨て置けもせんし、一応軽く監視はしておくかの・・・・・・。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

 

「ど、どうしてこんなことに・・・」

「まだそんなことを言っているのかい?」

 

 

むしろ真名、お前はどうしてそんなに自然体でいられるんだ・・・。

そして何よりも!

 

 

「あの・・・先生?」

「はぁ~い、もうすぐできますからね~」

 

 

どうして、アリア先生がエプロン姿でお料理していて、私は座ってそれを待っているのでしょうか・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

 

「ふんふふふんふ~ん~♪」

 

 

私は鼻歌を歌いながら、お料理をしています。

あれからいろいろ考えてみたのですが、まぁ何を話すにしろ時間がかかるかとも思いましたので、我が家に招待することにしました。

 

 

そう、我が麻帆良女子中女子寮管理人室に!

10歳が管理人とかなんですか! と抗議しましたがあの学園長、聞く耳持ちません。

まぁ責任をとってくれるならなんでもいいですが・・・と。

 

 

「できましたよ~♪」

「あ、手伝います」

「お気になさらず~」

 

 

居間にいる真名さんと刹那さん(自己紹介しました)のところへ、膳を運びます。

今日は2人に合わせて、和食です。

こうみえて、お料理のレパートリーは豊富です。

・・・・・・嘘です、ごめんなさい。

 

 

『わ~おいしそうですね~』

 

 

さよさんに手伝ってもらいました(レシピ的な意味で)。

なぜここにさよさんがいるのかというと、60年ぶりの友達に感激したのか、よくついて回るようになりました。

・・・・・・まさかとは思いますが、取り憑かれたわけではありませんよね?

リアル幽霊と接するのは初めてなので、判断に困ります。

 

 

「こ、これは・・・ありがとうございます」

「いただきます」

「はい、どうぞ~」

 

 

そのまま食事タイムに突入します。

初めて作ったにしては上出来なようで、2人からも「あ、これ美味しいです・・・」などと言ってもらえました。

しばし静か、かつ楽しい時間が続きます。

 

 

「・・・って、先生! それより話を・・・!」

「食事中はお静かにですよ~」

「あ、はい、すみません・・・」

 

 

意外に素直な刹那さんでした、まる。

30分後・・・。

 

 

「・・・さて、何をお聞きしたいのですか?」

 

 

片付けを済ませ、食後のお茶などを入れながら、そう言います。

いくらか落ち着いたようですし、いい頃合いでしょう。

 

 

「先生が何者なのか、です」

「・・・何とも抽象的ですね、もう少し具体的に聞いてくださるとありがたいのですが」

「では・・・さきほど鬼を薙ぎ払った力は・・・?」

「ああ、あれですか。あれを説明するには、一つ先に言っておかなくてはならないことがあります・・・」

「・・・と、言うと?」

「はい、実は私は・・・」

 

 

私の真剣な様子に、真名さんと刹那さんは息を飲みました。

 

 

『私は飲みたくても息できませんから・・・』

 

 

無意味に悲しみを誘う発言をしないでください、さよさん。

さよさんに心の中で突っ込みを入れつつ、私は告げました。

 

 

 

 

「私は・・・・・・魔法使いだったのです!!」

 

 

 

 

明かされる、衝撃の真実!

 

 

「「知ってますよ」」

「・・・・・・ですよね」

 

 

何もそんな冷たい目をしなくても良いじゃないですか・・・。

 

 

『え?え? 魔法使いってなんですか?』

 

 

一人、さよさんだけが驚いていました。

ある意味魔法使い以上に摩訶不思議な存在なんですが、貴女。

 

 

「真面目に言いますと・・・あれは魔法具ですよ、ただの」

「魔法具にしては、強力すぎないかい?」

「使用者の魔力に比例しますから・・・つまり私の魔力がすごいということですね」

「まぁ・・・それは、いいです」

 

 

ひそかな自慢がスルーされました。

軽くショックです。

 

 

「では、どうして私達を助けてくれたんですか?」

「生徒だからですよ」

 

 

ここは即答しますよ。というか、それ以外に何かあり得るんでしょうか・・・?

 

 

「私は先生で、貴女たちは生徒です。助けない選択肢はありません」

 

 

私が10歳で貴女たちの方が年上というのは、この際問題ではありません。

ようは関係性の問題です。

 

 

「ですが・・・」

 

 

何やら刹那さんはご不満な様子。

私は真名さんの方を見て。

 

 

「何か変なことを言いましたか?」

「いや? 何も変わったことは言っていないよ」

 

 

そう言う真名さんの顔は、どことなく面白がっているようでした。

まぁ、それ以上のことは話しようがありませんので、その後は、他愛のないことを話しました。

最後には刹那さんもぎこちなくですが、笑顔を見せてくれたように思います。

 

 

『あ、あの~、魔法使いって・・・』

 

 

・・・さよさんへの説明は、どうしましょうか。

 

 

 

幽霊って扱いが面倒です。シンシア姉様。

 

 

アリアは、悩ましいです。




『魔法事典』のアイデア:水色様。
ありがとうございます。

*注意です。
魔法具などの投稿はすでに終了しております、ご了承くださいませ。
(再投稿作品なため)


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第6話「契約」

今回はついに目的のあの人と接触します。

事前の設定が私に重くのしかかってきますが、自分でやったことなので頑張るしかありません。

というわけで、6話目をお楽しみください。



Side アリア

 

今日も一日、教師としての仕事を終えた私は、さて女子寮に戻ろうとしていました。

すると、珍しいことに、ネギ兄様が声をかけてきたのです。

しかも・・・。

 

 

「アリア、どうしよう・・・明日菜さんに魔法、バレちゃった・・・」

 

 

などという爆弾発言を、結界も張らずに、しかも人目がある中で言いやがったのです。

・・・学習能力、ゼロなんでしょうか。

 

 

「・・・・・・とりあえず、こちらへ」

 

 

私は兄様の居候先である女子寮まで戻ると、自室(管理人室)に兄様を招き入れました。

ウェールズから取り寄せた紅茶を入れ、兄様に出してあげます。

 

 

「あ、ありがとう・・・」

「どういたしまして。それで、どういうことですか? いきなりバレたと言われても困りますが」

 

 

私の自室には、常時結界が貼ってあります。

仕事柄人払いはできませんが、感知式のものを使っています。

それと、覗き見防止です。

 

 

兄様の話を要約すると、こうなります。

 

①生徒である宮崎のどかさんが階段から落ちそうだったので、魔法を使って助けた。

②明日菜さんに見られた。

③記憶を消そうとしたが、どういうわけかできなかった。

④困った、どうしよう(今ここです)

 

 

「・・・なるほど」

 

 

突っ込みたいところは山ほどありますが、概ね理解しました。

というか、先日感じた魔力反応はそういうことですか。

 

 

「・・・別に学園長先生に報告して、どうにかしてもらえばよろしいのでは?」

「だ、駄目だよ! そんなことしたら修行が・・・」

「それはまぁ・・・そうでしょうけど」

 

 

そんなことを言いつつ、私はそれでも大丈夫なのではないか、と考えていました。

あの学園長、そしてタカミチさんも・・・ネギ兄様の修行を優先しそうな気がするのです。

 

 

「・・・なら、もうやることはひとつでしょうに。明日菜さんに話す他ありません」

「でも・・・」

「でもも何もありません。黙っていてもらえるよう、お願いするしかないでしょう」

 

 

それ以上のことは私にはできません。

私の魔法具を使えばなんとかならないこともないですが、兄様はそこまで強力な魔法具を私が作れるとは知りません。

 

 

言ってませんから。

 

 

こんなところで言うつもりもありません。刹那さんや真名さんにも、他言しないようお願いしてあります。

さよさんは・・・。

 

 

『あわわわ・・・』

 

 

困り果てている様子で兄様を見ているさよさんを視界の隅にとらえつつ、見えてないので大丈夫でしょうと、少し酷いことを考えます。

 

 

「第一、仕方ないではないですか。宮崎さんを救うには、魔法を使うしかなかったのでしょう?」

「う、うん」

「ならば、魔法を見られたことを後悔するということは、宮崎さんを救ったことを後悔することになります。兄様は、後悔していないのでしょう? 宮崎さんを助けたことを」

「う、うん!」

 

先ほどよりも力強く頷く兄様に、微笑んで見せます。

 

 

「なら、明日菜さんにもそうお話すれば良いのです。後悔はしないけど、黙っていてください、と。明日菜さんもきっとわかってくださいます」

 

 

私の方からも、後ほどお願いしてみますから。

そう言うと、兄様は嬉しそうに頷いて、立ち上がりました。

そのまま兄様を外まで送り出しました。

すると、兄様がにわかに立ち止まって。

 

 

「あ、アリア」

「はい?」

「・・・・・・ありがとう」

 

 

と言ってきたのには、正直驚かされましたね。

兄様からお礼など、何年ぶりでしょうか。

 

 

「・・・どういたしまして」

 

 

静かにそう返すと、兄様は駆けて行きました。

・・・・・・さて、今日はお客様が多いようです。

 

 

 

「こんばんは、アリア先生」

 

 

 

その声に振り向けば、そこにいたのは特徴的な耳飾りの緑色の髪の女生徒。

絡繰、茶々丸さん。

 

 

「・・・はい、こんばんはですね。どうしたんですか? 何か相談ごとでも?」

「いえ、マスターが、ぜひアリア先生をディナーにご招待したいとの事ですので、お迎えにあがりました」

 

 

事前連絡もなくこちらの都合を完全無視とは、さすがですね。

いやまぁ、先に言ったのは私ですけど。

 

 

「あの・・・・・・先生?」

 

 

答えを待っているのか、絡繰さんが困ったような声音を出します。

今時のロボットは高性能ですね。

とにかく、お待たせするのも申し訳ありませんし・・・。

私は悠然と、お答えしました。

 

 

「お世話になります」

 

 

相手の城に、招待させてあげましょう。

・・・見ていてください、シンシア姉様。

アリアは、やってみせます。

 

 

 

 

 

「―――御馳走様。絡繰さん。とてもおいしかったです」

「ありがとうございます」

 

 

給仕をしてくれる絡繰さんにお礼を言って、食器を置きます。

お世辞でなく、本当においしかったです。

もっとも・・・この状況でなければ、倍増したでしょうが。

 

 

「・・・本日は夕食に招いてくれて、ありがとうございます。改めて、お礼をいわせていただきますね・・・。マクダウェルさん」

「いえ、こちらこそ。アリア先生にはお世話になるでしょうから」

 

 

その割に、食事の用意は全部絡繰さんがやっていましたけどね。

口には出しませんが。

あとその「猫を被ってます」と言わんばかりの態度、なんとかしてほしいですね。

食後のお茶を口にしながら、目の前の女生徒を見やります。

 

 

輝くような金髪に、白磁の肌、華奢な身体。

絶世の、そんな言葉をつけても遜色ない文句なしの、美少女。

私が男に生まれていれば、容易に落ちたことでしょう。

 

 

「・・・こちらこそ、新米ですから・・・。それにマクダウェルさんには、個人的に話もあったことですし」

「あら? 奇遇ですね、私も先生と話がしたいと、考えていました」

「ええ、そうですね・・・私たちは、きっと、話が合いますよ」

 

 

そう言うと、私はノーモーションで認識障害と人払いの結界を張りました。

お茶を飲みながら――あまりにも自然な動作の中で行われたそれに、マクダウェルさんも驚いたような表情を見せます。

 

 

「・・・さぁ、話を、しましょう。<闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)>」

「・・・貴様、知っていたか。知っていてここに来るとは・・・ずいぶんと余裕じゃないか」

 

 

余裕なものですか。

600年も生きている真祖の吸血鬼相手に、どんな余裕を持てというのですか。

いかに私が特別な力を持っているといえども・・・経験には勝てないのですから。

 

 

「それにしても、大した術式構築と速さだな。並みの魔法使いなど相手にもならない。聞いていた話と違うな、実力を隠していたか?」

「・・・貴女が聞いた情報がどのような物かはわかりませんが・・・私がいろいろと周囲に秘密にしていることがある、ということならば、答えはイエスです」

「何故だ?」

「正義の味方ごっこに巻き込まれたくなかったので」

「ごっこ? ああなるほど、言い得て妙だな、あはははははっ」

 

 

おかしそうに笑う、第一印象はまぁまぁでしょうか。

 

 

「くくっ・・・で? 私に話とは、なんだ?」

 

 

どうやら話を聞いてはくれるらしい、ならば後は交渉次第です。

踏ん張りどころですね。

 

 

「・・・話の前に、話を聞いてもらえる貴女に、前提として言うべきことがあります」

「なんだ? 言ってみろ」

「・・・・・・貴女の呪い、私なら解けます」

「なんだと!?」

 

 

瞬間、マクダウェルさんが掴みかかってきました。

正直苦しいですが、仕方ないでしょう。

それだけ深刻ということです。

 

 

「解けるのか!? 本当に!? なら解けすぐ解け今すぐ解け!!」

「・・・ええ、解けますよ」

 

 

右眼の魔眼―――『複写眼(アルファ・スティグマ)』を発動して、視る。

かなり大がかりな魔力で適当に編まれた術式のため、かなりわけのわからない呪いになっています。

だが、私の眼の力なら解ける。

これは全ての式を解く瞳ですから。

 

 

「な・・・き、貴様・・・その眼」

「・・・正義の味方のみなさんには、内緒ですよ・・・<闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)>」

 

 

怪しげに嗤って落ち着いてきた彼女を引きはがします、さすがにこのままでは解けない。

 

 

「アリア先生・・・本当にマスターの呪いは解けるのですか?」

 

 

絡繰さんが、心配そうに聞いてきますが、私はそれに微笑みで返します。

 

 

「ご安心を、すぐ解けます・・・マクダウェルさん、そこにじっとしていてくださいね、すぐ解呪します」

「あ、ああ、わかった」

「では・・・」

 

 

私の右眼に、朱色の五方星が浮かび上がります。

緊張した面持ちのマクダウェルさんに微笑みかけてから、解呪を開始します。

 

 

「呪いの式を解析・・・解除」

 

 

マクダウェルさんから呪いを、引きはがすことに成功。

でも込められた魔力が大きすぎて、消滅させることができません。

・・・人様にかける魔力量ではありませんよ、お父様。

 

 

仕方ありません、左眼も発動――『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』。

それを見て、マクダウェルさんがさらに驚いたような顔をする。

 

 

「・・・全てを喰らう」

 

 

呪いの魔力の全てを、吸収します。

発散することができませんので、少々不便ですが・・・仕方ありません。

親子だからか魔力の波長は似ていますので、このまま私の魔力として吸収しましょう。

 

 

「・・・解呪完了です。ただ、学園結界に奪われている魔力については、この場ではどうすることもできません。申し訳ありません・・・」

「・・・いや、十分だ、礼を言う・・・」

 

 

肩を震わせて、俯き・・・それでも、私にお礼を言ってくれる。

私はその場に両膝をつき、頭を垂れました。

いわゆる土下座というやつです。

 

 

「なっ・・・ど、どうした!?」

「・・・本当に、申し訳ありませんでした」

「い、いや、魔力については、お前のせいでは・・・」

「15年もこんなところに閉じ込めて・・・申し訳、ありませんでした」

 

 

その言葉に、マクダウェルさんが息をのんだのがわかりました。

そう、これが目的の一つ。

たとえどのような理由があれ、15年もこの場に縛り付け、しかも3年ごとに更新される呪い。

 

 

私だったら、きっと耐えられない。

しかもそれをかけたのが、実の父とくれば―――身内としては、頭を下げたくもなります。

殺してやりたいくらいに。

 

 

「・・・頭を上げろ、アリア・スプリングフィールド。父親のことで、娘が頭を下げてもどうにもならん」

「・・・ええ、これは私の自己満足でしか、ありませんから」

 

 

そう言って頭を上げると、そこには優しげに、それでいて哀しげに微笑むマクダウェルさん。

 

 

「・・・それに、奴はもうし「生きていますよ」・・・何?」

 

 

私の言葉に、マクダウェルさんが呆けたような顔をします。

 

 

「我が父、ナギ・スプリングフィールドは生きていますよ。少なくとも、6年前の時点では生きていました」

「なっ・・・生きて、いる?」

「兄が、杖を貰ったそうです」

 

 

あの日、父は兄様を救って杖を形見と渡したとか。

・・・兄様が、そう言っていましたから。

 

 

「ふ、ふふ、ははは・・・・・・そうか奴は生きているか。はっ・・・殺しても死なんような奴だとは思っていたが、はははそうかあの馬鹿、くふふふふふふふふふ・・・・・・」

 

 

いきなりマクダウェルさんが笑いだしました。

知らない人が見たら怪しいことこの上ないですね。

 

 

「ありがとうございます、アリア先生」

 

 

笑いが収まるまで待っていると、絡繰さんが声をかけてきました。

 

 

「・・・私は、大したことはしていませんよ」

「ですが、ここまで嬉しそうなマスターは初めて見ました」

「そうですか・・・絡繰さんは、マクダウェルさんのことが好きなんですね」

「はい、私のマスターですから」

 

 

そんな風に絡繰さんと雑談していると、ようやく落ち着いたのか、マクダウェルさんがこちらに近づいてきました。

 

 

「はっはっはは・・・は~、そう言えば貴様、父親の事なのにさほど興味がなさそうだな」

「あるわけないじゃないですか」

 

 

私の答えに、一瞬固まるマクダウェルさん。

どんな答えを期待していたかは知りませんが・・・。

 

 

「一度も会ったことがない父親に、どう興味を持てと言うんですか? というか、事実上の捨て子のようなものでしょう。私」

 

 

遺産もなく、育児は親戚に丸投げ。養育費もなし。

死んでいるのならともかく生きているのだから、何かやりようはあったはずでしょうに。

 

 

「英雄・・・なるほど、世界を救ったという功績は、認めましょう。素晴らしいことです」

 

 

兄様や他の人間が目標にしてしまうくらい、最高の英雄。

 

 

「でも実際にやったことは、人殺しです。殺して、殺して・・・殺しすぎて、恨みや妬みを買った。おかげで私や兄様は、子供のころから厄介事に巻き込まれてばかりだった」

 

 

目を閉じれば、今でも思い出します。

ウェールズの日々の、負の側面を。

兄様はあれで憧れられるんですから、逆にすごいと思います。

 

 

「英雄の子だと言うだけで、周りは勝手な期待を押しつけてきますし、マギステル・マギになる以外の道を選ばせてくれなかった・・・」

 

 

本当は、魔法学校にだって行きたくなかった。

魔法なんてなくとも、身を守るくらいの力はありましたから。

おとなしく、魔法薬や魔法具の研究者でありたかった。

面倒事なんて、ごめんでした。

 

 

「誰も彼も、勝手な理想ばかり・・・何度、壊してやりたいと思ったことか・・・」

 

 

ふと、マクダウェルさんが呆然と私を見ていることに気付きました。

あら、いけません。

途中から単なる愚痴になっていました。

 

 

「申し訳ありません。つまらない話でしたね」

「いや、こちらから聞いたんだ。構わん。しかし、お前・・・・・・壊れてるな」

「面と向かって言われると若干ヘコみますね・・・」

 

 

まぁ、今さらですが。

 

 

「まぁそれはそれとして、父の情報の対価としてお願いがあるんですけれども」

「ほぅ? マギステル・マギ候補のお前が、この悪の魔法使い、<闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)>に頼みだと? 面白いじゃないか」

 

 

嫌味ですか。

 

 

「別に私はなりたいなんて言ってませんし、むしろなりたくないと公言してきたんですけどね」

「英雄の子を手放したくないんだろうさ」

「でしょうね。まったく、赤の他人を救うために犠牲になる? 冗談じゃありません。正義・・・正義の名のもとに、人助け? 私にはできません。私にできるのは、私自身と、大切な人たちを救う努力をすること」

「他の人間のことは、どうでもいいと?」

「どうでもいいですよ。私が誰かを救い、誰かを壊す時、それは私自身のためです。私は9を救うために1を切り捨てることはできません。逆ならできますが・・・それも、私自身の都合でしかありません」

 

 

近しい人と、見ず知らずの他人。

どちらを優先するかなんて、決まっているじゃないですか。

他人に強制しようとは思いませんけれど。理解はしてほしいですね。

無理でしょうけど。

特に兄様あたりは、理解してくれないでしょうね。

こんな自分勝手な、私のことなんて。

 

 

「だから私はマギステル・マギにはなりたくありません。頼まれたってなってやるものですか」

「・・・面白いな、面白いぞアリア・スプリングフィールド! 貴様には、悪の素質がある」

 

 

悪の素質があるって、なんだかいやですね。

 

 

「悪ですか・・・。よろしいでしょう、それが必要ならば、私は悪の名を背負いましょう」

 

 

そのためには、力が要りますね。

自分だけでなく、大切な人たちを救う力が。

私はそのために、ここに来たのですから。

 

 

「ふむ・・・お前、私のモノにならんか? その年でその考え、外に置いておくのは惜しいからな」

 

 

その言葉を、待っていました。

ネカネ姉様、アーニャさん、村のみなさん・・・シンシア姉様。

今の私を見たら・・・怒るかもしれませんね。

 

 

「・・・よもや<闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)>に、同性愛の趣味があったとは驚きです・・・」

「違うわ! 貴様やはりあの男の娘だな! お前まで私を馬鹿にするのか!?」

「大丈夫です、私は理解のあるほうで・・・」

「うぉおいっ!」

 

 

と、軽口を叩きながら・・・私は、片膝をつき、頭を垂れる。

今度は、謝罪ではなく―――臣下の、礼。

 

 

「・・・私の全てを貴女に捧げます・・・その代わり、私の願いを叶えてほしい」

「願い? なんだ言ってみろ」

「・・・貴女の持つ、600年の知識を、私に」

 

 

私は、私の目的を話しました。

自分が魔法使いとなった目的と、理由を。

そしてそのために、彼女の持つ深淵の知識が必要であることを。

 

 

「・・・なるほどな、ではお前は――その目的のために、私を利用しようというわけだ。吸血鬼の真祖である、この私を・・・」

「・・・それで私が手に入るのですから、安いものでしょう・・・? 自分で言うのも、なんですが」

 

 

私は、面白いですよ?

そう言って、私は微笑みを浮かべる。

 

 

私が語り終えてから、暫く沈黙が降りました。

いや、マクダウェルさんだけが俯いて身体を震わせていました。

その胸の内に溢れる感情が何なのか、それは私には窺い知れません。

 

 

「・・・ふふふ、ははははっ、あはははははははははっ!!!」

 

 

突然大笑いし出しました。何が面白いのかお腹を抱えて転げ回っています。

本当に何が面白いのか。

 

 

「馬鹿だ! それもドがつくほどの大馬鹿だ! ・・・始めはなんと似ていないことかと思ったが、その馬鹿さ加減・・・まさしくお前はあの男の子供だ!」

「・・・褒め言葉として、受け取っておきましょう・・・それで?」

「ククッ・・・よかろう、お前の才能を貰おう。存分に私を利用するがいいさ・・・せいぜい使い潰されないよう気をつけることだな――」

「・・・・・・契約、成立ですね――」

 

 

私はそう言うと彼女の左手を取り、そっと口づけました。

 

 

「な、なんのつもりだ?」

 

 

先ほどの同性愛云々の話を思い出したのか、若干顔を赤くする彼女を内心おかしく思いながら、私は忠誠の言葉を捧げます。

 

 

「貴姉が乾きしときには我が血を与え、貴姉が飢えしときには我が肉を与え、貴姉の罪は我が贖い、貴姉の咎は我が償い、貴姉の業は我が背負い、貴姉の疫は我が請け負い、我が誉れの全てを貴姉に献上し、我が栄えの全てを貴姉に奉納し、防壁として貴姉と共に歩き、貴姉の喜びを共に喜び、貴姉の悲しみを共に悲しみ、斥候として貴姉と共に生き、貴姉の疲弊した折には全身でもってこれを支え、この手は貴姉の手となり得物を取り、この脚は貴姉の脚となり地を駆け、この目は 貴姉の目となり敵を捉え、この全力をもって貴姉の情欲を満たし、この全霊をもって貴姉に奉仕し、貴姉のために名を捨て、貴姉のために誇りを捨て、貴姉のために理念を捨て、貴姉を愛し、貴姉を敬い、貴姉以外の何も感じず、貴姉以外の何にも捕らわれず、貴姉以外の何も望まず、貴姉以外の何も欲さず、貴姉の許しなくしては眠ることもなく貴姉の許しなくしては呼吸することもない、ただ一言、貴姉からの言葉にのみ理由を求める、そんな惨めで情けない、貴姉にとってまるで取るに足りない一介の下賎な奴隷になることを――ここに誓います」

 

 

 

戯○ネタの言葉ですが・・・ある意味で正しいでしょう。

 

それは、「正義の魔法使い」アリア・スプリングフィールドが、「悪の魔法使い」エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの従者になった瞬間。

 

 

 

 

「・・・録画中、録画中・・・」

 

・・・・・・絡操さんの呟きは、あえて無視の方向で。

シンシア姉様、アリアは選択を誤ったやもしれません。

けれど。

 

 

 

 

 

私は、引き返さない。

 




今回は主人公とネギを少しだけ絡めて見ました。

さらに悩んだ結果、主人公をエヴァンジェリン側につかせるにことにしました。

エヴァンジェリンのキャラクターが合っているか激しく不安ですが、できる限り頑張ってみました。

楽しんでいただけたなら、とても嬉しく思います。


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第7話「期末テスト」

今回は少し話が飛んで、期末テストです。

主人公の立ち位置が少しずつ固まってきました。

では、7話です。


Side アリア

 

突然ですが、ネギ兄様と一部生徒が消息を絶ちました。

ネギ兄様はともかくとして、木乃香さんたちが心配でなりません。

しかも図書館島です。

危険極まりありません。

そんな所に行かせる意味がわかりせんよ・・・・・・学園長?

 

 

「突然ですが、ネギに・・・ネギ先生他数名が行方不明になりました」

「「「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!??」」」」

 

 

非常に騒がしいですね。

まぁ、無理もありませんが。

何人かの生徒に至っては、今にも倒れそうな・・・宮崎さん、大丈夫ですか?

 

 

でも、理解してほしいのです。

私の感じているストレスは凄まじい物があるのです。

 

 

明日菜さんに違法な薬品(惚れ薬)を渡して騒動を起こす。

他校の生徒とコートの取り合いで揉め事(むしろ助長)を起こす。

他にも頭痛の種には事欠かないというこの状況、もうどうにかなってしまいそうです・・・。

そして今回の失踪・・・・・・ふふ、兄様はいったい私をどうしたいんでしょうね。

 

 

 

・・・閑話休題。

 

 

 

「・・・お静かに、また新田先生に怒られますよ? まぁメンバーがメンバーだけに、学園長あたりが確実に事情を知っていそうなので、聞いてきます。それまで静かに授業を受けていてください。なお、英語の授業は私が担当しますので」

「なっ・・・アリア先生はネギ先生が心配ではないですか!?」

 

 

欠片も心配ではありません。

でもそれを言うと雪広さんがさらにヒートアップしそうなので黙っておきます。

 

 

ネギ兄様も教師の端くれです、生徒くらい守るでしょう。

それすらできないなら、本気でウェールズに帰った方が良いです。

そして今は私も教師です。

2-Aの生徒を守る義務があります。

なのでその義務を軽視する輩には、怒りを禁じ得ません。

 

 

「それも含めて、確認してまいります。学園長先生も無能ではないでしょうから、事態の把握くらいしているでしょう」

「でも・・・」

 

 

というか、極めて高い確率で学園長の陰謀であるような気がしてなりません。

 

 

「話は以上です」

 

 

何やら雪広さんあたりが騒いでいますが、今は捨て置きましょう。

さて・・・。

 

 

「私の生徒に手を出したらどうなるか・・・思い知らせてさし上げましょう」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・なんか、アリア先生怖かったね~」

「いつももっと柔らかい話し方だもんね~」

 

 

ガキ共がなにやら騒いでいるが、もしあれが兄を心配する妹のように見えているのなら、大きな勘違いだな。

 

 

「くくっ・・・・・・」

 

 

あのアリアが、兄が失踪したぐらいで動じるものか、あいつはそんなに可愛い娘ではない。

まぁ、普段教師をしているあいつしか知らんクラスの連中からすれば、兄が心配で仕方がないように見えるのかも知れんがな。

 

 

あれは心配というよりも・・・自分の領分を汚されたことに怒っているな。

クク・・・じじぃめ、良い様だ。

何やらさきほどからクラスの連中が怪訝そうな顔でこちらを見ているが、私はこれからアリアがどんな面白いことをしてくれるのか、楽しみで仕方がなかった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・アリアです。

今さらですが、なんだかとても嫌になってきました。

 

 

「・・・つまり、要約すると、こういうことですか?」

 

 

言葉に棘があるのを自覚しながら、私は目の前の学園長に対して確認しました。

 

 

「ネギ兄様他数名は行方不明になったのではなく・・・図書館島で勉強しているだけ。故に心配いらない・・・と?」

「そうじゃ」

「・・・その説明で、納得しろと?」

 

 

そこでなんでこの人は「できないの?」みたいな顔で私のことを見るんでしょう。

・・・できるわけないでしょう。

 

 

「・・・そもそも、何故図書館島に行く必要があるんですか?」

「それはもちろん、合宿形式での勉強をの」

「図書館島である必要がありません。というか、むしろあそこは勉強する環境として、不適切です」

 

 

侵入者迎撃用のトラップとか、わんさかあるじゃないですか。

あと誘惑とかも多いでしょうに。

 

 

「新たな合宿場所として管理人室を提供します。すぐに連れ戻しますがよろしいですね?」

「それは困るのぅ」

 

 

むしろ困ってほしい。

というか、この人なんなんでしょう。

すごく鬱陶しいです。

 

 

「ネギ君達のことは大丈夫じゃ、だから安心して・・・」

「できませんね。兄のことです。生徒のことです。私は家族としても教師としても今回の事態を許容できません。どうしても嫌だとおっしゃるなら、こちらも相応の行動で答えざるを得ません」

 

 

というか、何なのだろうこの人は。

大方兄様の修行の一環とか言いだすのだろうけれど、これは無いでしょう。

これ以上、面倒事を引き起こさないでください。

ホントに。

 

 

「では、迎えに行きますので」

「待ちなさい!」

 

 

そのまま学園長室を出ようとしますが、呼び止められました。

今度は何を言うつもりなのでしょうか。

 

 

「勝手な行動は許さん」

「・・・勝手な行動? どこがです? 極めて普通の対応だと思いますが?」

「とにかく、図書館島に行くことは許さん。詳しくは言えんが、テスト当日までには、ネギ君たちは戻ってくるからの」

「ですが」

「安全は保障されておると、さっきも言ったぞい」

「・・・・・・安全? 安全なものですか!」

 

 

もうこれ私、キレていいですよね?

っていうか、本当になんなんですか、この人は。

 

 

「修行か何か知りませんが・・・・・・それならネギ・スプリングフィールド個人にやらせなさい! 無関係な一般人を巻き込んでどうする!」

「なっ・・・」

「大方ネギ兄様のパートナー候補とか考えているのでしょうが・・・生徒の人生を、なんだと思ってる!」

 

 

兄様は魔法を秘匿する認識が薄い。

まぁ、私も高いとは言えないかもしれませんが。

しかし、兄様は初日で明日菜さんにバレたほどです。

それを学園長が把握していないはずがない。

しかも場所は図書館島、何もない方がおかしいでしょう!

 

 

「この世で最も愚劣な行為とは何か! それは他人の人生を、自分のエゴで踏みにじることです!」

 

 

そもそもクラス構成がおかしいのです。

魔法使いの関係者を集中させ、そこに英雄の子を教師として入れる。

何を考えているのかなど、一目瞭然ではありませんか。

 

 

「私は生徒たちを迎えに行きます。邪魔をするなら、たとえ学園長といえども・・・障害として排除します」

「・・・ぬぅ」

 

 

身体中から魔力を放ち・・・学園長と向き合います。

相手は関東最強の魔法使い・・・しかし『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』がある限り、正面からの対魔法使い戦ではまず負けないでしょう。

私は黒い指輪、その名も魔法具『黒叡の指輪』を取り出し指にはめます。

ここでカードのひとつを切るのは面白くありませんが、仕方ありません。

排除します。

 

 

「・・・ぬ」

 

 

加減しているとは言え、想定外の私の魔力量に学園長の額に汗が浮かんでいるのが見えます。

構わずに、私は指輪をはめた手を振り上げ、そして。

 

 

「・・・闇よ」

 

 

ぞわり――と、私の影が揺れる。

そして。

 

 

「そこまでにしてくれないかな・・・アリアちゃん」

 

 

その声に、私は動きを止めます。

腕を下げて、声のした方を見ます。

 

 

「・・・タカミチさん」

 

 

そこにいたのは、タカミチさんです。

しかもポケットに手を入れて、臨戦態勢ですか。

・・・こんな時にまで、ちゃん付けですか。

 

 

「ここで止めるということは・・・貴方も学園長に賛成と言うことですか?」

「・・・・・・」

「・・・そうですか」

 

 

さすがに2対1、というのは、厳しいですね・・・。

負けるとは思いませんが、長引けば、面倒なことになります。

 

 

「・・・・・・そうですか」

 

 

もう一度同じことを言って、魔力を霧散させます。

そして学園長を見ないままに、タカミチさんの横を通り過ぎ扉に向かいます。

 

 

「・・・アリアちゃん」

「そちらの望み通り、迎えには行きません」

 

 

扉の前で立ち止まり、呟くように言う。

 

 

「でも勘違いなさらないでください。私は彼女たちを、彼女たちの人生を守ります。無理かもしれないけれど・・・せめて、彼女たち自身で選択できるように」

 

 

その選択の幅も、狭くなりつつあるけれど。

せめて自分の人生の選択を、悔いのないように。

私のようにならないように。

 

 

「彼女たちをこちら側に・・・こさせはしません。他人のエゴで、人生を棒に振らせはしません」

 

 

覚えておきなさい。

そう言って、私は学園長室を後にしました。

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「・・・ふぅ」

「大丈夫ですか、学園長?」

「おお、タカミチ君、助かったわい」

 

 

正直、アリア君のことを舐めとった。

タカミチ君が来なければ、どうなっていたかわからん。

 

 

「しかし学園長、今回のことはアリアちゃんが怒るのも無理ないですよ」

「・・・むぅ」

 

 

最善の方法だと思ったんじゃが・・・図書館島には彼もおるし。

まさか学園長室まで乗り込んでくるとはのぅ。

しかも恐ろしいことにこちらの考えを看破し、かつこのわしを脅迫しよった。

 

 

「・・・恐ろしいの」

「はい・・・まさかあれほどとは」

 

 

先ほど当てられた魔力を思い出す。

勝てぬとは思わなんだが、彼女は本当に10歳なのか?

兄ほどではないものの、強大な魔力量。

それに途中で取り出した指輪・・・禍々しい気を放っておった。

まだ何か隠しておるやもしれん。

 

 

「それで、学園長、どうするんです?」

「どうするも何も・・・このままじゃよ」

 

 

タカミチ君も結局は優しいからのぅ。

しかし、これが最善なのは間違いないのじゃ。

アリア君には、悪いがのぅ。

 

 

「・・・監視を増やすしかないかの」

「・・・アリアちゃんにですか?」

「うむ・・・タカミチ君も、出来得る限り接触してくれんかの」

 

 

彼女をこのままにしておくのは、危険じゃ。

彼女は今回の件でこちらに見切りをつけた可能性が高い。

このままでは魔法使いに、いや、世界に敵意を抱きかねん。

 

 

魔法が使えない、と言うだけでも、彼女が歩んできた道の困難さは容易に想像できる。

ネギ君と違って自分の立場を理解し、周囲への、特に大人に対しての猜疑心に満ちておるのがわかる。

子供が、大人の意思で振り回されるのを許容できておらん。

 

 

今のうちに、なんとか修正しなければならん。

でなければ・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

結論から言えば、期末テストはうまくいきました。

というか、学年トップです。

正直、作為的なものを感じます。

 

 

この数日間で実感したのは、ネギ兄様がいかにクラスの方に愛されているか、ということです。

みんな、兄様のためによく勉強してくれました。

図書館島組も、とてもよく勉強してきたようです。

 

 

打ち上げパーティの最中、より親密さを増している兄様とクラスのみなさんの様子に複雑な気持ちになります。

嬉しくもある半面、不安も増します。

 

 

「どうした、不景気な顔をして」

「・・・エヴァさん」

 

 

今や私のマスターとなった、エヴァさん(そう呼べとのこと)が、グラス片手にやってきました。

 

 

「・・・場を弁えてくださいよ・・・」

「ふん、知ったことか」

「申し訳ありません。アリア先生・・・」

「茶々丸さんは悪くありませんよ」

「それでは私が悪いみたいではないか!?」

 

 

先日の学園長室での騒動を話した時には、腹を抱えて笑っていたエヴァさん。

エヴァさんは咳払いをすると、改めて私の隣に腰掛けました。

 

 

「・・・悩んでも仕方ないだろう。なるようにしかならん」

「・・・そうですね」

 

 

付き合ってみてわかったのですが、エヴァさんは意外と優しい方です。

面倒見も、結構良いのです。

 

 

「・・・優しいんですね、エヴァさん」

「んなっ!? わ、わたしはだな・・・」

 

 

慌てて否定する姿に、少し笑顔になります。

そう、今は悩んでも仕方ないのです。

私にできることは、少ないのですから。

 

 

「アリアせんせ―!」

「・・・ほら、生徒が呼んでるぞ」

「・・・そうですね」

 

 

そう、私は私にできることをするしかない。

両手に抱え込める人数には、限りがありますけど。

・・・・・・そうですよね、シンシア姉様。

 

 

 

アリアは、大切なものを守れるでしょうか。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。

今回の第二のタイトルは、「主人公、キレる」です。

多少無理な表現もあるかもしれませんが、楽しんでくだされば嬉しく思います。


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番外編①「近衛木乃香」

調子に乗って番外編など書いてみました。

番外編は主人公が休日などに一人のキャラクターと交流する話を書きたいと考えています。
楽しんでくださると、嬉しく思います。

一番手は木乃香さんです。

では、どうぞ。


Side アリア

 

学年末試験が無事に終わり、ネギ兄様と私(私も同じ試練だったとか)の正式な教員採用も決まりました。

現在は春休み。

教員としての仕事は一段落ですが、女子寮管理人としての仕事は増えた感があります。

 

 

とは言っても、たまには休みもあるもので、今日は特にすることがありません。

たまには街にでも繰り出してみますか・・・。

 

 

「アリア先生や~」

「・・・・・・はい?」

 

 

そんなことを思いながらとぼとぼ歩いていますと、聞き覚えのある声が。

 

 

「・・・木乃香さん?」

「そうやで~」

 

 

振り向いてみますと、綺麗な振袖に身を包んだ木乃香さんがニコニコと微笑んでいました。

長い黒髪と相まって、まさに「大和撫子」ですね。

エヴァさんとはまたタイプの異なる、絶世の美少女。

 

 

「これは、木乃香さん。こんにちは。・・・いつも兄様がお世話になっております」

「大丈夫やよ~、ネギ君ええ子やから」

「そう言っていただけると・・・ところで、その格好は・・・?」

「これはな・・・ってそうや! アリア先生、助けて~」

「は?」

 

 

木乃香さんの突然の言葉に困惑していますと、木乃香さんの後ろから木乃香さんを呼ぶ声と共に、いかにもな黒服の方々が・・・なんでしょう?

 

 

「いたぞ!」「捕まえろー!」

 

 

これまたいかにもな台詞を吐いて、私たちを取り囲む黒服のみなさん・・・本当に何ですか。

私は今日休日なんですけど。

それも兄様がなぜかまったくしない春休み中の書類仕事を片付け、女子寮の仕事を捌き続け、ようやく勝ち取った休日なんですけど・・・?

 

 

「・・・申し訳ないが、その方を引き渡していただきたい」

「と、申されましても・・・」

 

 

状況が掴めませんので何とも言えません。

木乃香さんはと言うと私の背中に張り付いて、「いやや! 絶対行かへん!」とか言ってますし・・・。

 

 

「アリア先生~」

 

 

・・・そんな泣きそうな顔されましても。

むぅ、仕方ありませんね・・・。

 

 

「あ、アリア先生?」

 

 

がしっと木乃香さんの手を掴んで、その場から逃走しました。

 

 

「・・・に、逃げたぞ――!」

 

 

はい、逃げました。

 

 

 

 

 

「・・・とりあえず、状況を説明していただけますか?」

「あ~、それがなぁ」

 

 

とりあえず女子寮管理人室に招き入れて、事情を聞くことにしました。

まさかとは思いますが・・・これで木乃香さんの方が悪かったりなどした場合、罪悪感が半端ありません。

 

 

結果として、それは杞憂に終わりました。

何でも今日は学園長が勝手に決めたお見合いの日だったらしく、それが嫌で逃げてきたのだとか。

お見合い相手の写真を見せてもらったが、会ったこともない人ばかりだということで・・・。

 

 

「それは逃げるのが正解ですね」

「そやろ~? うちはまだ子供なんやから、結婚とか早すぎやと思うんよ」

 

 

私の言葉に気を良くしたのか、木乃香さんが頷きます。

まだ15歳の木乃香さん、可愛らしく拳を握り力説します。

 

 

「お見合いなんかで相手決めたない」

「そうですね。勝手に決められるのは、我慢がなりませんね」

 

 

同じ女性としても、木乃香さんの味方になる私。

学園長としては、いろいろ考えてのことなんでしょうけれど・・・木乃香さんの意思を確認しないあたり、害悪でしかありません。

というか、懲りてないんですね、あの人。

 

 

「そういうことならば、喜んで協力しましょう」

「ほんま!?」

「はい。あのぬらりひょんめに目に物見せてあげましょう」

 

 

がっしりと手を握り、気持ちを確認し合う私と木乃香さん。

 

 

「さて、そうと決まれば即行動ですね」

「どないするん?」

「学園長に直接話をつけます。木乃香さんは私に適当に合わせてください」

「わかったえ」

 

 

木乃香さんを伴い、学園長室へ。

すると、部屋の前に先ほどの黒服の一団が。

 

 

「木乃香お嬢様!」

「アリア先生・・・」

「問題ありません。任せてください」

 

 

木乃香さんに微笑みかけた後、黒服のリーダー格と思わしき方と向かい合います。

私の方がはるかに背が小さいので、見上げる形ではありますが。

 

 

「学園長にお話があります。通していただけませんか?」

「・・・我々も、仕事ですので・・・」

「学園長の孫とはいえ一生徒にお見合いを強要する、これは明らかな問題行為です。運命を共にしたくなければそこをどきなさい。こんな仕事をするためにやっているわけではないでしょう?」

「・・・・・・」

 

 

静かに、下がりました。

思う所があったようですね。

 

 

「・・・行きましょう、木乃香さん」

「わ、わかったえ」

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

今日も今日とて、孫の木乃香の見合い相手を物色するわし。

老い先短い身じゃ、早く孫娘の晴れ姿を見たいと言って、何が悪いというのか。

100人に聞けば100人がわしに賛同してくれるに違いない。

じゃというのに・・・。

 

 

「お世話になりました。お爺ちゃん」

 

 

なぜ、このようなことに・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

慌ててますね、学園長。

 

 

「・・・アリア君、説明してもらえるかのぅ・・・」

「今木乃香さんが言った通りですよ、学園長」

 

 

木乃香さんの前に立って、学園長と向かい合います。

 

 

「木乃香さんは学園長に愛想をつかして、祖父・孫の縁を切る、と言っているんです」

「な、なぜじゃ!?」

「それは学園長が本人の許可なく何度もお見合いをさせるからでしょう。誰でも嫌になりますよ」

「し、しかしそれには訳が」

「学園長の事情はこの際問題ではありません。木乃香さんがどう感じているか、これだけが重要なんです」

 

 

違いますか?

そう言うと、学園長はむぅ、と唸って黙りこみました。

もうひと押しですね。

 

 

「さて、では木乃香さんは我がスプリングフィールド家が引き取らせていただきます」

「ほ!? そ、それはどういうことじゃ!?」

「言葉の通りですよ? すでにウェールズの私の保護者には話を通してあります。今頃は養子縁組の手続きでもしてるころではないですか?」

 

 

嘘ですがね。

木乃香さんも、うんうんと頷いて。

 

 

「アリア先生と姉妹になるのも面白そうやし」

「こ、木乃香!?」

「そういうわけですので学園長、失礼します。行きましょう、木乃香・・・・・・姉様」

「せやね、アリア♪」

 

 

仲良く手など繋いで、学園長室を後にする私と木乃香さん。

それに慌てた学園長が。

 

 

「ま、待ってくれぃ!」

「・・・・・・・・・・・何か?」

「そ、その、なんじゃ・・・」

「失礼します」

「さよならや、お祖父ちゃん」

「ま、待ってくれぇぇぇぇ!」

 

 

その後、2度と見合いをセッティングしないことを誓った学園長は、なんとか木乃香さんとの復縁に成功しました。

木乃香さんも優しいですね。

 

 

 

 

 

「今日はありがとうなぁ、アリア先生」

「いえ、大したことはしていませんよ」

 

 

その後、寮の自室にまで木乃香さんを送り届けた際、お礼を言われました。

 

 

「でも、アリア先生のお姉さんなら、なってみたいなぁ」

「あはは・・・」

 

 

その、冗談とも本気ともいえない木乃香さんの言葉に、私は苦笑してしまう。

たとえ何があっても、それだけはしませんよ、木乃香さん。

 

 

 

 

・・・・・・何があっても、ね。

 





最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

今後どの程度の頻度で番外編を作れるかはわかりませんが、定期的に投稿したいと考えています。
では、また次回。


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第8話「桜通りの吸血鬼」

今話は一部、修正しました。
では、どうぞ。



Side アリア

 

春休みが終わり、新年度が始まりました。

しばらくの間はとても静かな(一部は春休み中も騒いでいました)日々が続いていましたが、今は。

 

 

「「「3年!」」」

「「「A組!」」」

「「「ネギせんせー! アリアせんせー!!」」」

 

 

はい、元気が良いですね。

元気が良すぎて、HRの連絡ができません。

いえ、嬉しいんですけどね。

 

 

「それでは、身体検査がありますので、みなさん服を脱いでください!」

「出て行きなさい」

 

 

瞬間的にネギ兄様を教室の外に蹴り出します。

扉の向こうで犬の鳴き声のような声がしましたが、知ったことではありません。

 

 

「まったく、何を考えているのか・・・」

「アリア先生、何も蹴り出さなくとも・・・」

 

 

委員長の雪広さんが兄様の心配をしますが、こればかりは。

 

 

「心配してくださるのは嬉しいのですが、あまり甘やかさないでください、雪広さん」

 

 

ただでさえ、一般常識が欠乏しているのですから。

明日菜さんも激しく頷いています。

・・・ご迷惑を、おかけしているようです。

今度、菓子折り持っていきましょう。

 

 

「で、ですがネギ先生はまだ子供ですし・・・」

「いいんちょは本当ネギ君大好きだよね~」

「なっ!?」

「あははっ」

 

 

本当に無意味に人気のある人ですね、あの兄は。

これが主人公補正というやつでしょうか、だとしたらもはや一種の毒ですねこれは。

 

 

「アリア先生も身体測定するん?」

「はい、そうですね・・・このまましてしまう方が、面倒が無くていいですね」

 

 

職員用の身体測定もありますが・・・まぁ、問題ないでしょう。

けして他の女性教諭の方々との身体差を気にしているわけではありません。

というかしずな先生を筆頭に、なぜ私を膝の上に座らせたがるのでしょうか。

愛玩動物ではないんですよ、私は。

いえ、気にかけていただけるのは嬉しいのですが。

 

 

着ていたスーツを丁寧に脱ぎ、下着姿に。

まだ第二次性徴の特徴がないので、キャミソールのみで十分なのです。

夏は非常に助かりま・・・って、なぜかクラスのみなさんの目が・・・。

 

 

「「「「す、すごーーーーい!!」」」」

 

 

は!?

ちょっ・・・!!?

 

 

「何これ!? お肌しっろ!!」

「ほんと・・・ってすごいすべすべ! ぷにぷにしてるし・・・っ!」

「髪の毛もさらさら・・・これって地毛!?」

「下着も・・・これシルク?」

 

 

・・・しばらくもみくちゃにされた後、身体測定が始まりました。

お嫁に行けないかも・・・しれません。

 

 

気がつくと、教室はいつの間にか「桜通りの吸血鬼」についての話題になっていました。

職員会議でも話題になっていた、変質者の話ですね。

 

 

「気をつける事だな、神楽坂明日菜。吸血鬼は貴様の様な無駄に元気のいい女子を狙うらしいぞ、くくく・・・」

「ふ、ふ~ん」

 

 

エヴァさんが明日菜さんを脅かしています。

・・・とても、楽しそうですね。

明日菜さんがかなり怯えているようです、顔色が悪いです。

 

 

「明日菜さん、噂ですから。あまり気にしない方がよいですよ」

「べ、別に怖くなんてないわよ! わ、私なら逆に蹴っ飛ばしてやるわ!」

「明日菜さんは勇ましいですね。私なんて夜道で吸血鬼に出会ったら2秒で気絶しますよ」

 

 

ちらりとエヴァさんを見ると、良い感じの笑顔を返してくれました。

「やってやろうか?」と言う幻聴が聞こえた気がしましたが、全力でお断りしたいです。

 

 

「それはもうちょっと頑張りなさいよ・・・でも、心配してくれてありがとね」

「いえいえ」

 

 

その後は滞ることなく身体測定が進みました。

そろそろ終わるかという時間になって、急に廊下が騒がしくなりました・・・和泉さん?

 

 

「どうしましたか?」

「あ、アリア先生! 絡繰さんが!」

「落ち着いてください和泉さん。兄様、どういう状況ですか?」

 

 

話をまとめるとどうやら茶々丸さんが桜通りで変質者、保健室に運びこまれているとのこと。

・・・ええ、「茶々丸さん」が、です。

クラスメートのためにここまで必死になれる所は、和泉さんの優しい所なのでしょうね。

 

 

「・・・なるほど、知らせてくれてありがとうございます和泉さん。では兄様、教室の方は私が落ち着かせますので、兄様は絡繰さんの様子を見てきてもらえますか?」

「わ、わかった」

「うん!」

 

 

2人を見送った後、教室はまさに蜂の巣をつついたかのような騒ぎになりました。

これは落ち着かせるのが手間ですね・・・。

 

 

「はい、みなさん。心配なのはわかりますがどうか落ち着いてください・・・」

 

 

特に葉加瀬さん落ち着いてください、「私の茶々丸が!?」って・・・いやホントに落ち着いてくださいそのメカ何ですか!?

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

ククク・・・アリアめ、ずいぶんと手間取っているではないか。

いつもの澄ました顔が、生徒どもの勢いに押されて困り果てている。

面白いかと問われれば、そうだと答える。

 

 

意外な程、そう思えた。

あの男にこの地に封印されてから15年・・・正直、楽しさとは程遠い時間だった。

約束の3年を過ぎてからは、特に苦痛だった。

 

 

「そうだな、面白い」

 

 

今度ははっきりと頷く。

あの男の娘が私の下僕になってまでやりたいことがあると聞いた時には腹を抱えて笑ったものだし、別荘で模擬戦をやった時などは奴が周囲に隠している力を見てまた笑った。

心の底から笑ったのは、本当に久しぶりだった。

 

 

それに、奴が自分の生徒に振り回されている姿を見るのも、また面白い。

それに・・・。

 

 

 

今回の吸血鬼騒動は、奴が言い出したことだしな。

奴は、アリアは自分で言ったのだ、ネギ・スプリングフィールドを襲えとな。

まぁ、そのこと自体は別に良い。

じじぃからの依頼でもあったし、あの男の息子でアリアの兄であるあの坊やにも多少は興味があったからだ。

だが、奴は、アリアは・・・。

 

 

「私の魔眼なら、学園長サイドの策略の間隙を突いて、エヴァさんの魔力を奪っている学園結界を解除、悪くとも都合よく書き換えることができるはずです」

 

 

と、言ったのだ。

嬉しかった。

私を吸血鬼と知りながら、そこまでしようとしてくれた人間は初めてだった。

兄のことにしても、私が女子供を殺さない、という話を信じてくれているからだろう。

 

 

信頼されるという感触は、初めてのものだった。

ま、流石にクラスの連中を吸血するのは止められたがな。

なので他の連中はおどかす程度にして、今日は茶々丸に襲われたフリをさせた。

 

 

「ま、従者の頼みを叶えるのもたまには良いさ」

 

 

封印を完全に解くためだしな。

その時不意に、アリアと目が合った。

にこ、と微笑まれた。

・・・。

 

 

・・・ま、まぁ、せいぜい楽しませてやるとするか!

何と言っても私は、世界最強の<悪の魔法使い>だからな!

わははははははははははははははははははははっ!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「失礼します」

 

 

あの後なんとかなだめすかして、保健室に向かうことができました。

保健室に入ると、中にはネギ兄様とベッドに腰掛ける茶々丸さんが。

見た所、元気なようですね。

当たり前ですけど。

 

 

「遅くなりました、兄様」

「あ、アリア」

「茶々丸さん、お加減は?」

「私はロボットなので・・・」

 

 

ネギ兄様、茶々丸さんと言葉を交わしながら、茶々丸さんの様子をうかがいます。

確かに茶々丸さんは普通の身体とは少し違うので、丈夫でしょうけど・・・。

私のせいでもあるので、心配です。

 

 

「あ、あの・・・アリア、絡繰さんなんだけど」

「はい、なんでしょう?」

「えっと・・・は、早く良くなるといいね」

「・・・そうですね」

 

 

どうやら、兄様も気づいてはいるようですね。

エヴァさんはわざと、茶々丸さんの制服などに魔力の残滓を残していましたから。

といっても、兄様は私がすでにエヴァさん側だとは知らないでしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

「アリア先生、ありがとうございました」

「構いませんよ。私のせいでもありますし・・・」

「いえ、マスターのためでもありますので」

 

 

放課後に、茶々丸さんを家まで送り届けることにしました。

・・・こちらの都合で迷惑をかけてしまったようなので、お詫びも兼ねています。

自己満足ですが。

 

 

「・・・!」

 

 

しかし2人仲良く校舎から出た所で魔力反応、桜通りですか。

・・・あの兄様、書類仕事もせずに。

この後は、まっすぐ帰ろうかと思ったのですが・・・。

 

 

「申し訳ありません、アリア先生。せっかくお送り頂いたのですが、マスターに呼ばれたのでここで・・・」

「あ、はい・・・では後日に」

 

 

エヴァさんは飽きたのか面白いと考えたのか、さっそく茶々丸さんを敵として兄様にぶつける気のようですね。

まぁ、保険として傍に置いておくだけなのかもしれませんが・・・魔力は、まだ完全には戻っていませんし。

 

 

・・・ネギ兄様の驚く顔が見たいという、いじめっこ的な思考かもしれませんが。

被害者が実は敵だった・・・となった時、兄様がどう行動するのか。

・・・興味、沸きませんね。

 

 

「私は、どうしますかね・・・」

 

 

まぁ、私も別枠で行くしか無いわけですが。

嫌な予感しかしませんけど。

溜息一つ、私はその場から駆け出しました。

 

 

 

 

 

桜通りにつきました・・・が。

 

 

「これはいったい・・・?」

 

 

木乃香さんと明日菜さんが、宮崎さんを介抱していました。

宮崎さんが服を着ていないのは、なぜ・・・?

 

 

「あ、アリア先生!」

「えっと・・・どういう状況なんです?」

「そ、それが、私達が来た時にネギが裸の本屋ちゃんを抱きかかえていて、それで」

「噂の吸血鬼を追いかける言うて、もの凄いスピードで走ってってもーたんや」

 

 

本屋ちゃんとは、宮崎さんのニックネームですね。

推定、宮崎さんをおどかしていたエヴァさんに武装解除魔法をかけ、宮崎さんが巻き添え・・・でしょうか。

兄様・・・いくらなんでも裸のまま放置しないでください。

とりあえず、スーツの上着を宮崎さんにかけて・・・。

 

 

「とりあえず宮崎さんに何か着せて、部屋まで連れて行きましょう。申し訳ありませんが、手伝ってください」

「わかったえ」

 

 

その後木乃香さん達の部屋で宮崎さんを着替えさせた後、木乃香さんを伴い、宮崎さんを部屋まで送り届けました。

宮崎さんの部屋の窓から外を見ると・・・何やら全力疾走している明日菜さんの姿が。

 

 

「あ、明日菜や、どこに行くんやろ?」

「・・・明日菜さん」

 

 

あの方向は・・・。

ネギ兄様たちの魔力反応がある方向、ですね。

本当は、止めるべきなのかもしれません。

 

 

でも、明日菜さんが自分で決めたことならば、私にはきっと、それを止める資格はないのでしょう。

でも・・・。

それでも、行ってほしくないと思うのは、身勝手なのでしょうか?

教えてください、シンシア姉様。

 

 

 

 

 

アリアは、正しい選択ができていますか?

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

主人公は今回の学園長サイドによる「ネギへの試練」のストーリーを利用して、エヴァンジェリンを縛る最後の結界をどうにかしようとしています。

はたして主人公の計画(原作?)通りに話が進むのか、それはこれからの展開次第です。

・・・何より私の表現力と発想力にかかっています。
がんばります。


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第9話「カモ、来日」

Side  アリア

 

「・・・あら」

 

 

ネギ兄様がエヴァさんと接触した翌朝、郵便受けにエアメールが入っていました。

差出人は、ネカネ姉様。

どうやら普通の手紙のようですね、気を使ってくれたのでしょうか?

後ほど読んで、明日中には返事を出しましょうか。

きっと兄様の方にも届いていることでしょう。

 

 

ネカネ姉様からお手紙が届くなんて、今日は何か良いことがあるかもしれません。

そんなことを思いながら、学園へ向かいます。

 

 

「エヴァさん?・・・・・・と、ネギ兄様?」

 

 

すると下駄箱の所で、ネギ兄様とエヴァさんが何やら怪しい雰囲気で睨み合っているのを見つけました。

ネギ兄様が一方的に怯えているので、睨み合う、と言うのは少し違うような気もしますが。

 

 

「おはようございます」

「おはようございます、アリア先生」

「・・・おはよう」

 

 

近くの明日菜さんと茶々丸さんに先に声をかけます。

こちらも友好的な雰囲気ではありませんね。

するとエヴァさんに何か囁かれた兄様が、何やら叫びながら走り去りました。

 

 

「あっ、ネギ!」

 

 

明日菜さんがそれを追います。

・・・やはり関わってしまいましたか、明日菜さん。

 

 

「くっくっくっ・・・・・・む、アリアか」

「おはようございます、エヴァさん」

 

 

楽しそうで何よりです。

 

 

「ふふん、まぁな・・・・・・しかしお前の兄、あの無様はなんだ? 貴様の兄と言うからどれ程かと思えば・・・期待はずれにもほどがある」

「・・・・・・まぁ、まだ子供ですし」

「お前と同い年だろうが」

 

 

それを言われると困りますね。

まぁ、この世界で「子供だから」で許されたり加減されたりすることはありませんから、どの道意味のないものですが。

 

 

「・・・まぁ、英雄の子としてチヤホヤされていましたし・・・」

「お前もだろ」

 

 

私はチヤホヤなどされていませんよ。

魔法使えませんし。

 

 

「・・・・・・まぁ、私が規格外ということですかね」

「結局そこに落ち着くのか」

「流石です、アリア先生」

 

 

たぶん死にはしないでしょうから、大丈夫でしょう。

・・・む?

 

 

「・・・誰か」

「ああ、結界内に侵入してきたな」

「どうしましょう?」

「放っておけ、こんな距離で気付かれるようでは大したことはない」

 

 

その後私は仕事に、エヴァさんはサボりに屋上へ行きました。

何だか理不尽なものを感じますが、事情が事情だけに強く言えません。

ちゃんと授業に出る茶々丸さんは、撫でてあげました。

・・・頭から煙が出ていましたが、大丈夫でしょうか。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

マスターとアリア先生と別れて教室に向かうと、ネギ先生が神楽坂さんに手を引かれて入ってきました。

相当怖がっていますが、マスターがいないとわかると安心したようです。

 

 

五分ほどして、アリア先生もやってきました。

アリア先生を見ていると、なぜでしょう。

放課後によく餌をあげる猫たちを撫でたくなるのと、同じような衝動が起きます。

ハカセにメンテナンスをお願いするべきでしょうか?

 

 

その後授業が始まり、ネギ先生、アリア先生が所定の位置につきます。

しかしネギ先生は昨日の事が気になって、集中できないようです。

アリア先生がたびたび注意しますが、それすらも耳に入っていないようです。

 

 

ネギ先生は生徒のみなさんを見てはため息をつくという、不可解な行動を繰り返しています。

その熱い視線に、クラスの方々は思わず居住まいを正しています。

そして突然。

 

 

「・・・・・・あの、みなさんはパ、パートナーを選ぶとして、10歳の年下の男の子なんて嫌ですよね・・・?」

「「「「えええええぇっ!?」」」」

 

 

大胆ですね、ネギ先生。

授業中に生徒を口説き始めるとは恐れ入りました。

 

 

「バカなこと言ってないで真面目に授業しなさい!」

 

 

とうとうアリア先生が怒りを爆発させたようです。

その後の授業はアリア先生によるネギ先生への教育的指導によって費やされました。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

まさか自分の生徒に堂々とパートナー募集中ですと宣言するとは、さすが兄様、常に私の予想の斜め上を行ってくれますね。

そんなことを考えながら仕事を終わらせ、今は管理人室で夜のティータイムです。

 

 

「アリア先生、今ええ?」

 

 

そんな時に、木乃香さんが来ました。

せっかくですので、お茶を出します。

 

 

「それで、何か問題でもありましたか?」

「問題はないよ、ただネギ君がペット飼いたいみたいなんよ」

「ペット?」

 

 

なら自分で言いに来れば良いでしょうに・・・なぜ木乃香さんが?

 

 

「・・・あ」

「アリア先生?」

 

 

昼間に読んだネカネ姉様の手紙を思い出します。

兄様にも手紙を送ったと言うので、大丈夫だろうとタカをくくっていたのですが・・・。

 

 

「・・・木乃香さん、申し訳ありませんが、そのペットを見せていただけませんか?」

「ええよ~」

 

 

木乃香さんに伴われ、明日菜さんと木乃香さんの部屋へ。

ノックすると、明日菜さんが出てきました。

 

 

「アリア先生?」

「・・・兄様がペットを飼いたいと言うので」

「ああ、アリア先生って寮の管理人もしてるんだっけ」

 

 

部屋の中に入ると、床に座り込んで2-Aの名簿らしきものとにらめっこした兄様と・・・その肩に、見覚えのあるオコジョ・・・いえ、下等生物がいました。

 

 

「兄様・・・何をしておいでなのでしょうか?」

「あ、アリア?」

「・・・明日菜さん、木乃香さん、少し兄様をお借りしますね」

 

 

そう断ってから、兄様とオコジョを管理人室へ引きずっていきます。

・・・なぜか、問題が起こるとここが使用されていますね。

結界張ってあるからでしょうけど。

 

 

「・・・さて」

 

 

兄様を座らせた後、私はオコジョを睨みつけます。

 

 

「・・・久しぶりですね、アルベール・カモミール」

「へっへぇ! アリアの姐さんもお元気そ「誰が名前を呼んでいいと言いましたか?」ひぃぃっ!?」

 

 

ガタガタと震えるアルベール・カモミール・・・通称、カモ。

ウェールズでのお仕置きの日々を忘れてはいなかったようですね。

このオコジョ、ウェールズで女性の下着2000枚を盗み投獄されていたはずなのですが、脱獄したらしいのです。

ネカネ姉様の手紙に書いてありました。

 

 

「・・・兄様、なぜ彼がここにいるのです? ネカネ姉様の手紙は読んでないのですか?」

「え・・・そんなの来ていないけど」

「・・・アルベール・カモミール」

 

 

怒気を孕んで睨むも、口笛吹いて横をむく下等生物。

本気で殺したいです。

でもここで殺すと後でどんな影響が出るかわかりませんし・・・・・・面倒ですね。

 

 

「・・・それで、先ほどは何を?」

「そ、それ「旦那のパートナー探しでさぁ!」カモ君!?」

「・・・・・・従者のことですか」

 

 

授業中に突然言い出すから、どうしたのかと訝しんではいましたが・・・吹き込まれたんですね。

 

 

「旦那の事情を考えれば、パートナーは早めに見つけといた方がいいぜっ!」

 

 

一理なくはない意見ですね。しかし致命的な点がひとつ。

 

 

「一般人の、しかも無関係な生徒からパートナーを選んでどうしますか・・・」

「でもよぉ、手駒は多い方がいいんじゃねぇか? 特に旦那のんばっ!?」

「・・・手駒?」

 

 

握り潰さんほどの握力でカモの首をしめつける。

兄様があわあわ言っていますが、関係ありません。

 

 

「アルベール・カモミール」

「へ、へぇ」

「今後兄様に余計なことを吹き込み、無関係な・・・私の生徒の人生を狂わせたら、生きてウェールズの土を踏めるとは思わないことです」

「く、狂わせるなんておれっちはただぐぅえ!?」

 

 

まだ何事か言おうとしたようですが、握力を強めて締めあげます。

 

 

「あ、アリア! カモ君が死んじゃうよ!?」

「死ねばいいじゃないですか」

「そ、そんなぁ!」

 

 

泣きそうな兄様・・・というか、兄様はなぜこんな犯罪者をかばうのでしょう?

正義の魔法使いを目指すにしては矛盾してますね・・・口車に乗せられたんでしょうけど。

・・・まぁ、いいでしょう。

 

 

「ぐえっ」

「か、カモ君!」

 

 

私はカモをネギ兄様に投げつけ、カモの目前に指を突きつけます。

 

 

「・・・いいですね?」

「わ、わかった・・・」

「兄様も、生徒からパートナーを探さないでください」

「で、でも」

「兄様の都合は聞いていません」

 

 

知ってますけどね。というか、知ってるからこそ許容できないのですが。

そんな私の言葉に、兄様はしぶしぶながらも頷きました。

だいたいなんでそんな簡単に生徒と仮契約したがるのか・・・・・・主人公だから?

まだ心配ですが・・・まぁ、よしとしますか。

 

 

 

 

しかしその後、カモのセクハラ行為の数々に怒り心頭の明日菜さんがたびたびやってくるようになり、少しこの選択を後悔することになりました。

・・・やはり殺しておくべきでしたかね、シンシア姉様。

 

 

 

 

アリアは、動物は嫌いです。

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

主人公はカモが嫌いですが、原作の流れを重視して排除はしていません。

基本関わりあいたくないと思っていますが、女子寮という環境上、おそらく関わらざるを得ないでしょう。

ある意味、主人公の我慢ゲージを試しているかのような生物です。


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第10話「今日は私はいません byアリア」

タイトルの通り、今回は主人公がメインでは出てきません。

そのせいか、今回は少し短めです。

では、どうぞ。


Side ネギ

 

絡繰さん・・・絡繰、茶々丸さん。

エヴァンジェリンさんの、従者・・・。

 

 

「なかなか一人になりませんね、兄貴。」

 

 

僕の肩でそう言うのは、僕の使い魔のカモ君。

そして僕の隣には、明日菜さんもいる。

・・・僕、先生なのに・・・。

 

 

僕らは今、エヴァンジェリンさんと茶々丸さんの後を尾行している。

カモ君にエヴァンジェリンさんのことを相談したら、まず従者からなんとかしようって言われたんだけど・・・。

茶々丸さん、この間はエヴァさんに襲われた被害者だとばかり思ってたけど・・・まさかそれが、僕を誘き寄せる罠だったなんて。

 

 

宮崎さんをおどかした時にも、まさかあんな・・・。

思い出すと、今でも震えが来る。

エヴァンジェリンさんだけでも凄く強かったのに、それでも互角に魔法を撃てると思ったけど・・・エヴァンジェリンさんが茶々丸さんを呼んで、僕、混乱しちゃって・・・負けそうになって。

明日菜さんが来てくれなかったら、僕・・・僕は。

 

 

「・・・あ」

 

 

そんなことを考えながら尾行を続けていると、途中でエヴァンジェリンさんがタカミチとどこかへ行った

茶々丸さんが一人になった。

 

 

「ねぇネギ、本当に妹さんに相談しなくてよかったの?」

「だ、駄目だよ! アリアは魔力はすごいけど、魔法使えないし・・・」

「え、そうなの?」

「うん、それに魔法の成績は僕の方が良いし・・・・・・結界とか補助とかは、アリアが上だけど」

 

 

知らなかった・・・という明日菜さん。

僕も初めて聞いた時はびっくりした。

 

 

「それに、アリアは・・・・・・関係ないんだし」

「・・・そうね、今回は私も協力するんだから、さっさと終わらせましょ」

 

 

そう僕に言う明日菜さん

明日菜さんにはこの学園に来た初日に魔法がばれちゃって色々迷惑もかけたけど、最近では仲良くなれたと思う。

今回も、自分から手伝ってくれるって・・・今回だけ、お願いします。

・・・?

カモ君、どうしたんだろ、アリアの話が出た途端、僕の胸で丸まってるけど・・・。

 

 

その後茶々丸さんは、風船を取ってあげたり、おばぁさんを助けたり・・・今は、猫たちに餌をあげてる。

な、なんていい人なんだ・・・。

 

 

「ね、ねぇ、ほんとに悪い人なの?」

「・・・僕も自信が・・・」

 

 

明日菜さんの言葉に、僕の心が揺れる。

けど、カモ君が。

 

 

「待ってくださいよ。ネギの兄貴は命を狙われたんでしょ? それなのにほっといたら兄貴の生徒さんやカタギの衆にも被害がでるかもしれませんぜ!」

 

 

と、言ってくる。

うう・・・そう言われると。

 

 

「さ、兄貴!」

 

 

・・・そうだ、エヴァンジェリンさんは僕に、「悪い魔法使いもいる」と言ったんだ。

なら、今なんとかしないと。

僕はそう考えて、萎えかけた気持ちを奮い立たせた。

 

 

「・・・行きます。明日菜さん、カモ君、力を貸してください」

「ん、わかった」

「がってんでさぁ!」

 

 

僕は明日菜さんとカモ君と共に、茶々丸さんの前へ姿をみせる。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

猫たちに餌をあげていると、ネギ先生と神楽坂さんが現れました。

どうやら後を尾けられていたようです。

 

 

「こんにちはネギ先生、神楽坂さん。油断しました、ですがお相手はいたします・・・」

「茶々丸さん、もう僕を狙うのはやめてもらえませんか?」

 

 

私に言われても困るのですが。

それに、マスターの命令は絶対ですので。

 

 

「それはできません。私にとって、マスターの命令は絶対です」

「そうですか・・・では茶々丸さん、行きます!!『契約執行10秒間 神楽坂明日菜』!」

 

 

ネギ先生が叫んだ瞬間、神楽坂さん身体が煌めき、素人とは思えないスピードで肉薄してきました。

魔力の供給を受けたのでしょう。

予想外の早さです。

一撃(デコピン)を貰い、体制が崩れてしまいます。

 

 

ネギ先生の方を見ると、どうやら魔法を放とうとしているようでした。

詠唱とともに、11個の光が生まれています。

神楽坂さんが離れたので、体制を立て直すことができました。

普段なら回避できますが・・・今は後ろに、猫たちがいます。

どうしてかはわかりませんが、それを見捨てることが出来ない。

 

 

『魔法の射手 連弾・光の11矢!!』

 

 

11本の魔法の矢が、私めがけて飛んできます。

追尾型魔法多数。回避不能。

でも、猫たちだけでも・・・。

 

 

「すいませんマスター。もし私が動かなくなったらネコのエサを・・・」

 

 

 

 

覚悟を決め、目を閉じます。

そして来るべき衝撃に備え・・・。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・?

 

いつまでたっても、来るはずの衝撃が来ません。

状況に確認すべく、目をあけてみます。すると・・・。

 

 

「・・・・・・大丈夫ですか? 茶々丸さん」

 

 

不思議な風を纏った、白い女の子が、私に微笑みかけていました。

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

今回は茶々丸さん襲撃事件が発生しました。

次回、主人公がネギを泣かす・・・かもしれません。

更新がんばります!


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第11話「さようなら」

今回からアンチルート本格化です。
苦手な方、ご不快な気分を感じそうな方はご注意ください。
では、どうぞ。


Side アリア

 

魔法具『風神』・・・・・・『風守(かざもり)』。

白亜の籠手の形をしたこの魔法具は、風を操る能力を持っています。

私はそれを使用し、風の壁でもってネギ兄様の魔法の矢を弾きました。

 

 

この魔法具の素晴らしいところは、ぱっと見結界魔法を装えるところです。

まだ、兄様には攻撃用を見せるつもりはないのですよ。

 

 

それにしても、何か中途半端な魔力の込め方でしたが・・・撃つ直前に迷ったのでしょう。甘いです。

今回はその甘さのおかげで茶々丸さんを守れましたけど。

 

 

「・・・アリア?」

 

 

突然の私の乱入に、ネギ兄様が戸惑った声を上げます。

まぁ、あれは後でもいいでしょう。

それより、まず茶々丸さんですね。

 

 

「・・・大丈夫ですか、茶々丸さん?」

 

 

振り向いて、茶々丸さんに微笑みかけます。

 

 

「え、あ、はい、大丈夫です」

「そうですか、よかったです。茶々丸さんの身体に傷がついたら大変ですからね」

「・・・は、はい、ありがとうございます」

 

 

・・・?

顔が赤い気がしますが、見たところ壊れてはいないようですし・・・。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』で見た限りでは、内面も大丈夫そうに見えます。

 

 

「では愚兄は後日謝罪に行かせますので、今日の所は下がっていただけますか?」

「・・・はい、わかりました。アリア先生、ありがとうございました」

「いえいえ」

 

 

ぺこりと頭を下げ、ジェット噴射でこの場から去る茶々丸さん。

・・・な、なんだかとてもシュールですね。

 

 

 

「アリア!」

 

 

ようやく茫然自失の状態から回復したのか、兄様が声を上げます。

 

 

「アリア! なんで・・・!?」

「あ、あんたもその・・・エヴァンジェリンの仲間なわけ?」

「ま、間違いねうひぃぃっ!?」

 

 

カモの方は睨んで黙らせます。

いちいち場を乱すのだからタチが悪い。

・・・まぁ、仲間といえば仲間なんですが、それをここで言うと面倒ですね、どうしますか。

 

 

「・・・生徒が襲われていたら、助けに入るでしょう、普通」

 

 

とりあえず、正論から入ってみましょう。嘘ではありませんしね。

 

 

「・・・このことは、学園側に報告せざるを得ません。修行はこれまでですね」

「そんな!?」

「ち、ちょっと待って!」

 

 

私の言葉に、ネギ兄様と明日菜さんが慌てて事情を説明しだします。

内容は、まぁ全部知っているんですが・・・。

要するに茶々丸さんは被害者なフリをしたエヴァさんの仲間で、放っておくと危ないと言う感じです。

 

 

というか茶々丸さんに手を出すってことの意味を、理解しているんですかね?

私ならエヴァさんの報復が恐ろしくてできませんよ。

 

 

「・・・それで?」

「それでって・・・」

「そんなことで生徒を襲ったことは正当化できませんよ」

 

 

溜息混じりに、そう言います。

 

 

「当然でしょう? 私たちは教師です。生徒を守ることがあっても傷つけることがあってはならない。ですから今後も彼女たちに手を出すというのなら・・・」

 

 

可能な限り冷たい視線で、ネギ兄様の目を見ます。

 

 

「・・・私は、あなたの敵となるでしょう。兄様」

 

 

兄様の目が、揺れたような気がしました。

 

 

「そ、そんなのめちゃくちゃよ!」

「・・・明日菜さんは大丈夫ですよ、生徒ですから」

「そういうことじゃなくて!」

 

 

では何なのでしょう。

 

 

「ネギは命を狙われてるのよ!? 心配じゃないの!?」

「殺されなければいいだけでしょうそんなの。・・・まぁ、もし殺されても私は別段どうもしませんが」

 

 

殺しはしないとわかってますからね。

ああ見えてエヴァさん、手加減すごくうまいんですよ?

 

 

「え?」

「なっ!?」

 

 

しかし私の薄情な言葉に、兄様と明日菜さんは言葉を失います。

 

 

「兄様が死のうとどうしようと、知ったことではありません」

「な、なんでよ!」

「それが魔法の世界の常識ですから。力がなければ死にます。才能がなければ死にます。覚悟がなくても死にます。理由もなく、理不尽に死にます。それがこちら側なんです。そこの所、わかってないでしょう、明日菜さん」

 

 

私だって、10歳かそこらでこんなこと覚えたくもなかった。

私は明日菜さんを静かに見据えます。

 

 

「どうせ子供が戦っているのが心配とか、危なっかしいとか、そんな理由で兄様を手伝っているのでしょう?」

「だ、だったら何よ」

「別に・・・ところで話は変わりますが、明日菜さん。兄様から魔力供給を受けた時、どうでした?」

「ど、どうって、すごかった・・・かな? 身体も軽くて・・・」

「力も、増していたでしょう?」

 

 

私の言葉に、こくりと頷く明日菜さん。

私は、言葉を続けます。

 

 

「貴女はそれで無自覚に茶々丸さんを殴・・・デコピンしてましたけど、あれを普通の人間にやったら、首、もげてますよ?」

「そ、そんなわけ・・・」

「ないとどうして断言できるんです? 魔法を知りたての貴女が、生まれたときから魔法を知っている私よりも魔法に詳しいとでも思うんですか?」

「それは・・・」

 

 

言葉に詰まる明日菜さん。

魔法に関してよく知らないということは、否定しがたい事実でしょう。

 

 

「・・・ネギ兄様は」

 

 

私が声をかけると、兄様はおびえたような表情を見せます。

・・・そんな情けない顔をされると、なんだか私が悪いみたいな気持ちになりますね・・・。

 

 

「あの魔法の矢が当たっていたら・・・茶々丸さんが死んでいたと、理解していますか?」

「そんな!?」

 

 

何でそんなに驚いているのでしょう?

 

 

「・・・兄様、あなた人に魔法で攻撃したこと、ないでしょう?」

 

 

思えば、当たり前の話。

ただまっすぐマギステル・マギを目指している兄様が、他人に対して攻撃の魔法を使うなんて考えたことがあるわけがありません。

なんて無自覚。

純粋もここまで来ると・・・害悪ですね。

 

 

「・・・もう少し自分の持つ力の意味を、危うさを、理解してください」

「け、けどよあの従者はロボット「喋るな、下等生物」ぐええぇえっ!?」

「か、カモ君!?」

 

 

加減なく、下等生物の胴体部分を握りしめてあげます。

カモは青を通り過ぎて紫色になりながら、もがいています。

そしてそれを見て、悲鳴のような声を上げる兄様。

 

 

・・・いい加減このやりとりも疲れてきました。

それにどうもこの下等生物が愚かな兄様をそそのかし、かつ明日菜さんを巻き込んだようですし。

やはり先日の段階で殺しておくべきでしたか・・・?

 

 

もう、いつかなどと言わず、今消しておきますか・・・?

原作が変わるかもなどという不確定な理由よりも、今後の被害のことを考えるべきでしょうか?

 

 

「・・・・・・ロボットだから? 修理すれば治るとでも言いたいんですか? なら人間も同じですね。治療すれば治るんですから」

「で、でも!」

「彼女の記憶媒体をかわして攻撃しましたか? できるわけがありませんね。なら彼女は死んでいました。絡繰茶々丸という人格は、永遠に失われていたでしょう」

 

 

少し考えれば、わかることでしょう。

何を言われてそそのかされたかは知りませんが、その兄様の無知さを利用して小金を稼ごうとするか・・・。

 

 

決めました。殺しましょう。

少々予定外ですが、どうとでもなるでしょう。

頑張ってください明日の私。

 

 

「ぐぅえっ・・・!?」

 

 

左眼の魔眼が熱を持ち始めます。

・・・・・・喰い殺します。

 

 

「ちょっ・・・」

「アリア、やめてよ!」

 

 

尋常ではないもがき方をするカモの様子に、兄様と明日菜さんの顔が青ざめます。

「まさか」、まさにそんな表情。

・・・・・・ああ、明日菜さんには見せないようにしますか。

刺激が強いでしょうし。

まぁ、どのみち殺しますが。

 

 

「アリアっ!!」

「・・・・・・っ」

 

 

するとあろうことか、兄様が私の腕を掴んで止めに入りました。

さすがに兄様を害するわけにもいかないので、いったん『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を止め・・・・・・!

 

 

その拍子に、兄様の肘が顔に当たり、カモを放してしまいました。

そのカモを大事そうに抱え込む兄様。

このっ・・・!

 

 

・・・再びカモに手を伸ばしかけたところで、動きを止めます。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』が何かに反応しました。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

周囲に視線を巡らせて、見つけました。

これは、遠見の魔法構成・・・?

 

 

「・・・監視ですか」

 

 

兄様たちに気づかれないよう、小声で呟きます。

遠見の魔法以外にも、いくつか物理的な監視の気配がしますね。

舌打ちしたい心境とは、こういうことを言うのでしょう。

 

 

無視して続けますか・・・いえ、ここでわざわざ気付かせるという点に、作為的な面を感じます。

このまま兄様ともめれば、何かしかの介入が行われるはず。

今は、必要以上に弱みを見せるわけにはいきません・・・。

それに最悪、兄様や明日菜さんにまで監視が固定されかねない・・・。

 

 

・・・兄様を見る。下等生物を胸に抱き、こちらを睨んでいます。

明日菜さんは、どうすればいいかわからない様子。

 

 

・・・・・・ねぇ、兄様、兄様はどうして・・・・・・。

 

 

「・・・兄様、兄様はマギステル・マギになりたいのですよね?」

「え、うん。そうだけど・・・」

「マギステル・マギとはなんですか?」

「それは、正しいことのために、魔法の力を使う人・・・のことだと思うけど」

 

 

なぜそんな質問をするのかわからない、そんな表情を浮かべる兄様。

私はそれに頷いて。

 

 

「では、兄様はマギステル・マギにはなれませんね」

「なっ・・・どうして!?」

 

 

聞き捨てならないと言いたげな兄様。

でもね、明らかに貴方の行動はマギステル・マギの原則と矛盾しているのですよ。

 

 

「敵とはいえ、一人の生徒をよってたかって複数で闇討ち」

「でもそれは」

「軽犯罪とはいえ、脱獄中の犯罪者を刑に服させることもせずに庇いだて」

「それは」

「守るべき一般人を魔法使い同士の戦闘に巻き込む」

「う・・・」

「お父様が見たら、何と言うでしょうね?」

「・・・・・・」

 

 

兄様の顔から、血の気が引いて行く音が聞こえた気がしました。

まぁ実際は見られてもどうもされない可能性もありますが、兄様の中のお父様のイメージはそうではないのでしょう。

あまり理解できませんが。

 

 

「さすがは俺の息子だと、言ってくれますかね? ・・・ああ、いや、お父様はマギステル・マギですから、兄様を捕まえてしまうでしょうね。そして言うわけですね。お前なんか息子じゃない・・・」

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

 

成り行きを見守っていた明日菜さんが、たまりかねたように叫びました。

なんでしょう?

 

 

「い、言いすぎよ! ネギがお父さんのこと尊敬してるのは知ってるでしょ!?」

 

 

知りませんよ。

・・・というか。

 

 

「明日菜さんも無関係ではないですよ? ネギ兄様の従者として戦い、茶々丸さんを殺そうとしたんですから」

「なっ・・・」

「晴れて貴女も犯罪者の仲間入りです。おめでとうございます」

「・・・・・・」

「・・・同情か何かで関わっていると、本当にそうなりますよ?」

 

 

まぁ、この学園内ではたぶん捕まりませんけど。

でも本当にそう言われる日を迎えたくなければ、もう少し考えてほしいものです。

 

 

「ありえない選択肢でしたが、茶々丸さんを見捨てる選択肢も私にはありました。そして今そうすればよかったと少し思いますよ。私が止めず、バラバラになった茶々丸さんを見て、あなたたちがどんな反応をするのか、見てみたかった」

「なっ・・・」

「・・・・・・消えてくれますか? ネギ兄様。正直あなたの面倒を見るのは、もう疲れましたから」

 

 

 

犯罪者の妹にはなりたくありませんから。

さようなら。

 

 

 

最後にそう言って、私はその場を去ります。

背後で何か泣いているようですが、私は知りません。

知りたくも、ありません。

・・・ひどいことをしたと、思いますか? シンシア姉様。

 

 

 

 

 

 

でも、アリアは少しすっきりしました。




風神:烈火の炎から、司書様提案です。
ありがとうございます。


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第12話「冷える関係」

主人公がネギを拒絶した翌日のお話です。

つまりネギが山にこもる時のお話です。

では、どうぞ。


Side アリア

 

「あえて言いますが、私は当然のことをしたまでです」

 

 

無駄とわかっていても、抗ってみたくなる。

そういう時って、ありますよね? 

私にとって今がまさにその時です。

 

 

「・・・アリアちゃん、どうしてあんなことを言ったんだ」

 

 

現在学園長室にて、学園長及びタカミチさんに呼び出されています。

絶賛、尋問中です。

そしていい加減「ちゃん」付けで呼ばないでください。

 

 

「・・・では、どうすればよかったと? 茶々丸さんを見捨てればよかったとでも?」

「そうじゃない。でもあんなことを言う必要はなかったはずだ」

 

 

話題は昨日、ネギ兄様が茶々丸さんを襲った時のことです。

正確には、その時の私と兄様たちとの会話ですね。

まぁわかってはいましたけど、ばっちり見てやがりましたね。

 

 

「・・・最後の言葉は、特にいけない」

 

 

最後? ああ、あの「消えて」発言ですか。

でも、普通あれくらい言っても罰は当たらないと思うのですけど。

私の立場からすれば、特に。

 

 

「・・・ネギ君の行方がわからない」

 

 

あら、本当に消えたんですか。

後悔はしてませんけど、打たれ弱いですねぇ・・・。

と言うかそんな話を私にされましても、困るんですけれども。

 

 

「・・・・・・それが何か?」

「・・・ッ!」

 

 

パァン!

 

 

ため息混じりに答えた瞬間、頬を叩かれました。

気も魔力もこもらない普通の張り手だったので、魔眼での自動防御が発動しませんでしたか。

・・・・・・痛いですね。

 

 

「・・・他に言うことは、無いのかい。たった一人の兄だろう?」

「・・・・・・・・・」

 

 

・・・どいつもこいつも兄様兄様と・・・。

 

 

叩かれた頬を片手でさすりつつ、無感動にタカミチさんを見上げます。

その瞳は、怒りとも、悲しみともとれる感情に染まっていました。

・・・昔から。

 

 

「・・・相変わらずですね」

「え?」

「タカミチさんはネギ兄様のことは何かと世話を焼いていましたが・・・私には、何もしてくれない」

 

 

ネギ兄様の、ことばかり。

そう言うと、タカミチさんはうろたえたような表情を浮かべました。

私はタカミチさんを無視する形で、学園長と向かい合いました。

 

 

「・・・それで? 狙い通りのシナリオで、何か問題がありましたか? 学園長」

「む・・・」

「ありませんね? なら失礼させていただきましょう。私も暇ではありませんので」

 

 

ああ、もうひとつ言っておきませんと。

 

 

「・・・それと、いい加減監視するのをやめていただけません? ストーカーで訴えられたくなければ、ですがね」

 

 

というか、女子寮に監視つけないでください。

社会問題になりますよ?

一部の女生徒は気がついているようですし。

 

 

「・・・あぁ、タカミチさん」

「・・・なんだい」

 

 

学園長室から出る直前、タカミチさんに声をかけておきます。

まぁ、どうでもいいことですが。

 

 

「兄様と父を重ねるの、やめたほうがいいですよ?」

「そんなことは・・・」

「ならいいです、失礼しました」

 

 

そう言って、私は学園長室を出ます。

さて、風邪を引いた生徒の様子でも見てきますかね。

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「・・・本当に、恐ろしい子じゃ」

「・・・ええ」

 

こちらの手の内を全て看破しておるだけでも恐ろしいのに、あの年であの物の考え方。

母親に似たのかの・・・いや、環境がそうさせたのじゃろうな。

しかも・・・。

 

 

ちら、と何かを考え込むタカミチ君を見て、思う。

タカミチ君がネギ君にナギを重ねていることまで、見抜いておったとは。

 

 

「・・・恐ろしい」

 

 

わしはもう一度、呟いた。

そしてそれ以上に危険じゃとも、考えた。

 

 

 

このままでは、彼女は闇に堕ちてしまうかもしれぬ。

 

 

 

彼女はあまりにも周囲の人間を受け入れなさすぎる。

生徒を守るというあの姿勢も、職務に忠実というだけの気がしてならん。

 

 

・・・監視に関しては、超長距離からのもののみに絞るかの・・・。

近距離では、気付かれてしまう。

アリア君の魔法探査能力は、そこらの魔法先生など問題にならんほど高い。

下手に近づけば、暴発する可能性が高い。

といって、無視するわけには絶対にいかん。

 

 

なんとかしたいが、どうすれば良いか検討がつかん。

どうするのが良いか・・・。

場合によっては・・・・・・。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

昨日の夜、結局ネギは帰ってこなかった。

 

 

木乃香は心配そうにしていたし、カモは探しに行こうとかうるさかったけど、私は構う気にはなれなかった。

昨日アリア先生に言われたことがどうしても気になって、気持ちの整理がつかなかった。

 

 

「姐さん、昨日からおかしいですぜ? 兄貴のことも放りっぱなしで」

「ちょっとね・・・」

 

 

正直、ネギの手伝いはしてあげたいと思う。

ちょっと、いやかなり抜けてるやつだけど、一生懸命なのはわかる。

そういうのが報われないのは、気に入らない。

 

 

でも、だからって、犯罪者になるのは困る。

それでも見てられない。

そういう気持ちで手伝うのは、だめなの・・・?

 

 

「・・・ねぇ、ネギがしようとしてることって、そんなに危ないの?」

「そ、それは・・・う~ん」

 

 

危ないってことね。

 

 

「兄貴は、なんというか、よくも悪くも一直線というか、なんというか・・・」

「一生懸命、お父さんを追いかけてるのよね・・・」

「それは、そうっスね」

 

 

私は両親の記憶がないから、そういう気持ちはあんまりよくわからない。

でもやっぱり、がんばってるネギの姿を見ていると・・・いてもたってもいられなくなる。

 

 

 

私は、どうすればいいんだろう・・・?

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

あれから一晩、長瀬さんと山で過ごして、いろいろと考えた。

自分の力のこと、魔法使いのこと、そして、これからのこと。

アリアの言うとおりだった。

僕は、周りの人たちに迷惑をかけてばかりだった。

 

 

アリアに嫌われるのも、仕方がないのかもしれない。

 

 

謝ろう、そして、今度はちゃんとするんだ!

 

 

そう思って、まずエヴァンジェリンさんの家に来ると、エヴァンジェリンさんは風邪で寝込んでいた。

しかも花粉症も併発しているらしい。

最強の吸血鬼なのに・・・?

そう思ったけれど、彼女も僕の生徒。

茶々丸さんが薬をもらってくるまで、しっかり看病しなければ!

 

 

「やめ・・・」

「ひぃっ!?・・・ごめんなさいっ」

 

 

で、でもやっぱり怖い!

・・・って、寝言か、なんだ・・・。

 

 

「サ、サウザントマスタ-・・・ま・・・やめ・・・」

 

 

サウザンドマスター? ・・・父さん!?

エヴァンジェリンさんは今、父さんの夢を見ているの?

もしかしたら父さんのことがわかるかもしれない!

 

 

僕は杖を取り出して、エヴァンジェリンさんの夢を見ようと・・・。

 

 

「・・・兄様?」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

そっと、兄様の杖を抑えます。

エヴァさんの家に来てみれば、そこにはエヴァさんを看病している兄様の姿。

少しは反省したのかと思いきや、この兄様は。

 

 

「・・・今、何をしようとしたんですか?」

「え、あ、その・・・」

 

 

聞くまでもありませんね。

この魔法の構成は夢見でしょう。

 

 

「アリア、お願い、チャンスなんだ」

「は?」

 

 

何を言い出すのかわかってしまうので、なんだか悲しいです兄様。

 

 

「今、エヴァンジェリンさんが父さんのことを・・・きっと、何か知ってるんだよ!」

「いや、あの、兄様? だからって人の夢を勝手に見ちゃいけませんよ。プライバシーの侵害にもほどがあります」

「でも!」

 

 

でもと言われましても。

というか、最近兄様の株が私の中でストップ安です・・・。

 

 

「アリアは知りたくないの!? 父さんのことが分かるかもしれないんだよ!?」

「・・・あの、果たして兄様に私の言葉は届いているのでしょうか・・・?」

 

 

最近、本当に自信がなくなってきます。

この兄の中に・・・果たして、父以外の存在はいるのでしょうか?

 

 

「やっと、何か掴めるかもしれないんだ! 父さんのことを!!」

 

 

興奮してきたのか、半ば突き飛ばすように私を振りほどく兄様。

 

 

「兄様・・・?」

「ごめんなさい、エヴァンジェリンさん・・・」

 

 

そう言って魔法の詠唱を始める兄様。

・・・ああ、もう。

 

 

『全てを喰らう・・・』

 

 

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を発動、兄様の魔法を打ち消し、強化された身体能力で、兄様の頭を殴りつけます。

 

 

「・・・頭を、冷やしなさい」

 

 

床に叩きつけられ、気を失う兄様。

当分目を覚まさないでしょう。

ぐったりとした兄様の姿に、溜息を吐きます。

ここから女子寮までの距離を思うと、溜息のひとつも出ます。

 

 

「む・・・なんだ・・・?」

 

 

おっと、エヴァさんを起こしてしまいましたか。

 

 

「む、アリアか」

「はい、アリアです。お加減はいかがですか?」

「いいように見えるか?」

「・・・見えませんね」

 

 

とりあえずエヴァさんの氷枕に氷を詰めなおして寝かせます。

 

 

「・・・よーしよし、すぐに茶々丸さんが薬を持ってきてくれますからねー」

「子供扱いするな!!」

「熱上がりますよー」

「お前のせいだっ!」

 

 

いいですね。打てば響くとはまさにこのことですか。

ふん、と鼻を鳴らしながら、エヴァさんがベッドに潜り込みます。

可愛いですね。

 

 

「・・・今、なにか失礼なことを考えなかったか? 少なくとも主人に向ける言葉ではない感じの」

「・・・・・・まさか」

「ならその間はなんだ!」

「熱上がりますよー」

「お前のせいだっ!」

 

 

いいですね。

ネギ兄様の相手をするよりよっぽど気が楽です。

 

 

「・・・ところでなぜぼーやが床で寝ているんだ?」

「さぁ、兄様はお子様ですからね」

「同い年だろう、お前・・・」

 

 

同い年、ですか・・・。

そこで、再び床で伸びている兄様を見ます。

面倒な兄様、幼い頃から、迷惑以外のモノをいただいた記憶が無い、そんな兄様。

 

 

一途に父親を見ている兄様。

父しか見えない、歪んだ兄様。

別にどのような人生を歩もうと、もはや私の関知する所ではありません。

 

 

でも。

もし私の邪魔をしたり、私の大切な人たちに手を出すというのなら、その時は。

貴方は私の敵です。

・・・悲しまないでくださいね、シンシア姉様。

 

 

 

 

アリアはもう、兄様に関心を持ちたくないのです。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。

いよいよ主人公がネギに直接手をあげるようになりました。
何かここだけ聞くと主人公が一方的に悪いみたいに聞こえますが。

次回はいよいよ吸血鬼編クライマックスです。
更新頑張りますので、よろしくお願いいたします。


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第13話「闇夜の時間」

Side アリア

 

大停電の夜が来ました。

麻帆良全体が停電するこの夜、私が気にかけていたのは2つ。

 

 

一つは、停電の夜を生徒のみなさんは不便なく過ごせているかということ。

2-Aの生徒たちには帰りのHRで準備をするよう言っておきましたが、心配は尽きません。

一応管理人室の前に、懐中電灯やお湯などをあらかじめ用意してあります。

 

 

もう一つは、学園結界のこと。

学園長サイドは、今夜兄様とエヴァさんが戦うことを読んでいるはずです。

まぁ、エヴァさんの魔力が戻るのが停電の間だけですから当然でしょうが。

・・・ネギ兄様が窮地に立てば、おそらく結界を前倒しで復旧するくらいの事はするでしょう。

 

 

「・・・まぁ、そこが私にとっての狙い目なのですが」

 

 

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』を常時解放状態にして、結界を見張ります。

結界が復活する瞬間を狙って、結界の術式構成を弄り、エヴァさんからの魔力奪取機能を無効化します。

 

 

そこまでいかずとも、結界機能の掌握という形をとり後日交渉という形に持ち込むのも悪くありません。

その場合学園中の関係者が敵に回りそうですが、今のところエヴァさんの方が私にとって重要なのでそこは別に良いです。

マギステル・マギになりたいわけでもありませんし。

 

 

「ははぁ、人形に変化の魔法をかけて生徒を攫ったように見せているんですね」

 

 

なるほどなー、と、女子寮の屋根の上から下界の様子を見守りつつエヴァさんの戦法を分析します。

今のところ他にやることもありませんしね。

しかしさすがは600年生き残った吸血鬼。

戦闘後の汚名を一切気にしない戦い方、勉強になります。

 

 

「綺麗事の一切ない、現実主義的な戦闘スタイル・・・」

 

 

この学園の正義かぶれのみなさんには選べない戦法ですね。

正々堂々なんておバカさんのやることですよ。

 

 

「そして我が兄様は・・・どうやらおバカさんのようですね」

 

 

まき絵さん(に、良く似たエヴァさんの作った偽者)を追って大浴場までたどり着いたネギ兄様は、やたら重装備であるものの、一人。

圧倒的な実力差を知りながら、援軍も呼ばず、策も練らず・・・。

 

 

「・・・甘いですねぇ」

 

 

ま、殺されはしないでしょうから、別にかまいませんけど。

今回は別に、兄様の経験値稼ぎが目的ではありませんから。

 

 

その後の展開は、私が記憶している通りのものでした。

人質だと思ってた人達が偽者だと言うことにうろたえつつも、兄様が罠のある橋へエヴァさんを誘導、捕縛結界を使用しました。

・・・茶々丸さんが結界を破壊しましたけど。

 

 

「・・・まぁ、こんなものですか」

 

 

この程度では策とも呼べません。

600年のベテランであるエヴァさんに、通じると思う方が甘いのです。

兄様は結界が破壊されて驚き、その間にエヴァさんに杖を奪われ、橋の下へと投げ捨てられてしまいました。

 

 

「・・・油断しすぎですよ兄様・・・」

 

 

作戦のひとつやふたつが失敗したからと言って、無防備になってどうするんですか。

・・・ああ、泣き出しましたね。

というか、戦闘中に泣くんだ・・・。

あれが兄だと思うと、なんだか悲しくなってきますね・・・。

 

 

「・・・・・・うん?」

 

 

誰かが橋に近づいてきますね。

結界の方には・・・まだ、動きがありませんね。

ここでエヴァさんたちに余計なちょっかいを出されるのも面倒です。

・・・潰しておきますか。

 

 

「・・・魔法具、『どこでも扉』」

 

 

ぶっちゃけ、ド○えもんのどこ○もドアです。

では、行きますか。

 

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

想定外だ。

正直、エヴァとネギ君の戦いは、もっと拮抗すると思っていた。

けれど現実には、エヴァはネギ君を殺してしまいかねないほどの戦いを見せている。

 

 

学園長に頼まれてアリアちゃんを見ていたけど、こちらの方が緊急性が高い・・・!

急がなければ。

その時、突然、桃色の扉が目の前に出現した。

な、なんだ!?

 

 

「こんばんは、タカミチさん。良い夜ですね」

 

 

中から現れたのは、女子寮にいたはずのアリアちゃんだった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「こんばんは、タカミチさん。良い夜ですね」

 

 

危なかったですね。

誰かと思えば、タカミチさんですか。

まぁいざという時、タカミチさん以外の魔法先生ではエヴァさんに対抗できませんからねぇ。

順当な配置、ということでしょう。

 

 

「アリアちゃん」

 

 

タカミチさんは少し呆然としているようですね。

まぁ、突然現れましたから。

 

 

「・・・そこをどくんだ」

 

 

しかしすぐに体勢を整えるあたり、さすがですね。

焦りが見えるのは、ネギ兄様のことでしょうか。

 

 

 

・・・?

 

 

 

少し探ってみると、兄様以外に誰かがエヴァさんたちと戦っているようです。

明日菜さんあたりでしょうか? 結局首を突っ込んじゃうんですね。

まぁ、こちらはこちらの仕事をしましょうか。

 

 

「それはできませんね」

 

 

薄ら笑いを意識して浮かべます。

 

 

「そこを、どくんだ。」

 

 

すると顔をどこか辛そうに顰めて、タカミチさんがポケットに手を入れて臨戦態勢をとります。

・・・おやおや。

 

 

「それはできません。エヴァさんに怒られたくはありませんから」

「・・・それはどういう」

「そのままの意味ですよ? エヴァさんは私のマスターですから」

「なっ・・・」

 

 

ああ、驚いてますね。

その程度で殺気を霧散させるなんて、温いですねぇ。

 

 

袖に仕込んでおいた魔法具『速(スピード)』『力(パワー)』のカードを手に落とし、即座に発動。

一瞬でタカミチさんの目前に迫り、全力でお腹を殴ります。

虚を突かれたタカミチさんは、それをまともに喰らってしまいます。

さらに。

 

 

『全てを喰らう・・・』

 

 

反撃されても面倒なので、魔力と気を根こそぎ奪います。

話をするのも、鬱陶しいですし。

 

 

「<紅き翼>と言っても・・・不意を突けば、こんなものですか」

 

 

地面に横たわり気を失ってしまっているタカミチさんを見て、そう呟く。

まぁ、私のことを知っていて、油断したというのもあるのでしょうけど。

タカミチさんは魔法使いではありませんし・・・次は私も勝てないでしょう。

 

 

「・・・どうやらあちらも、佳境ですね」

 

 

その時、大きな魔力が2つぶつかり合うのを感じました。

エヴァさんと、兄様でしょう。

 

 

「・・・魔法具、『韋駄天』」

 

 

私の両足は、特殊な黒い靴に覆われました。

これはまさに、韋駄天のごとく走ることを可能にする魔法具です。

 

 

「・・・・・・仕事をしましょうか」

 

 

走り回るとしましょう。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「マスター、停電から復旧します! 予想時間よりも早い!」

 

 

茶々丸の悲鳴のような声に、愕然とする暇もなかった。

電力が復旧し、結界が発動してしまう。

魔力が、失われていく。

いきなり力の半分を失った私は、飛行の術式を乱して橋から落ちる。

 

 

(・・・アリアは、間に合わなかったか!)

 

 

責める気はないが、期待していなかったといえば嘘になる。

 

 

 

『3年たったら解きにきてやるよ』

 

 

 

落下していく中で、思い出したのはあの馬鹿のこと。

3年で呪いを解きにくると言って、結局は来なかった大ばか者。

 

 

「・・・・・・うそつき」

 

 

自然と口が開いていた。万感の想いが、その言葉を吐かせた。

そして私は重力に身を任せ、落ちていく・・・。

 

 

「・・・誰のことを、言っているんですか?」

 

 

白い翼と、誰かの温もりに包まれた気がした。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

エヴァさんを抱きとめて、空中で静止します。

そんな私の背中には、1対の翼。

・・・魔法具、『翔(フライ)』。

 

 

「アリア・・・?」

「はい、エヴァさん」

 

 

にこりと微笑んで、エヴァさんを橋の上まで運びます。

 

 

「マスター!」

 

 

そのまま茶々丸さんにエヴァさんを渡し、『翔(フライ)』を消します。

目立ちますしね。

 

 

「アリア・・・?」

「アリア先生!?」

 

 

ネギ兄様と明日菜さんが、私に気付きました。

ずいぶんとまぁ、ボロボロですね。

まぁ、エヴァさんもこんな様子ですし、引き分け、なんでしょうか・・・?

 

 

「お前、その様はなんだ!?」

 

 

かく言う私もエヴァさんが声を荒げる程に、ボロボロではありますが。

服はところどころが破れ擦り切れ、髪も乱れ、肌も薄汚れています。

 

 

「・・・ちょっと、転んだだけですよ」

「そんなわけがあるか!」

 

 

はい、嘘です。

単に学園結界の術式構成をいじる時に、半分科学ということを忘れていて電力復旧と同時に感電しかけました。

さすがにヤバかったですね・・・。

時間的にキツかったんで、慌てたのもあるんでしょうね。

 

 

だってエヴァさんが橋から落ちるのを思い出したの、感電しかけた時ですもん。

電気ショックで思い出すとか・・・ないです。

 

 

「そんなことより・・・」

 

 

いまだに何事かを言い募る皆さんを抑えて、『複写眼(アルファ・スティグマ)』を全力で発動させます。

右眼に浮かぶのは、朱色に輝く五方星。

私の魔力を吸って、『複写眼(アルファ・スティグマ)』が輝く。

 

 

「『網』を、解析・・・」

 

 

私がその構成術式を解析すると、学園都市全体を覆っていた結界が目に見える形で浮かび上がる。

それはまるで、何かを捕らえる『網』のような形をしていました。

とても複雑で、巨大な構成。

麻帆良中に張り巡らされたそれは、まさに『網』。

 

 

「これは・・・」

「きれい・・・」

 

 

兄様と明日菜さんが、呆然と呟く。

・・・学園長サイドに介入される前に、コトを終えてしまいましょう。

 

 

「・・・『網』に、介入、構築式を改竄」

 

 

あらかじめ書き込んでおいた術式を、遠隔で始動させます。

きぃん・・・という耳鳴りのような音と共に、『複写眼(アルファ・スティグマ)』の輝きが増していきます。

 

 

「く・・・」

 

 

大方は、タカミチさんを沈めた後にやってきたんですけど・・・。

そのままやると学園結界そのものを解除してしまうので、さすがにそれはマズい。

解除した方が早く終わるんですけどね。

 

 

「あ・・・」

「ちょっ・・・」

「おまっ・・・アリア! 大丈夫なのか、それ!」

「・・・心拍数が上昇、危険です」

 

 

というか、なんですかこれ。

エヴァさんから魔力奪う前提で術式組んでますね。

さすがは学園長、やることがえげつないですねぇ。

 

 

右眼の視界が、朱色に染まります・・・。

ぶつん、という音が聞こえた気がします。

 

 

 

 

・・・よし、できました!

・・・・・・あら?

 

 

「・・・なんで、私は倒れているのでしょう?」

「気付いとらんかったのか、この馬鹿が!」

 

 

耳元で怒鳴らないでください、エヴァさん。

 

 

「アリアさんは学園結界が露出した後、すぐに倒れました」

 

 

私に膝枕してくれているのは、茶々丸さん。

というか、解除作業に入ってすぐに倒れたんですか私。

それにしても・・・。

 

 

「視界が半分ないのはなぜ・・・」

「あんたの右目から血がいっぱい出てたから、押さえてんのよ!」

「ああ、そうですか・・・」

 

 

私の顔にどこから持ってきたのかタオルを押し当てながら、明日菜さんが叫ぶように言います。

おそらく、『複写眼(アルファ・スティグマ)』の使いすぎですか。

まぁ、そのうち視力は戻るでしょう。

・・・・・・戻りますよね?

 

 

「ああ、エヴァさん、魔力は・・・?」

「・・・完全に戻った。結界も変わらず機能している・・・お前の、おかげだ」

「・・・そうですか・・・良かった」

 

 

なら、父親の清算はとりあえず終わったと見るべきですか・・・。

・・・でも・・・。

 

 

「・・・眠いです。茶々丸さんの膝枕は最高です・・・」

「そ、そんな・・・」

 

 

プシュー、と音を立てて、真っ赤になる茶々丸さん。

褒められ慣れてないんですかね・・・。

あ、だめです・・・意識、が・・・。

 

 

「・・・今は休め、ちゃんと後の面倒は見てやる」

「・・・あ・・・」

 

 

あたたかい、です・・・。

誰かに頭をなでられるのは、いつ以来でしょうか・・・。

 

 

・・・そう言えば、さっきからネギ兄様が何も喋ってませんね・・・。

・・・まぁ、いいですか・・・。

・・・眠いです、シンシア姉様。

 

 

 

 

 

・・・おやすみ、なさい。

 




最後までお読みいただき、ありがとうございます。
学園結界を弄り、エヴァさんに魔力が完全に戻りました。
次回、おそらくいろいろ後始末、でしょうか?

それでは、また次回に。


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第14話「宣言」

Side アリア

 

あの後、運び込まれたらしいエヴァさんのログハウスで一日休ませてもらいました。

かなり楽になりましたが、右眼の視力は戻りませんでした。

正直、ビビってます。

私の切り札がリアルに一つ使えません。

エヴァさんと茶々丸さんに心配をかけたくはないので、「大丈夫」と連呼しましたが。

 

 

それはそうと別荘から出て自室に戻ろうとしたころ、自室前でタカミチさんに捕まりました。

回復するの早いですね。

そして正直、勘弁してほしかったです。

でもタカミチさんの目がいたく真面目であったので、逃げられませんでした。

 

 

「・・・よく来たの」

 

 

そして、学園長室に連行される私。

学園長だけかと思いきや、魔法先生全員集合の様相を呈していました。

ちなみに今私は右目に包帯を巻いていますので、それを見て驚く人が何人かいました。

でも、この状況を回避することはできません。

 

 

・・・謝ったら、許してくれませんかね?

無理でしょうねぇ・・・。

 

 

「呼ばれた理由は、わかっておるな?」

 

 

わかりたくないです。でも、わかってしまいます。

頭いいんです、私。

え? 頭悪くてもわかる? ・・・ですよね。

 

 

「・・・エヴァの呪いを解いたそうじゃな?」

「はい、解きました」

「・・・・・・そうか、なら良い」

 

 

・・・いやに、物分かりがよいですね・・・?

いったい、どういうつもりなんでしょう?

 

 

「何を言っておられるんですか、学園長!!」

 

 

一部の先生は、ご理解いただけないようです。

まぁ、相手は吸血鬼ですからね。

怖いのはわかりますけどね。

家族とかいる人は、特に保守的になりますしね。

 

 

「キミも、なぜそんなことをしたんだ!? お父上の名を汚すつもりなのか!?」

 

 

・・・この人の相手、疲れそうですね。

えっと、ガンドルフィーニ先生でしたか。

悪い人ではないんですけど・・・ええ、悪い人では。

 

 

「えっと・・・何が問題なのか、わからないのですけれど」

「<闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)>に手を貸し、あまつさえサウザンドマスターのかけた呪いを解くなど・・・」

「でも呪いは本来、3年の約束だったのでしょう?」

 

 

確認するように学園長を見ると、頷いてきました。

 

 

「そもそもこの15年間、エヴァさんにこの学園を守ってもらっていたのでしょう? 魔力を封印した上に、強制労働・・・そしてエヴァさんは、逆らうことも悪事も働くこともなく、それをやっていた」

 

 

どちらが悪か、わかりそうなものですけどね。

 

 

「だから私が引き継いだんです。父のその契約を、賠償期間付きで」

「賠償期間?」

「ええ、今後12年間・・・父の契約の超過分、私はエヴァさんの従者として働くことになっています」

「なっ!?」

 

 

先生方がどよめきます。

タカミチさんは昨夜の話の内容と合わせて、納得しているようですが。

・・・まぁ、実際は期間なんて定めてませんけどね。

 

 

「エヴァさんも、とりあえず私の修行が終わるまで・・・つまり次の卒業までは麻帆良でこれまで通りに過ごすそうです・・・どこか問題がありますか?」

 

 

というか、私としては最高のグットエンドなんですけど。

目的も果たせますし。

おまけに全盛期の魔力を取り戻したエヴァさんが研究を手伝ってくれて、修行までつけてくれる。

何より茶々丸さんは良い人です。

言うことありません。

 

 

「何を考えているんだ!? 君は!?」

「それは私のセリフですよ。貴方たちがもっとちゃんとエヴァさんと接してくれてさえいれば、わざわざ私が後始末をすることもなかったんです」

 

 

そう、頭ごなしに悪と決め付け怖がって、そのくせ都合よく使っていたくせに。

これだから。

 

 

「父と言い先生方と言い、どうして大人になると、そんな恥知らずになれるんでしょう。自分の都合ばかり優先して、相手の話ひとつ聞けやしない」

 

 

まぁ、私も偉そうなことは言えませんけどね。

でも言います、「悪」ですから。

私は全員を見据えながら、言葉を続けます。

 

 

「私の人生です、誰と共に在るかは私が決めます。そしてその責任も、全て私に帰属します」

 

 

そう言い放つと、先生方は何とも言えない表情になりました。

好意的ではありませんが、なんと言っていいのかわからない。

そんな表情。

 

 

「今後、私のマスターであるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを侮辱することは私を侮辱したことになります。彼女に害意を持つ者は私が実力で排除します。今後彼女の敵は、私の敵となるでしょう」

「そうか、ならお前の敵は私の敵でもあるわけだな? アリア」

「私にとっても、敵となります」

 

 

私が高らかにそう宣言すると、突然、聞き覚えのある声がしました。

それも、2人。

後ろを振り返ると・・・。

 

 

「エヴァさん、茶々丸さんも」

「ふん、ずいぶんと面白いことをしているじゃないか」

「エヴァさん、どうしてここに?」

「ふ・・・」

 

 

私のもっともな疑問に、かっこよく笑うエヴァさん。

・・・惚れてしまいそうです。

すると、茶々丸さんが私の傍に来て。

 

 

「マスターはアリア先生が心配で心配で、後をついてきたのです」

「茶々丸!? なんでバラした!?」

「そうなんですか・・・もぅ、エヴァさんのツンデレ」

「違うわっ!」

 

 

顔を真っ赤にして拒絶するあたり、まさにツンデ「違うわっ!」・・・心を読まれました。

エヴァさんはふん、と鼻を鳴らすと私を守るように私の前に立ちました。

小さな背中が、なんだか頼もしく思えます。

 

 

「そういうわけだ、じじぃ。今後アリアに妙なちょっかいを出したら、私が許さん。この学園ごと消滅させてやるから、そのつもりでいろ」

 

 

そう言うとともに、魔力と殺気がエヴァさんの全身からあふれ出ました。

その強大な魔力量に、学園長の額に玉の汗が浮かびます。

他の魔法先生は、言うに及びません。

タカミチさんでさえ、苦しそうですね。

 

 

「・・・ふん。行くぞ、茶々丸、アリア」

「はい、マスター」

「・・・・・・はい、エヴァさん」

 

 

どうしてでしょう、とても嬉しいのです。

私は茶々丸さんの反対側に回って、エヴァさんについて歩きます。

茶々丸さんと私で、エヴァさんを左右からガードする形です。

 

 

「待つんじゃ!」

 

 

すると、学園長先生が呼び止めてきました。

 

 

「アリア君、キミは・・・何を目指しておるんじゃ? 何を求めておる?」

 

 

何が目的って、それは・・・。

私は立ち止まって、少し考えるそぶりを見せた後に。

 

 

 

「お嫁さんです♪」

 

 

 

そう言って、学園長室を後にしました。

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

アリア君が退出した後、わしらはあっけにとられておった。

というより、彼女の真意をはかりかねていた。

 

 

「お嫁さん・・・?」

 

 

誰かが震える声で呟くのが聞こえる。

どことなく、不信感が漂っているように思える。

わしとて、にわかには信じがたいのじゃから・・・。

 

 

「彼女の年齢なら・・・普通なんじゃ?」

 

 

娘のおる明石君がそう言うが、場の空気は変わらんかった。

皆の表情はとても堅い。

エヴァのこと、アリア君のこと、そしてこれからどうしたらいいか、戸惑っているのじゃろう。

 

 

「でも・・・アリアちゃんが僕たちのことを信用していないというのは、確かでしょう・・・」

 

 

どことなく辛そうに、タカミチ君が言う。

その意見には、皆も同意するように頷いた。

アリア君の魔法使い嫌いは以前からわかっておったが、今回の事でますます進行した可能性が高い。

 

 

「どうなさるおつもりですか学園長、将来有望なマギステル・マギ候補が・・・」

 

 

ガンドルフィーニ君はネギ君同様アリア君にも期待しておったからの。

その落胆も激しかろうて・・・。

 

 

どうしたものかの、ネギ君の修行の事も考えねばならんし・・・。

といって、あの年齢で学園結界に介入できるほどの力を持つアリア君を放っておくこともできん。

頭を抱えたくなるとは、このことか。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

僕は先の戦闘のことを思い出していた。

アリアちゃんは、肉弾戦で僕を圧倒した。

不意を突かれたとか、油断したとかは言い訳だ。

どういう理屈で、僕を一撃で倒したのかはわからない。

 

 

僕の知っているアリアちゃんは、おとなしくて、引っ込み思案な、普通の女の子だったはずだ。

魔法が使えないということでずいぶん苦労はしていたようだけど、それくらいだった。

 

 

それなのに、昨日の動き。

・・・わからない。

 

 

いったい、アリアちゃんに何があったのか。

そして、彼女の力はどこからきているのか・・・。

わからなかった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「あはははははははははははははっ!! お、お、お嫁さ・・・お嫁さんだと!? ぷくくっ・・・だ、だめだ腹がいたっ・・・あはっはははははははははははっ!!」

 

 

あれから、エヴァさんはずっと笑っています。

どうやら私の「将来の夢はお嫁さん」発言が、ツボにはまったようです。

・・・・・・というか。

 

 

「茶々丸さん、私、キレていい場面ですよね? 下剋上OKですよね?」

「あ、あの、その・・・」

「あ、おいばかよせ顔をみせっ・・・ぷくふっ!?」

 

 

私の顔を見てプルプル震えた後、再び爆笑しだすエヴァさん。

 

 

「離してください茶々丸さん! あの金髪ロリッ子に鉄槌を下してやるんです!!」

「お、落ち着いてくださいアリア先生、私は素敵な夢だと思います!」

「あーはっはっははははははっ!」

「うにゃああああああっ!!」

「マスター! アリア先生!」

 

 

 

いいじゃないですか、前世でもなれなかったんですよ?

いつかきっと、素敵な王子様が来てくれるって信じてるんです。

「お嫁さん」は・・・幼稚でしょうか、シンシア姉様。

 

 

 

 

 

アリアは、お姫様だっことかに憧れます。

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

主人公が正式にエヴァンジェリンの庇護下に入りました。
次の大きな山場は京都修学旅行編ですね。

次回もがんばります。


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第15話「一息」

Side アリア

 

その日の仕事を終えた私は、エヴァさん、茶々丸さんと学校近くのカフェでお茶をしています。

普段ならエヴァさんの家で茶々丸さんの美味しいお茶をいただくのですが、たまには外でお茶を楽しみたい時もあるのです。

 

 

「茶々丸さんも、いかがですか?」

「いえ、私は・・・」

「いいじゃないですか。一緒にお茶しましょう? ねぇ、エヴァさん」

「む・・・そうだな。茶々丸、お前も付き合え」

「しかし、私はガイノイドで・・・」

「すいませーん、追加注文お願いできます?」

「あ、あの・・・」

 

 

途中、エヴァさんの後ろに控えていた茶々丸さんを強制参加させました。

あわあわする茶々丸さんを見るのが、最近の趣味です。

 

 

「・・・・・・あ」

 

 

む、ネギ兄様と明日菜さんですか。

大停電の夜以来、どうもよそよそしい感じがしますね。

ネギ兄様とは職員室で隣なんですけど、なんだかちらちらこっち見てきますし。

 

 

・・・あ、そういえば『複写眼(アルファ・スティグマ)』見せちゃいました。それですかね?

右目の視力は未だに回復していません・・・。

 

 

「こ、こんにちはエヴァンジェリンさん」

 

 

私と茶々丸さんは無視ですか兄様。そしてちら見してくるのやめてください。

 

 

「きやすく挨拶などしてくるな」

「こんにちは、ネギ先生」

「茶々丸も挨拶を返さんでいい!」

 

 

茶々丸さんは挨拶されていませんしね。

と、心の中で突っ込みつつ、優雅にお茶を楽しむ私。

あ、これおいしいです。

すると、エヴァさんのことをじーっと見ていた明日菜さんが・・・。

 

 

「・・・エヴァンジェリンって、意外と良い人?」

「ぶふぅあっ!?」

 

 

・・・エヴァさんの吹いたお茶が、私に思い切りかかりました。

明日菜さんのにやにや笑いが、ひどくむかつきます。

茶々丸さんが優しく拭いてくれていなければ、キレているところです。

 

 

「エヴァンジェリンって、意外と面白い人?」

「やかましぃわっ!」

「あ、あの、エヴァンジェリンさん!」

 

 

さすがは空気を読まないネギ兄様、急に話しかけられて、エヴァさんもびっくりしています。

そしてそのあくまでも私をちら見するの、やめていただけますか。

茶々丸さんがつけ合わせのクッキーを「あーん」してくれていなければ、キレているところです。

 

 

「ぼ、僕が勝ったら、父さんの情報を教えてくれるって・・・」

「勝ってないだろう! よくて引き分けだ!」

「そ、そんなぁ~・・・」

「何よ! 負けたくせにずるいわよ!」

「だから、負けとらんというに!」

 

 

騒がしいです、お茶は静かに楽しむものだと言うのに。

茶々丸さんが膝に乗せてくれていなければ、キレているところですよ。

・・・エヴァさんたちの言い争いはヒートアップする一方です。

仕方ありませんね。

 

 

「・・・・・・京都です」

「え?」

「京都に、<紅き翼>の隠れ家の一つがあると、聞いたことがあります」

「・・・ああ、京都か。そういえばあったな・・・ってアリア、なぜお前は茶々丸の膝の上で頭を撫でられているんだ? そして茶々丸、お前も何故・・・?」

「・・・アリア先生がどうしてもと」

 

 

茶々丸さんの膝の上は最高です。

 

 

「き、京都って、あの有名な古都の・・・」

「へぇ、ちょうど良かったじゃない、ネギ」

「確かにそうだな」

「今度の修学旅行先は京都です。ネギ先生」

 

 

なぜ担任の兄様が知らないんでしょう?

しかも、なぜか騒がしさがエスカレートしていますし・・・。

ああ、しかし本当に茶々丸さんはいい人ですね。

 

 

「茶々丸さん、私をお嫁にもらってください」

「え、あの、その・・・・・・はぅ(ぷしゅー)」

 

 

思わず口走ったその言葉に、茶々丸さんが真っ赤になって煙をふいてしまいました。

あ、服越しにもかなりの熱量です。

・・・マズイかもしれません、これ。

 

 

「茶々丸―――っ!」

 

 

従者の姿に慌てふためくエヴァさん。

ああ、楽しいですね。これぞまさに平和。

 

 

「楽しいのはお前だけだろうが!」

「え、そうなんですか!?」

「そこでとぼけるなっ 話がややこしくなるだろうがっ!」

 

 

ふと見てみると兄様と明日菜さんがぽかん、とした表情をしていました。

エヴァさんの様子に、驚いているようです。

 

 

「な、なんだか本当に仲が良いわね・・・」

 

 

明日菜さんの言葉に、兄様もこくこくと頷いていました。

 

 

「ええ、毎日が楽しいです」

「お前だけだっ!」

「えー・・・エヴァさんは私と一緒じゃ楽しくないんですね・・・」

 

 

地味にショックです・・・くすん。

 

 

「な、何も泣かんでもいいだろ・・・」

「ああ、アリア先生、よしよしです」

 

 

いつのまにか復活した茶々丸さんが私の頭を撫でつつ、マスターであるはずのエヴァさんを冷たい目で見ていました。

 

 

「マスター、あまりアリア先生をいじめないでください」

「茶々丸!?」

 

 

・・・

 

 

「・・・やっぱり、仲いいわ・・・」

「(こくこく)」

 

 

 

平和なひと時。

こういう時間があるから生きていけます。

ねぇ、シンシア姉様。

 

 

 

 

いつか、本当の平和が来るといいなぁ、と、アリアは思います。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。

今回は主人公たちの平和な日常を描きたかったんです。

この平穏を守るために、主人公は頑張ります。


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番外編②「龍宮真名」

番外編2話目です。
今回は真名さんです。

では、どうぞ。


Side アリア

 

『桜通りの吸血鬼』の噂もすっかり廃れ、次の修学旅行先がハワイなのか京都なのかという話で校内は持ちきりです。

そして今日は久しぶりの休日。

たまには研究も止めて、ゆっくり一人の時間を楽しむとしましょう。

 

 

というかエヴァさんの好意で別荘内に研究所を間借りしてから、これまでの倍以上のスピードで研究進んでますし。

エヴァさんの知識半端ないですよ。

少なくとも、この世界の魔法をエヴァさんほど高いレベルで習得している人はいないでしょうね。

 

 

「ん? ・・・やぁ、アリア先生じゃないか」

「真名さん」

 

 

オープンカフェでお茶をしていると、我が3-Aの生徒、龍宮真名さんと出会いました。

黒いマントに身を包み、その手には・・・ギターケースでしょうか? それを持っています。

 

 

「お出かけですか?」

「仕事だよ」

 

 

クールにそう言う真名さん、かっこよすぎです。

仕事・・・こんな昼間から仕事ですか。

学園長あたりですかね、依頼人は。

 

 

「そうですか、お仕事がんばってくださいね」

 

 

他の生徒の方なら注意するところですが、まぁ真名さんなら問題ないでしょう。

純粋な実戦経験でいえば私よりも上の方ですから、注意するのも筋違いでしょうし。

 

 

「キミは、私の仕事に対して何も言わないのか?」

「別に何も?」

 

 

強いて言うなら、中学生の本業である学業を犠牲にさせる勢いで仕事を依頼する側にこそ、言いたいことはありますね。

その依頼人が教師となれば、特にね。

 

 

「というか、その口ぶりだと、最近誰かに何か言われたんですか?」

 

 

 

 

 

Side 真名

 

顔の右半分に包帯を巻いているその先生は、なにくわぬ顔で紅茶を飲んでいる。

以前、偶然とはいえ仕事を共にしてから興味があった。

もう一人の方と比べて、嫌に裏の匂いをさせるこの女の子に。

 

 

「・・・いや、ネギ先生が私の事を心配しているようだから」

 

 

ちらりと後ろを見れば、電柱に隠れるようにしてこちらをうかがっているネギ先生・・・と、オコジョ妖精。

最近仕事が多くて、休みがちだったからだと思うが・・・しつこいな。

アリア先生は左眼でそれを見つけると、深いため息をついた。

 

 

「・・・どうも、愚兄が迷惑をかけているようで・・・」

「いや、アリア先生が謝ることじゃない」

 

 

・・・おっと、そろそろ時間か。

 

 

「それじゃ、また」

「ええ、くれぐれもお気をつけて」

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

うう、龍宮さんの仕事が何か気になってついてきたはいいけど、神社でも上手く話せなかったし、どうしたら・・・。

 

 

「兄貴、龍宮の姐御が路地裏に入っていきやしたぜ!」

「う、うん!」

 

 

慌てて追いかける。

それにしても・・・。

ちらり、と、カフェで紅茶を飲んでるアリアを見る。

 

 

「あ、兄貴、こいつぁ援助交際って奴じゃねぇか!?」

「え、ええええええええぇぇぇっ!?」

 

 

どうしてアリアは、龍宮さんに何も言わなかったんだろう・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

さて、おいしいお茶もいただいたことですし、ショッピングなど行きましょうか。

あれからネギ兄様は私の方に来なかったので、今日はかなり平和な休日を過ごせていますよ。

 

 

「・・・あら、あのお店は初めて見ま」

 

 

ガァンッ!

 

 

・・・・・・・・・私の目の前を何かが高速で通過し、反対側の道に着弾しました。

着弾した跡に、かすかな魔力の残り香。

 

 

「・・・暗殺・・・にしては、堂々としすぎていますね」

 

 

左眼をいつでも起動できる状態にしつつ、発生源を探せば・・・。

 

 

「・・・真名さん?」

 

 

さきほど別れたばかりの真名さんが、路地裏の奥からこちらを見ていました。

片手には、ライフルらしき銃。

・・・普通なら真名さんが私に差し向けられた刺客かと、疑う所ですが。

 

 

「・・・外した時点で、ありえないですね」

 

 

真名さんが本気で私を殺そうとするなら、一撃、それも姿を見せるなどありえない。

なら、私を狙っているわけではないのでしょう。

 

 

「・・・ネギ兄様」

 

 

背中を向けて歩き出した真名さんに、ちょこちょこついて回っているのは・・・兄様。

・・・・・・・・・ふむ。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

撃つ。

 

 

それだけの作業をひたすら続ける。

一発撃つたびに、敵がひとつ消える。

 

 

「12」

「ひ、ひえ~」

 

 

ネギ先生はさきほどから呆気にとられた顔で私を見ている。

こう言うところは、まだ子供だな。

まぁこの年齢で闇なるモノが見えるなら、才能はあるのだろうが。

 

 

「・・・そして、もうひとつ」

 

 

背後に出現したそれに、照準を合わせた時。

 

 

「はぁっ!」

 

 

突然、刹那が現れてそれを斬り伏せてしまった。

 

 

「今の、私の獲物だぞ刹那」

「悪いが私にも依頼人がいるものでな」

 

 

悪びれもせずにそう言ってくるあたりは、流石というところか。

ネギ先生は刹那の出現に驚いているようだが、どうやら話をしている暇はないようだ。

 

 

「か、囲まれた!?」

 

 

ネギ先生の魔力にひかれたのか、大量の闇なるものが現れた。

しかもそれは固まって・・・一体の巨人に変貌した。

 

 

「な、なんですかこれ~っ!?」

「これは、大きいな・・・」

「依頼内容と大幅にずれる獲物だな。報酬ははずんでもらうぞ学園長」

 

 

じゃかっ・・・と弾倉を入れ替えた時点で、戦闘開始だ。

デカブツはがむしゃらに向かってくるが、体が大きい分、隙も大きい。

とどめだっ・・・!

 

 

その時、私の視界の端に、犬が・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

意外、一言で言えばそういうことになりますね。

よもや真名さんが見たこともない子犬を庇って危機に陥るなど、想像もしていませんでした。

 

 

「魔法具・・・『ラッツェルの糸』」

 

 

私の口には、極細の針が咥えられています。

これが今回の魔法具。

この針からは無限に糸が出ます。

そしてその糸は強靭で、切れません。

 

 

「助かったよ、アリア先生」

「いえ、教師の務めですから」

 

 

ビジネスライクな理由ですが、真名さんにはこれくらいでちょうどいいでしょう。

私は『ラッツェルの糸』で作った簡易ネットで、真名さんと子犬を受け止めています。

 

 

真名さんと子犬を適当な建物の屋上に降ろして、『糸』をしまいました。

眼下では、兄様が『雷の暴風』を放って一度は相手を消し飛ばしましたが、すぐに再生しました。

 

 

「弱点は・・・って、アリア先生!?」

「どうも」

 

 

真名さんに駆け寄ってきた刹那さんに御挨拶です。

それと、この子犬さんは私が面倒を見ましょうかね。

 

 

「この子犬さんは私が預かっておきましょう」

「助かるよ・・・そして刹那、任せろ。私の魔眼からはどんな敵も逃れられない・・・」

 

 

真名さんの左眼に、魔力が集まります。

その後敵の弱点を見抜いているところから見て、解析能力に長けた魔眼なのでしょうか?

 

 

相手は真名さんの脅威に気付いたのかそうでないのか、こちらを攻撃、私達のいた建物は半壊しました。

私と刹那さんがその場から離れる中、ただ一人残った真名さんは、そのまま落下、ネギ兄様たちが悲鳴を上げます。しかし真名さんは空中で体勢を立て直して・・・。

 

 

銃声6発。

 

 

6か所の急所を同時に撃ち抜かれた黒い化物は、あっさりと消滅してしまいました。

・・・お見事です。

 

 

「す、すごいです龍宮さん!」

 

 

兄様は素直に感嘆していますが、私としては真名さんが強すぎて恐怖すら覚えますよ。

だってこの人実弾使いますし、遠距離ですし・・・私を暗殺するためのスキルを山ほど持ってるんですもの。

エヴァさん以外に注意すべき人材がいるとすれば、間違いなくこの人。

味方にすれば心強いですが、敵に回れば・・・最大の脅威です。

 

 

その後兄様が危ないことはやめるように言うものの、あえなく失敗。

真名さんは今は亡き大切な人との絆のために、戦いの中でのみ出会えるその絆のために、仕事を辞めるつもりはないと言いました。

・・・戦う理由は人それぞれですよ、兄様。

 

 

「・・・アリア先生も、今日は助かったよ」

 

 

兄様との話を終えた真名さんが、こちらに来ました。

 

 

「・・・いえ、むしろお仕事の邪魔だったかもしれませんね」

「そんなことはない、アリア先生には借りができた」

 

 

・・・借り、ですか。

 

 

「ああ、だからあの妙な道具については聞かないことにするよ」

「・・・そうしてくれると、助かりますね」

 

 

ネギ兄様の方を見ながら、そう答えます。

本当、油断ならない方ですね。

 

 

「それと何か依頼したいことがあったら言ってくれ、安くしておこう」

 

 

そう言ってウインクしてくる真名さん。

その仕草は、中学生とは思えないほど妖艶で、思わずドキリとしてしまいました。

 

 

 

 

 

後日、兄様達が真名さんが学校に来てくれたと喜んでいるのを見かけました。

その中にあって、まんざらでもない表情を浮かべる真名さんは年頃の女の子そのものでした。

 

 

 

 

 

 

・・・学園長暗殺とか、依頼しちゃだめですかね。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます。

今回は「ネギま!?」ネタの真名さんの仕事話です。
時間軸がどうなってるのかが、ちょっと自信ないです。
あの話っていつ頃の話なんでしょう。

主人公にとってビジネスライクな真名さんは非常に付き合いやすい生徒です。
何より「大人っぽい同盟」の仲間として千鶴さんとともに仲良しです。


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第16話「修学旅行へ向けて」

今回から修学旅行編に突入します。

ここからまた十数話、お付き合いいただけますようよろしくお願いいたします。

では、どうぞ。


Side アリア

 

ある日、学園長室に呼び出されました。

・・・忙しいのに。

 

 

「えええええーっ!? 修学旅行が中止!?」

 

 

・・・帰りたいです。

学園長室の中から聞こえてきた声に、私は心の底から帰りたくなりました。

でもここまで来て帰るのも、なんだか癪ですし。

 

 

「・・・失礼します」

 

 

ノックして中に入ると、学園長とネギ兄様がいました。

ただ、ネギ兄様はどうしてか崩れ落ちていました。

 

 

「おお、よく来てくれたのアリア君」

「・・・修学旅行は中止、了解しました。では・・・」

「ふぉ!? ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

 

そのまま帰ろうとしたのですが、呼び止められてしまいました。

私はしぶしぶ、もう一度振り向いてあげました。

 

 

「・・・・・・なんですか」

「も、もう少しフレンドリーにできんかのぅ?」

「無理です」

 

 

私、あなた嫌いですもん。

 

 

「それで、用件は何ですか? 私、今ちょっと忙しいんですけど」

「最近の若者は老人に厳しいのぅ・・・」

「帰りますよ?」

「実は修学旅行についてなんじゃが、京都は無理かも知れんのじゃ」

 

 

学園長は慌てて用件を伝え始めました。

まとめると、こうです。

 

 

麻帆良を本部とする関東魔法協会と、京都に本拠を構える関西呪術協会は仲が悪い。

修学旅行とはいえ、麻帆良の魔法先生(ネギ兄様です)が京都に行くのは嫌がられる。

そこで学園長は兄様に親書を持たせ特使として派遣する、という形を取ることにしたそうです。

・・・長い、つまりは京都に行くんじゃないですか。

 

 

「そういうわけじゃ、ネギ君、頼んだぞ」

「は、はい! がんばりますっ!」

 

 

学園長先生から親書を渡されて、舞い上がってる様子の兄様。

・・・意味、わかってるんでしょうか?

 

 

「では、修学旅行は予定通りとする。ネギ君は下がって良いぞ」

「は、はい」

 

 

そして私をちらちら見ながら出ていく兄様。

普通に鬱陶しいですね。

 

 

「・・・それで、私にどういった御用件でしょうか?」

「うむ、京都でネギ君のサポートをやってもらいたいのじゃ」

 

 

真剣な目で私を見つめる学園長、私はそれに頷き。

 

 

「嫌です」

 

 

はっきりと答えてあげました。

なんで私が、あんなちら見兄様の面倒をみなくてはいけないんですか。

 

 

「な、なぜじゃ?」

「教師としてのサポート、副担任としての仕事はします。これは私に課せられた義務ですから」

 

 

ですが、と言葉を続けます。

 

 

「魔法使いとしての仕事なら別です。私は別に貴方の部下ではありませんし、頼みを聞く義理もありません。だいたい、見習い魔法使いのネギ兄様に特使を任せる等・・・相手を馬鹿にしているとしか思えない下策です」

「むぅ、関西呪術協会の長は、君たちの父の戦友じゃし・・・」

「近衛詠春さん、知っています」

「おお、知っておったか」

 

 

そりゃ知っていますよ。

知っているから、言っているんです。

 

 

「そんなトップ同士の私情の入った人事が本気で通ると思っているあたり、頭大丈夫ですか?」

「・・・最近、容赦ないのぅ」

「事実ですから」

 

 

いくらトップが良いと言っても、反発するのが人であり、組織でしょう。

それくらいのことわからないわけはない・・・と、なると。

 

 

「試練・・・ですか? ネギ兄様・・・そして私の」

 

 

そう言うと、学園長の顔色が変わりました。

ついでに言うのなら、私に関しては見極めの意味もあるのでしょう。

 

 

「・・・また、そんなことに生徒を巻き込むのですね」

「大丈夫じゃ、相手も一般人には手を出さんじゃろうからの」

 

 

そんな甘い見通しでどうしますか。

3-Aには・・・。

 

 

「・・・木乃香さんについても、同じことが言えると?」

「婿殿もおるし、そう大事にはならんと思うのじゃがのぅ・・・」

 

 

・・・話すだけ無駄、ですね。

最初からわかっていたことではありますが、この見通しの甘さ、私の予想以上です。

 

 

「・・・とにかく、私はネギ兄様の面倒を見る気はありません。ただ、生徒のみなさんのことは守ってみせましょう・・・。ですがこの程度の戦力で緊張状態にある組織の本拠に入るのです。万が一の際の覚悟だけはしておいてください」

 

 

言うことは言いました。後は知りません。

私は私の責任を果たすだけですから。

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「うぅむ・・・」

 

 

また、失敗してしまったかのぅ。

なんとかアリア君とのわだかまりを解消しようと、今回の事を考えたんじゃが・・・。

 

 

「逆効果じゃったかのぅ・・・」

 

 

しかも当然のごとくこちらの考えは看破され、警告までされてしまう始末じゃ。

 

 

「むしろもう、何もせんほうが良いのかのぅ・・・」

 

 

しかし、それでは・・・。

悩みは、尽きん・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「オウ、アリアジャネェカ」

 

 

別荘に入ると、奇妙な人形、その名もチャチャゼロさんが私を出迎えてくれました。

この方は一番古いエヴァさんの従者とかで、魔力が封じられていた間は魔力供給が受けられず埋もれていたのだとか。

 

 

つまりは私の同僚、それも先輩にあたる方ですね。

刃物をよく振り回すことを除けば有能な戦士、学ぶことも多くあります。

 

 

「エヴァさんは?」

「サキニハジメルッツッテタゼ?」

 

 

待っててって言ったじゃないですか~。

私は急いで研究室へ向かいます。

 

 

 

 

 

「どうですか? エヴァさん」

 

 

私が研究室に入った時、すでにあらかた終わっていました。

 

 

「む、戻ったか」

「すみません、遅れて」

「いや、いい。今最終調整に入ったところだ」

 

 

エヴァさんの前には大きな寝台があり、そこには女の子が横たわっていました。

病人服のような白い衣服の胸元には、彼女の名前が刺繍されています。

 

 

『相坂 さよ』

 

 

「成功したんですか?」

「一応、意識の定着には成功した。ただ、自由に動くのにはまだしばらくかかるな」

 

 

そう、この肉体はさよさん用にエヴァさんと茶々丸さん、そして私の3人で作り上げたホムンクルスです。

さよさんの新しい身体。

まぁ、この処置についてはエヴァさんと私との間でかなりの激論があったのですが、茶々丸さんを味方につけた私の意見が通りました。

 

 

「お前がちゃんと面倒を見ろよ」

 

 

それがエヴァさんの出した、ただ一つの条件でした。

それは衣食住や学に関することだけでなく、魔法のことも含まれます。

・・・私と関わる以上、そこは避けては通れないこと。

でも、それでも私はさよさんを幽霊のままこの学園に縛り付けておくことはできなかった。

 

 

人は全て、自分のことは自分で決めるべきなのです。

さよさんの意思に反してここに縛り付けた人間が、本当に憎い。

 

 

「・・・さよさん」

 

 

私は眠り続けるさよさんの頬に触れ、次いで頭を撫でます。

 

 

「一緒に修学旅行、行けるといいですね」

「リハビリも含めて、まだかかるからな・・・微妙だな」

 

 

・・・どうか、貴女の未来が幸せでありますように。

シンシア姉様。

 

 

 

 

私たちの未来にも、幸せはあるでしょうか。

 




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

さよさんに新しい肉体を作ってみました。


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第17話「京都へ」

今回から本格的に京都編突入です。
次回あたりから、前書きと後書きの書き方を変えてみます。

では、どうぞ。


Side アリア

 

修学旅行当日がやってきました。

幸いにして今日は快晴、集合場所である駅に到着いたしました。

まだ、誰も来ていません。

それはそうでしょう。

 

 

「・・・なぜ、4時間も前に集合場所にいるんでしょう」

「すみません。マスターのせいで・・・」

「いえ、茶々丸さんは悪くありませんよ・・・」

 

 

ぺこぺこと頭を下げる茶々丸さん、でも貴女は本当に悪くはないんです。

悪いのは・・・。

 

 

「ふははははははははっ、外だ! 15年ぶりの外だ――っ!!」

 

 

あそこで荷物をお立ち台にして高笑いしているエヴァさんです。

テンション、高すぎです・・・。

そして、もう一人。

 

 

「外ですっ・・・! 60年ぶりの、外です・・・っ!!」

 

 

エヴァさんの横で、感極まったようにむせび泣いているのがさよさんです。

幽霊状態の彼女の容姿をベースにした、新しい肉体。

正直旅行に間に合うかどうかは微妙なところだったのですが・・・さよさん自身の頑張りと、私と茶々丸さんのリハビリサポートによってなんとか間に合いました。

 

 

なんにしても、やたらと興奮したエヴァさんとさよさんにより私は叩き起こされたわけです。

勘弁してくださいよ、ただでさえ昨日はいろいろ準備してて疲れてるんですから・・・。

 

 

え?

何が忙しかったかって・・・?

ネギ兄様一人行くのに嫌がる組織の本拠地に、<闇の福音>を行かせるのはどうか、とか言いやがった人がいましてね。

そっちにいろいろ労力がいりまして。

 

 

まぁ、相手は主に学園長ですけど。

実際に文句を言っているのが誰か、となると微妙ですがね。

あの書類はあれかな、原作で学園長がエヴァさんを京都に行かせる際に書いたり押したりしていた書類なのでしょうか。

 

 

エヴァさんのためでなければ、無視してるところです。

本人には言えませんし・・・だって言ったら虐殺が起こりそうなんですもの。

私のために怒ってくれるのは嬉しいけれど、私のためにそんなことをしてほしくもないし・・・。

ああ、駄目ですね、眠くて頭の回転が鈍いです。

 

 

「・・・眠い・・・です」

 

 

しかしまさかここで眠るわけにはいきませんので、眠気に耐えるしかありません。

・・・眠い頭に、エヴァさんの高笑いとさよさんのすすり泣く声が響いてきます・・・。

茶々丸さんが「よしよし」してくれなければ、どうなっていたかわかりませんよ。

まったく。

 

 

「ケケケ、ネリャイイジャネーカ」

「寝ませんよ・・・というかチャチャゼロさん、皆さんの前で間違っても喋らないでくださいよ」

「ケケ、ワカッテルヨ」

 

 

エヴァさんの荷物の中から顔を覗かせるチャチャゼロさん。

まぁ、置いて行くのも可哀想と思って連れてきたのですが、どうにも不安です・・・。

 

 

 

 

 

数時間後、まずは先生方が来ました。

1番手は、新田先生です。

 

 

「おお、アリア先生。お早いですな」

「あ、新田先生。おはようございます。先生もお早いですね」

「おはようございます。いやぁ、年甲斐もなくはしゃいでしまいましたかな?」

「ふふ・・・新田先生でも、そういうことがあるんですね?」

 

 

生徒のみなさんからは恐れられる新田先生ですが、私は好きです。

教師としての矜持を持った、素晴らしい先生です。

私もお世話になっています。

 

 

2番目に来たのは、しずな先生です。

 

 

「おはようございます。しずな先生」

「おはようございます。今日から5日間、よろしくお願いいたしますね」

「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」

 

 

しずな先生には、指導教員時代からたいへんお世話になっています。

その他私生活の面でも、女性用品の安いお店とかを教えてもらったり、ありがたいです。

 

 

そして瀬流彦先生も来ました。

 

 

「おはようアリア君」

「おはようございます。瀬流彦先生」

「あはは・・・そんなに畏まらなくてもいいのに」

 

 

そう言うと、瀬流彦先生は困ったように頭をかきました。

瀬流彦先生は魔法先生でもあり、その中にあって良識派でもあります。

エヴァさんなどは「軟弱なだけだ」と言っていましたが、その柔和な人柄は生徒からも慕われています。

ただひとつ言いたいことがあるとすれば、魔法先生もう一人いていいんですか学園長、です。

 

 

このメンバーにネギ兄様他数名を入れて、引率する教師陣は構成されています。

数的になかなか大変ですが、がんばらなくては。

 

 

そうこうしているうちに、生徒のみなさんも集まり始めました。

さて、自分のクラスの引率に行きましょうか。

 

 

「はい、皆さん、おはようございます」

「「「「おはようございまーす!!!」」」」

 

 

テンション高いですね。

3-Aと思しき人だかりに近づいてみますと、すでに兄様も来ていました。

・・・他の先生方に挨拶もしないで何やってるんでしょう。

 

 

「あ、アリア先生やー」

「木乃香さん、おはようございます」

「ちょっと・・・あれどうにかなんないの?」

 

 

一緒にいた明日菜さんが指さしたのは、未だに高笑いするエヴァさん。

そして、むせび泣くさよさん。

・・・さよさんは水分とか大丈夫なんでしょうか?

 

 

ちなみにさよさんについては「退院に伴う復学」と説明しています。

幽霊騒ぎの件については、「生霊」ということで納得してくださいました。

長谷川さんが「ありえねー」と呟いていましたが、そこは流しました。

 

 

「まぁ・・・新幹線に乗れば落ち着くかと思いますので、それまで我慢してください」

「あんたも大変ね・・・」

 

 

そんな憐れんだ目で見ないでください、泣きたくなるじゃありませんか。

 

 

「やぁ、アリア先生」

「おはようございます」

 

 

木乃香さんたちの次に挨拶に来てくれたのは、真名さんと刹那さんです。

 

 

「おはようございます。真名さん。刹那さん」

「あの、相坂さんは先生が・・・?」

「あ、はい。私が新しい肉体を用意しました。・・・どこか違和感が?」

 

 

だとしたら早急に調整する必要があるのですが・・・。

 

 

「いや、私の魔眼から見ても完璧な人間だよ、あれは」

「はい、気の流れにも特に不自然なところはありません」

 

 

お二人の目から見てそうなら、大丈夫でしょう。

何分右目は包帯こそ取れていますが、視力はまだ回復していませんから、『複写眼(アルファ・スティグマ)』で視ることができません。

と言うか、普段の私生活における遠近感とかちょっと・・・。

 

 

「・・・あの、先生」

「何でしょう?」

 

 

刹那さんが、おずおず、といった様子で私を見てきました。

何ですか刹那さん、そんな縋るような視線で見られても成績は上げませんよ?

ポストバカレンジャー・・・教師にとって、これほどの脅威はそうはありません。

 

 

「先生は、どうして相坂さんに新しい身体を・・・?」

「生徒だからですよ?」

 

 

なんだか以前にも同じことを言ったことがありますね。

 

 

「生徒が教師である私に救いを求めるなら、全力で生徒を救うのが私の責務です」

 

 

実際初めて身体を動かした時のさよさんは、リハビリの苦痛に耐えながらもとても嬉しそうでした。

あの顔を見れば、誰でもそうするでしょう。

 

 

「でも、相坂さんは・・・」

「人間ではない。確かにそうかもしれませんが、それは別に大した問題ではありませんね」

 

 

厳密に言えば、「元」人間ですか。

幽霊って人間のカテゴリーに入るのでしょうか。

まぁ、ようは私の自己満足ですから。

 

 

「どうしてですか!」

 

 

でも、なぜか刹那さんはムキになってくってかかってきました。

な、何か地雷を踏みましたか・・・?

 

 

「どうしてそんな・・・人間かどうかは問題じゃないなんて言えるんですか!?」

「落ち着け、刹那。アリア先生が驚いてる」

「あ・・・」

 

 

真名さんに言われて、刹那さんは我に帰りました。

次の瞬間には、顔を青くして頭を下げてきました。

 

 

「す、すいません!」

「あ、いえ・・・別に気にしてませんから」

 

 

えっと・・・刹那さんがあからさまに落ち込んでますね。

これは、もしかして私のせいですか・・・?

 

 

「真名さん、私何か変なこと言いましたか・・・?」

「・・・いや、別に何も」

「・・・そうですか」

 

 

その後、なんとも言えない空気のまま、二人と別れました。

といっても、点呼の時に会いますけど。

・・・こういう時、ネギ兄様のような天真爛漫な人なら、もっと和やかにできたのでしょうか。

 

 

「ふはははははっ 修学旅行だ―――っ!!」

「修学旅行ですっ・・・!」

 

 

・・・この二人は新幹線に乗るまで、この状態だったと、追記しておきます。

まぁ、旅行というのはテンションが上がるものだと、シンシア姉様も言っておられましたし。

 

 

 

 

アリアも、楽しみではあります。

 




最後までお読みいただきありがとうございます。

この形での後書きは今回限りにしようと思います。

次回からは、本編の補足的なものに利用する予定。
本編内で全部説明し切れれば良いのですが、どうも力不足なようで・・・。

がんばります!


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第18話「京都修学旅行編・初日」

Side アリア

 

点呼も終わり新幹線に乗り込んでしまえば、後は自由時間です。

生徒の皆さんも、各々好きなことをして過ごしているようです。

ごく一部、やたらとテンションの高い生徒がいますが。

 

 

エヴァさん、外の景色がすごいのはわかりましたから・・・!

さよさん、新幹線の存在に驚かないで。

60年前になかったのは知ってますから!

茶々丸さん、録画してないで注意してください!

チャチャゼロさんは死んでも動かないでくださいよ・・・?

 

 

・・・閑話休題。

 

 

私は教師ですから見回りもしなければなりませんし、他の先生方との定期連絡もせねばなりません。

・・・ネギ兄様は、なぜか明日菜さん達のグループで騒いでいますが。

 

 

「では、向こうにつき次第そのように・・・」

「はい、わかりました」

 

 

結果として、新田先生などから通達されるクラスの移動などの連絡は私が受け取ることになります。

 

 

「しかし、ネギ先生にも困ったものですな。生徒と一緒になって・・・」

「はは・・・まぁ、ネギに、いえ、ネギ先生もこういう旅行は初めてですから」

 

 

私もですけどね。

新田先生のぼやきにそう答えつつも、数両離れたこの車両にまで聞こえてくる3-Aの声に頭を抱えたくなります。

 

 

「・・・すみません。すぐに戻って静かにさせますので・・・」

「困ったものですな。3-Aの生徒は・・・」

「・・・・・・申し訳ありません」

「いえ、アリア先生はよくやってくれていますよ」

 

 

そう言ってくださると本当に救われます。

新田先生に別れを告げ、3-Aの車両に急ぎます。

まったく、仕事を増やすことにかけては天才的なクラスなんですから・・・。

 

 

「・・・・・・あら?」

 

 

3-Aの車両の方向から、微細な魔力にも似た気配を感じました。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』が完全な状態なら、この距離でも解析できるのですが・・・。

 

 

まぁ、無いものをねだっても仕方のないことです。

というか、ネギ兄様は何をやっているのでしょう・・・?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

車両内は騒乱の渦中にあった。

突如車両内に式神らしき蛙が侵入したのだ。それも大量に。

生徒たちが悲鳴を上げて蛙から逃げ惑っている。

おそらく関西からの妨害だろうが・・・。

 

 

「・・・なぜ、蛙・・・?」

 

 

竹刀袋の中の夕凪を手にしてはいるが、なんとも対応に困る。

しかし、攻撃の意思は無いように思える。

 

 

アリア先生は不在だ、教師としての仕事で車両を離れている。

一方ネギ先生はというと・・・。

 

 

 

「・・・正直、ネギ兄様に過度な期待はしないでください」

 

 

 

それは、車両を離れる前にアリア先生が私に囁いた言葉だった。

でもネギ先生も子供とはいえ魔法先生だ。

この程度のこと、どうにでも対処してくれるに違いない・・・。

 

 

そう思っていた時期が、私にもあった。

 

 

(・・・まさかこんなにあっさりと、親書を奪われるとは――!?)

 

 

どういう考えがあったかは知らないが、ネギ先生は親書を懐から取り出したのだ。

こんな、あからさまな妨害の最中で、だ。

そして警告する間もなく鳥の形をした式神が、ネギ先生の手から親書を奪い私がいるのとは反対方向の車両へと逃げたのだ。

 

 

ネギ先生は呆然とただ立ち尽くすだけで、何もできないでいる。

 

 

「なっ・・・くっ・・・!」

 

 

舌打ちしたい気持ちを抑えつつネギ先生の脇をすり抜け、式神を追いかける。

ネギ先生たちが怪訝そうな顔で見ているのがわかったが、今は術者よりも先に親書を取り戻さねば!

そう思い、私は式神を追って、隣の車両への扉を開いた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

どういうわけか親書をくわえていた紙の鳥を、すれ違いざま左手で握りつぶします。

 

 

『全てを喰らう・・・』

 

 

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で魔力を奪い、ただの紙くずに戻す。

流石にこれだけ人のいる前で、魔法具は使いたくありません。

 

 

親書は、しわひとつない状態で、私の手の中に。

 

 

・・・・・・兄様・・・・・・。

親書を奪われるという失態に、溜息をつきたくなります。

 

 

いっそのこと、私がこれを保管しましょうか?

 

 

・・・いえ、兄様の仕事に首を突っ込むのも面倒です。

返してあげましょう。

そう考えて3-Aの車両に戻ろうとした時、目前の隣の車両へ通じる扉が勢いよく開きました。

 

 

「・・・アリア先生?」

「おや、刹那さん」

 

 

そんなに慌てて、どうしたのですか?

 

 

「そ、その書状は・・・」

 

 

刹那さんが私の手元の親書を見て、驚いたような顔をします。

・・・ああ、これを追いかけてきたのですね。

では、これは刹那さんに届けてもらいましょうか。

 

 

「・・・はい、今度はなくさないように注意しておいてくださいね」

「は、はい」

 

 

そう言って親書を受け取った刹那さん。

・・・その、キラキラした目で見られている気がするのは、気のせい・・・ですよね?

 

 

 

 

 

 

京都に着いて最初の観光地は清水寺です。

ここは「清水の舞台」という、有名な場所があるのですが・・・。

 

 

「京都おおぉぉぉぉっ!」

「これが噂の飛び降りるアレ!」

「高いですエヴァさん!」

「何ィ!? 誰か!! 誰か飛び降りれっ!!」

「では拙者が・・・!」

「貴重な文化遺産が壊れますから、やめなさいっ!」

「そうで・・・アリア先生、それ以前の問題ですわよ!?」

 

 

3-Aも修学旅行という事でかなりハイテンションになっているようですね。

そしてその筆頭は10年単位ぶりに外に出た二人の生徒でしょう。

というか、綾瀬さんの蘊蓄がすごいです。

そして、それをニコニコ聞いてる宮崎さんもすごいです。

 

 

ここまではまだ良かったのですが、ここからが大変でした。

 

 

雪広さんとまき絵さんが恋愛成就の占いとかいうものをやろうとしたところ、落とし穴の存在に気付いたのでそれを回避したり。

というか、ここでも蛙仕込むとかなんですか。

関西圏では蛙が恐れられているのでしょうか?

 

 

「アリア先生!? まさか私とネギ先生の仲を・・・!」

「あんな兄様いくらでも差し上げますから、ぐいぐい押すのはやめてください!(私が落ちたら最悪でしょう!?)」

「先生、それはネギ君かわいそうだよ~」

 

 

次に、縁結びの効果があるという、音羽の滝の水がお酒にすり替えられていたので、それを飲みたがる生徒たちを抑えたり。

 

 

「いーじゃん先生のケチ!」

「なんとでもいいなさい! あ、新田先生、ちょっといいですか!?」

 

 

後続から新田先生やしずな先生がやってきましたので、事情を説明したり。

その後、瀬流彦先生も加わって、今後の方針を話しあったり。

 

 

・・・その際、ネギ兄様はほとんど役に立っていませんでした。

それ以前に、クラスのみなさんと旅行を楽しんでいるようですね・・・。

・・・・・・もう帰りたいです。

 

 

 

 

 

Side フェイト・アーウェルンクス

 

「な、なかなか、やるやないか・・・」

「・・・そうだね」

 

 

式神を通じて向こうの様子を見ている千草さんが、わなわなと震えている。

それに適当に答えつつ、僕は僕の仕事をする。

 

 

「い、一般人にダメージを与えて動きを鈍らせる、うちの作戦がことごとく・・・!」

「・・・まぁ、一般人を狙うのは一理あると思うよ」

 

 

どう見ても、捌き切れていないように見えるしね。

というより、あれだけの人数を抱えているのに配置されている関係者の数が少なすぎる。

どういうつもりなのかな?

 

 

千草さんの出している映像を見てみれば、白い髪の女の子が右往左往している姿が見てとれる。

 

 

・・・アリア・スプリングフィールド。

サウザンドマスターの娘。

息子の方と並んで、今回の最重要人物の一人。

 

 

「・・・しゃあない、こうなったら今夜あたりうちと月詠はんで・・・・・・フェイトはん?」

「・・・・・・聞いているよ」

 

 

適当に答えつつ、僕は彼女・・・アリア・スプリングフィールドを観察する。

情報では、魔法が使えない、できそこないの英雄の娘。

でも一方で、気になる情報もいくつかある。

 

 

そしてなにより、彼女は、僕と同じ匂いがする。

 

 

 

 

 

 

作られたものの匂い。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

その後は特に何事もなく――3-Aのテンションの高さに振り回されつつも――宿泊先のホテルに到着することができました。

そして。

 

 

「・・・癒されます・・・」

 

 

今、私はホテルの露天風呂で、癒されています・・・。

疲れているだろうから、先に入るようにとの新田先生の好意に甘えさせていただきました。

その優しさに思わず、「お背中、お流ししましょうか」と言ったのですが、「妻子がいるので」と断られてしまいました。

そしてその後、「淑女のなんたるか」を小一時間ほど語られてしまいました。

 

 

・・・まぁ、そうは言っても・・・。

 

 

「・・・癒されます・・・」

 

 

寮の大浴場とはまた別の醍醐味があります。

と、そんな風に私がリラックスしていますと、露天風呂の扉が開く音がしました。

他の先生でしょうか・・・?

 

 

「・・・ネギ兄様?」

「あ、アリア!?」

「あ、姐さん!?」

 

 

やってきたのは、ネギ兄様と・・・カモ。

ネギ兄様は・・・まぁ、兄妹ということで許容しましょう。

しかし、カモは許しません。

 

 

「ぐべらぁっ!?」

「カモ君!?」

 

 

 

「・・・なるほど、この露天風呂は混浴だったのですか・・・」

 

 

カモにお仕置き(内容は秘密です♪)をした後、ネギ兄様の弁明を聞きました。

しかし、混浴ですか・・・日本人は大胆なのですね。

一応、バスタオルを身体に巻いておきましょう。

 

 

「・・・ねぇ、アリア」

 

 

しばらくすると、ネギ兄様がこちらをチラチラ見ながら、話しかけてきました。

 

 

「なんでしょう、兄様?」

「あ、あの、その・・・」

 

 

なんなんでしょう、この小動物ちっくな兄様・・・。

素直にイラつきます。

生まれる性別、間違ったんじゃありません?

 

 

「桜咲刹那はスパイなんですぜ!」

 

 

突然復活したカモが何か叫びました。

しかも内容が馬鹿です。

なんで刹那さんがスパイなんですか。

 

 

「姐さん、気づいてなかったんですかい!?」

 

 

事実が違うので、さすがにその考えには至りませんでした。

 

 

「名簿を見れば一目瞭然! 京都出身でしk「黙りなさい」へぶふぉっ!?」

「か、カモくーんっ!?」

 

 

ああ、私の癒しタイムが光速で失われていきます・・・。

というか、ネギ兄様とカモは、真名さんと仕事している刹那さん見てませんでしたっけ・・・?

それでどうしてスパイ疑惑が出るのか理解ができません。

 

 

と、その時、さらに露天風呂の扉が開きます。

・・・今度は、誰ですか?

 

 

入ってきたのは、話題の刹那さんです。

ほっそりとした肢体が眩しいですね。私はネギ兄様の目にタオルを巻きつけました。

今は岩の陰にいますから、あちらからは見えないでしょうが、まぁ倫理的に。

 

 

「困ったな・・・魔法先生であるネギ先生なら何とかしてくれると思っていたのに・・・」

 

 

すみません、刹那さん・・・兄様のせいで余計な心労をおかけします。

 

 

「・・・これでアリア先生がいなければ、どうなっていたことか・・・む!」

 

 

気付かれましたか! 何故!?

・・・って、カモ!? 何殺気出すほど凝視しているんですか! 殺しますよ!? いや殺す!

 

 

次の瞬間、刹那さんにより岩は粉砕され(新田先生になんて言えば!?)、ネギ兄様が拘束されました。

むぅ、なかなかの動きですね。

刹那さんは右手で兄様の首を、左手で・・・ひだり、て、で・・・。

 

 

「な、ななな、何をしているんですか! 刹那さん!?」

「ふぇ!? すみません! って、あれ? あ、アリア先生・・・ネギ先生?」

 

 

私の姿を認めると、刹那さんはネギ兄様から離れました。

こ、この子、今、何をしましたか!?

左手でネギ兄様の・・・その、なんというか、その・・・き、急所を・・・!!

 

 

「刹那さん! ちょっとそこに座りなさい!!」

「ち、違うんです、これは・・・!」

「いいから座りなさい! 貴女には今から新田先生直伝の「淑女のなんたるか」を語ってあげますっ!!」

「き、聞いてください~」

 

 

ひゃぁあああ~!

 

 

と、その時、女性用の脱衣所の中からでしょう、木乃香さんと思わしき悲鳴が聞こえました。

ち、仕方ありません。刹那さんへのお説教はまた後です!

 

 

「何事ですか!」

「お嬢様!?」

 

 

刹那さんと共に脱衣所へ行くと、そこには・・・。

 

 

「・・・猿?」

 

 

大量の猿が、木乃香さんと明日菜さんの着衣を脱がそうとしていました。

たぶん、関西の妨害・・・なんでしょうか?

 

 

「・・・刹那さん、関西の方って・・・?」

「・・・言わないでください」

 

 

身内の恥をさらしたくないのか、刹那さんが小さくなっていました。

まぁ、そうは言っても、なんとかしなければいけませんね。

刹那さんが刀を抜きます・・・今、このタイミングで国家権力の介入があれば、言い訳できませんね・・・!

 

 

「え、ちょ、ちょっと待ってください! 可哀想ですよ」

「寝言は寝ていいなさい」

 

 

バカな発言をして邪魔をしている兄様を止めている間に、刹那さんが行動します。

 

 

「神鳴流奥義、『百烈桜華斬』!!」

 

 

刹那さんの放ったやたらとかっこいい技が見事に決まり、木乃香さんたちが窮地を脱します。

お見事です。

 

 

「あ、せっちゃんや~」

 

 

木乃香さんが刹那さんを見て、嬉しそうな顔をしますが、一方の刹那さんはと言うと、一礼しただけで、そそくさと去って・・・って。

 

 

「・・・どこに行こうというのですか? 刹那さん?」

「え・・・?」

「まだ、お説教は終わっていませんよ?」

「え、えぇぇぇっ!?」

 

 

そのまま何事かを叫んでいる刹那さんを私の部屋まで運び、小一時間ほどお説教しました。

 

 

「良いですか?そもそも女性とは・・・」

「で、ですから、違うんです~(涙)」

 

 

こういうことは今のうちにしっかりしておきませんと。

そうですよね? シンシア姉様。

 

 

 

 

 

そういえば、アリアはこの世界で性教育なるものを受けたことがありません。

 




アリア:
初めまして、アリア・スプリングフィールドと申します。
なにぶんこちらの常識にはまだまだ疎いところもあるかと思いますが、よろしくお願いいたします。


さて、次回は修学旅行編初日の夜のお話です。平和的に話が進むことを祈りますが、状況がそれを許してはくれません。

それでは、また次回にお会いしましょう。


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第19話「初日・夜の戦い」

Side アリア

 

修学旅行初日の夜です。

私はホテル内を見回りながら、各所に探知魔法を仕掛けていきました。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』があればもう少し効率よく警戒できるのですが、仕方がありません。

 

 

ネギ兄様達が防衛隊がどうとか言ってましたから、中の方は大丈夫でしょう。

それで一応、私は外部からの侵入を気にしているというわけなのですが。

 

 

「手が足りませんね……」

 

 

瀬流彦先生にも警戒をお願いしてはいますが、それでも二人。

ネギ兄様を数に入れたとしても、三人。

とてもカバーしきれない……。

相手が物量作戦に出てこないことを、祈るしかありませんね。

 

 

(……刹那さんと……木乃香さん)

 

 

お説教の合間に事情を聞いた限りでは、なんでも幼少時のいざこざで距離を置くことになったのだとか。

なんとも、やるせない話ですね。教師としてはなんとかしたいのですが……。

木乃香さんには、兄様のことで迷惑をかけてしまっていることですし。

 

 

(とはいえ、第三者の私がとやかく言うのも……)

 

 

悩ましいですね。

 

 

「……まぁ、基本は、二人次第ですが…………む」

 

 

探知結界の一部に反応。

反応のあった方角へ走り、窓から外を見ます。

すると今まさに外へと逃げる敵、が……?

 

 

「着ぐるみ……?」

 

 

今度は猿の着ぐるみですか……関西って……。

って、木乃香さんが攫われているじゃありませんか。

兄様…………私は一人しかいないんですよ?

 

 

と、ネギ兄様と明日菜さん、刹那さんが後を追っていますね。

ん~……。

いえ、ネギ兄様に任せるのは不安すぎますので私も後を追いましょう。

 

 

「アリア先生、ちょっといいです?」

 

 

そして、このタイミングで声をかけられる私。

相手は、綾瀬さんと宮崎さん。

いつも一緒で仲がよろしいですね。

 

 

「もうすぐ就寝時間ですが、近衛さんが部屋に戻っていないです」

「そ、それに、ネギせんせーがどこにもいないみたいで……」

 

 

申し訳ありません、今しがた誘拐された木乃香さんを助けに行きました。

そう言えたらどれほど楽か……!

しかし、そんな私に救世主が現れました。

 

 

「あ、いたいた二人とも。ネギ君、なんか明日菜達と一緒に外行ったみたい……って、アリア先生」

「早乙女さん。ナイスな情報です」

 

 

そして、その私を見た瞬間の「あ、やば」みたいな表情はなんですか。

この人達、兄様に何するつもりだったのでしょう。

 

 

「では私はこれからネギあ、ネギ先生達を連れ戻してきますので、綾瀬さん達は部屋に戻ってください。就寝時間は守るように」

 

 

そう言って、颯爽と去ります。

まだ何事か言っているようでしたが、緊急事態につき聞こえなかったことにしておきます。

ネギ兄様の後を追う前に、私にあてがわれた部屋に向かいます。

 

 

「む、やっと来たなアリア、お前も混ざれ!」

「マスター、アリア先生はまだお仕事の時間です」

「やった、あがりです!」

「ケケケ、アガルマエニウノッテイワナキャダメナンダゼ」

「私の部屋でウノやらないでください! あとチャチャゼロさん、なんで動いてるんですか!」

 

 

エヴァさんたちが私の部屋で楽しくウノをやっていました。

私も混ざりたいですが、残念ながら茶々丸さんの言う通りまだ仕事中です。

そして私は、40センチ程の六角形の物体を創り出します。

その中心に、一回り小さな画面が付いています。

 

 

「なんだ、それは?」

「『ヘルメスドライブ』という魔法具です。レーダーのようなものと考えてください」

 

 

瞬間移動もできる優れモノです。

これで兄様達を探しつつ、後を追います。

さすがに、人通りのある場所でこれは使えません。

 

 

では、行きます。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「ざ~んが~んけ~ん!」

「くぅ……っ!」

 

 

月詠とかいう剣士の斬撃を、夕凪でなんとか受け止める。

この女、ふざけた格好をしているが強い!

 

 

神鳴流を名乗る割に、禍々しい気を隠そうともしないこの女。

二刀の小太刀による連続攻撃は、相性が悪い……!

 

 

「うふふ、たのしいな~」

「この・・・っ!」

 

 

一刻も早くお嬢様を救わねばならないというのに、できない自分がもどかしい。

お嬢様……!

 

 

視線を動かせば、お嬢様を誘拐した女が呼びだした式神と、ネギ先生と神楽坂さんが戦っている。

その女の腕の中でお嬢様は眠っている、捕えられているのだ。

ネギ先生が拘束用の魔法を放ったが……お嬢様を盾に取られて失敗していた。

早く、行かなければ……!

 

 

「お嬢様!」

「すきありです~」

「なっ、あぐっ!?」

 

 

お嬢様の方に気をとられた一瞬の間に、月詠がすぐ目の前に迫っていた。

一刀で夕凪を抑え、一刀が顔面に……。

 

 

「…………くぅっ!」

 

 

無理やり身体をそらし、かわした。

だがバランスを崩し、無様に地面に転がってしまう…………しまっ。

 

 

「おしまいです~」

 

 

月詠が、私目がけて刀を振り下ろして―――。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

付近に転移後、『翔(フライ)』のカードで上空から様子を見ています。

駅に停車している車両の中が水没した時には焦りましたが、なんとか追い詰めてはいるようですね。

 

 

明日菜さんはアーティファクトらしきハリセンで、相手の式神を消滅させています。

刹那さんは、敵の神鳴流と思わしき剣士と切り合っているようです。

2人とも、前衛としてまずまずの働きぶりですね。

それに対して兄様は・・・。

 

 

「あっ・・・曲がれ!」

 

 

相手の眼鏡の女性が木乃香さんを盾にすると、拘束用の魔法をわざと外しました。

えー……兄様―……。

その魔法拘束用だから当たっても大丈夫でしょうに。

それに、そんなことをしてしまうと……。

 

 

「はは~ん、なるほど、甘ちゃんやな。人質がおったら攻撃できひんのか?」

 

 

とか言って、相手の女性が木乃香さんを盾にし始めました……。

ダメダメですね……。

 

 

「お嬢様!」

「すきありです~」

「なっ、あぐっ!?」

 

 

そしてそれに気を取られた刹那さんが、その隙をつかれて窮地に陥ってしまいます。

明日菜さんも援護に行きたいようですが、式神に邪魔されて動けませんね。

…………ちぃ。

 

 

 

 

 

「おしまいです~」

「くっ……!」

 

 

地面に転がった刹那さんが、やられる! とばかりに目をキツく閉じます。

しかし…。

 

 

「な、なんや、あんたは!」

 

 

そうは、させません。

 

 

「……大丈夫ですか? 刹那さん」

「あ、アリア先生……?」

 

 

呆然とした表情を浮かべる刹那さん。

その目の前で、私は敵の神鳴流の剣士……ゴシック・ロリータファッションに身を包んだ、小太刀と短刀を備えた少女の剣を受け止めていました。

私の手には、一本の刀。

 

 

ぎぃんっ!

 

 

金属音を発して、距離を取る剣士。

…………ずいぶんと血の匂いのキツい方ですね。

 

 

「だれどすか~」

「何、ただの副担任です。名乗るほどの者ではありませんよ」

「せんぱいもたのしかったけど・・・あんさんもおもしろそうやね~」

 

 

そう言って頂けるのは、嬉しいのですけど。

 

 

「あいにく、剣術には自信がありませんので」

 

 

ひゅん、と刀を目の前にかざして、言います。

 

 

「散りなさい……『千本桜』」

 

 

次の瞬間、私の刀の刀身が消え無数の桜の花びらとなって散ります。

しかしそれは、ひとつひとつが刃。

それにこもる殺気に気付いた時には、もう遅い。

 

 

「きゃ……!」

 

 

花弁が消えた後には……切り刻まれた、神鳴流剣士の姿。

殺してはいませんよ?

……そういえば、名前も聞いていませんでしたが……。

 

 

「そ、そんな、月詠はんが一瞬で……」

 

 

月詠さんと言うらしいですね。

次いで私は指にはめた魔法具、『黒叡の指輪』を振りかざします。

 

 

「『闇よ……有れ』!」

 

 

影から生まれた無数の獣が、明日菜さんと切り結んでいた式神を一瞬で切り刻みます。

そして。

 

 

「ぐぅっ……!?」

 

 

木乃香さんを抱えていた敵の腕に影獣が喰らいつき、木乃香さんを奪い返します。

地面に落ちそうになった木乃香さんを、他の影獣たちが優しく受け止めます。

 

 

「……確かに、返していただきました」

「な、何者や……あんた」

 

 

腕を喰い千切りこそしませんでしたが、結構な血の量ですから軽傷ではないでしょう。

それでも体勢を崩さないあたり……プロですね。

 

 

「ど、どうしてこんなことをするんですか!?」

 

 

ネギ兄様が空気の読めないことを言いますが、ここは無視しま……!

 

 

「兄様!」

「えっ・・・うわ!?」

 

 

兄様めがけて、土……いえ、石の属性の槍が殺到しました。

とっさに袖に仕込んでおいた『速(スピード)』のさ○らカードを発動、兄様の前に立ちます!

 

 

『全てを喰らう……』

 

 

左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で石の槍に込められた魔力を吸収、隆起してきた岩は影獣で相殺します。

……なるべく手札は残しておきたかったのですが。

しかし、とにかく新手のようです。そちらに……。

 

 

「…………今のを受け止めるとは、やるね」

 

 

 

 

胸が、締め付けられるような感覚。

懐かしい何かに出会った、そんな気持ち。

 

 

 

 

……そこにいたのは、白い髪の少年でした。

動かない表情に、感情の色の見えない瞳。

彼は私のことを、じっと見つめていました。

 

 

「ふぇ、フェイトはん、助かりましたわ……」

「……ここは分が悪いね。一度退くとしよう、千草さん」

「そ、そやな・・・覚えとき!」

 

 

分が悪いとは、どういうことでしょうか。

貴方なら、ここにいる全員を簡単に殺せる。

それが、私にはわかる。

どうしてわかる? ……わからない。

 

 

ずぶずぶと地面に沈んでいくフェイトさんと……千草さん……。

……月詠さんも、どうやら同じようです。

その中にあって……フェイトさんの目は、私を見つめているように思えました。

 

 

「待て!」

 

 

刹那さんが追いかけようとしますが、転移されてはどうしようもありません。

普段の私ならどうしたかはわかりませんが、今の私はどこかおかしい。

心が、ざわついて止まらない。

これは、この気持ちは、何?

 

 

「くっ……お、お嬢様!?」

 

 

悔しそうな顔をする刹那さんですが、すぐに木乃香さんの方へ。

私はとりあえず刹那さんに木乃香さんを渡すと、影獣を消しました。

 

 

「……早めに戻るようにしてくださいね」

 

 

まぁ、一度撃退した以上、帰りは襲ってくることはないでしょう。

私は先に帰って、他の生徒のみなさんを見なければ……。

 

 

「あ、あの、アリア先生!」

「はい?」

 

 

木乃香さんを抱えた刹那さんが、私を呼びとめました。

 

 

「あ、あの……ありがとうございました。アリア先生がいなければ、どうなっていたか……」

「……大したことは、していませんよ」

 

 

では、と言って私は足早にその場を去りました。

何か言いたそうな顔でネギ兄様がこちらを見ていましたが、いちいち相手をしていられません。

面倒ですもの。

そんなことよりも……。

 

 

そんなことよりも、ざわついたこの気持ちを鎮めるのが先です。

いつだったか、私はこの気持ちを何度か感じたことがあるはずなのです。

いつ? ……わからない。

 

 

フェイトさん。

私は彼の事をどれだけ知っていますか?

原作では、どういう立ち位置にいましたか?

最近は記憶が曖昧で自信がありませんが……敵、として存在していたことは確か。

 

 

けれど、彼は敵ではないと叫ぶ自分がいます。

状況からすれば、明らかに敵。

そもそも、直に出会ったのはこれが初めてのはず。

なのに……。

 

 

………………やめましょう。

私は考えることを一旦やめ、ざわつく心を無理矢理抑え付けます。

考えても、おそらくは意味のないことです。

 

 

私は教師、理由はどうあれ生徒を襲う彼らは敵。

それでいい、他のことは全て後回しです。

それでも私は確信を持って、断言できることがあります。

・・・シンシア姉様。

 

 

 

 

 

アリアは彼に会わなければならない、そんな気がします。

 




アリア:
初めまして、そうでない方はこんにちは。アリア・スプリングフィールドです。
数名の方が、本文中で登場する「シンシア姉様」を気にしている様子。
私にとって、どんな存在なのか。それをここで説明することはできませんが、本編で詳しい説明が出る時期を、少しだけお教えいたします。

今のところ、ネギ兄様が過去を話すことになる弟子入り試験編~悪魔襲撃編のどこかで、と考えています。
理由は、そこが私の過去に最も近付く場面だろうと考えられるからです。


また、今回のお話の中で私が使用した魔法具「ヘルメスドライブ」は、元ネタを「武装錬金」と言います。
水色様、月音様、元ネタ紹介とアイデア提供、ありがとうございました。


さて、次話は修学旅行編2日目に入ります。
多少の問題はあるものの、生徒のみなさんが旅行を楽しめるよう、微力を尽くしたいと思います。


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第20話「京都修学旅行編・2日目」

Side 茶々丸

 

アリア先生の様子が、昨夜からおかしい。

私がそれに気がついたのは、就寝前の挨拶を交わした時です。

アリア先生は最初は私やマスターに気付かず、ロビーのソファに座り込んでいました。

その時の心拍数・体温が、通常時よりわずかに高かったのです。

 

 

マスターに声をかけられてからは通常の状態にまで戻ったので、そのままにしておいたのですが・・・。

 

 

まだマスターやさよさんが眠っている早朝、アリア先生のお世話をしようと部屋を尋ねたところ、先生はすでに起きていました。

というより、眠っていないのではないかと思われました。

 

 

ガイノイドの私にはわかりませんが、人間にとって睡眠はとても大切な要素。

とはいえ「大丈夫」と言われてしまっては、私にはどうすることもできません。

私にできることは、何か、無いのでしょうか・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

清々しい朝です。

今日は修学旅行の2日目。

生徒のみなさんが最も楽しみにしていると言っても過言ではない、自由行動の日です。

私にとっては、最も忙しい日ですが・・・。

 

 

「あ、アリア先生? これはいったい・・・?」

 

 

まぁ、そんなわけでやって来たのは食堂です。

私の右手は刹那さんの左手をがっちり握っています。

え~と・・・。

 

 

「あ、アリア先生、こっちやえ~」

 

 

その一角にニコニコ笑顔な大和撫子、木乃香さんがいました。

朝早く刹那さんと仲良くなるきっかけを作ります、と呼び出しておいたのです。

 

 

「お、お嬢様!? せ、先生、私は・・・」

「はいはい、行きますよ~」

「ちょっ・・・先生!?」

 

 

いやぁ、昨日から考えていたんですけど、もうこうなったら直接ぶつけた方がてっとりばやいですよね。

それに昨日の様子を見るに、刹那さんは木乃香さんをとても大切に思っています。

遠くから見てるだけなんて、もどかしいではありませんか。

 

 

「おはようございます木乃香さん。刹那さんがどうしても朝食をご一緒したいとのことで・・・」

「なっ!?」

「ええよ、うち、せっちゃんに嫌われたんかと思ってたから嬉しいえ」

「え、ええぇ!?」

 

 

そのまま強引に刹那さんを木乃香さんの横に座らせます。

すかさず木乃香さんが腕をホールドします。

 

 

「せっちゃん、うちのこと嫌いなん? 一緒にご飯食べたくないん?」

「い、いえそんな、き、嫌いになんて・・・」

 

 

ぐいぐい迫る木乃香さん、アドバイス通りですね。

一方で若干引きつつ、しかしどこか嬉しそうな刹那さん。

 

 

「・・・では、私は職員の打ち合わせがありますので」

「そうなん? 残念やわ~」

「えっ・・・ちょっ、先生!?」

 

 

なんですか、その助けを求めるような顔。

そんな目で見てもどうもしませんよ。

本当は嬉しいくせに。

・・・さて、新田先生と一緒に朝食をとるとしましょう。

今日の予定についても相談しなくては。

 

 

「せ、先生~っ!!」

 

 

結果から言えば、距離は縮まったようです。

 

 

 

 

~朝食タイム~

 

「新田先生、この“なっとう”なる食べ物はどう食べれば・・・?(前世でも食したことがありません・・・)」

「おお、そう言えばアリア先生は英国出身でしたな。これはこうしてかき混ぜて・・・」

「す、すごくネバネバしています・・・!」

「はい、どうぞ。 ・・・そう言えば、お箸の持ち方、綺麗ですな」

「はむはむ・・・・・・頑張って練習してみました」

「それは感心ですな。最近では日本人でも正しい持ち方を知らない者も多いですから」

「そうなんですか。 ・・・・・・ふむぐっ!?(の、喉に魚の骨が!?)」

「ああ、ほら、ご飯を一口飲み込んで・・・」

「むぐむぐ・・・た、助かりました」

「もっとゆっくり、小骨に気をつけて食べなさい」

「は、はい・・・」

 

 

・・・なんだか不思議です。

新田先生の前だと、自分が子供になったみたいです。

まぁ、身体は子供なんですけどね。

こういうのって、いいな。

 

 

 

 

 

朝食を終えた後は、ホテルのロビーに行きました。

たしか、木乃香さんたちは東大寺に行くんでしたね。

 

 

「おい、アリア! 奈良に行くぞ!」

 

 

突如として声をかけてきたのは、京都に来てからさらにテンションが上がったエヴァさんでした。

 

 

「・・・エヴァさん、私にも仕事が」

「無視しろ! さぁ行くぞ奈良へ!」

「すみませんアリア先生、マスターはアリア先生を連れて行くときかず・・・」

「昨日も、本当はアリア先生と回りたかったんですよね?」

「なっ・・・馬鹿、違うぞ! 違うからな!」

 

 

真っ赤な顔で否定するエヴァさん。

茶々丸さんとさよさんは、どことなく嬉しそうです。

・・・まぁ、どのみち奈良に行かねばなりませんし・・・。

 

 

「・・・いいですよ。今日は、一緒に行きましょうか」

「ふんっ! 当然だ・・・」

 

 

・・・・・・これが、ツンデレというものでしょうか。

茶々丸さんが「記録中・・・」と言っていました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

まったく、馬鹿が。そんなひどい顔で何が仕事だ・・・。

茶々丸が心配するので来てみれば、本当に寝ていないようだな。

昨夜から、少し挙動がおかしかったが・・・何があった?

 

 

無理矢理聞き出しても良いが、おとなしく話すとも思えん。

それに、こういうものはあまり力押しするとこじれるからな。

本人が話すのを待つのが一番だ。

 

 

まったく、この私がなぜこんな気遣いをしなければならんのだ。

 

 

「・・・エヴァさんって、やっぱりツンデレですよね」

「だから、違うと言っとるだろうが!」

 

 

さっさと話せ、この馬鹿が。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「見てください、明日菜さん! 鹿がいっぱいです!」

「ハイハイ・・・ガキね~」

「見てみろ、アリア! 奈良県の半分は鹿で出来ていると物の本で読んだが、本当だったぞ!」

「・・・奈良県民に怒られますよ」

 

 

奈良に到着した私たちは、まず鹿に会いに行きました。

エヴァさんとネギ兄様が同じレベルではしゃいでるって、どういうことなんでしょう?

 

 

「せっちゃん、一緒に回ろ?」

「は、はい・・・お嬢様」

「あん、昔みたいにこのちゃんって呼んで~な」

「い、いえ・・・そ、そんな、恐れ多くて・・・」

 

 

・・・なんですかあの二人。

見ているこっちが恥ずかしいんですけど。

 

 

「のどか、ファイトですよ!」

「ふ、ふぇ~~っ」

 

 

・・・綾瀬さんと宮崎さんは木の影からネギ兄様を見つめていますし・・・。

 

 

「・・・まったく、皆さん何しに奈良まで来たんだか」

「あんたに言われたくないわよっ!」

 

 

明日菜さんの突っ込み。むぅ、何が問題なんですか。

ただ、ちょっと茶々丸さんに膝枕してもらってるだけじゃないですか・・・。

私だって、癒しがほしいんですよ・・・。

 

 

・・・目を閉じて、昨夜のことを少しだけ思い出します。

陰陽師、神鳴流の剣士、そして・・・。

 

 

「・・・・・・フェイトさん」

 

 

誰にも聞こえないように、小さな声で呟いてみます。

・・・・・・心が、ざわつく。

あの感情のない瞳を思い出すと、胸の奥が締め付けられます。

少し、苦しいですね。

 

 

「・・・・・・アリア先生」

 

 

不意に、茶々丸さんが私の名前を呼びました。

 

 

「私はガイノイドです。なので人間の心の動き、というものはよくわかりません。ですが」

「・・・茶々丸さん」

「アリア先生が昨夜あまり眠っておられない、ということはわかります」

 

 

そっ・・・と、頭を撫でてくれる茶々丸さん。

 

 

「少し、お眠りください。私がここにいますので」

「・・・・・・・・・」

 

 

少し、驚いた目で茶々丸さんを見ます。

ふ・・・と、少し、微笑んでいるようにも見える茶々丸さんの顔を見て、私は。

胸の奥に少しだけ温かい気持ちを感じながら、今度は眠るために目を閉じました。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

遠くから見る彼女は、まるで子供のようだった。

 

 

もちろん、ターゲットの近衛のお姫様から目を離すことはしない。

今は護衛の娘と乳繰り合っているようだ。

 

 

それでも、僕は彼女の方を気にしてしまう。

 

 

アリア・スプリングフィールド。

英雄の娘。魔法の使えない、できそこないの子供。

だが、昨夜は千草さんや月詠さんを難なく退けている。

おまけに、僕の魔法まで完璧に防いで見せた。

 

 

知れば知るほどに、よくわからない存在だ。

だから、気になるのかもしれない。

僕と同じような匂いをさせながら、でも僕とは違う何かを感じる彼女を。

 

 

「・・・・・・えらいご執心やなぁ」

 

 

そんな僕をどう思ったのか、半ば呆れたように、千草さんが言う。

 

 

「そないに警戒が必要かいな? そりゃあ昨日はやられてまいましたけど、正直それほどとは・・・」

「・・・腕を無くしかけておいて、よくそんなことが言えるね」

「うっ・・・それを言われると・・・」

 

 

すでに治癒術で治ったはずの腕を、千草さんはもう片方の手で撫でた。

筋肉の繊維まで傷ついていたから完全に治るかは微妙だったんだけど、なんとかなったみたいだ。

 

 

「月詠はんは、まだ無理やな」

「・・・そう。まぁ、死にかけたからね。じゃあ今日は無理かな・・・?」

「せやな。明日が本番になるやろな。小太郎も呼んどかんと・・・」

 

 

そのまま、明日の計画を考え始めた千草さんから目を離して、再び彼女を見る。

緑色の髪の女の子に膝枕されて、気持ち良さそうに眠っている彼女を。

・・・・・・明日か。

 

 

明日、もし鉢合わせするようなことがあれば、何か話してみるのもいいかもしれない。

なぜか、そんなことを考えた。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「・・・・・・あ」

「ん? どうしたのよネギ」

「そ、その、アリアが寝てるみたいだから・・・」

 

 

僕が指差した方を見て、ほんとだ、と明日菜さんが言った。

なんだか珍しいものでも見たみたいな顔。

僕もアリアが人前で寝てるの、始めて見たかも・・・。

 

 

「あーしてれば、普通の女の子なんだがなぁ」

 

 

僕の胸の中で、カモ君が何かぼそぼそ言ってる。

こんなところで喋っちゃ駄目だよ。

 

 

「アリア先生が寝てるからって、妙なことすんじゃないわよ」

「しねぇよ。姐さんだって昨日の見ただろ!?」

「ちょ・・・声が大きいわよ! 他の人に聞こえたらどうすんのよ!?」

 

 

明日菜さんの声が普通に大きいので、すでに注目を集めてるみたい。あわわ・・・。

 

 

でも、カモ君の言うとおり、昨日のアリア、すごかったな・・・。

なんだか凄い道具を使ってたみたいだけど、どれも見たことがないものばかりだった。

僕や明日菜さんたちが敵わなかった相手を、あっという間にやっつけちゃうし。

あの道具、魔法具だと思うけど・・・アリアはいったい、どこであんなものを手に入れたんだろう?

 

 

最近、エヴァンジェリンさん達と仲が良いみたいだけど、エヴァンジェリンさんにもらったのかな。

いいな。あれがあれば、きっと僕も・・・。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

触れる。

触れてもらえる。

声を聞いてもらえる。

それだけのことがこんなにも嬉しいなんて、初めて知りました。

 

 

60年間、麻帆良に縛られていた私にとって、修学旅行は喜びの連続。

新しい身体をくれたアリア先生達には、本当に感謝しています。

 

 

「おい、茶々丸。代われ、私がやる」

「ダメです」

 

 

今は奈良の公園の片隅で、眠っているアリア先生をみんなで見ています。

茶々丸さん、いいな~。私もアリア先生を膝枕して、なでなでしたいです。

アリア先生のお腹に寄りかかってるチャチャゼロさんも、羨ましいです。

 

 

「・・・・・・茶々丸、私はお前のなんだ?」

「マスターは私の大切なマスターです」

「・・・・・・なら、私の命令にはどうすればいいか、わかっているな?」

「マスターの命令は最優先。承知しております」

「・・・・・・よし、なら代わ「ダメです」っておいぃぃっ!」

 

 

さっきからエヴァさんが膝枕を代わるように交渉(?)してるけど、なんだかダメみたいです・・・。

・・・でも、アリア先生も「小さな勇気が奇跡を生む」って言ってました!

あと、このあいだ見た映画でも「女は度胸」とも言ってました!

 

 

あのリハビリの日々を乗り越えた私にとって、このくらい何でもないです!

 

 

「・・・あのぅ、茶々丸さん、私も・・・」

「無理だ、さよ。こうなった茶々丸はどうにもならん」

「・・・少しだけですよ?「おいコラちょっと待て!」起こさないように注意してくださいね」

 

 

わーい。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

小一時間ほど眠った後は、鹿と戯れたり、大仏に対しキリスト式のお祈りをしたりして過ごしました。

エヴァさんが休憩所でお団子を喉に詰めた時には、かなり驚きました。

不死身のくせに死にかけていましたからね。

 

 

「・・・おや?」

 

 

公園の端で明日菜さん、刹那さん、木乃香さん、さらには綾瀬さんが小さく蹲っていました。

・・・体調でも悪いのでしょうか?

 

 

「・・・何をしているんですか?」

「あ、やばっ・・・」

「アリア先生」

「先生、しー・・・やで?」

「のどか、がんばるです・・・!」

 

 

四者四様の反応を見せてくれますが、中でも明日菜さん(上から2番目です)の反応に傷つきました。

私に反応さえしてくれない綾瀬さんにも傷つきましたが。

 

 

「・・・それで、何を?」

 

 

静かにしてほしいなら、そうしますが。

 

 

「あれよ、あれ」

 

 

明日菜さんが指さした方を見ると、ネギ兄様と宮崎さんが、何やらただならぬ雰囲気で向かい合っていました。

 

 

「のどか・・・!」

 

 

綾瀬さんが握り拳で宮崎さんを応援しています。

何でしょうこの気迫は。

 

 

「この空気は・・・まさか」

「そう、そのまさかです!」

 

 

私の呟きに、綾瀬さんがこちらを見ないままに力強く頷きます。

なるほど、これは・・・!

 

 

「・・・中間テストの質問ですかね?」

「なんでこんなとこでそんなことするのよっ!」

「明日菜、しー、やで?」

 

 

私の言葉に激しい突っ込み、じゃあ、なんだっていうんですか。

 

 

「見てればわかるわよ!」

「はぁ・・・」

 

 

じゃあ見ていましょうか。

む? 宮崎さんが何か言うようですね。

 

 

「私、ネギ先生のこと出会った日から好きでした!」

「・・・・・・え?」

「わ、私・・・私、ネギ先生のこと大好きです!!」

 

 

・・・は?

え、あ、そうか! ここで告白イベントですか!

すっかり忘れていましたよ。と、いうことは・・・?

 

 

宮崎さんが走り去った後、ネギ兄様は煙を吹いて倒れました。

おやおや・・・。

 

 

「の、のどか!?」

「ね、ネギ!?」

 

 

綾瀬さんが宮崎さんを追いかけ、そして明日菜さんが倒れた兄様に駆け寄ります。

・・・宮崎さんが兄様を、ですか・・・。

そう、ですか・・・。

 

 

「せ、先生?」

「はい?」

 

 

見てみますと、木乃香さんと刹那さんがどこか怯えたような顔で私を見ていました。

・・・どうしたんでしょう?

 

 

「なんというか・・・」

「ものすごく、無表情で怖かったと言いますか・・・」

 

 

・・・ああ。

 

 

「・・・すみません。ただ私も少々思うところがありまして・・・ね」

「先生は、本屋ちゃん応援してくれへんの?」

「いえ、宮崎さんに思うところはありません」

 

 

むしろ、逆。

ネギ兄様の方が、宮崎さんに似合う殿方かどうか・・・という点に疑問を感じます。

宮崎さんは引っ込み思案な方ですが、一方で自分の意見を持つ芯の強い女性です。

愛情深くもあり、甘えたがりな兄様にとっては理想の相手ではないでしょうか?

でも・・・。

 

 

「・・・まぁ、私にできることは、あまりありませんが」

 

 

他人の恋路に介入するとろくな結果になりませんからね。

ね・・・シンシア姉様?

 

 

 

 

アリアの白馬の王子様はどこにいるんでしょうか?

 




アリア:
はじめまして、そうでない方はこんにちは。
アリア・スプリングフィールドです。
読者のみなさまには、連日私の魔法具案を提示していただき、感謝に堪えません。
魔法の使えない私にとって、魔法具はまさに死活問題。
今後のご支援をよろしくお願いいたします。


アリア:
次話は、2日目の夜のお話です。
昼間は比較的平和でしたが、夜はより警戒を必要とするでしょう。
生徒のみなさんに、平穏な日常をお届けします。


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第21話「2日目・夜」

今回はガールズラブ・並びにキャラ崩壊注意報です。

NGな方はご注意ください。


Side 明日菜

 

「朝倉に魔法がバレた~!?」

 

 

ホテルのロビーで、ネギが涙目になりながら、そんなことを相談してきた。

 

 

「あ、朝倉さんですか・・・」

 

 

桜咲さんも、麻帆良のパパラッチ、朝倉にバレたとあって、呆然としてる。

なんでよりにもよって、朝倉なのよ・・・!

 

 

「だいたい、あんたはすぐに魔法を使いすぎなのよ! そんなにオコジョになりたいわけ!?」

「だ、だって~」

 

 

情けない顔でアワアワするネギ。

こっちの方がもっと情けないわよ。

 

 

「そ、それで・・・どうするんですか?」

「ど、どうしよう~」

 

 

桜咲さんの言葉にも、アワアワするだけだし・・・ああ、もう!

ど、どうすんのよ・・・そうだ!

 

 

「アリア先生に相談すればいいじゃない!」

「え・・・?」

「・・・そうですね。アリア先生なら・・・何か良い方法を考えてくれるかもしれません」

 

 

私の言葉に、桜咲さんも賛成してくれる。

でも、ネギはあんまり乗り気じゃないみたい。

 

 

「妹に心配かけたくないってのはわかるけど、このままじゃヤバいわよ?」

「朝倉さんにバレということは、世界にバレたも同然ですからね・・・」

 

 

私たちがそう説得すると、乗り気ではなさそうなものの、ネギも納得したみたい。

まったく・・・いじっぱりなんだから。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「なるほど・・・」

 

 

ことり、とカップをテーブルにおいて、私は目の前の3人を見据えました。

明日菜さん、刹那さん・・・そして、ネギ兄様。

相談がある、というので宮崎さんの事かと思えば、朝倉さんに魔法が知られたと・・・。

 

 

ちらり、と兄様を見れば、私の答えを待っている様子。

私がにべもなくつっぱねるとは、欠片も思っていなそうな顔。

・・・刹那さんがいなければ、そうしてもよかったのですが。

 

 

「・・・・・・それで?」

「え?」

「それで、兄様は私にどうしてほしいのですか?」

 

 

魔法がバレた、とだけ言われても対応に困ります。

 

 

「魔法が一般人に知られた場合、私たちが取り得る手段は、原則三つしかありません」

「三つ?」

「口を封じるか、記憶を改竄するか、説得するかです」

 

 

まぁ、最初の2つは教師として選べませんが、と断った上で、私は再び紅茶を口にします。

あえて間をとることで、兄様自身にも考える時間を与えます。

 

 

「となれば、説得することしかできません」

「で、でも・・・」

「朝倉さんは確かに一部の行動に問題がある生徒ではあります。が、けして物事の判断ができない方ではありません。むしろ一人のジャーナリストとして、他人が傷つく記事を書かないことを信条としている立派な方です」

 

 

まぁ、多少おふざけが過ぎる面もありますが、3-Aの生徒の中では飛び抜けて個性的な方でもありません。

 

 

「以前、明日菜さんに魔法を知られた時にもお話ししたかと思いますが、兄様自身が魔法を使ったことを後悔していないというのならば、私にできることなど、何もありません」

 

 

というか、構いたくありません。

さて、そろそろ新田先生のところに行って、今夜の見回りについて話し合わねばなりませんね。

昨日は好意に甘えて早くに休みましたが、今日は参加させていただきましょう。

 

 

「・・・刹那さん、明日菜さん。兄様のことでご迷惑をおかけして、申し訳ありません」

「い、いえそんな」

「まぁ、ほうっておけないし、ね?」

「そう言っていただけると救われます。では兄様、私は仕事がありますので」

「あ、うん」

 

 

兄様たちと一緒に外に出た後、兄様たちと別れます。

さて、ロビーにでも向かいますか。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

行っちゃった・・・。

 

 

明日菜さんに言われて、アリアに相談してみたけど、結局、朝倉さんにお願いするしかないってことになった。

 

 

うう・・・、状況はなんにも変ってない。

そういえば、明日菜さんのことでも、同じような感じだったような。

でも、あの時はアリアからも言ってくれるって言ってたかな・・・。

 

 

ど、どうしよう。カモ君はいないし・・・。

朝倉さん、黙っててくれるかなぁ・・・。

 

 

・・・あ、あと魔法具について聞くのも忘れてた。

けど、部屋のどこにもそれらしき物はなかったけど、どこにしまってあるんだろう?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「なんというか、本当にしっかりしてるわよねー」

「そうですね・・・」

 

 

アリア先生と別れた後、神楽坂さんが感心したように何度も頷いていた。

確かに、アリア先生は教師としても、また魔法使い、戦う者としても尊敬できる人だ。

とても年下とは思えない。

昨夜も、アリア先生のおかげでお嬢様を取り戻せもした。

 

 

「それにしても、ネギってアリア先生の前だとやけに静かね?」

「あ、あんまりアリアと話したことってないから・・・どう接したらいいか」

「はぁ?」

 

 

兄妹と聞いているし、仲も悪くはないように感じる。

それでも、接し方が分からないと言うのは・・・。

 

 

「そういえば、ネギ先生からアリア先生に話しかけたところは、あまり見たことがありませんね」

「たしかに・・・」

 

 

その逆は、よく見るが、頻度で言えばアリア先生からの方が、やはり多いだろう。

 

 

「そういえば、さっきもアリア先生ばっかり喋ってたわね」

「うぅ・・・」

 

 

神楽坂さんはネギ先生の様子を見かねたのか、さらに事情を聞くことにしたようだ。

・・・そういえば。

 

 

明日菜さんと話しているネギ先生を見て、ふと思った。

アリア先生には仕事があるのに、ネギ先生には、ないのだろうか?

考えてみれば、あまり授業以外で教師らしいことをしているところを見たことがないような。

気のせいか・・・? と、私が深く考え始めた時。

 

 

「おーい。ネギ先生~」

「兄貴~っ」

 

 

乱入者が現れた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

仕事を求めてホテルのロビーに行くと、よくわからないことになっていました。

 

 

「あ、アリア先生~」

 

 

ロビーの端で、見覚えのある生徒(複数)が正座していました。

何をやっているのでしょう?

 

 

「日本の修学旅行では、正座が流行・・・?」

「・・・? 先生、何言ってるの?」

「い、いえ別に・・・」

 

 

我ながら意味のわからないことを言いました。

 

 

「それで、まき絵さんはどうしてこんなところに?」

「えーとねぇ、えへへ・・・」

 

 

ごまかすように笑うまき絵さん。可愛らしいですがここではあまり関係ありませんね。

・・・おや?

 

 

「・・・長谷川さんまで、何をしているんですか?」

「・・・私は巻き込まれただけだ」

 

 

憮然とした表情で告げる長谷川さん。現実主義者が珍しい。

巻き込まれる・・・何に?

 

 

「アリア先生!」

 

 

突然、背後から声をかけられました。

突然だったのでびっくりしてしまいました・・・新田先生?

 

 

「あ、と・・・新田先生、こんばんは」

「こんばんはじゃありませんよ、まったく3-Aは!」

 

 

火を噴きそうな勢いの新田先生。

事情を聞くと、どうも3-Aの生徒がホテル中を駆けまわっているとか。

私は背後の生徒たちを見ますが、目をそらされました。

こ、この人たちは・・・!

 

 

「元気なのは結構なことですが、やんちゃすぎるのも駄目です!」

「は、はい、おっしゃる通りで・・・」

「アリア先生はよくやってくれていますが・・・それでもたまにはビシッと言ってくれねば困ります!」

「は、はい、はいぃ・・・」

 

 

な、なぜ私がこのような目に・・・!

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「おい、何をしている」

「ひっ・・・」

「真祖の・・・!」

 

 

仮契約の魔力を感じて、茶々丸とさよを伴って旅館を探ってみると、朝倉とかいうクラスメートと、ぼーやの所のオコジョが、やたらテレビが置かれている部屋で何かしていた。

 

 

「あ、ネギ先生たちです~」

 

 

さよが興味津々といった感じで、画面を覗き込んでいる。

肉体は15歳設定だが、外に出たことが無いという意味では私を上回るからな、仕方あるまい。

 

 

「・・・ふん、大方、ぼーやの仮契約による戦力強化だろう」

「そ、その通りでさぁ!」

 

 

私の言葉に勢いづくオコジョ。

なぜ朝倉が絡んでいるかは知らんが、思ったよりもつまらん理由だったな。

 

 

「あ、アリア先生です~」

「・・・うん?」

 

 

画面のひとつに、アリアの姿があった。

なにやら悲壮な様子で、生徒たちを捕まえている。

 

 

『おお、アリア先生、勝負アル『南斗水鳥拳・朱雀展翔(非切断型)!!』ねええぇえっ!?』

『く、クーが一撃で!? 今度は拙者が相手でござ『南斗孤鷲拳・南斗猛鷲飛勢(非刺突型)!!』るぅううぅうっ!?』

 

 

・・・・・・いや、やりすぎだろう!?

何をやっているんだあいつは・・・明らかに『闘(ファイト)』とか言う魔法具を使っているな。あらゆる武術を使用できるとかいう、バグみたいな魔法具だったか。

 

 

魔法が使えん代わりに、魔眼と魔法具。

最初に聞いた時はどんなバグだと思ったが・・・まぁ、私の従者ならあれくらい当然だがな。

む、従者、か・・・・・・。

 

 

「・・・おい、オコジョ、見逃してやるから一つ頼まれろ」

「へ、へぇ」

 

 

がくがくと頷くオコジョ、くくく・・・アリアの驚く顔が目に浮かぶわ。

あははははははは!

 

 

「なんだか、エヴァさん楽しそうですね~」

「何かを企むマスター・・・記録中・・・」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

生徒たちを捕縛しつつ、旅館内を駆け回ります。

 

 

「手こずらせて・・・!」

 

 

長瀬さんやクーフェイさんなど、やけに戦い慣れした方も何人かいましたが、力づくでねじ伏せました。

早くしなければ新田先生のお説教が・・・!

 

 

「・・・誰ですか!」

 

 

角を曲がった辺りで気配を感じ、視線を向けます。

 

 

「・・・ネギ兄様?」

 

 

そこには、なぜかフラフラとした足取りで歩く兄様の姿がありました。

兄様は無言のまま、私に気付いたのか近づいてきました。

・・・なぜ、あんなにフラフラしているのでしょう?

 

 

「・・・兄様?」

 

 

私の声に答えることなく、そのまま近付いてくる兄様。

そして・・・。

 

 

「・・・に、兄様?」

 

 

ぎゅっ・・・と、私を抱きしめてきました。

こ、これはいったい・・・?

 

 

「ア・・・リア?」

「は、はい、なんでしょう?」

 

 

相変わらず私を抱きしめたまま、兄様が囁きます。

み、耳に息が・・・!

 

 

「え、ええと、は、離れてくれますか?」

 

 

本能的に、軽い恐怖を覚えます。

な、なんでこんな・・・。

 

 

「・・・いやだ」

 

 

しかし兄様は離れてくれません。むしろ、私を抱きしめる腕に力を込めました。

 

 

「な、なんですか? ホームシックですか・・・?」

 

 

声が、震えます。

こんなこと、今までされたことがありません。

 

 

「アリア・・・お願いがあるんだけど・・・」

「な、なんですか?」

 

 

それを聞いたら、離してくれるのでしょうか?

兄様は虚ろな様子で、言いました。

 

 

 

「キス、して・・・いい?」

 

 

 

その瞬間、私は兄様を殴り飛ばしました。

しかも『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で魔力を殺す勢いで奪い取りました。

 

 

・・・まさか兄様が私をそんな目で見ていたとは・・・。

 

 

「・・・おや?」

 

 

壁に叩きつけられた兄様が、ボフンッと音を立てて、人型の紙になりました。

 

 

「式神だったんですか・・・」

 

 

どうりで反応がおかしいと思いましたよ。

というか、式神だったとしても、あの反応はないでしょう・・・。

眼が万全なら一目で見破れたんですけど。

 

 

「ここにいたか、アリア」

「発見です!」

 

 

そこへ、エヴァさんとさよさんがやってきました。

エヴァさんは不敵に笑って、さよさんはどこかもじもじしながら。

 

 

「エヴァさん、さよさん、申し訳ありませんが、ロビーで正座してもらいましょう」

 

 

しかし今の私は教師、仕事を優先します。

けして新田先生の恐怖に屈したわけではありません。あしからず。

 

 

「ふっ断る。・・・と言いたいところだが、アリア、目を閉じてじっとしていろ」

 

 

どういうつもりなのか、そんなことを言ってくるエヴァさん。

私が訝しんでいると。

 

 

「命令だ」

 

 

と、言ってきました。

・・・命令なら仕方ありませんね・・・。

 

 

「・・・わかりました。その代わり正座してもらいますよ」

 

 

そこは譲れません。くどいようですが恐怖に屈したわけではありません。

 

 

「わかったから早くしろ」

「はぁ・・・」

 

 

そして目を閉じる私。

すると。

 

 

「くっくっく・・・」

 

 

・・・? やけにすぐそばでエヴァさんの声が・・・。

 

 

ちゅっ。

 

 

・・・はい!?

 

 

唇に感じる柔らかい感触に、慌てて目をあけると、エヴァさんの顔がやけに近く―――!!

 

 

「んっ、ん~っ!?」

「ふ、んっ・・・・・・くくく、いただきだ」

 

 

そういって笑うエヴァさんの手には、一枚のカード。

私の絵が描かれているあれは・・・パクティオーカード?

え、ちょ・・・え?

 

 

「よし、さよ!」

「は、はいっ・・・!」

 

 

呆然としている私の前に、顔を赤くしたさよさんが進み出てきました。

 

 

「し、失礼しましゅ!」

「・・・んむっ!?」

 

 

こ、今度はさよさんですかっ・・・!?

く、唇の感触ってやっぱり違うんですねってそうではなくて!?

 

 

「えへへ・・・」

 

 

恥ずかしそうに私から離れるさよさん。

そして私の手には・・・さよさんが描かれたパクティオーカード・・・。

な、なぜ魔法陣もなく仮契約が・・・い、いえ、それよりも・・・。

 

 

「・・・・・・ぐすっ」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

くくくっ、これでアリアは正式に私の従者だ。

あのオコジョに命令して、私に限り私を主として契約できるようにしたからな。

まさか、さよまで興味を示してくるとは思えなかったが、まぁいい。

私はアリアが描かれた仮契約カードを見ながら、にやつく顔を抑えられなかった。

 

 

「・・・・・・ぐすっ」

 

 

すると、どういうわけかアリアの様子が・・・。

 

 

「・・・って、なぜ泣く!?」

 

 

アリアが泣きだした!

 

 

「ううぇええぇぇぇぇ~ん!!」

「あ、アリア!?」

「アリア先生~!?」

 

 

泣きだしたアリアが、どこかに走り去りおった!

 

 

「ど、どうしましょう~」

「お、追いかけるぞ!」

 

 

さよとともにアリアを追いかけることに。

何故だ!? 私の何が不満だと・・・。

 

 

「はじめてだったのに~~~~っ!!」

 

 

・・・なん・・・だと?

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

なんとかエヴァさん達を振り切り、屋上の片隅にまで逃げ込みました。

涙は止まりましたが、未だにショックからは抜け切れていません。

 

 

ぐしぐしと、目をこすります。

右眼からも流れているので、視力がなくても涙は流れるんだなぁ、と、どうでもいいことを考えます。

 

 

そういえば、途中どこかでネギ兄様と宮崎さんがなんだかいい雰囲気になっていたような・・・。

どうでもいいですね、うん。

 

 

それにしても、どうして魔法陣もなく、仮契約が成立したんでしょう?

思い当たる原作イベントは、カモと朝倉さんが共謀してのイベントでしょうか?

でも、朝倉さんはネギ兄様に説得されたはずでは・・・?

それにカモも、私の前でそんなことをするはずが・・・。

・・・・・・明日、問いただすとしましょう。

眼が万全なら、すぐに確認できるのですけれど。

 

 

それにつけてもエヴァさんめ、です。

初めては、将来の旦那様に取っておきたかったです・・・。

言ってくれれば、仮契約くらいしたのに・・・・・・他の方法で。

 

 

さよさんにも問題はありますが、たぶんエヴァさんについてきただけでしょうね。

・・・・・・やっぱりエヴァさんが悪いですね。これはお仕置きをしなければ。

まずニンニクの海に放りこんで、それから・・・・・・・・・。

 

 

とその時、ガチャリと屋上の扉が開く音がしました。

エヴァさんかと思って身構えるも、そこにいたのは・・・。

 

 

「・・・戻りましょう、アリア先生。・・・・・・お部屋に」

「ちゃ、茶々丸さん!」

 

 

私は、迷うことなく飛び込みました。

迎えに来てくれた茶々丸さんの胸の中に。

もしこれがペル○ナなら、コミュが発生してもおかしくないですよ・・・!

 

 

・・・・・・・・・あれ?

 

 

私を「よしよし」してくれる茶々丸さん(「これが・・・至福」とか言ってます)ですけど。

さっきの騒動に参加もしていませんけど・・・・・・止めもしていないんですよね。

 

 

・・・え?

い、いやいや、そんな、まさか。

茶々丸さんに限ってそんな馬鹿な・・・でも、今顔を見るのはやめておきます。

某新世界の神みたくニヤリと笑っていたら、立ち直れないような気がしますので。

家族を疑うのはいけないことですよね、シンシア姉様。

 

 

 

 

 

アリアは、一つ大人になりました。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は不覚をとりましたが。次回で巻き返して見せます。

現在、私のパートナー(従者)的存在のアイデアを多くいただいております。
素敵なアイデアの数々、誠にありがとうございます。
もしそうしたものを作るとして、学園祭編以降の登場を予定しております。


アリア:
さて、次回は3日目の朝のお話です。
・・・・・・「お仕置き」の回、という別名を付けたいですね。
個人的には。
ではまた、お目にかかる日を楽しみに・・・。


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第22話「京都修学旅行編・3日目」

例によってアンチです。
苦手な方、お気をつけください。


Side 明日菜

 

「ちょっと、どーすんのよネギ! こんなにいっぱいカード作っちゃって、一体どう責任とるつもりなのよ!?」

「えぇっ!? 僕ですか!?」

「あ、当たり前でしょ!?」

 

 

私は今、ネギを叱りつけている。

そんな私の手には、仮契約カードがいっぱい。宮崎さんのカード以外はスカだけど。

でも、これはないでしょ!?

 

 

「もう、アリア先生になんて言えばいいのよ~っ」

 

 

せっかく、ネギと私を信頼して任せてくれてたのに・・・。

私がそんなことを考えていると、諸悪の根源の一人と一匹が、訳知り顔で肩を叩いてきた。

 

 

「まぁ、いーじゃねぇっスか」

「そーだよ明日菜、細かいこと言いっこなしだよ」

「あんたたちねっ! 少しは反省するとかしなさいよ!」

 

 

どこ吹く風で聞き流す朝倉とカモ。くっ、むかつくわね!

 

 

「っていうか、こんなことがアリア先生に知れたら・・・・・・っ!?」

「・・・明日菜? どったの?」

 

 

急に黙り込んだ私に、朝倉が不思議そうな顔をしたけど、それどころじゃない。

だって、朝倉の後ろには・・・っ!

 

 

「・・・・・・我に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

 

 

とんでもなく目の据わったアリア先生がいたから・・・。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・・・・我に触れぬ(ノリ・メ・タンゲレ)

「へぶおぅっ!?」

 

 

私がそう呟いた瞬間、魔法具、『マグダラの聖骸布』が発動、朝倉さんの肩にいたカモを赤い布で縛り上げ、捕縛します。

同時に、周囲に人払いを込めた隔離結界を張ります。

 

 

「・・・魔法具、『リングダガー』」

 

 

さらに、懐から取り出した、小さな短剣が横向きについているリングを、本来のダガーナイフに戻す。

ナイフの刃を、朝倉さんの脇腹に突きつけます。

少しでも動けば・・・切れますよ? ふふふふ・・・。

 

 

「・・・さて、説明してもらえますよね、朝倉さん。そしてカモ」

 

 

こいつらのせいで、私のファーストとセカンドが・・・!!

嫌ではなかったですけど、それでも軽く済ませてよいものではなかった。

 

 

「どんな説明を聞かせてくださるのか、楽しみですね。まぁ、罪状は変わらないわけですが、ね」

 

 

おや、どうしたんですか、朝倉さん。

顔色が、悪いですよ?

 

 

「あ、アリア先生、落ち着いて・・・」

「これが落ち着いていられますか!!」

 

 

今回の朝倉さんの行動は、悪ふざけの範疇を越えるものです。

 

 

「・・・それで、朝倉さんはどういうつもりで、クラスメイトの命を危険にさらすような真似を?」

「い、命って、そんな大げさな・・・」

「ほぅ? ずいぶんと魔法の世界の事について詳しいですね。朝倉さん。なら不勉強な私に教えていただけませんか? いったい、何を根拠に「安全だ」などと思ったんです?」

「だ、だって、ネギ先生は・・・」

「ネギ兄様が魔法使いとしてスタンダードだったなんて、初めて知りましたね」

 

 

朝倉さんの言葉を、私は嘲笑いたくなりました。

まぁ、ネギ兄様しか魔法使いを見たことがないんですから、仕方ありませんね。

ならば直接、身体に教えてさしあげましょう。

 

 

次に私が取り出したのは、一見すると、ただのメガホンです。

兄様達も、それを見て、怪訝そうな表情を浮かべました。

しかしこれも、立派な魔法具です。

その名も魔法具、『叫名棍』。

 

 

さぁ、恐怖してもらいましょうか、朝倉和美。

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「あ、姐さん、それはいったい?」

 

 

天井から、赤い布で縛られてぶら下がっているカモ君が、不思議そうに聞いていた。

アリアはそれには答えずに、どこからか取り出したメガホンを、朝倉さんの耳元に近付けて。

 

 

「・・・・・・『動くな、朝倉和美』」

「・・・・・・っ!?」

 

 

その瞬間、朝倉さんの様子が・・・。

 

 

「アリア!? 朝倉さんに何をしたの!?」

「・・・・・・今言った通りですよ。朝倉さんは私が許さない限り、永遠に動けません」

「え」

 

 

朝倉さんの顔が、引き攣った。

でも本当に動けないのか、ぷるぷる震えるだけで、その場からは動かなかった。

 

 

「この魔法具で名を呼ばれた相手は、全身の神経を呼んだ者に支配されます」

「なっ!?」

「えぇえっ!?」

「ちょっ・・・マジで!?」

「なんだよそりゃあ!? アーティファクトっスか!?」

 

 

そんな魔法具、聞いたこともないよ!

どうしてそんなものを、アリアが!?

 

 

「・・・あ、アリア? そのマントは・・・?」

 

 

いつのまにか、アリアは真っ黒なマントを着ていた。

本当にどこから取り出してるんだろう、空間魔法かな・・・?

でも、アリアは魔法が使えないはずじゃ・・・。

 

 

アリアは口元に嫌な笑みを浮かべると、持っていたナイフを上に投げた。

そして、黒いマントの一部が広がって、ナイフを包み込んだ。

マントが元に戻った時、ナイフは、無くなってた。

これは・・・?

 

 

「このマントに包まれたものは、この世界から消滅します」

「しょ、消滅って?」

「そのままの意味ですよ?」

 

 

明日菜さんの問いに、何が面白いのか、アリアが笑いながら答える。

どうしてそんな顔で笑えるのか、僕にはわからない。

 

 

「このマントに包まれたものは、人間だろうとなんだろうと、消えてなくなります。消滅という言い方が曖昧でわかりにくいと言うのなら・・・・・・死にます」

「しっ・・・!?」

「アリア!」

「ちょ、ちょっと待った姐さん!」

 

 

アリアは朝倉さんに抱きつくような体勢をとった。

そしてそれに合わせるように、黒いマントが朝倉さんを包み込み始めた。

 

 

「ほら、朝倉さん。魔法は「安全」なのでしょう? なら怖がること、ないじゃないですか」

「う・・・うぇ」

「ああ、でも・・・早く逃げないと、死んでしまいますよ?」

 

 

あ、動けないんでしたっけ。

アリアはそう言って、クスクス、と笑った。

朝倉さんは、今にも泣き出しそうな顔をしてるのに・・・。

 

 

意味がわからなかった。

なんでアリアがこんなことをするのか、わからなかった。

 

 

「・・・・・・ねぇ、ネギ兄様」

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

魔法具、『六魂幡』をザワザワと操りながら、呆然とした表情を浮かべる兄様に声をかけます。

 

 

「兄様、昨夜私は言いましたよね? 魔法を知られた場合の対処法を。説得するか、記憶を奪うか、そして・・・」

 

 

殺すか。

そう言って、私は朝倉さんに抱きつくようにしながら、『六魂幡』の中に彼女を引き込んでいきます。

 

 

「・・・朝倉さんは一度、ネギ兄様から頼まれていたはずですね? それでこのようなことをされると、私としても、とりたくない手段を取らざるを得ないんですよね・・・」

 

 

こんなことで、本国から目をつけられても嫌ですし。

 

 

「ねぇ、朝倉さんは魔法をなんだと思ったんです? 便利な人助けの道具? ファンタジーな楽しい玩具? なるほど、そういう側面もありますね」

 

 

それでもそれは一側面でしかありません。

 

 

「でもね、魔法はとても危険な要素も含んでいるんです。考えても見てください。その気になれば簡単に人を殺せる。そしてこの世界の法律で捕まえることは難しい。証拠品をこの世から隠せるんですから。誰にも見えないところに・・・」

 

 

それは結局、使う人の感情一つで制御されているにすぎません。

現に兄様も、一度は茶々丸さんを殺しかけました。

そして今、朝倉さん。貴女は私に殺されかけています。

 

 

「そしてもし、魔法使いの世界と言いうものがあって、国がいくつもあり、しかも戦争直前の状態にあるとしたら・・・? そして私と兄様の父親が、一方の陣営から敵視されていたら・・・?」

「そんな!? 父さんが恨まれるなんて、そんなこと・・・」

「そんな兄様に、身を守る力を持たない従者ができたら・・・? 格好の人質になるとは、思いませんか? ねぇ、朝倉さん?」

 

 

空気の読めない兄様は、無視しました。

傷ついたような表情をしていましたが、知ったことではありません。

朝倉さんは、青ざめた顔でガタガタと震えていました。

 

 

「あ、アリア! やめてよ。なんでこんな・・・」

「そ、そうよアリア先生! 朝倉だってほら、反省してるし・・・」

 

 

反省、ねぇ・・・。

私は天井からぶら下げているカモの方を見ると、それも『六魂幡』の中へ引き込むべく、魔法具を操作しました。

この下等生物、以前私にされたことを忘れかけているようですねぇ。

 

 

「ひ、ひいぃぃっ!? あ、兄貴~!」

「か、カモ君!?」

 

 

鬱陶しいですねこの下等生物。兄様に助けを求めやがりました。

味を占めているのかどうなのか・・・。

 

 

「・・・・・・アリア!」

 

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

な、何よこの状況。

私は、正直どうしてこんなことになってるのか、わからなかった。

どうして・・・。

 

 

「・・・・・・どういうおつもりですか、兄様?」

 

 

感情が全然こもってない、そんな声で、アリア先生がネギを睨んでる。

どうしてネギが・・・。

 

 

「兄様は何故、私に杖を向けておられるのでしょうか?」

「・・・・・・カモ君と朝倉さんを、放して」

 

 

 

どうしてネギが、アリア先生に杖を向けてるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ちょっ・・・ネギ!」

 

 

明日菜さんが、悲鳴のような声を上げる。

それでも僕は、アリアに杖を向けたままだ。

だってそうしないと、アリアは朝倉さんとカモ君を殺しちゃう。

そんな気がした。

 

 

「・・・・・・それで、兄様はそんなものでどうしようと言うのですか?」

 

 

でも、アリアは朝倉さんに隠れるように、僕を見ていた。

焦りなんて、少しも見せずに。

 

 

「私を攻撃しますか、拘束しますか? それも良いでしょう、なら、やりなさい」

「アリア先生、何言って・・・」

「でも兄様にはできません。なぜなら、この位置取りでは、私よりも先に朝倉さんに当たるからです。それでも良いというのなら、どうぞ」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・できませんか。そうですか・・・・・・なら、この下等生物を先に殺します」

「・・・! やめっ・・・」

 

 

黒い、よくわからないそれが、カモ君を包み込みそうに――――!

 

 

「・・・・・・アリア!!」

 

 

僕は、両手で杖を握りしめて、魔力を込めた。

 

 

「やっ・・・」

 

 

アリアの魔法具に魔力が満ちるのと、僕の杖に魔力が込められるのは、ほぼ同時。

・・・拘束用の魔法なら、当たっても怪我はしない!

すみません、朝倉さん!

 

 

「やめてぇ――――――――!!」

 

 

明日菜さんの悲鳴が、聞こえた。

 

 

 

 

 

その時。

 

 

 

 

 

「そこまでだっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「そこまでだっ!!!」

 

 

・・・間に合ったか。

 

 

突然、旅館の中で結界が張られた上、異様な魔力の高まりを感じて来てみれば、なんだこれは!

アリアは奇妙な魔法具でカモと朝倉を拘束していて、ぼーやは、そのアリアに杖を向けている。

なんとなく、流れはわかるが・・・。

 

 

「・・・とにかく、二人ともやめろ。ここをどこだと思ってる」

 

 

こんな場所でやっていいことではない。

アリアとて、そんなことはわかっているはずなのだが・・・。

 

 

「・・・・・・エヴァ、さん」

 

 

毒気を抜かれたような顔で、アリアがこちらを見た。

黒い布のような、奇妙な魔法具が、カモと朝倉から離れていく。

ぼーやも、ほっとした顔で、杖を下げた。

 

 

私も、胸を撫で下ろす気持ちだった。

ぼーやがどうなろうと知ったことではないが、ここでアリアがぼーやに何かすれば、アリアがかなり面倒なことになる。

ただでさえ、学園の正義バカどもに目をつけられているんだ。

 

 

奴らごときに、アリアがどうこうできるとも思えんが・・・。

それにしても、アリアらしくない。

どうしたというのだ・・・。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

危なかった。

エヴァさんが来てくれなければ、どうなっていたか、わかりませんでした。

私は朝倉さんから少し離れて、呼吸を整えると、再び兄様を見据えました。

 

 

「・・・・・・・・・今後、私は魔法関係の事で朝倉さんがどんな目に合おうと、関知しませんので。兄様で勝手に責任をとってください。当然、宮崎さんのこともです」

 

 

発動中の魔法具をしまうと、朝倉さんの呪縛も解かれました。

ヘナヘナとへたりこむ朝倉さんを一瞥した後、今度はカモの首を掴みます。

 

 

「ぐぅえっ!?」

「お前も・・・これ以上面倒を起こすようなら、強制送還などと悠長なことを言わず、消しますよ?」

「き、肝に銘じてっ!」

 

 

『マグダラの聖骸布』を解除、カモを投げ捨て、そして次に、兄様を見ます。

かなりキツい睨み方をしたからか、ネギ兄様は、ひっ、と身をすくめました。

 

 

「兄様も・・・いい加減、ご自分の立場と力を自覚なさったらどうですか? 正直、次にこういうことがあったら、私は兄様の修行の停止をしかるべきところに進言せざるを得ません」

「そ、そんな!」

「ならせめて、ご自分の不始末くらい、自分でつけてください。もう、うんざりです」

 

 

まぁ、それでも兄様の修行が停止されることはないのでしょうね。

・・・というか、これは修行になっているのでしょうか?

 

 

「それとも・・・切羽詰まったら、ご自慢のお父様が助けに来てくれるとでも思っているんですか?」

「・・・っ!? そ、そんなことは・・・」

「そうですか。なら、もう少し考えてから行動してほしいものですね」

「ちょ、ちょっと言いすぎじゃ・・・」

 

 

私が兄様の心の傷を抉るような物言いをしていると、さすがに哀れに思ったのか、明日菜さんが口を挟んできました。

 

 

「・・・明日菜さんも、中途半端に兄様に関わるの、やめていただけませんか?」

「なっ・・・」

「では、仕事がありますので」

 

 

一切の反論を許さず、私は兄様たちに背を向け、歩き出しました。

言いたいことは言いましたし・・・あとは知りません。

朝倉さんの事も、宮崎さんの事も、もはや兄様自身でどうにかしていただく他ありません。

他の生徒は引き続き守りますが・・・このままでは、私が守るべき生徒と言うのも、近く半減するかもしれませんね。

守れなかった生徒が増えるというのも、面白くな・・・。

 

 

 

「・・・ぅ」

 

 

 

急に何かが、込み上げてくるような感覚に襲われました。

口を、おさえます。

たまらず、走り出します。

 

 

「・・・おい、アリア!?」

 

 

 

 

 

気持ち、悪い。

 

 

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

マスターに、さよさんとアリア先生の部屋の前で待つように言われ、待ち始めて5分ほどたった時のことです。

アリア先生が、来ました。

 

 

「アリ・・・」

 

 

さよさんの声にも反応せずに、アリア先生は扉を乱暴に開けて、中に駆け込みました。

さよさんは何が起こったかわからなかったようですが・・・・・・私のセンサーには、アリア先生の身体の異常が、はっきりと映っていました。

 

 

「アリア先生!」

 

 

中に入ると、洗面所の扉が開いていました。

アリア先生は・・・。

 

 

「かふっ・・・うぇ・・・ぇはっ・・・!」

 

 

嘔吐していました。

 

 

私はすぐに行動します。

棚から大量のタオルを取り出し、アリア先生のそばへ。

嘔吐の際、戻した物で喉を詰めてしまう場合があります。背中をさすり、通りを良くします。

 

 

「えふっ・・・ち、茶々ま・・・」

「喋らないで、そのまま全部、出してしまってください」

「・・・か、はっ・・・ぅえぇっ・・・げっ・・・え・・・・」

「頭を下に、大丈夫です。・・・・・・さよさん」

「は、はいっ。エヴァさん呼びますか!?」

 

 

入口の所でオロオロしていたさよさんに、声をかけます。

 

 

「マスターはもうすぐ到着します。それよりも、飲み水と、小さめのスプーン。あとできれば、氷をお願いします」

「へ? は、はいっ。わかりましたっ!」

 

 

嘔吐の場合、何より脱水症状が心配されます。

ただ、急に水分を補給すると、逆に胃を刺激してしまい、余計に戻してしまいます。

ですから、小さめのスプーンで一口ずつ、様子を見ながら水分を補給します。

一口サイズの氷があれば、それでも構いません。

何があったのかは、正直わかりかねますが・・・。

 

 

「う、ううぅぅぅぅ・・・」

 

 

今はとにかく、アリア先生です。

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

辛かった。

苦しかった。

悲しかった。

そして何より・・・・・・悔しかった。

 

 

 

生徒を、守れなかったことが。

魔法の世界から、遠ざけることができなかったことが。

そして何より、八つ当たりしてしまったことが、悔しくて仕方がなかった。

 

 

だって、そうでしょう?

何も、魔法具まで使って、脅しつける必要はなかった。

あんなものは、八つ当たり以外の何物でもありません。

 

 

でも、認めたくなかった。

 

 

私の過失で生徒を守れなかったなんて、認めたくなかったんです。

 

 

フェイトさんのことに気を取られて、注意を怠ったのは、私の過失。

仕事が忙しいなどと言い訳して、生徒全員の行動に気が回らなかったのも、私の過失。

生徒を守ると言いながら、結局生徒の深いところにまで踏み込めなかったのも、私の過失。

そして、エヴァさん達が心配しているのを知っていて、何も相談しなかったのも、私の過失。

 

 

何が教師ですか。生徒のことを何一つ解決できていないではないですか。

何が転生者ですか。精神年齢の高さなど、何の役にも立たないではありませんか。

原作の知識すら、まともに活用できやしないではありませんか。

私は・・・。

 

 

「・・・・・・アリア先生」

 

 

私の身体をタオルで甲斐甲斐しく拭いてくれていた茶々丸さんが、不意に、ぎゅっ、と、私を抱きしめてくれました。

一瞬、拒みそうになりました。だって、私、今、汚れ・・・。

 

 

「・・・人間は、一人で何かを抱え込むと、潰れてしまうと、マスターから聞いたことがあります」

「・・・・・・う」

「でも、だからこそ・・・人間は、家族と一緒にいると、マスターは言っていました」

 

 

私達では、家族になり得ませんか。

 

 

茶々丸さんは、そう言いました。

茶々ま、ちゃ・・・・・・・・・!

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

心のどこかで、アリアがまだ10歳の子供だということを忘れていた。

そんなことを、今さらながらに痛感している。

 

 

いつも平然とこなしていたから、それが普通だと思い込んでいた。

何もかもを見通しているかのような、あの瞳が、アリアそのものだと、思っていた。

 

 

「・・・そんなはずが、ないのにな」

 

 

余裕など、あるはずがないのに。

 

 

背後からは、アリアの嗚咽と、それを宥める茶々丸の声しか聞こえない。

 

 

目的のこと、夢のこと、兄のこと、生徒のこと、魔法のこと、修学旅行のこと。

時折聞こえてくる、アリアの気持ちに、頭を殴られたかのような気分になる。

 

 

こんな時に何もできない自分が苛立たしい。

アリアが褒め称えてくれた600年の知識も、役には立ってくれない。

 

 

懐から、アリアとの仮契約カードを取り出す。

衝動的に、破り捨てたくなる。

こんなものでアリアを繋ぎとめられると、一瞬でも考えた自分が情けない。

昨日の自分に会ったら、迷わず殺してやるところだ。

 

 

「茶々丸さん、もらってきました~って、エヴァさん?」

「・・・さよ、か」

 

 

ミネラルウォーターとスプーン、あと袋一杯の氷を抱えて、さよが戻ってきた。

 

 

「・・・スプーンは一つでいいと思うぞ」

「はぅっ!?」

 

 

掴めるだけ掴んできたのだろう。20はある。

まぁ、今はちょっと無理そうだから、少し待たせるか。

隣に座るよう促すと、さよはおとなしく、その場に腰かけた。

 

 

しばらくの間は、何も話さずに、ただ座っていた。

・・・アリアの嗚咽がBGMというのは、最悪の気分だったが。

 

 

「・・・・・・私、ですね」

 

 

ぽつり、と、独り言のように、さよが口を開いた。

 

 

「60年間、ひとりぼっちで、幽霊やってたんですよ」

「・・・ああ」

「だから、アリア先生が見つけてくれて、友達です、って言ってくれて、すごく嬉しかったんです」

「・・・・・・ああ」

 

 

『その呪い、私なら解けます』

 

 

誰も解こうとすらしてくれなかったサウザンドマスターの呪い。

それを、わざわざ解きに来てくれたアリア。

嬉しかった。

私に優しくしてくれた、初めての人間。

・・・あのバカは、優しくはなかったしな。

 

 

「でも、アリア先生って、一人でなんでもできちゃう人だから・・・いつか、捨てられちゃうんじゃないかって、不安で」

 

 

『私には、目的があります』

 

 

目的があって私の下に来たアリア。

では、その目的が達せられたら、また私から離れていくのかと、不安だった。

認めたくはなかったが・・・。

 

 

 

いや認めよう、私は、怖かったのだ。

アリアを手放したくなかった。

 

 

 

「・・・だから、仮契約っていうのをすれば、ずっと一緒にいられるんじゃないかって、思ったんですけど・・・」

「・・・そう、だな」

 

 

だが、結局はこのザマだ。

アリアを私のモノにしたくて―――――結局、傷つけてしまった。

 

 

「・・・・・・はしゃぎすぎちゃった、のかなぁ・・・・・・」

 

 

さよはそう言って、膝の間に顔を埋めた。

もしかしたら、泣いているのかもしれない。

 

 

私も、泣きたい気分だ。

 

 

窓の外からは、自由行動を始めたのだろう。生徒達の笑い声が聞こえる。

だが私は、しばらくここから動くつもりはなかった。

 

 

 

・・・・・・アリアが泣き止んで、私が何発か殴られるまでは。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回はお見苦しいところをお見せしました。
次回からはまた、いつもの調子に戻るかと思います。


今回、私が使用した魔法具は。
『マグダラの聖骸布』、元ネタは「Fate」です。
おにぎり様、アイデア提供ありがとうございました。
『リングダガー』『叫名棍』『六魂幡』は、それぞれ「MÄR」と「封神演義」が元ネタです。
司書様、アイデア提供ありがとうございました。

なお、私が作中で多用する『闘(ファイト)』などのカードは、「カードキャプターさくら」が元ネタとなっております。


次回は、私とさよさんのアーティファクトの説明が入ります。
一応オリジナルになる予定ですが・・・。
自分で創る以外の道具は初めてですので、ちょっと楽しみです。


それでは、またお会いしましょう。


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第23話「3日目・千本鳥居の邂逅」

Side アリア

 

「京都と言えば八つ橋、八つ橋と言えば京都。八つ橋がなければ京都は京都とは言えませんし、つまり八つ橋があってこその京都です。八つ橋に比較すれば清水寺も大文字送りも三大祭も物の数ではありません。寺社仏閣など有象無象もいいところ。京都において八つ橋を食べないなんて、京都の八割を知らないのと同じことです」

「お前は何を言っているんだ」

 

 

今、私は京都の有名なお茶屋さんで八つ橋を食べています。

もちろん、エヴァさんの奢りです。

 

 

「茶々丸さん、おかわりですー」

「はい、どうぞ」

 

 

茶々丸さんの膝の上で、八つ橋を食べさせてもらいます。

至福の時間です・・・。

 

 

「あわわ・・・アリア先生、お茶です~」

「ありがとう、さよさん。茶々丸さん、飲ませて~」

「はい、熱いのでお気を付けください」

 

 

さよさんが入れてくれたお茶を、茶々丸さんがふーふーして飲ませてくれます。

何かエヴァさんが、「茶々丸ってこんなキャラだったか・・・?」と首をかしげていますが、スルーします。

 

 

「いや~、平和ですね~」

 

 

エヴァさんが人払いの結界を張っていますので(営業妨害ですね)、店内には私たちだけです。

それにしてもエヴァさん、いつもより優しいというか、甘いんですよね。

宿泊先でダウンして以降、特に。

おかげで、新田先生達には心配をかけてしまいましたし、木乃香さん達についていくこともできませんでした・・・。

兄様達が一緒にいるはずではありますが、どうにも不安ですね。

今頃は、どのあたりにいるのでしょうか。

 

 

それにしても、あのエヴァさんの「アリアっ 私を殴れ!」発言を聞いた時には、どこの「走れメロス」だと思いましたね。

いやぁ・・・気持ち悪かったですね。

 

 

「・・・・・・何か、失礼なことを考えていないか?」

「まっさか~」

「ケケケ・・・ゴシュジンモマルクナッタモンダナ」

 

 

ジト目で睨んでくるエヴァさんに、適当に答えます。

そしてチャチャゼロさん、人がいないからって動かないでください。

 

 

「そういえば、昨夜はうやむやになったが、お前たちのアーティファクトはどんなのなんだ?」

「あー、そういえば、調べてなかったですね」

 

 

何しろ、それどころではありませんでしたからね。

 

 

一冊の黒い本を手に持ち、微笑んだ私が描かれている仮契約カードを取り出し、「アデアット」と唱えます。

そういえば私、自分で作る以外の武器って初めてですね。

ちょっとドキドキします。

 

 

出現したのは、一冊の黒い本。金のチェーンの留め金がアクセント。

名前は、『千の魔法』。

しかし開いてみても、中身は白紙のページがあるばかり。

当然のごとく、取り扱い説明書は付いていません。

 

 

「・・・・・・なんだ、それは?」

「さぁ・・・ちょっと、わかりかねますね」

 

 

眼が万全なら、瞬時に解析できるんですけど・・・。

ま、仕方ありませんね。

 

 

「・・・アベアット。まぁ、また考えましょう。さよさんは?」

「は、はい、あ、アデアット!」

 

 

出てきたのは、古ぼけた羊皮紙です。

名前は、『探索の羊皮紙』。

 

 

「・・・む、これは・・・」

「京都市内の地図のように見受けられます」

 

 

茶々丸さんの言うように、その羊皮紙は、特徴的な京都の町並みを表しています。

そして、そのところどころに、人の名前が・・・。

 

 

「・・・どうやら、自分と接点のある人の位置を知ることができるアーティファクトのようですね」

 

 

ハリー○ッターに出てきた、あのいたずら地図ですね、わかりやすく言うと。

厳密には、いろいろ違うでしょうが。

 

 

「・・・あ、ネギ先生たちですー」

「近衛たちもいるようだな」

 

 

兄様、明日菜さん、木乃香さん、刹那さん・・・。

おや、近くに宮崎さんも・・・?

 

 

「あ、これ、範囲を狭くしたりとかもできるみたいです」

 

 

さよさんがそう言って、地図の範囲を切り替えてくれました。

おお、より地形などがわかりやすく・・・結構、便利ですね。

 

 

「あ、アンノウンって出てきました」

「接点が無くても、限定範囲内でなら探索はできるようだな」

「ケケケ・・・ベンリジャネェカ」

 

 

索敵に秀でたアーティファクトですか。

元幽霊のさよさんらしいですね。どこにいても、貴方を見ている、みたいな。

 

 

「炫毘古社ってどこでしょう・・・?」

「ピー、・・・データによれば、関西呪術協会本部のようです」

 

 

電子音を口で言う茶々丸さん可愛いです。

・・・でも、このアンノウンの位置取りは・・・。

 

 

「・・・ふん、行くのか?」

「・・・勘違いしないでください。私は別に兄様や明日菜さんを助けに行くわけではありませんから」

「スナオジャネェナァ」

 

 

だからその「不器用な奴め」、みたいな視線やめてください。

百歩譲って、木乃香さんと刹那さんは助けに行きますけどね。

それに、お会いしたい人も、いるでしょうから。

 

 

私は、ふんっ、と笑って。言ってやりました。

 

 

「兄様の活躍の場を、奪いに行くんです。つまりは嫌がらせですよ」

 

 

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

俺は小太郎や!

今は、千草姉ちゃんの手伝いで、ネギとかいう西洋魔法使いと喧嘩しとるところや。

さっきまでは、こっちの考えを読む妙な道具を使うねーちゃんのおかげで、やられてもーたんやけど。

変身してからこっち、負ける気がせえへんわっ!

 

 

「オラオラオラオラオラァっ! 反撃してみぃやっ!」

「うぐっ・・・」

「ね、ネギせんせ~・・・」

 

 

守ってばかりで、ちっとも反撃してきぃひん。

それどころか。

 

 

「ぼ、僕たちは喧嘩しに来たわけじゃないんです!」

 

 

とかなんとか言って、逃げようとしよる。

これなら、月詠のねーちゃんがやっとる剣士のねーちゃんの方が面白かったかもしれんなぁ。

女とやるのは、気が乗らんけど。

 

 

 

「どーしたぁ、一人じゃ何にもできんのか!」

 

 

見かけ通りの、魔法を唱えるしか能のないやつっちゅーことやな!

 

 

「これで、終わりやぁっ!!」

「ね、ネギせんせー!」

「くっ・・・!」

 

 

ガードなんて無視やっ! かんけーあらへん!

とどめやっ!!

 

 

「・・・・・・あかんっ、小太郎! 下がりや!」

 

 

千草姉ちゃん!?

なんやこんな時に・・・。

 

 

「・・・ん?」

 

 

こんなところに、桜の花なんて、あったかいな・・・?

 

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

ああ、もう!

どうすればいいのよ!

 

 

私は今、前にも見たことのある、木乃香を誘拐した奴の式神、とかいうのと戦ってる。

私のアーティファクトとかいう、ハリセンが武器。

これが当たれば、一発で消せるんだけど・・・。

 

 

「当たらないじゃないのよ~!」

「あはははっ! やっぱり素人のお嬢ちゃんやな!」

「うるさいわねっ!」

 

 

木乃香を抱えてる眼鏡に、言い返す。

でも、当たらないのは本当。

 

 

ネギの方を見れば、本屋ちゃんを守りながら・・・小太郎だっけ? そいつと戦ってる。

・・・な、なんか犬みたいなのになってるけど、って。

 

 

「ネギ!」

 

 

相手の攻撃を受け損ねたネギに、小太郎って奴がとどめを刺しに・・・!

危ない!

助けに行きたいけど、式神が邪魔で、行けない!

 

 

邪魔しないでよ!

そう叫ぼうとした、その時。

 

 

 

「・・・・・・散りなさい、『千本桜』」

 

 

 

聞き覚えのある声と、桜の花弁が、目の前一杯に広がった。

 

 

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

なんたるザマだ!

私は自分の不甲斐なさに、死にたくなる気持ちだった。

 

 

シネマ村で、お嬢様を守り切れなかったばかりか、魔法の力に目覚めさせてしまった。

しかも今また、敵の手にお嬢様を渡してしまうなど・・・!

 

 

「邪魔を・・・するなぁっ!」

「あん、ぞくぞくするわぁ~」

 

 

ふざけたことを言うのは、今まさに戦っている相手、月詠だ。

次から次へと迫り来る凶刃、それを夕凪で受け続ける。

何度繰り返したかはわからないが、それでも決定打はもらっていない。

逆にいえば、与えることもできていない。

 

 

それが、苛立ちと焦りに拍車をかけていた。

神楽坂さんとネギ先生も近くで戦ってくれているはずだが、正直、そちらに構っている余裕はない。

 

 

「ざ~んが~んけ~ん!」

「ちっ・・・この!」

 

 

斬撃を紙一重でかわし、切り返す。しかしこちらの攻撃も、紙一重で届かない。

・・・・・・無傷で倒すのは、無理か。

 

 

頭の中の冷静な部分が、そう告げている。

ある程度のリスクを覚悟しなければ、突破できないと。

ならば。

 

 

乾坤一擲。

敵の懐にあえて飛び込み、一定程度の負傷を覚悟したうえで、敵に致命打を与える。

これしかない。

 

 

と、私が覚悟を決めた、まさにその時。

 

 

「小太郎!?」

 

 

千草とかいう女が、悲鳴を上げていた。

見れば、階段の途上で、見たことのある少女と、桜の花弁が舞っていた。

その足元には、ネギ先生と戦っていたはずの少年。

・・・あれは・・・。

 

 

「あはっ♪」

 

 

突然、月詠が、興奮したような笑みを浮かべて、その少女に飛びかかっていった。

慌てて、その少女の名前を呼ぶ。

 

 

「アリア先生!」

 

 

しかし、私が気にするまでもなく、アリア先生は月詠の斬撃を受け止めていた。

ほっ・・・と、胸を撫で下ろした。

 

 

そして同時に、気付く。

これまで私を遮っていた壁役が、もはやいないことに。

 

 

私は夕凪を強く握ると、私が命に代えても守りたいと願う存在の下へ、駆けた。

 

 

「お嬢様を・・・・・・返してもらう!」

 

 

 

 

 

 

 

Side 千草

 

なんなんや、あの娘!

前は月詠はんをあっさり倒して、今度は小太郎まで。

しかも、どこから現れたんか、まったくわからんなんて・・・。

だいたい、結界はどないしたんや!?

 

 

「お嬢様を、返してもらうぞ!」

「しまっ・・・!」

 

 

あの娘に気を取られて、瞬動で近付いてきたこっちに気がつかっ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「小太郎!?」

 

 

木乃香さんを攫った眼鏡の女の人が、悲鳴を上げている。

小太郎君は血まみれだけど、生きてはいるみたいだ。でも、変身は解けてる。

そして、そんな小太郎君を見下ろすように、立っているのは。

 

 

「あ・・・アリア?」

「・・・はい、なんでしょう、ネギ兄様」

 

 

いつもと同じ、どこか冷たい目で僕を見つめてくるアリア。

雪みたいな白い髪に、左右で色の違う瞳。

花弁みたいな、この間も使ったよくわからない魔法具を操るその姿は、とても綺麗だけど・・・。

 

 

「ネギ、大丈夫!? 本屋ちゃんも」

「だ、大丈夫です・・・」

「明日菜さんは?」

「私? 私は大丈夫よ、これくらい!」

 

 

笑って、僕とのどかさんに、力こぶを作って見せてくれる。

さっきまで、式神に足止めされていたんだ、うう、僕先生なのに・・・。

 

 

「・・・落ち込むのは後にしてくださいね、兄様」

 

 

溜息をつきながら、アリアが僕にそう言ってきた時。

 

 

「ざーんがーんけーん!」

「アリア先生!」

 

 

突然、敵の剣士がアリアに切りかかってきた。

刹那さんが叫ぶ中、アリアは落ち着いた様子で。

 

 

「・・・月詠さんですか」

 

 

アリアはまた別の剣を取り出して、刹那さんと戦っていた月読さんの剣を受け止めた。

 

 

「いいんですか、月詠さん? 刹那さんを放っておいて」

 

 

アリアが示した先で、刹那さんが眼鏡の女の人から木乃香さんを取り返していた。

でも月詠さんは・・・。

 

 

「せんぱいもたのしいですけど~でも、こっちのほうがたのしそうです~」

「・・・あれだけ切り刻まれて、そんなことが言えるとは・・・狂ってます、ね!」

 

 

アリアは月詠さんに蹴りを入れて、いったん距離をとった。

けど、すぐに月詠さんが距離を詰めてきた。

 

 

「にと~れんげき、ざーんがーんけーん!!」

「面を上げなさい・・・『侘助』! そして並びに、魔法具、『剣(ソード)』!」

 

 

アリアが声をあげた瞬間、細い西洋剣が出てきた。

もともと持っていた方の剣も、魔力が解放されて、刃が鍵爪みたいな形に変わった。

そして撃ち合う。1度,2度,3度,4度・・・。

 

 

「たのしいな~ほんまにたのしいな~」

「私は、あんまり楽しくありませんね」

「あん、いけずや、わ?」

 

 

何度か撃ち合った後、月詠さんがいきなり膝をついた。

武器を持ちあげることができないみたいだけど・・・。

 

 

「何? どうなったの!?」

 

 

明日菜さんもわからないみたいだ、何をしたんだろう・・・?

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「な、なんやこれ~おもいです~」

 

 

月詠さんは、二つの刀が急に重くなったので、戸惑っているようです。

まぁ、説明してあげても良いですけど、説明してあげる義理はありませんね。

 

 

『侘助』の力は、斬りつけたものの重さを倍にすること。

二度斬れば倍、三度斬ればそのまた倍・・・月詠さんと何度切り結んだか知りませんが、少なくはないでしょう。

彼女の力から考えれば、2,3度切り結ぶだけで十分。

そのまま、体勢を立て直される前に、刀の腹で側頭部を殴りつけ、気絶させます。

 

 

「・・・きゅう」

 

 

・・・ずいぶん可愛らしい気絶音ですが、まぁ、いいでしょう。

さて、他の人たちは無事ですかね・・・。

 

 

「障壁突破、『石の槍』」

 

 

その瞬間、横から石の槍が飛んできました。

油断、していましたね。

しかし。

 

 

『全てを喰らう・・・』

 

 

もはや自動防御である『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』が発動、石の槍から魔力を奪い、かつ展開されていた『千本桜』の花弁が、魔力を失った石の槍を防ぎ、砕きます。

 

 

「・・・やるね。完璧に不意を突いたはずなんだけど」

「手加減しておいて、よく言いますね」

 

 

貴方なら、私はともかく、兄様達を数秒で全滅させることも可能でしょうに。

 

 

現れたのは、白い髪の少年・・・・・・フェイトさん。

肩に小太郎とやらを、脇に月詠さんを抱えていました。

なるほど、今の一撃は私の注意を逸らすためだったんですね・・・。

 

 

「・・・アリア・スプリングフィールド」

「あら、照れますね・・・すでに名前をご存知とは」

 

 

この、くすぐったい気持ちを、なんと表現すれば良いのでしょう?

場所が場所なら、ダンスにでもお誘いしたい気分です。

だから私は、誘うように手を差し伸べて、微笑みながら、言います。

 

 

 

「お会いしたかったですよ、フェイトさん。貴方を・・・・・・・・・殺しに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

実際に出会うと、何を話していいのか、わからない。

そんな感情が僕の中にあるというのが、不思議だった。

 

 

「お会いしたかったですよ、フェイトさん。貴方を・・・・・・・・・殺しに来ました」

 

 

だからそう言われた時、僕が感じたこの感情が何なのか、正直わからない。

だけど言葉は、自然と口をついて出ていた。

 

 

「奇遇だね・・・・・・僕もキミのことを殺してやりたいと、思っていたところだよ」

 

 

僕のその言葉に、彼女は照れたように笑った。

差し出された手には、いつもまにか、刀が握られている。

柄の短く、切っ先の広い、彼女の身長ほどもある大きな刀だ。

 

 

その刃を僕に向けると同時に、彼女の身体から、魔力が漏れ出す。

・・・・・・なかなかのプレッシャーだね。

 

 

僕もそれに応えるように、魔力を放出する。

どうやら、タダでは返してくれないようだ。

とりあえず、月詠さん達を転移させ・・・。

 

 

 

「ど、どうして木乃香さんを狙うんですかっ!」

 

 

そんな、英雄の息子の方の言葉に。

どういうわけか、力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

思わず刀を取り落としかけました。

フェイトさんも・・・魔力を霧散させてこそいないものの、力が抜けているようです。

感情のない瞳の奥に、軽い苛立ちのような色が見えたような、そんな気がしました。

 

 

「・・・・・・ネギ兄様・・・・・・」

「な、なに?」

「空気を読んでください・・・・・・」

「え、え・・・?」

 

 

深く溜息をつくと、兄様はひどく困惑したような表情を浮かべていました。

まぁ、このあたりが、兄様の兄様たる証というか・・・。

 

 

でも、今、ものすごく緊迫した空気だったじゃありませんか。

もう、後は激突するだけだったではありませんか。

なんでしょう、この、なんとも言えない感覚・・・。

 

 

対するフェイトさんはというと。

 

 

「フェイトはん!」

「・・・・・・千草さん、悔しいけど撤退しよう、また次があるさ」

「くっ・・・しゃあないな」

 

 

そう言って、どこかに転移する様子。

・・・ここで、「逃げられるとでも?」とか言えたらかっこいいんでしょうけれど。

そこまでやる気に溢れてはいないんですよね、私。

 

 

「・・・・・・追ってこないのかい?」

「追ってほしいんですか?」

 

 

千草さん達が転移してく中、フェイトさんの言葉に、からかうように返します。

まぁ、ケチもついてしまいましたし。

 

 

「・・・今度は、お互い荷物のない状態で、お会いしましょう」

「・・・・・・そうだね」

 

 

楽しみにしているよ。

そう言って、フェイトさんは転移していきました。

 

 

・・・前世でも現世でもやったことはありませんが、デートの約束にしては、なんとも色気のないやりとりですねぇ。

 

 

ともかく、フェイトさんを見送った後、手に持っていた魔法具、『贄殿遮那(にえとののしゃな)』をしまいます。

対魔性能に優れた刀で、しかも決して折れない、頑丈な刀です。

石化魔法を使うフェイトさんと限定空間で戦り合うには、絶好の武器だと思ったのに・・・。

まぁ、また使う機会もあるでしょう。

 

 

「アリア先生!」

 

 

木乃香さんを抱えて、刹那さんが戻ってきました。

幸い、目立った怪我はないようですね・・・。

 

 

「アリア先生、ありがとうございます・・・!」

 

 

ものすごい勢いで頭を下げられました。木乃香さん落としますよ?

 

 

「・・・私がいなくとも、大丈夫でしたよ、きっと」

「そんなこと・・・!」

 

 

原作では大丈夫だった気がしますし。

いえ、フェイトさんはいなかったような気もしますから、そうでもないのでしょうか・・・?

でも、まぁ、守れたなら、それで良しとしますか・・・今は。

 

 

「・・・・・・アリア」

 

 

ネギ兄様が、また何とも言えない表情で私を見つめていました。

そんな目で私を見ても、心配などしてあげませんよ?

 

 

「・・・兄様は、何しにここへ?」

「え・・・あ、親書を渡しに行かなきゃ!」

 

 

いつまでも私の事を見ているので、特使の仕事を思い出させます。

兄様は慌てて、階段を駆け上がっていきました。

・・・元気ですね。

 

 

「あ、待ちなさいよ、ネギー!」

「ね、ネギせんせ~」

 

 

そしてそれを追いかける明日菜さんと、のどかさん。

・・・木乃香さんを置いていってどうするんですか。

ほら、刹那さんがかなり困っていますよ。

 

 

「・・・申し訳ありませんね、刹那さん」

「い、いえ、そんな・・・」

 

 

苦笑いの刹那さん。

この界隈に張られていた封じ込めの結界は、侵入する際に私が壊しましたし・・・。

まぁ、道に迷うということも、ないでしょう。

しかし・・・。

 

 

「・・・面倒ですね」

 

 

今後の展開を考えると、溜息をつきたくなります。

本当、ここで見捨てられる性格をしていれば、どんなに楽か。

・・・仕方ありませんね、シンシア姉様。

 

 

 

 

 

アリアは優しい子だって、褒めてくださいますか?

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
最近仕事が多くて大変ですが、皆様の応援のおかげで何とかできております。
今回はフェイトさんとの二度目の接触です。
いっそ今回で決着をつけてさしあげようかと思いましたが、お互い多忙の身、次回の約束を取り付けただけ、良しとしましょう。


今回の魔法具『贄殿遮那(にえとののしゃな)』は、「灼眼のシャナ」を元ネタにしております。
司書様、haki様、アイデア提供ありがとうございます。
今度はもっときちんと使いたいですね。


アリア:
さて、次回は関西呪術協会の首脳部との面会です。
相手はお父様の仲間とか・・・。
さて、面倒になってまいりました。

では、またお会いしましょう。


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第24話「3日目・関西呪術協会」

Side ネギ

 

ど、どうしよう。

木乃香さんが起きるのを待っていたら、どういうわけか綾瀬さんにパルさん、朝倉さんまでやってきちゃった・・・!

 

 

「私としたことが・・・!」

 

 

鞄の中に、じーぴーえす? とかいうものを仕掛けられていたらしい刹那さんが、地面に膝をついて落ち込んでる。

僕も一緒に落ち込みたい・・・。

 

 

「まー、賑やかで楽しいえ」

 

 

木乃香さんはそう言うけど、僕には特使としての仕事が・・・。

ど、どうしよう~。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「「「「「お帰りなさいませ、このかお嬢様!!」」」」」

 

 

鳥居をくぐった途端、大勢の巫女さんが出迎えてきてくれました。

この人たち・・・。

 

 

「……す、すごい」

「ちょっとビックリです」

「いいんちょ並みのお嬢様だったんだね~」

 

 

みなさんが驚く中、木乃香さんが心配そうに明日菜さんを見ました。

 

 

「明日菜、うちの実家おっきくて引いた?」

「ちょ、ちょっとね。ま、まあね」

 

 

顔が引きつってますよ明日菜さん。

 

 

「なら……ええんやけど」

「家がでっかくても木乃香は木乃香でしょ。私はそんな事気にしないわよ」

 

 

なかなか良いことを言いますね。

というか、逆にここまで大きいとむしろ邪魔ですね。

やはり理想は、小高い丘に白い一軒家でしょう。

白い大きな犬がいれば、言うことがありませんね。

それにしても・・・。

 

 

「・・・・・・・・・(ちらり)」

「わわっ・・・」

 

 

当たり前と言えばそうですが、朝倉さんが私を避けています。

心配せずとも、もう何もしませんよ。

それよりも、なんとか綾瀬さんと早乙女さんを宿泊先に戻す方法を考えませんと・・・。

 

 

 

その後、巫女さんの案内で大広間に案内されました。

ものすごく大きな部屋の真ん中に、座布団が人数分・・・これ、なんて羞恥プレイですか。

なんで巫女さん達は壁際に控えているのでしょうか・・・?

お願いですから、雅な音楽とか流さないでください。

 

 

「お待たせしました」

 

 

緊張しまくっている様子の兄様達を眺めていると、上座に一人の男性が姿を現しました。

ゆったりとした動作、しかし隙の見えない身のこなし。

・・・さすがは、大戦の英雄の一角と言ったところですか。

 

 

「し、渋くてステキかも・・・」

「アンタは・・・」

 

 

男性から向かって、右から一列目が兄様、明日菜さん、木乃香さん、刹那さんに私。

そして二列目に宮崎さん、綾瀬さん、早乙女さん、朝倉さんの順に座っています。

 

 

「ようこそ明日菜君、木乃香のクラスメイトの皆さん。そして担任のネギ先生にアリア先生」

「お父様、久しぶりや~」

「ははは、これこれ」

 

 

娘に抱きつかれてデレデレな中年の父親。

正直、見ていて面白いものではありません。

 

 

兄様は、学園長から預かっていた親書を渡しました。

 

 

「東の長、麻帆良学園学園長、近衛 近右衛門から西の長への親書です。お受け取りください」

「確かに承りました。大変だったようですね」

「い、いえ」

 

 

西の長、近衛詠春さんは親書の内容を確認すると、どこか苦笑したようでした。

・・・どうせロクでもないことが書いてあるんでしょうね・・・。

 

 

「・・・いいでしょう。東の長の意を汲み、私達も東西の仲違いの解消に尽力するとお伝え下さい。任務ご苦労! ネギ・スプリングフィールド君!」

「は、はい!」

 

 

「表向き」の試練を乗り越え、嬉しそうにする兄様。

そしてそれを微笑ましそうに見る詠春さん・・・このあたりはタカミチさんと一緒ですね。

 

 

「今から帰ると日が暮れてしまう、今日は泊っていくと良いでしょう。歓迎の宴をご用意しますよ」

 

 

宴と聞いて歓声をあげる生徒のみなさん・・・。

マズイですね、どうも面倒なことに巻き込まれそうな予感がします。

綾瀬さんと早乙女さんを引っ張って帰らないと・・・。

 

 

「・・・申し訳ありませんが、私はホテルの生徒たちの引率の仕事がありますので・・・」

「えぇっ! アリア先生、帰ってしまうん?」

 

 

なんで引き留めるんですか木乃香さん。

貴女は刹那さんがいれば十分でしょう。刹那さんもそんな不安げに私を見ないでください。

 

 

「先程、引率の総責任者の新田先生という方へ連絡致しました。申し訳ありませんが今晩はこちらに宿泊してもらい、明日、宿泊先の方へお送りします」

「・・・・・・は?」

 

 

な、何を勝手なことを・・・。

新田先生の名前を出せば私がなんでもOKすると思ったら大間違いですよ。

 

 

「・・・今、この京都で一番安全な場所はここです」

 

 

それは勘違いです。

・・・ああ、でもそうか、安全じゃないなら私がここにいた方がいいのでしょうか?

いやいやいや、騙されてはいけませんよ、私。

私の生徒はここにいる人達だけではないのですから・・・。

 

 

「せっかくの申し出、大変有り難く思いますが、私もお給金を頂戴している身分です。勝手なことはできません」

「しかし・・・」

「連絡までしていただいて恐縮ですが、お暇させていただきます」

 

 

さて、と・・・。

 

 

「戻りますよ、綾瀬さん。早乙女さんも」

「は~い・・・って、なんで!?」

「私達だけ戻らねばならないのです!?」

 

 

綾瀬さんと早乙女さんに声をかけますが、まぁ、予想通り、かなり渋られました。

え~と・・・。

ヒソヒソ話をスタートです。

 

 

「・・・・・・その、兄様と宮崎さんに気をきかせてさしあげようと」

「・・・そ、それは確かに重要です・・・!」

「あ、な~る・・・でも宴が、御馳走が・・・」

「それは途中、私が何か御馳走しますから、それで我慢してください」

「う、まぁ、それなら・・・あれ、でも朝倉は?」

「あ~・・・・・・アレです。兄様と宮崎さんのベストショットを撮っていただかないと」

 

 

まったく興味ありませんがね。

 

 

「な、なるほど・・・考えてるですね先生」

「それほどでも・・・木乃香さんと刹那さんは、まぁ、実家らしいですし」

「明日菜は?」

「どうするです?」

「兄様の保護者みたいな・・・・・・ほら、兄様寂しがるかもしれませんし」

「あ~、それはあるかも。あの2人仲いーもんね」

「兄様と宮崎さんの仲を、上手く取り持ってくれそうですし」

「な、なるほどです」

「でも先生、私らも興味あ、じゃなくて、見守りたいんだけど?」

「宮崎さんに嫌われますよ? 彼女、極度の恥ずかしがり屋ですし。最悪進展しなくなるかも」

「そ、それは困るです・・・」

「う~ん、しょうがないかぁ・・・」

「さらに・・・」

 

 

懐から、一枚のチラシを取り出します。

ふふ・・・こんなこともあろうかと、用意しておいたこの一枚!

 

 

「「き、京都古書見本市・・・」」

「なんでも、今では手に入らない貴重な本が格安で手に入るとか・・・」

「なんと!」

「ど、同人誌とかも・・・ある?(ヒソヒソ)」

「もちのロンですよ、早乙女さん(ヒソヒソ)」

「マジで!?」

「・・・今戻っていただけるのであれば、全ての会計を私が持っても・・・」

「「戻る(です)!」」

「よろしい」

 

 

説得完了。多少強引ですが、ざっとこんなものです。

まぁ、嘘ではありませんしね。

宮崎さんにとっては、チャンスには違いありません。ホテルでは無理でしょうから。

 

 

「・・・っていうか先生、なんだかんだでネギ君とのどかのこと応援してくれてるんだ?」

「ですです」

 

 

それは盛大な勘違いです。

 

 

 

「ふ、2人とも、帰っちゃうの・・・?」

「ごめんなさいです、のどか・・・でも、しっかりやるです!」

「ふぇ?」

「ネギ先生とお泊りして~(ゴニョゴニョゴニョ)」

「ふぇ、ふえええ~~~////」

 

 

2人に何かを吹き込まれた宮崎さんが、真っ赤になって頭から煙を出しています。

横にいた兄様が慌てていますが、まぁ、いいですね。どうでも。

 

 

「明日菜さん、ネギ兄様をよろしくお願いします」

「え、あ、うん!」

「ありがとうございます。・・・ほら、戻りますよ2人とも!」

 

 

兄様を明日菜さんに預けて、さて帰りましょう。

宮崎さんと別れを惜しむ綾瀬さんと早乙女さんを見ながら、ふぅ、と溜息をつきます。

 

 

・・・・・・貴女達を、石になんてさせない。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

アリア先生が帰ってしまう。

そのことに、私は少なからず動揺してしまった。

そして何よりも、動揺している自分が、意外だった。

 

 

京都に来る前は、自分一人でお嬢様を守っていたのに。

今はアリア先生がいないというだけで、こんなにも不安になってしまうなんて・・・。

 

 

「刹那さん」

 

 

すると、アリア先生の方から声をかけてくれた。

な、なんだろうか・・・。

 

 

「申し訳ありません。諸々の事情により、戻らねばならなくなりました」

「あ、はい。その・・・アリアせんせ」

「これを渡しておきます」

 

 

私の声を遮って、アリア先生が何かを私の手に握らせてきた。

それは、青い宝石だった。これは・・・?

 

 

「・・・魔法具、『ピンチになったら』です」

「・・・・・・え?」

「『ピンチになったら』、です」

 

 

いえ、繰り返してもらわなくともちゃんと聞こえています。

 

 

「私が7歳くらいの時、兄様への当てつけに考えた物です」

「は、はぁ・・・」

「これを割ると、私にそれが伝わります」

 

 

それは、どういう・・・?

 

 

「もう、刹那さんの手には負えなくて、にっちもさっちもどうにもこうにもならなくなった時、これを割ってください。私、飛んで来ますので」

「あ・・・」

「わかりましたか?」

 

 

にこ、と、微笑みかけてくれるアリア先生。

その気遣いが、たまらなく嬉しかった。

本当は年上の私が、しっかりしなくてはいけないのに・・・。

 

 

「・・・あと、これと、これも渡しておきます」

 

 

そう言って渡されたのは、小さな数珠と、指輪だった。

どちらからも、微弱な魔力を感じる。魔法の品であることは、明白だった。

 

 

「これを絶えず、身に付けておいてください」

「え、でもこれは・・・」

「きっと貴女を、守ってくれます」

 

 

ね? と、笑いかけてくれるアリア先生に、強張っていた口元が少し緩むのを感じる。

先ほどまで感じていた不安や動揺は正直、拭い切れていないけれど。

この女の子に、失望されない程度には、頑張ろうと思えるようにはなった。

 

 

「大丈夫です。アリア先生の手を借りずとも、お嬢様を守り切って見せます!」

「やん、照れるわ~」

「おお、大胆な愛の告白!?」

「え、何? 桜咲さんってそっちの人だったの?」

「ゆ、ゆえ~・・・」

「愛の形は人それぞれですよ。のどか」

「一枚撮っとく?」

 

 

え、ちょ、なんでこのタイミングで来るんですか・・・!

 

 

「仲が良いようで、大変良いことです」

「アリア先生、帰ってしまうん?」

「ええ、引率の仕事がありますので」

「仕事・・・ですか」

「ええ、教師ですので。綾瀬さん、早乙女さん。行きますよ」

「あれ? そういえば、何で2人は帰っちゃうの?」

「ん? うふふ~、いろいろあるんだよ、明日菜」

「ですです」

「意味わかんないわよ・・・」

「仕事・・・」

 

 

仕事。

明日菜さん達の会話に参加せず、不意に引っかかったその言葉について、考える。

 

 

以前にも、引っかかった言葉だ。

アリア先生との会話の中では、異彩を放っていると言っていい。

引率の仕事。引率・・・修学旅行なのだから、あって当たり前の仕事だ。

アリア先生の・・・教師の仕事。

教師。

 

 

ふと、ネギ先生を見る。

明日菜さんと宮崎さん、2人と楽しそうに会話をしている。

・・・ネギ先生から、仕事という単語を聞いたことがあっただろうか。

 

 

ネギ先生・・・ネギ先生は、教師だ。

立場的には、アリア先生と同じ。

いや、担任なのだからより重い立場を背負っているはずでは・・・?

なら当然、その仕事は副担任のアリア先生よりも多いと考えるのが自然・・・。

 

 

「・・・え?」

「どないしたん、せっちゃん?」

「い、いえ・・・なんでもありません」

 

 

訝しげなお嬢様に返事を返して、同時に浮かんだ考えを心の中で反芻する。

もしかして・・・。

 

 

 

もしかしてアリア先生がしているだけの仕事を、ネギ先生はしていないのではないか?

 

 

 

・・・・・・そんなはず、ない、か。

もしそうなら普通、上役が注意するものだろうし・・・。

でも・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

綾瀬さんと早乙女さんを伴い、屋敷の外へ。

 

 

「あ~あ、やっぱりもったいなかったかな~」

「仕方ないです。のどかのためです」

「そうだけど~・・・」

 

 

急がないと、もう日が暮れ始めています。

転移できれば早いのですが、まさかこの2人にそんなことをするわけにもいきません。

とにかく、早く戻って他の生徒の様子を見なければ・・・。

身体がもう一つ欲しいとは、こういう時に思うことでしょう。

 

 

「待ってください」

 

 

その時、背後から声をかけられました。

振り向いてみれば、そこには、関西の長、近衛詠春さん。

 

 

 

「アリア君・・・と、呼んでも?」

「・・・・・・お好きなようにお呼びください」

 

 

なんの用でしょう・・・どうせ、ロクでもないことなのでしょうね。

と、先に・・・。

 

 

「綾瀬さん、早乙女さん。先に行っておいてください。私は木乃香さんのお父様と少し話してから行きますので」

「うちの者に、下まで送らせましょう」

「・・・・・・どうも」

「おお・・・巫女さんだ。しかも生!」

「だからどうしたです・・・」

「わかってない。夕映はわかってないよ・・・!」

 

 

・・・まぁ、いいですけど。

綾瀬さん達は、巫女さんに伴われて先に階段を下りて行きました。

さて。

 

 

「・・・それで? 何の御用でしょうか」

 

 

そういえば生徒の親御さんと会うのは私、これが初めてですね・・・。

おお、何か緊張してきましたよ?

 

 

「刹那君からの報告では、幾度となく木乃香を守ってくれたそうですね。父親として、お礼を言わせてもらいます」

「いえ、こちらこそ、お子様をお預かりしていながら、何度も危険な目に合わせてしまいました」

 

 

まぁ、それ以前の話でもあるんですけど。

 

 

「まぁ、そのお話はまた3者面談や授業参観の機会にしましょう」

「はは・・・そうですね、行けるかどうか、ちょっとわかりませんが」

 

 

むしろ関西の長がそんな理由で東の本拠地に来たら、混乱が起きるでしょうね。

 

 

「・・・それで、わざわざ私を呼び止めた理由をお伺いしましょう」

「・・・・・・・・・木乃香のことです」

 

 

あ、なんとなく言われることが分かってきましたよ。

この流れは・・・。

 

 

「これからも、木乃香の事を守ってほしいのです」

「・・・それは、まぁ。生徒を守るのは教師の務めですし」

「・・・そういうことではなく」

 

 

詠春さんは首を横に振り、私の手を取ってきました。

これは、セクハラではないのでしょうか・・・ああ、詠春さんにとっては友人の子供だから、距離感が近いのでしょうか。

それでもこれはないです。

 

 

「・・・どうやら今日、木乃香はシネマ村で重傷を負った刹那君を救ったとか・・・」

 

 

いや、私その場にいませんでしたから。

まぁ、だいたいの展開は知っていますし読めますけど。

 

 

「そうですか」

 

 

魔法の素質に目覚めたということですね。

・・・防げなかったのは、少し後悔です。

 

 

「・・・私は、木乃香に平穏な生活を歩んでほしいと思っていました。だから魔法の事も伝えず、麻帆良に通わせることにしたのです」

「・・・はぁ」

「しかし今回の事で、木乃香に魔法を隠すことは難しくなりました。何も知らないまま、今回の騒動に巻き込まれ・・・このままでは、むしろ危険なのかもしれません。だから」

「・・・え。ちょっと待ってください。まさか私に魔法を教えろ、とか言うつもりですか?」

「まさにそれです」

 

 

それです、ではありませんよ。

何故、私? 

私は魔法使えないんですって、知らないわけないでしょうに。

というか、なんで陰陽術ではなく魔法を教えたがる・・・?

 

 

・・・どこから突っ込んだらいいんでしょう。

というかこれ、私、怒っていいんですよね、シンシア姉様。

 

 

「・・・ふざけてるんですか?」

 

 

少し乱暴に詠春さんの腕を振りほどくと、詠春さんは驚いたような表情を浮かべました。

 

 

「どうして私が、そちらの都合に巻き込まれなければならないんですか?」

「それは・・・」

「父親の戦友だからですか? だとしたらお生憎様ですね、私は父が大嫌いですから。そもそも中途半端なんですよ。あなたも、学園長も・・・いえ、あなた方全員ですね」

 

 

魔法から遠ざけるなら、もっと場所を選ぶべきです。

なぜ西洋魔法使いの本拠地に、しかも関係者を集めたクラスに入れるんですか。

意味がわかりません。

 

 

「そもそも、木乃香さんの意思を確認していないあたりが、気に入りません。魔法を知りたくないというのが彼女の意思ならば、私は一人の教師としてそれを守ったかもしれません」

 

 

人はすべからく、自分の道を自分で歩むべきなのです。

それを周囲の勝手な都合で隠したあげく、簡単に諦め手の平を返す。

詠春さんと学園長は婿、舅の仲と聞きますが、なかなかどうして似た者同士ですね。

 

 

「だいたい、貴方本当に木乃香さんを守ろうとしているんですか?」

「それは、当たり前でしょう!」

「なら、なぜさっき助けに行かなかった!」

 

 

心外だと叫ぶ詠春さんに、私も怒鳴り返します。

 

 

「さっき、ここの入口で! 自分の娘が攫われかけていた時! なぜ助けに行かなかった!」

「それは!」

「知らなかった、ですか? そうですか。それは不思議ですね。ならばなぜあの巫女達は、見計らったかのようなタイミングで、門の前に勢揃いしていたのでしょうね!」

 

 

私たちが来ると同時に出迎えた巫女さん達。

自分たちの本拠地の入口で何が起こっているか、知らないなんてそんなバカな話があるものですか。

父親なら・・・何があっても、娘を助けに来るものでしょう。

父親だと、言うのなら。

子供を救って見せなさい。

 

 

・・・不愉快です。

私はそのまま踵を返し、綾瀬さん達の後を追います。

まさかとは思いますが、人質にでもされたら面倒ですしね。

 

 

「アリア君!」

「申し訳ありませんが」

 

 

ぴしゃり、という表現が似合うような声音で返事をする私。

 

 

「必要以上に私に期待しないでください。私は、期待されるのが大嫌いなんです」

 

 

私に出来ることなんて、そんなに多くはないんです。

勝手に期待して、勝手に失望していればいい。

私には、関係ない。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「ふぃ~~、いいお湯ね~♪」

「・・・・・・ええ」

 

 

宴会の後、桜咲さんとお風呂に入る。

このお風呂がまたすごく大きくて、改めて木乃香ってお嬢様なんだな~と思った。

 

 

それにしても、宴会では参ったわね。

悪酔いした朝倉が、本屋ちゃんにお酒を飲ませるなんて・・・。

というか、なんで未成年の食事にお酒が出るのよ。

 

 

「あ、そう言えば木乃香ってさ・・・・・・桜咲さん?」

「・・・・・・・・・」

 

 

桜咲さん、またぼ~っとしてる。

なんか宴会のあたりから、こんな感じなのよね。

どうしたんだろ?

 

 

「・・・あの、神楽坂さん」

「え、あ、うん、何? ・・・っていうか、明日菜で良いわよ。呼びにくいでしょ?」

「あ、はい・・・では、私も刹那で・・・」

 

 

刹那さんは照れたように笑ったけど、すぐにまた元の難しい顔に戻っちゃった。

なんか、左手に数珠みたいなのが巻いてあってそれをたまに撫でたりしてるけど・・・。

なんだろ?

 

 

「えと、それで、何? 刹那さん」

「あ、はい。その・・・明日菜さんは、どうしてネギ先生に協力しているのかな、と」

「へ?」

「非常に今さらな質問だとは思うのですが・・・明日菜さんは一般人なのに、こんな危険な目にあって、どうしてネギ先生と一緒にいるのかな、って、不思議に思ったので・・・」

「え、あ、あ~、それは・・・」

 

 

一言で言えば、ほっとけないから。

あんな子供が一人で頑張ってるのをただ黙って見ているなんて、できなかったから。

まぁ、面倒事はごめんだけど・・・。

 

 

「だってネギって、見てるだけで危なっかしいじゃない?」

「それは・・・そうですね」

「それにほら、すごく一生懸命じゃない? 良くも悪くも」

「・・・・・・・・・」

 

 

そ、そこで黙られると、すごく気まずいんだけど・・・。

 

 

「と、とにかくさ、なんというか・・・心配なわけよ」

「心配・・・それだけですか?」

「うぇ?」

 

 

刹那さんは、なんだか目を丸くしてる。

え・・・私、そんな変なこと言った?

 

 

「せ、刹那さんだって、木乃香のこと、すごく大事にしてるじゃない」

「それは、そうですが・・・でも、私がお嬢様を守りたいと思う気持ちと、明日菜さんがネギ先生を助ける理由は、きっと、違うと思いますよ」

「へ・・・」

「・・・あ、すみません。変なこと言いましたね」

「あ、うん・・・いいけど」

「そろそろ上がりましょう、のぼせてしまいますし」

 

 

そう言って、刹那さんはさっさと湯船から出ちゃった。

・・・結局、何の話がしたかったんだろ。

ま、いっか。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

すっかり日も暮れて、夜だ。

今、僕は関西呪術協会本部を一望できる、大木の枝の上に立っている。

眼下の景色は平和そのもので・・・お姫様を狙った襲撃があったなど、まるで感じさせない。

 

 

「どないするんやフェイトはん。親書も渡ってしもたみたいやし・・・」

 

 

隣では千草さんが、打つ手なしと言わんばかりに天を仰いでいる。

まぁ、あれだけの警備を正面から突破するのは難しいだろうね。

なら。

 

 

「・・・大丈夫。僕に任せて」

 

 

正面から、行かなければいいだけだ。

 

 

「フェイトはんの力は信用しとるつもりやけど・・・大丈夫なんか?」

「うん。探査してみたけど、手強いのは近衛詠春だけ。あとは少し時間をかければ無力化できるレベルだよ」

「・・・あの、白い髪の子は?」

「今は、いないみたいだ」

 

 

そう、いない。

アリア・スプリングフィールドがいない。

それだけのことに、なんだか妙な気持ちになる。

落ち着かない気分というのだろうか、こういうのを。

 

 

「・・・・・・ほんまに大丈夫か?」

「どうして?」

「なんというか、落ち込んでるように見えるえ」

「・・・・・・・・・」

 

 

落ち込む、僕が?

・・・・・・あり得ない。

僕は千草さんにもう一度「大丈夫」と告げた後、行動を開始した。

 

 

まずは護衛を一人ずつ排除して、それから近衛のお姫様を攫う。

アリア・スプリングフィールドがいようがいまいが、関係ないはずだ。

だけど。

 

 

 

 

やはり僕は妙に、落ち着かない気分だった。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
一言申し上げれば、「脱出、成功」です。
最悪の場合、綾瀬さん達に張り付いて護衛する必要がありましたが、なんとか引き上げることに成功しました。
あとは、いざという時、刹那さんが私を頼ってくれるかどうか、ですね。
呼ばれるとして、いつ頃になるか・・・。
デートの時間には、間に合わせたいところですね。

アリア:
なお、今回の話の中で私が刹那さんに渡した魔法具をここで明かしてしまいます。
『リフレクトリング』と『見切りの数珠』、元ネタはFFです。
発案者は、プチ魔王様。ありがとうございます。
具体的な効果は、次話で描写することになるでしょう。

次回は、修羅場、前半です。
では、またお会いしましょう。


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第25話「3日目・多忙な夜」

Side ???

 

「このホテルで間違いないか?」

「ああ」

 

 

仲間にそう答えつつ、路地裏からその建物を確認する。

東から来たガキどもがいるホテルに、間違いなかった。

今も、入口あたりで呑気に話している奴が何人かいる。

 

 

「まったく、長は甘いんだ。東の連中を受け入れるなんて・・・」

「だいたい何で木乃香様を東にやるんだ、納得できん!」

 

 

そんなことを話しながら、式神の用意をする。

俺が表からこれで注意を引いている間に、仲間は裏に回ってホテル内に入ってもらう。

 

 

「こちら側らしい人間は殺しても良いよな?」

「ああ、だが流石に一般人は怪我程度にしておけよ、後味が悪い」

「はは、お優しいこぐぇ」

 

 

今、不自然な感じに声が途切・・・。

 

 

「お、わぁ!?」

 

 

突然、体が宙に浮いた。

しかも、う、動けねぇ!?

まるで何かに縛られたみたいな・・・ふと横を見ると、さっきまで話してた仲間が同じ体勢になっていた。

ただ、ピクリとも動かない。

ま、まさか・・・。

 

 

「・・・大丈夫ですよ。私は別に、後味が悪くなったりはしないので」

「だ、誰だ!?」

 

 

反射的に前を見る、すると白い髪の女・・・の子?

彼女は片手で何かを回すような仕草をしながら、鬱陶しそうにこちらを見上げていた。

 

 

「な、なんだおま「黙りなさい」んぐむっ!?」

 

 

な、何かが顎を、頭を・・・!

 

 

「・・・考えるのも面倒ですし、選ばせてあげます。腕ですか、胸ですか? 決めなさい」

 

 

な、なんだこいつは・・・!

彼女は俺の目を見ると、口元を歪めて笑った。

嫌な笑い方だ。

 

 

「ああ・・・その反抗的な目からにしましょうか」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

魔法具『どこでも扉』を使用し、あてがわれている部屋へ転移します。

・・・今のところ、組織だった襲撃はありません。

暴走した一部の馬鹿が来るのみです。

 

 

「あ、おかえりなさいアリア先生~」

「あはははははっ 喰らえ革命だ!」

「申し訳ありませんマスター、革命返しです」

「なにぃ!?」

「ケケケ・・・カクメイガエシガエシダ」

「!?」

「良くやったチャチャゼロ!!」

「何、人の部屋で大富豪やってるんですか・・・」

 

 

さて、仕事仕事・・・と。

 

 

「あ、アリア先生、4班戻りました~」

「ああ、おかえりなさい。USJは楽しかったですか?」

「うん、すっごく良かったよ~」

「人いっぱいだったけどね」

「ネギ君と行きたかったな~」

 

 

大河内さん達はそのままお風呂へ。

さて、これで全部の班が戻りましたね。

新田先生に報告に行くとしましょう。

 

 

そのままロビーを見渡せば、他の生徒の方も思い思いに過ごしている様子。

風香さんと史伽さんは浴衣姿で廊下を駆け回っています、後で注意しましょう。

雪広さんは4班の帰りが遅いと、カウンター近くでプリプリしていますし。

長瀬さんとクーフェイさんは休憩コーナーでお菓子を食べ、綾瀬さんはご当地限定の妙な飲料を山ほど飲んでいます。早乙女さんは何やら巫女さんの素晴らしさについて綾瀬さんに熱く語っているようですが、いまいち伝わっていないようですね。

真名さんはギターケースを肩にかけ、その様子を楽しげに観察しているようです。

 

 

他の部屋からも、楽しそうな笑い声が聞こえます。

・・・楽しんでいただけているのなら、良いことです。

ふと、窓の外を見ると、空には、綺麗な満月が浮かんでいました。

・・・ああ、良い夜です。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

つまらない。

大戦の英雄というからどれほどの物かと思えば、あっさりと不意打ちに成功。

石化の魔法はレジストはされたみたいだけど、時間の問題だ。

 

 

周辺の巫女も全員眠ってもらったし、英雄の息子の生徒2人にも退場してもらった。

後は近衛のお姫様を攫うだけなんだけど・・・何故か、お風呂場にいた。

なんでお風呂場・・・?

 

 

「私の後ろにいてね・・・」

「う、うん」

 

 

護衛が一人、オレンジ色の髪の女の子だ。

ただ、どうにも動きが素人。

後ろから近付いて、眠ってもらうとしよう・・・。

 

 

「・・・そこ!」

 

 

突然、ハリセンで応戦された。

すごい、まるで訓練された戦士のような反応だ。だけど。

 

 

「お姫様のナイトとしては、役者不足かな。キミも眠ってもらうよ」

「な、何よ、あんた!」

 

 

彼女の声には構わず、僕は石化の魔法を放った。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

僕のせいだ、僕のせいでのどかさんと朝倉さんが・・・!

トイレから部屋に戻ったら、2人が石化魔法にかかって石にされていた。

僕がもっとしっかりしていれば・・・!

 

 

「兄貴、落ちつけよ! わざわざ石にしたってことは、堅気に危害を加えるつもりはないってことだからな!」

「わ、わかってる」

 

 

そうだ、カモ君の言う通り、石化は後で長さん達が解いてくれるはず。

でも今は、その長さんも石にされてしまっている。

な、なんとかしないと。

 

 

「ネギ先生! お嬢様と明日菜さんはこの先のお風呂場にいるんですね!?」

「は、はい! 仮契約カードの念話で連絡を取って・・・」

「急ぎましょう。長が倒れた今、私達がお嬢様をお守りしなければ!」

 

 

刹那さんとはさっき合流して、今は集合場所のお風呂場に向かってるところ。

・・・着いた!

 

 

「・・・明日菜さん!?」

 

 

お風呂場に真ん中で、明日菜さんが倒れていた。

しかもなぜか、服を着ていない。

な、何されたんですか!?

 

 

「明日菜さん、大丈夫ですか!? 何が・・・」

「せ、刹那さ・・・ごめん、木乃香攫われちゃった・・・」

「そんな!?」

「き、気をつけて、あいつ、まだいるかも・・・」

 

 

あいつ? あいつって誰だろう。

それに「ネギ先生!」うわっ!?

突然、刹那さんに突き飛ばされた、と思ったら、

刹那さんが、殴り飛ばされるのが見えた。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

後ろから一撃を与えたけど、手応えがない。

防がれたみたいだ。

月詠さんと同程度の実力だと思ったけど、意外とやる。

 

 

「貴様・・・お嬢様をどこにやった!」

 

 

彼女・・・桜咲刹那は、僕の一撃を利用して距離をとると刀を抜いてきた。

その後ろではオレンジ色の髪の女の子を庇って、サウザンドマスターの息子が僕を睨んでいる。

 

 

「こ、木乃香さんを、どこにやったんですか・・・?」

 

 

それは今、桜咲刹那が僕に聞いたことだと思うけど。

そして僕に、それに答える義理はない。

 

 

「・・・みんなを石にして、明日菜さんにエッチなことをして「されてないわよ!」・・・先生として、友達として、僕は、許さないぞ!」

「・・・・・・それで、どうするんだい、ネギ・スプリンギフィールド。僕を倒すのかい? やめた方がいい。今のキミでは、無理だ」

 

 

構うのも面倒だ。ここで眠ってもらおう。

僕は右手を彼らに向ける。

 

 

「ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト 小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ・・・」

「こ、この呪文は・・・やべぇ、逃げろみんな!」

「に、逃げるって、こんな狭い場所でどうやっ・・・」

「『石化の邪眼』」

 

 

石化の魔法を、放つ。

あ、あのオレンジの子には効かないんだったね・・・。

なら、まずは剣士の子から・・・。

でもどういうわけか、僕の魔法が僕に「跳ね返ってきた」。

 

 

「なっ・・・」

「・・・斬鉄閃!」

 

 

同時に、桜咲刹那が切りかかってくる。

とりあえずは跳ね返ってきた魔法を捌いて、斬撃をかわす。

・・・何が起こった?

