その悪魔の実には意思がある (ゼガちゃん)
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幼少期編
“それ”は何を求めて、何を思う?


初めまして。

REDを見てワンピ熱が出てきて、色んな二次創作が出てきているのでこのビッグウェーブに乗るしかないと思って書き始めました。

拙い部分もありますが、よろしくお願いします。


富、名声、力、この世の全てを手に入れた男、〝海賊王〟ゴールド・ロジャー。

彼の死に際に放った一言は人々を海へと駆り立てた。

 

「おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ……さがしてみろ、この世のすべてをそこに置いてきた」

 

世は大海賊時代を迎える――――

 

 

 

 

 

 

 

 

この大海賊時代に海賊になる人々が目指すのは〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟だ。

それを手に入れた者こそが〝海賊王〟の称号を得る――――と、されている。

 

その行く手に立ちはだかるのは同業である海賊。

取れる席が1つである以上、敵は倒していく。

 

それ以外には海軍の存在がある。

海賊は言ってしまえば、無法者でしかない。

悪道、非道を行う残忍なイメージを持つ。

そんな悪党を捕まえ、民衆を守る立場にあるのが海軍だ。

 

それらを乗り越え、最大の宝を手にれる勝者は誰か?

 

海賊や海軍の戦いは銃や剣、己の拳を用いる。

しかし、時には信じられない〝能力〟を使う存在も居る。

 

比喩表現ではなくて、人智を超えた〝能力〟だ。

 

ある能力は身体をバラバラに分裂させ、ある能力は自身を動物へ変化させ、ある能力は身体を砂にする――――といった、まさしく"規格外の能力を発動させる。"

 

それを可能としているのは〝悪魔の実〟と呼ばれる果実。

海の秘宝とも呼ばれる代物だ。

悪魔の実を食べた者はそういった人智を超えた能力と引き換えに"一生泳げない身体になってしまう。"

 

言わばこの海賊の時代にカナヅチになってしまうリスクを取るのか、はたまたリスク度外視で能力を手に入れるのか?

この悪魔の実を1つ手に入れるにも、命を懸ける覚悟が必要だと言われる程なのだ。

 

この悪魔の実がどのように出来るのか、どうして存在しているのか分からない。

まさに不思議な果実なのだ。

 

この世に同じ実は1つとして存在しない。

食べた人間が死亡した際にいつのまにか世界の何処かに生れ落ちるらしい。

そして、また実を見付けた者に食べられる。

とある教えで輪廻転生という言葉があるが、それがピッタリ当てはまる。

重ねて告げるが、何とも摩訶不思議な果実である。

 

だが時に、悪魔の実が食べる人間を選んでいるのではないかと錯覚する程に相性の良い人と組み合わさる事がある。

まるで意思でも持っているかのようだ。

 

そんな馬鹿なと言いたくなる事もある。

だが、そういう摩訶不思議な事があっても頷けてしまうのが悪魔の実と呼ばれる存在なのだ。

 

 

 

 

 

だから、人に大きな影響を与える筈の悪魔の実"そのものに何が起きても不思議はないだろう?"

生まれては食べられを繰り返す、そんなサイクルに飽きてしまった意思を宿す果実が生まれて何の不思議があろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

"それ"は何処ともしれない道を辿る。

以前の宿主の身体から解放される。

また実に戻り、誰かの手へ渡り、食されるのを待つ日々が待ち受ける。

退屈な日々へ戻されるのはうんざりであった。

 

だから、気付けば脇道へ逸れていた。

そもそも道なんてものはあるのだろうか?

そんな疑問を投げ捨てる程のものが"それ"の今辿る道には落ちていた。

 

これは何だろうか?

見た事のある風景が並ぶ。

 

とある小さな村で育った麦わら帽子がトレードマークの少年が〝海賊王〟を目指して海へくり出す。

 

宿主の記憶だろうか?

今の宿主か、前の宿主か、とぼんやり考えながら眺めていた。

分かるのはその少年を中心としていた事。

風景は疎らで、地続きかと思えばツギハギであったりもする事。

 

そこにある風景は辛く、過酷な場面もある。

けれど、最後には皆が笑って解放的になっていた。

 

〝自由〟だ――――"それ"は口か、心か、その単語が飛び出していた。

これこそが求めているものではないだろうか?

 

そんな疑問を抱いている内、"それ"は景色の無い真っ暗な場所に居た。

先程までの〝自由〟はいつのまにか消え去り、真反対の〝束縛〟が辺りを包む。

 

一瞬、光が顔を覗かせる。

そこから見えたのは解放的なまでの青い空、そして麦わら帽子を被った赤い髪の男だ。

それも一瞬の事で辺りは暗闇へ染め上げられる。

 

次に光が射した時には黒髪黒目の幼い少年が顔を覗かせた。

"それ"を少年は持ち上げる。

 

この世に生まれて初めて束縛から解放したのは年端もない少年だった。

その少年は"それ"をかじる。

 

自由を求めた"それ"はまたも束縛される事になる。

 

けれども不思議とそんなネガティブは身を潜めていた。

 

これは直感でしかない。

それでも"それ"はこう思ったのだ。

 

 

 

〝運命〟だ――――と。




こんな感じの始まりです。

よければお付き合い下さい。


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この実なんの実? 悪魔の実

このサブタイトルを付けたかっただけだったり。

では、続きをどうぞ。


〝運命〟というのはもしかしたら簡単な事で変わってしまうものなのかもしれない。

これまでとは異なる事が起きれば、歴史を変えるのは可能なのかもしれない。

だが、それは絶対に可能とは言えないものであるし、変えたとしても本人達は何も知らないかもしれない。

しかしながら、大小様々ななれど、予想外というのは"この時点で起きていたのかもしれない。"

 

そうこの物語は輪廻転生を繰り返した“それ”が引き起こした奇跡の物語なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

東の海(イーストブルー)のドーン島にゴア王国に属するフーシャ村がある。

あまりに僻地であるが為にゴア王国の中央部から忘れられているのだが…………今はその話は置いておこう。

 

そのフーシャ村の港に船が停泊している。

左目に三本線の入ったドクロマークを掲げた船――――海賊船である。

 

時刻は早朝。

粗暴なイメージしかない海賊船に似つかわない子どもが勝手知ったる我が家も同然に乗り込んでいた。

黒髪黒目の年端も行かぬ少年――――名を『モンキー・D・ルフィ』と言う。

彼は海賊達の寝静まる船で何かを探していた。

その目当てのものは時間を掛けずに見付かった。

 

「おっ、あったあった!!」

 

発見したのはナイフだ。

ルフィにはこのナイフが必要であった。

その為にわざわざ朝早くから海賊船へ出向いたのだから。

 

「今日こそ航海へ連れてって貰うんだ!!」

 

ルフィは海賊に憧れた。

より正確には“この海賊船の面々と触れ合った事で憧れるようになった。”

 

彼は常々に〝自由〟という不可視の概念に憧れた。

無論、このフーシャ村が嫌いだとかそういう意味ではない。

この村には好きな人はたくさん居る。

けれど、それだけではつまらない。

 

ルフィは1つの処に留まるのが苦手で、自由奔放に走り回る。

そんな時、この海賊船がフーシャ村を訪れた。

 

当初はルフィも海賊という事で警戒心は高かった。

彼の祖父が海軍の海兵なのもあり、「海賊=悪者」の図式が出来上がっていた。

 

けれど、この船の海賊達はそんな図式を瞬く間に壊した。

海賊達が来訪してから一カ月も経つ頃にはルフィを始めとして、村の面々も彼らを歓迎という形で受け入れた。

その海賊達との触れ合う事でルフィが心酔してしまう程に、憧れを持たせる程に――――。

 

何度も航海へ連れてって欲しいとこの〝赤髪海賊団〟の船長である『シャンクス』にお願いした。

けれど返事は決まって「駄目だ。血の気の多いおまえは乗せない」との事である。

 

どうすれば良いのかルフィには分からない。

次に考えたのが「海賊=戦う」という方程式だ。

ならば、怪我をしても平気な姿を見せれば船に乗せてくれるのでは? と、幼いながらに結論に達する。

 

「おれが遊び半分じゃないのを見せるんだ」

 

この思い付きは本日の夢でのアイディアだ。

これは天啓を受けて即実行に移す。

ルフィは早朝の内に船へやってきた。

昨夜もどんちゃん騒ぎをしていたからまだ誰も起きていない。

 

適当な刃物でも見付けて、自分の〝覚悟〟を見せてやろう。

ルフィは見付けたナイフを手にこの船の主の眠る部屋へ忍び込む。

 

「シャンクス!! 起きてくれ!!」

 

「んー、ルフィか? まだ眠いから寝かせてくれ」

 

ベッドで眠るシャンクスはルフィの大声という目覚ましを止めてくれるよう言葉短く告げる。

早朝というのもあるだろう。

けれどルフィは知っている。

 

昨夜、この海賊達は酒場で酒を飲みすぎたのだ。

そのどんちゃん騒ぎの結果、恐らくは全員が二日酔いとなった。

 

こういう時、どうあっても彼が起きないのはルフィも承知していたので渋々と引き下がる。

部屋を出ようとして――――ふと、部屋のテーブルへ目が行く。

そこには彼が被っている麦わら帽子、それと小さな木製の宝箱がある。

麦わら帽子はいつもの事なので気にはならない。

けれど、この宝箱には何が入っているのか?

興味本位でルフィは宝箱を開く。

 

中にあるのは果実であった。

青い、不思議な見た目をした果実。

村の果物屋にも売っていない珍しい果実だ。

航海中に手に入れた果物なのか?

シャンクスは夜食にでもこっそり食べようと宝箱に偽装して食料室から持ってきたに違いない。

朝から来たので空きっ腹であったので朝飯代わりに丁度良いと興味を引いた“それ”をルフィは無意識の内に持ち上げ、かじる。

 

「うぇぇぇっ、まずぅっ!?」

 

何とも不思議な味だ。

食べきったのが不思議な位だ。

宝箱の蓋を閉め、ルフィはシャンクス達が起きるのを待とう。

ルフィは船長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

場所は村の酒場へと移される。

そこでは先程の海賊達がどんちゃん騒ぎをしていた。

結局ルフィは持ち出したナイフを左目の下へ浅く突き刺した。

当然「いてぇっ!!」と叫び、そのまま手当てされる。

その足で酒場まで来た訳だ。

今回の祝杯の理由はルフィの無茶な行動を祝っての事らしい。

無茶苦茶な理由付けではあるが、とにかく騒げれば何でも良かったのだ。

 

「あーっ!! 痛くなかった」

 

「嘘つけ!!」

 

痛みはまだ引かないのか、涙目になりながらルフィは言う。

先程まで痛みを訴えていた少年を思い出すと説得力は皆無であった。

 

「おれは怪我するのだって全然恐くないんだ!! だから次の航海に連れてってくれよ!! おれだって海賊になりたいんだ!!」

 

「お前には無理だ。カナヅチだったら尚の事、海の上では致命的だ」

 

ルフィの決死の行動も虚しく、シャンクスはルフィの動向を一刀両断する。

 

「ケチ!!」

 

「まあ、そう言うなルフィ。あいつはお前の心配をしてるんだ。海は楽しいだけじゃなくて辛い事、過酷な事も起こるからな」

 

「本当かー? からかって楽しんでるだけだろ?」

 

シャンクスの肩を持つのは〝赤髪海賊団〟副船長の『ベン・ベックマン』だ。

煙草を口に咥え、如何にも「大人な男性」と言える。

 

「やーい、カナヅチ〜」

 

「ほら」

 

「まあ、うん」

 

船長をフォローしたつもりが、残念な事にシャンクス自身が無駄にしてしまう。

しかもルフィが気にしてる事を平然と言うのだから困ったものだ。

 

「ほらルフィ。これを飲んで機嫌を直して」

 

酒場の女店主の『マキノ』がルフィへジョッキに注いだジュースを渡す。

 

「ありがとうマキノ」

 

「お前、金がねえだろ」

 

「だから〝宝払い〟だ。将来すっげえ宝を見付けて持ってくるんだ」

 

「お前なあ、それは詐欺も同然だぞ」

 

ルフィの中では海へ出るのは決定事項らしい。

シャンクスは「はあ」と溜め息を吐きながら現実を叩き付ける。

 

「ったく、そもそも子どものお前が海へ出て戦える訳が無いだろ?」

 

「そんなことねェ!! 鍛えてるおれのパンチは(ピストル)より強いんだ!!」

 

「へぇ、(ピストル)よりねぇ」

 

ルフィが意気揚々と告げるも、シャンクスは当然ながら「子どもの言う事」と取り合わない。

ベックマンの言葉を借りるならルフィに海の過酷さを伝える為だと言う。

 

「ルフィってば、またシャンクスを困らせてる」

 

そこへ割って入るのはルフィより2つ上の少女『ウタ』だ。

右側の髪が赤く、左側の髪が白い。

左目が隠れる程に左の前髪は伸ばしており、それぞれ左右の後ろを輪っかにして纏めている。

耳にはヘッドセットのようなものが付けられている。

〝赤髪海賊団〟音楽家――――それが彼女の肩書だ。

そして船長のシャンクスの娘だと言う

 

「いい加減に諦めたら?」

 

「嫌だ!! 諦めねェ!!」

 

ウタに言われて引き下がるなら苦労はない。

短い時間だが、この少年が簡単に引き下がらない事をウタは理解していた。

 

「私に勝てない癖に良く言うわよね」

 

「何を〜!! おれは負けてないだろ!!」

 

ウタの挑発にルフィは簡単に乗っかる。

 

「なら、勝負しましょう」

 

「おう!! 望むところだ!!」

 

そう言うと2人は勢い良く店の外ヘ。

始まったのはチキンレース。

テーブルの上に3本のチキンと飲み物がある。

これを食べきった方の勝ち。

食べ切る前に後ろに置いた猛犬に体当たりされたら負けである。

 

マキノが「危ないから止めなさい」と言うも、2人は「嫌だ」と口を揃えて返した。

シャンクスはと言えば「やらせてやれ」と肯定的だ。

 

それを受けて2人は勝負を開始する。

ルフィが優勢で進むが、ウタが自分のジュースを渡す。

それを飲んでる隙にウタはチキンを食べきってその場から逃げる。

一方のルフィはと言えば、猛犬に後ろから衝突され吹き飛ぶ。

 

「この勝負、ウタの勝ちだな」

 

〝赤髪海賊団〟コックの『ラッキー・ルウ』が宣言する。

随分と太った眼鏡を掛けた男が勝利の宣言と同時にルフィは起き上がる。

 

「ずるいぞ!! ウタ!!」

 

「海賊の勝負なら卑怯も何も無いわ。負けを認めなさい」

 

「おれは負けてねェ!!」

 

「出た。負け惜しみ〜」

 

両手を挙げながら指を閉じて開いてを繰り返しながらウタは告げる。

 

「それよりルフィ。大丈夫なの? 痛かったんじゃないの?」

 

「ん? あれ? そういえば全然痛くねえな」

 

何でだ? マキノに問われた筈のルフィの方が首を傾げる。

聞きたいのはこちらの方なのだが――――

 

「強がり言っちゃってぇ~」

 

「強がりじゃねえぞ!!」

 

「へえ、強がりじゃないなら証明してみせてよ」

 

「望むところだ!! 勝負だ!!」

 

ルフィとウタは両腕をグルグルと回し始める。

勢いを付けてパンチでも繰り出そうとしているところに――

 

「いい加減にしろ」

 

2人がまたも喧嘩を勃発しようとした時、両者へ拳骨――――もとい、剣の柄を叩き込む。

 

「いったぁ〜」

 

「何かしたのか? シャンクス?」

 

痛がるウタ、対してルフィはまたも首を傾げる。

何が起きたのか本当に理解していない様子だ。

 

もちろんながら手加減はしている。

なのに痛みが無いとルフィは言う。

 

この少年は良くも悪くも素直な性格をしている。

故に、この発言は強がりでも何でもない。

ナイフを刺した時には痛がったのだから。

 

「む〜。何もないなんておかしいぞ!!」

 

「だってよ、痛くねぇんだからしょうがねェだろ?」

 

「強がりは言わない」

 

ウタはルフィの頬を左右へ強く引っ張る。

そんな口はいたずらしてやろう――――そんな軽い気持ちだった。

 

 

 

 

 

次の瞬間、ルフィの頬があり得ない位に伸びた。

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

「「「はあああああっ!?」」」

 

「何だこりゃあああああーーーーっ!?」

 

海賊団の面々も含め、ルフィ自身も驚きを隠せない。

一体全体何がどうなっている?

 

驚きのあまり、引っ張っていた手をウタが放す。

すると、ルフィの頬は元に戻る。

だが、先程の奇妙な現象は錯覚などではない。

 

その事はこの場の、特に赤髪海賊団の面々は知っていた。

 

「まさか!!」

 

シャンクスは肌身離さずにいた木箱を開ける。

そこに入っていた果実は空っぽであった。

 

「おい!! ルフィ!! まさかとは思うが、この箱に入ってた果物を食べたんじゃないか!?」

 

「う、うん。何か大事そうにしてたから美味しいのかなって」

 

ルフィは包み隠さずに返答する。

その受け答えに更にシャンクス達は頭を悩ませる。

しかし、伝えなければならない。

 

 

 

 

 

「お前が食べたのは〝悪魔の実〟って呼ばれる海の秘宝だ!!」

 

 

 

 

 

「悪魔の実って、良くシャンクス達が言ってた?」

 

色んな能力を得られるという摩訶不思議な果実。

人智を超えた能力を授かる代わりに一生泳げない身体になってしまう。

ルフィはそれを食べてしまったのだ。

 

「お前が食べたのは〝ゴムゴムの実〟だ。全身ゴム人間になって、一生泳げなくなる!!」

 

一拍、二拍、その後にルフィはシャンクスの言う事を理解して――――

 

「うそぉぉぉぉぉーーーーっ!?」

 

「ばかやろぉぉぉぉぉーーーーっ!!」

 

摩訶不思議なゴム人間となってしまったルフィと保管していたシャンクスの叫びが村中に響くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、これは〝運命〟が動き出した瞬間でもあった。

“これまでとは全く異なる運命を”




如何でしたでしょうか?
原作であった怪我する部分を文章でサラッと流す事に。

原作とのおおまかな相違点として
・シャンクスと出会って1ヶ月程で原作1話冒頭の展開をする。
・悪魔の実を食べるタイミングが変わる。

ルフィが何処に住んでるのかわからず、短剣を何処から持ってきたのか気になったのでシャンクスの船から拝借した事にしました。
映画連動シリーズのアニメでマキノの酒場へ訪れる描写があったので、何処かに住んでるのでしょうけど分からなかったので。
作者は単行本で読んではいないので、SBS等で情報が出ていれば教えて頂けると幸いです。

ちなみにシャンクスが悪魔の実が無くなってる事に気付かなかったのは二日酔い手前で起こされて寝ぼけ半分でろくに確認せずに外へ出たからです。

あとはREDの時系列での変更点でウタがまだ居ます。

映画までの下準備があったとはいえウタは凄い人気ですね。
作者もルフィとの絡みを見ていて普段は見れないルフィの表情を引き出していて気に入りました。

最期の生死は不明ですが、後者の説が濃厚なのが残念です。
後者の説が濃厚でも何かしらの形で再登場したらそれはもう嬉しさ爆発は間違い無いです。

ウタについて話していると長くなりそうなのでこの辺りで。

では、また次回に。


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小さなようで大きな変化

連日の投稿になります。

今回は少し短めではありますが続きをどうぞ。


悪魔の実――ゴムゴムの実――をルフィが食べた事をしこたま怒られたその日の夜、ルフィは夢を見ていた。

顔は見えないが、青年に近い年頃の男の少年が海賊として海へ飛び出していた。

 

今のルフィのように身体が伸び縮みしている。

その身体を駆使し、様々な敵と戦っていく。

 

文字通りに腕を伸ばしてリーチを引き伸ばす、引き伸ばした腕を戻す反動を利用したり、ゴムの性質を利用した戦い方。

 

それ以外にも身体から蒸気を発し、凄まじい戦闘力を発揮する。

また、骨に空気を送り込んで巨大化させる。

 

他には筋肉へ空気を送り込み、“何かしらの別の力と組み合わせて”姿を大きく変えていた。

 

戦う場面だけではない。

何か挫折があったのか、膝を突いて項垂れる場面も幾重もあった。

これはきっとシャンクスの良く言っていた「過酷」というものだろう。

 

これが何なのかは分からない。

 

けれど、この後に流れる場面は良く分かった。

何人かが集まり、どんちゃん騒ぎをしている。

それはシャンクス達が酒場でしているどんちゃん騒ぎと似ていた。

 

分かるのは楽しそうである事だ。

中にはかなりの大人数のものもある。

 

確かに楽しそうな面を見せられる。

けれど、それよりも思った事がある。

 

これらをひっくるめて全ては〝自由〟だ――――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、シャンクス。航海に連れてってくれよ~。おれ〝冒険〟がしたいんだよ」

 

「ダメだ」

 

いつもの酒場。

ルフィはシャンクスに同様にお願いをしている。

けれど、返事は変わらない。

 

「ルフィは諦めが悪いよ」

 

「ぶ〜」

 

何度も何度もお願いに来るルフィ。

往生際が悪いとも言える。

 

「それにしても意外だな」

 

「何がだ?」

 

「一生カナヅチと聞いて落ち込んでると思ってた」

 

「ああ、それか。なっちまったもんはしょうがねェよ。それに海に落ちなければ関係ねぇし」

 

「元々泳げなかったから関係ないもんね?」

 

「そうさ!!」

 

ウタがからかうように言うが、ルフィは「ししし」と笑う。

いつも以上に明るく振る舞う――――否、実際に何も気にした様子はない。

それならそれで良いとこれ以上は言わない。

 

「何度も言ってるが――――」

 

「おれみたいに血の気が多いのはダメなんだろ?」

 

シャンクスが言い切るよりも前にルフィは話へ割り込む。

彼が断る理由を正しく理解している。

いつもなら、ルフィは突っ掛かるか不機嫌になるだけだ。

 

いつもより落ち着いている?

違う、笑っていた。

まるで、今回は何か秘策でもあるかのように見受けられる。

 

「なあ、おれ。この島へ行ってみたい!!」

 

そう言ってルフィは1枚のチラシを見せる。

とある島でお祭りが催されるようだ。

今日の夕方から開催されており、フーシャ村からでも半日掛からずに行ける距離だとも言える。

 

「おれ、この祭りに行きてぇ!!」

 

「あのな。どうしてその島へ連れて行くと思ってるんだ?」

 

「だって、“祭りに行くだけなら戦う事も無いだろ?”」

 

ルフィの口から飛び出した内容は随分と突拍子もない。

けれど、あながち間違ってはいない。

 

「この島への航海に危険がないと限らない。それにどれだけ時間がかかると――――」

 

「ベックマンやヤソップが大丈夫だって教えてくれたぞ」

 

またもルフィが言葉を遮る。

副船長のベックマンと、〝赤髪海賊団〟狙撃手のヤソップが一枚噛んでいた事を知る。

 

「ごめんね船長さん。ルフィにお祭りがある話をしたら行ってみたいって言われちゃって」

 

チラシの発見者はどうやらマキノのようだ。

ベックマンとヤソップはその場に居合わせたので、近い事と道中やその島の治安の良さを知っていた。

更にはチラシを配る島も治安の良いところに限定しているので、略奪が生き甲斐の海賊達に知られる危険性はかなり低い。

シャンクス達も海賊ではあるが、以前の航海にて彼等の人となりは知られているので要らぬ心配なのも伝えられた。

それらを教えてくれた訳なのだ。

 

「お前、本当にルフィか?」

 

「おれはおれだぞ? シャンクスは何を言ってんだ?」

 

「いやいや、そういう意味じゃなくてな」

 

「ルフィがそういう発想をするのが意外だったんじゃないの?」

 

シャンクスが言い淀んでいると、ウタが言語化してくれた。

いくら色々と話を聞いたとはいえど、そんなトンチみたいな方法で提案してきたのが意外でもあったから。

 

「ししし!! 何となく思い付いたんだ!!」

 

本能による行動だと白状する。

それでまさか言いくるめられる内容まで昇華するとは。

 

「こう言えば良いってのはベックマンが教えてくれたんだ」

 

どうやらベックマンはさらにもう一枚噛んでいたようだ。

ベックマンも居心地悪そうにしている。

ルフィ本人は気付いているか分からないが、ある意味で理論武装をしているのだ。

 

シャンクスが断っていた理由の殆どが「危険を伴う可能性を持つ航海」であったから。

だが今回、既にシャンクス達も知っている島であり、普段とは異なって安全性は保証されてしまっている。

 

「くそっ!! おれの負けだ。連れてってやるよ」

 

「本当か? やったーーーっ!!」

 

「え~~~っ!!」

 

シャンクスはギブアップを宣言する。

ルフィはもちろんながら喜ぶ。

反対にウタは不満そうな声を上げる。

 

それでも船長であるシャンクスの決定に逆らうつもりはないようで、それ以上は何も言わない。

 

 

 

かくして、ルフィはシャンクスの航海へ同行する理由を得た。

〝運命〟は新たな方向へ回り始める。

その〝運命〟の示す指針の待つものは〝過酷〟か、はたまた〝自由〟か――――?

 

ほんの小さな、されど大きな変化が起きていた事にまだ誰も気付かない。




如何でしたでしょうか?

原作との主な相違点としては一目瞭然ではありますが。
・ルフィが何者かの冒険譚の夢を見る。
・シャンクスに航海に連れて行ってもらう。

となります。

シャンクスがルフィを航海へ連れて行かない理由は「血の気が多いから」と明言していました。
もしかすると「幼い子どもだから」とも考えているのかもしれませんが。

そこへルフィがなるべく近場かつ安全が保障されている島の祭りが行われるチラシを発見。
彼らしからぬ理論的な発言(?)をしたので航海へ連れて行って貰う約束を取り付けます。
ちょっとやっつけ感はあるかもしれないのですが、ルフィのしつこさに根負けしたという事で。

ルフィの同行にベックマンとヤソップが絡んでいます。
ベックマンはアニメを観た勢いで、ヤソップは子を持つ父という事で協力させました。
何だかんだ2人は子どもに甘そうだなという理由もあったり。

さて、祭りを行う島は何処なのか。
読者の皆様が想定するだろうなにジアへ行くのは、もう少しだけ先のお話ですとだけ。

では今回はこの辺りで。
次回も出来るだけ早めに投稿できるよう頑張ります。

あと幼少期編が作者の想定よりも話数を使う事になるかもしれませんね……


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その出会いは偶然か、運命か①

どうも連日の投稿になります。

では、続きをどうぞ。


「着いたぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

両腕を挙げて上陸を叫ぶのはルフィ。

初めて自分の村を離れ、近いとは言えど船に乗っての〝冒険〟に心を踊らせていた。

冒険とは言っても島の祭りに参加するだけなのだが、ルフィには未知なる島へ来るだけでも十分に〝冒険〟だと言える。

 

「もぉ〜、はしゃいじゃって。子どもなんだから」

 

「良いじゃねェか!! おれにとっては初めての航海だったし、何より――――楽しみなんだから!!」

 

遅れてウタが呆れたようにルフィに言う。

しかし、ルフィは「ししし」と笑って目をキラキラと輝かせていた。

ウタも何のかんの言ってルフィの気持ちが分からなくない。

彼女もそうだが、船長を始め赤髪海賊団の面々も知らない島へ足を踏み入れるのはいつも気持ちが高揚する。

だから、彼が楽しんでいる状況へ水を差すのはしないようにしておく。

 

「それじゃあ、おれは町長へ挨拶に行ってくる。あとは任せたぞベックマン」

 

「はいよ」

 

シャンクスは祭りを取り締まっているこの島の、この町の町長へ挨拶へ行くと告げる。

以前にも足を運んだ事はあるが、やはり挨拶をしておくに越した事は無い。

 

町長も最初は海賊という事でこちらを警戒していたが、こちらに敵意がない事を知って貰い、打ち解ける事が出来た。

その際にえらく気に入られてしまい、酒も酌み交わす程の仲に。

 

今回もそのままシャンクスの航海の話を酒の肴にして飲んだくれるかもしれない。

ベックマンに任せたのはルフィの動向を後押しした責任も含まれていよう。

 

いくら治安が良くてもルフィから目を離すのは心配であった。

なので、ベックマンもお守り役は買って出るつもりであった。

 

「それじゃあ、行くとするか」

 

「おう!!」

 

「はーい」

 

ルフィとウタが待ち切れないとばかりに走り出す。

それを「やれやれ」と思いつつ、ベックマンは笑みを浮かべて追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この食い物もうめぇな」

 

「本当、食い意地ばっかり張って」

 

ルフィが回るのは食べ物の出店ばかり。

ちなみにお金はここへ来る前にフーシャ村の村長から貰っていた。

ただ財布の紐はウタの分も含めてベックマンが握っている。

彼が居なければ今頃は散財していただろう。

ルフィとウタには不服な部分もあるだろうが、そこは我慢してもらう。

 

「それにしても、屋台以外にも普通のお店もやってるんだな」

 

「そりゃそうさ。むしろ、島外から人が来る今が書き入れ時だからな」

 

「ふーん。あっ!! そしたら美味い飯屋もあるのかな?」

 

「まだ食べるつもりなの〜? どれだけ食い意地張ってるの」

 

話を聞いていたルフィは何とも彼らしい結論に達する。

ウタはそんなルフィに呆れる。

ベックマンは2人を微笑ましく見ている。

 

「ねえ、私は服屋に行きたい」

 

「えー、服なんて見てもつまらねえだろォ〜?」

 

「ルフィは分かってないんだから」

 

ルフィにとっては「飯>服」だろう。

故に不満の声が出るのも彼らしくはある。

 

「服屋で買い物するのはルフィにとっての冒険と同じもんなんだ」

 

「そうなのか?」

 

そこへベックマンが意味をルフィに分かりやすく伝える。

ウタとしてもベックマンの例えは的を射ていたので「うんうん」と頷いた。

どういうオシャレな服があるのか、見つけられるのか、ウタとしてもその巡り合せが楽しみで仕方無い。

それはさながら初めて航海へ出たルフィの興奮と似ている。

 

「なら、仕方ねェな」

 

「でしょでしょ? という訳で冒険へ行きましょう!!」

 

「おーーーーっ!!」

 

冒険と聞けばルフィとしても興味が出てくる。

ウタもベックマンの例えに乗っかる事で自然と服屋へ誘導する事に成功した。

 

出来た娘である。

しかも、恐らくは気を遣って服選びも手早く終わらせてくれるだろう。

まだ9歳という年頃で気遣いまで覚えてしまった。

繰り返す。本当に出来た娘だ。

 

「そこに服屋があるから行ってみましょう」

 

「ちょっ、走るなよ」

 

ウタが指差す先にある服屋。

そこへルフィとウタは駆け足で向かっていく。

祭りで人混みもあるのだから疾走らないように注意を促すも、残念ながら弾丸となった2人は止まらない。

そのまま店の前に来ていざ扉を開こうとした瞬間――――中に居ただろう客が扉を開いたのだった。

 

「わっ!!」

 

「いたっ!?」

 

「おっ、とぉっ!?」

 

扉は店の外側、つまりはルフィ達の方へ開かれた。

幸いだったのは当たったのは扉ではなくて、出てきた人の膝だった事だ。

ゴム人間となったルフィには当然ながら痛みは起こらなかった。

けれど、ウタは額にぶつける結果となった。

 

ぶつかった相手は突然の衝撃に驚きながらも倒れる事はなかった。

 

「こら、言わんこっちゃない。そちらは大丈夫でしたか?」

 

「はい。こっちは」

 

ベックマンは2人の安否を確認すると、次にぶつかった相手へ詫びを述べる。

相手側も何ともないようで何よりだった。

 

「大丈夫だったかい?」

 

「うん。大丈夫」

 

「おれも平気だ」

 

赤みがかった髪の両サイドを刈り上げた変わった髪型の女性だ。

ルフィとウタに改めて怪我が無いか訊ねると「うん。それは良かった」と嬉しそうにしていた。

 

「お待たせ、行こう」

 

服屋で買い物をしてきたのだろう。

店の袋を持ってルフィとウタとも年齢がそう変わらない少女が遅れて出てきた。

オレンジ色の髪をショートカットにした少女。

何処か、表情も浮かないものに見えた。

 

「ごめんね。それじゃあ、行こうか」

 

自分を呼んだ少女にそう促され、女性は頷いた。

ルフィ達に「それじゃあね」と一言告げて、その場を後にする。

 

 

 

 

 

しかし、直後にルフィが少女の腕を掴んだ事で阻まれた。

 

 

 

 

 

「何よ?」

 

「分からねェ」

 

「はあ?」

 

自分の腕を掴んだ少年が何故そのような事をしたのか分からない。

ストレートに訊ねるも、返事は理由にもなっていなかった。

当然、少女の反応は「何を言っている?」というものに変化する。

 

「おい、ルフィ。人様に迷惑を掛けるのは良くないぞ」

 

ベックマンに言われるも、ルフィも状況を理解している。

だが、腕を掴む直前に脳裏にあるワンシーンが過ぎってしまったから。

 

『――――、助けて……』

 

涙を流し、誰かの名を呼ぶこの少女と同じオレンジ色の髪を持つ、今よりも年齢の上がった少女。

そんな少女が放った一言は、助けを必死に求めるものだった。

それを口に出すのにどれだけ勇気が必要であったか?

とれだけの悔しさを抱いてきたのか?

 

どうしてもこの少女と脳裏を過る少女が重なって見えてしまった。

その時程ではないだろうが、目の前の少女の表情が浮かない事がルフィは大層気になった。

 

腕を離し、向かい合って「気になった」部分を言葉にしてぶつける。

 

「お前、何かあったのか?」

 

「え? な、何でっ!?」

 

「何となくだ」

 

ルフィの直感は正しかったと証明するかのように少女は狼狽、次には何故気付いたのかと慌てて問い返した。

しかし、論理的な理由ではなくて本能に突き動かされた結果である事が判明する。

 

「こら、ルフィ。他人には他人の事情ってものがあるんだ。無闇矢鱈に足を踏み入れるもんじゃない」

 

ルフィの動物的な本能は見事なものだろう。

言語化するには難しいものの、それでも人の機微に敏感なようだ。

だが、人それぞれ事情がある。

 

今は親御さんも居るのだから、割って入るのはどうかとベックマンは諭そうとする。

けれど、ルフィは引き下がらない。

 

「だけどよォ、こんなに楽しい所に居るのに、暗い顔でいるのは勿体無(もったいね)ェじゃねえか」

 

「私が楽しんでるかどうかは、そんなの私の勝手でしょ? 放っておいてくれない?」

 

ルフィは気に掛けているが、少女としてはお節介も良いところだ。

確かに何も知らないルフィが言う事ではない――――のだが、

 

「そんなの知らねェ。おれが気になったんだからな」

 

何と、我儘な物言いか。

これにはウタも「ちょっとねー」と(たしな)めようとする。

 

「へえ、随分と鋭いじゃないか」

 

そう言ったのは女性の方だった。

ルフィと同じ目線になるようにしゃがみ込んでくれる。

 

「どうして分かったんだい?」

 

「何となくだ」

 

先程と変わらぬ問答。

同じ年頃の子どもの答えを女性は「なるほどね」と返す。

 

「その直感、正解だよ」

 

「ちょっとっ!?」

 

女性の答えに動揺したのは少女の方だった。

ルフィの感覚は間違っていないと、女性は告げる。

 

ウタとベックマンはずかずかと他人の家の事情へ踏み込んだルフィがどうなるかとハラハラしていたが、女性の方が寛容だったからか、安堵をしていた。

 

「この子にはね、お姉さんが居るんだ。血は繋がってないんだけど、とっても仲良しなんだ」

 

「へぇ〜、でもその姉ちゃんは居ねぇみたいだけど?」

 

「――――来る直前に熱を出しちゃったの」

 

ルフィの当然の疑問に答えたのは少女の方だった。

涙ぐみながら彼女は告げる。

 

「『絶対に来よう』って約束してたから。だから、一緒に来れないなら意味無いって言ったの」

 

けれど、少女の姉は笑ってこう言ったのだと。

 

「楽しんできてって。それでお土産を買ってきてって」

 

自分のせいで行けないのだけは避けたかった。

だから、姉の為にも来ようと思った。

姉の方は村の人々が見てくれてるらしく、心配は要らない。

 

だったとしても少女としては納得いかなかった――――いや、寂しさと罪悪感があった。

姉と来るつもりだった予定が崩れ、寂しい気持ちと自分だけ来た罪悪感が心の中でごちゃまぜになってしまったのだ。

けれど、それだけ姉と来るのが楽しみで仕方無かったに違いない。

 

「なあ、お前――――」

 

それを聞いたルフィは少女を呼ぶ。

少女もまたルフィを見る。

ウタもベックマンもルフィがどう少女を慰めるのか見ものだと思って――――――

 

 

 

 

 

「何言ってんだ? バカか?」

 

 

 

 

 

「何を――――」

 

「何がバカなのよ!!」

 

ルフィの一言に物を言いたくなったウタが言い切るよりも前に少女の怒号の方が早かった。

 

祭りの喧騒も貫く程の怒号だったからか、周囲の人も「なんだなんだ」と興味を惹かれる。

ベックマンと女性が「すいません、気にしないで下さい」と周囲へ声を掛けると散っていった。

 

その間もルフィと少女との間に険悪な空気が発生している。

そんな空気が読めないのか、はたまた無視しているのか。

ルフィは気にせずに言葉を紡ぐ。

 

「姉ちゃんと来れなかったのは残念だけどよ、でもお前の姉ちゃんは『行って来い』って背中を押してくれたんだろ?」

 

「そ、そうなるわね」

 

ルフィの言わんとする事を考えている内に怒りの矛先は何処へやら。

その間に言葉が続けられる。

 

「だったら、姉ちゃんの為に楽しい話を聞かせてやる為にも祭りを楽しまないとだろ」

 

「――――――あっ」

 

ルフィに言われ、少女も気付く。

そうだ。何の為に姉は少女を送り出してくれたのか?

ならば、彼女が羨ましがる位の楽しい話をしてやれば良い。

 

ルフィの突拍子もない発言と普段なら思ってしまうウタとベックマン。

しかし、両者は逆に彼の発言が"実に的を射ているのも事実なのを理解していた。"

 

「でも、それで喜ぶかなんて分からないでしょ?」

 

「そうか? 少なくともおれは楽しいぞ?」

 

この場でルフィの発言の意味を正しく理解しているのはウタとベックマンのみ。

これまでルフィは何度も航海をせがんできた。

だが、その度に断られて代わりに航海中の事を〝冒険〟と称して話を聞きに来た。

その時のルフィはまるで自分が〝冒険〟をしてきたかのように目を輝かせて聞いていた。

話してるこっちも楽しくなり、ついつい脚色してしまう事もあるのは内緒だ。

 

「だからよ、楽しい事をいっぱいして、それを話してやれよ。お前が楽しそうにしてるの聞いたら、きっと姉ちゃんも喜ぶぞ!!」

 

少女にしてみれば目から鱗だ。

まさか、こんな事を言われるまで気付けなかっただなんて。

 

「でも、楽しい事をするって、何をしたら良いか分からない」

 

「じゃあよ、おれと〝冒険〟しよう!!」

 

「冒険?」

 

「そうさ!! この祭りの食い物は美味いのばっかりだからな!! まだまだ知らない美味いものがあるかもしれねえだろ?」

 

何とも食い意地の張った発言。

しかし、ルフィは一点の曇りのない笑顔で言い切った。

 

少女は彼の言う〝冒険〟がどういうものであるのかを理解できてはいないだろう。

けれど、分かった事はある。

 

「あんた…………随分と食い意地が張ってるわね」

 

「ししし。かもな」

 

少女の自分への評価など何のその。

ルフィは笑顔で応えていた。

 

「ちょうど良いかもね。荷物はこっちで預かっておくから楽しんで来なよ」

 

「よし!! 決まりだ!! 行こうぜ!!」

 

「あっ、ちょっと!!」

 

女性の許可が得られた。

強引に少女の手を引っ張って、ルフィは祭りの雑踏へ向かっていく。

 

「ちょっと!! 服屋に行くの忘れてるんじゃない!! 待ちなさいよ!!」

 

走っていくルフィと少女を追うようにウタも駆け出した。

 

その様子を見ている大人組は微笑ましく見守っていた。

 

しかし、彼らからお守りを言い渡されたベックマンはこれから子ども3人に振り回されるだろう未来が見えたので、密かにげんなりしている。




如何でしたでしょうか?

前回の話でなにジアを連想した方も居たでしょうが、違う島に来ています。
その島はもう少し先のお話になります。
あと2か3話程です。
少しだけ行く前までの下準備をさせて下さい。

着いた島に特別名前はありません。
祭りではありますが、どこかの映画に出てきた肩に花を乗っけた男爵も出てきません。

さて、ルフィ達が出会った女性はいったいナニメールさんなのか、そして少女はナニさんなんだろうか。

さて、今回はこの辺りで。
待て、次回。


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その出会いは偶然か、運命か②

何とか連日投稿ができました。

では、続きをどうぞ。


その少女には血の繋がりのない母と姉が居る。

母と姉にも血の繋がりはない。

けれど、血の繋がり以上の絆が確かにあった。

 

母からは惜しみない愛情を貰っているし、姉も喧嘩する事はあるが姉妹仲は良好と言って良いだろう。

 

この祭りを知ったきっかけは母が買っていた新聞でこの島まで行く船のチケットの抽選が当たったから。

距離はあるが、地元と目的地を往復する船も出してくれる。

母は元海兵だった事もあり、この島の治安の良さを知っていた。

 

なので娘2人に祭りへの参加を促してきた。

当然二つ返事で「「行く」」と答えた。

恐らく、この行事を一番楽しみにしているのは母だ。

子どもみたいに笑っていたし、間違いないと思う。

 

ただ、不運というのは突如として起こるものだ。

姉は直前になって熱を出してしまった。

 

彼女も楽しみにしていた。

自分も姉が居なければつまらないから行くのを拒んでいた。

けれど、姉の口から出たのは「楽しんできて」の一言だった。

 

姉は自分のせいで行けなくなるのは申し訳無さがあったのだろう。

姉の言葉の真意に気付いていたが故に「うん」としか答えられなかった。

 

しかし、いざ来てみれば今度は自分だけが来る事になった罪悪感が降り掛かる。

祭りを楽しもう等という気持ちは既に消え始めていた。

 

母が気を利かせて服屋で何か買おうと提案してくれた。

せっかくならと店内へ、姉へのお土産の服も買った。

裕福ではないが、この為にお金を使ってくれた母には感謝しかない。

 

その後だった。

買い物を済ませて店を出た直後に母にぶつかった同い年位の少年少女と出会ったのは。

母はこの手の手合いには慣れたもので、安否を確認する。

遅れてきた男が「申し訳無い」と謝罪してくれた。

 

話は済んだだろうと母へこの場を離れるように進言する。

母は何も言わないが自分の心の内に気が付いているだろう。

この場を後にしようとして――――少年の手が自分の腕を掴んだ。

 

何事かと思っていると、少年はこちらをマジマジと見ていた。

何なのかと思っていたら、彼が次に放った一言に自分が凍り付いた。

 

「お前、何かあったのか?」

 

あまりにも核心を突いた発言。

それには脳内も思わずフリーズした。

色々と言いたい事もあるが、彼の発言は動物的な直感が引き起こしたもの。

深い意味がない事は続く会話で理解する。

 

自分の胸の内をついつい吐露してしまった。

母にも話していないというのに。

 

しかし、彼女には自分の心情は見抜かれていたようで、的確に言われてしまったので狼狽した。

それを受けた少年は自分へ言葉を掛ける。

だが、その一言がこんな事があるか?

 

「お前、何言ってんだ? バカか?」

 

――――である。

隣の少女が何か言ってくれそうだったが、それよりも自分の怒号の方が大きくて速かった。

周囲へ迷惑を掛けていたみたいだが、自分の怒りはそんな事では収まらない。

何故、会ったばかりの見ず知らずの少年にそんな事を言われなくてはならないのか?

 

しかし、少年はこちらの怒りなど御構い無しだ。

ズカズカと踏み込んでくる。

 

「姉ちゃんと来れなかったのは残念だけどよ、でもお前の姉ちゃんは『行って来い』って背中を押してくれたんだろ?」

「だったら、姉ちゃんの為に楽しい話を聞かせてやる為にも祭りを楽しまないとだろ」

「楽しい事をいっぱいして、それを話してやれよ。お前が楽しそうにしてるの聞いたら、きっと姉ちゃんも喜ぶぞ!!」

 

自分の言葉に対して少年は悉く言い返してきた。

しかも全てが的確で、こちらはぐうの音が出せなかった。

 

では、具体的にどうするのかと問えば「冒険をしよう」と言い出した。

こちらの手を取って走り出す。

母が自分の荷物を持ってくれるという。

そのまま少年に手を引かれて自分と、遅れて少女も追い掛けてくる。

 

この祭りの場所で「冒険」とは何処へ向かうのかと思った。

自分が少年へ言い返したように食べ物が並ぶ屋台にばかり少年は次から次へ狙いを定める。

 

その度に自分と少女は「食べてばっかり」とこの少年に対する印象が同じとなった。

ちなみに母はベックマン(少年が買い物をする時に名前を呼んでいた)と話をしていた。

少年が名前を呼んだ際に母の表情が険しくなった気がしたのだが、それ以上に少年が引っ張ってあっちこっちへ連れ回すので、やがて記憶の隅へ追いやられる。

 

「ねえ、食べ回ってばかりだと疲れるから何処かで休憩しようよ~」

 

「私も賛成。何処かで休みましょうよ」

 

「え~~~っ!! まだまだ色んな店があるじゃねえかよ~」

 

少女2人掛かりの言葉にこの少年は全く意にも介さない。

それどころか、まだ動き足りないと言い出す始末だ。

 

「あまり女を困らせるもんじゃない」

 

「でもよ~、ベックマン」

 

「それに一度休憩した方が新しい〝冒険〟を見付けられるかもしれないぞ? 何ならそこで新しい発見があるかもだ」

 

「なら、仕方ねえ」

 

どうやら少年の手綱の握り方をこのベックマンという男は心得ているらしい。

まだまだ子どもな少年と比べたら大人の色気というものを振り撒いている。

こういう男性がモテるのだろうなと「女」である自分も直感した。

 

こうして見事に少年の意識を「冒険」から「休憩」へ変更させている内に移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休憩場所に選んだのはケーキ屋だ。

お代はベックマンのポケットマネーから出してくれるそうだ。

お土産としてケーキもいくつか包んであるので、それを渡すつもりのようだ。

 

子ども組はテーブル席、大人組はカウンター席とで分かれる。

ベックマンは女性の方と相席する。

 

「あんた、ベン・ベックマンだね?」

 

「おれの事を知ってるのか?」

 

「むしろ、知らないと思われてる方が不思議じゃないかしら? それにこれでも元海兵でね。顔は何度か拝む機会はあったのさ」

 

言いながら女性は煙草に火を付けてベックマンを見る。

 

「まあ、今の私には関係のない話だし、何よりあの()が楽しそうにしてるのを見てるだけでも満足だから。そっくりさんだとでも思っておくわ」

 

「気遣いに感謝する」

 

そう言って店主に飲み物を注文する。

アルコールを頼みたいところだが、子ども達から目を離す事も出来ないので、ノンアルコールのお茶を注文する。

女性の方も同じ考えだったのか、ベックマンの注文に乗っかった。

 

「正直さ、嬉しさの方が勝ってるんだ」

 

「と言うと?」

 

「あの()が笑ってくれたから」

 

「そうか」

 

女性にとって、あの少女は宝なのだろう。

ベックマンもウタの事を大切に想っている。

シャンクスの娘ではあるが、ウタは紛れもなく赤髪海賊団全員の娘も等しい。

いや、それだけではないのだが――――

 

「おたくのお子さんのおかげで助かってるよ」

 

「残念ながら、どっちもおれの子じゃない」

 

女性はどうやらベックマンの子どもだと勘違いしたようだ。

しかし、それは訂正させて貰う。

 

「片方は今停泊してる島の子を預かりで、もう片方はウチの船で面倒見てるが、みなし子なんだ」

 

「預かりは男の子の方かな? みなし子は女の子の方でしょ?」

 

「――――――正解だ。良く分かったな?」

 

「女の勘ってやつかな?」

 

良く分かったものだと感心する。

どうやらこの女性も直感力は優れているようだ。

 

「良い子ね」

 

「ああ、おれ達の自慢の娘さ」

 

何のかんのと、ベックマンもウタの存在に助けられてきた。

むさ苦しい男所帯の中の小さな歌姫には誰も頭が上がらない。

 

「そっちの方も立派に育てているじゃないか」

 

本当に血が繋がっていないのかと疑う程に少女は女性に良く懐いている。

 

「そう言って貰えると助かるよ。あの()には不自由を掛けてるからさ」

 

「とてもそんな風には見えないがな」

 

「私の家は裕福な方じゃない。正直、食べていくのもやっとさ。ここへ来れたのはここまでのチケットが偶然に手に入ったから」

 

女性は一息吐いて、吸い殻を捨てて新しい煙草を用意する。

ベックマンも女性に続くように煙草に火を付けた。

 

「正直、あそこまで育てるのも大変だった。村の人に何度も何度も助けられた」

 

「良い村としか言い様が無いな」

 

女性の話を聞く限り、多少の不自由は感じられる。

それでも温かな環境で育てられた事だけは伝わる。

少女が母親をしているこの女性に懐いている事だけは伝わった。

しかし、どんなに言葉を尽くしても女性の表情は優れない。

 

「何か、不安があるのか?」

 

「このままで、良いのかなって心配もあるんだ」

 

「心配? どんな?」

 

ベックマンは吸っていた煙草を灰皿へ押し付ける。

2本目を吸おうとはせず、顔だけでも女性へ合わせようとそちらへ視線を向ける。

彼女は真剣に悩んでいるのだ。

今しがた知り合ったばかりだが、それでも気持ちを少しでも軽くしてやれたらと思う。

 

「あの()の、姉もだけれど、未来を奪っているんじゃないかって心配になるんだ」

 

「未来を奪う?」

 

それはまた仰々しい話だと思った。

けれども、ウタという少女を連れ始めたベックマンを始めとする赤髪海賊団の中にも同じような心配はあった。

 

「もしかして、今の生活のせいで彼女のやりたい事をやらせられてないとか考えてるのか?」

 

「良く分かったね」

 

ベックマンの導き出した回答は花丸であった。

女性としても漠然とした心配として圧し掛かる。

 

「今、みかんを作ってるんだ。それをやってるのもあるけど、さっきも言ったように裕福じゃない」

 

聞けば少女が着ている服は姉に作ったもののお下がりだったようだ。

お金がないからおしゃれをさせてやる事も出来ない。

今日、服を買ってあげたのだって多少の無理もあった。

 

「多分、あの()もそれには気付いてる」

 

「随分と敏い子なんだな」

 

今後、女性の為に少女は自分を犠牲にして生きていこうとするのではないか?

そんな心配が彼女の中に渦巻いていた。

 

多分、こんな心配を口に出したのは初めてだ。

あの()達の為にも常に明るく振舞っていた。

無理に取り繕っていた時もあったが、本心の方が多かったのは間違いない。

 

「せめて、あの()達の将来の夢を見付けて追い続けられるようにしてあげたい」

 

こんな風に誰かに話すだなんて事もしてこなかった。

今が初めてなのだ。

話している内に漠然としていた不安を喋ってしまう。

既に感情のダムは決壊してしまい、言葉は湯水のように溢れてしまう。

 

「もしも本当の母親じゃない私の事が足枷になって、将来の夢を叶えられないようになったらどうしようかって考えちゃってね」

 

こういう時、どうしたら良いのか分からない。

ベックマンも適切な答えを持っている訳ではない。

 

ベックマン達は海賊だ。

最終決定権はシャンクスに委ねられるだろう。

だが、ウタが〝海賊〟である以上、このまま船に乗っていれば付けられる異名には〝悪名〟の意味が込められてしまう。

 

彼女は〝世界の歌姫〟を目指している。

けれど、その夢は赤髪海賊団に所属している以上はいつかは足枷となる。

しかし、今更ウタと別れる想像だって出来ない。

 

きっと、女性の方も根っこは同じなのだ。

言葉を選ばずに言うなら「貧乏」である事が全ての元凶となりえる。

下手をすると、少女の将来を取り上げる形で育てているのではないかと考えているのだろう。

 

2人共、適切な言葉が出ずに沈黙が訪れてしまい――――

 

 

 

 

 

「バカだなー、そんな訳ねえじゃん」

 

 

 

 

 

こちらの沈黙をぶっ飛ばす発言が横から放り投げられた。

気付けばこちらまで来ていた少年。

 

彼の放った言葉の意味を上手く理解できなかった。

その間に少年はこちらへ駆け寄る。

 

「あのよー、あいつが何やりたいのか聞いたのか?」

 

「えっと、知ってはいるけれど……」

 

少女は将来、自分の目で見た〝世界地図〟を描きたいと語っていた。

それには島を離れる事になる訳で、お金だって掛かるだろう。

無論、自分にもできる事はするつもりだ。

けれど、何処までいっても裕福ではない事が足枷となる。

船に乗る為のお金を少女は母親と姉の為に使う事だって十二分に考えられる。

 

「おれもさ、将来は〝海賊〟になりたいんだ」

 

「海賊ぅ?」

 

横に居るだろう元凶へ視線を送る。

居た堪れないらしい男は明後日の方向を向いていた。

けれど、少年の言葉は止まらない。

 

「でもさ、何をしたいとか、どうしたらいいか分からないからとにかく特訓してるんだ」

 

元海兵の前で「海賊になりたい」と言い出す少年。

女性の素性を知らないのだから無理ない話なのだが。

 

「でさ、その話を村長にしたら怒られるんだ」

 

「そりゃ、そうよ」

 

誰が好き好んで海賊にさせたがるのか?

けれど、少年は言葉を続ける。

 

「でもさ、おれはやっぱり海賊になりたいから特訓するんだ」

 

「うん……うん?」

 

聞き間違いかとも思ったが、少年はそれでも海賊になる事を諦めるつもりは毛頭ないようだ。

正直、頭がパニックになりそうになる。

つまり何が言いたいのかという話だ。

 

「つまり、将来なりたい自分を決めたらその為に諦めずに突き進むって言いたいのか?」

 

「おう、そうだ」

 

ベックマンが少年の言葉を通訳する。

女性としてはベックマンの言葉の方がしっくりきた。

 

「あの()は将来の夢を叶えるつもりでいる?」

 

「そうだと思うぞ。さっき、あいつは楽しそうに地図を描くとか言ってたからな」

 

どうやら、思っていたよりもあの()は見ず知らずの2人と仲良くなったようだ。

少年が今の「海賊になる」と言ったらあの()も「そんなの止めた方が良い」と言い出したようだ。

一緒に居る少女も「世界中に私の歌を届ける歌姫になる」と語った。

流れで娘も自分の夢も語ったのだと。

 

「まあ、心配しなくてもおれが海賊やる時に一緒に連れてくから地図を作れると思うぞ」

 

「そこに関しては止めるけどね」

 

「え~、良いじゃねえか!!」

 

「今後、助けられるような事でもあれば考えとくさ」

 

自分の娘も連れて行く前提になっているのは如何なものか。

それに少年にもできるなら海賊にはなって欲しくはない。

けれど、この少年は自分の決めた事は曲げなさそうだ。

多分、ずっと先の未来で海賊になっていそうでならない。

 

まあ、でも――――

 

「ありがとう。今度、話してみる」

 

「何か分からんけど、どういたしまして。あいつも母ちゃんの事は好きみたいだし、何とかなったなら良かった」

 

ししし――少年はそう笑う。

爆弾発言も飛び出した気がしたが、それは娘から直接聞きたいので聞かなかった事にしておく。

 

「ちょっと、店員さんがまだ来ないんだけど?」

 

「何を話し込んでるの?」

 

「わりぃ、忘れてた」

 

少年はどうやら店員を呼びに来たようだ。

それを忘れていて、少女2人に怒られる。

尻に敷かれている様子を見て、先程に振り回していた少年とは別人に見える。

 

思わず、女性はクスリと笑う。

 

「何か、違和感もあったんだがな。何だ?」

 

隣に座るベックマンは少年の発言の違和感を抱いていた。

 

 

 

 

 

 

 

休憩を終え、自分はまた少年の言う「冒険」に付き合わされた。

しかし、少年の行きたいところばかりではない。

 

どんな出店が見たいか、自分にも聞いてくれた。

共に居る少女が「他のところも見るのも冒険になるから行こう」と言うと、少年も「そうなのか」と純粋に信用して他を回り始めたのも理由だが。

 

装飾品を並べているものも点々としてあったので、そちらへ足を運ぶ。

やはり年頃の女の子だけあり、おしゃれにも気を配るようになったのだ。

 

あとは自分は本を読む。

地図の勉強もあって本を読む習慣が付いた。

その中で恋愛小説なんかも読み始めたのもある。

どうやら少女も同じようで、その話題でより仲を深め、盛り上がる。

特に男性が想い人へプロポーズの為に行った指輪をはめるシーンはドキドキしたものだ。

その行為の意味も書かれていたので、読んでいるこっちが恥ずかしくなった――等々。

 

話が脱線した。

屋台を見回るも、目を引くようなものは無い。

そもそも祭りで使えるお小遣いが殆ど残っていないのもあるが。

 

「ねえ、最後はあれにしない?」

 

そんな中、少女が真正面に「くじ引き」の看板の書かれた出店のテントを指差す。

天井を通ってぶら下がっている紐を引っ張り、奥に置かれた箱から景品が出てくる仕組みだ。

あまり大きくは無い箱なので、子ども向けといったものに見える。

料金も安いので残り僅かなお小遣いの使い道もない。

せっかくなら――と、少女の提案に乗る事にした。

 

少年の方はどういうものなのか理解していなかったようだが、自分が「何が当たるか分からないドキドキを味わえる店よ」と教えてあげると目を輝かせて「面白そうだ」と乗ってきた。

段々と少年の扱い方が短時間で分かってきてしまった。

 

「いらっしゃい」

 

笑顔で出迎えてくれる初老の男性。

その人にお金を渡し、順番に引いていく。

 

まず少女がくじを引く。

当てたのはオンプのキーホルダーだった。

 

次に自分が引く。

当たったのは手のひらサイズのみかんの玩具だった。

 

次は少年の番になったのだが――――

 

「なあ、あれも引いて良いのか?」

 

等と言い出し、指差したのは箱から少しだけ出ている短い紐だった。

 

「ありゃ、これはすまない」

 

どうやら男性の不手際であったようだ。

今の今まで指摘されるまで気付かなかったようだ。

 

「あれが良いなら取ってやろう」

 

「いや、良いよ。自分で取るから」

 

初老の男性が言うが、少年は「自分で取る」と言い出した。

何を言い出すのか?

ここからあの箱まで距離がある。

大人だって手を伸ばしたところで届かないのは明らかだった。

 

少年が言い出した意味を理解できないまま、彼は「ししし」と笑うと腕を高々と振り上げた。

 

「待て――」

 

ベックマンという男性は瞬時に理解したようだが、時既に遅かった。

 

その瞬間、自分と母、ついでに初老の男性も何が起きたのか理解できなかったに違いなかった。

少年が腕を突き出したかと思えば、その腕が箱の方にまで"伸びたのだ"。

 

目の錯覚ではない。

伸ばされた腕は紐を取ろうとして――――その勢いのまま、箱を倒してしまった。

勢いは然程でもないが、倒れた箱の中に入っていた景品が散らばってしまう。

 

「こら!!」

 

「いてぇっ!?」

 

少年にベックマンからの拳骨が落とされる。

一瞬、彼の手が黒くなった気もしたが……今は肌色なので気のせいだろうか?

