生徒会変態共! (真田蟲)
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一人目

この作品は当初、4コマをssにしたらの練習作品だったので、短編が一話にいくつも含まれている形式になっています。
そういうのは駄目ーって人はブラウザバックを推奨します。


私立桜才学園。

元は伝統ある女子高だったが近年の少子化の影響で今年から共学化。

その生徒数の比率・・・女子524人男子28人。

これはそこに入学して、かくかくしかじかな理由から生徒会に入ることになった少年と、

彼を取り巻く人間たちとの青春の物語である。

 

 

 

 

 

【津田タカトシ】        

 

津田タカトシ。

高校に入学したばかりの少年である。

女子ばかりの学校に入学し、これまた女子ばかりの生徒会に入ることになった生徒である。

日本人らしい黒髪をしており、並はずれた美形ではないがなかなかに整った顔をしている。

身長も平均よりは高く、少々面倒くさがりという性格をした少年。

なんというかギャルゲーの主人公みたいな人間である。

これだけを言えば町を探せばどこにでもいそうな少年だ。

まぁギャルゲーの主人公って大概そんなものだろう。そういう設定にありそうな外見だ。

ただし、普通と違うところもある。それが問題なのだ。

生徒会の同じ役員である少女と校門から校舎までを歩いていた津田。

そんな時、さわやかな風が二人の頬を撫でた。

津田の少し前を歩いていた少女のスカートがふわりと舞い上がる。

黒のタイツに包まれた美脚と、その下にある子供っぽいショーツが露わになる。

あわててスカートを押さえる少女。

 

「み、見た……?」

 

顔を赤くし、津田に問いかける。

しかし津田はどこか悔しそうな顔をしている。

見えなかったのか?と思ったが、どうやら違ったようだ。

 

「見てない……むしろ萩村には見せたい」

 

そう言っていきなりズボンのチャックを降ろした。

ごそごそとチャックの中に手を入れて中身を取り出そうとする津田。

 

「……フン!!」

 

「あふん!?」

 

萩村と呼ばれた少女はおもいっきり津田の股間を蹴り上げた。

股間をおさえ崩れ落ちる津田。その顔はとても満足そうだった。

 

「そこで一生うずくまってろ……変態」

 

萩村は蔑むような眼で地面に寝転ぶ津田を見下ろしていた。

その視線に恍惚の表情を浮かべる15歳。

彼の普通とは違うところ……それは彼がどうしようもなく変態であるということだ。

 

 

 

 

 

【天草シノ】

 

天草シノ。

桜才学園の二年生であり現在の生徒会長である。

濡れ羽色をした黒髪をまっすぐに伸ばし、すらりとした肢体をもつ美人だ。

凛とした雰囲気を醸し出す姿は、まさに日本人が考える大和撫子といった感じか。

品行方正、才色兼備、文武両道。

何をやらせても人並み以上にこなし、面倒見もよく人望も厚い。

まさに漫画の登場人物のようなできすぎた生徒会長である。

 

「あの、会長。このプリントは―」

 

今も生徒会に入ったばかりの津田に仕事を教えているところだった。

さっそくわからないことを天草に確認しようとした津田。

しかし彼の立ち位置が気に入らなかったらしい。

 

「君は私の右腕なんだから右側に立て!!」

 

「がふ!?」

 

彼女の左側に立ってしまった津田は、思い切り頬を平手打ちされる。

生徒会室に肌をうつ乾いた音が鳴り響いた。

椅子を巻き込み床に叩きつけられる。

はたかれた頬に手を当て、起き上がる津田。

その顔はどこか嬉しそうだった。

 

「大丈夫ですよ会長。俺のは一応右向きです」

 

そう言って己の股間を凝視する。

彼は言葉の意味を少し間違えて理解していた。

 

「……なら良し!」

 

彼の言葉の真意を正しく理解した彼女は満足げにうなずいた。

シノは思春期な生徒である。

 

 

 

【七条アリア】

 

七条アリア。

現在二年生の生徒会役員。書記を務める。

茶色のかかった長い髪にうすくウェーブをかけた髪型をしている。

七条グループだか七条財閥だか知らないが、実家はどえらいお金持ちのお嬢様である。

性格は気立ても良く人あたりもいい。天然ぎみなのがポイントだ。

生徒会一の、というよりも津田の周囲のなかではダントツで大きい胸をもつ。

運動神経もよく、おまけに勉強までできる。

絵にかいたようなお嬢様で、キャラとしては無駄に属性の多い人物である。

 

「津田君、もう生徒会には慣れた?」

 

今は生徒会室で津田と二人、資料の整理をしていた。

入ったばかりの津田を気遣って問いかけるアリア。

 

「う~ん、ここの皆とは慣れたんですが……仕事はなかなか……」

 

「あら、何か難しい?」

 

アリアの問いに頭を掻いて答える津田の言葉は歯切れが悪かった。

何か問題があるのかとアリアは気になった。

 

「いえ、たいした問題じゃないんですが。

 会長は責任者。書記は会議内容を議録をつけたり、会計は予算の計算。

 役職名からやることはなんとなく分かるんですが……

 副会長って何やればいいんでしょう?」

 

津田は自身の副会長の役職が普段何をすればいいのか未だに解らなかったのだ。

津田の言葉を聞いてアリアは成程、と思う。

確かに生徒会という役職の中で副会長は役職名からははっきりと仕事がわからない。

また、これといって決まった仕事が割り振られいている役職でないのも確かだ。

 

「そうね~、会長の補佐役なんだからシノちゃんが困った時に手を貸してあげたら?」

 

「会長の補佐ですか」

 

「うん。あっ、でもちょっと待って?

 でもシノちゃんって勉強できるし運動神経もいいし、礼儀や作法、家事も完璧。

 手伝えること、特に無いわね」

 

「え~~~~~……」

 

あんまりな言葉に落胆の声をあげる津田。

 

「あ、でもでも、保健体育の授業じゃ限界があるから男の子なんだしそっちを手伝ってあげるのは?」

 

「保健体育ですか?」

 

「そう、写真や絵と実物は違うと思うし……

 シノちゃんも一度見てみたいって言ってたし……」

 

「解りました! 頑張ります!!」

 

急にやるきになって立ち上がる津田。

彼の瞳は仕事への情熱で燃え上がっていた。

その眼を見てアリアは津田君って仕事熱心だな~と感心した。

 

「今すぐ行ってきます!!」

 

「頑張って~」

 

シノを探しに生徒会室を飛び出す津田。

彼を笑顔で送り出すアリア。

 

「うふふ、なんだか私、今すごく先輩っぽいな~」

 

七条アリア、彼女は天然だった。

 

 

 

【萩村スズ】

 

萩村スズ。

生徒会の会計を務める一年生。

帰国子女であり、IQ180という頭脳を誇る天才少女である。

英語はぺらぺらであり、10桁の安産も朝飯前である。

違った、訂正する。10桁の暗算も朝飯前である。安産は無理である。

容姿はハーフなのか金髪の髪をツインテールにしている。

小学生と間違えそうになるほど小柄な身長で幼児体型の少女だ。

その容姿にコンプレックスを持っており、子供扱いを極端に嫌うふしがある。

そのため、自分を大きく見せようと腰に手を当て、胸を張るポーズで立っていることが多い。

 

「私こんなだからナメられないようにしてるのよ」

 

「へー、確かにそのポーズならちょっと威厳があるように見えるしね」

 

「けど、このポーズには大きな問題がある」

 

「問題って?」

 

「前へならえの先頭を彷彿とさせる。

 このジレンマどうしたらいいいの?」

 

そう言って涙を流すスズ。

その様子に少し不憫に思って真剣に考える津田。

けっして、むしろそれがいいとか言わない。

 

「そうだな、じゃあ胸の前で腕を組んでみたら?」

 

「こう?」

 

津田の言うとおり胸の前で素直に腕組みをしてみる。

 

「そうそう、で、顔はちょっとむっとさせて……」

 

「こう?」

 

「違う違う、もっと相手を睨む感じで……」

 

「こ、こう?」

 

津田の指摘のままに実行してみる。

彼女は今、腕組みをしながら彼の前に立ち睨みつける状態になった。

 

「……俺を睨みつける幼女、ハァハァ……」

 

「幼女って言うな!」

 

「おうふ!?」

 

彼女は津田の股間を蹴りあげる。

また床に蹲ることになる津田は、恍惚の表情をしていた。

 

「ちっ、この変態が……真面目に相談した私が馬鹿だった」

 

「……ああ、幼女が俺を見下している」

 

「ふん!!」

 

スズは津田の顔を踏みつけた。

そのままぐりぐりと上靴の底で彼の顔を踏み続ける。

 

「あぁん、もっと~……」

 

何気にお似合いの二人だった。

 

 

 

【いじめよくない】

 

今現在、生徒会室では役員達が会議をしていた。

議長を務める会長のシノが、今回の議題を発表する。

 

「最近いじめが社会問題となっている!!

 というわけで我が校でも緊急アンケートを行う」

 

「いじめはいけないこと?」

 

その議題にアリアが疑問を呈する。

 

「当然だろう?」

 

「いじめは良くないに決まってます」

 

その問にシノとスズが答える。

当然だろう、いじめでどれだけ辛い思いをしている人間が世の中にいることか。

問題がないのであればそもそも社会問題としてここまで大きなものになってはいない。

 

「私の父はいつも母に虐められて悦んでるけど」

 

「仲睦まじいじゃないか」

 

どうやらアリアはプレイとしてのいじめも問題の範囲に入れて考えてしまったらしい。

 

「いいなぁ、俺も将来そういう夫婦関係になりたい」

 

「津田、あんたは黙ってろ」

 

津田の妄想を、スズが一言でばっさりと切り捨てた。

 

 

 

【体内スケジュール】

 

「ふあ~……」

 

昼休みの生徒会室。

弁当を持ち寄って昼食をすませた後、次の行事に使う資料をまとめている作業中に津田がおおきなあくびをした。

 

「午後って眠くなりますね」

 

「お昼のあとだもんねー」

 

彼の言葉に同意を示すアリア。

あくびをする津田の姿をほほえましそうに見ていた。

そこに小さな寝息が聞こえてきた。

見ればスズが机に突っ伏し、口を半開きにして眠っていた。

 

「ちなみにスズちゃんは本当にお昼寝しないと体もたないの」

 

普段子供扱いを嫌う彼女は、体型だけでなく体質も子供だった。

 

(あの口に俺のキノコとかつっこんだらどんな反応するかな?)

 

津田はその姿にそんなことを考えていた。

でも実行しない。実行したら18禁になっちゃうから。

妄想だけならOKだよね?と自分に言い聞かせる津田であった。

 

 

 

 

【魅惑の入口】

 

またまた会議中の生徒会室。

 

「良い学園を作るには生徒の声を聞くことが大切だ。

 そこで目安箱を設置しようと思う」

 

シノが提案したのは目安箱を置いて、生徒の意見を聞こうというものだった。

 

「目安箱って前にも実施しましたけど、あんまり投書なかったんですよね?」

 

「うん」

 

どうやらスズが言うように以前はあまり効果がなかったようだ。

何故過去に失敗しているものを生徒会の政策としてまた実行するのか。

 

「前に失敗したことは私も覚えている。

 だから今回は入れたくなるようにひと工夫してみた」

 

これだ、と机の下から一つの箱を取り出すシノ。

その箱は中央に◎が書いてあり、その外側の○から線が何本か伸びている。

その中央に縦線に切れ込みがあり、そこから投書できるようになっていた。

 

「これ不信任ものだろ」

 

明らかに女性器を模した外見に呆れた声を出すスズ。

アリアは面白そうに目を輝かしていた。

 

「そして津田。あんたはいの一番に入れようとするんじゃない」

 

喜び勇んでノートの切れ端を入れてみようとしていた津田をスズが制止した。

 

 

 

【メッセージ】

 

「今回はいっぱい投書きてるよー」

 

目安箱を設置して三日。

生徒会室前に置いていた箱を回収してきたアリア。

彼女が言うには以前に設置した時よりもかなり投書が多いという。

スズは思いのほか悪乗りする生徒が多いことにため息がでた。

とりあえず中身を確認しようと箱を開け、中身を机の上にぶちまける。

皆で中に入っていた意見を確認する作業に入った。

何気なく津田がとった一枚。

そこには『会長に手を出したら穴ぶち抜きます』と書かれていた。

 

「シノちゃんのファンクラブの子からだねー」

 

横から内容を覗き見たアリアがおもしろそうに笑う。

ほらこれも、と彼女が手渡してきた紙には『会長の半径2メートル以内にいたらあんたのケツの穴が広がることになるわよ?』

と書かれていた。

 

「こえーなー。

 会長に手を出したら俺がファンクラブの女の子に尻掘られるのか。

 ……会長とにゃんにゃんできるうえ、さらにそんな特典があるなんて。

 一石二鳥だな!!」

 

彼はなぜか嬉しそうだった。

当のシノは彼が言っていることが何についてのものかわからず首をかしげていた。

 

 



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二人目

 

【会長が教えてあげる】

 

「すいません、遅れました!!」

 

今日は生徒会の会議。

時間になっても来ないと思われていた津田が、息を切らしながら生徒会室に入ってきた。

 

「遅い!! 今日は大事な会議だと言っただろうが!!」

 

時間を守らない津田を叱責するシノ。

すでに席に座っているスズは津田を見て怒った顔をしている。

アリアは特に怒った様子はないが、少々困り顔だ。

 

「いや……未知に迷っちゃって……」

 

言い訳をする津田。別に誤字ではない。

実際に男か女かわからない未知の性別の人間を見かけて、気になって追いかけるべきか否か迷っていたのだ。

しかし人のいいシノは彼が純粋に道に迷ったと解釈したらしい。

 

「そうか、津田はこの学園に入学して日が浅いのだったな……

 良し!! 今日はこの桜才学園を案内してやろう!!」

 

親指で自分を指さし、不敵に笑うシノ。

これは面白いイベントを思いついた、という顔だ。

その隣では楽しそうに「ワー」と笑ってアリアが拍手をしていた。

 

「あの……大事な会議は?」

 

小さくそう問いかけるスズの声は誰も聞いていなかった。

彼女は空気を読んで一つ小さなため息をつくと、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 

【ご案内】

 

保健室に来た一向。

 

「ここが保健室だ」

 

「へー」

 

「知っての通り、怪我をしたり具合が悪い時は世話になる場所だな」

 

「そうですね」

 

「保険医の山口先生は美人だけど既婚者で年下には興味がないそうよ?」

 

「それは残念」

 

「……」

 

次に来たのは女子更衣室。

 

「ここが女子更衣室だ」

 

「体育の前と後には女の子が一杯ね」

 

「そうですねー」

 

「女子の汗の匂いは男子の津田にはたまらんだろうな!」

 

「……」

 

次に案内されたのが音楽室。

 

「ここが音楽室」

 

「壁の防音は完璧ね」

 

「使うならそこのピアノの上がお勧めだ」

 

「へー」

 

「……(何に使うんだ)」

 

更に案内されたのは特に使われていない教室だった。

 

「ここが普段使われていない無人の教室だ」

 

「ほー」

 

「机を並べれば即席ベッドも作れちゃうわね」

 

「…………はぁ……」

 

その次に案内されたのは体育倉庫だった。

 

「ここが体育倉庫だ」

 

「跳び箱もマットもハードルも何でも使えそうよね」

 

「……あの会長?」

 

「どうした萩村?」

 

「なんでこんな微妙な場所ばかり案内を?

 もっと普段使う所を案内するべきなのでは……」

 

「むぅ、男子が聞くとドキッとする場所を優先的に紹介したんだが……不満か萩村?」

 

「いえ、私はどうでもいいですが……」

 

「そうか、津田はどうだ?」

 

「俺ですか?こうして案内してくれるだけで嬉しいですよ」

 

「そ、そうか」

 

「ふふ、津田君はいいこね」

 

「しいてあげるなら、個人的には次は教員の女性用トイレを案内してほしいです」

 

「ほほぅ、マニアックだな。」

 

「あらあらうふふ」

 

「…………」

 

 

 

 

 

【さんぴー】

 

「ここが私とシノちゃんが在籍しているクラスよ」

 

「そうなんですか」

 

一行は現在2-Bの教室前に来ていた。

なんでもこのクラスには生徒会メンバーの二年生が二人とも在籍しているらしい。

二年生にはまだ男子生徒がいないためか、教室ないだけでなく階全体に男がいない。

 

「なにか困ったことがあったら気軽に訪ねてきてね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「スズちゃんもよ?」

 

「あっ、はい。ありがとうございます」

 

アリアは先輩らしく、一年生の二人に優しく笑いかける。

そのほほ笑みはとても魅力的であった。

 

「でもこうして見ると少子化も悪くないね」

 

「?……なんでですか?」

 

「三年生にまでなってP組まであったら大変」

 

「クラスのイメージカラーはピンクだな」

 

「……はぁ」

 

「…………」

 

アリアの言葉に嬉しそうに相槌をうつシノ。

二人の阿呆な会話にスズはため息をついた。そこで気付く。

いつもならこの後一言余計なことをいいそうな馬鹿が何故か黙っている。

ふと彼を見上げれば何か真剣な顔をしていた。

 

「どうしたの津田?」

 

「今の三年生って、みんな女子だよな?」

 

「そうね」

 

「皆女子で3Pなんて、新しい漢字ができそうだよな!」

 

男+女+男=嬲

女+女+女=?ということだろうか。

おそらく姦のことではないのだろう。

ものすごくどうでもよかった。

 

 

 

 

【用途くわしく】

 

次に一行が来たのはトイレだった。

 

「ここは女子専用トイレだ。

 昨年まで女子高だったからな。男子生徒用はまだ設置できていないんだ。

 男子は教職員用のものを使うように」

 

「はい、会長質問です」

 

「なんだ津田?」

 

「教職員用のトイレなら女性用に入ってもいいですか?」

 

「駄目だ」

 

「あらあら残念ね~、津田君」

 

がっくりとうなだれる津田。

その様子をほほえましく笑う先輩たち。

 

「尚、ここでは用をたす他にナプキンを装着したりする」

 

「おお~」

 

シノの言葉にすぐに元気になって顔をあげる津田。

しかしアリアは何か聞き捨てならないことがあったらしい。

 

「ちょっとシノちゃん!!」

 

「なんだアリア?」

 

「私はタンポ○派よ!!」

 

「すまない。自分を基準に語ってしまった」

 

「まぁまぁアリア先輩。そんなにむきにならなくても。いいじゃないですか、俺はどっちも好きですよ?

 ナプキンもタン○ンもどっちも甲乙つけがたいくらい素敵じゃないですか」

 

「津田君……」

 

「津田……」

 

何故か感動したかのような表情をする先輩たち。

 

「毎回続くのかこの感じ……」

 

一人小さく距離を取る少女がいたけど、三人は気づかなかった。

 

 

 

【プラスかマイナスか】

 

「あ、会長お疲れ様でーす」

 

「ああ、お疲れ様」

 

校内を案内中の一行、その途中で廊下ですれ違った生徒に挨拶をされるシノ。

そんな彼女に津田は尊敬の眼差しを向けた。

 

「挨拶されるなんてさすが会長ですね」

 

「まぁ慕われなければ人の上には立てないからな。

 君も副会長として人に尊敬されるように頑張れ」

 

「いやぁ、俺はそういうの苦手で……」

 

「なんだ津田、蔑まれた方がいいのか? Mなのか?」

 

「ええ、そうですね。むしろ罵声を浴びせられる方が……」

 

「うふふ、津田君は変態さんね」

 

「ああ!! もっと、その調子で罵ってください!!」

 

「わかった、善処しよう。私も言葉責めは嫌いじゃない」

 

「とりあえず黙れ変態共」

 

 

 

 

【高見】

 

「ここが屋上よ」

 

一行が最後にたどり着いたのは校舎の屋上だった。

私立で金があるからか、屋上の床には芝生が敷き詰められており、きれいに整備されていた。

上靴の底で踏む芝生のさくさくとした感触が珍しく、なかなかに気持ちがいい。

天気のいい日にでも寝転がればさぞ気持のいいことだろう。

フェンスに向かうスズを何気なくおいかけて津田は自然と隣に並んだ。

 

「私、高いところが好き」

 

「へぇ」

 

彼はスズの独白に納得した。たしかにここは高い。

向こうのほうの山もしっかりと見える。町の風景を一望で来て気分がいい。

なかなかの景色だ。

 

「人を見下ろせるから」

 

しかし彼女の好きな理由は別のものだった。

普段背が低いため人に見降ろされがちな彼女にとっては、それはとても楽しいことなのだろう。

 

「笑えばいいじゃない」

 

「笑わないよ」

 

「何よ、どうせ子供っぽいって思ってるんでしょ?」

 

「単に人を見下ろせるから楽しいだけだろ? なんでそれが子供っぽいんだよ」

 

「そ、そうね。単なる趣味の範囲か」

 

なんだかムキになって恥ずかしかったからか、赤面して顔をそらすスズ。

 

「そうそう、気にしないでじゃんじゃん見下ろせばいいよ。

 なんなら俺のことも見下ろせばいいよ」

 

「はぁ?」

 

なんでそうなるのか。彼女が振り向けば彼は芝生に寝転んでいた。

 

「こうすれば、いつでも俺を見下ろせるだろ?うさぎちゃん」

 

いい笑顔でサムズアップする津田。

しかし彼の視線は彼女のスカートの中へと向けられていた。

 

「黙れ変態」

 

スズはとりあえず津田の目に足を振り下ろした。

 

「ああ、ごめんなさい! そうですよね!?

 萩村は俺のこと見下ろしてるんじゃないよね!?

 見下してるん……あ……痛い!? ちょ、ま、待って!? 眼は、あぶな!?

 ああ!! やっぱりやめないで!!」

 

彼女のへその下あたりには、今日はうさぎがいるのだった。

 

 

 

 

【ぶるぶる】

 

「あれ、そういえば会長はこっち来ないんですか?」

 

スズの足によるストンピングが終わってすぐに回復した津田はふと疑問を口にした。

自分とスズはここにいる。アリアはさっきから別の場所のフェンスにその豊満な胸をおしつけて風景を眺めている。

しかし屋上に会長であるシノの姿が見当たらない。

見渡してみれば彼女は未だに入口の扉から外にでないで固まっていた。

 

「もしかして会長高いところ苦手ですか?」

 

「なっ!? そ、そんなワケないだろう!!」

 

スズの何気ない指摘に顔を羞恥で染め叫ぶシノ。

しかしその両足は生まれたての小鹿のように震えていた。

 

「でも足が震えてますよ会長」

 

「こ、こ、これは……その……あれだ!!」

 

一瞬狼狽するも、なにかひらめいたような顔をしたシノは、

左手を上に、右手を膝に置いて前かがみになるという妙なポーズをとった。

本人的にはここでジャーンという効果音がなっているのだろう。

 

「楽しくて膝が笑ってるのさ!」

 

無理やりにこりと笑ってみせる我らが会長。

しかし無理なのは見え見えで、頬が完全に引きつっていた。

 

「なぁんだ、てっきり俺はおしっこを我慢してるのかと思いましたよ。

 先輩のおもらしシーンとかレアなの見れると思ったのにな~」

 

「会長、そんなに上手くは言えてませんよ。

 あと津田、お前は今すぐそこから飛び降りろ」

 

 

 



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三人目

 

【無数の視線】

 

今日は月に一度の全校集会がある日。

集会を目前にして生徒会室にいつものメンバーが集まっていた。

 

「今日は全校集会でスピーチを行う。

 そこで津田、君にも副会長として檀上に一緒に上がってもらうぞ」

 

「ええっ!? 俺ですか!?……大勢の前に出るとか、緊張するなぁ」

 

予想していなかったのか大げさに驚く津田。

その様子にシノは眉をしかめた。

 

「なんだ情けない。男だろうが」

 

「そうね津田。あんたちょっと男として情けないんじゃないの?」

 

「ちなみに私は大勢に見られると非常に興奮するぞ?」

 

「いや会長、それは間違っていると思います」

 

シノの意見に同意したスズだったが、その同意もすぐに取り消した。

 

「なんていうか、会長のいっていることはわかるんですよ? 俺も同じですし……」

 

「わかるな、そして同じとか言うな」

 

「ただ今日パンツ履き忘れたんで、無駄に興奮しちゃうとズボンがガビガビになっちゃいそうで」

 

「そうか、それは緊張するな」

 

「でも津田君はこういうシチュエーションは好きでしょ?

 感じちゃ駄目、だけど感じちゃうってやつ」

 

「はい!! 大好物です!!」

 

「……(ガビガビ?)」

 

 

 

 

 

 

【特定法】

 

放課後の生徒会室。役員たちは資料整理のため集まっていた。

 

「ここに来る途中、こんなものを拾った」

 

シノがそう言って取り出したのは財布だった。

 

「心苦しいが、持ち主が特定できるものが入っていないか確認させてもらおう」

 

「いいんですか?」

 

「仕方なかろう、この学園は電車通学のものも多い。

 定期などが入っていれば落とし主もさぞ通学に困るだろうからな。

 早く返せるに越したことはないだろう」

 

財布を開き、中を確かめる。

中には1000円札が一枚と、小銭が数枚。

実に学生らしい少ない所持金であった。

他にはどこかの店のポイントカードが入っているだけで特に誰のものかわかりそうな物は入ってはいなかった。

どうやら電車通学ではないのか、もしくは定期だけ別に持っているのだろう。

 

「うーん、誰のものか特定できるものは何もないか。だが持ち主は女だな」

 

何故かシノは断言した。

 

「なんでわかるんです?」

 

見た目のデザインとしては、男物としても女物としても使えそうなもの。

良く言えば使いやすい、悪く言えばどっちつかずで特徴のないデザイン。

それなのに何故持ち主は女と断言できるのか。

入っていたポイントカードも、特にこれといって女の子限定といったものはない。

 

「ゴムが入っていない」

 

「ああ、なるほど」

 

「……どうなの津田?」

 

シノの断言した理由に納得するアリア。

スズはそんな阿呆な理由で性別を特定されるのはどうかと思ったが、一応この中の唯一の男に聞いてみた。

個人的にはこの男に尋ねるのはなんだか間違っている気がしないでもない。

ただ、相手がいそうにもないこの津田なら普段からゴムを所持しているとも考えにくい。

まぁ、男と付き合ったこともない自分がそこまで知っているわけではないからなんとも言えない。

男なら必ず財布にコンドームを入れているとは限らないと思っているスズは、

先輩二人の判断が間違っている根拠を得たかっただけだ。

 

「う~ん、やっぱりそれだけで女の子だと断定するのは間違ってるんじゃないですか?

 その理由なら俺も女の子になっちゃいますし」

 

「何、そうなのか!?」

 

「ほっ……よかった」

 

津田の言葉に少し安堵するスズ。

自分の考えがあっていたということと、自分の今のところ一番身近な異性がコンドームを所持していないことに安堵した。

もし持っていたらそれはそれで嫌だ。おまえいつでも準備してるのか?と疑ってしまう。

そうなった場合、津田の想定している相手は誰なのか。

自分の知っている人間かもしれないし、まかり間違って自分かもしれない。

そんな生生しいのはとてもではないが御免だ。

それとは逆に衝撃を受けた顔をするシノとアリア。

この二人は単純に男ならだれでも財布にゴムをいれていると思っていたのだろう。

そもそもコンドームを財布に入れると損傷して使い物にならなくなることが多いはず。

 

「津田君、ゴムを持ち歩くのは男の子として当然の義務じゃないの!?」

 

持っていないと聞いたアリアが後輩を叱る。

 

「いやぁ、俺は中○し派なのでやる時は子供ができることは覚悟の上ですよ」

 

「津田……」

 

彼の言葉を聞いて何故か感動した顔をするシノ。

今のどこに感動するのかと呆れるスズ。

 

「で、でもアナ○セックスは生だと危険じゃない!!」

 

「でも俺は尻に関しては掘るよりも女の子に棒か何かで掘られる方が好きですしね」

 

「そっか、じゃあ必要ないわね。むきになってごめんなさい」

 

「いえいえ」

 

「とりあえず財布の話に戻りませんか?」

 

 

 

 

 

 

【一線ギリギリ】

 

「津田、爪噛むの癖なのか?うっとうしいぞ」

 

「あっ、すいません。つい昔からの癖で……」

 

会議中に皆でいい案がないかと思案中、無意識に癖から爪を噛んでしまった津田。

かりかりという音が部屋に鳴り、どうやら皆の集中をとぎれさせてしまったらしい。

注意されて噛むのを止め謝る津田。

しかしその顔はどこか嬉しそうなところから反省しているのかどうかは定かではない。

おそらく鬱陶しいと言われたのが良かったのだろう。

そんなことを理解してしまってちょっと自己嫌悪になる少女が一人。

しかし他の女子二人は津田が反省していないことには気づいていない。

 

「もう、津田君は困ったさんね。ふふ。

 癖は一度つくとやっかいだから気をつけた方がいいよー」

 

お姉さんぶって津田に注意するアリア。

 

「私もお尻いじるの癖になりそうだけどなんとか踏みとどまっているわ」

 

「それは……褒めるべきなんですか?」

 

「どうだろう、私は尻をいじくるよりも乳首の方が好きだからな」

 

「いや、いじる場所がどうとかじゃねぇよ」

 

「七条先輩がお尻……?」

 

(以下、津田の妄想↓)

 

『ああん、駄目なのに、お尻気持ちいいよ~、こんな、癖に、駄目、あっ、いや~ん……』

 

(妄想終了)

 

「むしろ癖になってください! いえ、いっそのことお手伝いします!!」

 

「お前もういい加減黙れ」

 

 

 

 

【準備中】

 

津田が廊下を歩いていると、何故か自販機の前で屈伸運動をしているスズを見かけた。

なんとなく何をしているのか気になったので声を掛けてみる。

 

「萩村こんなところでなにやってるの?」

 

「見てわからない? ストレッチよ」

 

そりゃ見ればわかる。

彼が聞きたかったのは何故、こんなところで脈絡もなくストレッチをしているのかだ。

 

「それはわかるけど、なんでこんなところで?」

 

「うん……足、つらないように」

 

屈伸運動を終えたスズが自販機の一番上の段のスイッチを押そうとつま先立ちになって背伸びする。

彼女はかなり、それこそこの学園の中で一番と言っていいほど小柄だ。

他の人間にとっては軽く手が届く場所でも彼女にとっては一苦労なのだ。

 

「手伝おうか?」

 

「いい、気持ちだけ受け取っとく」

 

手伝いを買って出る津田の言葉を断る。

彼女の背後では自ら台になろうと四つん這いになっている男がいるのだが、

彼女はなんとなくそれがわかっていたので見ないことにした。

がこんっと音をたててジュースが出てくる。なんとか指が届いたのだ。

取り出し口からジュースを取り出した彼女が振り返る。

 

「遠慮せず、さぁ! 俺を使ってくれ萩村!」

 

そこでは未だ彼女がジュースを買うのに成功したことに気づかずに四つん這いのままの津田。

 

「あれか? スカートを覗かれるとか疑ってるのか?