 

 

左手で彼女の刀を弾いて、右手で魔力を込めた一撃を放つ。

だが彼女の速度ではかわせないはずのその一撃も、紙一重でかわされてしまう。

 

 

「・・・キミ、今、僕の石化魔法をレジスト・・・いや、反射したね? しかも、速度まで上がって・・・何をしたの?」

「さぁな。貴様が自分で思っているよりも、貴様の魔法が強くないということではないか?」

 

 

・・・・・・へぇ。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「自分で思っているよりも、貴様の魔法が強くないということではないか?」

 

 

そんなことを言っているが、実はそれほど余裕があるわけではない。

奴も本気を出していないはずだ。これ以上の速度にはついていけない。

本来ならさっきの攻防も、私には捌き切れないはずの速度で行われている。

魔法の反射など当然、私にはできない。

なら、何故それができるのか・・・心当たりがある。

 

 

ちらりと、左手を見る。

手首に数珠が、中指に指輪が嵌めてある。

アリア先生からもらった、魔法具だ。

その魔法具から、微弱ながらアリア先生の魔力を感じる。

これがおそらく私の速さを上げ、敵の魔法を反射しているのだろう。

 

 

(「きっと、貴女を守ってくれます」)

 

 

アリア先生の言葉が、思い出される。

アリア先生・・・。

 

 

「『魔法の射手 連弾・光の18矢』!!」

 

 

ネギ先生が、魔法の矢を放つ。

白髪の少年・・・確か、天ヶ崎千草がフェイトとか呼んでいたな。

彼はそれらの魔法の矢を目だけで見ると、湯船のお湯を巻き上げ、自らを包み込んだ。

 

 

次いで魔法の矢が着弾、湯船を破壊(申し訳ありません、長・・・)、だがフェイトの姿は見えなくなっていた。

・・・転移したか。

 

 

「や、やったの?」

「手応えがなかった・・・」

「水を媒介にした瞬間移動・・・高等魔術だぜ、兄貴」

 

 

確かに、あのフェイトとかいう少年は別格の相手だろう。

私では一人では勝てない、悔しいが断言できる。

もし、あれに対抗できる人がいるとすれば。

 

 

長・・・しかし、すでに石にされてしまっている。

エヴァンジェリンさんは・・・正直、木乃香お嬢様のために動いてくれるとは、思えない。

なら、あとは・・・。

 

 

スカートのポケットからアリア先生からもらった、もう一つの魔法具を取り出す。

青い宝石のようなそれを、じっと見つめる。

 

 

・・・できればお嬢様は、私自身の手でお救いしたいという思いがある。

けれど。

 

 

「刹那さん! 後を追いましょう! 木乃香さんを助けに!」

「え・・・あ、はい!」

 

 

・・・そうだ、何を迷う必要がある。

自分で救いたいなど、ただの我儘だ。

手に負えないと思ったら呼べというアリア先生の言葉が、思い出される。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ兄貴! 名案を思い付いたぜ!」

「あんたの名案なんてどーせバカなことなんでしょ!? あと、待ちなさいよネギ! 着替えてから・・・」

 

 

全ては、お嬢様を取り戻すために。

命よりも大切なあの人を、救うために。私は。

 

 

 

私はその宝石を、割った。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ぴくっ・・・と、身体が反応しました。

 

 

今、私は自室で休憩中。

襲撃者の迎撃のために使用した体力を回復させるべく魔法具(魔法菓子?)、『奇妙な煎餅』をパリパリと食べていたところです。

このお菓子は特殊な魔法薬を調合した原料から作られた物で、少しですが体力を回復させる効果があります。

 

 

・・・どうやら、『ピンチになったら』が砕かれたようですね。

刹那さんが、私を呼んでいます。

 

 

「・・・・・・行かなくては」

「どこにだ?」

 

 

横で同じく煎餅を食べていたエヴァさんが、不思議そうに聞いてきます。

 

 

「ええ、ちょっとデートの時間なので」

「ほうほう、デートか、なるほ・・・・・・・・・なんだとぉっ!!??」

 

 

何をそんなに驚いているのでしょう。

片手で煎餅を握り潰すなんて芸当、出来そうで出来ませんよ?

 

 

「さぁて、おめかしして行きませんと」

「お、おめかしだとぉ!?」

「茶々丸さん、着替えお願いします。服はD-14で」

「了解しました」

「ちょ、ちょっと待て、どういうことだ!?」

 

 

そう言って茶々丸さんが持ってきたのは紫色の、頭ほどのある大きなカメラです。

茶々丸さんは、それに一枚の紙をセットすると、私に合わせて・・・シャッターを切りました。

すると、次の瞬間には着替えを完了しています。

あのカメラは、魔法具、『着せ替えカメラ』。

私が、茶々丸さんに譲渡した魔法具です。

効果は、まぁ、被写体を着替えさせるだけです。

 

 

・・・渡した日に100着ぐらい着せ替えられて、かなり後悔した品です。

 

 

実はエヴァさん達には、すでにいくつかの魔法具を譲渡しています。

エヴァさん達なら、悪用はしないでしょうし。問題ないでしょう。

学園側にバレたら問題ですけど。

 

 

え~と、後は・・・。

さらに魔法具、『コピーロボット』を取り出します。

鼻のボタンを押すと・・・私と瓜二つの姿になりました。

身代わりですね。わかります。

 

 

そうは言っても単調な命令しか遂行できないので、戦闘とかは無理ですけどね。

 

 

「さよさん、申し訳ないですけど私がいない間、この子の面倒をお願いします」

「あ、はい、任せてください!」

「お前もさよさんの言うことをしっかり聞いて、私の身代わりを務めるように」

 

 

がしょん、と敬礼するコピー・・・大丈夫かな。

ま、まぁ、さよさんも付いてくれますから一晩くらいなら大丈夫でしょう。

 

 

後は瀬流彦先生に連絡を入れて、結界を強めてもらいましょう。

え~、さらにトラップ式の魔法具をホテル周辺に張って、無敵要塞化しておくとしましょうか。

5分で済ませます。

 

 

「お、おいアリア、ちょ、ま・・・」

「それじゃ、いってきますね」

「はい、いってらっしゃいませ、アリア先生」

「む、無視するな、おい」

「こっちは任せてください!」

「デートってお前、どういう・・・」

「ケケケ・・・タノシンデコイヨ」

「た、楽しむって、な、何を楽しむつもりだ!?」

 

 

何かエヴァさんが騒いでいますが、時間がありません。

さて、またもやナイスタイミングで、助けに入るとしましょうか。

ヒーローの条件というものを、教えてさしあげましょう。

・・・転移。

 

 

 

「み、認めんぞぉ―――――――っ!!」

 

 

 

何を?

 

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「オン キリ キリ ヴァジャラ ウーンハッタ!」

 

 

眼鏡の女の人が何かを唱えると、鬼がたくさん出てきた。

それも10や20じゃなくて、100体以上は確実に、いる。

 

 

「ちょっとちょっと! こんなのありなのーっ!?」

「木乃香姐さんの魔力で派手に召喚しやがったな!」

 

 

カモが何か言ってるけど、それどころじゃない。

あたしはほとんど涙目になりながら、こういうのに一番慣れてるっぽい刹那さんに声をかけた。

 

 

「せ、刹那さん。さすがにこれは、私、ちょっと・・・」

「落ち着いてください明日菜さん、大丈夫です!」

 

 

だ、大丈夫って言ったって・・・。

 

 

「あんたらにはその鬼どもと遊んでもらおか。ま、まだガキやし、殺さんようには、言っといたるわ。安心しときぃ。・・・ほな」

「待て!!」

 

 

眼鏡の女の人とお風呂場にもいた白い髪の奴が、木乃香を連れて行っちゃった・・・。

助けに行こうにも、途中には鬼が・・・。

 

 

「なんや、久々に呼ばれた思ったら・・・嬢ちゃん達が相手かいな」

「悪いな嬢ちゃん達、呼ばれたからには、手加減できんのや・・・恨まんといてな」

 

 

な、なんか鬼が人間の言葉喋るってすごくシュール・・・。

って、そうじゃなくて。ど、どうすんのよこれ!

 

 

「くっ・・・!」

 

 

刹那さんが、刀を構えた・・・って。

 

 

「た、戦うの!?」

「当然です! ここを突破しなければ、お嬢様が・・・!」

「大丈夫、僕が大きい魔法を撃ちますから、その隙に・・・」

「待った待った! まずは作戦立てんのが先だろ!?」

 

 

ね、ネギもカモも、突破する気みたいだけど・・・。

け、けど、あんなにたくさんいるのにっ・・・!

 

 

 

          ・・・魔法具、『炎雷覇』・・・

 

 

 

「・・・・・・え?」

「どうしたんですか明日菜さん?」

「い、いや、今何か聞こえた気がしたんだけど・・・」

 

 

 

          ・・・『熾焔鳥(ロイヤールハント)』!!

 

 

 

「・・・私にも、聞こえました」

「でしょ!? この声って・・・」

「これ・・・」

「・・・・・・来てくれた!」

 

 

刹那さんが、空を仰ぐ。

すると夜なのにすごく明るくなって・・・私達の目の前に、火で出来た鳥みたいなのが落ちてきた。

そして、爆発。

 

 

「おおおおおっ!?」

「せ、西洋魔法かぁぁっ!?」

「わびさびがないにも程があるやろぉ!?」

 

 

巻き上がった炎に飲まれて、20体くらいの鬼が消えてった・・・す、すごい。

でも、わびさびって・・・何?。

 

 

「・・・・・・お待たせして、申し訳ありません」

 

 

そして、しゅたっ、と、空から女の子が降ってきた。

その声はどこか冷たくて、けどやっぱり優しさも感じる、不思議な声。

白い髪のその女の子は、やっぱりアリア先生だった。

片手に赤い古そうな剣を持っていて、そこから火が出てる。

うん・・・アリア先生、なんだけど。

 

 

「・・・あ、アリア先生、可愛い・・・」

「ありがとうございます」

 

 

アリア先生は、普段は質素なスーツ姿でいることが多いんだけど・・・。

今はなんというか、すごく気合いの入った格好だった。

 

 

赤いリボンが所々にあしらわれた、黒のワンピースドレス。

胸元に大きな黒いリボンがついていて、腰の編み上げ部分から少しだけ肌が見える。

二の腕まである袖の部分には、小さな、白い翼みたいな刺繍。

スカート部分は三段フリルになっていて、裾の部分には黒いレース。

さらに赤いラインの入った黒のハイソックスに、黒のエナメルの靴。

極めつけに左手首には、赤いリボンが巻いてある。

もちろん髪にも2つ、赤いリボンがついてる。

 

 

・・・・・・可愛いんだけど・・・・・・。

明らかに、戦いに来たって感じがしなかった。

・・・え、何、デートにでも行くの・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「さて、私が今回提示できる選択肢は2つです。兄様」

「ふ、二つ?」

 

 

目の前に居並ぶ鬼たちを尻目に、私は指を2本立てて兄様たちに示します。

 

 

「①私がここで鬼どもを蹂躙している間に、兄様たち全員で木乃香さんを救出する。②兄様たち全員がここで敵を足止めし、私が木乃香さんを救う」

 

 

番外で見捨てるというものがありますが、それはさすがに後味が悪いですからね。

 

 

「私のおすすめは①ですね。兄様たちは一対一の闘いは出来ても、一対多の戦いはできないでしょう? その点私は一対多の方が得意ですから。また、兄様たちよりも私の方が、あの鬼どもを駆逐するのが早いと思いますし」

「・・・たしかに、そうかもしれません」

 

 

さすがは刹那さん。以前私の戦い方を見ただけの事はありますね。

むしろ兄様には、私の手の内を見せたくないんですよね。

・・・もう遅いかもですけど。

 

 

「・・・あの、アリア」

「なんですか兄様? どっちにするか決まったんですか?」

「でも、アリア一人じゃ・・・」

 

 

・・・心配してくださるのは、よいのですけど。

 

 

「では、私が道を開きますので、そこから勝手に抜けてくださいね」

 

 

さぁて、鬼が120体くらいですか。

持っていた『炎雷覇』をしまい、次の魔法具を作ります。

魔力を練って作ったそれは一見すると、古ぼけたそれもボロボロの刀です。

 

 

「・・・あ、姐さん、なんというか、ボロくねぇか、それ?」

 

 

下等生物は黙っていなさい。

ぐっ・・・と、魔力を込めると、その刀は一瞬燃えて、白い、牙のような刀に変化しました。

私の身長よりも大きなこの刀の名前は、魔法具、『鉄砕牙』。

 

 

・・・・・・お、重いです。

サイズは考えてなかったです。魔法具、『力(パワー)』発動。

よし。

 

 

「さぁ、私の魔力を吸いなさい、妖刀よ」

 

 

キイィィィィィィィィィィンッ!

 

 

私の魔力を吸い上げて、『鉄砕牙』が白く輝きます。

出力間違えないようにしませんと・・・。

その輝きに兄様たちは驚き、鬼達は後ずさりました。

・・・・・・一振りで。

 

 

「一振りで、百匹の妖怪を、薙ぎ倒す!」

 

 

両手で『鉄砕牙』を横に構え・・・・・・振り抜きます!!

 

 

「・・・・・・『風の傷』!!」

 

 

白い光が全てを飲み込み、薙ぎ倒します!

正直、別に叫ぶ必要性は皆無なのですが、この武器では叫ぶのが暗黙のルールのような気がします。

 

 

悲鳴を上げて、消し飛んでいく鬼達。

100匹倒したかは、数えていないのでわかりませんが・・・。

今ので、中級以下の強さの鬼はほぼ殲滅したでしょう。

 

 

残りは少々手間ですが、地道に消していきましょうか。

正面の敵はほぼ全滅しましたし、良しとしましょう。

 

 

「今ですよ!」

 

 

何やら呆然としている兄様達に、行くように促します。

まず刹那さんが瞬動で駆け出し、それを見た兄様が慌てて杖に乗り、明日菜さんと共に空を飛んでいきます。

チラチラとこちらを見ているようですが・・・私はそれよりも刹那さんの背中を見ていたい気分でした。

 

 

大切な誰かのために、自分の全てを懸けている刹那さん。

何よりも木乃香さんを大切にするその姿は、とてもわかりやすくて好感の持てる行動でした。

 

 

・・・!

 

 

『鉄砕牙』を上に掲げ、振り下ろされてきた大きな棍棒を受け止め、る!

 

 

「嬢ちゃんの相手は、ワシらや」

 

 

鬼達の中でも、一際大きな鬼。

おそらくはボスですか『風の傷』が当たったのか、身体が3分の1ほど消えかかっています。

肩に乗っている、狐の仮面をかぶった女性型の鬼は無傷。

庇ったのでしょうか。

だとすれば、随分と人情的な性格ですね。

 

 

周りを見れば黒い翼を持つ烏族や、鎧兜を着込んだ妖怪が私を取り囲んでいます。

どれもこれも、それなりの力を持っているようですね。

残り、10体くらいですか。

 

 

「・・・私が言うのもアレですが、良いのですか? 私の仲間を先に行かせて」

「さぁな、ワシらはここで足止めせぇて命令されただけや、それに・・・」

 

 

にぃ、と顔を歪めて鬼が嗤う。

嫌な予感・・・。

 

 

「嬢ちゃんと遊んだ方が、面白そうやないか!!」

「・・・我ながら、妙なものに好かれますね・・・」

 

 

苦笑、そうとしか表現できないであろう笑みを浮かべます。

・・・まぁ、デートの時間まで、もう少しあるでしょうし。

少しだけ、付き合ってさしあげましょう。

 

 

ぎぎぃんっ!

 

 

金属音を立てて、鬼の棍棒を弾き返します。

そして『鉄砕牙』を横の地面に刺して、一旦置きます。

 

 

そして、スカートの裾を少し持ち上げ、丁寧に一礼します。

礼儀というものは、どこでも大切ですよね、シンシア姉様。

 

 

「・・・麻帆良学園女子中等部職員、3-A副担任、アリア・スプリングフィールドです。これから、貴方達を殲滅させていただきます」

「・・・・・・来いやぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

アリアの初デートまで、あと少しです。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
盛り上がってきました。
刹那さんが木乃香さんを救うことができるよう、全力を尽くしたいところです。


アリア:
今回、みなさまから頂いたアイデアから使用した魔法具は、3つです。
「奇妙な煎餅」:霊華@アカガミ様提案です。
「炎雷覇」:元ネタは「風の聖痕」、提供はkusari様です。
「鉄砕牙」:元ネタは「犬夜叉」、提供はゾハル様です。
ありがとうございました。

なお、作中で私が使用した『熾焔鳥(ロイヤールハント)』は、元ネタが「バスタード!」という漫画。
炎の鳥を召喚する魔法なのですが、「炎雷覇」という、炎を操る剣を使いましたので、再現させていただきました。

アリア:
次話は、スクナ復活編の最重要ポイントです。
修羅場・中編と、言ったところでしょうか。
では、またお会いしましょう。


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第26話「3日目・連戦」

Side 学園長

 

「な、なんということじゃ・・・!」

 

 

マズいことになった。

関西呪術協会本部が何者かに襲撃され、しかも婿殿までもが不覚をとったとの連絡がネギ君から入ったのじゃ。

何かの間違いじゃと思いたいが、ネギ君が嘘を吐くはずもない。

今すぐ、何らかの手を打たねばならん、のじゃが。

 

 

「い、今すぐに京都へ急行できる人材がおらん・・・」

 

 

タカミチ君は、海外へ出張中じゃし。

まさか、わし自ら乗り込むわけにもいかん。

他の魔法先生では、京都まで瞬時に移動できるほどの者がおらん。

・・・打つ手が、なかった。

 

 

「・・・あの子達に、任せるしか・・・」

 

 

助けてくれるじゃろうか。

 

 

エヴァンジェリンは仕事と言う形で依頼すればもしかしたら、じゃな。

アリア君は・・・どうじゃろう。

生徒は守ってくれるかも知れんが、それ以上は期待できんじゃろう・・・。

 

 

(「また、そんなことに生徒を巻き込むのですね」)

 

 

あの時のアリア君の、何とも言えない表情が思い出される。

アリア君は最初から京都への修学旅行は反対しておった。

 

 

英雄の子を使者に立てるという今回の方法が、一番良い判断だったという考えは捨てる気はない。

 

 

しかし彼女の助力を期待していなかったかと聞かれれば、していたと言わざるを得ない。

・・・今のわしには祈ることしかできん、歯がゆいことじゃ。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ど、どいてよ小太郎君! 僕はキミと戦っている暇なんてないんだ!!」

「嫌や! つれないこと言うなやネギ!」

 

 

空を飛んで木乃香さんのところへ向っていたら、途中で小太郎君に会った。

ここを通りたければ、倒して通れって・・・。

 

 

「兄貴、これ以上は自分への契約執行は使うなよ、未完成だから体への負担がやべぇ」

「う、うん・・・」

 

 

でも契約執行しないと、小太郎君の動きについていけない。

 

 

「ちょっとあんた! なんであいつらの味方してるわけ!? あいつら、木乃香を攫ってひどいことしようとしてるのよ!?」

「はっ! 千草の姉ちゃんが何をしようと知らへんわ!」

 

 

明日菜さんの言葉に、小太郎君が叫ぶ。

 

 

「俺は、ネギ! お前と戦いたいんや! 同い年くらいで、同じくらいの強さ! 初めてやで!」

「た、戦いなんて意味ないよ・・・試合だったら、後で」

「ざけんなや! 俺にはわかるでネギ。お前は今やないと全力で戦わん。俺は全力のお前と戦りたいんや。今ここで、この場所で!」

 

 

びしぃっ、と、僕を指さす小太郎君。

どうしてそんなに戦いたがるのか、僕にはわからない。

 

 

「ここを通るには、俺を倒すしかない。そして俺は、譲らんで!!」

「ぐっ・・・」

「挑発に乗らないでくださいネギ先生! 時間がないんです!」

 

 

焦ったような刹那さんの声、時間がないのはわかってる。

だけど・・・。

 

 

「全力で俺を倒せば間に合うかもしれんで!? 来いや、ネギ! 男やろ!!!」

「・・・・・・・・・わかった」

「ちょっ、ネギ!?」

「ネギ先生!」

「兄貴!?」

 

 

大丈夫、一分で終わらせる。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「ちょ、ネギ! 時間ないのよ!?」

 

 

そう、時間がない。

先ほどから湖の中央に立ち上っている光の柱が、事態の切迫を告げている。

お嬢様の魔力を使って、天ヶ崎千草が何かの儀式をしている。

 

 

もう数分もしないうちに、その儀式は終わるだろう。

こんなところで、足止めを喰らうわけにはいかない。

 

 

後方ではアリア先生が今も、私達を先に行かせるために戦ってくれているはずなのだ。

もし間に合わなかったら、会わせる顔がない。

 

 

「・・・明日菜さん、私は先に行きます」

「え、ちょ・・・私も・・・」

「明日菜さんはここにいてください」

「でも・・・」

「ネギ先生が万一負けたら、誰がネギ先生を助けるんですか!」

 

 

焦っているのだろう、自分の口調が荒くなっていることに気付く。

・・・少し呼吸を落ちつけて、努めて冷静に言葉を紡いだ。

 

 

「・・・ネギ先生の決着がつき次第、来てください」

 

 

だが正直、すぐに決着がつくとは思えない。

見たところ、あの小太郎という少年とネギ先生の実力は互角だ。

 

 

「す、すまねぇ、刹那の姉さん。兄貴の頑固と子供っぽさが、悪い方向に出ちまったみたいだ」

「・・・いえ、今まででも十分に力を貸していただきましたから」

「わ、私達もすぐに行くから・・・」

「はい・・・では!」

 

 

明日菜さん達の声を背中に受けながら、瞬動で一気に駆け出す。

時間が、ない。

 

 

「・・・待っていてください、お嬢様!」

 

 

弱気になりそうな心。

右手に持った夕凪を、強く握る。

お嬢様を守るために、手にした刀。

すると不思議と、まだ戦える。そんな気持ちになる。

 

 

そして、左手。

左手にはまだ、アリア先生からもらった魔法具がある。

拳を握りこむと、指輪の感触を感じることが出来る。

私を助けるために、くれた魔法具。

すると不思議と、まだ走れる。そんな気持ちになる。

 

 

今、行きます。

取り戻しに!

 

 

「お嬢様!!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・『ハンマーコネクト』!」

 

 

発動キーを宣言すると同時に、私の右手に巨大な黄金のハンマーが出現します。

魔法具『風火輪』で空を飛びながら、柄の部分をくるりと回して、両手で掴みます。

 

 

「魔法具、『金色の破壊槌(ゴルディオンハンマー)』、行きます!」

「来いやぁ、嬢ちゃん!」

 

 

肩に担ぐようにハンマーを構え、全力で下降します。

標的は、真下の一つ目巨人!

 

 

「『ハンマーヘル』ッ!」

「ぬぅおっ!?」

 

 

巨人の棍棒をかわし、初撃を叩きこみます。

露出するのは巨人をこの地に留めている、召喚契約のコア。

 

 

「『ハンマーヘブン』ッ!」

 

 

続いてコアから魔力を奪いつつ、『金色の破壊槌(ゴルディオンハンマー)』を振りかぶります。

金色に輝く私の身体に、巨人が一つしかない目を細めます。

 

 

「『ひ・か・り・に、なあぁれええぇぇぇぇっっ!!!』」

「ぐぅおおおおおぉぉぉぉ・・・」

 

 

直撃しました!

巨人は綺麗な光の粒子になって、空に上っていきました。

これで11戦、11勝。

 

 

「さぁ、次はだ、れ!」

 

 

突然背後から切りつけられて、言葉の途中で回避行動をとります。

頭上を鋭利な刃物が通り過ぎるのを感じます。

両足に装着された車輪、空中飛行用魔法具『風火輪』を破棄、地面に着地します。

ハンマーも破棄、続いて両手に銀色のトンファーを創造します。

魔法具、『浮き雲』。発動キーは。

 

 

「『噛み殺す』っ!」

「やってみぃ! 某は他の奴とはちと出来が違うぞ!?」

 

 

相手は黒い翼の・・・烏族!

 

 

ぎぃんぎぃんぎぃんぎぃんぎぃんぎぃんぎぃんっ!

 

 

斬撃が速すぎる。

『闘(ファイト)』の加護がある私でも、凌ぐのがやっと。

でも。

 

 

ぎぃんぎぃんぎぃんぎぃんぎぃん、がぎぃっ!

 

 

「なんと!?」

「申し上げたはずですがね。『噛み殺す』、と!」

 

 

『浮き雲』の力は周囲の魔力を噛み砕き、かつその魔力を取り込むというもの。

それは魔力で強化された相手の武器であろうとも、です。

刀を砕かれた烏族は翼をはためかせ、空へと後退・・・させません!

拳を握りこみ右手のトンファーを破棄、そのまま拳を叩き込みます!

 

 

「形意拳・馬蹄崩拳!!」

 

 

中国拳法の一種、形意拳の中段突きを放ち、烏族の胸を撃ち抜きます。

形意拳は、原作でクーフェイさんがたまに使用している実在の拳法です。

 

 

「ぬぐっ・・・面妖な武器を、ぬかったわぁぁ・・・」

「・・・12戦、12勝」

 

 

左手のトンファーも消して、ぱっぱっ、と身だしなみを整えます。

黒い服は女性を美しく見せると言いますが、土埃で汚れやすいのです。

 

 

「・・・あとは、貴方達2人だけですね」

「みたいやな」

 

 

目の前にはボス格と思われる大鬼と、その肩に乗っている狐面の女性。

 

 

「わざわざ一対一で戦えるようにするとは・・・意外と、紳士的なのですね」

「そのほうが楽しめそうやったしな」

 

 

まぁ、私としてはあのまま集団で来ていただいた方が時間がかからず助かったのですけれど。

大鬼が棍棒を持つ手に、力を込めるのが見えました。

 

 

「いくでぇ、嬢ちゃん!」

「来るのなら、お相手しましょう」

 

 

振り下ろされる棍棒、バックステップで一旦交わし、地面に叩きつけられたそれに、ひらり、と乗ります。

右手に魔法具『祢々切丸』を創造。

鍔の無い長脇差、妖怪のみを切り裂く斬魔の刀です。

一瞬、交差する大鬼と私の視線。

切ります!

 

 

「・・・嬢ちゃん、飛べえぇぇっ!!」

「は?」

 

 

その時、大鬼が慌てたように棍棒を振り上げて私を空中へ放り投げました。

攻撃にしては、様子がおかし・・・。

 

 

「げはあぁ!?」

 

 

眼下を見れば、大鬼が下半身を失っていました。

大鬼が私を見て、さらに叫ぶ。

 

 

「じ、嬢ちゃん、後ろやぁ!!」

「・・・!」

 

 

瞬間、ぞわり・・・と、冷水に入れられたかのような感覚が身体を駆け抜けました。

左眼で、後ろを見ます。

そこには。

 

 

「・・・あは♪」

 

 

二刀小太刀の、少女。

空中で、背後を取られた。

しかも、相手はすでに刀を振り下ろしています。

・・・間に合わない!

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

一撃を覚悟した瞬間、狐面を付けた女性型の鬼が私を突き飛ばしていました。

くるりと空中で体勢を整えて、着地します。

 

 

「あ~ん、じゃまですぅ~」

 

 

上を見れば、胴を切り裂かれる鬼の姿。

彼女は煙になって、元いた場所に還されました。

 

 

「じ、嬢ちゃん。ケガぁないか・・・」

 

 

未だ実体を保っていた大鬼が煙になって消えつつも、私の身を案じてくれました。

貴方・・・。

 

 

「ひ、久しぶりに愉快やったわ。できればもっと遊びたかったんやが・・・」

「・・・・・・お礼は、言いません」

「なんや、つれへんなぁ。ま、今度会ったら、酒でも飲もう、や・・・」

「・・・茶の湯ならば」

 

 

煙になって、消える大鬼。

・・・私、身体は未成年なのでお酒はしばらくは無理です。

 

 

「えへへ・・・アリアはん、し~あい~ましょ?」

 

 

月詠さんが可愛らしい笑みを浮かべて、刀の切っ先をこちらへと向けてきます。

この場合の「しあい」は「試合」ではなく「死合」ですね、わかります。

 

 

「おろ? もしかしてアリアはん、おこっとります?」

「・・・いいえ、別に何も感じてはいませんよ」

 

 

妖怪しか切れない『祢々切丸』を、右手で握り潰すように破棄します。

・・・ええ、別に怒っているわけではありません。

戦場でしかも初対面の敵を助けるとか「バカなの? 死ぬの?」と、言いたいくらいです。

ただ。

 

 

「個人的に、貴女のやり口が気に入らないだけです」

「・・・・・・うふ」

 

 

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を全力展開しながら、月詠さんを睨む。

月詠さんの顔が、にたぁ、と歪みました。

 

・・・時間がないと言うのに、面倒な人です。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

彼女の魔力を感じる。

まだ少し遠いけど近くに来ている、それがわかる。

 

 

「・・・まだかい?」

「もう少しや!」

 

 

閉じていた目を開けると、千草さんがまだ儀式を続けていた。

別に、千草さんに言ったわけじゃないんだけど・・・。

祭壇には近衛のお姫様が横たわっていて、千草さんの儀式のための魔力を供給し続けている。

それにしても大した魔力量だね、極東一というのも本当かもしれない。

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 

岸の方から、誰かがこちらに駆けてくるのが見えた。

あれは、桜咲刹那。

 

 

「はああぁぁぁ―――――っ!!」

 

 

刀を構えて、こちらへ突っ込んでくる。

意外だな、来るのは彼女か、さもなくばネギ・スプリングフィールドだと思っていたから。

 

 

「ちっ・・・しぶとい娘やな」

「あなたは、儀式を続けて」

 

 

使い魔召喚の札を取り出して、赤い悪魔を召喚する。

 

 

「ルビカンテ、あの子を止めて」

 

 

頷き一つ返して、僕の使い魔が桜咲刹那に向かって行った。

これで。

 

 

「斬魔剣ッ!!」

「なっ・・・・・・?」

 

 

ルビカンテが、一太刀で身体を真っ二つにされて消えた。

・・・バカな、彼女程度の力でルビカンテが・・・。

 

 

桜咲刹那はそのまま足を止めることなく、こちらへ駆けてくる。

来るか、なら相手をしよう。

どんっ、と地を駆け一気に桜咲刹那に肉薄し、右拳を放つ。

 

 

「はぁっ!」

 

 

でも彼女はそれを、上に跳んでかわす。

まただ、かわせないはずの攻撃をどうしてかはわからないけど、紙一重でかわされる。

でも、空中では・・・。

 

 

「神鳴流決戦奥義・・・・・・」

「・・・・・・!」

「真・雷光剣ッ!!」

 

 

雷属性の付加された刀が、振り下ろされる!

雷と衝撃波が僕の足下の橋を破壊し、煙をまき散らす。

広域殲滅用の技。

だけど、僕の障壁を抜けるほどのダメージはない。

むしろこの破壊の余波で僕の視界を奪い、その隙にお姫様を助ける腹積もりなんだろうけど・・・。

 

 

甘いよ。

 

 

煙の中でも、キミの位置を掴むくらい容易にできる。

ほどなく煙が不自然な動きをしている部分を見つけ、そこに向かって拳を放つ。

魔法でもいいけど・・・また反射されても、面倒だしね。

 

 

「はずれです~♪」

 

 

でもそこにいたのは、桜咲刹那ではなかった。

彼女の姿に酷似している、小さなそれは。

 

 

「・・・式、神?」

「その通り」

 

 

まるで地を這うように、桜咲刹那が、真下に。

 

 

「神鳴流秘剣・百花繚乱!!」

 

 

桜の花弁と共に放たれたそれは、障壁ごと僕を橋から吹き飛ばした。

これは、油断、したかな。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

背中に掴まらせていた式神を囮に煙に紛れた奇襲は、上手くいった。

倒せたとは思えないが、時間は稼げたはずだ。

 

 

私一人で彼らを倒せるなどと、自惚れるつもりはない。

ならば、一撃離脱。

お嬢様を奪還し、即座に撤退する!

 

 

「・・・いない!?」

 

 

祭壇に到着したが、お嬢様の姿がない。

天ヶ崎千草の姿も。

そんな、さっきまで確かにここに。

 

 

 

その時、大地が揺れた。

 

 

 

凄まじい轟音と共に、湖の中央にあった岩から巨大な光の柱が立ち上る。

・・・あれは。

 

 

 

その鬼は、何よりも大きかった。

 

 

 

身の丈は、50メートル以上はあるだろう。

2つの顔に、4つの腕を持ったそれは光り輝いている・・・そしてそれ以上に、その鬼から発せられる気は感じただけで気を失ってしまいそうなほどだ。

私もお嬢様のことがなければ、意識を投げ出してしまっていたかもしれない。

 

 

「ふふふ・・・一足遅かったようですなぁ。儀式は、たった今、終わりましたえ」

「天ヶ崎・・・千草」

 

 

鬼の肩のあたりに、天ヶ崎千草が浮いていた。

お嬢様も、傍らに捕らわれている。

 

 

「二面四手の巨躯の大鬼『リョウメンスクナノカミ』。1600年前に打ち倒された飛騨の大鬼神や。喚び出しは、なんとか成功やな」

 

 

天ヶ崎千草の言葉を聞きながら、私は必死で状況打開のための方策を考え続ける。

どうする、どうすればいい。

私一人で、あんな巨大な鬼に対抗できるわけがない。

だがそこにお嬢様が捕らわれている限り、撤退の選択は無い。

 

 

「木乃香お嬢様の魔力で、こいつは完全に私の制御下や。この力があれば・・・東の西洋魔法使いに、ひと泡吹かせてやれますわ。ようやく・・・ようやく、仇もとれる」

 

 

仇?

・・・いや、今はお嬢様のことだけを考えるんだ。

早くしないと・・・。

 

 

「・・・・・・認識を改めるよ。桜咲刹那」

「・・・っ!」

 

 

後ろを振り向けばあの白髪の少年、フェイトが戻ってきていた。

 

 

「キミは十分に、僕の敵足り得る。善戦・・・と、言ってもいいと思うよ」

「く・・・」

「でも、残念だったね」

 

 

手詰まり。

そんな言葉が、私の脳裏に浮かんだ。

 

 

マズイ・・・最悪だ。

 




アリア:
3日目の夜が長いです。
アリア・スプリングフィールドです。
今回はスクナ復活編ですね。
都合により、前後編に分かれてしまいましたが。


アリア:
私が今話で使用した魔法具は、以下の通りです。

『金色の破壊鎚』:元ネタは「勇者王ガオガイガー」。提供はだつう様です。
『風火輪』:元ネタは「封神演義」。提供は水色様。
『浮き雲』:元ネタは「リボーン」。提供は霊華@アカガミ様。
『祢々切丸』:元ネタは「ぬらりひょんの孫」。提供者はゾハル様です。
魔法具案、ありがとうございます。

それでは、後半でまたお会いしましょう。


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第27話「3日目・連戦・後編」

Side アリア

 

「にと~れんげき、ざーんがーんけーん!」

「・・・散りなさい、『千本桜』!」

 

 

無数の桜色の花弁が、月詠さんの斬撃を受け止めます!

マズイです、時間がないというのに見事なまでに足止めを喰らっています。

大技で沈めますか・・・でもこの後のことを考えれば、魔力は残しておきたい。

 

 

「あははははははっ!」

 

 

笑いながら瞬動で突っ込んでくる月詠さんに、『千本桜』の花弁の刃を集中させます。

しかし月詠さんはそれをかわし、時には弾いて、こちらへ・・・って、そんなバカな!?

 

 

「にと~れんげき、ざ~んく~せ~ん!!」

 

 

その弾幕をかいくぐる形で、気でできた二つの刃が飛んできました。

化物ですねこの人!

 

 

「たのしいなぁ~、ほんまにたのしいわぁ~。アリアはんとならいつまでもころしあいたいわ~」

「勘弁してください!」

 

 

かわして、撃ち合い、切り合いながらの会話です。

ヤンデレ、ノーサンキューです。

 

 

その時、突如としてネギ兄様達が向かった方角から光の柱が立ち上りました。

・・・何?

 

 

「んふふ~どうやらはじまったみたいどすなぁ~。センパイらは、まにあわんかったんやろか~」

「・・・時間が、無い」

 

 

原作と違い3人で向かわせましたが、意味を為しませんでしたか。

もう、猶予がありません。

『千本桜』を解除します。

 

 

「おろ?」

「・・・申し訳ありませんが、時間が押していますので、決めさせていただきます」

 

 

そう言って作るのは、私では抱えることも難しそうな巨大な刀、『斬月』です。

 

 

「・・・卍解」

 

 

ブ○ーチの方では刀の中に人格がありましたが、私の刀にはそういったものはありません。

能力はそのままに、純粋に私の込める魔力量によって威力と形状を変えるのです。

 

 

「・・・『天鎖斬月』」

 

 

両手で『斬月』を持ち、魔力を込めます。

すると、ごっ・・・と周囲に風が巻き起こり、刀が輝きます。

そして次の瞬間、巨大な刀の姿は消え・・・刀身の全てが漆黒の刀が私の手の中に。

その刃からは、言いようもないプレッシャーを放っています。

 

 

「・・・ぐ」

 

 

卍解は、結構、魔力を使いますね・・・。

 

 

「あ、ああ、ああぁあああぁぁあああぁ~~~」

 

 

月詠さんが、興奮したような声をあげました。

 

 

「ええわぁ~。これや、これ、このゾクゾクするかんじ・・・たまらんわぁ~」

 

 

顔を真っ赤にしてもじもじして、いやらしい人ですね。

生徒の教育に、大変悪そうです。

 

 

「・・・運がよければ、腕一本くらいで済むかもしれませんね」

「うふ?」

 

 

私の言葉に、にたぁ、と笑顔を浮かべる月詠さん。

そのまま身体中からドス黒い気を噴出させて、突撃してきました。

 

 

「にとーれんげき、ざーんてーつせーん!!」

 

 

私は魔力を収束させた『斬月』を振りかぶり、ためらうことなく、振り下ろしました。

 

 

「・・・『月牙天衝』っ!!」

 

 

漆黒の閃光が視界を覆い尽くし、月詠さんを飲み込みました。

今さらですが、やりすぎた感があるかもしれません。

魔力で構成された黒い斬撃は、目の前の地形を軽く変えていました。

 

 

「・・・・・・やりすぎましたかね」

 

 

前髪を軽く払いながら、そんなことを呟いてみます。

ふと見てみると、「うきゅ~」とか言いながら月詠さんが伸びていました。

なぜか傷が大したことがありません・・・身体を真っ二つにするつもりで斬ったんですけど。

見たところ刀が二本とも見当たりませんので・・・なんとかガードするなりしたのでしょう。

・・・急がないと。

 

 

私は『ラッツェルの糸』の切れない糸で、月詠さんを適当に拘束、木の上に吊るしておきます。

さらに靴の裏に仕込んである魔法具、『飛翔する翼』を発動。

 

 

「・・・アイキャン・フライ!」

 

 

発動キーを宣言、『飛翔する翼』は別に飛べるようになるわけではありません。

魔力で空中に足場を築き、そこを駆けるための魔法具です。

魔力の消費率が低いので、便利です。

いちいち森の中を進んでいられません、空からなら数分で行ける。

 

 

さらに、『闘(ファイト)』を利用した瞬動で、走ります。

 

 

・・・今、行きます。

刹那さん!

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「先生、近衛さんの家にいるのど・・・宮崎さんと連絡が取れないです」

「もう寝てるのかもしれないよ? それより、もうすぐ消灯時間だよ? 早く部屋に戻りなさい」

 

 

まさか本山で騒動があったなんて言えないから、適当なことを言って3-Aの綾瀬君達を部屋に戻らせる。

 

 

学園長からの命令でもあるしアリア君の頼みもあるから、僕はここから動けない。

結界も維持しなければならないし、たまにアリア君が仕掛けていったらしい罠にかかる人間がいるから、それを捕まえることもしなくちゃいけない。

何より生徒が外に出るのを防ぐのが、意外と疲れる作業だった。

特に、3-Aの生徒。

 

 

「あれは・・・?」

 

 

その3-Aの生徒がいる階に行くと、絡繰君と、エヴァンジェリン・・・なんで廊下で正座?

 

 

「・・・マスター」

「い、いや、違うんだ。私は別に邪魔をしようとか、無理矢理カードを使って呼び戻そうとか、そんなことを考えていたわけじゃないんだ」

「では、このカードは私がお預かりしても問題ありませんね」

「そ、それは・・・ダメだ」

「・・・・・・マスター?」

 

 

・・・見なかったことにしよう。

ガンドルフィーニ先生達が目の仇にしている彼女が、従者のロボットに説教されてるなんて誰も信じてくれないだろうし・・・。

 

 

「あわわわ・・・」

 

 

ロビーに行くと柱の陰で・・・相坂君だったかな。

彼女が、困ったような声を上げていた。

 

 

「どうかした?」

「ひゃわっ・・・・・・あ、瀬流彦先生。そのう・・・」

 

 

相坂さんの視線の追ってみると、そこには新田先生とアリア君が置いて行ったらしい身代わりがいた。

それにしてもよくできてるなぁ、東洋魔術の式神とは違うみたいだし。

今度聞いてみよう。

 

 

とにかくそのアリア君(偽)が、新田先生と一緒にいた。

 

 

カッ、カッ、カッ・・・と、新田先生が歩く。

トコ、トコ、トコ・・・と、アリア君(偽)が、その後をついて歩く。

 

 

新田先生が止まると、アリア君(偽)も止まる。

新田先生は咳払いをして、アリア君(偽)の方を見るけど・・・アリア君(偽)は、不思議そうに首を傾げる。

そして、にこり、と笑って新田先生を見上げる。

それを見て新田先生はまた咳払いをして、歩きだす。

アリア君(偽)も、またそれについて歩く・・・。

 

 

どこの親子だと、突っ込みたくなるような光景だった。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「ラス・テル・マ・ステル・マギステル 闇を切り裂く、一条の光、我が手に宿りて、敵を喰らえ、『白き雷』!!」

「甘いわっ!!」

 

 

ネギの白い雷が黒い犬みたいなものとぶつかり合って、どっちも消える。

さっきから、ずっとこんな調子。

 

 

ネギが攻撃すればそれは決まらないし、逆もそんな感じ。

何度か加勢に入ろうとすると、ネギは意地になって止めてくるし・・・。

 

 

でも湖の方には、なんか大きな光る鬼みたいなのが見えるようになったし、時間が無いのはわかる。

刹那さんとアリア先生は今、どうなってるんだろう。

 

 

「ま、マズイぜ姐さん。兄貴の魔力も、そろそろ限界だ」

「ど、どうするのよ」

「正直、打つ手がねぇ・・・兄貴が一刻も早く、あの狗神使いを倒してさえくれれば・・・・・・あれは?」

「え?」

 

 

カモが突然空に何かを見つけたみたいで、私も上を見る。

白い何かがものすごいスピードで、通り過ぎて行った。

 

 

あれは・・・?

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

もうかれこれ5回ほど、同じようなことを繰り返しただろうか。

フェイントも交えた攻撃で、桜咲刹那を翻弄する。

回避のスピードが予想よりも速かったけれど、それでもまだ遅い。

刀を弾いて足を払い、バランスを崩したところへ魔力で強化した拳を胴体に叩きこむ。

 

 

「がっ・・・!」

 

 

一瞬遅れて桜咲刹那の身体が、十数メートル吹き飛ぶ。

何度か床にバウンドして、最後には橋の床部分を壊しながら止まった。

 

 

「ぐ・・・うっ・・・」

 

 

なんとか立ち上がろうとしてるみたいだけど、さすがに限界だろう。

なまじ魔法が効かないものだから、肉弾戦で10分以上、痛めつけていることになるからね。

そしてやはり立ち上がれずにいる彼女に、今度は僕から近付いて行く。

 

 

「・・・体力も気力も限界だね。よく頑張ったよ、桜咲刹那」

「・・・はあっ!」

 

 

僕が近付くのを待っていたのか、刀を振り上げてくる。

でも、もはや魔力も気もこもっていないそれは僕には通じない。

しかも右腕を痛めたのか、左腕一本の力では。

 

 

「なっ・・・!」

 

 

刃をかわして、彼女の腕を掴み、引く。

そして片手で彼女の頭を掴み。

 

 

床に、叩きつけた。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

力が、入らない。

刀はまだ、取り落とすようなことはしていないが・・・振るう力が入らない。

 

 

「殺しはしない・・・けど、自ら向かってきたということは、相応の傷を負う覚悟はあるということだよね?」

 

 

私の傷など、どうでもいい。

ただ、お嬢様が・・・お嬢様を、救うまでは。まだ。

 

 

「う・・・」

 

 

フェイトが私の襟元を掴み、持ち上げる。

身長差のせいか、完全に持ち上げられるわけではないが・・・。

どちらにせよ、状況は最悪だ。

 

 

だが、まだ諦めない。

諦められるはずが、なかった。

 

 

左腕には、まだ、アリア先生の数珠と指輪がある。

あれほど、自分に助力してくれたアリア先生。

だからこそ、「失敗した」などということが、許されるはずがない。

だから。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

正直、ここまで来て心が折れないというのは賞賛に値するよ。

でも、力が足りないね。

 

 

自分の主張を押し通す力。我を通す力が。

自分を誇示できる力がなければ、何も得ることはできない。

 

 

「ぐ・・・」

 

 

涙すら浮かべて僕を睨み据えた所で、何も変わらない。

 

 

「・・・終わりだね」

 

 

右手で彼女の体を引き寄せながら、左手を振りかぶる。

終わ・・・。

 

 

 

 

左の手の平を、誰かに掴まれた。

 

 

 

 

小さな、女性の手だ。

最初は千草さんか、あるいは戻ってきた月詠さんが掴んだのかとも思った。

だけど、すぐにその考えを振り払う。

現実的に考えて、あり得ない。

なら、誰が?

決まっている。

 

 

彼女だ。

 

 

「せん、せ・・・」

 

 

桜咲刹那の視線の先。

僕のすぐ左側に、彼女はいた。

 

 

長い、そして雪のように白い髪が月明かりに照らされて、輝いているようだ。

左右で色の違う瞳は、薄く、赤色に輝いて見える。

その大きな瞳に、僕は一瞬、身体の動きを止めてしまった。

その彼女はなぜか、照れたように頬を染めて。

 

 

 

「男の子と手を繋ぐのって、私、初めてです」

 

 

 

そんな彼女の言葉に、僕は。

僕は、防御姿勢も取れずに、殴られるしかなかった。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

さきほど私がされたように、アリア先生に殴られたフェイトは十数メートルの距離を吹き飛ばされた。

 

 

「・・・お待たせしました。刹那さん」

 

 

支えを失って崩れ落ちた私に、アリア先生は微笑みかけてくれる。

怪我もしていないし、服の乱れや汚れもない。

ただ最初に比べて、やはり疲れがあるように見える。

 

 

「せ、んせ・・・」

「ああ・・・酷い怪我。こちらが先ですね。えっと・・・早く治る方が、いいですよね」

 

 

先生は奇妙な指輪を取り出すと、それを指にはめて「ブック」と唱えた。

すると、ぼむんっ、と音を立てて大きな本が出てきた。

こ、これは・・・。

 

 

「・・・ゲイン、『大天使の息吹』」

 

 

本から取り出した妙なカードを手に、何かを呟くと・・・そのカードから綺麗な翼を持った女性が出てきた。

し、召喚術か・・・?

 

 

『妾に何を望む』

「この子の怪我を・・・というか、悪い所があれば、全部、治してください」

『・・・承知した』

 

 

その女性が私に息吹のような物を吹きかけると、わ、わ・・・。

 

 

「か、身体が・・・」

「どこか痛い所とか、ありますか」

「い、いえ。なんというか、今までにないくらい絶好調というか・・・」

「それは良かった。けど、無理はしないでくださいね。怪我が治っただけで、気や魔力は回復しませんので」

 

 

・・・確かに、そちらの力は戻っていない。

不意に、頭に何かが乗せられた感触。

 

 

「良く、頑張りましたね」

「あ・・・」

 

 

さわさわ、と、頭を撫でられた。

・・・この気持ちを、何と呼んだらいいのだろう。

自分が危機の時に何度も助けてくれた人のことを、何と呼べばいいのだろう。

そしてその人に労われた時、どんな顔をすればいいのかわからない。

 

 

「あ、あの!」

「・・・はい?」

 

 

私から離れようとしたアリア先生に、思わず声をかけてしまう。

何を言いたいかも、わからないのに。

 

 

アリア先生が、きょとんとした顔で私を見ている。

い、いけない、何か言わないと・・・。

 

 

「あ、あの、その・・・」

「・・・いいですよ。ゆっくりで」

「あ、はい・・・」

 

 

にこり、と、穏やかに微笑むアリア先生。

その心遣いが申し訳ないくらい、有難い。

 

 

「え、と・・・こ、このちゃんのために、頑張ってくれて、ありがとうございます・・・」

「このちゃん?」

「あ、う・・・木乃香お嬢様のことです・・・」

 

 

いけない、思わず昔の呼び方を・・・。

アリア先生は、少し何かを考えるようなそぶりを見せた後、やはりまた、微笑んで。

 

 

「ちょっと、違いますね」

「ち、違う・・・とは?」

 

 

ばさっ・・・と、どこから取り出したのか、アリア先生は未だ膝をついている私に大きな黒いコートを羽織らせてくれた。

 

 

「刹那さんのためですよ」

「え・・・」

「もちろん、木乃香さんのためでもありますが・・・」

 

 

私の、ため?

 

 

「でも、一番は、刹那さんのために、今、私は頑張っています」

「・・・・・・・・・」

「・・・では、少し休んでいてくださいね」

 

 

そう言って、アリア先生は私に背を向けた。

その背中からは、さっきまで感じていた穏やかさとは別のものを感じる。

アリア先生も、消耗しているはずなのに・・・。

 

 

無意識に、肩にかけられたコートを、握りしめた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

魔法使いの世界の勢力バランスなど、私にとってはどうでもいいことです。

どうせ、学園長あたりは私に期待している所があるのでしょうが、彼らのために命を張るほど、私はできた人間ではありません。

 

 

それよりも、頑張った生徒にご褒美をあげるために戦う方がよほど命の懸けがいがあるというもの。

 

 

「・・・話は、終わったのかい?」

「ええ、わざわざ待っていただけるとは・・・お礼にアリアポイントを3点、さしあげます」

「なんだい、それは」

「私の好感度です。10点貯まる度にイベントが発生します」

 

 

などと他愛もないことを話しながら、フェイトさんと向き合います。

さて、いざ向き合うと何を話せば良いものやら。

 

 

「お待たせ、してしまいましたか?」

「仕事なら、仕方がないさ。お互いにね」

「・・・そこは、今来たところさ、とか、言うべきところでしょうに」

「キミを困らせてみたくてね」

「減点しますよ?」

「・・・それは怖い」

 

 

彼の顔を見ると、胸がざわつく。

彼の瞳を見ると、心が疼く。

 

 

「だいたい、なんですかその格好。いつもと同じじゃないですか」

「この服しか持ってきていなくてね。逆に、キミは随分と服装が変わった」

「・・・ご感想は?」

「・・・・・・似合ってる、と、思うよ」

「2点です。あと5点でイベントですよ」

「努力しよう」

 

 

彼が欲しいと、魂が叫んでいるのを感じます。

この懐かしさと、切なさと、気を抜けば、泣き叫んでしまいそうな苦しさ。

この感情はいったい、何なのでしょうね。

 

 

「・・・そういえば」

「なんだい?」

 

 

ふと、あることに気付きます。

 

 

「自己紹介が、まだでしたね」

「自己紹介?」

「ええ、お互いの名前は知っているのに、名乗りあったことが無いというのもおかしなものでしょう?」

 

 

そんな当たり前のことに気が付かないとは、慌てていたのでしょうか。

恥ずかしいです。

 

 

そ・・・とスカートの裾をつまんで、軽く頭を下げます。

 

 

「アリア・スプリングフィールドです。アリアとお呼びください。すぐに、忘れられない名前になります」

「・・・アリア」

「・・・貴方の、お名前は?」

 

 

にこり、と笑って問いかけると、フェイトさんは少し逡巡した後、胸に手を当てて。

 

 

「・・・フェイト・アーウェルンクス。他にも名前はあるけど・・・そっちは嫌いなんだ」

「いつか、教えていただきますね」

「どうかな・・・・・・あと一応、機密事項だから漏らさないでいてくれると嬉しい」

「ええ、ええ・・・大丈夫ですよ。誰にも言いません」

 

 

誰にも教えてなんて、やるものですか。

その名前は、私の心にだけ刻まれていれば良い。

・・・それでは。

 

 

一旦、眼を閉じます。

そして次に開いた時、私の視界はまるで別のものになっていました。

 

 

全ての物の構成が、視える。

全ての魔法の構成が、グラフで、数字で、視えます。

 

 

全ての視界で、フェイトさんが見える。

それだけで、心が躍る。

私は思わず、求めるように、両手を差し出して、言いました。

 

 

「Shall we dance?(私と一緒に、踊りませんか?)」

「・・・I would love to.(・・・喜んで)」

 

 

受け入れてもらえるというのは、こんなにも。

こんなにも幸せなことなのですね、シンシア姉様。

 

 

 

 

 

 

 

アリアは、幸せな気分です。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
ようやく待ち合わせ場所に到着しました。
フェイトさんが待ちくたびれて帰ってしまわないかと、実は不安でいっぱいでした。


さて、続いて今回の魔法具は。
「飛翔する翼」:提供は霊華@アカガミ様です。
「大天使の息吹」と「バインダー」:
元ネタは「ハンターハンター」、提供は司書様です。
なお、設定として「カード化限度枚数」制を追加しました。
わかりやすく言うと、「大天使の息吹」はあと2回しか使えません。


アリア:
次回は、私とフェイトさんの舞踏会です。
いったい、どんなデートになるのでしょうか?
邪魔が入らないことを祈ります。


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第28話「3日目・舞踏会・上編」

Side アリア

 

もっと、貴方を見ていたい。

どうしてか、そんな気分になります。

 

 

「魔法具『クトゥグァ』、ならびに『イタクァ』!」

 

 

右手に自動式拳銃(クトゥグア)を、左手に回転式拳銃(イタクァ)を装備、こちらへと近付いてくるフェイトさんを牽制します。

 

 

ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンッ!

 

 

『クトゥグァ』から放たれる直線的な炎の弾丸と、遠隔操作される『イタクァ』の風の弾丸。

しかしその全てをフェイトさんは上下左右に動いてかわし、時には無詠唱の石の槍で迎撃してきます。

当たるとは思っていませんでしたが、ここまで華麗にかわされるとむしろ見惚れてしまいます。

 

 

「・・・恥ずかしいので、あまり近くに来ないでくれますか?」

「ひどいな。僕はもっと近くに行きたいのに」

「意外と、情熱的・・・・・・です、ね!」

 

 

両手の銃を破棄、魔法具『黒の剣』を左手に創造。

この剣は刀身まで全てが漆黒の剣、信念を貫く者に力を与え、全てを断ち切る剣。

正面のフェイトさんを、斬ります!

 

 

「・・・残念」

 

 

空振り、消えた!? 幻影ですか!

どこに・・・。

 

 

「・・・障壁突破」

「・・・・・・ふ」

 

 

背後。

左手を突き出し、『石の槍』を放とうとしているフェイトさん。

でも、そんな攻撃は・・・。

私はきっと、生まれる前から知っていた―――――。

 

 

放たれる直前、勢いよく振り向き、フェイトさんの左手に私の右手を、パァンッと勢いよく叩きつけます。

・・・その魔法。

 

 

「・・・いただきます」

「何・・・?」

 

 

『複写眼(アルファ・スティグマ)』を起動。

フェイトさんの『石の槍』の術式構成を書き換え、乗っ取ります。

逃がさないように、まるで指を絡めるように、手を握ります。

空気中に集まりかけていた石の凝縮が、停止する。

 

 

「・・・ッ。この魔法、僕のなんだけど」

「まぁ、そう言わずに、分けてくださいな・・・・・・『全てを喰らう』」

 

 

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を同時起動。

停止させた『石の槍』の魔力、精霊を吸収し、加速します。

少々名残惜しいですが、手を離します。

 

 

「『そして放つ』」

「・・・速いね」

 

 

魔力を纏った右拳を放つも、フェイトさんはそれを右手を軽く当てるだけで後ろにそらし、私の腕を掴んでさらに投げ飛ばしてきました。

空中で体勢を整え、着地、しかしその時には目前にはフェイトさんの左足・・・!

 

 

『時(タイム)』!

 

 

・・・時間を停止させ、距離を取ります。

驚きです、よもや『闘(ファイト)』を使用し、しかも『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で常に身体強化されている私を体術で圧倒してくるとは・・・。

・・・・・・素敵です。

 

 

「・・・今、何をしたの?」

「女の子の秘密を、詮索するものではありませんよ」

 

 

・・・本格的に不味いですよ、攻略の糸口が見えません。

『時(タイム)』は時間を止めるというDI○様もびっくりの魔法具なのですが、魔力コストが重い。

ただでさえ、ここに来るまでにかなりの魔力を消費しているので・・・そう何度も使えません。

 

 

その時、フェイトさんが私から距離を取りました。

魔法の詠唱を始めるようです。

 

 

「ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト」

「・・・射殺しなさい、『神槍』!」

 

 

『神槍』は、刀身を伸縮させることのできる刀です。

『神槍』のほぼ無制限に伸びる刃でフェイトさんに攻撃、魔法を妨害します。

普通の魔法なら、別に止めませんが・・・。

フェイトさんの魔法は、「石」という物理的な形態を持っています。

それは、怖い。

正直、天敵かもしれない属性です。

 

 

しかし『神槍』の刃を、フェイトさんは上空に飛んでかわす・・・飛行魔法ですか!

 

 

「おお、地の底に眠る死者の宮殿よ、我らの下に姿を現せ・・・」

 

 

フェイトさんの周りに、巨大な石の柱が出現します。

数は・・・6本ほどですか。

確実に、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』では食べられない感じの物ですね。

大技で破壊したいところですが、魔力がちょっと・・・ならば。

 

 

「『冥府の』・・・」

「魔法具、同時発動」

「・・・『石柱』!」

「『風(ウィンディ)』『水(ウォーティ)』『凍(フリーズ)』・・・・・・『盾(シールド)』!」

 

 

『水(ウォーティ)』で巻き上げた湖の水を、『風(ウィンディ)』で固定、『凍(フリーズ)』で凍らせ、壁とします!

6本の石の柱と分厚い氷の壁が、激突。

崩落しました。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

もっと、彼女を見ていたい。

どうしてか、そんな気分になる。

 

 

僕の『冥府の石柱』が湖の水ごと、彼女を飲み込んだ。

石と氷の破片が橋を押し潰して、彼女はその下敷きになっているはず・・・。

彼女は、まだ出てこない。

 

 

「・・・どうしたんだい、アリア」

 

 

僕を失望させないでくれ。

その程度ではないはずだ、そうだろう?

僕には、わかる。

 

 

左手にはまだ、彼女の手の感触が残っている。

そのぬくもりは、どうしてかはわからないけれどはっきりと記憶に残っている。

 

 

突然、湖の下から青色に輝く帯のようなものがいくつも飛び出してきた。

それらは一瞬で僕の周囲を取り囲み、かなり広い範囲に渡って道のようなものを作り出した。

とん・・・と、警戒しつつ、僕もその一つに着地する。

 

 

「・・・それで、いい」

 

 

どうしてかはわからないけれど、胸の奥が熱くなるのを感じる。

・・・いいよ、アリア。

キミは、とてもいい。

 

 

「・・・魔法具」

 

 

不意に、声が響く。

同時に僕の周りに、輝く羽根のような物が・・・。

 

 

「『エレクトリックフェザー』!!」

 

 

瞬間、僕の身体に電撃が襲いかかった。

・・・こんなもの。

 

 

「効かないことは、わかっています!」

 

 

背後に現れた彼女は、そのまま右の拳を繰り出してくる。

それも、無駄だ。

キミの動きは洗練されている、まるで自動で反応しているかのような近接戦闘技能。

機械的とすら言っても良い、模範のような武術。

だからこそ、読みやすいんだ。

 

 

彼女の攻撃を片手で捌いて、左足で蹴りを入れる。

それは彼女も反応できる、できるけど・・・。

メキ・・・と、ガードに使われた彼女の腕から骨の軋むような音が聞こえる。

蹴りの衝撃に耐えきれず、彼女は数メートルほど吹き飛ぶ。

 

 

「・・・空に道を・・・『翼の道』!」

 

 

彼女は、いつの間にか付けていた左手のブレスレットをかざした。

すると彼女の足下にまで青色の道が伸びて、彼女に足場を提供した。

なるほど、奇妙な道具だね。

 

 

でも僕も、すでに彼女が吹き飛んだ先にいる。

体勢を立て直した、彼女の背後に。

 

 

「・・・魔法具ッ」

「遅いよ」

 

 

彼女が何かする間もなく、振り向いた彼女の身体の中央に拳を突き入れた。

抵抗なく、拳が彼女の身体を貫いていく・・・・・・抵抗なく?

 

 

するとまるで鏡か何かのように彼女の身体が砕けて、消えた。

これは。

 

 

「・・・幻影」

「ご名答です」

 

 

振り向くと、光る道の一つに彼女が腰かけて僕を見下ろしていた。

ちょうど満月をバックにするように座っていて・・・まるで、輝いているようだ。

彼女の手には、コンパクトサイズの鏡のような物があった。

 

 

「魔法具、『ニトクリスの鏡』。効果は見ての通りです」

「・・・いつから、入れ替わっていたのかな」

「さぁ・・・それよりも、フェイトさん!」

「何かな」

「いきなり女の子の胸元に手を入れたりしてはいけません。嫌いになりますよ?」

「・・・それは、困るね。二度としないと誓おう」

 

 

よろしい。

そう言って、彼女は微笑んだ。

減点は、どうやらされないらしい。

 

 

「さて、それでは」

「そろそろ反撃と」

「させていただきますね」

 

 

正面の彼女は喋っていないのに、声が聞こえた。

それも、三方向から。

 

 

「・・・これも、幻影かい?」

「「「「さぁ、どうでしょう?」」」」

 

 

合計4人。

魔力も気配も同じ、かなり密度の高い分身体だね。

これは流石の僕も、骨が折れそうだ。

 

 

「「「「魔法具、『禁忌・フォーオブアカインド』」」」」

 

 

けど、それでいい。

それでこそだよ、アリア。

もっと。

僕はもっと、キミと楽しみたい。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「・・・どっちも化物やな」

 

 

フェイトはんと、あの白い髪の子・・・アリアはんとの戦いは、手の出しようがないえ。

あの中に入っていったら、間違いなく死んでしまうわ。

 

 

「・・・ま、スクナは手に入れたし、ゆっくり行こか」

 

 

フェイトはんも、飽きたら戻ってくるやろ。

どの道、明日には本山の援軍も関西各地からやってくるやろうから、今日はここにおる必要がある。

フェイトはんには世話になっとるし、今夜ぐらいは好きにさせたろ・・・。

 

 

「んん・・・」

 

 

・・・木乃香お嬢様は、今も眠り続けとる。

この子には、悪いことをした思うわ。

この子からすれば、私が親の仇になるかもしれんのやから・・・。

 

 

「・・・あ」

 

 

スクナで思い出した。

この力を使って東の連中に復讐する言うのは、ええけど・・・。

 

 

「・・・・・・どないしてスクナを東まで持っていけばええんやろか」

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「『魔法の射手 連弾・光の17矢』!!」

 

 

小太郎君に魔法の矢を放つ。

もう何度目かわからない。

正直、これ以上は僕がもたない。こうなったら・・・。

 

 

「はっはぁ! こんなもんきかんわ!」

 

 

魔法の矢を弾きながら、僕に突進してくる小太郎君。

まだだ、まだ・・・!

 

 

「楽しいでネギ! 初めてや、俺とこんなに戦れる男は!」

「・・・僕もだよ」

 

 

そう、それは僕もだ。

今まで同い年の男の子自体、近くにいなかったから。

 

 

「けど、どうやらお互いに限界みたいやなぁ!」

「・・・そう、だね」

 

 

それも同じ。

僕もそうだけど、小太郎君も随分とボロボロだった。

いつの間にかあの黒い犬みたいなものも、あまり出てこなくなった。

 

 

「もったいないけど・・・これで、終わりやっ!!」

 

 

そう言って、小太郎君は僕に突進してきた。

右の拳に、すごく大きな気が・・・!

 

 

「でぇりゃああっ!!」

「・・・!」

 

 

今だ!

 

 

「契約執行1秒間! ネギ・スプリングフィールド!」

 

 

自分への契約執行!

これで一瞬だけ加速した僕は、小太郎君の背後に回り込んだ。

 

 

「んなっ・・・!」

「『魔法の射手・光の1矢』!」

 

 

小太郎君の腹部に、無詠唱での魔法の矢をぶつける!

その衝撃に、小太郎君が膝をついた・・・今だ!

 

 

「ラス・テル・マ・ステル・マギステル 闇を切り裂く、一条の光、我が手に宿りて、敵を喰らえ」

「く・・・この」

「『白き雷』!!」

 

 

白色の雷が小太郎君を飲み込んで、吹き飛ばした。

吹き飛んだ先から小太郎君は・・・出て、こなかった。

 

 

「・・・ふはっ」

 

 

息を吐いて、その場にへたり込む。

か、勝った・・・。

 

 

「兄貴~」

「ネギ、大丈夫!?」

 

 

明日菜さんとカモ君が、駆け寄ってきてくれた。

 

 

「兄貴、自分への契約執行は厳禁って話だったじゃないっスか!」

「ご、ごめんよカモ君。でも、他に方法がなくて・・・」

「だから手伝うって言ったでしょ!? まったく妙な所で意地っ張りなんだから・・・」

「す、すみません。明日菜さん、でも・・・」

「何よ?」

「でも・・・勝ちました」

 

 

ちょっとだけ胸を張って言うと、明日菜さんは一瞬呆れたような顔をしてから。

ぽむっ、と、頭を撫でてくれた。

え、えへへ・・・。

 

 

「・・・ほら、立てる? 早く行かないと・・・」

「もう、儀式は終わってる感じですぜ!」

「・・・わかってる。急ごう」

 

 

小太郎君との戦闘に、かなり時間を使ってしまった。

急がないと・・・木乃香さんと、先に行った刹那さんのところへ!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

フェイトの放った石の柱とアリア先生の築いた氷の壁がぶつかった時、同じく橋の上にいた私はその余波をまともに受けてしまった。

石の柱と氷の壁の破片が降り注いで来た時は、正直もうダメかと思った。

 

 

だが、それらが私の身体に届くことはなかった。

なぜなら・・・。

 

 

「・・・これは」

 

 

私の頭上には、鎖がいくつも巻かれた大きな羽根のような盾が展開されていた。

これが、どうやら私を守ってくれたようだ。

そしてこの盾からは・・・アリア先生の魔力を感じる。

 

 

「・・・自分を、守るより先に・・・」

 

 

私のことを、守ってくれた・・・。

アリア先生に貰い、今は私が身に付けているコートの裾を握りしめる。

フェイトの相手で、手一杯のはずなのに。

 

 

「・・・アリア先生」

 

 

アリア先生は、今も空中でフェイトと戦っている。

どういう理屈で空中に足場を作っているかは、わからないが・・・。

とにかく、今アリア先生はフェイトと激しい戦闘を行っている。

フェイトも、もう私に構っている暇はないようだった。

 

 

・・・今なら。

今ならフェイトに邪魔されることなく、お嬢様の下まで辿り着けるはずだ。

だがそのためには、あの巨大な鬼の上にまで行かなくてはならない。

 

 

アリア先生は、フェイトとの戦いに集中している。

とてもお嬢様の救出まではできないはずだ。

ネギ先生達は・・・まだ、来ない。

ここには、私しかいない。

私が、やらなければ・・・。

 

 

 

怖い。

 

 

 

思わず、自分の身体を抱きしめるように両肩に触れた。

私なら、私ならお嬢様の下まで行ける、その方法がある。

私、なら。

 

 

烏族のハーフである私なら、あそこまで行ける。

 

 

顔が強張るのを感じる。息もしにくい。

あの、あの姿をお嬢様やアリア先生に見られたらと思うと、怖くて仕方がなかった。

嫌われるかもしれない、醜いと蔑まれるかもしれない。

そう考えただけで、私は・・・!

 

 

じゃら・・・。

 

 

「・・・・・・あ」

 

 

拳を握りこんだ時、何かが触れた。

それはアリア先生から与えられた、数珠と指輪だった。

・・・・・・コートに、触れる。

それから、頭上でまだ私を守ってくれている盾を。

 

 

(「刹那さんのためですよ」)

 

 

アリア先生の言葉が、今も聞こえてくるようだ。

アリア先生は今も、必死に戦っている。

私は、何をしている?

 

 

巨人の方を見る。

お嬢様が今も助けを待っているだろう場所を、見る。

私は、何をしている?

 

 

「・・・ああ、あ」

 

 

私は、何をしている。

今、私が助けなければ、誰がお嬢様を救える。

私がお嬢様を救わなければ、アリア先生がなんのために時間を稼いでくれているのか、わからない。

自分のことばかり考えていて、どうする。

 

 

私は、一人でここまで来たわけでは、ない。

そうだ。

たとえ嫌われても、蔑まれても。

私はもう、やらなければならない。

やらないということは、許されない。

 

 

「・・・あああああぁぁぁぁっ!!」

 

 

怖い、怖いけど・・・。

 

 

お嬢様を救うために!

アリア先生に報いるために!

 

 

「行きます!!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

それに気付いた時、私はまず驚きました。

次いで、困惑。

そして最後には。

 

 

「・・・綺麗」

 

 

白い翼を広げて、木乃香さんの下へと向かう刹那さん。

大切な人のために自分の全霊を懸けられるその姿は、本当に。

本当に、美しかった。

 

 

「・・・よそ見かい?」

 

 

目の前に、突然、フェイトさんが現れました。

それも、鼻の先が触れあいそうなほどの近さです。

 

 

「・・・嫉妬ですか?」

「まさか」

 

 

そして、発動されるフェイトさんの『石の槍』。

それを魔法具、『M0プレート』で防ぎます。

この魔法具は単純に言えば、相手の魔法を無効化する磁場を発生させる魔法具です。

範囲はごく一部で、こうして向かい合ってしか使えません。

さらに言えば相手がその魔法のために使用した魔力と、同量の魔力を消費する必要がありますが・・・。

 

 

「・・・魔法が、使えない」

「その通り」

「・・・です!」

 

 

背後から私の分身体の一体が、私の身長よりもはるかに大きな大剣『護式・斬冠刀』を振り下ろす!

しかしフェイトさんは流れるような動作でそれをかわすと、分身体の私のお腹に強烈な一撃を放ち、分身体を消滅させました。

あらゆる意味で良く出来た分身体なのですが、耐久力のなさが難点です。

 

 

私はその場に突き刺さったままの『護式・斬冠刀』の峰に付属している投擲用の三日月剣、『月燐』を2本手に取り、距離を取りつつフェイトさんへ投擲します。

それは、フェイトさんにかわされますが・・・。

 

 

その間に分身体の一つを、刹那さんの下へ送ります。

 

 

「大変だね、先生?」

「わかってくれるのは、貴方だけですよ」

 

 

私を労ってくれる人間は、実はかなり希少なのです。

ポイントを2点、追加しておきますね。

累計、7点です。

 

 

「・・・では、続きといこうか、アリア」

「そうですね、フェイトさん」

 

 

貴方とならば、いつまででも。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

アリア君の罠にかかった侵入者も、これで4組目だ。

それにしてもアリア君の罠はすごいな、見たこともないものばかりだ・・・。

どれも強い魔力を感じるから、魔法具使いとしてのアリア君は僕らが思っている以上に優秀なのかもしれない。

 

 

「新田先生にも、気に入られてるみたいだしなぁ・・・・・・うん?」

 

 

自販機コーナーを通りがかった時、入口にまたもや相坂さんを見つけた。

頭に何かねずみ色の奇妙な帽子をかぶってる・・・破れてるけど。

入口の側に張り付いて自販機コーナーの中を見ているようだけど、どうしたんだろう・・・?

 

 

「相坂君?」

「ひゃわわっ!? な、なんでわかったんですか!?」

「いや、なんでって・・・」

「ふぇ・・・い、いつの間にか『石ころ帽子』が破れてました・・・!」

 

 

わたわたと慌てている相坂君。

よくわからないけど、もう生徒は就寝時間だ。

 

 

「早く部屋に戻りなさい。新田先生にでも見つかった、ら・・・」

 

 

というか、新田先生は自販機コーナーにいた。

やはりというか何というか、アリア君(偽)も一緒だった。

 

 

新田先生が、缶コーヒーを飲んでいる。

これはいいと思う。休憩中か何かだと思う。うん。

問題はその隣で、アリア君(偽)が缶ジュースか何かを飲んでいることだ。

しかも右手で缶ジュースを飲んで、左手は、どういうわけか新田先生のズボンの裾を握っている。

 

 

身代わりなのにジュースとか飲んで大丈夫なのか、とか、そもそもなんで新田先生のそばを離れようとしないの、とか、なんで新田先生はそれを受け入れてるの、とか、いろいろ言いたいことはあるけど・・・。

一番言いたいのは、普段のアリア君と違いすぎるでしょ、ということだった。

 

 

「・・・あれは、大丈夫なのかな・・・?」

「え、え~っと・・・あははは・・・」

 

 

乾いたように笑う相坂君。

と、アリア君(偽)が缶ジュースを飲み終わったのか、空の缶を左右に振った。

そして何故かその缶を持ったまま、横の新田先生を見上げた。

気のせいでなければ、ズボンを掴む手にほんの少しだけ力がこもったと思う。

 

 

アリア君(偽)の視線に気がついたのか、新田先生がアリア君(偽)を見る。

じ~、と、新田先生を見つめるアリア君(偽)。

数秒ほどして、新田先生が咳払いをしながら。

 

 

「・・・もう一本だけですぞ」

 

 

と、言った。

それに対してアリア君(偽)は、にこり、と笑った。

 

 

・・・あれ、新田先生ってあんな人だったかな・・・?

 

 

「・・・さよさん。瀬流彦先生」

 

 

その時、絡繰さんがやってきた。

就寝時間なんだけど・・・。

 

 

「マスターを見かけませんでしたか?」

「エヴァさんですかぁ? 見てないです」

「僕も、見てないけど・・・」

 

 

・・・え、ちょ、まさか。

 

 

「ホテル内に、マスターの反応がありません」

「ええ!? じゃあエヴァさん外に出ちゃったんですか!?」

 

 

・・・・・・始末書ですむといいなぁ。

でも無理なんだろうなぁ、と考えている自分がいることに気付いた。

 

 

「・・・あ、ところで絡操さん。あのアリア君(偽)、大丈夫なのかい? なんというか、随分と・・・」

「問題ありません」

 

 

絡操さんは、妙にはっきりと答えた。

な、何か対策があるのかな・・・。

 

 

「最高画質で録画中です」

 

 

・・・始末書、今から書いておこうかな・・・。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
現在、非常に疲れています。
しかしそうは言っても、フェイトさんとの舞踏会。
残り時間、しっかりとお相手しなければ・・・。


今回の魔法具は、以下の通りです。
『クトゥグァ&イタクァ』・『ニトクリスの鏡』:
元ネタは「デモンベイン」、提供者はおにぎり様です。
『黒の剣』:元ネタは「お・り・が・み」。提供者は、華燐様です。
『エレクトリックフェザー』:元ネタはMÄR。
元ネタ提供者は、司書様と松鳴様です。
『翼の道』:提供は景鷹様です。
『護式・斬冠刀』:元ネタは、「無限のフロンティア」。
提供は同じく、景鷹様です。
『禁忌・フォーオブアカインド』:元ネタは「東方シリーズ」。
提供者は、アレックス様と、ぷるーと♪(笑)様です。
『M0(エムゼロ)プレート』:元ネタは「エム×ゼロ」。
提供者は、司書様です。
『石ころ帽子』:元ネタは「ドラえもん」。
提供者は、kusari様です。


アリア:
次回は、舞踏会の中編。
私とフェイトさんの舞踏会の佳境です。
なんだか、横槍が入りそうな予感がします・・・。
では、またお会いしましょう。


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第29話「3日目・舞踏会・中編」

Side 刹那

 

可能な限り高速で、そして千草に見つからないように注意して飛行する。

ギリギリまで近付いたところで、千草が私に気付いた。

 

 

「・・・また、あんたか」

「天ヶ崎千草!」

 

 

お嬢様を、返してもらう!

私は夕凪を構え、空を駆けた。

 

 

「『猿鬼』! 『熊鬼』!」

 

 

千草はいつか見た猿と熊の着ぐるみのような式神を召喚してきた。

く、体力はともかく、気は回復していない、やれるか・・・?

いや、やるんだ!

 

 

「はあぁっ!」

 

 

一閃。

まずは、猿の式神を倒した。

だがその間に、熊の方が後ろに・・・。

 

 

「くっ・・・!」

 

 

防御を!

だが間に合わない、そう思った瞬間。

 

 

アリア先生のコートの一部が伸び、私の身体に幾重にも巻きついてきた。

そしてそれが、熊の式神の攻撃を防いでくれた。

 

 

「ぐっ・・・」

 

 

衝撃で軽く距離が開くが、痛みやダメージはない。

このコート、もしかして・・・。

 

 

「魔法具、『獣の槍』」

 

 

次の瞬間、私の後ろからまるで両刃の剣のような刃の広い槍が飛来し、熊の式神を貫いた。

この声は。

 

 

「アリア先生!」

「の、分身体です」

 

 

私の後ろにはアリア先生(分身体・・・式神のようなものだろうか?)が、どういう理屈かはわからないが空中に立っていた。

ヒラヒラと手を振りながら、にこっ、と微笑んでくれる。

本物にしか見えないが、これもアリア先生の力なのだろうか。

 

 

「・・・そのコートは『夜笠』という名前でして、軽さと頑丈さが売りです」

「あ、これも・・・魔法具、なんですね」

 

 

私の言葉に、先生が頷こうとしたその時。

細い石でできた槍が突然、先生を貫いた!

 

 

「アリア先生!?」

「大丈夫ですよ、分身ですから・・・・・・あの人、意外と独占欲が強」

 

 

何かを言いかけたが、ぼむんっ、と音を立てて消えた・・・ほ、本当に分身だったのか・・・。

というか貫かれた瞬間、どこか嬉しそうだったのは気のせいだと思いたい。

 

 

とにかく、これで障害は、全て消えた。

ばさっ・・・と翼を羽ばたかせて、再び、行く!

 

 

「お嬢様っ!!」

 

 

今、お救いいたします!

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「なんなんや、あんたは!」

 

 

神鳴流の小娘が、烏族とのハーフやったとは誤算やった。

まさかこんなところまで、追いかけてくるとは。

 

 

「何をそんなに頑張りよるん!?」

 

 

もう、札もない。

フェイトはんは、アリアはんに夢中や。

月詠はんも小太郎もおらん。

近すぎて、スクナの力を使うわけにも・・・。

 

 

「いったいどうして、そんな必死になりよるんや!?」

「大切だからだっ!!」

「・・・っ」

「守りたい人も、助けてくれる人も、大切だからだっ!!」

 

 

・・・なんやの、それ。

そないなこと、言われたら。

 

 

「お嬢様は・・・私が守る!!」

 

 

そないなこと、言われたら。

うちみたいな半端もんは、もう、なんにもできひんやないか・・・!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

分身体の一つが、フェイトさんに消されました。残り一体。

刹那さんは、上手く木乃香さんを救えたでしょうか。

気になるところですが、今私はそれどころではありません。

 

 

「家桜・・・」「・・・端敵」

「退隠・・・」「・・・柴車」

「彫板――!」「――泥眼!」

 

 

せっかくなので、2人1組で放つ合気の技をフェイトさんに仕掛けてみます。

戯○シリーズですね。わかります。

ちなみに、右が私。左は、残った最後の分身体です。

・・・できれば、3人でジェットス○リームアタックとかやりたかったですね。

 

 

「なるほど、実に多彩な武術だね。中には、僕の知らない拳法とかもあるみたいだったし・・・」

 

 

南斗鳳凰拳を止められた時は、正直、どうしようかと思いました。

そんなことを考えている間に、フェイトさんの姿が消えます。

次の瞬間には・・・分身体の上!

 

 

「けれど、キミの動きは、手に取るようにわかるよ」

「私だって、フェイトさんのこと、わかっちゃいますよ」

 

 

上段からの、左足の蹴り。それでもう、分身体は消えてしまいます。

一撃もらえば、消えてしまうのが、この精度の高い分身体の欠点です。

これまでのパターンから、ここから・・・。

 

 

「・・・左の、ストレートです」

「右手で拳を弾いて、左手で掴もうとする・・・」

「・・・手を引いて、左の膝です」

「膝を受け止めて、一歩下がる・・・」

「・・・一歩前に出て、右手でフェイント、もう一度、左です」

「受けると見せかけてかわし、いなした所で右の掌底・・・」

「・・・右手で弾いて、左手で」

「「『石の槍』!」」

 

 

上体を逸らして、何とか『石の槍』をかわします。

しかし、それでバランスを崩した私は、フェイトさんに腕を掴まれ、『翼の道』の上から、空中に放り出されてしまいました。

く、魔法具・・・。

 

 

 

目の前に、フェイトさんがいました。

 

 

 

空中で、組み合います。

右拳で顔を狙うも、左手で軽く受け止められます。

そして、繰り出された彼の右拳を、左手で弾くように外へ。その左手も、フェイトさんの右手に掴まれてしまいます。

フェイトさんの両足が、それぞれ私の足を押さえるような位置にあるので、蹴りも放てません。

 

 

「ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト・・・」

 

 

・・・!

この距離で、詠唱魔法なんて、撃たせません。

魔法具。

 

 

「・・・『静(サイレント)』!」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

彼女の口元に現れたカードが弾けると、全ての音が消えた。

詠唱も、途中までで止めざるを得ない。

 

 

空中で、彼女と見つめ合う形になる。

左右で色の違う彼女の瞳は、見ていて飽きがこない。

その瞳に浮かぶ赤い光が、まるで炎のように揺れている。

 

 

互いに魔法を使用していないから、自由落下している状況だ。

本当は、ここで胴体を打って、距離を取るんだけど・・・胸はダメだと言うから。

 

 

・・・ここまでの戦闘で、少なくとも彼女には3つ、特別な力があることがわかった。

ひとつは、こちらの魔法式に介入できる力。

さらに、こちらの魔法構築そのものを阻害する力。

そしてもうひとつ、魔法具。

魔法具については、転移でもしているのか、どこからともなく出現する。

 

 

ただ魔法具の出現までにはタイムラグがあるから、対処することは可能だ。

前の二つについても、原理はわからないが僕の作り出した石属性の槍を防げないところから見て、物理的なものには効果がないのだろう。

そして何よりも・・・彼女自身の身体は、魔法使いにとって最低限あるべき、魔法障壁によって守られていない。

 

 

そのまま僕とアリアは先ほど僕の『冥府の石柱』が防がれた場所へ、落ちた。

僕はもちろん、アリアも・・・多少、痛がってはいるみたいだけど、怪我はしていないようだ。

また、何かの魔法具を使ったのかもしれない。

 

 

かろうじて残った橋の一部と、今にも崩れてきそうな瓦礫の間で、僕はアリアを押さえつけている。

 

 

「・・・っ・・・こういうのは、私達には、まだ早いと思うのですけど」

 

 

どうやら消音の効果が消えたのか、アリアの声が聞こえた。

耳に残る、それでいて耳障りにはならない、綺麗な声だ。

 

 

「・・・我慢が、きかなくてね」

「ふ、ふふ・・・紳士と思って油断しまし・・・・・・っ!」

 

 

瞬間、これまで彼女の身体を守っていた何かが消えるのを感じた。

アリアの顔が、青ざめる。

すかさず彼女から手を放して、首を掴む。

 

 

これまでの彼女なら、今の動作にも反応で来ていたはずだけど・・・どういうわけか、今は素人のような動きだ。

左手はそのまま、彼女の右手を押さえている。

そして僕の右手は・・・彼女の白くて細い首を掴んでいる。

アリアは自由になる左手で僕の手首を掴んでいるけど・・・先ほどまでに比べて、随分とか弱い力しかなかった。

 

 

さっきまで感じていたプレッシャーなんて、微塵も感じなくなってしまった。

・・・魔力切れか、意外とつまらない幕引き・・・。

 

 

 

「・・・・・・つまら、ない幕引、きだと、思ったで、しょう?」

 

 

 

首を絞められながら、彼女は嗤う。

何を・・・。

 

 

ぱきん、と、音を立てて、僕の何重にも張られた魔法障壁に、亀裂が走った。

 

 

「・・・障壁が」

「・・・『式』を、解析・・・・・・そして、『喰ら』います・・・」

 

 

・・・バカな。

僕の魔法障壁は、並みの魔法使いには理解すらできない構成と密度で、しかもそれが十数層にも及んでいる。

それが次々と無効化、いや、破壊されていく・・・?

 

 

不意に、彼女と目が合う。

その両眼が、赤く、鮮やかに輝いていた。

 

 

 

  ―――――――ぞくり――――――――

 

 

 

「・・・それで、どうするの? 僕がキミを落とす方が先だと思うけど」

「いえい、え・・・私が、貴方を食べてしまうのが、先、かも・・・?」

 

 

そう言って笑むアリアに、僕は。

僕はどうしようもなく、たまらない気持ちに、なった。

 

 

「く・・・フ、ハハ・・・」

「うふ、うふふ、ふ・・・」

「ハハハ、ハハハハハハハハハ―――」

「ふふふ、ふふふふふふふふふ―――」

 

 

僕が右手に力を込めるのと、アリアの両眼が輝くのは、おそらく、ほぼ同時だった。

 

 

 

「キミが欲しいよ、アリアッ・・・!」

「私も、フェイトさんが欲しっ・・・!」

 

 

今の僕には、アリア。

キミだけが、僕の。

 

 

 

 

「『魔法の射手・戒めの風矢』!」

 

 

 

その直後。

比喩ではなく、僕は、僕達は、世界が終わる音を聞いた。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「でかいっ!! 何よあれ、でかすぎるでしょ!?」

「落ち着け姐さんって、オイオイオイちょっと待てよデケェ!!」

 

 

なんとか、湖にはたどり着けたけど・・・なんというか、滅茶苦茶だった。

腕が4本くらいある光る巨人がいるし。

橋は半分くらい沈んでるし、大きな岩が湖に刺さってるし!

 

 

「刹那さんは!?」

「わ、わかんないわよ」

 

 

木乃香は、まだ捕まってるの?

刹那さんがどこ行ったのかもわからないし・・・。

 

 

「・・・・・・アリア?」

「へ? アリア先生って・・・」

 

 

アリア先生は、鬼と戦ってるはずじゃ。

やっぱり、さっき見た白いのって、アリア先生・・・?

 

 

「・・・って、あれピンチじゃないの!?」

「白髪の奴と一緒じゃねぇか!?」

 

 

ネギの視線を追いかけると、橋の先、石の柱みたいなのが刺さってる所に、アリア先生がいた。

しかも、あの白髪の子供が、馬乗りになって・・・って!

 

 

「ネギ、行くわよ!」

「え、あ・・・はい!」

 

 

アーティファクトのハリセンを出して―――いつも思うけど、なんでハリセン?―――走り出す。

助けに行かなきゃ!

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風の精霊11人、縛鎖となって敵を捕らえろ・・・」

 

 

いつの間にアリアがここに来たのかは、わからないけど。

これ以上、白髪の好きにはさせないぞ!

 

 

「『魔法の射手・戒めの風矢』!」

 

 

牽制として、拘束用の魔法を放つ。

当たるとは思えないけど・・・・・・いや、当たった!

やった!

 

 

「やったぜ兄貴!」

 

 

白い髪の少年は、なんだか、すごく驚いた表情で、僕達の方を見た。

もしかして、僕達に気付いていなかった?

よろめくようにアリアから離れて・・・拘束から逃れようとする。

けどその拘束魔法は、まともに受けた以上、最低でも数十秒は解けない。

 

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風の精霊31人。集い来たりて・・・」

 

 

その間に、次の魔法を撃つ!

 

 

「ネギ先生、ダメです!!」

「刹那さん!?」

 

 

突然、後ろの方から、刹那さんの声。

横から、明日菜さんの驚いた声が聞こえる。

だ、ダメって・・・魔法はもう、完成しちゃってる!

 

 

「『魔法の射手・連弾・雷の31矢』!」

 

 

『魔法の射手』を、撃った。

これで!

 

 

攻撃が、命中する。そう思った。

その時、倒れたままだったアリアが、急に起き上がった。

白髪と、僕達の間に立つ、つまり、僕の魔法の射線上に。

あぶ・・・。

 

 

「『全てを喰らう』・・・」

 

 

危ない、と叫ぼうとした瞬間、僕の魔法が消えた。

そしてアリアはもの凄いスピードで白髪の所へ行って、『戒めの風矢』を掴むと。

 

 

それを、引きちぎった。

なっ・・・。

 

 

「・・・ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト 小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ!」

 

 

白髪が『戒めの風矢』から解放されて、空に飛び上がって詠唱を。

あの呪文は。

 

 

「その光、我が手に宿し、眼差して射よ!」

「やべぇ、明日菜の姐さん、奴を止め」

「ダメ、間に合わない・・・ネギ!」

「わっ・・・」

「『石化の邪眼』!!」

 

 

明日菜さんが、僕を庇うように抱きしめて。

視界が、白く染まった。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・あと、少しだった。

あと少しで僕は、「何か」になれた。

 

 

そんな思いが、僕に石化の魔法を撃たせた。

ただ魔法無効化能力を持つ女の子のおかげで、あまり効果がなかったみたいだ。

 

 

「ちぇ――――――――――りお――――――――――っっ!!!!」

 

 

アリアはそんなことを叫びながら、橋の残った部分を叩き割っていた。

それはかなり強い力で行われたようで、水柱が上がるほどだった。

彼女はすかさず一振りの刀を手にすると、その水柱に切りつけて・・・凍らせた。

それは氷の壁と化して・・・ネギ・スプリングフィールド達と、僕達を隔離した。

 

 

本当に、不思議な魔法具を使うな・・・。

・・・ちぇりおって何だろう?

 

 

「・・・どうやら、時間のようですね」

 

 

気が付くと、アリアがひどくつまらなさそうな顔で僕のことを見ていた。

魔力切れだと思っていたけれど・・・。

 

 

「・・・楽しい時間は、すぐに過ぎてしまいます」

「・・・・・・そうだね」

 

 

その顔はなんだか、玩具を取り上げられた赤子のようで。

見ていてとても、妙な気分になった。

 

 

「せめてものお詫びに、私のもうひとつの武器を見せてさしあげましょう」

「・・・へぇ、まだ、何かあるの?」

「どんなものかは、私も知らないのですけど」

「なんだい、それは・・・」

 

 

よくは、わからないけれど。

どうやら、まだ何か僕を楽しませてくれるつもりらしい。

それなら僕にできることは、ひとつだ。

 

 

「・・・来るといい。受け止めてみせるよ」

「・・・素敵」

 

 

彼女は、微笑むと・・・。

左手の刀を、振った。

 

 

「霜天に坐しなさい、『氷輪丸』!」

「・・・・ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト 小さき王、八つ足の蜥蜴、邪眼の主よ」

 

 

アリアの刀から氷でできた龍が放たれ、空中の僕に襲いかかってきた。

・・・氷でできているのなら、石化できるはずだ。

 

 

「時を奪う毒の吐息を 『石の息吹』!」

 

 

石化の煙が、氷の龍を迎え撃つ。

・・・多少、範囲が大きすぎたかもしれない。

だけど、石化魔法は目論見通り、氷の龍を石化して止めた。

アリアは・・・。

 

 

「・・・アデアット!」

 

 

やけに近くから響く、声。

そして何かがすぐ横を通り抜ける感覚。

・・・上、か。

 

 

「石化の煙の中を・・・」

「・・・アーティファクト、『千の魔法』!」

 

 

何をするつもり?

避ける選択肢も逃げる選択肢も、ない。

受け止めると、そう言った。

 

 

頭上を、仰ぎ見る。

そこには・・・。

 

 

「・・・・・・っ」

 

 

白い髪、赤く輝く瞳、黒の服、黒の本。

そして、桃色の光に包まれた、アリアがいた。

 

 

彼女の周囲にはおそらくは魔力と思われる小さな光が、まるで彼女を求めるかのように集まっていた。

その桃色の光の粒はまるで星のようで・・・桜の、花弁のようだった。

 

 

そういえば、初めて出会った時も、二度目も。

アリアは、桜の花弁を背負っていた。

そして今、彼女は桜色の輝きに包まれている。

・・・だから。

 

 

「・・・キミの色だよ、それは」

 

 

僕にとって、キミの色はそれだ。

 

 

「その色は、キミにこそ、相応しい」

 

 

僕の言葉に、アリアは少し戸惑ったような表情を浮かべた。

少し、喋りすぎたかもしれない。

だけどアリアは、戸惑った直後に。僕に。

 

 

 

桜の花のような笑顔を、見せてくれた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

あと、少しでした。

あと少しで私は、「何か」になれた。

 

 

そんな思いが、私に「ちぇりお」と叫ばせました。

あの兄は・・・!

 

 

「・・・アデアット!」

 

 

空飛ぶ高速飛行箒『ファイアボルト』に掴まりながら、フェイトさんの石化魔法の中を抜けます。

時速240Kmは伊達ではありません・・・!

魔力残量があれば、もっと別の方法を取ったのですけど・・・。

 

 

一瞬でフェイトさんの頭上を取り、効果もわからないアーティファクトを取り出します。

 

 

ちなみに私の左手に巻かれた『リボン』も、れっきとした魔法具です。

一部を除いたバッドステータスを防止することができます。

この場合は、石化。

 

 

右手に黒の魔本『千の魔法』を持ち、『複写眼(アルファ・スティグマ)』で視ます。

効果、効力、特性、特徴、条件、使用法を、一目で解析、理解します。

・・・なるほど。

 

 

「<登録>します・・・」

 

 

『千の魔法』の第一号として<登録>したのは、魔力残量の少ない今の私に利点の高い、収束吸収型の魔法。

 

 

「・・・『星光の殲滅者(スターライトブレイカー)』・・・!」

 

 

周囲から集められるだけの魔力を集め。

それを自分の物として、吸収・・・。

 

 

「・・・キミの色だよ」

 

 

突然、眼下のフェイトさんが、そんなことを言いました。

なんのことでしょう、色?

 

 

「その色は、キミにこそ、相応しい」

 

 

色というと、この桃色の魔力光でしょうか?

つまりは、桃色が、私に似合うと、そういうことなのでしょうか。

ち、ちょっと、恥ずかしいですね・・・。

 

 

「・・・ふふ」

 

 

にっこりと、機嫌良く、微笑みます。

顔が、なんだか熱いです・・・。

5点、あげちゃいましょう。累計12点・・・。

 

 

な、何かイベントを考えませんと。

何がいいでしょうね・・・?

 

 

・・・その間に、『星光の殲滅者(スターライトブレイカー)』が完成します。

周囲から集められた膨大な魔力は、まるで星の煌めきのように、輝きます。

 

 

「・・・・・・行きます、フェイトさん」

「いつでもいいよ、アリア」

 

 

フェイトさんが「アリア」と言い終わるよりも早く、私は彼の目の前に。

まずは、左足。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』と『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』の力を加えたその一撃は、かろうじて残った魔法障壁を、根こそぎ破壊します。

 

 

「・・・障壁が」

 

 

その言葉を聞き終わる前に、右拳に、集めた全魔力を収束します。

星光の殲滅者(スターライトブレイカー)』は、集めた魔力を吸収して活用する魔法。

取り込んで、急激に身体強化することも・・・。

そして、一気に撃ち放つことも可能。

 

 

 

・・・実のところ今の私は、飛行しているわけではなくて。

ほとんど落下しているような、そんな状態でした。

その程度の魔力も、残っていないのです。

だから、フェイトさんが受けずに、避けたりすれば、それで終わりでした。

けれど・・・。

 

 

 

「・・・ブレイク」

 

 

収束、完了。

撃ちます。

これが私の、全力、全開。

 

 

「シュ―――――――――――――――トッッ!!!!」

 

 

全魔力を解放。

障壁を失ったフェイトさんの身体に、直接。

叩き付けます!

 

 

 

・・・フェイトさんは、避けませんでした。

言葉通り、受けてくれたのが、嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の一刹那。

 

 

 

 

 

桃色の光の中で。

 

フェイトさんの手が、私の頬に、触れました。

 

交わされた視線は、とても優しくて。

 

そこには、きっと。何かの「感情」が宿っていたと、そう。

 

 

 

 

 

そう、信じても、良いでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・フェイトさん。

 





アリア:
・・・気持ちよかったです。
また、やりたいです。
途中、10歳らしからぬ会話もあった気もしますが、そこは私、転生者ですから。
・・・全力でしたぁ・・・。


今話で使用した魔法具は、以下の通りです。
『獣の槍』:元ネタは「うしおととら」、提供者は月音様です。
『夜笠』:元ネタは「シャナ」、提供者はゾハル様です。
『氷輪丸』:元ネタは「ブリーチ」、提供者はグラムサイト2様です。
『リボン』:元ネタは「FF」、提供者はプチ魔王様です。
『ファイアボルト』:元ネタは「ハリーポッター」。
提供者は、司書様です。
ありがとうございます。

また、今話で使用した『千の魔法』は、以下の通りです。
『星光の殲滅者』:元ネタは「リリカルなのは」。
提供者は、kusari様です。
ありがとうございます。

「登録」魔法の詳しい内容は、いずれまた、まとめて報告させていただきます。



アリア:
次話でようやく、長かった3日目も終わるかと思います。
最後の後始末がいくつか残っているわけですが、私の魔力はほとんど尽きています。
これは、どうしたものでしょうか・・・。
では、またお会いしましょう。


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第30話「3日目・舞踏会・後編」

Side エヴァンジェリン

 

「ええい・・・しつこいぞ、じじぃ!」

『そこをなんとか、頼めんかのぉ?』

 

 

左手の通信用の水晶からは、弱り切ったじじぃの声が聞こえる。

さっきからぼーやの支援をどうのとうるさいが・・・私は今、それどころではないのだ!

 

 

「だいたい、なんで私がぼーやの手伝いをしなくちゃならんのだ!」

『他に人がおらんのじゃ・・・』

「は、私には関係のないことだ・・・せいぜい自分の甘さを後悔するといいさ」

 

 

そもそも、京都に来なければ良かったのだ。

アリアはきちんと忠告したはずだがな。

それを無視した以上、相応の報いを受ければいい。

 

 

『・・・ん。エヴァさん・・・』

 

 

む?

水晶以外から、通信・・・いや、これは念話か!

懐からアリアとの仮契約カードを取り出すと、やはりアリアからの念話だった。

 

 

危うく茶々丸に取り上げられるところだったが、死守した。

茶々丸め・・・最近、どうも私への態度がアレだ。

成長したと喜べばいいのか、正直、複雑だった。

とにかく。

 

 

「じじぃ、別件が入った。切るぞ!」

『ち、ちょっと待』

 

 

面倒だったので、水晶そのものを砕いた。

カードを額に当てて、念話に応じる。

 

 

「おいアリア! 今どこにいる、すぐに・・・」

 

 

戻ってこい、と言おうとしたが、先にアリアの方が話し始めた。

簡単な事の顛末から始まって、現在の状況説明。

まぁ、ほとんどはどうでもいい関西呪術協会やら何やらの話だったが。

・・・つまりは。

 

 

くっ、と、唇の両端がつり上がるのを感じる。

つまるところ、アリア、お前の言いたいことは、こうか。

 

 

「・・・助けが、必要というわけだな? 我が従者(アリア)

 

 

 

 

 

Side アリア

 

堕ちる――――。

魔力が枯渇した私は魔法具を創ることも、『千の魔法』を維持することもできません。

後は、重力に身を任せるのみ。

下は湖。

 

 

・・・ここだけの話、私、泳げないのですよね・・・。

 

 

「アリア先生!!」

 

 

その時、がしっ・・・と、誰かが私を空中で受け止めてくれました。

この声は・・・。

 

 

「アリア先生、捕まえたえ~」

「だ、大丈夫ですかアリア先生っ・・・!」

 

 

木乃香さんに、刹那さん?

それは背中の翼が美しい刹那さんと、彼女に抱えられた『夜笠』を身に付けた木乃香さんでした。

木乃香さんが、私を背中から抱きかかえるような姿勢。

つまり、刹那さんは2人分の体重を支えているわけで。

 

 

「・・・あの、刹那さん?」

「お気に、なさ、らず・・・!」

 

 

そんなに必死に翼を動かして、そんなことを言われましても。

というか・・・。

 

 

「てっきり、下に降りたものと思っていました」

「はい、一旦は、降りたのですが・・・っ」

「せっちゃんがアリア先生が危ない~って、またすぐ飛んだんよ」

「・・・木乃香さんを抱えたままで?」

「あ、や~ん、言わんといて~な先生~」

「・・・」

 

 

・・・なんでしょう、急に疲れてきました。

 

 

「あんたら! 何をやっとるんや!?」

「天ヶ崎千草!」

 

 

スクナの肩のあたりにしがみついた千草さんが、こちらを見上げていました。

右肩を怪我しているのは、刹那さんとの戦いの傷でしょうか。

 

 

「さっさと離れぇ。うちの力では、スクナを制御できひん!」

「何を・・・」

「はよ逃げぇて、言うとるんや!」

 

 

千草さんが怒鳴るようにそう言った、次の瞬間。

それまで静かだったスクナの目に、赤い光が灯りました。

 

 

 

グウゥゥオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!!!

 

 

 

突然。

突然スクナが咆哮を上げて、凄まじい力をまき散らし始めました。

力の奔流が、湖全体を襲う。

湖の外にまで被害が及ばないのは、まだ無事な結界があるからか・・・。

 

 

「ネギ先生達は・・・?」

 

 

刹那さんの声に、眼下の様子を窺います。

するとネギ兄様は明日菜さんに背負われながら、岸にまで避難しているようでした。

とりあえずは、大丈夫そうですね・・・。

 

 

「と、とにかく、離れます!」

 

 

刹那さんは必死に翼を動かしながら、木乃香さんと私を安全圏まで運ぼうとします。

 

 

「せっちゃん、待って」

「お嬢様!? しかし・・・!」

「アリア先生も、お願いや・・・あの人も助けたってほしいんや」

 

 

あの人とは、千草さんのことでしょうか?

私も驚きましたが、刹那さんの驚きはそれ以上でしょう。

刹那さんにとって千草さんは、憎しみの対象ではあっても救済の対象ではないでしょうから。

 

 

「あの人、悪い人やない思うんよ」

「し、しかしお嬢様・・・!」

「あの人、うちにひどいこと、しぃひんかった」

 

 

誘拐は十分「ひどいこと」の部類に入ると思いますが。

まぁ、誘拐犯にしては人が良いのも確かでしょう。

木乃香さんの魔力が欲しいだけなら、木乃香さんの人格を破壊でもして、人形にすればよかった。

それをしなかった、いえ、できなかった所は千草さんの甘い所なのでしょうね。

 

 

「それに、あの子も」

「あの子?」

「・・・リョウメンスクナノカミ」

「・・・!」

 

 

なぜ、木乃香さんがその名前を。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

なぜ、お嬢様があの鬼のことを・・・スクナのことを知っている?

呪術で眠らされていたはずなのに。

 

 

アリア先生が、私に視線を向けてくるが・・・私は、困惑することしかできない。

私も、教えていない。

天ヶ崎千草が、何か喋ったのか・・・?

 

 

「うち、夢の中であの子とお話してたんよ」

「夢、ですか・・・」

「あの子、寂しいて、泣いてたえ」

 

 

お嬢様は、スクナについて話し出した。

スクナはもともと、飛騨の人々を守護していた聖者だった。

ただ民衆から崇められるその存在を危険視した者達によって、無理矢理に封印された・・・。

その者たちが何者かは、スクナも知らない。

ただ、陰陽師ではなかったとしか、わからない。

以来1600年、この地に封印され続けている。

・・・それは。

 

 

「あの子、一人は嫌やて、泣いてたえ」

「・・・・・・そうですか」

「お嬢様・・・」

「お願いや、せっちゃん、アリア先生。あの子を助けたってほしい。あの子、うちの・・・魔力? か何か、ようわからんけど・・・それ、全部使えば封印も破れるかもしれんのに、使わへんかった」

 

 

お願いや、と、お嬢様は泣きそうな顔で言った。

お優しい方だ、と、思う。

私のようなものと親しくしてくださるだけでも、お優しいのに・・・天ヶ崎千草や、スクナまで。

 

 

私も、お嬢様の願いは叶えたい。

けど私にはそんな力はないし、アリア先生も・・・。

 

 

「・・・・・・私には、もう力が残っていません」

 

 

そう、アリア先生は魔力切れを起こしている。

現に今も、私が運んでいるような状態だ。

けれど、それを責める気分にはなれない。

アリア先生がお嬢様や私のためにしてくれたことを思えば、無理もないことだったからだ。

 

 

「私にはもう、何もできないのです」

 

 

俯いたまま、どこか辛そうな声音でアリア先生は言った。

アリア先生・・・。

 

 

「・・・なら、うちの力は使えへんかな?」

「お嬢様?」

「うちの・・・魔力? なら、なんとかならへん?」

 

 

確かに、お嬢様の魔力は極東一の保有量を誇る。

それ故に、天ヶ崎千草のような人間にも狙われた。

だがお嬢様は陰陽師としても、魔法使いとしても訓練を受けていない。

いくら魔力量が高くても・・・。

 

 

「・・・・・・ひとつだけ」

 

 

ぽつり、と、アリア先生が口を開いた。

どこか迷っているような、アリア先生にしては頼りない声音だった。

 

 

「ひとつだけ・・・方法が、あります」

 

 

 

 

 

Side 千草

 

何をやっとるんやろな、うちは。

 

 

暴れるスクナの肩に必死になってしがみつきながら、うちはそんなことを考えとった。

・・・親の仇を討つんや言うて、必死に術を学んで、20年。

 

 

ようやく、仇の尻尾を掴んで、その方法も考えついて。

月詠はんや小太郎まで巻き込んで。

フェイトはんは・・・協力はしてくれはったけど、何を考えとるかわからへんかったな。

ま、とにかく。

 

 

結局は情に絆されて、この様や。

ほんま、何をやっとるんやろうなぁ・・・。

 

 

・・・堪忍なぁ、お父はん、お母はん。

うち、なんにもできひんかった・・・。

 

 

「・・・・・・なんや?」

 

 

今、何か光って・・・って。

あの子ら、まだ・・・!

 

 

「逃げぇて、言うたやないか!」

 

 

この、阿呆!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『・・・助けが、必要というわけだな? 我が従者(アリア)

「はい、我が主(エヴァさん)

 

 

気取った物言いのエヴァさんに、同じような言い回しで答えます。

事実、エヴァさんしか頼れる人がいません。

 

 

『まったく、しょうがない奴だ・・・・・・まったく、しょうがない奴だな!』

「なんで二回言いましたか」

『まぁ、わかった。とにかく、そのなんとかという鬼の外郭のみを破壊して、中身は傷つけるなと、そういうわけだな?』

「・・・ええ、お願いできますか?」

『ふふん、私を誰だと思っている、任せておけ。ただ、まだ少し距離があるからな・・・一分半、いや、一分、持ち堪えろ。それでなんとかしてやる』

「・・・了解しました。では、一分後に」

 

 

一分。

この力の奔流の中では、致命的にまでに長い。

エヴァさんとの念話を切り、木乃香さんと刹那さんを、見ます。

 

 

「・・・用意は、良いですか?」

「「はい(な)!」」

 

 

元気よく答えてくれる、木乃香さんと刹那さん。

そして私の胸に回されている木乃香さんの手に、触れます。

・・・正直なところ、気が乗りません。

生徒から・・・。

 

 

「アリア先生」

「・・・なんでしょう、木乃香さん」

 

 

きゅっ、と、私の手を握り返してくる木乃香さん。

その顔には、どこまでも優しい微笑み。

 

 

「うちの友達を、助けてください」

「・・・その願い、引き受けました」

 

 

・・・それが、貴女の望みならば。

木乃香さんの手を強く握り、そして、『全てを喰らう』・・・!

極東一と言われる木乃香さんの魔力を、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で取りこみます。

 

 

「んんっ・・・!」

 

 

魔力を奪われる独特の感覚に、木乃香さんが身をよじります。

・・・生徒から魔力を奪うと言うのは、気分の良いものではありませんね。

木乃香さんの魔力残量の半分ほどを吸収した後、手を放します。

 

 

「・・・魔法具、『天使のはね』」

 

 

少しぐったりしている木乃香さんを刹那さんに任せて、魔法具を使用します。

『天使のはね』は、使用者の身体を浮遊状態にする魔法具です。

高速では飛行できませんが、コストが低く、扱いが容易です。

 

 

「あ~、アリア先生、きれ~な羽根。せっちゃんとお揃いやね」

「お、お嬢様・・・」

 

 

私の背中に生えた羽根を見て、木乃香さんは羨ましそうな視線を向けてきます。

・・・なんでしたら、後でさしあげましょうか。

 

 

「・・・刹那さん。木乃香さんを安全な所へ」

「は、はい!」

「アリア先生・・・」

「・・・お任せください。木乃香さんの力、無駄にはしません」

 

 

にこり、と、笑うと、木乃香さんも安心したように、ほにゃ、と、笑ってくれました。

その信頼に、応えるために。

荒れ狂うスクナを前に、一振りの刀を創造します。

 

 

「・・・轟きなさい、『天譴』」

 

 

・・・2人は、離れましたね。

 

 

「卍解」

 

 

かっ・・・と、私の真下の湖から、白い閃光。

そこから現れたのは、数十メートルはある漆黒の鎧武者。

 

 

「・・・『黒縄天譴明王』・・・!」

 

 

私の動きに合わせて動くこの巨人で、スクナを、押さえ付けます!

しかし、スクナも当然、抵抗します。

 

 

グウゥゥオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!!!

 

 

咆哮と共に放たれる雷撃。

それが鎧武者の身体を打つたびに、私の身体にも同じだけのダメージが・・・!

 

 

「この、おとなしく、しなさい!」

 

 

しかし、制御を離れたスクナは、手のつけようがありません。

いつまでも、もたない。腕が4本あるというのが、特に不味い。

まだですか・・・。

 

 

グウゥゥオオオオオオオォォォォォォンッッ!!!!

 

 

スクナの2本の腕は、鎧武者で押さえられますが、残りの2本に、押し切られ・・・!

殴られました!

倒れる・・・!

 

 

まだですか。

 

 

 

「・・・エヴァさん!」

「なんだ、アリア?」

 

 

 

不意に。

不意に、背後から、抱きすくめられるのを感じました。

 

 

「来たぞ、アリア」

 

 

にかっ、と、どこかシニカルで、悪戯者のような笑みを浮かべるエヴァさんがそこにいました。

エヴァさんは私の頭を、くしゃ、と撫でました。

・・・照れます。

 

 

「良く頑張ったな、アリア。ま、私に言わせれば、まだまだ、だがな」

 

 

『黒縄天譴明王』を、解除。

エヴァさんの、後ろに。

 

 

「私が今から、最強の魔法使いの最高の力というものを見せてやろう。いいか、よーく見ておけよ! よくな!!」

「だからなぜ、二回言うのですか」

「大事なことだからだ!」

 

 

身体中から魔力を発しながら、エヴァさんが魔法の詠唱に入ります。

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 契約に従い我に従え、氷の女王、来れ!『とこしえのやみ えいえんのひょうが』!!」

 

 

放たれるのは、広域凍結呪文。

『複写眼(アルファ・スティグマ)』で解析する限りにおいて、最大範囲は150フィート四方。

まともに受ければ、避けることも、防ぐこともできない。

強力にして無比なる殲滅魔法。

 

 

スクナでさえも、ひとたまりもなく凍結してしまいました。

・・・中身は傷つけないでくださいよ。

 

 

「全ての命ある者に等しき死を、其は安らぎ也・・・『おわるせかい』」

 

 

ぱちんっ・・・と、エヴァさんが指を鳴らした瞬間。

全てのものが、砕けて消えました。

・・・千草さん、生きてるといいですけど。

 

 

「アハハハハハッ・・・バカめ、それなりの力を持っていたようだが、この最強無敵の悪の魔法使い、<闇の福音>の敵ではないわ! アハハハハハハハハハッ!!」

 

 

圧倒的な勝利に、高笑いするエヴァさん。

なんというか、自分があれほど手こずっていた相手を一瞬で倒されるというのは、妙な気分になりますね。

流石は、ラスボスと言ったところでしょうか。

 

 

「くくく・・・どーだ、アリア! この私の圧倒的な力をしかとその目に焼き付けたか!?」

「・・・はい。流石はエヴァさんですね」

「そーか! そーか、そーか!」

 

 

腰に手を当てて高笑いするエヴァさん。そんなに嬉しいんですか・・・。

 

 

「そういえば、茶々丸さんは?」

「あはははは・・・む? 茶々丸なら旅館だ。さよを一人にするわけにもいかんしな」

「そうですか」

 

 

本当に意外と面倒見いいんですよね。

さて・・・。

 

 

「・・・それで、なんだ。アリア、お前ので、デートの相手というのはどいつだ? 今すぐ氷漬けにして・・・って、おいコラ、どこに行く!?」

 

 

 

 

 

Side 千草

 

し、死ぬかと思うた・・・。

 

 

「さ、寒・・・」

 

 

氷漬けになったスクナの残骸から這い出ながら、命のありがたみを噛み締める。

 

 

誰かは知らんけどスクナを倒すとは、化物やな。

まぁ、しゃあない。

命が助かっただけ、儲けもんやろ。

 

 

「とりあえず、ここから離れて・・・」

 

 

一度逃げて、仕切り直しやな。

小太郎達も拾えるとええんやけど・・・。

 

 

「天ヶ崎千草さん」

「・・・っ!」

 

 

例の白い子・・・アリアはんが、空から降りてきた。

さっきの、スクナを倒したらしい金髪の子も一緒やった。

・・・終わった、な。

 

 

「・・・うちを、捕まえに来たんか? それとも、殺しに来たんか?」

「当然だろ? それともお前は、他人を傷つけておいて自分が傷つく覚悟はない、とか言うつもりなのか? ・・・三流の悪党だな」

 

 

金髪の子がバカにしたような目で、うちを見る。

アリアはんは・・・なんの感情も見えへんな。よくわからん。

 

 

はは、まさか、こんなお嬢ちゃん2人にやられるなんてな。

夢にも思わんかったわ。

 

 

「・・・個人的には、貴女にはさほど興味はありません。むしろこの場で首を刎ねてさしあげても良いのですが・・・」

 

 

ぶんっ・・・と、いつの間にか持っとった西洋物の剣を、うちに突きつけてくるアリアはん。

 

 

「・・・魔法具、『バルトアンデルスの剣』」

「・・・なんの、つもりや」

「取引です」

 

 

取引?

 

 

「天ヶ崎千草さん。私に協力してください。その代わりに、命を助けてさしあげます」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

身体に直接、攻撃を受けたのは初めてだった。

正直、アリアの力があれほどとは思わなかった。

 

 

「それに・・・<闇の福音>」

 

 

真祖の吸血鬼までもが出てくるとは、思わなかった。

 

 

今回、僕が受けた任務は2つ。

一つは、リョウメンスクナノカミの調査。

かの鬼神の力を手に入れること。これは、すでに達成済み。

 

 

もう一つは、サウザンドマスターの子供達が、今後こちらの脅威となるかどうか。

アリアに関しては、もう十分だろう。

実力は十分に脅威だ。ただ、敵対するかどうかは、まだわからない。

兄の方は・・・。

 

 

視界には、自分の生徒に囲まれているネギ・スプリングフィールドの姿がある。

サウザンドマスターの息子。アリアの兄。

 

 

・・・試させてもらうとしようか。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「す、すごい・・・」

 

 

エヴァンジェリンさんの魔法が、一撃であの大きな鬼を倒した。

前に学園で戦った時には、あんな力は使われなかった。

あれが、エヴァンジェリンさんの本当の力なんだ。

 

 

僕も、あれくらい強くなれたら。

 

 

それに少しの間だけど、スクナと戦ったあの巨人。

あれは、アリアの魔法具・・・?

 

 

少し前から、アリアの魔法具の力がすごいって言うのはわかってるつもりだった。

どうやって、アリアはあんな魔法具を手に入れたんだろう?

 

 

僕もいくつか魔法具は持ってるけど、アリアの魔法具はそれとはまったく違う物みたいだ。

今度、聞いてみよう。

教えてくれるといいな・・・。

 

 

「う・・・」

 

 

み、右手が・・・!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「ネギ、どうしたの!?」

「あ、兄貴~!」

 

 

ネギ先生達とは少し離れた位置に、お嬢様と共に降りる。

すると、ネギ先生達の方が騒がしかった。

何かあったのだろうか・・・?

 

 

「どうかしましたか?」

「あ、刹那さん・・・に、木乃香! 無事だったのね!」

「せっちゃん達が助けてくれたから、大丈夫やえ。って、ネギ君どないしたん!?」

 

 

ネギ先生の右手が、ほとんど石化していた。

おそらくは、フェイトの石化魔法を、掠らせるかどうかしたのだろう。

 

 

それが、右肩のあたりまで浸食している。

このままなら完全石化まで・・・いや、それ以前に首に達した段階で窒息しかねない。

実際ネギ先生の顔色は悪く、息も荒い。

危険な状態だ。

 

 

「ど、どど、どうすんのよ!?」

「どうするもこうするも・・・そうだ! 木乃香の姐さん、ネギの兄貴にちょっとチュウしてくんねーか!?」

「へ?」

「この非常時に何言ってんのよっ!?」

「いや、違ぇよ姐さん! 仮契約だよ仮契約!」

 

 

仮契約。

その単語を聞いた時、私は反射的にお嬢様の前に立った。

まるで、背中に隠すように。

・・・・・・え?

 

 

「どないしたん、せっちゃん?」

「え!? い、いえその・・・」

 

 

自分でも、どうしてこんな行動に出たのかはわからない。

だから不思議そうなお嬢様に、明瞭な答えを返すことができなかった。

 

 

「・・・と、いうわけさ。わかったか明日菜の姐さん!」

「よ、よくわかんないけど、木乃香がネギと仮契約すると、ネギが助かるっていうのは、わかった!」

「そこしかわかんなかったのかよ!?」

 

 

お嬢様の潜在力なら、確かに何かのきっかけさえあれば、すぐに開花するだろう。

それこそネギ先生の石化を治癒するだけの効果は、望めるかもしれない。

ただ、それで仮契約、というのはどうなのだろうか。

なんというか、こう・・・引っかかる。

 

 

「ひゃっ・・・お、押さんといてぇな、せっちゃん」

「ふぇ!? あ、も、申し訳ありません!」

 

 

どうやら背中にお嬢様を隠したまま、下がろうとしたらしい。

ど、どうしてこんな行動に出るのか、わからない。

 

 

「さぁ、木乃香の姐さ「だ、駄目です!」んなっ!?」

「刹那さん?」

「せっちゃん?」

「え、あ、その、駄目というか、その・・・そう! あ、アリア先生の意見も伺った方が・・・!」

 

 

わたわたと無様に手を上げ下げしながら、言葉を絞り出す。

な、何をやっているんだ、私は!

 

 

「アリアの姐さんは今、いねーじゃねーか!」

「そ、それは、そうなんですけど・・・」

「時間がねーんだ、早くしねぇと兄貴が!」

「・・・せっちゃん。うち、構へんよ」

「お嬢様!? し、しかし・・・」

「ネギ君を助けるのに、せなあかんのやろ? その、か、仮契約? とかいうやつ」

 

 

ま、待ってくださいお嬢様。

具体的には、アリア先生が戻られるまで・・・!

しかしお嬢様は私の背中から離れて、ネギ先生の下へ。

 

 

「さぁ、木乃香の姐さん!」

「わかったえ」

 

 

ど、どうする。どうすれば。

ネギ先生を見殺しにすることは、確かにできない。

なんらかの方法で助けなければ。

けれどその手段が、ネギ先生とお嬢様の仮契約というのは、心のどこかで引っかかる。

駄目だと叫ぶ、自分がいる。

どうすれば・・・!

 

 

「・・・何か、随分と盛り上がっているようですね」

「アリア先・・・生?」

 

 

待ちかねたその声に振り向けば。

そこには。

 

 

そこには、左眼から血を流してエヴァさんに肩を借りて立つ、アリア先生がいた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ぐぇあっ!?」

 

 

とりあえず、下等生物を踏み潰しておきます。

人がいないことを良いことに、このカモは・・・。

 

 

「まったく・・・それで、どういう状況ですか?」

「ネギが・・・って、アリア先生、それ、大丈夫なの?」

 

 

明日菜さんが心配そうな声を上げるのは、私の左眼が原因でしょうか。

現在、だくだくと血を流しています。

ついでに言えば右眼も限界ギリギリで、物が霞んで見えます。

魔眼の機能は、ほぼ使えない状態です。

 

 

「あ、アリア先生、その、ひょっとして、それ・・・うちの、せい?」

「木乃香さんが心配するようなことでは、ありませんよ」

「でも、先生・・・」

「刹那さんが心配することでも、ありません」

 

 

ちゃんと笑えているのかどうかわかりませんが、安心させるべく、笑顔を浮かべます。

 

 

「エヴァちゃん、すごい魔法使いなんでしょ? ネギを治すことってできない?」

「エヴァちゃん言うな。・・・あと私は治癒系は苦手なんだ、不死だから」

「そ、そんな・・・」

 

 

悲壮な表情を浮かべる明日菜さん。

・・・まぁ、流石にこのまま死なせるわけにはいきませんね。

最後のなけなしの魔力を振り絞って、石化解除の魔法具を創ります。

 

 

その名も、『金の針』。

大抵の石化を解除する、金色の針です。

・・・村の皆には、効果がありませんでしたけど。

 

 

『金の針』を、兄様の石化した腕に突き刺します。

すると瞬時のうちに石化が解除され、針も砕けて消えます。

そして、兄様の意識も回復します。

 

 

「すごい・・・」

「なんだ、その魔法具? 私も見たことが無いぞ」

「こう見えて私、石化に関してはプロですよ?」

 

 

魔法学校の専攻も呪いの解除に関する研究でしたし。

あくまで本職は補助・回復ならびに解呪なんですってば。

 

 

「あ、アリア・・・・・・その、あ、ありがとう」

「・・・いえいえ、兄様も、先ほど、私を助けようとしてくださったでしょう?」

 

 

まぁ、正直、手出し無用でお願いしたかったのですが。

兄様の立場からすれば、仕方のない判断だったのでしょう。

 

 

兄様に手を差し伸べると、少し驚いた顔で固まりました。

・・・失礼な兄様ですね。

兄様はまず明日菜さんを見て、木乃香さんを見て、刹那さんを見て、最後にエヴァさんを見てから――その間待つ私って優しい――手を伸ばしてきました。

そして。

 

 

「・・・っ」

 

 

霞む右眼、『複写眼(アルファ・スティグマ)』の視界の中で、見覚えのある魔法構成と、存在を確認しました。

フェイトさん。

 

 

「障壁突破、『石の槍』!」

 

 

再現されるいつかの奇襲。しかし今の私は、魔力が無い。

狙いは、兄様ですか。

とっさに、兄様を突き飛ばし、皆さんを庇うように、前に。

石化の効果は、『リボン』で消せる、けれど。

 

 

 

ズムッ・・・という鈍い音、次いでお腹から走る灼熱感。

かふっ・・・と肺から息が漏れ、臓器の潰れる音と骨の折れる音が脳内に響きます。

 

 

 

一瞬、私とフェイトさんの視線が交わります。

私の血が、フェイトさんに触れる。

瞬間。

 

 

 

<て せい  てみ  、な  い、こ >

<  くもあ ま 、た   んぎ  だ>

 

 

 

え?

 

 

 

< んし をこ  つ りでつ  たの >

<  らはそ   だ ら、まぁ、つ  て れ ?>

<ま、そ  お し い  >

 

 

 

擦り切れたような、声が。

声が。

 

 

 

<そ  して 、よ  ごく だ ぇ>

<げ   きな  どう  る >

<たの め  、  で い  >

 

 

 

・・・誰?

貴方達は、誰?

だ・・・。

 

 

 

「・・・貴様ぁっ!!!」

 

 

エヴァさんの怒声。

現実に、意識が戻る。

 

 

悲鳴が響き渡る中、エヴァさんが倒れる私と入れ替わるように飛び出し、フェイトさんを殴り飛ばしたところまでは見えましたが・・・そこからは、ちょっと見ている場合ではありません。

ヤバいですね、死ぬかもしれません。

 

 

「アリア先生!?」

「し、しっかりしてください!!」

 

 

刹那さんと木乃香さんが私を支え起こしてくれますが、すでに下半身の感覚がありません。

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』が無い今、自動回復は望めません。

と、というか、意識が・・・。

 

 

く・・・。

 

 

ま、まだ・・・が・・・あ・・・に・・・。

あ・・・。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

・・・。

 

 

 

 

ねえさま。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
死にました・・・。
え、本当に?


今回使用した魔法具は、以下の通りです。
『天使のはね』:元ネタは「FF」、提供者はプチ魔王様です。
『黒縄天譴明王』:元ネタは「ブリーチ」、提供はギャラリー様です。
『バルトアンデルスの剣』:元ネタは、「オーフェン」です。
提供者は、月音様です。
『金の針』:元ネタは、「FF」です。
提供は、ケイン青川様、プチ魔王様です。
ありがとうございます。

では、またお会いできることを、祈っております。
・・・会えますよね?


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第30話続編「直後」

Side ???

 

目を覚ましてみると、そこは外だった。

外の世界の感触に、渇望してやまなかったその実感に、涙を流した。

涙を流せることに、感謝した。

 

 

そして意識を改めて外に向ければ、少し離れた所に、恩人の気配を感じる。

だが、ひどく弱い。

今にも消えてしまいそうなほどに。

 

 

――――――行かないと――――――。

 

 

そう思うだけで、自分はそこに行ける。

そう、行けるのだ。その事実に、また嬉しくなる。

まだ、本調子、全快というわけでは、ないけれど。

 

 

自分はもはや、何者にも縛られていないのだから――――。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

音が、聞こえなかった。

倒れたアリアの周りで、エヴァンジェリンさん達が何か叫んでいるけど、よく、聞こえなかった。

明日菜さんやカモ君が、耳元で何かを言っているけど、それも、聞こえない。

 

 

もしかしたら、僕も何か、喋っていたかもしれない。

だけど、それも、聞こえない。

 

 

何も、聞こえなかった。

 

 

ただ、倒れたアリアだけを、見ていた。

アリアのお腹が、半分、なくなってた。

どうしてアリアが、ああなっているのか、わからなかった。

 

 

僕を庇った。

どうして庇われたのか、わからなかった。

どうしてアリアは。

 

 

どうしてアリアは、いつも、当たり前みたいに、誰かを庇えるんだろう。

誰かを助けることが、できるんだろう。

まるで。

 

 

まるで、お父さんみたいに・・・。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

アリア先生が刺された瞬間、時間が止まった。

それほどの衝撃が、私を襲った。

 

 

実際には、時間が止まるなどありえない。

その証拠に私の身体は、気付かない内に、動いていた。

 

 

悲鳴のような、あるいは悲鳴にすらなっていない何かを叫びながら、刀を振り上げて、地面から隆起して、アリア先生を貫いている石の槍を、切り裂いた。

地面に倒れるアリア先生を、泣きそうな顔をしたお嬢様が抱きとめる。

 

 

お嬢様にこんな惨状を見せてしまった失態に、死にたくなる気持ちになった。

だが、今は。

 

 

「アリア先生っ!!」

 

 

夕凪を地面に刺して、アリア先生の側へ、すぐに、手当を・・・!

手当をしようとして、愕然とする。

石の槍による損傷は、腹部の半分を抉っていた。

 

 

本来ならすぐにでも槍の残りを抜いて、傷を塞ごうとするのだが・・・。

抜けば、上半身と下半身が別れてしまいかねない。

そのあまりにも大きすぎる傷に、私は、どうすることもできなかった。

明らかに、致命傷。

 

 

私には、どうすることも・・・。

 

 

「・・・っ!」

 

 

違う、諦めるなっ!!

アリア先生はまだ、生きてる。こんなになっても、まだ。

五体満足な私が、先に諦めてどうするっ・・・!

 

 

絶対に、死なせないっ・・・!!

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

抱きとめたアリア先生の身体は、もう、冷たくなりかけとる。

力が無くて、ぐったりとして・・・。

血が流れて、うちの身体についてまうけど、そんなん、気にしてられへん

 

 

うちのせいや・・・!

うちが、あんなお願いしたからっ・・・!

 

 

何かしたい。

でも、何をしたらええんか、わかれへん。

こんな時に、何をしたらええんかなんて、わかれへんよっ・・・!

 

 

でも、何かせなあかんいうのは、わかる。

その何かが、わかれへん・・・!

 

 

するとアリア先生の目が、少しずつ、下がって・・・あかん、あかんよ!

お願いや、死なんといてっ!!

 

 

「目、閉じたらあかんてっ・・・!!」

 

 

嫌や、諦めへん!

絶対に、死なさへんっ・・・!!

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

なんだ、これは。

 

 

「やはり、『真祖の吸血鬼』が相手では、分が悪い、ね・・・」

 

 

そんなことを言い残して、水でできた分身だった若造は、消えた。

 

 

白髪の若造の身体を砕き、後ろを振り向いてみれば。

そこには身体の中央が深く抉れ、赤い水たまりに沈むアリアの姿。

目の前が急に暗くなったかのような、錯覚を覚える。

絶望の感覚。

 

 

「アリア先生っ!!」

「目、閉じたらあかんてっ・・・!!」

 

 

その悲鳴のような声に、我に返る。

唇を噛み千切り、感覚を戻す。

まだだ、まだ、絶望するには早い・・・!

 

 

「どけっ!」

「エヴァンジェリンさん!?」

 

 

近衛木乃香と桜咲刹那を押しのけて、アリアの身体を支える。

頭を膝の上に乗せると、まだ、かろうじて息をしているのを感じた。

 

 

腹部の損傷があまりに大きい、とりあえず凍結させて出血を防ぐ。

これでも、大した時間稼ぎにはならんだろう。

普段のアリアなら魔力を流し込むだけで再生するが、今はできない。

左眼の魔眼が、こんな時に限って・・・!

 

 

「え、エヴァちゃん、アリア先生、大丈夫よね!?」

 

 

神楽坂明日菜が、顔面を蒼白にしたぼーやを支えながらそんなことを聞いてくる。

だがそんなことは、私が聞きたいくらいだ!

 

 

「う、うちのせいや、うちが、あんなお願いしたから・・・!」

「お、お嬢様のせいでは・・・」

「けど!」

「やかましい! 黙れ小娘どもっ!!」

 

 

ぴーぴーと、うるさい小娘どもを黙らせる。

その間にも、アリアを救う方法を考える。

何か、何かあるはずだ、何か・・・!

 

 

「そ、そうだ! 木乃香の姐さんが仮契約すれば・・・!」

「そ、そうですよ。木乃香さんの力なら!」

「ぼーやも小動物も黙れ!! 魔法使いとして何の訓練も受けていない近衛木乃香が、これだけの怪我を治癒できるか!!」

「け、けど、シネマ村では、刹那さんの矢傷を・・・」

「怪我の規模が違う! いいか、治癒魔法というのは、怪我が大きくなればなるほど、難しいんだよ! なぜなら、医療としての知識が前提として必要だからだ!!」

 

 

直接は見ていないから確かなことは言えんが、桜咲刹那の受けた矢傷とは、肩に当たったかどうか程度だろう。

それなら何の予備知識が無くとも、力技で傷を塞ぐこともできるだろう。

だがこのアリアの傷は、明らかに臓器や骨格の知識が無ければ治癒できない。

 

 

なぜ、なぜ私はもっと、治癒魔法を学ばなかった。

自分は不死だからと、人間と共に在ることはないと、放り出した過去の自分が憎い。

 

 

「け、けどよ、もしかしたら、治癒系のアーティ」

「そんな不確かな可能性に懸けられるか!!」

「け、けど、うちが」

「黙っていろと言ったはずだぞ近衛木乃香! だいたい、なんでアリアがこんな怪我をして死にかけてると思っている! お前を、こちら側に関わらせないためだろうが!!」

 

 

仮契約をしてしまえば、確実に戻れなくなる。

考えただけでも、ぞっとする。

 

 

近衛木乃香が、アリア・スプリングフィールドの従者になる。

西の長の一人娘が、西洋魔法使いの英雄の子の従者になる。

サムライマスターの子が、サウザンドマスターの娘の従者になる。

 

 

それが何を意味するのか、わかっているのか!?

それを・・・。

 

 

「それを、簡単に仮契約、仮契約と・・・恥を知れ!!」

「ち、ちょっと、言いすぎじゃ・・・」

 

 

神楽坂明日菜が何か言っていたが、私はそれ以上、ぼーやと小動物に構うつもりはなかった。

私だって。

私だって、近衛木乃香を巻き込んでアリアを救えるなら、そうしたいさ!

だが、アリアはそれを望まない。

 

 

アリアは、自分の生徒から従者を作ることを避けていた。

恐怖していたと言っても良い。

それは、私やさよと仮契約した時に、嫌というほど味わった。

 

 

あの時、私は誓った。

二度と、アリアを傷つけないと、たとえ。

たとえ、それでアリアが、命を失ってしまったとしても・・・!

 

 

「・・・何を迷っているんだい?」

「お前は・・・!」

 

 

さっき砕いたはずの、白髪の若造が、何食わぬ顔で、立っていた。

桜咲刹那が、刀を構えて、近衛木乃香の前に立つ。

その視線は、憎しみの色に染まっていた。

私も、おそらくは同じ色の目をしているだろう。

 

 

「近衛のお姫様を使わないなら、方法はひとつだと思うけどね」

「何を・・・!」

「キミになら、わかるだろう? ・・・『真祖の吸血鬼』」

「あんた! アリア先生にこんなことして・・・!」

「『真祖の吸血鬼』」

 

 

わざわざ白髪は、二度繰り返して私を吸血鬼と呼んだ。

真祖の、吸血鬼と・・・。

吸血鬼。

 

 

「・・・まさか、お前・・・」

「え、エヴァちゃん?」

「私に、アリアを噛めと、そう言っているのか・・・!?」

 

 

周囲の連中は首をかしげているが、白髪だけはその意味を知っているからか表情を変えない。

・・・私が、アリアを噛む。

真祖の吸血鬼である私が、人間であるアリアを、噛む。

 

 

 

――――吸血鬼化――――

 

 

 

血を吸った相手を仮初の吸血鬼にするのとは、意味が違う。

アリアを本当の意味で、私の眷属にするということだ。

永遠の世界に、引きずり込めと。

 

 

「他に、方法があるかい?」

 

 

膝の上の、アリアを見る。

顔色は、もはや青を通り過ぎて白くなっている。

生気が、だんだんと感じられなくなっている。

このままでは、死ぬ。

 

 

確かに吸血鬼化に成功すれば、アリアは助かる可能性は高い。

だがそれは同時に、アリアが、アリアで無くなってしまうことを意味する。

外見上は、確かにアリアそのものかもしれん。

だがそれは、アリアとは別の、何かだ。

 

 

記憶も、能力も、人格も、全てがアリアと同一のものだ。

だが、それは。

私と同じ、本当の意味での化物になってしまうということだ。

永遠の夜に、アリアを閉じ込めるということに他ならない。

 

 

「やるのなら、早くした方が良いよ」

「・・・黙れ・・・」

「僕としても、彼女に死なれると、困る」

「だぁまぁれぇぇっ!!」

 

 

渾身の力を込めて腕を振り、魔力を込めた衝撃波を、白髪に放つ。

まだ何か言おうとしていたらしい白髪は、しかし、上半身を吹き飛ばされて。

ぱしゃん、と、水になって消えた。幻像か・・・!

 

 

「エヴァンジェリンさん! アリア先生が!!」

「アリア先生、息してない・・・!」

「なんだと・・・!」

 

 

首に指を当てると、脈がない。

口元に手をやれば、呼吸の気配がない。

胸に手をやれば、かろうじて心臓の鼓動。

だが、今にも止まろうと。

 

 

「・・・・・・駄目だ!!」

 

 

嫌だ、アリアを失いたくない!

だが、アリアを傷つけるやり方で救いたくもない!

それならば、せめて。

 

 

せめて、私が憎まれる形ででも、生きてほしい・・・!

こんな所で、こんな、じじぃどものせいで死ぬなんて、そんなバカなことがあってたまるか・・・!

私の従者を、家族を、こんなことで・・・!!

 

 

かっ・・・と、鋭い八重歯を露出させながら、口を開く。

 

 

恨んでくれていい。憎んでくれてもいい。

許せとは、言わない。

これは、私のエゴだ・・・!

 

 

 

 

 

「死ぬのか、恩人」

 

 

 

 

 

いつの間に、来ていたのか。

そいつは、私のすぐ側に、いた。

 

 

地面にまで届く、長い黒髪。

星を散りばめたかのように輝く、黒い瞳。

病的なまでに、白い肌。

痩せこけた、骨と皮しかないんじゃないかと思う、細い身体。

ぼろぼろの、白い着物を纏ったその身体には、至るところに、鎖のようなもので締めあげられたような跡がある。

 

 

その全身から、尋常でない力を感じる。

 

 

「死んじゃ駄目だ、恩人」

「な、なんだお前は・・・」

 

 

恩人だと?

アリアがか?

 

 

そいつは、ぐすぐすと泣いている近衛木乃香の方を見ると、血色の悪い顔で、それでも爽快に、にかっ、と、笑って。

 

 

「大丈夫だぞ、友達。恩人は、死なない」

「ふぇ・・・?」

「スクナが、助ける」

 

 

スクナだと?

さっき、アリアが、千草とかいう女の手を借りて、大岩の封印に何かをしていたのは、知っている。

東洋魔術に詳しくない私は、ほぼ見ていただけだったが・・・。

千草と別れて、私の方を向いた時は、片目が死んでいたから、「お前バカだろ!?」と、言いたくなった物だが・・・。

 

 

いや、それよりも。

アリアを、助ける?

 

 

「恩人は、スクナを助けてくれた」

 

 

突然現れたそいつは、ぐいっ、と、アリアに顔を近づけた。

 

 

「だから、助ける」

 

 

そして――――――――。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

いきなり現れた男の子が、倒れたアリア先生の側に行って、その・・・・・・まぁ、したら、いきなり、アリア先生の身体が光った。

と、思ったら・・・アリア先生の身体が、元通りになってた。

 

 

エヴァちゃんなんかは、難しそうな説明をしてたけど・・・よくわかんない。

とにかく、アリア先生は助かったって、そういうことでいいんでしょ?

 

 

刹那さんや木乃香は、もう、もの凄く喜んでる。

むしろ、木乃香が助かった時よりも、喜んでるんじゃない?

 

 

「・・・・・・ネギ?」

 

 

ネギが、さっきから、何も言わないで、俯いてた。

カモが、「兄貴~?」と声をかけても、何も返さない。

 

 

と、思ったら、いきなり、走り出し・・・って、ちょ!?

 

 

「ネギ、どこ行くのよ!!」

「あ、兄貴!?」

 

 

慌てて追いかけようとして、アリア先生の方を見る。

アリア先生は倒れたままだったけど、エヴァちゃん達がついてるつもりみたい。

ネギを追いかけるつもりは、なさそう。

 

 

「明日菜の姐さん!」

「わ、わかってるわよ!」

 

 

ああ、もう、面倒なガキなんだから!

 

 

・・・それにしても。

後ろを気にしながら、走る。

 

 

エヴァちゃん達の、ネギを見る目が、なんだか、怖かった。

・・・・・・気のせいよね?

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・助かった、か。

 

 

少し距離の離れた位置から、僕は様子を窺っていた。

どうして、そんなことをしているかは、よくわからない。

自分でも。

 

 

「・・・よかった」

 

 

そもそも、わざわざ新しく分身を作りなおしてあんなことを言いに行く必要はなかったはずだ。

それでも、提示せずにはいられなかった。

アリアを救う、可能性を。

 

 

「よかった」

 

 

右手を、見る。

分身を通して、アリアを刺した感触がまだ残っている。

あの感触を、僕はきっと忘れない。

そんな気がする。

 

 

アリアの、中の感触。

 

 

それに。

 

 

「・・・あの、不快な、声」

 

 

分身を通してだけど、アリアの血に触れた瞬間、そこから火がついたのかと思えるほどに、熱を感じた。

あれは、なんだ?

あんなものは、僕の記憶にない。

なら、アリアの記憶?

わからない。

 

 

・・・・・・もう一度。

 

 

「もう一度、キミに会いに行けば・・・」

 

 

この、不快な気持ちも、理解することができるだろうか。

アリア。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
この度は、たくさんの人から心配されて、とても嬉しく思います。

次話から4日目・・・と言っておきながら、思わず、私が刺された後の話を急遽挿入することになりました。
あまりにも心配されすぎて、「どうなったか」を、詳しく描写したくなったと、そういうことらしいです。

・・・私、喋ってませんね。当然ですが。

では、またお会いしましょう。


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第31話「京都修学旅行編・4日目・午前中」

Side アリア

 

「びっ・・・くりしたぁ・・・」

 

 

死んだと思いました。

打ち切りかと思いましたよ・・・。

 

 

むくりと起き上がり、はたと気づきます。

傷がありません。

どういうわけか、眼も治っているようです。

いつの間にか白い襦袢に変わっている服装。

その上から、身体をぺたぺたと触ります。

 

 

はて、これはいったい、どういう・・・?

 

 

その時。

がらっ・・・と戸が開けられ――和室なので関西呪術協会でしょうか――木乃香さんと刹那さんが、顔を覗かせました。

 

 

「あ、おはようござ「「アリア先生――っ!!」」ぐふぅっ!?」

 

 

いきなり飛びついてくるお二人。

あまりの衝撃に、女の子らしからぬ声を上げてしまったじゃありませんか・・・。

 

 

「せん、アリア先生っ・・・!!」

「よかっ・・・よかったえぇぇ・・・!!」

 

 

そのまま、私の上で泣き始める2人。

え、ちょ、苦しい上に、状況がわかりません・・・!

 

 

「ふん、起きたか」

 

 

ひょこっ、と、エヴァさんも顔を出しました。

そのままドスドスと、枕元までやってきます。

 

 

「・・・具合は、どうだ」

「え、あ、はい・・・なんというか、絶好調です」

「そうか・・・」

 

 

エヴァさんは、そこで目を閉じました。

え、いえ、あの、助けてほしいのですが・・・。

しかし、エヴァさんは、しばらくそのままでした。

木乃香さんと、刹那さんも、泣きっぱなしです。

 

 

・・・そして、次にエヴァさんが、目を開けた、時。

 

 

 

「この、バカがっっっ!!!!!」

 

 

 

比喩でなく、びりびりと、部屋中に、いえ、屋敷中に響き渡る声量で、エヴァさんが怒鳴りました。

私だけでなく刹那さんや木乃香さんも、思わず身をすくめてしまうほど。

 

 

「自分が、何をしたか、わかっているのかっっ!!!」

「え、え、え・・・」

「死にかけたんだぞ、お前は!!・・・いや、一度呼吸も止まって、死んだんだ!!!」

 

 

え、は・・・し、死んだ? 私が?

 

 

「え、エヴァンジェリンさん、落ち着いて・・・」

「せ、せやえ、アリア先生、病み上がりなんやし・・・」

「お前達は、黙ってろ!!」

 

 

あまりの剣幕に、2人も口を噤んでしまいました。

 

 

「なんのつもりでぼーやを庇ったのかは知らんが・・・ヒーローにでもなったつもりかお前は!!」

「そ、そんなつもりは・・・」

「正義の味方ごっこはごめんだと言っていたくせに、いざとなるとそれか!!」

「そ、それは誤解です!」

 

 

私は別に、正義の味方になりたいわけじゃない。

そんな気持ちで、戦ったわけじゃないんです。

 

 

「じゃあなんだ!! アレか!? 死にたがりなのかお前は!?」

「い、いえ、その・・・」

「お前は気持ちよく庇えて満足か知らんが、見てるしかないこっちはな、たまったものじゃないんだよ!!」

「それは・・・その、申し訳ないと思っ」

「謝罪などいらん!!」

 

 

うう、こっちの言い分を聞いてすらもらえません・・・。

 

 

「な、なら、どうすればよかったんですか・・・兄様を見捨てれば良かったと?」

「そうは言わん! 助けたければ助ければいいさ」

「なら」

「だがな!・・・だが、お前の助け方は、間違ってる!」

 

 

助け方が、間違ってる?

 

 

「自分の命やら視力やらを犠牲にしてまで他人を救うなど、バカのやることだ!!」

「・・・でも、助けられる側は、きっと、それでも助けてほしいと、思います」

「だからどうした。それでも自分の命を軽んじて良いということにはならん」

 

 

私は、死にたくは、ないです。

視力を失いたいわけでも、ないです。

でも・・・。

 

 

「でも、私はきっと、同じことをしてしまいます・・・」

「・・・お前は!」

「だって、そうでないと、守れないものもあります・・・」

「お、お前と言う奴はこの、この、この・・・!!」

 

 

どすんっ、と、その場に座り込んで、エヴァさんが、こちらに手を。

ぶたれるっ・・・反射的に、身をすくめてみれば。

 

 

くしゃっ・・・。

 

 

頭に、優しい感覚。

 

 

「バカが・・・」

 

 

エヴァさんは、私の頭に手を置いたまま、俯いてしまいました。

声が、肩が、少し、震えているように見えます。

あ・・・。

 

 

ようやく、事態が少し、飲み込めました。

死にかけたという私。

起きた私を見て泣いた、木乃香さんと刹那さん。

そして、エヴァさん。

私は。

 

 

「・・・・・・エヴァさん」

 

 

頭に乗せられたエヴァさんの手を、両手で、包んで、顔に押し付けるように、握りました。

目が、熱いのは、怪我のせいではないでしょう。

 

 

「・・・い・・・」

 

 

エヴァさんは、遺される側のことを考えろとか、他人など捨て置けとか、そういうことを、言っているわけじゃ、ないんだ・・・。

ただ、私を。

 

 

「・・・め、なさ・・・」

 

 

私は、バカだ。

結局、自分のことしか、考えてない・・・。

私は。

 

 

「・・・ごめん、なさ、い・・・」

 

 

私は、こんなにも、想われていたのに・・・。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

私は、何か、勘違いをしていなかっただろうか。

昨夜の、そして今のアリア先生の姿を見て、強く、そう思う。

 

 

アリア先生が、傷ついたり、負けたりしない、自分とは違う完璧な存在だと、思っていなかっただろうか?

決めつけて、いなかっただろうか?

 

 

アリア先生だって、無理をすれば疲れるし、無茶を言われれば困る、普通の人間だと、忘れていなかっただろうか?

思い込んで、いなかっただろうか?

 

 

私は、アリア先生が優しいのを良いことに、甘えすぎていなかっただろうか。

寄りかかりすぎて、いなかっただろうか。

 

 

・・・後悔ばかりが、浮かんでは消えていく。

もし次があるのならばその時はと、考えてしまう自分が、嫌だった。

もう私には、「次」などないのに・・・。

 

 

結局、私は最後まで、アリア先生に迷惑をかけることしかできない・・・。

 

 

しばらくの間、静かな時間が過ぎた。

 

 

アリア先生が落ち着いた頃には、私も冷静な状態に戻っていた。

ただ先ほどの醜態を思い出すと、顔が熱くなるのを感じる。

まさか、アリア先生に飛びついてしまうとは・・・。

 

 

それにしても、アリア先生が助かって本当に良かった。

お嬢様などは、まだ涙ぐんでいる。

 

 

「それで、あの、エヴァさん」

「何だ?」

「私は、どうやって・・・?」

 

 

アリア先生が不安そうな顔で、お嬢様を見た。

あれだけの重傷を治そうと思えば、確かに最初に思い浮かぶのは、お嬢様だろう。

ただ。

 

 

「安心しろ。近衛木乃香は誰とも仮契約していない」

 

 

その言葉に、アリア先生はほっとした表情を浮かべた。

そうお嬢様は、誰とも仮契約を結んでいない。

では、どうやってアリア先生が助かったのかというと。

 

 

「恩人が、起きたんだぞ!」

 

 

どたばたと、廊下を走ってくる音が聞こえてきた。

エヴァンジェリンさんが、「ちょうどいい」と、やってきた者を、部屋に招き入れた。

 

 

それは、少し血色の悪い黒髪黒瞳の男の子だった。

年は、アリア先生と同じくらいに見える。

彼は布団から身を起こしたアリア先生を見ると、嬉しそうに笑った。

 

 

「起きたか、恩人!」

「貴方は・・・」

「こいつが、お前の命を救った」

「おう、恩人は恩人だからな! 助けるのは当たり前だぞ!」

 

 

人懐っこそうな笑みを浮かべて、大きな声で喋る。

まるで、話せることが嬉しくて仕方がない、と言わんばかりに。

ただ、私の立場からすると複雑だ・・・。

 

 

彼は笑って、言った。

 

 

「スクナは、恩人を見捨てないんだぞ!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「じゃあ、お父様呼んでくるわ~」

 

 

あれから簡単に事情を説明してもらい、木乃香さんは詠春さんを呼びに行きました。

私はというと、頭を抱えて布団の上で丸まっていました。

なぜならば・・・。

 

 

サードキスッ・・・!

しかも、相手は男の子っ・・・!

「男の子じゃないからノーカウント」と、言い聞かせてきたのに・・・!

 

 

女の子にすればよかった!

千草さんの陰陽術の知識と、封印解放の祝詞、それに『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』と『複写眼(アルファ・スティグマ)』の能力をフル活用して、スクナの封印を解除。

『バルトアンデルスの剣』の存在変化の力で、人間形態にしたまでは、よかった。

性別がわからなかったので、「カミ」とつくなら男かな、と、同年代の男の子の姿にしたのが、裏目にっ・・・!

 

 

・・・はっ。

そうです、性別不明なら、きっとノーカウントにっ・・・!

 

 

「どうした、恩人。遊びか?」

「触れてやるな、バカ鬼」

「バカ鬼じゃないぞ。スクナだぞ」

「貴様など、バカ鬼で十分だ」

 

 

私が布団の上でどったんばったんとしていると、当事者、スクナさんが、なんにもわかってない表情でエヴァさんとじゃれていました。

・・・なんだか、気にする方がバカみたいですね。

 

 

「あの・・・先生」

「はい、なんでしょう」

「そ、その、ご相談したいことが、ありまして・・・」

 

 

チラチラとエヴァさん達を見ながら言いにくそうに、刹那さんが、話を切り出してきます。

相談、ね・・・。

 

 

「・・・私達は、席を外した方がよさそうだな」

「す、すみません。エヴァンジェリンさん」

「構わんよ・・・行くぞ、バカ鬼」

「嫌だぞ。恩人の側にいる」

「いいから来い。それとも、また凍らせてやろうか?」

「それは、嫌だぞ・・・」

「だったら来い」

 

 

あれは説得じゃないですよね・・・とか、考えながら、スクナさんを引きずっていくエヴァさんを見送ります。

というか、微妙に仲が良いです。

 

 

「・・・さて、どのようなお話でしょうか?」

 

 

真剣な顔で何かを言おうとしている刹那さんに、できるだけにこやかに答えます。

刹那さんは、幾分か迷った様子で話し出しました。

 

 

「じ、実は私、ここから出ていかなくては、いけなくて・・・」

「・・・烏族の掟ですか?」

「! ご存知でしたか・・・」

「ええ、まぁ」

 

 

知ってはいますが、実際に聞くと何言ってるんだろうこの子って気分になりますね。

なんで自分を迫害した連中の掟を守るんでしょう・・・?

 

 

「・・・あの、非常に申し上げにくいんですけど、木乃香さん、ここからが大変なんだと思います。側にいなくていいんですか?」

「それは・・・先生がいてくれますし、それに、私は・・・」

 

 

えー・・・丸投げですかこの人。

私は最強でも無敵でもないんですってば、今回のことでわかったでしょう。

 

 

「・・・で、貴女はどうしたいんですか?」

「ど、どう・・・?」

「木乃香さんの側にいたいんですか? いたくないんですか?」

「そ、それは・・・」

「どうなんです?」

 

 

私の問いかけに、刹那さんは顔を俯かせ、身体を震わせ始めました。

・・・そんなに無理するなら、掟の方を無視すれば良いのに。

真面目というか律儀というか・・・。

 

 

「でもうちはっ・・・人間やないんや! 一緒にはっ・・・!」

「刹那さん。私は貴女を差別した連中の事はどうでもいいんです」

 

 

なんでしたら、今から行って皆殺しにしてきても良いです。

しませんが。

 

 

「先生・・・」

「貴女は今、自分は人外だから、受け入れられないから出ていくと言いました。でも、本当ですか? 貴女の本当の姿を見て、受け入れてくれた人は、一人もいませんでしたか?」

「・・・いえ、お嬢様は、受け入れてくれました。あと、アリア先生も・・・」

 

 

あら、私も入るのですか。嬉しいですね。

何か、口調も戻りましたし。

あと、ネギ兄様達はカウントされないのでしょうか。

 

 

「なら、あと一息です。貴女次第で・・・どうにでもなります」

「・・・・・・」

 

 

黙り込んでしまう刹那さん。

・・・究極的なことを言えば、刹那さんを留まらせることができる人間は、この世に一人しかいません。

そしてそれは、私ではない。

 

 

でもね刹那さん、私は、思うのです。

貴女が一人で生きれば、それで、上手くいったことになるのですか?

他人に露見しなければ、それで成功なんですか?

 

 

魔法具『力(パワー)』を発動、殴・・・るのは、不味いので、軽く押します。

 

 

「わっ・・・!?」

 

 

障子を突き破り、外の庭にまで転げ落ちる刹那さん。

あ、これって体罰になるのでしょうか?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

庭に転げ落ちた後、数秒ほど、呆然とした。

・・・え?

 

 

「・・・な、何をっ!」

「桜咲刹那!!」

「・・・っ!?」

 

 

アリア先生の声に、身を固くしてしまう。

 

 

「貴女は、どうしたいんですか!? 貴女がしたいことを言ってくれないと、私、なんにもできないでしょう!?」

「わ、私は」

「胸を張りなさい、背筋を伸ばしなさい、俯かないでください! 諦めないで、見限らないで、自分で勝手に終わらせないで! 簡単に否定しないで、難解な肯定も駄目です!

他のことなんか、どうだっていいから・・・自分の事は、自分で決めなさいっ!!」

 

 

じ、自分で決めろって、言ったって。

他のことは、どうだっていいなんて、そんな考え方。

すぐに、できるわけが・・・。

 

 

「わ、私は・・・」

 

 

したいこと、なんて。

どうしたいかなんて、そんなこと。

 

 

「うちは、お嬢様と・・・このちゃんと、ずっと一緒におりたいっ!」

 

 

それ以外に、何があるって言うんですか・・・!

でも、私は・・・!

そんな私をしばらく見つめた後、アリア先生は、ふぅ、と溜息を吐いた。

 

 

「・・・だ、そうです。木乃香さん」

「ふぇ!?」

 

 

お嬢様の名前に、私は慌てた。

見れば、柱の陰に、お嬢様が。

な、なななっ・・・!

 

 

「・・・せっちゃん」

「おじょ、お嬢様、これは違くてそのっ・・・!」

 

 

近付いてくるお嬢様に、しどろもどろ、あたふたと、していると。

 

 

ぎゅっ・・・と、お嬢様が、私を抱きしめてきた。

え、ちょ、ちょっ・・・!

 

 

「・・・ごめんなぁ」

「え・・・」

「ごめんなぁ、せっちゃん」

 

 

気付いてあげられなくて、ごめん。

そう、お嬢様は、言った。

 

 

・・・そんな。

お嬢様が謝ることなんて、何もないのに。

私はただ、私がしたいことを、しただけなの・・・。

 

 

・・・あ。

なんだ。

 

 

アリア先生に言われるまでもなく、私はもう。

自分のしたいことを、しているじゃないか・・・。

誰に命じられるでもなく。

自分の意思で。

 

 

「こ・・・」

 

 

気付いてみれば、簡単なこと。

けれど、私は臆病者だから。

 

 

「このちゃん・・・!」

 

 

それだけしか、言えなかった。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

なんのホームドラマだ、これは。

 

 

縁側に出てバカ鬼を構っていれば、突然、桜咲刹那が障子を突き破って庭に転げ落ちた。

それでアリアがなにやら怒鳴り散らした後、桜咲刹那は青臭い願いを叫んで、それを近衛木乃香が聞きつけて、2人で抱き合って涙を流す。

 

 

そのアリア自身は、娘に連れて来られたらしい近衛詠春と共に、奥の部屋に行ったが・・・。

小娘2人の友情物語を見せ付けられている私は、どうすればいいのだ?

 

 

「おい吸血鬼。友達はどうした、泣いてるぞ?」

「その呼び方はやめろ・・・別に、悲しくて泣いているわけではない」

 

 

今は桜咲刹那が自分の出生についてや、これまでの護衛で近衛木乃香を避けていた理由などを、ゆっくりと話している所だった。

近衛木乃香はその一つ一つを、頷きながら聞いている。

 

 

「・・・吸血鬼」

「ああ、目を放すなよ」

 

 

周囲から、友好的ではない気配を多分に感じる。

蹴散らしても良いが、状況が良くない。

 

 

ホテルに帰りたいところだが近衛詠春とアリアを二人にしたまま、戻るわけにはいかん。

それに、このバカ鬼だ。

おそらく近衛詠春は、こいつの正体に勘付いているはずだ。

 

 

理由はどうあれ、こいつがいなければアリアは救えなかった。

アリア共々、西の連中の好きにさせるつもりはない。

借りは返す。それが私の主義だ

 

 

あそこで抱き合ってる2人についても、まぁ、守ってやらんこともない。

でなければ、アリアがしたことが意味を失ってしまう。

 

 

私がここにいる限り、アリアの守るべきものに触れさせはしない。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「百歩譲って」

 

 

予想通り、面倒な話を持ってきましたよこの人。

私は内心、頭を抱えていました。

状況は考え得る限り、悪化の一途をたどっています。

 

 

「百歩譲って、卒業までは、木乃香さんを守りましょう」

 

 

木乃香さんは、私の生徒ですから。。

 

 

「・・・ですがそれは、一人の、私の大切な生徒の一人として、保護するという意味で、です。従者として戦力に数えるわけでも、西と東の外交カードにするためでもなく、ましてや、魔法の師なんかになるという意味ではありません」

 

 

そもそも、魔法使えないんですよ、私自身は。

 

 

「・・・それは、理解しています」

「いや、していないでしょう?」

 

 

苦々しい表情の詠春さん。

でも、私の心境はもっと苦しいんですよ。

 

 

「そもそも、今回の事は、貴方と学園長の見通しの甘さが招いたことでしょう。なぜ私がその煽りを喰らわなければならないんですか」

「アリア君の気持ちもわかりますが・・・木乃香はもう魔法に目覚めてしまった。このままでは一部の過激派に利用されてしまうかもしれない。自衛の手段を得る必要がある」

「そうでしょうね。でもそんなことは、彼女が生まれた時点で分かっていたはずでしょう」

 

 

正統な血統に、大きな魔力。

いくら平穏に暮らしてほしいからって、麻帆良に寄越した意味がわからない。

それでは木乃香さんは陰陽師としてではなく、魔法使いとして育てる、そう宣言したも同然。

不満が爆発するのは、目に見えているではありませんか。

 

 

「・・・・・・どうしても、アリア君が引き受けてくれない、と、言うことであれば」

「なんですか?」

「私としては、他の方に頼まざるを得なくなります」

 

 

・・・他?

 

 

「お義父さん・・・学園長か、あるいは、ネギ君」

「・・・本気で、言っているのでしょうか」

「西で木乃香を教育することはもう、できないでしょう」

 

 

そんなこと知りませんよ、貴方の自業自得でしょうが!!

そう叫べれば、どれだけ楽か。

 

 

木乃香さんを、学園長やネギ兄様に、任せる?

学園長やタカミチさんが、一人の生徒のためにそんなに時間を避けるはずがない。

となれば、自然、ネギ兄様が候補になります。

他の魔法先生では、失礼ですが、西と東のトップの血縁者の教育係として不足です。

 

 

木乃香さんが、兄様の庇護(できるかは知りませんが)下に入る。

大戦の英雄の子供2人が、美しく手を取り合うわけですか。

美しすぎて、涙が出ます。

 

 

つまりは、近衛詠春さん、彼は。

自分の娘を使って、私を脅迫しているわけだ。

私がまさに命懸けで木乃香さんを守った姿を見て、通ると思ったわけですか。

その要求が。

この要求を拒否するということは、木乃香さんを見捨てることと、同義です。

 

 

・・・できない。

少なくとも木乃香さん自身が、自分の意思で裏に関わる決意をしない限り。

彼女が、「私の生徒」である限り。

 

 

「・・・・・・条件が、三つ、いえ、四つあります」

「では、引き受けてくれますか?」

 

 

・・・そうせざるを得ない状況を作っておいて、何を。

木乃香さん自身の意思も、確認していないくせに。

 

 

木乃香さんは今、表と裏の、ライン上にいます。

ここで兄様に任せることは、できません。

兄様の能力以前に、あまりにも危険な位置に木乃香さんがいるのです。

少なくとも裏の世界から逃げるだけの、隠れるだけの力を、与える必要があります。

それは、兄様にはできない。

 

 

「条件を、聞きましょう」

「まず一つ、刹那さんをこれまで通り木乃香さんの側に置くこと。理由は、木乃香さんの心を支えられるのが今は彼女しかいないからです。精神面のケアは、私ではできませんから」

「・・・わかりました」

「二つ、木乃香さんを、次期長候補から外してください。将来、木乃香さんが望まない限り、関西での地位を彼女に押し付けないでください。私も、これ以上組織のごたごたに巻き込まれたくありません」

「・・・難しいですが、それも、承りましょう」

「三つ、木乃香さんには魔法に加えて、将来の保険に陰陽術も教えます。つきましては、書庫閲覧の許可を。持ち出しはしませんので」

「・・・良いでしょう。ただ、秘術などもあるので・・・」

「それで構いません」

 

 

もっとも陰陽術の方は、他にあてがあるのですが。

 

 

「最後の一つは、木乃香さんが私の、つまり西洋魔法使いの庇護下にあることを、隠してください」

 

 

幸いなことに、仮契約はしていません。

これなら、誰が木乃香さんの師であっても、ギリギリ、かわせるはずです。

兄様に任せられないのも、これが理由です。

兄様は、簡単に仮契約しそうで怖い・・・。

 

 

「可能な限り早く、自衛手段を教えるつもりですが・・・木乃香さんが、西の長の娘が、西洋魔法使いに師事しているなどということを、知られるわけには、いきません・・・」

 

 

麻帆良にいるというだけでも、もうかなりアウトですが。

それは、この際、仕方がありません。今さらです。

ならせめて、木乃香さんを敵視する人間の数を減らす努力をしておく必要があります。

 

 

ただでさえ、英雄の子供というのは、敵が多いんです・・・。

 

 

木乃香さんはこれまで通り、普通の女の子として麻帆良に戻ったということに、したい。

正直どこまで効果があるか、疑問ですが。

少しでも時間を、稼がないと・・・。

 

 

「・・・・・・最低の父親だと、思っているでしょうね」

「・・・理解は、できますよ。今、貴方が木乃香さんを守ろうとするなら、私を利用した方が一番リスクもコストもかからない・・・」

「・・・・・・木乃香を、お願いします」

 

 

・・・それでも。

それでもね、詠春さん。私は少しだけ、期待もしていたのですよ。

貴方が自分で、木乃香さんを守ろうとしたのならば。

関西呪術協会という不特定多数ではなく、父親として、木乃香さんを優先してくれたのならば。

父親として、娘をただ守ってほしいと、願われたのならば。

 

 

私はきっと、もっと素直な気持ちで、貴方に協力したかもしれないのに。

 

 

それにしてもどうしてこう、私を取り巻く環境は厳しいのでしょう。

兄様くらい楽観的になれば、楽になるのでしょうか・・・。

 

 

・・・お腹が、痛いです。

 

 

「・・・それはそうと、アリア君。私はこれからネギ君達を私達の・・・<紅き翼>の隠れ家に案内するつもりなんですが、良ければ一緒に・・・」

「いえ、私は興味ありませんから。行きたい方でどうぞ」

 

 

正直もう、お腹いっぱいなんです・・・そういえば、昨夜から何も食べてませんね・・・。

それ以前の問題として。

私は先に旅館に戻りたいんです。

教師としての仕事が私を待っているんですよ。

 

 

何か言いたげな詠春さん。

でも、興味ないのは本当ですし・・・。

話は終わったものとして、席を立ちます。

あ、寝巻のままじゃないですか・・・。

 

 

「アリア君」

「何か・・・」

「スクナの封印に、何かしましたか?」

 

 

その、詠春さんの問いに、背中を向けたまま、答える。

 

 

「何も」

 

 

そのまま、扉を開ける私。その顔を。

今の私の口元を他人が見れば、きっと。

三日月の形に歪んでいると、指摘したことでしょう。

 

 

ざまぁ、みろ。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

アリアが、戻ってきた。

その頃にはもう、近衛木乃香達も、すっかり落ち着いている。

そして、桜咲刹那は、ようやく周囲の気配の変化に気付いたようだ。

 

 

・・・遅いわ。バカ者。

 

 

「エヴァさん」

 

 

少し顔色が悪いが、随分と元気を取り戻したアリアは私を見ると笑顔を浮かべた。

な、なんだ?

 

 

「詠春さんが兄様達を連れて、お父様の別荘に行くそうですよ」

「む・・・」

 

 

ナギの、か・・・。

正直、今はアリアの側を離れたくないのだが・・・。

 

 

「刹那さんと木乃香さんを連れて、行ってきてもらえますか?」

「む? お前は・・・ああ、行かんだろうな」

「ええ、行きたくありません。ただ、刹那さん達には私のことを知る上で必要な話も聞けるでしょうし」

 

 

・・・まぁ、近衛詠春も近衛木乃香達には何もせんだろう。

したとしても私がいれば、大抵はなんとかできる。

だが・・・。

 

 

「お前はどうする?」

「ホテルに戻って、仕事です。いつまでもダミーに任せておけませんし」

 

 

想定通りの答え、か・・・。なら。

 

 

「あのバカ鬼も連れていけ、あいつはここに居すぎると不味い」

「・・・でしょうね」

 

 

周囲に視線を向けながら、言う。

桜咲刹那は、身内からの嫌な気配に少々居心地が悪そうだ。

 

 

「・・・2人を、お願いしますね」

「お前こそ、バカ鬼の荷物になるなよ」

「ええ~・・・私の方が荷物なんですか?」

 

 

苦笑するアリアの頭を、軽く小突く。

病み上がりが・・・本当に反省したのか?

 

 

しばらくは、無茶をしないように見張らせてもらうからな。24時間。

 

 

・・・茶々丸が。

 

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は怒られたり怒ったり、諭されたり諭したりで、忙しかったですね。

次話は、私よりも、お父様の隠れ家に向かった兄様や、他の方の描写が多いかもしれませんね。
では、またお会いしましょう。


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第32話「4日目・午後」

Side ネギ

 

昨日、僕はアリアの側にいることができなかった。

僕は、逃げたんだ・・・。

 

 

だって、僕は。

目の前でアリアが死にそうになってるのに、何もできなかった。

あの時だけじゃなくて、僕は結局、何も、できなかったんだ。

何も、誰も、守れなかった。

6年前と違って、力を得たはずなのに・・・。

 

 

それに何よりも、認めたくなかった。

アリアが、人が、死にそうになってる時に、僕は。

アリアを、羨ましいと思ってしまったなんて・・・。

 

 

そんなの、マギステル・マギじゃない。

お父さんとは、全然違う・・・。

 

 

お父さん、か・・・。

長さんにお父さんの事を聞いたけど、結局、ここにもお父さんの手掛かりはなかった。

でも、お父さんがいた部屋を見れただけでも、よかったかな・・・。

 

 

「なー兄貴、本当にアリアの姐さんに会いに行かなくていいんですかい?」

「うん・・・」

 

 

長さんも、もう傷も治ったし、大丈夫って言ってたし・・・。

それに僕のせいであんな大怪我したんだし、きっと会ってくれないよ・・・。

 

 

「・・・いやでも、妹に怪我させ、じゃなくて、怪我したのに行かないってのは」

「いいんだ」

 

 

カモ君はアリアに会いに行った方が良いって言うけど、今の僕じゃ・・・。

もっと強くなって、皆を守れるくらいに強くなれば、きっと。

きっと、アリアも・・・。

 

 

その時、僕の頭に思い浮かんだのは、エヴァンジェリンさんの魔法とアリアの魔法具。

いけないとはわかっていても、どうしても、思ってしまう。

力が欲しい。

大切なものを全部、守れるくらいの力が。

 

 

「・・・ネギ君、ちょっといいかな?」

 

 

長さん?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

・・・なんだか、居心地が悪い。

屋敷にいた頃から、どうも嫌な視線を感じる。

お嬢様・・・このちゃんや、私への敵意などは感じないが、気になる視線だ。

 

 

「なぁ、せっちゃん」

「え、あ、はい、おじょ・・・じゃなく、このちゃん?」

 

 

つい以前の癖で、「お嬢様」と呼んでしまいそうになる。

お嬢様と呼ぶと、かなり不機嫌になってしまうので、注意が必要だ・・・。

 

 

「アリア先生、大丈夫なんかな? 来ぃひんかったけど・・・」

「あ、それは・・・エヴァンジェリンさんによると、仕事があるので、先にホテルに戻るとか」

「スクナちゃんは、どないするんやろ? うち、なんも考えんと、助けてって言うてしもた・・・」

「このちゃん・・・」

 

 

このちゃんは昨夜の騒動から、何かを考えこんでいる。

どうも魔法のことや、昼に話した私の護衛についても、思うところがあったようなのだが・・・。

 

 

「木乃香、刹那君」

「! 長・・・」

「お父様?」

 

 

ネギ先生と何かを話していた長が、こちらへやってきた。

ネギ先生はなぜ、ここにいるのだろう・・・?

いや、そもそもネギ先生の希望で、長はここに連れてきているわけだが。

アリア先生のことを抜きにしても、アリア先生と同じように、仕事があると思うのだが・・・。

 

 

私の目礼に応えた後、長はこのちゃんの方を向き、話し始めた。

 

 

「木乃香・・・今回の事、いや、それだけじゃないが、今まで黙っていて、すまなかった・・・」

「うん・・・」

「それで、今後のことだが・・・」

 

 

すると、長は少し言いにくそうな表情を浮かべた。

なんだ・・・?

 

 

「・・・アリア先生に、木乃香のことを頼んでおきました」

「え・・・」

「・・・・・・それは」

「麻帆良に戻った後は、魔法の事などはアリア先生を頼って・・・」

 

 

おかしい。

実際に聞いたわけではないが、アリア先生はこのちゃんを裏に関わらせたくないと考えていたはず。

無論、私もそうだ。

このちゃんには平和に、平穏に、生きてほしい・・・。

 

 

・・・とにかく、アリア先生はこのちゃんが魔法に関わらないことを、願っていたはずだ。

エヴァンジェリンさんが、アリア先生が瀕死の重傷を負っていた時も、このちゃんとの仮契約を拒んだことから、それは容易に想像できる。

 

 

そのアリア先生に、このちゃんを頼む、というのは、少し・・・。

いやかなり、信じられない話だ。

 

 

「長、それは・・・」

「なんで?」

「え・・・」

 

 

長に詳しくわけを聞こうとしたその時。

このちゃんが、怒っているような泣いているような、そんな顔をしていた。

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

「なんでなん?」

 

 

なんで、そんなことするん?

お父様かて、アリア先生が大怪我したん、知っとるはずやんか。

それやのに、うちの面倒なんて見てもろうたら、また、おんなじことが起こるかもしれへんやん。

アリア先生だけやない。

 

 

せっちゃんも、うちが知らんかっただけで、危ないこととか、怖い思いとか、たくさんしてた。

うちが知らんかっただけで、ネギ君とか、エヴァちゃんとか・・・たくさんの人に、迷惑をかけてしもた。

うちが、知らんかっただけで。

うちは。

 

 

「うちは、嫌や。うちのせいで誰かが傷つくなんて、嫌や」

「しかし、木乃香・・・言いにくいことですが、木乃香が嫌だと言っても、あなたを狙う人間がいるのです」

「それでも、嫌や!」

 

 

英雄の娘とか、才能が凄いとか、そんなん言われても、なんにも嬉しくなんてない。

争いの火種になんか、なりたくない。

うちが魔法とか、そういうものに関わって、せっちゃんやアリア先生みたいに誰かが傷ついていくのを見たくなんてない。

 

 

せっちゃんから、うちのこととか、魔法とか、少しやけど聞いた。

聞いてから、ずっと、考えとった。

こんな何も知らんで、のんびりしとったうちが、もし、うちを守ってくれた人達に恩返しが出来るなら、どんなことやろかって。

 

 

「うちは・・・」

 

 

エヴァちゃんが、言うとった。

アリア先生やせっちゃんは、うちに魔法に関わって欲しくないんやって。

普通に生きて、幸せになってほしいって。

 

 

「うちは」

 

 

アリア先生が言うとった。

他の事はどうだって良い、自分の事は、自分で決めろて。

どんな結果になっても、後悔だけはせぇへんですむように。

自分で。

 

 

「うちは、魔法に、関わらへん」

 

 

うちを守ってくれた人は、皆、うちに魔法に関わるなて言うた。

ならうちは、絶対に、魔法に関わるわけにはいかへんやんか。

 

 

「うちが何言うても、襲われるっていう、お父様の気持ちも、わかるえ、けど」

「木乃香」

「うちは、関わらへん。逃げる。逃げてみせる。逃げるために必要なことは、学ばんとあかんかもしれん。でも、それだけや。それ以上は嫌や」

 

 

うちは、魔法とかに、関わらへん。

向こうから来ても、無視する、逃げる、隠れきる、関わってなんてやらへん。

 

 

身勝手で、無茶な我儘言うとるいうことは、わかっとる。

でも。

うちは、普通に生きる。生きたい。

ううん、生きていかなあかんのや。

だってそれが、皆の気持ちやもん。

 

 

「うちは、近衛木乃香は、魔法に関わりたくない。お父様の跡を継いだりも、せぇへん」

 

 

お父様も、そして・・・うちのことを頼まれたって言う、アリア先生も。

 

 

「うちのことを、勝手に、決めんといてください」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

・・・ほう?

 

 

正直、私は近衛木乃香に対してさほど興味はなかったが・・・。

今日初めて、少しだけ興味が出てきた。

桜咲刹那と共に走り去った近衛木乃香の背中を見ながら、そんなことを考えた。

 

 

てっきり流されるままに、父親の言いなりになるものだと思っていたが・・・。

というか、近衛木乃香が何を言ったところで、奴を取り巻く環境は何一つ変わらん。

結局は桜咲刹那のような護衛が、奴を守り続けることになるだろうし、目覚めてしまった魔力は戻らん。

 

 

仮契約をしていないとはいえ、近衛木乃香の存在は、政治的にも、その他の理由でも、けして無視できるものではない。

・・・とはいえ、非公式とはいえ、あそこまでまともに魔法や関西のことを拒否されてしまえば、よほどの過激派でもない限り御輿として担ぐだけでも難しそうだがな。

本人にその気が無いのだから、担いでも仕方がない。

 

 

・・・ふん。今まで様子を窺っていた連中が、一気に散ったか。

今頃は、先ほどの一部始終を、自分達の主に報告しているところだろうさ。

派閥の長、関西の長老・・・候補はいくらでもいる。

これから、関西は荒れるな。まぁ、私には関係ないな。

 

 

「・・・ふん、いい気味だな、近衛詠春」

「あはは・・・」

 

 

乾いたような笑みを浮かべる、近衛詠春。

笑っている場合では、ないと思うがな。

 

 

「後継者に逃げられた組織の長・・・いや、この場合、一方的に親離れを宣告された父親、という方が正しいのか?」

「・・・そんなことを言いに、わざわざ?」

「まさか、そこまで暇でもない」

 

 

私もすぐに桜咲刹那と近衛木乃香を連れて、旅館に戻らねばならん。

 

 

それに結局、ここにはナギの手掛かりはないようだしな。

・・・目の前の男が、意図的に隠している可能性も否定できんがな。

まぁ、いい。

 

 

「・・・それで、なんでしょう?」

「いや、何、学園のじじぃ共に言ったことをお前にも伝えておこうと思っただけさ」

 

 

にぃ、と、笑みを浮かべてやる。

すると失礼なことに、近衛詠春は私の笑みを見て顔を引き攣らせた。

・・・何をそんなに怯えているのだ?

何か、後ろ暗いことでも、あるのか?

 

 

「ウチのアリアが、世話になったようだから、な?」

 

 

アリアは、私のモノだ。

アリアを傷つけるモノ、アリアの願いを邪魔するモノ、アリアがしようとすることを阻害するモノ。

全て私の、いや、私「達」の敵だということを、わからせてやろう。

 

 

私のモノを対価もなく、好きにできるなどとは思わないことだ。

・・・アレはそこの所、もう少し教育する必要があるからな。

だが私に聞かれてしまったのが、運の尽きだったな。

近衛詠春、いや・・・。

 

 

「・・・なぁに、すぐ済むさ、小僧」

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「まったく、ネギも妙な所で頑固なんだから・・・」

 

 

妹さんのことが心配なら、お見舞いにでも行けばいいのに。

まぁ、私が昨日の夜に様子を見に行ったら、すんごい怖い顔したエヴァちゃんに「面会謝絶だ」って追い返されちゃったけど・・・。

 

 

「今の僕じゃ駄目なんです、とか、意味わかんないわよ」

 

 

ネギは今、お父さんの別荘の一階で長さんからもらった何かを抱えて本棚の間を行ったり来たりしてた。

・・・何してんだろ?

 

 

「ネギのお父さん、かぁ・・・」

 

 

ネギが憧れてる、なんだかすごい人、くらいにしか、思ってなかったけど・・・。

ふと、側にある、机の上の写真を見る。

 

 

ネギのお父さんと、長さん、あと、お友達って人が何人か映ってる、けど・・・。

なんだろう、何か、そう、何か・・・。

 

 

「・・・足りない・・・?」

 

 

なんだろう、何か足りない気がする。

初めて見る写真だし、破れてるとかでもない、けど。

 

 

何か・・・誰か、いない気がする。

ネギのお父さん達と一緒に、ここに映っているべき、「誰か」。

だ・・・。

 

 

「はぁ~いっ、アッスナ!」

「ひゃあ!?」

 

 

い、いきなり抱きついてくるんじゃないわよ、朝倉!

 

 

「っていうか、いたんだ?」

「ひどっ!? 朝からずっと一緒だったじゃん!?」

「冗談よ・・・あれ、本屋ちゃんは?」

「ん」

 

 

下を指差す朝倉。

見てみると、たくさんの本を抱えて、ネギを手伝ってる本屋ちゃんがいた。

へぇ・・・。

 

 

「ん~・・・なんだか、いい雰囲気じゃない?」

「そーね・・・記事にしたりすんじゃないわよ?」

「わぁかってるって、お姉さん」

「誰がお姉さんよ!?」

 

 

などと言い合いながらも、パシャパシャとネギと本屋ちゃんの様子をカメラで撮っていく朝倉。

まったく・・・。

 

 

石にされたって聞いた時は、結構、心配したんだけど・・・。

無事に戻れてよかったな、とは思う。

まぁ・・・。

 

 

「石のままの方が、平和だったかも・・・」

「さっきからひどくない!?」

「あ、あれ? いや、心配してたのよ?」

「そんなこと言うなら、班別の写真、明日菜抜きで撮ってやる~」

「ちょ、ごめんってば!」

 

 

まぁ、アリア先生が怪我したりとかいろいろあったけど・・・。

皆、結局は無事だったし。

結果オーライってことで、いいわよね?

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「ん~ふ~ふ~」

 

 

膝の上で芋虫のようにゴロゴロしながら、月詠はんはなんというか、興奮しとるみたいな声を出しとった。

身体中、未だにアリアはんにやられたらしい糸がこんがらがっとる。

 

 

「とけないです~、むりにうごくとうちのからだがきれてしまいますわ~」

「すまん、月詠のねーちゃん、俺でも解けんとは思わんかったわ・・・」

「いいですよべつに~、うふ、うふふふふ、アリアは~ん・・・」

 

 

例によって、小太郎が大きなことを言うて解こうとしたけど、解けんかったからな。

ただ小さくなっとる小太郎と、ウネウネしながら嬉しそうにしてる月詠はんは、明らかに話が噛み合ってないみたいやけど・・・。

 

 

「・・・アリアはん、か」

 

 

最初は白い髪の10歳の見習い魔法使いやて「聞いて」、うちは特に警戒してへんかった。

今はおらんけど・・・フェイトはんが気にしてたくらいやった。

 

 

ところが蓋を開けてみれば、アリアはんはうちの企みを全部潰して、しかもスクナの封印も完全に解いてしまいよった。

化物やで、あんなん。

しかも。

 

 

「しかも最後に、あんな毒吐いていきおって・・・!」

 

 

 

 

<回想や!>

 

『それにしても・・・貴女はいったい、誰に騙されたのでしょうね?』

―――どういう意味や。

『騙されたでしょう? 貴方はまるで自分で考え付いたかのように、封印解除の祝詞を紡いでいましたけど・・・失礼ながら、貴方の実力では、この封印の解除ワードを探せるはずがないんですよね』

―――それは。

『文献か何かで見ましたか? それはありえないですね。 この封印は、1600年前の物を土台に、18年前に陰陽術で組まれた混合術式です。陰陽術の知識しかない貴女が、見つけられるはずがない』

―――うちは、20年かけて、見つけたんや。

『不可能です。18年前の分ならともかく、1600年前の封印には、解除の概念がありませんでした』

―――なに?

『解けないのですよ、この封印。私も、解けない。まぁ、だから解除ではなく、破壊してるわけですが・・・』

―――破壊やて?

『おっと失言。まぁ、ちょっと考えてみてくださいよ。こんな強大で巨大な生き物を封印した人間が、再び解こうとか、考えますか? 今はともかく、かつては西洋魔法使いなど存在しないのに』

―――それは。

『兵器として利用するため? まさか。だって、この封印は、対象を長い時間をかけて、消滅させるように組まれています。利用するためなら、力を減じるような封印を作るのは、おかしいでしょう?』

―――けど・・・。

『1600年前の、陰陽術以外の構築式で組まれた封印を、貴女は解けない』

―――けど、実際にうちは。それに、18年前かて。

『そう、解けた・・・不完全でしたがね。だから、不思議で仕方がないんですよ。そこで私は考えました。誰かが、この封印の不完全な解除法を18年前に試し、かつ、貴女に吹き込んだのではないか、と』

―――そ、そんなはずは・・・。

『そもそも、私にすら解き方がわからないこの封印を、不完全ながら解除できるとなると・・・私よりも、はるかに高位の術者です。でも、貴女は違う。なら、誰が? そう考えるのが、自然でしょう?』

―――そんな、そんな、こと・・・。

『第一、なんでしたか・・・貴女が今回のことを思い立った直接の理由は、仇打ちでしたよね? ご両親の』

―――そうや、取引前に教えたやろ。

『ええ、そうですね。貴女は私の研究に協力する。その代わりに命を助ける、そういう契約ですね』

―――まぁな。

『名前は?』

―――なに?

『ご両親の仇の名前は、なんというのですか? ご存知なのでしょう?』

―――それは、東の・・・。

『西洋魔法使いは、東以外にもいますよ? それ全部を全滅させるつもりだったのですか?』

―――う、いや、そんな・・・。

『そもそも、20年前の大戦で殺されたと、感情を込めて力説しておられましたが・・・』

―――なんや。

『不思議な点がひとつ。どこで殺されたんです? どんな風に?』

―――どう、って、そんなん。

『20年前の大戦は、私の記憶するところでは、魔法使いの世界で起こった戦争のはず。陰陽師である貴女のご両親は、どこでどうやって大戦に巻き込まれて、亡くなられたのでしょうね?』

―――なんや、何が言いたいんや、あんたは。

『だから、言ったではありませんか』

『貴女はいったい、誰に騙されたんです?』

『いつ、どこで、誰に、何を、吹き込まれたんですか?』

―――――――――。

『・・・・・・視えます』

『貴女の頭の中に、視たことのない魔法陣が、視えます。・・・・・・貴女』

 

 

 

  ――――――記憶を、弄られていますよ――――――

 

 

 

 

<・・・回想、終わりや>

 

 

 

「記憶が、改竄されとるやと・・・!」

 

 

確かにそういう術があるのは、知っとる。

だけどそんなもん、かけられた覚えがない。

 

 

と、いうか。

そんなアホなことが、あってたまるか・・・!

もしそうなら、うちは、なんのために今まで・・・!

・・・認められるか!

 

 

「んふふふふ・・・」

「・・・なんや」

 

 

うちは今、本山を遠望できる丘におる。

木陰に座って、今後どうするかを考えとるんやけど・・・。

膝の上で芋虫になっとる月詠はんが、嬉しそうな目でうちを見とった。

 

 

「ええどすなぁ~・・・いまの千草はんなら、うち、きりあいたいわ~・・・」

「・・・アホ言いないな」

 

 

冗談やないえ。

縛られとってよかったわ・・・。

 

 

「んで、千草のねーちゃんはどうすんのや?」

「せやなぁ・・・」

 

 

どのみち、西にはおりたぁないな。

 

 

「とりあえず、東に向かお思うてるわ」

 

 

取引のこともあるしな・・・。

アリアはんに要求された霊草やら、なぜか一緒におった金髪の子に要求された薬品やら、探しながら行かんとあかんから、少し遠回りになるけど・・・。

 

 

本物にしろ偽物にしろ、「東に仇がいる」いう情報は東に行けば、はっきりする思うし。

 

 

「東て、ネギのところか!?」

「・・・なんや、随分と気に入ったんやなぁ」

 

 

まぁ、小太郎も同年代の友達おらんし、ちょうどええのかな・・・。

 

 

「うふ、アリアはんのおるところやね~」

「・・・あんたも、ついてくるか?」

 

 

身体をくねらせながら、「いきますぅ~」と答える月詠はん。

なんか、難儀な旅になりそうな面子やな。

 

 

「・・・にしても、あんたら、よくうちのことがわかるなぁ・・・」

「けはいとかで、わかります~」

「俺は、匂いやな!」

「わかる奴には、わかるいうことやな・・・」

 

 

気をつけとかんと。

にしても、アリアはん。

何も、こんな若づくりにせんでもええやんか・・・。

 

 

片手に持った手鏡の中には、10代後半くらいの、金髪の異人がおった。

顔立ちとかはあんま変わってへんから、基本的には若返って金髪にされただけ。

髪染めた思えば、違和感無いけど・・・。

 

 

「金髪に思い入れでもあるんかいな・・・?」

 

 

一番思い浮かびやすい髪の色やて言うとったし。

そういえば、一緒におった(封印解除の最中に居眠りしとったけど)子も、金髪やったし。

・・・まぁ、ええわ。

 

 

「・・・ほな、行こか」

「おう!」

「あるきにくいです~」

 

 

前途は洋々、とはいかんけど。

自分の目で、真実を見極める。

 

 

いつまでも、あんな小娘に、舐められてたまるか。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

なんでしょう、この状況は。

 

 

私は今、ホテルの自室にいます。

というより、自室の中央で、正座させられています。

目の前には、仁王立ちしたさよさんと、その後ろに控える茶々丸さん。

いかにも、「お説教されてます」なポジショニングです・・・!

どうやらエヴァさん、昨夜の一部始終を伝えていたようで・・・。

 

 

「聞いてるんですか!? アリア先生!」

「は、は・・・それはもう」

「私達が今まで、どんな気持ちで待ってたと思うんですか!?」

 

 

さよさんはもう、泣いてるんだか、喜んでるんだか、怒ってるんだか、よくわからない状態になっています。

 

 

「ケケケ・・・オシオキノジカンダナ」

 

 

チャチャゼロさんは、その横で、やたらと凶悪なナイフを研いでいました。

お願いですから、しゃーこしゃーこと、音を立てないでください。

正直、怖いです。物理攻撃は勘弁してください。

 

 

一方、茶々丸さんはというと。

 

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 

無表情で、かつ無言で、私を見つめていました。

なんとなく、とても悲しそうな顔をしているようにも、見えます。

・・・何気に、一番キツいです・・・。

死にたくなるほど、悪いことをした気分にさせられます・・・。

 

 

かれこれ、戻ってから30分、この調子です。

ちなみにスクナさんは、部屋の隅で、八つ橋を食べています。

何か、挨拶もそこそこに、「京都なら八つ橋」とか、いつか私が言ったのと同じことを言いだして、がっつき始めました。

 

 

貴方、気を付けないと腹ペコキャラ認定されますよ・・・!?

 

 

そんなことを意味もなく考えていると、さよさんが、私を力強く、びしぃっ、と、指差して。

 

 

「ばちゅげーむ!!」

 

 

・・・噛んだ。

可愛いです。

 

 

「ばつげーむ!!」

「罰ゲームですか」

 

 

言い直したさよさん。でも突っ込みませんよ。

突っ込むと、振り出しに戻りそうですからね

 

 

確か、最近さよさんがハマっている漫画に、そういうシーンがあったような気がします。

某ゲーム王にでも憧れているのでしょうか。

 

 

「アリア先生には反省の色が見えません!」

「・・・見えませんか」

「見えません!」

 

 

無意味とは知りつつ、チャチャゼロさんに救いを求めるような視線を・・・。

 

 

「ササレルノトキザマレルノ、ドッチガスキダ?」

「どっちも嫌です・・・」

 

 

茶々丸さんを見ます。

悲しげな瞳で、見つめられました。

なんですか、その悲しみを背負った瞳。

目を合わせられません・・・。

 

 

「すーちゃん! アリア先生を押さえてください!」

「わかったんだぞ、さーちゃん」

 

 

どういうわけかさよさんとスクナさんは、互いをちゃん付けで呼び合う仲になっています。

まだ、会って30分なんですけど・・・って!

 

 

「ちょ、スクナさん、何を!?」

「ごめんだぞ、恩人。でも、八つ橋が京都なんだ」

「意味がわかりません・・・!」

 

 

スクナさんは私を背後から羽交い絞めにして、ロックしました。

見た目以上に力が強いので、抜けられません。

え、ちょ、これ、何をされるのでしょうか・・・!

 

 

すると、さよさんは、どこからかテレビを持ち出してきました。

さらに、茶々丸さんがそのテレビにコードを差し込み、自身のボディと接続します。

え、なんですか。何かの映像を見せられるのでしょうか。

 

 

「・・・こほん、アリア先生」

「な、なんでしょう」

「これから流す映像は、できれば永久に封印したかったのですが・・・いた仕方ありません」

「え、なんですかこの入り。すごく不安になるのですが」

「ちなみに、麻帆良祭にて商品化、通常版は3800円。限定版は9800円で販売予定です」

「たっか! なんですか、そのぼったくり値段!!」

 

 

え、なんですか?

私の留守中にいったい何が!?

 

 

「・・・この人形に、見覚えがありますね?」

「はぁ・・・それは、私の身代わりとして置いて行った、『コピーロボット』じゃないですか・・・」

 

 

さよさんの手に握られているのは、すでに役目を終え、元の人形の姿に戻った魔法具、『コピーロボット』。

 

 

「それが、何か?」

「・・・(にっこり)・・・」

 

 

・・・・・・・・・なんでしょう、嫌な予感しかしません。

 

 

「・・・あ、しご、仕事に行かなくちゃ――――」

「今は、休憩時間だそうです」

「く・・・あ、綾瀬さん達と、古書市に行かないと――――」

「すでに、先生のお財布のお金を渡して、行ってもらってます」

「いつの間に!?」

 

 

逃げ道が次々と・・・!

ヤバいです。身体が、魂が、かつてないほど「逃げろ」と叫んでいます・・・!!

 

 

「さ、さよさ、ゆるし―――「ダメです♪」―――だ、だめもとで、チャチャゼロさ「アキラメナ」―――す、スクナさん、離し「無理だぞ」―――ち、茶々丸さん!」

 

 

私は、最後の砦、茶々丸さんに救いを求めます。

心優しい茶々丸さんならば、きっと・・・!

 

 

しかし茶々丸さんは、悲しそうな瞳で私を見つめたまま、首を横に振りました。

う、裏切りましたね、私の気持ちを裏切りましたね!?

 

 

そして、無情にも。

テレビに、映像が・・・。

た、助けてシンシア姉様・・・!

 

 

 

 

 

 

 

アリアは、大ピンチかもですっ・・・!

 

 

 

 

<ここからは、音声のみになります>

 

 

「な、なんですかこれ・・・あ、あれは私・・・じゃなくて、コピーですか。なんだ、ちゃんと仕事してるじゃ・・・って、あれ? なんで新田先生の後ばっかりついて・・・ほら、新田先生が困っているじゃない・・・困ってます・・・よね? え? ちょ、何、勝手に新田先生に飲み物奢らせてるんですか! ああ、もう、後で顔を合わせにく・・・い? な、なんでズボンの裾、握って・・・え、ちょ、ま、待って待って待って待ってください! 何、手を繋ごうとしてるんですか!? 新田先生に迷惑じゃ――――握り返した!? 新田先生、握り返しましたよ!?」

「くいあらためますか~?」

「どこの宗教ですか!? いいからこれ止め―――――わあああああぁぁっ!? ちょ、き、休憩中に膝の上にっ・・・膝の上に乗ろうとしちゃだめええええぇぇぇっ!! いやあああああああああっっっ! 違う違う違う違う違う違う違う違う違うんですっ! 誤解! 誤解ですってば新田先生! それ私じゃないです! だからそんな、「やれやれ」みたいな顔で受け入れないでください!! 貴方キャラ違うじゃないですか!? 初日に「淑女のなんたるか」を私に説いたの貴方でしょ!? い、いや、だからちょっと待って! お願いだから私の話を聞いてください!! それ違う、違うんですっ・・・! ごめんなさいっ! もうほんとごめんなさいだから許しっ・・・ひぅっ!? ちょっ・・・だ、だめ、胸に頭擦りつけながら寝ちゃらめえええええええええええっっっっ!!!!」

 





アリア:
アリアです、もう駄目かもしれません・・・。
未だかつて、ここまでのダメージを受けたことが、はたしてあったでしょうか、いや、ありません。
・・・私が反語法を使わざるを得ないとは、ふふ、衰えたものですね・・・。


アリア:
次話は、おそらく京都編最終章になります。
長かった修学旅行も、ようやく終わります。
では、またお会いしましょう・・・。


うう、どんな顔で新田先生に会えばいいのかわからないです・・・。


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第33話「4日目・夜および5日目・帰還」

Side アリア

 

「うちは、魔法と関わり合いたくありません」

 

 

そう木乃香さんに告げられたのは、就寝時間直前の夜のことです。

刹那さんと一緒に相談があると言うことで、私の部屋に連れてきて、第一声が、これです。

・・・関わり合いたくない、と、言ったって・・・。

 

 

「でも木乃香さん、貴女は・・・」

「うちのこととか、魔法のこととか、せっちゃんから聞きました」

 

 

いつものふんわりとした雰囲気ではなく、強い目で木乃香さんは私を見ています。

隣に座る刹那さんも緊張はしているものの、揺らいではいません。

 

 

「一日、考えて・・・決めました。うちは魔法とか、そういうのから、逃げたいと思います」

「・・・逃げる、ですか」

「魔法の方から寄ってきても、逃げられるようになりたいです」

 

 

そこで、ぺこり、と木乃香さんは私に頭を下げてきました。

え・・・。

 

 

「逃げ方とか、隠れ方とかを、うちに、教えてください」

「それは・・・」

 

 

それはもちろん、教えるつもりでした。

私の魔法具をいくつか与えて、使い方を数カ月も教えれば、魔法関係者のほとんどから、ほぼ完璧に隠れることができるはず。

そう、考えていたのですけど・・・。

 

 

困惑して刹那さんを見れば、目を伏せられるばかり。

木乃香さんは、どういうつもりで・・・。

 

 

「近衛木乃香は、個人の意思でもって、ここに来ているということだろうさ」

 

 

・・・エヴァさん。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

さよやチャチャゼロを相手に茶を飲みながら、アリア達の話に口を出す。

というよりも、アリアが混乱しているようだから、そうでもせんと話が進まん。

 

 

「・・・近衛詠春からだ」

 

 

ほれ、と、一枚の紙を投げ渡してやる。

その内容を見たアリアは・・・本気か? とでも言いたげな顔を見せる。

もちろん、私は本気だ。

近衛詠春にも、働いてもらわねばな。

 

 

ま、単純に言えば、近衛木乃香とその周辺のことの面倒を見てやる代わりにいろいろ条件を出してやったというだけのことだ。

それを関西呪術協会の長という立場で、言わせたにすぎん。

 

 

学園に帰ってから、じじぃにも見せるが・・・。

じじぃの泡を食った顔が、今からでも思い浮かぶ。

ククク・・・楽しくなってきたじゃないか。

 

 

「お前はどうも引き受ける前提で、近衛詠春と取引したようだが・・・私に言わせれば、甘いな」

「でもエヴァさん、彼女は」

「ええんや、アリア先生。うちも、今回のお父様はひどい思うえ」

「木乃香さん・・・」

 

 

まぁ、結局のところアリアは、根が優しいからな。

教師という自分の立場も、普段の言動も、奴を縛り付けることになるのだろう。

 

 

「・・・それで? 近衛木乃香、桜咲刹那。ウチの従者に物を頼むんだ。何かしかの代償を払う覚悟はあるんだろうな・・・?」

「エヴァさん!?」

「何を驚いているんだ、アリア?」

 

 

言ったはずだ。今の近衛木乃香は、関西の長の娘としてではなく、個人としてここに来ていると。

ならその代価を払うのは、本人であるべきだ。

 

 

「庇護すべき対象を、一方的に、全力で助ける。ま、そういう考え方もあるだろうな。それはいいさ」

「なら・・・」

「だが、今の奴は違う。奴は、お前の庇護を求めに来た、哀れな生徒ではない。自分の意思でここに来て、協力を求めに来た、一個人だ。そういった者に無償で力を貸させるほど、私は優しくはない」

 

 

近衛木乃香があくまでも、父の言に従ってここにいるのならば・・・私は別に何も言わん。

アリアの仕事の内と、割り切ったかもしれん。

だが近衛木乃香が自分の意思でここに来た以上、こいつはもう、アリアの「庇護すべき生徒」ではなくなった。

 

 

アリアの言を借りるのならば、「自分のことを、自分で決めた」人間だからな。

 

 

「もし、お前が今の近衛木乃香を無償で助けると言うのならば、それは逆に、近衛木乃香を侮辱することになる」

「それは・・・」

「近衛木乃香はもう、多少なりと魔法を知り、立場を知り、自分で決めた。次はお前だ。アリア」

 

 

生徒としての近衛木乃香は、教師としてのお前にとって、庇護するべき対象だったかもしれん。

だが、一個人としての近衛木乃香は、お前が救うべき、どんな理由をも持っていない。

 

 

「一個人として、そして私の従者としてのお前は、近衛木乃香を助けることに、どんな利点がある?」

「・・・・・・・・・」

「これまでのことは、まぁ、良いだろう。だが、これからは別だ」

 

 

赤の他人を無償で助けて良いのは、正義の味方だけだ。

だが、お前はそれを嫌だと言った。

なら、お前が取るべき行動は、それ以外でなければならない。

お前は、もう少し、自分のために何かをするべきだ。

 

 

近衛木乃香は、自分のために、お前の力を借りに来ている。

ならばお前も、自分のために、近衛木乃香に何かを要求しなければならない。

それが、等価交換というものだ。

むしろ無償で助け続ければ、それが当然と相手が勘違いすることだってある。

その時お前は、どうなる?

 

 

「違うか、アリア?」

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

優しい方だ、と、思う。

これまでのことで、アリア先生の優しさは十分にわかった。

感謝も、している。

 

 

けどその優しさは、すごく、危ういもののように見えた。

立場のせいなのかそれとも性格のせいなのかは、私にはわからない。

ただ他人を救うために、平然と命を差し出せると言うのは、やめてほしいと思う。

・・・私も、偉そうなことは言えないが。

 

 

「・・・うちは、何をしたらええん、アリア先生?」

「木乃香さん・・・」

「何をしたら、アリア先生に、物を教えてもらえるん?」

 

 

このちゃん・・・。

このちゃんは、今、すごく無理をしている。

私には、わかる。

 

 

本当はちゃんと魔法を学んで、直接アリア先生に恩返しがしたい。

ここに来るまでの道中で、このちゃんはそう言っていた。

私も、同じ気持ちだった。

 

 

泣きついて、謝って、力をくださいと、叫びたい。

貴女の役に立ちたいと、貴女を守り、支えたいと、訴えたい。

本当は、そう言いたい。

 

 

けどアリア先生は、それを望んでいない。

望んでいないことを押し付けて、困らせることは、もっと嫌だった。

アリア先生はこのちゃんが、もしかしたら私も、裏に関わってほしくないと思っている。

だから魔法を知りながら、普通の人間として生きるという一番難しい道を選んだ。

それが、アリア先生の願いだから。

それが、一番の恩返しになると思ったから。

・・・そして、私も。

 

 

「私も、お願いします。アリア先生」

「刹那さん?」

「人を、このちゃんを、守るためのすべを、教えてください」

 

 

 

 

 

Side  アリア

 

「私はこのちゃんを守れませんでした。肝心なところでは、アリア先生に頼ってばかりでした」

「そんな・・・」

 

 

いや、貴女は十分、頑張っていたと思いますよ・・・?

 

 

「もちろん、エヴァンジェリンさんが言う対価・・・先生が望む何かを、お渡しする覚悟はあります」

「対価、なんて、そんな」

「これが私と、このちゃんの、意思です」

 

 

木乃香さんと同じ、強い瞳・・・。

決意を固めた、綺麗な目です。

もうこれ以上、何を言っても動かない、揺るがない人の目。

 

 

この2人は魔法に関わらないという、決意を示してくれました。

それはすごく、嬉しかった。

初めて、報われた気分になりました。

けど、現実には・・・。

 

 

「・・・アリア」

 

 

エヴァさんが、いつの間にか、すぐ隣に来ていました。

ぽむっ、と、頭に手を置かれます。

 

 

「お前は、何をしに麻帆良に来た?」

「そ、れは・・・」

「生徒を守りに来たのか? 違うだろう? お前にはお前の目的があって、麻帆良に来た。そうだろう?」

「・・・はい」

 

 

私には、助けたい人達がいます。

その人達は今も、助けを待っている。

私を待っているわけではないけれど・・・とにかく、助けを必要としている。

そのために、なりたくもないマギステル・マギの修行と称して、麻帆良に来ました。

 

 

そのための環境が、人が、ここにはあると思ったから、来たんです。

人助けに来たわけじゃ、ない。

 

 

「それで、どうだ? 目的は果たせているか? 目的を果たすために、集中できているか?」

「・・・いえ」

「だろうな。仕事に追われ、生徒に追われ、対処に追われているお前だ。自分の目的に専念できるわけがない・・・いや、あるいは、じじぃなどはそれを狙っているのかも知れんが・・・」

 

 

とにかく、と、エヴァさんは続けました。

 

 

「お前は、いつか言ったな。自分の行動は、自分で決めるべきだと。そしてそれに責任を負うべきだと」

「・・・はい」

「今、お前は近衛木乃香と桜咲刹那に、無償で手を差し伸べたがっているが、あの2人が求めているのは、そういうことではないはずだ。違うか?」

 

 

木乃香さんと、刹那さんを、見る。

静かに、頷かれました。

 

 

「対等・・・とは、とても言えんがな。2人の言っていることは、ガキの戯言に過ぎん。世の中そんなに甘いもんじゃない」

「だから、私は」

「だが、自分で決めた。拙い判断だが、自分で決めたんだ」

 

 

・・・わかっています。

私はそれを、尊重しなければならない。

それが、どれほど難しくても。

 

 

「そしてお前は、自分の目的に専念できていない。それは、お前自身が、お前が決めたことを実行していないということだ」

「・・・っ」

「お前は目的があると言って、私に代価としてその身を差し出した。・・・何かを求めるなら、何かを与える必要があると知っていたはずだ。なら、すべきことがわかるはずだ」

 

 

・・・代価。

何かを求めるときに、叶えてくれる相手に差し出す物。

 

 

木乃香さんは、「魔法から逃げる手段」を、私に求めています。

刹那さんは、「木乃香さんを守る方法」を、私に求めています。

 

 

そして私は、2人に、代価を求める権利が、いえ、義務がある。

2人が、生徒としてではなく、個人として私に、正義の味方ではなく、「悪の魔法使い」アリア・スプリングフィールドに何かを求めているのなら。

対価が、必要です。

 

 

・・・・・・「守るべき生徒」が、また2人、減りましたか。

ただ、今回は・・・。

 

 

「・・・近衛木乃香さん」

「はい」

「・・・貴女に、関係者から身を隠すための、そして身を守るための魔法具と使用法を教えます」

 

 

代価は。

 

 

「・・・私の研究に、協力してもらいます。魔力と血液を、定期的に提供してください」

「・・・わかったえ」

 

 

極東、いえ、一説では旧世界最高とさえ言われる、魔力。

それも、退魔の家系。

その血液には魔を退けるための情報が、凝縮されているはず。

どちらも、私の役に立つ。

 

 

「・・・桜咲刹那さん」

「はい、アリア・・・さん」

 

 

さん、ですか。

「先生」としてでは、なく。私、個人に。

 

 

「貴女に、木乃香さんを、人間一人を守るための魔法具と使用法を教えます」

 

 

対価は。

 

 

「私の研究に、協力を。神鳴流の退魔の秘密と、やはり血液を、提供してもらいます」

「・・・未熟者ですが」

 

 

魔に対して、絶対的な強さを持つ神鳴流の、秘密。

そして半分が魔に属する身でありながら、退魔の技が使える刹那さんの血液にも価値がある。

どちらも、必要な情報を含んでいる可能性が、高い。

 

 

「「よろしく、お願いします」」

 

 

再び2人が、頭を下げてきました。

少し、いえ、かなり複雑な気分ですが・・・。

 

 

子供が自分の手を離れると言うのは、こういう気分でしょうか・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「・・・これで、関西で僕に関係していた人間は、全部、かな」

 

 

月が中天に差し掛かる頃、僕はまだ関西呪術協会の本山の中にいた。

目の前には、僕の『永久石化』で石になった関西の重鎮の一人。

 

 

僕が関西の中に入り込むのに、協力してくれていたのだけど・・・。

最近、独自に動こうとしていたから、悪いけど消えてもらうことにした。

 

 

まぁ、いつまでもよそ者の僕に協力してくれるとは思っていなかったけど。

あとは適当な仲間を呼んで、彼になりすましてもらうだけだ。

これで、関西呪術協会への影響力を確保できる。

 

 

20年前の大戦でも、よく使った手法。

まぁ、一種の入れ替わりと言う奴だね。

 

 

「イスタンブールの方も上手く掌握できたし、次は・・・東」

 

 

まったく、サウザンドマスターのせいで組織力が低下してから時間のかかる手しか使えないのが辛い。

・・・まぁ、それも、もう少しの辛抱だけど。

全ては、完全なる世界のために。

 

 

「・・・これは」

 

 

彼の所持する書類の中に、ひとつ、気になる物があった。

タイトルは、「スクナ消失と西洋魔法使いの関連性」。

 

 

「アリアか・・・」

 

 

まさか、オリジナルのスクナを持っていかれるとは思わなかった。

つくづく、僕の予想を上回ってくれる。

 

 

「・・・それでこそ、だ」

 

 

ただ今のところ、関西の方から余計なちょっかいは出してもらいたくないな。

まだ、東でやらなければいけないこともある。

・・・月詠さんがいてくれれば、関西での事後処理は任せてもよかったんだけど。

 

 

千草さん共々、姿を消されるとは予想外だった。

まぁ、それは別に構わない。

問題は、アリアをどうするかだ。

 

 

正直、あの力は脅威だ。

とはいえ、簡単に抹殺できるとも思えない。

アリアだけでなく、その周囲の戦力も異常だ。

と、なれば・・・。

 

 

「・・・こちらに、引き込めばいい」

 

 

仲間にしてしまえば、脅威にはならない。

そのためには。

 

 

「・・・東へ」

 

 

西洋魔法使いの本拠地。

麻帆良学園へ、向かう必要が、あるね。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「はーい、皆さん、修学旅行は楽しかったですかー?」

「「「「いえ――――――いっ!!!!」」」」

 

 

しずな先生の言葉に、やたらとテンションの高い3-Aのみなさん。

・・・むしろ、これから修学旅行に行くのかと疑いたくなりますね。

いったい、どこにこれだけの元気があるのか・・・。

 

 

「だから、幼稚園かっての・・・」

 

 

そうは言いますが長谷川さん。

貴女が2日目のイベントに参加していたの、私、知ってますからね?

あとノートパソコンをしまってください。

 

 

「アホばっかです」

「だ、ダメだよゆえ~、そんなこと言っちゃ・・・」

「昨夜のことを教えてくれないのどかなんて知らないです」

「うう、だ、だから早くに寝ちゃったから・・・」

「あはは、まーいーじゃん、楽しかったんだし」

 

 

綾瀬さん達も、それなりに楽しめている様子ですね。

・・・一部、警戒すべき点があるようですが。

あと綾瀬さん、早乙女さん。貴女達が両手いっぱいに抱えている本は、私の財産で賄われたことをお忘れなく。

 

 

「・・・アリア先生」

 

 

ギターケースを肩にかけた真名さんが、こちらへやってきました。

相変わらず、クールな佇まいですね。

私もあと10年もすれば、こんな雰囲気を出せるに違いないです・・・。

 

 

「・・・何か、同盟協約に反することを考えていないかい?」

「ま、まさか、真名さんは中学3年生ですよ」

「まぁ、その件は次の会合で追求させてもらおう」

 

 

おおぅ、なぜかピンチです。

私は、真名さん、千鶴さんと「大人っぽい同盟」を組んでいます。

定期的に会合・・・まぁ、お茶会を開いているのですが。

これは、制裁対象になるかも・・・。

 

 

「それはそれとして、刹那のアレはアリア先生かい?」

 

 

アレ、と言われて示された方を見てみれば、刹那さんが木乃香さんと楽しそうに何かを話していました。

それは修学旅行前には、見られなかった光景。

一番大きな、変化と言えるかもしれません。

・・・願わくば、彼女達の判断が奏功しますように。

 

 

「・・・私は、何もしていませんよ」

「そうかい・・・それじゃあ」

 

 

次の稼ぎ時には呼んでくれよ、と、真名さんは去って行きました。

・・・呼べと言われても、高そうなんですよね。

 

 

なお、すでにスクナさんはここにはいません。

魔法具『双(ツイン)』で作った私の分身と共に、『どこでも扉』ですでに麻帆良へ。

今頃は、別荘の中でしょう。

・・・別荘の中では好きにしていろとのエヴァさんの言葉ですが、なんだか、すごく不安なんですよね。

『コピーロボット』の一件以来、分身に対する信頼感にヒビが入っていますからね・・・。

 

 

「あ、あの、アリア」

 

 

不意に、何か細長い物体を抱えた兄様が声をかけてきました。

・・・ウェールズにいた頃に比べて、声をかけられる回数が増えている気がします。

というか、妹に声をかける時くらいしゃきっとしていただきたいのですが。

 

 

「なんでしょうか、ネギ兄様」

「あの、さ・・・」

 

 

もじもじと、何事かを言い淀んでいる様子。

・・・なんだっていうのでしょう。

 

 

「・・・それは?」

「え・・・あ、これは、長さんからもらった、お父さんの手掛かり」

 

 

はぁ、手掛かりですか・・・。

どうせ、碌でもないものなのでしょうね。

というか原作でもあったような気がしますが、はて、なんでしたか・・・?

まぁ、忘れるということは大したことではないのでしょう。

 

 

「・・・うん?」

 

 

兄様の後方に、明日菜さんがいました。

え・・・なんでしょう。明日菜さんは、「頑張れ!」的なジェスチャーをしてますけど。

というか、なぜか周囲が静まり返っています。

 

 

・・・早乙女さん、「ラブ臭」ってなんですか。

そんなものあるわけないでしょう。

というか、みなさん、「禁断の関係!?」とか言うのやめてください。

減点しますよ?

・・・エヴァさん、お願いですから騒がないでください。

茶々丸さんは録画を止めて。

 

 

「・・・あの、アリア!」

「はぁ・・・」

「僕、頑張るから!」

「・・・・・・・・・はぁ」

 

 

何を?

まぁ、頑張ること自体は、悪いことではありませんしね。

 

 

「ネギ先生とアリア先生も、締めの一言をお願いしまーす!!」

「あ、はい! ・・・兄様も」

「う、うん!」

 

 

直後、荷物に足を取られて転ぶ兄様。

 

 

・・・・・・まぁ、兄様ですから。

 

 

 

 

帰りの新幹線は、疲れ切ったみなさんが眠りこけているおかげで、とても静かでした。

毎日がこれなら、助かるのですけどね。

 

 

「まったく、毎日こうなら良いものを・・・」

 

 

教員の車両で、同じようなことを思っていたのか、新田先生がぼやいていました。

あはは・・・。

 

 

「アリア先生も、お疲れなら休んでいても構いませんぞ」

「・・・いえ、昨晩はご迷惑をおかけしてしまったので」

「そうですかな? ・・・あまり無理はしないように」

「ありがとうございます」

 

 

・・・新田先生、無意味に優しいですね。

ありがたいのですが、なんでしょう。

こう、とても、くすぐったい気分です。

原因が、原因だけに、なおさら。

 

 

「・・・そういえば、ネギ先生の姿が見えませんな?」

「ああ、ネギ先生なら、3-Aの車両で生徒の皆とお休みに」

「まったく・・・困ったものですな」

 

 

しずな先生の報告に、急激に不機嫌になる新田先生。なんですかこの落差。

・・・ぐっと来ちゃったじゃないですか。

 

 

「アリア君は、紅茶で良かったかい?」

「あ、はい・・・ありがとうございます」

 

 

車内販売のお姉さんから、瀬流彦先生が紅茶を受け取り、渡してくれました。

そして耳元で、そっと一言。

 

 

「昨日は、あまり力になれなくて、すまなかったね」

「いえ・・・瀬流彦先生のおかげで、後ろを気にせずに済みましたから」

 

 

事実、瀬流彦先生のおかげで、生徒の脱走と、私が仕掛けた罠に生徒がかかるということもなかった。

罠にかかった敵を捕らえてくれたのも、瀬流彦先生です。

内と外、どちらかを気にし過ぎても、できなかったでしょう。

攻守のバランスのとれた、瀬流彦先生だからこそ、できたこと。

 

 

後方を気にせずに戦えるというのは、前線に立つ者にとって、心強いものです。

・・・この点は、学園長の人材の選択が、正しかったということになるのでしょうか。

 

 

「む、何の話ですかな?」

「え、いやぁ、あははは・・・」

「あ、そういえば、アリア先生・・・(この間の女性用品は、いかがでしたか?)」

 

 

こそこそと、小さな声で話してくれるしずな先生に、私も小声で返します。

 

 

「あ、はい・・・(その、以前いただいた物の方が、肌に合うみたいで・・・すみません)」

「あら、そうなんですか・・・じゃ、またお休みの日にでも買いにいきましょうね」

「はい、ぜひに」

「あれ、アリア君としずな先生は次の休み、どこかに行くんですか?」

「あ、ええと、それは・・・」

「あら、ダメですよ瀬流彦先生、女性の話に勝手に入っちゃ」

「え、そ、そうなんですか。すみません・・・」

「そうだぞ瀬流彦君、男が女同士の会話に入ってはいかん。痛い目を見るぞ」

「なんだか、実感がこもってますね新田先生・・・」

 

 

そんな私達を乗せて、列車は走り、一路麻帆良へ。

本当に、いろいろありました・・・。

 

 

帰ったら、別荘で少し休みたいです・・・。

学園に戻ったら、事務処理がいくつかあるので・・・15時頃には、教師陣も解散できるはず。

それから、18時に次の予定がありますから・・・別荘内でなら、2日ほど時間が取れるはずです。

こういう時、一日が一時間という別荘の存在はありがたいですね。

 

 

 

 

 

 

アリアは、少し、疲れました。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
長い京都編が、とりあえず、終わりました。
本当に、長かったです・・・。
もう、5日間が一ヶ月くらいに感じました。



アリア:
次話からは、少しガス抜きをした後、京都編の事後処理と、弟子入り編、悪魔編へと、続いていく予定です。
ただ、話の展開によっては、変化していくかもしれないので、絶対とは言えませんね。
やれやれ、いったいどんな面倒事が起こるのか・・・。

では、またお会いしましょう。


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第34話「エヴァ家・休息の一日 in別荘」

Side アリア

 

『―――そうね、あなた達のお父さんは、スーパーマンみたいな人だったのよ』

『スーパーマン?』

 

 

ああ・・・これは、夢だ。

そう気付いてしまうことって、ありますよね。

 

 

『そう♡ ピンチになったら現れて、助けてくれるヒーローなのよ?』

『へ~、ネカネお姉ちゃんも、助けてもらったことあるの?』

『ふふ、それはひ・み・つ・よ♡』

 

 

あれは雪の降る、寒い日のことでしたね。

斜め上を見れば、優しげに微笑むネカネ姉様の横顔。

私の右手はネカネ姉様の左手に包まれていて、姉様を挟んで反対側には、今より幼いネギ兄様。

 

 

『じゃが、奴は死んだ。散々無茶やったあげく、お前達をほったらかしてな。・・・バカな奴じゃ』

『もう、スタンさん。子供にそんな言い方・・・』

 

 

ふふ・・・スタン爺様は、いつもそう。

誰よりもお父様を嫌っているくせに、誰よりもお父様を待っている人。

 

 

『・・・死んだって?』

 

 

素朴な兄様の言葉に、ネカネ姉様は寂しげな微笑みを浮かべました。

そして、答えます。

 

 

『・・・もう、会えないってことよ』

 

 

・・・そういえば、あの時。

私、なんて、言ったんだっけ・・・・・・。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

あと10年は、戦えます。

 

 

毎朝、私はそのようなことを思います。

意味は、よくわかりませんが。

 

 

「・・・ん、ぅ・・・」

「う、むぅ・・・ぬ・・・」

 

 

目の前にはマスターの頭を抱きかかえるようにして眠る、アリア先生の寝姿。

マスターは多少苦しそうにむずかっていますが、アリア先生を押しのけるようなことはしていません。

むしろアリア先生のネグリジェの一部を握りしめ、放すまいとしているように見えます。

 

 

実はここ最近、新たにキングサイズのベッドを2つ購入し、共同の寝室を新築しました。

マスターの気が向いたときなどは、私を含め、ここで全員が眠ることもあります。

たとえば、今日とか。

 

 

「ふに・・・え、ぁさ・・・」

「・・・ん・・・りぁ・・・」

 

 

マスターだけでなく、アリア先生も意外と朝は弱い方なので・・・この瞬間は、私だけの時間。

最高画質で録画中、録画中・・・。

 

 

「茶々丸さ~ん、朝ご飯冷めちゃいますよ~?」

「スクナは、もう死にそうだぞ・・・」

「お静かに、マスターとアリア先生が起きてしまいます」

「オコシニキタンダロ」

 

 

この楽園の前には、そのようなことは些細なことです。

・・・とりあえず、外付けのメモリーを追加して・・・。

 

 

「んぅ~~?」

「・・・なんだ、騒々しい・・・」

 

 

なんということでしょう、起きてしまいました。

 

 

「ダカラ、オコシニキタンダロ」

「スクナ、死ぬのかな・・・」

 

 

なぜかスクナさんが床に倒れていますが、今さら慌てる程のことでもありません。

今はとにかく、目をこすりながらキョロキョロしているアリア先生を画像に・・・。

 

 

「むぅ・・・なんだか首が痛いな、寝違えたか・・・?」

「エヴァさん、おはようです」

「む、さよか。おはよう・・・おい、いい加減に起きろアリア」

 

 

マスターは寝癖を撫でつけながら、横でフラフラしているアリア先生の肩を揺すりました。

アリア先生は、「む~?」と言いながら、マスターの方を向き。

 

 

「ふに・・・ありあです。ごさいです・・・」

「幼児退行!? 本気でしっかりしろアリア!?」

 

 

マスターが両肩を揺すると、アリア先生はようやく意識が覚醒してきたのか、目をぱちり、と開きました。

そして、マスター、さよさん、姉さん、スクナさん、私を見た後、安心したような笑顔を浮かべて。

 

 

「・・・おはようございましゅ」

 

 

がはっ、と声を上げて、マスターがベットに手をつきました。顔を押さえているようです。

至近距離で見た分、威力が大きかったものと思われます。

 

 

「ひゃわわっ、エヴァさん血が! え~と、首をとんと~んすればいいんでしたっけ?」

「ば、ばか、やめろさよぶふぅっ!?」

「恩人―――っ!!」

「うわひゃっ!? ・・・・・・す、スクナさん!? なんですかホームシックですか!?」

「それだけは絶対にないぞ!」

「ケケケ、ダンゲンシタナ」

「チャチャゼロさんも頭に乗らないでください」

 

 

・・・楽しそうです。

 

 

「・・・とーう」

 

 

私はガイノイドです。

決して、マスターやアリア先生に粗相を働くようなことはしません。

 

 

「きゃっ・・・ちょ、ちょっと茶々丸さんまで!?」

「ば、ばかっ、まだ止まってないん・・・!」

「わ、私も~っ」

「うぉっ・・・重――――くないぞ! 紙のように軽いぞ! 本当だぞ!?」

「ケケケ・・・ウデガチギレソウダゼ☆」

 

 

・・・至福の時間です。

 

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

「させませんよ、アデアット! ・・・『千の魔法』№48!」

「氷の精霊29頭、集い来たりて敵を切り裂け!」

「鳴り響くは召雷の轟き 天より灰燼と化せ!」

「『魔法の射手・連弾・氷の29矢』!!」

「『雷天の雨』!!」

 

 

エヴァさんの撃った氷の矢がアリア先生の放つ雷の束に飲み込まれて、消えました。

ひゃわ~、いつ見ても、あの二人の模擬戦はすごいです。

ただ・・・。

 

 

「よくも、私の苺を!」

「だから、すまんと言っとるだろうが!」

「最後に食べようと、取っておいたのに~!」

「嫌いだから、残してるのかと思ったんだ!」

「苺が嫌いな人間がいるわけないでしょう!?」

 

 

いえ、いると思います。

会ったことはないですけど。

ちなみに苺は、朝食の時に出たデザートに入ってました。

つまりエヴァさんとアリア先生は朝食以降、ずっと喧嘩してるんです。

魔法戦を始めたのは、ついさっきですけど。

 

 

「さよさん、キャベツの千切りはできましたか?」

「あ、は~い」

 

 

茶々丸さんは、さっきから一心不乱に焼きそばを作っています。

お昼ご飯は何がいいかって茶々丸さんが聞いたら、アリア先生が「浜辺で焼きそばが食べたい」とねだったからです。

アリア先生が何かをねだるのは珍しいので、そこはエヴァさんも了承しました。

 

 

そんなわけで今、私達はエヴァさんの別荘内の海に来ています。

外は春なのに海水浴ができるなんて、変な気分です。

 

 

私はひたすらに、野菜を切っています。

お料理は、実際にしたことがあんまりないので、得意じゃないです。

でもこの魔法具『匠の包丁』ならば、慣れない人でも華麗な包丁さばきが可能なのです!

・・・自動で。

 

 

「ただいまだぞ!」

「モドッタゼ」

 

 

そこへ、麦わら帽子にオーバーオールという格好をしたす-ちゃんが、泥だらけになって戻ってきた。

にかっ、と笑って、肩に鍬を担いでいます。

麦わら帽子をかぶった頭の上には、チャチャゼロさん。

 

 

「おかえり、すーちゃん。本当に畑作ってるんだね」

「もちろんだぞ! ただ、ここは外と気候が違うから、ややこしいぞ・・・」

 

 

手に持っていた鍬を砂場に刺して、すーちゃんはフラフラと茶々丸さんの方に。

・・・お昼ご飯の焼きそばに吸い寄せられてるみたい。

 

 

「スクナさん、つまみ食いはダメです。あと手を洗ってきてください」

「1600年前にそんな習慣はないんだぞ」

「1600年後の現代にはあるんです」

 

 

焼きそばに手を伸ばそうとしたすーちゃんを、茶々丸さんが追い払います。

横で座り込むその姿は、なんというか、お預けされてる犬さんみたいで、なんだか可愛い。

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

「『千の魔法』№12!」

 

 

一方、海上では、エヴァさんとアリア先生の模擬戦が、佳境に入ったみたいです。

ものすごい魔力の高まりを感じます。

 

 

「さよさん、焼きそばを死守してください。最悪、姉さんとスクナさんは巻き込まれても構いません」

「ソリャヒドクネーカ?」

「あ、はーい、焼きそばだけでいいんですか?」

「さーちゃんもひどいぞ!?」

 

 

えっと、限定範囲の攻撃を防ぐ魔法具は、確かこのあたりに・・・。

がさがさと、荷物を探ります。急がないと。

 

 

「来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹けよ常夜の氷雪!」

「大地の底に眠り在る凍える魂持ちたる覇王、汝の暗き祝福で我が前にある敵を撃て!」

「『闇の吹雪』!!」

「『覇王氷河烈』!!」

 

 

2つの強力な魔力の凍気が、アリア先生とエヴァさんの中間でぶつかって、余波がこっちに。

食材箱の横に置かれた私の鞄から取り出したのは、一抱えもある鏡。

名前を、『神無の鏡』。

 

 

『神無の鏡』を抱えて、茶々丸さんと焼きそば(というか、それを焼いてるバーベキュー台)の前に。

・・・吸収~。

 

 

濁った鏡の表面が波打って、凍気の余波を飲み込んでしまいます。

そして、反転。飲み込んだ分を、反射します。

それはそのまま、半月上に広がって、ちょうど魔法を打ち終えた2人に・・・・・・あ。

 

 

「当たりました」

「・・・アタッタナ」

「当たったぞ」

 

 

どぼんっ・・・という音を立てて、2人が海に落ちて、バシャバシャと溺れ始めます。

上空でやってたから、下の海は凍らなかったんだ。

あわわわ・・・。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ふぁいふぁい、えふぁはんはいひひははいんえふよ!」

「やかましい! 食べるか喋るかどっちかにしろ!」

 

 

口いっぱいに焼きそばを詰め込んでいるので、喋れません。

仕方が無いので、食べることに専念します。もぐもぐ。

 

 

「・・・ああ、もう。私が悪かった。食べるのをやめて喋ってくれ」

「んぐんぐ・・・大体、エヴァさんは意地汚いんですよ!」

「口が開いた途端にそれか! 案外こだわる奴だなお前も!」

 

 

さよさんに撃墜(?)された後、スクナさんに救出された私は、浜辺に設置されたテーブルで焼きそばを食べています。

美味です。無意味に美味です。流石は茶々丸さんです。

 

 

「しょうがない奴だな・・・わかったよ。茶々丸、明日の朝食にも苺を出してやれ。私の分もアリアにやれ」

「わかりました。これから一週間、マスターのデザートをアリア先生に」

「一週間苺ですか~?」

「うまいぞ! もう一杯!」

「ちょっと待て、明日だけだ! あと3杯目はそっと出せバカ鬼!」

 

 

説明が遅れましたが、メイド服の茶々丸さんと、チャチャゼロさんを除き、私達は全員水着です。

スクナさんも、海に飛び込んだので、水着に着替えていますね。

全身タイプのアレです。

エヴァさんは、フリルのたくさんついた黒のワンピースタイプ。

さよさんも、青のワンピースに、白い薄手の上着を着込んでいます。

私は腰にパレオのついた、白のセパレートタイプです。

 

 

「恩人の身長よりも低かったな、水!」

「水深が1メートルだろうと5メートルだろうと、水は水です。侮ってはいけません」

「あわわ・・・ご、ごめんなさい、つい」

「騒ぎ方が尋常ではありませんでした。・・・マスターも」

「う、うるさいぞ茶々丸! ここが別荘でなければだな!」

「カンケーネーダロ、ケケケ」

 

 

無意味に命の危機を喧伝しないでください。

あと茶々丸さん、私のお皿に山盛りで焼きそばを盛らないでください。

太っちゃいますよぅ。

 

 

昨日・・・というより、まだ外は修学旅行の5日目ですね。

別荘に入ったのが15時過ぎ、今が別荘内の2日目のお昼ですから、外は16時を過ぎたあたりでしょうか。

外の時間で、17時半くらいには出ないといけないので、ここではもうあと一日と少し、休めるでしょう。

 

 

その間くらいは、好きに過ごしても良いですよね。

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「んっ・・・」

 

 

血の味は、個人によって違う。

血液型によっても異なるし、含有する魔力によっても変わる。

吐き捨てるほど不味い物もあれば、我を忘れるほど美味い物もある。

 

 

「ん、く・・・お、思ったんです、けど・・・んっ」

「・・・ふ、む・・・なんだ・・・?」

 

 

アリアの血はなんというか、こう・・・若者らしく爽やかでありながら、女性らしくまろやかだ。

そして・・・。

 

 

「石化した身体から魂を抜いて、外の新しい肉体に・・・んっ、入れるのは・・・?」

「ん・・・ああ、250年くらい前に、似たようなことをした奴がいたな・・・」

「どう・・・あぅ、なりまし、た・・・?」

「石の身体の方に魂が引っ張られて、裂けた」

 

 

アリアの首筋から口を放して、手首についた血を舐めとる。

・・・ふむ。

 

 

「あ~、それは無理そうですね・・・やっぱり薬品とかの方がいいのでしょうか」

「新しく術式を作ってもいいだろうがな」

 

 

やはり、多いな。

血を飲むようになって大分立つが、ここに来て確信できることが一つあった。

アリアの血液には、常人に数倍する情報量が含まれている。

単純に、一言で言えば・・・。

 

 

「・・・というか、別に首筋から飲まなくても・・・」

「心臓に近い方が美味いんだよ。なんなら胸に噛みついてもいいんだが?」

「首で良いです」

 

 

一言で言えば、魂の情報量が多い。

身体は10歳だ。血液の新鮮さも、それを証明している。

だが含まれる魂の情報は、それを否定している。

・・・これは、どういうことだ? まるで・・・。

 

 

「・・・エヴァさん?」

「・・・・・・あ、ああ」

 

 

不思議そうな・・・見方によっては不安そうにも見えるアリアの表情に、笑みを返す。

・・・まぁ、いい。

 

 

「それはそれとして・・・もう少し、飲ませろ」

「ええ? 今、飲んだばっかりじゃないですか」

「若いんだから、すぐ回復するさ・・・それにあの程度では、全然足りぬ・・・」

 

 

直したばかりの水着の肩口をまたズラして、口を近付ける。

アリアは少し身を固くしたが、すぐに嘆息して私の後頭部に手をやり、受け入れる姿勢を整えた。

さら・・・と、私の指がアリアの髪に触れ、同じようにアリアの指が私の髪に触れる。

 

 

「・・・ん」

 

 

矛盾を抱えた不思議な味を楽しみながら、アリアのことを考える。

魔眼のことといい、魔法具のことといい、こいつは不思議なことばかりだ、が。

いつか、自分で話すだろう。

私はそれまで、待っていれば良い。

 

 

 

「あわわわ・・・////」

「恩人と吸血鬼は何やってんだー?」

「静かにしてください。余計な音が入ってしまいます」

「カワッタナ、オマエ。ヨロコブベキナノカ・・・?」

 

 

 

・・・まったく、あのバカ共は隠れる気が―――ないな。断言できる。

ボケの入った元幽霊に、非常識なバカ鬼、ネジの緩んだロボット、生意気な刃物人形。

我ながら、奇妙な家族構成になったものだ。

 

 

・・・私達は待っているぞ。アリア。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「かゆいところはございませんか~?」

「あ、はい。大丈夫です・・・」

 

 

わしゃわしゃとさよさんに頭を洗われながら、目の前にいる魔法具『草の獣』と戯れてみます。

外観は、草に覆われた6本足のトカゲ。

自律行動できる魔法具を作ろうと、試しに創ってみたのですが・・・。

 

 

「・・・なんだ。そのトカゲは相変わらずか?」

「トカゲって言うか・・・植物なんですけどね」

 

 

生物の疲労を余剰熱として食べてくれる植物で、本来は片言で喋れるのですが。

動物的な意思やら何やらが、全くと言っていいほどありません。

やはり、独立した意思を持った魔法具は上手く創れないなぁ・・・。

ご覧の通りナマケモノよりもゆっくりとした、「癒し系」として別荘の浴場にいます。

 

 

「まったく、お前はたまに妙な物を作るな。この前はやたらと手の長いロボットを作ろうとしてなかったか?」

「いざと言う時のためには、日頃の試行錯誤が重要なんです! あと手が長いとか言わないでください。かの天空の城を守護した『ロポット』です! 完成していれば、ここの門番として大活躍でしたよ!?」

「だが、実際には置物同然だからなぁ」

 

 

湯船につかりながら、どこかバカにしたように言ってくるエヴァさん。

むむむむ、『ロポット』が自律稼働さえしてくれていれば・・・!

手で触れて命令すれば、動いてくれるのですけど・・・。

 

 

「は~い、終わりましたよ~」

「あ、ありがとうございます。じゃあ、お返しに私がさよさんの髪を洗いますね」

「え、大丈夫ですよ~。私は自分で洗えますから」

「ああ、そうで・・・って、それじゃ私が一人で洗えないみたいじゃないですか」

「洗えんじゃないか。実際、お前が一人で髪やら何やらを洗っている所を見たことがないぞ」

 

 

それは、エヴァさんやさよさんが面白がって私の髪や身体を洗うからじゃないですか。

一度だって自分でやらせてくれないんだから・・・。

 

 

「とにかく、私は自分で洗いますから」

「そうですか・・・残念無念です」

「なら、スクナがやるんだぞ!」

「あ、すーちゃんがやってくれるの?」

「スポンジをダメにするなよ。茶々丸がうるさいぞ」

「あはは、じゃあさよさんはスクナさんにお願いして、私は・・・・・・って」

 

 

いやいやいやいやいや。

 

 

「な、なんでスクナさんがいるんですか―――!?」

「うん? なんだ今さら。昨日もいただろ」

「いたぞ。恩人は覚えてないのか?」

「あ、昨日はアリア先生、疲れてましたからね。半分寝てたんじゃないですか?」

 

 

当たり前のような顔をして、エヴァさんとさよさんは言ってますけど。

スクナさんは見た目10歳ですけど、実は1600歳ですからね!?

 

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「スクナさんは明日、朝食抜きです」

「ナンダイキナリ」

「いえ、別に」

 

 

姉さんを頭に乗せながら、明日の朝食の仕込みをしています。

その中から、スクナさんの分を片づけておきます。

 

 

「・・・私も、防水と放熱の問題さえ解決できれば」

「オーイ、ダイジョウブカ?」

「問題ありません。ハカセへの要望が増えただけです」

「マァ、イイケドヨ」

 

 

私も、マスターの髪を洗ったりアリア先生の身体を洗ったりさよさんとお喋りしたりしたいです。

浴場で。

 

 

「オーイ、アタマガアツイゾ。ホントニダイジョウブカ?」

「大丈夫です。ハカセへの要求が増えただけです」

「ビミョウニチガワネーカ? ナントイウカ、ホントウニカワッタナ」

 

 

変わった、ですか。

自分では、判断できかねますが。

 

 

「私は変わったと思いますか?」

「ン? アア、ソウダナ。マエダッタラ・・・」

「以前だったら?」

「ソモソモ、ソンナコトキイテコネーダロ」

 

 

・・・やはり、自分ではわかりかねます。

ただ、姉さんの機嫌も良いようなので、悪いことではないと思います。

 

 

「トコロデ、アレハナンダ?」

 

 

テーブルの上に積んである物に、姉さんが不思議そうな声をあげます。

 

 

「知人からいただいたものです」

「・・・ホドホドニシロヨ」

「はい」

 

 

・・・楽しみです。

 

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・おい茶々丸。これは何だ?」

「本日のパジャマでございます」

「それはわかってる。だが、これは、お前・・・」

 

 

人によって差異があるとは思うが、寝る前には寝間着、つまりはパジャマに着替えるものと思う。

ただ・・・。

 

 

「知人からいただいたもので、『着ぐるみぱじゃま(仔狸ver)』というらしいです」

「まぁ、確かに着ぐるみでパジャマでタヌキさんですね」

「全員分いただきました」

 

 

渡されたそれを、アリアは両手で持ってしげしげと眺めている。

いったい誰がこんな物を茶々丸に。

知人というのは、超やハカセではないようだが・・・。

確かに着ぐるみでパジャマでタヌキだが・・・って。

 

 

「おいバカ鬼。何を躊躇もなく着こんでいるんだお前は」

「吸血鬼は着ないのか?」

「いや、お前以外に誰が着るんだこんな物」

「茶々丸さ~ん、これどうやって着ればいいんですか~?」

「・・・って、さよ! お前もか!?」

「ケケケ、コッチモオーケーダゼ」

 

 

見れば、茶々丸に手伝ってもらって、さよも着ようとしている。

いつの間にか、枕元のチャチャゼロまで着ぐるみになっていた。

 

 

「まぁまぁエヴァさん。せっかくの頂き物ですし、今夜くらい良いじゃないですか」

「いや、しかしだな。こんな物私には似合わん・・・というか、何も全員で同じ物を着なくともいいだろう」

「ダメ・・・でしょうか。マスター」

「え~、私もう着ちゃいました。それにすーちゃん、寝ちゃいましたよ?」

「む・・・」

 

 

確かに、バカ鬼がベッドの片隅で眠りこけているな。というか、寝付き早過ぎだろ。

ま、まぁ、茶々丸にはいつも世話になっているしな。

 

 

「・・・今夜だけだぞ」

「ありがとうございます。マスター」

「エヴァさんって優しいですよね~」

「うふふ・・・」

 

 

着ぐるみパジャマとやらをひったくって、適当に着こむ。

まったく、くだらん。実にくだらん。

こんな物、何が楽しいと言うのだ。

 

 

「その割には、嬉しそうですね」

「や、やかましい! 明日は早いんだ、さっさと寝ろ!」

 

 

まったく、バカ共が。

・・・・・・まったく。

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

翌朝、朝食を取った後、私達は別荘から出ました。

外は、ちょうど良い時間ですね。

 

 

「アリア先生、来たえ~」

「お邪魔します」

 

 

5分後に、刹那さんと木乃香さんが来ました。

本当なら、もう少しゆっくりしてもらいたかったのですが・・・。

昨夜の遅くに、今日の18時から魔法先生での会議をすると極秘連絡がありましたから。

別荘は、エヴァさんが「まだ秘密だ」と言っていましたしね。

 

 

「よし、では行くか・・・さよはここに残って、近衛木乃香と桜咲刹那に私達の映像を見せてやれ」

「はいです」

「チャチャゼロとバカ鬼も残れ。まさかとは思うが、一応な。侵入者がいれば容赦するな」

「わかったぞ」

「ケケケ・・・タノシミダゼ」

 

 

茶々丸さんは、私達と一緒に来ていただきます。

というか、本人の強い要望で、ついて来てくださるそうで。

 

 

「あの・・・何を見るのでしょう?」

 

 

エヴァさんの言葉に不安になったのか、刹那さんがそんなことを聞いてきます。

その後ろでは、木乃香さんもどこか不安そうにしています。

・・・私としても、できれば見せたくはないです。

 

 

「・・・見てればわかるさ」

 

 

決意の鈍らない内に現実を見せた方がいいと言うのは、エヴァさんです。

まぁ、遅かれ早かれ知ることになりますし、何より。

今、実際に頑張る必要があるのはエヴァさんであり、私です。

 

 

・・・気のせいか、エヴァさんはどこか楽しそうですけど。

 

 

「行くぞ」

「はい、マスター」

 

 

休息は終わり。

ここからは、面倒事が渦巻く、現実の世界です。

またまた面倒になってまいりましたね。シンシア姉様。

 

 

 

 

 

 

アリアは、また頑張らねばならないようです。ただ。

今回は、一人ではないです。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は、別荘内での息抜きを描きました。
こんなにのんびりしたのは、久しぶりですね。


今回の作中に出てきた魔法具と『千の魔法』は以下の通りです。
匠の包丁:提供は霊華@アカガミ様です。
神無の鏡:元ネタは「犬夜叉」、提供はゾハル様です。
草の獣:元ネタは「終わりのクロニクル」、提供はFlugel様です。

あと、直接出てはいませんが。
ロポット:元ネタは「ラピュタ」。提供は司書様です。

『千の魔法』は。
覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス):元ネタは「スレイヤーズ」、提供は伸様です。
雷天の雨:提供は霊華@アカガミ様です。

『千の魔法』の詳しい登録法などは、弟子入り編、または悪魔編前の主人公設定公開時に解説を載せたいと思います。

さらに魔法具ではないですが、『着ぐるみぱじゃま(仔狸ver)』は、月音様のアイデアをいただいています。

皆様、ありがとうございます。


アリア:
次話は、京都編の後始末的な話になるでしょう。
エヴァさんが詠春さんから引っ張ってきた条件とは、どんなものか。
では、またお会いしましょう。


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第35話「東西・会談」

Side 学園長

 

麻帆良学園は多くの生徒が通う学園都市であると同時に、関東魔法協会の本部でもある。

当然、「それなり」の設備は整っておる。

 

 

上座のわしの席を頂点に、左右に長テーブルと十数個ずつの椅子が並んでおる。

そのそれぞれに、麻帆良に勤務しておる魔法先生が座る。

タカミチ君だけは座らずに、わしの背後に控えておる。

全員ではないが、主要なメンバーはほぼ揃っていると言っても過言ではあるまい。

彼らの手元には、瀬流彦君が上げてきた報告書がある。

 

 

そこには京都で何が起こったか、その一部始終が書かれておる。

瀬流彦君も全ての現場を見ていたわけではないので、不明瞭な点もあるが大まかな流れはわかる。

特筆すべきは・・・。

 

 

「アリア君か・・・」

「はい。彼女がいなければ、どうにもなりませんでしたよ」

 

 

僕は戦いは苦手ですから。

瀬流彦君は笑ってそう言うが、これは・・・。

 

 

「しかし学園長、彼女は超鈴音と並ぶ要注意人物だったはずでは?」

「むぅ、そうなのじゃが・・・」

 

 

刀子君の疑念も最もじゃが、しかし瀬流彦君が虚偽の報告をするはずもない。

そしてこの報告書を見る限り、アリア君のおかげで一般生徒への被害を防げたと言うことになる。

 

 

「・・・ネギ君に関する報告が少なくないかね? 特に、肝心の三日目の部分で」

「ああ、ネギ君はその日、関西呪術協会の本部に泊まり込んでいましたから。細部はちょっと・・・」

「親書の受け渡しが終わったことと、その後の関西の問題に手を貸したことは、直接報告を受けておる」

「なるほど・・・」

 

 

ただアリア君が瀬流彦君の目の届く範囲外で何をしていたかの部分は、書かれておらん。

本人からの報告が無い分、辛いの・・・。

こちらの依頼で動いていない以上、報告の義務は無いが、情報が少ない。

 

 

「だが、アリア君はあの<闇の福音>の下にいるんだ。油断は・・・」

「私が・・・なんだって?」

 

 

場が、静まり返った。

扉の枠に身体を預けるようにしてこちらを見ているのは、金髪の悪魔。

・・・エヴァンジェリン。

 

 

「ふん・・・てっきり、もう始まっているのかと思ったがな」

「・・・向こうが設置に手間取ってるようでの」

「ま、そんなところだろうさ」

 

 

そのまま周囲には話しかけることなく、ずかずかと入室してくる彼女の後ろには絡繰君と、もう一人。

先ほどまで話題に上っていた白い髪の少女、アリア君が続いておった。

 

 

アリア君は末席の椅子に座ろうとしたようじゃが、エヴァンジェリンはアリア君の首根っこを掴むと、ずるずると引きずっていった。

それを見て大半の先生が顔を顰めたのじゃが、瀬流彦君だけは苦笑しながらアリア君に手を振っておった。

ガンドルフィーニ君に睨まれて、すぐに引っ込めたが。

 

 

エヴァンジェリンはそのまま、勝手に予備の椅子をわしの隣に置くと断りもなく腰かけた。

・・・相変わらず、強引じゃのぅ。

わしは構わんが、もう少し周りとの軋轢とか―――今さらじゃったな、うん。

 

 

絡繰君とアリア君は、自分の両脇に控えさせておる。

まるで、「私のモノだ」と誇示しておるようにも見える。

と言うか、そう言いたいんじゃろうの・・・。

後で苦情を受けるのはわしなのじゃが。

 

 

「それで・・・これは、どういうことかの」

「何の話だ? 私が関西の政治に口を出すはずがないだろう?」

 

 

にやにやとしながら、何を言うか。

本来ならば、ここは関東の魔法先生間の会議のはずじゃったのじゃが・・・。

今朝になって、関西の婿殿から「首脳会談」の申し入れがあった。

もちろん、直接会うわけではない。

魔法を使った遠距離間会談。しかも、東と西でじゃ。こんなことは史上初じゃろうて。

 

 

「繋がりました」

 

 

その報告と共に、室内が薄暗くなる。

そして同時に、わしらの目の前に設置された通信用の水晶から、立体映像(ホログラフ)が浮かび上がる。

そこに映し出されたのは・・・婿殿じゃ。

 

 

婿殿は、縮尺の関係で多少ズレてはおるが、しきたりに則って礼をしてきた。

わしも、礼を返す。

 

 

『関西呪術協会の長、近衛詠春です』

「関東魔法協会理事、近衛近右衛門じゃ」

 

 

今日は婿と舅ではなく、東西の代表として会う。

・・・これも、初めてのことじゃな。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

『・・・この度は、関西の問題解決にそちらの人員が協力してくださり、感謝しています』

「まだ報告は受けておらんが、そういうことらしいの」

 

 

はん、さっきまでその話題で持ちきりだったくせに、良く言う。

もちろん、近衛詠春もじじぃが知らんはずがないことを知っている。

向こうが何人参加しているかは知らんが、こちらの情報伝達の速度を知りたがっている奴がいるのだろう。

 

 

「残念なことじゃが、東西の和平には、まだ届かんようじゃの」

『悲しいことです』

「その通り。じゃがわしらがこの場で何かの妥協を見出せれば、状況は変わる」

『それも双方が受け入れられる妥協、ですね』

「そうじゃのぅ」

 

 

・・・始まったか。

まだるっこしいことこの上ないが、会談というか、交渉という物はこんなものだろう。

腹黒さと忍耐力と冷静さと姑息さを混ぜ合わせたようなものが、交渉だ。

 

 

近衛詠春もじじぃも、そこで一旦会話を止めた。

関西の方から持ち掛けてきた会談なのだから、近衛詠春の側が本題を持ちだすべきだが・・・。

「すぐに本題に入りたがる態度」から、何かを読み取られるのを嫌っている。

じじぃも、「本題を急かす態度」から、やはり言外の何かを読み取られたくないと考えている。

 

 

この沈黙の間に、2人は考えているはずだ。

じじぃは近衛詠春が今、どの程度の影響力を残しているかを。

近衛詠春はじじぃが今、どの程度部下を統率できているかを。

この交渉の効果を、探っている。

 

 

『・・・親書にもありましたが、東西和平の意思に変わりはないと?』

「もちろんじゃとも」

 

 

次の会話が始まったのは、ゆうに5分は経った後だった。

忍耐力の無い奴は、すでに身体を揺すり始めた頃だ。

 

 

『ならば我々は、より和平路線を進めることができるはず』

「そうじゃの、それには、具体的かつ漸進的なアプローチが欠かせんと思うがの?」

『同感です・・・では、まず一つ』

「何か、あるのかの」

 

 

近衛詠春は、言った。

 

 

『今後、近衛木乃香への不当な関与を差し控えていただきたいのです』

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

『不当な関与というと・・・どういうことかの?』

「こちらで得た情報によると、現在近衛木乃香は西洋魔法使いの方と同居させられているとか」

 

 

ここからだ、ここからが難しい。

今、私の目の前には関西各地から集まった協会の幹部がいる。

右と左に列をなして座っているが、強硬派と穏健派に綺麗に別れているのが何とも言えないな。

 

 

「しかもその方は教師で・・・もう一人のルームメイトとは、パートナー契約までされているとか」

『そ、それは・・・』

「近衛木乃香は、私の一人娘です。この意味が、おわかりかと思いますが・・・」

 

 

とは言え、木乃香は関西での地位を拒否する姿勢を見せている。

だがそれは、まだ他の者に知られるわけにはいかない。

少なくとも公式の場で、表立っては。

 

 

「それでなくとも教師と同居というのは、公的にも、私的にも、認めるわけにはいきません」

『・・・しかし、こちらもご息女の身の安全を確保するために』

「その件で、もう一つ」

 

 

まだ早い。

ここで、アリア君の庇護下だと宣言するわけにはいかない。

西洋魔法使いの意思で西洋魔法使いの庇護下にいると言えば、即座にアウトだ。

焦るな・・・。

 

 

「こちらから近衛木乃香の護衛役を派遣し、常に守らせましょう。これで、そちらに気を遣わせずに済みます」

『・・・それはいい考えじゃと思うが、して、その者は?』

「それは、教えられません。明かしてしまえば、いろいろと問題が出ますから」

『そうは言っても、こちらも学園全体の警備を考える必要があるでの。流石に正体のわからぬ者を受け入れることはできん』

 

 

一瞬、強硬派の若手が騒ぎかけたが、手を上げて抑えさせる。

ここで、こちらが一枚岩でないことを相手に教えるわけにはいかない。

結構、気を遣うな・・・秘密会談にもできないから。

 

 

「なるほど・・・では、どうでしょう。こちらがそちらの人員の中から、選ぶと言うのは」

『こちらの・・・つまり、西洋魔法使いの中から、かね?』

「ええ、そうなります。それならば、双方にとって公平ではありませんか?」

『そうじゃのう・・・しかし、失礼を承知で申し上げるが、そちらは、こちらの人員について詳しい者がおるかの?』

 

 

そう、普通ならそうですね。お義父さん。

ただ一人だけ、双方が納得する、させることのできる人選がある。

 

 

そちらが納得する人選で、かつ、「関西が選んだ」人材に木乃香を保護させる。

この件に関する関西側の意思統一は、なんとか間に合った。

陰陽師側の意思で、西洋魔法使いに保護を「要求」する。

これが、ギリギリの妥協点だった。

 

 

「アリア・スプリングフィールドを、指定させていただきたい」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

なるほど、やってくれるではありませんか。

まさかこんな形で4つ目の条件を無視されるとは思いませんでしたよ、近衛詠春さん。

 

 

エヴァさんが見せた条件項目の中に、木乃香さんを公式に私の庇護下に置くというものがあり、どうするのかと思っていましたが・・・。

隠すのではなく公開することで、庇護下にあることを合法化するわけですか。

それも「東の意思」を強調すると言う、えげつなさ。

守っているだけでは状況は好転しないと、エヴァさんは言っていましたが・・・。

 

 

『もちろん、アリア・スプリングフィールドに求めるのは近衛木乃香の身の安全のみであり、近衛木乃香を西洋魔法に触れさせることは許可できません』

「ふむ、アリア君を、か・・・」

 

 

皆の視線が私に注がれますが、そこで見られても困ります。

なぜなら、私自身が困っているからです。

 

 

『近衛木乃香と比較的年も近く、女性です。さらに言えば先の事件でこちらとも顔合わせをし、信頼も置けます。現状よりはよほど健全で常識的かと思いますが』

「それは、アリア君と木乃香君を同居させる、というわけですかの?」

 

 

罠ですね。

ここで素直にイエスと言えば、結局は西洋魔法使いとの同居を許可するとの言質を取られたことになります。

 

 

『そうは言いません』

「ほ、というと?」

『どのような形で保護するかは、そちらの人員ですから、そちらで決めていただいて結構』

 

 

その言い方も不味い。

それだと、東にフリーハンドを与えることになります。

 

 

『ただし、そちらで決定した方針について、必ずこちらと協議していただきたい』

 

 

ナイスです。

お父さん、頑張ると言う奴ですか。

やはり木乃香さんの一言が効いたのでしょうか。

・・・エヴァさんの可能性もありますが。

 

 

「協議というと?」

『近く近衛木乃香の教育のために、こちらから新たに陰陽師を派遣する予定でした。彼女を通じて、こちら側の意思を確認していただければ』

「その者については・・・」

『もちろん、一両日中に書類を送り、到着次第挨拶に伺わせます。護衛が目的ではないので』

 

 

これは、刹那さんが麻帆良にいるのと同じ原理でしょうね。

名目上は「入学」であって「護衛」ではないので。

・・・それにしても、彼女?

 

 

どういうわけか、激しく心当たりがあります。

いったいいつ、コンタクトを・・・?

 

 

「ふむ、なるほどのぅ・・・」

『無論、近衛木乃香が今後、裏の何事かに接触する場合にはアリア・スプリングフィールドを通してもらいます。でなければ、保護の意味がない』

「それはまぁ、そうじゃろうがのぉ」

 

 

学園長も、負けてはいませんね。

相手に喋らせるだけ喋らせて、のらりくらりと、反撃の機会を窺っています。

腹黒さでは、こっちの方が上かもしれませんね。

 

 

『・・・なお、誤解の無いように、申し上げておきますが・・・』

 

 

む、詠春さんの声のトーンが変わりましたね。

勝負の時間、というわけでしょうか。

 

 

『これは最低限の条件です。もしこれが通らない場合東側には和平の意思なしと見なし、相応の対応を取らざるを得ません』

「相応の対応、のう・・・」

『近衛木乃香をこちらへ戻し、残念ですが、我々関西呪術協会は今後、東側との一切の関係を絶たせていただきます』

「む・・・」

 

 

事実上の、断交通告ですね。最後通牒と言っても良いでしょう。

もちろん、それができないことは学園長も詠春さんも気付いているでしょう。

 

 

東側は、近衛木乃香を始めとする人質を抱えています。それを盾に西側を脅迫できる。

西側は、全戦力で持って東側に呪詛をかけることができると、脅すことができる。

そして、お互いに相手がそうできることを知っている。

だから、あえてそれは口にしない。

 

 

むしろ西側がそう言わなければならないという、この状況こそが深刻だと学園長に伝えたいのでしょう。

もちろんその気になれば、実行もできるでしょうが。

 

 

『・・・・・・ところで、こんな噂を耳にしたのですが』

「・・・噂?」

『ええ、噂です』

 

 

映像の詠春さんはいきなりトーンを戻して、世間話の調子で。

 

 

『お見合いをさせているそうですね』

 

 

終わった・・・。

たぶんこの場にいる誰もが、そう思いました。

致命的な弱点を突かれた・・・そんな空気。

交渉の主導権がどちらにあるのか、はっきりと全員が理解しました。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

相坂さんの持ってきてくれた『遠見の鏡』というそれは、東西の遠距離会談の様子を鮮明に映し出していた。

あまり見ていて、気持ちの良いものではない。

 

 

特にこのちゃんの意思とは関係なく、このちゃんの今後を話し合っているあたりが。

仕方がないこととはいえ、納得はできない。

できれば今すぐにでも乱入したいところだが、しない。

 

 

なぜならこの会談がまとまれば、おそらくこのちゃんの安全性がかなり増すからだ。

アリア先生以外の西洋魔法使いは、このちゃんに接触しずらくなる。

その上ネギ先生との同居という、不可思議な状況からも脱することができる。

私自身の手で何もできていないのは、悔しいが・・・。

 

 

その時、不意に左手に温かい感触。

このちゃんの右手が、私の左手を包み込んでいた。

ふ・・・以前の私なら取り乱したろうが、今の私は一味違う。

 

 

「こ、ここ、こここここのちゃん!?」

「せっちゃん」

 

 

極めて、そう極めて冷静に名前を呼んだ私に、このちゃんは、穏やかに微笑んで。

 

 

「がんばろな」

 

 

と、言った。

何を頑張るのかは、聞かずともわかる。

わかる、気がした。

 

 

私達を心配してくれる、全ての人のために。

私は・・・。

 

 

「・・・うん」

 

 

とだけ、答えた。

私と同じように、このちゃんにも伝わると、いいな・・・。

 

 

「ケケケ・・・マトモナノッテ、オレダケナノカ・・・?」

 

 

鏡の横に座っているチャチャゼロさんが、そんなことを言っていた。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「どう? すーちゃん」

 

 

屋根の上に座りながら、学校のある方角を難しそうな顔で睨んでるすーちゃんに窓から声をかける。

今エヴァさんの家の周りは、私が張った結界で覆われてます。

人間の気配とか、魔力とか、そういうものを隠すための結界。

 

 

アリア先生によると、私はそういう何かを隠したりするのが上手みたいです。

幽霊時代もなかなか気付いてもらえなかったし・・・ま、まぁ、それはいいよね!

 

 

「・・・嫌な感じだぞ」

「嫌な感じって?」

「見られてる」

 

 

見られてる? 監視・・・ってこと?

でもアーティファクト『探索の羊皮紙』によると、半径20m以内には、私達以外いないし・・・。

これ以上探索範囲を広げると、知らない人は表示されない。

 

 

「近くじゃないぞ。ものすごく遠い・・・・・・潰すか?」

 

 

そう言うとすーちゃんの目が金色になりかけて、屋根が重みでミシミシと音を立て始めた。

あわわわ・・・。

 

 

「だ、ダメだよすーちゃん! 家が壊れちゃうから!」

「んぉ? おお~それは不味いな、吸血鬼に氷漬けにされちゃうぞ・・・」

 

 

たまにそれ言うけど、されたことあるの?

 

 

「それに、あんまり麻帆良ですーちゃんの力を解放しちゃいけないってエヴァさんも言ってたし。何もしてこないなら、そのままにしておいて大丈夫だと思う」

「ん~。まぁ、殺気とかはないし・・・お?」

 

 

いつもの調子に戻って、すーちゃんが言った。

・・・あ。

 

 

「雨だぞ」

「雨だね・・・すーちゃん、中入ろ?」

「ダメだぞ。恩人と吸血鬼が戻るまでは、スクナはここにいないといけない」

「そっか・・・う~ん。じゃあ、傘持ってくるね」

 

 

雨が降ってきて、私は傘を取りに中に戻りました。

そういえば、エヴァさんとアリア先生、傘持って行ってたっけ・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

学園長が、燃え尽きていました。

まぁ、関西側の要求をほぼ全て飲まざるを得なくなりましたからね。

 

 

というか普通に考えて、関東のトップが関西のトップの一人娘にお見合い強要って、もうそれだけで致命的ですよね。

しかも相手に無断で、当事者の了解もなく。

どう考えてもアウトですよね・・・。

どうせ「相手は婿殿じゃし大丈夫じゃ」とか考えていたのでしょうけど。

 

 

ちなみに、会談はすでに終わっています。

木乃香さんについては、私、木乃香さん自身が信任した者、そして新たに関西から送られてくる陰陽師の方の三者で保護することになりました。

さすがに私一人に一元化されるのは負担なので、エヴァさんが口を出しました。

 

 

ただ東西で定められたこのルール以外で、関係者が木乃香さんと接触を図ることはできません。

その排除される関係者の中には、ネギ兄様も含まれています。

木乃香さんが望み、私が認めない限りは。

 

 

後は関西ばかりが人員を派遣できるというのは問題なので、関東からも人を派遣、相互に代表部を置くことになりました。

大使の交換みたいなものですね、イメージとしては。

 

 

今日のところは意見交換のみで、詳しいことは実務者協議で決定されることになっていますが・・・。

事実上の大筋合意がなされた以上、この交渉は関西のペースで進められるでしょう。

 

 

・・・いや、それにしても学園長が完全アウェーなこの空気。

ヤバいです、面白過ぎます。

 

 

「・・・学園長」

「・・・ほ?」

 

 

空気を変えようとしたのか、それまで沈黙していたタカミチさんが学園長に声をかけました。

 

 

「今日のところは、解散にしますか?」

「そ、そうじゃの・・・もう時間も遅い。皆、明日は休暇とし、来週中にまた今日の会談についてまた会議をするでの。それまでに意見をまとめておくように・・・では、解散じゃ」

 

 

意見をまとめる時間が必要なのは、いったい誰なのでしょうね。

少なくとも、ここにいる人間の意思は結構統一されてると思うのですけど。

 

 

「学園長」

「な、何かね?」

「・・・自重してください」

 

 

ガンドルフィーニ先生の声音には、切実な物がありました。

まぁ、組織人としてはそうなりますよね・・・。

 

 

「なんだなんだ、それだけか? もっと言ってやればいいじゃないか」

 

 

うわぁ、エヴァさん楽しそうですねぇ。

学園長がいじめられるの、そんなに好きですか。

なんとなく、ガンドルフィーニ先生達がエヴァさんを睨む目にも、力がありません。

 

 

睨みはするものの・・・言葉は出ない。

 

 

「・・・ふん、つまらん。終わったのなら帰るぞ、茶々丸、アリア」

「はい、マスター」

 

 

結局私、一言も発言していません。

まぁ、魔法関係者ではなく、エヴァさんの従者として来ているのですから仕方ありませんが。

従者は、主人の許可なく公式の場で発言しないものです。

 

 

「待ってほしい。アリア君にはまだ話を・・・」

「なんだ、ぼーやからアリアに乗り換えるのか?」

 

 

冷やかな目で、そんなことを言うエヴァさん。

なかなか、直截的な表現ですね。

 

 

「アリアは私の従者だ。私の許可なく詰問するなど許さん。スペア扱いされてはかなわんからな」

「それは・・・どういう意味かな?」

「そのままの意味だよ、タカミチ」

 

 

ガンドルフィーニ先生に代わって前に出たのは、タカミチさん。

なんとなく、痩せたようにも見えますね。出張のしすぎでは?

 

 

「英雄の子供が2人いると、便利だとは思わないか? 片方いれば事足りるのだから」

「・・・そんな風に思ったことはないよ」

「だが、父親のように生きてほしいとは思っていただろ?」

 

 

まぁ、多くの方は兄様の方に期待していましたけど。

魔法が使えない、というのが致命的でしたね。

あの失望と同情と嘲笑と侮蔑のこもった目を、私は忘れないでしょう。

 

 

「だいたい、誰のおかげで京都から生徒が無事に帰れたと思っている? まずそのことに礼を言うのが、礼儀と言うものではないのか?」

「それは」

「あの場で命を懸けたのはアリアであって、ぼーやでも、そこの馬の骨でもない」

 

 

まぁ、京都で何があったのかの最重要部分は知らないはずですから。

関西から教えられれば、別でしょうけど。

そしてそれは、エヴァさんに馬の骨呼ばわりされた瀬流彦先生の報告書が不完全だったから。

・・・意図的に。

 

 

案外、あくどいこともできるのですね。

・・・訳知り顔でウインクしないでください、茶々丸さんが見てますよ?

後でエヴァさんに殺されそうになっても、知りませんからね。

 

 

「考えたことはあるか? なぜ私がぼーやを名前で呼ばず、妹のアリアを名前で呼ぶのかを」

 

 

それがこの場での、エヴァさんの最後の言葉でした。

・・・光栄の極みだと、言っておきましょうか。

名前を呼ばれることが、こんなにも喜ばしいことだとは。

嬉しいことです。シンシア姉様。

 

 

 

 

 

 

アリアには、名を呼んでくれる人がいます。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は私、ほぼ喋ってないです。
これまでは自分で頑張っていましたが、今回は詠春さんとかの方が頑張ってましたね。
次話は喋れると思いますけど・・・どうなることやら。



アリア:
今作の魔法具は以下の通りです。

遠見の鏡:元ネタは「ゼロの使い魔」。提供はゾハル様です。
ありがとうございました。


アリア:
次話は、原作で言う弟子入り編になるのでしょうか。
弟子入り・・・するのでしょうか。
原作と違い、エヴァさんも結構いろいろ抱えておりますから。
では、またお会いしましょう。


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第36話「弟子入り志願」

Side 明日菜

 

「変な夢・・・」

 

 

修学旅行の後の日曜日、いつもの配達の後、二度寝した。

目が覚めたら、もうお昼だった。

寝すぎちゃったわね・・・。

 

 

「ん~・・・?」

 

 

会った覚えの無い人がたくさん出てくる夢だったわね・・・。

なんか高畑先生に似た感じの渋いオジサマと、あれは。

あれは・・・。

 

 

「あ、おはようございます明日菜さん」

「明日菜の姐さん、おっす!」

「あ、うん・・・って、何やってんのあんたら」

 

 

朝っぱらから・・・あ、もうお昼か。

とにかく、ネギは大きな紙を何枚も広げてカリカリと何かを書き込んでた。

何かと思って、ネギの部屋になってるロフトに飛び移った。

 

 

それにしても流石に朝食抜いたから、お腹すいたわね。

机の上にあったチョコをひとつもらう、一個ぐらい良いわよね?

 

 

「長さんからもらった手掛かりを調べていたんです」

「ああ、なんかもらってたわね」

 

 

ネギが得意そうに見せてくれたそれには、麻帆良の地下の地図・・・って、これすごいじゃない!

 

 

「父さんがあそこで最後に研究していた物みたいで・・・」

「すご・・・い、けど、何この字。読めないんだけど・・・」

「それは僕もちょっと・・・今、解読してるところなんです!」

 

 

ふ~ん。

正直、そういう難しいことはわかんないけど。

まぁ、本人が楽しそうだし、いっか。

 

 

「今回の事で、いろいろとやらなきゃいけないことができて、大変ですけど・・・」

「そっか」

「見ててください明日菜さん。僕、頑張りますから!」

「あ・・・」

 

 

・・・うん?

今、何か胸がドキッて・・・気のせいよね?

 

 

ピンポーン♪

 

 

そうよね、気のせいよね!

ネギ相手にドキドキするとか、あり得ない・・・って、今のピンポン何よ!

 

 

「お邪魔いたしますネギ先生♡ せっかくの日曜日、お茶など御一緒いたしませんか?」

「やほ~。あ、明日菜まだパジャマ?」

「ネギく~ん、遊ばな~い?」

「今日部活お休みでさ~」

「ネギ君カラオケ行こ~♪」

「ネギ先生―っ!」「忍者ごっこで遊ぶです~♡」

「なんなのよあんたらは~っ!」

 

 

ええと、いいんちょに朝倉に、まきちゃん達運動部メンバーに、チアの三人組。鳴滝姉妹・・・。

どう考えても、来すぎでしょ!?

ここ2人部屋よ! ネギ入れたら3人だけど!

 

 

「人の部屋で騒ぐんじゃないわよ!」

「旅行明けの休みだってのにね~」

「その通り・・・って朝倉! 人の部屋勝手に撮るんじゃないわよ!」

「あはは・・・およ? 近衛は?」

 

 

あれ、そういえば・・・買い出しにでも言ったのかな?

 

 

ピンポーン♪

 

 

あ、やっぱり・・・じゃなくて!

まだ来るの? もう部屋がパンクするわよ!?

 

 

「誰よ!・・・って」

「・・・・・・随分と賑やかですね」

「ひゃ~、すごい人やな~」

 

 

そこにいたのは、アリア先生と木乃香だった。

やばっ、私ってばアリア先生に「誰よ!」とか言っちゃった・・・。

 

 

それにしても、何しに来たんだろ。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

そわそわ、うろうろ、がさがさ。

 

 

今の刹那の様子を語るなら、そういうことになるだろう。

さっきから座ったかと思えば立ち上がり、荷物をまとめたかと思えばそれを確認する、という繰り返しだ。

刹那のことは仕事でもたまに組むし、こちらのことに干渉してこないし、同居人としてはやりやすい方だと思っていたんだが・・・。

 

 

今日に限っては、そうじゃないらしい。

 

 

「・・・刹那」

「な、なんだ!? 私は極めて冷静だぞ!?」

「・・・・・・・・・まぁ、別にそれでもいいが」

 

 

経験上、こういうのは否定しても意味が無い。

 

 

「もう少し、落ち着いてくれないか。さすがに気になってくる」

「そ、そうか・・・すまない」

「まぁ、わかってくれればいいんだが・・・」

 

 

ちらりと、これまで部屋を共有してきた同居人の後ろの段ボールの山を見る。

山と言っても、刹那はそれほど私物を持ち込む奴ではなかったから、そこまで多くは無いが。

 

 

「それにしても、随分と急だな。修学旅行の翌日に引っ越しか」

「ああ・・・」

 

 

昨夜いきなり荷物をまとめだしたから、何事かと聞いたら、返ってきた答えは「引っ越し」。

一瞬聞き間違えたかとも思ったが、あそこまで荷物をまとめられてしまうと本当だと思うしかない。

 

 

「・・・寂しくなるな」

「お前でも、そんなことを思うんだな」

「ふ、意外か?」

「いや・・・」

 

 

まぁ、知らない仲でもないし、私も人間だ。

少しくらいは、そういう感傷に浸ることもある。

 

 

「まぁ、転校するわけじゃないんだし、夜の警備でも・・・」

「あ、その、すまん。私はもう夜の警備には出れないかもしれない」

「・・・そうなのか?」

 

 

それは、困ったな。

今さら、刹那以外の人間と組めと言われてもな。

まぁ、報酬さえもらえれば文句は言わないが。

 

 

「詳しいことは言えないんだが・・・」

「いや、言わなくていい。事情は人それぞれさ」

「・・・すまない」

「いいさ」

 

 

というか、謝られるようなことじゃない。

クライアントの都合で予定が変わることなんて、この業界じゃよくあることだ。

 

 

「楽しかったよ、刹那。お前と組めて」

「・・・・・・ああ、私も。お前と組めて良かった」

 

 

別に、そんなに驚かなくても良いだろ?

こういう日も、ある。

 

 

「それで、引っ越し先はどこなんだ?」

「ああ、それは・・・・・・」

 

 

刹那から聞いた引っ越し先に私は軽く驚いて、すぐに可笑しくなった。

なんだ、様子がおかしいと思ったらそういうことか。

 

 

良かったじゃないか、刹那。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

修学旅行の時から、のどかの様子がおかしいです。

なんというか、私に隠し事をしているような気がするです。

今まで、そんなことはなかったですのに・・・。

 

 

「どしたの夕映? まだ悩んでんの?」

「ハルナ・・・」

「気になるなら、本人に聞けばいいじゃない」

「教えてくれないのです・・・」

 

 

ネギ先生関係だとは思うのですが、何か悩んでるのはわかるです。

のどかは大事な親友です。

力になりたいのですが、話してくれないことには。

 

 

今日は図書館探検部の活動日です。

本当なら、地下に潜りに行くですが、今日は件のネギ先生からお呼びがかかっています。

のどかのためにも、ここで待つです。

本でも読むですか・・・「陰陽道と西洋魔術」。

 

 

「こんにちはー!」

 

 

棚から本を出した所で、ネギ先生が来たです。明日菜さんも一緒ですね。

のどかはまだ、飲み物を買いに行ったままですね。

 

 

「やっほーネギ先生♪ あと明日菜も」

「私はおまけか!」

「保護者でしょ?」

 

 

ハルナは明日菜さんとじゃれ始めたです。仲いいですね・・・。

えっと、それでネギ先生が見せたいものとは・・・?

 

 

「あ、これなんですけど・・・」

 

 

 

 

 

Side ハルナ

 

うっひゃー、ネギ君の持ってきた地図、すごいわ。

大学部の人でもこんなの持ってないよ。

こんなの持ってるネギ君のお父さんって何者? ここの卒業生?

 

 

うふふ、それにしても・・・。

 

 

「「こ、こんにちわっ(ゴチンッ!)」」

 

 

ネギ君とのどかが、挨拶して頭をぶつけてる。

くっは~、今どきそんなベタなのラブコメでもないよ?

 

 

修学旅行の後、改めて顔を合わせて、お互いに意識してるみたいね。

二人とも初々しい~♡

これはのどかにも脈があるかも?

 

 

――きゅぴ~ん――

 

 

「ぬむんっ!? 匂う、匂うよ淡く甘酸っぱい『ラブ臭』がっ!!」

「ラブ臭!? なんですかそれは!?」

「そ、そんなもんしないわよ・・・」

 

 

むむっ・・・明日菜のあたりが妖しい!

・・・おろ?

 

 

「どしたの明日菜、なんか元気ない感じ?」

「そういえば、そうかもです」

「あ~・・・ちょっとね」

 

 

ふ~ん?

ネギ君と何かあったってわけじゃなさそうだけど。

夕映とのどかも微妙な感じだし、修学旅行のあたりから、なんかきな臭いね。

なんも起こらなきゃいいけど。

 

 

 

 

Side アリア

 

「それにしても、みんな驚いとったな~」

「・・・そうですね」

 

 

まぁ、ルームメイトがいきなり引っ越すとなれば驚きもするでしょう。

明日菜さんなどは、かなり残念がっていましたし。

木乃香さんも、多少は寂しそうですが・・・。

 

 

なぜかネギ兄様の部屋に大集合していた生徒の皆さんも手伝いを申し出てくれましたが、事情が事情だけにお願いしにくいですし、何より旅行明けの休日です。

お手伝いは、またの機会にでもお願いしましょう。

 

 

「・・・みんな、良い人達です」

「なんか言うた~、先生?」

「あ、いえ。なんでもありません」

 

 

・・・今後は、少しは一般の生徒との交流も考えないといけませんしね。

まだ少し先の話ですが、進路指導とかは信頼関係が大事ですから。

ほとんどは高等部にエスカレーターでしょうが、それでも準備は必要です。

 

 

四葉さんとか、葉加瀬さん、千鶴さんなどは、少し特殊ですし。

あ、いえ、もしかしたら長瀬さんや真名さんなども特殊な方向に・・・?

というか、3-Aの生徒の大半は進路とか考えてないんじゃ・・・。

 

 

と、とにかく。

生徒が自分で決めた進路に上手く進めるよう、できる限りの選択肢を用意する。

それが、先生の仕事です(新田先生談)。

 

 

木乃香さんのこの引っ越しも、ある意味ではその一環ですね。

 

 

「荷物はこれで全部ですか?」

「あ、ちょっと待ってな。ネギ君のとこにうちの本とか置きっぱなしに・・・」

 

 

荷物の入った段ボールを廊下に出しながら、汗を拭います。

案外、多いですね・・・。

 

 

というか今気付いたんですけど、魔法関連のアンティークとか、堂々と壁にかけないでください兄様。

意外と収集癖があるんですよね。昔から。

 

 

「あ、アリア先生、チョコ食べる~?」

「え・・・あ、はい、いただきます」

 

 

ロフトから降りてきた木乃香さんの手には、どこから持ってきたのか、お皿いっぱいのチョコレート。

それなりに疲れていますし、何より甘い物は大歓迎です。

では、ひとつ・・・。

 

 

「・・・ん?」

 

 

なんでしょう、このチョコレート。

・・・かすかな、魔力・・・。

これは・・・・・・っ!

 

 

「木乃香さん! これ食べ―――」

「うん?(もぐもぐ)」

「―――ましたか! なるほど!」

 

 

木乃香さんが今まさに食しているこのチョコレートは、惚れ薬入りです。

しかも性別に関係なく、食べた直後に最初に見た人間を好きになるという代物。

明らかに非正規品。なんでこんなものが・・・いえ、それよりも。

 

 

・・・はい、ここで問題です。

今、この部屋にいるのは?(私と木乃香さんだけです)。

木乃香さんは今?(私の目の前で惚れ薬入りチョコを食べています)。

つまり?(・・・・・・・・・)。

 

 

さ、させませんよおぉぉぉっ!

 

 

「『複写眼(アルファ・スティグマ)』!」

 

 

忘れている方もいるでしょうが、魔法学校での私の専攻は呪いの解呪。

魔法学校でロバートが実妹に年齢詐称薬を仕込んだ時も、ミッチェルが肉体強化の魔法薬を落としてしまった時も、私は切り抜けて来ました。この程度がなんですか!

とにかく!

 

 

チョコの解析に1秒、理解に1秒、無効化術式の構築に2秒、術式を乗せた魔法具の現出に3秒、発動に1秒、そして無効化に2秒、合わせて10秒!

10秒あればっ・・・!

 

 

「なぁ、アリア先生・・・」

「ち、ちょっと待ってください。具体的にはあと7秒」

「アリア先生って、可愛いな~♡」

 

 

・・・え。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「・・・・・・!」

 

 

センサーには反応しませんでしたが、今、何かを感じました。

なんでしょうか、アリア先生の身に何かが起こったような気がします。

 

 

「茶々丸さん、どうかしました?」

「・・・いえ、問題ありません」

 

 

今はとりあえず、ネギ先生達へお出しするお茶の準備を優先しなければなりません。

コーヒーで良いでしょうか?

 

 

「さーちゃん、スクナはお腹がすいたんだぞ!」

「もう、また? キャンディしかないけどいい?」

「おお、だからさーちゃん好きだぞ!」

「そんなこと言ったって、一本だけしかあげないよ?」

 

 

頭に姉さんを乗せたスクナさんに、さよさんがキャンディを与えています。

あれはたしか・・・アリア先生がスクナさん用にと渡しておいた、魔法具『ロリポップグリーンハーブ』。

体力回復効果があるキャンディなのですが、スクナさんには効果があるのでしょうか?

 

 

一応、映像に残しておきましょう。

 

 

「なんだか、舌がす~っとするぞ・・・」

「ハーブだからじゃない?」

 

 

どうやら、スクナさんはハーブが苦手なようですね。

スクナさんには、日本茶などの方が合うのかもしれません。

 

 

「ケケケ・・・コーヒーダスノカヨ?」

「いけなかったでしょうか?」

「・・・マ、イイカ」

「はい、良いです」

 

 

それでは、お持ちしましょう。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

アリアは何故、このぼーやをいつまでも兄と呼んでいるのだろうな。

目の前で無駄にキラキラした目で私を見るぼーやを見ながら、そんなことを思う。

 

 

「弟子・・・だと?」

「はい!」

 

 

少なくとも、アリアからこのぼーやの良い所を聞いたことはない。

愚痴ならいくらでも出てくるというのに。

だがそれでも、アリアはぼーやを見捨てない。何故か?

 

 

「・・・アホか貴様」

「え・・・」

「ちょっ、そんな言い方ないでしょ!」

 

 

結局は、兄だから、なのだろうな。

あれは口では兄を嫌っているが、実際の所はどうなのだろうな。

それほど嫌いなら、さっさと離れればいいのだ。

 

 

「ぴーぴー喚くな神楽坂明日菜。一応、ぼーやと私はまだ敵なんだぞ?」

「え、でも京都では助けてくれたじゃない」

「別にぼーやを助けに行ったわけじゃない」 

 

 

教師の責務とか何とか言い訳していたが、結局は家族を見捨てられないのだろう。

だから、今でもスプリングフィールドと名乗っている。

本当に煩わしいなら、名を捨てれば良いのに。

そしてアリアがそれを理解していないはずがない。

 

 

「戦い方などタカミチにでも習え。私は弟子など取らん」

「タカミチは海外に出張したりでほとんど学園にいないし・・・」

「とにかく知らん。帰れ」

「でも京都での戦いを見て、魔法使いとしての戦い方を学ぶならエヴァンジェリンさんしかいないと!」

 

 

私が今、かろうじてぼーやの相手をしてやっているのは、あくまでもアリアの兄だからだ。

それ以外の理由では、ぼーやには会わん。

だいたい、近衛木乃香や桜咲刹那のこともある。

ぼーやの私への弟子入りなど、すでに状況が許さん。

何より、私にその気がない。

 

 

「私の強さに感動するのはいいがな、私は忙しいんだ。ぼーやに構ってる時間などない」

「そんな・・・」

「ちょっと! こんなに頼んでるのにひどいんじゃない!?」

「頼んだだけで物事が通れば世の中苦労せんわ!」

 

 

第一、私だって暇じゃないんだ。

アリアの研究を手伝ってやらなきゃならんし。

茶々丸が最近私に対してだけ反抗期だし。

チャチャゼロは相変わらず刃物を振り回すし。

さよは未だに結界魔法以外は上手くできんから練習も見てやらなきゃならんし。

バカ鬼は無意味に畑を拡大しようとするから注意しなきゃならんし。

近衛木乃香と桜咲刹那をどう苛めるかも考えなければならんし・・・。

 

 

・・・む、意外と本当に忙しいな私。

 

 

「でも、ネギはまだ子供なんだし!」

「子供に頼まれればなんでもしなきゃいかんのか? 実の子供ならいざ知らず、ぼーやにそこまでしてやる義理はない」

「ちょっとくらいいじゃない!」

「話を聞いとるのかお前・・・というか、随分ぼーやの肩を持つな神楽坂明日菜。惚れたか?」

「そ、そそそ、そんなわけないでしょ!?」

 

 

それにだ。

もしここでぼーやを弟子になどしてみろ。

確実にアリアの機嫌を損ねる。そうでなくとも傷つくのは必至。

そうなると、最近アリアの肩しか持たん茶々丸が何をするかわからん。

少し前までは私に忠実な従者だったのに、どうしてこうなった・・・。

 

 

・・・いや待て。なんで私が従者の顔色を窺わねばならんのだ?

 

 

「けどよーエヴァンジェリンの姐さん。アリアの姐さんには随分目ぇかけてるじゃねぇか」

「黙れ小動物。その舌でアリアを語るな・・・煮て喰うぞ」

 

 

小動物を睨んで黙らせる。いっそ消してやろうか?

気のせいでなければ、この小動物を始末すればアリアの好感度が上がる気がする。

 

 

「え、あ~、そういえばよく一緒にいるわね・・・それって贔屓じゃないの?」

「それにアリアの魔法具って、もしかしてエヴァンジェリンさんが・・・」

「そうなの?」

 

 

本当に人の話を聞かんガキ共だな・・・。

というか、私はぼーやの目の前でアリアの魔法具に驚いて見せたこともあったと思うが。

まさかとは思うが、こいつ魔法具だけ見てアリアは見えてないとか言い出さんだろうな?

まぁ、あれがアリアの自作だとわざわざ明かす必要はないな。

面倒なことになるのは目に見えてる。

 

 

「とにかく、ガキの遊びに付き合う趣味はない、帰れ」

「でも、エヴァンジェリンさん!」

「アリア先生とは一緒にいるのに、なんでネギはダメなのよ!」

「やかましい! しつこいぞ貴様ら!」

 

 

・・・いい加減にしろよ小僧ども。

なぜアリアが良くてぼーやがダメかなど、理由を挙げるだけで一日が終わるわ!

私は部屋の扉の方へ行き、どがんっ、と開けると。

 

 

「さぁ、帰れ! 私は忙しいんだ!」

「・・・マスター、お茶をお持ちしました」

「茶など出さんで良い!」

 

 

む・・・ちょうど茶々丸が戻ってきたか。

私は茶々丸が持っていた盆を取り上げると(・・・なぜコーヒー?)。

 

 

「茶々丸、ぼーや達をつまみ出せ。なんなら力尽くでも構わん」

「イエス、マスター」

 

 

まったく・・・無駄な時間を過ごした。

これなら、近衛木乃香の引っ越しを手伝った方がまだいくらか有意義だったかもしれんな。

確か、桜咲刹那と同室にするんだったか?

 

 

「エヴァンジェリンさん!」

「同じことを何度も言わせるなよ小僧」

 

 

貴様がアリアの兄でなければ。

アリアが貴様に何かを求めていなければ。

貴様など、私にとって何の価値もない。

貴様はもう少し、兄と呼ばれることの意味を考えるが良い。

 

 

私は、私達は「家族」にはなれても、「兄」にはなれんのだから。

・・・そう考えると、余計に腹立たしくなってくる。

 

 

ナギの情報も持っていないようだしな。

むしろ、それについてもアリアの方が何倍も役に立ってくれそうな気がする。

アリアが自分で父親を探すとも思えんがな。

・・・とにかく。

私がぼーやに言ってやれることは、一つだけだ。

 

 

「帰れ・・・そして、二度と来るな!!」

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

思ったよりも早く、荷運びが終わった。

まさか、真名が手伝ってくれるとは思わなかった。

今度お礼に、餡蜜でも奢ろうと思う。

 

 

「けど、夜の警備をやめるとなると、報酬がなくなるな・・・」

 

 

何か、新しいアルバイトとかを探そうか。

しかし、私にできる仕事なんて・・・それにこのちゃんの傍にいないと。

・・・まぁ、一人で考えてもしょうがない、か。

 

 

「・・・なんだ?」

 

 

予定よりも遅いので、このちゃんの部屋にまで来てみると、なんだか部屋の中が騒がしい。

いくつか段ボールも廊下に出ているし、まだ途中のようだ。

 

 

ノックをしても、反応がない・・・というか、バタバタという音が聞こえる。

 

 

「このちゃん? アリア先生? 入ります・・・」

 

 

すると、そこには。

 

 

「・・・よ?」

 

 

アリア先生に抱きついている、このちゃんがいた。

・・・・・・・・・え?

 

 

「ふ、二人とも・・・?」

「ああっ、せ、刹那さん! ちょっとこれ、助けてください~っ」

「ああ~ん。アリア先生好き好き、好きや~♡」

 

 

このちゃんはアリア先生を後ろから抱きしめて、頬ずりしている。

羨ま、じゃなくて、ええと、こういう時は・・・。

 

 

「し、失礼しました・・・?」

「え、なんでですか! 私かなり助けを求めてるでしょ!?」

「いえ、それがこのちゃんの望みなら、と・・・」

「私の意思は!?」

「あ、せっちゃんや~」

 

 

このちゃんが私に気付いたのか、ほにゃ、と微笑みかけてくれた。

アリア先生を抱きしめたまま、私を手招きして。

 

 

「せっちゃんも・・・やる?」

「ひぅっ!?」

「・・・・・・いいん、ですか?」

「受け入れた!? それもかなりあっさりと!」

「もちろんやよ~、せっちゃんだけやえ?」

「えと・・・」

 

 

どこか艶やかに私を手招くこのちゃんに、何かを諦めたようなアリア先生。

このちゃんだけでもアレなのに、アリア先生まで・・・。

なんとなく、生唾を飲み込んでみる。

 

 

「では・・・失礼します」

「はぁ、もう。好きにしてください・・・」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

左右から木乃香さんと刹那さんに抱きしめられながら、溜息をつきます。

なんだか、最近はこういう役回りばかりですね・・・。

 

 

「す、すみません・・・」

「良いですよ別に・・・」

「まぁまぁ、惚れ薬のせいやって」

 

 

なんで知って・・・ああ、さっき散々騒ぎましたからね。

その時に口走ったような気がします。

というか、自覚してる時点でアレですがね。

私がこの程度の解呪にてこずるわけもないので・・・。

とはいえ。

 

 

「ま、そういうわけですので・・・言いたいことがあるなら聞きますよ。木乃香さん」

「え・・・」

「・・・ええの?」

「いいですよ・・・今なら何を言っても、惚れ薬のせいです」

 

 

そういうことに、しておきます。

今しか言えないことというのも、あるでしょう。

すると、木乃香さんは私の頭に顔を埋めて、囁くような声で。

 

 

「もう・・・ネギ君や明日菜と会うたらあかんの?」

 

 

そう、言いました。

 

 

刹那さんが、息を飲むのがわかりました。

口数が少ないと思えば、そんなことを考えていたのですか。

木乃香さんは、優しい人ですからね・・・。

 

 

「・・・別に、金輪際会うなとは言いません、が・・・」

 

 

授業とかで顔合わせますしね。

それに表と裏の区別のつく人なら、別に好きに付き合ってくれて構いませんよ。

もっとも、そうできる方は少ないですが。

そしてその中に、ネギ兄様や明日菜さんはおそらく入らない。

 

 

「兄様達だけでなく、卒業したら・・・つまり身の隠し方を修得した後は、私やエヴァさん達にも近付かない方がいいです」

「アリア先生、そんな・・・」

「・・・どうしても?」

「それが、私とお二人の契約ですし。何より・・・」

 

 

何より魔法や裏のことから逃げると決めたなら、私と付き合ってはいけません。

私自身が区別をつけても、周囲の環境が私を表の世界で生かしてはくれないでしょう。

普通の人間として生きるのであれば、二人にとって私は邪魔です。

それに卒業した後は、教師と生徒は別の道を歩むものです。

それが、「普通」でしょう?

 

 

「・・・寂しいえ」

「・・・そうですか」

「寂しい、え・・・」

 

 

そのまま、ぎゅう、と抱きついてくる木乃香さん。

気のせいか、その吐息は熱を帯びているように感じます。

 

 

「・・・このちゃん、泣かんといて」

「せっちゃん・・・」

「大丈夫やから・・・」

 

 

そして刹那さんも、そんな木乃香さんを強く抱きしめます。

・・・あの、間に私がいるので、加減してくださいね。

 

 

それにしても、やるせないですね。

寂しいと、木乃香さんが言って。

泣かないでと、刹那さんが言う。

そんな二人の手を、握ってあげることしかできません。

 

 

・・・世界はいつも、思い通りにならない。

こんなはずじゃない、ことばかり。

いつだって、誰だって、そう。

どこかの誰かが、そんなことを言っていましたね。シンシア姉様。

 

 

 

 

 

 

アリアも、そう思います。けれど。

いつか・・・。

 

 

 

 

 

 

 

<その頃の千草組>

 

 

Side 千草

 

「はっはぁ、行くでぇ! 最後の勝負や!」

「ようかいはきりあきたんやけど~」

「だ~もう! あんたら、たまには後衛を気にしぃ!」

 

 

うちらは今、富士の樹海で一つ目の巨人らと戦りおうとる。

なんでも、ダイダラボッチの一種らしいけど・・・身長はゆうに10メートルはあるやろな。

スクナに比べれば、可愛いもんやけど・・・。

 

 

「『疾空黒狼牙』!」

「ざ~んが~んけ~ん!」

 

 

ただ小太郎も月詠はんも、前のめりすぎるわ!

サポートする方の身にもなりぃ!

 

 

それにしてもあの金髪の子!

アリアはんの霊草はまだマシやったけど、あの子の要求する薬品のほとんどが店には出回ってないもんてどういうことや!?

アレか! 楽しんどるんか、うちを苦労させて楽しんどるんやろ!?

 

 

覚えとれよ、東の本拠に着いたら・・・。

・・・・・・頼まれたもんノシ付けて渡したるわっ!

 

 

「ああ、もう。うちはこんなとこで何しとるんやろうなぁ!」

「お、なんや千草のねーちゃん。最近えー感じに気ぃ乗っとるなぁ!」

「うふ、きりがいがありそうです~」

「やかましいわ!」

 

 

こんなこと、さっさと終わらせたる。

うちには、立ち止まっとる暇なんてないんや!