 

「あ、あれ? 何で痛いんだ!?」

 

「そんな事よりも!! 考え無しに行動するな!! 人様に迷惑を掛けたなら言う事があるだろ!!」

 

少年は何かに疑問を抱いたようだが、そんな事よりもするべき事があると告げる。

それには少年の方も同意しているようで「う、うん」と頷いていた。

 

「おっちゃん、ごめんなさい」

 

「すまない店主」

 

「いやいや気にしないでくれ。どのみちもう景品も無くなってきたから片付けるところだったから」

 

初老の男性は笑顔で言ってくれる。

ベックマンは「ありがとう」と今度は感謝の言葉を告げる。

 

「ほれ、少年の景品はこれだ」

 

そう言って渡されたのは玩具の指輪だ。

プラスチックの材質だろう物が2つあり、それぞれ桃とオレンジの2色がある。

 

「何だ。指輪か」

 

「文句言うな」

 

少年は不満そうに言うが、彼が迷惑を掛けた事には違いない。

ベックマンは少年へ釘を刺す。

 

「この指輪は不思議な物でな。かなり頑丈な造りになってる」

 

「そうなのか」

 

興味を持ったのは意外にもベックマンだった。

こういった玩具にしては随分と珍しい。

 

「おれは別に要らねえしな~」

 

「まあ、こういうのは女の子の領分みたいなところがあるからな」

 

少年としても玩具の指輪を渡されても困るだろう。

ベックマンが言っている「領分」とやらを少年も理解は出来ていないようだが、感覚でキャッチしている。

考え込んでいる少年はこちらと少女を見て「そうだ」と何か思い付いたようだ。

 

「これ要らねえから2人にやるよ」

 

「良いの?」

 

「おう」

 

少年へ問うと、満足気に頷いていた。

深い意味がある――――という訳ではないだろう。

ただ本能的にこれを渡そうと考えただけに見える。

 

「せっかくだからはめてやるよ」

 

言いながら自分の左手を取ると薬指へオレンジ色の指輪をはめ込んだ。

次に共に来ていた少女の左手も同様に取ると、桃色の指輪を同じく薬指へはめ込む。

 

「ほぉ~、一丁前に凄い事をするもんだな」

 

「何がだ?」

 

「自覚無しってのが、何とも罪なもんだね」

 

少年の行動にベックマンが驚き、母も微笑ましそうに様子を見ていた。

しかし、少年は自分の行動の意味を理解出来ていないので首を傾げるばかり。

 

自分と少女も2人の反応が分からなかった――最初は。

そして、2人は先程に盛り上がっていた恋愛小説のプロポーズシーンを思い出す。

それを思い出した2人の表情は真っ赤になる。

頭から湯気が出ているのではと錯覚する程だ。

 

「まあ、おれが2人にあげたいって思ったからな。受け取ってくれよ。ベックマンが指輪を女にこう渡してるのを聞いたし、ヤソップからも女に指輪を渡す時の作法だって聞いてるから。こうするのが一番だと思ったんだ」

 

「なるほど、おれとヤソップの話を――――待て、おれの情報の出処は何処だ?」

 

あどけない笑顔で言うものだから自分と少女は何も言えない。

ここで「要らない」と突っ撥ねるのは気が引けた。

結局、押し切られる形でこれを持つ事に。

 

元凶たるベックマンは少年に話の出処を聞き出そうとしている。

その横で女性が「何を教えてるんだか」と額に手を当てていた。

 

唯一、何も知らない少年だけは無邪気に笑っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間が過ぎるのもあっという間だった。

そう、何だかんだ来れなかった姉の分も間違いなく自分は楽しんだ。

この楽しさを目一杯伝えようと思う。

教えてくれた少年には感謝だ。

 

そうだ。少年と言えば気になる事がある。

 

「ねえ、さっきの腕が伸びたのって?」

 

「ああ、おれはゴムゴムの実を食ったゴム人間なんだ」

 

「それって、もしかして悪魔の実を食べちまったって事なのかい?」

 

「そうだ。良く分かったな」

 

少年の言った事を理解できていないのはどうやら自分だけらしい。

悪魔の実は聞いた事がある。

所詮は噂と思っていたのだが、どうやら違うらしい。

でなければ少年が腕を伸ばすところを見間違うとは思えなかったから。

 

「それは、大変だったんじゃない?」

 

「いやー、おれもこんな事になるとは思って無かったからビックリしたよ」

 

はっはっはっ!! 白い歯を見せながら少年は告げる。

底抜けに明るい少年の様相に心配した自分は何か間違えたのかと勘違いした。

 

「カナヅチにはなっちまったけど、おれは元々泳げなかったし。それに海に落ちなきゃ良いだけの話だしな。あと身体が勝手に伸びるのも驚くけど、遠くのものを取れるとか考えると良いもんだぞ」

 

少年は自分の身に起きた不便を指折り数える。

けれど、その分だけ良くなった内容も数えていく。

 

「どうして――――」

 

「ん?」

 

「どうして、そんなに前向きなの? そんなに悩まないの?」

 

少年に対して疑問をぶつける。

姉と来れなかった事だけでもこんなにクヨクヨしていた自分とは正反対だ。

自分と年は変わらない筈なのに、どうしてそこまで前向きに物事を考えられる?

 

少年は自分の言葉を受けて――――

 

「おれだって悩まないわけじゃないぞ」

 

心外だとばかりに少年は言う。

 

「ゴム人間になって悩む事もあったけど、色んな良いことも見付けられたんだ。なら、きっと色んな事が何とかなるって思えるんだ」

 

付き添いの少女やベックマンも驚きの表情を見せる。

きっと、この少年の変化は2人も分からない事なのだ。

何かが起こり、少年はこういう考え方をするようになった。

 

一見すると何も考えてないようにも見える。

だけど、その実はある意味で核心を突いていると言える。

 

何とかなる――――時には人としても必要になる場面のある考え方だ。

 

「何とかならなかったら?」

 

「そりゃあ、どうにか出来ないか誰かに聞くのが一番だろ?」

 

「それでもどうにもならなかったら?」

 

「そりゃあ、別の誰かに聞くのが一番だろ? それで何か自分に出来る事が見付かるかもしれねェしな」

 

1人で出来る事には限界がある。

少年はまたも核心を突く発言をする。

 

「もし何か困った事があったらよ、おれが海賊やる時に一緒に〝冒険〟しよう!! 困った事があったら一緒に考えたら何とかなるって!!」

 

「海賊になるかは考えさせて」

 

「え〜、良いじゃねえか!!」

 

「今後、助けられるような事があったら考えるわ」

 

「お前も母ちゃんと同じ事を言うんだなー」

 

仲が良いんだな――――少年は最後に付け足す。

 

「え? それって――」

 

「あっ!! そろそろ帰る時間だ!!」

 

そう叫んだのは女性だった。

 

「そうか。そしたらまた会おうな」

 

「私も。また何処かで会おう」

 

「ええ、またいつか、何処かで」

 

少年と少女と、再会を誓う。

あちらもあちらで誰かと落ち合う約束があったらしく、ベックマンが2人を連れて去っていく。

 

「そういえば、あの子達の名前は? 自分も名乗った?」

 

「…………あっ、聞き忘れた。それにこっちも名乗ってない」

 

母に問われるも、そういえば名前を聞いてなかったと気付く。

更には再会を約束したのに自分の名も教えていない。

 

「でも、何だかまた会える気がするわ」

 

「そうだね。一緒に居た女の子と一緒にゴムの少年に唾付けられちゃったしね」

 

「っ!? い、いや!! きっと、そういうのじゃ、ないわ」

 

「まあ、深い意味は無さそうなのは同意しておくわ」

 

女性としても少年の行動にはそこまで深い意味がない事には気が付いているようで。

 

「ところで、あの子に最初に冒険へ連れられる前に“本当はどう思ったんだい?”」

 

自分は少年を「食い意地が張ってる」と告げた。

けれど、そう応えるのに多少の間があった事を女性は見逃さなかった。

どうせ彼はもう居ないのだし、素直に答えてしまおう。

 

「何というか、底抜けに明るくて――――太陽みたいだなって」

 

「なるほど、太陽か。あの明るさなら納得するよ」

 

自分の例えに女性も理解を示す。

本当に彼の明るさはそう思えてしまう程に輝いていた。

 

「さてノジコが待ってるわ。帰りましょう、ナミ」

 

「うん。ベルメールさん」

 

ナミとベルメール――――血の繋がりは無くとも、それ以上の絆で結ばれた家族が手を繋いで船へ乗る。

もう1人の大切な家族が待つ村へ帰る為に。




如何でしたでしょうか?

女性はベルメールさん、少女はナミでした。
場転があってちょっと分かりづらくなりましたが、ナミ→ベルメールさん→残りはナミを中心とした三人称になっています。
本当は一人称の方が早かったんですが、ナミの方で子どもとは思えないような事を言っていたのでボツにしました。

この作品のルフィはプレイボーイ的な事をしていますが作中でも述べた通りに無自覚です。
原因はベックマンとヤソップです。
彼は唯一の既婚者であるので、男女の事はよく知っているでしょう。
ベックマンのプレイボーイ設定が映画の特典で明かされたので、そういう事をしている事に(ごめんよ)
ちなみに彼が女性に対してキザな事をしている事を吹き込んだのはヤソップです。
酔っ払った拍子に彼はルフィに教えました。

アニメでルフィとウソップの出会ってヤソップの回想で酔っ払っていた彼が持っていたビールジョッキをルフィの頭にはめ込んだシーンを思い出し、酔っ払った彼ならやりかねなさそうだなと思って。

あと指輪は本当にただの壊れにくい玩具です。
カラーリングに関してもフィーリングで選んでます。
ナミはみかんと髪の色から。
ウタは髪の色を混ぜたものと、最近明かされたプロフにて「かわいいもの好き」とあったので、かわいい色の代名詞で選びました。

今回、ベックマンに2人のお守りを頼んだ理由はベルメールさんとの会話をさせたかったから。
正確にはシャンクス以外の船員がウタを「大切に思っている」描写が欲しくて、副船長の彼を利用しました。
アニメや映画を観ていても大切に想っているのは明らかなんですが、まだこの頃の彼等って30前位だった筈で、色々な葛藤も抱いていたと思いましたので。

映画でウタの事を知らない面子も居ましたが、見ず知らずの彼女の為に身体を張れたのもシャンクスやベックマンの人徳があっての事だなと思い、似たような関係であるベルメールとナミを絡ませたかった。

裏話で本当はベルメールの代わりにはっちんを出そうとも考えたのですが、どうしても時間的に異なるので取り止めました。
シャンクス達はフーシャ村を拠点に1年と少しなので、その翌年までベルメールさんは存命ですし、ナミとウタは拾われた点、ベックマンとベルメールもそれぞれの家族代わりという点も似ていたのもあって絡ませて書きたくなったので逆に良かったと思っています。



それと、話は唐突に変わりますが作者は元々ルナミのCPが好きでなんですよ、今も好きなんですが。
しかし、ルフィと他の女性キャラとのカプ、特に有名処だとルビビやルハンといったものも好きですし、何より今回の映画でルウタも好きになりましたし、と優柔不断な作者でございます。
ですが、この作品のタグには特定のCPを入れておらず、ハーレムは入っているという事は…………まあ、ハーレムパターンにするのが本当に高いです。

仕方ないじゃないか!! だって、他のカプ(主にルフィ絡みのもの)も好きなんだもの!!

一部例外(ウソカヤとか)はもちろんありますが、基本はルフィと女性キャラがメインの予定でございます。

しかし、問題はルフィさん本人。
果たして、そのような展開を起こせるのだろうか?
実際、LIKEとLOVEが混ざってそうな気もしますが。




さて、あとがきで凄くはしゃいでしまいました。
長々と申し訳無かったです。
なにジアへの出航までにあと2話を使う予定です。
いましばらくのお待ちを。

今回はこの辺りで。
では、また次回に。


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その出会いは偶然か、運命か③

日間ランキングの作品から読む作品を探していたらこの作品もランキングに入っていたのを見て驚きました。
読者の皆さんには感謝しかありません。
ありがとうございます。

その嬉しさのあまり連日投稿ができてしまいました。
本当は明日のつもりだったんですが、勢いとは凄いものです。

では続きをどうぞ。


初のルフィを連れての航海。

それは近場だった事もあり、何事もなくフーシャ村への帰還を果たす事になった。

出会った少女の名前を聞きそびれた事と、教えるのを忘れていた事を後悔するだけだ。

 

しかし、ルフィを連れ立っての航海を基本的にはシャンクスも毎回は快諾しない。

それはそうだ。

 

彼が子どもなのもあるし、何より今回は近場だったから運が良かっただけの事だ。

なので、ルフィに「ケチ!!」と言われるのも慣れたもの。

 

その度にウタが「もう、困らせるんじゃないの」とルフィへ一言告げるのも日課となってた。

ただ、その後に「何処でも良いから、乗せてあげたら?」と言うようにもなっていた。

 

これまではそのような事は言わなかったウタに疑問を抱くようになったのは自然の事。

全てはあの一度の航海以降に起きた出来事でもあった。

 

娘に何の心情の変化があったのか問い質してみた。

 

「な、何にもないわよ」

 

明らかに動揺しており、更には頬を赤くして返答する。

これで何も無かった訳がないと気付くのは簡単だった。

故に同行していたベックマンに事の真相を問い質す。

 

「祭りで仲良くなった女の子が居ましてね。その子と一緒にルフィからプレゼントを貰ったのが嬉しかったんじゃないですか?」

 

彼からの返答はそうであった。

ならば今度はルフィへ問い質すと、良い笑顔でこう返した。

 

「要らない景品を当てたからあげただけだ。あと〝冒険〟をしたんだ」

 

彼の反応もまたシャンクスの知りたかった内容ではあった。

けれど、それだけでは腑に落ちない点もあったのは確か。

 

目に見える変化はウタが首からペンダント代わりに下げている桃色の指輪の玩具だ。

首から下げられるように紐を渡してやると、大事そうにペンダントにしたのだが――よもや、まさかの行動をルフィが取ったのではないかと勘繰る。

しかし、ルフィは残念ながらお子様なのでそれはないと判断を降す。

なので、また振り出しに戻ってしまう。

 

こんな事ならベックマンに押し付けるんじゃ無かったと後悔する。

 

しかも、そのベックマンも最近は「何処か近いところなら連れてってやったらどうだい?」と言い出す始末だ。

はてさてどうしたものかと考えていた。

 

ただ考えていても良い考えは浮かばなかった。

なので酒を飲もうといつものバーへ寄ったのだ。

 

「いらっしゃい船長さん」

 

「やあ。いつものを貰えるかい?」

 

このお店は意外と色んな種類のお酒を置いてある。

少し離れた西の海(ウエストブルー)のお酒まで。

シャンクスもこのお酒は飲みなれているので、このお店で飲めるとは思わなかった。

どんな銘酒を飲んだとしても、肌に馴染んだこの味は忘れられず、一番の味だという自負があった。

 

「ごめんなさい。今西の海(ウエストブルー)のお酒は切らしてしまっているの。最低でも一週間は入ってこないの」

 

「そうだったのかい」

 

自分達の船にもストックは殆ど無い。

故にシャンクスはどうしたものかと思案する。

 

「おーい、シャンクス!! また航海に連れてってくれよ」

 

考えている間にいつの間にか隣へ座っていたルフィから声が掛かる。

あのな、ルフィ――――そう切り出して彼の願いを断ろうとして躊躇った。

もしも、あの2人にそうまで言わせる「何か」がルフィにあったのだとしたら――――

 

「よし、良いだろう。連れてってやる」

 

「本当か!? やったー!!」

 

両腕を大きく上げて喜ぶルフィ。

その姿を見てシャンクスは「けれど、条件がある」と言った。

 

「もし、危険があったら引き返すぞ」

 

これはルフィの安全を考慮しての事でもある。

そうでなければ、彼を連れていく事は避けたい。

本当ならウタとベックマンの言葉が無ければ絶対に断っていた。

 

「おう!!」

 

ルフィは笑顔で言うのであった。

敵船との戦闘が起こった場合には問答無用で帰る事を告げているのだが、理解しているのか不安も残る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、シャンクスはルフィを約束通りに航海へ連れ出してやった。

今回の目的は西の海(ウエストブルー)産のお酒の入手だ。

フーシャ村を拠点にしているので、西の海(ウエストブルー)まで行く事は難しい。

 

赤い土の大陸(レッドライン)〟と呼ばれる世界を縦断する大陸と、それに対して垂直に世界を一周する航路〝偉大なる航路(グランドライン)〟によって4つの海に分かれている。

偉大なる航路(グランドライン)は〝凪の帯(カームベルト)〟という風が吹かない地帯に囲われている。

その偉大なる航路(グランドライン)赤い土の大陸(レッドライン)によって東西南北に区切られており、それぞれの海の名称となっている。

 

話を戻そう。

ならば西の海(ウエストブルー)へ戻るのが一番なのだろうが、フーシャ村から行くには実に遠い。

それに物理的な意味でも大きい大陸である赤い土の大陸(レッドライン)が邪魔をして辿り着く事は難しい。

 

よって、出来るだけ様々な物資が集まる島を目指している。

そこまでして飲みなれた酒を飲みたいという気持ちの方が勝った。

 

航海の途中、ウタの歌を聴いている内に眠くなり、眠ってしまったルフィが目を覚ました時には既に到着していた。

どのようにして来たのか、本当に覚えていない。

少なくとも眠っている間に危険は何も起こらなかったようで、引き返さずに済んだ事を知って先に安堵の気持ちの方が勝った。

 

けれど、前回とも異なる島への到着はそれだけでルフィの好奇心を引き出すのに十分だった。

港への到着と同時にルフィはダッシュで船を降りる。

 

「うおおおおおおおおっ!!」

 

知らない島へ来る事にルフィの〝冒険〟への意欲は更に高まる。

 

「全く、そんなに慌てるなよルフィ」

 

「だってよ、興奮するなってのが無理な話だ」

 

ルフィは目を輝かせる。

前回と同様、いやもしかするとそれ以上の興奮なのかもしれない。

 

「それじゃあ、お頭。おれ達は近くの酒場を当たってみます」

 

「ああ、ウタの事も頼む」

 

今回、ウタの事はベックマンに任せてある。

ルフィはシャンクスと行動する事に。

最初はウタもそれには反対したが、シャンクスに何度も頭を下げられた事で折れたようだ。

 

「よし、おれ達も行くとするか」

 

「おう!!」

 

という訳で、目的の為に歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん、何処にも無いってのは珍しいな」

 

街の酒場を訊ねまくる。

既に訊ねた店は十件を回り始めている。

なのに空振りが続いてばかりというのは非常に珍しい展開だ。

 

「すまん、ルフィ。トイレに行ってくるから少し待っててくれ」

 

「おう」

 

店を出たところでそう告げ、シャンクスは店内へ戻る。

その間、ルフィは外で待つ事になる。

しかし、街の端にまで来てしまっている。

こちらにも店はあるのだが、あるのはこの酒屋と隣の服屋。

それに両方の店の外装は古く、その両方の店がこの先に進めないように壁となっている。

左右には既に閉店しただろう店がシャッターを閉めて錆びれた状態で放置されている。

この外装と雰囲気故か、人はこちらまで来ない。

 

「つまんねえな」

 

「つまらん」

 

そう独り言を呟くと、隣から全く同意見のものが飛び出した。

隣には長い黒髪の女性が居る。

身長もルフィより高く、自分より年上である事が分かる。

身近な人物で言うならマキノ位の身長はあるだろうか?

更には美人だ。

 

「誰じゃ?」

 

「おれはルフィ」

 

「ふん。わらわの名は男には教えんぞ、知ろうとするなどおこがましい行為じゃ」

 

「オコガマシイ? 何だか難しい言葉を使うんだな」

 

「学のない者と話すのは疲れる。ましてや男ともなれば、の」

 

この女性はルフィとまともに話をするつもりがあるのか疑問を抱く。

正直、彼女が何を言っているのかサッパリなルフィは逆にこの女性に俄然興味が出てきた。

 

「男ともなれば話す事は無い。何処かへ行くが良い」

 

「おれもここで待ってるよう言われてるからな。勝手には行けねえ」

 

「ふん。ならば、その者が来るまで動かないでいて貰おうか」

 

この美人さんはそう切り出したかと思えば、手でハートマークを作ってルフィへ向ける。

 

「メロメロ甘風(メロウ)

 

「うおっ!?」

 

その手からハート型の光線が放たれてルフィに当たる――――が、何も起こらない。

これにはルフィも、女性も首を傾げる。

 

「何故石化しない? まさか、わらわの魅力が効かないっ!?」

 

女性はあまりの現状に驚いている。

当のルフィはと言えば、女性の行動に「すげェ!!」と目を輝かせていた。

 

「なあ!! 今のって何だ? ビームなのか!?」

 

「に、似たようなものだ」

 

「すげェ!! なあなあ!! それってどうやるんだ?」

 

ルフィのあまりの勢いにたじろいでしまう。

それだけルフィにとっても意外過ぎるものだったのだろう。

女性もまたルフィの事を意外そうに見ていた。

どういった意味が込められているのかは不明ではあるが。

 

「ふん!! 男に教えてやる義理は無いわ!!」

 

「え~。でも、そうならそれは仕方ねえな」

 

女性が教えないというとルフィはがっかりした様子を見せるも、納得をしたようではあった。

 

「変なやつじゃの」

 

「そうか? ところでよ、ここで何をしてるんだ? そっちも誰かを待ってるのか?」

 

「ああ、その通りじゃ」

 

ルフィの問いかけに、彼の顔を見ずにぶっきらぼうながら答える。

返事をきちんとしてくれるだけマシなのかもしれない。

 

「店に居るのが退屈になったから外に出たんだな」

 

「知ったような口を聞くでない」

 

「ふーん。ところで男がどうのこうの言ってるけど、もしかして男は嫌いなのか?」

 

「…………男は嫌いじゃ」

 

ルフィの矢継ぎ早の問い掛けに女性はペースを乱されていると理解しつつ、彼の疑問に答える。

正直な答えを伝えられたルフィは「どうしてだ?」と口にしようとして、止まった。

 

『誰にも過去を知られとうない!!』

『例え国中を欺こうとも、わらわ達は一切の隙も見せぬ!!』

『もう、誰からも支配されとうない!!』

 

瞬間、オレンジ髪の少女の時と同じように知らない光景が脳裏に描かれた。

 

涙を流しながらの独白、これをしたのは目の前の女性と似ていた。

どうしてなのか、正確な理由は分からない。

けれど、もしそれを望むなのだとしたら――――

 

「そうか、嫌いなら仕方ねえな」

 

聞かないと言う選択肢を取る。

 

「仕方無いで済ませるのか?」

 

「だってよ。おれもまずい飯は嫌いだしさ」

 

「そんなものと同列で語るでない」

 

女性としては比較対象からして最悪だったようだ。

彼女にとって「男が嫌い」はそれだけ大きな意味を持つのだろう。

それは彼女の根っこの部分。

ルフィにはどうする事も出来やしない。

 

「でもよ、もしかしたら変わるかもしれねぇだろ?」

 

「変わる? よもや、好きになるかもしれないという意味ではあるまいな?」

 

「おっ、良く分かったな」

 

女性はルフィの言いたい事を先回りした。

その事に感心している。

 

「まあ、好きまでいかなくても嫌いまでにはならないかもしれねぇだろ?」

 

「嫌いまでにはならない、か――――分からんでもない気がする」

 

ルフィの一言を女性は噛み締めながら同意する。

これもまた、彼女にとって一考の余地のあるものだったのだろう。

 

「男で、それも子どもでありながら良い事を言う。そなたなかなかやるではないか」

 

「そうか?」

 

「普通なら話し掛けるのも嫌気が差すが――――そうならなかった理由が分かった」

 

ルフィと……より正確には男性と会話する自体が珍しいとの事だ。

女性の言っている事もぼんやりとしか理解できていない。

けれど何となく、先程まであった棘が多少は和らいだ気がした。

 

「深くは聞かぬその度量のおかげじゃ。もし聞けば、その首を刎ねるところじゃった」

 

「うーん、聞かなかったのは何となくだ」

 

本能に従ったという意味ではルフィの発言は何も間違っていない。

 

「そなた、子どもの男でありながら面白いのう」

 

「そうか?」

 

「ああ。男への見方は変わらんかもしれん――――だが、そなたのような男も居るのだと分かっただけで一考はしよう。教えてくれた事、褒めてやろう」

 

女性の言っている事は残念ながらルフィには最後の言葉以外は難しすぎた。

故に最後だけ切り取って「ありがとう」と明るく返した。

 

「おーい、ルフィ〜。目当ての酒が丁度入荷したんだ。ちょっと来てくれ〜」

 

「何だ、あったのか」

 

ルフィを呼ぶシャンクスの声。

どうやらタイミング良く目当ての酒が入荷したらしい。

 

「シャンクスが呼んでるから、おれ行くよ。また会おうな!!」

 

「ああ。達者でな」

 

ルフィは店内へと駆けていく。

それとすれ違うように女性の連れだろう面々も店内から出てきた。

 

「姉様、お待たせしました」

 

「何か成されていたのですか?」

 

「ソニア、マリー」

 

女性を姉と呼んで慕う女性が2人。

これまたどちらも世の女性も羨むプロポーションの持ち主である。

それぞれソニア、マリーと名を呼ばれる。

 

「少しな、面白いやつと話をした」

 

「世界の広さに感心したようじゃニョ」

 

とても特徴的な語尾を付けた小柄な老婆が店から出てくる。

 

「そんな訳が無い――――と言いたい所だが、この世の男はどうしようもないやつらばかりだと思っていたが…………なかなかどうして、骨の有りそうな男が居る事を知った。まだ子どもだったがな」

 

「ひょっ!?」

 

女性の反応に老婆は得体の知れないものを見たかのように驚いていた。

それだけの事態だ。

 

「我儘の塊が、あれだけ男を嫌っとったのが、どうした事か!?」

 

「ふん。わらわの眼鏡に適う男が恩人以外にも居っただけの事よ」

 

行くぞ――――女性はこの場にはもう用は無いとばかりに彼女を慕うソニアとマリーを連れて行く。

 

「次期皇帝の自覚を持って貰おうというつもりで少し遠出をしただけのつもりじゃったが、思わぬ収穫があったようじゃニャ」

 

数分目を離していた間に彼女の心境にどのような心変わりがあったのか、驚くばかりだ。

 

「何か、とてつもない大きな〝運命〟でも動き出したか――――この分なら近い内に皇帝ともなるあやつをハンコックと呼び捨てる事は出来ぬ事になりそうじゃニョ」

 

そう呟きつつ、老婆はハンコックと呼んだ女性の跡を追い掛けるのだった。




如何でしたでしょうか?

シャンクスがルフィを連れていく理由は何ともあれでしたが許して下さい。

前回の指輪は早速ネックレスの形でウタが身に着けております。
ナミの方も同じかもしれませんね。

西の海の酒の一件は白ひげと話し合いに行った時に「故郷の酒は美味い」と発言していたので、どうしても飲みたくなれば我慢できずに買いに行くかなと思いました。

この頃は遠出はできないのでグランドライン前半の島のイメージです。


そして、ハンコックの登場です。
正直、彼女なら子どもでもルフィと会話をする気にならないと思ってしまうのですが、彼の独特な雰囲気に調子を狂わされたという事で。
何だかんだ、ルフィに自分の能力が通用しなかった事には驚いています。

基本、彼女の容姿で能力が通用しない相手は居ないでしょうから。
子どもの頃でもルフィには「冒険>女性」でしょうから。
彼女の能力のビームのようなものにも興奮しそうだなと思いました。

ルフィとの会話は短かったですが、彼との会話で何かしらの変化はあったとは思います。
彼女自身、気付いていないとは思いますが。

さて、今回はこの辺りで。
次回も早めにお届け出来ると思います。

その後に少しの間を空けてから音楽の島編の更新に入ろうと考えています。

では、また次回に。


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その出会いは偶然か、運命か④

連日投稿となります。

実は今回の更新でタグが追加されていたり……

では、続きをどうぞ。


前回の航海の帰りもウタの歌を聞いている内に眠ってしまい、気が付いた時にはフーシャ村の近くだった。

あれから数日が経ち――――

 

「あ~、つまんねえな~」

 

「船長さん達、居ないものね」

 

いつものマキノの店でルフィはカウンター席で退屈そうにしていた。

今、シャンクス達は次の航海の為に準備をしている。

 

そこまで遠くに行くつもりはないのだが、この村では不足している物資があるのも悲しいかな現実だ。

故に1日掛かり、下手をすると2日は掛かるらしい準備の為にこの場を離れているのだが――――

 

「まさか、私まで待たされるとは思わなかった」

 

退屈そうにウタが横で頬杖を付いて告げる。

そう、今回は珍しくウタも村へ置いていった。

と、言うのも今回の物資の補給へ向かう場所は治安が悪い。

 

本来ならシャンクス達と同行するのが一番なのだが、今回はそうもいかない事情があるとか。

ちなみにマキノは理由を聞いており、女の子には刺激の強い場所に向かうとだけ聞いている。

さすがに深くは追及したくない心情も手伝って、マキノも「分かりました」と言ってくれた。

今日1日はマキノの家にウタはお泊りの運びとなっている。

 

「また夢の中に行くのか?」

 

「ウタワールドね。まだ制御できる訳じゃないから、簡単にはいかないけれど」

 

「ふ~ん。そのウタ……なんちゃらは楽しいのか?」

 

「ウタワールド。楽しいわよ。色んな姿にできる位にはなったんだから」

 

「へえ~。じゃあ、おれもカッコいい姿になれるかな?」

 

「ルフィのカッコいいは想像できないから、自分でやってね。そういう事もできるようには練習してるから」

 

「おう!! 楽しみだ」

 

シャンクスは居ないが、同年代の2人というのもあって仲の良い会話が繰り広げられる。

ちょっとばかり内容が“特殊ではあるが”。

まるで姉と弟のような……否、ウタの態度がルフィの初回の航海以降から少しばかり変化している。

その対象はルフィのようだ。

 

何があったのか、話は聞けていない。

ウタは話さないし、ルフィは要領を得ないので分からない。

ベックマンも言葉を濁す。

分かっているのは仲良くなった女の子とウタに玩具の指輪をプレゼントしたとか。

ルフィも天然で凄まじい事をする。

もしや、本能でとんでもない事を仕出かしたのではないかと思っている。

 

証拠にウタはその指輪をペンダントのように紐で吊るして大事そうに持っている。

しかし、それも微笑ましいものとマキノは状況を見守る事にした。

 

そう思っていると、お客が入ってきた。

 

「いらっしゃい……あれ? ガープさん?」

 

「久しぶりじゃの、マキノちゃん。それとルフィ」

 

「げっ!? じ、じいちゃんっ!?」

 

マキノとルフィの名前を呼ぶのは大柄な男性であった。

短く刈り込んだ白髪が混じった短髪に、口周りに髭を蓄えた老人。

左コメカミから左目下にかけて三日月型の縫い傷がある。

さらには海軍特有の背中に「正義」の文字が書き込まれたローブを羽織っている。

 

ルフィの反応から祖父なのは分かる。

しかし、どうにも彼の登場を歓迎しているようには見られない。

 

「この村に〝赤髪〟が来ていると聞いたが?」

 

「はい。ただ、今は留守にしていて。もしかすると帰りは明後日になるかもしれないとも言ってました」

 

「むう。そこまでは居られんな」

 

ルフィの祖父はルフィの隣へ座る。

マキノへ料理を注文し、ルフィへ向き合う――と、孫の隣に座っているウタの存在にようやく気付く。

 

「このお嬢ちゃんはマキノちゃんの娘か?」

 

「私はシャンクスの娘で、〝赤髪海賊団〟の音楽家のウタだよ。将来は歌姫になる予定なの」

 

「ほう。これは御丁寧にわしはルフィの祖父のガープという者じゃ。海軍で中将をしとる。よろしくの」

 

ルフィの祖父改めガープはウタの自己紹介を受けて自分の素性を語り――

 

「え!? ルフィのおじいちゃんって海兵なのっ!?」

 

「あの〝赤髪〟に娘じゃとォっ!?」

 

――――と、両者の反応が大きかった。

それはそうか。

 

片や「海賊になりたい」と息巻くルフィには海兵の祖父、しかも中将という立場はかなり高い。

一方、シャンクスの名前はこの時点でも広まっているのか、その彼の娘が居ると聞いて驚きに目を見開く。

 

ああ、大変な事になりそうだ――これを傍観していたマキノはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。ウタちゃんは歌が上手いの」

 

「へへっ、そうでしょ~」

 

結局のところマキノの心配は杞憂で、ウタはガープと打ち解けていた。

考えてみると、ウタは自分よりも何倍も年齢の高い海賊団の中に居たのだ。

年上受けは良い方だろう。

 

「ガープさんはどうして村に帰ってきたんですか?」

 

「おっと、うっかりしとった」

 

これは失敗と、頭に手を当てて言う。

本来の目的を見失っていたようだ。

 

「"大丈夫だとは思うが"赤髪が悪さを働いていないか確認に来たのが主じゃの」

 

当人とバッティングしなかったのは残念だったと零す。

しかし、ウタの様子、村を見るに問題は無さそうだ。

 

「あと、ルフィを連れて少しばかり出かけようと思っての」

 

「まさか、またジャングルとか? 今度は山にでも連れていくつもりなのか?」

 

とんでもない発言が飛び出した気がしないでもないが――――ルフィの発言など意にも介さずに告げる。

 

「ちょいと、面白そうな催しを見付けての。そこに行くならルフィも連れて行ってやろうかと思ったんじゃ」

 

「モヨオシモノ? それって美味いのか?」

 

「お祭りみたいなものよ」

 

ガープの言っている事柄は何なのかと首を傾げていると、マキノが彼の疑問を補足してくれる。

 

「鞭ばかりでは良くないとセンゴクのやつに言われての。ルフィにも厳しい訓練ばかりじゃったから、たまには褒美代わりに祭りにでも連れてってやろうと思ったんじゃ」

 

センゴクという人物が誰かは分からないが祖父がこのような事を言うのはルフィの人生の中で(まだ6年程だが)初めての出来事だ。

せっかくならとルフィは「行きたい!!」と冒険心に火が付いた。

 

「せっかくじゃ。マキノちゃんやウタちゃんも来るかい?」

 

「ご厚意は嬉しいんですが、お店の事がありますので。ウタちゃんだけでも」

 

「良いの? 私は海賊の娘だよ? 私を人質にしてシャンクス達を捕まえたりしない?」

 

「おう。そこは安心せい!!」

 

ウタの疑念をガープは素晴らしい笑顔で、しかもサムズアップしながら告げる。

その姿、ルフィの祖父なのも手伝って「行く!!」とウタも動向を決意。

 

シャンクスが早く帰ってきたらマキノが説明しておいてくれるとの事だ。

かくして、ルフィとウタはガープの意向で何処かのお祭りへと行く事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガープの船――――と言うか、海軍の船だ。

それで目的の島までの航海へ出た。

 

しかしながら、航海の道中にルフィは悪魔の実の能力者になった事を知られてしまった。

その事で「何をやっとるのか!!」と怒鳴られ、船内で説教を延々と到着まで聞かされる羽目に。

 

それでも気を利かせてくれただろう海兵が呼びに来てくれたので、話はそこで終わる。

その後はウタ、ガープと共に島へ上陸する。

 

「…………じいちゃんに騙された」

 

そして、ルフィはボソリと呟いた。

その表情には不満の色が濃く出ていた。

 

祭りと言うのだから最初の航海の時のような煌びやかなものをイメージしていた。

残念な事にそのイメージを粉砕する真反対の状態にあった。

 

現在、ルフィが居るのは図書館だ。

そう、ガープが言っていた祭りの会場は図書館。

その中では「読書の祭り」と書かれた旗が壁に貼ってある。

本来、図書館ともなれば「静かにする」が鉄則ではあるのだが、この祭りの期間に限って「声出しOK」となっている。

所々で子どもが声を張っているが、お咎め無しなのはそういうルールがあるからだ。

 

ガープとしては「普段は身体を動かしてばかりじゃから、座学も身に付ける為に机に向かうんじゃ」との事だ。

これもセンゴクとやらの入れ知恵らしい。

まだ見ぬセンゴクとやらへ恨みが募る。

しかし、当人が見たら「間違っていないが、そうではないんだ」と頭を抱えそうである事は誰も想像できない事実がある。

 

「へえ、面白い本があるんだね」

 

ウタはと言えばルフィとは対照的に乗り気であった。

オレンジ色の髪の少女と話していたように恋愛小説がブームなのもあり、この静かな祭りにいち早く適応した。

少し待つ位なら何てこと無いが、本格的に何時間もジッとしているのが苦手なルフィには苦行以外の何物でもない。

 

「ルフィも何か探してみろ。2階にカッコいい鎧なんかの図鑑もあった筈じゃ」

 

「さ、探してみる」

 

祖父の意向に逆らえず、ルフィはガープの進言に従って行動する。

2階と言うだけあって、この図書館は実に広い。

祖父が居なければ帰れない事はルフィだって分かっている。

更にはここへ入ってしまうと、最低でも1時間は居なければならないとか。

彼にとっては迷惑千万としか言いようのない展開にげんなりしていた。

けれども出られないならしょうがないと、せっかくならばこの広い図書館を探検しようと気持ちを切り替える。

 

まずは祖父の言っていた本が無いか探してみよう。

カッコいいイラストがあるのならば気になる。

やはり男の子だけあり、その手のものは見てみたい触れてみたいといった気持ちにさせてくれる。

 

「うーん、何処にあるのか分からねえな」

 

「何か探しているの?」

 

この広大な図書館の何処に祖父の本があるのか首を傾げていると、声を掛けられる。

肩に掛かる程の長さの黒髪の女性であった。

先日にあった女性と同じく「美人」の文字が似合う年上の女性。

身長に関してもマキノと同じ位かと考えるのも同じであった。

 

「じいちゃんにこっちにカッコいい鎧とかの絵が載ってる本があるって聞いたから探してるんだ」

 

「それなら…………多分、これね」

 

女性は言うと、ちょうど自分の高さにある本を手に取って渡してくれる。

確かにルフィの求めるカッコいい鎧なんかの載った本だ。

 

「ありがとう!! 良くそこにあるって分かったな!!」

 

「ふふ。どういたしまして。私の探していた本もちょうどここにあったら気付けたの」

 

柔らかな笑顔で女性は言ってくれる。

その女性の手には――見ているだけで知恵熱が出そうな題名の本がある。

 

「何だか、難しそうな本だ」

 

「これ? これは歴史の本よ」

 

こちらの目線に合わせてしゃがみこみ、本を見せてくれる。

歴史の本と女性は言うが、ルフィにはそれの何処が良いのかチンプンカンプンだった。

 

「昔の事なんか勉強して、何か意味あるのか?」

 

「ええ、学べる事は意外と多いのよ」

 

人がどのようにして生きてきたのか、その方法を知る事が彼女にとっては楽しいらしい。

 

「うーん、良く分かんねえや」

 

「あなたは好きな事はある?」

 

「美味い飯を食うこと!!」

 

「なら、それと似たような事をしていると思ってくれれば良いわ」

 

柔和な笑顔と態度でルフィに説明してくれる女性。

彼女の説明は分かりやすく「なるほど!!」とルフィも相槌を打つ。

 

「じゃあ、昔の事を勉強してるのって、いつからだ?」

 

「――――――あなたの年の頃から、よ」

 

「そんな時からなのか!! すっげえ頭が良いんだな!?」

 

ルフィは絵本を読むのも苦労するタイプなのだ。

女性が今の自分の頃から大層勉強熱心だった事を知ると、改めて感心させられ――――――

 

『私の夢には――――敵が多すぎる』

『私も一緒に海へ連れてって!!』

 

ふと、ここ最近に良く起きる脳裏を過ぎる映像。

どちらも同じ女性が映って見えた。

そう、目の前の女性と似ていた。

 

それぞれ、どういう意味を持つのかルフィには分からない。

 

前者は表情は穏やかだが、何処か苦しそうにも、諦めたようにも見える。

けれど、後者はその真逆で必死に生を訴えているようにも見えた。

 

何がどのようにして、彼女にそういった事をさせたのかは分からない。

 

「歴史を調べてるのって、楽しいのか?」

 

「ええ、楽しいわ」

 

詳細なんかは言われてもルフィには理解できない。

故に、単純に女性の感想を言って貰えた方が理解できるのでその回答は彼にとって実に分かりやすいものだった。

 

そして、彼女の探究心が本物である事をルフィは理解した。

これこそが彼女の「やりたい事」なのだと理解するのに難しくなかった。

 

「じゃあ、この本を読むって祭りの事も何か知ってるのか?」

 

「ええ、元々はこの島をどんな事でも良いから有名にしたいが為に試行錯誤する事から始まった出来事よ。

 この島で1人だけ色んな本を読んでいた人が居たの。

 その人が後に作家……本を書く人が世界で有名になってから、次の有名作家を送り出す為に本を読む習慣がそこから行われる事になったのよ」

 

女性は「思っているよりも単純な理由から始まったのよ」と付け加える。

ルフィには話半分も良いところだ。

けれど、分かる事はある。

 

彼女がこんなにも歴史を楽しそうに話している事だ。

それは、ルフィにとって美味しいものを食べる事や〝冒険〟をする事と同じなのだろう。

 

「へェ、歴史ってスゲェんだな」

 

「そうよ。人に歴史ありとも言うわ」

 

「? それってなんだ?」

 

「これまであなたの過ごして来た日々を言い換えると『あなただけの歴史』とも言えるって事なの」

 

「おれだけの歴史――――おおッ!! 何だか良く分からんがカッコいい感じがするぞ!!」

 

そういった考えも出来るとは目から鱗だ。

女性はなるべくルフィにも分かるように言ってくれるので、彼も彼女の話に興味を持つ。

 

「もしかして、その歴史ってやつを調べる為に他のところにも行ってたりするのか?」

 

「…………ええ、色々な所へ。でも、どうしても頭打ち――限界はありそうなの」

 

女性はルフィにも分かるように言葉を言い換えてくれた。

彼女曰く、調べられる範疇には限界があるとのこと。

 

「本で調べるだけじゃダメなのか?」

 

「だからこそ、外を自分で歩くのが一番なのよ」

 

しかし、それさえも彼女を満足させるには不十分なようだ。

 

「だったらよ!! おれと一緒に〝冒険〟しよう!!」

 

「あなたと?」

 

「今すぐってのは無理だけどな!!」

 

だったら、ルフィは彼女を勧誘する。

 

「おれ、海賊になって色んなところを〝冒険〟したいんだ!!」

 

「冒険をするのに海賊になりたいの?」

 

「ああ!!」

 

女性としては〝冒険〟をするのなら別段海賊になる必要性は無いと考える。

なのにルフィは「海賊になる」と言い出した。

 

「知らないところを〝冒険〟するのは楽しいけどさ、もしも着いた島の歴史ってやつが知れたら今みたいに更に楽しくなりそうだしよ!!

 一緒に〝冒険〟して、知ってたらその島の色んな話を聞かせてくれよ!!

 もしかしたら本だけじゃ知らないものもあるかもしれねェから新しい発見もあるかもしれねェぞ!!

 それに『おれだけの歴史』だけじゃなくて『お前の歴史』ってやつが更に楽しい事になるかもしれねェだろ?」

 

ししし――――ルフィはあどけない笑顔で女性へ言う。

女性の方はそんな彼の発言に驚きつつ、その後にはクスリと笑う。

 

「誘ってくれるのは嬉しいけれど、また会えるかどうかは分からないわよ。その時、私は他の何処かの海賊の仲間になっているかもしれないでしょ?」

 

「んん~!! 確かに言われてみると。でも、その時はしょうがない。もし、おれと会った時に何処にも行くところがなかったり、居たくもない場所だったら脱け出して一緒に〝冒険〟しようぜ!!」

 

両腕を上げて、ルフィは女性を精一杯勧誘する。

その事が彼女にとっては嬉しかったのか「ありがとう」と笑みを浮かべてお礼を告げる。

 

「それなら、もしも何処かであなたと出会えたら居場所になって貰おうかしら?」

 

「おう!! 任せとけ!! 一緒に〝冒険〟しような!!」

 

「…………ふふっ、楽しみにしているわ」

 

さて――そう言うと女性は立ち上がる。

彼女の方は時間になったようで図書館から出る旨をルフィへ伝える。

 

「そうだ。名前!! 教えてくれよ」

 

「…………ロビンよ」

 

「おれはルフィだ。また会おうなロビン!!」

 

「ええ。楽しみにしているわ、ルフィ」

 

ロビンという女性へ手を振る。

彼女の方も小さく手をこちらへ振ってくれる。

 

これから先の話、彼女との再会が叶う事を信じて、再会を願って言葉を交わす。

 

 

 

 

 

余談だが、この日の帰りの船にてルフィはうっかり祖父に「海賊になりてえェッ!!」と零したせいで叱られる事になる。

今回の方法ではダメだと悟り、結局は以前と変わらぬスパルタ形式の訓練に戻ったせいでセンゴクという人物が頭を悩ませ、後にルフィ自身と未来の海兵へと降り掛かるのだった。




如何でしたでしょうか?
今回はガープ登場回――――と見せ掛けたロビン回です。

ガープは何処かのタイミングで出そうとしていたのと、ウタと絡ませてみたかったのが主な理由です。
祖父と孫の関係性は散々見てきたので、ウタのように孫娘とも言える年齢の子とはどうなのかなと思いました。

女の子なので、男のルフィのようにスパルタの度をも過ぎる育て方はしないと思ってます。
何だかんだウタは赤髪海賊団に所属していて、年上の男性と接する機会は多かったのでガープとは打ち解けられそうだなと思って祖父と孫娘のような関係性。
あと女の子だから「ちゃん」付けに。

シャンクスの存在は既に有名だったとも考えますし、ガープも1年に1回位は村へ顔を見せに行ってるのではないかと思っています。
奔放さはルフィ等を見ていると分かりますが、それでも頂上戦争後に故郷に帰って海賊に襲われないように配慮もしていましたから、それ位の事はしているのではないかと。

センゴクに「スパルタが過ぎる」と言われたのでアドバイスを貰ったのですが、何かズレている感が出ました。
結局はガープには難しかったようで元のやり方に戻ってセンゴクの頭痛の種を増やす結果になるのでした。
ドンマイ、センゴク。

そして本題のロビン。
彼女と言えば歴史という事で図書館で会わせようという事で無理矢理すぎる展開になりました。
ガープを出したのも、変な本の祭典のルールでルフィを図書館に釘付けにしたのも彼女に会わせるのが理由です。
こうでもしないとジッとしてるのが苦手なルフィは外に出てしまうでしょう?
それに元々彼女はグランドラインへ入るのは本編の6年前ですからその前は西の海に居たので、海軍の船でもないと日帰りで行き来できないと思いました。

そして無意識に彼女が不安としている事に突っ込んでいくスタイル。
ルフィが台詞を多く捲し立てているのは、ある意味で原作の展開とは真逆ですね。
ロビンの中にある根深い闇をきっとルフィなりに分かっているから、これまでとは逆に台詞が多くなっているのかも。
あと、ロビンの話を聞いて楽しかった事から「彼女と冒険すれば楽しそうな事を知れそうだから」一緒に冒険したいから必死なのかもしれませんね。
まだ子どもだから、精一杯の気持を見せたかったのでしょう。

ロビンの方も子どもへの接し方は優しそうだなと。
本編でチョッパーへの接し方を見ているとそのような印象も受けました。



さて、これで次話からはようやく音楽の島・エレジアに行く事になります。
冒頭のシャンクスの準備はこの為です。

前回のあとがきにも書きましたが、次回までしばらく間が空くと思います。
書き溜めして連日投稿の流れにしようかなと思っています。
出来るなら今週中までに何とか更新したいと考えています。
遅くとも来週中までには、何とか。

あとは時間が取れるように一緒に祈ってください。

では、また次回に。


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幼少期・エレジア編
音楽の島


大変お待たせしました。

予告通りにエレジア編になります。

では続きをどうぞ。


ガープの突然の来訪は、これまた突然終わった。

元々は海軍本部へ戻る道すがらだったらしく、ルフィに会いに来れたのは本当に時間が出来たからだ。

 

まるで嵐のようなルフィの祖父は最後に孫へ拳骨を落としていった。

理由は何とも我儘なものであった。

 

祖父が「行く」と告げると「またな」とルフィが返した。

すると「素っ気無い!!」と(ガープ曰く)愛ある拳をルフィに落とした。

海兵の人が呼びに来なければ、未だにルフィへの説教に時間を割かれていただろう事は想像するに容易かった。

 

一方のウタは何だかんだとガープを気に入ったのか、本当の祖父のように悲しんでいた。

ガープもウタを孫娘のように可愛がった。

今回の事で何かシンパシーでもあったのか、2人は本当に仲良くなっていた。

 

ウタの中では〝赤髪海賊団〟は別格として、ガープの乗る海軍の船の面々は気に入ったようだ。

ちなみに祖父の乗る海兵もウタの事を気に入ったようで「また会おう」と約束を取り付けていた。

それで良いのか海軍……。

 

さて、そんなガープと入れ替わる形でシャンクス達が帰還した。

 

「「お帰りシャンクス!!」」

 

港で出迎えたルフィとウタは船長の姿を見るなり、即座に彼の足へとしがみ付く。

 

「おいおい、そんな事をされたら動けないだろ?」

 

「娘を放ったらかしにした罰よ」

 

「なあなあ!! 今日はどんな〝冒険〟をしたのか教えてくれよ!!」

 

「おいおい、今回は次の航海の為の準備をしていただけだ」

 

両者どちらともにシャンクスに土産話を期待する。

けれども、彼の今回の航海は次の航海の為の下準備にしか過ぎないようだ。

 

2人を剥がし、目線を彼らに合わせる為にしゃがみ込む。

 

「次って、何処へ行くのか決めてるのか?」

 

「ああ、ウタの好きそうなところなんだ」

 

「本当っ!?」

 

シャンクスは自分の大事な娘の為に航海の準備を進めていたらしい。

それはウタには大層嬉しかったに違いない。

 

「なあ!! おれも連れてってくれよ!!」

 

「ダメだ」

 

「え~~~」

 

「今回は静かにしないといけない事が多いんだ。お前はジッとしてるだなんて無理だろ?」

 

今回の航海の目的地は本当にそういうところらしい。

なるほど、それはルフィには厳しいなと他の船員も納得する。

そこへウタがゆっくりと挙手しながら発言をする。

 

「あの、さ。我が儘を言っても良い?」

 

「ん? 何だ?」

 

「今回、ルフィを航海へ連れてってあげて欲しいの」

 

意外過ぎる娘からの提案。

どうした事かと疑問を抱くのは当然か。

 

「実はシャンクス達が居ない間にルフィのおじいちゃんが来て、航海へ連れてってくれたの」

 

「ルフィのじいさんって……なるほどな。手練れの海兵か」

 

シャンクスはルフィの祖父の事を知っているのだろうか?

1人で何やら納得していた。

 

「しかしだな。だからといってルフィを連れて行くのは……」

 

「駄目なの? シャンクス?」

 

無垢な瞳で父親を見る。

その顔を娘に向けられて「うっ」となるが、気持ちを取り直す。

 

「やはりな、ルフィを連れて行くわけにはいかな――――」

 

「ルフィを連れてってくれないなら、シャンクスの事を嫌いになっちゃうかもしれないな〜」

 

「連れて行くに決まってるだろ!!」

 

ウタがそんな事を言うものだから発言の掌返しが早すぎた。

言ってから ハッ!! となるがもう遅い。

溜め息を吐きながらも「しょうがない」と切り出す。

 

「ルフィのじいさんに借りが出来ちまったようだしな。今回はウタが言うから特別だ」

 

「本当か? やったー!!」

 

航海へ連れて行ってくれると分かったルフィのはしゃぎようと言ったら凄い。

両腕を上げて、港を走り回る。

 

「ったく、はしゃぎやがって」

 

「良いのかお頭? 同行を許して」

 

ベックマンがはしゃぐルフィを見ながらシャンクスの判断が良かったのかと問う。

 

「まあな。前回はお前がルフィの同行に前向きだった理由を探しそびれたから丁度良いのかもな」

 

「なるほど」

 

どうやら自分もルフィの同行を許可した理由の中に組み込まれていたらしい。

 

「そしたら、準備をしようか。次の島はエレジアだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エレジア――そこは〝音楽の島〟と謳われている。

そこでは音楽の勉強もできる。

 

「うわぁっ!!」

 

そこでウタはと言えば、島を到着してからずっと目を輝かせていた。

普段であればルフィがその役を担うだろうに、今回ばかりはウタの方が心を弾ませている。

 

彼女のそんな姿に赤髪海賊団の一員も顔を綻ばせていた。

ちなみにウタではない方のスキンヘッドが特徴的ないかつい顔の〝赤髪海賊団〟音楽家のボンク・パンチ、チョンマゲのような髪型をしている猿で名前はモンスターの音楽家コンビも心が躍っていた。

 

今はエレジアで大きい建物――城という言葉がピッタリはまる建造物まで移動していた。

城というものを初めて見たルフィのテンションもここで上がる。

そして、その城を出入りする人たちの姿を見て「んん?」と首も傾げる。

 

「みんな、本を持ってるな。そんなに勉強する事があるのか?」

 

疑問の声を発するのは当然だがルフィであった。

エレジアへ到着するまで眠りこけていた彼だが、着いた瞬間に目を覚ますとは現金なものだ。

 

「知る事で、新しい発見が生まれるのさ少年」

 

突き出た頭とその頭に残るつぎはぎ、ウタのようにヘッドホンをしたサングラスを掛けた人物。

 

「このエレジアの国王のゴードンだ。よろしく」

 

「赤髪海賊団船長のシャンクスだ。今日はよろしく頼む」

 

ゴードンとシャンクスは互いに握手をする。

 

「しかし、驚いた。海賊がこちらへ来るものだから警戒してしまったが、話の分かる人物で良かった」

 

「海賊が来たら警戒するのは当たり前だ。ゴードンさんの考えは何も間違っちゃいない」

 

海賊というのは言ってしまえば爪弾き者でもある。

シャンクスのような人物はあまり多くない。

大抵が略奪等の粗暴な印象を抱くような存在が〝海賊〟だ。

 

「実は今日来たのは他でもない。この子にエレジアを見せてあげたくてな」

 

「ウタです。〝赤髪海賊団〟の音楽家で、〝歌姫〟になるのが夢なの」

 

「そうかい。それは素晴らしい夢だ。ところで君は音楽が好きかい?」

 

「大好き!!」

 

ゴードンの問いにウタは笑顔で応える。

彼女の屈託のない笑顔は本物であると彼も「それなら楽しめるだろう」と言ってくれる。

音楽の栄える国の王だけあって、ウタの姿勢はシンプルながらゴードンにも嬉しさがあったのだろう。

 

「音楽が好きな人は大歓迎さ。特に君のように未来ある若者が音楽が好きとあれば歓迎しない理由はないよ」

 

両腕を大きく広げてゴードンはウタの来訪を歓迎してくれた。

 

「せっかくだ。エレジアの授業を体験してみないかい?」

 

「あっ、えっと……」

 

「それは良い。参加したらどうだ?」

 

「う、うん」

 

ウタがゴードンの誘いに乗るかどうか悩んでいたが、シャンクスの方からそれに乗ってはどうかと促す。

言い淀んだのはきっとシャンクス達に迷惑を掛けてしまうのではという気遣いもあったのだろう。

 

「へェ~、何だか面白そうだな」

 

「君も参加するかね?」

 

「え? 良いのか? おれ、音楽の事はサッパリだぞ?」

 

ルフィも興味を抱いたところへゴードンは誘いを掛ける。

どういう事をするのか分かっていないルフィではあるが、ゴードンからしてみれば音楽に興味を抱いてくれるなら問題は何もない。

 

「音楽に限らず、何かに興味を持つというのは大事なのさ。自分の好きな事を知って貰いたいなら君も言ったように『面白そう』と興味を向けて貰う事がその第一歩なのさ」

 

「へェ~、言ってる事は良く分からないけど、何となくは分かった」

 

「それってどっちなんだよ」

 

ゴードンの言葉はルフィなりに咀嚼できたと考えるべきだろう。

この少年の言い方はどっちなのか分からず、思わずシャンクスはツッコミを入れる。

 

「ははっ、まずは付いてくると良い。案内しよう」

 

ゴードンは先頭を歩き、2人を案内する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴードンの案内でルフィとウタはエレジアの授業を受けていたのだが…………

 

「飽きた」

 

真っ先に言い出したのはやはりと言うべきかルフィだ。

最初は物珍しさはあったから良かった。

 

けれども基本的にジッとしている事が苦手である事に加えて、机に座って教科書とにらめっこする事はルフィには退屈で仕方無かった。

まあ、座学に関してはウタも似たような感想を抱いていたのは秘密だ。

 

シャンクス達はと言えば、ルフィがこうなる事は予期していた。

予めゴードンには「ルフィは飽きるぞ」と伝えていたが、彼からしてみればそんな事は二の次だったようだ。

少しでも体験して貰う事こそがゴードンにとっては大事だと言えた。

 

「ならば、実践といこう」

 

そうルフィが言い出したものだからゴードンは気を利かせて、種目を変更してくれる。

ルフィの性分だけではなく、ウタもつまらなそうにしているのをゴードンが見逃さなかったのもあった。

何だかんだと、子ども心を考えてくれる彼にはシャンクス達も頭が上がらない。

 

「実践とはいっても、ここで歌って貰うだけさ」

 

そう言って案内されたのは広々としたコンサートホールだ。

スーツでおめかしした男女が談笑している。

テーブルもいくつか置かれており、その上にはご馳走が並べられていた。

 

「うんまそォ〜〜〜っ!! 食って良いのか〜?」

 

「ああ、好きなだけ食べなさい」

 

「やった!! ありがとう歌のおっさん!!」

 

ルフィは並べられたご馳走に目を輝かせる。

ゴードンが許可を出すとルフィはご馳走を取ろうと駆け出した。

どうやら音楽よりも目の前の食べ物へルフィは御執心のようだ。

 

ちなみに彼の言う「歌のおっさん」とはゴードンの事だ。

音楽が上手という観点からのあだ名のようだが、ゴードンはさしたる不満もなくルフィにその呼び名を許可していた。

 

「すまない、ゴードンさん。あいつはどうにも自分の本能に忠実なようでな」

 

「いえ、気にしてはいませんよ。それに彼も歌っている時は楽しそうでしたので。そう思って頂けるのは一番です」

 

「そう言って貰えると助かるよ」

 

ルフィの自由奔放さは凄まじいものがあるが、可能ならば手加減をしてもらえると助かる。

ゴードンが寛容な人物であった事と、彼が子どもである事が助力となったのだ。

 

「あの、ゴードンさん……」

 

「ああ、すまない。それじゃあ準備を始めようか」

 

ウタの方はこの機会に乗り気なようで良かった。

彼女の歌を軽く聞いただけなのだが、10歳に満たない程の年齢だとは思えない程に素晴らしかった。

何より、純粋に〝歌〟を楽しみたい気持ちが如実に出ていると言えた。

その姿勢はエレジアの国民に通じるものがある。

 

ウタとしてもこれだけの人数の前で歌えるというのは長年見ていた〝夢〟にも近い。

〝歌姫〟を目指すつもりがあるというのであれば、彼女の晴れ舞台だ。

これまでは〝赤髪海賊団〟の面々、それとフーシャ村の数人程しか知らないウタの小さな小さなライブ会場。

それが何の因果か、この大きなコンサートホールで歌えるところまで来た。

 

これも全部父であるシャンクスの助力があってこそ。

自分1人では漕ぎ付けなかっただろう領域。

けれども……いや、ならばこそシャンクスの娘である自分の力を見せつけてやろう。

 

ゴードンに案内されるがまま、前へと躍り出る。

これまで船上やマキノの酒場でしか披露して来なかった会場よりもずっとずっと大きな会場だ。

 

「さあ、これを。今夜は君の歌声を聞かせてくれ。思う存分に歌いなさい」

 

「うん」

 

ゴードンから身の丈程のマイクを渡される。

ウタはそれを両手で掴み、一つ深呼吸を置くと――――彼女の歌声がホール中に響いた。

 

1つ、曲を歌い終えた後に贈られた数多の拍手が彼女のデビューの成功を物語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、ウタの歌を聞こうとエレジアの国民がホールへと殺到した。

さすがに国民が押し寄せるとなると、いくら広くてもキャパシティーをオーバーしてしまう。

ゴードンとしても彼女の歌声を知って貰おうと拡声器を用いて彼女の歌声を国中へ届ける方向性へシフトした。

 

今度は彼女の歌声のファンとなった面々が「これを歌って欲しい」と次々に楽譜を渡してきた。

ウタも歌う事の喜び、それと自分の歌声がこんなにも評価されると思っていなかったので嬉しくなってリクエストに次々と応えていった。

 

ゴードンが「素晴らしい!! 君さえ良ければこのエレジアに永住して音楽を本格的に学ばないか?」と誘われる一幕があった。

途中に休憩を挟み、シャンクスとゴードンの提案した内容について話していたらしい。

けれど、ウタは〝赤髪海賊団〟の音楽家である事を選んだ。

 

ゴードンも無理強いはするつもりは無いようで、ウタの意思を尊重した。

その代わり、エレジアの国民が持ってくる楽譜を次々と手渡されて一晩歌う事になる。

 

一通り、要望に応えた後にウタは休憩へと入る。

 

「お~い、ウタ。これ美味いぞ」

 

「ルフィってば、私の歌は聞いてたの?」

 

「おう!! バッチリだ!! でも、あんだけ歌えば喉が渇くだろうからってんで持ってきたんだ」

 

ルフィは飲み物を持ってきてくれたのだ。

これは意外や意外である。

 

「へえ、ルフィってば気遣いも出来たんだね」

 

「歌のおっさんの授業でそんな感じの事を言ってたのは覚えてたからな」

 

殆ど寝ていたのだが、恐らくは「飲み物」というワードで覚えていたのだろう。

覚え方は考え物だが、それをベックマンに話をしたらしい。

彼は一言「お前が持って行ってやれ」と言ったそうだ。

果たして副船長の真意は何処にあるのかは分からない。

けれど、今はルフィの気遣いが嬉しい。

 

「でも、ありがとう」

 

素直に礼を述べて飲み物を受け取る。

 

「それにしても、あんなに歌ってて疲れないのか?」

 

「歌うのが好きだからね。それにいつか〝歌姫〟って呼ばれるようになって、歌で皆に幸せを伝えて、歌で世界を変えたい。

 それが私が思い描く〝新時代〟だから」

 

「〝新時代〟……へェ、良いな、それ」

 

ウタの〝夢〟は分かったが「歌で世界を変える」の部分がピンと来ていない。

けれど、彼女の〝夢〟を笑わない。

彼女が真剣に考えている事なのだ。

 

それに彼女の〝新時代〟のワードにルフィは惹かれた。

 

「あれ? 何だろう、あの楽譜?」

 

そう言ってウタが目を向けたのはソファに置いてある古ぼけた楽譜であった。

何故だろう?

それに呼び寄せられるようにウタは楽譜を手に取った。

 

誰かの忘れ物だろうか?

