ハイスクール D-ECO (豚派)
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画面、飛び出しました!

ラノベとネトゲのクロス第二弾。
文体とか文字数とか展開とか色々模索しながらやりやすい感じで適当になればいいと思っています。
よければ箸休めにちょっとつまんでみてはいかがでしょうか?


 私こと鷺沼依子(さぎぬま よりこ)には、一人の気になる男子がいます。

 

 中学からの腐れ縁で、私が今立っている歩道橋を普段からの通学路にしている彼は、私の存在に気付くとあからさまに嫌そうな顔になりました。

 

 それでも私はめげたりしません。なぜなら、

 

「兵藤くん!今日こそおっぱいよりもパンツこそが至高だということに気付いてもらいます!!」

「朝っぱらからつきまとうな!毎度毎度うっとおしいんだよ鷺沼ァーッ!!」

 

 こんな風に、全力で逃げ出す兵藤くんを追いかけながら神の与えたもう布地についての熱弁をふるうのが、私の毎朝の日課となっているのです。

 

 

 

 

 

 その後、教室で兵藤くんも含めた変態チームに混じってパンツの布教をしようとしましたけれど、結局兵藤くんは未だにパンツよりおっぱい派のままでした。

 

 松田くんと元浜くんには評判のいい私のネトゲアバターパンツ画像集も、見て喜びはするものの胸部装甲割増系衣装のほうが食いつきが良くて失敗しました。

 

「今日もまたパンツ派への改宗に失敗です……うーん、解せぬ」

 

 私は独り言を呟きながら、帰ってきた自室のPCでネットゲームにログインします。

 

 数年前に始めたそのゲームのタイトルはエミルクロニクルオンライン――略してECOといって、わかりやすく言うならパンツ特化ネトゲです。プレイヤーアバターの衣装はもちろん、人型の連れて歩けるペットキャラクターのパンツさえも細かく手が掛かっているまさにパンツ信者のためのゲームといったところです。

 

「フフフ……今日もナイスショットを取るために、いざコーデ模索とロケーション探索の旅路へ!」

 

 ログイン画面に居並ぶ可愛く着飾った少女達のアバターを前に、興奮が抑えられません。

 

 ログインするキャラクターを選んで、クリック。そうすると私が選んで着せた衣装で全身喜び表現をしてくれます。くるりと回るここが脳内シャッターチャンス――よし、見えた!

 

 なんて喜んだのもつかの間、突然部屋が真っ暗になりました。同時に今まで映っていたPCの画面も一瞬で消えて、後に残ったのは私の滾る心だけ。

 

 なんで?どうして?と思っていれば答えは窓の外から光と音で自己主張。ああ、本来の意味での青天の霹靂で停電――自然現象には勝てないですね、等というとでも思いましたか!

 

「私のパトスの行き場所を返して――!!」

 

 叫んだその時、不意にPCの画面が灯りました。もう復活したのかと振り向けば――にゅるりと画面から人が現れました。そのままぼてりと落ちたかと思えば続いてもう一人、更に一人、折り重なるように出てきます。その間私は間抜け面で見守っていただけでしたとも。

 

 三人目を吐き出し終えたPCは再び画面を消し、沈黙しました。後は外からゴロゴロという音と、出てきた三人組が呻く声だけです。

 

「あいたた……」

「うう……」

「ふにゅうう……」

 

 なんかあざといのが混ざってますね、と思いながらよくよく見てみると――なんだか、見覚えがあります。っていうか、つい今しがた画面の中から手を振ってくれてましたよね?

 

「……キキョウ?サクラ?ヒマワリ?」

 

 恐る恐るネトゲのキャラの名前を呼んで見れば、それぞれが反応して、顔をこちらに向けてきました。それから顔を喜びいっぱいに輝かせて、

 

「主様ー!」

「マスター!」

「お姉ちゃーん!」

 

 三人まとめて飛びついてきたのでした。

 

 

 

 

 

 ネットゲームから自分のキャラクターが現実世界に現れる。そんな不思議な出来事から早いもので一週間ほどが過ぎました。

 

 その間も、私はいつも通りの生活を送ります。変わったのは、少しアクセサリーが増えたこと。

 

 

 現実世界に現れた私のキャラクター三姉妹――サクラとヒマワリとキキョウですが、そのまま放置するわけにも行きません。実家暮らしである私にとって、両親に心配と迷惑をかけることは大きな問題になってしまいます。

 

 なので、彼女達にはECOのゲームシステムの一つ、憑依をしてもらうことになりました。

 

 キャラクターを装備に憑依させることによって装備者の能力を底上げする、という実に有難いシステムなのですが、とりあえず今回は私ですらいつ買ったかも覚えていないようなネックレスとブレスレット、それと普段使いの鞄にそれぞれ憑依してもらいます。こうすることで少なくとも人目につくことは殆どありません。

 

 実は一回服に憑依してもらったのですが、その結果かわいらしい女の子の絵柄が入った痛々しい服になってしまったので急遽目立ちにくいものに変更した次第です。

 

 さらに彼女達には部屋以外で外に出てはいけないと言い含めたところ、素直に頷いて聞いてくれました。その様子があまりにも天使過ぎたので、あやうく昇天するところでしたとも。

 

 そんなわけで今日も長女サクラをペンダント、次女ヒマワリを鞄、三女キキョウをブレスレットに憑依してもらっています。

 

 

 ところで、三姉妹が来たおかげでこのところ兵藤くんをはじめとした三人組とは一緒に語り合うことが出来ないでいます。彼らには現在少し忙しいと言っているので深く突っ込んではきませんが、そこに若干の心苦しさを感じています。早いところ落ち着けるようになれるといいのですが。

 

 もっとも兵藤くんも彼女が出来たとかで三人の中でも別の存在になりつつあるみたいで、ちょっと調子に乗って居る感じです。なんでも今日はデートするんだとかで少し相談に乗ってあげたのですが、何度もおっぱいおっぱい連呼していたので、とりあえず自重するようにとだけ言っておきました。でもきっと自重はできないと思います。デート初日なのにおっぱい揉ませて位は平気で言いそうです。

 

 

 そんな兵藤くんの様子を見に行くとかではないのですが、なんとなく散歩に出ている私がいます。べ、べつに兵藤くんのことが心配なんじゃないんだからね!とかツンデレるわけでもないのですが、どうにも不安が沸き起こってきているのです。

 

 デートコースの最後に行くといいかも、とアドバイスしておいた公園へと足を運んでみれば――妙な胸騒ぎがします。自然と足が速くなり、気付けば駆け足で公園の噴水のある一角へとたどり着いて、

 

「死んでちょうだい」

 

 黒い羽の生えた露出過多な女の子が、兵藤くんの腹に赤い光の槍を突き立てていました。

 

 なにが起こっているのかわからないけれど、兵藤くんは血を吐いて仰向けに倒れ、お腹には大きな穴があって――

 

「あら……あなた、イッセーくんのお友達ね?まずいところ見られちゃったわね……あなたにも、死んでもらうわ」

 

 赤い光の槍が振りかざされて、私に向かって一直線に飛んできました。

 

 スローモーションになる視界のなかで、だけれど私は兵藤くんから目を逸らすことができなくて、そうしているうちに私の体にも赤い光の槍が――

 

『お姉ちゃん危ない!!』

 

 鞄からヒマワリの鋭い声がして、私の体を光が包みます。これは私の思い違いでなければECOのスキル、リフレクションじゃないでしょうか?

 

 なんて考えていると、思ったとおりにリフレクションと同じ効果――『相手の魔法を反射する』が発動して、赤い光の槍が私の体にぶつかる寸前で巻き戻されたかのように返って行きます。

 

「なっ!?……あなた、一体何者!?」

 

 返って行った赤い光の槍を相殺しながら、黒い羽の女の子がこちらを睨んできました。なんというか、殺気といえばいいのか……よくわからないけれど、強い敵意のようなものが感じられて、吐き気がしてきます。

 

 ふと気付くと、私の右手のひらの中に光る何かがありました。丁度手で覆うことができる程度の大きさで、暖かくてなじむような光です。

 

 私は無我夢中のまま光を握り締めて、理解できない中でも何かにすがり付くように想います。こんなところで死にたくない。だけど、それ以上に――

 

「兵藤くんにも、死んで欲しくない――!」

 

 思わず口に出た瞬間、手の中の光が強く輝いて、更に実体を持って重みになりました。

 

 目の前の黒い羽の女の子も強くなった光を眩しそうに手でさえぎりながら、セイクリッドなんとかがどうしたと呟いています。

 

 本当に、なにがなんだかさっぱりわかりません。ですが、

 

「わからなくても、感じます……お願い皆、力を貸して!」

 

 ネックレスと鞄と腕輪。その全部に声をかければ、短くも頼もしい声が返ってきました。そして、できるという確信が沸き上がります。想いを込めて右手を掲げれば、

 

 

 

『Soul Change!!』

 

 

 

 右手の光から声がして、後ろに引っ張られるような感覚がします。それと同時に誰かが目の前に割り込んできたような――だけどそこにあるのは見慣れない私の後姿。

 

 私がここにいるのに目の前に私がいる理由は、今の私にはわかります。そして、その私が一体誰なのかということも。

 

 

 

『Left-hand Guardian!!』

 

 

 

 私の体は左手からも広がった光に包まれます。一瞬見えなくなり、そして再び現れた時は全く違う姿になっていました。

 

 それは三女キキョウ――私がECOで敵と戦うときに、最も信頼して前衛を任せられるキャラクターの姿。彼女になった私には、藤色の長髪をなびかせて、白と赤を基調とした布を纏った鋼鉄に身を包んだ、三対六翼の赤黒い悪魔のような羽と小さな鉤爪のついた尻尾がありました。

 

 盾を持ち、もう一方に手にした細剣を対峙する相手に突きつけて、

 

「主様には、指一本触れさせません!!」

 

 キキョウは頼もしく宣言したのでした。

 

 



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友達、亡くしました!

さっくり書こう第二弾。
何も考えてないと普段より早く書けるということを発見しました。


 突然ですが、キキョウはガーディアンという職業――クラスのキャラクターです。

 

 そのクラスとしての最大の特徴は槍や細剣、盾に習熟して、とにかく体力や防御力が高いこと。あとは光と闇の攻撃スキルを扱えるといったところでしょうか。

 

 攻撃面・防御面両方に幅広く活躍する場所があるといえますが、逆にいうとかなり特化しなければ火力は他のクラスに劣ります。防御面でもオンリーワンなスキルを持っているクラスが他にもありますので、強敵相手にはできれば特化が望ましいという具合です。

 

 さて、私の可愛いキキョウはというと『防御寄りのバランス型』といった立ち居地になります。今現在命の危機に瀕している私にとって防御面に優れたキキョウが受け持ってくれるのはとても有難いのですが、一つ問題があります。

 

 それは、相手からの攻撃を受け止めることは出来ても相手を倒しきることが難しいということです。そして相手を倒しきらなければ、殆ど死に掛けている兵藤くんを助けに行けないということを意味しています。

 

 羽の生えた女の子の赤い光の槍はキキョウが何とかしのいでいますが、攻撃が激しいのでなかなか兵藤くんに近寄れません。今私の体を使っているキキョウの顔にも、焦りの色が浮かんでいました。

 

 もっと近寄ることが出来れば、サクラのスキルで兵藤くんを死の淵から救うこともできるかもしれないのに――

 

「先ほどの光は神器のもの――あなたも、神器持ちだったわけね」

 

 歯噛みをしていると、不意に対峙している女の子がこちらを睨み付けながら独り言のように語りだします。

 

 それと同時に相手からの攻撃が止みました。なにやら考え込むように口元に手を当てています。キキョウも未だ警戒を解かずにじっと相手の様子を伺っています。

 

 お互いの間にしばらく音が無くなったまま数秒が経ったとき、

 

「……今回貴女と会ったことはイレギュラーな事態。そのわけのわからない神器のこともあるし、今日は一端引かせてもらうわ」

 

 彼女はばさり、と大きく羽を打ち鳴らしたかと思えば宙に浮かび上がりました。

 