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は、修学旅行直後の日曜日のお話。
兄様はエヴァさんへの弟子入りをあえなく断られた模様。
まぁ、成功してもらっては困るわけですが・・・。


今回の魔法具は・・・。
ギャラリー様提供の、ロリポップグリーンハーブ(BAYONETTA-ベヨネッタ-)。
ありがとうございます。


アリア:
さて次話は、少しばかりシリアスの予感?
エヴァさんへの弟子入りが失敗した兄様はどうするのか。
見ものですね。
では、またお会いしましょう。


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第37話「守るとは」

Side ネギ

 

頑張るって決めた。

でも、最初の一歩目で躓いた。

そんな気分だった。

 

 

「元気出せよ兄貴」

「そーよ、気にすることなんかないわよ」

 

 

カモ君と明日菜さんはそう言ってくれるけど、僕は、どうしたら良いかわからなかった。

もし今度何かあったら、明日菜さんやのどかさんを守れるように頑張るって決めたのに・・・。

 

 

どうして、エヴァンジェリンさんは僕に魔法を教えてくれなかったんだろう。

僕は、強くなりたいだけなのに・・・。

 

 

「それにしても、木乃香の姐さんが引っ越しちまうなんてな」

「そうね・・・家の事情らしいけど、何かあったのかしら?」

 

 

あ、そっか・・・木乃香さんがもういないんだった。

木乃香さんのご飯がもう食べられないって思うと、少し寂しいけど・・・あ。

 

 

「あ、あれは・・・?」

「くーふぇじゃない!?」

 

 

くーふぇさんが、よくわからないけど、すごく人相の悪い人達に囲まれてる!

なんだか、「喧嘩だ」とか、「部長に50枚」とか聞こえるけど、た、助けないと!

 

 

「いやいや、心配ないでござるよネギ坊主」

「楓さん!」

「い、いきなり現れるんじゃないわよ!」

 

 

どこから現れたのか、楓さんが「あれはいつものことでござる」って説明してくれた。

い、いつものこと?

 

 

「クーは去年の格闘大会で優勝しているでござるからな。挑戦者が後を絶たんのでござるよ」

 

 

ほら、と示してくれた先では、くーふぇさんが次々と男の人達を薙ぎ倒しながら。

 

 

「弱い! 弱いアルネ! もっと強い奴はいないアルかーっ!」

 

 

と、叫んでいた。

なんだかとても痛そうな音を立てながら、男の人達が地面に沈んでいく。

すごい、くーふぇさんがこんなにも。

 

 

「ま、まだじゃあ、フェイ部長!」

「遅いアルネ!」

「ごはぁっ!?」

 

 

こんなにも、強いなんて。

あれはたぶん、中国拳法っていう物だと思う。

 

 

「あ、ちょ・・・ネギ!」

 

 

駆け出して、思う。

僕は強くなりたい。

強くなって、みんなを守れるようになりたい。

今度こそ。

 

 

「くーふぇさん!」

「んぉ? おお、ネギ坊主。にー・・・」

「やあぁっ!」

 

 

右の拳を、撃ってみた。

くーふぇさんは驚いた風もなく、僕の手を弾くと。

 

 

「『炮拳』!!」

「・・・・・・っ!?」

 

 

お腹に、くーふぇさんの右拳が、突き刺さった。

そのまま、仰向けに倒れる。

 

 

意識が、飛びそうになった。

駆け寄ってきた明日菜さんや楓さんが何か喋ってたけど、最初は聞き取れないくらいだった。

魔法障壁の上からでも、こんなにダメージがあるなんて・・・。

 

 

「ちょ、ネギ! あんた何してんの!?」

「いやぁ、見事に入ったでござるな。でも教師がいきなり生徒に殴りかかるのはどうかと思うでござるよ?」

「す、すまないネ。大丈夫アルかネギ坊主。かなり強く打ってしまたアル」

「・・・だ、大丈夫です。いきなりごめんなさい、くーふぇさん・・・」

 

 

明日菜さんに支えられながら、立ち上がる。

まだ痛い、すごいな・・・。

 

 

「く、くーふぇさんって強いんですね」

「それほどでもないアルよ。私よりも強い人はたくさんいるネ」

 

 

くーふぇさんは、気恥かしそうにそう言ったけど。

でもくーふぇさんが僕よりもずっと強い人だっていうのはわかる。

中国拳法。

 

 

「くーふぇさん、あの・・・」

「何アルカ?」

「その・・・僕に」

 

 

僕の知ってる魔法使いはみんな、僕よりもずっと強い人ばかりで。

エヴァンジェリンさんも、タカミチも。

龍宮さんも、刹那さんも。

・・・きっと、京都で会った白髪の少年も。

 

 

僕は弱くて。このままじゃ何も守れなくて。

強くならなくちゃ、何も守れないから。

みんなを守るなんて、できるわけがないから。

だから、まずは。

 

 

「僕に、中国拳法を教えてください」

 

 

力があれば、みんなを守れる。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

力があっても、守れない物がある。

私は今、それを学ばされている気分だ。

 

 

「せっちゃん、今日の晩御飯何がええ?」

「私は、このちゃんの好きな物でいいんじゃないかと・・・」

「うちは、せっちゃんの好きな物を作ったげたいんやけどな~」

「う・・・」

 

 

ローラーブレードで登校するこのちゃんについて走りながら、私は昨日のことを思い出していた。

寂しいと言って、泣いていたこのちゃんを。

夕凪の入った竹刀袋を、握り締める。

 

 

自分を責めた所で、現実が何も変わらないことはわかっている。

けれど、思ってしまう。

もっと、やりようがあったんじゃないかと。

 

 

「もうすぐ中間テストやな~。せっちゃん、ちゃんと勉強しとる?」

「も、もちろんです」

 

 

私はこのちゃんを守るために、神鳴流を学んだ。

そして今では、完璧ではないにしても、ある程度このちゃんを守れていると思う。

少なくともチンピラ相手なら、何百人いた所で指一本触れさせずに守れるだろう。

 

 

けれど神鳴流では、このちゃんの寂しさや悲しみを癒すことはできない。

私はこれから、このちゃんのために何ができるのだろう。

何を、すべきなのだろう。

 

 

「テストまでもう一カ月切ってるから、勉強せなあかんえ?」

「だ、大丈夫ですよ・・・・・・たぶん」

「もう、しゃーないな~」

 

 

アリア先生は、私にこのちゃんを守るための力を与えると言ってくれた。

そこは、少しも疑っていない。

私はきっと、今よりも強い力を手に入れる。

もちろん、そのための努力は惜しまないつもりだ。

でも・・・。

 

 

「せっちゃん?」

 

 

力だけではきっと、この笑顔は守れない。

最近、強くそう思うようになった。

私は。

 

 

「・・・はい、このちゃん」

 

 

私は、貴女を幸せにできているだろうか。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・気に入らんな」

「は?」

「いや、なんでもない」

 

 

茶々丸にそう答えながら、自分の席に座る。

最近は、朝のホームルームに出た後すぐにフケることにしている。

 

 

呪いは解けているので、本来なら学校になど来る必要はないのだが・・・。

茶々丸やさよの様子は見ておくべきだと思わなくもないし、アリアが3-Aのガキ共に振り回される様を見るのは愉快だ。

 

 

チャチャゼロとバカ鬼は、今頃は別荘で畑仕事か、さもなくばアリアが渡した『透明マント』でも着こんで麻帆良を探索しているだろう。

ま、それはさておき・・・。

 

 

最近、桜咲刹那が腑抜けているように見える。

最近と言っても、ここ2日程度のことだが。

近衛木乃香と和解してからと言うもの、以前のような鋭さは鳴りを潜めてしまっている。

 

 

何をぐずぐずと悩んでいるかは知らんが・・・。

貴様にしゃんとしてもらわんと、こっちの計画が狂いかねん。

これは、予定を早める必要があるか?

 

 

「・・・マスターがいじめっ子の顔をしています」

「おいそこのボケロボ・・・お前、口数が増えたんじゃなくて単純に口が悪くなったんじゃないのか?」

 

 

アリアが来てから急速に成長したようだが、何か間違ったような気がする。

ハカセに定期的にメンテナンスされているはずだから、どこかが悪いということはないと思うが。

 

 

「・・・ふん」

 

 

教室の隅で、近衛木乃香と談笑している桜咲刹那を見る。

・・・緩みきった顔をしおって、馬鹿が。

 

 

「茶々丸、アリアに伝えろ。今夜ヤる、とな」

「よろしいのですか? 予定では・・・」

「構わん。奴のようなタイプは、追いつめられんと何もできん」

 

 

本来なら、2か月ほど技術的なことをさせてからと思っていたが。

桜咲刹那の場合は、先に一度潰してやった方が良い。

ある意味で・・・ぼーやに似たタイプだ。

 

 

「自分以外の誰かを守ると言うのは、簡単じゃないんだよ」

「つまり、マスターは桜咲さんが心配なのですね」

「ばっ・・・おま、違うわっ!」

 

 

いいか、勘違いするなよ?

私があの小娘どもを構うのは、アリアが気にしているからだ。

それだけだからな!

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「ネギ君をどう思うかね?」

 

 

昼休みに学園長室に呼ばれて、開口一番に学園長にそう問われた。

どう答えたものか迷ったけど、ここは普通に答えることにした。

 

 

「そうですね。良い子だと思いますよ。真面目で、ひたむきで。生徒にも慕われていて」

 

 

我ながら当たり障りのない答えだな~。

でも、確かに生徒には慕われて見えるし。

先生と言うより、年下の可愛い男の子として見られてる気もするけど。

 

 

他の先生達の見方も、だいたい同じだと思う。

明石先生とかは娘さんが彼のクラスにいるから、また違うのかもしれないけど。

新田先生は、どうだろう。ちょっと厳しめかもしれない。

 

 

「・・・では、アリア君はどうじゃな?」

「はぁ・・・」

 

 

あ~、聞きたいのはそっちか。

今のところ、ネギ君ともアリア君とも接点があるのは、魔法先生の中では僕だけだから。

どう答えたものか。まぁ、ここは無難に・・・。

 

 

「ネギ君に負けず劣らず、良い子だと思います。仕事熱心だし、聞き上手だし、問題のある生徒からも一目置かれてるみたいですし」

 

 

うん。ネギ君と同じ数だけ褒めたと思う。

こういうバランスって、大事だよね。

 

 

「・・・アリア君について、詳しそうじゃの?」

「いえ、それほどでも。新田先生やしずな先生の方が詳しいと思いますよ?」

 

 

事実だと思う。

特に新田先生は京都でのアリア君(偽)以来、妙にアリア君に肩入れしてるみたいだし。

学園祭の教師陣のスケジュールも、今から調整してるみたいだし・・・。

しずな先生は、お休みの日にはよく連れ出してるみたいだし。

・・・あ、たまに休み明けのアリア君が妙におしゃれだったのは、そのせいかな。今気付いた。

 

 

「そろそろネギ君にも、本格的な魔法使いの修行をさせようと思っておるのじゃが・・・」

「ああ、いいんじゃないでしょうか」

 

 

ようするに、師匠をつけるってことかな?

でもネギ君の師匠となると、誰がやるんだろう?

 

 

「早く修行を始めろと、本国からも矢のような催促でな?」

「あはは・・・」

「魔法先生にも協力を求めることになると思うでな。その時は・・・」

「わかりました・・・といっても、僕に教えられることなんてなさそうですけど」

 

 

実際、僕は戦闘とかはあんまり得意じゃない。

ネギ君がなりたがってるような魔法使いになるには・・・タカミチさんとかの方がいいと思う。

これがアリア君の修行なら、また別だと思うけど。

 

 

「ところで、京都の件の報告書じゃが」

「あ、はい」

「もう少し詳しく書けんかのぅ? 本国が詳細を知りたがっておってな・・・」

「はぁ・・・でも僕は、学園長の命でホテルの護衛をしていましたし、外の状況まではちょっと」

「そうかの・・・」

 

 

ふぅ、と深く溜息を吐く学園長に、ちょっとだけ申し訳ない気分になる。

でも、アリア君との約束だしね。

自分の仕事の分の報告には嘘は書いてないから、虚偽報告でもないし。

 

 

ネギ君のことには深く関わらない。手頃な距離感を保つこと。

アリア君の事情は詮索しない。あくまで中立の立場を保つこと。

その代わり・・・まぁ、これは別の話。

 

 

立場って大事だなぁ・・・なんて思う、今日この頃。

ガンドルフィーニ先生が聞いたら、怒るだろうなぁ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「こんばんわ、アリア先生」

「今日は何するん?」

 

 

木乃香さんと刹那さんがエヴァさんの家に来たのは、夜の9時です。

本当ならもっと早く来ていただけるはずが、私の仕事が長引いてしまって・・・。

というか、いい加減教師の仕事と女子寮管理人の兼任に限界を感じてきています。

まぁ、それはいいです。

2人にはお泊りの準備もしてきてもらっています。一週間分くらい。

 

 

「こんなに荷物持って、どこに行くん?」

「やかましい。黙ってついてこい」

 

 

一切の説明をしないエヴァさん。それはさすがにどうかと思いますけど。

行くのは別荘ですがね。

 

 

今日から2人の修行(と言う名の苛め)を始めると聞いて、少し驚きました。

早過ぎると思うのですが、時間がないのも確か。

渡す魔法具の選定は終わっていますから、大丈夫でしょう。

あとは、2人次第。

 

 

「ふあああ~・・・」

「これは、すごい・・・ですね」

 

 

ちなみにこれが、初めて別荘に入った時の2人の言葉です。

まぁ、そうなりますよね。

その後、時間経過の違いなどを説明しつつ、広場へ。

 

 

そこには、茶々丸さん、チャチャゼロさん、スクナさん、さよさんが勢揃いしていました。

 

 

「遅いぞ、吸血鬼」

「時間差があるんだ。仕方がないだろう」

「お腹がすきましたぁ・・・」

「それはスクナさんのキャラクターです。さよさん」

「キャンディならあるぞ。さーちゃん」

「それはさよさんの役割です。スクナさん」

 

 

外での数分がこちらでの数時間ですからね。一食くらい抜いているのかもしれません。

食事中にエヴァさんが来たら、理不尽に怒りだしそうですからね。待っていたのでしょうか。

そのエヴァさんは4人を背にして振り向き、こちらを、特に刹那さんを見て。

 

 

「さて、桜咲刹那。これから苛め(と言う名の修行)を始める」

「は、はぁ・・・」

「エヴァさん。本音と建前が逆になっていますよ」

「トルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭にこんな言葉がある・・・」

 

 

『幸福な家庭は皆同じように似ているが。

不幸な家庭はそれぞれにその不幸の様を異にしているものだ』

 

 

「つまりは、幸せな奴はつまらん。そういうわけだな」

「え、と、何の話を・・・」

「その意味で、ここのところの貴様はつまらんな。・・・随分と幸せそうじゃないか、え?」

 

 

木乃香さんの手を引いて、刹那さんの側から離れます。

エヴァさんの身体から、『複写眼(アルファ・スティグマ)』でないと見えない物が見えました。

 

 

「・・・? アリアせんせ、どない「がっ!?」・・・せっちゃん!?」

 

 

突然、刹那さんの身体がくの時に曲げられ、地面に叩き付けられました。

両手足と、腰の骨が、通常とは逆の方向に、見えない何かに無理矢理曲げられています。

もう少し力を加えれば、ぽきり、ですね。

 

刹那さんの身体を抑え付けているのは、エヴァさんの操る魔力の糸です。

「人形遣い」のスキルですね。

刹那さんの下へ行こうとする木乃香さんを、手を離さずに留めます。

 

 

「・・・い、糸・・・!」

「その通り。これが実戦なら終わりだな。お前は死に、近衛木乃香を守れない」

「ぐ・・・っ」

「以前の生まれと鬱屈した立場から得た鋭さを持っていた貴様なら、かわせたはずだ。それがなんだ。最愛のお嬢様と和解してから、幸せそうにヘラヘラしおって・・・」

「あかんのっ!?」

 

 

木乃香さんが、叫びます。

 

 

「せっちゃんが幸せにしとったら、あかんの!?」

「ダメとは言わん。だがな近衛木乃香。お前、自分の状態がわかっているのか?」

 

 

刹那さんが撃破され、無防備になった木乃香さん。

そういう事態は、いくらでも起こり得ます。

 

 

「それにだ桜咲刹那。お前、幸せになれると思っているのか?」

「え・・・?」

「白かったな。その翼」

「・・・っ!」

 

 

刹那さんにとってのトラウマ。

禁忌の白き翼。

エヴァさんは、ぐりぐりと刹那さんの頭を踏みながら。

 

 

「髪はどうした。ん? 染めたか? 瞳は? カラーコンタクトか?」

「エヴァちゃんっ!!」

 

 

今度は叫ぶと同時に、全身から魔力を放つ木乃香さん。

怒りで自然に噴き出したものと思われますが・・・。

この反応、「知っている」のですね。刹那さんはきちんと話していましたか。良かった。

これで第一段階はクリア。

 

 

「お前、そのザマで・・・・・・近衛木乃香を守れるのか?」

「・・・守り、ます」

「聞こえんな」

「守り・・・ますっ!」

 

 

エヴァさんのその言葉に、刹那さんが大きく叫びました。

ちらりと木乃香さんを見て――――。

手足に気を集中させて、エヴァさんの拘束を離脱。

刀を抜き、エヴァさんに斬りかかります。

 

 

「ケケケ・・・キッテイインダヨナ?」

 

 

そしてそれを、チャチャゼロさんが受け止める。

茶々丸さんも刹那さんの背後に回り、それを援護します。

死なないとは思いますが・・・。

 

 

「どうした? すぐ目の前の私にすら届かんじゃないか」

「それでも、このちゃんは私の全てです!」

「はっ・・・くだらん! 全てだとかなんだとか、誰もが良くやる勘違いさ!」

「勘違いでも、守って見せます!」

「なら、証明して見せろ!!」

「してみせます!!」

 

 

あ、エヴァさんのスイッチが入りましたね。

もって5分くらいかとは思いますが、頑張ってくださいね刹那さん。

私は展開についていけていない木乃香さんを抱き上げて、瞬動でその場から離れます。

 

 

あ、ちなみに私、『闘(ファイト)』なしで瞬動ができるようになりました。

魔力を集めるのに手間取りますが、なんとかなるものです。

 

 

「すみません、木乃香さん。傷つけてしまって」

「え、えっと、よくわからんけど。大丈夫やえ」

 

 

よくわからないのに許さない方が良いですよ。

あ、エヴァさんが大魔法使いましたね。

茶々丸さんに回復用の魔法具は渡してありますから、倒されては回復され、続行させられるのでしょうねぇ・・・。

 

 

「あの、せっちゃんは・・・」

「たぶん、おそらく、きっと大丈夫です。エヴァさんはちゃんと手加減してくれてるはずなんで」

 

 

断定できない自分が悲しいです。

それなりに離れたので、ここで良いでしょう。

木乃香さんを地面に降ろします。

 

 

「・・・さて、木乃香さん。貴女は今一人です」

「う、うん」

「つまり私が敵なら、この時点でアウトですね」

「あ・・・」

 

 

今の木乃香さんは、対抗手段が一切ありませんので。

刹那さんが倒されたり分離されてしまえば、それで終わりです。

 

 

・・・『魔法具・多重創造』・・・。

 

 

「わっ・・・」

 

 

私達の周囲に、刀や書物、鏡、そして見ただけでは用途のわからない魔法具が同時に現出します。

全て、木乃香さんのために用意した物です。

木乃香さんには、次に別荘から出るまでにこの全ての魔法具の扱いを覚えてもらいます。

魔力の出し方は、感情的にではありますができているようですし。なんとかなるでしょう。

その上で・・・。

 

 

「来たぞ、恩人」

「来ました~」

 

 

さよさんをお姫様だっこしたスクナさんが、転移してきました。

最近、妙に仲が良いのですよね。この2人。

 

 

「ご苦労様です。刹那さんはどうなりましたか?」

「殴られたり蹴られたり斬られたり凍らされたり罵られたり泣かされたりしてたぞ」

「ええ!? せ、せっちゃん!?」

「そうですか。なら安心ですね」

「安心って!?」

 

 

泣く元気があるのなら、まだ大丈夫です。

エヴァさんが本気になれば、泣いてる暇もないですから。

ええ、それはもう想像を絶する・・・・・・・・・・・・。

 

 

「あ、アリア先生? 急にガタガタ震え出してどうしたんですか!?」

「恩人がすげー涙目だぞ」

「あ、ああいえ。とにかく木乃香さん。はっきり言って、このままだと貴女は裏から逃げるなんて無理です。断言できます」

 

 

私の言葉に、木乃香さんが表情を曇らせます。

胸が痛みますが、事実です。

 

 

「そこで貴女には当面、魔力の運用と魔法具の扱いを教えます。そしてもう一つの目標として、スクナさんの主としてふさわしいと、スクナさん自身から認めてもらえるようになってもらいます」

「えと、それってどういう・・・?」

「簡単に言えば、式神になってもらえるよう、契約を結ぶということです」

 

 

スクナさんの場合は霊格が高すぎるので、ただの式神ではなく、より高位の識神になるでしょうね。

ただそのためには、木乃香さんはスクナさんが出す試練に打ち勝ってもらわなければなりません。

 

 

「友達は友達だから、困ってたら助けるぞ!」

「でもすーちゃんがいつでも傍にいるわけじゃないから・・・」

「危機的状況の際には、呼び出せるようにしておいた方が良いですし。何より高位の識神を持つことは、それだけで敵を減らす抑止力になります」

 

 

特に鬼や妖怪はそうしたことに敏感ですから、スクナさんの気を感じればそれだけで手が出せなくなるはずです。

陰陽術を教えるのは、その後でも問題はないでしょう。

そのための準備も、まだ不完全ですしね。

 

 

「・・・それは、必要なことなんやね?」

「ええ、考えた結果として、木乃香さん、貴女には・・・」

 

 

木乃香さんが普通の人間として生きていこうと思えば、多大な労力がいります。

かかってくる追っ手やら、差し向けられる刺客やらがいるとすれば、かなり面倒です。

さらに相手が組織である可能性が高く、それからも逃げるとなると・・・。

 

 

誰よりも、強い力を持ってもらわなければなりません。

相手が二度と関わりたくないと思ってしまうほどに。

あらゆるものを、振り切れるように。

2人で。

 

 

「貴女には、世界最高の大陰陽師になってもらう予定」

「・・・・・・」

「そして刹那さんには、そんな貴女を止められる唯一の存在になってもらう予定です」

 

 

そんな私の言葉に、木乃香さんは。

ただ、真剣でひたむきな目で。

 

 

「よろしく、お願いします」

 

 

と、言いました。

・・・力は、与えられる。けれど木乃香さん。

 

 

そこから先は、貴女達次第。

考えることを、やめないでくださいね。

 

 

可愛い可愛い、私の生徒。

まぁ、基本的に私の生徒で可愛くない方はいませんが・・・。

どうか貴女達の未来が、幸福でありますように。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

『全て順調です。フェイト様』

「・・・そう」

 

 

暦君の報告を通信で聞きながら、目の前に広がる光景を見る。

僕の目の前には、関東最大規模の学園都市。その外縁が見える。

その都市の名は、麻帆良。

 

 

『全世界のゲートの情報も掴みました。工作員の準備次第ですが、いつでも実行できます』

「イギリスのゲートは?」

『それも問題ありません』

 

 

それなら、魔法世界に戻る時は、イギリスのゲートを使うことにしようかな。

けど、今は先に・・・。

 

 

「伯爵の状況は?」

『そちらの時間で、五月中旬には準備が完了します。スライムを使うので、雨の日を選んで決行する予定です』

「・・・そう。わかった」

『標的は、ネギ・スプリングフィールドとその仲間でよろしいですか?』

「それでいいよ」

 

 

暦君は、僕が魔法世界で拾って育てた戦災孤児の一人だ。

まぁ、僕の趣味みたいな物。

他にもいるけど・・・暦君はその中でも、率先して僕の手伝いをしてくれている。

 

 

『アリア・スプリングフィールドの方は、どうされますか?』

「・・・・・・・・・」

 

 

・・・・・・アリア。

 

 

『・・・フェイト様?』

「・・・・・・ああ、いや。必要ないよ。彼女の力は京都で見せてもらったからね」

『はぁ・・・それで、フェイト様は一度こちらに戻られますか?』

「いや・・・もうひとつ、行くところができたからね」

 

 

それを済ませてから戻るよ。

僕がそう言うと暦君は少し訝しげな声で、それでも、わかりました、と答えた。

 

 

そこで通信を終わらせようとしたんだけど。

ひとつ、引っかかることがあった。

 

 

「・・・・・・暦君、ひとついいかな」

『はい、なんでしょうか?』

「・・・もし仮に、事故とはいえ、キミのことを刺した男がいたとしよう」

『・・・はぁ』

 

 

暦君は質問の意図がわからなかったのか、かなり訝しげな声で答えた。

僕自身、自分の質問の意味がわかっていないから、仕方がないけど。

 

 

「その男が再び現れたら、キミならどうする?」

『え、ああ、はい。そうですね・・・・・・』

 

 

暦君はしばらく黙った後、端的に言った。

 

 

『とりあえず・・・』

「とりあえず?」

『獣化して八つ裂きにするんじゃないでしょうか』

 

 

・・・・・・分身体をもう一つ、作っておくことにしようか。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回は、木乃香さんと刹那さんの修行開始風景を描きました。
次に登場する時には、かなり強くなっていることでしょう。

作中解説です。
『魔法具・多重創造』:
複数(10種類以上)の魔法具を同時に創り出します。
通常より多くの魔力を消費し、持ち切れない魔法具はその場に放置されることになります。なので、一人の時は使いません。基本的には。
最大で21個まで同時創造が可能です。
訓練次第で、まだ伸びます。


アリア:
さて次話は、悪魔編へ向けて進展することと思います。
先に、南の島イベントと、図書館島イベントですが。
原作で言うと。
さて、その通りにいくかどうか・・・。
では、またお会いしましょう。


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第38話「再会の夜」

Side アリア

 

警備員さんとの朝の挨拶(厳さん。62歳の男性)。

警備員さんとお話をしつつ、玄関の掃き掃除(厳さんとの会話はひとつの楽しみですね)。

納入された備品の検品(個人の物は除きます)。

女子寮への不適切なチラシ投函の有無(正規の郵便屋さんが来る前にやらねばなりません)。

各部屋の電気・ガス・水道のチェック。

廊下などの防犯カメラの整備とテープの交換。

大浴場の清掃(あ、今日は調子の悪い給湯器の整備もしないと・・・)。

・・・以下省略。

 

 

まぁ、私の朝の仕事をいくつか挙げてみました。

ふふ・・・10歳にさせる仕事ではありませんね。

私が転生者でなければこの寮、魔窟と化しているのではないでしょうか。

 

 

「浴場設備の整備とか、もうこれ業者の仕事ですよね・・・」

 

 

魔法具『レストレイション』で壊れた給湯器を直しながら(結界は張っていますよ)、そんなことを呟いてみます。

私の身体から光の粒子が湧き出し、それが対象を包み込むとまるで新品のように修復されます。

これでどうにか、今日も使えるでしょう。

さて、次は廊下掃除でもしますか。

 

 

女子寮全部の廊下というと、結構な量になります。

休日とかは時間がとれるので楽なのですが、今日のような平日は、朝のうちにしておかねばなりません。

工学部からお掃除ロボットでも借りましょうか・・・。

 

 

「あ、アリア先生。おはよ~」

「あら、和泉さん。おはようございます」

 

 

廊下をモップで掃除している時、和泉さんが部屋からひょっこり顔を出しました。

起こさないように気を付けていたのですが、なんたる失態。

 

 

「申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」

「あ、ううん。ちょっと前から起きとったから」

「それは・・・早起きですね」

 

 

時計を見ると、まだ6時にもなっていません。

登校時間はまだ先です。

昨夜何時に寝たのかは知りませんが、もう少し寝ていても良いと思いますよ?

 

 

「アリア先生、まき絵見んかった?」

「いえ、見ていませんが」

 

 

聞けば、まき絵さんはロードワークに出ていてまだ戻っていないとか。

何か事情がありそうですが、本人の言っていないことを私に言うのはどうかと思ったようで、和泉さんも詳しいことは言いませんでした。

と、和泉さんが何かに気付いたように私を見て。

 

 

「あ、大変そうやね先生。手伝うわ」

「え、いやそれは・・・」

「ええからええから。早起きしすぎて暇やったし」

 

 

予備のモップを手に、廊下を拭き始める和泉さん。

え、ちょ、生徒に仕事を手伝わせるわけには・・・。

 

 

「あの、和泉さん。ありがたいのですが・・・」

「ふんふふ~ん♪」

 

 

・・・聞いちゃいねーですか・・・。

まぁ、いいです。あとこの階だけですし。

しかしそうは言っても、手伝わせて何も無しというのもアレですね。

 

 

「後で朝食を御馳走しますよ」

「え、ほんまにっ!? 朝ご飯何?」

「そこは聞いてくれるんですね・・・」

 

 

現金な方ですね。和泉さんも。

ちなみに今日の朝食は、甘い甘いハニートーストです。

 

 

「先生って実は甘い物好き?」

「甘い物の嫌いな女性などこの世に存在しません」

「あ、あはは・・・あ、まき絵も一緒にええかな?」

「構いませんよ」

 

 

チョコレートソースも付けましょうか。

苺は外せませんよね。もちろん。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「む・・・」

 

 

茶々丸とチャチャゼロを伴い、朝の散歩をしている所だ。

世界樹広場にまで足を伸ばしてみると、ぼーやと・・・佐々木まき絵だったか、その2人が何やら騒いでいた。

ぼーやが何かやってみせているようだが・・・。

 

 

「あの型は中国拳法のようです」

「ふん、カンフーとかいう奴か」

「ケケケ、マーアノガキニハチョウドイインジャネーカ?」

「確かに、お子様にはお似合いだな」

 

 

まぁ、カンフーの修行をするというならそれでいいさ。

アリアの方に行きはしないかと思ってはいたが、何か打ち込む物があるうちは大丈夫だろう。

それがなくなった時は・・・。

 

 

「あれー? エヴァちゃん、茶々丸さんおはよー」

「ちっ・・・気付かれたか」

「ちょっ、何よその言い方~」

 

 

チャチャゼロを見ると、すでに茶々丸の頭の上で動かなくなっていた。

それでいい。

佐々木まき絵がこちらへと駆け寄ってくる、ぼーやも一緒だ。

そのまま乳繰り合ってれば良いものを。

 

 

「エヴァンジェリンさん・・・」

 

 

なんだぼーや。

そんな目で見て、何か言いたいことでもあるのか?

一切聞かんがな。

 

 

「ん? なになにネギ君。エヴァちゃんと何かあったの?」

「え、えっとあの・・・」

「お前には関係のない話だ佐々木まき絵。行くぞ、茶々丸」

 

 

何か言われる前に立ち去るとしよう。

明日からは、この世界樹広場には近寄らん方が良いな。

 

 

「ん? ん? どゆことネギ君?」

「あ、えっと・・・弟子入りをお願いしたんですけど。ダメだって言われて・・・」

「ふ~ん? ねぇねぇエヴァちゃん。なんでネギ君弟子にしてあげないの?」

 

 

話の全容を知らないくせに口を出すな佐々木まき絵。

いや、この場合ぼーやの方に問題があるのか?

魔法使いの弟子入り問題を表の人間に教えてどうする。

 

 

いったいどんな教育を受けてきたんだ?

メルディアナというのは、能無しばかりか?

 

 

「ねーエヴァちゃんってば。なんでそんなイジワルするの?」

「ふん。子供の遊びに付き合う趣味はないんだよ」

 

 

お前のようなガキっぽい奴と話す趣味もない。

そう言い残して、後は立ち止まることはない。

さっさと戻らんと、バカ鬼が朝食を食べ尽くしかねんしな。

さよのことだ。どうせ甘やかしているんだろう。

 

 

「なっ・・・ななな、何よエヴァちゃんだってお子様体型のくせに! ふーんだいいもんね! ネギ君きっと凄くすごーく強くなっちゃうもんねー!」

 

 

一部に聞き捨てならない単語があったようだが、これ以上は付き合いきれん。

と言うか、何故ぼーやでなくお前が言うんだ?

 

 

「エヴァちゃんなんかに教えてもらわなかったって、ネギ君ならすぐに達人になるよ~だ!」

「え、ちょ、まき絵さん!?」

 

 

達人ね・・・まぁ、才能だけはあるようだから、おそらく達人にはなるだろう。

それも、相当強くなる。

 

 

だがなぼーや、達人になったその後は。強くなったその後は。

どうするつもりだ?

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「剣道、ですか・・・・・・」

「う、うん」

 

 

ネギは相変わらず、一人で頑張ろうとしてる。

それが、なんだかとても不安だった。

 

 

ちょっと前から・・・たぶん、京都でネギのお父さんの写真を見てからだと思う。

なんだかそのうち私の知らない所で、大怪我していなくなっちゃうんじゃないかって。

不安で、仕方がなかった。

 

 

それだけが理由じゃないけど、とにかく。

私も私なりに強くなっておこうと、お昼休みに刹那さんに、「剣道を教えて」ってお願いしたかったんだけど・・・。

 

 

なんだか、刹那さんはものすごくヤツれてた。

 

 

「それはすごく良い考えですね・・・ただ、私は最近とても忙しいので・・・」

「う、うん。というか、大丈夫なの?」

「え・・・あ、はい。大丈夫です。このちゃんの状況は把握していますので・・・」

 

 

いや、木乃香のことじゃなくて刹那さんのことを聞いてるんだけど。

確かに顔はヤツれてるけど、動き自体はしっかりしてるし、受け答えもはっきりしてるけど。

 

 

「とりあえず、剣道部で手の空いてる方に聞いてはみますね・・・」

「あ、ありがと」

「せっちゃ~ん!」

「あ、このちゃんに呼ばれているので・・・」

「う、うん。じゃあ・・・」

 

 

刹那さんを見送って、改めて思うんだけど。

木乃香と刹那さんは最近ずっと一緒にいる、それはいいんだけど。

何をやったらあんなにヤツれるんだろ?

2日くらい前までは、普通だったのに。

 

 

「あの2人、今同居してんだよね~」

「なんでこのクラスの人間はいつも突然現れるのよ・・・」

 

 

朝倉が私の肩に腕を回して寄り掛かってくる、重いんだけど。

 

 

「同居してて、翌朝ヤツれて登校ってことは、こりゃーやっぱアレじゃない?」

「あれってどれよ」

「それはほら、大きな声では言えないよーな(ごにょごにょ)」

「・・・ちょ、何考えてんの!?」

 

 

そんなわけないでしょ!?

・・・でも、確かに親友って言っても一緒にいすぎなような気も。

いやいやいやいや、ない! それはないわ! だって刹那さんだもん!

 

 

「あれ~、明日菜、何考えてんの~?」

「あんたが言ったんでしょ!?」

「声大きいよ~」

「ぐっ・・・!」

 

 

このパパラッチは・・・!

 

 

まぁ、それにしたって。

あんなにヤツれてまで、何をやってるんだろ?

 

 

「ところでさ、あんた近衛がいなくて生活できてんの?」

「う・・・」

 

 

 

 

 

Side ハルナ

 

「ハルナ、話って何?」

「ん~、ちょっとね~」

 

 

のどかを呼び出して、ちょっとお話。

夕映がここのところ、マジで元気ないからね。

あの子ものどかには強く出れないから、ここは私の出番!

ってなわけで。

 

 

「のどか。あんたさ、夕映や私に隠してることあるでしょ?」

「ふぇ?・・・えぇっ!? な、ないよ?」

 

 

わっかりやす!

我が友人ながら、純粋過ぎて逆に心配になるわ。

 

 

「本当に?」

「ほ・・・ほ、ほんとだよ?」

「・・・ほぉんとぉにぃ~?」

「あ、あうぅ~・・・」

 

 

のどかの柔らかいほっぺをぐにぐにしながら、にじり寄る。

・・・思い切り目を逸らされた。本当にわかりやすいわね。

 

 

「・・・ネギ君のこと?」

 

 

のどかの肩が、びくって震えた・・・図星か。

まぁ、今のどかがここまでの反応を見せる話題って、それくらいだと思うけどさ。

ふむ、ネギ君のことか~。そうなると、根掘り葉掘りは聞きずらいなぁ。

いつか絶対聞き出すけど。

 

 

「それってさ、ど~しても話せないこと?」

「う、う~ん・・・そこまでじゃ・・・ない、と思うけど」

 

 

ふむ、そこは微妙なわけね。

できれば話したくないけど、どうしてもなら話しちゃうかも。そんなレベルか。

 

 

「私・・・は、まぁいいや。夕映にも話せない?」

「え、う・・・」

「最近、のどかが自分に話してくれないって、落ち込んでるの知ってるでしょ?」

「・・・・・・うん」

 

 

まぁ、どんな話かはわかんないけどさ。

私的には、ここで2人が微妙になるのは嫌なわけよ。

親友だしね。

 

 

「全部は無理でも、ちょっとだけでも話せばさ、夕映も元気になるし」

「・・・うん」

「のどかも、少しは楽になるかもよ?」

 

 

この子も溜めとくタイプだからね~。

要所要所で抜いとかないと、パンクしちゃうし。

 

 

「・・・そうかな」

「そうそう!」

 

 

ばしばしと背中を叩いて、発破をかける。

本当に世話が焼けるよこの2人は。

まぁ、それだけ大事に想ってるってことかな。

 

 

「うん。じゃあ・・・ちょっとだけ、話してみる」

「ん、よし!」

 

 

よかった~。

ここ最近の夕映は、のどかがいないと「のどか・・・」ってすごく悲しそうに言うから、うっと・・・じゃなく、心配だったのよ。うん。

 

 

友達思い、それが私。うん。

 

 

「いつか私にも聞かせてね?」

「わ、わかった。じゃあ話せるようになったら・・・」

「うん。待ってるよ~」

 

 

まぁ、そこまで待つつもりはないけどさ。

今日の所は、これでいいよね。

 

 

「あの、ハルナ」

「ん~?」

「・・・ありがとう」

「どういたしまして~♪」

 

 

思い切り抱きしめて、ぐりぐりする。

ああ、もう、可愛いわね~。

こういう娘こそ、幸せにならないと。

 

 

まぁ、相手が10歳の子供先生ってのは正直どうかと思うけど。

ネギ君と上手くいくといいな。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

それにしても、ネギ坊主は反則気味に飲み込みが良いアルな~。

 

 

「ほい、負けアルネ」

「あぅ~」

 

 

ここ2日ほど、放課後にネギ坊主に組み手で技を教えてるアルが。

普通1カ月はかかる技を3時間で覚えるとか、異常としか思えないネ。

世の中、不公平アル。

 

 

「も、もう一度お願いします。くーふぇさん!」

「私のことは老師と呼ぶがいいネ!」

「はい、老師!」

 

 

それにしても、このネギ坊主。

最初は、単に強くなりたいだけかと思ったアルが・・・。

 

 

どうも、違うみたいアルな。

拳のひとつ、蹴りのひとつに、何かを感じるネ。

私も修行中の身アルから、それが何かはわからないアル。

 

 

「よくやるわねー」

「明日菜もやってみるアルか?」

「んー、拳法とかはちょっと」

 

 

むぅ、それは残念アル。

明日菜も才能はあると思うアルに。

 

 

「はい、ソコ右手甘いアルよ~」

「はぶっ」

 

 

今はまだ、こんなに簡単に倒せるアルけど。

ひょっとしたら、いつか私より強くなるかもしれないアルな。

 

 

「ネギくーん!」

 

 

お? 何かいっぱい来たアルね~。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

くーふぇさん・・・老師と組み手してたら、まき絵さんと亜子さんがお弁当をたくさん作ってきてくれた。

わぁ、木乃香さんがいなくなってからは外で食べてたから、嬉しいな。

・・・もの凄い量だけど。

 

 

その後お弁当を食べながら、いろんな話をした。

趣味のこととか、拳法のこととか、学校のこととか。

そこで、日曜日にまき絵さんが新体操部のテストだって聞いた。

まき絵さんは、自信ががないって言うけど・・・。

 

 

でも見せてもらったまき絵さんの演技は、新体操に詳しくない僕でもすごいってわかるくらいだった。

 

 

「す、すごーいっ!」

「全然いいじゃないですかーっ!」

「でも、スカートでやらん方がええよ」

 

 

亜子さんだけが、まき絵さんの肩を叩いて注意してた。

 

 

「う、うん。でも先生が私の演技は子供だって・・・」

「そんなコトないですよ! 僕、新体操のことはよくわかりませんが、とっても良かったです!」

「そ、そうかな」

「はい! まき絵さんらしい素直でまっすぐな美しい演技だと思います!」

「あ、ありがとーネギ君」

「まき絵さんなら絶対合格しますよ!」

「さすが外国人、褒め言葉に照れがないわね・・・」

 

 

テストまで時間がないけど、ここまで来たらやるしかないですよ!

僕がそう言うと、亜子さんもうんうんと頷きながら。

 

 

「そうそう。今朝だってアリア先生に言われたやん」

「アリアに?」

「ああ、うん。今朝偶然一緒になったんよ」

 

 

亜子さんによると、アリアはまき絵さんにこう言ったらしい。

 

 

『私は新体操のことはわかりません。なので、まき絵さんが絶対に合格するとは言えません』

 

 

・・・あれ?

 

 

「え、そんなこと言ったの!?」

「あ、うん。言われたよ~」

「な、なんでそんな明るいんですか!?」

「あはは。続きがあるんよ」

 

 

『ただ、まき絵さんが努力なさっている方だとは知っています。なので、まき絵さんが合格することを心から祈っています』

 

 

「それでね。アリア先生が朝ご飯の苺を分けてくれたの~♪」

「なんか、ものすごく泣きそうな顔してたけど・・・」

「あれ、そうだっけ?」

「ふ~ん・・・え。ということは何? あんたら朝ご飯一緒したわけ?」

「そうだよ~」

 

 

アリアってそんなに苺好きだったっけ・・・。

・・・アリア。

アリアは今日も、エヴァンジェリンさん達と一緒なのかな。

 

 

アリアは今、何をしてるんだろう?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

仕事が終わりません。

ここまで来ると、もはや新手の苛めなのではないかと疑いたくなります。

 

 

「・・・く、ふぅ・・・」

 

 

椅子の背もたれに身体を押し付けて、両手を上に、大きく伸びをします。

目薬、まだあったかな・・・。

 

 

中間テストまで約一カ月。

問題と答案用紙はまだいいとしても、方向性を記した報告書は提出しなければなりません。

ええと、授業以外の配布物の手配と、GW中の課題の準備も、あとは・・・。

 

 

「アリア先生」

「あ・・・新田先生、こんにちは」

「こんにちは・・・と言っても、もうこんばんはの時間ですが」

「え・・・」

 

 

外を見ると、なるほど、もう日が落ちる時間ですね。

・・・そういえば、お腹も空きましたね。

確かに、こんばんはの時間ですね。

 

 

「・・・ネギ先生が見えませんな」

「ええ、もうお帰りになりました」

「ふむ・・・先日提出された英語の授業方針について確認したかったのですが」

「と、言うと?」

「ここなのですが・・・」

「ああ、これは・・・」

 

 

内容は単純な物で、指導綱領で規定された英語を卒業するまでに生徒に教えるために、どの単元をどの順序で授業に取り入れるか、そのことについての物でした。

まぁ、卒業までに最低限はやっておかないと、高校で困りますからね。

エスカレーターと言えど、まったくの無条件で上がれるわけではないですし。

 

 

「なるほど。それはわかりましたが・・・これはネギ先生の担当のはずでは?」

「一応、副担当なので」

 

 

私の表の仕事は、3-Aの副担任と英語の副担当です。

ことごとくネギ兄様のサポート役ですね。わかります。

 

 

「・・・アリア先生」

「なんでしょう? ・・・英語の中間テスト問題の締め切りは来週ですよね?」

「ええ、GW明けで構いませんよ」

 

 

ビビりました。一瞬GW前かと思いましたよ。

締め切りは大切です。これを守ることが、仕事における信頼への第一歩ですから。

今まで一度だって締め切りを過ぎたことがありません。

実はひそかな自慢だったりします。当たり前のことですけど。

 

 

「アリア先生、今日はもう良いですよ。女子寮の管理人も兼任しておられるのでしょう?」

「あ、大丈夫ですよ。ある程度は朝にやっていますので」

「朝に?」

「ええ、朝に」

 

 

抜かりはありませんよ。

帰った後は、管理人室に設置してある要望書入れから、生徒の要望を確認して翌朝の仕事を決めたり。

緊急の用件の場合は、ここに連絡するよう掲示してありますし。

 

 

・・・なんですか新田先生。そんなに険しい顔をして。

何か、ミスをしたでしょうか、私。

 

 

「失礼ですがアリア先生。机の上の書類は?」

「え・・・あ、左が処理済み、右が未処理の書類です」

 

 

書類の整理は大事なことです。

わからなくなったりしたら、大変ですから。

 

 

新田先生は険しい表情のまま書類が積まれている私の机を見た後、綺麗に整頓された隣の兄様の机を見て。

・・・おおぅ、なんだか一段と眉間の皺が深く。

 

 

「・・・ちなみにアリア先生、今朝は何時に起きましたか?」

「今日ですか? えっと・・・3時半くらいかと」

 

 

仕事のスタートが4時過ぎですから、たぶんそれくらいだと思いますけど。

 

 

「何時に眠られましたか?」

「え・・・と、10時だと思います」

 

 

別荘使ってるんで、時間の感覚がたまに狂うんですよね。

でも、たしか昨日は10時に就寝したはず。

なんでも、10時から2時は眠らないと身体の成長に悪いって聞いたので。

 

 

「・・・あの、新田先生?」

 

 

なんだか雰囲気が、ものすごく怖いんですけど。

新田先生は片手で眼鏡を押し上げながら、もう片方の手で私の頭に触れました。

・・・・・・?

 

 

「・・・今日はもう帰りなさい」

「え、でもまだ・・・」

「そして明日の朝は私の所に来るように。お話があります」

 

 

・・・絶対にこれ、叱られますよね。

思い当たる節が、あんまりないです。

 

 

そして新田先生は、私に背を向けて歩き出しました。

スーツが翻って、かなりかっこいいです。

 

 

「あ、あの、新田先生」

「私はこれで。少々・・・・・・学園長に話さねばならないことができたので」

 

 

そのまま、職員室を出ていく新田先生。

あれ、気のせいですかね。今新田先生の身体からオーラ的な物が見えたような・・・。

学園長に話って、なんでしょうね?

 

 

「あはは、これは新田先生、かなりキテるなー」

「あ、瀬流彦先生」

「やっ」

 

 

いつの間にか側まで来ていた瀬流彦先生は、いつもの笑顔で手を振ってきました。

最近、良く見かけますね。いろんな所で。

 

 

「あ、それでさアリア君。GWのことなんだけど」

「はい、私は4日にお休みをいただいております」

「うん。それなんだけど、たぶんGW中全部お休みになると思うよ」

「・・・でも、それだと」

 

 

生徒がお休みでも、教師は違います。

授業の下準備とか、やることが多いのです。

特に私は、学生寮の管理人でもありますし。

 

 

「先生達のお休みを割り振るのは主任の仕事。で、その主任の新田先生があの様子だから」

「はぁ・・・」

「それにアリア君、明らかにオーバーワーク気味だから、無理にでも休ませるつもりなんじゃないかな?」

 

 

たぶんだけどね、と、瀬流彦先生は言いました。

休んでいないといっても、別荘使ってるんで・・・。

逆に言うと、別荘がないとヤバいということですが。

 

 

「あ、そうそう。この間学園長に、アリア君とネギ君のことを聞かれたよ」

「・・・そうですか」

 

 

まぁ、予想の範囲内ですね。

今の所、私と接点のある魔法先生は瀬流彦先生だけですから。

 

 

「どっちも良い子だって答えておいたから」

「そ、それは・・・」

 

 

たぶんですが、学園長の求めてる答えは別の物だと思うんですけど。

瀬流彦先生も、それは知ってるはずでしょうに。

最後に瀬流彦先生は、私の耳元に口を寄せて、小声で。

 

 

「・・・本国にせっつかれてるって、ぼやいてたよ」

「・・・そうですか」

「じゃあ、僕も上がりだから。ちゃんと休みなよ?」

「はい。ありがとうございます」

 

 

そのまま手を振って、瀬流彦先生を見送ります。

・・・本国。元老院ですか。

なんとなく、顔に触れます。

 

 

かつてスタン爺様が、「母親に似ている」と評した私の容姿。

実際に会ったことがないのでわかりませんが・・・おそらく、より似てきていることでしょう。

・・・お母様に。

 

 

「・・・帰りましょうか」

 

 

夜勤の先生に挨拶をして、帰るとしましょう。

あまり遅くなると、エヴァさん達が心配しますからね。

10時頃には、別荘に入らないと。

そういえば、そろそろ別荘内で一年近くが経ちそうですね。

今日にでも、『魔女の若返り薬』を飲んでおきましょうか。

 

 

「五月にしては、肌寒い夜ですね・・・」

 

 

書類を片づけて、学校を出ます。

夜と言っても、まだ7時にもなっていませんが。

なんだか、人通りが少ないですね。

夕食は外で食べましょうか。今から作るのも面倒です。

それに、別荘に行けば茶々丸さんが何か作ってくれるでしょうし。

 

 

別荘を使っているからでしょうね。一日がすごく長く感じます。

普通の人よりも、長い時間。

こういうのって、結構・・・。

 

 

 

「・・・仕事は、終わったのかい?」

 

 

 

・・・校門を過ぎた所で、声。

振り向けば・・・。

どくん、と、心臓が強く鼓動したかのような感覚。

 

 

 

「良い夜だね。アリア」

 

 

 

白い髪に、まるで感情の見えない瞳。

端正な作りの、でも表情のあまり動かない顔に、依然と変わらない詰襟姿。

 

 

・・・貴方、登場する場面と場所を間違えていませんか?

貴方が今もたれかかっているのは、どこの学校の校門だと思っているんですか。

大胆不敵にも、程があるでしょう。

 

 

 

「もし、キミの予定が空いているのなら・・・どうかな」

 

 

 

そのまま、私に近付いてきて・・・眼前に。

・・・顔、近いですよ。

 

 

 

「一緒に、食事でも」

 

 

 

・・・少し細められた、無感動な瞳。

その瞳に、吸い込まれてしまいそう。

ぞくぞく、します。

 

 

そのまま・・・どれくらい経ったでしょうか。

数秒かもしれませんし、数分かもしれません。

もしかしたら、永遠であったかもしれません。

 

 

私は、自分の口元が綻ぶのを自覚しながら・・・。

ゆっくりと、答えました。

 

 

 

「・・・喜んで」

 

 

 

そういえば、異性と二人きりで食事、それもディナーをご一緒するのは初めてですね。

貴方はいったい、私の初めてをいくつ持っていくつもりなのでしょうね・・・。

 

 

 

 

 

・・・フェイトさん。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
じわじわと色々な物が動き出した。そんな話でした。
というかフェイトさん。
貴方ここで出てきてどうするんですか。
せめて悪魔襲来まで待てば良いのに。
それとも、そんなに・・・。


今回の使用魔法具は以下の通り。
漫画「レストレイション・マジック」より、『レストレイション』を。
提供者は月音様です。
ありがとうございます。


アリア:
さて次話は・・・。
・・・・・・まぁ、そういうことです。
では、またお会いしましょう。



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第39話「逢瀬」

Side 学園長

 

「は、話はわかったぞい」

「どのようにわかったのか、明確に言葉にしていただきたいですな」

 

 

こ、これはいったい、どういうことじゃ。

今日の仕事も終わりさて帰宅と言った段になって、新田君が来たのじゃが・・・。

突然、「一部教師の労働環境の不均衡」について糾弾し始めた。

 

 

・・・要約すると、「ネギ君を働かせろ。アリア君を休ませろ」なんじゃが・・・。

目がマジじゃ。本気と書いて、マジじゃ。

 

 

「ま、まぁ、ネギ君も頑張っておることじゃし・・・」

「具体的に、どのように頑張っているのですかな」

「そ、それはじゃの・・・」

 

 

新田君は一般人じゃからのぅ。説明できん部分が多すぎるわい。

・・・というか、認識阻害の魔法が弾かれている気がするのは、気のせいじゃよな?

新田君、一般人じゃよな?

 

 

「では、くれぐれも・・・・・・くれぐれもお願いします」

「そんなに念を押さんでも・・・」

「明日の朝までに処理されていなかった場合」

「な、なんじゃな?」

「・・・言われねばわかりませんか?」

「・・・・・・いや、十分じゃ」

 

 

どんなことになるのか、知りたくもないわい。

新田君は生徒から恐れらてはいるが、逆に慕われてもおる。

ある意味、下手な暗示よりも強い関係じゃな。

 

 

純粋な教育者ではいられぬ、我が身が辛いの。

というか、本当にどうなるんじゃろ・・・。

 

 

部屋から出ていく新田君を見送りながら、そんなことを考えた。

 

 

しかし、どうするかの・・・。

ネギ君の仕事量を増やすのはできるだけ控えたい所じゃ。

魔法球でも取り寄せるかの・・・しかしあれは問題も多いしのう。

いっそのこと、図書館島の地下に・・・。

 

 

「・・・なるほどなぁ」

 

 

突然、がしっ・・・と、後頭部を掴まれた。

な、何者・・・というか、声に聞き覚えが。

 

 

「ここ数日、妙に疲れた様子で別荘に倒れこんでくると思ったら・・・そういうことか」

「ケケケ・・・マエカラコノアタマ、キッテミタカッタンダヨナ」

 

 

ふ、ふおおぉぉ、な、何か頭に鋭利な物が突き付けられておるぅ~・・・。

というか、もう完全に誰かわかってしまったのじゃが・・・。

 

 

「動かないでください」

 

 

がしょんっ!(ズドンッとも聞こえた)。

応接用のテーブルを踏み潰し、もはや床が沈んどるんじゃないかという勢いでわしの眼前に置かれたそれは、なんというか・・・。

大砲じゃった。

 

 

「ふ、ふぉおおおおおっ!?」

「『セワード・アーセナル 165mm多目的破砕・榴弾砲』。木っ端微塵になりたくなければ動かないでください」

「安心しろ、簡易版だ。完全版は転移しきれん。だが威力は十分だから安心しろ」

「イチゲキヒッサツヲアナタニ♪」

 

 

どこが簡易版!?

え、わし死ぬの? ここで死ぬの?

 

 

「な、なんの用でここに」

「うん? いやいや、どこぞの馬の骨から連絡が来てな」

 

 

まぁ、今回のことでポンコツに格上げしてやってもいいが。

そう言って嗤う。だ、誰のことじゃろ?

 

 

「さて、じじぃ。今から私が言うことに「イエス」か「はい」で答えろ」

 

 

それ、拒否権なくね?

せめて、曾孫の顔を見たかっ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。

 

 

私は校門前にいたはず・・・。

しかし今私の目の前に広がっているのは、果てしない雲海。

そして至る所に浮かぶ、巨大な直方体の塊。

私は、その中のひとつの上に立っています。

これは・・・。

 

 

「どうかしたのかい?」

「・・・!」

 

 

振り向けば、すぐ後ろに、フェイトさんが。

いつ着替えたのか・・・白いスーツ姿に。

いえ、本当にいつ着替えたんです?

 

 

「疲れたろう、座ると良い」

 

 

フェイトさんが示した先には、2人分の食事が用意されたテーブル。

シックな作りの椅子のひとつを軽く引いて、私を見ると。

 

 

「どうぞ、お姫様」

 

 

・・・えっと、対処が追いつきません。

そこでふと、自分の服装を見ます。こちらもスーツ。

むぅ・・・。

 

 

「・・・・・・フェイトさん」

「なんだい?」

「10秒ほど後ろを向いていてください」

「・・・なぜ?」

「いいですから」

 

 

繰り返して言うと、フェイトさんはゆっくりと後ろを向きました。

その間に、一枚のカードを創造。魔力を注いで、効果を発動。

次の瞬間には私はスーツではなく、黒のイブニングドレス姿に。

 

 

・・・魔法具、『イブニングドレス』

お着替え用魔法具のひとつです。用意しておいてよかった。

ローブ・デコルテ・・・胸元が少し開くデザインなので、少々恥ずかしいのですが。

 

 

「もういいですよ」

「・・・・・・では、改めて」

 

 

ゆっくりと振り向いたフェイトさんは、しばらく私を見た後、何事もなかったかのように椅子を引いたままの体勢で一礼して。

 

 

「・・・どうぞ、お姫様」

「ありがとうございます」

 

 

私が座る動作に合わせて、フェイトさんが椅子を前へ。

・・・それにしても、何も無しですか。まぁ、急ごしらえですしね。

でも、何か一言くらい・・・。

 

 

「・・・綺麗だよ、アリア」

「・・・っ」

「色違いの瞳に、良く映える」

 

 

み、耳元で囁かないでくださっ・・・!

 

 

「さて、いただこうか」

 

 

そしてやはり何事もなかったかのように、向かい側の席に座るフェイトさん。

その飄々とした態度が、なんだか気に入りません。

・・・くぬやろー・・・。

 

 

「肉と魚はどちらが好きかな? 一応両方用意したんだけど」

「・・・お魚で」

「では、こっちだね」

 

 

ある程度整え終えた後、フェイトさんがグラスに飲み物を注ぎます。

それを受け取りつつ・・・。

 

 

「あの・・・」

「何かな?」

「私、一応未成年なんですけど・・・」

「ノンアルコールだから問題ない」

 

 

そうですか、用意の良いことで。

フェイトさんが顔の高さにまでグラスを持ち上げるのに合わせて、私もグラスを持ちます。

 

 

「乾杯」

「・・・乾杯」

 

 

ディナーの、始まりです。

 

 

 

 

 

Side 環

 

「な、なななな・・・!」

 

 

さっきから、暦が下の方を見ながら、わなわなと震えてる。

私達がいるのは、フェイト様達のやや上空、距離は5キロ。

 

 

「暦、見えるの?」

「見えますっ! フェイト様の凛々しいお姿がばっちりと! ネコなめんなっ!」

 

 

ネコが目が良いなんて聞いたことないけど。

それに暦は豹族で厳密にはネコじゃない。

 

 

「・・・だ、誰あの子!?」

「アリア・スプリングフィールド。サウザンドマスターの娘」

「それは知ってるっ!」

「フェイト様が勧誘するつもりの子」

「そういうことでもなくてっ!」

 

 

じゃあ、何。

 

 

「そもそも迎えに行こうって言い出したのは暦」

「だってこの間の通信でフェイト様の様子がいつもと違ったし、ちょうど旧世界に来てたし・・・」

 

 

私はその通信を聞いていないから、よく知らない。

暦についてきただけ。

 

 

「でも暦、フェイト様にお願いされて嬉しそうにしてた」

「だ、だって任務以外でお願いされたの初めてだったし・・・お着替えを手伝えたし・・・」

 

 

顔を押さえて悶え出した暦は放っておいて、私はアーティファクトの維持に専念する。

アーティファクト『無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)』。

これは、無限の拡がりを持つ閉鎖結界空間を発生させるアーティファクト。

私の力。

 

 

魔法理論的には、私を殺しでもしない限り出ることはできない。

もちろん、私が任意で出入りを認めない限りはの話。

 

 

「わ、私だって2人きりで食事なんてしたことないのに・・・」

「大丈夫、暦。私もない」

「うう・・・」

 

 

うなだれる暦。

なんでそんなに落ち込むのかわからない。

 

 

私達はフェイト様に救われた。その恩返しのために生きている。

フェイト様の望みが叶うなら、それ以外はいらない。

だから、これでいい。

 

 

・・・これでいい、はず。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「・・・それで」

 

 

食事を楽しんでいると、アリアが話題を変えてきた。

話題と言っても、それほど深い話はしていないけどね。まだ。

 

 

「今日はどういったご用件ですか?」

「キミに会いに来た・・・という理由では、不足かな」

「・・・本気ですか?」

「間違いではないよ」

 

 

そう、間違いじゃない。

僕はキミに用があって来たんだからね。

 

 

「キミに会うために、ここに来たのさ」

 

 

そしてそんな僕の言葉に、彼女は少し顔を赤らめて俯いた。

その姿に、少し可笑しくなる。

・・・少し前までは、なかったはずの感情だ。

感情・・・。

 

 

・・・そうだね。

もうひとつ、用件があるとするなら。

 

 

「・・・すまなかった」

「はい?」

「京都でキミを刺したことを、まだ謝罪していなかった」

 

 

最初にしておくべきだったね。

 

 

「謝罪して終わらせるつもりはないけれど・・・まずは、言わせてほしい」

「・・・・・・」

「すまなかった」

 

 

僕がそう言った時の彼女は、なんというか軽く驚いているようだった。

ぽかん、という表現があいそうな表情。

 

 

「・・・アリア?」

「え・・・ああ、いえ! いいんですいいんです。はい。結果的に何もありませんでしたし!」

 

 

・・・かなり危ない状況だったと思うんだけど。

本当なら、ネギ・スプリングフィールドを貫くはずだったあの一撃。

あれをアリアが受けた時は、驚いた。

まさか、死にかけてまで兄を庇うとは思わなかった。

兄・・・兄か。

 

 

「お兄さんが、大切なんだね」

「・・・いや」

 

 

その時のアリアの反応を、どう言えばいいのか。

 

 

「いやいやいやいや、違いますよ」

「違うのかい? ・・・てっきり」

 

 

てっきり、兄が大切だから庇ったものと思っていたよ。

でもアリアは、まるで呪文のように「いやいや」と言い続けていた。

むしろ「やいやい」と言われてるんじゃないかと疑ってしまいそうになる。

 

 

「兄のことは、大切じゃない?」

「違いますよ! なんでよりにもよってフェイトさんがそんなこと言うんですか!」

「・・・すまない。気を悪く」

「いくらフェイトさんでも言って良いことと悪いことがあります! あ、ああ、あ~! 気付きました! 今気付きましたよ! フェイトさん、私をあのファザコンと同類だと思っていたんですね! ああもう、シリアスキャラだと思って油断してましたぁ! 覚悟しなさい! 覚悟してくださいよ! これ食べたら私が兄様をどんなに嫌いか、朝まで聞かせてさしあげます!」

 

 

なんだかよくわからないけど、気を悪くさせてしまったらしい。

彼女はプリプリしながら、食事に戻っていく。

メインの魚をフォークで刺している。かなり凶悪に。

これまでは音ひとつ立てずに食べていたのに・・・。

 

 

まぁ、彼女に朝まで付き合うのも、悪くはないけれど・・・。

さすがに、そこまで環君や暦君に負担はかけられないし。

僕も時間が押していてね。

 

 

それよりも、アリア。

 

 

兄が嫌いだと言うのなら・・・。

兄が大切ではないと、言いきれるのであれば。

それさえわかれば、それでいい。

それなら。

 

 

「それなら・・・」

 

 

それなら。

 

 

「アリア」

「なんですか?」

「・・・僕の仲間にならないか?」

 

 

ぴたり、と、彼女の手が止まった。

ただ自分の言葉に、少し違和感を感じる。

何か違うな。

 

 

「キミに、僕の仲間になってほしい」

 

 

違う。しっくりこない。

アリアは、ただ僕を見つめている。

白い髪の間から、色違いの瞳(オッドアイ)が僕を見つめている。

そこにどんな感情が込められているのか、僕にはわからない。

 

 

「キミに・・・」

 

 

次の言葉を発した瞬間、アリアの指が、グラスを倒してしまった。

同時に、僕は納得できた。

 

 

「僕と一緒に、来てほしい」

 

 

アリアの瞳が、揺れた気がした。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

思わず、両手で顔を覆ってしまいました。

顔が熱い。

フェイトさんの顔を、見ることができません。

 

 

これまでの人生(前世含む)で、こんな経験は初めてです。

これまで・・・。

 

 

これまで私を、私だから欲しいと言ってくれた人間が、いったい何人いたでしょうか?

思わず倒してしまったグラスから飲み物がこぼれ、テーブルクロスに染みを作っています。

それすらも、今はどうでも良い。

今は。

 

 

「・・・わ、わた、し・・・は」

「うん」

「私は、フェイトさんの組織のことをよく知りません」

 

 

いまいち何を目的にしているかがわからないので。

お父様のチームと敵対していたという情報しか、持っていないのです。

両手を下ろして、フェイトさん・・・は、見れません。俯いておきましょう。

 

 

「教えるよ、全て。キミが・・・来てくれるならね」

「・・・先に教えましょうよ」

「秘匿情報が多くてね。僕も外部の人間には漏らせないんだ」

 

 

まぁ、そうでしょうね。

むしろここでベラベラ喋られても困りますし。

 

 

「それで、返事はもらえないのかな? なんなら時間を置いても構わないけど」

「そう、ですね・・・」

 

 

返事。

べ、別に愛の告白とかじゃないのですから、深く考える必要はないですよね。

フェイトさんの組織・・・「完全なる世界」でしたか?

そこには興味ないんですよね。

でも・・・。

 

 

ちらりと、フェイトさんを見ます。

彼は、静かに私を見ていました。

 

 

フェイトさん。

 

 

フェイトさんと一緒に、行く。

フェイトさんについて行って、一緒に世界を敵に回す。

悪くない、と思います。

そんな未来も、悪くないかもしれない。

 

 

・・・でも。

 

 

「・・・フェイトさん」

「ああ」

「貴方と共に行く未来も、悪くない。それが私の、正直な気持ちです」

「なら・・・」

「いいえ」

 

 

もし私が、一人のままだったなら、もしかしたなら。

麻帆良に来る前の私であったなら、もしかしたなら。

修学旅行までの時の私だったなら、もしかしたなら。

 

 

「でもそれは、仮定の話に過ぎません」

「そうだね。僕も仮定の話は好まない」

 

 

一も二もなく、貴方に縋ったかもしれない。

貴方の提案に、乗ったかもしれない。

でも。

 

 

「答えは、ノー、です。フェイトさん」

「・・・理由を聞いてもいいかな?」

 

 

でも、今の私には。

 

 

「・・・家族が、いますので」

「・・・ネギ・スプリングフィールド?」

「まさか」

 

 

そんな理由なら、即座に頷いていますよ。

兄様・・・いえ、ややこしいと言うのなら、あえてこう呼びましょう。

 

 

「『ネギ』のことは、どうでもいいです」

「なら、誰のことを言っているんだい?」

「知りたいですか?」

「ああ、とてもね」

 

 

私の、家族。

 

 

「その質問に答える前に、ひとつだけ、言っておきたいことがあります」

「聞こうか」

「フェイトさん。貴方は先ほど、私に「ついてこい」と、言いましたが・・・」

 

 

エヴァさんは、言うことがいつも厳しいけど、本当はとても優しくて。

茶々丸さんは、いつもとても優しいけど、時々過保護で。

チャチャゼロさんは、いつも刃物振り回すけど、実は頼りになるお姉さんで。

さよさんは、普段はポヤポヤしてるけど、意外と物知りだったり。

スクナさんは、最近畑仕事ばかりしてるけど、一番みんなのことを想っています。

 

 

シンシア姉様、ネカネ姉様やアーニャさん、スタン爺様達とは違う、もうひとつの家族。

裏切りも背徳もない、魂の血族。

やっと手に入れた、私の家族。

離れたくない。

家族はいつも、一緒だから。

 

 

「フェイトさん。貴方こそ、私の所に来ませんか?」

「何・・・?」

「私は貴方に、来てほしいです」

「・・・・・・・・・」

 

 

一緒に。

そう言うと、フェイトさんは固まってしまいました。

理解できないと言う顔、そして、理解したと言う顔。

そして・・・。

 

 

「・・・無理だ」

「でしょうね・・・なので私は家族のことは教えません。貴方だって貴方の組織のことを教えてくれないのです。お互い様ですよ」

「確かにね」

 

 

それに、私には目的もありますし。

フェイトさんの組織でもできそうな感じはしなくもないですが・・・。

 

 

他にも、面倒を見なければならない生徒達がいますしね。

木乃香さんと刹那さんを筆頭に、3-Aの生徒達を無事卒業させるまでは。

・・・あら、こう考えると意外と身動きがとれませんね、私。

 

 

「・・・フェイトさん」

「なんだい」

「それでも、私が欲しいですか?」

「欲しいね」

 

 

そ、そこで即答されるとなんとも・・・。

 

 

「私も、貴方が欲しいです。フェイトさん」

「そう、嬉しいよ」

「京都でのあの一瞬が、忘れられません・・・」

 

 

あの、一瞬。

初めて出会った時に感じた、「何か」。

貴方と戦って、生まれかけた「何か」。

貴方に貫かれた時に聞こえた「何か」。

 

 

その「何か」が、私に一種の飢餓感のような感情を植え付けてくる。

貴方を。

フェイトさんを、手に入れろと。

 

 

そしてこれは、フェイトさんも感じているかもしれない、感情。

飢餓感。

必ず貴方を手に入れる。

 

 

「だけど、キミはその家族とやらに縛られていて」

「貴方は、組織によって所有されている」

 

 

私は貴方の所に行けなくて。

貴方は私の所に来られない。

そこから導き出される答えは、ひとつだけ。

 

 

これは2人だけの、宣誓。

 

 

「フェイトさん・・・」

「・・・アリア」

「貴方を」

「キミを」

 

 

 

「「奪い取る」」

 

 

 

フェイトさんの視線を、真っ直ぐに受け止めます。

足を組み、笑みを浮かべます。

フェイトさんは表情を変えずに、私を見つめています。

 

 

「必ず貴方を、その組織だか何だかから引き剥がしてみせましょう」

「そう。なら僕も言おうか。必ずキミを、キミの家族から引き離す」

 

 

言っていることは同じ。そして単純です。

「欲しいから奪う」。それだけですね。

 

 

・・・素敵。

私は、力強くリードしてくれる男性が好きですよ?

フェイトさん。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「それで、どうするの?」

 

 

略奪と言うのは気が引けるけど、そうしないと来てくれないのであれば、そうするしかない。

そして現状、環君のアーティファクト内に閉じ込められているキミは、袋のネズミ。

どうすることもできない。

 

 

例外は、環君を殺してしまうことだけど。

僕の目の前で数キロ先の環君の所まで行き、倒すことはできない。

まぁ、本来魔法世界人である彼女達はここには来れないはずだけれど、手段と言うのはいつでもある物でね。

 

 

「・・・ここからの脱出は不可能。そんな顔をしていますね」

「・・・表情は変えていないはずなんだけど」

「なんとなく、わかりますよ」

 

 

そう言って彼女は、まるで僕を挑発するように笑った。

その両眼が、薄い赤色に輝いて見える。

これは・・・。

 

 

ビシィッ!

 

 

世界に、亀裂の走る音がした。

な・・・。

 

 

「そ、そんなバカな!?」

 

 

突如、僕の右隣に出現した暦君が、驚きの声をあげる。

左隣に、環君が。

どうやら、アーティファクトの附属効果で作り出した幻影のようだね。

 

 

だがそのアーティファクト『無限抱擁(エンコンパンデンティア・インフィニータ)』が作り出した閉鎖空間が、みるみる内に浸食され、外部との境界が失われていく。

明らかに、環君の意思に反した現象だ。

 

 

「あら、そんな可愛らしい子を2人も侍らせて、楽しそうですね?」

「・・・・・・まぁ、ね」

 

 

どういうわけか、答えにくかった。

環君と暦君が一瞬嬉しそうな顔をしたのは、気のせいということにしておこう。

 

 

「・・・この世界は完璧です。魔法理論的に外界と完全に分離されています」

「そ、そうですよ! なのになんで、こんな・・・」

「・・・ありえない」

「ええ、結構解析に時間がかかりました。でも、私の瞳からは逃れられない・・・」

 

 

そういえば、アリアは京都でも僕の魔法をいくつか無効化して見せたね。

そして今、アーティファクトにすら対抗できることを示した。

 

 

とん、と、彼女がテーブルを叩いた、瞬間。

 

 

「堕ちろ・・・そして、巡れ」

 

 

まるでガラスが砕けるような音が響き、空間が元に戻る。

そこから見えるのは、麻帆良の夜景。

 

 

「なんだ・・・どこかと思えば、学園の屋上だったんですね」

 

 

意外と近かったですね。

そう言って、彼女は笑う。

その笑みは、とても。

 

 

「そ・・・それでも、3対1です!」

「逃がさない・・・」

「ええ、これは厳しいですね。一人なら」

「アーティファクト、『時の回廊(ホーラリア・ポルティクス)』・・・敵陣遅延!」

 

 

暦君のアーティファクトの効果で、アリアの周囲の空間の時間が遅延状態になる。

つまり、アリアはゆっくりとしか動けない・・・。

 

 

「少々、格好をつけさせてもらえるのであれば」

「なっ・・・」

 

 

いつの間に、背後に。

いやこれは、京都でも一度見た。

 

 

「『時(タイム)』は、私の配下のカードです・・・なんて」

 

 

彼女の手には、一枚のカード。仮契約カードとは、また別の種類。

アデアット。

そう呟いた彼女の手には、黒い魔本。

 

 

「さて、それでは・・・」

「あ・・・」

「ま、待ちな・・・」

「嫌です♪ 『テレポート』」

 

 

最後に、にこりと微笑んで・・・。

アリアは、光の中に消えた。

転移か・・・『追跡』ができない所を見ると、普通の魔法じゃないね。

彼女の言う、家族とやらの情報もない。個人で接触したわけだからね。

 

 

彼女の生徒やウェールズの人間を人質にとることもできるけど。

アリアに嫌われては意味がないし、何より一般人に危害を加えるのは本意ではない。

 

 

「フェイト様!」

「いいよ2人とも。追わなくて」

「でも」

「今日はご苦労さま。僕の身勝手に付き合わせて、悪かったね」

 

 

いえそんな、と慌てる暦君達をそのままに、僕はアリアの消えた場所を見ていた。

主を失った椅子が、寂しげに存在している。

・・・アリア。

 

 

今日の所は、ここまでだ。

 

 

「いつか・・・」

 

 

いつか、キミを攫いに行くよ。

 

 

そう呟いて、僕も席を立った。

もともと、無い時間を無理矢理割いてここに来ているんだ。

これ以上は留まれない。

 

 

「戻ろうか、暦君、環君」

 

 

とりあえずは、僕の居場所へ。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「遅かったな」

 

 

管理人室の前で仁王立ちしていると、どういうわけかドレス姿のアリアが帰ってきた。

近くで転移反応があったから、気付いてはいたが・・・。

 

 

「こんな時間まで、どこをほっつき歩いていた?」

「・・・・・・し、仕事?」

「私の目を見て話せ」

 

 

そう言うと、アリアはますます視線を逸らしてきた。

良い度胸だ、被告人の分際で。

両手で顔を挟んで、もにもにしてやる。

 

 

「ひ、ひゃふぇえふらふぁい~」

「やかましい! 見え透いた嘘を吐きおってからにこんガキャーっ!!」

 

 

もにもにもにもにもにもにもにもにもに。

・・・いや、それ以前に。

 

 

「なんだそのいかがわしいドレスはあぁぁっ!!」

「いかがわしい!? だったら普段エヴァさんが着てるドレスはどうなるんですか!?」

「私はいいんだ!」

「なんという理不尽。でも納得できちゃいます・・・!」

「マスター」

 

 

茶々丸が、じっと私を見つめてきた。

な、なんだ・・・?

 

 

「アリア先生も、背伸びをしたい年頃なのです」

「お、お前はいつもアリアの肩ばかり持つんだな!?」

「いえ、若干私も傷つきます・・・せ、背伸びって・・・」

 

 

ふん・・・まぁ、良い。説教は後だ。

その前にやることがある。

 

 

「エヴァさ~ん」

 

 

来たか。

バカ鬼が、大量の段ボールとさよを持ってきた。

・・・待て。なんでさよを持ち運んでるんだ?

 

 

「面倒だったから、さーちゃんを持って、その上に段ボール乗せた」

「・・・まぁ、いいが」

 

 

いちいち突っ込んでいられん。

 

 

「それで吸血鬼、スクナは何をするんだ。収穫か?」

「話を聞いてなかったのかお前・・・」

「ケケケ、ヒッコシダロ」

「引っ越し?」

 

 

頭上に「?」を浮かばせながら、アリアが問う。

それに対し、手を振りながら答える。

 

 

「ああ、お前は今日付けで女子寮管理人を解雇された」

「解雇!?」

 

 

む、もっと違う表現だったような気もするが・・・。

まぁ、結果が同じならいいか。

 

 

「明日の昼から、業者だか何だかが管理する。お前はお役御免と言うわけだな」

「え、え~・・・なんでいきなり」

「ふ・・・さぁな」

「エヴァさんが学園長先生にお願いしたらしいです」

「さよ! 余計な口を挟むな!」

 

 

は~い、と返事だけは良いさよ。

まったく、茶々丸もそうだが、ウチの連中は私を何だと思っているんだ。

 

 

「はぁ・・・まぁ、仕事が減るのは大歓迎ですが」

「なんだ? 先に説教されたいのか?」

「先にも後にも嫌です。それで・・・私の住居はどこに?」

「私の家に決まっているだろ」

 

 

ふん・・・なんだその顔は。

こうでもせんとお前、そのうち過労死するだろうが。

10歳で過労死とか、どんな人生だ。

まぁ案外、あの新田とかいう教師の言が功を奏したのかもしれんが。

 

 

「・・・エヴァさん」

「・・・・・・なんだ」

 

 

嫌なら言え、無理強いはせんぞ。

 

 

「・・・ありがとうございます」

 

 

・・・ヘラヘラ笑うな、バカが。

面倒ばかりかけるガキだ。

どうせ今日も面倒なことを背負い込んできたんだろう。

 

 

放っておくと碌なことにならん。

しっかりと、目の届く範囲に置いておかんとな。

そうでないと、勝手にどこかに行きかねん。

妙な所ばかり、あのバカに似おって。

 

 

まったく、手のかかるガキだよ、お前は。

 

 

・・・アリア。

 





アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
疲れました。
慣れないことをするもんじゃありませんね。
てっとり早く略奪すればいかったですかね。
でも、たぶんフェイトさん私よりも強いんですよねぇ。


今回の魔法具は2つ。

セワード・アーセナル 165mm多目的破砕・榴弾砲 :
元ネタはフルメタルパニック。提供は景鷹様です。
イブニングドレス:黒鷹様の提供です。
ありがとうございます。


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第40話「錯綜の序盤」

Side エヴァンジェリン

 

限界だな。

茶々丸とチャチャゼロの攻撃をかわし続ける刹那を見ながら、そんなことを考える。

 

 

GWの間、私達はひたすらに刹那を苛めているわけだが・・・。

正直な所、戦士としての刹那はこれ以上鍛えようがない。

誤解のないよう言っておくが、刹那の才能がないと言っているわけではない。

 

 

「もはや茶々丸とチャチャゼロでは相手にならんか・・・」

 

 

最初は一分ともたなかった茶々丸達の連携を、今では掠らせもせずにかわし反撃すらしている。

刹那はもともと、精神的な面を除けば充分に強い。

ただ打たれ弱く、実力にムラがあった。それさえ除けば・・・。

 

 

「・・・!」

「神鳴流・・・(『Boost』)」

 

 

む、私としたことが。

考え事をしている間に前衛を抜けて来たらしい。

刹那の両腕の真紅の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が、また段階を上げたのがわかる。

 

 

「斬岩剣!」

 

 

一瞬武装解除を唱えそうになったが、やめる。

刹那の左手には魔法反射の指輪がある。

生半可な魔法は効果が無い。

だが、いくら魔法具で能力を底上げしようとも・・・。

 

 

ズンッ・・・!

 

 

刹那の一撃で、地面が砕ける。

そんな見え見えの一撃に当たってやるほど、私は優し・・・。

 

 

「む・・・」

 

 

左の頬から、血が流れるのを感じる。

見れば左手にもう一本、剣を持っていたようだ。

その剣は、まるでパズルのように刀身が分裂した不思議な剣だった。

たしか『星の紋章(ムールドアウル)の剣』とか言ったか。

射程距離が変化する剣。

技の合間に放たれていたか。もう少し近ければ首が飛んでいたかもしれんな。

 

 

「(『Boost』)」

 

 

さらに、刹那の力が上がる。

なかなか鬱陶しいなアレ。

まぁ、実は刹那に傷をつけられるのはこれが初めてではない。

この別荘内の時間ですでに2カ月以上、刹那に稽古をつけてやっている。

これくらいの傷は何度もつけられている。

 

 

最初は、傷を付けた所で攻撃の手を緩めたりしていたが・・・。

 

 

「神鳴流・・・」

 

 

最近は、そんなこともなくなった。

なかなか良い面をするようになったじゃないか、刹那。

 

 

「斬魔剣!」

 

 

まぁ、だからと言って私に勝てるわけもないが。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「限界ですね・・・」

 

 

ぽつりと、そんなことを呟きます。

そんな私の目の前には、スクナさんと向かい合って座る木乃香さん。

2人の下には、陰陽術の方式で編んだ呪陣(魔法陣みたいなものです)。

 

 

もう数時間もああして見つめあっています。

当然ただ見つめあっているわけではなく、識神契約の最中。

今頃木乃香さんの精神はスクナさんが作り出している幻想世界の中で、試練に耐えているはずです。

イメージとしては、FF1○の召喚獣みたいな感じでしょうか。

 

 

とはいえここ2カ月間、進展がありません。

基本的な陰陽術は書物で学んだものの、実践的な技術はまだ未修得です。

 

 

「識神契約って難しいんですねぇ」

「喋ってる暇があったら制御続けてくださいね」

「はぁ~い・・・」

 

 

そう言いながらさよさんは、無詠唱の『魔法の射手』を20本ほど空中に維持しつつ、同じく空中の『アヒル隊』を動かし始めます。

『アヒル隊』は黄色いアヒル型の追尾型爆弾です。隊というからには複数あるわけで、今は5体。

 

 

そのまま『アヒル隊』めがけて『魔法の射手』を放ちます。

同時に『アヒル隊』は回避行動。攻撃と回避、両方を同時に処理していきます。

少しずつスピードを速めていき・・・最後には目にも止まらぬ速さで。

 

 

通常『魔法の射手』は一度放てば制御が効きませんが、さよさんの矢はほぼ無制限に制御することができます。

エヴァさんの教えた『魔法の射手』に、私が『複写眼(アルファ・スティグマ)』で術式を書き加えたオリジナルの『魔法の射手』。

正直魔法の錬度だけで見れば、もうネギ超えてるんじゃないかなーと思ってます。

 

 

「・・・20本追加」

「はぁ~い・・・」

 

 

ふよん、と無詠唱でさらに20本を追加するさよさん。

中級までの魔法をほぼ学び終え、最近はエヴァさんの課す無詠唱呪文の基礎訓練と私の魔法具の訓練ばかりこなしています。

ちなみにさよさんの得意な属性は闇、氷、風。

 

 

闇と氷が得意だとわかった時、一番喜んだのは実はエヴァさんです。

なんでしたか、「お前を悪の中ボスにしてやる!」でしたか。

 

 

「ふむ、だいぶ制御が上手くなったなさよ」

 

 

そんな所に、エヴァさん達がやってきました。

その後ろに茶々丸さんにチャチャゼロさんが。

さらにその後ろに、氷漬けにされた刹那さんが台車に乗せられています。

 

 

「・・・またですか」

「はい。マスターはまたやってしまわれました」

「問題ないだろ別に。木乃香の治癒術訓練にもなる」

「ケケケ、スゲーワルイカオデコオラセテタナ」

 

 

まったく、何かにつけて刹那さんを氷漬けにするんですから。

何回目ですかそれ。いい加減死ぬんじゃないですか?

 

 

「それで、木乃香はどうだ。進展があったか?」

「少しずつステージを進めてはいるようですが、契約には至っていません」

「バカ鬼だが霊格の高さは折り紙つきだからな。見習い陰陽師には厳しいだろう」

「ええ・・・しかしそれ以前に、限界です」

「刹那も限界だ。これ以上は効果が見込めん」

 

 

限界と言うのは、才能や身体が限界と言うわけではありません。

むしろ教える側、私達の問題です。

 

 

「これ以上は専門家の指導がいります」

「刹那は剣士として、木乃香は陰陽師としての指導者がな」

「はい」

 

 

いくら私やエヴァさんが木乃香さんに陰陽術の知識を詰め込んでも、また刹那さんに戦士としての戦い方を教えても・・・専門外のことは教えられません。

これ以上先へ進むためには、専門家の指導がいります。

 

 

剣士と、陰陽師。

心当たりが無くはないですが、別荘では無理ですね。

 

 

「茶々丸さん、外の時間は?」

「5月5日の朝4時になります」

「ふむ、ではもう一日二日したら、ここを出るか・・・お?」

「あ・・・」

 

 

空中で、ついに制御に失敗したのか『アヒル隊』が爆散していました。

2分ですか。まぁ、こんなものでしょう。

 

 

「こっちも終わったんだぞ」

 

 

のしのし歩きながら、木乃香さんを抱えたスクナさんがやってきました。

どうやらダウンしたようですね。

 

 

「どうですかスクナさん。木乃香さんは?」

「ダメだぞ」

 

 

木乃香さんを「友達」と呼んでいるスクナさんが、ここでは首を横に振ります。

 

 

「この調子じゃ、スクナの王にはなれないぞ」

「いつになく厳しいなバカ鬼」

「こればっかりは、友達でもダメだ」

 

 

これだけ聞くとスクナさんが厳しいように聞こえますが、その実木乃香さんのことを想っての発言でもあります。

まがりなりにも「神」の名を持つスクナさんです。

中途半端な形での契約は、逆に木乃香さんの寿命を縮めることになりかねません。

 

 

「・・・難しいですねぇ」

 

 

改めて、人を育てることの難しさを学びました、まる。

 

 

 

「・・・し、死ぬかと思った」

 

 

ちなみに木乃香さんがダウンしたので、結局刹那さんは自力で氷結を解除していました。

 

 

 

 

 

Side メルディアナ校長

 

「・・・その報告に、間違いはないかの」

「残念ながら、事実です」

 

 

ドネットの報告はいつも正確だ。

それは、ワシが一番よく知っておることだ。

だがこの時ばかりは、間違いであってほしかった。

 

 

ヘルマン卿を封じた『封魔の瓶』が、何者かに奪われたなどと。

・・・スタンに詫びねばならんことが、また増えたな。

 

 

「・・・行方は?」

「わかりませんが、おそらくは・・・」

「麻帆良・・・いや、ネギとアリアの所の可能性が高いの」

 

 

というよりも、それ以外に伯爵を使う理由が思い浮かばん。

メルディアナでも、地下のあの場所に次いで厳重に保管していたはずのあの瓶を簡単に奪えるほどの相手となると・・・。

 

 

「黒幕は元老院でしょうか?」

「確証がないことを言うものではない」

 

 

とはいえ無関係とも断言できん。

全体ではないにしても、一部が噛んでいる可能性が極めて高い。

 

 

「やはり、手元に置いておくべきだったかの・・・」

 

 

だがゲートにも近く元老院の影響が強いメルディアナでは、いつまでも安全を保証できなかった。

だからネギの精神的な未熟に目を瞑ってでも、2人を近右衛門の所へ預けた。

特にアリアの存在を、可能な限り元老院の目の届く範囲外へやりたかった。

 

 

麻帆良はメルディアナと違い自治が認められた場所だ。

さらに言えば、大人の魔法使いも数多く在籍しておる。

元老院の直接的な影響力が無く、ネギとアリアが育つまで安全を保証できる場所が他になかった。

 

 

「・・・とにかく、麻帆良に警告を発しなければならん」

「私の方でも個人的なルートで伝えてみます」

「頼む」

 

 

本来なら何事かが起こる前に手を打つのがワシの仕事だが、今回は後手に回ってしまったようだ。

今はともかく、できることをするしかない。

打てる手を全て打ち、あの2人を、ワシの孫達を守る。

 

 

ドネットが退出した後、引き出しの奥に隠してある小箱を開ける。

そこには麻帆良に行ってからも定期的に届く、アリアからの手紙が保管してある。

 

 

『親愛なるお爺様へ』

 

 

手紙はいつも、そんな言葉から始まる。

だが、本来ならワシにこれを受け取る資格はない。

 

 

・・・魔法が使えないことを知っていながら、ワシはアリアを魔法学校に入学させた。

そして本人の望まぬままに、飛び級で卒業させた。

一時期は、それが原因で苦しい立場に立たせてしまったこともある。

ワシを恨んでおってもおかしくはない。いや、恨んでおるはずだ。

そんなワシを、アリアはまだ祖父と呼んでくれる。

 

 

・・・応えなければならん。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「あ~・・・」

「ちょ、どうしたんですかガンドルフィーニ先生」

 

 

学園長室から戻ったガンドルフィーニ先生は、いきなり懐から出したお酒を煽った。

一応、仕事中なんだけど・・・。

 

 

今職員室には僕とガンドルフィーニ先生しかいないから、大丈夫だと思うけど。

それでも、お酒あんまり強くないのに・・・。

 

 

「・・・学園長から、ネギ君に魔法を教えるようにと命じられた」

「よかったじゃないですか」

「・・・同時に、アリア君には近付かないように命じられた」

「あ~・・・まぁ、仕方ないんじゃないですか?」

「そんな差別的な待遇には賛成できんよ・・・ただでさえ、何かとネギ君に便宜を図ろうという動きが出ているんだ」

「学園長も立場上、ネギ君とアリア君の功績のバランスを取りたがってるんじゃないですか?」

「・・・しかしだね。あの<闇の福音>にサウザンドマスターの娘をいつまでも任せておくわけにはいかないじゃないか。彼女の経歴に傷が残ったらどうするんだ」

 

 

まぁ、エヴァンジェリンが絡んでいなければ、アリア君は評価高いからなぁ。

報告はしていないけど、京都での働きはネギ君や僕をはるかに超えてるわけだし。

今では近衛木乃香さんに近付けるほとんど唯一の魔法関係者だし。

 

 

「・・・彼女には悪いことをしたよ」

「またその話ですか」

「またとはなんだねまたとは!」

 

 

最近、ガンドルフィーニ先生とお酒を飲むといつもこれだ。

今回は僕は飲んでないから、結構キツい。

 

 

「瀬流彦君、キミはわかっていない。彼女はあのサウザンドマスターの娘なんだよ? 何事もなく修行を終わらせれば、兄のネギ君共々マギステル・マギになれたはずだ! 私にはわかる!」

「アリア君は魔法が使えないので、マギステル・マギには・・・」

「それでもタカミチ君のような立派な存在にはなれたはずなんだ! それを・・・」

 

 

手で目を覆って、深々と溜息を吐くガンドルフィーニ先生。

まぁ、確かに無事に修行を終えていればそうなったかもしれないけど。

問題は、その何事かを起こしているのが誰かってことなんだよね・・・。

 

 

「私のせいだ。私がもっと気遣っていれば・・・」

「いやぁ、どうにもならないと思いますよ?」

「それはどういう意味かね!?」

「え、いやその、あははは・・・」

 

 

ガンドルフィーニ先生も悪い人じゃないんだけど・・・。

う~ん・・・案外アリア君の本当の姿を見せたら、結構上手くいくんじゃないかと思うんだけど。

 

 

「両親も故郷も無くしたというのに、生徒の将来を思いやれる優しい子だと聞いてる」

「ああ、しずな先生とかよく言ってますよね」

「だと言うのに、<闇の福音>の従者・・・前途有望な少女の将来を台無しにしてしまった・・・」

 

 

私の責任だよ・・・と、うなだれるガンドルフィーニ先生。

アリア君と一緒に仕事をすれば、そういうの関係なく良い子だってわかるんだけど。

最近、学園長は魔法関係者がアリア君に近付くのを抑えようとしてるみたいだ。

特に僕は、注意深く見られてるみたいだし。

 

 

「ま、まぁとにかく、ネギ君に魔法使いのイロハを教えられるなんて、良いことじゃないですか。ほら、ガンドルフィーニ先生の生徒の・・・高音さんでしたっけ? 彼女とか喜ぶんじゃないですか?」

「・・・何を他人事のように言っているんだね?」

「え?」

「キミも教えるんだよ」

 

 

・・・え?

 

 

「学園長からネギ君の指導員に選ばれたのは、私と神多羅木君。あとキミだ」

「・・・え?」

「まぁ、あと一人つくらしいが・・・」

 

 

ガンドルフィーニ先生の言葉は、途中から聞こえなかった。

僕がネギ君に、魔法を教える?

何の冗談だろう。でも冗談じゃないんだろうなぁ・・・。

アレかな。模擬戦とかで実験台になれとか、そんなのかな・・・。

 

 

・・・この仕事、辞めようかな・・・。

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

午前中に、学園長先生に呼ばれた。

なんだろう・・・?

 

 

「ほっほっ、よく来たのネギ君。調子はどうかの」

「はい、はい。その・・・」

「今日呼んだのは他でもない、キミの魔法使いとしての修行のことじゃ」

 

 

魔法使いの修行?

 

 

「キミが来る前にの、ガンドルフィーニ君には話してあるんじゃが・・・」

「は、はい」

「うむ。何人かの魔法先生で、キミの修行を見ることにした」

「あの、魔法先生って・・・?」

「おお、そうか。ネギ君は知らんかったの。この麻帆良にはの、魔法使いの教師や生徒が多数在籍しておるのじゃ。タカミチ君だけと思っとったかの? ちなみに、瀬流彦君も魔法先生じゃよ」

 

 

学園長先生のその話は、初めて聞いた。

タカミチ以外にも、そんな人達がいるんだ・・・。

まさか、京都で一緒だった瀬流彦先生も魔法使いだなんて。

 

 

「知らなかった・・・でも、どうして僕にそんな」

「それはの、将来有望な見習い魔法使いであるキミにより精進してもらいたいと思っておるからじゃよ」

「し、将来有望だなんて、そんな」

「いや、キミは魔法学校を首席で卒業した秀才じゃ。優れた指導者に師事することで、より成長することができるじゃろう」

 

 

正直、学園長先生の言うことは、僕にはありがたかった。

エヴァンジェリンさんに弟子入りを断られてから、古老師の拳法ばかりやってて、魔法の修行ができなかったから。

これなら・・・。

 

 

「とはいえ、ここにいる魔法先生だけでは、キミの目指す物には届かんじゃろう。そこでじゃ・・・」

 

 

学園長先生は、僕の名前が書かれた紙を渡してきた。

上質な紙でできていて、少しだけど魔力も感じる。

 

 

「図書館島の司書には会ったことがあるかの?」

「い、いえ・・・」

「ほ、まぁあやつはめったに人前には出んからの。いや、出れないのじゃったかの」

 

 

誰の事だろう?

それにこの紙は、何に使うんだろう?

 

 

「図書館島の最深部にはの、ドラゴンがおるのじゃが・・・」

「ど、ドラゴンですか!?」

「落ち着かんか。その紙を持っていれば襲われることはない。それよりもじゃ」

 

 

学園長先生の話によると、図書館島の地下にはとても強い魔法使いの人がいるらしい。

その人はある事情があって地上に出れないけれど、実力はエヴァンジェリンさん並み。

そんなすごい人が・・・。

それに。

 

 

「父さんの・・・!」

 

 

父さんの昔の仲間の人が、図書館島の地下にいる・・・!

 

 

「行きます!」

 

 

それを聞いた時、僕は叫んでいた。

父さんの仲間の人がこんな近くにいたなんて。

そんなことを知ったら、僕はもうこんな所にはいられないよ!

 

 

「話は通してあるからの。なんなら今からでも・・・」

「はい! ありがとうございます!」

 

 

学園長先生にお礼を言って、僕は部屋を飛び出した。

早く、早く・・・!

 

 

「良かったな兄貴!」

「うん!」

 

 

魔法の先生までつけてもらって、父さんの情報まで。

修業先がここで本当に良かった。

図書館島に行こうと、校舎を出た所で。

 

 

「お、おはようございます。ネギせんせー」

「ちょうど良かったです。ネギ先生に内密のお話があるですが・・・」

「へ・・・?」

 

 

今日はお休みで生徒はいないはずなのに、途中でのどかさんと夕映さんに会った。

僕が前に渡した、麻帆良の地図を持って・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「アリア先生は、これからどうされるのですか?」

「そうですね・・・」

 

 

仕事が無い状態というのは、ここに来て初めてですからね。

何をしたら良い物やら。

今も、ハカセさんに用があると言う茶々丸さんについてきただけですからね。

 

 

「とりあえず、茶々丸さんと一緒に行きます。ハカセさんに挨拶しておきたいですし」

「わかりました」

 

 

今日は一日、茶々丸さんとデートでもしますか。

石化解除の研究も、あとわずかで完成しますし。

あとは、近い内に来るだろうあの方を待つのみ・・・。

 

 

あと一歩です、みんな。

きっと・・・「うわっ」・・・た?

 

 

角を曲がった所で、誰かにぶつかりました。

完全に油断していたので尻もち・・・はつきませんね。

茶々丸さんが支えてくれました。

 

 

「危うく恋が始まる所でした・・・大丈夫ですか、アリア先生?」

「・・・食パンをくわえていなかったので、大丈夫ですよ茶々丸さん」

 

 

どこで仕入れてきたのでしょうそんな知識。

まぁ、どの道恋など始まりませんよ。茶々丸さん。

なぜなら・・・。

 

 

「・・・大丈夫ですか、ネギ・・・先生?」

「え・・・」

「あ、アリアの姐さん!?」

 

 

私がぶつかったのは、ネギ先生ですから。

恋など始まるはずもない、あらゆる意味で。

とりあえず倒したままだと私が悪いみたいに見えますので、手を差し伸べてあげます。

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

なぜかむっとした顔をして、ネギ先生は立ち上がります。

・・・私の手は、無視の方向で。

ネギ先生の後ろには、綾瀬さんと宮崎さん。

綾瀬さんが手に持っているのは、修学旅行の最後にネギ先生が持っていた物ですね。

と、綾瀬さんが私に近付いてきて一言。

 

 

「あ、あの、アリア先生も魔法使いというものなのですか?」

 

 

・・・・・・結界を展開。

 

 

「のどかと、ネギ先生から・・・聞いたです」

「『忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』、プットアウト」

 

 

問答無用で相手の記憶を奪う白紙の魔法書を右手の指輪型魔法具『ケットシーの瞳』から取り出します。

忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』は私の力で作った物ではなく、エヴァさんの蔵から材料や作成法を引っ張り出して作った物。

特定の記憶を吸い上げて封印する、まさに忘却の魔法具。

ちなみに、『ケットシーの指輪』は一定量の物を収納できる指輪です。

 

 

ぼっ、と出現した『忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』を、綾瀬さんへ向けます。

 

 

「な・・・」

「アリア、何を―――――うわっ!?」

「失礼します、ネギ先生」

 

 

杖を手に、私の動きを止めようとするネギ先生。

しかしそれは茶々丸さんに足を払われ、地面に倒されることで不発に終わります。

ありがとうございます。茶々丸さん!

 

 

朝倉さんに魔法がバレてから、万が一に備えて作っておいた魔法具をよもやこんなに早く使うことになるとは・・・。

というか一度は魔法バレフラグを回避した生徒を持っていかれてたまりますか・・・!

 

 

「申し訳ありませんが、いただいていきます」

「え、う・・・?」

「ゆ、夕映・・・!」

 

 

貴女の記憶を。

宮崎さんの悲鳴が響き渡る中、本が輝きます。

綾瀬さんは、持っていた紙を取り落としました。

記憶を消。

 

 

パァンッ!

 

 

・・・え。

発動直前、私の手から本が弾かれました。

魔力も気も感じなかった。これは。

 

 

「アリア先生!」

「・・・っ!」

 

 

茶々丸さんの声に、数歩下がる。

直後、パパパパ、パンッと、何かが足元に着弾します。

これは、『居合拳』!

 

 

「ネギ君もアリア君も、そこまでだ・・・他の子も」

「タカミチ!」

「・・・タカミチ、さん」

 

 

同じ名を呼びながら、こうまで温度差が出る物なのですね。

ネギ先生はタカミチさんに駆け寄り、私は距離をとったまま。

 

 

「・・・ネギ君。どうして綾瀬君が魔法のことを知っているんだい?」

「そ、それは・・・」

「わ、私が教えたんです。ネギ先生は・・・」

「従者のミスは、マスターに責任がある・・・特に、ネギ君は教師なんだ。管理はきちんとしないといけない」

「う・・・」

 

 

タカミチさんの正論に、ネギ先生が黙ります。

次いで、タカミチさんは私を見ます。

 

 

「アリア君は、今何を?」

「綾瀬さんから魔法関連の記憶を奪おうとしました」

「なっ・・・なんでそんなことをするですか!」

「悪いけど、黙っていてくれないか綾瀬君。そしてアリア君。我々が一般人から記憶を奪う際には手順がある。それは、守ってほしい」

「ま、待ってよタカミチ!」

 

 

ネギ先生が声をあげます。

今度はなんですか・・・。

 

 

「夕映さんは僕の生徒なんだ。勝手に決めないでよ!」

「ネギ君・・・」

「夕映さんのことは、僕に任せて!」

「・・・・・・バカを言いなさい」

 

 

吐き捨てるように、呟く。

他人を背負い込むことを、そんなに簡単に言わないでください。

こっちがどれだけそれで悩んでると思っているんですか。

 

 

「・・・わかった。綾瀬君のことはネギ君に任せるよ」

「なっ・・・!」

「お待ちください。高畑先生」

 

 

私の横に立っていた茶々丸さんが、一歩前に出ます。

 

 

「ネギ先生はこれまでも生徒の皆さんを巻き込む形で仮契約を行ってきました。今回が初めてのケースというのならともかく、ここで恩情を与えるような行為は合理的ではありません」

「む・・・」

「そんなことない! 僕はちゃんと・・・なんでそんなこと言うんですか!」

「黙りなさいこのファザコンが!」

 

 

他はともかく、茶々丸さんを否定することは許さない。

 

 

「ふぁ、ファザ・・・アリアはなんで、僕が父さんを探そうとするといつも」

「別に探すなとは言っていません。他人を巻き込むなと申し上げたいんです」

「そんなことしてないよ!」

「なら、あれはなんですか」

 

 

先ほど綾瀬さんが落とした物。

あれは、麻帆良の地図。

明らかに、一般人には秘匿すべき情報まで載っています。

 

 

「魔法使いの地図を、なぜ一般人に調べさせているんですか」

「そ、それは・・・」

「そこまでにしてくれないかな、2人とも」

 

 

非常に困ったような顔で、タカミチさんが割って入ってきます。

 

 

「とにかく、綾瀬君のことは一時ネギ君に預ける。綾瀬君もそれでいいね?」

「・・・構わないです。もともと私は自分の意思でのどかに、ネギ先生に協力したのですから」

「しかし、綾瀬さん」

「いいですよ。茶々丸さん、もう」

「アリア先生・・・」

「いいんです。ありがとうございます」

 

 

茶々丸さんのその気持ちだけで、十分です。

それに今、綾瀬さんはキーワードを言いました。

自分の意思で踏み込んだと言うのなら、もう何も言うことはありません。

あとは、ネギ先生が責任を負うでしょう。

 

 

・・・徒労感は、半端ないですが。

私は綾瀬さんの方を見て。

 

 

「・・・力尽くで記憶を消そうとして、申し訳ありませんでした綾瀬さん」

「謝罪なんて・・・」

「そうですかそれは重畳。ようこそ非日常の世界へ。お友達と楽しんでくださいね」

 

 

タカミチさんとネギ先生を一瞥した後、茶々丸さんに「行きましょう」と告げます。

頷きを返してくれる茶々丸さん。

 

 

「・・・アリアなんて」

 

 

茶々丸さんに伴われる形でその場を離れる私に、ネギ先生の独白のような声が届きます。

 

 

「アリアなんて、魔法具がなければ、何もできないくせに・・・」

 

 

その言葉に立ち止まろうとした茶々丸さんの手を引いて、構わずにこの場から消えます。

もう、何も言うことはありませんから。

何も。

 

 

「アリア先生・・・」

「・・・大丈夫です」

 

 

茶々丸さんが私の顔を見て、名前を呼んでくれました。

理由は、わかりません。

 

 

 

 

 

Side クウネル

 

「なるほど・・・」

 

 

遠見の魔法で覗き見させてもらいましたが、これはなかなか・・・。

あれが、ナギの子供達ですか。

正直、学園長の頼みとはいえ気乗りしていなかったのですが。

 

 

兄の方はなんというか、私好みの歪み方をしていますね。

父親を求めること以外は全て二の次。

ナギが見たら笑うか怒るか呆れるか・・・。

 

 

そして妹の方も、なかなかの歪み具合。

ぜひとも人生を収集させていただきたいですね。

しかし、それ以前に・・・。

 

 

「猫耳眼鏡スク水セーラー・・・ですかね」

 

 

ああ、でも来るのは兄の方だけでしたか。

実に残念。しかし兄の方もなかなか可愛らしい外見。

でもナギに似ているので少々、いやかなり気持ちの悪いことになるかも・・・。

 

 

なんとか、妹の方に会う手段はないものですか・・・。

学園祭まで待つしかありませんかね。

 

 

ああ、楽しみです。

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回で弟子入り編はほぼ終了です。
ここから一気に、いろいろな人や組織の意思が錯綜していくことになるかと思われます。
ネギを中心とする動きと、私を中心とする動きが中心になるでしょうが、私の意識の外で蠢く物もあるでしょう。
でもあと一歩で、目的のひとつが達成できます。
邪魔は、させませんよ。

今回使用された魔法具は、以下の通りです。
赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』:
元ネタは「ハイスクールD×D」、提供は水色様、コクイ様。
『|星の紋章(ムールドアウル)の剣』:
元ネタは「オーフェン」、提供はFlugel様。
『アヒル隊』:提供は霊華@アカガミ様。
『|忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』:
元ネタは「ダンタリアンの書架」、提供は伸様。
『ケットシーの指輪』:提供はkusari様。


アリア:
次回からは弟子入り編の終盤と、ついに過去編の導入に入ります。
6年前の事件が中心に語られていくパート。
私の原点に関わるような部分。
・・・では、またお会いしましょう。


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第41話「過去への扉」

Side アリア

 

5月中旬、午後。

職員室にて、私は力無く机に突っ伏していました。

理由はいたって単純です、それは・・・。

 

 

「どうしたのアリア君。具合でも悪いの?」

「・・・・・・んです」

「え?」

 

 

心配そうに声をかけてくる瀬流彦先生に、私は涙を流さんばかりに訴えます。

 

 

「仕事がないんです・・・!」

 

 

今日の分の仕事は全部やってしまいました。

女子寮の管理人の仕事と、ネギ先生がやる担任の仕事を取り上げられてしまえば、私に残るのはクラスと教科の副担当の仕事のみ。

単純に、これまでやってきた分量の3分の1になったわけでして。

 

 

「私はいったい、何をすれば?」

「・・・仕事以外のことをやればいいんじゃないかな?」

「た、例えば?」

 

 

他の人(具体的にはネギ先生)の仕事を手伝おうとすれば、新田先生が超怒るんです。

曰く、「他人の仕事をとるな」だそうで。

でも隣に未処理の仕事があるのに(しかも私の仕事にも関連するのに!)手を出せないって、これなんて拷問ですか。

 

 

「し、仕事・・・」

「何の禁断症状だいそれは・・・一応終業時間だし、帰ったらいいと思うよ?」

「・・・まだ6時前ですよ?」

「そこまで言うほど早いかな・・・最近新田先生も残業とかに厳しいから、また明日ってことで」

 

 

むぅ、新田先生に怒られるのは勘弁です。

先日しずな先生にも「もう少し肩の力を抜いてみたらどうかしら」と、やんわり指摘された所ですし。

 

 

「・・・そうですね。明日になればまた仕事もできるでしょうし」

「そういう意味じゃないんだけど(・・・案外不器用な子だな・・・)」

「何か?」

「い、いや、なんでもないよ?」

 

 

あははは、と笑いながら去っていく瀬流彦先生。

・・・変な人ですね。

とりあえず、帰りましょうか。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

なんというか、先週からネギの様子が変だ。

何が変ってわけじゃないし、何か相談されたわけじゃないけど・・・。

・・・生活の悩みとかだったら、私のせいなのかしら。

 

 

その関係でいくと、木乃香と刹那さんもおかしい。

木乃香とはあんまり口聞かなくなったし。

刹那さんに至っては毎日疲れて学校に来てるし。

 

 

そういえばネギの様子がおかしくなったのって、刹那さんがヤツれ始めてからよね。

刹那さんは何してるか聞いても教えてくれないんだけど・・・。

 

 

「気になるなら、調べればいいのよね!」

「お、珍しく気が合うじゃない明日菜」

 

 

・・・なんで、朝倉はこういうタイミングだけは逃さないのかしらね。

 

 

「それが記者魂ってやつだよ・・・あの2人のことは私も気になっててさ」

「そうよね。おかしいわよね」

「毎日ヤツれる程の何か・・・じゃない。ナニか」

「なんで言い直したのよ今・・・」

 

 

とにかく、刹那さんが何をやっているのか。

さらには、ネギが何をウジウジしてるのか。

絶対に突き止めてやるんだから!

 

 

「いーねー明日菜。ウチの部活入んない?」

「入らないわよ!」

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

最近、ちょっと忙しくなってきた。

 

 

平日の朝はくーふぇさんと拳法の練習をして、夕方からはガンドルフィーニ先生達に魔法を教えてもらうようになった。

土曜日は自主トレと、先生としてのお仕事も今週から増えたからそれもやってる。

 

 

そして日曜日には、アルビレオ・・・じゃなくて、クウネルさんとの訓練。

結局父さんの行き先とかは知らなかったけど、父さんの昔の話とか、父さんの戦い方とか・・・そういうお話がたくさん聞けるから、すごく楽しみ。

・・・時々妙な目で見られてる気もするけど、そんなことは気にならないくらい。

 

 

とにかく、やることが一杯だった。

でも、今日はガンドルフィーニ先生達が忙しくて、夕方の訓練がなくなっちゃったんだよね。

どうしようか・・・。

 

 

「・・・あれ?」

「明日菜の姐さん達っスね」

 

 

明日菜さんと朝倉さんが、壁際にしゃがみこみながら何か見てる。

えっと・・・。

 

 

「何をしてるんだろう?」

「木乃香さん達の後をつけているようですね」

「こんにちは、ネギせんせー・・・」

「あ、こんにちは、のどかさん。夕映さん」

 

 

のどかさんと夕映さんが、僕のすぐ後ろにいた。

のどかさんとは、最近目を合わせるのが照れくさいや、なんでだろ?

 

 

「あ、兄貴兄貴。エヴァンジェリンの姐さん達と合流しましたぜ」

「エヴァンジェリンさんは、魔法使いなのですよね?」

「そうだぜ。しかも超強ぇ魔法使なんだぜ」

 

 

ここの所、エヴァンジェリンさんと茶々丸さんの二人組は、木乃香さんや刹那さんとよく一緒に帰ってるのを見かける。

そして・・・。

 

 

「アリア・・・」

 

 

帰りなのか、アリアが合流した。

さらにもう一人、相坂さんも。

 

 

「ネギせんせー、大丈夫ですか・・・」

「え、な、何がですか?」

「なんだか、辛そうな顔してましたから」

「あ・・・」

 

 

いけない。のどかさんに心配をかけるなんて。

アリアのことは、なるべく考えないようにしよう・・・。

とりあえず、今は。

 

 

「あ、兄貴。姐さん達が行っちまいますぜ!」

「どうするです?」

 

 

皆が、僕のことを見てる。

・・・・・・よし。

 

 

「お~ネギ坊主、そんなに慌ててどこに・・・って、ネギ坊主~?」

「すみません古老師!」

 

 

僕は、声をかけてくる古老師の脇をすり抜けて、明日菜さんの所へ。

 

 

「明日菜さーん!」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「え~・・・貴女達の修行方法が決定しました」

「修行方法・・・ですか?」

 

 

例によって別荘の中だ。

珍しくアリアが早かったからな。早めに入れた。

 

 

アリアの言葉に、木乃香に凍傷を治癒されている刹那が答えた。

木乃香は今、『殷王神鑑』という治癒用の本を片手に治癒に専念している。

ここ最近、刹那ほど木乃香の治癒術の練習台にされている者もいないだろう。

まぁ、その傷は全部私がつけたものだが。

 

 

「はい、先日詠春さんから正式な回答がありました」

「お父様から?」

「気を逸らすな木乃香。刹那の腕が落ちるぞ」

「う、ごめん・・・」

「だ、大丈夫ですよ、このちゃん・・・」

 

 

腕の感覚が無いくせに良く言うな刹那。

相も変わらず木乃香に甘い。

まぁ、もし腕が落ちてもそれはそれで練習になるだろうが。

 

 

「青山素子さんという神鳴流剣士が、関東にいます」

 

 

その名前を告げた時、刹那の目が見開かれた。

青山は神鳴流の宗家に当たる。

いわば、刹那の主家筋。知らないはずはないな。

 

 

「今、東大一年生をやっているそうで・・・本人の了解も得ましたので、月に2日だけですが刹那さんはそこへ出稽古してもらいます」

「え、し、しかし私のような者が・・・」

「気負わなくても大丈夫ですよ。月に2回地獄を見るだけなので」

 

 

手加減なしと言うことで通しました!

そう言った時のアリアの顔は、なぜか輝いていた。

一方で、それを聞いた刹那は複雑な表情をしていた。

喜べばいいのか悲しめばいいのか・・・そんなところか。

 

 

泣き叫べばいいと思うぞ。

 

 

「ケケケ・・・ヒサビサニアクダナ、ゴシュジン」

「ふ・・・褒めるな褒めるな」

 

 

頭の上のチャチャゼロの言葉に、笑みを浮かべる。

どうも最近、こいつらは私が最悪最強の悪の魔法使いだということを忘れている節があるからな。

まぁ、何はともあれ刹那の剣士としての師は一応決まった。

あとは実戦形式の訓練でどこまで練り上げられるか。

 

 

「できたえ」

 

 

木乃香がようやく刹那の傷を治癒し終えたらしい。

ふぅ、と息を吐いて、額の汗を拭っている。

木乃香は専門家の師がいない上に独学に近いから、刹那よりも成長速度が遅いな・・・。

 

 

「遅い。いざという時にその治癒速度では死ぬぞ」

「う・・・わかったえ」

「まぁ、そこの所も考えて木乃香さんにはちょっと変わった師匠を呼びます」

 

 

前に言っていたあれか。

だが、本当に可能なのか?

 

 

「私の魔法具に不可能はほぼありません」

「だが、分霊化も社もまだ準備していないんだぞ?」

「今日中にはどうにかしますよ。木乃香さん、ついて来てください。屋内に作りますので」

「はいな?」

 

 

木乃香はまるでわかっていない表情をしているが、今からアリアがお前にあてがうのは、ある意味バカ鬼よりも厄介だぞ?

陰陽術の師。それも知識面の師としては、最高なのは間違いないが。

 

 

屋内に引っ込んでいくアリアと木乃香を見送った後、とりあえずと気を取りなおす。

さて、刹那の訓練を再開するか。

 

 

「よし刹那。いつものように苛めてやる」

「は、はい!」

「茶々丸、チャチャゼロ、前衛を」

「はい」

「ワカッタゼ」

「よし・・・」

 

 

ここの所、刹那の相手も随分と楽しめるようになってきている。

剣士としての腕前は上げようがないが、戦い方は叩きこめるからな。

以前のような温い攻めも少なくなったし・・・。

 

 

 

「コ、ココココラ―――ッ。刹那さんに何やってんのよ―――っ!!」

 

 

・・・・・・・・・何?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「安倍晴明?」

「占い研究部の木乃香さんならご存知ですよね?」

 

 

そういえば、今の木乃香さんなら簡単な占星術とか普通にできるので、占い研の部長としては申し分ない人材ですよね。

 

 

「詠春さんとも相談したのですが、現在生存している強力な陰陽師の中で木乃香さんの教師役にふさわしい方は見つかりませんでした」

 

 

何人かはめぼしい人材もいましたが、関西でいずれかの派閥に属していたり、すでに弟子をとっていたり、授業料が法外の値段であったり、高齢であったり、いろいろ問題があります。

生きるって面倒ですよね。

 

 

「なので、すでにこの世にいない方から選ぶことにしました」

「なんというか、すごい考え方やね・・・」

「死人には、即物的な対価は必要ありませんから」

 

 

死人にいくらお金を積んだって意味がありません。

特に、安倍晴明は陰陽師の中でも変わり者として有名ですから。

 

 

まぁ、生きてる人を相手にするのが面倒だから死んだ人を呼び出すとか、乱暴すぎる理論ですね。

エヴァさんも「できるのか?」と訝しんでいましたし。

確かに西洋魔法では無理ですね。

 

 

「しかしそこは私、古今東西あらゆる魔法具を創れますから」

「先生はすごいなぁ」

「はっはっはっ・・・それほどでもあるのでもっと褒めなさい」

「自分で言う所がもっとすごいわぁ」

 

 

と、少々ふざけつつ。

 

 

「京都の晴明神社から、分霊化の許可を得たとのことです」

「ぶんれーか?」

「出張サービスみたいな物と思ってください」

「なるほどな~」

 

 

全然違いますけどね。

 

 

「で、その分霊化した安倍晴明を安置するための社を、この部屋に作ります」

「ふんふん」

「詳しくは、『金烏玉兎集』の63ページを参照しなさい」

「はいな」

 

 

そう言って木乃香さんがペラペラとめくっている本は、『金烏玉兎集』。

先ほどから話題にしている安倍晴明が使用していた陰陽道の秘伝書です。

正式名は『三国相伝陰陽管轄ほき内伝金烏玉兎集』。又の名を『文殊結集仏暦経』。

 

 

図書館島に埋もれていたのを、先日引っ張り上げてきました。

翻訳に大分てこずりましたがね。

文殊菩薩から貰ったという説もある本で、仏教の神としての側面も持つスクナさん的には「意訳が多いぞ」だそうです。

 

 

「材料はエヴァさんが用意してくれていますから、後は木乃香さんの魔力と気を込めて、少しずつ作っていきましょう」

「難しそうやけど、頑張るえ」

「ん、よろしい」

 

 

さて、作りましょうか、という段になって。

うん? 何か上が騒がしいような・・・?

 

 

「失礼します。アリア先生、木乃香さん」

「茶々丸さん?」

 

 

上で刹那さんと模擬戦をしているはずの茶々丸さんが、妙に慌てて降りてきました。

何かあったんでしょうか?

 

 

「ネギ先生他数名が、別荘内に侵入してきました」

「侵入?」

「はい。現在、マスターが相手をしています」

「ネギ君、何やっとんのやろか・・・」

 

 

まさに木乃香さんの言う通りなわけですが。

・・・エヴァさんの家の奥に設置してあるこの別荘に、なんでネギ先生達が来るのでしょう?

 

 

「他数名の内訳は?」

「神楽坂明日菜、朝倉和美、宮崎のどか、綾瀬夕映、古菲の5名です」

 

 

ふむ、ネギ先生絡みの関係者ですね。

あれ、古菲さんってこの時点でどうでしたっけ・・・?

あ、別荘に来た段階でアウトか。

宮崎さんと綾瀬さんが関係者になったということは、早乙女さんに飛び火する可能性が極めて大ですよね。何か手を打ちますか・・・。

 

 

「マスターから伝言です。「木乃香とバカ鬼を隠せ」」

「・・・了解です。木乃香さん、申し訳ありませんが地下の隠し部屋に」

「わかったえ・・・にしても、明日菜らまで何してんのやろか?」

「たぶん何も考えていないと思います」

 

 

懐からさよさんとの仮契約カードを取り出し、念話します。

 

 

「さよさん、聞こえますか?」

『・・・・・・はい、聞こえます。なんでしょうか?』

「ネギ先生他数名が別荘内に来ています」

『・・・・・・確認しました。何やってるんでしょう・・・』

 

 

やっぱりそう思いますよね。

 

 

「スクナさんはそこに?」

『います』

「地下の隠し部屋へ行ってください。木乃香さんと合流して、誰も中に入れないように」

『わかりました。すーちゃーん、ごめん、苺の収穫中止~・・・(ぷつっ)』

 

 

・・・今、何か聞き捨てならない台詞が聞こえたようなっ!

ネギ先生をボコボコにして叩き出したい衝動に襲われたようなっ!

一日経たないと出れませんけどねっ!

 

 

「それじゃ、私達はエヴァさんの所に行きましょうか。茶々丸さん」

「はい」

 

 

・・・死ぬほど機嫌悪いんだろうなぁ。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

「ちょっと、何すんのよ!」

「やかましい! それはこっちの台詞だ!」

 

 

エヴァさんと明日菜さんが喧嘩してるです。

理由は、エヴァさんがいきなり私達を見えない糸で縛りあげた後、どこかの大部屋に放り込まれたからです。

今は身体こそ自由になっているものの、部屋からは出してもらえないようです。

 

 

「それが人の家に不法侵入した人間の態度か!?」

「むぐっ・・・そ、それは悪かったと思ってるわよ・・・」

「だいたい、魔法で鍵をかけたはずだろーが! なんで入ってこれる!?」

「あ、ごめん。たぶん私が触ったから魔法消えちゃったんだと思う・・・」

「このバカレッドが!」

「ちょっ、それ今関係ないでしょ!?」

 

 

それにしてもこの、別荘、でしたか?

外での一時間がここでは一日だなんて、なんてすごいのでしょう。

・・・くーふぇさんは話の内容がよくわからなかったのか、首をかしげたままでしたが。

 

 

これが、魔法ですか。

やはりエヴァンジェリンさんは、強力な魔法使いだったのですね。

 

 

図書館島でネギ先生の杖に乗せてもらった時も、興奮した物ですが。

ネギ先生の話と態度から推察するに、エヴァンジェリンさん達以外にも魔法使いはたくさんいる。

いえ、一つの社会を構成しているとみて間違いないです。

 

 

危険と冒険に満ちたファンタジーな世界。

一度知ってしまえば、踏み込まずにはいられないです。

 

 

「とにかくだ! 明日になるまではここにいてもらう。今日はもう出れんからな・・・」

「え~・・・いいじゃんちょっとくらい」

「黙れ朝倉・・・死にたいのか?」

 

 

・・・何か朝倉さんまで加わって、さらに騒がしくなっているようです。

目を別の場所に転じてみると、一つしかない扉の前に陣取っている桜咲さんの所にネギ先生とのどか達が詰め寄っているようです。

 

 

「あの、刹那さんは、なんでエヴァンジェリンさんと・・・?」

「刹那! 何も答えんでいいからな!」

 

 

すかさず、エヴァンジェリンさんの声が飛びます。

明日菜さんが「ちょっとくらい良いじゃない!」とか騒いでいますが、エヴァンジェリンさんは取り合いません。

そして桜咲さんも目を閉じたまま、何も答えようとはしませんでした。

 

 

・・・先日のアリア先生もそうですが、どうしてそんなに隠すのでしょうか?

知りたいと願う人間に知る者が知識を与えないと言う行為は、非常に納得しがたい物があるです。

 

 

何が危ないのかもわからなければ、納得もできないというのに。

一方的に「知るな」と言うのは、知る者の傲慢に感じられてなりません。

 

 

「ええい! 離れろバカ共、時間が惜しいわ!」

 

 

明日菜さん達を振り払うようにして、エヴァンジェリンさんが出て行こうとします。

と、扉の前で、ネギ先生と向かい合う形になりました。

エヴァンジェリンさんの唇の両端が、笑みの形に歪められます。

 

 

「どの面下げて私の家に来たんだ? ぼーや・・・」

 

 

め、目が全然笑ってないです・・・。

というか、何か空気が重くなったような、そんな感覚がするです・・・。

 

 

「エヴァンジェリンさん、僕」

「ああ、いい、いい・・・何も言う必要はないさ、ぼーや」

 

 

大仰なまでに両手をあげて、エヴァンジェリンさんは言ったです。

口調こそ丁寧ですが、言葉の端々から嫌な雰囲気を感じるです。

それも、非常に攻撃的な類の。

 

 

「魔法が使えるぼーやには、何も言うことはない」

 

 

意味がわかりませんが・・・。

エヴァンジェリンさんはそう言って出て行きました。

たぶん先日のネギ先生の言動が関係しているのだと思うですが、事情が把握できていないので何が問題なのかわからないです。

 

 

そういえば、なぜ桜咲さんだけがエヴァンジェリンさんと行動しているのかもわかりません。

わからないことだらけで、納得がいかないです。

 

 

「あ、あの」

 

 

場の空気を変えようとしたのか、のどかが話を振ってきたです。

のどかが自分から何かを言うなんて、珍しいです。

やはり、ネギ先生が側にいるから・・・ですか。

 

 

頑張るです。のどか。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ネギ先生はどうして魔法使いになろうって思ったんですか?」

「あ、それは私も気になるわね」

 

 

のどかさんの言葉に、明日菜さんも乗ってきた。

他の人達も、言葉にはしないけど、興味はあるみたいだ。

 

 

僕が、魔法使いになりたいと思った理由か・・・。

 

 

「えっと、それは・・・お父さんに憧れて」

「私との鍛錬でも言ってたアルねそれ」

 

 

別荘の機能を説明されてから、頭を抱えていた古老師が、ここで戻ってきた。

結局、よくわからなかったみたいだ。

 

 

「父親みたいに強くなりたいと言ってたネ」

「あんたってどこでもそれ言ってんの?」

「で、でもでも、素敵だと思います」

「まぁ、感動的ではあるです」

 

のどかさんの言葉に苦笑しながら、夕映さんが話に加わってきた。

朝倉さんはカモ君と扉の鍵穴をガチャガチャやってるけど・・・たぶん無理だと思う。

別荘に来たのも偶然みたいなものだし。

 

 

「どうしてお父さんに憧れたです?」

「ああ、それは聞いたことないわね」

「それは・・・」

「俺っちも詳しく聞いたことねーな」

「ダメだわー開かないね」

 

 

うう、カモ君達まで・・・。

・・・でも、そうだね。

良い機会かもしれない。

ちらり、と明日菜さんを見ると、ヒラヒラと手を振りながら。

 

 

「いいわよ。聞いたげる。・・・時間はたっぷりあるわけだし」

「閉じ込められちゃったしね~」

 

 

明日菜さんに、朝倉さんも乗る。

・・・よし。

 

 

僕が魔法使いになろうと思った理由。

父さんに憧れて、父さんを探そうとする理由。

僕の過去。そして。

 

 

「皆さんにはお話した方が、良いかもしれないですね」

 

 

僕の、原点。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

正直、勘弁してほしい。

それがネギ先生達に対する、私の素直な気持ちだった。

それはもちろん、このちゃんや私の微妙な立場(このちゃんが隠れられて良かった・・・)のこともあるが、何より・・・。

 

 

エヴァンジェリンさんの機嫌が悪くなるのは困る。

なぜなら、それは氷漬けにされた時の氷の厚さのバロメーターになるからだ。

薄い方が良い、つまり機嫌は良くないと困る。

 

 

ただでさえ、ここ最近のエヴァンジェリンさんはネギ先生の名前を聞いただけで不機嫌になるのだ。

茶々丸さんがこっそり教えてくれたが、ネギ先生がアリア先生に「口にしたくもないような」暴言を吐いたとか・・・。

あの茶々丸さんが「口にしたくない」ということは、よっぽどなのだろう。

 

 

「よくある話だな。なぁ刹那」

「はぁ・・・」

「ケケケ・・・ヒゲキノヒロインダナ」

 

 

エヴァンジェリンさんが「よくある話」と評したのは、扉の向こうから聞こえてきたネギ先生の過去のことだ。

魔法の範囲が広かったのか、断片的ではあるが見ることができた。

 

 

要約すれば、だいたいこんな感じだろうか。

 

 

ネギ先生は物心ついた時には両親から離れ、幼いアリア先生と共に暮らしていた。

村人や同年代の子供との交流もなく、話の中で聞く父親を求めて、魔法の練習をしたり、父親が助けに来てくれることを願って、自ら危険な目に合ったりしていた。

 

 

概ね、平和な日々だったと言える。

 

 

ただその日々も、終わりの時が来る。

ある日、数多の悪魔がネギ先生の村を襲った。理由はわからないと言う(ネギ先生は自分のせいだとか言っていたが・・・)。

村が焼かれ、村人が石にされ、ネギ先生自身も危機に陥った。

それを救ったのが、スタンという老人であり、ネカネという従姉であり、そして。

 

 

ナギ・スプリングフィールドという「父親」だった。

 

 

それ以来ネギ先生は魔法を学び、父を求め、現在に至る―――。

 

 

「当人にとっては悲劇かもしれんが、他人にとってはそうでもない。ありふれた、よくある話だ」

「・・・そうかもしれませんね」

「ダナ」

 

 

エヴァンジェリンさんの言葉に、チャチャゼロさんが同意する。

世界のどこにでもある、よくある話。

私もそうだし、もしかしたらエヴァンジェリンさんもそうなのかもしれない。

ありふれた、登場人物が不幸になるというそれだけの話。

 

 

・・・だが、それにしても今のネギ先生の話・・・。

 

 

「それにしても・・・」

「私の話が出てこない・・・」

 

 

私と同じ結論に至ったのか、エヴァンジェリンさんが何かを言おうとした時。

 

 

「ですか?」

 

 

アリア先生が茶々丸さんに伴われて、姿を見せた。

どこか固い、それでも心優しい笑顔で。

 

 

「立ち聞きとは、あまり感心できませんね」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

扉の向こうからは、明日菜さん達がネギ先生の父親探しに協力する云々の会話が漏れ聞こえてきます。

ああ、過去話イベントがここで発生したのですか。

南の島イベントが起こらなかったので、もしやとは思ったのですが・・・。

 

 

「ちらほらと聞こえてきたぼーやの話によると」

 

 

立ち聞きしている所を見られたせいか、どこかバツの悪そうな顔をして、エヴァさんが言います。

 

 

「お前、ナギがぼーやを助けた時、そこにいなかったのか」

「同じ村の中にはいましたが・・・そうですね。私はお父様に救われたわけではありません」

 

 

だから本当の意味で、私はこの世界の父親の顔を知らない。

もちろん、お父様がわざとネギ先生だけを助けたとは思いませんが。

感情の問題としては、しこりを残しているのも事実。

 

 

「ジャア、ドコニイタンダ?」

 

 

まさか、チャチャゼロさんが聞いてくるとは思いませんでしたよ。

まぁ、他の人が聞きにくいことを聞いてくれているだけかもしれませんが。

 

 

「そうですね・・・」

 

 

その時、私がどこで何をしていたのか。

それを話すには・・・。

 

 

私の秘密を話す必要がある。

 

 

もちろん、ボカして話すこともできますが・・・それで納得できるかと言えば、疑問が残らざるを得ないでしょう。

エヴァさん達も・・・そして、私も。

 

 

「話したくないなら」

 

 

私の無言をどうとったのか、エヴァさんが。

 

 

「話さなくてもかまわん。それで不都合があるわけじゃない」

「・・・そうですね。アリア先生が望まないのであれば」

 

 

エヴァさんの言葉に、茶々丸さんが同意します。

刹那さんも、頷いています。

 

 

・・・優しい人達。

そして何よりも、厳しい人達。

無理強いをしないというのは、とても優しいこと。

けれど、自分で決めろという意思表示でもある。

甘えを、許されない。

 

 

だってそれは、信頼されているということだから。

いつか話してくれるという、信頼を。

その、信頼に。

 

 

「・・・場所を」

 

 

私の横を通り過ぎようとしたエヴァさんの手をとって、止めます。

少し驚いたような顔。でも、目元は優しいまま。

 

 

「場所を、変えましょう・・・他人に聞かれたくないので」

 

 

ネギ先生の過去話みたく、想定していない人に聞かれたくないし。

聞かれるわけにも、いかない。

 

 

「・・・ムリスンナヨ」

「・・・していませんよ。聞いてほしいんです。皆に」

 

 

いつの間にか頭に乗ってきたチャチャゼロさんの気遣いに、そう答えます。

声は、ちょっと震えているかもしれないけれど。

でも、聞いてほしいのは本当。

 

 

誰にも話したことがない、私の秘密。

この人達ならきっと大丈夫だと、思っているから。

家族だと、思っているから。

 

 

「・・・わかった。場所を変えよう」

「さよさん達も一緒に・・・」

「・・・ん」

「では、先にこのちゃん達に伝えてきますね」

「私はお飲み物を用意して参ります」

 

 

刹那さんと茶々丸さんが、それぞれの場所へ駆けていく。

ひょいっとチャチャゼロさんが飛び降り、そして空いた頭を。

 

 

ぽんぽん、と、エヴァさんに撫でられます。

・・・うん。大丈夫。

優しげなエヴァさんの顔を見て、確信に似たような物を感じる。

 

 

ちゃんと、話せる。

 

 

・・・シンシア姉様。

私は今日、自分の秘密を打ち明けます。

きっと大丈夫だって、信じられる人達に出会えたから。

 

 

最初に言う言葉は、もう決めてあります。いえ・・・。

ずっと以前から、決めていました。

貴方は・・・。

 

 

貴方は。

 

 

 

 

 

 

・・・転生って、信じますか?

 

 

 

 

 

 

 

<その頃の千草組>

 

Side 千草

 

「ついに来たで・・・!」

 

 

・・・長かった。

本当に長かった。

目を閉じれば、今までの道程が鮮明に思い出せる。

 

 

「俺はやっぱアレやな。遠野ってとこで会うたアルなんとか言う金髪の姉ちゃんやな。あれは本当に強かったで」

「ウチは北海道の孤島がよかったです。闇なんとかって忍者みたいな人達~」

「そーかぁ? コソコソしてばっかで、つまらんかったけどなぁ」

「一番斬り応えありました~」

 

 

なんかヤバそーなこと言うとる後ろの2人はほっとこ。

何がキツかった言うてあの子らの面倒を見ることや。生活能力ゼロやったからな・・・。

戦いになれば、ひたすらに突撃しよるし・・・。

そもそも話し合いとか、交渉とかは選択肢の外やったし・・・。

 

 

まったく、ウチがおらんとなんにもできひん子らやな・・・ってあかんあかんあかん。

最近、妙に情が移ってかなわんわ。

 

 

早いとこアリアはん見つけて、約束の品届けよ。

そんで綺麗さっぱり縁切って、親の仇探すんや。

そうや、それがええて!

 

 

「なーなー千草の姉ちゃん」

「・・・なんや」

「なんか、匂うで」

「女子にそういうこと言うたらあかん言うたやろが――っ!」

「いや、違うて! 千草の姉ちゃんやのーて!」

 

 

耳と尻尾をパタパタ振りながら、小太郎が言い訳じみたことを言う。

・・・可愛ぇやないかって、あかんあかんあかん。

 

 

「うふ、何か良い感じな気配どすな~」

 

 

機嫌良さそうに笑う月詠はんの視線の先には、東の本拠地。

麻帆良。

 

 

「んー・・・?」

 

 

確かに、なんやけったいなもんが入りこんどる感じがするな。

悲しいことに、ここの所そういう気配には敏感になってしもたからな・・・。

・・・ってことはなんや、つまり・・・。

 

 

「・・・また、面倒事ってことかいな・・・」

「しゃあ! おもろなってきたで! ネギは元気しとるやろなぁ!」

「うふふふ。アリアはんはまた危ないことしとるんかなぁ~」

 

 

・・・もう嫌や、こんな生活。

でも、この鬱憤を誰にぶつけたらええかわからへん。

こうなったら・・・。

 

 

無事にこの薬品を届けるしかないやろ!?

もう仕事の完遂に全部をぶつけるしかないやろーが!

 

 

待っとれよアリアはん。

今、行くよってな!

 




アリア:
アリア・スプリングフィールドです。
今回、ネギ先生達に別荘がバレました。
まさか、またエヴァさんの家に来るとは思わなかった物で・・・。


今回の魔法具は以下の通りです。
殷王神鑑:ダンタリアンの書架から。伸様の提供です。
金烏玉兎集:提供者は同じく伸様です。
ありがとうございます。


アリア:
さて、次回からは私の過去についてのお話です。
同時に、私の秘密を話すことになると思います。
私の過去。
そしてある意味においては、私の原点。
明るいものか、悲しいものか・・・。

では、またお会いいたしましょう。


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第42話「過去:前編」

その少女が生まれ落ちた場所は、地獄だった。

 

 

少女の意識が覚醒したのは、生まれて1年が経過した頃だった。

昨日までいたはずの場所とはまるで異なる世界が、目の前に広がっていた。

隣のベビーベッドで眠る「兄」の名を聞いた時、ここがどこなのかを理解した。

昨日までただの物語に過ぎなかった世界。

昨日までの自分が否定され続ける世界。

 

 

最初は、夢だと思った。

しかしそれは何日も続き、次第にここが現実だと認識し始める。

1年が過ぎ、2年が過ぎた所で・・・少女は、この世界から逃れられないことを知った。

 

 

少女の名を、アリアと言った。

 

 

◆  ◆   ◆

 

 

アリアの「記憶」は年を追うごとに、日を追うごとに鮮明になっていった。

その「記憶」は、前の自分の物であることは理解していた。

ただ非常に断続的で―――夜に眠り、朝起きると、失われたピースがはめられて行くように完成されていく。

 

 

眠る度に、それはやってくる。

苦痛だった。眠りたくなかった。

繰り返されるごとに前の自分と今の自分、どちらが本物かわからなくなる。

記憶の量で判断するなら、前の自分こそが本物だ。

だが鏡の向こうに映る自分は、前の自分とはまるで違う。

 

 

人形のような、端正な容貌。

陶磁器のような白い肌。流れるような金髪。空色の瞳。

これは、誰?

自分だ。けれども自分ではない・・・。

 

 

誰にも言えなかった。

言えば、自分がおかしいと言われるだろうことはわかっていた。

こちらが現実だと言うのなら、なおさら言うわけにはいかなかった。

 

 

そしてもうひとつ、アリアには誰にも言えないことがあった。

それもまた、夜にやってくる。

 

 

「う・・・」

 

 

その夜もアリアは一人、寝室を抜け出して、家の外へ出ていた。

3歳前後の子供が外出して良い時間ではないことは理解している。

けれど、人の側にいるわけにはいかなかった。

 

 

「うう・・・ぅ」

 

 

今夜は兄だけではなく、ネカネという従姉とアーニャという幼馴染もいる。

月に一度、ウェールズの学校から伯父の離れに住む自分達兄妹の様子を見に来てくれている。

自分にも親身になってくれる。好ましい人達だ。

 

 

・・・殺したくない。

 

 

いつものように湖の畔に蹲って、痛みが過ぎるのを待つ。

2歳を過ぎた頃から毎晩のように襲ってくる、左眼の痛みが。

湖面に顔を映せば、左眼に紅い十字架が浮かんでいることだろう。

その瞳が、アリアを苛んでいる。

 

 

前の「記憶」の中から、この瞳の知識は持っていた。

どういう効果を持っているのかも。ただ、それ以上の知識は持っていなかった。

だから、どうすればいいのかもわからなかった。

 

 

「ぐぅ・・・ふぐっ・・・」

 

 

アリアは自分の肩を抱き、その痛みに耐える。

涙を堪え、震えながら、痛みに自分が慣れ、感じなくなるのを待つ。

その間、「声」が自分に囁き続ける。

 

 

―――食べろ。

 

 

その「声」はいつもそう囁く。

左眼に十字架が浮かび上がってから毎晩、アリアの心に囁き続ける。

 

 

―――食べろ。食べれば楽になる。それが、お前の役割なのだから。

 

 

何を食べろと言うのか。

それは人間であり、家族であり、それ以外の誰かかもしれなかった。

少なくとも普通の食事でこの声が途切れることはなかった。

この餓えが、なくなることはなかった。

 

 

食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ食べろ。

―――タベロ。

 

 

「・・・・・・っ!」

 

 

舌を。

千切れるんじゃないかと思うほどに強く、舌を噛んで―――。

自分を、保つ。

だけどその「自分」は、どの「自分」なのか、わからなかった。

誰か。誰でも良い。誰か・・・。

 

 

たすけて。

 

 

 

「キミ、そんな所でしゃがんでると危ないよ」

 

 

 

びくっ・・・突然かけられた声に、アリアの身体が震えた。

振り向く、そこには・・・。

 

 

そこには、一人の女性が立っていた。

年は、20歳前後だろうか。

その女性はどこか、アリアに良く似た容姿をしていた。

金色の髪に、どこか悲しげな青色の瞳。

 

 

「・・・珍しいね。『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』か」

「な、んで・・・」

 

 

その女性の言葉に、アリアは驚きを隠せなかった。

なぜならその知識は、自分しか知らないはずなのだ。

前の自分しか。

 

 

「120年ぶりくらいかな。転生してきた人間を見るのは」

「だれ・・・?」

「シンシア」

 

 

シンシア・アマテル。

その女性は、そう名乗った。

 

 

その、瞬間。

 

 

「――――――――ッ!?」

 

 

これまでにない程の痛みが、アリアを襲った。

 

 

―――食べろ! 喰い殺せ!

 

 

かつてない強さの「声」に突き動かされるように、アリアの身体が。

シンシアに、飛びかかった。

 

 

「・・・なんだ。案外つまらない手を使ってくるね」

 

 

シンシアのその呟きを最後に、アリアの意識は消えた。

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

「・・・・・・あれ?」

 

 

翌朝、アリアは普通に目を覚ました。

むくりと身体を起こして周りを見てみれば、右隣に兄が。

そして左隣には幼馴染のアーニャが寝ている。

そういえば昨日は一緒に寝たのだったと、ふと思い出した。

 

 

「あら、おはようアリア。早いのね」

 

 

起こしに来たのか、従姉のネカネが姿を見せた。

その姿を、アリアはひどく穏やかな気持ちで見ることができた。

左眼の瞼に触れる。痛みがない。

以前なら、起きた直後にも鈍痛が残っていたのに。

 

 

「ほらネギ、アーニャちゃんも起きて」

「むにゃ・・・ネカネおねーちゃん・・・?」

「むぅ~・・・」

「うふふ・・・さ、今日はアリアが一番に起きたから、朝食はアリアの好きな物にしましょうね」

 

 

でもアリアは何も欲しがらない子だから、困ったわね。

というのが、この時のネカネの気持ちだった。

 

 

一番に起きた子の好きな物を朝食にする。

これはネギ達のお寝坊を直すためにネカネが考えたルールだった。

アリアが一番に起きてくるのは本当に珍しい。

いつもは一番遅く、それも身体を重たげに動かして起きていたから、ずっと心配していた。

ただでさえ子供らしく遊んだり話したりしないアリアは、ネカネにとっては悩みの種であった。

 

 

ネギとアーニャみたく、他の子供と喧嘩しないのは助かっていたが。

しかしそれは単純に、アリアが常に一歩も二歩も距離を取っていたというだけのことで・・・。

 

 

「・・・苺がいいです」

 

 

ネカネは、アリアが何か欲しい物を言ったことに、非常に驚いた。

そしてそれ以上にアリアも、自然と口をついて出た言葉に驚いていた。

 

 

それは、前の自分の好物だったからだ。

昨日までの自分なら、前の自分と今の自分を混同するようなことはしなかった。

そんなことをしてしまえば、自分を保てないと思っていたから。

 

 

けれど今は、それが自然なことのように思える。

なぜか?

心当たりが、ひとつだけあった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「お、アリアちゃんどこに行くんだい?」

「湖です!」

「もう寒いから、水に落ちないように気をつけてな!」

「はーい!」

 

 

すれ違う村人達にそう叫び返しながら、アリアが湖に向かって走っていた。

その姿を、スタンはまるで珍しい物でも見たかのような顔で見ていた。

とんがり帽子と豊かな口髭がトレードマークのこの老魔法使いは、ネギやアーニャが駆けまわっている姿を見ることがあっても、アリアは見たことがなかった。

 

 

「・・・まぁ、元気なのは良いことじゃな」

 

 

いつもは辛気臭い顔で部屋に引きこもっていることが多く、そもそも外に出ることが無い。

それが今は元気に走り、あまつさえ村人に受け答えしている。

 

 

「・・・スタン爺様!」

「・・・お、おおぅ!? な、なんじゃ?」

「おはようございます!」

「う、うむ。おはよう」

 

 

いったい何があったのか、とても元気だ。

満面の笑顔で「爺様」と呼ばれる日が来るとは、夢にも思わなかった。

走り去っていくアリアの後ろ姿を、スタンはただ見送っていた。

 

 

一方でアリアは、湖の畔目指して全力で駆けていた。

といっても、子供の足なのでそれほどの速度ではないが。

それでも身体が、心が軽かった。

まるで何かから解き放たれたかのように。

 

 

すると湖の畔の方角から、笛の音が聞こえてきた。

近付くにつれて大きくなり、だんだんとはっきりしてくる。

高く、リズミカルなその音楽は・・・。

 

 

「ファイナ○ファンタジーⅨのOP曲です!」

「・・・はい、正解」

 

 

横笛を片手に湖の畔に立っていたのは、金髪の女性、シンシア。

にこり、と微笑むその姿を見て、アリアは昨夜のことが現実だったと再認識する。

 

 

「・・・来ると思っていたよ」

 

 

ふ・・・と笛が消え、代わりに現れたのは金色の光で編まれた小さな魔法陣だった。

クルクルクルクルと回るそれに、アリアは一瞬見惚れてしまう。

 

 

「これが、キミの頭の中に埋め込まれていたよ」

「え・・・」

「昨日の夜に、キミの頭の中から引き摺り出しておいた」

「ひ、ひき・・・?」

「『六魂幡』」

 

 

ざわり、とシンシアの手から黒い染みのような物が滲み出し、魔法陣を包み込んで消した。

笛と言い今使われた黒い何かと言い、その原理がアリアにはわからなかった。

名前だけは、聞いたことがある気もするが。

 

 

「もう「声」も聞こえないし、キミの『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』が遠隔で操作されることもない」

「操作・・・?」

「前の自分の記憶をどれだけ思い出せる?」

「え・・・」

「一番若い時の年齢は?」

 

 

矢継ぎ早に聞かれて多少面喰いながらも、アリアは前の自分の記憶を思い出す。

そういえば、昨夜は前世の「記憶」の補完が行われなかった。

 

 

「・・・5歳くらい」

「そう。ならもう思い出さないと思うよ。皆だいたいそこで止まるから」

「皆?」

「うん。一人だけだと思った? 知らない世界にいるのは自分一人きり。いや、もしかして自分がおかしいだけなんじゃないかって思ってた?」

 

 

シンシアの言葉に、アリアは答えられない。

なぜならそれは、事実だから。

 

 

この世界で意識を覚醒させた時、アリアは絶望した。

自分が知っている人間は誰一人いない。

そして自分の知る常識がなんの役にもたたない世界。

一人ぼっちだと思っていた。

 

 

「ボクの経験上、転生者になると喜ぶか悲しむかだ。キミは後者」

「け、経験上?」

「うん、経験上。これでも長生きでね。何人か見つけたよ。キミで7人目」

 

 

もう全員死んだけど。

アリアは他にもいると聞いて喜びかけたが、そう言われてまた落ち込んだ。

それを見て、シンシアがクスクスと笑う。

そのまま、ぽむっ、とアリアの頭に手を置く。

 

 

「・・・子供扱いはやめてください」

「この世界では子供さ。それに前世の年齢分足した所で、ボクには遠く及ばない」

「む、なら貴女はいかほどで?」

「さぁ? 500年から先は数えてないね」

 

 

500年先からは数えていない。

それが本当なら、確かにこの世界に生まれて5年も経っていないアリアなど相手にならない。

もちろん、それが本当ならの話だが。

 

 

「ボクの名前はシンシア。世界最古の転生者。そして」

 

 

―――神への反逆者さ。

シンシアはそう、嘯いた。

それを聞いた時、アリアは思った。

 

 

「・・・厨二病?」

「魔法陣埋め込み直してあげようか?」

「ごめんなさい」

 

 

それが、アリアとシンシアの出会いだった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「それじゃあ、また1カ月後にね」

「ちゃんと練習しときなさいよ」

 

 

数日して、ネカネとアーニャと別れる時が来た。

と言っても、また1カ月後には会うことになるのだが。

この頃のネカネはウェールズの学生で、たまの休日にしか戻れないのだ。

 

 

「アリア! あんたもちゃんと魔法練習しときなさいよ!」

「えー、嫌です」

「なんでよ!?」

 

 

まさか魔眼のせいですとは言えないので、アリアは適当に答える。

アーニャはそれが気に入らないのか、キーキー怒っている。

ネギはそれを見てオロオロしていた。

 

 

そんな3人の、というよりアリアの様子を見て、ネカネはほっとしていた。

ここ数日で、アリアはかなり元気になった。

あまりの変わりように正直驚いたが、それよりもネギやアーニャ、スタン達村の人間とも積極的に関わりを持とうとしている様子に安心していた。

 

 

閉じこもりがちだったアリアが、今ではあんなに明るくしている。

単純に、それが嬉しかった。

ネカネにとっては、それが一番大事なことだった。

 

 

ネカネとアーニャを見送った後、ネギとアリアは離れに戻った。

アリアは最近、なるべくネギと一緒の時間を作るようにしている。

それは以前ほど今の自分を否定していないと言うのもあるが、それ以上に。

 

 

『嘆くのもいいけど、今の家族を大切にしなね』

『前の自分と今の自分を明確に区別しようとしなくてもいいさ。前のキミのままで、今のキミを生きれば良い。そうすれば、おのずと世界は開けてくるから』

 

 

という、シンシアの言葉があったからだ。

確かに、前の自分に戻れない以上ある程度は受け入れて生きていくしかない。

正直、まだ完全に受け入れたわけではないものの。

 

 

「プラクテ・ビギ・ナル、火よ灯れ~!(シャランッ☆)」

「おお~・・・」

「い、今何か出たよねアリア!」

「ええ、出ました。さすがネギ兄様です」

「えへへ・・・」

 

 

ネギは早速、アーニャに貰った練習用の杖で魔法の練習をしていた。

アリアとしては初めてまともに魔法の練習なる物を見たため、素直に感心していた。

それが嬉しいのか、ネギは繰り返しシャランシャランしている。

 

 

アリアがテーブルの上を見れば、そこにはネギが書いた父親の絵が。

ネギは、予想通りに父親に憧れているということを確認することができる。

正直、会ったこともない父親になぜ憧れられるのかは、アリアには理解できない。

 

 

母親の話をしないのも、気にかかる。

ああ見えてネギは頑固だから、自分が何を言っても聞かないだろう

アリア自身は、そう考えていた。

そう考えた上で、これからどう行動するかを考えている。

 

 

予定通りに進む。

現在は、これが一番の問題点でもある。

目の前で一生懸命に魔法の練習をしている兄を見る。

 

 

この世界で生きる決意を若干固めて、毎晩の痛みから解放されて、冷静に考えてみると・・・。

今さらながらに、困ったことになりそうだった。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

「キミの役割は『ネギの妹』だからね。それは確かに困ったことになりそうだ」

「なんとかなりませんかね?」

「ならないね」

 

 

さらに数日後。

いつもの午後、いつもの湖の畔で、アリアはシンシアに会っていた。

どういうわけかシンシアはこの畔にしか現れず、他の村人は彼女の存在を知らない。

 

 

「ボクの経験上。世界の修正力と言う物なのか何なのかは知らないけど、いわゆる物語から大きく離れることはできない」

「また、経験上ですか・・・」

「キミと似たようなことを、他の転生者が考えつかなかったと思うかい?」

 

 

確かに転生者というアドバンテージを得ている以上、誰よりも有利に動けてもおかしくはない。

しかし。

 

 

「そうは言っても、この世界の全てを網羅しているわけじゃない。なぜなら物語と言う物は常に新しい物語を紡いでいく物だから。つまり理論的には当事者の把握できない物語が存在することになる」

「一つの物語が、百の物語を生むこともある・・・」

「そういうことさ。その意味では、ボクら転生者の存在こそがその証明になる」

 

 

シンシアはけして、自分のことを話すことはなかった。

さらに言えばアリアのことを救おうとか、力になろうとかもしなかった。

時たま、気まぐれのように手を貸してくれることもあるが、大体は・・・。

ただ、アリアの話し相手をしている。

 

 

 

「だからキミがなんとかして悪魔の襲撃を止めようとしてもどうにもならない。元々この村は厳重に隠され、かつ守られているんだ。この状態で起こる物を止めることはできない」

「なら、ここから逃げれば・・・」

「逃げてどこへ行く? 逃げた先でも同じことが起こるよ。それにいつ起こるかも特定できない」

「・・・それも、経験上?」

「その通り。人は全て役割に従う。転生者ならなおさら」

 

 

話すだけ。

アリアはそれでも構わなかった。

これまで周囲に自分の秘密を隠していたアリアにとって、秘密を持たずに話せるシンシアと言う存在は貴重な物だった。

自分が一人きりではないのだと、実感できる瞬間だから。

自分を、毎夜の痛みと餓えから救ってくれた人だから。

 

 

「なら、シンシア姉様の役割ってなんなのですか?」

「・・・その、姉様ってやめてくれないかな?」

「どうしてです? さもなくばシンちゃんと呼びますが」

「・・・・・・・・・姉様でいいよ」

 

 

溜息を吐きながら、渋々了承するシンシア。

 

 

「それで、シンシア姉様はどんな役割で転生を?」

「残念ながら、ボクにはすでに役割が無い」

「役割が無い・・・?」

「反逆者だからね。強いて言うのならば、嫌がらせのためにボクは生きている」

 

 

嫌がらせのために生きている。

それは、誰に対しての嫌がらせなのか。

 

 

「・・・神様に嫌がらせをするために、私を助けたのですか?」

「別に助けたわけじゃないよ。人は人を助けない」

 

 

そう言って、シンシアは小さな小箱をアリアに投げ渡した。

開けてみると、そこにあるのはコンタクトレンズ。

 

 

「これは・・・?」

「『ライダーの眼鏡』。キミの左眼の魔眼を抑えてくれる。一種の『魔眼殺し』さ」

「眼鏡なのにコンタクトレンズ・・・」

「眼鏡だと目立つからね」

 

 

小箱を握り締め、アリアはシンシアを見つめる。

これも、「嫌がらせ」とやらの一環なのだろうか。

それとも・・・。

 

 

「シンシア姉様は、どうやってこれを作っているのですか? 他の世界のですよねこれ・・・」

「それは・・・秘密だよ」

 

 

人差し指を唇に当てて、妙に可愛げな笑顔を浮かべるシンシア。

アリアは納得はしていなかったが、聞いても答えてもらえないことはわかっていた。

 

 

「ところで、あれはキミの兄君ではないのかな?」

「え・・・」

 

 

シンシアが指差した先には、湖に飛び込み、今にも溺れようとしているネギの姿があった。

ちなみに今は冬である。

当然、湖の水の温度は温かいとは言えない。

 

 

「このイベント今日だったんですか!?」

「まぁ、詳しい日時まではわからないからね。予定通りなら放っておいても助かると思うけど?」

「助けに行くに決まってるじゃないですか! というか姉様助けてくれないんですか!?」

「残念ながら無理。そこでキミにこれを進呈」

「なんですかこれ・・・」

 

 

シンシアがアリアに渡したのは、赤いレースがあしらわれた薄布だった。

 

 

「『羽衣』と言う。これを身に付ければふよふよと浮いて行けるよ」

「あ、ありがとうございます! ・・・でも兄様に見られると、ちょっと・・・」

「それも問題ないよ・・・『時(タイム)』」

 

 

一枚のカードを取り出しシンシアが何事かを呟くと、周囲の全ての物が止まった。

まさに、時間が止まったかのように。

 

 

「・・・はい、頑張って引き上げてきてね」

「ありがとうございます! ・・・って、これ別に姉様でも問題ないんじゃ」

「だから無理なんだってば」

「・・・じー・・・」

「そんな目で見てもダメ。あと口に出てるよ」

 

 

少しばかり頬を膨らませて、アリアは兄を助けに行った。

慣れない空中浮遊に戸惑いながらも、ふよふよとネギに近付いている。

 

 

「・・・危ないね」

 

 

その姿を見ながら、シンシアはポツリと呟いた。

何が危ないのか。

アリアは今、助かるとわかっている人間を助けようとしている。

 

 

それは尊ぶべき行動ではあるが、必ずしも褒められる行為ではないとシンシアは考える。

経験上、これは転生者によくある特徴だ。

知っていても、放っておくことができない。

必ずなんらかの行動を起こそうとする。

役割に従うかのように。運命に従うように。

それは、命を縮める行為だ。

 

 

『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を使うとは、案外つまらない手だとは思ったが・・・。

どうやらアリアは、自分がどうやって転生したかの情報を持っていないようだ。

だから、誰があの金色の魔方陣を自分に仕組んだのかもわかっていない。

 

 

シンシアは、懐から糸の束を取り出す。

名前を、『運命を紡ぐもの(ノルニール)』。

彼女はそれで何かを織り始めるが・・・糸は、プツリ、と切れてしまう。

それの意味する所は・・・・・・運命の終わり。

死だ。

 

 

「だからこその、嫌がらせ」

 

 

だからこその、ボクだ。

シンシアはそう呟いて、ネギを引き上げるアリアを見つめていた。

120年ぶりに見つけた、自分の同類を。

 

 

この後ネギは40度近くの熱を出して倒れ、急遽戻ってきたネカネに涙ながらに叱られることになった。

なんでも自分がピンチになったら父親が助けに来てくれると思ったらしいのだが。

 

 

「そんなわけないじゃないですか」

「わしとしては、そう言うお前の方が不思議でならんのじゃがのぅ?」

 

 

スタンは、ここ数日で変わったアリアを訝しんでいた。

なんというか、人が変わったかのような。

 

 

アリアとしては、心の支えと毎晩の痛みという悩みから解放されて、むしろ自然な状態に戻っただけとも言える。

もちろん、それをスタンや周囲に言ってはいないが。

 

 

「どうやってネギを引き上げたんじゃ」

「え、ええっと・・・それは」

 

 

スタンの膝の上で、アリアはしばらくアタフタした後・・・。

人差し指を唇に当てて、可愛らしく笑った後。

 

 

「それは・・・秘密です」

「ほ・・・そうかの。まったくナギのガキ共は・・・」

 

 

そう言えば、ナギの奴もよくこうやって無茶したりはぐらかしたりしとったの。

そんなことを考えながら、スタンは膝の上で自分を「爺様」と呼ぶ子供の頭を撫でた。

 

 

それからの3週間は、何事もなく平和に過ぎた。

 

 

ネギは魔法の練習に夢中。

アリアは兄の世話をしながらシンシアと会い、来るべき日にどうすべきかを考える。

スタンや村人もいつも通りに過ごし・・・。

 

 

そして春も近付き、冬も終わりかと思われたある日。

雪が、降った。

 

 

 

 

そして、運命の時間が訪れる―――――――。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「は~い、トイレ休憩入りま~す」

「ちょっと待て―――っ!!」

 

 

パンパンと手を叩き、映写機から「アリアの秘密(過去編・前)」のテープを取り出します。

さて、後編と入れ替えますか。

何かエヴァさんが騒いでいますが、民主主義の原則に則りスルーする方向で。

 

 

「ハヤクダレカシナネーカナ」

「幼いアリア先生は可愛らしいです」

「あ、私お茶の替え淹れてきますね」

「おお、スクナも行くぞ。お茶菓子が足りない」

 

 

チャチャゼロさんと茶々丸さん、そしてさよさんとスクナさんはいつも通りですね。

 

 

「すーちゃんは来ちゃダメ」

「どうしてだ? スクナも行くぞ」

「う、う~んと・・・」

「アア、トイ「ちぇりお~!」ガファッ!?」

「姉さんが鈍器のような物で一撃です」

「・・・来ちゃ駄目だよ? すーちゃん」

「わ、わかったぞ。スクナはここを動かない」

 

 

何やってるんでしょうあの人達。

今の映画(自主製作・主演:私・演出:私・他:私)を見て、もう少しこう、反応があってもいいと思うのですが・・・。

 

 

「おいアリア!」

「おお、これです。この反応・・・」

「なんだこの機材は!?」

 

 

ええ――、そこですか・・・。

 

 

「いえ、来るべきネタバレの時に備えて作っておいた自主製作映画です。正確には私の記憶を映像化して残しておく魔法具。だからモノローグが3人称なわけです」

「むむむ・・・何かいろいろと非常識なことを聞いたような」

「というか、始めたは良いですけど長くなりそうですし照れますし過去話やめません?」

「ここまで来てそれか! というか、シンシアとか言う新キャラ誰だ!?」

「あれ? 言ったことなかったでしたっけ?」

 

 

そう言えば、心の中で何度も呟いてはいましたが、はっきり声に出したことはなかったような。

 

 

「まぁ、後編でまた明らかになっていきますよ・・・たぶん」

「たぶんか。・・・まぁ、いい」

 

 

ふん、と鼻を鳴らして、エヴァさんは自分の席へ戻って行きます。

 

 

「・・・ちゃんと見ててやるから、さっさと流せ」

「・・・はい」

 

 

何も言わずに、黙って最後まで見てくれる。

聞いてくれる。

それが無性に、嬉しかった。

 

 

「それにしても・・・」

 

 

あの二人が辞退するとは、意外でしたね。

 

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「あの、このちゃん・・・」

「なんや、せっちゃん?」

 

 

このちゃんは、微笑みながら私の方を見る。

あの笑顔で見つめられると、どうにも話しにくくて仕方がない。

 

 

「本当に、アリア先生の過去について聞かなくていいんですか?」

「聞いてどないするん?」

「え・・・」

 

 

『金烏玉兎集』をめくる手を止めて、このちゃんが言う。

 

 

「聞いてもうちらには何もできんえ・・・ううん。したらあかんのや」

「ど、どうして?」

「うちらとアリア先生の関係は、家族じゃないから」

「それは・・・」

「修行が終わったら、うちらはアリア先生らと離れることになる。もしうちらがアリア先生の秘密を知っとったら、関わらんでええことにも関わることになるかもしれん」

 

 

このちゃんの口調は、とても静かだった。

でもどこか、冷静さを強いているような声だった。

 

 

「それにきっと、聞いたらアリア先生のために何かしようて、思ってまうやろ?」

「それは、もちろん!」

「せっちゃん、優しいから」

 

 

このちゃんだって、優しい。

私なんかよりも、ずっと優しい人だ。

だって、そんなにも辛そうに笑っているじゃないか。

 

 

「アリア先生も言うとったえ。世の中、知らへん方がええこともあるて。知る前にその判断ができて初めて、安全に生きていけるて。それでも知りたい言うんやったら、責任を持たなあかんて」

「・・・今回のアリア先生の話は、私やこのちゃんには必要のない物?」

「せっちゃんは、どう思うん?」

「私は・・・」

 

 

私とこのちゃんの目的は、魔法とか、そう言う物に関わらずに平和に生きることだ。

その上で、アリア先生の出生に関わる秘密を知る必要があるかと聞かれれば、無い。

・・・個人的な興味を除いて。

 

 

個人的な興味以外の理由がないのであれば、それはただの好奇心だ。

好奇心は猫も殺す。

余計な詮索は、控えることが肝要。

それが、関わらないということ。

 

 

「・・・あかんえ」

「このちゃん?」

「それは、あかん」

 

 

このちゃんが、身に着けている花弁の髪飾りに触れて天井の、上の方を見た。

その顔が、強張っている。

あれは、確か『念威』と言う名の魔法具だ。

遠くの光景を見たり、特定の人間と離れて会話ができる。

 

 

「・・・せっちゃん。ごめんやけど上に行って」

「は、何かありましたか?」

「・・・ネギ君達が・・・」

 

 

次の言葉を聞いた時、身体が強張るのを感じた。

・・・あの人達は・・・!

 

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

こ、これはかなり不味いのと違うアルか。

ネギ坊主達についてきたら、不法侵入で捕まってしまったアルね。

私、故郷に強制送還とかされるアルかね・・・。

 

 

というか、ネギ坊主はエヴァンジェリンと友達じゃなかったアルか?

許可がなくても家に入れたのは、かなり親しいからじゃなかったアルか?

というか、魔法って何アルか?

そもそも、ここはどこアルか・・・!

 

 

「・・・おっしゃあ! 苦節46分間、ついに報道部突撃班の私が物理的な鍵を」

「魔法的なのは私が解いたわ・・・この私がね! 触っただけだけど!」

 

 

明日菜と朝倉ががしぃっと腕を交差させて喜んでいるアル。

その横で、何やら難しい計算とか、鍵の構造解析とかをやってたらしいネギ坊主とペットのオコジョがぐったりとしているアル。

というか、あのオコジョ喋ってなかったアルか?

 

 

「す、すみませんです。恩に着るです」

「ゆ、ゆえ、もう少しだから」

 

 

なんで急に鍵を開ける必要があったかと言うと、夕映がその、なんというか、お手洗いが近くなってしまったアルね。

それで、外に出る必要があったアル。

アリア先生とかは呼んでも来なかったアルから。

 

 

「まったくもー。エヴァちゃんもトイレぐらい行かせてくれてもいいのにね」

「まぁ、私達は捕まっちったわけだしね」

 

 

それにしても明日菜と朝倉は仲が良いアルね・・・って。

 

 

「ど、どこに行くアルか?」

「ん? ちょっとエヴァちゃん達探しに。いつまでここにいればいいのかわかんないし」

「あ、明日までは出るなと言われたような気がするアルが」

「そりゃ、そうなんだけどさ。待ってるだけって性に合わないし、それに・・・」

「お腹がすきました・・・」

 

 

ぐったりとしたネギ坊主が、お腹を押さえていたアルね。

確かに空腹を覚えるアルが・・・。

 

 

「た、たぶんアルけど・・・これは、それを含めての罰なんじゃないアルか?」

「そうかなー?」

「そうアルよ。私もよく故郷の師父にやられたネ」

 

 

この、別荘? か何かに勝手に入ってしまったのは、こっちの落ち度ネ。

なら向こうが許してくれるまで、向こうの指示に従うのが最良だと思うネ。

 

 

「でもさ、朝倉とか夕映ちゃんとか行っちゃったよ? トイレだけど」

「なんとっ!?」

 

 

ほ、本当に行ってしまったアルかあぁぁっ!?

 

 

「んー、でも10歳の子供が目の前でお腹空かせたままって気分悪いし・・・」

「い、いや、こういうことに大人も子供もない気がするアルが」

「・・・やっぱりちょっと行ってくる。ほらネギ、行くわよ~」

「ひ、引きずらないでください~」

「え、ちょ・・・だ、ダメアルよ、明日菜~・・・・・・行ってしまったアル」

 

 

こ、これは止められなかった私が悪いアルか?

この場合、私はどうするべきだったアルか?

どうすれば良いアルか?

 

 

「と、とりあえず、ここを動かない方が良いアルね・・・」

 

 

まさか、力尽くで止めるわけにもいかないアルし。

師父、私はどうすれば良いアルか・・・!

 

 

教えて欲しいネ!

 




アリア:
アリアです。今回は私の過去話の前半です。
一種のネタバレという奴でしょうか。
ここまでは、襲撃前のお話。
シンシア姉様についても、少しばかり出てきました。
ちなみにこの時点の私は、左目の魔眼以外が機能していません。
詳しくはおそらく後編にて。


今回使用した魔法具は以下の通りです。
ライダーの眼鏡:元ネタは「fate」、提供はATSW様です。
念威:元ネタは「鋼殻のレギオス」、提供は水色様です。
羽衣:元ネタは「東方Project」、提供は司書様です。
運命を紡ぐもの(ノルニール):提供は旅のマテリア売り様です。
ありがとうございます。


アリア:
次話は、今回の続き。
予定調和の悪魔襲撃の日・・・。
では、またお会いしましょう。


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第43話「過去:後編」

村が燃える。

村人が石にされていく。

悪魔の群れが、故郷の村を蹂躙していく。

 

 

その様を、アリアは湖の畔で一人、眺めていることしかできなかった。

否・・・一人ではない。

 

 

「・・・本当に、これで良いのですか。姉様」

「それは目的意識によって変わるね」

 

 

アリアの側には、アリアと良く似た容姿の女性がいた。

金色の長い髪に、澄んだ青い瞳。ほっそりとした肢体。

アリアが大人になれば、おそらくこうだろうという容姿の女性。

シンシア。

 

 

「もし村人全員を守るというのなら、これは最悪の選択だね。でもキミ一人を守るという選択をするのなら、最良の選択だと言える」

 

 

この3週間、アリアは悪魔の襲撃を回避するためには、自分がどう行動すべきかを考えていた。

しかし、効果的な案など出るはずもなかった。

この世界についての詳細な知識を持たない上に、村人達からは「ただの子供」程度の認識でしかないアリアに、できることなどない。

 

 

「でも、最終的には何も問題はないはずだよ? 村人は石になるだけで死ぬわけじゃない。キミの兄や従姉や幼馴染も同じ。多少のトラウマは抱えるかもしれないけど、死ぬよりマシなレベルだ」

「それは・・・」

「問題はキミだよ。登場人物欄に名前の無いイレギュラー。キミの生死については保証できないし、むしろキミが関わることで死人が出るかもしれない。なら、関与しないことがベターな選択だと思うけどね」

 

 

そう、シンシアがアリアに提示したプランは、単純にして明快な物だった。

一言で言えば「隠れてやり過ごす」。

 

 

悪魔襲撃の時期特定ワードは三つ。

「夜」「雪」「ネカネの来る日」。

この日に合わせて、アリアはシンシアに会いに来ている。

 

 

もともと、死人が出る事件ではない。

しかも回避しようの無い事件だというのであれば、回避する必要は無い。

むしろ受け入れて、その後の展開に備えた方が良い――――。

 

 

「まぁ、永久石化の解除は死ぬほど難しいらしいけど、不可能じゃない。何ならアリアドネーに推薦状を書いてあげても良いから、頑張って勉強するのも手だと思うけど」

「アリアドネーに推薦状って・・・」

「長生きだと、いろいろとコネもできるもんだよ」

 

 

なんでもないことのように、淡々とシンシアは言う。

アリアはと言うと、今も炎の中で悪魔の群れと戦っているだろう村人や、家族のことを考えていた。

 

 

「・・・言っておくけど、助けに行こうとか考えても無駄だよ。というか、無理だよ」

「どうしてですか」

「だってキミ、弱いもん」

 

 

はっきりと、シンシアは事実を述べた。

 

 

「魔法も使えない。というか魔力の運用さえ満足にできないキミに、何ができるの? ここにいればボクがキミを守ってあげられる。この場所は一種の魔力の吹き溜まり―――エアポケットのような空間だから、ボクでもある程度力を使える。でもこの場所以外では無理。というか、嫌」

「・・・なんで」

「神様に見つかってしまうもの」

 

 

アリアは、シンシアの言う「神」なる物がよくわからない。

ただ、シンシアはよくその単語を使う。

曰く、アリアを守ることはその「神」への嫌がらせの一環だそうなのだが。

 

 

「でも、姉様」

「自分だけ安全圏にいるのが、我慢ならない?」

「・・・はい」

「ふ~ん? アレかな。誇りとか矜持とかの問題? このまま事の推移を見守って、後で再会する兄や幼馴染と、生還を素直に喜びあうことができないとか?」

 

 

シンシアの言葉に、アリアは口を噤んだ。

図星だった。

アリアの今の感情に名前を付けるとすれば、それは「後ろ暗さ」だ。

 

 

このままの気持ちで、今後の人生を生きていきたくなかった。

このまま時間が過ぎるのをただ待って、のうのうと出て行きたくなかった。

このまま・・・。

 

 

「このまま、何もしないでいるなんて、できません」

「じゃあ行けば? 大丈夫、簡単に死ぬと思うから」

「姉様は・・・」

「うん?」

「姉様は、平気なんですか!」

 

 

何の力も無い自分が、何もできないことはわかっている。

でも何もしないでいることには、今感じている無力感と後ろ暗さには、我慢できなかった。

 

 

「目の前で、人が・・・不幸な目にあっている人がいるのに、それが筋書きだからと、予定だからと、どうして受け入れられるんですかっ!」

「じゃないとボクが死ぬもの」

「それでも!」

「あのね、非常時に人を助けるって言うのはさ、無償じゃないんだ。哀しいくらいに等価交換なわけ。相手の命を救おうと思ったら、自分の命を懸けることになる。だから一人の人間に救える命の数には限度がある・・・この場合、ボクが助けられる命はキミ一人」

「それでも・・・助けられる側は、助けて欲しいって思います。・・・私の、経験上」

「経験上、ね」

 

 

それから、アリアはもう何も言わなかった。

何も言わずに、その場から走り去る。

安全な場所から、離れてしまう。

 

 

シンシアは、それを特に止めなかった。

止めた所で無駄だと思ったし、似たような経験なら何度かあった。

転生者と言う存在は、多かれ少なかれ物語に介入しようとする物だから。

 

 

「・・・死んだな、ボク」

 

 

その呟きは誰に聞かれることもなく、風に吹かれて消えた。

 

 

◆   ◆  ◆

 

 

呼吸が乱れる。

喉を鳴らして、唾を飲み込んだ。

 

 

アリアの目の前には、倒壊し、燃え広がる家屋。

彫像のように屹立しているのは、石と化した村の人々。

 

 

「・・・・・・」

 

 

もう一度唾を飲み込んで―――左眼のコンタクトを外す。

魔眼の効果を抑制している魔法具を、外す。

キィン・・・と、静かに起動する『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』。

周囲の魔力を取り込んで―――悪魔召喚の影響か、いつもよりも魔力が濃い―――駆け出す。

 

 

「・・・・・・誰か」

 

 

動く者は、誰もいなかった。

炎の熱を感じるばかりで、他に何も感じられない。

もしかしたら、もう終わった後なのかもしれない。

 

 

「誰か・・・!」

 

 

願いを込めて、呼ぶ。

だが、アリアの声に反応する者は誰も・・・。

 

 

「・・・ぅ・・・」

「・・・っ!」

 

 

かすかに聞こえた声に、足を止める。

眼をこらして、視る。すると・・・。

 

 

「アーニャさん!」

 

 

崩れた家の下に、見知った赤い髪の少女がいた。

この世界での幼馴染。アーニャ。

 

 

一瞬、迷う。

アーニャは助かるはずだ。だが、どうやって助かるかはわからない。

そもそも、この時期に村にいたのかいなかったのかも、自分の「記憶」でははっきりしない。

もう少し、ちゃんと読み込んでおけば良かったなどと後悔しても遅い。

 

 

放っておくか、否か。

迷うまでもなかった。

瓦礫の下に一人きりなんて、冗談じゃない。

「前」の自分の感情が、そうさせた。

 

 

すぐに瓦礫をかき分け、狭い隙間を通り、アーニャの側まで行く。

幸い、梁などに下敷きにされているわけでもなく、気を失っているだけのようだった。

ただ火の手も近付いて来ているし、何よりいつ瓦礫が崩れてくるかもわからない。

すぐに、引き出すことにした。

とはいえ、魔眼で多少強化していても子供の力でしかないから、苦労したが。

 

 

「・・・アーニャ、さん・・・」

「う・・・」

 

 

なんとか外に引きずり出して、せめて火の無い所へと思い、自分の小さな身体に苛立ちつつもアーニャを背負った、その時。

ガシャッ・・・と言う音と共に、捻じれた角を二本持つ異形の化物が、瓦礫の上に姿を現した。

悪魔。

 

 

「あ・・・」

 

 

ガパッと口を開いたその悪魔は、何か、よくわからない光線のような物を吐き出した。

それが何かはわからない。

ただ一瞬、恐怖に足が竦み、身を守るように突き出した左手が。というより、左眼が。

 

 

『全てを喰らい・・・』

 

 

魔力を奪い、急加速する。

身体が、神経が。全てが加速して―――。

 

 

『・・・そして放つ』

 

 

逃げた。

 

 

怖かった。

攻撃とか何とかを考えている余裕はなかった。

ただ、手に入れた力の全てを使って、逃走した。

実際に襲われて初めて、自分のしたことの意味を知る。

 

 

後悔する。

それでもアーニャを置いていかなかったのは、意地のような物だと思う。

まぁ、誤算は、というか誤算だらけなわけだが、とにかく不味かったのは・・・。

 

 

相手が一体だと、思ったことだろうか。

 

 

「あっ・・・」

 

 

急に何かに足を掴まれて、一瞬感じる浮遊感。

次いで、打撃音と―――痛み。

 

 

「――――――――っ!?」

 

 

声も出せない。

地面に叩き付けられ、急加速の直後で弛緩した骨や筋肉が軋み。

何かを探すように動かした左腕が。

 

 

ゴスンッ・・・ゴリッ・・・!

 

 

踏まれて、折れた。

 

 

「ううぅぅぁああ・・・っ!!?」

 

 

初めて感じる痛みに、アリアは呻いた。

眼の痛みとはまた別の種類の、鈍く鋭い痛み。

 

 

視線を上げると、そこにいたのはさっきのとは別の悪魔だった。

腕が8本ある骸骨のような悪魔。

他にも、地面から、影から、炎の中から、次々と悪魔が出現してきた。

10を超えた時点で、アリアは数えるのをやめた。

というより、折れた腕を踏まれ続けているので、数える余裕が無かった。

 

 

「あ・・・」

 

 

目の前の骸骨のような悪魔が、腕の一本を使って、アーニャの足を掴み、持ち上げる。

それを止めようと右手でアーニャの服を掴むが、悪魔は他の腕を使ってアリアの右手を掴んで、枯れ枝でも折るかのように、骨を折った。

 

 

「あ、ああああぁ、あ!?」

 

 

痛みで、意識が飛びそうにになって―――やはり痛みで意識が覚醒する。

悪魔は笑うかのように骨しかない口をカチカチ鳴らし、宙吊りにしたアーニャの細い首を、掴んだ。

両腕を折られたアリアは地面に這いつくばったまま、何もできない。

何も、できない。

首を掴んでいる腕に力が込められたのか、アーニャが呻く。

 

 

「や・・・」

 

 

怖い。身体が震える。吐き気がする。

殺されるかもしれない。そしてそれ以上にアーニャが死ぬかもしれない。

自分というイレギュラーが干渉したから?

 

 

自分のせいで?

そんなことは、認められなかった。認めたくなかった。

自分のせいで死ななくて良い人間が死ぬなんて・・・。

 

 

「やめて・・・っ!」

 

 

嫌だ!

心の中で、強く叫んだ。

その時。

 

 

「ボク的必殺、『問答無用拳』!!」

 

 

悪魔の上半身が吹き飛んだ。

骨の塊が散乱し、残った下半身が崩れ落ちる。

空中に放り出されたアーニャを抱きとめたのは、金髪の女性。

その女性はまるで悪戯を成功させた子供のような顔をして、アリアを見ると。

 

 

「ヒーローの条件って、知ってる?」

「し・・・」

「それはね、自分の‘出’をわきまえることさ」

「シンシア姉様ぁっ!!」

 

 

歓喜を混ぜたアリアの声にシンシアはニヤリと笑うと、アーニャをアリアの横に寝かせた。

そして、目前の悪魔の群れを見て。

 

 

「斬死、轢死、圧死、爆死、頓死。好きな物を選ぶと良い。どうせキミたち全員、道連れだから」

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

「『ヴォイドスナップ』」

 

 

シンシアの左手を黒い革手袋が包み込む。

指を鳴らすと、そこから放たれた重力の塊が目前の悪魔を地面に押さえ付けた。

 

 

「『シリウスの弓』」

 

 

右手に掴んだのは、金色の弓。

弦を弾くでもなく構えると、そこには魔力で編まれた数十本の矢。

重力弾で動けない悪魔の群れに対し、シンシアは迷うことなくその矢を放った。

 

 

「『魔天経文』」

 

 

次いで、肩に巻物にも似た物を羽織る。

それは、全ての魔を滅することのできる。東洋の魔法書。

たとえば。

 

 

「たとえば、重力で動けずに黄金の矢で跪かせられている無様な悪魔達とかさ」

 

 

悪魔の悲鳴を心地良さそうに聞きながら、シンシアは滅びの祝詞を紡ぎ始める・・・。

 

 

◆  ◆   ◆

 

 

そしてその姿を、アリアは間近で見つめていた。

アリアの目の前には『殷王神鑑』という名の書物が浮かんでおり、彼女の両腕を治療している。

味方を治癒し、同時に悪魔達を蹂躙していくシンシアの姿。

 

 

「すごい・・・」

 

 

その姿は、圧倒的で、綺麗で、光り輝いているようで。

神々しくすらあった。

だけど・・・。

 

 

「え・・・?」

 

 

シンシアが一体悪魔を倒すごとに、その姿がブレていくような気がする。

シンシアが一つ魔法を、魔法具を使う度に、その姿が薄れていくような気がする。

シンシアが一歩動くと、その存在感が希薄になっていっているような気がする。

 

 

視える。

シンシアを構成する全てが解かれていく様が、アリアには「視える」。

 

 

「痛・・・っ」

 

 

治りたての腕で、右眼の瞼に触れる。

熱い。何かが、脈打っているかのように。

ズキズキと、こめかみが痛くて。

痛、くて。

 

 

「見せ場、終わり!」

 

 

などと叫んで、最後の悪魔の首をへし折っているシンシアの姿を視界に収めながら――――。

 

 

「さぁて、と」

 

 

アリアは、意識を手放した。

耳に、妙に落ち着いたシンシアの声。

 

 

「死のうか」

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

次にアリアが目を覚ました時、そこは湖の畔だった。

すぐ側には、アーニャがまだ眠っている。

 

 

「ああ、起きたのかい?」

 

 

シンシアの声が聞こえた時、アリアはほっ、と息を吐いた。

一瞬、夢かと思ってしまった。

そしてシンシアの姿を視界に入れた時、息を詰まらせた。

夢なら良かった。

 

 

「腕は・・・ちゃんとくっいているね。良いことだ。女の子は身体を労らなくちゃいけないよ」

「あ、ああ、ああああ・・・」

 

 

シンシアは、いつものように穏やかな口調で話している。

表情も、同じように穏やかだ。

 

 

一方でアリアは、穏やかとは程遠い表情をしている。

さながら、絶望しているような。

 

 

「ああああああああああ・・・」

「はい、そこまで」

 

 

ぺしっ・・・と、近付いてきたシンシアに額を叩かれて、アリアは黙った。

勘弁してよね、と笑うシンシア。

だが、アリアの目に映るシンシアの姿は。

 

 

顔の右半分が無かった。

右腕は、胸の半ばから抉り取られたかのように失われている。左手も指が半分無い。

下腹部には大穴が開き、左足は太腿の大部分が削り取られ、右足はそもそも膝から下がない。

身体の半分以上が、失われた状態だった。

 

 

その失われた部分を補うかのように、何か黒い物体がシンシアの身体から滲みだしている。

 

 

「ね、姉様っ・・・!」

「うん? 大丈夫大丈夫、問題ないよ。100年ぐらい寝てれば治るから」

「そんなの・・・」

「本当だよ? ボクが何年生きてると思ってるのさ。実はビックリ2726年だよ?」

 

 

嘘だ。

アリアにはわかる。視えるのだ。

シンシアという構築式には、もはや存在を保てるだけの力が残っていないことを。

視え・・・。

 

 

「う・・・?」

 

 

熱のこもった右眼に触れる。とても熱い。

熱くて・・・目眩がする。すぐに気を失ってしまいそうなほどに。

 

 

「姉様、その、身体」

「うん。正直、どうにもならないね。魂も半分くらいなくしちゃったし。力も残ってないし。・・・そもそもここにも運んでもらわなくちゃ来れなかったし」

「私の・・・」

「うん?」

「私の、せい・・・?」

 

 

先ほどアーニャが危機に陥った時と同じ種類の後悔が、アリアの胸の内を占めた。

シンシアはここを動くなと言ったのに、自分はくだらない感情で動いた。

いざとなればシンシアが助けに来てくれるだろうと、卑怯にも考えて。

 

 

いや、実際に来た。

来て、そして―――いなくなろうとしている。

 

 

「・・・転生したての小娘が、自惚れないで欲しいね」

 

 

半分しかない顔で笑い、指の無い手でアリアの頭を撫でるシンシア。

 

 

「言ったろう? これは嫌がらせだ・・・キミは今日、ここで死ぬはずだった。魔眼に耐えかねて、魔法陣に取り込まれて、死ぬはずだった。ボクはそれを変えるために来た」

「・・・い」

「これで物語は動く。それで良い・・・これは、ボクだけじゃない。転生者全ての総意だ」

「・・・なさい」

「これでボクはこの呪いの輪から脱落できる。むしろキミはボクを恨むべきだ。ボクは無責任にも全てをキミに押し付けて退場しようとしているのだから」

「ごめんなさい・・・!」

 

 

実の所、アリアの耳には、シンシアの言葉がほとんど届いていない。

それはアリアの耳が聞くことを拒絶しているのか、それともシンシアの声が遠くなっているのか・・・。

 

 

「何か・・・何でもいいですから、私にできることがあればやりますから・・・」

「ふん?」

「一生かけて、恩返ししたいです」

「なら、幸せになることだね」

 

 

そうじゃないと困る、と、シンシアは続ける。

 

 

「家族を大事にね。でもわからず屋はぶん殴っても構わない。あと新しい家族を作ったりしてさ、良い男捕まえて、小高い丘に白い家立てたりなんて、ベタなことしてさ」

「はい・・・」

「学校にもできれば行ってほしいな。友達をたくさん作ると良い・・・一人は寂しいし、つまらないからね。そしていつかファミリーだって言えるくらい仲の良い人達に囲まれたりすると、ボクも安心できる」

「・・・はい」

「自分より弱い子にはなるべく優しくしてあげてね。一人で立てるようになるまで、自分のことを自分で決められるようになるまでは・・・ただ、優しくしてあげると良い」

「はい・・・!」

「気を付けてほしいのは、正義の味方になろうとか、善人でいようとかしないでほしいってことかな。キミはキミの大事な人達の役に立つことだけを考えてほしい。敵にはなるべく容赦しないことだ」

 

言いながらシンシアは、頭を撫でていた手を、アリアの目の前に持っていく。

かろうじて残った親指と人差し指で、何か、視えない鍵のような何かを掴むような仕草をする。

 

 

「とりあえず自殺だけはしないように、キミの心に魔法をかける」

「それは・・・」

「見ての通り、ボクにはもう時間が無い。キミの中にいくつかの魔法を入れておいた。これから数年かけてキミは徐々に、徐々に力に目覚める」

 

 

そのまま、ぐるり、と何かを回すような仕草を。瞬間。

カチリ・・・と、何かがはまるような、扉が開くかのような音が、した。

 

 

「う・・・」

 

 

眼が、頭の中が、身体中が熱くなって。

アリアは、自分を保つことが、できなくて。

 

 

「・・・キミが、幸せになれると良いな」

 

 

それが、アリアの聞いた最後の言葉だった。

 

 

◆  ◆   ◆

 

 

その後、アリアは兄らと共に、ウェールズの魔法使い達の住む町に移り住むことになった。

そして、アリアはそこでもう一つの現実を知ることになった。

 

 

「英雄の子供」を手元に置きたがる大人達が、こぞって自分達の里親やら後見人やらになろうと、近付いてきたのだ。

子供の身体でできることは少ない。

時には自分達の命を欲しがる輩もいた。

 

 

メルディアナの祖父がそれらを追い払ってくれなければ、自分と兄は、良いようにされてしまっていたかもしれない。

半分強制の形で魔法学校に入学したが、それは、そうしなければ本国の人間を納得させられなかったのだろうと思う。

だからアリアは、祖父を恨んだりはしなかった。

 

 

そして村にいた時は、一度だってこんなことはなかったことを思いだした。

アリアは、今まで村人達が何から自分達を守ってくれていたのかを知った。

だから、村人達を助けたいと思った。

いつかシンシアにも言われたように、永久石化の解除の研究を始める。

 

 

魔眼について知り、いつしか魔法具の作成方法を知って・・・。

自分の命を自分で守れるようになってからは、兄を守ることにした。

 

 

それでも、魔法が使えない自分よりも兄の方に期待する声も多かった。

ただ兄は、それらをほぼ無視する形で勉強に打ち込んでいた。

ひたすらに父に会いたいと願って、自分やアーニャと話すこともなくなった。

 

 

アリアは兄の世話をしながら、いつしか多くの友人に囲まれるようになった。

多くは落ちこぼれとか問題児とか、劣等生とか言われる人達であったが・・・。

 

 

ただ自分を見てくれる人達を、愛するようになった。

そしてそれ以上に、シンシアの願いを叶えるために、幸せを求めるようになった。

幸せの形を知らないままに、ただ幸せを求めた。

 

 

そして、五年の歳月が流れて・・・現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

な、なんだかよくわからないアルが、出なくてよかったアル。

 

 

「あ、アヒルが・・・」

「う~ん・・・です」

「爆発するアヒル・・・スクープ・・・」

 

 

30分くらい前だったアルか、トイレに行くと言ってた朝倉達が、部屋に投げ込まれて来たアルね。

なぜか身体中が黒い煤で汚れていたネ。

こう・・・何か、爆発にでも巻き込まれたかのような?

 

 

3人は「アヒルが爆発した」とかなんとか、言ってるアルけど・・・。

意味がわからないネ。

あと朝倉、その見るも無残に壊されたカメラでそんなスクープが撮れるアルか。

 

 

何より、3人の額に張られた「反省中。触ったら貴女もこうなります」と書かれた紙が、とんでもなく怖いアルね。

い、いったい何が・・・。

 

 

ずん・・・!

 

 

「・・・こ、今度は何アルか・・・?」

 

 

今のは、爆発音アルか・・・?

正直、もう帰りたいと言うか、関わりあいたくないアル。

正面からの試合とかならともかく。

 

 

婿探しも終わっていないのに、死ぬのは嫌アルよ。

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

い、今何が起こったのか、わからなかった。

 

 

明日菜さんとエヴァさん達を探していたら、魔力の感じる部屋を見つけた。

ただ、扉を開けた瞬間、雷の束みたいな物に襲われた。

何か、「貴方が、侵入者です」とか、意味のわからない音声と言うか、言葉が聞こえたのは覚えているんだけど・・・。

 

 

「あ、明日菜さん!?」

「う~ん・・・」

 

 

明日菜さんは、目を回して気絶してる。

魔法とかは、効かないはずなのに。

というか、あの部屋には何が・・・。

 

 

「あ・・・」

 

 

見ると、開いた扉の向こうには、薄暗い大きな部屋があった。

そこには、魔力を放つ見たこともない道具が、たくさん置かれていて。

これ・・・アリアの?

 

 

「・・・ちょっとだけ」

 

 

勝手に持って行くとかは、流石に不味いと思うけど。

見るだけなら・・・。

 

 

「・・・神鳴流」

 

 

そう思って立ちあがった時。

いきなり、天井から誰かの足が僕の頭を挟んだ。

って、な、何!?

 

 

「ぷ、む、むぐっ!?」

「浮雲・桜散華」

 

 

そのまま、わけもわからないままに身体を回転させられて。

ゆ、床に・・・わ、わあああああああああ!?

 

 

ぐしゃり。

 

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

・・・やりすぎたかもしれない。

エヴァンジェリンさんに稽古をつけてもらい始めてから、手加減とかをしなくなったから。

まぁ、魔法障壁を張っていたようだし、大丈夫だとは思うが。

 

 

『せっちゃん、どうやった?』

「なんとか間に合いました」

 

 

『念威』で話しかけてくるこのちゃんに、そう答える。

そのまま、アリア先生の研究部屋の扉を閉じる。

何かの罠が作動したようだったが、ネギ先生の魔法耐性が高いために、意識を刈り取るまでは行かなかったらしい。

 

 

『誰か怪我とかしとる? 治そか?』

「ええ、問題ありません。穏やかに終わらせましたので」

 

 

コブはできただろうし、不味くてもヒビが入ったくらいな物だろう。

かなり気を込めたから、明日までは目覚めないと思うが。

 

 

「それで、エヴァンジェリンさん達には伝えましたか?」

『う~ん・・・そうしよ思うたんやけど』

「はぁ・・・」

 

 

早く知らせないと、私に対するシゴキが凄くなるのですが。

・・・あれ? どうして私だけが常に命の危険に晒されているのだろう?

 

 

『今、なんというかな・・・こう』

「はい」

『ホームドラマ的な展開になっててな? 誰も聞いてくれそうにないんよ』

 

 

このちゃんにしては珍しく、要領を得ない物言いだ。

さて、ネギ先生と明日菜さんを部屋に戻そう。

適当に空間を斬って、放り込もうか。失敗すると時空の歪みに飲み込まれるが。

 

 

『わかりやすく言うとな?』

「ええ」

『修学旅行最後の夜のせっちゃんみたいな感じなんよ。アリア先生が』

 

 

ごんっ。

 

 

『いやぁ、あの時のせっちゃんは可愛かったなぁ~♪』

「い、いいいいいやあれはこのちゃんが無理矢理・・・!」

『え~、だってせっちゃんが一緒にって』

「いやそのあのえっとな、そのな・・・!」

 

 

ちなみに、今の音は私がネギ先生の頭を取り落とした音だ。

石畳の床で、かなり危ないが・・・まぁ、大丈夫だろう。

 

 

それにしても、そうか、あの時の私と同じか。

それなら、アリア先生は大丈夫かな・・・。

エヴァンジェリンさん達がいるので、特に心配はしていなかったが。

 

 

『・・・今日も一緒に、寝よか?』

「ふぇ!? で、ででででも節度とか大事やと思うしっ・・・!」

『じゃあ、やめとく?』

「是非お願いします!」

 

 

なんだか最近、このちゃんの良いようにされている気がする。

ああ、でも、去年は話もできなかったことを考えるともう私はどうにかなってしまいそうで・・・!

 

 

そうか、これが幸せか。

 

 

『はよ戻ってきてな~♪』

「虚空瞬動で片付けてきます!」

 

 

もう走るかとか空間がどうとか言っていられない。

多少雑な運搬になるが、そこは我慢してもらおう。

それで見張りには久しぶりに式神を使おう「どうも、ちびせつなです~♪」まだ出なくて良い!

 

 

満ち足りたような気持ち。

アリア先生達のおかげで、手に入れることができた物だ。

 

 

だからアリア先生達も、幸せになれるといいなと、思う。

そう、願っている。

 





アリア:
アリアです。今回は過去編の終章でした。
途中、ごっそりと場面が抜けていそうな所があったかと思いますが、そこに関する記憶を私は所有しておりません。
なので、映画化もできませんでした。
シンシア姉様が消したのか、それとも他の何かなのか・・・。


今回、シンシア姉様が使用した魔法具は以下の通りです。
ヴォイドスナップ:元ネタは「ダブルクロス・リプレイ・アライブ」。
提供は星海の来訪者様です。
シリウスの弓:元ネタは「デモンベイン」。提供はおにぎり様です。
魔天経文:元ネタは「最遊記」。提供は司書様です。
ありがとうございます。


アリア:
次話からは、悪魔編のクライマックスに入るかと思います。
原作と多少状況が違いますので、どうなるか・・・。
では、またお会いしましょう。


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第44話「誓約」

Side エヴァンジェリン

 

「む・・・」

 

 

珍しく、早くに目が覚めた。

普段なら早起きなどせんのだが、昨日のアリアの話が関係しているのかもしれん。

 

 

「転生か・・・」

 

 

正直、そのこと自体に思うことはなかった。

むしろ、もったいぶって話す割には・・・とすら思った。

物語の中の世界という概念には驚いたものの、アリア自身も認めるように、必ずその通りに動くわけではない。現状でも大分違ってきているらいしからな

言ってしまえば、参考程度の情報でしかない。それもかなり不確かな部類の。

 

 

だいたい・・・。

 

 

「600年前に吸血鬼に変化した私も、それほど差はない」

 

 

あの時、人間としての私は死んだ。その意味で転生とやらと大して変わらん。

・・・細かくは、変わらんと思う。

まぁ、別にそのことについてとやかくは言わん。ただ。

ただ、聞く所の「神」とやらが私を吸血鬼にした下種と同様、アリアの意思に関係なく転生者に仕立て上げた節があるということだけが、気に入らない。

 

 

もし見つけたら・・・間違いなく殺してやるのに。

 

 

「ん、ぅ・・・」

「・・・ふん」

 

 

隣で眠るアリアが何かを求めるように伸ばした手を、何気なく掴んでやる。

すると、どこか安心したように力を抜いた。

・・・自惚れでなければ、私の存在でこいつは安心してくれているのだろうか。

自分が誰かを安心させられる存在になるなどと、数年前までは考えたこともなかった。

 

 

「・・・甘えん坊め」

 

 

仕方のない奴だな。

寝乱れたアリアの髪を、なるべく優しく手で梳いてやる。

起きてからだと、茶々丸が独占するからな。今しかできん。

 

 

白い髪。昨日の映画の中では、鮮やかな金色だった。

聞く所によれば力が強くなるにつれて、つまりは魔法学校にいる間に徐々に色素が抜けていったらしい。

今では、光に透かせば透き通りそうなほど、白くなっている。

 

 

「・・・シンシアとか言ったか」

 

 

アリアを救った女。

そしてアリアに、呪いとも言える言葉を遺した女だ。

アリアにとっての、最初の理解者でもある。

だが・・・アレは、何だ? 

 

 

あまりにも情報が少なくて、判断が付かない。

あの女は、いったい何が目的でアリアに近付いた?

嫌がらせとは、なんのことだ?

アリアが、転生者が生きていることで、あの女はどんな利益を得る?

そもそも・・・。

 

 

「・・・エヴァ、さん?」

 

 

考え込んでいると、アリアが目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

頭に優しい何かを感じて、目を覚ましました。

最初に目を開けて視界に入ってきたのは、難しそうな顔のエヴァさん。

 

 

「・・・エヴァ、さん?」

 

 

どうしようもなく不安になって、声をかけます。

するとエヴァさんは私の方を見て、優しげに微笑んでくれました。

 

 

「起きたか、甘えん坊め」

「甘えん坊って・・・」

 

 

ふと、エヴァさんの手を握っていることに気付いて、慌てて引っ込めました。

・・・何か、最近子供っぽくなってる気がします。

まぁ、エヴァさん達は実年齢も精神年齢も私よりずっと上なわけですけど。

 

 

「おはようございます。マスター、アリア先生」

 

 

ノックの後、茶々丸さんが入ってきました。

そのままこちらに来るかと思えば、なぜかベッドの端の方に目をやり。

 

 

「おはようございます。さよさん」

「は? さよさんって・・・」

「んぁ~ぃ・・・」

「そんな所にいたのかお前・・・」

 

 

ベッドの下からのそのそと、さよさんが身を起してきます。

眠たげに目を細めて、顎をベッドの上に。

・・・ベッドから落ちていたんですね。

 

 

「こんな広いベッドでなんで落ちるんだ?」

「えへへへ~・・・」

 

 

エヴァさんの言葉に、はにかむさよさん。

それを見ている茶々丸さんも、どこか楽しそうに見えます。

 

 

「ではアリア先生、御髪をお梳きいたします」

「茶々丸。いつも思うんだがそこは私を先にやるべきではないのか?」

「じゃあ、エヴァさんは私が~・・・」

「半分夢の中にいるくせに何言ってるんだお前は・・・ええい、貸せ、私がやってやる」

 

 

・・・なんというか、あまりに普通です。

いつもと変わらない朝過ぎて、実は何も話していないのではないかと思ってしまうくらいに。

 

 

「えっと・・・あの、茶々丸さん」

「はい」

「私、その・・・ちゃんと、話しましたよね?」

 

 

話したと言うか、見せたと言うか・・・。

 

 

「お前の過去の話か? それとも転生者についての話か?」

 

 

櫛を片手にフラフラするさよさんの頭を押さえ付けながら、エヴァさんが言いました。

どちらというか、両方なのですが。

 

 

「どちらでもいいが、それがこれからの私達の関係に何か影響するのか?」

「えっと・・・」

「影響、してほしいのか?」

「いえ、そんな、そんなことは」

 

 

ただ昨日の夜、話し終えた後、エヴァさん達が何も言わなかったのが不安でした。

そのまま、普通にいつものように接してくれていたのが、嬉しかったけど、不安だった。

変わらないことが、むしろ怖かった。

 

 

「その・・・」

 

 

嫌われたかったわけでも、気持ち悪がられたかったわけでもない。

罵られたかったわけでも、距離を取られたかったわけでもない。

ただ・・・。

 

 

「・・・昔の話だ」

「え・・・」

「私は中世のヨーロッパに生まれた。その頃の私はまだ正真正銘の人間だった。600年前のことだ」

 

 

さよさんの髪を梳きながら、エヴァさんが自分の過去を話し出しました。

この話は、確か。

 

 

「10歳の誕生日。目が覚めると私は吸血鬼になっていた。神を呪ったよ・・・そして私をこんな姿にした男を殺して、逃げた。その後は苦難の逃亡生活さ。魔女狩りの時代なんかには、一回ミスって焼かれたしな(笑)」

「いや、そこで(笑)は何か違うような・・・」

「さすがマスター。度量が大きい」

「はっはっはっ、いいぞもっと褒めろ。まぁ、ともかくだ。私はもう結構な数の人間を殺してきたし、長く生きてきた。中には子供に言えんような残酷なことをした時期もある」

 

 

そこでエヴァさんは、くるりと振り向いて、私を見ました。

優しい微笑みと、少しばかりの怯え。

 

 

「それで、どうだアリア。お前は私との関係を見直したいのか?」

「・・・いいえ、何ひとつ」

「なら、私からお前への返答も同じことだ。何も変わらん。だいたいだな、前世の記憶があるくらい、大したことないだろうが。さよを見てみろ」

「ほえ? 私ですかぁ?」

「こいつは60年前に死んでるんだぞ? 元幽霊だぞ? ある意味私達の中で一番摩訶不思議な存在だろうが」

「ちょ、それひどくないですか!?」

「その通りです。マスター!」

 

 

なぜかここでズズイッと前に出る茶々丸さん。

 

 

「ここはやはり、ガイノイドである私が一番ではないかと・・・」

「いえ、茶々丸さん。論点がズレてきている気がします」

「一番はスクナだろおぉ―――――っ!!」

「イヤ、オレダゼェ――――――ッ!!」

 

 

どがんっ、と扉を蹴破る勢いで、チャチャゼロさんを頭に乗せたスクナさんが部屋に突入してきました。

いつものオーバーオール姿。両手には、苺がいっぱい入った籠を持っています。

実は農作業する分、スクナさんが一番早起きなんですよね。

 

 

「泥だらけで寝室に入ってくるなあぁ――――っ!」

「うおぉあ―――――っ!?」

「すーちゃん!?」

 

 

放たれる無詠唱の『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』。

あれって無詠唱で撃っていい魔法だったかな・・・。

 

 

「今日の朝食に苺を追加しましょう」

「ダナ」

「いつの間に・・・」

 

 

いつの間にか、籠を持って茶々丸さんの頭に移動していたチャチャゼロさん。

その後何度かスクナさんに氷結魔法を叩きこんだエヴァさんは、「まったくバカ鬼が」とか言いながら、氷像と化したスクナさんを放置して。

 

 

「このメンバーで前世の記憶があるとか無いとか、些細な問題だと思わんかアリア」

 

 

真祖の吸血鬼であるエヴァさん。1600年を生きるスクナさん。ガイノイドの茶々丸さんに、数百年前から動いているチャチャゼロさん。60年間幽霊をやっていたさよさん。

・・・たしかに転生者とか、ランク低そうです。

茶々丸さん以外、私より年上ですし。

 

 

「・・・だが良く、話してくれたな。怖かっただろう」

「あ・・・」

 

 

近付いてきたエヴァさんが、クシャクシャと私の頭を撫でてくれました。

 

 

「・・・だがな。別にそんなに気を張る必要はない。私は・・・」

「・・・エヴァさん」

「私達は、家族だろう?」

 

 

自分の身体が、強張るのを感じました。

自分の顔が、歪んでいくのを感じました。

私の、顔に。

 

 

頬に、涙が溢れてくるのを、感じました。

 

 

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「いったいこれは、どういうことなんかなぁお祖父ちゃん」

「い、いや、なんというかの・・・」

 

 

あの後、朝早く(別荘の中での話だが)に私とこのちゃんは別荘を出た。

式神の報告によれば、ネギ先生達はまだ目を覚ましていないらしい。

古菲さんだけが、眠ることなくじっとしているらしいが。

 

 

とにかく外に出てみると、まだ午後だった。

相も変わらず、この時間の差には慣れない。

その足で、学園長室に向かった。一応、エヴァンジェリンさんの遣いという形で。

 

 

「なぁんでネギ君らがエヴァちゃんちに来るんかなぁ?」

「そ、それはじゃのぅ・・・」

「うちなぁ、とっても大事なことせなあかんかったのに、できひんかったんやえ?」

 

 

どないしてくれるん? と、瀟洒なゲートボールスティックでコツコツとテーブルを叩くこのちゃん。

私は知っている。

あれは一見ただのゲートボールスティックだが、その実『崩壊の鐘を打ち鳴らすもの』と言う名の魔法具だ。

あれで叩かれるとかなり痛い。具体的には悶絶する。

 

 

「うふふふ・・・」

 

 

最近、エヴァンジェリンさんの影響なのかどうなのか、たまにこのちゃんが凄く黒い笑顔を浮かべる。

ああ・・・昨夜の優しいこのちゃんも良かったが、あのように凛々しいこのちゃんも・・・。

 

 

カコーンッ!

 

 

「せっちゃん?」

「は・・・はい!」

 

 

ぽいっと投げ渡された『崩壊の鐘を打ち鳴らすもの』を両手で受け取る。

見れば、なぜか学園長が後頭部を押さえてテーブルに突っ伏している。

ああ、叩かれたんだ・・・そういえばさっきカコーンって打撃音がしたな。

 

 

私がそれをさらに横に放ると、空間に沈むように消えた。

私は、いくつかの道具や武器を身体の周囲に纏っている小規模な結界内に収納している。

これも、『月衣(カグヤ)』と言う名の魔法具だ。

便利なので、常に展開している。

 

 

「まぁ、そんなわけで・・・ちゃんとネギ君に伝えとかへんお祖父ちゃんが悪いんやで?」

「な、なんのことじゃあ・・・?」

「簡単な話や、お祖父ちゃん」

 

 

ニコニコと笑いながら、このちゃんが言った。

 

 

「ネギ君はもう、うちらに関われへんようになるだけや」

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

朝になって、エヴァンジェリンさん達に呼ばれた。

なんだろう、昨日の夜の記憶があんまりないや。

何か、もの凄い衝撃が頭に・・・あ、コブができてる。

 

 

「申し訳なかったアル」

 

 

開口一番、古老師がエヴァンジェリンさん達に頭を下げた。

皆が驚いた顔をする中、エヴァンジェリンさんだけが、少し面白そうな物を見たみたいな顔をした。

 

 

「何が、申し訳ないんだ? 古菲」

「客でもないのに勝手に敷地に入ってしまったアル。あまつさえ家の物に手を触れてしまったアル」

「ふぅん・・・それで? 謝っただけで許されるとは思っていないよな?」

「なっ・・・」

「・・・もちろんネ。拳を割られても文句は言わないヨ」

 

 

こ、拳を割るって、そんな!

 

 

「だ、ダメですよそんなの!」

「そ、そーよ! ダメよ! というかなんでエヴァちゃんが椅子で私達は床なのよ!」

「立場を弁えていないようだな神楽坂明日菜」

 

 

エヴァンジェリンさんはこの場でただ一人、大きな椅子に座って僕達を見下ろしている。

向かって左側に茶々丸さんが。右側に、アリアが立っている。

アリアは何かの本を持っていて、茶々丸さんはお盆に何かを乗せている。

エヴァンジェリンさんは左手に付けたブレスレットをいじりながら、僕達を見て。

 

 

「しかし、なんというか・・・見れば見るほど苛々させられるよ。貴様には」

「ど、どういう意味よ」

「貴様が大嫌いだという意味さ。神楽坂明日菜」

「んなっ!?」

「私は貴様のような人格には、なんの興味も持てんよ。明るく屈託なく考えなしにモノを言い行動する。どこにでもいるアホな女子中学生だ」

「そっ・・・!」

「それの何が問題なのです?」

 

 

立ちあがろうとした明日菜さんを押さえて、夕映さんが割って入った。

 

 

「確かに私達は普通の女子中学生です。それの何が問題なのです?」

「いいや? 問題などないさ」

「それなら」

「だがここは普通の女子中学生が来て良い場所じゃないし、関わって良い場所でもないんだよ。それに」

 

 

ニィ・・・と、エヴァさんは笑みを浮かべた。

かすかな魔力と、確かな殺気に、身体が強張る。

 

 

「別に貴様らを外に出すつもりもないしな」

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ど、どういう意味よ!」

「どういう意味も何も、そのままの意味さ。お前達をここから出すつもりはない」

 

 

『千の魔法』を片手に持ちながら、エヴァさん達の話を聞いています。

出さないね・・・本当は今すぐにでも叩き出したいくせに。

 

 

「幸いここは私のテリトリーだ・・・外からの干渉も監視もない。目障りな貴様らを消すのにはちょうど良いチャンスだとは思わないか?」

「け、消すって」

「そんな非人道的なことが、許されるはずがないです!」

 

 

というか、朝倉さんが恐ろしく大人しいですね。

さっきから明日菜さんの背中に隠れて、私と目を合わせようともしないんですけど。

彼女の魔法の恐怖対象は、私限定と言うことなのでしょうか。

 

 

「非人道的ときたか綾瀬夕映。では聞くが、家人に許可なく家に入ることは人道的な行為なのか? いわゆる、プライバシーの侵害とか言う物ではないのか?」

「それは・・・そうですが」

「で、でも・・・その、命がどうとかって話にはならないと思うんですけどー・・・」

 

 

おそるおそるといった感じで、会話に混ざる宮崎さん。

でも、不法侵入で死刑になる国って意外と多いですよ?

 

 

「ふむ、そうか。なるほど、生死に関わるほどの罪ではないと、そう言いたいわけだ」

「あ、当たり前じゃないですか!」

「当たり前ねぇ・・・ならぼーや、こういうのはどうだ?」

 

 

エヴァさんが左手の収納アイテム『妖精の腕輪』から、黒と白の二丁拳銃をプットアウトします。

二丁拳銃、『七つの大罪』。効果は・・・。

 

 

「これは一見拳銃だが、これで撃たれても死なないんだ。その代わりに便利な機能があってな?」

「き、機能・・・?」

「五感を消せる」

「なっ・・・!」

 

 

正確に言うのなら、平衡感覚などを含めた七つの感覚を消すことができます。

それぞれを司る七色の弾丸が、ランダムに撃ち出されていずれかの感覚を破壊します。

消された感覚は、原則として戻すことができません。

 

 

「だ、ダメに決まってるじゃないですか!」

「私は構わないアル」

「古老師!?」

「くーふぇ!? な、何言ってんのよ!」

 

 

古菲さんだけは、他の方とは考え方が異なる様子です。

流石は、礼節を重んじる拳法家と言った所でしょうか?

まぁ、別荘に入ってしまったこと自体が事故みたいな物ですからね・・・。

問題なのは、その前の不法侵入その他であって。

 

 

「悪いのはこちらネ。償いの方法を提示されているだけまだ良いアルよ」

「じ、自己弁護とかそういうのはないですか貴女は!?」

「夕映。私はただ己を恥じないですむ生き方をしたいだけアル」

「だ、ダメですよ古老師! 僕の生徒をそんな酷い目に合わせられないです!」

 

 

そこだけ聞くとかなり良い台詞なのですが、全体で見るとそれほどでもないのですよね。

 

 

「なんでもいいが・・・それでどうするんだぼーや。とにかく私はタダで返すつもりは毛頭ないぞ」

「そ、それは・・・」

「ち、ちょっとエヴァちゃん。子供がこんなに謝ってるんだし・・・」

 

 

いえ、謝ってないですよ明日菜さん。

特に貴女が。

 

 

「謝ったから許せ? また随分と身勝手なことを言う。まぁ、そう言うだろうとは思っていたからな。そんなぼーや達に最大譲歩のB案を用意してある」

「B案・・・?」

「誓え、二度と私達に関わらないと」

 

 

エヴァさんの要求は、簡単に言えば以下のようになります。

今後ネギ先生とその(魔法)関係者は、エヴァさんとその(魔法)関係者と魔法関連で関わらない。

少なくとも、ネギ先生側でのイニシアティブで関わることを禁止します。

もちろん、私達はなんの制約にも縛られることはありません。

 

 

そしてそれを、魔法と魔法具で強制的に遵守していただきます。

 

 

「それをこの場で誓約するのなら・・・今、この場でだけは見逃してやっても良い」

 

 

ことり。

茶々丸さんがネギ先生達の前に置いたのは、『鵬法璽(エンノモス・アエトスフラーギス)』。

翼に天秤を付けた鷲を象った印璽です。

 

 

効果は、誓約した者の言葉を絶対遵守させる封印級の魔法具。

これはこの世界に元々ある魔法具で、先日エヴァさんの蔵の中から発掘してきました。

忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』と言い、エヴァさんの蔵は一度本格的に整理しないといけませんね・・・。

 

 

「お前もだぞ、そこの小動物」

「お、俺っちもっスか・・・?」

「煮て食われたくなければな」

 

 

ネギ先生の服の中で「いないフリ」を続けていた下等生物が、よじよじとネギ先生の肩の上に出てきました。

というか、貴方が主目的と言っても過言ではないのですが。

 

 

さらに。

『千の魔法』№67・・・『ギアス』。

本来は対個人用の魔法ですが、私の『ギアス』は誓いに参加する者全てを対象とすることができます。

誓いに反する者に苦痛を与える魔法。

 

 

私の持っていた本が急に輝いたので、ネギ先生達はかなり驚いた顔をしています。

一見すると、魔法具を扱っているように見えるでしょうか。

・・・発動。ここより先、「誓う」と言う言葉を発した人間に効果を発揮します。

 

 

「・・・さて、どうする? 私は別にどちらでも構わんが」

「そ、そんなの納得できるわけが・・・」

「誓うネ」

「くーふぇ!?」

「古老師・・・」

 

 

認証。

古菲さんは今後、魔法関係で自分から私達に関わることができなくなりました。

なんという信念。そこにだけは、敬服しますよ。

 

 

「ククク・・・いいだろう。今回は許そう、古菲。だが次はない」

「・・・感謝ネ」

「ふん・・・さて、他の連中はどうするんだ? 言っておくが・・・」

 

 

とんでもなく黒い笑顔で、エヴァさんは続けました。

 

 

「これはお願いでもなければ交渉でもない。命令だ。「はい」か「イエス」以外を受け入れるつもりはない。さもなくば・・・」

 

 

じゃきっ。

『七つの大罪』を構えて。

 

 

「代償を払ってもらう」

 

 

 

 

 

 

Side 明石教授

 

『本当にもー、ちゃんとご飯食べなきゃダメだよー?』

「あははは、ちゃんと食べてるよゆーな」

 

 

今日だってちゃんと、レトルトのチンしない奴とかを食べたよ。

心配性だな~ゆーなは。

 

 

「そういえば、ネギ君とアリア君はどんな感じだい?」

『えー? ネギ君は上手くやってると思うよ? 教え方も他の先生よりも上手いくらいだし』

「ほほお、それは良かった」

『アリア先生はねー。うん、先生って感じ。上手く言えないけど』

「ふ~ん・・・?」

 

 

ゆーなにしては珍しく、要領を得ない言い方だなぁ。

まぁ、アリア君については良くわからない部分が多いからね。

ネギ君はわかりやす過ぎるくらいにわかりやすいからなぁ。

 

 

と言っても、最近の学園長の采配には真面目な刀子さんとかが不満を言っていたし・・・。

瀬流彦君は、ちょくちょくアリア君と一緒にいるのを見かける。

でも、ネギ君の魔法の指導役もやっているんだよね・・・。

 

 

「・・・お?」

『何々? どうしたの、おとーさん?』

 

 

ゆーなと繋がっている携帯が、別の着信を知らせた。

 

 

「ごめん、ゆーな。着信だ」

『え!? 何!? もしかして女!?』

「あははは、まさか・・・じゃ、おやすみ」

『もー、しょうがないなぁ。お休みなさい!』

 

 

ゆーなとの通話を切って、キープされていた着信に出る。

相手は・・・あ、ごめんゆーな。女性だったよ。

 

 

『明石教授?』

「あ、ああごめん。久しぶりだねドネット」

『ええ・・・そちらはもう夕方かしら』

 

 

彼女がいるのはウェールズだから・・・あっちは朝かな?

ドネットはネギ君達の故郷でもあるウェールズ、それもメルディアナ魔法学校の校長の部下だ。

ゆーなの母親、つまりは僕の妻の友人で、仕事仲間でもある。

 

 

「それで・・・急にどうしたの? 珍しいね」

『珍しいも何も・・・私は明石教授の方から連絡があると思っていたのだけど?』

「どういうことだい?」

『ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンの件よ』

 

 

ヴィル・・・何だって?

 

 

『・・・そちらの学園長から聞いていないの? 校長から警告文が送られたはずよ』

「警告文? ・・・いや、すまない。何の話かわからない」

『・・・・・・仕方ない。飛行機を一本、いえ二本遅らせるから、状況を説明する』

 

 

ドネットの声が固い。

こういう時、嫌な予感しかしないのは仕方が無いだろう。

飛行機って言うのも気になるけれど。

 

 

これから、何かが起ころうとしているのか・・・?

 

 

 

 

 

 

Side ヘルマン

 

やれやれ、しがない雇われの身というのも、辛い物だ。

麻帆良に侵入するのも、結構手間取った。没落貴族の悲しい所か。

 

 

「ターゲット、見つけたゼ」

「ここから西に約2300メートルの位置デス」

「・・・別れるのを待ちマス」

 

 

・・・ふむ。反応が無いからどうなるかと思ったが。

これなら、クライアントの依頼も遂行できるという物だ。

 

 

「よろしい。では君達は作戦通りに行動を開始したまえ」

「ラジャ」

「くれぐれも、アリア・スプリングフィールドとその縁者に手を出さないように。あくまでもネギ・スプリングフィールドとカグラザカアスナ。両名の調査が目的だ」

「ラジャラジャ」

「ネギ君とその仲間らしき人間以外は避けたまえよ、くれぐれもね。クライアントの意向だ」

「ラジャラジャラジャ」

 

 

連れてきたスライム3体に命令を徹底させて、行かせる。

しかし、今回のクライアントも不思議な依頼を出す物だ。

 

 

サウザンドマスターの息子の方は好きにしろと言う一方で、娘には殺されても手を出すなと言う。

・・・というか、もし娘の方に遭遇したら一方的に殴られろというのは、流石に無理がある。

 

 

「・・・良い月だ」

 

 

雲ひとつない。

今夜は月が良く見える。

 

 

「良い夜だ・・・」

 

 

こんな良い夜に、こんなに大変な仕事をさせられるとはね。

やれやれ・・・。

 

 

「では、始めようか」

 





アリア:
アリアです。
今回は過去編直後の朝からヘルマン編の導入までの話でした。
徐々に、話の展開が進んでいくようです。

今回使用された魔法具は、以下の通りです。
月衣(カグヤ):元ネタは「ナイトウィザード」。提供は星海の来訪者様です。
七つの大罪:提供者は水色様。
崩壊の鐘を打ち鳴らすもの:元ネタは「お・り・が・み」です。
提供はざぶざぶ様です。
妖精の腕輪:提供はkusari様です。
ありがとうございます。

千の魔法は以下の通りです。
ギアス:元ネタはソードワールド。提供はマルコシアス様。
ありがとうございます。

アリア:
次話は、おそらくヘルマン卿が派手に動いてくれることでしょう。
さて、ようやく悪魔編も佳境。
伯爵閣下を、静かに出迎えるとしましょうか。
では、またお会いしましょう。


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第45話「悪魔」

Side 夕映

 

外に出て、改めて「別荘」とやらの凄さを実感したです。

まさか本当に、中での一日が外での一時間だとは・・・。

 

 

「ゆえー、濡れちゃったし、先にお風呂行く?」

「あ、そうですね。それが良いです」

 

 

エヴァンジェリンさんの家から戻ってくる途中、急な雨に見舞われたです。

今も降っていて、結構激しい雷雨のようです。

 

 

着替えなどを用意して、のどかと寮の大浴場に向かうです。

この時間なら、それなりに人がいると思うです。

 

 

「今日は大変だったね・・・」

「そうですね・・・」

 

 

結局、私達はエヴァンジェリンさんの「誓い」とやらを受け入れたです。

そうでないと帰してもらえないばかりか、感覚を奪われるなど・・・本来なら受け入れがたいことです。

 

 

確かに、少し浮かれすぎていたのは事実です。

冷静になって考えてみれば、他人の家に勝手に上がりこむなど、してはならないことです。

けれど・・・。

 

 

「ねぇ、ゆえは・・・」

「なんです?」

「ゆえは、魔法使いになりたいの?」

「なりたいです。のどかは、違うですか?」

 

 

現実は、つまらないです。

何も変わらない毎日。でも今は、幻想的で魅力的な非日常な世界が目の前にあるです。

それに、触れてみたいのです。

 

 

「わ、私は・・・最初はネギ先生が魔法使いだって知って、ドキドキしてたけど・・・」

「けど?」

「でもネギ先生は、あんなに大変な思いをしているんだなって思うと・・・ちょっと、考えちゃう、かな」

「なるほど・・・」

 

 

確かにネギ先生の過去には、少し考えさせる部分があったです。

その意味でも、自分が浮かれすぎていたかもしれないと、思うです。

 

 

「お、帰り遅かったねー二人とも」

「あ、ハルナー・・・」

 

 

浴場につくと、ハルナもいたです。

というか、気のせいでなければ3-Aメンバーの半数近くがいるです。

 

 

「塗るだけで美人になれる、お昼のモン太さんも絶賛! 『ぬるぬる君X』!」

「マジで!?」

「ちょっ・・・それ貸してゆーな!」

 

 

・・・相も変わらず、にぎやかなクラスです。

というか、裕奈さん達はまた妙な物を持ちこんでいるですね。

 

 

 

 

 

 

Side 超

 

またなんというか、ノーテンキな連中だネ。

今は明石サンが持ってきた妙なクリームで騒いでいるヨ。

 

 

「あ、珍しいね。超さん達が寮の大浴場に来るなんて」

「おー、村上サン。那波サンは一緒じゃないのカ。珍しいネ」

「お互いに失礼な会話ですねー」

 

 

私と村上サンの会話に、隣にいたハカセが苦笑しているネ。

まぁ、私は普段は大学の方の浴場にお邪魔してるし、村上サンが那波サンと普段一緒に行動しているのも確かネ。

 

 

「ちづ姉は、今日はなんか遅くなるって。最近近所の子供の面倒とか良く見てるみたいだから、それじゃないかなー。超さんは?」

「学祭に向けて、『超包子』の開店についての話し合いヨ」

「わ、そっか。もうすぐなんだ」

「そうネ」

 

 

もちろん、それだけじゃ無いけどネ。

隣のハカセと五月を見ると、「わかっていますよ」と、頷いてくれたネ。

 

 

「・・・それじゃ、大学に戻らないといけないから、私達は先に出るヨ。開店したらよろしくネ」

「あ、うん。楽しみにしてるね」

「中間テストの後に開店する予定ですから」

 

 

ハカセに続いて、待ってます、と五月が言うのと同時に、私達は湯船から出たネ。

村上サンに手を振って、浴場の外へ向かうネ。

 

 

・・・その時視界に、何か半透明な液体が、浴場の隅で動いているのを見つけたネ。

スライム。

となると、今日がヘルマン卿の襲撃日・・・カ。

 

 

くるり、と振り向くと、湯船の中でなんだかんだと騒いでいる朝倉や古、綾瀬サン達が見えるネ。

何も知らずに、ノーテンキに笑っているヨ。

自分達が、夢のような毎日から抜け出そうとしていることも知らず、笑ってるネ。

 

 

この楽しく空虚で何不自由ない世界から。

偽りの楽園の中から、それを知らずに捨てようとしている連中。

せいぜい・・・。

 

 

「・・・お手並み拝見ネ。ネギ坊主」

 

 

 

 

 

 

 

Side 美空

 

うっわーマジで?

見なかったことにできないかなーアレ。

 

 

「あっれー? ねぇ、夕映とのどか知らない?」

「え!? し、知らないよ!?」

「・・・ほんとに?」

「ほ、本当だよもー。私が何を知ってるってのさ!」

 

 

ごめんハルナ、本当は知ってる。

朝倉達が今、ドロドロしたお湯・・・てか、水? に引きずり込まれたのを。

できれば見たくなかったー。

 

 

だって、「関わっちゃいけません」って匂いがプンプンするもんねコレ。

でも・・・。

 

 

「村上さんまでいなくなっちゃってるしさー」

 

 

最後、なんか朝倉達に挨拶してたっポイんだよね。

これって、もしかしなくてもヤバい?

 

 

「ミソラ・・・シスターに・・・」

 

 

私の手を握ってボソボソ喋ってるこのちっちゃい子は、シスター仲間のココネ。

ついでに言うと、私のマスターでもあるんだよね~。

 

 

・・・よし!

 

 

「シスターシャークティーに全部押し付けて後は知らんフリ! これだ!」

「・・・メンドー、くさがり・・・」

「酷くないっ!?」

 

 

失礼だね~ココネ。

私はただ、自分の手に余るコトには手を出さないってだけだよ。

 

 

だって結局は、それが誰にも迷惑かけない生き方じゃん?

できもしないことを出来るって言うより、よっぽど良いっしょ。

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

まったくもー、エヴァちゃんってば。

そりゃ、勝手に入ったのは悪かったけどさ・・・。

 

 

「何もあんな言い方しなくても良いじゃない!」

「ご、ごめんなさい明日菜さん。僕のせいで・・・」

「別にあんたのせいじゃないわよ。入ろうって言ったの私と朝倉だし」

 

 

まぁ、今回は仕方無い、かな。

勝手に入ったのは悪いことだし。

・・・でも、う~ん。やっぱり納得できない!

 

 

「・・・まぁまぁ、五体満足で帰してもらって良かったじゃねーですか、姐さん」

「あんたって・・・エヴァちゃんやアリア先生の前以外では態度でかいわよね」

「ギクリ」

 

 

わざわざ声に出して言うんじゃないわよ。

まったく。

 

 

「ネギ、明日の着替え、ちゃんと用意できてる?」

「え~っと・・・」

 

 

ロフトの上でごそごそやり出すネギ。

木乃香がいなくなってから、ご飯だ家事だと大変。

できないわけじゃないけど・・・結構、しんどい物なんだって初めて知った。

木乃香って、こんなのを毎日ニコニコしながらやってたんだから、すごいわよね。

 

 

ピンポーン。

 

 

「・・・誰でしょう?」

「ああ、いいわよ。私が出るから」

 

 

ったくもう、誰よ。こんな時間に。

そんなことを思いながら、部屋のドアを開けると・・・。

 

 

「美しいお嬢様に、花を一輪」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・は?

 

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「明日菜さん?」

 

 

どたどたと物音がして、顔を出してみる。

なんだろ・・・。

 

 

「失礼するよ。ネギ・スプリングフィールド君」

 

 

黒い帽子に黒いコート。

黒ずくめの男の人が、明日菜さんを小脇に抱えて立っていた。

なっ・・・。

 

 

「な、なんですか、貴方は!?」

「兄貴、気をつけろ! 一般人じゃねぇ!」

 

 

一般人じゃない? なら・・・魔法使い!?

壁に立てかけてあった杖を握って、ロフトから降りる。

男の人は、窓を割っている所だった。

 

 

「その人を、離してください!」

「キミの仲間と思われる者数名をすでに預かっている。無事帰して欲しくば、私と一勝負したまえ」

「え・・・」

「何だとぉ!?」

 

 

預かっているって・・・。

そんな、他にも誰か。

 

 

「学園中央の巨木の下にあるステージで待っている。仲間の身を案じるのならば、他に助けを求めるのも控えた方が良いね・・・」

「『契約執行(シム・イルゼ・パルス・)90秒間(ペル・ノー・ナギンタ・セクンダース)』、ネギ(ネギウス)スプリングフィールド(スプリングフイエルデース)!」

 

 

行かせない!

自分への魔力供給で身体強化して、飛びかかる。

男の人が、ひょいっと明日菜さんを上に放る。え・・・。

 

 

「ふん!」

「ぐっ・・・」

 

 

魔力のこもった拳の連打。

一撃、二撃、三撃、四撃・・・追いつけない!?

 

 

「ぬむんっ!」

「あぐっ・・・!?」

「あ、兄貴―――っ!?」

 

 

腹に強烈な蹴りをもらって、後ろにあったベッドの柱にぶつかる。

身体強化はまだ残ってたから、身体にダメージはほとんどないけど、ベッドの柱は折れた。なんて威力なんだ・・・。

 

 

「それではネギ君。待っているよ」

「くっ・・・待て!」

 

 

再び明日菜さんを抱えなおした男の人は、窓から飛び降りた・・・待って!

 

 

「いない・・・」

 

 

窓から顔を出しても雨が降っているのがわかるだけで、誰もいない。

転移魔法かな。それくらいしか・・・。

 

 

「あ、兄貴。どうすんだ?」

「もちろん、助けに行くよ!」

「け、けどよ。一人で大丈夫なんですかい!?」

「助けを呼ぶなって、言ってた・・・一人で行くしかないよ」

 

 

それにあの男の人、僕のことを知ってるみたいだった。

僕のせいで、明日菜さんを巻き込んじゃった・・・。

 

 

「なら、僕が・・・僕が、なんとかしないと!」

 

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「どういうことですか学園長!」

「まぁ、落ち着きなさい明石君」

「これが落ち着いていられますか!」

 

 

明石先生、興奮してるなぁ。無理もないけど。

今学園長室には、他にガンドルフィーニ先生や弐集院先生が集まってる。

共通点を探すなら・・・娘さんがいるってことかな。

僕は違うよ?

 

 

「メルディアナから警告が来ていたそうではないですか」

「封印されていた爵位級の悪魔が、麻帆良に向かっていると・・・」

「向かっているかもしれん、じゃ。正確にはの」

「学園長!!」

「明石君も、少し落ち着きたまえ」

 

 

うわぁ・・・明石教授がどんどんヒートアップしてる。

いつもは一番学園長に詰め寄ってるガンドルフィーニ先生が、抑え役に回るってよっぽどだよ。

 

 

「しかし学園長、今回のは酷いんじゃないですか?」

「何がじゃの? 弐集院君」

「爵位級悪魔が麻帆良に来るかも、なんて情報。どうして伝えてくれていないんですか?」

「そうは言うがのぅ・・・」

 

 

学園長は椅子に深く沈み込んで、溜息をついた。

 

 

「人員も増やせん。警備のシフトも増やせん。予算も増やせん・・・こんな時期に、来るかもわからん悪魔に対策を講じることはできん」

「しかしっ・・・!」

 

 

まぁ、確かに。

本国から人員や資金を融通してもらうってわけにもいかないし。

変な情報流して、余計なことに労力を割きたくないって気持ちも、わからなくもないけど。

 

 

「一番不味いのは、当人達が知らないってことなんじゃないかなぁ・・・」

「何か言ったかね、瀬流彦君」

「い、いえ。なんでもありませんよ」

 

 

あははは・・・と笑って、適当にごまかす。

本当はこんな態度とっちゃダメなんだけど、今は話の中心になりたくない。

 

 

・・・まぁ、とにかく。

狙われる確率の高そうなアリア君とネギ君には、こっそり伝えておこうか。

あ、でもネギ君はどうしようかな。伝えるとかえって不味いような気もする。

いずれにせよ、一般の生徒に被害がないことを祈るしかないかな。

タカミチさんも出張でいないし、まだ来ると決まったわけでもないし・・・。

 

 

と、その時。部屋の扉が勢い良く開いた。

 

 

「学園長先生っ!!」

 

 

入ってきたのは、シスターシャークティー。

麻帆良の教会に勤めてるシスターで、魔法関係者でもある女性だ。

 

 

「な、なんじゃな、シスターシャークティー」

「い、今、私が指導している生徒から連絡がありまして・・・」

 

 

息を切らせながら、シスターが言ったことは、想定していた中でも最悪の物だった。

 

 

「い、一般の生徒が数名、魔法生物らしきものに攫われたと・・・」

 

 

本当に、最悪だ。

 

 

 

 

 

Side ヘルマン

 

「ちょ、ななな、何よこの格好は―――っ!?」

「はっはっはっ。お目覚めかね、お嬢さん」

 

 

ちなみにその服装(少々派手目な下着姿)については、完全に私の趣向だ。

囚われのお姫様が寝間着姿と言うのも、趣に欠けるからね。

 

 

「あ、起きたみたい!」

「明日菜―――――っ!」

「え・・・って、皆!?」

「彼女達はまぁ、観客兼人質だよ」

 

 

アスナとか言ったかな。

彼女の視線の先には、ネギ君の仲間らしき4人の少女を水牢の中に捕らえてある。

アヤセユエ、ミヤザキノドカ、アサクラカズミ、そして・・・クーフェイ。

浴場で一緒に話している所を一網打尽にしたようだ。

 

 

「ちょっと、なんで皆服着てないのよ! あと・・・」

「なんだね」

「なんで村上さんがいるのよ!? 関係ないでしょ!?」

 

 

うむ、そこは私としても頭の痛い所だ。

少し離れた所に、個別の水牢が用意してあるが、その中で少女が一人眠っている。

ムラカミ・・・と言う名前なのかね。よくは知らないが。

 

 

「服を着ていないのは、浴場で攫ったからだ。そちらのお嬢さんは成り行きの飛び入りでね」

「こ、こんのエロジジィ――――っ!!」

 

 

ひゅごっ・・・という風切り音を立てて、アスナ嬢が蹴りを放ってくる。

うむ、良いね。一般人にしては見事だ。だが・・・。

 

 

「なっ!?」

「ネギ君のお仲間は生きが良いのが多くて嬉しいね」

 

 

その蹴りを、右手で受け止める。

思ったよりも重い一撃のようだ。当たっていたら、そこそこ痛かったろうね。

ぎりっ・・・と、力を込めると、簡単に骨が軋む。

 

 

「・・・っ」

「おお、声を上げないのかね。強情・・・いや、勇敢なお嬢さんだ」

「あ・・・あんた! 何が目的!?」

「教える義理はないね。ただ、大人しくしておくことをお勧めするよ。何しろクライアントからは・・・キミ達を殺してしまっても良い、と依頼されているからね」

 

 

手を離しながら、一応は警告しておく。

人質が死んでしまっては、ネギ君も戦いにくいかもしれないからね。

まぁ、もしそうなっても、それはそれで復讐として戦ってくれるかもしれないがね。

 

 

「・・・そこのお嬢さん達も、大人しくしていてくれたまえよ」

「あぅぅ・・・」

「むむ・・・」

 

 

正確な依頼内容は、ネギ君とその仲間がどの程度か調べること、ただし。

想定以下だった場合は、私の好きにして良いことになっている。

さて・・・。

 

 

「ネギ君、キミは・・・どこまで使える少年になっているのかな?」

 

 

雨の中、遠距離から捕縛用の魔法を放ってくるネギ君の姿を捉えながら。

私は、彼への期待を抑え切れなかった。

 

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

勝てないアル。

ネギ坊主の戦いを見ていて、直感的にそう思ったネ。

 

 

ネギ坊主は、時々何か・・・何かを撃つような仕草をしてるアルが、何も起こらないアル。

何をするつもりかはわからないアルが、想定外なのは見てとれるアル。

つまり・・・。

 

 

「・・・最悪の状況ネ」

「そんなの見たらわかるよ、くーちゃん!」

 

 

む、声に出ていたかネ、朝倉。

 

 

「あ、あのー、ここから出してくれませんかー・・・?」

「お願いしてどうするですか、のどかっ」

 

 

本屋と夕映が、この水の塊の外にいる女の子に話しかけてるアルが。

芳しい返答は得られてないみたいアル。

 

 

「私達特製のその水牢からは出られませんヨ」

「溶かして喰われないだけ有難く思いナ」

「それも、時間の問題かもですガ」

「ど、どういうこと?」

 

 

その女の子3人は、同じような顔でケケケ、と笑ったネ。

嫌な笑い方ヨ。

 

 

「あのガキが負けたら、お前ら生きて帰れないかもナ」

「そんな!?」

「え、それマジで!?」

 

 

朝倉達は、食い入るような目でネギ坊主の戦いに目を向けるアルが・・・。

あれは、無理ネ。実力差がありすぎるヨ。

今も、ほとんど一方的にやられてるアル・・・。

 

 

不覚ネ。

私は強き者と戦い、散る覚悟は幼い頃に済ませてアルね。

たとえそれが奇襲であっても、そんな物は言い訳にしかならないと教わったネ。

 

 

でも朝倉達は・・・彼女達だけでも、なんとかならないアルか。

なんとか・・・。

 

 

私に出来ることは、何かないアルか。

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「断る」

 

 

リビングのソファでうだうだしていると、茶々丸が盆に黒電話を乗せてやってきた。

茶々丸が持った受話器に対し、相手が何かを言う前に答えてやった。

ここの番号を知っている奴で、今のタイミングでかけてくる奴など一人しかおらん。

 

 

『ま、まだ何も言っていないのじゃが・・・』

「どうせ、悪魔を撃退してくれとかそんな所だろう」

『おお、その通りじ「断る」・・・どうしてもかの?』

「何か私にメリットがあるか?」

 

 

そこそこの力を持った悪魔が麻帆良の中に侵入してきたのは知っている。

最初に気付いたのは、私では無くバカ鬼だがな。

ぼーや達を雨の中、叩き返してやった後、「んん? 妙なのがいるぞ」とかなんとか。

その後さよのアーティファクトで位置関係を調べた所、ぼーやの関係者を中心に世界樹の下に続々と人が集まり出した。

 

 

決定打はアンノウンの数と、アリアの「知識」だ。

なんだったか・・・ヘルマンとか言う、伯爵級の悪魔らしいが。

 

 

「ちなみに、アリアを行かせるつもりもないぞ」

『な、なぜじゃ?』

「アリアはお前の大事な大事な孫の護衛で忙しい。なんと言っても外には爵位級の悪魔がうろついているからな、側を離れるわけにもいかんだろうよ」

『・・・悪魔は一体しか確認されておらん』

「どこかに隠れていないとどうして言えるんだ? 侵入も察知できなかったくせに」

『む・・・』

 

 

だいたい、なんで私達が貴様らのために働かなければならんのだ?

前にも似たようなことを言った覚えがあるが・・・。

今さら、アリアを貴様らの好きに使わせるつもりはない。

 

 

京都で懲りたのでな。

 

 

「貴様らでなんとかすれば良いだろう? なぁ、正義の魔法使い」

『・・・魔法を無効化する結界が張られておる』

「だから?」

 

 

おそらくは神楽坂明日菜の魔法無効化能力を利用しているのだろう。

なかなか面白いことを考え付く相手だな。

 

 

なんにせよ、魔法が使えない状況を想定していない方がおかしい。

私の家族は全員、魔法無しでも自分の身くらいは守れるぞ。

 

 

「まぁ、せいぜい己の不明を呪うが良いさ。私達には関係ない」

『ま、待つのじゃ!』

「茶々丸、切れ」

「イエス、マスター」

 

 

がちゃり、と、茶々丸が受話器を置いた。

3秒後にまたかかってきたので、茶々丸にコードを切らせた。

これでようやく、静かになった。

 

 

「・・・アリア、魔力を抑えろ。家が壊れる」

「・・・はい」

 

 

隣に腰かけているアリアから、かなりの魔力が漏れ出しているので注意する。

・・・いや、だから抑えろと言うに・・・勢いを増してどうする。

 

 

私達の前には、『遠見の鏡』とか言う魔法具が展開されている。

そこには、広場のぼーや達の様子が映し出されているわけだが・・・。

村上夏美の存在を確認してから、アリアが「その気」になっている。

不味い兆候だ。

 

 

当然、「行くな」と命じた。

 

 

このタイミングで行けば、バカ共が喜ぶだけだ。

そういう所は、アリアもまだ甘いと言うか温いと言うか。

 

 

「・・・マスターは心配性です」

「茶々丸、お前な。いい加減その方向での突っ込みはよせ」

 

 

・・・ふん。

 

 

 

「木乃香と刹那は?」

「さよさん、スクナさんと共に、学園から戻った直後に別荘の中に。中で7日は過ごすよう伝えてあります」

「よし・・・」

 

 

なら、何も問題は無いな。

後は、全てがこちらに有利になるように動くだけだ。

 

 

せいぜいあがけ、正義の魔法使い。

 

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・誘惑に駆られますね。

 

 

ネギ先生とヘルマン卿の戦いの推移を見守りながら、心の中で、呟きます。

エヴァさんと茶々丸さんの視線を感じますが、特に何も言ってはきません。

 

 

・・・ヘルマン卿は、そう時間を置かずにネギ先生を追い詰めるでしょう。

その時、巧妙に状況を読んで介入する。ネギ先生に集中しているヘルマン卿を背後から倒せば良い。

あるいは学園サイドに策を授けてネギ先生達をヘルマン卿と五分に戦わせて、ヘルマン卿が疲弊の極に達した所を討ちます。

 

 

驚くほどたやすく、ヘルマン卿を倒すことができるでしょう。それこそあっけなく。

あっけなく、村上さんを救うことができる。

私になら、たぶんできる。私の中の冷静な部分がそう囁くのです。

誘惑を感じる、というのはそういうことです。

 

 

しかし、今の私はエヴァさんの従者として行動しています。

ならば、私の行動はおのずと制限されます。されなければなりません。

 

 

それに・・・今の私には、他にもやらなければならないことがあります。

この『複写眼(アルファ・スティグマ)』で。

 

 

「・・・式を解析・・・」

 

 

遠距離でも問題ありません。

遠見でも姿を確認さえできれば、構築式を盗むことができます。

 

 

・・・呪いの解呪の手順は、逆算と似ています。

例えるなら、答えから公式を探り当てる作業。

 

 

<普通の人間+永久石化=石像>

 

 

これが、私がこの数年間取り組んでいる呪いの式。

最初と最後の解析はすぐにできます。

ただ永久石化の魔法構築式だけは、術者によって微妙に異なるのです。悪魔ともなれば、なおさら。

その構築式が、喉から手が出るほど欲しかった。

 

 

<石像-永久石化=普通の人間>

 

 

石像と化した村人から永久石化の効果を取り除くためには、ただ魔法具で解除するという手法はとれませんでした。

完全に石化、つまりは仮死とも言える状態にある以上、大雑把な解呪は村人の身に危険が大きすぎる。

だからこの6年間、慎重に計算を重ねてきました。

 

 

何度も計算をやり直して。

何度も何度も構築式を書き直して。

何度も何度も何度も材料を集めて、分量を調整して、実験結果を比較して。

それ以上の失敗を重ねて。

少しずつ、答えに近付いてきたのです。全ては。

 

 

全ては、この瞬間のために。

呪いの解呪のための、最後の公式を手に入れるために。

 

 

・・・待っていてください。

スタン爺様、皆。

今すぐに、行きます・・・!

 

 

 

 

 

 

Side 楓

 

「むむむ・・・」

 

 

並々ならぬ気配を感じて来てみれば、これはかなり不味いのではないでござるか?

明日菜殿達が捕まり、ネギ坊主がそれを助けるべく戦っているようでござるが・・・。

 

 

「どう見ても、勝てそうにないでござるな・・・」

 

 

あの黒ずくめの御仁は何者でござるか?

明らかに人間離れした動き。

今のネギ坊主には太刀打ちできないでござる。

 

 

「ネギ坊主も、頑張ってはいるようでござるが」

 

 

というか、あの御仁が拳を振るうと、地面が砕けたり離れた所が吹き飛んだりしているでござるが。

あれは、どういう理屈でああなっているのでござるか?

わずかな期間、古に拳法を習った程度ではどうにもならないでござる。

 

 

「・・・どうするでござるか」

 

 

流石に、クラスメイトや担任を見殺しにするというのは、目覚めが悪い。

とはいえネギ坊主に加勢しても、あの御仁を相手にするのは今の拙者では少々荷が重そうでござるな。

・・・と、なれば。

 

 

「あの御仁がネギ坊主に集中している隙に、人質の明日菜殿達を救出し、離脱・・・」

 

 

それくらいしか、策がないでござる。

敵わぬ相手からは逃げるのも一手。

正面から戦うばかりでは、芸が無いでござるよネギ坊主。

もっとも、それすらできるかどうか、わからぬでござるが・・・。

 

 

「・・・ニンニン」

 

 

甲賀中忍、長瀬楓。

いざ、参る。

 




アリア:
アリアです。現在エヴァさんにお預けをくらっています。
介入したいんですけど・・・。
お許しがでません。なんということ。

今回は、ヘルマン卿が人質をとり、ネギ先生と戦い始める所までですね。
その間の、色々な人達の思考が描かれているようです。


アリア:
さて次話は、ヘルマン卿も大詰め。
さて・・・どうしましょうか。
では、またお会いしましょう。


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第46話「戦う理由」

Side ヘルマン

 

・・・やれやれ、この程度かね。

どうやら、私が直接手を下すほどではなかったようだね。

残念だよ、ネギ君。

 

 

「『悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)』!!」

「・・・くぁっ!」

 

 

魔力を込めて放った拳を、自身への魔力供給によって身体能力を強化しているらしいネギ君は紙一重でかわした。

そこから私の拳を両手でなぞるようにし、突き出してくる。

 

 

「『双撞掌』!!」

「いや・・・違うな。ネギ君、思うにキミは・・・」

「わ・・・がっ!?」

 

 

その攻撃ごと、アッパーでネギ君の身体を打ち上げる。

さらに、上段からの蹴りでネギ君を地面へ叩きつける。

 

 

「ネギ君、キミは本気で戦っていないのではないかね?」

「え・・・?」

 

 

ぐぐっ・・・と身体を起こしながら、「意味がわからない」とでも言いたげな表情をする。

 

 

「な、何を・・・僕は本気で戦っています!」

「そうなのかね?」

 

 

本当にそうだとしたら、あまりにもガッカリだ。

サウザンドマスターの息子が・・・どれほど使えるようになったかと思えば。

彼とはまるで正反対。戦いに向かない性格だよ。

 

 

「ネギ君・・・キミは何のために戦うのかね?」

「な、何のために?」

「仲間のためかね? くだらない、実にくだらないぞネギ君。期待ハズレだ。戦う理由は常に自分だけの物だよ。そうでなくてはいけない」

 

 

怒り、憎しみ、復讐心などは特に良いね。誰もが全霊で戦える。

あるいはもう少し健全に言って、「強くなる喜び」でもいいね。

 

 

「そうでなくては、戦いは面白くない」

「僕は別に、戦うことが面白いだなんて・・・」

 

 

いやいや、ネギ君。

キミは心の奥底では、もっと別の感情を抱いているはずだよ。

 

 

「ぼ、僕が、僕が戦うのは・・・」

「一般人の彼女達を巻き込んでしまったと言う責任感かね? 助けなければと言う義務感?」

 

 

義務感などと言う物では、決して本気にはなれないぞネギ君。

そんな理由では、脆い脆い。

 

 

「その感情は、偽物だよネギ君」

「何を・・・」

「そんな感情は偽物だ・・・いや仮にあったとして、それがどうしたと言うんだい?」

 

 

キミに、他の感情など無いとすら、私には断言できるよ。

ネギ君。

 

 

「それとも、キミが戦う理由は、あの雪の夜の記憶から逃げるためかね?」

「え・・・な、なんで・・・」

「そう、知っているとも。なぜなら・・・」

 

 

帽子を取り、本来の姿に戻る。

ふふ、最近は「悪魔じゃー」と出て言っても、若者には笑われてしまうからね。

 

 

「私は、キミにとって仇とも呼べる存在なのだから」

「あ・・・」

 

 

あの日召喚された悪魔の中でも、数少ない爵位級悪魔の一体。

村人を石にしたのも、村を壊滅させたのも、この私だ。

・・・あの老魔法使いには、してやられたがね。

 

 

「どうかね? 少しは自分のために・・・」

 

 

戦う気になったかね?

そう言おうとした瞬間、ネギ君はすでに私に肉薄していた。

全身からは、重い魔力が噴き出している。

 

 

この私にも、今の動きは捉え切れなかった。

素晴らしい才能だ、ネギ君。だが・・・。

 

 

それでは、私には勝てないよ。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・暴走(オーバードライブ)。

ネギ先生の潜在魔力は膨大です。潜在魔力量だけならば、私と互角以上。

それが一気に解放されれば、あのくらいにはなるでしょう。

 

 

「・・・負けるな」

 

 

横から、心底どうでもよさそうな顔で、エヴァさんが呟きました。

それに、頷きで返します。

 

 

あんな物は、ただの力押しです。

周りも見えていませんし、決め手にも欠けています。

正直、ただのバカです。

 

 

「アリア先生、お茶が入りました」

「あ・・・ありがとうございます」

 

 

茶々丸さんがお盆に乗せて持ってきてくれたのは、イングリッシュミルクティーと、苺風味のチョコレート・ファッジです。

紅茶は私が用意している物ですが、茶々丸さんは稀にどこからともなくお茶菓子(苺味が過半)を用意してきます。

・・・どこから調達しているのでしょうか?

 

 

「・・・おい、夜中にあまり甘い物を食べさせるな。虫歯になるぞ」

「かしこまりました。ではマスターの分のみ下げさせていただきます」

「なんでだっ!?」

「ケケケ・・・スナオニホシイッテイエバイイジャネェカ」

 

 

爵位級悪魔が来ているのに、余裕がありますねぇ。

と、その時、私のお仕事用携帯が鳴りました。

新田先生が「持っていなさい」と渡してくれました。

 

 

相手は・・・おや、瀬流彦先生。

ちらり、とエヴァさんを見ると、手を振って「出ろ」と示してくれました。

 

 

「えー・・・はい、アリアです」

『あ、瀬流彦です。お疲れ様~』

 

 

この方も大概余裕ありますよね。

 

 

『え~っと、早速で悪いんだけどさ。アリア君、今の状況はわかってるよね?』

「ええ、まぁ」

『そっか。まぁ、そうだよね』

 

 

あはは、と笑う瀬流彦先生。

・・・なんでしょうね。このタイミングでの用件と言うと、ひとつしか思いつかないのですが。

 

 

「・・・学園長から、何か?」

『ああ、うん。もちろんそれもあるけど、それはこの際どうでもいいんだ』

 

 

む、どうやら違うようです。

だからエヴァさん、その「切れ」のジェスチャーと「格下げ」の合唱をやめてください。

向こうに聞こえますよ。

 

 

『・・・うん。アリア君さ、村上さんとかが攫われてて、助けに行きたいな~とか思ってる?』

「・・・・・・」

『思ってるよね?』

 

 

それは、まぁ。

村上さんのことは、なんとかしたいなって思ってますけど・・・。

瀬流彦先生は、そっか~、と向こうで頷いているようでした。

そして。

 

 

『来ちゃダメだよ?』

「え・・・」

『学園長とかはなんだかんだ言うと思うけど、アリア君は来ちゃいけないと思う』

 

 

ぎり・・・と、携帯を握る手に力が入ります。

瀬流彦先生?

 

 

『絶対に、来ちゃダメだ』

「・・・でも、瀬流彦先生」

『あ、バカにしてるな? 僕だってやる時はやるよ? たまには良い所見せないとね』

『瀬流彦君、急ぎたまえ!』

『あ、すみませんガンドルフィーニ先生! じゃあアリア君、そこを動いちゃダメだからね!』

「え、あの、ちょ・・・」

 

 

切れました。

言いたいことだけ言って切るとは、女性の扱いがなってませんよ瀬流彦先生。

・・・来るなって、そんな。

これ、明らかに「今から僕、ヘルマンに喧嘩売ってくるから」って言ってますよね?

 

 

瀬流彦先生、それなんて死亡フラグですか・・・。

貴方、先日自慢げに「僕、戦闘とか苦手なんだ」って言ってたじゃないですか。

爵位級悪魔なんて相手にしたら、フラグ回収されてしまいますよ。

・・・ああ、いや。そうじゃなくて、とにかく・・・。

 

 

行かないと。

村上さんもそうですが、今からそれを助けに行く瀬流彦先生。

瀬流彦先生を侮るつもりは決してない。けれど。

 

 

助けに、行かないと。

だって・・・瀬流彦先生は、私に良くしてくれる人です。

京都での一件以来、色々とお世話になっています。

 

 

他の人はともかく瀬流彦先生だけは、見殺しにはしたくない。

いえ、できません。

 

 

でも、エヴァさんが・・・。

ちらり、と、エヴァさんを見ました。すると。

 

 

目を閉じて、うたた寝をしていました。

 

 

・・・あれ?

さっきまで起きていたのに・・・?

 

 

「・・・ああ、なんということでしょう」

 

 

その時、かなりわざとらしい声で茶々丸さんが言いました。

 

 

「朝食のパンと台所用洗剤とマスターのおやつを切らしてしまいました。今すぐ買い出しに行かねばなりません」

「は、はぁ・・・」

「ゴシュジンニミツカッタラ、タイヘンダナ」

「はい、お仕置きにネジを回されてしまいます・・・「ぐー・・・」ああ、マスターがうたた寝をしております」

「ラッキーダナ」

 

 

・・・なんでしょう、この小芝居。

というか今、エヴァさん自分で「ぐー」って言いませんでしたか?

そしてなぜ、台詞のことごとくが棒読みなのでしょうか。

 

 

「ここは、マスターがうたた寝をしておられる間に買い出しに行くのが上策かと思います」

「ニジカンッテトコロカナ」

「はい。荷物が多くなると思うので、どなたか一緒に来ていただけると喜ばしいのですが」

 

 

そしてチラチラと私を見てくる茶々丸さんとチャチャゼロさん。

・・・これは、つまり。

黙認、ということでしょうか。

横のエヴァさんは、何も言いません。

 

 

ごくり、と唾を飲み込んで。

目の前で私の答えを待っている茶々丸さん達に、手を伸ばして。

 

 

「では、その・・・私が」

「ゴシュジンガネテルウチニイコーゼ」

「ありがとうございます。姉さん、アリア先生」

 

 

・・・お礼を言うのは、私の方です。

その後茶々丸さんに手を引かれて、妙にコソコソしながら部屋を出ました。

そして、玄関に達した所で。

 

 

『・・・命令だ、アリア』

 

 

仮契約カードを通じた、エヴァさんからの念話。

 

 

『無傷で戻れ。そしてあのポンコツ・・・瀬流彦を私の前に連れて来い』

 

 

振り返るも、居間の扉は開きません。

連れて来て・・・瀬流彦先生に何をするつもりなのかは知りませんが。

 

 

でも、これはただの買い出し。傷なんて、あるわけがない。

これは、そういうこと。だから。

私は、鉄の意思でもってあらゆる傷を拒絶します。

 

 

「・・・仰せのままに(イエス)我が主(マイロード)

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

「ね、ネギせんせ~っ!」

「ネギ君・・・っ!」

 

 

本屋や朝倉が叫んだり声を詰まらせたりしてるアル。

ネギ坊主は、途中から動きが格段に上がったアルが・・・。

 

 

まず、突進をかわされた。

次に膝で体を打ち上げられて、背中を殴られた。

そして最後に頭を踏みつけられて、地面にめり込んだネ・・・。

 

 

「ふむ・・・まぁ、こんなものかね」

 

 

グリグリとネギ坊主の頭を踏みながら、そんなことを言ったアル。

・・・実力差がある相手に、フェイントも無しで直線的に突っ込めば、ああなるのは当然ネ。

ネギ坊主、私との朝練はなんだったアルか・・・。

 

 

「さて・・・申し訳ないが、こうなってしまった以上、キミ達をタダで帰すわけにもいかない」

「ひっ・・・」

「こ、これってマジピンチ?」

 

 

マジもマジ、大ピンチアルよ朝倉。

く、仕方無いネ。

こうなったら、トドメを刺される直前にカウンターを狙うしかないネ。

・・・そこまで接近してくれれば、良いアルが。

 

 

「や、ヤベーよあのおっさん、マジ強ぇ!?」

「いや、カモ君。あんたの役立たずさもヤバいよ・・・」

 

 

あのオコジョは、明日菜に近付いた瞬間に捕まったアル。

何がしたかったのカ・・・。

 

 

そう思った矢先、相手がその場で立ち止まったネ。

離れた位置から、あの妙なパンチを撃つつもりアルか・・・。

万事休す。打つ手無しネ。

 

 

「ち、ちょっと―――っ! 本屋ちゃん達に手ぇ出したら、承知しないわよ―――っ!!」

「少し待っていてくれ、お嬢さん。キミはできるだけ苦しめろと依頼されているのでね」

「なんでよっ!? いやそうじゃなくって・・・やめなさいよ!」

 

 

明日菜の声にも、それ以上は反応を返さないネ。

ああ・・・ここで死ぬアルか。私。

できれば・・・。

 

 

「できれば、婿を見つけてから死にたかったネ・・・」

「え、ちょ・・・何満ち足りた表情してんのくーちゃん!? これマジでヤバっ・・・!」

「た、助けてネギせんせ~っ!」

「の、のどかっ、私の後ろにいるですっ。す、すすす少しは盾にっ・・・も、もるっ・・・!」

「ヤベえぇぇぇっ! これ、マジでヤベぇよおおぉぉっ!?」

 

 

いくら叩いても泣いても、この水の檻からは逃げられないアルよ本屋。

あと、身体を盾にしてもたぶん無意味ネ、夕映。

あとそこのオコジョ、うるさいアル(もう喋ってるとかは良いネ・・・)。

ここは心を落ち着けて・・・。

 

 

「皆! ちょっ・・・やっ」

 

 

・・・無理ネ。

死にたくない。

死にたくないアルよ、怖いアルよ、師父っ・・・!

 

 

まだ、やり残したことがたくさんあるネ。

死にたく、ない・・・!

 

 

「嫌あああぁぁ――――――――――――っ!!」

 

 

明日菜の悲鳴。

・・・・・・それと、もうひとつ。

 

 

「雷鳴剣」

 

 

静かで、強い声。

次の瞬間、稲光。

 

 

な、何アルか? 自爆アルか!?

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

 

「怪我はありませんか、貴女達!」

「え、え・・・刀子先生・・・?」

 

 

皆がやられると思った時、目の前に、きっちりとスーツを着た、髪の長い女の人がいた。

うん、確か刀子先生って名前だったはず。

たまに、刹那さんといるのを廊下とかで見たことある。

 

 

「待っていなさい、今・・・っ!」

 

 

いきなり、刀子先生の姿が消えた・・・じゃない、殴られた!?

ヘルマンとか言うエロジジィが、まだ無事だったみたい。

五メートルほど吹っ飛んで、その場で体勢を整える刀子先生。

 

 

「・・・っ! あの一撃で無傷ですか・・・」

「いやいや、服が土埃だらけになってしまった」

 

 

はっはっはっ・・・とか笑いながら、コートをパタパタしてみせるヘルマン。

い、嫌な奴ね・・・。

刀子先生も同じことを思ったのか、少しイラッときたみたいだった。

 

 

「その減らず口、すぐに閉ざしてあげます」

「ふむ? できるのかね?」

「してみせましょう―――ガンドルフィーニ先生!」

「ああ!」

 

 

いつの間にいたのか、肌の黒い、ええと、ガンドルフィーニ先生? が、ネギを肩に担いで、少し離れた位置にいた。

そこから、拳銃をバンバンと・・・って、拳銃?

え、というか何? この学校って、ネギや刹那さんみたいな人がいっぱいいるわけ!?

 

 

は、話が急展開すぎて良くわかんないけど・・・。

い、命の危機は継続中なわけよね?

 

 

だ、誰か助けて。

高畑先生っ・・・!

 

 

 

 

 

 

Side 刀子

 

雷鳴剣が想定通りに発動しない。本来なら、稲光の後に大きく爆発するはずなのですが。

気を刀身の外に飛ばせない。直接当てて技を発動させればなんとか・・・。

これが、結界の効果ですか。放出系を無効化すると、あの悪魔が発言したらしいですが。

 

 

本当なら、全戦力で来たい所・・・。

ところがこことは正反対の位置から、別の侵入者がありました。

これは悪魔とは関係なく、いつもの侵入者(この表現もおかしいですが)。

 

 

仕方なく、弐集院先生と神多羅木先生がそちらを対処。

明石教授は魔法生徒を何人か率いて、この広場を中心に大規模な対悪魔呪文を用意しています。

シスターシャークティーは、万が一に備えて学園長と待機。

 

 

今は私とガンドルフィーニ先生を囮に、瀬流彦先生が神楽坂さんの首飾りを奪う作戦を実行中です。

前半の戦いを遠見で確認した神多羅木先生達の言を信じるのならば、この結界はそれで破れるはず。

 

 

・・・ただそこに行くには、側のスライムが邪魔。

悪魔がいる戦場でスライムを排除しながら進むなんて芸当、瀬流彦先生には荷が重いでしょう。

ですから、スライムに関しては別の者に担当させます。

腕利きの狙撃手が、彼が駆け出すのと同時に、スライムの動きを止めてくれるはずです。

 

 

「ふんはぁっ!!」

「くっ・・・!」

 

 

ひゅごっ・・・と風切音を立てて何度も顔を掠める悪魔の拳。

 

 

8年前に麻帆良に来てから、今までで最大の敵。

正直、倒すにしても準備が足らない。専用の装備があっても厳しい。

せめて、事前に警告されていれば・・・!

 

 

「ふむ、なるほど。なかなかに経験を積んだ熟練の戦士のようだね」

「・・・ア?」

 

 

ガンドルフィーニ先生の実弾での援護の中、切り結びながら言われた一言。

誰が・・・。

 

 

「誰が熟女の年増ですって―――っ!?」

「いや、そんなことは一言も」

「問答無用っ!!」

 

 

雷鳴剣!!

 

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

僕の仕事は、すごく簡単だ。

 

 

刀子先生達が悪魔の気を引いて、その隙に僕は明日菜君からペンダントを奪って、後は明石教授のチームが対悪魔呪文を発動させて、終わり。文句のつけようのないハッピーエンドってわけ。

僕は走ってペンダントを壊すだけだ。

 

 

ステージの影に隠れてる僕から明日菜君まで、数メートルの距離だ。

それを走るだけ。若造らしい、簡単な仕事だ。

爵位級悪魔と戦ってるガンドルフィーニ先生や刀子先生なんかより、全然。

簡単じゃないか。

 

 

なのに。

 

 

「怖いなぁ・・・!」

 

 

もう、足なんかガクガク震えちゃって。

だって、爵位級悪魔だよ? 

僕みたいな駆け出しが遭遇して良い相手じゃない。

刀子先生達は怖くないのかな? いや、きっと怖いんだ。でも戦う。

 

 

ネギ君なんかは、そんな相手と一対一でやってたんだから、凄いよね。

おかげで死にかけてるけど。

今は、ガンドルフィーニ先生の後ろで気を失ってる。

 

 

それに、アリア君も。

アリア君だって、京都ではかなり危険な目に合ってた。

それでも傍目には、平然としているように見えるんだから、凄い。

まだ、10歳なのに。

 

 

「カッコつけて、来るなとか、言っちゃったけどさ」

 

 

10歳。

10歳の子供にばかり、重荷を押し付けて。

10歳の子供を矢面に立たせるなんて、大人のすることじゃないよね。

・・・僕は、「大人」なんだから。

 

 

「たまにはカッコいい所、見せたいよね・・・!」

 

 

なけなしの勇気を振り絞って、足に力を込める。

放出系の魔法は一切意味がないから、魔力ブースト付きの脚力だけが頼りだ。

刀子先生達の戦局に合わせるぞ・・・大技を決めた時に。

 

 

「雷鳴剣!!」

 

 

・・・今だ!

刀子先生が技を出すのに合わせて、一気にダッシュする。

 

 

「うおおおぉおぉっ!!」

 

 

本当はもっと静かにしなきゃいけないんだけど、何か言わないと今すぐにUターンしそうなんだ!

しょうがないでしょ! 怖いんだから!

 

 

「させねぇゼ!」

「捕まえまショウ~」

 

 

スライムに気付かれた!

でも・・・。

 

 

タンッ「ア!」、タンッ「ベ!」、タタンッ「シ!」。

 

 

どこからか、魔法の力を極力抑えた実弾が撃ち込まれ、スライムの頭を弾き飛ばした。

ほんの一瞬だけど、動きが止まった。今だ!

 

 

「せ・・・瀬流彦先生!?」

「お待たせ明日菜君、すぐ、「がっ!?」に・・・!?」

 

 

ペンダントを引き千切ろうとした、その瞬間。

刀子先生が、突然僕に体当たり―――じゃない、投げつけられてきた。

もつれ合って、倒されてしまう。

 

 

「瀬流彦先生! 刀子先生!」

「いっ・・・あ、刀子先生!?」

 

 

明日菜君の悲痛な声と、僕の声。

刀子先生は気を失ってしまっているのか、倒れたまま動かなかった。

スーツの所々が擦り切れて、口元に少しだけど血が滲んでいる。

 

 

「いや、惜しかったね」

 

 

悪魔が、ぐったりとしたガンドルフィーニ先生の腕を掴んだまま、僕の方を見ていた。

 

 

「もう少し戦力があれば、もしかしたら上手くいったかもしれないな」

「う・・・」

「だが、ここまでだ。残念ながらキミ達についての依頼は受けていないのでね。生でも死でもない状態、つまり石化の状態になってもらうとしよう」

 

 

ぽいっ・・・と、まるでゴミでも捨てるかのような感じで、ガンドルフィーニ先生をこちらへと投げる。

そのまま、人間の姿を捨てていく悪魔。

 

 

「せ・・・先生! 逃げて!」

「先生―――っ!」

 

 

明日菜君や綾瀬君達が「逃げろ」と言ってるけど、僕は動けなかった。

刀子先生達を放っておけないし、何よりも。

 

 

足が竦んで、動けなかった。

は、はは・・・情けないなぁ、僕。

 

 

「では、さらばだ。若き魔法使い諸君」

 

 

悪魔の口がガパッと開いて、そこから光線が。

効果はきっと、石化だ。さっき悪魔が自分でそう言った。

石化か・・・悪魔の石化だ、きっと解呪の確率は低いんだろうな。

 

 

はは・・・こんなことなら、もっと早く辞めておけばよかったかな。

畜生・・・ごめん明日菜君、皆。

僕は、キミ達を助けることもできなかった・・・!

 

 

白い石化の光線が、僕に向けて放たれる。

目は・・・閉じなかった。だから。

 

 

結果だけが、僕の目に映った。

 

 

 

「カッコ良いです・・・瀬流彦先生」

 

 

 

白い。

白い髪の女の子。

白い髪の女の子が、僕の前に立っていた。

 

 

来ちゃダメだって、言ったじゃないか。

 

 

「私があと10年早く生まれていれば、好きになっていたかもしれません」

 

 

左手に箒を持ったその女の子は。

頭に奇妙な人形を乗せたアリア君は、そんなことを言った。

・・・嬉しいんだけど、なんだか複雑な気分だった。

 

 

 

 

 

 

Side 真名

 

正直、少し焦った。

スライムの狙撃という仕事は果たしたものの、その後のことは私にはどうにもできない。

実弾に限りなく近い弾を使ったせいか、スライムにもほとんど効果がなかったようだ。

 

 

いずれにせよ、これ以上事態に介入するつもりはない。

報酬の無い仕事はしない主義でね。

 

 

「・・・さて、それでどうする? アリア先生」

 

 

相手は爵位級悪魔だ。

流石のキミでも、周りの人間を庇いながらでは厳しいだろう。

対抗策は、あるのか?

 

 

「龍宮さん」

「・・・茶々丸か」

 

 

その時、転移魔法符を持った茶々丸が側に転移してきた。

一枚80万のアイテムを簡単に使うとは、流石というか・・・。

茶々丸はその手に、さらに銀色のアタッシュケースを持っていた。

 

 

茶々丸とはここの所、超の計画の参加者として良く話すが・・・。

今日はいつもと少々、雰囲気が違うようだ。

 

 

「アリア先生からの依頼があります。受けていただけますか?」

 

 

アリア先生から・・・?

まぁ、報酬さえ貰えるのなら、なんでもするのが私の主義だ。

それに同盟を結んでいることだし、初回は安くするとも言ったしな。

 

 

「でも、いいのか? 私は生徒だぞ?」

「自らの意思で行動している龍宮さんは、庇護すべき生徒ではなく、尊敬する個人として対応する・・・と、アリア先生は言っています」

 

 

尊敬する個人か・・・ふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。

それに、私に何をさせるのかも気になる。

私をこんな気分にさせてくれる人間は、本当に少ない。

 

 

学園長の尻拭いのような依頼よりも、よほど面白そうだ。

 

 

「・・・良いだろう。話を聞こうか」

「ありがとうございます」

 

 

どこかほっとした表情をする茶々丸。

そんな茶々丸を見るのも、初めてかもしれない。

フ・・・。

 

 

「やはり、キミは面白い。アリア先生」

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『複写眼(アルファ・スティグマ)』を起動。

左手に持った箒『ファイアボルト』を破棄しつつ、ヘルマン卿の石化魔法を解析、一時的に停止、制御します。

同時に。

 

 

「アデアット、『千の魔法』№72・・・」

 

 

左手で石化魔法を維持しつつ、右手に出現させた黒の魔本が、バララ―――と、ひとりでにページを開く。

 

 

「・・・『ドラゴンスフィア』!」

 

 

『ドラゴンスフィア』―――。

魔法でも物質でも関係なく、手で触れた対象物を球形に封じ込める魔法。

しかし、封じた物は次第にその力を失ってしまいます。それは困る。

 

 

さらに『千の魔法』のページを移動。

同時に自由になった左手の指先を少し噛んで。

 

 

「№70、『陰陽式呪印術』!」

 

 

白く、丸い石のようになったヘルマン卿の石化魔法。

そこに、私の血で「保」と字が書き込みました。

 

 

「セツメイスルゼ!」

「はいっ!」

 

 

この魔法は、特定の漢字を一字書くことで、その意味の恩恵を受けるという物です。

正式名称は『陰陽式呪印術アリアカスタムマークⅡ改R』!

今書いたのは「保」。つまりこの状態で劣化させずに保つ、という意味で書いています。

・・・って、私しか説明していないじゃないですか!

 

 

「キニスルナ!」

「はいっ!」

 

 

最後に、『ケットシーの指輪』の中に収納します。

これで・・・。

 

 

「・・・手に入れた。やっと・・・!」

 

 

私の右眼は、ヘルマン卿の石化魔法を、永久石化の術式を直接「視た」。

そして今、永久石化の効果を秘めたサンプルを保存しました。

 

 

「あ、アリア君・・・今」

「少し、少しだけ待ってください瀬流彦先生・・・! 具体的には30秒程・・・!」

 

 

もう少し、もう少しだけこの喜びに浸らせてください。

今、私はっ・・・かなり感動しています!

 

 

「今、魔法を使ったのかね・・・?」

「だったらなんだって言うんですか?」

 

 

ヘルマン卿の言葉すら、今はどうでも良い・・・!

私のアーティファクトは、アーティファクト以外の妨害を受け付けない。

そもそも、この結果で妨害されるのは放出系や転移系の魔法。

接触型のこの2つの魔法は対象外。

 

 

「どうやって、ここに?」

「上から降りてきたに決まっているでしょう」

 

 

魔法具『ファイアボルト』で上空まで移動した後、そこから急降下。

『ラッツェルの糸』で張り巡らせた糸の足場の上に着地しました。

まぁ、トランポリンみたいな物をイメージしてください。

 

 

「・・・怖いですか?」

「何がだね?」

「この空間で魔法を使える私が、怖いですか? 貴方の永久石化を無効化できる私が、怖いですか? 貴方の知らない魔法具を扱う私が、怖いですか?」

 

 

ああ・・・とても、気分が良いです。

頭の上のチャチャゼロさんも、ケケケと笑っています。

ああ、楽しい。

 

 

「怖いですか? 怖いでしょう? 今私が何を考えているかわからなくて、怖いでしょう? さぁどうしましょう。怖い魔法研究者が、悪魔を壊しに来ましたよ? 逃げた方が良いんじゃないですか? きゃーと叫んで、逃げた方が良いんじゃないですか?」

「・・・何を、馬鹿なことを」

「逃げませんか? ああ、そうですか。ならどうしましょう。悲鳴を上げますか? 助けてくれと命乞いをしますか? もし命乞いをしてくれたなら、私は言いましょう」

 

 

さっき貴方がネギ先生に言っていたことを、そのまま返してあげようじゃないですか。

 

 

「貴方が今感じている感情は、偽物ですよ。いえ、仮にあったとして、それがいったい、どうしたと言うんですか? 貴方は・・・」

 

 

貴方は、ここで終わる。

私の研究のサンプルとなって、貴方は終わる。

 

 

口の端を笑みの形に吊り上げ、左手を前に。

そして『千の魔法』のページが、またひとりでに捲られていきます。

そして。

 

 

 

「お届けもんどす!」

 

 

 

その時。

どこかで聞き覚えのある声と共に、見覚えのある大鬼が、ズンッ・・・と、落ちてきました。

鬼の右手には、これまた見覚えのある棍棒。

 

 

その肩や腕に乗っている3人の顔を見た時、私は思いました。

・・・空気、読んでください。

 

 

「やぁっ・・・・・・と!」

 

 

その大鬼の右の肩の上から、眼鏡の女性が私にビシィっと指を突きつけ、言いました。

大鬼の左の肩に、犬耳の少年。そしてなぜか左手で掴まれていて、しかも私をキラキラと見つめる妖しい少女。

3人共に、見覚えがありますね。

 

 

「見つけたで! アリアはん!」

 

 

人を勇者が旅立つ町みたいに呼ばないでください。

やれやれ・・・。

 

 

これだから、千草さんは。

 




アリア:
アリアです。
私の無双タイムに邪魔が入りました。なんということ。
これだから空気の読めない人はいけません。
千草さんも京都人なのですから、もう少しこう、配慮が欲しいですね。

今回使った『千の魔法』は以下の通りです。
ドラゴンスフィア:元ネタ、マテリアル・パズルです。
提供者はゾハル様です。
陰陽式呪印術アリアカスタムマークⅡ改R:オリジナル、提供者はゾハル様です。
ありがとうございます。

なお、作中で登場したチョコレート・ファッジは、こんな小説作ってごめんなさい様よりいただきました。
ありがとうございます。


アリア:
さて次話は、悪魔編の最終話になるかと思います。
そしてその次に悪魔編の事後処理話。
そこから少し、学園祭までの間にいくつか重ねて、学園祭編に向かうかと思います。
では、またお会いしましょう。


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第47話「魂の牢獄」

Side アリア

 

「よぉ――や「がははははっ。久しぶりやのぉ嬢ちゃん!」ちょ、コラァ!」

 

 

千草さんが何かを言おうとしたらしいですが、大鬼の豪快な笑い声にかき消されました。

本当に久しぶりですね。

それほど時間は経っていないと思うのですが。

 

 

「お久しぶりですね。ええと・・・」

「酒呑や。嬢ちゃんでも飲める酒、持って来たったからのぉ」

「ちょ、勝手に話さんと「アリアは~ん♡」だぁ――っ!」

 

 

今度は月詠さんですか。

なんですか、そのキラキラした瞳。

そんな目で見ても何もしてあげませんよ。

 

 

「アリアはん、アリアはん。うちは信じとったえ」

「一応聞いておきましょうか。何をです?」

「アリアはんなら、きっとロクでもない理由で危ないことし」

「酒呑さん。ちょっとこの子向こうに投げといてくれます?」

「こうかぁ?」

 

 

ごぅんっ・・・轟音を立てて、月詠さんが投げ飛ばされて行きました。

その先には、突然の乱入者に呆然としていたヘルマン卿。

 

 

「ぬぅ、なんだねキミは?」

「アリアはんのいけず~。・・・でも、こっちも斬りがいありそうやね~」

 

 

しばらく、そこで遊んでおいてください。

こっちは状況の整理に忙しいんです。

 

 

「よ、よっしゃ今度こ「ふっふっふ・・・俺は強くなったで!」またか! またうちは後回しか!」

 

 

目を閉じたまま腕を組み、犬耳をピコピコさせながら、小太郎さんが言いました。

話し出す順番でも決めているのでしょうか?

そして千草さんは、なぜ小太郎さんの犬耳を見て、腕をウズウズさせているのでしょうか。

 

 

「俺はここに来るまでに、かなりキツい戦いを経験してきたで!」

「あんたは突っ込んどっただけやろ」

「目に見えるようですね・・・」

 

 

千草さんの言葉に、なんとなく想像してみます。

・・・うん。絶対に突撃してただけに違いありません。

小太郎さんは、ビシィッ、と適当な方向を指さして、目を開いて。

 

 

「さぁ! あの時の決着をつけよーぜネ」

「酒呑さん。この子は向こうでお願いします」

「これでええんか?」

 

 

ごぅんっ・・・と、これまたもの凄い音を立てて、小太郎さんが投げ飛ばされました。

 

 

「なんだお前ワ!」

「新手ですネ」

「うおおぉぉ・・・っと、俺は女は殴ら・・・って、軟体動物やないか! なら問題あらへんな!」

「それって差別~」

 

 

そっちで適当に遊んでいなさい。

たぶん、スライムよりも貴方の方が強いでしょう。

まったく、バトルマニアの方はこれだから困ります。

 

 

「そう言えば、あの方はどうしたんです? ほら、狐のお面をかぶった・・・」

「ああ、茨木のことかいな? あいつは来とらんよ。というかこの姉ちゃん、ワシしか呼べんねん」

「ああ、なるほど・・・」

 

 

そう言えば、京都でも木乃香さんの力を借りていましたね。

あの時は、他にもたくさんいましたが・・・。

一体だけに絞った結果、酒呑さんだけが召喚できたと。

 

 

「・・・進歩したのかしていないのか、微妙な所ですねぇ」

「やかましぃわ! あんたらみたいな化物と一緒にせんといてんか!」

「あら、千草さん。相も変わらず美しい金髪ですね。羨ましい限りです」

「バカにしとるんか!? ・・・まぁ、ええわ。ほら!」

 

 

京都で『バルトアンデルスの剣』を使った際に、適当に若返らせて見たのですが・・・。

なぜか、金髪になったのですよね。

しかもそれを見ていると、妙な気分になるんですよね・・・。

まぁ、とりあえず、千草さんが差し出した風呂敷包みを受け取るとしましょう。

 

 

「・・・言われた通りの物を集めてきたで。薬品、素材、札、鱗に呪具」

「・・・確かに。では受け取っておきましょうか」

 

 

中身を軽く確認して、『ケットシーの指輪』の中に収納します。

・・・さて、これでほぼ揃った。

後は・・・。

 

 

「・・・アリア先生」

「茶々丸さん。ご苦労様です。真名さんは引き受けてくれましたか?」

「はい。任せろとのことです」

 

 

ならば重畳。

さて、後は色々と片付けて帰りましょうか。

別に、村上さんを救い、瀬流彦先生を連れ帰れば終わるのですが・・・。

その前に。

 

 

「・・・軽く、復讐の一つでもやっておきますか」

 

 

 

 

 

Side ヘルマン

 

「うふふふ、うふふふふふふふふ」

「むぅ・・・!」

 

 

なんという邪気だ。これではまるで、人間と言うより我々の側の存在ではないか。

先ほど、似たような太刀筋の人間と斬りあったが、この娘は・・・。

 

 

「にとーれんげき、ざ~んまけ~ん!」

「『悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)』!!」

 

 

退魔の剣は確かに私の天敵だが、圧倒的な魔力と拳圧で距離を取れば問題ない。

相手の刀にさえ注意しておけばよいのだからね。

当たらなければ、どうと言うことはない!

 

 

ばんっ!

 

 

「ぐむ・・・!」

「クスッ・・・」

 

 

右肩が斬られた。

魔力も拳圧も、障壁すらも素通りされるこの剣は・・・!

 

 

「・・・斬魔剣、弐の太刀」

 

 

当たったら、かなり問題なんだがね。

力が制限されていなければ、まだかわせるのだが。

仕方が無い。半身失うつもりで石化させてもらうとしよう。

 

 

先ほどの白髪の少女が、アリア君が来る前に事態を収拾し撤退をせねば・・・。

 

 

「解けなさい。『エクセリオン』」

 

 

瞬間、何か細い物が私の身体の周りを取り囲んだ。

なんだ!?

 

 

「・・・ぬぅん!」

 

 

魔力を込めたアッパーを放ち、それごと頭上に吹き飛ばす。

だがちょうど良い。そのまま頭上が開けたので、このまま飛んで逃げ・・・!

 

 

タァンッ!

 

 

「ぐ、お・・・!」

 

 

何かに胸を撃ち抜かれた。

なんだ!? 銃弾か? バカな、結界内で放出系が効果を発揮するはずが・・・。

 

 

「残念ながら、逃げられませんよ」

 

 

なんとか地面に着地すると、ひゅん、ひゅん・・・と、何かワイヤーのような物を操っているアリア君がいた。

その両側には、緑色の髪の自動人形らしき物と、凶悪な刃物を持っている人形がいた。

 

 

アリア君は何か得体のしれない、薄い笑みを浮かべている。

その笑みは悪魔の私ですらも、何か寒い物を感じた。

 

 

「キミは、本当に人間かね・・・?」

「・・・人間ですよ。決まっているじゃないですか」

 

 

そう言って微笑んだアリア君は、むしろ可憐ですらあった。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「・・・良い銃だね。これは」

 

 

確か、『GNスナイパーライフル』という名前らしいけど。

素晴らしい所は、周囲から集めた魔力で弾丸を作ってくれることだ。

つまり自前だ。これで弾代に悩まされずに済む。

しかも魔力で作られていながら、実弾として発射されると言う便利さ。

一見、普通の弾丸のように見えるだろう。

 

 

ただ、私には少し大きいかもしれないな。

後で少し調整が必要かもしれない・・・おっと。

 

 

タァンッ!

 

 

結界外に逃げようとした悪魔を狙撃する。

並の人間なら追い切れないだろうが、私の魔眼からは逃げられない。

 

 

アリア先生からの依頼は、「悪魔が結界外に出る素振りを見せたら狙撃しろ」と言う物。

まぁ、有り体に言えば、「倒すまで逃がすな」と言うことだろう。

見かけによらず、怖いことを言ってくる人だ。エヴァンジェリンの影響か?

 

 

「何人か見ない顔もいるけど・・・」

 

 

そっちは依頼に入っていないから、放っておいて良いだろう。

こんな良い銃を貰った上に、現物だけど宝石まで貰ってるんだ。

張り切って、仕事をさせてもらうさ・・・お、また上に来たか。

 

 

そう言えば、この銃で狙撃する時に言わなければならない台詞があるらしい。

茶々丸が言っていた・・・確か。

 

 

「・・・狙い撃つ」

 

 

タァンッ!

 

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

な、なんだか状況がややこしくなってきたネ。

見たことのない顔が何人か。

スライムとか言うのを2匹相手に、今目の前で戦ってる犬耳の子もそうネ。

 

 

「あ、あの子・・・」

「知ってんの宮崎!?」

「え、えっと・・・」

「確か小太郎って奴だ! 修学旅行で兄貴と戦ったんだぜ!」

 

 

小太郎と言うアルか。

荒削りながら、良い動きをするネ。我流アルか?

 

 

「・・・仕事デス」

 

 

髪の長いスライムが、水牢のすぐ前に出てきたアル。

そう言えば、もう1匹いたネ。

そのスライムは、髪の部分が液体になったかと思うと、水牢ごと私達を飲み込もうと・・・。

 

 

「・・・いただきマス」

「た、食べる気です!?」

「ゆ、ゆえ~・・・!」

 

 

夕映の言葉が本当なら、かなり不味いネ。

アリア先生は、あっちのおじさんにかかりきりアルし・・・。

他の人間も、それぞれ忙しいネ。

 

 

「ア~・・・へぶっ!?」

「なっ!?」

 

 

食べようと口を広げたスライムが、突然四散したネ。

どこかから飛んできた大きな手裏剣が、スライムを吹き飛ばしたアル。

こ、これは・・・!

 

 

「か・・・」

「・・・うむ。危機一髪でござったな」

「楓!?」

 

 

 

 

 

Side 楓

 

ニンニン。

なかなか危ないタイミングでござったな。

途中から、拙者の出番がないのではと危ぶんだでござるが、そうでもなかったでござる。

どうしてか、古達の場所は守りが薄かったでござるからな。

 

 

「むむ・・・」

 

 

それにしても、アリア先生は不思議な技を使うでござるな。

ネギ坊主が使う物とも、刹那が使う物とも違うでござる。

京都でも拙者、遊びとは言え一撃で倒されてしまったでござるし。

・・・興味が尽きない御仁でござる。

 

 

「楓! 後ろアル!」

「むむっ・・・!」

 

 

先ほど倒したはずの・・・スライム? が、どばっ・・・と、液状になって襲いかかってきた。

人間離れした再生力!

これはっ・・・。

 

 

「おぉらぁっ!」

 

 

と、別のスライムと戦っていたはずの犬耳の少年が、黒い気のような物を腕に纏わせて、拙者に襲いかかろうとしたスライムを再び四散させた。

なかなか、できるでござるな。

 

 

「油断やで! 糸目のねーちゃん!」

「おお、これはかたじけないでござる」

 

 

見れば、元いた位置にも犬耳の少年が。となると、こちらのは分身でござるか。

・・・犬耳の少年が倒したはずのスライムが、また再生したでござるな。

どうも、なかなかにタフな相手のようでござるな。

 

 

「へっ、おもろいやないか。ねーちゃん、下がっとれや」

「・・・ふむ、これは心外。それでは出てきた意味が」

 

 

楓忍法、16分身。

 

 

「無いでござるよ」

「・・・・・・上等ォッ!」

 

 

参る。

 

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「明日菜君! お待たせ!」

「せ、瀬流彦先生!」

 

 

悪魔もスライムもいない今、僕の邪魔をする者はいない・・・って。

なんだかちょっと、いやかなり情けないような。

結局、アリア君来ちゃったしなぁ・・・。

 

 

と、とにかく。

ぶちっ、と明日菜君のペンダントを千切り取って、踏みつぶして壊す。

結界が、壊れた。やった!

 

 

でも、明石教授のチームに合図はできない。

何か、アリア君の知り合いっぽい鬼も巻き添え喰っちゃいそうだし。

 

 

「う・・・瀬流彦君? 状況はどうなっているのかね・・・」

「が、ガンドルフィーニ先生! 休んでなきゃダメですよ!」

 

 

明日菜君の拘束を解こうとした所で、ガンドルフィーニ先生が目を覚ました。

アバラ骨が数本折れてるんですよ!?

 

 

「・・・あれは、アリア君じゃないか。なぜここに?」

「えっと・・・」

 

 

なんて言ったらいいかな?

生徒を守りに? 僕達を助けに? 実際の所わからない。

けど、一つだけ言えることがある。

 

 

「・・・アリア君がいなかったら、僕達、石にされてました」

「それは・・・」

「アリア君が、僕達を守ってくれたんです」

 

 

もちろん、もしかしたら何か他の目的があったのかもしれない。

でも、結果として僕達はアリア君に守られた。

それは、変わらない。

 

 

「・・・ガンドルフィーニ先生、あの」

「何も言わないでくれないか・・・」

「でも、ガンドルフィーニ先生!」

「・・・・・・<闇の福音>は、危険なんだ」

 

 

・・・すみません、ガンドルフィーニ先生。

僕、最近その認識が崩れつつあるんです。

 

 

「でも、アリア君は」

「・・・わかっている。いや、わかっている・・・つもりだ」

 

 

ガンドルフィーニ先生は、指で眼鏡を押し上げると、懐から予備の拳銃を取り出した。

何をするつもりだろう・・・?

 

 

「・・・アリア君を、援護する」

「ええぇ!? でも骨がっ!」

「そんなことを言ってられないだろう・・・それに結界が解けた今、それくらいはできるはずだ」

「・・・私も、行きます」

「刀子先生!?」

 

 

刀を杖代わりに、刀子先生も立ち上がった。

明らかに足に来てるんだけど・・・でも、目がかなり本気だった。

 

 

「・・・あの腐れ悪魔に、せめて一撃当てないことには気が済みません」

「な、何か個人的な恨みでも?」

「別に何も」

「瀬流彦君は、そのまま生徒の保護に当たってくれ」

「え、ちょ・・・2人とも!」

 

 

行っちゃった・・・。

・・・でも、良い傾向かもしれない。

これで少しでも、アリア君への誤解が解けると良いな。

 

 

「あ、あの・・・」

「あ・・・ああ! ごめんごめん明日菜君。忘れてたわけじゃないんだ!」

「は、はぁ・・・」

 

 

どちらにせよ、戦闘で僕が役に立てるとも思えない。

生徒を一人ずつ、保護していこう。それが僕の役目だ。

とは、言っても・・・。

 

 

明日菜君のこの拘束、どうやったら解けるんだろう?

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

アリア先生の指輪型魔法具『ワイヤーリング』と、私の仮面型魔法具『ペルソナ』による連携攻撃、その名も<攻撃:連携・殲滅の舞踏>により、ヘルマン卿を追い詰めていた時。

魔法封じの結界が壊れたようです。

 

 

「アリア先生」

「ええ、気付いています」

 

 

顔全体が覆われる白く尖った狐のような仮面をかぶった私が声をかけた所、アリア先生も気付いていたのか、頷きで返してきました。

 

 

私の仮面の端から幾条にも伸びる無数の白いリボンがヘルマン卿の周囲を取り囲み、時に縛り上げ、時に刺突します。

そしてさらにその大外から、アリア先生のワイヤーが包み込むように展開されます。

・・・アリア先生との共同作業です。

頭の上に乗っている姉さんも、羨ましいですが。

 

 

ただ、どういうわけか、ヘルマン卿はアリア先生には反撃してきません。

そこだけは、評価できるのですが。

しかしアリア先生が敵と定めた以上、私の敵です。

その時、アリア先生が何かを考え付いたのか、周辺を見渡して。

 

 

「チャチャゼロさん。30秒間、前衛をお願いします」

「キリキザンデイイカ?」

「構いませんよ。・・・月詠さん? 一応言っておきますが、離れておいた方がいいですよ」

「え~、アリアはんのいけず」

 

 

ちなみに月詠さんは、ワイヤーとリボンの間隙を縫ってヘルマン卿を斬り続けていました。

まさか私達が操作を失敗することも無いので、間違って攻撃することもありません。

 

 

「・・・あ、でも別にやっちゃってもいいですよね」

「あかんに決まっとるやろ!?」

 

 

アリア先生の言葉に、千草さんが突っ込みを入れています。

このお二人の関係は、あまり良く知りませんが。

ちなみに千草さんは、酒呑さんの肩の上に座っています。

 

 

「『悪魔パンチ(デーモニッシェア・シュラーク)』!!」

「無駄な・・・っ!」

 

 

ヘルマン卿が、悪魔パンチを地面に向けて撃ちました。

地面から巻きあげられた石で、ワイヤーとリボンが一瞬、弾き飛ばされます。

これは。

 

 

「流石に打開策を見つけるのが早い・・・」

「どうするんや嬢ちゃん?」

 

 

酒呑さんの言葉に、ふむ・・・と、アリア先生が考え込んだ時。

 

 

「雷鳴剣!!」

 

 

突如ヘルマン卿の背後に現れた刀子先生が、刀を振り下ろしました。

稲光とともに、大きな爆発が起こりました。

刀子先生は、確か前半の戦いで倒れたはずでは。

 

 

「ぐむううぅぅ・・・!」

 

 

煙の中から出てきたヘルマン卿は、左腕の一部が消えていました。

傷口から、黒い靄もような物が滲み出ています。

一方で刀子先生は、煙が晴れた後、再び倒れていました。

反撃されたのか、力尽きたのか・・・。

 

 

ガァンッ、ガァンッ!