何人もがウタへリクエストをしていたが、この曲はまだ歌っていない。

これだけ古ぼけていればウタだって印象に残る。

 

「ウタ、それって?」

 

「うん。楽譜みたいだね」

 

「歌えるのか?」

 

「もちろん」

 

せっかくだし、歌ってみよう――そう思ったウタは手に取った楽譜を口ずさむ。

 

 

 

 

 

直後、ウタを中心として黒い光が渦を巻きながら放出された。

 

 

 

 

 

「ウタっ!?」

 

何が起きたのか分からなかった。

それでもウタの下へルフィは駆け寄ろうと近付いた。

彼女の肩に触れた直後、それを拒むように突風が吹き荒れてルフィの身体は容易く吹き飛ばされる。

 

「ルフィっ!!」

 

吹き飛ばされたルフィをシャンクスは受け止める。

 

「このままでは危険だ!! 早く避難を!!」

 

ゴードンは緊急性に気付き、避難するよう号令を掛ける。

 

「くそっ!! ウタ!!」

 

一方、シャンクスはウタへ声を掛ける。

彼女の顔がシャンクスの方を向いた――――次の瞬間、ウタを包むように黒い光が足下から吹き上がった。

 

「何が起きている?」

 

その疑問を置いてけぼりにし、ウタを包む黒い光がより大きさを増していった。

このホールの壁を砕く程に巨大化――――いや、更に大きさは増していくばかり。

 

「いかん!! この場を離れるんだ!!」

 

「くっ!!」

 

苦虫を噛みながら腕に抱えるルフィの存在を思い出し、今は彼を助けるべきだと判断する。

ゴードンと共に建物の外へと避難する。

 

「お頭!! 何が起きてる?」

 

「良くない事としか言い様が無いな」

 

外に居たベックマンが状況を確認する。

しかし、シャンクスの答えは要領を得ないもの。

 

ベックマンも詳細を聞き出したかったようだが、それには及ばなかった。

直後、エレジアの中央部にある城の屋根を破壊しながら〝バケモノ〟が姿を見せた事で全てを理解した。

 

黒いハットを被ったピエロとも竜とも見える顔立ちで、両腕がピアノの鍵盤になっており、足は存在せずに宙に浮いている。

数珠のように並んだ髑髏の霊魂を首元に浮かばせている。

赤い顔に上半身が巨大な案山子のようで、まさしく異形――――〝バケモノ〟が当てはまる存在だ。

 

「あれは…………何だってんだ?」

 

「このエレジアに封印されし〝歌の魔王〟――――名を〝トットムジカ〟と言う」

 

疑問に答えたのはゴードンであった。

 

「ゴードンさん、あれを知ってるのか?」

 

「その前に聞かせてくれ。彼女、ウタは…………能力者なんじゃないかね? 〝ウタウタの実〟の」

 

「何故、そう言い切れる?」

 

「その悪魔の実こそがトットムジカを呼び寄せる力を持っているからだ」

 

問い掛けにシンプルに答えた。

そう、あまりにもシンプルなものだ。

 

「ウタウタの実の能力者はウタワールドと呼ばれる能力者の創造した〝夢の世界〟へ引き込む能力があるだろう?」

 

「そこまで知っているのか。その通りだ。ウタは歌って人を眠らせ、眠らせた相手の意識をウタワールドへ送り込むことができる」

 

ゴードンはウタウタの実の力を知りすぎている。

しかし、今は情報の入手が最優先とシャンクスも知る限りの情報を伝えていく。

 

ウタワールドとは言ってしまえば、一時的に能力者本人とその歌を聞いた人との夢を能力者の夢と"共有させる"というものだ。

その夢の世界では能力者の思いのままの出来事を起こせる。

 

だが、この能力には欠点ももちろんある。

それは能力者本人の体力を著しく疲弊させるというものだ。

能力者が眠る事でウタワールドは解除される。

 

何故この場でウタウタの実の能力の確認を行うのかというと、あのトットムジカとも関係があるのだと言う。

トットムジカはウタウタの実の能力者が禁忌の楽曲〝TotMusica〟を歌う事で現れる〝歌の魔王〟だと。

そして、出現場所は――――

 

「ウタワールドと現実世界に顕現する。そして、両方の世界で破壊の限りを尽くす。倒す方法は両方の世界で"同時に"攻撃するより他にない」

 

「何て厄介な」

 

「けれど、話を聞く限りはウタワールドの維持が必要って事だ。なら、ウタの体力が尽きるのを待てば自動的に解除される筈だ」

 

最悪の展開ではあるが、解決方法はあるとベックマンは告げる。

トットムジカの弱点は能力者であるウタと連結している。

ならば、両方の世界で攻撃する等とは言わず、こちらの世界からだけでも攻撃を続ければトットムジカの方が先に根を上げるに違いない。

 

「それに考えてる暇は無さそうだ。そのトットムジカとやらが動き出すぞ」

 

これまで顔を左右に振るだけだったのだが、街へ狙いを定めると――目から赤い光線を放つ。

光線に遅れて街に爆炎が一直線に描かれる。

 

「このままじゃ、エレジアの被害は甚大だ」

 

「お頭、奴を止めないと!!」

 

「分かってる!! 分かってるが……あの中にはウタが、居るんだ」

 

これまで大切に育ててきた娘があのバケモノへと取り込まれる様を目の前で見てしまった。

もし、トットムジカへの攻撃がそのままウタへのダメージに繋がったら?

無事でいられる保証はない。

 

剣の柄へ手を掛けるが、震えている。

分かっている。

ここで止めなければ、ウタは背負わなくて良い不孝を背負う事になると。

だから、止めなくてはならない。

頭では分かっていても、己の力でトットムジカもろともウタを失ってしまうのではないかという不安の種があるのも事実。

 

その葛藤を副船長であるベックマンは理解していた。

彼も言える事は言い切った。

船長の号令無しに勝手に動けないジレンマもある。

シャンクスの気持ちも分かるが……このままではエレジアは滅んでしまう。

他でもない、赤髪海賊団が愛する娘の手によって――――

 

「……ウ、タ……」

 

そんな時、ウタの名を呼ぶ声がした。

声の発生源はシャンクスの腕の中で眠るルフィだ。

彼の寝言は続く。

 

 

 

 

 

「ぜっ……たい……助け、る……」

 

 

 

 

 

シンプル。本当にシンプルな言葉だ。

ルフィの寝言は、それでも狭まっていたシャンクスの視界を開かせた。

ウタの事でどうすべきかだけ考えていて、最もシンプルな"戦う理由"を見落としていた。

 

「そうだな、ルフィ。ありがとう」

 

まさか、お前に気付かされるとはな――心の中で呟きながらルフィをゴードンへ預ける。

 

「ルフィはあの時、ウタの一番近くに居た。それで眠ってるって事は、あいつは今"戦ってるんだ"」

 

ウタワールドは歌を聞いて眠った相手を連れていく。

この騒ぎで起きないルフィはそこで戦っているのだ。

 

子どもだからとかは関係が無い。

だってルフィは〝男〟なのだから。

 

「"家族"であるおれ達がウタを絶対に助けると誓わないでどうする? 絶対にウタをあのバケモノから助けるぞ!!」

 

「当たり前だろ」

 

ウタを助ける――何ともエゴだが、それこそが今トットムジカと相対する一番の理由だ。

シャンクスの言葉に船員もトットムジカへ視線を向ける。

今回の相手はあの巨大なバケモノ。

 

魔王だか何だか知らないが、赤髪海賊団の大切な(ウタ)に、友達(ルフィ)に、手を出した事を後悔させてやる。

封印だなんて生ぬるい事は言わない。

もう二度とこの世界へ顕現できない程に完膚なきまでに叩きのめす。

 

シャンクスは剣を抜き、その切っ先をトットムジカへ向ける。

 

「野郎ども気合入れろ!! ウタを、ルフィを、おれ達の"大事なもの"を助けるぞ!!」

 

「「「「「オオオォォォォォッ!!!!」」」」」

 

船長の号令と同時、トットムジカへ突撃する。

大切な存在を助ける為に動き出す――。




如何でしたでしょうか?

原作というよりはREDとの相違点は、
・ルフィがエレジアまで付いてきた。
・〝新時代〟のマークを作っていない。
となります。

ガープに乗せて貰ったという事を理由にルフィのエレジア行きの同行を認めさせました。
娘にお願いされ、嫌われそうになると手のひらを返す父親シャンクスはもてあそばれてますね、これは。

エレジアにはゴードンと同じ位の男性は居るでしょうからそういう時はあだ名をつけると思って「歌のおっさん」としました。

ゴードンからの勧誘を受けるもシャンクスと居る事を選択したシーンは映画のそのシーンを脳内再生して下さい。
文章にてさらっと流しました。
今後、原作展開となりそうな部分はこのようにカットする事があると思います。

トットムジカ、ウタウタの実の事はゴードンも知っていそうなので「知っている」という事にしました。
なんせ国王ですしね。

シャンクスの葛藤を勝手に追加しました。
この頃の彼って30手前ですし、必死に育てた娘に手を上げるも同然の行動になる事ともなれば葛藤しそうだなと思いました。
まあ、すぐに解決しましたが。

ウタはトットムジカに取り込まれているので歌っておらず、トットムジカも破壊の限りを尽くすので歌っていないので追加でウタワールドに行きません。

映画でもウタの体力が尽きて寝ればトットムジカは姿を消していたそうなので、そのご都合主義な展開も追加しました。
許して下さい。


さて、最後の文字を編集してみました。
こうした方が良いとアドバイスしてくれた方が居ましたので試してみました。
この場を借りてお礼を申し上げます。
教えていただきありがとうございました。


さて次回なのですが思っていたよりも時間が掛かりまして、更新は明後日もしくは金曜日の予定です。
連日投稿をしようと予告していたのに申し訳無いです。

なる早で書きますので、待っていて下さい。
ではまた。


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Believe

予告以内には何とか更新にこじつけられました。

ONEPIECEと言えば冒険以外にもバトル要素が無くてはなりませんよね。

今回は独自解釈もマシマシです。

では、以上を踏まえて続きをどうぞ。



「ん、ん? 寝てた、のか?」

 

横たわっていたルフィは目を覚ますと同時に身体を起き上がらせる。

いつの間にか寝ていたらしく、どうしてだろうと疑問を抱く。

 

「おれ、何してたんだっけ?」

 

確かウタに食べるものを渡して、ソファにあった楽譜をウタが歌い出し、黒い光が彼女の身体から吹き荒れたので近付いたら吹き飛ばされて――――

 

「っ!? ウタは?」

 

いくら子どものルフィでもウタの身に起きた出来事の異変さは気付いている。

辺りを見回す。

ルフィの居る場所は不可思議であった。

 

空はあるが、赤や青、オレンジといった色彩豊かである。

地面は海のように透き通っている。

まるで〝夢の世界〟だ。

そう、ウタが良く使うウタワールドと似ていて――――

 

「ルフィ!!」

 

「ウタ!! 何処だ?」

 

彼の名を呼ぶ声が。

自分の真後ろからだ。

そちらへ振り返る。

 

「な、何だこれェッ!?」

 

思わず叫び声が出る程だ。

言ってしまえば〝バケモノ〟である。

 

黒いハットを被ったピエロとも竜とも見える顔立ちで、両腕がピアノの鍵盤になっており、足は存在せずに宙に浮いている。

数珠のように並んだ髑髏の霊魂を首元に浮かばせている。

赤い顔をして上半身が巨大な案山子を彷彿とさせる。

 

奇しくも、シャンクス達が相対している〝トットムジカ〟と同様の姿をしている。

 

その左肩にウタは乗っていた。

光の球体の中に入っており、出られる状態に無いのは見て分かる。

証拠にウタは球体を叩いているが、ビクともしない。

子どもの力では割れないのは一目瞭然か。

 

「待ってろよ、ウタ!!」

 

バケモノを前にしてもルフィは臆さない。

眼前で友達を助けると宣言し、駆け出す。

 

「ダメ!! ルフィ!! 逃げて!! こいつは、トットムジカには子どものアンタじゃ、敵わない」

 

何故ウタがこのバケモノの名を知っているのかは分からない。

けれど、そんな事はどうでもいいとばかりにルフィはトットムジカとやらに向かって駆けていく。

 

トットムジカの目がルフィを見る。

右手で拳を作ると容赦なく走るルフィを殴り付ける。

 

「うわァッ!?」

 

「ルフィ!!」

 

ルフィは宙を舞い、地面へと叩き付けられる。

しかし、何事も無かったかのようにルフィは立ち上がる。

 

「あ〜、ビックリしたァ〜」

 

ルフィはピンピンしている。

忘れてはならない、彼がゴム人間である事実を。

ただの打撃はルフィには通用しない。

その事にウタはホッとする。

 

けれども、安心してばかりはいられない。

打撃が効かないとは言え、ルフィとトットムジカとの体格差は明らかだ。

 

「負けてたまるか!!」

 

先程の焼き回しとなり、ルフィはトットムジカへと突撃する。

策も何も無い、明らかに無謀な挑戦だと言えた。

 

「来ちゃ、ダメ――――」

 

ウタの叫びも虚しく、トットムジカの右拳がルフィへ叩き込まれる。

拳を振り上げれば、ルフィは地面へ倒れ伏している。

ダメージこそ皆無だが、このままではルフィの体力が尽きてしまう。

 

畜生(ちくしょオ)ォッ!!」

 

トットムジカからの猛攻は止まらない。

拳を何度も叩き込んでくる。

しかし、それでも立ち上がるルフィに業を煮やした。

 

「何をするつもり?」

 

異変に気付いたのはウタ。

トットムジカの前に音符が具現化した。

それがルフィめがけて飛んでいく。

 

「えっ!? うわぁっ!? 熱ゥッ!?」

 

その直撃を受けたルフィは悲鳴と共に身体を打ち上げられる。

ルフィの身体が落下していく際、彼の身体を叩き付けようと巨大な音符が頭上に出現して…………ルフィを地面へ押し潰すように落下した。

そうすると音符は消え、地面に倒れ伏すルフィの姿が。

 

「くっ、そォ〜」

 

ダメージはもちろんながら無い。

物理攻撃を寄せ付け無いこの身体のおかげでトットムジカの攻撃は何も通用しない。

 

しかし、だ。

 

「何だ? さっきの? 熱かったぞ」

 

先程の音符はただぶつけてきたものではない。

その音符には熱が込められていた。

 

痛みは無いが、音符に込められていた熱がルフィの体力を蝕み始めた。

この熱に耐えられたのも祖父ガープのスパルタ教育の賜物である。

今回ばかりは祖父に感謝しよう。

しかし、どうすればトットムジカとやらからウタを救い出せる?

普段は使わない頭をフル回転させて…………

 

「止めて、ルフィ。逃げてよ。アンタじゃ、こんなのに勝てる訳がないんだから」

 

「そんな事、やってみなくちゃ分からないだろ!!」

 

「やらなくたって分かるよ!! 私に勝てないのに、アンタが勝てる訳無いんだから!!」

 

尚も突撃を試みるルフィへ、ウタはそのように突き放そうとする。

事実、トットムジカはルフィを普通の子どもと思っていたのか、物理攻撃のみで押し切れると思っていた。

しかしながら、それだけでは意味がないと判断して攻撃方法も変わる。

 

先程、投擲した音符にしてもただの物理的なものではない。

ルフィにも通用するのかを探るように様々な攻撃手段を用いている。

熱を持つ音符を投擲したのもその為だ。

 

「現実世界でシャンクス達がトットムジカを何とかしようとしてくれてる。ここはウタワールドなんだから、アンタは隠れていれば良い。私は――――」

 

「じゃあ、その間の“お前はどうなるんだよ!!”」

 

ウタの言葉をルフィは遮る。

この状況、トットムジカとやらが原因なのはルフィにだって分かる。

 

だが、問題はウタ本人の事だ。

現状、彼女はトットムジカに拘束されているも同然だ。

ここがウタワールドだとしたら、現実世界のウタは今どうなっている?

 

そちらはシャンクス達が何とかしてくれているのかもしれないが、その間にウタワールドに存在する“ウタは本当に無事でいられるのか?”

そんな保証は、トットムジカのおぞましさを目の当たりにしたら信用など置けるものか。

 

「お前が何と言おうと知るか!! おれは絶対に助けるぞ!!」

 

「けど…………待って、ルフィ!! 逃げて!! アンタを握り潰して動けなくするつもりよ!!」

 

トットムジカはルフィへ手を伸ばす。

大きく開いた手でルフィを握り潰す気なのだとウタには分かった。

 

しかし、ルフィへ迫る手をウタには止める術がない。

鳥籠に閉じ込められているも同然の彼女には為す術もない。

 

「おりゃァッ!!」

 

ヤケクソ気味にルフィはゴムゴムの力を利用して腕を伸ばす。

パンチが伸ばされるトットムジカの手に当たるも――――ペチンと音を起てるだけ。

ルフィの抵抗など無駄だと言わんばかりにトットムジカの進行は止まらない。

 

「くそォッ!! ちッ、くしょォォォッ!!」

 

自らの無力さを呪う。

紛れもない現実だ。

諦めない気持ちは大事かもしれない。

けれども、こういう場のようになると実力を伴ってこそだ。

 

「力が、必要だ。今だけで良い」

 

それは切実なルフィの心からの願いだ。

今、この場でウタを助けられないでどうする?

 

せめて、いつかの夢で見た少年の力が欲しい。

けれど、そんなものは無い。

無い物ねだりをしても意味がない。

 

けれど、真似できる所はある。

 

「ウタ!! 絶対に、助けるぞ!!」

   

唯一真似ができる「諦めの悪さ」で前進する。

絶対にウタを助けるという想いを前面へ出して。

 

ただ、そんな彼の想いを無情にもトットムジカの手がルフィへ迫る――――――その瞬間、ルフィの心臓が ドクンッ!! と跳ねた。

 

「なん、だ?」

 

自らの内側から不思議な熱が沸き上がる。

ルフィの身体に熱が走る。

この変化に留まっている間にもトットムジカの手が伸びてくる。

 

「しまっ――――」

 

一瞬の隙を突いてトットムジカの手がルフィの小さな身体を包み込む。

その直前、ルフィの身体が音符に包まれ、光り出す。

それにルフィが、“それ”が呼応して――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウタが物心付いた時にはウタウタの実を食べていた。

シャンクス達が目を離している間にウタが食べてしまったらしいのだが、残念ながらウタには当時の記憶は皆無だ。

 

まだ9歳程のウタにはウタウタの能力を制御するのは難しい。

無意識の内に使ってしまう。

その結果が歌を歌う際に聞いた者を無差別に眠らせてウタワールドへ送り込む事に。

 

ウタワールドと現実世界の状況を理解する事ができるのだが、それには大きく体力を消耗する。

長時間の使用をすると、激しい眠気に襲われる。

戦闘で使うのであればあまりにも強力だが、1人でも取り残せば無防備になるので、無敵という訳ではない。

誰か、他の仲間が居る時に使うのがベストだが、なかなか上手く行かずに迷惑を掛けてばかりだ。

 

それでもシャンクス達はウタの自由にさせてくれた。

本当にありがたい話だ。

 

今、このバケモノの目を通じて自分の父が、赤髪海賊団の仲間が、自分を助けようとこのバケモノと戦っている。

このバケモノの名前が「トットムジカ」だと言うのは直前に見た楽譜の曲名が書いてあった事から知った。

 

楽譜を歌ってから、ウタはウタワールドの発動を実感している。

恐らく、このトットムジカを呼び出す為の歌の影響なのだろう。

トットムジカの視界を共有しているのは、ウタの本体が取り込まれ、結果的に本来のウタウタの能力と同様に現実世界とウタワールドの両方の状況を把握できるが故の事だろう。

 

これまでと状況が異なるのは、現実世界とウタワールドが干渉し合う事は無かった。

ウタワールドは所詮は夢の世界であり、現実世界に影響を及ぼす事は有り得なかった。

なのに、トットムジカの存在を起点として両方の世界に被害をもたらしている。

ウタウタの実に夢と現実の境界線を曖昧にするだけの力、もしくは引き合わせるだけの力がある等とは想像してもいなかった。

 

先程も述べたようにウタワールドの方はこうしてウタの姿を具現化しているものの、現実世界のウタの身体はトットムジカに取り込まれている。

とりあえず、ウタワールドに自分の意識があるので死んではいない事は確認できる。

精神が死なない限りは大丈夫だ。

 

まずは状況を確認しよう。

 

このトットムジカはウタワールドの発動後と同時に出現したのだから、両方でセットである事は明白だ。

故にウタウタの実によるものだと推察が出来る。

もっと簡潔に言うならば、トットムジカ=ウタウタの力なのだ。

だからだろうか、能力者であるウタにはトットムジカの行動が予測できてしまう。

 

しかしながらトットムジカは自我を持っているらしく、ウタの指示を全く聞きはしない。

 

そう言える根拠はこのウタワールドだ。

本来なら能力者であるウタの意思が反映する出来事しか起こらない。

ウタの思い通りになるのがウタワールドという世界そのもの。

 

例えば欲しい食べ物があれば出てくるし、ケガも能力者が願うだけで治ってしまう。

だから、このトットムジカの存在はウタワールド内では不必要な存在だと思えば消滅する――筈なのだ。

 

ウタが願っているのに消えない。

止まって欲しいのに止まらない。

一応はウタワールドの創造主であるウタの願いは通じていない訳ではない。

小さくはあるが、トットムジカの行動は鈍くなっている。

ルフィへの攻撃が「具現化した音符の投擲」のみである事はウタが「ルフィに逃げて欲しい」と願ってトットムジカの行動とは合致していない事から起こる拒絶反応による結論なのかもしれない。

物理攻撃であれば、ゴムの身体であるルフィは大丈夫だ。

ウタの小さな抵抗は確かにルフィへの援助となっている。

 

しかし、トットムジカの行動の方が優先度が上がっている、明らかな敵意ある行動を取っている事そのものがやつが自我を持つと推測できた理由だ。

本来ならウタワールドの創造主である自分の意思が希薄になっていくのが感じ取れる。

最早感覚的なものと言って差し支えない。

けれど、トットムジカがルフィを掴もうと行動を起こした事を鈍らせる、止めるまでには至らない。

それが決定的にウタワールドの現状の支配者の逆転が始まった事を物語る。

 

現状、ルフィに迫る手を止める術を鳥籠に閉じ込められているウタには完全な制止が行えなかった。

シンプルに「捕える」という目標だったが故に動きが鈍ろうとも達成出来てしまったが故か。

 

「ルフィ!!」

 

ウタを助けようと足掻くルフィの名前を叫ぶ。

逃げるように促してもルフィは決して背を向けなかった。

 

勝てないと分かっているのに向かっていく。

それは力の無い者が行えば蛮勇に過ぎない。

力のある者でなければ、それは本当に無意味でしかない。

 

本人だって分かっている筈なのに止まらない。

どうして?

 

現実世界のウタが死のうと、ウタワールドに自分の精神がある限りは死なない。

例え肉体があろうとも。

先程、ルフィに対して言いかけたのはこの部分だ。

 

なのに、ルフィは自分の事を案じた。

自分に力が無い事を知った上で、でも彼はウタの身を一番に案じた。

 

そんな彼は無情にもトットムジカの大きな手に覆い尽くされ、握り潰される。

 

ゴム人間である彼はこんな事では死にはしない。

けれど、あの小さな身体では脱け出せない。

それにこのままでは窒息も有り得た。

 

このウタワールドでの〝死〟は現実世界での〝死〟に直結するのかまでは分からない。

だが、このままではルフィが危険な事には変わり無い。

 

「ルフィ!!」

 

再び、彼の名前を叫ぶ。

服の内側、胸元にぶら下がる指輪を掴む。

本物は現実世界にある。

けれど、これはウタにとっても現実世界で特別な意味を持つ〝宝物〟だからウタワールドでも"具現化できるように練習してきた。"

 

彼が、大切な少年がくれたウタにとっての〝宝物〟を握る。

なまじ、トットムジカの行動を理解しており、それを阻止できない自分の無力さに打ちのめされる。

せめて、ウタワールドの能力でルフィに戦えるだけの力を与えられたら――――

 

 

 

 

 

「効かないねぇっ!! ゴムだから」

 

 

 

 

 

直後、トットムジカの手の中から声がする。

このウタワールドに居るのはウタとルフィのみ。

 

「まさか、ルフィ!?」

 

「うおおおおおおおおおおおーーーーっ!!」

 

ルフィが無事である事に安堵すると、次には彼の雄叫びがウタワールドに木霊する。

トットムジカの閉じた手が彼の力業によって切り拓かれた。

両腕と両足を外側へと思いっきり押し出す。

そして、器用に跳躍してトットムジカの腕へ乗っかる。

 

トットムジカと能力で繋がっているウタは歌の魔王と呼ばれる存在が驚いているのを直接感じ取っていた。

ただ、驚いたのは何もトットムジカだけではない。

 

「ルフィ……なの?」

 

ウタ自身も彼の姿に困惑していた。

彼の容姿はそれだけ大きく変化していたからだ。

赤い袖なしのベスト、青の半ズボンに草履という格好をしている。

身長もウタの身近な人物の中ではマキノ位にまで伸びている。

 

確かにウタワールドはウタの想像したものを具現化させる事ができる。

他人のイメージを反映する事も難しい話ではあるが、不可能ではないだろうと予想もしていた。

現にウタはルフィが戦えるように考えもした――が、ここまで明確なイメージまではしていない。

考えられるのは、未だに練習していた「他人のイメージの具現化」に成功したと見える。

 

「今行くぞ、ウタ!!」

 

そんなウタの思考を遮るようにルフィはそう宣言するとトットムジカの腕を疾駆する。

 

しかし、ルフィを外敵を見なしたトットムジカの攻勢も始まる。

先程と同様、具現化させた音符をルフィへ投擲する。

 

これまでとは打って変わったルフィはそんなものには動じない。

腕を後ろ手に引いて――――

 

「ゴムゴムの(ピストル)!!」

 

勢い良く、真正面へ拳を振りぬき……伸ばした。

リーチはもちろん常人や大人とも比較にならない。

それが音符に直撃いたかと思えば、駒のように何度も回転しながら明後日の方向へ吹き飛んでいく。

 

ルフィの駆ける足は止まらない。

それを見たトットムジカはもっと大きな、ルフィの身長を大きく上回る大きさの音符を具現化させる。

向かってくるルフィの進行を妨げるかのように、音符をまたも真向から投擲する。

 

「ゴムゴムの……」

 

両腕を後ろへ伸ばす。

迫る巨大な音符など関係ないとばかりに速度はグングン上がっていく。

あわや、ルフィへと直撃するかと思われた瞬間だった。

 

「バズーカ!!」

 

後ろへ伸ばしていた腕が戻ってくる反動を利用し、そのまま両手を前へと突き出す。

その勢いはまさにバズーカにも劣らない。

なんせ、迫り来た巨大な音符を弾き返す程の威力であったから。

 

それは球体で守られたウタの方へ向かっていく。

上部を掠めるも、小さなヒビが入るのみ。

まだ脱出は出来ない。

 

「下がってろ、ウタ」

 

いつの間にか目の前まで来ていたルフィはそう告げる。

その時には既に右足を天高く伸ばしていた。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

伸ばした足が天から落下してくる。

先程と同様、戻る反動を利用して――

 

「〝戦斧(オノ)〟!!」

 

ウタを閉じ込める球体を踏み付ける。

 

パリイイイイイィィィィィンッ!!

 

ガラスが割れるような音と同時、球体が粉々に砕け散った。

それはウタの解放も意味している。

 

「よし!!」

 

「えっ、嘘でしょ!?」

 

ウタを抱えると、トットムジカの肩から勢いよく飛び降りる。

凄まじい高さにウタは驚きを隠せない。

 

「〝ゴムゴムの風船〟!!」

 

直後、ルフィは大きく息を吸ったかと思えば身体を急激に膨らませた。

ポヨンッ!! 風船のように膨らんだルフィを下敷きにウタは無事に地面へ着陸する。

 

「大丈夫か? ウタ」

 

「う、うん」

 

急に膨らんだかと思えば、いつの間にか体型は元に戻っている。

一息吸うだけであんなにも大きくなるとは……これもゴムゴムの実の特性なのだろうか?

 

そんな場違いな思考をしている間にもルフィはトットムジカへと照準を合わせる。

 

「ルフィ、あいつと戦うつもり?」

 

「そうだ」

 

これまでのトットムジカの行動を考えれば、こちらへ敵意を剥き出しである事に間違いはない。

ルフィも戦うつもりで、トットムジカを睨み付ける。

両手を合わせて、ポキポキと関節を鳴らす。

 

「待って。いくらルフィがウタワールドの力で強くなってるって言っても一時的なものに過ぎない!!

 普通、普段の自分の身体と違うなら動きが身体に付いてこれない。いつアンタが倒れるか分かったものじゃないんだ!!」

 

「大丈夫だって」

 

「その根拠は、何処から来るのよ!!」

 

「ゴムだから」

 

「答えになってないじゃない!!」

 

「心配すんなって。本当に何とかなる気がしてんだ」

 

ルフィの返答はウタにとっても頭痛がする。

そんな根拠のない事ばかり言った上に、バカまでに前向きな事しか言わないのだから。

 

「おっと、来たぞ」

 

そうこうしている間にもトットムジカの行動は明らかな変化を見せる。

ウタワールドの創造主でもあり、自分の存在を確実なものにするべく、ウタを奪い返そうとしてくる。

 

「ウタは渡さねェぞ」

 

ルフィはそんな事など分からない。

本能的に察知したとしか言えない。

 

トットムジカは新たに『音符の戦士』とも呼べる存在を顕現させる。

赤紫色で八分音符のマークが描かれた衣服を着込んだ槍と盾を持った細身の戦士。

藍色で二連八分音符のマークが描かれた衣服を着込み、槍に腕に盾を付けて銃を持った大柄の戦士。

その2人がルフィへ特攻してくる。

 

「すうううぅぅぅ!!」

 

一息に空気を吸い込むと、またも身体を膨らませる。

それで迫る戦士を受け止めると、上空へ吹き飛ばす。

 

それだけで終わらない。

そのまま身体を捩じり、吸い込んだ空気を地面へ一気に放出させる。

 

「〝ゴムゴムの〟」

 

身体を回転させながら上空へ浮き上がり、そのまま拳を構え――――

 

「〝暴風雨(ストーム)〟!!!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!

 

2人の戦士へ、下から拳をまさしく暴風雨のごとく連続で叩き込む。

 

「うおおおおおおおああああああっ!!」

 

雄叫びを上げ、迫る戦士を天高く突き飛ばす。

これを見ると先程のルフィの発言は適当だったとは思えない程に洗練されていた。

 

そして、2人の戦士が見えなくなった頃、ルフィは着地し、トットムジカへ再び向き合う。

こいつらはトットムジカの産み出した言わば下っ端に過ぎない。

本体を倒さない限り、何も終わらないのだ。

 

「ルフィ!! そいつは"私以上にウタウタの能力を使えてる。戦っても勝ち目なんてないよ!!"」

 

けれども、ルフィの出鼻を挫く発言をしたのは他ならないウタだ。

 

「何でそんな事を言い切れるんだよ? やってみなくちゃ分からないだろ?」

 

「分かるわよ。だって、私とトットムジカは"繋がってるんだから"」

 

ウタが奇妙な事を言い出す。

繋がっている――物理的な意味ではない。

それをルフィが理解するかは別問題だ。

雰囲気から例え話のようなものである事が把握できる位なものだ。

 

「どういう事、だよ?」

 

ウタの話を聞きつつ、トットムジカの呼び出す音符の戦士を撃退していく。

絶え間なく、こちらへ攻撃を繰り返してくる。

しかし、不思議とルフィには問題が無いと直感していた。

それだけ、彼にとって音符の戦士は脅威とは言えなくなっていた。

 

「このウタワールドは私の能力で呼び起こしたもの。本当だったら私の思う通りの事しか起きない筈なの。

 なのに、私の思った事が何一つとして実現しない!! このウタワールドはトットムジカに支配されつつあるのよ!!」

 

ウタの創る世界を乗っ取られた。

このウタワールドが創造主の都合の良い事しか起こらないのは以前にウタが教えているのでルフィも知っている。

 

「もうトットムジカにとって都合の良い事しか起こらない。

 このウタワールドに居る以上、ルフィじゃどう足掻いたって勝てない」

 

支配権がウタからトットムジカへ変更となる事は、勝機をもぎ取られるも同然の事なのだ。

 

「それにあいつは動物なんかとは違う。

 『寂しい』とか『認められたい』とか『誰かに見付けて欲しい』っていう、音楽が好きな人の負の感情の集合体――悪いイメージを形にした、実体のない存在なんだ。

 そんなのを倒す方法なんて、ある訳が……」

 

 

 

 

 

「うるせェ!! そんな事、勝手に決めんな!!」

 

 

 

 

 

しかし、ウタの言葉を全て聞いた上でのルフィの返答はこのようなものだった。

青筋を浮かべて、彼はウタの決め付けにケチを付ける。

 

「な、何を言って――」

 

「だってそうだろ!! あいつに都合の良い事しか起こらないって言うなら"今のおれの姿は何なんだ?"」

 

言われ、ルフィの姿に変化が無い事に気付く。

それは完全にウタワールドが支配されていない事を意味しているのではないか?

 

「お前の言う事が本当だったとして、おれはまだ戦えてる。それに、力がまだまだみなぎってくるんだ!!

 なのに勝てないとか、倒せないとか、勝手に決めんな!!」

 

まだ勝負はこれからだとばかりにルフィは迫り来る音符の戦士をバッタバッタと薙ぎ倒す。

それでも息を乱さず、彼はウタへ言葉を投げ付ける。

自分の持つ力を彼は微塵も疑ってなどいない。

本気でトットムジカを倒すつもりなのだ。

 

「お、りゃあっ!!」

 

迫る音符の戦士を力の限り殴り飛ばした。

勢いが付いて、あわやトットムジカと衝突するかと思われた。

寸前、殴り飛ばされた音符の戦士は不可視の壁に激突する。

 

「何だあれ?」

 

「バリアみたいなものよ」

 

さっきまでそんなものが無かったのは、恐らくはルフィを脅威として認識していなかったから。

ウタがルフィの強さに感嘆し、尚且つトットムジカも障害と認識したのかもしれない。

 

畜生(ちくしょオ)ォ!! あれを何とかしねェと!!」

 

「…………バリアを、いえ何ならトットムジカさえも何とかする方法は無い訳じゃないわ」

 

「本当か!?」

 

ウタには何か秘策があるらしい。

それを聞いた瞬間、ルフィはどうすれば倒す方法があるのか話に耳を傾ける。

 

ウタが何かを決めたのか、その"心境の変化"がトットムジカへと逆流する。

本体のトットムジカ、けしかけてくる音符の戦士の動きが遅くなる。

1体1体の進む速度が遅い。

彼女の話に集中しつつ、音符の戦士を倒すの事は"今の状態のルフィでも造作ない。"

 

無防備なトットムジカへ攻め込みたいが、バリアの突破が出来なければ意味がない事を直感で理解していた。

 

「このウタワールドの支配権はトットムジカにあるけれど、私が創った事には変わりない」

 

この世界を維持しているのは他ならないウタだ。

先程にウタの中で結びついた「ウタウタの能力=トットムジカ」とするが、"ウタワールドを維持できるのは能力者であるウタだけなのだ。"

だからこそ、トットムジカはウタを取り込もうとしている。

 

「現実世界の私はトットムジカの中に居る。シャンクス達の行動を知れたのはまだ私の意識が残っていたからトットムジカを介して知る事が出来たの」

 

ここで言いたいのはトットムジカに自分が閉じ込められているという事実。

つまり、ウタウタの能力をその身に宿すウタ本人が必要なのだ。

だから、トットムジカはウタを取り込んだし、意識を未だに残している。

そこから導き出される結論は――

 

 

 

 

 

「現実世界の私を殺せばウタワールドは永遠に閉じるから、トットムジカは外にずっと居られない」

 

 

 

 

 

少なくともウタワールドを維持できないようにしてしまえば、トットムジカは自然消滅する。

現実世界はシャンクス達が止めている。

それでも、未だに止まらないのだとしたらウタ本人をこのウタワールドへ閉じ込める事をすれば良い。

現実世界のウタが消滅する事で、現実世界とウタワールドとの繋がりは消滅する筈だ。

結果、トットムジカも道連れにウタワールドに永遠に閉じ込める事ができる。

 

あくまで可能性の話だが、ウタワールドの特性は知っている。

試してみる価値はある――――

 

 

 

 

 

「バカか!! そんな事する訳ねェだろ!!」

 

 

 

 

 

しかし、ルフィの一喝で以て、彼女の提案は否決された。

そんな選択肢は最初から用意されていないと言わんばかりに彼はここ一番に怒りの感情を露わにしていた。

 

「お前が死んで、どうするってんだよ!!

 外でシャンクス達はウタの為に戦ってるんだ!!

 おれもそうだ。なのに、お前が死んでどうするんだよ!!」

 

「大丈夫だよ。私の身体は失われたって、心はウタワールドで生きていける。だから、死ぬ事にはならないよ」

 

ルフィの叫びに対し、ウタは穏やかに返す。

同時に彼女の〝死生観〟をルフィへ伝える。

 

精神さえ生きていれば、ウタワールドで生きていける。

故に、肉体の消滅は彼女にとって〝死〟ではない。

〝生〟には心さえあれば良い。

それが彼女にとっての〝死生観〟だ。

 

彼女の得たウタウタの能力が、彼女にとってそのような〝死生観〟を植え付ける結果となった。

 

「そんなの、お前の考えだろ!!

 おれも、シャンクスも、"全部ひっくるめて"お前を助けるんだ!!」

 

しかし、ウタの死生観などルフィには関係無い。

きっと、それはシャンクスだって同じだ。

彼女からシャンクスも戦っている事は聞かされたのだ。

なら、彼がどのように思ってトットムジカに立ち向かうのか、考えるまでもない。

それはルフィ自身が述べた通りの理由だろう。

 

ただ、ルフィよりもシャンクスの方が気持ちは絶対に強い。

そう、何故なら――――

 

「娘の為に、シャンクスは命張ってるんだ!! 心だけ無事なら良いなら、必死になって戦う筈がねェだろ!!」

 

「本当、何でそこまで出来るのかな?」

 

ルフィの言葉にウタは何故か疑問を口にした。

如何なる理由であるのか?

その答えは、次に繰り出された彼女の言葉に記されていた。

 

 

 

 

 

「私は、シャンクスの本当の娘じゃないんだ」

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

ウタはシャンクスの実の娘ではない――――初めて聞かされる事実にルフィも驚きを隠せない。

敵船から奪った宝箱の中に居たそうだ。

その後は赤髪海賊団に拾われ、育てられた。

 

降ってきた突然の情報にルフィの脳の処理の方が追い付かない。

しかし、ウタの独白はルフィの思考を置いていく。

 

「私はシャンクス達に隠してる想いもある。海賊行為は嫌いなの。争いが無くて、食べるものに困らなくて、音楽が絶えない世界が続けば良いって思ってる!!」

 

「…………」

 

「私には、赤髪海賊団に居た時間しか知らない。本当の両親は誰で、何処で生まれたのかも――――私は“本当の自分の事を”何一つ知らずに生きてきた」

 

彼女にあるのは〝赤髪海賊団〟の時の記憶のみ。

物心付いた時にはシャンクス達と冒険していた。

その過程で、彼女はシャンクスの実の娘ではない事を知らされる。

 

彼女の独白にルフィは口を挟まない。

押し黙り、音符の戦士を退けながら彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「シャンクス達と一緒に居るのは楽しいよ。だけど、私は“こんな事を考えてもいるんだ。”

 でも、シャンクス達が、ルフィが、この島の人達が私の能力のせいで苦しんでるのを見てられない。

 トットムジカは私の能力なんだから、シャンクス達に迷惑を掛けられない。

 元から力も何も無い私には、自分の全てを使うしかトットムジカを止める方法は無い!!」

 

自分でもスラスラとネガティブな発言をしている自覚はある。

それでも、トットムジカがウタの能力そのものである以上、自分で決着を付けようと心に決めた。

誰も傷付かないウタの理想を実現できる。

自分の追い求めてきた理想とする〝新時代〟の為の最善最良の道を行ける。

 

「色々と言ってくれて嬉しかったよルフィ。アンタだけは何とか現実世界に戻してあげるから、シャンクス達に今の話をしてきて。

 このトットムジカを止めて――――これから来る〝新時代〟の為に」

 

自分の求める〝新時代〟はもう叶えられそうにない。

シャンクス達にだって話した事がない内容まで伝えた。

なら、これから先の未来をルフィに託そう。

いや、彼だからこそ託せるとウタは思えた。

 

この想いこそ、彼女が起こしたトットムジカの動きを鈍らせる程の"心境の変化"だ。

 

 

 

 

 

「だから!! さっきから、お前が勝手に決めんなって言ってんだろ!!」

 

 

 

 

 

託された張本人の怒号が鳴り響いたのは直後だった。

彼女の独白を受け、ルフィの放つ一言はさっきと同じものだった。

しかし、決定的に違うのは彼の怒りが如実に表れていた事だ。

 

「血が繋がって無くたって、本当の家族になれるのを教えて貰っただろ!!」

 

思い出すのはオレンジ髪の色の少女とその母親が教えてくれた。

血の繋がりが無いとか関係ないと言わんばかりに本物の家族にしか見えなかった。

 

シャンクスはウタの事を守る意味を込めて「娘」だと言ってくれている。

けれど、見ていてシャンクスがウタをどれだけ大切にしているのか良く分かる。

あの母娘のようにシャンクスとウタは間違い無く父と娘で、家族なのだ。

 

「嫌いなもの、言えない事があるのも普通だ。考え方だって変わるかもしれねェだろ!!」

 

長い黒髪の女性が教えてくれた。

人には言えない苦手なもの、嫌いなものがある。

彼女は嫌いなものの理由を言えなかったが、そういうものもある。

ルフィにも嫌いなものや言いたくない事があったりするのだからシャンクスにだってある筈だ。

けど、それだって相手にしろ、自分にしろ何かしら考え方が変わるかもしれない。

そう、彼女の死生観に関しても言える事だ。

 

「生まれた場所を知らないからなんだ。お前が生きてきた時間は誰にも否定できない『ウタだけの歴史』だろ!!」

 

ロビンという女性が教えてくれた。

ルフィには分かりづらい内容ではあったが。

人にはそれぞれ自分だけの歴史がある。

自分の過ごしてきた時間は決して嘘ではない。

楽しかった事、辛かった事、それらを全ては誰にも否定できない『ウタだけの歴史』だ。

 

「ウタは〝赤髪海賊団〟の音楽家で将来は〝歌姫〟になるんだろ!!

 お前の考えてる〝新時代〟にしたいんだろ!!

 それなのに、こんなところで終われるのかよ!!」

 

「っ!!!!」

 

彼の言葉にウタの心は揺さぶられる。

そして、トドメの一言を突き付けられる。

 

「お前の想いをぶつけろよ!!

 おれを、シャンクス達を信じろ!!」

 

そこまでの言葉があったからこそ、最後の一言が心に届いた。

幼馴染みの言う通りなのかもしれない。

自分はこれまで想いの丈を誰かにぶつけた事は無かった。

 

ウタの考えはシャンクス達と違っていれば、これまでの関係が崩れると思っていたから。

けれど、トットムジカを通じて見えるシャンクス達の姿――――これまで目にする事の無かった彼らの戦う姿を見た。

必死にウタの為に死に物狂いで戦ってくれている。

微かに聞こえる「ウタを助ける」の声が信憑性を上げてくれる。

 

ただ信じれば良い――――こんなにも単純な事に何も知らないルフィの方が気付いていた。

彼等ならどんな事があろうとも受け止めてくれるという事に。

 

「本当、いつの間にか大きくなってたんだね」

 

ウタが知らない間にルフィは様々な経験をして、精神的にも大きくなっていた。

きっと、これまでの〝冒険〟が彼を成長させたのだ。

 

「うん。ありがとう、ルフィ」

 

ならば、ルフィよりも多くの〝冒険〟をしてきたウタが下を向いて成長を止める訳にはいかない。

ネガティブな思考を振り払うように顔を上げ、前を向く。

 

「後でシャンクスに私の想いの丈をぶつける!! ゴチャゴチャ考えるのはその後にする!!」

 

「そうか!! ししし!!」

 

ウタの答えは問題の先送りにも見えるが、何かが吹っ切れたようだ。

それを見た事でルフィも嬉しくなる。

 

ここで、音符の戦士の動きが鈍くなる。

ルフィが最後に近付いてきた音符の戦士を蹴散らすと、トットムジカも動きを止める。

 

「何だ? 動きが止まったぞ?」

 

「トットムジカはウタワールドを乗っ取っても、本来は私の能力の一部よ。

 あいつの動力源が負の感情――――悪いイメージを利用しているけど、私が良いイメージをしてるから動きが鈍くなったのよ。

 でも、それも一時的なものでしかない」

 

「はー、なるほどなー」

 

「…………多分、良く分かってないでしょ?」

 

ルフィが適当な返事をしているので、話を半分も理解していないと予想が付く。

図体や精神が大きくなっても彼の根本はまだ6歳の頭脳だ。

恐らくだが、今のルフィの肉体と変わらない年齢に達しても小難しい話を理解できない事には変わりなさそうだ。

 

感覚的にウタは理解していた。

あまりにも思考がネガティブになっていたのはトットムジカの負の感情がウタへと流れ込んできたから。

少しの悪いイメージをそのまま増幅させた。

 

今はその真逆の感情をウタは抱いている。

〝希望〟というトットムジカの抱く感情とは全く別種のイメージがウタがそうであったように今度は"向こうへ逆流した。"

その結果なのか、トットムジカの動作は鈍くなったようだ。

しかし、トットムジカの方は〝希望〟を認めない。

より大きな負の感情である〝絶望〟を大きくさせる。

 

「トットムジカを倒す方法があるのかは分からないんだよ?」

 

「大丈夫だ。何とかなる」

 

ウタの懸念をルフィは何の考えもないような回答しかしない。

けれど、何とかなる気がする。

 

外ではシャンクス達もあの手この手でトットムジカを止めようとしている。

恐らくは戦う事が鍵になってくる。

 

「ん? あいつ、動き出すぞ!!」

 

ルフィが言うと、トットムジカは動きを再開した。

やはり、標的となるのはウタ――――否、妨害を行うルフィに攻撃の対象を絞り出した。

 

音符の戦士を新たに産み出す。

数は多い。

けれど、これら全部を薙ぎ倒す。

 

「やってやる!!」

 

ルフィは自らの拳同士を打ち付け、気合いを入れる。

視界に入る音符の戦士を見据え――――

 

「未来だけ信じてる♪

 誰かが嘲ってもかまわない♪

 走ってる情熱が♪

 あなたをキラめかせる♪」

 

背後から歌声が聴こえる。

誰の声かなど、ルフィには振り返らなくても分かる。

 

幼くとも彼女の〝歌声〟には人を奮い立たせるだけの〝力〟が宿っている。

何と言っても、彼女は〝赤髪海賊団〟の音楽家で未来の〝歌姫〟なのだから。

 

「ごめんねルフィ。私には“これ位しか出来なくて”」

 

「何言ってんだ。そんな事ねェよ」

 

ウタは謝るが、その必要は無いと返す。

彼女の歌声を聞いたルフィは身体の奥底からまた力が溢れ出す感覚があった。

そして、彼の服装も黄色のベストにズボンが赤に変わる。

 

ウタはルフィをサポートしてくれる。

ルフィはそれを信じて戦う。

シンプルな戦闘の陣形だ。

 

「私は信じる。皆と、シャンクスと、ルフィと、あいつを倒せるって」

 

「おう!! やるぞ!!」

 

もう迷わない。

ウタは赤髪海賊団を、シャンクスを、ルフィを信じると決めた。

彼は迫りくる大軍を前にしても臆さずに応える。

 

「あいつをぶっ飛ばすぞ!!」

 

「うん!! やろう!! "皆で!!"」

 

少年と少女は目の前の元凶を倒す――――そう、宣言する。




如何でしたでしょうか?
今回は長くなりました。

補足も含めてあとがきも長めになります。

トットムジカが降臨して、ウタワールドに居るのは近くで歌を聞いていたルフィのみです。
なので、彼と能力者であるウタ以外にはトットムジカのみ。
そして、見るからに不気味なトットムジカの肩に閉じ込められるようにされていたウタを見てトットムジカを「敵」と認識しています。

明らかに見た目がバケモノですが、山賊相手にも怯まなかったし、何よりウタはルフィにとっても「友達」なので脇目も振らずに助けに向かいます。
子どもなのに彼のメンタルの強さときたらとんでもない。

またウタワールド内にてルフィの姿の変化について。
映画本編でウタの能力で「本人の望む物の具現化」と「何人かのキャラの容姿の変化」が出来た事からの解釈となっています。

前者の部分は音符をゾロにピンポイントにお酒を、女の子に人形を変化させて居た事から「多少なりとも」他者の思考を読み取って具現化させる事が可能なのではという点。
後者は小さくされたベポ、ブルーノのように弱体化が可能ならば「その逆に強化」も可能なのではないかと予想しました。

と言う訳で、ルフィのように「良い意味」での変化も起こるのではとの解釈となります。


第一形態のトットムジカの強さは本来のものもありますがウタの身体と経験が混ざって却ってそれが「足を引っ張っている」ので映画本編よりも弱い状態にあります。
それに加えて互いの感情や思考が「ほぼ」共有されています。
故にウタが急にネガティブな思考や発言をしたのは「この為」となります。
逆にウタがプラス思考になると、トットムジカの動きの方がにぶくなっています。
音符の戦士も同じです。

なのでほぼほぼ初期のルフィ1人で何とかなっています。
何ならウタの話を聞きながら余裕を持たせるような状態にしたとはいえ音符の戦士を撃退してますし。
最低でも身体能力はアラバスタ編以降程はあります。
ストームしてますし。

恐らくこのトットムジカが一番の独自解釈ですね。


ようやく下準備を話せます。
ここへ来る前にナミ、ハンコック、ロビンと関わって貰ったのは全て「ウタの死生観へ指摘する為」でもありました。
当初はこの話の前の登場キャラはナミだけの予定で、残り2名はこの後の予定だったのですが、彼女への言葉を投げる時の説得力が欲しくて早期に彼女等の力が欲しくて出番の先回しにしました。
ビビ等はまたの機会に(ごめんよ)
子どものルフィの「考え方の成長」を促してくれました。

正直、作者もウタの本編での集団自殺紛いの行動は如何ともし難い感情があります。
あの一件はウタの「死生観」が招いた結果でもありましたので。
いくらここでトットムジカをどうにかしてもウタ本人の「死生観」を何とかしない限りはエレジアに残っても、仮にシャンクス達と戻っても、仮にルフィと共に海へ出る選択をしても、下手をすると映画と同じ事を行いそうだなと感じました。
誰かに打ち明けたり、何かしらのきっかけは必要でしょう。
ただ、このままだと誰にも打ち明けずに突き進んでしまうかもしれません。
現にシャンクス達やゴードンも彼女の「死生観」に関しては知らないような印象を受けました。

この時点で彼女の「死生観」が映画本編時間軸と変わらないのは特典等の情報から明らかになっていたので。
まあ、まだ「死生観」周りは解決はしていないですし、これを乗り越えてからですが。

あとは作者の趣味でワンピースの曲の出だしを使いました。
ウタにして欲しい事を考えた時、自然とこの曲が出てきたので。
ウィーアーはちょっと合わなかったので今回は無しで。

歌で力が付くのは「ウタワールドだから」なのと「特定の人物だから」という事で。
でないとコブコブの実との差別化が出来ないかなと。
あとで何か考えておきます。
とりあえず考えるな、感じるんだ状態です。



さて、補足も含めて長くなりました。
戦闘シーンも見辛かったらアドバイス頂ければ直していきます。
ちなみに途中まで技に〝〟の表記が無かったのはわざとです。
バラティエ編まで技に〝〟の表記が無かったので、せっかくなら真似してみようと思いまして。

作者の見落としがあればこっそり教えて下さい。
答えてからここに補足しておきます。

では、また次回に。


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その拳は銃よりも――――

何とか早めに書ききれました。

時間もいつもより早めに投稿しております。

そして今回も長めかつ独自解釈マシマシです。

では、続きをどうぞ。


ルフィに迫る音符の戦士。

それは先程のものよりも速い。

 

「なら、今よりもっと速く」

 

その為の方法が脳裏に過る。

膝に手を当てて、パンプアップの要領で足首から血流が上がる。

身体から蒸気のようなものが出て、肌も赤くなっている。

 

「〝ギア2(セカンド)〟!!」

 

自然と、口から出た。

ルフィの次に取る行動も身体が勝手に動いていた。

 

「〝ゴムゴムの〟……」

 

左手を前へ突き出し、右手を肩の高さまで持ってくる。

まるで狙いを澄ましているようで――――

 

「〝JET銃(ジェットピストル)〟!!」

 

瞬間、1人の音符の戦士が弾き飛ばされる。

まさに一瞬の出来事だ。

ルフィの拳が放たれたかと思った瞬間、吹き飛んでいたのだから。

 

しかし、これは開戦の合図に過ぎない。

ルフィは地面を蹴り、迫る音符の戦士に突貫していく。

その際、両腕を真後ろへ伸ばす。

 

「〝ゴムゴムのJET(ジェット)バズーカ〟!!」

 

引き戻した両腕が1人の音符の戦士を吹き飛ばす。

その吹き飛ばされた音符の戦士は他の者も巻き込んでいく。

 

「〝ゴムゴムの〟…………」

 

それでも音符の戦士はルフィへ攻めてくる。

ならば返り討ちにすると、“既に”拳を打ち出していた。

 

「〝JET銃乱打(ジェットガトリング)〟」

 

その拳は一発ではない。

まさしく乱打。

何度も何度も繰り返し、ルフィは拳を叩き込む。

その速度も先程までと同様、音符の戦士には何が起きたのか理解出来ない程の速度であった。

 

だからだろうか、トットムジカの迎撃にも変化が起きる。

先程までとは比べ物にならない、ルフィよりも遥かに大きな音符の戦士を呼び出した。

ルフィが見上げて、初めて顔が見える程の大きさ。

 

「こいつは――――」

 

生半可な攻撃は通用しないと直感で判断した。

巨体の音符の戦士の手にある巨大な槍。

それで突き刺そうとしてくる。

 

「よっ!!」

 

巨体とはいえ速度はない。

力の代わりに速さが足りなくなった。

突き刺そうとしてくる槍を紙一重で回避する。

跳んで槍を空振りさせた後に、その上に乗っかる。 

 

「〝ギア3(サード)〟!!」

 

音符の戦士へと駆けながら右の親指を思いっきり噛むと、息を吹き込む。

 

「〝骨風船〟!!」

 

息を吹き込んだのは自らの骨。

ルフィの右腕が大きくなる。

まるで巨人の腕。

 

「〝ゴムゴムの〟」

 

巨大な音符の戦士の肩まで走ってきた。

巨大化した右腕を持ち上げると、前へと突き出す。

 

「〝巨人の銃(ギガントピストル)〟!!」

 

その巨大な拳を音符の戦士の顔面へと叩き込む。

勢いに押され、巨大な音符の戦士の身体がトットムジカへと吹き飛ぶ。

トットムジカを守るように不可視の壁にぶつかる結果に終わる。

 

「随分と硬いんだな!! けど!! それも壊す!!」

 

ルフィは右腕を大きくさせたまま、トットムジカへとダッシュする。

トットムジカの正面まで来ると跳び上がり、膨れ上がった右腕が萎む。

いや、萎むのではなくて胴体を通じて吹き込まれた空気が左足へと移動したのだ。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

その左足を天高く上げる。

直前、トットムジカが黄色い音符をルフィの頭上へと出現させる。

そこから落雷が発生した。

轟音と光が真下のルフィに直撃する――――のだが、彼には“全く通用しない。”

 

彼は悪魔の実の力で全身がゴム人間となっている。

落雷であれば焼き切れるといった理屈は抜きにして、絶縁体であるゴムには電気や雷が通らない。

これはトットムジカにとって悪手である。

 

いくら自我があるとは言うが、戦いにおける〝駆け引き〟が出来ていない。

ましてや、戦闘経験の少ないウタから作られた存在ともなれば話も分かる。

だから、必然的に悪手を引いてしまうのは仕方無かった。

 

ルフィは、トットムジカの悪手を自らのチャンスへと変える。

振り上げた左足を、力の限り振り下ろす。

 

「〝巨人の雷斧(ギガントトールアックス)〟!!!!」

 

トットムジカの作り出した不可視の壁を粉砕し、雷を纏う巨大な踵落としを繰り出す。

 

ドォォォォォッ!!

 

凄まじい轟音をさせ、トットムジカの巨大な体が吹き飛ばされる。

それと、同じタイミングで――――シューーーーッ!! と、ルフィの口から空気が抜けていく。

宙を回転しながら偶然にもウタのところに流れ着く。

 

「この技使うと、こんな事になるのか」

 

「ル、ルフィ!?」

 

ウタの元まで来たルフィの身体は縮んでいた。

子どもに戻ったと言う意味合いではない。

まだルフィの着用している服に変化はない。

これは、先程の一時的な巨大化の反動といった所か。

 

「けど、これでトットムジカも――――」

 

「まだ、終わってないみたいだな」

 

見ればトットムジカに変化が起きていた。

赤い顔が青白くなり帽子に竜の顔のような意匠が追加される。

さらに特筆すべきは鍵盤の足が追加された事か。

 

「ここからが本番だ」

 

言っている間にルフィの身体が大きくなる。

反動が収まったと言う事だ。

 

「今のままで、勝てる?」

 

「分かんねェ。だけど、“ぶっ飛ばす!!”」

 

姿の禍々しさが増したところで臆するルフィではない。

気を引き締めるかのように、トットムジカへ歩み出す。

 

「なら、私も出来るだけルフィをサポートする」

 

ルフィだけには戦わせない。

彼よりも年上で、海賊としての歴も長い自分が何もしないでどうする?

 

「じっと出来ない♪

 止まれない♪

 夜明けが遅くてじれったい♪」

 

ウタがそのフレーズを口ずさんだ瞬間、ルフィが音符に包まれて光る。

またも彼の容姿に変化が訪れる。

 

先程よりも身長は伸び、腹の真ん中に大きなX字の傷。

赤い長袖のベスト、青い半ズボンに腰には黄色の腰巻を着けている。

 

「ふ、う」

 

「大丈夫か? ウタ?」

 

「ちょっと能力の使い過ぎで疲れちゃったみたい」

 

ウタは大きく息を吐きながらその場に座り込む。

それはそうだ。

ウタワールドの維持はそれだけで体力を消費する。

何とかウタワールドの解除に踏み切ろうとするも、トットムジカが許さない。

現実世界のウタの意識を無理矢理に覚醒させた状態だからだ。

 

ただ、長く保てない事はウタ本人が自覚している。

どんなに意識を覚醒させ、無理矢理に意識を保たせようともウタの体力が途切れればトットムジカは現実世界に居られはしない。

それを分かっているからウタを殺せはしないし、せっかく見つけ出したウタウタの能力者に大きな無茶はさせられまい。

今は出来るだけ、自分の存在を維持できるのかという実験や邪魔者となるシャンクス達の排除を優先させたいが為に現実世界で存在の維持に努めている。

 

「ルフィ、聞いて。私が疲れているって事は、それだけトットムジカが現実世界に居られる時間が減っているという事よ。

 私が疲れ切ってさえしまえば"私達の勝ちになるの"」

 

下手な理屈を捏ねたが、結局はウタの体力が限界に来てしまえばこの悪夢を終わらせる事ができる。

それが出来るのは現状シャンクス達とルフィのみ。

 

「お前は、それで死んだりしねェよな?」

 

「うん。約束する」

 

「なら、話は早いな。あいつをぶっ飛ばせば良いんだ」

 

ウタが危険な事をしない、そんな目に合わないというのならば構わない。

ルフィの視線がトットムジカへと絞られる。

 

「あと何回サポートできるのか分からない。だから、頑張って」

 

「おう!! 任せろ!!」

 

ウタの応援を受け、ルフィは飛び出した。

その速度は先程までとは比較にならない。

 

雰囲気と同様、彼の身体能力が桁違いに跳ね上がった。

それが瞬時に分かる事が起こる。

 

「『武装』」

 

自然と彼の口から出てきて、力が右腕に収束する感覚があった。

ルフィの右拳が黒く染まる。

その状態はいつだったか、ベックマンが使っていたものと酷似しているようにも見えた。

 

「〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

 

最初にルフィが見せたものと似た技だ。

それを遠くに居るトットムジカへ当てようとする――――が、それを阻む影が降ってくる。

言わずもがな音符の戦士だ。

トットムジカを守るようにルフィの拳の前に立ち塞がる。

 

「退けェッ!!」

 

彼の怒号と同時、拳が叩き込まれて吹き飛ばされる。

ルフィはそれを確認すると、スタートダッシュを切る。

まさしく放たれた矢のごとく、一直線にトットムジカへ接近していく。

もう、ルフィにとってはトットムジカとの距離はあってないようなものだ。

 

しかし、トットムジカも黙っている訳が無い。

ルフィの接近に際し、多数の音符の戦士を送り込んでくる。

 

迎撃方法がパターン化している。

ウタの予想通り、トットムジカは自我があっても思考パターンが短絡的過ぎる。

故にルフィ1人しか居ない状況なのに苦戦を強いられる。

 

ウタを取り込む事で思考が出来たとしても基準が彼女となっている。

トットムジカの戦闘経験がウタと同じなのだとしたら言いたくはないが、ウタは戦闘経験が皆無なのでワンパターン化は頷けてしまう。

 

そこにこそ、トットムジカを撃破する可能性が秘められている。

 

「〝ギア2(セカンド)〟」

 

ルフィは静かに宣言する。

さっきとは違って予備動作は無い。

身体から蒸気が発せられ、肌色が赤くなる。

 

それだけではない。

彼の両の拳が黒くなる。

 

「〝ゴムゴムの鷹銃乱打(ホークガトリング)〟!!」

 

黒く染まった拳が音符の戦士を瞬く間に吹き飛ばす。

その際、トットムジカの本体も動いていた。

拳を作って、ルフィめがけて振り抜く。

 

それに対してルフィは臆する事無く、トットムジカの拳へ駆けていく。

右腕を後ろへ伸ばし、その拳は黒く染まっている。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

当たる寸前、伸ばした腕を引き戻す。

その際に炎が巻き起こる。

彼の拳に炎が纏わり付き――――

 

「〝火拳銃(レッドホーク)〟!!!!」

 

炎を纏った拳を叩き込む。

 

ズドォォォォォンッ!!

 

轟音を鳴らしながらトットムジカの拳を跳ね返す。

自分よりも何倍もの巨体の拳をルフィは撥ね退けてみせた。

これには見ていたウタも驚きを隠せない。

 

「うおおおおおおぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

 

ルフィの雄叫びが轟く。

彼は止まる事を知らないかのように全力で疾駆する。

先程の焼き回しで、右の親指に息を吹き込む。

 

「〝ギア3(サード)〟!!」

 

大きくなった拳を振り上げ、これまでの攻撃と同様に黒く染まる。

トットムジカへと接近を果たすと同時、巨大な槍を目の前で作り出すと投擲してくる。

 

「〝ゴムゴムの象銃(エレファントガン)〟!!」

 

ゴォォォォォンッ!!