 そして恥ずかしながら、私はその時ようやく相手が誰だったかに気づいたのでした。

 

『貴女、兵藤くんの彼女の――』

「彼女?フフッ……私にとってはただのおままごとだったのに、随分とはしゃいじゃってたわねぇ彼――もう、死んじゃったけど」

 

 はっとして振り向けば、遠くで兵藤くんはピクリとも動きません。

 

 再び大きな羽音が響いたと思えば、あたりに黒い羽毛が舞い散ります。

 

「次は、その妙な神器をいただくわ――フフフ、アッハハハハハハ!!」

 

 哄笑が響いて、消えます。あとは静かな、噴水の水の音しかあたりにはありません。

 

 だけれど私にとって兵藤くんの彼女だった羽の生えた人が消えたことはどうでもよかったのです。今はただ、兵藤くんの所へ行きたくて――動かない。

 

 あれ?と思って走って行こうと全力を振り絞っても、一行に体は動かずに距離は近づかない。

 

 何で、どうして?と思ったら、困惑するようなキキョウの声。

 

「主様?あの少年のところに行けばいいですか?」

『あ……うん、お願い!』

 

 体はキキョウが使っていたのでした。とりあえず今状態がいつまで続くかわからないけれど指示を出せばできることは聞いてくれるいい子なので、私はしばらく体を任せることにするのでした。

 

 

 

 ガチャガチャと鋼鉄を響かせながらキキョウが兵藤くんの元に向かえば、そこにはいつの間にかもう一人の姿があります。

 

 日本人では絶対に出せない赤い髪。学校でも有名な先輩、リアス・グレモリーさんです。

 

 学校の制服の裾が短いのでパンツ要素の補給も出来ますが、先輩のメインウェポンはメートル級と噂される胸の二つの巨大なスイカ。ありえないその大きさに、学内で見かけたときなどは兵藤くんはもちろん、松田くんと元浜くんもはしゃいでいます。ちなみに元浜くんの目測ではバストサイズは99だそうですが、もう100でいいじゃんとか思ったりしますがそれはさておき。

 

 そんな先輩が何故ここにいるんでしょうか?と思ったところで、先輩が声をかけてきました。

 

「貴女……悪魔みたいだけど一体何者?」

 

 急にその切れ長の目を更に細く鋭くしてこちらに向けてきました。さっきの人といい、どうしてこう不穏な目を向けられなければならないんでしょうか。

 

 悪魔とかなんとかさっぱりわかりませんが、とりあえずどう応えようかと逡巡していると、

 

「主様……わ、私じゃどう答えたらいいのかわからないので……あと、お願いしますっ!」

 

 え?どういうこと?と思ったのもつかの間、再び私がキキョウになった時のような光が左手から迸ります。

 

 

 

『Soul Change Returns』

 

 

 

 また右手が何か喋った、と思ったら急にずしりと重さを感じます。何事かと戸惑うままに足の筋肉が震えて膝から崩れ落ち、見るも無残な格好になりました。

 

 筋肉に乳酸が溜まってるような感覚を覚えて、やっぱりさっきのキキョウの動きは体に負担だったのかなと思いながらちらりとリアス先輩を見上げてみれば、学校では一度たりとて見たことのない呆気にとられた顔。

 

 やっぱり美人アイドルみたいな扱いの先輩もそんな顔するんだ、なんて少しおかしくて笑いそうになりました。

 

「……どういうことかわからないけれど、貴女確かこの子のお友達よね?」

「え、あ、はい」

「……それじゃあ後日使いを送るから、そのときに詳しいことを聞きましょう。それで、この子なんだけど――」

 

 先輩が顔を向けた先に、倒れている兵藤くん――だったものがありました。

 

 兵藤くん。改めて確認しなくともわかります。息はもう止まってます。

 

 親しい人の死をこんなところで見るとは思わなくて、なんだか感覚も麻痺してしまったみたいです。もう、あの馬鹿みたいな話をすることは出来ません。パンツの布教もできません。本当は、ちょっとだけおっぱいの話に耳を傾けてもいいかなと思ったりもしていました。なのに、兵藤くんはもう二度と話すことはありません。

 

「兵藤……くん」

 

 あ、と思う間もなく、私の意識が遠のいていきます。ダメ、待って、もう少しだけ、兵藤――一誠くんを、目に焼きつかせて。

 

 

 

 意識を失う最後まで、何故か涙は出ませんでした。

 

 

 

 



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友達、生きてました!

何故か休みの日ほど手が動かない不思議。
もう1シーンほど書こうかとも思いましたがどうにも上手くいかず断念。


 目が覚めると、そこは見慣れた私の部屋でした。

 

 目覚ましは止まっていて、少し起きる時間が遅かったのはありますが、それ以外はいつもと変わらない朝です。昨日あったことなんて、全く存在しなかったかのように思えます。

 

 そう――あれは、本当は夢だったんじゃないでしょうか。

 

 公園で黒い羽の生えた兵藤くんの彼女と私になったキキョウが戦って、兵藤くんが死んだなんて、そのほうが夢らしく思えます。

 

 そう、あれは夢。悪い夢――だと、思いたかったのですけれど。

 

 右手に、軽い重さがありました。見てみれば、それはPCのマウス。ケーブルが無いので赤外線かブルートゥースあたりかもしれません。

 

 でも、それは違うと確信が持ててしまいます。これは、夢だと思いたい出来事の際に手の中で光っていた何かだと、見ただけでわかってしまいました。

 

 これがある、ということは昨日のだと思いたい出来事も、きっと現実なのでしょう。

 

 つまり、兵藤くんは、もういない。

 

 そう考えるだけで、急に体が気だるく重くなってきます。月のあれにも匹敵する辛さは、友達一人亡くしたと考えれば妥当なのかもしれません。

 

 とりあえず今日は、もう少し寝ていたい。そう思って、再び布団に沈みます。

 

 でも、目を瞑っても昨日の光景のフラッシュバックばかり頭に浮かんできました。

 

 何もかも赤色でした。兵藤くんの血も、あの彼女さんが手に持っていた光の槍も、そして最後に現れたリアス先輩の髪も。

 

 しばらく、赤色は見たくないと思いました。

 

 

 布団の中でぼんやりとしていれば、お母さんに呼ばれてたたき起こされました。どうせ夜更かししていたせいでしょう、と言われましたが、本当のことは言えなかったので適当にごまかします。

 

 だけれどそのごまかし方と、あまりに食欲が無くて水とヨーグルトくらいしか食べられなかったのが両親に心配をかけてしまったみたいです。

 

 真実は心の中に仕舞いこみます。辛くても、私は頑張ります。

 

 朝食ともいえない、ほんの少しの食べ物をお腹に入れて、部屋に戻って学校へ行く支度です。

 

 今の時間、サクラは起きていますがヒマワリとキキョウはたいてい眠っています。

 

 サクラに朝の挨拶をして、三人が憑依したままのペンダントとブレスレットを付け、鞄を持ちました。ちなみに妙なマウスはいつの間にかどこかへ行っていました。捜せば布団の中にあるかもしれませんが、今はほうっておくことにしました。

 

 準備は万端。あとは、兵藤くんの居ない通学路を歩くだけ。

 

 少し目尻に涙が浮かびました。それを指先でぬぐって、勢いよく振り払って、

 

「いってきます!」

 

 あえて、大きな声で挨拶をしたのでした。

 

 

 

 普段よりも遅い時間の通学路は、普段よりも人が多く行きかっていました。

 

 その中を、今落ち込んでも何にもならないことはわかっているので、意識して前を向いて歩きます。

 

 昨日のことが何だったのかは、きっとリアス先輩が教えてくれるのでしょう。

 

 それを待つ間は昨日のことは忘れておきます。だから今の私はただの女子高生。

 

 昨日よりちょっと調子は悪いけど、今日も学業に邁進します。あと、パンツの布教。

 

 そういえば、昨日からパンツのことを殆ど考えていないことに気付きました。

 

 これではいけません、むしろチャンスでしょう。

 

 あのおっぱいに傾倒していた兵藤くんが居ない今、松田くんと元浜くんをどんどんパンツ派に傾かせることができます。

 

 なんということでしょう、兵藤くんが死んだ今こそ最大のチャンスだったとは。兵藤くんに何の罪もありませんが、今は不謹慎ながらも喜ばせてもらいます。

 

 ということで教室に着きました。扉をがらりと開けて、いざ偉大なるパンツ千年王国の第一歩!

 

「ん?おー鷺沼、今日はどうしたんだ?珍しく朝居なかったから逆に挙動不審になっちまったじゃねーか」

 

 松田くんと元浜くんと共に、また何か新しいグラビア雑誌か何かを読んでいる兵藤くんが、挨拶をしてくれました。

 

――WHY?

 

 生きてる?それじゃあ昨日のことは一体?もしかしてやっぱり夢?

 

 などと色々一気に駆け巡りましたが、とりあえず今やることは唯一つ。

 

 兵藤くんのところへと駆け出して、飛び込んで、

 

「パンツ千年王国のために死んでくださいっ!!」

「結局朝っぱらからトチ狂ってるんじゃねーかお前はッ!!」

 

全力のダイブから繰り出す右手の一撃は、あっさり兵藤くんに避けられたのでした。

 



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イケメン、やってきました!

さすがに動画配信を見るだけではよくわからない部分が増えてきたので、原作飼うことにしました。
なんて思っていたら目が覚めると日が暮れていましたよ?
これは原作なんてなくてもいいという神のお告げか何かか……実際原作読みながらのほうが書くスピード遅い気がするのは確か。


 一日の授業が終わり、放課後になりました。朝からしばらくの私は錯乱していたと自覚できていましたので、なんとも気恥ずかしい四半日でした。

 

 だから授業が終わったのであれば早く抜け出したい、と思っていたのですが、昨日私が気を失う最後に言っていたリアス先輩の言葉が頭に引っかかっていました。

 

 ――後日って、いつなのですか。

 

 後日。ある日より後の日。これから先。今後――以上、授業中に内職して調べた電子辞書の広○苑よりの引用です。

 

 つまり、今日の放課後であっても後日、ということになります。というかそんな面倒な言い方しないで日にちを指定してくれればよかったのにと、頭を抱えて机に突っ伏しながら思います。

 

 などと考えながら唸っていれば、今私が頭を悩ませていることの根本原因である兵藤くんが心配そうにこちらに声をかけてきました。

 

「……なあ鷺沼、本当に大丈夫か?今日のお前は一段とおかしいぞ?」

「うるさいですパイオツスキー。私のことはほっといて置いて――ああ、パンツ至上主義に改宗したのであれば受け付けますよ?」

「いやおっぱいを捨てることなんて出来ないから」

「捨てろといってるわけではなくパンツを優先に物事を考えましょうと言っているだけなのですが――」

「……まあ、多少はいつも通りに戻ってよかった。じゃあ明日までに調子直しとけよ、こっちまで調子が狂うんだ」

 

 そういい残して、鞄を肩に適当な感じで手を振りながら教室の扉から出て行きます。

 

 どうやら、兵藤くんにも心配をかけていたみたいです。あんなおっぱい魔人に心配されるなどと、我ながらなんという失態をしてしまったのかと盛大にへこみます。

 

 恨めしげに兵藤くんの去っていった扉を眺めていると、なにやら教室の外が騒がしくなりました。大体が黄色い声、という感じです。先ほど出て行った兵藤くんであればもっと蔑まれた声――色で言うなら茶色でしょうか、そんな感じで叫ばれるはずですが。

 

 そんな風にどうでもいい事を考えていれば、果たしてその理由はすぐにわかりました。教室の開いた扉から、イケメンが現れたからです。

 

 イケメンです。パツキンで爽やかな風貌で甘いマスクでなんか周りで光がきらきらしてる彼の正式名称を木場――なんでしたっけ?正直、パンツ穿いてないと確定している顔と頭と性格がいい男はあんまり興味がないので、普通の男子生徒くらいにしか知りません。

 

 そんな木場くんが、周りに寄ってくる女生徒達に控えめながらも道を明けてもらえるように声をかけながら、教室の中へと入ってきました。そしてそのまま、まっすぐにこちらへ向かってきます。