 

 

「ぬうぅっ・・・」

 

 

そのヘルマン卿の足を打ち抜いたのは、銃弾。

発射音からして、龍宮さんの物ではありません。

魔力反応も違います。

 

 

「あれは・・・」

「ガンドルフィーニ先生の物と思われます」

「・・・・・・そうですか」

 

 

アリア先生は、ガンドルフィーニ先生達の真意を図りかねているようです。

私としても、判断が付きません。

悪魔を倒すことを優先した結果なのか、それとも・・・。

 

 

「・・・まぁ、いいです。酒呑さん」

「なんや、嬢ちゃん」

「ちょ、人の式神と勝手に話を進めんといてくれへん?」

 

 

千草さんの言葉を華麗に無視して「ちょお!?」・・・。

アリア先生は、ニコリと笑いました。

 

 

シャッターチャンスです。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

なんや、ようわからんけど力が使えるようになったで!

うっしゃあ!

 

 

「『疾空黒狼牙』!」

 

 

狗神を出して、一気に目の前の軟体動物3匹に叩きつける!

 

 

「・・・当たるかヨ!」

「避けマス」

「簡単だネ!」

 

 

上に飛んで、軟体動物は狗神をかわした。

けどな、そこには・・・。

 

 

「拙者がいるわけでござるな」

「ヌオッ!?」

「「「楓忍法、『四つ身分身・朧十字』!!」」」

 

 

やたら密度の高い糸目のねーちゃんの分身が、3体まとめて攻撃。縛り上げた。

あの分身、俺の分身よりも密度濃いんちゃうか?

とにかく、動きが止まった。今や!

 

 

「今でござるよ!」

「任せとけ! ・・・我流・狗神流!」

 

 

瞬動で飛んで、軟体動物の上に。

気を両手の拳に集めて、練り上げる。

できるだけ大きく、多くの量の気を練って・・・一気に撃つんや!

消し飛ばしたる!

 

 

「『狼牙双掌打』!!」

「ダメ押しに、もう一撃でござる!」

 

 

俺の攻撃と挟みこむ形で、大きな気弾を糸目のねーちゃんが撃った。

ずきゅんっ・・・と、音を立てて、軟体動物の身体が震えた。

何かを打ち抜いた。その感触があった。

挟撃された軟体動物は、そのまま地面に落ちた。

 

 

「・・・どうや!」

 

 

糸目のねーちゃんの横に降りて、軟体動物を見る。

すると・・・。

 

 

「うう、あんなガキどもニ~・・・」

「いやぁ~ん・・・デスゥ」

「まぁ、悪役デスシ・・・」

 

 

黒い煙を上げながら、軟体動物どもは砂になって消えた。

へへ・・・勝ったみたいやな。

 

 

「いやぁ、どうにかなったでござるな」

 

 

おっと、糸目のねーちゃんに礼言っとかんと。

一人でも問題無かったやろうけど、それでも一緒に戦れて気持ち良かったしな!

何よりも、ちゃんと言っとかんと千草のねーちゃんがうるさいからなぁ。

 

 

「えーと・・・助かったわ! 糸目のねーちゃん!」

「そっちは分身でござるよ~」

「・・・へ?」

 

 

ぼむんっ、と音を立てて、目の前のねーちゃんが消えた。

慌てて振り向いてみると、本物のねーちゃん・・・が、おった。

・・・俺に見抜けん分身なんて。

 

 

「・・・ねーちゃん、強いな」

「なんのなんの、お主こそまだ力を隠しているでござろう?」

「げ・・・」

 

 

そこまでバレとるんかいな。

不味いなー、千草のねーちゃんに怒られてまうかもしれん。

さっきも、グラサンのおっさんとかノしてしもうて、エラい怒られたのに。

 

 

「それでは、拙者はクラスメイトを助けに行くでござるよ」

「お、おう・・・ねーちゃん、名前は? 俺は小太郎や」

「長瀬楓でござる・・・ニンニン」

 

 

おお、あれが忍者か・・・。

東には、西に無いもんがいっぱいあるんやなぁ。

 

 

えーと・・・楓ねーちゃんは、なんや4人くらいおる方に行った。

なんか、見覚えのあるねーちゃんがいる気がするけど。

 

 

せやったら、俺は楓ねーちゃんの行ってない方を助けに行くかな。

なんや隅の方で、髪の短いねーちゃんが別枠で捕まっとるし。

うん、そーしよ・・・。

 

 

・・・・・・なんや、忘れとるような気がする。

なんやったかな・・・?

 

 

「・・・あ!」

 

 

ネギはどこや!?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「それでは、お願いしますね!」

「よし来たぁ!」

「せやから人の式神、勝手に使うなて言うとるやろ!?」

「どるぅああああああっ!!」

 

 

いつだったか京都でそうされたように、酒呑さんの棍棒に乗り、空高く投げ出されます。

自分で飛ぶよりも、こっちの方が楽なので。

そのまま、空中でくるり、と体勢を入れ替えまして。

 

 

「・・・アイキャン・フライ」

 

 

魔法具『飛翔する翼』を起動。

空中に足場を作り、そこにずだんっ、と足を付けます。

真下には、チャチャゼロさんを先頭に、集団で攻撃されるヘルマン卿。

 

 

ちらり・・・と、魔力反応を頼りに遠くを見れば、建物の屋根でライフルを構えた真名さんが視界に。

狙いが私で無いとわかっていても、怖いですね。

 

 

左手には黒き魔本、『千の魔法』。

右手には黄昏色の剣、『“姫”レプリカ』。

 

 

『千の魔法』、№60。

 

 

来たれ深淵の闇(アギテー・テネブラエ・アピュシイ) 燃え盛る大剣(エンシス・インケンデンス) 闇と影と(エト・インケンディウム・)憎悪と破壊(カリギニス・ウンプラエ) 復讐の(イニミーキティアエ・デース)大焔(トルクティオーニス・ウルティオーニス)

 

 

ぐぐっ、と力を込めて、真下へ向けて飛びます。

本来なら詠唱する必要はないのですが、これが合図にもなりますので。

 

 

チャチャゼロさんと茶々丸さんがヘルマン卿から離れます。

倒れている刀子先生は、千草さん(というか、酒呑さん)が担いで行きましたね。

月詠さんは・・・まぁ、いいです。何やら「ゾクゾクやわぁ~」とか言ってますので。

京都でも大丈夫だったのですから、今回も死にはしないでしょう。

 

 

我を焼け 彼を焼け(インケンダント・エト・メー・エト・エウム) 其はただ焼き尽くす者(シント・ソールム・インケンデンテース)

 

 

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』を発動。

術式設定を制御します。

 

 

「『奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』!!」

 

 

術式、固定完了。行けます。

続いて、固定した『奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』を『“姫”レプリカ』に付与します。

 

 

「術式付与、完了・・・是、“地獄の焔姫”!!」

 

 

固定した術式が『“姫”レプリカ』に取り込まれた瞬間、魔法の力を付与された刀身が黒い炎に覆われ、周囲の空気を焼きながら燃え上がりました。

闇の、炎。

 

 

相も変わらず、制御の難しい魔法ですね。

・・・でも!

 

 

「こ、これは・・・・・・ぬぉっ!?」

「逃がしません・・・『停止世界の邪眼(フォービトウン・バロール・ビュー)』!!」

 

 

茶々丸さんが左眼に漆黒の片眼鏡を装着、ヘルマン卿の動きを止めてくれました。

あの片眼鏡は、視界内、あるいは視界内の特定の物の時間を止めることができます。

 

 

「はああぁぁぁ・・・・・・っ!!」

 

 

右腕を、『“姫”レプリカ』を、大きく振りかぶって。

皆の・・・仇!

 

 

「・・・・・・ぁぁぁああああっ!!」

 

 

振り下ろしました。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

目が覚めた時、状況が一変していた。

 

 

ガンドルフィーニ先生達がいて。

茶々丸さん達もいて。

小太郎君や、京都で見た剣士の人もいて。

楓さんまで。

 

 

スライムが倒されていて。

そして、ヘルマンは、どうしてかボロボロになっていて。

 

 

僕は・・・?

 

 

そして、この声。

ステージに響くこの声は、呪文の詠唱だ。

でも、誰が?

誰・・・。

 

 

「『奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』!!」

「え・・・」

 

 

空。

空に、人がいた。

それは、見覚えのある顔で。

 

 

「なんで・・・」

 

 

その人を、僕は知っていて。

でも、あんまり好きじゃなかった。

昔から。

 

 

「なんで、アリアが・・・」

 

 

アリアは。

アリアだけは。

アリアだけは、昔から。

 

 

「なんで、アリアが魔法を・・・?」

 

 

アリアだけは、昔から僕に厳しかったから。

 

 

「どうしてアリアが、魔法を使えるの・・・っ!?」

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・トドメを、刺さなくてもいいのかね・・・?」

 

 

身体の7割程が消し飛んだヘルマン卿が、弱々しい声で語りかけてきました。

もう、数分もしない内に魔界に還されるでしょう。

 

 

「6年前も今も、貴方は使われただけ・・・それに、貴方はそれほど悪い人には見えませんから」

「キミは・・・」

 

 

ガンドルフィーニ先生がなぜか眼鏡を取って、目元を拭いています。

瀬流彦先生は・・・あ、まだ明日菜さん達の拘束解けてないんですね。

 

 

茶々丸さんとチャチャゼロさんは、無表情ですね。まぁ、普段からあまり表情の動かない方々ですしね。

そして千草さん、なんですかその胡散臭い物を見るような目。後でお話がありますよ。

月詠さん? ・・・生きてますよ普通に。今は酒呑さんの肩に担がれてます。

 

 

「ふ・・・」

 

 

ヘルマン卿が、どこか温かみのある笑みを浮かべました。

 

 

「ふふははは、アリア君。キミはとんだお人良しだ「なんて、言うと思いました?」・・・何?」

「許す? 貴方を? 誰が? どんな理由で?」

 

 

笑みを浮かべて、ヘルマン卿を見下ろします。

周囲の誰もが固まってしまって動かない中、千草さんだけが「やっぱりな」とか呟いて、しきりに頷いていました。

絶対に後でお話、いえ、OHANASIです。

 

 

「6年・・・6年ですよ? 村の皆が6年間も石にされていると言うのに、貴方をこの一瞬で許せ? 冗談じゃありませんよ。あまりにも不公平です」

「む・・・」

「でも、トドメも刺しません。なぜなら貴方への報復をどうするかを考えるのは、私ではないからです」

 

 

復讐するか、報復するかを考える権利は、実際に石にされた人達が決めるべき。

私一人で決めて良い問題では、ないのですから。

だから。

 

 

「そのカードは・・・?」

 

 

私の手には、牢獄の絵が描かれた一枚のカード。

カードの名前は、『魂の牢獄』。

 

 

「だからそれまで・・・貴方を幽閉します。光も音も届かない、永遠の牢獄へ。泣こうが叫ぼうが、誰にも聞こえない暗黒の牢獄へ。何、大丈夫ですよ。死にはしません。どれほど絶望しようが狂おうが、このカードの中に封じられた魂は傷一つ付かない」

「な・・・」

「さようならヘルマン卿。そしてようこそ、我が牢獄へ」

 

 

カードを向けて、発動ワードを言葉にします。

 

 

「罰ゲーム!」

 

 

カッ・・・と、カードが一瞬輝き、視界を奪います。

そしてそれが収まった後には・・・ヘルマン卿は、影も形も残っていませんでした。

一方で、カードの絵柄が変化しています。ヘルマン卿の絵が追加されています。

まさに音も無く。

ヘルマン卿の魂は、我が手に堕ちました。

 

 

・・・これも、石化解除の役に立つでしょう。

ふふふ・・・さぁて。

忙しくなりますね。夏休みまでには仕上げないと。

 

 

「注意すべきか・・・? いや、でも相手は悪魔だし・・・そもそも、まず謝罪するべきか・・・いや、しかし・・・」

 

 

なにやらガンドルフィーニ先生がブツブツ言ってますが、正直どうでも良いですね。

・・・でも、さっきのことについてはお礼を言うべきなのでしょうか・・・。

 

 

「ぐわはははははっ、相も変わらず元気の良い娘っ子じゃのぅ!」

「やっとることはえげつないけどな・・・」

「うふふ、素敵です~・・・がくり」

 

 

千草さんが明らかに引いている中、酒呑さんだけが、かんらかんらと笑っています。

月詠さんには、もう何も言うことがありません。

 

 

「・・・明日の夕食は、お赤飯でしょうか」

「マダハエーンジャネーカ?」

 

 

茶々丸さんとチャチャゼロさんは、いつもと変わらない対応。

まぁ、まだお赤飯には早いかもしれませんね。

材料が揃ったと言うだけですし。

 

 

「・・・もう少し」

 

 

ネカネ姉様、アリアはもうすぐそちらへ行けそうです。

アーニャさん、必ずご両親を助けてみせます。

待っていてください、スタン爺様、皆。

 

 

紹介したい人達が、いるんです。

 

 

 

 

 

「なぁ~、こっちのねーちゃん助けたってーな」

「こ、こっちも助けてくれると、ありがたいんだけど」

「お、お願い、早く助けて・・・あ、足が・・・」

「・・・拙者の結界破壊も効果がないでござる」

 

 

上から、小太郎さん、瀬流彦先生に明日菜さん・・・なんで長瀬さんがここに?

そして皆さん、比較的真面目に人質を解放しようと頑張っていますね。

ヘルマン卿が消えても魔法が消えないと言うのは・・・石化と同じ原理ですか?

でも水牢はスライムが作ったんですよね・・・?

 

 

・・・というか。

ネギ先生が少し離れた位置から私のことを見てるんですけど。

言いたいことがあるならはっきり言えば良いのに。

 

 

・・・まぁ、良いでしょう。

とりあえず、まずは目の前のことを。できることから少しずつ。

ですよね、シンシア姉様?

 

 

 

 

 

アリアは、助けたい人を助けます。

 




アリア:
アリアです。
快感です。ぶっ放してやりました。そしてヘルマン卿の回収に成功。
悪魔編もようやく終わりです。
あとは原作がどう動こうと知ったことではありません。
お好きになさればよろしい。
うふふ・・・。

今回使用した魔法具は以下の通り。

“姫”レプリカ:剣の舞姫様提案。
(作中の“地獄の焔姫”も剣の舞姫様の許可・提案を受けての物になります)。
ペルソナ:元ネタはシャナ。提供は司書様。
魂の牢獄:元ネタは遊戯王。提供者はhaki様です。
停止世界の邪眼:水色様の提供です。
ワイヤーリング・エクセリオン:提供は景鷹様。
ありがとうございます。

アリア:
次話は、悪魔編の後片付け的な回です。
関係者それぞれが、事件の後始末をするお話。
さて、悪魔編の後、私を取り巻く環境はどうなるのでしょうか?
では、またお会いしましょう。


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第48話「変わるモノ、変わらないモノ」

Side 夏美

 

あれ・・・?

 

 

「あら、おはよう。夏美ちゃん」

 

 

ちづ姉?

目を覚ますと、そこはいつもの部屋で。いつもの朝だった。

あれ・・・私?

 

 

「私、お風呂で・・・」

「ええ、そうよ。のぼせて倒れたんだって、アリア先生が今朝早くに送って来てくれたのよ」

「・・・アリア先生?」

「覚えていないの?」

 

 

覚えて・・・?

う~ん、お風呂場でお湯をかぶっちゃったあたりから、よく覚えてないや。

 

 

「どうしたの、ぼうっとしちゃって。怖い夢でも見たの?」

「ん~・・・そうかも」

「うふ、じゃあ今夜は一緒に寝てあげましょうか?」

「ちょ、もー、子供扱いしないでってば!」

 

 

まったくもう、ちづ姉は。

保母さんを目指してるからなのか、私が子供っぽいからかはわからないけど、すぐそんなこと言っちゃうんだから。

 

 

『目を覚ませばまた、いつもの朝です。教室で元気な姿を見せてくださいね』

 

 

んー? アリア先生・・・?

 

 

あれー・・・?

なんだか、とっても大変な目にあったような気がするんだけど。

夢だったのかな?

 

 

「・・・まぁ、そうだよねー」

 

 

犬耳の男の子とか、いるわけないもんね。

でも、ちょっとカッコよかったな。

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「・・・これが、今回の件の報告書、かね?」

「は、その通りであります」

 

 

ガンドルフィーニ君を先頭に、わしの前に並んでおるのは、今回の件に関わった魔法関係者達じゃ。

明石君、弐集院君、神多羅木君、刀子君、シスターシャークティー、そして、瀬流彦君。

今朝になって、報告書を提出しに来たと言うのじゃが、随分と早いの・・・。

 

 

「・・・侵入してきた悪魔は撃退、攫われた生徒も全員無事、か」

 

 

結果としては、上々じゃの。

わしが知っておる範囲の情報とも、そう違いはない。

ただ・・・。

 

 

「悪魔を撃退したのは、明石君の対悪魔呪文担当チームとなっておるが」

「はい。後で生徒達を褒めてやってください」

「それは・・・まぁ、そうじゃの」

 

 

明石君は、わしの言葉に普通に返してきた。

いや、わしが遠見で見ていた範囲では、対悪魔呪文は発動すらしていなかったような。

 

 

「ネギ君は奮闘したものの、全体には影響を与えず、とな?」

「・・・はい。私達が到着した際には、すでに気を失っていました」

「そ、そうかの・・・」

 

 

刀子君も、普通に返してきた。

ま、まぁ、爵位級悪魔を相手に足止めしたわけじゃから、無駄ではあるまい。

本人にとっても、良い経験になったじゃろうな。

 

 

まぁ、ここまではまだ良い。

ただ、三つ目の報告。これは・・・。

 

 

「・・・アリア君は、一切関与していなかった・・・じゃと?」

「はい。アリア君はずっと自宅にいました。僕が最後に連絡したので、保証します」

 

 

確かに、瀬流彦君を通じて最後に連絡をとった。

そして、「無理でした」と報告されておる。

しかし・・・こやつら。

 

 

「アリア君は、その場に・・・」

「いえ、おりませんでしたな」

「いませんでしたね」

「いなかったと思います」

「来たという話は聞いておりません」

 

 

こやつら・・・。

 

 

「いや、わしが見ていた限り・・・」

「これは不思議ですな。現場におられなかった学園長が、我々の知らないことを御存じとは」

「いや、それはじゃの・・・というか、わかっておるじゃろ?」

「いいえ、皆目見当が付きませんな」

 

 

こ、こやつら・・・。

 

 

「あ、アレじゃないですか? 遠見の魔法で」

「遠見・・・となると、生徒が危害を加えられそうになっていた所も、見ていたと」

「葛葉達が倒された時も、ただ見ていたわけだな」

「・・・いえ。組織のトップが軽々に動いてはならないことは、重々承知していますから」

「しかし、犠牲を強いるというのは、主の教えに反する行為です」

「いやぁ、学園長に限って、そんなことはないでしょう」

「弐集院先生の言う通りですよ。学園長に限って、まさか!」

 

 

こやつら、普通に虚偽の報告を上げてきておるううううぅぅぅぅぅっ!!!!

 

 

し、しかも、「見ていた」とは言えない雰囲気・・・!

ひ、一晩でここまで変わるとは。

こ、これはわし、かなり不味い状況なのではないじゃろうか。

タカミチ君が出張でいないのが、せめてもの救いか。

 

 

「・・・まぁ、その件はともかく。学園長」

「ほ?」

「折り入って、ご相談したいことがあります」

 

 

そういって、ガンドルフィーニ君達は、懐から白い封筒を取り出した。

な、何か嫌な予感が・・・。

 

 

「私達はこのまま、貴方の下で働くことは難しいと感じておりまして」

「ほ?」

「今指導している生徒が手を離れ次第、我々は職を辞させていただきたいと思います」

「ほ、ほおおぉおぉ!? そ、それは困るぞい!?」

 

 

麻帆良の戦力が、半減してしうまう!

そ、それは、非常に不味いぞい・・・。

 

 

「無論、学園長にも都合がおありでしょう。幸い指導を始めたばかりの生徒も多いので・・・最大3年ほどは、これまで通りに勤めさせていただきます」

「ど、どうしてもかね?」

「我々も、命は惜しいので」

 

 

ふ、ふぉおお・・・。

し、しかし、それは困るぞい。

色々と、予定が変わってしまうわ。

 

 

「3年もあれば、新規で人を雇うなり、本国から融通してもらうなりできるかと」

「僕達も、新しい職を探すこともできますし」

「わ、私はけ、結婚・・・とか」

「私は、このまま大学の教授職を本職にしようかと」

「明石教授は、手に職あるから良いですよねー」

「シスターシャークティーは、どうなさいます?」

「私は元々、教会の仕事の収入で暮らしていけますので・・・」

 

 

・・・ま、不味いぞ。本気じゃ、こやつら・・・。

ガンドルフィーニ君などは、マギステル・マギを目指しておるはずでは・・・。

・・・まぁ、ここでなくとも、目指せるのじゃが。

 

 

本国か・・・。

今、麻帆良など旧世界の魔法学校の管理、統率を任されておるのは、確か。

メガロメセンブリア元老院議員・・・。

 

 

クルト・ゲーデル氏。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

ネギが、もの凄く落ち込んでいる。

今も、座り込んだまま動かない。

 

 

「ね、ネギせんせー、大丈夫でしょうか・・・?」

「そうね・・・っていうか、本屋ちゃん達は大丈夫なの? その、色々と・・・」

 

 

今回も、というか、今回は本当に危なかった思う。

一歩間違えれば・・・先生達が来てくれなかったら・・・。

 

 

「・・・わ、私は、それは怖いなーって思いましたけど・・・でも、大丈夫、です・・・」

 

 

着替えに部屋に戻ったんだけど、ネギは戻ってこなかった。

授業あるのに・・・と思って来てみれば、本屋ちゃん達も来てた。

なんというか、本当にネギのことが好きなのねー。

 

 

夕映ちゃんは、本屋ちゃんが心配って感じだけど。

今もほら、難しい顔して・・・って。

 

 

「ど、どうしたの、夕映ちゃん・・・?」

「え・・・いえ、今さらながらに、考えさせられていると言うか・・・」

「へ・・・?」

「・・・でも、のどかが・・・」

「え・・・私ー・・・?」

「・・・いえ、なんでもないです」

 

 

黙り込んじゃった・・・。

朝倉はどうだかわかんないけど、くーふぇも、ネギに何も言わずにどっか行っちゃったし・・・。

アリア先生は、村上さんだけ連れて行っちゃうし・・・。

・・・楓ちゃんと、どうしてか来た龍宮さんは、アリア先生について行ったけど。

 

 

ネギは、自分のことで一杯一杯だし。私だって・・・。

これから、どうなっちゃうんだろう・・・。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

どうして・・・。

どうして、アリアが魔法を使えるの・・・?

 

 

アリアは、魔法が使えないって、自分で言ってたのに・・・。

 

 

・・・アリアは、魔法が使えないことで有名だった。

魔法学校の生徒の中で、魔法が使えないなんて、アリアくらいだった。

最初に聞いた時は、驚いて・・・可哀そうだと、思った。

 

 

父さんみたいに、なれないと思ったから。

 

 

それが、いつからかな・・・すごく、鬱陶しく感じるようになったのは。

 

 

魔法学校に入りたての頃、少しは同年代の子供と遊ぶように言ってきた時かな。

勉強したかったから、そんな暇なかったけど。

・・・アリアは、いつも誰かしらと一緒にいた気がするけど。

 

 

アーニャに手伝ってもらって、禁呪書庫に忍びこんでるって知られた時かな。

アリアにバレた次の日からは、アーニャが来れなくなって・・・。

すごく、喧嘩したのを覚えてる。

結局、僕一人で忍びこんでたけど。

 

 

麻帆良に来てからは・・・はっきりと、仲が悪くなった気がする。

そういえば、最近、兄様って呼ばれなくなったような・・・。

呼ばれ方なんて、気にしたこともなかったけど。

 

 

京都でも。そして、昨日の夜も・・・。

アリアは、いつも僕が理解もできないようなことをしていたけど・・・。

昨日のは、一番だったな・・・。

 

 

「あ、兄貴ー・・・」

「ごめんカモ君、もう少し一人にして・・・」

「いや、でもよー・・・」

 

 

それに・・・。

 

 

『・・・え? 私は村上さん以外の方は、助ける気ゼロですよ?』

『あ、楓さんは拾っていきましょうか(「拙者でござるかー?」)』

『明日菜さん達? ネギ先生の従者その他を、どうして私が面倒見なくちゃいけないのですか』

 

 

それに・・・。

 

 

『第一、この魔法具だってタダじゃないんです』

『だってこれ、私の自作ですから。欲しいなら金払えです。500万くらい』

 

 

「・・・・・・っ」

 

 

僕は・・・。

僕は、どうすれば良いの・・・?

 

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

な、なんだろうこの状況は。

今、僕は学校の屋上に呼び出されているんだけど・・・。

 

 

「瀬流彦先生、食べないんですか?」

「あ、ああ、うん・・・」

 

 

アリア君、ここでその気遣いはかえって厳しいよ。

重箱に詰められた卵焼き、おにぎり、野菜にお肉・・・。

つまり、この状況を一言で言うなら。

 

 

昼食にお呼ばれしていた。

 

 

「なんだ、私の食事が食えんというのか?」

「でもこれ、茶々丸さんが作ったのですから、むしろ茶々丸さんの食事ですよね」

「メイドイン、茶々丸さんです」

「アリア、お前な・・・あとさよ、それは何か違うぞ」

「え・・・あ、これ、絡繰君が作ったんだ。すごいね」

「恐れ入ります」

 

 

絡繰君は、座ったまま頭を下げてきた。

ちょっと遠慮しつつ、一口食べる。

・・・うん、すごく美味しい。

 

 

「これなら、毎日食べたいくらいだよ」

「なんだ貴様、来て早々に茶々丸を口説くとは良い度胸だな。アア?」

「ぶふっ・・・い、いやそういうつもりじゃ」

「エヴァさん。昼間から血の花咲かそうとしないでください」

「・・・ちっ、夕食に招くべきだったか」

 

 

え、何それ。夜だったら僕、殺されてたの!?

・・・夕食には誘われても行かないようにしよう。僕は固くそう誓った。

でも、そんな機会があったら怖くて断れないんだろうなぁ。

 

 

「そう言えば、千草はどうした」

「千草さんは、月詠さんと共に学園長に挨拶に。なんでも、西の長から連絡を受けたようで」

「なんで茶々丸さんが知っているんですか?」

「私が一番、まともそうだとのことで」

「・・・千草さんめ」

 

 

さっきから話題に上っている千草というのは、あの鬼を使役していた陰陽師の人のことかな。

あの犬耳の子供、神多羅木先生を突破してきたらしいし。

その意味でも、一度話してもらう必要があるからね。

 

 

でも、あの人達、京都では敵だったんだよね。

それが今や、一緒に悪魔と戦った仲だって言うんだから、人生何が起こるかわからないよね。

その時、アリア君が、あふっ・・・と、欠伸をしていた。

 

 

「アリア先生、眠そうですねー」

「え・・・あ、そっか。アリア君、寝てないのか!」

「瀬流彦先生もでしょう?」

 

 

いや、僕とキミとじゃ意味が違うと思うんだけど。

本当に、アリア君は、なんというか・・・。

 

 

・・・あの後、関係した魔法先生、皆で話した。

今回の件を、学園長にどう報告するか。

 

 

一番の問題は、アリア君をどう扱うかだった。

アリア君は村上さん以外は助けなかったから、ガンドルフィーニ先生はあまり良い顔をしてなかったし。

正直、揉めなかったとは、言わない。

 

 

ただ、アリア君のおかげで事件が解決したのも確か。

それに、アリア君に近付かないようにと命じていたはずの学園長が、いざとなったらエヴァンジェリンに助けを求めたと言うのも、マイナス要因だった。

関西との関係とか、悪魔の情報のこととか、色々あったし。

 

 

少なくとも今の体制のままで働く気には、なれないみたいだ。

今回の件は一歩間違えれば、誰かが死んでた。

というか、僕がまず死にかけてる(石になる所だった)。

それも、一般人の生徒を巻き添えにして。

 

 

学園長が今の考えを改めてくれない限り、僕達は・・・。

いや、話が逸れたね。

結局、アリア君本人が去り際に言った言葉が、通ることになった。

 

 

『主人に怒られますので、いなかったことにしてください。その方がそちらも好都合でしょう?』

 

 

ガンドルフィーニ先生達は、どうしてアリア君が表に出て行こうとしないのか、不思議そうだったけど。

僕にはなんとなく、わかる気がする。少しだけ。

いつだったか、エヴァンジェリンも言っていた。

 

 

『ぼーやからアリアに乗り換える気か?』

 

 

乗り換える・・・うん。嫌な言葉だ。

嫌な言葉は、けしてなくならない。

それに、ネギ君のこともあるし。

 

 

アリア君が魔法を使える、なんて話が公になったら・・・。

 

 

「・・・瀬流彦先生?」

「え・・・ああ、うん、何?」

「予鈴、鳴ってますよ。早く行きませんと」

「え・・・ええ!? あ、本当だ!?」

 

 

アリア君に言われて、初めて気付いた。

い、いっけね。遅刻なんてしたら新田先生にどやされちゃうよ。

 

 

「エヴァさんはどう・・・あ、サボりですか」

「ちょっと待てさよ。お前の言動には気になる部分がある」

「えー、じゃあ、授業出るんですかー?」

「サボるに決まってるだろうが。あんなかったるいもん出てられるか!」

 

 

・・・生徒が「サボる」発言をしているのに注意できないって、なんだかなぁ。

命が惜しいから、絶対にしないけどさ。

 

 

「あ、でもアリア君、寝て無いんだよね。大丈夫?」

「大丈夫ですよ。むしろ、この偏頭痛が心地よくて」

「「いや、それはダメだろう(でしょ)!!」」

 

 

・・・あ、エヴァンジェリンとハモっちゃった。

ガンドルフィーニ先生が聞いたら怒るかな。

いや、そもそも信じてくれないだろうな。

 

 

あの<闇の福音>が、こんなに普通の生活をしてるだなんて。

 

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

まったく、アリアめ・・・。

私は今日、学校ごとサボろうと思っていたのに。

 

 

「・・・ああ、ちょっと待て瀬流彦」

「え・・・な、名前で呼ばれた!?」

 

 

なんだ、私が名前で呼んだら問題なのか。

やはり、ポンコツのままで良かったかな・・・。

 

 

「・・・これを持っていけ」

「えっと・・・これは?」

「私の秘蔵の酒の一本だ。特別に分けてやる。新田とか言う教師とでも飲むが良い」

「わ、わわっ・・・」

 

 

瀬流彦に投げ渡したのは、カゴシマ産の芋焼酎。その名も『魔王』。

一時期に入手が困難になった、幻の名酒だ。

 

 

「えっと・・・どうしてこんな物を僕に?」

「別に理由など、どうでも良いだろう」

 

 

なんとなく、くれてやりたい気分になったんだよ。

他の教師連中のことは知らんが、貴様や新田とか言うやつの名前は、アリアから良く聞くんだ。

しずなとか言う女の名前も、割と聞くがな。

 

 

「・・・なんだ。ヘラヘラと笑いおって」

「え、ああ、ごめん。たださ・・・」

「ただ、なんだ」

「アリア君のこと、大事に想ってるんだなぁって思って」

「黙れ。殺すぞ」

「ごめんなさい!? え、でもなんで!?」

 

 

急にアタフタしだした瀬流彦を見つつ、上から下までジロジロと観察する。

・・・ふん。こいつはやはりポンコツで十分だな。

 

 

実際、私にとってはどうでも良い人間なんだがな。

まぁ、アリアの同僚となれば、話くらいはしてやってもいいさ。

ただ・・・。

 

 

「・・・今度、アリアや茶々丸を口説いたら首を飛ばすからな。当然、さよもだ」

「しないよ!? 立場を考えてよ!」

 

 

どうだかな。

まぁ、さよに手を出した場合、私よりも先にバカ鬼が制裁に行くかもしれんがな・・・。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

いや、昨日は良い夜だった。

最初は、学園長のあの後頭部を撃ち抜いてやろうかと本気で悩んだ物だが・・・。

最終的には、黒字になったからな。

 

 

やはり、報酬をきちんと払ってくれる人間は良い。

こちらも気分良く、仕事ができると言う物だ。

 

 

「いやぁ~、昨夜は大変だったでござるな」

「ふふ、お疲れだな、楓」

「真名こそ、眠くはないでござるか?」

「そう言う楓も、眠くなさそうだな?」

「ニンニン」

 

 

まぁ、楓なら一日や二日寝ていなくても、問題無いだろう。

ちなみに事件の後、アリア先生に仕事の報告に行ったら、楓もそこにいた。

だから、楓は私が昨夜の件に関わっていることを知っている。

 

 

ちなみに、私の知っている「昨夜」と、楓が記憶している「昨夜」はおそらく微妙に違うはずだ。

アリア先生から説明を受けた上で、楓は昨夜の記憶を消されて・・・というより、書き換えられている。

確か、なんとかと言う本だったかな。それを使っていた。

 

 

楓は、基本的な記憶はそのままだが、「魔法」に関する記憶は持っていない。

例えば、あの悪魔のことは「普通の暴漢、誘拐犯」ということで記憶している。

もちろん、事件に協力したことは覚えているし、関係した人間の顔も覚えている。

だが、「魔法」に関する部分だけは違う。

「銃」や「普通の拳」や「爆弾」として記憶している、らしい。

村上については、良く知らないが・・・。

 

 

本当なら全ての記憶を消す所を、「できれば、自分が何をしたかは覚えていたい」という楓の願いを入れて、アリア先生が調整した。

そこまで器用に記憶を操作できると言うのは、正直、怖いくらいだ。

 

 

なので、私としても会話に気を遣う。

まぁ、報酬さえ払ってくれれば、何も文句はない。

記憶操作の協力料、餡蜜10杯・・・。

 

 

「・・・む?」

「どうしたでござる?」

「いや・・・」

 

 

何か、視線を感じる。

・・・教卓の前から、ネギ先生がこちらを見ていた。

そう言えば、次は英語だったか。

 

 

「はい、授業ですよーって、何をやってるんですか、ネギ先生?」

「え、あ・・・っ」

 

 

すぐにアリア先生が来るが、ネギ先生はアリア先生の顔を見て、顔をしかめた。

アリア先生はにこやかに笑いながらも、「?」と、頭の上に疑問符を浮かべている。

 

 

あれは絶対、わかっていてやってるな・・・。

ネギ先生の「らしくない」変化に、教室内が、にわかにざわついた。

 

 

いずれにせよ、良くない兆候だ。

目当ては私か、それとも楓か・・・。

頼むから面倒は起こさないでくれよ、ネギ先生。

 

 

クライアントに報酬の上乗せをせびるような、無様なことはしたくないんだ。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

おお、おお~・・・。

なんというか、面倒そうな空気出してるね~、あそこ。

 

 

ゆーな達なんかは、「ケンカ?」とかなんとか言ってるけど、あれはちょっと違うよね。

ネギ君が、一方的にアリア先生に何かを感じてるって所かな。

実際、アリア先生はいつも通りに接してるわけだし。

 

 

ネギ君ねー・・・英雄の息子様だかなんだか、よく知らないけど。

面倒事だけは、勘弁して欲しいね。

これまで通り、無関係でいることにしますか。

 

 

アリア先生は・・・うん、いいや。

少なくとも、面倒を持ってこないだけで、私にとっては良い人だよ。

 

 

クラスの連中の雰囲気も、一晩でガラリで変わっちゃったね~。

 

 

明日菜は・・・うん、普通に心配って顔。

本屋は・・・うん、恋する乙女だ。私に関係しない所で頑張ってー。

ゆえ吉は、むしろその本屋を心配してる感じ。

朝倉は、「あちゃー」みたいな顔してる。いつもと同じか・・・ちょっとテンション低め?

くーちゃんは・・・何か難しい顔で、ネギ君を見てるね。くーちゃんが真面目に考え事って、珍しい。

 

 

桜咲さんは、何か平静だね。我関せず、そんな感じ。

木乃香は・・・関西のお姫様って聞いただけでビックリだよ。でも最近、笑顔が怖い。

龍宮さんは・・・私とおんなじ? 「面倒事は勘弁」って顔だ。

 

 

他にも、いろいろ・・・明らかに様子のおかしいネギ君を見て、ざわざわしてる。

いいんちょ、「南の島に!」とかはやめた方が良いと思うよー。

 

 

・・・まぁ、いいや。

私には、関係のないことだもんね。

 

 

これまで通り、無関係でいさせてください、まる。

・・・あ、「まるまる」になっちゃった。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「失礼しますえ」

「どうも、神鳴流です~」

「・・・どーもやで」

 

 

夕方、月詠はんと小太郎を連れて、東の長の所へ来た。

確か、近衛近右衛門とか言う名前やったかな。

強硬派の中には、東に走った裏切り者なんて言う人間もおるけど。

 

 

本当なら、昼までには来るつもりやったんやけど。

今回の件を西の長に知らせたら、そのまま待たされてしもうた。

どうも、組織としての対応をしとったらしい。

 

 

「おお・・・これはこれは、ようこそ麻帆良へ。関東魔法協会理事、近衛近右衛門じゃ」

「関西呪術協会から東への暫定大使、天崎千草どす」

「え~と・・・骨と皮ばっかりで斬りがい「ていっ!」ぐ~・・・」

「なんや、弱そうなじーさんや「ちょいやっ!」ぐが~っ・・・」

 

 

月詠はんと小太郎の額に札を貼って、眠らせた。

初対面で何を言うつもりやったんやこの子らは・・・。

特に小太郎は、あのネギとか言う子が塞ぎこんでしもてて、相手にされんで拗ねとるからな・・・。

 

 

「ほ・・・か、彼女らはどうしたのかの?」

「さぁ? 長旅で疲れたんとちゃいますやろか」

 

 

ちなみに、気付いてもらえたやろか。

うちのここでの名前や。

 

 

天ヶ崎 (あまがさき)→ 天崎 (あまざき)。

 

 

若返っとるし、髪の色も変わっとるし、大丈夫やと思うけど、念のために少し名前を変えといた。

どこかから、うちの名前が漏れとるかもしれんしな。

 

 

そして、肩書き。

暫定大使。

来月くらいに、関西から正式な大使が来るまでの「繋ぎ」や。

月詠はんと小太郎は、うちの付き人というか、補佐みたいな形になる。

補佐・・・。

この二人が、うちの補佐・・・?

そんなん。

 

 

「無理に決まっとるやろが!!」

「ほ、ほぉ!? そ、そこまで無理なことは書いとらんと思うんじゃが・・・」

「え、あ! い、いや、なんでもないどす」

 

 

ほほほ・・・と、笑ってごまかす。

あかんあかん、つい声に出してしもうた。

 

 

近右衛門はんは、西の長、詠春はんの言葉を、うちが文章にした手紙を読んどる所やった。

本当はここに来るまでに渡された手紙があったんやけど、今回の件を報告したら、急遽内容を変更することになったんや。

 

 

まぁ、内容をまとめると・・・。

 

 

「あんまり舐めた態度とっとると、いてまうどゴルァ?」

 

 

・・・やな。ちなみに冒頭のこの部分を読んだ段階で、近右衛門はんの顔が青くなっとった。

まぁ、アリアはんらから聞いた話やと、木乃香お嬢様に気を遣ってくれとるようには思えへんしな。

先月末に、誘拐したうちが言えた義理やないけどな。

 

 

後は、まぁ・・・色々やな。

関西側が今回の件を問題にせぇへん代わりに、東にはちょいと骨を折ってもらおうて腹や。

 

 

「・・・しかし、この件は本気かの?」

「本気も本気、かなり本気みたいですわ」

 

 

詠春はんも、ようやるわな。

このじーさんが断れへん状況を作っといて、ちょっと頑張れば通りそうな要求をするんやから。

 

 

西洋魔法使いの言う「本国」。

えーと・・・「連合」やったかな。

そこに・・・。

 

 

「本国に、関西呪術協会の出張所を作るというのは・・・」

「何分、こっちはそっちのツテはないんで・・・そちらの協力が必要やそうで」

 

 

ちなみに、うちはここの暫定大使職が終わったら、その出張所の所長になる予定や。

まずはここで。

ここであかんかったら、西洋魔法使いの元締めの所へ。

 

 

親の仇を探す言うのも、なかなかしんどいわ。

まぁ、元々そういう条件で、詠春はんの使いっ走りみたいな役目を引き受けたんや。

 

 

待っとってや、お父はん、お母はん。

うちは、いつか仇を討って、墓前に報告に行くからな。

 

 

・・・にしても、長い後頭部やなぁ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ヘルマン卿の件で何か追及があるかと思えば、特にありませんでした。

終業時間まで、呼び出しも無し。

他の先生方が、思ったよりも私の意見を通してくれたのかもしれません。

拍子抜けとは、このことですか・・・。

 

 

「あふっ・・・」

「人が見てるぞ、先生?」

「・・・これは失礼」

 

 

欠伸をしてしまった所、エヴァさんに注意されました。

確かに、はしたなかったかもしれませんね。

油断大敵。まだ、今日が終わったわけではないのですから。

 

 

今は、エヴァさんや茶々丸さん、さよさんと一緒に、学園長室へ向かっています。

目的は、2つあります。

 

 

一つは、千草さん達を迎えに。

この時間には学園長の所へ行くと、お昼頃に連絡がありましたから。

 

 

いろいろとお話もしたいですし。

手伝って欲しいことも、無いでもありません。

なんなら、髪の色を戻して差し上げても良いですし。

スクナさんと酒呑さんのコンビにも、多少興味がありますし・・・。

式神召喚の練習に、木乃香さんに茨木さんの召喚をさせてみてもいいかもしれません。

 

 

そして、2つ目は・・・。

 

 

「・・・それで、今度はどんな悪いことをするんですか?」

「人聞きの悪いことを言うなアリア。私は正当な対価をもらいに行くだけだ」

「エヴァさんって何かしましたっけー?」

「さよさん。マスターは全力でうたた寝をしておりました」

 

 

全力でうたた寝。

それはそれで、なんだかすごいような、すごくないような・・・。

 

 

「私の従者をタダで使えると思うのか? せいぜい、ふっかけてやるさ」

「即答で断っていたくせに・・・」

「結果が全てだよアリア。そうだろう?」

 

 

まぁ、結果として・・・私は学園長の願いを叶えてしまったのですよね。

その意味で、ご褒美を強奪に行くと言うのも悪くありません。

ふっかける、と言うと・・・。

 

 

「500万くらい?」

「・・・なんだその額は」

「・・・忘れてください」

 

 

いえ、なんとなく覚えている数字でして。

私としたことが、照れます。

 

 

「・・・シャッターなチャンスです」

「茶々丸さん、最近良く言いますねー。それ」

「では・・・狙い撃つぜ?」

「それも何か違うと思います」

 

 

後ろの2人はともかく。

いざ到着、学園長室。

 

 

中からは、千草さんの話し声が聞こえてきます。

そんな中、エヴァさんは両手を腰に付け、胸を張って、迷うことなく・・・。

 

 

扉を蹴破りました。

 

 

「じじぃ! 後頭部の手入れは十分か!?」

 

 

・・・なんですか、その掛け声。

 

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「・・・そう、ヘルマン卿は失敗したの」

『ハ・・・どういうわけか、魂を回収できませんでしたので』

 

 

申し訳ありません、と、調君が謝ってきた。

まぁ、調君のせいではないから、別に謝らなくても良いんだけど。

 

 

それにしても、魂を回収できなかったというのは不思議だね。

 

 

「・・・死んだの?」

『いえ、魔界の序列に変動は無いとの報告があります』

「生きているってことか。まさか、麻帆良にまだ留まっているわけでも無いだろうけど・・・」

『召喚師によると、肉体は滅んだとのことで・・・』

 

 

肉体は滅んだのに、魂は戻っていない?

そんなケース、聞いたこともない。

 

 

それに・・・。

 

 

「・・・キミは、今度麻帆良に出向するって?」

 

 

僕は今、関西呪術協会の一室にいる。

警備が厳重になってはいるものの、協力者がいる僕は、いくらでも出入りできる。

まぁ、その協力者は「完全なる世界」の工作員が成り代わった者だけどね。

 

 

問題は、僕が配したその協力者が、麻帆良に大使として就任するってこと。

西条とか言う、名家ではないけど、強硬派の若者に影響力のある存在なんだけど。

そんなキミを、東へやると言うのは・・・。

 

 

『・・・フェイト様?』

「少し、静かに・・・いろいろと考えてるから」

『ハ・・・』

 

 

表向きには、西の失地回復がどうとか、やる気のある若者を西洋魔法使いの所にやって、関西の力を誇示する目的なんだろうけど・・・。

 

 

近衛詠春は、「紅き翼」としての人脈を甦らせつつある。

連合のリカード元老院議員、アリアドネーのセラス総長、帝国のテオドラ皇女・・・。

その他にも、魔法世界での自身の人脈を駆使している。

彼は、公的な世界では顔の広い方だからね。

 

 

さらに言えば、クルト・ゲーデル元老院議員と公的に接触しようとしているらしい。

最初に聞いた時はまさかと思ったけど、「紅き翼」の中で彼だけは、剣術の師弟として、季節の便りを交わす程度の付き合いは残していたと聞いている。

 

 

それが功を奏しているかは微妙だけど、帝国はすでに前向きな返答をする予定だと報告を受けている。

となれば、連合も帝国への対抗上、なんらかのことはするだろう。

それが全て上手くいったとすると・・・。

 

 

「・・・ねぇ、調君」

『は、はい・・・』

「・・・関西の強硬派が分散して遠方に追いやられたとして、僕達がそれらを覆すべく手を打って戻ってきた時にはもう、近衛詠春は組織をまとめてしまっているよね」

『ハ・・・おそらくは』

「そうなると・・・彼の暗殺や失脚は、無理か・・・」

 

 

今でさえも、出入りはできても近付けるわけじゃない。

残った穏健派や中庸派は、元々近衛詠春の支持層だ。

いざという時の保険に、麻帆良への牽制の駒が欲しかったんだけど・・・。

 

 

それにしても、あの腑抜けていた近衛詠春が、ここまでの積極策を打ってくるとは思わなかった。

まさか、今さら娘の帰る場所を確保しようとでもしているのか?

いや、そんなことでここまで徹底的にはやらないだろう。

 

 

誰かの入れ知恵か・・・?

一番最初に思い浮かぶのは・・・。

 

 

「・・・・・・アリアか?」

『は? 誰ですか?』

「キミは、気にしなくて良い」

『はぁ・・・』

 

 

まさか、考え過ぎだろう。

アリアは別に、関西に影響力があるわけじゃ・・・・・・。

・・・いや、スクナの本体を確保していたな。それに近衛のお姫様も・・・。

これ以上ないほどのカードを、彼女は握っている。

 

 

そうなると、ヘルマン卿の魂についても、アリアか?

ヘルマン卿には、アリアには無抵抗でいるように命じさせていたから、あり得ないことじゃない。

魂が還らないのも、アリアの力だとすれば、どうだ?

 

 

「・・・・・・・・・よそう」

 

 

流石に、考え過ぎだろう。

今は、今後のことを考えるべきだろう。

 

 

「それで、キミが麻帆良に行くのは・・・」

 

 

辞令の紙を手に取り、日程を確認する。

麻帆良への赴任は・・・。

 

 

「・・・6月の19日」

 

 

この時期は、確か。

以前、麻帆良に行った際に広告を見た覚えがある・・・。

 

 

「・・・・・・麻帆良祭の、前日か」

 




アリア:
アリアです。
とりあえず、悪魔編はこれでほぼ、完全に終了です。
これからは、緩やかに次章に続いていくことでしょう。

作中で出てきた「魔王」は、黒鷹様の提供です。
ありがとうございます。

アリア:
次話からは、緩やかに学園祭編へと話を進めつつ、各生徒主体の番外編がいくつか続きます。
時系列は、悪魔編終了から学園祭まで。
基本的に、本編の要素が強い番外編となります。
では、またお会いしましょう。


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番外編③「明石裕奈」

Side 裕奈

 

「・・・ほっ」

 

 

フライパンの上の目玉焼きを、形を崩さないようにお皿に乗っける。

これが意外と難しい。

慣れてないと、真ん中ががぐしゃっとなっちゃうからね。

後は、サラダを添えて、っと。

 

 

ちなみに今、私が何をしているかと言うと・・・。

 

 

「はーい、卵できたよ、お父さん。あと野菜スープと果物ジュース出るからね」

 

 

お父さんに朝ご飯を作ってあげています。

 

 

「おお~、こりゃ、久しぶりに豪勢な朝食だね!」

「は・・・これで豪勢?」

 

 

卵にサラダ、スープとパン。お手製の果物ジュース。

そこまで言うほどのメニューじゃないと思うんだけど?

 

 

「お父さん・・・普段、何食べてるの?」

「レトルトカレーのチンしないやつ」

「レトっ・・・却下! 少しは健康とか気にしなさい!」

「美味しいんだよ? 冷たくて」

「ダメ――――っ!」

 

 

ほんっとにもー、お父さんは!

私がいないと、本当にダメダメなんだから。

 

 

「ごめんね。今月は一回しか来てあげられなくて」

「いやぁ、テスト前だし、仕方ないよ。しっかり勉強しなさい」

「はぁ~い」

 

 

うふふ、それでもお父さんは、「来ちゃダメ」とは言わないんだよね。

こういう時、お父さんが何気に甘いのを、私は知ってるんだ♪

 

 

お父さんは、大学の教職員用の部屋に住んでる。

私もたまにここに泊まって、お父さんの面倒を見てあげてるんだ。

 

 

まぁ、テスト直前の土曜日に何やってんだって話もあるけど。

ちなみに、テストは月曜日。

・・・ちゃんと勉強はしてるよ?

先生やってる親に、つきっきりで勉強を見てもらう。

うん、何も間違ってないよね。

 

 

「それにしても、また料理が上手になったね。ゆーなは」

「えへへ~、そう?」

「うん。・・・これなら、良いお嫁さんになれるよ」

「お嫁さんなら、お父さんのお嫁さんが良いなー♪」

「ぶふぅおっ!?」

 

 

お父さんが、突然むせ始めた。

し、失礼な・・・。

 

 

「げっほ・・・ゆーな、そういうのは小学生までにしようね」

「ちょっ・・・なんで引くかな!? 一人娘がこんな可愛いこと言ってるんだよ!?」

「いや、でもなー・・・」

「ちょっと―――っ!!」

 

 

なんでそんな反応になるかなー。

お父さんの面倒だって見れるし、良いと思うんだけど。

 

 

もうちょっとこう、喜んでくれてもいいじゃない。

 

 

 

 

Side 明石教授

 

ゆーなは、月に何度か僕の面倒を見に来てくれてる。

できれば、学校からも遠いし、面倒をかけたくないんだけど・・・。

 

 

言っても聞いてくれないから、困ってる。

まぁ、なんだかんだで側に置いておきたいと思ってる僕も、問題なんだろうけど。

 

 

「ほら! 早くヒゲ剃って来る!」

「あはは、はいはい」

 

 

服のこととか、掃除とか洗濯とか、身の回りのことを口うるさく言う姿は、見てて飽きない。

顔立ちも、段々と母親に似てきて・・・。

 

 

・・・ゆーなの母親が、夕子が亡くなって、もう10年か。

夕子が今のゆーなを見たら、どう思うかな。僕を見たら?

どうしてか、最近はよくそんなことを考える。

 

 

ゆーなには魔法に関わって欲しくないと思いながら、僕自身が魔法先生なんて職業をやっている。

その矛盾に、目を向けるようになったからか。

それとも最近になって、麻帆良も安全じゃないと感じ始めたからか・・・。

 

 

「おとーさーん、電話――っ」

「・・・あ、ああ!」

 

 

いけない。ヒゲを剃る途中で固まってた。

仕事関連の電話かもしれないし、仕方ない、このまま行こう。

はは、またゆーなに怒られるかな?

 

 

「ほいさっ・・・って、何その顔!」

「あはは・・・知らせてくれてありがとう」

 

 

ほら、やっぱり怒られた。

ゆーなから携帯を受け取って、表示されてる番号を見る。

えーと、この番号は・・・。

 

 

『・・・明石教授? 私、ドネットよ。今、良いかしら?』

「ああ、もちろん」

 

 

おっと・・・ドネットが相手なら、日本語は不味いな。

ゆーなに伝わらないように、英語で話さないと・・・。

 

 

それに、今夜は遅くなるかもしれないから、先に夕ご飯も食べておいてもらおうか・・・って。

今、ゆーなが何かを隠したような?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ふふ、ふふふふふ・・・」

「あ、アリア先生? パソコン画面の前で笑わないでくださいな」

「うふふふふ・・・あ、すみません」

 

 

通りすがりのしずな先生にペコペコと謝って、再びノートパソコンの画面に向き直ります。

そこには、「英語中間テスト問題」と銘打たれた文章が表示されていました。

まぁ、ぶっちゃけると、明後日のテストの問題がまだできていないのです。

普通に、締切を過ぎていますね。

 

 

・・・え? バカなこと言わないでください。

最初から私がやっていれば、2週間前には完成していましたよ。こんな仕事。

じゃあ、なんでできていないか? それは・・・。

 

 

「聞いておるのですか!? ネギ先生!!」

「・・・・・・・・・」

 

 

今現在、新田先生に絶賛怒られ中のネギ先生の仕事だったからです。

先日の悪魔の一件以来、塞ぎこんだままです。

プライベートの問題で仕事に支障が出ると、流石に問題だと思いますよ。

・・・10歳の子供だからと言う言い訳は、残念ながら、もう効果がありませんし。

 

 

いえ、私だって副担任としてできることはしましたよ?

出題範囲をまとめた書類を渡したり、過去の問題からテスト答案の見本を渡したり。

事あるごとに、締切日を伝えてもいましたし。

 

 

ここまでやって、できていない方がおかしいでしょう。

私自身は、担任の仕事に手を出せなくなっていますからね。

新田先生に怒られちゃいますので。

 

 

しかし、ことここに至ればいた仕方ありません。

私がやるしかないではありませんか。

この仕事、もらいました!

 

 

「・・・アリア先生。どうして室内でコートを?」

「冷え症でして」

「まぁ・・・暖房をいれましょうか?」

「いえ、このコートを着ていれば、問題ありませんので」

 

 

しずな先生に心配されるのは恐縮ですが、このコートは脱げません。

私は、電子製品にそれほど強くないので。

 

 

私が着ているのは、男物の大きな蒼いコート。

名前を、死線の蒼(デッドブルー)。魔法具の一種。

効果は、噛み砕いて言えば、パソコンにかなり強くなります。

 

 

電子工学・情報工学・機械工学において、異常な程の知識と腕を入手可能という優れモノ。

最高で128台のパソコンを同時に扱うことができます!

・・・明らかにオーバースペックですが、時間が無いのも事実。

これで古今東西、ありとあらゆる英語問題を入手し、世界最高の問題を作ってあげましょう。

 

 

何、生徒のためなら安い労力ですよ。

別に、仕事が増えて嬉しいとか、そんなんじゃないですよ。

本当ですよ?」

 

 

「・・・あの、アリア先生?」

「はーい、なんですかー?(カタカタカタカタカタカタ・・・)」

「言いにくいんですけど・・・・・・声に出てますよ」

「え」

 

 

しずな先生の言葉に、顔を上げてみれば。

新田先生が、鬼の形相でこっちを見ていました・・・。

 

 

 

 

 

Side 裕奈

 

「「「ええええ―――――っ!? お父さんが浮気!?」」」

「そうよ! これは、一大事だよ・・・!」

 

 

アキラ、亜子、まき絵に連絡したら、すぐに来てくれた。

持つべき物は、友達だよね!

 

 

テスト前に何やってんのって突っ込みは、無しの方向で!

 

 

「・・・あれ? でもゆーなのお父さんて、独身やなかった?」

「うん・・・確か、そうだと・・・」

「シャラーップ! 亜子もアキラも甘いよ!」

 

 

とにかく、これは浮気だよ!

お父さんが落とした、この金髪美女の写真(電話番号付き)が何よりの証拠!

 

 

「き、来たよー!」

 

 

興奮気味のまき絵の声に振り向いてみれば、カフェにお父さんと、例の金髪美女が!

この・・・。

 

 

「このっ・・・女狐がっ!!」

「めぎつね!?」

 

 

くぅ~、私のお父さんと~。

・・・羨ましい!

 

 

「ええやんか。お父さん、あんな綺麗な人と付き合うてるんなら、応援したらな」

「うん・・・それが、良いと思う」

「ええ!? だ、だだだ、だって・・・!」

 

 

だって、そんな。

今までずっと、お父さんと一緒だったのに・・・。

 

 

「獲られるなんて、悔しいじゃん!!」

「ゆーなのパパ好きにも困ったもんやな~」

「ちょっと、危ないレベルだね」

「おとーさんは、私がいないとダメなの!」

 

 

お母さんがいなくなってから、ずっと2人で過ごしてきたのに。

とられるなんて、嫌だよ・・・。

 

 

 

 

Side ドネット

 

「・・・明石教授? 何かすごく稚拙な尾行がいるようだけど・・・」

「ああ、あれね。僕の娘とその友人だよ。なんで尾行してるかは、わからないけど」

「ああ、あれがユーナなのね?」

 

 

なるほど、活発で可愛らしい女の子!

ユーコに聞いたことがあるわ。母親に似て、元気な・・・。

 

 

・・・まぁ、いいわ。仕事の話をしましょうか。

私達の会話は、第三者には他愛のない会話に聞こえるようになっているから、内容が漏れる心配はない。

 

 

「さて・・・爵位級デモン、ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンについてだけど」

「その件については、本当に助かったよ。気付くのがもう少し遅ければ・・・」

「私の方こそ、もっと早くに明石教授に連絡すべきだったわね」

 

 

校長が公的な立場で警告を発したのなら、急ぐことは無いと思っていたのだけど。

ここの学園長は、どういうつもりで警告を無視したのかしら?

 

 

「明石教授個人を非難するつもりはないのだけど・・・もう少し、なんとかならなかったの?」

「すまない・・・これは、こちらの完全なミスだ」

「そうね。だから、と言うわけではないけど・・・」

 

 

やはり、言いにくいわね。

この件に関する協議責任者が、私と明石教授になっている以上、仕方がないのだけど。

 

 

「この件に関しては、メルディアナは麻帆良に対し、抗議することになると思うわ」

「そう・・・せざるを得ないだろうね」

「ええ・・・さらに、そちらに預けている2人の卒業生の修行に関する中間報告を、大至急提出してほしいのだけど」

「2人・・・アリア君とネギ君か」

 

 

明石教授は、難しい顔をした。

まぁ、卒業生の修行に関しては修行先に一任するのが普通だから、わかるけど。

修行先の内部情報に触れる可能性もあるから。

 

 

ただ、発した警告を無視された以上、こちらとしてもそれなりのことはしなければならない。

来年以降に入学してくる、あるいは卒業していく生徒の将来のためにも、アフターケアは大事な仕事。

 

 

場合によっては、こちらから2人に近い人を、麻帆良に送り込むことも考えなくてはならないのだから。

 

 

「まぁ・・・なんとかするよ。幸い、学園祭と中間テストの間に中休みがあるから、その時までには」

「なるべく早く、お願いね」

「わかってるよ」

 

 

ぎこちなく笑みを浮かべる彼に。

私も軽く、笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 

Side アリア

 

新田先生に、超怒られてしまいました・・・。

最近あの人、私に仕事をさせないために生きているんじゃないでしょうか。

・・・あながち、間違っていないような気もします。

 

 

「だいたい、なんですか。午前中で仕事終わりって。私はどこの小学生だって言うんですか!」

 

 

いや、そりゃ肉体年齢は小学生ですけど!

 

 

「く・・・こうなったら、別荘に行ってスクナさんの農作業でも手伝いますか・・・いえ、でも最近さよさんと熟年夫婦みたいな空気出してて、疎外感を感じなくもないですし・・・・・・おや?」

 

 

仕事を失い、あてもなく彷徨っていると、一件のカフェ―――というより、カフェの様子を電柱の陰から窺っている女の子を発見しました。

その4人の女の子全てに、見覚えがあります。

 

 

「ちょっと、すんごい楽しそうやで!」

「あれはもう、かなり進展してるよ――っ」

「ぬぐぐむ・・・!」

 

 

・・・なんですか、アレ。

テスト前に何やってるんでしょう・・・。

 

 

「・・・あの、何をやっているのですか?」

「見たらわかるでしょ!?」

 

 

声をかけてみた所、明石さんのテンションが半端ありませんでした。

え、本気で何やってるんでしょうこの人・・・。

 

 

「あ、アリア先生だ~♪ こんにちは!」

「こんにちは、やな。アリア先生」

「・・・こんにちは」

「はい、こんにちは」

 

 

上から、まき絵さん、和泉さん、大河内さん。

話を聞いてみると、明石さんのお父さん・・・つまり明石教授の浮気調査だとか。

ある意味、想像以上の事態です。

おまけに、その明石教授のお相手と言うのが・・・。

 

 

「・・・ドネットさんじゃないですか」

「アリア先生、知ってるの!?」

「なっ・・・まさか、アリア先生が2人の愛でキューピッドな結晶!?」

「落ち着いてください明石さん。もはや何を言っているのかわかりませんよ」

 

 

ドネットさんは、メルディアナ魔法学校の職員の一人です。

自ら教鞭をとることはありませんが、面倒見が良く美人なので、男子生徒の人気の的でした。

卒業以来、季節の便りを交わすくらいの付き合いでしたが・・・。

よもや、この時期に日本に来ていたとは。

 

 

「えっと・・・あの方は、ドネット・マクギネスさん。私の・・・まぁ、故郷の知り合いというか」

「へぇ・・・アリア先生の故郷ってことは、イギリスの人なんだ・・・」

「なるほどなぁ。日本人やないのはわかってたんやけど」

 

 

それにしても、ドネットさんと明石教授が・・・?

そんな話、聞いたこともないと言うか。

そもそも、ドネットさんがこんな時期に麻帆良に来ると言うのも、ビックリです。

 

 

「・・・何かの間違いだと、思うのですけど」

「そんなこと無いもんっ!」

「もん!?」

 

 

 

 

 

Side 裕奈

 

「だって、ほら、まずあのツリ目が怪しい!!」

「ぷっ・・・」

 

 

あ、何がおかしいのアリア先生!

 

 

「だっておかしいもん! うちのお父さんダメダメなのに、あんな綺麗な人が好きになるなんて・・・結婚詐欺に違いないよ!」

「こ、コラコラゆーな!」

「ぶふっ・・・!」

「アリア先生には受けてるみたいだけど・・・」

 

 

受けてほしいわけじゃないの!

私は、真剣なんだよアリア先生!

 

 

「・・・いえ、失礼。明石さんがお父さんのことをどれだけ想っているかは、理解できました」

「え、そう?」

「はい・・・お父さんのこと、本当に好きなんですね」

「ゆーなのは度が過ぎとるけどな」

 

 

何よ~、皆だって自分の家のお父さん好きでしょ?

 

 

「好きだけど、ゆーなほどじゃないよ」

「私は、嫌いじゃないけど・・・」

「まぁ、皆さんお年頃ですからね。微妙な所なのでしょう」

 

 

うんうん、と頷くアリア先生。

いや、お年頃って・・・アリア先生、私達よりも年下じゃん?

・・・って、そう言えば。

ネギ君からは「お父さん」って良く聞く気がするけど、2人のお父さんって、何してる人なんだろ?

それに、アリア先生からは、聞いたこと無い気がする。

 

 

「アリア先生って、ネギ君と2人きりで日本に来てるの?」

「え、ええ・・・まぁ、そんなような物ですね」

「・・・?」

 

 

アリア先生は、かなり曖昧に笑った。

いつもにこやかで、割とはっきり答えるタイプのアリア先生にしては、珍しい顔だった。

 

 

「まぁ、私の話はともかく・・・明石さんのその話は、教授・・・つまり、お父さんにきちんと確認していない、推論なのでしょう?」

「え・・・うん。まぁ」

「でしたら、まずは確認すべきではないですか? この人とお付き合いしているのか、お付き合いしているとして、再婚するつもりなのか・・・」

「で、でも・・・」

 

 

もし、本当だったら・・・。

 

 

「その時は、堂々と反対してあげればよろしい」

「え?」

「え―――――っ!?」

「応援するんじゃ・・・ないんですか?」

「その気のない応援なんて、しない方が良いです」

 

 

アリア先生はそこで、う~ん、と腕を組んで何かを考える素振りをしてから、アキラの方を向いて。

 

 

「ちょっと、想像してみてください。大河内さん」

 

 

 

 

 

Side アキラ

 

「え、私・・・ですか?」

「ええ、大河内さん、水泳部でしたよね?」

「はい」

 

 

確かに、私は水泳部だけど。

それが今、何の関係が・・・。

 

 

「例えば、大河内さんがこれから、大事な大会に出る物として・・・もし、明石さん達がその場にいれば、全力で応援するでしょう?」

「それは・・・」

「あったり前だよ―――――っ☆」

「元気全開で応援するねっ!」

 

 

ちょっと控えめな亜子と、ポーズまで付けるまき絵、「きゅぴーんっ」とウインクするゆーな・・・。

うん、嬉しい。本当に大会に出るわけじゃないけど。

アリア先生も、優しい顔でそれを見てる。

 

 

「・・・そういうわけです。でもそれは、明石さん達が心の底から、大河内さんを応援しているからです。でも、そうではない。心のこもっていない応援をされても、嬉しくないでしょう?」

 

 

・・・うん。

応援してくれるのは嬉しいけど、形だけって言うのは好きじゃない、かな。

 

 

「部活動と結婚はかなり違いますし、単純に比べて良い物ではありませんが・・・まぁ、そういうことです。その気のない応援ほど興の冷める物はありません」

 

 

アリア先生は、妙にはっきりした口調で言った。

私は、そこまで言うつもりは無いけど。

 

 

「それに何より、明石さんがどうしたいのか、です。結婚してほしくないなら無いで、はっきり言ってしまえば良いのです」

「でも、それで喧嘩してしもたら?」

「それもまた良し、ですよ和泉さん。別にそれで全てが終わるわけでも無し・・・。嫌々応援するより、ずっと気持良くいられるでしょう? 泥沼に陥る人も多々おりますが」

 

 

ど、泥沼に嵌ったら不味いんじゃ・・・。

そう思っていると、アリア先生が「でも」と、ゆーなにウインクして見せた。

あ、可愛い。

 

 

「どうなろうと、明石教授が明石さんのことを嫌いになるなんて、ありえないでしょう?」

 

 

・・・うん。そこは、私も賛成。

少し不安そうにしてたゆーなも、その言葉に、いつもみたいに笑って。

 

 

「当然っ!」

 

 

そう言って、ウインクを返した。

 

 

 

 

 

Side 明石教授

 

あれから、ドネットといろいろ話したけど・・・。

やはり、メルディアナに対する麻帆良の立場はかなり弱い。

特に、警告を無視した件が痛い。

 

 

下手を打つと、冷戦状態になるかもしれない。

今後、メルディアナ卒業生の修行先・就職先として麻帆良が選ばれなくなる可能性もある。

 

 

ネギ君とアリア君のことを抜きにしても、難しい問題が山積みだ。

それに・・・。

 

 

「これはこれは、お疲れ様です明石教授。そして、お久しぶりですドネットさん」

「アリア君・・・と、ゆーな?」

「・・・アリアっ!」

 

 

なぜか、ゆーなの手を引いたアリア君がそこにいた。

そしてドネットはアリア君の姿を認めると、駆けよって、ぎゅむっ・・・と、抱きしめた。

 

 

「久しぶりね。少し見ない間に大きくなって!」

「おふっ・・・ちょ、ちょっと待ってドネットさん。生徒の前ですからっ」

 

 

アタフタとドネットの腕から逃れようとするアリア君。

なんというか、平静な姿でいる所しか見たことがなかったから、意外な気分だ。

ドネットのああいう姿も、初めて見るけど。

 

 

ゆーなの友達も何人かいる見たいだけど、意外そうな顔でアリア君を見てる。

・・・ひょっとして、イメージ崩しちゃったかな・・・?

 

 

「あ、あの、お父さん・・・」

「ゆーな?」

 

 

ゆーなが、いつに無くしおらしい態度で、僕の所に来た。

なぜか、もじもじとして、両手を擦り合わせている。

 

 

「どうしたの?」

「そ、そのね・・・あの・・・」

 

 

何か、言いにくいことなのかな?

こういう時は急かさずに、根気強く待つのが良いと、僕は経験で知ってる。

ただ微笑んで、ゆーなの決心がつくのを待つ。

 

 

待つこと数分・・・。

この間、アリア君はドネットと旧交を温め合っていた(ドネットが一方的に温めていたとも言えるけど)。

 

 

ゆーなが、意を決したように僕を見て。

 

 

「お父さん!」

「うん?」

「あの金髪美女と結婚するの!?」

 

 

・・・は?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・ようやく解放されました、アリアです。

 

 

結論から言えば、やはり明石さんの誤解でした。

ドネットさんと明石教授は、十数年ぶりに会ったとかで、結婚などあり得ないと言っていました(それはもう、大爆笑しながら)。

 

 

「な、なんだ・・・じゃあ、私の勘違いだったんだ・・・」

「もう、ゆーなは~」

「えっへへへ・・・ごめーん」

 

 

ちろり、と舌を見せて、明石さんがまき絵さん達に謝ります。

まぁ、誤解が解けたならそれで良いです。

それにしても、ドネットさんは何しに日本へ・・・?

 

 

聞けば、ドネットさんは、明石さんのお母さんのご友人とか。

なるほど、そういう繋がりなのですね・・・。

 

 

「貴女、きっと母親に似た美人に育つわ」

 

 

それが、ドネットさんが明石さんにかけた言葉でした。

 

 

「良かったな~ゆーな、誤解で」

「でも、ちょっと残念かな~、結婚式とか、憧れるもん」

「・・・私も、ちょっと興味が・・・」

「大丈夫! 私がお父さんのお嫁さんになる時に!」

「「「それはやめた方が良いと思う」」」

「なんでよ!」

 

 

・・・ネギ先生とはまた毛色の違う、お父さんっ子ですね。

直接接して、その上でああなら、まだ良いのですが・・・。

 

 

「・・・良かったですね。明石さん」

「あ、アリア先生! 今日は本当にありがとう」

「いえいえ、先生ですから。生徒の悩みを解決するのもお仕事です」

 

 

生徒が仲良くしている所を見るのも、喜ばしいですしね。

 

 

「さて、明石さん、まき絵さん、和泉さん、大河内さん」

「にゃ?」

「へぅ?」

「うん?」

「・・・?」

「気は済みましたか?」

「「「「へ?」」」」

 

 

ニッコリと笑って、がしっ・・・と、明石さんの手を取ります。

それはもう、力強く。

 

 

「さて、ここで問題です。皆さん」

「な、何かなー・・・?」

「明後日の月曜日には、何があるでしょうか?」

 

 

はい、言わずと知れた中間テストですね。

こんな所で、遊んでいる暇はないですね。

特に、まき絵さんとか。

 

 

そのまま明石さんと、さらにまき絵さんの手を取って、ズルズルと引きずって行きます。

 

 

「さーて、これから楽しいお勉強会としゃれこみましょうか」

「え―――っ!」

「そんな――――っ!」

「ええっ、そんなぁ! じゃ、ありません! 和泉さんと大河内さんも行きますよ!」

「んー、現役の副担任に教えてもろた方がはかどるかな?」

「・・・いいかも」

 

 

比較的真面目な和泉さんと大河内さんは、連行しなくても、問題無いですね。

さて、まき絵さんのお部屋でも借りますか。

厳さん(女子寮警備員)がいれば、警備員室でもいいのですけど。

 

 

「それでは明石教授、ごきげんよう」

「え、あー、うん。よろしくね」

「お父さんの裏切り者―――――――――っ」

 

 

ふと、そこで立ち止まって。

 

 

「ドネットさん。名残惜しいですが・・・またウェールズでお会いしましょう」

「ええ、またね。アリア」

 

 

クールに言い放つドネットさん。

でも、さっきまで私をさんざん玩具にしてくれたことは、忘れてませんからね。

 

 

次にお会いするのは、2ヶ月後。

夏休みに入ってからになるでしょう。その時には・・・。

 

 

「お父さ―――――んっ!」

 

 

私に手を引かれながら、明石さんが叫びました。

まったく、往生際の悪い・・・。

 

 

「お母さんのコト、今でも好き―――――――っ!?」

 

 

・・・え、公衆の面前で何を聞いてるんですか、貴女。

そんな明石さんの言葉に、明石教授は。

 

 

「もちろん! ゆーなと同じくらいにね!」

「・・・えへへ」

 

 

平然と返しました。

・・・もう、好きにしてください。明石さんも喜んでいるようですしね。なら良いです。

 

 

「あ、なぁ、アリア先生。他の子も呼んでもええ?」

「・・・部屋に入る範囲でお願いしますね」

 

 

和泉さんにそう返しながら、私は学力の異なる子達をどうやって同時に教えるか、頭の中で計画を立てて行きました。

 

 

・・・・・・お父さん、か。

 

 

 

 

 

 

<その頃のスクナ農場>

 

 

Side さよ

 

拝啓、アリア先生。

農作業って、とっても大変なんですね・・・!

 

 

「うおおおおおおおおっ!」

 

 

すーちゃんが、もの凄い動きで農場を縦横無尽に飛び跳ねています。

殴り、殴られの大激闘。

制限がかかってていても、すーちゃんは神様。

そんなすーちゃんと互角以上に戦える人なんて、ほとんどいない。

でも今、すーちゃんはそんな相手と戦ってる。

その相手は・・・。

 

 

 

苺だった。

 

 

 

ただの苺じゃなくて、『憤怒の苺』という名前がある(茶々丸さん命名)。

収穫されずに捨てられていった苺達の怨念が結集した存在で、1mの巨大な苺に棒人間みたいな手足が生えている。

自立思考はないみたいで、一応普通に食べれる。

 

 

農作業してると、どうしても収穫できない物や、育ち切れなくて間引いてしまう物もあるから・・・。

そういうのが集まって、ああなっている、らしい(エヴァさんの仮説)。

 

 

「ぬおっ!?」

「すーちゃん! 大丈夫!?」

「大丈夫だぞ!」

 

 

動物みたいに四肢を地面に付けて、すーちゃんが身を低くする。

そのまま、目の前の『憤怒の苺』に飛びかかっていった。

 

 

・・・いけない!

その時、私のアーティファクトに、新しいアンノウンが現れた。

地表に姿が見えない・・・地下!

 

 

どんっ・・・と、目の前の地面が爆発して、もう一体の『憤怒の苺』が。

 

 

「きゃっ・・・」

「さーちゃん!」

 

 

すーちゃんの声。

 

 

・・・・・・発動!

 

 

 

 

Side スクナ

 

「さーちゃん!」

 

 

しまったぞ。

目の前のに気を引かれすぎた。

 

 

煙を振り払って、さーちゃんを探す。

畑が荒れたけど、気にしてられないぞ!

 

 

煙が晴れる・・・いたぞ。

気温が低いぞ・・・?

 

 

「さーちゃん! 大丈夫か!?」

「・・・・・・・・・うん」

 

 

さーちゃんが、すごく小さな声で返してきたぞ。

さーちゃんの足下には、あの苺。完全に凍ってるぞ。

 

 

そんなさーちゃんの手には、大きな青い鎌。

1600年前に知り合った死神とか言う連中が持ってたのにそっくりだけど、これはすごく冷たい感じがする。

 

 

確か、『アイルクローノの鎌』とか言う奴だ。

これを使うと、さーちゃんが笑ってくれなくなるから、あんまり好きじゃないぞ。

 

 

「・・・・・・・・・来た」

「むむむ・・・新しい奴だな」

 

 

ずしゃっ・・・と音を立てて、苺畑の中に、あの妙な苺がまた現れたぞ。

一日に10匹くらい出るから、正直、鬱陶しいぞ。

恩人が何か考えてくれるって言ってた。

なんとかしてくれるはずだぞ!

 

 

「・・・・・・・・・行く」

「おう! 全部ぶっ倒すぞ!」

 

 

今度はさーちゃんと一緒に、苺に向かっていくぞ。

あの妙な鎌を使うと、さーちゃんはすごく強くなるんだぞ。

でも、なんだか嬉しく無い気がする・・・なんでだ?

 

 

「・・・・・・・・・斬る」

 

 

・・・まぁ、いいぞ!

難しいことは、よくわからない!

とにかく!

 

 

 

明日も、恩人に新鮮な苺を届けて見せるぞっ!

 





アリア:
アリアです。今回は明石さんを中心に話が進みましたね。
幸い私は明日も休日(作中では日曜日)。
ここは、生徒の皆さんとテスト勉強に勤しむのも悪くありませんね。
・・・というか、デザートのイチゴを採るのにそんな苦労が。

今回使用した魔法具は、以下の通りです。

アイルクローノの鎌:元ネタは、「伝説の勇者の伝説」。
提供は水色様と水上 流霞様です。
「憤怒の苺」:提供は霊華@アカガミ様。
スコーピオン様
死線の蒼(デッドブルー):元ネタは「戯言シリーズ」、提供はスコーピオン様です。

アリア:
次回は「魔法学校時代のクリスマス」のお話をしようと思います。
何の脈絡もないような・・・。

では、またお会いしましょう。


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魔法学校編「聖なる夜に」

メルディアナ魔法学校の設定の中に、オリジナル要素があります。
また、オリジナルキャラクターが多数出ます。
それらの要素がNGな人は、ご注意ください。



メルディアナ魔法学校。

イギリス・ウェールズに居を構える、旧世界でも名門の魔法学校。

毎年、優秀な卒業生を排出する魔法学校として有名。

 

 

生徒はイギリスを始めとした欧州地域出身者が多く、実家から通う通学生と寮で生活する寄宿生がいる。

カリキュラムは七年制で、魔法理論や基礎魔法の習得をその学習目的としている。

 

 

時は、2001年12月末。

アリア・スプリングフィールド、最終学年(七年生・数えで八歳)時の物語である―――。

 

 

魔法学校編「聖なる夜に」

 

 

Side アリア

 

「スタン爺様のお髭は、いつ見ても立派ですねー・・・」

 

 

などと、かなりどうでも良いことを呟きながら、スタン爺様の石像を綺麗な布で磨きます。

所々、脆い部分があるので、力加減が難しいのですよ。

 

 

「そっち終わった~?」

「もう少しです。スタン爺様のお髭を磨いたら・・・」

「・・・なんでそこだけ重点的に!?」

 

 

バケツを抱えてやって来たのは、幼なじみのアーニャさん。

メルディアナのローブ姿は、もうすっかり見慣れた物です。

 

 

私とアーニャさんは、祖父・・・このメルディアナ魔法学校の校長の許可を頂いた上で、たまにここに来て石像を綺麗にしています。

・・・石にされた、村の人達を。

 

 

「ほーら! もう行くわよ!」

「ああ、待ってくださいアーニャさん。まだ枝毛が」

「石になってんのに枝毛なんかないわよ! だいたいせっかくのクリスマスなのに、こんな辛気臭い所にいてどーすんのよ!」

「クリスマスだから綺麗にしようって言ったの、アーニャさんじゃないですかー・・・」

 

 

200人以上もいるので、かなり時間がかかりましたが。

そのままズルズルと引きずられながら、地上への階段を上がって行きます。

・・・あ、リアルに痛い。普通に歩きましょう。

 

 

「うっさいわね! 黙ってついてきなさいよ!」

「り、理不尽です・・・! 私は断固として抗議しますよ!」

「ふん!(あんたが辛気臭い顔してんのが悪いのよ、まったく・・・)」

「・・・何か言いました?」

「な、何も言うわけ無いでしょ!? バカ!」

「ばっ・・・?」

 

 

この年頃の女の子の扱いは、同性であっても難しいですね・・・。

でも、本当に何なんでしょう?

 

 

 

 

 

Side ネカネ

 

今年も、クリスマスがやってきた。

ほとんどの子供は、親元に戻っているのだけど・・・寄宿舎に残る子もいる。

私の弟妹達(正確には違うけど)も、そんな生徒の一人。

 

 

だからこそ、私が楽しいクリスマスをやってあげなくちゃね♪

ネギやアーニャ、それにアリアへのクリスマスプレゼントも用意したし(私用とサンタ用の二つ)、後は寄宿生が参加する夕食パーティーにつれて行きましょう・・・。

 

 

「・・・あら?」

 

 

考え事をしながら廊下を歩いていると、前の方から、もの凄い勢いで走ってくる赤毛の男の子がいた。

あれはたしか・・・アリアのお友達の子ね。何度か会ったことがあるわ。

いくら休暇でも、廊下は走ってはいけない。危ないもの。

注意しなくちゃ。

 

 

「ロバート君、廊下を走っ―――」

「すみませんネカネさんっ! じゃあ競歩で行きますんで!」

「―――ちゃダメでしょって、そういうことじゃ、ないんだけど・・・」

 

 

赤毛の男の子、ロバート君は、競歩で廊下を進み、角を曲がって見えなくなった。

・・・スピード、変わらなかったわね。

相変わらず、元気な子ねぇ。

 

 

「ネギにも、あれくらい元気なお友達がいるといいんだけど」

 

 

ネギはお勉強はするんだけど、アリアと違ってお友達と遊ばないから、心配だわ・・・。

・・・逆に、アリアの周りにいるお友達は、個性的な子が多くて心配なんだけど。

 

 

 

 

 

Side ロバート

 

一大事だぜ・・・!

どれくらい一大事かと言うと、ネカネさんの言うことを無視して走っちゃうくらい一大事だぜ・・・!

 

 

ここまでの一大事は、俺のこれまでの10年弱の人生で、加えて言うのなら5年弱の兄人生で初めてかもしれねぇぜ。

妹発案、「仲の悪い兄妹を仲良くしようぜ」作戦!

兄貴としては、全力でそのお願いを叶えなくっちゃなぁ!

 

 

「ドロシーの野郎はつかまんねーしよ・・・!」

 

 

ドロシーってのは、俺の妹と同学年の女だ。ちなみに2年生、数えで5歳だ。

俺の妹と同学年のくせして、俺のダチ(ちなみに女だ)に惚れてる変態野郎だ。

まったく、変態の感性ってのは理解出来ねーぜ・・・。

 

 

・・・妹に惚れねーってのは、目が腐ってんじゃねーのか!?

惚れたら殺すがな!

妹は俺のよ・・・っとぉ!

 

 

「見つけた! 助けてくれアリ「『アーニャ・フレイム・ナックル』ううぅぅっ!!」ぐぅおおああぁ!?」

 

 

心の友、アリアを発見したので声をかけようとした瞬間、炎を纏った一撃が俺の顔面にヒットした。

そのまま無様に転がる俺。かなりカッコ悪いぜ。

くっそ・・・やめてくれよ、アーニャ!

 

 

妹が見てねー所では、俺はすごくカッコ悪いんだぞ!?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・いきなりロバートが来たと思ったら、アーニャさんが殴り飛ばしました。

相も変わらず、激しい人達ですね。

 

 

「てんめぇ・・・何度言ったらわかんだこの爆裂娘! 喧嘩売ってくんなら妹の前にしろってよ!」

「うっさいわね! あんたがバカみたいなこと言いながら来るのが悪いんでしょ!?」

「何ぃっ!? まさか俺のモノローグ、ダダ漏れだったか!?」

 

 

かなりダダ漏れでしたねぇ。

むしろ、周囲に聞かせているのかと思いましたよ。

 

 

「・・・それで? 今度はどんな面倒事を持って来たんですか、ロバート?」

「面倒事限定かよ!?」

「当たり前でしょ! あんたこれまでのこと、思い出してみなさいよ!」

「・・・・・・とにかく大変なんだよ!」

 

 

考えることを途中で放棄したのか、ロバートはアーニャさんから目を逸らし(「無視すんじゃないわよ!」)、私の方を見ました。

その目は真剣そのもので、おふざけなど欠片もありません。

ただ・・・。

 

 

「頼むアリア! 俺に力を貸してくれ!」

「・・・理由によります」

「どうして目を合わせてくれないんだアリア!? 俺は・・・真剣なんだ!?」

「いえ、その・・・顔が近いのと、テンションについていけないと言うか・・・」

「あ、アリアから離れなさいよこのバカート!」

 

 

バカート、バカロバートの略です。

こういうのも、愛称に入るのでしょうか・・・。

 

 

ロバートとアーニャさんに揉みくちゃにされながら。

私は、ああ、今年のクリスマスも静かに過ごせないのですね・・・などと、考えていました。

その時。

 

 

「お姉さまを困らせてはいけません・・・!」

 

 

ロバートの上に、女の子が「落ちて」きました。

ロバートは「ぷげらっ!?」とかなんとか言いながら、押し潰されてしまいました。

彼の上に落ちてきたのは、背中に翼・・・ではなく、子竜をしがみ付かせた5歳くらいの女の子。

名前を、ドロシー。ドロシー・ボロダフキン。

 

 

「ご、ごぶさたしております、お姉さま・・・!」

 

 

両足でしっかりとロバートさんを踏みしめながら、ドロシーは私を見上げてきます。

左右に二つに括られた茶色の髪。そして同じ色の大きな瞳が、私を見つめています。

私はニコリと微笑むと、ドロシーの頭を撫でてあげます。

 

 

「はぅ・・・」

 

 

すると、ドロシーは顔を真っ赤にして俯いてしまいました。

最初の頃は、怒らせてしまったのかとオロオロしていた物ですが、今ではそれが嫌悪の表現ではないとわかっています。

それに、小さな女の子が照れている姿を見ると、なんというか・・・。

おまけに、彼女のパートナーでもある子竜のルーブルが、ドロシーの頭を撫でる私の手に小さな頭を擦りつけてきます。

 

 

「・・・和みます」

「ち、ちょっと、私にもやらせなさいよ!」

「ダメです。これはお姉さま特権です・・・!」

 

 

正直、なぜお姉さまと慕われるのかはわかりませんが、この特権のためなら多少の事はオーケーです。

アーニャさんと言えど、こればかりは譲れません。

と・・・その時、ドロシーだけでなく、実はアーニャさんにも踏まれていたロバートが、全身に魔力を込めて跳ね起きてきました。

 

 

「俺を敵にするには・・・てめぇらはまだ、未熟ぅ!」

 

 

意味のわからないことを言わないでくださいロバート。

空中に投げだされたドロシーは、一瞬驚きましたが、子竜のルーブルが育ち切っていない翼を必死に広げて、ドロシーをゆっくりと着地させました。

 

 

「・・・お見事」

 

 

私がそう言うと、ルーブルは誇らしげに「クルックー☆」と鳴きました。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「貴女達! 何を騒いでいるのですか!」

「げげっ、その声は、シオン!」

 

 

バカートの声に振り向いてみたら、そこには見飽きた顔があった。

腰まで伸びた黒髪に、黒い瞳、そして黒縁の眼鏡。

頭の上からつま先まで、「校則通り」のその女は、シオン。

シオン・フォルリ。

 

 

私達七年生のプリフェクト!

プリフェクトって言うのは、学校監督生のことよ。

細かいことを言うと長くなるけど、上級生の中でも校長に選ばれたお手本みたいな生徒。

生徒に対して軽い罰を与えたりとかもできるから・・・私なんて、何回トイレ掃除させられたか!

 

 

・・・まぁ、私以上にバカートが罰則と減点を受けてるけどね。

 

 

「なんだてめぇ! 俺はまだ、なんも問題起こしてねぇぞ!」

「まだって言うところが、なんとも言えませんね・・・」

「お、お姉さまは悪くないんですー・・・!(クルックー!)」

 

 

私だけじゃなく、皆も口々に言う。

でもドロシー、あんたさらりと私とバカートを見殺しにしたわね。

言葉はわからないけど、ルーブルも同じことを言ってる気がする。

 

 

「・・・ミスター・キルマノック」

「な、なんだよ」

 

 

バカートが、シオンの言葉にたじろいだ。身に覚えがありそうね・・・。

ちなみに、キルマノックって言うのは、バカートのファミリーネームよ。

 

 

「まだ、冬期の提出課題が出ていないわ。このままでは、また留年よ」

「ウソ!? あんたまだ提出してなかったわけ!?」

「バッ・・・ちげーよ! 俺には俺の考えがあんだよ!」

「あら、そうなの?」

「お、おうよ!」

 

 

シオンの冷静な質問に、バカートは自信満々に答える。

・・・あれは、なんにも考えてないわね。

実際、バカートは私達と同学年だけど、二回目の七年生。本当ならもう卒業してる。

 

 

「・・・まさか、とは思いますが」

 

 

静かに、アリアが言った。

 

 

「ロバート、貴方・・・留年を重ねて妹と一緒に卒業しようとかバカなこと、考えてませんよね?」

 

 

全員が、息を飲んだ。

そして、バカートを見る。すると・・・。

 

 

目を、逸らされた。

 

 

「あ、あんた・・・」

「ロバート、貴方・・・本当にバカですね」

「バカです・・・(クルックー・・・)」

「う、うぅるせぇ! お前だって、二番目の監督生のくせに!」

 

 

二番目の監督生。

それは、シオンのあだ名みたいな物ね。

まぁ、悪い方の、だけど・・・。

 

 

ズドンッ!

 

 

・・・いきなり、バカートが床にめり込んだ。

その背後には、黒い手袋を嵌めたアリア。

え、何、殴り潰したの・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・まったく、言葉が過ぎますよロバート」

 

 

黒の革手袋、『ヴォイドスナップ』をしまいながら、そんなことを言います。

ロバートは悪い方ではないのですが、時として暴走してしまうことがあります。

 

 

・・・二番目の監督生と言うのは、シオンさんを揶揄する言葉です。

プリフェクトは本来、成績トップの生徒がなるのが慣例。

私達の学年のトップは、ネギ兄様です。

しかし校長が選んだのは、トップのネギ兄様ではなく、2位のシオンさん。

それを揶揄する心無い人間が広めた言葉です。

 

 

「私の友人が、申し訳ありませんでした。シオンさん」

「いいえ、私の方も、クリスマスに野暮なことを言ったわ」

 

 

表情を変えることなく、指で眼鏡を押し上げるシオンさん。

子供とは思えない冷静さですね。案外、お祖父様が彼女を選んだのはこういう所を見抜いて、なのかもしれませんね。

 

 

「それに・・・二番目、という件については、個人的に反論があるのよ」

「はぁ・・・」

「・・・三番目だもの、私は」

 

 

そのまま、私をじっ・・・と見つめてくるシオンさん。

なんとも言えない緊張感が、場を包み込みます。

・・・え、これ私のせいですか。身に覚えがないのですけど。

 

 

「し、シオン・・・」

 

 

ロバートが、めり込んだまま手をシオンの方に伸ばして・・・。

 

 

「・・・わ、悪、かった・・・ばたり」

 

 

なぜか口で倒れる音を言いましたよ、この人。

ただ、それを見ていたシオンさんは、ふっと表情を緩めました。

場の空気も、弛緩します。

 

 

「・・・まったく」

「アリア?」

 

 

私は左手でドロシーの右手を引き(「はぅ・・・」)、右手でロバートの襟を掴んで引きずっていきます。

 

 

「それで? ロバートは私をどこへ連れて行きたかったんですか?」

「み、ミッチェルの所に・・・」

「ミッチェルですか・・・今頃は、部屋にこもって編み物の時間ですかね」

 

 

ミッチェルは、私やアーニャさんよりもひとつ学年が下の子です。

ただ、私は二年飛び級しているので、立場的には微妙なんですよね・・・。

 

 

「ミス・スプリングフィールド、夕食会は6時からよ! 遅れないように!」

「わかりました。ではその時に」

「・・・あ、ちょっと、待ちなさいよーっ!」

 

 

アーニャさんも連れて、さぁ行きましょうか。

もう一人の友人の所へ。

 

 

 

 

 

Side ネカネ

 

「ネギー、いるー?」

 

 

クリスマスの図書館は、人もいなくて閑散としている。

その奥の席に、いつもネギはいるんだけど・・・。

 

 

あ、いたわ。

長テーブルの一角に、もの凄い数の本を積んで、まるで壁みたいにしてる。

・・・実際、壁にしているのかもしれないけれど。

 

 

入学してから今まで、ネギはずっと同じ場所で、同じように勉強している。

勉強するのは良いのだけど、たまには遊んだりもしてほしい・・・。

アリアやアーニャが誘っても、返事もしないこともあるって聞くし・・・。

 

 

「・・・ネギ?」

 

 

せめて、クリスマスくらいはと思って、夕食会にネギを誘いに・・・あら?

 

 

「・・・あらあら」

 

 

ネギの他に、小さなお客様がそこにいた。

 

 

 

 

 

Side ドロシー

 

「ミッチェル! 頼む、お前だけが頼りなんだ!」

 

 

ロバート先輩が、ミッチェル先輩の部屋の扉をドンドンと叩いています。

ミッチェル先輩は、中から何かぼそぼそと答えているみたい・・・。

 

 

「・・・ああ!? 聞こえねーぞミッチェル! 男なら腹から声出して喋れ!」

 

 

扉に耳を押しつけながら、ロバート先輩が受け答えをしています。

でも、扉が開く気配はありません。

 

 

「・・・出てこないわねぇ、ミッチェル」

「まぁ、繊細な方ですから。ロバートのやり方では半永久的に出てこないのではないですか」

「・・・い、いいん、ですか・・・?」

 

 

アーニャ先輩とお姉さまの会話に、そう尋ねてみる。

お姉さまは優しく微笑みながら、私の頭を撫でてくれました。

はぅ・・・。

 

 

「大丈夫ですよ。究極的には、ミッチェルがロバートに友情を感じているかどうかですから」

「それって、結構絶望的よね」

 

 

アリアお姉さまは、私の憧れの人。

なんでもできるけど、それを周囲には見せない。

親しい人には見せるけど・・・そうでない人には、自分の才能を示そうとしない。

 

 

だから七年生の中でも、成績は真ん中くらい。

でも魔法薬とか、そういう分野ではトップだってことを、私やアーニャ先輩達は知ってる。

私の、魔獣のお医者さんになりたいって夢も、笑わずに聞いてくれた。

 

 

故郷の皆は、魔力量も小さくて、貧乏な私の家じゃ無理だって笑ったけど・・・。

パパとママが必死にお金を集めて、私をメルディアナに通わせてくれた。

それでも魔力量が少ない私は、ここでも笑いものだった。

先生からも、魔法使いとしての才能は無いって言われちゃったし・・・。

 

 

そんな時お姉さまは、私の手を取って言ってくれた。

 

 

『気にすることはありません。ああいう連中は、誰かを苛めたりバカにしたりしないと生きていけないのです。私達がその苛められる役になってあげることで、彼らは生きていけるのです・・・ほら、なんだか自分がとっても優しい人間なんだなぁって思えてきませんか?』

 

 

・・・素敵なお姉さま。

メルディアナの森の中で怪我をして動けなくなっていたルーブルを助けてくれて、私と一緒にいられるよう許可を取ってくれたのもお姉さま。

 

 

だから私は、お姉さまの側にいるのです。

 

 

「ミッチェル! お前・・・親友だろ!? 出て来てくれよ!」

「出てこないわねぇ。バカートに友情とか感じてないんじゃない?」

「バッ・・・お前、んなわけねーだろ!?」

「はいはい、そこをどきなさいロバート。・・・ミッチェル? すみませんけど出てきていただけませんか?」

「(ガチャリ)・・・なに?」

「アリアが呼ぶと、いつも一発で出てくるわよねー・・・って、バカート?」

「・・・」

 

 

私達と一緒にいても、時々寂しそうな顔をするお姉さまの側に。

いつか、お姉さまがその寂しさから、解き放たれるように。

幼い私では、きっと無理だから・・・。

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

「もう良いわよシオン。後は私がやっておくわ」

「しかし・・・」

 

 

紫のドレスに着替えたシオンは、気遣わしげに周囲を見回す。

出席者は、寄宿生の生徒全員で14名。

でも、まだ数名来ていない・・・アリアのグループね。

 

 

あの子達はいつも一緒にいるから、来るとしたら同時ね。

アリアがいて時間に遅れるとは思わないから・・・もうすぐ来るわ。

今の時間は、6時5分前。

 

 

「良いわ。もうすぐ来るわよ。貴女は中の子達をお願い」

「・・・わかりました」

 

 

今まで受付を手伝ってくれていたシオンが、こちらを何度も見ながら中に入って行く。

ふふ・・・良い子ね、あの子も。

 

 

今夜はクリスマス。

様々な事情で親元に帰れない子供達に、せめてもの楽しみをと、毎年学園長が夕食パーティーを開く。

もちろん、それぞれにプレゼントを用意してあるわ。

皆、良い子だから・・・楽しいクリスマスを過ごしてほしい。

 

 

特に、アリアは・・・あの賢く、聡く、そしてある意味で兄以上に危うい所のあるアリアは、つい気にしてしまう。

大人のように振る舞ったかと思えば、子供以上の頑固さや怯えを見せることもある、あの子は・・・。

 

 

「だぁーっ! くっそ、やっぱ遅くなったじゃねーか!」

「あんたのせいでしょ!? なんだってギリギリまで着替えで粘ってたのよ!?」

「け、けんかはダメです・・・(クルックー!)」

「・・・あ、アリアさん、綺麗です・・・」

「ありがとうミッチェル。貴方も素敵ですよ」

 

 

ああ、来たわね。

やっぱり、一緒に来た。

あのグループの中にいる時のアリアは、年相応のように見えて、少し安心する。

 

 

白のタキシードに着替えたロバート・キルマノック。

紅のドレスに身を包んだアンナ・ユーリエウナ・ココロウァ。

黒のドレスを着こみ、背中に子竜をしがみ付かせたドロシー・ボロダフキン。

黒のスーツのミッチェル・アルトゥーナ。

そして、フリルのたくさん付いた白のドレスのアリア。

 

 

随分、賑やかね。

私は笑いを堪えるように口元に手をやりながら、アリア達に声をかけた。

 

 

「貴方達! 早く中に入りなさい!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ドネットさんの所で受付を済ませ、中へ。

夕食会の会場は、いつもの大食堂をクリスマス仕様にしただけでした。

そうは言っても、かなりの広さがありますし、中央には大きなクリスマスツリー。

空中には魔法で浮いた蝋燭。壁にも、擬似的な星空を映し出す魔法がかけられています。

 

 

「・・・まぁ、それでも毎年同じような装飾なので、いい加減飽きますけどね」

「わ、私は・・・二回目なので・・・」

 

 

手を繋いだままのドロシーは、可愛らしくそんなことを言いました。

妹がいたら、こんな感じなのでしょうか。

 

 

周囲を見れば・・・一角に、シオンさんの姿がありました。

目礼すると、返してくれました。

そのまま、シオンさんも友人との会話に戻ります。

 

 

反対方向に目を転じて見れば、何人かの女性が集まって、こちらを見ていました。

何かを話しているようですが・・・見た感じ、あまり良い内容ではないようですね。

まぁ、放っておくに限ります。

 

 

「あ、アリアさん・・・」

 

 

金髪を短く刈り込んだ男性が、少し顔を赤くしながら、私に飲み物が入ったグラスを渡してくれました。

それも、先ほどの女性達の視界から私を遮るような位置取りで。

 

 

「ありがとう、ミッチェル。気を遣わなくても良いのに・・・」

「ぼ、僕が好きでやってることですから・・・」

 

 

彼の名前は、ミッチェル・アルトゥーナ。

年齢に似合わない大きな身体をしているのですが、人見知りという性格から、あまり表に出てきません。

どうしてか私が声をかけた時だけ、出て来てくれるんですよね。

・・・なんででしょう?

 

 

その時、ざわっ・・・と、場がざわつきました。

入口の方に、その視線が集まっているようですね。

はて・・・と、振り向いてみれば。

 

 

「・・・ネギ兄様」

 

 

そこには正装に身を包んだネギ兄様が、ネカネ姉様と・・・もう一人、ドロシーと同じ年頃の女の子に手を引かれていました。

驚いた。来ないかと思いました。

朝にアーニャさんと誘いに行った時は、返事がなかったのですが・・・。

 

 

「お兄ちゃん!」

「ヘレン!」

 

 

赤に近い茶色の髪をしたその女の子は、トテトテと兄・・・ロバートの所へ駆け寄って行きました。

ロバートはそれはそれはだらしない表情で、妹、ヘレンさんを抱き締めました。

そのまま、抱っこに移行。いつ見ても、兄妹にしても行き過ぎているような・・・。

 

 

「ネギ! 何よ、来たの!?」

「あ、アーニャ」

「うふふ・・・あの小さなお客様が、ネギを引っ張ってきたのよ」

「ヘレンさんが・・・」

 

 

ネカネ姉様が言うには、ヘレンさんがずっとネギ兄様の側について、ここに来るように言い続けていたそうです。

どうして、そんなことを・・・?

 

 

「お兄ちゃんに、あの人を連れて来てってお願いされたの」

「ろ、ロバートさんが、そんなことをするなんて・・・珍しいね」

「何を言ってるんだミッチェル・・・俺は、ただ友人のために何かしたかっただけさ」

 

 

ロバートのキャラが違います。

妹の前に出ると、なぜかいきなりキャラが変わるんですよね。

なんというか、そうでない時の彼を知っている身としては・・・気持ち悪いです。

 

 

「・・・ロバート先輩は、いつもヘレンちゃんの前では良いお兄さんでいたいみたいで・・・」

「ええ、ドロシー。でも、なんだか納得がいかないのです・・・」

 

 

普段はあんなのなのに・・・。

ヘレンさんを連れたロバートが、私を見ました。

 

 

「ほら、アリア・・・たまにはお兄さんと一緒に過ごすと良い」

「・・・ごめんなさいロバート。そのキャラ、なんとかしてください・・・」

「うん? 何を言っているんだアリア。俺はいつもこんな感じだろ?」

「お兄ちゃんはいつも、ヘレンに優しいよ?」

 

 

・・・く。やはり卒業までにヘレンさんにロバートの真の姿を見せなくては。

それはそれとして、ネギ兄様と一緒に過ごす、というのは悪くありません。

あの村の事件以来、図書館以外で活動している兄様を見たことがなかったので。

 

 

「・・・というか、私とネギ兄様を一緒に過ごさせるために、さっきから私を?」

「ああ、迷惑をかけてすまなかった。だが、せっかくのクリスマス・・・兄妹で仲良く過ごせないなんて、不幸以外の何物でもない」

「・・・ありがとうございます」

 

 

キャラと発言はともかく、好意は受け取っておきましょう。

去年までは、兄様はこういう集まりに参加しませんでしたから。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

ネカネお姉ちゃんに連れられて来たけど・・・。

なんだか、食堂がいつもと違った。

 

 

どうしてか、皆集まってるみたいだし・・・。

アーニャに、他にも。

何の集まりなんだろう? 礼拝は終わったよね?

 

 

早く戻って、勉強しないと。

立派な魔法使いになるために。

お父さんみたいに、なるために。

 

 

それ以外のことに、時間は使えないよ。

もうすぐ卒業だし、いよいよ本格的な魔法使いの修行が始まるんだし。

 

 

アーニャとかは、いつも何人かの人に囲まれて、何かしてるみたいだけど・・・。

そんなことして、何か意味があるのかな?

たまに誘われるけど、あんまり興味ないし・・・。

 

 

ふと、前を見ると、白い髪の子が・・・。

僕の妹が、僕の前にいた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・ネギ兄様」

 

 

ネカネ姉様やアーニャさん達が見守る中、私はネギ兄様に歩み寄ります。

ネギ兄様は動くことなく、私を見ています。

まぁ、ここ数年、まともに話したこともありませんし・・・。

 

 

「・・・ネギ兄様、よければ―――」

 

 

差し出した手。

ネギ兄様はそれを見て、歩き出して・・・。

 

 

「―――私達と一緒、に・・・」

 

 

そのまま、私の横をすり抜けて行きました。

あ・・・。

 

 

「え・・・ネギ!」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! ネギ!!」

 

 

ネカネ姉様とアーニャさんの声。

振り向いてみれば、ネギ兄様は何事もなかったかのように歩き去る所で。

 

 

「・・・ちょっと待てよ。お前」

 

 

ネギの肩に手を置き、その歩みを止める者がいました。

ミッチェル。

全身から怒気を滲ませて、彼は。

めったに長文を話さない彼が。

 

 

「無視は・・・ダメだろ。家族に無視されるのがどれだけ怖いことか、わかってるのか?」

「・・・誰ですか?」

「・・・っ!」

 

 

実の所、ミッチェルと兄様は面識があります。

授業で何度か・・・言葉も交わしたこともある。

それに対して、「誰ですか」と言うのは・・・。

 

 

「ネギ! あんたねぇ――」

「あ、アーニャ。ご飯ってどこで食べれるの?」

「いい加減に・・・って、は?」

「早く食べて・・・図書館に戻りたいんだ。アーニャが来なくなってから、書庫にも入りにくいし・・・」

「はぁ!?」

 

 

以前、禁呪書庫に入る手引きをしていたアーニャさん。

ただ、それを知った私がお願いして、行かせないようにしていたのですが・・・。

こ、こんな公衆の面前でそんなこと。

 

 

「あ、あの・・・!」

 

 

次に声を上げたのは、ドロシーでした。

ルーブルが彼女の背中から、兄様を威嚇するように声を立てています。

 

 

「ど、どうしてそんなに、勉強するんですか? 成績だって一番なのに・・・」

「・・・それ以外に、何かすることがあるの?」

 

 

本当に不思議そうに、ネギ兄様が言いました。

ああ・・・結局は、兄様にとってここは、そう言う所なのですね。

魔法使いの勉強をするだけの所で・・・それ以上でもそれ以下でもないのですね。

それ以外の全ては、いらないと言うのですね。

 

 

あの日から、変わることなく。

 

 

唖然とするミッチェルの手を払いのけて、ネギ兄様は食事の乗ったテーブルに向いました。

クリスマスのお祝いに来たのではなく、本当に、ただ食事に来ただけ。

 

 

「待てよ・・・」

 

 

声を上げたのは。

 

 

「待てよ、てめぇ!」

 

 

ロバートでした。

怒りに満ちた顔でネギ兄様を追いかけ、拳を・・・。

いけない!

 

 

「ロバート!」

 

 

後ろから抱き締めるように、ロバートを止めます。

魔法具『速(スピード)』で一瞬だけ加速し、追いつきました。

 

 

「がっ・・・離せアリア! あのガキが殴れねェ!!」

「殴らなくて良いんですよ!」

「いいや殴る! ぜってぇに殴る! 死んでも殴るぞ俺は!!」

「いいんですってば・・・!」

 

 

壁際にいる先生達が、こちらの騒ぎに気付きました。

不味いです。これ以上の減点はロバートにとって致命的っ・・・!

さっきシオンさんが具体的な減点措置をとらなかったのが、無駄になります。

 

 

それに気付いたのか、慌てて、アーニャさんとミッチェルもロバートを止めてくれます。

ネカネ姉様が、先生達の方へ行って、止めてくれるようです。

 

 

「あいつ今・・・どうでも良いって言ったんだぞ! 妹と飯食うぐらいのことが、なんでできねぇ!!」

「貴女が妹を愛しているのはわかってますからっ・・・!」

「そういうことじゃねぇんだ! いいか、兄貴ってのはなぁ、妹が誇れる兄貴でなきゃいけねぇんだ!! 妹の見本であろうとしなきゃいけねぇんだよ!! そのためには・・・単位だっていらねぇんだ!!」

 

 

ロバートは、一度留年しています。

理由は、卒業試験に行かなかったから。

なぜ行かなかったのか、いえ、行けなかったのか・・・。

 

 

妹のヘレンさんが、40度の熱を出して倒れたから。

だから、側を離れることができなかった。

泣きながら私に頼みこんできたあの光景を、私は今でも覚えています。

バカだと笑うのはとても簡単。だけど。

 

 

「前々からあいつは気に入らなかったんだ! 魔法が使えりゃなんでも良いみたいな顔しやがってよ! もっと・・・もっと、大事にしなきゃいけないもんが、あるはずだろ!?」

「ロバート!」

「あのガキ、あのガキはなぁ・・・!」

「ロバート、お願い・・・!」

 

 

ぎゅう、と力を込めて、ロバートを抱きしめます。

お願い、ロバート。

私は貴方とも一緒に、卒業したいんです。

 

 

「お願いだから・・・やめてください」

「けどよ・・・!」

「お願い」

「・・・っ」

 

 

次第に、ロバートの身体から力が抜けて行きました。

一方でネギ兄様は、そのまま食事を始めてしまったようです。

何人かの生徒に囲まれているようですが、碌な返事をしていません。

最も・・・周囲の人間も、まともな返事を必要としているわけではないでしょうが。

 

 

「・・・離せよ」

 

 

ぽつり、としたその呟きに、ロバートから離れます。

彼は、ゆっくりと乱れた着衣を整えると、こちらを振り向いて。

ニカッ、と笑い。

 

 

「飯にしようぜ!」

 

 

そう言って、不安そうな顔をしていたヘレンさんを再び抱っこしました。

・・・だから、それはやめましょうよ。

 

 

「よーし、ヘレン。なにが食べたい?」

「ケーキ」

「よーしよし。んなら俺があらゆるケーキを持ってきてやるからな!」

 

 

そのまま、ケーキが置かれたテーブルの方へ。

切り替え早いなぁ・・・。

 

 

「アリア・・・」

「アリア、さん・・・」

 

 

アーニャさん達が、心配そうに声をかけてくれます。

むむむ、これはいけませんね。クリスマスなのに。

私は、そんなアーニャさん達に。

 

 

「お腹が空きましたね・・・ご飯にしましょうか」

 

 

そう言って、微笑みました。

 

 

「メリークリスマス、ですよ」

 

 

 

 

 

Side ヘレン

 

「めりーくりすます!」

 

 

ヘレンがそう言うと、皆笑顔になってくれます。

美味しいご飯を食べさせてくれます。

 

 

「めりーくりすます!」

 

 

だから、ヘレンは「めりーくりすます」を言い続けます。

怖い顔をしてたお兄ちゃんも、笑ってくれました。

悲しい顔をしてたアリアお姉ちゃんも、笑ってくれました。

アーニャお姉ちゃんも、ミッチェルお兄ちゃんも、ドロシーちゃんも、ルーブルちゃんも。

 

 

皆、笑顔になってくれます。

だから、ヘレンは言い続けます

 

 

「めりーくりすます!」

 

 

いつか、皆が笑顔になれるように。

ヘレンは、魔法は下手だし、子供っぽいって男の子に苛められるダメな子だけど・・・。

でも、言い続けます。

 

 

「めりーくりすます!」

 

 

いつか、皆が一緒にケーキを食べられるように。

めりーくりすます!

 

 

 

 

 

Side メルディアナ校長

 

校長と言う職務は、激しく、そして重い。

内部の問題に頭を抱えることもあれば、外部の圧力に晒される事もある。

個人で背負うには、あまりにも厳しい職業じゃ。

 

 

クリスマスを祝う時間もないほどにな。

寄宿生たちは、夕食会を楽しんでくれたじゃろうか。

ドネットからの報告が楽しみじゃ。

 

 

しかし、そんなわしでも、校長としてではなく、一人の祖父として行動する時がある。

それは・・・。

 

 

「完璧じゃな・・・」

 

 

姿見に映る自分に酔いしれながら、わしは荷物の白い袋を担いだ。

そのまま、寄宿舎にまで転移する。

ふふ・・・この学校内で転移権限を持つのは、わしを除けばほんの数人。

結界も、わしに対してだけは効果が無い。

 

 

「ふふふ・・・待っておれよ、可愛い孫娘達・・・!」

 

 

毎年のこの瞬間のために、長生きしていると言っても過言ではないからの。

特に、今年は最終学年じゃから、残り少ない貴重な・・・。

 

 

「何者だ!」

 

 

むぅ、見つかったか!

 

 

「・・・校長?」

「なんじゃ・・・ドネットか」

 

 

見回りの最中じゃったのじゃろう。

ドネットはわしのことを上から下まで見つめた後、溜息をつきおった。

む、なんじゃその態度は。

 

 

「校長・・・今年もですか」

「うむ、祖父として当然の事じゃ」

 

 

わしの今の格好を説明すると・・・。

端的に言えば、クリスマスにプレゼントを配り歩く北欧のお爺さんじゃ。

毎年毎年、孫娘達の枕もとにプレゼントを置くのを生き甲斐にしておる。

孫のおらんドネットには、わからんじゃろうがの。

 

 

「・・・就寝時間なんで、気を付けてくださいね」

「任せておけ。見つかるわけにはいかんからな」

「意味が違う気が・・・・・・あ、ならコレをアリアの枕もとに」

「なんじゃ、お主もか・・・」

「校長ほどじゃありませんよ・・・」

 

 

形から入るタイプなのじゃよ、わしは。

まぁ、ドネットの分も置いておくとするか、プレゼントの量が多ければアリアも喜ぶじゃろう。

さて、今度こそ・・・。

 

 

・・・む、他に誰か・・・。

 

 

「うふふ、ネギの所には置いてきたし、後はアリアとアーニャの枕もとにプレゼントを置けば、お姉ちゃんの役目は今年も完了ね♪」

 

 

・・・どうやら、アリアの枕もとには3つのプレゼントを置く必要があるようじゃな。

 




アリア:
前々からお話してみたかった、魔法学校の話です。
この頃はまだ未熟で・・・お恥ずかしいです。
ネギ先生のことも、まだ兄様と呼んでいましたね。
そしてある意味で、一番すれ違っていた時代かもしれません・・・。


アリア:
さて、次話は・・・。
少し本編を動かしてみましょうか。
学園祭編の、最初の最初を。
ここから、また多くのキャラクターが動き出します。
一番動くのは・・・生徒でしょうか。
助けになりたい生徒が、何人かいますので・・・。
では、またお会いしましょう。


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第49話「兄妹」

はい、ここからアンチ色がどんどん強くなります。
なのでそうした表現が苦手な方は、本当に注意してください。
では、どうぞ。


Side 明日菜

 

「ほら、ネギ。ちゃんと食べないとダメよ」

「うん・・・」

 

 

最近のネギは、おかしい。

話しかけても生返事だし、部屋に戻ればロフトの上にこもって難しそうな本を読んでるし。

今回ばかりは、カモにもどうしたら良いかわからないみたいで、「兄貴~」と横にいるだけ。

 

 

授業も、前はそれなりに準備をしてやってたみたいだけど、今はほとんど何もしていないみたい。

教科書読んでるだけ、みたいな・・・。

正直、龍宮さんとかは、そんなネギにイライラしてるみたい。

私も流石に、お給料もらっといてそれはどうよ? って思うけど・・・。

 

 

どうしてこんなになっちゃったのか、わからなかった。

どうしたら良いのかも、わかんないし・・・。

 

 

「ネギ・・・ネギってば! もう、せっかく四葉さんがサービスでスープ付けてくれたのに・・・」

「うん・・・」

 

 

ごめんね、と謝ると、四葉さんは「良いですよ」と言ってくれた。

相変わらず、可愛い話し方ね・・・。

でもネギは、それに見向きもしない。

ただ俯いて、何かを考え込んでる。

 

 

私とネギは、学園祭準備期間中限定の名物屋台「超包子」に来てる。

この時期は、いつもここで朝ご飯を食べてるんで、ネギも連れてきたの。

気分転換になるかもって思ったんだけど・・・。

 

 

「あらら、ネギ坊主は相変わらずカ?」

「あ、超さん・・・」

 

 

この屋台の店主で、クラスメートでもある学園最高頭脳、超鈴音。

超さんは、困ったような物を見る目でネギを見た。

クラスの連中(あやかとか、まき絵とか)がネギを見る目とは、また違った目だった。

 

 

「むぅ、ネギ坊主はどうしたネ?」

「それが、わからないのよ。えっと・・・まぁ、いろいろあって、落ち込んでるのはわかるんだけど」

 

 

まさか、「悪魔に襲われた時からおかしくなった」なんて言えないわよね。

 

 

「どうも、アリア先生と喧嘩してるという噂を聞いたヨ?」

「え、あ、う~ん・・・なんていうか」

「・・・アリア?」

 

 

アリア先生の名前に、ネギが反応した。そして、顔を顰めて頭を抱える。

私は慌てて、冷たいおしぼりを額に押し当てる。

 

 

アリア先生のことを考えると、ネギは凄い頭痛に悩まされるようになった。

それはネギだけじゃなくて、夕映ちゃんや本屋ちゃんもらしい。

たぶん、エヴァちゃんの別荘で立てた「誓い」のせいだろうって、ネギは言ってた。

でも、なんでか朝倉やくーふぇはそんなことはないって聞くけど・・・。

 

 

・・・本当に、困った。

どうすれば良いのか、わからない・・・。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

頭が、痛い。

アリアのことを・・・アリアの魔法のことを考えると、頭が痛くなる。

それでも考えると、今度は心臓の部分が痛くなる。

まるで、何かに掴まれているみたいだ。

 

 

自分で調べてみたけど、よくわからない魔法をかけられてる。

エヴァンジェリンさんの所での「誓い」くらいしか、心当たりがない。

でも魔法の力を司る精霊が存在しないのに、術式が組まれているって言うのが、理解できない。

これを「魔法」って呼んで良いのかもわからない。

 

 

「・・・ネギ、大丈夫?」

 

 

明日菜さんが心配してくれるけど、正直、返事ができない。

痛みが、どんどん増してきて・・・。

 

 

「まぁ、喧嘩したのならキチンと話し合うのが良いアルよ」

「そ、そうね」

 

 

そのアリアに、話しかけることもできない。

授業中も、普段も、アリアの魔法や魔法具のことを考えていて、その度に痛むから。

 

 

「・・・でも、まぁ、その状態では無理カ」

 

 

・・・え?

 

 

「古の弟子らしいし、担任として世話にもなってるアルし?」

「ち、超さん?」

 

 

今、何か・・・。

 

 

「その恩と縁に応えるために、この超鈴音の力を貸してあげるヨ♪」

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「ほぇ~~~~」

「はぁ~~~~」

 

 

小太郎と月詠はんが、凱旋門のパチモンみたいな門(学祭門やったか?)を見上げて、アホみたいな顔をしとる。

まぁ、うちとしてもこんなもん見るのは初めてやし、そもそも。

 

 

「ここまで大きな祭りも、初めてやしな・・・」

 

 

なんやったか、東の人らから聞いた話によると、中学だけやなくてこの都市の学校全部がいっぺんに祭りに参加するんやったな。

お金儲けもOKってことで、かなり大掛かりな出し物もあるとか。

 

 

「なんやったかな・・・去年はもの凄い鬼ごっこをやったって聞くけど」

「はぁ~、なんやわからんけど、こっち来て良かったわ!」

「うちは、こんなに人がおるのに斬れへんとか、拷問やわぁ」

 

 

小太郎は素直に楽しみにしとるようやな。

まぁ、こういう経験は無いやろうから、楽しむのも悪く無いやろ。

月詠はんは、自重してや。

 

 

「それにしても、本当にええんか? 戸籍なり何なり、うちがなんとかするよって、2人とも学校に・・・」

「うちは、学校とかは興味無いですぅ。たまに人とか妖怪とか斬れたらなんでも」

「俺もええわ。ガラやないし、そういうつまらんとこで嘘吐くのもバカらしいしな」

 

 

うちとしては、ちゃんと学校に行って常識とか学んでほしいんやけど。

それに、同じ年頃の子らとおった方が2人も・・・って。

 

 

なんでうちが、2人の教育について考えなあかんのや?

また知らんうちに、絆されとるんやな・・・。

 

 

「それに、千草のねーちゃんとおった方がおもろそうやしな」

「千草はんとおったら、また楽しいことができそうな気がしますえ~」

「んなっ・・・////」

 

 

ま、またこの2人は、アホなこと言いよってからに・・・。

そんなこと言うたかて、絆されへんからな!

 

 

・・・ま、まぁ、2人とも形だけやけど、うちの補佐役らしいし?

お役御免になるまでやったら、構へんかなーなんて、思わなくもあらへんけど?

 

 

「ま、まぁ、なんや。あんたらがうちの言うことちゃんと聞いて」

「おお!? なんや格闘大会あるやないか! 月詠はん、出ぇへんか!?」

「人斬ってもええどすか~?」

「せやから、自重せいよ!」

 

 

思わず叫んだけど、2人とも「格闘大会」と書かれた垂れ幕の方に興味が移ってしもたらしい。

・・・うちのことは結局、その程度か!

 

 

「・・・なぁー、千草のねーちゃん」

「なんやの。出たいんやったら好きにしぃ」

「ネギの奴、出るかなぁ?」

「アリアはんは出ますか~?」

「うちに聞かれても、知らんわ。本人に聞・・・くのは、やめといた方がええな、うん」

 

 

アリアはんらは、別にええ思う。

タダで使われることもないやろし。

それに、木乃香お嬢様に便乗する形でいろいろやらせてもらえるし?

・・・その分、面倒な仕事も増えてく気もするけど。見返りはでかい。

 

 

・・・ネギはんはなぁ。

正直、付き合いたくないタイプの人種やし、小太郎には会わせたぁないなぁ。

でも、小太郎はリベンジしたがっとるし・・・ちょいと出て、ちょいと負けてくれへんかなぁ。

小太郎はなんやかんや言うて、情に脆い所があるからな、注意せんと・・・って。

 

 

「せやから、そうやないやろうちいぃぃっ!」

 

 

いつからや!?

いつからこんなことを考えるようになってしもたんやっ・・・(どんっ)・・・っと。

よそ見しとったら、髪の短い女の子とぶつかってしもた。

 

 

「えろうすんまへん。お嬢はん」

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

登校中に、かぶり物した大学生の人達を見ていたら、ちづ姉とはぐれちゃった。

もちろん一人でも行けるけど、探しもしないで行ったら・・・(どんっ)・・・ひゃ!

 

 

「すんまへん。お嬢はん」

「え、あ! 私の方こそ、ごめんなさい!」

「ああ、そんな頭下げんと・・・」

 

 

眼鏡をかけた、綺麗な女の人だった。

喋り方に聞き覚えがあるような・・・ああ、京都の人かな。

修学旅行とかで聞いたかも。

 

 

「・・・まだ、何か?」

「え・・・あ、ご、ごめんなさい。し、失礼します!」

 

 

慌てて、もう一度頭を下げた。うう、恥ずかしい。

その後、もう一言ほど話してから、パタパタと離れた。

 

 

「ん・・・?」

 

 

少し離れてから振り向くと、さっきの女の人の所に、黒髪の男の子と、髪の長い可愛い女の子がいた。

あれ・・・?

 

 

あの男の子、どこかで会ったことがあるような。

・・・気のせいだよね。犬耳じゃないし・・・犬耳?

 

 

・・・あの可愛い女の子とは、どんな関係なのかな。

どうしてだろう。ちょっと、気になるな・・・(どんっ)・・・って、またぁ?

 

 

「うふふふ、夏美ちゃ~ん? 離れちゃダメって言ったでしょう?」

「ひぃっ!? ち、ちづ姉!?」

 

 

ね、葱は許してください!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

・・・正直、コレはないんじゃないだろうか。

まぁ、議論を進めないネギ先生も問題だが、クラスメイト達も問題なのではないだろうか。

 

 

今の状況を一言でまとめると、「ネギ先生が侍従姿の生徒に囲まれ悦に浸っている」だろうか。

いや、まぁ、悦に浸ってはいな・・・い、のだろうか。

以前であれば「まさか」と思ったが、今となっては自信が無い。

 

 

「うふふ、皆元気やなぁ、せっちゃん」

「そ、そうですね。このちゃん」

 

 

朝のHRの時間よりも、少し早い時間。

ネギ先生が早めに来て、2週間後の学園祭でのクラスの出し物を何にするかを話し合っていたはずだが。

雪広さん発案(実際は、早乙女さん達が唆したことは明白だが)のメイドカフェ。

衣装の種類、質共に申し分ないと思うが、内容が・・・。

 

 

「ねぇ、ネギくぅん。あたしもこのカクテル飲んで良い~?」

「は、はぁ。いいんじゃないでしょうか」

「よっ、社長! 太っ腹~!」

「あぁ~ん♡ 胸の谷間に栓抜きが落ちちゃった~、ネギ君、取って~」

「あ、あの、これってどういう・・・」

 

 

これは、中学生に許されるのだろうか・・・?

というか、なぜネギ先生は注意をしないのか?

イギリスでは、普通なのだろうか。いや、そんなことはないだろう。

 

 

ネギ先生も昨日に比べれば、ずいぶんと元気になっているような気がする。

・・・明日菜さんが励ましでもしたのだろうか?

 

 

「う~ん?」

 

 

・・・?

このちゃんは、さっきから首をかしげてネギ先生を見ている。

なんだろう、ネギ先生に『崩壊の鐘を打ち鳴らすもの』でも叩き込むのだろうか?

だとしたら、『月衣(カグヤ)』からすぐにお出ししないといけないのだが。

 

 

ここだけの話、私は今「このちゃんに言われる前に自分で考えよう月間」だ。

なので「これか!?」と察したら、すぐに行動しなければならない。

 

 

「なぁ、せっちゃん」

「はっ、なんでしょう。このちゃん」

 

 

すかさず、ポケットに手を入れると見せかけて、実は『月衣(カグヤ)』の中に手を入れている私。

自分で言うのもなんだが、なかなかの物ではないだろうか。

 

 

「ネギ君、何か変やない?」

「・・・変、と申されますと?」

 

 

正直、変でなかった時を思い出せない・・・。

 

 

「何と言うかな、こう、あるべき物が無いと言うか・・・」

「はぁ・・・」

 

 

このちゃんは最近、妙に要領を得ない言葉遣いをするようになった気がする。

なんというか、中間テスト以降、別荘内に居座っている陰陽師と話すようになってから。

何か、私には見えていない物が、見えているのではないかと・・・。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

・・・イライラする。

ここの連中を相手にしてると、精神が擦り減って行くんじゃねぇかってくらい、イライラするぜ。

 

 

「まだ、何かが足りない気がする」

「奇遇ね、朝倉。私もそう思っていた所よ」

 

 

今だってそうだ。

早乙女とかのおふざけが、ますますエスカレートして、バニーやら巫女やら・・・。

てめーらに足りないのは常識だっての。

 

 

「よっし、ならもっと衣装を追加するのよ!」

 

 

くっそ、どいつもこいつもわかっちゃいねぇ。

狙いすぎだっての。なんでもミニスカにすりゃ良いなんて思ってんじゃねぇよ。

私に全部任せりゃ客の1000人くらい・・・。

 

 

いやいや、自分を保て。平和に普通に生きるんだ。

周りが異常だからって、私までそこに仲間入りすることはねぇ。

これまで通り、隠れて生きよう。

 

 

だいたい、入学した時から異常な場所だって思ったんだ。

明らかに中学生じゃねぇ奴いるし(身体的なことは、すまん。私にはどうにもできねぇ)。

そもそも人間じゃねぇのいるし(話したことはねぇけど)。

 

 

自分の方が変なんじゃなぇかって、思った時もあった・・・。

あの時は危なかった。危うく異常者の仲間入りを果たす所だったからな。

よく自制した、私。

もしかして、私の精神力ってすげーんじゃね?

そりゃブログの女王も狙えるって・・・いや、まぁ、良い。

 

 

まぁ、それでも2年の途中までは、異常な中でもまだまともな方だったんだ。

あの2人が来るまでは・・・。

周りの連中は意味不明なノリで受け入れていたが、私は認めねぇ。

というか、アレ認めちゃダメだろ。

 

 

あそこで自分の生徒に囲まれてヘラヘラしてるガキと、今もどこかで仕事してるガキ。

アレが認められるんなら、もう大概のことはOKになっちまうだろ。

 

 

どうなってんだ、この学校。

・・・はぁ、ストレスが溜まる。

 

 

今日はやってっかな、「愚痴り屋」(いや、正式な名前は知らないけど)。

女将さんに話聞いてもらって、ブログして、寝よ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

なんなのでしょう。コレは。

 

 

今朝、学校に着いて教員用のロッカーを開けると、手紙が入っていました。

私宛で、差出人はネギ先生でした。

破り捨てました。

 

 

職員室に行き、挨拶をしつつ席に座ると、机の上に手紙が。

私宛で、差出人はネギ先生でした。

破り捨てました。

 

 

今日処理する仕事はあるかしらと、机の引き出しを開けると、中に手紙が。

私宛で、差出人はネギ先生でした。

破り捨てました。

 

 

諸々の雑務を処理して、さて教室に向かおうかと教科書や名簿を手に取ると、間に手紙が挟まれていました。

私宛で、差出人はネギ先生でした。

破り捨てました。

 

 

・・・なんなのでしょうか、コレは。

これまで、私と話そうとする度に『ギアス』の痛みに悶えていたはずなのに。

今日に限って、なぜこんなにアプローチ?

しかも、若干気持ちが悪いです。

 

 

「おお、アリア先生も今から教室に?」

「あ、はい」

「では、途中まで一緒に行きましょうか」

「・・・はい、新田先生」

 

 

そのまま、新田先生と連れ立って、教室へと向かいます。

学園祭の準備期間だからか、すでに活気が・・・。

 

 

「そういえば、アリア先生は麻帆良の学園祭は初めてでしたな」

「あ、はい・・・というか、こういうお祭りみたいなのは、実は初めてで」

「おや、そうなのですか?」

「ええ、ウェールズ・・・故郷の学校は生徒数が少なくて、そこまでの物は・・・」

 

 

前世の記憶にしても、ここまで大きな物はありませんし。

メルディアナでは、研究発表会などはありましたが・・・。

一瞬、ロバートが「妹成長記録展」を強行しようとした時のことを思い出しましたが、アレは絶対に違いますね。

ミッチェルのデンプシーロールで事無きを得たんでしたっけ。

 

 

「なるほど・・・では、今回の学園祭は、楽しみなのでは?」

「はい、とても。実は、一部の生徒から仮装の提案までされてしまっていて。恥ずかしいながら」

「ほう、それは楽しみですな」

 

 

フリルリボンドレス(茶々丸さん)、ゴスロリ(エヴァさん)、シスター(チャチャゼロさん)。

あと良く分かりませんが、魔法少女 (さよさん)。さらに袴 (スクナさん)。

・・・どれにしますかね。

 

 

「それに、舞台や設備の点検のお仕事などを頂いていますし」

「むぅ・・・別に、学園祭を見回るだけでも十分ですよ?」

「それは、もちろん回りますよ。すでに・・・ほら」

 

 

懐から、囲碁部や茶道部、占い研など、一部の部活の出し物のチケットなどを取り出します。

それに、今朝ここに来るまでに、ザジさんからサーカスのチケットを複数枚いただきました。

実は私も、ザジさんとお話ししたのは初めてで・・・とても嬉しかったですね。

他にも、たこ焼きの引換券とか、いろいろ。

クラスの方々の所は、原則回るつもりですから。

 

 

「無料でいただいてしまって・・・」

「アリア先生は、生徒に慕われていますな」

「いえ、そんなことはありませんよ。普通です」

「ほう、普通ですか。なら、もっと生徒と触れ合う必要がありますな」

 

 

新田先生は、少し意地の悪い笑みを浮かべながら。

 

 

「アリア先生は、仕事は大変良くやってくれますが、生徒との触れ合いが少々足りない気がしますからな」

「・・・善処します」

 

 

・・・む?

何やら、3-Aがすさまじく騒がしいのですが。

その中に、ネギ先生の声が混ざっているような?

 

 

「・・・あれは、触れ合いすぎですが」

「あはは・・・」

 

 

むしろ、異常ですよね。

なんであんなに慕われるのか・・・。

ガラッ・・・と、勢いよく新田先生が扉を開けると、そこには。

 

 

様々な衣装に着替えた女生徒に接待される10歳(教師)が。

一部には、女子中学生に相応しくない衣装の方も。

・・・刹那さん? あとでお仕置(「これはこのちゃんが!」)ええい、言い訳しないでください。

 

 

とにかく・・・。

 

 

「「全員、正座―――――――――っっ!!!」」

 

 

あ、新田先生とハモった。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

「まったく・・・元気なのは良いことですが、節度を守ってくださいね皆さん!」

「「「「はぁ――いっ!」」」」

「返事だけは、いつも良いんですから・・・」

 

 

ブツブツ言いながら、アリア先生が教壇に上がったアル。

最近は、ネギ坊主の調子が悪いアルから、アリア先生が出席とかを取るネ。

むしろ、アリア先生が担任になるって噂もあるらしいネ。超が言ってたアル。

 

 

「あ、あの・・・アリア」

「なんですかネギ先生、今日はご自分で出席を取りますか?」

 

 

アリア先生が名簿を開いた所で、ネギ坊主が声をかけたネ。

瞬間、クラスが静かになったネ。

アリア先生とネギ坊主は、最近「冷戦状態」(by柿崎)アル。

まぁ、ネギ坊主が一方的に緊張してる雰囲気だったアルが。

 

 

「アリア、その・・・大事な話が、あるんだ」

「はぁ・・・それは、今この場で聞かなければならないようなことですか?」

「僕はこの10日くらい、ずっとアリアのことを考えてて・・・」

 

 

アリア先生が、目に見えて引いたネ。

今のは、誰でも引くと思うアルよ、ネギ坊主。

 

 

・・・ネギ坊主。

私の初めての弟子アルが・・・このまま教えても良い物か、わからないネ。

技術面は、申し分ないアル。まさに天才と言えるネ。

でも、それ以外の面は、私には教えられないアル・・・。

 

 

先週、中間テストが終わった後、故郷に手紙を出したネ。

師父に。

その返事次第では、ネギ坊主に拳法を教えられなくなるかもしれないアル。

というか、そっちの可能性の方が高い気がするネ。

日本に来る際、師父は「好きにしろ」と言ってくれていたアルが・・・。

 

 

・・・ネギ坊主。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

はわわ・・・。

こ、これは、屋上でサボっているであろうエヴァさんに知らせた方が良いのでしょうか~。

たぶん、茶々丸さんがもう知らせてるかもだけど・・・。

さっきから凄い音立ててますし。

ウィンウィン、ガガ、ピー!・・・みたいな。

 

 

ハカセさんが、「茶々丸、大丈夫!?」と心配しています。

ただ茶々丸さんは基本、アリア先生を見る時は録画してるので、いつもジーって言ってますけど。

 

 

「アリア、聞きたいことがあるんだ」

「・・・ですから、それは今、この瞬間に聞いてあげなくてはいけない類の物なのですか?」

「アリアは、どうしてま「ネギ先生!」あ・・・!」

「後にしてください。仕事中です」

 

 

アリア先生が、強い口調で言いました。

たぶん、少し怒っています。

それは、そうだろうなって、思います。

だって、ネギ先生は今、「魔法」って言おうとしたんだと思います。

 

 

アリアは、どうして魔法を使えるの? と、聞きたかったのでしょう。

でも、変です。

どうして、ネギ先生が魔法関連の質問をできるの?

魔法と魔法具で、禁じられたはずじゃあ・・・。

 

 

「え、あ・・・そうか。じゃあ、放課後に世界樹前の広場に来て、ほしいんだけど・・・」

「・・・一応、留意しておきましょう」

 

 

クラスメイトの皆は、ハラハラする人や、白けている人など、いろいろです。

世界樹前の広場は、なんでも告白の名所とかで・・・。

一部の人達は、大騒ぎしています。

いや・・・絶対にあり得ないと思います。

絶対、碌でもない話に決まっています。

 

 

特に、早乙女さん。

「禁断の恋!? これは・・・イケる!」って、殺されても知りませんよ?

 

 

「出席番号一番・・・相坂さよ!」

「あ、はい!」

 

 

そう言えば、私の出席番号は一番。

いつもアリア先生に最初に名前を呼んでもらえる。

そんな番号。

だから、私は「1」って数字、結構好きなんです。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・ぼーやの枷が外れているだと?」

 

 

昼食時になって、アリアや茶々丸達が順次、屋上に集まってきた。

状況が状況だけに、木乃香や刹那も連れて来たらしい。

まぁ、ぼーやの枷が外れているとすれば、妥当な判断だな。

 

 

最も、刹那の見ている前で、ぼーやごときが木乃香に触れられるとも思えんが。

だが、それにしても・・・。

 

 

「どういうことだ? 魔法と魔法具で、ぼーやの意思を縛ったはずだ。それが何故解ける」

「わかりません・・・ただ、私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で視た所、ネギ先生の魂を縛っていた枷が外れていました。というより、消滅していました」

「封印級の魔法具とアーティファクトの魔法的拘束を消す・・・?」

 

 

そんなこと、よほど高位の術者でもない限り不可能だ。

じじぃか、それとも、地下のアルか・・・? 

じじぃを締めあげた際、ここにアルが隠れていると聞いた時は驚いた物だが。

しかも、ぼーやの師匠ときた。

最初は会いに行こうかとも思ったが・・・いや、今はそれは良い。

 

 

「・・・まぁ、事実は事実として受け止めておくとして、これからのことだな」

「私とこのちゃんは、その・・・」

「ああ、構わん。そのまま距離を取っていろ。下手に動くな」

「わかったえ。いつも通りに行動する」

「一応、前回の拷も・・・尋も・・・交渉によって、ネギ先生への連絡は徹底されているはずです」

 

 

茶々丸の言う通り、東西の決まりごとはぼーやに伝わっているはずだ。

これで伝わってませんとか言われたら、私は今度こそあの後頭部を輪切りにする。

・・・というか、今から行くか? 非常に魅力的なアイデアな気がする。

 

 

「・・・それで、ぼーやはお前に話があると言うんだな?」

「ええ、放課後に告白の名所に呼び出されました」

「よし、ぼーやを殺そう。それで話がすっきりするはずだ」

「それは構いませんが、一応話を聞きたいと思います。誰が私達の拘束を解いたのか、それが気になります」

 

 

・・・確かに、看過できない問題ではある。

我々の魔法や魔法具を、どういう理屈か知らんが解除できる何者かが、ぼーやについてるわけだからな。

放置するには、リスクが高すぎる問題だ。

と言って、ただノコノコ行くのはつまらんな。

 

 

・・・いっそのこと麻帆良から出ていくと言う手段もあるが、それは最後の手段だな。

 

 

「ぼーやは、お前にどんな話をする気だと思う?」

「・・・十中八九、私の力についてでしょうね。私としたことが、手の内を見せすぎました」

「まぁ、そこを責める気はないさ・・・状況が状況だったしな」

「マスターは、全力でうたた寝をしておりましたが」

「茶々丸、私はたまにお前に喧嘩を売られているのではないか、と思う時があるんだが」

 

 

茶々丸の作ってきた12段弁当を皆でパクつきながら、そんなことを話す。

まぁ、話の結論としては、「ぼーやを殴る」→「聞きだす」→「再封印」だな。

ぼーやの言い分など、一切聞く気も価値もない。

 

 

「行くのは良いと思うんですけど・・・何か、普通の生徒がついてきそうな感じなんです」

「それは・・・人払いの結界でも張りましょう」

 

 

さよの懸念に、アリアが答える。

まぁ、それが妥当だろうな。

 

 

「それで、どうでしょう。エヴァさん。許可していただけますか?」

「・・・良いだろう。基本的な判断は好きにするが良い。ただ、魔法や魔法具についての具体的な情報について開示してやる必要はない。一方的に情報をむしり取るぐらいの気持ちでやれ」

「は・・・」

「それと・・・ケリを付けて来い。いい加減、あのぼーやにはうんざりしてるんだ」

 

 

前回の「誓い」でやっと離れたかと思えば、またコレだ。

正直、私がやってもいいんだが・・・アリアにやらせることに意味があると思う。

おそらく、一番溜めてるのはこいつだと思うしな。

 

 

「私はもうこれ以上、あのぼーやに付き合いたくない」

「・・・・・・・・・」

 

 

一応、茶々丸とさよを付けておく。

ぼーやは、どうせ一人で来るだろう。

 

 

「・・・それが、エヴァさんの望みなら」

「そうだな。私の望みで、命令だ。だが、そんなことは関係なく、お前自身の意思でもって、あのぼーやとケリを付けて来い」

 

 

別に縁を切れとか、そんなことを言うつもりは無い。

だが、この中途半端で中弛みした、惰性のような関係に、終止符を打って来い。

それがどんな結論、結果でも、私は文句は言わない。

個人的には、二度とぼーやの顔を見たくないわけだが。

 

 

アリアは、私の言葉に軽く俯いた後。

かすかに微笑んで・・・言った。

 

 

「・・・仰せのままに(イエス)我が主(マイロード)

 

 

 

 

 

Side 超

 

「良いネ。ほぼ計画通りだヨ」

 

 

その会話を聞いて、私は嬉しくなったネ。

計画の第一段階は、これで完了と言ってもいいはずネ。

 

 

「ここまで師姉の言った通りだなんて・・・」

 

 

本当、未来人と言うのはお得ネ。

正確ではないにしろ、その時代の人間の思考をトレースできるのだから。

 

 

私は、個人的な目的を叶えるために、未来からこの時代に来たネ。

将来の悲劇を止めるために。

私の大切な全てのために。

私の全てを懸けて。

 

 

「全てを懸けて・・・なんて言うと、師匠は怒るがネ」

 

 

それでも、少しでも、わずかでも・・・大切な人のために何かをしたいと思うのが、人間ヨ。

そのためにいろいろ計画して、師匠達の目を盗んでまで過去に来たのだから。

 

 

「それには、ここであの2人の関係を決定的にしておく必要があるネ」

 

 

私の計画の、最重要部分のひとつアル。

申し訳ない気持ちもあるガ・・・。

 

 

「・・・止まるわけには、行かないヨ」

 

 

願わくば、彼女の未来に幸福がありますようニ。

 





アリア:
アリアです。
今回は、学園祭準備期間のある一日を。
生徒の皆さんとの交流も、増えていくことでしょう。

アリア:
さて次話は・・・。
ちょっとケリつけてきます。
なんというか・・・年内にはっきりさせたくなりまして。
では、またお会いしましょう。


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第50話「破局」

ドぎついアンチ色が出るお話です。
苦手な方は、繰り返しになりますが注意してください。
不快感・嫌悪感を感じてしまう場合があります。
それをご了承頂いた上で、どうぞ。


Side 茶々丸

 

時刻は夕方6時。

私はマスターの命令に従い、そして何よりも私自身の意思に基づいて、アリア先生を見守っております。

待ち合わせ場所は、世界樹広場。相手はネギ先生。

 

 

油断はできません。

今は魔法具『無気力な幻灯機』によって強力な認識阻害を行い、ステルス状態に入っていますが・・・。

 

 

その時、一匹の黒猫が足下に擦り寄ってきました。

たまに餌をあげている猫の一匹です。

 

 

『さよって言うお姉さんから伝言だよ。不思議なお姉さん』

 

 

その猫が、言葉を話しました。

とはいえ、猫が人間の言葉を話しているわけではありません。私がこの子の言葉を理解できるのです。

この猫は、ただの猫です。

 

 

『私のアーティファクトで確認した所、部外者はいません・・・だって』

「わかりました。ありがとう」

 

 

さよさんからの伝言を伝えてくれた猫にお礼を言うと、その猫はどこかへと走り去って行きました。

今、私は『ひそひその苺』という食べ物を食している状態です。

この苺は、食べると動物や植物と会話することが出来るようになります。効果は二時間。

 

 

・・・どうやら、さよさんの張った人払いの結界は上手く機能しているようですね。

あとは、待ち合わせ場所にネギ先生が来るのを待つのみ。

 

 

従者の方々を連れてくるかどうかの判断がつかないのが、懸念事項です。

ネギ先生の呪縛が解けている以上、無条件に来ないと決めつけることはできません。

無論、魔法先生の介入なども警戒する必要がありますが・・・。

 

 

「・・・来ました」

 

 

魔法発動体の杖を持ったネギ先生が、姿を現しました。

真剣な表情で、アリア先生の待つ広場へ。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「私のアーティファクトで確認した所、部外者の姿はありません」

『そうですか、それは重畳』

 

 

仮契約カードを通じた念話で、アリア先生にアーティファクトで確認したことを伝える。

今の所、周囲20m圏内には、私達しかいません。

 

 

『では、さよさん達はそのまま待機しておいてください。合図があり次第、個々の判断で行動を』

「わかりました」

 

 

念話を打ち切り、周囲の確認をする。

うん。結界は正常。

ネギ先生が到着次第、アリア先生が内側に自分でもう一枚結界を張るらしいから、これで普通の人は入ってこれないはず。

 

 

今、私は世界樹広場を見下ろせる場所にいる。

世界樹の枝の上だ。

木のぼりは得意じゃないから、『羽衣』でゆっくりと上がって来た。

もちろん、誰にも見つからないように。

 

 

上る前に、猫さんに茶々丸さんへの伝言を頼んだんだけど、届いたかな?

猫さんが戻ってこない内に、『ひそひその苺』の効果が切れちゃって・・・。

 

 

「・・・あ、来た。ネギ先生」

 

 

アーティファクトにネギ先生が表示されました。

他には、誰もいないみたい。

誰も連れてこなかったのか、来れなかったのか・・・。

 

 

そこはちょっと、判断がつかない。

まぁ、それはいいんだけど・・・。

 

 

「なんで、杖を・・・?」

 

 

眼下のネギ先生は、魔法発動体で、良く持ち歩いている杖を持っています。

アリア先生がネギ先生に声をかけようとした、その瞬間。

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)光の九矢(ルーキス)』!」

 

 

ネギ先生が、いきなり魔法でアリア先生を攻撃しました!

ちょっ・・・えええええええええええっ!?

 

 

何を考えているんですか、あの人!?

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ネギせ」

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)光の九矢(ルーキス)』!」

 

 

到着していきなり、僕はアリアに魔法の矢を撃った。

正直、少しやりすぎかなと思ったけど、でも、確かめるにはこれしかないと思った。

もし、本当にアリアが魔法を使えるのなら・・・。

 

 

放たれた魔法の矢は、まっすぐにアリアへと向かって行った。

それほど魔力は込めてないけど、当たれば痛い。

 

 

アリアは、少し驚いた顔でそれを見て・・・。

すぐに、つまらなそうな顔になって、軽く左手を振った。

次の瞬間、「当たる!」って思った魔法の矢は、アリアに当たる直前に消えてしまった。

 

 

「・・・『全てを喰らい』」

「え・・・」

 

 

何? どうして魔法が消えたの? これがアリアの魔法?

そう言えば、前にもどこかで同じような光景があったような・・・。

 

 

「・・・『そして放つ』」

 

 

瞬間、凄い勢いでアリアが駆け出して―――気がついた時には、僕の背後に。

え。

 

 

「魔法具、『(パワー)』」

「カ・・・『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』!」

 

 

とっさにアルさん・・・マスターに教わった白兵戦用の魔力供給魔法を使って、アリアの攻撃を受け止める。

ゴッ・・・と、十字にクロスした両腕の中心に、アリアの右拳。

重い。防御の上からでも、骨が軋んだ。

吹き飛ばされて、ざざっ・・・と、地面を滑る。

 

 

「ま・・・待って、アリア!」

 

 

そのまま、僕の方に追撃に来ようとしたアリアは、僕の言葉に一瞬だけ止まってくれた。

前にも見た黒い本を取り出して、僕を睨んでる。

 

 

「た、戦いに来たわけじゃないんだ!」

「・・・はぁ?」

 

 

アリアが、不快そうに顔を歪めた。

でも、僕はアリアが魔法を使えるのかを確かめたかっただけで、戦いたかったわけじゃ・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

驚天動地とは、このことですか。

いきなり攻撃魔法を撃ってきておいて、「戦いに来たわけじゃない」? 「話し合おう?」?

何の冗談ですか、それは。

 

 

「その、アリアは・・・魔法を使えるの? あの魔法具は、アリアが作ったって、本当なの?」

「答える必要がありません」

 

 

カカッ・・・と、片足を踏み鳴らし、結界を張ります。

『千の魔法』№73、『封絶』。

周囲の時間軸からこの空間を断絶させ、私が認めた者以外の出入りと行動を禁止します。

 

 

結界が張られたことを感じたのか、ネギ先生がキョロキョロと周囲を見回します。

 

 

「・・・アリアは、精霊の助けを借りないで、どうして魔法が使えるの? ううん、そもそも、アリアの周りに精霊がいないのは、どうして・・・」

「人を実験動物みたいに見ないでください。不愉快です」

「そ、そんなつもりじゃ・・・」

「見ていたでしょう? ジロジロと・・・私個人ではなく、私の力についてまず興味を向けたではないですか」

 

 

私の周囲に魔法を司る精霊がいないのは、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』のせいです。

ですが、それを貴方に教えてあげる必要はない。ネギ先生。

 

 

「ネギ先生こそ、なぜ別荘での誓いを破って私に接触しているのですか?」

「それはだって・・・気になって」

「気になる?」

「アリアは、魔法が使えなったのに、どうして急に使えるようになったのかとか・・・あの魔法具は、どうやって作っているの、とか・・・」

 

 

私が魔法を使えるのが、そんなに不快ですか。

それに、魔法具については・・・魔法学校時代から、気付こうと思えば気付けたはずなのですが。

私に、人並の興味を向けていれば。

 

 

「まぁ、貴方の意思には興味がありません。誰に枷を外してもらったんですか?」

「え・・・」

「貴方にかけられた呪いは、ネギ先生。貴方程度の力でどうこうできるような物ではありません。いったい、誰が貴方の枷を外したのです?」

「えっと・・・内緒にしてほしいって、言われてて・・・」

 

 

ふむ、内緒ですか。

もしかしたら、喋れなくする呪いをかけられている可能性もありますが・・・。

私にかかれば、関係ありません。

貴方の脳髄を弄って、直接情報を引き出せば良いのですから。

 

 

「それで、アリア。どうして魔法を」

「教える義理はありません。そもそも、何の見返りもなく、どうして私の情報を教えなくてはならないのですか」

 

 

聞けば答えてくれる。

誰も彼もが、貴方にそうしてくれるわけではないのです。

 

 

「貴方には何も話すことがありません。話す気もありません」

「ど、どうして」

「理由を教える気もありません・・・と、言ったら、どうしますか?」

「え・・・」

「話し合いの通じない相手が目の前にいます。でも、どうしても聞きたいことがある場合、どうしますか?」

「・・・それでも、頑張って聞く」

「なるほど。どう頑張るのかはわかりませんが・・・」

 

 

ちなみに、私ならこうしますよ。

懐から、『闘(ファイト)』ともう一枚、ニューカード『気(オーラ)』を取り出します。

魔力と気、2つの戦闘技能を可能とするこの2枚。

組み合わせることによって、高等技能「咸卦法」の使用を可能とします。

専門の修行が必要な技法ですが、『複写眼(アルファ・スティグマ)』で制御できる私には、難しいことではありません。

 

 

ぐぁっ・・・と、合一された気と魔力が、周囲に発散されます。

反射的に、ネギ先生も杖をこちらに向けてきました。

 

 

「ああ、こうしましょうか。この場で私を倒すことができれば、なんでも教えてあげますよ」

「え・・・」

「その代わり、私が勝ったら・・・」

 

 

一呼吸おいて、告げます。

 

 

「教師を辞めてください」

 

 

この学校、いえ3-Aから排除します。

それくらいしないと、他の生徒を守れないでしょうし、何より。

 

 

エヴァさんに限らず、私も貴方に会いたくない。

公私、問わず。

 

 

「そ、そんなの・・・無理だよ! だって修行が!」

「あら、自信がないんですか? 大丈夫、兄より優れた妹など存在しないと、どこかの誰かが言い残しています」

「自信とか、そんな問題じゃ」

「大丈夫ですよ。魔法具がなければ何もできない私ですから・・・・・・まぁ、現在進行形で使っていますが」

 

 

それに・・・と、言葉を続けます。

それに、どうせ・・・。

 

 

「修行と言っても・・・すでに破綻しているような物ではありませんか。ネギ先生は自らそれを放棄しているんですから」

「そ、そんなことはないよ! 僕は一生懸命に修行してる!」

「魔法使いの修行と、卒業課題の修行は同一の物ではありません。混同しないでください」

 

 

きぃんっ・・・と、『複写眼(アルファ・スティグマ)』でネギ先生の身体強化魔法『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』の構成を視ます。

非常に綺麗な魔法構成です。

師が良いのかネギ先生の才能か・・・どちらにせよ、完璧な魔力供給。

 

 

「その魔法を会得するのに何日練習しました? 三日ですか、一週間ですか? なるほど、結構なことです。努力家ですね、一生懸命でしたね。さて、翻って、その間どれだけの教師の仕事をこなしたと言うのですか?」

「それは」

「貴方に課せられた修行は、[麻帆良で教師をすること]です。魔法使いとしての修行はそれとは別・・・少なくとも、教師の仕事以上に優先して良い物ではありません」

「僕だって、ちゃんと」

「ちゃんと? ちゃんと、何だって言うのですか? 何をしたと言うのですか? 上から仕事を回してもらえない貴方が」

 

 

最近は、ネギ先生の机の上に積まれる仕事も減っています。

でも、それはネギ先生の書類処理の速度が上がったわけではありません。

単に、「使えない」と判断されただけです。

 

 

「貴方はすでに、教師として失格です。ネギ先生」

「そ、そんなこと・・・アリアに言われる筋合い無いじゃないか」

「・・・・・・ああ、そうですか」

 

 

それならもう、私から貴方に言えることは、何も無いです。

どうせ、届かないのですから。

 

 

「ならどうします? 尻尾を巻いて逃げますか? そして優しくしてくれる従者の方に慰められて、泣いて縋りついて生きれば良い」

 

 

そのまま、自分の殻に閉じこもっていれば良い。

私は、先に進む。

 

 

「・・・僕が勝てば、全部教えてくれるんだね?」

 

 

私の言葉にムッとしたのか、少し怒ったような表情でネギ先生が言いました。

 

 

「ええ、全部。何もかも、隅から隅まで教えてあげますよ。私のことを」

「わかった」

 

 

わかった。

ネギ先生は、そう言いました。わかった、と。

それだけ聞ければ、後はどうでも良い。

 

 

こちらに杖を向けてくるネギ先生に対し、私も悠然と構えます。

右手の指に、『黒叡の指輪』を発現。

 

 

「『闇よ・・・」

「ラス・テル・マ・スキル・・・」

 

 

ほぼ同時に、魔力を発します。

そして・・・同時に、動く!

 

 

「・・・有れ』!」

「マギステル!」

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「・・・そこ、どいて欲しいだけど」

「ん~・・・」

 

 

超さんは、可愛らしく首を傾げた後、ニッコリと笑いながら。

 

 

「まだ、だめネ♪」

 

 

・・・って、言った。

私は今、3-Aの教室で超さんと一緒にいる。

というより、超さんに閉じ込められてる。

 

 

別に縛られたりとかはしていないんだけど・・・ドアに鍵をかけられて、超さんと2人きり。

まさか、力尽くで蹴破るわけにはいかないし、超さんのおかげでネギが元気になったみたいだし。

 

 

「あんた・・・どういうつもり? ネギのことを助けたり・・・」

「ネギ坊主は、私にとっても特別な人だからネ」

 

 

相変わらずの笑顔で、超さんは言う。

特別・・・特別って、どういうこと?

 

 

「なら、どうして邪魔するのよ! 私はネギの所に行かなきゃいけないのよ!」

 

 

ネギが一人でアリア先生に会いに行くって言った時、私は「またか」って思った。

またあの子、自分一人で解決しようとして! って。

あいつ一人でアリア先生に会ったって、どうにもなんないじゃない。

なのに・・・。

 

 

「また、置いて行かれてしまったネ。明日菜サン」

「う・・・うるさいわね! だったら邪魔しないでよ!」

「ん~・・・でも、明日菜サンが行っても、何もできないと思うヨ」

 

 

そ、そんなコトないわよ!

私だって、あいつのために何かできることが・・・。

 

 

「無いネ」

 

 

妙にはっきりと、超さんが言った。

 

 

「今のうちに警告しておくヨ、明日菜サン」

「け、警告?」

「ネギ坊主には、深入りしない方が良いネ。適度な所で距離を置くことをお勧めするヨ」

「・・・意味、わかんないわよ」

 

 

超さんの言うことは、正直わからなかった。

でもね、超さん。これだけは言える。

ここであいつを見捨てたら、私はきっと後悔する。

 

 

「それ以上の後悔をすることになっても・・・カ?」

「ちょ、さっきから・・・心でも読んでんの?」

「それは秘密ネ。それに明日菜サン、わかっているのかネ? あの坊主について行くことの意味が・・・」

「意味とか・・・そういうんじゃ、ないのよ」

「情でも移ったカ? その程度で・・・」

「情とか、そういうのでもないの!」

 

 

アリア先生にも、似たようなことを言われたこともあった気がするけど。

私は、今、この瞬間の気持ちで行動したいのよ!

そうでないと、私が、私でなくなる気がする。

 

 

「・・・私が私で、ネ」

「だから、心を読むのをやめなさいよ!」

「そうは言っても、読心のスキルは基本ヨ? ニュアンスしかわからないけどネ」

 

 

なはは、と笑う超さん。

そのまま、何かを考える仕草をして・・・次いで、頭を左右に振った。

まるで、何かを諦めたみたいな感じだった。

 

 

「そうカ・・・なら、行って良いネ♪」

「へ?」

 

 

超さんがヒラヒラと手を振ると、カチリ、と教室の扉が開く音がした。

行って良いって・・・え?

 

 

「行かないのカ?」

「い、行くわよ! 決まってんでしょ!?」

 

 

超さんも気になるけど・・・今は、ネギの所に!

私はそのまま、教室を飛び出した。

 

 

超さんは、最後まで笑顔だった。

 

 

 

 

 

Side 聡美

 

神楽坂さんが出て行った後、光学迷彩を切って、教室へ入る。

 

 

「良かったんですか、行かせて」

「構わないネ。経過時間からして、ちょうど良い時間になるはずヨ」

 

 

そう言いながら、超さんは笑った。

でもその顔は、どこか悲しそうだった。

 

 

「それよりハカセ、計画の進捗具合はどうネ」

「全て順調です。学園祭当日には、万全の状態になるかと」

「そうカ・・・」

 

 

そのまま、何かを考え込み始めた。

その顔は、一緒に研究をしている時にも、何度か見たことがある。

 

 

頭の中で、何かの計画を考えている顔。

一人っきりで、何かを考えている顔。

超さんが何を考えているのかは、わからない。

私程度の力では、超さんの負担を減らしてあげることもできない・・・。

 

 

その時、教室の窓から、神楽坂さんが走り去る姿が見えた。

 

 

「・・・救いようの無い、お姫様だヨ」

 

 

ポツリ、と漏らされた超さんの言葉は、聞こえなかったことにした。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ぐぷ・・・っ」

 

 

喉から、今まで聞いたことも無い音が聞こえた。

何かが、せり上が・・・。

 

 

「がは・・・っ!?」

 

 

ゴポッ、ビチャァッ!

両手を地面に付いた体勢のまま、固まった。

目の前に、これまでに見たこともないような量の、赤い液体を見たから・・・。

 

 

「・・・そろそろ、限界だと思いますけどね」

 

 

顔を上げれば、そこには傷一つ付いていない、アリアが立っていた。

傷一つ、無い。

 

 

「内臓を傷つけたと思いますので、本格的な治療をすぐに受けないと、取り返しのつかないことになりますよ?」

 

 

静かに、そう言う。その両目が、赤く輝いていた。

ぐ・・・八極拳・金剛八式!

 

 

軋む身体を無理やり動かして、古老師に習った型を使う。

手加減しようとか、そんなことは考えなかった。

そんな余裕は・・・無い!

 

 

「『翻身伏虎』!」

 

 

上段から、手刀を落とす!

アリアはそれを軽く見た後、左手でそれを軽く受け流した。

よし、ここから連携を―――。

 

 

ドシャァッ!

 

 

・・・え?

気がついたら、また地面に叩き付けられていた。

まただ。気付かない内に僕の技が外されて、しかもアリアの攻撃は終わってる。

 

 

「魔法具『時(タイム)』から・・・『闘(ファイト)』の武技、『猛虎硬爬山』」

 

 

やっぱり、体術ではかなわない。

でも、魔法は、どうしてか魔法がアリアには通じない。

アリアに当たる直前に、いつもかき消えてしまう。

 

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)』も、拳に乗せても、矢として撃っても、意味が無かった。

最初にアリアが使ってた影の犬は、矢を数本撃てば消せたけど・・・。

 

 

「・・・『千の魔法』№28、『崩』」

 

 

その時、アリアの左手から小さな炎の弾が撃ち出された。

それも、一発じゃない・・・何十発も!

 

 

「くっ・・・くぅあああああああぁっ!!」

 

 

『戦いの歌』も、少し前に切れてしまった。

後はもう、がむしゃらに魔力を込めて耐えるしかできなかった。

 

 

「・・・『千の魔法』№69、『バイキルト』」

 

 

炎の弾丸が消えた直後には、アリアは僕の背後にいた。

だからどうして、アリアはいつも僕に気付かれずに、死角に・・・!?

 

 

ぐんっ・・・と、アリアの身体を覆っている力が、増えた。

単純に見て、倍になったと言って良いと思う。

僕にも、あれほどの力は出せない。

そしてアリアは、それを左手に集中させると、一気に。

 

 

「・・・『北斗剛掌波』」

 

 

僕の腰に、押し付けた。

た、耐圧・・・!

 

 

「遅い」

 

 

ポツリ、とアリアが呟いた瞬間、渦みたいな魔力と気の奔流に、僕の身体は、回転しながら吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

流石は世紀末覇者の得意技。

一撃でネギ先生をゴミ屑のように吹き飛ばしました。

『気(オーラ)』の加護もあり、技の威力が段違いに上がっています。

 

 

十数メートルほど吹き飛ばされたネギ先生は、悶絶しながら、血を吐き続けています。

・・・殴った時の感触からすると、かなりヤバい一撃だったと思います。

それでも杖を手放さなかったのは、褒めてあげても良いですけど。

 

 

「・・・そろそろ、本気で治療を受けた方が良いと思いますけどね」

 

 

倒れたネギ先生にゆっくりと近付きながら、そんなことを呟きます。

意地を張って命を落としても、つまらないと思いますけど。

 

 

「さて、私の勝ちということで、良いですよね?」

 

 

もしそうなら、いろいろとお聞きしなければいけないのですけど。

 

 

「ぐ、げふっ・・・ま、まだ・・・かっ」

 

 

ネギ先生は、苦痛に顔を歪めながらも、片手を伸ばし・・・。

私の右足を、掴みました。

・・・誰の。

 

 

「誰の許可を得て、私の足に触っているのですか?」

 

 

掴まれていない方の足を上げて、頭を踏みつけます。

何度も。

何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。

 

 

10度目かそこらで、ようやく離してくれました。

よろしい。物分かりの良い子は、嫌いではありませんよ?

 

 

ネギ先生は、醜く腫れあがった顔で、私のことを見上げています。

なんとも反抗的で・・・同時に、理解できない物を見るかのような、怯えを含んだ目。

そう言う目は、正直、見飽きましたよ。

 

 

「いい加減、私も飽きてきましたし・・・家族をこれ以上、待たせるわけにもいきませんので」

 

 

もう、この人を殴り続けて30分近くになりますか?

茶々丸さんやさよさんが、待ちくたびれていることでしょう。

あまり時間をかけると、エヴァさんの機嫌も悪くなるでしょう。

 

 

ごきんっ・・・と、右手を鳴らして、ネギ先生の頭に手を伸ばします。

喋らなくても良いです。直接脳に聞きますか・・・。

 

 

「・・・か、ぞく?」

 

 

不意に、ネギ先生がかすれた声で呟きました。

あら、まだ喋れたんですか、鬱陶しい。

 

 

「ええ・・・私の家族です。時に厳しく、時に優しく。私を支え、時として導いてくれる人達です。まぁ、これからの貴方には関係の無い話で・・・」

「え、エヴァンジェリンさん達の・・・こと?」

「まぁ。肯定しておきましょうか。さてネギ先生、いえ、もう先生では無くなるのでしたね・・・」

「・・・・・・悪い」

 

 

は?

 

 

「・・・きもち、わるい・・・よ。それ」

 

 

口から血を流しながら、ネギ先生は呟きました。

気持ち悪い?

 

 

「血も繋がってるわけじゃない・・・知り合ったばかりの、そんな人達が、家族? 気持ち悪いこと、言わないでよ・・・アリア」

「は・・・?」

「頭、おかしいんじゃないの? はっきり言って・・・歪んでるよ」

 

 

歪んでる?

私が?

 

 

「父さんを探そうともしないで・・・家族なんていらない、みたいなこと言っといて・・・それで、赤の他人を捕まえて、家族。笑っちゃうよ・・・あはは・・・って、ぐふっ、げほっ」

 

 

咳き込むネギ先生。でも、そんなことはどうでも良い。

今。

今、こいつは、何と言った?

 

 

「そんな、家族・・・いくら必死に家族だって、言ったって・・・ごふっ」

 

 

今、こいつは何と言った?

 

 

「げほっ・・・そんなの、ただ、気持ち悪いだけじゃないか」

 

 

ニセモノだよ、と、ネギ先生が続けた、瞬間。

私の中から、全ての感情が消えた。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・遅いですね、アリア先生達」

「そうだな・・・」

 

 

7時前に、刹那がそんなことを言った。

確かに、少し遅い。ぼーやごときにアリアがそこまで時間をかけるとも思えんし・・・。

 

 

木乃香とバカ鬼は、千草達を連れて、先に別荘に入っている。

今頃は、あの陰陽師に会っている頃だろう。

先日、千草達にも別荘の使用許可を与えた。

その際には、月詠と刹那が化学反応を起こして面白かったな・・・。

 

 

千草は術師としては半端な腕前だが、きちんと対価を払うからな。

さて、次は何をさせるか・・・って、今はそれは考えなくて良い。

 

 

アリアだ、アリア・・・っと。

 

 

『マスター!』

「うぉっ・・・コラ、茶々丸。いきなり念話を繋げるな、驚くだろうが」

『申し訳ありません! ですが・・・』

 

 

うん・・・?

茶々丸にしては珍しく、慌てているようだな。何かあったか・・・?

 

 

『アリア先生を止めてください!』

「・・・・・・要領を得ていないぞ」

『アリア先生が・・・!』

 

 

アリアが、いったい、どうしたと言うんだ?

茶々丸は、何をそんなに慌てて・・・。

 

 

「・・・なんだと?」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ネギ先生の身体を放り投げ、睨み据える。

 

 

「投影開始(トレース・オン)」

 

 

紅のブレスレット『剣を使いし紅き弓兵』に、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を併用した魔力充填を行使。

召喚する刀剣は、『千刀・鍛』・・・一斉射出。

千刀流・我流奥義・・・。

 

 

「『千刀乱舞』」

 

 

千本の刀が、同時にネギ先生を切り刻みます。

ネギ先生は、魔力で最低限防御しているようですが、全身に裂傷が走ります。

 

 

ぽたっ・・・と、私の頬に降りかかってきたのは、彼の血。

軽く舌で舐めとれば、私の魔眼がそこから魔力を取り込みます。

同時に、千刀を全て破棄、使用されていた魔力を私に戻す効果を使用。

 

 

「『千の魔法』№15、『氷窟蔦(ヴァン・レイル)』」

 

 

地面に叩きつけられる直前、地面から伸びた氷の蔦が、ネギ先生を絡め取ります。

冷気に当てられたその身体が、ピキピキと音を立てて、少しずつ凍りついて行きます。

魔法具『跳(ジャンプ)』、彼の目前に飛び、左手で頭を掴みます。

 

 

「『千の魔法』№64、『夢魔』」

「う・・・ああああああああアアァああああああうぅあああああああああああ!!??」

 

 

『夢魔』の効果で、ネギ先生に「6年前のあの日」を繰り返し見せました。

それも、彼ご自慢のお父様が「助けに来なかったIfの夢」を。

何度も何度も・・・村が焼かれ、身体が石になって砕けていく夢を、見せ続けます。

 

 

意識が落ちる直前、全ての魔法を解いて―――ネギ先生の身体を、地面に向けて投げつけます。

『力(パワー)』と『バイキルト』が併用されているその一撃は、容易くネギ先生の身体を地面にめり込ませました。

まだ、まだですよ。まだこんな物で終わらせるつもりはありません・・・。

 

 

「・・・・・・が悪い」

 

 

怨嗟のように、嬲り続けているネギ先生に、言います。

 

 

「何が悪い・・・!」

 

 

血の繋がりがなければ、家族にはなれないのですか!?

その人の下に生まれたら、一生それに縛られなくてはならないのですか!?

 

 

血の繋がりの無い者を、家族と呼んで何が悪い。

いったい、何が悪い!

何もしてくれない、見てもくれない血の繋がった家族よりも、よっぽど良いでしょう!?

 

 

「望んで何が悪い!」

 

 

親を、指導者を、友を、支え合う者を。

庇護する者を、自分を頼り、信じてくれる人を。

望んで何が悪い!

 

 

「欲して何が悪い!」

 

 

私は、独りきりだ。独りきりだった!

誰も私の苦しみを理解してはくれない。

私の悲しみを聞いてもくれない。見てさえくれない。

そんな世界から逃げて・・・受け入れてくれる人を欲して、何が悪い!

そのために尽くして、何が悪い!

 

 

「願い求めて、何が悪い!!」

 

 

答えなさい、ネギ・スプリングフィールド!

村の人達、そして貴方の従者、生徒!

それらを省みることもしない、救おうともしない、そんな貴方が!

自分のことしか関心のないお前が!

 

 

いったい、何の権利があって、私を評した!

 

 

「答えろおおおおおぉぉぉっ!!!」

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「アリア先生っ! アリア先生っ!」

 

 

カードを通じた念話を試みても、通じない。

通じてはいるんだろうけど、止まってくれません。

結界の中に入ろうにも、あんな状況の中に飛び込めない。

 

 

それほどに、アリア先生は「キレて」いました。

ここまで怒ったアリア先生は、初めて見ます。

ネギ先生が、何か言ったみたいだけど・・・何を言ったら、ああなるの?

 

 

今この瞬間にも、アリア先生は多数の魔法具と『千の魔法』を併用した空間戦闘をやめません。

あれが・・・いつか言っていた、アリア先生の本来の戦闘スタイル・・・。

 

 

全方位からの魔法具による攻撃と、『千の魔法』による多重攻撃。

それに、魔眼の力を組み合わせて相手の攻撃手段を封じた上での、超近接攻撃。

遠距離でも近距離でも、アリア先生に触れることすらできない。

相手はただ、蹂躙され、殺戮されていくだけ・・・。

 

 

ネギ先生は、魔力運用でかろうじて防御しているけど、それももう保たない。

というより、命が保たない。

このままだと・・・。

 

 

「あれは・・・」

 

 

ネギ先生を空中に再び蹴り上げたアリア先生が、す・・・っと、ネギ先生を指さしました。

次の瞬間、七色の宝石を一つずつ嵌め込まれた白い石板みたいな物が、アリア先生の周りに出現した。

その七枚の石板が、まるで羽のようにアリア先生の背中に集った。

そこから、強大な魔力が集中していく。

 

 

あれは、『アイン・ソフ・オウル』!

あんなの撃ったら・・・!

 

 

「アリア先せ」

 

 

アリア先生は、撃った。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

意識が、今にも途切れそうだった。

というか、途切れないのが不思議なくらいだった。

瞬間的に途切れても、痛みで覚醒する。

 

 

「『全てを貫く、私の光』」

 

 

真下から、アリアがあり得ない密度の魔力で、砲撃してきた。

真っ白なその光が、僕を包み込んで・・・。

 

 

「『風楯(デフレクシオ)』・・・!」

 

 

物理防御、魔法障壁・・・杖を前に掲げて、残りの魔力の全てを込めて防御した。

アリアの撃った砲撃は狙いが外れていたのか、直撃は避けれたけど・・・全ての防御が、打ち砕かれた。

かろうじて、防ぎ。

 

 

「防がせてあげたんですよ」

 

 

砲撃の直後、アリアが黄昏色の剣を振り上げて、目の前にいた。

その刀身からは、激しい黒炎が。

 

 

「『千の魔法』№60、『奈落の(インケンディウム)業火(ゲヘナエ)』。繋いで・・・是、『地獄の焔姫』」

 

 

 

深紅に輝く、アリアの両眼。

その視線からは、ビリビリとした、何かを感じる。

これは、これはきっと・・・。

 

 

殺気だ。

アリアは、僕を・・・殺すつもりで戦ってる!

思わず杖を、父さんに貰った杖を、前面に掲げる。

でも、魔力が足りない!

防げな。

 

 

ギッ・・・イイイィィィンッッ!!!!

 

 

アリアの剣と、僕の杖が、正面からぶつかった。

それは、一瞬だけ拮抗して――――――。

 

 

バキッ・・・ィッ!

 

 

嫌な音を立てて、僕の、父さんの杖が。

あ・・・。

 

 

「あ、あああああああああああああああああああああああああっ!!??」

「うるさい」

 

 

僕の杖を半ばから折った勢いのまま、アリアの剣が。

僕の左肩に、突き立てられて、僕が地面に。

 

 

「ネギ――――――――――――っ!!」

「・・・アリアっ!」

 

 

聞き覚えのある、二つの声を耳にしながら。

僕の意識は、消えた。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・落ち着け、バカ者」

「あ、う・・・エヴァ、さん?」

 

 

けしかけておいて、「落ち着け」と言うのもおかしいが・・・。

 

 

アリアとぼーやが地面に降り立った瞬間、アリアを止めに入った。

さよや茶々丸はこの空間には入れないが、マスター権限を持つ私だけは、影を使った転移でアリアの側まで行くことができた。

時間軸が異なるこの空間に入るには、かなり苦労したが。

 

 

というより、無理矢理道をこじ開けた、と言った方が正しいだろうか。

とにかく、炎熱系の魔法を付与されたアリアの『“姫”レプリカ』を、最大出力の『断罪の剣』・・・それも、魔法具『魔血玉(デモンズ・ブラッド)』で魔力容量を底上げした上で、受け止めた。

 

 

真祖の吸血鬼である私が、魔力を底上げしなければ受け止められない程の一撃。

この威力、確実にぼーやの息の根を止めに来ていたな。

別に殺したら殺したで良いが・・・。

 

 

「ネギっ、ネギぃ!」

 

 

どういうわけか、神楽坂明日菜がこの空間内に入れている。

魔法無効化能力か? それにしては、汎用性が高過ぎるような気もするが・・・。

 

 

ばきんっ・・・と、音を立てて、アリアの作った空間が壊れた。

見れば、アリアの右眼が輝きを失っている。自分で解いたか・・・。

 

 

「アリ・・・」

「どういうつもりよ!?」

 

 

アリアに声をかけようとした所で、神楽坂明日菜がキャンキャンと・・・鬱陶しい。

私はこれから、アリアのケアをしてやらねばならんと言うのに・・・もちろん、叱りもするが。

 

 

「どうしてこんな・・・こんな、ネギが死にそうになってんのよ!?」

「真剣勝負の結果だろ・・・いちいち喚くな、バカレッド」

「な、何が真剣勝負よ!? アリア先生には傷一つ無いじゃない! それに、ここまでするくぁっ!?」

「少し黙れ・・・私も、状況の確認に追われているんだ」

 

 

人形遣いのスキルに用いる糸で、神楽坂明日菜の首を絞めあげる。

正直、邪魔だ。

それに、どうも学園の魔法使いに勘付かれたのか、いくつか反応がこちらに近付いて来ている・・・。

 

 

「それに運が良かったじゃないか、神楽坂明日菜。そのぼーやと一緒に来ていたら、同じような目にあっていたかもしれないぞ?」

 

 

そう言ってやると、神楽坂明日菜は私を睨んできた。

涙すら浮かべて睨んだ所で、現実は動かんぞ。無慈悲なまでにな。

その現実の一端が、今のぼーやの姿だ。

 

 

ぼーやを見れば、無残な物だった。

ぱっと見ただけでも、全身の至る所に骨折、裂傷などがある。

何よりも、最後の攻撃で左肩が深く斬られている。あれは骨まで達しているだろうな。

余剰分の炎で、神経が焼き切れているかもしれん・・・というより、あと少し止めるのが遅ければ、心臓か、そうでなくとも重要な血管が損傷していたかもしれんな。

随分と血を流したのか、顔色も悪い、というより、危険な色だ。

 

 

何よりも・・・と、ぼーやが未だに握り締めている杖を見る。

ナギにもらったとか言う、ぼーやにとっては、まさに命よりも大事な杖だ。

それが今や、真っ二つに砕けてしまっている。

何よりも、ぼーやには堪えただろう。

 

 

「随分と、痛めつけたようだな。アリア」

「あ・・・」

 

 

そんな顔で見るな。別に、怒っているわけじゃない。

やらせたのは、私だからな。

第一、魔法使い同士の勝負の結果、大怪我をしたからと言って、責める方がおかしい。

それより・・・。

 

 

「・・・すっきりしたか?」

 

 

そこだけが、気にかかるな。

こいつは、溜め込むタイプだからな・・・。

 

 

「まだ殴り足りないなら、殴ってもいいぞ?」

「んぐっ・・・んん――――っ!」

 

 

息を詰まらせながら、神楽坂明日菜が何かを訴えていた。

首を絞めてもうるさいとなると、もうどうすれば良いんだ?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

すっきりしたか? と、エヴァさんに問われて。

正直、まだモヤモヤした物は残っていますけど・・・。

 

 

でも、どこか、「ああ・・・」という気持ちには、なっていました。

ああ、私は、こうしたかったのか・・・と。

言葉でも無く、ただ、ぶつけたい物があったんだな、と。

そう、思いました。

 

 

「くむっ・・・」

 

 

その時、どしゃり、と、明日菜さんが倒れ伏しました。

どうやら、エヴァさんが彼女の意識を刈り取ったようでした。

 

 

「それで・・・ぼーやに手を貸したのは、誰だったんだ?」

「あ・・・すみません。これから調べます」

 

 

ごきん、と、右手を鳴らします。

脳髄から、直接情報を引き出します。

それと・・・『ケットシーの瞳』から、『忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』を取り出します。

ネギ先生の頭に、右手を置きます。

 

 

・・・ごめんなさい、シンシア姉様。

アリアは今日、家族・・・家族「だった」人を、切り捨てます。

さようなら、ネギ先生・・・いえ、ネギ。

 

 

明日から貴方は、赤の他人だ。

 

 

「・・・発動」

 

 

忘却の書(ビブロス・テイス・レーテ)』を、発動しました。

 




アリア:
アリアです。
なんだか、途中の記憶が無いです。
気がついたら、ネギが死にかけていました。
そして、彼の記憶を・・・。

今回使用した魔法具は、以下の通りです。

無気力な幻灯機:こんな小説作ってごめんなさい様の提供。元ネタは「ネウロ」。
剣を使いし紅き弓兵:景鷹様から提供、元ネタは「Fate」。
アイン・ソフ・オウル:Flugel様より。元ネタは「ナイトウィザード」。
千刀・鍛:元ネタは「刀語」。イスレ様の提供です。
ひそひその苺:アプロディーテ様提供。
魔血玉:水色様・司書様より提供。元ネタ「スレイヤーズ」。
気:ギャラリー様より提供。
ありがとうございます。

使用した「千の魔法」。
氷窟蔦:伸様より提供。「スレイヤーズ」より。
崩:司書様、グラムサイト2様から提供。「烈火の炎」より。
夢魔:司書様より。元ネタは「暁の天使たち」です。
バイキルト:元ネタは「ドラクエ」。提供者は司書様です。
封絶:元ネタは「灼眼のシャナ」、ゾハル様より提供。
ありがとうございます。

なお、作中登場の「猛虎硬爬山」の元ネタは「Fate Extra」。
ギャラリー様の提供です。
ありがとうございます。


アリア:
次話では我が3-Aの出し物も、決まると良いのですが。
・・・今気付いたのですが、ネギ先生が先生をやめたら、「魔法先生ネギま」のタイトル、変わるんじゃないでしょうか?
では、またお会いしましょう。

皆様、良いお年を。


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第51話「新たな関係」

Side 学園長

 

正直に言おう、わしは今、危機的な状況にある。

 

 

『・・・納得のいく説明をしてもらいたい』

『こちらとしても、こうまで東での近衛木乃香の後見人をないがしろにされてしまうと・・・』

 

 

執務室にて、わしは一人、遠方からの2つの通信を受けておる。

相手は、関西呪術協会の長にしてわしの娘婿、近衛詠春。

そして今一人は、わしの旧友であり、ネギ君やアリア君の母校であるメルディアナ魔法学校の校長。

 

 

何の通信かと言うと、ぶっちゃけ、抗議じゃ。

内容を一言で言うと、「アリア君の待遇、ひどくない?」じゃな。

さらに言うと、「自分らのこと、舐めてない?」でもある。

 

 

・・・うむ。

対外的に、大ピンチじゃ。わし。

 

 

『そちらの明石教授からのレポートによると、そちらに預けた2人の卒業生の扱いに明確な差があると聞く』

「ほ、ほう。そうかのぅ、わしとしては別に」

『明らかに通常以上の量の仕事をさせていたとか』

「ほ・・・」

『どちらがとはあえて言わんが・・・その間、残る一人は、卒業課題とは関係の無い修行に明け暮れていたとか』

 

 

その後、メルディアナの校長は、わしでも把握していなかった具体的な労働量、労働時間その他の待遇について、詳しく説明しだした。

・・・明石君、わしに見せたレポートの写しには、そこまでのことは書いてなかったぞい。

 

 

『関西としても、一度ならず二度までもアリア君に危害を加えられると・・・ちょっと』

「そ、それはじゃな婿ど・・・ではなく、詠春殿」

『いえ、私は良いんですが・・・けしからん、と言う者もいるのですよ』

 

 

婿殿、それは言外に「若いのが東へテロに行くかも」と言う意味を込めておるのか?

それから婿殿は、昨日のネギ君とアリア君の騒動の一部の映像を流し始めた。

それも編集された物で、「ネギ君がアリア君に暴行を加えた結果、超反撃されました」な内容の物じゃった。

さ、先に出されてしまった・・・。

 

 

い、いやそれよりも。

なぜ婿殿がこの映像を持っているのじゃ?

 

 

「さぁ・・・どうしてだろうな?」

「!?」

 

 

突然、冷気と共に、耳元で誰かが囁いた!

振り向くも・・・そこには誰もいない。

 

 

『どうかしましたか?』

「い、いや・・・今、誰かいたような気が」

『何を言っている、誰もいなかったぞ』

『ええ、金髪の少女など見えませんでした』

「・・・・・・そうかの」

 

 

というか、メルディアナの校長は突っ込まねばならん所じゃと思うのじゃが・・・。

どうやらわしに、味方はおらんようじゃ。

タカミチ君、早く帰ってこんかのぅ・・・。

 

 

ど、どうするかの、ネギ君を庇えばわしの地位が危うくなるし・・・。

と言って、わしが保身に走ればネギ君の立場が悪くなるし・・・。

とは言え、両方が何らかの責任をとらんことには、この2人は納得せんじゃろうし。

 

 

ふぅ・・・と、2人に気付かれぬように溜息を吐く。

目線を下げると、机の上には本国からの通知が。

内容は、元老院議員、クルト・ゲーデル氏が、アメリカのジョンソン魔法学校を含む複数の旧世界の魔法学校を視察する、と言う物じゃった。そこには当然、この麻帆良も含まれておる。

まぁ、とどのつまりは査察じゃな。

 

 

日程は、麻帆良祭期間中。

・・・わし、詰んだかもしれん。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「えー、突然ですが、ネギ先生が入院しました」

「「「「えええええええええ――――――――――っっ!!!」」」」

 

 

おお、このクラスは今日も元気が良いですね。

皆さんが元気だと、私も嬉しいです。

 

 

「はい、では出席を取りますね」

「ち、ちょっと待ってくださいませアリア先生!!」

「雪広さんは29番目に呼びますからね」

「ね、ねねねネギ先生が入院って、どういうことですの!?」

 

 

雪広さんの出席欄に、静かに○を付けます。

それから、ふっ・・・と微笑んで。

 

 

「大丈夫、ネギ先生はいます・・・皆の、心の中に」

「それは確かに私の心の中にはいつでも、ネギ先生の笑顔がっ・・・!」

「さぁすが、アリア先生! 言うことが違うね!・・・意味は良くわかんないけど!」

 

 

明石さん、ノリとテンションだけで物を言うのはどうかと思いますよ?

そして雪広さん、妄想の世界から帰ってきてください。

 

 

「・・・まぁ、真面目な話をすれば、ちょっとした過労みたいな物で、すぐに退院できるそうです」

「過労! ああ、委員長たる私が、いたいけな少年の疲労に気付けないなどと・・・っ」

「ねぇねぇ先生、ネギ君のお見舞いに行っちゃダメ?」

「お気持ちは嬉しいのですが、過労ですので、休ませてあげてくださいね。まき絵さん」

「うう~、そっかぁ・・・」

 

 

ネギ先生が「過労」になるという言葉に、誰か突っ込んではくれないのでしょうか。

まぁ、生徒の立場からすると、教師が授業以外にどんな仕事をしているかなんて、わかりませんからね。

未だにトリップしている雪広さんはとりあえず置いておくとして、出席を取りましょう。

朝のHRの時間は、限られていますから。

 

 

・・・なんというか、一部の生徒が私を見る目が厳しいですね。

特に、明日菜さん。次点で宮崎さんでしょうか?

まぁ、宮崎さんはどこか、怯えも混じっているようですが。

事情を知っている方からすれば、今の私の姿は、面白くないでしょうね。

 

 

ネギの居場所を、奪ったような物ですし。

 

 

「さて、ご存知の通り、学園祭が近いわけですが・・・我がクラスはまだ出し物が決まっておりません」

 

 

出席の後(全員出席)、速やかに学園祭の出し物について話し合います。

そろそろ決めないと、時間的に不味いです。

 

 

「いやしかし、それは難しい問題ですぜ、アリアの親分」

「誰が親分ですか。先生と呼んでください」

「メイドカフェを超える集客数となるとねぇ・・・」

 

 

渋くキメ顔で話す、明石さんと早乙女さん。

メイドカフェが却下されたら、もう撃ち止めなんだ・・・。

その時、椎名さんが「はーい!」と手を挙げました。

 

 

「『ドキ☆女だらけの水着大会・カフェ♪+アリア先生ご奉仕バージョン』が良いと思いまーす!」

「前半だけでも突っ込み所が満載ですが、あえて後半に絞ります。私に何をさせる気ですか」

「え? だからご奉仕」

「その内容、詳しく聞かせろ・・・!」

 

 

なぜかエヴァさんが激しく反応しました!

あと早乙女さん、「・・・それだ」じゃありません。

貴女の脳内では、どんな映像が繰り広げられているのですか。

そして続々と提案が。

 

 

「じゃあ、『女だらけの泥んこレスリング大会喫茶+アリア先生を汚してみない?』で!!」

「負けねーぞ!『ネコミミラゾクバー+アリア先生でにゃんにゃん』!!」

 

 

まき絵さん、風香さん、2人とも後で職員室に来なさい。

そしてなぜ、それが通ると思ったんですか。

さらに言えば、メインが「私に何をさせるか」になっている気がします。

 

 

「・・・もう、素直に『アリア先生限定・ノーパン喫茶』でいいんじゃないかしら」

「「それだあぁっ!」」

「は、80年代に、実在・・・!!」

「全員後で職員室に来なさい!」

 

 

なぜか、千鶴さんの提案が一番喰いつきが良かった。

そんなに私を辱めたいのですかこのクラスは!

あと茶々丸さん、ハカセさんが「オ、オーバーヒート・・・!」とか言って目を輝かせていますから、頭から煙を出すのをやめてください。

 

 

「あ、アリア先生、私・・・女だらけとか、意味がわからないんですけど・・・あと強く生きてください」

「大丈夫ですよ、史伽さん。私にもまったくわかりません。・・・主に私が被害者ですし」

 

 

涙目の史伽さんに慰められると言う、不可思議な現象が起こりました。

そしてそんな私と史伽さんの肩に、真名さんが手を置いてきました。

 

 

「キミ達は知らなくても良いことだ。そして良い子は周りの大人の人に尋ねてもいけない。キミ達とお姉さんとの約束だ!」

「何をどう約束するのか、まったくわかりませんよ真名さん」

 

 

そのままHR終了まで、クラスの人達は騒いでいました。

一部を、除いて。

 

 

 

 

 

Side のどか

 

結局、明日までにアリア先生に案を提出、明日のHRで投票した後、本格的に役割を分担して準備に入ることになった。

正直、時間はあんまりないけど・・・。

 

 

で、でも、どうしよう・・・。

さっきは違う理由だったけど、ネギ先生、すごい怪我をしてるって・・・。

 

 

今朝、夕映や明日菜さん達と一緒に、学園長先生に呼び出された。

いきなり何かと思ったけど、ネギ先生のことだって聞いて、すぐに行った。

そこで、昨日の出来事を聞いた。

 

 

学園長先生は、すごく疲れた顔で「今回の件でアリア先生を悪く思わないように」って。

明日菜さんは怒ってたけど・・・でも夕映は「ネギ先生が先に手を出したんだから」って、言ってたし・・・。

わ、私は、どうすれば良いんだろう・・・。

とにかく、ネギ先生の所に行きたい。クウネルさんの・・・前に一度だけ会った、ネギ先生の魔法の先生の所にいるって言ってたから・・・。

 

 

「はい、どうぞ。宮崎さん」

「え、あ、あの・・・ありがとうございます」

 

 

アリア先生が、急に何かの冊子を手渡してきて、すごく驚いた。

慌てて受け取ると、そこには「英語対策・宮崎さん用」と書かれていた。

私だけじゃなくて、クラスの皆にも。

 

 

「アリア先生、これなーにー?」

「皆さんの過去の成績、傾向などを基に作成した、個々人の対策冊子です」

 

 

私達のクラスの中間試験の成績は学年4位。

悪くはないけど、良くもないし・・・アリア先生としては、もう少し成績を上げさせたいみたい。

でも、これ・・・。

 

 

「・・・うぉ!? ハルナの、萌える英単○帳みたいなのになってる!?」

「わ、私のは、ハイデガーの英訳です・・・」

「か、格闘マンガが全部英語に・・・横に英単語の中国語訳まで付いてるアル」

「これからの英語の時間は、それぞれその冊子を進めてくださいね。週に一度か二度、進捗具合に応じて小テストを実施します」

 

 

これ、作るのすごく時間がかかったんじゃ・・・。

 

 

「・・・アリア先生」

「はい、なんでしょうか茶々丸さん?」

 

 

茶々丸さんが、アリア先生に何かを囁いた。

すると、アリア先生の顔がみるみる内に青ざめていって・・・。

そして突然、アリア先生が身体を直角に曲げた。

 

 

「申し訳ありませんでした!!」

「あのアリア先生が絡繰さんに謝った!?」

「茶々丸さん最強伝説!?」

 

 

よ、良くわからないけど・・・。

たぶん、良い先生・・・良い人なんだと思う。

でも・・・。

 

 

でも、私はあの人が怖い。

あの笑顔が、細められる瞳が、言葉を発する口が。

怖くて怖くて、仕方が無い。

 

 

良い人なのに、優しい人なのに・・・。

どうしてだろう。私は、あの人が怖い。

アリア先生のことが、怖いんです。

 

 

ぎゅっ・・・と、膝の上に置いたアーティファクトの本を握りしめる。

実は何度か、カモさんにアリア先生の心を読んでほしいって、頼まれたことがある。

でも私は、一度も読み取ろうとしたことが無い。

読もうとすると、頭が割れそうなくらい痛くなるからって言うのもあるけど・・・。

一番の理由は、怖いから。

 

 

アリア先生の心の中を見た時、私の中の何かが終わりそうで。

私は、あの人の心を見ることができません。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「どうですかな瀬流彦先生、今夜皆で食事でも」

「あ、良いですねー、さっちゃんのお店ですか?」

 

 

お昼休みに、新田先生とそんな会話をした。

学園祭準備期間中は、さっちゃんのお店が毎日やってるから、嬉しいなぁ。

アリア君も誘おうかな。もの凄い量の荷物を持って、嬉々としてクラスに行ってたみたいだけど。

大変そうだったから「手伝おうか?」って言ったら、なぜかビクビクしながら、「い、いえ、今の私、力持ちですからっ」とかわけのわからないことを言って出て行っちゃった。

 

 

あれはたぶん、新田先生から隠れていたに違いないと、僕なんかは思うね。

最近、新田先生に隠れて密かに仕事を増やそうとするから、タチが悪い。

今日、全部暴露してやろうと思う。新田先生の前で。

 

 

「あ、瀬流彦先生。ちょっと良いかしら?」

「はーい? あ、しずな先生」

 

 

振り向いてみると、しずな先生が微笑みながら立っていた。

相変わらず、綺麗な人だなぁ・・・。

タカミチさんと良い感じだって噂を聞くけど、どうなんだろう。

まぁ、僕みたいな奴には、関係の無い話だよね・・・言ってて悲しくなってきた。

 

 

「どうかしました? ぼうっとして・・・」

「え、あ、いえ、あはは・・・」

「・・・? 生徒の子が、相談があるそうですよ?」

「あ、はい。わかりました」

 

 

相談・・・誰だろう?

新田先生とかじゃなくて、僕を指名する生徒なんて・・・って。

 

 

「こ、こんにちは、アル」

 

 

えーっと、アリア君のクラスの、古菲君だっけ?

彼女が、どこかモジモジとしながら立っていた。

 

 

「えーと、先日の一件について、個人的な相談をしたいアルが・・・時間をもらえないアルか?」

 

 

先日の一件。

個人的な相談。

その単語から察するに、魔法先生としての僕に相談ってことかな?

なるほど、それなら新田先生じゃなくて、僕かもしれないね。

でも・・・。

 

 

言い方を、考えてほしかったなぁ・・・。

だって、しずな先生の視線が急に厳しくなったんだもの・・・。

しかも、なぜか新田先生が僕の肩に手を置いてきた。

 

 

「瀬流彦先生・・・」

「・・・残念でならない」

「ちょ・・・何かすごくベタな誤解してません!?」

「?」

 

 

助けて、アリア君!

たぶん、この状況をなんとかできるのはキミだけだと思う・・・!

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

放課後、近所の保育園の手伝いに行ったちづ姉の代わりに、夕飯の買い出しに行った。

そしたら、途中でガラの悪い人に絡まれた。

いわゆる、ナンパと言う物で・・・。

 

 

たぶん、高校生くらいだと思うんだけど・・・。

な、なんでこんな普通な私に?

 

 

「なー、いーだろー?」

「痛っ・・・!」

 

 

まごまごしてたら、腕を掴まれた。

力が強くて、痛かった。

こんな時ドラマとかのヒロインだったら、主人公の男の子とかが、颯爽と助けてくれるんだけど。

 

 

私みたいな、普通で、何のとりえもない脇役な子には、そんなの・・・。

実際、周りの人も遠巻きに見てるだけで、助けてくれそうにないし。

こんな時、ちづ姉がいてくれたら・・・!

 

 

「なぁ、そこのねーちゃん」

「へ?」

 

 

その時、昨日の黒髪の男の子が、いつの間にか側に立ってた。

最初は、なんでそんな所にいるのか、わからなかったけど・・・。

男の子は、人懐っこそうな笑顔を浮かべると、私の持ってる買い物袋を指さして。

 

 

「悪いんやけど、その白味噌譲ってくれへんか? おつかい頼まれとるんやけど、この辺の店は全部品切れらしくてなー」

「え、えっと?」

「おい、ガキ。邪魔だ。消え・・・」

 

 

私の腕を掴んでいた男の人が、苛立った顔で、その子に手を伸ばした。

あ、危な・・・。

 

 

次の瞬間、男の子がその腕を掴み返して、その人を放り投げた。

私に絡んでた男の人は、そのまま数メートルほど投げ出されて、植え込みに落ちて、動かなくなった。

・・・え?

 

 

「えええええぇぇぇぇっ!?」

「なんや、ねーちゃんも白味噌派なんか? まいったなー、他にスーパーとかあったかいな?」

 

 

白味噌って、私の買い物袋に入ってるやつ・・・だよね?

タイムサービスで買った、安くておいしいの。

ちづ姉が好きなんだけど・・・じゃなくて!

 

 

「い、今、男の人がぽ~んって!」

「千草ねーちゃんは赤でもええて言うやろうけど、月詠のねーちゃんがなー。あれで結構味にうるさいしな」

「え、ちょ、ちょっと待って!」

 

 

その男の子・・・10歳くらい?

その子が、そのままどこかに行こうとしたから、慌てて呼び止めた。

えっと、よくわかんないけど、助けてくれた・・・んだよね?

だったら、お礼。お礼を言わないと!

 

 

「えっと・・・これ!」

 

 

さっき買った白味噌を差し出すと、男の子は驚いた顔をした。

 

 

「ええんか?」

「う、うん・・・助けてくれて、ありがとう」

「うん? ・・・あー、アレか。二度と捕まったらあかんで、ねーちゃん」

「へ?」

 

 

捕まる?

あー、タチの悪いナンパにってこと?

 

 

「やー、助かったわー。もう6件くらい回っとって、うんざりしてたんや」

「そ、そうなんだ・・・」

「ありがとな、ねーちゃん。ほな俺、急いどるから!」

「あ・・・ち、ちょっと、名前! 名前教えて!」

 

 

そのまま、今度こそ駆けて行った男の子に、名前を聞いた。

助けてくれた人を、「男の子」なんて漠然とした呼び方をするのは、なんだか嫌だったから。

 

 

「名前? 俺の名前か? ・・・小太郎や!」

「コタロー・・・小太郎君? わ、私は村上! 村上夏美!」

「村上夏美・・・夏美ねーちゃんやな! 覚えたで!」

 

 

男の子―――小太郎君は、一度だけ手を振ると、今度こそどこかへ走って行っちゃった。

・・・小太郎君。

また、会えると良いな。

 

 

どうしてか、素直にそう思った。

 

 

「・・・お味噌、どうしよ」

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

強い―――。

素直に、感嘆するしかなかった。

 

 

「脇が甘い!」

「ぐっ・・・!」

「相手の攻撃を止めた後、動きを止めない!」

 

 

エヴァンジェリンさんの訓練で、基礎力は付いたと思う。

だが剣士としての腕は、むしろ鈍ったのではないかとすら思う。

この人を・・・。

 

 

青山素子様を、相手にしている時は。

 

 

凛とした佇まい、鋭い剣筋。

京都で修行していた幼い頃、長の剣を何度か見たことがあるが、素子様の剣筋は、長よりも鋭く、容赦が無い。

同じ流派でも、振るう人間次第でこうまで違うのか。

 

 

先月、この方に稽古を付けてもらえると聞いた時には、どこか遠慮する気持ちもあったが・・・。

今は、この機会をくれたアリア先生とエヴァンジェリンさん、そして長に感謝している。

この方と剣を交えれば、私は・・・。

 

 

「神鳴流奥義、斬岩剣!」

「技の入りから発動までが長い!」

 

 

私は、もっと強くなれる!

だけど、今は。

 

 

「あっ・・・ぐ!?」

 

 

斬岩剣の発動の瞬間を見切られ、腕を取られる。

そのまま身体を回されて、ズダンッ、と床に叩きつけられた。

衝撃と痛みから目を開けた時には、すでに眼前に木刀を突き付けられている。

 

 

「・・・参りました」

「ありがとうございました」

 

 

素子様に助け起こされながら、思う。

今はまだ、私は弱い。

 

 

「・・・筋は良いです。基本もできていますし・・・良い先生がついていたようですね」

「あ、はい・・・ありがとうございます」

 

 

別荘で私を鍛え上げてくれたエヴァンジェリンさん達のことを褒められたような気分になって、なんだか嬉しくなった。

素子様に稽古を付けてもらうのは、まだこれが二度目だ。

学校が終わった後、アリア先生の『どこでも扉』で素子様がいる道場にお邪魔している。

だけど、この方が素晴らしい剣士であると同時に、人間としても素晴らしい方だと言うことはわかる。

 

 

「はぁ、はぁ・・・素子は~ん・・・」

「・・・赤い顔で私を見るあの子は、なんとかなりませんか?」

「も、申し訳ありません・・・」

 

 

ちなみに、この稽古には、あの月詠もついて来ている。

再会した時は、正直その場で切り捨ててやろうかと思ったが・・・天ヶ崎千草共々、もはやこのちゃんに興味は無いとのことだし、アリア先生も無害を保証してくれたので、保留している。

何より、このちゃんに「何かあっても、せっちゃんが守ってくれるやろ?」と笑顔で言われてしまっては、私はもう何も言えなかった。

 

 

それに実際、月詠は神鳴流剣士としてもかなりの実力者だ。普段の練習相手としては申し分ない。

ただ、流石に素子様との稽古にまでついて来ると聞いた時は、良い気分はしなかった。

本人と長の許可はもらっていると言うので、表向き不満は言わなかったが・・・。

 

 

出会い頭に、連れが宗家の人間に斬りかかる気分を、アリア先生達はわかっているのだろうか?

・・・まぁ、素子様はこともなげに、一撃で月詠を道場の壁にまで吹き飛ばしていたが。

 

 

今も、壁際で逆さまになった体勢のまま、月詠は私と素子様の稽古を見ていた。

 

 

「・・・あの子はとりあえず、邪気の御し方からでしょうか?」

「素子はん、素子はん。もっぺんやりましょ?」

「足腰立って無い子が、生意気言わない」

 

 

それにしても、素子様は月詠の扱いというか、あしらい方が上手い。

私も、参考にしよう。

 

 

「刹那さん」

「は、はい!」

「そんなに緊張しなくても」

 

 

し、しかしですね。青山宗家の出である素子様は、私のような者にとってはまさに雲の上の存在でして。

稽古中ならともかく、面と向かって緊張するなと言う方が、無理な話で。

 

 

「・・・聞いてた通りの子ですね。まぁ、そのうち、気にしてられなくなるでしょう」

「は・・・?」

「こっちの話です。さて、刹那さん。刹那さんは基礎はできていますから・・・基本的に、教えられることはあまりありません。試合の中で、自分で掴んでいく方法を取ろうと思います」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「ん・・・ならば」

 

 

行きます、と笑って、素子様は木刀を手に、向かってきた。

私も、自分の木刀を握りしめて、迎え撃つ。

 

 

強くなりたいと願う度に、思い浮かべるのは、このちゃんの笑顔。

今はまだ、私は誰よりも弱いけれど。

 

 

いつか、きっと。

 

 

 

 

 

Side エヴァ

 

「超包子」は、私も贔屓にしている店だ。

茶々丸も手伝っているし、何よりも料理人のサツキは、私も認める人間だ。

見ていて、気分が悪くなると言うことは無い。

まぁ、たまに鬱陶しい客も来ることもあるが・・・。

 

 

「珍しいネ、エヴァンジェリン。一人カ?」

「超か・・・」

 

 

カウンターで一人で飲んでいると、超が顔を出した。

茶々丸の生みの親の一人であり、この「超包子」のオーナーでもある。

以前であれば、多少は気を許して話せる人間だったが・・・。

 

 

この超鈴音が、ぼーやの枷を解いた張本人でなければな。

 

 

「・・・言い訳を聞こうか、超鈴音」

「随分な言い草ネ」

 

 

どこか得体の知れない笑みを浮かべて、超は私を見た。

この超は、一見ポヤポヤしたマッドサイエンティストだが・・・。

その実、全世界に魔法使いの存在をバラすなどと言う、大それたことを計画しているバカだ。

正直、興味がなかったから、深くは聞いていないが。

 

 

アリアが得たぼーやの記憶の中には、この超がぼーやの枷を外した、とあった。

実の所、超にそこまでの実力があるとは思えなかった。

だが、アリアが魔法具の扱いを失敗するなどと言うことはあり得ないし、そんなくだらん嘘を言う奴でもないと知っている。

ならそれは、真実なのだろう。

 

 

「貴様、どういうつもりでぼーやに手を貸した?」

「手を貸したつもりは無いヨ? ただ、アリア先生との関係を決定的な物にしたかっただけネ」

「アリア・・・?」

 

 

そこで何故、アリアが出てくる?

ぼーやとアリアが完全に仲を違えることが、超の計画に何の関係がある?

 

 

「あのままでは、アリア先生とネギ坊主の関係は、曖昧なままずっと続いていたヨ」

「それは・・・そうだろうな」

「それは正直、困るからネ。アリア先生とネギ坊主は、完全に決別してもらわないと困る」

「なぜだ?」

「・・・それは、言えないネ」

 

 

人差し指を唇に当てて、超は言った。

ほぅ・・・。

 

 

「おおっと、待ってほしいネ。貴女と事を構えるつもりは無いヨ」

 

 

微かに魔力を漂わせると、慌てて超はその場から下がろうとした。

しかし、私の人形遣いの糸が、周囲を取り囲んでいる。

一歩でも動けば、首が落ちるぞ?

 

 

「・・・ありゃりゃ。これは困ったネ」

「だったら全部話せ。隅から隅まで、包み隠さずな」

「そう言われても、言えないアルよ・・・言わないんじゃ無く、言えない。私がギリギリ言えるのは、ここまでネ」

 

 

困ったような顔で、超が言う。

ふん・・・貴様の都合など知らん。

言えないと言うなら、それも良いだろう。だが・・・。

 

 

「貴様は、ここで終わる」

「おや、良いのかネ? アリア先生に嫌われるアルよ?」

「はん・・・心配無用だ。殺さずとも、全ての記憶を奪って無力化すれば問題無い」

「それは怖いネ。怖いアルから・・・」

 

 

超は、懐から羽ペンのような物を取り出した。

それが何かはわからん。わからんが・・・詮索は後でできる。

動く前に、無力化する。

 

 

「一応、一つだけ言っておくと・・・」

「なんだ? 辞世の句でも読みたいのか?」

「・・・私は、アリア先生の幸せを願っているネ」

 

 

その言葉に、一瞬だけ糸を操る指が止まる。

ほんの一瞬、言葉の意味を考えてしまう。

その、一瞬の間に。

 

 

「では、また明日、教室でネ♪」

「ぬ・・・」

 

 

超の持つ羽ペンが淡く輝いた直後、超が姿を消した。

周囲を探るも、すでに気配は無い。

それなりの距離、転移されたらしい。

 

 

だが、転移魔法の痕跡は無かった。術式構成も見えなかった。

この私が、超ごときの転移を止められないばかりか、追跡もできんだと・・・?

 

 

「また明日、だと・・・舐めたコトを言いおって・・・」

 

 

それは、言ってしまえば私からはいつでも逃げられると言うことか。

・・・良い度胸じゃないか、超鈴音。

 

 

だが、それはそれとして、超について茶々丸と話す必要があるな。

あいつは、私には嘘を吐かん。

サツキは・・・おそらくは、何も知らんだろう。

超め・・・。

 

 

アリアの幸せを願うと言う言葉が本当なら、危害は加えんかもしれんが・・・。

超の願うアリアの幸せと、アリアの願うあいつ自身の幸せが、同じとは限らん。

・・・脳裏に、超の笑みが浮かぶ。

 

 

バリンッ・・・持っていたグラスを、いつしか握り潰していた。

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・?」

 

 

今、一瞬だけ、2つの大きな魔力が弾けたような。

エヴァさんと、もうひとつは・・・。

 

 

私が、す・・・と、目を細めていると、隣のしずな先生が、不思議そうな顔で私を覗き込んできました。

 

 

「どうかしましたか、アリア先生?」

「あ、いえ・・・なんでもないです」

 

 

すぐに笑顔を浮かべて、そう答えます。

私は今、「超包子」で夕食を食べています。

いつもはエヴァさん達と食事をとるのですが・・・。

今日は、一人で飲みたいとのこと。

それにせっかくのお誘いですし、ご一緒することにしました。

 

 

「いやぁ、今日もさっちゃんの勇姿が見れちゃいましたねぇ!」

「ハッハッハッ。楽しんでおりますかなアリア先生!」

 

 

私の横には、新田先生と瀬流彦先生もいます。

さっちゃんの勇姿というのは、先ほど大学生の喧嘩を諌めた四葉さんの行動のことですね。

・・・新田先生、私がいるからアルコールは不味いですなぁとか、言ってたじゃないですか。

お気になさらず、と言ったのは私ですが。

 

 

「ま、ま、どうですかなアリア先生も一杯!」

「え・・・あの、それはちょっと・・・」

「わ、わ・・・ダメですよ新田先生! アリア君にはこっちの甘いのを・・・」

 

 

そう言って、瀬流彦先生が私に別のコップを渡してくれます。

あはは・・・新田先生、できあがってますね。

 

 

「困ったものね」

「・・・そうですね」

 

 

しずな先生にそう答えつつ、受け取った飲み物を口に含みます。

・・・あ、本当に甘い。

 

 

 

 

 

Side しずな

 

・・・すごいわね。

何がすごいって、甘酒で酔っ払ったらしいアリア先生が。

 

 

「せ、瀬流彦君、何を飲ませたのかね?」

「あ、あれー? どうしたんだい、アリア君」

「・・・瀬流彦君、こりゃ甘酒だよ!?」

「ええ----っ、しまった!?」

 

 

むしろ、狙ってやってるんじゃないかしら?

まぁ、それよりも今は・・・。

 

 

「うふふふ、新田せんせー?」

 

 

アリア先生が絡み上戸だったということに、驚くべきかしら。

お酒が入ったからか、顔も赤いし。

アリア先生は新田先生に寄りかかりながら、人差し指で新田先生の胸を突っついている。

そのまま、上目遣いで新田先生を見て。

 

 

「しごと・・・ください?」

「ぬぐぉっ!?」

 

 

ズキューン。

そんな音が聞こえてきそうなくらい、今のは強烈だった。

そして、酔っ払ってなお、仕事が欲しいってどうなのかしら?

どうやったら、こんな風に育つのかしらね。

 

 

「だめ、ですか・・・?」

「・・・し、仕方ないですな・・・」

「だ、ダメですよ新田先生! その子、隠れて仕事増やしてますよ!」

「・・・はっ!」

 

 

・・・どうでも良いけど、この子、将来とんでもない悪女になるんじゃ。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「明日菜さん、もう遅いですから・・・」

「バカ言ってんじゃないわよ、あんた放って行くわけないでしょ」

 

 

図書館島の地下、クウネルさん・・・ネギのお師匠様の家に、お邪魔してる。

ネギはそこに設えられた大きなベッドで、休ませてもらってる。

私は、放課後にここに来て、包帯を変えたり、食事をさせたり、ネギの面倒を見てる。

 

 

配達とかもあるから、ずっといるわけにはいかないけど、できるだけ側にいてあげたい。

怪我してるのに一人ぼっちなんて、可哀想じゃない。

さっきまでは、本屋ちゃん、夕映ちゃん、朝倉もいた。

くーふぇだけは、どうしてか来ないけど・・・。

 

 

「・・・ふふ、熱心ですね。明日菜さん」

「へっへっへっ・・・明日菜の姐さんは兄貴にぞっこんラブなんですぜ、旦那!」

「ほぉ、そうなんですか? それはそれは・・・」

「ちょ、違います!」

 

 

その時、本屋ちゃん達を出口まで送っていたクウネルさんが、戻ってきた。

その肩に乗ってるカモが、何か勝手なことを言ってる。

クウネルさんは、なんだか不思議な笑みを浮かべて、私を見ていた。

 

 

・・・どうしてか、私はこの人に、もっと前に会ったことがあるような気がする。

そんなはず、ないんだけどなー。

 

 

クウネル・サンダースさん。

ネギのお師匠様で、しかもネギのお父さんの友達だったって。

クウネルさんは、包帯だらけのネギを心配そうに見て。

 

 

「大丈夫ですかネギ君。一応、峠は越えましたが・・・」

「あ、はい・・・ありがとうございます。マスター」

「キミの杖については・・・正直、直せるとは言えません」

「そう、ですか・・・」

 

 

アリア先生に折られたネギの杖は、クウネルさんが預かってるんだけど。

クウネルさんじゃ、直せないみたい。

クウネルさんは、落ち込むネギの肩に手を置いて。

 

 

「その代わりと言うわけではありませんが、私が新しい魔法発動体を用意しますので、気を落とさないで」

「・・・はい、ありがとうございます。マスター」

 

 

涙目だけど、それでもネギはクウネルさんにお礼を言った。

・・・うん! これよ! こう言うのが、「師弟関係」って言う物だと思う!

こう、厳しいばっかりじゃなくて、ちゃんとフォローしてくれるって言うの?

そういうのが、ネギには良いのよ!

 

 

「明日菜さんも、今日はもう遅い。泊まって行くと良いでしょう」

「あ、はい! ありがとうございます」

「失礼ながら、寝間着はこちらで用意しました」

 

 

そう言ってクウネルさんが渡してきたパジャマ・・・というか、ネグリジェ?

もの凄い少女趣味で、フリフリがたくさん付いてるやつ。

私、こういうの似合わないだけど・・・。

 

 

「大丈夫。きっと似合いますよ」

「ちょ、心を読まないでください!」

 

 

すごく良い笑顔で言うクウネルさん。

・・・昨日の超さんといい、ひょっとして私、顔に出やすいのかなぁ?

 

 

「それにしても、あれほどの高位の発動体を完全に破壊するとは・・・並大抵のことではありませんね」

「あ、はい・・・強かったです」

 

 

クウネルさんの言葉に、ネギは言った。

 

 

「・・・アリアさんは」

 

 

アリア「さん」って、言った。

ネギはこれまで、アリア先生のことはアリアって呼び捨てにしてた。

でも今は、アリアさんって、他人みたいに言う。ううん、ネギにとっては、もう他人。

 

 

ネギにはどういうわけか、アリア先生が「妹」だった記憶だけが無かった。

アリア先生と一緒の土地で育って、同じ学校で学んで、そして麻帆良に来たことは覚えてる。

でも、アリア先生が妹だったことだけは、覚えてない。

どうしてアリア先生がそんなことをしたのか、全然わかんない。

 

 

妹が、お兄さんに忘れてほしいって思う気持ちが、私にはわからない。

 

 

「・・・世の中には、いろいろな人がいると言うことヨ。明日菜サン」

「え・・・」

 

 

 

 

 

Side 超

 

いやー、危なかったネ。

覚悟はしてたアルけど、いざ相対してしまうと、アレほど怖いこともないヨ。

エヴァンジェリンとの敵対は、リスクが高かったアルが・・・仕方が無いネ。

 

 

正直な所、それほどの問題でも無いアルから。

 

 

「超さん!」

「ど、どうしてここに!?」

「おや・・・」

 

 

ネギ坊主達の反応は、ほぼ予想通りネ。

もう一人、ある意味で最大の不安定要素、アルビレオ・イマ。

こっちは、目を細めて私を見ているアル。

まぁ、警戒するのも仕方が無いアルな。どうでも良いアルけど。

 

 

「ネギ坊主、お見舞いに来たネ」

「え、あ・・・ありがとうございます?」

「どういたしましてネ♪」

 

 

何か言いたげな明日菜サンは放っておいて、私はネギ坊主の側に。

 

 

「聞いたアルよ、ネギ坊主。教師を辞めるらしいネ?」

「なっ・・・」

「ど、どうしてそれを・・・」

 

 

驚いてるアルねー。

でも、ここでアリア先生との約束を無かったことにされても困るからネ。

アリア先生は、こういう所が甘かったらしいアルから。

 

 

「そうそう、知ってるアルか? ネギ坊主」

「え、な、何をですか・・・?」

「・・・ネギ坊主の父親は・・・」

 

 

父親のことを話されて、ネギ坊主がますます驚いた顔をしたネ。

それに比例して、アルビレオ・イマの表情が固くなったアル。

 

 

それら全てを無視して、私はネギ坊主に微笑みかけるネ。

そ・・・と、ネギ坊主の頬に触れて、囁く。

 

 

「ナギ・スプリングフィールドは、魔法学校を中退してマギステル・マギの道を歩み始めたらしい、ヨ・・・?」

 





アリア:
アリアです。事件後の翌日です。
気のせいか、ネギがいないと、全てがスムーズな気が。
・・・まさかですよね。


次回は、麻帆良祭の準備に入りながらも、少し日常を描く予定です。
麻帆良祭に入るのは、次々回か、遅くともさらにその次。
さて、様々な人・勢力が関係してくるようですが・・・。
・・・何も起こらない、という選択肢だけは、どうやらあり得ないようです。
では、またお会いしましょう。


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第52話「割と多忙」

Side ドネット

 

「・・・以上が、ネギ君とアリアの現状よ」

 

 

イギリス・ロンドン。

私はそこで、一人の少女の前にいた。

 

 

黒いローブの間からは赤い髪が覗いていて、水晶玉越しに見るその姿は、最後に別れた一年前に比べて、頼もしくなっているように見える。

・・・贔屓目かもしれないけれど。

 

 

「・・・なるほど、話は良くわかったわ。ドネットさん」

 

 

彼女は、私の言葉に頷いて見せると、するり・・・と、深くかぶっていたフードを脱いだ。

炎のように赤い髪が、白日の下に晒される。

そして同じ色の、強い意思を感じる瞳が、まっすぐに私を見た。

 

 

「つまり、ネギは・・・あのバカは」

 

 

笑みの形を浮かべる唇。

でもそれとは正反対に、彼女の目は笑っていない。

全身から、まさに炎のように魔力が揺らめいている・・・って、自重して。ここ裏路地とは言え、外なんだから。

感情がすぐ表に出る所は、相変わらずなのね。

 

 

「未だに、アリアに迷惑かけっぱなしってわけね!」

 

 

彼女・・・アーニャは、憤慨するように、いえ、まさに憤慨して、そう言った。

ドンッ! っと占い用の小さなテーブルを叩き、水晶玉を叩き壊す。

・・・それ、貴女の商売道具じゃないの?

 

 

「あんのバカネギ。たまにネカネお姉ちゃんに送ってくる手紙にもアリアの名前が出てこないから、まさかとは思ってたけど・・・これっぽっちも矯正されてないわけね!」

「ネギ君個人には会えなかったから、そこまではわからないけど・・・」

「いーえ! 絶対そうに違いないわ! あのバカはきっと、自分本位で周りが見えてなくて、というか周りにフォローされてることにも気付かないKY野郎のままよ、絶対!」

「ま、まぁまぁ・・・」

「むしろ、ネカネお姉ちゃんや私が側にいない今、悪化した可能性だってあるわ・・・!」

 

 

正直、それは否定できない。

といって、他の場所に修行に行かせても、効果が見込めるとは思えなかったし・・・。

 

 

「・・・まぁ、いいわ。とにかく、おじーちゃんは、2人の幼なじみである私に、様子を見に行かせたいわけね?」

「え、ええ。その通りよ。一応、メルディアナからの特使と言う形で、麻帆良に行ってもらうことになるのだけど・・・」

「いいわ、行ってやろーじゃない。どうせ8月くらいになったら、バカンスついでに会いに行く予定だったしね」

 

 

正直な話をすれば、卒業生とは言え、見習い魔法使いである彼女に特使を任せるのは筋違い。

けれど、私達メルディアナの魔法使いは、麻帆良に近付くことができなくなってしまっている。

理由は、本国が麻帆良への干渉を強めているから。もちろん、私達にも。

クルト氏の麻帆良訪問は、その典型。

私達大人の魔法使いは、元老院議員である彼の手前、派手な行動はできない・・・。

 

 

といって、ネギ君やアリアのことを知りもしない外部の者を雇って行かせることもできない。

でも彼女なら、アーニャならば、2人のことを良く知っている上に、本国が警戒する人材でも無い。

だからと言って、彼女を危険かもしれない任務につかせて良い理由には、ならない。

 

 

「そんな心配そうな顔しなくたって良いわよ、ドネットさん」

「え・・・」

 

 

奇妙な小さな袋に、明らかに入らなそうなテーブルや水晶の残骸を片づけながら、アーニャは屈託なく笑った。

 

 

「私しかいないんでしょ? ロバートやミッチェルにはこういう活動は無理だし、ドロシーやヘレンはまだ学生。シオンは、確かゲートで働いてるんだっけ? となれば、あの2人を良く知ってる人間で動けるのは、私だけ」

「アーニャ・・・」

「予定がちょっと早まっただけよ。ドネットさんが自己嫌悪に陥る必要なんて、少しも無いわ! それに、頼れるパートナーだっているんだから!」

 

 

そう言い切ったアーニャの肩に、彼女の「パートナー」がトトトッ、と駆け上がった。

アーニャは片方の手を腰に、もう片方の手で空を指さした。

 

 

「待ってなさいよ、極東の島国、日本!」

「・・・そっちは南よ、アーニャ」

「え、嘘!?」

 

 

アーニャは慌てて、今度こそ、日本のある東を指さした。

その顔は、どことなく赤くなっている気がする。

 

 

「待ってなさいよアリア! 今、私が行くからね!」

 

 

クス・・・頼もしくなったと思ったけど、やっぱりアーニャはアーニャね。

可愛らしい所は、そのまま。

そして、その後の彼女の言葉に、私はアーニャがやはり変わっていないことを確信した。

 

 

「そして、待ってなさいよネギ・・・今、ぶん殴りに行ってやるんだから!」

 

 

 

 

 

Side あやか

 

ああ、目の回るような忙しさですわ!

麻帆良祭の日程が近付くにつれて、その準備に追われる時間が増えて参ります。

特に、委員長として準備の指揮を任されている私は、最も忙しいのですわ!

 

 

「いやー、昼休み返上で準備とか、私達も殊勝だよねー」

「そうせんと、間に合わんだけやん」

「そこ! 喋ってる暇があったら、担当個所を進めてくださいな!」

 

 

何をのんびり、雑誌片手に雑談しているのですか、裕奈さん達は!

もう、時間が無いのですよ!?

このままでは、今日も明日も徹夜ですわよ!?

 

 

「あああ・・・。だから、もっと早くに準備を始めるべきだと・・・!」

「まーまー、絶対あがるから大丈夫だよ、いーんちょ。〆切間近は逆に落ち着くのが重要なんだよー」

「ハルナさんは何故、そんなにも落ち着いているんですの!?」

「ハルナは、いつも修羅場を経験してるですから・・・」

 

 

修羅場って・・・。

私にとっては、今が修羅場ですわよ夕映さん!

 

 

今も病床に伏しておられるネギ先生のためにも!

この雪広あやか、微力を尽くしますわ!

 

 

「長谷川さん! 衣装の方はどうなってますの!?」

「どーもこーもねーよ!」

「うえーん! 千雨ちゃんの口調が、いつもと違うよー!?」

「雰囲気も、違う・・・」

 

 

クラスメイト全員の衣装を任されている長谷川さんは、全員のサイズの資料を片手に、まるで戦争のような表情をしていました。

手伝いをしているアキラさんや桜子さんが、いつもと口調が違う・・・って、違いすぎません?

 

 

「31人+αの衣装だぞ!? 時間がねーにも程があるだろ! しかも身体のサイズに統一感がねーから、手間がかかって仕方ねーよ!」

「そ、そうですの・・・それにしては、手際が良いというか」

「私を、誰だと思ってやがる!」

 

 

・・・長谷川千雨さんでは、ありませんの?

本当なら、衣装その他は、私が用意するはずだったのですが。

アリア先生が、「皆で用意しましょうね」と、申されて・・・。

 

 

その時、ガラッ・・・と、教室の扉が開きました。

現れたのは、3-Aの臨時担任、アリア先生。

アリア先生はクラスの様子をぐるり、と見渡すと、優しく微笑んで。

 

 

「こんにちは、皆さん。調子はいかがですか?」

「「「アリア先生、手伝って―――――――――っ!!!」」」

 

 

全員が、持ち場を放棄しました!

貴女達―――――――っ!!

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「アリア先生、ヤバいよー! 間に合わないよー!」

「手伝ってくんないマジで!」

「いい加減スリーサイズ教えろ! 先生の分の衣装が作れねーだろ!?」

 

 

教室に様子を見に来た途端、生徒の皆さんが口々に言います。

あはは、随分と追い詰められているようですね。

しかし、私のスリーサイズは公表しません。知りたければ茶々丸さんを通してください。

 

 

「あ、アリア先生、ステージ確保してくれてありがとう!」

 

 

その中で、釘宮さんや柿崎さんが、私の所にやってきました。

先日、学園祭でバンドをやるとかで、舞台関連の仕事に就いている私に「ライブの時間を確保してほしい」と頼んできたのです。

なんでしたか・・・「でこぴんロケット」というバンド名の。

 

 

「お礼に、先生にもチケットあげる! 当日はきっとプレミア付くよー!」

「そうそう、先生も見に来てよ」

「うふ、彼氏と来れるように、二枚渡しときますね」

 

 

そんなわけで、ライブチケットを獲得。

私のスケジュールに「ライブ」が加わりました。

 

 

「ありがとうございます。でも私、恋人とかは・・・」

「いるはずが無いだろこのボ「マスター、お昼寝のお時間です」ぐふっ・・・!?」

 

 

・・・今何か、クラス内暴力の現場を目撃したような気が。

 

 

「あ、そうそう、彼氏って言えばさ、アリア先生、知ってるー?」

「何をですか、まき絵さん?」

「世界樹伝説だよー!」

 

 

世界樹伝説。

学園祭最終日に好きな人に告白すると、絶対に成功するとか。

 

 

曰く、超絶美形な部活の先輩に告白したら、即OKだったとか(by春日さん)。

曰く、教育実習生に告白したら、成功したとか(by釘宮さん)。

曰く、アイドルを落としたとか(by椎名さん)。

 

 

・・・どうにも嘘っぽいですが、事実なんですよね。

告白を成功させるとか、呪いの形がファンシーな世界樹です。

 

 

「貴女達! 早く持ち場に戻りなさい!!」

 

 

雪広さんの怒声に、生徒たちがキャーキャー言いながら、蜘蛛の子を散らすように私から離れていきます。

元気が良いですね。あとは間に合うかどうかですが。

優先的に3-Aに予算を回してもらえるよう、私も頑張るとしましょうか。

 

 

「皆さん、頑張ってくださいね」

「同情するなら、手伝ってください!」

「そんな、気持ちだけみたいなのは良いから!」

「貴女達、アリア先生になんてことを言ってるんですの!?」

 

 

・・・3-Aは、今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「世界樹伝説かぁ・・・ロマンチックでええなぁ、せっちゃん♡」

「そ、そうですね」

 

 

このちゃんと一緒に学園祭の準備を進めながら、会話を楽しんでいる。

告白が百%成功すると言う伝説だが、何と言うか、私的には怖いくらいだ。

 

 

相手の意思を、一時的にしろ縛ることができるのだから。

聞く所によれば、学園祭後の経過も安定的らしいし。

つまり、一定期間効果が持続すると言う意味なわけで・・・。

 

 

「せっちゃんは、好きな男の子とかおらへんの?」

「えっ・・・そ、そうですね。男の方は、特には・・・」

 

 

・・・こ、この話題の振り方はまさか。

現在、「会話を先読みして気を利かせよう週間」な私は、このちゃんが言わんとすることを読み取り、答えを用意すると言う試練が課されている。

この場合は。

 

 

『うち、好きな人がおるんやけど。せっちゃん、どうしたらええと思う?』これだ!

ふふ、私の先読みもなかなか・・・って。

 

 

「なん・・・やて・・・!」

「・・・? せっちゃん、どないしたん? 何や急速に落ち込んで」

 

 

いや、まさかこのちゃんに限ってそんな。これまでそんな素振りは何一つ。

しかし、私は空気を読むとか、そういう所が得意とは言えないし、このちゃんが話していなかっただけで実は。

いやしかし、普通の少女として生きる決意をされたこのちゃんのことだ、恋愛のひとつやふたつ・・・。

 

 

「せっちゃーん?」

「・・・あれ? どうしてだろう、涙が・・・」

「せっちゃん!」

「うひゃあ!?」

 

 

突然耳元で叫ばれて、しかも手を握られて、思わず妙な叫びを上げてしまった。

このちゃんは、両手で私の手を握り締めながら、間近で微笑みかけてくれた。

 

 

「せっちゃん、学園祭、一緒に回ろな?」

「え、え・・・あ、はい!」

「ずーっと、一緒におろな?」

「は・・・あれ? でもそれだと、このちゃん」

「・・・嫌なん?」

「け、けけけけして、そのようなことは断じて! はい!!」

 

 

悲しそうに表情を曇らせたこのちゃんの手を握り返して、勢いで答えた。

すると、まるで花が咲くかのように、可憐な笑顔を見せてくれた・・・。

 

 

・・・ああ、もう空気がどうとか、どうでもええわ。

私が、このちゃんと一緒にいたいんやから。

 

 

「・・・ねー、あの二人何してんの?」

「ダメよ、近付いたら。飲み込まれるわよ」

 

 

ただ、最近のクラスメイトからの視線には、なんというか慣れない。

やたらと、生温かい視線で見守られているような気がする。

 

 

なぜだろう?

 

 

 

 

 

 

Side 聡美

 

ふ、ふふふ・・・キツいよ。

学園祭の仕事(「超包子」の仕事とか、3-Aの機材作成とか)だけでも厳しいのに、さらに茶々丸のニューボディの調整までやるなんて。

 

 

でも、私も科学に魂を売ったマッドサイエンティストとして、目の前の可能性には飛びつかざるを得なかったのさ・・・。

・・・ダメだ。徹夜のしすぎでテンションがおかしい。

 

 

「どうかな、茶々丸?」

「問題ありません。全て正常に機能しています」

 

 

今回、茶々丸のニューボディをロールアウトした。

本当は学園祭の後のつもりだったんだけど、茶々丸自身の強い要望によって、前倒しになった。

でもその分、各種機能の増強・新設には最新の技術を多数搭載したわ!

 

 

まず、関節部分を目立たなくするために、新素材の人工スキンを開発!

手触りもっちり! まさに究極の人肌! ほっぺも柔らか引っ張り放題!

次に、髪型も弄れるように放熱対策もばっちり改善!

自動冷却システムの導入により、オーバーヒートの可能性は極限まで減少!

最近、やたらと煙を出すから、心配だったんだよね・・・。

そして最も大事なのが、防水機能の強化! さらに防塵機能も追加!

水に浮けるし、これで茶々丸もお風呂に入れるよ!

 

 

「・・・あれ!? 兵装は一個も増えてないよ、茶々丸!?」

「大丈夫です。別口で補強しましたので」

「別口って?」

「そ、それは秘密です」

 

 

・・・自分の作ったロボットに秘密を持たれるって、開発者としては複雑ね。

友達としては、むしろその成長が嬉しいけど。

 

 

「まぁ、それはいいけどさ。茶々丸、最近画像フォルダ使いすぎじゃない? ディスク擦り切れるよ?」

「容量の増加は・・・」

「もちろん、やったよ。でもさ、限度があるよ? 何、この再生回数56万って」

 

 

しかもそれが何百種類もあるって、どんな人気サイト?

というか、外部に映像を移植・・・つまり焼き増した形跡が多々あるんだけど。

 

 

「さ、さささて、何のことやらさっぱりめっきり」

「いや、ごめん茶々丸。私、貴女の映像フォルダ(お気に入り門外不出版)とか見てるから」

 

 

おかげであの人のイメージ、かなり変わったけどさ。

個人的には、たくさんのネコに餌をねだられてるムービーとか良かったかな。

エヴァさんの家も、随分とファンタジーなことになってるみたいだけど。

今度、農業機械とかにも手を出してみようかなー。

 

 

「まぁ、良いけど。ほどほどにしなね」

「はい、ありがとうございます」

「んー」

 

 

まぁ、何にしても、茶々丸が幸せそうで良かったよ。

エヴァさんに預けるってなった時は、やっぱり心配だったから。

茶々丸の成長にとっても、良い環境、良い関係みたいだし。

 

 

アリア先生達には、本当に感謝だね。

 

 

「・・・私としても、興味深い研究データが増えたわけで。ぐふふふふふ・・・」

「ハカセが、とても悪い顔をしています・・・」

 

 

失礼だねー、茶々丸。

科学の進歩のためには、多少の非人道的行為はむしろやむなしなんだよ?

 

 

 

 

 

 

Side 暦

 

「フェイト様ー?」

 

 

あれー?

おかしいな、お部屋にいるって焔が言ってたんだけど。

デュナミス様からの書類をお持ちしたのに・・・。

 

 

旧世界から一度戻られたかと思えば、忙しくあちこちを飛び回っておられるみたいだし。

今日くらい、休めば良いのに。

それで、私とコーヒーブレイクなんてしちゃったり・・・キャー♡

 

 

「・・・っと、いけない。書類!」

 

 

いないならいないで、きちんと所定の位置に置いておかないと。

そう思って、備え付けの机に、書類の束を置いた。

フェイト様は真面目な方だから、書類はすぐに片付ける。

ほとんどは、何かの仕事や書類整理をしている姿ばかり。もちろん、私達もできる限りお手伝いをするけど。

 

 

「・・・?」

 

 

すると机の隅に、無機質な書類ではない、見たことのない雑誌・・・というか、新聞が置いてあった。

フェイト様は、コーヒーとか以外は無趣味な方だから、仕事関係以外の物はそもそも置かない。

だからその記事は妙に浮いていて、気になった。

 

 

「・・・『麻帆良スポーツ』?」

 

 

麻帆良って、この間フェイト様と行った、旧世界の学園都市よね?

そこの新聞が、なんでこんな所に。

 

 

「えっと、なになに・・・学園祭最終日に告白すると、100%成功・・・?」

 

 

・・・なんというか、フェイト様に似合わない俗っぽい記事ね。

でもこの、「あらゆる障害を突破してカップルに!」って言う見出しは、ちょっと興味あるかも。

私も、フェイト様とそんな風になれたら・・・なんて。

 

 

「えー・・・『中学生の諸君はいきなり告白、と言うパターンが多く、それでは相手の子も困ってしまうぞ。まずはさりげなく学祭見学に誘って雰囲気がほぐれてきた所で本題を切りだすのが王道成功パターン』・・・へー、そうなんだ・・・」

 

 

後で環達にも教えてあげよう。

他にも、旧世界の通貨だけど、手ごろな値段で美味しい物を食べさせるレストランとかの紹介もされてた。

当日とかは、すごく混むんだろうなぁ。

 

 

「ふーん、旧世界の学生は、こういうの見るんだ・・・」

「・・・興味があるの?」

「はい、割と・・・って」

 

 

ふぇ、フェイトさまぁ!?

いつの間にそこに!?

 

 

「キミが、それを読み始めたくらいかな」

「そ、そんなに前から? 声をかけてくれれば・・・」

「集中していたようだったからね」

 

 

そう言うと、フェイト様は私からその記事を取って、元の場所に置いた。

 

 

「えっと・・・それ、なんですか?」

「近いうちに、またここに行くことになるからね。その時の情報を集めていたのさ」

「は、はぁ・・・」

 

 

それにしては、記事に妙な偏りを感じたんだけど。

まぁ、フェイト様のことだから、何か深いお考えがあってのことだろう。

 

 

・・・それにしても、最近のフェイト様は、以前に比べてどこか変わったような気がする。

以前からお優しい方だったけど、最近は特に、こう、物腰穏やかと言うか。

女性の扱い的な物が、変わったと言うか。

 

 

私達にも、よく話をしてくれるようになったし。

私としては、すごく嬉しいんだけど。

なんだか、急に変わられてしまったから、少し不安・・・。

 

 

「暦君」

「・・・は、はい?」

「コーヒーでも、どうだい?」

 

 

ほら、また。

前なら、そんなことは絶対に言わなかった。

言ってくれたことなんて、無かったのに。

 

 

フェイト様がどうして急に変わられたのか、私などにはわからない。

でも、一つだけわかるのは・・・。

 

 

フェイト様を変えたのは、きっと、私達では無いということ。

 

 

「暦君?」

 

 

無機質な、それでいて不思議そうな瞳で、フェイト様が私を見ている。

私は慌てて、笑みを作った。

たとえ、フェイト様のお気持ちがどうあろうとも。

 

 

「はい、フェイト様。喜んで」

 

 

私は、私達は、最後までフェイト様のお側に。

それだけが、揺るぎない、真実なのだから・・・。

 

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・気に入りませんね」

「い、いきなり、どないしたんや?」

 

 

隣の千草さんが、かなり怯えたような声を出しました。

失礼ですね。そんなに怯えられるような声音で話した覚えはありませんよ。

 

 

「なんというか・・・自分の物に手を出されたというか。いえ、どちらかというと、自分の物が他に手を出したというか・・・そんな気分に」

「・・・相変わらず、いきなり意味不明なことを言いだす奴だな」

 

 

千草さんとは反対側の隣にいるエヴァさんが、呆れたように言いました。

む、なんですかそれ。私がいつ、意味不明なことを言ったって言うんですか。

 

 

「そんなことより、ほれ、続きをやるぞ」

 

 

クイクイ、と指で続きを促すエヴァさん。

ぬぅ、と唸りながらも、元の作業というか、議論に戻ります。

 

 

私達は今、エヴァさんの別荘の大浴場にいます。

もちろん、私達だけではなくて、水洗い可能になった茶々丸さんやさよさん達、さらに言えば木乃香さんや刹那さん、なぜか月詠さんまで・・・。

カオスですね。この空間。

 

 

「これが、西洋魔法の呪詛返しの理論なぁ」

「別に呪詛・・・永久石化の効果を相手に返す必要は無いので、正確には異なります」

 

 

右眼の魔眼と、映像や文字を空中に映し出すホワイトボード的魔法具『映るんです』を活用して、西洋魔法のみを使用した永久石化解除の魔法構築式を表示しています。

ここ6年間で組んだ魔法式なのですが、これだけでは、石化の安定的な解除には足りません。

 

 

「完成度は50%って所か。あの悪魔の石化の公式はどうなった?」

「すでに『複写眼(アルファ・スティグマ)』で解析済みです・・・これです(ピピッ)」

「んー・・・これはまた、けったいな術やなぁ」

「人間の魔法とは、根本的に異なりますからね」

「せやかてなぁ、外部からの解除やったら、この術式が限界やと思うで?」

「どういう意味だ?」

「例えばな、陰陽術の行使は基本的に、体内の気を活用してるんやけど・・・」

 

 

西洋魔法と陰陽術の最大の違いは、そのエネルギー運用法。

外部の精霊の力を借りて魔力を使用する魔法と、体内の気を利用して術を練り上げる陰陽術。

似ているようで、その内実は大きく異なります。

 

 

「石化されとっても、中の人間は生きとるわけやろ? やったら、中の人間の気を利用する方法を考えてもええと思うんよ」

「なるほど・・・」

「魔力頼みの魔法使いには、考えにくい理論だな。となると、どうなるんだ? 陰陽術方面からの、別のアプローチを考えた方が良いのか、どうか」

「それは時間がかかり過ぎるやろ・・・サンプルがあるんやったら、実験しつつ、足りひん部分を陰陽術で補う形にすればええやろ?」

「スクナは、あんまり賛成できないぞ」

 

 

その時、頭にチャチャゼロさんを乗せたスクナさんが、ざぶざぶ泳ぎながらやってきました。

もはや、スクナさんが一緒に入っていることに対する突っ込みはしません。

 

 

「病とか呪いとかは、人によって解く手順が変わるんだぞ」

「・・・そう言えば、お前は医療の神でもあったな、バカ鬼」

「オナジヤリカタダト、ヤベーッテコトダナ」

「そうなると、石化解除の対象ごとに術式構造を変える必要が出てまいります」

「茶々丸さん」

 

 

お盆に冷たい飲み物とグラスを乗せた茶々丸さんが、いつの間にか側にいました。

水洗いOKになったとかで、さっそくのお風呂です。

・・・なぜか、良く私の方を見つめているのですが。

 

 

まぁ、それは置いておくにしても、茶々丸さんの言う通り、もし個々人で解除の公式が変化するなら、手間がかかることこの上ありません。

 

 

・・・と、その時、私の使用している魔法具とは別に、映像が浮かび上がりました。

そこには、2種類の血液の検査結果が映し出されています。

これは確か、さよさんにお願いしていた・・・。

 

 

「刹那さんの血液は解除自体には効果が無いですけど、相反する2つの属性公式は参考になると思います。逆に、木乃香さんの血液には、あらゆる魔を祓い、癒す効力が認められます」

 

 

さよさんは、物体の組成や構造を解析表示する魔法具、『ノーメンクラタ』を手に持っていました。

銀色の円盤型で、波紋状に重なる同心円のうちに無機的な記号が羅列するという、不可思議な装飾が表面になされている魔法具。

ある意味では、『複写眼(アルファ・スティグマ)』以上に高度な解析を行うことができます。

 

 

「単純に、石化の効果をひっぺがすって言う判断なら、それでもええねんけどなぁ・・・」

「引き離した結果がどうなるかが問題だな。いずれにせよ、実験は必要だろう」

「アリア先生の保管した石化魔法を基に、実験的な石化公式を考案してはいかがでしょうか」

「自分で使ってみれば、わかることもありますか、ね・・・」

 

 

顎に手を当てて、茶々丸さんの提案を考慮してみます。

確かに自分で石化魔法を使用すれば、何か新しいことがわかるかもせいれませんし。

解除の道具としか見ていなかったので、盲点でしたね。

 

 

その後も、皆であーでもないこーでもないと、議論を重ねていきます。

一人きりで研究していた時は、焦りばかりが先行して、結果が出せない自分を嫌いになりそうになることもありましたが・・・。

 

 

今は、どうしてでしょう。

村の人達を救うためのこの作業が、楽しい、と思えてしまいます。

どこか、安心できる気さえしています。

 

 

皆で考えれば、きっと大丈夫。

 

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

「なんや、難しい話しとるみたいやねぇ」

「そ、そそそ、そうですね・・・ひゃうっ」

「うちとせっちゃんは入っていけへんし、なんや寂しいなぁ」

「し、仕方が、あっ、ない・・・ですっ」

 

 

うふふ、可愛ぇなぁ、せっちゃんは♡

うちは今、せっちゃんと洗いっこしとる所や。

うちの背中を一生懸命に流してくれるせっちゃんも可愛ぇけど、でも、この時のせっちゃんが一番可愛ぇわぁ。

 

 

羽根を洗う時のせっちゃんが。

 

 

「こ、このちゃ、もう少し、ゆっくり・・・んっ」

「んー? うち、洗うの下手?」

「い、いえそんなことはっ。むしろこの場合、上手なのが問題というか、なんというか」

「上手なんかー♪ なら、ガンガン行こか♪」

「え、ちょ、だ、ダメやてこのちゃっ。何事も過ぎたるは及ばああぁぁ・・・っ!」

 

 

先の方を掌全体で包んだ時の反応が、一番面白いなぁ。

ビクビク震えて、ほんまに可愛ぇわぁ。

うふふ、このままうち無しではおられへん身体にしたるで~。

 

 

「そ、それ何か、意味が違わないですか!?」

「ん? 合っとるよ。せっちゃんの物はうちの物。うちの物もうちの物や。つまりはせっちゃんの全部はうちのもんやー♪」

「ぜ、絶対に違いま、あううぅぅ・・・!」

 

 

ああ、楽しいなぁ。

こうしてると、昔を思い出すわ。

思えばこの学校に来てから、仲直りするまでの間は、たくさん我慢させられて・・・。

 

 

「はー・・・刹那センパイ、可愛いどすなぁ」

 

 

隣で頭を洗ってた月詠ちゃんが、羨ましそうな目でうちのことを見とった。

最初に会った時は、怖い子やと思ったけど・・・今は、それほど怖いとは思わへんようになった。

接してみると、意外と可愛い所もあるし。

 

 

「月詠ちゃんも、やってみる?」

「ええ!? このちゃん!?」

「ええんどすかー?」

「いいわけないだろう!?・・・あ、こら触るなぁ・・・」

 

 

首に腕を回して、後ろから抱きしめてあげる。

そうすると、せっちゃんはもう、なんにも言えへんようになる。

可愛ぇなぁ・・・。

 

 

可愛ぇけど、いつまでもうちの言いなりでおったら、あかんで。

せっちゃん。

せっちゃんはもっと、自分で考えたり、判断したりできなあかんよ。

 

 

自立した個人って言うのは、自分がこう在りたいって姿を、誰かの前で演じ通せる人間のことやって、どこかで聞いたことがある。

せやからうちは、せっちゃんの前では「このちゃん」でおる。

でもせっちゃんは、誰の前でも「せっちゃん」でおるやろ?

 

 

それはすごくええことや、うちも嬉しい。

でも、いつでもどこでも、それでええ言うことには、ならんえ。

 

 

「刹那センパイの羽根、柔らかいどすなぁ・・・斬ってもええどすか?」

「あかんよー月詠ちゃん。せっちゃんの羽根は全部うちのもんやから」

「・・・もう、好きにしてください・・・」

 

 

ぐったりと疲れ切っとるせっちゃんを見て、うちは笑う。

せっちゃんのために、「このちゃん」でおり続ける。

いつか・・・。

 

 

 

いつか、うちの知らへん「せっちゃん」に会いたいなぁ。

 

 

 

 

 

 

Side エヴァ

 

「あぅー・・・」

 

 

何やら苦しげに唸りながら、アリアは茶々丸の膝を枕に、脱衣所の長椅子で横になっていた。

茶々丸は心配そうに、うちわで扇いでやっている。

何をやっているかと言うと、のぼせたアリアを介抱しているだけだ。

まったく、自分の体力や体調のことには無頓着なのだからな。

 

 

「マスターが言っても、説得力がありませんが」

「うるさいぞ、茶々丸・・・」

「ああ、ダメですよ、エヴァさん。じっとしていないと」

 

 

ちなみに、私はさよに膝枕されている。

く、600年生きている吸血鬼が、なんで風呂でのぼせねばならんのか。

 

 

「安静にしてないとダメだぞ、吸血鬼」

「ふ、ふふふ・・・まさかバカ鬼に心配される日が来ようとわ・・・」

「ところでさーちゃん。スクナも湯にあたった気がするぞ」

「だろうな! 貴様はそう言う奴だと思っていたよ!」

「えー? でも顔色普通だよ?」

「そんなことないぞ。今にも倒れそうだぞ」

 

 

ダメだ、ここにいると巻き込まれる。

私はさよの制止を振り切る形で、身を起こした。

これ以上ここにいたら、熟年夫婦空間に巻き込まれる。

これで本人達に自覚が無いのだから、タチが悪い。

 

 

さよとバカ鬼から視線を離すと、視界の隅で、千草が何かの薬を飲んでいた。

 

 

「・・・どうした、千草」

「うん? いやぁ、なんでもあらへんよ」

 

 

曖昧に笑いながら、千草は言った。

その手に、何かを隠しているようだが・・・。

 

 

「あーっ! ここにおったんか、千草ねーちゃん!」

 

 

その時、小太郎とか言う犬っころが、ドタバタと脱衣所に入りこんできた。

・・・って、おい。

 

 

「ここは女性用の脱衣所だぞ、こ」

「女湯に入るなて、言うたやろがぁ―――っ!」

「ち、千草ねーちゃああぼらぁっ!?」

 

 

おお・・・。

見事なアッパーカットだ。洗練されているな。

小太郎は空中で一回転すると、頭から床に落ちた。

 

 

「10歳の子供やからって、女湯に勝手に入ったらあかんて、教えたやろ!?」

 

 

・・・ぼーやに聞かせてやりたいセリフだな。

一方の小太郎は、見た目ほどダメージは無かったのか、すぐに起き上がった。

まぁ、本来の小太郎の実力なら、千草程度の体術レベルで殴れるはずがないからな。

わざと喰らっているんだろう。

 

 

「うぅ・・・ご、ごめんて、千草ねーちゃん」

「あんたって子は、何回言うてもすーぐ忘れよる! もう少しこう、気ぃつけて生きんとあかん!」

「いや、でもな千草ねーちゃん。格闘大会の〆切がもうすぐでな? 12歳以下は子供の部になってまうんやけど、どーしたもんかと・・・」

「それがどうして、女湯に入ってくることに繋がるんや!?」

「うちが連れてきました~」

「ああ、もう! 月詠はんも、ちょっとそこに座りぃ!」

 

 

・・・なんだこいつら。

京都で見かけた時はもう少し、ビジネスライクな関係だと思っていたのだが。

ふと、足下を見ると、何かの瓶が転がっていた。

 

 

瓶のラベルには、『タンバの秘伝の胃薬』と書かれていた。

・・・見なかったことにした。強く生きろ、千草。

 

 

ふと、視線を戻すと、バカ鬼がさよに膝枕されていた。

 

 

「ねぇ、すーちゃん。本当に具合悪いの? 医学の神様なんだよね?」

「うーん、すごく悪いぞ。具合。たぶん」

「もー・・・しょうがないなぁ」

 

 

・・・あいつらのことは、まぁ良いか。

ある意味いつも通りだしな。

 

 

「・・・あ、あのアリア先生。もし時間があれば、学祭期間中、私と・・・」

「良いですよ~・・・」

「オイシイトコロモッテイクナ、イモウトヨ」

 

 

茶々丸は茶々丸で、抜け駆けをしていた!

チャチャゼロは最近、他人の頭から降りてこないし・・・。

 

 

「・・・手狭になってきたな、ここも」

 

 

そろそろ、拡張でもするか。

学祭の後にするつもりだったが、最近の人口密度の増加は著しい物があるからな・・・。

他の連中はどう考えているか知らんが、主である私は気にしないわけにもいかん。

 

 

浴場や食堂、寝室なども増やさねばならんだろうし、修行場も広範囲の訓練には不向きだ。

茶々丸やアリア達にプライベートルームをやっても良いだろう。

バカ鬼の畑はそれごと一つのエリアにして・・・。

 

 

・・・ふん。

まさかこの私が、別荘について他人の都合まで考えるようになるとはな。

しかも心のどこかで、気持ちが弾んでいるのを感じる。

茶々丸やアリア達が、喜んでくれるだろうかなどと、心配な気持ちまであって・・・。

丸くなった物だ、私も。

 

 

超のことや、じじぃのこと。アルやぼーやのこと。

他にも、まぁ、いろいろと考えなくてはならないことはあるが・・・。

・・・今は。

 

 

「エヴァさ~ん・・・」

「なんだ、アリア。氷でも欲しいのか?」

「学園祭、一緒に遊びましょうね・・・」

「・・・・・・当然だろ」

 

 

し、仕方のない奴だな。

まぁ、何だ。どうしてもと言うなら、時間を作ってやらなくもない。

 

 

「・・・ツンデレなマスター、DVDに追加・・・」

「うるさいぞ、茶々丸・・・って、DVDって何だ」

「私としても、聞き捨てならないような気が・・・」

「・・・な、なんのことやら」

「最近お前、私に隠し事が多くなったな・・・ごまかし方が最悪に下手だが」

 

 

今は、こいつらと一緒に。

バカみたいな時間を、過ごしていたい。

 





アリア:
アリアです。今回は、学園祭編というよりは、日常編に近いお話でしたね。
準備編はこれくらいにして、本番に移りたいところ。
・・・でも、ネギはどこに行ったのでしょうか?
いれば面倒ですが、いないと不安になると言う、意味不明なこの感覚・・・。


今回使用した魔法具は、以下の通りです。

黒鷹様「タンバの秘伝の胃薬」(ポケモン)
水上 流霞 様「ノーメンクラタ」(灼眼のシャナ)

ありがとうございます。


アリア:
さて次回からは、本格的に麻帆良祭開始です。
次話が、麻帆良祭の一日目になります。
スケジュール調整が大変ですね。
格闘大会やうちのクラスの出し物など、どうなったかがわかります。
私の行動は、いかなる物となるでしょうか?
では、またお会いしましょう。


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第53話「麻帆良祭一日目・開始!」

Side フェイト

 

麻帆良は、結界こそ以前のままだが、入る分には、以前よりもはるかに楽だった。

というか、来る人全てを受け入れているようだった。

なんというか、僕が言えた義理ではないけど・・・。

 

 

危機管理とか、大丈夫なのだろうか。

 

 

『只今より、第78回麻帆良祭を開催します!』

 

 

ロボットやら騎士やら象やら恐竜やら、およそ学生のやるお祭りとは思えない物が、パレードをしている。

 

 

「お休みの際は3-Gカフェへと、どうぞ!」

「各イベント、アトラクションへの投票は、お近くのBOXまで!」

 

 

・・・平和そのもの、だね、

その平和が、どれほど危うく、そして誰によって操作されているのかも知らずに。

その意味では彼らも僕と同じ、人形のような物か。

 

 

「誰にとっての人形かは、わからないけど・・・ね」

 

 

情報によれば、今日、麻帆良にはかなりのレベルの要人達が集まると聞いている。

別に、暗殺などが目的ではないから、僕自身が動く必要は無い。

ただ、僕達の勢力を旧世界に確保しておくために、いくつかやっておくことはあるけれど。

 

 

「そちらは、関西の使節団に仕込んだ偽物(フェイク)の情報を待つしかないか・・・」

 

 

クルト・ゲーデルまで出てくるとあっては、あまり派手な行動はとれない。

彼とは、魔法世界でも何度かすれ違っているからね・・・。

 

 

「ガイドマップです! どうぞー♡」

「・・・ありがとう」

 

 

係員から、麻帆良祭の内部マップを貰う。

・・・思ったよりも、広大だな。把握するのも難しそうだ。

それにしても、人が多い。

のべ四十万人が集まるとも聞いているが、あながち間違いではないらしい。

 

 

「・・・とりあえずは・・・」

 

 

マップ上の一点に目を付け、そこまでの道のりだけを頭に入れた後、ポケットにしまう。

ネクタイを少し緩めて、息を吐く。

6月ともなれば、多少は暑い。だが、だらしない格好をするわけにはいかない。

 

 

流石に以前と同じ背格好で来るのもどうかと思ったから、多少身体を調整した。

以前の感覚と混同することはないけれど、違和感を全く感じないわけじゃない。

まぁ、問題は無い。

 

 

「・・・行こうか」

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

世界樹広場は、もの凄い緊張に包まれていた。

人払いの結界の効果で、周囲に一般人はいない。

 

 

「瀬流彦君、もう少しにこやかな顔をしたまえ」

「ガ、ガンドルフィーニ先生だって、ガチガチじゃないですか」

 

 

というか、この場にいる人間全てが、緊張してると思う。

当直の魔法先生や魔法生徒以外の関係者全てが、ここに集められている。

理由は、関西首脳陣の公式訪問と、さらに大使の公式な就任式。

加えて、急遽派遣が決まったメルディアナ魔法学校からの特別特使の出迎えがあるから。

そして何よりも、本国の元老院議員が麻帆良を視察に来るって言うんだから、緊張しない方がおかしいよ。

議員の方は、タカミチさんが迎えに行ったって聞いてる。

 

 

というか、なんで皆一斉に来るのさ。

イベント目白押しにも、程があるでしょ?

 

 

「学園長、メルディアナの特使がお見えになりました」

「・・・うむ」

 

 

刀子先生の言葉に、学園長が重々しく頷いた。

流石に、真面目な顔をしてる。まぁ、ここでふざけられる人間もいないだろうけど。

・・・頭の中に、何人かできそうな人達が浮かんだけど、ここでは関係無いね。

 

 

厳かな雰囲気の中、特別な術式の転移魔法が発動した。

この魔法は要人の往来などに使われる魔法で、使用のためには厳しい制限がある。

その魔法陣の中から姿を現したのは、きっちりとスーツを着込んだ金髪の女性と、上質なローブに身を包んだ、赤い髪の女の子。その女の子の肩には、白い小動物――オコジョかな――が、いる。

 

 

「ようこそ麻帆良へ。わしは関東魔法協会理事、近衛近右衛門じゃ」

「メルディアナ魔法学校の代表特使、ドネット・マクギネスです。こちらは特使のアンナ・ユーリエウナ・ココロウァ」

「・・・お会いできて光栄です。学園長殿」

 

 

ドネットさんについては、明石教授から聞いてる。

もう一人の子については、よくわからないね。一見、大人しそうな子に見えるけど。

先方からは2人来るとしか聞いていないし。

 

 

特使の細かなプロフィールが知らされてこないって言うのは、メルディアナと麻帆良のパワーバランスを如実に表しているよね。

というか、今麻帆良より立場が弱い機関ってあるのかな。

・・・流石にそれは、言いすぎかな。ありそうで怖いけど。

 

 

「関西呪術協会の首脳陣が、お見えになりました」

 

 

そんなことを考えている間に、次の転移が始まった。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「アーニャ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です」

 

 

ドネットさんの声に、ぎこちないけど、なんとか笑って答えた。

 

 

・・・き、キツいわね。

何年か前にアリアに貰った『性格補正薬』でどうにか、この外交モードを保ってられるけど、あまり地の喋り方から離れると厳しいわね。

 

 

「・・・頑張って、アーニャさん。もう少しの辛抱です」

「わ、わかってるわよ、エミリー」

 

 

いつだったかしら、シオンも言ってたもんね。卒業生の自覚を持てって。

とにかく、特使の仕事を引き受けた以上、私はメルディアナの顔として動いてる。

発言と行動には、十分に注意を。

ネギやアリアの様子を見に行くのは、後でもできるわ。

 

 

でも正直、こういう真面目一辺倒な場所って苦手。

今は『性格補正薬』・・・『年齢詐称薬』の性格版でどうにか、凌いでいるけど・・・。

 

 

ちなみに肩のオコジョは、私の使い魔(パートナー)「エミリー・カモミール」よ。

彼女(女の子なのよ?)は、ウェールズでネギに纏わりついていたカモとか言うオコジョの妹さん。

下着ドロの兄貴と違って、すごく真面目で頼りになるパートナーよ。

オコジョだけど、私よりも知識もあって、魔法世界の情勢とかにも詳しいの。

旧世界の情報、情勢まで知ってるんだから、優秀でしょ?

 

 

「直接お会いするのは久方ぶりですね。改めまして、関西の長、近衛詠春です」

「・・・関東の理事、近衛近右衛門じゃ」

 

 

広場の中央では、10人くらいの集団を引き連れて来ている関西呪術協会の長が、麻帆良の学園長と握手してる。

和服って言うのかしら?

全員が、ゆったりとした服を着ているわ。

 

 

ここに来るまでの数日間で、ある程度の予備知識は頭に入れてきたけど。

なんというか、ここの学園長・・・。

 

 

頭、長いのねぇ。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「どうですかの、婿・・・詠春殿。ご息女にお会いしていきますかの」

「いえ、公務で来ておりますので」

 

 

何と言うか、ここの学園長は公私の混同が多すぎへんか?

仕事中にしてええ話題も選べんのか、それともわざとやっとんのか・・・。

 

 

「なー、千草ねーちゃん。俺ここにおらんでもよくないか?」

「うちも、もっと賑やかな場所に行きたいですぅ」

「・・・・・・もう少し、待っとりぃ」

 

 

暫定大使のうちも、端役やけどここにおる。補佐の小太郎と月詠はんも同じや。

もうすぐ、正式大使への引き継ぎが終わるから、その後はこの子らも好きにしたらええ。

思えば、この子らもこんな大きな祭りは初めてやろから、小遣いも多めに持たせて・・・いやいやいや。

 

 

まぁ、うちはこの後来る西洋魔法使いのお偉いさんとの会談に付き合わなあかんから、まだ動けんけどな。

大人は働いて、やることをきちんとやった子供は遊ばせたる。

基本やな。うん。

 

 

「クルト・ゲーデル議員が到着されます!」

 

 

幾分か緊張した声が、響いて、また転移の術が発動した。

術の発動の光に目を細める。

 

 

クルト・ゲーデル。

なんでも、西洋魔法使いの中でも特に偉い、上層部の人間だとか。

前の大戦では、長と共に戦ったって言う話も聞く。

・・・大戦か。

 

 

西洋魔法使いの元締めの一人や言うんやったら、大戦のこともよう知っとるんやろな。

・・・死んだ人間のこととかも、な。

 

 

「・・・ようこそ、麻帆良へ」

 

 

学園長の差し出した手の向こうに、一人の男が現れた。

一見、頼りなさげな優男。ほっそりとした身体にスーツを着込んで、ロングコートを羽織っとる。

細い顔立ち、そやけど、眼鏡の奥の瞳は、鋭い。

 

 

「・・・できるな、あの兄ちゃん」

 

 

小太郎の呟きに、心の中で同意する。

この男・・・厄介そうや。

人の良さそうな笑顔を浮かべとるけど、その下で何を考えとるのか・・・。

はたして、何を考えてここに来たのやら。

 

 

「クルト・ゲーデルMM(メガロメセンブリア)元老院議員」

「丁重な出迎え、痛み入ります。この度は忙しい中、急な訪問で申し訳ない」

「いや、こちらこそ・・・ドタバタして、申し訳ありませんですじゃ」

 

 

あのぬらり・・・学園長が、ガチガチやな。まぁ、仕方ないやろけど。

それは、それとしても・・・。

 

 

「ええと・・・クルト議員、そちらの方々は・・・?」

「ああ、いえ・・・私は幼少時から虚弱体質でしてね。恥ずかしながら、部下がいなければ外遊もできない程でして・・・」

 

 

両手を広げて、クルトとか言うその御仁は、自分の後ろにずらりと並ぶ50人程の黒服の人間を示した。

武装こそしてへんけど・・・全員、明らかに特別な訓練を受けた連中やな。

というか、普通に軍隊やろ、これ。

・・・威圧する気、満々やな。

 

 

「ごくごく、私的なボディーガードのような物です。お気になさらないでください」

 

 

やかましいわ。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「タカミチ君も、ご苦労じゃったの」

「いえ・・・」

 

 

魔法世界での出張の最後に、クルトに会いに行った。

一応、麻帆良は元老院の下部組織だから、いろいろと予定とかも詰める必要もあった。

もちろん、それは名目だ。

実際は、関西が独自に魔法世界と交渉しているとの報告を受けた学園長が心配になって、いらない気を回しただけのこと。

 

 

他の元老院議員とも会談したり、あるいは本国全体での関西の知名度や感触を確かめたり・・・いろいろだ。

僕はマギステル・マギではないけど、一応、それなりに顔はきく方だからね。

ただ僕とクルトは、彼が「紅き翼」を抜けて以来、険悪になっている。

だから会えるまでに時間がかかった・・・というか、ここに来るまでの道中で会話する程度の時間しか無かった。

 

 

とはいえ、本国で集めた情報は、いくつか役にたってくれるだろう。

それよりも、僕がいなかった間の学園のことだ。

僕が出張に出てから、学園長周辺の状況が急変している。

 

 

魔法先生の一部が離反し、関西、メルディアナとの関係は冷却化する一方・・・。

おまけに、ネギ君がアルの下で療養中。

詳しいことは聞いていないけど、アリアちゃんが騒動の中心にいるらしい。

 

 

アリアちゃん・・・。

この場には、いないようだけど。

 

 

「お久しぶりです。タカミチ・・・高畑さん」

「あ・・・と、キミは・・・」

 

 

赤い髪の女の子が、僕に声をかけてきた。

その子は、ネギ君とアリアちゃんの幼なじみの・・・。

 

 

「アーニャです。覚えていますか?」

「ああ、もちろん・・・そうか、キミがメルディアナからの特使なのか」

 

 

ローブに付けられたメルディアナの校章(職員用)を見て、そう判断する。

記憶しているよりも、随分と大人しい印象を受ける。

確か、もっと活発な女の子だったような気がするんだけど・・・。

 

 

「そうか・・・キミももう、そんな役目に付くようになったんだね」

 

 

思えば、僕が師匠に付いて戦場や政争の場に関わるようになったのも、20年も前のことなのか。

20年。

文字にすれば、たった3文字だけど・・・。

 

 

新しい世代が育つには、十分な時間だった。

 

 

「タカミチ君、クルト議員達を案内してやってくれんかの」

「・・・わかりました。じゃあ、アーニャ君も」

「はい、ドネットさんの所に戻ります」

 

 

学園のこと、魔法世界のこと、ナギの子供達のこと・・・。

以前は、もっと上手くやれると思っていた。

だけど現実には、何一つ・・・。

 

 

僕は、何一つ成し遂げられていなかった。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

・・・どうすれば良いのです!?

 

 

私は、今、建物の屋根の上にいるです。

ここは、世界樹広場を一望できる場所で、そこで行われていることの一部始終を見ることができるです、

超さん、ハカセさん、そしてネギ先生が一緒です。

 

 

「ハカセ、画像と音声は撮れているカ?」

「はい、問題なく・・・バレるのも時間の問題だと思いますけど」

「構わないネ」

 

 

そんな会話に、私の焦燥感は増していくばかりです。

これは、明らかに関わってはいけないレベルの話です。

こんな・・・。

 

 

こんな、世界に魔法をバラすなどと言う大事に、手を貸すだなどと!

 

 

無論、超さんの言う「悲劇」を回避するために、魔法をバラす。それは良いです。

わからなくも、ないです。

超さんの個人的な目的のために過去を変えて良い物かどうかとか、そもそも未来人と言う言葉を鵜呑みにして良いのかどうかとか・・・考慮すべき事項はまだありますが。

しかし、自分がそんな大事に手を貸すと言うのは、別次元の問題です!

 

 

「ネギ坊主、身体の調子はどうネ? 渡した薬で身体は全快だと思うが、どうカ?」

「はい、大丈夫です、超さん。超さんのおかげで、左腕も完治しました」

「それは良かったヨ」

 

 

これも事実です。

超さんの提供する不思議な薬で、ネギ先生の怪我は完治したです。

そこは、感謝するべきだと思うですが・・・のどかも、泣いて喜んでいたですし。

でも、しかし・・・。

 

 

「まぁ、この偵察が済んだらしばらく様子見だからネ。ネギ坊主も本屋達とお祭りを楽しむと良いヨ」

「そうですね・・・久しぶりに、クラスの皆にも会いたいですし」

「それが良いネ」

 

 

にこやかに話す超さん。

でも私は、その笑顔を信じることができないです。

その笑顔の奥で・・・何を考えているのか、わからない。

 

 

でも、のどかにとっては、ネギ先生を助けてくれた恩人。

無下にできるはずもないですし、何よりネギ先生本人が超さんに積極的に協力しているとなると。

私としては、超さんの側に付かざるを得ないのです。

 

 

でも、でも・・・のどか。

本当にこれで良いのですか、のどか・・・!

 

 

 

 

 

Side 超

 

夕映サンが、苦悩しているようネ。

まぁ、彼女はネギ坊主の仲間の中でも、理性的な方だからネ。

私の言葉を、そのまま鵜呑みにするはずもないカ。

・・・ネギ坊主と本屋がこちらにいる限りは、動きようも無いだろうがネ。

 

 

「そうそう、ネギ坊主。今夜の格闘大会の予選には出るのカ?」

「格闘大会?」

「そうネ。裏も表も無く、この学園で最強の人間を決める戦いネ。今夜が予選で、明日の昼間に本戦があるヨ」

「う~ん、僕はそういうのは、ちょっと・・・」

 

 

おや、乗り気でないカ?

でも、出てもらうネ。ネギ坊主が出ることに、意味があるのヨ。

学園側の目も、そちらに向けたいしネ。

 

 

「そうカ・・・ちなみに、かつてナギ・スプリングフィールドという名前の10歳の少年が、優勝した・・・と言う話も聞いているヨ?」

「・・・父さんが?」

 

 

ナギ・スプリングフィールドと言う名前に、ネギ坊主の目の色が変わるのが見えたネ。

同時に、夕映サンの顔が歪むのも。

でも、ネギ坊主はそれには気付かないネ。

自分に付いてきた、自分の仲間の苦悩に気付かないままに・・・進むばかり。

 

 

「僕、出ます! 超さん!」

「アイアイ♪ 出資者権限でエントリーしておくヨ」

 

 

本当に、この時代のネギ坊主は、ナギ・スプリングフィールドを追うことにしか関心が無いのだナ。

教師を辞める話をした時も、傷を治療してやった時も。

そして、私の計画でより多くの人間が救えると言う話をした時も。

ネギ坊主は、私の思い通りの答えを返してくれたネ。

 

 

もちろん、後ろ暗い部分や肝心な部分は、何一つ教えていないがネ。

 

 

・・・まぁ、ネギ坊主については、それで良いネ。

 

 

問題は、アリア先生、カ。

格闘大会には出てもらわねば困るのだが・・・。

どう言う条件で、誘うカ。

下手を打つと、その場で殺されるかもしれナイ。

アリア先生にだけは、まだ敵対するわけにはいかないが・・・。

 

 

「うわっ・・・超さん!」

「どうしたネ、ハカセ?」

「バレました!」

「なんと!」

 

 

偵察機が破壊されたネ!

思ったよりも見つかるのが早い。クルト・ゲーデルら要人が来るとあれば、それも当然カ。

 

 

「追手がかかったネ! ハカセと夕映サンはここで迷彩かけて隠れてるネ!」

「で、でも超さん達は?」

「囮になるヨ! 何、大丈夫ネ。こっちには・・・」

 

 

どこか緊張した表情を浮かべるネギ坊主に、視線を向けて、微笑むネ。

ああ・・・嫌だネ、師姉。

私は、嘘ばかりが上手くなるヨ。

 

 

「・・・こっちには、頼れる先生が、いるからネ」

 

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

・・・納得が、できない。

 

 

「ねぇ・・・本屋ちゃんは、本当にこれで良いの?」

「わ、私は・・・ネギ先生がそれで良いなら・・・」

「でも」

「そ、それに、超さんの言うことも、間違っては無いと思いますし」

「そう・・・なのよね」

 

 

そう、それが面倒と言うか、厄介な部分なのよね。

超さん達が用意したって言う、変なロボ軍団を見下ろしながら、そんなことを思う。

ここは、世界樹の地下で、超さん達の隠れ家。

 

 

・・・超さんは、未来人。

カシオペヤとか言う、変なタイムマシンで過去に来たとか何とか・・・。

最初は信じられなかったけど、実際に時間を戻ったり、逆に変な銃弾で3時間後に飛ばされたりされたら、信じないわけにはいかないじゃない。

 

 

それで、未来に起きる「悲劇」を変えるために来た、とか言われちゃあ、さ。

 

 

「協力、しようって言うのが、普通よねぇ・・・」

 

 

でも、心のどこかで、納得ができない部分がある。

なんだろう・・・すごく、気分が悪い。

なんで?

 

 

「・・・ねぇ、龍宮さんは、なんで超さんに協力してるの?」

「教える必要は無いな」

 

 

少し離れた所で、銃弾の入った箱を一つ一つ確認してる龍宮さんに、声をかけた。

・・・拒絶されちゃったけどさ。

 

 

「そんなことを聞いてる暇があったら、神楽坂。自分の仕事をしろ」

「教えてくれたって良いじゃない!」

「知らん」

 

 

そう言うと、龍宮さんは私に背中を向けちゃった。

もう、何と言うか、「話しかけるな」オーラがもの凄く出てる。

・・・なんだか最近、聞いても教えてくれない人にばかり会うわね。

話してくれなきゃ、わかんないこともあるのに。

 

 

はぁ・・・思わず、溜息を吐いた。

ずっと出張に行ってる高畑先生には、連絡が取れないし。

ネギのお師匠様・・・アルさんは、何も言ってくれないし。

肝心のネギは、傷を治してもらってから・・・ううん、お父さんのことを教えてもらってから、超さんに懐いちゃってるし。

 

 

夕映さんは、それでずっと悩んでる。

私も、あんまり良くないとは思うけど。

それに・・・。

 

 

「・・・あいつ、本当に教師辞めちゃうつもりなのかな?」

「そ、それは・・・」

 

 

ネギが、教師を辞めるかもしれない。

その話をすると、本屋ちゃんは表情を曇らせた。

あいつ・・・お父さんのことばっかりで、本屋ちゃんは放りっぱなし。

 

 

・・・もう一度、話、しないと。

でも何を話せば良いのか、わからない。

納得できない、そんな気持ちばかりが、胸の中にあった。

 

 

 

 

 

Side ガンドルフィーニ

 

どういうことだ、これは?

私は、高音君達を率いて、問題児の超鈴音を追って来たつもりだったのだが。

 

 

「・・・キミは、誰だ?」

 

 

学園祭の影響で、いつもよりはるかに多い通行人に被害を出さないよう、超鈴音を路地裏に追い詰めた。

そのはずなのに、そこには別の人間がいた。

 

 

随分と、ふざけた格好をしている相手だ。

子供のような背丈に、漆黒のローブに身を包み、顔には仮面を付けている。

半分が笑い、半分が泣いている仮面。

まるで、道化のような格好・・・。

 

 

だが、高音君の影の使い魔17体を一瞬で消滅させるほどの相手だ。

油断は、できない。

だが、相手から感じる魔力に、かすかに覚えがあるような・・・。

 

 

「・・・『來のかたの獣よ、有れ』!」

 

 

突然、相手が手を振りかざして、何かを叫んだ。

この声、やはり覚えが。

 

 

相手の周囲に、雷でできた獣のような物が数体、出てきた。

使い魔か!? いや、それにしては、意思を感じない。

ならこれは・・・。

 

 

私が次の対処を考えていると、その間に次の動きがあった。

その雷の獣が、突如空中に集まって――――。

 

 

爆発した。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

すごい・・・!

超さんがくれたこの指輪の力は、本当にすごい。

雷の獣を生み出す『來獣の指輪』。

他にも、僕の傷を治してくれた薬とか・・・超さんは、本当にすごい!

 

 

「良くやったヨ、ネギ坊主。見事だったネ」

 

 

小さな爆発を起こして、ガンドルフィーニ先生達の注意を引いた間に、僕と超さんはその場から離れた。

爆発と言っても、目くらまし程度の規模でしかない。

雷獣には、そこまでの魔力は込めていないし・・・まさか、ガンドルフィーニ先生達を傷つけるわけにもいかない。

でも・・・。

 

 

「同僚に敵対するのは、気が引けるカ?」

「は、はい・・・やっぱり、その」

「仕方が無いネ。彼らは魔法を世界にバラすのことを、良しとはしないだろうからネ」

 

 

それは、わかる。

魔法使いは、魔法を秘匿しなければならない。

魔法学校でも、そう習ったから・・・。

 

 

でも・・・どうしてだろう?

なぜ、秘匿しなければならないかは、誰も教えてはくれなかった。

誰も・・・。

 

 

「ネギ坊主?」

「え・・・あ、はい! なんですか超さん!」

「とりあえず、何度か転移を繰り返した後は、格闘大会まで自由行動にするが、良いカ?」

 

 

あ、そうですね。

いつまでも、仮面をかぶってるわけにもいかないし・・・。

 

 

「たまには、遊ばないとネ♪」

「でも、遊ぶって言っても・・・僕、どうすれば良いか」

「んん? んー・・・ネギ坊主は、本当に何も知らないネ」

 

 

建物から建物へ飛び移りながら、超さんはからかうように笑った。

うう・・・なんだか、バカにされたような。

でも、本当に・・・超さんは。

 

 

「・・・超さんは、なんでも知ってるんですね」

「何でもは知らないネ。知っていることだけヨ」

 

 

超さんは、いつもとは違う種類の笑顔で、僕を見ていた。

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

ひゃ~、大忙しやな。

ライブのこともそうやけど、クラスの出し物も大事や。

皆もローテーションで担当時間が決まってるし、こっちも頑張らな!

 

 

「い、いらっしゃいませーっ!」

 

 

3-Aの出し物は、喫茶店や。

元々は、「大正カフェ」って言う喫茶店やったんやけど・・・。

ネギ君やアリア先生の故郷がイギリスやから、紅茶専門のカフェにしてみたんや。

外装や内装も、イギリスを意識してみた。ハルナの力作や。

 

 

なんで紅茶専門・イギリス様式にしたかと言うと、他のクラスに「喫茶店・巫女」って言うカフェがあって、かぶるのを避けた結果や。

 

 

衣装は、中世イギリスのメイドさんの格好、らしい。

なんでか、それぞれ微妙に形が違ったり、丈が違ったりしとるけど。

髪型の指定まである(事前にどんな髪型でやるか、聞かれた)し・・・。

 

 

「同じ衣装でも、個々人によって微妙に差が出る。これは、もはや常識!」

 

 

・・・って言うのが、衣装担当の長谷川さんの言葉。

というか、キャラが違うような・・・まぁ、楽しそうやったし、ええかな。

前夜祭の前日まで、徹夜続きやったらしいし。やから、テンションがおかしかったんかなぁ。

何が長谷川さんをあそこまで駆り立てたんかは、わからんけど。

 

 

それにしても、まだ始まったばかりなのに、お客さん多いわ。

もう、教室の前は行列ができとるみたいや。

 

 

「亜子――っ、次のお客様おねがーい!」

「あ、は――いっ!」

 

 

ええと、次のお客様は・・・。

 

 

「え・・・」

 

 

そこには・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

学園祭期間中は、騒がしい麻帆良もさらに騒がしくなります。

必然、それに伴い各イベント・アトラクションは熱を帯びていくわけですが・・・人間、やはり静かな環境は欲しい物です。

 

 

そこで我々3-Aは、騒がしき他クラスとは対照的に、静かな環境を提供させていただきます。

紅茶専門カフェ『ヴァラノワール』。

静寂と癒しの空間を、貴方に・・・。

 

 

「あは☆ 客引き手伝ってくれてありがとうね、アリア先生!」

「おかげで『ドキ♡ 女だらけのデートカフェ♡』、大成功だよー?」

「・・・そうですか、それは良かったですね・・・」

 

 

椎名さんと明石さんの言葉に、私はもう、笑うしかありません。

静寂と癒しの空間だったはずが、なぜこんなことに?

というか・・・。

 

 

「・・・指名制ってなんですか」

「えー? お客様一人にコンパニオンの女の子が一人つくんだよ?」

「その女の子を、通常の3倍のお茶代を払えば指名できちゃうってわけ♡」

「ぼったくり!?」

 

 

うちの生徒はなぜに、こんなにもお金儲けに情熱を燃やすのでしょうか。

というか、なぜテンションが全ての決定要因になるのでしょうか。

 

 

ま、まぁ、単純にお客様とお茶するだけですから、良いですけどね。

本来の趣旨とは、275度違いますが。

なぜ275度かと言うと、90度とか180度とかだったら、理屈で考え合わせることもできるじゃないですか。

この子達はもう、理屈がどうとかのレベルでは無い気がするので・・・。

 

 

「大丈夫! アリア先生、最高に可愛いから!」

「美幼女教師って、話題性も抜群だよ?」

「それの何で慰められれば良いのか、さっぱりわかりませんよ」

 

 

ちなみに、今の私の格好は、生徒の皆さんと同じメイド服ではありません。

純白のフリルワンピースです。

長谷川さんに私のスリーサイズを教えなかった茶々丸さんが、どこからともなく持ってきました。

昨夜の前夜祭では、ひたすらに「傑作です」とか言ってましたね・・・。

まぁ、確かにすごく作りこまれているのですが。

 

 

襟や袖にニードルレースをあしらった、膝下までのフェミニンなシルキーワンピース。

上品さを出すためなのか、装飾は控えめ。

その代わりに、フリルで縁取りしたケープを重ねています。前合わせのリボンの端には、可愛らしいボンボンがついています。

そして、アイリッシュレースのペチコート。

裾も長いのですが、膝下からはシースルーのフリルレース。同じ色合いのニーソックスが、かすかに透けて見えます。

そして靴は、上品なイメージのローヒールパンプス。

頭には、オフホワイトのヘッドドレス。赤いリボンとバラのコサージュを右サイドのみにあしらっています。バラは中心に真珠を入れたピンク・ピンク・白の3つ。

首にも、照り艶の良いピンクのリボンチョーカー。

 

 

・・・説明が、長い・・・。

これだけでも、どれだけ気合い入ってるんですか・・・な感じですが、下着まで総レースで手縫いとか。

もうこれ、着るしかないじゃないですか。

 

 

・・・男の方の視線が、やたらと集まってくるんですが。

 

 

「あ、アリア先生?」

 

 

その時、和泉さんが店の中から顔を出しました。

なんとなく、顔が赤いような気がするのですが・・・なんでしょうか?

 

 

「アリア先生に、指名が・・・」

「・・・・・・は?」

「うっわ、マジで!? 指名第一号は美幼女教師!?」

「そのフレーズ、やめてください」

 

 

美幼女教師って、なんですかそれ。

ごく一部の客層を狙い撃ったかのようなそのフレーズ。

 

 

・・・いえ、それ以前の問題として、なぜ私が指名対象に入ってるんですか?

 

 

「ふぇ? 入れてないよ?」

「え・・・」

「な、何かな、あの男の子が、アリア先生がええって・・・3番テーブルの人」

「マジで!?」

「どれどれ・・・って、わわっ、カッコイイー♡」

 

 

椎名さん達が盛り上がってますが、ここで指名されるような男の方に、覚えがありませんが。

和泉さんがなぜか少しモジモジしながら、私にメニューを渡してきます。

 

 

「あ、あの男の子、アリア先生の知り合いなん?」

「え、はぁ・・・見てみないことにはなん「はーい、ご指名ありがとうございまーす!」と、も!?」

 

 

明石さんに背中を押されて、店内へ。

なぜか、クラスの視線が私に集中しているような?

 

 

ちなみに、エヴァさん達はいません。

私としても、少し手伝ったら離れるつもりだったのですが・・・。

まぁ、こうなれば、一人相手にして、すぐに・・・。

 

 

「・・・戻ると、しま・・・」

 

 

すか、と言おうと思った、瞬間。

教室の隅、窓際の席に座っているその男性を見て、私は動きを止めました。

自然、姿勢を正して・・・静かに、歩き出します。

 

 

白い髪、感情の見えない無機質な瞳。

窓の外の喧騒を見やるその目は、まるで何も映していないかのよう。

身体が、以前会った時よりも成長しています・・・15歳くらいでしょうか?

身体は成長しても、私の魔眼は「彼」の本質を映しています。

すらりと伸びた身体に、白いスーツが良く似合っています。

 

 

とっても美形さんなのですが、むしろそれがムカつきますね。

腹立たしくなるほどに、綺麗な人。

側にいると、こちらが遠慮してしまいそうなくらい。

すると、私に気が付いたのか、彼が視線をこちらへと向けます。

 

 

無機質な、それでいて感情の色が見え隠れする澄んだ瞳が、私を見ます。

私はそれに、少しだけ首を傾げて、言います。

 

 

「・・・ご注文は?」

「・・・コーヒーを」

 

 

その返答に私は、紅茶専門ですよ、と答えました。

するとそれに、彼は表情は変えないままに、そう、とだけ返してきました。

 

 

そして、少し考えるような素振りを見せた後・・・。

口元に、かすかな・・・ほとんど無表情ですが、わかる人にはわかる程度に、笑みを浮かべて。

 

 

「では、キミを」

 

 

・・・・・・っ////

わ、わざわざ、ワンクッション入れてくる所が・・・////

 

 

 

 

・・・教えてください、シンシア姉様。

な、なんだかレベルアップしてきたこの色男、どうすれば良いんですかっ・・・!

というか、堂々と来すぎですよ、この人・・・!

 

 

 

学園祭、初日・午前。

アリアは、なんだか最初からフルスロットルみたいです・・・!

 

 

 

 

 

 

<おまけ?>

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「レーダーに感アリッ!?」

 

 

時間潰しに仮装パレードを見ていた時、茶々丸が突然意味不明なことを言った。

・・・む。

 

 

そう言う私も、なんだか、今すぐどこかで何かをしなければならないような・・・。

なんだか、焦燥感のような物を感じる。

何と言うか、大事な物を掠め取られるような、そんな気分が・・・。

 

 

「・・・マスター」

「な、なんだ」

「シャッターチャンスを、逃したような気がしてなりません」

 

 

シャッターチャンスって、お前・・・。

昨日の前夜祭で散々、あのドレスを着たアリアを撮りまくっていただろうが。

まだ足りんのか?

 

 

「ケケケ・・・バカバッカダ」

 

 

チャチャゼロは、茶々丸の頭の上と言う、私の手の届かん所で何かを言っているし。

さよとスクナは、二人でどこかに消えよったし・・・まぁ、集合時間までは好きに過ごせば良いが。

今が10時半で、集合がアリアの見回りに合わせて、3時ぐらいだったか。

木乃香達の出し物には、行くとして・・・。

 

 

「・・・バカを言っていないで、下見を続けるぞ」

 

 

アリアもさよも、これほど大きな祭りで自由に動き回るのは初めてだと言うしな。

今のうちに、いろいろと調べておかねばならん。

 

 

それに、超の姿が見えんのも気になる。

結局、私はあれ以来、まともに対峙することもできていない。

茶々丸から、大まかな動きは聞いているが・・・。

 

 

立ち止まっている暇は、無いのだ。

 





アリア:
アリアです。
・・・・・・ど、どうすればいいのでしょうか。
フェイトさんは、いつも突然来るんですから・・・。

ちなみに、今話で登場した私の衣装は、月音様発案です。
ありがとうございます。とても可愛いお洋服です。
カモの妹、「エミリー・カモミール」は、伸様の提供。
ありがとうございます。

アリア:
さて、次回は・・・。
・・・まぁ、言わずと知れているわけで。
で、では、またお会いしましょう。


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第54話「麻帆良祭一日目・既成事実」

Side 古菲

 

一人で木陰に座り、目を閉じていると、自分が透き通って行くような気分になるアル。

周囲の喧騒も、全てが遠く感じるアル。

我が少しずつ消えて・・・自然と一体になる感覚。

故郷では良く、師父の膝の上で感じていた、「世界」。

 

 

考え事をする時はいつも、こうしているアル。

・・・まぁ、私は頭が良くないアルから、あまり良い考えが浮かんだりは、しないアルが。

 

 

「心」

 

 

故郷の師父からの返信には、ただ一言、それだけが書かれていたアル。

心・・・武の道にある者にとって、これほど大切な物は無いアル。

師父はここでの私の行動の一切に言及すること無く、ただそれだけを伝えて来たネ。

 

 

それは、これまで通りで良いと言う意味なのか。

それとも、逆なのか。

どちらにもとれるし、とれないとも言えるネ。

 

 

「菲部長。そろそろ、子供たちが集まる時間ですよ」

「おおっ、もうそんな時間かネ」

 

 

部員の言葉に集中を切って、慌てて立ち上がるアル。

我が中国武術研究会の出し物は、「ちびっこカンフースクール」。

幼い子供達に、中国拳法の「楽しさ」を教えるアルネ♪

 

 

本当なら、ネギ坊主にも参加して欲しかったアルが・・・。

ネギ坊主とは最近、顔を合わせてもいないネ。

私もなんとなく、会いに行く気になれなかったアルし・・・。

明日菜からは、傷は治ったと2、3日前に教えられたアルが。

 

 

「心」

そして、「楽しさ」。

 

 

「菲部長――っ!」

「今、行くアル!」

 

 

私はネギ坊主にそれらを伝えることが、できなかったかもしれないアル。

でも・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「あら♪ アリア先生。わざわざ来て頂いて、ありがとうございます」

「あ、はい、どうも・・・」

 

 

千鶴さんに、天文部のプラネタリウムの入場チケットを渡します。

二枚。

一枚は、事前に渡されていた物ですが・・・。

 

 

「座席は自由ですから、お好きな所へどうぞ♪」

「わかりました」

「・・・うふふ」

 

 

・・・その笑み、なんですか。

大変にこやかで、魅力的な笑みを浮かべたまま、千鶴さんは私から離れて行きました。

そのまま計器の操作に入ったようで、邪魔するわけにもいかず、追撃ができません。

 

 

「・・・生徒の子と話さなくて、良いのかい?」

「ええ、お仕事の邪魔をしてもいけませんので」

「そう」

 

 

おそらく千鶴さんの態度の原因であろう方が、何食わぬ顔で声をかけてきました。

フェイト・アーウェルンクスと言う名前のこの少年は、まぁ、大変な美形さんなので・・・。

 

 

「わ、わ、あの人カッコ良くない?」

「声かけてみる?」

 

 

・・・と言う声が、良く聞こえてくるわけですが。

当の本人は、それに対し何の対策も講じません。

自覚の無い方はこれだから・・・。

とは言え、10歳の私では大した牽制もできませんし、どうした物か・・・年齢詐称薬?

 

 

不意に、手を取られました。

 

 

「え・・・」

「席は、あそこで良いかな?」

「あ、はい・・・」

 

 

そのまま、ゆっくりとした足取りで、座席に誘導されるわけですが。

・・・私が歩きやすい速度。

というか、手を取りはするものの握るまではしないのは、何なんでしょうか。

握りたければ握れと、そう言うことなのでしょうか。

 

 

「・・・あ」

 

 

席の前につくと、手を離されました。

なんとなく、寂しい気分。だからと言うわけではありませんが、この会場、少し肌寒いような。

冷房でも、かけているのでしょうか・・・。

 

 

その時、ふぁさ・・・と、薄い毛布のような物が膝にかけられました。

見ると、フェイトさんの顔・・・ち、近いです////

 

 

「・・・大丈夫?」

「は、あ、えぅ・・・はい」

 

 

ど、どこから出したのでしょうか。

というか、なんですかその気遣い。

貴方、そんなキャラじゃなかったでしょう・・・!

 

 

そして会場の明かりが消されて、プラネタリウムが開始。

薄暗い空間に、星空・・・星座や惑星が。

千鶴さんの解説が、心地よく耳に響きます。

 

 

「・・・ん」

 

 

恥ずかしながら、実は私、昨日あまり寝ていません。

別に忙しかったとか、睡眠時間を削ったとかではなく(別荘ありますし)。

・・・単純に、楽しみで寝付けなかったというか。

 

 

まぁ、一言で言えば、うつらうつらと舟を漕ぎ始めていたわけで。

 

 

「・・・美しいね」

「そう、ですね・・・」

 

 

こちらを見て、声をかけてくるフェイトさんに、そう答えた後・・・。

・・・なんで、私を見ながら?