 そんなことしないよ、純粋に萩村を応援したいだけさ。

 だからほら、遠慮せずに俺を踏んでくれてかまわないから!!」

 

「…………いや、もう買えたから」

 

 

 

 

【きてた】

 

いつもの会議な生徒会室。

 

「ではこれから会議を始めま……って萩村がいないぞ?」

 

「う~ん、まだ来てないみたいね」

 

「そうですね」

 

アリアと津田の姿を確認して会議を始めようとしたシノ。

しかしその途中でスズがまだ来ていないことに気付く。

この生徒会の中で一番まじめな彼女は、いつも会議の時は必ず一番に席に着いている。

今日は学校を休むとか、何か用事があるとかは特に聞いていない。

どうしたのだろう、と首をかしげる面々。

そんな時、バンッと音をたてて勢いよく扉が開かれた。

そこに立っていたのは少し疲れた様子のスズ。

 

「こんな体でも、きてるわ―!!」

 

彼女は開口一番そんなことを大きな声で叫んだ。要するに二日目なのだ。

 

「なんだ、なんで怒ってるんだ?」

 

めずらしくこの手の下ネタには敏感なはずのシノは彼女の言いたい事がわかっていない様子。

ちなみにスズは単に扉の前で聞こえてきた言葉と今の自分に照らし合わせて勘違いしただけだ。

 

「あらあら大変ね。スズちゃん大丈夫?」

 

ちゃんと理解したアリアが彼女のことをいたわる声をかける。

 

「それは大変だ。萩村、俺と保健室に行こう。

 ついでに俺と子供を作ろう。できれば子供は三人は欲しぃぶほぉあ!!」

 

彼女の言いたい事を理解した津田が冗談を言いながらズボンを脱ごうとする。

その言葉をスズが渾身の右ストレートで黙らせた。

 

 

 

 

 

【ストイック学園】

 

続いて会議中生徒会室。

彼等は学園の校則について議論していた。

 

「校内恋愛禁止、髪染め禁止、買い食い禁止、廊下走るの禁止、ジャージで下校禁止、

 ピアスつけるの禁止、携帯電話持ち込み禁止、下校中の寄り道禁止、etc……」

 

津田が生徒手帳を開きながら校則で禁止されている項目を読み上げる。

その禁止項目の多さに改めて厳しいと感じる。

 

「ここの校則無駄に厳しいですよね」

 

「当然だ。学校とは勉学に励む場所であり、学生として逸脱した行為は一切認められない」

 

津田の言葉に真面目な回答を返すシノ。

 

「しかしなんでも駄目と決めつけると生徒の積極性に支障をきたす可能性があります」

 

挙手して意見をのべるスズ。彼女の意見ももっともだった。

 

「む、そうか?では恋愛は駄目だがオナ禁は解禁しよう」

 

「よっしゃあ!!」

 

「すごい緩和宣言ですが、そんな校則はそもそもありません。あと妙に喜ぶな津田」

 

「ふふ、津田君は解禁なんてしなくても毎日してるでしょう?」

 

「ありゃ、ばれましたか。でもそれを言うなら先輩もですよね?」

 

「そうね。うふふ」

 

「そういえば私も毎日してるな!!」

 

「「「はははははははは」」」

 

「……(ごそごそ)」

 

仲良く笑う生徒会役員達。

スズ一人がなぜか無言で帰る準備を始めた。

 

 

 

【なおれ】

 

会議のあった次の日。生徒会室にて。

 

「ちょっと津田!! この報告書三か所も誤字があったわよ!!」

 

昨日の会議で津田が提出した報告書を手に怒るスズ。

報告書でぺしぺしと机をたたき、私怒ってますと訴える。

 

「えっ、ほんと?」

 

「あんた最近たるんでるんじゃないの!? ちょっとそこに座りなさい!!」

 

以前からふざけた言動の多かった津田だが、最初のうちは報告書に誤字などなかった。

仕事になれてきてたるんできた証拠である。

スズに言われて、津田は特に深く考えずにパイプ椅子に座る。

その視線の高さは、津田の前に立つスズとちょうど同じ目線になった。

 

「そこに跪けぇ!!」

 

座っている相手と目線の高さが同じなことに悔しさを感じた彼女は新たに津田に命令する。

怒るはずがなぜか逆に馬鹿にされたような気分だ。

すると、津田は彼女の足元に跪いた。何故かすぐ足もとに。

 

「……津田、これはなんの真似だ」

 

彼の頭部はすっぽりと彼女のスカートの中に収まっていた。

 

「言われたとおり跪きました」

 

「ほぉ、お前は跪いたら女子のスカートの中に顔を埋めるのか」

 

「オーイエー」

 

「そうか、そんなに死にたいか」

 

真剣にKILLする五秒前。

 

 

 



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四人目

 

【参考DVD】

 

いつもの放課後の生徒会室。

彼女たちにとある依頼がきていた。

 

「新聞部から取材のオファー?」

 

「はい」

 

依頼とは学園の新聞部から生徒会への取材がしたいというものだった。

この学園の新聞部はなかなかに活動熱心であり、いつも記事の内容に使えそうなものを探している。

今回は4月に入り、新体制で始まった生徒会に対する取材を考えているようだ。

 

「取材……するとインタビューとかされるわけか。練習しておく必要があるな」

 

「津田君、インタビューの指導してあげたら?」

 

実はインタビューなどの体験は初めてのシノ。

去年まではその年の会長職に就いていた彼女の先輩が請け負っていたのだ。

会長としては今年が初めてなので、当然インタビューなども初めてだったのである。

練習が必要というシノの言葉に、何故かアリアが津田に指導をするよう求める。

 

「へ? なんで俺が?」

 

「津田はむしろ練習する側なのでは?」

 

意味がわからないと首をかしげる津田。

その隣のスズもアリアの言葉に不可解そうに眉をひそめる。

津田はこの学園始まって以来の初めての男の生徒会役員だ。

記事のネタとしては注目度も高いはずで、この男が目をつけられるのは予想がつく。

普段頭の悪そうな会話ばかりしている彼等だが、締めるべき時は締める。

そうでなくてはとても人の上には立てない。そうでなくては困る。そう思いたい。

しかし、この場合考えれば会長よりも津田の方が本番でぼろを出しやすいとスズは考えた。

普段から変態な言動が多い津田。

一応生徒会メンバーの前以外ではそれなりに真面目を装っている……はず。

少なくとも以前スズが本人に聞いた時はそう答えていたし、何故か学園内でまだ津田が変態だとあまり知れ渡っていない。

だからまだごまかしが効くのではないかと思う。

あまり生徒会が変態だらけというイメージを持たれたくないスズであった。

 

「だってAVでよくあるじゃない? インタビューのシーン」

 

「うむ、よろしく頼む」

 

「頼まないでください会長。あと七条先輩、もっと真面目に考えてください」

 

なんでAVにそんなシーンがあるのを知っているのか、とか、あんた見てるのかとかは聞かなかった。

彼女らの言葉に、変態というイメージは避けられないかもなぁと早々にあきらめたスズ。

とりあえず自分まで同一視されないようにはどうするべきか、本気で考え始めた。

 

 

 

 

【インタビュー練習】

 

結局、津田が質問する側を引き受けて練習をすることになった。

どうせ真面目に練習にはならないだろうと予測した少女は、用事があると言って先に帰ってしまった。

家で自分だけはまともに見られる方法を模索するのだ。

そのため今現在この生徒会室にはツッコミ役が不在である。

 

「えっと、それじゃあインタビューを始めたいと思います」

 

「おお、よろしく頼む」

 

向かい合って椅子に座る会長と副会長。

それを興味深げに観察する書記のアリア。

 

「そ、それじゃあ名前と、あ、あと年齢を教えてもらおうかな?」

 

役になりきっているのか、何故かどもりながら質問する津田。

 

「う、うむ。天草シノ、16歳だ」

 

それにこれまた何故か緊張した雰囲気をかもしだしたシノが答える。

 

「駄目じゃないシノちゃん。もっとこう、可愛らしい女の子言葉を使わなきゃ。

 もっとこういう時は女優さんも可愛い言葉使ってるでしょ?」

 

「そ、そうは言ってもな。これがなかなか難しくて……」

 

シノの言葉使いにアリアから駄目だしが入る。

 

「そんなに言うならアリアが手本を見せてくれ」

 

「そうね、わかったわ。津田君、お願いできる?」

 

何故か今度はアリアが挑戦することになった。

 

 

 

 

 

【インタビュー練習・改】

 

「そ、それじゃあ名前と、あ、あと年齢を教えてもらおうかな?」

 

仕切りなおして、今度は同じようにアリアに対して質問する津田。

相変わらず役になりきっていた。

 

「えっと~……初めまして~。七条アリアって言います~。16歳高校二年生です!」

 

どうやら彼女の中の女優のイメージはぶりっこらしい。

少し恥じらうように言葉にあわせてもじもじとするあたりかなり演技派である。

 

「その制服か、か、可愛いね~」

 

「そうでしょ~? 私も気に言ってるんだー」

 

「き、き、きれいなか、かみかみ、髪してるよね? 

 いつもお手入れた、大変じゃない?」

 

「え~、そんなことないですよ~」

 

やだ~と、頬に手をあて、褒めてもらえて満更でもないことをアピールする。

 

「ふむ、アリアは演技派だな」

 

「い、いい、いい匂いだね。か、嗅いでみても、い、いいかな」

 

「え~、ちょっとだけですよ~」

 

嬉しいような恥ずかしいような顔をしてOKするアリア。

最初からあれだったが、少し雲行きが怪しくなってきた。

 

「……ハァハァ、これは……クンクン……いい、なんだかお菓子みたいな」

 

「おじさんきもちわる~い」

 

「あっ! ごめ、ごめんね? おじさん焦りすぎたね? ごめんね?」

 

「もう~」

 

「……」

 

彼女の髪に顔を近づけて匂いを嗅ぐ。

なんだか演技だけでなく本気ではぁはぁと息を荒くさせ始めた津田。

それを笑って気持ち悪いと冗談めかして指摘するアリア。

改めて書いておくがこの場所には今現在ツッコミ役がいない。

 

「そ、それにしても、アリアちゃん、お、お、おっぱい大きいよね?」

 

「そ~かな~? 普通だよ~」

 

「……ははは」

 

胸の大きさをしてきされて謙遜するアリア。

しかし言葉で謙遜しながらも自信げに胸を揺らして見せる。ぽよんぽよんと擬音がなってそうだ。

それを見ていたシノが自身の胸と見比べて乾いた笑いをあげる。

 

「ハァハァ、ハァハァな、何カップあるのかな~?」

 

「えっとね~、F?」

 

「くそう!! なんだこの圧倒的戦力差は!!」

 

可愛らしく首をかしげてみせるアリア。

シノは悔しそうな声をあげて机をダンダンと叩く。

きっと彼女の演技力と自分の演技力の差に憤っているのだろう。そういうことにしておいてあげてほしい。

 

「さ、さ、さわ……ハァハァ……触っていいかな?」

 

「え~、おじさんセクハラだよ~?」

 

「……?」

 

津田は涎を流して彼女の胸を凝視していた。

両手を前にして指をわきわきと動かす様がいやらしい。

楽しそうに笑うアリアとは反対に、シノは津田が演技だけでなく本気で興奮しているのに気が付いた。

 

「もう……辛抱たまらん!!」

 

「お、おい……津田?」

 

彼はおもむろに椅子から立ち上がった。

 

「ア~リアちゃ~ん!!」

 

彼は一瞬で服を脱いで飛び込み台から飛び込むように彼女の胸へとダイブした。

いわゆるルパンダイブである。違うところはただ一つ。

パンツさえも脱いでしまって全裸だということだ。

 

「きゃあ!?」

 

「ふん!!」

 

「あふん!?」

 

驚きの声を上げるアリア。

しかしシノは事前に正気に戻っていたので、なんとなく予想がついていた。

アリアに接触する前に、手刀で津田を床にはたき落とす。

 

「な、なんで止めるんですか会長! 会長もノリノリだったじゃないですか!!」

 

あと少しで男子高校生の理想郷にたどり着けたはずの津田が抗議する。

確かに先ほどまでは彼女もノリノリだったのだ。これはイケると思った。

アリアは顔を真っ赤にして胸を両手で隠している。

しかし別に反射的に胸を隠しているだけで、本気で嫌がっているわけでもなさそうだ。

その証拠に彼女が顔を赤くしているのは何も羞恥だけでのことではない。

 

(津田君のあそこ……見えそうで見えない)

 

津田は今現在全裸なのだが、床にうつぶせに叩きつけられた状態から上半身だけのけぞらせてシノを見ている。

よって、絶妙な角度で体がひねられて股間が視覚的に隠された状態だったのだ。

彼女はその見えそうで見えない状態にドキドキしているのだった。

 

「ああ、たしかにノリノリだった。そこは私も認めよう。だがここでおしまいだ」

 

「何故ですか!!」

 

「ここらで止めないとお前はたぶん最後まで行くだろう?

 さすがにそうなったら私だけでは止められそうにない。故に止めた」

 

「いいじゃないですか!! ちゃんと責任は取ります!!」

 

「まぁ……」

 

ちょっと男らしいことを言う津田。

首から上だけなら今のセリフを言っている顔はビジュアル的にはイケメンだった。

そのセリフを聞いてちょっと胸をときめかせるアリア。

逆にその言葉にため息をつくシノ。

 

「津田、残念なことだがこの作品はあくまでR-15相当だ。

 そこから先はいくらなんでも18禁になってしまう。この意味がわかるな?」

 

「……ちくしょう!! 作者の馬鹿野郎ぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

彼は本気で号泣した。床に拳を叩きつけて号泣した。

そのあと彼は脱水症状に陥るまで泣きはらしたという。

 

 

 

 

【取材当日】

 

インタビュー練習から二日後の生徒会室。

 

「新聞部の畑です。よろしくお願いします」

 

そう言って生徒会室に新聞部の生徒が入ってきた。

彼女の名前は畑ランコ。黒髪を肩のあたりの長さで切りそろえた二年生らしい。

ポーカーフェイスなのか、表情からは何も感情的なものが読み取れない。

 

「う、うむ。こちらこそよろしく頼む」

 

結局練習は全員が暴走し、意味をなさなかったためにシノはちゃんとできるか緊張していた。

 

「そんなに緊張なさらなくとも大丈夫ですよ。

 あまり緊張せずに楽にしていてください」

 

「そ、そうか?」

 

その言葉に甘えて何故か生徒会室の机の上に寝そべるシノ。

 

「いやぁ、今日は多い日でな。立ってても座っててもつらい」

 

「じゃあ仕方ないですね」

 

「えっ、いいんですか?」

 

スズが困惑顔で畑に聞くが、彼女は無表情でOKサインを出す。

この非常識な行動にまったく動揺した様子がない。

生徒会メンバーの言動にいちいち動揺したり怒ったりする自分とはえらい違いだ、と彼女は尊敬した。

 

 

 

 

 

【メイン画面】

 

会長であるシノの取材が終わった生徒会室。

 

「では次は写真撮影を行います」

 

「えー、恥ずかしいなぁ。ポーズとった方がいい?」

 

「七条先輩ノリノリですね」

 

「いえ、紹介記事として使うので生徒会室をバックに皆さんは普通に立っていてください」

 

「なるほど、ギャルゲー式画面撮りというやつか」

 

「そんなん初めて聞いたんですけど」

 

ノリノリな先輩二人に少し呆れるスズ。

 

「なぁ萩村?」

 

「何、津田?」

 

「脱いだ方がいいのかな?」

 

「さっきの聞いてなかったの? 普通に立ってればいいのよ」

 

「そうか、普通に起ってるだけでいいのか」

 

「ちゃんと人の話は聞きなさい」

 

「ごめんごめん」

 

 

 

 

 

 

 

【超ジェンダーフリー】

 

あらかた写真を撮り終わった取材中の生徒会室。

 

「では最後に男子代表として新副会長の津田君から今後の抱負を一言」

 

「俺ですか?」

 

最後に畑は津田に抱負を聞いてきた。

 

「そうですね、男女とも隔たりのない関係を築いていきたいと思っています」

 

その質問に無難な回答をする津田。

そもそも男子である津田はその立場からこの手の質問はされると考え、

あらかじめスズが津田にこのように受け答えするように指示を出していたのだ。

彼女の予想は大当たりだった。

 

(よしよし、今日はなんとかまともに会話が成立してるわね)

 

事前に津田に言い含んでおいたおかげか、今日は彼はいつもと違って普通に見える。

そのことに安堵していた彼女だったが……

 

「なるほど、つまり更衣室やシャワーの壁を取っ払う気ですか」

 

「なんでそうなるんですか」

 

何故か畑は完璧だったはずの津田の回答を曲解して受け取った。

あまりの言葉に思わずツッコミをいれるスズ。

本気で何故そうなるのかわからなかった。

 

「エロスね」

 

「性欲の塊だな」

 

これまた何故か嬉しそうな女子二人。

 

「……それはいい!! その発想はなかった!!

 そうだ、今の俺は学園を変えることができる立場なんだから、できる!!

 いや、やってみせる!!」

 

輝かしい未来を想像した津田が目をきらきらさせてガッツポーズをした。

 

「副会長はエロい……と」

 

そんなことを取材用のメモ帳に書き込む畑。

どうやら無表情だからわからなかったが、彼女も生徒会メンバーと似たような人種だったらしい。

 

「あんたもそっち側なのか……」

 

先ほど感じた尊敬の感情を捨てたスズちゃんだった。

 



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五人目

 

 

【報告します】

 

いつもの放課後の生徒会室。

そこに今日は津田が一人の女子生徒を連れてきた。

 

「あの、会長……会ってほしい人がいるんですが」

 

シノに話しかける津田の背後から姿を見せる女子生徒。

長い黒髪をポニーテールにしていて、人懐っこそうな笑みを浮かべている。

健康的な美少女といった容姿をもった生徒。

 

「結婚するのか?」

 

彼女を見てシノが口にした第一声はそんなものだった。

 

「へ?」

 

「会長、あんたは津田のなんなんですか?」

 

シノの言葉に頭に疑問符を浮かべる女生徒。

スズはシノの安直な考えに呆れた。

男があってほしいと言って女を連れてくる。

よくドラマや何かでは結婚前に恋人を親に紹介するシーンで使われる言葉だ。

だが、それは親や兄弟といった家族に紹介するものだろう。

 

「はい! 結婚します!」

 

「へ? え、あ、へ? うぇええええ!?」

 

「そうか、結婚か! できちゃった婚なのか!?」

 

悪乗りして結婚宣言する津田と、いきなりな展開に顔を真っ赤にしてうろたえる女生徒。

シノは何かおもしろそうに目を輝かせていた。

津田はできる限りに表情を引き締めて、可能な限りのイケメン顔を作る。

連れてきた女生徒に向きなおり、彼女の両肩を掴んだ。

 

「三葉……俺の子供を産んでくれ」

 

「……あっ、あぅ、あぅう……」

 

こういう会話には免疫がないのか、それとも冗談とわかっていないのか。

三葉と呼ばれた女子は赤面して耳から湯気を上げている。

わかりやすいくらいにうろたえていた。

 

「とりあえず冗談はそこまでにしておけ。話が進まん」

 

「おぅふ!!」

 

心優しいスズはとりあえずいつも通り津田の股間を蹴り上げて、三葉を救出するのだった。

 

 

 

 

 

 

【床上テクニック】

 

それから5分後の生徒会室。

ようやく三葉も冷静を取り戻し、改めて要件を話すことになった。

津田は股間をおさえながら床に倒れているので幾分静かである。

 

「私、タカトシ君と同じクラスの三葉ムツミです」

 

改めて生徒会のメンバーの前に立って自己紹介をする三葉。

 

「実は新しい部を作ろうと思いまして、その相談に来ました」

 

「なんだ、創部の話か。本当に結婚話じゃなかったんだな」

 

「あんたは冗談じゃなく本気でそう思ってたんですか?

 いいかげんその話から離れてください」

 

三葉の言葉に無駄に残念そうな顔をするシノ。

 

「それで何の部活を作りたいの?」

 

「柔道部です!!」

 

アリアの問いに元気よく答える三葉。

純粋に明るくはきはきとした印象を受ける三葉。

部活動に真剣に打ち込むスポーツ少女といった雰囲気で、まさにこれこそ健全な高校生といった姿。

この作品では非常に珍しい人物だ。

彼女の柔道部という答えに、アリアはああっ、と何かを理解したかのように手を叩いた。

 

「柔道……知ってるわ。アレよね? 寝技が48個あるやつね」

 

「全然知ってませんね」

 

「あはは、48個もないですよー」

 

「あらそうなの?」

 

「七条先輩本気で勘違いしてたんですか?」

 

色々と間違った先輩の知識に呆れるスズ。

三葉は単純に今の会話に下ネタが含まれていたことに気づいていないらしい。

本当にいまどき珍しくその手の知識もない純粋な子のようだ。

 

「……なぁ、萩村」

 

「なんですか会長」

 

スズの背中を指でつつきながらシノが小声で話しかけてきた。

何か彼女は真剣な表情をしている。

 

「柔道に寝技が48個もないというのは本当か?」

 

「……あんたもか」

 

 

 

 

 

【夜の格闘技】

 

何故柔道部を作りたいと思ったのか、その動機を訊かれて恥ずかしそうに頭をかく三葉。

 

「いやー、本当はムエタイ部にしたいんだけど、メジャーなところで柔道を。

 部員も獲得しやすそうだしね」

 

「三葉って格闘技好きなのか?」

 

復活した津田が質問する。

既に先ほどのダメージは残っていないのかもう平然としている。

段々スズに股間を蹴られるのも慣れてきたのか、復活までの時間が早くなってきた津田だった。

 

「うん!! 己の技を磨いた身体と身体のぶつかり合い!! 熱いじゃん!!」

 

「ああ、確かに身体と身体の絡み合いは熱いな!!」

 

「うむ、確かに熱い!!」

 

「そうね、熱いわね」

 

「……津田、わざと言い換えたんじゃないだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【上から目線】

 

なんだか妄想を楽しんでいる三人を置いといて、話を進めようとするスズ。

 

「それで、三葉さん? 肝心の部員は5人集まってるの?」

 

「ふぇ?」

 

「新しい部を発足するには部員が5人以上必要よ。

 それに満たなきゃ愛好会ということになるわね。愛好会だと部費も出ないわ。

 そこのところ大丈夫?」

 

この学園では彼女の言葉通り、新しい部活の場合、最低でも5人以上の部員が必要と決まっている。

愛好会扱いの場合、部屋が空いていれば部室は与えられるが、部費は一切支給されない。

 

「あの……そういえばなんで子供がここに?」

 

「あ~あ、言っちゃった……」

 

ここにきて初めてスズをちゃんと見た三葉。

それまでは部活のことを説明することと、先ほどの津田とのやり取りで頭がいっぱいで他に頭が回らなかったのだ。

スズのあまりに幼く見える容姿に、ついつい言ってはならない疑問を口にしてしまった。

実際、138センチのスズと162センチの三葉ではかなり身長差がある。

とても自分と同学年だとは思うまい。

 

「誰が子供か!!」

 

「あれ?」

 

キレて見せるが、全然恐がられないどころか首を傾げられて苛立つスズ。

 

「っ津田!!」

 

「は?」

 

「肩貸しなさい!!」

 

「エ?」

 

「いいからそこにしゃがむ!!」

 

言われたとおりしゃがむ津田。

その肩によじ登り、ちょうど肩車のようにして彼の肩に座る。

津田は突然降ってわいた事態に幸福を感じていた。

右を見ても左を見ても視界に映るはスズの黒いタイツに包まれた美脚。

バランスを取るためにその細くも柔らかい太ももで彼の頭部をはさんでいる。

 

(おお……何これ? 何この役得?)

 

スズの現在の目線は肩車のおかげで三葉よりもだいぶ高くなっている。

先ほどとは違い、スズが彼女を見下ろす形になっている。

普段なら津田が鼻を鳴らして彼女の太ももの匂いを嗅ごうとしているのに気付くだろうが。

自分が子供と思われているその認識を改めさせることに意識が集中していて気付かないスズであった。

津田にとっては思わぬ役得である。

 

 

 

 

 

 

【へーーーーー】

 

津田の肩の上で腕を組み、三葉を見下ろすスズ。

それを「おおー」と言って見上げる三葉だった。

先輩の女子二人は、突然の事態をおもしろがって観察していた。

 

「私は萩村スズ!!」

 

「……クンカクンカ……」

 

「あんたと同じ16歳!!」

 

「……ハァハァ……」

 

「しかもIQ180の帰国子女!!」

 

「……スーハースーハー……」

 

セリフの合間合間に聞こえてくる津田の息使い。

 

「なぉ、アリア。あれ結構あぶない感じがするな?」

 

「ふふ、津田君たら変態さんね。すごく嬉しそう」

 

その様子を観察している人たちはそんなことを小声で話してにやにやしていたのだが、

この時の津田、スズ、三葉の三人はそれを知らないのであった。

 

「英語ペラペラ! 10桁の暗算なんて朝飯前!!」

 

「……萩村の太もも……クンカクンカ……スーハースーハー……」

 

「どう!! これでも私のこと子供扱いする!?」

 

どうだ、と胸を張るスズ。

しかしそれに対しての三葉の反応は、彼女にとっては納得のいく物ではなかった。

 

「へー、すごいねー。

 じゃあ1000000000+1000000000は?」

 

「もっと複雑な問題にしろー!!」

 

明らかに子供相手への反応だった。

凄いと言ってくれているのに逆に馬鹿にされた気がするスズ。

 

「そうだ、萩村は立派な大人だぞ三葉!!」

 

意外な事にスズへの援護射撃が彼女の股間の位置から飛んできた。

 

「そうなの?」

 

「そうよ!! 言ってやりなさい津田!!」

 

「これを聞いてもまだお前は萩村を子供扱いできるか!?……ぺろり」

 

「んぁん!?」

 

津田は宣言の後、スズのタイツに包まれた太ももを舐め上げた。

 

「ん~、デリシャス」

 

「今の声聞いたかアリア! 萩村は大人だな!」

 

「ええ、立派な大人の女ね!」

 

「わ~……」

 

満足な顔をする津田。興奮して顔を赤くして好き勝手言う先輩二人。

なにか今凄い光景を見た気がする三葉。

 

「調子に乗ってんじゃね~!!」

 

今度は羞恥心でブちぎれたスズ。

津田の頭部を足で挟んだまま、腰をひねって上体を後方にそらす。

重心が移動して傾く津田の体。

そのまま津田の頭部を床にたたきつけるようにして器用に回転する。

 

「ごはあ!?」

 

頭部から床に叩きつけられて意識を失った津田。

それに反してスズは器用に着地してまったくの無傷であった。

素晴らしいバランス感覚である。

 

 

 

 

 

【ふえた】

 

床に沈んだ津田をよそに会話をすすめる四人。

 

「とりあえず部員5人のところ4人にまかりませんか?

 すでに3人はキープしてるんですよ」

 

「駄目に決まってるだろ」

 

三葉の提案を速攻で切り捨てるシノ。

他の部活とて同じ条件で申請を受理してきたのだ。

認めてしまえばその部活をエコひいきした形になってしまう。

 

「ちゃんと理由もあるんですよ」

 

「ふむ、理由か。言ってみろ」

 

部員が4人でないといけない正当な理由があるのであれば、考えないでもない。

そう言って三葉の言うの理由を聞くことにする。

 

「ストレッチするとき二人ひと組になるじゃないですか?