 

 正直に言えば、私は木場くんのことが得意ではありません。正確に言うと、木場くんの周りに集まる子たちが苦手なのです。

 

 私はこんな風にわりと自由にやらかしているので、女子の友達は殆どいません。もちろん男子にもいませんが、兵藤くん筆頭に三人組が私の話を真正面から受け止めてくれるので居心地はいいと感じています。

 

 当然そんな私は昔から女生徒のグループには入れず、いじめまがいの事をされたこともありますが、全く無視していればそのうち見向きをしなくなりました。いじめを受けないコツは、いじめても意味がない、面白みがないと思わせることです。まあそんな暗いようでその実今の私にとってどうでもいいことはさておきます。

 

 そんな私のところに、全女子生徒の憧れの的ともいえる木場くんがくればどうなるかといえば――ほら、全方位からのやっかみの視線です。

 

「やあ、鷺沼さんだね。リアス・グレモリー先輩の使いできたんだ」

 

 何事かと思えば、そういうことでした。後日が翌日のことだというのはまあ、予想していたので問題はないのですが――この人選は圧倒的に誤りだと言わざるをえないと思います。

 

「そんな……あの変態が木場くんと一緒に歩くなんて……」

「ダメよ木場くん!そいつだけは絶対にダメ!!」

「木場くんとあいつなんて許されるはずがない……!」

 

 あははー、周りのヘイト上昇が半端なーい。

 

 もうどうでもいいや、と投げやりになりながら木場くんの言葉には適当に返事を返しながら、旧校舎へと向かうのでした。

 

 ほんと……朝からやってられません。

 

 

 

 さて、そんなわけでやってきたのは北の大地の究極がっかり遺産にそっくりな旧校舎です。あれはほんとヤバイくらいのがっかりさですが、こちらは木立の中に埋もれて雰囲気たっぷりです。至近距離にビルとかもありませんし、これがあるべき姿――否、むしろこちらが本物とすら言いたくなります。

 

 木場くんに案内されるままに旧校舎内の雰囲気ある洋室へとたどり着けば、そこには天使がいました。

 

「と……塔城子猫ちゃん……ですって……?」

 

 名前を呼ばれた事に反応し、アイスを食べる手を止めてこちらを振り向きます。

 

 そのロリータフェイスに未発達なボディ、さらには黒い猫のヘアピンが実にキュートな子猫ちゃんは、パンツの中身が非常に妄想膨らむことで常日頃からリストアップ済みでした。白状すると、私はロリ系ショタ系が大好きです。

 

「名前を知っているのなら話は早いね。塔城さん、こちらは鷺沼依子さん」

「ふ、ふふふ……よろしく、お願いします……ふふっ……」

「……」

 

 精一杯動揺を抑えながらの挨拶をしたつもりですが、彼女はびくりと顔をこわばらせ、怯えたような様子でじっとこちらを警戒して見てきました。そんなところも実に名前の通りの猫っぷりで素晴らしいです。

 

「来たみたいね。歓迎するわ、鷺沼依子さん」

 

 もはや此処が桃源郷であることが確定した事で浮かれていた私の耳に、昨日も聞いたリアス先輩の声が聞こえました。

 

 振り向けば、赤髪の跳ねた長髪と自己主張の激しすぎる胸部装甲が特徴的なリアス先輩の姿。その後ろに控えるように立つ黒髪のポニーテールとこれまた自己主張の激しいエアバッグが目に付く女生徒は、

 

「私の名前はもう知ってるわね。こちらは姫島朱乃、私が部長をしているオカルト研究部の副部長をしてもらっているわ」

「あらあら……よろしくお願いしますわね」

「はあ、よろしくお願いしま……オカルト研究部?」

 

 なにそれ怖い。というか、もしかして、

 

「まさか此処が部室で……皆さんは、部員ですか」

「ええ、そうよ?」

「……うえあー」

 

 オカルト研究部なんてそんなトンデモな部活の、しかも昨日殺人現場にいたような人とその仲間たちに囲まれてるとかどうしようもないです。できれば戦略的撤退といきたいのですが、この人数相手に大立ち回りを演じられるほど私の身体能力は高くありません。

 

 可能性があるとすれば――と思えば、右手にその可能性の端緒らしき軽い重み。

 

 出ました。よくわからないけどなんとなく使える気がする謎の光るマウス。それを少し握り締め、

 

「なっ……神器!?」

「皆!彼女を止めて!!」

 

 是非も無し、です。

 

 

 

『Soul Change!!』

 

 

 

 これでうちの愛娘達が私の体を動かしてくれれば何とかなると思います。多対一の状況ですので、昨日同様キキョウに――何でか今日に限って全く喋らないのですが――全てを託して――あれ?

 

 

 

『Fails』

 

 

 

「ぐえっ?!」

 

 突然の重みに、べしゃりとつぶれます。思わず変な声まで出ました。

 

 昨日と変わらない声が右手からしたのに、今日はキキョウが私の体に移らず、装備だけがやってきて――ご覧の通りです。

 

 突然崩れたバランスになかなか立ち上がることも出来ず、じたばたともがいてみれば、

 

「……すみません、少し大人しくしてもらえますか」

 

 首筋に西洋式の直剣が突きつけられました。

 

 そんなもの今まで至近距離で見たことのない私は、無様に頷くしかできないのでした。

 

 

 



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説明、聞いています!

連続更新は4でストップ。ちゃうねん……ボツがあったんや……。
それより原作買う機会がないのでもにょっております。
今日こそとは思いますがさて。

勢いだけでやってると後々辛くなってくるというのを感じ始めました。
もっと突き抜けて頭空っぽでやるほうがいいのかもしれませんがこれがなかなか。


 キキョウの力を借りようとして失敗し取り押さえられた私は、困惑しつつも厳しい目を向けてくるオカルト研究部員に囲まれながら、神妙な顔で正座しています。

 

「……突然神器――セイクリッドギアを使ったのには驚いたけど、どうやら失敗したみたいね」

 

 ため息をつきながらのリアス先輩の言葉に、何も言えずにただ頷きます。

 

 そもそもセイクリッドギアって何?とか思いましたが口を挟める雰囲気ではありません。

 

「まあ、今回は慣れない環境で神器が暴走した、ということでお咎めなしとしましょう。貴方達もいいわね?」

 

 周りの部員を見回して判断の是非を問う先輩。そういう対応はありがたくはあるのですが、部長の権限がかなり強いのであれば無理強いにも近い形になってしまうのではないでしょうか。いえ、私がどうこう言える立場ではないのは確かですが。

 

 結局リアス先輩以外の部員もその判断を受け入れて、私は晴れて正座から自由の身になりました。あらうふ系の姫島先輩と爽やかイケメンな木場くんは全く気にしていない素振りですが、塔城さんは無表情なので微妙にわかりません。もしもここで何か抱えられてたら面倒くさいな、とか思います。主にパンツ観察の際に必要以上の警戒されたら覗くのも一苦労になりますし。

 

 とか何とかぼんやり思っていれば、さて、と前置きを置いたリアス先輩が、

 

「昨日の話をしましょう。あの時、貴女は今使おうとしていた神器で悪魔になって堕天使と戦っていた――というのがこちらの認識なのだけれど、あっているかしら?」

「すみません何から何までわかりません」

 

 私の応えに眉をひそめる先輩。どうにも私が何らかの関係者と勘違いしているようなので、そのあたりの質問から入ります。

 

「とりあえず、天使とか悪魔とか神器とかさっぱりです。ゲームとかアニメか何かの話ではないんですか?あと、昨日死んでいた兵藤くんが何でぴんぴんしてるのか、とかも気になります」

「……わかりました。まずはそちらの質問に順番に答えましょう」

 

 そこからリアス先輩の説明が長々と入りました。

 

 この世には天使と悪魔と天使が悪堕ちした堕天使というのがいて、三すくみで争っているのだとか。昨日の飛んだり跳ねたり赤い槍投げてきたりしたのが堕天使で、それと戦っていたキキョウの姿が悪魔というのと特徴が一致していたので、私のことも悪魔だと思ったのだそうです。

 

 さらに神器というのは人間が持ってる不思議な力――という程度にしか理解できませんでしたが、そういう何かだそうです。で、私のマウスがそれで、使えば悪魔――キキョウに変身できるとかそんな感じなのではないかと先輩が話してくれました。

 

 ――とりあえず、後二人分の変身ストックがあると言う事は今は黙っておきます。正直、言えば面倒ごとの気配しかないので。

 

 あと兵藤くんが生きてたのはリアス先輩が助けたかららしいのですが、その方法が、

 

「私が悪魔だから、私の眷属――下僕の悪魔に転生させることで助けたの」

 

 なんともぶっちゃけられて困惑します。先輩が悪魔ってだけでまず反応に困るのですが、兵藤くんがそれのお仲間にされていたということでさらに額を押さえたくなりました。しかも気が強そうで女王様な感じの衣装とか似合いそうな人の下僕とか――いや、兵藤くんなら喜びそうですが。

 

 まあ、確かに兵藤くんが生きていたことは喜ばしいのですが、いろんな意味で人間やめてたと知らされるとちょっと遠ざかりたくなります。

 

 しかしそんなことは先輩も予想していたらしく、私の今後というか、関係者にどういう立場として扱われるかを親切にも教えてくれました。

 

「少なくとも昨日の堕天使にとっての貴女は、悪魔に変身する神器を使い彼らの妨害をしてさらには私達悪魔と懇意の関係――だと、思われているでしょうね」

 

 なにその人生クライマックス。全くもって勘弁して欲しいのですが――言われた状況の解説に非常に納得できてしまうのが悲しくなります。

 

 そして、そのためにリアス先輩はその切れ長の瞳で私をまっすぐと見つめて、

 

「貴女はまた堕天使に狙われるはずよ。だから、貴女に私達と手を結ぶことを提案するわ」

「……私にも、悪魔になれってことですか?」

「私の眷属がまた増えるのなら喜ばしいのだけれど、無理強いをするつもりはないわ。昨日の彼の場合は、あくまで彼の命を助ける必要があったからの処置よ」

 

 私は悩みます。本当のところこういう厄介ごとは全力スルーするのが私のスタンスなのですが、昨日私の身を守ってくれたキキョウの反応が未だに無いことが痛いです。もし今襲われたとすればすぐにでも昨日の兵藤くんのように串刺しでしょう。仮にサクラとヒマワリに任せようと思っても、二人の防御性能ではあっさり落とされてもおかしくないので、いつ復活するかもわからないキキョウに頼れないのであればこの提案は受けるべきなのですが――

 

「ええと……」

 

 と口に出したはいいものの、その次に何と続けようかと迷います。ほんの数瞬のことなのに、妙に時間を長く感じた私の口が勝手に何かを言葉にしようとした時――不意に、部室の空気が一瞬にして張り詰めました。

 

 蛇に睨まれた蛙の如く、指一本さえ動かせないような重苦しさが私を襲います。それは目の前のリアス先輩だけでなく、他の三人のオカルト研究部員からも感じられるものでした。

 

「――部長」

「ええ、朱乃と子猫は一緒に来てちょうだい。祐斗はここで待機よ。……鷺沼さん、私達は少し出かけてくるから、先ほどの返事はまた今度でも構わないわ。考えておいて」

 

 手短に指示を飛ばしたリアス先輩は、そのまま姫島先輩がなにやらぐるぐると赤い光で出した魔法陣の上に立って、姫島先輩、塔城さんと一緒に消えました。実に投げっぱなしな感じで私はイケメン王子と二人、薄暗いオカルト研究部室に取り残されます。

 

 どうしたものかと思い、とりあえず事情を少し聞いてみることにしました。

 

「……あの、皆さんはどちらへ?」

「どうやら堕天使――昨日貴女も見たという存在が兵藤くんを襲っているみたいだから、助けに行ったんだよ」

「っ……!」

 

 思わず立ちあがろうとしますが、長いこと正座だったので見苦しく頭から床に突っ込みます。そして遅い来る鈍痛、痺れ。

 

「あええええ……」

「だ、大丈夫かい?どこか傷が出来たなら絆創膏があるけれど」

「お……お構いなく」

 

 情けない声を聞かれたことに恥ずかしさを覚えつつ、なんとかひょこひょこと立ち上がりました。そのまま高そうなアンティークソファーにうつ伏せでぼふりと着地。あ、と思い出して、首だけを若干おろおろしている木場くんに訪ねます。

 

「すみません、事後承諾ですが座らせてもらいますね」

「それはいいんだけど……」

 

 思ったよりも感情の表れるイケメンの顔が面白くて見ていたのですが、どうにも気まずそうな顔。もしやと思い手を伸ばして確認してみれば……オー、スカートモーレツ!