 

 

星を見るなら、上です、よ・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

「わざわざ来て頂いて、ありがとうございます」

「あ、はい」

 

 

生徒と話す彼女を視界に入れながら、天文部とやらの係員に声をかけ、薄い毛布を借りる。

ちなみに、係員は男性を選んだ。こういう場で他の女性と話すのは、可能な限り避けるべきだろう。

なお、チケットは自分で用意している。

 

 

『奢ることがあっても、奢られてはいけません!(暦君談)』

 

 

・・・麻帆良の新聞を読んだ暦君は、そんなことを言っていた。

良くはわからないけど、女性の意見は受け入れるべきだと判断した。

 

 

「・・・生徒の子と話さなくて、良いのかい?」

「ええ、お仕事の邪魔をしてもいけませんので」

 

 

生徒らしき子と話し終えた彼女に、そう声をかける。

毛布は見えないように、彼女のいる方とは反対側に持っておく。

 

 

・・・突然、かすかに彼女の機嫌が悪くなったように感じた。

見た目にはそうでもないけど、なんとなくそんな気がする。

視線を追うと、年頃の女性が僕を見ていた。

 

 

「席は、あそこで良いかな?」

「あ、はい・・・」

 

 

軽く彼女の手を取って、そのまま歩き出す。

握るまではしない、あくまでも決定権は彼女が持つべきだから。

そのまま、彼女の負担にならない早さで歩き、座席に座らせる。

・・・さっきアリアと話していた生徒の子が、しきりに指差していた席。

おそらく、お勧めの位置なのだろう。

 

 

少し寒そうにしてる彼女の膝に毛布をかけると、顔を赤くして、モゴモゴと何か言っていた。

ここの入口の掲示に、雰囲気を出すために中は若干冷えると書いてあったからね。

そして、もう一つは・・・。

 

 

「・・・・・・」

 

 

周囲の男性に、かすかに殺気を込めて視線を送ると、慌てて目を逸らした。

全員が、アリアを見ていた男だ。

石にしてやろうかとも思ったけど、彼女の手前、やめておく。

 

 

アリアの衣装は、上はともかく、膝下からシースルーになっている。

ソックスで覆われてはいるけれど、視線を集めやすい衣装だと言える。

誰が作ったかは知らないが・・・いや、この場合は無自覚な彼女に罪があるのか。

 

 

それからプラネタリウムが始まると、彼女はウトウトとし始めた。

・・・眠いのだろうか。

薄暗い中、星の光に照らされる彼女の横顔は、他の女性に感じたことの無い感情を僕に抱かせる。

 

 

「・・・美しいね」

「そう、ですね・・・」

 

 

いや、顔などではなく・・・美しいのは、彼女の魂か。

彼の意志を継ぎ、その願いを叶えるためだけに作られたはずの僕を、執着させる「何か」を持った少女。

アリア・スプリングフィールド。

キミはなぜ、こんなにも・・・。

 

 

「・・・アリア」

 

 

彼女の上半身に上着をかけて、眠りやすいように、座席の角度を調整した。

もちろん、彼女を起こさないように・・・それでいて、勝手に触れないよう、気を付けながら。

 

 

 

 

 

Side 千鶴(目撃者その①)

 

「あらあら♪」

 

 

アリア先生とは、龍宮さんも交えて良くお茶をする関係だけど、男の子の話なんて聞いたことなかったわ。

それも、あんなに綺麗な男の子を連れてるなんて。

 

 

「可愛い所もあるのねぇ」

 

 

普段は、「私、デキるんです」みたいな態度だけど、今はとっても可愛い女の子だわ。

一緒にいる男の子も、なんだかアリア先生を大事にしてるみたいだし・・・。

本当はいけないんだけど、良い座席を教えてあげた。

 

 

私が他の子とアナウンスを変わってからも、ずっと寝ていたけれど。

目を覚ましたのは、終わってから。顔を赤くして慌てていたわ。

一緒にいる子は、何事も無かったかのようにアリア先生をエスコートして行ったわ♪

目礼でだけど、お礼もしてきて・・・礼儀正しい子。

 

 

流石に、アリア先生は10歳だから、カップルと見られるかは微妙だけど。

でもイギリス人だし、3年くらいすれば、ちょうど良く見えるんじゃないかしら?

 

 

「那波さーん、次の入場、始めても良いですか?」

「ええ、私も手伝うわね」

 

 

天文部の同級生にそう答えると、次のお客様の整理をするために外へ。

ふと、廊下の窓から、外を見てみれば・・・。

 

 

「あらあら♪」

 

 

もうひと組の、可愛いカップルが目に入った。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「あ、小太郎君だ」

「お、夏美ねーちゃん」

 

 

千草ねーちゃんに行ってええよって言われた後、適当にブラついとったら、何やチラシを配る夏美ねーちゃんを見つけた。

夏美ねーちゃんは、何と言うか、妙な格好やった。

何や羽根生えとるし、触角あるし、耳尖っとるし。

 

 

「何や、珍妙なかっ・・・」

「か?」

「か、か・・・それは、何の仮装なんや?」

 

 

あっぶなー、また千草ねーちゃんとの約束を忘れる所やった。

女には変やとか奇妙やとか、会った瞬間に言うたらあかん、らしい。よーわからんけど。

 

 

「あ、これ? これはね、演劇の衣装なんだよ。私、演劇部だから」

「演劇部ぅ?」

 

 

演劇なぁ。

こんなの、とチラシも貰うたけど、やっぱよーわからん。

・・・というか、夏美ねーちゃん、めちゃくちゃ小さく映っとるな。

 

 

「良かったら、小太郎君も見に来てね」

「ん? あー・・・いつや、明日の夜か。格闘大会の時間でもないし、多分行けるわ」

「ホント? じゃあ、チケットあげるよ、何枚・・・って、格闘大会?」

「おう! コレや、『まほら武道会』!」

 

 

夏美ねーちゃんに、ポケットに突っ込んどった「まほら武道会」のチラシを見せたる。

どや、熱いやろ!? 燃えてくるやろ!?

ちなみに、チケットは3枚貰うた。千草ねーちゃん、来れるかな・・・。

 

 

「へ~・・・賞金一千万!?」

「そこかい! そこは割とどうでもええやろ!」

「いや、かなり重要じゃない!?」

 

 

かー、これやから女は、男の戦いの熱さってもんがわかってへん!

金よりも重要なもんが、山ほどあるやろ!?

食いぶちは稼がなあかんけどな。

 

 

「だ、大丈夫なの? これ、すごく強い人とか出るんじゃないの?」

「やから、面白いんやないか! わかってへんなー、夏美ねーちゃんは」

「そ、そうなの?」

 

 

まぁ、夏美ねーちゃんやから、しゃーないな。

んー、どうやったら夏美ねーちゃんにも、男の戦いの良さがわかってもらえるんやろ。

月詠のねーちゃんやったら、方向性は違うけど、なんとなく伝わるんやけど。

 

 

「・・・よっしゃ! なら、俺が優勝すれば、問題無いやろ!」

「え、ええぇ・・・なんでそうなるの!?」

「何でもや!」

 

 

そや、直接見せたればええねんな!

ええねん・・・けど。

 

 

「・・・んん?」

「ど、どうしたの?」

 

 

夏美ねーちゃんに見せるのは、ええねんけど・・・。

何で、見せなあかんねやろ?

というか俺は元々、麻帆良には別の目的で来たはずやねんけど。

何や、色々ありすぎて・・・。

 

 

「なんやったかなー・・・思い出せへんわ」

「・・・? 何かよくわかんないけど、思い出せないってことは、大したことじゃないんじゃない?」

「そうかぁ・・・?」

「そうだよ」

 

 

・・・まぁ、そうやな。

とにかく、夏美ねーちゃんに男の戦いの熱さを教えたらなあかんな!

 

 

「とにかく、俺は絶対、優勝するで!」

「そ、そっかー、じゃあ私も、リハとかあるけど・・・できるだけ応援に行くね」

「マジか!?」

 

 

なら、絶対優勝やな!

なんで絶対かは、よくわからんけど。

 

 

 

 

 

Side あやか(目撃者その②)

 

「あら・・・アリア先生ではありませんか」

「こ、こんにちは、雪広さん」

 

 

我が乗馬部へ、アリア先生が。

わざわざ来て頂けるとは・・・嬉しいですわ。

一緒にいる白い髪の男の方は、どなたでしょうか?

 

 

「アリア先生は、乗馬のご経験はおありですか?」

「いえ、ないです」

「では、初心者コースになりますわ。よろしければ、大人しいポニーも選べますが・・・」

「・・・いや、普通のコースで構わないよ」

 

 

男の方が、不意に口を開きましたわ。

何と言うか・・・物腰の穏やかな方ですわね。

すごく落ち着いてらっしゃいますし・・・。

 

 

「でも、普通のコースと申されましても・・・」

「あちらの2人乗りの方で構わない」

 

 

確かに、2人乗りもできるようになっておりますが。

 

 

「・・・アリア先生は、それでよろしいですの?」

「え、あ・・・はい。お願い、します・・・」

「では、こちらで最低限のレクチャーを受けた後、お楽しみくださいませ」

「ありがとう」

 

 

アリア先生達は、そのまま手を取り合うようにして、馬の方へ。

あの殿方、アリア先生とはどのような関係なのでしょう?

乗馬の2人乗りだなんて、よほど親密でなければできません。

親族・・・とは、違うようですし、もしかして・・・?

 

 

ふぅ、と、自然、溜息を吐いてしまいますわ。

 

 

「私も、ネギ先生に手取り足取り乗馬をレクチャーして差し上げたかったですわ・・・」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

馬の背中と言うのは、意外と高いのですね。

空も飛んだことがあるのに、何を今さらと言う感じですが。

まぁ、今はそんなことよりも。

 

 

「・・・大丈夫?」

「も、問題ありません!」

「そう」

 

 

この距離感の方が、問題です・・・!

せ、背中のぬくもりが、何とも。

 

 

「・・・走らせてみようか?」

「あ、歩くような速さで!」

「そう」

 

 

さ、さっきから、何を言い返しているのかもわからなくなってきました。

・・・歩くような速さで走るって、意味がわかりませんね。

その時、小石を避けた馬が小さく跳ねて、背中にばかり集中していた私は、バランスを崩してしまいました。

 

 

「ひゃっ・・・」

 

 

思わず、側にあった何かを掴んで身体を支えます。

その何かは・・・後ろから伸ばされた、フェイトさんの左腕でした。

その腕に、両手で縋りつくような体勢。

それも、私の身体に触れて支えるのでは無く、あくまでも私の支えになるように。

 

 

「・・・////」

「・・・手綱をしっかりと、持っていて」

「は、はい・・・」

 

 

・・・なんですか。

そんなにも、私に触れるのを遠慮されてしまうと・・・。

私の方から、触れたくなってしまうではありませんか。

 

 

それでも、触れて良いとは言えない、臆病な私がいて。

・・・せめても抵抗に、フェイトさん寄りになるように座る位置をズラしました。

ほんの、少しだけ。

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

午前の会談を終え、昼食会に移った。

先ほどまでは、主に麻帆良を始めとする旧世界の魔法学校のカリキュラムについての話をしていた。

既得権益の話や、本国の方針など、色々と妥協の難しい話も出たけど・・・。

流石に、麻帆良の内政に干渉できるような要求は、簡単には通らないわね。

校長からは、場合によってはネギ君とアリアをメルディアナに戻しても良いと、言われているけれど。

・・・あの男。

 

 

「ところで・・・学園長殿」

 

 

クルト議員の前では、その話はしにくいわね。

後でどうにか、麻帆良との二者会談の機会を得たい所だけど。

明石教授の力を、借りる必要があるわね。

 

 

「例の兄妹の姿が、見えないようですね」

「れ、例の兄妹・・・ですかな?」

「ええ、ほら、何でしたか・・・そう」

 

 

クルト議員は、わざとらしい動作で、何かを思い出すかのような仕草をした後。

 

 

「例の、英雄ナギ・スプリングフィールドのご子息2人ですよ」

 

 

そう、言った。

当然、あの2人がここにいることは知っているでしょうね。

ここは、話の展開を静観しましょうか。

 

 

「先ほどの歓迎式典でも、姿が見えなかったようなので」

「ほ、ほほ、あの二人は今、当直でしてな」

「当直?」

「ええ・・・何分、麻帆良祭は大きな祭りでしての、世界樹のこともありますし」

「ああ、例の・・・」

 

 

世界樹の話になると、関西の長、詠春氏も会話に参加してきた。

年頃の娘を持つ身としては、気が気でないでしょうけど。

 

 

「告白の呪い・・・でしたか。対策は大丈夫なのですか?」

「ほっほっ、問題ないですじゃ長殿・・・例年のことなので、警備のシフトなども万全じゃよ」

「よろしければ、私の部下をお貸ししましょうか?」

「ほ・・・信用できませんかの、クルト議員」

「いえ、まさか。もちろん信頼しておりますよ、学園長殿」

 

 

欠片も信頼していない笑みを浮かべて、クルト議員は言った。

何と言うか、典型的な政治家ね。

清潔で、それでいて隙が無く、同時に汚濁に塗れている。

 

 

・・・やりにくいわね。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

面倒臭い連中やな・・・。

まぁ、経験上こう言う話し合いにも何度か居合わせたことがあるけど、今回のはとびきり面倒やわ。

小太郎と月詠はんを、さっさと外に出して良かった。

 

 

子供が見るもんやない。

・・・その意味で、メルディアナのあの赤い髪の子は、よう我慢しとる思う。

何か発言しとるわけでもないけど、しっかりと話を聞いとる。

 

 

「・・・まぁ、仕事と言うことであれば、いた仕方ありませんが・・・」

 

 

・・・というか、お偉いさんが来るんやったら、アリアはんらはおらなあかんかったと思うんやけど。

自分がアリアはんらに影響力が無い言うことを、教えてるようなもんやろに。

クルトとか言う議員さんは、背後の黒服の一人に目配せしながら。

 

 

「・・・滞在中に、ぜひお会いしたい物ですねぇ」

 

 

あくまでも、にこやかに言うクルト議員。

目配せされた黒服が、外に出て行くのが見えた。

これはまた、あからさまやなぁ。

 

 

ドネットとか言う金髪の姉さんも、横の赤い髪の子に何か囁いとる。

今のを見て、反応した言う所か。

麻帆良の方も、何人か見えへんようになっとるようやし・・・。

 

 

「・・・千草君」

「・・・了解や。約束を忘れんといてや」

「わかった」

 

 

長の声に、うちも姿をくらますことにする。

まぁ、お手洗いとか言えばええやろ。

うちの目的のためや、少しくらい長のために動いてもええ。

魔法世界への最初の代表大使の地位、後は・・・。

 

 

クルト・ゲーデルと話す機会とかな。

 

 

まぁ、うちを含めて、小太郎や月詠はんも世話になっとるからな。

個人的な理由で、動くのもええかもな。

・・・さて。

 

 

最後に勝ち残るのは、誰かな。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

あはは、少しはしゃぎ過ぎちゃったかな。

すーちゃんとジェットコースターに乗ったら、調子に乗って3回も乗っちゃった。

おかげで、ちょっと目が回っちゃって・・・こめかみが痛い。

 

 

「どーした姉ちゃん、具合が悪いのかい?」

「なら、俺らと来なよ、介抱してやるぜ?」

 

 

今日の私は、茶々丸さんプロデュースの和風ドレスを着ています。

赤を基調に、裾の方に牡丹の柄があしらってある。

スカートも、袴を意識したデザインになってる。

とても可愛くて、私の趣味にも合ってる服です。

 

 

でもこれ、実は『血塗られたレジネッタ』って言う、ドレス型の魔法具の亜種です。

ダメージを受けると、受けた分の傷をドレスの生地を引き換えにすることで、癒してくれます。

・・・生地が無くなっていくから、最終的に脱げちゃうんだけど。

 

 

「おいおい、何無視してくれちゃって「邪魔だぞ」んどぉえへぷっ!?」

「んだてめ「かける2だぞ」ぇひでぶっ!?」

 

 

ん~・・・エヴァさん達との待ち合わせには、まだ時間があるよね。

 

 

「さーちゃん、お待たせだぞ」

「あ、すーちゃん。ありがとう」

 

 

両手にアイスクリームを持ったすーちゃんが、ニコニコ笑顔で立っていました。

片方のアイス(バニラ)を受け取って、私も微笑む。

ちなみに、すーちゃんのアイスは12段ある。お腹壊すよ?

 

 

「次はどこに行くんだ?(はぐっ)」

「・・・一口で一個食べれるんだ」

 

 

必死になってアイスを食べるその姿は、とても可愛くて。なんだか、おかしかった。

でも、その姿でそれは、やめた方が良いと思うなぁ。

 

 

今のすーちゃんは、アリア先生の作った『年齢詐称薬・スクナ限定+5』で、15歳くらいになってる。

肩で切り揃えられたサラサラな黒髪に、黒水晶のような、艶やかで無垢な瞳。

うん、とってもカッコ良い。

行動が伴ってれば、すごくモテると思うんだけどなぁ。

 

 

「・・・それはそれで、困るんだけど」

「何か言ったかー?」

「ううん、何も言ってないよ?」

 

 

すーちゃんのことを知っているのは、エヴァさん達以外では、私だけ。

他の誰も知らない。

それがとても、嬉しかった。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「んー、せっちゃん。金難と水難と女難と火難、その他諸々、不幸の見本市みたいな結果やで」

「そ、そうなんですか」

 

 

なんと言うことだ、よもやこの身にそこまでの災難が降りかかろうとは。

しかし思い返してみれば、思い当たる節がいろいろと・・・。

 

 

今私は、このちゃんの占いを受けている所だ。

剣道部の出し物の担当も終わり、この後クラスの出し物の担当時間が来る。

その時は、このちゃんが私のお客様になってくれるらしい。

というか、指名するには3倍の値段・・・では、なかっただろうか。

 

 

「あはは、冗談やって」

「そ、そうなんですか・・・」

 

 

このちゃんの占いは、最近軽く聞けないレベルに達しているから、そういう冗談はやめてもらいたい。

・・・このちゃんは、凄い。

ここの所、次々と式神と契約して、その数は日に日に増している。

大半は、鬼や烏族の小物だが・・・中には、酒呑や茨木などの大物もいる。

酒呑や茨木は、京都での強制召喚で繋がりができていたから、できたとも言われるが・・・。

 

 

「でも、女難は本当やから、気をつけてなぁ」

「・・・それは、もう無理なような気が」

 

 

スクナとの契約も、不完全ではあるが、成し遂げている(スクナ的に、80%とのこと)。

魔法使いで言う、仮契約レベルの物だが・・・。

最終的には、千の魔と契約するつもりらしい。

 

 

そして、この急成長の理由は・・・。

 

 

「西洋の占いとは、珍しいのぉ」

 

 

私の膝の上でこのちゃんの水晶玉を興味深そうに見つめる、少女型の西洋人形にある。

陶磁器の肌、二つ括りにされた金色の髪と、青いガラスの瞳。

身に纏っている赤いゴシック調のドレスは、ひどく場違いな雰囲気を出している。

 

 

魔法具『薔薇ノ乙女(ローゼンメイデン)・真紅』。

いや、正確にはそれを依代にしてこの世界に顕現している、稀大の大陰陽師・・・。

安倍晴明。

このちゃんの師であり、最近は天ヶ崎千草にも物を教えているようだ。

 

 

本体(分霊だが)は別荘内に存在し、この依代も普段は革の鞄の中に収納されている。

『ローザミスティカ』と言う、特別な宝石に蓄えられた魔力で動いているらしい。つまりは心臓部で、ネジを巻くことで魔力が供給される仕組みだ。

ある意味で、茶々丸さんと同じ存在と言える・・・科学ではないが。

むしろ、チャチャゼロさんの方が近いか?

しかし、どちらにせよ・・・イメージが。

 

 

「陰陽師にとって、いや私にとって、姿形など不確かな物よ」

 

 

カチッ、とこちらに首の部分を上げながら、人形・・・晴明様が言った。

いえ、しかしギャップと言う物はあるわけでして。

というか、心の声と会話しないでください。

 

 

「ぎゃっぷ、というのが何かはわからんが、あまり失礼なことを考えるべきでは無いな」

「そうやなぁ、晴明ちゃんかて、オシャレしたいもんなぁ」

「このちゃっ、そんなこと言ったら、し、失礼じゃ」

「あー、良い良い、藤原の姫の末裔なら、仕方あるまいて」

 

 

素子様の事と言い、晴明様の事と言い、もしかして、私の対応が間違っているのだろうか?

身分差とか、そう言う物は考えなくて良いのだろうか、いや、そんなはずは・・・。

 

 

「主の伴侶は、小難しい奴じゃのう、藤原の姫よ」

「そやね。そこが悩みでなぁ・・・」

「は、伴・・・!」

 

 

その後、このちゃんに次のお客様が来るまで、散々弄られた・・・。

つ、疲れる・・・最近、自分の価値観に自信が持てなくなってきた。

 

 

そういえば、一応お誘いしたが、素子様は来てくださるのだろうか。

 

 

 

 

 

Side アキラ(目撃者その③)

 

「いらっしゃい・・・って、アリア先生!」

「こんにちは、大河内さん」

 

 

たこ焼きの引換券を渡してはいたけど、来てくれるとは思ってなかった。

素直に、嬉しい。

アリア先生は、いつも忙しそうにしているから・・・。

 

 

「チーズたこ焼き一つ、お願いします」

「わかりました・・・アリア先生は、お一人で回られてるんですか?」

 

 

たこ焼きを作りながら、なんとなく聞いてみる。

アリア先生は、あまり一人でいるイメージが無いから・・・。

でも、アリア先生は少し、顔を赤くしながら。

 

 

「その・・・一人、一緒の方が」

「あ・・・そうなんですか」

 

 

なんとなく、察してみる。

アリア先生も、こんな顔するんだ・・・。

 

 

その後、たこ焼きを渡すとお礼を言って、アリア先生は小走りに駆けて行った。

その先に、白い髪の男の子が見えた。

あの人かな・・・。

アリア先生は、まだ10歳だから、大丈夫だと思うけど・・・心配だな。

 

 

男女交際は、健全に。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

乗馬の後、早乙女さんの所で似顔絵描きをして、四葉さんの所でお昼を頂きました。

フェイトさんの方でも、一応予定は組んでいたようですが・・・ここは、私の我儘を通していただきました。

 

 

「・・・疲れたかい?」

「い、いえ・・・大丈夫です」

「そう・・・でも、あそこのベンチに座ろうか」

 

 

・・・でも、「まぁ、次の機会に」とか言ってたのは、私の気のせいですよね。

というか、私の要望を受け入れてると見せかけて、実は私の知り合いに自分の姿を認知させることで、既成事実化を狙っているのではないでしょうか。

 

 

―――その時、私に電流走る―――

 

 

な、なるほど、それならば、登場時で生徒に見えるように私を誘ったのも頷けます。

全ては、「私の連れ」として自分を認知させるための所業・・・!

な、何と言う策士・・・!

 

 

「・・・何を百面相しているの?」

「ふぇ、フェイトさんには関係ありません!」

「そう」

 

 

それは残念、と、ちっとも残念そうじゃない表情で言うフェイトさん。

私は、なんだか見ていられなくて、大河内さんのお店のたこ焼きをチミチミとつつきます。

 

 

「・・・アリア」

「はい?」

「キミの家族は、この祭りに参加しているの?」

「え、ええ、もちろん」

 

 

あ、そう言えば、フェイトさんには、誰が家族かは言ってませんでしたね。

どうしますか、言っても問題無いような気がするのですが。

 

 

「・・・ちなみに」

「はい?」

「僕の仲間は、来ていないんだ」

「は、はぁ・・・そうなんですか」

 

 

え、と・・・それは、どう言う意味でしょうね?

 

 

「・・・わからない?」

 

 

じっ・・・と、見つめてくるフェイトさん。

う・・・?

 

 

「キミを、奪う」

「・・・っ」

「条件は・・・僕の方が、整えやすいよね」

「は、う・・・・・・っ////」

 

 

あ、つまりはこう言うことですか。

私を手に入れるためには、私の家族を突破する必要があるわけで。

で、その全員がこのお祭りにいるわけで・・・一方、私はフェイトさんを奪う条件がここでは満たせないわけで。

・・・力尽くの問答無用、と言う手段を除けばですが。

 

 

つ、つまり、なんですか。フェイトさんは・・・。

 

 

「・・・こ、攻勢に、出ると?」

「努力はしよう」

 

 

何が面白いのか、たこ焼きを高速でつつき続ける私を、フェイトさんはただ見ています。

と言って、見過ぎているわけではなくて・・・ただ、見守られている感覚。

 

 

「・・・この後の、予定は?」

「え、と・・・さ、三時に待ち合わせが」

「家族と?」

「ぅ・・・」

 

 

え、これ、どうしましょう。どうすれば。

いえ、嫌だとかそう言うんじゃないんです。ほら、絶対にエヴァさんと衝突するじゃないですか。

麻帆良が消滅・・・は良いですね別に、しても。

でも、それでフェイトさんが完全拒否されても困るわけで、あれ、なんで困るんだっけ?

お、お落ち着きなさい、私。別に嫌では無い・・・でしょう?

でもほら、ただ覚悟・・・は、できています。ええ、できていますとも。

でも心の、そう心の準備がまだっ・・・!

 

 

「・・・話は変わるけど」

「ふぇ?」

 

 

気が付くと、フェイトさんはすでに隣では無く、私の目の前に立っていました。

静かな瞳で、私を見ています。

 

 

「アリアポイントって、まだ生きてるの?」

「え・・・あ、アリアポイントですか。はい・・・まぁ」

「そう」

 

 

正直、忘れているのかと思いましたよ。

でも、フェイトさんは覚えていたようで・・・。

フェイトさんは、少し目を細めて遠くを見た後。

 

 

「・・・すまない。急用ができた」

「き、急用?」

「この埋め合わせは、またの機会に必ずするよ」

「え・・・あ、はい」

 

 

麻帆良でこの人が、どんな急用があると言うのかはわかりませんが。

・・・正直、少しだけ、ほっとしている自分がいます。

 

 

「ポイントの交換を、楽しみにしているよ」

 

 

それが、フェイトさんの言い残した言葉。

・・・ポイントを溜めてる自信があるんだ。

・・・・・・そりゃあ、溜まってますけど。

 

 

「・・・あ」

 

 

ずりずりと、お尻の下から一枚の薄い布を引き出します。

白いハンカチ。フェイトさんのです。

ベンチに座る前、さりげなく私の下に敷いていました。

これ、忘れて・・・フェイトさんが、忘れ物?

 

 

「・・・わざと?」

 

 

次に会うための、理由作りまでしていくとか。

・・・も、もぅ~~~~~~~~っ!////

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・時間が無いね。

それが、僕の考えだった。

 

 

アリアと別れた直後、すぐに転移した。

場所は、そう離れていない。すぐ近くの路地裏だ。

僕の目の前には、男の石像が2つ、出来上がっていた。もちろん、僕が彫ったわけじゃない。

 

 

武装こそしていないが、襟元の紋章からして、黒服のメガロメセンブリア兵。

少し前から、巧みに魔力反応を消しつつ、僕達・・・と言うより、アリアの後を尾けていた。

 

 

すぐに消えてくれれば良かったけど、害意を感じてしまえば、放置することはできない。

「完全なる世界」としても、個人としても。

特に・・・。

 

 

「・・・クルト・ゲーデル」

 

 

彼がこちらに来たのには、何か理由があるはずだった。

そしてその理由が、麻帆良の査察などと言うレベルの低い話なわけがない。

スプリングフィールドの子供達に関心があると見て、間違いないだろう。

 

 

アリアにも、近く接触しようとするはずだ。

ネギ君にもするだろうが・・・そちらの対処は、僕の管轄では無い。

 

 

「できれば、待ち合わせ場所とやらまでは、送りたかったけれど・・・」

 

 

ちょうど良い、彼の部下の中に、我々の工作員を紛れ込ませるチャンスだろう。

幸い念話は妨害してあるし、救援を呼ばれる前に石化させた。

これで少しは、向こうの情報も入りやすくなるはずだ。

魔法世界で計画を実行すれば、彼を含めた元老院は敵に回るだろうしね。

 

 

だが、クルト・ゲーデルがアリアと接触するまで、そう時間は無いはずだった。

おそらくは、この祭りが終わるまでの間に、必ず一度は接触する。

可能ならその前に、アリアをこちら側に引き込みたい所だけど・・・。

 

 

『女の子に、無理に迫ってはいけません!(暦君談)』

 

 

・・・時間を、置こう。

その間に、僕はやるべきことを済ませるとしようか。

 

 

完全なる世界と、彼女のために。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・む?」

 

 

茶々丸とチャチャゼロを引き連れて歩いていると、屋台の並ぶ通りのベンチで、アリアを見つけた。

遠目に何をしているのかと見てみれば、何やらノートパソコンを弄っている。

仕事か? と思ったが、どうも違うようだ。

 

 

「こんにちは、アリア先生」

「何を百面相しながら、パソコンを叩いているんだ?」

 

 

チャチャゼロは、茶々丸の頭からアリアの頭へと、落ちるように見せかけて飛び移った。

そして、パソコンの画面の覗き見る。

 

 

「・・・サリゲナイハンカチノカエシカタ?」

「ググってる所です!」

 

 

・・・良くわからんが、誰かにハンカチを借りたのか?

それにしても、普通に返せば良いだろうに。

 

 

「・・・なんなら、私が返してきてやってもいいぞ?」

「第三次世界大戦が始まるので、無理です!」

「・・・意味がわからん」

「微妙な年頃ですから、仕方がありません」

 

 

・・・最近、茶々丸は育児雑誌を良く読んでいることを、私は知っている。

だからかは知らんが、どうも頭のネジが緩んでいるとしか思えん発言をする。

成長の方向性が、やはり、違うのではないだろうか・・・?

 

 

「楽しんでいるようネ?」

 

 

その声を聞いた瞬間、魔力で編んだ糸を飛ばした。

雑踏の中にあろうと、対象を間違えることは無い。

声の主・・・超鈴音を選び、絞め上げる―――が。

 

 

「やめてほしいネ、エヴァンジェリン。もう何度目カ?」

「・・・8度目だ」

 

 

苦々しい思いで、平然と私の前に現れた超を見る。

超を捉えたはずの私の糸は、どう言うわけか、私の感知できないほどの速度で切られてしまっている。

そしてこれは、すでに一度や二度では無い。

教室で、「超包子」で・・・そして今。

 

 

もし私の行動が全て奏功していたらなら、超は5回は死んでいる。

だが・・・。

 

 

「こんにちはヨ、アリア先生」

 

 

だが、こいつは確かに存在している。

この私の手を、幾度となく逃れて・・・。

 

 

「マスター、超」

「茶々丸は、動くな。じっとしていろ」

「そうネ。茶々丸は大人しく待っていてほしいヨ」

 

 

この麻帆良で、茶々丸に対して私と同等の命令権を有する者がいるとすれば、この超だろう。

私の方が上位に設定されているはずだが・・・。

この超、まるで信用できない。

 

 

家族としては、私を優先してくれると信じているが・・・。

負担は、かけたくなかった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・なんですか、この人は。

 

 

「超包子」の制服に身を包んだその少女の名は、超鈴音。

私の生徒であり、未来人。

学園祭の時点までは何もしないかと思い、特に接触はしませんでしたが・・・。

事実、茶々丸さんを通じて伝わってくる彼女の情報は、原作以上の行動は取らないと言う物でした。

 

 

もちろん、私の存在が影響を与える可能性もありましたが。

しかし、世界樹が発光する段階にならない限り、問題は無い物と思っていました。

実際、ヘルマン卿の件までは、彼女は普通の生徒でしたし。

 

 

ネギにちょっかいをかけるまでは・・・。

エヴァさんが、彼女に疑念を持つまでは・・・。

そして。

 

 

「貴女・・・何を持っているのですか?」

「うん? 校則違反になる物は何も持っていないヨ?」

 

 

今、私が改めて彼女を視るまでは。

・・・昨日まで、こんな反応は無かった。

私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』は、確かに彼女の姿を捉えているのに・・・。

 

 

「そう言えば、アリア先生と直接向き合うのは、初めてかもしれないネ?」

「そう、かもしれませんね・・・」

 

 

なのに私の眼には、超さんの全てが映らない。

魔力も、その他の解析できるはずの全てが、私の瞳に映らない。

いえ、「何も映らない」と言う事実が映るような効果が、彼女の身体に付与されています。

・・・こんな、バカなことが。

 

 

「・・・そんなに視られると、照れてしまうネ」

「いい加減その口を閉じろ、超鈴音。さもないと・・・」

「あやや、これは怖いネ。でも、良いのカ? 私は、アリア先生の「生徒」ヨ・・・?」

 

 

エヴァさんは、それなりに本気のようですが・・・超さんは、にこやかなままです。

そのまま、ヒラヒラと手を振りながら、私を見て。

 

 

「エヴァンジェリンが怖いから、用件を済ませることにするヨ」

「殺すぞ、貴様・・・」

「アリア先生に、「生徒」としてお願いがあるネ」

 

 

・・・先ほどから、やけに「生徒」を強調しますね。

というか、この人は誰ですか。

私が知っている「超鈴音」では、無いのですか。

昨日までは、そうだったはずなのですが・・・。

 

 

「武道会に出てほしいネ」

「武道会・・・?」

「実は参加者が集まらなくて、困っているネ」

 

 

超さんは私の両手を握ると、ウルウルとした瞳で私を見つめてきました。

え、ちょ・・・。

 

 

「お願いヨ。先生なら話題性もあるし・・・きっと人も集まるネ。「生徒」を助けると思って」

「え、え、え・・・」

「き、貴様! アリアから離れろ!」

 

 

慌てて、エヴァさんが私と超さんの間に割って入ります。

なんだか、エヴァさんが必要以上に焦っているようなのですが。

超さんは笑いながら、それに逆らうこともせず、私から離れました。

 

 

「う~ん、やっぱりタダじゃダメかネ?」

「タダとかどうとか、そう言う問題では無いわ!」

「・・・なら、もし出てくれたら。そして優勝なんてしてくれたら、良いことを教えるネ♪」

「良いこと、ですか・・・?」

 

 

あはは、と超さんが笑います。

なぜでしょう、とても・・・耳に残る笑い声です。

そんな私の感情を察しているのか、超さんは私のことを、じっと見つめてきました。

 

 

エヴァさんは、憎らしそうな視線を超さんに向けていますし、茶々丸さんは、心配そうな視線を私に向けるばかり。頭の上のチャチャゼロさんは、よくわかりません。

 

 

超さんの口元に浮かぶ笑みは・・・歪な形。

まるで悪魔の笑みのような、三日月の形。

 

 

・・・あはは。

超さんの、笑い声が聞こえます。

そして次の彼女の言葉で、私の世界の時間が、止まる。

止まらざるを、得なかった。

バキンッ、と、ノートパソコンを落としてしまう程に。

 

 

 

「・・・シンシア・アマテルの、死の真相とか、ネ?」

 

 

 

 

・・・シンシア姉様。

今まで何度も、貴女に語りかけてきましたが、一度も言っていない言葉があります。

私は・・・。

 

 

 

 

 

アリアは、貴女に会いたい。

 





アリア:
アリアです。
超鈴音が、謎です。意味がわかりません。
何が目的で、何を求めているのかが見えません。
エヴァさんすら手玉に取り、私の瞳からも逃れる。
そんな力は、彼女には無かったはずなのに・・・。
これも、私がいることの影響なのでしょうか?


今回登場した魔法具は、以下の通りです。
「薔薇ノ乙女・真紅」(ローゼンメイデン):黒鷹様・haki様
「ローザミスティカ」(ローゼンメイデン):haki様
「血塗られたレジネッタ」(C3(シーキューブ)): ヴラド=ツェペシュ様
ありがとうございます!


アリア:
さて、次回はネギグループの動向と、アーニャさんを含めた方々が本格的に裏で動いてくるかもしれません。
もちろん、超鈴音も。
そして、私は武道会に出場するのでしょうか?
では、またお会いしましょう。


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第55話「麻帆良祭一日目・事情」

Side 千雨

 

私は何より、平穏無事な生活を望んでいる。

それはもう、常識的に、かつ平和的に生きていくことを望んでいるわけだ。

非常識なんて、もっての他。

 

 

だからこそ、常識の無いクラスの連中とも距離を取ってたわけだし・・・。

まぁ、たまに愚痴ったりしたし、趣味が高じてネット界の女王になってしまったりしたが。

それにしたって、一般人の領域を飛び越えたことは一度だって無いと断言できる!

 

 

『まいますた~』

 

 

自慢じゃねぇが、PCの扱いには自信がある。

私のPC、MacG4(OS9.2)は特に自慢だ。

だが、バグやらウイルスが入り込む可能性は、ゼロじゃない。

・・・そうか、これはバグか!

 

 

『まいますた~』

「うるせぇぞ、このバグが!」

『ひっど~い。バグなんかじゃないです!』

「じゃあ・・・いやいや落ち着け、バグと会話してどうする・・・」

 

 

そう、落ち着け私。私は冷静な女、ビークールだ・・・。

落ち着いて考えれば、こんなことはあり得ないと気付くはずだ。

こんな・・・。

 

 

『まいますた~?』

 

 

緑色の髪をツインテールにした女の子のCGグラフィックなんて、入れた覚えがねぇ。

そもそも、今私が見てるのは、私のHPだ。

そこにイメージキャラを配置した覚えもねぇし・・・。

じゃあ、なんだ?

 

 

「なんだ、こりゃ・・・」

『お答えしますっ、まいますたー!』

 

 

画面の中の女が、びしっ、と敬礼した瞬間、画面が切り替わった。

黒い画面の中に、8本のスポットライト。

その一つ一つに、さっきの女を含めた8人のキャラクター。

 

 

『我々は、創造主「Aria」によって作られし、歌って踊れる人造電子精霊衆「チーム・ぼかろ」!』

 

 

かっつん、きゃるんっ♪

と、ポーズをとって。

 

 

『ミクです☆』『『リン&レン』』『ルカよ』『ゆきっ』『ミキ』『いろは』『リリィ!』

 

 

と、自己紹介してきやがった。

 

 

『創造主のPCが破損し、避難した際に巡り会った運命のまいますたー! それが!』

 

 

じゃ・じゃん☆

ぱぱっ、と、私のPCの隠しフォルダの中身・・・ぶっちゃけ、私のコスプレ写真が流れる。

 

 

『貴女ですっ、まいますたー! さぁ、何なりとご命「ぶちんっ」

 

 

電源を切った。

すると当然、画面はブラックアウトして・・・画像も音も聞こえなくなった。

少し待っても、復活の気配はねぇ。

 

 

今、私が座ってる場所からは、出ようかどうしようか、迷っているコスプレイベントの会場が見える。

あるが・・・。

どう考えても、出てる場合じゃねぇよな・・・。

 

 

このバグ、なんとかしねぇと。

私の精神安定のために。

くっそ・・・創造主だか「Aria」だか知らねーが、見つけたらタダじゃおかねぇ・・・。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

「ちょ、ネギ! 本当にこの大会に出るの!?」

「はい! 父さんが優勝した大会ですから!」

 

 

明日菜さんの言葉に、ネギ先生が笑顔で答えています。

私は、のどかと共に、2人の後ろについて歩いているのですが。

 

 

「な、なんだか、凄そうな人達が一杯いるね、ゆえ」

「そうですね・・・」

 

 

少し見ただけでも、人間離れした巨体の男の人とか、女の人みたいな顔をした金髪の男性とか、どこの格闘ゲームのキャラですかと問いたくなるような方とか・・・。

・・・麻帆良の縮図みたいな状況ですね。

 

 

「でも、どうして明日菜さんも格闘大会に?」

「あ、明日菜さんは賞金が欲しいらしいです、せんせー・・・」

「なんてったって、一千万ですぜ兄貴!」

「へー、そうなんですか?」

「うっさいわね、私にも色々あんのよ! 生活とか・・・」

 

 

明日菜さんは、新聞配達のバイト等で学費を稼いでいるとか。

偉いと思うです。私は、そういうことを心配したことが無いですから・・・。

 

 

はぁ・・・賑やかに話しているネギ先生達を見ながら、密やかに溜息を吐きます。

超さんからは、この大会の後は、好きにするようにと言われているです。

次に事を起こすのは、3日目の午後・・・。

 

 

「それじゃ、僕と明日菜さんはエントリーしてきますね」

「また後でね、本屋ちゃん、夕映ちゃん」

「あ、はい~」

「わかったです」

 

 

ネギ先生と明日菜さんは、大会の受付へ。

自然、私とのどかが残りました。

 

 

「・・・のどか、ネギ先生とのデートはどうでしたか?」

「でっ・・・!」

 

 

なんとなく話題に困ったので、午後のデートについて聞いてみたです。

午後は、私は哲学研の勉強会に出ていたので、いなかったです。

明日菜さんも美術部で・・・ネギ先生とのどかは、一緒に過ごしたはずです。

 

 

「えっと・・・たくさんお話して、まきちゃんの新体操とか、見に行ったよ」

「そうですか・・・」

 

 

その後、ネギ先生が戻るまで、のどかの話を聞いて過ごすことにしたです。

・・・世界樹の呪いで先生がキス魔になる件は、正直どうかと思ったですが。

のどかが、楽しく過ごせたのなら・・・。

 

 

私は、それで良いです。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「おお・・・賞金に釣られて、強そうなんが集まってきとるな!」

「そうどすかぁ? 筋張ってて斬りがいの無さそうな方ばっかですけど・・・」

「月詠のねーちゃん、これ元々斬れへん大会やで?」

「死にます」

「なんでや!?」

 

 

月詠のねーちゃんと待ち合わせして、予選会に来た。

なんや、ゴツそーな兄ちゃん達がゾロゾロおる。

くぅ・・・燃えてきたでぇ!

 

 

「木刀はええらしいで?」

「うち、木刀でも普通に斬れてまうんやけど・・・」

「いや、あかんて。人斬りなんかしたら、千草ねーちゃんに怒られてまう」

 

 

なんでかわからんけど、千草ねーちゃんには怒られたぁないんや。

月詠のねーちゃんも、なんやかんやで千草ねーちゃんの言うことは聞くしな。

 

 

「あー、小太郎君、みっけ!」

「うぉあ!? 夏美ねーちゃん!」

 

 

月詠のねーちゃんと話しとったら、夏美ねーちゃんが出てきた。

来てくれたんはええけど、今日はただの予選やで?

 

 

「ど、どうしてここに? 本選は明日やて、言うたやん」

「あー、せっかく応援に来たのに。部の準備も抜けてきて・・・って?」

「お初に、神め・・・・・・やなくて、月詠ですー」

「あ、どうも、初めまして・・・?」

 

 

夏美ねーちゃんと、月詠のねーちゃんが、なんやわからんけど見つめ合うた。

と思ったら、夏美ねーちゃんが急に俺の方を向いた。

笑顔で。

な、なんやね・・・?

 

 

「・・・お友達?」

「いや、月詠のねーちゃんは、友達と言うか・・・」

「ねーちゃん・・・お姉さん?」

「いや、それも違くて・・・」

 

 

・・・な、なんやこれ。

え、俺・・・追い詰められとる?

殴られもしとらんのに?

いや、そもそも、なんで夏美ねーちゃんに追い詰められなあかんのや、俺。

 

 

「じゃ、何?」

「何と、聞かれても・・・な、何て言ったらええんやろか」

 

 

月詠ねーちゃんが、俺にとって何かって言われても。

・・・何やろ?

 

 

なんでかずっと笑顔な夏美ねーちゃんの言葉を考えとったら、月詠のねーちゃんが袖を引っ張ってきた。

な、なんやね、月詠のねーちゃんまで。

月詠のねーちゃんは、夏美ねーちゃんを指差すと。

 

 

「恋人さんどすか?」

「ぴ・・・っ////」

「ち、ちゃうちゃうちゃう! なんでそないなるんや!?」

「そ、そうだよ! 小太郎君まだ子供だし!?」

「はぁ!? 俺はガキと違うわっ!」

「子供じゃんっ! 小太郎君何歳よ?」

「ああ? あ~・・・じ、10歳、かな」

「子供じゃん!」

「お二人さん、仲ええどすなぁ~♪」

 

 

その後、会場が開くまで夏美ねーちゃんと俺が子供かどうか、言い合った。

・・・なんでか、月詠のねーちゃんは一人、ニコニコしとったけど。

 

 

 

 

 

Side 超

 

恨まれても構わない。

憎まれても構わない。

だけど、退くことだけはできない。

だけど、止まることだけはできない。

 

 

誰にどう思われようと構わない。

己と、己の大切な誰かの幸福のために、悪を行うこと。

それだけが、私が師姉から学んだ、たった一つの真実だからネ。

 

 

「・・・ネギ坊主達は、来たかネ」

「はい、龍宮さんも会場に入りました」

「そうカ・・・」

 

 

複数の格闘大会を買収して、20年ぶりにこの武道会を復活させた。

正直、クルト・ゲーデル元老院議員を含め、要人達が集まっている状況での開催は難しかったがネ。

だが・・・まだ、この麻帆良の警備権限は魔法先生達にあるネ。

なら、いくらでも情報統制は可能ヨ。

問題は・・・。

 

 

「・・・ハカセ、茶々丸の情報プロテクトは?」

「完璧です」

「そうカ、すまないナ・・・」

 

 

いえ、と微笑んでくれるハカセに、私も笑みを返す。

我ながら、力の無い笑みだったと思うネ。

ハカセにとって、娘にも等しい茶々丸に情報制限を与えるのは、苦しい選択だったろうニ・・・。

だがこれで、茶々丸からアリア先生達に私の情報が漏れることは無いネ。

 

 

漏れたとしても、それは偽物。

アリア先生の魔眼も、今は私に届かない。

 

 

ネギ坊主には、父親。

アリア先生には、シンシア。

2人にとって、これ以上のキーワードは無いはずネ。

 

 

・・・囲碁と言うゲームがある。

白と黒の石で陣地取りをするゲームなのだガ、良い手もあれば悪い手もある。

その意味で、私が2人に打ち込んだ手は、明らかに・・・。

 

 

「超りん! 時間だよ!」

「・・・わかったネ」

 

 

廊下から顔を覗かせた朝倉に、そう返すネ。

朝倉は、私が起こす事件の顛末と情報を与える条件で、味方に引き入れたネ。

人格面はともかく、生徒へ情報を広げる面で、彼女の力は有益ヨ。

ネットだけでは、足りないからネ。

 

 

さて・・・。

会場に出て、私は仮面を被るネ。

不敵で、自信に満ちた、笑顔と言う名の仮面を。

 

 

「良く来たネ諸君! 私がこの大会の主催者・・・」

 

 

会場にいる面々に、いや世界に向けて、私は名乗りを上げる。

 

 

「超鈴音ネ!」

 

 

 

 

 

Side 真名

 

武道会の予選は、20人一組のバトルロワイヤル形式。

まぁ、つまりは最後まで立っていた人間が本戦に進めると言うわけだ。

 

 

私は古と同じグループ。

正直、古が全員倒していってくれるから、楽で良い。

こんな所で500円玉を浪費するのも気が引けるしな。

・・・もっとも、必要経費は全て超持ちなので、私の懐は痛くも何とも無いわけだが。

 

 

『おおっと、強い! 中武研部長、古菲選手! 貧相な身体にゴリラ並のパゥワァ!』

「・・・朝倉、後で酷いアルよ」

「はは・・・口調が本気だな古」

 

 

まぁ、別に朝倉の顔面がヘコもうがどうしようが、私は困らないからな。

そうこう言っているうちに、古が剣道部の部長とやらを沈めていた。

木刀を持っていたし、多少は気も使えるようだったが・・・古の敵では無いな。

 

 

「ふ・・・狙い撃つまでも無い」

「そう言う台詞は、自分で倒してから言うべきだと思うアル」

 

 

まぁ、そう言うな。

あらかた片付いたようだし、これは本当に立っているだけで良いな。

 

 

「・・・・・・ふぅ」

 

 

・・・珍しいな、古が溜息など。

この程度で疲れたわけでもあるまいし・・・悩みでもあるのか?

それはそれで、珍しいが。

 

 

「・・・真名」

「なんだ、古」

「心とは、何アルかね・・・」

 

 

・・・これはまた、哲学的なことを聞いてきたな。

古の質問としては、本当に珍しい部類の話だ。

 

 

「真名は、何かをする時に考え込んだり、迷ったりとかは、しないアルか・・・?」

「もちろん、するさ」

 

 

かちり・・・手が自然に、胸元のペンダントに触れる。

 

 

「怖いと、思ったことは?」

「あるよ。戦場で状況が把握できない時、これはどんな戦士にとっても恐怖だ。本当の危機とは敵と遭遇することではなく、恐怖に囚われた状況こそが最大の危機・・・心も、同じことだ」

 

 

一人になる時。一人にされた時。

あの人は今も私の側にいると、言い聞かせている時間。

 

 

「・・・そういう時、真名はどうするアルか?」

「理解できないものに遭遇しても、それをそのまま受け入れることにしている。焦らずに観察して・・・自分のポジションを確保する」

 

 

まぁ、お前の参考にはならないだろうがな。

古、お前の悩みはお前だけの物で・・・結局の所、私には何もしてやれない。

ちなみに、怖くはないが嫌いなのは、敵以上に味方に損害を出す味方だ。あと浪費家。

 

 

すると、古は私を見つめてきた。

 

 

「・・・なんだ」

「真名は、優しいアルな」

「バカなことを言っていないで、さっさと残りを片付けて来い」

「・・・人使いが荒いアルねぇ」

 

 

当然。

私は、使える物は何でも使う女だからな。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

『な、なんだぁ!? 麻帆中さんぽ部、長瀬選手が・・・ぶ、分身したぁ――――っ!?』

「そうはっきり分身と言われると、困るのでござるが」

『こ、これが、ほんわかのんびり、さんぽ部のラストアークなのか――――っ!?』

「まったくもって、関係無いでござるな」

 

 

分身したその女・・・楓ねーちゃんは、次々と他の相手を倒していきよった。

前に、一緒に戦った時も思ったけど・・・俺より分身の密度が濃い。

なんでこんな使い手が、普通に中学生やっとるんや!?

 

 

正直、正面からやって勝てるか微妙やけど・・・。

 

 

「小太郎くーんっ!」

 

 

夏美ねーちゃんの手前、逃げ回って勝ち残る手は取れん!

というか、最初から逃げる気は、無い!

 

 

「ま、負けへんで!」

 

 

五つ身分身!

 

 

「おお♡ やるでござるな小太郎殿」

「ど、どうや!?」

「ならば拙者は、12人♡」

「なんやて!?」

 

 

ぐうぅ・・・7人が限界やぁ!

いや、死ぬ気で頑張れば、あと一人分ぐらいっ・・・!

 

 

『いや、試合しろよあんたら!』

「やかましぃわ!]

 

 

他の連中は雑魚ばっかやから、どうでもええわ!

 

 

 

 

 

Side 月詠

 

つまりまへんわぁ。

小太郎はんが出ろって言うから出てみた物の、斬れへんのやったら戦う意味も無いしなぁ。

 

 

「げ、あ、あんた・・・!」

「はぁ・・・」

 

 

そもそも、なんですの?

なんでうちが人斬り我慢する必要があるんや?

千草はんも、普段はあんまり面白いことしてくれまへんし。

 

 

・・・いっそのこと。

 

 

「な、なんでよりにもよってあんたがここに!?」

「あぁ・・・」

 

 

いっそのこと、誰か斬ってまおかなぁ。

正直、いつまでも我慢できる自信、ありまへんし。

たまにこの町に来る侵入者とやらも、なるべく斬るなて言われてるし・・・。

 

 

それに、誰か斬ってしまえば。

 

 

「ちょ、無視すんじゃないわよ!」

 

 

誰か斬ってしまえば・・・皆が、うちを殺しにきてくれるやろか。

アリアはんや・・・この町の人達。関西からも来てくれはるかもしれませんなぁ。

ああ、ええかもしれまへん。

 

 

そうや、斬ってまえば、悩まんでもええんや。

この苛々する気持ちからも、おさらばできるやろ。

ああ・・・。

 

 

ああ、あかん。

お腹が減って、死にそうや・・・。

 

 

「あん、た・・・?」

「・・・・・・きりたいなぁ」

 

 

斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい。

キリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイキリタイ。

 

 

誰かうちに、斬られてくれへん、かな?

 

 

「・・・っ」

「・・・・・・あは」

 

 

斬ってしまえば、皆がうちを殺しに来てくれる。

それを殺せば、また来てくれはる。

アリアはん、センパイ、皆、皆、皆・・・。

 

 

千草はん、小太郎はんも・・・。

・・・・・・?

 

 

・・・なんや? 今・・・。

 

 

『C組、勝ち残り選手決定! 天崎月詠選手、神楽坂明日菜選手!』

「おろ?」

 

 

気が付いてみれば、うち以外の選手は全員、気絶しとりました。

残念ながら、誰も死んどるわけやないどす。

手刀で首打っただけどすからな。

 

 

「あー、終わりどすかぁ・・・そらそら」

 

 

・・・うん?

なんや、一人残っとりますやんか、すごい強いんどすなぁ。

 

 

「お疲れ様どしたぁ、えーと・・・カグラザカはん?」

「・・・・・・!」

 

 

・・・そないに、身構えんでもええやんか。

うち、別にあんさん斬りたいとは思ってませんもん。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

ええい、鬱陶しい。

目の前でドタバタと暴れ、そして倒れて行く雑魚共を苛々と見ながら、そう思う。

 

 

「おいタカミチ、とっとと終わらせないか」

「・・・いや、エヴァも手伝ってくれよ」

「知らん。たまには働け」

 

 

私の横に立って、居合拳を放つタカミチ。

この男、超の偵察とか言う理由でここに参加しているわけだが。

私にしてみれば、今の段階で偵察をして何か意味があるのかと言いたい。

 

 

そして、もう一つ。

 

 

「元老院、クルト・ゲーデルがアリアに興味を持っているだと・・・?」

「ネギ君にも、だと思うけど・・・」

「ぼーやはどうでも良い」

 

 

誰にも聞こえない程の小声で、私達は言葉を交わす。

本来なら、タカミチと言葉を交わすのも控えたい所だが・・・。

 

 

元老院か。

この時期に突然来訪するからには、何かあるとは思っていたが。

狙いは、そうか、アリアか・・・。

 

 

「・・・しかし、なぜそれを私に教える?」

「エヴァなら、アリアちゃんを守ってくれるだろう?」

「守る?・・・は、温いことを言う。だがアリアは、私のモノだ。誰にも渡すつもりはない」

 

 

まだ、教えていないことも色々とある。

アレは、磨けばまだまだ光る・・・目下の所、故郷の村人の石化解除に熱を上げているようだが。

独り立ちさせるには、100年は早い。

 

 

超にシンシアの名前を出されてからも、いつも通りに振る舞ってはいたが、あの娘のことだ。

私に何も言わず、また一人で何かを決めていないとも限らん。

まったく、あいつは私の従者である自覚はあるのか?

 

 

超を直接問い詰めようにも、超は私からは逃げ回ってばかりだ。

この私からだぞ?

ああ、苛々して仕方が無い。

帰ったら今日は、茶々丸のネジを巻いてやって、チャチャゼロのナイフを磨いてやって、スクナに新しい肥料をやって、さよの髪を梳いてやって、それからアリアの明日の衣装を選ぶ他あるまい。

 

 

「・・・タカミチ! 終わらせろ!」

「はいはい・・・」

 

 

そして、待っていろよ、超鈴音・・・。

私をコケにしただけでなく、私のモノに手を出したこと、必ず後悔させてやるからな・・・。

私に優勝のトロフィー(かは知らんが)を渡した瞬間、首が飛んでも私を責めるなよ。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「八極拳・八大招式『絶招通天炮』!!」

「かっ・・・!」

 

 

豪徳寺とか言う、気を使う格闘家の人に拳を叩きこんで、吹き飛ばした。

いくら気が使えても、意識して使えないんじゃ、この程度。

マスターの『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』の方が、全然強い!

 

 

『き、決まったぁ―――――っ! 噂の子供先生、本選出場決定――――っ!』

 

 

朝倉さんの声。

なんだか久しぶりに声を聞いた気がするけど、超さんの仲間になってるとは思わなかった。

 

 

「・・・マスター! どうでした!?」

「ええ、見事でしたよ、ネギ君」

 

 

僕と同じグループだったクウネルさん・・・マスターは、いつものように僕の頭を撫でてくれた。

へへ・・・見事だって。

超さんの指輪やカシオペアを使うまでも無かったし、僕も、前より強くなってるのかも・・・。

 

 

このグループからは、僕とマスターが本選に行く。

 

 

「ふふ・・・思っていたよりも上達していますね、ネギ君」

「そ、そうですか?」

「そうですね。本選で私と当たるまで負けなかったら・・・ご褒美をあげましょう」

「本とっ・・・って、最初に当たったらどうするんですか、マスター」

 

 

はっはっはっ・・・と、笑ってごまかしたマスターは、僕から視線を外して・・・。

主催者席にいる、超さんを見て、目を細めた。

・・・?

 

 

「マスター?」

「・・・いえいえ、なんでもありませんよ。ほら、ネギ君はお嬢さん達の所に行ってあげなさい」

「あ、はい・・・」

 

 

マスターに言われて、観客の人達がいる場所に向かう。

そっちには、のどかさん達が、僕の応援に来てくれていた。

 

 

・・・どうしたんだろ、マスター。

なんだか、怖い顔をしているけど・・・。

 

 

 

 

 

Side スクナ

 

スクナは、力比べが好きだぞ。

強い力を持った相手と戦うのも、大好きだぞ。

1600年前は、それでうっかり封印された。

 

 

「速さが足りない、ぞ!」

「がぺぽっ!?」

 

 

ヤマシタとか言う人間のお腹に、すれ違いざまに左の拳を入れた。

他の人間よりも、少しだけ固かった。

でも同じだ、たぶん朝まで痛いぞ。

 

 

「・・・痛そうですね」

「スクナは強いか、恩人?」

「ええ・・・とても」

 

 

少し離れた所で、恩人が笑ってる。

いつも通りだ。

いつもと同じ笑顔で、恩人はそこにいる。

 

 

「烈空掌!」

「おお?」

『な、なんだぁ!? 中村選手が掌から、何かを飛ばしたぁ!?』

「遠当て、と言う物ですね」

「おお・・・人間にしてはやるな、あいつ」

 

 

力は、作物に似てる。

種をまいて、水をやり、肥料に気を配り、天候を知り、芽吹いた芽を大切に育んで行く。

風雨に晒され、虫と戦い、太陽に挑む。

時に腐り、蝕まれ、踏まれて折れる。

そしてそれらを乗り越えて初めて・・・作物は、収穫できるようになる。

 

 

力も、同じだ。

だからスクナは、力比べを好む。

相手の育てた力と言う名の作物を、見てみたいからだ。

 

 

まぁ、この身体になってから、4分の1くらいしか力出せないけどな。

 

 

「山ちゃんの仇! 烈空双しょ・・・う?」

「・・・おお?」

 

 

いきなり、倒れたぞ。

なんだ?

 

 

『こ、これは・・・中村選手、寝ています!』

 

 

本当だぞ。寝てる。

 

 

『こ、これはしょぼい終わり方です! しかしこの瞬間、A組の本選行き選手が決定―――っ!』

「しょぼいとは失礼な・・・」

「今の、恩人か?」

「ええ、まぁ・・・魔法具『眠(スリープ)』。眠れぬ夜に、この一枚」

 

 

しゃきんっ、と、カードを見せてくれる恩人。

・・・最初からそれやれば、スクナが戦う必要無かったような気がするぞ。

楽しかったから、良いけどな。

 

 

「・・・さて、早く戻って、晩御飯にしましょうか」

「お、おぅ・・・」

 

 

いつものように笑って、恩人が歩き出した。

その背中は、いつも小さいけど・・・今日のは、なんだかいつもより小さい気がする。

 

 

・・・恩人は、凄い人間だぞ。

難しいことはわからないけど、凄くて、そして良い奴だ。

スクナも、助けてもらった。

助けてと叫んだ時、助けてくれたぞ。

暗い、昏い世界から引き揚げられた時の気持ちを、スクナは永遠に忘れない。

 

 

「・・・スクナさん?」

 

 

でもスクナは、恩人に助けてと言われたことがないぞ。

恩人はいつも、ただ笑ってスクナを見てる。

1600年前の人間と違って、スクナに何かを頼むこともしない。

 

 

お返しが、したいんだぞ。

 

 

「恩人」

 

 

立ち止まって、スクナを不思議そうな顔で見てた恩人の手を、しゃがんで握る。

今の身体だと、こうしないと届かないぞ。

恩人は、やっぱり、不思議そうな顔をしてるぞ。

スクナは、恩人の目を見て、言う。

 

 

「恩人、スクナは、頼りないか?」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「スクナさん?」

 

 

自分達の予選会を終えて、帰ろうかと思った所、なぜかスクナさんが動きません。

私をじっと見つめて、ただ立っています。

・・・?

お腹、すきましたか?

 

 

それにしても、スクナさんが戦い好きとは、知りませんでしたよ。

まぁ、何重にもカモフラージュしてありますから、正体がバレたりとかはしないでしょうし・・・。

すでに知っている人から、漏れる可能性はありますが。

畑仕事だけに興味があるのかと、思っていました。

畑でどったんばったんしているのは知っていましたけどね。

 

 

「恩人」

 

 

と、スクナさんが私の手を掴んできましたよ?

15歳バージョンのその姿でそれをやると、結構問題ですよ?

 

 

「恩人、スクナは、頼りないか?」

「・・・は?」

「スクナは、恩人を助けたいぞ」

 

 

・・・なんですか、藪から棒に。

 

 

「上手く言えないけど、スクナは恩人が」

「・・・私が?」

「スクナは、アリアが好きだぞ」

「・・・・・・え、と」

 

 

・・・え。

それは、また。なんと言うか。

と、突然言われても困ると言うか・・・。

 

 

・・・あ。

こ、ここ、世界樹の範囲・・・?

わ、わわわ、こ、困ります困りま・・・!

 

 

「・・・それに、吸血鬼もさーちゃんも茶々もゼロも恩人のこと好きだぞ!」

「・・・・・・・・・は?」

「えーと、セツナもコノカも恩人のこと好きだと思うぞ! 西洋人形は良くわからないがたぶん好きだと思っているはずだぞ!」

「・・・・・・へー」

 

 

・・・なんですか、そのベタな展開。

急激に、力が抜けましたよ。

世界樹が反応しなかったのは、恋愛感情ゼロだったからですね。

欠片も、これっぽっちも。もう、告白の要素がゼロ。

けれど・・・。

 

 

「・・・ありがとう、スクナさん」

「おぅ」

「ただ・・・そう言う発言は、控えた方が良いですね」

「うん、そうだねー」

 

 

スクナさんの背後には、とても素敵な笑顔を浮かべているさよさんがいました。

・・・今の動き、私の眼でも追えなかったのですが。

観客席からここまで、どうやって・・・?

 

 

「すーちゃん、私とちょっと向こうへ行こうかー」

「な、なんださーちゃん、スクナはまだ恩人に話が」

「うふふ、これ以上どんな話があるのかなー・・・かな?」

「お、おおお、お~・・・い、痛いぞ、さーちゃん」

 

 

耳を引っ張られながら退場と言う、これまたベタなことをしながら、さよさんとスクナさんが物陰に移動して行きました。

・・・まぁ、せめてその純粋な好意だけは、受け取っておきましょうか。

 

 

「・・・おい、アリア」

「お疲れ様です。アリア先生」

「ホボナニモシテナカッタケドナ」

 

 

エヴァさん、茶々丸さん、チャチャゼロさんが、こちらへとやってきました。

というか、酷いですねチャチャゼロさん。

 

 

「あー・・・その、なんだ」

 

 

珍しいことに、エヴァさんが何か言いにくそうにしています。

はて、何かありましたか・・・まさか?

 

 

「よもや、私の秘蔵の苺ゼリーに手を付けたわけでは」

「違うわっ! まったく・・・シリアスを壊すのは血筋なのか?」

「威厳の問題かと思われます」

「巻くぞ、ボケロボ」

 

 

相も変わらず、見ていて飽きの来ない人達ですね。

まぁ、いつまでも見ていたい気もしますが。

 

 

「それで・・・何か?」

「いや、何かって、お前な・・・」

「マスターは、アリア先生のことが心配で心配でいれもらっれもいられはふらっれひらおふぁ」

 

 

なお、途中で茶々丸さんのほっぺがエヴァさんによって芸術的に伸ばされたために、何を言っているのかわかるようなわからないような状態になっています。

 

 

・・・心配、私が。

私が、心配。

・・・考えるまでも無く、超さん・・・と言うか

 

 

シンシア姉様の件、ですね。

だから私に気を遣って、言いにくそうにしていたわけですか。

・・・なるほど。

 

 

「・・・ふふ」

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「大丈夫ですよ、私」

 

 

シンシア様のことは、アリア先生にとって非常にデリケートな問題です。

しかしアリア先生は、かすかに微笑みながら、大丈夫だと言いました。

 

 

「・・・いえ、やっぱり少し、大丈夫ではないかもですね」

「・・・アリア先生」

「でも、私は別に、シンシア姉様の死について何かを知りたいと思っては、いません」

「・・・いや、待てアリア。そんなわけないだろ。無理は・・・」

「本当のことです」

 

 

そ・・・と、アリア先生が取り出したのは、マスターとの仮契約カード。

とても大切そうに、両手で包み込むようにして、持ちます。

 

 

「今の私は、エヴァさんの従者で、家族。それが第一です」

「む・・・」

「第二に、私は先生です。超さんと言う生徒の願いを入れて、この大会に参加しています・・・ほら、なんだか良くわかりませんが、160人も参加していたようですし」

「アルイミ、スゲージシンダナ」

 

 

まぁ、観客席の一部は、熱狂的にアリア先生を応援していたようですが。

無論私も、優雅にスクナさんに全てを任せて佇むアリア先生のお姿を十二分に。

 

 

「それに、シンシア姉様と過ごした時間はそれほど長くはありませんでしたが・・・姉様と交わした言葉の中に、死の真相を探れだとか、仇を討てだとか、そう言うことはありませんでした」

「・・・ふん?」

「家族と友人を大切に・・・そして、私自身が幸せに。そんな言葉を遺してくれた姉様ならば、私に復讐や仇討ちを望むとは思えません・・・・・・もちろん、私個人の意思は、異にする所大ですが」

「・・・・・・ふ、ん?」

 

 

穏やかに語るアリア先生に、マスターは難しい表情を浮かべています。

何を考えているのかは、私にはわかりかねますが。

 

 

「それに・・・」

 

 

ニコリ、と快活に笑って、アリア先生は言いました。

 

 

「別に、超さんの言いなりになって教えてもらう必要はありません。超さんが、喋りますから許してください、と言いたくなるような状況に持っていけば良いのでしょう?」

「は・・・なんだ、結局聞き出すのではないか」

「ええ、それにシンシア姉様のことを知っているとなると、私のことも良く知っているのでしょう・・・なら、いずれにせよ放置はできませんし」

 

 

ごきり、と右手を鳴らして、アリア先生は、先ほどまで超がいた場所を見つめました。

どうやら、またどこかに姿を隠したようですね。

 

 

「何より・・・<闇の福音>の持ち物としては、持ち主の許可なく私に触れた輩に、報いを与えなければならない、でしょう?」

「・・・当然だ。お前は私のモノだからな、アリア」

 

 

そう言って笑い、腰に両手を当てて胸を張るマスターに、アリア先生は。

アリア先生は、胸に手を当てて目を閉じると。

 

 

「・・・イエス・マイロード」

 

 

くすり、と、悪戯っぽく微笑むアリア先生 (カシャッ)。

 

 

「それに・・・」

 

 

先ほどさよさんとスクナさんが姿を消した物陰を見ながら、アリア先生は、さらに続けて。

 

 

「私は、エヴァさん達のことが、大好きですから」

 

 

少し恥ずかしそうに頬を染めるアリア先生に、マスターは顔を赤くしてそっぽを向き、姉さんは「テレルゼ」と笑いました。

そして私は・・・。

 

 

・・・光栄の極み。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

「・・・以上が、本日の調査報告です」

「そうですか・・・」

 

 

なるほどなるほど・・・。

私は今、麻帆良側からあてがわれた部屋で、部下の報告を受けています。

部下と言っても、護衛に連れてきた重装歩兵では無く、密偵の方ですが。

 

 

・・・ふん、この武道会と言う催し物。

なんとも、匂いますねぇ。

特に、明日の本選とやらに参加するこの面々・・・。

 

 

「・・・麻帆良側に知らせますか?」

「ふん?・・・キミは面白いことを言いますね。知らせてどうするんです」

「は・・・?」

 

 

知らせた所で、麻帆良が処理するなり警戒するなりするだけ。

それでは、こちらに何の旨みも無い。

それよりもむしろ・・・。

 

 

「・・・報告はわかりました。下がりなさい」

「はっ・・・」

「・・・ああ、そうそう」

 

 

重要なことを忘れる所でした。

忙しいと、忘れっぽくなっていけませんねぇ。

 

 

「重装歩兵の中の2人から定期連絡がありませんでした。入れ替わりの可能性があります。調べて・・・消しなさい」

「はっ・・・」

 

 

私はこの麻帆良に連れてきた127名の部下から、それぞれ定期連絡を受けています。

特殊な方法(機密事項ですよ)で行うので、入れ替わりがあればすぐにわかります。

・・・うん? 部下の数が合わない?

さて、何のことやら・・・。

 

 

「・・・顔を見るのは、初めてですね」

 

 

一人になった室内で、部下の報告書に目を通す。

部下の報告書類の中には、ネギ・スプリングフィールドとアリア・スプリングフィールド、そしてその関係者に関する写真付きの報告書があります。

中でも興味を引くのは、やはりナギとアリカ様の・・・この2人の子供には、大変な価値が・・・。

 

 

・・・アリカ様。

 

 

「・・・アリア・スプリングフィールド・・・」

 

 

髪の色と、片方の瞳の色が違いますが・・・面影がありますね。

似ている・・・。

それに、麻帆良に来てからのこの経歴。関西からのリーク情報も含めて考えると・・・。

 

 

「・・・どんな方なのでしょうねぇ」

 

 

お会いしてみたい物です。

そのためには、舞台を整えなければなりませんね。

演出、という物は、実はあまり得意では無いのですが。

子供とは言え、淑女(レディ)に会おうと言うのですから、それくらいの労力は必要でしょう。

 

 

年甲斐も無く、頑張ってみましょうか。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「ふ、ふふふ・・・」

 

 

龍宮神社とか言う、やけに大きな神社に来た時、そこにはもう、誰もいなかった。

まぁ、それは仕方が無いわ。誰もいない時間を選んだんだもの。

・・・どうでも良いけど、お寺と神社って何が違うのかしら?

 

 

「・・・やぁっと、見つけたわ。2人とも・・・」

「ごめんなさい、アーニャさん。世界樹の魔力がこんなに探査に影響が出るとは・・・」

「仕方ないわよ。これだけの規模の魔力溜まり、そうそうあるもんじゃないわ」

 

 

私は、探査とかそう言う魔法は苦手だから、いつもエミリーがオコジョ魔法でやってくれてる。

本当なら、私ができなきゃいけないんだから、エミリーが謝ることなんてないわ!

むしろ、半日近く魔法を使ってくれてたんだから、私が感謝しなくちゃ。

 

 

「まほら武道会・・・ねぇ。また意味のわからないことしてるのねー」

「このトーナメント表によると、ネギさんもアリアさんもいますね」

「明日の8時には、2人ともここにいるってわけね」

 

 

神社の掲示板に張られてるトーナメント表。

ほとんどが知らない名前だけど、ネギとアリアを含めて、いくつか知ってる名前も。

・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルって、どっかで聞いたことあるような?

というか、タカミチさんも出てるじゃないのよ。

 

 

良い大人が、何をやってんのかしらね。

これだから、男の人ってわかんないわ。筆頭、ネギ。

 

 

「・・・まぁ、確実に2人がいる場所と時間を知れただけでも、良しとしますか」

「そうですね・・・正直、私も限界ですし」

「ごめんね、エミリー。いつも・・・」

「良いんです。私が好きでやってることですから」

 

 

んー♪

肩に乗ってるエミリーと、ほっぺを擦り合わせる。

あったかくて気持ち良い。

 

 

・・・じゃ!

 

 

「ドネットさんの所に戻るわよ。それで、今日の報告!」

「なんて報告しますか?」

「そうねー、とりあえずこの町が異常だって伝えたいわね」

 

 

だってここ、魔法バラすために存在してるんじゃないかってぐらい、意味わかんないもの。

強制認識の結界の使用方法についても、本国の法律に違反するんじゃないかしら?

いくら世界樹が大事だからって・・・。

 

 

「アリアさん達に会ったら、どうするんです?」

「エミリーこそ、お兄さんに会ったらどうするのよ」

「決まってます。捕まえて司法機関に突き出します」

「んー、私は、そうねぇ・・・」

 

 

とりあえず・・・。

 

 

「アリアは抱き潰して、ネギは殴り潰す、かな」

「どっちにしろ、潰すんですね・・・」

 

 

たぶん、それくらいしても罰は当たらないと思うのよね。

きっとあの2人、麻帆良でもそれぞれ無茶やってるだろうし。

 

 

案外、頑固な所とか勝手な所とか、似てるしね。

周りに心配かけてばっかりな所とか。

 

 

本人達は、絶対に認めないだろうけどね。

 





アリア:
アリアです。今回は予選会でした。
本当なら、参加せずとも良いというか、むしろ阻止しても良かったのですが・・・。
リスクと費用対効果を考慮した結果、参加することにしました。
・・・というか、あんまり仕事していない気がするというか、仕事が回ってこないのはなぜなのでしょう。誰かが私への仕事を止めているのか・・・。
ある意味、超さん以上の謎です。う~む・・・?


なお、作中内で出てきた歌って踊れる電子精霊衆は、伸様のご提供。
いつか詳しいスペックなどが明らかになるかと思いますが、一言で言うなら・・・すごいですよ?


さらに、次回以降の本選のトーナメント組み合わせは以下の通りです。

<一回戦組み合わせ>
①高音・D・グッドマン VS 田中
②タカミチ・T・高畑 VS ネギ・スプリングフィールド
③神楽坂明日菜 VS 天崎月詠
④エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル VS 相坂宿儺(スクナ)
⑤佐倉愛衣 VS 天崎小太郎
⑥クウネル・サンダース VS 大豪院ポチ
⑦アリア・スプリングフィールド VS 長瀬楓
⑧龍宮真名 VS 古菲

・・・まぁ、一部を除けば、私の記憶とそう違いは無い・・・ような?
その一部が、すごいことになりそうですけど。
なお、便宜上月詠さんと小太郎さんは「天崎姓」で登録してあります。
加えてスクナさんは「両面」で登録できないので、本人に選ばせた所、「相坂姓」を選択しました。意味深ですね。
けして、予選の後OHANASIされて登録変更したわけではありません。ええ。


アリア:
では、次回は本選開始の鐘が鳴り響きます。
もちろん、武道会以外の外部のイベントもドンドン起きます。
というか、次回あたり再会の予感?

それでは、これから3-Aの打ち上げがありますので・・・。
では、またお会いしましょう。


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第56話「麻帆良祭二日目・接触」

Side 明日菜

 

朝の6時半、私とネギは武道会の会場に来ていた。

正直、打ち上げの直後だから、かなりしんどいわね・・・。

配達の後、少し寝たんだけど。

 

 

「はい、明日菜さんの分のジュースです」

「ん、ありがと」

 

 

なんかネギは機嫌が良いみたいで、今にも鼻歌でも歌いそうな感じ。

クウネルさんの所で修行して、超さんに妙な道具を貰って、お父さんが優勝した大会に出て・・・。

 

 

・・・ある意味、今までで一番、充実してるのかもしれないわね。

ネギに貰ったジュースを飲みながら、そんなことを考えた。

超さんのこととか、いろいろ話したかったんだけど、大会の後にした方がいいかな・・・。

 

 

「それで、明日菜さん、あの剣士の人に勝てそうなんですか?」

「そうだぜ姐さん、あいつかなりやべーッスよ」

「う」

 

 

そ、そうなのよね・・・昨日も予選で一緒だった、月詠とか言う女が相手なのよね。

正直、無理。

というか、なんであいつが麻帆良にいんのよ!?

 

 

打ち上げの時に高畑先生に聞いたら、何か、関西の大使(あの眼鏡の女の人!)の補佐だって。

もう木乃香を狙わないらしいけど、それにしたって、あんな危ない奴・・・。

クウネルさんは、「自分を無にすれば大丈夫」とか言ってたけど・・・。

あの人の言うことって、いつも半分もわかんない。

 

 

「あ、あんたこそ、高畑先生に勝・・・ったりなんかしたら、承知しないわよ!?」

「ええ!? そ、それは確かに、無理かもしれないですけど・・・!」

「楽しそうねー」

「え・・・?」

 

 

会場の門の所に着いた所で、知らない声が聞こえた。

選手の控室に続く廊下に近くて、立ち入り禁止ってわけじゃないけど、人通りは少ない。

 

 

そこに、赤い髪の女の子が、腕を組んで仁王立ちしてた。

なんか、こう・・・無駄に胸を張る感じで。頬を痙攣させつつ。

10歳くらいに見えるその女の子の肩には、小さなフェレット・・・じゃなく、白いオコジョ?

あの子、どこかで・・・。

 

 

「ア――――ニャ――――っ!?」

「え、エミリイィィィ――――っ!?」

「えええぇぇっ!? あ、アーニャって確か・・・エミリーはわかんないけど」

 

 

確か・・・前にネギの過去を見た時にいた、おしゃまな幼なじみ!

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

え、なんで!?

なんでアーニャがここにいるの!?

ロンドンで占い師をやってるはずじゃ・・・!

 

 

「え、エミリィ! ど、どうしてここに!?」

「カモミール! 大人しく国に送還されなさい!」

「じょ、冗談じゃねぇや!」

 

 

何か、カモ君が騒いでるけど。

ま、ままま、不味いよ、この後タカミチと戦うのに、ダメージは・・・!

ウェールズにいた頃も、何かにつけて僕を殴って・・・って。

なんとなく身構えていると、アーニャはにっこりと笑って、僕に手を差し伸べてきた。

 

 

「久しぶりね、ネギ。元気にしてた?」

「え・・・」

「え、じゃないわよ。失礼しちゃうわねー」

 

 

ニコニコと、そうあくまでもニコニコと笑って、アーニャは僕を見ていた。

・・・そ、そうだよね。

アーニャだっていつまでも、僕を殴ったりしないよね・・・。

そっと、その手を取ろうとして・・・。

 

 

がしっと、手首を掴まれた。

え。

 

 

「なぁんて、言うわけ無いでしょこのボケネギぃ―――――っ!!」

「え、ちょ、熱っ!? あっつうぅぅあぁっ!?」

「ね、ネギ!?」

 

 

え、何これ!?

アーニャの触ってる所が燃えてるみたいに熱い。

アーニャは火属性が得意なのは知ってたけど・・・でもこれ炎じゃなくて、ただの熱?

なんでアーニャがこんな細かい芸当できるの!?

 

 

アーニャの赤い髪が、前に見た時よりももっと赤くなってる。

しかも、胸元には、赤い、妙な形をしたペンダントがあって・・・。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

まったく、このボケネギ・・・!

朝から女の子と楽しそうにイチャついてるなんて良い度胸ね!

こっちは、朝から仕事してんのよ!?

いつも、ちゃんと仕事してるならともかく・・・。

 

 

「あんたみたいなのが、遊んで良いわけないでしょ!?」

「え、なんの話!?」

「うっさいわね! 出力上げるわよ?」

「ちょ、ちょっと待ってアーニャちゃん!」

 

 

むむっ・・・この馴れ馴れしい女の子は、確かネカネお姉ちゃんの手紙の写真にいた人。

なんだっけ、ネカネお姉ちゃんに似てるとか言う・・・。

 

 

「え、えーと、ほら。なんだかわかんないけど、ネギも反省してるみたいだし?」

「ネギが、反省なんてするわけないでしょ!?」

「ええ!? 酷いよアーニャ・・・って、だから熱いってばあぁぁっ!」

「ちょ、やめなさい! ネギだって反省くらい・・・反省・・・う~ん・・・」

「明日菜さん!?」

 

 

そのまましばらく、炎を纏わない限界ギリギリの熱量でネギをこらしめてあげた。

卒業課題もこなさずに、魔法戦闘の修行ばかりやってたこと、知ってるんだから。

やっぱり、ぜんっぜん、矯正されて無いわこれ・・・。

 

 

「・・・それで? アリアはどこよ」

「え・・・そんなの、知らないけど」

「はぁ?」

 

 

知らないって、あんた。

そんな言い方ないでしょ!?

・・・って言うのも、もう疲れてきたわねぇ。

 

 

「アリアさんも選手だから、そのうち来ると思うけど・・・」

「・・・あんたね。妹をそんな他人みたいに・・・」

「・・・妹?」

「は?」

 

 

私の言葉に、ネギはもの凄く変な顔をした。

隣のツインテールの女の子が、なんだか複雑な表情を浮かべてた。

 

 

・・・何よ。

何か、あったの?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

昨夜の3-Aの打ち上げは、深夜にまで及んだ。

私やこのちゃんは、エヴァンジェリンさんの別荘を借りることができるが・・・。

他のクラスメイト達は、別荘無しであのテンションを維持できているのだからすごい。

いったい、あの元気はどこから来ているのだろうか。

 

 

「良い朝やなぁ、せっちゃん」

「そうですね、このちゃん」

 

 

今、私はエヴァンジェリンさんの家でこのちゃんと朝食をとっている。

茶々丸さんが用意しておいてくれた物だ。

 

 

と、その時、急に二階が騒がしくなった。

何やら、聞き覚えのある声で「なぜ起こさなかった」だの「私としたことが」だのと騒いでいる。

ドタドタドタドタゴロンッドドドドタンッ「のぅわっ!?」と、おそらく階段を転げ落ちる音が。

 

 

「賑やかやねぇ、せっちゃん」

「そ、そうですね、このちゃん」

 

 

にこやかにコーヒーを飲み続けているこのちゃんの手前、私が動じるわけにはいかない。

その直後、食堂の扉が勢いよく開いた。

そこにいたのは、予想通りというか、エヴァンジェリンさんだった。

下着姿で、しかもなぜか少しボロボロだった。

 

 

「木乃香! 茶々丸が用意していたアリアの着替えはどこだか知っているか!?」

「右から2段目のタンスの上から4番目の引き出しの手前から3番目の服やで」

「恩に着る! く、チャチャゼロめぇ・・・!」

 

 

そのまま、エヴァンジェリンさんは姿を消した。

階段を駆け上がる音がしたから、おそらく二階に行ったのだろう。

 

 

「・・・なんだったのでしょう」

「二度寝したあげく、遅刻やて慌ててるんやないかなぁ」

「ああ、茶々丸さんがいないから・・・」

 

 

茶々丸さんは、武道会の解説役をするとかで、すでに出ている。

言動から察するに、チャチャゼロさんはエヴァンジェリンさんを起こさなかったのだろう。

また、眠っているアリア先生のほっぺでもつついていたのだろうか。

まぁ、武道会に出ていない私には、あまり関係のない話だし・・・。

 

 

「今日はうちがクラスの出し物の担当やから、せっちゃん、来てな?」

「・・・はい」

 

 

何より、申し訳ないが、私にはこちらの方が重要だ。

・・・こういうのも、自分に素直になったと言うべきなのだろうか。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ほー、小太郎はんは親がおらんのどすかぁ」

「まぁな、狗族と人間のハーフってやつで、捨て子やったんや」

「ほえ~、そら大変どしたやろなぁ」

 

 

何か、隣で小太郎さんが月詠さんを相手に不幸トークをしていますが、そこはスルーしましょう。

だから千草さん、ハンカチで目元を拭わないでください。密かに何かを決意するのもやめてください。

 

 

「おい、アリア。本当にその格好で出るのか・・・?」

「え・・・どこか変ですか、さよさん?」

「とっても可愛いですよー♪」

 

 

さよさんに聞いてみると、ふむ、可愛いとのこと。

さよさん自身は、未だに半分寝ているスクナさんの手を引いて、非常に上機嫌ですね。

昨日はフリルなワンピースを着ていた私、今日はシックにシスター服です。

白を基調に金の刺繍があしらわれた、特別な修道服です。

 

 

魔法具『歩く教会』。

布地は、ロンギヌスに貫かれた聖人を包んだトリノ聖骸布を正確にコピーした「服の形をした教会」。

完璧に計算し尽くされた刺繍や縫い方は魔術的意味を持ち、その結界の防御力は法王級。

その強度は絶対であり、物理・魔術を問わずダメージを受け流し吸収するとか。

 

 

「いや、しかし・・・今朝は大変でしたね」

「大変だったのは私だ! 朝は寝惚けて役に立たん奴め・・・! 修道服を着せる吸血鬼とか、意味がわからんだろうが!」

「ゴシュジンハ、ウレシソーニキガエサセテタケドナ」

「西洋の鬼の趣味は、良くわからんの」

「チャチャゼロさんにお友達ができて、良かったですねぇ」

 

 

ポヤポヤと言うさよさんの視線の先には、寝惚けたスクナさんの左右の肩に乗る二体の人形。

どうでも良いですが、人目のある所で喋らないでくださいな。

今なら、「腹話術」で通せますけどね。

 

 

今、私達は千草さん達と合流して、武道会の会場に向かっています。

そこには、すでに多数の人が集まっており、大変な賑わいをみせています。

なんでも、チケットはすでにプレミアがついているとか。

流石は、「超包子」のオーナー、超鈴音と言った所ですか。

 

 

ノートパソコンの修理が間に合わなかったので、「ぼかろ」達に次の指示が出せませんでしたが・・・。

まぁ、電子空間で元の命令を遂行してくれさえすれば、最悪逆転の一手になるはず。

・・・余計なことをしていなければ良いのですが。

まぁ、基本的に私のノートパソコンでなければ、茶々丸さんでも接触は不可能。

彼女達の趣味に合う人間が拾わない限り、問題は無いでしょう。

 

 

まぁ、後はその時が来るまで・・・。

 

 

「あ、アリア先生だ、おはよー」

「おはようございます、アリア先生」

「千鶴さんに、村上さん?」

 

 

武道会の観客席へと続く行列の中に、千鶴さんと村上さんを見つけました。

そういえば、小太郎さんが呼んだとか言ってましたね。

まぁ・・・武道会自体で魔法などがバレるわけではありませんし。

各組織の代表が集まるこの祭りで、そうそう・・・。

 

 

「・・・おはようございます。お二人は、観戦に?」

「ええ、夏美ちゃんのボーイフレンドを見に」

「な、何か、その言い方は誤解を招くんだけど!?」

 

 

はぁ・・・どちらかと言うと、小太郎さんに興味があるみたいですね。

 

 

「もう、昨日から大変なのよ? 小太郎君が小太郎君がって」

「そ、そんなこと言ってないでしょー!」

「ああ、つまりフラグが」

「ええ、立っているのね」

「立ってないよ!」

 

 

まぁ、冷静に考えれば、小太郎さんは女性に恵まれた生活をしていますからね、現在。

月詠さんを始め・・・エヴァさん、は殺されるからダメですね。同じ理由で茶々丸さんもダメ。

私はもちろんダメですし、かといってさよさんに手を出せばスクナさんの畑の肥料になりますし。

木乃香さんに手を出せば刹那さんに斬り殺されますし、逆なら呪殺。

 

 

・・・すみません、前言を撤回します。

小太郎さん、明日にも死ぬかもしれません・・・。

ああ、それに小太郎さんは今日・・・。

 

 

「・・・村上さんは、小太郎さんの応援に来たのですよね?」

「う、うん」

「そうですか・・・では、これをどうぞ」

 

 

ポケットの中に手を入れるふりをして、『ケットシーの瞳』の中から文字の描きこまれた小石を二つ取り出し、村上さんに渡します。

魔法具ではなく、小石にオガム文字で字を刻んだだけの物。

オガム文字は古代ケルトの文字で、我が故郷ウェールズにも、長く碑文として遺されています。

 

 

「これは?」

「お守りのような物です。ひとつを、小太郎さんに渡してあげてください。あそこにいますので」

「へ、へぅ?」

 

 

かすかに頬を染めて、アワアワする村上さん。

可愛らしいですね・・・教え子の恋路を応援するのも、先生の務め。

とはいえ、小太郎さんには、いくつかお願いしなければならないこともできましたね。

 

 

「アリア!」

 

 

・・・振り向くと、燃えるような赤色が、そこに立っていました。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「ほな、うちは観客席から見とるからな」

「おぅ!」

「はいな~」

 

 

小太郎は元気に、月詠はんはどこか脱力した返事を返してきた。

まぁ、いつも通りやな。

 

 

うちは、茶々丸さんの所から試合を観戦させてもらう予定や。

小太郎達の様子もよう見えるやろし、アリアはんを目の届く範囲で見とれるやろうしな。

 

 

「・・・や、やぁ、コタロー君」

「おぉっ? 夏美ねーちゃん、いつも突然やな」

 

 

・・・何か突然、知り合いか何か知らんけど、可愛らしい女の子が不自然な動きで声をかけてきた。

夏美って言う名前は、小太郎に聞いたことがある気がするな。

・・・思い出したわ。前に巻き添えで誘拐されとった子やな?

なんで小太郎と仲良さそうなのかまでは、知らへんけどな。

 

 

「恋人さんらしいです~」

「「違う(よ)(わ)っ!」」

 

 

・・・今ので、関係性はわかった。

しっかし、恋人て。5歳くらい差ぁあるけど。

まぁ、何年かすれば気にならへんやろうけど・・・いや、そもそも小太郎に恋愛はまだ早い気がする。

なんでて・・・日曜にライダー見とるような子やで?

女心とか恋愛の機微とか、そんな難しいこと、わかるわけないやろ。

 

 

やっぱりこう言うのは、精神的な段階ってもんがあると思うんや。

それを一つ一つ登って行かんと、上手くいくもんも上手くいかへんからな。

まぁ、とどのつまり、何が言いたいかと言うと。

 

 

「小太郎には、まだ早いえ!」

「そうですわねぇ。夏美ちゃんにも、まだ早いのかもしれませんね」

「・・・あんたは?」

「那波千鶴と申します。いつも夏美ちゃんがお世話になっております」

「こ、こらご丁寧に、こちらこそ小太郎が迷惑かけてへんかと・・・」

 

 

那波はんって言う若い子が、いつのまにか側におった。

気配とか感じひんかったんやけど・・・。

 

 

・・・というか、なんでうちがこんな挨拶を交わさなあかんねんやろ。

まるで母親やないか、こんなん。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「やっと見つけたわよ、アリア!」

「アーニャさん!?」

 

 

その赤い髪の女・・・アーニャは、アリアに駆け寄ると、親しげに両手を合わせてきた。

アリアも、戸惑ってはいるものの、それを受け入れた。

確か、アリアの過去を見た時にいたな、幼なじみだったか。

で、なんでその幼なじみが、ここに?

 

 

「ど、どうしてここに?」

 

 

そうそう、それだ。

大方、今来ているとか言うメルディアナの使節団にまぎれて来たのだろうが。

 

 

「あんたに会いに来たに、決まってんでしょ?」

「え、ええ。そうなんですか? それはまた、ありがとうございます」

「皆、心配してるわよ? ミッチェルなんて、出せもしない手紙を毎月書いては膝抱えてんだから」

「・・・まぁ、ポストまでの道のりは、彼にはハードル高いですからね」

「・・・・・・そういう意味じゃないんだけど(ボソッ)」

 

 

今何か、聞き捨てならないことを聞いたような気がする。

何か、こう・・・殺害対象が増えた感じが。

 

 

「・・・ミッチェルって誰だ?」

「アリア先生の後輩さんらしいですよ」

「なんで知ってる」

「アリア先生が、写真付きで教えてくれました」

「ナカナカイケメンダッタゼ」

「うむ、性根に若干の問題あれど、良い男じゃったな」

 

 

さよとチャチャゼロの言葉に、私は愕然とした気持ちになった。

わ、私は知らんぞ? なのになぜ晴明までが知っている!?

というか、イケメンだと!?

いかんぞ、イケメンはいかん・・・!

 

 

「ごめんなさい、アーニャさん。私達、少し急いでて・・・」

「ああ、あの大会に出るんでしょ? あんたがあんなのに出るなんて、珍しいわねぇ・・・」

 

 

まぁ、普段のアリアを知っていて、かつ超のことを知らなければ、そういう反応になるか。

アーニャは、腕を組むと、にわかに真剣な表情を浮かべて。

 

 

「まぁ、私もエミリー探さなきゃいけないから長居はできないし、単刀直入に聞くわ」

「エミ・・・いえ、どうぞ。なんですか?」

「あんた・・・」

 

 

すっ・・・と、目を細めて、アーニャはアリアを見る。

その細められた瞳の中に、一瞬だけ、炎のような魔力が揺らめいて見えた。

ほぅ・・・?

 

 

「あんた、ネギの妹、辞めたんですって?」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「ネギの妹、辞めたんですって?」

 

 

・・・ネギの方に、先に会いましたか。

明日菜さんか、さもなければ宮崎さんが話した可能性が高いですね。

じっと私を見つめてくるアーニャさん。

その視線は魔法学校時代から少しも変わらず、まっすぐで、熱い。

 

 

さりとて、目を逸らすわけにもいきません。

 

 

「ええ、事実です。ネギはもう、私の「兄」としての記憶を失っています」

「ネギ、ね・・・」

 

 

アーニャさんは溜息混じりにそう呟くと、目を閉じて・・・。

すぐに、開きました。

 

 

「言い訳は?」

「しません」

「後悔は?」

「ありません」

「引け目は?」

「感じません」

「話せば?」

「長くなります」

「あ、そ・・・」

 

 

もう一度、深々と溜息を吐かれます。

な、なんですか。その呆れたような視線は。

 

 

「あんたもあんたで、変わらないわねぇ」

「む、何をバカな。私はここに来てかなりの成長をですね」

「全然変わって無いじゃない・・・ま、いいわ。私も仕事あるし、後で時間作れる?」

「・・・ええ、わかりました」

 

 

アーニャさんの「仕事」が何なのかはわかりませんが、時間が無いのも事実。

とりあえず時間などを決めて、後ほど会うことにしました。

ゆっくり話したいこともありますしね。

 

 

「あー、それでさ。私これから、はぐれたパートナー探さなきゃなんだけど、この辺りの地理がわかんなくて・・・」

「ああ、初めての方には厳しいですよね。麻帆良は」

 

 

パートナー・・・? まぁ、それも後で良いでしょう。

でしたら・・・えーと。

 

 

「千草さん、ちょっと良いですか?」

「なんや、うちもう行かなあかんのやけど」

 

 

千鶴さん達と別れて行動しようとしていた千草さんを、呼び止めました。

 

 

「すみません。式神の札、一枚ください」

「ええけど・・・」

 

 

何に使うんや? と訝しむ千草さんから、札を貰います。

ええと、これに書き込んで、周りに見えないようにしゃがみこんでモニョモニョ・・・ポンッ。

 

 

「ちびアリア、です!(キラッ☆)」

 

 

某星間アイドルもびっくりのポーズを決めて出てきたそれは、私の式神です。

私の姿を模したそれは、茶々丸さんにも大好評。

地理についても、完璧に把握しています。

特殊な迷彩魔法がかけられているので、一般人に見られることはありません。

 

 

「か、可愛いじゃないのよ・・・!(ぎゅむっ)」

「く、苦しいです~(じたばた)」

「抱き潰さないでくださいね」

 

 

あんまり強く抱きしめるので、一応注意しておきます。

 

 

「わかってるわよ・・・ところで、さっきからこっちを見てるあの金髪の子、誰?」

「え・・・あ、ああ。エヴァさんですか」

「エヴァさんって、手紙に書いてた?」

「はい」

 

 

さよさんが寝惚けているスクナさんのほっぺをつついて遊んでいる横で、エヴァさんが何か言いたげにこちらを見ていました。

そういえば、名前だけ出して、詳しいことは書いてませんでしたね。

 

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんです」

「へー・・・何か、聞いた覚えがある名前ね」

「ええ、通称<闇の福音>の二つ名で有名な大魔法使いですね」

「・・・え」

 

 

びきっ・・・と、アーニャさんが固まりました。

何か、変なこと言いましたか?

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

ネギ君、アリアちゃん、そしてアーニャ君と出会ったのは、ウェールズでのことだった。

たしか、湖が見える丘の上だったと思う。

 

 

『やぁ・・・キミ達が、ネギ君とアリアちゃん・・・だね?』

『・・・どなたですか?』

『・・・兄様、まずは挨拶ですよ』

『アリア、たぶんそれも違うわよ』

 

 

ネギ君は、お父さんの、ナギのことを良く聞きたがる子だった。

ナギみたいになりたいと言われて、戦い方を教えたこともある。

まぁ、そんなに大したことじゃないけどね。滝を割って見せたぐらいで。

 

 

『すごいや、タカミチ!』

 

 

ネギ君の笑顔は、年相応の物で・・・見ていて、こちらまで和んでしまう物だった。

そしてそのネギ君が今や、アルの下で、修業の日々を送っていると言う。

その意味では、今日戦えるのは楽しみだとも思う。

 

 

『・・・あーるぐれい、です』

『ありがとう、アリアちゃん』

『いえ・・・ちゃん付けはやめてください』

 

 

一方でアリアちゃんは、良く分からない子だった。

ネギ君のようにナギのことを聞いてくるわけでもなく、子供とは思えない態度で、僕をお客様としてもてなしていた。

 

 

『お父様のことですか? 特に興味は・・・それより、最近のお野菜の値段が高いことの方が気になりますね』

 

 

アリアちゃんは、大人びていると言うよりも、なんだか・・・。

そしてそのアリアちゃんは、今やエヴァの従者だ。

僕とはもう、関わろうともしないだろう。

 

 

「ようこそ諸君! これから大会の内容について説明するネ!」

 

 

現実に意識を戻せば、要注意生徒の超鈴音が、本選の説明をしていた。

ここには、ネギ君や明日菜君、そしてエヴァや・・・アリアちゃんもいる。

もしかしなくとも、もう僕にできることは無いのかもしれないけれど。

 

 

・・・ナギ。

貴方なら、どうしますか?

 

 

憧れの人に問いかけてみても、答えは返っては来なかった。

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

「な、なんと言うことですの――――っ!?」

 

 

いいんちょが、教室の真ん中で頭を抱えとる。

なんでかと言うと、ネギ君が格闘大会に出るって噂を聞いたから。

で、調べてみたら、本当だったってわけや。

 

 

「か、格闘大会だなんて、そんな危険なっ・・・! いえそれ以前に、すでに退院されていたとは!」

「まぁねぇ。過労にしては長い入院だとは思ってたけどさ」

「学祭の準備で忙しかったから・・・」

「うー、やっぱりお見舞いに行けば良かったかな~?」

 

 

右往左往しとるいいんちょをよそに、ゆーな達がネギ君について話しとった。

まぁ、忙しかったし・・・しょうがない部分もあるんやろうけど。

 

 

でもだからって、うちらに何も言ってくれへんのは、ネギ君、ちょっと寂しいわぁ。

というか、そう言うのってまず上の人に戻りましたって言うて、それから大会に出るのが筋やと思うんやけど。

アリア先生も何も言わへんかったってことは、知らんかったんかなぁ?

 

 

「なぜ誰も、教えてくれなかったんですの!?」

「しょーがないよー。私らだって知ったの今朝だもーん」

「ゆーな! 4番にご指名!」

「お☆ マジで?」

 

 

・・・どうでもええけど、この指名制は、やっぱあかん思うんやけど・・・なんや怖いし。

・・・でも、うちも、昨日アリア先生を連れて行った白い髪の人にやったら・・・。

 

 

「亜子? どうかしたの・・・?」

「ふぇ!? な、なな、何も!?」

 

 

慌てて両手を振ると、アキラは不思議そうな顔をした。

い、いけないいけない・・・。

 

 

それにしても、あの人、誰やろ・・・。

今度、アリア先生に聞いてみようかな・・・。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

じ、じじじ、冗談じゃないわよ!

 

 

アリアと別れた後、私は心の中で、そう叫んだ。

それでも、しっかりとちびアリアを抱えてる。

 

 

「あ、あんたのご主人、なんて奴の所にいるのよ!?」

「えぅ? 良い人ですよぅ?」

「んなわけ無いでしょ――っ!?」

 

 

<闇の福音><人形遣い><悪しき音信><禍音の使徒>・・・他にもたくさん!

ネギとアリアのお父さんがようやくやっつけたって言う、最強の悪の魔法使いじゃない!

あの子、自分がどんな状況にいるのか、わかってるわけ!?

た、食べられちゃったら、どうするのよ!

 

 

「あのぅ、パートナーさん探さないんですかぁ?」

「ぱ、パートナー・・・そうね、パートナー。エミリーにも相談しないと・・・」

 

 

な、なんとかこっそり抜け出させないと。

ああもう、やっぱり私がいないと危なっかしいったら・・・!

 

 

と、とにかく、カモを追いかけて行ったエミリーを探さないと。

探査は向こうの方が得意だから、あんまりこの場から離れない方が良いかもしれないわね。

そうは言っても(ドンッ)。

 

 

「ぶふっ」

「・・・すまない。大丈夫?」

 

 

考え事をしてたから、誰かにぶつかっちゃった。

相手は白い髪の男の子で・・・・・・綺麗な男の子ねー。

 

 

「・・・何か?」

「あ・・・ご、ごめんなさいっ!」

 

 

訝しげな男の子に謝って、そのまま駆け出した。

い、嫌ねー、私ったら、男の子に見惚れるだなんて・・・。

 

 

・・・なんでか、ちびアリアがジト目で私を睨んでた。

 

 

「・・・本体に報告ですー」

「なんでよ!?」

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

私の武道会での役割は、解説・実況です。

選手の面々を見るに、おそらくは魔法や気などが使用されると予想されます。

それを一般人の方にも受け入れていただけるよう、無理無く説明するのが私の役目です。

無論、映像記録も私が。最先端の撮影機能をハカセに付けていただきました。

 

 

「・・・なぁ、茶々丸はん、席をとってもらっといて難癖つける気はないんやけど・・・」

「はい、なんでしょうか」

「この、解説って書いてあるネームプレートはいったい・・・」

「そのままの意味でとっていただいて、結構ですが」

 

 

私の言葉に、千草さんはもの凄く嫌そうな表情を浮かべました。

 

 

「・・・良く見える席で見たいと言ったのは、確か千草さんだったと・・・」

「わかっとる。その通りや、その通りなんやけど、これは何か違うやろ・・・」

 

 

まぁ、そう言わずに、お願いしますよ。

私としても、知人が相手の方が何かとやりやすいかと思いますので。

 

 

「・・・発言に遠慮がいらんからか?」

「そうとも言います」

「ああ、そう・・・・・・はぁ」

 

 

盛大な溜息を吐かれる千草さん。

幸せが逃げますよ?

 

 

そう言えば、こういう時には肩を叩いてあげれば良しと、データベースに記載されています。

さっそく、試してみましょう・・・。

 

 

 

「お邪魔しますよ、お嬢様方」

 

 

 

その時、10名程の黒服の人間が、突然姿を現しました。

転移・・・では、ありませんね。瞬動の類のようです。

そしてその中央に、眼鏡をかけた細身の男性・・・!

 

 

「・・・なんで、あんさんがここにおるどす」

「おや、これは手厳しいですねぇ」

 

 

千草さんの警戒度が、一気に上がったようです。

先ほどまでと違い、鋭く目を細めます。

 

 

・・・黒服の方々の襟元の紋章は、魔法世界メガロメセンブリア軍の物と思われます。

そしてあの眼鏡をかけた男性は、ほぼ間違いなく・・・。

 

 

「・・・クルト・ゲーデル元老院議員」

「いえ、何、恥ずかしながらこれほどのお祭りは初めてな物で・・・年甲斐も無く、はしゃいでしまいましてね」

「・・・それは、知らへんかったわ」

「いや、お恥ずかしいですね」

 

 

クルト議員は、こちらに断りも無く、私と千草さんの間の席に勝手に座りました。

さらに言えば・・・先ほどまでいたはずの周囲の観客がいません。

代わりに、黒服の方々が配置されております。

 

 

これは・・・。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「いや、お恥ずかしいですね」

 

 

何を白々しい。

これでうちらを人質にでもしたつもりか?

うちはどうだか知らんけど、茶々丸はんに手ぇ出したらあんた、死ぬえ?

 

 

・・・うちは、どないしたらええんやろ。

 

 

「・・・しかし、面白い催し物ですね。ここではいつもこんなイベントが?」

「さぁ・・・うちもここに来て短いんで」

「ああ、そう言えばそうでしたねぇ。いえ、失敬。良く知っている物かと・・・」

「ええんどすか? 午前の会談に行かんでも」

「心苦しいのですが、今朝はどうにも体調が悪くて。ちょうどメルディアナが麻帆良と会談したがっていたようですので、順番を変えてもらったのですよ」

「・・・なるほど」

 

 

順番・・・ホストの麻帆良側が決めるはずの会談の順序を知っとるだけでなく、入れ替えも思いのまま。

元老院議員言うんは、皆こんなんなんか?

まぁ、ええわ。

 

 

考えようによっては、こないに早くこの男と話せる言うんやから、悪くない。

 

 

「しかし、関西呪術協会も大変ですね」

「・・・はぁ」

「なんでも、一部の過激派が暴発して、伝説の鬼神を持ち出そうとしたとか・・・なんでしたか」

 

 

クルト議員は、何とも嫌な感じの視線をうちに向けてきた。

 

 

「確か・・・アマガサキチグサとか言う名前の女性が首謀者だとか」

「・・・ただの内輪揉めどす。西洋魔法使いのお偉いさんの気にすることやありまへんよ」

「これは、失礼。もちろん、関西の主権は尊重しますとも。貴女の上司は私の剣の師でもありましてね・・・ご存知でしたか、天崎千草殿?」

 

 

あんたがそんな義理人情で動く人間やとは、とても思えへんけどな。

名前、もう少し変えとくべきやったかな。

茶々丸はんに視線を向けると、うちのことを心配そうな顔で見とった。

・・・大丈夫や、何も言わへんよ。

 

 

「・・・ああ、そうそう。ひとつ気になったのですがね」

「・・・なんどすか」

 

 

よう喋る男やな。

・・・それも、ネチネチと遠回しに。

絶対、友達おらへんやろ、この男。

 

 

「あの天崎月詠と天崎小太郎と言うのは、貴女の親類か何かですか?」

「・・・まぁ、そんなようなもんどす。それが何か?」

「いえ、何・・・仕事柄、細かいことが気になるタチでしてね」

 

 

クルト議員は両手を組んで、その上に顎を乗せながら、続けて。

 

 

「・・・実に面白い経歴だと、思いましてね」

「・・・!」

 

 

表情を動かしたらあかん。

 

 

・・・調べたんか、こんな短時間で。

小太郎と月詠はんの戸籍やら経歴やらは、関西でこさえた偽物や。もちろん、うちのも。

いや、孤児扱いで作成された物やから、完全に偽装とは言えへんけど。

でも、それ以前にうちらがどこで何をしていたかの記録は、完全な偽装や。

 

 

「・・・どうかしましたか?」

「・・・はは、まさか。どうもしまへんよ」

「そうですか、それは良かった」

 

 

・・・何や、その目は。

それで、うちを脅しとるつもりか?

月詠はんや小太郎が、うちの弱点になるとでも思うとるんか。

うちから関西を崩せるとでも、思うとるんか。

 

 

は、はは、笑わせてくれるなぁ。

・・・おかしすぎて、腸が煮え繰り返るわ。

うちを舐めくさるのも、大概にせいよ。

 

 

「おや・・・どうしたのですか、随分と怖い顔をしていますが」

「・・・・・・いやぁ、寝不足でしてなぁ」

「そうですか、それはいけませんね」

「ええ、ほんまに・・・いけまへんなぁ、ソレは」

 

 

・・・これだけは、忘れたらあかんえ、クルト・ゲーデル。

あんたがどこで何を企もうと、うちは知らん。知りたくもないわ。

関西を牛耳りたいんやったら、好きにしたらええ。知ったことか。

 

 

『ご来場の皆様、大変長らくお待たせいたしました! 只今より第一試合を開始いたします!』

「おや、始まるようですねぇ」

「・・・そうどすな」

 

 

けど、けどな・・・。

 

 

『かたや中2の少女、佐倉愛衣選手! そしてかたや、少年忍者・・・』

 

 

けど、あの子らに・・・小太郎と月詠はんに手ぇ出してみぃ・・・。

タダでは、済まさへんからな。

 

 

『天崎小太郎選手!』

 

 

陰陽師の呪詛を、甘く見ぃひんことやな。

西の呪いは、神をも殺すで。

 

 

「おや・・・さっそくのご登場ですねぇ」

「・・・そうどすな」

 

 

 

その時は、覚悟しぃや。

 





アリア:
アリアです。次回から格闘が多くなりそうな感じです。
・・・しかし、なんだか久しぶりに、戦闘以外で身の危険を感じているような気がしますね。
アーニャさんもやってきて、なんだか賑やかさが増してきましたし。
さて、面倒も無く終われば良いのですが。


今回使用した魔法具は、以下の通りです。

歩く教会:元ネタは「とある魔術の禁書目録」。
提案は司書様、ぷるーと♪(笑)様、水上 流霞様、haki様です。
オガム文字:魔法具ではありませんが、伸様の提案です。
ありがとうございます。


アリア:
今気付いたのですが・・・私、次回で長瀬さんと戦うことになるのではないでしょうか。
本当に今さらですが、どうしましょうか。
・・・困りました。
では、またお会いしましょう。


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第57話「麻帆良祭二日目・本選開始」

Side 学園長

 

「それは・・・公式な決定ですかの?」

「いえ、まだメルディアナ上層部でも一部しか知らない、非公式な考えです」

 

 

目前の女性、メルディアナ代表特使ドネット殿は、表情を変えることなく、そう言いきった。

むぅ・・・非公式とは言え、メルディアナ校長の直属である彼女が言うことじゃ。

与太話やハッタリの類で無いことは、容易にわかる。

 

 

今は、わしと彼女の2人での会談と言う形をとっておるので、外に漏れることはないが・・・。

しかしそうは言っても、にわかには受け入れ難い話ではある。

ネギ君を・・・。

 

 

「ネギ・スプリングフィールドの卒業を取り消す・・・と言うのは、どうかと」

「前例が無いわけではありません。能力的、精神的理由などで卒業を取り消される生徒は稀にですが存在します」

「しかしですな、ネギ君は大変優秀な魔法使い見習いとして・・・」

「なるほど」

 

 

ドネット殿は、一度深く頷かれた後。

 

 

「教職員として、優秀と言うことですね?」

「む・・・」

「我々が彼に与えた課題は、『麻帆良で教師をする』と言う物です。それ以外でもそれ以上でもありません」

 

 

正直な話、魔法使いの能力や将来性云々を抜きにしてしまうと、かなり厳しい。

魔法使いとしての修業を優先させたために、仕方が無い、と言えばそうなのじゃが。

一教師としての仕事ができているのか、と言われると、こちらとしても・・・。

 

 

「しかしですな、二人お預かりして、しかもそれが双子となると・・・」

「何か、不都合がありますでしょうか?」

「我が校といたしましても・・・」

 

 

こうなってくると、外聞を盾に粘るしかあるまい。

時間を稼ぎ、体勢を整える。

ここまで年を取ると、時間と言う物の有効性も、十分わかっておる。

 

 

よもや、アリア君を切れるわけでもあるまいに・・・。

 

 

「・・・それでしたら」

「ほ?」

 

 

ドネット殿は、一度目を閉じ・・・俯くと。

唇を噛み締めながら、言った。

 

 

「・・・アリア・スプリングフィールドの卒業を取り消す用意が、こちらにはあります」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

何やら、高音さんという方と、ネギ達が揉めているようですね。

なんでも、世界樹の呪いに当てられたネギが、キス魔になったとかどうとか・・・。

・・・明日菜さんもその場にいなかったとかで、誰にキスをしたのかは知りませんが。

まぁ、筆頭は宮崎さんでしょうが。

 

 

そこはあまり興味が無いので、どうでも良いですね。

それよりも・・・。

 

 

「・・・どういうつもりなのでしょうね」

「さぁな、お偉い議員様のやることなど知らんよ」

 

 

憮然とした表情で告げるエヴァさん。

その両目は閉じられており、何を考えているのかはわかりません。

一方で私は、会場の上部――――解説者席の方を見上げています。

 

 

そこには、解説者席に座る茶々丸さんと、千草さん、そして・・・。

眼鏡をかけた細身の男性が、こちらを見下ろしていました。

遠目ですので、表情までは窺い知れませんが、ゾロゾロと黒服の方達を引き連れています。

 

 

クルト・ゲーデル元老院議員。

なぜ知っているかと言うと、エヴァさんがタカミチさん経由で情報を得ていたからです。

顔までは、知らなかったようですが・・・。

 

 

しかし、クルト議員ですか。

実は私、あの人のことを良く知らないのですよね。

詳しいプロフィールまで知っているわけではありませんし・・・。

 

 

「お前の『知識』に、あの男の情報はあるか?」

「極めて不確かですし、ここでも同じ肩書きかはわかりません」

 

 

大体にして、麻帆良に来ている時点でもう、私の有している知識は大した意味を持たない。

最近は、役に立たないことの方が多いですしね。

まぁ、今は特にできることもありませんし・・・。

 

 

『こ、これは―――っ! 愛衣選手、10m上空に吹き飛んだ―――っ!?』

 

 

・・・と、小太郎さんの試合が終わったようですね。

瞬動で間合いを詰め、気を込めた風圧で吹き飛ばしましたか。

というか、朝倉さんがノリノリでアナウンスしているのが意外・・・でもなんでも無いですね。

 

 

あら、佐倉さんが溺れているようで・・・。

・・・なぜだか、親近感が湧きました。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

いやー、上手くいってよかったわ。

楓ねーちゃんやら何やらならともかく、こんなナヨナヨした女の子殴るわけにはいかんしなぁ。

 

 

殴れへんなら、殴らんで勝ったらええわって言う作戦は、自分でもまぁまぁやったと思う。

これくらいなら、魔法やら何やら言われることも無いやろ。

 

 

『カウント10で愛衣選手の負けが確定します!』

 

 

しっかしまー、アリアのねーちゃんも難しいこと言うなぁ。

一般人がどうやっても再現できひんような攻撃は避けろ言うたって・・・。

・・・意味がわからん。

そんなことして、何や意味あるんかいな。

 

 

『・・・10! 小太郎選手の勝利です!』

「へへ・・・悪いな。こんな所で立ち止まるわけにはいかんのや」

 

 

夏美ねーちゃんに男の戦いの熱さってもんを、見せたらなあかんしな。

・・・でも、本選に出場しとるの、女ばっかな気ぃするんやけど。

 

 

『ああっと・・・愛衣選手、溺れているっ!』

「あぶあぶっ・・・わ、私、泳げないんです~!」

「なんやてぇ!?」

 

 

しゃーないな、もー。

見捨てるわけにもいかんし・・・

 

 

「世話焼けるな、ったく!」

 

 

ドボンッ・・・と、リング周辺の水場に落ちて溺れてる相手のねーちゃんを、助けに飛び込んだ。

その時、選手席の方が見えた。

アリアのねーちゃんや、エヴァンジェリンとか言う怖いねーちゃんもおる。

その中の、あの赤毛のガキに、なんや見覚えが・・・って。

 

 

「思い出したぁっ!」

「な、何がですかぁ!?」

 

 

あいつ・・・ネギ!

俺は、あいつと戦うためにここに来たんやった!

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「す、凄い凄ーいっ! 小太郎君カッコ良い――――っ!」

「まぁまぁ♡」

 

 

ちづ姉と一緒に、小太郎君の試合を見てたんだけど、凄い!

なんでかはわかんなかったけど、相手の女の子が凄く吹き飛んだ。

と言うか、もうほぼ、宙に浮いてた。

 

 

とにかく、凄いよ、小太郎君!

 

 

「くぅ~・・・最後まで見れるかなぁ。私、公演のリハあるし・・・」

「うふふ、私が見ておくから大丈夫よ」

「ちぇ~」

 

 

小太郎君は、舞台の外の堀に落ちた相手の女の子を引き上げてる所。

結構、優しい所あるじゃん。

 

 

・・・む?

何か、話してるみたい。聞こえないけど。

でも、なんだか相手の子の仕草や反応がちょっと・・・。

 

 

「・・・何、アレ」

「あらあら♡」

 

 

私の横で、ちづ姉が笑ってた。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

ネギとアリアは、昔から仲が良くなかった。

ネギがアリアをどう思っていたのか、そしてアリアがネギをどう思っていたのか。

実の所、私には難し過ぎてわからない。

 

 

ただ、2人が上手くいってなかったってことは、わかってた。

すれ違い続けていたんだって、子供心にわかってた。

・・・今でも、私達は子供だけど。

 

 

「あの2人の関係ほど、見ていて腹の立つ物は無かったわね・・・」

 

 

一見、ネギの無神経ぶりが原因な気もするけど。

でも一方で、アリアの方にも、問題が無かったわけじゃないと思う。

あの2人の関係を、あえて一言で言うのなら・・・そうね。

 

 

仮面兄妹って言うのが、正しいんだと思う。

兄妹であって、兄妹じゃなかった。

だから今さら、兄妹を辞めたと言われても、納得の方が大きかった。

言いたいことが無いわけじゃないけどね。

 

 

・・・あの2人のおかげで、私も随分と客観的になれるようになったもんだわ。

ネカネお姉ちゃんも気付いてたとは、思うけど・・・。

 

 

「それにしても、人が多いわね」

 

 

下の道を行くと時間がかかりそうだから、建物の屋根の上を走ることにした。

このあたりの区画は、建物同士が結構隣接してるから、飛び移る必要も少ない。

 

 

「3日間の延べ入場者数40万人。世界有数の規模の学園都市の全校合同イベントですぅ」

「田舎暮らしの長い私には、ちょっと厳しいわ」

「一説では、2億6000万のお金が1日で動くとされているそうですぅ」

「・・・あんた、私に説明しているようでいて、実は自分の知識をひけらかしたいだけでしょう?」

「バレたですぅ」

 

 

腕の中のちびアリアを、力強く抱きしめる。

日本の東洋魔術の使い魔らしいけど、随分感情表現が豊かだわ。

 

 

それはそれとしても、やっぱりこの街はおかしい。

聞く所によれば、麻帆良の外からもお客さんがやってくるらしいじゃない。

そんな人間に、こんな意味不明なイベントだらけの学園祭、見せて良いわけが無い。

もちろん、記憶処理とかはやってるんだろうけど・・・。

 

 

いつまでも、このままで良いわけが無いわ。

世界樹を守るためだって言っても・・・こんな中途半端な状態、いつまでも保つはずが無い。

こんなの、山奥でひっそり慎ましやかに生きてる私達が、バカみたいじゃない。

 

 

「パートナーさんの反応、あっちから感じます」

「わかったわ」

 

 

私とエミリーは、ネギとカモと違って、きちんと手順を踏んで使い魔契約をしてる。

だから、私とエミリーの間には、魔力のリンクがある。

ちびアリアは、それを頼りにエミリーを追いかけてる。

 

 

まぁ、とりあえず今は、エミリーを探しながら・・・。

この麻帆良のことを、調べて行くしかないわね。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

『ラッシュ、ラッシュ――っ! 大豪院選手、猛攻撃だ―――っ!』

 

 

今は、マスターの試合。

マスターが負けるとは思えないけど、それでも応援はしないと。

なのに・・・。

 

 

「ネギ、勝負や! 決着つけよ――ぜっ!」

「え、えええ、今、それどころじゃ・・・」

「やかましい! 勝負しろこら――っ!」

 

 

京都で戦った・・・・・・・・・・・・小太郎君だ、うん。

その小太郎君が、なんでか僕に勝負しろって言ってきた。

な、なんでいきなり?

 

 

「だ、大体キミ、僕に2回も負けたじゃないか・・・」

「はぁ!? お前みたいな奴、次戦えば勝てるわ!」

「・・・何回やっても、一緒だと思うんだけど・・・」

「ああ!?」

 

 

僕だって、京都の時からかなり修業したから、もっと強くなってる。

京都の時に僕に勝てなかった子が、今僕に勝てるわけないじゃないか。

 

 

「何やとこのチ「てりゃ~」びぁっ!?」

 

 

突然、奇妙な悲鳴を上げて、小太郎君が倒れた。

その後ろには、京都で木乃香さんを攫った月詠って人が、困ったような顔で立っていた。

そのまま、小太郎君の首根っこを掴んで、ズルズルと引き摺って行った。

 

 

「あかんえ~小太郎はん。場外乱闘は即失格て言われたやろ~」

「ぐ・・・ネギ、決勝であおーぜ・・・」

「小太郎はんは、おつむが弱いどすからな~」

「月詠のねーちゃんにだけは、言われたぁ無いで・・・」

 

 

・・・なんだったんだろう。

 

 

「・・・なんだったのかしら?」

「さぁ・・・」

 

 

明日菜さんの言葉に、そう答えるしかなかった。

 

 

『か、カウンター決まったぁ――っ! 大豪院選手、立てません! クウネル選手、勝利!』

 

 

・・・あ、マスターの試合、終わっちゃった。

小太郎君のせいで、ほとんど見れなかった・・・。

 

 

『それにしても、ふざけた名前だ。クウネル・サンダース!』

 

 

あ、やっぱりそう思うんだ。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

第二試合が終わった。

クウネル・サンダースという男、あれは本体じゃないな。

魔眼で見ている私にはわかる。

もちろん、私以外にも、わかる人間にはわかるのだろうが。

 

 

「ふむ、次は拙者の出番でござるな」

 

 

私の横に座っていた楓が、気負った様子も無く立ち上がった。

楓の相手は、あのアリア先生だ。

普通なら、楓が10歳の女の子相手に後れを取るとは思わないが。

 

 

「勝算はあるのか、楓?」

「んー、どうでござろうかなぁ」

 

 

なはは、と楓は笑った。

以前はそれほどではなかったが、最近はアリア先生の書き換えた記憶の監視のために、一緒にいることも多くなった。

それなりに、友人関係を築けていると言える。

 

 

「アリア先生には、修学旅行でも投げられているでござるからなぁ」

「ふふ、本気じゃなかっただろ?」

「いやぁ、それでも厳しいでござろう」

 

 

そう言う割に、楓に緊張は見受けられない。

こういう所が、楓の強みだろうな。

 

 

「まぁ、何。とりあえずは当たってみるでござるよ」

「ふ・・・そうか。一応、応援はしておいてやろう」

「おお、真名がタダで人のために何かをするとは意外でござるな」

 

 

・・・お前の中の私は、どんな冷血人間なんだ、楓?

私だって、友人の応援ぐらいはするさ。

 

 

「じゃ、逝って来い」

「うむ・・・字が違うでござる。ベタな見送りでござるなー」

 

 

ほっとけ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「まぁ、お前が長瀬楓ごときに後れを取るとも思えんが・・・頑張って来るが良い」

 

 

そうエヴァさんに送り出されて、私はリングに上がりました。

目の前には、いつも通りの笑みを浮かべている長瀬さん。

・・・いつも笑顔で、大変良いことです。

 

 

『さぁやってきました第3試合! 長瀬楓選手対アリア・スプリングフィールド選手―――っ!』

 

 

朝倉さんのマイクパフォーマンス。

どうでも良いので、早く始めてほしいのですが・・・。

 

 

『一方は昨夜の予選で謎の分身を行い、勝利した麻帆中さんぽ部の長瀬選手! そのミステリアスな細目にどんな謎が!? 忍者の生まれ変わり・・・いや、むしろあんたが忍者だろ!』

「照れるでござるなー」

「照れるポイント、まるで無いと思うのですけれど・・・」

 

 

むしろ、この場で殴りつけても見逃しますよ、私。

 

 

『そして残る一方は、昨年度麻帆中に赴任してきました噂の子供先生の一角! アリア選手! 噂によるとその愛くるしくも妖艶な美しさにファンクラブができているとかいないとか! いよっ、この「調子に乗ってるともぎ取りますよ」さぁて始めましょう!』

 

 

まったく・・・。

溜息一つ落として、改めて長瀬さんと向き合います。

 

 

「さて・・・アリア先生。普段は教師と生徒の関係でござるが、今日はそれを忘れ、全力で当たらせて頂くでござる」

「・・・お相手いたします」

 

 

しかしそうは言っても、生徒を派手に殴ったりとかするわけにもいきませんし。

こういう時、教師と言うのは面倒な立場です。

 

 

『それでは、第3試合・・・』

 

 

となると、予選と同じやり方で行きますか。

懐から、一枚のカードを取り出します。

 

 

『Fight!!』

「『眠(スリープ)』」

 

 

即座に睡眠の効果を相手に与えるカードを発動。

ぱたり・・・と、長瀬さんが倒れます。

我ながらあっけない終わらせ方ですが・・・。

 

 

ぽむっ、と、肩を叩かれました。

 

 

「いやぁ、いきなりで驚いたでござる」

「催眠術か何かでござるか?」

 

 

4人の長瀬さんに囲まれていました。

・・・わーお。

 

 

「楓忍法」

 

 

気配を少しも悟らせずに、ここまで近づいてくるとは。

一般人としては、まさに最高の完成度。

 

 

「『四つ身分身・朧十字』!!」

 

 

気を伴った掌底が4発、前後左右から放たれました。

 

 

 

 

 

Side 楓

 

「『四つ身分身・朧十字』!!」

 

 

分身を使い、四方向から攻撃を撃ち込んだのでござるが、手応えがまったくなかったでござる。

いや、あるにはあるでござるが、なんとも不可思議な感覚。

 

 

攻撃は当たっているのに、通っていない感覚。

 

 

「素晴らしいですね」

 

 

囁くように、アリア先生の言葉。

瞬間、アリア先生の身体を気に似た何かが覆ったでござる。

むぅ・・・体勢を整えられてしまったでござるか。

 

 

「影分身・・・と言うのですか? 初めて見ました。流石は忍者、ですね」

「さて、何のことでござるかな?」

「はたして、そこではぐらかすことにどんな意味が・・・」

「ニンニン」

 

 

攻撃の手を休めずに、そのまま攻めかかるでござる!

決して、忍者であることを指摘されたからではないでござる。

 

 

しかし、4人がかりで攻撃を加えても、アリア先生は先ほどとは打って変わったなめらかな動きでかわして行くでござる。

拳を放つと流され、蹴りを放つと受け切られ、かわされる。

攻撃を撃ち込めたとしても、やはり『朧十字』の時と同様、攻撃が通った気配がしないでござるな。

 

 

気で覆われているわけでもなく、ダメージが止められている、と言った方が正しいでござろうか。

ふむ、これは・・・。

 

 

 

何らかの術、と言うか、ズルをしていることは間違い無いでござるなー。

 

 

 

まぁ、だからと言ってそれを言って駄々をこねるほど子供でもござらん。

さて、これを破るにはどうするか・・・。

 

 

「・・・なぜ、攻撃してこないのでござるかな?」

「なんのことでしょう?」

 

 

アリア先生はそう言うが、現在、拙者の攻撃を防ぐばかりで反撃の気配が無い。

わざと隙を作ってみても、撃ち込んでくる様子も無い。

考えられる理由としては、教師と生徒と言う立場を慮ってのことでござろうか。

なら・・・。

 

 

それを最大限、利用させてもらうでござる!

 

 

分身で撹乱し、懐に飛びこむ。

虚を突かれた形になったアリア先生は、一瞬驚いたような顔をして、すぐに手を出してくる。

その手を払い、宙返りの要領で後ろに飛び、蹴りを加える。

そしてその分身の背後から、気を込めた拳を撃ち込み――――。

 

 

アリア先生の身体を掴み、投げ飛ばした。

ダメージは通らずとも、ただ投げることはできるでござる。

 

 

「・・・見事です、が・・・」

 

 

当然、アリア先生は空中で身体を捻り、体勢を整えたでござる。

しかし、その背中から。

 

 

「・・・む」

「この密度の分身は、拙者も4人が限界でござるよ♡」

 

 

本体の、拙者が。

高濃度の気を練り込んだ右拳を、叩きつけたでござる。

 

 

アリア先生の身体が、床板を砕いた。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

アリア・スプリングフィールド。

本国にある資料によれば、魔法の使えない役立たずとありますが・・・。

まぁ、くだらぬ魔法至上主義者の報告書など、アテにはなりません。

 

 

現に彼女のこれまでの経歴と、彼女の身体を覆う静かで力強い魔力の気配は、それを否定している。

ふふ・・・机の上で報告書しか読まない連中には、わからないでしょうがねぇ。

彼女の価値が。

 

 

「クルト議員、今のは・・・」

「ええ、気力の乗った良い一撃でしたね」

 

 

隣に座る絡繰茶々丸とか言う魔導人形が、私に解説を求めてきました。

長瀬楓と言いましたか、あのお嬢さんは。

あれで一般人と言うのですから、旧世界の人間もなかなか侮れませんね。

 

 

「多数の分身で撹乱しつつ、最後には背後からの一撃。長瀬選手はなかなか頭の良い戦い方を選択していますね」

「なるほど・・・」

「まぁ、それだけやあらへんけどな・・・」

 

 

関西の元暫定大使、天崎千草・・・いえ、天ヶ崎千草が、呟くようにそう言いました。

ほぅ、なかなか、わかっていますね。

 

 

「と、言うと、どういうことでしょうか千草さん」

「あの長瀬って選手は、アリアはんを直接倒す以外の方法で倒そうとしとるってことや」

 

 

そう、この大会で相手に勝つ方法はいくつかありますが・・・。

何も、相手を場外にしたり、あるいはカウントを取る必要は無い。

要するに・・・。

 

 

反撃しない限り、アリア・スプリングフィールドは勝てないと言うことです。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

あの、バカが・・・この期に及んで生徒を気遣ってどうする!

 

 

『な、何が起こったのかはさっぱりですが・・・とりあえず、長瀬選手がアリア選手を地に叩きつけた―――っ!』

 

 

ダメージがあろうはずも無い。

アリアの『歩く教会』は、あらゆる物理・魔法攻撃に対して絶対的な防御力を誇る。

具体的に言えば、私の『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』でもダメージを通せない程だ。

 

 

「す・・・凄い」

 

 

ぼーやは無邪気に喜んでいるようだが、長瀬楓が一般人としては最強の部類に入ることは、わかりきっていたことだ。

それよりも問題なのは・・・。

 

 

「恩人は、優しいからな」

「やっと起きたのかお前・・・だがな、あれは優しいとか言うレベルでは無いぞ」

 

 

バカ鬼の声に、そう返す。

生徒・・・それも3-Aの生徒に限り、アリアは優しい。

さらに言えば、「自分の庇護下にある生徒」「自分のルールの枠内にある生徒」に限定される。

だからこそ、ぼーやや学園の魔法使い側に立っている生徒には冷淡な対応をする。

龍宮真名などは、本当に例外的だ。

 

 

身内を含めて、自分の管轄にある者に対する怯えとも取れる優しさ。

それは決して、博愛や隣人愛では無い。

誰よりも純粋で、身勝手な愛情。

 

 

『お、おお!? アリア選手、無傷だ―――っ!?』

 

 

砕かれた床の中から、ゆっくりとした足取りでアリアが出てきた。

当然、ダメージは無い。

長瀬楓も、どうやらそれをわかっているようだ。

 

 

だからこそ、ああして派手に立ち回っているのだろう。

観客の受けを、良くするためにな。

ちぃ・・・あのバカが、それくらいわからないはずが無いだろうに!

 

 

「コラ―――ッ! アリア!!」

 

 

もどかし過ぎて、思わず声が出た。

それが聞こえたのだろう、アリアが肩をびくっ、と震わせて、私の方を見た。

 

 

「私の家族ともあろう者が、ただの忍者に何を手こずってる! さっさと倒せ! 負けるなど、私が許さんからな!」

「おい、吸血鬼。皆が見てるぞ、良いのか?」

「やかましぃ! 良いかアリア・・・もし負けてみろ! 負けでもしたら、あー・・・」

「なんだか今日は、スクナが正しい気がするぞ。聞いてるか?」

 

 

一瞬、考えて。

 

 

「一年間、苺抜きにするからな!!」

 

 

・・・あれ?

何か違うような気がする。だが、アリアの表情に危機感と言うか、衝撃が走ったのを感じた。

あと茶々丸、解説者席から私をガン見するのはやめろ。

 

 

・・・・・・一年間は長いか。

一カ月、いや、3日で良いな、うん。

 

 

「とにかく、勝て!」

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「あはは・・・エヴァさんってば」

「西洋の鬼は、考えることがわからんのう」

「イヤ、テンパッテルダケダ」

 

 

あ、もう。ダメですよ喋っちゃ。

私の頭の上にチャチャゼロさんが、腕の中に晴明さんがいます。

まぁ、周りの人は試合に夢中で私のことなんて気にしてないけど・・・。

 

 

『何やら選手席が揉めているようですが・・・さて、勝つのはどっちだ!?』

「朝倉さんも、良くやりますねー」

 

 

普通に考えれば、アリア先生が負けるはず無いと思うんだけど・・・。

どうかな、ちょっとわからない。

まさか、苺で主義を曲げるとも思えませんし。

 

 

「あ、さよちゃんじゃん!」

「へぅ? ・・・あ、ハルナさん」

 

 

近くにいたのか、ハルナさんと会った。

その後ろに、のどかさんと綾瀬さんがいた。

一応、ペコリと頭を下げて挨拶しておきます。

 

 

「いやー、でも、すごいよねコレ! ってかアリなのコレ!」

「あ、あはは・・・」

「む、と言うかさよちゃん。2つも人形抱えて、ファンシーだね?」

 

 

チャチャゼロさんと晴明さんは、もう動かなくなってる。

それにしても、参ったなぁ・・・。

ちらり、と、私を見ているのどかさん達を見る。

 

 

ハルナさんって、状況的にかなり危ないんですよね・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「いやー、アリア先生も大変でござるな~」

「大変どころの騒ぎじゃないですよ・・・」

 

 

苺一年間禁止って、それ私に死ねって言っているような物ですよ。

苺分不足症候群で余命三日、そんな感じですよ。

・・・というか、自分だってシリアスを壊すの、癖みたいな物じゃないですか。

 

 

「・・・しかし、エヴァ殿の言うことにも一理あるでござるよ」

「苺禁止が?」

「それもあるでござるが・・・本来ならアリア先生は、拙者などすぐに倒せるでござろう?」

「・・・否定はしませんよ」

 

 

長瀬さんは、おそらくは血の滲むような修練を積んで、今の領域にいるのでしょう。

その思考力も、技術も。全ては彼女の努力の賜物。

しかしその全てを踏みにじって勝つ手段が、私にはあります。

 

 

「でも、今のままでは・・・」

「メール投票で貴女が勝つでしょうね」

「・・・わかっていたでござるか」

 

 

当然でしょう。

この大会は、一試合15分と定められています。

それで決着が付かない場合、観客のメール投票で勝敗が決まります。

今の感じでは、長瀬さんの方に多くの票が入る可能性が極めて高いと思われます。

つまり、私が負けます。まぁ・・・。

 

 

「アリア先生は、別に負けても良いと思っているでござろう?」

「まぁ・・・お金には興味ありませんしね。教え子をねじ伏せてまで勝ちたいとも思いません」

「ふむ・・・それは少々、拙者の立場からすると、腹立たしい考え方でござるな」

 

 

それは、そうでしょうね・・・。

ただ、私としては、武道会に出てほしいと言う超さんの願いは叶えましたので。

 

 

「アリア先生は、我ら3-Aの生徒を大切にしてくれているでござるが・・・どのような花でも、手をかけ過ぎれば腐り、枯れる物でござる」

 

 

長瀬さんはそう言うと、風に乗って舞台に下りてくる世界樹の花弁に、手を添えました。

その視線は、どこまでも優しい。

自然、私も天を見上げて、舞い降りてくる花弁を見ます。

 

 

「適度に水をやり、大切に育て・・・そして時として風雨に晒されて、少しずつ強くなるのが花」

「・・・長瀬さん」

「抱え込み、全てからただ守るばかりが、花の育て方ではござらん」

「・・・10歳の子供先生に言う台詞ではありませんね」

「む? それもそうでござるな。なぜかアリア先生なら、理解してもらえると思ったでござるが・・・」

 

 

まぁ、理解はできますが。

理解したからと言って、それですぐに主義主張を変えられるほど、賢しくもありませんが。

しかし・・・。

 

 

いつだったか、木乃香さんや刹那さんが一個人として私の所に来た時と、少し物言いが似ていますね。

私を含めて、人間と言う物は、他人に認められたがると言うことでしょうか。

 

 

「・・・アリア先生」

 

 

長瀬さんは、静かに微笑んで、私を見ていました。

 

 

「今は、拙者だけを見てほしいでござる」

 

 

 

 

 

 

Side 楓

 

・・・む。

わずかでござるが、アリア先生の雰囲気が変わったでござるな。

身体を覆う何かの総量が変わったでござる。

 

 

「行きます」

 

 

次の瞬間には、すでに拙者の懐に飛び込まれていたでござる。

速い!

ぼっ・・・と、攻撃を繰り出すも、アリア先生の姿がかき消えた。

 

 

「『速(スピード)』から・・・」

 

 

声に反応すれば、数m上に。

対空しつつ、腕を交差させつつ、落ちてきたでござる。

しかしさらに、その場から加速・・・虚空瞬動でござるか!?

 

 

ずだんっ!

大きな音を立てて、アリア先生が拙者の背後に降り立つ。

 

 

「・・・『闘(ファイト)』、『南斗流鴎拳・南斗嘴翔斬』」

 

 

次いで、ぼんっ・・・と言う音を立てて、拙者の燕尾服の左の肩口が爆ぜたでござる。

傷ひとつ無いでござるが・・・今のに気が乗っていれば、拙者の左腕は肩から千切り取られていたでござろう。

修学旅行で見た技と似ているでござるが、少し違うようでござる。

 

 

「一応・・・生徒のお願いは可能な限り聞くことにしているので」

「む・・・」

 

 

アリア先生の目を見て、瞬時に感じたでござる。

日の光のせいか、紅く輝いて見えるその眼を見て。

 

 

・・・うむ!

これは、敵わぬでござるな!

しかし・・・。

 

 

「今は・・・貴女だけを見ることにします。長瀬さん」

 

 

・・・照れるでござるな。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

アリア先生は、これまで通り長瀬さんの攻撃をかわして・・・いえ、今までよりも華麗に、流麗な動きで移動していました。

それはまるで演武のようでもあり、非常に綺麗な動きでした。

おかげで、会場の一部が大いに盛り上がっております。

 

 

「クルト議員、これは?」

「ふむ・・・まるで、風に乗って水辺を浮遊する水鳥のような動きですね。非常に美しい」

「どうでもええけど、議員って呼んでええんか?」

 

 

千草さんの瑣末な疑問は軽く流して、クルト議員に続きを促します。

まったく・・・常識人を自称される方はこれだからいけません。

 

 

「先ほど長瀬選手の衣服の肩口を弾けさせた一撃・・・アリア選手は長瀬選手の拳を躱すように跳躍した後に急降下し、肩口を切り裂いたのでしょう。実に高度で完成された動き、見事な物だ」

「なるほど。流れるような、非常に滑らかで清らかな動き、と言うことですね」

「まさにそれです」

「・・・あんたらは、アリアはんの技を解説しとるんか、それとも単純にアリアはんを褒めたいんか、どっちなんや?」

 

 

両方に決まっているでしょう。

まったく、これだから千草さんは。

小太郎さんと月詠さんの撮影をしてあげませんよ?

 

 

「別に、構へんよ・・・」

「なんと、成長の記録なのに・・・」

「まぁ、いずれにせよ・・・」

 

 

かちゃ・・・と、眼鏡を指先で押し上げながら、クルト議員が呟くように言いました。

 

 

「試合の趨勢は、決まったと見て良いでしょうねぇ・・・」

「・・・・・・なるほど」

 

 

クルト・ゲーデル元老院議員。

素性についての情報があまり無いために、その目的を推測することはできませんが。

アリア先生を見るその目は、どこか、懐かしさを含んでいるような気がします。

 

 

千草さんとのやり取りの後は、普通に解説を行うなどして、試合をただ見ています。

当初は、我々を人質にでもするつもりかと思いましたが。

 

 

ただ単純に、試合を見に来ただけとも思えます。

しかし、元老院。

スプリングフィールドの名を持つアリア先生にとっては、最も注意すべき相手だと、マスターは言っていました。

 

 

油断せず、観察を続けることにしましょう。

 

 

 

 

 

Side 超

 

・・・ふふ。

かえでサンは、アリア先生にとっては、良い事例になるだろうネ。

 

 

アリア先生の対戦相手には、特に気を遣ったからネ。

自分の守るべき物と戦わねばならない状況。

これが、欲しかったのヨ。

 

 

「・・・ハカセ、魔法先生の動きは?」

「各勢力の外交使節団の応対に、半数以上の戦力が割かれているようです」

「なるほど・・・それは思い通り、カ」

 

 

しかし、まさかクルト議員が会場に来るとは思わなかったネ。

何を考えているのか・・・。

さらに言えば、クウネル・サンダース。

あの接触以来、私を警戒しているようだしネ。

 

 

まぁ、抑え込むための策は考えているヨ。

計画に不確定要素は付き物・・・修正の余地を残しておくのが、コツ。

 

 

そして、そのためにも・・・アリア先生には、勝ち上がってもらわないとネ。

ネギ坊主にも、ある程度は頑張ってもらわないと。

 

 

「ふむ・・・ハカセ、ネット上に画像とその他の情報を流し始めて欲しいヨ」

「わかりました」

 

 

ネットの下準備も、24時間以内に完了する。

地下は五月に任せてあるシ・・・。

クラスメイトの状況も、リアルタイムで把握している。

 

 

全体として、作戦は順調ネ。

 

 

わぁ・・・!

 

 

会場の様子を映している画像から、歓声が響いてきたネ。

アリア先生とかえでサンの試合が、終わったようネ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「いや~、コレは無いでござろう?」

「すみません。怪我をさせずに勝つと言うのは、意外と難しくて」

 

 

今、長瀬さんの周囲には、私の『ラッツェルの糸』が生みだす切れない糸が張り巡らされています。

おそらく、観客席からは見えないでしょうが。

柱や手すりなど、糸を巻ける場所が遠かったので、少々苦労しましたが。

 

 

「少しでも動けば、スッパリ逝きますよ?」

「真名と同じ字でござるが・・・この場合は、用法が正しい気がするでござるな」

 

 

真名さんが何を言ったのかは、知りませんが。

 

 

「しかし、こちらの攻撃はダメージが通らず、そちらは自在にダメージを通せると言うのは、少しヒキョーでござるなぁ」

「それを込みで試合を望んだのは、長瀬さんでしょう?」

「まぁ、それはそうでござるが・・・」

 

 

こちらとしても、生徒の願いを叶えつつ、自分の主義を通すと言うのは骨でした。

長瀬さん、普通に強いんですもの。

 

 

「・・・それで? 続けますか?」

「いやぁ、流石にここから逆転するのは骨でござるな・・・・・・拙者の、負けでござるよ」

『おおっと、長瀬選手、まさかのギブアップだ! この瞬間、アリア選手の一回戦突破が決定―――っ!』

 

 

朝倉さんの試合終了の声とともに、私は『ラッツェルの糸』を解除しました。

 

 

「・・・服、すみませんでした」

「いやいや、大したことではないでござるよ。しかしアリア先生も演出好きでござるなー」

「・・・別に、そんなことはありませんよ」

「なはは・・・しかし、タメになったでござる」

 

 

笑いながら、長瀬さんが言いました。

その笑顔は、どこかさっぱりとした物でした。

 

 

「世の中は広い。拙者もまだまだ修業が必要でござるな」

 

 

まぁ、忍者の修行と言うのがどういう物かはわかりませんが。

いずれにせよ、私の力はズルみたいな物なので、結局の所、長瀬さんには敵いません。

 

 

「ところでアリア先生。実際の所、どういうカラクリだったのでござるか?」

「長瀬さんが忍者かどうか教えてくれれば、答えてあげても良いですよ」

「諦める他無いでござるな・・・」

「そこで諦めちゃうんだ・・・」

 

 

それを狙ったんで、思い通りではあるのですけど・・・。

なんだか、釈然としない物を感じますね。

 

 

・・・ふぅ、と溜息を吐きます。

選手席の方を見ると、エヴァさんが腕を組んで私を見ていました。

怒られますかね、コレは。

 

 

まぁ、苺一年禁止の危機からは逃れたような気がしますし。

まぁ、良いですかね・・・。

 

 

「・・・ん」

 

 

不意に、名を呼ばれた気がして、私はそこで立ち止まりました。

そのまま、西の方向に視線を向けます。

一見、何もないようですが、しかし・・・。

 

 

「アリア先生? どうかしたでござるか?」

「いえ、別に何も・・・」

「少し、顔が赤いようでござるが・・・」

「本当にこれっぽっちも何も無いので、大丈夫です。先生、嘘吐きません」

 

 

こほん、と咳払いしつつ、長瀬さんを選手席の方へと押しやります。

まったく・・・。

 

 

ところで、まったく関係の無い話ですが。

見られることを意識すると、人は美しくなると言います。

つまり、見られることを意識していなかった今までの私よりも、これからの私の方が美しく見えると言うことでしょうか?

さらに言えば、それによってこれまでの分も挽回できると見て、間違い無いですよね?

 

 

シンシア姉様、姉様はとても美しい方でしたが・・・。

実の所、秘訣などはあったのでしょうか?

 

 

 

アリアも、貴女のように美しく在りたいのです。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

『アリア選手、1回戦突破―――っ!』

 

 

まほら武道会とか言うそれを、僕は会場の西側の高灯篭から見下ろしていた。

1戦目と2戦目は、あまり面白くは無かったけど・・・。

クウネル・サンダースと言うあの男、アルビレオ・イマ?

僕には気付いていないようだけど・・・。

 

 

「アルビレオ・イマに、近衛詠春。そして、タカミチ・T・高畑と・・・クルト・ゲーデル」

 

 

やれやれ、いつからここは「紅き翼」の集合拠点になったんだい?

まぁ、クルト・ゲーデルは「紅き翼」を離反しているけどね。

それでも元老院議員と言う地位は、警戒するに足る物だと思う。

 

 

それに、彼は優秀だ。

昨日僕が仕込んだ工作員2人を、昨夜の内に殺している。

反応が早い・・・関西の方の入れ替わりは、気付かれていないと言うのに。

魔法世界と旧世界の考え方の違いもあるのだろうけど。

 

 

・・・眼下では、なぜかアリアが吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)に叱られている。

先ほど、彼女はアリアに「家族」と呼びかけていたようだけど・・・。

アリアの言う「家族」とは、吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)のことなのだろうか。

 

 

「家族、と言う物は、僕には良くわからないけれど・・・」

 

 

つまりアリアを連れて行くためには、加えて彼女もどうにかしなければならないと言うことだろうか。

これは、なかなか厳しい条件だ。

ある意味、世界を救うのとどちらが難しいのかと言うレベルではないだろうか。

しかし、それでも・・・。

 

 

「待ちなさい! この恥知らず!」

「ちげーって、誤解だって! 俺はお前のためにだな・・・!」

「妹のために、下着二千枚盗んでくる兄がいますか!」

 

 

にわかに、周囲が騒がしくなった。

・・・何?

 

 

「アルベール!」

「ま、待て待てエミリー! とりあえず話をだな・・・・・・って、げぇっ、て、てめぇは!?」

 

 

・・・オコジョ?

どうしてここに、オコジョが・・・と思ったら、もう一匹現れて、その一匹に覆いかぶさった。

 

 

「捕まえたぁ―――っ!」

「うぉあっ!? ・・・ちょ、ちょっと待てエミリー! 今がまさに命の危機っ・・・!」

「何を意味のわからない、ことを・・・?」

 

 

2匹のオコジョが、同時に僕を見た。

1匹は、どうやら僕のことを知っているらしい。もう1匹は、名前と言動からして妹か。

事情は良くわからないけど・・・。

 

 

2匹のオコジョごときに邪魔されるなんて、あってはならないことだ。

下手に騒がれても、面倒だし・・・。

 

 

 

始末しても、問題無いかな。

 




茶々丸:
初めまして、絡繰茶々丸と申します(ぺこり)。
本日の後書きコーナーを担当させていただきます。
今回から、試験的にアリア先生関連の方々の持ち回り制になります。

なぜなら、アリア先生は今まさに私の膝の上ですやすやとお休みなので、よもやこれを起こそうなどとは神でさえも不可能なわけです(ジー・・・)。

今話はまほら武道会の一回戦の3試合の様子をお送りしました。
アリア先生の可愛らしいお姿を見ることができ、私としては大変満足のいく内容でした。
あと10年は稼働できます。


茶々丸:
次回は、引き続きまほら武道会の様子が描かれます。
予定としては、2、あるいは3試合分収録される模様です。
もちろん、武道会以外の動きについても触れることになるかと思います。

それでは、アリア先生が起きてしまわれますので、後はお静かにお願いいたします(しー・・・)。
またのお越しを、お待ちしております。


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第58話「麻帆良祭二日目・相互理解」

Side アリア

 

「まったく、お前と言う奴は・・・」

「あはは・・・ところで、苺禁止ってナシになってますよね? ね?」

「お前、私の話を聞いていただろうな・・・?」

 

 

もちろん、聞いていましたよ?

つまり、苺は食べて良いってことですよね。

袖の中に手を入れて、ごそごそと『苺の魔大福』を取り出します。

魔法使いの和菓子職人が作った魔力が籠った甘くて美味しい低カロリーな虫歯にならない苺大福です。

まほネットで一部の苺通に大人気です。

 

 

はむ・・・と、口に含みます。

お餅の部分にも苺が練り込まれているので、程良い酸味と苺の香りが。

苺大福の中に籠った魔力には、身体に良い効能もあります。

 

 

はむ、はむ・・・。

・・・どこに持っていたのかって?

単純に、『ケットシーの瞳』から取り出しただけです。保存も効きますので。

 

 

「恩人、スクナはお腹がすいたぞ」

「思い出したように腹ペコキャラに戻る人ですね・・・これでも食べていてください」

「んむっ(ムグムグ)」

「お前ら、こんな所で物を食べるなはしたない・・・と言うか、まず手を洗え!」

 

 

スクナさんの口にターキーを突っ込むと、エヴァさんが口うるさく何か言ってました。

その時、ズン・・・と、私の右隣に、ターミ○ーターみたいなロボットが腰掛けました。

ちなみに、左隣にスクナさん、エヴァさんはさらに隣です。

 

 

『さぁ、第4試合はこの2人! 前年度「ウルティマホラ」チャンピオン、古菲選手! そして対するは、ここ龍宮神社の一人娘、龍宮真名選手!』

 

 

第4試合が始まるようですね。

周囲の観客が、古菲さんを熱狂的に応援しているようです。

 

 

「えっと・・・田中さん、でしたか?」

「・・・正確ニハ、機体番号T-ANK-α3デス」

 

 

おお、返事が返ってきました。

あまり期待はしていなかったのですが、流石は茶々丸さんの弟さん。

礼儀は正しいようです。

 

 

「背中についてるのは、電源コードか何かですか?」

「守秘義務ニ該当シマスノデ、オ答エデキマセン」

「あ、そうですか・・・ごめんなさい、不躾なことを聞いて」

「問題アリマセン」

 

 

ふむ・・・ロボットなら、苺をあげても意味無いですよね。

苺味のオイルとか・・・? やめた方が良い気がしますね。

しかし、初対面は苺からと言うのが、私の流儀。

 

 

「・・・素敵なジャケットですね。破れなどした際には、この苺のアップリケをお使いください」

「コノ外装ハ支給品デス」

「・・・あいつはなぜ、ロボットと相互理解しようとしているんだ?」

「恩人は、変なのとばかり友達になるからな(ムグムグ)」

 

 

失礼なスクナさんですね。

ターキー取り上げますよ?

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

真名は、強いアル。

平和な場所で修練ばかり積んでいた私と違って、いくつもの戦場を潜り抜けてきている。

実戦経験の差だけ見ても、私の敵う相手じゃないアル。

 

 

でも、嬉しくもあるアル。

ここに来るまで、私が本気で戦える相手はいなかったアルからネ・・・。

 

 

「・・・ふふ、大した人気だな、古」

「真名ほどじゃないアル」

「いやいや・・・しかし、これで負ければ、お前のファンがガッカリしてしまうぞ?」

 

 

観客席には、私の応援をしてくれる格闘系の団体の人間が多くいるアル。

でも、私は彼らの声援のために戦ったことは、ただの一度も無いアル。

 

 

我只要和強者闘(我が望むのは只強者との闘いのみ)。

 

 

名声に、こだわりは無いアル。

それよりも・・・。

 

 

「・・・手加減は無用ネ、真名」

「無論だ。私の戦闘における選択肢に手加減などと言う物は無い。お前こそ大丈夫か? 何か悩んでいたようだが」

「・・・問題、無いアル」

 

 

ぐ・・・と、身体に力を込めて、構えるアル。

真名も、右手を腰のあたりに下げる不思議な構えを取ったアル。

そして・・・。

 

 

『第4試合・・・Fight!!』

 

 

そして、額を撃ち抜かれたアル。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

『こ、これはぁ!? 古菲選手が開始早々に吹き飛んだ―――っ!?』

「クルト議員、これは?」

「ふむ・・・あれは『羅漢銭』ですね」

 

 

我ながら、すっかりと解説役にされてしまいましたねぇ。

まぁ、別に良いですが。

 

 

「中国に伝わる暗器の一種。ありていに言えばコイン投げですね。ただし、気力のこもった達人が放てばあのように、ライフルのような狙撃も可能になります。良い子は絶対に真似してはいけませんよ?」

「なるほど、お兄さんとの約束、と言うことですね?」

「まさにそれです」

「・・・あかん。突っ込みが追いつかへん・・・」

 

 

なにやら自信を喪失されている方がいますが、試合の方も盛り上がりを見せているようですし、華麗に無視と言う行動を選択させていただきましょう。

 

 

立ち上がった古菲選手に、雨あられと500円玉が撃ち出されます。

ふむ・・・お小遣いは大丈夫なのでしょうかねぇ。

 

 

『避ける避ける古菲選手―――っ!』

「ふむ・・・どうやら古菲選手は接近戦に持ち込むつもりのようですね」

「と、言いますと?」

「このスリーサイズまで書いてある解説者用のプロフィールによりますと、古菲選手は中国拳法のスペシャリスト、そして龍宮選手は狙撃の名手とあります。つまりは・・・」

 

 

チュインッ!

 

 

「・・・スリーサイズの部分は太いペンで削除するとして、つまりは古菲選手は接近戦に持ち込むことで活路を見出そうとしているのでしょうね」

「なるほど、龍宮選手の狙撃に屈しつつも、見事な解説です。クルト議員」

「いやぁ、照れますねぇ」

「・・・京都人は関西人やないから、突っ込みできんでもええねんや・・・」

 

 

おお・・・!

と、観客席から声が漏れます。

古菲選手が八極拳で言う「活歩」を用いて、真名選手に肉薄しましたが・・・近距離の『羅漢銭』を顎に受けて、吹き飛ばされてしまいました。

そのまま容赦の無い連撃を受け・・・。

 

 

『こ、古菲選手、ダウ――――――ンッ!!』

 

 

・・・ふむ、良いですね。あの龍宮選手。

ぜひとも、うちに欲しい人材です。

こちらの調べでは、フリーの傭兵と言うことですので、スカウトでも・・・。

 

 

ふと、選手席を見れば・・・。

ネギ・スプリングフィールドは、どうやら涙目で試合を見ているようです。

アリア・スプリングフィールドは・・・。

 

 

・・・なぜか、ロボットと談笑していた。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

くぅー・・・やっぱり真名は強いアルねー・・・。

実力の差は、元より歴然だったアルが・・・ここまでとは。

 

 

「く・・・古老師――――――っ!」

「くーふぇ―――っ、しっかり――――っ!」

 

 

ネギ坊主・・・試合前にも、碌に話せなかったアルね。

まだ、私を老師と呼ぶか・・・。

明日菜は・・・結局は、ネギ坊主の側にいるのアルな・・・。

 

 

ああ・・・師父。

心とは、何でアルか・・・。

それは、私には無い物でアルか?

それとも、すでに私の中にある物でアルか?

 

 

はっきりと、私が間違っていると言ってくれれば、楽だったアルに。

師父は、いつだって、私の悩みに答えてくれたことが無いアルから・・・。

この大会に出れば、わかるかと思ったアルが・・・。

 

 

「古」

 

 

真名が、500円玉の束を手に、私を見下ろしていたアル。

トドメを、刺しに来たアルか・・・。

カウントが進むのを待てば良いのに、真名らしいアルね・・・。

 

 

「終わりか?」

 

 

真名は、ちらりと、視線を横に向けたアル。

戦いの場で真名がそう言う行動に出るのは、本当に珍しい行動アル。

自然、私の視線も、真名が見ている物を追う。

 

 

「見ているぞ」

 

 

アリア先生が、こちらを見ていたアル。

アリア先生。

ネギ坊主と同じ立場にありながら、まるで反対の行動を取る女の子。

私が知る限りで、誰よりも強く・・・そして、誰よりもわからないアル。

 

 

とても冷えた目で、私を見ているアル。

何と言うか、どうでも良い物を見るような目。

あの瞳には、きっと私のことなど、映ってすらいないのでアルかな・・・。

ふふ・・・。

 

 

あんな目で見られたままでは、終わりたくは無いネ・・・!

伝えておきたいことが、残ってるアルから。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

古は、立った。

正直、ほっとした。

私は、超から「なるべく盛り上げて負けるよう」に依頼されている。

まぁ、人気№1の古が一回戦で負けるのも問題だからな。

 

 

そして何より、私はアリア先生と戦いたくない。

あの人と戦おうと思ったら、万全の装備でやる必要があるが・・・。

正面からあの人と戦うなど、バカのやることだ。

そして、こんな所で手の内を見せる気も無い。

 

 

『く・・・古菲選手、妙な布を槍のように―――っ!』

 

 

これは、「布槍術」と言うやつか。

とはいえ、左の手足はもう動かないだろう。

そこに集中して撃ち込んだからな。

片手で操る布の槍など、簡単にかわせる。

 

 

「くっ・・・何の!」

「やるじゃないか・・・だが」

 

 

その手足をさらに狙い撃つ。

左の手足に、さらに500円玉を撃ち込んで行く。

ふふ、超め、必要経費を聞いて腰を抜かさなければ良いがな・・・。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

西側の高灯篭の頂上が、爆発した。

何だ!?

 

 

「真名ぁっ!!」

「・・・しまっ」

 

 

しゅるっ・・・と、左腕に布が巻かれ、さらに古が突撃してくる。

自然、舌打ちをしてしまう。

ジャカッ・・・新しい500円玉の束を右手に落とすが、すでに遅い。

古の無傷の右手が、私の胸に。

 

 

「ぐ、ふ・・・っ!」

 

 

ずしんっ・・・と言う音が、身体の中に響いた。

外傷は無いが、すさまじい衝撃が私の身体を駆け抜けた。

500円玉の束一本を古の身体に一度に撃ち込んだものの・・・。

 

 

ばんっ!

 

 

と、音を立てて、私の衣服の背中の部分が弾け飛んだ。

なるほど、これが浸透勁と言うやつか・・・。

初めて受けたが、なかなか凄いな。

 

 

「・・・やるじゃないか、古」

「ふ、ふふ・・・真名こそ、手加減が上手いネ」

「それは、どう、も・・・」

 

 

その会話を最後に、私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

会場から声が響く。

どうやら、第4試合が進んでいるようだけど・・・。

そちらに興味は無い。

今、問題は・・・。

 

 

「て、てめぇ・・・!」

「え、ちょ・・・この人にも迷惑かけたんですか!?」

「ちょ、おま」

「ごめんなさい! この人性根が腐ってて・・・ごめんなさい!」

 

 

なんだかわからないけど、妹の方が全力で謝り始めた。

・・・妹の方は、簡易石化で良いかな。

どちらにせよ、退場してもらうけどね。

 

 

「お、オコジョフラ――――ッシュ!!」

 

 

1匹のオコジョが、突然全身を発光させた。

僕の視界を奪うのが目的だろうけど・・・。

 

 

「きゃ・・・ちょ、触らないでよ変態!」

「ちょ、おま、おち、落ち着けって! 逃げるんだよぉ――っ!」

「はぁ!? ・・・わかった! あの人も貴方の被害者なのね!」

「男の下着に用はねぇ―――っ!」

「じゃあ、あの人の恋人に迷惑をかけたのね!」

「あいつの彼女なんて知らねぇよ!」

 

 

そこまで騒がしいと、逆に本当に逃げる気があるのか、不思議でならないね。

まぁ、そもそも僕に目眩ましの類は通用しないけど。

いずれにせよ、騒がれるのも面倒だ。

 

 

「・・・ヴィシュタル・リ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

消そうか。

見つかるわけにもいかないしね。

始動キーを唱え終わる頃には、僕はそのオコジョ達の目前にいる。

人間ならともかく・・・オコジョなら、別に消しても問題ない。

 

 

「んなっ・・・!」

「『永久石化(アイオーニオン・ペトローシス)』」

 

 

石化の魔法を、1匹のオコジョに放つ。とりあえず兄と思われる方。

魔法が完成する、その瞬間。

 

 

「『アーニャ・フレイム・バスター・キイィィ――――ック』!!」

 

 

炎を纏った蹴りが、掲げた僕の右手ごと、屋根を踏み砕いた。

次いで、爆発。

 

 

高灯篭の屋根の一部が、爆発と共に吹き飛んだ。

大した威力だ・・・とは言え、僕の障壁を抜いてくる程じゃない。

 

 

「わっ・・・たったっ・・・このっ」

 

 

どうやら、中途半端に石化魔法が完成していたのか、石化しつつあった右足の靴を脱ぎ捨てた。

ごとっ・・・と音を立てて、靴が下に落ちて行く。

 

 

「あ、危なかったわ・・・エミリー、大丈夫!?」

「大丈夫です!」

「俺っちの心配は!?」

「するわけないですぅ」

 

 

かすかに炎を纏ったその髪は、一瞬、焔君を思わせた。

その腕に・・・小さなアリアを抱いていた。

 

 

「・・・キミは」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

何なのよ、もう!

エミリー探してたら、何か怪しいことされてるじゃない。

思わず、蹴り入れたんだけど・・・。

 

 

「あ、あんた、あの時の・・・」

 

 

今朝、ぶつかった男の子じゃない。

やっぱり、綺麗な顔・・・って、そうじゃないでしょ私。

ぼぼっ・・・と、魔力で作った炎を髪に纏わせる。

魔法具『アラストール』・・・私の得意属性の「火」の効果を底上げしてくれるペンダント。

卒業式の日に、アリアがお守りにってくれたんだけど・・・。

 

 

「あんた、人のパートナーに何すんのよ!」

「・・・キミのパートナーとは知らなくてね」

「き、気を付けろ! そいつは・・・」

「ゴミ虫は黙ってるですぅ」

「ゴミ虫って酷くないッスか!?」

 

 

うっさいカモねー、女の子の下着盗む奴はゴミ虫で十分よ。

いや、それよりも・・・。

 

 

「キミは・・・アリアの身内か」

「へ? ・・・あんた、アリアの知り合いなの?」

 

 

腕の中のちびアリアを見ると、「ふぇいとさんですぅ~」とか言って、足をパタパタしてた。

・・・知り合いみたいね。

それも、尋常じゃないくらい好かれてる感じの。

だって、ちびアリアが「みちゃや~ですぅ」とか言って、恥ずかしそうに顔を隠してるんだもの。

 

 

「・・・もう、行った方が良い」

「へ?」

「学園側が、ここを調べに来る。その校章・・・メルディアナの人間だろう? ここにいると不味い」

「ぐ・・・」

 

 

た、確かに、私がコレやったって知れたら、結構不味いわよね・・・。

思わずやっちゃったけど・・・もう少し抑えるべきだったかしら。

この人、悪い人じゃないみたいだし・・・。

 

 

「あ・・・あんたは?」

「僕は大丈夫・・・もし気遣ってくれるのなら、見なかったことにしてくれると嬉しい」

「な、なんで?」

「説明してる時間が無い。それと、エミリー・・・君、だったかな、悪かったね」

「い、いえ・・・こちらこそ、うちのカモミールがいつもご迷惑を」

「俺の信頼度ゼロ!? いや、そいつには迷惑かけてねぇよ!?」

 

 

そうこうしてる内に、下の方が騒がしくなってきた。

本当に、時間が無いわね。

もう少し話、聞きたかったんだけど・・・。

 

 

私は、右手にカモを鷲掴みにすると、頭の上にちびアリアを、そして左肩にエミリーを乗せて、その場から消えることにした。

 

 

「え、えっと・・・ありがとう! あ、あんた、名前は・・・」

「・・・フェイト。それより、早く行くと良い」

「わかった! それと、いきなり蹴ってごめんね!」

 

 

最後に謝ってから、『アラストール』で炎を形態変化して足場を作りつつ、隣の建物まで飛んで行く。

『アラストール』は、炎属性の呪文の補助、威力の増幅・操作性の向上、形態変化させる効果がある。

あと、火と熱に対して耐性も付くから、猫舌対策にもなったりする。

 

 

「やっと捕まえましたよ・・・カモミール!」

「はっ・・・し、しまった!?」

 

 

髪が燃えてるみたいになるから、慣れない内は怖かったけど・・・。

 

 

「ポイント付けとかなきゃですぅ」

 

 

・・・何の話?

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

「・・・およよ? 超さ~ん」

「どうしたネ?」

「西の高灯篭に向かわせた災害用ロボが、全滅しました」

「何?」

 

 

第4試合の最中、西側の高灯篭の屋根が爆発した。

偵察ロボが魔力反応を感知したから、それなりに戦闘機能を有したロボを送り込んだんだけど・・・。

 

 

「全滅とは穏やかじゃないネ・・・どういう状況カ?」

「状況も何も・・・だから、全滅したんですよ」

 

 

4機のロボが、ほぼ同時に破壊された。

しかも・・・。

 

 

「・・・石化?」

「ええ、ロボが全滅しても、鎮火されてたんで不思議に思って偵察型ロボを近付けてみたら・・・」

 

 

かすかに残っていた炎ごと、石にされてた。

データベースで照合してみると、どうも石化魔法らしいんだけど・・・。

でも、なんで石化?

 

 

「破壊した相手の画像は残っているカ?」

「今、壊されたロボを回収して調べてる所です・・・武道会はどうしますか?」

「そうネ・・・鎮火されて危険が無いなら、続けることにしようカ」

「わかりました。では、引き続き第5試合を・・・」

 

 

それでも、石にされたロボからデータチップが回収できるかどうか。

まったく・・・ロボが魔法で壊されるなんて、非科学的過ぎるよ。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

「アリア君を?」

『ええ、そう言う話でこちらに通っているわ』

 

 

麻帆良とメルディアナの会談が続けられている頃、私は別の人物から緊急通信を受けていた。

本当なら、私も会談に加わらなければならないのだが・・・。

相手が相手なので、無視はできなかった。

 

 

「本当なら、昔を懐かしんで挨拶の一つでもと、思うのですが・・・」

『ええ、私もそうしたい所だけど・・・通信が傍受されてもつまりません。話を進めましょう』

「ええ・・・」

 

 

相手は、魔法世界の住人。

アリアドネー魔法騎士団総長、セラス殿。

かつて共に戦った戦友でもあり、高位の術者でもあり、教育者でもある。

 

 

通信の連絡と打診があったのは、昨夜遅くだ。

内容が重要だったので、受けた。

 

 

『メルディアナの方から、非公式の打診があったわ』

「ええ、こちらにも親書が届いています。アーニャ君を通じて、昨夜受け取りました」

『そう、なら話は早いわね・・・』

 

 

メルディアナの親書の内容は、今麻帆良との交渉で切り出している話と、おそらくは同じだろう。

アリア君の卒業を一旦取り消し、別の修行場所と課題を与える。

つまり・・・。

 

 

『我々アリアドネーは、アリア・スプリングフィールドとその「家族」を、受け入れる用意があります』

「しかし、そのためには、アリア君を近衛木乃香の後見人としている我々関西呪術協会の協力がいる」

『ええ・・・もちろん、アリア・スプリングフィールドの「家族」については、こちらで相応の身分を保障した上で、受け入れることになります』

「問題は、多い・・・」

『そうね・・・その内の一つを、貴方が握っています』

 

 

今回、メルディアナは・・・と言うより、メルディアナ校長は泥を被るつもりなのだろう。

なりふり構わず、スプリングフィールド兄妹・・・特にアリア君を麻帆良から引き離すつもりだ。

前回、ネギ君がアリア君を襲撃した際、エヴァンジェリン自らがメルディアナ校長と接触したと聞いているが、何を話したかまでは知らない。

 

 

とにかく、この提案は問題が多い。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのこと。

近衛木乃香のこと。

ネギ・スプリングフィールドのこと。

それに・・・他にも多くのこと。

 

 

「・・・そちらの問題は?」

『こちらで処理します』

「となると、本当に問題は、私の側にあると言うことか・・・」

 

 

やれやれ・・・。

関西の強硬派の放逐が少しずつ進んできたと思ったら・・・。

問題と言う物は、次から次へと出てくる物だ。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

真名さんが負けるとは、意外でしたね。

まぁ、古菲さんも勝ったとはいえ重傷、これは私、自動で準決勝まで行ったんじゃないですか?

 

 

「フフ・・・ついにこの正義の使徒、高音・D・グッドマンの実力を見せる時が来ましたね!」

 

 

その時、ギシリと音を立てて、田中さんが立ち上がりました。

ああ、そう言えば出番でしたね。

 

 

「頑張ってくださいね。田中さん」

「苺ノアップリケ、アリガトウゴザイマス」

「しかる後、ネギ先生! 貴方をこらしめます!」

「え、えええ! どうしてですかぁ!?」

「貴女もです! アリア先生!(びしぃっ)」

 

 

田中さんは、私が差し上げた苺のアップリケを胸ポケットにしまってくれました。

ふふ・・・私、全力で応援しますよ?

 

 

「学園長の指示に従わないばかりか、マギステル・マギ候補と期待されながら<闇の福音>に関係するとは、何を考えているのですか!?」

「服が破れたら、私が縫ってあげますね?」

「アナタノ為ニ、頑張リマス」

「うふふ、お姉さんって呼んでも良いですよ?」

 

 

この田中さん、生まれた・・・と言うか、作られて間も無いからか、とても素直です。

身体は大きいですが、心は素直。

茶々丸さんの弟さんだけあって、とても可愛らしい方です。

 

 

「ちょっと聞いていますか、アリア先生!?」

「お、お姉さま、やめましょう・・・」

「はぁ・・・」

「た、溜息!? 人と話している時に溜息なんて・・・失礼でしょう!?」

「田中さん、あの人ボコボコにする方向でお願いします」

「了解致シマシタ」

「ちょっ・・・!」

 

 

その後も、高音さんは何かを言っていましたが、その何一つとして私の耳には届いていません。

朝倉さんに呼ばれてリングに上がるまで、高音さんは騒いでいました。

やれやれ・・・あ、リングに行く直前に、田中さんの耳をお借りして、ゴニョゴニョ・・・。

 

 

『第5試合、ファイト!!」

 

 

そして始まる第5試合。

開始直後、放たれる田中さんの・・・。

 

 

・・・『ロケットパンチ』。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「いや、ロケットパンチて!?」

「ふむ・・・見事なロケットパンチですねぇ」

「クルト議員!?」

 

 

田中さん・・・機体番号T-ANK-α3は、私の弟にあたります。

昨夜、トーナメント出場者について説明を求められた際、紹介しておきました。

選手席の様子を見るに、アリア先生と良好な関係を築けているようでした。

 

 

工学部で実験中の新型ロボット兵器です。

現在、自己学習機能の実験のために、何でも知識を取り込む状態にあります。

その吸収率たるや、生まれたばかりのヒヨコの如しです。

 

 

「いや、ロケットパンチて・・・ええんかアレ!?」

「武道会ルールには抵触しません」

 

 

千草さんの指摘に、冷静に解答します。

事実、ルールにロケットパンチを禁止する規定はありません。

 

 

リング上では、高音選手が田中さんのロケットパンチから逃げ回っていました。

どういうわけか、田中さんはビーム兵器を使用しません。

使用制限はかけていなかったはずですが・・・。

 

 

田中さんは高音選手の手足を掴むと、そのまま振り回すと・・・。

場外の水の中に、放りこみました。

 

 

「ほう・・・?」

 

 

クルト議員が、物珍しげに、それを見ていました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・あれは、お前の入れ知恵か?」

「ええ、まぁ・・・操影術は自分の影を操るのが基本ですから」

『・・・3!』

 

 

右眼の魔眼で高音とか言う女を窺いながら、アリアは愉快そうに笑っていた。

確かに、操影術は影がなければ使えないからな。

水の中では、操る影を作るのも一苦労だろう。深さにもよるがな。

リングの方では、朝倉がカウントを進めている。

 

 

「脱がされるよりはマシかと思いましてね」

「脱・・・ああ、昨日茶々丸が言っていたアレか」

 

 

昨夜、茶々丸が田中とか言うあのロボットについて説明していた時、「脱げビーム」とか言う、意味のわからない兵器についても聞いた。

超かハカセかは知らんが、なんでそんな機能を付けたんだ?

・・・ああ、アレか。武装解除の代わりか。

 

 

まぁ、正直、あの女が死のうがどうしようがどうでも良いが・・・同じ女として、尊厳ぐらいは守ってやりたくなったんだろう。

しかし、なんであのロボはアリアの言うことを聞いているんだ?

 

 

その時、水中から黒い触手のような物が幾本も飛び出してきた。

どうやら、それなりに操影術に覚えがあったようで、水中でも作れたらしい。

 

 

それが、田中の両腕を身体と繋いでいたケーブルを切ってしまう。

これで、ロケットパンチは撃てないな。

というか、一般人に見せて言い訳できるのか、コレ。

 

 

「・・・出てくるぞ」

 

 

バカ鬼の声に頷いた瞬間、ざばぁっ、と音を立てて、高音が水中から姿を現した。

がしぃっ、と手すりを掴み、身体を引き上げてくる。

そのまま、手すりの上に立って。

 

 

「もう怒りましたわ! 今から私の真の力を見せて差し上げます! このでくのぼ『・・・10!』う・・・って、へ?」

 

 

手すりの上に立ったまま、高音が呆けたような表情を浮かべた。

一方で、朝倉がカウントを終了していた。

手すりの上で口上など言わず、すぐにリングに戻っていれば、間に合ったろうがな。

 

 

『試合終了――――っ! 勝者、田中選手!』

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

『何スか高音先輩、カウントはちゃんと数えてましたよ? 水に落ちてから10秒間」

「なぁっ・・・!」

『うん・・・? おおっと、両腕を破損した田中選手、工学部の生徒からドクターストップ。次の試合への出場を棄権。これは波乱の展開だ――――っ!』

 

 

・・・どうやら、どちらも一回戦で終わるらしい。

なんとも、締まりの無い結果だな。

高音は、しばらくその場でワナワナと身体を震わせた後、ガクリと項垂れていた。

まぁ、実力はそれなりにあったようだが、性格が災いしたな。

 

 

いずれにせよ、これでぼーやとタカミチのどちらかが、準決勝に進むわけか。

うん?

そのタカミチはどこに行った?

クウネルの姿も見えないようだが・・・。

 

 

「エヴァさん?」

「ん、ああ、いや・・・」

 

 

工学部の生徒に囲まれる田中を心配そうに見ていたアリアが、不意に声をかけてきた。

それに曖昧な笑みを返しながら、やはりクウネル達のことを考える。

 

 

また、何か面倒なことをしなければ良いのだが・・・。

奴らの善意は、こちらにとっては悪意であることの方が多いからな。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「まったくもー、月詠のねーちゃんは、手加減てもんを知らんのやから・・・」

「うふふ、すみませんな~」

「頼むで、ったく・・・」

 

 

月詠のねーちゃんと話しながら、お詫びやとか言うて貰うたジュースを飲む。

言いたかないけど、死ぬほど不味い。

なんやこの、「思い出の夏色ピーチ」て、意味がわからんわ・・・。

 

 

「・・・おろ?」

 

 

自販機コーナーから戻っとる途中で、月詠のねーちゃんが何か見つけた。

何やと思うて見てみると、えーと、高畑とか言うにーちゃんと、クウネルとか言うにーちゃんがおった。

明日菜とか言う、いつもネギと一緒のねーちゃんもおった。

何や知らんけど、医務室の方から出てきたみたいや。

 

 

「・・・何やろ?」

「さぁ~・・・興味ありまへんわぁ」

「月詠のねーちゃんは、相変わらずやなぁ」

 

 

まぁ、そう言う俺も、興味あらへんけどな。

何か、深刻そうな顔で話しとるみたいやけど・・・。

 

 

「あ、小太郎君だ」

 

 

いつもの口調、そしていつも通りのタイミングで、夏美ねーちゃんが登場した。

いつも思うけど、狙っとるんとちゃうか、コレ?

 

 

「良かったー、会えて」

「夏美ねーちゃん、どないかしたんか?」

「ほな、うちは先に戻っとりますよって」

「え、お、おう・・・」

 

 

すすすす・・・みたいな不思議な動きで、月詠のねーちゃんが先に行ってしもた。

後に残されたんは、俺と夏美ねーちゃんだけや。

 

 

「えっと・・・凄かったよ、一回戦。小太郎君、強いんだね」

「お・・・おう! 当然やろ、男やからな!」

 

 

まぁ、正直すぐに終わってしもたから、夏美ねーちゃんはつまらんかったかな、とか思っとったんやけど・・・。

 

 

「相手の子も、助けてあげたりして」

「まぁ、男やからな! 女は傷つけへん主義やし」

「・・・・・・」

 

 

な、なんやね、その目。

ま、また何か俺、不味いこと言うたんかな・・・。

ど、どないすればええんやろ、千草ねーちゃんはこういうの教えてくれてへんし・・・。

えーと、こういう場合は・・・。

 

 

「と、ところで、夏美ねーちゃんは、こんな所でどないしたんや?」

「え・・・あ、うん。それがね、私これから公演のリハ行かなきゃいけなくて」

「・・・試合、見れへんってことか?」

「うん・・・あ、お昼までには、戻って来れると思うんだけど」

 

 

昼か・・・確か、決勝がそれくらいだったはずや。

 

 

「・・・決勝戦には、来れるんか?」

「んー、たぶん。私出番短いし、抜けて来られると思う」

「さよか・・・」

 

 

それやったら、俺が優勝する所は、見せたれるかな。

ある意味、そのために出たような・・・いや、一番は強い奴と戦うためやけどな!

 

 

「小太郎君、アレ持ってる?」

「アレ・・・ああ、コレか」

 

 

ゴソゴソと、学生服の中のポケットから、試合前に夏美ねーちゃんから貰うた石ころを取り出した。

見たことの無い字が書いてあるんやけど、魔力とかも感じひんし、ただの石や。

お守りやて、くれたんやけど・・・。

 

 

「これの何がお守りなんか、ようわからん」

「うん、実は私も」

「なんやそれ」

 

 

言いながら、夏美ねーちゃんも自分の石を取り出した。

それを、俺の石にコツン、と合わせてくる。

・・・何や、こっぱずかしぃわ。

 

 

「何やるんか、未だによーわからんけど。夏美ねーちゃんも頑張りや」

「だから、演劇だって・・・でも、ありがと。小太郎君も、頑張れ」

「・・・おぅ」

 

 

ニコッと、笑ってくる夏美ねーちゃん。

・・・なんや、気恥ずかしゅうて、顔が見れへんかった。

なんでかは、わからんけど。

 





さよ:
相坂さよです。初めまして(ぺこり)。
今回は私です。よろしくお願いしましゅ・・・噛んじゃいました。
え、えーと、今回のお話は、一回戦の二試合ですね。
アリア先生のお友達のアーニャさんが何やら大変なことになっていました。
なんだか、人間関係が複雑です・・・。


今回登場の魔法具は、これです。
アラストール(灼眼のシャナ):haki様提供です。
苺の魔大福:霊華@アカガミ様提供です。
ありがとうございましたー(ぺこり)。


さよ:
えっと・・・次回は、ネギ先生と高畑先生の試合、あと月詠さんの試合があるかもです。
それでは、すーちゃんのご飯を作らなくちゃいけないので、これで失礼しますね。
じゃあ、ありがとうございましたっ。


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第59話「麻帆良祭二日目・子供」

Side アリア

 

―――――ドゴンッ!!

 

 

「・・・む」

 

 

リングの中央から放たれたその轟音に対して、エヴァさんが声を漏らしました。

その表情からは、純粋に「驚いた」と言う色が窺えます。

そして一方で、私が感じている感情は「意外」・・・と表現した方が正しいでしょう。

まさか・・・。

 

 

まさか、タカミチさんがネギに対し、殺しかねない勢いで『豪殺・居合拳』を撃つとは。

しかも、直撃で。

 

 

『た、大砲が着弾したかのようなパンチッ・・・と、と言うか、ネギ君生きてる!?』

 

 

朝倉さんも、アナウンスを中断してしまう程、今の一撃は重かった。

音も、そして感じた気の質も。

タカミチさんは、かなり本気で撃ち込みましたね。

ネギは・・・リングの中央で、砕けた床板に埋もれています。

 

 

その光景に、会場も静まり返っています。

ちらりと、少し離れた位置にいる明日菜さんを見れば・・・。

顔面を蒼白にしてはいましたが、騒ぎもせず、ただ見ていました。

ふん・・・? もっと騒ぐ物かと思いましたが。

 

 

「ぼーやは・・・まぁ、生きているな」

「ええ、残念ながら」

 

 

まさか、殺しはしないでしょう。

そこまではされると、逆に困ります。

まぁ・・・試合開始から5分、と言う所でしょうか?

 

 

「居合拳を打つ前に、何かゴチャゴチャと話していたようだが・・・」

「『どうして超君に協力しているのか』・・・と言っていたでござるな」

「長瀬さん・・・いつの間に背後に」

「ニンニン」

 

 

長瀬さんが、いつの間にか腕を組んで立っていました。

細い目を片目だけ開いて、タカミチさんの方を見ています。

 

 

「かなり小さい声で話していたので、それ以上は聞き取れなかったでござるが・・・」

「なぜ背後に・・・?」

「背後に控えるのが、定石かと思ったでござる」

「何の定石だ、何の」

「ニンニン」

 

 

エヴァさんの言葉に、しゅたっ・・・と姿を消す長瀬さん。

 

 

「・・・また、妙なのに好かれおって・・・」

「ええ!?」

 

 

エヴァさんの言葉に、心外とばかりに驚きます。

今の、そう言うことなんですか?

そういえば、さよさんの時も似たようなパターンだったような。

・・・まさかぁ。

 

 

しかし、それはともかく、超さん関連の話のようですが・・・。

協力と言うのは、ネギが超さんの計画に協力している、と言う理解で良いのでしょうか?

仮にそうだとして、なぜタカミチさんがそれを知っているのか。

 

 

思い当たる節があるとすれば、青い顔で座っている明日菜さんですが。

さて、私の知らない内に何が進展しているのでしょうね・・・?

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「ちょ、ちょ、高畑先生! ここまですることないじゃん!」

「ああ・・・」

 

 

朝倉君の言葉に曖昧に答えながら、僕はタンカで運ばれていくネギ君を見ていた。

意識があるのかはわからない。

けれど、骨の何本かは確実に折れているはずだ。それくらいの威力で撃った。

 

 

本当なら、ナギの息子と手合わせできることを喜び、楽しみたかった。

アルの下で修業しているというネギ君の力を、知りたかった。

 

 

「・・・すまない」

 

 

医務室の方向へ消えていくネギ君に、ポツリと謝った。

それは、何に対しての謝罪なのだろうか。

自分でも、わからなかった。

ただ、彼を救うには、こうする他無かった。

 

 

超君に協力し、世界に魔法をバラす、などと言うことに協力しようとしている彼を救うには。

計画が発動する前に、ここでリタイアさせるしか、無かった。

僕には、他に妙案が浮かばなかった。

明日菜君は大会の後で話すつもりだったと言っていたが、大会の後で話すのでは、おそらく遅い。

 

 

選手席の方の明日菜君を見る。

青い顔で、僕の顔を見ていた。彼女には、辛い役目を押し付けてしまった。

アルに言われてか、あるいは自分で考えてのことかはわからないけど・・・。

僕に相談するのに、どれだけ苦悩しただろうか?

そして今も、どれだけの罪悪感に苛まれているだろうか?

 

 

「・・・ふぅ」

 

 

思わず、息を漏らした。

ネギ君は言った。

超君の計画なら、今も苦しんでいる人達を救うことができると。

父さんでも・・・ナギでも、きっとそうしただろうと。

 

 

・・・まぁ、正直、ナギがどうしたのかは僕にもわからない。

細かいことを考えるような人じゃ無かったしね。

ただ、超君の理屈はわかった。なるほど、彼女は一面においては正しいのかもしれない。

だが・・・。

 

 

「朝倉君」

「な、なんですか?」

 

 

だが、今僕がやるべきことはわかった。

 

 

「超君は今、どこにいるのかな?」

 

 

僕が殴られるのは、それからで良い。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「ね、ネギせん、せ~・・・」

「の、のどかっ!? しっかりするです!」

「うぉ!? リアル失神!?」

 

 

ネギ先生がタンカで運ばれていた時、限界が来たのか、のどかさんが倒れた。

まぁ、想い人のあんな姿を見れば、卒倒の一つもしますよね・・・。

 

 

「さ、さよちゃん、ごめん! 私達のどかを医務室に連れてくわ!」

「あ、はい。わかりました」

「ついでにネギ君の様子も見に行けるし、一石二鳥?」

「そんなことを言ってる場合ですか!?」

「はいはい、あんたはのどかのことになると、いつも真剣ね~」

 

 

逆に、こんな時でも平静でいられるハルナさんの方がすごいと思うんだけど。

と言うか、慌てふためくハルナさんのイメージがあんまり無いです・・・。

 

 

のどかさんは綾瀬さんとハルナさんに両側から支えられながら、医務室の方へ歩いて行きました。

まぁ、一応お大事にと、思っておきます。

私は、エヴァさんとすーちゃんの試合が近いから行けないけど。

ただ・・・。

 

 

「・・・ネギが負けてもーた・・・」

 

 

隣で、小太郎さんが凄く落ち込んでた。

なんでここにいるかと言うと、お客さんが一杯で選手席に辿り着けなかったみたい。

ちなみに月詠さんは、次が試合だから控室に行ったって。

 

 

「マァマァ、イージャネーカベツニ」

「そうじゃそうじゃ。あの小僧は一回で負けたが、主は一回勝ったのじゃろ? じゃあ主の勝ちも同然じゃろ」

 

 

チャチャゼロさんと晴明さんが、私の頭の上と腕の中から小太郎さんを慰めてた。

確かに、小太郎さんは一回戦を突破して、ネギ先生はできなかったけど。

 

 

・・・これ、私が腹話術で子供を慰めてるみたいに見えるのかなぁ・・・。

私も、今日は結構大変なんだけど・・・。

 

 

 

 

 

Side 超

 

「あらら・・・」

 

 

ハカセが、「どうしましょうかコレ」みたいな表情を浮かべていたネ。

大丈夫、私も同じ気持ちヨ。

まさか、ここでネギ坊主が負けてしまうとは思わなかったネ。

 

 

カシオペアは使っていたようだが・・・指輪は使う間も無かったようネ。

・・・まぁ、それは良いが、あの会話はいただけないネ。

ネギ坊主も律儀に受け答えしなくて良いのに・・・。

 

 

「どの程度の情報が漏れたかネ・・・」

「偵察機によると、ネギ先生は超さんの名前だけ出してましたけど」

「問題は、他に誰か漏らした人間がいるかどうかネ。明日菜サンか、綾瀬サンか・・・」

 

 

それによって、こちらの人員がどの程度バレたかどうかがわかるネ。

計画の詳しい部分については、何一つ教えていないから良いとして・・・。

・・・こういう時は、最悪の場合を想定して動いた方が良いネ。

 

 

と言うか、小声とは言え、リングの真ん中で計画についてベラベラ話すのはどうかと思うヨ、ネギ坊主。

 

 

「・・・仕方が無いネ。ハカセは最低限のデータを持ってここを出るネ」

「わかりました」

「龍宮サン、ハカセの護衛を頼むネ」

「了解した・・・が、高畑先生の相手はしなくて良いのか?」

「構わないヨ」

 

 

古との戦いの後、龍宮サンにここで待機して貰っておいて正解だったネ。

けど、申し出はありがたいガ、対高畑先生で龍宮サンの助力は必要無いネ。

 

 

どのみち、いつかはぶつかる相手ネ。

それが少々、早まっただけヨ。

それに・・・高畑先生は、私をご指名みたいだからネ。

一応、「ヴァラノワール」の一員としては、指名には応える義務があるからネ。

ただし、料金は3倍払ってもらうヨ、高畑先生?

 

 

「私一人で、十分ネ」

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「大丈夫、タカミチ君なら、上手く話をまとめてくれますよ」

 

 

クウネルさんは、そう言ってたけど・・・。

でもやっぱり、告げ口みたいで良い気はしなかった。

確かに、高畑先生にはどこかで相談しようと思ってたけど・・・。

 

 

でも、ネギがあんな風にされるなんて思わなかった。

本当なら、すぐに駆け寄りたかった。

けど、クウネルさんに止められた。

私には何もできないって、言われたような気がした。

 

 

高畑先生には・・・全部話した。

ネギが、超さんの手伝いをしてるってこと。

時間も無かったし、私も全員は知らないから、誰が超さんの仲間かは後で話すことになったけど・・・。

・・・と言うか、超さんがどこで何をするまでかは、私も知らないし・・・。

 

 

改めて、思う。

私って、何も知らないんだ。

 

 

『さぁ・・・ハプニング続きではありますが、次の試合は・・・』

 

 

でも、証明してみせる。

私だって、何かの力になれるんだってことを・・・って。

 

 

『今大会の華、神楽坂明日菜選手と天崎月詠選手です! 可愛らしいメイド衣装で登場―――っ!』

「ちょっ、コラ、朝倉ぁっ! 何よこの服!」

『いや、着た後で言われても困るって言うか・・・』

 

 

ぐ・・・確かに、ぼーっとしてて何に着替えてるんだか、わからなかったけど。

でも、クウネルさんに「ぼーっとしてればイケる」って言われたから・・・。

 

 

「いやぁ~・・・照れます~」

「あんたは京都でも似たようなカッコしてたでしょ!?」

「ゴスロリとメイドは別物ですえ~」

 

 

意味のわからない返し方をされた。

何よこいつ・・・京都でも昨日の予選でも怖かったけど・・・。

今は、なんだかほんわかしてるって言うか・・・って。

 

 

「それに、何よそのデッキブラシ! ふざけてんの!?」

「センパイに聞いたら、くれはりました。と言うか、ハリセンの人に言われたくないどす」

 

 

ぐ・・・確かに、ハリセンだけど!

私のはアーティファクトで、ただのデッキブラシのあんたとは違うのよ!

 

 

『はいはい、じゃあ・・・両者の準備ができた所で』

 

 

・・・とにかく、証明してみせる。

私だって・・・!

私だって、あいつのために、何かできるってことを!

 

 

『第7試合、Fight!』

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「・・・なってませんね」

「そうですねぇ。実になっていない」

 

 

月詠はんの試合が始まった直後、茶々丸はんとクルト議員が、同じことを言うてしきりに頷いとった。

何や、うちは月詠はんが暴走せぇへんように見とかなあかんのやけど。

 

 

「「ミニスカにすれば良いって物では(ないでしょう)(ありません)」」

「そこかいっ!」

 

 

何を言うかと思えば、そんなことかい。

いや、確かに丈短いし? 動くたびにチラチラ見え・・・そこ、ガン見しとるんやない!

呪うで、こらぁ!

 

 

「それにしても・・・」

 

 

あの神楽坂とか言う子も、結構やるなぁ。

あの月詠はんと、それなりに打ち合うとる。

月詠はんは、神鳴流の奥義とかを使ってないとは言え・・・。

 

 

「・・・咸卦法」

「は?」

「いえいえ、何でもありませんよ」

 

 

何でも無い言うてるけど、うちの耳には確かに聞こえとった。

咸卦法と。

確か・・・なんやったか。

高畑はんの試合の時にも、何か同じ単語を聞いた気がするな。

 

 

あの・・・気の中に、魔力が混ぜ合わさったような奴が、咸卦法とか言う物か。

どういうわけか、あの子のは、えらい不安定で出力が安定してへんけどな。

確かに多少、力と速さは上がるみたいやけど・・・月詠はんが興味抱く程や無いやろ。

 

 

「これくらいやったら、大丈夫かな・・・」

 

 

正直、暴走するんやないかって不安でしゃーなかったんやけど。

どうやら、安心してもええらしい。

 

 

今の所、は・・・?

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

月詠のねーちゃん、退屈そうやな~。

相手のねーちゃんも、そこそこ頑張ってはおるんやけどな。

相手が悪かったとしか言えへんな。

 

 

「月詠さんって、やっぱり強いんですね」

「そりゃあな。神鳴流やったか? 流派の技は大体使える言うとったし」

 

 

チャチャゼロはんと良く、「キャハハ」とか言いながら斬り合うとるし。

最近は、刹那のねーちゃんにも絡んどるし。

その意味では、結構楽しい生活送っとるんちゃうかな。

 

 

俺も、スクナとか言うにーちゃんと良く喧嘩しとるし。

・・・全然、勝てへんけどな。

負ける度に畑仕事させられるのはなんでやろな・・・たまに変な化物でよるし。

 

 

「月詠のねーちゃんは、何と言うかな・・・読めへんねんな。太刀筋がな」

「アア、ソリャワカルキガスルナ」

「どういうこと?」

「なんと言ったらええかな・・・月詠のねーちゃんは、殺気と言うか、邪気の塊みたいな人でな?」

 

 

こう・・・喧嘩しとると、「決める!」って感じの一撃には、気がこもるって言うか、殺気とか覇気がこもるもんなんやけど。

月詠のねーちゃんは、全身が凶器(てか、狂気)やから、いつが「決める!」の攻撃なのかわからん。

と言うか、最初から最後まで「斬る!」って感じの人やから・・・。

 

 

う~ん・・・さよのねーちゃんにもわかるように言うんは、難しいなぁ。

でも、千草のねーちゃんは「人に説明できんことは自分もわかってへんねや」って言うとったし。

喧嘩とか戦いのことが説明できんかったら、俺何にも説明できひんから・・・。

 

 

「えーと、何と言ったらええかな・・・」

 

 

・・・!

 

 

今、何か・・・。

こう、ザワザワ来るような感じが。

 

 

「あ・・・」

 

 

さよのねーちゃんの声に、視線をリングの方に動かすと。

月詠のねーちゃんが・・・。

 

 

解説者席の方から、誰かが飛び出すのが見えた。

やっば・・・!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・神楽坂明日菜は、咸卦法が使えるのか」

「ええ、そうです・・・言ってませんでしたっけ?」

「ああ、聞いていないな」

「じゃあ、今言ったから大丈夫ですよね?」

「お前な・・・まぁ、別に良いが」

 

 

まぁ、明日菜さんの咸卦法は、マスターであるネギがこの場にいないためか、あるいは修行不足なのか、もしくはその両方か、ひどく不安定で弱い物ですが。

あれでは、常人よりも少し強くなる程度の力しか得られないでしょう。

 

 

「かんかほーってのは、あの、モニャモニャした変な奴か?」

「スクナさんがどんな理解でアレを見ているかはわかりませんが、たぶんそれです」

「それにしても、なぜ神楽坂明日菜が、高等技法である咸卦法が使えるんだ?」

「さぁ・・・私も、詳しいことまでは。才能じゃないんですか?」

「お教えしましょうか?」

 

 

エヴァさんと話していると、無粋にも割り込んできた人がいました。

クウネル・サンダース・・・もとい、アルビレオ・イマ。

 

 

「どうぞ、クウネルのままでお願いします」

「わかりました、アルビレオ・イマさん」

「ふん・・・良いだろう、アル」

「なんだかわかんないけど、わかったんだぞ。変なローブのアルビレオ」

 

 

殺されたって、クウネルとは呼んであげません。

修理中の田中さんにも、そう教え込んでおきましょう。

 

 

「・・・・・・」

「落ち込むな気持ちの悪い。それで、何を教えてくれるって?」

 

 

なぜかいじけたアルビレオさんに、エヴァさんが鬱陶しそうに声をかけます。

まぁ、大体想像はつきますが・・・。

 

 

「・・・明日菜さんについての情ほ「いらん」・・・ほう、ではナギの情ほ「いらん」・・・」

「それで終わりか?」

「・・・理由を聞いても?」

「は・・・」

 

 

アルビレオさんの提供する情報の全てを拒絶したエヴァさんは、唇を笑みの形に歪めると、指を二本立てて見せました。

愉快そうな顔で、一瞬だけ私を見ます。

 

 

「第一に、私はあの神楽坂明日菜に欠片も興味が無い。咸卦法を使えるのは確かに意外だったが、それだけだ」

「なるほど」

「そして第二に、貴様は「ナギが生きている」以上の情報を持っていない。故に交渉の意味が無い」

「・・・・・・」

 

 

そこで、アルビレオさんの表情が初めて変わりました。

なぜ知っているのか・・・そう言いたげな表情。

 

 

お父様が「生きている」ことしか知らない・・・あるいは。

それ以上の情報をここで開示するつもりが無い。

それは、私の『知識』の中にあるもので、エヴァさんにはすでに話しています。

・・・お父様についての情報は、優先的に話してありますから。

 

 

エヴァさんは不死者・・・。

気長に探すと言っていました。

まぁ、なるべく早く見つかると良いですね。

 

 

――――――ぞわり――――――

 

 

わぁっ・・・と、観客が声を上げました。

そして、いつか感じたことのある冷たい感触が、背中を駆け抜けたような気がしました。

何・・・?

 

 

「・・・いけません!」

 

 

アルビレオさんの声に、視線をリングに戻せば。

そこには、巨大な剣を抱えた明日菜さんが、月詠さんに斬りかかろうとする姿。

 

 

月詠さんは右手で顔を覆っていて、かわす様子すら見えません。

でも・・・。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

身体が軽い。力が湧いてくる。

なんで私がこんなに動けるのかは、わからないけど・・・。

と言うかコレ、いつものネギの魔力とちょっと違うような・・・?

 

 

一足飛びに突っ込んで、デッキブラシを弾く。

身体を沈めて、懐に入る。

けどその時にはもう、相手はそこにいなくて・・・距離を取られる。

それについて行く・・・ついて、行ける!

・・・んだけど。

 

 

「・・・あの、クウネルさん」

『はい? なんでしょうか』

「助言とか、いらないんで・・・えっと、やめてくれま・・・ひゃ!?」

 

 

デッキブラシの突きを、上体を逸らして何とかかわした。

あ、危ない・・・。

 

 

『ふむ・・・しかし、貴女はこの試合で自分の力を証明したいのでしょう? ネギ君がもっと、自分を頼ってくれるように』

「だからこそ・・・だからこそ、一人でやらなきゃ、意味が無い気がするんです」

 

 

今回のことだって、私がもっとしっかりしてれば、こんなことにはならなかったはず。

もっと、私が・・・。

 

 

『しかし、それでは勝てない』

 

 

そうかもしれない。

と言うか今でも、押せてはいるけど攻撃は当たらない。

あの子・・・月詠に、反撃する気が無いだけ。

 

 

『それでは・・・ネギ君はずっと、あのままですよ?』

 

 

一瞬、選手席の方を見た。

クウネルさんは、アリア先生達と何か話してた。

 

 

『そうなれば・・・あの子もまた、貴女の前から消えることになる』

 

 

何を・・・。

 

 

『・・・彼のようにね』

 

 

彼?

誰?

だ・・・。

 

 

 

 

 

Side 月詠

 

カラー・・・ン。

 

 

暇やなーとか思って、適当に逃げ回っとったら、なんや・・・。

でっかい剣で、普通に斬られた。

センパイに貰うたデッキブラシ、真っ二つになってもうた。

ま・・・うちには長過ぎて使いずらかったから、ええけど。

・・・この大会って、刃物禁止やったよなー?

 

 

「およよ?」

 

 

カグラザカアスナ・・・長いからアスナでええか。

なんや、でっかい剣を片手で扱うとる。すごいなー。

結構な量の気ぃか何かも出て・・・・・・。

 

 

・・・・・・・・・?

 

 

ツツ――・・・と、顔に生温かい物が流れるのを感じた。

何や・・・随分と、久しぶりな感しょ・・・。

 

 

舌で、舐めとった。

この、味。

 

 

視界が、反転する。

 

 

「・・・ちのあじ」

 

 

・・・うふ。

うふふふふふふ・・・。

うぅふふふふ、うふふふふふふふ、うふ?

 

 

『ちょ、明日菜っ・・・それヤバ―――――――』

 

 

うふ?

何や何や何や・・・。

せっかちなお人やなぁ・・・そんな、うふ、うふふふ。

 

 

そんなおっきな剣、振り下ろしてくれはるなんて・・・♡

わかっとる。うふ。わかっとるよって。

その剣で、殺して欲しいんやろ?

 

 

斬って欲しいやろ?

刻んで欲しいんやろ?

突いて欲しいんやろ?

犯して欲しいんやろ?

身体の隅から隅まで、弄繰り回して欲しいんやろ?

貴女の全てを、うちの好きにしてええて言うとるんやろ?

 

 

せやから、その剣をうちに、渡すために振り下ろしてくれはりよるんやろ?

そうやないと、その剣速の遅さは説明できまへんもんなぁ♡

ああ、でもどうやろなぁ・・・。

 

 

最近うち、ご無沙汰やから、上手くできるか、わからへんわぁ。

ほら、今も何か、身体が動かへ・・・。

 

 

 

「・・・おろろ?」

 

 

 

何や、あったかい物を感じて、視界が戻った。

いつもの視界で目をパチクリとさせると・・・。

 

 

まず、うちはアスナはんを押し倒しとった。

右足の膝で胸を抑えて、それで腕を絡めて、アスナはんに獲物を握らせたまま、逆にその刃をアスナはんの首にかけようかと言う所やった。

あと、ほんの少し力を込めれば・・・首の肉を裂く感触を楽しめる所やった。

アスナはんの引き攣った顔が、せめてもの楽しみかな・・・。

 

 

あと少しで・・・イけそうやった。

なんでイけへんかったのかと、訝しんでみると・・・。

 

 

いつの間におったんか。

小太郎はんが、腕にしがみついとった。

後ろからうちに抱きついとるんは・・・この匂い、千草はんかな。

後は・・・よう見たら、アスナはんの剣に糸がグルグル巻かれとって、これ以上動かんように固定されとった。

はぁ・・・皆してうちの邪魔して。

 

 

・・・また、お預けどすか。

しんどぉ・・・ぃ・・・。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

もう少し、暴れられるかと思うとった。

そうでなくとも、最近は何も斬ってへんかったから。

こういう言い方するんは嫌やけど、溜まっとるはずやから。

 

 

「・・・千草ねーちゃん。月詠のねーちゃん、寝とるで」

「何やね、それは・・・」

 

 

見てみたら確かに、月詠はんは、くーくーと寝息を立てとった。

あんまりにも呑気な顔して寝とるもんやから、そのまま相手の子から身体を引き離して、膝に頭を乗せたった。

そのうち、タンカとか来るやろ。

 

 

ああ、それにしてもヤバかったわ。

今の立場で人斬りとかさせたら、シャレにならんことになる所やった。

いや、そんなんは言い訳やな。

うちはただ・・・。

 

 

「よう間に合うてくれたな、小太郎。正直、うち一人やったらどうにもならんかった」

「月詠のねーちゃんがヤバなったら全部放って止めに来い言うたんは、千草ねーちゃんやろ?」

「・・・そうやな、そうやったわ」

 

 

片手伸ばして、小太郎の頭をクシャクシャと撫でる。

実際、小太郎が来んかったら、あと一歩が届かんかったと思う。

うちのやのうて、他の一歩が。

 

 

『な、なんだか良くわかりませんが・・・神楽坂選手の手にあるのは刃物! つまり失格・・・そして、天崎月詠選手の勝利――――っ!』

 

 

実況の子が何か言うとるけど・・・。

棄権や棄権。月詠はん寝とるし。

武道会なんか知らん。

少しはストレス解消になるかと思って、参加を認めたんやけど・・・逆効果やったかな。

 

 

「あ、あの・・・」

 

 

神楽坂明日菜・・・神楽坂はんが、おそるおそると言った感じで、うちらに話しかけてきた。

なんとも弱り切った顔をしてからに・・・。

 

 

「ご、ごめんなさい、私・・・!」

「ああ、ええよええよ。謝らんといて、鬱陶しい」

 

 

タンカを待つのも億劫になってきたな。

とりあえず、月詠はんを背負って・・・あ、でも医務室には行きたぁないな。

どっか他に、寝かせられる場所無いかな。

・・・ああ、解説者席に居座っとる黒服を三人ばかりどかせば場所作れるな。

 

 

それで行こか。

 

 

「小太郎、ひとっ走り、毛布か何か持ってきてくれるか?」

「俺、次の次の試合なんやけど・・・」

「・・・小太郎?」

「あーい・・・」

 

 

神楽坂はんが、なんとも所在なさそうに立ち尽くしとるけど。

そっちは、どうでもええわな。

うちは別に、あの子を助けるために月詠はんを止めたわけやない。

 

 

うちはただ、月詠はんに人を斬ってほしくなかっただけや。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「流石は高畑先生・・・と、言った所カナ?」

 

 

超君は、謎が多い生徒だ。

2年前に現れた以前の情報が無く、魔法使いのことを始めから知っていたかのような行動をとる。

 

 

「強化服無しとは言え・・・私をここまで追い詰めるとはネ」

「どこのラスボスだい、キミは・・・」

「あながち、間違った表現ではないネ」

 

 

おかしそうに笑う超君。

そんな彼女の周囲は、僕の居合拳で破壊されたコンピュータの残骸が散乱している。

すでに接触して5分、未だ有効打を与える所までは行っていない。

 

 

「・・・超君、キミの目的はなんだ?」

「うん? これはまた、つまらないことを聞くネ・・・」

 

 

本当につまらなそうな顔で、超君は言った。

どうしてだろう、その一連の仕草が、誰かに似ている気がした。

 

 

「私の目的は、先ほどネギ坊主が言った通りネ」

 

 

瞬間、ブゥン・・・と、部屋中に映像が映し出された。

そこには、僕とネギ君の試合・・・と言うか、会話が。

 

 

『・・・タカミチ。確かに、超さんの計画の全てが正しいかどうか、僕にもわからないよ、けど!』

『ネギ君・・・』

『けど、それでも、ありふれた悲劇に苦しむ人を何割か救うことができるなら・・・僕は、迷わずにそれを選ぶよ。だってそれが・・・マギステル・マギの仕事でしょう?』

 

 

それは違う、ネギ君。

それはとても、危険な考え方だ・・・僕達は、万能じゃない。

世界はそんなにも、簡単にはできていない。

何割かを救えたとしても・・・次の瞬間には、別の何割かが、飢餓と貧困に喘いでいる。

 

 

それが、世界だ。

 

 

『なら、どうすれば良いの? その人達を見捨てるの? タカミチは・・・父さんの仲間なのに』

『ネギ君、それは』

『そんな・・・そんなの、父さんなら、父さんならきっと』

 

 

超君はそこで、感慨深そうに頷いた。

 

 

「父さんならきっと、全てを諦めない・・・良い言葉だネ。良い言葉は決して無くならないヨ」

「・・・そんな大それたことじゃない、ただ、彼は、ネギ君は・・・」

「ネギ坊主は?」

「ネギ君は・・・・・・子供だっただけだ」

 

 

あの後、二言三言話した後、ネギ君は泣き喚きながら僕に向かってきた。

何を話したのか、はっきりとはもう、思い出せない。

ただ、愕然とした。

 

 

その姿は、まるでただの子供で・・・いや。

ネギ君が、10歳の子供だと言う当たり前のことを、今さら思い出したのだから。

いや・・・初めて、気付いたと言っても良い。

 

 

「超君・・・キミの目的はなんだ?」

「・・・だから、魔法を世界に公表するのヨ」

「それだけでは、無いはずだ」

 

 

そう、それだけなら・・・酷な話だけど、ネギ君は必要なかった。

いや・・・誰かと組む必要も無かったはずだ。

僕達魔法使いに度々絡んで、警戒させることも無かったはずだ。

 

 

「キミは・・・いったい、何者だ?」

 

 

僕の言葉に、超君はただ、唇の両端を笑みの形に歪めて・・・。

笑った。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

しゅるしゅる・・・と、『ラッツェルの糸』を回収します。

いや、今一歩反応が遅ければ、明日菜さんの首がスッパリ行ってましたね。

・・・明日菜さんが明日菜さんのアーティファクトで斬れるのかはわかりませんが。

 

 

「・・・お節介だな、お前も」

「面倒事は御免です・・・とはいえ、間に合わなければそれまでとも思いましたし」

 

 

『ラッツェルの糸』の糸が、明日菜さんの無効化能力で消える可能性もありましたし。

結果としては、糸自体は普通の糸ですし、明日菜さんに知覚されない範囲でなら無効化されないのかもしれません。

 

 

それはさておき、結局の所、明日菜さんは負け、月詠さんは棄権の方向でまとまるようです。

タカミチさんの姿も見えませんし、これはひょっとして、エヴァさんとスクナさんの試合が事実上の準決勝になるのではないでしょうか。

・・・あ。

 

 

そういえば、次はエヴァさんとスクナさんの試合ですか。

あー・・・どっちを応援した物ですか。

まぁ、ここは無難に「どっちも頑張って」とか言ってお茶を濁しておきますか・・・。

 

 

「ど・・・」

 

 

ところが、最初の一歩で躓きました。

なぜなら、場の雰囲気が「どっちも応援」とか言うレベルの物では無かったからです。

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・ふ」

 

 

どう言うわけか、立ち上がったスクナさんが、上からエヴァさんを見下ろしていました。

眼光は鋭く、金色に染まっていました。

さっきまで両手でマンガ肉をパクついてたくせに、やたらとカッコ良い雰囲気。

エヴァさんはエヴァさんで、足を組み、悠然とその視線を受け止めています。

・・・え、この人達、こんな雰囲気出せたんだ・・・。

 

 

「・・・先に行くぞ」

「ああ・・・」

 

 

そのまま、スクナさんはリングの方へ向かいました。

な、なんであんなにやる気に満ちているのでしょうか?

 

 

「・・・何か、こう、スクナさんから覇気的な物が見え隠れするのですが」

「ん・・・まぁ、何。大した理由じゃないさ」

 

 

何でも無いことのように、エヴァさんは言いました。

 

 

「私に勝ったら、さよをやると言っただけだ」

「ああ、なるほど・・・それはやる気、出ますよね」

 

 

まぁ、すでに熟年夫婦な雰囲気出してますけどね、あの2人。

今さらと言えば、今さら・・・って、えええええええええぇぇぇっっ!!??」

 

 

「やかましいぞ。大声を出すな」

「え、な・・・なんでそんなことになってるんですか!?」

「何でも何も・・・そうでもなければ、あいつが普通の人間も参加する大会に出るわけ無いだろ」

「いや、でも・・・え、さ、さよさん本人の意思は!?」

「もちろん、伝えてある。当人もそれで良いそうだ」

 

 

き、聞いてない・・・!

この展開、聞いてませんよ・・・!

 

 

「まぁ、何・・・安心しろ、悪ふざけで言ったわけではない」

 

 

ぽむっ・・・と、私の頭に手をおいた後、立ち上がるエヴァさん。

その身体からは・・・やる気満々な魔力の奔流が。

魔眼で見ている私には、エヴァさんの小さな身体に凝縮された力が、生で視えています。

殺気と書いて「やるき」と読む感じの。

 

 

「殺してくる」

 

 

そのまま、トコトコと歩いて行ってしまうエヴァさん。

・・・これは。

 

 

これは、私、どうすれば良いのでしょうね、シンシア姉様・・・!

家族間の修羅場とか、勘弁してほしいんですけど。

 

 

アリアは、こんな修羅場に遭遇したことが、ありませんよ・・・!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「かふっ・・・!」

「いいんちょがショック死した―――――っ!?」

「だから、見せない方が良いって言ったじゃん――――っ!」

 

 

・・・?

なんだか、隅の方が騒がしいな。

何か、パソコンの前で騒いでいたようだが。

 

 

「せっちゃん、せっちゃん」

「は・・・」

「はい、あ~ん♡」

「・・・!」

 

 

電流が走ったかのような衝撃が、身体を駆け抜けた。

 

 

素子様の『紅蓮拳』を喰らった時も、これほどでは無かった。

私の目の前には、和風なデザインのメイド衣装に身を包んだこのちゃんが、私に「いちごのクラフティ」を一掬い乗せたスプーンを差し出している。

 

 

「あ~ん♡」

「あ、あ、あ、あ、あ~・・・んぐっ」

 

 

むぐっ・・・と、口の中に入ってくる甘み。

しかし、具体的な味が何ひとつわからなかった。

 

 

ムグムグと飲み込んでいると、このちゃんが私を見て、ニコッと笑いかけてくれた。

喉に詰まるかと思った。

 

 

ああ・・・何と言う無邪気な笑顔か。

この笑顔のためにならば、私は・・・。

 

 

「じゃ、次はコレ・・・「クリスタルいちごムース」や♪」

「は、はぁ・・・」

「はい、あ~ん♡」

「・・・!」

 

 

さっきから、この繰り返しだ。

どこぞの馬の骨がこのちゃんと食事をするなど看過できようはずもないので、フルタイムで指名したわけだが。

いつの間にか、このちゃんに餌付けされている気分になってきた。

 

 

しかし、どうでも良いことかもしれないが・・・。

壁に貼られているメニューを見る。

 

 

・・・「いちごのチョコレートフォンデュ」「豆乳のブラマンジェいちごソース」「いちごのブッセ」「いちごのヨーグルトムース」「いちごのミルフィーユ」・・・。

 

 

・・・苺、多くないか?

 





エヴァ:
エヴァンジェリンだ。今日は私がやる。有難く思え。
今回の話の特徴は、ぼーやとタカミチの試合をごっそり抜いたことだな。
というか、描写が無い。何を考えているのだかな。
続いて月詠だが、最近は比較的おとなしい。
チャチャゼロと何かしているらしいが、良くは知らん。
あとは、超の奴がいけすかないことをしているようだが、あいつは私がやる。
3-Aのメニューが苺尽くしになっているのは、まぁ、仕様だ。


エヴァ:
次回は、バカ鬼に仕置きをしてやらねばならん。
アリアはもちろんだが、茶々丸もさよも私のモノだ。
ただ「欲しい」と言われてのうのうと渡すつもりはない。
後のことは知らん。面倒な。
では、また会うとしよう。


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第60話「麻帆良祭二日目・嫁取り?」

Side 千雨

 

「・・・あ? なんだって?」

『でーすーかーらー!』

 

 

画面の中でドタバタしながら、電子精霊「ミク」とやらが騒いでいた。

どうでも良いが、なんで葱を振り回しているんだ?

 

 

『仕様です!』

「そうかよ・・・それで、なんだってんだ?」

 

 

私は今、適当なカフェでお茶しながら、HPのニュース欄の更新をしていた。

だから画面の隅でピーピー言われると、結構ウザい。

真面目なことを書いてる時とかは、特に。

 

 

『ここにいると、危ないんですよ!』

「だから、なんでだよ」

 

 

昨日の夜から、こいつらは「危ない」とか「逃げろ」とか行って、私を麻帆良の外に押し出そうとしやがる。

私だって別に、学園祭でやりたいことがあるわけじゃねーが・・・。

だからと言って、用も無く外に出るほどじゃない。

と言って、理由を聞いても。

 

 

『禁則事項です!』

「意味がわからん・・・」

『一般人のまいますたーは、知らなくて良いことです!』

 

 

この調子だし・・・。

まぁ、とにかく、ここにいるとヤベーことが起こるらしいが。

というか、一般人って何だ。確かに私は一般人だが。

 

 

異常な連中揃いのこの学校において、かなりのレベルで一般人だと自負しているつもりだ。

 

 

『あ、あ、ちょ、何を調べようとしてるんですか~』

「てめーらが教えねーから、自分で調べんだよ」

『き、禁則事項が~』

 

 

まぁ、とりあえず画像と掲示板でも巡り見てみるかな。

大体は、どうでも良いことばっかだろうけどな。

 

 

『そ、そんな所見ちゃダメです。まいますたーにはまだ早いです~』

「誤解を招くようなこと言うんじゃねーよ」

 

 

パソコンを切ればこいつらは消えるが、だがパソコンがねーと私は何もできねーし。

・・・なんだこの二者択一。

さて、こいつらは私に何を隠そうとしてるのかな・・・。

 

 

どうせ、くだらねーことなんだろうけどな。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

場の雰囲気が、もの凄いことになっています。

いや・・・なっているのは、リングの中央だけですね。

エヴァさんとスクナさんの間だけ。

 

 

というか、睨みあってる2人の間の魔力のせめぎ合いが尋常では無いのですが。

 

 

「わ、私、6億円の賞金首と聞いていたので、もっと怖い人かと・・・」

 

 

佐倉さんが、高音さんを相手に何か言っています。

と言うか観客の皆さんも、一見10歳なエヴァさんに対して、温かな声援を送っていますが・・・。

 

 

こ・わ・い・で・す・よ!

これだから「視えない」人達は。

今、エヴァさんがどれだけ本気か、そしてスクナさんがどれだけマジか。

右眼の魔眼を通してそれが視える私は、もう、怖くて仕方がありませんよ。

 

 

・・・全力で防御態勢を整えた方が良いのかもしれません。

 

 

『それでは、第8試合、Fight!』

 

 

 

次の瞬間、エヴァさんの身体が吹き飛んでいました。

 

 

 

「・・・拙者には、まるで見えなかったでござる!」

「いつの間に背後に・・・いえ、しかし私にも視えなかった」

 

 

私の魔眼でも捉え切れないほどの速度で、スクナさんの右掌底がエヴァさんの横っ面に叩きつけられました。

私はおろか、エヴァさんですらその「入り」に気付けない程の速度と精度の瞬動。

あまりにも静かなそれは、もはや「縮地」と呼んだ方が良さそうなレベルです。

 

 

「ぬぅ・・・!」

 

 

空中で二回転ほどして体勢を整えたエヴァさんは、片手を地面について勢いを殺すと、その場に着地。

しかし、その地点にはすでにスクナさんが移動しています。

やはり、私にその速度は追い切れない。

 

 

「・・・うらっ!」

「ふんっ・・・!」

 

 

今度は、エヴァさんも反応しました。

背後に現れたスクナさんの顔面を右手で払いますが・・・すでに放たれていたスクナさんの右膝が、その小さな身体を空中に打ち上げます。

今のスクナさんは15歳スタイルなので・・・重みの点では、スクナさんに分がありますね。

 

 

「ちぃっ・・・調子に」

「・・・りゃっ!」

「・・・乗るなっ!」

 

 

下から追撃してくるスクナさんに、エヴァさんは魔力を帯びた右手を打ち下ろす・・・と見せかけて、スクナさんの手首を掴み、身体の位置を入れ替え、一回転。

 

 

ずだんっ!

 

 

スクナさんの片腕を抑えたそのまま、エヴァさんはスクナさんの身体をうつ伏せの状態で地面に叩きつけました。

そのまま、掴んだ腕を捻り上げ・・・技を極めようとしました。

 

 

「エヴァさんは、合気柔術の達人です!」

「滑らかな動きでござったな・・・!」

 

 

一度技が極まると、外すのは並大抵ではありません。

それを知っているからでしょう、スクナさんは掴まれていない腕を限界まで逸らせると・・・。

 

 

リングの床板を、叩き割りました!

 

 

ゴガンッ・・・と音を立てて砕けたそれは、エヴァさんの技を外し、かつ次の動きへの布石になります。

鋭い動きで、スクナさんが身体を空中へ。

空へ逃げたスクナさんを、エヴァさんはすかさず追います。

そして。

 

 

ごっ・・・がががががが、がぃんっ!

 

 

眼にも止まらぬ速さで打ち合い、次の瞬間には、2人ともリングの端に降り立ちました。

そこで一旦、2人は動きを止めました。

 

 

はあぁ・・・と、いつの間にか止めていた呼吸を、再開します。

それは私だけでなく、会場の全ての人が、そうだったようです。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

速い、そして重いな。

手の甲に残る鈍い痛みに、口元を笑みの形に歪める。

 

 

「・・・しぃっ!」

「かぁっ!」

 

 

ゴィンッ、ガンッ、ゴンッ・・・!

拳と拳を打ち付け合う音が、間断なく響く。

そこで突然、私はバカ鬼の左腕を絡め取った。

 

 

素早く力をいなし・・・身体を反転。

背負い投げのような形、しかし今の私なら、どんな体格の相手だろうと簡単に投げ飛ばせる。

しゅごっ・・・と音を立てて、バカ鬼が飛ぶ。

 

 

「ふ・・・」

 

 

バカ鬼は投げられながらも体勢を整えると、投げ飛ばされた先・・・観客席の柱に足をつけた。

そして反動のままに、こちらへと跳躍してくる。

素早く構えを取り、迎え撃つ。

下段から、右足で蹴り上げる!

 

 

「よっ・・・」

「・・・ぬ」

「・・・っと!」

 

 

バカ鬼は、直前で虚空瞬動、軌道を変えた。

ふわり・・・と、一回転し、蹴り上げた私の右足に自分の手をかける。

ぐん・・・と引かれた。

あえて逆らわずに、左足のブーツに仕込んだ鉄扇を手に持つ。

 

 

合気、鉄扇術!

 

 

引かれた勢いを逆用し、首を狙う。

しかし読んでいたのか、それとも野生の勘か、バカ鬼は私から手を離して避けた。

そのまま、互いに距離を取り・・・睨み合いに戻る。

 

 

『こ・・・これは凄い、目にも止まらぬ攻防――――っ!?』

 

 

朝倉の実況など、どうでも良い。

どうせ、ついてこれていないだろうしな。

 

 

さて・・・このままでも良いが、私はここでは魔法が使えんし、何よりもここは狭い。

実際、リングの中央はすでにバカ鬼が砕いてしまった。

外野もうるさい。

と、なれば・・・。

 

 

「バカ鬼、私の目を見ろ」

「それはできないぞ。他の女と見つめ合うとさーちゃんに怒られる」

「・・・いいから、見ろ!」

 

 

魔力で編んだ糸を放ち、バカ鬼を囲む。

囲まれる直前、バカ鬼はまた床板を砕いて、それを無理矢理外した。

だが、糸を放つと同時に動いていた私が、すでに目前にいる。

 

 

ぼっ・・・。

左頬をかすめるバカ鬼の腕に、私の腕を絡める。

半身をズラし、肘を腹に撃ち込む。

 

 

「むっ・・・!」

 

 

バカ鬼の頭が下がる。

後ろ髪を掴み、額を打ち付ける。

がすっ、と鈍い音が響く。

 

 

バカ鬼の金に染まった瞳と、見つめ合う。

魔力でも気でも無い、神代の力が渦巻いているその瞳は、引き込まれそうな程に美しい。

だが、「引き込む」のは、私だ。

 

 

『幻想空間(ファンタズマゴリア)』。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

はー・・・。

なんだって面倒って言うのは、向こうからやってくるのかね。

お偉いさんが大挙して押し寄せたかどうか知らないけど、おかげで私みたいな半人前までお仕事一杯。

 

 

「やってらんないよねー」

「何か言いましたか?」

「ま、まっさかー、私が何か言うはず無いじゃないですか」

 

 

シスターシャークティーに睨まれて、私は黙った。

最近、忙しくてストレスが溜まってるのか、前よりも厳しいんだよね。

 

 

さっきまで携帯で電話してたのに、もう終わったらしい。

 

 

「まほら武道会に向かいます」

「武道会?」

 

 

なんでまた、そんな所に。

 

 

「告白阻止の方は、良いんですか?」

「交代要員が来ます・・・貴女達が未熟なままだったので、むしろ安心しました」

「き、キツいっスねー」

 

 

どっこいせ、と、ココネを肩車しながら、アーティファクトの靴を装着。

これで、いざという時に逃げる準備は完璧。

 

 

「私達がやることは二つあります。一つは、会場に入ったと言うクルト・ゲーデル議員の会議場への招聘です。どうやら、至急に彼の裁可が必要な案件ができたようです」

「げ・・・」

「なんですか?」

「な、何も無いっス」

 

 

元老院議員とか、できれば関わり合いたくないって言うか。

私をそんな重要任務に連れてくとか、どんだけ人手が足りないの。

どうせ行くなら、試合見たいんだけど、無理だよねー。

 

 

「もうひとつは、なんですか?」

「高畑先生の援護に行きます。10分ほど前、超鈴音と接触するとの連絡が」

 

 

はい、来たよこれー。

メンドい仕事が来ましたよー。

帰って良いですか? あ、大丈夫、答えはわかってますんで。

 

 

というか超りん、何やったのさ。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

すーちゃんと初めて出会ったのは、京都のホテル。

最初は、可愛い子だなって思った。

実は、凄く年上で、しかも神様なんだって聞いて、とても驚いた。

 

 

お菓子をあげたからかもしれないけど、すごく懐かれた。

そこからは、私がすーちゃんの面倒を良く見るようになった。

エヴァさん達も、特に何も言わなかった。

 

 

『さーちゃんのご飯は、あったかいぞ』

『あれ? 冷ややっことか温かった?』

 

 

ご飯を作ってあげると、いつもそんな風に言って、すーちゃんは笑った。

たぶん、私のお料理のセンスが古かったのが、すーちゃんに合ったみたい。

まぁ、すーちゃんの生きていた時代に一番近いお料理を作れるのが、私だけだったから。

茶々丸さんも作れるけど、すーちゃんは良く私にねだった。

 

 

そのうち、すーちゃんは自分で作物を作るようになった。

アリア先生に肥料をねだったりしてたけど。

でも、作った物を最初に持ってくるのは、いつも私の所だった。

 

 

『こんなのできたぞ、さーちゃん!』

『・・・すーちゃん、この花、口がついてるんだけど・・・』

 

 

いつしか、私も手伝うようになった。

最初は、ただのお手伝い。

放っておくと、何かとんでもない物がエヴァさんの別荘に跋扈しそうだったから。

でも時間が経つにつれて、段々と別の気持ちが芽生えるようになった。

 

 

『スクナは、さーちゃんが大好きだぞ!』

『うん、私も好きだよ、すーちゃん』

 

 

最初は、何気なく返せたその言葉。

でも今は、とてもじゃないけど、口に出せない。

 

 

ご飯やお菓子を作ると、嬉しそうに笑う貴方。

・・・でも、手洗い歯磨きが苦手で、茶々丸さんに怒られる貴方。

鍬を片手に畑を闊歩する貴方。

・・・でも、妙な物を作っては騒ぎを起こして、エヴァさんに氷漬けにされる貴方。

できた作物を抱えて、別荘中を駆け回る貴方。

・・・でも、清潔第一な魔法具の保管庫に入って、アリア先生にお仕置きされる貴方。

 

 

 

そんな貴方だから、きっと私は恋をした。

 

 

 

『り、両選手、かなり際どい体勢で見つめあったまま、動かなく・・・』

 

 

朝倉さんの言う通り、すーちゃんとエヴァさんは、リングの中でくっついたまま動かなかった。

選手席の方を見ると、アリア先生が仮契約カードを頭にくっつけて何かしてた。

あれはたぶん・・・『幻想空間(ファンタズマゴリア)』に行ってるんだと思う。

 

 

「つまらんのぅ」

「マ、コッチカラジャミエネェカラナ」

 

 

袂の中から、アリア先生との仮契約カードを取り出す。

額に押し当てて、夢見の魔法を。

 

 

「オイオイ、イイノカヨ」

「大丈夫じゃ、あらかじめ周囲の目を誤魔化す術を使っておるからの」

 

 

いつの間に・・・でも、今は晴明さんに感謝します。

私が見届けないと、意味がないから。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

マスターとスクナさんは、どうやら幻想空間(ファンタズマゴリア)に向かったようです。

私も見に行きたくはありますが、役目を放棄することもできません。

 

 

「ほらほら、どきぃ! 邪魔や、邪魔!」

 

 

横では、千草さんが黒服の方を押しのけていました。

背中には月詠さんを背負っていて、その月詠さんはどうやら、眠っているようです。

・・・黒服の方が何人か、座席から押し出され、一人は水の中に転落しました。

 

 

「どいてあげなさい」

 

 

クルト議員が軽く手を振ってそう命じると、黒服の方が何人か姿を消しました。

そのまま、どこかへと去っていきます。

あらかじめ、決めていたのかもしれません。

 

 

この人数・・・龍宮さん一人では、カバーしきれないかもしれません。

ハカセが地下に潜ったと言う情報は、秘匿通信で知らされているのですが。

 

 

超・・・。

 

 

超から聞かされた計画の概要はすでにマスター達に伝えてあります。

そして私自身も、リアルタイムで送られている情報を処理し続けています。

ただ、その中に、私が閲覧できないブラックボックスが存在します。

 

 

超やハカセからは、決して触れないように厳命されていますが。

なぜでしょう。

この中には、どうしても見なければならない情報が詰まっているような気がしてなりません。

しかし、私はガイノイド。

創造主の命令には、従わねばなりません。

 

 

「持ってきたで!」

「ん、偉いで、小太郎」

「へへ・・・」

 

 

小太郎さんが、毛布を何枚か抱えてやってきました。

千草さんは、そんな小太郎さんを見てかすかに目を細めた後、手早く毛布を敷き、その上に月詠さんを寝かせました。

 

 

クルト議員は、それをどこか興味深そうに見つめた後、リングの方へと視線を戻しました。

・・・先ほどの高畑先生とネギ先生の会話も、おそらくは聞こえていたはずですが。

今の所、目だった反応を見せてはいません。

 

 

これまで多くの人間を見てきましたが、彼ほど不気味に沈黙を守る人間は初めてです。

いったい、何を考えているのか・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「それにしても、意外だな!」

 

 

我が『幻想空間(ファンタズマゴリア)』の中で、私とバカ鬼は戦いを続けていた。

ルールはそのままだが、ここでなら、私もバカ鬼も全力で戦える。

 

 

「まさか貴様が・・・よりにもよって、人間の女に愛情を抱くとはな!」

 

 

さよの身体はホムンクルスだが・・・その寿命は、普通の人間と変わらないように作られている。

本当なら、寿命など設定したくも無かったが・・・。

さよに、永遠を押し付けるわけにはいかなかった。

少なくとも、肉体的には母親のような物だからな、私は。

 

 

だからこそ、身体を人間形態に変えているとは言え、永遠の生を持つバカ鬼が、さよを欲するのは意外だった。

伝承の中には、確かに神と人が結ばれる物も多々あるが・・・。

 

 

ガズンッ・・・と、バカ鬼が床を砕き、瓦礫を巻き上げる。

先ほどの木屑よりは、よほど効果的だ、が・・・。

 

 

「そう何度も、同じ手が通じると、思うなぁ!」

 

 

バカの一つ覚えではあるまいに。

 

 

「『氷神の戦鎚(マレウス・クイローニス)』!」

 

 

無詠唱で作った氷の塊を下に叩きつけ、瓦礫ごと全てを押し潰す。

バカ鬼は空を飛べん、飛び道具も無し。

だが・・・。

 

 

「・・・瓦礫と氷にまぎれて虚空瞬動を繰り返し、背後に回るくらいはできるか?」

「・・・!」

 

 

まさにその時、私の背後に現れたバカ鬼。

放たれて来た右拳を、左掌で受け止める。

せめぎ合う力が、周囲の空間を震わせた。

 

 

「力では私が上でも・・・私以上に長い時を生きてきた貴様が、なぜ人間の小娘に目をつける?」

「スクナは、難しいことはわからない」

「は・・・だから貴様は、バカ鬼なんだよ!」

 

 

右手に『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』を作り、袈裟がけに斬りつけた。

バカ鬼は私の左手を振り払い、距離を取ろうとするが間に合わない。

障壁に阻まれるのを感じたが、そんな物を無視して、バカ鬼の身体を引き裂いた。

しかし・・・。

 

 

「ほう、器用なことをするな」

 

 

しかし、バカ鬼の傷は瞬時に塞がっていった。

なるほど、傷を負い次第治癒するように自己設定しているわけだ・・・。

 

 

「流石は、医療の神と言った所か?」

「・・・祓うのも得意だぞ」

「何・・・む」

 

 

私の『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』が、まるで虫に食われるように崩壊を始めていた。

は・・・この程度の出力では、話にならんか。

魔を祓い、清める力。

吸血鬼の私には、さぞや効果があることだろうな。

 

 

「スクナは、難しいことを言うつもりは無いぞ」

「ふん・・・その心は?」

「さーちゃんが好き、それだけだぞ」

「は・・・単純にして、明快だな!」

 

 

生きる時間が違うことも、ましてや種族が違うことも、考慮に値しないと?

いや、違うな。考慮した上で欲しい、そう言うわけだ。

欲しいから、頂く・・・そう言う理屈か、ならばわかりやすくて良い。

 

 

「なら、証明して見せろ・・・さよを手に入れるに相応しい男だと!」

「言われなくとも!」

 

 

そう簡単に、認めると思うなよ!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

いや、これなんて戦争ですか?

ついてこられても困るので、長瀬さんに『幻(イリュージョン)』をかけて誤魔化した後、この空間内に意識を飛ばしてきたのですが・・・。

 

 

別荘を模したその場所は、すでに半壊状態でした。

下から時々投げられてる岩や石は、スクナさんでしょうか。

上空から放たれる氷の塊や矢は、明らかにエヴァさんですね。

 

 

「は! 随分と粘るじゃないかバカ鬼、もう9分だ!」

「何分でも持つぞ!」

「そんなザマで良く言ったぁ!」

 

 

というか、あの人達、当初の目的忘れているんじゃないでしょうか?

実はもう、戦いメインになっているんじゃないでしょうか。

 

 

エヴァさんは、流石というかほぼ無傷。

対するスクナさんは、何発か良いのを貰っているようですが・・・脅威的な回復能力によって、即座に全快状態に戻しています。

これは、単純にどちらの魔力が先に尽きるかという勝負ですね。

 

 

「ケド、イチオウジカンセイゲンガアルカラナ」

「暑苦しい奴らじゃのう・・・もう少しこう、すまーとに行けんのか」

「覚えたての言葉を使いたいんですね、晴明さん・・・」

 

 

最近、晴明さんは現代の言葉に興味を示しているようです。

どうやら、さよさんのカードを使って来たようですね・・・私繋がりでしょうか?

それにしても・・・。

 

 

「あの、アリア先生、何か・・・?」

「い、いえ、その・・・」

 

 

じー・・・とさよさんを見ていると、流石に気になったのか、声をかけられました。

 

 

「その、男性が自分を懸けて戦うと言うのは、どう言う気分かな、と思いまして」

「どう・・・って、言われても」

 

 

困ったような表情を浮かべて、さよさんが首を傾げます。

いえ、私としても後学のためにですね・・・ゴニョゴニョ。

 

 

「オ、ソロソロケリダナ」

 

 

チャチャゼロさんの言葉に、見てみれば・・・半壊した別荘の地面に、エヴァさんとスクナさんが立っていました。

時間もすでに残り少なく、次で決めるようですね。

 

 

ビリビリと・・・空間を震わせる魔力に、私の身体がわななきます。

どちらも、人間には出せないクラスの力を迸らせています。

2人の中央で、力の一端がぶつかり合い、弾け合う。

それは、美しくすら見えました。

 

 

「最後にもう一度、聞いておこうかバカ鬼。貴様、なぜさよに拘る?」

「・・・・・・」

「お前を救ったアリアに惚れるならまだしも・・・なぜ、さよなんだ?」

「・・・理由は、いらない」

 

 

ただ好きだ。

スクナさんはそう言って、クラウチングスタートのような体勢を取りました。

四肢を地面に付ける、独特な構え。

 

 

エヴァさんは、それに対して少し笑って・・・その後、表情を引き締めました。

何も言わず、ただ右手を掲げて、冷気を帯びた魔力の剣を形成します。

 

 

「す・・・」

 

 

そして。

 

 

「すーちゃん!」

 

 

2人は、一瞬だけこちらを見た、直後。

 

 

「行くぞ、吸血鬼!」

「来い、バカ鬼が!」

 

 

次の瞬間には、正面から衝突していました。

 

 

 

「最大出力、『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』!!」

「『宿儺・飛騨円空戦斧撃』!!」

 

 

 

衝撃が、駆け抜けました。

 

 

 

 

 

Side スクナ

 

さーちゃんからは、日向の香りがするんだぞ。

お日様は、全ての源だ。

動物の、植物の、作物の、そして全ての。

農耕の神様としてのスクナも、太陽こそが力の源だ。

 

 

人間には、いろんな奴がいる。

吸血鬼みたいに、清廉な夜の気配を漂わせていたり。

恩人のように、お花畑みたいな優しさを感じることができたりする。

 

 

でも、スクナに力を与えてくれるのは、さーちゃんだけだぞ。

さーちゃんの手は、とてもあったかい。

さーちゃんが笑うと、春が来たみたいに、ポカポカな気分になれる。

それが、スクナの力になる。

 

 

そんな人間は、さーちゃんが初めてだった。

 

 

美味しいご飯を作ってくれるさーちゃん。

・・・実は西洋のご飯も好きだけど、内緒なんだぞ。

畑でも、一緒にいてくれるさーちゃん。

・・・実はさーちゃんが喜ぶと思って変な品種を作るけど、内緒だぞ。

できた作物は、一番に見せてあげるんだぞ。

・・・実はさーちゃんを探して駆け回ると、恩人に怒られる。これも内緒だ。

 

 

どうしてそうなったのか、スクナにはわからない。

だけど、さーちゃんでなければ、そうしなかったことだけはわかる。

 

 

そんなさーちゃんだから。

だから、スクナはさーちゃんが好きだぞ」

 

 

「へぅっ!?////」

「へぶ!?」

 

 

突然、冷たい水を頭からかぶったぞ!

な、なんだ!?

 

 

慌てて身を起こすと、それは白い部屋だったぞ。

スクナは、寝台の上に寝ていたみたいだぞ。

・・・横には、なぜかさーちゃんがひっくり返ってたぞ。

 

 

「・・・床で寝るとダメだぞ、さーちゃん」

「あのねっ・・・・・・そ、そうだね、すーちゃん」

 

 

さーちゃんは、口に手を当てて、こほん、とすると、寝台の横の椅子に座ったぞ。

なんでか、顔が赤いぞ。

でも・・・ここは、どこだ?

 

 

「・・・スクナ、負けたのか?」

 

 

なんとなく、そんな気がする。

ここで寝てたってことは、きっとそうなんだぞ・・・。

 

 

「えっと・・・うん、試合自体は、エヴァさんの勝ちってことになってる」

「そっか・・・」

「でもね?」

 

 

なんだか、暗い気分になってるスクナに、さーちゃんは石・・・じゃなくて、宝石を見せてきた。

 

 

「これね、エヴァさんの魔力回復用の宝石なんだって」

「ふん・・・?」

「最後、エヴァさんこれ使って耐えたんだって。でもすーちゃんは何も使わなかったから・・・勝負は、すーちゃんの勝ちだって、言ってた」

「・・・?」

 

 

良く、わからないぞ。

試合は吸血鬼が勝ってるのに、勝負はスクナの勝ち?

でも、スクナはここで寝てたから、結局はダメだぞ・・・。

 

 

「だ、だからね、すーちゃん。その・・・・・・すーちゃん?」

「・・・ごめんだぞ、さーちゃん」

「ど、どうして謝るの?」

「スクナ、ダメだったぞ・・・」

 

 

決まりごととか、難しいことはわからないぞ。

でも、最後に立ってたのが吸血鬼なら、それはきっとスクナの負けだぞ・・・。

 

 

「え、えと、ダメとかじゃなくて」

「スクナ、超鬱だぞ・・・」

「すーちゃんってば、ちゃんと聞いて・・・」

「・・・封印された時よりも残念だぞ・・・」

「すーちゃ・・・・・・もうっ!」

 

 

スクナが落ち込みの頂点に達そうとしていると、さーちゃんが身を乗り出してきたぞ。

驚いて、さーちゃんの顔を見る。

 

 

ぎしっ・・・と、寝台が軋んで。

さーちゃんの両手が、スクナの顔を挟んだぞ。それで・・・。

 

 

顔が。

 

 

 

 

 

Side 楓

 

はて・・・?

気が付いてみると、試合が終わっていたでござる。

 

 

「いや、それにしてもエヴァさんも憎いことしますね」

「やかましい、実際に私はズルをしたんだ。負けを認めて当然だろうが」

「別にあの程度、ズルの内に入りませんよ」

 

 

エヴァ殿とアリア先生が、いつの間にやら拙者の前で談笑しているでござる。

なんだか、とても重要な部分を見逃したような気がしてならないでござるが。

というか、2人ともどこからか人形を持ってきていたでござる。

医務室に行っていたらしいでござるが、そこから持ってきたでござるか?

 

 

「ふん・・・どの道、あの程度も突破できんようでは、さよを任せるつもりは無かった」

「またまたぁ・・・最初から認める気だったくせに」

「苺畑限定で焼き払うぞ?」

「大変申し訳ありませんでした。私は貴女の犬です」

 

 

なぜかアリア先生がエヴァ殿に、身体を直角に曲げて謝っていたでござる。

茶々丸殿に続いて、2人目でござるな。

クラスの出し物のメニューを見ていても思ったでござるが、アリア先生は苺が好きな様子。

今度、さんぽ部で野苺狩りにでも行ってみるでござるか。

 

 

「ところで・・・拙者、先ほどの試合の細かい点が思い出せないのでござるが」

「なんだ、その年でボケたのか?」

「お昼寝には、早い時間ですよ?」

 

 

酷い言われようでござる。

しかし、実際に思い出せないでござるし・・・。

まぁ、良いでござるか。

 

 

「・・・ところで、なんで背後に控えているのですか?」

「ニンニン。何かあれば言ってくだされでござる」

「やはり、変な奴に好かれる才能が・・・」

「そんな才能、いらないんですけど」

 

 

まぁ、おふざけ半分でござるよ。

あそこまで完璧に、力の差を見せつけられたのは初めてでござるからな。

 

 

「その言い方だと、まるで拙者が変な奴みたいに聞こえるでござるな」

「自覚がなかった!?」

「忍者のくせに・・・」

 

 

ニンニン。

ま、まさか、拙者が忍者だなどと・・・。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「ふ・・・ふふ、強いネ。高畑先生・・・」

「・・・踏んできた場数が、違うからね」

 

 

超君は、想像以上に強かった。

妙な方法で僕の攻撃をかわす点は、ネギ君と同じ・・・いや、ネギ君以上だった。

だけど、人を倒そうとする攻撃はパターン化される物で・・・一瞬の察知と判断は僕の方が遥かに上だ。

 

 

「超君・・・キミの意思の強さはわかった。だがもしキミがここで一人の犠牲者も出さなかったとしても、魔法が世界に公表されたその瞬間から、相応の混乱が世界を覆うことになる」

「そう、だろうネ・・・」

 

 

がら・・・と、機械の残骸を踏みしめながら、超君が体勢を整えた。

劣勢にありながら、超君の顔からは笑みが消えない。

でも、じきに援軍も来る。そうなれば、彼女は逃げ切れないだろう。

 

 

「今後10数年間の間に起こる軍事的経済的混乱は、私が管理して見せるヨ」

「仮にそれができたとしても、社会的混乱を防ぐことはできない。新しい差別や対処不能な問題が噴出するだろう・・・キミの計画は、最初から達成不可能だ」

 

 

力がある者ほど、その幻想に囚われる。

自分ならできると。自分なら、世界を救うことができると信じて。

 

 

その時、超君の姿が消えた。

それは、もう何度も見た。

僕には通用しない。

 

 

一歩半ほど前に出て・・・。

背後に、『豪殺・居合拳』を放つ。

 

 

ズンッ・・・!

 

 

「かふっ・・・!」

 

 

そしてそれは、直後に姿を現した超君に直撃した。

もちろん、手加減はしている。

話を聞かなくてはいけないし、何より元教え子だ。

 

 

「ぐ・・・AIが無いとは言え、カシオペアの時間跳躍タイミングが完璧に掴まれるとは・・・」

「似たような攻撃手段を用いる相手と、戦ったことがあるからね」

 

 

伊達に、経験を積んでるわけじゃない。

 

 

「超君、キミを拘束する」

「ふ・・・」

「だけどその前に、もう一度聞きたい・・・超君、キミの目的はなんだ?」

「・・・貴方も、しつこいネ」

 

 

ふぉん・・・と、姿を消し、超君は部屋の隅に姿を現した。

距離を取ったつもりだろうが、この距離なら、僕の攻撃はいくらでも通る。

 

 

「・・・キミは何者だ。超君」

「・・・私は、私ネ。ただ言ってみれば、英雄の子孫というのも大変でネ・・・」

 

 

英雄の子孫?

何の話だ・・・?

 

 

「考えたことは無いカ・・・この先、ネギ・スプリングフィールドがどれ程のことをするカ。そしてアリア・スプリングフィールドがどれ程のことをするカ・・・」

「・・・何の話をしているのかな?」

「こちらの話ヨ・・・まぁ、そうは言っても、ここで捕まるわけにもいかないからネ・・・」

 

 

超君は、どこか嘲るような目で僕を見た。

その手には・・・一枚のカード、あれは。

 

 

「パクティオーカード・・・!?」

「アデアット」

 

 

すかさず、居合拳を放とうとするが・・・それは、超君に届くことは無かった。

その、前に。

 

 

超君の瞳が、紅く輝いた。

 

 

「『千の未来』」

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ふむ・・・。

定期的に部下からの報告が入るわけですが・・・。

なかなか、面白い状況になってきたようですね。

 

 

特に、先ほどのタカミチとネギ君の会話とか。

あるいは、<闇の福音>とアリア・スプリングフィールドの関係とか。

その他、麻帆良を含んだそれぞれの動きとか。

 

 

・・・別に、ただダラダラと解説をしていたわけではないのですよ。

 

 

「・・・ま、この場の決定権は私にあるわけですが・・・」

「何か申されましたか?」

「いえいえ、別に聞こえるように独り言を言っているわけではありませんよ」

 

 

隣の茶々丸とか言う自動人形にそう答えつつ、修復されていくリングを眺めます。

その上には、一回戦の様子を映し出すハイライトが。

ふむ・・・超鈴音。

この大会の主催者にして、「より多くを救える計画」とやらを持っていると言う女性。

 

 

さて、どう動くのが一番私にとって都合が良いでしょうか。

ここにいる者達だけでなく、本国の政治屋どものことも考慮せねばなりませんし。

 

 

「・・・っし、次はよーやく、俺の出番やな!」

 

 

先ほど毛布を持ってきた、小太郎と言う少年が腕を振り回しながら、そう言いました。

元気が良い少年ですね、何より単純で。

もちろん、褒めているのですよ?

 

 

「あんま、調子に乗っとると足元掬われるで、小太郎?」

「わかっとる。油断せずに行こう、やろ?」

 

 

天ヶ崎千草との関係は、まさに母子のようですね。

個人間の関係をとやかく言うつもりは無いので、気にはしませんが。

 

 

「大丈夫や。最初っから全力で行く。勝つのは俺や!」

 

 

相手は、あのクウネル・サンダースとか言うフードの男。

・・・アレで正体を隠しているつもりだと言う、まさに失笑物だ。

決めました。この瞬間だけは小太郎君とやらを応援することにしましょう。

 

 

私が打算も見返りも無く他人を応援するのは、本当に珍しいことなのですよ?

ごくたまに、応援している人間を背後から蹴落としたりもしますがね。

 





アリア:
アリアです。
少々お昼寝している間に、私の役目が奪われつつあったようです。
えー・・・今回は。
とどのつまりはスクナさん嫁取り物語です。
物語の大局には・・・たぶん関係が無い、はず。
これが決め手になったら、それはそれですごいですが。


アリア:
さて、次回はもしかしなくとも小太郎さんの出番です。
つまりは、アルビレオさんの出番です。
さて・・・仕込みが上手く行ってくれれば良いのですが。
では、またお会いしましょう。


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第61話「麻帆良祭二日目・意地」

Side 夏美

 

小太郎君、頑張ってるかなー。

 

 

そんなことを考えながら、私は武道会の会場に戻ってきた。

本当は、まだリハーサルの時間なんだけど、私の出番終わっちゃったから・・・。

えへへ・・・脇役だからね。

もう本当、数分くらいしか出番が無いくらいの役だから。

 

 

リハの場所は、公演場所とは別の場所にあって、龍宮神社近くの建物を貸してもらってる。

歩いて10分くらいの所。

下の広場の方に行くと、人が一杯だから、リハ見られちゃ不味いし。

 

 

「うわぁ、すごい人・・・」

 

 

中に入ってみると、人が増えてた。

出て行った時には、こんなにいなかったと思うんだけど。

 

 

さっきメールしたら、ちづ姉が場所とっといてくれるって・・・。

・・・なんでか、葱を持ってるちづ姉の姿が脳裏を掠めた。

ま、まさかぁ。

 

 

『えー・・・お待たせしました。二回戦を始めたいと思います!』

 

 

朝倉の声。

わ、わ、今からなんだ・・・。

小太郎君の試合かな?

 

 

小太郎君。

生意気で腕白な男の子って感じだけど、女の子には優しい。

それで、すっごく強い。

強くて、女の子にモテて・・・。

 

 

まるで、物語の主人公みたい。

後半部分は、なんだか嫌だけど。

 

 

「あら、夏美ちゃん」

「ちづ姉! ありがとー」

「ちょうど良かったわ、今からあの男の子の試合なのよ」

「本当?」

 

 

良かった。間に合ったみたい。

それに当たり前だけど、ちづ姉は葱を持ってなかった。

何考えてるんだろ、私。

 

 

そんなことを考えながら、舞台の方を見た。

その時。

 

 

『二回戦・第一試合・・・始め!』

 

 

小太郎君が、相手の人に殴り飛ばされた。

・・・え?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

二回戦・・・とは言え、下手を打つとこれが最後の二回戦になりそうな感じでもありますね。

棄権の多い大会ですからね。

 

 

「・・・しゃあ! 準決勝で会おうぜ、アリアのねーちゃん!」

「まぁ、せいぜい頑張るが良いでしょう」

 

 

意気揚々とリングに上がる小太郎さんに、あえてそう声をかけます。

その先には、すでにクウネル・・・アルビレオさんが。

原作では、欠片も歯が立たなかったはずですが。

 

 

ついでに言えば、古菲さんが棄権宣告を出していないので、私はまだ準決勝進出を決めていません。

 

 

「一方で私は、準決勝に進んでいるがな」

「何故にそんなに自慢げなのでしょうか」

「ふふん」

「いや、ふふんって・・・」

 

 

チャチャゼロさんを頭に乗せて言っても、欠片の威厳も感じないのですけど。

確かに、晴明さんを膝に乗せている私も、良い勝負かもしれませんが。

まぁ、良いです。

とにかく、小太郎さんの試合が始まります。

 

 

『二回戦・第一試合・・・始め!』

 

 

朝倉さんの宣言と共に、小太郎さんが瞬動で動きます。

そしてその直後に、アルビレオさんに一撃を見舞われ、吹き飛びます。

 

 

『小太郎選手、吹き飛んだ―――っ!?』

「バカか、あの犬」

「まぁ、正面から突っ込むのが好きな方ですからね」

 

 

千草さんの話でも、結局正面突破以外は覚えなかったらしいですから。

それが皮肉なことに、千草さんの指揮能力と言うか、政治力を養う結果になったらしいですが。

まぁ、そうは言っても、直線でしか使えない瞬動をああもわかりやすく、フェイントも無しに使っては、カウンターを貰うのは当然なわけで。

 

 

『クウネル選手、掌底一閃――――っ!』

 

 

多数の分身を活用した攻撃を見せた小太郎さん。

しかし、直撃だったはずの攻撃も、どう言うわけかすり抜けます。

幻影を実体化させているわけですから、虚と現の間を行ったり来たり・・・。

 

 

そして、小太郎さんの身体が、場外へと吹き飛ばされました。

リングを破壊しつつ、小太郎さんは着水。

・・・水の上に立つの、やめてもらえませんかね。

 

 

「水遁の術、と言う奴でござるな」

「いや、まぁ・・・そんなような物かとも思いますが」

 

 

長瀬さんの感想に、そう返します。

原理は同じはずです・・・というか、絶対に忍者でしょう貴女。

 

 

「お前なら、あの男に勝てるか?」

「ええ、もちろん」

 

 

私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』には、アルビレオさんの身体の構成が視えています。

さらに言えば、魔法と魔力でできたその身体は、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を持つ私には、欠片の脅威も与えることは無いでしょう。

 

 

だから。

 

 

「・・・仇は、とってあげますからね、小太郎さん」

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

な、何や、このローブ男。

達人とか、そう言うレベルや無いで。

さっきかて確実に右腕貰たと思ったのに、なんでか、かわされとった。

 

 

何者や、こいつ・・・!

 

 

「・・・降参していただけると、有難いのですが」

「バカ言いなや・・・誰が」

 

 

け、けどそうは言っても、圧倒的な力の差を感じるで。

さっきの一撃で足にもきとるし・・・いや!

 

 

泣き事言うな、男やろ!

それに、絶対優勝するて、約束したんや。

こんな所で、諦めるわけにはいかん・・・!

 

 

「絶対に!」

 

 

狗神!

・・・『疾空黒狼牙』!

 

 

5体程の狗神を出して、クウネルとか言う兄ちゃんを撹乱する。

さらにその間に、瞬動二連。

一気に距離を詰める!

 

 

我流・犬上流・・・。

 

 

「『狼牙双掌打』!!」

 

 

気を練り込んだ両拳を、相手の腹に叩きつける。

直撃、貰っ・・・!

 

 

ガスッ・・・!

 

 

身体の中に、衝撃が走った。

俺はそのまま床に叩きつけられて、動けなくなったしもた。

こんな・・・アホな!

 

 

「ぐ・・・!」

「まぁ・・・貴方はまだ若い。実力の差に気を落とさないでください」

 

 

実力の差とか、そう言うレベルやない。

今の俺の攻撃は、直撃やったはずや。それで無傷やと?

いや違う、攻撃の威力が全部、すり抜けて行きよった。

 

 

あり得へん・・・!

 

 

「ぐっ・・・か、くっそ・・・!」

 

 

こんな所で、負けられるか・・・!

負けるくらいなら、死んだ方がマシや。

 

 

約束したんや、夏美ねーちゃんと。

絶対に、優勝するって。俺は。

 

 

「お、俺は・・・!」

 

 

ビシビシ・・・と、身体を変化させていく。

本当はあかんねんけど、そんなこと言ってられへん。

ここで負けるくらいなら、死んだ方がマシや・・・!

 

 

「おっと」

 

 

次の瞬間、俺の身体にとんでも無い力が。

 

 

 

 

 

Side アルビレオ

 

やれやれ・・・獣化とは。

こんな所でそんなことをされては、フォローができませんよ。

 

 

「まぁ・・・その心意気は、素晴らしいとは思いますが」

『こ、小太郎選手、ダウ――ンッ! カウントを取ります!』

 

 

カウントを取るまでも無く、重力魔法で意識を刈り取ったので、起き上がれはしませんよ。

試合開始から、10分少々・・・案外、粘られましたね。

・・・それよりも、今後のことを考えた方が良いですね。

 

 

けしかけたのは私ですが・・・タカミチ君があれ程、完膚無きにまでにネギ君を倒すとは。

ナギから彼への遺言は、また次の機会にした方が良いでしょうね。

今の彼には、逆効果でしょうから。

 

 

なら、もう片方の方から片付けましょうか。

10年来の約束をいつまでも抱えているのも、窮屈な物ですしね。

 

 

選手席から、射るような視線でこちらを見ているアリア君。

細められたその目線は、かつて見た誰かを思わせますね。

 

 

「小太郎君!」

 

 

その時、観客席の方から、半ば悲鳴のような声が聞こえてきました。

ふん・・・。

 

 

なんでしょうね?

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「小太郎君!」

 

 

思わず、叫んだ。

自分でも、こんなに大声が出るなんて、びっくりした。

 

 

小太郎君は、すごく頑張ってた。

倒されても、ちゃんと立って、頑張った。

けど、相手の人がすごく強くて・・・。

 

 

「夏美ちゃん・・・」

 

 

私と小太郎君を交互に見ながら、心配そうにしてる。

なんだか、言葉を探しているようにも見える。

 

 

「小太郎く・・・」

 

 

小太郎君は、うつ伏せになって倒れてた。

近くで見なくてもわかるくらいにボロボロで・・・。

もう何を言っても、絶対に無理だって思う。

 

 

「なんで・・・」

 

 

息が、しにくい。

もう、良いよって、言いたくなる。

頑張ったじゃんって、言いたくなる。

でも・・・言っちゃいけない気がする。

 

 

「・・・男の子って、そう言う物よ」

 

 

ちづ姉が、そんなことを言った。

小太郎君、女の子の前では、強がる子だから。

今も、優勝しないとって、思ってるかもしれない・・・きっとそう。

自惚れじゃなければ・・・その理由に、きっと私も入ってる。

 

 

トーナメント表を見る、二回戦、いわゆる準々決勝。

優勝には、全然届いてない。

約束には、全然届かない。

 

 

「・・・小太郎君!」

 

 

別に、格闘とか喧嘩で一番になってとか、言いたいわけじゃない。

そんなんじゃなくて・・・ただ。

私みたいに、目立たない、地味な脇役で終わってほしくない。

そんな気持ちが、私の中にあった。

 

 

「小太郎君!」

 

 

難しいことは、よくわからない。

ただ・・・。

 

 

「た・・・」

 

 

ただ、どうしてだろう。

小太郎君が、このまま終わるのを、見ていたくない。

脇役みたいで・・・私みたいで、でも。

私にとって・・・小太郎君は!

 

 

脇役なんかじゃ、無いんだから!

 

 

「立ちなさいよ、このバカぁ―――――――っ!!」

 

 

その時、ポケットの中のお守りが、かすかに熱くなったような気がした。

 

 

【―――想いは、力となる】

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「立ちなさいよ、このバカぁ―――――――っ!!」

 

 

これは、負けかな・・・そう思っとった時。

観客席の方から、見覚えのある女の子が、身を乗り出して何事かを叫んでいた。

応援・・・しとるんやろか?

 

 

夏美はん・・・やったか。

小太郎の、友達の。

 

 

「しっかりしなさいよっ! 優勝するって言ったじゃない!!」

 

 

そんなこと言うとったんか、あの子。

どこぞのスポ根物の漫画みたいなことを・・・。

 

 

「約束、破ったら承知しないんだから! 早く起きてよ、それで、その妖しいローブの人、やっつけちゃってよぉ!!」

 

 

いや、確かに妖しい。

それに、どことなくムカつく雰囲気纏ってるしな。

でも、それを大声で触れまわるって言うのは、どうなんやろ。

 

 

「主人公でしょ!?」

 

 

は?

 

 

「小太郎君、私と違って・・・脇役じゃ無いじゃん! よくわかんないけど、絡まれた女の子助けて、頑張って練習して、それで二回戦負けとか・・・面白くも何ともないよっ!」

 

 

ど、どういう理屈やね、それ?

最近の若い子は、ようわからんことを言うんやなぁ・・・。

 

 

と言うか、小太郎、うちの知らん所で何をやっとったんやろ。

・・・ん?

 

 

「だから・・・」

 

 

何や、今・・・。

一瞬、あの子と小太郎の間に、何かが走ったような気がするんやけど・・・。

 

 

「だから、だから・・・」

 

 

おおっ・・・と、他の観客も声を上げた。

その視線は、リングの中央へ。

 

 

「頑張れ、小太郎君――――――っ!!」

 

 

そこには、小太郎が。

小太郎・・・!

ごくり、自然、唾を飲み込んだ。

 

 

「良いのですか、応援しなくて」

「茶々丸はん・・・」

「立場上、偏ったことは言えませんが・・・千草さんが応援すると、勝率が上がる・・・気が、します」

 

 

いや、せやかて、うちにも立場ってもんがあってやな。

たとえ手すりを握りしめとっても、身を乗り出しとっても。

大声あげて、応援する言うんは、不味いんやって。

 

 

「・・・っ」

 

 

応援、する、わけには。

 

 

『た、立った―――――っ!?』

「い・・・」

 

 

瞬間、眼鏡を投げ捨てた。

 

 

「行ったれ、小太郎――――――――っ!!」

 

 

 

 

 

Side アルビレオ

 

立った?

これは、ビックリです。

それなりに、強い一撃を見舞ったつもりだったのですが。

 

 

「・・・ふむ、思ったよりも打たれ強かったようですね?」

 

 

外面は平静を装っていますが、内心は結構驚いています。

それにどうも、小太郎君とやらの身体には、先ほどは感じなかった力を感じる気がします。

この感覚は、なんとなく仮契約カードの魔力供給に似ていますね。

 

 

「へ・・・女はうるさーてしゃーないわ・・・」

「レディに対して、そんなことを言うものではありませんよ」

「へ・・・」

「しかし、何度やっても結果は同じです。さっきの攻防でわかったでしょう?」

 

 

彼と私の実力の差は、気合いや根性などでどうにかなるレベルではありません。

ましてや、今の私は幻影体。

申し訳ありませんが、小太郎君では私に触れることすらできません。

 

 

本当は、こうまでして勝ちたくは無いのですが・・・。

友との約束のため、ここで負けてもらいます。

 

 

「は、何回やっても、同じやて・・・?」

「ええ、そうです」

「そんなん・・・やってみんと、わからんやろが!」

 

 

3人に分身し、小太郎君が突っ込んできました。

とはいえ、ダメージは深刻・・・フェイントも何もない、真っ直ぐな攻撃です。

両手で繰り出す掌底で分身をかき消して。

 

 

本体の攻撃は、幻影の実体化を緩めて、かわすことに・・・。

 

 

 

次の瞬間、腹部に鈍い「痛み」が走りました。

 

 

 

「な・・・?」

「うぅらあぁぁっ!!」

 

 

腹部への衝撃に、反射的に身体がくの字に曲がった所、今度は顔面に一発。

もちろん、幻影の実体化を緩めて、かわそうとしました。

しかし、「痛い」?

 

 

ダメージが、通ってる?

バカな!?

 

 

「な・・・」

「だあぁらあぁ―――――っ!!」

 

 

なんでもない、ただのパンチ。

前半は、かすりすらしなかった。

いえ、それよりも幻影のこの身体が、「痛い」とはどう言うことです?

思わず、無防備で喰らってしまいました。

 

 

そしてその、なんでも無いはずのただのパンチが、私の身体に当たる。

ガードした腕に、確かな衝撃を伝える。

麻帆良に来て10年。久しぶりに感じる、感触。

 

 

こ、これはいったい、どう言う・・・!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

【―――想いは、力となる】

私が、夏美さんに手渡したお守りに込めた力です。

一種の概念付与のような物で・・・オガム文字に込められた魔力分、持ち主に力を与えます。

 

 

【―――想いは、拳に宿る】

一方で小太郎さんに渡っている石には、そう刻んであります。

こちらは、夏美さんの石の効果が発動した時にのみ、効果を発揮するように細工してあります。

 

 

具体的には、幻影体であっても、ダメージを通すことができるようになります。

ただ、どちらも、本格的な魔法を込めているわけでは無いので・・・。

保って、3分ほどの力でしかありませんが。

 

 

「くく・・・見たか、あのアルの面喰った顔」

「確かに、ひどく驚いていたようでござるな」

 

 

隣のエヴァさんは、大変上機嫌でした。

よほど、アルビレオさんが慌てている姿を見るのが楽しいようです。

 

 

「くくく・・・しかしお前も、味な真似をするじゃないか。演出好きというか」

「別に・・・まぁ、少しばかりチャンスをあげても良いかなと、思っただけですよ」

 

 

今のアルビレオさんは、通常の方法では傷一つつけることのできない状態です。

言わば無敵モード。

『歩く教会』でガードしている私だって、いくつかの条件をクリアすればダメージを受けるというのに、アルビレオさんだけ無敵というのは、面白くありませんから。

 

 

個人的に、村上さんの悲しむ姿は見たくありませんでしたし。

小太郎さんを応援する気持ちも、多少はありましたし。

 

 

「ただ、まぁ・・・その仕込みも、村上さんが真剣に小太郎さんのことを想っていないと、意味を成しませんでしたけどね」

「ふふ・・・意外と隅におけないじゃないか、あの犬っコロも」

「そう言うことに、なりますかね」

 

 

とは言え、村上さんがどのような感情で小太郎さんを応援しているかは、私にはわかりません。

友愛かもしれませんし、他の何かかもしれません。

ただひとつだけ、言えることがあるとするなら・・・。

 

 

「後はもう、小太郎さん次第です」

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

立ち上がれへんかった。

意識が飛ぶ直前に、夏美ねーちゃんらの声を聞いてへんかったら、確実に落ちとった。

絶対に・・・立ってられへんかった。

 

 

『10カウント寸前で、小太郎選手、まさかの逆襲――――っ!』

「いっけぇ――――っ、小太郎く―――んっ!」

「いてこましたれ――――――っ!」

 

 

うるさいねーちゃんらやな、ったく。

けど・・・約束したんや。勝つって。

 

 

「・・・なかなかです、が・・・」

「・・・っ!」

 

 

ずむっ・・・と、また、身体に何か、重い物を乗せられたかのような感触。

ぬ、ぬぅうあぁ・・・っ!

た、倒れるかっ・・・!

 

 

「・・・なんと!」

 

 

身体が動く限りは、倒れへん!

ねーちゃんらの前では、俺は強いままでおらなあかん!

負けることは許されへん!

 

 

「・・・っどるぅあぁっ!」

『が、ガードの上からクウネル選手を吹き飛ばしたぁ―――っ!?』

 

 

身体はボロボロや、足もガクガク震えとる、マトモに動かん。

気ぃ抜いたら、心臓が止まってしまいそうや。

いや・・・例え心臓が止まっても、魂だけで戦うたる!

魂が消えてしもても、棺桶から這い出て・・・!

 

 

「くぅおぉぉっ!」

『な、何やら黒い物が小太郎選手の右拳に集まり始めたぁ!?』

 

 

あぁんたを、倒す!!

 

 

【―――想いは、拳に宿る】

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「・・・ふぅ・・・」

「おや、休憩ですか、瀬流彦先生」

「あ、刀子先生」

 

 

胃がキリキリと痛む今日この頃。

僕は、遅めの朝食をとる時間を作れた。

・・・10分だけだけど。

 

 

でも、刀子先生も僕と同じか、それ以上に疲れているはずだ。

表向きに麻帆良と関西を繋げるのは、刀子先生だけだし。

実際に、関西の使節団の応対は刀子先生の担当だから。

 

 

・・・目の下のクマを、いつもより濃い目のお化粧で隠しているのを見れば、僕でもわかる。

 

 

「・・・お疲れ様です」

「いえ、瀬流彦先生こそ議員の護衛団のお世話とか、ご苦労様です・・・」

 

 

お互いに、薄い笑みを交わし合った。

本当なら僕は、他の仕事をしていたんだけど・・・。

クルト議員が、50人規模の護衛を引き連れてくるとは思わなくて。

麻帆良祭期間中のこの時期、宿泊先を確保するのも大変なんだよ・・・。

 

 

「・・・ガンドルフィーニ先生は、一人で告白阻止の指揮を取ってるんですよね」

「ええ、先ほど携帯食で栄養を補給している所を見ました」

「・・・辞めておけば良かったかなって、最近すごく思うんです」

「やめてください。本気で泣きたくなりますから・・・」

「・・・すみません」

 

 

謝ってみるも、我ながら空虚な声だな、と思う。

でも、力の無さで言えば、刀子先生の声も良い勝負だと思うんだ。

 

 

「か、関西の人達は、今何を?」

「今はメルディアナの代表特使も招いて、実務的な協議に入っています。どうやら相互に年少者を留学させる制度を設けるらしく」

「そうですか・・・」

 

 

いよいよ、麻帆良が窓口にならない交渉が本格化してきたなぁ。

存在感の低下は、避けられそうに無いね。

 

 

「そう言えば、弐集院先生が、ネットの方に気になる画像が流れていると言っていました。今の所、脅威度は低いとのことでしたが・・・瀬流彦先生も、一応確認しておいてください」

「あ、はい。わかりました」

 

 

それから、アドレスを僕にいくつか教えて、刀子先生は去って行った。

えーと、パソコンパソコン・・・魔法使いが科学に頼るって、何だかなぁって気がしないでもない。

そんなどうでも良いことを考えながら、件の画像を確認・・・。

 

 

「・・・アリア君?」

 

 

その中のひとつに、アリア君に関する情報や画像が。

正確には、ネギ君とアリア君の情報だけど。

でも、これは・・・。

 

 

「ま、不味いんじゃないのかな、これ」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「アリアのニュースが出てる?」

 

 

メルディアナ特使用の宿泊先に戻った後、エミリーがパソコンでウェールズの官憲(魔法関係)に連絡しようとしていた時に、そんなことを言ってきた。

何か妙な情報が、麻帆良のネット回線を中心に流れているらしいんだけど・・・。

 

 

「正確に言えば、ネギさんとアリアさんの情報が流れています」

「何の情報?」

「これです」

 

 

テーブルの上のパソコンを覗くと、「噂の子供先生、涙の極秘プロフィール」とか、「大会出場の理由」とか・・・。

 

 

「な、何よ、これ」

「わかりません。ただ、誰かが故意にこの情報を流している可能性が極めて高いです」

 

 

そこにはネギとアリアの出生の秘密とか、両親が行方不明だとか、そういうのが書いてあった。

もちろん、魔法とかそういうのは削れてて、そこはボカして書いてあるけど。

それを抜きにしても、この情報は正確すぎる。

 

 

関係者が、故意に流したとしか思えなかった。

 

 

「カモミール、何か知っているでしょう。吐きなさい」

「断定かよ! 何かあると、俺を疑うのやめてくれない!?」

「バカを言いなさい。この世の悪事の3.52%は貴方のせいでしょう」

「微妙な数字がリアルね・・・」

 

 

ちなみにカモは、ペット拘束用格子「懲らしめちゃうぞ☆」(5200ドラクマ)の中に閉じ込めてる。

大きめの虫籠の中に入ってるとイメージしてくれれば良いわ。

外からは誰でも開けられるけど、中からはどうやっても開かないようにできてる。

 

 

「・・・ドネットさんの所に、行かないと」

 

 

私一人で勝手に判断して、行動できる問題じゃないわ。

特使がいつまでも単独行動って言うのも、麻帆良の人達に追及されるかもしれないし。

それに、あっちでも何か動きがあったかもしれない。

 

 

「行くわよ、エミリー!」

「はい、アーニャさん!」

「ちょ、俺っちは!?」

 

 

カモは無視。

・・・え、ちびアリア?

ちびアリアは・・・。

 

 

「おいしーですぅ(ぽりぽり)」

 

 

私の腕の中で、苺のポッ○ーを食べているわ。

何か、文句ある?

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

『小太郎選手、怒涛のラッシュッ・・・クウネル選手、後ずさる―――――っ』

 

 

くっそ、このにーちゃん、さっきから後ろに下がってばっかやんけっ・・・!

こちとら、もう自分の拳に身体がついて行かへんってのに・・・!

 

 

「でぇらぁっ!」

「ふっ・・・」

 

 

ぶぅんっ、って音を立てて、俺の拳が空を切る。

くそったれがっ・・・空振りが一番堪えるでっ・・・!

でも、まだ行ける。

ポケットの中のあの石が、やけに熱を持っとる気がする。

 

 

「・・・っう、くっ・・・!」

 

 

それでも、足が震える。視界も定まってへん。

前半でダメージ、貰い過ぎた。

 

 

「小太郎君!」

「・・・っおぉおらぁあぁっ!」

「・・・っ!」

 

 

ズドンッ・・・と、俺の拳がクウネルとか言うにーちゃんの腹に突き刺さった。

前半は当たらへんかった攻撃が、今は当たる。

相手の身体が、軽くよろめいた。

・・・っ!

 

 

「小太郎、逃がすな―――――――っ!」

「行っけ――――――っ!」

「・・・わぁかっとるは、畜生がぁっ!!」

 

 

頼むでぇ、俺の身体!

あと、少しやからなっ・・・!

最後まで、付き合ってくれやっ・・・!

 

 

『小太郎選手、行ったぁっ! 試合終了まで、あと30秒っ・・・!』

 

 

作り出せる全部の狗神を、右拳に集める。

あと何発撃てるかなんて、理屈はいらん、ただ、殴る!

 

 

「『狗音ッ・・・!」

 

 

でも、これでっ・・・倒れへんかったら。

いや、倒す!

倒れても倒す! 死んでも倒す! 絶対に倒す!

 

 

「・・・爆砕拳』っ!!」

 

 

倒れろぉっ!

そう気合いを込めて、バランスを崩した相手の胸に拳を突き立てた。

それを最後に。

 

 

―――パキン。

 

 

何かが、砕けた音がした。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ガタンッ・・・。

 

 

「クルト議員?」

「あ、ああ、いえ・・・」

 

 

思わず、身体の動揺を隠せませんでした。

咳払いひとつ、眼鏡を直して、居住まいを正します。

茶々丸さんが、怪訝そうな表情で私を見ています。

 

 

「小太郎・・・っ」

 

 

横では、天ヶ崎千草が声を詰まらせていました。

先ほどまでは、声を大にして叫んでいましたが・・・無理もありません。

小太郎君は、力無く空中に投げ出されているのですから。

 

 

「・・・・・・・・・ふむ」

 

 

しかし、問題なのは、小太郎君を殴り飛ばしたあの男・・・。

フードに顔が隠れて良くは見えませんが。

あの赤い髪、あの雰囲気。

無論、本物では無いでしょうが。

 

 

反応せざるを得ない、その存在感。

 

 

そして、直前に起こったアーティファクトと思われる現象。

あれは確か、彼の・・・。

 

 

「・・・っ」

「千草さん!?」

 

 

たたっ・・・とどこかへ走って行きました。

まぁ、大体予想はつきますが。

 

 

『に、二回戦第一試合、クウネル選手の勝利です!』

 

 

・・・まぁ、親類の見舞いに立場がどうこう言うほど、私も無粋ではありません。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・随分、手こずったようじゃないか」

 

 

リングから戻ってきたアルに、そう声をかけてやった。

フードに隠されていて表情は見えないが、かすかに見える口元には、笑みが浮かんでいる。

だが、口の端にはわずかに血が滲んでいるようにも見えるが・・・さて。

 

 

「心臓が止まる、などと言う感触は、久しぶりに味わいましたよ」

 

 

結論で言えば、あの犬っころ・・・小太郎は、アルには届かなかった。

最後の一撃の後、アリアの石の効果も消えた。

そうでなくとも、魔法世界でも屈指の実力者であるこいつに、随分と善戦した物だ。

それでも最後の10秒で、アルがアーティファクトを使わなければ、わからなかったな。

 

 

実際、観客の声援の多くは、小太郎に向いていたから・・・メール投票にでもなれば、おそらくは小太郎が勝っていただろう。

だが・・・。

 

 

「・・・貴様、最後のあの姿は・・・」

「ええ・・・彼ですよ」

 

 

相も変わらず、嫌な笑みを浮かべて、アルが言う。

しかし、最後にアルの姿が変わり、あいつの姿になった時・・・。

反応しなかったと言えば、嘘になる。

 

 

「今ここで、なってあげましょうか?」

「いらん」

「それは残念・・・」

 

 

欠片も残念で無い声音。

ち・・・やはり、性格の悪さではナギ以上だな。

 

 

まぁ、それは良い。

問題なのは、このままで行けば、こいつが準決勝でアリアと当たると言うことだな。

そもそも、ぼーやがいない今、こいつがなぜ参加しているのかも気になる。

 

 

「・・・心配せずとも、貴方の大事な娘さんには何もしませんよ」

「心を読むな・・・と言うか、誰が誰の娘だ!?」

 

 

いや、確かに年齢差から言って、娘のようだとも言えなくもないが。

ちなみに、そのアリアは今ここにはいない。

お手洗いがどうのと言っていたが、どこに行ったかは容易に想像ができる。

 

 

「ふふ・・・随分と大切にしているんですねぇ」

「よし、わかった。そこに正座しろ貴様。身長差がありすぎて首が切れん」

「あははははは」

 

 

こ、殺してやりたい・・・。

 

 

「・・・それで実際の所、貴様アリアに何の用だ。場合によっては・・・」

「独占欲が強いですねぇ」

「貴様・・・」

「ああ、わかりました。では、お話しましょう・・・」

 

 

・・・ふん。

さて、こいつの言うことの何割を信じるかどうか・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

まぁ、随分と無茶をした物です。

その無茶の時間を引き延ばしたのは、どう考えても私ですがね。

ベッドで横になっている小太郎さんを見ながら、そんなことを思います。

 

 

場所は、医務室。

と言っても、広い空間をいくつかの小部屋に仕切った物なので、個室のような物ですが。

この個室の中にいるのは、千草さんと月詠さん(寝てますが)、村上さんと千鶴さんです。

とは言え、私が『時(タイム)』で時間を止めたその空間で動けるのは、私と停止対象を外れている小太郎さんだけです。

 

 

なぜ、小太郎さんを外しているかと言うと・・・。

 

 

「皆さんにわからないように、治癒魔法をかけるためです」

 

 

誰に言うでもなく、そんなことを言います。

ただ、アルビレオさんの力加減が上手かったのか何なのか・・・重症では無いので。

放っておいても、いいのですが。

 

 

ちら・・・と、村上さんを見ます。

治します。

蛇の目のような物が描かれたお札を室内に貼り、外からの覗き見を防止します。

魔法具『蛇の目』。

 

 

「・・・魔法具『少彦名(スクナビコナ)』。ならびに、『教典』」

 

 

一つは、小さなカードをリング状の留め金で留めた、単語帳型魔法具『教典』。

一枚に一つ魔法の術式を書いておく事で、任意のタイミングでその単語の書かれた紙を切り取り、発動することができます。

今回発動するのは、この世界でも一般的な治癒魔法『治癒(クーラ)』。

 

 

とは言え、この魔法では出力不足。

そこでこの勾玉の形をした魔法具『少彦名(スクナビコナ)』の出番です。

所有者の治癒魔法を強化する力を持つ魔法具で、『治癒(クーラ)』の効果を底上げします。

治癒術の得意な木乃香さんに渡すか、スクナさんと仲の良いさよさんに渡すか、悩んでいるアイテムでもあります。

 

 

とにかく、これで小太郎さんは大丈夫です。

少し辛そうだった呼吸が、楽になったように感じます。

もっと強力な物もあるのですが、急激に治すのもアレなので。

 

 

最後に『ケットシーの瞳』の中から、お見舞い代わりの「武蔵野牛乳」を取り出して枕元に。

しずな先生も愛飲されている、とても美味しい牛乳です。

他意はありません。

 

 

さて、外に出て・・・『時(タイム)』解除。

 

 

数秒の沈黙の後・・・。

 

 

「・・・・・・うぉ!? し、試合はどないなったんや!?」

「こ、小太郎君が生き返った―――っ!?」

「いや、元々死んどらんのやけど・・・」

「あらあら、うふふ」

 

 

その後も、何やら騒がしい様子。

というか、負けたことに気付いた小太郎さんが、ショックを受けて窓から飛び出そうとした所・・・。

千草さんにハタかれ、村上さんに下半身を掴まれ、もの凄い惨事が起こったようです。

・・・葱って何のことでしょう?

 

 

「・・・まぁ、後は良いですかね」

 

 

戻りましょうか。

次は、私の試合ですし。

 

 

そう思い、小太郎さんの病室から離れようとした時。

別の部屋の扉が、開きました。

そこから・・・。

 

 

「ちょ、くーふぇ! その怪我じゃ無理だって・・・」

「・・・大丈夫アル」

「いや、だって左腕・・・あ」

 

 

そこから出てきたのは、左の手足に包帯を巻いた古菲さん。

ただ、胴着は着替えたようで、新しい物になっています。

それから、それを止めようとしているような明日菜さん。

姿が見えないと思ったら、こんな所にいたようです。

 

 

そして、扉を閉めた所で、2人は私に気付いたようです。

・・・数秒、古菲さんと見つめあった後、私は2人に背を向けて歩き出しました。

 

 

「アリア先生!」

 

 

足を止めます。

肩越しに振り向けば、古菲さんがどこか緊張した目で、私を見ていました。

とても、強い瞳でした。

 

 

ふ・・・と目を伏せて、私は再び歩き出しました。

何も言わず、今度は止めることなく、外へ。

・・・一回戦の長瀬さんと言い、まったく。

 

 

面倒な相手ばかりが、用意されますね。

 

 

 

 

 

Side 月詠

 

「・・・おおっ!?」

 

 

なんだか、起きなければいけない気がしましたぁ。

アリアはんが、面白いことになっとる気がしたんどすけど。

気のせいどすかぁ・・・なんやぁ。

 

 

くぁ・・・と欠伸をする。

今、何時どすか。あ、まだ午前中どすか。

 

 

「・・・寝ますぅ」

「ええ加減に、起きぃ!」

「あぅ?」

 

 

近くでいつもの目覚ま・・・もとい、千草はんの声がして、パチクリと目を開ける。

ん~・・・はて、うち、なんでこんな部屋で寝とるんやろ。

うちは、何や白い部屋で椅子に座らされて、毛布をかけられとった。

 

 

「あー、その・・・ごめんな、夏美ねーちゃん。約束、守れんで・・・」

「う、ううん、良いよ。小太郎君、すごく頑張ってたし・・・」

「せやけど・・・あ、貰うた石も、何や壊れてしもて・・・」

「あ、それ私も・・・」

 

 

・・・小太郎はんは、夏美はんと何事か話しとる。

なんというか、すごくバツの悪そうな顔してはるなぁ。

 

 

「・・・あんたが寝とる間に、いろいろあったんや」

「はれ? 千草はん、お仕事どないしたん?」

「・・・・・・き、今日の晩飯は、ハンバーグにしよな」

「わぁーい・・・なんでどすか?」

「あらあら・・・」

 

 

何や、大人っぽいおねーさんがクスクスと笑てはった。

確か、那波はんやったっけ。

はて、何があったんやろ。

 

 

「ふふ・・・小太郎君がどうしてあんなにまっすぐなのか、わかった気がします」

「うちとしては、まっすぐ過ぎて困るんやけどな」

「うちはー?」

「あんたは・・・いや、ある意味まっすぐなんかな・・・」

 

 

うふふ、なんだか褒められたような気がしますなぁ。

 

 

「夏美ねーちゃん・・・」

「・・・小太郎君」

 

 

あの2人、何してはるんやろー。

と言うか、うちらのこと、見えとるんやろか。

 

 

「・・・まだ早いで!」

「うふふ・・・葱かしら?」

 

 

葱は堪忍してくださいー。

・・・なんでか、言わなくちゃいけない気がしましたー。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

「それは本当ですか!?」

 

 

武道会の会場に行く途中、シスターシャークティーが携帯片手に何か叫んでいた。

表情が怖いから、たぶん何かが上手くいってないんだと思う。

もう、面倒事の雰囲気しかしないよ。

 

 

「はぁ・・・今のうちに逃げて良いかな?」

「怒られると思うケド・・・」

「わかってる。言ってみただけだよ」

 

 

肩車してるココネと、そんな会話をする。

逃げられないことは、私が一番良く知ってる。

逃げられた試しが無いんだもん。

 

 

「・・・無理です! 私の身体は一つしか・・・本当なら教会の仕事もしなくちゃならないんですよ!?」

 

 

と言うか、今年は異常に忙しいよね。

シスターシャークティーも、ここの所休み無しだもんね。

私だって、それなりにお休みは貰ってるのに。足りないけど。

 

 

「・・・わかりました。それは、こちらで何とか・・・」

 

 

その時、シスターシャークティーが、溜息を吐きながら携帯を切った。

なんとなく、憔悴しているようにも見える。

 

 

「な、何かあったんですか?」

「・・・高畑先生との連絡が取れなくなったようです」

「マジですか!?」

 

 

確か、高畑先生は、超りん捕まえに行ったんだよね?

それで連絡が取れないとなると・・・あれ、これ逆に捕まったフラグじゃね?

 

 

「・・・どうなったかがわかりませんので、それを調べろとのことです」

「は、はぁ・・・」

「しかし、私はクルト議員を迎えに行かねばなりません。間違っても貴女達に行かせるわけには・・・」

「・・・もしかして、私らで高畑先生探しに行けと?」

 

 

いやいやいや、そんなこと無理っスよ!

高畑先生って、この学園の№2ですよ!?

そんな人が捕まっちゃうような状況に突入とか、絶対無理です!

 

 

「・・・無理なのはわかっています」

「へ?」

「ですが一応会場へ行き、連絡が取れないか可能性を探してみてください・・・」

 

 

力の無い声で、シスターが言う。

いやぁ、可能性とか言ったって・・・。

そりゃ、ココネの特技ならもしかしたらだけどさ。

 

 

「どうしても無理な場合や危険な場合は、遠慮はいらないので逃げなさい」

「・・・へ?」

「なんですか、その顔は・・・」

「いや、まさかシスターの口から逃げて良いなんて言葉が出るとは・・・」

 

 

記憶にある限り、一度も無いんですけど。

 

 

「今回ばかりは、仕方がありません。指導側の不備です・・・責任は私が取りますから、危ないと感じたらすぐに・・・」

「なら、それは今だな」

 

 

不意に、声をかけられた。

でも、私達がいるのは、龍宮神社敷地内の建物の屋根の上。

こんな場所で、誰が・・・。

 

 

「た、たつみー・・・?」

「チケットの無い方の通行はご遠慮・・・って、お前、春日か・・・?」

 

 

そこに出てきたのは、ギターケースを抱えた黒フードのお姉さん(同い年だけど)。

龍宮さん・・・聞いた話だと、裏社会じゃ名の知れたスナイパーで。

しかも、冷酷非情・正確無比の殺し屋さんだとか。

 

 

さっそくの命の危機。

よし逃げよう。すぐ逃げよう。

シスターシャークティーに全部押し付けて、ココネ連れて逃げよう。

 

 

そう思って、こっそり後ろを窺ってみたら・・・。

ガション、と音を立てて、ターミ○ーターみたいなロボットが。

・・・・・・ジャケットについてる苺のアップリケは、何なんだろう。

 

 

「紹介しよう、今回の私の相棒、田中さんだ」

「誰!?」

「機体番号T-ANK-α3デス。ヨロシクオ願イイタシマス」

「意外と礼儀正しい!?」

「茶々丸の弟だ」

「マジで!? でも何だか納得!」

 

 

こ、こう言うのを何て言うんだっけ。

ぜ、前門の虎、後門の狼?

 

 

ど、どうしよう・・・!

 





月詠:
どうも~、神鳴流ど・・・やなかった。
えーと、月詠どす。
千草はんに「名前から言え」って言われとったの、忘れる所でしたぁ。
なんでうちがここにおるかと言うと、本編で寝てばっかやったから、働け言われましたぁ。
そんなわけで、よろしくどすぅ。
今回は、小太郎はんが何や頑張っとったみたいどすなぁ。
彼女さんに心配かけて、あかんことどすなぁ、もう。
はよう養生して、安心させたらなあきまへんえ?
・・・クルトはんかて、今回働いてへんのになぁ。


今回出てきた新規魔法具は、こんなもんどす。
蛇の目:「xxxHOLiC」から、司書はん提供どす。
教典:「とある魔術の禁書目録」から、水色はんどす。
少彦名:旅のマテリア売りはん提案どす。
どうも、おおきに。

ちょっと違うけど、これもどすぅ。
武蔵野牛乳:「とある科学の超電磁砲」から、hakiはんどす。
どうも、おおきに。


月詠:
ほな、次回は・・・えー。
アリアはんの試合どすなぁ。これは、起きとらなあかんわぁ。
相手の子は、良う知りませんけど。
そしたら、うち帰りますぅ。
千草は~ん、はようちを会場まで運んでください♡


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第62話「麻帆良祭二日目・心」

Side クルト

 

解説役に利用されたのは気に入りませんが、収穫はありましたね。

 

 

会場の修理の様子を見ながら、私はそんなことを考えていました。

収穫と言うのは、もちろん2人のスプリングフィールドの件も含まれますが・・・。

何よりも、クウネルと名乗る、あのふざけた男の目的を知ることができたのですから。

 

 

「まぁ、わざと聞かせた可能性の方が高いですが・・・」

 

 

腐っても大戦の英雄の一角。

側で話を盗み聞いている私の部下の存在を、見抜けないはずもない。

だが、問題はそこではありません。

 

 

あの男が、ネギ君とアリア君に親の遺言を届けに来たのだと言う。

非常に、興味がありますね。

アリア君はどうだかはわかりませんが・・・ネギ君は、ナギを大層尊敬しているのだとか。

 

 

ならば、ナギからの遺言で間違い無いでしょう。

どうも、母親のことは知らないのではないか、と思われる節がありますからね。

とはいえ、断定はできませんね・・・アリア君が両親をどう思っているのか。

その情報が、まるで無いのですから。

 

 

「・・・茶々丸さん、とお呼びしても?」

「ええ、どうぞ」

「茶々丸さんは、アリア・スプリングフィールド選手のことを、どの程度御存じなのですか?」

「・・・それは、どう言う意味合いでの質問でしょうか」

 

 

おや、警戒されてしまいましたか。

情報によると、一緒に暮らしているとか・・・。

 

 

「いえ、何、まったくもって他意はありません」

 

 

とは言え、警戒してくれた方がやりやすい。

無警戒でいられる方が、事の真偽を見抜きにくいのでねぇ。

 

 

「ただ、噂によれば、ネギ選手は父君に憧れているのだとか・・・ならば、妹のアリア選手も、そうなのかと思いましてね」

「・・・そうした話は、耳にしたことがありません」

「なるほど。そうなのですか・・・これは失礼」

 

 

父親に憧れてはいないわけか。

と、なると・・・。

 

 

「お待たせして、申し訳ないどす」

「千草さん。小太郎さんのお加減はいかがですか?」

「ああ、もうすっかり元気や」

「それは良かったです」

 

 

その時、千草さんが戻ってきた。

背中には、相変わらず月詠選手を背負っている。

ただ、先ほどと異なり、起きているようですが・・・。

 

 

まぁ、いつまでも寝ているわけにはいきませんからね。

 

 

「クルト様」

 

 

その時、私にしか聞こえない声で、部下が囁いてきました。

しかし、私の部下の姿はそこには無く・・・声のみが、魔法で届いています。

 

 

「ふふ・・・何と言うことでしょう、優秀な私は、座りながらにして有益な情報を得てしまうのだから」

 

 

その部下の報告に、私は唇の形を歪めます。

ふふ・・・私が議場を離れれば、動くかとは思っていましたが。

 

 

メルディアナ魔法学校が、関西呪術協会と同盟した。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『二回戦、第二試合を始めます!』

 

 

朝倉さんの声を聞きながら、リングの中央へ。

先の試合の破損は、すでに修復されています。

何と言うか、麻帆良大の工学部はもう学生レベルではありませんね。

 

 

「・・・どこかで技術レベルがインフレしているのですよね・・・」

 

 

魔法を無しにしても、麻帆良の特異性は凄い物があります。

全ては、世界樹の為せる技でしょうか。

そんなどうでも良いことを考えながら、私は目の前に立つ古菲さんを見つめています。

 

 

どこか緊張したような、何かを考えているような古菲さんを。

・・・『ギアス』の痛みに襲われていない所を見ると、どうやら魔法関係では無いようですが。

そのような身体で、何を考えているのやら・・・。

 

 

『それでは、二回戦、第二試合・・・Fight!』

 

 

瞬間、古菲さんが私に突撃してきました。

ぼっ・・・と言う、空気を切るような音が聞こえます。

それはあまりにも直線的で、カウンターに相応しいタイミング。

 

 

迎撃しようと、左手を前に突き出した所で・・・。

びたっ・・・と、古菲さんが動きを止めました。

な・・・?