 

巨大な槍に拳がぶつかる。

ルフィの拳が槍に勝ったのか、その切っ先から槍は砕け散った。

勢いを殺されたものの、そんなものは関係無いと言わんばかりに次の行動に移っていた。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

左の指を噛むと、右と同様に大きく膨らむ。

その左手も黒く染め上げて、右拳を引いた際に代わりに繰り出す。

不可視の壁があり、それに阻まれる。

だが、すかさず右、次は左、右――――交互に拳を不可視の壁へ叩き込んでいく。

 

「〝象銃乱打(エレファントガトリング)〟!!!!」

 

巨大となった左右の拳を何度も何度も打ち付ける。

その速度は増していき、最終的には目には追えなくなっていた。

 

「うおおおおおおッ!!」

 

最後に勢いを付けて拳を振り抜く。

瞬間、パリィィィィィッ!! と、ガラスの割れる音に続いて不可視の壁が粉々に砕け散った。

 

けれど、まだだ。

壁を壊しただけで届いていない。

何か行動を起こされる前にトットムジカは動く。

遂に彼の強さに警戒心を更に強める――――だが、

 

「ありったけの夢をかき集め♪

 捜し物を探しに行くのさ♪」

 

それよりも速くウタが応援する(うたう)

その歌声でルフィの服装が変化する。

赤い長袖ベストはそのままに、オレンジ色の半ズボン、紫色の腰巻を着用し、黒いコートを羽織っている。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

右拳は未だに巨大化させ、黒く染まっている。

黒いコートをなびかせ、後ろへ伸ばす。

跳躍し、伸ばした腕を戻す。

 

対するトットムジカは目を赤く光らせる。

赤い閃光が放たれる。

跳躍し、攻撃モーションに入ったルフィを狙い撃ちしたのだ。

ここまで隠していたとっておきなのだろう。

あえて接近させる事で、ほぼゼロ距離の光線は避けられないと踏んだのだ。

確かにそれは有効な手段だったが――――それでも、彼の拳の方が速かった。

 

「〝業火拳銃(レッドロック)〟!!!!」

 

巨大化した拳が炎を纏って打ち抜かれる。

振り抜かれた瞬間には赤い光線と衝突――――その次の瞬間には赤い光線を真っ向から打ち破っていた。

そのまま勢いを殺す事無く、彼の拳はトットムジカの腹を貫く。

直撃した瞬間、トットムジカの巨体が地面に転がされていた。

 

「すごい」

 

きっと、トットムジカには何が起きたのか分かるまい。

横から見ていたウタが分からないのだから。

分かるのは、それだけルフィの一撃が重かった――――それだけだ。

 

さっきのような反動で縮む事はないのか、ルフィはその場でトットムジカを油断無く見据えていた。

ウタも彼に倣ってトットムジカの方を注視する…………変化は即座にあった。

 

まずはウタワールドに変化が起こる。

空と地面が夜空のような色へ変化する。

確かに地面はあるのだが、まるで自分が宙に浮いてるかのような錯覚に陥る。

 

無論、トットムジカにも変化が起こる。

巨大な鍵盤の腕が4本に増え、黒い翼が生えた。

被っているハットも豪華に意匠され、数珠にある髑髏の数も増した。

 

コケ脅しだと言いたかったが、トットムジカから放たれる目に見える禍々しいオーラからそんな事は無いと現実を突き付けられる。

 

「んっ!? ぐっ!?」

 

ルフィは両の腕を前へと交差させる。

何かに気付いたようで、それは防御を取る姿勢のようだ。

事実、ルフィの行動は防御態勢を取っていたのだ。

 

ドンッ!! ドンッ!!

 

彼の両腕に空気の塊のようなものが叩き込まれる。

それが2発、彼に狙いを付けて叩き込んできた訳だ。

いや、2発で終わらない。

立て続けに先程と同じ音がルフィの交差する両腕から聞こえる。

先程のルフィの拳の連打を真似するかのように、不可視の空気の塊を連打される。

 

「ん、にゃろ!?」

 

それはルフィを徐々に後退させる程の威力を持っていた。

これまでとは段違いの力に驚かされる…………けれども、そちらを見ていれば良い訳では無い。

 

「ルフィ!! 来るよ!!」

 

「ッ!?」

 

トットムジカの増えた4本の腕が容赦なく牙を剥く。

 

まずは頭上から腕を振り下ろす。

押される勢いを利用して後ろへ跳んで回避する。

 

次に左右から両手を合わせるモーションで捕まえようとする。

それを着地後に真上に跳んで回避する。

 

最後は真正面から真っ向勝負とばかりにトットムジカの拳が迫る。

真っ向勝負には真っ向勝負と、指に空気を吹き込んで迎撃しようとする。

 

「後ろ!!」

 

ウタの叫びに反応が遅れる。

彼の行動を計算していたかのように音符の戦士がルフィの背後を取っていた。

1人や2人ではない。

複数体の音符の戦士をこの為に隠して進行させていた。

 

「『武装色』〝ゴムゴムの風船〟」

 

それに対してルフィが取ったのは身体を膨らませる事だ。

腹の一部を黒く染めて。

まずは眼前のトットムジカの拳を受ける。

 

「うッ!?」

 

ゴムの身体に物理攻撃が効くのは不思議であったが、今は後ろの音符の戦士の方が大事だ。

殴られた反動で背後に居る音符の戦士の方へ吹き飛ばされる。

膨らんだ身体で音符の戦士を受け止める。

ゴムの身体には刃物は通用するのだが、先程から無意識にしている行動が防いでくれているのが分かる。

 

どうやっているのかなど後回しだ。

音符の戦士を受け止めると、身体を無理矢理に反転させる。

狙いはトットムジカの拳だ。

 

「〝ゴムゴムのお礼砲(れいファイア)〟」

 

音符の戦士を背後のトットムジカの拳めがけてシュートする。

叩き付けられた音符の戦士はそれで消滅する。

トットムジカの拳も勢いを止める。

 

ルフィも無事に着地し、トットムジカとの距離を取る。

姿が変われば戦闘力も大きく向上する。

もう、先程のように簡単には近付かせても貰えまい。

ここが正念場だ。

黒いコートを脱ぎ捨て、草履を脱ぐ。

そして、“文字通りに”ギアを上げる。

 

「〝ギア4(フォース)〟!!」

 

今度は右腕を黒くさせ、その腕を噛んで息を思いっきり吹き込む。

筋肉を膨張させ、ルフィの身体全体に空気が行き渡る。

 

「〝筋肉風船〟!!」

 

今度は骨ではなく、筋肉の風船だ。

 

「『弾む男(バウンドマン)』!!」

 

四肢が赤黒く染まっており、両腕や胴体に筋肉の風船を集中させ、いかつい出で立ちをしている。

小柄なルフィとは対照的に、腕の太さも胴体の大きさも倍以上に増えている。

ただ身体の膨張に対して足のサイズに変化は無いから立っているのが難しいようだ。

ゴインゴイン と、身体を弾ませている。

 

動く事もままならないのでは無いかと疑ってしまう。

しかし、ルフィ本人は到って真面目なのだろう。

 

直後、跳ねていたルフィがまさしく一気に跳んだのだ。

弾力が上昇したようで、弾む勢いを利用したのだ。

そのまさしくロケットもかくやという速度で跳んでいく。

 

トットムジカもルフィを接近させまいと力を行使する。

具現化させた音符がルフィを撃墜しようと落下し、巨大な槍を生み出して貫こうとし、音符の戦士が襲い掛かる。

 

「うおおおおおおおおーーーーっ!!」

 

雄叫びを轟かせ、ルフィは一直線に向かっていく。

まずはルフィを撃墜しようとする音符に目を付ける。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

太くなった右腕で右拳を引っ込めて圧縮する。

腕全体を巨大なバネに見立てているようで、右拳はまるで右腕の弾丸のようにも見える。

 

「〝猿王銃(コングガン)〟!!!!」

 

圧縮していた右拳という弾丸を真正面にまで来た具現化した音符に叩き付ける。

 

ズドオオオオオオオオオッ!!

 

迫る音符は凄まじい轟音と共に粉砕される。

続けて巨大な槍に目を向ける。

 

「〝ゴムゴムの大蛇砲(カルヴァリン)〟!!」

 

今度は腕を引っ込めない。

そのまま、拳を突き出した。

巨大な槍に皮膚を傷付けられる事無く、拳一つで上空へと殴り上げた。

だが、さっきとは異なって巨大な槍は砕けていない。

この間にも音符の戦士が白兵戦を挑もうと急接近している。

 

「追え!! 大蛇(パイソン)!!」

 

ルフィの指示にまるで自らの右腕が従っているかのように動き出す。

伸ばした右腕が急角度で軌道変更を繰り返す。

その行先は――――巨大な槍の側面だ。

 

「〝ゴムゴムの大蛇砲(カルヴァリン)〟!!!!」

 

同様の技で巨大な槍を横から思いっきり殴り付ける。

すると槍は急旋回する。

それは迫っていた音符の戦士も巻き込んでグルリと一回転した。

 

音符の戦士はそのまま上空へと巻き上げられていく。

巨大な槍もそれによって消滅する。

 

肝心のルフィはと言えば、その間にトットムジカの上を取っていた。

増えた4本の腕がルフィを捕えようと伸ばされるが、あの姿でとんでもない機動力を見せる彼を捕えるのは至難の業だ。

 

信じられない話だが、大気を蹴る事で空中での移動を可能にしている。

おかげでトットムジカの腕から逃れて真上を陣取る事が可能になった。

 

「〝ゴムゴムのォ〟!!」

 

ルフィは右腕に更に空気を送り込む。

目に見えて巨大化していく腕。

それを先程と同様、右拳を右腕の内へと圧縮させていく。

 

トットムジカも危険と判断したようだ。

これ以上は自由にさせないという意思表示だろう。

 

「さっきより強いのが来るよ!!」

 

ウタが叫ぶと同時に赤い光線を放つ。

先程よりも太い。

ここまで光線を放たなかったのは放つ為の「インターバル」と「溜め」が必要だったからだ。

 

「〝大猿王銃(キングコングガン)〟!!!!」

 

対するルフィは巨大化させた腕を真下に居るトットムジカに対して解き放つ。

赤い光線と激突――――確かに威力は凄まじい。

 

「けど!! 敗けねェッ!!」

 

ルフィは"今の"自分の強さを疑わなかった。

その彼の拳に呼応し、右の拳が赤い閃光を押し返す。

赤い閃光との激突はその時点で勝敗は決した。

 

赤い閃光を打ち破り、拳がトットムジカへと向かっていく。

だが、その前に4本の腕によって阻まれる。

逆に言えば腕を全て使わせなければ今のルフィの拳はトットムジカに届いていた可能性は大いに高い。

 

「〝ゴムゴムのォ〟!!」

 

ルフィは左腕も巨大化させていた。

その拳には何やら赤いオーラのようなものも纏っている。

 

「〝覇猿王銃(オーバーコングガン)〟!!!!」

 

右腕を引っ込め、代わりに左の拳を叩き込む。

トットムジカを守ろうとする4つの左手めがけて。

自殺行為とも思える行動であったが、遥かに超える威力を持っていた。

 

端的に結果だけ伝えよう。

4つの腕もろとも、トットムジカの不可視の壁へと叩き込んだのだ。

壁を粉々に破壊しつつ、トットムジカを地面へと押し倒した。

 

このまま一気に追撃を試みようとしたが、それは許さないとばかりに倒れる間際にトットムジカの足がルフィを蹴り付けた。

 

「うわぁっ!?」

 

完全に想定外の攻撃であった。

ダメージこそ無いが、その蹴りの勢いでウタのところまでボールのように飛んで行った。

バインバインと音を弾ませる。

 

「ルフィ、大丈夫?」

 

「ああ。もう少しのところで邪魔された」

 

一筋縄ではいかない。

それを改めて認識させられる。

 

「向こうも余裕がないんだよ」

 

「それ、どういう事なんだ?」

 

「ルフィとシャンクス達がトットムジカの行動を抑えてるから、力を無理矢理に引き出してるけど、その分だけ限界が近いの」

 

姿形を変えるのは分かりやすいパワーアップという意味合いもある。

だが、何のリスクも無い訳では無い。

 

何度も繰り返すが、身体のベースは能力者でもあるウタなのだ。

今はトットムジカの能力で無理矢理に動かされているだけに過ぎないが、平たく言えば彼女の体力が尽きれば存在は維持できなくなる。

分かりやすいパワーアップにウタの体力は何処まで保てるのか?

実は自らの首を絞めているのだ。

敵を蹴散らす為の選択ではあるようだが、結果的にトットムジカ自身がこの場に居られる制限時間を自ら減らしている。

もう一息である事でもある。

 

「けど、問題もある。トットムジカの動きが分からなくなってきているの。多分、私に考えを見抜かれないようにしてるんだと思うの」

 

トットムジカも一種の生命体だと考えれば確かに納得のできる展開ではある。

ウタがトットムジカの行動を何度か予測できたのも、能力によって繋がっていたからだ。

それは逆も然りではあるが、どういう原理なのかトットムジカの行動が見抜けなくなっている。

 

「よく分かんねェけど、あいつをぶっ飛ばすには問題無いんだな?」

 

「うん。あと、あいつは具現化や音符の戦士の呼び出し、特に光線は何度も連続して使えない。次を使うにも、威力を上げるのも時間が掛かるの」

 

「なら、今がチャンスだな」

 

ルフィはチャンスが回ってきている事を改めて実感する。

この好機をものにする為に姿をまた変える。

 

「〝ギア4(フォース)〟!! 『蛇男(スネイクマン)』」

 

四肢の肌の赤み掛かった黒はそのままに、先程までとは真逆に細身の身体へと変化させる。

膨らませた筋肉は肘から先と膝から先に集中させているようだ。

 

「おれもさっきので力を大分使っちまった。ここで決める!!」

 

先程までの凄まじい猛攻にルフィにもリスクが無い訳では無い。

むしろ、ウタワールドの補助ありとは言えども身体を大きく変化させている。

元の彼の身体の状態を考えると、これ以上の無茶は負担を大きくさせるだけだ。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

右腕をバネのように収縮させながら、狙いをトットムジカへと定め…………

 

「〝JET大蛇砲(ジェットカルヴァリン)〟!!!!」

 

目にも止まらぬ速さとはこの事を言うのかもしれない。

ルフィが拳を突き出した次の瞬間には距離のあるトットムジカの顔面に直撃していた。

速いだけではない、威力も申し分ないようでトットムジカは怯む。

 

その隙に足をバネにして、離れた距離を一気に詰めようと前へ跳ぶ。

ルフィの接近を良しとしないトットムジカは4本の腕を使い、ルフィを迎撃しようとする。

インターバルも終えたのか、大小様々な音符の戦士をけしかけてくる。

向こうもここが正念場と知ってか、勝負を仕掛けてくる。

 

「〝ゴムゴムの黒い蛇群(ブラックマンバ)〟!!!!」

 

両腕を収縮させ、次の瞬間には四方八方に腕を突き出す。

拳を連打させる。

 

トットムジカの4本の腕を、音符の戦士を、問答無用で殴り飛ばす。

その速度たるや、何者にも見えまい。

気付いた時には殴り飛ばされているのだから。

 

「うおおおおおおおおおおおおぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

咆哮と共にルフィを遮る全てを殴り飛ばした。

4本の腕も、もう使い物にならない程に切断されたように消し飛ばしたのだ。

遂にトットムジカの真正面へ踊り出る。

 

「〝ゴムゴムのォ〟!!」

 

右腕を自身の後ろへ伸ばし、迂回させて巨大化させてトットムジカへと伸ばす。

 

「〝王蛇(キング・コブラ)〟!!!!」

 

五指は握らず、蛇の顎を開くように繰り出す。

それをトットムジカへ叩き込む――――その算段であったのだ。

寸前にトットムジカが大きく広げた翼を自身の目の前へと持ってきたのだ。

渾身の一打は突然出現した翼によって阻まれる。

 

「〝ゴムゴムのォッ〟!!」

 

まだだ。

まだ彼の闘志は消えていない。

伸ばした腕を引き戻し、狙いを定め…………

 

「〝九頭蛇(ヒュドラ)〟!!!!」

 

右拳を伸ばす。

赤いオーラのようなものを纏いながら彼の拳が真正面から翼を殴り付ける。

 

衝撃にトットムジカを後退りさせる事はできた。

だが、それでやつは倒れない。

 

ただ、ルフィの拳が一度で終わらない。

伸ばした腕がありとあらゆる角度で曲がり、翼を四方八方から滅多打ちにする。

 

「その翼が、邪魔だあああああああああああっ!!」

 

宣言と同時、九撃目を真下から拳をぶち込む。

トットムジカの翼がルフィの拳に耐えきれず、千切れるように消し飛ばされる。

 

千切れた翼を掴み取り、伸ばした腕を戻す事でトットムジカへ急接近する。

もうトットムジカまでの道に邪魔するものはない。

 

「新時代はこの未来だ♪

 世界中全部 変えてしまえば♪ 変えてしまえば♪」

 

ウタも最後のギアを上げていこうと、歌い出す。

それに呼応するようにルフィもトットムジカへ向かっていく。

 

「果てしない音楽がもっと届くように♪」

 

笑顔を振り撒きながら歌うウタ。

こんな状況の中だというのに楽しそうで、けれど現実は見ていて、でも希望に満ちている。

 

決して綺羅びやかな会場ではないが、ここは既に彼女のステージだ。

 

観客はルフィとトットムジカだけなのが寂しいかな――――内心で肩を落とす。

ただ、それもポーズで表情は微笑みを浮かべていた。

 

「夢は見ないわ♪」

 

きっとトットムジカが存在の糧とする感情とは正反対のものが流れ込んでいよう。

ウタの中に流れ込むトットムジカの感情が物語っていたから。

やつにとってこれまで知らなかった未知なる感情が中で渦巻く。

 

ルフィ(キミ)が話した♪」

 

ウタの歌は止まらない。

同様に急接近するルフィも止まらない。

 

歌に想いを、魂を込める。

教えてくれたから、伝えてくれたから。

 

「“ボクら”信じて♪」

 

それを、言葉に、歌に、魂に乗せて放つ。

今、そしてこれからウタがするべき“たった1つのシンプルな事を。”

 

「いっけェッ!! ルフィィィィィィーーーーッ!!」

 

ウタに出来るのは“ここまで”だ。

ウタワールドによる他者への強化はこれで打ち止め。

彼女自身の体力が限界に来ているからだ。

つまり、それはトットムジカの方も限界が来ていると言える。

 

あとは、これから先に頼もしく"成長していくだろう"彼に託す。

今度は自分を犠牲にしての事ではない。

シャンクス達やルフィとこの先も"一緒に歩んでいく為に。"

 

「任せろ!!」

 

ウタの想いを受け、ルフィは笑みを浮かべながら跳んでいく。

彼女の、その期待に応えよう。

 

 

 

 

 

ドンドットット♪

ドンドットット♪

 

 

 

 

 

 

直後、何かの音がした。 

突如として聞こえた音の発生源は――――

 

「上がれ!! 心臓の音!!」

 

今のはルフィの心音なのだと告げた。

心臓が果たしてそのような奇妙な音を起てるか?

そんな事は御構い無しと、心臓に任せるがままに独特なリズムを奏でさせる。

 

「おれのやりたかった事が全部できる!!」

 

そう直感する。

そして、こう口にする。

 

 

 

 

 

「〝ギア5(フィフス)〟!!!!」

 

 

 

 

 

ルフィの身体に変化が起きたのは直後であった。

彼の肌、腰巻き以外の着用していた服を含めて全体が白くなり、目の虹彩は赤く染まる。

また、髪は炎のように逆立ち眉の形状も変化する。

身体から蒸気を発しているが、その蒸気をさながら羽衣のように羽織っている。

 

「〝ゴムゴムのロケット〟!!」

 

すかさず、ルフィはトットムジカへ跳んでいく勢いを利用して体当たりを行う。

既にバリアは破られている。

ただの体当たりではあるが、先程からとんでもない攻撃力を見せているルフィの体当たりだ。

トットムジカをそのまま吹き飛ばすだけの威力があった。

 

「ルフィ、次が来る」

 

何かは分からないがウタはトットムジカの新たな行動を察知した。

彼女が見破った直後だ。

トットムジカは何体か音符の戦士をけしかけてきた。

 

もうルフィには通用しない手ではあるが、少しでも時間を稼げれば良いという魂胆であろう。

 

「ししし!! それで止まるか!!」

 

ルフィは笑いながら構わずに突っ込んでいく。

 

「〝ゴムゴムの巨人(ギガント)〟!!」

 

予備動作も何も無かった。

気付けばルフィの身体は巨大化していたのだから。

音符の戦士が小人に見える程の巨体。

それはトットムジカの大きさにも引けを取らない。

その大きさに物を言わせ、両手で音符の戦士を包むように捕えた。

 

「おりゃあっ!!」

 

そのまま、音符の戦士をボールにして投げ返した。

凄まじい勢いで投擲された音符の戦士はぶつかる直前で消えた。

元はトットムジカの生み出した存在なのだから、消す事もそんなに難しい事ではない。

 

「よし!! 捕まえた!!」

 

音符の戦士にトットムジカが気を取られている隙にルフィは身体の大きさを元に戻してトットムジカの足を掴んでいた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおーーーーっ!!!!」

 

どんな腕力をしているのだろうか?

トットムジカの足を掴むと、そのまま振り回し始めたのだ。

まさかこの巨体を小柄なルフィがジャイアントスイングできるとは夢にも思うまい。

 

「おりゃあああああああああああーーーーっ!!!!」

 

トットムジカ程の巨体を容易く投げ飛ばした。

地面に成す術無く叩き付けられ、大きなダメージを負う。

 

ルフィの追撃を本能的に恐れ、彼を迎撃すべく立ち上がる。

今さっきまで彼の居た場所を確認するも――そこには誰も居なかった。

 

「これで全部終わりにしてやる!!!!」

 

既にルフィは上空へと飛んでいた。

見上げれば、彼は右腕を巨大化させていた。

それはトットムジカを大きく上回る程の大きさなのは一目瞭然であった。

 

反撃しなければ――――トットムジカはそう判断した。

 

当然ながら未だに感情や思考を共有できるウタに筒抜けになった。

その迎撃を起こそうとしている事を知ったウタはルフィへ伝えようとして――――止めた。

 

あれが現状で到達点におけるルフィの全力であろう事を悟ったからだ。

 

元々、ルフィにも限界が来ていたところにあんな無茶を重ねている。

どのみち彼も体力の限界が訪れよう。

これで決めなければいけないと彼自身も宣言する。

 

それはウタも同じである。

けれど、倒れる前にこれだけは見届けたい、否見届ける。

 

「〝ゴムゴムのォッ〟!!!!」

 

ルフィは巨大化させた腕を大きく振りかぶる。

それを受けたトットムジカは目を赤く光らせる。

これまでとは比較にならない程の赤い光線がルフィへ向かっていく。

トットムジカもまた、彼の全力が来ると悟って全力での迎撃を選択したのだろう。

 

迫る赤い光線。

されど、ルフィはそれを真正面から打ち破らんと拳を振り下ろす。

 

 

 

 

 

「〝猿神銃(バジュラングガン)〟!!!!!!」

 

 

 

 

 

瞬間、赤い光線と白い拳が激突した。

ぶつかり合うのも一瞬なら、勝敗が決するのも一瞬だった。

赤い光線を白い拳が難なく押し切り、殴り破る。

 

「本当、とんでもないんだから」

 

その様子を見れる立場にあるウタは苦笑しながらそう呟く。

同時、あの時の話を思い出す。

 

「そういえば、あの時……」

 

思い出すのはシャンクス達の目の前でナイフで目の下に傷を付けた日の事だ。

あの時に彼の発言が"未来で"実現するのだと、彼自身が今この場で証明しようとしているのだと。

 

今はウタワールドで得た前借りのようなもの。

だが、ルフィはこれだけ強くなる未来を既に"見据えている"。

その為にこれから血の滲む努力をしていくのだろう。

この先の彼がどれだけ強くなるのか、今から楽しみになってくるではないか。

 

「そっか――――アンタの言う通りだ」

 

ウタは何かに気付くと同時に状況は変化した。

その直後に彼の"将来これだけ強くなる拳"がトットムジカへ辿り着く。

 

「うおおおおおおおおおーーーーっ!!!!」

 

ルフィは雄叫びを撒き散らし、拳を全力で振り抜く。

 

 

ズドオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

 

トットムジカは拳に圧し潰され、凄まじい轟音と共に光となって消滅した。

合わせてウタの意識もブラックアウトする。

 

彼女の気絶は強制的に発動していたウタワールドも解除される事を意味している。

 

 

 

薄れゆく意識の中、彼女は服の内側の指輪を掴みながら先程の気付きを心の中で呟いた。

 

ルフィの拳は(ピストル)よりも強くなるんだね――――と。




如何でしたでしょうか?

今回はサブタイの通りでしたね。

これにてVSトットムジカは終了となります。
やつが消滅するには色々と条件はあるのですが、そこは次回にきちんと付け足し描写します。

以下、補足です。

段階を踏んで強くなっていくトットムジカではありましたが、前回と同様にその強さは映画本編程もありません。
それぞれルフィ単体で何とか出来てしまう強さでしたから。

ルフィの方がそれぞれの段階よりも大きく実力で上を取っている状態にあります。
ギア4発動以降は苦戦するシーンは無かったですから。
もっと上手く立ち回っていればルフィは手も足も出なかったでしょう。
ウタとの感情の共有が弱体化へと繋がったと言えます。 

そして、ルフィの方。
彼も段階的に強くなっていきました。
前回に言っていたように彼が見た夢を基準にしています。
直感的にどういう段階を踏めば良いのか判断し、姿を徐々に変えていきました。
それにはウタが歌ったのも要因ではあります。
それを含めても、ルフィの直感は凄いという事で。

ウタのルフィへの信頼が強くなっています。
映画本編では想像よりも彼を信頼している描写は少なかったですから、本編との相違点にはなりますね。

ウタが歌う事でルフィを強くしていく。
曲の順番はフィーリングでございます。
『新時代』の歌詞だけ最後に変えました。
彼女の中で前回のルフィの言葉が強く印象に残っている示唆でもあります。

戦闘描写が見辛ければアドバイスして頂ければ修正していきます。
いくつかの効果音、最後の切り札を放つ際に編集を施してみました。

他にも編集した文字があるのですが、スマホで見れてPCでは見れないものもあったので、その理由が分かる人が居ましたら教えて下さい。

今回はこの辺りでしょうか。

さて、次回ですが少し間が空きます。
恐らくは前回空いた時よりも長いです。
前回と今回の作成に想像以上に時間を掛かってしまいましたので。

頑張って書きますので感想で作者を励まして下さい(がめつい)

では、また次回に。


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あなたの本音を聞かせてくれ

ごめーん!!
嘘言ってごめんなさい!!

前回よりも投稿期間が空くと言いましたが、あれ取り消させて下さい。

という訳で、続きをどうぞ。




トットムジカの動きが緩慢になったのはウタワールドだけではなくて、現実世界でも同様であった。

 

「シャンクス!! 今だ!! 上から真っ二つに斬れ!!」

 

「おおっ!!」

 

ヤソップの合図と共にシャンクスの持つ剣がトットムジカを頭部から真っ二つにするように振り下ろす。

長い旅路の中で鍛えられた彼の一刀は並大抵の威力ではない。

それで耐えきれなくなったのか、トットムジカの身体は光となって消滅した。

トットムジカはウタワールドと現実世界で同時に倒さなければならない。

これを成したのは恐らく――――

 

「やったか!! ウタ、ルフィ!!」

 

「ああ、おれも方法までは分からないがな。それでも、あいつらはやってくれたんだ。

 まだまだおれも〝覇気〟の使い方がなっちゃいないからな。最後は上手くいって良かった」

 

ヤソップが言う〝覇気〟というもののおかげでウタワールドの状況を把握していたようだ。

ただ、彼が扱うものは曰く完璧ではないので、内部の状況を理解できていないようで、詳細までは不明だと言う。

トットムジカにトドメを刺す瞬間は把握できたようなので、何とかこちらでタイミングを合わせて倒すに至ったようだ。

 

だが、戦闘経験のない2人が上手くやってくれた。

おかげでトットムジカは倒せたのだ。

 

そこに加えて現実世界のウタの体力も限界を迎えたのだろう。

トットムジカの消滅と同時にウタの身体も解放される。

 

「ウタ!!」

 

上空から落ちる彼女をシャンクスは凄まじい跳躍力を見せてキャッチする。

 

彼女の様子に変化は無かった。

トットムジカの顕現の影響で疲労して眠っている。

跳躍した後の着地先はゴードンの近くだ。

 

「2人とも、無事かい?」

 

「ああ、おれもウタも無事だ」

 

未だに眠るルフィを抱えたゴードンがシャンクスとウタの安否を確認する。

どちらも無事である事をシャンクスは伝える。

 

「良かった」

 

「ゴードンさん、エレジアの被害は?」

 

夜の街中は炎に包まれている。

火の手が街全体へと広がり、トットムジカによる光線によって抉れた地面、倒壊した建物が生々しい現実を突き付ける。

 

「確かに街並みは酷い。負傷者も居る」

 

建物にあった〝電伝虫(でんでんむし)〟というカタツムリの殻に通話機能を持つ生物を持ち運んで状況は逐一チェックしてくれていた。

それでトットムジカが消えた事を伝え、状況を確認する。

 

「すまない。おれ達のせいで島がこんな有様に……」

 

「そんな事はない!!

 建物は被害が大きいが“国民は奇跡的に生きている。” 

 それは君達、それにこの子達が尽力してくれたおかげだ。

 なのに謝らないでくれ。こちらは感謝したい位なのだから!!」

 

被害はある。

けれども、それは建造物のみに抑えられた。

最初の光線で被害が甚大になったものと思っていたが、ウタの曲を聞こうと中央部にある城へ赴こうと外へ出ていたのが幸いした。

負傷者は居るが、赤髪海賊団の協力もあって全員が無事だ。

 

国民は最初のトットムジカの出現で倒壊してしまった城まで避難している。

こちらは逆に無事だった事とシャンクス達がトットムジカを引き離した事で避難するのに適した場所となった。

 

それもシャンクス達が命懸けで民衆を護ってくれた事。

彼等始め、ルフィとウタがウタワールドでトットムジカを抑え付けてくれただろう事が理由だ。

 

「お頭、負傷者の手当ては一通り終わったぞ。あとはエレジアの医者達に任せてある」

 

「そうか。ありがとうホンゴウ」

 

〝赤髪海賊団〟の船医、ホンゴウが告げる。

左目の上に斜めで付いた傷痕。

頭頂部の斜め後ろで髪をまとめた、半袖半ズボンを着た男性だ。

シャンクスの指示で彼は島民の救助を兼ねて、重症者の手当てをしていた。

 

「私からも礼を言わせてくれ。ありがとう。君達〝赤髪海賊団〟が来てくれなければ国民は誰も助からなかった」

 

「海賊に礼を言って良いのかい? それに原因はこっちにもあるんだ」

 

シャンクスの腕の中で眠るウタに視線を落とす。

不可抗力とは言えど、ウタがトットムジカを呼び出した事実に変わりはない。

だからこそ、国王に礼を述べられても素直に受け止められないでいる。

 

「そんな事はない。彼女は純粋に〝音楽〟が好きなだけなんだ。

 危険なものを封印していたのに野放しにしていた国王である私に責任がある」

 

原因を作ったのはトットムジカだ。

その事をゴードンは良く理解している。

だからこそ、今回の騒動はシャンクス達のせいだとは誰にも言わせない。

彼等は見ず知らずの島民達の為にバケモノと戦ってくれたのだから。

感謝こそあれ、責め立てる理由がゴードンには思い付かない。

 

むしろ、危険な存在を今まで放置していた自分こそが責任を取るべきだとまで言い出す。

 

「止めてくれ。そこまであなたが背負う必要は無い。

 全ての元凶はあんたを利用し、ウタまでも利用したトットムジカだ」

 

この場に悪役など誰も居ない。

シャンクスも、ましてやゴードンもこのような事態になる等とは思ってもみなかっただろう。

それでもゴードンは自らを責めると思う。

 

「それに以前の国王にしても『封印する』以外の術を持たなかったんだ。

 楽譜を破くなり、燃やすなり、手段はいくつもあるのに処分していなかった事を考えると簡単にできる話でもないさ」

 

あのようなバケモノが楽譜に存在している。

 

これは実際に歌ったウタと、これを伝えられたルフィのみが知る事実だが、トットムジカは言わば『負の感情の怨念』のようなものだ。

何か呪いが起こるのかもしれないし、第二第三のトットムジカのような楽譜が作られる可能性は十二分にあった。

 

「その証拠に、ほら」

 

シャンクスはゴードンの足下を指差す。

そこにトットムジカが封印された楽譜が散らばっていた。

あのような事態が起こり、消滅したとばかり思っていたのだが……どうやらシャンクスの予想は大当たりのようだ。

 

「これはエレジアの国王の名の下に、再封印をしてみせる」

 

「頼む」

 

ゴードンにしても出来る事は少ない。

こんな危険な存在をもう二度と誰の目にも触れさせないようにするより他にない。

 

「お頭、まずいぜ。恐らく海軍が来た」

 

そこへベックマンが慌てた様子で現れる。

島の高い位置に居るのもあり、遠目からでも船の光が点灯しているのが見える。

 

「この騒動を嗅ぎ付けたのか」

 

とんでもない騒ぎになっている。

この一件の所在を何処へ持っていくのか…………

 

トットムジカの件を話せば狙われるのは間違いなくウタだ。

ゴードンもこんなにも音楽を愛する未来ある若者に罪を背負わせる真似などさせるつもりは毛頭無い。

ましてや恩人の立場にあるシャンクス達に濡れ衣を着せる訳にもいかない。

 

「この一件、原因は私にあると伝え――――」

 

 

 

 

 

「いや、おれ達だ」

 

 

 

 

 

ゴードンが言い切るよりも先にシャンクスが言い切った。

 

「〝赤髪〟のシャンクスとその一味が引き起こした事件……海軍にはそう伝えてくれ」

 

「そんな事をできる訳がない!!

 君達はこのエレジアの恩人なんだ!!」

 

「おれ達は〝海賊〟だ。遅かれ早かれ、おれ達がここに来ているのが知られている以上は、罪を背負う事になるさ」

 

海賊というはみ出し者を政府は、海軍は、世の中が良い目で見る訳がない。

ならばこそ、この件は自分達が原因だと、全ての罪を背負う。

 

「いや、おれの懸賞金も上がるだろうからな。むしろ光栄でしかないな」

 

笑いながら、その方が嬉しいと言わんばかりだ。

 

「その代わりと言っては何だが、この子を預かってはくれないか?」

 

交換条件として突き付けてきた「この子」とは今もシャンクスの腕の中で眠るウタの事だ。

 

「海賊のおれ達がこの子の才能を閉ざす訳にはいかない。

 これからは海軍にもより一層目を付けられる事だろう」

 

一緒に居れば、ウタの〝歌姫〟の夢も潰えてしまう。

もしも、一緒に歩むというのならその二つ名は世間は悪名として捉えてしまう。

 

「それで、良いのかい?」

 

「仕方ないさ。これからはより一層に危険な旅になる。

 この子は戦闘中には表に出ないようにして貰って、ここまで隠して来たんだ。

 音楽に囲まれた生活のできるこの島はウタにとっても素晴らしい環境だ。」

 

その為にシャンクスはウタを表沙汰にはしてこなかった。

航海中は自分の娘とする事で護ってきた。

けれど、一般の島に預けられるならそれが一番だ。

 

 

 

 

 

「本当は、彼女にトットムジカの影響を伝えたくないからじゃないのかい?」

 

 

 

 

 

「…………」

 

ゴードンの一言にシャンクスは押し黙る。

 

「下手をすれば、トットムジカによってエレジアは滅びていた。国民を殺してしまうかもしれなかった。

 この事実を知られないようにする為に、君は全ての罪を被ろうとしているんじゃないか?」

 

今回は運が良かっただけだ。

けれど、トットムジカの被害を知ってしまえば彼女は自分の罪の重さに耐えきれなくなる。

まだ9歳の少女がそんなものを背負って良い訳が無い。

 

「察しが良いなゴードンさん。

 でも、それだけじゃない。このまま海賊のおれ達と居てもウタは幸せになれない。

 だから、ウタの幸せの為にもこの島で音楽に囲まれて〝歌姫〟を目指して暮らすのが一番だ」

 

彼女に知られる事無く、彼女がこの件を覚えていなければ後は問題のない話だ。

それに加えて、これまでシャンクス達の中で燻っていたウタへの想いを口にする。

彼女にとっての幸せは、このままでは歩めないのではないか?

〝歌姫〟という目標を持つのなら、彼女はこのエレジアで目指すのが一番で――――

 

 

 

 

 

「ダメ、だ……シャ……ク、ス……」

 

 

 

 

 

そこへ待ったの声を掛けたのはルフィだ。

まだ寝ぼけているのか、半分だけ瞼を開いて眠そうにしている。

 

「ルフィ!? お前、起きて――――」

 

「ちゃん、と、ウタの、話も……聞いて……」

 

そこまで言うと力尽きたのか、再び睡魔に襲われる。

彼の言いたい事は伝わった。

ウタの話を聞くべきだ――――と。

 

直後、まるで見計らったかのようにシャンクスの胸元の服が引っ張られる。

掴んでいるのは他ならないウタだ。

 

「シャン……ス」

 

寝ぼけ眼のようで、まだ意識は覚醒していない。

トットムジカを呼び出した際のウタワールドの発動で体力を大幅に削られている。

子どもの彼女の事を考えれば、疲労感が重くのし掛かっているのは見て分かる。

それでも、途切れ途切れでも父を求めて名を呼ぶ。

 

「ありがとう。助けて、くれて」

 

ゆっくりと、しかし確かに礼を述べてきた。

まだ瞼は重そうだが、しっかりと言葉を発する。

やはり疲労はすぐには拭えないのが見て分かる。

油断していると夢の世界へ逆戻りしてしまうだろう。

 

しかし、それを押してまで彼女は礼を述べる。

その事実が意味するところは、つまり――――

 

「お前、トットムジカの事を……」

 

「全部…………見てた」

 

シャンクスが懸念していた事をウタは既に知っていた。

だが、彼女は「ありがとう」と真っ先に感謝の言葉を告げた。

 

「あと、ごめんな、さい……」

 

直後、間髪入れずにウタは謝罪を口にする。

それがどういう意味を持っているのか、無論ながらシャンクスには分からない。

 

「私、シャンクス達を信じてなくて、黙ってた想いがたくさんあるの」

 

「黙ってた想い?」

 

「うん」

 

その事への謝罪があるのだと。

けれど、そこで言葉を区切ったウタは「でも」と紡ぐ。

彼女は首だけで未だに眠るルフィの方を見る。

 

「その想いを、伝えるべきだって。

 何があってもシャンクス達を、自分を、信じろって。

 ルフィが教えてくれて、背中を、押してくれたんだ……」

 

彼女の中で燻る「想い」を吐き出すべきだと。

赤髪海賊団ではない。

けれども、赤髪海賊団にとっても大切な〝友人〟である少年が赤髪海賊団の娘の心を動かしてくれた。

 

「その為に、ルフィと戻って、来た。

 話を、聞いて……欲し……」

 

そこまで言って、ウタの方に限界が訪れたのだろう。

ウタは再び眠りについた。

 

「ウタ……」

 

「どうやら、彼女の居場所は最初から決まっているようだ」

 

ルフィをベックマンへ預け、ゴードンはシャンクスと向き合う。

 

「この子はエレジアで預かる事は出来ない」

 

真っ先にゴードンは断言した。

ウタの様子を見て、彼女を預かろうという気など起ころう筈がない。

 

「彼女にとって大切な居場所は間違いなくあなた達だ。

 彼女の幸せも、〝歌姫〟の夢も、君達が居て初めて成立するんだ」

 

かけがえのない居場所はもう決まっている。

それなのにどうして彼女からその場所を取り上げると言えようか。

 

「しかし、だな」

 

「それに気付いているかい?

 彼女を預けると言った時から――シャンクス、君は泣いているよ」

 

「は?」

 

ゴードンに指摘され、自分が今更ながら頬を伝う涙に気が付いた。

ウタは寝惚けていた事とシャンクスの顔をきちんと見ていなかった事から、気付かなかったのだろう。

 

「自覚が無かったとは、恐れ入るぜお頭」

 

「そういう君も同じだったがね」

 

ベックマンが茶々を入れるも、ゴードンに指摘される。

先程から会話に入らないホンゴウも、ヤソップも同様だ。

彼だけではない、ウタは赤髪海賊団の娘で、言わば〝宝〟以上の存在なのだから。

 

「その少年の言うように、彼女に意見を聞いたかね?

 それなのに身勝手にエレジアに置いていくような真似をされでもしたら、彼女がどう思うのか分かるだろう?」

 

ゴードンは何も知らされずに置いていかれでもすれば、ウタに明るい未来は訪れないと"忠告する。"

 

「そんな状態で生み出す音楽など、それこそトットムジカのような全てを不幸にする曲しか生まれない。

 音楽が好きな彼女から、そのような周りを不幸にする曲を作って欲しくなどない」

 

その結果に訪れるだろう未来を容易く想像できる。

子どもが信頼していた人達に理由もなく置いて行かれる事をどう思うのか?

 

「身勝手に、しかも彼女の意思も聞かずに今後を決めるのはあまりにも酷じゃないか。

 彼女の罪を背負わせないとは言うが、彼女は既にトットムジカの事を知ってしまっている。

 だが、彼女はトットムジカ出現による影響までは把握していないのだ」

 

つまり、彼女は既に自分の仕出かした事を分かっている。

けれど、事の大きさまでは分かっていない。

だからこそ、シャンクス達への謝罪の中に“トットムジカの件は含まれてはいない。”

 

考えてみれば当たり前だ。

だって彼女はまだ子どもなのだから。

この件が後にどのような影響を与えるものなのか、分からないのは仕方ない。

 

「彼女もいつかはトットムジカの件で犯した罪を知れば、心が張り裂けそうになる。

 きっと、彼女は表面上は取り繕っていても本音は吐き出せない。

 更にはこの事を知った国民で彼女の事を許さない者も居る筈だ。

 彼女がこの件を糾弾されればいずれは分かる事だ。

 脅しではなく、本当に起こり得る事だ」

 

今は良くても将来、彼女は自分の罪に押し潰されるかもしれない。

もしも、エレジアに預けた後にトットムジカの件を知ってしまえば?

きっと遠慮して、内心を打ち明けてはくれまい。

更には、彼女の存在を良く思わない国民が出てきた際に彼女は余計に危険の中に置いていく事になるではないか。

その結果がもたらすものは最悪のシナリオが思い描けてしまう。

 

「確かに今、彼女に罪を背負わせるべきではないという意見には賛成する。

 だが、もしも彼女が自分の罪を知った時、寄り添えるのは君達…………父親である君ではないかね?」

 

ゴードンからの一言にシャンクスは言葉を失う。

いや、何もシャンクスに限った話ではない。

ベックマン達も同様なのだ。

 

「それでも彼女を置いていくと言うなら、それは罪を背負わせない為に去るのではない――――ただの育児放棄だ」

 

ピシャリと、ゴードンは言葉を選ばずにシャンクスに現実を叩き付ける。

しかし、この場の誰も彼の言葉を否定できない。

 

良かれと思った行動はウタを守っているようで、その実態は真逆である事を突き付けられる。

 

「何処に居るのか、どうするのが幸せなのか――それは彼女自身に決めさせるべき事ではないか?

 少なくとも、その少年はその事に気付いていたから、彼女の話を聞くように言ったのではないかな?」

 

ゴードンは眠るルフィを見ながらそう告げる。

ベックマンを始めとした面々も、ルフィの言葉の真意にゴードンを伝って気付かされる。

 

「時間は無いが考えて欲しい。

 そして、これも知っておいて欲しい。

 その少年は、彼女を君達に会わせる為、トットムジカを止める為に戦ってくれていたのだと。

 彼女も、君達に会いたいから、そしてトットムジカを止める為に彼と共に戦っていた事を」

 

「あんた、ウタワールドであった事を見ていたのか?」

 

「いいや」

 

思わずヤソップが聞き返す。

けれど、ゴードンは首を左右に振って否定する。

 

「知らないが、その少年が寝言でそのような事を言っていたのでね」

 

寝言で状況を伝えるとは、考えうる中で斜め上の発想をしてくれる。

 

「さて、この話を聞いた上で質問を、本音を聞かせてくれ。

 君はどうする?」

 

ゴードンの意見は確かに的を射ている。

けれど、そんな綺麗事が運ぶという訳ではないのが海賊の世界だ。

結局のところ、最終決定は頭であるシャンクスにある。

それも理解しているからこそ、ゴードンが問い掛けた相手はシャンクスに他ならなかった。

 

「おれは、おれは……」

 

シャンクスもまた迷っている。

何が正しいのかを。

いや、正解が無いのは分かっている。

どちらを選んでも、ウタにとっては最悪の事になるのは見て取れる。

 

「シャ……ンクス」

 

そこへ言葉を入れたのは抱き締めるウタだ。

彼女はシャンクスの服を未だに掴んでいる。

頭を自分に預けて安心したように眠っている。

これを見て、決心は付いた。

いや、今まで悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えた。

 

「おれは、ウタの話をまだ聞いてない。

 さっき、おれ達に話したい事があるって言っていた。

 その事が気になって、夜も眠れない」

 

シャンクスは言葉を捲し立てる。

こんなのは何とか理由を付けようとしているだけだ。

違う、こんな理由を付けたい訳では無い。

もっと、もっと、ただただシンプルな理由でしかない。

 

 

 

 

 

「こんな理由でウタと離れるなんて嫌に決まってる!!」

 

 

 

 

 

彼女の意思であれば退く事は出来たかもしれない。。

けれども、何も聞かずに離れ離れになる選択を取る事の方が嫌に決まっている。

 

離れる事が正しいとシャンクスも思っていた。

けれど、ゴードンが、ルフィが、何よりウタが――――そんな事を望んでいないと告げた。

その瞬間、シャンクスは心の底から答えを叫ぶ。

 

何とも子どもみたいな理屈を混ぜている。

だが、それで問題無い。

それだけ、シャンクスにとって(ウタ)が大事な存在なのだから。

 

どれだけ心を偽っても――――本心は最初から決まっていたのだ。

 

「決まりだな」

 

「さっさとずらかるとしよう」

 

シャンクスの決定に異を唱える者は誰も居なかった。

全員が笑顔で、彼の決定に従ってくれる。

 

「けれど、このまま手ぶらで帰るとなると、トットムジカの件からエレジアに火の粉が来ないとも限らない。

 だから、少しで構わないから食糧と何か楽器を貰っていっても良いかな?

 安物で構わない。それを高額なものと口裏を合わせてくれれば、海軍の目もこちらを向くだろう」

 

あまり言いたくはないが、海軍――ひいては政府もトットムジカといった危険な芽を摘みたいと考えてしまうだろう。

政府も一枚岩ではないのだから。

それでシャンクス達が、ウタとルフィが救ったこの国を危険に晒さない為の苦肉の策でもあった。

 

「それなら、あの城の地下に金品を隠してある。

 救ってくれた礼も兼ねて、持って行ってくれ」

 

「しかし、それはこの国を再建するのに必要なお金になるじゃないか」

 

「構わない。この国に潜む闇を取り払ってくれた礼をさせてくれ」

 

その闇がどこまで纏わりつくのかまでは分からない。

けれども、ここまでしてくれた赤髪海賊団、少年と少女の為に国王の自分が今できる精一杯の感謝を伝えたかった。

 

それでもシャンクスは渋る。

エレジアは国民こそ無事だが、建物の倒壊は激しい。

その復興にはまず金が必要になる。

彼が差し出そうとする国税にまで手を掛ける訳にはいかない。

 

両者の意見が平行線になっている――

 

 

 

「今、家の中に金品があったんだけど、怖くて近付けないな」

「なら、帰った時に無くなってても仕方ないな」

「瓦礫の下敷きになった食糧じゃあ、食べれないわね」

「いやー、参った。この歳になると、どれだけの貯えがあったか忘れてしまう」

 

 

 

声が後ろからあった。

それは1人2人だけではない。

もっと大勢、老若男女問わず国民の半数はここへ来ているといった状態だ。

 

「お前達、何故ここへ?」

 

「何って、礼を言いそびれたからさ」

「そうそう」

「そこの海賊達が助けてくれたんでしょ?」

「あと子どもが助けてくれたって」

「これは直接に礼を言うべきでしょ!!」

 

「ええい!! 全員で言ったら分からんだろ!!

 わしが話す!!」

 

口々に話始める。

収集が付かないが、言いたい事は分かった。

なので、全員を代表して1人の初老の男性が話すと切り出す。

 

「端的に言うとじゃ、あんたらの話は全部丸聞こえじゃったんよ。

 国王が電伝虫を切るのを忘れ取ったからの」

 

「あっ」

 

言われて電伝虫で連絡を取り合っていた事を思い出す。

それが繋がった状態であった事から、話は丸聞こえだったのだと。

 

「確かにその子には酷な状況になった。

 彼女の事を良く思わない国民も間違いなく居るだろう。

 けれど、彼女の〝歌〟から伝わる〝音楽〟への真っ直ぐな想いが本物である事はエレジアの国民の誰もが知っている。

 それを伝えたのは国王、あんたじゃないか」

 

今宵、彼女の歌を国中へ届けた事がこの悲劇を生んでしまった。

それをゴードンは密かに後悔していた。

けれども、ここまで足を運んだ国民の大半は今は動けない他の面々の代弁者であった。

 

 

 

 

 

〝赤髪海賊団〟の音楽家のウタは〝歌〟が好きな、〝音楽〟が好きなただの女の子なのだという言葉を伝える為の。

 

 

 

 

 

「それに、こんなにも互いを想い合う家族の会話を聞かされた上に、国王の演説まで聞かされたら動かん訳にはいかんじゃろ?」

 

その一言を皮切りに「そうだ!! そうだ!!」と同調する声が後ろから聞こえる。

皆、ウタの〝歌〟を聞いて惚れ込んだのだ。

いち早く彼女のファンになってくれた皆が動いてくれた。

 

「この惨状を招いたのはさっきのバケモノであって、その子ではないのだからな。

 あのバケモノを止めてくれて感謝しているのは何も国王だけではない。

 わしを始め、国民全員が感謝しているんじゃよ」

 

惨状を招く要因となったシャンクス達やウタの話を聞いて尚、国民達は彼らの、ひいてはウタの心配をしてくれる。

 

「だから、わし等にもあんた等の為に一肌脱がせておくれ」

 

「お前達…………ありがとう」

 

こんなにも心の温かさを持つ国民を育んだのは他ならない国王でもあるゴードンだ。

なのに国王が感謝を述べるとは妙な話になったものだ。

 

「ありがとう、ございます」

 

今度はシャンクスが一団の頭として、気を回してくれたエレジアの国民達に頭を下げる。

その様子を見ていたゴードンが前へ出る。

ここからは自分の出番だと初老の男性、ひいては国民から背中を押される。

気持は一緒だ――国王であれば、国民の気持を代弁できると信頼を置かれての事だ。

 

「礼は良い。

 ただ――――」

 

「お頭!! 海軍がそこまで来てる!!」

 

「そうか。時間は無いか」

 

状況を報告に来てくれた船員が声を荒げさせて現れる。

 

「すまない。おれ達は行くよ」

 

「ああ、改めて感謝を」

 

「感謝は必要無いさ。」

 

決してこのような光景は見せてはならないだろう。

一国の王と、海賊が握手を交わす等とは。

 

「さあ!! 財宝を奪ってずらかるぞ!!」

 

「あいあいキャプテン」

 

ベックマンがシャンクスの指示に応える。

ウタはシャンクスが、ルフィをベックマンが抱えてこの場を去る。

 

そう時間は経たずに財宝を積んだシャンクス達の船――レッド・フォース号――がエレジアから離れていく。

それを海軍の船が追っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国王、さっきあの海賊に何て言ったんだい?」

 

離れていく海賊船を眺めながるゴードンに声を掛けたのは先程に国民の声を代弁した初老の男性だ。

後ろで自分と同じように国民がシャンクス達の船を見守っていた。

きちんと逃げ切ってくれるだろうか?――海賊相手に考えるような内容ではない事を祈りながら。

 

「そんな大した内容ではないよ」

 

「何となく、その内容も分かる気がするんじゃがな」

 

初老の男性は国民達へ目配せする。

それを受けた面々も「うんうん」と頷いてみせた。

国民全員がゴードンが何と声を掛けたのか分かってしまったのだ。

 

「彼女の音楽に触れたからこそ分かるのであろう。

 わしらも同じ事を思っとるからの」

 

「それは、間違いないな。

 何にせよ、彼女程に〝音楽〟を愛している者もなかなか居ないだろう」

 

〝歌姫〟になる事を誓う少女の笑顔を思い出し、ゴードンは破顔する。

そして、去り行く船を眺め、ゴードンは今一度、聞こえないと分かっていながら言葉を投げる。

 

「彼女の〝笑顔〟を絶やさないでくれ」

 

ウタの〝音楽〟は〝笑顔〟があって初めて輝く。

去り際にその言葉を受けたシャンクスは小さく、しかしはっきりと頷く事で返事をした。

 

今はまだ小さな〝歌姫〟を乗せた船は、追手を撒いて未来へ向かって突き進む。







如何でしたでしょうか?

あの投稿の翌日に丁度その翌週の10月1日はウタの誕生日なのを思い出しました。
それまでに今回の話を届けようと思って必死こいて作りました。

恐らく、あの時のウタはシャンクス達と未来を居たかったのは明白なので、彼女の願いを叶えるシナリオが誕プレという事で。

前書きで書いてしまうとネタバレになりかねなかったので、ここで祝わせて下さい。
今回はルフィより少し喋っただけになりますが。

さて、いつものように相違点と補足をしていきます。

先に補足を。

ヤソップを始め〝覇気〟は体得してはいますが、まだコントロールは未熟という事で。
トットムジカとの戦闘中なので疲労もあるでしょうから、集中できないのもあります。

エレジアは火の海に包まれていますが、この後に海軍が鎮火してくれました。
その間にトットムジカの楽譜は隠しました。
あとはアニオリの映画連動と同じようにシャンクスの懸賞金が上がります。

ゴードンがウタがシャンクスの娘なのを知っているのは彼女をエレジアに誘った際の断り文句でシャンクスが「自分の娘」と告げたからです。

あとトットムジカが封印された楽譜に関しては独自解釈となります。
作中でも述べたようにトットムジカの楽譜を破棄する事へのデメリットがあるという設定にしました。
こんな危険なものならゴードンよりも前の代の国王が破棄していても不思議ないのですが、存在しているのならそれ相応の理由があるのではないかなと考えましたので。

今しがた書いてしまいましたが、映画原作の相違点としては他にもあります。
・エレジア事件後もウタが赤髪海賊団と共に居る。
・エレジアの国民が生きてる。

この2点でしょう。

ウタが赤髪海賊団に居る事を後押ししたのは他でもないルフィとゴードンとエレジアの国民です。
今回ルフィの出番は少しでしたが、彼の後押しを受けたからこそウタも本音を言えて、その上でシャンクスの考えを改めさせるきっかけを作れたのでしょう。

ゴードンも映画の聖人っぷりを見ると、彼女の言葉を受ければ同じ音楽好きとして彼女の為に言葉を返したのではないかとも思いました。
なので、彼には作者がシャンクスに想った事をぶちまけて貰いました。
多分、横で聞いているヤソップに流れ弾が跳んでいる事でしょう。
ドンマイ。



次にエレジアの国民が生きてます。
これは何度もお話ししてきたようにトットムジカの弱体化の影響にもなります。
最初の光線こそ被害は出ているでしょうが、弱くなったが故にシャンクス達に抑えられて国民の避難が間に合ったという事です。

あと、ワンピ世界では国王が人格者であれば国民も人格者である事も多いです。
なので、音楽を愛するウタの事を気に入ってくれている国民は居る事でしょう。
ゴードンのうっかりでシャンクス達の会話を聞いていたので、事件の犯人はバケモノである事を知り、尚且つ少女は利用されていたと知れば非難は多少なりと収まるのではと考えました。
まあ、全部の声が収まるかと問われると難しいでしょうが。

ちなみに代表で喋った初老の男性はあの中で一番年齢が上で、ゴードンとも歳が近かったからです。
特別な関りはありません。
なんせ音楽に関連する事は国民と触れ合っているでしょうから、音楽に真摯に向き合っていると思いますので、誰と特別に練習したとかは無いと思いますので。



最後にウタの〝音楽〟には〝笑顔〟ありきなのは幼少期の彼女の歌う姿を見ていると、どうにもそう思えたので。
彼女にとっても〝音楽〟は特別なもので〝楽しいもの〟でしょうから。
〝楽しい〟という感情には〝笑顔〟が付いてくるでしょう?



あとがきも補足を含めるとどうしても長くなってしまいました。

これにて幼少期・エレジア編は終了となります。
ん? エレジアの前に何か文字が付いてるような気がしますが……きっと気のせいですね。

さて、まだメインイベントが残っています。
そう!! 第一話にて登場して今尚その計り知れない実力に考察の止まらない敵――ヒグマさんの登場回が残っています!!

今の内に告げておくと、恐らくは第一話の焼き回しのような展開になると思うので基本はダイジェストでお送りしようかなと考えています。

現段階ですが、あと2話か3話ほど幼少期の話を展開した後には「東の海編」に突入しようかなと考えています。

前回のあとがきに他のキャラとの絡みもやるような事を言いましたが、今後の展開の中で箸休め程度に「幼少期ルフィとの出会い」を書いていこうかなと。

正直、このままですと何話で収まってくれるのか分からないので、今後は何処かのタイミングで「幼少期シリーズ」とでもサブタイに付けて間に挟んでいくと思います。


またあとがきが長くなってしまいましたがこの辺りで。
ではまた次回に。


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幼少期編2
変わるものと変えられなかったもの


お待たせしました。

今回も長くなりましたが、続きです。


エレジアでの冒険を終え、一同はフーシャ村へ帰還を無事に果たす。

その間にウタは自らの心の内をシャンクス達へ話していた。

 

どうなったのかルフィには分からない。

だが、ウタはそれ以降はいつもより歌う時には楽しそうだった。

シャンクス達もまた、彼女の歌を楽しそうに聞いていた。

それだけで十分であった。

 

こういう時には深くは聞かない方が良い事を黒髪の美人との会話の時に学んでいる。

他人の事情に土足で踏み込む選択肢はルフィには無かった。

 

向こうもウタワールドでの出来事は聞いて来なかった。

と言うより、ルフィとウタが積極的に話したのだが、話は「ウタが応援したからルフィが強くなって勝った」という事で終わってしまう。

具体的な事は何も分からないし、何よりも両者にとってもその認識でしかないのだから話はそこで止まる。

シャンクス達もルフィとウタの無事を喜んでいるので、その話だけで十分なのでそれ以上の詮索をしようとも思わない。

 

詳細はルフィとウタのみの知るところだ。

ちなみにウタの方は事細かにある程度の事は覚えているようだが、ルフィは所々が曖昧で、特に最後の方はあまり覚えていないとか。

 

そんなこんなでフーシャ村に帰還した翌朝にマキノの酒場へ直行し、酒を浴びるように飲んでいた。

 

「もう、船長さんったら。帰ってきてすぐにお酒ですか?」

 

「ちょいと今回の長旅であまり飲む機会が無くてさ。許してくれよ」

 

「仕方無いですね」

 

シャンクスにとっては定位置になりつつあるカウンター席。

マキノは帰ってきて早々にお酒を飲み始めた事を(たしな)める。

向こうに居た島か、帰り道で酒を飲んでるだろう事は想像に容易かった――――だが、それでも彼らは騒ぎたいだろうから諦めと共に言葉短く酒と料理を振る舞う。

 

「なあ、シャンクス。次の航海はいつ行くんだ?」

 

「おいおいルフィ。今回連れてったばかりだろ」

 

「何度か航海しちゃったから、冒険する事の味を占めちゃったんじゃないの?」

 

シャンクスを挟んで右隣のルフィが、左隣のウタがそれぞれ言う。

 

「今回ので楽しい事ばかりじゃないのは分かっただろ?」

 

「そうだけどよォ〜」

 

「それに、おれ達もここを拠点にしてそろそろ一年経つからな。あと何回か航海したらこの村を出ていくぞ?」

 

「えェッ!? そんなの聞いてねェぞ!!」

 

「そりゃ、言ってねェからな」

 

シャンクスの突然の発言にルフィは驚く。

それはいつかはこの村を去る事は想像が出来ていた。

けれど、それはあまりにも急すぎる。

 

「ウタも知ってたのか?」

 

「当然でしょ。私は〝赤髪海賊団〟なんだから」

 

ウタに問えば「当然だ」と返答される。

ルフィとしては自分だけ知らされて無かった事に仲間外れのような感覚を抱いたのだろう。

 

〝赤髪海賊団〟の一員と仲が良いだけの少年とでは立場が違うのだが、仮に言われたとしてもルフィは納得しないだろう。

それを分かっているからこそ、シャンクス達は何も言わない。

そんな事よりも、だ。

 

「まあ、今回の一件で助けられたからな。何処かのタイミングで航海へ連れてってやるよ」

 

「本当か? やったァッ!!」

 

「良かったわね。ルフィ」

 

まさかシャンクスから言質が取れるとは思わなかったのだろう。

ルフィは大喜びだ。

その様子を見て、マキノも自分の事のように微笑む。

 

「邪魔するぜェ」

 

そんな中、酒場へ入ってくる何人かの男達。

あからさまに態度からして柄の悪い連中だ。

その頭目と思わしき人物がズカズカとカウンターの方まで来る。

後ろに結った黒髪と、額の右側にある大きな十字の傷が特徴的な細身で長身の男だ。

赤いロングコートを着用し、白いシャツに黒のズボンと丸みを帯びた黒靴を履いている。

 

「ほほう……これが海賊って輩かい。

 初めて見たぜ。間抜けた面をしてやがる」

 

瞬間、空気が変化した。

嫌な予感がする――――マキノはこの粗暴なイメージしか感じない男達が面倒を起こすのではと危惧し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マキノの不安は確かに的中した。

男の頭目はこの付近の山賊の頭目で自身は賞金首だと自慢げに手配書を見せる。

その手配書に記載されていたので頭目の名がヒグマだという名前なのも知った。

 

ヒグマは酒樽を10個程欲しかったようだが、生憎とシャンクス達が飲んでしまっていた。

なので、シャンクスの方から空けていない酒瓶を渡したのだが、入ってきて早々の発言から海賊というものを下に見ていたヒグマは受け取った酒瓶の中身をシャンクスにかけたのだ。

その行動で満足したのか、最後に「腑抜けめ」と言い残すとヒグマは去って行った。

 

「船長さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。しかし、派手に酒をかけられちまったよ」

 

「本当だよ」

「派手にやられたな」

「みっともねえな」

 

口々に船員(クルー)が言うが、どこか面白そうなものを見ているかのようだった。

最終的には腹を抱えて笑い出す始末だ。

 

「しかし、お前らは突っかかるかと思って冷や冷やしたんだが、良く我慢したな?」

 

シャンクスはカウンター席に座るルフィとウタへそう言った。

ウタはまだしも最近は以前よりも穏やかになったが、元々は血気盛んなルフィだ。

馬鹿にされたのを見れば一目散に怒鳴り散らしそうなものだが。

 

「本当は言いたい事はいっぱいあるんだけどね。

 シャンクスに何か考えがあると思ってるから何も言わないわ」

 

ウタの方は腸が煮えくり返る想いだろう。

けれど、シャンクスが理由も無しに黙ってやられているとは思わない。

それ位にはウタは〝赤髪海賊団〟の一員だ。

 

「おれは分かんねェ!!」

 

しかし、やはりと言うべきかルフィは頬を膨らませて怒っていた。

不機嫌そうにプリプリしている。

 

「ただ酒をかけられただけだからな。そんなに怒る事は――」

 

「シャンクスがあの山賊をどう想ったのかなんてどうでもいいんだ」

 

シャンクスが言葉を紡ごうとするのを制するようにルフィは告げた。

しかし、意外にもルフィはシャンクスがあのヒグマという男に対して応戦する、殴る価値もない相手だから何もしなかった事に不満を持っていないようだ。

それとは異なる何かに苛立ちを抱いているようなのだが…………

 

「なら、何が分からないんだ?」

 

「それが分かんねェ」

 

ルフィへ再度問うも、返答は先程と同じだった。

しかも要領を得ない答えが返ってきた。

 

「何に対して怒ってるのか自分でも分からないんじゃないのか?」

 

「そう、それ」

 

何だかんだルフィの思考を読み取れる能力を身に着け始めたベックマンが言う。

彼の回答こそが言いたかった事なのだと、ルフィは同調する。

 

「それじゃあ、答えようがないだろ」

 

「そうなんだけどよォ」

 

ルフィ自身、自分が怒っている理由が良く分かっていない。

いやはや、それはそれでシャンクスも何を言って良いのかが分からない。

 

「あ~、私は分かった」

 

「本当か!?」

 

ルフィの怒りの理由を知ったと告げたのは他ならないウタだ。

当人が分からないのに大したものだと思いながらルフィは答えを求める。

 

「う~ん、でもこれは私が言う事ではないかも」

 

しかしながら、ウタは答えを言わない。

当然、これにはルフィも不満の声を上げる。

 

「え~、良いじゃねェかよ。教えてくれたって」

 

「自分で気付く事に意味があるの」

 

ルフィが何と言おうともウタは断固として拒否する。

彼の抱くモヤモヤは彼自身が発見する事に意味があるのだと言う。

 

「まあ、ルフィじゃ気付けるか怪しいかもだけどねェ~」

 

「そんな事はねェぞ!! ウタが気付けるならおれが分からない訳がねェッ!!」

 

「本当かな~?」

 

「なら、勝負だ!!