 でも5人だと一人余っちゃって仲間外れみたいでいやでしょ?」

 

「一理あるな」

 

「でしょー?」

 

生徒会長の反応にこれならいける、と確信する三葉。

 

「じゃあ今後は必要定員6人にしよう。がんばって探して来い」

 

「あれー!? ハードルあがっちゃったー!?」

 

「大丈夫よ、ハードルは高い方がこすれて気持ちいいでしょ?」

 

「七条先輩、言ってる意味がわかりません」

 

彼女の確信は見事に消えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

【なんとかなった】

 

どうしよう!? と三葉が騒いでいる横で復活する津田。

脳震盪でも起こしかけていたのか、起ちあがったが未だ少しふらふらしている。

 

「どうしよう! タカトシ君、なんかハードルあがっちゃったよー!!」

 

会長が必要人数を6人にすると言って他の女子二人は特に反対するそぶりもない。

立ちあがった津田を見つけた三葉は、唯一味方してくれるかもしれないクラスメートに泣きついた。

 

「大丈夫だよ三葉。俺に任せてくれ」

 

「タカトシ君……」

 

さわやかな笑顔で彼女を安心させるように微笑む津田。彼の頭頂部にはおおきなたんこぶができていた。

その頼りがいのある姿に、希望を見出す三葉。

 

「会長、ちょっといいですか?」

 

「む? なんだ?」

 

ふらふらとしながらも津田はシノに近寄る。そして少しかがむと彼女の耳元に顔を近づけた。

口元を手で隠し、周囲の人間に聞こえないようにする。どうやら内緒話のようだ。

 

「あのですね……」

 

「津田、私は耳が性感帯なんだから耳元で話しかけるな」

 

「あ、すいません」

 

机にあったノートを丸めて筒状にし、ひそひそと彼女の耳に話しかける。

それを腕組みをして神妙に聞き入れるシノ。

 

「あの……すね……は2Pじゃ……無理……いきなり……3Pは……

 かの……は……6人じゃ……が……三組……それは……彼女ら……処女……

 絡むの……まずは……2P……」

 

「……なるほどな」

 

「「「……?」」」

 

ひそひそと話しているので、彼が何を言っているのか全く聞き取れない。

単語などの断片は聞こえてくるのだが、どのような内容で説得しているのかさっぱり残りの三人にはわからなかった。

 

「よし……津田の言いたい事はわかった。尤もだ。

 柔道部は今回に限り特例で4人での創部を許可しよう!!」

 

「ええ!? 本当ですか!? やったーーー!!」

 

「ちょ、何でですか会長!! 津田、あんた何言ったの!?」

 

「わーーーー(ぱちぱちぱち)」

 

先ほどと違い180度意見を変えたシノ。

その結果に大喜びの三葉。困惑するスズ。アリアはとりあえず拍手していた。

 

「別にいいだろ萩村? 会長がいいって言ってるんだから。

 それともお前は柔道部ができるの反対なのか?」

 

「いや、別にそういうわけじゃないし……会長が認めるならそれでいいけど……」

 

別に柔道部ができるのはかまわない。

彼女個人としては新しいことに挑戦する人は好きな方なので、創部自体に否はない。

ただ、今回の特例をどうやって会長から津田がもぎとったのか気になっただけだ。

 

「ならいいじゃないか。これ以上話を蒸し返すのは野暮だぞ?」

 

「……むぅ」

 

何故かまともなことを言う津田。

先ほどの自分の攻撃で頭を強く打っておかしくなったのだろうか?

大丈夫か? 頭が変に……むしろまともになったのか?と疑うスズ。

 

「ありがとうタカトシ君!!」

 

キラッキラした目で津田を見る三葉。

よほど嬉しいのだろう、今の津田は彼女にとってのヒーローだった。

 

「これくらい別にかまわないさ。俺たち友達だろ?」

 

「……う、うん」

 

何故か赤面する彼女に、やさしく笑いかける津田。

彼は普段変態で阿呆な言動をしているが、黙っていれば並はずれてはいないがそれなりに整った容姿をしている。

今まともに見える彼は、結構なイケメンオーラを放っていた。

 

「さ、許可がおりたことをみんなに早く知らせてきなよ。

 きっと待ってるよ?」

 

「そ、そうだね。ありがとうございましたーーー!!」

 

顔を真っ赤にしながら礼を述べて生徒会室を走り去る三葉。

 

「……なんだこの状況?」

 

なにかふに落ちないスズであった。

 

 

 

 

【俺の○さばき】

 

三葉が去った生徒会室。

今はみんなが過去にどんな部活に入っていたか話し合っていた。

 

「津田君は以前何か部活やってた?」

 

「そうですね、小学校のころは野球。中学校の頃はサッカーを」

 

「ほーーーーー」

 

「男の子ね」

 

何か感心した様子のシノとアリア。

やはり野球やサッカーというのは、男の子が好きなスポーツと聞いて真っ先に思い浮かびそうな種目だ。

 

(津田も小中学校の時はまともだったのかな?)

 

そんなことを考えるスズ。

そのまともなまま高校まで育てばよかったのにと思う。

 

「津田は玉遊びが好きなんだな」

 

「男の子だもの」

 

「それを言うなら棒遊びも好きですよ?

 野球はバットがありますし、高校にあがるまでは剣道もしていましたから」

 

「ほほう?」

 

「まぁまぁ」

 

「なんかひっかかるな」

 

もしかしたら頭を打ってまともに……というのは幻想かもしれないと薄々気づきはじめたスズであった。

 

 

 

 

 



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六人目

 

【生徒会的ルール】

 

一学期の中間考査が近い桜才学園。

その生徒会室でいつものように集まっている生徒会の面々。

 

「さて、来週から中間考査なわけだが……知っての通り我が校は試験結果が張り出される」

 

机に肘をたて、口の前で手を組んだシノが改まって生徒会メンバーを前に話をしている。

 

「そして生徒会役員は学年20位以内に入ることが代々のノルマとなっている。

 各自しっかり勉強しておくように」

 

生徒の上にたつ立場である生徒会の面々は、それ相応に優れた能力を持っていることを見せる必要がある。

そう考えられた結果、創立以来ずっと続いてきた伝統的なものだ。

先に述べたようにこの学園では考査の結果が張り出されるため、

中間や期末の試験は他の生徒に優秀なところを見せることのできる絶好の機会なのだ。

 

「えっ!?」

 

「大丈夫よ」

 

「問題ありません」

 

シノの言葉に反応する三人。

アリアとスズは問題がないようだが、津田はどうやら自信がないようだ。

 

「なんだ津田、自信ないのか?」

 

「はは……恥ずかしながら平凡なレベルで」

 

平凡とはいっても進学校である桜才学園。

そこに入学している時点でそれなりの学力は有しているわけだが、その中でも学年で20位とは難しい。

面倒くさがりでもあり、放課後は生徒会の仕事もしている津田は自身がなかった。

特に絶対に行きたいという大学があるわけでもないので、普段の勉強も最低限しかしていない。

津田と同じように生徒会の仕事をしているにも関わらず自信満々の他の三人。

彼女たちが努力家なのか、天性の才能からくる優秀さなのか。

少なくともスズに関しては両方だろうが、残り二人は後者な部分が大きい。

どちらにせよ、生徒会と勉学を両立させることにそれほど問題視していないシノにとっては

両立できていることは当然のことだった。

むしろ両立できるからこその生徒会役員だと考えてすらいる。

 

「よくそんなんで生徒会に入る気になったな」

 

「あれ? そういえばなんで俺生徒会に入ってるんでしたっけ?」

 

両立できない癖に生徒会に入っている津田を蔑む目で見るシノ。

その視線に少しぞくぞくとしたものを感じながらも、今さらなことを疑問に思う津田。

 

(以下津田の回想↓)

 

『君、生徒会に入らないか?』

 

『俺ですか?』

 

『ああ、共学化になったことから、男子の意見も聞けるよう現在男子の生徒会役員を募集中なんだ』

 

『でも俺そんなに頭よくないですよ』

 

『何を言うか。この学園に入れた以上それなりの学力はあるだろう。

 あとはやる気しだいだ。どうだ、皆のために働く気はないか?』

 

『う~ん、なんか面倒くさいですし……』

 

『生徒会に入ればきっとモテモテだぞ?女は優秀な男が好きだからな。

 それに今は男子の生徒会役員もいないからプチハーレムだ』

 

『入ります!!』

 

(回想終了)

 

入ったきっかけを思い出した津田。

甘言に乗せられた結果はどうだ? 確かにプチハーレムと言っていい。

彼女たちは三人とも美人で可愛い。しかしどうだ? 津田はもてている様子がない。

少なくとも告白されたことなど皆無だし、この場の三人ですら恋愛対象として見てくれていない気がする。

クラスメートの三葉ムツミなどは津田のことを意識しているのだが、本人も気づいていないので津田も知らなかった。

知らないということはその事実は、彼にとってないも同然である。

女の子に囲まれている今の状況は嬉しいものであるが、早まったかなぁと今さら後悔するのだった。

 

 

 

 

【スパルタ会長】

 

放課後の生徒会室。津田とシノの二人っきり。

 

「まぁ、せっかくだから私が勉強をみてやろう」

 

中間考査に自信がない津田のために、シノが勉強を教えてくれることになった。

 

「私はビシビシいくからな」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「時に津田……君はSかMか?」

 

「は?」

 

全く勉強と関係ないことを質問してきたシノ。

さすがの津田も予想していなかったのか目が一瞬点になる。

 

「会長もご存じのとおり、どちらかと言えば俺はどMですが?

 まぁ、必要とあらば相手に合わせてSにもなれますよ」

 

「む、そうなのか?

 Mだったら喜ばせるだけだからビシビシいかないようにしようと思ってたんだが……

 SでもMでもいける口か……どうしたものかな」

 

「ふむ、時に厳しく、時に優しく、それでいいんじゃないですか?

 飴と鞭な感じであれば俺は両方堪能できて嬉しいですが」

 

「そうか!……喜ばしたら駄目じゃないか」

 

「でもどうせなら楽しく勉強したいですし」

 

「なるほど、一理あるな」

 

「どっち道今の会長と二人っきりで勉強会というこのシチュエーションで既に喜んでいる俺ですが」

 

勉強しようと頭では思っていても既にテントを張っている津田だった。

 

 

 

 

 

 

【検索用語】

 

現在シノに教わって英語の勉強中の津田。

うんうんと唸りながらも単語を辞書で調べながら英訳していく。

 

「津田は電子辞書持ってるのか」

 

「ええ、便利ですよ」

 

すぐに検索できますしね、と返す津田。

どうやらシノは電子辞書をもっていないようだ。

 

「私はあまりこういうのは好かないな」

 

「アナログ派ですか?」

 

「いや、人に貸しにくいじゃないか」

 

「確かに高価なものですからね」

 

「いや……調べたものの履歴が残るから、恥ずかしいじゃないか」

 

わかりやすい思春期のシノだった。

おそらく家では昔から辞書で恥ずかしい単語を調べたりもしたことが何度もあるのだろう。

 

「それがいいんじゃないですか。履歴が残るのが電子辞書のいいところですよ。

 俺は女の子に電子辞書を貸すとき、必ず履歴がえっちな単語で一杯にしてから貸すようにしています」

 

「おおう、セクハラだな!?」

 

「ええ、手軽にできておもしろいですよ。

 俺としてはむしろ本の辞書の方が貸しにくいですね」

 

「む? なんでだ?」

 

「ページによってはくっついてガビガビになっちゃってますし」

 

「お前は単語の意味だけで抜いたのか? すごいな」

 

「でも会長も小学生くらいの頃は辞書で調べた単語を想像してオナ○ーしたんじゃないですか?」

 

「……確かに」

 

 

 

 

 

 

【見た感じ】

 

シノとの楽しい勉強会を終えて英語のテスト範囲をなんとか理解し終えた津田。

今度は数学をスズに教わろうと、放課後、彼女に話しかけた。

 

「IQ180の萩村、数学教えてください」

 

「いいわよ」

 

もしかしたら速攻で断られるかもと思っていた津田は、逆に速攻でOKしてもらえたことに驚いた。

 

「えっ、いいの?」

 

「あんたが言ってきたんでしょ? 何驚いた顔してるのよ」

 

「いやー、たぶん断られるんじゃないかと思っちゃってて……駄目もとで頼んだんだけど」

 

「べ、別に私もそこまで鬼じゃないわよ。勉強教えるくらい構わないわ」

 

何故か恥ずかしがってそっぽを向くスズ。

ツンデレかー、とその彼女の反応ににやにやしてしまう津田であった。

 

「何にやにやしてんのよ」

 

「いや、萩村優しいな~って」

 

「何よ、気持ち悪い顔しないでくれる?

 別にあんたのためじゃなくて、私は由緒ある生徒会から成績の低い者を出したくないだけよ!!」

 

スズとしては、今の言葉で彼のニヤニヤを止めたかったのだが、さらにニヤニヤ顔になる津田。

 

「ツンデレスズたん……ハァハァ……」

 

「……教えるのやっぱりやめとこうかしら?」

 

「ああ!? ごめんなさい!! 今日は真面目にしますから」

 

ついつい涎を垂らしてしまった津田を本気で見捨てようかと考えたスズ。

彼女に蔑んだ目で見られるのは嬉しいが、今日はまじめ路線でいこうと考えた津田。

蔑まれるのは歓迎だが、見捨てられるのは彼には辛いことだった。

特に、スズは彼の中でお気に入りの人物の一人であるので、今日は頑張ろうと思った。

 

「はぁ……わかったわよ。

 ただし、やるなら二人っきりになれる場所でね」

 

(えっ、あれ? 今日だけは真面目に頑張ろうと思ったばかりなのに……なにこの展開?)

 

まさかスズに誘われているかのような言葉をかけられて戸惑う津田。

心なしか、彼女の頬も赤くなっている気がするのは気のせいか本当に恥ずかしいのか。

とにかく彼女は普段このような自分から誘惑するようなことは絶対に言わない人である。

 

(何? 俺今日死ぬの?)

 

スズのあとをおとなしくついて歩く津田。彼等が勉強場所に選んだのは使われていない無人の教室。

こういう場合、勉強以外のことが始まってしまいそうなシチュエーション。

予想していなかった彼女の反応と展開に無意味な心配をしてしまう彼だったが、その心配は杞憂だった。

 

「人に見られると私が教えられてると思われるのよね。不愉快極まりないことだけど」

 

「あ、そうなんだ」

 

いつものスズだった、と安心する津田。

しかしそこでハッとなる。自分はこういうとき、とりあえず裸になって彼女に抱きつくくらいはするんじゃなかったか?

二人っきりの無人の教室。ここは他の教室からも離れているために人目がない。

にゃんにゃんするには絶好の機会だ。

でも今日は我慢すると決めたのだ。

我慢しきれず襲いかかろうものなら絶対にスズは津田を見はなすはず。

それは彼も勘弁願いたい事態である。スズは彼にとってお気に入りの人物の一人であるからして。

 

(触っちゃ駄目だ、揉んじゃ駄目だ、舐めちゃ駄目だ、パンツ覗いても駄目だ、下ネタ発言も駄目だ……)

 

「こんな問題30秒でやりなさいよ、どんくさいわね」

 

心の中で己の妄想と戦う彼の表情は、真剣に考えているように見える。

その顔はスズから見れば、数学の問題を必死で解いているようにも見えた。

結局彼女の勘違いなのだが、彼は今日はひどくまともな男子に見えて好印象だった。

いつもと違ってセクハラもせずに真剣な津田の姿を言葉とは裏腹に喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

【個人指導】

 

国語の古文でわからない問題があった津田。

連日でシノとスズに教わるのも悪いと思った彼は今度はアリアに教えてもらうことにした。

正直、二人のおかげで英語と数学のテスト範囲に関しては完璧になった。

ただ二人の授業は勉強中にSだのMだのツンデレだのと妄想してしまって、勉強と思考を二分化してしまい疲れるのだ。

余談として、何気に思考分離化に成功し一度に二つの考えができるという高度な技を身につけた津田。

しかし彼のこの特技は今後の人生においても勉強のときにしか発揮されないのだった。

学生としてはそれでも十分すぎるほどだが、宝の持ち腐れである。

 

「七条先輩、古文の問題がわからないんですが教えてもらえますか?」

 

「ん? どれどれ?」

 

「ここなんですけど……」

 

問題集を見せられて、ふむふむと頷くアリア。

 

「ようし、お姉さんが優しく教えてあ・げ・る」

 

ウィンクして優しげに微笑むアリア。

津田としては嬉しい反面、いつも通りの彼女にあまりドキドキしない。

そのせいかあまりやる気が起きてこないことに、彼は愕然とした。

自分が色々と妄想できるシチュエーションの方が逆に勉強にたいしてやる気が出る体質だと初めて知った瞬間だった。

難儀な体質だった。

 

「ふふ、でも津田君最近勉強頑張ってるみたいだね。

 シノちゃんとスズちゃんから聞いたよ? 二人にも教わったんだって?」

 

「はい、どうも自分だけじゃ解らない問題が多かったもので」

 

「うんうん、これからもわからないことがあったら遠慮なく頼ってくれてもいいんだよ」

 

勉強にやる気になってくれている津田に、彼女は嬉しそうな顔をする。

 

「ハハ、でも普段なれてない一日勉強ばかりの生活にさすがにちょっと疲れてますけどね。

 やっぱり俺には勉強向いてないのかな」

 

「そんなことないと思うけど……津田君生徒会の仕事もちゃんとできてるし。

 もともと頑張り屋さんなところあると思うし、試験が終わるまでもう少し頑張ろう!」

 

「そうですね、なんとか頑張ります」

 

アリアの励ましの言葉に乾いた苦笑して返す津田。

彼にはいつもの元気がなく、連日の夜遅くまでの勉強で目の下にも深いクマが出来ていた。

いつもなら彼女のような美少女を目の前にすれば無駄に興奮しているはずなのだが、今日はその様子がない。

会話にも下ネタ発言を自分からするはずの彼が、今日はまだ一言も下ネタを言っていない。

本気で疲れてるんだなぁ、と少し可哀そうになったアリア。

彼女は普段から勉強をしているほうだが、基本的に優秀な彼女の頭脳はそれほど勉学に時間を割かなくとも大丈夫なのだ。

色々と習い事をして、趣味の時間もたっぷりととって、後は宿題と復習をほんの少しである。

それだけでいつも学年5位には入るのだから呆れたスペックの持ち主である。

そんな彼女だから、勉強でここまで苦労するということを経験として知らない。

自分のわからない苦労をしているんだな、と津田をちょっとだけ尊敬してしまうアリアだった。

だから、彼を元気づけてやりたいと思ったのも、優しい彼女からしてみれば当然の考えだった。

 

「じゃあ、津田君がやる気を維持できるようにお姉さんからの提案!」

 

「はい?」

 

「津田君が次の中間考査で一位を取れたら、ご褒美として私の体のどこでも一か所一回だけ舐めていいよ」

 

「本当ですか!?」

 

彼女の提案は、やっぱり彼女らしくエロスな香りのただようものだった。

魅力的なご褒美を提示されて、目を限界まで開く津田。

 

「うふふ、一か所だけよ? それと一舐めだけね?」

 

「本当ですよね? 嘘じゃないですよね!?」

 

「恥ずかしいけど、津田君がちゃんと一位を取れたらね。私も頑張る」

 

恥ずかしそうにもじもじと腰をくねらせながらも二言はないと言うアリア。

恥ずかしいならそんな提案しなければいいのにとか、別のまともな褒美でいいのではとかは愚問である。

いつも津田に負けず劣らずエロい妄想をして、エロ発言をするアリア。

彼女にとってはこのご褒美は罰ゲームではなくむしろ彼女にとってもドキドキな体験なのである。

恥ずかしいことこの上ないが、むしろどんとこいである。

彼女にとってのアウトラインは本当に合体するか否かであり、それ以外は……まぁ、面白ければいいかという考えだ。

 

「ぃよっしゃああああ!! 一位とったらぁああああああ!!」

 

「うふふふふふふふ」

 

先ほどまでとは変わってみなぎるやる気にあふれる津田。

何故か先ほどまでは深いクマのせいで黒々としていた目の下の肌が、健康的な色を取り戻していた。

そんな彼の様子に楽しそうな顔で笑うアリアだった。

 

「絶対に一位でご褒美もらって、七条先輩の眼球を舐めるぞぉおおおお!!」

 

幸運にも彼の叫びはアリア以外の人間には聞かれていなかった。

 

 

 

 

 

 

【うっかりくん】

 

そして中間考査当日。

自身の教室で試験をうける生徒会の面々。

みんなに勉強を教わり、ご褒美のために怒涛の勢いで勉強した津田。

彼は難しいはずの問題もすらすらと解いていた。

勉強の成果だなと思いつつ解き進めていると、何故か最後の問題にきて解答欄が一つ足りない。

 

(あっ!?)

 

どうやら解答欄を一つずつずらして記入してしまっていたようだ。

時計を見れば残り5分。

彼は急いで記入欄に書く解答を書きなおすのだった。

 

 

時間が流れて生徒会室。

全教科の試験を終えて、手ごたえを確認し合っていた生徒会メンバー達。

 

「私は今回も特に問題なくできたわ」

 

「私もたぶん書き間違いでもない限り全部満点だと思います」

 

「そうか、皆手ごたえは良かったみたいだな。

 津田はどうだ? 勉強頑張ってただろう?」

 

「いやーそれが、今日の数学で解答欄一個ずつずらして書いちゃっててあせりましたよー」

 

自分の試験中の失敗談を話のネタに提供する津田。

 

「あらあら、津田君うっかりさんね」

 

「アホじゃないの? てか阿呆じゃないの?」

 

「萩村、二回も言わなくても。ていうかいちいち漢字で言い直さなくても」

 

「あんたアホって言われて悔しいのか嬉しいのかどっちなのよ?

 セリフと表情が一致してないのよ気持ち悪い」

 

「ははっ、まぁまぁ萩村もその辺にしといてやれ。しかし津田もそそっかしい奴だな。

 これからはズラすのはスク水の秘所だけにしておけ」

 

楽しそうに冗談を言うシノ。

 

「じゃあ今度の夏にでも会長の秘所をズラしていいですか!?」

 

「おっ、おお?」

 

その冗談に無駄に食いつく津田。

シノもまさかここまで食いつきがいいとは思っていなかったのか少し動揺している。

 

「あらあら二人とも、旧スク水はもうないわよ?

 この学園の水泳授業の指定の水着も新タイプのスク水だし……」

 

「そうか、すまなかったな津田。今のタイプのスク水じゃあ秘所はずらせん。

 私も旧のは持っていないしな、諦めろ」

 

旧スク水が無いと聞いて安心するシノ。持っていないのだから仕方ない。

津田には悪いが諦めてもらうしかないと考える。

しかし彼にその辺の死角はなかった。

 

「大丈夫です。旧スク水ならちょうど会長がきれそうなサイズのものを俺が持っています。

 持ってくるので今度の夏は一緒にプールか海にでも行きましょう!!」

 

「そ、そうか……」

 

「あらあら凄いわね津田君。私の着れそうなのはある?」

 

「勿論ありますよ!」

 

「なんで持ってるのよ……」

 

「あっ、萩村の分もちゃ「私は着ないわよ」んと……」

 

 

 

 

 

【てっぺん】

 

試験から三日後。

中間考査の結果が張り出された廊下にて。

5教科500点満点で各学年上位50人の順位が張り出されている。

二年生の順位結果に、一位天草シノ491点。二位に七条アリア480点とあった。

生徒会の会長と書記がワンツーで独占している。

 

「まぁ、こんなものか」

 

さも当然といった態度をとってみせるシノ。しかしその表情はどこか嬉しそうである。

 

「あー、またシノちゃんにトップ取られちゃった」

 

今回は前より頑張ったのになぁ、とそれに反してアリアは少し残念そうである。

彼女も津田に触発されて今回はいつもよりもテスト勉強をしてみたのだが、シノに一位を取られてしまった。

点差にして6点。問題に置き換えれば二問か三文の違いだろう。

あまり競うことをしない彼女でも、いつもより頑張った今回はもしかしたらシノよりも点数が高いかも、と淡い期待をもっていた。

 

「うーん、こっちのトップはシノちゃんより上なんだけど……」

 

自身の胸の先を見つめて深い溜息を吐く。

溜息にあわせて、ブレザーの下からでも自己主張する乳房が上下する。

 

「ハハハハ、相変わらずアリアは面白いことを言う。……なぁ?」

 

その光景を見ていたシノは試合に勝って勝負に負けたかのような暗い顔で笑う。

その事実を笑いごとにするかのように隣にいたスズに問いかける。

 

「……私がその問に答えられるとでも?」

 

若干いらついた様子のスズ。よく見れば頬が引きつっている。

シノとアリアの胸の差が圧倒的というならば、アリアとスズはどうなのか。

答えは今さら言うまでもないようなもの。まさに大人と子供の、ゾウとアリの戦いになる。

そのことに思い至り、ショックを受けるシノ。

 

「悪い、そんなつもりじゃなかったんだ。

 そうだよな、胸の大きさで女の価値は変わらんよな?

 萩村もいい女なのは私は知ってるぞ?」

 

「あんた謝ってるのか喧嘩売ってるのかどっちだよ。

 喧嘩か? 喧嘩売ってるんだな? そうだな?」

 

 

 

 

 

 

【一年の試験結果】

 

続いて一年の試験結果の張り出された場所にきた面々。

 

「っちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

そこでは津田が地に膝を付き、慟哭の嘆きをあげていた。

もしや結果が悪くて20位以内に入れなかったのかと心配する女性陣。

一同張り出された結果を見てみる。そこには……

 

 

     一位 萩村スズ    500点

      

     二位 津田タカトシ  491点

       

     三位 吉田マナカ   472点

 

……と書かれていた。

こちらも生徒会役員でのワンツーフィニッシュである。

それも3位に20点近い大差をつけている。

 

「おお、凄いじゃないか津田!」

 

「へー、出来ない出来ないって言ってたのにやるじゃない見直したわ津田。

 ……でもなんでこの点数であんた悔しがってるの?」

 

「……あはは」

 

単純に褒めるシノ。

津田のことを見直し、評価を高めるも何故か悔しがっている津田を不思議がるスズ。

彼が何故悔しがっているのかわかるアリアは小さく笑い声をあげた。

彼女としても恥ずかしいことをしなくてすんで安心したような、ドキドキ体験がなくなって残念なような複雑な気分である。

 

「くそ、くそぅ、一位とれなかったぁあああ!! 萩村に負けたぁあああ!!」

 

「なんだ。そんなことで悔しがっていたのか津田は」

 

「テスト期間の詰め込みだけでこれだけ点とれるなんて逆に凄いわよ。

 というよりそれで負けたら私の立場がないわ」

 

「ふふ、でも津田君頑張ったわね」

 

「一位じゃないと意味がないんだぁあああああ!!」

 

 

 



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七人目

 

【だれ?】

 

特に行事ごともない5月中旬の生徒会室。

 

「うぃ!」

 

扉を開けて見知らぬ女性が入ってきた。

フランクに挨拶してくるおそらくこの学園の教師であろう。

他の教師のようなスーツ姿ではなくラフないまどきの格好をしており、

髪もショートにしてさわやかさを演出している。なかなかの美人である。

 

「え?」

 

突然の来訪に固まる生徒会の面々。

特に津田は、彼が生徒会に入ってからこの部屋に教師が来たのは初めてのことで予期せぬ客に驚いていた。

 

「誰? ここは関係者以外立ち入り禁止よ?」

 

その女教師が津田を目に留め、話しかけてきた。

彼からしたら、この教師こそ誰だという話である。

少なくとも津田はこの学園に入学してから彼女を見たことはない。

 

「あの、そちらこそどちら様?」

 

彼の問いはもっともだろう。

美人にあったらあまり忘れることのない津田が、見たことのない人物なのだ。

少なくとも生徒会関係者とは思えない。

 

「私? 私は生徒会の担当顧問よ」

 

津田の問いかけに胸を張って答える教師。

その内容に驚く津田。彼としては生徒会に入ってから特別紹介されることも挨拶に行くように言われたこともない。

正直この生徒会には顧問なんていないんじゃないかと思っていたのだ。

彼が生徒会に入ってから1か月以上が経つが、一度も顧問の話題も名前すら出てこなかったのだ。

無理からぬことだろう。

 

「ん?」

 

そこに遅れて部屋に入ってきたシノ。

見慣れない顔ぶれが部屋にいることに気付く。

 

「やぁ天草」

 

女教師が気さくにシノに話しかける。

その様は確かに親しい生徒に話しかける態度そのもの。

その姿に本当にここの顧問なんだ、と思う津田。

 

「? ここは関係者以外立ち入り禁止ですが?」

 

「あるぇー!?」

 

しかしシノの不審者を見るような視線に、やはり本当に顧問なのかどうかわからなくなる津田だった。

 

 

 

 

 

 

【生つば?】

 

「お前ら私のこと完全に忘れてただろう……」

 

呆れた声をあげる顧問。

しかたないだろう、彼女は全然生徒会に顔を出さなかったのだから。

特に今までの仕事で顧問の意見が必要だったこともなかったのだ。

こちら側から会いに行くこともなかったため、必然的に会うこともない。

彼等の中では既に顧問はいないものと判断されていた。

 

「では改めて、私が生徒会の担当顧問の横島ナルコよ」

 

「そういえば横島先生はうちの顧問でしたね」

 

「全然来ないからすっぽり忘れてたわ」

 

スズとアリアの言葉にさすがに何も言えない横島先生。

記憶力のいいスズですら、おそらく彼女が自己紹介をするまで名前を忘れていたに違いない。

それまで横島先生が部屋に入ってきてから一言もしゃべろうとしなかったのが証拠である。

まぁいいや、と気持ちを切り替える横島先生。

彼女はあまり深く考え込んで落ち込むことはしないのだ。

良く言えばさばさばとした前向きな性格、悪く言えば面倒くさがりでいろいろと無頓着なのである。

 

「それで、あんたが新しい生徒会役員?」

 

横島先生が津田に向きなおって話しかける。

それに対応して挨拶と自己紹介をする津田。

彼的にも、彼女が顧問だというのならよろしくするのはかまわない。

むしろ美人な分嬉しいくらいである。

 

「どうも、一年の津田タカトシです」

 

「はは、元気いいなぁ……じゅるり」

 

彼女は津田の全身を眺めまわしながら、舌舐めずりをするのだった。

 

 

 

 

 

 

【10さいくらい?】

 

津田のことを気に入ったのか、それとも単に男子生徒という生き物が好きなのか。

その辺は今の時点ではよくわからないが、非常に機嫌がよさそうである。

 

「よーし、津田! 私に質問あったら何でも聞いていいわよ」

 

親睦深めよーぜ、と楽しそうに言う先生。

しかしその笑顔は純粋に楽しそうにも見えるのだが、目だけは津田の体を未だに舐めまわすかのように見ていた。

ちょっと興奮し始める津田。その二人の様子を見てまた変態が増えるのかと危惧するスズ。

シノとアリアはあまり先生には興味がなさそうである。

 

「えーと、じゃあ……先生のバストは何センチですか!?」

 

「「いきなりそれか」」

 

胸の話題が出て一気に不機嫌になるのが二人ほどいた。

しかし津田の問いに先生は目を輝かせる。

 

「おいおい、初対面でいきなりそれか?