 

「あー、失礼しました……こんな小汚いもの見せてすみません」

「え!?いやその、こちらこそ……?」

 

 さすがに安売りするつもりはないのでちゃんとスカートを直して、改めてきちんと座りなおします。苦笑する木場くんには悪いことしたな、と思いました。

 

 さてとりあえずは兵藤くんのことです。また昨日みたいな危ない目にあっているんでしょう。ですが、先輩達が助けに行ったというのであれば、まだ何とかなるのでしょう。まさか適わない相手に突っかかっていったわけでもないでしょうし。

 

 それなら、とここは出直すことにします。

 

「ええと……私、帰ってもいいんでしょうか?」

「部長もそういうつもりで返事を延ばしたと思うから、問題ないかな。もう暗いから外まで送っていくよ」

「あ、これはどうもご丁寧に……」

 

 そんなわけで、私は帰路についたのでした。

 

 それにしても……結局朝に少し受け答えをしただけのサクラとヒマワリとキキョウは、大丈夫でしょうか。この先もこのままだったらと思うと、正直不安です。

 



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娘、見つかりました!

とりあえずの更新。
できるだけ時間をあけたくないと言うのがこの作品の個人的な縛りです。
でもその分内容がペラいペラい…。

あと原作買いました。一緒に買った別のラノベから読んでるのでカラーページしか見ていませんが。


 さてそんなわけで次の日。

 

 朝起きてなんか暑いと思ったら、目が覚めると私はベッドの上で女の子に囲まれていました。見た目は中学生になるかならないか位で、下着だけつけて私と同じベッドの上で寝ています。

 

 小さな女の子って体温高いんですよね。それが三人も私にくっついていたら当然暑いのもうなずけます――って、そうではなくて!

 

 意識のないままに幼女を拐かしてきていたとか洒落にならないので、とりあえずベッドの上で頭を抱えながら必死に思い出そうとして、気付きました。

 

 ピンク、薄緑、薄紫の特徴的な髪色の三人組。普通ありえないようなそれはまさしく、サクラ、ヒマワリ、キキョウと同じ物でした。

 

 何でここで寝ているのかとか色々ありましたが、とりあえずは昨日の一件以来消えていなくなったとかではないみたいなので、心底ほっとします。

 

「……おかえり、みんな」

 

 私はうつ伏せ、仰向け、横向きで眠るそれぞれの頭を、優しく撫でたのでした。

 

 

 と、平和的に朝の一幕が終わると思ったのは考えが甘かったようです。

 

「依子、今日も寝坊なの?夜更かしは程ほどにしないと……」

 

 部屋の扉が開けられて、私の部屋がフルオープン。部屋に入って真正面にある私のベッドからは、当然お母さんのぼんやりとした顔と私にも遺伝した若干赤みがかった黒髪と黒目がよく見えます。同様に、お母さんにも私のベッドもよく見えたでしょう。私の周りに下着姿の女の子が三人転がっている様子が、ええそれはきっととてもよく。

 

 昨日の今日なので、また心配して起こしに来てくれたのだということはわかります。それには感謝したいのですが、状況が状況なので非常に不味いことになっていました。ピンチです。

 

 さて、お母さんのほうですが初めは驚きで目を丸くしていましたが、顎に人差し指を当てて小首をかしげて、

 

「えっと、お友達?」

「えー、あー……と、友達の妹がちょっとそっちの家庭の事情で預かって……」

 

 当然嘘ですし、そんな犬猫じゃないんだからこんな言い訳通るわけもない、と言ってしまってから後悔します。思わず頭を抱えそうになったところで、

 

「あらそうなの……じゃあ、皆早く着替えちゃって、ご飯食べに降りてきてね」

 

 そのまま扉を閉めたお母さんはパタパタとスリッパの音を響かせて去っていきました。余りのあっさりした返答に思わず気の抜けた声を出してしまいます。

 

 どういうことなのかはわかりませんが、とりあえずは切り抜けたようです。いや、切り抜けたというの変な話というか、そもそもこの後また顔突っつき合わせるので切り抜けたといいきれるわけでもないですが。あえて言うなら執行猶予とかそんな感じかもしれません。

 

「ん……ふぁあ……」

 

 なんてぼんやりしていれば、ピンクのセミロング頭がむくりと起き上がりました。まだ少し眠たげな目は、時間と共にいつもの少し気の強そうなはっきりとした眼差しに戻るでしょう。

 

「あ、おはようございます、マスター」

「……おはよう、サクラ」

 

 三人組の中で一番早かったのは、やはりというべきか長女のサクラでした。他の二人はまだしばらく夢の中っぽい感じですが、先ほどお母さんに言われてしまったので連れて行かなければなりません。

 

 無意識に出てしまったため息に怪訝な顔をされながらも、私はサクラと一緒にお寝坊な娘達を起す作業に入るのでした。

 



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娘、通学します!

台風がどうのこうので明日の朝一で休出の可能性があるというのに一体何を。
最近間隔が開き気味なので何とかしたいと思う心情の発露なので仕方ないのです。

まあキャラの衣服をどうしようかと着せ替えエミュをもにょもにょ弄ってたせいでもありますが。


 予想外にも、朝食はすこぶる和やかに進みました。

 

 完全に目覚めて着替えも済ませた二人も含めたサクラ、ヒマワリ、キキョウを連れ立って食卓へと赴けば、そこには普段の朝食よりも圧倒的に豪勢なことになっていました。

 

 お母さんが私の部屋に来てからほんの十分程度しか経っていないのに、明らかに皿の数が増えています。よく見ればちょっと高い缶詰の中身とかを出してそれっぽく盛り付けてあったり、すぐできる冷凍食品を山盛りにしてあったりと時間的に十分可能な範囲のものばかりですが、それにしてもおっとり目なお母さん一人では無理だと思えました。というわけでお父さんを見てみれば――普段どおり落ち着いた様子で新聞手にしていても、額の汗と少し上がっている息では一目瞭然なのでした。なるほど急なお客さんの対応という名目で朝っぱらから夫婦仲良くはしゃいで料理してたんですか。食べる前からご馳走様って感じです。

 

 そんな風に捉えて微妙な顔になっていた私を尻目に、お母さんが三人を席に案内します。普段三人で使っているために非常に卓が狭くなっていましたが、何とか押し込めた、という感じです。その割には真ん中に細い花瓶があったりして妙な意気込みが感じられましたが。

 

 さてそんな中から食べ始めてみれば、三人はそれぞれの言葉で料理をおいしいと素直な感想をいい、それに気をよくしたお母さんが甲斐甲斐しく世話を焼き、それをお父さんが普段以上の笑顔で見守るという光景が長々と繰り広げられました。ちょっと異空間入ってますが、私としてはいつ詳しい素性を聞かれるか冷や冷やしたものです。結果的に全く聞かれずに部屋に戻れたのですが。

 

 ほっとしたものの妙に気になって後でそれとなく聞いてみれば、自ら話してくれるまで特に聞くつもりは無いとのこと。目立たないとはいえ翼だの尻尾だの付いていたり変な光が周りを漂ってたりするのにそれでいいのかと逆に不安になります。そもそも朝のベッドの上の光景とか気にならないのかと思っていれば、さらに有難い言葉が。

 

「依子が心配するほど私たちは狭量じゃないもの。それに私たちにも昔は色々あったのよ?……ね、お父さん」

「うむ、そうだなお母さん」

 

 またぞろイチャイチャし始めましたよこの夫婦。桃色空気にあ、はい、そうですか、としか言えずに引っ込んだ私は悪くないと思います。

 

 といった具合で全く気にしないどころかいつでもおいでとかそんな言葉と共に、私を含めた四人は少し早い時間に送り出されたのでした。

 

「マスターのご両親は、いい人たちですね」

「料理もおいしかったし、優しかったね!」

「暖かくて……なんだか、ほっとしました」

 

 サクラたちも両親のことを気に入ったみたいで大変によかったのですが、逆に今まで隠そうと頑張っていた私の無駄骨を思えばため息の一回くらい罰は当たらないと思います。

 

 はぁ……。

 

 

 

 さて、いつもであればそのまま憑依してもらって通学――ということになるのですが、今日は両親に皆そろって送り出された形になるので憑依してもらうことが出来ませんでした。

 

 憑依してもらうにも、どこに人目があるかもわからないのでうかつなことは出来ません。かといって人目につかない場所に……なんてことも、何もかも事案扱いで垂れ込まれかねない昨今です。少女誘拐と間違われる可能性が無いとも限りませんので、このまま学校へ連れて行くしかないと、私は覚悟を決めたのでした。周りの人も小さめに隠している羽だの尻尾だの光だのは逆に堂々としていれば何かしらのファッションとして流してくれるかもしれませんし。

 

 まあ、案が無いわけではありません。昨日リアス先輩から持ちかけられたオカルト研究部と手を組む事を受ける代わりに、この三人を学校に居る間部室に置かせて貰おうと思っています。そもそもが私のことを話すのであれば、皆のことを話さないわけにはいかないので丁度いいでしょう。

 

 というわけで、まずは学校についたら同じ学年の木場くんにでも話を持っていくつもりです。余り気は進みませんが……この子達を学校内でまで連れまわすよりはましだと思います。

 

 なんて事を考えながらあっちこっち興味津々な三人組にあれこれ教えたり構ってやったりしながら通学路を行けば、私の思惑賀完全は解される出来事に遭遇することになりました。

 

「よお鷺沼!今日はいい朝だな!!」

「おはよう鷺沼さん」

「……オハヨウゴザイマス」

 

 鼻の下伸ばしながら得意げな兵藤くんと、それを従えるようにしながらもお淑やかな雰囲気は崩さず微笑むリアス先輩。予想外の出会いに思わず片言になってしまった私をいったい誰が責められるでしょうか。

 

「おはようございます」

「おはよー!」

「ええと、おはようございます?」

 

 うんうん、三人ともきちんと挨拶ができて私はとても誇らしいですよ。でもリアス先輩がめっちゃこっち見てくるので何とかしてもらいたいところですが。まあ、目立たないようにファッションっぽく仕上げてるとはいえ翼付き二人うち尻尾付き一人、オーブっぽい光付きが一人ですからね。昨日あれだけ知らないとか言っといて今更この子たち連れてたら何言われるかわかったものじゃありませんとも。なのでさっさと用件だけ伝えてしまいます。

 

「リアス先輩、昨日の話なんですがお受けすることにします」

「あらそう?ありが――」

「なのでこの子達をこれから学校終わるまで部室の方に置かせてもらいますねこの子達も関係者なので」

「え?ちょ、ちょっと待って――」

「詳しいことは後で全て話しますので。今は人目もありますし」

「――そうね、わかったわ」

 

 とりあえず勢いで全部流させます。わかったと言わせたでひとまずは追及をかわせますが、目つきが妙に鋭くなってこっちを睨むのでめっちゃ怖いです。それでも三人を人目気にすることなく置いておける場所ができたのは有難いことです。

 

 というわけで、兵藤くんとはこのまま学校に行くことになりました。いわゆるハーレムという奴です。周囲からお姉さまが穢れる!とか変態共を成敗するから止めるな!とか色々聞こえてきましたが聞こえません。はあ……うちの子達は超可愛くて癒されます……。

 

 ちなみに兵藤くんはリアス先輩はもとよりうちの子達の中で一番のものを持っているキキョウをじろじろと眺めて悦に浸っていました。まさか長袖のパーカーとボトムパンツで少年っぽくしているのに察知されるとは予想外です。その指が一本でも触れるのであれば兵藤くんに放課後は来なかったのですが、それを感づかれたらしくギリギリ許可範囲内の視姦に留めていました。

 

 キキョウも怯えていたので、後で何らかの制裁はやっておこうと思いつつ、うちの子達の可愛らしい姿に目を細める通学と相成ったのでした。

 



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部室、案内します!