 おれは絶対に怒ってる理由を見付けてやる!!」

 

何だか勝負事にまで発展し出した。

どうしてそのような流れになるのかと一同は思ってしまう。

けれど、結局は「面白そうだ」との事で話が進んでいかないかと見ているのだった。

 

「勝負にしたら見付けられないよ?

 だって、私が連勝中だもの」

 

「そんな事ねェ!!

 ウタはズルばっかしてるし!!」

 

「私は海賊なんだから卑怯も何もないの」

 

いつものやり取りを見ていると、何だか安心させられる。

やはり、歳が近い事が功を奏している。

 

「止めないか2人とも。せっかくの料理が冷めちまうぞ」

 

2人が言い合いしている間にもマキノは料理を用意してくれていた。

これは一時休戦と、即座に2人はマキノの料理にあり付く。

 

それを見た一同も、どんちゃん騒ぎを再び始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「誰も居ねェ」

 

「船長さん達、近くの島まで買い出しに行ってくれてるからね」

 

山賊騒ぎのあった翌日、ルフィはマキノの酒場まで来ていた。

しかし、そこにシャンクス達の姿は無かった。

赤髪海賊団は近くの島まで物資の調達へ赴いている。

前回はウタを置いていったが、ああいう事は基本的に起こらないのでいつもの通りにルフィだけが残される。

 

「船長さん達もルフィを航海へ連れてってくれるって言ってたし、気長に待ちましょう」

 

そう言いながらルフィへジュースを出してあげるマキノ。

ルフィはそれを嬉しそうにして飲む。

コップを一気に飲み干してしまう。

彼には飲み物よりも気になる事があったからだ。

 

「それよりか、昨日のおれが怒ってた理由を見付けないと」

 

「答えは分かったの?」

 

「それがよ~、さっぱり分かんねェんだ」

 

マキノが問い掛けるも、ルフィは空になったコップを眺めながら返す。

依然として答えは見付かっていない。

 

「ウタのやつは教えてくれないしよ~」

 

「ふふっ、私も何となくルフィの怒った理由が分かっちゃった」

 

「えぇッ!? マキノまでッ!?」

 

マキノのまさかの発言にルフィは驚きを隠せない。

ウタに続いて彼女まで気付いていた。

 

「けど、意外かな。ルフィならすぐに気付いちゃうと思ってたのに」

 

「そんなに簡単に分かるのかー?」

 

ルフィ本人が気付けないのに周りの人間は気付いていくというのが驚きだろう。

頭を必死に使って考えているが答えは一向に出てこない。

そんな彼の様子を微笑ましく見守るマキノ。

 

「何だァ? 海賊達は居ねェのか?

 まあ、静かで良い」

 

そんな時、昨日のヒグマを頭領とする山賊達が酒場へ来る。

部下を10人程引き連れ、我が物顔で酒場の席を占領する。

 

「おれ達は客だぞ、酒を持って来い!!」

 

横柄な態度でヒグマは酒を注文する。

マキノとしても態度が悪くとも接客しない訳にはいかない。

 

酒癖が悪いのは最初の来店から理解はしていた。

だが、今は彼の悪癖が良い方向に働いた。

酒を振る舞われて上機嫌に飲んでいる。

多少騒がしさはあれども、飲み終われば下手なトラブルも無しに帰ってくれそうだなと内心で安堵した。

 

「しかし、あの時の海賊共の顔を見たかよ?」

 

途端、ヒグマが部下達へそのように語り掛ける。

 

「酒をぶっ掛けられても文句一つ言えねェんだ!!

 情けない奴らだよ!!」

 

シャンクス達をあからさまに馬鹿にした物言い。

ヒグマの言い方を皮切りに部下達も一斉に笑い出す。

無論、マキノも聞いていて気持ちの良いものではない。

けれど、それを言ったところでこの山賊達は意見を変える等とは思わない。

 

「おれァ、ああいう腰抜けを見るとムカムカしてくるんだ。

 殺してやろうかと思った位だからな」

 

ヒグマのシャンクスへの誹謗を止めない。

 

「弱っちい腰抜けな奴だ。

 そうだな、海賊は船に乗るんだ。

 いっそのこと、あいつらの海賊船でも奪ってやるか」

 

そんな下種な発言まで飛び出す始末だ。

今、シャンクス達はこの場には居ない。

昨日はここで彼らが宴会をしていたのを忘れでもしたのか?

その話は後でシャンクス達に届いてしまうだろう。

 

ヒグマは本当にこちらと彼らの繋がりを考えていないのか、はたまたシャンクス達を侮っているのか。

正解が後者である事が次の彼の発言で良く理解できた。

 

 

 

 

 

「どうせ海賊なんてカッコつけのあいつらなんかには、大事なものは何一つ守れやしない。

 せっかくならおれ達の酒代になる金品を奪って、仲間を殺してやろうや」

 

 

 

 

 

ヒグマの中にある残虐性が口から飛び出した。

いや、これこそが彼にとっての「普通」なのだ。

しかし、彼の見せる思想はマキノのような一般人からすれば「異常」である事は明らかだ。

 

明らかに危険すぎる存在にマキノは得体の知れなさを感じ取る。

一刻も早くこの場を去って欲しい――――客に対して抱いて良い感情でないのは分かっている。

けれども、そう願う程にヒグマという男の思想は危険視するべきものだ。

 

 

 

 

 

「ふざけんな!!

 シャンクスがお前なんかにやられるか!!」

 

 

 

 

 

その危険な思想の持主へ真向から言葉を浴びせる者が居た。

マキノではない。

この場に山賊以外に居る少年――ルフィだ。

 

「あ? 何だ? ガキ?」

 

「シャンクス達は腰抜けなんかじゃねェッ!!

 馬鹿にするなよッ!!

 シャンクス達がお前らみたいな弱虫に負けるか!!」

 

ルフィの怒号が酒場の中で木霊する。

このままではまずいと察知したのはマキノだ。

 

昨日の件を見てもヒグマの怒りの沸点が低いのは明らか。

ヒグマが行動を起こす事は事前に察知できた――――だが、一歩遅かった。

 

「何だと? このガキ!!」

 

ルフィの胸ぐらを掴むと、そのまま拾い上げる。

乱暴に酒場の扉へルフィを投げた。

 

(しつけ)のなってないガキだ。おれが直々に躾けてやる」

 

更にルフィを痛め付けようと、仲間と共に酒場を出る。

マキノも止めたかったが、彼女だけではどうにもならない。

 

己の弱さを知っているからこそ、無謀はしない。

無謀をして、助けられる筈なのに取り零してしまう事の方が危険だ。

残酷な話だが、ルフィは物理的な攻撃は通用しない。

銃も通用しない。

しかし、それもヒグマが機嫌を完全に損ねるまでの間でしかない。

 

実力行使で彼を止められるならマキノも身体を張るが、彼女は非力な一般人だ。

そんな非力な彼女が取れる選択肢は1つ。

 

「村長さんを呼ばなきゃ!!」

 

こういう時に頼れる大人を呼びに行く。

それがマキノの戦い方だ。

ルフィを助けるべく、一分一秒でも早く助けられるように走る。

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、随分と頑丈なガキだな」

 

店を出たヒグマは投げ飛ばされたルフィが立ち上がり、睨み付けてきた事に感心した。

手加減したつもりはないので、ルフィのタフさに感心しているのは本心からだろう。

 

「こいつは丁度良いサンドバッグだ。

 昨日の海賊のせいでムシャクシャしてたからな」

 

「うるせェッ!!

 余裕でいられるのも今の内だけだ!!」

 

ヒグマの余裕綽々な態度にルフィは言葉を叩き付ける。

腕を上げて振り被る。

 

あの時、ウタワールドでの戦いを思い出す。

どうやったのか、全ての事は覚えていない。

それでも最初の部分は覚えている。

 

この伸縮する身体を用いたリーチの長さを活かした戦法を他ならない自分が可能とした。

例え精神のみの出来事だったとして、起きた事実は着実にルフィの中で芽生えている。

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

ルフィの狙いはヒグマだ。

ヒグマを始めとした山賊の面々はルフィが何をしようとしているのか興味深そうに眺めている。

否、子どものやる事だからと侮っているのだ。

 

それもそうだ。

ルフィとヒグマとの間には距離がある。

大人が何歩も歩いて縮められる距離を、子どものルフィがどうして縮める事が出来ようか?

それが分からない程の子どもなのかと、嘲りを向けている。

 

「〝(ピストル)〟!!」

 

そう思われているとは知らず、ルフィは足を前へと踏み出して、届かない筈の距離で拳を前へと突き出した。

ビヨーン!! 考えられないような音がしたと同時に"ルフィの右腕が伸びた。"

 

これにはさしもの山賊達も度肝を抜かれる。

ただの子どもと侮っていたが、まさかこんな不思議な身体をしているとは思わなかったからだ。

そう思うも、もう遅い。

子どもと侮ったルフィの拳が直撃する――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面を殴り付け、それで跳弾した拳がルフィ自身の顔面に直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えッ!?」

 

自身の拳で受けるも、当然ながらダメージは無い。

しかし、勢いは確かにあったのでルフィ自身の身体を転がす威力はあった。

仰向けに大の字で倒れ、何が起きたのか把握するのに時間が掛かった。

 

いや、自爆した事は分かっている。

けれど、何故そうなったのかだけは理解出来なかった。

 

いや、本当は自身に拳が飛んできた理由だって把握しているのだ――――

 

「ははッ!! 驚かせやがって!!

 自爆してりゃ、世話ねェぜ!!」

 

ルフィの様子を見ていて爆笑をするヒグマ。

それは何も彼に限った話ではない。

部下の山賊も何人もが、ルフィの行動を嘲笑する。

 

「まだだ!!

 〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

 

再び、ルフィは右腕を伸ばす。

今度はヒグマの頭上を通過するという結果に終わる。

 

「腕が伸びるとは、おかしな生き物もいるもんだ。

 だが、自分の能力もコントロールできない癖に戦いを挑むのは、もっとおかしな生き物だな」

 

頭上を通過する腕をヒグマは掴み、下へ引っ張る。

ルフィはその力に抗えず、地面へと叩き付けられる。

 

「ほれ、こっちに来い」

 

腕を今度は自身の方へと引っ張る。

それだけで伸ばされていた腕は縮んでいき、ルフィの身体も地面を引きずられながら引き寄せられる。

 

「このッ!!」

 

残る左腕を伸ばし、ヒグマへ何とか一矢報いる筈だった。

それでも"本来の"戦闘経験値で言えばヒグマの方が圧倒的に高い。

加えてルフィの動作も分かりやすく、何よりもその身体的特徴は看破されてしまっている。

 

「お前の身体の特徴を知る前までなら通用した手だったな」

 

ひょいっと――わざわざ口にそう出しながらヒグマはルフィの腕から手を放すと、彼の飛んでくる軌道上から横へズレる。

それだけでルフィの左腕も無駄に伸ばされるだけに終わる。

 

まだ、ルフィの身体は引き寄せられる勢いは殺されていない。

そのまま地面を引きずりながらヒグマの真下へ到着する。

 

「おらよ!!」

 

乱雑に頭を踏み付けられる。

普通であらば大けがをするところ、ルフィには無傷である。

それでも体格差もあって、踏み付けられた状態で動けずにいる。

 

「このッ!! この足を退けろ!!」

 

「こいつは驚いた。全く効いてないのか?」

 

「おれはゴム人間だ!! こんなの効かねェッ!!」

 

「おかしな生き物だと思ったが、ゴム人間とはな」

 

動けないルフィに利用価値があるなとヒグマは考え出す。

子どもではあるが、ゴム人間などと言う摩訶不思議な存在ならば見世物小屋にでも売り捌けば結構な金になるだろう。

その前に楽しく酒を飲んでいたところを邪魔された事の報復をしなくてはならない。

 

「その子を放してくれ!!」

 

ヒグマの思考を遮るように声が掛けられる。

この村の村長だ。

 

「頼む!!

 金なら払う!! だから、その子を助けてはくれないか?」

 

「村長……」

 

村長は土下座をし、ルフィの命を助けてやってくれと懇願する。

普段は小言ばかりの村長が自分の為にこうして土下座までしてくれている。

 

「ダメだ。こいつはおれを怒らせたからな。

 今、ここでこいつを殺すのも良いかもしれない」

 

村長の必死の嘆願も虚しく、ヒグマは意見を変えるつもりは一切ない。

むしろ、この場でルフィを殺害さえも行おうとしている。

それをさせてはならない――――村長達は必死に訴えるも、ヒグマは先程と同様に意にも返さない。

 

 

 

 

 

「港に誰も居ないから何事かと思えば……いつかの山賊が来ていたのか」

 

 

 

 

 

この空気を切り裂くように、割って入る声があった。

声の主はシャンクスである。

その後ろには赤髪海賊団の面々の姿が。

 

「ルフィ、お前のパンチは(ピストル)よりも強いんじゃ無かったのか?」

 

「うるせェッ!!」

 

シャンクスがルフィへ真っ先に問い掛ける。

しかし、この状況で問う内容かと聞かれるとそうではない。

ルフィもぶっきらぼうに返す。

喋りながらもヒグマの方へと歩を進める。

 

「昨日の海賊か。腰抜けが何の用だ?

 それ以上近付くなら撃ち殺すぜ?」

 

ヒグマが部下の1人に目線を配る。

それだけでどういう意図を持っているのか部下も把握する。

シャンクスの真横まで行くと、銃を突き付ける。

 

(ピストル)を抜いたからには命を懸けろよ」

 

「あァ? 何を言ってやがる?」

 

「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ」

 

シャンクスが何を言っているのか分からなかった。

直後、乾いた音が響き、それが発砲音だと理解するのにその場の全員に時間が必要だった。

 

発砲したのはヒグマの部下――――ではなく、ラッキー・ルウである。

容赦なく、部下の頭を銃で撃ち抜いた。

 

「なんて卑怯な事をしやがる!!」

 

「甘い事を言ってんじゃねェ。聖者を相手にしてるんじゃねェんだぞ?」

 

「お前らの目の前にいるのは海賊だぞ?」

 

副船長のベックマンが山賊の意見を真っ向から蹴り飛ばす。

その理由を船長であるシャンクス自らが叩き付ける。

 

「おれ達に用があるのかよ?」

 

こういう事を行うのならば、昨日の時点で何故やらなかった?

様々な意味を込めた疑問の言葉を投げ付ける。

 

「いいか山賊。おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、唾を吐かれようが、大抵の事は笑って見逃してやる」

 

だがな――――最後に言葉を付け足すと同時、彼は山賊を睨み付ける。

それはこれまで笑顔で、楽しそうにしていたシャンクスとは思えない程の目付きだった。

そこに宿る感情は「怒り」だ。

 

 

 

 

 

 

「どんな理由があろうと!!

 おれは友達を傷付ける奴は許さない!!!!」

 

 

 

 

 

シャンクスの言葉にも怒りの感情が込められていた。

この場をたった一言で支配してみせた。

 

「許さないって言うならよ、やってみろ!!

 野郎共、山賊様にたてついた事を後悔させてやれ!!」

 

ヒグマの号令を受けて、山賊の部下達が駆け出していく。

それを見てシャンクスが剣を抜こうとして……

 

「おれがやろう。充分だ」

 

銃を肩に担いでベックマンが前へと出る。

数は10人近く。

対してベックマンは1人だが、いつものように煙草を吸って落ち着いている。

 

勝負は一瞬で決着が付いた。

まず真正面から向かってきた山賊に吸っていた煙草を額に押し当てて怯んだところ蹴とばして後続の山賊に押し当てる。

その直後、銃をこん棒に見立てて次々と山賊の顔面へと叩き込む。

山賊の数は多いが、それ以上にベックマンが強過ぎた。

瞬く間に山賊全員をノックアウトする。

 

「ま、待て!! 仕掛けてきたのはこのガキだぞ!!」

 

「どの道、賞金首だろう?」

 

部下を一瞬で蹴散らされた事にヒグマは怯え、この場を収める方向へシフトする。

自分の方が強いと思っていたからこそ、強気でいられたがこの場の強者は間違いなく奴らだ。

なので、言葉を尽くそうとするも苦し紛れのものしか出ない。

故に、シャンクスから逃げられはしないと最後通告をされる。

 

「くそッ!!」

 

そうなれば仕方ない。

ヒグマの取った手段は煙幕だ。

 

「ちっ、"こんな時に"」

 

煙幕を使われ、そのように舌打ちしたのはヤソップだ。

恐らく、〝覇気〟と呼ばれる力に関係しているようだが、言葉通りなら今は使えないようだ。

 

煙幕が晴れると、ヒグマの姿もルフィの姿も消えたいた。

 

「ルフィ!!」

 

「油断した!! ルフィが連れてかれた!!」

 

「皆で探せば見付かる!! だから狼狽えてるな!!」

 

ルフィの姿が消えた事で真っ先に動揺するのは事の成り行きを後ろで見守っていたウタ。

そして、船長のシャンクスだ。

狼狽えるのも親子で似ていると場違いな感想を抱きつつ、ルフィの捜索を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらもまさか山賊が海へ逃げるとは思わないだろうな」

 

小舟を用いて、ヒグマはルフィを連れて海へ逃げていた。

ルフィも抵抗を続けるが、ヒグマの方が力が強い。

結局は組み伏せられ、何も出来ない。

 

「お前みたいな弱い奴には、何も出来やしないんだよ」

 

「このォッ!!」

 

ルフィは組み伏せるヒグマを退かそうともがくが、子どもと大人の力の差が如実に表れてしまっている。

ヒグマは高笑いし、ルフィは必死に脱け出そうと身を捩る。

 

「さて、こうなるとお前の人質としての役目も終わりだ」

 

シャンクス達から逃れる為にルフィを盾に移動したが、あとは他の島にでも逃げてしまえば早々には見付かるまい。

癪だが、ここは海賊の奴らの真似をして海を移動する事にする。

 

「お前も戦う為の身体の使い方の発想はできてるみたいだが、如何せん"使い方そのものがなっちゃいないな"」

 

実を言えば、ルフィの最初の攻撃はヒグマにとっても予想外の出来事だ。

油断もあるが、ルフィがゴム人間だと気付く方が無理な話だ。

もしも、あれがヒグマの顔面を正確に捉えていたならば、間違いなく直撃していた。

 

発想は間違いなく素晴らしい。

けれど、惜しむらしくはルフィにはゴムの身体を使いこなす事ができていない事実が全ての原因である。

それが故の自爆、そしてあらぬ方向へ腕を伸ばす結果となった。

 

「もしかして、自分が強いとでも勘違いしたか?」

 

「うるせェッ!! おれはこれから強くなれるんだ!!」

 

「強く"なれる"だと?

 まさか、これから先の未来で強くなるから、おれに勝てるとでも思ったのか?

 所詮はガキだな。お前は弱い。それが覆せやしない現実なんだ。

 それを、今から身を以て体験できるんだ。ラッキーだな」

 

ルフィの服の襟首を持って、ルフィを持ち上げる。

この場には海しかない。

悪魔の実の能力者のルフィは海で泳ぐ事が出来ない。

 

「この!! 放せ!!」

 

「じゃあ、望み通りにしてやるよ」

 

ルフィの望みを叶えてやる――――そう宣言するや、ヒグマはルフィを海へと放り投げた。

 

「くそっ!! くそっ!!

 あいつクズなのに!! 一発も殴れなかった!!」

 

ルフィは悔しさで涙が溜まる。

ウタワールドでの戦い方を真似てみた。

あの時に出来た事が今のルフィにはできなくなっている。

 

「あいつの言う通りになるなんて!!」

 

納得したくなんてない。

けれど、ヒグマの言う事が正しいのも事実なのだ。

ルフィはウタワールドで出来た戦い方を"覚えているだけに過ぎない。"

平たく言えば、頭の中のイメージに身体が追い付いていない。

 

自分も強くなれる事は分かってはいた。

しかし、最初にヒグマに殴り掛かろうとして失敗した際に痛感した。

まだその領域に達していない事に。

 

彼がそこまでたどり着くのは先の話だ。

それに加えて、死に物狂いで努力をしなくてはならない。

言うなれば力を前借りしただけで、"彼自身が強くなった訳では無いのだ。"

 

ヒグマの言う事が正しい結末となってしまった。

自分を強いと、いや強くなるから大丈夫だと、錯覚していたのだ。

力を持たない現状のルフィにこの窮地を脱するだけの力はない。

それどころか窮地を招き、結果として今死にかけている。

 

「誰か、助けてッ!!」

 

海へ放り込まれて溺れまいと、必死に両腕を動かして浮かぼうとしている。

しかし、能力者のルフィには無意味な行動だ。

 

「ははッ!! あばよ!!」

 

その光景を見ながらヒグマはこの場を後にしようとする。

しかし、それを阻む存在がヒグマの背後に出現した。

 

大きい、鋭い牙とウツボのような身体を持つ海獣と呼んで差し支えない海の生物だ。

フーシャ村付近でたまに見掛ける近海のヌシである。

 

「何だ、こいつは!?」

 

しかし、この近海のヌシの事を知らないらしいヒグマは慌てるばかりだ。

ルフィへ投げた言葉がそっくりそのまま返ってくる。

力を持たないならどうする事もできないのだと。

 

 

 

 

大口を開けた近海のヌシに成す術無く、捕食される結果となる。

 

 

 

 

 

あわれ、ルフィを一方的に痛めつけたヒグマは近海のヌシに瞬く間に丸呑みにされた。

だが、これはルフィを救う結果に繋がるものではない。

次はお前だ――そう宣言するかのように近海のヌシはルフィへ襲い掛かる。

 

「誰か、助け――」

 

助けを懇願する悲痛な叫びは届かない。

 

 

 

 

 

『安いもんだ腕の一本くらい。無事で良かった』

 

 

 

 

 

脳裏に過る光景があった。

シャンクスがルフィへ笑いかけながらそんな事を言っている。

海で右腕一本でルフィを抱えながら、そう告げたのだ。

 

「……ッ!?」

 

その脳裏を過るものが何なのかを考えている暇は無かった。

直後にルフィは何者かに引き寄せられていた。

 

その人物は赤い髪が特徴的な男――ルフィの尊敬する海賊の大頭のシャンクスで、近海のヌシを睨み付ける。

 

「失せろ」

 

たった一言だった。

次の瞬間には近海のヌシはそそくさと海中へと去って行ったのだ。

 

「恩に着るよルフィ。話はマキノさんから聞いた。

 おれ達の為に戦ってくれたんだってな」

 

先程に近海のヌシへ見せた迫力は消えていた。

いつもの穏やかな、優しい雰囲気が表に出ていた。

 

「うっ、うぅっ……シャンクス!!」

 

「泣くなよルフィ。男だろ?」

 

「だってよ、シャンクス……腕が!!!!」

 

近海のヌシからルフィを守ってくれたシャンクス。

しかし、その代償はあまりにも大きかった。

 

彼の左肩から先、左腕が失われていた。

左腕があった肩口から血が流れている。

けれども、ルフィを心配させまいと笑顔を絶やさない。

 

「安いもんだ腕の一本くらい。無事で良かった」

 

「おれ、おれ……"多分"こうなるの分かってたんだ!!

 なのに、何にも出来なくて、出来なくて……ッ!!」

 

先程に脳裏に過る映像が現実となった。

時々見ていた映像は恐らく、この先の未来で起こり得る出来事なのだ。

なのに、だと言うのに……ルフィは変える事が出来なかった。

 

「バーカ!! おれの事をお前に心配するなんて十年早い」

 

「シャンクス……」

 

「それに未来が分かっても力が足りなきゃ意味が無いってのが分かって良かったじゃないか」

 

結局のところ、何を成すにしても力が必要となってくる。

それが分かって良かったとシャンクスは言ってくれる。

だが、それでルフィは納得できない。

 

「起きちまった事は後悔しても仕方ない。

 なら、これから強くなれルフィ。

 今よりももっと、もっと、強くなれ。

 守りたいものを守れるくらい、もっと強くなれ。

 身体だけじゃない、心も、な」

 

ルフィに気遣わせない為の言葉ではない。

強くなれ――その一言はルフィへの期待を込めている。

 

そんなシャンクスの強さにルフィは再び泣き叫ぶ。

 

最初、ルフィを航海に連れて行かなかった本当の理由を知った。

海の過酷さ。

己の非力さ。

シャンクスという男の偉大さを心に刻み込む。

 

それでもルフィへ「前を向け」と暗に告げるシャンクスの〝強さ〟を知った。

ただ力が強いだけじゃない、心の強さを自身の中で刻み込む。

いつか、こんな男になりたい――――ルフィは心からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャンクスの腕が失われ、ルフィは責められるかと思ったが誰も責めない。

それどころか無事を歓迎された。

ウタには怒鳴られこそしたが、それでもシャンクスの覚悟を知っているのでそれ以上は言わなかった。

最後にはルフィもシャンクスも無事であった事を喜んでいた。

 

それからしばらくの月日が経過した。

 

「シャンクス!! この航海でもう村に戻ってこないって本当か?」

 

「ああ。長い間拠点にして、少々名残惜しいが、お別れだ」

 

別れは突然に訪れる。

前々から示唆していた事なのだが、やはりその時が来るとルフィとしても寂しくあった。

 

「もう航海には連れてってやれないな」

 

「良いんだ。前に海賊にはなるって決めてたから。

 だから、今度は自分の力で航海するよ」

 

「なるほどな。そういう事か。

 あの時の祭りで言ってた違和感はそういう事か」

 

ルフィの宣言を聞いて納得したのは意外にもベックマンだ。

オレンジ髪の少女とその母親と出会った、その際に抱いた違和感があった。

確かにあの時にはルフィは「おれが海賊をやる時」と宣言していた。

その時には海賊になる気持ちを固めていたのだ。

 

「お前が海賊になれるのか?」

 

「なる!!」

 

シャンクスの問い掛けに間髪入れずにルフィは力強く返答する。

 

「おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!!

 世界一の財宝を見付けて!!」

 

更に一息。

次の一言はルフィの決意表明でもある。

 

 

 

 

 

「海賊王になってやる!!!!」

 

 

 

 

 

「ほう、おれ達を超えるのか」

 

この少年が本気で言っているのだと、シャンクスも理解できていた。

それだけの付き合いである。

彼の決意を馬鹿にする者は〝赤髪海賊団〟の何処にも居なかった。

 

「じゃあ、この帽子をお前に預ける」

 

シャンクスの被っている麦わら帽子を被せられる。

この少年の決意に応えられるシャンクスにとっての唯一の方法だった。

 

「おれの大切な帽子だ。

 いつかきっと返しに来い。

 立派な海賊になってな」

 

「うん!!」

 

「ズルいルフィだけ!!」

 

そこへ頬を膨らませて言うウタが割り込んでくる。

シャンクスの宝物と言っても過言ではない麦わら帽子を渡しているのが不服なのだ。

 

「そういうウタだって、ルフィから何か貰ってただろ?」

 

「私達の〝新時代〟のマークだよ。

 麦わら帽子がモチーフなんだけど、お世辞にもそうは見えないけど」

 

「似てただろ?」

 

「最初見た時に瓢箪(ひょうたん)と勘違いしたんだけれど?」

 

「絵心が全くないんだなルフィは!!」

 

しんみりした空気を一瞬にして笑いの渦へ吞み込んでしまう。

これこそがルフィの持つ特異性なのだろう。

 

「そうだ。ウタ。

 おれ、"あの時の答えがようやく分かった"」

 

「答え?」

 

「ああ、山賊でシャンクスが抵抗しなかった理由は分かってたのに怒ってた理由だ」

 

「そういえば、そんな事もあったわね」

 

今更ながら分かったのかとウタもルフィの鈍さに呆れる。

だが、問題は彼の回答が正解でなければ意味が無い点にある。

 

「それで? 答えは」

 

「シャンクス達が馬鹿にされた事が許せなかったんだ」

 

そう、本当にシンプルな理由でしかない。

ルフィの抱いた憤怒の理由は結局のところ「シャンクス達を馬鹿にされたから」に他ならない。

 

"友達である"シャンクスを馬鹿にされて、ルフィは怒ったのだ。

それはシャンクスがヒグマに対して敵意を剥き出しにした理由と同じである。

 

唯一の違いは頭で理解してのものではなく、ルフィのは本能から来る感情であった事か。

彼らしいと言えば彼らしい。

考えるよりも先に感情の方が表面に出てきたのだ。

 

「良く分かったじゃない」

 

「へへェ~、おれの勝ちだな?」

 

「時間を掛け過ぎたから無効よ。

 つまり、私の勝ち。これで私の183連勝ね」

 

「えェッ!? ちゃんと答えただろう!!

 おれは負けてねェぞ!!」

 

「出たァ!! 負け惜しみィ~!!」

 

ウタは両手を開き、いつものポーズを取る。

しかし、このやり取りも見納めだ。

シャンクスもこのやり取りを温かく見守っている。

 

「ねェ、ルフィは海賊王になるつもりなのよね?」

 

「おう。それがどうかしたのか?」

 

「ならさ、色んな女の人が寄ってくると思うんだ。

 それこそ、あのオレンジ髪の子みたいに」

 

「んん???」

 

ウタの切り出しがいまいち理解できない。

故に首を傾げるのだが、彼女は気にせずに話を続ける。

 

「海賊王になるつもりなら、ハーレムを作るのは許してあげる。

 だから、今よりもっと良い男になるんだぞ。

 私も、もっと良い女になるんだから」

 

「ウタ!! おれは認めないぞ!!

 おい、ルフィ!! お前にウタはやらんぞ!!

 それと海賊王になろうとするからって、モテる訳じゃないんだぞ」

 

「?????」

 

ウタの言いたい事もシャンクスが何を言っているのか、本当に理解が出来ない。

なので、更にルフィの中の疑問は加速するばかりだ。

 

「おーい、お頭!! ウタも!! そろそろ行くぞ~」

 

そこへ船員の声が届く。

ついにお別れの時が来た。

だが、これは永遠の別れなんかではない。

 

「また会えるのを楽しみにしてる。

 お前の掲げる〝夢の果て〟――――〝新時代〟もな。

 けど、ウタをお前にやるかは別の話だ」

 

「え? 何それ? 私聞いてないんだけれど?

 それと私の事を大切にしてくれるのは嬉しいけれど、過保護だよ」

 

シャンクスの最後の一言にウタは反応する。

ルフィに聞こうとも思ったが、出航の為にシャンクスは既に背を向けて歩き始めていた。

恐らく、今のウタの言葉に聞く耳持たずとばかりにこの場を離れたかったからだろう。

 

「ルフィ!! 今度会った時にアンタの思い描く〝新時代〟を聞かせてよ!!

 それと、次に会った時にはどれだけ強くなったか、見てあげるから!!

 そして、私を貰ってね!!」

 

「おう!! 良く分かんねェけど、分かった!!

 また会おうな!!」

 

服の内側にしまっているペンダントにした指輪を掴みながらウタは告げる。

ルフィは本当に分かっていない事に呆れるも「彼らしい」と思って、それ以上は告げない。

シャンクスに続いて船へと乗り込む。

 

「錨を上げろォッ!!

 帆をはれ!!

 出発だ!!」

 

「「「おおォォォッ!!」」」

 

シャンクスの号令と同時、レッド・フォース号はフーシャ村を出航する。

船の姿が見えなくなるまでルフィは手を振ってずっと見送るのだった。

 

 

 

 

 

変える事の出来ない〝運命〟もある。

けれど、変える事ができるものもある。

 

今はきっと分からなくとも構わない。

この先ずっと知らなくても構わない。

 

どんな過酷な〝運命〟が待っていようとも、鍛えた拳で打ち砕けば良い。

その為に少年は強くなる。

 

超えるべき偉大な男と、そう約束をしたのだから。




如何でしたでしょうか?

ほぼ原作1話の出来事をなぞっています。
細部が違ったりしていますが、基本は同じ流れです。

ウタワールドの出来事は確かにルフィも覚えていますが、全てではありません。
何となくこんな事をしたな~位で、記憶は曖昧でございます。
人も夢から覚めた時にどのような夢だったのか、覚えていない事もあるでしょう?
それと同じようなものです。

ではいつものように補足を兼ねて原作との相違点から
・エレジア事件後の翌日である。
・ルフィがシャンクス達の行動を本能ながら理解していた。
・ウタも一緒に出航している。


まず最初の部分はヒグマとの帳尻合わせみたいな部分もあります。
ヤソップを始めとした面々が〝覇気〟を使えなかったのは、トットムジカとの戦いでの疲労が抜け切っていないからとしています。
原作で他の理由があったら変わる部分かも。



次にルフィは何となくヒグマに対するシャンクスの行動に理解を示しています。
きっと、夢の中ででも似たようなシチュエーションでも見たのでしょう(雑)
しかし、それでも友達を傷付けられる事を良しとしないので怒っています。


そして、ウタは〝赤髪海賊団〟の一員として出発します。
ルフィと一緒に島を出るのではと楽しみにしていた方には申し訳無いです。

この展開は最初から決めていました。
映画の本編でも彼女は「赤髪海賊団の音楽家・ウタ」と言っています。
なので、彼女の望むようにウタはシャンクスと共に海へ出させました。
ルフィを想っていますが、彼女はシャンクス達と共に冒険に出て自分を磨くつもりのようですので。
何だかんだナミの事は気に入っているようですから、ハーレムでも築けと言い出します。

新時代のマークは渡されています。
夢の果てはシャンクスのみが聞いていますが、ウタもいずれは聞きたいと考えているでしょう。
本編の彼女はルフィの夢の果てを知る前にエレジアに残されたわけですから。

今後はウタも番外編でも出す予定なので、全く出番が無い訳ではございません。
それに大人になった彼女の出番はそう遠くないと思います。
今しばらくお待ちください。


ここからは補足を。

最後の部分のベックマンの台詞から。
ルフィは海賊になる事をナミとの出会いの時から決めていました。
その前の回の航海へ連れて行って貰いたい台詞の「〝冒険〟がしたい」と言い出してますから、既にその時に決めてました。
それ以前の時点でルフィはシャンクスの船に乗りたくて、仲間になりたくて乗ろうとしていましたが、原作では助けられてから自身が海賊になる事を決意しました。
ですが、こちらではその前に決めています

ヒグマに立ち向かったルフィは自分の身体を上手く使いこなせてはいません。
ウタワールドでの出来事はいわゆる経験の前借り状態で、ドーピングしていたからこそ戦えていたに過ぎません。

現時点でのルフィが使いこなせていないのは、ナミと邂逅した祭りで腕を伸ばした際に上手くコントロールできていなかった事からも分かる通りです。

ルフィはウタワールドでの経験が残っていたが故に「逆に」戦えると錯覚したというところです。
皮肉にも戦い方を知ってしまったが故の悲劇といったところでしょうか。

その結果とは言いませんが、シャンクスの腕は失われてしまいます。
ルフィもその事実を察知しましたが、彼自身に力が足りないが故に未来を捻じ曲げる事は出来ませんでした。

何かを成すにも、やはりある程度の力や能力が無ければ叶える事は難しいです。

つまり、今後はルフィ次第で変える事は出来るでしょう。
ですが、変える事のできない結果も同時に起こってしまうかもしれません。



さて、長々と書いていきました。
では、また次回に。


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変わらないものと変えられたもの

どうも、お待たせしました。


では、続きをどうぞ。


シャンクス達がフーシャ村を出発してからしばらく経った。

それと入れ違う形でルフィの祖父であるガープがフーシャ村へ訪れた。

 

シャンクス達がフーシャ村を発った事を伝えると「そうか」と短く答えた。

今回、彼が来たのはシャンクスに会う為ではない。

ルフィに会う為だ。

ただそれも、良い意味ではない。

 

ルフィを連れてコルボ山というところまでやってきたのだ。

 

「ルフィ、お前をわしの知人に預かって貰う」

 

そう告げると有無を言わさずにルフィはダダンと言う山賊のところまで連れて来られた。

ダダンは女性ながら大柄である。

一目で力は何倍もある大人だという印象が植え付けられる。

 

そしてもう1人。

ボサボサな黒髪にそばかすが特徴的な、ルフィとそう年齢の変わらない少年も居た。

その少年の名はエースと言う。

 

これからダダンとその手下、それとエースとでの共同生活を行う事となる。

 

エースとは紆余曲折あるが打ち解け、後にサボという少年とも出会う事となる。

3人は盃を交わして義兄弟となる。

切っても切れない縁を築き、これから3人の物語が始まる――――のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィがエースと出会ってから更に年月が経過した頃。

彼らの住むドーン島から遠く離れたココヤシ村という場所にて。

 

「はあ、はあ!! 急がなきゃ!! 急がなきゃ!!」

 

オレンジ髪の色の少女――――ナミは駆けていた。

息を切らし、血相を変えて慣れ親しんだ村を疾駆する。

 

「待って、ナミ!!」

 

水色の短髪、少し色黒なナミと変わらない少女――――姉のノジコが後を追う。

血の繋がりは無いが、確かな絆がある仲の良い姉妹だ。

 

その2人の育ての親、ベルメールが窮地に立たされている。

それ故に彼女に会うべく、心臓がバクバクと鳴る。

肺がはち切れそうだ。

それでも駆ける足を止められない。

 

この平和な村を侵略するとばかりに海賊が突如として攻め込んできた。

しかも、ただの海賊ではない。

〝魚人海賊団〟と呼ばれる海賊だ。

 

魚人とは字面の通りだ。

詳しく言うなれば魚の特性を“上半身に受け継いだ”人間というのが分かりやすい。

人間から進化したと言っても過言ではなく、筋力も人間の10倍はあるとされる。

 

明らかに人間よりも力のある存在が自分達の村を侵略に来たのだ。

 

彼らは村の住人に金を要求した。

金額も大人1人10万、子ども1人5万という額を要求してくる。

払えなければその場で殺されてしまう。

 

残酷な要求を、しかし村人には逆らう術を持たなかった。

それだけ純粋な力の差があり、力で敵わない。 

頼みの綱の近辺の海軍も、ここへ来る前に魚人海賊団が潰してしまったようだ。

 

そして今、村から少し離れた位置にあるベルメールと自分達の住む家に魚人海賊団が攻め入ろうとしている。

ナミとノジコはたまたま村に来ており、ゲンゾウという男性のおかげで森に姿を隠してやり過ごせた。

だが、この事実を知らないベルメールの為に急ぐ。

 

魚人達も今しがた来たばかりだ。

裏道の通り方は分からない。

故に、ナミとノジコは見付からずに彼女等の家に到着できた。

 

「もう少し!!」

 

ベルメールの作ったみかん畑を突っ切る。

普段ならそんな事をすれば雷が落ちるのでやらないが、今は緊急事態なのでルールを破ってでも一刻も早く育ての親の下へ駆け付けたかった。

 

みかん畑を抜け、愛すべき母親の姿を見付け――――

 

「えッ!?」

 

ナミは驚きに目を見開く。

ベルメールは血を流して地に伏せていた。

更には魚人に左肩を踏み付けられ、身動きの取れない状態だ。

見れば右足も血まみれである。

 

元海兵で、ベルメールの強さはナミもノジコも、ココヤシ村の住人は知るところだ。

それでも敵わない――――魚人という種族が如何に規格外の強さを有するのかが一見して把握できてしまう。

 

「バカモン!! ベルメール!!

 つまらん正義感で命を無駄にするな!!」

 

叫びながら乱入してくるのは先程までナミ達を匿ってくれたゲンゾウ――――ゲンさんの愛称で呼ばれる男だ。

ナミとノジコを追ってきたのだろう。

 

他には村の医者と村人が来ていた。

2人は魚人達に存在を気付かれていない。

その間にココヤシ村から逃がす算段のようだ。

 

ナミは納得しなかった。

だが、ノジコは頷く。

 

確かにベルメールの家にナミとノジコ、そしてベルメール含めて20万も金はない。

頭では理解している。

けれど、感情とは別なのだ。

 

そうこうしている間に魚人達がベルメールから金を受け取っていた。

ちょうど大人1人分の金は用意してあったそうだ。

恐らくは彼女のへそくりだろう。

 

「これでベルメールさんは助かるんだ。行こう、ナミ」

 

そう、ベルメールは助かる。

ココヤシ村を離れる事になっても、ベルメールが生きてさえくれていれば――――

 

 

 

 

 

「それは私の娘達の分。私の分は足りないわ」

 

 

 

 

 

瞬間、ナミとノジコは驚き、ゲンさんは「ベルメール!!」と叱咤する。

恐らくはリーダーだろう鮫のような特徴的なギザギザしている長い鼻を持つ魚人は足を止めてベルメールを振り返る。

 

「子どもが居るのか?」

 

「ええ」

 

穏やかにベルメールは答える。

それを見たゲンさん、そして医者は彼女の名を呼んで叱咤するも、ベルメールは「ごめんね」と謝罪の言葉を口にする。

 

「家族が居ないなんて言えないや。

 例え命を落としても、口先だけでも親になりたい」

 

ポケットから煙草を取り出して火を付ける。

この状況で堂々と一服するも、彼女の瞳からは涙が流れている。

そして、こう続けた。

 

 

 

 

 

「だって、あいつら……私の子でしょ?」

 

 

 

 

 

例え血が繋がっていなくても、大切な娘達である事に変わりないのだから。

 

「「ベルメールさん!!」」

 

その一言を聞いたナミとノジコは堪らずに母親の下へ駆け出す。

2人の登場に驚くも、優しく2人を抱き締める。

 

その後、まるで2人と最後に言葉を交わすかのようにベルメールはこれまでお金で不自由をさせた事などを謝り始める。

違う、違う、ただ単純に生きていて欲しいのだ。

 

ナミもノジコも母親(ベルメール)が生きる事を望んでいる。

反対にベルメールは娘達(ふたり)が生きる事を望んでいる。

 

「こいつらはてめェの娘達だな?」

 

「ええ、そうよ」

 

リーダー格の魚人に問われ、ベルメールは素直に頷く。

けれど、それは彼女に「死」が訪れる事を同時に意味している。

ナミもノジコも「死んではダメだ!!」と叫ぶ。

 

「ベルメールを助けろ!!

 戦闘だァッ!!」

 

ベルメールを助けたいのは村の住人も同じだ。

しかし、魚人達の力は圧倒的だ。

元海兵のベルメールが敵わない相手に、ただの村人が勝てる道理はない。

成す術もなく、蹂躙される。

 

殺しはするなとリーダー格からの指示で、殺されはしないものの手傷を負わされる。

ゲンさん等は顔に切り傷を受けてしまう。

頭だけではない、身体の芯から理解させられる――――力の差というものを。

 

「さて、金を払えないなら死んで貰うしかないな」

 

純粋な力で敵わないのを知りながらあえて銃をベルメールに突き付ける。

ナミとノジコを放すと、痛む足を根性で我慢しながら立ち上がる。

 

(どうしよう!! どうしたら!!)

 

ナミは必死に考える。

このままでは数秒と掛からずにベルメールは殺されてしまう。

そんなのは嫌だ。

 

けれど、ベルメールが敵わない相手に子どもの自分が勝てる訳が無い。

何ともならない状況。

 

自分の胸を掴む。

服の内側に祭りの時に貰ったオレンジ色の指輪の玩具をペンダントにして首から下げている。

考え込み、無意識にあの時のゴム人間となった少年に助けを求めて――

 

『どうにか出来ないか誰かに聞くのが一番だろ?』

 

瞬間、少年の言葉を思い出す。

どうにもならない状況となった時、彼に問い掛けた際に返ってきた回答だった。

 

「くだらねェ愛に死ね」

 

 

 

 

 

「待って!!」

 

 

 

 

 

ベルメールに降り掛かろうとする死の直前、ナミは大声を張り上げた。

自分でも驚く程、そして戦闘をしていた全員の視線を集める程だ。

まさか、子どもがこの土壇場で大声を出すとは思わなかったからだろう。

村人を始め、魚人の面々でさえナミが次に発する言葉に耳を傾けていた。

 

「おれに何か用か? 娘?」

 

ギロッ!! 鋭い視線をぶつけられる。

それに怯みそうになるが、ナミは指輪を服の上から掴んでベルメールよりも前、魚人の前に立つ。

指輪から、少年から、勇気をほんの少しだけ貰う。

 

「わ、私の名前はナミ。

 娘って呼ぶよりは、呼びやすいと思う、の。

 あなたの名前も、聞かせて欲しい」

 

自分でも何を言っているのか分からなった。

一瞬、魚人の方がポカンとする。

しかし、ナミがいきなり自己紹介を始めた事がおかしかったのか笑い出す。

 

「いや失敬。これからこの村を支配しようってんのに名前を知らないのもおかしな話だな。

 おれはアーロンってんだ。よろしくなナミ」

 

意外と言って良いのだろうか、アーロンはナミの自己紹介に乗ってきた。

だが、これでベルメールから意識を逸らす事はできない。

だから、続けざまに言葉を続ける。

 

「ベルメールさんを、村の人を殺さないでくれる方法は何かない?」

 

「シャーハッハッ!! 面白い事を言うな!!

 だが、残念。金が払えなければ意味が無いんだ。

 むしろ、金で解決できる分だけマシだと思うんだな」

 

取り付く島もない――否。

 

『別の誰かに聞くのが一番だろ? それで何か自分に出来る事が見付かるかもしれねェしな』

 

この場ではアーロンが一番偉い。

けれど、他にも魚人は居る。

 

「本当に?

 お金を払えない代わりに働いたりとかで、見逃して貰えたりしない?」

 

「確かに、金に代わる〝取柄〟でもあれば話は変わるかもしれないぞアーロンさん」

 

ナミは後ろに居る魚人に声を掛ける。

しかし、答えは自分達の住む家の中から声がした。

 

「この家にこんなに海図があったぜ」

 

「ほう。これは随分と正確な海図だ。

 これを描ける人材は貴重だぞ」

 

六本の腕を持つタコの魚人が、六つの手全てで持った海図をアーロンに見せる。

海図を見たアーロンは感心していた。

それ程までに正確なものであった事に。

 

そしてナミも見逃さなかった。

アーロンが"自分の描いた海図に興味を示した事実"に。

 

 

 

 

 

「その海図は私が書いたの!!」

 

 

 

 

 

間髪入れず、ナミがその事を告げる。

嫌な予感がすると、ベルメールやノジコも彼女の名前を呼ぶが振り返らない。

真っ直ぐ、この場の一番の支配者であるアーロンを見据えて居た。

 

またアーロンもナミの一言に関心を向けていた。

 

「海図にさっき言っていた名前が書いてある。

 なるほど、適当に言っている訳でも無さそうだ。

 その若さで恐れ入る才能だ」

 

「私の才能って、そんなに珍しい?」

 

「…………ああ、そうだな。

 世界中を探してもそうはいない」

 

「なら、さ。取引しない?」

 

「聞こう」

 

既にアーロンはナミの提案の内容に気付いている。

それはベルメールとノジコも同様だ。

 

「私があなた達の測量士をやる。

 その代わり、ベルメールさんの分のお金を、これから村人からお金を取るのを止めて欲しいの」

 

「なるほど、悪くない提案だ。

 だが、力づくでお前を連れていく事も出来るんだぞ?」

 

「その場合、お金は多分取れなくなっちゃうよ?

 ベルメールさんの時だけでこんなに村の人が来たんだから」

 

「確かにな。金づるが居なくなるのは困る」

 

アーロンもしばらく考える。

見せしめにする選択肢は確かにある。

だが、ここで無理をしてナミが自暴自棄を起こすのは一番の損失だ。

 

正直、彼女の存在はまさしく棚から牡丹餅の状態だ。

代わりの拾い物、しかも珍しい才能の持ち主であればお釣りが来る位だろう。

 

「良いぜ。だが、金は払わせる」

 

「なら、足りない分は私が多く海図を描くから見逃して」

 

「良かろう。

 交渉成立だ」

 

ナミの提案をアーロンは受け入れる。

結果的にココヤシ村、ひいてはベルメールもナミに救われる形となった。

 

「じゃあ、早速仕事をして貰おうか」

 

「待って。それなら、少しだけ話をさせて」

 

「あまり時間を掛けるなよ」

 

下手に反対しても、ベルメール達が良しとしないと判断した。

あえてナミに話をさせ、この場を収める腹積もりだ。

 

「ナミ!! どうしてこんな無茶をするの!!」

 

「勝手をしてごめんなさい」

 

ベルメールは涙ぐみながら、ナミの行動を叱咤する。

だが、これで助けられたのも事実なのだ。

 

「でも、ベルメールさんを、皆を助けられる方法があるなら…………黙ってる方が無理だよ」

 

「全く!! 子は親に似るとは言うが、まさにこの事だな。

 無茶をしよってからに!!」

 

魚人達も住民への手出しを止める。

ゲンさんはナミ達に近付き、言葉を叩き付ける。

しかし、彼の表情は泣きそうになっていた。

 

彼は帽子を被り直し、先程の戦闘で落とした帽子に突き刺してあった風車を付け直す。

何故帽子に風車を付け始めたのか分からないが、ナミにとっては風車はゲンさんのトレードマークみたいなものだ。

 

「しかし、その無茶で命を救われた。ありがとう、ナミ。

 それとすまない。お前に助けられるしか出来ない不甲斐無い大人で」

 

「良いのゲンさん。

 ベルメールさんと同じ位に私とノジコを大切に育ててくれたココヤシ村が大好きだから。

 だから、今度は私が恩返しする番だよ」

 

ナミの心にも不安はある。

けれど、せっかく掴み取れた好機だ。

皆を助けられる手段があるのならみっともなくて構わないから縋らせて貰う。

 

「ナミ…………」

 

「ごめんねノジコ。勝手に決めて」

 

今にも不安で泣き出してしまいそうなノジコをナミは抱き締める。

彼女もナミの行動を頭で理解していても、心は納得出来ていなかった。

 

「行かないで、ナミ。あいつらの所に行っても無事でいられるかどうか分からないんだよ?」

 

「私は大丈夫。海図を描かせたいだろうし、すぐにどうこうはしないよ。

 それより、村を解放する方法を考えないとね」

 

「ナミは、強くなったんだね」

 

どちらが姉なのか分からなくなる。

それでも、ナミの想いを汲み取れるノジコの方が姉と言われるとしっくり来るものがある。

 

「どっちも強いよ。私の自慢の娘達なんだもの」

 

その2人を抱き締めるのはベルメールだ。

涙を流し、けれど表情は笑っている。

 

「ノジコは偉いよ、ちゃんとナミの事を想ってくれているんだから」

 

「ベルメールさん……」

 

「もちろんナミも凄いぞ。やっぱりあのゴムの少年のおかげかな?」

 

「そ、そんな事は…………無い事も、無い。本当!! ほんの少しだけね!!」

 

ナミの変化はきっとゴムの少年のおかげだ。

ノジコもその変化に引っ張られ、良い方向へ進んでくれている。

 

「ナミ、負けるんじゃないよ。私も出来る限りはするから」

 

「うん、でも……」

 

「命を投げ出すような事だけはしないでね」

 

ベルメールも出来る限りはしたいと告げるも、ナミとノジコに無茶だけはしないでくれと嘆願される。

 

「娘達に見透かされてるようでは、まだまだ不良娘は卒業できそうにないな」

 

「うっさいよゲンさん」

 

ベルメールが意外な呼び方をされているなとナミとノジコは初めて知る。

こんな状況だというのに、思わず笑ってしまう。

 

「ノジコ!! ナミ!! 大好きだよ!!

 だから、また皆で笑って暮らそう!!」

 

「うん!! その日が来るまで!!」

 

「絶対に!! 負けない!!」

 

家族3人の誓い。

それはこの逆境を乗り越える為に鼓舞する言葉。

 

ナミだけに負担は背負わせない。

その為にやれる事をやる。

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

「気を付けるんだよ」

 

「無理はしないでね」

 

「うん」

 

言って、ナミは家族に背を向ける。

これは別れではない、これは犠牲ではない。

家族が笑顔で過ごす為に、大好きなココヤシ村が平穏を取り戻せるように、戦いへ赴く。

 

(何でだろう。不安だけど、不安じゃない)

 

変なの――――と、自分の考えにツッコミを入れる。

理由は何となく分かった気もする。

ただ、その理由は明らかに希望的観測に過ぎないのだ。

 

(何で“あいつ”の顔が思い浮かぶのかな?)

 

思い浮かべるのはゴム人間となった少年だ。

先程、ベルメールに言われたからだろうか?

 

(あの時に会っただけの男の子に何を期待してるんだか。

 勇気を貰えたのは確かだけど)

 

あの祭りの日に会っただけの少年に何を期待するのかと、自分でも思ってしまう。

また会える気がしたが、未だ会えずにいるのに。

 

海賊になりたいと、変わった事を言う少年だ。

しかし、勇気を貰えたのは確かなので助けてくれた事には感謝している。

 

(巻き込まずに済むのなら、それで済ませる)

 

だって、これはナミの、ココヤシ村の戦いだから。

近くの海軍も助けにならないなら自分達が、特に自分が戦うしか無い。

 

(行こう!!)

 

決して下を向くな。

戦うつもりなら前を向け。

1人でも戦う覚悟を決めろ。

 

だが、忘れるな。

これは決して、孤独な戦いではない事を。

 

 

 

 

 

 

 

場所はフーシャ村へと戻る。

しかし、時はシャンクスから麦わら帽子を預かり、エースとサボとの出会ってから10年の時を経ている。

 

エースとサボという少年も将来は海賊になる事を誓いあった。

しかし、サボは10年程前に突如として海賊として海に出たところを通り掛かった船に砲撃されて行方知れずとなる。

 

彼は見付からず、もうこの世には居ないのかもしれない。

彼の死をエースと共に乗り越え、海賊になる為に身体を鍛え上げる。

そして、エースは3年前に海賊になって海へ出た。

今年、3番手としてルフィは海へ出る。

 

「じゃあな。ダダン」

 

「ふん!! 勝手に海賊になりやがって」

 

「おれ山賊は嫌いだけど、ダダン達は好きだぞ」

 

「ちくしょーッ!! 勝手に行って来いやーッ!!」

 

ダダンとも打ち解け、ルフィは真正面から好意を伝える。

彼女も何処から出したか、ハンカチで目から止めどなく出る涙を拭う。

 

そして、現在。

フーシャ村の港からルフィは樽等の荷物を乗せた小さな船を出す。

 

港では村人から見送られる。

マキノは何処か寂しそうで、村長は「村の恥晒しめ!!」と言っている。

 

「いやー、船出日和だなー」

 

そんな事を言いながら、ルフィを乗せた小船は進んでいく。

しかし、忘れてはならない。

フーシャ村の近くの海には近海のヌシが居るのだ。

 

かつて、山賊を呑み込み、シャンクスの左腕を千切った近海のヌシがルフィの小船の近くに現れる。

 

「出たな近海のヌシ。相手が悪かったな」

 

しかし、ルフィは落ち着いていた。

幼少期、ルフィは近海のヌシには決して勝てなかった。

だが、今は違う。

 

今なら近海のヌシにも勝てる。

ルフィはこの10年で鍛えたのだから。

 

 

 

 

 

「〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!!!」

 

 

 

 

 

ズドォォォォォッ!!!!

 

 

 

 

 

ルフィの拳が勢い良く伸ばされ、近海のヌシの顔面を殴り飛ばす。

たった一撃――――決して敵わなかった敵を拳1つで沈めてしまった。

 

「さて、まずは仲間集めだ。

 それに海賊旗」

 

ルフィは腕をぐるぐると回しながら目下の目標を設定する。

何のための目標設定か?

 

幼少期の頃から彼の〝夢〟は変わっていない。

 

「よっしゃ、いくぞ!!」

 

両腕を上げ、宣言する。

まだ見ぬ仲間、まだ見ぬ強敵、そして先に海賊となった兄へと向けた宣言だ。

 

 

 

 

 

「海賊王に、おれはなる!!!!」







如何でしたでしょうか?

前回と対比したサブタイとなっています。

ルフィの方は原作通りなので、殆ど文章でカットしました。

すまねぇ、エースとサボ。
この回書いてると、不思議と涙で画面が見えなくなるから書けなかったんだ。

ダダンは地味にお気に入りのキャラなので台詞を入れました。

原作との相違点は分かりやすいですね
・ベルメールさん生存。
・ナミがアーロンと取引する。

の二本ですね。

ルフィとの出会いがナミの心を強くしました。
結果、ベルメールを助け、ココヤシ村を助け、アーロンに取引を持ち掛けました。

アーロンって悪逆非道な行為に目が行きがちですが、意外と人の話に耳を傾けるところがあるなとも感じました。
特に自分に利益が生じるなら。
なのでナミの話に耳を傾けています。

原作ではベルメールと喧嘩した際にアーロンが来ましたが、この作品では喧嘩はしてません。
ノジコとゲンさんの所へ遊びに来てました。
喧嘩が起きないのもルフィの影響です。

ルフィ自身の知らないところで大きく物語を変えてしまいました。
とんでもねえ奴だ。
さすがは解放の戦…………ゲフンゲフン。


さて、かなり話数を使いましたがいよいよ東の海編へ突入していこうと思います。
基本的にルフィを中心とした話の展開にするので、ゾロやサンジの戦闘シーンは省かれる事が多いと思います。

原作展開をそのまま書いていてもダレてしまいますし、私自身も書きたい話はたくさんあるので「なるべく」サクサク展開にしたいので。

サラッと流したり、可能ならキャラ視点の一人称で書いてみたり、ちょっと試したい事も多いのでお付き合い下さい。

さっさとナミだけじゃなくてロビンやビビも出したいですね。
それに歌姫を目指してるルフィの幼馴染みもさっさと再登場させたいのでね。



こちらの事情で次回は遅くなると思います。
いつぞやもこんな事を言った気もしますが、一週間以上掛かるのは間違い無いと思います。

なるべく頑張りますので応援して下さい(またがめついなこの作者は)

では、また次回に。


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東の海編
船長!! 樽から男が!!


お待たせしました。

本当に申し訳ないです。
予定よりも遅くなってしまいました。

では、続きをどうぞ。


拝啓、地元の島の皆様。

如何お過ごしでしょうか?