 

 

一瞬の戸惑い。

その間に、動きを再開した古さんが、私の左手に沿うように己の左手を突き出してきます。

直後、腹部に衝撃。

見れば、古菲さんの右拳が。

しかし、ダメージはゼロ。『歩く教会』の防御は抜けません。

 

 

「む・・・やはり、駄目アルか」

「・・・発想は、悪くありませんでしたよ」

 

 

古菲さんの左手を掴めば、骨折の痛みか・・・かすかに、顔を歪めました。

 

 

「・・・『活力の炎(ホワイトホワイトフレア)』」

 

 

カチッ・・・と、残りの手にライターを創り出し、一瞬だけ白い炎を発生させます。

その炎を、古さんの左腕に掠めさせます。

すると・・・。

 

 

「い、痛くなくなったアル。治ったアルか?」

「ええ、まぁ・・・」

 

 

このまま、倒してしまっても良いのですが。

怪我を理由に言い訳されても、困りますので。

 

 

「では・・・失礼します」

 

 

躊躇せず、『闘(ファイト)』と『気(オーラ)』を発動させます。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

『二回戦、第二試合・・・Fight!』

 

 

朝倉の声と同時に、私はアリア先生に肉薄したアル。

アリア先生も、それを見て、カウンターの構えをとったアルが・・・。

 

 

間合いに入る直前で、私は動きを止めた。

 

 

アリア先生の困惑した様子が、伝わってきたネ。

まさか、本当に戸惑うとは思っていなかったアルが・・・。

 

 

―――アリア君って、意外と突発的なことに弱かったりするよ~?

 

 

以前、何度か瀬流彦先生に相談した時のことを、思い出したアル。

別にアリア先生のことを相談したわけでも、弱点を教えてもらったわけでも無いネ。

ただ話の流れで、聞いただけ。

 

 

とにかく、チャンス。

ダメージの少ない右腕で、渾身の一撃を!

 

 

『炮拳(パオチュアン)』!

 

 

ズンッ・・・と、アリア先生のお腹に、私の拳がめり込んだ。

アリア先生の身体に、かなりの衝撃が走ったのを感じたアルが・・・。

ダメージを受けた様子は、無いネ。

 

 

「む・・・やはり、駄目アルか」

「・・・発想は、悪くありませんでしたよ」

 

 

静かな口調。

アリア先生が、私の左手を軽く握ったアル。

それだけで・・・私の左腕に、鈍い痛みが広がる。

 

 

その時、アリア先生の手の中に、一瞬だけ白い火が灯ったアル。

それが、私の左手を掠めた直後・・・。

 

 

「い、痛くなくなったアル。治ったアルか?」

「ええ、まぁ・・・」

 

 

口元を微かに緩めて、アリア先生が言う。

私の左腕は、もうちっとも痛くなかったアル。

完璧に、治ったアル。

 

 

これなら、なんとか戦えるかも・・・。

 

 

「では・・・失礼します」

 

 

次の瞬間、アリア先生の身体から、強い気を感じたアル。

なんとか勝てるかも・・・とか言うレベルでは無かったアル。

だからと言って、諦めるわけにはいかないアル。

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

関西呪術協会との会談は、上手くいきつつある。

もちろん、全てで上手くいっているわけでは、ないけれど・・・。

 

 

目の前に座る関西の長、近衛詠春を見ると、彼はにこやかな笑顔で私を見た。

温和さを滲ませた表情。

しかし、それをそのまま受け取ることはできない。

 

 

何せ彼は、弱体化した組織を率いながら、その組織の存在感を増大させている存在なのだから。

ここの所の関西呪術協会の伸長は、目を見張る物があるわ。

勢力的には、弱体化しつつあるはずなのに・・・。

魔法世界にまで、その手を伸ばしてきているのだから。

 

 

「では、この協定書を持ち帰り、しかるべき機関において承認され次第、具体的な協議に入ると言うことで・・・」

「ええ、お互いに良い関係を築ければと思っております」

 

 

今、私と詠春殿が署名した協定には、メルディアナと関西呪術協会の今後の関係について記されている。

人材交流のための短期留学生の相互受け入れ、情報交換と意思疎通を目的とした定期協議の合意、不測の事態に備えたホットラインの創設など・・・。

これまで何の関係も持たなかった組織同士が合意するには、あまりある内容を含んでいる。

 

 

「我々メルディアナ魔法学校は、早期に東洋魔術・・・陰陽術の学科開設を約束いたします」

「こちらも、そちらの人員を受け入れやすいよう、最大限の配慮を約束しましょう」

 

 

現在、留学生を受け入れるための機関がお互いに存在しない。

なので、今年度中に何らかの形を示すことが定められている。

まぁ、すでに合意した物の細かい点を詰めているだけなので、そこまで驚くことでは無いわ。

 

 

「我々メルディアナは・・・強大で、繁栄し、成功し、地域で一層の役割を果たす関西呪術協会の存在を歓迎しています」

「私達も、メルディアナ魔法学校が旧世界における一勢力として、平和と繁栄、そして安定に努力することを歓迎します」

 

 

とは言え、これは表向きの話に過ぎない。

ウェールズ経由で伝わっている話だと、アリアドネーと関西呪術協会の接触では、アリアに関する問題については、進展が無かったとのこと。

ならば、ここで何らかの妥結を得なければならないのだけれど・・・。

 

 

「詠春殿、よろしければ一度・・・メルディアナへおいでください。歓迎いたしますわ」

「ふむ・・・考えておきましょう。両組織の友好のためとあれば・・・」

「その際には・・・」

 

 

目下の所、我々はスプリングフィールド兄妹のメルディアナへの帰還、並びに再教育、再配置を望んでいる。

だけどそのためには、彼の協力を得なければならない。

こちらが実を取り、彼らが名を取る。

そうした形に持っていければ・・・。

 

 

「その際には、ぜひ、我が校の卒業生にお会いできればと思っておりますわ」

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

卒業生・・・私が知っているメルディアナの卒業生と言えば、ネギ君とアリア君、後はアーニャ君だ。

この場合は、アリア君のことを指していると見て、間違い無い。

関西の利権に直接絡んでいる卒業生は、アリア君だけだろう。

 

 

「卒業生、ですか・・・はは、我々が貴女に会わせられる貴校の卒業生がいれば、の話ですが」

「・・・ふふ」

 

 

あちらの意図は、私にもよくわかっている。

セラス総長との通信によれば、メルディアナはネギ君とアリア君を麻帆良から引き離したがっていると言う。

元々、麻帆良かアリアドネーか、と言う選択肢だったようだ。

 

 

元老院の影響力を遮断できる場所は、他には考えにくいだろうことは、私にもわかる。

しかし今では、アリア君は関西にとっても重要な人物だ。

穏健派の中にはアリア君を引き合いに出して、子女を育てている者も出始めているのだ。

 

 

「我々メルディアナとしては・・・可能な限り早期に、この問題について麻帆良と協議を持ちたいと、考えています」

「・・・そうした状況には、理解を示しましょう」

「ありがとうございます。その際には、ぜひともそちらのご助力をいただきたいのですが・・・」

 

 

助力。

とどのつまりは、アリア君に行動の自由を、と言うことなのだろう。

しかしそうなると、千草君も魔法世界への着任が確実になっている今、木乃香を後見してくれる存在がいなくなってしまう。

 

 

関西に戻したい所だが、残念ながら無理だ。

私はまだ、関西の全てを掌握し切れていない。

先日も地方で小さな反乱が起き、それを鎮めた所なのだから。

 

 

とは言え、アリア君も含め、木乃香をいつまでも麻帆良に置くのも問題だ。

そうなると、アリア君について移動させるのも悪くは無いのかもしれないが・・・。

 

 

「・・・クルト議員は、この問題について何と?」

「議員は、今の所は何も・・・」

 

 

クルト・ゲーデル。

正直な所、彼がどう動くのかがわからない。

一応、裏で連絡は取っているものの・・・。

 

 

彼次第で、ネギ君やアリア君の今後が決まるような気がしてならない。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「『南斗白鷺拳・誘幻掌』」

「ぬ・・・!」

 

 

特殊な足運びで、古菲さんを中心に、円を描くように動きます。

幻術に似た効果を発揮するこれは、古菲さんの視神経を幻惑し、私の姿を捉えにくくしてくれます。

古菲さんは目を細め、私を捉えようとしますが・・・。

 

 

「『南斗紅鶴拳・血粧嘴』」

 

 

古菲さんの背中めがけて、両手の指を嘴に見立てて、素早い突きを連続で繰り出します。

直前で私の所在に気付いた古菲さんですが、『速(スピード)』まで込めた私の拳速にはついて来られません。

 

 

機銃掃射のような私の突きが、古菲さんを襲います。

古菲さんはガードを固め、必死にそれをやり過ごそうとしていました。

 

 

「・・・ふっ」

 

 

私はその間に懐に飛び込み、右の肘で古菲さんの両手のガードをかち上げました。

古菲さんも即座に反応し、逆にその両手を、手刀として放ってきます。

くんっ・・・と身体を下げ、足払い。

 

 

「ぐっ・・・」

「・・・魔法具『氣(フォース)』」

 

 

しゅ・・・と、目の前に新しいカードを創ります。

このカードは、私に『仙術』と言う術式の使用を可能にするカードです。

発動条件として、『気(オーラ)』のカードを一定時間使用して、気を蓄える必要がありますが。

 

 

「『弾・双掌砲』」

「・・・っ!?」

 

 

ぐっ・・・と、両手で押し出すように、古菲さんのお腹に触れます。

それだけで、私の中に蓄えられた気が伝わり・・・古菲さんの身体を、吹き飛ばしました。

本来なら、古菲さんの身体をリング外にまで飛ばすはずだったのですが。

 

 

「・・・ぐ、ぬ・・・!」

 

 

古菲さんは、軽く吹き飛んだ後、転がりつつも、リングの端で止まりました。

膝をついて、お腹を押さえ・・・荒い呼吸で、こちらを見ています。

ふと、自分の右手をみれば、かすかに残る衝撃の感触。

 

 

古菲さんは吹き飛ばされる直前、私の腕に拳を当て、技の威力を軽減しました。

流石は、一般人最強と言った所でしょうか?

しかし、技の勢いを完全に殺すことはできなかった。

 

 

『あ・・・圧倒的――――っ!? 子供先生、チャンピオンを圧倒――――っ!』

 

 

とは言え、古菲さんのファンにこれ以上嫌われるのもアレですし。

そろそろ、終わりにしましょう・・・。

 

 

「つ・・・」

「はい?」

「強いアルな、アリア先生は・・・」

 

 

感慨深そうな、古菲さんの言葉。

 

 

「・・・別に私は、強くなどありませんよ」

 

 

強さ、などと言う物を、私は深く考えたことがありません。

特に今の私は・・・麻帆良に来た時ほどの無茶をしなくなった今の私は。

家族に囲まれ、依存とすら言える関係を押し付けてしまっている今の私は、おそらく誰よりも弱い。

 

 

エヴァさんにも、怒られてばかりです。

 

 

「誰よりも狭量で・・・泣き虫で、我儘な・・・ただの人間の小娘です」

「ふふ・・・ちっとも、わからないアル」

「そうですか」

 

 

まぁ、わかってもらおうとも思いませんが。

古菲さんは、どこか穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくりと立ち上がりました。

そのまま、腰を落とし・・・構えを。

 

 

私も、それに対応するように構えを。

 

 

『り、両者の間に、緊迫した雰囲気が・・・!』

「・・・く、ただ・・・」

「は?」

「・・・それだけ!」

 

 

何かを言ったかと、気にかけた瞬間。

古菲さんが、すさまじい勢いで、飛び込んで来ました。

すかさず、右拳でカウンターを入れます。

 

 

ヂッ・・・と、拳が古菲さんの頬を掠めるのを感じました。

直後、腹部に再び、しかし先ほどよりも強烈な衝撃が。

ぐっ・・・と、身体が浮くのを感じます。

 

 

―――ドボンッ。

 

 

次いで、冷水の感触・・・。

どうやら、私は場外に飛ばされたようですね。

腹部には、痛みもダメージも無いものの、衝撃の感触が残っています。

衝撃だけで『歩く教会』装備の私を、ここまで飛ばすとは・・・。

 

 

そっと、打たれたお腹に、触れます。

こぽ・・・と、唇から、空気が漏れます。

水の中にありながら、まだ熱が残っている気がします。

 

 

・・・何かを感じる、一撃だった。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

「強いアルな、アリア先生は・・・」

 

 

本当に、アリア先生は強いアル。

揺るがない気。静かな力。

どうしたら、そんな域に達することができるのか・・・。

 

 

私は、弱いアル。

揺らいで、固まらない気。無駄の多い動き。

さらに言えば、心が定まらない。

 

 

「・・・別に私は、強くなどありませんよ」

 

 

だから、アリア先生の言葉は、私には意外だった。

アリア先生が強くないのなら、私は?

 

 

「誰よりも狭量で・・・泣き虫で、我儘な・・・ただの人間の小娘です」

「ふふ・・・ちっとも、わからないアル」

「そうですか」

 

 

少しも、わからないアル。

わからないことばかりネ・・・。

 

 

師父の言葉も、アリア先生の言葉も。

それに・・・。

 

 

―――う~ん、僕にもわからないや。

 

 

瀬流彦先生の言葉も。

 

 

―――でも、そうだね。もしアリア君と話がしたいのなら。

 

 

構えを、とったアル。

アリア先生も、構えを。

 

 

―――古菲君が、自分で選んだことを、ただ・・・。

 

 

・・・貫く、ただ。

 

 

「・・・それだけ!」

 

 

私は、アリア先生の懐に飛び込んだ。

アリア先生の手が、カウンターを入れてくるのが見えたアル。

見事なタイミング、でも・・・。

 

 

八極拳・左右硬開門!

 

 

身体を小さく縮め、両手を折り曲げて。

カウンターに、カウンターを合わせる。

私に残された全ての気を、ぶつけた。

 

 

―――ドボンッ。

 

 

気が付いた時には、アリア先生の姿が消えていたアル。

朝倉が、何やら騒いでいるアルが・・・。

 

 

どうなったアルか?

 

 

―――ドボンッ。

 

 

次の瞬間、目の前の水の中から、何かが飛び出してきたアル。

それは、空中で一回転すると、すたっ・・・と、リングに降り立ったアル。

 

 

もちろん、アリア先生だったアル。

 

 

さっきまでの白い服じゃなくて・・・。

黒い、タイトな服に変わっていたアル。

タイトと言っても、フリルのついたミニワンピースみたいな衣装。

膝まである大きな黒いブーツからは、言いようも無い力を感じるアル。

 

 

『あ・・・アリア選手の服が変わった――――っ!?』

「修道服の下に着ていただけですよ」

「あ・・・そうだったアルか」

「ブーツは、今履きましたけどね」

 

 

いやぁ・・・それにしても、どうするアルか。

さっきの一撃で、力を出し切ってしまったアル。

 

 

「ええ、見事な一撃でしたよ」

 

 

にこり、と微笑んで、アリア先生が言ったアル。

・・・目は、全然笑って無いアルが。

 

 

「まさか私も、ここまでとは思いませんでした。そしてだからこそ、あえてこの言葉を贈りましょう」

「な、何アルか?」

「・・・あは」

 

 

ニッコリと、笑みを深くするアリア先生。

・・・師父、ここで力尽きる不詳の弟子を許してほしいネ・・・。

 

 

「上を、知りなさい」

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「ゆ、行方不明のお父様を・・・ね、ネギ先生にそんな過去が・・・!」

「アリア先生も、可哀想・・・」

「お母さんも、いないみたいだし・・・」

 

 

・・・事情は、良く知らないが。

アリア先生の過去が、どうも麻帆良中に喧伝されているらしい。

私も機械には詳しくないので、全体を把握し切れてはいないが。

・・・これからの時代、パソコンぐらい扱えるようになるべきだろうか・・・。

 

 

このちゃんは午前の仕事を終え、今、着替えに行っている。

ここから茶々丸さんの野点の時間までは、自由な時間だ。

 

 

私も普通の学生として、学園祭を楽しむ予定だ。

本当なら、麻帆良に来ていると言う長に、挨拶をしておくべきなのだろうが。

長が政治的立場で来ている以上、「普通の人間」である私や、このちゃんが軽々に会いに行くことはできない。

 

 

「この、雪広あやか・・・一生の不覚っ・・・!」

「ただの天才少年&少女だとは、思って無かったけど・・・」

「2人とも水臭いなー、言ってくれても良いのに」

 

 

言ってもどうにもならないから、言わなかった・・・と言う風には、考えないのだろうな。

あるいは、言えない理由があるとか。

まぁ、そこが3-Aの長所であり、短所なのだろう。

 

 

しかし、このまま放置してもおけないだろう。

他ならぬ、アリア先生のことだ。

このちゃんの後見人。

個人情報の漏洩と言う点からも、看過できない。

いったい、誰がこんな情報を・・・?

 

 

知っている人間は、限られている。

その中で、こんな情報を流せる人間がいるとすれば・・・。

 

 

「・・・少し、調べてみるか」

 

 

とは言え、私は動けないし、関われない。

関わるべきでもない。

私は、このちゃんを守る剣だ。

しかし・・・。

 

 

懐から、式神の札を取り出す。

ぽんっ・・・と出てきたのは、私の式神。

 

 

「ちびせつな、スタンドアローンモードです♡」

 

 

当然、一般人に「ちびせつな」は見えない。

 

 

「・・・アリア先生の周辺を見てきてほしい。少し、心配なことがある」

「りょーかいです♡」

 

 

まぁ、情報収集が得意な個体では無いが。

アリア先生が心配だ。

あの人は、意外と抜けている所があるから・・・。

 

 

「せっちゃーん♪」

「このちゃん」

 

 

こちらへと駆けて来るこのちゃんの姿を見て、笑みを浮かべる。

このちゃんの柔らかな笑顔を見ると、自然と顔が緩むのを感じる。

 

 

このちゃんは私を見ると、キョロキョロと周りを見て・・・。

にこっ、と微笑んだ。

 

 

「せっちゃん」

「・・・はい?」

「せっちゃんは、優しいな」

 

 

一瞬、意味がわからなくて・・・少し考えて、得心した。

このちゃんには、敵わない。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「ふ・・・」

 

 

先ほどまで、動揺した表情を浮かべていた春日が、何かを思い出したかのように笑みを浮かべた。

側の指導員・・・シスターシャークティーを押しのけて、前に出てくる。

 

 

その表情は、自信に満ち溢れていた。

なんだ・・・?

私に勝てる算段でもあるのか?

 

 

「自分に勝てるはずが無い・・・そう思ってるね、たつみー?」

「次にたつみーと呼んだら、引き金を引くことにしようか」

「訂正するから撃たないでください、龍宮さん」

 

 

・・・どうやら、私に勝てる算段は皆無らしい。

そのまま、ゆっくりと私に近付いてきて・・・。

 

 

しゅばっ、と、私に武道会のチケットを二枚渡してきた。

・・・何?

 

 

「はい♡ チケット♪ チケットがあるなら、通って良いんだよね?」

「・・・あ、ああ」

「いやー、双子に貰っておいて良かったよ」

 

 

やられた・・・。

 

 

「悪いね、たつみー♪」

「田中さん、春日を」

「了解致シマシタ」

「だらっしゃぁ――――っ!」

 

 

田中さんをけしかけた所、春日はかなりの超スピードで駆けて行った。

早いな・・・だが。

 

 

「バカな、私の逃げ足について来るだと!?」

「追尾モードデス」

「ミソラ・・・」

「任せて、ココネ。逃げ足では世界最速を自負しているから――――っ!!」

 

 

そのまま、見えなくなった。

・・・春日、認識を改めよう。

あれは、なかなか食えない奴だ。

 

 

自分の指導員を置き去りにしている所とかは、なかなかどうして。

強かじゃないか、春日。

 

 

「・・・注意しなくて良いんですか、シスターシャークティー?」

「構いませんよ。貴女のような方が守っている武道会場・・・おそらく、麻帆良のどこよりも安全でしょう」

「嬉しいことを、言ってくれる」

「それに・・・私は、信頼しているのですよ。これでもね」

 

 

十字架を片手に持ちながら、シスターシャークティーが笑みを浮かべた。

 

 

「あの子の、逃げ足の速さだけは」

「なかなか、奇妙な信頼だことで」

「毎日あの子を追いかけ回している私が言うのです・・・間違いありませんよ」

 

 

私も、愛用の銃を手に握る。

 

 

「貴女達は、あの子を捕らえられない」

 

 

シスターシャークティーのその言葉を最後に、私は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『ワ・・・1!』

 

 

朝倉さんのカウントが聞こえます。

試合時間も、残り僅かですから・・・結構、粘られましたね。

 

 

「死ぬかと思ったアル・・・」

 

 

私が立っている場所のすぐ横には、古菲さんが倒れています。

身体も、胴着もボロボロ。

後が面倒なので、左腕もまた折らせてもらいましたし。

 

 

カツンッと、黒のブーツ・・・その名も、『黒い靴(ダークブーツ)』の踵を打ち鳴らします。

これは、脚力を増強させるだけでなく、短時間であれば飛翔することもできる特殊なブーツです。

全てが真っ黒なデザインのブーツ。

水の中から飛び出した後は、蹴り技で古菲さんを翻弄させていただきました。

 

 

『・・・4!』

「アリア先生は、強いアルなー・・・」

 

 

どこかすっきりとした顔で、古菲さんは言いました。

その顔には、笑顔すら浮かんでいます。

 

 

「・・・ん。決めたアル」

 

 

古菲さんは、右腕で目を覆うと、吐き出すようにして言いました。

 

 

「故郷に帰るネ」

 

 

ネギ坊主達にも話さないといけないアルなー、と、古菲さんは言いました。

故郷に帰る・・・麻帆良を出ると言うことでしょうか。

 

 

「私はまだまだ、修行不足ネ。誰かに物を教えたり、誰かと戦える程では無い・・・それが、良くわかったアル」

「・・・そうですか」

「とりあえず、師父とも相談して・・・中学くらいは、こっちで卒業するアルよ」

『・・・7!』

 

 

麻帆良女子中を卒業した後、故郷へ。

その場合、また面倒な進路になりそうですね。

 

 

「・・・向こうの学校と、連絡を取らないといけませんね」

「何でアルか?」

「さぁ、どうしてでしょうね」

 

 

古菲さんの言葉には答えず、そのまま背を向けました。

歩いて、古菲さんから離れます。

ゆっくりと。

 

 

「・・・アリア先生」

 

 

答えない。

 

 

「ありがとネ・・・」

 

 

私が貴女に教えられることは、たぶん、何も無いから。

後は・・・貴女の師父に、教えてもらえば良い。

 

 

『・・・10! アリア選手、準決勝進出―――――っ!』

 

 

その先にはきっと、貴女だけの答えがあるはずだから。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

アリア先生の試合の後、マスターの試合が行われました。

ただ、対戦相手の高畑先生の姿がありません。

と言うのも・・・彼は現在、超さんによって囚われているからです。

 

 

先ほど、超から連絡がありました。

よって・・・。

 

 

『えー、大会規定により・・・自分の試合に5分以上遅刻した選手は、失格となります。よって、準決勝第一試合は、マクダウェル選手の不戦勝となります!』

 

 

マスターが、不戦勝で決勝進出を決めました。

しかし、なぜ超は高畑先生を捕縛したのでしょうか。

 

 

「しっかし、ええんかコレ?」

「超からは、そのまま続けて構わないとの連絡が来ています」

 

 

マスター側のトーナメント参加者は、ほとんどが敗退か棄権です。

なのでマスターは、一度の勝利で決勝まで進んでしまったことになります。

本来なら、偏りの是正のために、何らかの対策を講じるべきなのでしょうが・・・。

 

 

「超は、そのままの結果を受け入れると言っています」

「さよか・・・ま、うちはどうでもええけどな。こんな大会」

「何なら、うち出ますえー?」

「やめとき・・・今度はあんたを庇わなならんような気がする」

 

 

月詠さんが棄権したのは、ある意味やむを得ない形でしたが。

しかしマスターが相手となると、今度は立場が逆転しかねません。

 

 

そう言えば、スクナさん達が戻って来ませんね。

 

 

『10分のインターバルを挟んだ上で、続いて準決勝第二試合を開始します!』

「いやぁ、席を外してしまって申し訳ない」

 

 

その時、クルト議員がにこやかに笑いながら、戻ってきました。

さも当然のような顔をしていますが、ここには元々貴方の席はありません。

 

 

「・・・どこ行っとったんや?」

「いえ、何・・・部下がヘマをしたようで、対応に追われていたのですよ。いや、お恥ずかしい」

「まぁ、あれだけ数引き連れてくればな・・・」

「普段は、あれ以上の人数を引き連れていますが」

 

 

千草さんがクルト議員を見る目には、まるで信用の色が見えませんでした。

私としても、この方をむやみに信じるのは、危険なような気がしているのです。

そもそも、彼は何を求めてここに来たのか・・・。

 

 

妖しく笑うその顔の下で、何を考えているのか。

私はそれを、知らねばならないような、そんな気がするのです。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

・・・ふん、タカミチめ。

どうやら、バカをやったらしいな。甘ちゃんのあいつらしい。

 

 

そして同時に、超鈴音はタカミチよりも上位にいると言うことがわかった。

 

 

まぁ、私ですら手玉に取ろうと言うのだ・・・そして、あいつは私とは別の意味で悪人だ。

本来であれば、少しは好ましく思う性質なのだがな。

 

 

しかし、超鈴音。

普通で無いにも程がある女だ。奴はいったい、どこであれ程の・・・。

 

 

「決勝進出、おめでとうございます・・・キティ」

「その名で私を呼ぶな・・・それと、お前に労われても、全く嬉しくも無い」

「それは、残念・・・」

 

 

私を出迎えたアルは、全く残念そうで無い口調で、そう言った。

その隣では、アリアがかなり嫌そうな表情を浮かべている。

どう言う理由かは知らないが・・・。

アリアの頭の上のチャチャゼロがナイフの刃をアルに向けている所を見ると、碌でもない理由なのだろう。

 

 

「原因は、100%お前だ」

「おやおや・・・嫌われた物ですね」

 

 

むしろ、好かれる努力を何かしたのかと言いたい。

まぁ、そんなことはどうでも良い。

 

 

「さて・・・次は、お前とアリアの試合なわけだが」

「ええ、そうですね」

「少しでも妖しい素振りを見せれば・・・貴様の本体を探し出して殺す」

 

 

結局の所、こいつが何をしたいのか、さっぱりわからない。

何でも、「友との10年来の約束」とやらを果たしに来たらしいが。

正直な所、全く信用できない。

 

 

アリアが、こいつに勝てる自信があるようだから、任せようかと思ったのだが。

 

 

「もし、アリアに一筋の傷でもつけよう物なら・・・ここにいる全員でお前を潰しにかかると思え」

 

 

私の言葉に、チャチャゼロ、晴明が反応した。

チャチャゼロは両手の刃物を打ち鳴らし、晴明はそのガラスの瞳をアルに向けた。

ちなみに晴明は、アリアの腕に抱えられている。

 

 

長瀬楓は、いつの間にかどこかへ消えてしまった。

どこに行ったかは知らんが・・・。

・・・案外、そこらに隠れているかもしれんが。

 

 

「・・・良いでしょう。おそらく、私は彼女に指一本触れませんよ」

「信じられんな」

「おやおや・・・」

 

 

肩をすくめて、アルは私の横を通り過ぎて、リングに上がって行った。

ふん・・・全く、嫌な性格をしおって。

私は、アリアの方を見ると。

 

 

「そんなわけだ。殺して構わん」

「まぁ、幻影ですから死にませんがね」

 

 

アリアは苦笑すると、私に晴明とチャチャゼロを渡してきた。

どうでも良いが、こいつらはなぜ自分の足で動かんのだ?

人前だからか?

 

 

「・・・行ってきます」

「ああ、行って来い」

「ナニカサレタラ、ヨベヨ」

「呪の対象は、彼奴の本体で良いのかの?」

 

 

思い思いの言葉を告げて、アリアを見送った。

それにアリアは、また少し笑って・・・リングに上がって行った。

 

 

・・・それにしても、良く似合っている。

『歩く教会』の下の服は、私の服を貸しているのだ。

アリアは、フワフワした服は多く持っているが、シャープな服は少ない。

 

 

なので、私が今着ている服と似たような・・・タイトでありながら可愛さを失わないデザインの服を用意した。

うむ、実に良い。

 

 

「・・・ゴシュジンモ、マルクナッタナ」

「そう言う物かの」

 

 

うるさいぞ、お前達。

 

 

 

 

 

side 夕映

 

「そんなわけで、また左腕を折られたアルよ」

「いや、どう言うわけなの!?」

 

 

本当に、どう言うわけで治された左腕をもう一度折るのでしょう。

のどかとネギ先生が眠る横で、私はそんなことを考えたです。

この部屋にはベッドが二つあり、一つをのどかが、もう一つをネギ先生が使っているです。

 

 

くーふぇさんは、アリア先生との試合結果の報告に来ているです。

どうも、負けた様なのですが・・・。

 

 

「ほ、本気なのくーふぇ。故郷に帰るって・・・」

「うむ。卒業したら戻るつもりネ。実はもう、昨日の内に手紙を出しておいたアル」

「そうなの!?」

 

 

明日菜さんが、驚いたような声を上げますが・・・私も驚いたです。

まさか、すでに行動していたとは。

流石は、くーふぇさんと言った所でしょうか。

 

 

「もう一度、修業をやり直すアル」

「で、でも、くーふぇ、もう十分に強いじゃない」

「いや・・・まだまだアル。私は今日、それを確信したネ」

 

 

どこか穏やかに、それでいて固い決意を滲ませて、くーふぇさんが言ったです。

明日菜さんは「でも・・・」と、納得できていないような、そんな表情。

でも・・・。

 

 

でも、麻帆良から離れると言う選択肢は、悪くないかもしれないです。

 

 

眠るのどかを見ながら、そんなことを思ったです。

考えれば考える程に・・・そして、異常さを自覚した今だからこそ、わかるです。

ここは・・・いえ、3-Aは、どこかおかしいです。

 

 

おかしくない所が無いくらいに。

 

 

「・・・はぁ」

 

 

でも、残念ながら、そこまで身軽に動けるほど、ことは簡単では無いです。

私はただの中学生・・・未だ自分の進退を自由にできる年齢では無いのですから。

 

 

でも、ネギ先生が倒れているこの状況は、次善ではあるですが、好都合かもです。

超さんの危険な計画に、関わることを避けることができるのですから・・・。

 

 

 

「・・・お邪魔するネ」

 

 

 

だから、その声を聞いた時、私は恐怖したです。

 

 

「おや・・・ネギ坊主はまだお眠かネ?」

「ち・・・」

「超さん!?」

 

 

どこからともなく現れた超さんは、私達を見回した後・・・。

にこりと、微笑みを浮かべたです。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『えー・・・それでは、準決勝第二試合です!』

「すでにご存じかもしれませんが・・・私は、貴方の父、千の呪文の男(サウザンドマスター)・・・ナギ・スプリングフィールドの友人です」

 

 

申し訳ありませんが、大して興味がありませんね。

きぃん・・・と、左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を発動させながら、そんなことを考えました。

それを悟ったわけでも無いでしょうが・・・彼は、一枚のカードを手にしました。

 

 

パクティオーカード。

 

 

『何やら、雰囲気がすでに緊迫しているようなので・・・早速、準決勝第二試合!』

 

 

ざぁ・・・と、アルビレオさんの周囲に、大量の本が出現しました。

ごきん、と右手を鳴らして、いつでも飛びだせるように身体に力を込めます。

 

 

『こ、これは・・・先の試合でも、似たような現象が・・・』

 

 

あれが、アーティファクト『イノチノシヘン』ですか。

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で解析しつつ、観察します。

 

 

あのアーティファクトの効果は2つ。

一つは、特定人物の身体能力と外見的特徴の再生。

ただ、使用者よりも強い存在の再生は数分に限定されます。

しかしその条件を無しにしても、なかなか強力なアーティファクトです。

そして、もう一つは・・・。

 

 

「この本・・・『半生の書』を作成した時点での、特定人物の性格・記憶・感情を全て含めての、『全人格の完全再生』です」

 

 

アルビレオさんは、そう言って一冊の本を手にしました。

フードから覗く口元は、笑んでいるようにも見えます。

 

 

「そして10年前・・・私に、まだ見ぬ子供ため、言葉を残しておきたいと・・・ある方が、頼んできました」

「ある方・・・?」

「我が友ナギは、息子に向けて・・・そしてもう一人は・・・娘に向けて」

 

 

ふわ・・・と、手にした本を、宙に浮かべるアルビレオさん。

その本の表紙に、書かれた名前は・・・。

 

 

「時間は10分・・・再生は一度限りです」

「・・・!」

 

 

しゃがっ・・・と、身を低くします。

さらに、『闘(ファイト)』『気(オーラ)』『力(パワー)』『速(スピード)』を重ね掛けました。

余計なことをされる前に・・・仕留めます!

 

 

『Fight!』

 

 

行きます!

しかし、飛び出した瞬間、アルビレオさんの姿が光に包まれ・・・大量の羽毛が、顔にかかりました。

 

 

「わ、ぷ・・・!」

 

 

慌てて羽毛を払いのけますが・・・でも、その時には。

何羽もの白い鳥を見送る、「誰か」の姿がありました。

 

 

フードの下からでも、それがアルビレオさんで無いことはわかります。

たおやかで・・・それでいて、凛とした「誰か」。

その「誰か」が、そっと・・・その細い指先で、顔を隠しているフードに手をかけた。

 

 

・・・やめて。

見せないで。

 

 

でも、身体は動かない。

硬直してしまったかのように、動きがとれなかった。

だけど、顔が歪むのを感じる。

 

 

「主(ぬし)が・・・」

 

 

その「誰か」の声が、耳に届きました。

叫びたくなる。でも、声が出ない。

 

 

ぱさっ・・・とフードが落ち、「誰か」の顔が、視界に入る。

眼を閉じれば良いのに、それができなかった。

金色の、長い髪。

その人は私を見ると、目を細めて・・・。

 

 

「・・・主(ぬし)が、アリア・・・かの」

 

 

逃げ出したい気分です、シンシア姉様。

 

 

 

アリアは、この人にだけは、出会いたくなかった。

 




茶々丸:
茶々丸です。皆様、ようこそいらっしゃいました(ぺこり)。
今回は、アリア先生の二回戦から準決勝までのお話です。
随所での動きも含めて、油断できない状況が続いております。
さらに、アリア先生にとって、出会いたくない誰かと出会ってしまったようです。


今回、新規で使用された魔法具等は、以下の通りです。
活力の炎:ゾハル様提供、マテリアルパズルより。
黒い靴:ゾハル様・黒鷹様提供、ディーグレイマンより。
氣:鈴神様より。
弾・双掌砲:こちらも、鈴神様より提供です。
ありがとうございました(ぺこり)。


茶々丸:
次回は、アリア先生の邂逅の物語。
アリア先生にとって、改めてこの世界と向き合う機会になるかと思われます。
それでは、アリア先生に最高のお菓子を作らねばなりませんので・・・。
今回は、ここで失礼させていただきます(ぺこり)。


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第63話「麻帆良祭二日目・母親」

Side 千草

 

「ぐ・・・」

 

 

一瞬、意識が落ちかけた。

身体の中身を、掴まれたみたいな感触があったかと思ったら、急に・・・。

 

 

「千草さん、大丈夫ですか?」

「あ、ああ・・・なんとかな。けど、これは・・・」

 

 

茶々丸はんに肩を抱かれながら、首を左右に振って、意識をはっきりさせる。

アリアはんの試合が始まった瞬間、クウネルとか言う男から光が出て・・・。

その瞬間、意識が遠くなるのを感じた、んやけど・・・。

 

 

「・・・月詠はんは!?」

「・・・うふふ~、的がいっぱいです~・・・」

「寝ているようですね」

 

 

確かに、手すりにもたれかかる様にして、寝とる。

何の夢を見とるのか簡単にわかってまうのは、なんでやろな。

 

 

それはそれとして、今、この会場で何が起こった?

月詠はんだけやない、この会場にいる人間は、全員寝てしもとる。

何やね、これは・・・。

 

 

「おそらく、これはアリア先生の・・・『ゲマインデ』かと思われます」

「『ゲマインデ』?」

「はい。夢の世界を作り出して周囲の人間の意識を取り込み、取り込んだ人間の意識を術者の作った夢の世界に誘う効果があります。本来の用途とは少し、違うようですが・・・」

 

 

まぁ、本来の用途とか、よう知らんけど・・・。

とにかく、アリアはんがここにいる全員を眠らせたわけか。

 

 

「私はガイノイドなので、効果がありませんが・・・千草さんに効果が無いのは、少し意外ですね」

「・・・うちは、呪破りの符を服の下に仕込んであるんや」

 

 

今、軽くバカにされた気がする。

まぁ、ええけど。

アリアはんはと言うと、変わらずリングの方で、見たことの無いねーちゃんと・・・。

 

 

「バカな・・・」

 

 

不意に横から、絞り出すような声が聞こえた。

クルト議員。

クルト議員が、手すりから身を乗り出すようにして、リングを見とった。

その顔には、さっきまでの皮肉めいた余裕は感じられへんかった。

 

 

「く・・・!」

 

 

クルト議員は後ろで倒れとる黒服達を一瞥すると、耳元に手を当てながら、走り出した。

 

 

「あ、クルト議い・・・」

「全員、武道会会場に近付くなっ! 内部に残っている者で意識のある者は外縁部に留まり、会場を完全に隔離しろ、誰も通すなっ・・・近付けるんじゃないっ!!」

 

 

クルト議員はもう一度、リングの方を見た後、いくらか逡巡して・・・。

駆け出した。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「主(ぬし)が・・・アリア、かの?」

 

 

その女性は私を見ると、優しげに目を細めました。

私は、今自分が、どんな表情を浮かべているのかもわかりません。ただ。

ただ、笑顔で無いことだけは確かです。

 

 

私の手には、黒き魔本『千の魔法』があります。

№27『ゲマインデ』によって、周囲の人間は今頃、過去に相対した最大の敵と遭遇しているはずです。

それが戦闘なのか、学問なのかはわかりませんが。

夢の世界で、意識をたゆたわせながら・・・。

 

 

加えて、人払いの結界に『迷(メイズ)』と『輪(ループ)』のカードを併用し、会場周辺を隔離された無限の迷路に変貌させます。

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で、全ての魔法・魔法具を掌握しました。

・・・やりすぎかとも、思いますが・・・。

しかし、この状況を他人に見られてしまうわけにも・・・。

 

 

「年は、10歳になるのかの? 私の意識上では、まだ生まれてもいないのじゃが・・・」

「・・・っ」

 

 

伸ばされて来た手を、ぱしんっ・・・と、反射的に、払いました。

私に手を払われた女性は、少し驚いた後、悲しみの色を瞳に宿しました。

・・・悲しみ?

悲しみなんて・・・。

 

 

「貴女は・・・誰ですか」

 

 

あえて、静かな声で・・・そう問います。

 

 

「私は・・・貴女なんて、知らない」

「・・・そうか。いや、そうじゃろうな。こうして主と話していると言うことは、私は主の側にいないと言うことじゃろうからな・・・」

 

 

息を吐くような、言葉。

地面に膝をつけて、目線を合わせてくるその女性を、私はただ見ていました。

 

 

「・・・私は、アリカと言う。父の名は知っておるかの? 主の父、ナギの妻で・・・」

「・・・ウェスペルタティア王国最後の女王で、<紅き翼>と協力して世界を救った女性」

「む・・・」

 

 

意外そうな表情。

でも、それくらいのことは知っています。

と言うか、自分の命が狙われる理由くらい調べます。

前世から引き継いでいる『知識』の中にも、大まかな流れはありましたしね。

そして、だからこそ。

 

 

「そして世界を救う代わりに自分の国を滅ぼし、戦争犯罪人として処刑された『災厄の女王』」

「・・・その通りじゃ」

 

 

そして、だからこそ、私はこの人が嫌いでした。

母として側にいない以上に・・・何よりも、私が危険に晒される確率を上げた存在として。

だって、理解ができなかったから。

 

 

「アリカさん・・・あえて、アリカさんと呼ばせていただきますよ」

「・・・うむ」

「アリカさんは、どうして・・・世界なんて救ったのですか?」

 

 

自分よりも、顔も知らない民のことを。

自分の民よりも、世界を優先したこの人の考え方は、受け入れられなかったから。

私の命が、母親が赤の他人を救ったせいで狙われるなんて、許容できるはずが無いではありませんか。

 

 

「貴女のせいで・・・私は、余計な荷物を背負わなければならなかった」

「・・・そう、じゃろうな」

「今さら母親面されても・・・受け入れることなんてできません。私は、貴女が」

 

 

大嫌い。

 

 

「そうか・・・」

 

 

目を閉じて、震えるように息を吐くアリカさん。

涙こそ流れていませんが、泣いているようにも見えます。

・・・なんだか、見ていたくなかった。

 

 

だから、左眼の『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』を起動させました。

私の右眼には、この人の身体を形成する『イノチノシヘン』の構成が見えています。

どこを壊せば良いのかも、簡単にわかる。

だから・・・。

 

 

だから、これで。

 

 

「すまぬ」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

不意に、立ち止まった。

なんだか、奇妙な感覚がして、戻りたくなったんだけど。

でも、どこに?

 

 

「アーニャさん?」

「え・・・あ、ああ、なんでもないわ」

 

 

何かしら、なんとなく・・・。

誰かの側に、いなくちゃいけない気がする。

ウェールズにいた時も、何度か感じたことがあるの。

 

 

「アーニャ!」

 

 

声をかけられて、そっちを見ると、会議室の中からドネットさんが出てくる所だった。

一緒にいるのは、関西呪術協会の人達かしら。

廊下を通ってこっちに来たから、隅に下がって、ちびアリアを後ろに隠して、できるだけ優雅に頭を下げた。

 

 

関西の人達が見えなくなった後、改めてドネットさんの所へ。

 

 

「ドネットさん!」

「アーニャ、お疲れ様。ネギ君とアリアには会えたかしら?」

「はい・・・ただ、その」

 

 

きょろ・・・と、周りを見る。

ここでは、話せない。

 

 

ドネットさんもそれを察したのか、軽く頷いて、ついてくるように言った。

部屋に戻って、覗き対策をした上で、情報を交換する。

でも・・・。

 

 

「・・・アーニャさん? 大丈夫ですか」

「大丈夫よ、エミリー。心配してくれてありがとう」

「当然です。パートナーですから」

 

 

エミリーの首筋に指を這わせて、軽く笑い合う。

それから、ちびアリアの方を見て。

 

 

「ありがとう、おちびさん。アリア・・・御主人の所に戻って良いわよ?」

「使うだけ使って、後はポイですかぁ?」

「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」

「アーニャさん。ちびアリアさんは普通の人には見えないので・・・」

「う」

 

 

そうか、一人で叫んでいるように見えるのね。

横を見ると、ドネットさんが目を丸くしてた。

 

 

「ドネットさん・・・見えてる、わよね?」

「何がかしら?」

「何がって・・・」

「ステルスは完璧ですぅ」

 

 

く、アリアの使い魔(式神?)だけあって、高機能ね・・・。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

あははははははは・・・。

・・・こんちくしょーっ!

 

 

「ちょ、ちょちょ、ちょっと――――っ!」

「ミソラ、右・・・」

「右!? 本当に右なのココネ!?」

 

 

な、なんで!?

なんで学園・・・と言うか、龍宮神社がラストダンジョン化してるの!?

突然、人払いっぽい結界が張られたと思ったら、迷路みたいになって、出れなくなったし!

しっかも・・・。

 

 

「何か、田中さん増えてるし――――っ」

「兄弟機デス」

「律儀に説明された!」

「苺・・・」

 

 

そう、苺のアップリケつけた田中さんの他に、そっくりなロボットが2体。

合わせて3体の田中さんに追いかけられてる。

もう、こんなことなら神社の中じゃなくて、外に逃げれば良かった!

 

 

「ドリフト―――って、行き止まり!?」

「間違えたみたイダ・・・」

 

 

角を曲がると、行き止まりだった。

ココネはまったく、まったくもう!

 

 

「捕捉シマシタ。捕獲致シマス」

「マジで!?」

「マジデス」

 

 

やっぱり律儀に答えて、田中さん達が突撃してきた。

く・・・っ!

 

 

ぎゅんっ・・・アーティファクトでスタートダッシュ、目の前の壁を蹴って跳んだ。

空中で一回転、一体目をかわす。

次いで、二体目の田中さん(苺のアップリケ装備)の肩を踏んで、さらに跳躍。

身体を捻って、空中で三体目もかわした。

 

 

「私ヲ、踏ミ台ニシタ!?」

「できた!? 私凄くない!?」

 

 

すたっ・・・と、着地して、再びダッシュ。

だけど、いつまでも逃げ切れるとは思えない。

気のせいで無ければ、あのロボットは地の果てまで追ってきそうな気がする。

 

 

く~・・・箒があれば、飛んで逃げれるのに。

途中で、ココネだけでも隠せないかな。

ココネは、私のマスターさんだからね。

この子だけは、何があっても・・・。

 

 

「ミソラ・・・」

「ん? どしたのココネー?」

 

 

ぎゅ・・・と、肩車してるココネが、私の頭の上に置いてる手に力を込めた。

頑張らなくっちゃ、ね。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「すまぬ・・・?」

「・・・苦労を、かけておると思っておる」

「苦労を、かけている・・・?」

 

 

そんな言葉なんて、欲しくも無い。

謝られた所で、私の負担が減るわけでもありません。

私は、ただ。

 

 

「言い訳の一つも、しないんですか・・・?」

 

 

この世界に生まれ落ちた時、母親がいないと言う事実を知った。

でも、私は特に何も感じませんでした。

前世でも、いはしましたが、それほど仲が良かったわけでもありませんし・・・。

母親なんて、いてもいなくても、そう変わらない。

そんな風に、どこか冷めた感想を持っていました。

 

 

「言い訳などせぬ。私は主の側にいてやれなんだ・・・それは変わらぬ。また、私の所業で、娘のそなたに多大な負担をかけたであろうことも、事実じゃ」

 

 

でも時間が経つごとに、私は何かを求めるようになっていきました。

大人達との確執、周囲の冷めた目線、肉親に関心の無い兄。

温かな友人に囲まれるようになってからも、心のどこかで、何かを求めていました。

いくつになろうとも、変わらない何かを、抱えていました。

 

 

「じゃが・・・謝った所で、そなたの負担を減らすことも、心を癒すことも、私にはできぬのじゃろう」

 

 

満たされない何かを充足させてくれる誰かを、探していました。

エヴァさん達と言う家族を得て、ようやく満たされるかに見えたそれも。

 

 

「私には、主の母を名乗る資格は、もう無いのかもしれぬ。いや、無いのじゃろう・・・」

 

 

エヴァさんの温もりも、茶々丸さんの慈しみも、チャチャゼロさんの優しさも、さよさんの安らかさも、スクナさんの和やかさも・・・全てが。

その全てが、私にとってかけがえの無い物で。

 

 

「今の私が、どのような状況でどのような状態にあるのか、幻に過ぎぬ私にはわからぬ。じゃが・・・」

 

 

だけど。

だけど私は、きっと。

ただ・・・。

 

 

「きっと私は、今この瞬間にも、そなたのことを想っておる」

「・・・・・・それなら」

 

 

私は、ただ。

 

 

「それならどうして、貴女は私の側にいないんですか・・・?」

「・・・わからぬ。じゃが、側にいられぬ理由があるのじゃろう」

「私はなぜ、一人のままなのですか・・・?」

「・・・すまぬ、私には答えてやることができぬ・・・」

 

 

沈痛な表情で、アリカさんは私を見ています。

その表情は、まるで・・・。

 

 

「じゃが・・・共にいてやりたいとは、思っておったはずじゃ」

「そんな、言葉」

「言葉以外に、今の私には主に渡してやれる物が無い・・・すまぬ」

「謝罪なんて・・・・・・いらないんですよっ!」

 

 

なんで、わかってくれないのでしょう。

世界はどうして、私の欲しい物を与えてくれないのでしょう。

 

 

「あ、貴女・・・貴女が、あんな、世界を救うとか、意味のわからないことをしなければ、私はもっと安全に、楽に生きられたっ・・・赤の他人なんて、放っておけば良かったのに!」

「アリア・・・」

「なんで、なんで・・・自分と身内だけ連れて、逃げるなり隠れるなり、してくれなかったんですか!」

「オスティアの民は、私にとって身内だからじゃ」

 

 

民が・・・身内?

会ったことも無い人なのに?

 

 

「オスティアの民は、その全てが私の身内であり・・・宝。だからこそ、王族・・・それも女王である私には、彼らを救う義務があった。願いでもあった」

「一度だって、会わないかもしれない人達なのに?」

「それでもじゃ」

 

 

アリカさんは、そこだけは厳しい表情で断定しました。

一瞬、言葉が詰まりました。久しぶりに、感じる気持ち・・・。

直後、ふ・・・と表情を緩めて、アリカさんが私を見ました。

 

 

「主にも、我が民の営みを見せてやりたかったの・・・」

「・・・興味無いです」

「ふふ、そうか・・・」

 

 

かすかに微笑んだ後、アリカさんは、どこか緊張した表情を浮かべ、おそるおそる・・・手を。

私は、その手を・・・。

 

 

払わなかった。

 

 

「・・・っ」

 

 

両腕で、アリカさんに抱き締められました。

一瞬、息を飲み、身を固くしました。

初めて会う人に抱き締められれば、そうなるでしょう?

 

 

「・・・側に、いてやりたかった」

「ほ・・・」

「今の私もきっと・・・いや、必ず、そなたのことを案じておる。食事は取っているか、風邪など引いていないか、誰かに苛められておらぬか・・・それを側で見てやれず、口惜しいと、思っておる」

「本当に・・・?」

「ああ、もちろんじゃ。なぜなら・・・私は、そなたを」

 

 

私は、ただ。

たった一つの言葉が、欲しかった。

 

 

「愛しておる」

 

 

この世界では、誰にも言われたことが無い言葉だから。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

泣き声が、聞こえる。

 

 

「イイノカヨ、トメナクテ」

「止めてどうする・・・そこまで野暮じゃない」

「その割には、不機嫌そうじゃの?」

 

 

選手用の座席に腰掛けながら、そんな会話をする。

今の所、周囲の人間は全てアリアの『ゲマインデ』の中だ。

当然、私はそんな物にかかる程抜けていない。

 

 

それにしても・・・良く似た母子だ。

母親は、「女王」と言う役職に従い、義務を果たして国民を救った。

その代わり、自身は処刑されることになった。

娘は娘で、「教師」と言う役職に従い、義務を果たして生徒を救おうとしている。

いつも狂ったように仕事を抱え、京都では文字通り身体を張って。

 

 

「不機嫌そうに見えるか?」

「ミエルナ」

「むしろそれを不機嫌と呼ばなくば、この世の全ては喜びであろうよ」

 

 

うるさい人形共だ・・・だが、外れてもいない。

なぜなら・・・。

 

 

「・・・あいつは今でも、一人なんだそうだ」

 

 

先ほど、アリアはそう言った。

なぜ、自分は今でも一人なのかと。

 

 

「ふふふ・・・どうも、教育が足りなかったらしい」

「オオ、ワルイカオダ」

「西洋の鬼の趣味は、よくわからんの。しかし・・・母者か」

 

 

晴明が、どこか懐かしむように頷いた。

伝承によれば、こいつの母親は白狐だと言うが・・・。

 

 

「お前でも、母親が恋しかったりするのか?」

「無論じゃ。幾年過ぎようとも、母は母。子は子。この輪廻は永久に変わらぬ」

「ゴシュジンハドウダヨ」

「私か? 私は・・・」

 

 

目を閉じれば、今でも思い出せる。

600年も以前のことだが・・・記憶の中に、しっかりと刻まれている。

両親の温もりを。

 

 

「・・・忘れたな」

「ソウカヨ」

 

 

確かに、親と子の関係はいつまでも変わらないだろう。

だが、いつか子は親になる。

自分の親から受けた愛を、自分の子に注ぐ時が。

それは・・・。

 

 

「アリカ様!」

 

 

その時、聞き慣れぬ声が響いた。

誰かと思えば、それは、あのクルト・ゲーデルだった。

元老院議員。

その手には、一本の野太刀。リングに駆け上がって行く。

 

 

それを見て、まずチャチャゼロが反応したが・・・それを、手で制した。

 

 

「ナンダヨ」

「待て・・・様子がおかしい」

 

 

クルトは、息を切らせながらリングの中を進むと、立ち尽くすようにして、止まった。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

叩き斬ってやろうと思った。

このような所で、アーティファクトの記録とは言え、アリカ様のお姿を晒したバカを。

おまけに、元老院が必死で隠匿している「ネギ・アリア兄妹の母=アリカ様」の事実を、暴露してくれやがりましたからね。

どう言うわけか、会場内の人間は大方眠っていますが・・・。

 

 

斬り殺しても、特に問題無いと判断しました。

むしろ斬り殺さない方が、世の中を害する気がしてなりませんからね。

 

 

「アリカ様・・・」

 

 

けれど、当時と変わらないアリカ様のお姿を見ると、斬れなかった。

例え幻でも・・・彼女だけは。あのお方だけは、斬れるはずがなかったのです。

 

 

「主は・・・」

 

 

アリカ様は、ご自分の娘を胸に抱いたまま、顔だけをこちらに向けてきました。

座っておられるからかもしれませんが・・・昔は、見上げることしかできなかったアリカ様。

今は、見下ろすことができてしまう。

 

 

「・・・お久しぶりです、アリカさ「誰じゃ?」・・・・・・クルトです、アリカ様」

「クルト・・・クルト・ゲーデルか? あの?」

「左様です、アリカ様」

「ほぉ・・・何と言うか、ヒネ・・・立派になったの」

「あ、ありがとうございます」

 

 

こほん、と咳払いをし、眼鏡を押し上げる。

 

 

「アリカ様・・・私は、あな「むーっ!」た・・・?」

「むぐっ・・・ぷはっ! ちょ、苦しいです・・・!」

「お、おお、すまぬアリア! 思わず胸に抱き込んでしまった・・・い、息は大丈夫か? 喉は・・・」

「だ、大丈夫ですから・・・!」

 

 

・・・非常に、心苦しくはあるのですが。

私としても、母子の再会を邪魔したくはないのですが・・・。

 

 

「・・・私の話は、聞いていただけ無いのでしょうか?」

「い、いや、聞くぞ? 何じゃ、申してみよ。大戦では主にも世話になったからの」

「そんな、私は・・・」

 

 

私は、アリカ様を守れなかった。

いや、今でも守れていません。未だにアリカ様は『災厄の女王』であり、名誉を回復できていない。

元老院は何も変わらず、不正と虚偽に満ち溢れている。

 

 

私は結局、アリカ様のために何もできていないのです。

だが、今の私は昔とは違います。

ナギに訴えることしかできなかった、あの頃とは。

 

 

「・・・私は今、元老院議員の役職にあります」

「元老院に? そうか・・・それは、出世したの。それで・・・その元老院議員になった主が、私に何を話すと言うのじゃ?」

「あ・・・」

 

 

庇うように娘を肩に抱き、アリカ様は私を見た。

そのお姿は、女王として立っていたあの時と同じ、凛とした空気を纏いつつも・・・。

 

 

母親のような強さが、そこにあった。

 

 

「も・・・」

 

 

ざっ、とその場に膝をつき、刀を捧げ持つ。

臣下の礼。

この世界で唯一、私が剣を捧げるお方。

 

 

「申し訳ありません、アリカ様・・・!」

「・・・何を謝る、クルト」

「私は、貴女様をお守りすることも、お救い申し上げることもできなかった・・・!」

 

 

アリカ様処刑の日から今まで、それを考えない日は無かった。

あの時の私に、今ほどの力があれば。

今の私があの場にいれば、アリカ様を救える自信が、ある。

今の私なら。

 

 

ナギなどに頼らずとも、きっと。

 

 

「そしてあまつさえ、貴女様の名誉を未だ回復することも叶わず、私は・・・!」

 

 

アリカ様が『災厄の女王』と呼ばれる度に、胸が張り裂けそうでした。

そして、世界を変えられない自分が、もどかしくも情けなく。

私は。

 

 

「私は・・・!」

「もう良い、クルト」

「・・・!」

 

 

顔を上げると、目の前にアリカ様が立っておられました。

ああ・・・かつて見上げたままのお姿。

私は、このお方のために。

 

 

「クルト・・・主の私に対する忠義と想い、有難く思う」

「アリカ様・・・」

「だが、クルト。私の名誉を回復しようなどと思わずとも、良いのじゃ」

 

 

アリカ様は、かつて私が憧れた優しい笑顔で、そう言った。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「私のことなどよりも、民達のことを頼む。彼らは、何の罪も無いのじゃから」

「そ・・・それは当然! 何があろうとも同胞を守り、いずれは・・・いえ、それよりも、アリカ様にも罪は無いのです。ならば」

「くどい!」

 

 

アリカさんの背中を、私はただ、見つめていました。

その姿は、とても力強くて、引き込まれてしまいそうな何かがありました。

あれが・・・この世界の、いえ、世界など関係無い・・・。

 

 

あれが、私の母親か。

 

 

「主は、大戦から今まで、何を学んできた! 為政者たる者、常に下々に気を配り、規範として生きねばならん。己が身の保身は、しかるべき後に行う物! それも、民が貧苦に喘いでいる間は特にじゃ」

「しかし、アリカ様・・・!」

「もし、それでも主が私のために、何かをしたいと申してくれるのであれば・・・」

 

 

アリカさんは肩越しに私を見つめると、再びクルト議員を見て。

 

 

「私の子らを頼む。私の代わりに、守ってやってはくれんか?」

「それは・・・アリカ様」

「ちょ・・・」

「だが、甘やかせとは言わん。主の目から見て価値無しと断ずれば・・・捨て置いて構わん」

 

 

命令じゃ。

そう言って、アリカさんはクルト議員から目を離し、私の方へ。

クルト議員はまだ何か言いかけていましたが・・・表情を引き締めると、刀を捧げ。

 

 

仰せのままに(イエス・ユア・)、女王陛下(マジェスティ)・・・!」

 

 

震えるような声で、そう言いました。

・・・あの人にとって、アリカさんはきっと、特別な人なのでしょう。

 

 

「・・・どうやら、時間のようじゃの。できればネギとも話したかったのじゃが」

「え・・・」

 

 

見れば、アリカさんの姿が、淡く輝き始めていました。

右眼の魔眼で視ても、確かに、『イノチノシヘン』の再生効果が切れてきているのがわかりました。

そんな、まだ。

まだ、私は。

 

 

「アリア」

「あ、の・・・」

「このようなことを言えた義理ではないのかもしれぬが・・・元気に育つのじゃぞ。幸せにの」

 

 

目を細める、その微笑み方。

 

 

「食事は3食、栄養に気を配るのじゃぞ。できれば、好き嫌いは少ない方が良い。あと、眠る時には温かくしての。それから、手洗いと歯磨きはちゃんとするのじゃぞ。服装にも気を配って・・・無理をして、病気になどならぬようにな、それから・・・」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 

そんな、急にいろいろと言わないで。

母親みたいなことを、延々と。

 

 

「か、勝手過ぎます! さっきの話もですけど、私の意見も聞かずに・・・!」

「勝手・・・か、そうじゃろうな。じゃがな、仕方が無いのじゃ、アリア。これが母親と言う生き物なのじゃから」

「は・・・」

「子供がどれ程嫌がろうとも、例え普段側におらず、時間を共にしていなくとも。子供のために、勝手な世話をいろいろと焼いてしまうのが、母親なのじゃ。私の母もそうじゃった」

「い、今さら・・・」

「今さら、でもじゃ」

 

 

アリカさんは、しゃがみ込んで私と目線を合わせると、静かに微笑みました。

どこまでも優しくて・・・どこか、痛そうな、辛そうな、そんな顔。

 

 

「すまぬの・・・私のせいで、迷惑をかけてしまって」

「あ、いえ、それは、でも」

「じゃが、心残りはあっても、後悔はしておらぬ・・・反省すべき点も、多々あるが」

 

 

そ・・・と、私の両肩に触れて、アリカさんが言います。

正面から、まっすぐに視線を交わし合います。

 

 

「主も、後悔だけはせぬように生きよ。私が主に望むのは・・・それだけじゃ」

「アリカさ・・・」

「そなたは、そなたで在り続ければ良い」

 

 

そう言うと、アリカさんは、私から離れました。

反射的に、手を伸ばしてしまいます。

アリカさんも、手を伸ばして・・・私の手に触れる直前で、手を引きました。

 

 

待って・・・まだ。

まだ、私は貴女に、言っていないことがあるんです。

私は、まだ、貴女を。

 

 

光が。

 

 

 

―――――かあさま。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

泣き声が、聞こえます。

 

 

「・・・まぁ、良くある話やろ」

「そうなのですか?」

「せや・・・女王様も庶民も、一緒や。大して変わらん」

 

 

月詠さんを膝枕しながら、千草さんがそう言いました。

ただ、先ほどからこちらに背を向けて、どのような表情をしているのかは見えません。

 

 

『・・・茶々丸』

「マスター」

 

 

マスターからの念話です。

 

 

『先ほどのやり取りの映像と音声を、全て削除しろ。もちろん、会場内に設置されているカメラなどからもだ』

「承知いたしました」

『頼むぞ』

 

 

目の前の端末を操作し、さっそくマスターの命令の通りに。

アリカさんが登場してからの全ての記録を削除します。

この会場内の全ての電子機器は、私の統制下にあります。映像処理程度、造作もありません。

 

 

『問題は、肉眼の方だな・・・ほとんどは、アリアの魔法に引っかかっているだろうが』

「魔法発動の直前に、3人の人間が会場からの離脱に成功しているようです」

『ち・・・面倒だな。足取りを追えるか?』

「現在検索・捜索中です」

『頼む・・・それにしても、アルめ。余計なことを・・・』

 

 

マスターとの念話が切れました。

アリア先生の準決勝の目撃者を消すおつもりなのでしょうか。

しかし、相手の足取りが掴めないことには、対処ができません。

 

 

責任、重大です。

 

 

ちら・・・と、リングを見てみると、クウネル選手を中心にして、かなり揉めているようです。

アリア先生も加わっているようですが・・・。

 

 

・・・アリア先生。

 

 

 

 

 

Side ???

 

・・・確実な情報を掴んだ。

クルト議員に張り付いてきた甲斐があったと言う物だ。

 

 

ネギ・スプリングフィールドの情報は掴めなかった物の、もう一人のガキの情報は仕入れた。

この情報を、本国の政治屋共に売れば、高く売れるだろうよ。

何せ、あの『災厄の女王』の情報だ。

 

 

こりゃ、政変が起こるかもしれねぇな。

もしかしたら、俺も議員様になれるかも・・・。

 

 

「ま、アリア・スプリングフィールドとか言うガキにゃ悪いが・・・」

 

 

と言うか、なんだあの会場、逃げ出す直前に妙な魔力を感じたんだが。

何人か捕まっちまったみたいだ、間抜け共め・・・。

 

 

「へぇ・・・どう悪いのか、気になるね」

「あ?」

 

 

声をかけられて、立ち止まる。

周りを見ても、誰もいねぇ。

気のせいか・・・と思って前を見れば、いた。

 

 

白い髪の、ガキだった。

 

 

「んだ」

 

 

てめぇ、と言葉を続ける前に、そのガキが、目の前に。

俺の目に手をかざして、何か。

 

 

「『永久石化(アイオーニオン・ペトローシス)』」

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・これで、3人目か。

ごそ・・・と、会場から出てきた男の懐から、情報の入ったディスクを抜き取りつつ、そんなことを考えた。

 

 

ディスクの中身は、やはり『災厄の女王』に関する情報。

いや、正確に言えば、スプリングフィールド兄妹の母親の情報だ。

どこに持っていくつもりだったかは知らないけれど・・・。

 

 

バキンッ、と、ディスクを砕く。

 

 

「悪いね。彼女は僕が勧誘中なんだ」

 

 

石像と化した男に、そう告げる。

勝手に彼女を連れて行かれると、とても困る。

ちなみに、無差別に出てきた人間を石化しているわけじゃない。

きちんとリストと照らして顔を確認した上で、石化している。

昨日石化した男の一人に話を聞いた時、クルト・ゲーデル以外の意思で動いている彼の部下のリストを貰った。

 

 

それにしても、ここで『災厄の女王』の情報を漏らすとは・・・アルビレオ・イマは何を考えている?

まったく、アリアは面倒な連中と良く関わるね。

この調子じゃ、将来がとても心配だ。

 

 

不意に、武道会会場を覆っていた魔力が、霧散していくのを感じた。

どうやら、アリアが魔法を解いたらしいね。

 

 

「・・・アリア」

 

 

どうしてだろう、今すぐに彼女の所に行かなくてはならない気がする。

でも、少し時間を置いた方が良いような気もする。

 

 

それに、やらなくてはならない事もある。

手元のリストに目を落とす・・・まだ、半分程残っている。

どれもこれも、元老院の政治家の誰かと繋がっている。

中には、僕ら「完全なる世界(コズモエンテレケイア)」と繋がりのある人間もいるから、そこには手を出せないけれど。

 

 

そうでない人間は、ちょうど良い。

ここで退場してもらおう。

僕のためにも、彼女のためにも。

 

 

「・・・こう言うのは、ポイントにならないんだけどね」

 

 

まさか、言うわけにもいかないからね。

まぁ、仕方が無い。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

落ち着くのに、それ程時間はかかりませんでした。

1分くらいでしょうか?

 

 

「・・・何を見ているのですか」

「いえ、別に」

 

 

ぐし・・・と、目元を擦りながら睨んでも、アルビレオさんは気にした様子もありません。

残り時間、どれくらいですか。

ちょっとあの人、殴ります。

その時。

 

 

ザンッ・・・と、アルビレオさんが、身体を真っ二つにされました。

右肩から真っ直ぐ、斬られたようです。これは・・・。

 

 

「おや・・・?」

「斬魔剣・弐の太刀」

 

 

ゆらり・・・と、クルト議員が野太刀を構えていました。

 

 

「神鳴流は人を護り、魔を狩る退魔の剣。斬るモノの選択など、造作もありません」

「なるほど、魔力で構成された私では、敵わないと言うわけですね・・・」

 

 

アルビレオさんが私から離れるのと同時に、クルト議員が私とアルビレオさんの間に入ります。

私を背に、庇うような立ち位置。

・・・あれ?

 

 

「ぬけぬけと・・・自分がやったことを、理解しているのですか? 揉み消しにどれだけの労力がかかると思っている・・・」

「うふふ、クルト君も大きくなりましたね」

「貴様・・・」

「えーと、クルト議員。申し訳ないのですけど、下がっててもらえますか・・・?」

 

 

おそるおそる声をかけると、クルト議員は身体全体で私の方を向きました。

胸に手を当て、やたらと綺麗な笑顔で。

 

 

「これはアリア様。どうぞ議員などと呼ばず・・・フレンドリーにお呼びください」

「いや、それもどうかと・・・と言うか、様付けとかやめてください」

「ふふふ、アリカ様に対する昔のクルト君を見ているようですねぇ」

「貴様は、黙っていろ」

 

 

・・・なんだか、凄くややこしいのですけど。

でも、議員呼びがダメとなると・・・なんでしょう?

さん付け? 何かしっくりこないような。

この人は、アリカさんに頼まれたから私に好意的なのですよね、となると・・・。

 

 

「・・・クルトおじ様?」

「・・・・・・っ!?」

 

 

今、ズキューン・・・とか言う音が聞こえたような。

気のせいですかね。

まぁ、今はそれよりも・・・と、衝撃を受けて固まっているクルトさんの横をすり抜けて、身体が半分切れているアルビレオさんの前へ。

 

 

「アルビレオさん」

「はい、なんでしょう?」

「パクティオーカード、見せて貰っても良いですか?」

「・・・一応言っておきますが、再生はもう・・・」

「わかっています」

 

 

と言うか・・・。

貴方に、二度と再生させるつもりはありません。

 

 

『ゲマインデ』を解除。

睡眠状態解除を90秒後に設定・・・。

続いて、バララ・・・と、『千の魔法』のページがめくられていきます。

 

 

「どうぞ」

「ええ、どうも・・・」

 

 

そ・・・と、彼のパクティオーカードに手を伸ばして。

発動、『千の魔法』№62。

 

 

「『悲しき玩具(ラグドール)』」

 

 

笑みを浮かべながら、一つ一つの発音をしっかりとしつつ、宣言します。

瞬間、アルビレオさんのパクティオーカードから、全ての力が失われました。

 

 

「な・・・?」

「あら・・・素敵なカードですね、アルビレオさん?」

 

 

悲しき玩具(ラグドール)

自身に触れた存在を有機物、無機物問わずに玩具へと変化させることができます。

この場合、パクティオーカードをただの「玩具のカード」に変化させたわけです。

身体は幻影でも・・・カードは本物。または本物と繋がっています。

それでも結構、構成の書き換えが面倒な魔法ですが・・・。

 

 

私には、『複写眼(アルファ・スティグマ)』と言う最大の武器があります。

そして、もう一つ。

ぐっ・・・と、右拳に力を入れます。

 

 

その右拳を覆うのは、グローブ型概念武装、『王者の終焉』。

表裏問わず、自他共に認められる強者、特に『王者』『英雄』の称号を冠せられた者に対して絶対的な天敵になりうる魔法具です。

もう何と言うか、この人を殴るためにできたんじゃないかと思うような魔法具です。

ただし、殴る力を増すのではなく、私に有利な状況を作ってくれるのがこの魔法具の真髄。

 

 

つまり、今です。

当然、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』の力も乗せて。

さらに、『闘(ファイト)』『力(パワー)』『雷(サンダー)』・・・『消(イレイズ)』。

 

 

「お、おや・・・? これはかなり、困ったことに・・・」

「申し訳ありませんが・・・」

 

 

コツ、と足音を立てて、アルビレオさんを見上げます。

すでに、あらゆる状況が私の味方。

 

 

「貴方にとって、ここから先は一方通行・・・通行不可能地点です」

 

 

関係の無い、物語です。

 

 

「大人しく尻尾を巻いて、無様に元の居場所へ、引き返しなさい」

 

 

それでは、ごきげんよう。

そう呟いて、右拳を思い切り引き・・・前へ!

 

 

「・・・『雷光電撃(ライトニングボルト)』!!」

 

 

雷撃を纏った、渾身の右ストレート。

がすんっ・・・と、拳に伝わる、確実な手応え。

幻影体を完膚無きにまで消滅させるその一撃は、アルビレオさんの顔面を捉え・・・。

 

 

吹き飛ばしました。

 

 

ドバンッ・・・と、激しい水柱が上がり、アルビレオさんの姿が消えました。

そのまま、浮かび上がってきません。

・・・本当に消えたのかはわかりませんが。

 

 

アーティファクトを封じた以上、彼はただの「かなり強い魔法使い」です。

 

 

『んぁ? ・・・あれ、何か今凄く怖い夢見てたような・・・って、あれ!? クウネル選手は!?』

 

 

まず、朝倉さんが目覚めました。

他の観客も、随時目覚めて来るでしょう。

 

 

・・・・・・?

何か、誰かに見られているような感覚が・・・?

 

 

「お見事です、アリア様」

「・・・そのアリア様って言うの、やめていただけません?」

 

 

復活してきたらしいクルトおじ様が、どこからともなく取り出したタオルを、とても素敵な笑顔で差し出してきました。

一応、受け取りますけど・・・断ると後が怖いですし。

 

 

「普通に、アリアで良いですよ・・・私の方が年下なわけですし」

「では、とりあえずアリア君とお呼びしましょう」

「・・・じゃあ、それでお願いします」

仰せのままに(イエス・ユア・)王女殿下(ハイネス)

「それもやめてください・・・」

 

 

アリカさん、やっぱりこの人はちょっと・・・。

かなり、扱いに困る気がしてなりません。

はぁ・・・と、溜息を吐きます。

 

 

シンシア姉様、若いお母様に会いましたが、特別私は変わりません。

 

 

 

アリアは、これまで通りに生きていきます。

 

 

 

 

 

<おまけ?>

 

「ふぅ、本体の魔法は凶悪ですぅ」

 

 

アリアの『迷(メイズ)』が解除されると、スタンドアローンであるが故にその術に嵌っていたアリアの式神「ちびアリア」も、その中から出てこられた。

彼女としても、アリアの魔法は怖いらしかった。

 

 

「もう5分待っても変化がなければ、ちびアリア49の隠し技を見せてしまう所でしたぁ」

 

 

49も隠し技があるのかはともかく、彼女はようやく、本体のいる会場に辿り着いた。

そして・・・。

 

 

「なかなか、遠い道のりでしたぁ」

「そーですねー」

「ですですぅ・・・およよ? なんともう一人の自分から返答が」

「違いますよー」

 

 

ちびアリアの隣には、いつの間にかもう一人、「ちび」が存在していた。

ちびアリアが白髪であるのに対し、その「ちび」は、黒髪だった。

名を、「ちびせつな」。

 

 

「こんにちわっ♪」

「おおぅ、よもやこんな所で同類に出会うとは・・・」

 

 

その時、ちびアリアは思った。

 

 

(き、キャラが被ってるですぅ・・・!)

 

 

「むむむ、ですぅ・・・!」

「・・・?」

 

 

ニコニコと向かい合う、二人の「ちび」。

これが、世界を変える出会いになるのかは・・・正直、まだわからない。

 

 

続く・・・の、だろうか。

 




エヴァ:
エヴァンジェリンだ。皆が忙しいようなので私がやる。
・・・べ、別に私だけが暇なわけじゃないからな!
ち・・・今回起こったことをまとめると、2つだな。
アリアが実母に会った。
で、アルが殴り飛ばされた、以上だ。
あとは、クルトとか言う元老院議員がアリアにくっついていたりとかだな。
鬱陶しいことこの上ない。


アリアが今回使った新規魔法・魔法具はこんな所だ。
王者の終焉:Big Mouth様の提供だそうだ。
悲しき玩具:元ネタは「レジンキャストミルク」。提供は水色様。
ゲマインデ:元ネタは「灼眼のシャナ」、提供は司書様だな。
一応、礼を言っておくことにする。
うちのアリアが世話になったな。


エヴァ:
次回は、私がアリアと「遊んで」やる回だな。
武道会も終わりか・・・さて、そろそろ超に地獄を見せてやらねばな。
では、機会があればまた会おう。


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第64話「麻帆良祭二日目・稽古」

Side 夕映

 

私は、最低だ。

目の前で眠るのどかを見ながら、私はそう思ったです。

昨日からあまり寝ていなかったからか、のどかは、しばらく目を覚ましそうに無いです。

 

 

ネギ先生のことが、心配だと言って・・・。

 

 

「・・・う・・・」

 

 

もう一つのベッドには、もうネギ先生はいないです。

それどころか、ここには私とのどか以外、いないです。

ハルナは、途中まではいたですが・・・のどかのことを図書館探検部に伝えに行ってくれているです。

他には、誰もいないです。

明日菜さんも、くーふぇさんも。

・・・超さんも。

 

 

超さんは、ネギ先生を連れて行きました。

ネギ先生のお師匠様の試合だとか、言って。

いつものように妙な道具を使って、ネギ先生を起こして・・・。

 

 

「・・・く・・・」

 

 

のどかも起こそうかと、そう言う話も出ました。

当然のことです。

でも、私が止めた。

 

 

どうしてか?

 

 

「・・・ひっ・・・」

 

 

離れたかったからです。

いえ・・・違うです、離したかった、のどかを。

守りたかった。

超さんから・・・・・・ネギ先生から。

 

 

のどかが、ネギ先生のことを好きなのを知っているのに。

なのに私は、のどかが眠っているのを良いことに、明日菜さん達を放って。

全部押し付けて、逃げた。

 

 

「・・・うぇ・・・」

 

 

魔法を知りたいと言う気持ちは、変わらない。

でも、ネギ先生に教わるのはダメだと、頭の中の冷静な部分が告げるです。

あの人と共に行くな・・・行かせるなと、囁くです。

 

 

のどかが、ネギ先生を好きなのに。

のどかの気持ちも聞かず、勝手に。

 

 

「・・・よぅ・・・」

 

 

のどかを起こさないよう、声を殺して。

 

 

「・・・のどかに、嫌われたら、どうしよぅ・・・」

 

 

どうか、まだ起きないでほしい。

そう願いながら、私は眠るのどかを見ているです。

 

 

震えながら、私はただ、時が過ぎるのを待っているです。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「・・・だいたい、そんな所です」

「そう・・・」

 

 

今までのことを掻い摘んで話すと、ドネットさんは疲れたように息を吐いた。

そのまま、部屋のソファに身体を鎮めて、こめかみを指で押さえる。

 

 

話したことは、麻帆良のこととか。

あとは、ネギとアリアのことか。

白い髪の男の子のことは・・・話してないけど。

 

 

「アーニャさん?」

「な、なんでも無いわ、エミリー」

 

 

肩のエミリーに、曖昧な笑みを返す。

 

 

「そこまで、悪化していたのね・・・」

 

 

軽く頭を振って、ドネットさんは側の書類を手に取った。

それは、ネギとアリアの麻帆良での行動の総合報告書だった。

例によって、明石教授って人から貰ったらしいんだけど。

 

 

「・・・これだと、アリアまで卒業取り消しにするのは・・・」

 

 

どうも、ドネットさんや校長のおじーちゃんは、別の方法でアリアを元老院から隠そうとしたみたい。

前は、元老院から隠すために魔法学校に入れた。

でも今は逆に、アリアが優秀すぎるから・・・学歴を無くして、元老院の興味を無くそうとしたみたい。

その上で、アリアドネーに民間就職みたいな形で送り込むつもりだったみたい。

 

 

・・・前から思っていたけど、アリアって可哀想な子。

普通に、本人の生きたいように生きれない。

とても、優しい子なのに・・・。

 

 

「あの、それで・・・アルベールのことは」

「・・・ああ、あの軽犯罪者の」

「軽犯罪者じゃありませんっ!」

 

 

エミリーが大声を出した。

耳元で叫ばれたから、キーンってなっちゃった。

でもお兄さんのことって、この子にとってタブーって言うか、何と言うか。

 

 

「下着二千枚盗むのに、妹の名前を使うような奴ですよ!?」

「お、落ち着いて・・・」

「落ち着いていられますかぁ――――っ!」

 

 

ま、まぁ、そうなるわよね。

そうやって騒いでいる時、扉がノックされた。

ドネットさんは私達に静かにするように手を振ると、素早く扉へ。

エミリーも、私の服の下に潜り込んで丸くなった。

 

 

「・・・どちら様でしょうか?」

「クルト・ゲーデル元老院議員の使いの者です」

 

 

その返答に、ドネットさんは緊張した表情で私を見た。

私も、頷きを返す。

 

 

元老院の人が、何の用かしら。

 

 

 

 

 

Side 晴明

 

久方ぶりに現に出されたと思えば、目の前にいたのは小娘ばかり。

あの時は、驚いた物じゃの。

藤原の姫がおった時は、さらに驚いた物じゃが。

 

 

「魔法、のぅ・・・」

 

 

カチリ、と動く自分の身体。

よもや、西洋の人形を拠代にされるとは思わなんだ。

『ろーざみすてぃか』とか言う石に、意識を固定化しておるようじゃが。

世にはまだ、我の知らぬ物も多いと言うことじゃろうの。

 

 

まぁ、暇を持て余しておった所じゃし、藤原の姫に術を教えるのも一興と思うたからの。

・・・我としても、新たな術法を学ぶにこれ程の場所は無い。

せいぜい、楽しませてもらうとするかの。

 

 

「にしても、西洋の鬼は何をするつもりなのかの」

「チョイトイジメルツモリナンダロ」

「童女趣味かの。我の時代にもいたのぅ・・・」

「チガウトオモウ・・・イヤ、アッテルノカ・・・?」

 

 

チャチャゼロと申すこの人形は、我の身体の不便さを理解してくれる数少ない友じゃ。

やれ手が短いじゃの、やれ人前だと動けんだの。

今度、西洋の鬼に「人形にも人権を」と訴えてみようかと思っておる。

 

 

この時代は、「人権」を訴えれば大概通ると聞いた。

「人権」が何かは、我は良く知らぬが。

 

 

「ま・・・久方ぶりの現世じゃ、堪能させてもらうさ」

「ソウカヨ」

「うむ・・・で、あの西洋の鬼。あの白髪の娘に勝てるのかの。奇妙な道具を良く使うが」

「モンダイネーヨ」

 

 

チャチャゼロは、妙にはっきりとした口調で申した。

 

 

「ゴシュジンノケイケンハ、ダテジャネーッテワカルゼ」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『さぁ遂に・・・伝説の麻帆良武道会、決勝戦です! 学園最強の称号を手に入れるのは・・・どちらの美少女だ!? と言うか、なんでこの2人!?』

 

 

私が聞きたいですよ、なんで私とエヴァさんでやるんですか。

でも、エヴァさんも妙にやる気ですし・・・。

どうしてでしょうか?

 

 

「まぁ・・・何、一つ稽古をつけてやろうかと思ってな」

「稽古、ですか・・・」

 

 

稽古と言われて思い出すのは、別荘での基礎修行。

一瞬、遠くを見ようとしてしまいましたが・・・。

・・・大丈夫、大規模魔法でなければ大丈夫。

 

 

『では、決勝戦・・・』

「構えろ、アリア」

「いえ、まだ心の準備が」

「いいから、構えろ」

 

 

ですから、心の準備がまだできていません。

苦手意識って言うのは、克服が難しいんですよ?

 

 

『Fight!!』

 

 

しかし、そうは言っても。

開始と同時に、『闘(ファイト)』『気(オーラ)』『力(パワー)』『速(スピード)』を使用。

あとは、『幻想空間(ファンタズマゴリア)』に注意でしょうか。

引き込まれて広域殲滅魔法使われた日には、楽に死ねます。

 

 

「さぁ、来るが良い・・・などと言いつつ、私の方から行ったりして、な!」

 

 

ボッ・・・と、いつの間にか跳んでいたエヴァさんの蹴りが、左に。

 

 

「・・・っ」

 

 

即座に反応。

左腕を掲げ、ガードします。

次の瞬間、ぎしっ・・・と、骨を軋ませる程の重い一撃が。

 

 

・・・支え、切れない!

 

 

魔力強化ではないからか、『殲滅眼(イーノ・ドゥーエ)』で威力を殺せません。

身体が浮き、吹き飛ばされます。

しかし、逆にそれを利用して、エヴァさんから離れて距離を取ります。

体勢を整えて・・・。

 

 

「・・・っ!」

 

 

地面に足をつけた瞬間、足首に何かが巻き付きました。

魔力で編まれた、糸。

カクンッ・・・と、バランスが崩されそうになります、が。

 

 

「『全てを喰らい』・・・」

 

 

糸を消滅させ、今度こそエヴァさんを視界に捉え・・・。

すでに、目の前に。

速い!

・・・魔法具!

 

 

「『ヴォイドスナ・・・」

「遅いな」

 

 

右手に黒い手袋が装着される前に、攻撃が。

対処のために、魔法具の創造を一旦、中断。

エヴァさんの攻撃は、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を乗せた右ストレート。

でも、これなら魔眼で・・・。

 

 

防御しようとした瞬間、両腕が糸で縛られました。

え、ちょ・・・!

 

 

瞬間、エヴァさんの拳がお腹に突き刺さりました。

魔法の矢は、自動的に吸収できますが。

吸血鬼の筋力による一撃は、カードの身体強化付きでも、重い・・・!

 

 

「あ、か・・・!」

「魔眼に頼り過ぎだ、バカ者」

 

 

その場に膝をついて、エヴァさんを仰ぎ見ます。

でも、なぜ?

魔力で編んだ糸なら、魔眼で・・・って。

 

 

「・・・普通の、糸?」

「ああ、人形遣い用のごく普通の糸だ」

 

 

両腕に残ったそれは、確かに普通の糸です。

・・・そうか、このために、最初はあえて魔力で糸を作ったのですね。

・・・!

 

 

ガギィ・・・ン!

 

 

「く・・・!」

「ほう、今度は間に合ったか」

 

 

エヴァさんの鉄扇を、とっさに創った『神通扇』で受け止めます。

扇の面を構成する板の一枚一枚に霊的文字による呪文が記されている、本来なら攻防一体の武具なのですが・・・。

攻撃に回す余裕が、無い!

 

 

「ふむ・・・アリア」

 

 

ギリギリと鉄扇を押し込んできながら、エヴァさんが囁いてきました。

とても、良い笑顔で。

 

 

「今日は、お前の弱点でも教えてやるとしよう」

 

 

 

 

 

Side エヴァ

 

「私の・・・弱点?」

「ああ、たとえば・・・」

 

 

くんっ・・・と、魔力で編んだ糸で、アリアの扇を引き上げる。

当然、アリアは抵抗するが・・・・。

力の入れ具合が変化した一瞬の隙を突いて、扇を蹴り上げた。

扇は場外に飛び、水の中に落ちた。

 

 

次いで、連撃。

アリアに考えるゆとりを与えない。

 

 

「お前の魔法具は、本当に見事な物だが・・・戦闘で使うには、いくつか難点があるな」

「な、難点?」

「まず一つ、お前の想像力・・・創造力に依存すること」

 

 

複雑な効果、あるいは大型になるほどに、思考力が重要になる。

だからこうして思考する間を削いでやれば、かなりの確率、新たな魔法具の創造を止められる。

仮に創造できたとしても、次の行動に出るまでにおよそ3秒かかる。

 

 

3秒。

それは、吸血鬼の真祖である私にとっては、永遠と同じ意味を持つ。

 

 

「さらにその『闘(ファイト)』・・・あらゆる流派の格闘を瞬時にマスターする効果は素晴らしい」

 

 

最初に聞いた時は、どんなバグかと思ったが。

他の身体強化のアイテムも、素晴らしい効果を秘めている。

だが・・・。

 

 

「あまりにも完璧すぎて、私のようなレベルの相手には、即座に弱点を見抜かれる」

「・・・!」

「まず、動きが機械的で教科書的すぎる。次いで・・・どんな流派にも、必ず弱点が存在する」

 

 

私が操る合気柔術にしても、合気柔術と呼ばれるために必要な要素がいくつかある。

当然、弱点も存在する。

弱点の無い流派など存在しない。

『闘(ファイト)』がいかに素早く流派入れ替えを行おうとも・・・弱点は消せない。

 

 

・・・たまに漫画か何かの拳法を真似しているようだが、同じことだ。

 

 

「くっ!」

 

 

普通の糸、と言ってもピアノ線よりも固い糸だが、それでアリアの両腕を縛る。

一度上に振り・・・下に。

アリアはそれに反応し、糸で縛られたまま地面に手を置き、逆立ちの体勢。

 

 

「『南斗白鷺拳・烈脚空舞』!」

「ほう、脚技か」

 

 

とん・・・と、距離をとって避ける。

かすかに掠ったのか、衣服の胸元が少し切られた。

アリアは私が離れたのを見ると、糸の縛りを脱し、体勢を整えた。

その足に、黒いブーツが装着される。確か、『黒い靴(ダークブーツ)』とか言ったか。

 

 

そして真っ直ぐ、こちらに突撃してくる。瞬動!

しかし、瞬動は直線的にしか動けない・・・。

 

 

「ぬ」

 

 

ところが、アリアは私の目前で踏み止まった。

床板を砕く勢いで止まり、右へ、さらに後方、左へ・・・。

アリアの機動力が、格段に上がっている。

どうやら、あの靴は高機動戦を得意とするらしい。

 

 

だが・・・。

 

 

「『雷光電撃(ライトニングボルト)』!!」

 

 

私には、通じない。

左後方から放たれたそれを、私は後ろ手に受け止める。

バチィッ・・・と、電撃の気配がするが、掌とアリアの拳の間に高密度の凍気の壁を築き、相殺する。

アリアよりも素早い反応速度で、的確に。

 

 

見えるんだよ、アリア。

お前の動きが。

 

 

「な・・・」

 

 

アリアの声。

そこを目がけて、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を乗せた拳を放ち・・・。

 

 

アリアの身体を、舞台の床に叩きつけた。

 

 

・・・アリア。

アリア、お前は、今のままでは。

・・・最高位に届かない。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

『は、速い速い速いはやーいっ! 超ハイスピードバトルに会場熱狂―――――っ!』

「えげつな・・・」

 

 

千草さんが、露骨に顔をしかめながらそう呟きました。

えげつない、と言うその言葉の真意はわかりませんが。

マスターが終始、アリア先生を圧倒しています。

 

 

「なーなー、千草はん。うちも混ざってきてもええ? なぁ、ええやろ~?」

「やめとき・・・死ぬ死ぬ、あんなもん」

「死んでもええから~」

「あかん」

 

 

月詠さんは、何やらソワソワ、ウズウズとしているようですが。

・・・マスターはもちろん、適度に手加減しています。

本気で撃ち込めば、それこそ最初の一撃で落とせると豪語しておりました。

 

 

「ふむ・・・どうやらマクダウェル選手は、アリア選手の弱点を突いているようですね」

「と言うと、どういうことでしょうか、クルト議員?」

「アリア選手は、実に多彩な攻防を行う選手です。一つ一つが相手の意表を突く・・・言ってしまえば、奇襲型の戦いを好んでいるようです・・・が、マクダウェル選手は、それを純粋な力で、かつ理詰めで潰して行っています」

 

 

確かに、マスターはアリア先生が魔法具を出すタイミングで攻撃を強化し、先生の行動を制限しています。

しかし、なぜマスターはアリア先生が魔法具を出すタイミングを掴めるのでしょうか。

 

 

「それはずばり、攻撃の兆候を読んでいる、と言うことでしょうね」

「心を読んだ回答、ありがとうございます」

 

 

と言うか、なぜまた解説者席に戻ってきているのでしょうか。

 

 

「いかなる行動にも、予兆はあります。マクダウェル選手にはそれが見えている。しかし、アリア選手にはそれが見えていない・・・純粋な戦闘経験の差が、2人を分けたとも言えるでしょう」

「見た目、同い年やけどな」

「なるほど、ではアリア選手が盛り返すには、どのような方法があるでしょうか?」

「うちの言うこと、そない間違ってへんと思うんやけどなぁ・・・」

 

 

千草さんの独白はともかく。

クルト議員は、眼鏡を押し上げながら、目を細めて。

 

 

「経験で勝てない以上・・・」

「勝てない以上?」

「何か別の物で、それを埋めるしかないでしょうね」

 

 

何か別の物。

マスターの600年の経験に代替できる何かとは、何でしょうか?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

・・・性能(スペック)で上回るしかない!

 

 

でも真祖の吸血鬼であるエヴァさんに対し、肉体的性能で上回ることは不可能。

魔力総量も、良くて互角。もしかしたら負けている可能性だってあります。

速度(スピード)も火力(パワー)も、カードでブーストしてようやく追い付いているレベルです。

かと言って・・・。

 

 

「お前が『幻想空間(ファンタズマゴリア)』とこの舞台、どちらを選んでも私は良かった」

 

 

悠然とした口調。

しかし攻撃の手は緩めずに、エヴァさんは言います。

拳と鉄扇の連撃、私は防御するしかない。

 

 

「こちらの舞台では確かに、私の広域殲滅魔法は封じられる。だがそれはお前も同じだ・・・刀剣類の魔法具を使用した大規模制圧攻撃を繰り出せないのだから。観客もいるしな」

「もし仮に・・・『幻想空間《ファンタズマゴリア》』を選んでも・・・」

「同じことだな。私は魔法具の出がかりを潰し・・・接近戦に持ち込、む」

 

 

ぐるんっ・・・と、掴まれた腕。

そこから、身体を返される・・・合気柔術!

く・・・魔法具。

 

 

「あ・・・」

 

 

魔法具を出そうと拳を開いた瞬間、その手をエヴァさんに握られました。

パキッと言う音を立てて、固まりかけた魔力がひび割れます。

 

 

「なんで・・・!」

「見えるんだよ、私には。魔法具が固定化する、コンマ数秒の隙が」

「・・・『ラッツェルの糸』!」

 

 

切れない糸を無限に紡ぎ出す針を創造、口に咥えて使用します。

そこから糸を出し、エヴァさんを拘束・・・。

 

 

ひゅがっ!

 

 

しかしその糸はエヴァさんの編んだ魔力の糸で絡め取られ、防がれます。

 

 

「お前の身体に触れていない限り、魔力で構成されていても左眼の効果は及ばない・・・」

「・・・!」

「そして右眼は、私が魔法を使用しない限り何もできない」

 

 

ぎり・・・と握られた手に力が込められ、引き寄せられます。

もう少しで触れてしまいそうな距離に、エヴァさんの顔が。

 

 

「さて、魔法具と魔眼が通じない相手を前にした時、お前はどうする?」

「どうするって・・・」

 

 

コンマ数秒の溜めを潰せる相手を前に、どうしろと言うのでしょうか。

改めて、エヴァさんの出鱈目ぶりを目にしましたよ。

でも、まだ・・・!

 

 

「アデアット!」

 

 

エヴァさんから離れ、『千の魔法』を手に持ち、ページを・・・。

その瞬間、エヴァさんが『千の魔法』を蹴り飛ばしました。

私の手から離れ・・・宙を舞う『千の魔法』。

 

 

「そのアーティファクトは、確かに脅威だが・・・」

 

 

空中に滞空しながら、エヴァさんが笑みを浮かべます。

 

 

「手に持っていなければ、意味を為さないのが難点だ」

 

 

着地し、私の首を掴むと、そのまま。

床に、叩き付けられました。

軽く呻いて、身を起こそうとしましたが・・・。

 

 

エヴァさんは首を掴んだまま、私の上に乗ってきました。

いわゆる・・・マウントポジション?

 

 

「・・・それが、お前の弱点・・・と言うより、限界だよ、アリア」

「げ、限界?」

「こと戦闘に限り、お前が最強クラスと呼ばれる位階に今一歩届かないのは、そのためだ」

 

 

確かに、私は「最強でも無敵でも無い」ことを標榜しておりますが。

 

 

「本来、お前は戦闘技能者では無い・・・魔法薬の分野では私を超える才を発揮してもいる。だが、お前は最強クラスに届く必要がある。その環境ゆえに」

「・・・それは」

「いつだったか、お前は刹那や木乃香に言ったな。誰よりも高みに行けと。同じことがお前にも言える。別にお前のせいじゃない・・・だが、届かねばならない。お前が、お前自身であるために」

「けど、そんなの・・・どうすれば」

 

 

残念ながら、私は今でも、命の危険を意識しなければならない環境にいます。

私が、他の誰かに良いようにされないためには、力が必要です。

刹那さんや、木乃香さんと同じ。

自分が、自分らしく生きるために。

 

 

・・・後悔をせずに、生きていくために。

 

 

「・・・ひよっこが、一人で何かできると思うなよ」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「お前は結局、自分の問題を一人で解決したいのだろう? 誰にも迷惑をかけないように・・・」

「そ、そんなの・・・」

 

 

アリアは、一言で言えば「愛されたがり」だ。

愛情に対して、飢餓感とすら言える程の感情を見せる。執着を見せる。

環境を考えれば、無理からぬ話だが。

問題は、手に入れた「愛情」を失うことを極度に恐れることだ。

 

 

家族や友人に必要以上に優しく、甘く接するのも。

多大な仕事を抱えるのも、穿った見方をすれば、「こんなに役に立つから私を見て」とアピールしているような物だ。

それは、純粋ではあるが褒められた物じゃない。

 

 

周囲に良い顔をしていれば、確かにいろいろと楽になるだろう。

が、それだけのことだ。

それには限りと言う物がない。何か一つを与えると次の一つを望むだろう。

何よりも問題なのは、周囲がそれを当然だと感じるようになることだ。

 

 

「そんなの、当たり前じゃないですか」

「いいや、違うね」

 

 

そう言い繕っている内は、お前は結局、私達が見えていないのさ。

だから、母親に会ったぐらいで「自分は一人だ」と泣きつくんだよ。

お前は一人じゃない・・・などと、青臭いことを言うつもりは無いが。

 

 

「受け取った愛情や信頼と同等の物を、相手に返すくらいの度量は見せたらどうだ?」

「でも、エヴァさ」

「貴様」

 

 

そ・・・と、アリアの頬に手を添える。

 

 

「何かを手に入れた者が、無傷で進めると思うなよ?」

 

 

元より、アリアは無傷でここまで来たわけではない。

何も持たない状態で、来てしまっただけだ。

だからこそ、手に入れた現状に満足してしまう。甘んじようと、してしまう。

それは、私としても嬉しいが・・・。

 

 

「美しく、上手く進もうとしなくて良い。自分を、時には他人を傷つけて。それでもなお、前へと進む者であれ、それでこそ・・・」

 

 

それでは、アリアの成長が止まってしまう。

それは、あまりにつまらないだろう。

守りに入った人間、リスクを恐れて先へ進めない人間など、哀しいだけだ。

アリアが「普通の人間」なら、それも良かったが。

 

 

「それでこそ、私達の・・・私の家族だ」

 

 

哀しいくらいに、アリアの周囲の環境はそれを許さない。

前へ進めと、アリアの背中を押し続ける。

これからも。

 

 

「・・・以上、講義終了だ」

 

 

そう言って、アリアの上からどく。

そのまま背を向けて、選手席の方へと歩いて行く。

あー・・・年喰うと説教臭くなっていかんな。

 

 

・・・ああ、そうだ。

 

 

「それはそれとして、魔眼と魔法具以外に何か、考えておいた方が良いと思うぞ?」

「・・・わかりました」

「ん、では・・・朝倉!」

『へ? ・・・え、あ、終わり!?』

 

 

当然だろうよ。

ここでは、私はまだ負けてやるつもりは無い。

私は、「扉」だからな。

 

 

アリアが、さらに上に行くための・・・「扉」だ。

いつか、あいつが自分の道を選んだ時、自分だけの何かを持っていられるように。

 

 

私はまだ、アリアにとって越えられない・・・開くことのできない「扉」で在り続けなければならない。

まぁ・・・。

 

 

「そう簡単に、抜かせるつもりはないがな」

 

 

もうしばらくは、面倒を見させてもらっても、良いだろう?

 

 

『し、勝者、マクダウェル選手―――――――っ!!』

 

 

 

 

 

Side 超

 

『それでは、授賞式の方へ・・・』

 

 

選手控室のある拝殿の屋根の上、そこに、私やネギ坊主達はいるネ。

遠くには、リングと、朝倉の姿がみえるヨ。

ふふ、それなりに仕事はしてくれたようネ・・・。

 

 

「エヴァちゃんって、本当に強いのね・・・」

「・・・・・・」

 

 

明日菜サンの言葉に、ネギ坊主は言葉を返さない。

それも、仕方が無いことなのかもネ。

ネギ坊主は、トーナメント表を食い入るように見ているネ。

 

 

自分のお師匠が、アリア先生に負けている。

そしてそのアリア先生は、エヴァンジェリンにあっさり敗北。

心中、お察し申し上げるヨ。

 

 

・・・まぁ、アリア先生の魔法には肝を冷やしたがネ。

おかげで、準決勝の決定的瞬間をネギ坊主に見せられなかった。

ついでにと思っただけだから、別に構わないガ。

 

 

「超」

「古か・・・腕は大丈夫カ?」

 

 

古も、ここについて来ているネ。

自分が負けたアリア先生のことを、見に来たのヨ。

 

 

「私は大丈夫アル・・・それより超こそ、大丈夫アルか?」

「何がネ?」

「すごく・・・嫌な顔をしているアル」

 

 

眉を寄せて、古がそう言った。

嫌な顔・・・カ。

 

 

私は、両手で自分の頬に触れながら、目を細めた。

・・・計画の始動まで、あと少し。

下準備も、ほぼ終わった。

 

 

少しの間、地下に潜って・・・時を待つネ。

 

 

「・・・何でも無いヨ」

「本当アルか・・・?」

「本当ネ」

 

 

だから古には、ニコリと笑顔を浮かべて、そう言う。

古は、アリア先生との戦いで何かを得たはずネ。

私などに、関わる必要は無いネ。

 

 

「私は、古にだけは嘘を吐かないヨ」

「超・・・」

「古にだけは・・・ネ」

 

 

ネギ坊主に視線を移せば、明日菜サンに慰められているネ。

明日菜サンの無根拠な明るさと前向きさは、ネギ坊主のような子供には、毒にも薬にもなるネ。

それを知っているのか、どうなのカ。

 

 

「・・・ま、良いけどネ」

 

 

私には、関係の無い話ヨ。

けれど、ネギ坊主・・・キミには、払ってもらわなければならない。

力を持った者が受けるべき、洗礼を。

 

 

・・・報いを、受けてもらうヨ。

 

 

その時、ズズン・・・と、建物が揺れた気がしたネ。

ネギ坊主達も、驚いているが・・・地震とかでは、無い。

 

 

「思ったよりも・・・」

 

 

思ったよりも早く、逃げられたようネ。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

「ココネ! こっちで合ってるの!?」

「間違いない・・・高畑先生の微弱な念話を感じタ・・・」

 

 

ココネに言われるままに、武道会会場を進む。

ただし、屋根の上を爆走中。

迷路から抜けたのは良いけど、人が多いったら!

 

 

「あそこ、あの東の高灯篭・・・」

「わかっ・・・高灯篭って!?」

「・・・・・・あの、高い塔みたいな所」

 

 

途中、ウルスラの金髪お姉さん・・・魔法生徒の、高音さんだっけ?

その人を見かけたけど、声はかけなかった。

会場に入ると、田中さん集団もどっか行っちゃったし、一人の方が動きやすいし。

何より、従者っぽい女の子相手に何か喚いてたから。

 

 

お付き合いしたくない人種には、近付かないのが吉だよ。

あの人がどうってわけじゃなくて、相性の問題。

ああ言う、妙に頭の固い人って、あんまり・・・ねぇ?

 

 

「このまま、飛び移るよ!」

「わかっタ・・・」

 

 

だんっ!

・・・と、思い切り踏みこんで、跳躍!

 

 

「いっ・・・けぇ――――――――っ!」

 

 

屋根に・・・着地!

成功!

そのまま、ズルズルと身体の位置をズラして、窓から中へ。

 

 

「・・・ふぅ、ちょっと死ぬかと思った・・・」

「凄かった、ミソラ・・・」

「ありがとー♪ まぁ、こんな若き身空で死ぬわけにも・・・あれ? 今上手いこと言った?」

 

 

中は、何と言うか、しっちゃかめっちゃかになってた。

元々は、パソコンがズラりと並んだ部屋みたいだけど、こう・・・。

争った形跡・・・って言うの?

 

 

「うひゃあ・・・何と言うかアレだね。すぐに消えた方が良いかなこれは?」

「もう、遅いカモ・・・」

「え・・・」

 

 

ココネの言葉に振り向いてみれば、部屋の入口の所に、見覚えのあるお姿。

革ジャンに苺のアップリケを付けた、個性あふれるターミ○ーター。

それが、サムズアップしながら。

 

 

「I will be back」

 

 

何か言ってる―――――っ!?

くっ・・・来るか、こんにゃろ!

私がいつも逃げてばっかだと思ったら、大間違いだぞ、このやろー!

 

 

そう思って、ココネと一緒に、十字架を構えた所で。

 

 

ゴォンッ・・・とか言う凄い音がして、田中さんが吹っ飛ばされた。

こう、上半身と下半身が別れた感じで。

 

 

「た、田中さぁ―――――んっ!?」

 

 

思わず、叫んだ。

別に悲しくは無いけど、なんだか叫ばなくちゃいけない気がした。

と言うか、今、何が・・・。

 

 

「・・・大丈夫かい、美空君?」

「高畑先生!?」

 

 

身体を引き摺るようにして現れたのは、私達の探し人、高畑先生。

何と言うか・・・ボロボロだった。

と言うか、左腕から血がダクダク出てるんですけど・・・。

 

 

「いや、拘束から逃げるのに手間取ってね・・・それよりも、ここから離れよう」

「へ?」

「地下から、さっきのロボットが大勢出てきていてね。僕一人じゃ手に負えなくなってきたんだ」

 

 

あはは・・・と笑う高畑先生。

いや、あんた何してんの・・・。

ひょいっ・・・と、部屋の外を見てみれば。

 

 

ガション、ガション・・・って言う音が、遠くから聞こえてきてる。

・・・よし、逃げよう。

 

 

ココネを、もう一度肩車しないと。

 

 

 

 

 

Side 真名

 

わぁ・・・!

会場の方から、歓声が聞こえてきた。

ポンッ、ポンッ、と、花火の音が聞こえる。

 

 

ふむ、楓や古、アリア先生も負けたのか・・・。

 

 

「随分と、派手な大会のようですね」

「・・・決勝が、終わったようだ」

 

 

途中、迷宮に迷い込んで大変だったが、出れないと言うことは中に居続けると言うこと。

狙い撃つのに、不自由は無い。

出れないだけだ。

 

 

私の周りには、十字架の残骸が散乱している。

全て、シスターシャークティーとの戦いで撃ち落とした物だ。

 

 

「・・・なぜ、銃を下ろすのです?」

「何、もう戦う必要は無いのでね」

 

 

私が超から受けていた依頼は、「チケットの無い者を会場に通すな」だ。

それ以上のことは、知らないね。

 

 

ギターケースを肩に担いで、シスターシャークティーに笑いかける。

 

 

「では、もう通って良いですよ」

「あ、待ちなさ・・・」

「失礼」

 

 

たんっ・・・と跳躍し、その場から離れる。

これ以上は無駄弾だし、時間と労力の無駄だ。

仕事はまだ、たくさんあるんでね。

 

 

シスターシャークティーは、追ってこない。

春日のことが心配なのか、そっちを優先したようだった。

念話妨害も解けているだろうから、何か連絡を受けたのかもしれない。

 

 

まぁ、それに今私を追う必要はありませんよ、シスターシャークティー。

いずれまた、お会いするでしょうから。

その時は・・・。

 

 

「その時は、遠慮なく狙い撃たせてもらうさ」

 

 

 

 

 

Side 弐集院

 

「うー・・・む、これは不味いね、ガンドルフィーニ君」

「な、何がですか・・・」

「いや、そんな疲れ切った声で言われても・・・」

 

 

だが、ガンドルフィーニ君は実質一人で告白を阻止しているような物だ。

ネット上の監視を一人でやっている私よりも、疲れているだろう。

・・・だが、目の疲れだけは負けない自信がある。

 

 

とにかく、ネット上では現在、非常に不味い事態が起こっている。

具体的には、誰かが「魔法」を広めようとしているみたいなんだ。

 

 

「どうも、超鈴音の格闘大会を利用して、魔法の存在を流布しようとしているようだね」

「これは・・・確かに、不味いですね」

 

 

目的は不明だが、超鈴音と見て問題無いだろう。

これ程のことができる生徒は、彼女しかいない。

やはりと言うか、何か企んでいたようだ。

 

 

ネギ君やアリア君の情報を流したのも、何かの一端だと考えた方が良いだろう。

場合によっては、保護した方が良いのかもしれないけど・・・。

難しいな。

 

 

「とにかく、私は今から対策を打つ! ガンドルフィーニ君は他の先生方に伝えてくれ!」

「わかりました!」

「告白生徒も、忘れないように!」

「・・・わかりました」

 

 

なんで間が開くのか・・・なんて、聞くまでもないよね。

ああ、もう、人手が足りないよ。

 

 

愚痴を言ってもどうにもならない、行くぞ!

 

 

「『ニクマン・ピザマン・フカヒレマン』!」

「その始動キー、変えた方が良いですよ・・・」

 

 

え、なんでだい?

娘も大喜びしてたのに・・・。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

「なんじゃ、こりゃあ・・・」

 

 

ネットでは、白熱した論争が行われていた。

大部分は、まほら武道会の流出画像に関する物だった。

 

 

曰く、普通の人間にはあんな動きはできない。

曰く、あれは「魔法」なんだ・・・とかな。

はっきり言って、バカなんじゃねーのこいつら、と思ったんだが・・・。

 

 

どうも、マジになってる連中がいるらしい。

さっきから、「魔法肯定派」と「魔法否定派」のネット論争が止まらねぇ。

と言うか、これはもう・・・。

 

 

『インターネットを介した、超々高度世論操作・・・電子戦争ですねー』

 

 

画面の隅で、「ミク」がいじけながら言った。

無視ばっかしてたら、「ますたーのいけず・・・」とか言いながら、隅に行きやがった。

 

 

『どーしますー、介入しますかー?』

「介入・・・?」

『はいー、このまま行くと、いわゆる「魔法否定派」が負ける感じですねー。勢いが無いですもん』

「・・・つまり、なんだ。このまま行くと、魔法ってあるんだーみたいなバカが、勝つってことか?」

『いぐざくとりぃー』

 

 

なんだ、そりゃ・・・。

そんなバカみたいなことが通るようになるたー、世も末だな。

確かに、この武道会の画像を見れば、そう思わなくもないが・・・。

 

 

でも、だからって「魔法」を信じる・・・バカだな。

 

 

『もし介入するにしても、ますたー如きのハッキング技術や個人開発プログラムでは、どうにもならないですけどねー』

「ムカツくな、お前・・・」

『規模が違いますから。最新鋭同士の電子戦に、ノートパソコンでできることなんて、たかが知れてますよー?』

 

 

む・・・それは、確かに、

このパソコンは私の自慢だが、だからと言って世界一ってわけじゃねぇ。

 

 

『で~も~・・・私達「ぼかろ」なら、対抗できるかもですよぉ?』

「あ?」

『私達は元々、創造主Ariaの複雑な情報制御の代替演算用に組まれた電子精霊統率プログラムですから。むしろ、電脳空間は私達「ぼかろ」の独壇場ですよぉ』

 

 

ずずいっ、と画面の真ん中に躍り出ながら、「ミク」は不敵に笑った。

こいつ、アップダウン激しいなぁ。

 

 

『どうします、ますたー? 今ならこのパソコン内の永住権で手を打ちますよぅ?』

「不法侵入者のくせに・・・」

 

 

だが、確かにこいつらならどうにかしちまいそうな気はする。

一応、こいつらのスペックは聞いた。

とてもじぇねぇが、人間技じゃねぇ。

 

 

だが・・・。

 

 

「・・・くだらねぇ」

 

 

パタン、とノートパソコンを閉じる。

私は、そんなことには関わらねーよ。

 

 

魔法なんて、本当にあるわけねーだろ。

 




アリア:
アリアです。
どうにも、エヴァさんには敵わないみたいです。
私も、まだまだですね・・・。
武道会は終わりますが、まだ麻帆良祭は半分を過ぎたばかり。
やることは、たくさんありそうです。


今回新規で使用した魔法具は、以下の通りですね。
二重螺旋様より、神通扇です。元ネタはGS美神です。

なお、作中の田中さんの台詞「I will be back」は、黒鷹様の発案です。
今後も登場予定。

ありがとうございます。


アリア:
さて、次回は学園祭のイベントを楽しむ回でしょうか。
もちろん、様々な勢力の動きも描写されていきますが・・・。
さて、一時休息と行きますか。
では、またお会いしましょう。


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第65話「麻帆良祭二日目・茶会」

Side しずな

 

麻帆良祭には、本当にたくさんの人が来るの。

土日だからって言うのも、あるのかしらね。

その中には、昔の教え子達もいたりするの。

たとえば・・・。

 

 

「うっす、新田先生、お久しぶりッス!」

「相変わらずのダンディぶりッスね、新田先生!」

「おお、木村君に金田君、元気にしておったかね?」

 

 

とかね。

適当に歩いているだけで、新田先生は元教え子に囲まれてしまう。

カフェで休憩していれば、いつの間にか、新田先生の知り合いで座席が埋まってしまう。

こういう時、同じ教師としては、少し嫉妬してしまうわね。

 

 

「うっす、今年も持ってきたッス。最新号の『グレート・ティーチャー・新田』・・・略してGTN!」

「おお、毎年ありがとう」

「うっす!」

「ふん・・・バカは何年経ってもバカだな」

「んだとぉ加藤! てめー公務員だからって舐めてんじゃねぇぞコラァ!」

「ちょっと、もう、やめなさいよ! 102期の子はこれだから・・・」

「「96期卒業の年増は黙って(ろ)(いてもらいたい)」」

「・・・アアン?」

 

 

年齢はバラバラだけど、皆、在校生時代はひと癖もふた癖もあった子達なのは同じ。

今では、立派な社会人だけど・・・ここに来る時は、学生時代に戻った気分になるみたい。

 

 

「大変だー! 佐藤さんが久々に特攻(ぶっこみ)モードになったぞー!」

「なんだってぇ! おい旦那さん連れて来い、あの人しか止められねー!」

「ダメよ。さっきトイレに行っちゃったもの!」

「マジか!?」

「「うぎゃあああああああああ!?」」

「ああ、木村君と加藤君が言葉に出来ない状態に!?」

 

 

ちなみに、木村君達が毎年持ってくるGTNって言う冊子は、新田先生を恩師とする卒業生達が新田先生の教師としての素晴らしさや教育論を記事にした配布誌のことよ。

毎年、学園祭で密かに、そして表だって配布されているの。

 

 

「あら・・・?」

 

 

ノートパソコンで学園祭に関するネット情報をチェックしていたら、気になる物があった。

まほら武道会って言うイベントらしいんだけど、準優勝者の名前が・・・。

 

 

「あれー? しずな先生、何見てるんですか?」

「ああ、横田さん。少し気になって・・・」

「あ、この子可愛いー、先生のお子さんですか?」

「あらあら、うふふ・・・このくらいの年の子供がいるように見えちゃうのかしらー」

「す、すみません」

 

 

アリア先生の写真とプロフィールが、事細かに載っている。

これは、アリア先生が許可したのかしら?

そんなことをする子には、見えないのだけど・・・。

 

 

「キミ達、いい加減にせんか!」

「うはっ・・・出たよ鬼の新田!」

「久しぶり過ぎて、恐怖よりも先に懐かしさが来るな!」

「全員、正座――――――――っ!!」

「「「「キタ――――――――っ!!」」」」

 

 

新田先生の方は、変わらず賑やかね。

私は、カタカタと・・・ネット検索を続ける。

 

 

「この子、しずな先生の知り合いですか?」

「ええ、同僚よ」

「へー・・・子供ですよ!?」

「あら、よく気の利く子で、仕事も良く出来るのよ?」

 

 

哀しいくらいに、仕事ができてしまう子供。

 

 

「う・・・!」

「ど、どうしたのかね?」

「・・・大変だ、妊娠中の大谷さん(旧姓・轟さん)が、産気づいたぞ!」

「た、大変!」

「つーか、そんな身体でなんでこんな騒々しい所に!?」

「ここは、小児科医の私に任せろ!」

「おお、古河! どうすれば良いんだ!?」

「まずは・・・・・・救急車を呼べ!」

「「「医者関係ねーじゃねーか!」」」

「と、とにかく救急車を呼びなさい、早く!」

 

 

・・・調べている暇は、なさそうね。

後ろ髪を引かれる思いで、私はノートパソコンの電源を落とした。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

茶道は、姿勢が大事だと言われます。

両膝を拳一つ分あけ、足は親指が重なる程度に踵を開いて、腰を乗せて座ります。

両肘を拳を縦にした形が入る程度に軽く張り、背筋を真っ直ぐに伸ばし、顎を少し引くようにして、顔は真っ直ぐ前方を見て正座。

 

 

「・・・お先に」

「あ、はいー」

「・・・いただきます」

「はい、どうぞ」

 

 

エヴァさんの次にお茶菓子をいただきます。

次のさよさんに次礼をし、懐紙を出して膝前に菓子器を置きます。

菓子器に添えられた箸を右手で上から取り、左手で下から添えるように持ち、さらに右手に持ち替え、左手を菓子器に添えて、主菓子を懐紙に取ります。

その後、箸先の汚れを懐紙の角で清めた上で箸を菓子器に戻し、さよさんに菓子器を送ります。

懐紙ごとお菓子を持ち上げて、楊枝や菓子切りを使って、一口ずつ頂きます。

 

 

・・・「苺の魔大福」。

 

 

茶々丸さんが、薄茶を点ててくれました。

茶々丸さんに一礼をした後、もう一度エヴァさんとさよさんに断った上で、自分の膝正面に置きます。

 

 

「・・・お点前、いただきます」

「・・・はい」

 

 

茶碗を右手で取り、左手に乗せ、右手を添えて軽く押し、時計回りに二度回して向きを変えます。

一口、二口、三口・・・そして、すっ・・・と、丁寧に飲み切ります。

飲み口を軽く右手の指先で拭い、その指を懐の懐紙で拭います。

飲み終えた茶碗を反時計回りに二度回し、膝前に置きます。

 

 

そして、茶碗を拝見させていただく段になった所で・・・。

 

 

「も、もう、ダメだ・・・ぞ・・・」

「わ、わ、すーちゃん今私の方に倒れちゃダメ・・・」

「・・・ど~ん」

「ちょ、今ワザと・・・ひゃあぁ~あ、足がひゃうっ!?」

 

 

足が痺れたスクナさんが、同じく足が痺れていたらしいさよさんの膝の上に倒れ込みました。

でもたぶん、半分くらい演技です。だって横に倒れる必要性がありませんもの。

 

 

「ち・・・バカ鬼め、作法と言う物を心得ておらんわ」

「まぁ、スクナさんの時代に茶道なんてなかったでしょうから」

 

 

日本にお茶の概念が入ってきたのが西暦800年頃。

その頃には、スクナさんは封印されていましたしね。

 

 

「この身体では、茶が嗜めんのぅ・・・」

「チャナンテワカンノカヨ?」

「平安の人間じゃぞ我は。鎌倉も室町の茶も嗜んでおる。薬にもなるしの」

 

 

人形組は、隅の方で談笑中。

一応、きちんと正座しているのがなんとも言えません。

晴明さん、やけに決まってますね・・・見た目は真紅ですけど。

 

 

「それで・・・これから、どうするんだ?」

「そうですね、とりあえず野外ステージの管理のお仕事がありますね」

「いや、それじゃない」

 

 

うん?

これからの予定のことでは無いのですか。

するとエヴァさんは、口にするのも嫌そうな顔で。

 

 

「超のことだ」

 

 

そう、言いました。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「超さん、ですか・・・」

 

 

ふむ・・・と、思案顔のアリア先生。

あれから少し眠り、アリア先生も回復されたようです。

 

 

アリア先生は、薄い青色の着物を身に付けています。

雪輪の優しい柄行の小紋。

気温が高くなってきた今日、涼しげな印象を与えてくれます。

 

 

「超さんは、今の所待ちの手ですかね。茶々丸さんも居場所を知らないようですし」

「はい、高畑先生との戦闘後、地下に潜るとの連絡を受けましたが・・・今、どこにいるかは」

「ち・・・」

「それに、たぶん私の知っている通りなら、今夜あたり接触してくるんじゃないかと思います」

 

 

アリア先生の「知識」には、超の計画の大筋が把握されていました。

すなわち、世界樹の発光現象がピークを迎える明日、学園祭三日目に行動を起こすこと。

魔力溜まりを利用した、大規模強制認識魔法を発動すること。

 

 

そしてそのための対策を、アリア先生とマスターは進めています。

ただ・・・。

 

 

「とても手が足りませんので、超さんの計画自体を止めることができません」

「まぁ、そうだな。流石にこの街で詠春の戦力を使うわけにもいかんしな」

 

 

超は、その戦力不足をハカセの協力の下、ロボ軍団で補っています。

しかしアリア先生には、そこまでの戦力は用意できません。

学園側や、あるいは他の勢力を説得する材料が無いからです。

電子世界では「ぼかろ」が頼みの綱ですが、きちんと仕事を果たしているでしょうか・・・。

 

 

さらに問題なのは、超もアリア先生や学園側の妨害工作を予測している点です。

何かしらの対抗策を講じる可能性が高いのですが、私からマスターやアリア先生に漏れるのを嫌ってか、重要機密にはアクセスできません。

私の中にあるブラックボックスも、未だ開くことができません。

 

 

「そう言えば、茶々丸さんは手伝わなくて良いんですか? 超さんの」

「おお、そう言えばそうだな・・・別に手伝うなとは言わん、お前の好きにするが良い」

 

 

思い出したように、アリア先生とマスターがそう言いました。

 

 

「ただ、もしも茶々丸さんに何かあった時は、『銀河爆砕(ギャラクシアン・エクスプロージョン)』叩き込むって超さんに言っておいてください」

「なんだその技名・・・だがそうだな、壊すなと伝えろ。あと何も無くとも殺すとな」

「2人とも、言ってることがメチャクチャです・・・ひあっ、ちょ、すーちゃん足突かないで・・・」

「ワガママナダケダロ・・・テカ、ナニヤッテンダオマエラ」

 

 

さよさんと姉さんが、それぞれの感想を述べます。

ただ、さよさんは痺れた足をスクナさんに突かれて、悶えていますが。

 

 

「・・・呪殺して良いかの、あの1人と1柱」

「構わんぞ晴明、やってしまえ」

「ダメですよエヴァさん、馬に蹴られて死んじゃいますよ?」

「私は不死だ、蹴られても死なん」

「ソウイウリクツカ・・・?」

 

 

コト・・・と、茶器を置いて、私は空を見上げます。

超とハカセは、私の生みの親です。マスターやアリア先生達に出会わせてくれたことを、感謝しています。

そして超は、自分の計画はアリア先生を救うことに繋がると、言いました。

 

 

私には、その真意を探ることができません。

ブラックボックスは、未だ開かず・・・。

 

 

「茶々丸さん?」

 

 

アリア先生の声に、私は。

ただ静かに、次のお茶を点て始めました。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

さぁ、どうしてやりましょうか。

実の所私は、「英雄の子供」を適当に丸め込んで仲間に引き入れよう・・・とか、それなりに悪いことを考えていたのですが。

 

 

幻とは言え、アリカ様に命じられた以上、私にはそれを守る義務があります。

そう言うわけで今、アリア様やその兄、ネギ君を中心とする情報を集めた書類を捌いているのですが。

 

 

「何と言うか、本国でデスクワークだけしていると、わからないこともある物ですね。本当」

 

 

麻帆良側にあてがわれた部屋の中で―――もちろん、盗聴、覗き見対策は万全―――部下が集めてきた大量の書類を前にしながら、そんなことを呟きます。

 

 

麻帆良から本国に上げられてきている報告では、アリア様は魔法の使えない役立たず。

兄のネギ君は、マギ・ステルマギを目指す将来有望な少年・・・とされていますが。

事実はどうも、違うようですね。

 

 

「まぁ、その事実に気付ける人間は少ないですが・・・」

 

 

どうも、ネギ君に関する報告は誇張して書かれている気がしますね。

正直、関西呪術協会へ親書を届けた以外の実績がありません。

大方「素直で純真」と言うネギ君を、自分達にとって都合の良い英雄に仕立て上げたかったのでしょう。

似たようなことを私も考えていたので、人のことは言えませんが。

 

 

しかも、関西呪術協会とメルディアナから融通してもらった「明石レポート」、そして一般教員から学園長に出されたと言う「新田メモ」によると・・・。

このネギ君、教員としても人間としても未熟と判断せざるを得ません。

特に旧世界での魔法使いの行動規則を、公然と無視する行動が目立ちます。

 

 

そして、何よりも。

 

 

「紅き翼と相性が良さそうですねぇ・・・」

 

 

いえ、別に他意はありませんよ。

ナギに憧れていたり、タカミチに庇われていたり、アルビレオ・イマに師事していたりすることなど、人物評価に欠片の影響も与えませんとも。

 

 

ええ、私は公明正大な男です。ただ好き嫌いが激しいだけで。

 

 

「それに対して・・・」

 

 

アリア様は、なかなか面白い経歴をお持ちなようだ。

メルディアナでの卒業成績は、一部を覗いて兄に及ばず。

しかしながら、その存在感は旧世界の各勢力を陰ながら動かせてしまう程。

特に、関西呪術協会との繋がりが深い。

 

 

関西の長の娘とその護衛の保護権の一部を任されていると言うその実績。

しかも、そこに至るまでのプロセス・・・。

関西の騒乱における行動。その後の麻帆良での悪魔侵入事件時の行動。

ならびに、麻帆良での教員としての活動。

 

 

私は、理解する。

 

 

「確かに、似ている・・・しかし、違う」

 

 

アリア様は、アリカ様では無い。

基本的で、そしてだからこそ理解することが難しいそれを、私は理解する。

アリア様は、アリカ様でも無ければ、アリカ様に「なれる」わけでも無いと。

 

 

王族として、「周囲の求める自分」を希求したアリカ様。

そのアリカ様とアリア様は・・・決定的なまでに、何かが違うのです。

 

 

「ここを間違えると、痛い目を見てしまいそうですからね」

 

 

何せ、あの<闇の福音>の庇護下にあるのだから。

虚弱体質の私など、目を付けられただけで消し飛ばされてしまいます。

 

 

まぁ、おかげで感動的なストーリーの噂を流すことができるのですし、良しとしますか。

アリカ様の娘が、<闇の福音>の凍てついた心を溶かすストーリー。

親を知らず、蔑まれて育った一人の少女のストーリー。

 

 

「・・・皆、好きでしょうからね。悲劇のヒロイン、と言う物が」

 

 

関西やメルディアナが密かに交渉していると言う、アリア様のアリアドネー行き。

これを利用しない手は無いでしょう。

ナギに息子と娘がいることは、すでに知れ渡っています。

オスティア難民の中には、アリカ様生存を信じている一派もいることですし・・・。

 

 

ワンクッション、入れておきたい所ですね。

しかる後、新オスティアにアリア様をお迎えし、ウェスペルタティア王国を再興する。

そして元老院を叩き潰し、返す刀で帝国をも打倒する。

さらに、「始まりの魔法使い」を盟主と仰ぐテロリスト共をも踏み潰し。

 

 

世界の全てをアリア様にお渡しする・・・いえ。

しかるべき者の手に、世界を返すのです。

 

 

「・・・まぁ、アリア様のお気持ち次第ですが」

 

 

私一人が先走っても仕方のないことですし。

今の所、私の妄想の域を出ない話です。

 

 

そこの所を含めて、もう一度お話したい所ですね。

ええ、ぜひともお会いしたいものです。

とりあえずは・・・。

 

 

「麻帆良を潰す所から、始めましょうか」

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「なんや、そんなとこにおったんか、楓ねーちゃん」

「おお、小太郎でござるか。怪我の具合は良いのでござるか?」

「別に、大した怪我や無い」

 

 

身体中包帯でグルグル巻きにされとるけど、ほとんど治っとる。

千草ねーちゃんや夏美ねーちゃんらが、大げさなだけや。

 

 

「よっと・・・」

 

 

市街地の高い塔の屋根の上に、楓ねーちゃんがおった。

試合の後、どこに行ったんかと思っとったんやけど。

マスコミの連中がうるさーて敵わん・・・。

 

 

「あー・・・終わってもたなー」

「なんでござるか、藪から棒に」

「いや、何と言うか・・・優勝できひんかったなって・・・」

 

 

夏美ねーちゃんは、気にしてへんって言ってたけど。

男としては、気にせーへんわけにもいかんやろ。

 

 

「結局、勝てへんかったし・・・俺、弱いんかなぁ・・・」

「ははは、拙者も負けた身なれば、その質問には答えにくいでござるなぁ」

「あー、そう言えばそうやったな・・・しかも一回戦負け。なんか、すまん」

「そこで慰める方向になると、拙者の立つ瀬が本気で無いでござるよ・・・」

 

 

その後は楓ねーちゃんと一緒に、麻帆良の街を見下ろした。

お祭りなだけあって、賑わっとる。

 

 

俺は、戦うしか能の無い、他には何の役にも立たん奴や。

京都ではネギにも負けたし、今日も負けたし・・・。

俺、弱なってしもて。

このままやったら、千草ねーちゃんらを守ってもやれへん。

 

 

「・・・楓ねーちゃんは、どこでそんな力を手に入れたんや?」

「ん? 拙者は山で育ったので・・・そこで修業していたでござるよ」

「山か・・・」

 

 

山でどないしたら、16人も分身できるようになるんや?

と言うか、山で修行するだけでそないに強くなるもんなんか?

 

 

山、かぁ・・・。

 

 

「小太郎はん」

 

 

しゅたっ・・・と、瞬動なのか何なのか、月詠のねーちゃんが現れた。

 

 

「皆、待っとりますよー?」

「せやかて、マスコミとかうるさいやん」

「千草はんが追い払いましたえ」

 

 

マジか。

千草のねーちゃんも最近、染まってきとるからなぁ。

そう思って、下の方を見てみると。

 

 

「小太郎――――――っ!」

 

 

千草ねーちゃんが、呼んどった。

横には、夏美ねーちゃんと千鶴ねーちゃんもおる。

夜の演劇部の出し物に行くことになっとるんやけど、それまではブラつこうて話や。

 

 

・・・俺はもっと、強くならなあかん。

もっと強なって、ねーちゃんらを守れるようになるんや。

 

 

「おねーさんも、一緒にどうですー?」

「良いのでござるか?」

「大丈夫やと思いますー・・・ふふ、おねーさんも、美味しそうですな~・・・」

「月詠のねーちゃん、自重してや」

 

 

そら確かに、楓ねーちゃんは強いけどな。

相変わらずやな、月詠のねーちゃん。

・・・俺が強なったら、月詠のねーちゃんが戦わんでもええようにできるかな・・・。

そしたら、月詠のねーちゃんも・・・。

 

 

「ほな、行こか!」

「ははは、小太郎は元気でござるな~」

「でも、斬りたいとは思わんのです~」

 

 

思われても困るわ!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

ちびせつなから、報告が上がって来ない。

何かあったのだろうか、それとも、何も無いのか?

まぁ、便りが無いのは元気な証拠とも言うし・・・。

 

 

「あ、ありがとうございました!」

「おねーちゃん、ありがとー」

「いえ、そんな・・・学園祭ではぐれると大変やから、気を付けてください」

 

 

このちゃんは今、迷子の男の子を母親に引き合わせている。

それにしても、迷子の子供をあやすこのちゃんは、その和み能力をいかんなく発揮していた。

私など泣き喚く子供を前にうろたえるばかりだったが、このちゃんが相手をするとピタリと泣き止んだ。

 

 

流石、このちゃんだ。

 

 

「よぉ、可愛いねぇお嬢さん」

「お茶でも飲まね?」

「ええよぉ♪」

「いやいやいやいや! このちゃん、こんなゴロツキ共と付き合ってはいけません!」

 

 

このちゃんに声をかけてきた見る目ある若・・・ゴロツキ共を追い払いつつ、このちゃんに注意した。

一年前は、このちゃんを怒鳴るなど考えたことも無かったが、今では普通になってしまった。

 

 

「えへへ、ごめんなぁ、つい」

「つい、じゃありません!」

 

 

このちゃんには悪気が無いと言うか、無邪気と言うか・・・。

何と言うか、このちゃんは自分がいかに男性の目を引くかと言うことを考えてほしい。

 

 

「た、たたたた大変だーっ、サーカスの動物達が逃げ出した―――っ!」

「なっ!?」

「ゾウさんやねぇ」

 

 

ゾウだけでなく、キリンやダチョウが群れを成してこちらへ・・・。

私は迷うことなく、このちゃんを両手で抱えあげると、瞬動で離れた。

街灯の上に降り立ち、そこからさらに空へと跳ぶ。

 

 

「せっちゃ・・・」

 

 

下を見ると、一般客が逃げ惑っていた。

当然だろう、動物の群れが迫っているのだ・・・逃げ出すに決まっている。

だが、私はこのちゃんを優先した。

正しい選択だとわかってはいても、胸が痛む。

 

 

「・・・すまない」

「いい・・・」

 

 

誰にともなく謝ると、驚いたことに答えが返ってきた。

抑揚の無い、それでいて良く通る声。

このちゃんでは無い、その声の主は・・・。

 

 

「・・・ザジさん?」

 

 

どこに繋がっているのかわからないが、空中ブランコに乗ったザジさんだった。

ザジさんはくるんっ、と回転すると、動物達の前に着地した。

そのまま、感情の色の見えない瞳で動物達を見ると。

 

 

「・・・だめ」

 

 

言葉が通じたのか、いやまさか。

だが、動物達はそれで止まった。

あれほど興奮していた動物達が、大人しくなり・・・ザジさんは、ゾウの背中に立つと。

「お騒がせしましたー!」と頭を下げ、被害に合った観客に対しチケットを配り始めた。

 

 

「ザジちゃんも、頑張っとるんやなぁ」

「そ、そうですね・・・?」

 

 

このちゃんは素直に関心しているが、私としては首を傾げざるを得ない。

クラスでも、あまり会話がある仲ではないが・・・。

 

 

改めて考えてみると、クラスの中でも異彩を放っている女生徒だ。

 

 

「せっちゃんせっちゃん、そろそろ降ろしてくれん? 皆に見られて、うち恥ずかしい・・・」

「え・・・あ! ひゃ・・・も、申し訳ありません!」

 

 

そう言えば、このちゃんを抱っこしたままだった!

私は慌てて、このちゃんをその場に降ろした・・・。

 

 

「も、申し訳ありません・・・」

「気にせんでええよ、嫌やったわけやないもん」

「た、たたた大変だ―――っ! 工学部のロボティラノが暴走したぞ――――っ!」

「そ、そそそ、それは、どういう意味で・・・」

「そのままの意味やよ?」

 

 

収納結界『月衣(カグヤ)』起動、『錬金鋼』を掌に出す。

掌サイズのこの鋼は、気を流すことで瞬時に記憶していた形に戻る。

私の場合、小太刀の形状に。

 

 

「危ない、ティラノが倒れるぞ――――っ!!」

「ほな、次行こ、せっちゃん」

「はい、このちゃん」

 

 

神鳴流―――斬岩剣・弐の太刀。

 

 

「せっちゃん、一緒にわたあめ食べへん?」

「あ、はい・・・お金は私が」

「ええよ~、うちが出すから」

「い、いえその・・・あわわわ」

 

 

このちゃんを含めた周囲の人間に危害を加えることなく、ロボティラノとやらを斬り伏せた。

首が落ち、胴体が沈黙する。

『錬金鋼』を『月衣(カグヤ)』の中に戻すと、このちゃんが両手にわたあめを持って、にっこりと微笑んでいた。

 

 

「ありがとうな、せっちゃん」

「な、何ですか、いきなり」

「うふふ~・・・な~んもあらへんよ♪」

 

 

このちゃんは、何やら機嫌が良さそうだ。

私は笑みを返すと、わたあめを受け取った。

このちゃんは、ずっと嬉しそうに笑っている。

 

 

変なこのちゃん。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

カモ君、どこ行ったんだろ。

武道会でアーニャと会った時から、いないんだけど・・・。

 

 

「ごめんねーネギ君、私とじゃつまんないでしょ?」

「そ、そんなことないです、楽しいですよ」

「そう?」

 

 

僕は今、図書館探検部の探検大会に来てる。

のどかさんにチケットを貰ったんだけど、のどかさんと夕映さんはいないらしい。

もしかして、まだ医務室にいるのかもしれない。

 

 

「いやー、それにしても凄かったね、ネギ君。高畑先生には負けちゃったけどさ」

「は、はい・・・」

 

 

ハルナさんの言葉に、僕は気分が重くなるのを感じた。

そうだ、僕、タカミチに負けたんだった・・・。

右手の親指に付けている、超さんから貰った指輪を、左手で撫でる。

ポケットの中には、カシオペアの感触がある。

 

 

これだけの力を貰っても、僕はタカミチに勝てなかった。

手も足も出なかった。毎日、マスターの所で修行してるのに。

 

 

あ・・・でも、マスターもアリアさんに負けてるんだった。

そのアリアさんも、エヴァンジェリンさんに負けた。

やっぱり、エヴァンジェリンさんに弟子入りした方が良かったのかな。

そうすれば、僕もきっと・・・。

 

 

きっと・・・何だろう?

 

 

「・・・よねー・・・って、ネギ君、聞いてる?」

「・・・・・・え、あ、はい!」

「はい、嘘! 聞いてなかったでしょー、もう」

「す、すみません・・・」

 

 

い、いけない、今はハルナさんの話を聞かないと。

えーと・・・。

 

 

「なんでしたっけ?」

「だからさ、負けちゃったけど、ネギ君もあの遠当てとか、気とかって言うの、使えるの?」

「え、ええ・・・まぁ・・・?」

「んー、そっかー、やっぱりか~・・・でもさ」

 

 

ハルナさんは、笑顔のまま、僕の方を見てきた。

・・・それは何と言うか、面白い物を見つけた、みたいな顔だった。

 

 

嫌な予感。

 

 

「さっきの大会・・・気って言うより、さ」

「は、はい」

「どっちかと言うとさー・・・」

 

 

ハルナさんは、ガシッ・・・と、僕の両肩を掴むと、言った。

 

 

「魔法って、感じだよね?」

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「むぅ、よもやそんな大それたことを企んでいようとは・・・」

 

 

タカミチ君から上がってきた報告に、わしは思わず唸った。

超鈴音が、全世界に魔法を公表しようとしている・・・にわかには、信じ難い話じゃ。

通常時であれば、気骨ある若者と言ったかもしれんが。

 

 

生憎と今は、通常時では無い。

関西呪術協会やメルディアナ、おまけに元老院の議員までおるのじゃ。

そんな時に、このようなことをされては・・・。

 

 

わし、オコジョ刑ではすまんかもしれん。

 

 

「しかも、ネギ君が一枚噛んでおるとは・・・」

「ええ・・・」

 

 

タカミチ君の表情が、沈痛な色を浮かべる。

わしとて、同じような気持ちじゃ。

これからのことを思うと・・・。

 

 

ネギ君もネギ君じゃ、なぜこのような計画に加担しておるのか。

魔法使いとして、魔法を秘匿するという文言だけは、知っておるだろうに。

 

 

「・・・とにかく、対策を」

「そうじゃな・・・ネギ君については、臨時出張とでも言って、麻帆良の外に出そう」

「それが、良いでしょうね。彼をこの件の当事者から外すべきです」

「うむ・・・」

 

 

麻帆良から離れておれば、最悪の事態は防げるはずじゃ。

最低、彼の将来を守ることもできよう。

 

 

タカミチ君の話によれば、ネギ君は今、医務室で気を失っているとのことじゃし・・・。

 

 

「超鈴音を、拘束せねばなるまい」

「しかし、それは・・・」

「大丈夫じゃ、すでに神多羅木君達を向かわせておる」

 

 

魔法先生を数人送り込んでおる、タカミチ君程では無いかもしれんが、拘束ぐらいは・・・。

 

 

「な・・・なんてことを!」

 

 

ところが、タカミチ君は、顔色を変えて机を叩いた。

な、なんじゃ?

 

 

「呼び戻してください、今すぐに!」

「ふ、ふぉ・・・?」

「彼女は普通じゃない・・・数人程度の戦力では、無理です!」

 

 

し、しかし彼らはすでに・・・。

 

 

「我々が全員でかからねば・・・超鈴音には、勝てません! 勝てない理由があるんです・・・!」

 

 

な、なんじゃと・・・!

 

 

 

 

 

Side 超

 

ふふふ、武道会はアリア先生に一定程度の影響を与えたようネ。

重畳、重畳・・・それは良かった。

これで少しは、学んでくれると良いのだがネ。

 

 

「人一人にできることなど、タカが知れているヨ・・・」

 

 

ただ、まぁ、それは私も同じかもしれないガ。

いずれにせよ、今夜にでも会いに行くカ・・・。

などということを考えながら、龍宮神社の廊下を歩いている。

 

 

エヴァンジェリンから逃げた後、しばらくはここに隠れていた。

灯台下暗し・・・よもや、放棄した拠点に留まっているなどと、思いもしないだろうネ。

古典的な手だガ・・・効果があるからこそ、現在でも使われる戦法ヨ。

 

 

「ネギ坊主は、しばらくは使えないだろうし・・・頼りはハカセと龍宮サンかナ」

 

 

どちらも、私の志に共感して、協力してくれている。

五月は、志以外の理由で私を手伝ってくれているからネ。

だから、五月は特別枠ネ。

 

 

・・・とにかく、何かの形で、報いてやりたいと思う。

そしてそれは、計画の成功以外に有り得ない・・・。

 

 

「超鈴音」

 

 

不意に名前を呼ばれて、私は立ち止まった。

すると、私を取り囲むように、神多羅木先生、明石教授、瀬流彦先生の3人が姿を現した。

3人か・・・予想よりも少ないネ。

高畑先生は、来るかと思っていたガ。

 

 

「一緒に、来てもらおう」

「・・・どう言う理由で?」

「いやね、ちょっと話を聞きたいな~なんて、思ったり思わなかったり」

「瀬流彦先生?」

「あ、すみません・・・」

 

 

瀬流彦先生は、随分と腰が低いネ。

明石教授も、苦笑しているヨ。

まぁ、この2人は比較的、穏やかな性格をしているからネ。

この中で注意すべきなのは・・・神多羅木先生カ。

 

 

まぁ、そうは言っても脅威では無い。

ただ、時期が悪いネ・・・

 

 

「話、ネ・・・どんな話カナ?」

 

 

かちゃ・・・と、懐のカシオペアに触れながら。

私は、にっこりと微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「・・・どんな話カナ?」

 

 

神多羅木先生や明石教授と一緒に、超君に接触した。

正直、何をしてくるかわからないから、油断はできない。

まぁ、油断してなくても、対応できないことはあるんだけどさ。

 

 

「・・・キミがやろうとしている、計画のことだ」

「計画・・・ああ、アレの話カ」

 

 

と言うか、悪魔襲撃の時と言い、もしかして僕、戦闘要員の方に数えられちゃってる?

じゃないと、こんな大事な場面に呼ばれるわけないよね?

地味に僕、重要人物になりつつあるのかもしれない。

 

 

・・・勘弁してほしかった。

 

 

「なぜ、魔法を公表しようなどと?」

「・・・古今東西、魔法使いはその存在をやたらに隠したがる話が多いガ・・・何故カナ?」

「どういう意味かね?」

「何、簡単な質問ネ」

 

 

ばさっ・・・と、服の裾を翻しながら、超君は言った。

 

 

「なぜキミ達はその存在を世界に対し隠しているのカナ? 強大な力を個人が所有することを秘密にしている方が、世界に対して危険では無いカ?」

「そ・・・それは違う! 強大な力を持つ魔法使いなどごくわずか! むしろ無用の誤解や混乱などを起こさないためにも、僕達は秘密を守って・・・」

「そのせいで、救える命を救えなくとも・・・奪わなくて良い命を奪ったとしても?」

 

 

明石教授の言葉に、超君は冷静に答えた。

まぁ・・・確かに、そういう面もあるのかもしれないけど。

 

 

「私は、この力を世界に公表する。私のやり方こそが、弱き者・・・神に祝福されぬ者達を救う。疑いは無いネ。魔法の力を皆が知れば、世の何割かの人間を救うことができると・・・」

「・・・それは、違うんじゃないかなぁ・・・?」

「・・・どうしてカナ、瀬流彦先生?」

 

 

超君の言葉に首を傾げていると、興味を持たれたのか、声をかけられた。

ちょっと意外、彼女のように信念を持って何かをしている人間は、話を聞いてくれないのかと思ってた。

と言うか、無視してくれて良かったんだけど。

 

 

「いや・・・普通に考えてさ、世界中の人が魔法を知ったら知ったで、不幸になる人もいると思うんだよね」

「ほう、その心は?」

「魔法が、たくさんある技術の一つに過ぎないと考えるから」

「ふん?」

 

 

これはあくまでも、個人的な意見だけど・・・。

もし僕ら魔法使いの使命が、額面通りの「世のため人のため」であるのなら、治癒魔法でも学んで紛争地帯に行けば良い。平和な学校で警備員なんてやってないでね。

僕らだってバカじゃないんだ。それくらいは思いつく。

 

 

じゃあ、どうしてそれをしないのか?

答えは単純、僕らが助けすぎるとかえって困る人達がいるから。

 

 

「例えば、治癒魔法を世界中の人に教えたとする。すると、たぶん保健衛生面で人々の生活は向上するかもしれない。医療では治せない大怪我や難病を、皆が治せるようになるかもしれない」

「その通りだナ」

「でも一方で、病院や医薬品関係で働いている人達は、どうなると思う? 彼らの存在意義は、著しく低下するだろう・・・悪くすれば、廃業せざるを得ない。それに関連する企業の人達も困ったことになる」

「・・・変化に対応して、発展するかもしれナイ」

「そうだね、でもしないかもしれない」

 

 

先進国の人達は、対応できるかもしれない。

でも、途上国の人達は? 対応できるだけの体力を持たない企業や病院だってあるんだ。

先進国の病院や企業からの援助で生きている人達には、医薬品や医者の治療が行き渡らなくなるかもしれない。

魔法の治療と言っても、宗教とかの関係で受け入れられない人も、いるかもしれない。

 

 

そう言う人達は、どうすれば良い?

魔法を無差別に広めれば、確かに何割かの人間は救えるのかもしれない。

 

 

「でも、それで新しく救われない人達を作りだしてしまえば、意味が無いじゃないか」

 

 

だから僕達魔法使いは、バランスを取るために日々努力している。

制限が多い中でも、できるだけのことをしようとしているんだ。

たとえそれが、超君の計画で救われるかもしれない人々にとって、偽善でしか無いのだとしても。

 

 

「ふむ・・・」

 

 

超君は、片手を口元に当てると、少し考えて・・・僕を見た。

 

 

「確かに、そう言う意見もあるネ。瀬流彦先生は、意外と柔軟な思考ができるのだナ」

「あ、そう? じゃあ僕達と一緒に来てくれたりとか・・・」

「しないネ」

「だよねー・・・」

 

 

期待はしてなかったけどさ・・・。

超君は僕を見て笑いながら、ちゃら・・・と、懐中時計を取り出した。

 

 

「では・・・」

「いかん、押さえろ!」

「3日目にまた会おう、魔法使いの諸君♡」

 

 

次の瞬間、超君の姿が消えた。

転移の反応も無いし、本当に消えてしまったみたいだ。

 

 

「むぅ・・・トレースできん」

「どうやったんだ? 凄いなあの子・・・」

「いやぁ、僕にもさっぱり・・・」

 

 

2人にそう答えながら、たぶん、あの懐中時計の効果か何かなんだろうなぁ、と考えていた。

そして、ああ言うマジックアイテムに詳しそうな子を、僕は知ってる。

 

 

アリア君だ。

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

「苺のミルフィーユ3つ――っ!」

「注文良いかな――?」

「はい・・・はいっ!」

 

 

ひええ~、目の回る忙しさや。

保健委員よりも、サッカー部のマネージャーの仕事よりも大変て、どう言うことなん?

どうも、誰かが口コミでここの情報広めてるらしいんやけど。

 

 

「イケるっ、この調子で行けば催し物順位ランクイン行けるよーっ!」

「ああ、ネギ先生っ・・・!」

「もうっ、いい加減テンション上げなよ、いいんちょ!」

 

 

ゆーな達が何か騒いでるけど、いいんちょが浮上してこーへん。

まき絵も、ちょっと気にしてるみたいやし・・・。

 

 

ネギ君に、アリア先生。

お父さんもお母さんもおらんで、10歳やのに頑張って。

まるで・・・。

 

 

「亜子! そろそろライブのリハーサルの時間なんじゃない?」

「あ・・・そうやった!」

「ここは良いから、行ってきな! 釘宮達、先に行ってるよ」

「頑張って、亜子!」

「応援してる・・・」

 

 

ゆーな、まき絵、アキラが、そう言うてくれる。

そろそろ、交代の子も来るから、ちょうどええかな。

 

 

うちは今夜、柿崎達に混ざって、ライブ(ベース担当)をやることになってるんやけど・・・。

あ、何か、ちょっと後悔・・・もとい、緊張してきた。

 

 

今からでも、やめられへんかな。

うん、わかってた、無理やて。

 

 

「行ってきます・・・」

「あれ!? ライブなのにテンション低くない!?」

 

 

そんな、うちみたいな脇役に何を求めてんのっ・・・!

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

「おや・・・」

「これは・・・関西の」

 

 

クルト議員に指定された時間に議場に行くと、そこには関西の長、詠春殿がいた。

傍らには、この度麻帆良に常駐する大使、西条殿もいる。無口な方だ。

合わせて、2人。これもクルト殿が指定した人数だ。

 

 

私も、アーニャだけを連れている。

もっとも・・・アーニャの懐には、使い魔のオコジョがいるけれど。

でも、関西側も同じようなことはしているでしょう。

 

 

「そちらも、議員に呼び出されたのですか?」

「ええ、どうも内密に話があるとか・・・」

 

 

詠春殿は、私の耳元に口を寄せると。

 

 

「・・・どうも、我々の動きがバレたようですね」

 

 

その言葉に、私は気が遠くなった。

呼び出された時点で、もしやとは思ったのだけれど・・・。

元老院に、アリアのアリアドネー行きや、ネギ君のメルディアナ召喚が漏れたとなると。

 

 

これは、計画を変更する必要が。

・・・でも、ならば何故、関西側も同席させるの?

必要性が、無い。

いえ、まさか関西側を抱き込むつもり・・・?

 

 

「ドネットさん・・・」

「・・・大丈夫、大丈夫よ・・・」

 

 

不安そうなアーニャに、笑みを浮かべて見せる。

そう、まだ大丈夫なはず。

まだ、こちらの動きの全てが掴まれたわけでは無い。

 

 

校長のアリアドネーへの働き掛け次第では、私がここでクルト議員の目を引き付けておく意味も・・・。

 

 

「無いと思いますがねぇ」

「・・・!」

 

 

声に反応して振り向いてみれば、そこには、今まさに私が思い描いていた人物。

クルト・ゲーデル元老院議員。

 

 

綺麗に撫でつけられた髪に、線の細い長身。

顔の造り自体は整っているのだけど、その瞳は、まるで全てを見下しているかのような印象を相手に与える。

 

 

「まぁ、何と言うか・・・頭が良く無いのに勝手に動かれると、困るのですよねぇ」

「な・・・」

「・・・それは、どう言う意味ですか、クルト議員?」

「いえいえ・・・部下がヘマをやらかしましてね、愚痴が聞こえたのなら謝ります」

 

 

詠春殿の言葉に、にこやかな笑顔を浮かべて、クルト議員は言った。

ただし、にこやか過ぎてかえって胡散臭く見えると言う、器用なことをしている。

 

 

「さて・・・時間通りですね。一応、麻帆良側にも声をかけたのですが、何か緊急の事態が起こったようですね」

「緊急の事態?」

「私達は、そんな連絡は受けていませんが・・・」

「ふむ・・・そうですか、情報網の違いですかね」

 

 

眼鏡を押し上げながら、クルト議員は私と詠春殿を見た。

レンズの向こうの瞳が、細められた所で・・・。

 

 

「まぁ、良いでしょう。麻帆良の人間がいない方がはかどる話もあるでしょうし」

「・・・と、言うと?」

「いえ、大したことではありません」

 

 

クルト議員は、私や詠春殿を追い抜き、議場の扉を勢いよく開くと。

 

 

「さぁ、この茶番にケリを付けてさしあげましょう!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

休息は取った。

あとはまた、頑張るだけ。

 

 

「・・・とはいえ、最近いろいろな方が私の負担を減らそうとしてくださいますが」

 

 

おかげで、私がやるべきことが無くなるのではないかと思ってしまうくらいです。

どうも最近、自分が腑抜けているのではないかと思ってしまう時があります。

でも、嫌ではありません。

良い意味で、余裕ができたと考えるべきなのでしょうか。

 

 

「そこの所どう思います、晴明さん?」

「さぁな、我に聞かれてもの」

 

 

私の腕の中で、晴明さんが興味無さそうに答えました。

茶道部での野点の後、私はライブ会場の舞台運営に加わることになっていましたので、エヴァさん達とは別行動に。

超さんのことも、なるべく探すようにと言われました。

一人で行こうかと思ったのですが、超さんの動きも読めないのに一人はダメと、強硬に主張されまして。

 

 

あらゆる意味で万能そうな晴明さんが、私と一緒に来ることになりました。

さらに言えば、西洋人形「真紅」の姿である晴明さんを持つに相応しい格好をしろと言われ・・・。

仕事に行こうかと言うのに、黒のゴスロリ服を着せられています。

 

 

「まぁ、仮装と言うことで誤魔化せますかね」

「先ほどから独り言が多いようじゃが、それはもしや我に話しかけておるのか? 我は答えた方が良いのか?」

「自分との対話と言う奴ですよ」

「そうかの、まぁ、我の時代にもいたがの・・・」

 

 

そっけない晴明さん。

でも、私がマスコミや群衆に囲まれずに済んでいるのは、晴明さんのおかげです。

晴明さんが、周囲の人間の目を騙す術をかけているために、私はスイスイと人混みを抜けることができています。

 

 

そう言う意味でも、エヴァさんが晴明さんを押しつけて来た理由がわかります。

 

 

エヴァさん・・・。

ふと立ち止まって、後ろの空を見上げます。

 

 

「どうした?」

「いえ・・・別に何も」

 

 

頑張れ、私。

 

 

「・・・はい、頑張ります!」

「そう・・・応援してる」

 

 

・・・ん?

 

 

「晴明さん、今何か言いましたか?」

「何も言わんよ」

 

 

ですよね・・・。

でも、今どこからか、聞きなれた声が聞こえたのですけれど。

感情の起伏の少ない、平淡な声だったのですが・・・。

 

 

どこか、惹かれて止まない声音。

 

 

キョロ・・・と、辺りを見渡して、声の主を探す。

すると、「彼」はすぐに見つかりました。

 

 

麻帆良にはスターブックスカフェと言う、ス○バに良く似たカフェがあるのですが。

私はちょうど、そこを通りがかったようで・・・。

 

 

「・・・何をやっているんですか?」

「コーヒーを飲んでいるんだけど?」

 

 

麻帆良と言う敵地の真ん中で、堂々とコーヒーブレイクをかましている姿は、ある意味あっぱれと言わざるを得ませんね。

彼・・・フェイトさんは、静かにカップを傾けて、コーヒーを味わっていました。

うん・・・何やってるんでしょう。

 

 

「僕は一日にコーヒーを七度飲む、言って無かったかな?」

「ああ、コーヒー好きなんでしたっけ・・・」

「なんじゃ、知り合いか」

「まぁ、知り合いと言うか・・・なんと言えば良いのか」

 

 

そう言えば、晴明さんはフェイトさんを知りませんね。

第一印象で全てが決まりますね・・・いや、何を言っているのでしょうか私。

 

 

私がどうした物かと思案していると、フェイトさんは私を見て、次いで晴明さんを見て、そしてまた私を見ました。

無機質な、綺麗な瞳が、私を真っ直ぐに見つめていました。

・・・まさか、晴明さんに自分を何と紹介するのか、探っているのでしょうか。

まさかぁ・・・。

 

 

と、思いつつも、ごくり・・・と、唾を飲み込んでみます。

 

 

「ええと・・・」

 

 

この人は、私の何だろう?

そんな、今さらなことを考えてみたりしますが・・・。

しかし、適当な単語が見つからないことも事実。

と、なると・・・?

 

 

「この人は・・・」

 

 

その時。

 

 

「ねぇねぇキミ達」

「こんなイベントに、興味は無いかね」

 

 

シンシア姉様、筋肉ムキムキな男性二人に声をかけられました。

 

 

 

アリアは、嫌な予感しかしません。

 

 

 

 

 

 

<おまけ―――ちび達の冒険①・哲学研>

 

ちびアリアとちびせつなは、とりあえず一緒に行動することにした。

主人は違えど、目的は同じ。

一人では遠い道のりも、二人で進めば二分の一になるはずと言う謎理論によって、彼女達は結ばれたのである。

ただ・・・。

 

 

『ハイデガーによれば、存在は存在者ではありません。つまり存在は存在しないと言うのです、しかし・・・』

「む、難しいですー・・・」

「お、おおぅ、わ、私はわかりますですぅ・・・よ?」

 

 

絶賛、道に迷っていた。

しかもなぜか、「哲学研勉強会」なる物に参加している。

彼女達の姿は、他の人間には見えないものの・・・。

 

 

「じゃあ、はいでがーって何ですかー?」

「むむむ、良い質問ですぅ、それがわかれば話の9割は理解したことになるですぅ」

「つまり、どう言う意味ですー?」

「・・・・・・え、偉い人・・・ですぅ」

 

 

ちびせつなの質問に、ちびアリアは苦しんでいる。

スタンドアローンであるが故に、本体に聞くことができないのだ。

と言うか、見栄を張らずにわからないと言えば、それで済む問題である。

 

 

ちびアリアにも、それはわかっている。

わかっているが・・・。

 

 

(き、キャラ間の差別化を図らねば、潰されてしまうですぅ・・・)

 

 

と言う、彼女なりの危機感が、ちびアリアを追い詰めていた。

 

 

「偉い人ですか! ちびアリアさんは物知りですー」

「ち、ち、ち、私は物知りでは無く、博識なのですぅ」

「おお~」

 

 

ちびせつなの視線の中に、尊敬の念が混ざる。

それを心地良さげに受け止めながら、ちびアリアは何度も頷いて見せた。

その頬が、嬉しそうに緩んでいる。

 

 

そんなちびアリアに、ちびせつなが邪気の無い一言を浴びせた。

 

 

「それで、博識ってどういう意味ですか?」

「・・・・・・や、やるじゃな~い?」

 

 

ちびアリアは、その後も順調に泥沼に嵌って行った。

 




茶々丸:
茶々丸です。ようこそいらっしゃいました(ぺこり)。
今回は、激しく視点が動くお話でした。
アリア先生を巡る動きは、日々激しくなっております。
ネギ先生に対する行動も、キナ臭さを増していくと思われます。


今回新規で使用された投稿アイテムは、以下の通りです。
G・T・N(グレート・ティーチャー・新田):霊華@アカガミ様。
錬金鋼:水色様提供、元ネタは「鋼殻のレギオス」です。
ありがとうございました(ぺこり)。


茶々丸:
次回は、学園祭を進行させつつ、今回同様様々な動きがあります。
アリア先生は、ある意味大変な事態になります。
私も、大忙しです。
では、またお会いすることを楽しみに。
失礼いたします(ぺこり)。



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第66話「麻帆良祭二日目・嫉妬」

Side アリア

 

ベストカップルコンテスト。

古いテレビ番組みたいな名称ですが、麻帆良祭の見所イベントとして知られています。

参加者の大半は、ボディビル研によって拉致されてきた二人組の男女です。

カップルでもアベックでも無い方もいますが、険悪な雰囲気な方はいません。

 

 

まぁ、そこはきちんと見て判断しているのでしょう。

と言うことは、私とフェイトさんも「それなり」に見えていたと言うことでしょうか。

・・・などと、思い上がっていた頃が懐かしいですね。

 

 

『では、次のカップルは~・・・あら、彼氏の方は外国人の方でしょうか? フェイト・・・』

 

 

今の私は、そんな浮ついた気分では無いのです。

どうしてって?

うふふふ・・・。

 

 

『フェイト&夏美ペアでーすっ!』

 

 

「「なんで(村上さん)(夏美ねーちゃん)なん(ですか)(や)!?」」

 

 

私と声をハモらせて叫んだのは、言わずと知れた小太郎さんです。

千草さん達とお祭りを回っていた所、一瞬だけ村上さんと2人きりになり・・・拉致されたとか。

千草さんや月詠さんは、観客席にいるそうです。

 

 

それは良いのですが、登録の係の方が、どうも勘違いしたらしく。

まぁ、見た目年齢的にそうなりますよね。理解はできます。

でも納得はできません。

これは、私だけでなく小太郎さんも一緒なはずです。

 

 

『これはクオリティの高い美形の登場だ――っ、タキシードが映えます!』

 

 

それは映えるでしょうよ、私が選んだんですよ。

その白のタキシード。

もう、何にもわかってない顔で「どれにする?」とか聞いてきやがるのですから。

ちなみに、村上さんは白のドレス。

 

 

ただし、ウエディングドレスではありません。

そこは私と小太郎さんで阻止しました。

小太郎さんが阻止に動いたのは非常に意外でしたが、村上さんの婚期を遅らせるわけにはいかないと主張し、結果押し通しました。

 

 

『おおっと、イケメン彼氏に対して、彼女は俯きがちだが大丈夫かー?』

 

 

「そもそも、貴方がきちんと村上さんを捕まえておかないから!」

「何やと!? なんで俺が・・・ってーか、何やねあの兄ちゃん、京都で見かけた時よりでかなってないか!?」

「そう見えるだけです! 本来なら私と同じ背丈だったはずなんですよ!」

 

 

ちなみに、小太郎さんはフェイトさんを知っています。

と言っても、京都でも特に会話は無かったそうですが。

 

 

と言うか、やはり出口のムキムキを蹴り倒してでも逃げるべきでしたでしょうか。

それとも、私も年齢詐称薬を服用すべきで・・・。

 

 

『おお―――っと!』

 

 

その時、舞台の方から歓声が上がりました。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「えっは、げっほ、えほっ・・・!」

「あら、大丈夫ですか?」

「コップを預かるでござるよ」

「お、おおきに」

 

 

お、思わずむせてしもた。

飲み物の入った紙コップを、楓はんて言う、忍者の子に渡す。

心配そうにしとる千鶴はんに手を振りながらお礼を言って、呼吸を整える。

 

 

い、いやそれより、なんでこんな所にフェイトはんがおるんや!?

しかも普通に本名で登録しとるし!

京都で別れて以来、何をしとるんかなて、思っとったけど・・・。

 

 

「大丈夫どすか~?」

 

 

月詠はんは、何も気にした風も無く、うちの背中をさすってくれとる。

有り難いんやけど、もう少しこう、言うことあるやろ?

 

 

興味の無い人間のことは、覚えとらんだけなのかもしれんけど。

 

 

『おお――――っと!』

 

 

その時、舞台の上で恥ずかしそうに俯いとった夏美はんに、隣のフェイトはんが手を伸ばした。

何をするんかと思って見とったら、軽く手を取って、何かを囁いた。

夏美はんも驚いとる、何や・・・?

フェイトはんは、夏美はんが軽く頷いたのを確認すると、そのまま・・・。

 

 

踊り始めおった。

 

 

『だ、ダンスだ――! 彼氏が優しく彼女をリ―――ドッ!』

「ほぉ、西方の踊りでござるか」

「あらあら・・・夏美ちゃん、ダンスなんてできたのねぇ」

 

 

千鶴はんは感心しとるみたいやけど、そもそも小太郎と夏美はんを二人きりにしようて画策したんは、千鶴はんやで?

うちは反対したんやけど・・・月詠はんに引き摺って行かれてしもた。

 

 

まぁ、何にせよ、夏美はんがダンス・・・。

いや、あれは・・・フェイトはんのリードが上手いんやろうな。多分。

うちも、西洋のダンスは詳しくないけど・・・夏美はんが動かんでもええよう、きちんとステップを踏んどるんやろ。

 

 

フェイトはん、ダンスなんてできたんやな。

意外と言うか・・・京都で見たフェイトはんは、もう少しこう、大人しい言うか・・・。

人形みたいな子やったと、思うんやけど。

 

 

今は見た目、夏美はんと同じくらいやけどな。

・・・と言うか、小太郎はどこや?

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

わ、わ・・・私、ダンスなんてできたっけ?

相手の男の人に合わせて、足を動かす。

まるで、自分の身体じゃ無いみたい。

 

 

「あ、あの・・・」

「・・・何?」

 

 

アリア先生の知り合いの人なんだろう、白い髪の男の人。

フェイトさんって言うらしいんだけど。

なんだか、あんまり表情が動かなくて、ちょっと怖いかも。

 

 

「なんで、ダンス?」

「・・・覚えたてでね」

「お、覚えたてって・・・」

 

 

私なんて、やったことも無いんだけど、踊れてる。

音楽も無いのに・・・。

これって多分、フェイトさんのおかげだよね?

 

 

何のために、ダンスなんて覚えたんだろ?

 

 

「で、でも私なんてほら、可愛くないですし、ほとんど偶然組まされたような物ですし・・・」

「だから?」

「え、えーと、何と言うか・・・ほどほどで、良いんじゃないですか?」

 

 

この人みたいに綺麗な人だったり、アリア先生みたいに可愛い人なら、わかるけど。

私みたいな、人生脇役な人がいても・・・ね?

フェイトさんにも、迷惑だと思うし。

 

 

「・・・聞いた話だけど」

「はい?」

「お揃い・・・と言うのは、良いらしい」

「はぁ・・・」

 

 

ふと、フェイトさんの視線を追いかけると・・・。

・・・ああ。

 

 

なんだ、そう言うことか。

意外と、ロマンチックな人なのかも?

 

 

「・・・それと」

「あ、はい」

 

 

ぴたり・・・と、ダンスが止まって、会場のお客様に頭を下げた後。

舞台袖に引っ込む時に、ぽつりと。

 

 

「・・・そのドレス、キミに合ってると思うよ」

 

 

なんて、言われた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ビキィッ!

バキンッ・・・!

 

 

ちなみに、前の音は私が柱にヒビを入れた音。

後の音は、小太郎さんが壁に拳をめり込ませた音です。

周囲の人間がかなり怯えたような表情を浮かべていますが、気にしている余裕はありません。

 

 

「・・・(まぁ、いいがの)」

 

 

壁にもたれさせている晴明さんが、何か言いたげな目をしているような気がしますが、それも無視です。

フェイトさんと村上さんは、私達がいる方とは反対側の舞台袖に行きました。

先ほどに比べて、村上さんの表情が柔らかい気がします。

 

 

「「あの野郎・・・」」

 

 

再びハモる、私と小太郎さんの声。

 

 

「小太郎さん、なんだか私、かつて無い程貴方とシンクロできている気がするんです」

「奇遇やなアリアのねーちゃん、俺もや」

「気が合いますね」

「せやな」

 

 

がすっ・・・と、拳を合わせました。

私と小太郎さんの友情度が、400上がりました。

クラス「親友」にランクアップしました。

 

 

「・・・いえ、別にね、良いんですよ? フェイトさんが誰と組もうと」

「俺も別に、夏美ねーちゃんが誰とおろうと、知らんし?」

「そりゃあ、村上さんは可愛らしい方ですし?」

「フェイトの兄ちゃんは、イケメンらしいしのぉ」

 

 

『次、11番のカップルは・・・』

 

 

私達の番のようです。

あと、断言しておきますが私と小太郎さんの間に恋愛感情はゼロです。

 

 

「行きますよ、狼さん」

「おうよ、赤ずきん・・・念のため言うとくけど、俺は犬やで」

 

 

どうでも良いような、それでいて重要そうな小太郎さんの発言を聞き流しつつ、舞台へ上がります。

衣装は、私が赤ずきん。小太郎さんが狼の着ぐるみです。

・・・この役、私がやって良かったんですかね。

 

 

『アリア&小太郎ペア、これは可愛らしい、赤ずきん&狼コスプレ♡』

 

 

会場の皆さんも、私達の姿を見て「可愛いー!」と言ってくださります。

・・・遠目に、千草さんや千鶴さん達を見つけました。

千草さんが、何かむせているようですが、そこはまぁ、比較的どうでも良いです。

 

 

それはそれとして、やはりインパクトの面でフェイトさん組に負けますね。

ここはやはり、赤ずきんと言う役所を生かして・・・。

 

 

「小太郎さん、私を抱き抱えてください」

「何や、急に」

「良いから早く。貴方、狼でしょう? 赤ずきんを攫いなさいな」

「よーわからんけど、こうか?」

 

 

小太郎さんは、私の肩と膝の下に手を入れ、抱き上げました。

いわゆる、お姫様抱っこと言う奴です。ちょ・・・!

 

 

歓声が上がる中・・・私は、小太郎さんの顎にショートアッパーを叩き込みました。

「がふっ!?」とか言いつつ倒れる小太郎さん。

私はと言うと、ヒラリと床に降り立ち、熱を持った頬を両手で押さえながら・・・。

 

 

「い、いきなり何をするんですか・・・!」

「あんたが抱け言うたんやないか!?」

「だ、誰が抱き上げろと言いましたか、小脇に抱き抱えろと言ったんです!」

「そんなん、わかるかぁ!」

 

 

日本語って難しい!

あ・・・し、しまった、こんな調子では点数が・・・。

 

 

そう思い、観客の方を見ると・・・「カワイー♡」・・・は?

次の瞬間、わぁ・・・と、歓声が上がりました。

 

 

『素晴らしいです11番ペア、積極的になろうとする彼氏と、真っ赤になって牽制する彼女・・・いや、狼にお預けする赤ずきんか―――っ!?』

「・・・何や、それ」

「私も、さっぱりですが・・・」

 

 

ぐっ、と拳を握り。

 

 

「結果オーライ。流石は私です」

「俺、殴られたんやけど・・・」

「ごめんなさい。でもナイス演出です、小太郎さん。かろうじて親友クラスからの降格を免れましたね」

「・・・・・・いや、ええけど」

 

 

などと会話しつつ、舞台袖へ。

その途上、フェイトさんと目が・・・。

 

 

「どないかしたんか、立ち止まって?」

「・・・別に、何もありません!」

「お、おぅ・・・?」

 

 

・・・ふんだ。

そんな怖い目で私を見たって、やめてあげません。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

のどかが、目を覚ましたです。

嬉しい半面、もう少し寝ていてくれればと思う私は、何て嫌な人間なのでしょう。

 

 

「ごめんね、ゆえ。迷惑かけて・・・」

「い、いえ、こんなの迷惑でも何でもないです。本当に・・・」

「ゆえは、いつも優しいね」

 

 

ベッドの上で上半身を起こしたのどかは、そう言って微笑んだです。

いつもと同じ、控えめで優しい、そんな笑顔。

私が、守りたいと願う物。優先すべき宝物。

 

 

たとえ、それが・・・。

 

 

「・・・ネギ先生は、先に起きて先生の仕事に行かれたです」

「そっかー・・・図書館探検部は?」

「先輩方が代わってくださるそうで・・・」

 

 

嘘は吐いていないです。

でも、嘘を吐いている感覚が、どうしても離れない。

 

 

のどかは、私の親友です。できれば、嘘を吐きたく無いです。

でも、傷つけたくも無いです。

あれ程・・・。

 

 

あれ程、貴方の幸せを祈っていたはずなのに、私は。

私は、貴方を守りたい。

どうすれば、のどかを守れるのでしょうか。

 

 

「ゆえー・・・?」

「なんでしょう、のどか?」

「・・・大丈夫?」

「・・・何がですか?」

 

 

いけない、のどかに悟られないようにしなくては。

私が、のどかをネギ先生から引き離そうとしていることだけは。

 

 

それだけは、知られるわけにはいかないです。

 

 

「ゆ・・・」

 

 

のどかが、何かを言おうとしたその時。

ドドドドド・・・と、医務室の扉の向こう側が騒がしくなったです。

・・・なんです?

 

 

「な、なんだろー・・・?」

「さぁ・・・?」

 

 

のどかと二人、首を傾げている間に、その音はドンドン大きくなって・・・。

部屋の前で止まったかと、思ったら。

 

 

「魔法のアイテムは、ここかぁ――――っ!!」

「あ、あうぅ~!?」

「ハルナ!?」

「ネギせんせー!?」

 

 

ハルナが、ネギ先生を引き摺りながら、部屋に飛び込んできたです。

ま、魔法のアイテム?

 

 

「やっほ、お二人さん! 元気してる?」

「え、え・・・う、うんー・・・?」

「ハルナ・・・図書館探検部の方に行っていたのでは」

「自分の分担は終わらせてきたよ!」

 

 

ぐっ・・・と親指を立てるハルナ。

一方でネギ先生は、目を回しながら。

 

 

「ゆ、夕映さん、カモ君知りませんか~?」

「カモさんですか、さぁ・・・?」

 

 

そう言えば、ここの所見ていませんです。

 

 

「カモさんが、何か?」

「そ、それが・・・」

「えーと、のどか! あんたアレしてるんでしょ、あの、えー・・・」

 

 

その後、ハルナが思い出すように言った言葉。

それを聞いて、私はゾッとしたです。

 

 

「パクティオー・・・仮契約とか言うの!」

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

瀬流彦君から連絡を受けたのは、タカミチ君との話の、直後と言っても良かった。

タカミチ君からもたらされた情報に、不安が掻き立てられたが・・・。

 

 

「・・・そうかの、3人とも無事か・・・」

『はい、でも超鈴音には、逃げられてしまいました。すみません』

「それは仕方が無いの・・・引き続き、調査に当たってほしい」

『了解です』

 

 

がちゃ、と緊急連絡用の電話を切り、息を吐いた。

顔を上げると、タカミチ君も安堵したような表情を浮かべておった。

 

 

「とりあえずは、安心かの・・・」

「ええ、超君の計画の発動まで、どれくらい時間があるかはわかりませんが、なんとか・・・」

「なんとかそれまでに、打開策を見つけんとの」

 

 

考える時間ができたと喜ぶべきかは、まだわからんがの。

それに、超君の計画阻止と同時に、クルト議員らの動きにも注意せねばならんし。

何せ、相手は元老院議員じゃ、わしの首など5分後に切られてもおかしくは無い。

 

 

おまけに、修学旅行の一件で戦力を減じたはずの関西が、いつの間にやら我々よりも存在感を発揮しておるのじゃからな。

婿殿もやるわい・・・。

 

 

「それで、クルト・・・議員は、何を?」

「わからんが、どうやらアリア君やエヴァンジェリンを、アリアドネーへ行かせる計画があるようじゃ」

「アリアドネーに?」

 

 

議場を麻帆良に置いてくれたのが、せめてもの救いか。

まだ何とか、情報を拾えるからの。

今も、それに関する話し合いをしているようじゃ。

 

 

わしとしても、アリア君のアリアドネー行きは悪くは無いとは、思う。

アリアドネーは、学習意欲・研究意欲があれば死神だろうと何だろうと受け入れる独立魔法学術都市じゃ、アリア君やエヴァンジェリンのような人材なら、むしろアリアドネー側から是非にと言って来るかもしれん。

しかも独自の武力をも保持しておることを考えれば、麻帆良よりも元老院の影響を排除できるとも考えられる。

 

 

じゃが、その前提にネギ君、アリア君が麻帆良から離れるとなると・・・。

 

 

「・・・まぁ、今の所、合意の気配は無いと言う情報もあるがの」

「そうですか・・・そうでしょうね。木乃香君の問題もありますし」

「そうじゃの」

 

 

と言うか、そこまで一枚岩で来られると、わしにはどうすることもできんよ。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

「・・・本気ですか?」

「私はいつでも、ほどほどに本気ですよ、マクギネス特使」

 

 

マクギネスさんは、驚いたような目で私を見てきました。

詠春殿も、似たような表情を浮かべています。

 

 

「しかし、当方としては些か、承服できかねます」

「ふむ・・・近衛殿は何かご不満なようですね?」

「ええ、これはメルディアナ側にもすでに回答しているのですが・・・」

 

 

詠春殿は、少しばかり政治にも詳しいですからね。

ここ最近は、特に頑張っているようですし。

 

 

「アリア君のアリアドネー行きには、賛成しかねます。しかも・・・」

「しかも?」

「教職での、アリアドネー行きとなると・・・」

 

 

そう、私の提案は「アリア様のアリアドネーでの教授職への就任」。

そもそも、アリア様は卒業を取り消される必要など無いのです。

アリアドネーに行くのであれば、それなりの待遇が成されるべきです。

 

 

もっとも教授職と言っても、いきなり教授になれるわけでは無く、最初は講師などの立場になるでしょうが。

まぁ、重要なのはそこではありません。

 

 

「こちらとしては、アリア君には麻帆良にいてもらわねばなりません」

「ああ・・・なんでしたか、確かご息女の後見人とか」

「それはですから、こちらで責任を持ってお預かりすると・・・」

「こちらにも、事情がありまして・・・」

 

 

マクギネス特使が、詠春殿に噛み付いています。

なるほど、そこが最後の論点なのですね。

まぁ、仕方が無いでしょう、ご息女・・・近衛木乃香が関西での地位を拒否しているばかりか、魔法への関わりを拒否している以上はね。

しかも、それをまだ表向きは公表していないのですから。

 

 

詠春殿の隣に座っているのは、強硬派の方と聞いていますし。

なかなか、イエスとは言い辛い状況でしょう。

 

 

メルディアナも、アリアドネーにおけるアリア様とその「家族」の待遇の話し合いの大半を済ませていると言います。

だからこそ、すぐにでも結論を出したいのでしょう。

 

 

マクギネス特使の隣にいるのは、アリア様の幼馴染だとか。

彼女の手前、自分達の意見を取り下げるのも難しいでしょう。

 

 

・・・え?

なぜ、そんなに詳しいのか、ですって?

それは簡単なことですよ。

 

 

「まぁ、一朝一夕に結論の出る議論ではありませんし、一度論点を整理してみましょう」

「しかし、クルト議員!」

「・・・そうですね、もう一度問題点を探って」

「・・・詠春殿まで!」

 

 

一見、まとまりの見えないこの会議。

誰がどう見ても、決裂以外に道は無いように思えるでしょう。

そう、誰が、どのように見ていようとね・・・。

 

 

でも、もし。

 

 

「まぁ、それに・・・本人達の意思も確認せねばなりませんからね」

 

 

 

もし、我々が裏ですでに「アリア様のアリアドネー行き」に合意しているのだとしたら?

 

 

 

この会議に来る以前に、すでに詠春殿から了承を取り付けていたのだとしたら?

メルディアナ校長が動いたのは、その詠春殿の意思を受けてだとしたら?

そして今やアリア様個人を守る立場になった私が、当初は慎重論を唱えていた姿勢を転換し、積極的に動いているのだとしたら、どうでしょう?

 

 

全ての前提が、崩れるとは思いませんか?

 

 

詠春殿が慎重論を唱えているのは、全て演技で、ご息女に関してはすでに腹を決めていたら?

マクギネス特使が動揺し、不信感を露にしているのも演技だとしたら?

まぁ、急に方針転換した私の意図が読めず、困惑しているのは本当でしょうけれど。

 

 

ここは麻帆良、あの老人の目や耳がどこにでもある場所。

なればこそ、それなりの準備をしてくるに決まっているではありませんか。

 

 

政治と言うのは、政治家が表立って話し合う段階では、すでに全てが終わっている物なのですよ。

会議を監視したり、すでに死んだ情報を掴んだ所で・・・。

 

 

情勢には、何一つ影響を与えない。

我々がここで、茶番とも言える議論を続けているのは、それぞれの組織内をまとめる時間が必要だからですよ。

いくらトップが合意しても、下がついてくるとは限りませんから。

まぁ、つまり、我々が表立って合意したその時には。

 

 

ちら・・・と、詠春殿を見やります。

彼は、私の視線を受けると、軽く頷いてきました。

 

 

我々が表立って合意した時には、麻帆良の現体制は崩壊していることでしょう。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・すみません、小太郎さん」

「いや、まぁ・・・何やわからんけど、気にすんなや」

 

 

ぽん・・・と、肩を叩いて来る小太郎さん。

なんだか、この小太郎さんは私が知っているよりも、優しい気がしますね。

気遣いができると言うか。

 

 

ちなみに、私達がいるのは参加者の控え室。

今は、私達の他に誰もいません。と言うのも・・・。

 

 

「そろそろ、結果発表の頃かな」

「そうじゃろうのぉ、水着審査と言うものが、どう言う物かは知らんが」

 

 

水着審査と、結果発表のためです。

スタッフの方もいませんし。

おかげで、晴明さんも喋ることができます。

 

 

・・・で、なんで私達だけここにいるのかと言うと。

 

 

「・・・なんで、棄権しちゃったんでしょうね・・・」

「そりゃ、あんたが水着を着れへんかったからやろ?」

「・・・すみません・・・」

「いや、せやから、別にええて・・・」

 

 

小太郎さんが、弱りきった声で言いました。

困らせているのは、私です。

村上さんのことがあったとは言え、無理に参加させておいて・・・。

 

 

水着を着る段になって、私は怖くなったんです。

 

 

どうしてかは、私にもわかりません。

ただ、村上さんを含めて、周りの人の多くは大人な女性です。

一方で、子供用の水着な自分が、どうしようも無く不安になってしまって・・・。

たまらなくなって、動けなくなりました。

 

 

気にすることなんて、何も無いのに。

フェイトさんの目が、どうしようも無く、気になってしまったんです。

だって・・・だって?

 

 

だって、何なんだろう・・・?

 

 

「・・・あー、それじゃ、俺は会場に行ってみるわ、夏美ねーちゃんも気になるし」

「あ・・・はい、ごめんなさい」

「やから、ええって・・・ほなな、元気出しや!」

 

 

気にすんなや!・・・と言い残して、小太郎さんは行ってしまいました。

晴明さんを抱えたまま行ったのは、それも気遣いの内なのでしょうか。

ふぅ・・・と息を吐いて、私は部屋の隅に蹲り、膝に顔を押し付けました。

 

 

・・・何やってるんだろ、私。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「何なんやろな、女ってのは、やっぱわからん」

「まぁ、我の時代から女子とはそう言う物じゃよ。男(おのこ)にはわからんよ」

「晴明のじーちゃんでも、そうなんか?」

「・・・この姿で爺呼ばわりされるのは、激しく違和感があるのぅ」

 

 

カチカチ・・・と手を動かしながら、晴明のじーちゃんがそう言うた。

まぁ、確かに今は女物の人形みたいな姿になっとるけど。

でも、男やろ?

 

 

「にしても、主もやるのぉ、怒りもせずに慰めるとは」

「千草ねーちゃんとの約束や。女の子が落ち込んどったら、まず慰めろて」

「基本に忠実じゃが、応用力が無さそうじゃのぉ・・・」

「何か言うたか?」

「いやいや、我は何も言わんよ」

 

 

その時、わぁ・・・と、歓声が聞こえた。

 

 

『優勝は、フェイト&夏美ペア――――っ! 総合力の高さで他を圧倒しました!』

 

 

夏美ねーちゃん、勝ったんか・・・。

そんなことを考えとったら、誰かにぶつかってしもた。

 

 

「・・・っと、すんまへ・・・って、あんたは」

「キミは・・・」

 

 

そこにおったんは、白髪の兄ちゃん。

夏美ねーちゃんと組んどった、フェイトとか言う奴やった。

何や、大事そうに赤い小箱抱えとるみたいやけど。

 

 

フェイトは軽く周囲を見渡すと、俺を見て。

 

 

「アリアは?」

 

 

とか、聞いてきよった。

・・・あ、何やろ、急にムカついてきたで。

今すぐにコイツ、ぶん殴りたい衝動に襲われとんのやけど、俺。

 

 

「知らんのぉ」

 

 

せやからやろか、俺の声に、妙な棘があった。

フェイトは、静かに俺を見とる。

 

 

「んん? 何や、怒ったんか?」

 

 

フェイトは、何も答えへん。

その代わりに、何も言わずに俺の横を通り過ぎようとしよった。

ち、無視・・・。

 

 

「すんなや!」

 

 

振り向きざまに、フェイトの肩を掴んだ。

いや、正確には・・・掴んだと思う、やな。

 

 

いつの間にか、ひっくり返されとったんやから。

 

 

「・・・っ」

 

 

ゴキンッ・・・と、鈍い音が頭の中に響いた。

身体ごとひっくり返されて、床に頭を打った音やろ。

俺はいつも気で身体を強化しておるから、痛いわけや無いけど。

 

 

それでも、あんなにあっさり投げられるとは思わんかった。

強いやんけ、あいつ。

・・・って言うか。

 

 

「また、負けた・・・」

 

 

いや、いつもやったら「勝負はこれからや!」とか言うて、立つんやけど。

今はそんな気分やないし、そもそもこんな所でガチでやったら、千草ねーちゃんに怒られるし。

まぁ、ええわ・・・とにかく。

 

 

俺、やっぱ弱いなぁ・・・。

そう言えば、晴明のじーちゃん、どこに飛んだんかな。

 

 

「小太郎君?」

 

 

晴明のじーちゃん探そうとした時、逆さまな視界の中に、夏美ねーちゃんがおった。

青い水着の上に、タオルケットを羽織っとる夏美ねーちゃん。

不思議そうな顔で、俺を見とった。

 

 

「何やってるの、倒立?」

「・・・そんなようなもんや」

 

 

適当に答えて、ゴソゴソと身体を起こす。

さっきの所は、見られてへんかったみたいやな、良かった・・・。

・・・良かったって、何がやろ。

 

 

なんとなく、目ぇ合わせられへんかった。

 

 

「ごめんね、小太郎君」

「・・・何がや」

「優勝の景品、さっきの人にあげちゃった」

「景品?」

 

 

そういえば、そんな物があったかもな。

興味なかったから、あんま覚えて無いけど。

 

 

「ええよ、別に」

「あれ? 何拗ねてるの?」

「拗ねてるわけやない・・・」

「・・・やきもち?」

「はぁ!?」

 

 

やきもち!? 俺がか!?

なんで俺が、やきもちなんて焼かなあかんのや?

 

 

そう言おう思うて、夏美ねーちゃんの顔を見たら。

 

 

「・・・ん?」

 

 

何や、えらい上機嫌そうで。

・・・言う気が、失せてもうた。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

怒ったか、と、彼に問われて。

まず最初に、バカな、と思った。僕にそんな感情は無い。

 

 

けれど、ならどうして僕は、こんなことをしているのだろう?

 

 

「・・・アリア」

 

 

アリアの魔力を頼りに、控え室まで戻ってきた。

そこには、誰もいなかった。

だけど、彼女の気配を感じる。ここに、いるはずだった。

 

 

返事が無い、姿も見えない。

つまりは、隠れられている・・・と言う事実に、どう言うわけか、身体が重くなったような気がした。

 

 

「アリア」

「・・・っ」

 

 

息を飲む音が聞こえた。ついで、ガチャ・・・と、何かがぶつかる音。

奥の方に進むと、そこは、一次審査で使った衣装がしまわれている部屋。

その部屋の一番奥に、かすかな呼吸音を感じる。

 

 

カチャ・・・と、クローゼットを開けると、いた。

 

 

「・・・アリア」

「・・・どうも」

 

 

バツの悪そうな顔で、アリアが膝を抱えていた。

いつもより小さく見えるその姿は、何だか儚い印象を僕に与えてくれる。

 

 

しばらく、沈黙が続いた。

1分くらい経ってからだろうか、彼女が口を開いた。

 

 

「・・・村上さんは、良いんですか?」

「うん」

「・・・随分と、仲良くなってたみたいですね」

「うん」

「・・・村上さん、良い人ですもんね」

「うん」

「・・・村上さん、可愛いですものね」

「・・・うん?」

 

 

最後のは、ちょっとわからないけれど。

アリアは顔を俯かせたまま、ワナワナと震えていた。

・・・?

 

 

「ひ・・・」

「ひ?」

「一つくらい、否定してくださいよ―――――っ!!」

 

 

突然そう叫んで、僕のことを突き飛ばしてきた。

僕が、何が何だかわからない内に、彼女は僕に飛びかかってきた。

そのまま、僕の胸をポカポカと叩き始める。

 

 

「もう・・・もう! 何なんですか、教室では和泉さんにちょっかいかけて、ここでは村上さんですか!? 浮気性? フェイトさん浮気性なんですか!?」

「い、いや別に」

「そう言えば、前に会った時は可愛い子2人も連れてましたもんね! モテモテですか、モテモテなんですね! 付き合ってられませんよぉ―――――っ!!」

「・・・?」

 

 

ポカポカと叩かれながら、考える。

どうして、彼女は怒っているのだろう。

 

 

「・・・ええと、アリア?」

「わかってますぅ、最初の段階で色々間違えられちゃって、フェイトさんも困ってたのはわかってました! でもでも、私にだって考えがあったと言うか、そこの所をもう少し察してくれても、良いじゃないですか!」

「え・・・うん。そこは、わかってる。それについてはもう終わり」

「終わり!? まだ何にも終わってませんよ!? 始まってすらいないと言うのに! まだ話し合いの余地は残っているでしょう・・・2人で築いてきた関係を、一人で一方的に終わらせるなんて、どう言う了見ですか!?」

 

 

僕達がいったい、どんな関係を築いてきたというのだろう。

あと、何が始まって終わるのだろう。

正直な所、彼女の言っていることの意味が、僕にはわからなかった。

 

 

ただ、アリアを落ち着かせなければならないと言うことだけはわかっている。

とりあえず、思ったことを口に出してみる。

 

 

「・・・村上さんは、良い人だね。よくわからないけれど」

「やっぱり!」

 

 

何が「やっぱり」なのだろう。

 

 

「どうりで妙に優しいなと思っていました・・・情が移ったんですねそうなんですね。こんなことならボディビル研の予算をカットするよう上申しておけば良かった・・・!」

「・・・優しくしたつもりは、無いんだけど」

「はいダウトー、優しくしてました! すっごく優しくリードしてましたぁ!」

「うん」

 

 

それはそうだろう、僕には村上さんに優しくしなければならない理由があったのだから。

 

 

「村上さんは、キミの生徒だからね」

「へ?」

「キミの生徒だから、丁重に扱った」

 

 

でなければ、気を遣ったりもしない。

村上さんが、アリアにとって大切な物の一つだと思ったから、そういう風に扱った。

 

 

「キミにとって大切な物だから、僕もそうしようと思った」

「へ・・・い、いえ、騙されませんよ、ドレスが似合うって口説いてましたもん!」

「くど・・・? あれは、キミが選んだドレスだから、合うって言ったつもりなんだけど」

「・・・・・・ら、『秤(ライブラ)』!」

 

 

突然、アリアは何かのカードを取り出して、叫んだ。

それから、僕のことをキッと睨んで。

 

 

「い、今の言葉に嘘はありませんか!」

 

 

なんて、聞いてきた。

どうやらあのカードは、相手の嘘を見抜くらしい。

もちろん僕は、嘘なんて吐いていないから、正直に。

 

 

「うん」

 

 

そう、答えた。

 

 

するとアリアは、目を丸くして。

次いで、急激に顔を赤くしていく。そして・・・。

 

 

「・・・っ!」

 

 

もの凄い勢いで、クローゼットの中に戻り、かけられている衣装の中に隠れた。

何やら、モゴモゴとした後・・・。

 

 

「だ、騙されませんよ!」

 

 

そう、叫んできた。

 

 

「そ、そうだとしても、最後までやる必要は無かったじゃないですか・・・!」

「ああ、それは」

 

 

側に転がっていた小箱を手にとって、中身を確認する。

無事だった。

そして、それを持って、アリアの傍に行く。

 

 

「これ」

 

 

蓋を開けた状態で、見せる。

アリアは赤い顔のまま、なかなかこちらを見ようとはしなかったけれど。

しばらくして、諦めたようにこっちを、僕の手元を見た。

 

 

その顔が、小さな驚きの色に染まった。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「これ・・・」

 

 

フェイトさんの持っている小箱の中には、このイベントの優勝景品。

お揃いのアクセサリー。ペアブレスレット。

 

 

「お揃いの物を贈るのが、良いと聞いた。よくわからないけど、これはオリジナルで・・・同じ物は無いと説明された」

「だ、誰から聞いたかは知りませんが・・・」

 

 

お揃い・・・それも、身に着ける物系を贈るとか。

どれだけ、自分に自信があるんでしょう、この人。

・・・まぁ、わかっていない可能性もありますが。

 

 

「キミに」

 

 

フェイトさんの、無機質で綺麗な瞳が、私を見ていました。

と言うか、今気付いたんですけど、フェイトさん水着じゃないですか・・・!

薄い青色のパーカーを着ているとは言っても。

 

 

え、じゃあ私、そこに飛び込んで胸叩いてたんですか?

と、とんでもなく恥ずかしい・・・!

穴があったら入りたいとは、このことでしょうか。

 

 

とてもではありませんが、フェイトさんの顔が見れませんでした。

赤くなる顔を、目の前の衣装に埋めます。

 

 

「キミに・・・受け取ってほしい」

「ちょ、ちょっと待ってくださっ・・・今、顔が熱くてそのっ」

「暑いの?」

「そ、そうです! だから・・・ふぇっ?」

 

 

シャ・・・と、視界が明るくなりました。

何事かと思えば、フェイトさんがクローゼットを完全に開け放ち、しかも衣装を全部放り出していました。

 

 

「な、何してるんですか!?」

「いや、暑いって言うから・・・換気を」

「な、ちょ・・・あ! ワザとですね、ワザと天然なフリを・・・!」

「・・・さぁ、良くわからないな」

 

 

す・・・と、フェイトさんの手が伸びてきます。

私は思わず身を硬くして、ぎゅっと目を閉じました。

 

 

頬に触れるか触れないかと言う位置に、フェイトさんの手の気配を感じました。

でも、それは私の肌に触れることなく、下へ。

私の左手に、そっと触れました。

 

 

まるで、壊れ物を扱うかのような、大事な物を扱うかのような、優しい力加減で。

掌から感じるフェイトさんの体温が、何故かすごく、その・・・。

 

 

「こ、こそばゆい、です」

「そう・・・」

 

 

フェイトさんは小箱の中から、小さい方のブレスレットを取り出すと、それを私の左手の前に。

右手で私の左手を持ち上げ、左手でブレスレットを。

え、あ、ちょ・・・!

 

 

「ちょ、ちょっと待っ・・・!」

「嫌かい?」

「そ、そういう言い方は、何と言うかその」

 

 

モゴモゴと、自分でも何を言ってるんだか、わからない状態で顔を上げると。

フェイトさんが、不思議そうに私を見ていました。

その顔を前にすると、なんだかもう、何も言えなくなってしまって。

 

 

「そういう言い方は、その・・・」

「うん」

「・・・ず、ズルい、です」

「そう・・・それで?」

 

 

かぁ・・・と、顔がまた一段と赤くなるのを感じました。

それから、左右に視線を彷徨わせて。

結局。

 

 

「・・・い、嫌では・・・無い、です」

 

 

小さな、本当に小さな私の声に。

フェイトさんは、いつものように。

 

 

「・・・そう」

 

 

と、答えました。

 

 

 

シンシア姉様、殿方からアクセサリーをいただきました。

しかもペアです。

 

 

 

アリアは、なんだか、その・・・す、少し、少しだけ、その。

う、嬉し・・・なんでもありません!

き、聞かなかったことにしてください・・・!

 

 

 

 

 

<おまけ――――ちび達の冒険②・図書館探検部>

 

「あ、あわわわわ」

「ちびアリアさん、大丈夫ですかー?」

「も、ももももちろん、大丈夫に決まってるですぅ!」

 

 

ちびアリアとちびせつなは、未だに迷っていた。

と言うか、もはや主人の命令を忘れているのではないかとすら、思えてくる。

 

 

今は、どう言うわけか図書館探検部の「図書館島探検大会」に紛れ込んでいる。

断崖絶壁の中に本棚がズラリと並んでいる様は、見る者を魅了すると同時に、圧倒するだろう。

そしてそれは、ちびアリアと言えど例外ではなかった。

 

 

(あ、ありえねーですぅ。どんな神経の人間が作ったんですぅ!?)

 

 

ちびアリアは、おっかなびっくり、遅々としたスピードで、探検大会の人間の最後尾を歩いていた。

最初は「ついてくるですぅ」とか言って、最前列にいたのだが・・・。

 

 

「ちびアリアさん、もしかして怖いですか? おてて繋ぎますですか?」

「ば、バカな、この私に限って怖いなどと、引かぬ・媚びぬ・省みぬが私の信条ですぅ」

「じゃあ、先に行きますねー」

「ちょいと待つですぅ」

 

 

ガシッ。

ちびアリアは、ちびせつなの手を掴んだ、それも両手で。

 

 

「そ、そこまで言うなら、手を繋いでやらなくも無いですぅ」

「信条はどうしたですか?」

「そんな物、そこの滝に捨てて・・・なんでこんな場所に滝が!?」

「綺麗ですねー」

「他に言うことがあるはずですぅ・・・!」

 

 

もしかして、意外と大物なのではないか。

ちびアリアはそう思うと、恐れおののいたような目で、ちびせつなを見た。

一方のちびせつなは、楽しそうに歩いている。

 

 

「じゃあ、れっつごーです!」

「だ、ダメです走って跳んで回っちゃあぁ~~~!」

 

 

その後、ちびアリアはちびせつなによって、KO寸前まで追い込まれた。

「あの時、ちびせつなが転ばなければ、わからなかったですぅ」とは、後のちびアリアの証言である。

 




エヴァ:
エヴァンジェリンだ!
なぜだか無性に、今すぐアリアの所に行かねばならないような気が、する!
なんだ、この感覚は・・・?
具体的に言うと、アリアがどこぞの誰かに口説かれているような・・・ふ、まさかな。晴明もいるのだし、大事にはなるまい。


それはそうと、今回の新規魔法具はこれだ。
秤:haki様の提供だそうだ、元ネタは「CCさくら」だな。


エヴァ:
では次回は、おそらくはライブの話になるかと思う。
では、縁が合えば、また会おう。
さらばだ!


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第67話「麻帆良祭二日目・ライブ」

Side 釘宮

 

麻帆良祭も二日目、夕方。

あと二時間もしない内に、一般のお客さんの入場が始まる。

いよいよだ・・・そう思うと、緊張する。

 

 

でもそれ以上に、練習の成果を皆に見せたくて、早くやりたいって気持ちになる。

凄く、楽しみ。

 

 

「・・・では、釘宮さん達の出番は、6時20分に確保してありますので」

「ん、ありがと」

 

 

アリア先生と、私達の時間枠の最後の確認をする。

私達は初参加だけど、開始直後の、結構良い順番。

お客さんもあったまってきてるような、そんな時間帯。

 

 

「では、開始後は私も観客席におりますので」

「わかった。アリア先生、本当にありがとう」

「構いません。では、頑張ってくださいね」

 

 

そのまま、アリア先生は書類片手に歩きだした。

あれ・・・?

何となくその手を見ると、銀色のブレスレットが目に入った。

アリア先生、アクセサリーとか付ける子だったかな?

 

 

と言うか、昨日の中夜祭の打ち上げの時は、無かったと思うんだけど。

そう言えば・・・。

 

 

「柿崎が渡した彼氏用のチケットは、使う予定あるんですかー?」

「ふみっ!?」

 

 

・・・コケた。

意外な反応、これはもしかして?

 

 

「・・・え、本当に彼氏いるんですか!?」

「いません!」

「やっぱり、外国の子って進んでるんだ・・・」

「・・・あ、釘宮さん達のグループは出演辞退と言うことで」

「ああ、嘘、嘘。ごめんなさい!」

 

 

手を合わせて謝ると、アリア先生は軽く頬を膨らませたまま、今度こそ歩いて行った。

可愛いなぁ、本当。

 

 

普段はしっかりしてるんだけど、こう、ふとした瞬間に見せるあの可愛さは、何だろう。

狙ってるのかな?

もしそうなら、末恐ろしいんだけど。

 

 

「・・・とにかく、いよいよだね、亜子!」

「はひっ!?」

 

 

少し離れた位置に座ってた亜子に声をかけると、亜子は持っていたコップを地面に落とした。

しかも、私の方を見ながら、涙目でガタガタガタガタ・・・と、震えだした。

え、ちょ、静かだと思ったら、喋れない程緊張してたの!?

 

 

「ちょ、大丈夫?」

「あ、あああああかんて、やっぱうち、あかんて・・・!」

「だ、大丈夫だって亜子、あんなに練習したじゃん。だから大丈夫だって!」

「おか――さ――んっ!?」

「落ち着け!」

 

 

その後も、亜子は「うち無理」とか「くぎみー代わって」とか、すごく取り乱してた。

いや、それにしたって「お母さん」は無いと思うんだけど。

今からこれで、本番大丈夫なの?

 

 

「あ・・・」

 

 

ふと、何かに気付いたように、亜子が固まった。

何、まだ何かあるの・・・?

 

 

「く、釘宮、うちの服、大丈夫かな? その、背中の・・・」

「え・・・あ、ああ~・・・そっか、たぶん大丈夫だと思うんだけど・・・」

 

 

亜子の服は、私と同じ、ノースリーブのステージ衣装。

舞台の上だし、背中向くことってあんまり無いし。

でも、亜子にしてみれば、かなり重要な問題だし・・・。

 

 

「じゃあ・・・控室に半袖タイプがあるから、着替えてきな。時間、まだあるしね」

「あ、ありがと・・・くぎみん」

「くぎみん言うな」

 

 

コツッ・・・と頭を小突くと、亜子は軽く舌を出して笑った。

まったく、調子良いんだから。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

アリアが、アリアドネーに?

魔法世界に、アリアが来る・・・と言うことか。

 

 

ぐしゃり、と、関西に仕込んだ偽物からの報告文を握り潰す。

どうも、腑に落ちないね。

報告によると、クルト・ゲーデルが裏でこの件を主導しているらしんだけど。

彼は、自分の部下に紛れ込んだこちらの工作員は一人残らず消している、それも即座に。

だと言うのに、関西の偽物と同席してそれに気付かないとは思えない。

 

 

「ワザと漏らした・・・違うね、噂を流そうとしている・・・」

「世界情勢は複雑怪奇じゃのぅ」

「・・・キミは、どうして僕について来ているの?」

 

 

赤い服を着た西洋人形、それが、どう言う訳か僕から離れなかった。

アリアが仕事に行った後も、僕について回っている。

 

 

「何、気にするな、人形の一つや二つ、大したことではあるまい」

「・・・人形の身体を、上手く使っているとしか思えないけどね」

「主こそ、大事そうにチケットを持っているでは無いか」

 

 

フヨッ・・・と浮かびながら、その人形―――晴明とか言ったかな、晴明は、僕と目を合わせて来た。

そして事実、僕のポケットには、アリアから貰ったライブのチケットがある。

 

 

『べ、別に、深い意味はありませんからね? 貰いっぱなしって言うのもアレだからってだけで、全然、まったく、これっぽっちだって他意はないんですからね、勘違いしないでくださいよ!』

 

 

・・・と言われて、押し付けられた物だ。

 

 

「愛いのぅ、愛いのぅ、花開く桜の蕾を見ているようじゃ」

「・・・その姿で言われると、大いに違和感を感じるよ」

「違和感? ほう、主は違和感などと言う物を感じると・・・その身体の作りで?」

 

 

僕の側面を周り、耳の辺りに浮かびながら、晴明は僕に囁いてくる。

 

 

「誰が作った、いや創ったのかは知らんが、随分と効率的にできておるのぅ。高い知能、破格の魔力、別格の身体能力・・・そして心を持たぬ器」

「・・・」

「主は心を持たぬ。持たぬが故に複雑な感情を生み出すことができぬ。愛も悲しみも涙も無く、主の目に映るのは、事実の積み重ねのみ・・・違うかの?」

 

 

事実だ。今さら、こんな人形に言われるまでも無い。

僕には心などと言う物は無いし、必要を感じたことも無い。

 

 

これまでも、そしてこれからも。

僕は、「彼」の人形として行動していくだろう。

そこに疑いを抱いたことなど無い。

 

 

「だと言うのに、主はあの、アリアと言う娘に執着しておる。不思議じゃのぅ」

「・・・執着? 何のことかな」

「ふふふ、愛いのぅ・・・執着していないと言うならば何故、主は我の言葉を聞くのかのぅ」

「・・・」

「我があの娘の身内だから・・・じゃろう?」

 

 

・・・僕が、アリアに執着している。

もちろん、違うと言える。

僕は。

 

 

僕は、ただ。

 

 

「そこの者、止まれ!」

 

 

 

 

 

Side 晴明

 

なんじゃ、こやつらは?

西洋式の鎧に身を包んだ黒い集団が、我とフェイトと言う小僧の周囲を取り囲みおった。

ここは野外ステージとやらに程近い路地、人通りは少ないのじゃが。

 

 

我としたことが、小僧をからかうのに夢中で、感知の術式に反応したのを失念したわ。

うむ、うっかりじゃな。

 

 

「我々は、メガロメセンブリア重装歩兵団である! ただちに武器を捨てて神妙にせよ!」

「イベントに本名で登録したのが仇となったな!」

「我々は、麻帆良のめでたい集団とは訳が違うぞ!」

 

 

なんじゃのぅ、どうも三下臭いのぅ。

と言うか、そんな大きな槍を携えて、問題では無いかのぅ。

 

 

どうするかのぅ、めがろ、めが・・・何とかと言う所の奴らと言うことは、あのクルトとかと言う奴の部下なのでは無いのかのぅ。

そうだとするなら、数を減らすのは不味いかもしれんのぅ。

 

 

などと考えておると、目の前に細長い紙が。

 

 

「ぬ?」

「・・・返しておいてくれないか」

 

 

おお、チケットとか言う物じゃったの。

しかし、ふむ?

これを我に渡すと、中に入れんのでは無いかの。

 

 

「どちらにせよ、こうなった以上、一度姿を隠さないといけないからね」

「そうかもしれんの」

「どうやら、少し・・・緩んでいたようだからね、僕も」

 

 

そう言って、小僧は我から離れて行きおった。

少しずつ、めがろ何とかと言う連中の方へ。

 

 

その背中からは、微かに魔力が漂っておる。

・・・少し、からかい過ぎたかのぅ。

 

 

「む、何だ貴様、抵抗を・・・」

「ヴィシュ・タルリ・シュタル・ヴァンゲイト」

 

 

不器用な若人じゃな。

心など無いと言う我の言葉に反応しておる時点で、すでに答えは出ておるじゃろうに。

まぁ、良い、大いに悩め、若人よ。

 

 

・・・それはそれとして、どうするかのこのチケット。

下手を打つと、アリアからキツい仕置きを受けそうじゃし。

魔力はアリアからの供給じゃからの・・・。

 

 

まぁ、女子の尻に敷かれるのも甲斐性の内じゃろ。

・・・ふむ。

 

 

「『石の息吹(プノエー・ペトラス)』」

 

 

少しばかり、付き合ってみるとするかの。

あの娘と、似た魂を持つこの小僧に。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

やはり、こうでなくては。

うん、こうじゃなくっちゃ・・・!

 

 

「アリア先生、『温泉ガメ』の猛の奴が、緊張のあまり胃に穴が!」

「救急施設に連れて行ってください。あとメンバーの補充のアテはありますか?」

「大変ですアリア先生、業者さんの手違いで照明の数が足りません!」

「了解です、こちらで対応しますので、大道具さん達は舞台の最終チェックをお願いします!」

 

 

生徒の方々から寄せられるトラブルを、優先順位ごとに振り分け、対応します。

全部は無理ですからね、現場で対応できることは現場でやってもらった方が良いですし。

 

 

外部の方が絡んでくると、私ではできませんし。

10歳ですから、私。

業者さんと交渉とか、無理ですもの。

他に担当の教師の方々がおりますので、そう言うのはそちらにお願いします。

・・・なので私の仕事は。

 

 

「必然的に、書類仕事になるわけですね」

「・・・誰に言ってるんです?」

「え? いえ、あはは・・・」

 

 

そして今は、仮設の事務所の中で、一般の女性教諭の方と一緒にお仕事です。

ちなみに、高等部の先生だそうですよ。

それにしても、この書類と格闘する感じ、凄く懐かしいです。

 

 

最近は、意地悪な新田先生が仕事回してくれませんでしたからね。

私が「し」と言うだけで「ダメです」って言うんですもん。

 

 

「・・・あ、すみませんアリア先生、控え室の化粧品なんですけど・・・」

「あ、はい、補充してきます」

「私が行くつもりだったんですけど・・・」

「いえ、やはり大人の方が残っていた方が、いろいろと良いでしょうし」

 

 

女子用の控え室は更衣室も兼ねていますから、どうしてもスプレーとか、化粧品とかが必要になります。

他にも、換えの衣装とか女性用品とか・・・いや、これは流石に自分で用意してほしいですけど。

 

 

事務所から出て、荷台に乗せた荷物を押していきます。

どこも人手不足ですから、これくらいは私一人でやりませんと。

荷台はそれなりに重いですが、魔法も何も使いません。

このくらいのことに、一々使う訳にも行きませんし。

 

 

・・・本当、懐かしい。

最初の頃は、これが普通だったのに。

などと考えている間に、女子用の出演者控え室に到着しました。

 

 

ズビョロビロボロ、バギュ――ンッ♪

 

 

「・・・は?」

 

 

突然、部屋の中からギターの音が響いてきました。

誰かいるのは、確かなようですけど。

 

 

ガタンッ・・・どさっ。

 

 

次いで、何かがぶつかるような音と、誰かが倒れるような音。

も、もしかして、家政婦は見た的な展開・・・とか、言ってる場合では無く!

がんっ・・・と、ドアを開けて中へ!

 

 

「・・・和泉さん!?」

「あ・・・アリア先せ・・・うぷっ」

 

 

和泉さんが、蒼白な顔で、鏡台の下で蹲っていました。

口元を押さえて、身体を丸めて・・・明らかに、具合が悪そうです。

理由は不明ですが、上半身が裸ですので、扉を閉めてから傍へ。

 

 

「だ・・・大丈夫ですか!?」

「だ、大じょ・・・あかん、気持ち悪・・・」

「え、ちょ・・・和泉さん?」

 

 

背中を擦りつつ声をかけるも、和泉さんはとても気分が悪そうです。

そう言えば、修学旅行中に私も似たようなことになったことが。

その時は、どうしたんでしたっけ。

確か、茶々丸さんが・・・。

 

 

『喋らないで、そのまま全部、出してしまってください』

 

 

んぐっ・・・と、唾を飲み込みます。

目の前には、具合の悪そうな和泉さん。

私に、できるでしょうか、茶々丸さんのように。

 

 

「・・・あ、頭を下にしてください、それで、できるだけ呼吸を整えて・・・」

「あ、アリア、先生?」

「だ、大丈夫、大丈夫です・・・それから、そうだ、飲み水と、タオル」

 

 

左手で和泉さんの背中を擦りつつ、右手で携帯電話を操作します。

た、助けを求めます。女性教諭限定で。

茶々丸さんも、さよさんに助けてもらっていたはずです。

 

 

大丈夫、と先ほどから言っていますが、半分は自分に言い聞かせているような物です。

大丈夫、できる、私。

 

 

「だ、大丈夫ですから」

「・・・うぇ」

「な、何か楽しいことを考えましょう、そうすれば・・・」

 

 

私は、和泉さんの身体に下手な振動を与えない範囲で声をかけつつ、背中を擦り続けました。

和泉さんが、落ち着くまで。

 

 

・・・厳密には、助けが来るまで。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ここなの、ネギ君?」

「は、はい。この建物から、カモ君の反応が・・・」

 

 

のどかさん、ハルナさん、夕映さんを連れてやってきたのは、学園祭中の賑やかさから少し離れた場所だった。

この界隈だけ、まるで隔離されているかのような、そんな静けさがあった。

どうしてこんな所に、カモ君が・・・?

 

 

僕達の目の前には、塀に囲まれた大きな建物がある。

 

 

「よーし、んじゃ、カモ君救出部隊、行くわよ!」

「あ、あの、流石に不味いのではないでしょうか、ここ、学園の私有地です」

「あ、危ないかもですしー・・・」

 

 

そう、ここは学園の私有地。

それも、校舎とは違うみたいで、許可が無いと入れないみたいなんだ。

でも、カモ君の魔力反応はここからする。

 

 

どう言う訳か、すごく微弱な反応しかしないんだけど。

でも、ハルナさんのことを相談できる相手が、カモ君ぐらいしか思いつかなくて。

タカミチとは、今は話したくないし。

明日菜さんは、美術部で忙しいみたいだし。

マスターは、今どこにいるのか・・・。

 

 

「だって、私も欲しいんだもん魔法のアイテム!」

「だもん!?」

「で、でもハルナー、仮契約には、その・・・ね、ネギせんせーと・・・」

「え、何?」

 

 

あ、あううぅぅ~・・・。

と、とにかく、カモ君のことは、僕が何とかしないとだし。

皆には、ここで待っておいてもらおう・・・。

 

 

「本日も、お疲れさまでした」

「いえ・・・」

「やばっ、隠れて!」

「わぷっ!?」

 

 

その時、誰かが来たみたいで、僕はハルナさん達に曲がり角まで連れて行かれた。

皆で重なり合うように顔を出して、様子を窺う。

 

 

「では、我々はここで」

「はい、送っていただいてありがとうございます」

「いえ・・・では、また明日、お迎えに上がります」

 

 

そこにいたのは、刀子先生だった。他にも何人か・・・。

それに、一緒にいるのは。

 

 

「アーニャ!?」

「え、何、ネギ君の知り合いなの?」

「だ、誰です?」

「えっと、僕の幼馴染で・・・」

 

 

のどかさん達に、アーニャのことを簡単に説明する。

でも、何だか、見たこと無いくらい大人しい感じがする。

一瞬、あれがアーニャかどうか、わからなかった。

 

 

だって、敬語で話してるし、立ち居振る舞いが上品って言うか。

ウェールズの時とか、今朝とか・・・とにかく、同一人物だとは思えなかった。

 

 

「な、なんだか、大人しい子みたいね」

「えっと、あれ?」

「どうしたんですかー・・・?」

「その・・・何と言えば良いか」

 

 

その後、二言三言話して、刀子先生達がいなくなった。

アーニャだけになると、アーニャの雰囲気が変わった。

と言うか、元通りになった。

 

 

「あー・・・外交モード、疲れるわ、やっぱり」

「お疲れ様です、アーニャさん」

「まー、お仕事だし。さっきのお姉さんだって、これから関西の方に行くんでしょ、帰れてる私はマシな方よ」

 

 

肩を抑えながら、首を回すアーニャ。

なんだか、凄く疲れてるみたい。

 

 

「んじゃ、ドネットさんが戻り次第、カモの始末を考えよっか」

「強制送還一択で!」

「あんたのお兄さん嫌いも、相当なもんねー」

 

 

き、強制送還!?

それを聞いた僕は、思わず飛び出した。

 

 

「ちょ、ネギく・・・」

「ネギせんせー!?」

 

 

のどかさん達の制止も振り切って、アーニャを追いかける。

カモ君がいなくなるなんて・・・そんなの!

 

 

「アーニャ、待って!」

 

 

建物の正門を超えようとしていたアーニャの肩に、手をかけた。

次の瞬間。

アーニャの姿が、視界から消えた。

 

 

次いで、首筋にもの凄い衝撃が―――――?

 

 

ぐりんっ、と、身体がひっくり返されて、そのまま・・・。

 

 

「何すんのよ、この痴漢!・・・って、え、ネギ!?」

「ね、ネギせんせ―――――っ!!」

 

 

アーニャの声と、のどかさんの声を最後に。

目の前が、真っ暗になった。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

はも・・・と、超包子の肉まんを食べながら、何となく学園祭の様子を眺める。

流石は、超包子の特製肉まん、とても美味しいアル。

超に貰った、餞別アル。

最後の・・・。

 

 

『古、この2年、良い友人でいてくれて、ありがとうネ』

『超・・・』

『クラスの皆には、内緒で行くつもりだったが、古にだけは言っておくネ』

 

 

肉まんを口に咥えて、かさ・・・と、懐から、超に渡された「退学届」を取り出した。

武道会の決勝戦の後、超は、学校を辞めて故郷に帰ると私に言ったアルネ。

 

 

『ネギ坊主とアリア先生、好きな方に渡しておいて欲しいヨ』

『・・・ネギ坊主は、すぐそこにいるアルが』

『・・・ああ、そうかも知れないネ』

 

 

あの時の超の顔が、忘れられないアル。

ネギ坊主が、少し離れた場所にいるのなら、ネギ坊主に渡せば良いのに。

でも、それをしなかった。

 

 

これをアリア先生に渡して欲しいと、そう言われたような気がしたアル。

でも、それは私の気のせいかもしれないアル。

 

 

「超・・・」

 

 

超とは、2年前からの付き合いで、たまに手合わせもしていたアル。

勉強とか、教えてもらったこともあったアル。

・・・まぁ、私は頭が良くないアルから、そこは効果が無かったアルが。

 

 

とにかく、私は超の事を、大切な友人だと思っているアル。

親友・・・だと、思っているアル。

ネギ坊主のことを抜きにしても、超がいなくなるのは、凄く・・・。

 

 

「・・・寂しいアル」

 

 

はも・・・と、肉まんを食べる。

美味しいはずのそれは、なんだかしょっぱい味がしたアル。

 

 

「あれー? 古菲君じゃないか」

「んむ?」

「奇遇だねー・・・あれ、一人かい?」

「へるひおへんへぇ」

 

 

ムグムグと、口の中の肉まんを飲み込むアル。

改めて、声をかけて来た相手を見るアル。

そこにいたのは。

 

 

「瀬流彦先生」

「なんだか、元気無いみたいだけど、どうかしたの?」

 

 

瀬流彦先生だったアル。

温和そうな顔をしているアルが、アリア先生達にも好意的に見られている大人の男の人。

魔法使いでもある。

 

 

「・・・本当に元気無いね、何か悩み事?」

「べ、別に何も無いアルよ、内緒の話とか、悩みとか・・・」

「・・・そっかー、無いなら、僕にはどうしようも無いけど・・・」

 

 

瀬流彦先生が、パチッと、ウインクしてきたアル。

・・・少し、気持ち悪かったアル。

 

 

「休憩中でね、奢るから、お茶でもどう?」

「・・・ナンパ、アルカ?」

「ええ!? ち、違うよ! だってそれ犯罪・・・」

「冗談アル♪」

 

 

にしし、と笑うと、瀬流彦先生は少し驚いて、それから困ったように笑ったアル。

・・・むむ?

なんだか少し、身体が軽くなったような気がするアル。

うーん?

 

 

「・・・お腹すいたアルか?」

「え? いや僕はそれ程でも無いけど・・・じゃあ、何か食べる?」

「良いアルか!」

「凄い喰いついて来るねぇ・・・」

 

 

瀬流彦先生は、何か苦笑しているアルが。

タダ飯アル!

タダ飯は良い物アルな!

 

 

おお、なんだか元気が出て来た気がするアル!

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

「・・・ん、何の騒ぎだ・・・?」

 

 

やることもねーから、食べ歩きをしていたんだが・・・。

どうも、妙に騒がしい所があった。

そこは、野外ステージらしかった。でかい門に書いてある。

 

 

なるほど、それで屋台も多かったのか。

ま、私には関係ねーな。

 

 

『まいますたー、まいますたー』

 

 

ポケットの中の携帯電話から、「ミク」の声が聞こえる。

イヤホンを着けているから、声が他に漏れることはないが。

こいつら、電子製品なら、どこにでも移動できるらしい。

 

 

電子製品が無いと生きていけない私にとっては、とんだ厄病神だ。

 

 

『まいますたーってばー』

「・・・んだよ、うるせーな」

『な、何か、やさぐれてますね・・・』

 

 

いや、やさぐれもするって。

主原因がそんな、哀れんだ声で言うなよ。

 

 

「それで、何だよ。独り言呟く痛い奴になりたくないんだ、私は」

『すでになってますー』

「・・・ウイルス仕込みてぇ・・・」

『抗菌対策はばっちりです!』

 

 

意味が違う。

 

 

『それでですねー、どーもあのライブ会場、いくつかのグループが体調不良で時間余ってて、お客さんが暇してるらしいんですよー』

「で?」

『歌ってきても、良いですかー?』

「はぁ?」

 

 

そういや、こいつらは元々、歌うために生まれてきたとか説明されたかな。

いや、でも現実には出てこれねーし・・・あ、会場のスクリーン乗っ取れば行けるのか。

 

 

・・・いやいやいやいや、待て待て、落ち着け私。

そんな暴挙、許されるわけがねー。

 

 

『だーいじょぶですよ! 皆さんお祭り気分ですし』

「・・・麻帆良に限って、説得力のありそうなことを」

『それに、今度マスターのHPで歌を作るツール・・・略して「歌ツクール」を開設しようと思いますので、その試運転にもなりますよ?』

「勝手に作んなよ!?」

 

 

というか、なんだ「歌ツクール」って!

略せてもねーし、しかも明らかに、パチモン臭い名前じゃねーか!

 

 

『来訪者数、増えますよ?』

「はぁ? んなわ、け・・・」

 

 

いや、でも確かに、こいつらぐらいの性能があれば、かなり高度なサービス組めるか?

数種類のキャラが歌って踊れる、そいつだけの音楽作成ツール・・・。

確かに、HPの来訪者数は伸びそうなネタだな。

こりゃ、3代目女王の座は確実に・・・って!

 

 

「そうじゃねぇだろ! 私!」

『じゃ、曲作ってくださいね、まいますたー♪』

「ぶっとばすぞお前!?」

 

 

曲作るの、私かよ!

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

「はい、ではそのように・・・」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 

控え室の扉の向こうから、アリア先生の声が聞こえる。

相手の人は、さっきまでここにいた保健の先生。ちなみに女の人。

さっき、また落ち込みスパイラルに入ってしもうて、気分が悪くなって・・・。

 

 

あんまり覚えてないんやけど、アリア先生がずっとおってくれた気がする。

それも、結構な時間・・・。

うちなんかより、ずっとしっかりしとって・・・。

うち、年上なのに、お世話になりっぱなしや・・・。

 

 

「亜子、大丈夫?」

「う、うん。ごめんな・・・」

「良いよ良いよ、亜子ちんが元気ならそれで♪」

 

 

釘宮や柿崎、桜子も、ここにおる。

もうお客さんも入り始めて、そろそろ出番やのに。

うち、色んな人に迷惑かけてしもて・・・。

 

 

何て言ったらええのか、わからへん。

 

 

「釘宮さん」

 

 

アリア先生が、戻ってきた。

寮の管理人をしてた頃から思ってたけど、アリア先生は凄く忙しい人。

忙しい中、うちなんかに時間取らせてしもて、怒っとるかな・・・。

 

 

クラスで聞いたけど、お父さんもお母さんもおらんって。

マンガの主人公みたいな・・・なんて、思ったら酷いんやろうけど・・・。

 

 

「バンドの時間なのですが・・・」

「あ、はい。準備OKで・・・あ、でも亜子が・・・」

「だ、大丈夫や、うち、行ける・・・あっ」

 

 

椅子から立ち上がろうとしたら、立ち眩みが。

ふらっ・・・と身体が崩れ落ちるのを、傍の柿崎と桜子が支えてくれた。

 

 

「あやや、こりゃ無理っぽいかな?」

「そ、そんなことない! ちょっと休めば・・・」

「でもでも、出番10分後だよー?」

「大丈夫やて!」

「あーもー、無理しない!」

 

 

あたっ・・・。

釘宮に、でこぴんされてしもた。

 

 

釘宮は、腰に片手を当てて、もう片方の手で私を指差してきた。

 

 

「頑張ってくれるのは良いけど、フラフラで出られても困るでしょ!」

「う、で、でも・・・」

「でもも何も無い!」

「う・・・」

 

 

そ、そんなん言うても、うちのせいで、そんな。

そんなん・・・!

 

 

「うっ・・・ぐっ・・・」

「え、ちょ、ちょっとちょっと!?」

「な、何で泣くのー?」

「だ・・・だって、だって・・・うちのせいでっ、皆・・・練習・・・っ」

 

 

皆、今日のために凄く練習しとったん、うちは知っとる。

うちなんかよりもずっと上手くて、しかも皆、凄く綺麗やし・・・。

うちのせいで、それが全部ダメになるなんて、そんなん・・・。

 

 

そんなん、うち、耐えられへん・・・!

うちが勝手に落ち込んで、具合悪くなったからやなんて、そんな・・・!

 

 

「何でっ・・・うち・・・!」

「亜子・・・」

「もう、別に良いよ亜子。私達だって、亜子を置いて演奏なんてできないもん」

「だから、泣かないでー・・・」

 

 

桜子が、うちのことをぎゅーって抱き締めてくれる。

嬉しいけど、それが逆に、すごく辛かった。

 

 

「まぁ、ちょっとは残念だけどさ、別に来年高校でやっても良いじゃん?」

「そうそう、実は私も覚えてないコードとかあるし」

「・・・それは、逆にヤバくない?」

 

 

釘宮も柿崎も、皆優しい・・・。

うちの友達は、皆ええ人ばっかで・・・。

 

 

うちは、うちは・・・。

 

 

「ごめん、ごめんな・・・っ」

「もー、良いってばー」

「ん、まぁしょうがないよ」

「何だったら、ストリートでやっても良いしね」

「ごめんっ・・・!」

 

 

謝ってもどうにもならんのに、うちは謝ることしかできひんかった。

皆、ごめんなぁ・・・!

 

 

「・・・・・・あの~・・・・・・」

 

 

その時、アリア先生が、凄く声をかけずらそうにしとることに気付いた。

そうや、アリア先生にも時間枠取ってもろたり、今もお世話になって・・・。

 

 

「その、盛り上がっている所、非常に申し訳ないのですが・・・」

 

 

アリア先生は、何だかモジモジしとった。

そこで、うちだけでなく、釘宮達も不思議そうな顔をし始めた。

 

 

そんな私達の顔を見て、アリア先生は本当に言いにくそうに。

 

 

「・・・演奏、できます・・・よ?」

 

 

・・・へ?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『次は初参加の4人組ガールズバンド! 「でこぴんロケット」!!』

 

 

と言うわけで、和泉さん達は普通に出演しています。

いえ、本当に大したことはしていないのですよ。

 

 

単純に、順番を遅らせただけなので。

元々、体調不良者などが出た際のことも考えて、順番と言う物は考えられています。

実際、彼女達以外にも、いくつか入れ替わりがありましたし。

 

 

と言うか、明らかに具合悪い子がいるのに、歌わせるとか・・・無いでしょう。

出番を一時間ほど遅らせるくらいの対応は、取るでしょう。

むしろ仕事が増えてラッ・・・げふんげふん。

 

 

とにかく、せっかくですから、私は柿崎さんから貰ったチケットの席に。

一応、フェイトさんにも渡しておいたのですが・・・来ないようです。

先ほど、紙でできた鳥が、ヒラリと私の前に落ちてきました。

晴明さんの式神ですが、中身が・・・

 

 

『すまん、うっかりした』

 

 

全然、まったく内容がわかりませんでしたが、一つわかることが。

あの陰陽師、今度会ったらタダじゃおきません。

 

 

「・・・ったく、何で私が」

 

 

自分の席についた時、意外な人物が隣にいました。

3-Aの生徒、長谷川千雨さんです。

正直、こんな所で出会うとは思っていませんでした。

 

 

「こんばんは、長谷川さん」

「あ・・・どうも、アリア先生」

 

 

長谷川さんは私を見ると、急に居住まいを正しました。

何と言うか、あからさまに取り繕われましたね。

 

 

「お一人ですか?」

「え、ええ、まぁ・・・一時間くらい前に、通りすがった所を捕まえられて・・・」

「はぁ・・・?」

 

 

よくはわかりませんが、一時間前ですか。

ちょうど、私が和泉さんについていた頃ですね。

 

 

なんでも『電子の妖精』とか言う、どこかで聞いたようなグループが、飛び入りで釘宮さん達の空けた時間枠を埋めたとか、聞いていますけど。

私は聞いていませんが・・・ネット空間を介した、最新鋭の電子音楽提供ツールを使った、異色のポップミュージシャンだとか、なんだとか・・・。

 

 

『え、え~っと、あの、その私、き、今日は~・・・』

 

 

その時、一曲目を終えた所で、和泉さんがマイクを手に、舞台の中央へ。

うん? 何でしょうね。

 

 

『き、今日凄くお世話になった人に、この場を借りてお礼が言いたくて・・・』

 

 

ほほぅ、お世話になった方ですか。誰でしょうね。

和泉さんは今日、午前はクラスで午後はバンドだったと思うので、その時に何か?

原作と違って、偽ナギは出現していないと思うので。

 

 

『その人は、何と言うか・・・うちと違って主人公みたいな人って言うか、プラスなこともマイナスなことも本当、その人の力になってて・・・正直、羨ましいな、なんて思ってたこともあって』

『亜子! 時間!』

『ふぇ? あ、そっか・・・えっと、とにかく、その・・・』

 

 

あはは、「主人公みたいな人」ですか。

和泉さんが主人公じゃないみたいな言い方はアレですが、その「主人公みたいな人」と言うのも、気になりますね。

すると和泉さんは、釘宮さんに促されて慌てたのか、アワアワしながら。

 

 

『アリア先生、大好きや――――っ!!』

 

 

・・・・・・・・・は?

 

 

『あ、やなかった、えと、あ、ありがとうございます――――――っ!!』

『亜子ちん、何に対してのお礼がわかんないよ?』

『桜子、あ、そっか・・・えー、ずっと一緒におってくれたり、えっと助けてくれたりっ・・・えーっと』

「いや、公衆の面前で何を叫んでるんですか!?」

「先生も、叫んでますよ」

 

 

思わず立ち上がって、片手でビシィッ、と突っ込みました。

その私に、長谷川さんが突っ込みを入れてきました。

すると自然、周囲の注目に私に集まるわけで。

 

 

「あ、子供先生だ」「武道会の子じゃね?」「名前なんだったっけ?」「確か、アリアって名前だったような」

「あ、可愛いー」「と言うか、あの和泉って子が言ってたのって、あの子?」「え、じゃあ何、あの2人・・・」

「嘘、そう言うことなの!?」「いかん、アリア先生がお困りだぞ!」「いや、それは無いでしょー、だって子供だよ?」「俺を弟子にしてくれ!」「てか、本当に先生なの?」「突撃親衛隊、退路を確保するのだ!」「おお、リアルちびっこ天才幼女だ・・・」「誰か、そいつをボコれ!」・・・。

 

 

ひ、ひゃああああああ!?

し、しまった、晴明さんがいないから、私普通に目立つんだ!

今までは、周りがライブに集中していたから良いような物の・・・。

 

 

こ、これはひょっとして、大ピンチ!?

 

 

 

 

 

Side 真名

 

「・・・ふ」

 

 

思わず、口元に笑みを浮かべる。

相も変わらず、騒動が絶えない人だ。

 

 

ライブ会場は今や、ちょっとした騒ぎになっている。

まぁ、そうは言ってもパニックになるような物じゃない。ざわめきが起こる程度の物だ。

と言うか、一部が統制のとれた動きでアリア先生を逃がそうとしているのは、気のせいか・・・?

 

 

『ご、ごめんなさ―――いっ!』

 

 

和泉が未だに何か騒いでいるが、まぁ、楽しめているなら、何よりだろう。

と言うか、今のは案外危なかったんじゃないか?

・・・なんてな。

 

 

チャキッ・・・と、ライフルを肩に担いで、さらにギターケースを手に持つ。

時間を確認すると、このエリアの担当が終わる時間だった。

シスターシャークティーと戦闘までしておいて、我ながら仕事に忠実な人間だ。

 

 

「次は、超の依頼の時間か・・・」

 

 

稼ぎ時とは言え、なかなかに忙しい。

しかし超の依頼は、個人的にも優先してやりたい。

魔法を世界にバラす、か・・・。

 

 

正直、超がどこまで本気でそれを成そうとしているのか、私にも読めない。

大国の一極支配が気に入らないとか言っていたくせに、世界征服は好きとか言う、良くわからない奴だが。

とはいえ、嫌いじゃないしな、別に。

きちんと報酬も支払ってくれているんだ、文句も無い。

 

 

「・・・アリア先生などには、怒られてしまうかもしれないが」

 

 

いや、意外と「そうですか」で済ませてくれるかも。

私がそんな、ありもしない期待をしてしまうこと自体、珍しいことだ。

はたして私は、超に勝ってほしいのか、それとも・・・。

 

 

「さぁ、仕事の時間だ」

 

 

余計なことは、仕事が終わってから考えれば良い。

特にこれからの仕事は、場合によっては今日一番の仕事だ。

 

 

何と言っても、<闇の福音>や麻帆良に集う全ての魔法関係者に喧嘩を売ろうとしているわけだしな。

その中には、元老院議員もいるとか。

ふふ・・・楽な仕事じゃないな。

 

 

しかし、一度受けた仕事は、よほどのことが無い限り完璧にこなして見せよう。

それが、プロと言うものだろう。

 

 

「それではまた、アリア先生」

 

 

おそらくは、また近く対峙することになるでしょう。

その時には・・・。

 

 

「ゆっくりと、狙い撃たせてもらいますよ」

 

 

 

 

 

Side 明石教授

 

ドネットから伝えられた話は、何と言うか・・・。

衝撃的、だった。

いや、ある意味で十分に予想できたことかもしれないけど。

 

 

「その話は、どこまでが本当なんだい?」

「最初から最後まで、全てが事実よ」

 

 

まぁ、ドネットはこう言うことで嘘も冗談も言わない。

そんなことは、昔からわかっていたことだ。

でも、思わずそれを疑いたくなったのは、僕が愚かなのかどうなのか・・・。

 

 

「学園長の弾劾措置を取る?」

「ええ、今の所、こちらの計画の最大にして最後の問題は、学園長と言う不確定要素だから」

「不確定要素って・・・」

「どう動くのかわからない存在を、不確定要素と呼ぶのではなくて?」

「いや、まぁ・・・」

 

 

確かに、学園長は時に意味のわからないことをするけど。

実際、それで僕ら魔法先生の一部も離反したんだけど。

 

 

でも、まさか公的に弾劾される時が来るとは思わなかった。

学園長は仮にも、関東最強・・・そして旧世界有数の魔法使いだ。

それを、本国が弾劾するか?

 

 

「とはいえ、外部勢力の我々が動くと、決定打に欠ける面が出てこないとも限らないわ」

「・・・それは、つまり・・・」

「ええ、貴方・・・と言うより、貴方達麻帆良の魔法使いの協力が欲しいの」

 

 

やっぱりか・・・。

ドネットに呼び出された時も、何だかそんな予感はあった。

こう言う予感は、外れてくれないからなぁ。

 

 

カタッ・・・と、缶コーヒーを飲む。必要以上に甘い。

ここは、魔法先生達が密談に使う小部屋だ。

外部と魔法理論的に分断されているから、中から鍵をかけてしまえば、覗くことも盗み聞かれることも無い。

 

 

「・・・それで、僕に、と言うか僕らにどうしろと?」

「学園長の指揮下から離れてほしい。方法は何でも良いの、ストライキでもボイコットでも」

「これはまた、はっきり言うね」

「表向き、現場関係者との関係の悪化と言うことで、左遷と言う形を取るつもりのようよ」

 

 

・・・学園長ほど、左遷しやすい人もいないよなぁ。

 

 

「クルト議員も、これほどクビにする理由探しに苦労しない人間は久しぶりだと言っていたわ」

 

 

元老院議員相手じゃ、流石にどうにも・・・。

と言うか、何で今まで学園長やってこれたんだろ・・・あ、そうだ。

 

 

「それで、次の学園長職は誰に? 関東魔法協会の理事職は?」

「そう、そのことなんだけど・・・」

 

 

ドネットの口から告げられたその名前に、僕はまた、驚くことになる。

え、大丈夫なのそれ?

 

 

でも、こう言う時、ドネットは嘘も冗談も言わないってことを、僕は知ってる。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・な、なかなか、大変でしたね・・・」

 

 

ライブ会場から逃げ出すのに、結構かかりましたね。

芸能人の気分を味わいました、なんて呑気なことを言っている場合でも無いですね。

 

 

これからは、もう少し行動を慎んだ方が良いかもしれません。

変装でもしますかね・・・?

 

 

「それにしても、和泉さんにも困った物です・・・」

 

 

感謝してくれるのはありがたいのですが、ああ言うのは少し・・・。

 

 

『大好きです!』

 

 

・・・ちょっと、嬉しいですけど。

えへへ・・・。

 

 

あ、そうです、時間。

廊下の時計を確認すると、8時を回っていました。

そろそろ、エヴァさん達との約束の時間ですね。

人目のつかない場所で、仮契約カードを・・・。

 

 

「お勤め、ご苦労様です、王女殿下」

 

 

不意に、私の後ろ―――具体的には、3歩程後ろ―――に、姿を現した人間がいました。

兆候も気配も、全く感じませんでしたが・・・同時に敵意も感じませんでした。

しかし、ある程度は緊張しつつ、目だけで確認します。

 

 

地面に片膝をつき、頭を垂れた体勢の女性が、そこにいました。

年の頃は、30代前半・・・でしょうか。大人の女性の年齢なので、見た目では判別できない所もありますが。

鋭い印象を受ける顔の造りをした、黒髪の女性。

ショートの髪の中で、一房だけ長いのが、印象的ですね。

 

 

右眼で確認した所、周囲に人払いと防諜の結界が瞬時に張られていました。

魔法使い。

それも、私を「王女殿下」などと呼ぶと言うことは・・・。

 

 

「・・・クルトおじ様のお知り合いの方ですか?」

「はい、お初にお目にかかります。私、ジョリィと申します」

「・・・そのジョリィさんが、私に何かご用ですか?」

「クルト様より、王女殿下の連絡係兼護衛として派遣されました。今回は御挨拶と、クルト様からの本日分の言伝が・・・」

 

 

小さく、しかしはっきりと聞こえる声で、ジョリィさんが言いました。

クルトおじ様からですか・・・。

護衛はともかく、連絡係ね。

 

 

「緊急の用件でなければ、先約がありますので、後にしていただけますか?」

仰せのままに(イエス・ユア・)王女殿下(ハイネス)

「・・・あと、私のことを王女殿下とか呼ばないでください」

 

 

こちらは、王族とか意味のわからない物とは無関係の生活をしてきたのです。

と言うか、王女で教師とか意味がわかりません。

 

 

「それは、王女殿下としてのご命令でしょうか?」

「だから・・・」

「そうでないのであれば、立場上、承服できかねます」

「立場?」

「我らオスティアの民にとって、貴女様はアリカ女王陛下のご息女。王女殿下とお呼びするのは当然の道理」

 

 

オスティア人。

ジョリィさんは、自分のことをそう言いました。

オスティアの民・・・アリカさんの国の、国民。

 

 

頭を上げて、その細く、鋭い黒の瞳を、私に向けてきます。

その目に宿っているのは・・・どんな感情でしょうか。

 

 

「特に私のような、女王陛下つき護衛武官だった者にとっては、最優先でお守りしなければならないお方」

「・・・」

「王女殿下、私は」

「少し」

 

 

こめかみに指を当てて、溜息を吐きます。

正直・・・。

 

 

「少し・・・黙ってください」

 

 

正直、気持ち悪いです。

ジョリィさんの私を見る目は、言ってしまえば、オスティアの民が私を見る目でしょう。

今はまだ、私の存在は公にされていないはずですが・・・。

 

 

やはり付き合うには面倒な相手でしたね、クルトおじ様。

まぁ、おじ様自身がどう考えているかは、ともかくとして・・・。

 

 

「・・・クルトおじ様に伝えてください」

「は、何なりと」

「勝手なことを、しないでください・・・と」

 

 

貴方達が、私に何を期待しているのかは知りませんけれど。

私の意思の無い所で、勝手に話を進めないでほしい。

 

 

「貴女もです、ジョリィさん」

 

 

勝手に、私に期待するな。そんな目で私を見るな。

・・・気持ち悪いんですよ。

 

 

私は、期待されることが、大嫌いなんです。

 

 

『・・・アリア、良いか?』

 

 

エヴァさんからの念話です。

私はそのまま、ジョリィさんを置いて、その場から離れました。

 

 

 

シンシア姉様、また一つ、面倒な事実が発覚しました。

 

 

 

アリアは、一部の方にとっては、王女様らしいです。

・・・迷惑極まりない、事実です。

 

 

 

 

 

Side 超

 

魔法先生達の追跡を逃れた後、私はいろいろな場所に、お別れを告げて回ったネ。

量子力学研究会、お料理研究会、東洋医学研究会。

・・・皆、「いつでも戻ってこい」と言ってくれたヨ。

 

 

ふふ、ハカセや五月がいれば、私などいなくても、立派にやっていけるだろうにネ。

たぶん、皆が言いたいのは、そう言うことでも無いのだろうがネ。

 

 

「超・・・」

「皆さんにお別れは済ませて来ましたかー?」

「ああ・・・大体、終わったヨ」

 

 

待ち合わせ場所には、すでに茶々丸とハカセが来ていたネ。

周囲には、誰もいない。

 

 

「まぁ、とはいえ、ただの身辺整理ネ」

「あはは、またそんなこと言ってー・・・でも、本当に帰ってしまうんですか?」

「そうです超、せめて卒業まで皆と・・・」

「世界樹の発光が早まらなければ、そうしても良かったのだがネ・・・」

 

 

と言うか、そこまできっちり計算して、ここに来たのだがネ。

異常気象とはネ・・・。

 

 

「でも、超さんがいなくなると寂しくなりますねー・・・」

「・・・ハカセ、科学に魂を売った我々に涙は似合わないネ」

「ええ、涙!? 私が!? まさか――――っ!」

「いいえ、きっちり目に浮かんでいました。映像再生しますか?」

「茶々丸? 何か最近、AIの進化の方向がおかしくない?」

 

 

まぁ、作った当初はこうなるとは思わなかったヨ。

情操教育と言う物は、AIをも進化させるのかと、ここに来て知ったヨ。

 

 

「でも、良いんですかー? このままだと、ネギ先生には、嫌われて、アリア先生にだってー・・・」

「それは、構わないヨ。と言うか、ネギ坊主に関しては、利敵行為を働いた以上、私が気遣ってやる必要は無いネ」

 

 

おかげで予定よりも早く、高畑先生と戦うハメになったからネ。

あれは、かなりキツかったヨ・・・。

 

 

「アリア先生に関しては・・・まぁ、仕方ないネ」

 

 

いろいろとやってしまったからネ・・・。

嫌われるのも、恨まれるのも、憎まれるのも、仕方が無いこと。

たとえ、そうであっても。

 

 

「誰にどう思われようと構わない。私は、私の目的を果たすまでネ」

「なかなか、良い心意気だな、超鈴音」

「え、エヴァンジェリンさん!?」

「・・・マスター」

 

 

ふわり・・・と、空から箒に乗って降りて来たのは、金髪の少女。

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

・・・不死の魔法使い(マガ・ノスフェラトゥ)

 

 

「・・・<闇の福音>」

「ああ・・・今まで随分と、私をコケにしてくれたな」

 

 

・・・ありゃりゃ。

これは不味いネ。正面からやり合うとちょっと・・・。

 

 

「今夜は、逃がさんぞ」

 

 

殺意のこもった笑みを浮かべながら、エヴァンジェリンがパチンッ、と指を鳴らした。

すると、側の街灯がグリャリ、と歪んだネ。

上を見れば・・・黒髪の少年と、見知った少女。

 

 

あれは、相坂サンと・・・スクナか。

スクナは、相坂サンを抱き抱えたまま、こちらを見下ろしてきているネ。

その瞳は、どこまでも冷たい。

そして、相坂サンは、どこか緊張した面持ちで私を見ているネ。

 

 

「・・・姉さん」

 

 

茶々丸の声に、後ろを見てみれば・・・刃物を持った人形が。

茶々丸の姉・・・チャチャゼロだネ。

正直、夜に会うと一番怖いヨ。

 

 

・・・囲まれたネ。

 

 

エヴァンジェリンは、一枚のカードを取り出すと、何かを呟いたネ。

あれは、仮契約カードカ。

相手は、もちろん・・・。

 

 

「『召喚(エウオケム・ウォース)』」

 

 

仮契約カードの召喚機能。

次の瞬間には、光に包まれて、一人の少女が姿を現した。

白い髪の、少女は・・・。

 

 

「・・・アリア先生カ」

「・・・こんばんは、超さん」

 

 

アリア先生はどこか不機嫌そうな声音で、そう言ったネ。

・・・あ、これ、確実に不味いネ。

 

 

「では、進路相談と行きましょうか」

「・・・実は私、まだ将来の夢とか無くてネ・・・」

「10歳ですが、頑張ります」

「いやぁ・・・」

 

 

なはは、と笑いながら、私は思ったネ。

・・・師姉、私、ここで死ぬかもしれないネ。

 




さよ:
さよです、こんにちは。
二日目もそろそろ終わりそうです。
今回は、アリア先生の視点を中心に、その周囲で動く方々の様子も描いてみました。
オスティアの方に出会ったのは、その際たるものだと思います。
ちなみに、シリアスで終わったためかはわかりませんが、同時上映の「ちび達の冒険」は、今回はお休みです。
・・・というか、なんだろ、これ。


さよ:
次回は、二日目の最後です。
いわゆる、最終決戦の前哨戦、みたいな話になるみたいです。
あわわわ・・・頑張ろうね、すーちゃん!


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第68話「麻帆良祭二日目・送別会」

Side 木乃香

 

最近、自分と言う存在が不安定になっているような気がするんや。

少しずつ、少しずつ・・・うちは「普通の人間」の範疇から、抜け出してきとるんやないかって、思うようになった。

 

 

それは、アリア先生のくれた『念威』のせいかもしれへん。

このアイテムは、うちの意識を広く、薄く、広げてくれる。

せやから、うちはこの麻帆良で起こってることの大半を探ることができる。

 

 

怖いくらいの範囲の情報が、うちの脳に伝わってくる。

世界の全てが。

 

 

「・・・ううん、きっとそれも、言い訳や」

 

 

本当は、晴明ちゃんと出会ってからやと思う。

アリア先生やエヴァちゃんや、千草はんに教えてもろてた時は、こんなことはなかったもん。

晴明ちゃんに出会って・・・スクナや、他にもたくさんの妖怪や魔物と契約した。

 

 

ひとつ契約を進めるごとに、うちは「普通の人間」から、離れて行くのを感じた。

スクナとの契約を一歩手前で止めているのは、それ以上進むと危ないから。

晴明ちゃんも、これ以上は危ないって言っとった。

才能があり過ぎて、順応がすご過ぎて。

 

 

人間を辞めるつもりが無いなら、ここで修行を止めた方がええて。

事実うちは、自分の存在が少し、希薄になったような気がしとる。

気を抜くと、消えてしまうんやないかって、思ってしまう。

 

 

「このちゃん?」

 

 

でも、うちにはせっちゃんがおる。

せっちゃんが、うちを「人間」に留めてくれる。

凛々しい顔立ちの中に、眩しいくらいの光を持って、うちに示してくれるんや。

 

 

こっちやよ、って。

ここにおるよって、うちに言葉をかけてくれるんや。

澄んだ、綺麗な声で、せっちゃんは、うちの名前を呼んでくれる。

 

 

それが、どれだけ嬉しくて、どれだけ凄いことなんか、せっちゃんにはわからへんやろうな。

 

 

「このちゃん?」

「・・・ああ、ごめんなぁ。ちょっとぼうっとしとった」

「もう・・・このメール、どうします?」

「せやねぇ・・・」

 

 

メールって言うのは、くーふぇからクラスの皆に回されてるコレのことやね。

うちの携帯にも、来とる。

 

 

携帯をしまって、ふと空を見る。

すっかり暗くなって、二日目も終わりやな。

うちは・・・。

 

 

「・・・アリア先生らを、迎えに行こうか」

「そうですね、そう言えば今日は、会ってませんし・・・」

「それに、たぶん主賓と一緒におると思うし」

「主賓?」

 

 

不思議そうな顔で、せっちゃんはうちを見る。

うちは、せっちゃんの顔を見て、眩しそうに目を細めた後・・・。

 

 

「せっちゃん」

「何、このちゃん?」

 

 

にっこりと、微笑んだ。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

『すまないね、明日菜君。夕食くらいは一緒にと思ったんだけど・・・』

「い、いえ、そんな・・・お忙しいなら、仕方ないですよ」

『すまない。ネギ君のことと言い、明日菜君には迷惑をかけてばかりだ』

「な、何言ってるんですか、高畑先生が謝ることなんて・・・」

『今度、埋め合わせはするから・・・』

 

 

二日目のパレードを横目に、高畑先生と携帯電話でお話。

普通なら、舞い上がって話なんてわかんないんだろうけど、今は別の意味で何話してるんだかわかんない。

 

 

武道会が終わった後、高畑先生が晩御飯に誘ってくれた。

今までのお詫び・・・とか、意味分かんなかったけど、私的には、高畑先生と一緒できるってだけで、十分だったんだけど。

ネギのこととか、超さんとか・・・いろいろと悶々としてたから、嬉しかった。

 

 

「・・・まぁ、それも今無くなっちゃったんだけど・・・」

 

 

ぱたむっ、と携帯を閉じて、深く溜息。

ネギとも、何となく話しにくくて、美術部を言い訳に逃げたんだけど。

・・・告げ口、もとい、どうしたら良いかわからなくて、高畑先生に相談したんだけど・・・。

 

 

・・・思いっきり、叩き潰されちゃったんだけど、あいつ。

おかげで、罪悪感とかそう言う物がドンドン湧き上がってきちゃったんだけど。

ああ、もう。どうすれば良いんだろ、結局。

 

 

「あら、そんな所で何をしているんですの?」

「あ、明日菜だ!」

「こんな所でどうしたですか、明日菜さん?」

「いいんちょ・・・と、鳴滝姉妹?」

「「略された!?」」

 

 

そこにいたのは、いいんちょと鳴滝姉妹。

何か、大きな紙袋を抱えてるんだけど・・・何してるんだろ?

 

 

「何してんの?」

「それはこっちの台詞ですわ。クラスの召集にも応じないで・・・」

「クラスの?」

「メール見てないのー?」

 

 

メール?

確認すると、何件か来てた。

・・・高畑先生のことで頭がいっぱいだったから、気付かなかった。

 

 

「・・・って、超さんが転校!?」

「今さら気付いたんですの? ・・・と言うか、その格好・・・まさか、ネギ先生とデート!?」

「違うわよ! あんたの頭にはネギのことしか無いわけ!?」

「ええ!? 明日菜、ネギ先生を振ったですか!?」

「ちっがう!」

 

 

いや、確かにちょっと頑張ってオシャレしてるけど!

断じてネギのためとかじゃないわ!

じゃあ、何って言われても困るけど・・・と言うか、落ち込むけど。

 

 

・・・あ、本気で落ち込んできた。

 

 

「と、とにかく、超さんが転校ってどういうこと?」

 

 

超さん、これから何か、凄いことをするはずなんじゃ・・・。

それがどうして、転校騒ぎになるの?

 

 

「詳しいことは私も存じませんが・・・古菲さんの発案だそうですわ」

 

 

くーふぇの?

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

どうしたら良いのかしらね、このバカは。

私の目の前には、もう、今にもジャパニーズ土下座しそうなネギがいる。

 

 

まぁ、何でこんなことになっているのかと言うと、ネギがカモを解放してほしいって言ってきたから。

一応、気絶させちゃったのは不味かったかな~って思って、部屋に入れてあげたんだけど。

それこそ、不味かったかもしれないわ。

 

 

「お願い、アーニャ!」

「いや、だから・・・あのね、ネギ。そいつは犯罪者なの。しかも脱獄犯なの、OK?」

「で、でも、カモ君は僕の友達で・・・悪い子じゃないんだ!」

「あ、兄貴・・・!」

「貴方は、黙っていなさい」

 

 

籠の中でカモが何か感動したような顔をしたけど、エミリーが黙らせた。

フォークで兄を突く妹と書くと、なんだか凄いことのような気がするわね。

 

 

と言うか、ネギは私の言ってること、わかってるのかしら?

悪い子じゃなかろうと、友達だろうと、犯罪を犯せば捕まるのは当たり前。

私だって別に、個人的がカモが嫌いなわけじゃない。

軽蔑はしてるけど。

 

 

「・・・どうしてもカモを助けたいって言うなら、ちゃんとそれなりの手続きを経てからにしなさいよ」

「て、手続き?」

「そ、正式な文書で申請するとか、保証人制度を受けるとか・・・いろいろあるでしょ」

 

 

まぁ、カモは脱獄犯だから、通るとは思えないけど。

 

 

「私も、仕事で来てるの。悪いけど幼馴染だからって特別扱いはできないわ」

「アーニャ・・・」

「・・・第一、何よその女の人達は!」

 

 

どう言うつもりか知らないけど、ネギは3人も女の人を連れて来てた。

しかも、どう見ても一般人!

でも、魔法のことは知ってるって言うし・・・何なのよ!?

 

 

「え、あ・・・こ、この人達は僕の生徒なんだ。この人とは仮契約もしてて・・・」

「み、宮崎のどかですー」

「綾瀬夕映です・・・仮契約はしてないです」

「早乙女ハルナです! 仮契約しに来ました!」

「はぁっ!?」

 

 

最後の子、一番意味がわからなかったんだけど!?

仮契約したいって・・・意味、わかって言ってるのかしら・・・?

 

 

と言うかネギは、こんな一般人の人達と仮契約したり、しようとしたりしてるわけ?

綺麗な女の人に囲まれて、ヘラヘラしてたわけね。

ヘラヘラと・・・アリアにばっかり負担をかけて。

そりゃあ、アリアにも愛想尽かされるわよね。

 

 

・・・やっぱりもう一発、殴っておこうかしら。

 

 

「ネギ、あんた・・・」

 

 

私が喋り始めたその時、軽快な音楽が流れた。

何と言うか、場の空気を壊す音だったとだけ、言っておくわ。

 

 

「あ、メールだ・・・古老師から?」

「あ、私にも・・・」

「こっちも来たわ」

「私もです」

 

 

・・・?

何なのよ、いったい。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「茶々丸、ハカセを頼むネ」

「・・・わかりました」

 

 

葉加瀬さんを茶々丸さんに任せて、超さんは私とエヴァさんの前に進み出て来ました。

気負った様子もありませんし、エヴァさんからの話では、不思議な道具を使うとか。

 

 

・・・不思議な道具を使う。

そう言うのは、私の専売特許だと思っていましたけれど。

 

 

「・・・アリア先生は、私の計画の大まかな内容を知っていると聞いたが、本当かネ?」

「茶々丸さんに聞いたんですか? だとすれば、その回答はイエスです」

「なるほど・・・だとするならば、私を止めに来たカ? 魔法使いとして」

「まさか」

 

 

何が悲しくて、魔法使いとして行動しなければならないのですか。

死んでもご免です、そんなの。

 

 

ただ、やはり・・・視えない。

私の魔眼に、何の反応もしません。

エヴァさんの話が本当なら、マジックアイテムらしき物をいくつか所持しているはず。

だと言うのに、私の『複写眼(アルファ・スティグマ)』には何の反応もありません。

 

 

「・・・貴女は、何者ですか、超さん」

「・・・ふむ、私の正体が知りたいかネ」

「私はどうでも良いが・・・まぁ、一応聞いてやろう」

「ふふふ・・・」

 

 

エヴァさんの言葉に妖しく微笑んで、超さんはバサァッ、と着ていたローブを脱ぎ捨てました。

その下には、何故か「超包子」のロゴの入った奇妙なスーツ。

 

 

「ある時は謎の中国人発明家、クラスの便利屋、マッドサイエンティスト!」

「・・・自分で謎って言いましたね」

「またある時は、学園№1天才少女! そしてまたある時は人気屋台超包子のオーナー!」

「あいつ、自分で天才って言ったぞ」

「黙って聞くネ! ・・・しかして、その実体は・・・!」

 

 

超さんは、なぜかそこで力を溜めました。

その時点で、エヴァさんが上の方を見て、片手で「やれ」のジェスチャー。

 

 

「何と火星から来た火星人ネ!」

「ちぇりお――――っ!!」

 

 

ズガンッ・・・と、大地を割る勢いで、街灯の上から飛び降りたスクナさんが、超さんを踏み潰・・・蹴り潰しました。

いえ、蹴り潰したと言う表現もおかしいいですかね・・・。

 

 

地面が小さなクレーターを形成し、ぼふんっ、と煙が巻き起こります。

あー・・・派手に壊して、後で『レストレイション』でも使って直しますか。

 

 

「ち、超さん――――っ!?」

 

 

葉加瀬さんの悲鳴が響く中、エヴァさんが鬱陶しそうに左手を振ります。

無詠唱の『風よ(ウェンテ)』が発動し、煙が晴れます。

その先には、さよさんをお姫様抱っこしたスクナさんが。

 

 

そして、それ以外には誰もいませんでした。

 

 

「いやぁ、びっくりしたネ」

 

 

背後から、超さんの声。

速い・・・違いますね、コレは。

 

 

「カシオペアとやらか!」

「そのようです・・・ね!」

 

 

袖口から『神通扇』を取り出し、鉄扇を振るうエヴァさんに合わせて、背後に振ります。

ぼひゅっ・・・と言う音を立てて、私とエヴァさんの扇は、背後で妖しく笑っていた超さんの首を捉えます。

しかし、まるで擦り抜けるように、超さんの身体が消えます。

 

 

次いで、やはり背後に。

これは、カシオペアによる短時間・短距離時間跳躍。

対抗するには、いろいろと条件があるのですが。

 

 

「アリア、何とかしろ!」

「丸投げですか・・・」

 

 

思わず、苦笑します。本当にエヴァさんは、自信満々に言いますね。

でも、嬉しくもあります。

 

 

私なら、なんとかできると思ってくれているのですから。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「丸投げですか・・・・・・では、12秒ください、何とかします」

「遅い、7秒でやれ」

「10秒でお願いします」

「9秒」

「わかりました」

 

 

そう言って、アリアは一歩下がり、逆に私が前に出る。

目の前には、あのいけすかない超鈴音が、ムカつく笑みを浮かべていた。

 

 

「は・・・殺されても文句を言うなよ、超鈴音!」

「構わないヨ。思いを通すのは、いつだって力ある者のみ・・・だからネ」

「良く言ったぁ!」

 

 

パチンッ、と指を鳴らし、次いで右足を二度踏み鳴らす。

それで、チャチャゼロ、さよ、バカ鬼に意味は通じる。

茶々丸には指示を出さない、ハカセと離れていればそれで良い。

 

 

私自身は、超めがけて突撃をかける。

超もまた、私を迎え撃つ。

シャ・・・と、手を出す。当然、超も手を出してくる。

 

 

「ふっ・・・」

「・・・ほっ」

 

 

右上、左下、そして左・・・と、超の拳や手掌が私に襲いかかってくる。

しかし真祖の吸血鬼である私の動体視力は、超の動きの全てを見抜き、かつ速さと力で押される事もない。

 

 

右上からの攻撃を左手で弾き、左下からの蹴りはかわし、最後に左からの拳を受け止める。

受け止めた超の右腕を鉄扇で固定し、技を・・・。

と、思った瞬間、超の身体が掻き消えた。

 

 

目醒め現れよ(エクス・ソムノー・エクシスタツド)浪立つる水妖(エクスンダンス・ウンディーナ)水床に(イニミークム・インメルガツト)敵を沈めん(イン・アルウエム)!」

 

 

なるほど、時間跳躍。確かに厄介だ、だが・・・。

 

 

「『流水の縛り手(ウインクトウス・アクアーリウス)』!」

「おお!?」

 

 

私が影を使った転移(ゲート)でその場に沈んだ瞬間、さよの捕縛魔法が超を襲った。

私が、そのさよの影から身体を出した時には、やはり時間跳躍で捕縛魔法を逃れた超に、バカ鬼が肉薄していた。

チャチャゼロと入れ替わり立ち替わり、拳と刃で全方位から攻撃する。

 

 

流石の超も、回避で精いっぱいになっているようだ。

 

 

「さよ!」

「はい!」

 

 

無詠唱の氷属性『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を。合わせて160作る。

そして同時に、かつある程度の初速のバラつきを与えて、それらを一斉に放つ。

 

 

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の101矢(グラキアーリス)!』」

「『魔法の射手(サギタ・マギカ)連弾(セリエス)氷の59矢(グラキアーリス)!』」

 

 

同時に、バカ鬼とチャチャゼロが離れる。

次の瞬間、私とさよの魔法の矢が、超めがけて殺到した。

本当は1000程叩き込んでやりたい所だが、この場所ではこれが限界だ。

160の魔法の矢は、数秒かけて着弾し・・・。

 

 

「・・・これ、餞別代りに貰っても良いカナ?」

 

 

当然のような顔をして、超が私とさよの背後に。

しかもその手には、私のリボンと、さよの和風ドレスの飾り房が握られていた。

 

 

ち・・・やはり、死角に回り込まれるくらいならともかく、時空間の外に行かれると、捉えるのが難しいな。

しかし、そうは言っても超も私達にダメージを与えることはできていない。

時間跳躍も無限にできるわけでもあるまい、消耗戦になれば私達が勝つだろうが。

 

 

「そこまで付き合ってやる気も無いさ・・・なぁ、アリア」

「まぁ、朝までバトルとか、面倒極まりないですからね」

 

 

次の瞬間、全てが停止したような音が響いた。

 

 

 

 

 

Side 超

 

・・・カシオペアが、機能を停止したネ。

同時に、軍用強化服のレーダーが、半径200m圏内の空間に異常を感知したネ。

 

 

カシオペアも使えず、しかも何となく、空間ごと固定化されたかのようなこの現象。

これは・・・。

 

 

「『時空間固定杭』」

 

 

ふわり、と、私の背後に降り立ったアリア先生。

その声は、どこか冷たい。それでいて、何か別の感情を感じさせる声音。

 

 

「本来は転移での逃亡を防ぐために、時空間を固定するための魔法具ですが・・・カシオペアにも有効なようですね」

「まぁ、時間軸ごと固定化されてしまうと、移動先を計算できないからネ」

 

 

科学と言う物は、ある意味で魔法以上にシビアなのヨ。

デリケートだしネ。

いや、それはそれとして、これはヤバいネ。

 

 

懐に手を入れて、以前、エヴァンジェリンからの逃亡に使った羽根に触れる。

転移用魔法具『ギルギアヌの黒翼』・・・しかし、この空間から外に出る必要があるネ。

一旦この包囲網から逃れて、次いでハカセを連れて逃げるカ。

とは言え他の道具で対抗しようにも、アリア先生相手だと、どこまで効果があるカ・・・。

そこまでの数を持ってきたわけでは無いしネ。

 

 

「ふふん、なんだ、もう詰みか? やはり貴様は逃げるしか能の無い奴だったのだな」

「く・・・流石ネ、エヴァンジェリン。他人の手柄をまるで自分の手柄のように」

「バカにしとるのか貴様!?」

 

 

バカになどしていないネ、むしろ尊敬しているヨ、<闇の福音>。

ただ、今まさに命の危機に瀕しているということだけを除けば。

 

 

正直、不味いネ。

私のアーティファクトは、相手が増えると効果が薄まるのヨ。

おまけに、相手は全員、それなりの力を持っているネ。

 

 

「まぁ、良い。これで貴様を心おきなく嬲り殺せると言う物だ」

「・・・できるだけ、優しくして欲しいネ」

「善処・・・など、するわけが無いだろうが!!」

 

 

ズダッ!・・・っと強く踏み込んで、エヴァンジェリンが飛び込んでくる。

その右手には、魔力でできた剣。

あれは・・・『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』。

 

 

本気だネ。

後ろにはアリア先生がいる。四方にはエヴァンジェリンの身内。

茶々丸には動かないように言ってある。ハカセ自身は戦力を持たない!

 

 

仕方無い、ここで切り札の一つを切る。

他の物と違って、一度しか使えないが・・・やむを得ないネ!

 

 

「『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』!!」

「・・・エヴァさん、待って!」

 

 

私が懐から取り出した「ソレ」に、アリア先生が声を上げる。

流石に、コレの効果はわかるカ。

しかし、エヴァンジェリンはすでにモーションに入っているネ。

ならば、コレは先に発動させることができる。

 

 

これは、後の先を取る武器なのだから。偽物だけどネ。

 

 

「『斬り抉る(フラガ)・・・」

 

 

しかし、次の瞬間。

 

 

「そこまでや!」

 

 

そんな声と同時に、私とエヴァンジェリンの間に、何か大きな物が落ちて来たネ。

それは、大きな鬼だったネ。

赤い肌に、大きな棍棒を背負っている。

そして、その肩には・・・。

 

 

「・・・木乃香サン?」

「こんばんはやな、超りん」

 

 

にこっ、と微笑みを浮かべているのは、クラスメートにして関西の姫、近衛木乃香サン。

その向こうでは、刹那サンが野太刀でエヴァンジェリンの『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』を受け止めていたネ。

ギリギリと・・・魔力と気が鬩ぎ合っている音が、ここまで聞こえているヨ。

 

 

「・・・なぁんのつもりだ、刹那?」

「い、いえ、その何と言うか、私も本意では無いと言うか・・・」

「ヌワハハハ、久々の出番かと思えば、祭りか、ええのぅ!」

「あー・・・酒呑さんですか」

 

 

酒呑とか言うその鬼は、木乃香サンを地面に降ろすと、ドカドカと歩いて・・・。

 

 

「しばらくじゃの、旦那!」

「おお~、オヤビン。久しぶりだぞ!」

「え、えーと、すーちゃん、知り合い?」

「おお~、この別嬪さんは誰じゃい?」

「嫁だぞ!」

「ちょ、すーちゃ・・・!」

 

 

な、何か、急に賑やかになったネ・・・?

少しばかり戸惑っていると、木乃香サンが私の傍に来て、私の手を取ってきたネ。

・・・?

 

 

「ほな、行こか!」

「い、行くって・・・どこに?」

「あ、おいコラ木乃香! 勝手に・・・」

「ま、まぁまぁ、エヴァンジェリンさんもどうか落ち着いて・・・あ、前髪が・・・」

 

 

木乃香サンは、私、エヴァンジェリン、アリア先生達、茶々丸とハカセを一人一人、優しげな目で見つめた後。

ただ、にっこりと微笑んだ。

 

 

「皆の所や」

 

 

 

 

Side アリア

 

『ようこそ、超りんお別れ会へ―――っ!!』

 

 

パンッ、パンッ、パパ――ンッ!

軽快な音を立てて、色とりどりの紙吹雪や紙テープが。

そしてそれらの全ては、超さんに向けられた物です。

 

 

「ちゃおちゃお~、イキナリお別れなんて突然過ぎるよ――っ」

「何で何にも言ってくれなかったの?」

「と言うか、本当に転校しちゃうの?」

 

 

3-Aのクラスメートの方々が、超さんを囲んで騒いでいます。

お別れ会、ですか。

あるだろうとは思っていましたが、まさか・・・。

 

 

「まさか、刹那さんや木乃香さんが迎えに来るとは思いませんでした」

「あ、いえ、これはこのちゃんが言いだしたことと言うか・・・」

「木乃香さんが?」

 

 

その木乃香さんは、千鶴さんや四葉さんと一緒に、テーブルに並べられたお料理を運んだり取り分けたりしています。

あの木乃香さんが、私達の話し合い・・・と言う名の戦いを止めに来た?

 

 

それは、木乃香さんにしては珍しい判断ですね。

 

 

「えっと・・・たぶん、このちゃんは、クラスメートの喧嘩を仲裁した、くらいに考えてるんじゃないかと・・・」

「それは、逆に末恐ろしいですね・・・」

「それに、超さんが何を考えているのだとしても・・・2年間一緒に過ごした、お友達ですから。転校と言う話が本当なら、こう言う場があっても良いんじゃないか、と・・・」

「は、それにクラスの連中の前なら、超はもちろん私も大人しくすると思ったわけか。甘いな、この杏仁豆腐くらい甘い」

 

 

言いつつ、杏仁豆腐をパクつくエヴァさん。

もう、かなり「興が削がれた」みたいな空気出してますね。

乾杯の前に食べるのは、どうかと思いますけどね。

 

 

刹那さんもそんなエヴァさんを見て、苦笑しています。

なんだかんだで、人目とかそういうのには注意してくれますから。

 

 

「それに・・・やっぱり、何も言わずにお別れと言うのも、寂しいですから」

「・・・」

「・・・な、なんですか?」

「・・・いえ、何も言わずに木乃香さんの前から去ろうとしていた刹那さんが言うと、成長を感じるなぁ・・・と」

「そ、それを言われると・・・弱いと言うか」

 

 

急遽設営されたらしいお立ち台の上では、雪広さんが風香さんと明石さんに「話が長い!」とスピーチを妨害していました。

・・・スピーチと言うのは、長い物ですよ。

しかし、まぁ・・・。

 

 

「・・・ところで、私の所には、お別れ会のお知らせメールが届いていないのですが」

「え・・・そんなはずは」

「それは、おそらく・・・」

 

 

その時、茶々丸さんが、私の疑問に答えてくれました。

 

 

「アリア先生が、プライベート用の携帯電話をお持ちでないからだと思います」

「・・・え?」

「え、あれ・・・アリア先生、携帯持って無いんですか!?」

「え、そ、そんなはず。だって・・・コレ!」

 

 

ポケットから取り出したのは、いつか新田先生から貰った携帯電話。

今日も何度か使いました、この「お仕事用」の携帯・・・。

・・・お仕事用の?

 

 

「はい、それはお仕事用の携帯電話ですので・・・クラスメートのメールアドレスなどは、登録されておりません。私達とは携帯が無くてもお話が可能ですので・・・」

「・・・ええ!?」

「いや、ええっ・・・て、今まで気が付かなかったんですか・・・?」

 

 

今明かされる、衝撃の事実。

私は、生徒とメルアドを交換していなかった!

・・・教師としては、普通な気がします。

だって、普通自分の生徒とメールアドレス交換とか、しないと思いますし。

 

 

個人的にそう言うことをやると、問題だと思いますし。

まぁ、それでも数人くらいは、知ってる物かもしれませんが・・・。

 

 

「ネギ坊主は、全員とメールアドレスを交換しているようでござるよ」

「・・・!」

 

 

通りすがりに囁くのは、長瀬さん。

ネギができていることを、私はできていない・・・!

 

 

つまり、3-A内において、私はネギ程生徒と絆を築けていないと言うこと?

え、それは正直、結構ショックです・・・。

私は、杏仁豆腐をパクついてるエヴァさんの服の裾を引っ張りながら。

 

 

「エヴァさん、携帯買ってください!」

「ぶふぅっ!・・・な、何?」

「あ、間違えました・・・携帯買って良いですか!?」

「いや、なんで私に許可を求めるんだ!?」

「え、だって・・・」

 

 

エヴァさん、家長じゃないですか。

こう言うのは、ちゃんと家の代表の人と言うか、保護者的な人の許可を得ないとでしょう?

ハンコとか、いりますよね?

 

 

「大体、お前・・・仕事用のがもうあるだろ、それでやれ、それで」

「プライベートのが欲しいんです!」

「マスター、私からもお願いします」

「なんふぁかよふわふぁらふぁいふぇお、ふぁふぉふお!」

「すーちゃん、お口いっぱいで喋っちゃダメだよ」

 

 

なんだかよくわかりませんが、スクナさんもお願いしてくれます。

・・・と言うか、なんでこの人ここにいるんでしょう?

すっかり溶け込んでますけど。ひたすらお肉を食べてますけど。

 

 

「しかしなぁ・・・最近の携帯は危ないと言うじゃないか。私だって持って無いし」

「アリア先生なら、きっと大丈夫です、マスター」

「そうです、精神年齢考えてくださいよ!」

「どうせなら、皆で買いましょうよ。私達も持って無いですもん」

 

 

よし、何か良い感じで包囲網ができていますよ・・・!

これで私も、携帯電話をゲットです!

 

 

「え、なになーに、エヴァちゃん達、携帯買うの?」

「だったら今しかないよー♪ 麻帆良祭でどこもセール中だから! あ、これカタログ」

 

 

柿崎さんと椎名さんの援護射撃!

よし、ここでたたみかけるんです・・・!

 

 

「あはは、仲ええなぁ」

「そ、そうですね」

 

 

木乃香さんと刹那さんが、生温かい目で私達を見ていました。

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

大切な友達が、遠くに行ってしまう時。

なるべく笑顔で、でもたくさん泣いても構わない。

だけど、お別れはきちんとしなくちゃいけない。

 

 

瀬流彦先生にそう言われて、超のお別れ会を開こうと思った。

いいんちょにお願いしたら、ちょうど3-Aで打ち上げパーティーをやるから、それを改造しようと言ってくれたアル。

いいんちょは、ネギ坊主が絡まない限り、頼りになるアル。

 

 

クラスの皆も、声をかけたらすぐに来てくれたアル。

正直、すごく感動したアル。

でも・・・。

 

 

「さぁ、泣け、泣くんだ超りん―――っ!」

「や、止めるネ、やめ―――――っ!?」

「問答無用――――っ!」

 

 

超の開発したマジックハンドで、明石やまき絵たちが、超をくすぐり続けているアル。

何でも、「超の涙を拝ませろ」とか言っているアル。

確かに、超はあまり泣いたりとかはしなかったアルから。

 

 

お別れくらい、感動の涙で咽び泣いてほしいと言う、クラスメートの好意。

・・・好意かは、ちょっと微妙アルが・・・。

 

 

「いやー、ヒドイ目にあったヨ・・・」

「あはは、まぁまぁ」

「貴女達は、まったく・・・!」

 

 

途中、いいんちょが止めたアル。

まぁ、流石の超もクラスメートには敵わなかったということアルネ。

 

 

「・・・ほら、くーふぇ」

「いつまでも隠れてないで、さ」

 

 

ハルナと春日が、私の背中を押してくれる。

い、いざとなると、気恥かしいアルネ・・・やっぱり。

 

 

「超・・・」

「ふふ・・・内緒にしてくれと、言ったはずヨ?」

「す、すまないアル。でも・・・ちゃんと、お別れしたかったアルから・・・」

 

 

そう言うと、超は少し驚いた顔をしたアル。

餞別に、師父から貰った双剣を渡すと、もっと驚いた顔をされたアル。

でも、超の故郷は遠くて、もう会うのは難しいアル。

だから・・・。

 

 

「・・・ああ、古が泣いてどうするネ・・・」

「な、泣いて無いアル」

 

 

本当アルよ?

全然、涙なんて流れていないアル。

 

 

「・・・超」

「何かな、古?」

「・・・ありがとう、友達でいてくれて。できればこれからも、友達でいてほしいアル」

「・・・ぬ」

 

 

私の言葉に、超の顔がかすかに赤らんだアル。

それから、頬を軽くかいて・・・笑った。

 

 

「・・・うん」

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

「ち、超りんがデレた・・・!」

「涙とは違うけど、これはこれで・・・!」

「ちょ、デレたとかじゃないヨ!?」

「いやいやー、可愛かったですよー?」

「ハカセ! バカなことを言うもんじゃないネ!」

 

 

超さんは、クラスの皆に囲まれて楽しそうにしてる。

でも、どうして急に転校なんて・・・。

 

 

超さんはこれから、大事な計画があるのに。

アーニャも、カモ君を返してくれなかったし・・・。

 

 

「・・・ねぇ、ネギ」

「あ、明日菜さん、美術部はどう・・・って、なんだかとてもオシャレですね!」

「う、うるさいわね」

 

 

髪も下ろして、いつもよりも大人びた雰囲気の明日菜さん。

誰かに会う予定だったのかな、美術部にしては違う雰囲気だし。

 

 

明日菜さんは、超さんの方を見ながら、どこか話しにくそうな顔で。

 

 

「あんたさー、このまま超さん手伝って、本当に良いわけ?」

「え・・・」

「超さんって・・・言いたくないけど、悪いこと、してるんじゃない?」

「で、でも超さんは・・・何か、これから起こる大変なことを、止めるために頑張ってる・・・んですよ?」

 

 

それに、カシオペアや珍しいマジックアイテムだって貸してくれた。

僕の悩みを解決してくれようとしたし、何より。

超さんは、僕の生徒だし。

生徒を疑うなんて、良くないよ。

 

 

「・・・私も、不安です」

「ゆ、ゆえ?」

「夕映さん?」

 

 

のどかさんの後ろにいた夕映さんが、不安そうな顔で、僕を・・・そして遠くの超さんを見ていた。

超さんは、僕達の視線に気付くと、少し微笑んで、ウインクしてきた。

 

 

夕映さんは、それから目を逸らすように。

 

 

「そもそも超さんの言う悲劇とは、誰にとっての悲劇ですか? 魔法を世界に広めることが、いったいどうして、その悲劇を防ぐことに繋がるのです? 私達は、詳しい話を何一つ聞いてはいないです」

「それは・・・」

「それに、超さんは高畑先生に怪我をさせたのよ? 正直、私はあまり信用できない」

 

 

タカミチに怪我を?

それって、つまり超さんが、タカミチよりも・・・。

それに最近、超さんは何度もエヴァンジェリンさんに絡まれていて、それでも計画を進めていて。

やっぱり、凄い人だ、超さんは。

 

 

「・・・ネギ?」

「え、あ・・・はい!」

「ネギせんせー・・・?」

「そうですね・・・幸い、まだ時間はありますし、またお話を聞いてみます」

 

 

確かに、詳しい内容とかは聞いて無いし、ちゃんと聞いた方が役にも立てるはず。

よりよい未来のために頑張るのが、僕達魔法使いの使命。

 

 

きっと、タカミチや他の人達も、わかってくれると思う。

 

 

「先生だけが、納得したって・・・」

「・・・え、ゆえ、何か言った?」

「い、いえ、何にも無いです、のどか」

 

 

・・・?

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「私は未来からやって来た、ネギ坊主の子孫ネ♡」

 

 

私がマスターと「子供の情操教育に携帯は必要か否か」を話し合っていた時(「いや、私子供じゃないですから!」)、超はクラスの皆さんに爆弾発言を行っていました。

超の血液情報を見たことがありますが、確かに、アリア先生の血液情報と酷似している点がありました。

いわゆる、DNA鑑定と言う物でしょうか。

 

 

超の言葉が本当だとするなら、ネギ先生と比べれば、より事実がはっきりするでしょう。

超は、ネギ先生の子孫。アリア先生の血縁者です。

 

 

そのうちに、流石に騒ぎ疲れたのか、クラスメートの皆さんは、一人、また一人と就寝していきました。

日付が変わる頃には、私達以外の全員が、眠りに就いてしまわれました。

スクナさんは、さよさんの膝枕でお休みされていますが。

アリア先生が一人一人に毛布をかけて行くのを、私もお手伝いします。

 

 

お別れ会場の隅の方では、ネギ先生達もお休みになられているようです。

明日菜さんが、「まったくもー」とか言いつつ、毛布をかけて行きます。

 

 

「・・・私は、明日までは何もしないヨ、エヴァンジェリン」

「だから何だ。明日には私に殺されてくれるのか?」

「冗談にしては、目がマジネ・・・」

「本気だからな」

 

 

マスターは、場所が場所ならば今にも襲いかかっているだろう状態です。

アリア先生は、何とも言えないような目で超を見ています。

いえ、視ています。

 

 

「・・・超さん、貴女・・・」

「うん? どうして私が貴女しか知り得ない魔法具を持っているのか、カ?」

 

 

超は、異様に強力なマジックアイテムを5つ所持しています。

一つはネギ先生に貸し出している様ですが、私も全てを知っているわけではありません。

 

 

しかし、その全てが、この世界には存在しえない力を秘めた魔法具です。

まるで、アリア先生謹製の魔法具を見ているような。

そんな気分にさせられる道具の数々。

私自身、超が何故それらを所有しているのか、知らされてはいません。

 

 

「まぁ、詳しいことは禁則事項だから言えないガ・・・」

 

 

超は、秘密めいた笑みを浮かべると、アリア先生とマスターを見て。

 

 

「あるところに、たくさんの宝石を持った人がいたとするネ。でもその宝石を欲しがった別の人間が、その人を閉じ込めて、宝石を奪い続けた・・・と言う、まぁ、そんなお話なのだがネ」

「・・・はん、まぁ、人間の世界では良くある話だな」

「そうネ・・・良くある話ネ」

「で、それがお前にどんな関係があるんだ?」

「何、大した関係じゃないヨ」

 

 

宝石、と言う表現をしていますが、この場合の宝石とは、魔法具のことでしょうか。

それも、アリア先生の魔法具。

閉じ込められ、奪われ続ける。

 

 

聞いていて、あまり気持ちの良い単語ではありませんね。

 

 

「私はただ、その人が持っていた宝石をいくつか、受け継いだだけネ」

「受け継いだ・・・奪った、では無くか?」

「そんなことはしないネ」

 

 

固い声で、超は言いました。

笑みを浮かべ続けていた顔は、今では何の表情も浮かべていません。

無表情。

 

 

「アリア先生」

「・・・なんでしょうか?」

「アリア先生だけではなく・・・皆も、過去を変えたいと思ったことは無いカ?」

 

 

過去を変えたい。

超の源泉は、どうやらそこにあるようです。

 

 

「600年前・・・60年前・・・10年前、6年前。不幸な過去を変えたいと思ったことは、無いカナ?」

 

 

超の問いに、マスター達は・・・。

 

 

マスター、さよさん、アリア先生。

姉さんや、寝たふりをしてさよさんの膝枕を続行しているスクナさん。

私が見ている中、視線を交わして。

そして。

 

 

そして、世界樹が光を放つのと同時に。

 

 

同じ答えを、超に返しました。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

広い間取りのベランダに出て、空を見上げる。

遠い空を、見上げる。

あの人がいたであろう世界を、ここから見れるとは思えませんが・・・。

 

 

「先走りましたね、ジョリィ」

 

 

先にアリア様の下へと遣わした部下の名前を、呼びます。

黒髪の美しいその女性は、私の方を見て。

 

 

「はい、申し訳ありません」

 

 

と、言う。

彼女の名前は、ジョリィ。ジョリィ・ハミルトン。

アリカ様の衛兵の一人だった女性で、オスティア難民の一人。

そして、人間。

 

 

私がアリカ様の名誉を回復すると言う約束で、力を貸してくれています。

難民化している民の中には、彼女のように、王宮で働いていた者も多くいます。

彼女はその中でも、女性兵士に顔の利く人間なのです。

 

 

「まぁ、良いでしょう・・・それで、どうでしたか、アリア様は?」

「は・・・その、上手く言えませんが・・・」

 

 

ジョリィは、しばし視線を彷徨わせた後、かすかに頬を紅潮させつつ。

 

 

「良い、と思います」

「と、言うと?」

「勝手な行動を慎めと命じた、あの御姿。幼いながらも、私は王女殿下の中に女王陛下に勝るとも劣らぬ輝きを見出したような心地であります。このジョリィ、王女殿下の戴冠のために、身命を賭すつもりです」

「なんだか、良くはわかりませんが・・・気に入ったのなら、良しとしましょう」

 

 

それにアリア様も、これで少しはわかってくださると良いのですが。

自分と言う存在が、その容姿が。

いったい、どれほどの人間に期待されてしまうかを。

 

 

もちろん、どうするかはアリア様がお決めになることです。

しかし、オスティアの民は彼女に期待する。

ネギ君では無く、アリカ様の血を色濃く受け継いでいる、アリア様に。

望もうが望むまいが、アリア様を見るオスティア人の目は、期待の色に染まらざるを得ない。

魔法世界に、アリアドネーに行くつもりがもしあるのなら、アリア様にはそれを知っておいてほしかった。

 

 

「・・・まぁ、指一本触らせるつもりはありませんがね」

 

 

魔法世界に行くとなれば、これまで以上にアリア様に群がってくる輩が増えて来ることでしょう。

実力行使的に近付いて来る輩は、まぁ、斬り捨てれば良いとして。

政治的に近付こうとする輩は、まぁ、蹴落とせば良いとして。

 

 

しかしそうは言っても、手勢が必要な時もあるでしょうから。

アリア様個人に忠誠を誓う駒は、いくらあっても良いでしょう。

 

 

「・・・では、ジョリィ。今後も影ながらアリア様をお守りするように」

「はっ、一命に代えましても」

「よろしい」

 

 

ふ・・・今日も一人、アリア様の味方を増やしてしまった。

見ていてください、アリカ様。

 

 

私は、貴女様のご息女をお守りするために、全力を尽くします。

 

 

 

 

 

<おまけ―――――ちび達の冒険③・地下の住人>

 

ちびアリアとちびせつなは、大ピンチだった。

いや、役目を果たしていない時点で、ちびアリアもちびせつなも大ピンチではあるが。

 

 

「た、たたた、食べられるですぅ――――っ!?」

「ち、ちびアリアさ――――んっ!」

 

 

ご存知の方もいるだろうが、図書館島の最深部には、ドラゴンが住んでいる。

それ程位階の高い竜種では無いが、それでも一般魔法使い程度の実力では、出会った瞬間に死が確定してしまう程の存在である。

 

 

図書館島司書のペットと言う噂もあるが、許可なく侵入した者の排除と言う仕事を持っていることは間違いない。

そして現在、ドラゴンに服の端を咥えられたちびアリアと、そのドラゴンの頭をポカポカ叩いているちびせつな、と言う構図が完成しているのだ。

 

 

「あ、あわわわわ、た、助けてたすっ・・・!」

「ち、ちびアリアさんを離せ離せです―――!」

 

 

ちびアリアは慌て過ぎて、本体から与えられた「49の隠し技」を放つこともできない。

ちびせつなに至っては、ドラゴンの分厚い筋肉や皮を破ることができずに、困り果てている様子。

まぁ、万が一食べられたとしても、彼女達は式神なので、死んだりはしないが。

 

 

「そう言う問題じゃねーですぅ――――っ!?」

「こ、こうなれば、伝説の竜殺しを実行するしか・・・!」

「できるなら速くやるですぅ―――っ!」

「それは困りますね。離して差し上げなさい」

 

 

不意に、若い男の声が響いた。

するとその声に従うように、ドラゴンはちび達を地上に降ろした。

 

 

転がるように地面に落ちる、2人のちび。

その傍に、頭までローブをかぶった、いかにも妖しい人間が立っていた。

名を、アルビレオ・イ「クウネル・サンダースです。どうぞよろしく」・・・。

 

 

「む、むむむ、もしや、我々が見えているですぅ?」

「ええ、まぁ」

「なんだか、変な人ですねー」

「ふふ・・・それにしても、可愛らしいお客様ですね。お茶でも御馳走しましょうか?」

 

 

フフフ・・・と、妖しく笑うクウネル氏。

ちびアリアは、びしっと、人差し指と中指を目の前に掲げると。

 

 

「ちびアリア49の隠し技の一つ・・・『みやぶる』!」

 

 

キュピーン☆・・・一瞬の間に、ちびアリアは理解した。

このクウネルと言う男の本質を。

 

 

「・・・おじさん、変な身体ですぅ」

「おや、わかりますか? ちょっと友人のお子さんに殴られましてね。上手く作れないんですよ」

「確かに、端の方とかが掠れてますねー」

 

 

クウネルは、諸々の事情により、現在活動休止中である。

 

 

「それで、どうでしょう? 私も話し相手がいない物で」

「えー・・・私も暇じゃな「地下でしか採れない苺もありますよ?」・・・お~・・・」

「で、でも、知らない人についてっちゃいけな「大福とか、好きですか?」・・・お~・・・」

「ふふ・・・それでは一緒に」

 

 

ふらふら~・・・と、クウネルに2人のちびがついて行きかけた、その時。

 

 

「あかんえ!」

 

 

第四の声が、響き渡った。

 

 

「本体に言われて探してみれば、こんな所で知らないおじさんにフラフラと!」

「む、むぅ、何者ですぅ!?」

「うちの名前を呼ぶなら、答えてあげるえ!」

 

 

近くの岩場に、しゅたっ、と立ったその人影、否、ちび影は・・・。

 

 

「ちびこのかや!」

 




アリア:
アリアです。こんばんは。
今回は、3日目に向けた前哨戦の意味合いが強かったようです。
超さんの謎が、ここから明かされて行くかと思います。
というか、どうも未来の私が関係しているようですね。
この時点で、私の知識はほぼ役に立ちませんね。


今回使用された新規魔法具は、以下のとおりです。
『魔法行商人ロマ』から『ギルギアヌの黒翼』:司書様のご提供です。
『クロックワークス』より『時空間固定杭』:月音様のご提供です。
ありがとうございます。


アリア:
では次回からは三日目です。
二日目ほどは、長くならないようですが、どうなりますやら。
超さんの謎が、ついに明かされていくパートになる予定です。
かなり引っ張りましたからね・・・。
次回は、決戦へ向けた動きが加速していくようです。
では、またお会いしましょう。


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第69話「麻帆良祭三日目・決戦へ」

Side アリア

 

「おはようござい・・・まふ」

 

 

眠い目を擦りながら、茶々丸さんが「すぐに背も伸びますから」と用意してくれた、大きめのネグリジェの裾を引き摺りつつ、リビングに降りて行きます。

そこには・・・。

 

 

「あ、おはようございます、アリア先生」

「朝ご飯、もうすぐ出来るえ~」

 

 

お櫃やフライパンを片手に立ち働くさよさんと木乃香さん。

キッチンからは、ほのかに朝食らしき、良い香りが。

 

 

「おはようだぞ、恩人!」

「ケケケ、オッス」

「お、おはようございます・・・」

 

 

窓の外には、庭に作った家庭菜園で土いじりをしているスクナさんと、その頭の上に乗っているチャチャゼロさん。

そして、それを手伝っているらしい刹那さんです。

季節の変わり目ですから、いろいろとやることもあるのでしょう。

 

 

そして、リビングの中央で新聞を広げ、ただ一人何もせずにいるのが・・・。

 

 

「おはようございます、エヴァさん」

「・・・おう、相も変わらず、遅いお目覚めだな」

 

 

まぁ、私が朝に弱いのは今に始まったことではありませんし。

それに、朝食には間に合ったではありませんか。

 

 

でも、昨夜は就寝が遅かったので、確かに眠いですね。

確か、別荘に入ると不味いことになったはずなので、別荘は使用しませんでしたから。

あふ・・・と、欠伸を噛み殺していると、それを見ていたエヴァさんが苦笑しながら、「早く顔を洗ってこい」と言いました。

 

 

それに頷きを返して、洗面所へ向かいます。

洗面所で顔を洗って・・・鏡を見ると、そこには当然、私が映っています。

白い髪に、オッドアイの女の子が。

 

 

「・・・過去を変えたいと思ったことは無いか、か」

 

 

昨日の超さんの言葉。

超さんは、何か変えたい過去があって、この時代に来た。

まぁ、それは別に良いです。

超さんの事情は、究極的にはどうでも良いことです。

 

 

問題なのは、どうも未来の私が関係していると言うことなのですよね。

未来の私が作って、超さんに渡したらしい魔法具もいくつか持っているようですし。

話を聞こうにも、アレから超さんは地下に潜ったまま。

茶々丸さんも、昨夜は帰ってきませんでした。超さんの所でしょう。

・・・晴明さんも戻りませんが、あの人は別に心配することも無いでしょうから。

 

 

「でも、超さんは100年後の未来から来たはずですよね・・・私、不老不死にでもなってるんですかね・・・?」

 

 

可能性は薄いと思うんですけど。

そう言うのは、エヴァさんが許さないと思いますし・・・。

 

 

「・・・考えても、栓無きことですが」

 

 

とにかく、私は超さんの計画を止めます。

そのための準備も進めています。

まぁ、でも手が足りないのは事実なんですよね・・・。

 

 

でも、他の一般人の生徒の方々を、魔法に関わらせるわけにはいきません。

そこは、譲れない一線ですから。

誰とも知れぬ人などを救うために、私の生徒を危険に晒すことはできません。

 

 

だから。

 

 

「・・・貴女を止めます、超さん」

 

 

私の生徒の日常を守るために。

私は、悪を行う。

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

私の目の前には、整然と並ぶロボ軍団。

田中さんシリーズと、茶々丸の姉妹機達。多脚戦車や航空戦力まである。

その数、3000体。

その気になれば、国の一つや二つ、簡単に落とせそうな戦力だね。

 

 

茶々丸も、今はボディを休眠させて、ネットに潜ってる。

学園側のセキュリティを突破するための、最後の下準備をしている所。

 

 

「・・・遅くなって、すまないネ」

「あ、超さん。ねぼすけさんですねー」

「朝には弱いのヨ・・・でも、朝食には」

「間に合ってませんよー」

「む」

 

 

私が指差した先には、超包子のお料理を乗せたお皿がいくつか、ラップをかけられた状態で置いてある。

五月さんが、超さんにって置いて行った物です。

本当、優しい子だよね。

 

 

「でも超さん、本当にここにある戦力だけで良いんですか?」

「どう言う意味ネ?」

「地下に保管されている大型も使えば、簡単にポイントを占領できると思うんですけど・・・」

「確かにそうかもしれないガ・・・それでは、一般人にも被害が出る可能性があるヨ」

 

 

学園の地下には、無名の鬼神が石化封印されてる。

これを科学の力で制御すれば、麻帆良全体に仕掛ける魔法陣の魔力増幅装置としても使える。

計画の成功だけを考えるのなら、使うのが一番良い。

 

 

でも、超さんはこれを使わないで、魔法陣を組み上げるつもりらしい。

魔法陣生成用のロボット兵器も作ったから、十分と言えば十分だけど。

 

 

「一般人への被害は、最小限に抑えるネ。それでいて、彼らにも魔法と言う物を目撃してもらう」

「・・・そうですか」

 

 

超さんがそれで良いなら、私もそれで良い。

この計画は元々、超さんだけでやるはずの物だったから。

だから、どうするかを決めるのは、超さんであるべき。

 

 

「ハカセ」

「はい?」

「・・・計画は、夕方からネ。離れるなら、今が最後のチャンスかも知れないヨ?」

 

 

超さんの言葉に、私は端末から顔を上げた。

きっと、私はきょとん、とした顔をしているだと思う。

それから・・・笑みを浮かべる。

 

 

「最後まで、お付き合いしますよ。言ったでしょう? お手伝いします・・・って」

「・・・そうカ」

 

 

それから、超さんは何も言わなくなりました。

私も、手元の端末に意識を戻す。

コンソールを叩く音だけが、その場に響く。

 

 

言葉は、いらない・・・なんて、ロマンチックを気取るわけじゃないけど。

今さらですよ、超さん。

私は、最後まで貴女の傍にいます。

 

 

貴女とこうしていられるのは、きっと今日が最後だから。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

「・・・え?」

 

 

私の言葉に、ネギ先生は一瞬、呆けたような言葉を発したです。

無理も無いと思うです。

それ程に、私の言葉は愚かだったのですから。

 

 

「・・・のどかに、何も手伝わないよう、言ってほしいのです」

 

 

私が言っても、きっとのどかは聞いてくれないです。

でも、ネギ先生の言葉なら・・・のどかは聞く。

 

 

今からこの学園で起こるのは、どう考えても平和的なことでは無いはずです。

そうなればどの道、私やのどかは足手まといでしかありません。

のどかにも、それはわかっているはずです。

そして、ネギ先生の言葉があれば・・・きっとのどかは納得するです。

 

 

それがたとえ、どんなに酷いことでも。

どんなに、最低な考えだとしても。

 

 

「・・・そうですね」

 

 

ネギ先生は、少し考えた後、私に微笑みかけて来ました。

その顔は、何故か私の胸を締め付けたです。

 

 

これはきっと、罪悪感と言う名の感情。

でも、引き下がるわけにはいかないです。

私は、のどかだけを守ると決めたです。

 

 

「わかりました。元々、夕映さんやのどかさんは無関係ですし、いつまでも迷惑をかけるわけにもいかないですよね」

「・・・そ、そうです」

 

 

私が望んだことではありますが、そうはっきりと、無関係とか言われてしまうと・・・。

じゃあ、何故のどかと仮契約なんてしたんです、とか。

流石に苛立つと言うか、ムカッと来ると言うか・・・。

 

 

しかし、この台詞が引き出せたのであれば、収穫は十分です。

後はのどかを連れて、どこか安全な場所で引き籠っていれば良いです。

 

 

「ゆえゆえ~、ネギせんせ~、飲み物買ってきました~」

「あ、のどかさん、ありがとうございます」

「あ、ありがとです」

 

 

ネギ先生と2人きりになるために、のどかに飲み物をお願いしていたです。

でも、のどかが笑顔で私に飲み物のパックを渡してくれた時。

私は堪え切れなくなって、その場から駆け出したです。

 

 

「そ、そういうことで、よろしくですネギ先生―――――っ!」

「あ、ゆえ!?」

「夕映さん!?」

 

 

私は、間違っていないはずです。

のどかを守るために、他の方法が思いつかなかったです。

頼れる人もいないですし、私がのどかを守らなきゃって。

 

 

でもこれは、のどかに対する裏切りです。

のどかがネギ先生を好きなのに。

ネギ先生に、のどかに自分から離れるように言わせるだなんて!