うーんむにゃむにゃ、もう呑めないよう。
この一週間は大体そんな感じでした。ボス、タスケテ!


 さて、色々ありましたが朝方にリアス先輩の許可を得てオカルト研究部を使わせてもらって、サクラとヒマワリとキキョウにそこで待機していてもらいました。アホの子系のヒマワリが若干心配ですが、サクラとキキョウが落ち着いているのでうまく抑えてくれるでしょう。そんな風に楽観視しながらも、休み時間とか授業サボってとかちょくちょく様子を見に行きましたが。いやはやうちの娘達は揃いも揃って可愛いです。

 

 なんてやっていれば合間合間の授業の時間は飛ぶように過ぎていきます。元々勉強とか得意とはいえないレベルなので授業はそれなりに身を入れて受けていたのですが、今日は気もそぞろなために先生の話も適当に聞き流しています。もちろん意図してやっているわけではないのですが、集中できないものは集中できないのです。

 

というわけで、既に放課後です。後は娘達を迎えに行けばいいだけ――なんとなくこれが保育園に子供を迎えに行くお母さんの心境なのかとか思ってしまいます。

 

 ちなみに朝に部室を使う許可を貰った時に、放課後は兵藤くんも一緒に連れてくるようにとリアス先輩に言われています。なんでも、昨日助けた時のことを話すのだとか。

 

「さあ行きますよ兵藤くん!いざ天使達の待つ悪魔の園へ!」

「わかったから引っ張るなって!あと昨日とテンション違いすぎてめんどくせぇぞお前!?」

 

 連れ立って出て行く途中、松田くんと元浜くんは「お前らもしかして付き合っ……てるわけないか」なんてスルーしてたり、周りの生徒達も「そんな変態二人がついに……なんて、まあありえないわね」とか「あの二人のカップリング……なんか面白みがなくてつまらないわ」とか「むしろあの二人がつるんで妙な事始めるとかこっちに被害がなければいいんだけど……」とか好き放題言ってくれてます。まあ、私は気にしませんが。

 

 それにしても、兵藤くんは付き合うとかそういう単語が出てくるたびに若干顔が曇ったりしてます。それはやっぱり、一昨日私が遭遇した時のことを思い出してるんでしょうか。

 

 あの時は夢中だったのでその後も考えが及んでいませんでしたが、よく考えてみれば兵藤くんは彼女に殺されかけたということになります。常日頃彼女欲しいおっぱい揉みたいと抜かしていた兵藤くんからすれば、念願だったおっぱい彼女的存在からいきなり危害を加えられた――トラウマになってもおかしくないでしょう。

 

 そう考えて初めてしまうと、どうにも兵藤くんにどういった言葉をかければいいのか悩んでしまいます。まずはこれから行くオカルト研究部室についてでしょうか。それとも、今朝方どうしてリアス先輩と一緒だったのかとか聞くべきでしょうか。そういえば今朝のことといえば、私の連れてきた三人のことも話さないといけないとは思います――思ったよりも、話題はありましたね。

 

 さて何を話しましょうかと頭を巡らせていると、逆に兵藤くんのほうから口を開きました。

 

「なあ、その……お前も夕麻ちゃんのこと……覚えてないのか?」

「夕麻ちゃん――ええと、彼女さんがそんな名前でしたっけ?」

「お、覚えてるのか!?」

「赤い槍振り回して大暴れしてた黒い翼の変な人とか忘れられませんよ」

「そうか……」

 

 なんて勝手に一人で思考の海に沈んでいく兵藤くん。その顔は笑っているようでも悲しみに満ちているようでもあり、とにかく複雑です。覚えてないだの覚えているだのがよくわかりませんが、あんな不思議系の人種なので、何か記憶を消すとかやったのかもしれません。ロアイベ最終回はガチです。

 

 という具合に再び沈黙した兵藤くんを連れてやってきましたオカルト研究部室。とりあえずノックをすれば、木場くんが出てきました。

 

「やあ鷺沼さん、待っていたよ」

「どうも。うちの娘達はどうですか?」

「皆いい子だから早速馴染んでるよ」

 

 爽やかなシャイニングズマイルをよこす木場くんの表情からは、嘘をついているような後ろ暗さを感じないので、事もなくやっていれたようでほっとします。一方、私の後ろでなにやら考え事をしていた兵藤くんは、木場くんが扉から顔を出したとたんにいつものイケメン死ねオーラを出し始めました。なにやら悩んでいたみたいですが、少なくとも今はそれを隠すことが出来ているみたいで安心です。

 

 さて、そんなわけで部室の中を覗き込めば、うちの三人娘がそれぞれオカルト研究部員と交流している様がすぐに見て取れました。

 

 まず一番近くでこちらを見て目を輝かせているのがキキョウです。すぐ近くにいたことから、おそらくは木場くんと話をするなりしていたのでしょう。昨日剣を突きつけられたことからも木場くんは剣使い的なポジションなようですし、細剣も使う前衛のキキョウとも話が合うのは当然かもしれません。

 

 その次に見えるのはソファーで座るヒマワリでした。こちらには気付かず、楽しそうに足をぶらぶらとさせながら羊羹をぱくついています。その隣には羊羹の提供者でしょう、塔城さんも羊羹を食べていますが、こちらに気付けば目礼をしてくれました。お構いなしで美味しそうにもぐもぐやってるヒマワリが塔城さんに懐いていると思えば嬉しい限りなのですが、ちょっとは気付いてほしいものです。

 

 そして最後にサクラですが――声はすれども姿は見えず。どうも部室の奥、カーテンで仕切られた区域にいるようです。そしてそのあたりからはサクラと姫島先輩の声、それからシャワーの流れる音。そういえば昨日来た時はカーテンが開いていたので、その先にあるシャワー設備が見えていたことを思い出します。何でこんなところにあるんだろうとか思っていましたが、使う人はいたみたいです。

 

「リアスさん、これをどうぞ」

「あらサクラちゃんありがとう」

 

 ――リアスさんが浴びていたなら姫島先輩がお世話をして、それを喋るついでにサクラが適当に見ているのかと思ったのですが。

 

 一体いつの間にうちの子は懐柔されて使用人みたいなことをしているのでしょうか。さすがにそれは一言物申そうと思えば、カーテンの端を少しだけあけて、その隙間からサクラが出てきました。

 

「おかえりなさいマスター」

「ただいま……それでサクラは何でリアス先輩の使用人みたいなことしてたの?」

 

 ちょっと険のある言い方を隠さず、そのままサクラに問いただします。これでもし強制されたとかなら、さっきの話は全部無しで三行半をつけたところなのですが、サクラははい、と前置きをして、

 

「マスターのお世話ができたらいいなと前々から思っていたので、朱乃さんに学ばせてもらっていました」

「なんていい子。さすがうちの娘っ!」

 

 思わず抱きしめてしまいます。突然のことにサクラは少しびっくりしたようですが、そのままはにかんでかいぐりを享受するモードに入りました。なので私も自重せず摩擦熱生産に専念です。

 

「ええと……それで鷺沼さん、いいかしら?」

 

 ふと気付けば、微妙な顔しているリアス先輩以下オカルト研究部組と、羨ましそうな顔のヒマワリとキキョウ、そして何がなんだかさっぱりわからないという顔の兵藤くんが皆揃ってこちらを見ています。

 

 しかしその程度の視線往来でパンツ連呼する私の鋼の心臓には響きません。

 

「フフフ先輩羨ましいでしょうですが代わってあげません。あとヒマワリとキキョウもこっちにきなさい、一緒に相手しますから」

 

 わあい、ともろ手を挙げて飛び込んでくるヒマワリと少し頬を染めてもじもじしながらとことこ近寄ってくるキキョウ。せっかくなので三人抱えて抱きしめます。わーきゃーとはしゃぐうちの三人娘の声はまさに天使の歌声。

 

「ああもう……それじゃあ今はイッセーの方を先に片付けましょうか」

 

 という具合で私をスルーしてのオカルト研究部員で兵藤くんを囲んでの説明会が始まるようです。

 

 私も内容は気になるので、ある程度耳をそばだてつつフォローできるならフォローをしようと、ヒマワリと頬を合わせてすりすりとこすり始めます。とたんにきゃーと嬉しそうな悲鳴を上げるヒマワリ。

 

「……鷺沼さん、少し静かにしてもらえるかしら」

「あ、はい」

 

 リアス先輩のスルースキルもまだまだなようですが、怒らせると面倒なのでここは従っておきます。リアス先輩がまたため息を吐いたので、心の片隅で謝ることにしておきました。

 

 さて、兵藤くんは悪魔だの天使だのの話でどういう反応を示すでしょうか。ちょっと楽しみにしつつ、私は兵藤くんの隣で待機することにしましょう。



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娘、紹介します!

イメージ的にはこのあたりで序章終、という感じです。
文庫的に80ページ弱にこれだけ時間が掛かるのもひとえに力量不足ですね。
速度と質を上げて自分で納得できる展開にしながら読者の方々にも面白いと思ってもらえるような作品にしたいところですが。
開き直り系の見切り発車は存外辛い物でした、というところで。


 兵藤くんへの説明は、昨日私に対してのものの焼き直しといった感じでした。

 

 はじめはオカルト研究部といわれて胡散臭そうにしていた兵藤くんですが、彼女さんの話になったときに目に見えて苛立っていました。私が覚えていると言ったことで少しは持ち直しているかとは思いましたが、やっぱりまだ抱えているものはあったみたいです。

 

 それから兵藤くんがあの時殺されかけていた理由として、神器をもっていたらしいということを聞かされました。理不尽な危害の理由がさらに自覚のない理不尽なもので困惑していた兵藤くんですが、

 

「その神器って、私も持ってるみたいなんですよ。ほらこれ」

 

 と、例のマウスをなんとなく取り出して見せます。私としても、例え命を守ってくれたとしてもよくわからない物が手元にあることは少し不安でした。同じようなものを友達の兵藤くんも持っていると聞いて、安心できた部分があるのです。

 

 なんて思いながら兵藤くんの反応を待っていたら、

 

「……何それ?え、マウス?俺が死んだ理由がマウスとか……凹む」

 

 軽く引いちゃってくれました。兵藤くんは後で覚えていればといいと思います。

 

 

 

 さてそんなわけで兵藤くんは無事ドラゴン波をして神器を出したわけですが、結構かっこよくて思わず歯軋りして悔しがります。

 

「ぐぬぬ……兵藤くんとか下半身爆裂四散してしまえばいいのに」

「未使用だから勘弁してくれ!」

「そんな告白いらないんですけど……第一なんですかそのヒートエンドだか波動照射だかしそうなゴツイの。無駄に近接戦闘力高そうでうちの子のグレアーで消し飛ばしたくなります」

「物騒なこというなよ!一体何なんだ今日のお前おかしいぞ!?」

 

 言われて少し自省します。確かに今日の私は少しおかしいかもしれません。それというのも、このままいなくなってしまうのかと危惧していたサクラ、ヒマワリ、キキョウの三人とまた出会えて両親にも受け入れてもらえたからでしょうか。

 

 部室の片隅から適当に出してきた場違いなパイプ椅子に一人座りながら、その周りできゃっきゃはしゃぐうちの子達を見ます。私含めて四人分ちゃんと出したにもかかわらず使われているのは私の分だけ。サクラは座ることを固辞して私の脇に控え、ヒマワリは私の膝の上に座って、キキョウは何故かカーペットの上に震えながら涙目で正座しています。 視線を向ければそれぞれ落ち着いた微笑み、大輪の花のような笑い、引きつった悲しそうな笑顔で応えてくれました。

 

 そうしているうちにオカルト研究部組の兵藤くんへの自己紹介がそれぞれ行われます。木場くん、塔城さん、姫島先輩と続いて、最後にリアス先輩が改めた名乗りを決めて終了――と思う間もなく、流れがこちらへと切り替わりました。