 いきなり女に年齢を聞いてきたら説教してやろうと思ってたのに。

 なかなか見どころがあるじゃないか」

 

今の発言のどこに見どころがあるというのか。

呆れて何も言えないというか、今のこの二人にあまりかかわりたくないスズ。

 

「ふん、津田のおっぱい星人め……」

 

「まぁまぁシノちゃん」

 

シノは椅子の上で三角座りしてすねていた。

別に津田にこれといって特別な感情を抱いているつもりはないが、あまり胸にばかり目が行かれると面白くないのである。

それを慰めるアリアだったが、彼女の大きく立派なものがシノの心を逆に追い詰めるのだった。

 

「そんなに知りたいなら教えてやらんでもないが……体でな」

 

「マジですか!」

 

「はいそこー、それ以上はNGよー。津田も冗談だって気づきなさいねー」

 

津田の手を引いて外に行こうとする先生を、手を叩いて現実に戻すスズ。

あまりかかわりたくないがこれ以上は本当に駄目である。

この作品は18禁には対応していないのである。

というか自分の知っている相手同士が、知っているところでそんな関係になってほしくない。

決してそれ以外の理由など存在しない。ないったらない。

 

「じゃあ質問を変えて……先生って経験者ですよね?」

 

「は? 何の?」

 

正気に戻った津田が先生に別の質問をする。

あえて何の経験者なのかは言わなかったのだが、スズ以外は何について言っているのかわかったようである。

こちらに背を向けていたシノとアリアがこちらに向き直る。

 

「ああそうだな、私はいろいろと経験豊富だぞ?

 伊達に教師をやっていないからな!」

 

「「「おお~!!」」」

 

初めて先生を尊敬した目で見つめる三人。

この時点でスズにも彼等がこれだけ喜んでいるところを見て何の話題か理解した。

ああ、もう私ではこいつらを抑えるのは無理だ。

ツッコムだけ無駄だと思ったスズは、今日はもうツッコミは休もうと思った。

 

「それで、初めての経験は何歳だったんですか!?」

 

「ん~、10さいだったかな?」

 

「いや、ありえないだろ!!」

 

やっぱりツッコんでしまったスズであった。

 

 

 

 

 

 

【理性との戦い】

 

まだまだ続く先生への質問タイム。

 

「先生は何で教師になったんですか?」

 

「う~ん、まぁドラマの影響かな」

 

先生が語るのは、よくある青春ドラマに見られる物語。

問題児が集まるクラスに赴任し、生徒たちを熱血指導で更生させていく。

物語の中で生まれる師弟愛。そして生徒同士の友情。それを見て涙を流す自分。

ある種使い古された、だけどそれゆえに感動するものを多く含んだストーリー。

 

「でも駄目だわー。この学園の生徒みんな優秀なんだもん」

 

問題児なんていやしない、とつまらなそうに話す先生。

 

「まぁ一応進学校ですし、絵に描いた不良なんて最近じゃあまり見かけませんしね」

 

「みんな真面目だものねぇ」

 

「ですねぇ」

 

「……私からしたらあんた達も十分問題ありだと思うんですけどね」

 

特に大きな問題は起こしてないだろうが、下ネタばかり言う生徒はどうなのだろう?

少なくとも、セクハラばかりしてスズ自身何度か被害にあっている津田は問題児とみていいと思う。

 

「まぁ、正直去年まではつまらなかったけどね。

 共学化で生徒よりもむしろ私の方が今は問題起こしそう……じゅるり」

 

ピンク色の妄想をして舌舐めずりする横島先生。

その眼は津田を獲物として狙っていた。

 

「Wao! もしかして俺先生相手に大人の階段のぼっちゃう!?」

 

「いいぜー、のぼろうぜー」

 

先生の視線に気づいた津田が調子にのって冗談を言う。

彼女もノリノリで手まねきしていた。

 

「先生も津田も冗談だけにしてくださいね。

 少なくとも生徒会に所属しているうちは18禁展開は関心しません」

 

「「えー?」」

 

スズが何かツッコミを入れるべきかと思っていると、意外なことにシノが二人を注意した。

普段は自分も一緒になってふざけるはずなのに……と驚くスズ。

今日の会長は真面目モードなのだろうか。

 

「ふふ、シノちゃんってばヤキモチ?」

 

「ば!? ち、違うぞ!?

 私は単純に生徒会役員は生徒の模範としてのだな!」

 

「ほほう? 天草も津田の童貞を狙っているのか?」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「いや、違う! 違うぞ?」

 

慌てるシノを見てにやにやとしているアリアと横島先生。

真面目なんじゃなくて結局全員色ボケかと溜息をつくスズ。

 

「じゃあこの4人の中で誰が津田君の童貞を奪うか競争ね?」

 

「ふふ、望むところだ!!」

 

「む?きょ、競争か?……って何を言ってるんだアリア!?」

 

楽しそうにシノをからかうアリアと先生。

二人にからかわれて彼女は珍しく耳まで真っ赤にして慌てふためいていた。

冗談だとは分かっていても、自分の童貞を取り合う美女の集まりに妄想がとどまる所を知らない津田。

 

「4人って……ナチュラルに私まで巻き込むんじゃねえ」

 

スズのぼやきは誰も聞いてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

【アレ】

 

とあるお昼休みの生徒会室。

向かい合って席に座り一緒に弁当を食べていた津田とアリア。

津田は彼女の弁当の中のおかずの豪華さに毎度驚かされる。

学校にもってくる弁当の中身なんて基本晩御飯の残り物が多いだろう。

弁当箱にいつも高級食材がふんだんに使われているアリアの弁当からは、彼女の家での食生活の豊かさがうかがえる。

今日も彼女の弁当の中には伊勢エビがまるまる一匹入っていた。

 

「七条先輩の家のご飯って豪華そうですよねー」

 

思わず口に出た津田の言葉は、尤もであろう。

彼の弁当の中身は昨日の晩の残りの肉じゃがと冷凍食品のオンパレード。

対してアリアの弁当はまるでおせちのよう。

弁当がそのままお互いの家庭の食卓を表していた。

 

「う~ん、でも私高級料理よりも庶民じみた料理の方が好きなんだけどね。

 お味噌汁とか納豆とか」

 

「へー、そうなんだ」

 

意外にも舌は庶民はであると主張するアリア。

津田はその言葉に意外そうな声を上げる。

正直お味噌汁はともかく納豆を食べるアリアは想像できなかった。

むしろ納豆を食べているのではなく納豆をかけられてネバネバになってしまった彼女の方が想像しやすい。

食事中に駄目な妄想をしてしまう津田君、彼はどうしようもなく思春期なのである。

 

「特にアワビは苦手ね」

 

「へぇ」

 

「共食いしてる気分になるから」

 

「わかります。俺もマツタケは苦手で……

 どうしてもそっちの気はないのにBLな気分になっちゃうんですよね」

 

「そうそう、私も一応ノーマルなのにね?」

 

お互いの共通したことも見つけて盛り上がる二人。

 

「あの……すでにこの会話がノーマルじゃないんだが……」

 

何気に津田の隣で会話には参加していなくとも食事をしていたスズ。

今の会話が聞こえてしまって嫌がおうにも食欲がなくなってしまった。

せめて食事中はそのての話題は避けてほしいと思う行儀のいいスズだった。

 

 

 

 

【子だくさん】

 

お昼休みの生徒会室。

各自弁当を食べ終えて雑談タイム。

 

「そういえば、俺の通っていた小学校なんですが、今度廃校になるらしいんです」

 

雑談の話題として、今朝がた聞いた情報を提示する津田。

少子化という日本の未来にとっての危機に、各々が何か思うところがあるような表情をする。

 

「私のところも入学した生徒が2クラスしかないらしいわ」

 

改めて少子化を実感するわねー、と困った顔をするアリア。

そうなのだ。どこの小学校も今現在の生徒数が昔よりも少なくなっている。

一学年に平均3クラスだったのが、今は2クラス。

少ない学校では1クラスで人数が足りてしまうらしい。

なにもそれはこの町に限ったことではなく、全国的にそうなのだ。

人数が少なくなり、廃校になったり隣の学校と合併したりといった事が増えている。

 

「少子化問題、深刻ですね」

 

「うむ、いいことを思いついた!」

 

がたり、と椅子から立ち上がるシノ。

 

「またふざけたこと思いついたんじゃないでしょーね?」

 

「失礼な。私はいつも真剣だ。

 我々生徒会もこの少子化問題にできる限りのことをするのだ!」

 

「具体的には?」

 

「将来、性行為をするときは常に中○しだ!!」

 

「そんなことよく臆面もなく言えますね」

 

「ていうか会長、それっていちいち宣言するほどのことですか?」

 

「なんだと?」

 

「俺は性行為の時は避妊はするつもりはありませんよ?

 子供が出来ても責任とるつもり満々ですし。俺のような人間も結構います」

 

「避妊しないからこそ、できちゃっても否認しないのね。えらいわ津田君」

 

「えらいのか? そんなに若いうちから覚悟できてるやつも少ないと思うけど?」

 

「ふむ、じゃあどうすればいいのだ津田。他にいい案があるとでも?」

 

「ええ、子供のいない夫婦の家庭にバイア○ラを配りましょう」

 

「まぁ、それはいい考えね」

 

「いや、駄目だろ」

 

「そうだぞ津田。学生の我々がバイ○グラなどどうやって調達するんだ」

 

「いやいやいや、会長も調達できれば配るんですか。止めてくださいよ」

 

「じゃあ市民にコンド○ムを配るのはどうですか?」

 

「? それだと避妊だろ?」

 

「ええ、だからあらかじめ全てのゴ○に小さな針で穴を開けとくんですよ」

 

「まぁ、それはいい考えね」

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいや、それはさすがに駄目だろ!! 

 本気で駄目だろ!!」

 

「……なるほど、それでできちゃった婚に追い込むわけだな?」

 

「結婚に踏み込めない男を逃がさない、ある意味常套手段ね」

 

「……本気じゃないですよね?まさかやりませんよね? 

 津田、ねぇ笑ってないでなんとか言いなさいよ。ねぇ!?」

 

なんだかものすごく未来が不安なスズだった。

 

 

 



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八人目

 

【ずっしり】

 

放課後、廊下を歩いていた津田。

今日は生徒会の集まりは特になく、かといって家に早く帰ってもつまらないのでなんとなく校内をぶらぶらと歩く。

この学園は女子生徒の数が多いうえに、去年まで女子高だったこともあり、女生徒の危険意識も低い。

つまりは、適当に歩いているだけでラッキーなチラリハプニングが期待できるのだった。

そんな偶然に見えるチラリズムを求めて津田が見つけたのは、重そうに段ボール箱を運ぶアリアだった。

彼女にとっては相当重たいものでも入っているのか、額に汗をかきながらふらふらとしている。

段ボール箱の角で、彼女の豊満な胸が押しつぶされている。

美少女が乳房を何かに押し当てて汗をかいている構図はなかなかに魅力的である。

魅力的であるのだが、このまま放置するというか、ただ見ているだけというのは人としていかがなものか。

特に彼女は自分の知り合いなのである。ここは手を貸すべきだろう。

 

「七条先輩、よかったら俺が持ちましょうか?」

 

「あっ、津田君」

 

アリアは声をかけられて初めて彼に気づいたようだ。

彼の言葉にパァッと顔が明るくなる。

 

「いいの?」

 

「ええ、俺も丁度今暇してたとこですし」

 

そういってアリアの手から荷物を受け取る津田。

中にはプリントか何かが一杯に入っているらしく、結構な重さがあった。

なるほど、これは女の子が一人で運ぶには辛いだろう。声を掛けて正解だったようである。

 

「大丈夫? 重くない?」

 

「大丈夫ですよ、これでも男ですから」

 

「うふふ、やっぱり男手があると助かるわー」

 

「力仕事なら任せてください」

 

何気ない会話をしながら二人並んで廊下を歩く。

どうやら生徒会の書類ではなく、単純に教師に運ぶのを頼まれたようだ。

目的の二階にある職員室で、偶然シノに出くわした二人。

 

「? 二人してどうしたんだ?」

 

「ちょっと先生に荷物を運ぶのを頼まれちゃって……」

 

「それで通りがかった俺が手伝ってたんです」

 

「ほう」

 

「おかげで助かっちゃった。ありがとう津田君」

 

「いえいえ、このくらいいつでも言ってください」

 

「……」

 

何か考え込むように黙り込むシノ。

三人そろって戸口で部屋の中に向かって礼をし退室する。

職員室を出てすぐ、津田は彼女に話しかけられた。

 

「津田は力に自信があるのか?」

 

「まぁ、男ですしね。それなりに鍛えてもいますし」

 

「そうか、なら君のその力試させてもらおう」

 

「はい?」

 

「私をお姫様だっこで教室まで連れて行ってみろ」

 

どうやら、先ほど何か考えていたようだがこのことらしい。

津田の力を使って何か面白いことができないか考えていたようだ。

 

「えっ、いいんですか!?」

 

「どうした? 自信がないか?……やはりお姫様だっこはできないか?」

 

不敵に笑う彼女の表情に、津田の何かが刺激される。

お姫様だっこは女だけの夢ではない。

男にとってもお姫様だっこで女性をベッドまで運ぶのは夢なのである。

彼も例外ではなく、日々将来彼女をベッドまで運べるよう腕の力は鍛えている。

大柄な、悪く言えば太めの女性ならいざ知らず、スレンダーなシノを抱き上げられないと思われるのは心外である。

それに、いままで妹しかお姫様だっこをしたことがない津田にとって、この申し出は好機である。

身内以外の人間を抱き上げるといううれし恥ずかしな行為を彼が断わるわけがない。

 

「会長、失礼しますね」

 

そう言って、右手で彼女の足に手をかけ、左手で背中を支える。

すんなりとお姫様だっこの体勢となるのだった。

 

「おお、軽々と持ちあがったな。

 今日の私は重たい日だからきついと思っていたんだが……」

 

「ふふ、シノちゃんてばそれが言いたかったのね?」

 

どうやら現在シノは女の子の日なようである。

それを聞いてふと津田は考えた。

たしか、女性の妊娠における危険日は女の子の日の21日前から12日前とかだったはず。

なら今の会長は安全な日なのであろうか?

 

「……」

 

「よし、津田! このまま私の2-Bの教室まで……て、おい津田?

 どうした? そっちは階段で……なんで下に降りるんだ? おい津田?」

 

「津田君? そっちは保健室の方向よ?」

 

「ええ、今日は保険医の山口先生は出張でいませんし保健室はあいてるのでベッドが使えますから」

 

何か乙女として危機を本能的に感じたシノ。

このままでは自身の貞操に関わる。

 

「ちょ、ちょっと待て津田!? 

 なんでお前が山口先生のスケジュールを知っている!?

 なんでベッドを使う必要がある!?」

 

「あらあら、二人とも大人の階段昇っちゃうのかしら」

 

「正確には階段は今現在降りてるところですけどね」

 

「な、何を言ってるんだ二人とも!? わかった、私が悪かった!

 津田、もういいから降ろせ!」

 

「ちょ!? 階段で暴れないでください会長! 落ちたら危ないですよ!?」

 

「そーよシノちゃん。暴れるからパンツ丸見えよ?」

 

「いや、でも……ふわぁあ!? 津田、変なとこ触るなぁ!!」

 

暴れる彼女を支えようとした彼の指が、彼女の脇と乳の間を揉む形になってしまった。

パシーン、と彼女が津田の頬をはる音が階段に響いた。

しかし、ここで彼女を落とせば下へ転がり落ちるのはわかっているので踏ん張る津田。

無言でそのまま階段を一歩一歩ゆっくりと下りる。

 

「すまない! からかったりした私が悪かった! だからもう降ろしてくれー!!」

 

 

 

 

 

【ネタばれするとまなこ】

 

いつもの生徒会室。会議の休憩中。

目頭を揉むようにマッサージをするシノ。

 

「ふ~~~~。最近ドライアイに悩まされて困っている」

 

どうやら乾燥して疲れてしまいやすいらしい。

 

「ドライアイ? なんですそれ?」

 

聞きなれない単語に疑問の声をあげる津田。

 

「ん? 津田は知らんのか?」

 

おもむろにマジックペンを手に取ると、ホワイトボードに彼女は文字を書き始めた。

 

「最近知育モノがはやっているから問題を交えて説明してやろう」

 

ホワイトボードの面をマジックの先が走り、生徒会室にきゅきゅっと音が鳴る。

やがて文字をすべて書き終えたシノが津田に振り返った。

 

『ま○こが濡れにくい』

 

「○にあてはまる言葉を入れなさい」

 

「ん、ですね」

 

「真っ先に思いつくのがそれか」

 

成り行きを見守っていたスズが呆れた声を出す。

こんなことも知らないことにもそうだが、何故それを正解だと考えるのか。

ドライ『アイ』なんだから目に決まってるだろうに、この問題なら『な』が正解だ。

 

「違うぞ、津田」

 

「え~。まん○じゃないんですか?」

 

「どうしてあんたはそう平然と放送禁止用語を口にするのよ」

 

「会長はま○こが濡れにくいんですか?」

 

「あらあら、シノちゃんそうなの?」

 

「いや、だからな? 答えは『ん』じゃなくてだな……」

 

「S○Xの時それじゃ乾いて挿れると痛いんじゃないですか?」

 

「あらまぁ、初体験は痛いっていうけど、シノちゃんはさらに大変そうね」

 

「あの……二人とも?」

 

「じゃあ湿らせるためにもクン○は絶対必要ですね」

 

「そうね、この場合ローションなんて邪道よね」

 

「……ちくしょー!!」

 

「あっ、会長!?」

 

せっかく問題を出したのにまともに解いてもらえない。

それどころか、何故か変な誤解を招いてしまう始末。

シノは涙をちょちょぎらせて生徒会室から走り去るのだった。

 

「ちゃんと濡れるもーん!! うーぁあーーー!!」

 

「ちょっと会長!? 待ってください会長ー!!」

 

シノの嘆きの言葉は学園中に響き渡ったという。

スズが止めようとした時には既に彼女の背中は見えなかった。

 

 

 

 

 

【君が生まれる時】

 

いつも通りの生徒会室。

特に会議もないがなんとなく集まってしまった面々。

すでにこの生徒会室にくることが生活の一部になってしまっている。

 

「シノちゃん、スズちゃん、二人とも昨日のドラマ観た?」

 

「うん、主人公の母親が実母でなかったとは衝撃だった」

 

「私は昨日は見過ごしてしまいました」

 

珍しく年相応の話題を話している三人。

 

「まぁ、ああいった驚きの出生の秘密はドラマに限るな。

 実際にあったらさぞかし辛いことだろう」

 

「そうですね、劇的な方がドラマ性はありますが普通のほうが幸せなはずです」

 

久方ぶりに生徒会の面々でのまともな内容の雑談。

なんだか新鮮だなぁとスズが思ってしまうのは、仕事の話以外ではすぐに下ネタに持って行きたがる人ばかりだから。

彼女的にはこういう会話がもっとあったら落ち着けるのになぁと思う。

 

「えっ、でも私実際に出生の秘密聞かされたわよ?」

 

そのアリアの言葉にどう反応したらいいか戸惑うシノとスズ。

ドラマのように親が本当の親じゃなかったとか、実は近親での禁断の関係の間に生まれた子供か。

彼女が大金持ちの家系であるだけに、一瞬でいろいろな憶測が浮かぶ上がる。

この手の出生の秘密は、ドラマではよく彼女のように金持ちの人間にあるので信憑性が高く思えてしまう。

かといって、彼女に親が違ったのか?とこちらから問いただせる訳もなく。

 

「そ、そうか」

 

「そうなんですか」

 

こうやって曖昧な言葉を返すしかなかった。

しかしアリアは特に重たい雰囲気を醸し出すわけでもなく、平然と言ってのける。

 

「うん、私が種づけされた時って青カンだったんだって」

 

「アウトドア派なんだな」

 

「会長、その反応はどうなんですか?」

 

アリアのことは心配するだけ無駄だった。

というよりも彼女の言うことは出生の秘密というよりもご両親の性癖の秘密なのでは、と思うスズ。

そんな時、扉の開く音とともに津田が生徒会室に入ってきた。

手には書類の束を持っている。

今日は会議も特にないし、集まるような予定もない。

皆が集まる必要なはいのだが、偶然にも全員が集まってしまう。

彼は自分を覗く全員が集まっていることに少し驚くような顔をした。

 

「あれ、なんでみんないるの?」

 

「なんとなくな……津田はどうした?」

 

「いえ、横島先生にこの書類を生徒会室に運ぶよう頼まれまして……」

 

どうやら次の会議か何かに使う書類を顧問の教師に頼まれたらしい。

 

「そうだ、今丁度みんなで話してたんだけど……津田君って何か出生の時の秘密とかって聞いたりしたことある?」

 

「七条先輩、そういうのを人に聞くのはどうかと……」

 

「俺の出生ですか?」

 

アリアが津田に質問するのを、苦い顔で止めようとするスズ。

実際に秘密があろうとなかろうと、そういうものを自分から他人に聞くのは気がひけるのだ。

もしややこしい問題があったらどうするのか、少なくとも興味範囲で聞いていいものではない。

なら、この手の問題は相手が自分から話すならいざ知らず、こちらから探るのは藪をつつくようなものだ。

 

「まぁ一応聞いたことはありますけど……」

 

「へぇ、どんなの?」

 

「ちょ、ちょっと七条先輩……津田も無理に話さなくてもいいのよ?」

 

「大丈夫だって萩村。

 単に俺が出来た時って、青カンで種づけされたらしいんだよね」

 

「お前もか」

 

津田に対しても、いらぬ心配だった。

この人たちにはシリアス展開な心配は必要がないことを悟ったスズであった。

安心するような、それでいて安心してはいけないような複雑な気分である。

 

 

 

 

 

 

 

【べ、べつに楽しみにしてるわけじゃないんだからね】

 

5月の23日。今月も後一週間となった桜才学園。

その生徒会室で明日からの予定について話し合う生徒会の面々。

 

「私たち二年生は明日から修学旅行だ」

 

明日の24日から二年生は三泊四日で京都に修学旅行だ。

シノもアリアも二年生なので、その間は仕事は一年生の二人に任されることになる。

 

「その間生徒会の仕事は君たちに任せる」

 

「大変かもしれないけど頑張ってね」

 

「「はい」」

 

その言葉に元気よく返事をする一年生コンビ。

息もぴったりだし、これなら大丈夫そうである。

シノは頷きながら壁に掛けられたカレンダーに今後の予定を描きんで行く。

 

「生徒会長である私が学校を離れるのは不本意ではあるが、

 学校行事への参加は学生の義務だから仕方がない」

 

「仕方がないことですか?」

 

「うむ」

 

カレンダーには、今日までの日程に×印が描き込まれ、明日の24日にはぐるぐると丸をつけられていた。

まるでその日がとても重要な日であるかのようで、彼女の楽しみだという心情を表していた。

 

「じゃあ俺も……」

 

津田がカレンダーをめくり、6月の22日に○印をつける。

 

「津田、この印はなんのやつ?」

 

「さぁ、何かしら?」

 

「うん? 解らない? まぁ特に行事があるわけじゃないから」

 

(・・・津田)

 

関係の深い本人にはわかってしまった。

22日の一昨日、それはシノの女の子の日だった。

つまりその一ヶ月後、次の彼女の予定日である。

 

「大丈夫です! 会長のフォローは副会長である俺がしっかりとしてみせます!!」

 

「ああ、そういうことね」

 

「いや、この間は私が悪かったから……もう忘れてくれていい」

 

「……?」

 

スズだけ一人わからなかった。

でもまぁ、わからないからといって聞くような内容でもないだろうと察したのだった。

 

 

 

 

 

 

【ぎゃっぷ】

 

その日の帰り道。

途中まで一緒に歩いて帰る津田とスズ。

 

「会長も案外子供っぽいところあるよねー」

 

「そうね、普段大人っぽい人が子供っぽい一面を持っていると愛らしく見えるわよね」

 

「そうそう」

 

先ほどの生徒会室での出来事を話す二人。

普段は凛とした大人びた雰囲気を持つシノが、遠足を前にした子供のように舞いあがっていた。

 

「でも、子供っぽい人が大人っぽい態度をとると小生意気に思われるのはなんでなのかしら」

 

どうやら彼女は自分がよく小生意気に思われることを気にしているらしい。

容姿が子供っぽい彼女は、年相応に見てもらえないことにコンプレックスをもっているのだ。

 

「ねぇ、津田?」

 

「別に思ってないよ?」

 

「嘘つかなくてもいいのよ。ええ、自分でもわかってるから」

 

どこか自虐的に笑って見せるスズ。

 

「なぁ萩村……ギャップ萌えって知ってる?」

 

「は? ぎゃっぷもえ?」

 

「そうそう、外見と中身とのギャップを見つけた時、その人がより魅力的に見えることだよ」

 

「……あっそう」

 

「だから萩村は気にせずに今の大人っぽい態度のままでいいんだよ。

 俺は今の萩村が気に入ってるし、思わせてるやつには思わせてればいいじゃん」

 

「……そうね」

 

「あっ、でも大人な態度はいいんだけど、だからって下着も大人向けのを無理につけようとはしないほうがいいぞ?

 やっぱり自分の体型にあったものを身につける方が体の負担も少なくていいからな」

 

「アンタはいつも一言余計ね」

 



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九人目

※今回は4コマを小説にしたものとしてはかなり長いです。
 いつもより描写が長々としているので、雰囲気が少し違うかも・・・
 TV番組でいうところの一時間スペシャルとでも思っておいてください。



 

【凡ミス】

 

二年生が修学旅行に行き、今現在一年生と三年生しかいない桜才学園。

その放課後の生徒会室の前で、萩村スズが立ち往生していた。

カギが上手に開かないのか、しきりにガチャガチャと鍵穴を動かしている。

そこにやってきた津田。

彼は自分よりも早く生徒会室に来ているのに未だ部屋の中に入ることのない彼女に話しかけた。

 

「萩村どうしたの? 入らないのか?」

 

「それが……七条先輩から預かった生徒会室の鍵なんだけど、鍵穴が合わないのよ」

 

「うーん、生徒会室の鍵じゃないのかな?」

 

「そうみたい。きっと他の鍵と間違えて渡したんだわ」

 

「じゃあ、それ何の鍵?」

 

「私が知るわけないじゃない」

 

「もしかして貞操帯の鍵だったりして……」

 

津田の阿呆な発言にため息をつくスズ。

いくらなんでもあのアリアでも学校にそんなものをつけてくるはずがない。

たぶん、違うと……思う。ちょっと自信ないが。

 

「いくらなんでもそれはないんじゃない?」

 

「ハハハ、だよなー……でもあの人なら装着してきてるかはともかく、持ってはいそうだよな」

 

「……否定できないのが嫌で仕方無いんだけど」

 

そのころの生徒会の二年生コンビ。

彼女たちは一日目の観光を終え、宿泊先の旅館の部屋でくつろいでいた。

 

「……くしゅん!」

 

「大丈夫かアリア。風邪でもひいたか?」

 

小さくくしゃみをするアリアを心配するシノ。

二人は修学旅行でも同じ班の同じ部屋だった。二人は親友、仲良しさんである。

 

「ううん、ちょっと肌寒かっただけだから」

 

「そうか」

 

「やっぱりパンツ履いてくるべきだったかな?」

 

「そうだな、5月とはいえ夕方は冷え込むからな」

 

どうやら彼女は今日一日ノーパンだったらしい。

もう春も半ばとはいえ、布一枚の差は結構激しいものである。

寒いのか、ぶるぶると小刻みにアリアの体が震えだす。

動物は寒いと体を振動させる習性をもつ。彼女の震えもおそらくそれではないかと検討をつけるシノ。

傍らの鞄を手繰り寄せ、中を漁りだすアリア。

今からでもパンツをはこうというのだろうか。

しかし目的のものが見つからないのか不安げな顔をする。もしかして持ってくるのを忘れたのだろうか?