 

「おう雑用コビー、これ酒樽じゃねェか。何処で拾ったんだ?」

 

「そ、そこで拾いました」

 

コビーこと、ぼくは海賊船にて雑用係をしています。

 

釣りをしようと船に乗ったのですが、それが海賊船でそこで雑用係として使われています。

幸いにも航海術や海の知識があったので"生き永らえている"状態です。

 

その海賊というのが〝金棒〟の異名を持つアルビダ……様の船でした。

太った……いえ大柄な体型、顔に付いたそばかすがまず目を引く白い鍔広の帽子を被った女海賊の船長です。

 

異名に負けない程の大きな金棒をいとも容易く振り回します。

その金棒により、何人もの海賊や海兵を薙ぎ倒しています。

実力は間違いなく本物なんです。

そして今、アルビダ様が拠点とする島に船を停泊させています。

船の清掃等をして、物資の補給をしています。

 

というのも先程にこの付近で大渦が発生していたので、これでは船を出せないので休憩を兼ねての行動をしています。

 

「これ、もしかして酒樽じゃないか?」

 

僕が持ってきたのは酒樽です。

酒樽は濡れていた状態だったので、通り掛かった船が先程の大渦にやられて積み荷だけが流れてきたのでしょう。

かなり重く、非力なぼくでは運ぶだなんてとても出来ないので物資を貯蔵に利用している小屋まで転がしてきました。

そこまで来ると、アルビダ様の船の先輩3人がぼくの持ってきた酒樽に興味を示しました。

 

「この事はアルビダ様は知ってるのか?」

 

「いえ、まだ誰にも言ってませんが」

 

「なら、ちょうどいい。おれ達で飲んじまおうぜ」

 

ぼくが誰にも酒樽の存在を知らせていないと知るや、先輩方はこの酒樽の中身を飲むという選択を取り始めました。

本来、こんな勝手は許されません。

ですが、こう考えてしまう理由もアルビダ様の船に乗船していると良く分かります。

 

「アルビダ様と居ると、目一杯に酒を飲むだなんて無理な話だからな」

 

「言っちゃ悪いが、横暴なところもあるからな。機嫌が悪い時は酒なんて飲めないのもザラだし」

 

「ナルシストで、あんなに太ってて、顔も良くないのに『自分がこの海で一番美しい』だと思ってるナルシストだしな」

 

船長に対しての言い方とは思えない程の酷評っぷりが目の前で繰り広げられています。

彼女の見た目はお世辞でも「美しい」とはかけ離れていますが、そんな事を言おうものなら彼女の金棒が襲い掛かってきます。

かくいうぼくもアルビダ様から暴行を受けています。

まるでストレスを発散する為に振るわれる暴力。

身体に受けた生傷は数え切れません。

 

それは他の船員達も同様で、このように各々が不満をぶちまける程です。

恐怖政治とは言ったものですが、これではいつまで船員が付いてきてくれるのか分かったものではありません。

その証拠に、このようにして船長に黙って酒樽を飲もうとしている訳ですから。

 

「しかし、問題は船長にバレないか、だが」

 

「安心しろ。ヘッポコのコビーは誰にも話していない」

 

「なら、知ってるのはおれ達だけか」

 

3人はその事実を確認すると、視線をぼくへ一点集中させました。

うぅ、言いたい事は察しました。

 

「も、もちろん誰にも言いません」

 

「へへ、分かってるじゃねェか」

 

「なら、共犯って事でお前にも少し分けてやるよ。感謝しな」

 

「ありがとう、ございます」

 

ぼくが誰にも言わないと知るや、先輩達は上機嫌に。

1人が酒樽の中身を開けようと蓋へ手を伸ばして――――

 

 

 

 

 

「あーっ!! よーくー寝ーたーな〜〜〜っ!!」

 

 

 

 

 

あっはっはっ!!

そんな笑い声と共に樽から人が両腕を上げて勢い良く出てきました。

 

その拍子に蓋を開けようとしていた先輩の顎に出てきた人の拳がクリーンヒット。

赤い袖なしのベストに青い短パン、それと麦わら帽子を被った黒髪黒目の少年といった風貌の人です。

少年はひとしきり笑った後にぼくや先輩達、倒れている先輩を見据えた後に、

 

「誰だ? お前ら?」

 

「「お前こそ誰だ!?」」

 

「その人、そこで寝てると風邪引くよ?」

 

「「お前がやったんだよ!!」」

 

少年のマイペースさに先輩達が翻弄されています。

この人は一体……?

いや、それ以前に何で樽に入っていたんですか!?

 

 

 

 

 

「サボってんじゃないよ!! お前達!!」

 

 

 

 

 

怒号と共にこの小屋へ金棒が投げ込まれました。

その勢いは凄まじく、小屋をいとも簡単に吹き飛ばして全壊させました。

これを行ったのは間違いなくアルビダ様です。

 

「おわァッ!?」

 

「わ、わわッ!!」

 

それによって、樽もろともあの人が吹き飛ばされました。

そして、その近くに居たぼくも小屋の裏側にある雑木林の方へ吹き飛ばされて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「ああ、びっくりしたけどな」

 

またも笑いながらこの状況を軽く流す。

何と言うか、豪胆な人です。

 

「おれはルフィ。ここ何処だ?」

 

「ここは〝金棒〟アルビダ様の休息地です」

 

「ふーん」

 

アルビダ様の名前を出しても全く動じる様子を見せません。

挙句には「どうでもいいや」と言い出しました。

この人は誰なのでしょうか?

 

この辺りの海賊の名前は聞いてますが、ルフィという名前は聞かない名前です。

 

 

「小船とかねェかな? おれのやつ渦巻に呑まれちまってさ〜」

 

「えェッ!? あの大渦に!?」

 

樽から出ながら軽い口調でとんでも無いことを言い出しました。

まさか、あの大渦に巻き込まれていたなんて。

普通なら死んでもおかしくないのに。

 

それで咄嗟に樽に入って生き延びた――――何て強運なのでしょうか。

いえ、違いますね。

樽に入って“生きる事を諦めなかったからこそ”こうして生きている。

この行動力こそが、この人が生き延びた理由なんですね。

 

「小船なら一応、あります」

 

この人――――ルフィさんの要望に応えるだけのものではありませんが、小船程度ならあります。

丁度、それもこの近辺に隠してあります。

 

ルフィさんへ付いてくるよう促し、この付近に隠していた小船を見せました。

 

「何だこれ? 棺桶か?」

 

「い、一応小船です。自作ですけど」

 

板を繋ぎ合わせただけのツギハギだらけの船を見せました。

ルフィさんの反応はご尤もと言うべき出来栄えです。

 

「2年掛けて、コツコツ作ったものですので。見栄えは悪いですけど」

 

「2年掛かった? なのに要らねェのか?」

 

ルフィさんの問いにぼくは「はい」と頷くしか出来ませんでした。

 

全てを正直に話しました。

アルビダ様の船に誤って乗った事、逃げ出したくて造った事、なのに怖くて逃げ出せない事。

 

「お前、ドジでバカだなー。

 その上根性無さそうだしな。

 おれ、お前嫌いだなー」

 

笑顔でストレートにぼくの心を抉らないで下さい。

図星過ぎて涙を流しながら愛想笑いするしか出来ないじゃないですか。

 

ぼくにもルフィさんのように樽で漂流する覚悟はありません。

もし、それだけの覚悟があればアルビダ様から逃げようと考えられたと言うのに。

自分が情けなくなります。

しかし、気になる事も。

 

「ルフィさんは海へ出て、何をするつもりなんですか?」

 

彼はそこまでして何をしたいのだろうか?

興味本位で訊ねる。

すると彼は満面の笑みで――――

 

 

 

 

 

「おれはさ、海賊王になるんだ!!」

 

 

 

 

 

なるほど、海賊王ですか。

海賊王…………って、

 

「か、海賊王ですかっ!?」

 

「ああ」

 

ぼくの驚きなど何のその。

ルフィさんはさも当たり前のように「海賊王になる」と答えます。

 

「海賊王っていうのは、この世の全てを手に入れた者の称号ですよ!!

 〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟を狙うって事ですよ!!

 世界中の海賊達が狙ってるんですよ!?」

 

「おれも狙う」

 

腕を組み、ルフィさんは簡潔に言う。

いえ、言うのは簡単です。

ですが、並み居る海賊達を押し退けて海賊王の称号を手に入れるなんて――――

 

「無理です無理です!! そんなの無理に決まってます!!」

 

荒唐無稽、無茶無謀も良いところです!!

わざわざ死にに行くようなもので――――

 

ゴンッ!!

い、痛いっ!?

 

「何で殴るんですか!?」

 

「何となくだ」

 

頭を思いっきり殴り付けてくるルフィさんへ抗議の声を上げました。

しかし、彼の犯行の動機は「何となく」とふざけたものです。

 

「おれは死んでも良いんだ」

 

しかし、ルフィさんが次に放った言葉は芯のこもったもの。

被っていた麦わら帽子を取ると、手に取って眺めながらこう続けました。

 

「おれがなるって決めたんだから。

 その為に戦って死ぬんなら、別にいい」

 

っ!?

なんて、なんて覚悟なんでしょうか。

ルフィさんは、すごい覚悟を持っていたんです。

 

ぼくは考えもしなかった。

死ぬ気で目的を成し遂げるなんて。

 

「ぼくでも、海軍に入れるでしょうか?」

 

「海軍……?」

 

気付けば、ぼくは心の内を言葉にしていました。

いえ、これまでぼくが目指してきたのに見て見ぬ振りしていたぼくの本心です!!

 

「ルフィさんとは敵ですけど!!

 海軍に入って偉くなって、悪い奴を取り締まるのがぼくの夢なんです!!

 小さい頃からの!!」

 

この事を誰かに話す事があるだなんて思わなかった。

ましてや会ったばかりの、赤の他人で、尚且つ海賊という真逆の立場の人に言うとは思いませんでした。

けれど、止めていた想いは一度溢れ出したら止まりませんでした。

 

「やれるでしょうか?」

 

「そんなの知らねェよ」

 

「いえ!! やります!!」

 

さっきまで、ルフィさんが自分の〝夢〟を叶える為の覚悟を見せてくれました。

ルフィさんの言葉を否定した時のぼくとは違います!!

だから、自分の言葉に信念を込めるんです!!

 

そして、これまでの自分と決別するんです!!

まずは、アルビダ様の……いえ、彼女の呼び方を変えなくては!!

 

「それでアルビダ様も……いえ、アルビダだって捕まえてやるんです!!」

 

「誰が誰を捕まえるって?」

 

そこへ背後から声が掛かりました。

ゾクッ!! 背筋に悪寒を感じます。

今の声は何度も聞いてきたものです。

 

恐る恐る振り返れば…………そこにはアルビダが立っているではありませんか。

な、何でここに!?

 

「コビーが誰か連れてきたって言うから何処ぞの賞金稼ぎかと思ったよ。

 もしかしたら海軍に捕まっているロロノア・ゾロかと思ったが、違うようだね」

 

そ、そうか。ルフィさんの入った樽を持ってきたのがぼくだから変な勘違いをされたんだ。

見れば、この事を知っている先輩も居るじゃないですか。

 

「それで? あんたは誰だい?」

 

「おれはモンキー・D・ルフィ。海賊王になる男だ」

 

「海賊王? これはとんだお笑い草だね!!

 ヘッポココビーと同じように夢を見てる奴なのか!!」

 

ルフィさんの〝夢〟、そしてぼくが海軍へ入る〝夢〟を聞いていたのでしょう。

あちらは部下も含めて全員がぼく達の〝夢〟を笑いの種にしているんです。

 

腸が煮えくり返っています。

けど、けど……さっき決意した覚悟が霧散していくのが分かります。

やはり、この身体に植え付けられた暴行への恐怖がジリジリとぼくの心の中を侵食してきました。

ここから逃げるだなんて、ぼくには…………

 

 

 

 

 

「誰だ? このイカついおばさん?」

 

 

 

 

 

 

瞬間、ルフィさんがぼくに問い掛けてきました。

同時、全員の時が凍り付きました。

 

しかし、その凍て付きを憤怒の炎で溶かしたのは他ならない言われた張本人な訳で。

彼女の怒りを買ってしまう結果になったのは火を見るよりも明らか。

 

「て、訂正して下さい!! ルフィさん!!

 この人は、この海で一番…………」

 

そこまで言い出し、ぼくの言葉は途切れました。

その瞬間、脳裏に過ったのは先程のルフィさんの言葉。

 

彼の覚悟は、ぼくは彼のように死ぬ気で海軍に入りたいと決意させる程の力を見せ付けました。

これまで燻っていたぼくの中の覚悟に火を付けたのは他ならないルフィさんだ。

 

どうした事でしょう。

先程までの恐怖は何処かへ行ってしまいました。

代わりにぼくの中でルフィさんが覚悟を語ったシーンが何度も何度も再生されます。

 

ぼくはルフィさんの何を見た?

しっかりしろ、コビー!!

ここで命を懸ける覚悟が無くて、何が〝夢〟なんだ!!

 

そうだ、ルフィさんは違ったじゃないか。

ぼくの〝夢〟を聞いて全員が嘲笑っても、ルフィさんだけは「知らない」とは言っても「なれやしない」とは言わなかったじゃないか!!

 

ぼくはルフィさんの〝夢〟を「不可能」だと断じたというのに!!

 

今度こそ、覚悟を決めよう。

これは、新しい道を決める為の第一声だ!!

 

 

 

 

 

「この人は、この海で一番イカつい、クソババアです!!」

 

 

 

 

 

「……………言いたい事はそれだけかい?

 なら、覚悟しなァ!!」

 

我慢が限界に達したアルビダが金棒を振り下ろしてきます。

 

ぼくは慌てるだけです、口を開いて恐怖しながら金棒が振り下ろされるのを見ているだけです。

けど、後悔はありません!!

言うだけ言ったんだ。

最後にこれまでの弱い自分と決別できたんだ!!

悔いは、ない!!

 

「良く言った"コビー"。

 あとは任せろ」

 

ぼくが振り下ろされる金棒に身動きが取れない最中、ぼくの前に人が割って入りました。

麦わら帽子が真っ先に目に入り、誰が割って入ったのかすぐに理解しました。

 

「ルフィさん!!」

 

ぼくがルフィさんを呼ぶのと同時、金棒が彼の脳天に直撃しました。

見た目通りの怪力を持つアルビダの放つ金棒の威力は凄まじいです。

それなのに間に入ってしまっては…………

 

「効かないねェ。ゴムだから」

 

しかし、ルフィさんは平然として、そのように言葉を返しました。

アルビダも自身の渾身の一打に手応えはあった筈。

なのに、不思議そうな顔をしています。

 

「〝ゴムゴムの〟」

 

腕を高く上げ、まるで拳を飛ばすかのように構えています。

しかし、アルビダとルフィさんとの間には距離があり、いくら腕を伸ばしたところで届く筈が……

 

「〝(ピストル)〟!!」

 

ギュンッ!! そんな擬音が耳に届きました。

ル、ルフィさんの腕が……伸びた!?

 

ぼくの目の錯覚でもなく、伸ばされた腕はアルビダの顔面にクリーンヒット。

アルビダもルフィさんの一発でKOされ、地面に仰向けで倒れています。

 

この場の全員がルフィさんの腕が伸びた事に驚き、そして畏怖し始めました。

 

「コビーに一隻小船をやれ。こいつは海軍に入るんだ。

 黙って行かせろ」

 

呆気に取られている船員へ向けて指を突き出し、そう言い出しました。

他の面々も「はい」と言って、頷くより他に出来ません。

 

当のルフィさんは「ししし」と満面の笑みを作っているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぼくの目的地である海軍基地のある島までルフィさんと小船で移動する事になりました。

小船の船首にルフィさんは胡坐を掻いて座っています。

 

ルフィさんは〝ゴムゴムの実〟を食べたという事はカナヅチになっている筈なんですよね。

海に落ちた時はどうするつもりなのでしょうか?

 

いえ、それよりもこれからルフィさんが目指そうとしている〝偉大なる航路(グランドライン)〟は海賊の墓場とも呼ばれる場所です。

 

「ああ、だから強い仲間が要るな。

 これからお前が行く海軍基地に捕まってる奴が良い奴だったら仲間にしようと思ってな」

 

ルフィさんにその話をするとそのように言い出しました。

アルビダがロロノア・ゾロの話をしていて、ぼくの目指している海軍基地に居ると知ってそのような話に。

 

「いえ、悪い奴だから捕まってるんですよ?

 それに〝海賊狩り〟の異名を持つ人が仲間になるなんて有り得ないですよ!!」

 

「そんなの会ってみないと分からないだろ?」

 

「無理です!! 無理無理!! 絶対に無理……」

 

ゴンッ!!

本日二度目、ルフィさんの拳がぼくの脳天を叩きました。

 

「何で殴るんですか?」

 

頭をさすりながら涙目になっているぼくに腕を組んでルフィさんはこう言いました。

 

「何となくだ」

 

だから、そんな理由で殴らないで下さいよ。

 




如何でしたでしょうか?

え? 前回ルフィを中心とした話にすると言ってたのにコビー視点の話になってるって?
原作でもコビーは麦わらのルフィのファン第一号なので、実質ルフィ中心の物語ですよ。

基本的に原作準拠の展開となっていますので、せっかくならとコビー視点で書いてみました。
コビーがルフィと出会った時の心理ってどうだったのかなと原作を読み返していたら自然と彼視点の話に。
本当は三人称にするつもりだったのですが、どうしてこうなった?

あとは細かい台詞回し等が違っていたりします。
あと分かる人には分かるアニメ産の会話文もありますので楽しめて頂ければ幸いです。

原作を知っている前提で展開もさっと書いて終わらせました。

さて、次回はそこまで時間が掛からないと思います。
忙しい人向けシリーズのような形でサクッといくと思います。

では、また次回に。


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見た目や噂だけで判断してはいけません!!

お待たせしました。

続きです。


ここはシェルズタウン――――海軍基地の町。

この海軍基地を取り締まっているのは〝斧手〟の異名で知られるモーガン大佐である。

右腕がその通りに斧になっており、凶器を装着した状態となっている。

 

さて、そんなモーガン大佐が駐在する巨大な基地の脇にグラウンドがある。

大きな塀で外界と隔たりを作っているそこは本来なら海兵の訓練で使われる場所なのですが、今は別の用途で使われている。

1人の男が十字にそれぞれの腕を縛り付けられている。

まるではりつけだ。

 

白い半袖のシャツ、腹巻に黒い長ズボン、そしてひと際目を引かれるのが目元を隠すように覆っている手拭い。

その男の名前はロロノア・ゾロ。

〝海賊狩り〟の名で知られる賞金稼ぎだ

 

しかし、どうして賞金稼ぎで知られる彼が海軍に捕まっているのか?

海賊を倒す事は海軍側にしても嬉しい事である筈だ。

わざわざ賞金を懸ける事で海賊が起こすだろう悪行を防いでいるのだから。

 

勿論、こうなっている事には理由がある。

彼はこの町の海軍のモーガン大佐――――その息子の飼っている狼へ危害を加えたからである。

町で狼を散歩させていて、少女に噛み付こうとしていたところを庇う為である。

 

そもそも狼を何故飼っているのかとか、町で散歩させているのかとか、ツッコミどころ満載ではあるが事実なのだから仕方ない。

その事で罪を着せられ、一ヶ月はりつけ状態で立っていられたら全ての出来事を無かった事にするとの事だ。

 

飲まず食わずで一カ月というのはやはり過酷ではあるが、約束まであと半月というところまで来ている。

まあ、そんな中でたまに自作のおにぎりを持ってくる助けた少女が居るのだが、突っ撥ねている。

自分に協力すれば罪に問われる可能性があるからだ。

 

そのタイミングでモーガン大佐の息子――――ヘルメッポが来てしまった。

彼は少女の作ったおにぎりを踏み潰し、あまつさえ部下に少女を塀の外へ放り出すよう命じる。

 

嫌々ながら部下は言う通りにし、少女を放り出してしまった。

塀は高さがある、故に落ちればひとたまりもない。

しかし、直後にこちらを覗いていた2人の内の麦わら帽子を被った男が助けるのが見えた。

 

「全く、今日は来客の多い日だ」

 

その麦わら帽子を被った男がこちらにやって来た。

その男は海賊をやる為の仲間を探しているのだとか。

 

「自分から悪党に成り下がろうって訳か」

 

正直に自分から悪の道に進む理由が分からない。

しかし、これに対して麦わら帽子の彼はこう返した。

 

「おれの意志だ。海賊になりたくて何が悪い」

 

その言葉、その表情――――彼から放たれる覚悟は本物だ。

海賊をやるのに仲間が必要らしく、自分を勧誘しに来たのかと思った。

 

「別にまだ誘うつもりはねェよ。

 お前、悪い奴だって評判だしな」

 

まさか海賊をやるのに善悪の部分を問われるとは思わなかった。

ただ、仮に勧誘をされるにしても条件がそんな内容なら願い下げであった。

ロロノア・ゾロには命を懸けてでも叶えたい野望があるのだから。

 

麦わら帽子の男の去り際、少女が持ってきて、ヘルメッポに踏み潰されたおにぎりを拾って食べさせるように頼む。

塩ではなくて砂糖を使っていた事、踏み潰されてドロドロで食べられたものではない。

けれど、あの少女が自分の為に作ってくれたものを粗末にするのは自分自身が許せなかった。

 

だから、麦わらの男に「美味かった。ごちそうさまでした」と伝えてくれと頼む。

 

それからしばらくして、再び麦わらの男が訪ねてきた。

名前は「ルフィ」と言うらしい。

今度ははっきりと自分を仲間へ勧誘するつもりのようだ。

 

だが、自分から外道に落ちるつもりは毛頭ないので拒否する。

そしたらあろうことかルフィとやらはこう返して来た。

 

「知るか!! おれはお前を仲間にするって決めたんだ!!」

 

「勝手な事を言ってんじゃねェッ!!」

 

何と我が儘なのだろうか。

こちらの意見など最初から聞く耳持たずだったのだ。

これに頭痛を覚えない筈がない。

 

話はすり替えられ、自分が刀を使える事を話す。

するとあれよという間にルフィが「刀を取り返すから、返して欲しけりゃ仲間になれ」と言ってきた。

何て質の悪い奴だ。

そして、こちらの話を聞かずに海軍基地へ乗り込んで行ってしまった。

 

それがついさっきの出来事だ。

こんなにも慌ただしく来客が訪れるのは初めての事だ。

 

「ルフィさんが基地の中に行ったんですか?」

 

ムチャクチャな人だ――――先程、ルフィとやらと一緒にこちらを覗いていたもう1人の男まで来た。

丸眼鏡を掛けた少年だ。

コビーと言うらしい彼はルフィと行動期間こそ短いがどうにもこういうムチャクチャをする人物である事は承知しているらしい。

現に海軍基地へ乗り込んだ話をすれば溜め息を吐くだけでそこまで驚いているようにも見えなかった。

 

彼が何者なのか、気になっているとコビーが縛られている縄を解き始めた。

だが、これは海軍への反逆行為に等しい。

その事を指摘するもコビーは止めなかった。

こんな海軍は見てられない!! そう言い出す。

 

「ぼくは正しい海兵になるんです!!

 ルフィさんが海賊王になるように!!」

 

「海賊王だと!? 意味分かって言ってんのか!?」

 

これには驚きを隠せない。

途方もない野望を彼もまた抱えていた。

 

いや、彼は本気なのだ。

そんな途方も無い夢を追い求めて、彼は海賊となったのだ。

 

ゾロもまた途方も無い夢を追い求めるからこそ、彼の事を理解出来てしまう。

亡くなった親友との約束がある。

彼の野望は――――

 

「がっ、づぅぁっ!?」

 

遠くで銃声がかろうじて聞こえた。

その直後にコビーとやらが倒れて右肩から流血していた。

 

掠っただけのようだが、自身の血を見て騒いでいる。

とりあえずは元気そうでホッとする。

 

「さっさと逃げろ」

 

「いえ!! あなたの縄を解かないと!!」

 

逃げろと告げるも、コビーの回答は「NO」であった。

ゾロの縄を解く――――まるで使命感のように言う。

しかし、そんな事をせずともゾロは一ヶ月経てば解放される。

 

「あなたは三日後に処刑されるんです!!」

 

そんなゾロの希望をズタズタに引き裂く現実をコビーが告げる。

いや、まさか――――考えたくもない事実を突き付けられる。

それが現実なのだ。

 

あのヘルメッポという男は救いようのない程のクズだ。

それを聞いたからこそ、ルフィはヘルメッポを殴ったらしい。

 

これで突然海賊への勧誘を始めたのも、刀を取り返すと言い出した理由も納得出来てしまう。

全ては、会ったばかりのロロノア・ゾロの為に。

 

「動くな!!」

 

そこへ銃を携えた海兵達がやってくる。

それにモーガン大佐、ヘルメッポも居る。

銃口は当然のようにゾロとコビーへ向けられている。

 

こんな所で死ねるものか!!

ロロノア・ゾロには亡くなった親友――――くいなに誓ったのだ。

世界一の大剣豪になる事を。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

コビーの方が驚いており、ゾロは逆に冷静になる。

けれど、縛られている現時点ではどうしようもない。

無情に一斉に発砲される。

打つ手無し――――そう、思っていた。

 

その時、上空から人が落ちてきた。

何処から来たのかは分からない。

真っ先に目に入ったのは麦わら帽子だ。

つまり、ルフィという男がゾロとコビーの盾になるように両手を広げて立つ。

 

「お前!?」

 

「ルフィさんっ!?」

 

自分達を庇って、何を仕出かすのか!?

そう思っていたが、奇妙な出来事が起こる。

 

本来、銃弾が撃ち抜かれて鮮血が飛び出る。

にも関わらず、銃弾の撃ち込まれた箇所からルフィの皮膚が伸びたのだ。

ビヨーンッ!! というおおよそ人体から発せられない筈の擬音と共に。

 

「効かーーーーんッ!!」

 

伸び切った皮膚が元に戻ると、あろうことか銃弾を文字通りに弾き返してみせた。

何事も無かったかのようにルフィは笑い出す。

 

「何だ? お前は?」

 

「おれは海賊王になる男だ」

 

当然と言えば当然の疑問。

しかし、答えになっていない。

けれど、彼は銃弾を撃ち込まれても平然としている。

明らかに異常だ。

 

だが、彼の背中には刀が3本ある。

どれがゾロのものか分からず、全部持ってきたという。

計らずも、それは正解であった。

 

「3本ともおれのだ。おれは三刀流なんでね」

 

ロロノア・ゾロは刀を3本扱う。

ルフィは感心する。

刀を3本も使えるものなのかと思っていそうだ。

 

さて、そんな事よりも――――だ。

こちらへ向けて海兵の銃が向けられている。

このままではルフィはともかくとして、コビーとゾロは蜂の巣だ。

この状況をどうするのかとルフィは問う。

 

「お前は悪魔の子かよ?

 良いぜ!! なってやるよ、海賊に!!」

 

ゾロは腹を決めた。

ここでくたばる位ならば、海賊という外道に落ちてでも生き延びる事に。

 

「仲間になってくれるのか!?

 やったーッ!!」

 

「良いからさっさとこの縄を解け」

 

喜びに満ちるルフィへゾロは冷たく言い付ける。

早速縄を解こうとするが、結び目が硬いからか上手く解けない。

 

急かすゾロにマイペースなルフィ。

対照的な2人の掛け合いに狼狽えるのはコビーであった。

 

ルフィに銃弾が効かないと知り、剣による白兵戦に切り替える。

それでこちらへ突撃してくる。

 

「解けたぞ」

 

「さっさと刀を寄越せ!!」

 

ルフィから刀を受け取ると、縄を切り落とす。

そして、持ち手の白い部分を口に挟む。

両手で刀を掴むと、海兵の振り下ろしてきた剣を全て受け止める。

 

「おおっ!! カッコいい!!」

 

ゾロが刀を受け止め、それをルフィは感心した眼差しで見る。

 

「海賊になってやる。約束だ。

 だが、おれには野望がある。世界一の大剣豪になって、おれの名前を轟かせる野望が!!」

 

海軍と一戦交えるという事は世界に名が知れ渡る頃には、どういう意味を持つのかゾロには分からない筈がない。

もう名前の浄不浄は問わない。

どんな形であれど『ロロノア・ゾロ』という名前を世界に轟かせる。

その野望を叶えたい。

 

「だから、もし野望を断念する事があれば…………その時は腹を切って詫びろ!!」

 

「良いねェ。世界一の剣豪。

 海賊王の仲間なら、それくらいなってくれないとおれが困る」

 

ゾロの言葉にルフィはノータイムで返した。

良く言う――――しかし、両者共に胸に秘めた野望は大きい。

その事がシンパシーを感じさせたのだ。

 

「しゃがめ、ゾロ」

 

突如、ルフィも動き出す。

左足を中段蹴りするかのように振り抜き――――

 

「〝ゴムゴムの鞭〟!!」

 

ルフィの指示に従い、しゃがんだゾロの頭上を“文字通りに”ルフィの左足が伸びた。

それが海兵を蹴り飛ばす。

 

一瞬にして海兵を蹴り飛ばした。

ルフィの強さにも驚くが、それよりも足が伸びるのはどういう理屈だ?

 

「お前、一体……?」

 

「おれはゴムゴムの実を食べたゴム人間だ」

 

ゴムゴムの実――――噂に聞く悪魔の実というやつだ。

そのシリーズの1つを彼は食べたのだと。

 

ルフィが自分の能力を晒すと、海兵達は全員が及び腰になる。

それを見たモーガンは自身が前線へと赴く。

 

「今弱音を吐いた奴は自分の頭を銃で撃て」

 

要は遠回しに自害しろと言っている。

これが本当に海軍なのかとゾロは考えてしまう程だ。

 

そんな事を考えていると、隣に立っていたルフィが駆け出した。

標的はモーガンだ。

 

「おれは海軍の敵だぞ。死刑にしてみろ!!」

 

駆け出した勢いはそのままに、拳を繰り出す。

しかし、それを斧になっている右腕で受け止める。

 

「ルフィさん!! こんな海軍なんか潰しちゃえ!!」

 

「おう!!」

 

モーガンから距離を取り、コビーの叫びに応える。

それでも敵であるモーガンから目を逸らさない。

 

「潰すか……やれるもんならやってみろ!!」

 

モーガンはルフィへ向かって肉薄する。

斧である右腕を振り上げると、即座にルフィへ向かって振り下ろす。

ただ、そんな大振りの攻撃がルフィへ当たる筈もない。

 

体格こそルフィが大きく劣っているが、素早さは明らかにルフィの方が上だ。

振り下ろされる斧を紙一重で身体を左に傾けて回避する。

 

「貰った!!」

 

瞬間、右拳をモーガンの頬へクリーンヒットさせる。

ルフィよりも体格の大きいモーガンが容易く殴り飛ばされる。

 

「こ、のォッ!!」

 

まさか、自分が体格の劣る男に殴られるとは夢にも思わなかったようだ。

モーガンは即座に立ち上がると、再度ルフィへ駆けていく。

 

「ずあああっ!!」

 

ルフィの身体を真っ二つにしようと斧を真横へ振るう。

しかし、これも紙一重のところでルフィにしゃがむという簡単な動作1つで回避されてしまう。

 

「〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

 

本来ならしゃがんだ状態で大の大人の顔面に腕は届かない。

しかし、ゴム人間となり、身体が伸縮自在となったルフィは腕を伸ばす事でリーチの差を縮められる。

 

今度は反対の頬を殴り付けられる。

ただ、ルフィの方も無理な体勢で放った拳なので威力はそこまでない。

だが、普通では有り得ない位置から放たれたパンチはモーガンの動揺を誘うには十分だった。

 

「〝ゴムゴムのスタンプ〟!!」

 

直後、その状態でルフィはモーガンの足を蹴り付ける。

人体の弱点でもある脛を蹴り付けられる。

痛みを我慢出来ようとも、一瞬の身体の硬直は起こる。

その僅かな隙を突いてルフィはモーガンの腹部にタックルする。

仰向けに倒し、馬乗りになる。

 

「コビーの夢を壊しやがって」

 

モーガンの顔面を殴ろうと腕を振り上げ――――

 

「待て!!」

 

制止の声が聞こえたが、構わずに拳を振り下ろして殴り付ける。

 

「待てって言ってんだろ!! これが見えねェのか!?」

 

コビーの頭に銃を突き付けるヘルメッポの姿が。

海軍が海賊相手に人質を取るとは完全に立場が逆ではないか。

 

「僕はルフィさんの邪魔をしたくありません!!

 死んでも!!」

 

「ああ、知ってる」

 

コビーの言葉に笑顔と共に答えるルフィ。

ゾロには分からないが、2人にはそれだけの信頼があるのだろう。

 

「諦めろバカ息子。コビーの覚悟は本物だ!!」

 

モーガンから離れて、ルフィはゆっくりと腕を上げてコビーとヘルメッポの方へ近付いていく。

解放されたモーガンがただ呆然としている訳では無い。

ルフィの背後から右腕の斧を振り下ろそうとしている。

 

「ルフィさん!! 後ろ!!」

 

「〝ゴムゴムの〟!!」

 

コビーが警告するがルフィは完全に無視する。

拳を繰り出そうと、腕を振り抜く。

 

「〝(ピストル)〟!!」

 

ヘルメッポの顔面を狙いを寸分も違わずに撃ち抜いた。

たった一撃でヘルメッポは気絶して地面に伏した。

そして、後ろに立っていたモーガンは腕を振り下ろそうとする動作の直前で動きを静止していた。

数秒の後、モーガンは真後ろに倒れ込む。

 

「ナイス。ゾロ」

 

後ろに居る新しい仲間へ向けて、ルフィは言葉を掛ける。

そこには刀を構えたゾロが立っている。

 

「お安い御用だ。船長(キャプテン)

 

モーガンを斬り伏せた剣士はそう応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大した猿芝居だな。あれじゃバレてもおかしくねェぞ」

 

「あとはコビーが何とかするさ。絶対」

 

ルフィとゾロは港に来ていた。

アルビダから奪った小船を使わせて貰う手筈になっていたので、出航は何の問題もない。

 

ゾロは手拭いを脱いで、左腕に巻いている。

さすがにずっと手拭いを巻いている訳では無い。

緑色の髪の、ルフィよりも少し年上の男である。

 

そして、この場にはコビーは居ない。

先程、おにぎりの少女の店で別れた。

 

あの後、海軍に出ていくように言われたので出てきた。

だが、コビーは海軍に入る際に大問題があった。

 

そう、アルビダの海賊船に2年も乗っていた事実だ。

その事を海軍が知っていれば入隊など出来よう筈がない。

 

それを防ぐ為にルフィはコビーの素性を明かそうとしたので彼にわざと殴られて喧嘩を始める。

海軍への疑いを晴らす準備は整った。

あとはコビー次第だ。

 

「しかし、考え無しかと思えば意外とそうでも無いようだな」

 

「海賊の仲間じゃないって言って、喧嘩もすれば疑われないだろうしな」

 

海賊=悪党の図式はルフィの中にも確かに存在している。

故にコビーと喧嘩するのが一番だと直感で動いたようだ。

訂正、意外と野性的に動いているのだと察した。

 

「ルフィさん!!」

 

いざ出航――――そこへ、コビーが呼び止めた。

敬礼をして、こう叫ぶ。

 

「ありがとうございました!!

 この御恩は一生忘れません!!」

 

海兵に感謝される海賊なんて聞いた事が無い。

ゾロも、もちろんルフィもその言葉を受けて何処か嬉しそうだった。

 

「また逢おうな!! コビー!!」

 

コビーとの再会を願い、ルフィは笑顔で手を振る。

彼との付き合いは短かったが、コビーとの出会ってからの冒険は一生忘れる事が無いだろう。

 

「全員敬礼!!」

 

そして、この町の海兵もコビーの背後に立って敬礼する。

彼等もルフィ達には感謝していると言っていた。

 

きっと、彼等の気持ちもコビーと一緒なのだろう。

海軍の軍規に逆らってまで、彼らは感謝の気持ちを表してくれたのだから。

 

だから、ルフィも、ゾロも笑顔で別れる。

コビーもまた涙を流しながらも笑顔で以て彼の出航を見送る。

 

歩む道は違えども、彼等は再会を願う。

立場なんて彼等には関係ない。

 

だって、彼らは海賊と海軍という括りの前に「友達」なのだから。




如何でしたでしょうか?

ルフィを中心にするつもりがゾロ中心の三人称に。
正直、彼を中心とした方が早く済むと思って……ゲフンゲフン。

読んでの通りに原作準拠です。

何も知らない人から見たルフィって、やっぱりびっくり箱みたいな存在なんですよね。

くいなとの回想は原作シーンを思い返して下さい。
全部書いていると尺が。

さて、次回は原作通りなのでナミ登場です。

次回も早くにお届け出来るように頑張りすので。
ではまた次回に。


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食べようとした鳥に連れられて

いやはや、更新が遅くなってしまって申し訳無いです。

年末から年始は忙しく、どうにか更新に漕ぎ付けました。

では、続きです。


海兵達に見送られ、海へ飛び出したルフィとゾロ。

しかし、航海にはある重大な問題があった。

 

両者共に航海術を持っていなかったのだ。

海を旅する為に必須のスキル。

かいつまんで言うならば目的地へ辿り着く為の方法だ。

 

海軍基地まではコビーの航海術で何とかなった。

それまではルフィも漂流していた。

ゾロも探している人が居るらしく、その為に海へ出たのだが帰り方が分からなくなったので賞金稼ぎをしていたとか。

 

目下、このままでは漂流して〝偉大なる航路(グランドライン)〟どころか、次の島に辿り着けるのかも怪しい。

既にかなりの距離を進み、先程の島へ戻る手段も持たない。

 

何としてでも次の島へ辿り着き、航海術を持つ航海士を仲間に引き入れる。

ルフィが「コックとか、音楽家とか」と言うが、それよりも先に航海士だ。

 

さて、目的を決めたは良いが小船で漂流している状態。

腹を空かせていたところに都合良く大きな鳥が頭上を通過した。

 

ルフィが「鳥を食おう!!」と提案し、ゴム人間の能力を活用する。

小船の帆まで腕を伸ばし、自らの身体を帆の方へと引き寄せる。

そのまま上空を飛ぶ鳥へ辿り着けたは良かった――――が、

 

「助けてくれェェェェェッ!!」

 

「バカヤロォォォォォッ!!」

 

鳥のくちばしに頭を捕まれ、そのまま運ばれてしまう。

ゾロが必死に小船をオールで漕いで追い掛ける。

途中まではルフィの方から追っているのが見えたが、途中で止まってしまった。

 

振り解くのは難しくないが、海へ落ちる事だけは避けたかった。

幸い、しばらくした後に島へ辿り着く。

鳥を殴り付けようとして――――砲撃を受けたのは直後であった。

無事に解放される事になるが、そのまま地面へ急降下していく。

 

勢い良くコンクリートの地面に叩き付けられる。

ドォォォォォンッ!!

凄まじい轟音と共にコンクリートが砕けて破片が飛び散る。

 

「あーッ!! 助かった!!」

 

麦わら帽子を被り直し、無事に着陸する。

ただ、少し驚いたのでそんな事を口走る。

 

「い、生きてる!?」

 

落ちてきた先には偶然にも人が居た。

方やオレンジ色の短髪、白を基調とした青いラインの入った半袖の服を着た女性。

そして、剣を持った男3人。

丁度その間に落下したようだ。

 

「親分!! 助けに来てくれたんですね!!」

 

状況を把握したと同時、オレンジ髪の女性がそう言い出した。

ルフィを見ながら言うもので、何のことやらとさすがに首を傾げる。

 

「あとは任せました!!」

 

ルフィを「親分」と呼び、一目散に女性は逃げ出す。

何だったのかと状況を呑み込めていないルフィに男達が剣を携えて寄ってくる。

 

どうやら女性が何か仕出かしたらしく、ルフィも仲間と思われているようだ。

それを理解すると同時、麦わら帽子が宙を舞った。

 

目の前の男は脅しでルフィの麦わら帽子を跳ね上げたのだろう。

直後、ルフィの拳が男の顔面へ叩き込まれる。

 

「おれの宝物に触るな」

 

冷たく、静かに、胸の内に怒りを秘めてルフィは告げる。

残り2人、仲間をやられたままではいられないとルフィへ襲い掛かってくる。

 

それを受けてもルフィは決して臆さない。

襲ってくるなら返り討ちにする。

振り下ろされる剣を紙一重で回避する。

それぞれ腹、顔と殴り付け、一瞬で相手を無力化した。

 

「あんた、強いのね」

 

付近の家の屋根の上、先程の女性が座ってこちらの様子を見ていた。

 

「私は海賊専門の泥棒のナミ。

 ねェ、手を組まない?」

 

「海賊専門?」

 

「そうよ。あんたは腕が立つみたいだし、私と手を組めば儲かるわよ」

 

「いやだ。おれはお前とは組みたくねェ」

 

ナミはルフィの強さを見込んで頼み込んでいる。

しかし、勧誘されている当人からは拒絶され、逃げるように歩き出した。

 

「ちょっと待ってよ」

 

だが、それで諦めるつもりはないのか、ナミはルフィを追ってくる。

 

「その帽子、さっき宝物って言ってけど高価なものなの?

 それとも宝の地図になってるとか」

 

「うるさいな。おれは忙しい――」

 

真横に来て並んで歩くナミから矢継ぎ早に問い掛けられ、ルフィは煙たく思っている。

ただ、唐突に歩みを止め、更には言葉も区切った。

ルフィの視線がナミに注目したからだ。

 

「何、よ?」

 

彼女の問いには答えずにマジマジとルフィはナミの顔を見る。

顎に手を当てて、首を傾げている。

 

「んん? お前、どっかで会った事あったような……」

 

「何? 新手のナンパ?」

 

「そういうのじゃ無いけどよ」

 

ナミも自分の容姿には自信がある。

なので、それでナンパ紛いの事をしているのかと思ってしまう。

彼女にはその手の事が多かった証左でもある。

 

「まあ、良いか。おれ、はぐれた仲間と合流しなくちゃいけないしさ」

 

「何? 仲間が居たの?」

 

「ああ」

 

ルフィは置いてけぼりにしたゾロの事を思い出す。

真っ直ぐに飛んできた訳であるし、そのまま直進していればこの島にぶつかる。

合流は出来るだろうと考える。

 

「仲間と何処へ行こうとしてたの?」

 

「〝偉大なる航路(グランドライン)〟だ」

 

「へェ、奇遇ね。私もそこを目指していたの。

 お金が入用でね。一億ベリー必要なの」

 

「一億ってとんでもない大金じゃねェか。

 そんなので、何を買うつもりなんだ?」

 

「ちょっと、ある村をね。

 そんな訳で〝偉大なる航路(グランドライン)〟の海賊を相手にお宝を狙うつもりよ」

 

偉大なる航路(グランドライン)〟へ辿り着き、海賊相手に宝を手に入れる。

それこそが彼女の目的なのだと言う。

ふと、そこで思い付いた。

 

「もしかして、航海術を持ってるのか?」

 

「ええ、右に出る者も居ない航海術を持っているわ」

 

随分と自分の評価を高くしている。

けれども、航海士を必要としていたルフィ達にはまさしく渡りに船だ。

 

「なら、おれの仲間になってくれよ。海賊の仲間に!!」

 

「いや!!」

 

今度は一転、ルフィの方から持ち掛けた勧誘をナミの方から一蹴する流れに。

どうした事なのかと、ルフィは当然の事ながら問い掛ける。

 

「悪いけど手を組む話は無かった事にして。

 私は海賊が嫌いだから協力するつもりはないわ」

 

「海賊が嫌いなのか?」

 

「ええ。嫌いよ」

 

ルフィの問い掛けにナミは即答する。

海賊は嫌い――――その言葉は本心だろう。

先程まで手を組もうと持ち掛けてきたのを拒む位なのだから。

 

「そうか。でも、おれの仲間になってくれよ」

 

「話を聞いてた? 私は海賊が嫌いだから仲間にならないって言ってんのよ」

 

「知るか!! おれはお前を航海士にするって決めたんだ!!」

 

「勝手に決めるな!!」

 

ルフィの我が儘は今に始まった事ではないが、それを知らないナミにしてみれば理不尽だろう。

しかも、自分は「海賊が嫌い」と突っ撥ねているのに聞く素振りもない。

馬の耳に念仏を唱えている気分だ。

 

「宝を分けてくれたら考えてあげなくもないわ」

 

「宝なんて持ってないぞ」

 

「その帽子は何かの宝の地図じゃないの?」

 

「これは宝の地図じゃねェよ」

 

ナミはルフィの麦わら帽子に興味を抱く。

さっきの〝宝物〟のワードが大きく関与しているのだろう。

だが残念、彼の麦わら帽子に込められた〝宝物〟は金銭という意味ではない。

 

「これは昔、友達から預かった大切な宝物なんだ!!

 仲間を集めて海賊になる事を、おれはこの帽子に誓った」

 

ルフィの言葉に〝信念〟が宿っていた。

彼にとって、その帽子が如何程に大切なものであるのかは分からない。

けれど、ナミにも譲れないものがある。

 

「海賊海賊って、バカな時代ね」

 

ナミは吐き捨てる。

彼女にとって、今訪れたこの時代が"彼女の人生を狂わせているのだから。"

 

「私が世界で一番嫌いなものはね、海賊なの!!」

 

好きなものはお金とみかん――――そう付け足す。

 

「そうか。そんなに海賊が嫌いなのか」

 

「そうよ。私が手を組みたくないって気持ちも分かってくれたかしら?」

 

「なあ、航海士になってくれよ」

 

「その耳は飾りか!!」

 

どうやら彼は自分の言葉を曲げるつもりはないらしい。

 

「私は海賊の仲間になるつもりは一切無いわ。

 それに仮に海賊になるにしても先約があるの」

 

そう、ナミが仮に海賊をやるとしたらたった1人の所だけだ。

その人物ともしも会えたのならば――――いや、それでも断るかもしれない。

 

「とは言え、それでも海賊にならないかもしれないけど」

 

「どうしてだ? 何かあったのか?」

 

「あんたには関係無いわよ」

 

ナミも自分で意味深な発言をしてしまったなと思いつつ、ルフィの興味を引いてしまった。

これは失敗したなと思い、彼には悟らせないように突き付ける。

 

「言いたくねェのか。それは仕方ねェな」

 

先程からこちらの意見など顧みない傍若無人ぶりな発言が繰り返されていたのに、どうした事か真逆の発言が飛び出した。

これにはナミも意外だと言わざるを得ない。

正直、もっと駄々をこねられるかとばかり思っていたのだから。

 

「へェ、意外ね。ちゃんと気を遣えるんだ?」

 

「失敬だぞ!!」

 

今しがたの彼を見ていれば、ナミの発言も分からないでもない。

それに、別の側面もある。

 

「海賊だから、こっちの意見も聞く耳持たずかと思った。

 ここに居る海賊も他人の迷惑を考えないような奴だし」

 

「この町に海賊が来てるのか?」

 

ナミの発言から同業者が他に来ている事を知らされる。

ルフィの問いに「そうよ」と短く答えると、周囲を見渡すように告げる。

 

「この町には誰も居ないでしょ? それもこれもバギーに近寄ったら何をされるか分からないから隣の町へ避難してるの」

 

「バギー? 誰だ?」

 

ナミがさも当然のように出した名前――――バギー。

ルフィはその人物が何者であるのかを訊ねる。

すると、今度は「嘘でしょ?」と驚く。

 

「あんた、まさかこの辺りに居て〝道化のバギー〟を知らないの?」

 

「知らねェ」

 

ルフィの即答にこれまた呆然とするナミ。

頭が痛いわ――――ルフィにも聞こえるボリュームで額を抑えながら言う。

はたしてナミが悪いのか、無知なルフィが悪いのか。

いや、今はどうでもいいか。

 

「バギーは悪魔の実を食べたって噂の海賊なの」

 

「悪魔の実を?」

 

「そう。悪魔の実なんて噂レベルだけど、多分本当だと思うわ」

 

悪魔の実は噂でしかない。

だが、ナミは悪魔の実の能力者を間近で見た事がある。

 

「子どもの頃に悪魔の実を食べたって子に会ったの。だから、本当だと思ってる」

 

「悪魔の実の能力者かァ〜」

 

ルフィ自身、悪魔の実を食べた能力者である。

だが、他の能力者がどんなものか気になるのは仕方無いだろう。

 

海が弱点ではあるが、そのリスクと引き換えに手に入るとんでも能力。

そのバギーとやらは、一体どんな能力を持っているのか?

 

「じゃあ、さっきのはそのバギーって奴の仲間なのか?」

 

「そうよ。この辺りにはもうバギーの仲間しか居ないの」

 

「へェ〜。じゃあ、あの犬もバギーの仲間なのか?」

 

ルフィが指差す先に店の前に座っている犬が一匹居るではないか。

 

「いえ、あの犬は違うわ。バギー一味に動物は居るけれど、犬じゃないわ」

 

「海賊なのに動物飼ってるのか?」

 

論点が違う気もするが、ともかくとしてバギー達の飼っている犬ではないと言う。

となると、だ。

この店の飼い犬という事になる。

 

「何だこいつ? 動かねェぞ? 生きてるのか?」

 

近付いて犬の頭を軽く叩く。

すると、お返しだと言わんばかりに犬がルフィの手に噛み付いた。

 

「何すんだ。この野郎!!」

 

「ワンワン!!」

 

「あんたは何をやってんの!!」

 

突如として始まったルフィと犬の取っ組み合い。

ナミも思わず声を荒げる。

 

「コラッ!! シュシュをいじめるでない!!」

 

ルフィと犬の取っ組み合いに駆け寄ってきた老人。

見れば甲冑姿ではないか。

 

「誰だ?」

 

「この町の町長、ブードルじゃ!!」

 

「この犬はおっさんの犬か?」

 

「違う。シュシュの主人は亡くなっておるんじゃ。

 この店をこの子に託して、な」

 

なるほど、このシュシュという犬は店番を任された訳だ。

そして、主人の帰りを律儀にも待っている。

 

「話してるところ悪いが、その店に用があるから退いて貰おうか」

 

ルフィ達へ声を掛ける人物が。

そちらを見れば巨大なライオンの上にライオンの着ぐるみのような髪型をした男が居る。

 

「誰だ?」

 

「バギーの一味よ」

 

「バギー船長を知ってるのか?

 おれは猛獣使いのモージ、そしてライオンのリッチーだ」

 

「おれはルフィ。よろしく」

 

「呑気に自己紹介すな!!」

 

ルフィの呑気さに思わず大声でツッコミを入れるナミ。

事態を理解しているのか? 頭の中を覗きたくなる。

 

「うちの仲間が出て行ったっきり戻って来ないから様子を見に来れば、あそこで倒れていたんだが…………何か知っている事があれば話すのが身の為だ」

 

モージの言う仲間とは先程にルフィが殴り倒した相手なのは即座に判明する。

けれども、馬鹿正直に話して見逃してくれるとは思えない。

 

 

 

 

 

「ああ、それやったのおれだ」

 

 

 

 

 

あっさりと、自らの犯行を暴露したのは麦わら帽子を男。

腕を組み、あっけらかんとルフィは答える。

ここに馬鹿正直に答えてしまう者が居た。

 

何を馬鹿正直に答えるのか!?――――ナミが叫ぼうとする。

振り返り、逃げるように促そうとする。

出会い頭にはルフィを囮にしようとした彼女が心配する立場になる等とは、きっと本人が驚いているだろう。

自分はこんなにも他人にお節介な人物ではない事を一番に自覚している。

けれども、そんな自覚は殆ど意味を成さなかった。

 

振り返った直後、ルフィは大きなライオンの前足で住宅に叩き付けられていたのだから。

 

「うちの部下を倒した位で付け上がられるのも困るからな。ここで叩かせて貰おうか」

 

まさか問答無用で攻撃というより、バギー海賊団が下に見られて箔が無いように思われるのが問題なのだろう。

バギー海賊団の恐ろしさを、身に刻め――――そう言いたいのだ。

 

「さて、この店に入るにも入口が狭いな」

 

モージはリッチーに何やら指示を飛ばす。

直後、先程にルフィを殴り飛ばしたように腕を振るうと入口を壊した。

 

「ワンワン!!」

 

それを見たシュシュは果敢にもモージとリッチーへ吠える。

そんな犬の声など聞く耳持たず、悠々と店内へ入るとペットフードをリッチーの背に乗せて出てきた。

それでも尚吠え続けるシュシュ。

 

「全くうるさ……いてぇっ!!」

 

唐突にモージは腕を噛まれる。

主人が噛まれたのを見たリッチーは大きく太い腕で小柄なシュシュを地面へ叩き付ける。

 

シュシュの額が切れて、血が出る。

しかし、それでも懸命に立ち上がってモージへと噛み付こうとする。

ただ、先程は不意討ちで成功しただけ。

モージも身構えていた事もあり、飛び掛かるシュシュを蹴り付ける。

 

「この店が大事ってか? なら、失くなったら未練もなくなるだろ?」

 

不敵な笑みと共にモージはポケットに用意していたマッチに火を点ける。

リッチーに乗せていた松明にもなるだろう木へ火を移し替えると瞬く間に火の勢いは強くなる。

 

「ほら」

 

簡素な言葉で、モージはマッチから始まった火のリレーを次の場所へと放る。

彼が放った先はシュシュが番犬として守ってきた店だ。

 

ゴォォォォォッ!!

 

瞬く間に火は店を丸呑みにした。

ブードルもナミも、一部始終を見ていたが理解が追い付かなかった。

唯一、現実を見ていたシュシュは即座にモージへ飛び掛かる。

 

「いい加減にしろ」

 

無情にもモージはシュシュを蹴り付け、頭を踏み付ける。

 

「シュシュ!!」

 

「待って!! 危ないわよ!!」

 

ブードルが心配して駆け寄ろうとするもナミが制止する。

このままブードルが行ったところで同じ目に遭うだけだ。

気持ちだけではどうにもできない。

自分達には圧倒的に力が不足している。

 

「グゥゥゥッ!!」

 

「海賊に逆らうのなら犬相手でも容赦はしないぞ」

 

足を退けてシュシュを解放する。

否、そんな優しい気持ちなどモージには有りはしない。

 

「やれ」

 

たった一言で場の雰囲気を氷点下にした。

ただただ冷たい、無情を行動ではなくて言葉で伝える。

呼応するのは相棒のリッチー。

前足を振り上げ、シュシュめがけて振り下ろそうとする。

 

「止めんか!!」

 

これ以上は見ていられないと、ブードルが飛び出す。

 

 

 

 

 

直後、リッチーは真横から飛来した“何か”に直撃して吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

何が起きたのかまるで理解が追い付かない。

現実を直視したのはリッチーである。

吹き飛ばされた先は放火した店。

そこへ飛び込んでしまうという事は、火の中に飛び込んでしまうと同義。

 

「グルォォォォォッ!?」

 

全身に火が回り、コンクリートの床に転がり回る。

何とか火を鎮火させようと本能が行動を起こしていた。

火はすぐに収まるが、それで力尽きたのか気絶している。

 

「リッチー!? 何が…………っ!?」

 

リッチーに気を取られ、飛来して来た“何か”を見落としていた。

方角的に先程吹き飛ばした男なのは間違い無い。

彼が何かを投擲してきた――――いや、それよりも生きていた事に驚きを隠せない。

この町にはブードルとナミ以外の町人が居ない事は確認済みなのだから。

 

「この犬頼む」

 

先程まで犬が居た場所、そこに今さっきリッチーの――――ライオンの腕力を以て吹き飛ばされた筈の男が立っていた。

地に伏せた犬を後ろの2人に任せ、男はモージへと歩み寄る。

 

その表情は麦わら帽子の鍔で良く見えない。

けれど、彼の放った静かな声音とは裏腹の怒りの感情が受け取れた。

その上、指を鳴らした後に拳を固く握り込む。

 

無意識の内にモージは後退る。

どんな手品を使ったのか知らないが、人一人を乗せる巨体を持つリッチーを吹き飛ばしたのだ。

しかも見たことのない、得体の知れない男が起こしたと考えれば恐怖を抱くのも無理ない話。

本能が「この男は危険だ」と告げている。

 

「まっ、待ってくれ。殴った事は謝るから!! 宝もくれてやるから!!」

 

「そんなもの、どうでもいい」

 

モージの口から出た命乞いは一蹴される。

謝罪など、宝など要らない。

自分の事など“今はどうでもいい。”

“そんな事では決して許されない事をモージは行ったのだ。”

 

「この犬の〝宝物〟はもう返ってこないんだ」

 

火の勢いは消えつつある。

しかし、だ。

火が消えたとして、“彼”の〝宝物〟はこの世から消え去った。

例え、同じものを用意しても見た目だけの張りぼてでしかない。

 

「身体を張ってでも守りたかったものを簡単に燃やしたお前をぶっ飛ばす事がこの犬には出来ない」

 

そして、麦わら帽子の男はモージの襟首を掴む為に“腕を伸ばした。”

 

「こ、これは!? バギー船長と同――――」

 

言葉は紡がれなかった。

次の瞬間、真正面の男の怒りに満ちた表情が視界に入ったから。

 

「だから、代わりにおれがお前をぶっ飛ばす!!」

 

伸ばされた腕が引き戻される。

もう片方の固く握り込まれた鉄拳がモージの脳天へ叩き込まれ、その勢いのままにアスファルトに顔面を打ち付け――――モージの意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

「す、すごい」

 

一方的にモージを圧倒したルフィの強さを改めて実感した。

シュシュに気を取られ、気付けばモージを殴り付けるシーンしか見ていなかったが、彼の強さは本物である事を把握する。

気絶させたモージはいつの間にか来ていた部下(恐らくはルフィが殴り飛ばした面々)が連れて帰って行った。

 

「悪いなこれしか取り返せなかった」

 

彼らの事など、目にも付けない。

ルフィはシュシュへモージが持っていこうとしたペットフードを渡していた。

先程まで取っ組み合いをしていたのに、対等な男として見ているようだ。

 

「あれ? おっさんは?」

 

シュシュと話をしていたルフィはこちらを振り返る。

気付けばブードルは居なくなっていた。

 

「もしかして、バギーのところに?」

 

これ以上の事は見過ごせないとでも思ったのか、ブードルは恐らく飛び出していったのだ。

 

「よう、ルフィ」

 

「ゾロ!!」

 

ルフィに声を掛ける男性――――今、ゾロと呼ばなかったか?

 

「〝海賊狩り〟のゾロ?」

 

「悪いが〝海賊狩り〟は引退した。

 今は海賊をやってる」

 

どうやら、本物らしい。

けれど、恐らくはルフィと共に海賊をやっている。

 

「これからバギーって奴のところに行こうとしてたんだが、案内役に逃げられたがどうやら先に合流出来たみたいだ」

 

「ああ、でもおれもこれからバギーって奴のところに行くつもりだった」

 

海賊を名乗るルフィが同業の下へ赴く。

同盟を結ぶとは考えにくい。

正直、考えられるのは…………

 

「バギーと戦うつもり?」

 

「ああ」

 

まるで当然のようにナミの問いに頷く。

しかし、それは危険すぎる内容でもある。

何故か、理由を問おうとして――

 

「あの犬の為?」

 

「ああ。友達だからな」

 

あっさりと告げた内容、しかしながらナミには仰天する以外の言葉が出なかった。

海賊同士の戦いの理由が「友達の為」だと言い出す。

 

馬鹿馬鹿しく思い、けれども彼の思考を先読み出来てしまった自分も居た。

不思議で仕方ない。

けれども、分かってしまったのだから仕方ない。

 

「それにどのみち、いつかは戦う事になるんだ。

 早いか遅いか、それだけだ」

 

偉大なる航路(グランドライン)〟の地図を持つなら目指す先は同じだ。

今ぶつかる――――それだけの事だ。

 

「了解。なら、乗り込むとするか」

 

ゾロも乗り気の様子だ。

それを見たナミは「呆れた」と呟く。

 

けれど、不思議と何とかなるとも内心で思ったのは…………秘密だ。




如何でしたでしょうか?

原作との相違点は、
・ナミとの外での会話が長くなって、ブードルと先に出会う。
・バギーとはこれから会う。

といったところです。

ルフィは何となく野生の勘でナミの事を覚えているという感じです。
ナミの方は覚えていないようにも見えますが果たして?


モージとの戦闘は間近でしたが、腕を伸ばしたところは見てません。
まだゴム人間だとは気付いていません。

ちょっと駆け足気味の展開ですが、次回をお待ちください。


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〝宝〟の定義

お待たせしました。

最近亀更新気味で申し訳無いです。

続きをどうぞ。


ルフィ達はブードルを追い掛けるようにバギー達の居る町の中心へと向かう。

場所に関してはナミが知っていたので、迷う事無く辿り着けた。

 

そこではブードルがバギーを挑発し、命を捨ててでも戦う意志を見せていた。

そんな志しを聞いたルフィは行動を起こしていた。

ブードルをあろうことかコンクリートの壁に押し込む。

その勢いでブードルは気絶し、大の字で寝転ぶ。

 

「な、何をしてんのよ!?」

 

「邪魔!!」

 

「上策だな。放っといたら、死ぬつもりだっただろうしな」

 

ナミがルフィの行動を問い質すと、言葉短く返した。

彼の行動に賛同したのはゾロだった。

このままではブードルの命は無かったのかもしれないのだから。

乱暴な手段だが、ルフィの行動を擁護する。

無論ながら、それでもナミは乱暴な解決策に「無茶すな!!」と叫ぶ。

 

「おい!! 赤っ鼻ァッ!! バギーってのは、どいつだァァァッ!!」

 

腹の底から声を張り上げる。

辺りに反響するルフィの叫び。

 

水色の髪にピエロの化粧をした赤い大きな鼻を持つ男へ言葉を叩き付ける。

帽子を被り、周りと比べても随分と派手な衣装を着ているので目に付いたのだ。

 

「ハデに舐めた野郎だな!! このおれ様が泣く子も黙る〝道化〟のバギー様だ!!」

 

「お前がバギーか!!」

 

何と、その男こそが〝道化〟の異名で知られる(ナミ談)バギーであった。

それを知るとルフィの視線は彼へロックオンされる。

指の関節を鳴らし、拳を作る。

 

「お前を、ぶっ飛ばしに来てやったぞ!!

 デカっ鼻ァァァァァーーーーッ!!」

 

先程よりも大きな声量でルフィが宣言する。

瞬間、ブチィッ!! と何かが切れた音がする。

発生源は無論ながら指名されたバギーで――――

 

「誰がデカっ鼻だァァァァァッ!!

 ハデに舐めてる貴様等を町と一緒に吹き飛ばしてやる!!