 

「……さて、それじゃあ次は――貴女達のことを教えてもらおうかしら」

 

 やっぱりきました。まあ、元々その覚悟はしていたのでいいんですけど。

 

 三人に目を向ければ、少し緊張の面持ちになります。なのでとりあえずはヒマワリを抱きしめ、キキョウの頭に手をやり、サクラに微笑みかけながら、

 

「それじゃあまずは――皆で自己紹介しましょう。上の子から順番に、ね」

「なら、最初は私からですね。長女のサクラです、ポジションとしては支援職です」

「次はわたし!次女のヒマワリです!んと……いつもはこう、魔法でまとめてドバーンってやるよ!」

「さ、最後は私ですね……ええと、三女のキキョウです。前衛で守りを固めるタイプ……ぁ痛っ、吊った!足がっ!」

 

 キキョウが大体名乗ったところでぼてりと前のめりに床に倒れこみます。概ね例のorz状になっているため、背中からお尻の辺りまで丸見えです。もちろん服はちゃんと着てますが、この場合丸見えとなるのはキキョウの背中から生えた小ぶりな黒い翼と細長い尻尾でした。

 

 当然悪魔がどうのとここで出会ってから幾度も言っているオカルト研究部――もとい、悪魔な人々は目ざとく見つけます。

 

「やっぱり――この娘は悪魔ね?」

 

 目つきにも言い訳を許さないと言うような光を宿し、リアス先輩が詰問してきます。が、私はそんなことどこ吹く風です。

 

「まあ、悪魔族という言い方もありますが――正式にはキキョウはドミニオンという種族……人種?です」

「ドミニオン――主天使のこと?でもこの娘はどう見ても天使じゃないわ」

「納得出来ないのも無理はありませんが、そもそもこの子はこの世界の住人ではないんです。ゲーム世界の住人ですよ」

「――馬鹿にしているのかしら」

「残念ながら大真面目です……」

 

 と、主張してみたものの、やっぱりリアス先輩の瞳は絶対零度のままです。美人さんなだけにこういう目付きがとにかく様になっていて、私自身いけない扉が開いてしまいそうな気がします。

 

 とは言いますが、どう説得すればいいんでしょうか。周りのサクラ、ヒマワリ、キキョウも不安そうに見つめてきます。ここであきらめたら彼女達の親として失格です。何とかせねばと思えば、ふと左手のブレスレットに気付きました。今日はキキョウが憑依していないのですが、いつものクセでつけてしまったもの――というわけで、閃きます。

 

「それじゃあキキョウ、左手に憑依お願いします」

「え?あ、はい」

 

 憑依?と誰かの呟きを余所にキキョウが座り込んだままでしばらく目を瞑れば、その体は突然薄れた後に淡い光になって私の左手のブレスレットに吸い込まれるようにして消えました。皆がぽかんとする様がちょっと面白く感じます。

 

「これが憑依――彼女達の持つ、誰かの装備品にその身を宿らせる能力ですね」

『主様達は憑依の力を持ってないんですよね?私達の居た世界では大体皆できることなんですよ』

 

 ブレスレットからキキョウの声がして、周りが更にざわつきます。まあ、その気持ちもわかります。私も始めてECOをした時悪用される系のシステムだと思いましたし。

 

 とかやっていれば、いつの間にか残りの二人もそれぞれ定位置に憑依してきました――と、思ったらヒマワリはいつもの右手装備――鞄がないので今はマウス型神器?ではなく服が憑依先でした。

 

「ヒマワリ?今日は服なの?」

『んっとね、その右手の奴なんか憑依できないみたいなの』

 

 彼女達の憑依が失敗するのは、憑依しようとした部位に先に誰かが憑依しているか、宿主の装備品全体で既に三人憑依している場合です。ですが誰かが憑依しているわけでもないので、原因は不明ですね……なんともミステリーです。

 

 さて、ひとしきりそんな風に一人で四人羽織状態になっていれば、さすがのリアス先輩もため息をついて、

 

「――とにかく、貴女達が私達の常識の範囲外の存在ってことは理解できたわ」

 

 頭を軽く抑えながら、一応の納得はしてくれたのでした。

 

 

 

 てくてくと、五人連れで夜の街を歩きます。私と、娘三人、それから兵藤くんという朝の面子からリアス先輩――部長さんが抜けた状況で、家へ帰るところです。

 

「しっかし今日は妙に疲れたなー……やっぱり色々なことがあったからか?」

「夜は身体能力が上がるって部長さんも言ってたから、きっと精神的なものだと思いますよ」

 

 鞄を肩にかけてけだるそうな兵藤くんは、ぼんやりと夜空を仰いでいます。その横顔を眺めながら兵藤くんの内心に思いを馳せれば、今日だけで兵藤くんの人生は相当な大転換を強いられたといっても言い過ぎにならないと思います。

 

 まず朝は美人の先輩が家に居て、一緒に登校と思ったら友人――という扱いで、いいんですよね?私が小さな子を三人連れて合流、それから放課後には自分が悪魔になってしまったことを告げられて更に神器という力まで宿っていることも判明します。と、ここまでは単なる困惑ばかりを覚えるような内容ですが、

 

「でも兵藤くんには人生――正しくは悪魔生?その目標になるような夢ができたんですからいいじゃないですか」

「お、おうとも!俺は絶対ハーレム王になると決めたからな!」

 

 松田くん長浜くんと一緒に居るときのような、子供に見せてはいけない顔をして鼻息荒くし始める兵藤くんです。当然私はその顔に鞄を叩きつけることで愛娘達から隠します。

 

「ってぇ!?何するんだよ!」

「うちの子に悪影響がある様な顔をする兵藤くんが悪いんです」

「あの、主様?私達は気にしないからそんな乱暴なことしないでも――」

「キキョウは優しい子ですね……そんな風に育ってくれて私は感激ですよ、でもこれはこれでいいんですこういう生き物ですので」

「オイコラそれどういう意味だよ!?」

 

 ぎゃいぎゃい騒ぐ兵藤くんはとりあえずスルーでキキョウの頭をなでてあげます。困惑しながらもその感触に頬を緩ませるキキョウはマジ天使です。と、天使を堪能していたらうちの種族的天使枠のサクラが、ええ、と言葉を作って、

 

「マスターはツンデレですからね、イッセーさんが死んだと思い込んでいた昨日の朝の落ち込みようを見せたいところです」

「そ、そうなのか……?」

「ちょ、やめ――サクラは口チャック!」

「わたし昨日の朝は寝てたけど、一昨日の夜のことは覚えてるよ!あのね、お姉ちゃん言ってたんだよ、『兵藤くんにも、死んで欲しくな――』むぁ、もがもが」

「ひーまーわーりー!!」

 

 夜空に、私の怒声と三人の笑い声が響きました。近所迷惑の羞恥プレイとか、本当に勘弁して欲しいものですが――兵藤くんが、何故か珍妙な面持ちでこちらを眺めていたのが不穏でなりません。

 

 またよからぬことをたくらんでいなければいいんだけれど……と、私は額を押さえてため息をつくことで精一杯なのでした。

 

 



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・ある王の苦悩

およそ一月、長らくお待たせしました。
色々な無茶振りとかなんとかありましたが元気に某所で某二次創作をゴリゴリ作っていました。
あえて禁を破りこの先の展開を少し考えていたところごちゃごちゃになったのでとりあえず明日の自分に無茶振り投げろ、という心情で再開したいと思います。
そんなわけでまずはオリ主のいないマスターシーンからです。


「思ったより、厄介なことになったわね……」

 

リアス・グレモリーは椅子に座りながらため息をついた。

 

聞きつけた朱乃が振り向くが、それに対しなんでもないと首を振り一言返す。

 

朱乃は少し考え、そしてそのまま椅子から離れていった。

 

リアスの頭に浮かぶのは、先ほど部員になった二人の男女のこと。

 

悪魔になって名実ともに身内となった元人間の兵藤一誠と、その友人であり神器持ちの人間である鷺沼依子。

 

イッセーのほうはこれから悪魔として下積みをさせ、それから徐々に育てていこうと思っている。だが問題は依子のほうだ。

 

神器持ちとはいえただの人間がリアスの身内となることに口を出す輩が出るかもしれないし、何より本人も余り悪魔と親交を深めたがっているようには見えなかった。ただの人間であるのだからその反応も仕方がないかもしれないが、こちらが受け入れた上でもその態度を崩さないのであれば獅子身中の虫ともなりかねない。

 

本人に悪気はなくとも、神器自体が問題となる可能性があるのだ。なにしろ彼女の神器は、

 

「――初回発現から禁手化済み、しかも亜種とはね」

 

まさか、とも思ったが現状出ている情報に該当する神器などどこにもなかった。

 

新種の神器という可能性もないわけではないが、そもそもマウス型なんて現代的な造詣を聖書の神が設定するはずもない。つまりは見た目も何らかの理由で依子に最適化されたということだ。

 

そんな現象が起こるのは禁手・亜種化のみ。しかも完全な性能はこちらはもとより本人すら把握し切れていないだろう。

 

再びのため息。特に近辺で堕天使が活発に活動している今、神器使いに目をつける彼らとの間で災厄の種ともなりかねない。

 

イッセーの龍の手――トゥワイス・クリティカルですら堕天使は動くのだ。禁手亜種の名称不明な神器相手なら小競り合いですまない可能性もある。

 

「……本当、厄介だわ」

 

リアスの三度目のため息は部室の闇に吸い込まれていった。

 

 

 

それはさておき、と意識を切り替える。

 

「朱乃、少しいいかしら?」

 

言えば、朱乃はすぐに現れる。何事かと問う朱乃に、少しためらいながらも、

 

「鷺沼依子――彼女の処遇をどうするかなのだけれど」

 

とたん、朱乃の顔にも困惑が浮かぶ。

 

「やっぱり……さすがの部長も持て余すのでは、とは思っていましたわ」

 

その物言いに苦笑する。長い付き合いである朱乃はこちらの力量をよくわかってくれる。

 

「本人にその気がなくて私の眷属の悪魔にならない以上、完全に身内として扱うことは出来ないわ。とはいえそのまま放っておけば堕天使はもとより天界にも目をつけられかねないし……何とかならないかしら」

 

顎に手を当てながら問えば、朱乃はそれならば、と笑いながら口を開く。

 

「刻印を配した、身分証にもなりうる物を渡してみてはどうでしょうか。常に身につけられるもので、何かあるときにすぐ駆けつけられるように位置や状態を知らせられるような細工をした上で渡せば、万が一というときにも対応できるかと」

 

「なるほど……それはいい案ね。では明日にでも彼女にデザインを聞いてみましょうか」

 

思ったより早く解決策が見つかり、リアスは胸をなでおろすことが出来た。

 

それを見た朱乃が含み笑いする。何か言いたいことでもあるのかと思えば、

 

「リアスったら、楽しそうなんですもの」

 

あえて名前で呼ぶ朱乃が言うことには、新しい仲間というよりは弟と妹が出来たみたいに浮ついているとのこと。

 

「……まあ、可愛い弟妹分というのは間違ってはないわね」

 

呟き、リアスは朱乃の淹れた紅茶を口に含んだ。

 

 

 

 

 

その夜、依子の住む鷺沼家がはぐれエクソシストによって襲撃を受けたという連絡が、使い魔から入るのだった。

 



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神父、襲ってきました!