 

「シノちゃん、私の鍵知らない?」

 

「鍵? パンツじゃなくてか?」

 

「そう」

 

「何の鍵だ?」

 

「貞操帯」

 

「パンツは履いてなくても貞操帯はつけてるのか」

 

「うん。直じゃないとしっくりこなくって。

 革製じゃなくて鉄製だからお腹冷えちゃったみたい」

 

「それは大変だな」

 

「うん。おしっこしたいのにどうしようかしら?」

 

「う~ん……漏らすしかないんじゃないか?」

 

「やっぱりそう?」

 

「なんか嬉しそうだなアリア」

 

「うふふ」

 

この後家に電話してちゃんとスペアの鍵を送ってもらったアリアだった。

ちなみにヘリでの空輸である。

ヘリが来るまでに漏らしたかどうかは……誰も知らない。

 

 

 

 

【仕事どうしよう】

 

未だ生徒会室前で立ち往生の津田とスズ。

今日は書類整理をしようと思っていたのだが、その書類は生徒会室のなかである。

このままでは仕事ができない。

 

「どうする? 今日は仕事やめとく?」

 

「そんなわけにもいかないでしょ。予定してたものはできないかもしれないけど」

 

何かしらの仕事は片づけないと、スケジュールが狂うと主張するスズ。

その意見に確かに……と同意する津田。

彼としては、不可抗力の形で仕事をさぼれるのも結構。

スズと二人でいちゃいちゃしながら仕事するのも多いに結構なのである。

つまりどっちでもよかった。

まぁ、彼女といちゃいちゃというのは完全に彼の妄想であるのだが。

 

「じゃあ、生徒会室の中にある資料は使わなくてもできる仕事をするしかないか」

 

「そうね。書類整理は今度にして他の物にしましょう」

 

本来の今日の仕事の書類整理は諦めた二人。

手持ちの書類をもとにできる仕事を先に済ませることにした。

 

「それで、生徒会室は使えないし……どこで仕事する?」

 

津田の言葉に考え込むスズ。

今日は空き教室は学園の愛好会の人々が使っている。

かといって他の教室では一般生徒の目がある。

彼女としては、津田と二人で作業をしているのを誰かに見られるのには抵抗があった。

以前、彼がスズに勉強を教えてもらおうとしたときに彼女が言っていたこと。

彼女が机で誰かと向き合って何かをしていると、彼女がその人物に勉強を教わっているように見られるのだ。

自尊心の強い彼女は、それだけは避けたいのである。

 

「どっかそこらへんの教室使わせてもらうか?」

 

「いや、それは止めときましょう。一般の生徒がいたら集中できないし」

 

「そう?」

 

「それに発表前に大事な資料を人の目につくところで無闇にさらすものじゃないわ」

 

「なるほど……じゃあ、どうするかなー。他の空き教室は今日は使われてるし」

 

「そうね」

 

「あ、そうだ。じゃあ俺の家でするか?」

 

「津田の家? そうね、そr……」

 

津田の家なら、確かに他の人間の目には触れることはない。

それでいいわよ、と言おうとしたスズの口が止まる。

ちょっと待て? 津田の家で仕事? 二人っきりで?

…………………………駄目駄目駄目駄目だ!!

とある危険性に思いつくスズは、頭の中で即座にその案を却下した。

いままで彼女に対して数多くのセクハラ行動をしてきた津田。

あくまで彼なりのスキンシップではあったし、さすがに押し倒すようなことはしたことはない。

しかし、二人きりの、邪魔のいない状態で、こいつが何もしてこないといいきれるだろうか?

津田の家という、明らかに相手のテリトリーに一人で入るなど、狼の檻に自分から入るようなものかもしれない。

そうなれば、彼女の貞操の危機である。

そこまで思いついた彼女は、津田の意見を否定した。

 

「や、やっぱり津田の家は止めときましょう」

 

「ん? なんで?」

 

「あの、その……ほら、私は家にもいくらか生徒会で使う資料も持ち帰ってるから。

 私の家でしましょう。資料はあるほうがいいでしょ?」

 

「そうだな、そうするか」

 

こうして今日の生徒会の仕事はスズの家ですることに決まったのであった。

狼のテリトリーに入るぐらいなら、こちらのテリトリーに狼を迎え入れる方がまだ安全と判断した。

彼女の家なら勝手は知っているし、母親もいるから何かあっても大丈夫。きっと大丈夫。

ちなみにスズは忘れていたが、別に津田の家に行ったとしても彼の家には妹さんがいるので二人きりにはならないのである。

彼の家族が家にいるという状況を思いつかなかったのだが、それがよかったのかどうかは誰も知らない。

 

 

 

 

【こんにちわ萩村家】

 

そんなこんなで結局今日は萩村宅で仕事をすることになった二人。

閑静な住宅街に佇む一軒の様式の家。

上流階級とまではいかないにしても、それでも十二分に裕福なことがわかる大きな家だ。

津田は、女の子の家に来るのは何気に小学校以来で内心ドキドキである。

あきらかに自分の家よりもお金持ちっぽい家なら尚更である。

 

「そんなに緊張しなくてもいいわよ」

 

津田を安心させようとスズが気を利かせて話しかけてくれる。

 

(なんか、恋人の家に初めてきた彼女に彼氏が言いそうなセリフ……今回は立場逆だけど)

 

「ただいまー」

 

そんな阿呆なことを考えている津田をよそに、玄関のドアを開けるスズ。

しかし、家の中に入ろうと一歩目を踏み出した所でぴたりと固まる。

どうしたのだろう?とスズの後ろからなんとなく家の中を覗き込む津田。

 

「……マンボウ殺人事件?」

 

何故か玄関の中でマンボウの着ぐるみが血を吐いて倒れていた。

 

「……(がちゃり)」

 

無言でスズは玄関の扉を閉じてしまった。

 

「あのー、萩村?」

 

「……何?」

 

「今のマンボウって」

 

「はっ、あんた何言ってんの? マンボウ?」

 

「……いや、今玄関の中で「何、日の沈まないうちから寝言言ってんの?」……何でもない」

 

何故かかたくなに玄関の中で倒れるマンボウについて認めようとしないスズ。

「あー……」と微妙な声を出しながら頬を掻く津田。

ここはどうするべきか、どうやら彼女にとって見られたくない類のものらしいが。

おとなしくここは見なかったことにするべきか。

 

「とりあえず……入らないのか?」

 

「……ちょっと、待ってて」

 

そう言って玄関を少しだけ開ける。その狭い隙間からするりと小さな体を滑り込ませる。

半開きになった扉から顔だけを出して彼女が津田に「ちょっと待ってて」という。

そのまま扉を閉じてしまい、彼は玄関の外でしばらく放置されることになった。

なんとなく耳を扉にくっつけてみる。すると、中から二人の人間が言い合う声が聞こえた。

 

『……とお母さん! さっき電話で今日は生徒会の仲間を連れてくるって言ったじゃない!?』

 

『あら、そうだったかしら?』

 

『こんな時まで死んだふりで出迎えるの止めてくれない!? おかげで恥かいたじゃない!』

 

『えー、そう?』

 

『そ・う・よ! 外で待たせてるんだからさっさと片付けて……

 んああ!! またこんなに血糊つけて!!』

 

『ふふ、その方がらしいでしょ?』

 

『らしいらしくないの問題じゃなくて! 掃除が大変じゃない!』

 

『もう、スズちゃんったらそんなに怒らないで~』

 

『怒るわよ! 怒るに決まってるでしょ!』

 

『でもでも、このマンボウさんもよくできてると思わない?

 作るのに三日もかかったのよ?』

 

『そんなのどうでもいいわ!』

 

『……タダヒトさんなら上手くできたねって褒めてくれるのに……』

 

『ならお父さんが帰ってくるときにでもすればいいでしょ!?

 なんで私の時にまでするのよ!?』

 

『だってだって、今日のは本当に自信作だからスズちゃんにも見せたくって……』

 

『だからっていつもみたいに死んだふりでしなくても着ぐるみだけ見せればいいでしょ?』

 

『でも、タダヒトさんはいつも笑ってくれるし、喜んでくれるよ?』

 

『あの人は単に惚気てるだけでしょ!?』

 

『そんな、のろけるだなんて……いやん』

 

『あー、もう!!』

 

どうやら彼女は家でも大変に気苦労が多い生活のようだ。

結局津田は外で30分以上待たされるのだった。

 

 

 

 

【こんにちわ萩村家テイク2】

 

それから30分以上たった頃。

ガチャリ、と音を立てて玄関の扉が開きスズが顔を出した。

 

「ごめんね、だいぶ待たせちゃったわね」

 

「うぅん、今来たとこ」

 

「は?」

 

「あ、いや、ごめん。忘れて」

 

スズのまるでデートの待ち合わせに遅れた恋人のような言葉に、お約束なセリフをつい口にしてしまった津田。

訳がわからないという顔をする彼女に申しわけなくなって謝る。

とりあえずかなり待たせたのに気にした様子がない津田に彼女は安堵した。

 

「もう中に入っていいわよ」

 

「お邪魔します」

 

こんどこそ玄関の入口をくぐる津田。

玄関の中は、何人かで立ち話ができそうなほど広い。

下駄箱や、花の植えられた花瓶といった調度品が置かれている。

玄関内には品のいい模様をしているが、何故か一部が赤く染まっている玄関マットが敷かれている。

そこには、スズの母親と思われる女性が立っていた。

30代どころか20代前半といっても通用するような若い外見をしている。

スズと同じ金髪を髪留めで後頭部でまとめていた。

 

「いらっしゃい」

 

「あっ、どうも初めまして。娘さんと同じ生徒会の津田タカトシといいます」

 

「あらあらどうもご丁寧に……こちらこそ、先輩さんには娘がいつもお世話になってます」

 

「タメだよ!!」

 

母親の言葉に怒るスズ。

どうやら津田は身長的にも彼女の先輩と思われていたようだ。

桜才学園は去年まで女子高だったのだから、男である時点で娘と同じ一年生だと気づかなかったのだろうか?

 

「あら、そうなの?」

 

「そうなの!」

 

「それで津田君だったかしら? どうするの?」

 

「どう、とは?」

 

「お風呂にする? 御飯にする? それとも……スズちゃんにする?」

 

「じゃあスズちゃんで」

 

「バッ!?……あんたら何言ってんの!? 

 お母さんもそういう冗談を私の同級生に言うのやめてくれる!?

 津田もいちいち答えるな!」

 

「「えー」」

 

怒る小さな赤鬼に不満の声を上げる津田とスズ母。

 

「もう、スズちゃんってばもっとノリがよくならないとせっかくの彼氏さんにも愛想尽かされちゃうよ?」

 

「津田は彼氏じゃねぇ。さっきも生徒会の仲間だっていっただろうが」

 

「大丈夫ですよお義母さん。俺はそんなことで萩村に愛想尽かしたりしません」

 

「まぁ……なんていい子なの?」

 

「どっちかというと私の方が愛想尽かしてる方だろうが」

 

むしろ尽かすも何も最初から愛想も糞もない、と切り捨てるスズ。

しかし彼女は津田の言うオカアサンと自分のいうお母さんとの違いに気づかなかった。

 

「大丈夫よ津田君。私ちゃんと耳ふさいでるから。ギシギシいっても聞こえないわ」

 

「だからどんな関係を想像してるのよ」

 

「スズちゃん他の子よりもちっちゃいから優しくね」

 

人さし指をたて、ウィンクする母親を見て血管が切れそうになるスズ。

30後半にもなるはずなのに、そのしぐさが様になるのがまたムカつく。

仕事の場所に自分の家を選んだのは間違いだったかもしれないと思うのだった。

 

「わかってますよ、優しくします」

 

「せんでいい!」

 

「えっ!? 激しくていいのぼすっ!?」

 

とりあえず自分の母親を殴るわけにもいかないので、この憤りを津田にぶつけるのだった。

 

 

 

【せめて140】

 

リビングに通された津田。

ここで仕事をするのかと思いきや、どうやらスズの部屋でするようだ。

 

「着替えてくるからちょっと待ってて」

 

「わかった」

 

そう言って二階の自室に向かうスズ。

彼女の着替えを待つ間、津田はリビングのソファーに座って待っているのだった。

彼女としては当初はリビングでするつもりだったのだが、母親の目があるのでやめたのだ。

津田と二人きりと言うのも嫌な気もするが背に腹は代えられない。

さっきから彼女にとって恥になることばかりする母親を同級生の目にこれ以上さらしたくなかった。

待っているように言われた津田は、おとなしくじっと座っていた。

学校でなら覗こうかとも思うかもしれないが、さすがにそこはわきまえているつもりの彼である。

ただし目はさわしなくきょろきょろと動きまわり、周囲をつぶさに観察していた。

 

「ん?」

 

そこで彼の目に着いたのは一本の柱。

無数の横線の傷ができていて、傷のそばには何か小さく書き込まれている。

近づいて見てみると、どうやらスズが身長をこの柱で図ってきた記録のようだ。

 

(ふーん、普段大人びた言動が多いけど、やっぱり萩村も容姿相応なとこある……あっ)

 

家の柱に身長をはかった跡があるというのは、どうも子供の記録をみているみたいで微笑ましい。

しかし、微笑ましく思って下のほうの記録から目線を徐々に上にあげていってあることに気付く。

135センチを超えたあたりから、線の感覚が小さくなっていた。

一番上の記録には何度も何度も記した跡があり、そこからはほぼ身長が伸びていないのがうかがえる。

伸びていても1ミリ程度の差である。しかも横に書かれている日付はここ数年のもの。

その数センチ上にマジックで140センチのラインが引かれており、目標と書かれていた。

ついついその健気な記録に涙する津田であった。

 

 

 

【あんよ】

 

「おまたせ」

 

やがて着替え終わったスズがリビングに入ってきた。

彼女はシンプルでいて品のいいデザインのひざ丈までの長さのワンピースを着ている。

女の子らしく可愛いのだが、もっとどこか子供っぽい服を想像していた津田は内心少し驚いた。

 

「こっちよ」

 

津田が立ち上がったのを確認したスズが先導するように前を歩きだす。

その後を歩く津田は、彼女の後姿に何かいつもとは違う違和感を感じた。

何だろうか?私服であるのだから、彼女の制服姿しか見たことのない自分が見慣れない感覚を覚えるのは当然だ。

しかしそれとは違う、制服以外のことで感じるような違和感。

彼はふむ……と眉をよせて考え込むが、階段に差し掛かったところでその違和感の正体に気づいた。

 

(萩村……今……タイツ履いてない!!)

 

そう、彼女は今現在いつも制服時に着用していた黒タイツを履いていなかった。

家の中だからか裸足。

つまりは彼女のなまめかしい生足が津田の眼前にさらされているのだ。

彼を先導するため、先に階段を昇るスズ。

段差が上がる度にその白く美しい脚がより見えやすくなる。

さすがに膝までのたけのワンピースのため、パンツが見えるようなことはなかった。

見たければさすがに階段であってもしゃがみこまなければ見えないだろう。

そんな体勢をとればいくらなんでも気づかれてしまう。

なのでパンツは早々にあきらめて、出来る限り彼女の生足を観察する津田。

生徒会室にいる時も、廊下で会う時も、一緒に下校するときも彼女は黒タイツを履いていた。

女子高生+黒タイツという組み合わせはなんとも淫猥に感じられて、それだけで興奮してしまう津田。

だから彼女の足は彼にとって大好物で、スズと会う時は必ず一度はその足に目をやっていた。

セクハラをして、その報復に彼女に蹴り倒される時などはめくれ上がるスカートの奥に見える太もものラインも確認している。

黒という色は人に高級感のイメージを与える。

そのため、衣服として身につけると他人に品のいいイメージを与える色だ。

しかし黒を身に付けた場合得られるもう一つの特徴に、実際より細くすらりとして見えることがある。

そのためか、普段の彼女の足はどこか高貴ですらりとしたシャープなイメージを与えていた。

津田は、黒タイツを脱げばもしかしたらイメージよりも足は細くないのかもなぁ、とも考えていたこともある。

黒と言う色からの恩恵がなければ、もしかしたら魅力的でも普通の足かもしれないと。

だがどうだ、今彼の目の前にある彼女の足は。

無駄な贅肉など一切ない。それでいて、筋肉だけのような硬すぎる印象もなくほどよい柔らかさを視覚的に見ることができる。

男の力でねじれば簡単にちぎれるか折れてしまいそうなほどに細い。

足首などはさらに細く、くるぶしの位置の骨のでっぱりが関節を主張してひどく淫媚である。

足の指も形がよく指の関節が離れていてもはっきりと視認することができる。

どちらかといえば長めと言っていいかもしれない指の長さ。

爪も切りそろえられ健康的なピンク色をしていて、なぜだかすごく甘い印象を受ける。

階段を昇る動きの中で見られる足の裏。

いつもなら靴腰にしか見ることの叶わなかった場所だ。

足裏というのは大抵固いもので、実際津田の足の裏は固く、かかとなどはカッチカチである。

それがどうだ?きれいでなめらかな曲線を描く土ふまず。

愛らしい丸見をおびたかかとも固すぎず、かといってふにゃふにゃとした柔らかさというわけでもない。

まさに理想のかかととでも言おうか。

その足の大きさは靴のサイズにしておよそ21センチから22センチと思われる。

サイズとしては子供の足ではあるが、そこに漂う色気はタダ事ではない。

肌のシミひとつなく、真っ白な処女雪の印象を見る者にあたえるほど美しい。

かかと、足首といった細い関節から視線をずらせば、なだらかにふくらはぎを描くライン。

足首に近くなればなるほどになだらかにゆっくりと細くなる。

それでいて膝裏の位置ではきゅっと、引き締まるように急激に細くなる。

ふくらはぎの皮膚の下に筋肉が理想的な形で収まっているが故の緩急のついたラインである。

細くきれいな美脚のことをカモシカのような足といった比喩で表わされることが多い。

たしかに彼女の足はその表現にふさわしいだろう。

しかし津田は、スズの足を見て別の印象を覚えた。

人形のような足、である。

特に大人の女性のように肉感的な足をしているわけではない。

かといって子供のように幼いがゆえの退廃的なだけの色気とも違う。

退廃的、という意味では後者の子供の足のほうが近いものがあるかもしれない。

だが、それだけではなく何かいい知れない情欲を掻き立てられるものがあるのだ。

その感覚がまるで人形の球体関節に欲情するような・・・

どこか肉欲とは違って本能の奥にある、もっと根源的なものから湧きだす欲求なのである。

性的なものと根源的なもの。

その二つを刺激してやまない彼女の両足。

彼はその両足を眺めてムラムラと情欲の炎が胸の奥でくすぶり、どろどろとした欲の塊が下半身に集まるのを自覚した。

この場所がもし彼女の家などではなく、近くに人のいない山奥かなにかだったなら彼は自分を抑えられなかっただろう。

 

「? どうしたの?」

 

どこか様子のおかしい津田を不審に思って彼女が階段の途中で振り返る。

もしやしゃがみこんでスカートの中でも覗こうとしているのかと思った。

一応覗き防止のために今すぐ用意できる衣服の中で丈の一番長いスカートの服を着たのだが、意味がなかったか?

そう思って、もし覗いていたら階段から蹴り落としてやろうかと考えた。

しかし彼は特にスカートを覗きこもうとしているわけでもなく前を向いている。

どちらかと言えば上ではなく下の方に目線がいっている。

スカートを覗いているわけではないのだろう。

 

「いや、にゃんでもない」

 

「そ、そう」

 

彼女に話しかけられても冷静を装って返答する津田。

舌を噛んでしまったが、彼にしては合格だ。

今の彼は心の中の自分と戦っている状態だったのだから。

 

(萩村の足、きれいだなぁ。かぶりつきたい。

でもそんなことしたら嫌われるどころじゃないしな、駄目だ。

でも指とかもあんな細くて小さくて、形も爪の色もきれいで……しゃぶりつきたいなぁ。

あぁあ駄目だ駄目だ。今日はこれから仕事しなきゃなんだし。

でも足首とかあんな細い子うちの学園で他にいないよなぁ。

あの足に舌を這わしたらどんな反応してくれるのかなぁ。

前に三葉が来たときみたいに色っぽい声出すのかなぁ?

はっ、いかんいかん。せめて仕事終わるまではまじめにまじめに。

今の段階でこんなだったら俺、萩村のこと押し倒しそうだ。

ああ、でもさっきまでタイツ履いてたんだからきっと萩村の甘い臭いとか強いかもな。

萩村って生徒会の中で一番甘い匂いするんだよなぁ。

香水つけてるわけでもないっぽいのに。なんでだろ?

とりあえず俺の理性よ、持ってくれよ……)

 

「いや、にゃんでもない」の一言の間にこれだけのことを考えていた津田。

本当はいますぐにでもセクハラしたい、というよりも本番に突入したくてしかたないのだが……

理性のあるうちはお気に入りのスズに嫌われたくないという思いの方がまだ強いのだった。

 

 

 

 

【スズの部屋】

 

彼女の部屋は八畳ほどの、高校生の一人部屋としてはかなり広い部屋だった。

白い壁で囲まれており、南側に大きなベランダ付きの窓がある。窓のそばには一つの姿見。

西側に勉強机と本棚がいくつか壁沿いにある。

東側の壁にくっつけるようにしてシングルサイズのベッドがあった。

部屋の角には観葉植物が置いてあり、反対側の角に薄型のテレビが設置されている。

北側に今入ってきた扉があり、その横に備え付きのクローゼットがある。

部屋の中央には今は布団のないこたつ机が鎮座していた。

 

「へー……」

 

予想していた部屋の雰囲気と違い、少し落ち着きを取り戻す津田。

物珍しそうに視線を動かし部屋の内装を観察する。

 

「そんなにじろじろ見なくても……別におかしいとこないでしょ?」

 

彼のその物珍しそうに部屋を眺める様にどこか恥ずかしい気分のスズ。

何気に小中と男の子とあまり遊んだことのない彼女は、自分の部屋に父親以外の男をいれるのは初めてだった。

特にこれといって特別な関係でもなんでもないはずなのに、いざ津田が部屋に入ると急に恥ずかしくなった。

じっと部屋を見つめる津田の様子に少し不安になる。

もしかして、自分の部屋はなにかおかしいのだろうか?

でも友人の部屋と比べても特に変なところなどないように感じる。

それとも異性の津田から見て興味をひかれるような物がなにか転がっているのだろうか?

さきほど着替える時に見られたくないものなどは一応見えないように隠したはずだ。

もしや何かしまい忘れたか?

 

「いや、予想してたのと違ってちょっとびっくりしてただけだよ」

 

「どんな部屋を予想してたのよ?」

 

「う~ん、もっとぬいぐるみとかいっぱいあるのかと思った」

 

津田は、彼女の容姿どおり部屋の中にはもっと女の子らしいものであふれていると思ったのだ。

しかし実際は必要以上のものを置いている雰囲気もなく、ぬいぐるみの一つも見当たらない。

彼の言葉に子供扱いされていると思ってスズが声を荒げる。

 

「子供扱いしないでくれる!? もうそんな年じゃないわよ!!」

 

「ごめんごめん。そういう訳じゃないんだけど……

 俺も妹以外の女の子の部屋に入るのって小学校以来だしさ、その頃のイメージが強くって」

 

「そ、そう。それなら仕方ないわね……どなったりして悪かったわね。

 でも部屋の中じろじろ見るのもやめてくれる? なんか恥ずかしいし」

 

「そっか。そうだよな。ごめん」

 

津田が特に自分を子供扱いしての言葉ではないとしり、謝るスズ。

でも何か気恥ずかしくて、あまり部屋を観察しないよう釘をさす。

彼女は津田が小学校以来女の子の部屋に入ったことがないと聞いて内心驚いていた。

彼に妹がいたというのも初耳だが、なによりも女の子の部屋にあまり慣れていない様子に驚いた。

彼女としては、学園でセクハラばかりする津田をどこかプレイボーイのように見ていたのである。

女と見ては手を出そうとする遊び人。

優しくて真面目なところもあるけど、下ネタ好きですぐにその方面に話しをもっていきふざける。

そんなイメージがあったせいで、彼がもっといろいろな女の子の部屋に遊びに行っていると思っていた。

 

(なんだ、こいつそんなに遊んでるわけでもないんだ。

ちょっと嬉しいかも……って、ないないない!! 

 なんで嬉しいのよ!? 関係ないでしょ!!)

 

心の中で思ったよりも遊び人でないのかもしれないと思ったとき、それを嬉しく思う自分に気が付いた。

慌ててその感情を否定するスズ。

彼が遊んでいるかどうかなど自分には関係ないはずだ。

とりあえず自分に迷惑をかけなければいいのだから。

これではまるで自分が彼に気があるみたいではないか。

ないないない。それはない……と真っ赤になって無言で首を振る。

確かに彼の中に男らしさというか、まともな面を見たことはあった。

重い荷物を代わりに持ってくれた時も、思いのほか逞しい腕に驚いたこともある。

普段の下ネタばかりの時と違い、さわやかに笑いかけてきて驚いたときもある。

ちょっと咳きこんだだけでえらく心配してくれたのにはちょっと笑った。

いつもの馬鹿な顔じゃなく何かを真剣に考える横顔が夕日に照らされていた時、不覚にも絵になると思った時もある。

頭が悪いと思っていたのに、実際は中間考査でも自分の次に高い点数を取っていた。

生徒会の仕事も、阿呆なことを言いつつ一応文句も言わずしっかりしているし。

最近の他の男子よりかしっかりはしていると思う。

セクハラされるのは嫌だが、他の人間と違い自分をあまり子供扱いしたりしていないと思う。

男子にしては髪もさらさらだと思う。

自分たちと違い、ごつごつして血管が少し浮き出た手はちょっと男らしい。

初めての挨拶の時、握手をして大きな手だなぁと思った。

でも……別に好きなわけじゃない。

そんなはずない。ないったらない。そのはずだ。

だいたい自分は初恋もまだで経験として人に恋をするということを知らない。

でもその知識は持っている。本でも漫画でも映画でもドラマでも、恋愛を題材にしたものは多い。

そういうものでは相手を好きになったらいつもその相手のことを考えてしまうといわれている。

彼女の友達も、恋をするとそうなると言っていた。

でも自分は津田のことをいつも考えたりしていない。

だから、好きになったりなんてしていない。そのはずである。

それに……

 

(私の初恋がこんな変態だなんて……あるわけないわ。うん。絶対ない)

 

心の中でいろいろと考えながらも決して口には出さない。

しかし否定の言葉を思い浮かばせる度に首を左右にぷるぷると振ってしまう。

 

「萩村どうかしたの?」

 

「う、うぅん。何でもない」

 

先ほどとは違って今度は津田が首をかしげるのだった。

 

 

 

【私はαサイズ】

 

とりあえずさっさと仕事に取り掛かることにした二人。

中央のこたつ机に向かい合うように座ってノートと資料を取り出す。

しばらくカリカリとノートにシャーペンが走る音が続く。

そのまま数分が経った頃、スズは津田が自分を時折ちらちらと見ていることに気が付いた。

 

「なに? さっきからこっちちらちらと見て」

 

「いや、萩村の私服姿って新鮮だなーって思って」

 

彼の言葉にふふん、と不敵に笑う。

 

「そうね、普段は学校でしか合わないからね」

 

その場で立ち上がりくるりと一回転してみせる。

 

「ちなみに私の服はただの服じゃないわよ」

 

自慢げに胸をはり、どうだとばかりに自分の私服姿を見せる。

 

「ブランド物ってこと?」

 

「いいえ、全てオーダーメイドの一点もの。

 断じて子供服ではないわ!!」

 

「ほ~。なるほどな~」

 

オーダーメイドと聞いて驚きつつも感心する津田。

そりゃあ、そんな服なら自慢したくもなる筈だ。

特に彼女のきているような品のいいデザイン性にも優れたものなら猶更だろう。

 

「どう?なかなかいい服でしょ?私もけっこう気に入ってるの」

 

「うん。萩村の私服姿に至福のひと時だね」

 

「はぁ? そんな変なダジャレ言わないでくれる?