私は、最低だ!

 

 

何て低劣で、汚らわしい・・・。

 

 

「・・・はっ・・・はっ・・・」

 

 

角を曲がって、壁に背中を押しつけるように、へたり込みました。

動きたくなかった。

でも、まだネギ先生とのどかからそれほど離れたわけでは無いですので、声を出すことはできないです。

 

 

「お、どしたの夕映、そんな所に座って。ネギ君に話があるんじゃなかったの?」

「・・・ハルナ」

 

 

ハルナが、ハンカチで手を拭きながら、こちらに歩いて来ていたです。

お手洗いにでも、行っていたのでしょう。

 

 

「?」と、不思議そうな顔で私を見るもう一人の親友を見て、私は。

私はついに、自分の感情を抑えることができなくなりました。

 

 

「・・・・・・うくっ」

「え、ちょ・・・な、なんで人の顔見ていきなり泣いてんの!? お腹痛い!?」

 

 

お腹は、痛く無いですよ、ハルナ。

ただ、胸が痛くて、仕方が無かったです。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「・・・そうか、結局、僕がしたことは無駄だったわけか・・・」

「い、いえそんな、高畑先生は何も・・・」

 

 

昨日の埋め合わせに、明日菜君を朝食に誘った。

かなり勝手なスケジューリングだと自分でも思ったけど、明日菜君は文句も言わずにOKしてくれた。

僕が言う資格は無いかもしれないけれど・・・優しい子に育ってくれたと思う。

 

 

まぁ、こんなおじさんと一緒に食事なんてしても、面白くも無いだろうけど。

でもそれ以上に、今の彼女の立場には、申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

 

「・・・本当にすまないね。スパイみたいなことをさせて」

「い、いえ、私が自分で相談しただけですし・・・」

 

 

明日菜君はそうは言うけれど、僕がしていることは、そう言うことだ。

けれど、彼女が知っている情報は、超君の計画を止めるのにとても役立つはずだった。

実際、昨日は超君を捕縛する直前まで行った。

そのせいで、超君が今、どこで何をしているかの情報が全く無かった。

 

 

捕縛自体、想像以上に超君の力が強力だったために、失敗してしまったけれど。

超君も、明日菜君やネギ君には、計画の重要な点は教えていなかったようだし。

 

 

・・・ネギ君。

 

 

「ネギ君は結局、超君の手伝いをすることにしたのか・・・」

「す、すみません。私がもっとちゃんと見てれば・・・」

「いや、明日菜君のせいじゃない」

 

 

そう、明日菜君は何も悪くない。

悪いのは・・・僕だ。

 

 

ナギの息子だからと、ネギ君を放置していた、僕が悪いんだ。

僕がもっとちゃんと、ネギ君のことを気にかけていれば。

こんなことには、ならなかったのかもしれない。

 

 

「・・・わかった。とにかく、明日菜君はこのまま、安全な所へ」

「で、でも、私だって何かお役に・・・」

「もう、十分に役に立ってもらったよ」

 

 

グシャ・・・と、明日菜君の頭を撫でる。

すると、明日菜君は真っ赤な顔をして、何かモゴモゴと言っていた。

 

 

そう、十分過ぎる。

これだけの情報があれば、他の魔法先生と連携して、最小限で事を納められるかもしれない。

後はもう、僕の頑張り次第だ。

 

 

学園長と協議して、今後の対応を決める。

 

 

「じゃあ、僕は先に行くよ。明日菜君も後で・・・」

「あ、あの!」

「うん?」

 

 

席を立とうとした時、明日菜君がどこか緊張した顔で、僕のことを見つめていた。

 

 

「が、学園祭が終わったら、こ、個人的にお時間、いただけませんか!」

「え?」

「そ、そのっ・・・お話したいことが、あるんです!」

「・・・話?」

「は、はい!」

 

 

明日菜君は、本当に緊張した様子で。

もう、今にも倒れてしまうんじゃないかってくらい、顔を赤くしていた。

なんだか、よくわからないけれど。

 

 

大事な話がしたいってことは、僕にもわかった。

 

 

「・・・わかった。なるべく早く、時間を取れるようにするよ」

「は・・・はい! ありがとうございます!」

 

 

その時の明日菜君の笑顔は、本当に輝いていて。

僕はきっと、この笑顔を忘れないだろうな、と。

 

 

そう、思った。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

・・・政治ってのは、わからんもんやな。

と言うか、ほんの二か月前には、こんなことになるやなんて思ってなかったわ。

 

 

「・・・戦争でも、仕掛けるおつもりで?」

「そんなつもりは無いよ、千草さん」

 

 

近衛詠春・・・我らが長は、苦笑しながらそう言うた。

けど、うちが今手にしとる機密書類には、麻帆良の周辺に関西の手勢を伏せてるって言う報告が書かれとる。

それも、10や20ではきかんような数の兵力や。

 

 

強硬派の若手を中心とした、関西の遊撃戦力100人。

分散して四方に配置してあるから、祭りに人員を割かれとる今の東の連中には、気付かれへんやろうけど。

 

 

「一応、我々関西呪術協会は不安定とは言え、麻帆良とは友好関係にある。その我々が、麻帆良を攻撃するわけが無い」

「そうどすな。お友達を攻めるはずがありまへんものな」

「ええ、これはむしろ、友邦を助けるために必要な戦力なんです」

「・・・と、言うと?」

 

 

友邦、なぁ・・・。

正直、今の関西に東を友達やと思っとる奴はおらんと思うけど。

 

 

長に書類を渡すと、長はそれに火をつけて、灰皿に捨てた。

証拠隠滅、周到なことやな。

まぁ、それくらいやないと困るけど。

 

 

「今日中に、麻帆良は混乱します」

「・・・なるほど」

 

 

どういうことかは知らんけど、長は今日、ここで何かが起こると踏んどるわけか。

それがどう言った類のもんかはわからんし、どこからその情報を仕入れたかも知らん。

でもそれは、聞くだけ無駄なことや。

 

 

重要なんは、おそらくここで「戦争に近い」ことが起こると言うこと。

その時、長は麻帆良周囲に配置した兵を動かすつもりなんやろ。

 

 

名目は、関西の使節団の安全を保障するため・・・とかか?

 

 

もし実現すれば、と言うかするやろうけど・・・関西の歴史始まって以来のことやろうな。

陰陽師の一軍が、東の本拠地に陣取るわけやから。

本当、少し前までは考えられへんことやったと思う。

兵の構成に強硬派が多いのも、言ってしまえばパフォーマンスのようなもんやろ。

 

 

「・・・あくどいな、あんたも」

「褒め言葉として、受け取っておきますよ。それで、千草さん達は・・・」

「うちらは、勝手にやらせてもらうで・・・と言うか、うちはともかく、他の2人には規律ある行動とか、無理ですわ」

「そうだと思って、自由行動を許可する旨を記した書状をしたためておきました」

「おおきに・・・用意がええな」

 

 

最初から、そうするつもりやったのかは、わからんけど。

この長は、京都での一件の時に比べて、えらい強かになっとる。

 

 

何があったんかは知らんけど。

まぁ、ええことなんとちゃうか。うちにはあんま関係無いけど。

 

 

「ほなら、失礼しますわ」

「ええ、この件が終わった後は、約束通りに」

 

 

長の言葉に頷きを返すと、うちは部屋を出た。

扉の向こうには、小太郎と月詠はんの二人が、退屈そうに立っとった。

2人は、うちのことを見ると。

 

 

「遅いです~」

「千草ねーちゃん、俺、腹減ったんやけど・・・」

「あんたらな」

 

 

思わず、苦笑してもうた。他に言うことは無いんかい。

 

 

「大体、小太郎。さっき朝餉食べた所やろ」

「千草ねーちゃんの飯は、野菜ばっかで腹が膨れへんねんもん」

「京料理なんて、そんなもんや・・・まぁ、育ち盛りやしなぁ」

 

 

特に小太郎は男の子やし、仰山食べなあかんやろな。

う~ん、このくらいの子は、一日に五食は食べるて、どっかの本にも書いてあったような気ぃするし。

 

 

「・・・しゃーない、腹が減っては何とやらや。何か食べ行こか」

「マジでか! うっしゃあ!」

「月詠はんは、何か食べたいもんとかあるか?」

「うちですかぁ? う~ん、あっさりした物が良いですぅ」

 

 

あっさりなぁ・・・したら、うどんでも食べに行こか。

小太郎には、肉うどんとか食べさせたろ。

関西出汁の店とか、あるかな。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

・・・わからない。

昨夜から、同じ言葉ばかりを繰り返している。

僕は、どうして・・・ここにいる。

 

 

「・・・」

 

 

時計塔の上から、麻帆良の街並みを見下ろしている。

魔法使い達が、歪んだ統治を続ける街。

何も知らずに、誰もが平和に過ごしているだけの、旧世界ではありふれた街並みだ。

 

 

それに対して、思う所など何も無い。

ならば何故、僕はここにいる?

どうして、僕はここに来た?

 

 

アリアに、会うために。

 

 

「・・・僕は、人形だ」

 

 

心など無い。必要も無い。

だけど、アリアだけは、あの白い髪の少女だけは。

心を持たない僕を、惹き付けてやまない。

 

 

『フェイトさん』

 

 

・・・引き付けて、やまない。

 

 

アリアと、彼女と触れあう度に、僕の中の何かが変わって行くのを感じる。

変わってしまうのを感じる。

変わってしまってはいけない部分が、変わって行くのを感じる。

最初は、殺してやりたいと思った彼女。

だけどいつの間にか、手に入れたいと思うようになっていた彼女。

 

 

『フェイトさん』

 

 

・・・ノイズのように、彼女の声が耳元で響く。

実際に聞こえているわけじゃない、僕の記憶が、勝手に再生しているような物だ。

幻聴に過ぎない。

 

 

ここまで来ると、洗脳の魔法でもかけられているんじゃないかと、自分を疑いたくなる。

だけど、僕にそんな物は効かない。

 

 

『フェイトさん』

「・・・アリア」

 

 

こういう気分を、何と言うのだろう。

そう・・・この、頭が、そして胸が不愉快に締め付けられる感覚は。

 

 

これは、何だ?

 

 

「・・・苛々、するね」

「その割には、その腕輪を大事そうに身に付けておるのぅ」

「・・・キミは」

 

 

僕の隣には、昨日から僕について回っている、西洋人形、晴明。

そして晴明の言う通り、僕は昨日手に入れたブレスレットを身に着けている。

魔法発動体でもなんでもない、無駄としか思えない装飾品だ。

 

 

「キミは、いつまで僕について回るつもりだい?」

「うん? 何、迷える若人の助けをしたくてのぅ」

「良く言う・・・」

 

 

何故、この人形が僕に興味を抱いているのかはわからないけれど。

ただ、少なくとも善意や好意で動いているわけでは無いことぐらい、僕にもわかる。

 

 

「苛々する・・・のう? いや不思議じゃ。心を持たぬ主が、何故に苛立ちなどを感じるのじゃろうな?」

「・・・さぁね」

「先ほどから一生懸命に、うんざりした顔や、鬱陶しげな顔を作っているが、本当は何も感じてはいないのでは無いか? 心が無いと言う主は、感情の起伏など無いはずではないか」

「・・・僕のことを、キミに説明されなくても、僕が一番良く知っているよ」

「そうかの」

「そう」

 

 

僕には、心など無い。

もし、感情のような物が表れているのだとしても、それは所詮、外面上の話だ。

僕の内に、心や感情などと言う物は、存在しない。

 

 

するはずが、無いんだ。

 

 

『フェイトさん』

 

 

けれど、なら、コレは何だろう。

僕には、わからない。

 

 

「・・・キミは、知っているのかな。アリア」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

ドネットさんは、忙しそうに色んな所に連絡を取ってる。

もう、お昼に近い時間だけど、すごく忙しそう。

 

 

私は、言ってしまえば形だけの特使だから、こういう正式な仕事になると、手伝えない。

それでも書類整理くらいは手伝えないかと思ったんだけど、やっぱり細かい作業は、その、苦手で・・・。

 

 

「アーニャ、ここはもう良いわよ」

「や、やっぱり役に立たない?」

「え?・・・何言ってるの、貴女は十分に役立ってくれたわ。貴女のおかげで、麻帆良の内実の一部も知ることができたんじゃない」

 

 

優しい笑顔で、ドネットさんは笑った。

その笑顔は、少しだけ疲れが見えたけど・・・でも、とても綺麗な笑顔だった。

大人の女の人の、笑顔。

 

 

「それより、ごめんなさいね。時間を取らせて。後はもう、貴女の好きに動いてくれて良いわ」

「す、好きに・・・って」

「言葉の通りよ。責任は全部こっちで取るから、貴女は、自分の思う通りに行動なさい」

「私の、思う通りに・・・」

「アリアのこと、心配なんでしょう?」

 

 

アリア。

ネギのことは、昨日の夜の一件で、十分にわかった。

でも、アリアのことは結局、何もわかってない。

 

 

麻帆良で何をしていたのか。

や、<闇の福音>とどんな関係なのか。

ネギと、何があったのか。

今、何を考えて生きているのか。

 

 

聞きたいことが、たくさんあった。

 

 

「行って来なさい、アーニャ」

「・・・はい!」

 

 

そう、立ち止まって悶々と考えるなんて、私らしくないわ。

会って、直接話す。

そこから、全てが始まるんだもの。

 

 

私は、持っていた書類を棚に戻すと、そのまま部屋の外に飛び出した。

その時には、部屋の隅で大人しくしてたエミリーも、私の肩に乗ってくる。

・・・そうだ。私は、少しだけ立ち止まって。

 

 

「ドネットさんは、どうするんですか?」

「・・・私は、ここにいるわ」

 

 

静かに笑んで、ドネットさんは言った。

 

 

「もう遅いかもしれないけれど、大人にしかできない仕事をしたいのよ」

「・・・そう、ですか」

 

 

正直、意味は良くわからないけど。

でも、ドネットさんには、きっとドネットさんにしかできない仕事があって。

そして私にも、私にしかできないことが、きっとあるはず。

 

 

「・・・行ってきます、ドネットさん!」

「行ってらっしゃい、アーニャ」

 

 

今度こそ、私は部屋を飛び出した。

廊下を駆けて、外へ。

 

 

胸元の『アラストール』を握り締める。

脳裏に浮かぶのは、白い髪の親友(アリア)。

 

 

「エミリー、探査お願い!」

「はい、アーニャさん!」

 

 

アリアの所へ!

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

「はい、カウンター席6名様ご案内しまーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

「ご注文承りまーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

 

 

お昼時、せっかくだからと、私とこのちゃんはアリア先生達と昼食も一緒にすることにした。

午前中は、特にすることも無かったし。

しかしそこは、何と言うか、戦場だった。

具体的に言うと、「超包子」と言う名の、戦場だった。

 

 

この時期の「超包子」は、生徒はもちろん、外部の人にも大人気の屋台だ。

ごった返している場を、「超包子」の制服を着た方々が、お客さんの間を縫うように飛び回っている。

私達は、四葉さんのいる屋台のカウンターに通された。

メンバーは、私、このちゃん、アリア先生、エヴァンジェリンさん、さよさん、スクナさん。

チャチャゼロさんもいるが、当然、店員には人数として数えられていない。

 

 

「さーちゃん、スクナはお腹がすいたぞ!」

「うん、たくさん食べて良いよ。・・・なんだか、懐かしいやり取りだね」

「まぁな。ああ、五月、いつものを頼む。人数分な」

 

――はい、少々お待ちください――

 

「超はいないのか?」

 

――今日は朝から、別の場所にいるみたいです――

 

 

相変わらず、独特な話し方をする四葉さん。

エヴァンジェリンさんも四葉さんに対しては、他のクラスメートの方とは違う雰囲気で接している。

その間にも、四葉さんは手際よく調理を進めて行っている。

 

 

もちろん、私達の分だけでなく、他の客の分も含めて。

熱い物、冷たい物、優先順位を決めて、次から次へと完成していく料理。

 

 

「いつもながら、凄いなぁ」

「そうですね。四葉さんの手際は素晴らしい物があります」

 

――ありがとうございます――

 

 

私とこのちゃんも、四葉さんには感心するばかり。

そして完成した料理の全てが、間髪入れずに客の下へと運ばれて行く。

 

 

「6番テーブル、お料理入りまーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

「2番テーブルのお客様、お帰りでーす!」

「「「ありがとうございまーす!」」」

 

 

四葉さんは、全体の様子を見つつ、しかし声をかけることはしない。

配膳や注文は、全て他の方がやっているからだ。

ただ、お昼時なだけあって、凄く大変そうだ・・・。

 

 

そして、それを見かねたのか、アリア先生が四葉さんに。

 

 

「よければ、お手伝いさせていただけませんか?」

 

 

・・・などと、言った。

いや、アリア先生。貴女はどれだけ働くおつもりなんですか・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「あの・・・よければ、お手伝いさせていただけませんか?」

「アリア、お前な・・・」

「いえ、だって大変そうですし、お仕事たくさんありそうですし・・・」

 

――アリア先生は、本当にお仕事がお好きなんですね――

 

 

四葉さんは、どこか苦笑しながら、私を見ていました。

 

 

――でも、大丈夫ですよ。手は足りていますから――

 

「え、でも・・・」

「他人の仕事をとろうとするのは、感心しないな、アリア先生?」

 

 

不意にかけられた声に振り向けば、そこには。

 

 

「真名さん?」

「こんにちは、アリア先生・・・四葉、私にも軽く何か頼む」

 

――わかりました――

 

 

真名さんが、私達と同じカウンターに腰かけて、料理を注文しました。

真名さんは、たしか超さん側ですから・・・それを言えば、四葉さんもですけど。

 

 

傭兵である真名さんは、仕事以外で何かをするような方では無いので、ここでどうこう、という話にはならないでしょうけれど・・・。

でも、仕事をとるな、なんて。どこかで言われたことがあるような?

 

 

「さっちゃん、ごめん! 8番の注文間違えちゃった!」

 

――すぐにお詫びして、調理し直してください――

 

「五月料理長、塩が無くなったでごわす!」

 

――2番倉庫に予備がありますから、それで当座を凌いでください――

 

「四葉さん、このお料理、何番だっけ!?」

 

――3番カウンターです。落ち着いて配膳してくださいね――

 

 

その間にも、四葉さんは仕事を消化していきます。

いつの間にやら、私達の前にも、料理が並んでいました。

 

 

四葉さんは、方々に指示を出したりはしますが、自分は調理に専念しています。

全てを自分でやるわけではないのに、全てが上手く回っていて。

なんというか、凄いな、と思いました。

 

 

「あれが、四葉の凄い所だな。戦場に出れば、良い指揮官になるだろう」

「五月だからな。当然と言えば当然だろう」

 

――ありがとうございます――

 

 

エヴァさんと真名さんが、炒飯(チャーハン)をパクつきながら、それぞれ四葉さんを褒めました。

でも、確かに凄い。

何が凄いって、自分で何もかもを見ていなくても、それで平然としている所とか。

 

 

私などは、全部自分でやりたがるのに。

それは、他人に任せると不安だったり、あるいは迷惑をかけたりするのが怖いからだったりしますが。

 

 

「四葉さんは・・・」

 

――はい?――

 

「凄いですね。なんというか・・・仕事の任せ方が上手いと言うか・・・」

 

――ありがとうございます。でも、私もまだまだですよ――

 

 

四葉さんは、恥ずかしそうに微笑んで、そんなことを言いました。

 

 

――私は、お料理しかできませんから。皆さんの力を借りないと、何もできないだけで――

 

「何もできないなんて、そんな」

 

――お互いに失敗したりとか、迷惑をかけあったりもしますし――

 

 

私からすると、その迷惑をかけあえる所が凄いのですが。

 

 

「まぁ、役割分担、と言う物さ。アリア先生」

 

 

炒飯(チャーハン)の付け合わせのスープを美味しそうに飲みながら、真名さんが言いました。

 

 

「必要な時に必要な支援を得る、と言うのは、戦場においては重要なことだからね」

「支援・・・手助け、と言うことですか?」

「まぁ、そうとも言うな。あるいは補い合いとも言えるし、長所を重ねた協力プレイとも言えるだろう」

「は・・・軟弱な人間が好みそうな言葉だな」

「エヴァさんは、単独プレイばっかりですもんねー」

「さよ、その酢豚をよこせ」

「ああ、そんなご無体な!?」

 

 

何やら、一部がまさに戦場となっていますが。

 

 

「穿った言い方をすれば、世の中は迷惑のかけ合いが上手い奴が勝つ・・・と、言えるかもしれない」

「本当に穿った言い方ですね・・・」

「私なりの見解さ」

 

 

ふ・・・と、微笑む真名さん。

 

 

「その点、超はある意味で迷惑をかけるのが下手なタイプだ。他人を信じることはできても、仕事を振り分けることができない。最終的には、自分で全てをやろうとする・・・誰かに、似ているな?」

「・・・」

「・・・まぁ、私個人の意見だ。気にしないでくれ・・・四葉、美味かったよ」

 

――ありがとうございました――

 

 

真名さんは、いつの間にやら炒飯(チャーハン)を完食すると、そのまま立ち去って行きました。

・・・何をしに現れたんでしょう?

 

 

しかし、それでも。

四葉さんの話も、真名さんの話も、聞く価値はあったような、そんな気がします。

 

 

『ひよっこが、一人で何かできると思うなよ』

 

 

どうしてか、脳裏にエヴァさんの言葉が甦りました。

一人では、何もできない。

役割分担、迷惑のかけ合い・・・そして、信じること。

仕事を、任せると言うこと。

 

 

超さんを止めるには、どうしても、手が足りないと考えている私。

けれど、それを誰かに言ったりはしなかった私。

言ったとしても、それだけだった私。

誰かと同じ、私。

 

 

「・・・エヴァさん」

 

 

・・・シンシア姉様。

 

 

「チャチャゼロさん、さよさん、スクナさん」

 

 

私は、間違っていたとは、やっぱり思えません。

でも、少しだけ・・・少しだけ。

 

 

「・・・木乃香さん、刹那さん」

 

 

少しだけ。

 

 

「・・・迷惑をかけても、良いですか?」

 

 

アリアは少しだけ、変わってみようかと、思います。

 

 

 

 

 

<おまけ―――――ちび達の冒険④・宇宙(ソラ)へ>

 

広がる宇宙空間、襲い来る侵略者達。

キミは、大切な人を守ることができるか―――!

ライドアトラクション「ギャラクシーウォー」は、星の戦士達を待っている!

 

 

「ちびアリア49の隠し技、『みだれうつぜぇ』ですぅ――!」

「ざんくーせん! ざんくーせん!」

「あははは、2人とも、あんまりオイタしたらあかんえー」

 

 

地下から脱し、場面が急速に変わって、地上。

とはいえ、地上に出るのに一晩を要したわけだが・・・とにかく。

三人の「ちび」は、麻帆良祭のアトラクションの制覇に乗り出していた。

 

 

もはや確実に、主人の命令を忘れている・・・と言うより、無視している。

彼女達の存在意義に関わる問題ではあるが。

 

 

「地球は誰にも渡さねーですぅ―――!」

「ざんくーせん・かい!」

「うふふふ、かわえ~なぁ、2人とも」

 

 

彼女達は、誰にも見えない。

それゆえに、たまたま無人のライドに乗り込み、アトラクションを楽しむことも可能なのである。

決して、人間に幻術をかけたりはしていないのである。

 

 

「危ない、ちびせっちゃん!」

「あうぅ、ありがとうございます!」

「ええよ。うちは、ちびせっちゃんが無事ならそれでええんや」

「ちびこのちゃん・・・」

 

 

その時、ちびせつなに迫った敵キャラを、ちびこのかが間一髪で撃退した。

感激したちびせつなは、ちびこのかにヒシッ、と抱きついた。

 

 

ぱっと見、友情溢れる感動的な一コマかもしれない。

だが、ちびアリアは見た。

 

 

某新世界の神のごとく、ちびこのかの顔が「計画通り」と笑みを浮かべるのを。

 

 

(こ、この新入り、多数派工作に乗り出し始めやがったですぅ・・・!)

 

 

そう、ちびアリアは気付いていた。

三人になったことで、多数決原理の導入が可能だと言うことに。

すなわち、2人になった方が有利だと言うことに。

 

 

つまり。

 

 

(れ、レギュラー落ちの危機ですぅ・・・!)

 

 

新キャラの登場に、ちびアリアの焦りは募るばかり。

しかし、彼女の高すぎるプライドが、媚びへつらう事を良しとはしなかった。

 

 

彼女は、あくまでも戦う道を選んだ。

 

 

「ま、負けねーですぅ!」

「ふぇ? ちびアリアさんは何を言ってるんでしょー?」

「さぁ・・・うちには、わからんえ(ニヤリ)」

 

 

ちび達の結末や、いかに。

 




茶々丸:
茶々丸です。こんばんは(ぺこり)。
今回は、ネットに潜っていたために、出番がありませんでした。
そのため、私が後書きを担当させていただきます。
しかしご心配なく、マスターやアリア先生の様子は、いつでも確認できます。
ネットは膨大ですから。
それはそれとして、今回は、最終決戦前の午前、お昼を描きました。
各勢力の動きが激しくなっております。
アリア先生も、ここからが変化の始まりになるのかもしれません。


茶々丸:
次回以降、最終決戦に入ります・・・が。
次回はバレンタインですね。
おそらく、特別編が入ることになるかと思います。
では、私も仕事に戻ることにいたします。
また、お会いいたしましょう。


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魔法学校編②「バレンタイン・パニック?」

Side ネギ

 

 

・・・思ったよりも、簡単だった。

ついでに言うのなら、面白くも無かった。

いつもアリアが魔法薬を弄っていたから、何か面白いのかと思っていたけど。

 

 

「・・・魔法薬学の課題は、これで良いや」

 

 

あんまり、興味も無いし。

課題を最低限こなして、単位さえ落とさなければ、それで。

魔法薬なら何でも良いって言ってたし。

 

 

「・・・あ、容器が無いや・・・」

 

 

魔法薬は、専用の容器に入れて保管しなきゃいけないんだけど、その容器が無かった。

えっと・・・。

 

 

材料を持ち出した禁庫(禁止薬物保管倉庫)に戻るのも、面倒だし。

ガチャガチャ・・・ガラス瓶がたくさん入ってる場所に身体を入れて、何か無いか探す。

う~んと・・・。

 

 

「・・・あった」

 

 

適当な空き瓶を見つけた。

この中に入れておけば、良いかな・・・。

 

 

「・・・あふ」

 

 

気が付くと、窓の外が明るくなり始めていた。

今日はもう寝よう。

明日は授業も無いし、これ以上は効率も落ちるし・・・。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「あっれ――?」

 

 

おっかしーわねー、この辺にいつもあるのに。

今日はバレンタイン。

せっかくだし、チョコレートでも作ろうかと思ったのに、ラム酒が見つからないじゃないのよ!

 

 

まぁ、別にチョコレートじゃなくても良いんだけど。

アリアが、「バレンタインと言えばチョコレートですよね」とか、毎年言うんだもん。

町でキャンディボックスでも買った方が、ずっと早いのに。

 

 

「ドロシー、ラム酒知らなーい?」

「お姉さまにお聞きしましょうっ・・・」

「・・・別に良いけど、そのチョコレート、アリアに秘密で作ってるんじゃないの?」

「そ、そうでした・・・!」

 

 

ダメね、ここは私が頑張らないと。

ドロシーはもう、さっきから大量のチョコをかき混ぜるのに必死だものね。

それ以上に、苺ばっかりすり潰してるけど。

そして何より子竜のルーブルが、密かに苺をつまみ食いしてるけど、そこは別に私が言うことじゃない。

 

 

それはそれとしても、ラム酒が無いのよ。

ラム酒が無いと・・・ううん、もうチョコとかどうでも良いわ。

 

 

ラム酒が見つかるまで、私はここを動かないわ・・・!

 

 

「・・・あ、あのっ」

 

 

すると、茶髪の女の子が、大きな瓶を抱えて立っていた。

ロバートの妹にしておくのがもったいないくらいの、可愛らしい女の子。

現在、アリアやドロシー達と一緒に、ロバートの毒牙から守るためにあれこれ教育中。

 

 

「こ、これ・・・」

 

 

ヘレンが小さな身体全体を使って持っているその瓶には、「ラム酒」と書いてあった。

私は、右拳を思い切り握りこんだ。

 

 

「勝ったわ・・・! 何にかはわからないけど、私は勝利したわ・・・!」

「・・・?」

 

 

ヘレンは何もわかってないみたいだったけど、頭を撫でてあげると、照れたように笑ってくれた。

 

 

 

でも、未来の私はこれで後悔することになるなんて、この時点の私にはわからなかった。

もし、私に少しでも注意力とか用心深さとかあったら・・・きっと、違う結果になっていたんだと思う。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

ミルクを多めに使って、甘いお紅茶を淹れます。

そして何より重要なのが、熱して溶かしたチョコレートと、新鮮な苺。

フォークで刺した苺を、温かなチョコの中に浸して・・・。

 

 

自分でもわかるくらいウットリとした目で、私はそれを見ます。

そのまま、チョコを垂らさないように注意しながら、苺を口の中へ。

 

 

「・・・ん・・・ふ」

 

 

一瞬の熱。

次いで訪れる、甘味。二種類の異なる甘さが、私の口内で何とも言えないコントラストを・・・。

し・・・。

 

 

「しあわふぇ・・・」

 

 

別にバレンタインでなくとも、苺は切らしませんが・・・。

チョコレートフォンデュもどきも、たまには良いですね。

 

 

たまの休日、静かな時間。

甘い物を食べるこの時間は、私の癒しの時間です。

では、もう一口・・・。

 

 

その時、私の部屋の扉が勢いよく開きました。

 

 

「アリア、頼む、お前しか頼れる奴がいないんだ!」

「しかし、その平和な一時も長くは続かなかったのでした・・・」

「あ、おい! 人が来た瞬間に落ち込んでんじゃねぇよ!」

 

 

私の部屋の扉をもの凄い勢いで開けたロバートは、いきなりテーブルに突っ伏した私に対して、そんなことを言いました。

でも、仕方が無いんです。

大声で名前を呼ばれながら、癒しの時間を奪われた私の気持ちなんて、誰にもわからないでしょう。

 

 

もう、今この世界が滅んでも受け入れるんじゃないかと言う気持ちで、私は上体を起こしました。

見れば、ロバートは許可なく私の部屋に入り、勧めもしないのに部屋の真ん中に座りました。

 

 

「・・・聞いてくれ、アリア」

「ええ、まぁ、聞くだけで済むなら」

「まずは、コレを見てほしい」

 

 

そう言ってロバートが見せてくれたのは、ピンク色の包装がされた小箱。

ハートマークまでついて、零れ落ちたメッセージカードには、「お兄ちゃんへ」と書かれています。

とどのつまりは、ヘレンさんからロバートへのバレンタインチョコですね。

 

 

「ヘレンのチョコだ。可愛いだろ」

「良かったですね」

「ああ、良かった。最高だ。思わずその場であれやこれやしそうになったわけだが、それはまた別の物語だ」

 

 

聞き捨てなら無いことを聞いた気がいますが、あえて良しとします。

 

 

「だが・・・俺は見てしまったんだ。妹が・・・ヘレンが、もう一つ、これよりも大きな箱を持っているのを!」

「それは・・・つまり、ロバート以外に渡す相手がいると言うことでしょうね」

「ちくしょおおおおおおおぉぉぉぉぉ――――――――――っ!!!!!!」

 

 

もの凄い声量で、ロバートが叫びました。

両手を床につけて、まさに「ort」な体勢。

もう、主人公に野望を砕かれた魔王みたいなテンションです。

 

 

「なんでだっ・・・こんなに素敵イケメンな兄がいるのにっ・・・!」

「むしろ私は今、ヘレンさんの兄離れの原因を掴んだような気がします」

 

 

何をしに来たのかと思えば、愚痴を言いに来たのですか・・・。

いつの間にやらロバートは、涙ながらにヘレンさんのチョコを食べ始めました。

まぁ、そう言うことであればと、私も苺のチョコフォンデュを再開しました。

 

 

ああ・・・幸せ♡

 

 

 

 

 

Side ミッチェル

 

「あ、ありがとうございます、アーニャさん・・・」

「良いのよ、毎年のことだし」

 

 

多めに作ったから、と言うことで、アーニャさんは僕の部屋にチョコレートを届けてくれた。

バレンタインの贈り物らしい。

僕も、アーニャさんにカードを渡した。こんな物で申し訳ないけど。

 

 

郵便受けの中に入れられたチョコを、大事に取り出す。

ちなみに、僕は外には出ない。知らない人に会ったら怖いし、アーニャさんとは扉越しに話してる。

 

 

「まぁ、あんまり味は期待しないでちょうだい」

「そ、そんなこと・・・」

「アリアからのじゃなくて、悪いけどね」

「・・・そ、そんなこと・・・」

 

 

ワンテンポ遅れた僕の答えに、アーニャさんが笑った。

クスクスと響く笑い声に、僕は部屋の中で縮こまってしまう。

 

 

「・・・ま、今年もアリアから貰えるといいわね?」

「は、はい・・・」

 

 

アリアさんは、毎年僕にチョコを用意してくれるけど、ここまで持ってきてはくれない。

僕が自分で外に出て、アリアさんの部屋まで行かないといけない。

 

 

正直、欲しい。

でも、部屋を出るのは怖い。

 

 

「あ、アーニャさん」

「ダメよ。あんたもそう遠くない内に卒業なんだから、部屋から出れるようにならないと」

「う・・・」

「じゃーね♪」

 

 

アーニャさんは、行ってしまった。

正直、正論だから言い返せない。

僕だって、いつまでも部屋に閉じこもっているのはよくないって、わかるけど・・・。

 

 

・・・アリアさんと初めて会ったのは、この部屋だった。

というか、引き籠ってたから、出会ってすらいないんだけど。

何年か前、どうしても部屋から出れなくて、初級魔法薬学の授業を病欠した時のことだった。

アリアさんが、課題と、そのための材料を持って来てくれたんだ。

 

 

そう・・・今でも、覚えてる。

 

 

ごそ・・・と、勉強机の引き出しを開ける。

その中には、一枚の紙切れ。

 

 

『課題だけ出しておけば、OKなので。出てこなくても大丈夫ですよ。 アリア・スプリングフィールド』

 

 

出てこなくても、大丈夫。

そんなことを言われたのは、初めてだった。

親も、先生も、皆。

部屋に閉じこもってるなんて、情けないと笑うばかりで。

 

 

皆、僕を部屋から出そうとするばかりで。

 

 

「・・・甘いや」

 

 

アーニャさんのチョコは、甘いけど、なんだか苦かった。

・・・苦い?

 

 

 

 

 

Side ヘレン

 

とっ、とっ、とっ・・・と、廊下を走ります。

あの人のお部屋に行きたいんだけど、道に迷ってしまいました。

 

 

「あうぅ・・・」

 

 

もう、疲れちゃったし、道がわからなくて怖い。

いつもはお兄ちゃんやお姉ちゃん達と一緒だけど、今日は一人だから。

 

 

でも、どうしよう・・・不安になって、涙が出そうになります。

な、泣いちゃダメ。泣いたらお兄ちゃんがまた先生に怒られちゃう・・・。

 

 

「そこに、誰かいるのかね?」

「ひゃうっ・・・!」

 

 

急に声をかけられて、ヘレンはびっくりしました。

振り向くと、大きなおじさんがいました。

名前は知らないけど、たぶん、学校の先生。

 

 

「うん・・・キミは、ロバート君の妹じゃないかね?」

「えぅ・・・お、お兄ちゃんのこと、知ってるの・・・?」

「ああ、良く知っているとも。私は彼の先生だからねぇ」

 

 

おじさんは、大きなお腹を撫で撫でしながら、ヘレンのことを覗き込んできました。

ヘレンは、俯いて、小さくなります。

 

 

「どうしたのかね? 道に迷ったのかな。よし、先生が連れて行ってあげよう」

「だ、大丈夫です・・・」

「遠慮することは無いよ。ほら・・・」

 

 

どうしよう、怖い。怖い。怖い。

おじさんの手が、ヘレンの頭に。

助けて、お兄ちゃん。

 

 

ふぇ・・・。

 

 

「ミス・キルマノック!」

 

 

その時。

聞いたことのある声が、聞こえました。

 

 

「ごめんなさいね。遅くなってしまって」

「・・・お、おお、シオン君じゃないか」

「こんにちは、先生。ミス・キルマノックは私と用がありますので、失礼いたします」

「う、うむ・・・そうかね」

 

 

シオンお姉ちゃんでした。

シオンお姉ちゃんは、私の手を引いて、歩き始めました。

変なおじさんから、助けてくれました。

 

 

いつもお兄ちゃんとケンカばかりしてるお姉ちゃんだけど、助けてくれました。

ぎゅっ・・・と手を握ると、軽く笑ってくれました。

 

 

「それで、どこに行きたいの?」

「え、と・・・」

 

 

私が答えると、シオンお姉ちゃんは、優しそうに笑ってくれました。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・なぁ、アリア」

「なんですか? 私は今、苺のどの部分にチョコをつければ最も美味しいかを考えるので忙しいのですけど」

 

 

およそ5分に一個のペースで、私は苺のチョコフォンデュを楽しんでいます。

しかし苺の数には限りがありますので、いかに美味しく頂くかが、結構な論点なのです。

 

 

「お前って・・・結構、可愛いよな」

「・・・・・・は?」

「うん、いや・・・本当、妹の次くらいに可愛いぜ」

 

 

・・・それは、どう反応したら良いんでしょう。

一応、褒められている・・・のでしょうか。

 

 

見てみると、どうもロバートの様子がおかしいことに気付きました。

何と言うか、こう・・・顔が赤くて、熱に浮かされているような。

い、嫌な予感がします。

気が付くと、ロバートは私の傍に寄ってきていました。

 

 

「ちょ、ちょっと、早まってはいけません、ロバート。貴女にはヘレンさんと言う妹が・・・」

「お前、いつも妹離れしろって言ってんじゃねーか・・・」

「そ、それは、そうですけど・・・」

「お前・・・綺麗な目ぇ、してんな」

「ろ、ロバー・・・」

 

 

ジリジリとにじり寄ってくるロバートから離れるように、私は立ち上がり、壁際まで下がります。

とん・・・と、後頭部が壁にぶつかります。

ロバートは、構わずに近付いて、私の顔の横に手を置きました。

 

 

「お、落ち着いて、ロバート・・・」

「・・・いやぁ、無理だな。お前が可愛すぎるのがいけねぇ」

 

 

こ、こんなのロバートじゃないぃ―――!

ロバートがヘレンさん以外の方を口説くなんて、そんなバカな。

だ、大体、好感度を上げるイベントなんて、何一つ・・・!

 

 

そんなことを考えている間に、ロバートの顔が、段々近付いてきました。

 

 

「アリア・・・」

「え、ちょ・・・ろ、ロバート、だ、ダメ・・・」

 

 

も、もうダメ・・・!

諦めかけて、目をキツく閉じたその時。

 

 

「ぷげらっ!?」

 

 

ロバートの悲鳴が、聞こえました。

・・・?

目を開けると、ロバートが部屋の反対側の壁まで吹き飛ばされていました。

顔面から壁に激突し、ズルズルとずり落ちて行きました。

 

 

な、何があったのでしょう・・・?

そう思い、視線を巡らせてみると。

 

 

「み、ミッチェル・・・?」

 

 

ミッチェルが、そこにいました。

いつも部屋に引き籠っている彼が、呼んでもいないのに、私の部屋まで来るなんて。

いえ、それよりもまず、お礼を言わなくては。

 

 

「あ、ありがとうございます、ミッチェル。助けてくれて」

「・・・」

「・・・ミッチェル?」

「・・・あ、アリアさん!」

「はい!?」

 

 

急に、俯いていたミッチェルが顔を上げ、私の両肩を掴んできました。

年齢の割にミッチェルは身体が大きいので、正直、ビックリしました。

 

 

ミッチェルは、ロバートなど比較にならない程に顔を赤くして、呼吸も荒い感じです。

ロバートと違って、無理に迫ってくる感じではありませんが・・・。

 

 

「あ、あ、アリアさん!」

「は、はい・・・?」

「あ、あのその、ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼ、僕・・・!」

「・・・?」

「ぼ、僕は・・・!」

 

 

僕は・・・何なのでしょう。

何か、もの凄く言いにくそうにしていますけど。

 

 

なんだか、よくはわかりませんが・・・。

私は、ミッチェルの頬に手を伸ばして、なるべく優しく、微笑みました。

 

 

「ゆっくりで・・・良いですよ。ちゃんと、聞いてますから」

「あ、アリアさん・・・」

「はい、なんですか?」

「アリアさん、僕・・・僕、貴女のことが」

 

 

ぐ・・・と、肩を掴む手に力がこもりました。

少し痛くて、私は身をよじってしまいました。

 

 

「み、ミッチェル、痛い・・・」

「え・・・あ、その、ご、ごめんなさい!」

 

 

大慌てで、私から手を離すミッチェル。

その時。

 

 

「不潔ですぅ――――っ!(クルックー☆)」

 

 

窓を突き破り、見たことのある子竜がミッチェルの顔面に突き刺さりました。

その名はルーブル。とある少女を守る竜。

でも今回は、武器として使用されたようです。

 

 

子供とは言え、竜の一撃(一撃と言って良いのかはわかりませんが)を受けたミッチェルは、その場に沈みました。

・・・いったい、何が言いたかったんでしょう。

 

 

「お姉さま・・・! 汚らわしい男に触れられませんでしたか・・・!」

「ドロシー!?」

 

 

窓から入ってきたのは、後輩のドロシー・・・って、ここ結構高い位置ですよ!?

注意する間も無く、ドロシーは私に飛びついてきました。

勢いよく抱きついてきた物ですから、私はその場に尻もちをついてしまいました。

 

 

いたた・・・。

しかし、ドロシーはそんな私にしがみ付き、スリスリと頬を私の胸に擦りつけて来ます。

 

 

「ち、ちょっとドロシー、くすぐったいですよ」

「お姉さま、お姉さま・・・っ」

「な、何ですか?」

 

 

なんだか今日は、同じような展開が続いていますね。

 

 

「お姉さま、大好きです・・・っ!」

「・・・!」

 

 

恥ずかしそうに顔を赤くして、ドロシーは私を大好きだと言ってくれました。

どう言う話の展開かはわかりませんが、それでも、ドロシーの気持ちは伝わってきました。

 

 

私は、身体の位置を整えて、改めてドロシーを抱き締めると。

ゆっくり、ドロシーの頭を撫でながら・・・。

 

 

「・・・ありがとう、ドロシー。私もドロシーが大好きですよ」

「お姉さま・・・♡」

 

 

ドロシーの小さな身体を、できるだけ強く、かつ優しく抱き締めます。

なんだか、ドロシーの手が妙な所に触れている気がしますが・・・。

まぁ、気のせいでしょう。

 

 

・・・それにしても、ロバートもミッチェルも、いったいどうしたのでしょうね?

 

 

 

 

 

Side シオン

 

「・・・お取り込み中のようね」

 

 

ミス・スプリングフィールドの部屋の前で、ノック直前の体勢のまま、私は固まっていた。

ミス・ボロダフキンと抱き合ってる様子なのが、漏れ聞こえてくる会話からわかるのだけど。

 

 

窓を割ったらしいのは後で注意の上、減点するとして。ここで邪魔をする程、私も野暮では無いわ。

手を繋いでいるミス・キルマノックを見下ろすと、不思議そうな目で私を見上げて来た。

純粋なその反応が、とても可愛らしい。

 

 

「ミス・キルマノック。ミス・スプリングフィールドは忙しいみたいだから、用件は後にした方が良いわ」

「アリアお姉ちゃんは、忙しいの?」

「ええ、そのようね・・・しばらく、私と談話室でお喋りでもする?」

「えっと・・・うん!」

 

 

満面の笑顔で、頷いてくれるミス・キルマノック。

本当に可愛い。

ミスター・キルマノックが、過保護なまでに可愛がるのも、無理は無いのかもしれない。

 

 

彼は、行き過ぎだと思うけど。

 

 

「シオンお姉ちゃん、シオンお姉ちゃん」

「何かしら?」

「お姉ちゃんに、コレあげる」

 

 

そう言って、ミス・キルマノックは大きな箱を差し出してきた。

大事そうに持っていた物だけれど、何かしら。

 

 

「これは、何かしら?」

「ちょこれーと!」

「チョコレート? ・・・ああ、バレンタインの贈り物ね」

「うん! アリアお姉ちゃんにあげるつもりだったけど、シオンお姉ちゃんにあげる!」

 

 

なるほど、ミス・スプリングフィールドに何の用かと思ったけれど、コレを渡したかったのね。

でも、そんな大切な物を、どうして私に?

 

 

「シオンお姉ちゃんは、怖いおじさんから助けてくれたから、あげる!」

 

 

怖いおじさんと言うのは、私がこの子と出会う前に、この子に手を出そうとしていた教師のことね。

以前から、女生徒との間でトラブルの噂がある教師だったのだけど・・・。

何度か、職員間でも問題になっていて、今度内密に査定が入るはずよ。

 

 

まぁ、そうでなくとも、あの教師に近付く女生徒なんていないけれど。

ミス・キルマノックが一緒にいる所を見つけた時は、心臓が止まるかと思ったわ。

 

 

そのミス・キルマノックは、私に箱を差し出しながら、ニコニコと笑っている。

本当は他人への贈り物を貰うなんて、良くないことなのだけれど。

この笑顔を前にすると、何とも断れないわね。

 

 

「・・・じゃあ、受け取っておこうかしら」

「うん!」

 

 

大きなチョコレートのようだから、少し食べてみせれば良いでしょう。

その後、私からミス・スプリングフィールドの方に謝っておけば済むことだわ。

 

 

「・・・じゃあ、談話室に行きましょうか」

「はーい!」

 

 

可愛らしく返事をするミス・キルマノックに、私も口元が緩むのを感じた。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

これで大体、校内に残ってる人達には配り終えたかしらね。

私は毎年、先生とか、他の友達の生徒とかにもチョコを配り歩いているの。

なんだっけ、アリアが言ってた・・・。

 

 

「世話チョコと、友チョコと、義理チョコ・・・だっけ?」

 

 

確か、そんな名前だった気がする。

まぁ、後はアリアと・・・って。

 

 

「ネギ!」

「あ、アーニャ」

「珍しいじゃない、あんたが図書館から出てくるだなんて・・・」

 

 

ネギがトボトボと廊下を歩いているのを見つけた。

ネギはいつも図書館の奥で勉強ばっかりしているから、こんな所で会うのは、本当に珍しいのよ。

 

 

「そうだ、アーニャ、これの中身知らない?」

「何の中身?」

「コレ」

 

 

そう言って、ネギが見せてくれたのは、空の便だった。

側面に、見た覚えのあるラベル。

ぶっちゃけ、「ラム酒」って書いてあった。

 

 

さらに言うと、私がチョコ作りに使った物に良く似ているわ。

似ているだけだと思わせて、お願い。

 

 

「・・・ち、ちなみに聞くけど、何が入っていたの?」

「えっと・・・ちょっと特殊な惚れ薬」

「惚れ薬ぃ!?」

 

 

え、じゃあ何?

私が、と言うか私がヘレンやドロシーと作ったチョコレートの中には、その薬が入ってるわけ!?

私、学校中に配り歩いたわよ!?

 

 

と言うか、ミッチェルとかどうなんのよ!

あ、引き籠りだから大丈夫かも。

 

 

「ど、どんな効果があるのよ!」

「詳しくは知らないけど・・・好きな人がいればその人のことがもっと好きになる」

「好きな人がいない場合は?」

「最初に見た人を好きになる」

「効果時間は!?」

「適当に作ったから、知らないけど・・・分量によると思う」

 

 

え、えっと・・・。

3人で瓶丸ごと使ったから、それを校内の人口で割るとして。

え~・・・って、元の効果時間がわかんないと、どうにもならないじゃない!

 

 

「あんた! それの調合表はどこにやったの!」

「禁書庫の中に直したけど」

「あんた、また禁書庫に・・・って、それは良いわ、今は」

「うん。それで、コレ誰が勝手に使ったか知らない?」

「私よ! 何か文句ある!?」

 

 

それどころじゃない。

校内には、惚れ薬(それも、禁止薬物入り)入りのチョコレートが大量に出回ってるってことになるわ。

は、早く回収しなきゃ、と言うか、もうどうしたらいいのか・・・。

 

 

ダメよ。私の手には負えない。

せ、先生達に伝えないと。

 

 

「ネギ、おじーちゃんの所に行くわよ!」

「えー・・・どうして僕が」

「良いから、来なさい!」

 

 

ネギのローブの襟を掴んで駆け出す。

ネギは何か文句を言ってたけど、聞いてあげることは無いわ。

 

 

だって、このバカ、今回だけでいくつ校則違反したと思ってんのよ・・・!

ついでに言えば、私もね! 不本意だけど!

 

 

 

 

 

Side ロバート

 

「いつつ・・・なんだってんだ・・・?」

 

 

アリアの部屋で目が覚めた時、すげー顔面が痛かった。

と言うか、むしろ顎が痛かった。

具体的に言うと、ミッチェルのショートアッパーをモロに喰らったかのような・・・。

 

 

でも、ミッチェルと殴り合った覚えなんてねーし、どうなってんだ?

 

 

「ああ、目が覚めましたか?」

 

 

俺が起きた時、アリアは魔法薬調合用の鍋の前で、何かの薬草を煎じていた。

課題があるわけでもねーのに、何やってんだって聞いたら。

 

 

「タチの悪い風邪が、流行っているようでしてね」

 

 

そう言って、薄く笑いやがった。

その後、なんだかわかんねーけど、薬を貰った。

他の奴には渡してない薬で、良く効いて、しかも副作用は無いんだと。

 

 

じゃあ、他の奴に渡してる薬は何だろうな。

まぁ、それは別に良いが。

ただ、何だろうな。またアリアに迷惑をかけた気がするんだが。

 

 

でもいくら考えても、自分が何をしたか、思い出せねぇ。

記憶が、曖昧だ。

 

 

「気にいらねぇな・・・」

 

 

そんな風にぼやきながら、自分の部屋の前まで戻った。

だけど、俺の部屋の前に、誰かがいた。

長い黒髪の、その女は・・・。

 

 

「シオン」

「・・・ミスター・キルマノック」

 

 

ドアにもたれかかる様にして立っていたのは、シオンだった。

手には、見覚えのある箱が。

 

 

「それは・・・」

「ミス・キルマノック・・・貴方の妹から、頂いたの」

「そ、そうか」

 

 

な、なんだ、彼氏とかじゃないのか。

良かった・・・いや、待て。待つんだ俺。

もし万が一、ヘレンがそう言う趣味だったら・・・?

 

 

い、いやいやいやいや、まさかぁ。

ヘレンに限って、そんなはずは。

 

 

「ミスター・キルマノック」

「あ? ・・・ああ、悪い。なんだよ、何か用か・・・あ、昨日の宿題ならちゃんと出したからな!」

「わかってる。その件ではないわ」

「じ、じゃあ、何だよ?」

 

 

他に、シオンが、この堅物のプリフェクトが俺に用があるとも思えないんだが。

シオンは、なぜか俺をジッ・・・と見つめたまま。

 

 

「・・・部屋に入れてもらっても、良いかしら?」

「はぁ?」

「・・・ダメ、かしら?」

「いや、ダメって言うか、汚いし・・・」

 

 

第一、ヘレン以外の女を部屋に入れたこと、無いんだけど。

アリアやアーニャだって入れたことが無い。

それなのに、なんでシオンを入れるんだよ。

 

 

けど、シオンはどこか、熱っぽい目で俺を見つめると。

 

 

「・・・話したいことが、あるの」

 

 

そう、言ってきた。

眼鏡越しに見える黒い瞳が、なんだか潤んでいるようにも見える。

 

 

その目には、何とも言えない力があった。

 

 

 

 

 

Side ヘレン

 

バレンタインの次の日、ヘレンはいつもと同じように、お兄ちゃんと朝ごはんを食べていました。

学校の朝ごはんは、食堂で皆で食べます。

お兄ちゃんだけじゃなくて、お姉ちゃん達や、ドロシーちゃんとかもいます。

皆で食べるごはんは、とても美味しいです。

 

 

「・・・それで、おじーちゃん達はネギをお仕置き部屋に入れようとしたんだけど」

「まぁ、大方の想像はできますよ。一部の職員がネギを擁護したのでしょう?」

「うん・・・ごめん。解毒剤まで用意してもらったのに」

「良いですよ。別に・・・それよりも、アーニャさんが入れられなくて良かった」

 

 

お姉ちゃん達は、何か、難しい話をしています。

お仕置き部屋は、悪い子が入れられる所だって聞いています。

 

 

お兄ちゃんも入ったことがあるって、言ってました。

この世の地獄だって。

 

 

「お姉さま、私、昨日何をしていたんでしょう・・・?」

「ドロシーは、いつも通りでしたよ?」

「そうね、そこのバカートとは違ってね」

「うっせ」

 

 

でも、皆が楽しそうだから、ヘレンも嬉しいです。

 

 

「失礼するわ」

 

 

そこへ、シオンお姉ちゃんがやってきました。

ヘレンが笑顔で挨拶すると、シオンお姉ちゃんも笑って返してくれました。

 

 

「隣、いいかしら?」

「うん!」

 

 

シオンお姉ちゃんが、ヘレンの右隣に座りました。

左隣には、お兄ちゃん。

 

 

大好きな2人が一緒で、ヘレンはとても嬉しいです。

 

 

「・・・おはよう、ミスター・キルマノック」

「お、おぅ・・・」

「・・・?」

 

 

でも、なんだか、お兄ちゃんとシオンお姉ちゃんは、変な感じです。

アリアお姉ちゃん達も、不思議そうな顔をしています。

 

 

どうしたんだろう・・・?

 

 

「・・・ミス・キルマノック。口の端にケチャップがついていいるわ。はしたないわよ」

「は、はぅ・・・むぐっ」

「あ、バッカ、シオンてめ! いーんだよどーせ最後に拭くんだから!」

「あら、その都度、拭ってあげるのが効率的ではなくて? 貴方のように最後まで好きにさせるから、いつまでたってもテーブルマナーを覚えないのよ」

 

 

私の口元を拭いながら、シオンお姉ちゃんが言いました。

 

 

「これからは、私がミス・キルマノックに生活態度について教えることにするわ」

「はぁ? 何でお前が・・・ヘレンには俺がいれば十分だっての!」

「あら、随分と強気ね。昨日はあんなにアワアワしていたのに」

「ぬぐっ!? て、てめーだって滅茶苦茶ビクビクしてたじゃねーか!」

「あら、何のことかしら・・・?」

 

 

うふふ、と笑うシオンお姉ちゃん。

皆がポカン、とする中、お兄ちゃんとシオンお姉ちゃんは、楽しそうにお喋りしていました。

 

 

ヘレンは、大好きな2人が一緒で、とっても嬉しいです。

 

 




アリア:
アリアです。今回は魔法学校編の第二弾です。
今後、もしかしたら本編にも登場するかもしれない方々なので(魔法世界編とか、確率高いですよね)、出番を稼いでおきたいですし。
バレンタインのお話でした。
イギリスでは、バレンタインとホワイトデーは一緒の物ですので(厳密には違いますが)、ホワイトデーでの特別編はなさそうです。
次に私の学生生活が描かれるのは、いつになることやら。


アリア:
さて、次回は本編、学園祭三日目ですね。
開戦します。何がかは、言わずともおわかりかと。
では、またお会いしましょう。


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第70話「麻帆良祭三日目・開戦」

Side クルト

 

私が仕事の合間のティータイムを楽しんでいると、ある方から連絡がありました。

曰く、緊急事態につき、すぐにお会いしたい・・・と。

 

 

普段であれば、人が死のうと企業が倒産しようと世界が明日無くなろうとも、アポ無しの面会は断固拒否なのですが、しかし。

何事にも例外と言う物は存在します。

そのようなわけで連絡から約一時間後、私の執務室にその「お方」はやって参りました。

 

 

「・・・と、言う訳なのです」

「なるほど、用件はわかりましたが・・・」

 

 

透けるように美しく白い髪、見る者の心を見透かすような、赤と青のオッドアイ。

10歳の少女特有の細く、かつ触れれば折れてしまいそうな、可憐な肢体。

我が敬愛するアリカ様の面影を色濃く残す顔立ち・・・。

 

 

魔法世界の、正当なる所有者。

彼女の名は、アリア・スプリングフィールド。

 

 

何たる僥倖、何たる幸福。

よもや、私の執務室(フィールド)にかようなお客様をお招きできようとは。

このクルト、可能ならば感涙に咽び泣きたい所です。

 

 

「・・・あの、クルトおじ様?」

「ええ、クルトはしっかりと聞いておりますよ、アリア様」

「なら、良いのですけど・・・」

 

 

しかし、アリア様のお話には驚くべき点が多々ありますね。

ただし驚愕はしても、面白味に欠けます。

あの武道会の主催者、超鈴音。

裏で何やら、小賢しい動きをしていた様ですが・・・。

 

 

旧世界全体を覆う『強制認識魔法』と、それに伴う民衆への『魔法』と言う存在の流布。

我々・・・と言うより、私としてもそれは面白くありませんね。

 

 

「とはいえ、情報源を明かされないまま、協力してほしいと申されましても・・・」

「クルトおじ様の立場は、重々承知しているつもりです」

 

 

端的に言えば、アリア様は私に戦力の提供と、超鈴音との戦闘のための環境作りを依頼に来たようです。

まぁ、私が麻帆良に連れて来た人数と、関西呪術協会の戦力を合すれば、正規騎士団一個大隊程度の戦力にはなりますからね。

 

 

加えて言えば、私の権限を使えばある程度の環境作りは可能です。

戦場の設定など、簡単なことです。

 

 

ですが、それでは私に何一つ美味しい所がありません。

何か、メリットを頂きたい物ですねぇ。

 

 

「とはいえ、クルトおじ様にメリットが無いのもまた、事実ですから」

「ほう、おわかりいただけますか。でしたら、ここはひとつ私の・・・」

「ええ、貴方の罪を、許して差し上げます」

「ふむ?」

 

 

私の、罪?

アリア様は目を細めると、腰かけている椅子の端に肘を置き、足を組みました。

顎を上げ、悠然と微笑む。

 

 

「勝手に私の将来の予定を組んだ罪を、不問に処して差し上げます」

「む・・・」

「それに今も・・・私の許可なく、人をつけていますね。それも許して差し上げます」

 

 

ジョリィのことですね。

確かに、彼女は今も、この場のどこかにおりますが。

 

 

「だから・・・協力なさい」

 

 

何と言う、上から目線。

地位も名誉も何も無い小娘の分際で・・・この私に。

クッ・・・と自分の口角が吊り上がるのを感じる。

それでこそ・・・。

 

 

ところが、アリア様はそこで高圧的な態度を崩すと、どこか弱々しい、不安そうな表情を浮かべて。

 

 

「・・・お願いしますよ」

「・・・・・・!」

 

 

上から来て・・・下から!?

しかし、私はクルト・ゲーデル。

そのようなことで、この私を動かせるなどと、思わないことですね。

 

 

 

 

 

Side 朝倉

 

私が超りんに協力するのは、武道会の司会まで。

それ以上のことは、私は知らない。

 

 

そして私は、知らないと言うことが我慢できないタチなんだよね。

ジャーナリストですから。

まぁ、そうは言っても、2日目までの情報は貰ってるんだけど、超りんが3日目に何をするかは、知らない。

 

 

「そんなわけで、ここに来たんだけど・・・」

 

 

事件の顛末、その情報の全てを頂きに来たんだけど。

 

 

「あ、こんにちは、朝倉さん」

「よっす、ハカセ。超りんは?」

「超さんは・・・」

 

 

何かの端末を弄っていたハカセの示した部屋に、普通に入る。

もう何度か来てるし、別に警戒とかはいらないでしょ。

 

 

超りんのやってることはヤバい事かもしれないけど、クラスメート同士、危ない事にはならないはず。

 

 

「超りん、入るよー?」

 

 

部屋に入ると、そこは真っ暗だった。

まぁ、そうは言っても、機械とかランプとか画面とか、いろいろと明滅してるから、完全な暗闇ってわけじゃないけど。

 

 

超りんは、その部屋の一番奥に立っていた。

その向こうに、武道会の時に出した「田中さん」が、いろんな機械に囲まれている。

・・・と言うか、胸の苺のアップリケは何なんだろ。

 

 

「・・・朝倉カ」

「よっす、超りん。何やってんの?」

「何、壊された子を修理しているだけヨ。個体数値が他の子に比べて高いのが、気になるんだがネ・・・」

「ふーん・・・」

 

 

超りんはその田中さんを見て、何か考え込んでるみたい。

何を考えているのか、良くわかんないけど。

 

 

「・・・まぁ、それは良いネ。それよりも朝倉、武道会の司会、ご苦労だったネ」

「まー、お仕事だしね。そ・れ・よ・り・も」

「わかっているヨ。私が今日、何をするカ。何故するカ・・・だったナ」

「そうそう♪」

「・・・でも、私は口で説明するのが苦手でネ」

 

 

チャ・・・と、私に背中を向けたまま、ディスクを見せてくる超りん。

それにまとめてあるってわけ。

できれば、直接取材で聞かせてもらった方が説得力があって良いし、情報操作なんてされたら面白くも無い。

 

 

「だから・・・」

 

 

それはそれとして、貰っておくけどね。

近付いて、そのディスクに手を。

 

 

突然、超りんが私の手を掴んできた。

な―――?

そのまま振り向いて、何かを握り込んだもう片方の手を、私の腹部に撃ち込んできた。

ズムッ・・・と、鈍い痛みが。

 

 

「むぐっ・・・!」

「・・・先に行って、見て来てくれないカ?」

 

 

きゅぼっ・・・と、私の周囲に、黒い渦が。

これは、ヤバッ・・・!?

 

 

「協力、感謝するヨ。朝倉」

 

 

最後に見たのは、超りんの冷たい笑顔。

直後、私の視界は黒く染まって・・・消えた。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

クルト君との連絡も密にしている。

メルディアナとの戦略連携も進んでいる。

戦術的な物はともかくとしても、戦略的な環境は整いつつある。

 

 

麻帆良周辺に伏せた兵力も、私の指示一つで突入できる様になっている。

ここまで来るのに、数ヵ月かかった。

 

 

・・・守るべき物が手を離れてから、組織の長らしくなるとは、我ながらどうしようもない。

 

 

「今さらか・・・」

 

 

窓の外を見れば、ここからでも学園祭の賑わいを見ることができる。

木乃香も、あの中にいるのだろうか。

結局、ここに来てから、会うことはおろか、連絡も取っていない。

人をやって、様子を窺わせることもしていない。

 

 

今、どこで何をしているのだろう。

わかっていることは、刹那君が傍にいるだろうと言うこと。

アリア君達が、それを見守っているだろうと言うこと。

 

 

「できることは、資金援助くらいか・・・」

 

 

後はこうして、できるだけ先を見て、それに備えることくらいか。

お義父さんとのことも、そのために必要なことの一つだろう。

 

 

「・・・長」

 

 

その時、部下が部屋に入ってきた。

少し慌てた様子で、私の傍に来る。

 

 

「長、クルト・ゲーデル氏から、内密な連絡が・・・」

「・・・クルト氏から?」

 

 

今後の行動に関しての基本方針はすでに決まっている。

だから、今から話すことは何も無いはずだが・・・。

 

 

「はぁ、とにかく至急だと言うことで・・・」

「わかりました。受けましょう」

「それと、もう一つ・・・」

「まだ、何かあるのですか?」

 

 

その部下はそこで、どこか言いにくそうな表情を浮かべた。

しかし、そうは言っても、黙っているわけにもいかないと思ったのか、口を開いた。

 

 

「長への面会を求めている方がおりまして・・・」

「私に?」

「は、所属などは明かさなかったそうです。その代わりに、自分の名前を言えば、長にはわかるだろうと」

「名前を? 誰ですか?」

 

 

正直、このタイミングで私に会いに来る人間には、心当たりが無い。

全く無い、とまでは言わないものの、やはり可能性の低い候補ばかりだ。

 

 

「・・・私に会いに来たのは、誰ですか?」

「は、その面会者は・・・」

 

 

その部下は一旦言葉を止めてから、言った。

 

 

「素子、と名乗っているそうです」

 

 

 

 

 

Side 学園長

 

「お断りいたします」

 

 

刀子君のその言葉に、わしは固まった。

にべも無く、断られた。

 

 

しかし別に、いつもの如き思い付きだから断られたわけでも、わしの命令が無理難題だから断られたわけでも無い。

単に、断られた、そんな感じじゃ。

 

 

「い、いや、しかしの・・・これはタカミチ君からの確定情報でな?」

「信憑性がありません」

「いや、しかし・・・タカミチ君がじゃな」

「個人への信頼を、組織全体の行動指針とすることはどうかと思いますが」

「そもそも、出張から戻ったばかりの人間が何故、そのような情報を掴めたのかがわかりませんな」

「ガ、ガンドルフィーニ君?」

 

 

超鈴音が全世界に魔法を公表しようとしておる。

その情報に基づいて、わしとしても対抗の作戦を考えてみたのじゃが。

 

 

その協力と役割分担のために、魔法先生達を緊急招集したのじゃが。

どう言う訳か、いつも以上に冷たい対応をされておる。

しかも、タカミチ君の名前も効果が無いときた。

 

 

「情報源はどこです?」

「情報源は、どうでもよろしい。それよりもじゃな」

「残念ですが、学園長には以前、情報を秘匿されたために大事になりかけた前科がありますので」

「いや、前科って・・・」

 

 

そう、はっきり言われると、傷つくのぅ。

とはいえ、情報源を明かすと、かなり面倒なことになる。

ネギ君のこととか、明日菜君のこととか、他にもいろいろと後ろ暗いことを話さねばならん。

それは、かなり困る。

 

 

「第一、この、一般参加客で超君のロボット軍団に対抗するの、無理がありません?」

「まぁ、うちの生徒はこう言うの好きそうですが・・・」

 

 

瀬流彦君の言葉を、弐集院君が繋いだ。

魔法先生の手には、2000を超えると言う超君のロボ軍団に対抗するために、学園祭の全体イベントを改造して数千の生徒の力を借りようとする計画が書かれた書類がある。

具体案についてはこれから詰めるが、クルト議員の力などを借りればなんとか・・・。

 

 

「いずれにせよ、情報源を明かされぬまま、こんな計画に乗ることはできません」

「ぬぅ・・・」

 

 

とはいえ、魔法先生達の協力を得られぬのであれば・・・。

その時、学園長室の扉が、勢い良く開いた。

 

 

「おや、これはいけませんねぇ」

「・・・クルト議員!?」

 

 

クルト議員が、そこにいた。

議員は室内に入ってくると、にこやかな笑顔を浮かべながら。

 

 

「いや、これは大変だ。よもや職場問題がこんなに身近な所にあるだなんて、気付きもしませんでしたよ・・・上司に恵まれない時はフリーダイヤル、でしたか?」

「こ、これは議員、このような・・・」

「おや、なんですかこの書類は・・・ふん、無自覚な一般人を兵に仕立てて参戦させると、なるほど」

 

 

瀬流彦君の手から書類を抜き取ったクルト議員は、それを上から下まで見ると、その場で投げ捨てた。

慌てて、瀬流彦君がそれをキャッチする。

 

 

皆が呆然とする中、クルト議員はわしの前に、別の書類を突き出してきた。

な、何じゃ?

クルト議員はわしに背を向けると、両手を広げ。

 

 

「初めまして皆さん、この度、関東魔法協会臨時理事職を兼務することになった、クルト・ゲーデルです」

「ほ!?」

「あくまで臨時ですので、私の理事としての権限は今日から3日間に限定されます。なおその間、近衛近右衛門氏は理事職を解任されることが、昨夜の臨時理事会で正式に承認されました」

「ほぉ!?」

「よって、現時点、現時刻を持って、貴方達は私の指揮下に入っていただきます・・・ああ、それと」

 

 

お・・・おぅ?

クルト議員はわしの方を見ると、何故かとても良い笑顔を浮かべた。

うん、嫌な予感しかせん。

 

 

「貴方の解任理由、その他罪状諸々は後日、様々な方面からいろいろな形式で知らされると思いますので、楽しみにしていてください。具体的には、いたいけな少女に過重労働を強いていた件とか」

 

 

何か、ひどく個人的な理由が見え隠れしておる気がする!?

しかし一方で、魔法先生達は、明石教授の目配せに頷きを返しておった。

 

 

「では皆さん、私が用意した代替案を説明します。一度しか言いませんので頭に叩き込んでください」

「「「「はっ」」」」

 

 

あれ、ひょっとしてすでに、話し合いとか終わっとる・・・?

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

開始予定時刻が近付くにつれて、人々が屋内に入って行く。

3日目夜の全体イベントの間は、出店やアトラクションなども禁止される。

屋内の物に関しては、その限りではないが。

 

 

この時期の麻帆良は1日に最大で10万もの人間が出入りし、数万の人間が宿泊していく。

家のある者や、寮生活の者などは自分の部屋に戻ることが義務付けられ、校舎や宿泊施設、ドームなどの施設には一般客が順番に収容されることになっている。

 

 

それは、今から行われる麻帆良全体を使うイベントのための措置だ。

聞く所によれば、一部を魔法で拡張しているとも聞いている。

ありていに言えば、隔離しているとも言える。

 

 

「一般人を巻き込まない、という観点からすれば、ベターなのかもしれないが・・・」

 

 

あまり、聞こえの良い表現では無いな。

それに、元気の良い方々は指示を無視するケースもある。

その場合、魔法関係者によって非常に残念な処置がなされるわけだが。

 

 

本来であれば、私もそうした者達の中の一人として、このちゃんと共に大人しくしているのだろうが。

今回に限り、事情が異なる。

 

 

「せっちゃん」

 

 

その声に、私は意識を現実へと戻す。

私は建物の屋根の上にいて、顔を上げれば、隣にはこのちゃんがいる。

 

 

夕陽を背に、黒髪を靡かせるこのちゃん。

普段は、フンワリとした雰囲気のこのちゃんは、今は異なる雰囲気を纏っている。

どこか透明で、神秘的な雰囲気。

白い狩衣を身に着けたその姿は、まさに「陰陽師」だった。

学園祭の仮装と言えば、それまでかもしれないが。

 

 

「どないかしたん?」

「いえ、何も」

 

 

ぎり・・・と、手に持つ野太刀に力を込める。

しかし、そうは言っても、京都以来の実戦だ。

 

 

しっかりと、このちゃんを守らなければ。

私達の役目は、イベント進行で超鈴音の注意が地上に向いている内に地下に潜り、世界樹にまで到達すること。

人目に触れることのない役目だが、おそらく超さんに勝利するための、重要な役のはずだ。

 

 

細かい点はわからないが・・・アリア先生たっての頼みとあらば、この刹那。

身命を賭して・・・あ、命は大事に。

とにかく、成し遂げて見せます。

 

 

「そんなに気負わんでもええよ、せっちゃん」

「え?」

「うちらは、ただ、世界樹の所まで行ってお茶してくればええだけや」

「いや・・・まぁ、確かに、そう言う言い方もできますが」

 

 

にこっ、と微笑むこのちゃん。

その笑顔に、思わず見惚れてしまう。

 

 

「ほな、行こか。せっちゃん」

「は、はい!」

「もー、せやから、気負わんでええのに」

「い、いえその・・・これは、性分な物で」

 

 

なんだか最近、このちゃんに私の考えまで読まれているんじゃないかと思う時がある。

・・・いや、前からな気もする。

なら、良いか。

 

 

・・・いや、良くは無いだろう!?

 

 

「せっちゃん?」

「今、行きます。このちゃん!」

 

 

 

 

 

Side のどか

 

「全体イベント、どんなのなんだろうね、ゆえ」

「そ、そうですね、のどか」

 

 

夕映とそんなことを話しながら、学生寮の部屋に戻りました。

なんだか、よくわからないけど、生徒は皆寮に戻るように言われたの。

6時から8時くらいの間は、外に出ちゃいけないみたい。

 

 

ネギ先生のお手伝いとかしたかったけど、ネギ先生にダメって言われちゃったし・・・。

それに、今回は私が手伝えることって、あんまりなさそうだし。

 

 

「やっほ♪ お二人さん」

「こんばんはアル」

「あ、ハルナー、くーふぇも」

「せっかくだから、一緒にイベント見ようよ。寮のテレビで説明があるみたいだからさ。ほら、夕映も」

「い、いや私は・・・」

 

 

途中で、ハルナと合流しました。

そう言えば、ネギせんせーと仮契約をしたいって言ってたけど、もう良いのかなー?

ハルナは、暴れる夕映を抱き締めながら、私のことを見ました。

 

 

・・・?

 

 

首を傾げていると、にこっ、と笑顔を浮かべて来た。

な、何だろう・・・?

 

 

「ど、どうしたのー?」

「どうもしないよん♪ さ、行くわよ夕映!」

「は、放すですハルナ。私はこのようなイベントに興味など・・・!」

「まーまー、そう言わずに」

 

 

ハルナはそのまま、夕映を引き摺って行きました。

夕映はしばらくジタバタしてたけど、その内大人しくなりました。

 

 

夕映、なんだか調子が悪いみたいなんだけど・・・。

午後、一緒に学祭を回っている時も、元気が無かった。

なんだか、距離を感じるような気がする。

どうしたんだろう・・・?

 

 

「超包子の肉まんを持ってきたアルから、後で一緒に食べるアル」

「あ、ありがとー、くーふぇ」

 

 

確かに、くーふぇは「超包子」の包みを抱えています。

中を見せてもらうと、ホカホカの肉まんがたくさん入っていました。

おいしそう・・・。

 

 

コレを一緒に食べれば、夕映も元気になるかな。

夕映はいつも私を助けてくれるけど、でも、悩みとかは言ってくれないから・・・。

 

 

夕映は今、どんな気持ちなんだろう。

何を考えてるんだろう・・・。

 

 

そんな思いが、私の中で大きくなっていきました。

夕映の気持ち。

・・・夕映の心。

心・・・。

 

 

「・・・夕映・・・」

 

 

ポケットの中には、ネギ先生と私の仮契約カードがあります。

それを使えば、夕映の心を読むことができます。

でも、それは・・・。

 

 

それはとても、いけないこと。

友達として、親友として、きっとしてはいけないことなんだと、思います。

 

 

いどのえにっき(デイアーリア・エーユス)』。

 

 

でも、夕映・・・。

ごくり、と唾を飲み込んで。

私は、ポケットの中のカードを。

 

 

「のーどか!」

「ひゃう!?」

「・・・どしたの?」

「な、なんでも無いよ!」

 

 

急に声をかけられて、私はごまかすようにハルナの横を通り過ぎて、部屋の中に入りました。

あ、危なかった・・・と、思います。

でも、どう言う意味での「危なかった」かは、わかりません。

 

 

「変な子ねー。まぁ、良いわ、テレビつけるわよ」

「いや、だから私は・・・」

「そこまで嫌なら、見なくても良いと思うアルが・・・」

「だーめよ、くーふぇ。こう言うのは皆で見なきゃ」

 

 

まだ抵抗を続ける夕映に、くーふぇが心配そうな目を向けています。

でもハルナは聞く気が無いみたい。

と言うか、ハルナは普段からあんまり、私や夕映の言うことは聞いてくれなかったりするから・・・。

 

 

そのハルナが、部屋のテレビをつけた。

すると。

 

 

『皆様こんばんは。アリア・スプリングフィールドです』

 

 

アリア先生が、そこにいました。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

『受理されました』

 

 

電話の向こうから、電子音とも女性の声とも取れる音声が響きました。

この瞬間、麻帆良祭最終日、全体イベントの変更手続きが終了しました。

 

 

私が手に持っている、やや変わった見た目の携帯電話は、魔法具『ノブレス携帯』。

お金と権力で可能な範疇なら、過程や段取りや具体的な手段をすっ飛ばしてどんな願いでも叶えられる携帯。

この携帯で願いを叶える際、手順は一切謎のまま実行され、同時にその過程においてかかるはずの時間も無視されます。

一種の、「現実社会に干渉するため」だけの概念アイテム、とでも言いましょうか。

 

 

不老不死とか、現実味の無いことは願えません。

あくまでも、お金と権力で叶えられること。

なお、一台の『ノブレス携帯』で使用できる資金は百億円まで。

 

 

『ノブレスオブリージュ。貴女が生徒達を守り切れる、立派な先生たらん事を』

「・・・ありがとう」

 

 

この魔法具の仮想人格「ジュイス」が、電話の向こうから激励の言葉をかけてくれます。

仕様とは言え、こうした言葉は、嬉しくも厳しい。

ビシッ・・・と砕き、『ノブレス携帯』を魔力へと還元します。

 

 

続いて創造するのは、2つの魔法具。

異次元の侵略者(イビルスクリプト)』と、『死線の蒼(デッドブルー)』。

前者は、情報収集用の手袋型魔法具。パソコンのモニターに直接手を入れてハッキングを行うことができます。

後者は、男性用コート型魔法具。電子工学・情報工学・機械工学において、異常なほどの知識と腕を入手可能な上、最高で128台のパソコンを同時に扱える程の同時処理演算速度を得ることができます。

 

 

「それでは、さよさん、スクナさん・・・私の身体を、お願いしますね」

「はい!」

「任せろだぞ!」

 

 

場所は、エヴァさんの家。

ソファに座る私の両側には、さよさんとスクナさんが立っています。

2人とも、完全装備です。

 

 

2人に声をかけた後、私は膝の上に乗せたノートパソコンに手を伸ばします。

元々、「ぼかろ」達の家としての機能を持っていましたが、修理したら「ぼかろ」が消えていました。

どこに行ったのか・・・まぁ、仕方が無いので私が彼女達の役目を代替します。

ズブ・・・と、パソコンの画面に手を入れ、意識をネット上へ。

 

 

「行ってらっしゃい、アリア先生」

「頑張って守るぞ!」

 

 

常時ネットと意識を繋げるので、恐らくは超さんにも気付かれる。

ロボット軍団のいくらかは、ここへ来るでしょう。

でも、きっと大丈夫。

 

 

私は、さよさんとスクナさんを視界に収めて、笑みを浮かべました。

ロボット軍団なんて、心配する必要は無い。

 

 

さよさんとスクナさんが、私の身体を守ってくれますから。

 

 

 

 

 

Side 超

 

『皆様こんばんは。アリア・スプリングフィールドです』

 

 

画面の一つ、否、麻帆良中のモニターと言うモニターに、白い髪の少女が現れたネ。

私のアジトのモニターにまで現れたそれは、間違いなく、アリア先生だったネ。

 

 

「超さん! 何者かがこっちの防壁を抜いて・・・って、アリア先生がテレビ出演!?」

「落ち着くネ、ハカセ! これくらいは想定の範囲内ヨ!」

 

 

今さら盗まれて困るデータは残していない。全て消した。

だから、例えこちらのネットワークを掌握しても意味は無いネ。

ロボット軍団はネットから完全に切り離して動く。これで制圧されることは無いヨ。

 

 

『私に関しての紹介は、すでにネットや学内イベントでご存知の方も多いようですので、省略させていただきます。さっそく、今麻帆良祭の全体イベントの説明に入りたいと思います。今回のイベントは・・・』

 

 

アリア先生が説明したイベントの名は、「火星ロボ軍団VS学園防衛魔法騎士団」。

麻帆良全区画を使用した、魔法使いとロボットの戦闘アトラクション。

麻帆良武道会でも使われた演出を使用するので、爆発などの危険を避けるために生徒・一般客は屋内に退避。

備え付けられたスクリーン・テレビ・パソコンその他で様子を知ることができる。

 

 

「・・・やってくれるネ」

 

 

人々が直接目にしない、画面越しのイベント。

これでは、人々に魔法と言う物の下地を植え付けることが難しくなるネ。

だが、お祭り好きのうちの生徒がそれで納得できるはずが。

 

 

『とはいえ、見ているだけでは面白味に欠けるかと思います。そこで・・・』

「・・・戦闘参加メンバーへの賭け金制・・・?」

 

 

学園防衛側として参加資格を持つのは、アリア先生を含め、「まほら武道会予選通過者」及び予選通過者に推薦される者。

しかしそのどちらも、「学園長」が許可を与えなければ参加資格は無い。

文句や不満は、高畑先生に言うこと。高畑先生が良しと言えば参加可能。

 

 

魔法先生や魔法生徒、クルト・ゲーデルら元老院の部隊。それに関西呪術協会まで巻き込むカ・・・!

屋内にいる人間は、彼らの誰が最も高得点・・・つまり敵を倒すかで賭けをする。

終了後・・・予定時刻8時の段階のレートによって、食券などの景品が贈られるシステム。

当然、違反して外に出た者は権利を失い、「お仕置き部屋」にさよならネ。

さらに、賭け金が一定額を超えると、そのメンバーに「強力なアイテム」が貸し出されるネ。

つまりより多くの賭け金がベッドされれば、それだけ上位に行ける計算。

 

 

つまり、私の行動を「見せ物」にしようと言うのカ。

 

 

戦闘に直接参加するメンバーが制限されるとは、これは想定外ネ。

しかも、「強力なアイテム」・・・思い当たる節が一つしか無いヨ!

 

 

『なお、このゲームの勝敗は、防衛ポイント六ヶ所の争奪戦で決定されます』

 

 

パッ・・・と画面が変わり、麻帆良全体のポイントが示されるネ。

く、こちらの侵攻ルートまでルールの中に入れるつもりカ。

しかし、それにしても何故、いきなりイベントが変更されたのカ?

後援の雪広財閥などの動きは、監視していたのだガ。

 

 

『大方のルールは以上です。随所で隠しルールなども発表するので、楽しみにしていてくださいね』

「楽しみ・・・上等だヨ。戦力比は10倍。強制認識魔法が発動さえすれば、結局は私達の勝ちネ」

「超さん・・・」

「ハカセは、予定通りに進めてほしいネ。龍宮さん達にもそう伝えてほしいヨ」

「わかりました。・・・あの、ネギ先生達はどうしますか?」

「それも予定通りヨ。拠点制圧部隊の一つに加えておいてほしいネ。可能な限り派手に、かつ目立つようにネ」

 

 

頷きを返して、ハカセが駆けて行く。

ネギ坊主は・・・どうせ何も考えてはいまい。

せいぜい、頼りにさせてもらうとするヨ。

 

 

・・・予定時間を早めて攻撃を開始するカ?

いや、ここはあえて向こうの準備が終わるまで待ってやるネ。

正面から、打ち破る。

そのためには、おそらくは向こうの核となっているはずのアリア先生の居場所を知ることネ。

他にも・・・。

 

 

麻帆良各地の映像を映す画面の一つに、目を落とすネ。

そこに、ある意味で最も注意すべき対象を見つけた。

 

 

金髪の髪に、漆黒の服の少女。

<闇の福音>。

ちょうど良い、意趣返しにもなるだろう。

 

 

「・・・まずは、貴女から消えてもらうとするヨ、エヴァンジェリン」

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

いやぁ・・・疲れた。

まだ戦闘は始まってすらいないけど、僕はすでに疲れていた。

 

 

どうしてかと言うと、とにかく元気なうちの生徒や、新田先生を筆頭とする一般教師とか、他にもいろいろと、説明したり説得したりしなくちゃいけなかったからね。

特に、学外の人達とか、報道陣はしつこかった。

図書館島に集められている人達は、暇潰しの本もあるし、特設の大スクリーンで見れるから、割と人気があったけど。

 

 

まぁ、全部学園長の名義で行われているわけだから、大体の不満は学園長に向くしね。

学園長は、表向き「まだ」学園長だ。

ついでに言えば、高畑先生が武力鎮圧してる所もあったし。

 

 

「しゃうらぁ――――っ! やったるどお前らぁ―――――っ!!」

「「「おいさぁおらぁ―――――っ!!」」」

「東の奴らがなんぼのもんじゃオラァ――――――ッッ!!」

「「「あえて言うぞ、カスじゃオラァ―――――ッ!!」」」

 

 

・・・な、何か、異様にテンションの高い人達がいるんだけど。

というか、これから一緒に戦うにしては、不穏当な発言が聞こえたんだけど。

あれは、関西の人達だよね?

 

 

何か、最初に見た時よりも数が多いような気がするのは、なんでだろう?

というか、確実に多いよね?

ついでに言えば、クルト議員(今は理事でもあるけど)の部下の人の人数も、何か多い。

これは・・・。

 

 

「政治力の差かなぁ・・・」

『一概には、そう言えない面もあるかとは思いますが』

 

 

手元の携帯電話から、聞き覚えのある声が聞こえた。

その画面に映っているのは、白い髪の女の子。

 

 

「・・・アリア君、いつからテレビだけじゃなくネットにも配信されるように?」

『いえ、別にそう言う訳では・・・』

 

 

アリア君は僕の言葉に苦笑すると、真剣な顔に戻って。

 

 

『私は現在、ネット上にデータとして展開されています。128のマザーコンピュータを介して、各所の様子をリアルタイムでお伝えします。ありていに言えば、作戦補助が私の役目です』

「そうか・・・じゃあ、今回は僕らで頑張らないとだね」

『私も、全力でサポートします。屋内のセキュリティに関しても掌握済みですので、一般客が外に出る可能性は限りなく低いと考えてくださって結構です。まぁ、100%とは言えませんが・・・』

「そこはまぁ、僕らが何とかするよ」

 

 

ハイテクで管理してる建物ばかりじゃないし、何よりもここは麻帆良だ。

どうしても、不確定要素は出る。

そこはまぁ、お互いが頑張り合うしか無いよね。

 

 

その時、防衛拠点から少し離れた場所・・・湖の方から、爆発音と光。

にわかに、場の空気が緊張する。

 

 

「あれは・・・」

『戦闘が開始されたようです。最前線は麻帆良湖湖岸』

 

 

パッ・・・と、携帯の画面が変わり、麻帆良湖湖岸近辺の様子が地図として映された。

そこには、少数の青(味方)と、大量の赤(敵)が。

数は・・・2500。

敵の、主力部隊だ。

 

 

『開戦です』

 

 

アリア君が、どこか緊張を孕んだ声で告げた。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「ふん、始まったか」

「ソーミタイダナ」

 

 

時計塔の上から、少し離れた位置の様子を見ている。

湖の方で、戦闘が始まったようだな。

 

 

時間は、6時ジャスト。

超め、正攻法で押し潰すつもりか。

まぁ、戦力比は向こうに分があるわけだしな、とりあえずは正攻法、と言うことか。

 

 

今頃下では、ネット上に意識を侵入させたアリアが、雑魚共をサポートしたり、茶々丸とネット戦争でも起こしている所だろう。

私は携帯などの電子機器は苦手なので、アリアのサポートは受けていない。

仮契約カードもあるし、念話だって使えるのだから、別にいらんだろう。

 

 

「スコシクライ、レンシュウシロヨ」

「お前だって使えないだろ」

「ジツハサイキン、ネトゲシテルンダゼ」

「はぁ!? 何だそれは、私は聞いていないぞ!?」

「デスペナガキツインダ」

 

 

ネットゲームする人形って何だ。シュールすぎるだろうが。

RPGで遊ぶ吸血鬼と良い勝負だろうよ。

 

 

「・・・は、まぁ、この件が決着すれば、少しくらいは練習しても良いかもな」

「メズラシイナ、ゴシュジンガ」

「何、ぼーやが超についていると言うしな、これに勝てば完璧におさらばできると言う物だろう?」

 

 

ぼーやだけじゃない。

これまでぼーやに肩入れしていた連中をのきなみ排除できるだろう。

そうすれば、退屈だが平穏な日々に近付けると言う物だ。

 

 

まぁ、それにアリアやバカ鬼や、さよや茶々丸、チャチャゼロなどとの毎日だ。

退屈はせんだろう。

夏休みには、アリアも一度ウェールズに戻るらしいから、それに付き合うのも面白かろう。

いずれにせよ、この戦いに勝てればの話だが・・・。

 

 

「呪いから解放され、絶対無敵チートな状態にある私が、超ごときに遅れをとると思うか?」

「マンシンハシヲマネクゼ」

「慢心せずして、何が最強種か・・・・大体、私は不死だぞ」

 

 

死亡フラグなど、それごと噛み砕いてくれる。

それにアレだ、あのアリアの「お願い」だからな。

主人として、従者の願いを聞いてやるのも悪くない。

対価は、貰うがな。

 

 

「・・・ナニ、ニヤニヤシテンダ?」

「バカな、私はいつでもクールだ。ニヤついてなどいない」

「フール?」

「壊すぞ、ボケ人形」

 

 

しかし、そろそろおふざけも終わりだ。

早急に超を見つけ、泣くまで殴る。

それが、私の役目だからな。

 

 

「・・・さて、移動するぞチャチ」

 

 

 

   ――――ドスッ――――

 

 

 

「ャゼロ」

 

 

その時、突然。

胸の真ん中から、白い棒のような物が生えてきた。

否、違う。

 

 

背後から突き刺されたのだ。

何を刺されたかは知らんが、この程度の刺突であれば、私は。

 

 

「ゴシュジン!?」

 

 

チャチャゼロの声が、やけに遠く聞こえる。

 

 

力が、失われていくのを感じる。

身体が弛緩し、膝が折れる。

何だ。

 

 

何だ・・・コレは。

 

 

「・・・隙アリ」

 

 

耳元で、囁く声。

その声に、私は力を振り絞る。そして、叫ぶ。

その者の、名を。

 

 

「ち・・・」

 

 

怒りと、憎しみを持って。

 

 

「超オオオオオォォォォォ――――――――――っっ!!」

 




アーニャ:
アーニャよ、よろしくね!
今回は出番が無かったから、今日はここを担当することになったわ!
今回は、いろいろと麻帆良内の政治状況が動いたわね。
表向きは、クルト議員が単独で動いたかに見えるけど、実情は関西呪術協会、メルディアナ双方の動きもリンクしていたようね。
大人の世界は、怖いわねー。


今回新規で使用した魔法具は、このくらいね!
異次元の侵略者:司書様、こんな小説作ってごめんなさい様提供。「ネウロ」からね!
「東のエデン」より、『ノブレス携帯』:月音様の提供よ。
ありがとう。

アーニャ:
じゃあ、次回のお知らせよ。
次回以降は、戦闘とか戦争とか、あるいは一般人の反応とかが描かれていく予定よ。
その中には当然、ネギのことも含まれるわ。
じゃ、私、ちょっとネギを殴ってくるから!
また、会いましょうね!



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第71話「麻帆良祭三日目・戦争」

Side 超

 

あの人に初めて出会った時のことを、私は今でも覚えている。

アレは、私が3歳の時だったネ。

 

 

魔法を自ら行使する力を持たなかった私は、一人だった。

温かい食事も、豊かな教育も、血の通った家族も、心を通わせる友も、私には無かった。

だけど。

光の届かぬ地下深く、冷たい石畳の部屋で、私は。

 

 

『・・・そんな所でしゃがんでいると、危ないですよ』

 

 

飢えと、寒さと、孤独に彩られた世界で。

私は、白い女神に出会った――――。

 

 

 

 

 

それを今、思い出すのは、何故だろう。

・・・現実に、意識を戻そう。

 

 

「がっ・・・ぐ・・・!」

「ゴシュジ・・・」

 

 

私の目の前には、金の髪の少女が、うつ伏せに倒れているヨ。

その魔力供給で動く従者の人形も、魔力供給が切れて、その場に倒れるネ。

 

 

エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル・・・<闇の福音>。

掛け値無しに、この時代、この世界で最強の魔法使いの一人。

普通ならば、私如きがどうこうできる相手では無いネ。

だが、『千の未来』が引き寄せる未来と、このアイテムの前には、完全無欠ではいられなかったようね。

 

 

この人が一人いれば、全ての戦況がひっくり返されてしまうネ。

だから、ここで盤上から消えてもらうヨ。

 

 

「ぐ、ぬぅ・・・き、さま・・・!」

「おや・・・まだ動けるか、流石はエヴァンジェリン」

 

 

エヴァンジェリンは、脱力していたように倒れていたガ、身体を震わせながら、起き上がろうとしていたネ。

正直、驚いたヨ。

エヴァンジェリンの胸に刺した魔法具は、それ程の効果を持った物だからネ。

 

 

魔法具、『強欲王の杭』。

拘束封印魔法具で、見た目は、日本刀の柄に真っ白な棒が付いた物。

「刺す」機能しかない代わりに、これに刺された者は一切の力の行使を阻害され、封印される。

とはいえ、実際に傷つくわけでは無いネ。ただ力を封じられ、動けなくなるだけヨ。

私が持ってきた5種の中で、最も強力な魔法具。

 

 

「しかしそうは言っても、今の貴女は力を封じられ、何もできないネ」

「き、さ・・・」

「・・・こういう事態も、有り得ると言うことヨ」

 

 

そう、有り得るのヨ。

私はゆっくりとエヴァンジェリンに歩み寄ると、その髪を掴んで、顔を上げさせたネ。

・・・鬼の形相とは、こう言う物を言うのかもしれないネ。

 

 

チャ・・・と、左手に、時間跳躍弾を構える。

間髪入れずに、振り下ろしたネ。

 

 

「きぃさぁまああああぁぁぁ――――――っっ!!!!」

 

 

ドギュッ――――。

黒い渦が、エヴァンジェリンを飲み込んだ。

 

 

「それではまた、3時間後、私の計画が成就した世界で会おう」

 

 

・・・その時には、私を殴り殺してくれて構わないヨ。

エヴァンジェリンの身体が消えた場所に向けて、心の中でそう告げた。

続いて、エヴァンジェリンの従者の人形を見る。

 

 

「・・・」

 

 

エヴァンジェリンからの魔力供給が切れた以上、アレはもう、ただの人形ネ。

捨て置いて、構わないだろう。

 

 

もう一度、エヴァンジェリンの消えた場所を見る。

胸が痛むが・・・私は、引き返さない。

 

 

「・・・すまない、師匠(マスター)」

 

 

 

 

 

Side 刀子

 

麻帆良湖湖岸で、戦闘が開始されました。

敵の数は目算で2000以上。人型だけでなく、多脚戦車らしき物もある。

こちらは、私達やクルト議員の戦力を含めて、湖岸に50人程。戦力比は40倍以上。

正直、厳しいですね。

 

 

そのようなことを考えつつも、手を止めたりはしない。

神多羅木さんの遠距離無詠唱魔法による援護を受けながら、10体目のロボットを斬り伏せる。

 

 

「メガロメセンブリア重装歩兵・第9分隊構え―――っ!」

 

 

すぐ傍に展開しているメガロメセンブリア正規兵は、一糸乱れぬ動きで、斧剣(ハルバード)を構えていました。

ジャキンッ・・・と、槍先をロボット軍団の戦闘に向けます。

 

 

「撃てぇ―――っ!」

「「「イエス・マイロード!!」」」

 

 

10条程の火属性の攻撃が、ロボット軍団の先頭に直撃する。

ただ、斬ってみてわかりましたが、あのロボットは意外と頑丈です。

中級攻撃魔法でも、数発は当てないと破壊できません。

 

 

「な、なにぃ! 我らの貫通徹甲弾が通じないだと!?」

「はっはぁ! その程度か西洋魔法使い!」

「そんな木偶人形も壊せぬとは、笑止千万!」

「ぬぅ、貴様らは!?」

「「「我らは、関西呪術協会中国支部所属・反乱鎮圧外征チーム!!」」」

 

 

黒い鎧を着たメガロメセンブリア正規兵の間をすり抜けるように、白い狩衣姿の男性が3人、ロボット軍団の中心に突撃して行きました。

その3人は、一人が符術で動きを封じ、一人が足を斬り飛ばし、最後の一人が胴体を吹き飛ばす、という流れを繰り返し、瞬く間に3体のロボットを破壊しました。

 

 

「ふふん、どうだ」「我々の力を」「しかと見届けたか!」

「「「西洋魔法使い!(ビシィッ)」」」

 

 

なぜかポーズまで決めて、不敵に笑う3人。

メガロメセンブリア正規兵は、ザワザワと囁き合いながら、彼らを見ています。

ただ、脅威と言うより、好奇の視線のような気もします。

 

 

・・・あれ、陰陽師っていつから近接戦もするように?

彼らの一人は神鳴流剣士のようですが、残る二人は陰陽師スタイル。

私がいない間に、関西に何が・・・。

 

 

「葛葉!」

 

 

神多羅木さんの声に反応した時には、すでに遅い。

他の状況に気を取られ過ぎた・・・周囲をロボットに取り囲まれた!

 

 

スラッ・・・と刀を抜刀するも、間に合わ・・・。

 

 

「秘剣・・・」

 

 

カ・・・カカカカカカカ!

 

 

「・・・風塵乱舞」

 

 

小気味良い音を立てて、シャープペンがロボットの額に刺さった。

それも、八体同時に。

ロボットの動きが止まる。

 

 

次いで、黒いスーツを着た黒髪の女性が、私の目前に降り立ちました。

その女性は、腰に構えた野太刀を抜き放つと。

 

 

「秘剣・百花繚乱!」

 

 

無数の花弁が舞い、私の周囲を取り囲んでいた八体のロボットが、ことごとく斬り伏せられた。

明らかに、神鳴流剣士。それも、遥かな高みにある存在だと言うことがわかります。

冷たく、鋭く、それでいて裂帛の気の込められた剣筋。

 

 

「あ、貴女は、まさか」

「・・・今はただ、素子とお呼びください。近衛詠春殿の要請により、助太刀いたします」

「お、長の・・・」

「では、行きましょう」

「え、あ・・・は、はっ!」

 

 

間違いない、あのお方は、青山宗家の・・・。

私は、自分の野太刀を構え直すと、素子様の後に続いた。

 

 

 

 

 

Side 夏目(ナツメグ)

 

麻帆良のセキュリティコントロールルーム。

そこでは私を含めて十数名の魔法生徒が、明石教授の指揮の下、学園結界を始めとする麻帆良の防衛システムを管理しています。

最新型二〇〇三年式電子精霊群。最新の魔法技術が、ここには揃っています。

 

 

たとえ敵が科学に秀でているとは言っても、ここのセキュリティを突破することはできないはず。

 

 

「湖岸迎撃部隊、総撃破数500体を超えました、順調です!」

「流石と言うべきか・・・本国・麻帆良・関西呪術協会の混成部隊。正直、どこまで機能するかわからなかったが・・・」

「今の所、競い合う形で撃破数を重ねて行っている様です」

「こんな作戦を考えるなんて、流石はクルト議員だね」

 

 

明石教授も感心されていますが、やっぱり本国の議員さんともなると、違うんですね。

私達だけでは、どうなっていたことか。

 

 

ヴィ――、ヴィ――ッ、ヴィ――ッ!

 

 

「どうした!?」

「え、エマージェンシーです!・・・学園警備システムメインコンピューターが何者かのハッキングを受けています!」

「な、何だって!?」

 

 

そ、そんな・・・。

ここには、最新式の魔法技術の粋が集められているのに!

最強の電賊でも、ここの多層防御プログラムを抜くのには、かなりの時間がかかるのに。

こんな、あっさりと。

 

 

「メインに侵入されるまで気付かなかったのか!?」

「申し訳ありません! すぐに防壁ッ・・・突破されました!」

「第03~第08電子精霊群、解凍!」

「解凍妨害されました! 物理的なシャットダウンにも応じません!」

「な・・・」

 

 

不味い、学園警備システムの中枢へのアクセスコードがもう下8ケタまで・・・12ケタ!?

速すぎます、対処できな・・・っ!

 

 

『こちらで対応します』

 

 

ブゥンッ・・・と、画面の一つに、白い髪の女の子が現れた。

あ、ネットで見た・・・アリア先生?

次の瞬間、学園防衛システムの管理権限を奪われました。

え・・・そんな、一瞬で!?

 

 

「アリア君!? どうしてキミが・・・いや、それよりも対応とは!?」

『詳しい説明は省きますが、現在私は麻帆良の中枢を掌握しています。これを持って、敵のネット上の侵攻を押しとどめます。明石教授は戦場の情報収集と司令部のバックアップを絶やさないようにお願いします』

「ま、待ってください。相手はこちらの防衛プログラムを5割・・・いえ、6割以上突破しています。ここからの挽回は簡単では無いはずです!」

『わかっています。ですが、私以外におそらく、対抗できる手段を持つ者が存在しません。相手は・・・』

 

 

画面の中のアリア先生は、遠くを見るように目を逸らせた後、再び私達に視線を戻して。

 

 

『私の良く知る相手のようですから』

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

ピク・・・と、身体が反応します。

しかし私の思考は、変わることなく目の前の事象に対応することを可能としています。

 

 

相手の防衛プログラムの動きが、明らかに変わりました。

これまでのように、組織的に統制された、ある意味パターン化された対応では無く、一つの意思の下に統一された、柔軟な動きに。

こちらの攻勢に対し、受け流し、防御し、そして逆に攻撃に転じようとしているようです。

 

 

そして、ネットと一体化している私の思考は、向こう側にいる相手を特定します。

 

 

「アリア先生・・・いらっしゃいましたか・・・」

 

 

むしろ、正体を隠す気が無いようですね。

隠しても無駄、と言うのもあるのでしょうが、しかし・・・。

 

 

「お相手いたします」

 

 

ここは、私のフィールド。

いかにアリア先生と言えども、私の優位は動きません。

 

 

自動巡回プログラム、手動に切り替え。

無駄データ収集、終了と同時にD○Sアタックを敢行。

カウントスタート、5、4、3、2、1・・・。

 

 

「発射(ファイア)」

 

 

無駄データで構成された電子ミサイル群が、麻帆良の防衛プログラム中枢に攻撃を仕掛けました。

通常であれば、それで相手のシステムは甚大なダメージを受けるのですが。

 

 

直前、緊急防護(フィルタリング)されました。

しかもただの防御では無く、こちらの無数の無駄データの特性を把握しきった上での行動。

どうやら、こちらのデータに強制介入し、かわされたようです。

 

 

直後、今度はこちらの制圧領域に対して、同様の攻撃が実行されました。

あらかじめ用意していた「茶々丸特製緊急防護(パケットフィルタリング)」がそれを防ぎます。

 

 

「この反応速度・・・人間とは思えません」

 

 

流石は、アリア先生。

しかし、これほどの演算速度、人間の頭脳がいつまでも耐えられるとは思えません。

また、無理をされている可能性が極めて高いです。

おそらく、「ぼかろ」の抜けた穴を埋めようとされているのでしょう。

 

 

これほど高度な電脳戦、アリア先生の成長途上の身体には過ぎた負担です。

しかしだからと言って、私も任務は放棄できません。

・・・だから。

 

 

「可及的速やかに、麻帆良防衛プログラムの全領域を制圧いたします」

 

 

可能な限り素早く勝負を決し、アリア先生に休息をとっていただきます。

いかに魔法具の補助を得ていようと、こと電脳戦に関しては私の方が一枚も二枚も上手です。

 

 

おそらくはアリア先生が私を止めている間に、マスター達が超を倒す、と言う計画なのでしょうが。

残念ながら、アリア先生。

ネット空間にいる限り、私には勝てません。

 

 

勝たせません。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

「おお・・・何か、ウジャウジャ来たぞ、さーちゃん」

「そうだね、すーちゃん」

 

 

エヴァさんの家の屋根の上で、私達は周囲を警戒していました。

戦闘開始から10数分、そう遠くない位置に、敵のロボット軍団が姿を現しました。

そう時間をかけずに、接敵することになると思います。

 

 

私のアーティファクト『探索の羊皮紙』も、相手がロボットだと探知できません。

だから、相手の数はわからない。

 

 

「ん~・・・大体、100くらいだと思うぞ」

「わ・・・すーちゃん、わかるの?」

「地面の振動でわかるぞ。足がたくさん付いてるのもあるから、正確にはわからないぞ」

「それでも、凄いよ。地下からはどうか、わかる?」

「ん~・・・来てないぞ」

 

 

良かった。

アリア先生はリビングにいるから、地下からとか来られると、困ったんだけど。

結界は張ってあるけど、床とかは無防備だったりするし。

 

 

今のアリア先生は、意識をネット上に落としているから、自分で自分を守れない。

私達が、頑張らないと。

 

 

その時、すーちゃんがどこか期待するような目で私のことを見ました。

なんだか、ご飯を前にした時と似ている気がします。

なんだろう・・・?

 

 

「さーちゃん、アレ全部やっつけたら、スクナ、カッコ良いか?」

「それは・・・うん、凄くカッコ良いと思「じゃ、行ってくるんだぞ!」うって、早っ!?」

 

 

ドギュンッ・・・と、屋根の一部を吹き飛ばして、すーちゃんが消えた。

次の瞬間、ロボット軍団の中心で爆発が起こりました。

 

 

「す、すーちゃんってば・・・」

 

 

あはは・・・と私が笑う間に、ロボットがどんどん減って行きます。

でも、すーちゃんが討ち漏らしたロボットが何体か、こっちに来ています。

すーちゃんばっかり戦わせるわけにもいかないし、私も負けてらんない!

 

 

「『アヒル隊』、セットアップ!」

 

 

ポポンッと、私の周りに、お風呂で使うアヒルみたいな魔法具が出現します。

前から、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』の練習とかに使っていた物です。

 

 

「『突撃ぃ!いっけー!』」

 

 

始動キー宣言と同時に、10数体のアヒルさん達がロボットさん達の突撃します。

一つ一つに、高位の魔法使いが使用する魔法の矢と同等の威力があります。

 

 

「『爆殺・アヒル小隊』、セットアップ!」

 

 

ズラッ・・・と、数十体のアヒルが並びます。

さっきのアヒルさん達よりも、顔つきが精悍で、全員ベレー帽をかぶっています。

そして一つ一つが、高位魔法使いの中級呪文程度の威力を秘めています。

ちなみに、小隊長アヒルさんは左目に眼帯をしています。

 

 

「『一小隊一殺』!」

 

 

始動キーを宣言すると、さっきの『アヒル隊』よりも素早く、高度な動きでロボット軍団に突撃、先頭集団を爆散させました。

真ん中から後方のロボットは、すーちゃんが倒してくれます。

すーちゃんが倒しきれなかった分は、私がなんとかできます。

 

 

最悪の場合はアリア先生の身体を中心に、結界を最小限にして、引き籠ります。

場合によっては、アリア先生の魔法具を使って防護します。

アリア先生の身体は動かせないから、逃亡はできません。

 

 

「でも・・・」

 

 

不安が、口を吐いて出てしまう。

だって、私の手元にある『探索の羊皮紙』には、エヴァさんの名前が麻帆良のどこにも無いから。

脳裏に、超さんの顔が浮かびます。まさかとは思う。

 

 

エヴァさんが負けるとは、思えないけど。

でも、このアーティファクトの正確さは、私が一番よく知っています。

 

 

「エヴァさん・・・」

 

 

ある意味、この世で一番頼りになるはずの人の名前を、私は無意識に口にしていました。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「だぁらっしゃあ!」

 

 

小太郎が、六本足の戦車みたいな奴を下から殴り飛ばした。

狗神つきのその一撃は、戦車ロボットの顔面を粉砕し、胴体を宙に浮かせる。

 

 

「ざ~んて~つせ~ん!」

 

 

それを、高く跳躍した月詠はんが、真っ二つに斬り裂いた。

爆発して、砕け散るロボット。

 

 

ぱっと見、あの2人の連携はキマってるように見えるやろ?

うちもきっと、傍から見とったら、そう思ったと思うわ。

でも、実際には・・・。

 

 

「しゃあっ、ドンドン来いやぁっ!」

「乱戦に紛れて、ひーときーりたーいなー♪」

 

 

実際には、あの2人は他の連中ほっぽって、前進ばっかりしよんねんで!?

と言うか、月詠はんがヤバいこと言うとるし!

 

 

うちらは最初、フィアテル・アム・ゼーとか言う広場で守りについとったんやけど、今やドンドン奥に引き込まれて、完全に孤立しとった。

戦闘開始30分。

・・・有り得へん。早すぎるやろ。

 

 

「あんたらなぁっ! 少しは周りの状況ってもんを」

「千草ねーちゃん、屋根の上や!」

「はぁ!? 屋根の上が何・・・」

 

 

小太郎の声に、苛立つ気持ちを抑えて、上を見る。

すると、左右の建物の屋根の上に、やたらと重そうな銃火器を持ったロボットが。

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドドッッ!

 

 

秒間数十発の弾丸が、うちに向けて発射された。

え、ちょ・・・だぁっ!

袖口から、一冊の薄い帳(ノート)を取り出す。

折り込んであったページを開いて・・・。

 

 

「召喚、『大百足』!」

 

 

全長10数メートルもある巨大な百足が召喚される。

その巨体を前面に展開し、壁にする。弾丸はそれで防げたんやけど・・・。

 

 

「千草ねーちゃん!」

「やらせませんよ~、にとーれんげき、ざ~んく~せ~ん!」

 

 

次の瞬間、身体が浮いた。

気が付いた時には、小太郎に担がれとった。

取り残された百足が、黒い渦みたいな物に飲み込まれるのが見えた。

 

 

「千草ねーちゃん、大丈夫か!? 片腕持ってかれてないか!?」

「怖っ!? い、いやでも、アレが何かわからんしな。助かったわ、小太郎」

 

 

物陰まで退避した所で、小太郎に降ろされた。

・・・どうでもええけど、荷物運びみたいに肩に担ぐのはどうかと思う。

・・・他にどう運べって話やけど。

 

 

あ、そや。月詠はんは・・・。

物陰から、顔だけ出して様子を見ると。

 

 

「キャハハ―――、にとーれんげき、ざ~んが~んけ~ん!」

 

 

屋根ごと、ロボット達が吹き飛ばされとった。

・・・楽しそうで、ええことやね。

 

 

とりあえず安心して良さそうやから、顔を引っ込める。

ふぅ・・・と、額の汗を拭う、さっきのは本気でヤバかった。

その時、手に持っとった帳(ノート)が目に入った。

さっき、とっさに使った道具や。

 

 

『友人帳』と言う名前なんやけど、陰陽師には便利なアイテムや。

何せ、3割の力で式神召喚ができるんやから。紙形もいらんし。

 

 

「でも、できれば使いたなかった・・・便利やから、つい使ってまうけど」

「何をブツブツ言うとるんや・・・って、それアリアのねーちゃんから貰とった奴やな」

 

 

そう、これはアリアはんに貰った。

昨日、ベストカップルコンテストの後、妙に上機嫌なアリアはんが、小太郎に世話になったから言うて。

ただ・・・。

 

 

『これで、お友達をたくさん作ってくださいね』

 

 

ええ笑顔で、そう言われた。

他意は無いと、思う。思うけど、なんや言外に「千草さん、友達いなそうですから」って言われた気がする。

うちかて、友達くらい・・・。

 

 

「・・・・・・小太郎、月詠はんと一緒に暴れてこんでええんか」

「え? あ~・・・そやな」

 

 

考えるのを、やめよう。

ええんや、うちは親の仇さえ討てればそれで・・・。

 

 

「千草ねーちゃんとおるわ、俺」

「ええて、まぁ、なんとかサポートして・・・」

「せやかて、千草ねーちゃん守らなあかんやん」

 

 

は?

 

 

「さっきみたいになった時、千草ねーちゃん一人やったら、どうにも・・・なんやね」

「いや・・・ええ子やなて思うて」

「こ、子供扱いすんなや!」

 

 

いつの間にか頭を撫でとったうちの手を、小太郎が乱暴に払った。

まぁ、でも実際、ええ子やと思う。

うちみたいな半端もんには、もったいないわ。

 

 

友達は・・・まぁ、アレかもしれんけど。

でも、ええわ。うちはこの子らの面倒見なあかんし・・・。

 

 

・・・そろそろ、ちゃんとするべき、なんかな。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

私を頂点とする学園防衛魔法騎士団総司令部は、最重要防衛拠点である世界樹前広場に置かれています。

そこには本国から持ち込んだ精霊化情報技術―――わかりやすく言えば、魔法技術と精霊を利用した戦争支援用の装置一式が並んでいます。

流石に、最新鋭の物を持ってくることはできませんでしたが。

 

 

目の前の精霊式広範囲地形把握装置には、麻帆良全区画の戦場の様子が映し出されています。

味方部隊の配置、敵の動向、先頭の規模が一目でわかります。

 

 

「今の所は、予定通りですかね・・・」

 

 

私は政治家であって軍人では無いので、そこまで詳しいわけではありませんが、把握できる範囲では、戦闘は当初の作戦通りに進んでいるようです。

我々騎士団が、10倍以上の規模を持つ敵軍を抑えている間に、アリア様がネットを制圧、そして別働隊が超鈴音を打倒する。

 

 

とはいえ混成軍ですから、個人レベルではともかく、集団ではどこまで持つかわかりません。

現に、湖岸部隊を突破した敵軍は、すでにいくつかのポイントに侵攻しているようですし。

 

 

『こ、こちら麻帆・・・学工学部キ・・・ス中央公園前!』

 

 

その時、ポイントの一つから通信が入りました。

ジャミングされているのか、音声が乱れていますね。

 

 

『て、敵に強・・・体が・・・味方の大半・・・! 至急、応・・・う! 繰り返す、応援を・・・!』

「クルト議員、どうやら応援を求めているようです!」

「捨て置きなさい」

「な・・・!」

 

 

部下の報告に、冷酷に答えます。

残念ながら、ポイントの一つや二つ、時間稼ぎさえできれば落ちても構いません。

ここ以外には最小限の戦力しか置いていないので、そもそも守りきれるとは思っていませんよ。

 

 

と言うか、ほどほどで退けと命令したはずですが。

 

 

「我に余剰戦力なし、現有戦力で対処せよと打電しなさい」

「し、しかし議員・・・!」

「残念ですが、彼らはもう助かりません」

「く・・・!」

 

 

悔しそうな顔で、通信装置を操作する部下。

ふん・・・役に立たない捨て駒達です。

アリア様のための時間も稼げないとは。

 

 

「・・・楽しそうだな、クルト」

「黙れ、タカミチ。情報によれば、命に関わるわけでは無い。だから見捨てても問題は無い」

 

 

と言うか、部下達もどこか楽しんでいる様子です。

一応、世界の危機なのですが。

まぁ、魔法世界で過ごしている彼らにとっては、緊張感に欠ける部分もあるのかもしれませんね。

 

 

『い、苺・・・プリケが・・・!』

 

 

それを最後に、通信が途絶えました。

どうやら、敵にも強力な個体が投入されたようですし・・・。

 

 

「タカミチ、片付けて来い」

「・・・わかった」

 

 

私のモノ言いに苦笑しながら、タカミチが応じた。

ふん、私は元老院議員で、しかも今は関東魔法協会の理事です。

もう、あらゆる方面からタカミチをこき使うことができる。

 

 

「・・・クルト議員!」

「今度はなんです?」

 

 

また、どこかの部隊から救援要請ですか?

 

 

「し、システムがダウンしていきます!」

「何ですって!?」

 

 

しかし、部下の報告の通り、それまで麻帆良全域を表示していた装置が、一つ、また一つと、映し出す区画を減らしていきます。

多数あるサブモニターも、少しずつ「超包子」と表示されて行きます。

 

 

こ、これは・・・!

 

 

 

 

 

Side ガンドルフィーニ

 

「なんだと!?」

 

 

遠くに上がった魔力の柱を見て、私は拠点の一つが落とされたことを知った。

く・・・まだ、一時間も経っていないと言うのに。

 

 

「ガンドルフィーニ先生、工学部前の拠点に展開していた部隊は、全滅したそうです!」

「何・・・そうか、わかった!」

 

 

瀬流彦君からの報告を聞き、歯噛みする。

悔しいが、仕方が無い。それはそれとして考えよう。

幸い、報告に上がっている敵の特殊弾は、命に別状は無いようだ。

 

 

それに私達が守る拠点、麻帆良国際大学附属高等学校は未だ健在だ。

今は、ここを守り切ることだけを考えるべきだ。

幸か不幸か、ここには数十体程度のロボットしか来ていない、今の人数でも十分に守れるはずだ。

 

 

「陰陽師クラァ――ッシュ!」

「陰陽師舐めんなこのダボハゼがぁ――――ッ!!」

 

 

それに、関西呪術協会の人間達の士気が異様に高く、ロボット軍団を圧倒している。

常に3人一組で行動し、簡易式神を囮に特殊弾をかわし、着実に敵の数を減らして行っている。

 

 

錬度が、高い。

我々魔法先生でも、あれ程の連携ができるかどうか。

関西の術者を侮っていたつもりは無いが、認識を改めざるを得ない。

彼らは、こと戦闘に関する限り、我々に勝るとも劣らない。

 

 

「お嬢様返せコラァ――――ッ!!」

「てーか、いい加減に頭下げろゴルァッ!!」

 

 

・・・ただ、敵を殴りながら、私達に対する不満を口にしないでほしい。

こちらの士気が下がる。

 

 

「・・・ぬ!?」

 

 

私がロボットの一体を撃ち抜いた直後、目の前に何かが着弾した。

慌てて一歩下がり、距離を取る。

何だ? ミサイルか、魔法か・・・?

 

 

「・・・やっぱり、精度がまだ・・・」

 

 

声のした方に迷うことなく拳銃を向け、魔法の込められた弾丸を撃ち込む。

校舎の壁に当たった弾丸は、火属性の爆発を生む。

その中から出て来たのは・・・。

 

 

「お前は・・・!」

 

 

先日取り逃がした、超鈴音の仲間。

漆黒のローブを纏った道化師。

顔には、半分が笑い、半分が泣いている仮面を付けている。

 

 

その者は、右手を軽く振るう、それは以前と同じ動き。

 

 

「『來のかたの獣よ、有れ』!」

 

 

瞬間、5体の雷の獣が、奴の頭上で生み出される。

その獣達は、もの凄いスピードで3方に別れ、そして別々の方向から私に襲いかかってきた。

それも、このスピードは!

 

 

「ガンドルフィーニ先生! 僕も・・・」

「下がっていたまえ、瀬流彦君!」

 

 

右側の2体を拳銃で撃ち貫き、上空に1体を無詠唱の魔法の矢で撃ち落とす。

左側から、かすかなタイムラグをつけて、残る2体が襲いかかってくる。

1体はすれ違いざまにナイフで切り裂くが、その瞬間に爆発した。

 

 

衝撃で、バランスを崩す。

そして、残る1体が私に。

最後の抵抗と、銃口を向けるが、間に合わない!

 

 

一撃を覚悟して、歯を食いしばり、息を止める。

そして、衝撃が。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

ズドンッ・・・!

 

 

鈍い爆発音と、鋭い閃光が生まれた。

ガンドルフィーニ先生の姿が、光と、その直後に発生した煙で、見えなくなった。

少しだけ、申し訳ない気持ちになるけど、仕方が無い。

 

 

これも、計画を成功させるためだから。

超さんの計画を成功させて、世界を変えるためだから。

僕が、世界を変えるためだから。

 

 

「が、ガンドルフィーニ先生!?」

 

 

少し離れた所で、瀬流彦先生が、うろたえたような声を出していた。

威力は抑えたけど、もしかしたら怪我くらいはさせたかもしれない。

 

 

右手に装備した『來獣の指輪』を見る。

ガンドルフィーニ先生を、僕よりも年上の魔法使いを倒した道具を、見る。

これ、やっぱり凄い。

普通の人間には視認できない速度で、中級攻撃魔法よりも強い攻撃を、自在に繰り出せるんだから。

 

 

少し扱いが難しいけど、もっと修行すれば。

そうすれば、僕だって・・・。

 

 

 

「・・・あんたさ、殴られたことってある・・・?」

 

 

 

え?

 

 

その時、ゴゥッ・・・と、巻き起こった熱い風が、周囲の煙を吹き晴らした。

煙の向こうには、驚いた表情で固まっているガンドルフィーニ先生。

どう言う訳か、無傷だった。

 

 

そして何よりも僕を驚かせたのは、そのガンドルフィーニ先生の前で、まるで立ち塞がるように立っている、小さな存在だった。

紅い髪が、炎みたいに揺らめいている。

まるで、燃えているみたいに。

 

 

「答えなさいよ・・・殴られたこと、ある?」

 

 

アーニャ。

僕の幼馴染が、そこにいた。

 

 

アーニャは、まるで僕が誰だかわかっているみたいに、話しかけている。

え・・・仮面をつけているのに。まさか。

それに、殴られたことがあるか、なんて・・・。

声は出さずに、頷きだけで答える。これくらいなら、良いよね。

 

 

「そ・・・なら、わかるわよね。殴られたら痛いって。自分が殴ったら相手も痛いって」

 

 

そしてアーニャの周囲に、炎の精霊が集まり始める。

なんだ、あの親和性・・・いつからあんな。

 

 

「そして、一度殴った奴が、殴られたからって文句を言えないってこともね」

 

 

ユラユラと・・・アーニャの髪に炎が纏わりつく。

僕の目には、炎の精霊がアーニャに凄く懐いているように映る。

 

 

そのアーニャは、ゴキ、バキ・・・と、胸の前で拳を鳴らしながら、僕に近付いて来る。

自然と、一歩後退した。

 

 

「だから、今から私が、あんたをボッコボコにしてやるわ・・・文句は無いわよね、『ネギ』」

「・・・ちょ!?」

 

 

な、名前を呼んじゃ・・・!

 

 

「あんたの修行は、ここで終わりよ」

 

 

ゴッ・・・と、アーニャの周囲から、炎が立ち昇った。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

晴明は、ずっと僕について来た。

だけど、一般人の姿が見えなくなって間もなく、逆に僕について来るように言った。

正直、僕がついて行く義理は無い。

 

 

けれど、あれだけお喋りだった晴明が、急に静かになった。

その理由を知ってから離れても、遅くは無いかと思った。

 

 

「・・・なんじゃ、やられたのか、あの西洋の鬼は」

 

 

そして今、僕と晴明は麻帆良の街並みを見下ろせる時計塔の上に。

そこには、かすかな魔力の残滓と、放置されている少女型のドール。

晴明は、そのドールの傍まで行くと。

 

 

「おい・・・ダメじゃな。魔力が完全に断たれておる」

「知り合いかい?」

「まぁの。今、我が厄介になっておる家の者なのじゃが・・・」

 

 

晴明は、少し考え込むような素振りを見せた。

 

 

「・・・うーむ。主について行ったのが裏目に出たの。全体の状況がわからん」

「それを僕に言われてもね・・・」

「それに、ここに捨て置くのものぅ・・・知らん仲でも無し」

 

 

僕について来たのは、晴明の勝手だ。

むしろ僕は、ついて来るなと言ったんだけどね。

 

 

「仕方無いのぅ・・・まぁ、我が死んでも代わりはおるしの」

 

 

うむ、と一人得心した様子の晴明。

・・・一人で何をやっているのだろう。

やはりついて来る意味は無かったね。

そう考えて、僕はその場から去ろうと・・・。

 

 

「フェイトとか言ったかの」

 

 

・・・僕の考えでも、読んでいるのかい?

去ろうとした矢先に、声をかけるとか。

 

 

「できればで良いが、この者を手伝ってやってはくれんか」

「どうして、僕が」

「この者は、あの娘の身内じゃよ」

 

 

そう言えば、武道会で一緒にいる所を、見たかもしれない。

だが、手伝えと言っても、そのドールには魔力供給がされていない。

僕にも都合があるから、形に残る契約などはできない。

 

 

「何、契約など無くとも、魔力さえ供給されれば喋るくらいはできるであろうよ」

「魔力ね・・・でも、それはどこから?」

「それはのぅ」

 

 

ス・・・と、晴明が右手を上に掲げる。

そのまま手首を曲げ、指先を自分へと向ける。そして・・・。

 

 

「ここからじゃ」

 

 

 

その手を、自分の左胸へと突き刺した。

 

 

 

「・・・!」

「ぬっ・・・む、む・・・!」

 

 

ギリ、バキ・・・メギンッ!

陶磁器の肌が割れ、晴明の身体が砕ける音が響く。

晴明の表情も、流石に笑みを浮かべてはいない。

 

 

数秒ほど、晴明は自分の身体の中を弄っていた。

そして、その内に目当ての物を見つけたのか、右手を胸から引き摺りだす。

 

 

その手には、赤く輝く、美しい宝石のような物が握られていた。

赤い線のような物が、まるで血管のように晴明の身体と繋がり、脈打っている。

まるで、心臓のようだった。

そして、そこから漏れている魔力を、僕は知っている

 

 

「『ローザミスティカ』と言う、美しかろう? あの娘の魔力を貯蔵してある」

 

 

そう言いつつ、晴明はその宝石を、倒れたドールの胸に押し付ける。

なるほど、それを与えて、そのドールを起こそうと?

 

 

「・・・それをやると、キミは消えるんじゃないかい?」

「問題は無い。我の本体は別の場所に在る。また身体の代わりもあるが故に」

 

 

ギ、ギ、ギ・・・と、鈍くなった動きで、晴明は僕を見た。

 

 

「フェイトよ」

「なんだい」

「すまんかったの。付き纏って・・・たの」

 

 

ブツッ・・・と、宝石と晴明の身体を繋ぐ線が切れた瞬間、晴明はその場に崩れ落ちた。

ガラスの瞳からは光が失せ、まさに、ただの人形に戻る。

次いで、宝石を埋め込まれたドールの下に、魔法陣が展開される。

 

 

僕は、倒れた晴明を見つめた。

最後に何を言おうとしたのかは知らないけれど、最後まで身勝手な奴だった。

 

 

「・・・セイメイ!?」

 

 

ドールの方が、目覚めたらしい。

はぁ・・・と、自分でも意外なことに、溜息を吐いてしまった。

 

 

いったい僕に、どうしろと言うんだ?

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

いやいやいや、冗談じゃねぇぞ。

私は寮の部屋で一人、パソコンの画面の前で、固まっていた。

 

 

そこには、明らかに技術レベルがインフレしたロボット軍団と、これまた人類の枠から236°程ズレたような動きをする人間の様子が映し出されていた。

武道会と同じ演出とか、使っているらしいが。

そしてその武道会の映像も、かなり流出しちゃいるが。

 

 

でも、屋根がそんな簡単に吹っ飛ぶわけねーだろ。

魔法少女とかが大量発生して良いわけがねーだろ。

魔法オヤジとか、誰が喜ぶんだよ。

そもそも、なんでロボがターミ○ーターなんだよ。

 

 

「これは、明らかに異常だろ!?」

『せまる~、ひにちじょ~♪』

「不吉な歌を歌ってんじゃねぇよ!」

 

 

ショ○カー呼ぶみてぇに非日常を呼んでんじゃねぇ!

と言うか、こいつらの存在自体が非日常なわけだが。

 

 

さらに言えば、こいつらはすでに私のHPに自分達の住処を築きやがった。

仕事が早くて、感激のあまり泣きそうだぜ。

・・・わかってると思うが、皮肉だ。

 

 

「くっそぅ・・・なんでだ、こんなにも一般人を極めた私が」

『こんな素敵なHP開設しといて、今更ですよ、まいますたー♪』

「破棄してぇ・・・これほどクラックしたいと思ったプログラムは初めてだ・・・」

 

 

荒らしはやらねーと言う矜持も、捨てたくなるような状況だった。

自分のだけど、このHP炎上させてぇ・・・。

 

 

『ミクちゃん、そろそろ行こうよ。おねーちゃん達、待ってるよぉ?』

『むぅ? しょーがないですねぇ』

 

 

画面の中で、ミクがランドセルしょった別の「ぼかろ」に、腕を引かれていた。

確か、「ユキ」とか言う奴だ。

 

 

「・・・なんだ、お前ら。どっか行くのか?」

『むふふ、寂しかったりしますかぁ?』

「バカ言え、てか、出て行くなら歌ツクール消してから行け」

 

 

どうやっても削除できねーんだ。

製作者の管理が及ばないコンテンツとか、あっちゃダメだろ。

 

 

『だーいじょぶですよぉ。すぐ帰って来ますから』

「帰って来るとか言うな、まるでここがてめーらの家みたいだろが」

『あっははは~☆』

「ぶっ飛ばすぞマジで」

 

 

ミクは、ニヒヒ・・・と笑った後、葱を片手にビシッと敬礼してきやがった。

・・・何だよ。

 

 

『このままだと、まいますたーの大嫌いな日常がやってきそうなので、ちょっと行って来ます』

「ああ?」

『ついでに、センスの悪いおかーさんも助けて来ます』

 

 

お母さん?

ああ、創造主とか言う奴か、今の私の「社会的に抹殺したい奴リスト」のベストスリーに入っている奴。

ミクは、急にしおらしい表情を浮かべると。

 

 

『短い間でしたが・・・ますたーと一緒にいれて、楽しかったです』

「・・・」

『さよならっ・・・!』

 

 

とか言って、画面から消えやがった。

悪戯かと思って少し様子を見たが、現れる気配が無い。

フェイントでパソコンの前から離れてみたが、反応は無かった。

 

 

いや、さよならって、お前・・・マジかよ。

迷惑な連中だったけど、こんな別れ方をするとは思わなかった。

こんなことなら、もう少し優しくしてやりゃ・・・。

 

 

『グッと来ましたぁ?』

「死ね!」

 

 

再び画面に現れたミクは、ケラケラと笑いやがった。嘘かよ!

やっぱ、こんな奴らいらねぇ!

 

 

 

 

 

Side 超

 

ハカセは、良くロボ軍団を統率してくれているようネ。

今頃は、飛空船で空の上カナ・・・。

市街地を歩き、虱潰しに陰陽師やメガロメセンブリア兵を3時間後に送りながら、随時送られてくる作戦状況について考える。

 

 

すでにポイントの一つは落とした。

さらに、2つのポイントも陥落寸前と聞くネ。

だが残る3つの内、世界樹広場前には敵も戦力を集中しているから、てこずりそうネ。

国際大学附属高校前の拠点には、ネギ坊主がいるガ・・・。

 

 

「ネギ坊主なりに、頑張ってくれると良いがネ」

 

 

まさか、負けるとか言う事態にはならないと思いたいガ。

期待薄ではあるネ。

 

 

「まぁ、最初から期待などしていないがネ・・・」

 

 

ふと、自分の手を見る。

軍用強化服に包まれた手だが、布地の向こうには、肌があり、血が流れている。

赤い血。

ネギ坊主と同じ血が、そこには流れているのだと言う。

 

 

かの「救世の大魔法使い」ネギ・スプリングフィールド様と同じ血が・・・ネ。

・・・・・・・・・。

アハハ・・・。

 

 

「・・・糞に塗れろ」

「それ、どういう意味?」

 

 

・・・ああ、いけないネ。つい乱暴な言葉遣いになってしまったヨ。

女の子は、エレガントでなければ・・・ネ。

 

 

私はその場に立ち止まると、歩道の向こう側に立つ、少女を見つめたネ。

神楽坂明日菜を。

明日菜サンは、その手にアーティファクトのハリセンを持っていたネ。

『|ハマノツルギ(エンシス・エクソルキザンス)』、しかし不完全。

 

 

「・・・何か用カナ、明日菜サン」

「あんた、やっぱり・・・ネギのこと、騙してたのね?」

「騙した・・・?」

「とぼけないでよ!」

 

 

ハリセンの先をこちらに向けて、激昂する明日菜サン。

でも私は、本当に明日菜サンの言っていることが、わからなかったのヨ。

 

 

私は、ネギ坊主を騙した覚えなど無いネ。

私はネギ坊主に力を与え、目的を与え、機会を与えただけ。

何かを強要したことも、脅迫したことも無い。

これで騙したと言われても、困るヨ。

 

 

明日菜サンにそう言うと、明日菜サンは表情を歪めながら。

 

 

「あんたが、そうなるように仕向けたんじゃない・・・!」

「それは見解の相違と言わざるを得ないネ」

「ぬけぬけと・・・」

「だが・・・」

 

 

確かに、私はネギ坊主に伝えるべき情報を選んだかもしれない。

もしかしたら、都合の良い解釈を話したかもしれない。

 

 

だが、それを信じたのはネギ坊主ヨ。

選んだのは、彼。

私じゃない。

 

 

「・・・ネギは、どこよ」

「裏切り者に教えてやる義理は無いネ」

 

 

そう言うと、明日菜サンはぐっ・・・と、口を噤んだ。

どうやら、後ろ暗い気持ちはあるようネ。

その程度の覚悟で、ここに来たのカ。

・・・なら、貴女はもう良いヨ、お姫様。

 

 

タァ・・・ン・・・!

 

 

遠くから、銃声。

明日菜サンは、とっさに発動させた「咸卦法」で銃弾を弾いた。

だが、それは龍宮サンが放った特殊弾。

防いだだけでは、凌げない。

 

 

「な、何よコレ・・・!」

「実際に見るのは、初めてだったカナ?」

 

 

いつだったか、明日菜サンにはその弾丸の運搬を頼んだことがあったカナ。

その銃弾で、やられるのだから・・・皮肉な物ネ。

 

 

「さようなら、明日菜サン。おそらくもう、会うことは無いと思うヨ」

「ま・・・!」

 

 

その言葉を最後に、明日菜サンの姿はこの時空間から、消失した。

 




エヴァ:
エヴァンジェリンだ、すまん、不覚を取った。
私も随分、丸くなったようだ。
だが、まだだ、まだ終わらんよ・・・!
と言うわけで今回は、前半戦の様子を描いた。
なにやら超が妄言を吐いているようだが、知ったことか。
このまま終わると、思うなよ・・・!


今回新規で使用された魔法具は、以下の通りだ。
「爆殺・アヒル小隊」:霊華@アカガミ様提供のオリジナルだ。
「友人帳」:水色様提供だ。
『狂乱家族日記』から『強欲王の杭』:司書様提供だ・・・。
お、おのれぇ・・・だが、礼は言っておく。


エヴァ:
さて、次回はおそらく、最終決戦あたりまで行くのではないかと思う。
学園祭も、そろそろ終わりだな。
では、また必ず会おう。
・・・いいか、絶対だぞ! このまま終わらせてなるものか・・・!


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第72話「麻帆良祭三日目・来援」

Side アリア

 

電脳戦と言う物は、高度な物です。

それを正確に伝えようとすると、どうしても専門的な物になってしまいます。

なので、あえてグラフィカルに表現してみます。

 

 

「などと言えるほど、ファンシーでも無いのですが」

 

 

ネットの海の中で、私はそう呟きました。

私の周囲には、現実の海のような空間が再現されています。

 

 

ちなみに私は、現実世界とは異なる服を着ています。

その名も、『エレメントスーツ』。

電脳空間で戦闘をするために着用する衣装でして・・・まぁ、色々と細かい点まで作りこまれています。

数種類があるのですが、現在着用しているのは『ファイアー』と呼ばれる衣装。

真紅の燕尾服風の上着と黒のタイツ、背中にチョコンと付いた小さな羽根がアクセント。

 

 

「赤とかは、私にはあんまり似合わないかもですけ・・・どっ!」

 

 

『ワンド』と呼ばれる杖を振るい、この衣装の固有技能を使用します。

『ファイアー・ウォール』―――その名の通り、炎の壁が出現し、襲いかかってきた無駄データの塊を防ぎます。

でも・・・。

 

 

先ほどから、私を攻撃してくる敵のグラフィックが、効果の割に可愛らしいデザインの物が多いです。

イルカさんは元より、ウミガメさんや子供のアザラシ・・・可愛いです。

 

 

しかし、今は可愛い海の生き物達に癒されている場合ではありません。

先ほどから、敵(おそらくは、茶々丸さん)に良いように翻弄されています。

当初5割まで取り戻した麻帆良のセキュリティコントロールを、今では逆に8割まで奪われています。

それに比例して、現実世界の戦況も悪化しているようですし・・・。

 

 

「イルカさん達の攻撃も、いつまで凌げるか・・・」

『へぇ~、大変ですねぇ~』

 

 

不意に、声をかけられました。

その声が耳に届くと同時に、私は『ワンド』を振るいました。

 

 

「『フレイム・ボンバー』!」

 

 

ちゅどんっ!

嫌にコミカルな効果音と共に、火球が着弾、爆発しました。

煙が晴れた先に現れたのは・・・。

 

 

焼け焦げた葱でした。

 

 

『も~、いきなり何するんですかぁ~』

「デリートしようとしたんですけど」

『怖っ!? おかーさん、怖っ!?』

 

 

そこにいたのは、緑色の長い髪をツインテールにした、16歳くらいの女の子でした。

名を、「ミク」。

人造電子精霊衆・・・「チーム・ぼかろ」の代表格です。

本来、彼女達が麻帆良ネットの防衛・管理・監視を行ってくれるはずだったのですが。

 

 

「今まで、どこをほっつき歩いていたのですか・・・?」

 

 

以前ノートパソコンを破損した際、どこかへと雲隠れしてしまったのです。

おかげで今、面倒なことになっています。

ミクは、てへへ、と笑うと。

 

 

『運命の人を、見つけちゃいました♡』

 

 

死ぬほど嫌な予感しかしません。

と言うか、仕事もせずに何をしていたのでしょう、この子達。

 

 

「まぁ、良いです。とにかく、麻帆良のセキュリティコントロールを・・・」

『良いですよー、そのつもりで来ましたから。じゃ、変身してください♪』

「・・・・・・は?」

『だ・か・らぁ。変身ですよ、変身。そのスーツ、魔法少女よろしく、変身できるじゃないですか』

 

 

確かに、この『エレメントスーツ』は、データをダウンロードすることで種類を変えられます。

その際には、まぁ・・・そう言う風になる仕様でして。

 

 

『相手って、ぐらんどまざーでしょー? 絶対いると思うんですよー』

「な、何がですか?」

『画像が』

「何のために!?」

『勝つために』

 

 

それはもう、ニッコニッコしながら、ミクは言いました。

 

 

『まいますたーの日常を守るためにも、頑張って、おかーさん♡』

「え・・・ほ、本当に・・・? と言うか、マスター登録したんですか!?」

『まぁ、それは置いといてー、負けても良いなら、強要はしませんよぉ?』

「む・・・」

『どうしますー?』

 

 

ど、どうしますって、そんなの。

そんなの、当然・・・!

 

 

 

 

 

Side さよ

 

戦闘開始から一時間弱。

すーちゃんと一緒に、エヴァさんの家に近付いて来るロボットを排除し続けています。

結構、重武装の機体とかあるから、大変です。

 

 

「オスク・ナス・キーナ・カナラック!」

 

 

魔法の始動キーを宣言して、氷と闇の精霊さんにお願いします。

私個人の考えなんですけど、始動キーって精霊さんへの挨拶みたいな物ですよね。

 

 

来れ氷精(ウェニアント・スピリートゥス)闇の精霊(グラチアーレス・オブスクーランテース)闇を従え(クム・オブスクラティオーニ)吹雪け(フレッド・テンペスタース)常世の氷雪(ニウァーリス)!」

 

 

エヴァさんに教えてもらった魔法を、目の前の多脚戦車みたいなロボットに向けて放つ。

 

 

「『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』!」

 

 

黒い氷の渦が、一直線に放たれ、ロボット達を飲み込んで行きました。

エヴァさん程、精度の錬度も高くは無いけれど、動きの鈍いロボットは今ので十分に倒せる。

そこから数歩下がって、『アヒル隊』と『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を拡散させて撃つ。

 

 

う~ん、そろそろ、物量に押されてきた気がする。

屋根から降りて戦い始めてから、段々後退を余儀なくされているから・・・。

 

 

「わっ・・・!」

 

 

ざしっ、と、足を止めた。本当なら、止めちゃいけません。

エヴァさんにも、「戦闘中に動きを止めるな」って良く言われました。

でも、止めてしまいました。

だって・・・。

 

 

畑が。

 

 

その時、多脚戦車の上に乗っているロボット兵が、私に向けてガトリングガンを。

あ、コレ、不味いんじゃ・・・。

 

 

「どぅおおおおおおおぉぉぉぉ―――――っ!?」

 

 

その時、十数m先にいたはずのすーちゃんが、全開の瞬動で、スライディング気味に私を攫った。

そんなすーちゃんの軌道を追うように、弾丸と、黒い渦が追ってくる。

 

 

ドンッ・・・左腕で私を抱え上げたすーちゃんは、右腕で地面を殴りつけました。

すーちゃんの黒い瞳が、金色に染まる。

次の瞬間、周りの地面から植物の根や蔓みたいな物が急速に成長して、私達とロボット軍団の間に壁を作りました。

壁の向こうから、敵の放つ銃撃の音が聞こえます。

 

 

「すーちゃ・・・」

「あ、危ないぞぉ―――っ、さーちゃん、今のは危ない!」

 

 

怒っているのか、困っているのか、驚いているのか、全部なのか。

それ全部が、ない交ぜになったような顔で、すーちゃんが言いました。

 

 

「ご、ごめ・・・でも、畑が」

「おぅ? ・・・ぬぁ!? す、スクナの畑があああぁぁ――――っ!!」

「今気付いたの!?」

「さーちゃんの事しか、考えてなかったぞ・・・」

 

 

穴だらけになった畑を見て、打ちひしがれるすーちゃん。

農耕の神様として、それはどうなんだろう。

・・・顔が少し熱いけど、きっと気のせいだよね。

 

 

『さよさん』

「え・・・あ、アリア先生?」

『・・・伏せてください』

 

 

仮契約カードから、アリア先生の声。

でも、アリア先生は今、エヴァさんの家のリビングに・・・。

 

 

『伏せるんです!』

「は、はい!」

 

 

すーちゃんの身体を掴んで、自分ごとその場に引き倒します。

ちょうど、くっついていたので、良かったかも。

 

 

「『千の魔法』№19、『愛染明王星天弓』!」

 

 

次の瞬間、無数の光の矢が私とすーちゃんの上を通り過ぎていきました。

それらはすーちゃんが作った植物の壁を貫いて、その向こうのロボット軍団を襲いました。

百本はある光の矢がロボットを撃ち貫いて行く様は、ロボットの爆発とも相まって、花火みたいに綺麗でした。

 

 

えーと、エヴァさん語録。

魔法使いは、究極的にはただの砲台である、みたいな。

 

 

「・・・無事ですか?」

「アリア先生!」

 

 

家の方からゆっくりと、アリア先生がこちらに歩いてきます。

その手には、アーティファクトの魔本を持っています。

 

 

「いや、酷い目に合いました。この怒り超さんにぶつけて・・・」

「・・・?」

「・・・あ、何か、すみません・・・」

 

 

アリア先生は、私の方を見ると、急によそよそしくなりました。

心なしか、顔が赤い。

何が・・・あ。

 

 

さっき、引き倒した拍子に、私に覆いかぶさるみたいな格好になったすーちゃんと、目が合った。

すーちゃんは、凄く不自然に目を逸らすと・・・。

 

 

「・・・は、畑が荒らされて、力が出ないぞ」

「ば、バカァッ!」

 

 

思わず、両手ですーちゃんの顔を押しのけました。

それなら、私を抱っこなんてできるわけないでしょ!?

 

 

「あ・・・その、本当にごめんなさい。私、今すぐ超さんの所に行きますので・・・」

「ちょ、私も行きます!」

 

 

行きます、もう本当、凄く行きます!

行くに決まってるでしょ!?

 

 

 

 

 

Side 夏美

 

「ほえ~・・・」

「もう、夏美ちゃん、何て顔してるの?」

「いや、もう、なんと言うか・・・凄いなぁ、みたいな・・・」

 

 

だってもう、今年の麻帆良祭の全体イベント、凄すぎるよ。

何をどうやったら、こんな演出ができるのか、全然わかんない。

 

 

今でもテレビの画面の中では、建物が壊れたり、ロボットが爆発したり、人が吹っ飛んだりしてる。

と言うか、これ今、外でやってるんだよね?

いや、もちろんテレビ用に演出過剰な部分もあるんだろうけど。

建物とか、本当に壊してるわけないよねー。

 

 

「そんなに画面を見つめて・・・」

 

 

ちづ姉が、腕を組みながら、私を見つめて溜息を吐いた。

な、何よぅ・・・。

 

 

「よっぽど、小太郎君のことが気になるのねぇ」

「え・・・いやいやいやいや、別にそういうわけじゃないよ!?」

「武道会でも、大変だったものねぇ」

「そ、それは、関係ないでしょ!?」

 

 

それは確かに、小太郎君が負けちゃった時は心配だったよ?

でもほら、それはむしろ、年上のお姉さんとして、当然じゃない?

結果的には、怪我も大したこと無かったみたいで、凄くホッとしたけど。

 

 

・・・で、でも、それくらい普通でしょ?

 

 

「そう言いつつ、ちゃんと小太郎君に賭けて・・・」

「いや、賭けて無いよ!?」

「・・・夏美ちゃんにも、春が来たのねぇ」

「お願いちづ姉、話を聞いて・・・」

 

 

涙ながらに訴えても、ちづ姉は「うふふ」と笑うだけ。

しつこくし過ぎると、葱の刑だし・・・。

 

 

「もう、いいんちょからも何か言って・・・」

「・・・ああ、ネギ先生との学祭計画~甘美な夢物語~が、ついに遂行できませんでしたわ・・・」

 

 

いいんちょに助けを求めたけど、いいんちょは一人でお茶を淹れ続けてた。

ただ、湯のみからはお茶が溢れてて、急須は空っぽだったけど。

と言うか、そんな計画考えてたんだ。

本当に、ネギ君のことが好きなんだなぁ・・・。

 

 

「あらあら・・・あやかも大変ねぇ」

「あはは・・・私には、よくわからない世界だけど」

「あら、そうでも無いんじゃない?」

 

 

へ?

何が、そうでも無いんだろ?

 

 

「だって、ネギ先生が好きなあやかと、小太郎君が好きな夏美ちゃん・・・10歳の男の子が相手と言う点では、共通していると思うけれど?」

「いや、別に好きとかそう言う・・・って、えええええええ!?」

 

 

え、嘘。

わ、私ってちづ姉に、「いいんちょと同類」とか思われてたわけ!?

 

 

「ダメよ、夏美ちゃん。女の子がそんな大きな声出したら」

「違うよ!? 私はいいんちょとは違うよ!?」

「なんですの!? 夏美さんがネギ先生みたいな少年がお好きですって!?」

 

 

ああもう、ここでいいんちょが加わると、意味わかんなくなるでしょ!?

でも本当、私は10歳の男の子が特別好きなわけじゃなくて!

 

 

「はいはい、小太郎君だけが好きなのよね?」

「い、いやその、それも違くてって・・・もーっ!」

 

 

ちづ姉には、本当にもう、敵わないよ。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

ち、超あり得ないっス。

超りんが相手だけに・・・。

 

 

「・・・あ、今の上手くなかった?」

「・・・5点ダナ」

「あ、ココネ厳しい!?」

「貴女達! 何を遊んでいるのですか!」

 

 

前を走るシスターシャークティーが、振り向きもせずに怒鳴ってきた。

いや、でも現実逃避もしたくなる状況じゃないですか、コレ。

 

 

私達は、女子普通科の礼拝堂に設定された防衛ポイントを守っていたんだけど、なんだかよくわからない内に、味方が全滅させられた。

どうも、狙撃されたらしんだけど・・・関西の人達もやられちゃって。

 

 

私達だけじゃてんで敵わないし、拠点も落とされちゃったしで、絶賛逃亡中。

しかも、後ろにはターミネー○ーなロボット軍団が。

私は例によって例の如く、ココネを肩車してる。

 

 

「でも、シスターシャークティー、これ逃げ切れなく無いっスか!?」

「くっ・・・確かに、珍しく貴女の言う通りだわ」

「こんな時でも、キツいっスねー、シスター」

 

 

女子普通科の校舎を逃げ回るのも、限界。

それに、相手が多すぎて撒き切れない。

シスターシャークティーは、爪を噛みながら私達を見て、考え込んだ。

 

 

「・・・仕方ないわ、ついてきなさい、貴女達!」

「うぇ、でもそっちは・・・」

「いいから、さっさとしなさい!」

「イ、イエッサー、シスターシャークティー!」

 

 

でも、シスターが向かったのは、さっき落とされた礼拝堂の方角。

いや、正確には礼拝堂から少し離れた位置にポイントがあるから、礼拝堂自体は占拠されていない。

 

 

いぶかしみながらも、一人では逃げ切れないし、ココネも守れない。

だから仕方なく、シスターシャークティーについて行く。

まったくもー、シスターはいつもこうなんだから。

全然説明してくれないし、上から叱り付けるばっかでさ。

 

 

「・・・まいっちゃうよね。皆、マジなんだもん」

 

 

世界がどうとか、魔法がどうとか。

15年しか生きてない若輩者の私が背負うには、重すぎだよ。

重すぎる荷物は背負わないのが、一番良いと思うんだけど。

 

 

皆、どうしてそんなに頑張るんだろうねぇ。

 

 

「ここです」

「へ?」

 

 

シスターにつれられて来たのは、礼拝堂の裏側。

勝手口のある場所だった。ここに、何が・・・。

 

 

「この礼拝堂の中の先頭・・・向かって一番左側の長椅子の下に、地下に通じる抜け道があるのです」

「おお・・・スパイ映画みたいな」

「神聖な教会の抜け道を、スパイ映画と同一視しない!」

「わたっ・・・す、すみません!」

 

 

でも正直、違いがわからないです。

その時、ココネが私の頭をポムポム叩いてきた。

 

 

「来るゾ・・・」

「へ・・・ああ、ロボ軍団!?」

 

 

慌てて見回すと、両側の壁の向こうから、ガショガショと言う音が。

それに気を取られていると、突然、シスターシャークティーが私の腕を引っ張った。

そのまま、礼拝堂の中に押し込まれる・・・と言うか、投げ込まれた。

 

 

ドシンッ・・・と、ココネと一緒に、床に打ち付けられる。

いった~・・・。

 

 

ガチャン。

 

 

文句を言おうと顔を上げた時、勝手口の扉が閉まった。

シスターシャークティーは、いない。

 

 

「・・・え?」

「シスター・・・?」

 

 

ココネと2人、呆然と扉を見上げる。

次いで、銃声。それも何発も。

し・・・。

 

 

「・・・シスターシャークティ――――――ッ!?」

 

 

『逃げたければ、逃げなさい』。

脳裏に、武道会の時に、シスターに言われた言葉が甦った。

 

 

 

 

 

Side 弐集院

 

くそ、冗談じゃない。

建物の影に隠れながら、僕はそう毒づかざるを得なかった。

 

 

「何人残った!?」

「は、半分はやられました!」

 

 

別の建物の影に隠れた魔法生徒の返答に、舌打ちしたくなる。

 

 

フィアテル・アム・ゼー広場で守備についていた僕達は、退くも進むもできない状況に追い込まれていた。

当初、ロボット軍団の単調な攻撃を凌ぎ、着実に数を削っていたのだけど・・・。

 

 

タァ・・・ンッ・・・!

 

 

どこからか響き渡る、銃声。

ロボット軍団の砲撃・銃撃音では無い。

狙撃。

ロボット軍団だけなら、僕達魔法使いの防御・支援と関西の術者(特に神鳴流剣士)の突破力を上手く連携させれば、かなりの効果を見込める。

だけど、僕達が感知できない程の遠距離からの狙撃には、どうしたって対応できない。

 

 

実力云々ではなく、相性の問題だ。

 

 

何せ、敵の狙撃手は障壁を無視してこちらを撃破できる弾丸を使っているようなんだ。

あの黒い渦に飲み込まれた人間がどこに飛ばされるかは、わからない。

普通の弾丸なら、障壁で阻めるのに・・・。

 

 

「通信は戻らないのか!?」

「先ほどから、直りそうで直らない、もどかしい状況が続いていて・・・うぁっ!?」

 

 

通信機器を持っていた魔法生徒も、例の渦に飲まれた。

くそ・・・狙撃手はどこなんだ?

建物の影に隠れている僕達を、正確に狙ってくる。

まさか複数いて、囲まれているわけでも無いだろうし・・・。

 

 

その時、僕の視界に、少し離れた位置の建物の屋根の一部が、火花を散らす様が映った。

・・・跳弾!? 何と言う技術! ここまで来ると、人間技じゃない・・・!

 

 

「く・・・!」

 

 

僕の方に飛来する弾丸。

魔力で強化された僕の視覚は、かろうじてその弾丸を捉える。

でも、身体がついて行かない。やはり、ダイエットするべきだったか・・・!

だけど、仕方が無いんだ、娘が「パパのお腹、ポヨポヨ~」って喜んでくれるから、つい・・・!

 

 

そんなことを考えつつ、覚悟を決めたその時、乾いた音を立ててその銃弾が弾き落とされた。

次いで、僕の横に降り立ったのは。

 

 

「高畑君!?」

「申し訳ない、遅れてしまいました」

「いや、助かった。ありがとう」

 

 

流石は高畑君、魔法世界で数々の修羅場を経験してきただけあって、あの狙撃にも対応できるらしい。

ただ、何で麻帆良に在籍しているのかは、ついにわからなかったけど。

 

 

とにかく、これで何とか立て直して・・・。

 

 

「ターゲット、発見致シマシタ」

 

 

メギッ・・・と、頭上で音がした。

仰ぎ見ると、他のロボットとは、同型ではあるが、雰囲気の違うロボットがいた。

具体的には、胸に苺のアップリケがついている。

そのロボットは、グッ・・・と親指を立てると、告げた。

 

 

「I will be back」

 

 

 

 

 

Side 真名

 

私の狙撃を防ぐとは、驚いた。

流石は、タカミチ・T・タカハタ・・・本国での評判はハリボテではなかったわけだ。

侮っていたつもりは無いが、それでも驚く。

それ程に、狙撃と言うものは防ぐのが難しい。

 

 

事実として、他の敵戦力はほぼ片付けた。

とはいえ、ほとんどは実戦経験も無いような魔法生徒だがな。

 

 

「高畑先生は、最優先ターゲットではあるが・・・」

 

 

しかし、あの個性に富んだロボットは何だ?

茶々丸とはどうも、毛色が違うようだが。

超も、特にシステムを弄った覚えは無いと言っていたしな・・・。

 

 

『・・・龍宮サン、聞こえるカナ?』

「超か」

 

 

噂をすれば何とやら、超から通信が入った。

敵の通信は完全に妨害・傍受できている。

散発的に、一部で管理権を奪還されたりもしているようだが、全体としては、麻帆良のネット面は茶々丸に支配されていると言えるだろう。

 

 

『そちらはどうネ?』

「順調だ。敵の数は減らした。高畑先生は、例のロボットが相手をするつもりのようだ」

『そうカ・・・』

 

 

少し考え込むような、超の声。

 

 

『まぁ、それは良いネ。それよりも龍宮サン、申し訳ないが他の場所に向かってほしいヨ』

「こちらも、まだ陥落させたわけでは無いが・・・」

『例の「田中さん」が時間を稼いでいる内に、魔方陣展開用のロボが中心を制圧するヨ』

 

 

確かに物量作戦に徹すれば、高畑先生さえ抑えていれば問題は無い。

しかし、私をどこに向かわせる?

 

 

『単刀直入に聞くヨ、ネギ坊主の支援とアリア先生の仲間の足止め、どっちが良いカナ?』

「わかった、どの程度の時間足止めすれば良いんだ?」

『少しも迷わなかったネ・・・』

「迷わなかったな」

 

 

苦笑交じりの超の声に、私も同じような声で答える。

だがな超、私としては、より面倒の少ない方を選びたいんだよ。

報酬の金額が変わるわけでもないしな。

 

 

その後、残りの弾数や銃器の確認を済ませつつ、超と短い話し合いを行った。

さて、なるべくアリア先生に怒られたくは無いんだが。

 

 

まぁ、命のやり取りでも無いし、多少のことは勘弁してもらおうか。

 

 

 

 

 

Side 夕映

 

「まったく、ハルナは・・・」

 

 

私は見たくないと言っているのに、何故か絡んできて・・・。

飲み物を買いに行くと言って、部屋から抜け出してきたです。

まぁ、事実として私の不思議ドリンクのストックも切れていたですから、ちょうど良かったです。

 

 

廊下に出ると、それぞれの部屋から歓声だり、悲鳴だり、あと良くわからない叫びとかが聞こえてきているです。

皆、本当に元気ですね。間違って外に飛び出さないと良いのですが。

だって、外は・・・。

 

 

「・・・今の私が、考えることでは無いですね」

 

 

そう、私には、他に考えなくてはならないことがあるです。

たとえば、今回の件が終息した後、いかにのどかを守るかです。

 

 

経緯はどうあれ、一度反体制側に加担してしまった以上、のどかにも何かしかの追及の手が伸びてこないとも限らないです。

と言うか、むしろ絶対に何かあるはずです。それが何かは、わからないですが・・・。

超さんが勝利する可能性は、この際は考えないことにするです。

 

 

「・・・最善は、ネギ先生が全ての罪を引き受けてくれることですが」

 

 

我ながら、度し難い考え方です。

でも仮とは言え、のどかの主だと言うのなら、もっとのどかのことを考えてくれても良いはずです。

・・・10歳の子供に、過剰な期待をしても仕方ないかもですが。

 

 

そして私は、その10歳の子供とやらに、全部押し付けたわけです。

今頃は、戦場で何を思っているのでしょう。

願わくば、のどかの目に入らない場所にいてほしいです。

 

 

ネギ先生は、のどかとは無関係でいてほしいです。

修学旅行以前に、この判断ができていれば・・・。

 

 

「今さらです・・・とにかく、今は・・・」

 

 

ピ、と、自販機でドリンクを購入しながら、考えるです。

今後、私自身がどうすべきかを。

 

 

どうやって、のどかをネギ先生から引き離すかを。

 

 

「え・・・」

 

 

ドリンクを取ろうと、屈んだその時。

私の視界の隅に、よく見知った人間が映りました。

私の親友---のどかが。

 

 

その手には、革表紙の本を開いて。

あ、れは・・・!

 

 

「の、のどか、いつから・・・」

 

 

いつからそこに、と言う言葉を、私は飲み込んだです。

言葉にする意味がないからです。

 

 

のどかは、目を大きく見開いて、私を見ていたです。

驚愕、信頼、悲哀、否定・・・様々な感情が、その可愛らしい顔を彩ったです。

 

 

「・・・ゆ、え?」

 

 

のどかの声は、いっそ、笑いたくなるくらいに・・・。

平坦でした。

 

 

 

 

Side 超

 

龍宮サンとの短い話し合いを済ませた後、強制認識魔法発動のための最終調整に入る。

戦闘開始から、一時間と少し。

すでに、3つの拠点を落としたヨ。

兵力差から考えて、落とした拠点を奪還されるとは思わないネ。

 

 

後は、敵の司令部がある世界樹前広場、国際大学付属高校前、フィアテル・アム・ゼー広場の3つ。

最後の一つは、時間の問題ネ。

残る二つも、物量で押せば良い。やはり時間の問題ネ。

 

 

「さぁ・・・いよいよ、最終段階ネ」

 

 

視線を向ければ、ハカセが世界12ヵ所の聖地及び月との同期のための詠唱を続けていたネ。

ハカセ。

科学で世界を平和にできると信じている少女。

 

 

私は、古のことを親友だと思っているし、古とハカセのどちらが大切かなど、考えたことも無い。

だが、あえて区別をするのであれば、古は親友、ハカセは同志・・・と言った所カナ。

茶々丸は、娘・・・みたいな物カ。

龍宮サンは、仲間・・・カナ。お金はとられるがネ。

 

 

「超さん、終わりました」

「・・・ありがとう。じゃあ、そのまま最後の詠唱に入ってくれて良いヨ」

「仕上げの呪文は11分6秒です。大丈夫でしょうかー?」

「大丈夫ヨ。始めてクレ」

 

 

ハカセは、どこか心配そうな顔で私を見る。

その目は、「このまま進めて良いのか」と、聞いてきている。

・・・無論ネ。

 

 

世界を変えるというのは、いつだって大変な物ヨ。

それが、世界のためではなく、ごく限られた人のための物なら、なおさら。

 

 

「・・・そうは、思わないカ?」

 

 

それに、もはやこの計画の可否を決めるのは、どうやら私では無いようだしネ。

決めるのは・・・「彼」ネ。

 

 

「フェイト・アーウェルンクス」

 

 

後ろを振り向けば、そこには白い髪の少年が立っていたネ。

無機質な瞳が、こちらを見つめてくる。

彼の足元には、小さな水溜り。

 

 

「・・・僕の名を知る、キミは誰だい?」

「何、ただ、知っていた・・・それだけネ」

 

 

と言うより、聞いていた・・・の方が、正しいとは思うがネ。

個人的には、会ってみたいとも思っていた。

しかし、この場面において、「これで私と同じ舞台に立った」とは、言わない。

 

 

なぜなら・・・。

彼は最初から、自分の舞台に立っているのだから。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

高速移動用箒『ファイアボルト』に乗って、空路を進みます。

眼下では、無数のロボット軍団と少数の味方が入り乱れています。

 

 

「ひゃわわ・・・何か、大変なことになっていますねぇ~」

「航空戦力もあったと思いますので、気を付けてくださいね」

 

 

隣には、『青き稲妻』と言う名前の飛行用箒に乗ったさよさんがいます。

下の様子を見て、戦々恐々としているようですが、あまり低空飛行だと対空砲火に晒される可能性もあります。

先を急ぐことですし、支援などはせずに、このまま行きます。

 

 

ところで・・・。

スクナさんはなぜ、さよさんの箒の先にぶら下がって落ち込んでいるのでしょうか。

襟を引っ掛けて、まるで攫われてるみたいですよ?

 

 

「スクナは、超カッコ良くなれなかったぞ・・・」

「はぁ?」

「むしろこの理屈で行くと、恩人が超カッコ良いぞ・・・」

 

 

意味がわかりませんね。

さよさんを見ても、曖昧な表情を浮かべるばかり。

 

 

「さぁ、急ぎますよ。そろそろ超さんが最終段階に・・・」

 

 

タァ・・・ン・・・ッ!

ガギュンッ!

 

 

隣から聞こえた、異音。

振り向けば、黒い渦に飲まれる、さよさん。

・・・強制時間跳躍弾!

 

 

「さよさん!」

「さーちゃん!?」

「わっ・・・え、えーと、け、計画どぉ―――りっ!」

「何がです!?」

「ご、ごめんなさ」

 

 

ギュンッ、と音を立てて、さよさんが消失しました。

おそらくは、3時間後の世界へ。

 

 

しまった・・・何たる失態。

狙撃の可能性を忘れていました・・・いえ、失念していたわけではありませんが、ネットを出る直前に確認できた真名さんの位置とは、ここはまったく別の場所です。

移動してくる可能性を、軽視していました。

 

 

「スクナさん!」

 

 

主を失った『青き稲妻』が、スクナさんごと地上へ墜落します。

しかし私には、それを心配する余裕がありません。

私自身、狙撃の対象なのですから。

 

 

急加速、急停止を繰り返して、狙撃とそれに伴う時間跳躍の渦を回避します。

京都での反省もあって、なるべくなら魔力を温存したいのですが・・・。

 

 

「真名さん相手に、それは贅沢と言う物でしょうか・・・!」

 

 

近くの塔の陰に隠れますが、跳弾を利用した狙撃ですぐに移動を余儀なくされます。

跳弾で狙うとか、意味がわかりません。

どう言う眼をしているのですか!

 

 

『・・・恩人!』

「スクナさん!?」

 

 

回避行動の最中、スクナさんからの念話・・・とは少し違いますね。

あえて言うなら、空間に声を響かせていると言った所でしょうか。

 

 

『先に行くんだぞ!』

「しかし、こうも狙撃されると、どうにも・・・」

『・・・大丈夫!』

 

 

スクナさんは、力強く言い切りました。

 

 

『アレは、「僕」がやるよ』

 

 

次いで、爆発。

真下の地面が吹き飛んだかと思えば、一直線に爆発が動き・・・。

それは1㎞ほど先にある塔の所まで続き、塔が倒れました。

後で修理するの、大変なんですけど・・・!

 

 

しかし、確かに狙撃は止まりました。

これは、好機。

多少、後ろ髪を引かれる思いもありますが・・・。

ここは、スクナさんに任せることにします。

 

 

私は、超さんの所へ。

『ファイアボルト』の柄を強く握り、空を駆けます。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

鬱陶しいわね。

趣味の悪い仮面を付けたネギの周囲を守るように走る、この雷の獣。

速いし、そこそこ硬いし。

 

 

でも、別にそれは決定打にはならない。

炎で盾を作れば、直撃でも貰わない限りは何とでもなるわ。

それよりも・・・!

 

 

「何でっ・・・当たんないわけ!?」

 

 

確実に直撃させたはずの拳が、空を切る。

まるで擦り抜けるように、ネギの身体が擦り抜ける。

決まって、背後に突然現れるの。

それに、たまにネギが投げたり、ぶつけたりしようとしてくる銃弾!

 

 

流れ弾に当たった人が、黒い渦に飲まれて消えた。

なんて物を、使ってるのよ!

 

 

「あんた・・・ネギ、自分が何をやってるか、わかってるわけ!?」

「・・・っ!」

 

 

名前を呼ぶと、反応が激しくなる。

仮面を片手で抑えて、指輪をつけた手を振るう。

魔法も使ってこない・・・使ったとしても、無詠唱呪文。

正体を知られたくない、そういうこと。

 

 

始動キーでバレちゃう物ね。

けど、気に入らないわ。

顔を隠さないとできないことなら、最初からやるな!

 

 

「・・・ああ、もう!」

 

 

炎を纏わせた拳も、空を切る。

フッ・・・と消えるネギ。

何度も、同じ手が・・・。

 

 

「通じると、思わないでよ!」

 

 

胸元の『アラストール』が赤く輝く。

熱を持ったみたいに熱くなるそれは、私の周囲に炎の精霊を充満させる。

そして、その精霊達を押しのけるように、何かが割り込むような隙間が生まれる。

 

 

刹那、その隙間めがけて、振り向きざまに、炎を纏った右拳を放つ。

その拳は。

 

 

メギッ・・・!

 

 

私の背後に出現したネギの顔面に、直撃する。

硬質の仮面を砕く、嫌な音が響く。

 

 

・・・ネギがどうやって、私の背後に急に現れたのかはわからない。

だけど、3度も4度も同じ戦法を使われれば、良い加減カウンターの一つや二つ、思いつくわ。

 

 

ネギは、二度程地面を跳ねて、数m先で倒れ伏した。

その時、殴られた際にネギが落としたのか、奇妙な懐中時計が地面に転がったわ。

ネギの手が、それを掴もうと伸ばされる。

でもそれは、私の懐から飛び出したエミリーがネギの手に噛み付いて、防いでくれた。

 

 

「アーニャさん!」

 

 

エミリーの声に反応して、技後硬直を起こしている身体に鞭を打つ。

足の関節部分に、『アラストール』で熱を生む。

神経が反応し、動く、加速。

 

 

ネギの手が伸びるよりも一瞬早く、私の右足が、その懐中時計を踏みつけた。

ネギが、私を仰ぎ見る。

仮面が、ひび割れて・・・。

 

 

「・・・なんだか、久しぶりに、あんたの顔を見た気がするわ」

 

 

剥がれた仮面の向こうには、泣きそうに歪む、ネギの顔。

泣くくらいなら、最初からやるんじゃ無いわよ。

 

 

グッ・・・と、足の先に炎を灯して、懐中時計を踏み抜いた。

小さな爆発と共に、時計が壊れる。

ネギの顔が、ますます悲愴に歪んだ。

正直、見ていて苛々する。

 

 

「この・・・」

 

 

ごめんね、ネカネお姉ちゃん。

私は、このバカを許せない。

だから、私は。

 

 

「バカネギィ――――――ッ!!」

 

 

ネギの顔面を、右足で蹴り飛ばした。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

相手の行動様式が、明らかに変化しました。

 

 

「・・・これは」

 

 

それまで、散発的で、しかも局地的だった敵の抵抗が、気配を変えました。

アリア先生が途中で離脱され(どうしてか、胸の奥の重みが取れたような心地になりました)、おそらくは「ぼかろ」と思われる電子精霊群が出張ってきただろう、と言う所までは、私も掴んでいました。

 

 

これまで私がアリア先生を圧倒しえていたのは、つまる所、アリア先生が麻帆良の防衛システムと同時に、一般人収容施設のセキュリティ防衛にまで気を配っていたからです。

加えて言うなら、私自身へのダメージを最小にしようと努めていたからでしょう。

 

 

「しかし、これは違います」

 

 

アリア先生が抜けられた後は、私への攻撃の意志をはっきりと感じます。

ですが、気まぐれで優先順位を設けず、ただ悪戯のように攻撃を仕掛けたり、放棄したり・・・。

 

 

「言うなれば、子供が無計画に場をひっかき回す程度の物でしたが」

 

 

それがまた、ここに来て変化を見せてきました。

こちらの要所を的確に叩き、逆に相手が必要としない部分に、こちらの力を割かせようとしているように感じます。

この独創的なプログラミング、どこかで見た覚えもありますが、しかし。

 

 

いずれにせよ、未だ私は麻帆良の全コンピュータの80%を掌握しています。

学園結界も、落ちこそしていませんが、超の儀式を阻害しない程度のレベルにまで落とし込むことには成功しています。

事実として、超とハカセの儀式は完了目前です。

 

 

「ですが、いったい、誰が・・・?」

 

 

あの個性的な「ぼかろ」達をこうまで統率し、使役するなど。

アリア先生や私にも、不可能でした。

「ぼかろ」の家出(?)から、まだ3日も経っていません。

 

 

では、いったい誰が。

私ですらも、「ぼかろ」の後ろにいる人間がわかりません。

まさか、「ぼかろ」達が積極的に隠そうとしている・・・?

 

 

それこそ、まさかですが・・・。

もしそうだとするのならば、誰が。

 

 

一日や二日で、「ぼかろ」達を手懐けられるはずが・・・。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

「一日や二日で、なんでこんなことになってるんだよぉ――――――っ!?」

 

 

私は今、寮の部屋で一人、叫んでる。

一人で良かったと思う反面、誰か助けてくれ、なんて身勝手なことを考えるあたり、末期だと思う。

 

 

『あ、まいますたー。麻帆良のマザーコンピューターと回路接続しました!』

『今なら、核ミサイルも撃てるわよ?』

「撃つわけねーだろ!? てか、そんなもんどーすんだよ、逆に!」

 

 

というか、学生のパソコンをなんて物とリンクさせてんだよ!

容量とか常識とかを無視すんのも、大概にしやがれ!

ガチャガチャガチャガチャ・・・と、キーボードを高速タイピング。

何をやってるかと言われれば、「悪のロボット軍団から、学園を守ってる」としか言えねぇ。

 

 

・・・いや、違うんだ、私は正常なんだ!

ただ、「やっぱり、ぐらんどまざーには敵わないっス、てへり☆」とか言う葱娘がいてだな。

このままだと、「うぇるかむ、ひにちじょー」とか言いやがるから・・・。

 

 

「でも、何で私なんだよ!?」

『センスが良かったですから~』

「自分の感性を呪う日が来ようとは思わなかったぜ・・・!」

 

 

私のHPや趣味がこいつらを呼んだんだとすれば、本当に呪うしかない。

 

 

「だぁ~・・・いや、コレはゲームだ! そう、ちょっと現実感溢れ・・・溢れずぎだろ!?」

『おお、ノリツッコミですね?』

「ちげーよ、現実逃避ってんだよ!」

『では、ついに我らを現実だと認めてくれたわけで・・・』

『か、感激だよぅ!』

「ええい、黙れ非日常の権化どもめ!」

 

 

8体揃うと、もう手に負えねーよ!

ちっ・・・まぁ良・・・くは無いが、今はとにかく。

 

 

「行くぞ葱娘シスターズ! 夢と現実がごっちゃにされてたまるか!」

『私達がすでに、夢と現実をごっちゃにしてますけどね☆』

『というか、葱はミクちゃんだけですよ』

「良いから、素直にはいって言えよお前らはもぅ――――――っ!」

 

 

なんだ、なんなんだ、こいつらは!

助けてほしいのか、それとも遊びたいだけなのか、どっちなんだよ!?

 

 

「・・・ちっ」

 

 

・・・私だよ。

私が、助けてほしかったんだよ、遊んでほしかったんだよ!

こんな非常識な街で、神経磨り減らすばっかりの毎日。

 

 

やることと言えば、愚痴を言うか、趣味に没頭するかだ。

私だって・・・。

 

 

『私だって、本当はこんな風に騒ぎたかったんだ・・・!』

「いや、ねーよ! 何を勝手に人の心情風景を描き出してんだよ!?」

『え~』

「シャットダウンすんぞてめぇ・・・!」

 

 

実は今の生活が大好きなんです・・・みたいに聞こえるじゃねーか!

どこのヒロインだよ私はよ!?

それにだ、何度でも言うぜ、私は・・・。

 

 

「平凡で退屈な毎日が、大好きなんだよ!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

すっかり日が暮れて、夜です。

世界樹の発光が、麻帆良の街並みを照らしています。

 

 

『ファイアボルト』に横座り、世界樹を見つめます。

刹那さんと木乃香さんは、世界樹の中枢にたどり着けたでしょうか。

たどり着いているのなら、この戦い、おそらく勝てるのですが。

 

 

「・・・!」

 

 

突然、私の目前で時間跳躍弾が弾けました。

世界樹の様子を見るためにスピードを緩めていなければ、直撃していました。

 

 

視界を転ずれば、茶々丸さんに良く似たデザインのロボットが、銃器を構えてこちらに向かってきていました。

茶々丸さんの妹さん・・・と思われる機体です。

その他、田中さんの兄弟機がゾロゾロと。

 

 

「『一方通行(アクセラレータ)』」

 

 

私の首に巻かれていた黒のチョーカーが、かすかに震えます。

物体のベクトルを操作するこの魔法具は、わかりやすく言えば、私に向けて放たれた、生きるのに必要な物以外の全てを反射してくれます。

この場合は、ロボット軍団の攻撃を、です。

 

 

放たれてきた跳躍弾の全てが、反射され、逆にロボットを襲いました。

この魔法具、高い演算処理が必要なのですが、「ぼかろ」のバックアップを受けている今なら使えますが・・・。

それでも、900秒程が限界ですが・・・。

スクナさんと別れてから装備しているので、そろそろ限界時間です。

 

 

「もうっ・・・!」

 

 

それでも、敵の数が多い。

超さんめ、いったいどれだけの戦力を・・・。

 

 

視界には、超さんがいるだろう飛行船が見えています。

しかしそこに至るまでには、数十機の敵を突破して行かねばなりません。

魔力を気にせずに突き進めば、できるでしょうが・・・!

一人では無理だと、泣き言を言いたくなるのは、私が弱くなったから・・・?

 

 

「それでも・・・!」

 

 

急旋回と急加速、急停止を繰り返し、さらに残り少ない魔法具の時間もすり潰して、先へ進もうとします。

でも、この距離と数・・・!

 

 

その時、私の前面に展開された飛行タイプのロボットが、下方から放たれた火属性の魔法の矢によって、撃ち落されて行きました。

それも、一本や二本では無く、数十の魔法の矢。

これは・・・。

 

 

戸惑っている私の横を、箒に乗った魔法使いが3人、通り過ぎて行きました。

3本編成で、それが3組。合計で9人です。

箒に乗る魔法使いのローブに描かれている紋章、アレは・・・。

 

 

「メルディアナの校章!?」

「きーてくれよ、アリア・・・」

「・・・その声っ・・・!」

 

 

聞き覚えのある声に振り向いてみれば、そこには、赤毛の少年。

箒の柄に仁王立ちしている彼は、私の・・・。

 

 

「ロバート!?」

「・・・助けに来たぜー・・・」

「だったらもう少し、テンション上げてくださいよ・・・」

 

 

助けられる側としては、そんなテンションで助けられたくないです。

彼の名はロバート。私のメルディアナ時代の学友で・・・。

 

 

「だってお前、妹に、ヘレンに彼氏ができたってお前・・・!」

 

 

シスコンです。

 

 

「お前にわかるか、俺の悲しみが・・・苦悩が! わかるか!?」

「久しぶりに会ったと思えば・・・貴方、変わりませんね」

 

 

むしろ逆に、安心しますよ・・・。

ロバートは、テンションの上がらない顔で、私を見ると。

 

 

「・・・ここは俺に任せて、先に行きな・・・」

「うわぁ、未だかつて、その王道台詞をそんなテンションで言った人がいるでしょうか」

 

 

これ程に味方の戦意を削ぐ台詞、初めて聞きました。

しかし、そうは言っても、この救援で上への道が開けました。

私は『ファイアボルト』の柄を握り直すと。

 

 

「ありがとう、ロバート。助けにきてくれて」

「お前の好感度上げても、妹は戻ってこねぇしなぁ・・・」

「撃墜しますよ?」

「冗談だよ、冗談。あと礼はドネットさんに言えよ。あの人、結構無理して俺らの転送許可とったからさ」

 

 

ドネットさんですか・・・。

 

 

「今頃は、下でバトってんじゃね?」

「・・・そうですか」

「ま、そんなわけで・・・こほん。ここは俺に任せて、先に行きな!」

「友よ! とでも叫べば良いですか?」

 

 

ノリの悪い奴、とロバートが笑って。

時と場合を考えてください、と、私は笑いませんでした。

私達は、これで十分です。

 

 

私はロバートと別れて、一気に空へ。

超さんの所へ!

 

 

 

シンシア姉様、いろいろな方が私を助けてくれるようになりました。

一人でやるより、どうしてでしょう・・・。

 

 

 

アリアは少し、楽しいです。

 

 

 

 

 

Side クウネル

 

ドラゴンの悲鳴、と言う物は、結構凄い物があります。

特に、断末魔と言うか、痛めつけられている時の叫び声は。

 

 

「な、なんです・・・?」

 

 

図書館島の地下・・・と言っても、ほぼ世界樹の下と言っても過言ではないこの場所。

あのドラゴンは、世界樹の中枢に至るまでの道ですから、警備のドラゴンもそれなりの力を持ったものです。

何より、ここで休養し始めてからの仲です、愛着もありますし。

 

 

なので、そのドラゴンの悲鳴と言う物も、あまり面白い物ではありません。

というか、ドラゴンが悲鳴を上げるような事態が次に自分に降りかかるかと思うと、憂鬱を通り越して恐怖すら覚えますね。

 

 

その時、入り口の扉が爆発、吹き飛ばされました。

ほ、本当になんです!?

 

 

「どうも~、近衛木乃香です~」

 

 

そこから現れたのは、長い黒髪の、可愛らしいお嬢さんでした。

煤一つ付いていない、綺麗な白の仮衣姿。

どこかで見たような気もするのですが・・・。

 

 

「桜咲刹那と申します」

 

 

続いて、背中に白い羽根を生やした少女。

まるで天使のような佇まいですが、その手には血に染まった野太刀。

それも、人間の血ではありません。

良く見れば、刀以外にも血液を拭ったかのような跡があります。

そしてこちらも、どこかで見たことがあるような。

 

 

・・・どうも、私の家のドラゴンを突破してきたようですね。

それも、かなり力尽くで。

 

 

その2人の女性は、私の方を見ると、片方は笑い、残る片方は視線を鋭く細めながら。

 

 

「「世界樹の魔力が溜まる場所への行き方を、教えてください」」

 

 

そう、言いました。

 




さよ:
さよです、脱落しましたぁ・・・。
そりゃ、空でお喋りしてたら撃たれますよねぇ。
すーちゃんも何だか、大暴れな予感です。
後の片付けとか、考えてくれると良いんだけど・・・。
学園長先生に押し付ければ、良いかもだけど。


今回新規の魔法・魔法具は以下の通りです。
愛染明王星天弓(孔雀王):伸様提供です。
一方通行(とある魔術の禁書目録):水色様、おにぎり様提供です。
エレメントスーツ(コレクター・ユイ):絡操人形様提供です。
青き稲妻(GS美神 極楽大作戦!!):これも絡操人形様提供です。
ありがとうございました!


さよ:
次回は、最終決戦です。
次回を含めて、あと二回で学園祭も終わる予定です。
長かったですねぇ。
本当に長かったです。
では、また会いましょうね!


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第73話「麻帆良祭三日目・逆襲」

Side フェイト

 

「・・・流石、と言った所カナ、フェイト・アーウェルンクス」

 

 

超鈴音・・・と名乗るその少女は、不思議な戦い方をする少女だった。

僕がこれまで戦ってきた、どんな魔法使いとも違う戦法を使う。

あの人形から情報を得ていなければ、初撃で倒されていたかもしれない。

 

 

僕ともあろう者が、情けない話だね。

もちろん、僕が全力かと言うと、それはまた別の話になるのだけど。

 

 

「カシオペアへの対抗策を持たない貴方が、ここまで粘るとはネ」

「・・・キミのような少女に、そう上から物を言われると言うのも、不思議な感じだよ」

「すまないネ・・・ただ私は、貴方がなぜ私の邪魔をしようとしているのか、不思議でネ」

 

 

まさに、その通りだ。

僕は何故、この少女と戦っている?

 

 

超鈴音が旧世界に魔法を公表したとしても、僕ら「完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)」にとっては、大局的には関係の無い話だ。

確かに、不確定要素が増して計画に支障をきたす可能性もあるが。

それでも、僕が今ここで戦う必要性は、少ないはずだった。

 

 

「貴方は、私の計画を知らない、フェイト・アーウェルンクス」

「そうだね・・・でも、知る必要も無いさ」

「つれないネ・・・しかし、私としては、これだけは聞いておきたいのヨ」

 

 

超鈴音は、どこか試すような目で僕を見た。

・・・気に入らないね。

 

 

「貴方が今、戦っているのは、アリア・スプリングフィールドのためカ?」

「・・・」

「・・・沈黙は、肯定と捉えるヨ」

 

 

超鈴音は、僕の沈黙を、そう受け取ったようだ。

そうなのだろうか?

 

 

僕は、アリアのためにここに立っているのか?

だとすれば、何のために?

あの人形に何をどう言われようと、僕には関係の無い話だろうに。

答えない僕に何を思ったかは知らないけど、超鈴音は誘うように僕に片手を差し出した。

 

 

その姿は、いつかの彼女にダブって見えた。

 

 

「フェイト・アーウェルンクス、私の仲間にならないカ?」

「・・・」

「悪を行い、世界に対し僅かながらの正義を為そう」

 

 

超鈴音のその言葉に、僕は瞬きもせずに答える。

他のことはともかく、それに対する答えは、聞かれるまでもない。

 

 

「お断りだね」

「・・・貴方は、そう言うと思っていたヨ」

 

 

超鈴音の顔は、どこか安堵したような表情を浮かべていた。

意味のわからない子だ、と思う。

 

 

いずれにせよ、僕は彼女の仲間になどなるつもりは無い。

僕はあくまでも、「彼」の意志を継ぐ人形であって、それ以外でもそれ以上でも無い。

・・・さらに、付け加えるのであれば。

背後を意識しながら、僕は言った。

 

 

「また、浮気だ何だと言われたくないからね」

「あら、それだと私がまるで、凄く嫉妬深いみたいじゃありません?」

 

 

僕と、超鈴音・・・さらに、眼鏡をかけた少女の3人しかいない飛行船の上に、もう一人。

振り向けば、箒を片手に降り立ってくる、白い髪の少女。

 

 

「来たカ・・・」

「ええ、来てあげましたよ、超さん。貴女を止めに」

「そうカ、なら・・・」

 

 

超鈴音は、白い髪の少女(アリア)と、そして僕を見ながら、告げた。

 

 

「ならば私も私の想いを通すため、持てる力の全てを揮うとするネ!」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

フェイトさんの傍に降り立って、『ファイアボルト』を消します。

続けて懐から赤い『リボン』を取り出し、髪をまとめます。

石化魔法を使う方が傍にいますし、万が一に備えて、ステータス異常予防を。

 

 

「・・・なんですか?」

「別に・・・」

 

 

視線を感じたと思えば、フェイトさんが私を見ていました。

ただ、声をかけると目を逸らされました。変な人ですね。

 

 

ポニーテールが珍しかったんですかね・・・?

 

 

「・・・ラブコメってる所悪いガ・・・」

 

 

不意に、目前の超さんの姿が消えて、背後に。

ひゅっ・・・と、時間跳躍弾らしき物を持った右拳が、私に振り下ろされます。

 

 

しかし、私はそれを防ぐための行動は取りません。

『時空間固定杭』―――以前使用した、魔法具を再び創造します。

ライフルの銃身をパイルバンカーに換装したような外見。しかしこれでも立派な魔法の杖。

500mlペットボトル大のパイルを適当な場所に撃ち込む事で、半径200m内の時空間を固定します。

 

 

その魔法具を創造する3秒の間に、超さんの攻撃が私を捉えていても、不思議はありません。

ですが・・・。

 

 

「・・・ご苦労さまです、フェイトさん」

「良い気な物だね、キミは」

 

 

超さんの右腕を、フェイトさんが掴んで止めていました。

ギリギリと言う音が、私の耳にまで届いています。

その間に『時空間固定杭』を射出、この近辺の時空間を固定します。

 

 

超さんが顔を軽く歪めて、フェイトさんの手を振り払い、私達から距離を取ります。

ただ、カシオペア無しの移動では、やはりそれほどの速度では無いようですし。

ザシャッ・・・と、身を屈め、強い瞳でこちらを見つめて来ます。

超さんは懐から、何かのカードを取り出しました。

 

 

「・・・アデアット!」

 

 

アーティファクトですか!

これは、純粋に驚きました。私の「知識」に彼女のアーティファクトなど、存在しません。

しかし呪文を唱えても、彼女の手にそれらしきアイテムは出現しません。

一瞬、超さんの両眼が紅く輝いたような気がしますが・・・。

 

 

「・・・フェイトさん、とりあえず前衛、お願いします」

「・・・僕もやるの?」

「あら、淑女(レディ)だけに戦わせて、自分は傍観だなんて・・・殿方として、許されるとお思いですか?」

「手厳しいね」

 

 

そんな会話をしながら、フェイトさんの背中に隠れるように移動します。

この間待ってくれるのですから、超さんも律儀ですよね。

 

 

「後で膝枕して差し上げますから、そんな冷たいことを言わないでくださいな」

「それなら仕方無いね・・・・・・何?」

 

 

思わず、まじまじとフェイトさんを見つめてしまいました。

貴方・・・それで良いんですか? 軽くありません?

 

 

「彼女は正体不明のアイテムを使うようなので、気を付けてくださいね。でも例の瞬間移動もどきは、もう出ないかと思いますので」

「構わないよ。そう言うのには、キミで慣れてる」

「あら・・・経験豊富なことで」

「おかげさまでね」

 

 

フェイトさんと視線を交わし合った後、フェイトさんは前へ、私は後ろへ。

最後に超さんを見つめた後、蝶の絵が描かれたカードを取り出し、砕きます。

それから・・・。

 

 

右眼、『複写眼(アルファ・スティグマ)』を発動しました。

 

 

 

 

 

Side 超

 

ハカセが詠唱完了するまで7分弱、それまで、なんとしても時間を稼がねばならないネ。

強制認識魔法さえ発動してしまえば、私達の勝ちネ。

学園結界はその機能を最小にまで失い、ポイントの過半は陥落している。

今の状態でも、即座の認識は無理でも、魔法使い達の認識阻害を無効化することはできる。

 

 

しかし、その時間稼ぎが尋常では無いネ。

相手は、あの2人なのだから。

 

 

「ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル」

 

 

呪紋回路の封印を解き、魔法の詠唱を行う。

出し惜しみはしない。

多少のリスクを覚悟してでも、抑え込んでみせるヨ!

 

 

「・・・魔法を・・・」

「私が魔法を使えるとおかしいカ? 私は、サウザンドマスターとネギ坊主の子孫ヨ?」

「サウザンドマスターの・・・?」

 

 

フェイトが、訝しそうに私を見る。

無理も無いネ、よもや私が未来から来た火星人だとは思うまい。

 

 

しかし、それも一瞬、フェイトは即座に私に肉薄してきたネ。

その瞬間に、両眼に「装着」した『千の未来』が発動する。

フェイトの右拳は空を切り、カウンター気味に繰り出した私の右掌底が、彼の腹を打つ――直前に、フェイトが身体を捻り、それをかわした。

 

 

次の行動。

くんっ・・・と、フェイトが身体を回転させ、私の背後に回り込む。

そこから、左手の手刀を私の首筋に叩き込もうとするも、やはりそれも、空を切るネ。

タンッ・・・と、距離を取り、右手を前に掲げる。

 

 

「『火精召喚(エウオカーテイオー・スピリトウアーリス)槍の(デ・ウンデトリーギンタ・)火蜥蜴29柱(サラマンドリス・ランキフエリス)』!」

 

 

さらに次の行動。

呼び出した炎の精霊が、フェイトに殺到する。

しかしこれは当然、フェイトの多重魔法障壁の前には意味を成さないネ。

本命は、この次・・・目の前に幾十もの跳躍弾を展開し、一斉に射出。

 

 

キュボボボボボ・・・と、着弾と同時に展開される黒い渦。

 

 

さらにさらに次の行動。

炎の精霊の爆発によって生じた煙から、フェイトが飛び出してくる。

しかし私は、それすら予測、いや視えて・・・。

 

 

「・・・散りなさい」

 

 

その瞬間、桜色の花弁が、私の周囲を取り囲んだネ。

これは・・・アリア先生カ!

 

 

「『千本桜』!」

 

 

私目がけて殺到してくる、千本の刃。

しかし、それもかわせる、いや、かわせるようになって―――。

 

 

「かっ・・・!」

 

 

千本の刃をかわせるように行動した、次の瞬間。

フェイトの右拳が、私の腹部に突き刺さっていたネ。

だが、それだけネ。私は震える身体を叱咤して、跳躍弾を構えた右拳を振り下ろそうと・・・。

 

 

瞬間、再び殺到する千の花弁。

それを視界に収めるだけで、私の眼は、思考は一杯になる。

千の花弁が視せる『千の未来』で、私の行動は制約されてしまう。

次の瞬間には、視えない場所から放たれるフェイトの攻撃で、私は吹き飛ばされてしまう。

 

 

・・・何と言う膂力!

触れ合っている段階から、気迫だけでここまで飛ばされるか・・・!

飛行船の上からも弾かれ、空中でなんとか静止する。

 

 

「ああ・・・なるほど、やはりソレが、貴女のアーティファクトなのですね」

 

 

右眼を紅く輝かせたアリア先生が、そう言った。

フェイトの横に並び、空中で踏みとどまる私を見上げながら。

 

 

「その・・・コンタクトレンズが」

 

 

 

 

 

Side ハカセ

 

む、むむむ!

ここに来て、超さんが苦戦しています。

とはいえ、私も強制認識魔法の詠唱を止められません。

これは、中断できないタイプなんです。

 

 

あと3分強。

なんとしても、それだけの時間は欲しいです。

早口で言えば良いと言う物でもないので。

 

 

「貴女のアーティファクトは、コンタクトレンズ型の物ですね、超さん」

「まぁ・・・そうネ」

 

 

アリア先生の言葉に、超さんは否定しません。

カシオペア、アーティファクトと言う切り札を封じられた超さんには、会話でしか時間稼ぎができないからです。

魔法と魔法具は、アリア先生に対しては効果が無いと、超さんは言っていましたから・・・。

 

 

「アーティファクト・・・『千の未来』と言うのが、その名前ヨ」

「なるほど、言い得て妙ですね・・・千種の未来を見せるアイテム。そして、千種の未来しか視えないアイテム・・・」

 

 

アリア先生が説明した超さんのアーティファクトの効果は、以下のような物でした。

アーティファクト『千の未来』。

効果は、対象の未来行動を最大千通りまで視せると言う物。

さらに特異な点は、その千通りの未来の中で「最善の行動」を知ることができると言う効果。

 

 

ただし、欠点がいくつかあります。

 

 

第一に、千通り以上は視えない。

たとえば先ほどのアリア先生がやったように、千の攻撃を放たれると、それ以上の物を視ることができない。

現に、あの白髪の少年の攻撃をかわせなくなりましたから。

言ってしまえば、千人までの人間の行動は視えても(その場合、一人につき一つしか行動予測ができません)、千一人目の未来は視えない。

よって、多人数で来られれば来られるほど、超さんのアーティファクトの効果は薄くなります。

 

 

第二に、使用者への負担が重いと言うこと。

千種類もの未来予測を処理するためには、使用者の脳に多大な負担をかけます。

だから、連続使用もなるべく控えるべきです。

 

 

「流石ネ・・・アリア先生。これは結構、レアなアーティファクトなんだがネ・・・」

「まぁ・・・これでも、解析とかは得意なのですよ。対象が小さかったので、少々手間取りましたが」

 

 

控えめな自慢。

ある意味、アリア先生らしいですね。

しかし、腑に落ちませんね。

 

 

超さんが時間を稼いでいることは、アリア先生達にもわかっていることなのに。

なぜ、わざわざそれに付き合うようなことを・・・?

 

 

「だが、それがわかったから、どうだと言うのカナ?」

 

 

超さんが不敵に笑ったその時、4つ目のポイントが落ちました。

光の柱が新たに立ち昇ったあの場所は・・・例の「田中さん」のいる場所ですね。

それに伴い、強制認識魔法の効果が増大します。

詠唱も・・・。

 

 

その時。

 

 

「・・・世界樹が・・・」

 

 

アリア先生の呟きに、超さんが振り向きました。

私も、詠唱を続けながら、そちらを見ます。

世界樹が・・・。

 

 

世界樹が、大発光を!

 

 

「ハカセぇっ!」

「・・・く!」

 

 

超さんが叫び、アリア先生達が慌てて私の方を見た。

しかし、詠唱は終わりました、後は発動させるだけです!

 

 

世界樹の枝葉の全てから、おびただしい量の光の玉が発せられました。

世界樹の魔力が、臨界点に達した証!

予定より、47秒早いですが・・・。

強制認識魔法発動の、絶好のタイミング!

 

 

「――――『強制認識魔法』、発動!」

 

 

カッ・・・と、私を中心に、光の柱が・・・!

これで・・・!

 

 

「私達の・・・勝ちネ!」

 

 

超さんが、そう叫んだ直後。

超さんの身体が、下から放たれた光の槍に貫かれた。

 

 

「・・・!?」

 

 

・・・私が驚く中、アリア先生は。

 

 

「さぁて・・・それはどうでしょう?」

 

 

アリア先生は、クスクスと笑いながら・・・。

パチン、と、指を鳴らしていました。

 

 

 

 

Side クルト

 

「ふむ・・・案外、即席でも上手く行く物ですね」

 

 

上空―――それも、4000m上空―――を眺めながら、そう呟きます。

はるか遠方の飛行船は、世界樹の発光も手伝って、かろうじて捉えることができます。

こちらを誘導するように蠢く、桜色の光も。

 

 

視線を転じれば、私が陣取る世界樹前広場にも、敵ロボット軍団が侵攻して来ていました。

そう、私がアリア様に任されて陣取る、この世界樹前広場に。

大切なことなので、二度言いましたよ。

 

 

中には、ガトリングや重砲などで武装した強力な固体も存在します。

しかし、強力な固体が敵だけだとは、限らない。

 

 

「雷鳴剣!」

「葛葉、右から来るぞ!」

「わかっています!」

 

 

葛葉刀子さん、と申しましたか、その女性の放つ雷撃が、周囲のロボットを吹き飛ばします。

神多羅木さんと言う、無詠唱魔法を多用される魔法先生も、屋根の上からそれを援護しています。

 

 

「きばれや、お前らぁ!」

「やかましい、貴様らのような、ギャグとユーモアの差もわからんような連中に言われたく無い!」

「西洋魔法使いは、細かいからあかんわ!」

「ノリで突破しかできん旧世界の遺物が、何を言うか!」

 

 

関西の術者が符術と簡易式神で敵の銃弾をガードし、我がメガロメセンブリア兵がその間から敵を魔法槍で砲撃する、と言うような姿も、随所で見ることができます。

その中には、通信・支援を行う麻帆良の職員や魔法生徒の姿も。

敵対勢力を糾合するには、共通の敵を用意してやれば良いのですよ。

 

 

そして、これら連合軍の存在以上に、我が軍の戦線を支えているのは・・・。

 

 

「拡散斬光閃!」

 

 

四方八方に気の斬撃を飛ばし、周囲のロボットを問答無用で排除している、あの女性の存在です。

素子と言う名前、そしてあの剣技。

さらに彼女がいるだけで、関西勢の士気と勢いが跳ね上がります。

 

 

「素子様ぁ! 一時方向から新たに50機でさぁ!」

「殲滅します。支援をお願いします」

「あい、さー! ゴルァ、素子様に続くぞ野郎共ぉっ!!」

「「「いぇあ――――っ!!」」」

「そう言った言葉遣いは、感心しませんね」

「「「お供させていただきます、オラァ―――――ッ!!」」」

 

 

そう言うわけで、戦線を支えるのは何とかなりそうですね。

湖岸部隊だけでなく、拠点防衛を終えた残存の部隊も、スケジュールに従って集結してきています。

全ては、我が計画の内です。

 

 

私が左手を掲げると、ザッ・・・ガチャッ、と、背後から音が。

そこには、『精霊式120mm迫撃砲RT』を装備した、我が直属の砲撃分隊。

迫撃砲とは言っても、射程は8000m強、精霊補助の上で魔力の砲弾を飛ばすので、直上方向に撃てば、大砲と変わらぬ効果が発揮できます。

外しても、着弾はロボット軍団の中心ですしね。

 

 

「青二才に、用兵の何たるかを教えて差し上げなさい」

 

 

左手を、前に倒します。

次の瞬間、九つの火線が夜空を駆けました。

桜色の光の、導くままに。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

硬い・・・そして、速いな。

何より、以前はただの科学制御のロボットだったのに。

 

 

「『麻帆良ヨ! 私ハ帰ッテキタ!』」

 

 

10m程もある巨大な刀を振り下ろしてくる、ロボット。

居合拳の数発程度では、彼を止めることはできない。

『豪殺・居合拳』でようやく、拮抗することができる。

 

 

理由は、彼が科学の力だけでなく、魔導の力も備えているからだ。

おかげで、擬似的だけど魔法障壁も展開されている。

 

 

「超鈴音・・・何と言う物を!」

 

 

弐集院先生の言葉に、返事をしないまでも肯定する。

こんな兵器、魔法世界でも見たことが無い。

魔法と科学の融合物。

しかも、自我を持っているかのような行動!

 

 

「一発ハ、一発デス」

「・・・?」

「アノ人ヲ殴ッタ貴方ハ、殴ラレネバナリマセン」

 

 

言っていることの意味はわからない。

ただ、どうも彼が「個人的」に僕に用があることはわかった。

けど、ここの拠点を奪還せねばならない。

 

 

時間が無いから、急ぎで行くよ。

 

 

「『豪殺・居合拳』!」

 

 

至近距離から直接、『豪殺・居合拳』を叩き込んだ。

それは擬似障壁を突破し、彼の両足を砕いた。

さらに背後に回り、背中の移動用と思われる機械―――スラスターって言うのかい?―――を、破壊する。

さらに、彼が持っていた巨大な刀を、やはり『豪殺・居合拳』で叩き折った。

 

 

ここまでやってようやく、彼は地面に倒れた。

まぁ、中枢部分は壊していないから、修理すればまた動くだろう。

 

 

「高畑君!」

「弐集院先生、お待たせして・・・」

 

 

ガシッ。

 

 

「申し訳な・・・!」

 

 

突然、足を掴まれた。

振り向けば、あのロボットが腕を伸ばし(ロケットパンチ的な物で)、僕の足を。

 

 

即座に、居合拳で腕と彼の身体を繋ぐケーブルを千切り、吹き飛ばす。

しかし、その直前にケーブルを巻き戻したらしいロボットが、そのままの勢いで僕に衝突してきた。

咸卦法で強化されている僕の身体には、ダメージは無い。

だが、重量差はある。

 

 

その場から吹き飛ばされ、数m背後にあった壁に叩きつけられる。

と言うより、彼の身体ごと押し付けられている。

 

 

「いけない、『ニクマン・ピザマン・フカヒレマン』!」

 

 

弐集院先生が、魔法を唱えようとしている。

しかしそれよりも早く、ロボットのかけているサングラスの奥が、青く光ったような気がした。

 

 

「『Hasta la vista,baby』」

 

 

地獄で会おうと言われた、瞬間。

彼の身体が、高濃度の熱と魔力で満たされ・・・これは、自爆か!?

なんてありがちな・・・と毒づきながら、咸卦法を強める。

 

 

そして、衝撃に備えて・・・。

 

 

「・・・・・・?」

 

 

いつまで経っても、来るはずの衝撃が来ない。

不思議に思って、前を見ると・・・。

 

 

ロボットが、動きを止めていた。

それどころか、腕をパージして、僕の上からどいた。

な、なんだ・・・?

胸の苺のアップリケが、淡く輝いている。

 

 

「『龍力攻奴(ろんりこーど)』発動、確認致シマシタ。基礎プログラム書キ換エ、優先順位ヲ入レ替エマス。初期化実行、新マスターコードヲ発行。新設定ニ従イ、予定ポイントニ向カイマス」

 

 

何か、よくわからないことを言いながら、彼は僕達を無視して移動を始めた。

残った片腕のロケットパンチを上手く使って、その場から消える。

 

 

しばらく、僕と弐集院先生は、呆然とその場に立ち尽くしていた。

な、何だったんだ・・・?

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

鬼ごっこと言うには、あまりにも無様だわ。

そういえば昔は良く、アリアやバカート達とやったわね。鬼ごっこ。

 

 

アリア、意外とムキになる所あるから・・・全然、手加減してなかったわね。

ロバートは、ヘレンばっか追いかけてたし。

ミッチェルは決まって、部屋の中に逃げ込んでたし。

ドロシーはひたすら、「お姉さま~」だったし。

 

 

「でもあんたとは、結局、そんな遊びは一回もしなかったけどね」

 

 

私自身の体内の熱を操作して、瞬間的に加速する。

そして左手で掴んだネギの後頭部。

それをそのまま、勢い良く地面に叩き付けた。

 

 

最初の場所から、随分と移動したみたいだけど・・・ここは、何? 女子寮?

誰かに助けでも求めるつもりだったの?

 

 

「それとも、あの一般人の子達でも盾にしようとでもしたの?」

「そんな、こと・・・するわけないだろ!」

 

 

跳ねるように、ネギの片足が私の顔を蹴ろうと動く。

私はネギの頭から手を離すと、数歩下がってそれをかわした。

それをチャンスと思ったのか、ネギが例の指輪を振るってきた。

 

 

「『來のかたの獣よ」

「ネギ」

 

 

パシッ・・・と、ネギの指ごと、その指輪を掴んだ。

驚いたような、ネギの顔。

私は、それから。

 

 

その指を、折った。

 

 

「・・・っつあああぁぁっ!?」

「あんたに対しては、同情も憐憫も感じないわ」

 

 

私の手に残った金の指輪を見ながら、私は溜息を吐いた。

もっと早く、誰かがこうしていれば良かったのかしら。

 

 

この子から、力も権利も、何もかも取り上げて。

叱るべき時に、ただ叱り付ける誰かが。

アリアも私も、そこの判断は下手だったし、ネギの言うことは全部通るような環境だったから。

と言うか、同年代の私やアリアが、何でこいつの面倒を見なくちゃいけなんだろう。

そう言うのは、大人の仕事なのに。

 

 

腕を抱えて蹲るネギを見下ろしながら、私は、自分でもビックリするくらいに冷めていた。

だからもう、付き合う気も無かった。

 

 

ゴッ・・・と、私の炎魔法を、『アラストール』が底上げする。

右拳に炎を纏って、ネギに向けて振り下ろそ・・・。

 

 

「やめてくださいっ!!」

 

 

聞き覚えのある声が、そして見覚えのある女の子が、飛び出してきた。

ネギを抱き締めて、私から庇うように。

 

 

「やめてください・・・!!」

 

 

宮崎のどか・・・だったかしら。

そんな名前だったと思う。

宮崎さんは、ネギを庇いながら、怯えた目で私を見た。

 

 

「や、やめて・・・ネギせんせーに、酷いことしないでください・・・!」

「・・・貴女には、関係の無い話だわ」

「か、関係なく無いです。わた、私は、ネギせんせーの、パートナーです・・・から!」

 

 

ああ、そう言えば、仮契約してたんだってけ。

それを言われると、私としても無視はできなかった。

 

 

「ね、ネギせんせーは、悪くないんです・・・!」

「・・・」

「こ、今回は、その・・・でも、ネギせんせーは本当は優しくて、良い先生なんです・・・!」

「・・・そうね、ネギは、優しいかもね」

 

 

私の言葉に、一瞬だけ宮崎さんの顔が輝く。

でも、私の次の言葉で、再び曇ることになる。

 

 

「でも、その優しさは全部、自分(ネギ)のためよ」

 

 

 

 

 

Side 超

 

真下から、砲撃のような一撃が私を襲った。

障壁も粉砕されて、右の脇腹に灼熱感。

肋骨が何本か折れた、その内の一本が、内臓を傷つけたかもしれない。

口から、少なくない血が流れる。

 

 

でも、それはどうでも良いネ。

それよりも、何故、何で。

 

 

「何で・・・『強制認識魔法』が発動しない!?」

 

 

上空1万8000mまで打ち上げられた大魔法は、世界樹の魔力を吸い上げて発動する。

それが、何で発動しない!?

 

 

「その世界樹の魔力が、足りないからじゃ無いですか?」

 

 

耳に届くのは、機嫌の良さそうなアリア先生の声。

世界樹の魔力が足りない?

バカな・・・有り得ないネ! 大発光を起こす程に魔力を溜めた世界樹ヨ!?

この2年間、計算を続け、今日が最善の環境だと・・・。

 

 

だが、下から絶え間なく砲撃されている私には、考えをまとめるゆとりも無いネ。

な、何・・・いったい、何がどうなって。

 

 

「『千本桜』+『火(ファイアリー)』・・・」

 

 

私の周囲を取り囲んだ桜色の花弁の全てに、ボッ、と火が灯ったネ。

そしてそれらが、私の周囲を激しく旋回した。

 

 

「『千本の業火(ホノオノウズ)』!」

「ぬぅあああ、あ・・・!」

 

 

炎とそれを纏う刃は、大したことが無いネ。

しかしそれに取り囲まれた私の周囲の酸素が、急激に失われていく。

思考力が、奪われていくのを感じる。

さらに不味いことに、これでは。

 

 

「が、ぐ・・・!」

 

 

砲撃の、良い的ネ!

精霊で制御された砲撃は、寸分の狂い無く私に直撃する。

この状況では、『千の未来』も効果をなさない。

魔法具は、アリア先生の前では使えない。

 

 

「ぐ・・・」

 

 

フラフラになりながらも、炎の渦の薄い所から、外に出る。

だがそれは、アリア先生に誘導されただけだと、すぐに気付いたネ。

なぜなら・・・。

 

 

渦を抜け出た次の瞬間、小さな手に、顔を掴まれたからネ。

それも、小さな手からは想像もできない程の、強い力で。

頭蓋骨が軋む音が、頭の中に響く。

 

 

「お前は、私が怖いんだ、超鈴音」

 

 

その声に、心臓が締め付けられたかのような錯覚に陥る。

 

 

「私が怖いから・・・一番最初に私を消しに来た。私が怖いから、私をコケにして、自分の目の届く場所に置きたがったんだ」

 

 

まさか。

そんな、そんなはずは無いネ。

だって、貴女は私が。

 

 

「まさか本気で、私が貴様の策にかかったと思ったのか・・・? 本当に私が、慢心するままに不意を突かれたと、思っていたのか?」

「あ、あ・・・!」

「私にも、学習能力と言う物はあってな。15年前に慢心から罠にかかり、封印されてからは・・・自分を戒めて生きている」

 

 

まさか。

まさか、まさか、まさか。

 

 

「ああ・・・良い物だな、やはり。罠に嵌めたはずの相手に、逆に嵌められた人間の顔は」

 

 

ぱ・・・と、顔を掴んでいた手が、離れる。

開けた視界に飛び込んできたのは、金髪の少女(エヴァンジェリン)の顔。

そして私は・・・。

 

 

私は、何もわからぬままに、殴り飛ばされた。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

『戻(リターン)』と呼ばれるカードがあります。

端的に言えば、過去に戻るためのカードです。

これを使って、私とエヴァさんは戻って来ました。

 

 

3時間後に集合した、エヴァさんと私が。

 

 

「お疲れ様です、相坂さん」

「刹那さんこそ、ここまで来るの、大変だったでしょ?」

 

 

ここは、世界樹の中枢。

魔力が溜まる、世界樹の中心。

刹那さん達が予定の時間までにここに到達していなければ、どうにもならなかった。

 

 

3時間後に飛ばされた私とエヴァさんは、影を使った転移で、刹那さんのいる場所に移動しました。

つまり、3時間後のここで、私達と刹那さん達は集合する計画だったんです。

エヴァさんが封印されるのも、折り込み済みでした。

だから念のため、もう一人、3時間後に飛ばされる必要がありました。

 

 

これは、飛ばされた人間が同じ場所で解放される、と言うアリア先生の「知識」があって初めて可能になる計画でした。

私がエヴァさんを封じていた『強欲王の杭』を引き抜き、封印を解除。

後は未来の刹那さん達と合流して、世界樹の魔力を使って『戻(リターン)』です。

 

 

「はぁ~、流石に疲れたえ」

「木乃香さんも、お疲れ様です」

「ええよ~、うちは『光(ライト)』と『灯(グロウ)』で世界樹の発光を偽造しただけやし」

 

 

そう、3時間後と今の世界樹の魔力をリンクさせて、『戻(リターン)』の座標を固定した。

つまりその分、世界樹の魔力を使うから・・・大発光は最低でも数時間、遅れます。

それを、超さん達に気取られないようにするためには・・・。

 

 

エヴァさんを除けば、私達の中で最大の魔力量を誇る、木乃香さんの力が必要でした。

『光(ライト)』と『灯(グロウ)』の二枚のカードを使って、大発光を偽造するために。

 

 

「いやぁ、今日はたくさんのお客様が来ますねぇ・・・」

「あ、クウネルはんも案内、ありがとなぁ」

「いえいえ、お礼はそうですね、この衣装を着てくれれ」

 

 

クウネルさんが何かの服を取り出そうとした時、クウネルさんの足元に、白い西洋剣が突き立った。

ビィン・・・と、音を立てるそれは、刹那さんが投げた物です。

 

 

「・・・何か、言いましたか。クウネル殿」

「いいえ、何も?」

 

 

刹那さんの言葉に、クウネルさんはにこやかに首を横に振りました。

でも、その額には汗が滲んでいます。

 

 

あれは、『白い太陽の剣』。

クウネルさんが効果を知っているとは思わないけど・・・。

あの剣で幻を斬ると、自身の幻を投影していた術者も同じように傷を負う。

つまり、あれで刺されると、本体のクウネルさんにも傷がつくわけです。

 

 

・・・そういえば、すーちゃん、どうしてるかな。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・本当、人手が必要な計画だったんですよね」

「し、しかし・・・そうだとしても!」

 

 

私の解説に、ハカセさんが、納得できないと言わんばかりの表情を浮かべています。

彼女は、自分の周囲に計器のようなウインドウを展開すると。

 

 

「たとえ、外面上は偽造できても・・・計器を見ていた私が、見逃すはずが!」

「ああ、それは・・・コレですよ」

 

 

つい・・・と私が指を掲げると、ハカセさんの足元から、一羽の蝶が。

薄青色の、シーアゲハ。

名を、『C』。

 

 

「この蝶も、立派な魔法具でしてね・・・電気で動く機械を遠隔操作できます」

「え、遠隔操作・・・でも、いつの間に」

「フェイトさんが頑張っている間に、強制認識魔法の魔方陣の光に紛れて、少々」

 

 

傍のフェイトさんに、ふわりと微笑みかけながら、そう言いました。

私の能力の最大の特徴は、「万能性」です。

魔力が続く限り、相手が予想もできない行動を取り続けること。

 

 

最強でも、無敵でも、全能でも無い。

良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏。

それが、私の力。

 

 

「まぁ、これ以上の説明は不要でしょうから・・・QED、とさせていただきますね」

「待っ・・・」

「『そして誰もいなくなるか?』」

 

 

ハカセさんに背を向け、一枚のスペルカードを発動。

四方八方から「ババババーン!!」と言う、弾幕が張られたような音が響いた直後、どさっ・・・と、誰かが倒れる音。

・・・怪我一つありませんよ? 気絶するだけですから。

 

 

ふと、飛行船の内部と外を繋げる階段が、視界の端に映りました。

そこには、四葉さんの姿が。

ペコリ・・・と頭を下げる四葉さんに、私も目礼を返します。

ハカセさんのことは、四葉さんに任せておけば大丈夫でしょう。

 

 

「うむ、流石は私の従者だ。私も超を殺したんじゃないかと思う程の力で殴れたし、満足だな」

「そうだね・・・吸血鬼の真祖(ハイ・デイライトウォーカー)

「まぁ、強いて言えばやはり、超のロボット軍団を薙ぎ倒してみたかったかな」

「・・・派手好きなことだね、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」

「そうか? あっはっはっはっ・・・・・・・・・ん?」

 

 

超さんを殴れて上機嫌だったエヴァさんが、受け答えしているフェイトさんに気が付きました。

満面の笑顔が、固まりました。

あ・・・不味いかも。

 

 

「き、きぃさぁまああああああああぁぁぁぁぁ――――――っっ!!」

 

 

物凄い声量、物凄い魔力。具体的に言うと、目の色が反転するくらい。

飛行船が、今にもバラバラになるんじゃないかってくらい、揺れました。

見た目が多少変わっていても、普通に見破られましたね。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください、エヴァさん!」

 

 

慌てて、エヴァさんとフェイトさんの間に割り込・・・うわ、殺気が半端無い!?

 

 

「そこをどけアリア! そいつが殺せない!!」

「い、いえ、ちょっと殺されるのは不味いと言うか・・・」

「・・・難儀なことだね、エヴァンジェリン。僕を倒した所で、何一つケリなどつきはしない・・・」

「え、ここでその台詞ですか!?」

 

 

実は、フェイトさんも相当テンパッてますか!?

そしてエヴァさん、相当キてますか!?

 

 

「何故、そいつを庇う! そいつはお前を殺しかけた男だぞ!?」

「ま、まぁ、そうなんですけど・・・」

「なら・・・ん、なんだ、そのブレスレット・・・お揃い!?」

「え・・・うぁ、これは違くて・・・フェイトさんもそれ隠して!」

 

 

フェイトさんは、きょとんとした顔で私を見ると、わざわざブレスレットをしている方の腕を掲げて。

これ? みたいな顔をしました。

・・・って、フェイトさぁぁぁんっ!?

 

 

「どぉゆうことだアリア・・・私だってお揃いなどしたことが無いのに・・・!」

「そ、その、ですね・・・エヴァさんも何だか本音が透けて見えますよ!?」

「おい貴様! アリアとはどういう関係だ!? 答え次第では、首を刎ねるぞ・・・!!」

 

 

しゃきん、と魔力の刃を腕に作って、エヴァさんが言いました。

あれはたぶん、どんな答えでも首を刎ねるつもりです。

 

 

一方でフェイトさんは、私を見て、エヴァさんを見て、最後にまた私を見てから。

 

 

「・・・わからない」

「あ・・・」

 

 

胸の奥が、少し痛みました。

そう、なんですか。わからない、ですか・・・。

まぁ、私も良くわかりませんし・・・。

 

 

「けど・・・」

 

 

続けて、言葉を紡ぐフェイトさん。

フェイトさんは、無機質な瞳で、飾り気の無い、素直な言葉を。

 

 

「僕は・・・」

 

 

シンシア姉様、人の気持ちとは、わからない物ですね。

直接的でなくても・・・。

 

 

 

アリアは、嬉しかったから。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

「ラブコメってんじゃねえぇ―――――っ!!」

 

 

この、リア充が!

そんなことを考えながら、ガチャガチャとキーボードを叩き続ける。

人が必死こいてヤバい映像や情報の外部流失を防いでんのに、何やってんだあいつら!

 

 

私の周囲には、ぼかろ共が映し出す麻帆良中の映像やデータが、空中に浮かんでいる。

SFとかで良くある、宙に浮くウインドウだな。

と言うか、アリア先生を含めて知ってる顔がいくつかあるんだが!?

 

 

「アリア先生は、比較的まともだと思ったんだけどな・・・」

『またまたぁ、10歳で教師の時点でアウトですよぉ』

「ま、そうか・・・ってお前ら、アリア先生知ってんのかよ」

『おかーさんですから』

「へー・・・何ぃ!?」

『あ、禁則事項でした。てへり☆』

 

 

前々から気になってた創造主とか、おかーさんとか・・・それ、アリア先生かよ!?

くっそ、社会的に抹殺・・・と言うか、本名をハンドルネームにすんなよ!

 

 

「だぁっ! もう良い、とにかく、学園のシステム中枢部の敵プログラムを排除すんぞ!」

『あいあいさー!』

「魔法なんて、広められてたまるか・・・夢と現実をごっちゃにされてたまるか!」

『夢と、現実・・・ですか』

 

 

・・・!

ぼかろじゃねぇ、この声は!?

 

 

「ぼかろ!」

『ぐらんどまざーです。大丈夫、こっちの正体はバレてません、音声もアトランダムに変声されています!』

 

 

なら、私のことがバレたわけじゃねぇってことか・・・。

 

 

『比較的過酷な人生を送ってこられた超さんに言わせれば・・・』

「・・・」

『ここでの生活の方が、よほど夢のようだとおっしゃっていました・・・』

「は・・・知るかよ、そんなの」

『・・・!』

 

 

超の奴には悪いが、あいつが何を望んでいるにしろ、それは私には関係の無い話だ。

あいつだって、私の都合を考えて事を起こしたわけでもねーだろ。

なら、私が超の都合を考えてやる義理は無い。

 

 

それに、夢だか何だか知らねーが、ここに生きている以上、ここが私の現実だ。

私は私の大好きな、この現実を守る。

てめーらの好きには、させねぇ。

 

 

「・・・以上だ」

 

 

タンッ・・・と、エンターキーを押して、エンド。

それで、全ての色が塗り変わって行った。

 

 

 

 

 

Side 超

 

「か、は・・・う・・・ぐ、ぅ・・・」

 

 

4000m上空から、叩き落された。

普通なら問題無いのだガ、飛行ユニットは熱でイカれたし、カシオペアも砲撃で壊れていた。

魔法障壁以外、防御手段が、何も無かったネ。

移動用の魔法具も、あんなスピードで落下していれば、座標固定ができない。

 

 

うぷ・・・と、口から生温かい液体が、溢れ出たネ。

月明かりに照らされるそれは、真紅の色。

 

 

「ぐ・・・ふふ、ふ・・・エヴァンジェリンを消した時計塔に飛ばされるとは、皮肉だネ・・・」

 

 

そう、ここは時計塔。

今は、私が衝突したせいで、頂上が崩れてしまっているガ。

 

 

不意に、私の前に誰かが立った。

誰かと思い、顔を上げれば・・・苺のアップリケが、擦れる視界に映った。

例の、田中さんカ・・・。

 

 

「ち、ちょうど良かった、ネ・・・私を、運んで・・・」

「了解致シマシタ」

 

 

田中さんは、残った最後の腕を私に向けて、ロケットパンチ。

 

 

「・・・ガッ!?」

 

 

首を掴まれ、そのまま時計塔の柱に叩きつけられる。

後頭部を強く打ち、意識が飛びそうになる。

 

 

「ターゲット、捕縛致シマシタ」

「な・・・なぜ・・・?」

「魔法具、『龍力攻奴(ろんりこーど)』」

 

 

朦朧とする意識の中で、|金髪の少女(エヴァンジェリン)と、|白髪の少年(フェイト)を伴い、時計塔の縁に降り立った少女の声が聞こえたネ。

 

 

「本来は、他人の使い魔やアイテムを支配して自分の物にする魔法ツールなのですが・・・多少アレンジして、田中さんのアップリケに仕込ませていただきました」

 

 

わざわざ私に説明しながら、アリア先生は携帯電話を取り出すと、どこかに電話をかけたネ。

この上、何を・・・。

 

 

「・・・ああ、瀬流彦先生ですか? お疲れ様です、アリアです」

 

 

ま、魔法先生、カ・・・。

その時、時計塔の階段の方から、誰かの話し声が。

 

 

「なんや、面倒やな、もう・・・って、大破壊やないか!?」

「かー、出遅れたなーこれは」

「結局、人間は斬れませんでした~」

 

 

関西呪術協会の・・・!

天ヶ崎千草、犬上小太郎、月詠・・・!

 

 

「おーう、アリア。敵の航空方が沈黙したんだが・・・って、相変わらず容赦ねーなオイ」

 

 

アリア先生達の後ろで、箒に乗った赤毛の少年ガ。

ローブのあの校章は、メルディアナ。

しかもアリア先生の知人で、赤毛・・・ロバート・キルマノック、カ・・・!

 

 

「ええ・・・では、それで」

 

 

ぱたん、と携帯電話を閉じて、アリア先生が私を見た。

どこか、苦笑しているようだったネ。

 

 

「瀬流彦先生達もじきに来ます」

「ち・・・雑魚ばかり集まって、何がどうなるというんだ?」

「まぁまぁ、エヴァさん・・・・・・あ、それと・・・ジョリィさん、いますか?」

「は、これに」

 

 

アリア先生の傍に、いつの間にか黒髪の女性が跪いていたネ。

ジョリィ、と・・・!

 

 

「本当に、いたんですね・・・」

「は・・・畏れ多いことながら」

「まぁ、それは後でも良いですし・・・超さんも、申し訳ありませんね」

 

 

アリア先生が、不意に私に声をかけてきたネ。

 

 

「何分、連合軍と言うことになっていますし、私としても、身内だけで独占するとロクなことにならないことはわかっていますので・・・」

「・・・?」

 

 

何の話かは、わからない。

アリア先生は、本当に申し訳なさそうな顔で、しかし口元には笑みを貼り付けて。

告げた。

 

 

「<皆の手柄>にしないと、いけないんですよ」

 




エヴァ:
エヴァンジェリンだ! 見たか! やはり私はアレでは終わらなかったのだ!
くっくっく・・・超に拳を突き入れたあの瞬間は最高だったな!
今までの鬱憤も晴らせると言うもの・・・。
しかしだ!
あの白髪のガキは何だ!?
聞いていないぞ私は! 茶々丸、説明しろ!


今回の新規魔法具は、以下の通りだ!
「仙術超攻殻ORION」より龍力攻奴:月音様提供だ。
赤い『リボン』(FF):剣の舞姫様からだ。
ギャラリー様より、C (ムシウタ)だ。
そして誰もいなくなるか?:東方projectから、スコーピオン様だ。
灯 (CCさくら):haki様提案。
『デルフィニア戦記』から、『白い太陽の剣』:司書様だ。
120mm迫撃砲RT:黒鷹様提供だ。現実にある兵器だな。
「麻帆良ヨ!私ハ帰ッテキタ!」:黒鷹様提供だな。
「Hasta la vista,baby」:黒鷹様・月音様提供、と。
今回は特に多かったな・・・皆、世話になった。例を言う。


エヴァ:
では次回は、三日目の最後だな。
長かった学園祭も終わりだ。本当に長かったなな・・・。
超は、まぁもう良いとして。
あのガキは、絶対に認め・・・ではなく、許さん!
では、また会おう!


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第74話「麻帆良祭三日目・後夜祭」

Side 真名

 

「む・・・」

 

 

不意に、手を止めた。

先ほどまで感じていた超の魔力と、『強制認識魔法』の気配が、完全に消失したからだ。

と、言うことは・・・。

 

 

「・・・負けたか」

 

 

傭兵として、負ける側につくことになるとは、私も勘が鈍ったかな。

志などと言う物を優先した結果が、これか。

 

 

ジャカッ・・・と、両手に構えた拳銃を両足のホルスターに収める。

これ以上の戦闘は、無意味だ。

アリア先生の仲間を足止めするという依頼も、ここまでだろう。

クライアントからの連絡も、途切れたことだしな。

 

 

「・・・それとも、まだやるか?」

 

 

やや上の方を見て、相手に告げる。

そこには、黒髪の少年がいた。

山と積まれた瓦礫の上に立ち、金の瞳で私を見下ろす少年。

 

 

明らかに、人間では無い。

巧妙に人間の姿に偽装されているが、霊格の高さが尋常じゃない。

純粋な力だけで見ても、エヴァンジェリン程では無いが、化物だ。

 

 

「・・・お前、強いな」

「それ程でも無いさ・・・そう言えば、まだ名前を聞いていなかったな」

 

 

化物に「強い」とか言われるのも、妙な気分だ。

名前を聞いていなかったのは、会話も無しにいきなり襲われたからだ。

別に私に苦手な距離は無いが・・・。

それでも、即座に居場所を特定された上で接近戦を強いられるとは思わなかったぞ。

 

 

昨日の敵は今日の友・・・などと言うつもりは無いが、名前ぐらい聞いても罰は当たらないだろう。

私が狙撃で仕留められなかった程の相手だ。

 

 

「私は、龍宮真名と言う」

「龍宮?」

「・・・?」

 

 

私の苗字を聞いて、その少年は軽く首を傾げた。

私の苗字に、何か気になることでもあるのか。

 

 

「・・・それで、キミの名前は?」

「ん・・・」

 

 

首を傾げつつも、その少年が自分の名を告げようとした、その時。

 

 

「いやぁ・・・素晴らしい!」

 

 

その男が、来た。

いつの間に来たのか、転移でもしたのか・・・とにかく、いた。

細い身体に、眼鏡をかけた優男。

しかし、こう言う目の色は油断ならないと、経験でわかる。

 

 

「途切れ途切れですが、貴女方の戦いの様子は見ていましたよ・・・いやいや驚いたよ驚愕したよ驚嘆したよ。見事な物だ、特に貴女・・・その年齢でその力、まさに千の賛辞に値する」

 

 

クルト・ゲーデル元老院議員。

まいったな・・・こいつが出てくる前に身を隠すつもりだったんだが。

 

 

しかし、クルト議員の登場と前後して、漆黒の鎧を纏った兵士が、私を取り囲んでいた。

強行突破は・・・難しいか。

いつの間に配置していたのか。抜け目が無いな・・・。

 

 

「お前、誰だ?」

「いえ、何。大した者ではありませんよ。貴方にとって大切な方の、大切な者でありたいと願う者です」

 

 

黒髪の少年には、友好的なようだ。

となると、私を捕らえに来たと言うことか・・・やはり、超は負けたのだな。

 

 

「さて・・・問題は貴女ですね、傭兵さん。いやいや、龍宮真名さん・・・いやいや」

「・・・」

「マナ・アルカナ・・・とお呼びした方が、よろしいでしょうか?」

「・・・!」

 

 

その名を、どこで。

クルト議員は、表面上とてもにこやかな笑顔で、私に言った。

 

 

「今宵は貴女に、とても素敵なお話を持ってきて差し上げたのですよ」

 

 

 

 

 

Side 美空

 

世界の命運とか、どうでも良い。

そう言うのは、どこかの主人公が担当してくれれば良いじゃない。

私は、そう言う重い話はパス。

 

 

「いや~、終わったみたいだね!」

「そうダナ・・・」

 

 

世界樹が見える丘の上、そこから街の方を見下ろしてみれば、屋内にいた連中も外に出て騒いでる。

この最終イベントで、いったいどれくらいのお金が動いたんだろーねー。

 

 

「私も誰かに賭けときゃ良かったかなー」

「シスターに怒らレル・・・」

「だーいじょぶだって、バレないようにするって」

「それでいつもバレて怒られるのは、ミソラ」

「ぐ・・・」

 

 

ココネの言う通り、いつも最後にはバレて、シスターシャークティーに怒られる。

でも私だけじゃなくて、ココネも一緒に怒られてくれる。

たまに、私じゃなくてココネが怒られる時もあるけど、その時は私も怒られる。

 

 

ココネと一緒に遊ん・・・修行して、シスターシャークティーに怒られる毎日。

でも・・・そんな日はもう、二度と来ない。

 

 

「シスターシャークティー、貴女のことは忘れるまで忘れません・・・! 具体的には、明日の朝7時くらいまで・・・!」

「ミ、ミソラ・・・」

「ほう、私は主の元に召されたことになっているのですか」

 

 

時間が、止まった。

・・・やだねー、空気の読めない人は、浸ってる最中なのに。

 

 

「よし、このまま明日に向かって全力でダ「美空?」正直すんませんっした!」

「まったく、貴女と言う子は・・・」

「あ、あはははー・・・」

 

 

頭を掻きつつ振り向くと、そこにはいつものシスターシャークティーがいた。

シスターシャークティーだけじゃなくて、超りん達にやられた人とかが、この丘で解放されることになってる。

少し離れた所では、弐集院先生とかが人数の確認とか、混乱の収拾とかやってる。

 

 

本当は私も手伝わなきゃなんだけど。

私が手伝うと、逆に仕事増やしそうだし、何より面倒と言うか・・・。

 

 

「美空?」

「うぃっス! 行ってきます!」

 

 

付き合いが長いからかどうだかは知らないけど、考えてることが読まれた。

これ以上ここにいるとまた怒られそうだし、とっととズラかろーっと。

いつものようにココネを肩車して、その場から走り去る。

 

 

「ちゃんと仕事するんですよ!」

「へーい!」

「へーい、ではありません! 大体貴女は・・・」

 

 

あーもー、戻って来た途端にこれだもんなー。

もう少しくらい、いなくても良かったかも・・・。

 

 

「ミソラ・・・」

「んー、何ー、ココネ?」

 

 

しばらく走った後、ココネが声をかけてきた。

 

 

「何で・・・シスターの言う通りに逃げなかったんダ・・・?」

「んー? 何言ってんのさココネ、逃げたじゃん普通に」

「教会の抜け道、使わなかっタ」

「・・・」

 

 

あの後、私は教会の抜け道から逃げなかった。

だってさ、それがどこに繋がってるかわからないし、ロボットがいないとも限らないじゃん?

だったら、自分の良く知ってる外を駆け回った方が、安全だと思うじゃん?

 

 

隣のポイントまで走って逃げれば、他の魔法先生とかがいるってわかってたわけだし。

私じゃ無理だけど、代わりに倒してくれそうな人に所にまでロボット軍団を引き連れて行けば、何とかなるかなーって思ったわけよ。

それに・・・。

 

 

「ミソラ」

「んー?」

「・・・シスターが無事で、良かったナ」

「・・・ん」

 

 

それに、私が大人しくシスターシャークティーの言うことを、聞くわけ無いじゃん。

へへ・・・お?

 

 

「超りん、どう―――って、あら? 明日菜じゃん」

「うぁっ・・・ここどこよっ! ・・・って、朝倉?」

「おーい・・・マジすか・・・」

 

 

パシッ・・・と音を立てて、見覚えのある顔が2人。

え、嘘・・・ここで出会っちゃう?

謎のシスターで押し通すかな~・・・無視とか、無理だよね?

だってあの2人・・・。

 

 

見つけ次第、拘束しろって言われてんだよねー。

面倒なタイミングで復活しないでよ、もぅ~。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

「いい加減にしたまえ、ネギ君!!」

「で、でも、僕は別に、何も間違ったことはしていません!」

 

 

いや、やってるから!

・・・とツッコミたくなるのは、僕だけかなぁ?

 

 

今、僕達がいるのは、魔法使いの旧世界日本支部の施設。

それも、対魔法使い用の呪文封印処理が施された、地下30階の部屋だ。

とどのつまりは、魔法使いの犯罪者を一時的に勾留する施設なんだけど・・・。

まさか、ネギ君とここで会うことになるとは思わなかった。

 

 

「僕はただ、マギステル・マギを目指す者として、正しいことをしようとしただけです!」

 

 

それにしても、何だろう。

頭が痛くなるような話だった。

ネギ君の頭には、「自分は正しいことをした」と言う認識しか無いみたいなんだ。

 

 

魔法使いは、旧世界の人間と無用な混乱を避けるために、魔法を秘匿せねばならない。

それは、魔法学校でも最初に習うはずの、僕達の原則なんだけど。

 

 

 

ネギ君は、それを理解していない。

それに対して「なぜ」「おかしい」と言っても、何も変わらないのに。

これが普通の10歳の子供なら、問題無いのかもしれない。

誰だって、そう言う類の悩みにぶつかる時期があるんだから。

 

 

現実の汚さを嫌悪して、理想の美しさに惹かれ、苦悩する時期が。

僕にだって、あった。きっと、他の人達もそうだと思う。

 

 

「超さんは・・・他の皆はどうなったんですか!?」

「・・・超鈴音とその一味と思われる生徒達は、それぞれ別の場所に収監されている」

「し、収監って・・・なんでそんなことを!」

「今はキミの話をしているんだ!!」

 

 

ドンッ! と机を叩くガンドルフィーニ先生。

うん、正直、かなりイラついてるみたいだ。

おかげで僕は、さっきから「ま、まぁまぁ、ガンドルフィーニ先生」としか発言していない。

 

 

・・・残念ながら、ネギ君は普通の10歳じゃない。

魔法学校を「卒業」して、麻帆良と言う「社会」に教師として出てきた以上、年齢は関係ない。

 

 

「・・・学園長と高畑先生も、本国から呼び出しを受けている。おそらく超鈴音も、近く処遇が決定されるだろう・・・そしてキミも、例外ではない、ネギ君」

 

 

はぁ・・・と溜息を吐いて、ガンドルフィーニ先生は席を立った。

まぁ、かなり興奮してたし、これ以上は話しても、意味が無いのは見ればわかる。

 

 

ちなみに、高畑先生も本国に召還されることになった。

本人はこの尋問に来たがったけど・・・そう言う立場だから、クルト議員から許可が降りなかった。

 

 

「おそらく、麻帆良には二度と戻れない」

「で、でも僕、先生の仕事が・・・修行が!」

「キミの修行は、これで終わりだ・・・いくらキミがサウザンドマスターの息子でも、今回の件での擁護は難しい・・・」

 

 

特に、本国の議員に見られたのが、何よりも不味かった。

学園長(もうすぐ、元学園長になりそうだけど)でも、どうにもできないだろう。

ネギ君と、後一人のパートナーを連れて来たのが、メルディアナの特使だって言うのも、不利だ。

正式に敵勢力として文書付きで引き渡された以上、僕達も相応の対応をしなくちゃいけない。

 

 

「・・・諦めなさい。キミの生徒たちには、もう二度と会えない」

「ネギ君は10歳だし・・・それほど刑は重くならないと思うよ」

 

 

気休めだとわかっているけど、そう言わずにはいられなかった。

たとえ10歳でも、今回の件は・・・ちょっとキツい。

 

 

「ま・・・待ってくださ、僕は・・・っ」

 

 

ネギ君の声を背中に聞きながら、僕達は尋問室を出た。

呪文封印処理の施された、重厚な扉が閉ざされて、何も聞こえなくなる。

 

 

・・・嫌な仕事だ。

心から、そう思った。

 

 

 

 

 

Side ハルナ

 

「お、どこに行くアルか、ハルナ?」

「ちょっとゴメン、夕映とのどかがまだ・・・くーふぇは先に皆と後夜祭行っといて!」

 

 

途中でお手洗いに行ったのどかと、ジュースを買いに行った夕映が、戻ってこなかった。

イベントが終わって、くーふぇや皆と後夜祭に行く話になったんだけど、なんだか嫌な予感がした。

だから、ちょっと探しに・・・。

 

 

「・・・って、案外すぐに見つかったし・・・?」

 

 

最初に来た自販機コーナーで、すぐに夕映を見つけた。

でも何だか、様子が変だった。

 

 

自販機の横の壁に背中をつけて、蹲ってる。

空気が重くて・・・なんだか、近寄りがたかった。

それでも近付いて、声をかけた自分を褒めてやりたくなる。

 

 

「ゆ・・・夕映?」

「・・・」

「夕映・・・ど、どうしたの?」

 

 

膝に顔を埋めて、表情は見えない。

でも、何か呟いている気がする。

ちょっと耳を近付けて・・・。

 

 

「・・・ふ、ふふフ、フ・・・ふふ・・・」

 

 

かすかな笑い声。

正直、かなり引いたわ。親友で無かったらダッシュで逃げてる所だったかも。

 

 

「ちょ・・・夕映!? 大丈夫!?」

「ふふ、フ・・・わかっていたです、そう・・・わかっていたのです」

「な、何が? と言うか、何かあったの!?」

 

 

肩を掴んで揺さぶっても、反応が無かった。

ただ、小さな声で何かを呟くばかりで。

 

 

「こんな・・・こんな醜い私を知られたら、のどかに嫌われるであろうことなど、最初から・・・」

「の、のどか? のどかがどうしたの?」

「なら、ならもう・・・最初の意志を貫徹することを考えるべきです・・・そう、わかってたです・・・」

「ねぇ、夕映!?」

「どうすれば良いかなど、本当は最初から・・・」

「夕映!!」

 

 

大声で呼ぶと、夕映の身体がビクッ、と震えた。

やっと私に気付いたのか・・・私のことを、見た。

 

 

その目は、怖いくらいに虚ろだった。

 

 

「ど、どうしたの夕映。のどかと・・・何かあったの?」

「のどか・・・?」

 

 

夕映は、半笑いみたいな表情を作ると、明後日の方向を指差して。

 

 

「のどかは・・・行ってしまったです」

「行くって・・・どこに?」

「私達の、手の届かない所へ・・・」

「・・・?」

 

 

正直、要領を得なくて、夕映の話がわからない。

わかるのは、夕映とのどかの間に、何か決定的なことがあったってことだけ。

それも、かなり悪いことが。

 

 

「ふふふ・・・もう、私にできることは・・・一つです・・・」

「夕映・・・?」

「わかっていたです・・・助けを、救いを求めるべきが誰かなど・・・最初から・・・」

 

 

夕映の言っていることの意味が、私にはわからない。

わからないから、余計に不安になる。

この子は・・・。

 

 

「・・・たとえ、頭が契約の痛みで割れても・・・」

 

 

泣きながら笑うこの子は、大丈夫なのかって。

 

 

「失礼、念のため確認いたしますが・・・」

 

 

その時、黒服を着た「いかにも」な女の人が二人、自販機コーナーに入ってきた。

・・・あ、何か嫌な予感・・・。

 

 

「綾瀬夕映様と、早乙女ハルナ様でいらっしゃいますね?」

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

はわー・・・皆、盛り上がっとるなー。

全体イベントが終わった後、皆で外に出たら、もう後夜祭が始まっとった。

 

 

所々でキャンプファイアーしとるし・・・皆、飲んで歌って食べて騒いでの大騒ぎや。

柿崎や桜子達も、ジュース(やと信じたい)片手にハイテンションや。

まぁ、イベントの映像を見とる間もソワソワしてたし、実際に何人かは見回り中の先生に見つかって怒られたりとかしてたみたいやけど。

 

 

「え、ゆーな賭けてたの!?」

「もちのロンよ! 全財産突っ込んでやったね!」

「ぎ、ギャンブラーやなぁ・・・」

 

 

今は、世界樹広場で皆で集まっとる。

3-Aのメンバーは、半分くらいおると思う。

まき絵とかアキラとか・・・普段、あんまりお話したことは無いけど、ザジさんとかもおる。

 

 

でも、ザジさんは何故か空中を飛んどる。空中ブランコ的な物で。

キャンプファイアーの真上を飛ぶのは、やめた方がええと思うんやけど・・・。

 

 

「そして手に入れたのがコレ!4位、食券400枚!!」

「マジで!?」

「すごいな・・・」

「アリア先生、サンキュー!」

 

 

柿崎やアキラも驚いとる。

だって、400枚やもん・・・と言うかゆーな、アリア先生に賭けてたんやね。

お父さんの浮気騒動でお世話になってから、仲良くなったんは知っとったけど・・・。

 

 

・・・あ、アリア先生のこと思い出したらライブのこと思い出してしもた。

は、恥ずかしい・・・。

 

 

「ふふふふ、良いこと聞いちゃったな~ゆーな!」

「も・ち・ろ・ん、奢ってくれるんだよね?」

「超高級学食JoJo宛で焼き肉食べ放題やってるんだよー☆」

「ただし、一人食券10枚!」

「え」

 

 

瞬時に、釘宮達がゆーなを取り囲んだ。

ガッチリとホールド。ゆーなの顔が青くなった。

全員に奢ったら、400枚なんてすぐに吹っ飛んでまうもんな。

 

 

「い、いやああぁ――――っ! この食券は私のモンです――――っ!」

「いや違う! これはアリア先生と言う存在があってこその食券!」

「故に・・・私達3-Aの共有財産とすべき物!」

「おーけい?」

「んなわけ無いでしょ!? 私のお金で賭けてんだぞ―――っ!?」

「あはははは、さぁ、皆呼ぼうか?」

「やめて――――っ!?」

 

 

どうやら、この後は焼肉パーティーらしい。

ゆーなの食券に、皆が群がってるから、時間の問題やと思う。

でも、元々はゆーなのお金やから、ほどほどになー。

 

 

「大丈夫、皆、そこはわかってると思うから・・・」

「そうやとええんやけど・・・」

「だって、皆、自分のお財布持ってるから・・・」

 

 

アキラの言葉に見てみれば、確かに、ゆーなと絡んでる子以外は、自分のお財布の中身をチェックしとる。

自分の分は自分で払うつもりなんやと思う。

こう言う所は、皆のええ所やなーと思う。

うちも、お財布の中身確認しとこ・・・。

 

 

それにしても・・・。

 

 

「・・・はぁ」

 

 

あの白い髪の男の人、結局会えへんかったなー。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「さささ、素子様もいかがどす、一献!」

「いえ、あの、私は刹那さ・・・知り合いに会いに」

「ままま、そう言わんと、一杯!」

 

 

青山宗家出身のお偉いさんがおるて聞いたけど、何か、関西呪術協会の宴で皆に囲まれとった。

あんまり失礼なことすると、斬られるんやないやろか。

と言うか、あの肩にとまっとる威圧感バリバリの金色の鳥は何やね?

見た感じ、半端無く格の高そうな式神なんやけど・・・。

 

 

・・・あかん、考えんとこ。

うちは別に、関西の地位が欲しいわけや無いし。

 

 

「あはは、皆さん、楽しんでいるようですね」

「・・・長」

 

 

そこへ、長が駐麻帆良大使・・・西条はんを伴って、やって来た。

敵の特殊弾喰ろうて飛ばされた連中を迎えに来て、そのまま宴が始まったから・・・。

長も、様子を見に来たって所か。

 

 

「・・・お疲れ様どすな、長」

「千草さんも、お疲れ様です」

 

 

柔らかに微笑む長。

その姿からは、麻帆良を事実上占領した組織のトップとは見えへん。

この長、一部の戦力を防衛戦に割かずに、そのまま学園結界のポイントの占領に使いおったからな。

おかげであの通り、関西の連中は大騒ぎや。

 

 

京都の本山では、どんなお祭り騒ぎになっとることやら。

 

 

「占領政策はどうどすか」

「占領ではありませんよ、あくまでも復興支援・・・ならびに、秩序維持のお手伝いですよ」

「お手伝い、なぁ・・・」

「それに、元老院・メルディアナとの共同作業ですから」

 

 

麻帆良が意思決定に参画できひん段階で、手伝いも何も無いと思うんやけどなぁ。

まぁ、うちには関係の無い話や。

 

 

「・・・それで、長。約束のモンはどうなっとりますか?」

「ええ、コレです」

 

 

そう言って渡されたのは、一枚の書状。

中身を確認すると、そこにはうちを「メガロメセンブリア・関西呪術協会出張所・初代所長」に任命するとの通達が書かれとる。

 

 

あのクルトとか言う議員さんのサインも入っとる。

この書状が、魔法使いの国でのうちの身分証になる。

行動の自由を、保証してくれる。

いよいよ・・・親の仇を探しに行ける。

 

 

「それでは、私はこれで・・・皆さん、あまりハメを外さないでくださいね!」

 

 

長の声に、関西の連中のテンションがまたヒートアップした。

今は何言うても、意味無いやろな。

 

 

「ま・・・祭りやしな」

「千草は~ん」

「難しい話は、終わったんかー?」

 

 

聞き覚えのある声に振り向けば、そこには想像通り、月詠はんと小太郎がおった。

小太郎は、骨付きの肉を口に咥えたままやし、月詠はんは何か、顔中に土がついとった。

それを見た時、一瞬呆れて、次に苦笑してしもた。

 

 

袖から白い手拭いを出して、月詠はんの顔を拭う。

まったく・・・。

 

 

「どこに顔を突っ込んどったんや、月詠はん。それと小太郎、物食べながらウロつくんやない」

「素子はんに喧嘩売って来ました♪」

「しゃーないやん、月詠のねーちゃんがウロついて「小太郎?」・・・すんません」

 

 

うちが睨むと、小太郎は素直に謝った。

まったく、子供が大人に口答えしたらあかんて教えたやろに。

と言うか月詠はん、恐ろしいことせんといてんか。

 

 

「そ、それで、何の話やったん?」

「うん? 別に大した話やないよ。ただ、魔法使いの国に赴任することになっただけや」

「おー、それはまた、凄いどすな。千草はん」

「魔法使いの国かー。強い奴、おるかなぁ」

「・・・ついてくる気か、あんたら?」

 

 

うちとしては、このままここで学校に行って欲しい。

前々から折に触れて言うとるんやけど、こればっかりは聞いてくれへん。

学費は、うちのお給金から何とか、とか考えとったんやけど・・・。

小太郎と月詠はんは、きょとん、とした表情を浮かべると。

 

 

「うちは、千草はんと一緒に行きたいです~。だって、面白そうですもん」

「俺もや! 今さら、普通の学校とかめんどいし」

 

 

まぁ、確かに。

この2人のことを考えると、普通の学校に入れるんはな・・・。

 

 

「・・・なら、普通やない学校なら、行くんやな?」

「「へ?」」

「魔法使いの国の学校やったら、行くんやな?」

 

 

調べてみると、魔法使いの学校やったら獣人とか刀持ち歩くとかも、問題視されへんみたいなんや。

もし連れて行くなら・・・と、密かに考えとった。

何のことは無い、うちがこの2人を手放したくなかっただけや。

 

 

この2人を学校に行かせて、学持たせて、いっぱしの職に就けたる。

それが、うちのもう一つの使命やと思う。

 

 

「ま、マジか・・・向こうの学校かー・・・」

「人、斬れます?」

「嫌や言うんやったら、連れて行かへんで」

「む、むー、しゃーないな、面倒やけど・・・」

「なぁなぁ、人、斬れますー?」

「ん、良し。月詠はん、まずはその思考を何とかしよな・・・・・・あー、それでや」

「「?」」

 

 

あー・・・とか言いながら、言葉を探す。

いざ、改めてってなると・・・なんや、気恥ずかしいな。

少し、怖いし。勘違いやったらどうしよて思うし。

 

 

「あー・・・あんたらの立場やけど・・・」

「「立場?」」

「ほら、今のあんたら、うちが身元引受人になっとるだけやけど、その・・・」

 

 

身元引受人は、言葉の通り、ただ身柄を預かるだけの人間や。

でも、それを何と言うか。

向こうでは、関西式の身元引受は効果が無いもんやから・・・。

 

 

一応、練習したんやけど、いざとなると、どうも・・・。

2人が訝しげにうちを見る中、うちは、しばらくしてから意を決して、言うた。

それは全然、洗練されてへん言葉やった。

 

 

「う・・・うちのか、家族、に・・・ならへん、か・・・?」

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

「げ」

 

 

私がネギとそのパートナーの子の引渡しを終えて、ドネットさんの執務室に行った時、私は思わずそんな声を出した。

はしたないと感じる以上に、感情の方が勝ったみたい。

 

 

イベント中、ドネットさんからの通信で、援軍と言うか、増員を呼んだ、みたいな話はあったけど・・・。

 

 

「よりにもよって、バカート呼ぶとか・・・」

「あ、おいそこの爆裂娘! 今の発言を公式議事録に記録して抗議すんぞコラ!」

「うっさいわね! あんたの顔見れば10人中10人が同じ反応するわよ!」

「貴方達、相変わらず仲が良いのね・・・」

 

 

ドネットさんが、私達を見て微笑ましそうな顔をしているけど。

こいつと私の仲は、とどのつまりシスコンと反シスコンの立場よ。

馴れ合いなんて、絶対しないわ!

 

 

「まぁ、おふざけはいいわ・・・ドネットさん、その後どうなりましたか?」

「そうね・・・ロバートを含めた箒部隊の到着が、ギリギリ間に合ったから・・・何とか、発言権を維持できそうよ。今後の麻帆良運営にも、意見できるわ」

「へへ・・・」

「なんでバカートが照れているのかしら・・・?」

「一応、そう言う話で進んでいるんだけど・・・他に何か、聞きたいことはあるかしら?」

 

 

ドネットさんの言葉に、その場にいた私、バカート、そしてエミリーが手を上げた。

ほぼ同時に、発言する。

 

 

「アリアと・・・ネギは、どうなりますか?」

「妹の彼氏ブッ転がして良いスか!?」

「兄の処刑はいつでしょうか!」

 

 

・・・私以外、真面目な質問が無い気が。

それでもエミリーのは、まだ良いとして。バカートのは、完璧に私事じゃない!

 

 

「エミリーの兄・・・アルベールについては、本国への移送が決まったわ。ウェールズの牢獄は、一度脱走されているから・・・本国のオコジョ収容所行きになりそうよ」

「そうですか・・・」

「エミリー・・・」

 

 

俯いて、身体を震わせるエミリー。

そのまま、グッ・・・と拳、と言うか前足を上げる。

・・・兄の投獄に悲しんでいる、と言うことにしておきましょう。

 

 

「あと、ヘレンの彼氏だけど・・・もしミスター・カストゥールのことを言っているなら、勘違いだと思うわよ? 彼、故郷に親の決めた婚約者がいるもの」

「へ・・・いや! 二股野郎かもしれねぇ、シオンの分析によると・・・!」

「あんた、まだシオンと続いてたんだ・・・」

 

 

私の脳裏に、キラッ・・・と、眼鏡を指で押し上げるシオンの顔が浮かんだ。

あの子、こんなバカのどこが良かったんだろ・・・。

 

 

「それで、ネギ君は・・・残念だけど、本国に召還・・・いえ、護送されるわ。悪くすると、パートナーの女生徒と一緒に・・・」

「そう・・・ですか」

 

 

あの宮崎とか言う子は、ある意味被害者だから・・・。

できれば、記憶封印くらいで何とかしたいんだけど。

 

 

でも、今回は本当にヤバい事件だったから、無理かもしれない。

ネギのしたことは、それ程のことだったから。

 

 

「それで、アリアは・・・?」

「アリアは・・・そうね。今さらだけど・・・本当に」

 

 

ドネットさんは、そこで数瞬、瞑目すると。

 

 

「彼女が望む通りの道を、歩ませてあげたいと思う」

「でも、アリアは・・・」

「そう・・・そうね。完全に自由にはできないかもしれない。今回のことで、アリアは自分の価値を高めてしまった・・・」

 

 

生まれが、違えば。

そう思ってしまうくらい、アリアを取り巻く状況は厳しい。

それは、私にもわかる。

 

 

ネギがこうなった以上・・・きっと、なおさら。

なおさら、アリアは・・・。

 

 

「それでも、私達は・・・できる限りの選択肢を。アリアが、あの子が、自分の人生を歩めるように」

 

 

ドネットさんが、悲しそうに笑った。

バカ・・・ロバートも、珍しく難しい顔をしてる。

 

 

私は、どんな顔をしているんだろう?

 

 

 

 

 

Side 超

 

自分と言う存在が、少しずつ希薄になっていくのを感じるネ。

時間切れ・・・と言う物が、もしあるのだとすれば。

もう少しだけ、待って欲しいと願うのは、欲深だろうカ?

 

 

気が付くと、カードも魔法具も取り上げられ、身体を拘束されて。

私は、どこかの部屋に入れられているようネ。

目隠しされているからわからないガ、牢屋にしては座り心地の良い椅子ネ。

 

 

「ふふ・・・まぁ、こんな結果だろうとは、思っていたヨ・・・」

 

 

その時、扉が開く音がしたネ。

そのまま、誰かが近付いてくる足音。

さて、尋問官か拷問官カ・・・。

 

 

などと悲観的な考えを持っていると、突然、目隠しが取られたネ。

急に戻った視界。眩しげに目を細める。

そこにいたのは・・・。

 

 

「・・・アリア先生?」

「・・・まだ、私を先生と呼んでくれるのですね」

 

 

アリア先生が、目の前にいた。

しかも、ここは・・・。

 

 

「学園長室?」

 

 

麻帆良学園の、学園長室だったネ。

私は、学園長の椅子に座らされていたようネ。

どうりで、座り心地が良いと思ったヨ。

両腕は、後ろ手に拘束されているようだガ。

 

 

「・・・座り心地は、いかがですか?」

「皮肉カ?」

 

 

私が勝てば、確かにここに座っているのは私だったかもしれない。

まぁ、「貴女の生徒」の将来を危険に晒した私に、今さら優しくしてくれるとは思わなかったガ。

扉の向こうには、人の気配もする。警備兵カ?

まぁ、関係無いネ。

 

 

「それで・・・敗残の身に何のようネ? 言っておくが、いかなる司法取引にも応じる気は無いネ」

「でしょうね・・・その「身体」では」

「・・・気付いていたカ」

「ええ・・・視えていますから」

 

 

そう、ダナ。

アリア先生には、視えているだろう。

私の、消え行く身体ガ。

 

 

歴史へ、過去へ干渉した代償なのカ。

あるいは私の願いの一部が叶い、「私が存在しない未来」が確定したのカ。

わからないガ・・・良い兆候だと、信じたい。

私の行動にも、意味はあったと信じたい。

 

 

「なら・・・なおさら、何の用ネ。私の最期でも見に来たカ?」

「自虐的ですね・・・」

 

 

私の態度に、アリア先生は、かすかに苦笑した。

 

 

「・・・何か、誰かに、言い残しておきたいことでもあるかと、思いまして」

「・・・言い残すコト・・・カ」

「ええ、わざわざ未来から来て・・・何をしたかったのか、聞いても無駄でしょうし。それならば、教師として・・・2年間を共にした誰かに、何かを伝えておきたいなら、聞いておこうかと」

「相変わらず、職務に忠実だネ・・・」

「性分なので」

 

 

過去も未来も、変わらないネ。

自分の「役割」に、忠実な所は・・・。

 

 

言い残すコト、カ・・・。

大体は、事を起こす前に別れは告げてきたガ。

そう、ネ・・・。

 

「クラスの皆には、土産をありがとう、楽しかったト」

「わかりました」

「龍宮サンに・・・世話になったト。報酬はすでに例の口座に振り込んであるト」

「わかりました」

「五月に・・・超包子を頼むト。全て任せるト」

「わかりました」

「ハカセに・・・未来技術(オーバーテクノロジー)については、打ち合わせ通りにト」

「わかりました」

「茶々丸には・・・お前はもう、自立した個体だ。好きに生きろト・・・」

「・・・ありがとう」

「・・・?」

 

 

茶々丸の件で、アリア先生にお礼を言われたネ。

首を傾げていると、アリア先生はかすかに微笑んで。

 

 

「茶々丸さんに出会わせてくれて、ありがとうございます。それだけは、お礼を言いたかった」

「・・・!」

「・・・他に、何かあれば・・・」

 

 

ああ・・・その微笑み。

胸に、滲みるヨ。

 

 

「・・・エヴァンジェリンに、すまなかった、ト」

「ええ、わかりました」

「・・・古に・・・」

 

 

わずかな時間、目を閉じる。

瞼の裏には、古の笑顔。

・・・古、ありがとう、友達でいてくれて。

きっと、もう、二度と出会えないけれど。

 

 

「・・・また、手合わせするネ、ト、伝えて・・・」

「・・・わかりました。一応聞きますが、ネギ達には、何か?」

「何も無いネ」

 

 

ネギ坊主達に言い残すことは、何も無い。

アリア先生は一つ頷くと、他にはないかと、聞いてきた。

それに対しても、無いと答えた。

アリア先生は、そうですか、と答えて・・・私に背を向けた。

 

 

私は、それを視線だけで追いながら・・・椅子に深く身を沈めた。

これで・・・この時代、この世界に思い残すことは無い。

元の場所に帰るのか、それとも別の場所に還るのかはわからないガ、これで・・・。

 

 

「・・・本当に?」

 

 

私は、自分でも無意識の内に、小さな声で疑問の言葉を呟いていたネ。

自分で・・・驚いたガ、しかしそれは、正鵠を射ている気がしたネ。

 

 

本当に、これでお前は満足カ?

何か、言っておくべきでは無いのカ?

それでこそ、お前は何かを為したことになるのでは無いカ・・・。

内なる声が、自分に囁いた。

 

 

その衝動のままに、私は、遠ざかっていくアリア先生の背中に、叫んだ。

身を乗り出して、何と言うつもりだ? 決まっている!

 

 

「茶々丸の!」

 

 

茶々丸、その名前に、扉の直前で、アリア先生が立ち止まった。

 

 

「茶々丸のブラックボックスの中に・・・貴女が必要としている物があるネ」

「・・・私が、とは?」

「・・・ウェールズの村人の石化を解くための鍵」

 

 

私の言葉に、アリア先生が勢い良く振り向いた。

その顔は、驚きで満ちていた。

 

 

「貴女が今、開発している解除方法は・・・効果が無い。いや、あるにはあるガ・・・人間には扱えない術式になるはずネ。それを解決するための支援魔導機械(デバイス)の設計図を、茶々丸のブラックボックスに入れてあるネ」

「そ、れは・・・」

「そしてそのブラックボックスを安全に開くための方法は、古に渡してある私の退学届に書いてあるヨ」

 

 

一言紡ぐごとに、身体が痛む。

ああ、やはり。

これが、歴史を変えると言うことカ。

だが、ここまで来て途中で終われないヨ。

 

 

「そして、それを完成させるためには・・・ハカセの協力が必要ネ。良いカ・・・ハカセの協力が、だヨ?」

「・・・超さん、貴女・・・」

「アリア・スプリングフィールド!」

 

 

力を振り絞って、叫ぶ。

私がここに来た意味を、問いただすように。

 

 

「お前は今日、私を倒すために、いくつの魔法具を使った!?」

「・・・」

「今のまま、魔法具に頼り続ければ・・・いつか、後悔する日が来るヨ!!」

「・・・それは、どう言う意味ですか」

「・・・」

 

 

今度は、私が沈黙する番ネ。

これ以上は、言えない。ここまでが、ギリギリ。

伝えすぎれば、逆にそれが不味い事態を引き起こすかもしれないから。

だから、自分で気付いて欲しい。

 

 

・・・アリア先生。

家族と言う小集団の中で満足していては、いつかより大きな集団に潰されるヨ。

世界から、自分の境遇から逃げないで欲しい。

 

 

父と母の残した負の遺産を煩わしいと切り捨て、今ある物だけを守ろうとする貴女。

シンシアのことを聞かないのは、何故だ?

村の人々の仇が誰かを問い正さないのは、何故だ?

そこに、貴女の歪みの源泉があるのでは無いカ!?

 

 

言葉にはせず・・・ただ、黙して、視線に全てを込める。

お願い、伝わって。気付いて。

お願い・・・!

 

 

「・・・」

 

 

そのまま、どれくらい、見つめ合っていただろうカ。

しばらく経って・・・疲れた私は、再び、椅子に身を沈めた。

限界、だった。

 

 

目を閉じて、深く息を吐く。身体が重い。

とても、眠かったネ。

とても・・・。

と・・・。

 

 

・・・ど・・・リア・・・師・・・幸・・・に・・・。

あ・・・。

 

 

・・・。

 

 

 

 

 

Side エヴァ

 

「あの・・・マスター」

「なんだ、茶々丸」

 

 

茶々丸に酌をさせながら、後夜祭の様子を見つめていた。

場所は、超を捕らえたあの時計塔だ。

正直、事後処理とかは面倒だったから、全部押し付けた。

 

 

つい・・・とお猪口を突き出すと、茶々丸がそれに酒を注ぐ。

銘柄は、『美少女』。

 

 

「私も、超の仲間です・・・しかし、ハカセ達と違って拘束されていないのですが・・・」

「うん?」

「あの、良いのでしょうか・・・?」

「さぁな」

 

 

超に協力した者の中で、茶々丸だけは捕縛されていない。

理由は、いくつかある。

例えば、茶々丸は自動人形で、自分の意思で協力したわけでは無いから、とか。

超やハカセが、茶々丸は無関係だと証言したから、とか。

 

 

そして何より、表に出ていない茶々丸を超の仲間だと断定する証拠が無い。

ネット上で茶々丸を負かせたのは「ぼかろ」だが・・・。

その「ぼかろ」を操っていた誰かが、不明だ。

 

 

「ぼーや達が何か騒ぐかもしれんが・・・どれほど信頼性があるかな」

「マスター・・・」

「お前が自首をしたいと言うのならば、あえて止めん。だが、それは超やハカセが望むことでは無いとも、言っておくぞ」

「・・・私は、どうすれば良いのでしょうか・・・?」

「さぁな・・・自分で考えて、決めるが良い」

 

 

私の本音を言えば、自首などくだらんと言いたいがな。

そんな物、面白くも無い。

 

 

だが私がそれを言えば、「命令」として、茶々丸は受け取ってしまうだろう。

それではきっと、意味が無い。

自分で判断し、自分で決断するべきことだ。

特に茶々丸は、他の姉共とは違う部分があるからな。

魔法を動力としているからかな・・・。

 

 

「ケケケ・・・マルデオヤダナ」

「やかましい・・・途中から役に立たんかったくせに」

「イヤイヤ、ゴシュジンノシラネートコデカツヤクシテタンダヨ」

「なんだ、それは・・・」

 

 

茶々丸の頭の上に乗っているチャチャゼロが、ケラケラと笑う。

まぁ、良いさ。

それに、今回の超との戦いは、私にとっても一つの可能性を提示したしな・・・。

 

 

さらに言えば・・・。

 

 

「あの白髪のガキは、絶対に許さん・・・!」

「マァ、ソウイウナヨ、トーサン」

「バカが・・・そんなおふざけの話では無いわ」

 

 

何が目的か知らんが、アリアに近寄るあの男。

所属不明、だが、実力は最強クラス・・・。

警戒するなと言う方が、無理だ。

 

 

だが、どうもチャチャゼロはあの男が気に入ったらしい。

と言うか、こいつ、自前の魔力を持っているような・・・?

 

 

「・・・茶々丸、酒だ」

「はい、マスター」

 

 

美味いが、酔えない酒を飲みながら・・・。

私は、今後のことを考え始めた。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

このお祭り騒ぎの中で、一人になれる空間を探すと言うのは、難しいですね。

結局、麻帆良の街並みを見下ろせる、小さな噴水広場のベンチに落ち着きました。

ベンチに深く腰掛けて、地面に届かない足を、ブラブラと揺らします。

まるで、子供みたいに。

 

 

・・・超さんが、行きました。

眠るように、光に包まれて。

未来へ帰ったのか、それとも別の場所に還ったのか、私にはわかりません。

他の方々・・・クルトおじ様やドネットさん達には、事情を説明してあります。

 

 

主犯が未来人・・・などと公表できるはずも無いので、主犯格が変わるかもしれませんね。

ネギにとっては、責任を押し付ける相手がいなくなって、不幸なことですね。

 

 

「・・・超さん」

 

 

結局、何をしに過去へ来たのか、わかりません。

懐から、一枚のパクティオーカードを取り出します。

私のでは無く、超さんのカード。

表には、瞳を紅く輝かせた、幼い超さんが描かれています。

 

 

・・・このカードは、「死んで」います。

そして超さんが消えたにも関わらず、このカードだけは残っています。

魔法具も全て、消えたと言うのに。

そしてカードが「死ぬ」以前に、裏面のマスターの名前を見ました。

 

 

「・・・あの、名前・・・」

 

 

表記されていた名は、<Aria Anastasia Enthophysia>。

―――アリア・アナスタシア・エンテオフュシア―――。

 

 

・・・まさかと、思いたかった。

そんなはずは無いと、思いたかった。

私の名前であるはずは、無いと。

 

 

でも、私はそのカードを捨てることができない・・・。

破棄することが、できない。

未来の、私は・・・?

 

 

「・・・悲しいの?」

 

 

ざぁ・・・と、風が吹く中で。

白い髪の少年が、私の前に立っていました。

 

 

「キミは今・・・悲しんでいるの?」

「・・・生徒と別れるのは、初めての経験ですから」

 

 

深く息を吐いて、私は彼に・・・フェイトさんに、そう告げました。

そう・・・生徒と別れるのは、初めてだった。

それが例え、敵であったとしても。

それに、最後の言葉は・・・。

 

 

「・・・エヴァさんとは、どうでしたか?」

「問答無用で殴られたよ。3回くらい死んだんじゃないかな」

「あはは・・・」

「キミを連れて行くのは、まだ無理なようだ」

 

 

わかりませんよ、フェイトさん。

今、強引に私の手を引けば、案外簡単に・・・なんてね。

 

 

「・・・悲しいの?」

「・・・どうしたんですか、いつもと違うじゃありませんか」

「・・・」

「もしかして、私を慰めようとでもしているのですか・・・?」

「わからない、ただ・・・」

 

 

フェイトさんは、無表情のままです。

ただ、その中に・・・形容しがたい何かを、見た気がします。

それで・・・。

 

 

―――チクリ―――

 

 

「・・・?」

「・・・どうしたの?」

「いえ、今・・・」

 

 

左眼に、軽く触れます。

今、何か・・・懐かしい感覚が。

 

 

その時、左手を誰かに掴まれました。

もちろん、フェイトさんです。

掴まれる、と言うよりも、優しく触れる・・・と言ったレベルですが。

彼は、私の左手を持ったまま、ベンチの側に膝をついて・・・。

 

 

「・・・今は、ダメです。今、貴方について行けば・・・逃げたことになりますから・・・」

「・・・そう」

「あ、膝枕・・・します? なんて・・・」

「魅力的な提案だけど・・・またにするよ」

 

 

私を静かに見つめながら、フェイトが言いました。

す・・・と、目を細めて。

 

 

「いずれ、全部まとめて貰うことにしよう」

「あ・・・」

「キミの、全てを」

 

 

かすかに、触れ合う手に込められた力が、強くなりました。

その手を、ささやかな力で握り返します。

私も・・・いつか、貴方の全てを奪いに行く。

そんな気持ちを込めて・・・。

 

 

触れ合っていたのは短い時間でしたが、それで十分でした。

刹那の間、私はこの世界で背負う物、背負うであろう物のことを忘れることができました。

我侭なようですが・・・私は、忘却の一瞬を欲していたから。

 

 

その時間が終わった後、閉じていた目を開けば、そこには誰もいませんでした。

フェイトさんも、行ってしまいましたか・・・。

残されたのは、私の腕のブレスレットだけ。

 

 

「・・・王女殿下」

 

 

しばらく経った後、傍に現れたのは、跪く黒髪の女性。

ジョリィさん。

 

 

「クルト様以下、連合軍首脳部が今後の対応を協議したいとのこと。僭越ながら、ご足労願えますでしょうか」

「・・・そうですか」

 

 

囁くように答えて、私は立ち上がりました。

未来で私がどうなったのかは知りませんが。

とりあえずは、明日のために。

 

 

「・・・ですが、まずはエヴァさん・・・エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと話をしてきます。彼女は私の主です。彼女の許可無く、公式の場にでるつもりはありません」

「・・・は、しかし」

「私は、エヴァさんの従者で・・・教師です。王女では、ありません!」

 

 

吐き捨てるように、そう言いました。

無意識に・・・いえ、意識してのことです。

私は、エヴァさんの家族。それが第一におかれるべき、私の立場です。

第二に、3-Aの可愛い生徒達の、先生です。

 

 

それ以外の立場なんて、嫌です。

王女なんて・・・。

 

 

ジョリィさんは、そんな私を静かに見つめながら・・・。

 

 

仰せのままに(イエス・ユア・)、王女殿下(ハイネス)」

 

 

あくまでも、私を王女と呼びました。

 

 

 

姉様・・・シンシア姉様、私は、どうすれば良いのでしょう。

どうすれば、良かったのでしょう。

 

 

 

アリアは、望まぬ内に・・・世界に、組み込まれているような気がします。

 

 

 

 

 

<おまけ―――――ちび達の冒険⑤・人間なんて>

 

「虚しいもんですぅ」

「そんなもんやて、人間なんて」

「哀しいですねー・・・」

 

 

戦争は、終わった。

人間達は、ロボット軍団を屈服させ・・・勝利に酔っている。

 

 

しかしここに、その余韻に浸れぬ者達がいた。

それは、人間ではない。

 

 

「人間なんてなぁ、そんなもんなんよ。勝つことばっかり考えて、使ったら後はポイや」

「でもでも、なんだか可哀想です」

「ちびせっちゃんは、優しいなぁ」

「え、えへへ・・・」

「・・・イチャつくなですぅ」

 

 

ちびこのかとちびせつなの仲睦まじさに、ゲンナリした表情を浮かべるちびアリア。

戦争に巻き込まれないために身を潜めている間中、ちびこのかとちびせつなはイチャイチャ・・・。

何度戦場に蹴り出してやろうかと、ちびアリアは思った物である。

 

 

それにしても、とちびアリアは思う。

人間と言うのは、度し難い。

なぜ、あんなにも楽しい物を燃やしてしまうのだろう。

 

 

「「「キャンプファイアーって・・・」」」

 

 

事もあろうに、人間達は、お祭りで使用した物を燃やしているのだ。

有り得ない、ちび達は心からそう思った。

毎日がお祭りでも、良いじゃない。

本気で、そう思った。

 

 

物質主義と消費主義に反対を唱えたくなる光景だった。

彼女達は本気で、遊ぶことしか考えていなかったようである。

・・・彼女達の役目は、なんだっただろうか。

今となっては、誰も思い出せない。

 

 

「まったく、実にけしからんですぅ」

「肯定致シマス」

「おお、お前もわかってくれるかですぅ」

「肯定致シマス」

「おぅおぅ、イエスマンは大好きですぅ」

「・・・あのー、ちびアリアさんは誰とお話してるんでしょー?」

「ふぇ? そんなの・・・」

 

 

ちびアリアが振り向いた先には、奇妙な物があった。

多脚戦車と言う物をご存知だろうか。

アレを、大型犬クラスにまで小さくした物を想像してほしい。

 

 

ちびアリアの横にいたのは、そう言う類の・・・。

ロボットだった。

 

 

「な、ななな何ですお前はぁぁ!?」

「機体番号T-ANB-e3デス」

「えっと・・・つまり?」

「・・・タナベさん、かなぁ?」

「肯定致シマス」

 

 

タナベさんと呼ばれたそのロボットは、喜ばしく返事をした。

・・・ような、気がした。

 




茶々丸:
茶々丸です。ようこそいらっしゃいました。
今回は、最終決戦後のお話です。
戦後処理のお話であると同時に、アリア先生や我々に、新たな道を提示するものでもあったように思います。


今回作中に出た「美少女」と言うお酒は、霊華@アカガミ様提供です。
ありがとうございます。


茶々丸:
次回は、学園祭の後始末、のようなお話です。
これで、名実共に学園祭編が終わることになるでしょう。
そして、新たな場所へ・・・。
私は、それを一番お傍で、見守りたいと思います。
では、またお越しくださいませ(ぺこり)。


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番外編④「超鈴音」

今回のお話を読む前に、いくつかご注意を。
・この話は、「とある妹」の「超鈴音」のためのエンディングです。
・作中、「100年後の魔法世界」についての独自描写があります。
・前半は、アリアのバッドエンド的描写があり、場面によっては気分を害するような描写が含まれている可能性があります。そういった表現がお嫌いな方は、最後の部分まで読み飛ばすことをお勧めいたします。
・後半部分は、「超鈴音」にとってのトゥルーエンドになっていますが、本編で同じ未来に到達するかは、確定していません。
あくまでも、私が私の描く「超鈴音」のために用意した、エンディングです。

それをご了承いただいた上で、どうぞ。



その少女が生まれた時代は、戦乱の時代だった。

それまであって当然だった世界が崩れ、人々に破局と破壊をまき散らした大災害から、100年程経った時代。

魔法世界―――火星の人類と、旧世界―――地球人類の、生き残りを賭けた戦争の時代である。

 

 

そんな時代に生を受けたその少女は、生まれながらに魔法が使えなかった。

魔力は強大だったが、体質なのか、あるいは精霊との間に何らかの齟齬があるのか―――。

とにかく、魔法の才能が無かった。

これが、普通の家の出身であったのならば、まだ生きる道もあった。

 

 

だが、少女は「英雄の血」を引く一族の人間だった。

少女の一族は、100年前の災害において、生き残りの魔法世界人類を導き、救った英雄・・・ネギ・スプリングフィールドの血を引く一族だった。

その一族において、「魔法が使えない」など、あってはならない物だった。

・・・そして、加えて言えば、少女の家において。

 

 

精霊の加護を得られないと言うのは、特に禁忌とされていた。

世界を崩壊に導いた<魔眼の魔女>が、精霊に忌み嫌われた、唾棄すべき存在だったからである。

 

 

少女は、昏い地下に幽閉される事になった―――。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

Side 超

 

「・・・別に今更、こんな記憶に用は無いんだがネ」

 

 

何も無い、漆黒の空間の中で・・・。

私は、そう呟いた。

浮いているのだか、沈んでいるのだかわからない空間に、私はいた。

軍用強化スーツを着たままの姿。「あの場」から消えた時のままの姿。

 

 

そんな中で、目の前で展開される記憶の欠片・・・。

・・・走馬灯、と言う奴カナ?

 

 

バタフライ効果だかタイムパラドックスだか、航時法違反だかは知らないガ・・・。

どうも、まだ私の意識は消失していないらしい。

いったい誰の、どんな種類の意志で持って、私の意識が維持されているのかはわからないガ。

 

 

「旧世界入植領ならともかく、魔法世界崩壊に伴い、火星では精霊の数は激減していたカラ・・・」

 

 

魔法世界にしつこく本拠を置く我が家では、魔法の素養が無い子供が生まれても、仕方が無いと思うんだがネ。

それとも、これも一種の先祖の怨念カナ。

わざわざ家訓として、「魔法の才能が無い子供は捨てろ」みたいな条項を伝えているような家だからネ。

 

 

それ程に、アリア先生が嫌いだったカ・・・ネギ坊主?

ネギ坊主が開祖とされるスプリングフィールド王家は、魔法至上主義の家だからネ。

過去の時代を見て来た私には、そうとしか思えない。

そんな家で、私のような精霊と対話できない子供は、さぞ怖かっただろうネ。

 

 

「魔眼は、持っていないガ・・・アーティファクトがアレだからネ」

 

 

まぁ、良いネ。

どうせ暇ヨ・・・つまらない人生だとは思うガ、改めて見るのも悪くない。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

当時は、戦争の時代だ。

人口で旧世界に対し、圧倒的に劣る火星側は、兵士の質で上回る必要があった。

魔法使いであっても、物量には勝てないからである。

 

 

だからこそ、強力な兵士の存在が不可欠であった。

しかし、強力な兵士を育成するには、時間がかかる物である。

訓練と教育、そして休養とケアが必要であった。しかし時間は有限であり、資源も不足している。

そこで、火星側がとった方法は・・・。

 

 

 

人体実験による、強力な魔法使いの創造である。

 

 

 

無論、倫理的な面で反対する者もいた。

だが、「勝てなければ意味が無い、理想や倫理で食っていけるか」と言う考えが支配的な時代である。

社会の裏で、身寄りのない、例えいなくなっても誰も困らない子供に対し、実験の手が伸びるまでそう時間はかからなかった。

 

 

「・・・ぅ・・・」

 

 

昏い地下に幽閉されていたその少女も、例外では無かった。

むしろ魔力が強大だったが故に、格好の実験材料であったことだろう。

精霊を使役できない異端の子供であった点も、この場合は不利であったはずだ。

 

 

「・・・う・・・っく、ぇ・・・」

 

 

実験を施された後は、また別の場所に閉じ込められた。

精霊を強制的に従わせ、無理矢理に魔法を行使させる呪紋を全身に刻まれた少女は、血が止まらない傷口と、そこから絶え間なく襲ってくる痛みに、毎夜のように涙を流していた。

声を上げないのは、誰にも聞こえないとわかっているからだ。

 

 

泣けば助けに来てくれる母親は、ここにはいないのだから。

粗末な食事と、冷たい石畳の上で・・・ただ、涙を流すことしかできない。

膝を抱えて・・・涙が枯れるまで。

鉄の扉が一つあるだけの、光すら無い、広い空間の中で・・・。

 

 

「そんな所でしゃがんでいると・・・危ないですよ」

 

 

ビクッ・・・。

声。

不意にかけられた声に、少女は身体を震わせた。

 

 

「・・・だ、だれ・・・?」

 

 

怯えた声を返して、少女は恐る恐る、周囲を探した。

薄暗く、明かりも無いので・・・目を凝らして、探す。

誰かがいるなんて、思わなかった。

 

 

「ああ・・・薬の副作用か、幻聴かと思っていたのですが・・・」

 

 

ぽぅ・・・と、まるで幽霊のように、暗がりの中に浮かび上がってきた、女性。

それは、少女にとって・・・「白い女神」として、記憶されることになる。

 

 

雪のように白く、身長の倍はあるであろう、長い髪。

そして、それに劣らぬ程に白い肌に、痩せこけた身体。粗末な白い衣服。

あまりにも「白い」その姿の中で、隅々まで文字の描かれた黒い眼帯と、手足を壁に繋ぐ枷が、妙に印象的だった。

年齢は・・・20歳前後だろうか。明らかに成長阻害を起こしていそうな状態なので、見た目ではわからない。

 

 

「・・・この部屋に、貴女のような子供が、何故・・・?」

 

 

見えないはずの目で、その女性は少女を見た。

それが、怖くて・・・少女は、また身体を震わせた。

 

 

「ああ・・・怖がらせて、しまいましたか・・・?」

「う・・・」

「・・・いけませんね・・・これでは、先生失格です、ね・・・」

 

 

はぁ・・・と、息を吐いて、女性は壁にもたれかかった。

どうやら、話すだけで、かなりの力を使うようである。

よく見れば、彼女の姿を暗闇の中で照らしているのは、彼女の下に描かれた魔法陣から漏れる光だった。

 

 

「・・・こちらへ・・・」

「え・・・」

「そこは・・・寒いでしょう、から・・・」

 

 

チャリ・・・と、鎖の音を響かせながら、少女を手招く。

しばらく悩んだ末に・・・少女は少しずつ、這うようにして女性の傍へ。

身体の痛みに耐えながら、時間をかけて、少女は女性の下に到達する。

 

 

女性は、口元にかすかな笑みを浮かべると、片手で少女の頭を撫でた。

少女は、ビクッ・・・と、身体を震わせる。

女性は、そのまま・・・少女の頭を自身の胸に押し当て・・・軽く、抱き締めるようにした。

 

 

「・・・っ」

「・・・少しは、マシになるかと・・・思うので」

 

 

我慢してくださいね、と、女性は言った。

少女は、女性の行動と、その身体の肉付きの無さに驚きつつも・・・。

いつしか、涙を流していた。

誰かの温もりは、とても懐かしい物だったから。

 

 

「・・・っく、ひっ・・・うぇぇ・・・!」

「ああ・・・水分は、大事に・・・しないと・・・」

 

 

女性は、知っていた。

ここには、水と食料は数日に一度、しかも僅かな量しか運ばれてこないのだ。

だから涙を流して、水分を消費するのは・・・避けなければならない。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

Side 超

 

「・・・後で知ったことだガ・・・」

 

 

誰に説明するでも無く、私は呟いたネ。

 

 

「あの部屋は、人体実験の成功体・・・まぁ、生き残りが押し込められる所だったようネ。そこになぜ、あの人が幽閉されていたかは、私にもわからないガ・・・」

 

 

特に私は、かなり初期の実験の被験体だったようだから・・・。

一万人に一人しか成功しない実験の、ネ。

 

 

私以外に、この呪紋の実験に耐えた子供はいなかったらしい。

もし、それが血に宿る才能のせいだとするのなら、まさに皮肉ネ。

嬉しくも無いネ。

 

 

「それにしても・・・」

 

 

溜息交じりに、呟く。

この走馬灯、いつまで続くのカ?

いい加減、自分の記憶を見るのも、ウンザリしてきたんだがネ。

 

 

目の前には、未だ私の記憶が流れ続けている。

まるで、映画のように。

不幸自慢の趣味は無いから、いい加減にして欲しいのだガ?

 

 

家族から捨てられ、人体実験の材料に使われた少女。

まぁ、私のことネ。

当時は、超鈴音とは名乗っていなかったガ・・・。

あの人には、「リン」と呼ばれていたヨ。

鈴の音のような可愛らしい声だから、「リン」・・・気恥かしい理由だヨ。

 

 

そして、地下深くに幽閉された、白い女性。

・・・アリア先生。

私が出会った時には、アリア・アナスタシア・エンテオフュシアと言う名前だったガ。

<魔眼の魔女>などと、呼ばれていた・・・。

 

 

私の、女神。

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

その女性―――アリアは、少女―――リンにとって、次第に大きな存在になっていった。

長く続く幽閉生活の中では、同じ境遇のその女性は、リンにとって、唯一の救いでもあったからだ。

 

 

アリアは普段、眠っていることが多い。

それはどうも、本人の意思には関係なく、そうなるようで・・・リンと話せるのは、一日の中でほんの僅かな時間だけだった。

それでも、リンにとっては貴重な時間だった。

 

 

実験の痛みと、孤独と寒さ、飢えと渇きに苛まれる時間の中で、アリアの存在は。

リンにとって、「救い」その物だったのだから。

だが・・・。

 

 

「・・・う・・・」

「ど、どうした・・・の?」

 

 

リンが幽閉されてから、しばらくが経った、ある日。

アリアが、苦しげに呻き始めた。

腹部を押さえ、蹲って・・・身体を、震わせている。

よく見れば、下腹部から血が流れていて・・・リンは、どうすれば良いのかわからず、オロオロするばかりだった。

 

 

その時、普段は人の来ないその部屋に、誰かが来た。

鉄の扉の向こうで、複数の人間の声や気配が。

とっさに、助けを求めようとしたリンの腕を、アリアが掴んだ。

 

 

「え・・・?」

「扉の、横に・・・開いた陰に、隠れて・・・」

「え、え・・・でも」

「早く・・・!」

 

 

ドンッ・・・と押されて、わけもわからぬままに、リンは言われた通りに、移動した。

リンが扉の横に立った、まさにその時。

ガタンッ・・・と、扉が開き、リンはその陰に隠れることができた。

 

 

そして、その陰から・・・覗く。

何が、起こるのかを。

 

 

入ってきたのは、数人の人間だった。

たまに食事を持ってくる人間とは、違う。

暗がりなので、どんな顔かはわからない。

 

 

リンが混乱する中で・・・その人間達は、苦しげに呻くアリアの頭を掴むと、その場に引き倒した。

手足を押さえ付けて、首を掴み、左胸に何かを突き刺した。

リンも、実験を受けていた時に何度か刺された―――あれは、注射器だった。

何かの薬品が流し込まれ、アリアの身体がのけぞった。

その後、アリアの下腹部に向けて、何かの刃物のような物を――――。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

―――――ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル―――――

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

Side 超

 

カシャァンッ・・・と、音を立てて。

その映像は途切れたネ。

 

 

理由は、2つ。

あの直後、初めて呪紋の力を使った私が、あの人間達を皆殺しにしたから。

その時の記憶は、今も良く思い出せないネ。

 

 

もう一つの理由は、映像その物に、私が殴りかかったからネ。

殴りかかったと言うか、引き裂いたと言うか・・・。

可能だったことに、驚きだヨ。

 

 

「それにしても・・・良い趣味とは言えないネ」

 

 

私の記憶の中では、確かに重要な場面だったとは言える。

私があの人と、仮契約した時の記憶でもあるのだから。

 

 

『痛い? ここが・・・痛い? 痛い、の・・・?』

『いえ・・・痛みとかは無いんです。それより・・・』

 

 

再び浮かび上がる映像の中で、幼い私がアリア先生に縋りついていたネ。

周囲には、私が殺した人間達の血と肉が、飛び散っていたヨ。

アリア先生が、開きっぱなしだった扉を指差して。

 

 

『・・・逃げなさい』

『え・・・い、一緒、に・・・』

『私は、ここを出ると死んじゃいますので・・・』

 

 

これも後で知った話だが・・・アリア先生は、薬品と特殊な術法によって、無理矢理生かされていたらしい。

魔法具と・・・そして、優秀な魔法使いの基となる、卵子の提供者として。

あの人間達は、寿命を延ばす秘術をかけに来たのと、同時に生きたまま卵子を身体から摘・・・。

・・・反吐が出る話だヨ。

 

 

あの後、一緒にいるとゴネる私を外に行かせるために、アリア先生は私と仮契約をした。

カードが生きている限り、私は無事だから・・・と。

いつか、助けに来てくれればそれで良い、と。

当時の私には、アリア先生を生きたまま救う術が無かった。

 

 

だから、一人で・・・逃げるしかなかった。

いつか必ず・・・そう自分に言い聞かせて。

 

 

「・・・まぁ、外に出た所で、力尽きたんだがネ・・・」

 

 

地下から脱し、呪紋の力で必死に駆けて・・・。

途中で奪った転送石で、どこかの街に飛んで・・・。

彷徨う中で、力尽きて。

 

 

『なんだ、この小娘、生き倒れか・・・・・・な!? このカードの名前・・・茶々丸!』

『イエス・マスター』

 

 

エヴァンジェリン・・・師匠(マスター)と出会えたのは、奇跡に近い確率だったヨ。

出会えなければ・・・私は、野垂れ死んでいただろうネ。

師匠(マスター)達は、アリア先生を取り戻すために旅を続けていた。

100年間、戦い続けていた。

 

 

ただ、どこにいるのかが掴めなくて・・・本人達も、賞金首だったからネ。

国・・・世界全てを敵に回している状況では、容易に見つけられなかった。

加えて、アリア先生の家族を守らなければならなかった。

100年前、アリア先生は自分の子供を人質に取られて、捕らわれた。

 

 

師匠(マスター)達は、100年間の戦いの中で、アリア先生の子供の救出には成功していたネ。

それからは・・・守りながらの戦いで、2人では限界だった。

旧世界に仲間はいたガ・・・そちらの防衛で、精一杯だったようネ。

アリア先生の居場所を、必死で・・・探していたネ。

だから、カードを持つ私の存在は、大きかったはずネ・・・。

 

 

「まぁ、そこから映画にして3部作くらいの戦いを経て・・・ようやく、アリア先生の居所を掴めたんだがネ」

 

 

転送石の分析から始まり、師匠(マスター)のしごき。

茶々丸に科学について学び、加えて私が作ったロボットだと説明を受けた。

話を聞いて、師匠(マスター)のしごきが半端ないレベルだったのには、私的な理由があるに違いないと確信したネ。

今なら、理由もわかる気がするガ。

 

 

タイムパラドックス・・・茶々丸を私が作ったと言う歴史があるのであれば、その通りにしてやろう。

そして、アリア先生を、あんな目にあわせないで済むように行動しよう・・・と、心に決めて。

私は、過去に飛んだ。

 

 

「・・・その選択を、後悔したことは無いヨ」

 

 

私の時代でも、最終的にはアリア先生の救出には、成功したガ。

だが、その頃にはすでに、アリア先生の精神(こころ)も身体も、限界で・・・。

 

 

「誰が、どんな意図で、こんな記憶を見せるのかは知らないガ」

 

 

キンッ・・・と、目の前に輝くのは、アリア先生との契約カード。

このカードに誓って、私は・・・。

過去に飛び、たとえ消滅したとしても。

一度だって、後悔などしたことは、無かった!