ご都合主義っていいですよね。普通に作るにはよくないですが、勢いだけで畳めない風呂敷広げまくるには最高だと思います。
投げっぱなしにお叱り来ても仕方ないね……。


 

「ちわーす教会の方から来ましたよーっと」

「あらあらそれはどうもご苦労様です」

 

そんな会話が交わされたのは玄関先でのこと。

 

見れば、ドアの外に白髪で顔立ちの整った明らかに日本人ではない少年の姿。服は学ランっぽい物の上に白いコートで、全体的に清潔感のある雰囲気をかもしていました。

 

応対したお母さんににこやかに笑いかけながら、談笑しています。

 

何かの勧誘だろうと思ったので、私はそのままリビングに引っ込もうとして、

 

「と、こ、ろ、で、奥さぁーん!この家にクソみてーな悪魔の匂いが染み付いた輩がいるんスけどぉー?」

 

どきりとして、一瞬動きが止まります。そして同時に玄関から、背筋が凍りつくような強烈な気配がこちらをロックしたことに気づきました。

 

思わず振り向けば、少年はバッチリこちらを見ています――これ、やばいんじゃ。

 

「アハハハハ!いるじゃないですかぁークソ悪魔と手を組むクソビッチがぁ!!」

 

言うが早いか、お母さんを突き飛ばしてこちらへと土足のまま近づいてきました。その顔は心底楽しそうで、女の子に向ければころっと行く人も多いのではないかと場違いなことを思ってしまったり。少年がその手に握った何かからまるでSF映画のように光でできた剣が伸びてきてファンタジー過ぎるのも、頭が空転する理由かもしれません。

 

さてそんな突然のことに逃げることも出来ず、呆然とする私に少年はあっさり肉薄し、胸倉を掴みます。そのまま私を壁に押し当て、ぐいと持ち上げ――ところでこれ、壁ドンって奴ですか?シチュエーションとしては若干憧れてました、人生初にして人生最後っぽいですが。

 

「悪魔と手を組むとか人間としてクズ中のクズなんでちゅよー、そんじゃバイナラ!」

 

そのまま無造作に掴んでいた光の剣を振り上げて――

 

「はい、ストップ」

「……あぁ?」

 

少年の腕が後ろから伸びた手で止められました。

 

一体何が、と思えばお母さんが少年の手首を掴んでいます。

 

胸倉をつかまれている私ですが思わずお母さんに逃げて、と叫びそうになって、ふと気付きました。

――お母さん、いつの間にコイツの後ろに?

 

それだけの時間はあったかもしれないですが、それにしても不自然に落ち着いている様子に違和感を感じます。

 

なんだか、いやな予感がしました。

 

それはたとえるなら優しくて美人の母親が乱入してきたテロリストを笑顔で射殺するような――

 

「ちょっと奥さん何のつも――あだだだだだ!?」

 

ひねってます。いや、もうねじってるの領域です。手首がぐりっと回されて、そのまま真後ろに引っ張られて更に回転が加えられて、もはや私の素人目にはどこがどうなっているのやら。ああ、なんかもう腕が哀れな感じに螺旋状の皺が入って――あ、今ゴキョって感じの表現しにくい音がしました。ついでに私を掴んでいる手が離れます。

 

「ちょ、ま、奥さんギブ!ギブっスマジで!!」

「うふふ、突然乗り込んできて可愛い娘に乱暴働くような子に情け容赦ができると思いますか?大丈夫、とにかく痛くしますから痛がってるだけで済みますよ」

「おぎゃああああああ!!」

 

もはや衝撃的な事が多すぎて付いていけません。壁によっかかりながら咳き込んで喉の辺りの調子を整えながら、半分止まった頭でお母さんと少年の情け容赦ない蹂躙劇を鑑賞していました。

するとそこへ、騒ぎを聞きつけてリビングから出てきたのはお父さんとサクラ達三人。

 

「一体どうしたんだお母さん……」

 

お父さんも豹変したお母さんを見てぽかんとしています。サクラ達は、突然知らない人が家の中でアームロックのようなものをかけられて絶叫している光景が一般常識ではないという一般常識を持っていないため、きょとんとしていましたが。

 

とりあえず私は振り向いて、

 

「――お母さんがドSだった件について、ドMと思われるお父さんは何か弁解してください」

「誤解だ!!」

 

お父さんの主張は、一瞬だけ見ず知らずの誰かさんが発する痛みの絶叫を上回って家の内外に響きました。

 

っていうかこれ、普通に近所迷惑ですよね。

 

 

 

 

 

さてそんなわけで、リビングです。

 

先ほどお母さんがヒイヒイ言わせた白髪の少年が目尻に涙を浮かべながら簀巻きにされて転がされていました。

 

いや本当、夫婦で息ぴったりに布団とロープで雁字搦めにしてなにやら変な言葉をもにゃもにゃと呟いてあっさり無力化とか理解が追いつきません。

 

とりあえずは、この夫婦の正体がが気になるところで、

 

「――で、お父さんお母さん、今の一体何?」

「実は隠していたけど、私達夫婦は元傭兵だったんだ」

「そして実験施設で生まれたあなたを引き取って育てることにしたのよ」

「まるっきり力が欲しかったらくれてやる奴じゃないですかやだー!!」

 

普通の主婦と普通のサラリーマンの夫婦が弱くないわけないじゃないとか訳わからないこと言ってたので耳を塞ぎました。わたしは何も知らない。

 

「……結局、どこまで本当?」

「「内緒♪」」

「くそっこの夫婦ウザイ……!!」

「簀巻きの分際で口出すのもどうかと思いますがねー?アネさんら言うことまともに聞いてたら日が暮れる系の人種ですよコレ俺もそうなんでわかります」

「そんなんわかりたくないです!!」

 

二人揃って口に立てた指当てるポーズをつけるSM夫婦と暇そうに転がる太巻きは自重してください。味方がどこにもいません。

 

「あの、差し出がましいこと言うようですがマスターのご両親よりこのクローラー――もとい芋虫の処遇とかここに来た目的の方が重要ではないでしょうか」

 

さすがサクラ、賢い。やっぱりうちの子だけが頼りで癒しです。抱き寄せて頭をなでてあげれば少しはにかみながら受け取ってくれました。ところでそこのいいなあみたいな顔してるバカ夫婦は何とかなりませんかなりませんよね……。

 

「というわけで、そもそも貴方誰です?」

「俺のお名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している末端でございますですよ。後今は堕天使の姉さんらに使われてるってとこすかねえー」

「――堕天使」

 

もしかしなくても、一昨日にキキョウが憑依した私とやりあったあの黒い羽の露出過多さんでしょう。

 

「んで、堕天使の姉さんにここに悪魔の味方してるダメ人間がいるって聞いたもんでちょっくらずんばらりしようと思ったんですけどねぇー」

「……聞いた私が言うのもなんですが、何でそこまで洗いざらい喋るんです?」

「だって俺死にたくないし。もっと悪魔を殺して殺して殺して殺して殺したいからここで逆に俺が殺されるとか真っ平ごめんってもんでさぁ」

 

悪魔専門とはいえ快楽殺人者と会話することになるとは思いませんでした。というより、先ほど私を襲ったことといい悪魔側の人間も殺害対象って事なんでしょう。

 

「ってな訳で、俺のこと解放しちゃくれませんか?もーこの体勢もしんどくてめんどくてだりぃんですよ」

「なっ……何言ってるんですか!命を狙ってきた相手を解放できるわけないでしょう!」

「いやアンタに聞いてるんじゃねーですよ。んでアネさん?ダメっすかね?」

 

イラッとはしますが、確かにあの場を切り抜けられたのはあくまでお母さんによるもの。というより、このフリードとかいう少年がまた暴れだしても私じゃ止められないので実際全てがお母さん次第なのは事実です。

 

さてそんなお母さんの返事はといえば、

 

「あら、いいわよ」

「あざーっす!」

 

あっさり解放しました。お母さんの一声でお父さんもホイホイと縛っていたロープやら筵やらを解いていきます。

 

ああやっぱり、という思いで頭を抑えます。

 

「はい完了。しかしフリード君もそこそこできるみたいだね、ウチのには負けるみたいだけど」

「いやーさすがにさっきのアネさんみたいな残虐非道電流デスマッチみたいなのにはまだ届かねーですわ」

「あらあら、まだまだ若いんだからすぐに強くなるわ。私達も負けてられないわね」

「ヘヘ、またそのうちお礼参りさせてもらいますですよ」

 

なんなんですかこの人たち。ついさっき切った張った捻ったしてたのにこのフレンドリー。全く持ってついていけません。

 

「そんじゃま、俺はコレにて退散っと。そこのビッチはまた殺しに来るから、首洗っててちょ」

「ちょ、なんですかそれ!?」

 

言い残してフリードは窓ガラス破って出て行きました。ご近所迷惑ここに極まれり――っていうかさらっと殺害予告されましたが。本当にどういうことだか理解が追いつきません。

 

「あらあら……依子も大変ね。サクラちゃん達と一緒に早く強くならないと死んじゃうわよ?」

「うぅ……どうしてこんなことに――って、何でサクラが」

「あら、だってサクラちゃんとヒマワリちゃんとキキョウちゃんって、依子と一緒に戦う仲間なんでしょ?」

 

なんということでしょう、大体ばれてました。言われた三人も私が内緒にしておくようにと言っていたことに関連することを振られて、おろおろしています。可愛い。

 

「――世の中可愛いだけで許されますよね」

「依子、現実逃避もいいがちゃんと頑張らないとフリード君がすぐにやって来て殺されてしまうぞ」

「お父さんは黙ってて!」

「お、お母さん……依子が反抗期だ!」

「どうしましょうお父さん……私、こんなこと初めてだからどうすればいいのかわからないわ」

 

どうしようもない夫婦は抱き合い三文芝居をします。現実逃避にマジレスされた挙句勝手に反抗期扱いで思わず頭を抱えた私を責めることは天に坐します神にすら不可能でしょう。

 

――ああ、癒しが足りない。

 

そう思い、ふと気付きます。このところ色々ありすぎてパンツ分を一切補給していません。

 

「――サクラ、ヒマワリ、キキョウ。この夫婦は放って置いてまずは私の部屋で休みましょう」

「……心中お察しします、マスター」

「んにゅ……お姉ちゃん、お話終わり?」

「ええと……あ、あとでマッサージとかしますね主様?」

「マッサージはいいから。ちょっと頼みたいこともあるからとりあえず上がりましょう」

 

そのまま何の疑問もなく私についてくる娘達。

 

この後当然滅茶苦茶撮影会をしました。

 



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贈り物、貰います!

某二次創作が捗ってしょうがないです。
あと某創作クラスタにも久しぶりに顔出しして創作意欲にょきにょき湧き上がらせたりしてました。
忘れてたわけじゃないですよ手が回らなかっただけでという言い訳はフォローにもならないのでミンチになります。


 

 言動おかしい真っ白危険人物少年がやって来たものの両親があっさり撃退然る後放逐したり、どこから聞きつけたのか部長さんが穴開いた窓から突っ込んできたところお母さんが再びドSモードになりそうだったのでお父さんが部長さんを庇ったり、部長さんが酷い目に遭いかけたのにさらに情報聞き出そうとしたら部長さんの御実家のご両親とかお兄さんのことについて両親が仄めかすので戦慄しながら大人しく帰ったり、そんないろんなことがあったらしい夜が空けて朝になりました。私はとても元気です。

 

 ちなみに最初の件以外私は部屋に閉じこもっていたので後は全部又聞きです。閉じこもっていたおかげでおかげでいい物がたくさん撮れました。うちの子は一人を除いてノリがいいので結構ホイホイ注文に乗ってくれるので助かります。まあ残る一人も言いくるめて色々撮りましたともええもちろん当然でしょう。

 

 

 

 さてそんなわけで更に時間は飛んで放課後です。私は三度オカルト研究部室で部長の話を聞いています。ちなみにその内容が件の我が家にやって来たときのことですが、

 

「……あなたのご両親って一体何者なの?」

「普通の主婦と普通のサラリーマン……な、はずなんですが」

 

 疲れた顔の部長さんに、周りの部員も困惑気味です。私が楽しんでいる間にいらぬ地雷を勝手に踏んでいたと思えば同情する気も起きませんが、部長さんが言うにはそれは私と家族の安全が気になってとのことだったので昨日撮りたての三人娘それぞれの至高のワンショット三点セットを送ることで癒そうと思ったのですが拒否されました。何故なのか。

 

 まあその話も前座です。本題としては、これからの私と兵藤くんのことでした。

 

 兵藤くんはこれから悪魔としての下積みを行うとかで、毎日深夜に部室に来ることになるそうです。深夜なのは悪魔として十全に力を発揮できるからだとか。

 