 つまらないわよそれ」

 

お気に入りの洋服の感想を茶化されてふてくされるスズ。

一応褒めてくれているのだろうが、こんなつまらないダジャレで褒められても嬉しくはない。

まぁ、馬子にも衣装などと今さら感あふれる誤用の言葉で褒められるよりましかもしれないが。

ちょっとふてくされてむくれるスズに、津田は少し慌てた。

女の子が服を褒めてほしそうにしているのに、茶化すのはまずかったか?と認識する。

彼としても、プライベートで女の子と一緒に行動することなどいままでなかった。

学校などでセクハラする分には慣れていても、こういう時に女の子にどういえばいいかなど知らない。

知識だけが先走った、典型的な経験値不足である。

しかし彼のいいところは頭の切り替えが早いことにある。

つまり、謝ってふざけずに素直に褒めようと思いなおした。

 

「ごめんごめん。俺も女の子に服の感想を言うなんて初めてで照れ臭くてさ……

 その、なんだ……すごく似合ってて可愛いと思う。

 制服の時よりも大人びて見えて正直どきっとした」

 

「……………」

 

今度は逆にど直球の褒め言葉に何も言えなくなるスズ。

紅くなった顔を見られたくなくて、無言のまま余計にそっぽを向いてむくれているそぶりを見せる。

頬をふくらませて怒って見せようとする様は、ひどく子供っぽい仕草であったが本人はそれには気付かなかった。

津田も彼女の照れ隠しに気付く様子もない。

何か自分の言葉で余計に怒らせたのだろうか?と心配していた。

 

「と、と……とりあえずさ……仕事にもどらないか?」

 

「……………………………そうね」

 

 

 

 

【ファイルがとりたい】

 

しばらく無言で仕事を進める二人。

 

(これはあのファイルいるなー……)

 

そこでスズが過去の資料が必要なことに思い当る。

幸い、その資料は彼女が部屋の本棚の中に収容している。

ただ普段全く使わない種類のものなので、彼女の手の届きにくい本棚の一番上にしまってある。

スズは立ち上がると、勉強机に備え付けられている椅子を持ってきてその上に昇った。

しかし、ローラーのついた移動式の椅子なので足場が安定しない。

ただでさえ手がぎりぎり届くかどうかという高さなので、いっこうに取れないのだった。

 

「萩村……」

 

「余計な手だしは無用ーーーー!!」

 

俺が取ろうか?という言葉は彼女の叫びに口にすることが叶わなかった。

 

「じゃあ……」

 

「あんたが土台になる必要はないわよ? ここには椅子があるんだから」

 

「……」

 

彼女は以前の自販機の前でのやり取りを覚えていた。

どこまでも信用のない津田だった。

 

 

 

 

【ハプニング1~部屋の中心で愛を叫んだけもの~】

 

警戒心の強いスズに苦笑する津田。

こんな二人きりの状況じゃあ仕方ないよなぁ、とも思う。

今まで散々セクハラしてきたわけだし、と考える。

まぁ今さら彼女に対してのセクハラをやめるなど無理な相談だが。

警戒だけでなく自分で目的のものをとりたいという思いも強いのだろう。

でも、警戒されて当然だろう。

実際に彼はいつもと違う状況に彼女を異性としてより意識してしまっていると感じている。

今はある程度冷静に見せるほどに情欲を押さえているが、何かの拍子でいつ爆発するかもわからないのだ。

でも、だからといってこの状況を見過ごせるほど彼は冷酷ではなかった。

 

「一旦降りなよ……俺が椅子の高さ合わせるからさ」

 

「……!」

 

「別に今回は台になったり代わりに取るつもりもないよ。そんな野暮なことはしないさ。

 でも椅子の高さを合わせて動かないように固定しとくくらいはいいだろ?」

 

苦笑しながらも提案する津田。

その表情からは下心などなく純粋に彼女を心配してのものであるとわかる。

スズは彼のことを決めつけていた自分を恥じつつも、気にかけてくれていることを嬉しく思う。

彼の顔を見れば、自分でしたいという子供っぽいところも、彼への警戒心もすべてお見通しなのだろう。

それがひどく気恥ずかしい。

 

「う、うん……ありが……と?」

 

「萩村!?」

 

彼女は椅子を支えようとしてくれている津田に礼を言おうとした。

しかし恥ずかしさから彼の方向からそっぽを向いたため、体勢を崩し足を滑らせる。

彼女が足を滑らせたのに津田は気づいたが、手を伸ばすもとっさのことで彼女をささえるまでに至らない。

せめて彼女が頭を打たないようにと下敷きになる形で動く。

結果……

 

「ぐぅ!?」

 

「きゃ!?」

 

仰向けに倒れた津田の腰の上に、スズが座り込むようにして落ちてくる形となった。

 

「いてて、大丈夫か萩村?」

 

「う、うん……ありがと」

 

今現在彼の上に馬乗りになっているような形のスズ。

下から自分のことを心配そうに見上げる津田に礼を言う。

後頭部から落ちそうになった自分を、彼が空中でとっさに身体の向きを変えてくれたのだ。

 

「よかった……」

 

「す、すぐに降りるから……痛っ!?」

 

彼女の言葉に安堵する津田。

彼に馬乗り状態だったことに気づいたスズは、そこから移動しようとする。

しかし先ほど足を滑らせた時にひねってしまっていたらしく、右足首に鋭い痛みが走る。

おもわずその場で右足を引きよせて患部を触診する。

 

「萩村、だいじょ……!?」

 

「いたた、足ひねったかも」

 

津田は彼女の様子に大丈夫かと声をかけようとするも、途中で言葉が止まる。

スズが足を引き寄せる動きで、彼の腰の上で―――正確には股間の上で彼女の尻が動くのがわかった。

さらにスカートがめくれて白いショーツが彼の視界に映る。

股間には彼女の小ぶりながらも柔らかい、女を感じさせる尻の感触。

視界には純白のパンツと、透き通った肌の先ほどまでは見えなかった太もも。

彼女が足首をさする度、パンツの細かな皺が変化する。

これには、津田の我慢も限界だった。

 

「きゃあ!?」

 

突然上半身をがばりと起き上がらせて、自身の腰の上に座るスズを力いっぱい抱き締める津田。

あまりに突然の事態に悲鳴をあげるスズ。

 

「えっ、な、な、何? 津田、どうしたの?」

 

わけがわからず狼狽する。

彼女は抱きしめられたまま足首をさする体勢で固まってしまった。

そんな彼女の耳元で小さく、彼はつぶやいた。

 

「ごめん萩村。俺……もう我慢できない」

 

「えっ、ちょっと?」

 

「萩村ぁああああああああ!!」

 

 

 

 

 

【ハプニング2~最後の邪魔~】

 

彼の言葉にうろたえる暇もなく、そのまま床に押し倒されるスズ。

 

「やだ……ちょっと津田! 放して……きゃあ!?」

 

あまりに突然の展開に混乱してしまうスズ。

思考が追い付かず、いつものように彼を蹴り飛ばすこともできない。

真っ赤になって硬直してしまい、言葉で抵抗はするも体で反抗することができなかった。

彼女の言葉が聞こえていないのか、それとも聞こえていても自制できないのか。

津田はスズの首筋を舐め上げた。

彼の舌の感触を首筋に感じ、悲鳴をあげる。

さらに津田は首筋を舐めながらも両手を動かした。

 

「や……いや……ちょ、ちょっと津田!……あん!?」

 

右手はスズのスカートをめくりあげ、左の太ももを撫でまわす。

左手は彼女の尻をショーツごしに優しくさすりながら、時折揉み上げる。

彼女は津田の胸に手をやり、押しのけようと試みるもこの体勢では上手く力も入らず意味がない。

誰かに体をまさぐられるという初めての感触に、緊張してしまい余計に敏感に反応してしまう。

 

「ぁはっ、あん……やっ、津田……止めて……ちょっと、ひぁん!?」

 

彼が聞いていないと分かっていても声で止めるように言うスズ。

しかしその声の中にも、尻を揉まれ、足を撫でさすられ、どこか甘えた響きが入ってしまう。

意図していないにも関わらず出てしまう淫媚な声音に、余計に興奮してしまう津田。

スズも自分の声が妙に甘ったるく感じて余計に恥ずかしさが増す。

こんなふうに誰かに触られるのは初めてなのに、こんなにも卑猥な声をあげてしまう。

そして初めて、尻や足をこんなに撫でさすられてぞくぞくと感じている自分に気付く。

 

(私、お尻とか足が性感帯だったの?)

 

普段はその手のことに興味もないし、考えたこともなかった。

自分の性癖をこんな状態で初めて知って羞恥心を強く刺激される。

 

「ひ!? ぁ、やぁ!? ちょ、ちょっと津田~!? 耳は……!?」

 

彼女の甘い声により一層情欲を掻き立てられた津田が、彼女の耳の中に舌を突き入れて舐めまわした。

ただでさえ大抵の人間が敏感である耳の中。

その中を湿った生暖かい津田の舌が這いまわる。

ぬるぬるとした感触と、ぴちゃぴちゃという舐めまわす音。

彼の興奮した息使いが耳に直接送り込まれてくる。

まるで腰のあたりに毛虫が這っているかのようなぞわぞわとした感覚にさいなまれる。

知らず、その毛虫の感覚から逃れるように彼の体の下で背中をそらせる。

 

「ふぁあぁあ……」

 

ぞくぞくとして抵抗するのを忘れてしまうスズ。

彼女は初めての感覚の連続に、もうどうすればいいのかわからなかった。

 

(やだ……私キスもまだなのに……こんな……)

 

心では嫌なはずなのに、彼を止められない。

スズはまだ誰かと付き合ったことなどない。初恋もまだなのだ。

当然キスすらまだしたことがない。

帰国子女で幼いころは海外で住んでいたこともあるが、経験がなかった。

別に普段これといって恋に興味があるわけでもなかった。

だけど、私もいつか誰かを好きになって……くらいは考えていた。

勿論、年頃らしくそうなったら手をつないでデートして、慣れてきたらキスもして、とか想像していた。

そりゃあ恋人がいたならまぁ、男女の関係になることもあるかもしれない。

でもさすがにキスより先に、しかも恋人ですらない人となんて考えられない。

それなのに、今まさに津田に押し倒されているのにまともに抵抗すらしない自分がいる。

その行為が嫌であるはずなのに、何故か拒めない自分がいる。

 

(私は、別に津田のこと好きなんかじゃないのに……)

 

彼がようやく彼女の耳から離れた。

スズの耳穴と津田の舌が、銀色に輝く糸で結ばれる。

そしてここで初めてスズの顔を真正面から見た。

彼女は顔を真っ赤にして横を向いている。

 

「ごめん萩村……俺、もう本当に止まれない……ごめん」

 

冗談じゃなく我慢できなくなっていることをもう一度詫びる。

 

「……責任、とれるんでしょうね?」

 

彼の言葉にそっぽを向きながらも、既に抵抗しようともしなくなったスズがそう答える。

その言葉に覚悟をきめ、未だ触れていない彼女の秘められた場所へと手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

(自主規制)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそこで上手く最後までいかないのがこの作品である。

今まさに津田が彼女のショーツに触れようとしたその時……

スズがあることに気づいた。

部屋の入口がうっすらと開いているのである。

 

「スズちゃんてば、ツンデレさんね~」

 

そこにはビデオカメラを構えてこちらを嬉しそうに撮影しているスズ母がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一気に正気に戻るスズ。

 

「ふん!!」

 

「ごはぁ!?」

 

右足を振り上げ、すでに固くなっていた津田の息子を力いっぱい蹴り上げる。

予想だにしなかった、元気になっている状態の股間への一撃に津田は撃沈するのだった。

 

「……あっ、体動いた」

 

いつのまにか思うように体が動くようになっていたスズは津田の体の下からはい出す。

気絶した津田を放置して、助けにはいらなかった母親を説教しにいくのだった。

 

 

 

【帰宅】

 

あの後、意識を取り戻した津田は土下座してスズに平謝りした。

一時間の土下座の結果、自分も冷静な状態じゃなかったということで許してくれたスズ。

とりあえずお互いに初めての異性の部屋に入ったり招いたりでテンぱっていたということに。

今回のことは二人とも忘れて、無かったことにするという彼女の希望でそういうふうに落ち着いた。

思いのほか色々とあって帰宅するのが遅れた津田。

時間は現在22時。

既に生徒会の仕事の関係で遅れると家には連絡している。

といっても、今日は両親とも遅いらしく家には妹のコトミしかいなかったようだが。

 

「ただいまー」

 

玄関をあけ、帰ったことを告げるも返事はない。

もう寝ているのだろうか?いや、さすがに22時に寝ることはあの妹はないだろう。

もしや風呂にでも入っているのだろうか?

そういう場合は一人の時は鍵を掛けておくように言ってるのに。

不用心な妹にため息をつく。

とりあえず今日は疲れた、さっさと自分も風呂に入るなり寝るなりしよう。

ネクタイをゆるめながら二階の自室に向かう。

 

扉をあけると、そこには津田のベッドの上で死んでいるマグロの着ぐるみがいた。

口から垂れる血糊が凝っている。

 

「今日はマグロか?コトミ」

 

彼はそのマグロの死体に話しかけた。

ちなみに鞄を置いてブレザーを脱ぎながらのところを見るによくある光景らしい。

 

「えへへー、夜のベッドの上だけにマグロ……なんちってー」

 

彼の言葉に嬉しそうに起き上がるマグロの着ぐるみ。

身体の半ばで直角に折れているマグロというのも、なかなかにシュールである。

 

「どうどうタカ兄、このマグロ!! 良く出来てるでしょ!?」

 

「そ~だな~、頑張ったな~。

 でも受験生なんだから勉強しような~」

 

 



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十人目

 

 

【名物】

 

二年生が修学旅行から帰ってきた桜才学園。

その翌日の生徒会室にて。

 

「おかえりなさい会長、七条先輩」

 

「おかえりなさい。旅行どうでした?」

 

二年生の帰りを迎える一年生コンビ。

 

「ただいま」

 

「うむ、なかなかに楽しかったな」

   

二人の満足そうな笑みを見れば、修学旅行はいい思い出となったのだろう。

 

「それで、二人に修学旅行のお土産だ」

 

「あっ、どうも」

 

シノが鞄から修学旅行のお土産を出す。

スズに手渡されたものは京都の老舗の箱入り八橋だった。名物として有名なものである。

結構大きな箱だが、どうやら一年生二人用ではなくスズ一人用のものらしい。

その証拠にまだ鞄から何かを取り出すシノ。

今度は津田に向き合ってその取り出した包みを手渡そうとする。

紙袋に包まれているのは、触った感覚からしてどうやら本のようだ。

 

「それで、津田のなんだが……その……

 異性に物を贈るというのが初めてで……君の好みに合うかどうか……」

 

自信なさげにもじもじとするシノ。

どうやらお土産とはいえ、異性に物を贈るという行為に照れているらしい。

 

「別に気を使わなくても、気持ちがこもっていればなんでもいいですよ?」

 

「そうですよ会長。こいつにそこまで気を使う必要ありません」

 

逆にシノを気遣う津田の言葉と、フォローしているのか貶めているのか分かりにくいスズの言葉。

 

「そうか、気持ちがこもっていればいいか……よかった。

 ではこの『舞妓のおしろいは白濁液 第二巻』という小説を……」

 

彼女が包みから取り出したのは、京都の名物である舞妓をモチーフにした官能小説だった。

しかもいきなり二巻である。一巻はどうしたというのか。

 

「悪意こもりまくりじゃないですか」

 

スズの久々のツッコミが飛んだ。

その言葉にどこか安心する二年生組。

 

「ああ、萩村のツッコミを聞くと生徒会室に帰ってきた実感がわくな」

 

「ええ、そうね」

 

「嫌な実感の仕方しないでください」

 

 

 

 

【あなたのきもち】

 

受け取ったお土産を眺めていた津田。

表紙では黒髪のきれいな舞妓が、顔を何かで白く染めてうっとりとした絵が描いてある。

彼はその本から込められたメッセージを読み取った。

 

「会長、俺、会長の気持ちしっかり伝わりました!」

 

「お、おお、そうか」

 

なんだか目をランランと輝かせた津田にちょっと慄くシノ。

 

「異性への初めての贈り物、官能小説、そしておしろいは白濁液……」

 

「ちょ、ちょっと待て!? なんでズボンのチャックを降ろす?」

 

「この小説の舞子は会長自身、そして俺の白濁液で化粧をしたいという心、確かに伝わりました!!」

 

「ひぃ!?」

 

シノに近づきながら己の分身を取り出そうとする津田。

ちょっとしたいたずらのつもりが思わぬ展開になって後ずさるシノ。

彼女は自分から下ネタ展開に持っていくのが好きな思春期だ。

だが、異性からそういう展開に持っていかれるとなれないために慄いてしまうという初心さをもつ。

エロスに興味深々のくせに変態になりきれない、難儀な思春期である。

 

「そんなワケないだろうが」

 

「おうふっ!?」

 

津田の勘違いをスズが恒例の股間への蹴りで止める。

いつも通り股間を押えてうつ伏せに床へと沈む津田。

 

「ふふ、スズちゃんのキックも久々に見たわね」

 

「そ、そうだな……」

 

アリアの言葉に同意しつつも助かったことに安堵するシノだった。

やはり津田へのツッコミはスズの蹴り技が一番しっくりくる気がする面々。

しかし、しっくりくるだけあって多様したせいか、津田もそのダメージに慣れてしまっている。

急所への攻撃にも関わらず5秒で復活する。

 

「はーぎーむーらー!!」

 

「な、何よ?」

 

いきなりガバリと床から顔をあげて絶叫する津田。

彼女は彼の豹変にたじろぐ。

なんか日に日に復活までの時間が短くなってきているというか、逆に大丈夫なのかと心配してしまう。

彼はスズに顔を向けると無駄に白い歯をきらりと光らせサムズアップした。

 

「届いたぜ、おまえの気持ち」

 

「はぁ?」

 

「やきもち……なんだろ?」

 

「ち、違うわこの馬鹿!!」

 

「ぐぶ!?」

 

再度彼女の足が振るわれ、そのつま先は四つん這いの彼の顎にきれいにヒットした。

 

 

 

 

【ナニもなかった?】

 

「ところで私たちがいない間なにもなかった?」

 

顎にいい一撃を受け失神する津田を放置したままの生徒会の面々。

アリアがスズに何か問題がなかったか確認する。

その言葉を聞いて、萩村家でのあの一日を思い出すスズ。

一緒に生徒会の仕事を彼女の家ですることになった。

二人ともなんだかテンぱってしまって、暴走してしまった一日。

津田に押し倒され、自分もたいした抵抗もしようとしなかった。

初めて異性に体をまさぐられるという経験。

もしあそこで母親がビデオを隠れて録画しているのを見つけなければ彼女は正気に戻らなかっただろう。

そうなればどうなっていたか。

おそらく行くとこまでいっていただろう。

あのことは二人とも冷静じゃなかったとして、無かったことにした。

しかし例え無かったことにしても記憶は消えてくれないのである。

 

「べ……別に……何も無かったです」

 

赤面しつつも、特に何もなかったと主張するスズ。

しかし、正面からアリアを見ようともせず、顔を赤く染めつつ何かを思い出してもじもじしていれば感づいて当然である。

 

「な、な、何があったの!?」

 

当然ただならぬことがあったのではと勘繰られる。

 

「だ、だから!! 何もありません!!」

 

スズの両肩を掴んで問いただすアリア。

しかし頑なに何があったかを言おうとしないスズ。

彼女としてはあんな恥ずかしいこと、人に言いたくないし知られたくもない。

 

「何にも……何にも……無かったんです―!!」

 

 

 

 

 

【津田君のナニ】

 

「う~ん……」

 

「「!?」」

 

その時、津田が目を覚ました。

 

「津田君!?」

 

「はい?」

 

「ちょ、ちょっと先輩!?」

 

何もしゃべろうとしないスズから標的を津田に変更するアリア。

気絶していたために津田は現状が読み取れていない。

スズは焦った。しかし無理に引き止めては怪しいことこのうえない。

 

「津田君っ、私たちがいない間スズちゃんと何があったの!?」

 

「えっ……?」

 

その問にどきりとする津田。

思い出すのは彼女の家での出来事。理性が彼方へと飛んで押し倒してしまった。

スズの美しくも淫媚な生足。

彼女の小ぶりながらも柔らかい尻。

さわり心地のいい太もも。

甘い香りのする首筋。

結局最後まではいかなかったが、危なかった。

そういえば、スズの希望で無かったことにしたのだったかと思いだす。

 

「べ……別に……何も無かったです」

 

結果、津田のした反応はスズと全く一緒であった。

生徒会の一年生コンビは演技が下手なようだ。

 

「嘘!! 何かあったんでしょう!?」

 

「うっ……まぁ、萩村の家には行きましたが……」

 

「~~~~~~っ!?」

 

アリアの押しに負けて一部白状してしまう津田。

まだ肝心のことは言っていないが、ばれるかもしれないと思って声にならない声をあげるスズ。

彼をアリアから引きはがすことも、割って入って会話を邪魔することも出来ない。

そんなことをすれば何かあったのを自分から認めるようなもの。

スズは、今現在心の葛藤を表わす不思議な踊りを踊っていた。

実に彼女らしくない行動、いかに混乱しているかがわかる。

 

「スズちゃんの家ぇ!? な、何をしたの!?」

 

「いや、その……何も」

 

「ナニをしたの!?」

 

「ナニもしてません!!」

 

正確にはナニもできませんでした……である。

 

「くっ……じゃあ質問を変えるわ。津田君は童貞なの?」

 

「くっ!?」

 

直球から変化球への質問。

これは、童貞を認めれば何もなかったと言える。しかし男としては屈辱的だ。

童貞でないといえば、彼女らが修学旅行へ行くまでは童貞だったのだ。

では相手は誰だという話になる。

 

「……ちくしょーー!! どうせ俺は童貞だよーーー!」

 

夕暮れに染まる校舎に、彼の慟哭が響き渡った。

 

「そっか、よかったー」

 

それに安堵してみせるアリア。

その様子に何気にひどいなと思うシノとスズ。

 

「私たちの知らない間に、津田君の童貞だれが奪うかのレースが終わってるのかと心配しちゃった」

 

「そんなくだらない心配してたんですか? てかまだそのレース続いてたんですか?」

 

呆れかえるスズ。さっきまでの私の焦りを返せと言いたい。

その時、急に部屋の扉がひらいて誰かが顔をのぞかせる。

 

「まだまだレースは終わってないわよ……じゅるり」

 

「副会長は童貞……と」

 

そこには舌舐めずりをする横島先生と、メモに大きく童貞と書いている畑がいた。

 

「……頑張れ津田」

 

初めて少し彼に同情したスズであった。

ちなみにこの2日後に学園中に彼が童貞であると知られることになるのは言うまでもない。

 

 

 

 

【微笑限界突破】

 

「記事用の写真が余ったんで献上にきました」

 

修学旅行から約一週間後の生徒会室。

新聞部の畑が旅行中に撮った写真を携えてやってきた。

 

「見せて見せて」

 

「俺にも」

 

「どうぞ。お二人の写っているものを持ってきました」

 

差し出された写真の束を机の上に広げて皆で見る。

そこには楽しそうに笑う女生徒の姿が多数写されていた。

仏像を眺めるアリアと黒髪の生徒のツーショット。

鹿を撫でるアリア。

鹿に乗られる黒髪の生徒。

タヌキの焼き物の下半身を撫でるアリア。

金閣寺をバックにコマネチのポーズを取る黒髪の生徒。

色々な写真が撮られている。

 

「あの、会長はどこに写ってるんですか?」

 

「ここにいるじゃないか」

 

そういってシノが指さすのは黒髪の女生徒。

確かに似ているといえば似ている。

だがどうみても津田にはそれがシノに見えなかった。

 

「どこ?」

 

「ここ」

 

写真の中のシノはいつもの微笑ではなく、まさに満面の笑みといった表情。

子供のように笑う彼女は雰囲気がまるで違って、本人とは思えなかったのだ。

 

 

 

【焼き増し可】

 

「あっ、会長見つけた」

 

やっとシノだと一目でわかる写真を見つけた津田。

その写真の中ではシノが浴衣の胸元をはだけさせて寝ている写真だった。

 

「会長寝てる……ふふ、寝顔可愛いですね」

 

「こ、こら津田! 人の寝顔勝手に見るな!」

 

恥ずかしそうに写真を彼から取り上げるシノ。

それに同意したのは畑だった。

 

「そうよ、それは有料よ?」

 

「え?」

 

有料と聞いて驚く津田。

 

「ちなみに今までの写真が無料のもの。ここにあるのが有料のものです」

 

畑は懐から10枚ほどの写真を取り出した。

裏を向けられているためにどのような内容のものかわからない。

 

「なんでそんなに有料のものがあるんだ……」

 

「というよりも畑さん私たちと部屋違ったわよね?

 なんでシノちゃんの寝てる写真なんてあるの?」

 

「私、記者ですから」

 

「……答えになってねえ」

 

彼女たちの素朴な疑問を一言で切って捨てる畑。

しかし彼女の言葉は問いかけに対する答えになっているようでなっていなかった。

まぁ、先ほどのような写真を撮るには同じ部屋のなかにいる必要があるわけで。

シノとアリアの部屋に夜中彼女が忍び込んだのは考えるまでもないことだが。

 

「ちなみに他には簡単に言ってどのような内容の写真があるんですか?」

 

なんとなく聞いてみた津田。

別に買うつもりはない。単に気になっただけだ。

 

「そうですね……津田君のオカズになりそうな写真とでも言っておきましょうか」

 

「買った!!」

 

「よし売った!!」

 

 

 

 

 

 

 

【この感じ耐えられないのぉ!!】

 

色々と写真を見ていて旅行の思い出を語る二年生たち。

シノが観光の名所で撮った写真を手に、少し残念そうに話す。

 

「短い日程だったが色々回ることができたな。

 しかし……やはり清水寺にいけなかったのは心残りだったな」

 

清水寺といえば、~の舞台から飛び降りるという言葉が使われるくらい有名な場所である。

京都の名所と聞けばほとんどの人間が思いつく場所だろう。

今回、シノとアリアは残念なことにその清水寺には行っていないのであった。

 

「シノちゃんは高いところ駄目だからね」

 

「そういえば、以前屋上でも怖がっていましたね」

 

どうやら行かなかった理由はシノの高所恐怖症にあるらしい。

アリアの言葉にスズがかつて校内を案内された時のシノの様子を思い出す。

 

「会長ってそんなに高いところ駄目なんですか?」

 

津田の素朴な疑問は無理もないだろう。

別に清水の舞台は高くとも、行くだけならそこまで怖くはないはずなのだ。

ようは怖いなら舞台の端に行かなければいいのだから。

 

「そうだな……高い場所に行くと全身の力が抜けて震えが止まらなくなってしまうんだ」

 

「そんなにですか」

 

自身は高所に恐怖を覚えずとも、幽霊などが苦手なスズは共感する。

怖いものを見れば、想像すれば……それだけで体が震えて足がすくむ。

 

「そう、それはまるで……常に絶頂状態!!」

 

「あらあらシノちゃん。それじゃ結局好きみたいに聞こえるわよ?」

 

さきほど感じた共感はまやかしだったと気づくスズ。

畑は何やら隣でメモに書き込んでいた。

 

「会長は常に絶頂状態……と」

 

「いや、畑さん?そんなのメモらなくていいですから」

 

この数日後、学園に「生徒会長は常に絶頂状態」という意味不明な噂が流れることになるが、それはまた別の話。

 

 

 

 

【会長の絶頂写真】

 

「それで畑さん」

 

「何かな津田君?」

 

「会長の絶頂状態の写真はないんですか?」

 

どうやら先ほどのシノの高所での絶頂発言を聞いてムラムラときてしまった津田。

彼は一縷の望みをかけて畑に聞いてみる。

彼女たちは清水寺には行っていないというのに。

 

「こらこら津田、私たちは清水寺には行っていないと言っただろう?」

 

「もう津田君ったらエッチなんだから」

 

「「はっはっは」」

 

「……いや、笑うところじゃないだろ。会長も今のは怒ってくださいよ」

 

津田のセクハラを笑って流す先輩二人に呆れるスズ。

無いと分かっているからこその余裕なのかもしれないが。

普通はここいらで怒るところだろうに。

しかしここで新聞部のホープ、畑さんは懐から一枚の写真を取り出す。

 

「ありますよ?会長の絶頂写真」

 

「マジで!?」

 

「何ぃ!?」

 

無いと思って余裕こいていたところに畑のこの発言。

これには津田も大興奮だ。

それとは逆に今度はうろたえることになるシノ。

 

「な、なんでそんな写真があるんだ!?」

 

「そうよ畑さん? 私たちは高いところには行ってないわよ?」

 

「……いや、そのまえに何でそんな写真撮ってるんですか?」

 

「ほら」

 

津田が先ほど写真を買うと言ったためか、今度はためらいもなく全員に見えるように写真を見せる。

その写真には、おそらくトイレの個室の中と思しき場所。

浴衣をはだけさせてだらしなく舌を突き出し、若干白目のシノの肩から上の姿が写っていた。

 

「あらあらシノちゃん……完全にア○顔ね」

 

「な、なななななななななな……!!」

 

「会長のア○顔キターーーーーー!!」

 

「……」

 

そこに写るシノの顔の、普段とは違い淫媚な表情にそれぞれの反応をする面々。

困ったような嬉しいような表情のアリア。

顔を真っ赤にして壊れたレコーダーのように「な」を連呼するシノ。

大いに喜び天にむかってガッツポーズをする津田。

さすがのスズもこのシノの表情がどんな時のものか分かってしまって赤面する。

これは、女性が性的に気持ちよくなったときにする表情の一つである。

性的な関心があまりないスズでも、この程度の想像はついた。

 

「な、なな、な……なぁああああああーーーー!!」

 

「ああっ、写真が!?」

 

らしくもなくキレたシノが、畑の手から写真をもぎ取ってびりびりと細かくちぎってしまう。

写真の残骸を目の当たりにし、がくりと膝をつく津田。

 

「もう、シノちゃんたら ……でもなんでこんな写真があるの?」

 

「ああそれはですね。

 旅行中の禁欲が我慢できなくなった会長が、夜に部屋の人間が寝静まった後にトイレで自慰行為をしていまして。

 その時のア○メの瞬間をばっちり撮らせてもらいました」

 

びしりと胸を張ってサムズアップする畑。

彼女の顔はどこまでも誇らしげであった。

 

「それ、明らかに盗撮じゃねぇか」

 

さっきの寝顔の写真よりもっと悪質であった。

ちなみに、この場は写真はもう焼き増ししないということで畑は釈放される。

しかし事前に数十枚焼き増しされていて、そのうちの一枚は津田の手に渡るのだった。

 

 

 

 

 

【どうだった?】

 

旅行後、廊下にて。

シノがスズにお土産の感想を聞いていた。

 

「萩村、この間のお土産の八ツ橋どうだった?」

 

「おいしかったですよ。

 家族でおいしく頂かせてもらいました」

 

「そうか、喜んでもらえたみたいで何よりだ」

 

職員室にて。

顧問の横島先生にお土産の感想を聞いているシノ。

 

「お土産の木刀?よかったよ。プレイの幅が広がった」

 

「プレイですか……?」

 

ちょっと大人な香りがしだした会話に胸をどきどきとさせるシノ。

興味を刺激されている少女の様子に面白そうな顔をする先生。

 

「ああ……木刀で○○を××にしたり……固いから直接○○にーーーしても気持ちいいし……

 むしろ相手の××に~~~でも……」

 

「ふむ……ふむふむ……なるほど」

 

楽しそうに感想を語る先生と、嬉しそうに聞く生徒。

しかし内容が完全に成人指定な、しかもかなりアブノーマルな内容だった。

どう考えても昼間の、しかも職員室でする会話ではない。

 

同日の違う時間、廊下にて。

見知らぬ生徒と話すシノ。

どうやらまたお土産の感想を聞いているらしい。

 

「先輩からもらったストラップ、いつも身につけてますよ!」

 

「そうか、気にいってくれてなによりだ」

 

「はい!! もう朝も昼も夜もお風呂もトイレにもいつも一緒です!!」

 

「そ、そうか?」

 

「ほら、今も結んで身につけてるんですよ!」

 

そう言ってスカートをまくり上げる女生徒。

彼女のパンツの隙間からは「京都戦隊八つ橋レッド」のストラップがぶら下がっていた。

 

「ちなみにそれはどこに結んでいるんだ?」

 

「えっ……そんな……言わなくちゃ駄目ですか?……いやん」

 

「……」

 

そんなやり取りをいつも偶然目にしていた津田。

今回はなんだか怪しい雰囲気を女生徒が醸し出していたのでなんとなく壁に隠れてみていた。

 

(もしかして俺も感想とか求められるんだろうか?)