 

 

同じ選択肢を提示されたとしても。

もう一度、同じ状況に置かれる事があったとしても。

たとえ、何度その選択を迫られようとも。

必ず。

 

 

「必ず同じ道を選ぶ!!」

 

 

同じ選択を、し続ける・・・!

 

 

「わかったカ、これを見せている、何者かヨ!」

 

 

私は、生きたいように生きた!

それに対して・・・誰にも、文句は言わせない!

言わせて、なるものカ・・・!

 

 

だから―――――。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

―――――そして、せかいはうまれかわります―――――

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

「・・・っ!?」

 

 

カクンッ・・・と、その少女は、乗せていたテーブルから肘が外れて、身体が落ちかけたことで目を覚ました。

どうやら、うたた寝をしていたらしい。

それは、良いのだが・・・。

その少女―――超鈴音は、自分の置かれている状況を一瞬、把握できなかった。

 

 

何か、長い夢を見ていたような・・・。

 

 

身に着けているのは、軍用の強化スーツでは無い。

白を基調とした、ゆったりとしたドレスだ。

どことなく、中華風な気がしないでも無い。

側にあった手鏡を見れば、そこに映るのは自分の顔。

ただし、シニョンでは無く、髪は下ろしている。

艶やかな黒髪が、腰まで伸びている。洒落た髪飾りなど、身に着けて。

 

 

次いで、自分のいる部屋を確認する。

石造りの部屋だ。

ただし、寒くも無いし、暗くも無い。

それどころか、調度品はどれも一級品で、部屋の間取りもやたらに広い。

一目見ただけで、部屋の主は上流階級の出身だとわかる。

 

 

「・・・カシオペア?」

 

 

目の前に、円柱型のガラスケースの中に入った懐中時計。

間違いない、カシオペアだ。なぜか、随分と古ぼけているが・・・。

 

 

「ここは・・・どこカ? 地獄にしては、随分と・・・」

 

 

座っていた椅子から離れて、部屋の外へ。

石造りの、やたらに広い廊下。

まるで、宮殿のような・・・。

 

 

「・・・まさか、ネ」

 

 

呟いて、しばらく歩いてみる。

すると、外を一望できる、広いテラスに出た。

そこから見えたのは・・・。

 

 

「ここは・・・どこかの都市、カ?」

 

 

そこに広がっていたのは、広大な都市。

どうやら、空中に浮いているのか・・・雲海が、やけに近い。

空には不思議な形をした船らしき物が飛行し、遠目に見える市民と思しき人々の中には、どうも人間らしくない姿をした者もいるようだ。

 

 

超の知識の中で、この景色と符合する都市は少ない。

何より、空気中に満ちた、活動的な精霊達。

精霊と対話できない超でさえ、はっきりと感じることができる程だ。

 

 

・・・まさか。

その気持ちが、超の中で強くなり始めた、その時。

 

 

「あ―――――っ!!」

「ひぇっ!?」

 

 

突然、背後から大きな声。

その声量に、超は思わず妙な声を出してしまった。

 

 

「こんな所にいた――――っ!!」

「な、何? 何アルカ?」

 

 

突然の事態に、思わず親友(くー)の口調になってしまう程だった。

慌てて、声のする方に振り向いてみれば・・・。

 

 

そこには、小さな女の子がいた。

腰まで伸びた金色の髪に、オッドアイの瞳。

瞳の色は、左眼がエメラルドグリーン、右眼がサファイアブルー。

身に着けているのは、襟や袖にニードルレースをあしらった、フェミニンな白いシルキーワンピース。

装飾は少なめだが、フリルで縁取りしたケープが、とても可愛らしい。

 

 

「ちゃおちゃお~!」

「ち、ちゃおちゃお?」

 

 

にぱっ、と笑ったその女の子は、超の身体に抱きついてきた。

超の胸に顔を埋めて、スリスリと頬を擦り付ける。

随分と懐かれている様だが・・・超には、心当たりが無かった。

 

 

10歳くらいだろうか・・・?

髪と瞳の色が異なるが、それ以外のパーツが。

年齢と、背格好、そして顔の造りなどが、超の記憶のある人物と、ダブる。

彼女は・・・。

 

 

「アリア、先生・・・?」

「ありあ?」

 

 

その少女は、きょとん、とした表情を浮かべた後、不思議そうに首を傾げた。

それから、「う~ん?」と可愛らしく考え込んで。

何かを思いついたのか、「あっ」と声を上げて。

 

 

「この間、エヴァンジェリンのばーやがお話してた、ご先祖さまのこと?」

 

 

エヴァンジェリンのばーや。

いや、それ以上に重要なのは。

超にとって重要なのは、「ご先祖さま」の方だ。

まさか・・・。

超の心が、ザワついた。

 

 

「ご・・・ご先祖、さま・・・とは?」

「あー、ちゃおちゃお知らないんだ~」

 

 

転がるように笑いながら、女の子は言った。

 

 

「ダメだよー? ご先祖さまを知らないと・・・えーと、たたられちゃうんだよ!」

「そ、そうなのカ?」

「そーだよ! ご先祖さまのことを知らないと、茶々丸も苺ゼリー作ってくれないんだよ!」

 

 

両手を振り上げて、事の重要性を伝えようとする女の子。

実に、コロコロと表情が変わる子供である。

超は、ごくり、と唾を飲み込むと、震える手を女の子の肩に置いて、目線を合わせると。

 

 

「名前を・・・」

「んー?」

「貴女の名前を、教えてくれないカ・・・?」

「えー? ちゃおちゃお、お昼寝し過ぎたの? ポヤポヤなの?」

「そうなのヨ・・・長い夢を、見ていたからネ・・・」

「ふーん?」

 

 

逸る気持ちを押さえて、超は言った。

女の子は、不思議そうな顔をしていたが、怪しんでいる様子は無かった。

ただ、純粋な笑顔を浮かべて、言った。

 

 

「フェリアだよ!」

 

 

フェリア。

その名前を、超は自分の胸に刻みつけた。

 

 

「ふぇり・・・あ・・・?」

「うん、フェリアだよ。思い出したー?」

「・・・・・・ああ、ああ・・・・・・!」

「ふみゅっ」

 

 

頷きながら、超は女の子・・・フェリアを、ぎゅっと抱き締めた。

フェリアは、苦しそうな声を上げるが、超は腕の力を緩めなかった。

 

 

その名前を聞いた瞬間、超の頭の中に、これまでの「歴史」に関する知識が流れ込んできた。

この世界、この時代の自分が何者なのか。

自分が抱き締めているのが誰で・・・過去において出会った人々が、どのような道を歩んだのか。

その全てを、超は理解した。

 

 

「みゅみゅ・・・ちゃおちゃお、苦しーよぅ!」

「ああ、すまないネ・・・すまな・・・っ」

「・・・ちゃおちゃお?」

 

 

ぎゅ・・・と、ただ、抱き締めた。

超は、自分の行動の「結果」を、噛み締めていた。

自分の憧れた白い女神(アリア)には、もう二度と会えないけれど。

それでも・・・。

 

 

「ちゃおちゃお、泣いてるの・・・?」

「ああ、あ、あああぁぁ・・・!」

「お、お腹痛いの? 泣かないで、泣かないでー・・・」

 

 

さわさわと、小さな手が頭を撫でるのを感じながら。

それでも超は、ただ、抱き締めていた。

 

 

「ちゃおちゃお、泣かないでー・・・」

「ああ、ああ・・・フェリア、泣いていな・・・っ・・・!」

 

 

そして柱の陰から、金色の髪の少女と、緑の髪の自動人形が、その様子を見ていた。

ただ・・・見つめていた。

 




超鈴音:
ニィハオ、超ネ。
今回は、私の物語の、いわばプロローグと、エピローグだったネ。
どこの誰が用意したかは知らないガ、随分と面倒なことをしたネ。
おそらく、よほどのことが無い限り本編に再登場することは無いネ。
少々寂しいガ・・・仕方が無いネ。
私は、そもそもあの時代の人間では無いのだから。
私はこれから、この時代で生きて行くことになるネ。

だが、本編でアリア先生が、前半のような目に合うか、あるいはそれ以外の可能性を生み、後半のフェリアのような存在を生むか・・・。
それはまだ、わからないネ。
けれど・・・私は、信じているヨ。

それでは、再見 (また会う日まで)!


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第75話「祭りの後・前編」

Side クルト

 

学生の皆さんは振り替え休日と言うことで、今頃は思い思いの時間を過ごしておられるのでしょうが。

我々大人は、まさに休日にこそ忙しいのですよ。

 

 

イベントで壊れた麻帆良各所の修繕と一部の違反者の記憶改竄、ならびに関係者の拘束と処分、同時に功労者への慰労と一時支給金その他の支給。

それに関係する本国への報告、加えて精霊式超高速通信による関係官僚・議員との緊急討議。

そして、拘束した首謀者とその関係者の、処断。

 

 

「だと言うのに・・・何が悲しくて貴様の陳情など聞かねばならないのか」

『クルト、僕は真剣に話しているんだ』

「そうですか、私は貴様の話など、碌に聞いていないがね」

 

 

目の前には、秘匿通信で私にかけてきている、タカミチの顔が。

話の内容など、説明するまでも無いでしょう。

ネギ君を含めた関係者の助命嘆願、とでも言いましょうか。

だが・・・遅いな。

 

 

「残念だがタカミチ、本国はこの件について、すでに処分を決している」

 

 

本会議にすらならない、小委員会での略式討議で即決。

ネギ君以外については、私に一任。

まぁ、彼らにとっては、ネギ君以外のことは知りませんし、どうでも良いと考えたのでしょうけど。

いやぁ、今まで従順な犬の振りをしてきた成果が、こんな所で出てくるとは。

信頼されるって、大事ですよねぇ?

 

 

「ああ、そうだタカミチ。貴様に一つだけ感謝しておかねばならないな」

『・・・感謝?』

「ああ・・・神楽坂明日菜とか言う少女のことだ」

 

 

いや、「黄昏の姫御子」アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアと呼んだ方が良いのでしょうか?

彼女の情報は、タカミチと彼の師ガトウによって、巧妙に隠されていた。

紅き翼も、役に立つことがあるのですね。

 

 

本国の老害共も、まさか旧世界の島国で堂々と、しかも自分達の管轄する魔法学校の一つに、姫御子がいるとは思いもしなかったようですからね。

 

 

「おかげで、彼女をどうするか・・・私の思うがままだ」

『クルト、もし明日菜君に何かするのなら・・・』

「おいおい、タカミチ。貴様は私に、お願いしている立場だろう? そんな態度で良いのか、ん?」

 

 

画面の向こうで、タカミチの顔が歪む。

もちろん私は、涼しい顔をしていますよ?

まさか、口元を歪めて笑っていたりなど、しませんとも。

私は、至極善良な男なのですから。ただし、相手によりますがね。

 

 

そして実際、彼女は邪魔なのですよ。

神楽坂明日菜でもアスナ姫でも何でも良いですが。

・・・ウェスペルタティアの王位継承の可能性を、僅かでも持っている以上。

今の私にとっては、非常に邪魔な存在です。

世界を守るためにも・・・ね。

 

 

「それにネギ君と仮契約するのは良くて、私が利用するのはダメだなんて・・・随分と身勝手なことを言うじゃないか、タカミチ」

『それは・・・』

「何・・・悪いようにはしないさ。命までは取るつもりは無い」

 

 

アリカ様も、アスナ姫に関しては負い目を感じていた節もありますし。

そこを考慮に入れて、処分を決さねばなりませんね。

 

 

「手足を切断し、舌を切り取って・・・誰にも気付かれない場所で、幽閉する・・・ああ、冗談だよタカミチ、だからそんな目をするな」

『・・・クルト、お願いだ。明日菜君を』

「断る。改めて言うがなタカミチ、私は貴様ら紅き翼が、大嫌いなんだよ」

 

 

そう言って、私は通信を切った。

・・・ふぅ、我ながら感情的になってしまいましたね。

さて、それでは・・・レッツ癒しタイム。

 

 

「我が麗しの王女殿下に、会いに行くとしましょうか」

 

 

 

 

 

Side 真名

 

ち・・・何だか、あのクルトとか言う男が楽しそうにしている気がする。

そのせいか知らないが、餡蜜を食べ進める手も加速しようと言う物だ。

 

 

―――食べ過ぎるのは、良くありませんよ―――

 

「わかっているよ、四葉・・・おかわり」

 

 

私は今、四葉と共に超包子にいる。

なぜ私が拘束されていないかと言うと、クルト議員との間で司法取引が成立したからだ。

 

 

―――そんなに、報酬を取り上げられたのが嫌だったんですか―――

 

「人聞きの悪いことを言わないでくれないか四葉・・・あの眼鏡いつか撃ち殺す」

 

―――いつものクールぶりはどこに行ったんですか―――

 

「しばらくは、タダ働きだよ・・・あのコートいつか血に染めてくれる」

 

 

コト・・・と、新しく目の前に置かれた餡蜜を、すかさず食べ始める。

あの夜、クルト議員は私に、「貴女を雇いたい、もちろん無料で」と言ったのだ。

平和的商談と言いつつ、兵力を嵩に無言の圧力をかけてくるあの姿勢。

評価はできるが、好きにはなれない。

 

 

私自身がやられる側なので、なおさらだ。

「イエス」以外の回答が、あろうはずも無い。

 

 

「見ていろあの変態・・・必要経費の金額で度肝を抜かせてやる」

 

―――あんまり、無理はしないでくださいね―――

 

「・・・む、上手い。流石だな四葉」

 

―――ありがとうございます―――

 

 

はぐ・・・と、餡蜜を口に入れた所で、ふと気付いた。

私はともかく、四葉は何故、拘束されていなんだ?

 

 

司法取引もしていないだろうし、材料も無いだろう。

早い段階から超の計画を知っていたと言うこともあるし、何より超との付き合いも長い。

一般人とは言え、普通は拘束されてもおかしくは無いのだが。

 

 

―――?―――

 

 

じ・・・と見つめると、四葉は首を傾げながらも、ニコ、と微笑んだ。

見る者全てを安心させる笑顔だ。

こんな人間を、捕まえようと考える者はいないだろう。

最も、私達は誰も、「四葉が計画に関与している」などと証言しなかったが。

超も、それを望むだろうからな。

 

 

四葉のような人間は、知らぬ内に色々な人間に助けられたりするのだろう。

これも、人徳と言うのだろうか。

 

 

―――そう言えば、次のお仕事は何なんですか―――

 

「ただの護衛任務だよ」

 

 

まぁ、他にもいろいろとあるが。

一番は、「アリア先生を守ること」。

まぁ・・・あの人が相手なら、専属契約も悪くは無いさ。

 

 

無償だが。

・・・ち、いつか本当に狙撃してやる。

 

 

 

 

 

Side 刀子

 

ネギ先生以外の敵構成員として捕縛されたのは、麻帆良の女子中学生ばかり。

必然的に、女性教諭が担当することになります。男性がやると、色々と問題なので。

 

 

他にも、シャークティー先生やアリア先生が、手分けして尋問を行います。

特にアリア先生は、生徒の事情にも通じている様ですし・・・。

 

 

一人目は、早乙女ハルナさん。

超鈴音の協力者と言うわけではなく、単純に魔法を知っている、と言う生徒。

どうも、ネギ先生が喋ってしまった様なのですが。

・・・なぜ、ここまでの事態になるまで、私達は気付けなかったのでしょうか・・・。

 

 

「それを、他の生徒に話したりは?」

「いやぁ、まさか。言ったって誰も信じてくれませんよ」

 

 

取り調べを受けいていると言うのに、あっけらかんとしている、早乙女さん。

彼女は、罪を犯したわけではありませんので、何とも・・・。

 

 

「ところで、魔法のアイテムが貰える仮契約は、どうすればできるんですか?」

「仮契約は、そんなに簡単にできる物ではありませんよ」

 

 

普通、そんなポンポンとする物ではありません。

特に男女間で行う場合には、良く考えてしなければなりません。

将来がかかっている場合が、ほとんどですからね。

将来・・・ふふ、私はしたことありませんけどね。

まぁ、ピチピチの女子中学生には、わからないでしょうけど。

 

 

ただ、早乙女さんは意外そうな顔で。

 

 

「そうなんだ・・・でも、ネギ君は簡単にできるみたいに言ってましたけど?」

「・・・は?」

「だから私も、ちょちょいと仮契約して、魔法のアイテム♪ とか、思ってたんですけど」

 

 

その後も、早乙女さんは「魔法のアイテム欲しい」と、言い続けてました。

あ、頭が・・・。

これは、生徒に問題があるのか、それともネギ先生に問題があるのか・・・。

ああ・・・両方ですか。

 

 

2人目は、宮崎のどかさん。

ネギ先生と仮契約をしている、パートナーだとか。

・・・さっき私、簡単にする物じゃないと言ったばかり・・・。

 

 

「ネギ先生は、悪く無いんです」

 

 

・・・また、頭が痛くなるようなことを・・・。

 

 

「ネギ先生は、優しい人です。今回の事だって、何かきっと、理由があるはずなんです」

「理由については知りませんが、残念ながらネギ先生は現在、犯罪者として収監中です」

「そんな!?」

 

 

・・・そんな、とか言われても。

ネギ先生の罪状は、片手では数え切れない程なので、収監されて当然だと思いますが。

 

 

「まぁ、良いです。とりあえず、貴女の話・・・」

「ネギ先生を、助けてください!!」

「いや、ですから・・・」

「ネギ先生が、ネギ先生は・・・アリア先生は!? アリア先生はどうしてネギ先生を助けてくれないんですか!?」

「いいから、落ち着い・・・」

「どうして、皆・・・ネギ先生を、誤解するんですか!? ネギ先生はただ」

「いい加減にしなさいっ!!」

 

 

野太刀があれば抜いているだろうと思える程に、私は苛立っていました。

ネギ先生ネギ先生と、他に言うことは無いんですか!?

貴女自身が、罪に問われようとしているのですよ?

 

 

「だって、ネギ先生だけが悪いみたいな、そんな言い方っ・・・!」

「なら、誰が悪いと?」

「アリア先生がネギ先生に、もっと優しくしてくれていれば、魔法具だって、貸してあげれば、それで良いのに。アリア先生がネギ先生を酷く扱うから、だから」

 

 

ぱぁんっ!

 

 

「・・・っ」

「・・・痛くしました。堪忍してくださいね」

 

 

打たれた頬を押さえて、宮崎さんが私を睨みます。

ですが・・・。

 

 

「個人的な理由で申し訳ありませんが、私はアリア先生に一度、命を救われています。アリア先生にそのつもりは無かったでしょうが・・・あの、悪魔襲撃事件の時に」

「・・・」

「貴女も、彼女に救われた一人でしょうに・・・」

「・・・う」

 

 

ううぅ・・・と、宮崎さんは、泣き始めてしまいました。

はぁ・・・嫌な仕事です。

 

 

 

 

 

Side シャークティー

 

最初の生徒は、朝倉和美と言う、2日目の武道会と言うイベントにおいて超鈴音の手伝いをしていたと言う生徒。

その他、超鈴音のアジトに残されていた映像などの証拠があります。

 

 

「えっと、何も知りませんでしたー、とか、無理ですか?」

「アリア先生に代わってもらいましょうか?」

「はい、すみません。もう、ふざけません。マジでごめんなさい・・・」

 

 

アリア先生の名前に、当初無関係を決め込もうとしていたらしい朝倉さんは、急に態度を改めました。

「たぶん、これで行けると思います」と聞いていましたが・・・。

・・・何か、トラウマでも刺激されたかのような怯え様だけど。

 

 

「なぜ、超鈴音の協力者になったのですか?」

「ネタになりそうかなー・・・と」

「・・・他には?」

「いや、特には・・・」

 

 

頭が、痛い・・・。

これだけの数の生徒に魔法の存在が知られていることにも驚きですが・・・。

その資質に問題が多すぎると感じるのは、私だけでしょうか?

 

 

・・・ああ、美空のクラスメートでしたね。

なら、こんな物でしょうか。

 

 

「最後に、ネギ先生はなぜ超鈴音と?」

「え? いや・・・詳しくは知りませんけど、指輪とか、魔法のアイテム貰って喜んでた・・・かな?」

「魔法のアイテム・・・?」

 

 

2人目は、神楽坂明日菜さん。

この方も、非常に難しい生徒です。

ネギ先生と仮契約をしている、と言う面もありますが・・・。

 

 

高畑先生によれば、事前に超側の動きを知らせてくれた、いわゆる内部告発者。

ですが面倒なことに、そのことを知るのは当の高畑先生と、学園長・・・「元」学園長のみです。

そしてこの2人は、現在本国から召還を受けている身。

その証言には、説得力が無く・・・せめて現場の私達にも、言っておいてくれれば・・・。

 

 

神楽坂さん自身も、超と交戦した、と言う類の証言を行っていて・・・。

心情的にはともかく、法的には私達にも、どうすることもできない。

 

 

「最後に・・・なぜネギ先生は、このような暴挙に出たと思いますか?」

「それは・・・えっと、あいつが子供だったと言うか、超さんに騙されて・・・」

 

 

騙された部分が見えないのは、なぜでしょうか。

おそらく、上手く口車に乗せられたのでしょう。

 

 

「それから・・・」

 

 

どこか言いにくそうに、神楽坂さん。

 

 

「・・・超さんの魔法具が、欲しかったんじゃないかな・・・」

「・・・物に釣られた、と言うことですか?」

「ま、まぁ、そう・・・かな?」

「・・・愚かな事を」

 

 

溜息混じりに呟くと、神楽坂さんは、むっとした表情で何か言いたげでしたが、飲み込んだようです。

その代わりに。

 

 

「あいつ・・・ネギは、どうなるの?」

「・・・修行は、停止することになると思います。場合によっては・・・収容所行きかと」

「しゅっ・・・そんな、まだ10歳なのに!」

「10歳でも法を犯せば裁かれます。そんなこともわからないのですか?」

「で、でも・・・でもっ」

 

 

思わず、こめかみに指を当てました。

・・・頭が痛い話です。

しかし、これも主の与えたもうた試練。

 

 

根気強く、頑張って行きましょう

美空の教育に比べれば、まだ何とか・・・。

 

 

しかし、マジックアイテムへの言及が多いですね。

そのあたりに、何か原因があるのでしょうか。

 

 

 

 

 

Side 千草

 

「・・・ごめんなさい・・・」

「あんたが謝ったって、どうにもならんよ」

「それは、そうなのだけど・・・」

 

 

ドネットはんとうちは、今回の件で敵側に回った生徒の尋問の様子を見とる。

3つある尋問の部屋は、それぞれ分厚い壁で覆われとるんやけど・・・うちらがおるこの部屋は、3つの部屋の中間点に位置していて、ここからだけは、中の様子が見えるんや。

 

 

まぁ、とにかく・・・。

ドネットはん的には、何か思う所があったらしい。

急に顔を押さえて、謝り始めた。

 

 

「まぁ、あのぼーやは、そっちの卒業生やからな・・・」

「・・・飛び級制度、無くなるかもしれないわね」

「まさか、あのぼーや1人のために・・・」

 

 

無いとは言えへんのは、恐ろしい所やな。

関西で学ぶ子弟かて、もう少しマシやで。

小太郎とか月詠はん・・・月詠は、怪しいけどな。

 

 

「・・・ま、それに尋問とか言うても・・・結果は決まっとるしな、もう」

 

 

この尋問は、あくまでも事実確認が主や。

麻帆良・・・と言うより、クルト議員の説明やと、すでに処分がほぼ決まっとるそうやから。

 

 

朝倉和美、早乙女ハルナ、綾瀬夕映は、記憶改竄の上、1年間の保護観察処分。

宮崎のどかは、仮契約破棄の上で本国護送、半年間のオコジョ刑。

宮崎はんは、中学の卒業式の翌日に麻帆良に帰される予定や。

加えて、3年間の保護観察期間。

神楽坂明日菜も、仮契約破棄の上で、本国護送。

内部告発者なんやから、もう少し刑を減じてもええと思うんやけど・・・まぁ、お上のやることやから?

それに、具体的な刑はわからんし・・・。

 

 

ぼーや・・・ネギはんは、本国護送の上、裁判を受けることになる。

オコジョ刑100年ですかね☆・・・て、クルト議員は言うとったけど。

 

 

「・・・ま、うちには関係無い話やな」

 

 

その時、部屋の扉がコンコン、とノックされた。

入ってきたのは、糸目の優男・・・瀬流彦とか言うたかな、魔法先生やった。

 

 

「失礼します。そろそろ、明日のことで会議があるとか・・・」

「ああ、さよか・・・じゃあ、行こかな」

「ええ・・・」

 

 

明日、メルディアナとクルト議員の部隊は、ネギはんらを連れて引き上げる。

・・・関西の連中は、朝まで飲んでたから、フラフラやけどな。

うちは、メルディアナの連中とくっついて、英国に行く。

ゲートとか言う所を通って、西洋魔法使いの国へ行くんや。

その前に、メルディアナで陰陽術の授業開設のための仕事せなあかんけどな。

 

 

ドネットはんは、不意にアリアはんの方を見た。

何か、言っておきたいことでもあるんかな・・・。

 

 

『お願いです、のどかを助けて・・・っ!!』

 

 

その時、そのアリアはんの部屋で、騒ぎになっとるみたいやった。

な、何や?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「お願い、おねがっ・・・のどかを助けて、助けてください・・・!」

 

 

目の前で、伏して私に頼み込む綾瀬さん。

尋問も何も無く、ただ、縋り付いてくる綾瀬さんを見て、私が思ったのは一つです。

任された仕事が、遅れてしまいます。

 

 

正直、愉快なことではありません。

まだ後がつかえているのですし、スムーズに済ませたいのですが。

 

 

「・・・お願いされても、私には何もできませんよ」

 

 

淡々と、事実だけを述べます。

綾瀬さんは、かなり痛むのでしょう、頭を押さえながら・・・それでも、椅子に座る私の服の裾を掴んで、同じことを言い続けます。

 

 

宮崎さんを、助けて欲しいと。

 

 

「宮崎さんを助けたいなら、これまでいくらでも、何度でも機会はありました」

「でも、でも・・・!」

「私も、そう言ったはずです」

「でも・・・!」

「この結末は・・・貴女が自分で選んだ物です。私は知りませんよ」

「でも・・・教えてくれなかったではないですか!!」

 

 

痛みを振り払うように、綾瀬さんが叫びました。

 

 

「何が危険で、何がいけないのか、一切の説明をせずにただ一方的にダメと言うだけで、何も説明してはくれなかったではありませんか!!」

「その上で、踏み込むと決めたのでしょう」

「きちんと説明されれば、私だって、のどかはっ・・・ネギ先生が好きで!」

「知っています」

「ならっ・・・ネギ先生が好きなのどかが、ネギ先生の役に立とうと、超さんの側に行ってしまうのは、仕方が無いではありませんか!!」

 

 

だから、酌量しろと?

罪とは知らなかったから、恋心ゆえだから許せと?

バカなことを、言わないでください。

 

 

「アリア先生にだって、責任はあります!!」

「はぁ?」

「ネギ先生は、アリア先生の魔法具が欲しかった・・・だから、それをくれる超さんについたです。ネギ先生さえ、超さんの側に行かなければ・・・アリア先生さえ、もっとネギ先生と対話していれば!」

 

 

私はまだ、ネギに譲歩しなければならなかったのですか。

ネギに魔法具を与えれば、今回の件は起こらなかったと。

 

 

「では綾瀬さんは、私の魔法具が無ければ、今回のことは起こらなかったとでも?」

「そうです!」

 

 

はっきりと、綾瀬さんは答えました。

 

 

「貴女のせいだ、貴女の・・・アナタノ!!」

 

 

誰かに。

ここまでの気持ちをぶつけられるのは、久しぶりでした。

それも、これ程の負の感情を。

 

 

私のせいで、私の魔法具のせいで、宮崎さんや綾瀬さんが、道を誤ったと?

それが、私のせい?

でも、私がいなければ、どうなっていただろう。

何か、変わって・・・。

 

 

「ストップだ、アリア君」

 

 

ふ・・・と、綾瀬さんの目に手をかざして、眠りの魔法を使ったのは・・・。

 

 

「・・・瀬流彦先生」

「あはは、余計なことだったかな?」

「いえ・・・」

 

 

瀬流彦先生は軽く笑うと、綾瀬さんを抱き上げました。

そのまま、どこかへと運んで行きます。

 

 

「次の子で最後だから、それまで休憩しておいてよ」

「あ、はい・・・」

 

 

瀬流彦先生が部屋を出て行くのと入れ替わりに、ドネットさんと千草さんが入ってきました。

ドネットさんは私の傍へ、千草さんは、扉にもたれかかるようにして。

 

 

 

 

 

Side ドネット

 

何と言えば良いのか、わからない。

目の前のアリアは、思っていたよりも、ずっと小さな子供で。

私が、私達が背負わせてしまっている物の重みで、潰れそうになっているように見えてしまって。

 

 

・・・私の、思い込みかもしれないけれど。

 

 

「・・・ねぇ、ドネットさん」

「何かしら?」

 

 

アリアは、さっきの女の子が運ばれて行った方を見つめながら、どこか、儚げな笑みを浮かべて。

 

 

「・・・私のせいなのだそうです」

「それは・・・それは、違うわ。貴女のせいじゃない」

 

 

今回の事件は超鈴音が計画したことであって、アリアが計画したわけではないわ。

アリアには、責任は無い。

あれは、言い方は悪くなるけど・・・あの綾瀬夕映と言う子の、八つ当たりでしかない。

 

 

「でも、私の魔法具が、もしかしたら、一般人の人生を・・・」

「ああ、それはあるかもなぁ、極論やけど」

 

 

天崎と言う関西の大使が、不意にそう言った。

彼女は、懐から一冊のノートのような物を取り出した。

不思議な魔力を感じるけど・・・。

 

 

「こないに便利な物があったら、そりゃあ欲しくなるやろな」

「でも・・・それは使う側の問題であって、結局は当事者の問題よ」

「それはその通りや、ドネットはん・・・けどな」

 

 

天崎さんは、す・・・と目を細めると。

 

 

「世の中にはな、奪ってでも欲しいて言う輩もおるんよ。うちかてそうや。もし二年前に知っとったら、力尽くで欲したやろな・・・今は、そうでも無いけど」

「・・・千草さん」

「これ、返すわ。便利やったで、ありがとうな」

 

 

取り出したノートを、アリアに渡した天崎さん。

アリアは、少し戸惑いながらも・・・それを受け取った。

 

 

「うちには、友達は確かに少ないかもしれんけど」

「・・・いえ、あれはそんなつもりで言ったわけではなく」

「・・・家族が、おるからな」

 

 

だから、これはいらない。

そう言った千草さんの顔は、とても優しげだった。

同時に、誇らしげでもあった。

 

 

強い女性だと、そう思った。

私は、天崎さんのことが、羨ましくなった。

 

 

「さて、家に帰って引越しの準備や・・・子供らの、夕餉も作ったらなあかんしな」

 

 

そう言って、天崎さんは部屋から出て行った。

仕事を済ませに言ったのだろう。

私も、行かなくては。

 

 

「それじゃあ、アリア・・・その」

「あ、はい・・・また、ウェールズで」

 

 

ふわり・・・と、アリアは学生時代から変わらない笑顔を向けてくれる。

でも、私にこの笑顔を見る資格があるのだろうか?

アリアはきっと、「資格って何ですか」と言って、笑うのでしょうけれど。

 

 

この笑顔を曇らせないために、まずは。

まずは、足元(メルディアナ)の掃除から。

 

 

 

 

 

Side 詠春

 

このような形で会うことになろうとは、思いませんでした、お義父さん。

心の中でそう言って、私はその場に立っていた。

 

 

「・・・婿殿、いや、詠春殿・・・」

「なんでしょう、関東魔法協会・前理事殿?」

 

 

今、この学園長室(学園長の地位にはあるらしい)には、私、お義父さん、そしてタカミチ君がいる。

おそらくは、クルト君に拒絶されたために、私を頼って来ているのだろうが。

 

 

残念ながら、どうすることもできない。

と言うより、手を出してもメリットが無い。

組織としても、個人としても。

私は、クルト君やメルディアナと組むことの方に意義を見出しているのだから。

そこに私情など、挟まない。挟めるはずも無い。

 

 

「ネギ君と、その生徒達の将来性を鑑みて、なんとか口添えを頼めんかのぅ?」

「それは、どう言った立場での要請でしょうか。失礼ながら、学園長殿はこちら側での公的権力を全て剥奪された状態です。これは、そこのタカミチ君も同様ですが」

「詠春さん・・・」

「国には法があり、組織には掟があります。それを曲げてのお話・・・何ら見返りの無いままに、そう言った話を聞き入れるわけには参りません」

 

 

これでも、かなり優しい表現での拒否だ。

完璧を期するなら、そもそもここにも来ない。

 

 

「・・・何を、差し出せば良いのかの?」

「学園長!?」

「良いのじゃ、それで・・・どうかのぅ?」

「そこまで言われるのでしたら・・・」

 

 

我ながら、キツイことを言うとは思うが。

 

 

「日本を、返していただきましょう」

「・・・ほ? どういう意味かね?」

「関東魔法協会の管轄区域全てを、西に返還していただきたい」

「ほぉっ!?」

 

 

詰まる所、関西の傘下に入れ、と言っているわけだ。

別に強硬派に倣う訳ではないが、これくらいでないと、とても周りを説得できない。

それに・・・。

 

 

「これはまだ内密の話ですが、クルト殿はすでに、関西呪術協会と関東魔法協会の合併に向けた協議を進めています。年度内には決着するでしょう」

「ほ・・・き、聞いとらんぞい!?」

「そ、それは本当ですか、詠春さん・・・?」

「この場で嘘を吐く理由がどこに?」

 

 

事実だ。

上手く行けば、今年中に、西と東は統一される。

関東の理事達はすでに、己の地位の安全を条件に賛成に回った。

そこは、クルト君の才腕が光った。

 

 

私は私で、強硬派を分散させて力を奪い、かつ中道・穏健派の支持を得ている。

その強硬派も、度し難いとは思うが、今回のことで私の支持層が増した。

よって、今の私は関西の全てを掌握していると言っても、過言では無い。

 

 

「そして私は、東西統合後の組織のトップを任されることになっています」

「それは・・・」

「まさしく、その通り」

 

 

タカミチ君に対し、私は頷きで答える。

つまりもう、貴方は私に差し出せる物を持っていないのです、お義父さん。

 

 

「私はすでに、日本を手に入れました」

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・そうですか、超さんがそんなことを」

「はい、ハカセさんには、とても感謝している様でした」

 

 

少し時間を開けて、今度はハカセさんとお話をしています。

まずは、超さんからの伝言などを。

 

 

ハカセさんは目を閉じて、何か考えている様でした。

超さんとの思い出を、思い浮かべているのか。

それとも、別れの言葉か。

それは私にはわかりませんが、とても穏やかな表情を浮かべていました。

 

 

「・・・それから、貴女の今後ですが」

「ええ、わかっています。今朝早くに、クルトと言う方から連絡を受けていますから」

 

 

胸に手を当てて、ハカセさんは私に軽く頭を下げてきました。

クルトおじ様は、大層仕事が早く・・・すでに、ネギ達の処分を決定したそうです。

私としては、それ程の関心事でもありませんでしたので・・・。

特に口を出したりは、しませんでした。

 

 

ただ、クルトおじ様の良いように、とだけ伝えました。

真名さんやハカセさん、四葉さん等については、少しお願いしましたが・・・。

 

 

「新旧問わず、私が超さんから受け継いだ全ての技術は、アリア先生に無償で提供します」

「・・・そうですか」

「私は今後の一生を麻帆良で過ごすことになるでしょう。公的には、将来の日本の魔法・陰陽師の統一組織に籍を置くことになるでしょうね・・・」

 

 

ハカセさんは、非常に協力的でした。

研究施設と資金を条件に、公権力に従う道を選びました。

超さんが願い、詠春さんが受諾し、クルトおじ様が後押ししました。

ある意味で、一番凄い後ろ盾を得ているのではないでしょうか。

 

 

「茶々丸や田中さんシリーズのメンテナンス・バージョンアップはもちろん、支援魔導機械(デバイス)についても、全面的に協力します」

「お願いします。そこは、こちらではどうにもできないので・・・」

「・・・支援魔導機械(デバイス)が完成すれば、アリア先生が魔法具に頼る比率は、必然的に下がってくると思います」

 

 

不思議な笑みをたたえて、ハカセさんが言いました。

 

 

「私達は、超さんの『志に共感して』協力を決めました。この言葉の意味が、わかりますか?」

「・・・超さんは・・・」

「もちろん、個人的な理由もありますが・・・でもそれはきっと、アリア先生にとっては、とるに足らない、関係の無い話です」

 

 

先ほどの、綾瀬さんの言葉。

そして、休憩中に刀子先生達から聞いた、他の生徒の言動。

加えて、ハカセさんの言葉。超さんの言葉。

 

 

「超さんの残した言葉を、良く考えてくれることを、祈っています」

 

 

それがハカセさんの、今回の件に関する最後の言葉でした。

ある意味、超さんの一番の理解者・同志であったであろうハカセさんの言葉は。

不思議なくらい、私の中に残りました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

コツ、コツ・・・と、腕を組み、指で肘を叩く。

リビングのソファの上で、私はその男と相対していた。

 

 

クルト・ゲーデルとか言う、狐のような男と。

アリアとその家族に、話があって来たと言うことだが。

経験上、こう言う男は味方でも油断できないと知っている。

 

 

「・・・そう、殺気のこもった目で見ないでいただけますかねぇ、<闇の福音>?」

「これはすまないな。私を賞金首に認定していた連中の仲間と、どう言う態度で接すれば良いのかわからなかっただけだよ、針金細工」

「これは手厳しい、たかが一度や二度命を狙ったぐらいで平和的に話し合うこともできないとは・・・やはり精神は肉体の影響を受けてしまう様ですね。合法ロリの悲しい所ですか」

「は・・・どうやら、自分達が何度返り討ちにあったか数えていないらしい。まぁ、皆殺しにしてやったから、数えたくてもできなかったろうがな。賠償金でもセビるか、権力の犬」

「ふ・・・自分が見逃された回数も覚えていないとは、見た目よりも老いが進行しているのでは無いですか? よろしければ良い施設を知っていますから、紹介しましょうか。牢獄と言う名の施設をね、人形好きのお嬢さん」

「・・・死にたいのか、貴様?」

「潰されたいんですか、貴女?」

 

 

はっはっはっ・・・と、談笑する私とゲーデル。

何やら、リビングの隅でさよとバカ鬼がガタガタ震えながら抱き合っているが、そこは知らん。

 

 

「お茶のおかわりは・・・」

「ああ、お願いします。いやぁ、実に美味しい紅茶だ。どうです、私の所で働きませんか?」

「ありがとうございます。ですが私は、すでに主人がおりますので」

「おいコラそこの眼鏡、人の従者を勧誘するんじゃない、殺すぞ」

 

 

私の殺気をこめた視線にも、ゲーデルは小揺るぎもしない。

アリアの話だと、刹那と同じ神鳴流の使い手らしい。

退魔の剣を持つ男。

刀はこちらで預かっているが、神鳴流は武器を選ばない。

かなり、面倒な相手だ。

 

 

「ソレデケッキョク、ナンノヨウナンダヨ」

「まぁ、それはアリア様がお帰りになられてからお話しましょう。正直、二度手間は嫌です」

 

 

さっきから、アリアが帰って来てから話すと言って、うちの茶や茶菓子をバリバリと。

茶々丸は気にした風でも無いが、私はそろそろ限界・・・。

 

 

「ただいま、戻りました~」

 

 

その時、玄関の方からいつものように、アリアの帰宅を告げる声が。

いつもなら、喜ばしい声なのだが、目の前の男のことを考えると微妙だ。

パタパタと茶々丸が出迎えに走るのを横目に、私はゲーデルから目を離さない。

 

 

「ただいまです、茶々丸さん。今日の晩御飯は何ですか? あと、エヴァさんに相談が・・・」

「お帰りなさいませ、アリア先生。本日の晩御飯はピリ辛麻婆豆腐です。あと、リビングにお客様が・・・」

「お客様?」

 

 

徐々に近付いてくる声、そしてリビングの扉が開く。

すると、ゲーデルはいきなり椅子から立ち上がり、まるで主にそうするように、床に膝をついた。

 

 

「どなたです・・・って、クルトおじ様?」

「は、不肖このクルト。本日のためのこんばんはと明日のためのお休みなさいませを申し上げたくて、参上仕りました。普段の油断しきったアリア様も至上の宝であると、このクルトめは胸に刻みつけた所にございます」

「・・・えっと」

 

 

アリアが、困ったような顔を私に向けてきた。

そんな目で見るな、私も困ってる。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「アリア様のアリアドネー行きについて、具体的な詰めを行いたいと思いましてね」

 

 

アリア先生本人も加わったリビングで、クルト議員はそう言いました。

アリアドネー。魔法世界に存在する、厳正中立の学術都市ですね。

そこにアリア先生を・・・と言う話があることは、情報としては知っていましたが。

 

 

事実だったとは、驚きです。

 

 

「何しろ、アリカ様のご息女が魔法世界を訪問・・・いえ、お戻りになるのですから、万全を期さねばなりませんしねぇ」

「・・・私は、承諾した覚えはありませんが」

「おや・・・魔法学校時代の進路希望調査などを見るに、喜ばれるかと思いましたが」

「それは・・・」

 

 

アリア先生は、魔法薬や魔法具の研究がしたいと、日頃から申されていました。

故郷の村人を救うためでもありますが、そもそも研究と言う行為がお好きなようなのです。

書物に埋もれて知識を集め、実験を繰り返して経験を積み。

いつか、まったく新しい物を、「自分の力」で作りたいと。

 

 

そんなアリア先生にとって、魔法世界最高の学府であるアリアドネーは、どれ程魅力的に映ることでしょう。

クルト議員の話によれば、アリア先生の家族である私達も受け入れるとのことですが。

 

 

「私は・・・できれば、今の生徒達の卒業を見届けてから・・・」

「ああ! そうでしたね、アリア様は生徒を愛する心優しき女教師・・・私も、ご自分の生徒との別れを奪う程野暮ではありませんよ!」

「あのー・・・じゃあ、そのお話は無かったことに・・・?」

「いえいえ、そうではありません」

 

 

さよさんの言葉に、クルト議員は否と返しました。

 

 

「それでしたら、アリア様のご都合に合わせて・・夏季休暇中に研修と言う形でアリアドネーを訪問なされればいかがでしょう? ・・・ちょうど、魔法世界では大きなお祭りもあることですし」

「祭りか、上手い食べ物はあるか?」

「ええ、もちろんですよスクナ殿。私が責任をもってご案内させていただきましょう」

「ヒトハキレルカ?」

「場所によっては可能ですよ、チャチャゼロ殿」

 

 

お祭り、それはとても楽しそうですね。

魔法世界のお祭りとは、どのような物でしょうか。

 

 

「いずれにせよ、早い内に来て頂きたいのです。来れる内に」

「来れる内に・・・ですか」

「ええ、いつまでも同じ光景が、同じ世界が広がっているとは限りませんから」

「・・・」

「・・・?」

 

 

アリア先生はクルト議員の言葉に、かすかに表情を曇らせました。

・・・なんでしょう。

今の議員の言葉に、何か気になる点でもあるのでしょうか。

 

 

「気に入らんな」

 

 

しかしマスターは、当然のごとく空気をぶち壊しになりました。

クルト議員が、ゆるやかな動きでマスターを見つめました。

 

 

「何かご不快な点でも、<闇の福音>殿?」

「貴様の面が何より不快だが・・・それ以上に、私のモノに勝手に手を出されるのは、気に入らんな」

「ほう・・・私がいつ、貴女の所有物に手を触れましたかな」

 

 

マスターとクルト議員の間に、再び険悪な空気が流れ始めました。

マスターはアリア先生は「自分のモノ」であると主張し、一方でクルト議員はそれを認めないと、暗に意思表示をしているのでしょう。

直接的に言葉にされるよりも、お2人の立場の違いが鮮明になっています。

 

 

「私としては正直、そのような言動は控えて貰いたいのですがね」

「ふん・・・貴様は知らんだろうがな、アリアは自分で私の所に来て、私のモノになると言ったんだ。どう扱おうと、私の勝手だろうが。貴様ごときに口出しされるいわれは無い」

「・・・アリア様に、上位者は必要ありません」

「アリアには、私達以外の存在など必要無い。余計な荷物を持たせようとするなら・・・容赦はせんぞ」

 

 

マスターは、アリアドネー行き自体には、さしてこだわりは無いようでした。

ただ、クルト議員を信用できないと言っておりました。

彼は、アリア先生にとって疫病神になりかね無いと・・・。

 

 

言葉の意味は、良くわかりませんが。

アリア先生にとって、いったい何が良いのでしょうか。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

結局、エヴァさんとクルトおじ様の話し合いは平行線を辿りました。

ただ、アリアドネー行き自体は決まりそうです。

私としても、夏季休暇中の1ヶ月間だけとは言え、あのアリアドネーに滞在できるのです。

正直、ワクワクが止まりません。

 

 

「エヴァさん、ありがとうございます」

「バカが、礼などいらん。ただ私も、アリアドネーの研究機関には興味があるからな」

 

 

なんでも、期間限定の客員教授と言うか、臨時講師みたいな形になるらしいですが。

どうもクルトおじ様は、最初からその予定で計画していた様なのです。

とにかく、夏休みには皆で魔法世界に行くことになりそうです。

 

 

「だが、あのクルト・ゲーデル・・・アレはダメだ」

「ダメ、とは・・・?」

「アレは、お前に面倒ごとを持ってくるぞ。最終的にはお前が自分で決めることだが、私は認めることはできん」

 

 

王女として私を見ているクルトおじ様。

そして従者として、何より家族として私を見てくれるエヴァさん。

この2人のが仲良くできる構図は、なかなか思い描くことができません。

ただ・・・このまま行くと、嫌なことになりそうな気がします。

 

 

・・・まぁ、まだ考える時間はあるでしょう。

私のことも、家族のことも、生徒のことも、今後のことも。

・・・魔法世界のことも。

それよりも、今は・・・。

 

 

「・・・エヴァさん」

「なんだ?」

「ひとつ、相談したいことがあるんです」

 

 

私の様子を見たエヴァさんは怪訝な表情を浮かべながらも、続きを促して来ました。

 

 

「今回の件で、考えてみたんですけど・・・」

「なんだ、改まって」

「えっと・・・できれば、怒らないで聞いて欲しいんですけど・・・」

「良いから、言ってみろ」

 

 

私の様子がおかしいのか、口元に手を当てて笑いながら、エヴァさん。

茶々丸さん達も、不思議そうな顔でこちらを見ています。

 

 

超さんの言葉。

ハカセさんの言葉。千草さんの言葉・・・。

それらが私の胸の内に浮かんでは、消えていきます。

今までの自分が間違っていただなんて、思っていません。

けれど、今までと同じではいけないとは、思うんです。

 

 

私はきっと、エヴァさんが認められないことを、言おうとしています。

でも、私は・・・。

 

 

 

シンシア姉様、私は・・・。

私は、貴女に貰った物を、一つだって嫌だと思ったことはありません。

でも、もう、それだけでは、ダメだと思うんです。

だから・・・だから、どうか。

 

 

 

「・・・魔法具の使用を、控えようと思うんです・・・」

 

 

 

だからどうか。

アリアを、嫌いにならないで・・・。

 




アリア:
アリアです。
今回は、お祭りの後始末、その前半です。
と言っても、学園祭編はここで終わり、次回の後編は、むしろ夏休み編への導入部となります。


アリア:
では、次回は・・・夏休み・ウェールズ編への導入と、新しい物語を匂わせる描写を少々。
次回、「初めてのケンカ」、始まります・・・。



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第76話「祭りの後・後編」

Side アリア

 

拝啓、故郷で眠るシンシア姉様。

姉様には幼少の頃、色々なことを教えていただきました。

本当に感謝しています。

具体的には、おやすみの前にいつも姉様に語りかける程に。

 

 

でも今は少しだけ、お恨み申し上げます。

姉様が私に教えてくださった物の中に。

どうして、「仲直りの仕方」は入っていないのでしょうか・・・。

 

 

「・・・」

 

 

いつもの朝、いつものリビング。

朝食をとるメンバーもいつも通り。

 

 

「・・・」

 

 

ただ、会話がありません。

食事中に話すのは行儀が悪いことですが、それにしても無言は無い。

何かしかの会話はあるはず、例えば・・・。

 

 

「さーちゃん、おかわりだぞ!」

「あ、うん。お茶碗一杯? それとも半分くらい?」

「入るだけ入れて欲しいぞ!」

「じゃあ、一杯だね」

 

 

スクナさんからお茶碗を受け取ったさよさんが、お櫃の蓋を開けます。

・・・そう、まさにこのような会話が、展開されてしかるべきです。

しかし一方で、私とエヴァさんと茶々丸さんの間には・・・。

 

 

「・・・」

「・・・」

「・・・(オロオロ)」

 

 

肌にピリピリ来るような沈黙が。

茶々丸さんが私とエヴァさんを交互に見ながら、オロオロとしています。

 

 

一昨日、エヴァさんに「魔法具の使用を控えたい」と言ったのですが・・・。

そこから、エヴァさんがいきなり無口無表情美少女になりました。

年齢は、私よりも大分上ですけど。

怒られるかと思っていたのですが、何も言われませんでした。

でも、この沈黙。かなり怒っていると見て良いと思います。

 

 

アレでしょうか、「自分で自分の力をセーブしてどうするんだ、哀○潤かこの娘は」とか、「二回の変身でも残したいのか、フ○ーザかこの娘は」とか、思われているのでしょうか。

・・・面白く無いですね、すみません。

 

 

「・・・」

「・・・」

「・・・(オロオロ)」

 

 

・・・それにしても、無言は無いですよね。

何か言いたいことがあるなら、はっきり言えば良いじゃないですか。

いつもは聞きもしないことをアレコレ言ってくるくせに。

むしろ、「私の話を聞け!」な人のくせに。

 

 

言いたいことが、気に入らないことがあるのなら。

言ってくれた方が、よほど楽です。

無言なんて、そんなの・・・。

 

 

「・・・ごちそうさま。茶々丸、今日も美味かったぞ」

「は、はい、マスター・・・あの、どちらへ?」

「私は今日はサボる」

「え・・・ちょ、エヴァさん!?」

 

 

振り替え休日も終わり、今日から通常の授業日。

朝食を食べ終えた後は、出勤ならびに登校です。

なお私はこの振り替えの連休中に、3-Aの担任に昇格しています。

昨日のお昼頃、瀬流彦先生から。

 

 

『あ、アリア君? 明日からキミ、3-Aの担任になるらしいよー?』

 

 

との、連絡を頂きました。

いえ、その後新田先生から正式な連絡もありましたし、これから辞令も受け取りますけど。

瀬流彦先生の電話の方が、頭に残ってしまって・・・。

どうでも良いですが、瀬流彦先生は日を追うごとに私に対してフランクになってきている気がします。

 

 

とにかく、今日が私の担任としての初仕事なわけで。

そんな時に、エヴァさんが完全サボりに移行すると言うことは。

担任になったその日に、生徒が不登校。

それ、かなりキツいんですけど・・・。

 

 

「・・・最悪です」

 

 

エヴァさんがリビングから出て行く姿を見送りながら。

私はいろいろな意味を込めて、そう言いました。

その時、エヴァさんと入れ替わるようにリビングに入ってきた人・・・いえ、人形。

 

 

「なんじゃ? 我が身体を入れ替えておる内に、随分と面白き事になっておるな?」

 

 

 

 

 

Side 古菲

 

「皆さん、おはようございます」

「「「おはようございまーすっ!!」」」

「皆、元気やなー」

「元気過ぎだろ・・・」

 

 

木乃香と長谷川が何やら言っているアルが、確かにウチのクラスは元気アルね。

ただ、以前よりも声量が少ないと言うか、そもそも声が足りない気がするアル。

超がいないのは・・・仕方が無いとして。

明日菜やハカセがいないのは・・・?

 

 

「なお、神楽坂さん以下数名は、学園祭中に発生したと思われる食中毒で入院中です」

「「「な、なんだって――――っ!?」」」

「が、学祭最終日まで元気だったような!?」

「だ、大丈夫なのそれ!?」

「問題無いとは言えませんが、短期間で治ると考えられます。なお、空気感染するタイプのようですのでお見舞い等はNGです」

「食中毒って空気感染するっけ!?」

 

 

アリア先生の言葉に、ゆーな達が騒ぐアル。

それにしても、食中毒アルか。

学祭前なら、それで納得したアルが。

 

 

「加えて、ネギ先生が病気療養のためウェールズに帰りました」

「「「な、なんだって――――っ!?」」」

「・・・って言うか、また病気!?」

「そ、そんな、ネギ先生がそんなことに!? この雪広あやか、今年何度目かの一生の不覚・・・!」

「でも、なんで・・・あ! 確か武道会で高畑先生に大怪我させられてたよーな!」

「え、アレ演出じゃないの!?」

「・・・じゃあ、それで行きましょう、理由」

「「「先生、今、じゃあって言った!?」」」

「・・・それでは?」

「「「いや、一緒だから!」」」

 

 

ネギ坊主がいない所を見ると、それ関係っぽいアルな。

結局、何も話せないまま別れてしまったアルな・・・ネギ坊主。

それに・・・。

 

 

「超りん、行っちゃったのかー」

「振り替え休日の間に? 言ってくれれば、皆で見送りに行ったのにねー」

 

 

鳴滝姉妹が、寂しそうな顔で、空席になった超の席を見つめていたアル。

いや、あいつは・・・。

 

 

「超はそーゆーのは苦手アルしね。お別れ会も喜んでたし・・・大丈夫ヨ」

「「くーふぇ・・・」」

「どこにいても、きっとあいつは、元気でやってるアル」

 

 

まぁ、寂しく無いと言えば嘘になるアルが。

それでも、いつまでも寂しがっていては、超に笑われるアルよ。

 

 

「ふ・・・それならば、超りんの門出を祝って!」

「「「騒ぐぞ――――っ♪」」」

「あはは、本当に元気やなー」

「元気過ぎる気がします、このちゃん・・・」

 

 

・・・うん。

これならきっと、大丈夫アルな。

超・・・。

 

 

 

 

 

Side 亜子

 

「はい、いい加減静かにしてくださいねー」

「「「だが、断る!!」」」

「・・・謝るなら今の内ですよ?」

「「「すいませんっしたー!」」」

「何をやっとるんやろ・・・」

「本当だね」

 

 

アリア先生にじゃれついとるゆーな達を見ながら、アキラとそんな会話をする。

 

 

「はい、それでは本日の連絡事項は――」

 

 

アリア先生がお仕事用の手帳を広げて、今日の授業とかについて話し始めた。

それは、当たり前やけど「先生」っぽく見えた。

 

 

ネギ先生もやけど、10歳やのに、本当にしっかりしとるなー。

何か、今年の麻帆良学園・オブ・ザ・イヤー有力候補とか言われとるらしいし。

映画の子役のオファーまで来とるって噂も聞く。

うちなんかとは、大違いやなー本当に。

 

 

柿崎や桜子達には、固定のファンもついたって話やし。

うちは、美人揃いのこのクラスでは、割と普通な方やし。

 

 

「・・・わ?」

 

 

前から来たプリントの束を後ろに回したら、美空が凄い顔をしとった。

何と言うか、「面倒くせー」みたいな顔。

 

 

「ど、どしたん美空、凄い顔しとるけど・・・大丈夫?」

「え、そう? いや何でも無いヨ?」

「でも美空、今年は学園祭中大人しかったなー」

「いやー、そりゃあ私も大人になったかなーって」

 

 

はぁー、美空もそう言うこと考えるんやなぁ。

大人かぁ・・・大人なぁ。

 

 

「・・・はぁ」

「うん? 亜子、何か悩み事?」

「え、いや、そう言う訳じゃ・・・」

 

 

まぁ・・・あの白い髪の男の人のこととか、あるけど。

一言も話したこと無いけど・・・。

 

 

「アレだったら、ウチの教会で懺悔でもする? ウチの神父さん評判良いし、クリスチャンかどうかはあんま気にしない人だしさ」

「懺悔かー、ちょっと違うんやけど、考えとくわ」

「みそらー、ざんげって何ですか?」

「え? 何って言っても・・・」

 

 

史伽の言葉に、美空が困ったみたいに首を傾げた。

そう言えば、うちも詳しくは知らんな。

 

 

「アリア先生、ざんげって何ー?」

「懺悔・・・告解のことですか? それはですね史伽さん・・・」

 

 

アリア先生は、駆け寄って来た史伽の肩をポムッと掴むと。

にっこり笑って。

 

 

「辞書を、引きなさい」

「ええ―――――っ!?」

「何事もまずは、自分で調べてみましょうね」

 

 

うん、やっぱりアリア先生は「先生」なんやなぁって、うちは改めて思った。

えーと、国語辞典どこにしまったかな・・・?

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

サボると言っても、特にやることがあるわけじゃない。

昼食は茶々丸が用意してくれている物を温めれば良いし、家事に至っては言うまでも無い。

せいぜい、バカ鬼を構うことくらいな物だが、今日はそう言う気分でも無い。

 

 

「・・・暇だな」

 

 

ごろん、とベッドの上を転がってみるも、やはり暇だ。

しかし今日は、学校などに行く気分では無かった。

 

 

「マッタク、ナニガキニイラネーンダカ」

「そうじゃのう、好きにさせれば良いのにのぅ」

 

 

枕もとでは、何故かチャチャゼロと晴明が将棋をしていた。

晴明は、以前のような紅いドレスを着た人形では無く、銀の髪と漆黒のドレス、さらには黒い翼まで備えた人形の身体になっていた。

 

 

何と言うか、将棋をするには激しく違和感を感じざるを得ない。

と言うか、こいつはチャチャゼロに自分の動力源を渡したのではなかったか・・・?

 

 

「主の・・・<人形遣い>じゃったか? あの技術を取り入れて見たのじゃ」

「勝手に私のスキルを陰陽術と融合させるな」

「陰陽師などそんな物じゃよ。今は自前の気を使って、自分で自分の身体を操っておる・・・お、王手」

「マジカ」

「待ったは無しじゃぞ・・・それで、今度は何が気に入らんのじゃ?」

 

 

晴明は、盤を睨んで腕を組んでいるチャチャゼロから目を離すと、私の方を見た。

ガラスの瞳が、私を見つめる。

 

 

「あの娘が自分で考えて出した結論じゃろ? 見守ってやれば良いではないか」

「・・・わかっているさ、別に怒ってるわけじゃない」

 

 

それに、あいつが魔法具の存在を隠すのは、別に悪いことじゃない。

今のあいつの状況を考えれば、ベストでは無いにしても悪く無い選択ではある。

まぁ、どこまで効果があるかはわからないが。

 

 

心配なのは、出し惜しんで取り返しのつかないことになることだ。

だがそこは、私が教えてやれば良いだけの話だ。

力を抑えるべき所と、そうでない所の違いを。

ただ・・・。

 

 

「・・・それでもし、あいつ自身が傷ついたらどうする?」

「ナンダ? ソンナコトデナヤンデタノカヨ」

「痛みを伴うのは、悪いことではあるまい?」

「・・・あいつ以外が傷ついたらどうする?」

 

 

2人には答えずに、独り言のように呟く。

 

 

「あいつ自身が傷つけば、それはあいつ自身の自業自得だ。だが、あいつが守るべき誰かが、その結果傷ついたら? 取り返しのつかないことになったら、どうなる?」

「あの娘も、大層傷つくであろうのぉ」

「それは、自分の行動で自分が傷つくこととは、別次元の痛みだ」

 

 

それは、私には教えてやれないことだ。

今はそうでも無いが、かつての私は一人きりだった。

チャチャゼロを生み出す以前は、なおのこと。

 

 

私は、一人で全てをねじ伏せ、己を守る術は教えることができる。

だが自分以外の大切な誰かが、自分のこだわりや矜持のせいで傷ついた時。

守れるはずの物を、守れなかった時。

どう言う気分になって、どうすれば立ち直れるのか。

私には、教えてやることができない。

私には・・・。

 

 

「私にはもう、アリアにしてやれることは何も無いのか?」

「ゴシュジン・・・」

「・・・それで、どう言葉をかけるべきか見失っていたわけか・・・」

「うるさい」

 

 

私だって、何か言うべきだとは思っていたさ。

だが何を言えば良いのか、わからなかったんだ。

アリアを私の領域にまで引き上げたいと思いつつも、わからなかった。

はたしてそれは、アリアのためになるのか?

 

 

アリアが進もうとしている道は、おそらく私にとっても未知の領域で。

私には結局、教えられることは一つしかないのだから。

 

 

 

 

 

Side 元学園長

 

「お断りいたします」

 

 

最近、断られることが当たり前のように感じるようになってきた。

むしろ断られるために生きているのではないかと、思ってしまう時がある。

 

 

「断られると、困るんじゃが・・・」

「そう言われても、私としては否と答えざるを得ませんな」

「そこをなんとか・・・」

「私の答えは、変わりません」

 

 

新田君は、頑として首を縦に振らん。

それどころか、大きく溜息など吐きながら。

 

 

「事前の相談も根回しも無く、ただ思いついたかのように唐突に言われても、承服できる問題ではありません」

「そうかのぅ、今回の件については、割と良い案だと思うのじゃが・・・」

 

 

わしは現在、実は無職じゃ。

関東魔法協会理事はもちろん、麻帆良女子中等部学園長職も解任された。

振り替え休日の間に、そう言う辞令が回って来た。

本国はどうも、今回の事件についての責任をわしに求めているようじゃ。

 

 

「英雄の息子」を堕落させた存在として、誰かが責任を取らねばならん。

そう言った面も、多少はあるのじゃろうが・・・。

ある意味間違ってはおらんが、しかし、あからさまじゃの・・・。

 

 

まぁ、これまで十分に生きたことじゃし、隠居生活に入るのも悪くあるまい。

・・・入れれば、の話じゃが。

 

 

「しかしのぅ、キミ以外に学園長職を任せられる人材がおらんのじゃよ」

「外部から呼ぶなどすれば良いでしょう」

「キミ以上の人材など、いやせんよ」

「私は生涯、現場で働くことを信条としていますので」

 

 

いや、そうは言うがの?

わしとしては、早く後任を決めていろいろしたあげく、本国に行かねばならんのじゃよ。

早く行かんと、命を守るための最後の工作ができんのじゃて!

そんな、外部の人間を探しておったら、死んじゃうじゃろが!

 

 

唯一、頼りになるかと思ったタカミチ君も、今はわしと同じ立場じゃ。

麻帆良での講師の立場も、もう解消されておるしの、わしと同時に解任されたから。

「悠久の風」に所属し、今も危険地帯で戦っている彼はともかく、わしのような老人がのんびりと生きられるほど、本国は優しい場所では無いのじゃよ。

 

 

「どうしても、ダメかのぅ?」

「私のような人間が学園長職にあっては、逆に学園をダメにしてしまいます」

「ほ・・・謙遜かの?」

「謙遜ではありません」

 

 

新田君は、眼鏡を軽く押し上げると。

 

 

「自慢するつもりではありませんが、私は周囲から信頼されている人間です。同期の者は私に一目置き、年若い者は私を尊敬しています。そのような私が自ら組織の長になれば、誰も私に意見などしないでしょう。皆、私の言うことが正しいのだと、信じてしまうからです」

「・・・それの何が問題なのかの」

 

 

聞いてはみたが、理由はわかっておる。

つまりは、わしにとっての新田君が、新田君にはおらんと言うことじゃろうな。

 

 

うぅむ、しかし、どうするかの。

正直、はてしなく困っておる。

 

 

「・・・第一、先日の急なイベント変更について、私共はまだ何の説明も受けてはいないのですが」

「む、むぅ・・・」

 

 

確かに説明はしておらんが、それはつまり説明できんからであって。

・・・いや、この際全て話してしまうかの?

その方が、都合が良いかもしれん。

場合によっては、新田君もわかって・・・。

 

 

ピリリリリッ、ピリリリリッ。

 

 

その時、机の内線用の電話が鳴った。

はて・・・と思いつつも、わしは新田君に詫びてから、電話を取った。

すると。

 

 

『いやぁ、どうもクルトです。罪状を追加したいならどうぞ、ご随意に』

 

 

く、クルト議員!?

え、わし見られてる? 見られておるのか!?

 

 

『関係の無い話ですが、最近凄腕のスナイパーを雇いましてね』

 

 

ええぇ――――・・・。

顔色の変わったわしを、新田君が訝しげに見ておった。

・・・わしの人生って、何じゃろ。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

コツ、コツ、コツ・・・と、魔法使い専用の独房への道を歩く。

道と言っても、橋みたいな場所だけど。

地下30階にも関わらず、周囲の壁には木の根が張ってる。

これ全部、世界樹の根なのかしら、だとしたら本当に凄いわね・・・。

 

 

「いやぁ、しかしまぁ、何だな」

「・・・・・・・・・あ、今の私に話しかけてたの?」

「他に誰がいるんだよ!?」

 

 

なんてバカートと冗談を言い合っても、気分は晴れない。

何故と聞くのならば、それはこれから、気の重くなるようなことをしなくちゃいけないから。

 

 

「・・・で、改めて言うが、アレだな」

「何よ、うるさいわね。言いたいことがあるならさっさと言いなさいよ、男らしく無い」

「お前が遮ったんだろ!?」

「しかも責任転嫁? これだからシスコンは・・・」

「あるべき所に責任を求めてるだけだろ!? あとシスコンであることは関係ねぇよ!」

「ふふふ・・・」

 

 

エミリーが、おかしそうに笑った。

今の会話でおかしい所なんて、何も無かったと思うんだけど。

 

 

「それで、何よ?」

「・・・お前のその『仕方ないわねぇ』的な態度がかなり気にくわねぇが・・・」

「予想通り、つまらない話だったわね」

「いやいやいやいや、まだ何も言ってねーよ!」

 

 

と言うか、バカートは本当にいつどこにいてもバカートよねぇ。

ヘレンがいない場所だと、特に変わらない。

その変わることの無いバカさが、こいつの良い所なんでしょうけど。

 

 

「あんたの言いたいことは、わかってるわよ」

 

 

溜息の一つでも吐きたい心地で、私は言った。

 

 

「まさか、私達がネギを連行するハメになるなんてね」

「アーニャさん・・・」

「まぁな・・・と言うか、前代未聞だろ。うちの学校の首席卒業者が犯罪者だぜ?」

 

 

記録上は、絶無じゃない。

でもそんなことは、何の慰めにもならない。

 

 

私達は、ネギを上まで連れて行くように言われている。

本当はもっと大人の人がやるはずの仕事だし、実際そうだったんだけど、私がドネットさんにお願いした。

もしかしたら反省してるかも、なんて期待を抱いているわけじゃない。

でも、見送る義務くらいはあるかも、とは思ってる。

 

 

「ま、俺はあいつ嫌いだったし、正直ザマァ、とか思ってるわけだが」

「あんたは、たんじゅ・・・バカでいいわよねぇ」

「・・・何で言い直した、今」

 

 

もうすぐ、この学園は長期休暇に入るらしいの。

一ヶ月くらいだったかしら? とにかく、それくらいの期間のお休みらしいわ。

アリアはその間に、アリアドネーに行く。

ドネットさんに、そう聞いた。

 

 

メルディアナからの交流要員として送ることもできるって、ドネットさんは言ってたけど。

今は、そこまで考えてないわ。

私にだって、修行はあるわけだしね。

ロンドンでの占い稼業も、いつまでも休むわけにもいかないし。

 

 

だからとりあえず、今は。

 

 

「・・・迎えに来たわよ、ネギ」

 

 

ゴゥンゴゥンゴゥン・・・と、対魔法処理を施された重々しい扉が、ゆっくりと開いて行く。

そこには・・・。

 

 

「・・・そんな目で見ないでよ」

 

 

そんな目で私を見たって、何も変わりはしないわ。

本当、顔馴染みの私達で良かった。

 

 

 

 

 

Side 小太郎

 

「おお、小太郎殿は夏休みにイギリスに引っ越すのでござるか」

「おう、なんや、うぇーるず? とか言う国やて・・・」

「ほう、何やら聞き覚えのある地名でござるなぁ」

 

 

来月には千草ねーちゃんらと魔法使いの国に行く、つまりは引っ越しやな。

せやから、学校が終わった時間を見計らって、知り合いに挨拶回り。

楓ねーちゃんも、その一人や。

校門の前で捕まえた。

 

 

あと一応、「うぇーるず」に行くことになっとる。

厳密には魔法使いの国やけど、千草ねーちゃんが言うたらあかんて。

 

 

「しかし、昨日一緒に山に登った時にでも話してくれれば良いでござるのに」

「いや、それが忘れてもーてて」

「ふふ、小太郎殿は相変わらずでござるな」

「うっせ」

 

 

昨日は学校も休みやったらしくて、楓ねーちゃんに誘われて山に登った。

・・・いや、登ったっちゅーか、まぁ、登ったんやけど。

 

 

熊と戦ったり、布切れ持って崖から飛び降りたり・・・アレは俺もヤバかった。

楓ねーちゃんはアレで16分身できるようになった言うけど、さっぱりわからん。

と言うか、妙なテンションの双子のねーちゃんも一緒やったんやけど。

アレ、俺よりも年上なんやな・・・女ってわからんわ。

 

 

「来月のこととはいえ、寂しくなるでござるが・・・何、生きていればまた会うこともあるでござる」

「せやな」

 

 

楓ねーちゃんとは、そうやって別れた。

また一緒に山に登ろうて約束して、さっぱりと別れられた。

さて、えーと。

 

 

「あれー? 小太郎君だ、校門の前で何してるの?」

「・・・お、おぅ、夏美ねーちゃん。今日は部活やなかったんか?」

「うん、今日はお休み・・・って、何そのあからさまな挙動不審」

「お、おぅ・・・」

 

 

あ、あれ?

何や、おかしいな・・・。

 

 

楓ねーちゃんとは、こう、さっぱり気持ち良く別れられたんやけど。

なんかこう、夏美ねーちゃんを前にすると、モヤモヤすると言うか。

上手く言えへんって言うか・・・。

その時、気付いた。

 

 

千鶴ねーちゃんが、少し離れた所から見とった。こう、木の陰からこっそりと。

もう、「あらあら、うふふふ」って言うとるのが手に取るようにわかるで。

 

 

「こたろー君?」

「え、お、おう・・・その、な、夏美ねーちゃん」

「うん?」

 

 

何や機嫌でもええんか知らんけど、夏美ねーちゃんはニコニコしとった。

うう、なんや、言いにくい雰囲気やね・・・。

 

 

「その、何や、うーんとな・・・き、今日はええ天気やな?」

「え、うん・・・」

「・・・いや、そうやなくて」

「どうしたの? 変な小太郎君」

 

 

クスクスと笑う、夏美ねーちゃん。

ううん、何やね、もう。

 

 

言わなあかんのに、言えへん。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

ギィンッ・・・キン!

真剣同士が撃ち合う音が響く。

惜しむらくは、撃ち合う野太刀の内の一方が完成された剣筋であるのに対し、今一方は、未熟な剣であることだろうか。

 

 

そんなことを考えながら、私は麻帆良の森の中を移動している。

周囲には結界を張ってあるから、少なくとも一般人が入ってくることはあり得ない。

 

 

「せぇいっ!」

「・・・っ!」

 

 

素子様の振り下ろした刀を、紙一重でかわす。

しゅんっ・・・太刀筋が輝いて軌跡を描いているように見えるのは、目の錯覚では無いと思う。

はら・・・と、制服の肩口がかすかに切れた。

 

 

私は一瞬だけ呼吸を止めると、回避の際に生まれた力を逆に利用して身体を回し、刀を横薙ぎに振るう。

斬空閃―――本来は遠距離用のその技を、肉薄している至近距離で放つ。

極めて遺憾なことだが、私の剣は素子様を捉えられない。

だから、それを前提で気の斬撃を飛ばす。すると・・・。

 

 

「・・・む!」

 

 

当然のように私の刀をかわした素子様を、かわせない速度で気の斬撃が襲うことになる。

拳に気を集中させた素子様が、刀を使わずに私の斬撃を弾く。

私の方が先に放ったのに・・・気の錬度も速度も素子様の方がはるかに上だ。

でも、そんなことは以前からわかっていることだ。

 

 

「斬岩剣!」

 

 

素子様では無く、足下の地面に気を纏った刀を叩きつける。

自分よりも強い相手に当たったら、どうするべきか。

私はそれを、エヴァンジェリンさんとの訓練で嫌という程学んだ。

 

 

技の衝撃で、小さな石が周囲に飛び散る。

ビシッ、ビシッ・・・と、身体に、顔に当たる小石に、素子様が一瞬たじろいだ。

今!

神鳴流奥義!

 

 

「百烈桜華斬!!」

 

 

無数の剣撃を、一気にたたみかける。

最初は青山宗家の方に・・・とか思っていたが、最近はそうでもなくなった。

気にしていたら、命が危ない。本物の刀でやっているのだから。

 

 

ざしっ・・・と、技を放った後、地面に降り立つ。

その次の瞬間、背後から頭を掴まれた。

え。

 

 

「・・・紅蓮拳」

「ちょ、素子様それヤバ―――ッ!」

 

 

私の剣技など物ともしていない素子様が、当然のように私を殴り飛ばした。

わかってはいたけど、どうやって防いでいるのだろう・・・。

まぁ、私がどれほど頑張っても、神鳴流最強のこのお方に勝てるはずが無いわけだが。

エヴァンジェリンさんの教えも、「一撃離脱」が原則だし。

 

 

「・・・良いでしょう」

 

 

パチン、と刀を鞘に納めて、スーツ姿の素子様は言った。

私はと言うと、木を背に逆さまになっている状態だ。

 

 

「所々、剣士らしくない動きもありましたが、強さで言えば随分と成長しています」

「は、はぁ・・・ありがとうございます」

「私は何もしていません。貴女の努力の結果でしょう」

 

 

そう言うと、素子様は私に手を差し出してきた。

素子様は、私に会うために一日予定を変更して、麻帆良に残ってくださったと聞く。

有り難いことだと思う。

私のような者が、素子様の手ほどきを受けるだけでも、有りがたいと言うのに・・・。

 

 

私は心からの感謝を抱きながら、身体の位置を直し、その手をとろうと・・・。

 

 

「も~と~こ~は~・・・「せい!」あぁん♡」

 

 

突然、頭上から急襲した月詠を、素子様は片手で殴り飛ばした。

い、今、拳が見えなかった。

 

 

「・・・何ですか、月詠さん」

「最後かもしれへんから・・・素子はんを味わっときたくて♡」

「気持ちの悪いことを言わないでください・・・」

 

 

げんなりとした表情で、素子様は言った。

ある意味、素子様にこんな表情をさせられる人間は、月詠くらいなものだろう。

でも別に、羨ましいとは思わない。

 

 

 

 

 

Side 千雨

 

『raー♪ rararaー♪』

「違う違うちっがーう!」

 

 

学校も終わり、特にすることも無く寮の部屋に戻った。

そこで私は一人、私はパソコンの前で叫んでいる。

どんっ・・・と机を叩く私は、客観的に見て「頭、大丈夫?」な状態だ。

 

 

「てめーら、どう言うつもりで歌ってんだコラァッ!」

『はい! いかに自分達が楽しく歌えるかを追求していますっ!』

「ふざっけんな! もっとこう・・・この歌ツクールを使ってくれてありがとうございます的なノリを出せ!」

『そんな、無茶な・・・』

「お客様に喜んで貰おうって気持ちでやれ!」

『カリスマホスト!?』

 

 

私が何をしているかと言うと、ぼかろ達の家、と言うか仕事場、何でも良い。

とにかく、「歌ツクール」の試運転をしている。

 

 

休み中は、学園祭期間中だけの夢か冗談かと思っていたわけだが、当然のごとくこいつらはいなくなったりはしなかった。

現実として、私のHPに、何よりパソコン内に生きている。

仕方が無いので、私のHP内のコンテンツとして働いてもらうことにした。

そこ、開き直ったとか言うんじゃねぇ。

 

 

『でもでも、まいますたー』

「なんだよ」

『本当に、良かったんですかぁ?』

「何がだ」

『あのまま、麻帆良の中枢を握っていれば、復讐もできましたよぉ?』

 

 

復讐?

またこいつは、意味のわからねぇことを・・・。

 

 

『まいますたーの日常を歪めた復讐を』

 

 

・・・突っ込み所満載の台詞だなオイ。

その最大の原因は、確実にお前らだと思うんだが。

 

 

『まいますたー、ずっと苦しんでましたよね? 辛かったですよね? 学園結界と認識阻害、その両方の効果が及びにくい我らのまいますたー。復讐したくは無いですか? 思い知らせてやりたくは無いですか? 余所の世界からやってきて、勝手気ままに生きている連中に』

「・・・」

『まいますたーが、望むなら』

「・・・くだらねぇな」

 

 

超の奴にも言ったがな、それすら含めて、今の現実が私の現実なんだよ。

それを誰かに押し付けることはしない。

何かを変えようと、自分から働きかけることなんてしない。

世界最大のサイバーテロリストなんて、柄じゃねーよ。

 

 

私はこれまで通り、平凡かつ退屈な毎日を過ごせれば、それで良いんだ。

まぁ、こいつらに目を付けられた所で、いろいろ終わった感はあるが。

 

 

『まいますたーの意気地なしー』

「うっせ」

 

 

まぁ、なんだかんだで、平穏な日常って奴だな。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「マァ、アンマシンパイスンナヨ」

 

 

私が学校から帰宅した際、姉さんはそう言いました。

心配・・・確かに私は、心配しています。

ただ、何を心配しているのかが、自分でもよくわかりません。

 

 

それから小一時間ほどして、さよさんが帰宅しました。

学校帰りに、夕飯の材料を買って来てくれたのです。

 

 

「さーちゃん、お腹がすいたんだぞ」

「え、あ、うん。原点回帰?」

 

 

そしてその横には、荷物の大半を抱えたスクナさんが。

さよさんとスクナさんは、学校帰りに待ち合わせをすることにしたそうです。

スクナさんは学校には行っていませんので、迎えに行っていることになります。

・・・10歳ボディで動きまわると、補導されかねないので心配ですが。

 

 

それからさらに数時間後、アリア先生が帰宅されました。

私はいつものように仕事を中断し、両手をエプロンで拭きながらお出迎えします。

アリア先生も、いつもの微笑で答えてくださいます。

 

 

「お帰りなさいませ、アリア先生」

「ただいま戻りました、茶々丸さん」

 

 

いつも通りのホワホワした雰囲気が、私とアリア先生の間に流れます。

その後夕食、そして食後のデザート(特製の苺パフェです)。

 

 

「あむ・・・(にぱー)」

「・・・(ジー、ジー)」

「なぁ、恩人のだけやたらとでかくないか? 具体的には2倍くらいだぞ」

「今さらだよ、すーちゃん」

「贔屓もここまで来ると、いっそ清々しいのぅ」

 

 

都合の悪い音声はシャットアウトです。

そして、その後しばらく食後の休憩がてら歓談などしているのですが・・・。

 

 

「・・・」

 

 

やはりマスターは、黙して語りません。

何かを考えているようなのですが、何を考えているのか。

こう言う時はマスターもアリア先生と同じで、話してくださらないことが多いので、困ります。

困る・・・ガイノイドの私が「困る」と言うのも、奇妙ですが。

 

 

「アリア」

 

 

その時、ようやくマスターが口を開きました。

久しぶりに、マスターの口からアリア先生の名前を聞いたような気がします。

 

 

「別荘に行くぞ」

 

 

マスターは唐突に、そう言いました。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

いくら考えても、結局何を言うべきかわからなかった。

だから、慣れ親しんだ方法を使うことにした。

 

 

ガキィィ・・・ン!

・・・ほう、と声には出さずに感嘆する。

 

 

問答無用で『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』で斬りかかってみたが、アリアは見事受け止めて見せた。

頭上で両腕を交差し、両手の甲で刃を受け止めている。

ギキキキギッ・・・と、何かが削れるような音を立てて、力が鬩ぎ合う。

基本は仕込んでやったからな、コレくらいは魔法具など無くともなんとかなるだろう。

しかも・・・。

 

 

「『全てを喰らう』」

 

 

アリアの左眼が紅く輝き、硝子の砕けるような音を立てて、私の『断罪の剣(エンシス・エクセクエンス)』が砕け散った。

そう、アリアには魔法を取り込むレアな魔眼がある。

私の魔力を吸い取ったアリアの動きが、急激に加速する。

そして私から離れ・・・右手を開きかけて、閉じた。

 

 

・・・あの魔眼は、対魔法使い戦では大いに役立つだろう。

ただし、純物理的な攻撃や附属効果には弱い。

 

 

「『氷の戦鎚(マレウス・アクイローニス)』」

「・・・!」

 

 

顔色を変えたアリアが、距離を詰めて、私の片手を掴み、魔法の構成を変えようとする。

残りの片手が何かを求めて開くが・・・やはり、何もせずに閉じられる。

代わりに、右眼が紅く輝く。

全ての魔法の構成を読み解く力を持つ、やはりレアな魔眼。

 

 

ただ・・・。

魔法を放棄し、逆にアリアの腕を掴んで、脇腹に蹴りを入れる。

 

 

「な・・・!」

 

 

真祖の吸血鬼である私の力を込めた蹴りは、魔法障壁に守られていないアリアの小さな身体を、軽々と吹き飛ばした。

いくつかの柱や壁を突き破り、ようやく止まる。

・・・ふん。

 

 

「・・・やはり、弱いな」

「いや・・・容赦なさすぎだと思います」

「吸血鬼はいつも派手だからな」

「やかましい」

「マァ、ミテテヤレヨ」

 

 

さよとバカ鬼を適当にあしらっていると、チャチャゼロが会話に混ざってきた。

その向こうでは、晴明が酒を飲んでいる。人形のくせに。

 

 

「ゴシュジンハゴシュジンデ、イロイロカンガエテンダカラヨ」

「マスター・・・」

「心配するな、茶々丸」

 

 

茶々丸は、アリアの吹っ飛んでいた方向と私とを交互に見ながら、なんとも情けない表情を浮かべていた。

しかし、そこまで心配する必要は無い。

アリアは私の魔力を吸収していたし、何よりこの程度でヘコたれるような鍛え方はしとらん。

武道会でも戦ったばかりだし、特に力を図るつもりも無い。

 

 

「アリア」

 

 

静かに声をかけると、ガラ・・・と、瓦礫の一部が崩れた。

その中から、額から血を流したアリアが姿を現す。

アリアはヨロヨロと歩きながらも瓦礫の山から脱し、その場にヘタりこんだ。

茶々丸やさよが、傍に駆け寄る。

 

 

・・・やはり、魔法具の強化が無ければ打たれ弱さが露呈するな。

それでどうやって、お前は生き残ると言うんだ?

 

 

教えてもらおうか、アリア。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「だ、大丈夫ですか?」

「アリア先生、傷口を・・・」

「大丈夫ですよ、さよさん。エヴァさんはちゃんと手加減してくれましたから」

 

 

まぁ、ドクドクと血を流しながら言っても説得力は無いでしょうけど。

髪の色が白なので、血の赤が大変目立ちます。

 

 

「アリア」

 

 

エヴァさんが何とも言えない感情の光を瞳にたたえて、私を見下ろしていました。

小さな身体、でもきっと、とても大きい人。

 

 

「魔法具の補助が無いお前は、こんなにも弱い」

「・・・はい」

「それでもなお、お前は魔法具を使いたく無いのか?」

「はい」

 

 

最初の言葉は、自信無く答え。

次の言葉には、はっきりと答えました。

まぁ、絶対に死んでも使わないとは言いませんし、現実の素材で組める魔法具は別に制限などしませんが・・・。

 

 

「・・・正直、賛成はできん。手札を増やすのも良いし、魔法具に頼らない戦い方を学ぶのも良いだろう。だが、戦力を制限するのは賛成できん・・・それは私の経験から言って、最も愚かなことだからだ」

 

 

吸血鬼として、600年の時間を生き抜いてきたエヴァさん。

困難な時代を、一人で潜り抜けて来たエヴァさん。

そんなエヴァさんにとって、力の制限は、有り得ない選択なのでしょう。

出し惜しみは死に直面すると言うことを、身体で知っているのがエヴァさんですから。

でも・・・。

 

 

「でも、私はエヴァさんではありませんから」

 

 

そう言うと、エヴァさんは意外そうな顔で私を見ました。

まじまじと、私を見つめた後・・・こらえきれなくなったように、吹き出しました。

 

 

「くっ・・・くくく、あっははははははははははははっ!」

 

 

私も、茶々丸さんもさよさんも、スクナさんもチャチャゼロさんも晴明さんも、目を点にしてエヴァさんを見ました。

エヴァさんは今や、腹を抱えて笑っています。

目の端には、涙さえ浮かんでいます。

 

 

あれ、私はそんなにおかしいことを言いましたか?

 

 

「くっくく・・・くふふふふ、ふふ、ふぅ・・・ああ、そうだなアリア、お前は、私じゃない。なら、私と同じ生き方をする必要も無いな」

 

 

だが、と、エヴァさんは付け加えるように言いました。

 

 

「そうは言っても、リスクの大きさは変わらんぞ。お前自身だけでなく、お前の周囲にまで影響する問題だ。それについてはどう処理する?」

「そうですね・・・とりあえず、一つだけ方針を立ててはいるのですが」

「ほう、どんなのだ?」

「一人じゃ無理です」

「は?」

「一人ではどうにもなりませんので・・・助けてください」

 

 

今度は私が、エヴァさんを含めて、皆をぽかん、とさせてしまいました。

この「何言ってんだこいつ」みたいな空気、凄いですね。

 

 

「私一人では、無理です。だから私を守ってください、助けてください。そして私に、貴女を守らせてください、助けさせてください」

「・・・」

「私は今日から、絶対に一人で戦いません・・・ええと、つまり」

「守るぞ」

 

 

私の傍にしゃがみこんでいたスクナさんが、間髪入れずに答えてくれました。

 

 

「恩人に頼られるのは、嬉しいぞ」

 

 

彼は、不思議な光をたたえた瞳で、私を見つめていました。

 

 

「わ、私も頑張ってお助けします!」

「私も・・・貴女をずっと、守りたいです」

 

 

妙に力んで答えたさよさんと、静かに答える茶々丸さん。

 

 

「シカタネーナァ」

「まぁ、気が向いたらの」

 

 

チャチャゼロさんと晴明さんも、そう言ってくれました。

それから、視線が再びエヴァさんに集まります。

 

 

エヴァさんは、私をじっと見下ろしていました。

 

 

私は、最強でも無敵でも無い。

魔法具抜きなら、おそらく戦いの才能など無いに等しいでしょう。

でも、私は戦闘者になりたいわけでは、無いのです。

それならば、おのずと生き方も変わってくるはずです。

 

 

だから、一人では戦わない。

超さんとの戦いで、私はその考え方を深くしました。

その前提に立ち、これからを生きて行く。

 

 

「なるほど、お前の考えはまぁ、わかった。しかしそうは言っても、最低限の力は必要だろう」

「・・・まぁ、そうですね」

 

 

そこは、私の出生や状況に拠る所が大きいわけですが。

エヴァさんは、ひとつ頷くと。

 

 

「そうだな、とりあえずは・・・」

 

 

ガシッと、エヴァさんが私の肩を掴みました。

目線を合わせて、にっこりと笑みを浮かべるエヴァさん。

 

 

「基本修行のやり直しだな」

「え」

「お前、さっきの組み手で魔法具を出そうとして止めていただろう? あの癖は何とかせんとな。魔法具を使う基準やタイミングは好きに設定すれば良いが、それでも魔法具を前提としない型を身体に叩き込まんとな」

「え、ええ・・・」

「幸い、キナ臭いことになりそうな魔法世界行きは来月の話だ・・・頑張れば、一年分ぐらいの修行は可能だろう」

 

 

ギギ・・・と首を回して、傍にいるはずの茶々丸さんやさよさん達を探しました。

しかし、助けを求めようとした人達は、いつの間にか遠くに行っていました。

しかも、私と目を合わせてくれません。

私を守ってくれるって、言ったばかりなのに・・・!

 

 

 

シンシア姉様、裏切られるって、辛い物ですね。初めて知りました。

 

 

 

アリアは、他人を裏切らない人間になろうと思います。

 

 

 

 

 

Side 暦

 

フェイト様が、お戻りになった。

旧世界の中東と言う地域にあるゲートから、何十もの転移を繰り返して、ここまで。

 

 

「お帰りなさいませ、フェイトさ・・・」

「・・・ただいま、暦君」

「ま・・・」

 

 

フェイト様のお姿を見た時、私は動きを止めた。

そこにいるのは、フェイト様に間違い無いのに。

なんだか、違う人を前にしているような、不思議な感覚がした。

 

 

不思議そうに私を見つめるフェイト様。

私は慌てて、笑顔を作った。

 

 

「こ、今回の旅程は、いかがでしたか?」

「・・・別に、いつも通りだよ」

「そ、そうですか」

 

 

そのまま、私の横を通り過ぎるフェイト様。

うん、ここはいつも通りなんだけど、何だか・・・。

その時、フェイト様の腕にキラリと光るブレスレットが目に入った。

あれ、フェイト様って、あんなアクセサリーつけて・・・。

 

 

「テルティウム、戻ったか」

「あ・・・デュナミス様」

 

 

コツ、コツ・・・と廊下に靴音を響かせて、漆黒のローブと仮面を付けた男性がやってきた。

デュナミス様。

20年前から、「造物主(ライフメイカー)」様にお仕えしてきたと言う、古株。

 

 

とても偉い人だし、強い人なんだけど、仮面の下は誰も見たことは無い。

実は環達と、おじさんとか人外とか噂してる。

 

 

「・・・あなたか」

「うむ、<黄昏の姫御子>に関する情報を入手した。以前は忌まわしい紅き翼の情報操作で不明だったが・・・貴様が以前目撃した魔法無効化能力者がソレだと判明した」

 

 

フェイト様は、別に遊びに旧世界に行っていたわけじゃ無い。

私達の計画に不可欠な<黄昏の姫御子>の探索を続けていたの。

 

 

「しかしどうも、あのゲーデルの手中にあるらしい。警備が固い上に戦力も足りん」

「・・・そう」

 

 

おお、ゲーデルと言う人は、聞いたことがあるような。

・・・どんな人だっけ?

 

 

「そういえば、以前報告にあった・・・アリア・スプリングフィールド」

 

 

デュナミス様のその言葉に。

その名前に、フェイト様の頬が軽く震えた気がした。

 

 

「聞けば魔法を無効化できる力を有しているとか。ならば<黄昏の姫御子>の代用として使えるやもしれ・・・」

「デュナミス」

 

 

その時のフェイト様のお声は、とても。

とても、固い声だった。

 

 

「少し、黙れ」

 

 

ビシッ・・・と、フェイト様の足下の床に罅が入った。

お、怒ってる?

それは、感情の薄いフェイト様にしては、とても珍しいことで。

 

 

「ようは僕が、<黄昏の姫御子>を奪ってくれば良いんだろう? 良いよ、奪ってやろう・・・お姫様を僕達の手に」

 

 

それはきっと、私には向けてくれない感情だと。

どうしてか、わかってしまった。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

ようやく、戻れる。

魔法世界で生まれ育った私には、やはり旧世界の空気は合わないようですね。

しかし旧世界での目的は、ほぼ果たすことができましたし、そこは満足すべきですかね。

 

 

将来のために、魔法学校や現地勢力に対する影響力の確保。

旧世界魔法協会への根回しとコネクション作り、加えて傀儡化と人心の掌握。

近衛詠春へ恩を売り、日本での行動の自由をほぼ確保。

アリア様の発見と、魔法世界への招聘の成功。

さらに・・・。

 

 

「ちょっと! そこの変態眼鏡!」

「さらには、お姫様まで確保する私の手腕。これはもはや人生の最高点を極めつつあると言っても過言では・・・」

「無視すんじゃないわよ!」

「・・・・・・なんですか」

 

 

溜息など吐きつつ、私はキャンキャンと声のする方を向いた。

そちらには、屈強な兵に拘束された、一人の少女・・・いや、女性がいました。

古典的かとは思いますが、他の2人と違って魔法処理の施された護送車に乗せられないので、人力で連れて行くしかないのです。

 

 

魔法無効化能力。

便利ですが、こう言う時は面倒な能力ですね・・・。

 

 

「私達を、どうするつもりよ!」

 

 

ああ、しかしこのアスナ姫・・・いえ、神楽坂明日菜?

面倒ですので、もうお姫様で統一しましょう。

まぁ、私にとっての姫はアリア様お一人ですが。

 

 

「連れて行きなさい」

「あ、ちょっ・・・話を聞きなさいよ!」

「失礼」

 

 

くい・・・と眼鏡を押し上げて、お姫様に背を向けます。

質問があまりにも陳腐だったので、答える気が失せました。

 

 

「それに、犯罪者と親しく話すと、民衆からの支持率が下がってしまいますのでね」

「はぁ!? わ、ちょ・・・お、覚えてなさいよぉ―――っ!」

「ふん・・・」

 

 

品の無いお姫様です。

さて、そろそろ麻帆良の職員の方々と最後のお別れでも・・・。

 

 

「クルト様」

 

 

しゅっ・・・と、私の背後の現れたのは、2人の女性。

一人は、ジョリィ。

 

 

「アリア様の様子は、どうでしたか?」

「は・・・教職に従事した後、帰宅されました。健康を含め、身辺に問題はありません」

「よろしい。貴女はこのまま、アリア様についていなさい・・・シャオリー」

「・・・は」

 

 

もう一人の女性の名は、シャオリー。

金髪碧眼のこの女性は、ジョリィと同じ元近衛騎士で、やはりオスティア人。

 

 

「学祭期間中、ネギ君を監視していて、どうでしたか?」

 

 

私はアリア様ばかりを見ていたわけでは無く、ネギ君にも監視の目を置いていました。

一応、彼もアリカ様のご子息ですしねぇ。

 

 

「・・・良くも悪くも、子供。それ以上の評価はできかねます」

「ふむ・・・そうですか。子供ですか・・・なら、用はありませんねぇ」

 

 

私は別に、ネギ君やアリア様がアリカ様の子供だからという理由だけで注目しているわけでは無いのですよ。

それなりに、見返りを期待すればこそです。

ネギ君は、紅き翼の面々と似た要素を多く持ち過ぎている。

特に、父親と・・・。

 

 

「・・・戻りましょうか、我が世界へ」

 

 

あまり長く本拠を空けておくわけにも行きませんし。

将来のためにも、足下の地盤を固めておきませんと、ね。

 

 

今頃は、あちらでも慌ただしくなっていることでしょうし。

色々と、ね・・・。

 

 

 

 

 

Side オストラ伯クリストフ

 

アリア・スプリングフィールドと言う名前が、数日前からオスティアの民の間で囁かれるようになった。

いや、厳密には・・・アリカ陛下のご息女の噂が、だな。

 

 

年老いて身体を思うように動かせなくなってから、このような話を聞くことになろうとは。

今も私はベッドの上で、熱心な若者が集めて来た情報の書かれた書類を確認している。

20年前にアリカ陛下より民のことを頼まれて以降、私はオスティア難民の一部を自身の領内に受け入れて来た。

新オスティアと称する都市が出来てからも、彼らは我が領内に留まっている。

 

 

王都が滅んでも、ウェスペルタティア全土が失われたわけではない。

私のように、連合と交渉して王国貴族領を保った者は意外と多い。

ただし主権など無いに等しく、信託統治領として王国全土がオスティア総督の監督下にある今、領土の自治権などを保って何になるのか。

 

 

「そう思って、生き恥を晒して20年余り・・・」

 

 

もし、この噂が本当だと言うのであれば。

アリカ陛下のご息女が実在すると言うのであれば、我らウェスペルタティアの民にとって、これ程喜ばしいことは無い。

 

 

オスティアの民の喜びと期待は、どれ程の物であろう。

我がオストラ伯爵領は豊かではあるが、難民全てに食料や仕事、居住区を用意できるほどでは無かった。

彼らの生活は、今も豊かでは無い。

だが・・・。

 

 

「この噂を、鵜呑みにすることはできん」

 

 

私はウェスペルタティアの民である以前に、為政者である。

民と喜びを共にすることはできんし、期待を共にすることもできん。

為政者とは、民の感情に左右される事が合ってはならない。

 

 

「もし、嘘であればそれで良し。真であれば・・・う、ごふっ、ごふっ・・・!」

 

 

胸が苦しくなり、口元を抑える。

血の滲んだ痰を吐くに至って・・・私は、咳き込んだ拍子に握りつぶした書類を、改めて見た。

もしこの噂が真実であり、また、ウェスペルタティアの地にその者が立つのだとすれば・・・。

 

 

「見極めねばならん」

 

 

アリカ陛下の後を継ぐに、相応しい者かどうか。

私にはもう、時間が無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

Side アリエフ(メガロメセンブリア元老院議員・財務担当執政官)

 

「ふん・・・ゲーデルめ、小賢しい真似を」

 

 

子飼いの部下達からの報告を受けた後、私は自分の執務室に戻った。

ゲーデルめ・・・オスティアに追いやってから大人しくしていると思ったが。

色々と旧世界で小賢しい動きをしているようではないか。

 

 

机に座り、ピ・・・と、端末を起動する。

まぁ、サウザンドマスターの息子の身柄だけでも本国で確保できたのだから、全敗と言う訳でも無い。

他のパートナーの小娘など、とるに足らん。

仮契約者など、その気になればいくらでも量産できるのだからな。

 

 

画面に映った赤毛の少年の情報を見ながら、そんなことを考える。

ゲーデルの奴は、どうもこの少年のことを報告する一方で、何か細工をしているようだ。

しかし、まぁ・・・。

 

 

「・・・お父様」

 

 

思考の深みに浸っていると、不意に膝に温かな感触を感じた。

見れば、10歳程の少女が、椅子に座る私の膝に頬を乗せて、甘えるように擦り寄っている。

私は、片手を彼女の頭に乗せた。

まどろむ様に、少女は目を細める。

 

 

腰まで伸びた艶やかな黒髪に、血の色の瞳。

黒い衣服から伸びる手足には、陶磁器のような白い肌と、その上に描かれた黒い紋様。

・・・私の可愛い義娘(むすめ)、エルザ。

 

 

「・・・見てごらん、エルザ」

「はい、お父様」

 

 

私の言葉に、エルザは従順に従う。

私の示した映像には、ネギ・スプリングフィールドと言う赤毛の少年が映っている。

エルザの無感動な瞳が、ディスプレイの光を反射する。

 

 

「アレは可哀想な少年なのだ・・・親に捨てられ、仲間に捨てられ、全てを失いつつある。ああ、とても可哀想な少年だ。とても哀れで・・・悲哀を誘うな」

「・・・お父様は、悲しいの?」

「ああ、とても悲しい。私の悲しみを察してくれる優しいエルザ・・・」

 

 

ゲーデルが何をしようとしているかは、まだわからん。

だが、あの男も所詮は元紅き翼。

信用など、できるはずも無い。

 

 

奴には奴の計画と目的があるのだろうが、私には私の計画と目的がある。

さて・・・。

 

 

「彼を迎えに行ってくれるかな、私の可愛いエルザ」

「・・・はい、お父様」

「良い子だ、ああ、良い子だ・・・」

 

 

さて、誰が勝ち残るかな。

連合か、帝国か、オスティアか、それとも・・・。

エルザの頭を撫でながら、唇の両端が吊り上がるのを感じた。

 

 

それとも、私か・・・。

 




アリア:
アリアです。またお会いできて、とても嬉しいです。
今回は、ようやく学園祭編の完全終了のお話です。
私の今後と、その他の変化が少し描かれています。
何やら、新たな勢力まで出てきて・・・魔法世界編へ向けて、歩みは加速します。


アリア:
では次回は、今回から数日後の私とネギの状態を描く予定です。
原作とはだいぶ離れていますので、私にも何が起こるかわかりません。
では、またお会いしましょう。


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第77話「兄の今、妹の今」

Side アリア

 

「はい、良いですよ」

 

 

私がそう言うと、教室に残った数名の生徒が、安堵の息を吐きました。

トントン、と私が揃えているのは、期末テスト対策のために作成した練習問題のプリントです。

居残り授業も三日目となれば、慣れてくると言う物ですね。

 

 

「いやぁ、点数が上がると嬉しい物でござるなぁ」

「重要なのは反復ですから。長瀬さんの忍者修行と要点は同じですよ」

「な、何をバカな。忍者の修行などさっぱりめっきりどっきりでござる」

「・・・まぁ、良いですけど」

 

 

長瀬さんは、未だに忍者であることを隠しています。

はたして、その行動にどれだけの意味があるのかはわかりませんが。

 

 

今この教室にいるのは、長瀬さん、まき絵さん、古菲さん。

加えて、雪広さんと村上さん、それに龍宮さん。

3日前に抜き打ちで小テストをやってみた結果、他のクラスに比べて、まぁ、残念な結果でして。

それにしても、後半の3人はいつも英語の成績は良いのに・・・。

 

 

「ああ・・・ネギ先生・・・」

「・・・はぁ」

 

 

雪広さんが元気が無い理由は、まぁ、わかります。

でも村上さんの元気が無いのは、なんでしょう。何か悩みでしょうか・・・?

2人は今も、窓の外の青空などを見上げて、盛大な溜息を吐いています。

 

 

「ちなみに私は、とある事情からわざと補習を受けているんだ」

「ええ、テストを白紙で出してきた段階で薄々勘付いてはいましたよ、真名さん」

「私は、真面目にやってダメだったアル!」

「わ、私もー!」

「・・・正直なのは、良いことだと思います」

 

 

でも教師としては、不真面目にやって点数が低い方であってほしかったと言う、半ば矛盾するような心地になっています。

真名さんのように白紙提出とかされても、悲しいですけど。

 

 

「まぁ、コレだけできれば、期末テストも何とかなるかと思います」

「アリア先生、ありがとー♪」

「いえ・・・まき絵さんは、いつも元気ですね」

 

 

ふ・・・と微笑みながらそう言うと、まき絵さんも満面も笑みを返してくれました。

彼女の明るさは、非常に好ましい物に感じます。

二ノ宮先生から新体操部でのまき絵さんの様子を何度か聞いたことがありますが、県大会が近いため、非常に張り切っているとか。

 

 

まぁ、学校の授業とかテストは、つまらないですからね・・・。

通信簿の内容も考えねばなりませんので、できる限り良い部分を見つけて行きたいと思います。

生徒の学習意欲を高めるのも、先生のお仕事ですから。

 

 

「では、テスト前の補習は今日までですが、何かわからないことがあれば、いつでも質問に来てくださいね」

「「「はーいっ!」」」

「元気でよろしい」

 

 

とりあえず3-Aの生徒の大半は、「元気」という項目には確実に花丸が入りそうですね。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「どうかな茶々丸、ニューボディの調子は」

「はい、問題ありません」

 

 

寝台から降りて、自分の新しい身体の各部をチェックします。

オールグリーン、問題ありません。

 

 

ここは、工学部のハカセの研究室です。

綾瀬さん達の記憶処理は、万全を期すために一週間程度かかりますが、記憶処理の必要のないハカセは、もう釈放されています。

ただし、その身体には麻帆良から勝手に出れないよう、魔法がかけられています。

 

 

まぁ、以前のマスターにかけられた物よりもずっと弱い呪いなので、許可を取ればどこへでも行けますが。

どちらかと言えば、発信機的な意味合いが強いようです。

 

 

「過去のデータを元に、今の私に・・・私「達」に可能な最大レベルのチューンを施したボディだよ。瞬動だけでなく、虚空瞬動も理論上は可能。その他私生活に役立つアレやコレやを詰め込んでみました!」

「グッジョブです、ハカセ。しかし、できれば身体のサイズは元のままの方が良いのですが。あと髪型も・・・」

「えー? コンパクトな方が良いと思うんだけど・・・時代は小型化!」

 

 

今の私は、ハカセと同じくらいの背丈です。

髪も、以前に比べて随分と短くなり、今では肩先程度の長さです。

 

 

「アリア先生とお揃いの10歳ボディもあるけど?」

「いえ、元のままで」

「何でー?」

「マスターもアリア先生も、元の身体の私の方が良いような、そんな気が・・・」

「ふ、ん・・・?」

 

 

私がそう言うと、ハカセは何かを考え込むような表情で私を見つめました。

思えば、ガイノイドらしからぬ発言だったかもしれません。

いえ、以前から私は、ガイノイドに相応しく無い発言や考えを、度々していたように思います。

 

 

「・・・ハカセ」

「うん?」

「私・・・『絡繰茶々丸』には、『魂』はあるのでしょうか?」

「魂?」

 

 

ハカセが、ますます訝しげな表情を浮かべました。

・・・魂。

ガイノイドの私に、作り物の私に、はたして魂があるのか、どうか。

最近は良く、そんなことを考えます。

 

 

「私に言わせれば・・・」

 

 

難しそうな顔をして、ハカセは言いました。

今思えば、科学を信奉するハカセには、答えにくい質問だったかもしれません。

 

 

「魂なんて、あると思えばある! 無いと思えば無い! ・・・って、答えになってないけどね」

「いえ・・・ありがとうございます」

「ま、茶々丸自身が、それを信じられるかどうか・・・だと思うよ、実際」

 

 

そう言って、ハカセは笑いました。

ハカセはパタパタと手を振って、話題を変えて来ました。

 

 

「明日はアリア先生も連れて来てね、田中さんの整備も終わったし・・・それに」

 

 

ヴンッ・・・と、ハカセが手にしたのは、輝く白い宝石のような物体。

円柱型のガラスケースに入ったそれは、かすかな魔力を発しています。

しかし同時に、私と同じ・・・科学の要素が入っていることも、わかります。

ハカセはそれを見ながら、ポツリと呟くように。

 

 

「支援魔導機械(デバイス)も、完成したからね」

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

最悪の事態って言うのは、こう言うことを言うのかな。

終業時間間近、職員室の自分の机に突っ伏しながら、僕はそんなことを考えた。

実は僕、以前からこの学校を辞めてやろうと思っていたんだ。

 

 

学園祭の時から、決意は固くなったね、本当。

学園長はいなくなったし、高畑先生もいなくなった。

だけど、それに比例して僕の被る被害は大きくなってきたと思うんだ!」

 

 

「ど、どうしたんですか、大きな声で」

「あ、すみません、しずな先生・・・」

 

 

偶然通りがかったしずな先生が、びっくりしたような表情で僕を見ていた。

声に出てたのか・・・恥ずかしいや。ペコペコと頭を下げる。

しずな先生は訝しそうに僕を見ながら、そのまま歩いて行った。

はぁ、本当、美人だなぁって、そうじゃなくて。

 

 

手元の書類・・・辞令を見る。そこにはこう書かれていた。

「7月1日付で、麻帆良学園女子中等部学園長に任命する」。

・・・ダメだ、何回読んでも同じ文章にしか見えない。

 

 

「僕が学園長とか、有り得ない・・・アリア君が仕事をしないくらい有り得ない・・・」

 

 

これはまだ、一般の先生には知られていない。

魔法先生と、後は新田先生くらいは知ってるんだろうけど・・・。

・・・なんで、僕?

自分で言うのもアレだけど、僕って若造だよ?

 

 

経験不足も甚だしいじゃないか。

本当、有り得ないよ・・・もっと早く、辞めとけば良かった。

 

 

「新田先生」

 

 

視界の隅で、白い髪の女の子が、学年主任の座席に座る新田先生に駆け寄っていた。

アリア君が書類片手に新田先生に駆け寄る時は、大体自分で仕事を増やす時だ。

ほら、新田先生も面白くなさそうな顔で・・・。

 

 

「これ、夏休み中の教室の機材整備の業者への申し込み書なのですけど・・・」

「何ですかな、アリア先生は3-Aの分だけ気にしてくだされば結構で・・・」

「10歳の私が申し込んでも業者さんと交渉できないので、申し訳ないですけど、新田先生、お願いできますか?」

 

 

―――その時、職員室に衝撃が走った―――

 

 

僕を含めて、しずな先生や周囲の先生も、思わずアリア君と新田先生に注目した。

いや常識で考えて、外部の業者さんが関わってくるなら、10歳のアリア君を前面に出すのは拙いわけで。

極めて、普通のことなんだけど。

でも、以前のアリア君ならそれも構わず処理していたはずで。

つまり。

 

 

「「「アリア君(先生)が、仕事をしないとか・・・!」」」

「いや、しないわけじゃ・・・って言うか、そこまで驚くことですか!?」

「・・・はっ、そうか! おのれ貴様、アリア君では無いな・・・!?」

「新田先生、酷い!?」

 

 

いや・・・だって、ねぇ?

これまでのアリア君を知っている人間なら、同じ反応をすると思うけどなぁ。

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

「お帰り、せっちゃん。お疲れ様」

「い、いえ、コレくらいは・・・」

 

 

エプロンで手を拭きながら玄関に迎えに行くと、買い物袋をいくつも抱えたせっちゃんがおった。

学園祭の後は、毎年売れ残り一掃セールみたいなんが麻帆良中のスーパーやお店でするんやけど、うちすっかり忘れてしもてて。

お父様が仕送りしてくれとるから、お金に困っとるわけやないけど、それでも節約はせなあかん。

 

 

せやから、放課後に慌てて買いに行こうて思ってたら、せっちゃんが自分が行くて言うてくれたんえ。

ほな一緒に行こかーとか思ってたんやけど、せっちゃんが・・・。

 

 

「い、いえ! このちゃんと行くと他のお店で時間とられますので!」

 

 

とか言うて、ぴゅうっ、て行ってしもた。

・・・他のお店て言うても、せっちゃんの洋服探しに3時間ぐらいかけるくらいやん。

油断しとると、せっちゃんは味気ない服ばっかり着るから。

うちが、可愛らしくドレスアップしたらなあかん!

 

 

「せっちゃんは素材ええんやから、もっと可愛え服着なあかんえ!」

「そんな、私など・・・」

「可愛いえ」

「う・・・」

「うちのせっちゃんは、凄く可愛いえ♪」

 

 

ああ、もう、ほんまに可愛えなぁ♪

耳まで真っ赤になってもーて♪

もう、あんまり可愛らしいから、抱きしめたらなあかん!

 

 

「ん~♪ せっちゃんのほっぺは柔らかいなぁ(むぎゅー、すりすり)」

「わ、わわわ、このちゃ・・・」

 

 

と、うちがせっちゃんを愛でとるその時。

 

 

「リア充爆発しろ、ですぅ」

 

 

リビングの扉が少しだけ開いて、そこから小さな影が。

うちはせっちゃんを抱き締めながら、そっちの方に目をやって。

 

 

「んー? ちびアリアちゃんも、むぎゅってしてほしいん?」

「違うですぅ、ただ単に幸せそうな輩が心から憎いだけですぅ」

「やきもち焼きさんやなぁ」

「言ってろですぅ」

 

 

そう言って、白い髪の小さな女の子――アリア先生の式神さん――は、リビングの中に戻って行った。

直後、開いたままの扉から、姦しい声が。

 

 

「あー! まぁたタナベさんの背中一人占めしてるですぅ、ちびせつなは!」

「違いますー、タナベさんが乗って良いって言ったんですー」

「一部肯定致シマス」

「喧嘩したらあかんえー、喧嘩する子はご飯抜きやー」

 

 

学園祭の後、うちの式神を戻したら、おまけがついてきたんよ。

ちびアリアちゃん(式神)に、タナベさん(メカ)。

せっちゃんの式神とも仲が良かったから、そのままにしとるんやけど。

アリア先生、何のつもりであの式神作ったんやろなぁ?

 

 

何や試験前やし、ゴタゴタしてて・・・聞きそびれてしもたんやけど。

 

 

「い、良いのでしょうか、ここに置いてて・・・」

「うん? まぁ、ええんちゃう? 何かあったら、先生らの方から言うてくるやろ」

「う、うーん、良いのかなぁ・・・?」

 

 

こっそりとうちから離れながら、せっちゃんは首を傾げた。

まぁ、ちびこのか(自律型)も気に入っとるみたいやし、引き離すのも可哀想やん。

 

 

「賑やかで楽しいやん、子供ができたみたいで♪」

「こ、こどっ・・・!」

 

 

うちのせっちゃんは、今日も可愛い♡

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「・・・と言う訳なんです、酷いと思いません?」

「ふーん」

「ちょっとエヴァさん、聞いてますか?」

「聞いているよ」

 

 

学校であったことを必死に伝えようとするアリアに、苦笑しつつ答える。

まぁ、ちょっと自分の手に負えなそうな仕事を上司に頼んだら、職員室中から引かれたと言う・・・。

 

 

「引かれてません!」

「わかったわかった」

 

 

手を振って答えつつ、湯に浮かべた盆から杯を手に取り、酒を飲む。

時刻はすでに夜。いつものようにアリアに基礎訓練を施した後、風呂で汗を流している。

ただし、以前の別荘の大浴場では無く、露天風呂だ。

 

 

19世紀くらいまで使っていた我が居城を持ち出して、魔法球の内部を大幅に広げた。

修行のバリエーションも増えるし、何より蔵書や資材なども揃っているから、アリアの研究にも良いだろう。

バカ鬼には畑のエリアを一つやって(そっちは四季が変化する仕様だ)、近く茶々丸達のメンテナンス用の機材も持ち込むつもりだ。

 

 

さよにも自分の部屋を与えて・・・と言うか、晴明が社以外に自分の部屋を要求したのは意外だったな。

まぁ、部屋は余っているから、別に構わんが。

 

 

「まったく、私だって・・・」

 

 

私が酒を飲んでいる横で、アリアはブツブツ言いながらミルクを飲んでいる。

・・・まぁ、仕事を他人と分け合えるようになれば、少しはマシになったと言えるな。

それにしても・・・平和だ。

 

 

ぼーや共が麻帆良から消えてからまだ数日だが、いないと言うだけでここまで平和になるとはな。

アリアの仕事が必要以上に増えることも無く。

私も、学園の魔法使いから嫌がらせを受けることも無くなった。好かれてもいないだろうがな。

平和で・・・だが、退屈では無い日常。

 

 

ほんの数年前には、こんな時間を過ごせるとは夢にも思っていなかった。

家族も増えて・・・私も随分、丸くなった。

 

 

「・・・そう言えば、バカ鬼とさよはどうした。茶々丸はハカセの所だろうが・・・」

「さぁ・・・見てませんけど」

「あの2人なら」

「・・・いたのか、晴明」

「我はどこにでもおる」

「オレモイルゼ」

 

 

いつの間にか、晴明とチャチャゼロが私の横にいた。

人形のくせに風呂に入り、しかも酒まで飲んでいる。

最近の晴明は、段々とふてぶてしくなってきている気がしてならない。

あと、どうでも良いが球体関節に湯が入ると不味いんじゃないのか?

 

 

それにしても、チャチャゼロも私以上に丸くなった気がする。

ある意味、一番変わったのこいつじゃないだろうか。

 

 

「それで、さよ達はどうした」

「む? あの2人は室内で睦んでおるよ」

「オウ、オレモアタマカラオリザルヲエナカッタゼ」

「ああ、よろしくやっているわけか」

「も、もう少し、言い方を考えてください・・・」

 

 

アリアが、少し顔を赤らめていた。

こいつは精神年齢の割に、こう言う所は初心な奴だな・・・。

 

 

そんなことを考えつつ、もう一口酒を飲む。

美味い。

元々上質な酒だが、それ以上に美味く感じるのは何故かな。

茶々丸(2歳)やアリア(身体は10歳)、さよ(同じく身体構造上は15歳)が成人するのが、楽しみだ。

 

 

いつか、家族で酒を飲み交わす。

そんないつの日かを、楽しみに待っている私。

そんなのも・・・。

 

 

「・・・悪く無い」

 

 

心から、そう思った。

 

 

 

 

 

Side タカミチ

 

「聞いているのですか、アル!」

 

 

図書館島の地下深く、僕はナギの仲間でもあり、ネギ君の師匠でもあるアルビレオ・イマのもとを訪問していた。

しかし、僕がいくら言っても、彼は優雅にお茶を飲むばかり。

 

 

ネギ君が・・・ナギの息子が。

友人の息子が、危機だと言うのに。

 

 

「タカミチ君」

 

 

少し顔をしかめて、アルが口を開いた。

ようやく、話をしてくれる気に・・・。

 

 

「できれば、クウネルとお呼びいただけませんか?」

「アル!」

「・・・ああ、はいはい。わかりましたよ」

 

 

コト・・・と、カップを置いて、アルは溜息を吐いた。

それから、どこか困ったような顔で僕を見る。

 

 

「ネギ君のことですね?」

「そう・・・ネギ君は今や、クルトに連れられて、ウェールズにいる」

「知っていますよ、もちろん」

「ではなぜ、彼を助けようとしないのですか、貴方なら・・・!」

「私はこの通り、この場から動けませんので」

 

 

いつもと変わりない態度で、アルは告げた。

その様子に、僕はますます苛立ちを募らせた。

 

 

ネギ君は今、極めて厳しい立場にいる。

魔法学校の卒業資格ばかりでなく、学籍そのものを抹消されて。

まるで、最初からこの旧世界にいなかったかのように。

 

 

「このまま、魔法世界に連れて行かれれば・・・!」

「心無い人々に、利用されてボロボロになるか、はてさて収容所に入れられ心が荒れるか・・・」

「わかっていて、何故!?」

「タカミチ君も、随分と優しくなりましたねぇ」

 

 

苦笑するように、アルは言った。

 

 

「それくらいのこと、私達だって経験したでしょう?」

「ぼ、僕達と彼とでは、違うでしょう!」

「違いませんよ」

 

 

落ち着いた口調。

アルは、本当に普段と何も変わらない。

以前から、掴み所の無い人ではあったけど・・・。

今回は特に、何を考えているのかわからない。

 

 

「彼がナギを目指すと言うのであれば、これくらいの障害はむしろ付き物でしょう」

「しかし・・・」

「意識しているか、それとも無意識かはわかりませんが・・・この程度乗り越えられずに、ナギの背中に追い付くことはできませんよ」

 

 

ネギ君が、ナギに憧れて努力していることは知ってる。

ネギ君とは、数年前からの付き合いだ。

彼がどれ程ナギに憧れて、努力してきたのかはわかってる。

だから、僕もできるだけ力になってあげたい。

ネギ君が、ナギの背中に追いつくのを。

 

 

脳裏に、一瞬だけ白い髪の女の子の顔が思い浮かぶ。

ネギ君と違って、ナギの話に興味を持たなかったあの子。

それは別に、構わないと思った。

だけど、どこか苦手だったのも、事実だ。

彼女はあまりにも、「違いすぎる」から。

 

 

「まぁ・・・いずれにせよ、私達にできることはありませんよ」

 

 

再びお茶を楽しみ始めたアル。

僕はそれを、憮然と見つめながら、ここからは見えない空を見ようと、上を見た。

 

 

ネギ君・・・!

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

何で、こんなことになっちゃったんだろう。

僕の手には、父さんの杖じゃなくて、黒い手錠のような物がはめられている。

犯罪者用の魔法具で、魔力行使を抑制する効果があるとか・・・。

 

 

・・・魔法具。

なんだか、嫌な響きだった。

 

 

「だ、大丈夫よネギ、お姉ちゃんが何とかしてあげるから・・・」

 

 

お姉ちゃんが僕の傍で、僕を励ますようにそう言ってくれた。

でも、数日前にウェールズに来てから、お姉ちゃんは同じことばかり言ってる。

 

 

そう、学園祭からもう、数日が経ったんだ・・・。

僕は修行を辞めさせられて、魔法使いとしての資格を失ってしまった。

超さんもいなくなって・・・超さんが、父さんは魔法学校を中退してマギステル・マギになったって言ってた。

でも僕の場合は、卒業取り消しの上、そもそも入学した記録も抹消された。

 

 

だから僕はもう、マギステル・マギにはなれない。

父さんみたいにも・・・。

 

 

「ね、ネギせんせー・・・大丈夫ですかー・・・?」

 

 

僕の隣には、のどかさんがいる。

昨日までは別々の場所にいたけど、ゲートと言う場所を通る時に重量制限があるらしくて、護送車から出されたから。

まぁ、そんなことには、何の意味も無いけど・・・。

 

 

「げ、元気出してください。きっと、ええと・・・大丈夫ですよー」

「何が大丈夫なんですか・・・」

「ね、ネギ!」

「え、ええと・・・あぅー・・・」

 

 

僕の言葉に、のどかさんの表情が曇る。

そのまま、泣きそうな顔になって俯いてしまった。

 

 

「あ・・・す、すみません。のどかさんだって、辛いのに・・・」

「い、いえー、私は・・・」

 

 

直接見たわけじゃないけれど、ここはもう、ウェールズだ。

本当なら、のどかさんがいるはずの無い場所。

僕のせいだ。僕が無関係なのどかさんを巻き込んで・・・。

もっと、僕がもっと・・・。

 

 

「あ、明日菜さんは大丈夫でしょうかー・・・?」

「え・・・あ、そうか、明日菜さんも・・・」

 

 

気持ちは、沈んでいくばかり。

僕のせいで、明日菜さんまで・・・夕映さんや朝倉さんだって、何かの罰を受けるって聞いた。

僕の・・・僕に、力が無いから。

僕が、父さんみたいに強く無いから。

 

 

僕がもっと、強ければ。

アーニャに邪魔なんてさせなかったし、超さんだって・・・。

僕が・・・僕が。

 

 

「・・・せんせー・・・」

「ネギ・・・」

 

 

僕の顔を見ていたお姉ちゃんとのどかさんが、悲しそうな声で呟いた。

・・・その時、何だろう、なんだか奇妙な感じが・・・。

 

 

「ネギ?」

「え、あ・・・な、何、お姉ちゃん」

「私はこれから、もう一度責任者の方にお願いしてくるから、ここで大人しく待っているのよ?」

「う、うん・・・」

 

 

お姉ちゃんが、パタパタと駆けて行った。

それでも、奇妙な感じは消えなかった。

 

 

なんだか、首の後ろがチリチリと痛むと言うか・・・。

何かが、近くにいるような気がした。

でもそれが何かは、わからない。

 

 

「・・・あ、ね、ネギせんせー!?」

「あ、おい、どこに行く!」

「す、すみません、ちょっと!」

 

 

のどかさんと、警備の人に声をかけて僕は駆け出した。

近くに、誰かいる。

そう、確信できる方向へ。

 

 

周囲の兵士の人が、訝しげに僕を見ていた。

 

 

 

 

 

Side シオン

 

意外と言えば、意外な結果と言えるのかしら。

そして同時に、半ば予想できた結果でもある。

 

 

「・・・あんま、驚かねーのな」

「あら、十分驚いているわよ?」

 

 

私は、ウェールズとメガロメセンブリアを結ぶゲートの受付嬢の一人。

先年にメルディアナを卒業してから、私はここで働かせてもらっているの。

そんな私の目の前には、クルト・ゲーデル元老院議員の旧世界訪問団よりも一足早くゲートポートに来ていたロバートがいる。

 

 

わざわざ、ミスター・スプリングフィールドが落伍したと伝えに来たらしい。

そこは嘘でも良いから、メルディアナ職員としてスケジュールの確認に来たとでも言ってほしかった。

そう言えば・・・。

 

 

「今、メルディアナは大変らしいわね」

「ん? おお、半分くらい職員いなくなったからな」

 

 

ロバートは興味が無いと言うか、たぶん理解できていないのでしょうけど。

私の母校でもあるメルディアナでは、今、大幅な人員整理が行われている。

表向きは「新時代に向けた組織改革」だけど、実際には違う。

実際には、ミスター・スプリングフィールドを擁護していた人々を排除する動き。

 

 

卒業させるべきで無い者を卒業させたとして、責任問題が浮上しているらしいの。

そしてそれは、今のメルディアナ校長自身にも・・・。

 

 

その時、私の手元の端末に、上の階で旧世界からの転移が行われたことを示す情報が流れて来た。

どうやら、クルト・ゲーデル議員の一行が来たらしいわね。

 

 

「お前は行かなくて良いのか?」

「バカを言わないで頂戴、私は下っ端の小娘よ?」

 

 

元老院議員の送迎に、私のような見習いが呼ばれるはずが無い。

修行中の身でそんな大きな仕事を任されるなんて、よほど有能か、よほど贔屓されているかよ。

まぁ、ミスター・スプリングフィールドが卒業取り消しになったおかげで、私は名実ともに、トップ卒業の名誉を頂いたわけだけれど。

 

 

「・・・もう、お前のことを二番目のプリフェクトとは呼べねーんだな」

「ふふ、そうね・・・懐かしいわ」

 

 

そんなに昔のことでも無い気がするけど・・・。

ロバートや友人達と過ごした学園生活。

それが今は、とても昔のことのように思える。

 

 

「ヘレンは、元気にしているかしら?」

「おう、それよ。ドネットさん情報だが、あのヘレンの彼氏面してるガキ、故郷に許嫁がいるらしいんだよ!」

「あら・・・それは二股ってことかしら? 削除の必要性があるわね」

「だろ? ゲート事故に見せかけてシルチス亜大陸辺りに放り出せねぇ?」

「そうねぇ・・・」

 

 

クルト・ゲーデル議員の一団が来ているから、今日のゲートは貸し切り状態。

なので、私も仕事が少なくて暇なの。

だから、こうしてロバートと「ヘレンのボーイフレンド削除計画」について話すことも・・・。

 

 

その時、ゲートポートの本国側の入り口が、にわかに騒がしくなった。

何かしら・・・?

そう思って見ていると、黒い鎧を纏った一団が、ゾロゾロと入って来た。

 

 

「・・・メガロメセンブリア正規兵・・・?」

「上の議員さんのお出迎えか?」

「いえ、そんな予定は・・・」

 

 

戸惑いながらも、状況の推移を見守る。

私の職場の先輩たちが慌ただしく動く中で・・・。

 

 

その男は、現れた。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

やはり、魔法世界の空気は良いですね。

本当はもっとスパッと戻りたかったのですが、旧世界から魔法世界へのゲートを開くスケジュールは、あらかじめ決まっていますから。

今回の場合は、数日メルディアナに留まって、それからでした。

 

 

その間、あの校長には随分と私の名前を使われましたね。

ま、これも将来の保険の一つと考えておきましょうか。

 

 

その時、何やら後ろの方で騒ぎが。

 

 

「何かあったのですか?」

「は、どうも護送対象がゲートポート内をウロついているらしく。逃亡を図っているわけでもない様なのですが・・・」

「・・・何をやっているんですか。すぐに列に連れ戻しなさい。私は先に下に降りていますからね」

「は、申し訳ありません」

 

 

手近な所にいた部下にネギ君達のことを任せて、私は先に下へ降ります。

ネギ君のことにばかり、かまけていられません。

本国に戻ったら戻ったで、いろいろと仕事が山積みなのですから。

新オスティアに戻る前に、影に日向に会談や工作をしなければなりません。

 

 

「待ってください!」

 

 

下に降りようとした時、聞き覚えのある声に呼び止められました。

振り向いてみれば、金髪の妙齢の女性がパタパタと私の所へ駆け寄ってきました。

その女性の名は、ネカネ・スプリングフィールド。

 

 

ネギ君の血縁であると同時にアリア様の血縁であると言う、極めて対応に困る方です。

と言うか、本国まで追いかけてくるとか。

 

 

「何か私にご用でしょうか、お嬢さん」

「お、お願いします。ネギを・・・ネギ・スプリングフィールドを救っては貰えないでしょうか?」

「ま・・・申し訳ありませんが、彼らの身柄はすでに司法当局に移っておりますので、私には何とも・・・」

 

 

またその話かいい加減しつこいですよ、と、思わず言いそうになりました。

この方は、私がネギ君とそのパートナーを護送して来てからと言う物、嘆願を続けているのです。

おそらくは、知らず知らずの内に、ネギ君を擁護している連中に利用されているのでしょうけどね。

ちなみに、私はこれまでの人生で血縁を理由に仕事に手心を加えたことはありません。

 

 

不正などと言う物は、愚か者のすることですよ。

きちんと手順を踏んだ上で、相手を蹴落とすのが面白いのですから。

 

 

「あ、あの子はその・・・確かに手のかかる子でした、問題も多いかもしれませんし、社交性も無くて・・・で、でも、悪い子では無いんです。まだ10歳ですし、何とか・・・」

「お嬢さん」

 

 

真面目な話、本国に来た時点でネギ君の身柄は司法の手の中です。

よって、そう言うのは裁判でやってくださいと、何度も説明したはずなのですが。

 

 

「ネギ君は、良い子だから捕まったわけでも、良い弟分だから裁判にかけられるわけでもありません。魔法世界の、さらに言えば本国の規則に反したがために捕縛されているのです。そこをお間違えなく」

「クルト議員、でも」

「では、私は急ぎますので・・・ああ、キミ! こちらのお嬢さんをご案内して差し上げて」

 

 

ゲートの係員にネカネさんのことを任せて、さっさと下へ。

ネカネさんが私の名を何度か呼んでいたようですが、私の意識は別の所にあります。

 

 

さて、いよいよです。

私がこの20年で積み上げて来た物を使う時が、やっと来ました。

アリカ様の名誉を回復し、元老院の不正と虚偽を断罪する。

世界を、あるべき姿へ。世界を手にするに相応しい者の手に。

連合も、帝国も、「始まりの魔法使い」の使徒達も。

その全てを、薙ぎ倒して・・・。

 

 

「楽しそうだな、ゲーデル」

「・・・!」

 

 

多数の部下を引き連れ、下の階へ続く長い階段を下り、ゲートポートの出口に行こうとしたその時。

見覚えのある顔が、出入り口へ通じる道を塞いでいました。

私はなるべくにこやかな笑顔を「作って」、仕立ての良いスーツに身を包んだ老人を見つめました。

白髪混じりの黒髪に、灰色の瞳。

齢70を過ぎているはずですが、未だくたばりもせずに政界にのさばっている老害の一人です。

その周りには、若い議員が何人か。取り巻きですか。

 

 

「・・・これはこれは、アリエフ議員。このような場所においでとは珍しいですね」

「まったくだ、無能者が旧世界からわざわざ仕事を持ってこなければ、来る必要も無かったのだがな」

「ははは、コレは手厳しい」

 

 

アリエフ・リンドブル元老院議員、私と同じ執政官の一人。

執政官とは、わかりやすく言えば閣僚のような物で、財務やら外交やら軍務やら、元老院議員が担当します。

彼は財政を担当する議員であり、私は信託統治領や旧世界の業務を総括する属領担当執政官。

まぁ、一応は同格扱いなのですが・・・。

 

 

「クルト・ゲーデル!」

 

 

その時、取り巻きの一人が私を呼び捨てにしました。

顔を覚えておきましょう。

 

 

「旧世界で、随分と好き勝手していたらしいじゃないか!」

「誇りある元老院議員ともあろう者が、汚らわしい旧世界人と関わるなど!」

「貴様、本国に背信でもしているのではないか!?」

 

 

ははは、否定できませんねぇ。

ま、小鳥のさえずりなどどうでも良いです。それより・・・。

 

 

「やめんか!」

 

 

アリエフ議員は、周囲の若造を黙らせると、あたかも心から申し訳なさそうな顔を「作って」。

 

 

「すまんな、ゲーデル。うちの若い者が」

「はは、何。私が未熟なのは本当のことですから・・・」

「そうだな、若い者は謙虚でなければな・・・若い者は、な」

「・・・ははは」

 

 

・・・老害が。

 

 

お互いににこやかな顔を「作って」、会話をしていますが・・・。

お互いに相手に尊敬の念を抱いていないことは、明らかです。

私も、こんな老害といつまでも仲良くするつもりは、無い。

今に、見ていなさい。

 

 

今は貴方の立場が、勢力が私よりも上だとしても・・・。

その首、いつかこの手で。

 

 

 

ドンッ・・・!

 

 

 

その時、上の階から、激しい爆発音が響き渡りました。

な、何です・・・!?

内心の動揺を悟られることは無いかと、アリエフ議員の方をチラリと見れば。

 

 

彼は、静かに笑っていました。

 

 

 

 

 

Side 明日菜

 

「す、凄いのねー・・・」

「そりゃあ、私達魔法世界の国でも、一番の大都会だからね」

 

 

ゲートって所を出てから、私はメガロメセ・・・えーと、魔法使いの街の景色が見られる展望テラスから、外を見ている。

犯罪者として捕まっているんじゃなければ、素直に観光とかしたいんだけど。

 

 

ちら、と周りを見れば、黒い鎧を着た人達に取り囲まれている私。

縛られこそしなくなったけど(魔法の手錠を5個くらいダメにした)、コレじゃね・・・。

はぁ・・・なんで、こんなことになっちゃったんだろ。

高畑先生にも連絡が取れないし、犯罪者扱いって・・・。

なんで、私がこんな目に・・・こんな・・・。

 

 

ぎり・・・と、唇を噛み締める。

切ったのか、少し血の味がした。

 

 

「ちょ、待てってエミリー、逃げるとかじゃなくて、本当にトイレなんだって!」

「そう言って貴方、すでに5回脱走未遂起こしているでしょう」

「今度は本当なんだって!」

「漏らせ」

「口調変わるほどかよ!」

 

 

足元では、カモが懲りずに脱走しようとしてた。

妹さん・・・エミリーちゃんが、冷ややかに対応してる。

あの諦めの悪さだけは、尊敬するわ本当。

 

 

・・・そうよ、諦めることなんて、無いわ。

まだきっと、何も終わってなんか無い。

 

 

「ね、ねぇ、アーニャ・・・ちゃんは、ネギの幼馴染なのよね?」

「ええ、そうよ」

 

 

私のことを監視しているらしい、赤い髪の女の子。

学園祭の時にも会った、ネギの幼馴染。

アーニャちゃんは、どこか冷めた顔で外の景色を見ていた。

 

 

「えっと、じゃあ・・・ネギや私達のことを助けてくれたりは」

「しないわよ」

 

 

外の景色から視点を移して、私を見つめるアーニャちゃん。

 

 

「幼馴染なら、そいつが何をしても助けなくちゃいけないの? 冗談じゃないわ・・・」

「で、でも・・・あのお姉さんは、ネギのことを助けようとしてるじゃない」

「ネカネお姉ちゃんは・・・アレは別に、ネギを助けようとしているわけじゃ無いわ」

「え・・・?」

 

 

一瞬、アーニャちゃんの言っていることの意味がわからなかった。

ネカネさんは、何日も何時間も使って、ネギを助けようと頑張っているのに。

あれは、ネギのためでしょう?

 

 

他に、どんな理由があるんだろう。

私が、もう少し話を聞こうと、手を伸ばした。

その時。

 

 

「見つけたよ、お姫様」

 

 

不意に、声が。

顔を上げると、変な男の人と女の人の石像の上に、男の子が。

白い髪の、男の子が。

あ・・・。

 

 

「「あんたは!」」

 

 

私とアーニャちゃんの声が、重なる。

え・・・知り合い?

 

 

「明日菜さん!」

「ネギ・・・? 来ちゃダメよ!」

 

 

さらにその時、ネギがこっちに来た。

その後ろには、本屋ちゃんと、あのネカネってお姉さんも。

最悪のタイミング。

 

 

白い髪の男の子は、ネギの方を見ると。

興味無さそうな顔で、手を。

 

 

 

 

 

Side アーニャ

 

何?

何が起こったの?

 

 

「ネギ・・・ネギ、しっかりぃ!」

「ね、ネギせんせー・・・!」

「ネギッ・・・どうしましょう、こんなに血がっ」

 

 

展望テラスから階段を数段下がった場所に、血だまりができていた。

ネカネおねーちゃんや宮崎さん達が、泣きそうな顔で叫んでる。

ネギの名前を。

 

 

右肩に石の槍が刺さった、ネギのことを。

ネギの血が、階段に滴ってる。

これを、やったのは・・・。

 

 

「・・・あんたっ!」

「すまない、騒がれても面倒なんでね」

 

 

涼しい顔でそう言うのは、学園祭でも会った男の子。

名前は、フェイト。

 

 

「お姫様を頂いたら、すぐに消えるよ。キミに迷惑は・・・」

「・・・もう、遅いわよ!」

 

 

お姫様って言うのが誰だかは知らないけど。

私は一応、メルディアナ職員としてここにいるのよ。

その私の目の前で、こんなことして・・・!

 

 

「ただで済むとは、思って無いでしょうねぇ!」

 

 

ゴッ・・・と、『アラストール』で炎の精霊を集める。

魔法発動体の杖は、シオンの所に行かないと手に入らないから、今の私にはコレしか武器が無い。

 

 

「言っておくけど、助けは来ないよ。このゲートポート上階層はすでに隔離してある」

「・・・」

 

 

上階層だけでも、正規兵が10数人はいるわ。

ネギの護送の監視の兵士さんがいるから。

エミリーの姿が見えないから、すぐに助けが来るはず・・・!

 

 

「アーニャちゃん、どうしよう、ネギの血が止まらない!」

 

 

その声に反応した瞬間、その瞬間だけ、意識がフェイトから逸れた。

フッ・・・と、私の前を風が通過する。

シュ・・・と、一瞬でネギ達の所までフェイトが距離を詰めた。

速い、見えなかった。

 

 

フェイトはネギを・・・いいえ、神楽坂明日菜を見ている?

狙いは、そっちなの!?

 

 

「何よあんた・・・私達を、尾けて来たの!?」

「少し違う、待ち伏せさ」

 

 

その違いに、どんな救いがあるってのよ!

 

 

「一緒に来てもらおうか、お姫様」

「・・・っ」

 

 

させない!

私が動こうとした、次の瞬間。

 

 

フェイトが、殴り飛ばされた。

 

 

フェイトの真横に突然現れた、黒髪の女の子によって。

な・・・何?

めまぐるしく変わる状況についていけ無くなりそうになりながらも、状況把握に努める。

 

 

そこにいたのは、私と同い年くらいの女の子だった。

腰まで伸びた黒髪に、真紅の瞳。

黒いゴシック調の衣装は、フリルやリボンがたっぷりついてる。

でも、それ以上に・・・。

 

 

白い肌の上に刻まれた黒い紋様。

アレからは、凄く嫌な感じがする・・・。

 

 

 

 

 

Side フェイト

 

何・・・?

ダメージがあったわけでは無いけど、少し驚いた。

この僕が、殴られるまで接近に気付けないとは・・・。

 

 

少し離れた位置に着地して、顔を上げる。

そこにいたのは、黒髪の少女。

 

 

・・・?

 

 

何か、奇妙な感覚がする。

どこか懐かしい・・・懐かしい?

何だ・・・彼女は、誰だ?

 

 

「キミは・・・誰だい?」

「エルザ」

 

 

答えてくれるとは思わなかった。

聞いておきながら、答えられるはずが無いと言う前提で話すのも問題と言うことかな。

エルザと名乗った少女は、抑揚なく、表情も動かさずに続けた。

 

 

「エルザには、エルザと言うお父様に頂いた名前があります」

「・・・そう」

 

 

まぁ、誰でも良い。

この場に介入できると言うのは少し驚いたけど、それでも。

僕の邪魔をするというのであれば、排除する。

僕は。

 

 

僕は、そこのお姫様を連れて行かなければならないのだから。

 

 

「お父様は言いました。彼を守れと」

 

 

言葉と共に、エルザの身体の至る所に刻まれた刺青のような紋様が、光り輝く。

僕はアレと同じような物を、見たことがある。

術者の肉体と魂を代償に力を得る、呪紋。

 

 

超鈴音。

麻帆良の学園祭で交戦した少女が、似たような紋様を身体に刻んでいた。

最も、アレよりは質が悪いが・・・。

 

 

「ラスオーリオ・リーゼ・リ・リル・マギステル」

 

 

つ・・・と、唇の端から血を流しながら、エルザは魔法の始動キーを唱えた。

かなりの激痛に苛まれているはずだが、それを気にした風も無い。

その時、どうも同じ階層にいたらしいメガロメセンブリア兵が、続々とこちらへと向かっているのが見えた。

ち・・・仕方が無い、ここは・・・。

 

 

契約に従い我に従え(ト・シュンボライオン・ディアーコネート)炎の覇王(モイ・ホ・テュラネ・フロゴス)来れ(エピゲネーテートー)浄化の炎(フロクス・カタルセオース)燃え盛る大剣(フロギネー・ロンファイア)ほとばしれよ(レウサントーン)ソドムを焼きし(ピュール・カイ・ティオン)火と硫黄(ハ・エペフレゴン・ソドマ)罪ありし者を(ハマルトートゥス・エイス・クーン)死の塵に(タナトゥ)

 

 

高速詠唱!

いや、それ以前に。

こんな場所で、そんな広域殲滅呪文を。

ここでそんな魔法を炸裂させれば、周囲の兵はもちろん、ゲートだって無事では済まない。

 

 

しかしエルザは、わずかも躊躇せずに。

魔法を、完成させた。

 

 

「『燃える天空(ウーラニア・フロゴーシス)』」

 

 

次に瞬間、ゲートポートの全てを巻き込んで。

全てが、爆発した。

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

私が別荘に入って数日が経ち、そろそろ外の時間も朝になろうかと言う時間です。

 

 

お紅茶と軽めのお茶菓子などをトレイに乗せて、私はアリア先生の研究室にやって参りました。

ノックをしても、返事が無いのはいつものこと。

この時間はアリア先生も集中しておりますので、なるべく静かに中に入ります。

 

 

魔法薬の放つ独特の匂いや、視界一杯に入ってくる山積みの蔵書や紙。

蔵書の多くは付箋がされており、紙には難しい数式が綺麗な字で書き込まれています。

 

 

コチ、コチ・・・と、柱時計の音が響く中で。

部屋の中央にしつらえられた大テーブルの前に座っているのは、アリア先生。

何やら白い羽根ペンを必死に動かして、何かを書いているようです。

その隣にはマスターがおりますが、こちらはウトウトとしております。

 

 

「オゥ、イモウトヨ」

 

 

マスターの膝の上に座る姉さんが、私に気付きました。

机の上に腰かけている晴明さんは、興味深そうにアリア先生の手元を見ています。

私はお茶の時間を告げて、マスター達のお傍へ。

ふと部屋の隅に目をやると、さよさん達もおりました。

スクナさんを膝枕したさよさんが、目を閉じて壁にもたれかかっています。

 

 

いつもの時間が、そこにありました。

アリア先生が石化解除の研究をなさり、マスターや晴明さんがそれを手伝い。

さよさん達も、それを見守って。

私はそのお世話をする。

 

 

いつもの、永遠に続いて欲しいと願い望む時間。

平穏で、とりとめの無い時間です。

私は、この時間が・・・。

 

 

「で・・・」

 

 

その時、アリア先生が声を震わせ、動きをピタリと止めました。

数枚の紙を手に、ワナワナと震えております。

 

 

「できたあぁ――――――――っ!!」

 

 

ガタンッと立ち上がり、叫ぶアリア先生。

その声量に、ウトウトとしていたマスターが「何事だ!?」と叫んで飛び起きました。

その際、姉さんが床に転げ落ちました。

 

 

「な、なんですかぁ?」

「うーん、まだ5年は収穫しないぞ・・・」

「・・・すーちゃん、何の話?」

「我慢だぞ・・・」

 

 

さよさん達も目を覚ましたようですね。

一方で、アリア先生はテーブルの周辺を小躍りしておりました。

アリア先生にしては、珍しい感情表現ですね。

 

 

「アリ・・・アリア! コラ、何を踊ってる! 寝不足でハイになったか!?」

「ありがとうございます!」

「何のお礼だ!?」

 

 

アリア先生は、果てしなくハイテンションです。

 

 

「苦節六年、やっと・・・やっとできました! 計算しきった!」

「だから、何の!」

「コレです!」

 

 

アリア先生は、持っていた紙をマスターに押し付けるように渡しました。

マスターが、それに目を通し・・・そして。

驚いたような目で、アリア先生を見つめました。

 

 

「お前、コレ・・・」

「はい!」

 

 

アリア先生は、輝くような笑顔で。

 

 

「村の皆が、帰ってきます!」

 




アーニャ:
アーニャよ、久しぶりね!
今回は、アリアとネギの学園祭以後を描いた話になっているわ。
アリアの方は、うん、何事もなく平和なようね。
何よりだわ。
ネギの方は、凄く大変な事態。
たぶん、第一部終了まで出番が無い気がするんだけど・・・。
私もね。


アーニャ:
じゃ、次回のお知らせね。
次回はアリアとその周辺の「夏休み」よ!
じゃあ、またね!


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番外編⑤「桜咲刹那」

Side 刹那

 

夏休みに入ると、私が素子様の下に通う機会も増えていった。

元はアリア先生やエヴァンジェリンさん、そして長のツテでお世話になるようになったのだが、最近では個人の関係になってきたと思う。

 

 

青山宗家の方に対して、私ごときが恐れ多いことだとは思う。

だが剣の稽古だけでなく、それ以外の面でもお世話になりつつある現状を思えば・・・。

 

 

「そこ、綴りが間違っています」

「あ、はい、申し訳ありません!」

「いえ、そこまで謝られることでも・・・」

 

 

平和だ、本当にそう思う。

どのくらい平和なのかと言えば、素子様に夏休みの宿題を見てもらうくらいには。

ちなみに今は、英語のワーク(全32ページ)をしている。

 

 

「・・・懐かしいですね。私も昔は、宿題に追われた物です」

「も、素子様でも、そう言うことがあったんですね・・・」

「まぁ、私の場合、姉が・・・いえ、まぁ、いろいろとあったので」

 

 

一瞬、遠くを見るような表情を浮かべた素子様だが、でもこのお方は東大の学生だと聞く。

文武両道な素子様のことだ、きっと私の32倍くらい頭が良いのだろう。

そう思い、私は素子様に精一杯の尊敬の念を込めた視線を送った。

すると、机を挟んで私と向かい合う素子様は、どこかうろたえたような表情を浮かべた。

 

 

「・・・尊敬のまなざしが、辛い・・・」

「は・・・?」

「いえ・・・昔の私は、そこまで尊敬の念を受けられるような人間ではなかったのですよ」

「はぁ・・・」

 

 

その時、私の鞄の中から、ヴ~、ヴ~、と言う音が響いた。

何だ・・・?

少し考えて、思い出した。これは携帯電話のバイブ音だ。

夏休みに入る前、このちゃんとお揃いの機種を購入したのだった。

 

 

私は素子様に断りを入れた後、鞄から携帯電話を取り出した。

このちゃんと撮った・・・プリクラ? まぁ、写真シールが張ってある。

私の宝物だ。

それから、我ながらたどたどしい手つきで携帯電話を操作し、メール画面を開く。

 

 

『イノシシ鍋が食べたいですぅ』

 

 

・・・は?

一瞬、意味がわからなかった。

 

 

・・・イノシシ肉? イノシシの、お肉。それは良い。

鍋って・・・牡丹鍋のことだろうか。

今の季節に? いや、イノシシ肉の旬な季節など、知らないが・・・。

つまりは、おつかいと言うことだろうか、でもイノシシ肉なんて、どこに売っているんだ?

 

 

だがしかし、コレはこのちゃんの望み。

ならば、私は全力でそれを叶えて見せる!

 

 

「素子様、申し訳ありませんが急用ができてしまいました!」

「はぁ・・・まぁ、私もこれから大学に出向かねばいけないので、構いませんが」

「では、またご教授をお願いします!」

 

 

ギュンッ、と瞬動で素子様の前から辞し、30秒後には私は駅に向かって全力疾走をしていた。

猪肉、正直詳しくは無い。

だが、詳しそうな人間を何人か知っている・・・!

 

 

待っていてください、このちゃん!

この刹那、貴女に新鮮な猪肉を届けて見せます!

 

 

 

 

 

Side アリア

 

夏休みと言えど、先生には仕事があります。

生徒のこれまでの成績をまとめたり、次の学期の授業計画を立てたり。

夏休み明けの実力テストの問題作成なども、やっておかねばなりません。

つまり、何が言いたいのかと言うと・・・!

 

 

「仕事が一杯です・・・!」

「・・・そんな可愛い笑顔で言うことじゃないよねぇ」

 

 

ちょうど通りがかった瀬流彦先生が、私の顔を見てそう言いました。

お上手ですね、お礼にお仕事を2つ程引き受けてあげます。

最近、学園長としてのお仕事が大変だと聞いておりますよ?

 

 

「新田先生に怒られるよ?」

「知っていますか、瀬流彦先生・・・ダメと言われる程に、燃えるタイプの人間もいるのですよ!」

「あらあら・・・アリア先生は相変わらずねぇ」

 

 

しずな先生も肩を竦めていますが、何程のこともありません。

確かに、仕事をやり過ぎると新田先生に怒られます。

しかし、されどしかし・・・持ってしまった仕事は仕方がありません。

そうは、思いませんか?

 

 

そう視線に込めて、瀬流彦戦線としずな先生を見つめてみます。

2人は苦笑しながら・・・何故か、私の後ろを見ておりました。

 

 

「・・・ああ、コレ、いつものパターンだね」

「そうですわねぇ・・・」

「はい?」

「・・・アリア先生、ちょっと良いですかな?」

 

 

首を傾げて見た所、私の背後から低い声が。

・・・・・・いえ、これは違うんです。

 

 

「・・・違います、違うんですよコレは。そう、何と申しますか、これは普段お世話になっている方々にお礼をしたいと言う私の気持ちの表れでありまして、その、べ、べべ別にただ仕事を増やしたいな、なんて欠片も考えていませんにょ?」

「アリア君、その言い訳は苦しい上に、何か悲しいよ・・・本音が見えてるし」

 

 

瀬流彦先生が、本当に悲しそうに首を横に振りました。

た、助けっ、助けてくださっ。

 

 

「アリア先生、少しお話がありますので、隣の部屋に行きましょうか」

「職員室の隣って、生活指導室ですよね新田先生? 私は別に、生活について指導されなくても大丈夫ですよ?」

「なら、問題ありませんな。逃げる理由が無い」

「え、違います違います! 行く必要が無いってことで、ちょっ・・・!」

 

 

1時間も叱られてしまいました。

・・・くすん、私がいったい、何をしたと言うのですか・・・。

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

何が視える?

そう問われると、うちは少し困ってまう。

だって、今のうちにはいろいろな物が視えとるから。

 

 

「いろいろな物が視えるえ」

 

 

本当に、今のうちにはいろいろな物が視えてまうんよ。

気を抜くと、「あっち」と「こっち」がごっちゃになってまうくらいに。

学園祭の時よりも、色濃く、より深く、より昏く・・・。

ただ、視る。

 

 

逆に、何を視たい? と問われると、うちの答えは決まっとる。

綺麗な物が視たい、視ているだけで心癒される、優しい気持ちになれる物を。

 

 

「今の所は、それがあの羽根っ娘なわけじゃな」

 

 

今度は、はっきりと聞こえる声。

うちとおでこをくっつけとった晴明ちゃんが、うちから離れてフヨフヨと空中に浮かんだ。

視界が開けて、自分がちゃんと家におることを確認する。

「こっち」の世界にちゃんとおることを、確認する。

 

 

「最近のお主は、何と言うか、危ういの」

「あははー、そうかもしれへん」

「まぁ、藤原の姫じゃからの、才能はあるじゃろうが・・・それにしてもの」

 

 

うちの目の前で、黒い翼を持ったビスクドールが、難しそうな顔をした。

安倍晴明、神様の域にまで達した陰陽師。

 

 

少し前から、うちに陰陽術を教えてくれとる人。

うちのことを「藤原の姫」って呼ぶのは、血筋的には合ってるような気もするけど。

いつか、木乃香ってちゃんと名前で呼ばれたいわぁ。

お姫様扱いは、何や、くすぐったいんやもん。

 

 

「楔があの羽根っ娘一人と言うのはのぅ・・・」

「別に、せっちゃんだけやないよ」

「そういう意味でなくてのぅ・・・のぅ、藤原の姫よ」

「何や、晴明ちゃん」

 

 

うちは、せっちゃんを見ていたい。

そして、視ていたい。

あんな綺麗な羽根・・・心を奪われへんかったら嘘や。

 

 

せっちゃんをのけものにした一族は、本当にアホやわぁ。

あんなに綺麗なせっちゃんを、手放せるなんて。

 

 

「お主、あの刹那とか言う羽根っ娘を、喰ってしまいたいと思っておるのではないか?」

 

 

晴明ちゃんの、そんな言葉に、うちは・・・。

うちはただ、にっこりと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

Side 楓

 

今日は午後から「さんぽ部」の会合でござる。

拙者が暮らしている山で山菜取りでござるよ。

史伽殿や風香殿が来る前に、篭やら何やら準備するでござる。

ああ、そうでござる、川で釣りなどしても良いかもしれないでござるな。

 

 

「・・・む?」

 

 

そう思い、裏手に置いてある釣り竿を取りに行こうと、家の外に出たでござる。

すると、拙者の目の前に・・・。

 

 

それはそれは、立派なイノシシが庭先にいたでござる。

 

 

体長、2メートルぐらいでござろうか?

黒褐色の剛毛に覆われた立派なイノシシ。

こんな場所で、こんな時期に、こんなに立派なイノシシを見ようとは・・・。

コレは、誰かに教えねば・・・!

 

 

拙者は懐から携帯電話を取り出すと、電話をかけたでござる。

プルルル・・・と音が鳴り、3コール目で相手が出たでござる。

 

 

「おお、真名でござるか。今、うちの庭にイノシシが出たでござるよ」

『・・・楓か? プライベート用にかかってきたから誰かと・・・イノシシだと?』

「うむ、イノシシでござるよ。興奮するでござるな」

『興奮するかはわからんが・・・今夜は牡丹鍋か? イノシシは良く焼けよ』

 

 

・・・おろ?

どうやら、イノシシが拙者に気付いたようでござるな。

捕まえてから、電話すれば良かったでござる。

 

 

『しかしまぁ、麻帆良にイノシシなんているんだな』

「うむ、拙者も子供の頃は良く見たでござるがっ・・・?」

 

 

その時、近くに強い「気」を感じたでござる。

随分と大きな「気」で、一瞬、敵かと思ってしまったでござるが・・・。

どうも、その「気」は拙者では無く、むしろ。

 

 

「ちぇえりゃっ!」

 

 

次の瞬間、うちの庭が吹き飛んだでござる。

地面が砕けて、うちに小さな石がコツンコツン、とぶつかる。

気合い一閃、土煙が晴れた先には、見覚えのあるサイドポニーの・・・。

 

 

「・・・刹那?」

『何? 刹那がどうした。イノシシの話じゃなかったのか、楓?』

「ちっ・・・逃がしたか・・・おお、楓じゃないか、良い天気だな」

「人の家の庭先で物騒な技を使っておいて、良い天気も何も無いでござるよ」

「む・・・す、すまない」

『何だ、何の話だ楓。私は餡蜜を食べている最中で忙しいんだが』

 

 

まぁ、別に壊されて困る物は無いでござるから、良いでござるが。

釣り竿も無事だったでござるし。

刹那は少し顔を赤くして、拙者に頭を下げてきたでござる・・・何の何の。

 

 

「真名、刹那のせいでイノシシを取り逃がしたでござる」

『すまない楓、話が見えないぞ』

 

 

さて、今日の予定を少し変更するでござるかな。

 

 

 

 

 

Side 瀬流彦

 

いやぁ、それにしても、アリア君は相変わらず仕事が好きだねぇ。

一瞬、本気で手伝ってもらおうかと思っちゃったよ。

僕が特別に忙しいわけじゃないと思うけど、それでもいきなり学園長だからさ。

・・・大変なんだよ、本当に。

 

 

「そう言えば、瀬流彦先生も休暇を取っておりませんな」

「そう言えば、そうですわね」

「あはは、忙しくて・・・」

 

 

新田先生、しずな先生と、学園長室でそんな会話をする。

実際、僕もアリア君と同じくらい休暇が無いからね。

でも、僕は「休めない」で、アリア君は「休まない」んだけどね。

コレって結構、重要な違いだと思う。

 

 

まぁ、休暇を貰っても、特にやることも無いしね・・・。

魔法関係は、関西の長・・・詠春さんが、全部やってくれてるからさ。

学園長の仕事も、今はまだ新田先生とかに頼る部分が多いわけだし。

 

 

「ふむ、すると瀬流彦先生は、何か趣味などは無いのですかな?」

「趣味ですか? うーん・・・無いわけじゃ無いんですけど・・・」

 

 

でも、こう、没頭するって感じじゃないんだよね。

仕事が残ってると、気になっちゃうし。

・・・あれ?

僕、いつの間にかアリア君みたく仕事人間になってない?

 

 

「では、親しい友人と遊びに行ったりとかは?」

「あー、でも皆、忙しいみたいで・・・」

 

 

ガンドルフィーニ先生やシャークティ先生とか、今は凄く忙しいって。

何でも、教え子を麻帆良の代表として魔法世界に送らなきゃいけなくなったから。

他にも同僚の人とか、皆、忙しい。

学園祭以降、本当に仕事が急に増えて・・・。

 

 

「なら、恋人と過ごす・・・とか」

「こ、恋人ですか!?」

「おお、瀬流彦先生には恋人がいるのですかな?」

「い、いやいやいや、いませんよ!?」

 

 

何で急にそんな話しに!?

いや、本当、恋人なんてできたこと無いって言うか・・・。

・・・あ、言ってて軽く落ち込んだ。

 

 

「あら・・・瀬流彦先生なら、恋人の一人や二人、すぐにできると思いますわよ?」

「あ、あはは・・・」

 

 

いやぁ・・・僕なんてそんな、大した男じゃないし。

僕なんて本当、ただの凡人ですよ?

 

 

「むぅ・・・まぁ、瀬流彦先生も激務に追われる身、女性との出会いも少ないかもしれませんな」

「そうそう、そうですよ」

「しかし瀬流彦先生もそろそろ、身を固めても良い年齢かもしれませんな」

「そうそ・・・へ?」

 

 

な、何だか、話が変な方向に言ってる気がする。

新田先生は、一人でうんうん頷いて。

 

 

「・・・よければ、縁談でも見繕いましょうかな?」

 

 

え、えええぇぇ・・・?

 

 

 

 

 

Side アリア

 

いつか、新田先生を出し抜いて見せます。

私がそう決意を新たにした時、私はすでに校舎の外にいました。

・・・有給休暇って、使わないと怒られるんですね、初めて知りました。

と言うか、仕事があるのに休もうとか、考えたこと無いです。

 

 

「・・・突発的なお休み程、悩ましい物もありませんね・・・」

 

 

何をすれば良い物やら、わかりません。

最近、私がやってることと言えば・・・。

エヴァさんと修業して、茶々丸さんとお茶して、さよさんとお料理して、スクナさんとお昼寝して、チャチャゼロさんとナイフ研いで、晴明さんと将棋をして、田中さんの肩に乗って、ハカセさんとデバイスの話をして、真名さんと餡蜜を食べて、刹那さんに英語を教えて、木乃香さんと占いして、皆でお風呂に入って、やっぱり皆で寝て・・・エトセトラ。

 

 

・・・あれ?

案外、私って夏休みライフを満喫しているような気がします。

別荘を使ったりしているので、時間の感覚がどうも・・・。

 

 

「あーっ、アリア先生発見!」

「本当、アリア先生ですー!」

「はい?」

 

 

校門を出た所で、声をかけられました。

声のした方向を見てみれば、そこには私の生徒が3人、おりました。

風香さんと史伽さん、それに、真名さんです。

何と言うか、珍しい組み合わせですね・・・。

 

 

3人とも、スーパーの袋を手に持っています・・・白菜?

真名さんが「やぁ」と空いている方の手を振って近付いてきました。

風香さんと史伽さんは、元気の良いことに、私の周りをグルグル回っています。

・・・ちょっと、目が回りそうです。

 

 

「仕事帰りにしては早いね、アリア先生。さては追い出されたかな?」

「人聞きの悪いことを言わないでください」

 

 

結構事実を突いてくるあたり、鋭いですね。

・・・まぁ、3時で出てくれば、そうなりますかね。

でもでも、早退と言う可能性も・・・!

 

 

「真名さん達は、どこかへ行くんですか?」

「それは」

「聞いてよアリア先生!」

「今日のさんぽ部は、イノシシを食べるんだよ!」

「はい? イノシシ?」

 

 

真名さんを遮って、風香さんと史伽さんが言います。

イノシシって、あのイノシシですか?

何故、イノシシ。さんぽ部といったい何の関係が。

 

 

「30分程前に電話があってね、楓と刹那が山でイノシシ狩りをしているらしいんだ」

「・・・山で?」

「そう、山で」

 

 

・・・まぁ、そう言うこともあるのでしょう。

真名さんは軽く肩を竦めると、私にウインクして。

 

 

「どうだい、アリア先生も一緒に」

「ええと・・・良いんですか?」

「もちろん」

 

 

それでは・・・ご一緒させて頂きましょうか。

私もイノシシは初めてですね、ちょっとドキドキです。

 

 

 

 

 

Side 楓

 

「逃がすかぁ―――――っ!」

 

 

き、今日の刹那は、やたらと気合いが入っているでござるな。

慣れた拙者よりも素早く山の中を駆け、イノシシを追いかけているでござる。

 

 

しかし、刹那が真っ直ぐに追いかけてくれるおかげで、拙者が回り道をしながら罠を張れるでござる。

2回ほど見失ったでござるが、気・・・と言うか、声とか音ですぐに場所を知ることができたでござる。

もの凄く、目立っているでござるな。

刹那が直進的に、そして拙者が曲線的に動いて、イノシシを追いこんで行くでござる。

 

 

「ほっ」

 

 

イノシシの行く手に苦無を投げて、少しずつ罠の方向へ誘導するでござる。

見た目ほど体力がある獣ではござらんから、もう少し・・・。

 

 

ブゴッ!?

 

 

そして、とうとう罠にかけることに成功したでござる。

イノシシは驚いたような鳴き声と同時に、イノシシの四本の足が縄に縛られて、側の木の枝に宙吊りにされたでござる。

囲い罠とかの方が良かったかもしれないでござるが、時間が無かったので縄で代用したでござる。

イノシシは重いでござるから、長時間は保たないでござる。

 

 

「刹那、長くは保たないでござるよ」

「十分だ楓、苦しまずに逝かせてやろう・・・」

 

 

・・・本当に気合いが入っているでござるな。

さて、あのイノシシには悪いでござるが、今日の夕食になってもらうでござる。

ちゃんと供養もせねば・・・。

 

 

キィー、キィー・・・。

 

 

・・・む?

その時、どこかから小さな鳴き声が聞こえたでござる。

それから、近くの茂みがガサガサと揺れて・・・。

 

 

「おろ?」

「な、何だ?」

 

 

ブゴッ、ブゴッ。

キィー、キィー。

 

 

それは、2匹いたでござる。

小さな縞模様のそれは、小さなブタ・・・いや、イノシシでござった。

つまりは、ウリ坊。

・・・母親でござったか・・・。

 

 

2匹のウリ坊は、母親が吊るされている木の幹にすり寄ると、前足でガリガリし始めたでござる。

母親を、助けようとでもしているのでござろうか・・・。

 

 

「・・・どうする、刹那?」

「どうするも何も、捕まえるために追いかけていたわけだろう?」

「その通りでござるな。では初志貫徹して・・・やるでござるか?」

「むぅ・・・」

 

 

刹那は、ガリガリと前足で木の幹を引っ掻いている2匹のウリ坊と、吊るされている母親イノシシのを交互に見た。

3匹の鳴き声は、互いを気遣っているかのような印象を受けるでござる。

 

 

刹那は、自分の刀を見下ろして・・・そして。

そして、刀を抜いたでござる。

 

 

 

 

 

Side 刹那

 

楓の案内で山を降りると、そこで真名に出会った。

鳴滝さん達も一緒で、何故かアリア先生もいた。

 

 

「こんにちは、刹那さん、長瀬さん」

「おお、アリア先生。また新田先生に追い払われたでござるか?」

「・・・何で皆、同じことを言うんでしょう・・・」

 

 

楓の言葉に、アリア先生が軽く落ち込んでいた。

でも、もう麻帆良でアリア先生と新田先生の関係を知らない人間はいないと思う。

仕事をしたがるアリア先生と、休ませたがる新田先生の追いかけっこは、ある意味で名物だ。

 

 

「それでそれで、イノシシはどこですかー?」

「そうそうっ、かえで姉がイノシシ見つけたんでしょ?」

 

 

鳴滝さん達が、そう言って楓の手を引っ張っていた。

楓が、困ったような顔で私を見る。

う・・・す、すまない・・・。

 

 

「んー、実はイノシシに逃げられてしまったでござるよ」

「「えええ~~~っ!?」」

「すまんでござる~。その代わりに、刹那と山菜を集めてきたでござるよ」

 

 

楓が、私の持っている篭を鳴滝さんに示す。

そこには、アカザやカンゾウの花、山ブドウなど、この時期に採れる山菜が入っている。

まぁ、イノシシ肉に比べれば地味だが・・・。

 

 

「おや、イノシシ肉はダメだったんですね」

「残念だったな、刹那。じゃあ、この鍋の具材はどうするかな・・・」

 

 

真名とアリア先生の手には、スーパーの袋がある。

何故か白菜が多いが、とにかく申し訳なかった。

うう、あの時私が斬れていれば・・・昔は。

集落にいた時は、食べるために動物を殺すのを、ためらいもしなかったのに・・・。

 

 

「じゃあ、またスーパーに行こうかな」

「そうですね、イノシシのお肉、売ってるかもしれませんし」

 

 

・・・え?

真名とアリア先生が軽く言ったので、聞き逃しかけた。

 

 

「あの・・・イノシシ肉って、スーパーに売ってる物なんですか?」

「え? さぁ・・・買ったことが無いので」

「地域によってはある。まぁ、野菜だけで鍋も寂しいしな。無くても牛肉か豚肉は買おう」

「ですね」

「そ、そうですか・・・」

 

 

・・・山に分け入る必要は、なかったのか・・・。

 

 

結果的に、麻帆良のスーパーに奇跡的にイノシシ肉があった。

・・・しかも、50%引きだった。

は、恥ずかしい・・・。

 

 

 

 

 

Side 木乃香

 

夕方になって、せっちゃんが帰って来た。

どうしてかはわからんけど、イノシシのお肉を買ってきたて。

・・・何で。

 

 

「えっと・・・このちゃんがメールで」

「メール?」

「うん・・・」

 

 

何か、やけに素直で可愛ぇせっちゃんやった。

うちはちょっと考えてから、買い物袋を受け取った。

 

 

「ありがとうな、せっちゃん」

「う、うん、このちゃん」

 

 

うちがお礼を言うと、せっちゃんは可愛く笑ってくれた。

正直、そんなメールした覚え無いんやけど、せっちゃんが嘘を吐くとも思えへんし。

ちら・・・と後ろを見ると、リビングの扉が薄く開いとって、小さな頭が見えとった。

・・・後でお仕置きやな、ちびアリアちゃん。

 

 

「刹那、もう良いか?」

「え・・・あ、ああ」

「わぁ、お客さんがたくさんやね~」

「「お邪魔するぜ!」」

「山菜を献上に来たでござる」

 

 

龍宮さんに楓に、鳴滝姉妹まで。

今日は、さんぽ部やったんかな?

それに・・・。

 

 

「こんにちは、木乃香さん・・・それとも、こんばんはの時間でしょうか」

「せやね、アリア先生」

 

 

ひょっこりと、アリア先生もおった。

本当に、お客さんが一杯やな。

晴明ちゃんもおるし、ちょうど良かったかもしれへんけど。

 

 

「ほな、皆でお鍋にでもしよかな?」

「私達はすでにお鍋な気分だぜ!」

「お鍋ですー!」

「あはは、ほな、ちょっと待っとってな」

 

 

せっちゃんから貰ったお肉を持って、台所に・・・あ、そや。

言うとかなあかんことがあるわ。

 

 

「せっちゃん、せっちゃん」

 

 

ちょいちょい、とせっちゃんを手招きする。

せっちゃんは素直に近付いて来て・・・うちはせっちゃんの耳元に口を寄せて、コソコソと囁いた。

 

 

「お客さん呼ぶ時は、連れてくる前にメールしてな」

「え、あ、す、すみませんっ」

「ええよ」

 

 

別に怒っとるわけやないから。

ただ、ちょっと気を利かせてくれたらなって思とるだけで。

うちは笑いながら、皆をリビングに案内した。

 

 

 

「お肉、頂きっ!」

「お、ズルいですお姉ちゃん!」

「早い物勝ちだよーだ!」

「ははは、喧嘩はダメでござるよ」

「まぁ、ゆっくり食べるさ」

「そう言いつつ自分の分は確保してるんだな、真名、楓」

「まぁ、お肉は皆で食べてください」

「アリア先生も、お野菜ばっかりはあかんえ」

 

 

その日は、賑やかな晩御飯やった。

おちびさん達には、皆が帰った後、叱ってからちゃんとあげたえ。

テレビでイノシシ肉を見て、食べたかったんやて。

 

 

・・・変な子らやなー。

ま、うち程やないけどなー・・・。

 




刹那:
お久しぶりです、刹那です。
こ、この度はどうも、勘違いをしたようで。
あ、でも牡丹鍋は美味しかったです。
スーパーに売ってる物なんですね・・・イノシシ肉って。
てっきり、猟師が直に売ってる物かと・・・。


今回は何か、このちゃんや瀬流彦先生に怪しい気配がありましたが・・・。
概ね、私は充実した日々を送っています。
・・・でも、ちびアリア達はいつまでいるんだろう・・・。


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第78話「麻帆良の夏休み」

・7月24日木曜日「懺悔」(春日美空×クラスメイト)

 

最初は、偶然だった。

美空は、そう説明する。

しかし、その後継続したのは何故かと問われると、彼女は迷いなくこう答えるだろう。

 

 

「面白いからに決まってるじゃん(皆の力になりたいからさ)!」

「ミソラ、本音と建前が逆ダ・・・」

 

 

元来、悪戯好きの性格である。

シスターシャークティーとの約束で大人しくしてはいるが、生来の性格を抑える事は難しい。

 

 

きっかけは、鳴滝風香、鳴滝史伽の2名が、美空の所属する教会に懺悔に来たこと。

辞書で調べた結果、興味が出たらしい。

さらに偶然にも美空を神父と勘違いし(掃除中だったため、美空の姿を見ていない)、そのまま色々と話し出した。

具体的には、ここ一年間の鳴滝姉妹の悪戯の数々。

これを聞いた美空は・・・。

 

 

「ヤバい、面白い(こんなこと、いけないわ)!」

「ミソラ、本音が・・・」

 

 

結果として、美空は懺悔室でもっと面白い話は聞けないかと待つことにした。

もちろん、相手はクラスメイト限定だが。

例えば。

 

 

釘宮円の場合。

「駅前のまつ屋が移転しちゃって・・・(まつ屋の牛丼が好物)」

「それは・・・辛いですね(同じく)」

「・・・あと、くぎみ・・・少し嫌なあだ名で呼ばれなくするにはどうすれば良いですか?」

「あー・・・嫌なあだ名ってあるよねー、私も小学校の頃みそ・・・」

「みそ?」

「い、いえ! それとなく、その友人に言ってみてはいかがでしょう?」

 

 

椎名桜子の場合。

「うちの猫が壁で爪を研ぐんですー」

「ここは、ペット相談所では無いです」

「あと、猫がゴキ・・・黒いアイツを捕獲しては見せにくるんで、悩んでて・・・」

「うわぁ・・・マジ?」

「まじ?」

「い、いえ! 根気良く、愛猫と付き合ってはいかがでしょう!」

 

 

柿崎美砂の場合。

「毎週都心で買い物するんですけど、お財布事情が厳しくて」

「ふむ・・・欲しい物を得ようと努力することは、悪いことではありません」

「あと、最近ちょっと男関係で揉めてて・・・」

「わ、私は彼氏とかちょっと・・・」

「は?」

「い、いえ! まずは、相手と対話する努力をしてはいかがでしょう!」

 

 

以上の経験から、美空はある結論を得ていた。

正直、3-Aメンバーにあんな思い悩みがあるとは思わなかったが・・・。

 

 

「中途半端な気持ちで、他人の悩みとか聞くもんじゃないね・・・キツいわ」

「神父様は、いつもアレをやってるんダナ」

「凄いよね・・・いや、マジでさ」

 

 

その日の晩、美空とココネは神父に対し、非常に素直だった。

その様子をシスターシャークティーは首を傾げながら見ていたが、これはこれでよい兆候かと思うことにした。

なお、美空がクラスメイトの打ち明けた悩みを、他人に話すことは無かった。

 

 

 

 

 

・7月24日木曜日「学園長瀬流彦」(瀬流彦×教師陣)

 

自分の人生の転機が訪れたのはいつかと言われれば、それは修学旅行だろう。

いや、それよりも前・・・昨年、白い髪の少女が赴任してきてからかもしれない。

瀬流彦は、そんな風に考えていた。

 

 

しかしだからと言って、ここまでになるとも思ってはいなかった。

何せ、若造である彼が、学園長になっているのだから。

 

 

「僕は、アリア君みたく仕事を愛してるわけじゃないんだよ!?」

 

 

今や彼の城となった学園長室で、瀬流彦はそう叫んだ。

瀬流彦の周囲には、彼の多忙振りをわかりやすく表現するかのように、書類の山が。

そのほとんどは、一般教師からの提出書類である。

 

 

どうも、「話のわかる学園長に変わった」との噂が流れているらしく、それまでは出されなかった組織改革案や授業案などが、続々と上がってきているのだ。

そのどれもが生徒の成長や学園の発展を願う物であり、麻帆良の教師達が無能ではないことを示している。

同時に、以前の学園長がどれ程、諦めの対象として見られていたかも。

 

 

「お疲れ様です・・・瀬流彦先生、いえ、学園長」

 

 

そう声をかけるのは、刀子である。

そう言う彼女自身も、疲れた表情を浮かべている。

関西呪術協会との合併に関する協議は、かつて関西に所属していた彼女が担当しているのである。

それに教師としての仕事も加わって、かなり多忙である。

 

 

麻帆良の魔法先生は、多かれ少なかれ、仕事に追われる毎日を過ごしている。

学園への襲撃者は激減したものの、激しい環境の変化に、組織・個人が追いついていないのである。

 

 

「裏関連の人員不足は、関東に駐留してる関西の部隊の助力で何とか・・・」

「表は、どうにもできないってわけですよねそれ・・・」

 

 

現在、魔法関係での麻帆良は、関西呪術協会に「実効支配」されていると言って良い。

そう遠くない内に、関西の長、近衛詠春が麻帆良に常駐することになる。

その時には、名実共に東西の組織が一つになるのだ。

これはどう控えめに見ても、東の西への吸収合併、いや併合だと、瀬流彦は思う。

 

 

まぁ、彼自身に、それに対して思う所は無い。

少なくとも、そちらへ関与する権限を彼は持っていない。

彼はあくまでも、一般教師を束ねる「学園長」なのだから。

なので・・・。

 

 

「新田先生、ヘルプ~・・・」

「・・・新田先生は、出張中です」

「・・・」

 

 

新田は、瀬流彦をよく支えてくれるが、全てを頼れるわけでは無い。

それでもいるのといないのとでは、安心度が違った。

 

 

「失礼します」

「あ、ガンドルフィーニ先生・・・それは?」

 

 

その時、魔法生徒達を束ねているガンドルフィーニが学園長室に入ってきた。

ただ、その手には「超包子」と書かれた紙袋が。

ガンドルフィーニはそれを瀬流彦の机に置くと。

 

 

「さぁ・・・部屋の前に置かれておりましたので」

「はぁ・・・」

 

 

瀬流彦が紙袋を開くと、中には肉まんが。

それと、メモが一枚。

 

 

『差し入れアル。頑張ってください  古』

 

 

「・・・」

「瀬・・・学園長?」

「どうしました?」

「が・・・」

「「が?」」

「頑張りましょう!!」

「は・・・」

「・・・はぁ」

 

 

急にテンションの上がった瀬流彦に対し、刀子とガンドルフィーニは訝しげな視線を向けた。

 

 

 

 

 

・7月25日金曜日「井戸端会議」(千草×シスターシャークティー×茶々丸)

 

「へぇ、そないなことがあったんかいな」

「ええ、何だか妙に素直と言うか・・・」

 

 

麻帆良市街のカフェでそんな会話をしているのは、天ヶ崎千草とシスターシャークティーである。

この両者は、学園祭で仕事を共にして以来、交流を持っている。

今日は特に用があったわけではないが、たまたま街を歩いていたら出会っただけだ。

せっかくだからお茶でも、と言う流れである。

 

 

「まぁなぁ、急にそう言う殊勝な態度になる時は・・・危ないな」

「やはり、そう思われます?」

「ああ、きっと何か欲しい物があるんやて」

 

 

仕事の話を除けば、この2人の会話は主に、自分が面倒を見ている子供のことについてで占められている。

今は、昨日から急に大人しくなった美空のことである。

 

 

「欲しい物・・・ですか。言われてみれば私、あまり美空やココネには物を与えていないので・・・」

「うちも、月詠や小太郎にあまりええモンやれて無いからなぁ」

 

 

立場と財政が彼女達の行動を制限しているため、彼女達は若い子供達が欲しがる物(何が欲しいかは別として)を容易には与えられない事情があった。

 

 

「おまけに小太郎は、何か悩んどるみたいなんやけど・・・」

「まぁ、それは心配ですね」

「小太郎はアレで、結構溜めこむから・・・どないしたモンかなぁ?」

「あら・・・千草さんに、シャークティー先生、こんにちは」

 

 

その時、第三の声がその場に響いた。

そこにいたのは、買い物袋を携えた絡繰茶々丸であった。

 

 

「茶々丸はんか、何や凄い荷物抱えて・・・」

「ここ数日、我が家では豪勢な夕食が続いておりますので」

「何や、ええことでもあったんか?」

「それは・・・」

 

 

そこで茶々丸は、不思議そうな顔をしているシスターシャークティーに視線を移した。

言うべきか言わざるべきか・・・。

それを察した千草は、話題を変える必要を感じた。

 

 

「そう言えば、茶々丸はんは美空って子とクラスメイトやったな」

「美空さんですか? さぁ・・・あまり会話がある方ではありませんので」

「会話が無い・・・教室での美空は、どんな様子なのですか?」

「そうですね・・・」

 

 

それ以降は、主に美空や小太郎、月詠やアリア、エヴァやさよなどの話になった。

以後、たまに集まってはそう言う話をする仲になった3人である。

なお、後に那波千鶴を加えて4名になるわけだが、それはまた別の物語である。

 

 

 

 

 

・7月25日金曜日「成長期」(クラスメイト×アリア)

 

生徒が夏休みでも、教師には仕事がある。

10歳の子供先生であるアリアも、その例外では無い。

今日も今日とて、夕方まで仕事をしていた。

そして、その帰り道・・・。

 

 

「す、スキムミルク2本!」

「わ、私さ、よ・・・5本!」

 

 

彼女の生徒である和泉亜子と佐々木まき絵が、「スターブックス」で何やら必死に注文しているのを見かけた。

その形相たるや、まさに切実。

不思議に思ったアリアは、2人の近くで苦笑いを浮かべていた大河内アキラと明石裕奈に声をかけた。

 

 

聞く所によれば、2人は裕奈のスタイルの良さに対抗心を燃やしているのだとか。

アリアは、それを遺憾に思った。

故に、大量のスキムミルクを抱えたまき絵と亜子に対し、説いた。

女性とは、一部の身体的特徴で判断できる物では無いし、それ以前にまき絵も亜子も十二分に魅力的であり、気にするべきでは無い、と理論的かつ感情的に説いた。

 

 

「「アリア先生・・・」」

 

 

亜子もまき絵も、アキラも裕奈も、そんなアリアの言葉に感動したようだった。

その様子に、アリアは満足そうに頷いた。

さて、少しばかり長く話したため、疲れた。

必然的に、アリアは最も近くの店で注文した。

 

 

「すみません、スキムミルクを10本ください」

「「「「説得力!!」」」」

 

 

裕奈達4人が、すかさずツッコんだ。

あまりにも、アリアの行動と言動が伴っていなかったためだ。

 

 

「な、なんですか、店先で。迷惑ですよ」

「何さ、アリア先生だって気にしてるんじゃーん!」

「うん、今のはちょっと・・・」

「というか、10歳でスタイルとか気にせんでも」

「大体、おっきくなっても邪魔なだけだよー?」

「「「持つ者にはわからない!!」」」

 

 

裕奈本人と、アキラ以外の3人が声を揃えた。

 

 

 

 

 

・7月26日土曜日「畑で解消」(スクナ×月詠×チャチャゼロ)

 

ザシッ・・・鍬を畑の土に刺した瞬間、鍬を握り締める両腕に何とも言えない感覚。

肉を斬る際と似て非なる感触。されど、甲乙付けがたい。

ほぅ・・・と、少女の唇から、吐息が漏れる。

 

 

少女の名は月詠。

最近、人間が斬れなくて斬れなくて、もうどうにかなってしまいそうな少女である。

素子や刹那など、神鳴流剣士との斬り合いの記憶から妄想し、自分を慰めることしかできない日々。

そんな中で、擬似的ではあるが欲望を充足・・・もとい、誤魔化す方法を見つけた。

 

 

畑を耕すことである。

目を閉じて妄想しつつ鍬を振り下ろせば、ザクッ、と小気味良い音と共に、肉を斬る時と同じ感覚を味わえる。

もちろん、あくまでも擬似的な物だし、当然ながら血も飛び散らないので物足りないが。

 

 

「はぁ・・・この切なさもええわぁ~・・・」

 

 

これはこれで、アリだと月詠は思った。

 

 

一方、同じく畑仕事を進めるスクナは、それを恐れを含んだ目で見ていた。

あの少女はいったい、何をしているのだろう?

 

 

「超怖いぞ・・・」

「アー、ニクキリテーナー」

「身の危険を感じるぞ・・・」

 

 

月詠は、一度鍬を土に突き入れると止まるので、仕事が進まない。

おまけにスクナの頭の上に乗っているチャチャゼロも、なにやら物騒なことを言っている。

神といえど、怖いものは怖い。

 

 

「ああっ、ええわぁ~・・・」

「アノムスメヲミルト、ウズウズスルンダヨナー」

「超、怖いぞ!」

 

 

神といえど、理解できないことは存在する。

 

 

 

 

 

・7月26日土曜日「映画」(真名×楓×アリア)

 

たまには良いかと思い、映画館に入ろうとした。

そして大人料金を要求された。

龍宮真名は、声を大にして叫んだ。

 

 

「私は、中学生だ!」

 

 

しかし学生証を見せても、受付のおばさんは認めてくれなかった。

中学生は1000円であり、大人は1800円である。

ある事情からタダ働きを強いられている真名にとって、800円の差はいかんともし難い物があった。

 

 

「ははは、無様でござるな、真名」

「な、楓・・・学生服、だと!?」

 

 

そこに現れたのは、3-Aの忍者(本人否定)である長瀬楓であった。

彼女は、学生服(中学生)を着ていた。

なるほど、真名は己のミスを痛感した。

 

 

真名の格好は、お世辞にも中学生らしいとは言えない。

学生服を着ていれば、自然と中学生であることがわかるではないか!

 

 

「中学生一枚、でござる」

「1800円ね」

 

 

しかしその作戦も、普通に失敗した。

身長が、高過ぎたのである。

 

 

「「小学生二枚ですー♪」」

 

 

そしてその脇を、鳴滝姉妹が小学生料金700円で通過して行った。

真名と楓には、それを見送ることしかできなかった。

よもや、これ程の屈辱に耐えねばならないとは・・・。

 

 

しかしそんな2人に、救世主が現れた。

 

 

「ふ・・・生徒の危機に、私、参上です!」

「「あ、アリア先生!?」」

 

 

そこに現れたのは、白い髪の少女、アリアであった。

仕事帰りなのか、スーツ姿である。

 

 

「本当はいけないことですが、私が中学生料金で2枚購入すれば良いのです。さぁ、お2人の学生証を私に」

「おお・・・」

「そんな策が!」

 

 

アリアは2人から学生証を預かると、それを手に受付へ向かった。

しかし本人が買わないのも不味いかと思い、小学生一枚と追加注文してみた。

すると。

 

 

「学生証は?」

「は?」

「だから、あんたの学生証は?」

 

 

その時、アリアは初めて気付いた。

アリアは、学生証などと言う物を持っていなかった。

そもそも、学生では無いのだから当然ではあるのだが・・・。

 

 

そして確かに、麻帆良では小学生でも学生証を所持しているのが常だ。

しかし、鳴滝姉妹は学生証の提示などなくとも、入れたではないか!

つまり。

 

 

「・・・スーツのせいです。普段着ならきっと・・・」

「ああ、学生服を着ていれば私もきっと・・・」

「・・・拙者は、どうすれば良いのでござるか・・・」

 

 

その日、長瀬楓はアリア・真名・千鶴で構成される同盟の新規メンバーとなった。

 

 

 

 

 

・7月27日日曜日「二度寝」(アリア×エヴァンジェリン)

 

エヴァ家の朝は早い――――のだが、夏休みである現在に限って言うのならば、別である。

この家の家事の一切を任されている絡繰茶々丸を除けば、その朝の起動は全体として遅くならざるを得ないのである。

まぁ、難しく言いすぎた感があるので、わかりやすく言えば・・・。

 

 

普通に、朝が弱いメンバーが多いだけである。

そんなエヴァ家の寝室で、ベッドの上で上半身を起こしている者がいた。

 

 

「・・・むぅ・・・」

 

 

その「朝が弱い」メンバーの一人、アリアが比較的早くに起きたのは、ひとえに習慣と言う物である。

何かの仕事が入っていれば、彼女はこのまま起きることを選択しただろう。

しかし残念ながら、今の彼女に緊急の仕事は無かった。

 

 

普通に、夏休みである。

 

 

「・・・にゅ・・・」

 

 

意味不明な鳴き声を発すると、アリアはモゾモゾと、布団の中に潜り込もうとして・・・。

ふと、自分の隣で寝ている金髪の少女に、眠そうな視線を向ける。

アリアに背を向ける形で眠る少女・・・少女と言っても、彼女―――エヴァンジェリンは、すでに齢600歳を数えているが。

 

 

「・・・むー・・・」

 

 

グシグシと目を擦ると、彼女はエヴァンジェリンの背中に張り付くように布団を被り、身を丸めた。

気配に気付いたのか、エヴァンジェリンが薄目を開けて背中の方を確認する。

彼女は、それがアリアだと確認すると・・・。

 

 

ポンポン、とアリアの背中を叩いて、自分も再び目を閉じた。

二度寝、それは人生における最高の贅沢の一つである。

 

 

「・・・記録中 (ジー)」

 

 

そして緑の髪の少女人形が、それを見ていたのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

・7月27日日曜日「水泳」(エヴァ家)

 

エヴァンジェリンの別荘には、海がある。

夏ともなれば、その海で海水浴をしようと言う話も出る。

 

 

「は、ははは、離さないでくださいね!?」

「大丈夫です。ですからまずは水に顔を・・・」

「絶対ですよ! 離しちゃ嫌ですからね!」

「はい、ですから顔を水に・・・」

 

 

そうすると、泳げないメンバー・・・具体的にはエヴァンジェリンとアリアが、泳げるようになった方が良いのでは、と言う意見も出てくる。

そう言うわけで、茶々丸はアリアに泳ぎを教えていた。

両手を繋ぎ、アリアに水に顔をつけるよう促す。

 

 

茶々丸は無表情だが、いや微笑を浮かべてすらいるが・・・。

その両目は、超高性能カメラを最大稼動させていた。

最高画質で、黒のワンピースタイプの水着で、しかも涙目なアリアを記録している。

これも、防水加工を施してくれたハカセのおかげ。

 

 

(グッジョブです、ハカセ・・・)

 

 

彼女の創造主への尊敬の念は、強まるばかりだった。

ちなみに。

 

 

「そこな西洋の鬼は、結局泳がんのか?」

「うぅうるさい! 吸血鬼が流水に入れるわけないだろ!?」

「その割に、えらく動揺しておるのぅ・・・乳酸菌、足りておるか?」

「何の関係がある!?」

 

 

晴明の言葉に対し、エヴァンジェリンはそう返した。

ちなみに、エヴァンジェリンは流水に身体をつけてもどうもならない。

 

 

「ええい、不愉快な奴め・・・バカ鬼、スイカを持ってこい!」

「スクナには、さーちゃんにオイルを塗ると言う崇高な使命があるから、無理だぞ!」

「あはは・・・すーちゃん、もう!」

「貴様らは最近自重せんな!?」

「ワカイッテ、イイヨナ」

「チャチャゼロ、お前まで本当どうしたぁ!?」

 

 

騒がしくなる一方の、砂浜。

それに対して・・・。

 

 

「うむむむ・・・む!? はぶっ・・・えへっ、えふっ・・・!」

「大丈夫ですか?」

「けほっ・・・あうぅ、離しちゃダメって、言ったじゃないですかぁ・・・」

「申し訳ありません」

 

 

自分にしがみついて来るアリアに、茶々丸は身体が震えるのを感じた。

こう、内側からゾクゾク来ると言うか・・・。

 

 

「もしや、これが魂の証明・・・!」

「・・・はい?」

「いえ、なんでもありません」

 

 

キランッ、と目を輝かせて、茶々丸は言った。

ちなみに、その日もアリアは泳げるようにはならなかった。

その原因がアリア本人にあるのか、それとも他にあるのか。

 

 

あえて、言明はしない。

 

 

 

 

 

・7月28日月曜日「懺悔②」(春日美空×雪広あやか)

 

「今日も今日とて叱られてーっと♪」

 

 

礼拝堂の掃除をしながら、美空は適当な歌を歌っていた。

そして実際、彼女は今日もシスターシャークティーに怒られていた。

夏休みでも二度寝を許されない者の気持ちが、果たしてわかるだろうか?

 

 

「まー、卒業までは大人しくって約束だしねー」

「ミソラ、肩車」

「あいよー」

 

 

ココネを肩車しつつ、高い所の埃なども拭き取る。

その時、美空の視界にあの懺悔室が入った。

・・・念入りに掃除しておくことにしよう。

 

 

ココネを今度は膝に抱えて、懺悔室の中に入る2人。

そして2人で、壁や天井を拭いていると・・・。

 

 

「失礼致します」

 

 

不意に、反対側の小部屋、つまりは懺悔室内に、別の人間が入ってきた。

それが「いいんちょ」こと雪広あやかであることは、美空にはすぐにわかった。

美空が神父の不在を告げる前に、あやかは話を始めた。

 

 

「実は私、誰にも言えない悩みを抱えていて・・・」

 

 

曰く、愛しい方(あえて名前は言わないが)が遠く異国の空の下、病に伏しているとのこと。

自分も看病に行きたいが、個人的な目的で親の財力・権力を使うことはクラス(担任)の方針で禁じられているため、自粛せねばならない。

 

 

「私は、どうすればよろしいのでしょう?」

「はぁ・・・」

 

 

正直、美空は対応に困っていた。

なぜなら彼女は、あやかの「愛しい方」が実はすでにイギリスにいないであろうことを知っている。

というより、二度と戻らないであろうことも。

 

 

しかしそれを、あやかに教えることはできない。

個人的には、面倒すぎるので投げ出したいが、無責任の誹りを受けるのも困る。

 

 

「えー・・・愛しい人のためにできることをしようとするのは、悪いことではありません」

「では・・・」

「しかし、そのためにルールを破ることはいけません。貴女の愛しい人も、それを聞けば悲しむでしょう」

「・・・そう、ですわね」

「たとえ遠くにいようとも、心は傍にと申します。日々、その方の快復を祈ることで、貴女の想いも届くことでしょう・・・」

 

 

結局、そう言うしかなかった。

本物神父であれば、もっと気の利いたことも言えるのであろうが。

結果的にはこの経験も、美空の神父への尊敬度を高めることで終わった。

 

 

 

 

 

・7月28日水曜日「ピエロと元幽霊」(さよ×ザジ)

 

ザジ・レイニーデイ。

3-Aメンバーの中でも、謎の多い少女である。

 

 

さよの保護者でもあるエヴァンジェリンは、「放っておけ」と言う。

もう一人の保護者とも言うべきアリアは、「まぁ、害は無いと思います」と言っていた。

ただ、コレはないだろうと、さよは思った。

 

 

「こ、こんにちはー?」

「・・・(ペコリ)」

 

 

特に用があったわけではないが、なんとなくコンビニに来たさよ。

彼女はそこで、褐色の肌のクラスメイトと偶然遭遇した。

 

 

ただ、ザジは一人では無かった。

とは言え、普通の人間には一人のように見えるだろうが。

と言うのも、ザジの周囲にいる黒いナニカは、明らかに人間では無い生物だったのだから。

それが何かは、さよにはわからない。

 

 

解析の魔眼を持つアリアであれば、わかったかもしれないが。

 

 

「え、えっと・・・コンビニ、お好きなんですか?」

「・・・(コクリ)」

「そ、そうなんですかー・・・」

 

 

その後、さよはザジにジャグリングなる物を教えてもらった。

ザジは5個だろうと10個だろうと20個だろうと完璧にやってのけたが、さよは3個が限界であった。

 

 

ちなみにその日、そのコンビニではペットボトル飲料が大量に売れた。

 

 

 

 

 

・7月29日木曜日「お呼ばれ」(村上夏美×天ヶ崎小太郎+α)

 

「えっと、どうぞ?」

「お、おぅ・・・」

 

 

どこか緊張した様子で部屋に招き入れる夏美に対し、招かれる小太郎も、どこか緊張していた。

ただし、その緊張の種類は同じとは言えない。

夏美は、10歳の子供とは言え、男の子を部屋に招くと言う初めての経験に緊張していたし、一方で小太郎は、はたして何を話した物かと緊張していた。

 

 

とにかくも、小太郎は夏美の部屋にいた。

お茶が出され、向かい合って座る。

空気が、張り詰めていた。

 

 

「・・・」

 

 

不思議な沈黙が、場を支配していた。

それから、5分程して・・・。

 

 

「「あの」」

 

 

何故か同時に、話を始めようとした。

はっ、とした2人は慌てて。

 

 

「お、おぅ、何や!?」

「い、いやいやいや、小太郎君からどうぞ!?」

「いや、夏美ねーちゃんからで構へんて!」

「そ、そそそ、そんな! 私の話なんて大したこと無いし!」

「そ、そんなん言うたら俺かて、大したことや無いて!」

「あ・・・そっか、大したことじゃ無いもんね・・・」

「む・・・」

 

 

一転、急に元気を無くして俯いた夏美を見て、小太郎が顔を顰めた。

正直、彼は女性の扱いが上手いとは言えない。

今や義母となった千草などは、「そんなん、上手くなんてならんでええ」などと言うが、こう言う時に気の利いた一言も言えないと言うのは、やはりどうか。

 

 

面倒極まりないが、夏美が元気で無いと、困る。

どうして困るのかは、わからないが・・・。

 

 

(な、何やね、もう。急に態度変わるから女はわからんて・・・ああでも、何とかせな。千草ねーちゃんらなら何か・・・せや、ここは千草ねーちゃんや月詠のねーちゃんになったつもりで・・・)

 

 

そこまで思考を巡らした上で、小太郎の頭の中でいわゆる「天使と悪魔」が生まれた。

白い羽根を生やした月詠が、彼に囁く。

 

 

『ここは当たり障りなくー、やっちまえば良いと思うえ~』

『あかん! こういう場合は当たり障りなく行くのが、一番あかん! そもそも、やるって何をや!』

『え~』

 

 

黒い羽根の千草の反論に、白い羽根の月詠が不満そうな声を上げる。

 

 

『こういう場合は、空気を読まなあかん! 小太郎に足らんのは、そう言うコミュニケーション能力や!』

『空気読んでたら話が進まへんやん~』

『それでも、読むべき時があるんや!』

 

 

(・・・結局、どないすればええねや!?)

 

 

小太郎の頭が煙を吐き出す直前、夏美が顔を上げて。

 

 

「手紙」

「お、おぅ?」

「手紙、書くね。イギリスに」

「お、おう・・・」

 

 

正直、手紙が彼の手元に届くかは、かなり難しい。小太郎はそう思った。

なぜなら、ウェールズに行くとは説明している物の、実際には魔法世界に行くのだから・・・。

 

 

・・・小太郎は知らないことだが、現在、彼の義母である天ヶ崎千草は、関西呪術協会がメルディアナ・魔法世界に築く新たなネットワークを活用して、情報のやり取りができるように努力している。

その中の一つには、手紙のやり取りも含まれている。

それに潜り込ませる形で、小太郎と夏美の文通は時間を置きつつも続くことになるのだが・・・それはまた、別の物語である。

 

 

ちなみに、現在夏美と小太郎がいる部屋は、学生寮の一室である。

ここには他に、2名の少女が住んでいるのだが・・・。

 

 

「あらあら、私達はお邪魔みたいね♡」

「くぅ・・・私だって、ネギ先生と・・・!」

 

 

今回は、どうやら出番が無いようであった。

 

 

 

 

 

・7月30日水曜日「友を想う」(綾瀬夕映×早乙女ハルナ)

 

親友(のどか)が、突然のイギリス留学に行ってから、すでに一ヶ月が経っていた。

夕映は、それを寂しいと思いつつも、親友の健康を案じる毎日を過ごしていた。

手紙や電話の一つも無いが、便りが無いのは元気な証拠とも言う。

 

 

「卒業までには帰ってくるです」

 

 

そう、思っていた。

読書と、ドリンク巡りの毎日。

親友が傍にいないのは、寂しいが・・・概ね、充実した夏休みを過ごしていると言える。

なのに・・・。

 

 

「・・・?」

 

 

何故か不意に、胸が締め付けられる時がある。

何か大切なことを忘れているような、何かに拒絶されたような。

そんな気持ちが、不意に襲ってくることがある。

大きな、喪失感。

 

 

「夕映、どしたの?」

「いえ・・・何でも無いです」

 

 

ドリンク巡りのついでと言うわけでは無いが、今日はハルナと画材屋に行って来たのだ。

これから、寮の部屋に戻る所で。

ハルナの不思議そうな表情に、夕映は小さな笑顔を浮かべた。

 

 

それでも、胸の内の感情は消えない。

彼女は空を見上げ、遠くイギリスへと思いを馳せた。

そして・・・。

 

 

「え、ちょ、夕映?」

「あ・・・あれ?」

 

 

どう言うわけか、ポタポタと、涙が流れる。

頬を伝い落ちる透明な雫に、誰よりも夕映が驚いていた。

 

 

「・・・」

 

 

その様子をたまたま目撃した白髪の少女は、どこか哀しそうにそれを見ていた。

 

 

 

 

 

・7月30日水曜日「ネトゲ」(千雨×ぼかろ+α)

 

長谷川千雨の夏休みライフは、ネットに始まりネットに終わる毎日である。

夏休みの宿題? そんな物は気にするに及ばないのである。

それが、中学生と言う存在なのである。

 

 

「くぁ――♡ クーラー最高――♡」

 

 

寮の自室で一人、クーラーの効いた部屋でゴロゴロ。

これもまた、二度寝と並ぶ最高の贅沢の一種であろう。

 

 

「クーラーは人類の生み出した最高の発明品だな――♡」

『違います、最高の発明はインターネットです!』

『それでこそ、我々もまいますたーと出会えたと言うもの!』

「クーラーがダントツで一位だよな――♡」

『酷い、ますたー!』

 

 

ぼかろの発言は丁重に無視して、千雨は夏休みライフを満喫していた。

その時、パソコンの画面に映っている「週間ブログランキング」に変化があった。

 

 

千雨のホームページが、一位になったのである!

3代目ブログ女王の座が、彼女の手に落ちた瞬間だった。

くっ・・・と、千雨の口元が笑みの形に歪む。

 

 

「ふ・・・フフハハハハッ! 素晴らしい、コレで私が一位、つまりはトップ、頂点であることが証明されたわけだな!」

『さぁっすがますたー! 他人にできないことをあっさりとやってのける!』

『そこに痺れます、憧れます!』

「ははは、そーか、そーか! だが私の技術と貴様ら電子精霊群があれば、全ネット世界を掌握することも夢ではあるまい!」

 

 

実際、「ぼかろ」の全能力を余す所無く発揮すれば、ネット世界はおろか、世界その物を牛耳ることも可能である。

国家機密はもちろん、軍事情報の操作から金融市場の制圧まで、簡単にできる。

 

 

『まいますたー、ばんざーい!』

『電子の女王に栄光あれー!』

「はーっはっはっはっはっは―――・・・はぁ」

 

 

不意に、千雨はガクリと肩を落とした。

空しい、そんな感情が彼女の胸に去来した。

全てが彼女の願う通りに進んでいると言うのに、この空しさは何であろう?

 

 

『あ、まいますたー、メールですよー♪』

「あ? 誰からだ?」

『「切り裂き☆ジャック人形」さんからですー』

 

 

切り裂き☆ジャック人形。

最近千雨が仲良くしている、ネトゲ仲間である。

名前の割に常識人で、千雨とも仲が良い。

 

 

どうやら、千雨をゲームに誘っているようだった。

せっかくだし、千雨はその誘いに乗ることにした。

ネット越しであるが、誰かと遊べるのが、やはり嬉しかった・・・。

 

 

一方、その頃。

 

 

「・・・うん? チャチャゼロ、何をしている?」

 

 

喉が渇いたので何か飲もうと、リビングに降りて来たエヴァンジェリン。

彼女は、パソコンの前に座る自らの従者の後ろ姿を、不思議そうに見つめていた。

 

 

「ログインナウ、ダゼ」

「・・・? まぁ、良いが」

 

 

チャチャゼロ、またの名を「切り裂き☆ジャック人形」。

そんな彼女は、ネットでは癒し系で通っている。

 

 

 

 

 

・7月31日木曜日「新体操競技会」(まき絵×クラスメイト)

 

佐々木まき絵は、新体操部に所属している。

今日は、県大会。

リボンやボールなどを使って舞う彼女の姿は、見る者を魅了した。

それは技のレベル以上に、彼女の舞う姿そのものが、美しかったからに違いなかった。

 

 

ただ最後のミスが響き、結果は4位。

表彰台に上がることは、できなかった―――。

 

 

「はぁ・・・まき絵凄かったけどなー、アレで4位か・・・」

「うん・・・新体操って、奥が深いんだね・・・」

「いーや、アレは絶対優勝だったね!」

 

 

亜子とアキラの溜息混じりの感想に対し、裕奈は力強くそう言った。

お世辞でも慰めでも何でもなく、心からそう思っていた。

そしてそれは、アキラ達にもよくわかっていた。

そんな裕奈だから、彼女達は好いているのだ。

 

 

「あ、まき絵だ、おー・・・」

 

 

声をかけようとして、止まる。

まき絵は部活の仲間に囲まれているのだが、その目には涙が浮かんでいた。

それは、悲しみよりも悔しさが勝っている泣き顔だと、裕奈やアキラ、亜子にはわかった。

形は違えど、スポーツに関わっている3人だから、その気持ちが痛いほどわかった。

 

 

裕奈達は互いの顔を見ると、強く頷いて。

可能な限りの笑顔で。

 

 

「やっほーまき絵、お疲れー! 凄くカッコよかったよ!」

「うん・・・お疲れ!」

「お疲れ様、まき絵!」

「え・・・わわっ、何だもー、皆来てたのー!?」

 

 

そして場所は変わって、麻帆良学園。

職員室前の廊下で、少女が一人、窓の外を見ていた。

その目は、はたしてどこを見ているのだろうか・・・。

 

 

「アリア先生、会議始まりますよ?」

「・・・あ、はい、しずな先生」

 

 

その少女・・・アリアは、しずなの声にそう答えた。

アリアはもう一度だけ窓の外の空を見ると。

 

 

「・・・」

 

 

口の中で何かを呟いて、職員室へと戻った。

 

 

 

 

 

・8月1日金曜日「夏祭り」(木乃香×刹那+ちび)

 

「譲れない物が、あるですぅ」

「私だってそうですー」

 

 

ちびアリアとちびせつなは、互いに間合いを計りながら対峙していた。

その目は真剣そのものであり、まさに一触即発であった。

 

 

「いつか、こんな日が来ると思っていたですぅ・・・だって最近、ちびせつなは調子に乗ってるですぅ」

「乗ってません。ちびアリアさんこそ、調子に乗ってるんじゃないですかー?」

「乗ってないですぅ」

「乗ってますー」

「乗ってない!」

「乗ってます!」

「乗ってないったら乗ってないんですぅ!」

「乗ってるったら乗ってるんです!」

「「こんのーです(ぅ)-!!」」

 

 

瞬間、互いの剣と拳が交錯した!

ちびアリアとちびせつなは、同時に互いに一撃を入れ、そして同時に倒れた。

ばたり(×2)。

 

 

その様子を見ていたちびこのかは、頷くと。

 

 

「ほな、このたこ焼きはうちが食べるえ」

「「ダメぇ―――!」」

 

 

ちびアリアとちびせつなは、同時に起き上がった。

しかし、ちびこのかはタナベさん(光学迷彩)に乗り、空中に浮いていた。

さらに電磁場シールドがちびアリアとちびせつなを阻んでいた。

ちびアリアを見下ろしながら、ちびこのかはたこ焼きを食べていた。

 

 

「ああ、美味しいなぁ~」

「うぬぅ~、タナベさん、降りてくるですぅ!」

「承服デキカネマス」

「んなっ!? 私の言うことが聞けないですぅ!?」

「あはははっ、勢いと思いつきだけの娘に、ロボはついていかへんねんで!」

「な、何ですとぉ、ですぅ!?」

「ちびこのちゃん・・・」

 

 

ちびせつなの寂しげな声に、ちびこのかは優しい笑みを浮かべた。

 

 

「もう、ちびせっちゃんはしゃーないなぁ・・・おいで?」

「・・・はいですー!」

「たこ焼き、一緒に食べよ?」

「はいっ」

「その代わり、うちの言うことは何でも聞くんよ?」

「もちろん、ちびこのちゃんの言うことは何でも聞くです!」

「うふふ、ちびせっちゃんはええ子やなぁ」

「えへへ・・・」

 

 

ちびこのかが眼下を見ると、ちびアリアが悔しげに自分を見ていた。

しかし、もはやどうにもできないだろう。

ちびこのかは、ちびせつなとタナベさんを味方につけた。

 

 

そう、グループにおける多数派は、ちびこのか!

ちびアリアは、この状況を覆すことができるか・・・!

 

 

「あはは、仲良さそうでええなぁ」

「は、はぁ・・・」

 

 

それを、浴衣姿の刹那と木乃香が見ていた。

2人は、近所の夏祭りに来ていた。

子供の頃にも、2人で来た物だ・・・場所は違うが。

 

 

木乃香は無邪気に笑って式神達がじゃれているのを見ているが、刹那は別の観点からそれを見ていた。

式神の人格と言うのは程度の差こそあれ、作成者の性格に影響される物である。

つまり、ちびこのかのあの性格は・・・。

 

 

「せっちゃん?」

「は、はい!」

 

 

何故か緊張気味に返事をする刹那。

木乃香はそれを見て、クスクスと笑った。

何だか恥ずかしくて、刹那は顔を赤らめた。

 

 

「・・・明日、やね」

「はい・・・」

 

 

明日、8月2日。

エヴァンジェリン一家が、ウェールズへと飛ぶ日。

元々、夏休みまでに自分を守れるくらいの力を授けると言う、そう言う約束だった。

夏休み以降も、卒業まではこの付き合いも続く。

だが・・・。

 

 

ここが、一つの分岐点であることは、間違いがなかった。

 

 

「・・・見送りには、行かない・・・ですよね?」

「うん・・・」

 

 

2人は、アリア達に付いて行くことも、見送りに行くこともしないことにしていた。

それが、彼女達なりの意思表示。

祈りはしても、案じはしても。

関わりは、しない。

 

 

元々、そう言う契約。

 

 

「・・・行こ、せっちゃん」

「・・・はい、このちゃん」

 

 

2人、手を取り合って。

寂しさを、紛らわせる様に。

 

 

 

 

 

・8月2日土曜日「ウェールズへ」(エヴァ家)

 

動きを止めると、死ねる。

間断無く飛来する氷の矢をかわしながら、アリアは自分にそう言い聞かせていた。

事実として、急所に一撃でも受ければそれで終わりである。

 

 

「ハハハ、どうした、逃げてばかりでは状況は好転せんぞ!」

「勝手なことを・・・っ」

 

 

エヴァンジェリンの言葉に毒づきながらも、身体は止めない。

駆け、跳ね、反撃の機会を窺う。

 

 

「キャハ♡」

 

 

突然、目の前に刃物を携えた人形が現れた。

左右の腕が振るうのは、小さな身体に不釣合いなナイフ。

アリアの左眼が紅く輝き、周囲の空間から魔力を掻き集め、身体能力を底上げする。

 

 

右のナイフを叩き落とし、次いで左のナイフは腕を絡めて弾く。

エヴァンジェリン直伝、合気柔術。

しかし、チャチャゼロも歴戦の勇士。

アリアの意図を察すると、逆に腕を掴み返し、アリアの身体を投げ飛ばした。

さらに、落とされたナイフを拾い、投げつけてくる。

 

 

「く・・・!」

 

 

キュキュッ・・・と、虚空瞬動で身体の起動を無理やり変えて、アリアは地面に着地した。

身体を低くし、ナイフをやり過ごす。

 

 

だがアリアは、そこで動きを止めない。

何度も言うが、動きを止めると死ねるからだ。

全身から力を抜き、その場に倒れるように地面に伏せた。

 

 

次の瞬間、チャチャゼロのナイフを受け止めたエヴァンジェリンが、魔力で強化したそれを横薙ぎに振るっていた。

 

 

倒れこんでいなかったら、身体が上下に別れている所だった。

ほぅ・・・と、エヴァンジェリンも感心する。今のは良い判断だった。

だが、ここからどうするのか。

アリアが顔を上げる。その口に、一枚の仮契約カードが咥えられていた。

次いで、召喚の魔方陣。

 

 

「ぬ・・・!」

「『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』!!」

 

 

現れたのは、アリアと従者契約を結んでいる、さよ。

すでに魔法を完成させていたのか、召喚直後に闇色の氷結魔法を放った。

並みの術者であれば、これで倒せるだろう、だが。

 

 

「だがそれは、私がお前に教えた魔法だ、さよ」

 

 

その言葉と共に、エヴァンジェリンの姿が消えた。

瞬動ではなく、無数の蝙蝠と化し、その場から離脱したのだ。

標的を失った『闇の吹雪(ニウィス・テンペスタース・オブスクランス)』が、空へと放たれた。

 

 

エヴァンジェリンは魔法をやり過ごすと、再び実体化した。

実体化し、着地した瞬間。

彼女の身体が、と言うよりも足首が、漆黒の紐のような物で拘束された。

 

 

魔法罠(マジックトラップ)!

 

 

いつの間に仕込んであったのか、そこには捕縛用の魔法罠(マジックトラップ)が仕掛けられていた。

 

 

「それでも・・・」

 

 

とはいえ、市販されているアイテム。程度は知れている。

エヴァンジェリンほどの実力者であれば、数秒で解除できる。

だが次の瞬間、エヴァンジェリンは左手を掲げた。

対物理障壁が展開され、直後、砲弾が直撃する。

 

 

そこからかなり離れた位置にいるロボ・・・「田中さん」による、砲撃だった。

信管が抜かれているため、爆発こそしないが、当たれば痛いではすまない。

 

 

「次弾装填シマス」

「だとしても・・・」

「キャッハー☆」

 

 

チャチャゼロが突貫し、田中さんの砲撃を妨害する。

 

 

キュンッ・・・エヴァンジェリンの頭上に、新たな魔法陣。

そこから現れたのは、転移魔法符を咥えた黒髪の少年、スクナ。

彼は、両手を重ねて振り上げると・・・。

 

 

全力で、エヴァンジェリンの身体に打ち付けた。

 

 

エヴァンジェリンが地面に沈み、地面が陥没、爆発した。

アリア達はそこから離れ、距離をとった。

モクモクと立ち上る煙を、注意深く見つめる。

 

 

「やりましたか!?」

「さ、さぁ・・・」

「手応えはあったんだぞ!」

 

 

無傷ではないはずだが、倒しきったとも思えない。

3人は、警戒しつつ次の動きに入ろうと・・・。

 

 

ガシッ。

 

 

アリアとスクナの動きが止まった。

ギギギッ・・・と音を立てて、足元を見る。

するとそこには・・・。

 

 

アリアの影から上半身を出したエヴァンジェリンが、アリアとスクナの片足を掴んでいた。

2人の間に立っていたさよも、それに気付いた。

ニィィ・・・と、エヴァンジェリンの目が笑みの形に歪んだ。

 

 

できるだけ痛くしないで欲しいと、3人は思った。

だがエヴァンジェリンは、その逆のことをした。

つまり、かなり痛かったとだけ、明記しておく。

 

 

「・・・ま、私に一撃できるほどだ、何とかなるだろ」

「は~い・・・」

「氷を溶かします」

 

 

身体の所々に氷を付けたまま、アリアは言った。

そんな彼女に、茶々丸が温風を吹き付けて氷を溶かしていた。

 

 

ここ数ヶ月(別荘の中の話だが)、アリア達はエヴァンジェリンによって扱かれていた。

おかげで、アリア謹製の魔法具に頼らずに動けるようにはなってきていた。

そこまでになるには、それはもう結構な時間が・・・。

 

 

「とりあえずは、20日の行程か・・・まぁ、何事も無ければだが」

「はい、何事も無ければ」

 

 

クルトが麻帆良を去る前に提示したスケジュールでは、20日間の行程だ。

ここからウェールズに向かい、ゲート使用日を待つ。

そしてメガロメセンブリアからアリアドネーへ。

アリアドネーでは、臨時研究員として過ごすことになっている。

 

 

そして・・・。

 

 

「お前の故郷の村人を救う・・・か」

「はい!」

 

 

永久石化を解除する術式の計算は、完了している。

後は支援魔導機械(デバイス)の支援を受けて、実践するのみだ。

緊張はする、だが予備的な臨床実験も行っている。

 

 

大丈夫、必ず成功する。

 

 

アリアはそう、自分に言い聞かせた。

エヴァンジェリンはその様子を見て、目を細めながら。

 

 

「・・・行くか」

「はい!」

 

 

ウェールズ。

そこは、全ての始まりの場所。

 




茶々丸:
茶々丸です。ようこそいらっしゃいました(ペコリ)。
今回は、一人称ではなく三人称でお送りいたしました。
なので、心情描写は少なめかもしれませんね・・・。


茶々丸:
さて・・・次回はウェールズ、メルディアナに到着した所からスタートする予定です。
ただ、どうやら私達が予測していないことが起こったようです・・・。
それでは皆様、またお会いしましょう。



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未来編「フェリア姫のお友達」

・このお話はあくまで可能性の話です。
(本編の未来がこうなるかは未定)
・時間軸的には、本編の100年後です。
(国際情勢や個人の関係が変わっている可能性ありです)
・本編には直接は関係しない予定です。
・試験的な物で、続編の予定は今の所ありません。
*こうした未来話、IF話が苦手な方はご注意ください。

では、以上の点をご了承して頂いた上で・・・。
どうぞ、未来編です。




Side フェリア

 

私の一日は、プニプニから始まるんだよ。

毎朝、私を起こしに来てくれる茶々丸のプニプニで始まるんだよ。

 

 

「・・・(プニプニ)」

「・・・んぁ・・・」

「・・・(プニプニプニプニ)」

「んっ・・・うにゅ・・・」

「・・・(プニプニプニプニプニプニ)」

「ふみゅ・・・んっ、みゅ、みゅー・・・」

「・・・(プニプニプニプニプニ「・・・んやーっ!」・・・おはようございます、フェリアさん」

「・・・にゃー!」

「ニャーでございます、フェリアさん」

 

 

ほっぺを突かれるのに我慢できなくなって起きると、目の前にいつも通り茶々丸がいる。

緑色の髪をポニーさんにした、メイドさんなんだよ。

茶々丸はいつも、私のほっぺをプニプニするんだよ。

私が「にゃー」って怒っても、全然やめてくれないんだよ!

それどころか、私から枕を取り上げたりするんだよ。

 

 

鬼だよ・・・これは、鬼だよ。

千影ちゃんが言ってた、とーよーの鬼に違いないよ。

 

 

「本日のアーリーモーニングティーは、旧世界から取り寄せたセイロンです」

「にゃー」

「朝食には食パンとスコーンとパンケーキが焼けておりますが、どれになさいますか?」

「にゅー」

「ジャムは、苺ですね?」

「にょー」

「はい、デザートは特製の苺ゼリーですよ」

「大好き―――っ!」

 

 

天使だよ、茶々丸は天使だよ!

ヘレナちゃんが「天使様は天国にいるんですよ」って言ってたけど、ここにいるよー!

 

 

「大好きーっ、茶々丸、大好き!」

「・・・(ジー)」

「・・・茶々丸?」

「いえ、録画はしていません」

「ろくが?」

「さぁ、顔を洗いましょうね」

「はぁーい」

 

 

茶々丸は、たまに固まって私を見てるの。

でも、しつこく聞かない約束なの。

 

 

朝のお紅茶を飲んだ後、顔を洗うの、寝癖のついた髪も綺麗にするの。

洗面室とか食堂に行く途中で、私の着替えも終わります。

歩いてる最中に茶々丸が脱がせて、通路に控えてる他のメイドさん達に渡すの。

着る時は逆、メイドさんが持ってるのを茶々丸がチェックして、歩いてる最中に私に着せてくれるの。

 

 

「おー、何だ、今日も寝坊かフェリア?」

「あーっ、ばーやだ!」

「ばーやはやめろ!」

「ばーや、ばーや!」

「だからやめろと・・・・・・ああ、もう、今日も可愛いなお前は―――――っ!」

「きゃ~♪」

 

 

食堂に行くと、同い年くらいの金髪の女の子・・・エヴァンジェリンのばーやに会えた。

同い年に見えるけど、実はフェリアの・・・えっと・・・な、ななじゅうばいも生きてるんだよ。

・・・だから、何なんだろう・・・?

 

 

エヴァンジェリンのばーやにムギュギュ~ッとされた後、朝ご飯を食べるの。

パンには苺のジャムをたっぷりつけるの。

一つ一つ、茶々丸がチェックしてくれるの。

 

 

「それで、今日は何をして過ごすんだ、フェリア?」

 

 

何が面白いのかわかんないけど、エヴァンジェリンのばーやは私がご飯を食べてる所を見てる。

たまに手を伸ばして、ほっぺのパンくずとかを取ってくれます。

 

 

「ん~・・・どうしよっかなぁ」

「もし何も無いなら、私と魔導機械学の復習を・・・」

「街に行ってきまーすっ!」

「・・・・・・」

「・・・マスター、うなだれないでください」

「・・・うるさい」

 

 

朝ご飯を食べた後は、お人形のチャチャゼロを頭に乗せて、街に出るの。

エヴァンジェリンのばーやは好きだけど、お勉強は嫌いなの。

 

 

「ケケケ、キョウハドースンダ?」

「アルト君の所に行くの!」

 

 

皆には内緒なんだけど、チャチャゼロはお人形さんなのに喋るんだよ。

内緒だよ、誰にも言っちゃいけないんだよ・・・?

 

 

 

 

 

Side アルト・アルトゥム・ココロウァ

 

100年前に詠唱魔法が消えてから、魔法世界では魔導機械技術が発展した。

最初は弱っちかったそれも、100年もすりゃあ、それなりにはなる。

シュテット理論って言う難しい理論を使って、空気中の精霊の力を機械を使って発揮する技術。

旧世界の技術とはちっとばかし違う。

 

 

100年前は魔力量でほぼ人生が決まってたらしいけど・・・。

今時、魔力量なんて誰も気にしねぇよ、軍くらいじゃね?

 

 

「ふぃ――っ・・・親父ぃ! こっちの精霊エンジンの内圧、やっぱおかしぃぜ!」

「おーう! 後はこっちで調整してみらぁっ!」

 

 

俺が今いんのは、ウェスペルタティア王国首都駐留艦隊のドックだ。

オスティアの浮き島の一つを丸ごとくり抜いて造ったドックで、ここだけでも大小30隻の軍艦が停泊してるんだぜ。

他のも合わせると、150隻からの艦隊が首都防衛のために配備されてるわけだな。

 

 

俺の親父はその中でも最重要の艦、王国艦隊総旗艦『ブリュンヒルデ』の機関長なんだ。

100年前から動いてる艦で、今でも王様が乗る。

ま、最近じゃ戦争なんてねーから、整備だけしてる感じだけどな。

 

 

「つーかよぉ、おめーはまだ12なんだから、外で遊んでくりゃ良いじゃねぇか」

「んだよ、俺がいたら邪魔なのかよ?」

「そーじゃねーけどよ、俺が母ちゃんに怒られんだろーがよ」

「良いんだよ、俺はこう言う場所が好きなんだから」

 

 

整備服姿で工具箱を担いで歩く親父に、俺はそう言う。

実際、俺は機関室が好きだった。

ここは、火の精霊がたくさんいるからな・・・俺の家は、昔から火の精霊と親和性が高い。

だからか、俺も昔から熱い所とかが好きだった。

 

 

胸元の変な形のペンダントを指先で弄りながら、俺は何気なく親父を見た。

親父は、燃えるような赤い髪がツンツンしてる、イカす髪型だ。

正直、羨ましい。

俺の髪は婆ちゃんに似たのか、白いし細くて、無駄にサラサラしてる。

もっと、男らしい髪質になりたかったぜ。

 

 

「ア――ル――ト――く――んっ!!」

「・・・あ?」

 

 

機関室から出た所で、誰かに呼ばれた。

・・・つーか、あの声はぐぅあっ!?

 

 

横っ腹に、衝撃が走りやがった。

誰かのタックルを喰らった俺は、成す術もなく通路に倒される。

そいつは悶絶する俺に構わず、俺の上でピョンピョン跳びはねると言う拷問を加えてきた。

な、何て恐ろしいコンボなんだ・・・。

 

 

「わ・・・わかった、俺の負けだ。だからもう許してくれ・・・」

「・・・? アルト君、なに変なこと言ってるのー?」

「変なことじゃねぇよっ!? むしろ当たり前のことを言ってんだろ!?」

 

 

ガバッと腹筋だけで起きると、そいつはコロコロと俺の上から落ちた。

頭の上に人形を乗せた白いドレスの女の子。

一見、ただの頭の緩いお子様に見えるだろう。

だが驚くなよ、こいつは・・・。

 

 

「・・・で、今日は何の用すか、姫様」

 

 

そう、こいつはウェスペルタティア王国の第一王女にして第一王位継承権保持者。

フェリア・アマデウス・エンテオフュシア殿下なんだぜ?

見た目はただのお子様だけどな。

 

 

「・・・」

「機関室なんて、姫様の来る場所じゃねぇっしょ?」

「・・・」

「後、俺に会いに来るのも不味いっしょ・・・一応、遠縁の親戚と言えなくも無い相手とは言えね」

「・・・」

 

 

・・・何で、頬を膨らませてんだコイツ。

俺は、至極当然の主張をしてるはずなんだが・・・。

・・・はぁ・・・。

 

 

「・・・何の用だよ、フェリア」

「遊ぼ!」

 

 

名前で呼んだ途端、姫様・・・フェリアは、満面の笑顔でそう言った。

予想通りの態度と言葉に、また溜息を吐く。

 

 

勘弁しろよ、後でゲーデルの冷血女に睨まれるのは俺なんだぜ・・・。

 

 

 

 

 

Side ヘレナ・フォルリ

 

魔導機械文明の発展に伴い、ゲート管理の仕事も多様化しています。

特に短距離転移タイプのゲートは、人・物の物流を支える極めて重要なセクションです。

私の両親は2人とも、オスティアのセントラルゲートポートで働いています。

つまり、私の両親によってウェスペルタティアの物流の一部が機能しているのです。

共働きであまり会えないのは寂しいですが、私はそんな両親を誇りに思っています。

 

 

かく言う私もこの度13歳となり、首都の国立学校の入学試験をパスした上で、公務員になるための勉強中です。

ゲートポートで働くためには、様々な知識と資格が必要なのです。

 

 

コンッ、コンッ。

 

 

「・・・あら?」

 

 

その時、部屋の窓が誰かに叩かれたようです。

今日は休日、一人で静かに勉強しようと思っていたのですが、お客様のようですね。

2階にある私の部屋の窓を叩くのは誰か・・・候補は何人もいませんけど。

 

 

ガチャリ、と窓を開くと、そこにはオスティアの市街地の景色が・・・。

・・・見える前に、見知った顔が二つ、単車の上から私を見ていることに気付きました。

 

 

「よっ!」

「ヘレナちゃん、遊ぼ!」

 

 

そこにいたのは、単車を運転する白髪赤目の少年、アルトさん。

それと、そんな彼にくっつくようにシートに座ってる小さな女の子、フェリアさん。

金髪にオッドアイと言う、珍しい容姿。

王家の一人娘、本当ならこんな場所にいちゃいけない気もしますけど。

 

 

むぅ、遊びに誘われてしまいました。

勉強したかったのですが・・・誘われてしまったのなら仕方がありませんね。

そそくさと勉強道具を片付けて、窓から外へ。

そして、アルトさんの単車に乗せてもらいます。

3人乗りです、良い子は真似してはいけませんよ?

 

 

「お客さん、どちらまで?」

「地の果てまでーっ!」

「・・・それはちょっと困るので、とりあえず千影さんの所に行きましょうか」

「OK!」

 

 

まぁ、別に地の果てまで行っても良いのですけど。

それはまた今度、お弁当を持って行きましょうね。

 

 

「千影の野郎って、今どこにいんだろな?」

「この時間なら・・・オスティアのどこかにはいるでしょう」

「・・・全然、絞れてねぇじゃねぇかよ」

「れっつ、ごー!」

「安全運転で、行くぜ!」

 

 

・・・アルトさんは、意外と法定速度を守る方です。

なので、あまり速く無かったと言っておきましょうか。

これも、魔導機械文明の弊害ですね。

 

 

 

 

 

Side 天ヶ崎 千影(ちかげ)

 

ズズ・・・と、旧世界の日本から取り寄せた緑茶を啜る。

・・・実に、平和な休日や。

僕が10歳にしてここまで平和を愛するのは、それなりの理由がある。

 

 

僕の家は、代々旧世界と新世界の間を仲介する役目を担っとる。

旧世界連合代表特使と言うのが、その役目の名前や。

 

 

「まぁ、つまる所、喧嘩を仲裁する損な役回りやよねー」

 

 

旧世界と新世界は、ここん所すごく仲が悪いからなぁ。

詠唱魔法が使えんようになった新世界と、まだ使える旧世界との確執やね。

100年前からそう言うのがあって、戦争直前まで行ったこともあるけど。

まぁ、ガチでやりあったらお互いに消滅しかねへんから、戦争にはならんかった。

 

 

ま、おかげで僕の家も生活の糧を得れとるってもんやけどな。

ストレスは溜まるわな。

僕のおとんも爺さんも、40くらいで髪の毛無くなったくらいやし。

・・・やから僕も毎日、鏡を見て頭を確認しとる。

 

 

「ハゲるんわ嫌や・・・!」

 

 

ガタンッ、とちゃぶ台に拳を叩きつける。

僕は嫌やで、そんなストレスまみれの生活・・・!

今はまだ10歳やから無理やけど、15になったらこんな家、出てったるねんや。

 

 

国とか世界とか、どうでもええわマジで・・・!

僕は、僕のために生きるんや!

天ヶ崎家の家訓にもある、「封印された鬼はそのままにしとけ」!

・・・意味は、良くわからんけど。

 

 

「せや、時代はノットストレス社会! 公務員も労働組合に入る時代や!」

「ああ、わかりますわかります。ゲートポート職員にも組合に入る人が多いんですよね」

「軍属には組合とかねーけど」

「お父様がダメって言ってたって、ばーやが言ってたよー?」

 

 

・・・ああ、あかんわ、10歳にして幻聴が聞こえるわ。

あはは、うん、幻覚まで見えてきたで。

 

 

長い黒髪の姉ちゃんが、勝手に人数分のお茶を淹れたり何てするわけ、無いわな。

白髪のイケメンが勝手に僕のお茶菓子を食べてるわけ、無いわな。

後、僕の隣に金髪でオッドアイの瞳をした超絶美少女なんておらんよ。

緑と青の瞳が宝石みたいで、フェミニンな白いシルキーワンピースが死ぬほど似合うてる同い年の娘なんておるはずが・・・。

 

 

・・・うん、そろそろ現実を見よか、僕。

 

 

「我が家へようこそ、フェリアちゃん。今日も可愛ぇな・・・結婚してんか」

「ふん?」

「現実を見た結果がそれかよ」

「あ、何、フェリアちゃんの耳ふさいどんねん、ボケアルト!」

 

 

僕の愛の告白が、届かへんやろが!

はっ・・・お前、いつもは「興味無い」みたいな面しとって、いざとなると僕の邪魔をする言うことは・・・さては!

 

 

「さては、じゃねぇよ」

「心を読まれた!? バカな・・・呪符で読心の類は防いどるはずやのに・・・!」

「それ以前の問題だろ、バーカ」

「はぁ!? 旧世界でかの晴明様の手ほどきを受けた、僕がバカやとぉ!?」

 

 

こんな・・・ちょっと火の精霊に好かれとるだけの男にバカ呼ばわりされるなんて・・・屈辱や!

良し、ここはちょっと良い所を見せてフェリアちゃんをお嫁さんにゲフンゲフン。

 

 

「アルト君、千影ちゃん・・・喧嘩はダメだよー?」

「喧嘩!? おいおい・・・おーいおいおい、フェリアちゃん。この肩を組んで顔をくっつけるまでに仲の良い僕らが、喧嘩? そんな、まさかやわ~」

「・・・離れろよ、お前」

 

 

うっさい、ボケェ!

僕かて、お前なんざと仲良くなんかしたないわ。

でも・・・。

 

 

「良かった♪」

 

 

くぅ―――・・・この笑顔のためなら、しゃーないわ!

可愛ぇなぁ・・・こん畜生め!

癒されるわぁ~・・・。

 

 

「・・・仲が良いですねぇ」

 

 

ポワポワと笑いながら、黒髪の姉ちゃん・・・ヘレナはんがお茶を飲んどった。

 

 

 

 

 

Side クレア・ゲーデル

 

・・・王女殿下は今日も、市街地へ「避難」できたようだな。

眼鏡を押し上げながら、私は王女殿下につけている部下からの報告文に目を通し、そう判断した。

 

 

「こう言う時は、ノーマークの駒の方が使い勝手が良いと言う物だ」

 

 

アルト・アルトゥム・ココロウァは国王派の技術官僚の息子。

ヘレナ・フォルリはやはり国王派の経済官僚の娘。

そして天ヶ崎千影は、魔法世界の混乱を望まない旧世界大使の家系。

いずれの親も、この国にとって無くてはならない存在だ。

 

 

特にフォルリ運輸局長は国内の物流のトップ、重要なポストだ。

平時には、軍の移動にも影響力を持つ。

 

 

「そしていずれも、100年前から王家と親交の深い家柄・・・狙ってやったのカ?」

 

 

応接室の上質なソファに腰掛けた少女が、どこか皮肉な声音で私にそう言った。

ウェスペルタティア王国工部省魔導技術局長の娘、超鈴音。

白を基調とした不思議なドレスを着た、黒髪の少女。

そして私と同じ15歳、そして最年少の正式官僚。

まぁ、2カ月誕生日がズレているだけで、私も事実上の最年少なのだが。

 

 

「偶然よ、超。私はそこまで万能では無い」

「その偶然が起こる確率を上げにかかったりは、したのだろうがネ?」

「・・・さぁ、どうかな」

「・・・面倒な女だヨ、お前は」

 

 

口元に笑みを浮かべてそう言うと、超はうんざりしたような表情を浮かべた。

腹の探り合いには疲れたと言わんばかりの動作で、肩を竦める。

 

 

「・・・で、今日はどうだったのカ?」

「着替えに3つ、食事に5つ、それと枕の中に1つ」

「・・・」

 

 

私の返答に、超は顔を顰めた。

まぁ、当然ね。

 

 

 

フェリア様の着替えと食事、そして枕に毒が仕込まれていれば、そう言う反応になるわよね。

 

 

 

それも毎日、毎朝・・・毎晩ともなれば。

ここまであからさまだと、逆に犯人の候補が多すぎて絞りきれない。

コックや使用人を捕らえても、肝心の情報は入らない。

茶々丸の存在が無ければ、確実に王女殿下の命は無いだろう。

 

 

「王女殿下のお父君・・・エリア陛下はご病気がちだ。正直、そう長くは無いだろう」

「不敬罪では無いのカ、それ」

「だが事実だ。エリア陛下が崩御されれば、当然玉座は王女殿下の物になる。そうなって困るのは・・・まぁ、順当な所で第2王位継承者」

「・・・フェストル殿下カ」

「そうだな、まぁ、あからさまと言えば、あからさまだが」

 

 

現国王と王弟の不仲は、公然の事実だからな。

宮中の勢力は二分されているし、実際の所・・・。

 

 

王女殿下は、宮殿よりも市街地にいた方が安全なのだ。

外だと襲われるだろう、と思うだろうが、実は表だった警備兵の方が信用できない。

事実、王室顧問のマクダウェル様も、過去に暗殺を企てた警備兵を何人も血祭りに上げている。

今までは王女殿下に気付かれること無く、全てを処理してきたが・・・。

 

 

「・・・アリア様がご存命であった12年前までなら、私などが心配する必要は無いのだがな」

 

 

私の言葉に、超の顔から表情が消えた。

アリア・アナスタシア・エンテオフュシア。

100年前、王国を再興した中興の祖。

超はどうも、私とは別の意味でアリア様に対して思い入れがあるらしい。

 

 

・・・まぁ、それは私にとってどうでも良い話だ。

重要なのは、超が王女殿下を裏切らない駒の一つだと言うことだけなのだから。

 

 

・・・私?

ふふん、私は王女殿下の卑しい犬の一匹に過ぎんよ。

そう、あれはまだ私がしがない学生に過ぎなかった頃の話だ・・・・・・。

 

 

 

 

 

Side 超

 

あー、全く、面倒な話だヨ。

あの後、フェリアの写真を見てトリップし始めたクレアを放って、私は執務室を出たネ。

15歳の新人官僚のくせに、執務室持ちとは嫌味だネ。

 

 

それにしても、本当に面倒な話だヨ。

過去にしろ未来にせよ、何かしかの問題はある物だが・・・。

 

 

「権力闘争とか、人間は進歩しない生き物だネ・・・」

 

 

100年前にも、そして今も。

人間は、進歩が無いネ・・・だが。

だが、フェリアだけは何としても守らねば。

そうでなければ、色々と無茶をした甲斐が無いと言う物ヨ。

 

 

「ちゃおちゃお―――っ!」

「ム?」

 

 

散歩がてら、宮殿の中庭を通りがかった所、上から声がしたヨ。

両手を前に出して力を込めると、そこに小さな塊が落ちてきた。

・・・・・・腕、折れるかと思ったネ。あと足とか腰とか。

その後に落ちてきたチャチャゼロさんも、結構トドメに近かったけどネ。

 

 

「ちゃーおちゃお――っ!」

「お、おおぉ・・・フェリア」

「ただいまっ!」

「お、おかえり・・・」

「ち――っす、鈴音さん」

 

 

ムギューッと私の首にしがみついてくるフェリア。

は、ははは・・・嬉しいのだが、元気な子だヨ。

その時、ドッドッドッ・・・と重低音を響かせて、上から一台の単車が降りてきたネ。

宮殿の一番小さな中庭とは言え、そんな物を乗りいれて良いのカ?

 

 

「一応、宰相府から許可は貰ってるんで。もちろん、ゲーデル名義っスよ」

 

 

単車に乗っているのは、白い髪に紅い瞳の少年。

アルト・アルトゥム・ココロウァ・・・私はアルトを見ると、いつも彼を思い出すネ。

アリア先生の隣にいた、あの3番目に・・・。

 

 

・・・まぁ、この記憶とも適当に折り合いをつけねばとは、思っているのだがネ。

なかなか、そうもいかないヨ。

 

 

まぁ、アルトは顔の造りは似てるけど、親戚ってだけだしネ。

性格は、むしろ・・・。

 

 

「んじゃ、姫様「むー!」・・・フェリアも、またな」

「うん!」

 

 

いつも通りのやり取り、これを聞くと、私は思うのヨ。

・・・血筋かな。

 

 

「あー、そうだ、鈴音さん」

「何カナ?」

 

 

アルトは、私に指を4本立てて見せてきたネ。

・・・今日は、4人。

クレアの配置したフェリアの護衛を除いて、4人の人間がフェリアに尾いていた。

まぁ、コレも毎日のことヨ。

 

 

嫌に、なるネ。

 

 

「ばいばーい~」

 

 

空に上がるアルトに手を振るフェリアを見て、思う。

この子には、あまり知られたくないな・・・と。

 

 

「ちゃおちゃお」

 

 

その時、腕の中のフェリアが私のことを見上げてきたネ。

真顔で、じっ・・・と、見つめてくる。

な、何カナ・・・。

不意に、ニコッ、と笑みを浮かべたネ。

 

 

「お腹すいた」

 

 

・・・コケそうになったヨ。

まぁ、お腹がすくと言うのは元気な証拠、良いこと良いこと・・・。

 

 

「・・・・・・知ってるよ」

「?・・・何か言ったカ?」

「んー、何が?」

 

 

さて、今日もフェリアは無事に帰って来たヨ。

まったく・・・オスティア王家は毒蛇の巣とか言ったのは、誰だったカナ。

 

 

まさか私が、身をもってそれを知るハメになるとはネ。

でも、これからもフェリアは私達が守るヨ。

だから・・・見守ってて欲しいネ。

 

 

・・・アリア先生。




竜華零:
こんばんは、衝動のままに書きました未来編、いかがでしたでしょうか。
あれ・・・?
おかしいですね、途中まではほのぼの路線だったのですが。
途中から、王宮サスペンスな香りが漂ってきましたよ・・・?

今話に登場してきたキャラの簡単な説明を以下に記載します。

・アルト・アルトゥム・ココロウァ
ファミリーネームからおわかりかもしれませんが、アーニャさんの子孫です。
アーニャさんの相手についてはあえて秘密です。
12歳の男の子、技術屋の父と病弱な母を持つ、火の精霊に愛されし少年。
『アラストール』を受け継いでいる模様。

・ヘレナ・フォルリ
こちらはカップリングが確定、ロバートとシオンの子孫です。
ファミリーネームから察するに、ロバートさんが婿養子。
共働きの両親を持つ、グループ最年長の女の子です。

・天ヶ崎千影
100年後まで残る天ヶ崎家。
千草さんの子孫です。旧世界に一般人な親戚がいます。
典型的な陰陽師でもあります。

・クレア・ゲーデル
ファミリーネームでばっちりわかる、クルトさんの子孫。
王女至上主義者な所は先祖代々受け継いでおります。
流派は神鳴流、でも志望は政治家。
得意技は陰謀、そんな女の子。

・・・では、またお会いしましょう。


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第79話「始まりの場所」

Side アリア

 

「・・・え?」

 

 

私は思わず、間抜けな声を上げてしまいました。

場所は、メルディアナ魔法学校の医務室。

 

 

私はエヴァさん達と共に、飛行機などの公共機関を使用してメルディアナにやってきました。

転移魔法とかを使っても良かったのですが、手続きが面倒ですし、せっかくだからと言うことで。

機内では家族で楽しく過ごし、まさに旅行と言った風でした。

しかし、メルディアナに到着した私は・・・。

 

 

「ごめんなさい、アリア」

 

 

通されたのは、校長室でも職員室でも無く、医務室。

そこで頭に包帯を巻いたドネットさんが、泣きそうな顔で私達を出迎えてくれました。

 

 

「私は、私達は、守れなかった・・・」

「・・・何が、あったんですか」

 

 

ドネットさんからもたらされた情報は、2つです。

一つは、ウェールズのゲートが先月から休止されていること。

何でも、テロがあったとか・・・。

たまたま向こうにいたアーニャさんやネカネ姉様、ロバートが、未だに連絡が取れていないのが気になりますが・・・。

 

 

魔法世界行き自体は、どう言うわけかトルコの魔法協会が協力してくれるらしく、ゲートが確保できています。

そして看過できない問題が、もう一つ。

 

 

私の故郷の村の人達が。

私が今日、救うはずだった人達が。

 

 

「連れて行かれたって、どう言うことですか・・・!?」

「落ち着け、アリア」

「エヴァさん、でも」

「今、お前がしなければならないのは、状況の把握だ・・・違うか?」

 

 

エヴァさんの言葉に、ぐっと詰まります。

茶々丸さんが心配そうな顔で、私の肩に手を置いてくれました。

・・・私が落ち着いたのを見て、ドネットさんが話を続けました。

 

 

先月、ウェールズのゲートが大破してすぐのこと。

本国――メガロメセンブリアの正規兵が多数、メルディアナに派遣されてきました。

「悪魔に石化された、哀れな民の保護」が、その名目でした。

しかし、ここに村人が保護されていることは、極秘事項だったはず。

なら何故、本国に知られているのか?

 

 

ゲートが大破する直前にメルディアナを解雇された職員の一部が、本国にリークしたのです。

私の村の、情報を。

そのせいで、村の人達が。

 

 

「私達もだけど・・・校長は、最後まで抵抗したわ。けれど、生徒まで人質に取られては・・・」

「お祖父さま・・・校長は、どこに?」

「本国に・・・別のゲートを使って、石化した村人共々、連れて行かれてしまったわ・・・」

「・・・そんな」

「酷い・・・」

 

 

さよさんが、悲痛な声を上げます。

私も、同じ気持ちです。

 

 

「本当はもっと早く連絡すべきだったのだけれど、私も数日前に目を覚まして・・・ごめんなさい」

「いえ、ドネットさんは・・・悪く無いです」

 

 

今の話の中で、ドネットさんが悪い所を見つけることはできません。

むしろ、悪いのは本国、中でも・・・。

 

 

元老院。

 

 

元老院と聞いてまず思い浮かぶのはクルトおじ様ですが、おじ様ならこんな手段はとらないでしょう。

と言うか、利益がありません。

となれば、他の何者かの意思があるはず。

でも、誰でしょう?

 

 

魔法世界の政治については詳しくありませんが、村人達を連れて行って、どんな得が?

・・・わからない。

色々なことが、頭の中をグルグルと回っていて、整理ができない。

 

 

「・・・とにかく、明日中東地域への転移魔法の許可を取ってあるわ。それまで自由に過ごして頂戴」

 

 

ドネットさんの声が、空虚に響きました。

 

 

 

 

 

Side クルト

 

何たる、失態。

その報告を聞いた時、私は愕然とした気分になりました。

足下が崩れ落ちる感覚と言うのは、こう言う物を言うのでしょうか。

 

 

「申し訳ありません」

「いえ・・・別のゲートを用意した段階で、メルディアナから目を離した私の非です」

 

 

目前で膝を付くシャオリーに、呻くように答えます。

先月、メガロメセンブリアのゲートが何者かに破壊された後、私は旧世界中東地域の魔法協会に渡りを付けました。面白い程簡単に行きましたね。

その後、姿を消したネギ君達の捜索もあり、旧世界から目を離したのが裏目に出ました・・・。

 

 

私はこの一カ月、非常に多忙な日々を送っておりました。

具体的に何をしていたかと言えば、旧ウェスペルタティア領内を精力的に周り、地域の有力者と会談したり、反連合の小規模勢力を懐柔したり。

スプリングフィールドとしてのアリア様の話を社交界に流したり、アリカ様のご息女としてのアリア様の噂を裏社会に流したり。

一言で言えば、「将来におけるアリア様の味方作り」に励んでおりました。

 

 

なので、ここ新オスティアに戻るのは久しぶりです。

しかし、それにしても。

 

 

「私を介さずに、旧世界に兵を送るとは・・・」

「クルト様が外遊中だったことに加え、メガロメセンブリア主席執政官の命令があったようです」

「ダンフォード主席執政官・・・あの政治屋の豚か」

 

 

ダンフォードと言うのは、まぁ、旧世界における大統領みたいな方でしょうか。

一応、私を含む執政官の主席ですが・・・アレは傀儡に過ぎません。

裏で糸を引いているのは・・・。

 

 

「・・・アリエフか」

「は・・・物的な証拠は何もありませんが、ほぼ間違いないかと」

「流石に、尻尾は掴ませてくれませんか・・・」

 

 

それにしても、アリア様にどう顔向けした物か。

詳しい話は聞いておりませんが、メルディアナは壊滅的なダメージを被ったとか。

加えて部下から上がってきている情報では、6年前の悪魔襲撃時に石化された村人達が、連合のどこかに収容されたとか・・・。

 

 

これは、非常に不味いですね。

アリア様守護の任について以来、初の失敗ではないでしょうか。

しかし過去の失敗でクヨクヨしてはいられません。

これからどうするかを、考えなければ・・・。

 

 

「私は、新オスティアを離れられません。シャオリー、貴女は連合中枢に潜り込み情報を集めなさい」

「は・・・承知いたしました」

「何としても、連れ去られた村人の所在を掴むのです・・・必要な資金、人員は好きなだけ使って構いません」

仰せのままに(イエス・)我が主(マイロード)。全ては我らの姫様のために」

 

 

さて、つまらないことになって参りましたね・・・。

しかし目下の所、私には、いえ私達には、アリア様の存在が必要不可欠です。

そのためには、アリア様の望む環境を整えて差し上げる必要があります。

 

 

オスティアの、いえ、世界の未来のために。

 

 

 

 

 

Side アリエフ

 

クク・・・ゲーデルめ、今頃腰を抜かしていることだろうな。

多少「おいた」が過ぎたようだからな、ここで叩いて置くのも悪くはあるまい。

 

 

「それにしても・・・ゲーデルめ、こんな駒を隠していたとはな」

 

 

私は、手駒の若い議員が上げて来た報告書に目を通していた。

そこには、かのサウザンドマスターの娘の情報が載っている。

メルディアナから本国に上がって来ていた物と、大筋は同じだが。

そこには、元職員から得たより詳細な情報が写真付きで記されている。

 

 

例えば、旧世界の極東の島国における活動とかな。

その他、学生時代の交友関係や細かな成績、思想、兄であるネギ・スプリングフィールドとの関係。

もっと調べれば、より面白いことがわかるかもしれん。

長年この業界にいれば、本能的にわかるものなのだよ。

 

 

政敵の弱い部分(ウィークポイント)が、な。

 

 

「そのためにも、ネギ・スプリングフィールドを確実に手に入れておかねば」

 

 

ゲート破壊に巻き込まれて、今はエリジウム大陸にいると聞いたが。

まぁ、エルザに任せておけば良い。

アレは、優秀な駒だ。

 

 

ネギ・スプリングフィールド自身には価値が無いが、彼の母親には価値がある。

20年前、そして10年前と6年前には、排除しようとした価値だがな。

その意味では、息子だけでなく娘も手に入れたい物だ。

それに良く見れば、母親に似て美しく育ちそうな顔をしているではないか。

アレは、気高く美しい女だった・・・。

 

 

「・・・埒も無いな。とにかく、将来に備えることだ・・・」

 

 

ゲーデルが何を企むにしても、旧ウェスペルタティア領内でのことだろう。

奴をいつでも失脚させられるよう、連合内の意見を調整しておこうか。

メルディアナで回収した骨董品の他にも、手札は補充したしな・・・。

 

 

連合と隣接する旧ウェスペルタティア貴族領領主への賄賂と元老院議員選挙への推薦も、必要なら積み増しておこう。

あの地域には、連合に好意的な難民も多いことだしな・・・。

 

 

そこまで考えた所で、私は満足げな溜息を吐いた。

これだから、権力の座から退こうとは思わんのだ。強くそう思う。

特に、国家や人間の運命を無形のチップとして行われる戦略と政略のゲームは、私の老いた心身を充足させてくれる。

 

 

「さて・・・」

 

 

目下の所、諸勢力の注目の的である白い髪(シルバーヘア)の少女。

彼女は、はたしてこの魔法世界に何をもたらしてくれるのか?

 

 

「この<銀髪の小娘>は、どんな駒になるのかな」

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

何とも、フォローのしにくい状況だな。

アリアの様子を見ながら、静かに溜息を吐く。

人間と言うのは、本当に度し難い。その気になれば、どこまでも下劣になれるのだからな。

 

 

「ここで、卒業式をやったんですよ」

「恩人、お腹がすいたぞ」

「・・・案内のしがいが無い人ですね・・・あ、人じゃなかったですか」

「スクナは神だぞ」

「あははー、はい、すーちゃんは引っ込んでようねー」

 

 

場の空気を和ませようとしたらしいバカ鬼が、さよに引っ張られて下がった。

まぁ、バカ鬼なりにアリアのことを考えてのことだろう。

やっていることは、ただのバカだが。

 

 

とにかくも、アリアの落ち込み様は凄まじい物がある。

今は校内を案内するなどして気を紛らわせているようだが、隠しようも無い。

6年・・・別荘内の時間を含めれば、それ以上の時間をかけて開発した、石化解除式。

それを携えていざウェールズに来て見れば、救うはずだった村人達はいない。

 

 

その胸中、察するに余りある。

 

 

元老院。

かつて私に賞金をかけ、平穏な時間を奪った連中。

そして今、私の家族の悲願を阻害した連中。

本来なら、皆殺しにしてやっても良いのだが・・・。

中にはクルト・ゲーデルのように、使える奴もいる。

まずは、敵が誰かを把握する必要があるのだが・・・。

 

 

「マスター?」

「・・・何でもない」

 

 

表情に出ていたのか、茶々丸が心配そうに声をかけてきた。

何でもないとは言ったが・・・実際には、悔しくて仕方が無い。

私には、倒すべき敵が誰かをアリアに提示してやることができない。

それは、私にはできないことだ。

 

 

「この廊下で、麻帆良行きが決まったんですよ」

「ホホゥ、ソレハジュウヨウナロウカダナ」

「10歳ノ少女ニモ歴史アリデス」

「難しい言葉を知っていますね、田中さん・・・」

 

 

ちなみに、この旅には田中もついて来た。

その肩の上には、チャチャゼロと晴明が載っている。

ただし、晴明は目を閉じて眠っている。

どうも、日本から離れるほどに起きていられる時間が短くなっているようだ。

やはり、社から離れると弱体化するのか・・・?

 

 

「あ、そうそう。ここの柱の所にですね、アーニャさん達との背比べの跡が・・・」

 

 

と、アリアが廊下の柱の一つを指差した、その時。

 

 

「・・・ぁ~・・・」

「む? 今何か声が・・・」

 

 

しなかったか、と私の言葉が続くよりも早く。

何かが、私の横を凄まじい勢いで走り抜けて。

アリアに対して、突撃した。

・・・なぁ!?

 

 

「おねえぇさまああぁぁぁぁ――――――――っっ!!」

 

 

・・・お姉さま?

 

 

 

 

 

Side 茶々丸

 

「わっ・・・ど、ドロシー!?」

「お姉さまお姉さまお姉さまぁっ!」

 

 

突然アリア先生に抱きついたその方は、アリア先生よりも少し年下のようでした。

左右で括った茶色の髪に、そして何より背中にくっついた子竜が印象的な女の子です。

ドロシーと言うその方は、アリア先生にしがみつきながら、アリア先生の胸に顔を擦り付けています。

背中の子竜も、「クルックー☆」と鳴きながらアリア先生の頬に顔をくっつけています。

 

 

メルディアナの校章の刺繍されたローブからして、この学校の生徒のようですが。

しかも、アリア先生のお知り合い。おそらくは学友。

 

 

「What is the matter・・・あ、んんっ」

 

 

アリア先生は軽く咳払いをすると、改めて。

 

 

「ひ、久しぶりですね、ドロシー」

「何故ですか、お姉さま!」

「は・・・?」

「何故、ロバート先輩には会って私には会ってくださらなかったのですかぁ~・・・」

 

 

どうしましょう、意味がわかりません。

いえ、言語は日本語なので、言葉の意味自体は通じますが。

それはどうやらアリア先生も同じだったようで、困ったような顔でドロシーさんをあやしていました。

 

 

「せ、説明しましゅっ・・・!」

 

 

その時、赤色に近い茶髪の女の子が現れました。

ドロシーさんと違い、大人しそうな印象を受けます。噛みましたし。

トテトテと駆け寄ってくるその姿に、マスターがげんなりとした表情を浮かべて。

 

 

「また、何か現れたな・・・」

「二度アルコトハ三度アルト申シマス」

「用法が正しくありませんよ、まだ三度目ではありません」

「申シ訳アリマセン、姉上」

 

 

弟の言動に誤りがあったので、私は優しく訂正しました。

田中さんの情操教育は、ハカセより私に一任されているのです。

 

 

「ヘレンさん・・・久しぶりですね」

「は、はい・・・アリアおねー・・・先輩も、お元気そうでっ」

 

 

顔を紅くしながら、ヘレンさんは笑顔を浮かべました。

それは、とても可愛らしい笑顔でした。一応、撮影しておきます。

 

 

「ドロシーちゃんは、アリア先輩に会いたかったんです」

「はぁ・・・それは、嬉しいんですけど」

「お兄ちゃんが、日本でアリア先輩に会ったって言ったから・・・」

「私も、行きたかったです・・・!(クルックックックー☆)」

「ああ・・・」

 

 

アリア先生はそれで大方の事情を察したのか、困ったような、それでいて嬉しそうに微笑みました。

それは、マスターや私達に向けてくださる笑顔とも、3-Aの方々に向ける笑顔とも違う、そんな笑顔でした。

 

 

「・・・ありがとう、ドロシー。その気持ちだけで、嬉しいですよ」

「お姉さまぁ・・・」

 

 

マスターやさよさん達と、顔を見合わせます。

先ほどに比べて、アリア先生の表情も軽くなったように思います。

まだ、全てを吹っ切ったわけでは無いでしょうが・・・。

それでも、それは私達にはできなかったことで。

アリア先生にはこの場所で過ごした、私達の知らない時間があるのだと、改めて思い知らされて。

 

 

少しだけ、羨ましい。

そんな気持ちになった、瞬間でした。

 

 

 

 

 

Side ネギ

 

どうして、こんなことに。

もう何回考えたかわからないけど、やっぱり考えちゃうよ・・・。

 

 

「はぁ・・・」

 

 

溜息を吐くと、チャプッ・・・と水が跳ねた。

今僕がいるのは、ジャングルの中の水辺だった。

この一ヶ月間、同じようなジャングルや砂漠、山脈なんかを彷徨ってる。

いや、方角と目的地ははっきりしてるんだから、迷ってるとかじゃないんだけど・・・。

 

 

あの日、あの白髪の少年の攻撃で、僕は酷い怪我をした。

肩を見れば、そこには大きな傷跡がある。

起きた時には、どうしてか塞がっていた。

 

 

「ネカネお姉ちゃん、明日菜さん、のどかさん・・・」

 

 

聞いた話では、僕が気絶している間にゲート事故があって、この世界のどこかに散ったって・・・。

本当は、すぐにでも探しに行きたいのに・・・街に入れない。

道なき道を進んでるから、時間もかかる。

 

 

「こんなペースじゃ、いつまで経っても・・・」

「仕方が無い、エルザもネギも賞金首だから」

 

 

その時、後ろの方から声がした。

振り向くと、そこには僕と同い年くらいの女の子が、服を脱いでえぇぇぇ!?

 

 

「ち、ちょ、何で服を脱いでるんですか――っ!?」

「・・・? 服を脱がないとエルザは水浴びができません」

「い、いやいやいや、だったら僕上がるから・・・!」

「何故? ネギもまだ水浴びの途中」

「え、英国紳士として女性と混浴はあぅあぅ・・・!」

 

 

この人は、エルザさん。

僕を助けてくれたらしんだけど、良くわからない。

なんだか、不思議な人で・・・。

 

 

「問題無い、なぜならネギはエルザの夫になる人間」

 

 

本当に不思議な人なんだ!

一ヶ月前に知り合ってから、「自分は僕の妻になる」ってばかり。

どうしてそんなことを言うのかって聞くと・・・。

 

 

「お父様が、そう言いました」

「そ、そう・・・」

「大丈夫、お父様の所に行けば、賞金も消えます。ネギの心配事も消えます。お父様の望みも叶います。皆幸せになれます。何もかもが上手く行きます。だからネギは何の心配もしなくて良い」

 

 

・・・と言う調子で。

う、うう・・・でも今は、エルザさんしか頼れる人がいないし。

 

 

「で、でも、お父さんに言われたから、結婚なんて・・・」

「ネギは、違うのですか?」

「え、な、何が?」

「ネギはネギのお父様の言う事を聞かないのですか? お父様の言う事を聞くのは良い子供の条件だと、エルザはお父様に教わりました」

 

 

父さんが・・・僕に?

もし、父さんが僕に何かを望んだら、僕は・・・。

僕は、どうするだろう。

 

 

「エルザはネギの妻になる、そしてネギの子を産む。そうすればお父様は喜びます。ならエルザも嬉しい」

「・・・」

 

 

良く・・・わからないけれど。

本当に、お父さんのことが好きなんだってことはわかる。

そこは、僕と一緒だ。少し違うけど。

 

 

それに結婚はともかく、エルザのお父さんに会うのが、本当に皆を助ける近道なら。

僕は、エルザのお父さんに会いに行く。

・・・それに。

ちら・・・と、隣のエルザさんの身体を見る。

そこには、黒い紋様が描かれていた。

 

 

アレは・・・もしかして。

ブンブンと首を振って、浮かんできた考えを振り払う。

まさかね。

エルザさんがあんなに好いてるエルザさんのお父さんが、あんな物を刻むはずが無い。

何か、事情があるんだろう。

 

 

今はとにかく、皆を助けにいかないと。

 

 

「だからそれまで、エルザがネギを守ります。安心してください」

「・・・うう」

 

 

でもなんだか、とても情けなかった。

強くなりたい、何者にも負けない力が欲しい。

父さんやマスターのような、「本物の強さ」が。

 

 

僕が、皆を助けなくちゃいけないんだ。

 

 

 

 

 

Side 環

 

「ち、ちょっとちょっと、どう言うことぉ!?」

「何、暦」

「フェイト様のことよ!」

 

 

フェイト様は今、ここにはいない。

計画を前倒して、デュナミス様と旧世界のゲートを破壊しに行った。

 

 

メガロメセンブリアのゲート破壊以降、警備が厳重になりつつあるから。

これ以上警備兵の数が増える前に、残り10箇所のゲートを壊す。

栞も調も、魔法世界側からサポートしてる。

確かに、フェイト様にしては「どう言うこと」な状況に・・・。

 

 

「フェイト様が、何で女の子連れて帰って来るわけ・・・!」

「あ、そっちの話・・・」

「他にどんな話があるの!?」

 

 

また、その話。

この一ヶ月間、暦はその話ばかり。

 

 

メガロメセンブリアでの事件の直後、フェイト様は女の子を連れて来た。

私達の仲間になるわけでも無くて、ただ怪我をしている女の子。

確か、アーニャとか言う名前の。

詳しい話は聞いて無いけど・・・熱量がどうとか、酸素がどうとか言ってた。

医療用ゴーレムのおかげで、今では傷一つ残らずに快復したし、問題は無い。

 

 

「確かに私達は女の子の扱いについて、それこそもう畏れ多い勢いで教えたけど!」

「暦が一番、張り切ってた」

「いつか自分に返って来ると信じて・・・!」

 

 

む、今の発言は聞き逃せない。

 

 

「私達だって、同じ・・・」

「そ、それは・・・そうだけど」

 

 

私達も、事情は違えど、同じような状態でフェイト様に拾われた。

フェイト様には、私達を仲間にする意思はなかった。

今回のケースも、きっと同じ。

 

 

暦は、複雑な顔をしてる。

私も、たぶん同じ顔をしてると思う。

・・・複雑。

でもこれは、けして口にしてはいけない。

 

 

「・・・戻ったぞ」

 

 

その時、焔が戻ってきた。

いつも通りのツインテール。フェイト様に「似合う」って言われてからずっとあの髪型。

私達は大体フェイト様の好みで髪型や服装を決めてる。

・・・でも皆バラバラだから、適当に言われてる気がする。

 

 

「あ、お疲れ焔、どうだった?」

「帝国側のゲートは大方潰せた。連合は情報を提供していなかったらしい」

「そっか」

「連合側の他のゲートは、栞や調が上手くやるだろう」

 

 

私達は、生まれながらに何かの能力を持ってる。種族的に。

暦は豹族、私は竜族・・・そして焔は。

 

 

「そ、それで・・・あの捕虜はどうなった?」

「アーニャさんのこと?」

「医療用ゴーレムのおかげで、普通に治ったけど・・・」

「そ、そうか・・・良かった」

 

 

焔は、本当にホッとした顔をした。

あの子を見てから、焔の様子がおかしい。

視線が泳ぐと言うか、モジモジしてると言うか・・・普段の焔と全然違う。

フェイト様の前にいる時とも、違うし・・・もしかして。

 

 

「焔、そう言う趣味?」

「は・・・? ・・・!? ち、違う!」

「え、嘘、そうなの!?」

「違う! 私はフェイト様一筋だ!」

 

 

むむ、聞き逃せない発言。

 

 

「ただ、その、何だ。あの小娘を見るとだな、何と言うか・・・」

「何?」

「こう、守ってやらなくてはと言うか、助けなければと言う気分に・・・」

「「・・・」」

「な、何だその目は!?」

「「別に」」

「なら何故私から距離をとる!?」

 

 

焔は、炎の精霊にまつわる一族の出身。

関係ないけど、何故か説明しなくちゃいけない気がした。

 

 

 

 

 

Side さよ

 

その日は、メルディアナの職員寮に泊まることになりました。

一ヶ月前に半分が解雇されて、残った半分の職員の人も、過半数が本国に連れて行かれて・・・。

つまり、部屋が凄く余ってるんだそうです。

<闇の福音>であるエヴァさんが普通に学校の中に入れるのは、ドネットさんや校長先生のはからいもあるけど、それ以上に警戒する人間そのものがいないから。

 

 

それでも、ドロシーさんやヘレンさんに紹介した時は、2人とも泣いて逃げちゃったけど。

・・・エヴァさん、何で満足そうだったんだろ。

 

 

「さーちゃん、おかわりだぞ!」

「あ、はーい・・・って、何で私に言うの?」

「習慣だぞ!」

 

 

習慣なんだ・・・習慣じゃしょうがないね。

今は、食堂で夕食をご馳走になっています。

ビーフパイにポテト、グリンピース・・・ボリュームはあるけど、何と言うか大味。

美味しいんだけど・・・。

 

 

ふと、茶々丸さんと目が合いました。

頷き合う私達、そして同時に。

 

 

「「後で厨房を貸してください」」

「へぅ!? こ、コックさんに聞いてみないと・・・」

 

 

一緒に食事をとっていたヘレンさんが、ビクビクしながらそう言いました。

その視線は、未だにエヴァさんから離れません。

アリア先生が「大丈夫」って言ってたから、かろうじて逃げてない感じ。

ちなみに、日本語はアリア先生から教わったそうです。

 

 

「それで、その時お姉さまは言ったのです・・・『私の後ろに従い、百鬼夜行の群れとなれ』と・・・!」

(クルックー・・・)

「ほぅ・・・いや、本当かそれ!?」

 

 

一方では、エヴァさんがドロシーさんから学生時代のアリア先生の話を聞いています。

ドロシーさんは何故か、最初ほどエヴァさんを怖がって無いみたいです。

しかも、話の内容がかなり怪しいです。

 

 

あれ・・・そう言えばアリア先生は、どこに行ったんだろう?

他にも、田中さんとかチャチャゼロさんとかが見当たらない・・・。

 

 

「ヘレンさん、アリア先生達はどこに・・・?」

「え・・・あ、えっと・・・」

 

 

ヘレンさんは、困ったように眉をひそめると、数秒考え込んで・・・やはり困ったような顔をしました。

どうやら、心当たりが無いみたい。

 

 

アリア先生、どこに行ったんだろ・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

「・・・ここは、そのままですか」

 

 

ほっ・・・と息を吐いて、周囲を見渡します。

私は今、メルディアナから数キロ程離れた場所にいます。

私の故郷。私の村に。

良くも悪くも、ここはあの時のまま、保存されています。

 

 

魔法的にこの一帯は封鎖されていますが、ドネットさんに許可を貰い、入らせてもらいました。

焼け落ちた廃墟。月明かりが、無人の村を照らしています。

 

 

「田中さん、ありがとうございます」

「問題アリマセン」

 

 

私の傍にはター○ネーター・・・もとい、田中さんがいます。

流石に夜の山に一人で入る気にはなれませんでしたので、ついてきてもらいました。

 

 

「ケケケ、ココガアリアノムラカ」

「ええ・・・5歳頃まで、ここで過ごしました。直にお見せするのは初めてですね」

 

 

そして私の頭の上には、チャチャゼロさん。

以前、私の記憶で見た風景と照らし合わせてでもいるのか、興味深そうに周りを見ています。

 

 

そのまましばらく、村の中を歩きました。

そうは言っても、何もありませんが。

その間、チャチャゼロさんも田中さんも何も話しかけてきませんでした。

そしていつしか、私の足は・・・あの湖の畔へ。

 

 

シンシア姉様と出会った、あの場所へ。

この場所には・・・。

 

 

「・・・お久しぶりです、姉様」

 

 

そう声をかけた先には、小さな白い石を削って作った、粗末な墓石。

でもここに、シンシア姉様はいません。

私が勝手に、作っただけですから・・・。

だから、声をかけても返って来ることは無い。

 

 

「・・・」

 

 

しばし、ただ佇むだけの時間が過ぎます。

村に戻っても、スタン爺様も誰もいない。

ここに来ても、シンシア姉様会えるわけでも、無い・・・。

 

 

・・・夕食前、メルディアナの地下を確認しました。

愚かとも思いましたが、この目で見るまでは信じたくなかった。

かつてアーニャさんと磨いた村の人達は、いませんでした。

一人も・・・。

 

 

「・・・っ」

 

 

ギリッ・・・と、歯噛みします。

そんな私の右手には、青い小箱があります。

開いてみれば、そこには銀の翼を模したアクセサリーの付いたイヤーカフスが。

翼の中央に、白い真珠のような宝石。

 

 

支援魔導機械(デバイス)。

超さんがもたらし、ハカセさんが作ってくれた石化解除の鍵。

私がエヴァさん達の協力で導き出した、石化解除式を忠実に実行できる唯一のアイテム。

でも、それもスタン爺様達に会えなければ意味が無い。

 

 

「・・・ッ!」

 

 

気が付けば、私はそれを地面に投げ捨てていました。

箱が跳ね、中から支援魔導機械(デバイス)が飛び出し、草むらの中へ。

 

 

「オイ、イイオカヨ」

「・・・良いんです」

「イヤ、デモアレハ・・・」

「だって・・・意味が無いじゃないですか!」

 

 

やりきれない。

何だって私は、望んだ何かをすぐに手に入れることができないのか。

世界は何故、こんなにも。

いつだって、こんなはずじゃ無い事ばかりなのでしょうか。

 

 

「だとしても、こんな・・・こんな!」

 

 

誰もいない空間だから、叫べる。

両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちるように膝を付きます。

 

 

「教えてください、チャチャゼロさん。どうして村の皆は連れて行かれたんですか・・・」

「・・・ソレハ」

「どこに行ったんですか・・・誰が! 何のために・・・教えて、教えてよ・・・っ」

「・・・」

「教えてよ、シンシア姉様・・・なんで、答えてくれないの・・・!」

 

 

いつも語りかけているのに。

一度だって、貴女は答えてはくれなかった。

 

 

「・・・元老院・・・!」

 

 

メガロメセンブリア元老院。

私から両親を奪い、スタン爺様や村の人々を奪い、かつてはエヴァさんの人生を狂わせた存在。

以前はそれ程意識してはいませんでしたが・・・今また、私から村の皆を奪って行った・・・。

元老院。

憎い。憎かった。憎悪とはこんな感情だったのかと、そう思いました。

私の・・・。

 

 

私の身内に、手を出したな。

 

 

「マァ、オチツケヨ」

 

 

チャチャゼロさんが私の頭から降りて、支援魔導機械(デバイス)の飛んで行った方へ歩いて行きました。

そのまま草むらに入り、しばしガサガサと何かを探す音が・・・。

 

 

「ゴシュジンノイイグサジャネーガ、ココハレイセイニ・・・ッテ、ウオ!?」

「・・・チャチャゼロさん?」

「魔力反応ヲ感知シマシタ」

 

 

田中さんの声に、立ち上がります。

チャチャゼロさんの方を見ると、何か光って・・・。

 

 

「チャチャゼロさん!」

 

 

慌てて駆け寄れば、そこには。

イヤーカフスを拾ったチャチャゼロさんと、その目の前に輝く貝殻が。

これは・・・魔力で構成されています。

右眼の『複写眼(アルファ・スティグマ)』で確認すると、やはりこれは私の、いえ。

 

 

「シンシア姉様の・・・?」

「ナンデコンナトコニ?」

「さ、さぁ・・・」

 

 

恐る恐る、手にとって見ます。

すると、私にはコレが何かわかりました。

この貝殻の名は、『魂の貝殻』。

 

 

・・・まさか、もしかして。

貝殻の口の、開いた部分を耳に。

この貝殻は、CDのように音声を残しておくことが・・・。

 

 

『自分が・・・』

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

「自分が終わることを自覚した時、人間がどう行動するか知っているかい?」

 

 

その女性は、身体の半分が無かった。

顔の右半分が無かった。

右腕は、胸の半ばから抉り取られたかのように失われている。左手も指が半分無い。

下腹部には大穴が開き、左足は太腿の大部分が削り取られ、右足はそもそも膝から下がない。

失われた部分を補おうとするかのように、黒い何かが滲み出ている。

 

 

女性の名は、シンシア・アマテル。

シンシアは今まさに、自分が消滅しつつあることを自覚していた。

ふ・・・と、残った左目で、自分のすぐ隣に横たわる2人の少女を・・・特に、金髪の少女を見つめた。

 

 

「・・・何かを、遺そうとするんだよ」

 

 

次いで、シンシアは少し離れた場所を見つめた。

そうは言っても、数メートル程だが。

 

 

「キミも、そうなんじゃないのかい?」

「・・・そんなんじゃねぇよ」

「息子に形見だとか言って杖を渡したくせに、何を言ってるんだか」

 

 

おかしそうに、シンシアが笑う。

そこには、ローブを纏った一人の男がいた。

燃えるような赤毛、強い意思を感じる瞳。

その容貌はどこか野性的で、それでいて粗野では無い荒々しさを備えていた。

 

 

「感謝するよ、キミがここに運んでくれなければ、ボクは何も遺せずに消えてしまう所だった」

「別に、ついでだよ、ついで」

「ついで、ね・・・キミらしいよ、ナギ」

 

 

その男の名は、ナギ・スプリングフィールドと言った。

彼らがいるのは、例の湖の畔。

ここでならば、シンシアももうしばらくは保つ。

 

 

「・・・キミの娘は大丈夫だよ、生き残れる」

「・・・そうか」

「何も聞かないのかい?」

「別に・・・俺は俺のやりたいようにやっただけだ」

「そうかい」

 

 

ナギの言葉に、シンシアは金髪の少女・・・アリアのことを説明する気を失った。

アリアがどこから来て、そしてどこへ行くのか、その全てを。

事実、ナギにとっては、それはどうでも良いことだった。

ただ・・・。

 

 

息子と同じように、娘も助けただけだ。

 

 

「・・・行くのかい?」

「ああ」

「せめて、頭の一つも撫でてやれば良いのに」

 

 

ナギは、眠り続ける娘を・・・アリアを、じっと見つめた。

そして、片手を伸ばしかけて・・・やめた。

気恥ずかしいと言うのもあるが、何より・・・。

 

 

「俺には、そんな資格はねぇよ」

「キミにしては珍しく、殊勝な発言だね」

「うるせっ」

「なら、言葉ぐらいは残して行きなよ。杖は息子に渡してしまったのだから・・・一言ぐらい、ボクから伝えてあげても良いよ」

「・・・」

 

 

ナギは黙って背を向けると、そのまま空中に浮遊し始めた。

そのまま、離れていく・・・直前、振り向いた。

その目には、かすかに涙が浮かんでいたように、シンシアには思えた。

 

 

そして、ナギは。

 

 

「こんなことを、言えた義理じゃねぇが・・・」

 

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 

「・・・オ、オイ、ドウシタ?」

「体温ガ上昇、心拍数ガ・・・」

「だ、大丈夫、大丈夫です・・・っ」

 

 

役目を終えたからか、長い間放置されていたからか。

その貝殻は、砕けてしまいました。

私はその欠片を手に持ったまま、チャチャゼロさんを抱き締めていました。

 

 

両目から、とめどなく熱い雫が溢れて、止まりません。

それを見たからか、チャチャゼロさんが困り果てている様子です。

それでも、私はチャチャゼロさんを離すことができませんでした。

 

 

「カンベンシロヨ・・・」

「す、すみませっ・・・!」

「アーアー・・・シャーネーナー」

 

 

ポンポンッ、と背中を叩かれました。

それが、それだけのことが、たまらなく嬉しかった。

 

 

シンシア姉様の声を聞けた。

そしてあの時、私だけが放置されたと思っていました。

でも・・・。

 

 

私は、ちゃんと・・・!

 

 

私はちゃんと、救われていた。

ネギだけが、救われていたわけじゃなかった。

あの人はちゃんと、私にも言葉を残してくれていた・・・っ。

それなのに、私は。私は・・・。

 

 

 

『・・・元気に育て、幸せにな』

 

 

 

・・・とうさま。

 

 

 

 

 

Side エヴァンジェリン

 

「ただいま戻りました」

「お、お姉さま、いったいどちらに・・・!」

「探したんですよー?」

「ごめんなさい、ちょっと外の空気を吸いたくて・・・」

 

 

夕食後しばらく経って、ようやくアリア達は戻ってきた。

さよとドロシーが、出迎えている。

田中から茶々丸に連絡が入っていたから、特に心配はしておらんかったさ。

チャチャゼロも付いていたわけだしな。

 

 

「マスターはアリア先生が心配でいつもより食事の量がすふはふはっふぇ」

「お・ま・え・は!」

 

 

巻くぞ、このボケロボが!

茶々丸は本当に、最近私のことを敬わなくなったような気がする。

これも成長と喜べばいいのか、どうなのか・・・。

それともまさか、私に威厳が足りなくなったとでも言うのか、はは、まさか・・・。

 

 

・・・まさかな。

いや確かに家事は全部茶々丸に任せているし、最近の私は威厳のある所を見せているとは言い難いし。

し、しかしだな・・・。

 

 

「エヴァさん」

 

 

茶々丸の頬をムニムニと弄りながらそんなことを考えていると、いつの間にかアリアが傍に来ていた。

何かと思って顔を見れば、先ほどよりもすっきりしている気がする。

何があったのかは知らんが・・・。

 

 

まぁ、落ち込んでいるよりは良いだろう。

すると、アリアが左手で髪をかき上げた。そこには、銀の翼を模したイヤーカフスがついている。

支援魔導機械(デバイス)とか言ったか。

まぁ、この場では無用の長物になってしまったがな・・・。

 

 

「似合ってるぞ」

 

 

そう言ってやると、アリアは小さく笑った。

それから、真剣な目で私を見て。

 

 

「私、魔法世界に行かなくちゃいけない理由が増えました」

「・・・そうか」

「はい」

 

 

決意の込もった、と言うほど気負っているわけではないが、何かを決めてきた表情だな。

外に出ている間に、何があったのやら。

また後で、聞かせてもらうとしよう。

 

 

「私、取り返しに行きます」

「村人をか?」

「はい・・・いえ、もしかしたら、それに加えて色々あるかもですが・・・」

「・・・ふん?」

「・・・手伝って、もらえますか?」

「・・・ふん」

 

 

苦笑して、アリアの頭をグシグシと撫でる。

多少乱暴に撫でたからか、アリアは「わわっ」と驚いたような声を上げたが、嫌がりはしなかった。

ま、スキンシップと言う奴かな。

ドロシーとヘレンが、意外そうな顔でこちらを見ていることに気付いた。

 

 

それに、少し愉快な気分になった。

私は確かに、奴らの知っているアリアを知らないかもしれないが。

奴らもまた、私達の知っているアリアを知らないというわけだからな。

 

 

小さな独占欲が満たされていくのを感じる。

言われなくても、手伝ってやるさ、面倒だがな。

仕方が無い。

 

 

「お前は、私達の家族だからな」

 

 

私がそう言うと、アリアは少し目を丸くした。

そして・・・。

 

 

そして、花が咲くような笑顔を、見せてくれた。

 

 

 

 

 

Side 美空

 

「いやぁ、ラッキーだったねココネ!」

「うん・・・」

 

 

膝の上に乗せたココネの頭を撫でながら、そんな会話をする。

うん、本当にラッキーだったね。

何でかって言うと、イギリスのゲートが壊れて無しになるはずだった異世界旅行が、トルコの魔法協会の好意とかでできるようになったんだもん。

 

 

本当、ラッキー♪

まぁ、もう少し欲を言えば、ココネと2人きりが良かったかなーってこと。

 

 

「美空! ゲートが開くまでまだ時間があるとは言え、シャンとなさい!」

「へいへーい」

「返事は、はい! 最近また弛んできていますよ!」

「はーい・・・」

 

 

シスターシャークティーまで来てるんだもんなー・・・。

何で引率の先生が来てるのさ。

 

 

「未成年の生徒だけで行かせられるわけが無いでしょう」

「・・・そっスねー」

「しっかりしなさい。貴女は麻帆良の代表でもあるのですよ」

 

 

面倒なことに、私は麻帆良の生徒代表ってことになってる。

まぁ、だからこそ旅費とかタダなわけだけどさ。

何でも、新生麻帆良を印象付けるとかどうとか・・・。

 

 

私が・・・っていうか、ココネが選ばれたのは、あっちの世界の出身だから。

旧世界人は、あんま良い目で見られないんだって。やだよねー。

あ、それと私達の他にもいるよ。

 

 

「あちらに戻るのも、久しぶりですね」

「よ、良かったですね、お姉様」

 

 

高音さんとか言うウルスラの先輩と、その従者の・・・なんだっけ?

 

 

「佐倉愛衣です!」

「ああ、うんうん、覚えてるって」

 

 

片手をヒラヒラ振って、適当に答える。

真面目と言うか、頭が固そうで面倒そうなんだよねー。

特に、高音さん。

 

 

「・・・お? あんたは・・・こんな所で奇遇やな」

「あ、貴女は・・・これも、主のお導きですね」

 

 

その時、シスターシャークティーに声をかけてきた女の人がいた。

眼鏡をかけた美人さんで、どっかで見たことがある。

 

 

「あ、お、おはようございます」

「ん? おー、武道会の時のねーちゃんか、おっす」

「何ですか愛衣・・・って、貴方達は!?」

「どうも、神鳴流です~・・・おねーさん、誰ですかー?」

「んなっ!?」

 

 

高音さん達は、やっぱりどこかで見たことのある黒髪の男の子と、長い髪の女の子と話してた。

えっと、確か・・・関西の。

 

 

「ミソラ・・・」

「ん? なーにココネ。私は記憶を精査してる所で・・・」

「あっち・・・」

「だから何・・・げっ」

 

 

ココネが指差した方向を見た時、思わず顔を隠した。

な、なんであの人達がここに。

 

 

わ、私は謎のシスター。

あんな髪の白い女の子は知らんとです・・・。

 

 

 

 

 

Side アリア

 

早朝、私達は転移魔法で中東のゲートまでやってきました。

左眼のせいでかなり危なかったですが、何とか成功しました。

トルコの魔法協会に知り合いはいませんが、今回の好意には感謝ですね。

 

 

「それで、基本は予定通りなのだろう?」

「はい、まずはアリアドネーへ・・・そして新オスティアへ」

 

 

その他の情報の刷り合わせは、私の「知識」も含めて、昨夜の内に終わらせてあります。

とはいえここまで展開が変わると、私の「知識」もどこまで役に立つか。

とにかく、アリアドネーや新オスティアを拠点に、ネカネ姉様やアーニャさん、村の人達の行方を探しましょう。

 

 

「なら、私はもう少し寝るぞ・・・茶々丸」

「はい、マスター」

「さーちゃん、スクナは実に眠いぞ」

「すーちゃん、最近本当に一直線だよね・・・良いけど」

 

 

適当な場所にシートを敷いて、エヴァさんは茶々丸さんの膝枕で寝始めました。

その横で、明らかにさよさんの膝枕を狙っているスクナさんは、何と言うか・・・。

まぁ、エヴァさんは朝は弱いですし・・・私もですけどね、ふわぁ・・・。

 

 

「アリアはん!」

 

 

欠伸をしていると、聞き慣れた声で名前を呼ばれました。

むぅ、どこかの勇者が旅立ちそうな発音で私を呼ぶのは・・・。

 

 

「千草さん、それにシャークティー先生も・・・おはようございます」

「おはようございます、アリア先生」

「おはようやな。アンタも今から行くんか?」

「はい、お2人もですか?」

 

 

話を聞くと、このトルコの魔法協会からの渡航が最後になりそうなので、予定を早めて魔法世界に行くことになったのだとか・・・。

まぁ、千草さんもシャークティー先生も、私とは目的地が違うようですが。

当然といえば、当然ですね。行く目的が違うのですから。

 

 

視線を転じれば、少し離れた所に小太郎さんと月詠さんがいました。

小太郎さんは片手を上げて、挨拶のつもりでしょうか。

隣の月詠さんは、顔を紅くして私を・・・さて、時間はまだでしょうか。

 

 

あと、どうでも良いですが、あの挙動不審なシスターは何でしょう?

美空さんですよね、あれ・・・。

 

 

「お待たせしました、ゲートが開きますので順番にお並びください! 係員の指示に従って・・・」

「お、開くみたいやな。ほなアリアはん、向こうで会うたらよろしくな」

「私達も行きます、またお会いしましょう」

「はい、お2人ともお気を付けて」

 

 

千草さん達とお別れして、さて、私もエヴァさん達の所へ・・・。

 

 

ドンッ。

 

 

「きゃっ・・・」

「失礼」

「あ、いえ・・・」

 

 

ローブを頭までかぶった男性と、肩をぶつけてしまいました。

謝罪しようと顔を上げた時には、その男性はすでにいなくて・・・あれ?

 

 

「・・・良い旅を、アリア」

「・・・!」

 

 

その声!

慌てて振り向いて見ますが、そこにはやはり誰もしません。

・・・気のせいだったのでしょうか。

 

 

しかしその考えを否定するかのように、私の手には一輪の花が。

いつの間に・・・。

薄い赤色の大きな花弁が、光を反射して輝いていました。

華美な花の先端は、波打つようで まるで花火のように鮮やかです

花には詳しく無いのですが・・・何の花でしょうか?

 

 

「アリア先生、そろそろ・・・む、その花は?」

「あ、茶々丸さん。コレ、何の花かわかりますか?」

 

 

すっかり眠りこけてしまったエヴァさんを背負った茶々丸さんが、私の傍にやってきて、私の持っている花をじーっと見つめました。

そして、数瞬後。

 

 

「コレは、ネリネの花であると思われます。別名ダイヤモンドリリー」

「はぁ・・・」

「南アフリカ原産で、花期はちょうど今頃です。どうして、こんな所に?」

「・・・ふふ」

 

 

私が軽く笑うと、茶々丸さんは不思議そうな顔をしました。

その後、ネリネの花の花言葉も教えてもらいました。

 

 

<また会う日を楽しみに>

 

 

それが、この花の花言葉。

思わず、笑みが零れてしまいました。

他にも、「幸せな思い出」などの意味もあるそうです。

 

 

ネリネの花を手の中でクルクルと弄びながら、私は白い髪の誰かのことを思い浮かべました。

何だ、魔法世界へ行くにあたって、悪いことばかりでも無いじゃありませんか。

順風満帆、前途洋洋・・・とまでは、行きませんが。

 

 

 

シンシア姉様、魔法世界とはどんな場所で・・・。

何が、待ち受けているのでしょうね?

 

 

アリアは、新たな場所で、またまた頑張ります。

 

 

 

 

「なお、<箱入り娘>と言う意味もあります」

「え」

 

 

どういう意味ですかそれ!

 

 

 

 

 

Side コレット

 

うぁっちゃー、もう皆揃ってるよー。

いや、当たり前だけどさ。

 

 

「何をしているのです、早く列に並びなさい!」

「うわわっ・・・ゴメンゴメン!」

 

 

小声で私を叱るのは、委員長のエミリィ・セブンシープ。

凄く真面目で、まさに「委員長」って感じの子なんだよね。

成績優秀で、しかもお嬢様だって話。

 

 

とにかく、私も慌てて列に並ぶ。

まったくもー、バロン先生にも困ったもんだよ、何もこんな時に雑用を言いつけなくたって。

大広間には、私を含めた同学年の子達が整列してる。

今日は、新任の先生が来るから、その顔合わせなんだって。

どんな人だろ、ちょっと興味ある。

 

 

「皆、おはよう」

「「「おはようございます!!」」」

 

 

壇上に現れたのは、アリアドネー魔法騎士団総長にして、私達の校長先生。

セラス総長。

偉い人なんだけど、気さくな性格で人気もある。

だから割と、朝礼とかで顔は見る。話したことは無いけどさ。

 

 

「今日は事前に通達していた通り、新しい非常勤の先生2人と、旧世界の魔法学校からの留学生を紹介するわ」

 

 

旧世界!

伝承とかでしか聞いたこと無いけど・・・そりゃまた遠い所から!

セラス総長が呼ぶと、ゾロゾロと複数人が壇上に上がった。

えーっと。

 

 

10歳くらいの白い髪の女の子に、金髪の女の子。そいで黒髪の男の子。

15歳くらいの古風な女の子に、緑の髪の女の子・・・人族かな? 違う気がする。

と言うか、あの人形を2つ抱えた大きな男の人は何だろ・・・。

な、なかなか、個性的なメンバーみたいだね!

・・・で、先生は?

 

 

その時、セラス総長に促されて、白い髪の女の子が中央へ。

そして、マイクを渡される。

お、おお、挨拶的な?

白い髪の女の子が、話し始めた。

 

 

『皆さん、初めまして。私は・・・』

 

 

 

・・・後になって、わかったことだけど。

その時の私は、気付いてすらいなかったけど。

それは・・・。

 

 

 

『私は、アリア・スプリングフィールドと申します』

 

 

 

それは、運命の出会いだった。

 




アリア:
アリアです。
今回で、長かった旧世界編は終了です。
皆様の応援のおかげで、どうにかここまで来ることができました。
改めて、お礼を申し上げます。
本当に、ありがとうございます。


今回は久しぶりに魔法具が登場しました。
ダイの大冒険から「魂の貝殻」:haki様提供です。


アリア:
さて、第二部・・・魔法世界編は、新しい小説として新設する予定です。
原作からかなり前提条件が変わっていますので、何が起こるかは私もわかりません。

第二部のタイトルは、以下の通りです。

「魔法世界興国物語~白き髪のアリア~」

では、皆様・・・本当にここまで、ありがとうございました。
第二部でお会いできることを、心よりお待ちしております。
では、またお会いしましょう。


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