 バギー玉、発射だァァァァァッ!!」

 

彼にとっては琴線に触れたのは言うまでもない。

バギーの指示で、予め用意されていた大砲から弾丸が放たれる。

 

「う、嘘でしょ!?」

 

「おい、ルフィ!! 逃げるぞ!!」

 

狼狽えるナミとゾロ。

それはそうだ。

砲撃なんかされたらひとたまりもないのだから。

 

「そんなもの、おれに効くか!!」

 

対して落ち着いているのはルフィだった。

あろうことか弾丸に突っ込む形で駆け出した。

何をしようと言うのか、全員の注目が集まる。

 

「〝ゴムゴムの風船〟!!」

 

ルフィが大きく息を吸い込む。

 

 

 

 

 

次の瞬間、ルフィの身体がまるで風船のように大きく膨らんだ。

 

 

 

 

 

まさかの事態に全員の反応は共通して「驚愕」の漢字二文字となる。

膨張した腹に弾丸が当たる。

しかし、爆発する事はなく衝撃を吸収されていた。

 

「お返しだ!!」

 

そして、腹に力を入れてトランポリンで人が跳び上がる要領で弾丸を弾き返した。

まさかの事態に一番驚いたのはバギー達だった。

 

バギー玉の威力は折り紙付き。

町一帯を吹き飛ばす力を有しており――――それが数秒もせずにバギー達の元へ送り返されて爆発を引き起こした。

 

「よっしゃ、減ったな」

 

「先に言っとけよな」

 

ルフィは良い笑顔で言う。

これまで行動を共にしてきたゾロも呆れ気味だ。

この状況は知らされていなかったと見える。

 

跳ね返された砲弾はバギー達の居た家屋を粉微塵にした。

木材は焦げ、瓦も壁のコンクリートもバラバラになっている。

 

今でも信じられない。

砲弾を弾き返すだなんて非常識も良いところだ。

 

「何なのよ、今のは?」

 

「〝ゴムゴムの風船〟だ」

 

「そういう意味じゃないわよ!!」

 

ルフィの起こした事象に当然ながらナミは困惑して質問する。

しかしながら、当人の返答は求めているものと異なっていた。

 

何とも人間離れした能力だ。

そう、まるで――――

 

「もしかして〝悪魔の実〟の能力者!?」

 

「ああ。俺は昔〝ゴムゴムの実〟を食った。ゴム人間だ」

 

「ゴム…………人間っ!?」

 

ナミが〝悪魔の実〟の存在を訊ねると、ルフィは「ああ」と軽い調子で告げる。

それを聞いたナミの反応は「驚き」に分別される。

 

これまで〝悪魔の実〟の能力者である事に驚く面々は居た。

しかしながら、ナミの驚き様はそういったものとは種類が違った。

 

その事実にルフィは気付かない。

瓦礫と化した民家からバギー達が出てきたからだ。

 

「随分とハデな野郎だな」

 

「あいつも船長と同じように〝悪魔の実〟を食べたと言ってましたね」

 

バギーともう1人が這い出てきた。

見れば、仲間だろう面々を自分達の前に置いて盾代わりにしている。

左側だけ長い髪型と長いマフラーの男も同様だ。

 

「酷い……」

 

自分の仲間に対するこの仕打ち。

ナミは思わず声を漏らす。

 

「なるほどなるほど。どうやら只者じゃねェって事だけは分かった」

 

瓦礫を蹴り飛ばしながらバギーはルフィへと近付いていく。

先程のやり取りからルフィが普通ではない事を悟ったらしい。

それは隣の男も同じらしい。

 

しかし、自分達が敗北する事などは微塵も考えていない。

そんな事を頭に置いて戦う者も居るまい。

 

「そいつらお前の仲間だよな?」

 

「ん? ああ。ハデなおれに相応しい部下だ」

 

ルフィは「仲間」と問う。

バギーは「部下」と返す。

 

両者共に見ている者は同じなれど、考え方は異なっている。

そう、それは海賊としての考え方が両者で噛み合っていない事を示唆している。

 

「何だァ? おれがこいつらを盾にした事を怒ってるのかァ?」

 

「ああ」

 

バギーは挑発した口調で問い返してきた。

対するルフィは落ち着いた声音で以て肯定する。

 

「おれ達は海賊だ。っで、おれはこのバギー海賊団の船長をやってる。

 つまり、一番偉いのはおれ。

 その為に部下が体を張るのは当然だろう?」

 

「知るか、そんなの。

 海賊だからって仲間を大事にしちゃいけないルールなんてねェだろうが」

 

バギーの高説に耳を傾けるも、ルフィは一蹴する。

そして、彼へ言葉を叩き付ける。

 

バギーの行いに少なくともルフィは同調出来なかった。

海賊としては間違っていないのかもしれない。

 

海賊団の理念は十人十色だ。

ルフィの憧れた海賊団の理念を押し付けるのは間違っている。

 

「随分と甘い考えだな。

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟の海図を盗むようなコソ泥には分からないだろうが――――」

 

「おれは、海賊だ」

 

バギーが言い切るよりも先回りしてルフィが告げる。

瞬間、バギーは「何?」とルフィを見てくる。

彼の中で海賊らしからぬ発言をしたルフィへの疑問を抱いたのだろう。

 

しかしながら、バギーはそれ以上は何も言わない。

彼も異名を持つ海賊だ。

様々な海賊と出会い、戦ってきた筈だ。

それ故、ルフィがどう思おうと関係無いと考えていよう。

それよりも〝偉大なる航路(グランドライン)〟の海図を手に入れた理由はそこへ辿り着く為。

ならば、そこへ行く目的は?

 

「てめェらなんぞが〝偉大なる航路(グランドライン)〟へ入って何をするつもりだ?

 観光旅行にでも行きたいってか?」

 

 

 

 

 

「〝海賊王〟になる」

 

 

 

 

 

バギーからの質問にルフィはノータイムで答える。

一瞬の間が生まれる。

ルフィが言い出した内容をバギーがきちんと受け止める。

 

「ふざけんな!! ハデアホがァッ!!!!

 てめェが〝海賊王〟だと!?

 おれは〝神〟にでもなれるってか!?」

 

ルフィの宣言に対してのバギーの反応は些かオーバーなものだった。

随分と飛躍した例え、しかもバギー自身もまるで〝海賊王〟の高みへ届くかのような物言いだ。

 

「世界の宝を手にするのはこのおれだ!!

 夢見てんじゃねェ!!」

 

バギーは腕を振るった。

怒りに任せて“何か”を投擲してきた。

 

ルフィは反射的に腕を真横へ振るった。

何かを弾いた感触はある。

 

「ルフィ!!」

 

ゾロがルフィへ呼び掛ける。

まだ敵の攻撃は終わっていないと、そう教えるように。

 

彼の言葉に反応し、ルフィは弾き返した方へ、右上へ視線を向ける。

視界にナイフが見えた。

 

ゴム人間となり、打撃や銃弾には耐性が付いた。

ただ、刃物は別だ。

そのナイフがルフィへと狙いを定め、“こちらへ急降下してきたのだ。”

 

「っ!?」

 

ゾロの掛け声があったからこそ反応出来た。

咄嗟に後ろへ跳んで寸前でナイフを回避する。

 

カランと音をさせてナイフは地面に転がる。

これにはカラクリがある。

 

ルフィも、そしてゾロとナミも最初にバギーが放ったものが分かった。

〝手〟だ。

 

比喩表現でも何でもない。

バギーの手首から先だけが空中に浮いていた。

明らかな〝異常〟。

しかし、ゾロもナミもルフィの〝異常〟を目の当たりにしたからこそ不思議に思いこそ、有り得ないとは否定しない。

 

その手はバギーの元へと戻る。

バレた以上は追撃は無駄と悟っての事だ。

 

「良く反応したな」

 

バギーが〝悪魔の実〟の能力者である事はナミを通じて知っていた。

身体の一部を飛ばす能力か?

大体当たりだ。

 

「おれは〝バラバラの実〟を食べたバラバラ人間だ」

 

ゴム人間と言い、聞いただけでは何の事かと疑いたくなる。

〝悪魔の実〟を知っており、かつバギーの能力を目の当たりにしたからこそ納得できる。

 

「全身を自由自在にバラバラに分離させ、飛ばす事が出来る」

 

実演とばかりに腰から上と下を分離させ、またくっつける。

ご丁寧に説明してくれる。

 

これも作戦の内――――違う。

彼の承認欲求で見せびらかしただけだ。

 

「ふーん、そうか」

 

しかし、そんなものにルフィは興味を示さない。

指の関節をポキポキと鳴らし、戦闘態勢を見せ付ける。

戦意は万全――――それは間違い無い。

 

「このおれとやろうってか?」

 

「ああ」

 

バギーもルフィの戦意は受け取っていた。

だから、彼の狙いも分かっていた。

その目的はバギーにとって許容出来ないもの。

となると、衝突するのも必然であった。

 

「そういう事なら、邪魔はさせない」

 

もう1人の男が一輪車に乗り、剣を携えてルフィへ接近していた。

既に斬り掛かるつもりでいたが――――

 

「剣の相手ならおれがする」

 

そこへゾロが割り込んでくる。

男の方もゾロが〝海賊狩り〟の異名を持つ賞金稼ぎと気付く。

両手に2本、口に1本だけ加えているのが特徴的だったからだ。

 

「〝海賊狩り〟まで居るとはな。船長は…………お前か」

 

「そうだ」

 

ここまでゾロは出張っては来なかった。

ましてや〝海賊王〟になる事を宣言したのは目の前の麦わら帽子の男だ。

 

「随分と強い仲間が居るものだ…………が、ここでお前らは終わりだ。

 海賊になるには甘い考えを持つお前らには、な」

 

「大丈夫だ。おれ達はお前なんかには負けないから」

 

おれ達――――ルフィは自分の、そしてゾロの勝利を疑わない。

こんなところで終われないという自負があったからだ。

 

「お前、能書きが長いからさっさと掛かってこいよ」

 

「ふん。ハデに舐めた奴だ。

 それに“麦わら帽子を被ってるのも苛つかせる。”

 あの忌々しい赤髪の男を思い出させるんだからな」

 

ルフィの態度にかと思いきや、意外や意外だ。

まさか麦わら帽子を見て苛つくとは。

しかも、その内容も聞き逃がせなかった。

 

「赤髪? それって、シャンクスの事か?」

 

「奴の事を知ってるみたいだな」

 

赤髪の名を言ってみたところ、どうやらバギーの想像と同一人物が思い浮かんだらしい。

 

「シャンクスの事を知ってるのか? 今何処にいる?」

 

「んん? あいつに用があるのか?

 知ってるといえば知ってるし、知らないといえば知らんな」

 

「お前は何を言ってんだ? バカか?」

 

「ハデに舐めた事を言う奴だな!! このスットコドッコイ!!」

 

ルフィからの問い掛けに珍妙な言い回しをしたバギーの方に問題があるとは思う。

しかし、ルフィに馬鹿にされたバギーは頭に血が上って気付かない。

 

「ねえ。今の内に私はバギー達のお宝を盗んでくるわ」

 

そこへナミが声を掛けてくる。

彼女の狙いは最初から「宝」なのだから言うまでも無い。

 

「上手く盗んで、バギーを倒す事が出来たら――――その時は仲間になるのを考えても良いわ」

 

「本当か!?」

 

「ええ。でも、まずはお試し期間。手を組むって形にさせて貰うけれど」

 

「ああ、おれの仲間になるって事だな」

 

「話、聞いてた?」

 

ルフィにとっては同じ意味らしい。

確かに人によっては受け取り方で変わるもの。

それでもナミの態度から分かりそうなものなのだが――――彼の思考はどのようなものになっているのか?

 

「まあ、良いわ。そっちの健闘を祈ってる」

 

「おう!!」

 

これ以上はナミの方が頭痛を起こして苦しむと判断。

結果、会話を投げ出してルフィにこの場を押し付け――――もとい、任せる事に。

 

これでルフィはバギーとのマッチアップが確定した。

一足早く、横ではゾロと一輪車に乗った男が文字通りに刃を交えていた。

 

ルフィはバギーの方へと歩を進める。

バギーもまたルフィの接近を目の当たりにし、戦闘態勢へと切り替える。

 

「向かってくるってんなら容赦はしねェ」

 

両指にナイフを何本か挟む。

確かにゴム人間という初見殺しには驚かされた。

 

砲弾は跳ね返される。

ゴムの特性で出来る事、起こり得る事は考えておくべきだ。

 

これは他ならないバギー自身が能力者である事が推察に至る理由の拍車を掛ける。

伊達に異名を持つ海賊ではない。

ルフィとでは海賊としての年季が違い過ぎる。

 

「さっきのは見逃さなかったぜェ。

 ゴム人間に砲弾は効かないだろうが、ナイフは避けたのをな。

 弱点は刃物だろ?」

 

バギーは推論を投げ付ける事で駆け引きをしようとした。

当たりだと思っているが、確証を得たいが為に問い掛けた。

向こうへ動揺を誘う腹積もりもある。

逆に反応を示さないのであれば、それだけの場数を踏んで来た相手だと念頭に置いて戦闘を組み立てるつもりだった。

 

「うん」

 

だが――――あろうことかルフィの反応は至ってシンプル。

しかも、即座に肯定で以て返して来た。

いやはや、さすがにもっと駆け引きでもあるかと思った。

 

恐らくは何も考えていない。

条件反射に、しかも素直に答えた。

純粋過ぎる――――こんな奴が海賊を名乗っている事に頭痛がする。

 

「ここでお前の海賊人生を終わらせてやるよ!!」

 

身体を捻りながら下半身のみを文字通りに切り離す。

 

「〝バラバラせんべい〟!!」

 

下半身のみが回転しながらルフィへと一直線に向かっていく。

ただの突撃ではゴム人間の彼にはノーダメージだ。

だからこそ、靴の先端に刃物を仕込んである。

当たれば切り刻まれる事は目に見える。

 

「よっ!!」

 

しかし、そんな見え見えの攻撃など避けるには容易い。

当たる寸前、ルフィは障害物を乗り越えるように軽く跳んでやり過ごす。

 

「大したもんだが、それも想定内よ」

 

バギーの攻撃は全て計算されたもの。

回避されるのも策の内。

自身の能力で切り離した両手首を事前に上空へ仕込んでいた。

 

「空中なら避けられねェだろ?」

 

両指にナイフを挟んでいる。

全部で4本ある。

それを器用に全てルフィへ投擲する。

 

「避けれるさ」

 

しかし、ルフィは横へ腕を伸ばす。

そこにあった木を掴み、腕を縮めてそちらへ身体を引き寄せる。

ナイフは全て地面に当たるだけで終わる。

 

「〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

 

すかさず、ルフィは拳を振り抜きながら右腕を伸ばす。

本来なら不意討ちも合わせてクリーンヒットしていただろう。

しかしながら、自身の身体が伸縮する様を見せてしまっていた。

それ故、バギーも注視していた事もあって身体を横へズラすだけで簡単に回避される。

 

「面白い能力だが――――伸び切った腕は隙だらけだな!!」

 

何も刃物はナイフだけではない。

隠し持っていた剣を抜いて、隙だらけのルフィの腕を斬ろうとして――――

 

「〝ゴムゴムのロケット〟!!」

 

伸び切った腕はその先の木へと到達しており、その木を掴んで先程と同様にルフィ自身を引き寄せた。

彼が言うようにまさしくロケットのような体当たり。

地を蹴った反動も利用してバギーめがけて跳んでいく。

 

「〝バラバラ緊急脱出〟!!」

 

ルフィが飛来し、当たる直前にバギーは胴体を分離させる。

渾身の体当たりはスカされる。

そのままバギーを通り越し、その先の先程に廃屋となった民家へ突っ込んでいく。

 

本来なら怪我をしそうなものだが、ゴム人間の彼にはノーダメージだ。

廃材と化した木材を払い除けながらルフィは民家から脱出する。

 

「クソォ、バラバラしやがって」

 

「〝悪魔の実〟の能力者との戦いは、いつだってハデなものになるのさ!!」

 

麦わら帽子を被り直しながらルフィはバギーの能力に対して愚痴を零す。

バギーの方が海賊としての歴は長い。

〝悪魔の実〟の能力者ならばルフィもウタといった面々の事は知っている。

なので驚く事はそこまで無い。

問題なのは戦闘という側面においてはバギーの方が経験値が高い事だ。

〝悪魔の実〟の能力者との戦いもこれが初めてとは思えない。

 

「ほれほれ、息付く暇はあるのかなァ〜?」

 

バギーがまるでアドバイスでも送るかのように告げる。

先程と同様、ナイフを指に挟んだ右手のみを発射していた。

 

バギーに言われたのもあり、当たる直前に受け止める。

何とかナイフを止める事が出来た――――そう安堵するのも束の間だった。

 

 

 

 

 

手首の状態から更に手のみを切り離される。

 

 

 

 

 

二段構えだった。

受け止めさせ、油断を誘ったところへの攻撃が待っていた。

バラバラの実の特性を活かした攻撃方法である。

 

これにルフィは神懸り的な反射神経を見せた。

狙っていたのが頭部だった事もあり、頭を横へズラす事で頬に掠り傷を付けるだけに留まった。

 

ナイフを避けた反動で背中から地面に倒れる。

受け止めていた手を放し、麦わら帽子も落ちる。

 

「今のを避けるのか、反射神経がおかしくないか?」

 

さしものバギーもルフィの並外れた身体能力に文句を付ける。

苦言を呈するバギーには目もくれず、ルフィは手元の麦わら帽子を見ている。

 

「お前…………」

 

ルフィの表情が〝怒り〟を表している事は分かった。

何が彼の琴線に触れたのかは不明だ。

海賊同士の戦いなのだから何が起きても不思議などない。

 

「よくも、この帽子を傷付けたな!!」

 

帽子の鍔に多少ながら切られた箇所がある。

麦わら帽子なのだから、こういった事での損傷は分かっていた筈だ。

 

「そんな古臭い麦わら帽子がなんだってんだ?」

 

「こいつはおれの宝だ!!

 この宝を傷付けるやつを、おれは許さねェッ!!!!」

 

瞬間、ルフィの怒号が辺りに響く

 

ルフィを見てきた面々からすれば、今の彼の姿に驚くだろう。

普段は飄々としていて、何事にも動じなさそうな彼がこんなにも取り乱している姿を。

 

ゾロはカバジとの戦いに集中していて見れていない。

宝を取りに行く途中だったナミが目撃していた。

出会ったばかりの彼女にしてもルフィがこんなにも取り乱す姿は意外だったに違いない。

 

 

 

 

 

だからこそ、背後から飛んでくる手首への反応が遅れた。

 

 

 

 

そんな古臭い麦わら帽子が何と言うのか?

しかし、“そんなものが大事だというのなら――――”

 

「なら、ちゃんと持ってなきゃ駄目だろ」

 

歪んだ笑みを浮かべ、バギーは小馬鹿にするように告げる。

彼はまだ切り離した手を“戻してはいない。”

バラバラの能力は発動した状態は継続している。

分離された即座に操作を行う。

 

投げていたナイフを拾い直し、ルフィめがけて突撃してくる。

手が偶然にも崩れた家屋から這い出たという事もあって、音でルフィも背後に何かがある事には気が付けた。

これをまともに喰らう事は出来ない。

足場の悪い状況下ながら、横っ跳びで何とか一撃を回避する。

 

しかし、だ。

バギーの狙いは端からルフィ自身ではない。

何に狙いを定めたのか――――既にバギーは告げていた。

 

ルフィの手元にある麦わら帽子めがけ、切り離されたバギーの手がぶつかる。

その手にはナイフが握られており、容易く麦わら帽子の頭頂部を貫き穴を開けた。

 

「こんなくたびれた帽子の何が宝だ」

 

切り放した手を戻し、バギーはルフィの発言を馬鹿にする。

あまつさえ、彼の発言に対して「馬鹿馬鹿しい」と高笑いをぶつける。

 

「…………ッ!!!!」

 

バギーの高笑いも、麦わら帽子への侮辱も、確かに腹が立つだろう。

歯を食い縛り、怒りのボルテージが上がる。

無論、これだけではルフィは何もそこまで怒りを覚えなかった。

 

人によって〝宝〟の定義は変わってくる。

バギーにとっては「金銀財宝」がそうで、ルフィには「麦わら帽子」が当てはまる。

人それぞれなものであるのだ。

だから、麦わら帽子を〝宝〟だというバギーの起こす嘲笑も分からなくはない。

 

ルフィの琴線に触れているのは"そこじゃない。"

あの帽子はルフィにとって――――

 

「シャンクスとの誓いの帽子だ!!」

 

今はまだ漠然と〝再会〟を誓ったものでしかないかもしれない。

それ以上の価値は無いのかもしれない。

でもルフィはシャンクスのような〝立派な海賊〟になる事への誓いを立てた。

〝立派な海賊〟というのもルフィにはまだ分からない。

 

あの頃に憧れたシャンクスの、ベックマンの、ルウの、ヤソップの、モンスターの、ボンクの、ライムジューの、ホンゴウの、スネイクの、ガブの――――そしてウタの背中を追い掛けた。

 

最初は模倣かもしれない。

けれど、そこからルフィの目指すべき〝立派な海賊〟の像が見付かると信じている。

 

バギーはそのルフィの〝誓い〟を踏みにじった。

それがどうしても許せない。

 

ルフィは殆ど条件反射でバギーへ突撃する。

 

「何? って事はこれはシャンクスの帽子かよ。道理で見覚えがあるわけだぜ」

 

麦わら帽子を無造作に地面へと叩き付け、あまつさえ唾まで吐きかける。

 

「おれとあいつは昔同じ海賊船に居た。海賊見習い時代の同志ってわけだ」

 

「ッ!!!!」

 

バギーの一言は更にルフィの怒りをヒートアップさせた。

更に加速し、腕を横へ構える。

 

「シャンクスは偉大な男だ」

 

ルフィの憧れたシャンクスと、目の前で麦わら帽子を無残にしたバギーが同志だと?

そんな事が有り得るものか。

 

腕を構えて殴りに来るルフィへのバギーの回答は回避であった。

パンチが来るのは目に見えている。

狙いは顔面である事は目視で確認できる。

 

「〝バラバラ緊急脱出〟」

 

回避は容易いと、首を瞬時に切り放す。

ルフィの拳は空を切る。

そこへカウンターでナイフを突き刺してやろうと画策して…………

 

 

 

 

 

 

ドオオオオンッ!!!!

 

 

 

 

 

音がした。

同時、バギーに激痛が発生する。

何事なのかと、一瞬で状況は把握できた。

殴り掛かるかと思われたルフィの攻撃は直前、バギーへの金的への蹴りに変更された。

 

「シャンクスがお前と同志だと!?」

 

男の急所をクリティカルに蹴り付け、バギーも思わず能力を解除して首を繋げる。

仰向けに倒れたバギーへルフィは怒りを込めた蹴りが炸裂し――――

 

「一緒に、すんな!!!!」

 

同時に怒りを込めた言葉も叩き付けた。




如何でしたでしょうか?

原作との大きな相違点として目を引くのは1つ。
・バギーが仲間を盾にした事にルフィが少なからず怒りを覚えたという点

これに尽きるでしょう。
原作ではそんな素振りは見せませんでした。
ですが次のクロとの戦いでは見せていませんでした。
クロとの戦いでは自分の仲間を道具扱いし、あまつさえ仲間は助けを乞いているのに無差別に殺そうとした事が理由でしょうが。

ですが、バギーへ苦言を呈したのは理由があります。
それは原作でルフィはバギー達の宴の様子を見ていたからです。
その際に「やっぱ海賊はこうだよな」といった旨の発言をしており、少なくともバギー達はルフィがガープから教えられた「海賊」の像に当てはまる部分もあったのではないかと。
その後の「海賊」の怖さを教えたのもバギーでしたし、彼の中の「海賊」としての部分を見たからなのかなと……どうなのかな?

こちらのルフィはそういった部分を見ていないので苦言を呈しています。

あとはゾロが無傷の状態でカバジと戦っているので圧勝しそう。
ゾロの方は書かないので、ゾロファンの方はごめんなさい。

あとはナミが何かに気付いていますが、まだ何も言いませんね。
いつ言うのかな?

あとは原作をなぞった展開に少しアレンジを加えさえて頂きました。
しばらくは原作に近い展開も多くなるので、ドンドンやっていけたらと思います。

中途半端な終わり方ですみません。
また次回も間隔が空くと思います。

なるはやで書こうと思いますので、しばしお待ち下さい。


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楽に行こう

お待たせしました。
珍しい時間での投稿。

今回はお待たせした割には短いです。
サクッとさせ過ぎました。


麦わら帽子を傷物にしたバギーを蹴り付けるも、まだルフィの怒りは収まらない。

バギーにしてもこれで怒りを向けられる事は不条理に思っているだろう。

 

ルフィは信じなかったが、バギーとシャンクスが同じ海賊船の仲間だったというのは本当だ。

その時の出来事でバギー自身はシャンクスへ悪印象しか抱いていない。

 

シャンクスが本心からバギーへ友好的な印象を持っていようとも、決してこちらから歩み寄るつもりは一切無い。 

ルフィがシャンクスへ憧れを抱いていても一切興味がない。

どちらもバギーには知ったことではないからだ。

 

どれだけバギー自身がシャンクスを嫌っているのか、この際はっきりとルフィへ教えてやる。

 

北極と南極のどちらが寒いか等と言う見る人から見ればくだらない言い争いもあった位だ。

恐らく、決定的になったのは“不可抗力ながら能力者になってしまった事だ。”

 

〝悪魔の実〟は高く売れるというので、偽物を用意して本物と入れ替えて船員の前で食べるという見世物をした。

隠していた本物を手に取ってどうするかと思案していた時にシャンクスに声を掛けられて咄嗟に口の中へ。

その後に誤って食してしまい、能力者となってしまった。

更には運の悪い事に海へ落ちて浮かんでこないバギーを心配したシャンクスに助けられたという。

 

「へぇ、シャンクスが助けてくれたのか」

 

「話を聞いてたか!! このスカポンタンが!!」

 

バギーの思惑とは裏腹に、ルフィは「シャンクスが助けた」の部分だけを聞き取ったらしい。

どうにも調子を狂わされる。

彼の事を気に入らない気持ちがあったが――――何と無く分かって来た。

 

似てるのだ。

麦わら帽子を被っているところとかではなく、彼等の行動そのものが。

だからバギーはルフィの事を気に入らない。

 

「まあ、良い。どうせ、こいつを倒――――」

 

瞬間、バギーの視界に大きな風呂敷を持った女性が入り込んだ。

その女性とはナミで、その風呂敷には溢れんばかりの金銀財宝がある。

そんな財宝がこの街には無い事を既にバギーは把握していた。

何せ街を探索したのだから。

ならば、その財宝を何処から持ってきたのか――――疑問を抱くだけ無駄だ。

 

「それはおれ様のだろうがァッ!!」

 

バギーの海賊船に貯めておいた財宝という事になる。

怒りを露わにし、バギーはナミへ襲い掛かる。

 

バラバラの能力で身体を分解し、ナミへと接近する。

咄嗟の事と、頭部や手首、腕、腹部といったように細かく身体を分けていた。

どれを攻撃すれば止まるのか、ルフィは反応が遅れてしまう。

 

「あんにゃろ!!」

 

ルフィを無視し、ナミへ襲撃を仕掛けるバギーに腹立たせる。

逃がすものかと追いかけようとした矢先に“バギーの足だけが歩いていた。”

 

「足は飛べねえのか!!」

 

ルフィもゴム人間となり、身体が伸び縮みするようになった。

打撃が効かなかったりと利点はある。

 

しかし、無限に腕を伸ばし続けられる訳では無い。

それに打撃は効かずとも、刃物で傷付くのは普通の人間と変わらない。

 

能力者にもそういった制約が課される。

一見、非の打ち所が無い能力にも「弱点」の文字は存在している。

今回の件で言うのならば、バギーの足は分解しても空を飛べない事にある。

 

「捕まえた!!」

 

ならば、これを利用しない手はない。

靴を脱がせ、バギーの足をくすぐる。

 

遠くで笑い声が聞こえる。

感覚は共有されている事が分かる。

ならばと、バギーの足を持ち上げると爪先をコンクリートへ思いっきり叩き付ける。

 

「ふぉっでゅぅっ!?」

 

ルフィからは見えないが不気味な悲鳴を上げながらバギーは涙目で痛みに耐えていた。

一瞬、飛行速度も落ちる。

 

「あのクソゴムめ!!」

 

「いい加減しつこい!!」

 

意識が一瞬だがルフィへ逸れる。

その隙に逃げ切れないと判断したナミ。

 

逃げればバギーは追ってくる。

ならば、追われる前に叩き潰せば良い。

金銀財宝を詰め込んだ風呂敷をバギーの頭部めがけて振り回す。

重量、硬さもかなりある金属の塊を叩き付けられる事が如何にダメージを負う事なのかは良く分かっていよう。

 

「なら、返して貰うかな」

 

風呂敷を振り回したタイミングでバギーは分離させた手を持ってくる。

振り回された風呂敷を掴み、有言実行とばかりに宝物を奪い返そうとする。

 

対するナミも宝から手を放すつもりはない。

「私が奪ったんだから私のもの!!」という理論らしい。

しかし、盗まれた側のバギーからしたらたまったものではない。

 

ナミ的にも海賊の宝は「盗んだもの」として考えている。

盗品なのだから盗む事への罪悪感は薄い。

 

反対にバギーからすれば敵と戦い、苦労して手に入れたものもある。

無論、一般市民から奪い取ったものもある。

彼からすれば汚い手を使って入手した宝でも、等しく労力を消費して手に入れた努力の結晶みたいなものだ。

 

褒められたものではないというのはどちらも似たようなものだ。

どちらにしても、自分達の行いが善とは言えない事は両者は理解しているのも同じである。

 

「お前の相手は、まだおれだろ!!」

 

割り込んできたルフィの蹴りがバギーの横っ面にクリティカルヒットする。

勢いに逆らう事が出来ず、バギーは蹴り飛ばされてコンクリートの地面に何度もバウンドする。

 

「この野郎!! よくもやってくれたな!!」

 

蹴りを放ったルフィへ怒りを露わにする。

ただ、身体をバラけさせたままではまともに戦えやしない。

 

「集まれ!! おれのパーツ!!」

 

分解した身体のパーツを引き寄せる。

まずは元に戻り、体制を立て直す。

バラバラの能力で分解されていた身体がバギーへと集まっていき――――

 

「あっ、あれ!?」

 

間抜けな声を出してしまう。

どうにも目線が低い。

ルフィの身長よりも低い事は有り得ない筈だ。

だというのに、何故彼を“見上げる事になっている?”

 

「探しものは、これかしら?」

 

ニヤニヤと笑いながらナミがバギーへ問う。

彼女は何かを足蹴にしていた。

腕や脚といった人の身体の一部。

それらを縄で一纏めにしている。

 

身体の一部が分かれている摩訶不思議な現象。

しかし、バギー自身には身に覚えがあった。

それは自身の能力でバラバラにしたもので――――

 

「おれの身体!!」

 

「悪いわね」

 

べっ、と舌を出して言葉とは裏腹に悪びれる様子は皆無だ。

 

「ハハハッ!! さすが泥棒!! あとは任せろ!!」

 

ナミのナイスアシストに笑いながらルフィはゴムの反動を利用して両の腕を後ろへ伸ばす。

狙いは頭身があまりにも小さくなり、身動きが取れないバギーへ向けて。

 

「吹っ飛べバギー!! 〝ゴムゴムの〟!!」

 

伸ばした両腕を引き戻し、バギーの顔面へ掌底を叩き込む。

 

「〝バズーカ〟!!!!」

 

打ち込まれるまま、バギーの身体は容易く空中を舞う。

空の彼方へ飛んでいき、あっという間に姿が見えなくなった。

 

「よぉしッ!! 勝ったァッ!!」

 

両腕を振り上げ、勝利を全身で喜ぶ。

その後、地面に落としていた麦わら帽子を拾う。

ただし、先程にバギーが突き刺して頭頂部に穴が空いてしまった麦わら帽子を見やる。

 

彼が何を思っているのかまでは分からない。

だが、バギーへ怒りを露わにする程の大切なものである事は窺えた。

 

「あの、さ。その帽子――――」

 

「ああ、まだ被れるから平気さ」

 

「…………その穴、直してあげようか?」

 

笑顔を作り、ルフィは何ともないとアピールするかのように麦わら帽子を被る。

すると、バギーの宝を入れた風呂敷を背負い直しながらナミが提案をする。

 

「本当か!? ありがとう!!」

 

その提案にすぐに乗っかるルフィ。

そんなやり取りをしている間に――――

 

「こっちも終わったぜ」

 

ゾロがゆったりとルフィ達の方へ来た。

頭に巻いていた手拭いを外し、また腕に巻き直す。

 

この街でやるべき事は終わった。

そう思った矢先、恐らくはこの町の住人だろう面々が続々とやって来た。

そして、町長のブードルが倒れているところを目撃して驚きを見せていた。

 

無論の事ながらこちらを警戒し、海賊か否かを訊ねる。

バギー達のように有名という訳では無い。

見た目も海賊とは言い難い。

ならば、海賊だという事を明かさなければ良い――――

 

「海賊だ」

 

「何を馬鹿正直に言うか!!」

 

ルフィが真っ正直に答えてしまったせいで、向こうの面々が怒りを露わにする。

結局のところ、こちらは逃げ出す羽目になる。

 

途中でシュシュが割って入り、町民の行く手を阻んでくれた。

それが無ければ逃げ切れるか怪しかったかもしれない。

 

「しししっ!! 良い町だな!!」

 

「え? 何で?」

 

追われる事となった状態になりながら、ルフィは楽しそうに告げた。

当然、ナミはその事に疑問を抱く。

 

「だってよ、町長のおっさんの為に皆怒ってるんだからさ。良い町だ」

 

「あんたねぇ……」

 

ルフィの言いたい事は何と無く分かった。

ナミは呆れているが、彼の発言を面白く思っていた。

 

「あんた、本当に海賊?」

 

「おう!! なんたって海賊王を目指してるんだからな!!」

 

ナミからの問い掛けにルフィは大真面目に答える。

彼女からしたらルフィの答えの方が大きくズレている。

その事にどう言うべきなのか考えるも、このズレこそが目の前の少年の本質そのものだと認識する。

本質を見抜く洞察力――――否、野生の勘を彼は備えている。

 

「そこのところは、昔から変わらないのね」

 

「あん? どういう事だ?」

 

「気にしないで」

 

「そうか。分かった」

 

ナミの言葉を素直に受け取るルフィ。

横でゾロは疑問を抱くが、どういう事かは分からない。

 

追手が来なかった事で、何とか港へ到着する。

バギー達が使っていた小舟とルフィ達が使っていた小舟の2隻を繋げて次の島へ向かって出航する。

 

「おい!! お前等!!」

 

出航したルフィ達へ港の方から大声で呼ばれる。

呼んだのはブードルだ。

 

息が上がっており、ここまで全速力で追ってきたのが窺える。

何を言い出すのか?

疑問を抱いていると、敬礼のポーズを取る。

 

「すまん!! 恩に着る!!」

 

特大の感謝を込めて叫ぶのだった。

ルフィはそれを嬉しそうに眺める。

 

「良いよ、気にすんな。楽に行こう!!」

 

そう笑顔で返す。

やがて島は見えなくなり、次の島を目指してルフィ達は突き進む。

 

後にこの島に巨大なペットフード店が出来る。

その付近に噴水を作り、麦わら帽子とボロボロになったペットフードをくわえている犬の像が建てられるのだが――――それは少しだけ未来の話だ。




如何でしたでしょうか?
サクッとバギー戦は終了。

あまりグダグダやっててもつまらないだけですしね。

原作との相違点は殆どありません。
ナミの台詞。
ルフィとバギーが戦っている横でゾロが戦っていた位です。

所々原作との台詞が異なるのはご容赦下さい。

次もこんな感じでサクサク行こうかなと考えてます。
また時間が掛かるかもしれませんが。

では、また次回に。


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ウソで塗り固められたもの

ごめーん!!
遅くなってごめんなさい!!

色々と立て込んでしまって、全然続きが書けませんでした。

サブタイとこの書き方で何の回か分かるかもですが、続きです。



初めまして諸君。

おれの名前はウソップ。

おれの住むシロップ村にて〝ウソップ海賊団〟のキャプテンをしている勇敢な海の戦士だ。

ふっ、そんなおれの事を〝キャプテン・ウソップ〟と呼ぶのを許可してやろう。

 

何? 村に居るのに〝海賊〟を名乗るのは変だって?

細かい事は気にしなくて良い。

おれの父ちゃんは海に飛び出して海賊になったんだ。

将来はおれも海賊になるんだから何も問題はない!!

 

さて、おれの住んでいるシロップ村は至って平和な村だ。

刺激という刺激も少ない村である。

おれが毎朝海賊の上陸を伝える報告をして走り回る位しかしない。

 

なのに、だ。

今朝に限って変化が訪れた。

 

〝ウソップ海賊団〟はおれを除いて3人居る。

年の頃はおれよりもずっと歳下だが、将来性が実に高い優秀なメンバーだ。

 

眼鏡を掛けた〝たまねぎ〟。

目元まで帽子を被っている〝にんじん〟。

ぱっちり目で緑髪の〝ピーマン〟。

 

この3人の内のたまねぎが今朝に「海賊が来た!!」と叫びながらおれの元へ駆け付けた。

船に張られている帆は〝バギー海賊団〟のものだ。

しかし、乗っているのは3人だ。

 

麦わら帽子の男。

オレンジ髪の女。

それと刀を3本腰に挿している男。

 

最初の2人は大したことは無さそうだが、刀を持ってる男が怖すぎる。

全く勝てる気がしない…………が!!

そんな事で逃げ出せない。

男ウソップ、生まれ育った村の為に今戦わないでどうする!!

 

「やいやい!! 海賊共め!!

 命が惜しいならさっさとこの島から出ていけ!!」

 

ふっ!! 決まったな。

おれ様の出現にあいつ等は声も出せない。

おれ様の〝ウソ〟で奴等をここから追い払ってやる。

 

しかし、女の方がおれのウソを尽く見破られる。

麦わら帽子の男だけは妙に食付きが良かった。

 

クソッ!!

そいつみたいに人を信じる心ってのが無いのかよ、あの女は!!

 

こちらが大人数だと思わせる策も潰え、隠れていた我がウソップ海賊団の面々も逃げた。

元より、敵に存在がバレたら逃げ出すように伝えていた。

この後、おれが戻らないようなら村の皆に声を掛けて逃げるようにも。

 

こっちのウソが潰されるなら仕方無い。

おれ様の実力を見せてやる!!

これでも狙撃には自信がある。

 

銃なんてものは村には無いが、この〝パチンコ〟で確実に仕留めてやる!!

まずは大したこと無さそうなあの麦わら帽子の男から――――

 

 

 

 

 

(ピストル)向けるからには命懸けろよ?」

 

 

 

 

 

瞬間、麦わら帽子の男が発した一言におれは身動きが取れなくなった。

パチンコにセットした鉛玉のゴムを引いた体勢で止まってしまう。

 

おれが使うのはパチンコであって銃ではないが…………そう返そうとしたが言葉が出なかった。

さっきまでのおれの嘘に騙されていた時とは異なる雰囲気を抱かされる。

 

そこまで大きな声では無いし、どちらかと言うと小さい。

しかしながら、おれにははっきりと聞こえていた。

 

静かながら何処か迫力があった。

一言に込められた強い意志のようなものが感じられる。

 

「何、を……」

 

「そいつは脅しの道具じゃねえって言ったんだ」

 

こちらを真っ直ぐに見て、麦わら帽子の男は告げた。

そこで気付かされた。

 

おれの持つのがパチンコだとか銃だとか、そんな事は関係無い。

人に向けている以上は“命を懸ける覚悟をすべきだと。”

何が起きようと文句は言わせない、逆に向こうも言うつもりもない。

その〝覚悟〟が無いのなら引き金を安易に引くべきではない、と。

 

「ま、参った……」

 

瞬間、その場に座り込んでしまった。

おれには麦わら帽子の男の言うような覚悟も持っていない。

口では「勇敢なる海の戦士になる」とか言っておいてこのザマだ。

 

おれの考えが甘過ぎた事を痛感する。

やっぱり本物の海賊は一味違う。

 

「受け売りさ」

 

先程までの静かながらも押し潰しそうな勢いは一変した。

まるで子どものような無邪気な笑みを見せてきた。

 

「おれの尊敬する海賊――――シャンクスのな」

 

シャンクス?

何処かで聞いたような名前だ。

おれが聞かされた名前を脳内の引き出しから出そうとしている真っ最中の事だった。

次の話題に、おれの思考は一瞬にして囚われる事となった。

 

 

 

 

 

「ヤソップだろ? お前の父ちゃん」

 

 

 

 

 

麦わら帽子の男が口にした名前はまさしくおれの親父の名前だった。

それは頭を真横から殴り付けられたも同然の驚愕を与えられる。

意識もそちらへ向くのは当然だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレンジの町を出航したルフィ達はガイモンという空の宝箱に身体がはまってしまった男と色んな動物の暮らす島に立ち寄った。

その後に上陸した島にてウソップと名乗る男と出会った。

 

ここはシロップ村と呼ばれており、今はその村の飲食店にて食事をする事に。

ルフィはウソップの父親であるヤソップという共通点によって意気投合している。

 

途中でウソップは退席。

残されたルフィ達は食事を続けていると着いた時にウソップと共に居た〝ウソップ海賊団〟の面々と合流する。

ゾロが彼らをからかう一幕を見せ、ウソップがこの村一番の金持ちのお嬢様の所へ向かったらしい。

 

「そんなところへ何をしに行ってるのよ?」

 

「ウソをつきに」

 

返答は何ともシンプルなものだった。

それはどうなのかとナミは「何でそんな事をするの」と呆れていた。

 

「立派なんだ」

 

しかし、ナミの呆れた考えとは裏腹に彼の行いは実は利にかなっているものだと言い始めた。

何が立派なのかと思ったが、どうにもお嬢様は病弱なようで外出もままならないらしい。

なのでウソップはそんな彼女の為に冒険譚を伝えに行ってるようだ――――当然、ウソであるが。

 

「じゃあ、そのお嬢様に頼めばでっかい船を貰えるかな」

 

いつまでも小船での航海はしていられない。

特にこの先で〝偉大なる航路(グランドライン)〟を目指そうというのなら大きさのある船は必要だ。

 

「よし、そのお嬢様のところへ行こう」

 

言うが早いか、ルフィは先頭を切って店を出て歩き出した。

 

「場所も知らないのに先に行かないの。相変わらずなんだから」

 

本能で行動する彼に呆れつつも、ナミも慣れたように後を追う。

ちなみに食事代はウソップが払ってくれていたが、当然のように足りなかったので店主も慣れたようにウソップ海賊団の面々に「あとで請求するから」と言伝をされていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ルフィ達は〝ウソップ海賊団〟の後を追ってこの村の富豪の屋敷に着いた。

お嬢様――カヤという少女――はウソップと話をしていた。

いきなり現れたルフィ達へ疑問を抱きつつも、煙たがって追い払おうとはしない。

カヤは美少女で、懐も広い、かなり出来た人物でもあった。

 

ルフィがそんなカヤに船を貰えないか訊ねる。

 

「何をしてるんですか?」

 

そこへ屋敷の人物であろう執事が顔を見せた。

眼鏡を掛けた、オールバックの執事服を着た男が現れた。

 

カヤから「クラハドール」と名前を呼ばれていた。

それが彼の名前なのだろう。

 

そんな彼はウソップの事を、より正確には海賊というものを毛嫌いしているようだ。

ウソップはホラ吹き小僧である事も認知しているようで、その事でウソップの神経を逆撫でする発言も繰り返す。

証拠に――

 

「君はウス汚い海賊の息子だ。

 何をやろうと驚きはしないが、お嬢様に近づくのはやめてくれ」

 

こういう言い回しまでする始末だ。

余程の海賊嫌いなのが窺い知れる。

 

「君には同情しているよ。

 君ら家族を捨てて村を飛び出した〝財宝狂いのバカ親父〟を」

 

この発言の直後だった。

ウソップは一目散にクラハドールを殴り付けのは。

 

「おれは親父が海賊である事を誇りに思ってる!!

 勇敢な海の戦士である事を誇りに思ってる!!

 お前の言う通りにおれはホラ吹きだ!!

 けど、おれが海賊の血を引いている誇りだけは偽るつもりはない!!」

 

それに頭も堅い。

ルフィも海賊である事を明かしていないが、船が欲しいと要求しようとしても取り付く島もない。

その上で、ウソップの父親、ルフィも尊敬するシャンクスの仲間のヤソップを馬鹿にした。

この事に腹を立てたのは何もウソップだけではない。

ルフィもまた怒りを抱いた。

抱いたのだが…………

 

「うーん?」

 

「どうした? 首なんて傾げて?」

 

しかし、何か納得出来ないらしいルフィは大きく首を傾げる。

それにゾロが問い直す。

 

「おれ、こいつの事をわるしつじって呼びたくなった」

 

「ほう? 妙な事を言う」

 

指差す先には間違いなくクラハドールが立っている。

手の平で眼鏡を掛け直す仕草をする。

クラハドールもまたルフィの事を睨み返してくる。

 

「っ!!」

 

無意識にゾロも刀へ手を伸ばす。

ルフィが何気なく告げた一言にクラハドールから得体の知れないものを感じ取ったからだ。

これには覚えがある。

そう、殺気だ。

一介の執事が放つにしては随分と濃厚な殺気を見せる。

 

ただ、それも気のせいと感じる程の一瞬の出来事だ。

次の瞬間にはそれも消え失せる。

 

「出ていきたまえ!!」

 

いい加減、この屋敷に留まる事を良く思わなかったクラハドールが出ていくように怒鳴り付ける。

 

「邪魔したな」

 

クラハドールの顔を見たくないウソップも意見は同様だった。

彼に背を向けて屋敷をさっさと後にする。

 

「おい、待てよ」

 

そんな彼をルフィは追い掛けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから時間は進む。

ルフィとウソップはその後に海岸付近の崖の上でクラハドールの繰り出したヤソップへの悪口に文句を垂らしていた。

その矢先、崖の下で件の執事のクラハドール、それにもう1人男が居る。

ウェーブのかかったグレーの長髪、厚い唇。

更にはハートマーク型のサングラスをかけ、袖や肩当て、胸元にリング状の装飾が施された紺色のロングコートと、同じ色味の中折れ帽子を着用している。

 

特徴的な男の名前は『ジャンゴ』、そして一緒に居るクラハドールは偽名で〝キャプテン・クロ〟と呼ばれていた。

本名は『クロ』と言うらしい。

 

「その名前、聞いた事がある」

 

ウソップは〝キャプテン・クロ〟という名に聞き覚えがあった。

平たく言えば海賊だ。

腕っぷしではなくてあくまで計画的に略奪を行う。

頭脳派と言って良いだろう。

 

しかしながら、ここでウソップは疑問を抱く。

そのクロという人物は3年程前に海軍に捕まり、処刑された。

つまりは既にこの世を去った人物である。

 

その疑問はジャンゴとクロとの会話で明かされる。

3年前に処刑されたのはクロ率いる〝クロネコ海賊団〟の部下だった。

そいつを身代わりにし、自分は死んだ存在として生き永らえてきた。

 

そんな事をして何をしようと言うのか?

そこでとんでもない言葉が耳へ飛び込んでくる事となる。

 

「この村のお嬢様を殺して、財産を奪うのか?」

 

「そうだ。一手順あるがな」

 

お嬢様を、カヤを殺す――――とんでもない事をしでかそうとしている。

ウソップを驚かせたのは計画の内容を事も無げに、ましてや"当然の事のように告げている点だ。"

 

自分の父や隣のルフィとは真逆の、略奪する事に何の罪悪感も抱かない海賊。

いや、これこそが本来の海賊の姿なのかもしれない。

ウソップが思考を巡らせる間に話は進む。

 

財産を奪う為にはジャンゴが催眠術でカヤに遺書を書かせるつもりだ。

文面は『全財産をクラハドールに譲る』というもの。

ジャンゴの催眠術はそのクロでさえ計画に要れる程に信用、そして強力である事が窺い知れる。

果てには明朝に付近に停泊させた海賊船に居る大勢の部下が村に押し寄せる算段だ。

 

カヤが、〝ウソップ海賊団〟の仲間が、村の皆が危険だ。

この平和な村に何て物騒な事を持ち込んで来るのか。

 

「しかし、遠回りする。さっさと襲撃を掛ければ良かったのにな」

 

「略奪するなら海賊の頃と何も変わりはしない。

 おれは平和に暮らしたいんだ。政府に追われる事無くな。

 財産を手に入れても不思議に思われないように3年もこの村で暮らし、信頼を得てきたんだから」

 

「それでも支えてきたお嬢様を殺そうってんだからな。

 とんだ平和主義者がいたもんだ」

 

クロの発言は本音だろう。

しかし、手段は計画的ながら本質は海賊のやり方に近い。

実質的には殺しによる略奪ではないか。

 

「大変だ…………大変な事を、聞いてしまった」

 

ウソップの焦燥感は間違っていない。

結果、彼の思考は負のスパイラルへと堕ちていく。

平和な村に訪れる危機を他でもないウソップが聞いてしまった。

どうするべきか――――悩んでいると横に居たルフィが立ち上がって息を大きく吸う。

 

 

 

 

 

「おい!! お前ら!! お嬢様を殺すな!!!!」

 

 

 

 

 

大声でカヤの殺害計画を止めるように叫び出した。

何を言い出すのかとルフィを落ち着かせようとするウソップ。

結果として芋づる式に居た事がバレてしまう。

 

「おい、ジャンゴ」

 

「分かってる」

 

クロの指示で紐を付けたチャクラムを取り出す。

ゆらゆらとチャクラムを左右へ振る。

 

「お前らは眠くなる…………1、2、ジャンゴ!!」

 

その合図の際、ルフィはその光景を眺めていた。

ウソップは飛び道具が来ると踏んで伏せていた。

その結果、ルフィは急に眠気が襲い掛かってそのまま崖下まで真っ逆さまに頭から落下した。

加えて、催眠術師である筈のジャンゴまでも眠ってしまった。

 

「ったく、世話の焼ける」

 

ジャンゴの催眠術は自分にも掛かる事があるようで、それを知っているクロは呆れるも当然の事のように受け入れていた。

 

「さて、ウソップ君はどうする?」

 

「…………っ!?」

 

この様子を眺めているのみだったウソップ。

今ここでクロを倒せばこのバカげた計画は止められる。

 

しかし、だ。

ウソップは自分の非力さを“きちんと理解していた。”

パチンコによる狙撃の腕は自慢できるが、いざ戦闘となると話は別だ。

 

ましてや相手は戦闘のプロの海賊。

ウソップも名を知る正真正銘の実力者だ。

無謀に突っ込んで勝てる見込みなどあろう筈がない。

彼に出来るのは――――

 

「皆にこの事態を知らせる事だけ!!」

 

本当の危険が迫っている事を村の皆に伝える。

そして逃げるしか選択肢に無かった。

 

クロとジャンゴは崖の下に居るものの追い掛けてくる素振りは見せない。

 

「良いのか?」

 

「ああ、あの男には無理だ」

 

ウソップが村にこの事を伝えれば村の連中が逃げるのではとジャンゴは思う。

しかし、クロの判断は真逆だった。

しかも断言までするではないか。

 

「何せあいつは〝ウソつき〟だからな」

 

嘲笑を浮かべながらウソップが走る背中を眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、クロの言う事は正しかった。

ウソップは必死に海賊の襲撃を訴えるも誰も信じてはくれなかった。

毎朝毎朝、海賊が来た等とウソを言い続けたしっぺ返しが来たのだ。

 

一番危険なカヤにクラハドールの…………クロの計画を話す。

しかしながら、3年で信頼を勝ち取っていたクロとホラ吹きのウソップとでは勝負にすらならなかった。

誰もウソップの事を信用しなかったのだ。

 

唯一、話を信じたのは〝ウソップ海賊団〟の面々と崖から落ちた筈なのにピンピンしているルフィとその仲間だ。

しかし、だ――――

 

「その話は〝ウソ〟だ。あの執事がムカついたから仕返しをしてやったまでだ」

 

ウソップの口から出されたのは"更なるウソだった。"

これは因果応報だ。

これまで〝ウソ〟を言い続けてきた自分に跳ね返ってきたのだ。

 

これからウソップのやろうとしている事にこの面々を巻き込めない。

誰も信じないというのならば――――それで構わなかった。

だから、更に〝ウソ〟を重ねる事に。

 

それを受けた〝ウソップ海賊団〟の面々は失望したと言ってこの場を去る。

ウソップの繰り出す〝ウソ〟は誰かを貶める為に使う事は無かった。

だというのに、今回はその禁を破った。

その事に呆れられ、見放された。

 

そして残った面々。

ルフィ、ゾロ、ナミの3人。

 

「どうするつもりなんだ?」

 

「どうするも"今言った通りにする"」

 

ゾロが問い掛けると、ウソップは当然のように言う。

言った通り――――つまり、海賊が襲撃に来る事を"今まで通りのウソにするのだ。"

 

「おれはウソつきだから信用されないのはおれ自身が招いた結果だ。

 誰も信用しないなら、それでいい。

 おれがいつもの"ウソを言っている事にすれば解決するんだ。"」

 

拳を握り込む。

ポツリポツリと、心の内を吐露する。

先程、海賊の襲撃を伝えて追い回された。

仲間にも見捨てられた。

けど、それでもこの村が大好きだから守りたい――――と。

 

「これまで通りのおれのウソにする。それこそが、ウソつきであるおれの通すべき筋だ」

 

ギュッと拳を強く握り込む。

恐怖はある。

それでも、これまであった平和を脅かそうとするのならば立ち向かう。

 

「よし!! おれ達も加勢する」

 

瞬間、ルフィが指を鳴らしながら宣言した。

何を言っているのか分からなかった。

まだ出会ったばかりの自分を助けてくれると?

 

「な、何だ? 同情でもしてるのか?

 同情なら要らない!!

 おれは勇敢な海の戦士なんだからな!!」

 

「そう言う割には足が震えてるわよ」

 

「うっせ!! 相手はキャプテン・クロだぞ!! 怖いに決まってんだろ!!

 笑いたきゃ笑えよ!!」

 

随分とヤケクソになっていると自分でも分かっている。

けれど――――

 

「笑ってやしねェだろ? 立派だと思うから手を貸すんだ」

 

「同情なんかで命懸けるか」

 

次々に出てくる言葉。

仲間を突き放し、1人出陣するつもりでいた。

けれど、助けてくれると言ってくれる人が居る。

それだけでウソップの心は救われる。

 

「ありがとう」

 

善は急げ。

明朝の襲撃に備える。

 

この村に土足で踏み入る輩を成敗する為に――――




如何でしたでしょうか?

ウソップの一人称はやりやすそうだなとか思ってました。
意外とすんなり出来たのでまた別の機会にでもやりたいですね。

冒頭のやり取りはアニメのものです。
あそこのアニオリシーンめっちゃ好きなんですよ。

あまり原作との差異はありません。
ガイモンはバッサリカット。
アニメではウソップ加入後でしたからそこも考えたのですが止めました。
ごめんよガイモンファンの皆さん。

さて、実を言うとシロップ村の話は適当に終わらせようとしました。
ですが、原作を見返していたのと、推しの子を観ていて気が変わりました(ん? 何か混ざってる)

理由は次回に分かるかと思います。
次回の方は殆ど書き終わっているので、今少しお待ち下さい。

では次回に。


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〝ウソつき〟の格

お待たせしました。

初っ端からダイジェストで始まりますがお許しを。
そこは原作の展開そのままです。

では続きをどうぞ。


翌朝、クロ率いる〝クロネコ海賊団〟が襲撃を仕掛けてきたのは真実だった。

敵の数は未知数。

対して村の住人のウソップ、加勢に入ったルフィとゾロ、そしてナミのたった4人だ。

 

結論から言えば、足止めには成功している。

途中で色々なトラブルがあった。

 

当初は村に出入りする為の入口付近の坂で罠を仕掛けて足止めする予定が、入口が2つあった事を失念して片方にしか危うく侵入を許しそうになってしまったり。

ルフィやゾロの到着が遅れてしまったり。

 

相手のジャンゴの催眠術で敵が強化されたり。

催眠術にはルフィも掛かり、船員の殆どを返り討ちにしたり。

纏めて倒そうと船首を引っこ抜いて一網打尽にしようとするが催眠で眠らされたり。

その後に出てきたシャムとブチという2人が出てきたりと、色々と手こずる事が起こる。

 

その間にクロが到着した。

これまでとは違った冷たい視線、その手には特殊な手袋をしていた。

それぞれの5本の指の爪先に刀と同じ長さの刃物が備え付けられている。

〝猫の手〟と呼ぶ武器だ。

 

彼の登場に全員が視線を集めている間にルフィを踏み付けるという荒業で叩き起こす。

これにルフィは叩き起こされる事となる。

 

乱暴な目覚ましに文句を言いたくなった。

だが、ナミの怪我やゾロとウソップのボロボロ具合から状況を把握する。

そして、来ていたクロを視界に入れる。

 

「なんだ。わる執事も来てたのか」

 

どのみち海賊を潰すだけでは何も終わらない。

元凶が向こうから来てくれるなら好都合だ。

 

「クラハドール!!」

 

そこへカヤが現れる。

突然の事態に全員が驚く。

 

話は屋敷のメリーという執事から聞いたらしい。

その人物がクロに襲われ、事態を把握した。

ウソップの言葉を信じず、戦っている事も知らなかった。

全てはこんな自分の為に。

 

非力な自分に出来る事など限られる。

だから、屋敷の財産など全て投げ打つつもりで来た。

しかしながら、クロの回答は意外なものだった。

 

「私は金の他にも〝平穏〟が欲しいのです」

 

彼の言う〝平穏〟の為に3年間の土台を用意した。

村人からの信頼を得てきた。

これはウソップの話を誰一人として信じなかった事からも分かる。

クロの事を伝えても誰も信用してくれなかった。

既にこの村は侵食されていた。

きっと、カヤが真実を伝えても信用してくれる人物が何人居るのか分からない。

あまり村へ顔を出さないカヤの村への信用度も高いものではないだろうから。

 

ならば実力行使に出るしかないと銃口を向ける。

しかし、クロは動じない。

 

あろうことか彼は語り始めた。

カヤとの日々を。

それは綺麗な思い出であった。

だが、それは"クロにとっては屈辱の日々でしかなかったと言われる。"

 

かつては〝キャプテン・クロ〟と呼ばれた彼がニコニコしてヘリ下ったのも、夢見るお嬢様に付き合った事も全ては繋がっていた。

何に?

それは彼の計画にある。

 

「全ては、貴様を殺す今日の為に」

 

背筋がゾッとする程の低い声。

殺意の籠った声を少女にぶつける。

 

思わず持っていた銃を手から落としてしまう。

彼の行動は全て自己満足の為に行ったもの。

彼がこれまで彼女に見せてきた姿は偽りのものだった。

そのショックから彼女は敵を前にして涙を流して傷心する。

 

 

 

 

 

「クロオオオオオォォォォォーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

 

ウソップの怒号が鳴り響く。

カヤの代わりに怒りをぶつけ、感情のままに殴り掛かる。

 

しかし、怒りに任せた大振りの拳など百戦錬磨の"本物"の海賊の前では何の意味も成さない。

圧倒的な経験値の違い。

クロはウソップの大振りの拳を軽々と回避して後ろへ回り込む。

 

「ウソップ君、君には殴られた恨みがあったな」

 

両腕を大きく広げ、猫の手でウソップの身体を切り刻もうとする。

次の瞬間だった。

 

 

 

 

 

クロの身体が大きく仰け反り、地面に寝転がったのは。

 

 

 

 

何が起きたのかは分からない。

けれど、クロの身体が吹き飛んだ事実は変わらない。

 

「そんなに殴られるのが嫌なら、あと100発ぶちこんでやる」

 

それを成し遂げたのはルフィだ。

クロとルフィとの間には距離がある。

腕を伸ばしたところで届く距離ではないのは間違い無い。

 

全員が息を呑んで状況の変化を見守っている中だった。

 

「「「今だ!!」」」

 

その叫びと同時に飛び出して来たのはウソップ海賊団の面々だ。

それぞれが思い思いの武器を持ってクロへ殴り掛かる。

まさかの登場にウソップも驚く。

 

この一件に気が付いたようで、水臭いと一緒に戦うと言ってくれた。

嬉しくはあるが、相手は本物の海賊だ。

クロは立ち上がる。

 

こちらを狙ってくるかと思ったが、彼はルフィのみに注目していた。

 

「随分と奇っ怪な技を使う」

 

自らを傷付けぬように手の平で眼鏡の位置を整える。

思えば、この癖は〝猫の手〟で自らを傷付けないようにする為のものだったという事か。

 

しかし、そんな事よりも自身に起きた不可思議な現象を追求するのが目的だった。

飛び道具を持たない彼がどのようにして超遠距離を縮める攻撃を行ったのか。

これまで耳にしてきた事のあるものが候補に浮上する。

 

「貴様、悪魔の実の能力者だな?」

 

「ああ。〝ゴムゴムの実〟を喰ったゴム人間だ」

 

クロからの問い掛けにルフィは肯定の言葉を紡ぐ。

悪魔の実の能力者――――この言葉に周囲はザワつく。

それだけ〝悪魔の実〟というのは名前だけがメジャーな存在だと言える。

 

「おいジャンゴ。その小僧はおれが殺る。お前はカヤお嬢様に遺書を書かせろ」

 

クロはゆったりとルフィの方へ進んでいく。

それと入れ替わるようにジャンゴが坂を渡ろうとする。

 

「止まれ」

 

ゾロが立ちはだかる。

刀を構え、ジャンゴの行道を遮る。

 

「ブゥゥゥチッ!!」

 

ジャンゴの叫びと共に肥満体型の男が飛び出す。

彼はゾロが斬って倒した相手なのだが、肥満体型が幸いして急所は外れていたようだ。

 

そして、パワーも人並み外れている。

ゾロへ突撃すると、そのまま岩で出来た壁まで押し込む。

 

「邪魔しやがって!!」

 

ゾロもまた苦悶の表情を作る。

この状況、何とかできるのは――――

 

「ウソップ海賊団!! カヤを守れ!!」

 

ウソップを慕い、訪れた子どもの彼等だけだ。

彼の言葉を受け、彼等にカヤを任せて先に行かせる。

ジャンゴも後を追う。

途中でウソップが鉛玉を飛ばして妨害するも、彼もまた動けない状態だ。

それ以上の追撃は叶わず、ジャンゴを取り逃がす結果に。

 

「早く追わねぇ…………っ!?」

 

ウソップはジャンゴを追おうと立ち上がろうとするも、躓いてしまう。

地面にうつぶせになったまま、動けなくなる。

かろうじて腰だけを浮き上がらせる事は出来たがそこで止まってしまう。

 

「だははっ!! 何だあの恰好は!!」

「だっせえ!!」

「それで追うとか良く言えるよな」

 

クロネコ海賊団の船員がウソップの恰好を見て大声で笑う。

確かに恰好を見たら情けないとウソップ自身も理解している。

でも、恰好など気にしていられない。

 

「敵わなくたって守るんだ!! あいつらはおれが守る!!」

 

そうだ。

その為に自分はこうしてここに居るのだから。

 

恐怖で逃げ出したくなる。

けれど、それを押し殺してウソップはここに居る。

村を、人を、ウソップ海賊団を、カヤを、思い出を、守る為に。

それだけのものがここには詰まっているのだから。

 

「おれはウソップ海賊団のキャプテンで……勇敢なる海の戦士だ!!」

 

ここに立つと決めた想いを達成する為に言葉を尽くす。

自分はそんな大層なものじゃない。

ビビり散らかしている。

こんなウソでも言わないと自分はきっと折れてしまう。

そういう訳にはいかない。

ここで倒れていたら、自分が望むいつもの明日が一生来なくなる事を本能で理解しているから。

 

「変な恰好で良く言うよ」

「笑わせる」

「泣いてやんの」

 

敵の海賊に笑われようと構わない。

誰に笑われようと。

1人でも立ち上がる。

そして、皆を救う!!