 

 

【完徹しました】

 

翌日、目の下にクマを作っている津田。

どうやら眠たそうなところを見るに昨夜は寝ていないようだ。

 

「津田君、シノちゃんが呼んでるよー」

 

「わかりました」

 

彼に声をかけるアリア。

どうやら生徒会室でシノが彼を呼んでいるらしい。

彼は、おそらく皆と同様にお土産の感想を聞かれるのだと予想した。

 

(昨日ちゃんと読んでおいてよかった……)

 

彼は感想を聞かれると思い、お土産にもらった官能小説を徹夜で読んだのだった。

もともとあまり読書を好かない彼はそれまでその本を読んでいなかったのだ。

まぁ、いくら官能小説といえども一巻もないのに二巻から読む気がしなかったというのもあるが。

しかしこれで今すぐにでも感想を求められても応えられる。

 

「おまたせしました会長」

 

「おお、呼び出してすまないな」

 

生徒会室に入れば、一人で作業をしているシノがいた。

彼は疲れているのを感じさせない足取りで彼女に近づくと、朗らかに笑いかけた。

 

「会長からもらったお土産よかったですよ」

 

「む?」

 

「特にいきりたった肉助が舞妓にぶっかけるとことか」

 

「な、なんだいきなりセクハラか!? 次の会議の話をしようと思ったのに!!」

 

「あれ?」

 

そこでお互いに意思の疎通が上手くできていないことを悟る。

シノは彼がこの間のお土産の感想を求められるのだと勘違いしていることに、

津田は彼女が次の会議の話をしようとしていただけで感想は別に聞いていないことに気づいた。

 

「なんだ、ちょっとしたいたずらのつもりだったのに……

 一巻もないのにわざわざ二巻から読んでくれたのか?」

 

「ええ、せっかく会長が俺にくれたお土産ですからね」

 

読書ってあまり得意じゃなくて徹夜しちゃいました、と照れ臭そうに頬を掻く津田。

彼女としては、あのお土産はなんで官能小説なんだとか、なんで二巻からなんだとツッコませるための小道具だった。

故にボケのやり取りの一環としての小道具にすぎなかったのだ。

それなのに真面目に受け取ってもらってなんだか悪い気がする。

彼は彼女のボケの小道具のために徹夜までしてくれているのだから、ちょっと罪悪感がある。

 

「悪いな、私に感想を聞かれると思ってわざわざ読んでくれたのか」

 

「ははは、別に構いませんよ。途中からでもそれなりに俺は楽しめましたし」

 

「そうか?そう言ってもらえると助かる……津田は優しいな」

 

彼なりの優しさと、シノのことを慕ってくれていることを少し嬉しく思う。

おもわず口元がほころび、くすりと小さく笑ってしまった。

 

「クス……それで? あの本はどうだった?」

 

改めて本の感想を聞くシノ。

これで何も聞かずにその話題を流してしまえるほど、彼女は冷酷ではなかった。

 

「そうですね、なんだかヒロインの舞妓の特徴が会長に似てましたね」

 

「わ、私か?」

 

「ええ、だからかもしれませんがヒロインが会長みたいに思えて……なんか新鮮でした」

 

「そうか……官能小説のヒロインが私とか……ちょっと恥ずかしいな」

 

「なんていうか、主人公の肉助がいきりたって舞妓にぶっかける時なんかこう……

 もし会長だったらこんな反応するだろうなぁって反応を舞妓がするんですよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

「ええ、思わず肉助みたいに会長の写真で抜いちゃいましたよ。

 あんなに出たの初めてです。気付いたら朝になっちゃってて……」

 

「お前読書じゃなくてオナ○ーで徹夜したのか!?」

 

「そうですよ?」

 

ちなにみ彼が使ったのは以前畑から買ったシノのア○顔写真である。

 

「いや~、結局6発も抜いちゃって……あはは」

 

「……絶倫か(ごくり)」

 

彼の告白に思わず息をのむシノであった。

 

 

 



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十一人目

 

 

【お嬢様生活】

 

七条アリア。

桜才学園生徒会の書記を務める二年生。

彼女は性格も優しく、容姿端麗な爆弾ボディをもつ。

そんな彼女が階段の前で突っ立ったままぼんやりとしていた。

津田はちょうど一階から上ってきたところで、彼女を見上げる形となる。

 

(先輩のパンツ、今日は黒かぁ)

 

アリアは下の階段の踊り場から見れば、下着が丸見えだった。

相変わらず高校生とは思えない色っぽい下着を着用している。

黒のレースのパンツで、生地が薄いのかうっすらと布の向こうの肌の色が見て取れた。

津田は見たことがないが、時折パンツをはいていない時すらある彼女からすれば、今日はまだおとなしい方だった。

 

「先輩?」

 

「あっ、津田君……」

 

いつまでもこのような人の往来でパンツを覗いてるわけにもいかない。

津田は呆ける彼女に話しかけた。

その時になって初めて動きだすアリア。

 

「何呆けてたんですか?」

 

「えっ?……あっ、そうか」

 

「?」

 

「学校はエスカレーターじゃないんだよね。うっかり」

 

「なんて家だ」

 

彼女は金持ち兼天然であった。

 

 

 

 

【待ち遠しい衣替え】

 

五月も半ばを過ぎた生徒会室。

まだ春とは思えない暑さに津田がうなだれていた。

 

「あー、5月なのになんて暑さだ……」

 

温暖化恐るべし、と愚痴をこぼす津田。

 

「コラ津田だらしないぞ」

 

あまりの暑さに制服を着崩してだれる彼を注意するシノ。

彼女は彼とは違い、このむし暑さのなかでも制服を着崩すことはしていなかった。

 

「会長は暑くないんですか?」

 

「まぁ、暑いことは暑いが……私は校則に反する着崩しはしない」

 

凛として胸をはるシノ。

なかなかの精神力である。心頭滅却すればなんとやらということだろうか。

 

「だから見えないところで着崩している」

 

そういって自身の胸を抱き抱え、スカートのすそを掴んで股間をガードするポーズを取る。

そのポーズが示す答えは一つ。

 

「会長、もしかして今ノーパンノーブラなんですか?」

 

「うむ、ちょっとスースーする」

 

恥ずかしそうに体をくねらせるシノ。

恥ずかしいけど、でもちょっと指摘されて嬉しそう。

 

「ああっと、足が滑ったぁああああ!!」

 

「きゃああああ!?」

 

津田は彼女の股の真下にヘッドスライディングをかました。天井をむきながら。

彼に迷いはなかった。

 

「なんてことだ……毛が……」

 

シノは昨晩下の毛をすべて剃っていたあとだった。

 

「ば、ば、馬鹿ものーー!」

 

 

 

 

 

【隙などない】

 

穏やかな午後。会議中の生徒会室。

議題について語る彼等の中から、一つの寝息が聞こえてきた。

寝息の元をたどれば、スズが机に突っ伏して寝てしまっている。

 

「萩村寝ちゃってますね」

 

「まぁ休ませてやろう」

 

いつも人一倍頑張ってくれてるしな、とスズを気遣うシノ。

その言葉にうなずく津田とアリア。

彼等は皆、スズが昼寝をしないと一日体力がもたないことを既に知っていた。

 

「ふふ、本当に気持ち良さそうに寝てるわね」

 

彼女の寝顔をほほえましく見守るアリア。

その視線は、まるで幼い妹でも見るかのような慈愛に満ちたものだった。

 

「そうですね」

 

「今なら少しくらいいたずらしても起きないんじゃないか?」

 

「いや、さっき一番最初に休ませてやろうって言ったの会長じゃないですか」

 

「あら? でも今なら耳を舐めるくらいなら大丈夫じゃないかしら?」

 

「いやー、それは起きるでしょ」

 

「どうだろうな……津田、ちょっと試してみたらどうだ?」

 

シノが乗り気になって提案する。

先ほどまでは寝かせておく気だったのに、今はおもしろそうだとはやし立てる側にまわった。

アリアもわくわくと期待に満ちた表情でこちらを見ている。

津田としてはスズを寝かせておいてやりたい反面、耳を舐めたいかと聞かれれば、舐めたいに決まっている。

この間、スズの家で暴走してしまって彼女の耳を舐めまわした時、それはそれはなまめかしい声を上げてくれた。

もし寝ている最中にそんなことをしたら、彼女は今度はどんな反応をしてくれるのか。

横ではいけいけー、と小さな声でシノとアリアの二人がはやし立てる。

ドキドキしつつ、誘惑に負けてゆっくりとスズの耳に顔を近づけていく津田。

 

「……やらせないわよ」

 

「はぶぅ!?」

 

しかし、もう少しというところでスズが津田の顔面を掴み、机に叩きつけた。

 

「「おおっ!?」」

 

「全部聞こえてんのよ。起こすなら普通に起してください」

 

彼女の特技には、睡眠聴取というものがあった。

寝ていても周囲の声を聞き分け、反応することができる。

天才に隙はなかった。

 

 

 

 

【パンツ履いてる】

 

武道場の近くの水道。

偶然通りかかった津田はそこで顔を洗う三葉を見かけた。

 

「三葉」

 

「?」

 

声を掛けられた彼女が、洗っていた顔をあげ、水道を止める。

水に濡れた顔をタオルで拭いて彼の方に向き直った。

 

「あっ、タカトシ君」

 

「柔道部の調子どう?」

 

津田は、設立に自分も少しは関わっていたので部活が上手くいっているか少し気になった。

まぁ見た感じでは今も三葉は部活に精を出していたところのようだし問題はなさそうだが。

彼女の明るく元気な様子から楽しくやっているのはなんとなくわかる。

 

「はは、おかげ様で。

 部長ってポジションも結構大変だけどねー」

 

「ああ~まぁ、どんなものでも人の上に立ってまとめ役になるのは大変だしなぁ」

 

「そうそう!部員はみんな仲良くしてくれるからまとめるってのはそんなに大変じゃないんだけど……

 私の場合、備品そろえるために部費のやりくりとかにてこずっちゃって」

 

恥ずかしそうに頭をかく三葉。

私こういう計算とか苦手だからね~、と苦笑いだ。

 

「ん? 柔道部って胴衣の他に何かいるの?」

 

津田としては柔道部なんて畳のある練習場所と胴衣さえあれば成り立つような気がする。

他に何か必要なものと考えても何も思い浮かばない。

 

「紐パン。下着のラインを隠すのに必要なんだって七条先輩が教えてくれて」

 

「なるほど」

 

それは盲点だった、と納得する津田。

 

「さすが七条先輩、目の付けどころが違うな」

 

「そうだよねー、女の子なんだから気をつけなさいだって。

 でも紐パンって普通のパンツよりも高いんだよねー」

 

三葉の言葉にうなずく津田。

確かに、布の面積は紐パンのほうが少ないものの、エロい下着のほうが値がはりそうなイメージがある。

 

「ならいっそ履かなきゃいいんじゃないか?

 浴衣って本来下着履かないだろ。胴衣も一応和服なんだしさ」

 

「ふぇ? 浴衣って下着履かないの?」

 

津田の言葉に初めて聞いた、と驚く彼女。

どうやら三葉にとっては初耳の知識だったらしい。

 

「そうそう、元々下に履いてなかったのに今はみんな履くようになったから下着の線が出ちゃうんだよ。

 本来は履かないものだからね」

 

「そうなんだー。

 でも柔道着は何も下に履かないのはつらいかも」

 

「なんで?」

 

「だって生地が固いしさ。動きも激しいからこすれてきっと痛いと思う」

 

「そっか、そりゃ難しいな」

 

「うん」

 

「練習中や試合中に気持ち良くなりすぎても駄目だしな」

 

「うん?」

 

津田の言っている意味がよくわからなかったが、とりあえず頷いておく三葉であった。

 

 

 

 

 

【どいつも】

 

5月も残り少なくなった季節。生徒会室にて。

津田がだらしなくブレザーを脱いで、カッターシャツもボタンをいくつか外して涼んでいた。

プァンプァンとプラスチック製の下敷きを団扇代わりにしている音が部屋の中で鳴る。

 

「津田君、だらしない恰好してるとまたシノちゃんに怒られるぞ~」

 

その格好を見たアリアが冗談交じりで注意する。

津田としても、着崩しているのを嫌うシノが見たら怒るだろうなぁと思う。

しかし暑いものは暑いのだ。

特に今は授業中でもないのだし構わないと思ってしまう。

 

「でも最近クールビズとかあるし……無理して熱中症にでもなったら元もこもないですよ?」

 

「なるほど……そっかーー」

 

津田の屁理屈に納得させられてしまうアリア。

じゃあ私もー、と彼女も服をはだけさせる。

口ではなんだかんだと言いながらも、彼女も暑いを感じていたのだ。

制服のタイを外し机の上に置く。

ブレザーの前のボタンを外し、シャツのボタンも上から順番に外していく。

ボタンが一つ外れる度に、彼女の甘い体臭が生徒会室に解き放たれる。

ブレザーは肩からずり落ち、腕に引っかかっている状態だった。

シャツの三つ目のボタンを外し、四つ目の取りかかろうとしたところでふと気づく。

露わになる彼女の深い胸の谷間。

白いシャツは汗で肌に張り付き、彼女の健康的な肌の色が透けて見える。

そう、透けて見えるのだ。乳房の頂上にあると思しきピンク色も。

 

「先輩……今日ノーブラですか?」

 

津田の言葉に、アリアは今日下着をつけてくるのを忘れていたのを思い出した。

 

「そうだった!! なんかいかがわしい感じになっちゃったよ~~~~!!」

 

想定外にいやらしい状態になってしまい泣きだした。

 

「ちょ、ちょっと……七条先輩?」

 

なだめようと津田がアリアに近づく。

彼女が彼を見れば、津田も同じくシャツが肌に張り付いてる。

 

「うわ~~ん!!」

 

「先輩!? せんぱ~~~~い!?」

 

こんなはずじゃなかったのに~~~~、とエコーを聞かせながら彼女は走り去った。

一人取り残される津田。

 

「なんだこの状況……」

 

津田も別にこんないかがわしいと思われるような状況になるとは思っていなかった。

でも普段の下ネタ好きの彼女ならこのシチュエーションならむしろ喜ぶのでは?

しかし現実は何故か泣きだして走り去った。

やはり彼女は天然なのか、いまいち他のメンバーよりも思考が読み取れない。

 

「俺が悪いのか?」

 

つぶやくも、その問に答えてくれる人物などいない。

別に彼が脱げと言ったわけでもなく、勝手にアリアが脱ぎ出したのだが……

それともノーブラのことを指摘したのがまずかったのだろうか?

 

「……とりあえず脱ぐか」

 

考えても仕方がない。

もし自分が悪いのなら彼女が落ち着いてから謝っておこうと思う。

とりあえず今は生徒会室には彼しかいない。

汗で張り付いたシャツもぬいで、この不快な汗を拭き取ろうと考えた。

 

 

 

 

【こいつも】

 

生徒会室に向かって廊下を歩くシノ。

 

「うわ~~~ん!!」

 

「ん? あ、アリア!?」

 

部屋まであと50メートルといったところで生徒会室からアリアが飛び出してきた。

彼女はどうやら泣いているらしく、服もはだけていた。

シノの呼びかけも聞かずに走り去る。

全力疾走の動きでスカートがめくれあがり、パンツをはいていない生の尻が見えた。

 

「な、なんだというんだ……」

 

泣いて逃げるように走り去る友人。

服ははだけ、下着を履いていない。

これではまるで、いかがわしい行為をされそうになったかのようだ。

彼女は生徒会室から出てきた。

つまり、彼女の想像が当たっている場合、犯人はまだ生徒会室にいる。

そしてシノが知る限り生徒会室に出入りする男は一人しかいない。

アリアを追うかとも考えたが、生徒会室に足をむけた。

部屋の扉の前で立ち止まる。

緊張でごくり、と息をのんだ。

もし想像どおりなら、この向こうには彼の姿が……

 

(ええい、あいつに限ってそんなことあるものか!

変態でもちゃんとその辺はわきまえてるやつなんだ、私が部下を信じてやらずにどうする!)

 

決意を固め、思いっきり扉を開いた。

 

「「……あっ」」

 

そこには、今やトランクス一枚しか身につけていない津田の姿。

そのトランクスも、今まさに脱ごうと手をかけているところだった。

 

(つーーーーーーーーだーーーーーーーーーーー……)

 

この後彼が彼女の誤解を解くのに3日を要することになる。

 

 

 



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十二人目

 

【ここが怪しい】

 

6月に入り、衣替えで制服が夏服になった桜才学園。

今日も放課後、生徒会室に会議のために集まった面々。

 

「ん?」

 

部屋の中に入ってそうそう、シノが何かに気づいた。

 

「んーーーーー……」

 

机の上、下とどうやら何かを探しているそぶりである。

しかし机の周辺にはシノが探しているものがなかったようで、眉根をよせている。

 

「どうしたのシノちゃん?」

 

「……ふむ」

 

彼女の行動を疑問に思ったアリアが声をかける。

シノは、そんな彼女の立ち姿を無言で眺めたあと、なにか思案しながら唐突に彼女の胸を揉みしだいた。

 

「あん!」

 

いきなり胸をもまれて、色っぽいをあげるアリア。

 

「う~む、無いな……」

 

そこに探し物がなかったと落胆する。

逆に目の前で突発的に始まった百合的な匂いを醸し出す展開にちょっと興奮する津田。

 

「興味無いけど一応聞きますね……何が?」

 

いつものように始まったばかばかしい行動を呆れた目で見つつも、一応何を探しているのか聞いてあげるスズであった。

 

「……あっ、ホック外れちゃった」

 

どうやら先ほどの行動でアリアはブラのホックが外れたらしく、カーテンに隠れてホックをつけなおすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

【ここも怪しい】

 

「購買で買ったメロンパンを昼の間にここに置いておいたのだが……」

 

どこにいった?ときょろきょろと首を動かして探すシノ。

メロンパンを探しているのはいいとして、何故アリアの胸を揉む必要があるのか。

まぁ、スズから見てもあの大きな胸は本物かと疑いたい気持ちもわからないでもない。

まごうこと無き本物の乳であることはわかっているのだが……

 

「メロンパンですか?」

 

「ふーーーー……む」

 

次にシノの目に留まったのは津田の股間の膨らみだった。

彼の前にしゃがんで、そこを凝視するシノ。

津田は彼女に股間を視姦されて興奮したのか、ますます膨らみは大きくなっていった。

さきほどのアリアの時とおなじく、そこを探ろうと彼女が手を伸ばす。

しかしその手はあと数センチというところで横から伸びた別の手に阻まれた。

 

「ちょっと待て」

 

「む? なんだ萩村?」

 

「あんた本当にそんなところにパンがあると思ってるのか?」

 

万が一にあったと仮定して、彼女はそれを食べる気なのだろうか?

普通食べないだろうが、思春期のシノならむしろ自分から食べてみせようとする可能性もないこともないのが怖いところだった。

 

 

 

 

 

 

 

【犯人は誰だ】

 

メロンパン紛失事件について仕切りなおした面々。

 

「さて……私のメロンパンが机の上にあったはずなのだが、誰か知らないか?」

 

生徒会メンバーに質問するシノ。

それに応える皆の答えはほぼ同じだった。

 

「知りません」

 

端的に知らない事実を告げるスズ。

 

「さあ?」

 

知らないし持っていないと股間をパンパンとたたいてアピールする津田。

 

「こんなところに隠さないよー」

 

ちょっと怒り気味になりながらも自身の胸を揉むアリア。

彼女としても自分の胸を偽乳と疑われたも同然なのだ、いい気はしないだろう。

 

「そうか、アリアも津田も疑って悪かったな。

 だとすると……当時この部屋には鍵がかかっていた。

 つまり内部による者の犯行、それすなわち……」

 

そこで今まで無言だった横島先生の方を向く。

 

「横島先生、私のメロンパン食べたでしょ」

 

「一直線にきた!!」

 

迷いなく自分を犯人と断定するシノに驚く先生。

アリアや津田を相手にした時と違い、疑いではなくもはや確信している言動。

彼女の人望のなさがあらわれていた。

 

 

 

 

 

 

【ごちそうさまでした】

 

「まぁ、確かに食ったの私だけど……」

 

素直に自分が無断で食べたことを認める横島先生。

ポケットの小銭入れから小銭と取り出すと、パン代としてシノに手渡した。

それを受け取りながらため息をつくシノ。

 

「生徒のもの勝手に取るなんてなに考えてるんです」

 

教師とは生徒の模範とならなければならないのに、呆れたことをする先生。

人としてどうかと思われる人間が、自分たちの顧問なのかと落胆の目で皆に見られていた。

その蔑みの視線にすこし頬を赤らめながらも言い訳をする。

 

「あのホラ……人間って辛い物食べると甘いものほしくなるじゃん!?」

 

ムショウに口直ししたい時ってあるだろ?と同意を求めてくる。

その言葉に少し視線に蔑みがやわらぐ。

まぁ、辛い物を食べたら口の中を元に戻すために甘いものが欲しくなるというのはよくある話だ。

それでも生徒のものを勝手に食べるなどいい行いではないが、動機はわからなくもない。

 

「なにか辛い物食べたんですか?」

 

「いや……私の場合は苦い飲み物だったんだけど」

 

横島先生は大の年下好きだった。

どうやら彼女の悪い癖がどこかで今日も発動したあとのようである。

 

「まぁ、これからは気をつけてくださいね?」

 

幾分和らいでいた視線が、先ほどよりもさらに侮蔑の色に染まるシノ。

 

「一生気をつけないと思いますよこの人」

 

すでに見放しているスズ。

 

「あらあら、つまみ食いもほどほどにね?」

 

やんわりと教師に注意するアリア。

 

「……」

 

なんで自分の苦いものは手を出されていないのだろうと不思議に思う津田だった。

 

 

 

 

 

【信じる心】

 

メロンパン事件が一件落着した生徒会室。

そこでスズがシノに感心した声を上げていた。

 

「それにしても会長、よく犯人が一発でわかりましたね」

 

実際にはそれまでに津田とアリアを一度疑っているわけだが。

それでも内部犯と推理してすぐ、犯人を特定したのは凄いと思われた。

彼の言葉に、購買で買いなおしてきたメロンパンを頬張っていたシノが顔をあげる。

 

「うむ……君たちが知らないというのならそれは真実なのだろう。

 ここにいる者は嘘をつかない人間と私は信じている」

 

「会長……」

 

「さすがシノちゃん」

 

彼女の言葉に感動した顔をするスズとアリア。

皆を信頼している、と生徒会の絆を感じさせる。

しかしそこは黒一点の津田、気になったことを口にした。

 

「でも会長……胸の大きさ偽ってますよね?」

 

「ぬぁ!? なっ、なにを言うんだ津田!?」

 

明らかに狼狽するシノ。

そんな彼女の様子に胸を本物か偽物かと凝視する三人。

彼女は自身の胸を腕で隠して後ずさる。

 

「い、いったい何を根拠に、そ、そんな……」

 

「俺にはわかりますよ会長。

 その胸の膨らみ……ブラの生地の厚みを引いても会長の本来の大きさよりも1センチと6ミリ大きい!」

 

本来の会長のバストは79センチ4ミリのはずだ、と断言した。

 

「おまえミリ単位でわかるのか」

 

「まぁ、そうなのシノちゃん?」

 

「くっ!……いいじゃないかー!! パットくらい、少しくらい、私だってなーー!!」

 

先ほどまでの凛とした表情はどこへやら、半泣きになって反論する様は幼稚園児のようであった。

 

 

 

 

 

【女の命】

 

いつもの生徒会室。

窓際でシノとアリアが雑談に興じていた。

 

「さっき枝毛見つけちゃったの。ショックだよー」

 

「キューティクルが傷んでるな」

 

ちゃんと風呂で手入れしているか?とシノが確認していた。

女の子なのだから、毛先が傷んでいるかどうかということは重大なことなのだろう。

二人して真剣にキューティクルを保つにはどうするべきかと話し合っていた。

 

「人間の髪の毛なんて一〇〇〇〇〇本はあるんだからそんなに気にすることないんじゃないですか?」

 

その二人の会話に割って入る津田。

しかしその行動をアリアがたしなめる。

 

「もう津田君、女の子のプライベート話に割り込んじゃ駄目だよ?」

 

「そーゆーもんすか?」

 

それほど今の会話が割り込むのをためらうような内容には聞こえていなかった。

近くではスズが一人で文庫本を読んでいるため、別段津田のみを除いた話ではないと思ったのだが。

 

「陰毛の話してるんだから」

 

「なるほど、プライベートですね」

 

どうりでスズが話に入れないわけである。

たぶん彼女は津田の予想では容姿相応にまだだろうとふんでいる。

 

「いや、でもどうだろう? ここは男の意見も聞くのもいいのではないか?」

 

「そう? う~ん……それもいいかもしれないわね」

 

しかしシノの提案で女のプライベートトークに参加の許可が下りた。

自分でよければなんでも聞いてください、と頷いた。

 

「時に津田、女の子の陰毛に枝毛があった場合お前はどうしたらいいと思う?」

 

「うーん……そうですね。俺はあまり気にすることもないと思いますが」

 

「それでも気になる物は気になるよー」

 

「じゃあ剃ってしまえばいいんじゃないですか?」

 

「しかしパイ○ンは許容できる男とそうでない男がいると聞くが……」

 

「会長はパ○パン嫌いなんですか?」

 

「いや、むしろ好きな方ではあるが。アリアはどうだ?」

 

「私はどっちでも。気分で剃ったり剃らなかったり」

 

「そうですか……じゃあ、枝毛を理由に相手に剃ってもらうよう頼むとか」

 

「なるほど!? それを理由に剃毛プ○イにこぎつけるわけだな!!」

 

「さすが津田君!! すごい発想ね!!」

 

「よかったら俺が剃るの手伝いましょうか?」

 

「まぁ……」

 

「ほほぅ……」

 

段々とあやしい方向に転がり始める三人の会話。

その内容を文庫本を読むふりをしつつ聞いていたスズは、困っていた。

 

(誰から突っ込むべきなんだろう……)

 

彼女はツッコミを入れようにも、タイミングを逃して上手くツッコミができないでいた。

 

 

 



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十三人目

 

【期待と不安】

 

今日も会議中の生徒会室。

来週から新しく改善されることになった校則について話し合う生徒会の面々。

 

「校則で定められていた携帯電話の持ち込み禁止だが、生徒の要望により解禁されることになった」

 

「持ってた方が安心できますね」

 

「そうですよ、今の時代何があるかわからないんだから」

 

以前から実施していた目安箱。

その中にある生徒会への要望の大多数が、携帯電話の持ち込み解禁を求めるものだった。

というよりも、それ以外の内容となると途端に真面目なものがなかったのだが。

なにはともあれこうして学園側も認め、来月より正式に携帯電話が解禁となる。

スズと津田の言葉の通り、防犯上喜ばしいことではある。

実際、小学校中学校とは違い電車通学の生徒も多いのだ。

 

「だが学校の風紀が乱れないか心配だ」

 

確かに、シノの心配もわからないこともない。

だいたいにして、今まで学園側が禁止していたのはそのためなのだから。

授業中にメールや電話をして話をきかないことも考えられる。

 

「授業中にメールのやり取りなどする輩がでるかもしれない」

 

「その可能性も否定はできませんが……」

 

メールでなくても、やっている生徒は授業中に手紙をまわしたりしているものだ。

いまさらあまり変わらないだろう。

 

「ハメ撮りの横行……」

 

「会長の頭ほど乱れることもないと思いますよ?」

 

シノの発言をスズが切って捨てる。

しかし、その捨てられた言葉をわざわざ拾う津田とアリア。

 

「会長は携帯が可能になったらハメ撮りするんですか?」

 

「あらあらそうなの? インターネットに配信しちゃったりするの?」

 

「そ、そんなわけないだろう!?」

 

「会長は誰かに見られるのが好きでしたもんね」

 

「そうね、朝礼の時も前に立つと嬉しそうだもんね」

 

「……会長」

 

「そ、ちが、私はそんなことしない!! 違うんだ!