 その時に再びハーレム王になる宣言をしたのでとりあえず娘たちの盾になる位置に移動、それから兵藤くんに向かって笑顔を投げかけ、

 

「うちの子達に手を出したら――もぎます」

「超怖ぇよその顔!?」

 

 きゅっとしてブチーンな感じのジェスチャーをすれば兵藤くんは股間を押さえてガタガタを震えだしました。ついでに木場くんも若干引きつった表情で少し腰を落とし後ずさりしていました。

 

 

 

 そんな感じで適当にしゃべくりながら部長さんから人の欲望感知センサー付きの妙な端末を貰ってはしゃぐ兵藤くんを眺めていれば、姫島先輩こと副部長さんが私にもプレゼントがあるとか伝えてくれます。

 悪魔ではないけれど悪魔の庇護下にある人間だという身分証のようなものだそうですが、デザインはどんなものが言いかと聞かれました。身分証なのに形から変えていいんでしょうか?と聞いてみれば、その物に刻む紋章自体が意味あるものなのでぶっちゃけるとガワはオマケに過ぎないそうです。

 

 そう言われればお言葉に甘えてどんな形がいいかと考えるのですが、やはりうちの三人娘が憑依するための触媒になりうる物がいいでしょう。とすれば、ヒマワリが定位置にしてる右手――武器カテゴリの物でしょうか。いまはバッグで代替としていますが、バッグにヒマワリの姿が浮かび上がる憑依形態ではやっぱり少し人目が気になったりします。

なので、右手に装備できて武器に出来て、尚且つ常に携帯しても不審がられず、万一プリントされたように見えるヒマワリが人目についてもそこまで気にならない物とは一体――

 

「……本?」

「……えっ?」

「本でしょうかね、持ち歩いても問題ないサイズの……文庫本サイズとかでお願いします」

 

 副部長さんが信じられないものを見る目で見てきましたが、ECOにおいて本はかなり重要な武器なんでそれ以上妙な顔で見ないでくださいお願いします。

 

 そんなわけで、部長さんの御実家のほうでその家の刻印が刻まれた私専用の文庫本が、悪魔の技術力総動員で鋭意製作中と相成りました。地味にどんな内容が書かれているかが気になって来るのが待ち遠しく感じます。

 あと部長さんと副部長さんはどんな形でもいいといったのですから、二人でひそひそ話しながらこっちを狂人扱いした眼で見ないで欲しいと思いました。

 

 おのれ悪魔!

 



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娘、実力見せます!

この作品においてのECO勢は、ECOで実力があってもそう上手くいくわけではないという方向で進めて行こうと思います。
つまりは、こういうことです。



 

 兵藤くんが部長さんの下で悪魔の下積みをはじめてから数日が過ぎました。

 

 その間も私は特に用事とかはなかったのですが、一応堕天使対策に部室には毎日顔を出しておいた方がいいとのことだったのでお言葉に甘えています。ちなみに、サクラたち三人も毎日一緒です。

 

 両親に概ねの素性がバレて以降、彼女達もかなり自由に過ごしていました。隠し通せるとも思えなかったので正直にネトゲのキャラが画面から出てきたと伝えれば、驚くどころか孫同然の存在だと喜び構うようになっています。ごまかす為に吐いた嘘も軽く許してくれたので、本当に頭が上がりません。

 

 もっとも、本来ならそうしてサクラたちのゆっくりできる場所が出来たのですから家に居てもらえばいいとも思ったのですが、本人達の希望と両親からの連れて行けばいいじゃないという有難いお言葉を貰ってしまいました。なので最近では、通学路に私と兵藤くん、それから娘達という組み合わせでの登校が日常となっていました。

 

 

 

 さて、このところチラシ投函という地味なパシリ業務をしていた兵藤くんですが、ついにクラスチェンジをするらしいです。

 

 つまるところ、悪魔として欲望滾らせる人々と契約するお仕事になりました。

 

 友人の昇進ですからそれはそれで喜ばしいことだとは思うのですが、契約を取るために魔法を使って転移とやらをしていくはずが、魔力とかがなかったせいで泣きながら走っていったのがつい先ほどのことです。

 

 当然ですが、指差して笑いました。ヒマワリあたりが真似し出したらちょっと不味いかなとは思いましたが余りの不意打ちだったので、つい。

 

 まあ私と兵藤くんは気の置かないそういう間柄なのでお互い気にも留めないでしょう。次に私が無様なことになれば兵藤くんが指差して笑ってくるでしょうから、その指を掴んで圧し折るイメトレに入ります。紐切り気分で少し動きを体に馴染ませるために数度やってみれば、周りがまた引き気味で見ていました。それもコレも兵藤くんのせいです。

 

 そんな感じで、微妙に壁の感じる部室の隅でキキョウをもふりながら癒されていると、部長さんに呼ばれます。

 

「貴女の連れの子達――サクラちゃん、ヒマワリちゃん、キキョウちゃんのことなのだけれど」

「なるほどわかりました、当然あげませんよ?」

「何もわかってないじゃない……あの子達なんだけれど、戦闘には参加できるのよね?」

 

 そこまで言われて、何の話かこんどこそわかりました。部長さんには既に私が堕天使だけではなく妙な神父にも狙われていることを伝えてありますので、

 

「――この子達が私の身を守れるか、ということですね?」

「ええ、そういうこと。口約束とはいえ契約した以上私達もできる限りは貴女のことを守れるようにはするけれど、それでも常に一緒に居ることはできないわ。だから、もしもの時にあの子達が戦えるのならそれに越したことはないと思うの」

「それと、悪魔の味方としての戦力にもなるか、ということも含んでいるのではないですか?」

 

 私が指摘すれば、部長さんは苦笑い。それは肯定を含む反応ということで、間違いないでしょう。

 

「そうなるとしても、先に連絡を入れてそこから話し合いで決めるつもりよ。何にしろ一度は貴方達の実力を見ておけば、こちらとしても助かるのよ」

 

 そう言いながら、部室で思い思いに過ごしている娘達を見る部長さん。その目はちょっとだけ、見定めるような冷徹さを含んでいます。

 

 娘達もその視線気付いたようで、私がもふっているキキョウを除いた二人が寄ってきました。キキョウも含め、その顔は部長さんの視線の色からかどことなく緊張気味です。でもその真面目な顔も可愛いのでくっついているキキョウを抱き寄せる腕をさらに強め、ついでに頭に手をやって撫で繰り回しました。うろたえるうちの子もめっちゃ可愛いです。

 

「……相変わらずブレないわね、貴女」

 

 部長さんがなんか言ってますが、無視です無視。

 

 

 

 所変わってここは旧校舎の傍、木々に囲まれた鬱蒼とした場所です。今は日が沈んで悪魔がはしゃぎまわるような時間なので、ぶっちゃけほとんど真っ暗になっています。周りの悪魔の方々は夜目がきくらしいですが、私はただの一般ピープルなので当然そんなものききません。ちなみにサクラを初めとした三人は、ECOにおいて暗いところで活動したりもするのである程度はきくみたいです。

 

「それはおいときまして――実力ってどうやって把握するんです?」

「まずはちょっと模擬戦感覚で動いてみましょう。キキョウちゃんの戦闘は少しだけなら見ていたから、祐斗と手合わせをしてもう一度確認させてもらえるかしら?」

 

 部長さんが言えば、木場くんがイケメンスマイル携えて一歩前に出ます。いつの間にかその手には剣が握られていました。もういつでも準備万端でございます、って感じですが残念ながら私はそこに水をささなければいけません。

 

「あー、申し訳ないですけど部長さん。私達は諸事情で『一日一回、三人のうちの誰かと、時間制限あり』という内でしかまともに戦闘できないんです」

「あらそうなの……継戦能力皆無ってことね、本当に厄介な神器だわ」

 

 部長さんが頭を抑えながらため息をつきます。これであの真っ白少年神父を返り討ちにしなければいけない私だってため息をつきたいです。

 

 お察しの通り、先日兵藤くんが襲われてる時も戦えたのはキキョウだけで、さらに時間切れでぶっ倒れたと言うわけです。最近色々と試した結果、他にできることはいわゆる中出し――もとい、憑依時使用可能スキルならなんとか使えなくもない、と言ったぐらいでしょうか。完全憑依とこっそり呼んでいる神器の力を使っての肉体入れ換わりにしろ憑依時スキルの使用にしろ、使えばその娘がしばらく休眠状態になるみたいで、本当に使いづらいことこの上ないです。

 

 ともかくそんなわけで、

 

「今日のところは部長さんが一番能力を知りたい娘を指名してください」

「そうねぇ……なら、支援役と言っていたサクラちゃんにお願いしようかしら」

「わかりました――サクラ、お願いね」

『了解です、主様』

 

 意識をすれば左手に軽い重み。光るマウス型の神器がそこにありました。

 

 ちなみに右手装備枠のヒマワリ憑依用文庫本が届いたので、それを手放さなくてもいいように左手でマウスを扱う技術を数日かけて頑張って会得しています。指が何度吊った事か思い出したくもないですが、それでも何とか扱える程度にはなりました。

 

 さあ、あとは神器の発動だけです。サクラに体を明け渡す、そう意志を込めて左手を前に。

 

 

 

『Soul Change!!』

 

 

 

 ぎこちない動きでマウスを掴む私の左手の内から光が放たれます。そのまま視界が遠くなるような、同時に目の前に割り込んでくるような不思議な感覚を覚えると、

 

 

 

『Neck-lace Cardinal!!』

 

 

 

 私が変じたサクラ。纏っているくすんだ白と赤、そしてこげ茶を基礎とした法衣は、前と後ろに分かれたロインクロスとなっていて目を引きますが、全体的には露出はさほど多くありません。そしてヘアバンドには基部の細かい金細工に赤い宝玉がはめ込まれて、とても豪華なものになっています。そして腕や腰などに嵌められた金のリングもあり、全体的に落ち着きながらも派手とも取れる見た目ですが、まるで後光のように自己主張している翼がそれを上塗りしていました。青白く淡く輝く六枚の翼。さらにその周囲には白い羽のが煌きながら舞い散って、服の装飾までが俗らしさよりも神々しさが引き立つほどです。

 

 その姿がどれほどのインパクトを見るものに与えるかということは、周囲の反応から容易に察することができました。

 

「まさか、サクラちゃんの本来の姿がこんなにも光の力に溢れていたなんて……」

「部長!大丈夫ですか!?」

「ええ、大丈夫よ……祐斗と子猫はどうかしら」

「僕は何とか動けます」

「私も……」

 

 つまるところ、悪魔には刺激が強かったようです。そういえば悪魔は光の力に弱いとかなんとか言ってましたね。光の羽根が散る見た目エフェクトが付与される天使の宝珠とか趣味でつけていたばっかりに、余計に大惨事になっています。

 

『ええと、その……すみません、サクラは光属性得意なもので』

「気にしないで。天使に似た種族とは聞いていたのだから、予想して然るべきだった事態よ」

 

 サクラの放つ光の気配が強いので、近くにいるだけで気分が悪くなり頭も痛むのだとか。

 

「主様、悪魔って、本当に難儀な生き物ですね」

『その難儀してる原因が何を言っているんですか……』

 

 悪魔勢からの視線に若干居心地悪そうにするサクラ。普段から少しきつめの顔をしているせいでうまく隠れていますが、内心先ほどまで仲良くしてもらっていた人たちに拒絶されているように感じているみたいです。まさか完全憑依に心の中がほんのり判る効果があるとは娘達も思うまいて!というわけで後で珍しくしょんぼりしたサクラを盛大に構います絶対にだ。

 

 さてそんなところで早速サクラの性能把握になりますが、なんとなくいやな予感がします。なのでサクラには誰かを対象にするのではなく少し外した箇所を目標するように、そして手加減するように伝えました。

 

 だというのに、初っ端からでした。

 

「セイクリッドエンプレイスッ!」

「そ、総員退避――ッ!!」

 

 手心加えた地面指定の範囲回復スキルが展開された魔方陣から発動する瞬間、膨れ上がった光に周囲のオカルト研究部員が一斉に逃げ出します。後に残ったのは、ため息を吐くサクラと、空しく響く体力の回復音だけでした。

 



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