 

「おべえっ!?」

 

瞬間、船員の1人が変な声を出した。

見ればルフィが戦いの中で抉れた地面の岩の部分を持ち上げ、それを放り投げていた。

彼の身の丈程もあるというのに軽々と投げた彼のパワーは凄まじい。

 

「お前らにウソップを笑う資格はねェ」

 

凄まじくドスの効いた声だ。

これまでのルフィを知るゾロとナミにしても意外なものだった。

しかし、彼の言葉の意図を深く理解しているのも、その2人だけだった。

 

「おい、いい加減におれの邪魔をしてんじゃねぇ、よ!!」

 

次の瞬間、ブチの身体に刀傷が発生する。

先程までとは違い、深いものだ。

その勢いに敗け、ブチが地面に転がる。

今度こそ動かなくなる。

 

「ルフィ、おれがウソップを担いで催眠野郎を追う。問題はあるか?」

 

「ない。急げ!!」

 

ウソップを担ぎ、クロの横を通り過ぎようとする。

しかし、そう言われて「はい、そうですか」と素直に道を譲る相手ではない。

 

「誰が、ここを通って良いと許可した?」

 

既にゾロの真横にクロが移動していた。

ウソップは慌てるが、ゾロは到って冷静だった。

何ならクロの方など見ずに真っ直ぐ前だけ見ているではないか。

それは何故か?

 

「おれだよ!!」

 

後ろには頼りになる船長(キャプテン)が居るから。

 

「行け!! ゾロ!! ウソップ!!」

 

クロとゾロ達の間に割り込むように腕を伸ばす。

結果、回避しようとクロは後ろへ跳ぶ。

追撃とばかりにルフィはもう片方の腕も伸ばすが、クロは姿を晦ますように視界から消える。

 

「消えた?」

 

一瞬、そう思うが――違う。

本能がそう告げると同時に背後で金属音が聞こえる。

さっきの手袋に付いていた刃物がぶつかり合う音だ。

 

咄嗟に身を屈め、頭上をクロの5本の刃物が通過する。

 

「〝ゴムゴムの槍〟!!」

 

カウンターに両足の裏を合わせて、それを真っ直ぐに伸ばす。

しかし、これもクロは難なく回避する。

また消えるように移動した。

ただ、ゾロとウソップが坂を抜ける事に成功した。

一先ずはこれで良しとしておく。

 

「"戦う前に"聞いておこうか。

 よそ者のお前が何故この村の事に首を突っ込む?」

 

ルフィと真正面から向かい合ったクロが問い掛ける。

彼からしたら至極当然の疑問だろう。

だが、ルフィからすれば"当たり前なのだ。"

 

「死なせたくない男がこの村にいるからだ」

 

「簡単だな。それで良いのか? お前が死ぬ理由は?」

 

「それでいい。おれは死なねェけどな」

 

ルフィとクロとでは考え方が全く相容れない。

そして、互いに譲れないものがある。

その事を理解しているからぶつかる事は必然だ。

 

これ以上、言葉を交わす事は無意味だ。

その事も互いに理解しているからこそ、言葉を交わすつもりもない。

 

「〝ゴムゴムの鞭〟!!」

 

先手を取ったのはルフィ。

ゴムによる伸縮性を活かしたリーチの長さを存分に発揮する。

 

クロを足払いすべく放たれる足を伸ばしたローキック。

しかし、見え見えの攻撃なので後ろへ跳びながら回避するクロ。

 

それ事態に何の問題もない。

狙いはクロの機動力を削ぐ事だ。

空中では身動きを取りづらい。

それを教えたのはバギーだ。

 

「〝ゴムゴムの(ピストル)〟!!」

 

そこへルフィはすかさず拳を叩き込む。

腕を伸ばし、有り得ない出来事を現実とする。

 

直撃――――かと思われた。

 

「欠伸が出るな」

 

クロはあろうことか伸ばした腕に“乗っていた。”

小さく跳んだ事で拳が届くよりも爪先でも地に着いた。

当たる寸前に更に上に跳躍、ルフィの腕に乗る事に成功した。

 

「にゃろッ!!」

 

腕を引き戻し、体勢を崩してやろうとする。

だが、それよりも速くクロはルフィが伸ばした腕を伝って走る。

 

「このッ!!」

 

迎撃をしようと、空いている腕を伸ばす。

クロはそれが眼前に迫ると、軽く跳躍して今度はもう片方の腕の上を駆ける。

追撃で伸ばした腕さえ利用し、ルフィの元へ辿り着く。

前へ跳躍しつつ、ルフィの側頭部へ蹴りを打ち込んだ。

 

「ぶへェッ!?」

 

蹴られた衝撃で地面を転がる。

地面から出っ張っていた岩の塊にぶつかるまで滑るのだった。

 

「口切った」

 

ダメージこそゴム人間の彼には皆無だが、蹴られた衝撃で口の中を切った。

血を吐きながらクロへ視線を逸らさない。

 

「さすがだぜキャプテン・クロ!!」

「やっちまえ!! キャプテン・クロ!!」

 

ルフィの強さは目の当たりにした。

だが、それを上回るだけの強さがクロにはあった。

ズバリ、圧倒的なまでの経験値の差。

 

〝悪魔の実〟を食べた事による超常の能力は人智を超える。

現にこれまでルフィは〝ゴムゴムの実〟の能力を駆使して勝ってきた。

 

だというのに、今はどういう事だ?

クロには自身の能力を逆に利用されている。

それだけ彼は戦闘経験を積み重ね、死線を潜り抜けてきたのだ。

 

これ程の戦闘能力の高さを見せられ、船員の士気も高揚する。

クロならばあの麦わらの男に勝てる――――その確信が芽生えた。

 

 

 

 

 

「"その名前を"呼ぶんじゃねェッ!!!!」

 

 

 

 

 

これまで冷静を保ってきた彼が見せた事のない怒号が響く。

理由は定かではないが、自身の名を呼ばれる事に不快を抱いている。

 

「これはキャプテン・クロという名を完全に捨てる為の計画だ」

 

突如としてクロは今回の一件の目的を語る。

 

名が上がる事で彼は海軍や賞金稼ぎに狙われる生活に辟易していた。

そこで世間一般に「キャプテン・クロが死んだ」と思わせる必要がある。

 

彼は〝百計のクロ〟とも呼ばれていた。

戦略という面においても秀でていた。

 

その彼は影武者を用意し、海軍へ引き渡す事で世間の目を欺く事にした。

ウソップが言っていたようにクロは死んだ。

しかし、影武者を立てて……である。

 

クロが望む〝平穏〟を手にする為に彼は海軍の船を一隻壊滅させた。

その後、仲間を身代わりに仕立て上げて世間一般的に「死んだ」と見せ掛けた。

 

シロップ村で過ごし、信頼を得た。

彼の言う平穏の為には足りないものがある。

 

「おれの生存を知る者達を生かしておく訳にはいかない」

 

クロの発言の意図を呑み込むのに時間が掛かった。

その意味するところは――――

 

「まさか、おれ達も!?」

「そんな!?」

 

船員が混乱している。

彼の計画にはクロネコ海賊団は“弊害になる。”

1人でもクロの生存を話してしまえば、海軍等から狙われる。

そうなっては平穏等は手に入ろう筈がない。

 

「何だお前ら。カッコわりい海賊団だな」

 

その様子を見ていたルフィが呆れた口調で放つ。

 

「知った風な口を利く」

 

偶然居合わせただけの男が何を言うのやら。

 

「所詮海賊なんて世間からはみ出した野良犬のかき集めだ」

 

クロという男にとって、船員は自分の計画を通す為の〝コマ〟という扱いでしか無い。

それ以上の価値など存在しない。

 

「お前がキャプテンで、何人の部下を従えようと、ウソップには勝てねェ」

 

「…………ほう? まさか海賊ごっこをしてる奴より下だと言われるとは思わなかった」

 

クロの話を聞き、ルフィの出した評価だった。

いくらなんでも聞き捨てならないとばかりにクロも話を返してしまう。

 

「名を揚げる事が怖くて海賊なんかやれるか」

 

「ふん、何も知らない奴がさっきからペラペラと良くほざく。

 まさか、それがあのホラ吹き小僧に勝てない理由だとか言わないよな?」

 

「そうだ」

 

あっさりと、ルフィはクロの言葉を認める。

しかし、クロからしてみれば面白い訳が無い。

平和な村で暮らして来た男がクロに勝てないと豪語する理由にどう繋がる?

 

たった今、ルフィが告げた内容はあくまでクロ個人の事だ。

ウソップが関わる要素が何処にある?

 

「支離滅裂な事を言う。結局、そんな事があのホラ吹き小僧に勝てない理由にどう繋がるってんだ。

 何が違うか、教えて貰おうか!!」

 

痺れを切らしたクロがルフィへ接近する。

いや、真正面からではない。

ルフィの視界から消えたのだ。

 

船員達はこのクロの移動法に〝抜き足〟と名付けている。

音も無く、瞬間移動したのかと勘違いする程の速さを有する。

そんな方法で移動されては目で追うのは困難だ。

 

これまでクロはこの移動法を武器に、数多の海賊と戦って死線を潜り抜けてきた。

目で追えず、気付いた頃には猫の手によって切り刻まれる――――筈だった。

 

「器だよ」

 

ルフィがクロへの切り返しをした瞬間、身体を反転させていた。

クロが背後を取っていた事に気が付いており、右腕を伸ばしてリーチを縮めて裏拳を叩き込む。

 

ルフィの告げた回答にクロは衝撃を受けた。

ウソップとの違いはまさか「器」だと言うではないか。

抜き足の速度に追いついた事も相まって、諸に喰らう。

側頭部を殴られ、脳がシェイクされる。

 

「何が器だ!! ふざけるな!!」

 

先程の発言が余程気に入らなかったのか、激高と共に再び距離を詰めようと走る。

今度は真正面から。

というのも、偶然か、ルフィの背後は村へ続く坂道の左右にある岩で出来た壁がある。

結果的に背後に回り込む選択肢が取れないのも大きな理由であった。

 

クロの突撃よりも速く、ルフィは地を蹴って懐へ飛び込んだ。

相手が息づく間も与えず、両腕を掴む。

 

「ふんッ、ぎィッ!!」

 

腕力だけでクロの身体を真上へ放り投げる。

 

「〝ゴムゴムのスタンプ〟!!」

 

右足を振り上げ、空中に放り投げられたクロの顔面にクリーンヒットする。

クロの意識が飛ぶ。

そこへルフィはすかさず腕を伸ばして襟首を掴む。

背負投げの要領で、岩で出来た壁へと投げ付けた。

 

「なっ」

「クロとやり合ってる!?」

「何なんだッ!?」

 

自分達の抹殺を言い渡した船長の強さを誰よりも船員達は理解している。

あの男はクロの動きにも付いていき、あまつさえ攻撃を当てている。

 

「クソ」

 

額から血が流れ、服も汚れている。

しかし、彼が忌み嫌う海賊時代が皮肉にも活きる形になった。

幾多の戦闘が彼の身体を頑丈さに拍車を掛けていた。

 

「おれの計画を邪魔してくれる」

 

「だから、お前じゃウソップには勝てやしないんだ」

 

「器が違うってか? 何がどう違うか言ってみろよ!!」

 

クロの言葉に被せる形で、ルフィは言い放つ。

当然ながらクロは納得しやしない。

ルフィの言う理由は先程から抽象的だ。

 

「おれはこの時の為に3年も掛けて計画を立ててきた!!

 完璧なものを用意した!!

 それを完遂する為の手駒も用意できる!!

 あんな〝ウソつき〟と格が違うだろうが!!」

 

「そうだな。〝ウソつき〟としてならお前は絶対にウソップより格下だ」

 

クロが並べる言葉の数々。

だがしかし――――ルフィの中ではそんなものよりもウソップの方が強いと判断する。

 

「何を、言ってる?」

 

「そのままの意味だ。〝ウソップのウソ〟と〝お前のウソ〟を一緒にするなよ」

 

「おれのウソだと!?」

 

ルフィの言葉からクロは疑問を隠せない。

いや、意味が分からないと言ったところか。

クロがウソを言っていたという。

 

「おれの影武者を立てた事、村にキャプテン・クロの名を隠していた事を言いたいみたいだな」

 

確かに、ルフィの発言は正鵠を射ている。

ウソつきという一点において、ウソップとクロは同じ事をしている。 

 

「だが、それがどうした?

 自分の計画を成功させる為に手を尽くす手段だ。

 おれはこの3年で村の信頼を得た」

 

クロは自らのしてきたウソで勝ち得たものは多い。

その最たるは信頼だと言える。

そして、これから得るのは長年待ち望んだ平穏である。

その為に「クロは死んだ」というウソを部下を利用して伝えたのだから。

現に海軍はクロの手配書は取り下げている。

 

「それに引き換え、あの小僧のウソは見栄を張ったものばかりだ。

 更には村の連中にも迷惑を掛けていた。

 その結果が今だ。

 声を大にしたところで誰も信用しなかっただろう?」

 

後から来たのは真実を知る事となったカヤ、ウソップ海賊団の子どもしか居ない。

彼を信用したのはあとはルフィ達だけなのだ。

 

「あいつのウソと、おれのウソ、どちらがより"上手く出来ていたのかは明白だろう?"」

 

結果的に多くの信頼を勝ち得たクロ。

最初は信用されず、偶然に信用されても数人しかいないウソップ。

どちらのウソが上手であったのかなど、議論の余地はあるまい。

 

「だから、お前はウソップに勝てないんだ」

 

「…………は???」

 

何がどうして「だから」という回答になるのか?

〝百計〟の二つ名を持つ頭脳を以てしても理解不能だ。

思わず、言葉が突いて出てしまう程であった。

そんなクロの混乱など知った事かと、ルフィは言葉を紡ぐ。

 

「ウソップのウソは皆の為なんだ」

 

ウソップ海賊団の面々が言っていた。

彼は決して他人が傷つくようなウソは言わない――――と。

 

こうも言っていた。

お嬢様の、カヤのところへウソを言いに行っているがそれが「立派」なのだと。

それは病気がちで動けないカヤを想っての行動なのだと。

 

そして今、昨日村に言い触らした〝真実〟をいつも通りの〝ウソ〟にする為に奮闘している。

 

「お前のは違う。

 自分勝手だ。

 自分の目的の為なら皆を平気で傷付ける」

 

自分の平穏の為に本人だとウソをつかせ、平気で仲間を犠牲にした。

そして今、クロのしてきたウソのせいで"ウソップの住む村が危険に晒されている。"

 

「誰かを助ける為にウソをつける男を、自分の為に他人を犠牲にするウソをつくお前なんかと同じにするなよ」

 

ウソを言うとかどうとかの話ではない。

ウソップのウソがクロのウソと同列で語られるのが嫌なだけだ。

 

「ははッ!! 言いたい事はそれだけか!!」

 

ルフィの言葉を受けたクロの返答はどこか怒りの感情が混ざっていた。

口では言い返しても、彼が恐らくは無自覚で繰り出した正論パンチにぐうの音も出ないのだろう。

 

ただ、そんな事は関係ない。

ここにいる邪魔者を全て排除すれば終わる話なのだから。

 

「さっきから言いたい放題の貴様に見せてやるよ」

 

腕を脱力させ、身体を小さく左右へブラブラと振る。

それを見た船員は騒ぎ始める。

 

後ろで何かを言っているが、ルフィはクロに集中する。

彼が何かを仕出かすつもりなのは分かっていたからだ。

 

「幾度となく死線を超えた……海賊の恐ろしさを」

 

瞬間、クロはこう叫ぶ。

 

 

 

 

 

「〝杓死(しゃくし)〟」

 

 

 

 

 

瞬きをする間もなく、クロの姿が消えた。

いや、違う。

これまでの戦闘から把握している。

素早く動いたのだ。

"まさしく目にも止まらぬ速さで。"

 

一体どこへ消えたのか?

ルフィの疑問はすぐに解消された。

 

 

 

 

 

背後にクロの船員が切られるという結果を用いる事で。

 

 

 

 

 

次々とクロの船員が切り刻まれていく。

極まれにルフィの身体にも切り傷が生まれる。

時には地面、岩の壁など。

 

この技はクロが高速で動いているが故に何を斬っているのかも把握できていない。

味方をも巻き込む大技だ。

 

とんでもない大技を隠していた。

だが、そんな事はどうでもいい。

自身の身が裂かれつつ、ルフィの視線は“そこ”から決して外す事が出来なかった。

 

「痛てェッ!! 痛てェよォッ!!」

「しゃがめ!!」

「止めろ!! 止めてくれ!!」

「助けてェッ!?」

 

村を襲撃しようとしたクロネコ海賊団は船長であるクロの手によって深手を負わされている。

船長の命で来た筈なのに、だ。

何という皮肉な話か。

 

悲鳴が木霊する。

悲痛な叫びが届く。

生き残ろうと必死になる。

命乞いをしている。

 

海賊団として、誇りも何も無いものだろう。

他人の海賊団であるし、ルフィもとやかく言うつもりはない。

それでも、憤怒の感情が腹の奥底からフツフツと湧き上がる。

誰に対して?

決まってる。

 

「出て来い執事!! お前は仲間を何だと思ってるんだ!!」

 

元凶であるクロに対して吠える。

自分の思想と噛み合わないのは理解出来ていた。

でも、それでも――――付いてきてくれる仲間への仕打ちがこれはあんまりではないか。

 

「とっ捕まえてやる!!」

 

しかし、クロの姿を目で追えていない。

どうすれば良い?

 

『そんなの何となくで良いんだよ』

 

ふと、思い出したのはヤソップの一言だ。

〝赤髪海賊団〟の狙撃手を担う彼はルフィからの問い掛けにそう答えた。

どういう内容なのか、今でも思い出せる。

動きの速い相手にどう当てるのかと聞いた時だ。

あの時は意味が分からなかった。

そんな事で捕まえる事が出来るのかと。

 

何となく――――それは適当に言っていた訳では無い。

確かに足音は聞こえない。

クロの移動はこれだけ移動に特化しつつも、悟らせないようにしているのだ。

 

『なら、状況を整理しろ。相手が能力者だろうと、とっ捕まえる方法は存在するんだからな』

 

またしても思い出すのはヤソップの言葉だ。

 

分かる事は姿が消えた訳では無い事だ。

現にルフィの身体を斬り付けているのだから。

能力者という線も無い。

今のルフィにクロを目で追い掛けるだけの力は持たない。

 

頼れるのはヤソップの助言だ。

そして、自分の直感である。

 

ルフィの身体をクロが斬り付けた――――その瞬間だった。

身体を左へ流される程の衝撃が起こる。

同時に麦わら帽子が落ちた事からも勢いは窺い知れる。

しかしこれは、斬り付けたと同時に"そこに居る事を白状しているに等しいものだ。"

 

直後、腕を左へ伸ばす。

ここで頼れるのは自分の直感。

そこに居るのだと"何となく理解した。"

それだけを頼りにクロの衣服を掴む事に成功した。

 

「何ッ!?」

 

「〝ゴムゴムのロケット〟!!!!」

 

ルフィのゴムの特性上、腕は伸ばされて居場所を教えているようなものだ。

そして、逃がさないとばかりに伸ばした腕を伸縮させながら自身がクロへ突っ込む弾丸と化す。

 

恐らく技を使った代償だ。

体力の消費、いきなり制止させられて状況を把握できなかったのも要因だろう。

ルフィの渾身の体当たりの直撃を受ける。

 

「ぐゥッ!? このォッ!?」

 

クロもまた意地で倒れる事はしなかった。

反撃をしようとルフィへ向き合う――――しかし。

 

「しししッ!! やってみろ足技!!」

 

クロを煽るルフィ。

彼はゴムの四肢をクロの四肢に巻き付けて身動きを封じていた。

 

「まさか!!」

「生きられる!!」

「頑張れ!! 麦わら!!」

 

「うるせえッ!!!!」

 

自分達の命が危険に脅かされている事から船長のクロに勝てそうなルフィを応援し始める。

そんなものは煩わしいだけだと、ルフィは叫ぶ。

一度、クロの顔面に頭突きをしてから勢いを付けて背後に居る船員の方へ首を伸ばす。

 

「お前らもぶっ飛ばしてやるからな!! 覚悟しとけ!!」

 

彼らの応援も生き残りたい一心のもの。

だが、彼らがしようとしていた事は褒められるものではない。

それに"彼と違って"戦おうと立ち上がりもしない連中に応援される筋合いはない。

 

「〝ゴムゴムの〟!!!!」

 

「有り得ない……おれの計画は……絶対に狂わない!!」

 

迫り来るルフィの頭。

これまで崩れる事の無かったクロの計画が壊れる音が聞こえた。

 

何処で間違えた?

カヤの両親が事故で亡くなった事か?

実力行使に出た事か?

かつて恐れられたからこそ1人のごときにへりくだるのを嫌ってプライドを捨てなかった事か?

 

いや、理由は明白だった。

ただ運が無かった。

 

たった1人の〝ウソつき〟に正体がバレた事。

これだけの強さの者が手助けした事。

そして――――

 

 

 

 

 

「鐘!!!!」

 

 

 

 

 

〝ウソつき〟の勇気に応えた者達が居た事だ。

 

刹那、想い浮かべたのは計画失敗の理由ではなかった。

決してへりくだるまいとしていたカヤの笑顔だった。

 

既に平穏を手にしていた事に気付いていた。

それを見て見ぬふりをしていたもの。

彼女の笑顔が眩しくて裏稼業に居た自分とのコンプレックスからのものだったのだろう。

 

きっと、羨ましくて、妬ましくて、目を逸らしていた目の前に既にあった〝平穏〟を彼は自ら放棄したのだと気付く。

 

その"気付くのが遅すぎた"結論に辿り着いた頃にはクロの意識は暗転していた。




如何でしたでしょうか?

初っ端のダイジェストはすいません。

原作との大きな相違点はありません。
ルフィとの戦闘で少し時間をズラしている点もあります。
あとルフィの言葉が過激だったものを自分なりにマイルドにしました。

さて、ここで前回あとがきで言っていた推しの子と原作を読み返していて思ったのはウソップはもちろんですが言葉を変えればクロもまた大ウソつきだという点です。

本編内でも語ったようにクロは「自分の死を偽装」つまりは「嘘をついている」という事です。
その後もシロップ村で自らの素性を隠して「クラハドール」という人物を演じている訳ですから、周りにウソの姿を見せています。

結果的にクロは村人やカヤ達からも信頼を勝ち得ています。
しかし、それは独りよがりの願いを叶える為のもの。

対するウソップはありのままの自分でウソを言い続けています。
普段はウソを言い続けたせいで、いざという時に信頼されなかったというのはクロとは対極に位置しています。
ですが、ごく一部の人は疑う事無く、信じてくれます。

クロとは異なるのは「誰かの為」が多いですね。
シロップ村編ではカヤを退屈させない為、クロネコ海賊団の襲撃の際にはあえてウソとする事でウソップ海賊団の面々を突き放して危険なところから遠ざけました。

その後でも、もちろん自分の為にしている事もありますが巡り巡って誰かを守り、助ける為のウソになっていたりします(特に戦闘シーンで)
原作でも彼のウソは〝願い〟が込められたものでもあると語られていました。
心がイケメンでお人よしの彼の根本には「誰かの為」が前面に出るという事でしょう。

そういう点ではクロとは真逆ですね。

そこのところはルフィに代弁して頂きました。
ありがとう、ルフィ。


さて、最後のクロの回想は知ってる方は知ってるかもですがアニメで追加されたものです。
カヤとの生活は楽しかったのもあるとは思います。

ですが、裕福な暮らしが約束されており、平和に暮らしているカヤへ劣等感を抱いている可能性は高いかと。
現にそのまま襲撃などせずにカヤとの信頼関係を築いて財産を手にすれば良かった訳ですから。

平穏は既にその場にあった訳ですが、彼の海賊時代のプライドの高さが要因かなという考察を呼んだのでそれを参考にさせて貰いました。

その果てに目の前に落ちていた平穏を見落とし、最終的にはルフィ達に阻止される結果に繋がってしまいました。



さて、あとがきを長々と書いてしまいましたのでこの辺で。
次回も殆どダイジェストになるかもですが、お楽しみに。


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もう仲間だろ?

どうもです。

今回の話は何となく察してるかもですが、短いです。

では続きをどうぞ。


かくして、クロネコ海賊団との戦闘は終わった。

クロ撃破後、彼の船員へ海賊王になる事を宣言して船長を投げ返す。

そして、シロップ村を生涯狙わないよう言い付ける。

 

「ゾロが居るから向こうは大丈夫だろ」

 

ゾロとウソップの安否を考えるだけ無駄だ。

何と言ってもゾロが居るから。

不安視するだけ無駄だ。

 

あとの事は何とかなるだろ――――そう思うと緊張の糸が切れる。

フラッと、身体が前のめりに倒れる。

 

「お疲れ様」

 

直前、ナミがルフィの身体を受け止める。

坂の上で仰向けに寝かせる。

無理矢理に動くにはルフィも、ナミも疲弊し過ぎていた。

 

「やっぱりそれだけ斬られたらあんたでも倒れるのね」

 

出血はしているが、致命傷とまで言わなかったのは本当に不幸中の幸い。

あれだけの戦いの後なのだから当たり前といえば当たり前だ。

 

「あいつら、間違ってる」

 

「間違ってるって…………」

 

ポツリと呟いた一言、その内容に察しが付いた。

きっと、ルフィが叫んでいた事と関係している。

 

それはバギーとの戦いにおいても言っていた。

仲間を蔑ろにする事を嫌っている節がある。

 

「海賊なんて、そんなものよ」

 

彼の麦わら帽子を傍らに置きながら残酷な話をさせて貰う。

これまで数多の海賊を見てきたナミの意見はルフィのものとは真っ向から対立する。

 

「腹減った〜」

 

「…………あんたね」

 

先程のナミの言葉を無視するようにルフィは告げる。

確かに腹の虫が空腹を訴え始めた。

ただ、これはあまりにもなタイミングだ。

 

彼との付き合いも慣れたもの。

呆れつつも彼らしいと、ナミは隣に座るだけだ。

 

「ねぇ、向こうは大丈夫かな?」

 

「大丈夫だ。ウソップが居るし、ゾロが付いてるからな」

 

ナミの疑問へそのように答えた。

ゾロは分かるのだが――――

 

「ウソップって、強いの?」

 

クロとの戦闘時の話は少し聞こえていた。

ナミはクロネコ海賊団の船に潜り込み、宝を奪っていた。

それを終えると船を離れて周り込んで近くに身を潜める。

その際に会話を聞いていたのだ。

 

「わる執事よりは」

 

「天下のキャプテン・クロにも勝てるって?」

 

「ああ、あいつは芯が強いからな」

 

「芯、ね」

 

答えを求めるよりも先にルフィの方から教えてくれる。

言い回しはシンプルながら、何となく分かった。

 

「要は心の強さ?」

 

「そんな感じだ」

 

「なるほど、ね」

 

そう言われると分からないでもない。

今回の一件を〝ウソ〟とする事で、余計な不安を村に与えないように配慮する。

 

その為に怖いと分かっていても彼は立ち上がった。

恐怖を呑み込みながら、孤軍奮闘するつもりだった。

“だからルフィは手を貸したんだと思う。”

 

彼なりの心の強さを見たから。

それこそが、誰かの為に立ち上がる強さを見せたから。

きっと、それを受けたからこそルフィとゾロはウソップの為に立ち上がった。

それはナミも同じ事だ。

 

「心が強いか……私にはちょっと分からないかも」

 

「何言ってんだ? ナミだって十分に強いだろ」

 

ナミのぼやきにルフィが待ったを掛ける。

それは納得がいかないと言っていた。

 

「私が?」

 

「理由は知らねェけど、誰かの為に金を集めてるんだろ?」

 

「…………私が欲しいから勝手にやってるだけよ」

 

返答には幾ばくかの間があった。

そこに何かしらの違和感を抱いても不思議ないが、ルフィは何も言わない。

気が付いていないのか、本当に何も気にしていないのか。

意外とこういうところは気を利かせてくれていると思うべきか。

 

「そっか、そういう事にしとく」

 

「あっそ」

 

ナミは麦わら帽子をルフィの顔の上に被せる。

それを被ろうと、上半身だけ起こす。

 

「待たせたな。こっちも終わったぜ」

 

丁度のタイミングでゾロが遅れて現れた。

ウソップ達が居ないが、今後の事をカヤとウソップ海賊団の面々に話している。

聞かなくともどうするつもりなのか想像が出来る。

今回の一件を無かった事にするのだ。

 

むやみやたらに村に恐怖を伝える必要も無い。

カヤには悪いとは思うが、これもまた村の為なのだ。

きっと、皆がウソップの意見を受け入れるだろう。

何だかんだと、彼は皆に慕われている。

こうして危険な場へと来てくれた事からも良く分かる。

 

「向こうはウソップに任せよう。それより腹が減った」

 

「同感だ。何か腹に入れたい」

 

「締まりがないわね」

 

2人の超人っぷりを把握してはいるが、こういうところは何ともマイペースだ。

それにルフィの言う通りで、これからの事はウソップ達に一任するしかない。

クロの言葉を借りたくはないが、自分達は所詮は部外者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ルフィ達は食事をしていると羊の髪型をしたメリーという人物が訪れた。

カヤお嬢様という呼び方から彼女の執事なのが窺える。

今回の一件を知る人物の1人である。

そんな彼から――正確には彼とカヤから報酬として、船を譲渡された。

キャラベル船という種類で、〝ゴーイングメリー号〟と名付けられている。

 

ルフィが操作説明を受けていたが、それはナミが代わりに受ける。

付き合いもそこそこなので、彼にそういった知識が皆無なので自分が聞いた方が早いと判断した。

まあ、近い内にどう動かすべきなのかは理解して貰うようだ。

今から説明する為に分かりやすくする方法を考えておかなければ。

手を組んでいる間柄だというのに、いつか自分が船を降りた時にどうするのか考えているのだろうか?

少しばかり不安になってきた。

 

当面の食糧は確保している。

クロネコ海賊団の財宝が早速役立った。

 

さて、出発しようかというタイミングでウソップが大荷物を持って"転がってきた。"

比喩などでは無く、リュックが大きくなって坂道でゴロゴロと転がってきた。

もう少し荷物を纏めるべきだった。

ただ、ここに殆ど荷造りもせずに海へ出ている無計画な船長と船員が2名程居るのだが――――知るのはこの場に居ないコビーだけ。

 

さて、荷物も入れたのでいざ出発と思っていたら脇でウソップが小船を用意していた。

 

「何してんだ?」

 

「何って、おれも海に出るんだ。この先で何処かで出会ったらまたよろしくな」

 

ウソップへ何をしているのかと問い掛けるルフィ。

どうやら彼も海へ出る決心を付けたらしい。

 

「何言ってんだよ。さっさと乗れよ」

 

「おれ達、もう仲間だろ?」

 

ゾロとルフィは「何を言ってるんだ?」との前提で話す。

ナミはこちらを静観するだけだ。

彼女は手を組んでいる間柄なのだから首を突っ込むつもりはない。

 

そして、声を掛けられたウソップは涙ぐむ。

彼にとってはとても嬉しい言葉だった。

いや、これは渡りに船だ。

それに、こうしてクロネコ海賊団を共に退けた彼等と冒険へ出るのは何かの縁だろう。

 

「キャプテンはおれだよな?」

 

「バカ言え!! おれだ!!」

 

こんなやり取りもあったが、船は無事に出航する。

 

数日後、帆に麦わら帽子にドクロマークのイラストが描かれた船が海を進む事になる。

〝海賊船ゴーイングメリー号〟が誕生するのであった。




如何でしたでしょうか?

原作との差異はありません。
グダグダと続けても意味無いのでサクッと終わらせました。

少しだけルフィとナミとの会話に付け加えている位ですね。

ウソップ海賊団の解散などは裏で行っています。
ウソップのウソの根幹に関しては原作を是非読んで下さい(放り投げました)

さて次回はバラティエ編です。
初っ端からダイジェストになるかもしれませんが、その時は許して下さい。

また時間が掛かるかと思いますが、これから書くのでしばしお待ちを。
では次回に。


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出会う

お待たせしました。

実は先々月程に怪我をしてしまいまして、投稿が遅れました。
今は殆ど回復しているのでゆったりまったりと書いていきます。

ではでは、続きをどうぞ。


海賊船 ゴーイングメリー号が誕生し、ルフィ達の航海も以前よりも快適なものとなった。

ただ、船の扱いに長けた者がナミしか居ないという大問題もあった。

とりあえずはナミが毎度指示を出す事で大きな被害に遭った試しはない。

 

「コックを仲間にしよう!!」

 

ある日、突如として提案したのはルフィだった。

曰く、旅はまだ続くのだからコックは必要不可欠な能力だ。

ナミも料理は出来るものの、やはり専門家には劣る。

食材の管理、配分といった事柄も必要となるのだから。

 

ルフィの食い意地の張った意見かとも思ったが、なかなか核心を突く。

 

「何でまた急に」

 

「この前の島で会ったおっさんのおでんが美味かったからな。それで思い付いた」

 

先日にウーナンという海賊を探すおでん屋を営む祖父の岩蔵と孫のトビオと出会った。

何でも岩蔵は彼におでんを食わせたいという変わった目的で探しているようだ。

ウーナンは黄金を集めており、何処かの島に隠したという噂が流れる。

黄金もだが、ウーナンを仲間にしたいとルフィ達も探す事になる。

同じ時期にウーナンの黄金を探しているというエルドラゴと激突する。

 

結果的にウーナンは故人となっており、おでんを食わせる事はできなかった。

だが、岩蔵とウーナンにしか分からない“何か”があって一応の終着点は見えた。

 

そんな一幕があった訳だが、ルフィはその時に食べたおでんの味が忘れられない。

おでんだけで言うなら世界一と評しても過言ではない程の出来だった。

岩蔵作のおでんは置いておいても、この先コックの能力は必要不可欠だ。

何せここの船長の胃袋は凄まじく、放っておくと食料を尽きさせてしまう。

 

他のメンバーも異論はないようだ。

しかしながらそう都合良く料理人が見付かるだろうか?

仲間になるかどうかも不明であるし、有言実行が可能なのかは難しいとナミは判断していた。

 

結論から述べよう。

その都合の良い事は起きた。

 

航海の最中にヨサクとジョニーというゾロの顔馴染みの賞金稼ぎに出会った。

彼等の話でこの先に〝バラティエ〟という海上レストランがあるとの事だ。

 

平たく言えば店が船のレストランだ。

そこには“訳あり”のコック達が働いている。

その“訳あり”には元々海賊だったりと、チンピラ上がりの面々が働いている。

 

ルフィも食事をすると同時にコックを仲間にしようと言い出した。

こうなっては仕方無いと進路をバラティエへ定めた。

 

無事にバラティエに到着――――とはならなかった。

途中、海軍が砲撃をしてきた。

ルフィがお得意の〝ゴムゴムの風船〟で跳ね返したまでは良かった。

 

跳ね返した先がバラティエの、しかも店長である人物の部屋だったの言うのだから大問題だった。

バラティエは二階建ての船で、お客の方には何の問題も無さそうだ。

 

しかしながら、店長の部屋は外から丸見えな程に大穴が出来上がった。

ルフィは「謝ってくる!!」とバラティエへ突撃していった。

 

「海軍のせいにしちゃえば良かったのに…………バカ正直なんだから」

 

わざわざ被害を出した相手に謝罪へ赴く海賊が居てたまるかと声を大にしたい。

最終的にルフィに非があったとして、要因の1つは間違い無く海軍にもある。

 

ただ、海賊旗を見て攻撃を仕掛けたともなると海軍側の意見が成立しそうなのが腹立たしい。

海賊と海軍を比較したらどちらの方の意見を鵜呑みにするのかは火を見るよりも明らかだ。

それでも逃走する選択肢もあったのだが、ルフィの辞書には「逃げる」の文字は無いようだ。

 

「タダ働きでもさせられるか? 1ヶ月くらい」

 

「料理食べに行きがてら見に行こうぜ」

 

「そうね」

 

全会一致で海上レストラン バラティエへ行く事に。

食事に有り付く事も然ることながら、“あの”ルフィの働きっぷりが如何程のものか気になる。

 

失礼を承知で言うが、まともに働く姿が思い浮かばない。

皿洗い等の雑用を言い渡されたとして、皿を割っていそうだ。

ウェイターをやらせても注文した料理を勝手に食べてしまいそうだ。

 

どれだけの騒ぎになっているか、野次馬根性丸出しでバラティエへと赴く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!! 雑用!! 1番テーブルに運べ!!」

「雑用、客が来たぞ!! 空いてるテーブルに案内しろ!!」

「終わったら裏で皿洗い頼むぞ雑用!!」

 

店内へ赴いたゾロ、ナミ、ウソップ。

雑用と呼ばれるルフィがどれだけ他人に迷惑を掛けているのかと思いつつ、入店した。

 

どうせルフィの事だからろくに仕事も出来ないだろうと高を括っていた。

その想像を遥かに上回る働きっぷりをルフィは見せていた。

 

「ルフィが働けてる!?」

 

「ウソッ!? 信じられない……」

 

「意外なもんだな」

 

ウソップとナミが驚きに目を見開かせ、ゾロは感心している。

注文を取りに行き、料理の運搬も行えている。

正直、他人の料理を食べてしまいそうな程に食い意地の張った彼を知る身としては信じ難い光景だ。

 

「注文良いですか?」

 

「おう。良いぞ」

 

おおよそ店員とは思えない言動をしながらルフィはお客へ近付く。

メニューとにらめっこしながら注文を続けていくお客。

 

「これとか美味かったから食ってみろよ!!」

 

「そんなに美味しいのかい? それならこれも追加で頼もう」

 

唾液が出そうな程に舌を伸ばし、幸せそうな顔で告げるルフィ。

オーダーを取っている店員がオススメの料理を伝える事はあるが、まさかルフィまでその手法を取るとは思わなかった。

 

ルフィの表情からお客も注文をする事を決意している。

それだけ美味しそうな表情を作っていれば気になるのも致し方無い。

まるで今さっき食べてきたばかりの生の感想のようで、お客にとっても興味を惹かれる。

実際、さっき裏で食べていたので正確なのは間違い無い訳なのだが。

彼の美味しそうな表情に釣られ、追加注文をする客が後を絶たない。

 

「よう!! お前ら!!」

 

着席しているゾロ達に気付くと、ルフィはメモ帳を持って近付いてくる。

いつもの格好にエプロンを着用している。

 

「何というか、意外だったわ」

 

「何がだ?」

 

近付いたルフィへの開口一番がそれだった。

当の張本人はと言えば、投げ掛けられた言葉に首を傾げるのみ。

 

「おまえがレストランの仕事が出来てる事に驚いてるんだよ」

 

「昔どっちが店の手伝いをできるのかって勝負をしたからな。その時に覚えたんだ」

 

店の手伝いが勝負になるのだろうか、果たして結果をどう決めるのかという疑問はさておき、ルフィの意外過ぎる一面を見た気がする。

 

「それより、何を食うんだ?」

 

ルフィは気を取り直し、料理の注文を行う。

彼の意外な特技に面食らいつつも、メニューとにらめっこし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルフィが仕事をしている間も食事を続けていた。

しばらくすると休憩にでも入ったのか、こちらへ近付いて来た。

その時の彼は笑顔で、何か良い事があったのを示唆している。

話を聞くと――――

 

「良いコックを見付けたんだ」

 

ししし――――そう笑いながらルフィは告げる。

確かに麦わらの一味にとっても必要不可欠な役職である。

連れて行くか否かの最終決定権はルフィにある。

彼のお眼鏡にかなうとは――――運が良いのか悪いのか。

 

 

「っで? そいつは仲間になるのか?」

 

「おう。仲間なってくれたんだ」

 

「勝手に仲間にしてんじゃねェよ」

 

ルフィのお眼鏡にかなった人物がこの場に現れる。

髪は金髪。前髪を長く伸ばし、左目を隠している。

眉毛は右は眉尻が渦状にカールを描いており、薄っすらと顎髭を蓄えている黒いダブルスーツに黒革靴を履いたフォーマルな出で立ちのこの船では若い男だ。

 

「私は副店長のサンジです。お近づきの印に、私からのサービスです」

 

「あら、ありがとう」

 

「おい!! こっちには何も無しか!!」

 

「何事もレディ優先だ」

 

傍目から見ても分かりやすい程に女性贔屓している。

この一味の紅一点のナミにデレデレしており、ウソップから言われるも何処吹く風と相手にもしない。

 

この後にサンジのデレデレした姿に呆れたバラティエのオーナーであるゼフが「いっそ海賊になっちまえ」と言っていた。

しかし、辞めるつもりはないとサンジは宣言する。

先程まで女性にデレデレしていた彼と同一人物なのかと疑ってしまう。

彼とゼフの間に何かあったと考えるのが必然であろう。

 

「何か知んねェけど、色々あんだなァ…………もぐもぐ」

 

「コラァッ!! おれの分を勝手に食ってんじゃねェよ!!」

 

客に出した筈の料理をルフィは手掴みでワイルドに食べる。

被害者のウソップは文句を言い付ける。

 

「そういや、海軍に捕まってた海賊がここへ逃げたとか聞いたな」

 

ゾロが割り込む形でルフィに聞く。

それを受けて「ああ」と端的に答えて頷く。

 

「さっきの奴が飯を食わせてやってたんだ」

 

「なるほどな」

 

この船長はそのシーンを見ただけでサンジとやらに惚れ込んで勧誘したのだ。

見たところ、本人は拒否しているみたいだが。

まあ、我が儘が服を着ているような少年に対して言ったところで聞く耳持たずだろう。

 

そう呆れている時だった。

 

「ここか? 飯を食わせてくれるって店は?」

 

そこへ入店した2人の男だ。

バンダナをした小柄な男と金色の鎧を纏う大男。

大男の方が小柄な男に肩を貸してもらいながらようやく歩いている状態だ。

 

「あいつ、さっきの」

 

「ギン…………そいつがクリークって奴か」

 

小柄な男――――ギンは先程にバラティエへ来ていた。

食事を所望したが、ギンが悪名高い海賊の一員だった事から追い出される結果に。

その後に裏でサンジから食事を提供され、ルフィがそれを見て気に入ったという流れがあったりする。

 

話を戻すと、ギンはクリークという男が船長を率いる海賊団の一員だった。

クリークは金色の鎧を纏う大男である。

しかし、随分と弱っているのが様子から見て取れる。

 

クリークの出現は誰も好意的に捉える訳がない。

弱っているのであれば、この場で仕留めて海軍へ引き渡した方が利口――――――だというのに、

 

「食え」

 

そんな思考へ至る筈なのに、それを蹴飛ばしてクリークの前へ食事を運んだのは件のサンジだった。

結果、バラティエの面々から顰蹙を買い、更にはクリークからは食事の礼とばかりにラリアットを喰らわされる始末だ。

 

「良い船だな。おれが貰おう」

 

不敵に笑いながらクリークは告げる。

その様子を見て、バラティエの面々の怒りは頂点に達した。

各々武器を取り、クリークへと突撃していく。

 

「そんな兵力で勝てると思うな!!」

 

金色の鎧の隙間から銃口が覗く。

直後、弾丸の雨が横殴りにバラティエのメンバーへ襲い掛かる。

致命傷こそ無かったが、それでもまともに動ける程に軽くもない。

 

「ったく、船を寄越せとか言う癖に店内で暴れてるんじゃねェよ」

 

そう言いながら“何か”をクリークの前へ放り投げられる。

行ったのはバラティエの店長のゼフだ。

 

「ほれ、持ってけ。〝偉大なる航路(グランドライン)〟の落ち武者よ」

 

放り投げたのは袋。

それも身の丈を超える程の量の入ったものだった。

 

そんな店長の行動に面喰らったのはサンジ以外のバラティエの面々だった。

何故、そのような真似をするのか…………理由は不明だった。

だから、店員はゼフへと問い掛ける。

 

「ゼフ…………だと?」

 

目前のクリークは「ゼフ」の名に反応した。

その理由は、簡単に言うならゼフはかつて〝偉大なる航路(グランドライン)〟で〝赫足〟の異名を持つ有名な海賊だと語られる。

 

「この船を頂くだけのつもりだったが、おまえが居るなら話は変わる。

 〝偉大なる航路(グランドライン)〟を航海していた時の「航海日誌」も頂こう!!」

 

クリークは50隻の船と5000の兵力を有する海賊艦隊の提督だ。

これは〝東の海(イーストブルー)〟では最大勢力である。

 

それだけの勢力であるならば〝偉大なる航路(グランドライン)〟だろうとも通用する――――筈だった。

彼は〝偉大なる航路(グランドライン)〟に突入したと同時に〝何者か〟に襲撃され、敗走せざるを得ない状況にまで追い込まれる。

 

「兵力は足りていた。だが、圧倒的に〝情報〟が足りていなかった」

 

それこそが敗走の原因であると分析する。

未知への対処をする為にも〝偉大なる航路(グランドライン)〟の情報源が目の前にぶら下がっているのならば、それを手に入れない手はない。

 

「渡すつもりはない。あれはおれと仲間達をわかつ誇りだ。

 おまえに渡すには少々重すぎる」

 

「なら、奪うまでだ」

 

渡すつもりがないのであれば実力行使に出るまで。

海賊らしい思考回路だ。

そんな暴論をバラティエの面々が許す筈もない。

確かに返り討ちにあいこそしたが、この場所を譲る気など毛頭ないのだから。

彼らの選択肢はただ1つ――――戦う、それだけだ。

 

「確かに〝偉大なる航路(グランドライン)〟から落ちたが、おまえらごときの兵力で勝てると思うな」

 

偉大なる航路(グランドライン)〟から落ちた――――それは事実だ。

だが、言い換えるならばクリークは〝偉大なる航路(グランドライン)〟へ"入れる程の実力を持ち合わせているとも言える。"

 

「この船を足掛かりに兵力を整え、再び〝偉大なる航路(グランドライン)〟へ行く!!

 そして、このおれが〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟を手に入れてこの大海賊時代の頂点に立つ!!!!」

 

 

 

 

 

「ちょっと待て!! 海賊王になるのはおれだ!!!!」

 

 

 

 

 

クリークの宣言に水を掛けるように割って入る声があった。

前へ躍り出たのはルフィである。

 

「お、おい……」

 

バラティエの面々が引くように言う。

しかし、ルフィは首を横に振る。

 

「引けないねェ。ここだけは」

 

クリークを眼前にし、尚もルフィの答えは揺るがない。

両者互いに目を逸らさない。

睨み合いの膠着状態だったが――――

 

「何だルフィ、戦闘か? 手を貸すぜ」

 

まだ席に着いていたゾロが横から訊ねる。

ウソップも何食わぬ顔で居るが、ゾロが発言する直前に「止めておこうぜ」と小声で言っていたので内心でビビり散らかしている。

ナミの姿が見当たらないが、恐らくは船に戻ったのだろう。

 

「ゾロ、ウソップ、居たのか。良いよ、手ェ出さなくて」

 

クリークとは同じ目標を持つ者同士。

いずれはぶつかる相手であるのならば、彼とはルフィ自身が戦うべきだと判断した。

 

「それがおまえの仲間か? 随分とささやかだな?」

 

「何言ってんだ!! あと2人居る!!」

 

「それ、おれを入れてるだろ」

 

ルフィの発言に勝手に仲間にされているサンジは物申す。

ここには居ないがナミも聞いていれば「手を組んでいるだけで仲間じゃないわよ」と言いそうだ。

 

「5000で挑んでも〝偉大なる航路(グランドライン)〟は越えられなかった。

 たった5人で越えられると思っているのか?」

 

「何とかなるんじゃねェか?」

 

「呑気だな。あと、おまえもおれを勝手に頭数に入れてるんじゃねェよ」

 

先程から否定しているというのに敵側のクリークからもサンジはルフィの仲間にカウントされている。

こんな不条理が許されてたまるかと抗議の声を上げるも誰も取り合ってくれない。

ルフィの楽観的な考えは分からないでもないが、きっと仲間になった日には苦労する未来が見えた。

 

「まあ、おれの言う事を聞かないのも織り込み済みだ。

 考える時間を与えてやりたかったが…………そうもいかなくなったんでな」

 

「まさか、〝首領(ドン)〟。ここに……」

 

「ああ。部下を乗せた船がここへ到着する」

 

クリークの起こそうとしている事に真っ先に気が付いたギンはクリークへ訊ねると、既に行動に移していた事が判明する。

こうなる事はギンからバラティエの特徴を聞いた時点で察していたようだ。

だから、交渉とは裏腹に最初から戦闘態勢を整えていたという訳だ。

 

「おれの船ももう限界が近くてな。悪いが、さっさと奪わせて貰おうか」

 

バラティエの扉越し、そこから巨大な船が見えた。

あれがクリークの船だと把握するのに考える時間は不要だ。

 

「行くぞギン」

 

「待て!! 逃げんのか!!」

 

「慌てるな。戦うのにも準備ってものがある。おまえらを潰す為の武器を用意してきてやるから待っていろ」

 

クリークは万全の状態で戦いを挑む。

その為にも一時、船へ戻って態勢を整える必要性があった。

 

ギンとクリークは乗ってきただろう小船へと乗り込む。

戦力が無いと言うなら止めるのは今――――なのだが、残念な事に悲しいかなバラティエの面々では実力不足も相まって深追いできない。

そうでなくてもゼフが止めているので動けないのだが。

 

しかしながら、数の上では圧倒的に負けている。

このまま敵が雪崩れ込んで来れば敗北は濃厚だ。

クリークが船へ戻っていくのを黙って指を加えて見ていた――――その最中だった。

 

 

 

 

 

クリークの巨大な船が真ん中から真っ二つに割れたのだ。

 

 

 

 

ドッバァァァンッ!!

 

凄まじい轟音と共にかつて船だったものが数多の木片へと変貌を遂げる。

クリークは船の老朽化を疑ったが、そんな割れ方ではない。

クリークの船員は壊れた木片に捕まり、全員無事だ。

まるで何者かの手によって船が割られたかのような…………

 

「うわぁっ!?」

 

船が割れた余波で大きな波が発生する。

それはバラティエの船体をも大きく揺らすものだった。

 

「今の内に客を裏口へ案内して避難させとけ」

 

「は、はい!!」

 

客はまだ残っている。

避難させるようにゼフが指示を飛ばす。

 

「ルフィ、あいつらと一戦交えるんだろ?」

 

「ああ、どうせいつかはぶつかるんだ。遅いか早いかだしな」

 

「よし!! おまえらに任せた!! おれは援護に回る!!」

 

既に臨戦態勢のルフィとゾロは船外へ出る。

続いてウソップが足を震わせながら良いポジションを確保する。

木片が散らばった結果、海上に数多くの足場が用意されている。

〝悪魔の実〟の能力者であるルフィでも十分に戦えるだろう。

 

「ゾ、ゾロの兄貴!! ルフィの兄貴!! ウソップの兄貴も!!」

 

バラティエの真下、何故か小船に乗るヨサクとジョニーがそこには居た。

彼らはゴーイングメリー号に乗っていた筈なのだが…………どうしてここへ? それも小船に?

その疑問は彼らの放った一言で判明する。

 

「ナミの姉貴が船を奪って何処かに行ってしまいました!!」

 

「「「な、何だってェーーーーーーッ!!!!」」」

 

この状況、どさくさに紛れてナミはとんでもない事をしていた。

確かに彼女は手を組んでいる間柄だと再三告げていた。

ルフィは既に仲間意識で居たようだが、やはり彼女の方は別だった。

 

「おい、ゾロ、ウソップ。ナミを追ってくれ」

 

「放っておけよ」

 

「いや、メリー号は返して貰わなきゃだろ」

 

ルフィは即座に追うように指示を飛ばすも、ゾロはそれを拒否する。

横でウソップが言っているが、それもその通りだ。

 

ナミの行為は明らかに裏切り行為だ。

手を組むと言う関係性ではあっても、この行動は見限っても仕方の無い行動。

それなのに彼女の為に動く道理はないとゾロは主張する。

 

「おれはあいつが航海士じゃないと、嫌だ!!」

 

しかし、ルフィの理由はシンプルなものだった。

彼の航海には"ナミが居てくれないと困るというものだ。"

 

「はあ、分かったよ。行くぞウソップ」

 

「お、おう」

 

ルフィはバラティエの一件もある。

それにクリークとの決着も付ける必要がある。

なので、この場に残る必要がある。

 

「お前ら、今の内に〝ヒレ〟を出しとけ。この船を戦場にする訳にはいかねェからな」

 

後ろでサンジが指示を出している。

ややあって、波が収まると同時に船体の脇からだだっ広い分厚い木の板が出てきた。

ここを主戦場としようという事か。

 

「おい、船を壊したのはあいつじゃないか?」

 

その最中、クリークの船員がある一点を指差す。

そこには小型のボートが漂っていた。

棺船と呼ばれるものに1人乗っている人物が居た。

 

色白肌に黒髪、「く」の字を描くように整えられた口ひげとモミアゲ、独特の模様を描いた金色の瞳と鷹を彷彿とさせる鋭い目つきが特徴の男性。

羽飾りのついた大きな帽子に、裏地や袖にペイズリー風の模様のあしらわれた赤と黒地のロングコート、白いタイトパンツにロングブーツという、西洋の上流階級のような出で立ちをしている。

極め付けは彼の背の丈を超える巨大な刀剣が背負われている。

 

「あいつは…………まさか!! 〝鷹の目〟!!」

 

その男の登場に一番に驚きを見せていたのはクリーク達でも、バラティエの面々でもない――――ゾロであった。

 

「〝鷹の目〟って、確か世界最強の剣豪じゃ…………」

 

ゾロの告げた異名に反応したのはウソップ。

辺境の島にさえ届く異名の意味を正しく理解している。

それこそ彼が言った「世界最強の剣豪」という分かりやすい意味が込められている。

 

彼が〝鷹の目〟というのはクリークを始め、この場の全員が気付いた。

だが、そんな彼が何故〝東の海(イーストブルー)〟にまで来ている?

 

「わざわざ〝偉大なる航路(グランドライン)〟まで追ってきたのか!! 何故おれたちを襲った!!」

 

そう叫んだのはクリーク。

それに彼らを追い込んだのは他でもない〝鷹の目〟と呼ばれたあの男のようだ。

クリークの問いに対し、〝鷹の目〟はクリークの方を一瞥する事もなく答えた。

 

「暇つぶし」

 

たった一言。

しかも、内容はかなり横暴なものだ。

 

「そんな事で…………ッ!?」

 

「それだけじゃない。昼寝をしていたんだが、寝起きの運動をするのにも最適だったのもあるな」

 

どちらにせよ理不尽な事に変わりはない。

一度ならず二度までも被害に遭ったのだから怒りの感情が発生するのも無理ない話だ。

 

「それにここへ来たのは別の用事があったからだ」

 

〝鷹の目〟はその場で立ち上がる。

棺船を蹴り、思いっきり跳躍する。

辿り着いたのはバラティエの船、正確にはルフィの隣だ。

 

「久しいな。ゴムの少年」

 

「やっぱり!! 鷹のおっさんだったか!! ひッさしぶりだな~~~ッ!!」

 

先程までの剣呑な空気は何処へやら。

旧友と言えてしまう程の間柄だと分かる会話が成り立っていた。

 

「何だ、2人は知り合いだったのか?」

 

「ああ、子どもの頃に立ち寄った島で迷子になった事があってさ。その時に鷹のおっさんに助けて貰ったんだ」

 

異名の頭文字を取ったあだ名を付けられているが〝鷹の目〟は何も言わない。

昔に会ったと言うが、〝鷹の目〟の方から親しげにしている辺り本当の事なのだろう。

 

「その呼び方も懐かしいな」 

 

「〝鷹の目〟だっけ? そう呼ばれてたんだな」

 

子どもの頃に出会ったからなのか、〝鷹の目〟という言葉を使う機会も無かっただろう。

ルフィからしたら仕方無い事だが、今その異名を覚えた。

 

「ところで、あの時の少女も一緒か?」

 

「ウタか? ウタならシャンクスと一緒だ」

 

「何? 〝赤髪〟の船だと? それは妙だな」

 

当時、ルフィはウタと共に居た。

なので〝鷹の目〟もウタの事は知っている。

しかし、シャンクスの船に居ると告げた瞬間に〝鷹の目〟は逡巡する。

どうやら今の発言に引っ掛かりがあったようだ。

 

「今だ!!」

 

のんびりとルフィと話す〝鷹の目〟を狙って、クリークの部下が銃を発砲する。

狙いは寸分違わずに彼の方へ真っ直ぐに向かっていった。

 

しかし、〝鷹の目〟は慌てる事無く背負っている巨大な刀剣を抜く。

刀剣の名前は『夜』。

世界でも最も高評価を受けている刀剣で、最上大業物12工と呼ばれる中の1つだ。

それを引き抜き、『夜』の切っ先を僅かに横へ動かす。

 

たったそれだけの動作。

それだけで放たれた弾丸は軌道をズラされる。

頭上に広がる空の方向へと弾丸は何処かへ跳んでいった。

 

『…………ッ!?』

 

この場の大半が息を呑む。

弾丸が当たらなかった事を不思議に思う者が殆どだ。

そんな中、彼の人並外れた技術に気付く者も居る。

 

「おれはお前に会う為に海へ出たんだ」

 

たったあれだけの所作で実力を知れた筈だ。

これから〝鷹の目〟へ、『世界最強』の称号を持つ筈の者へ、まるで挑戦するかのような入りを行う者が居た。

既に彼はバラティエの出した〝ヒレ〟の上に立っていた。

 

「何を目指す?」

 

「最強!!」

 

獰猛な笑みを浮かべ、気合を入れる動作か額に手拭いを巻く。

 

「暇なんだろ? 勝負しようぜ」

 

彼は最初から挑むつもりでいた。

その為に勝負を申し出た。

 

「いっぱしの剣士であれば剣を交えるまでもなく、おれとぬしとの力の差を見抜けよう」

 

〝鷹の目〟の言葉は『確信』を持っての事だろう。

真実として『世界最強』の称号を有する彼と挑戦者の間には大きな差がある。

 

「このおれに刃を突き立てる勇気はおのれの心力か…………はたまた無知なるゆえか」

 

〝鷹の目〟もまた同じ舞台へと降り立つ。

挑戦者は腰に挿している3本の刀を両手、そして口へと装備する。

その姿を見て、挑戦者が〝海賊狩り〟の異名を持つ男だとこの場の誰もが気付く。

 

空気が変化するのを肌で感じる。

〝鷹の目〟程ではないにせよ、この海でも〝海賊狩り〟の異名は轟いている。

どちらが勝つのか…………注目が集まるのは当然であると言えた。

 

「おれの野望ゆえ。そして親友との約束の為だ」

 

挑戦者――――〝海賊狩り〟ロロノア・ゾロが『世界最強』に挑む。

もう今は居ない親友(くいな)との約束を果たす為にも。

 

「哀れなり。弱き者よ」

 

しかし、彼の意気込みさえ『世界最強』は蔑む。

 

隔絶した強さを持つ事を認識さえ出来ない相手だと思うと、"可哀そうなものを見る目になった。”




如何でしたでしょうか?

開幕の降りは初代ワンピースの映画のものです。
丁度挟める内容だったのでツッコミました。

バラティエ編もすんごい駆け足で進みました。
元々ササッと終わらせる予定でしたので、バラティエ編もあと2回程で終われればなと思ってます。

さて、今回は色々と言い回しや展開などに前後が見られますね。
ミホークの名前は出てはいましたが、この場では〝鷹の目〟で統一してます。
まだ名乗っていませんので。

最後のミホークの言葉はゾロが勝負を挑んだ直後の発言でしたが、後のミホークの活躍を思うと、ゾロの挑戦は本当に無謀に見えているのだろうと思えますのであえて強調させたくて後回しに。
手加減されなかったら命を落としていてルフィの今の航海も終了していたでしょうから。

ミホークの昼寝の件は実写版のものです。
作者は観れていませんが、話だけは聞きましたので入れてみました。

そしてミホークといえば「ルフィと出会っている」というまさかの展開に。
これはバラティエ編後に番外編で書く予定ですので、しばしお待ちを。
そして何やらミホークは何か疑問を持っていたようですがはたして?

あと本編内では書きませんでしたが、原作通りにルフィはミホークとシャンクスに面識がある事を知りません。
その上でシャンクスの名前を出しています。
ルフィらしいですね。

一方、ミホークはシャンクスから聞いていたのでルフィの事を一方的に知っているのも原作通りですね。


さて、今しばらく亀更新が続く事を許して下さい。
では、また次回に。


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