 萩村もそんな目で見ないでくれー!!」

 

 

 

 

 

【たくさん出ました】

 

朝の会議の時間が終わった生徒会室。

各々自分のクラスに向かうために荷物を整理して部屋を出ていく。

津田はノートや書類を鞄に入れるため、一旦他の荷物を取り出し机の上に広げていた。

会議が終わって早々に出て行ったシノとスズ。

しかし津田と同じく未だ生徒会室に残っていたアリアが彼の所持品の一つに目をとめた。

 

「津田君、学校にDVD持って来ちゃ駄目だよ?」

 

「あっ、すいません」

 

彼女が目にとめたのは、一枚のDVDのパッケージであった。

一応校則でも必要のないものを持ってくることは禁止されている。

 

「あっ、でもこれ今話題になってる映画ね」

 

「はい、友達から借りまして」

 

そのDVDは去年上映していた映画で、つい最近ようやくDVDで出たものだった。

「G線上の漢共」と題うたれたパッケージの表では、ゴスロリ服を着た男と巫女装束を身にまとった男がクロスカウンターを決めていた。

前評判の低さから上映していた映画館も期間も少なかったが、内容が話題性をよんだ作品である。

上映期間の延長を求める声も多かったが、結局それは実現せずに映画館で見ることができなかった者が多数。

ようやくDVDが発売されて鑑賞することがかなったわけだ。

 

「どうだった?」

 

「よかったですよ。ティッシュ手放せませんでした」

 

「そ、そんなにいやらしかったの?(ごくり)」

 

「ええ、BOXティッシュ一箱使い切っちゃいました」

 

 

 

 

 

【会長の決定力】

 

空き時間を使って、生徒の相談に乗るシノ。

今日の相談室の相手は新聞部の部長、畑ランコであった。

来月のプール開きに関する記事について、シノ個人に折り入って相談があるとのこと。

しかし最近会議の連続で疲れていたシノはうつらうつらとしていた。

そのせいで彼女の説明も半ば聞き流している状態である。

 

(いかん、昨日の夜遅くまで予習していたせいで眠気が……)

 

会議に時間がとられ、最近出来ていなかった予習を昨晩まとめてしたために、今日は睡眠時間があまり取れていないようだ。

寝るわけにはいかないと思いつつも、瞼は自重で閉じようとする。

目を開けているだけで精いっぱいで、畑の話は頭の中にはいってこなかった。

 

「―――というわけでして、今度のプール開きの記事なんですが……

 会長のセクシーグラビアでやりたいんです。どうでしょう?」

 

グラビア記事など、何気に恥ずかしがり屋な彼女にできるわけがない。

断るべきなのはわかっている。

しかし彼女の言葉に、断ることもできず寝ぼけて首をかくりと縦に動かしてしまった。

それを承諾とみなす畑。

 

「OKなんですね。じゃあよろしくお願いします」

 

「……!?」

 

意思とは反対に、こうしてシノのセクシーグラビア記事が決定した。

 

 

 

 

 

【心の抵抗】

 

今日も会議で遅くなった生徒会。

六月に入ったが19時にもなれば外も暗い。

そんな夜道を歩くスズは、見たいドラマがあるために家に急いでいた。

 

(今日も遅くなっちゃったな……ドラマ始まっちゃう)

 

腕の時計をしきりに気にしながらも早足で歩く。

住宅街に入り、彼女の家が近くなってきた。

そこで家と家の塀の間にある、狭い隙間のような路地があった。

子供なら楽に通れるが、大人だと簡単には通れないような幅しかない。

自分なら通れることを知っていた彼女は近道しようと路地を覗きこんだ。

 

「……ハァー……ハァー……」

 

路地の向こうには彼女の家がある通りが見えるはず……だった。

しかし今日に限って向こう側の通りは見えない。

その代り、街灯の光に照らされて見えたのは狭い路地に挟まった男だった。

何故かひょっとこの面をつけ全裸で息を荒立てている。

 

「おおっ!? ちょうどいいところに!! 

 俺の名前はひょっとこ仮面二号、わけあって……ってああ!? 

 まって!! 逃げないで!! 助けてー!!」

 

彼女は見なかったことにして正規の道を行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

【わくわくDAY】

 

生徒会室に掛けられたカレンダーを見つめる津田とシノ。

相も変わらずそのスケジュールがびっしりと書きこまれたものにため息が出そうになる。

 

「こうしてスケジュールを見てると本当に生徒会って大変ですね」

 

「そうだな」

 

今月も会議が週に最低でも三回はある。

イベント行事がない月なだけまだましである。

体育祭や文化祭といった行事のある月だと、ほぼ毎日というハードなものだ。

 

「あれ、この日はなんかあるんですか?」

 

彼が疑問に思ったのは12日に大きくつけられた花丸マーク。

なにか重要な日であるかの様に赤のマジックで書きこまれているが、内容が何も記されていない。

津田自身、この日は特に何もなかったように記憶していたのだがもしかしたら彼の記憶違いかもしれない。

不思議に思って隣のシノに聞いてみた。

 

「……私の誕生日」

 

指摘されたシノは消え入るような小さな声で恥ずかしそうに答えた。

会長である自分が、生徒会の公的なスケジュールのカレンダーに自分の誕生日をでかでかとマーク付けしてるのだ。

改めて人に聞かれて、まるで祝ってくれといわんばかりな感じがして恥ずかしくなった。

なんだか誕生日が楽しみな子供みたいで、自分のイメージと違う気がした。

 

「クス……やりますか、誕生会?」

 

「べ、別に催促したわけじゃないぞ!?」

 

必死に手振りを交えて弁解するシノのしぐさは、なんだかいつもより子供っぽく見えて微笑ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【会長のお誕生日】

 

そしてやってきた6月12日、シノの誕生日。

休日だったが生徒会室に集まってささやかに誕生日会を開く面々。

ジュースを片手に、輪になってケーキを囲む。

 

「それではシノちゃんのお誕生日を祝って……カンパーイ!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

音頭をとるアリアの言葉でグラスをくっつけて音を鳴らす。

 

「改めて、シノちゃんおめでとう(チン)」

 

「ああ、ありがとうアリア」

 

「おめでとうございます会長(チンチン)」

 

「ふふ、津田もありがとう」

 

「私に合わせなくて結構です(プルプル・・・チン)」

 

「そ、そうか。萩村もありがとう」

 

スズは皆と同じように胸の位置で鳴らすにはちょっとばかし届かなかった。

 

 

 

 

 

 

【グレード】

 

「それじゃあさっそくだけどプレゼントを渡しましょうか」

 

アリアの言葉に、待ってましたとばかりに津田とスズが反応する。

 

「会長、最初に私のを受け取ってください!!」

 

「あっ、俺のも俺のも」

 

「あ、ありがとう……」

 

二人の必死な様子にもらう側のシノは少したじろいでいた。

 

「うふふ、シノちゃん大人気ね」

 

はたから見れば早くシノにプレゼントを渡して喜んでほしいように見える。

しかし実際は二人ともアリアよりも先に渡したいというだけだったりする。

彼女の背後には、明らかに自分たちの用意したものよりも大きな箱。

包装もきれいで金がかかってそうな雰囲気が漂っていた。

 

((金持ちのあとには出せない……))

 

二人の考えていることはそんなことだった。

アリアの後に出して本来よりもグレードが低く見られるのが嫌だった。

 

 

 

 

【プレゼントverスズ】

 

「ふむ、まずは萩村のプレゼントから開けさせてもらおうか」

 

「はい。どうぞ」

 

シノが一番に開けるのを選んだのはスズのものだった。

女の子らしく可愛らしい包装で包まれている。

丁寧に開けられていく包装紙、中からでてきたのは可愛らしいデザインの貯金箱だった。

 

「おお!! これは貯金箱だな」

 

「はい! これからの時代、必要なのは貯蓄です」

 

「スズちゃんらしいわね」

 

「ありがとう、萩村」

 

「……いえ」

 

彼女らしく実用的ながらも可愛らしいプレゼントに微笑むシノ。

スズも照れ臭そうにはにかんでいた。

 

 

 

 

【プレゼントver津田】

 

「じゃあ次は津田のものを見せてもらおうか」

 

「どうぞどうぞ」

 

シノが次に選んだのは津田が用意したもの。

落ち着いた印象の、どこかシックで大人っぽい包装で包まれている。

先ほどと同じく慎重に包装紙をはがしていく。

 

「おお、こ、これは……!?」

 

出てきたのはブラジャー、パンツ、靴下の下着三点セットだった。

色は赤で統一されている。

 

「津田、あんた……」

 

「わぁ、格好いい下着ね」

 

「会長の好きな色とかわかんなくて……個人的に会長に似合いそうな色を選びました」

 

照れ臭そうにする頬を掻く津田に絶句するスズ。

まさか高校生で異性の友人に下着を贈るとは、さすがに彼でもしないだろうと内心では思っていたのだが……

アリアは下着を見てどこかうらやましそうだった。

 

「サイズまでぴったりか……しかもこれは!?」

 

レースの刺繍も大人っぽいデザインで、見てるだけでドキドキしてくるシノ。

しかも、パンツを広げて良く見てみればウエストサイズがぴったりだというだけではない。

なんとクロッチ部分に楕円形に穴が開いている。

要は履きながらでも行為に及べるというスケベパンツだった。

 

「わぁ凄い。こんなの実物初めて見たわ」

 

「探すのに苦労しました。ぜひ履いてくださいね?」

 

「……」

 

「あ、ああ、大事にするぞ!!」

 

 

 

 

 

【プレゼントver先生】

 

「これは誰のだ?」

 

机の上に置いてある誰のものか不明の箱に目をつけるシノ。

津田とスズのものは既にもらってある。

アリアのは彼女の背後に大きな箱が見えることから、おそらくそれであると予想がつく。

では一体これは誰からのプレゼントなのだろうか?

 

「ああ、それは横島先生からよ。さっき預かってきたの」

 

「先生ですか……」

 

横島先生のものと聞いて嫌な顔をするスズ。

津田でこれだったのだ。この流れは嫌な予感がする。

明らかに未成年にはそぐわないプレゼントが出てくる気がしてならない。

なぜなら誰も触れていないのに、机にある箱がひとりでにヴィヴィー、ヴィヴィー、と音を立てて震えているのだ。

 

「こらこらお前たち、あの人も仮にも教師なんだ。あれでも」

 

とりあえず開けてみる。

 

「こ、これは……!?」

 

中から出てきたのは大小様々な色とりどりの玩具だった。

ただし……頭に「大人の」と付く代物である。

ピンクロー○ー、ア○ルパール、二股バイ○、浣○用の注射器、スパンキング用の鞭、

ビーン○バキューム、○ールギャグ、蝋燭、クス○、鼻フ○ク、皮製のマスク、

ガーターベルト、etc……

 

「うわー! うわー! うわー!!」

 

貰った本人であるシノは好奇心に目を輝かせている。

 

「うわー」

 

アリアも同じく興味深いのか、ク○コを手にとって「実物初めて見た」と呟いている。

 

「うわーお」

 

さすが大人は違うぜ~、と感心する津田。

 

「……うーーーーーーわーーーーーーー……」

 

一人ドン引きするスズ。

最初にプレゼントを出しておいて良かったと安堵した。

 

 

 

 

 

【プレゼントverアリア】

 

「じゃあ最後は私のね」

 

「ああ、ありがとうアリア」

 

最後に残ったのはアリアのプレゼント。

箱からしてかなり大きい代物らしい。

きれいに飾りつけられた包装を解いていき、箱の蓋を開ける。

 

「?」

 

箱の中身を覗いただけでは全容が見えずに何かわからなかったらしい。

シノは小さく首をかしげていた。

箱に手を突っ込んで中のものを引っ張りだす。

 

「おおお!?」

 

出てきたのは可愛らしい二体のクマのぬいぐるみ……だったもの。

ただし一体は亀甲縛りで縛られ、口にギャグ○ールを咥えている。

もう一体は女王様のように皮のガーターを着込んでパピヨンマスクをつけていた。

 

「うおおすげええ!? 手作り!?」

 

「結構作るのに時間かかっちゃった」

 

「凄いなアリア!! 芸術品だ!!」

 

ぬいぐるみも着用しているものも手作りとは思えないほどの出来栄え。

まぁ、これで買ったものとか言われたらそれはそれで驚くだろうが。

照れ臭そうにもじもじするアリアをシノと津田がほめちぎる。

 

「大事にする。今日からこの子たちと一緒に寝るからな!!」

 

「ふふ、ありがとうシノちゃん」

 

「……」

 

「……」

 

亀甲縛りと女王様スタイルのぬいぐるみと寝る美少女。

その姿を想像して鼻の下をのばす津田と嫌そうな顔をするスズであった。

 

 

 

 

 

【ふるっていってふらなかったりふらないっていってふったり】

 

ふと窓の外を見ると、雨が降っていた。

 

「ん?……雨か」

 

「えー、今日は降らないって言ってたのに……困ったな~」

 

突然の雨に困った顔をする二年生コンビ。

天気予報では曇りではあっても今日は雨は降らないとなっていたのだ。

当然傘は持ってきていない。

 

「私傘ありますよ」

 

「俺も」

 

しかし一年生の二人がちょうど傘を持っていたようだ。

どうやらスズはこんな時のために置き傘をしているらしい。

彼女はともかく、天気予報では降らないとされた日に津田が持っているのには驚きだが。

 

「本当? よかった」

 

「それは助かったな。持ち帰るの忘れた傘が役にたって」

 

「さすが会長、俺の性格読んでるぜ」

 

以心伝心だね、とサムズアップする津田。

彼が用意周到なわけはないと理解しているシノであった。

 

 

 

 

 

【二人きり】

 

帰り道、スズとアリア組、津田とシノ組で別れた生徒会役員共。

シノは津田の傘に入れてもらって歩いていた。

 

「……」

 

「……」

 

特に話題も見つからず、しばらく無言で歩く二人。

間にはポツポツという傘を打つ雨の音が耳に届いた。

どこか街並みが雨のせいか灰色に見える。

休日なのもあって人通りも少なく、雨の音が余計に大きく聞こえた。

6月に入り、温かくなったといっても雨の中を歩いていれば体も冷えてくる。

自然と、隣にある津田の体という熱源に近づいてしまう。

傘をもつ彼の腕が、彼女の肘に触れる。

それだけでシノは必要以上に彼に近づいていることを意識してしまう。

 

「あ、あれだな? ほら、その……よく考えるとこれって相合傘だな」

 

「そうですねー」

 

よく考えなくてもそうなのだが、口に出すとなんだか余計に気恥ずかしい。

しかし隣を見れば、津田は特に気にした様子もなく自然体で前を向いている。

なんだか自分だけ相手を必要以上に意識しているみたいでいい気はしない。

彼は自分のことを異性と見ていないのだろうか?

いや、それはないだろう。

あれだけセクハラ発言をしていて、今日のプレゼントも下着だった。

恋愛的な対象かは別としても異性としては見ているはず。

ならこの特に気にした様子もない落ち着いた雰囲気はなんなのだろうか。

年下の彼が自然体で、年上のはずの自分の方がうろたえるなどみっともないと考えてしまう。

シノとしては、男と同じ傘に入るなど初めての経験で何気に心臓が踊っている。

気を抜けば口元がにやけてしまいそうだ。

とりあえず、表情はいつものように凛と引き締めている。

 

「他人から見ると……その……私たちもそういう関係に見えるのだろうか?」

 

「はは、気をつけないといけませんね。会長人気者だから」

 

勘違いされて背中さされそうだ、と冗談めかして苦笑する津田。

彼の大人な対応に、まるで自分が子供になった気分になる。

平然とした津田にちょっとむっとしながら、彼の表情を覗いてみる。

そのときになって、ようやく気付いた。

 

(あれ? 津田の肩濡れてるじゃないか……)

 

彼のシノとは反対側、つまり傘の外側の肩はずぶぬれになっていた。

よく考えてみれば本来傘は一人用。その中に無理やり二人が入っているのだ。

どうしたって少しは濡れるはずである。

しかしシノは学園からここまでの道のりで、特に濡れた様子はなかった。

答えは簡単、津田が彼女を優先的に傘に入るように持っていてくれたからである。

 

「つ、津田! お前肩びしょぬれじゃないか!?」

 

「ん? ああ、別にこれくらいどうってことないですよ」

 

男ですから、と苦笑する。

それにあわてたのはシノの方だ。

 

「しかし! この傘は津田のだろう!?

 私は入れてもらってる立場なんだから少しくらい濡れたっていい。

 もっとこっちに入れ」

 

「そんなこと気にしなくていいですよ」

 

「でもだな……」

 

傘の中にもっと入れと主張するシノ。

しかし現実問題として津田が傘の下に入ればその分シノが外に出て濡れてしまう。

それは津田も男として許容できなかった。

 

「じゃあこうしましょう。

 俺たちは相合傘をしてて、傍から見れば恋人同士です。

 もしそれで会長が濡れていれば、俺は彼女を傘にちゃんと入れてやれない男に見られてしまいます。

 だから会長は、俺がちゃんとエスコートできる男に見えるように入っておいてください」

 

「む?……ぬぅ」

 

津田に言い含められ、納得のいかない顔をしつつも言い返せない。

結局は彼の言うとおりにするシノであった。

彼女にはまだ、津田の腕に自身の腕をからめて密着するほどの度胸はなかった。

 

「へぇ、津田君ちゃんと女性のエスコートもできるのね……」

 

彼等の後方にある電柱の陰から見つめる人影。

レインコートに、防水の施されたカメラを手にした畑だ。

畑から見れば二人はういういしい恋人も同然の姿に見える。

津田の言っていたことも的外れでもないのであった。

 

 

 

 

 

【この話ではきれいにまとめてみた】

 

分かれ道にきた津田とシノ。

駅に向かう津田と、電車に乗らず地元のシノ。

 

「会長はこっちの道ですか?」

 

「ああ、だから私はここまででいい。ありがとう」

 

助かったよ、と傘を出ようとするシノ。

しかし津田はそんな彼女に自分の傘を差し出した。

一歩離れたシノを追うように傘が動いたので、結局は津田が傘から出る形になる。

 

「じゃあ、俺の傘どうぞ」

 

「え……いや、しかし……それでは津田が濡れるじゃないか」

 

差し出された傘に戸惑うシノ。

そのシノに津田は茶化すように冗談で笑いかける。

 

「クスッ、いいんですよ俺は。

 ほら言うでしょ?水も滴るいい男って。

 街行く女子は俺の虜ー、なんちって」

 

「そ、それなら濡れた女もそそるだろうが!」

 

彼の冗談に意味不明なことをいい返す。

そんな彼女の手をとり、津田はその手に持っていた傘を握らせた。

 

「誕生日の主役を濡れて帰らせるわけにはいきませんから。

 俺は大丈夫ですんでどうか使ってください」

 

心配してくれてありがとうございます、とほほ笑んだ。

 

「それじゃ!」

 

「あっ、おい!!」

 

彼はそのまま駅に向かう道を雨に濡れながら走りさる。

 

「津田……」

 

残されたのは、しばらくその場で立ちすくむシノ。

それを陰から見守る畑だけであった。

 

 



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十四人目

 

 

【お嬢さんこんにちわ】

 

シノの誕生日の翌日、津田は風邪で休んでいた。

彼が学校を休むのは初めてだったので心配した生徒会役員共。

今日は代表でシノが学校帰りに見舞いにやってきた。

 

「普通の家だな……」

 

彼の住んでいると思われる家を見上げてつぶやく。

特に裕福というわけでもなく、貧しいわけでもない。

そんなありきたりな中級階級の家庭を彷彿とさせる一軒家。

玄関前でシノはチャイムを押した。

ピンポーン、と聞きなれた呼び出し音が響く。

 

「はーい!」

 

すぐに家の中から誰かの声が聞こえてきた。

まだどこか子供っぽいような女の子の声。

おそらく以前津田に聞いていた妹さんだろうとあたりをつける。

 

「はーい」

 

がちゃり、と音を立てて一人の少女が出てきた。

 

「初めまして、タカトシ君のぅおおおおお!?」

 

自己紹介しようとしていた言葉が途中から絶叫に変わる。

シノは目を見開き、眼前の少女の腹部を凝視する。

そこには包丁が深々と刺さっており、血で真っ赤に服が染まっていた。

 

「ん?……ああ! これは偽物ですよ偽物ー」

 

「へ? 偽物?」

 

平然とへらへらと笑う少女の言葉にあっけにとられるシノ。

良く見れば確かに作りもので、包丁は刺さっているのではなく服にくっついているだけ。

刃は途中から折れており、しかも銀メッキのプラスチック製だった。

 

「なんだ……驚いた」

 

「あははー、すいません驚かして。

 死んだふりの格好のままだったの忘れてたー」

 

てへり、と茶目っ気たっぷりに舌をだしてウィンクする少女。

長い髪をツインテールにし、どこか幼い雰囲気ながらも津田に似ている。

 

「それで、どちら様ですか?」

 

「ああ、これは失礼。私は天草シノと申します。

 タカトシ君のお見舞いに来ました」

 

「お見舞い?……ああ!?」

 

お見舞いと聞いて納得がいったかのように手を叩く。

その拍子に腹部の偽包丁がぼとりと落ちて音をたてる。

 

「出張ヘル○の方ですか」

 

「は?」

 

「お見舞いプレイとはまた斬新ですねー」

 

 

 

 

 

 

【僕は大人?子供?】

 

津田の妹、コトミに彼の部屋に案内されたシノ。

そこでは津田が眠っていたが、彼女の来訪に気づき上半身を起き上がらせた。

 

「大丈夫か津田?」

 

「わざわざすいません。もう平気ですよ」

 

お見舞いに来るほど心配させてしまったことに苦笑する津田。

おそらくシノは昨日自分に傘を貸したせいで津田が風邪をひいたと思っているのだろう。

心配させまいと笑顔ではにかみながら元気であることをアピールした。

 

「そうか、大丈夫そうでちょっと安心した。

 私のせいで風邪をひかせてしまったんじゃないか? 悪かったな」

 

「そんな……風邪とか大げさなもんじゃないですよ。

 疲れたから熱が出ただけみたいです。

 別に濡れて帰ったせいじゃありませんから会長が気にする必要はありませんよ」

 

彼の言葉にどこか安心した様子のシノ。

 

(お見舞いに来たはずが……逆に気を使わせてしまったかな?)

 

津田なりに彼女のことを想っての気遣いであることはわかっているつもりだ。

でも実際にシノに傘を貸して濡れた日に風邪をひいているのだ。

無関係とは思えない。疲れと言うのも彼に気をつかわせていたせいかもしれない。

だから雨のことは津田が否定するので抜きにしても、ここは謝るべきだと彼女は考えた。

 

「しかし君が疲れるほど重責を負わせていたのは事実だ。

 すまなかったな」

 

「そんな……頭をあげてください会長。

 会長は気にせずに今まで通りにしてくれていいんですよ。

 この程度なんでもありませんから」

 

「津田……」

 

頭をさげる彼女への罪悪感から少し胸が痛む津田。

本当に風邪をひいた理由を話したら彼女がどんな反応をするかと期待していたのだが……

これでは到底本当の理由を話すことなどできない。

 

(単に雨に濡れたままオナ○ーし続けて下半身が冷えたなんて……言えない)

 

空気を読んで語らなかった彼は大人であった。

 

 

 

 

 

【妹とからむの巻】

 

二人きりの空間に扉をノックする音が鳴る。

がちゃりと音を立てて入室してきたのは、津田の妹だった。

 

「お茶入れたよー、お母さんが」

 

言葉通り、どうやらお茶を持ってきてくれたらしく手には盆を持っている。

盆の上には二人分の湯気を立てるお茶と菓子が乗っていた。

 

「ああ、これはどうもご親切に」

 

シノが丁寧に頭を下げる。

そのしぐさを見て津田の妹も机の上に盆を置き、シノに向かった軽く頭をさげた。

 

「こいつは妹のコトミです」

 

津田が妹を紹介する。

ふむ、と頷いてシノは改めて彼女を観察した。

コトミの服装は先ほどとは違い、別のラフな服装になっている。

何より腹部にあった包丁が無くなっていてまともな格好だった。

シノの視線に気づいたのか、コトミが照れ臭そうに笑う。

 

「はは、さっきはどうも……」

 

「ああいや、こちらこそ」

 

「ほらコトミ。自己紹介しろ」

 

津田に催促され、コトミがシノに向いて自己紹介をすることになった。

へへへ、と笑みを浮かべる表情は子供っぽく、まだあどけなさが色濃く残る。

その表情に、先ほどの包丁の件も年相応のいたずらだろうと考えるシノ。

中学生と聞いていたが、まだまだ子供っぽい可愛い子だと認識した。

 

「津田コトミです。どうぞゆっくりしていってくださいね。

 ……あっ!? でもゆっくりっていっても兄が遅漏ってわけじゃないですよ?」

 

二人の関係をナニと勘違いしたのか慌てて訂正するコトミ。

そんな彼女に、子供っぽいというのは間違いかもしれないと認識を改めた。

実に耳年増な妹さんである。

まぁ、それは別にいいとしてだ。シノも彼女の年の時にはそういう思考回路であったことだし。

問題は津田が遅漏ではないという発言だろう。

 

「なんだ津田、お前早漏なのか?」

 

「そんなバナナ」

 

シノの発言に慌てたのはむしろコトミだった。

自分のいらない一言のせいで兄に早漏の嫌疑がかけられている。

急いで誤解を解かないと……と焦った。

 

「ち、違うんですよ!? 兄は早漏じゃなくて……

 どっちかっていうと高校生にしては遅めというか……

 だいたいオナ○ーも一発目がでるまでにこすり始めてから10分はかかりますし!」

 

「ほう、そうなのか津田?」

 

「コトミ……なんでお前が知ってるんだ?」

 

兄としてちょっと妹と話し合わなければならないなぁと思う津田だった。

とりあえず今夜からは覗き防止に徹底しなければならない。

 

 

 

 

 

【総勢12人の○】

 

コトミが退室した津田の部屋。

シノと津田が他の生徒会メンバーについて話し合っていた。

 

「これは生徒会のみんなからの見舞の品だ」

 

そう言って差し出されたのは小さなサボテン。

彼としても見舞いに花を持ってこられても花瓶も持たず花の世話も苦手。

面倒くさがりな彼から見て嬉しい見舞いの品だった。

みんな彼のめんどうくさがりな面をよく知っていて考慮してくれたのだろうと推測する。

 

「ありがとうございます」

 

「本当はアリアと萩村も心配していてな、一緒に来る予定だったんだが……

 大勢でおしかけるのも家の人に迷惑だろうからな」

 

だから私が代表で来た、と語るシノ。

どうやら気をいろいろと使わせてしまったようである。

 

「クスッ……そんなに気を使わなくてもいいのに」

 

大勢と言ってもシノにアリアと萩村をあわせても三人だ。

そこまで気を使う人数ではないと思うのだが。

彼としては悪いと思いつつも、その気遣いが嬉しかった。

 

「そうか? だがアリアはお前に妹が一人いると聞いて他に妹を11人連れてくる気だったぞ?

 なんでもお前にリアルシスター○リン○スをさせるとか言ってな?

 おもしろそうだったんだが迷惑だしな、私と萩村で止めたんだ」

 

「ワーオ。さっすが七条先輩発想が俺の斜め上を行くぜぃ」

 

もし本当にそんなものを連れてこられた日には、嬉しいかもしれない。

しかし家族とご近所からの彼を見る目が変化するのは確定だろう。

 

 

 

 

 

 

 

【青少年はピンク色】

 

なんとなく、二人して沈黙してしまう。

津田は、妹や母以外で異性が自分の部屋にくるのは小学校以来なので何気に緊張していた。

いつものようにセクハラ発言で場を和ませようにも、なんとなく会話の一言目に勇気がいる。

シノの場合、小学校どころか異性の部屋は父親のもの以外生まれて初めてだったりする。

さっきから何を話せばいいか上手く思い浮かばない。

お見舞いに来るまでは特に会話の内容なんて考えていなかった。

津田が黙ってしまえば、上手く自分から話せないシノも黙るしかない。

なんとはなしに部屋の中を見渡して気を紛らわす。

そうしているうちにあることに気づいた。

 

(津田の部屋、あんまりイカ臭くない……)

 

そう、事前に聞いていたよりも男の匂いが少ないのだ。

思春期の男の部屋はイカ臭いと話には聞いていたが、津田の部屋は特にそうは思えなかった。

普段あれだけセクハラ発言をする彼だったが、本来はプラトニックなのか?と考える。

それとも風邪のせいでここしばらくはできなかったのかもしれない。

実際は昨晩も自家発電をしている。

単にシノは巧妙に家具に隠された4つの置き型フ○ブリーズ(無臭タイプ)に気づいていないだけだった。

だがその存在に気づいていないシノは、さぞ溜まっているだろうと憶測する。

でもその考えにいたったからといってどうするというのか。

彼女には彼の性欲をどうにかしてやることなどできない。

できたとして、この状況ではそのまま不純異性交遊に発展してしまう。

だが彼女は待てよ、と考えた。

溜まっているといえば、別に性欲に限らずともあるだろう……と。

 

「ところで津田……二日も寝たままじゃ溜まっているだろう」

 

「はい?」

 

「私でよければその……気持ちよくしてやるぞ?」

 

ちょっと恥ずかしそうに提案するシノに、思わずドキッとする津田。

もしかして気持ち良くってナニのことだろうか?と考えてしまう。

だがシノは下ネタは好きでも意外と身もちは固い。

そのギャップが何気に彼にとってお気に入りではあるのだが。

なら何についてたまっているというのだろう。

 

「私は耳掃除が得意なんだ」

 

得意げに語って用意したのは一本の耳かき。

シノは正坐して膝の上に頭を載せるように津田を手まねきした。

 

「まぁ、わかってはいたけどね」

 

少し残念そうな津田。

合体に発展することはないと思ってはいたが、残念な物は残念なのであった。

誘われるままにシノに膝枕をしてもらう津田。

彼女の股の方を向いて頭を乗せる。

 

「お願いします」

 

「こらこら津田。顔の向きが反対だそ?」

 

「お約束ですよお約束」

 

そういいつつも身体を動かして向きを変える。

 

「む、確かにそうだ」

 

なら仕方ない、と頷くシノであった。

 

「でしょ?」

 

本当はお約束で彼女の太ももに顔をこすりつけてくんかくんかと匂いを嗅ぎたいのだが、

それをするといろいろと我慢できそうにないので自重する津田。

 

「うむ、それでは始めるぞ」

 

耳かきの先端を、津田の耳穴に入れる。

まずは外側から徐々に内側へと流れるように動かす。

 

「くぅ……んあ……」

 

「こ、こら津田! 変な声出すな!!」

 

「お約束ですよお約束」

 

「む、そうか」

 

なら仕方ない、と頷くシノであった。

 

 

 

 

【隣人の吐息】

 

隣の自室で、受験勉強をさぼって携帯ゲーム機で遊んでいたコトミ。

そんな彼女の耳に、壁ごしに甘い響きのある声がかすかに聞こえてきた。

 

「?」

 

なんだろう?と聞き耳を立てる。

壁の向こうは兄の部屋で、今現在同じ学校の女性が見舞いに来ていたはずだ。

 

『くぅっ!……はぁ……あぁ……』

 

『どうだ津田、ここがいいのか?』

 

『くぅ……いた!?……会長、もっと優しくほじってくださいよ!!』

 

聞こえてきたのはなんとも怪しげな二人の声。

どうやらあのおとなしそうな女の先輩に兄が責められているらしい。

 

(ほ、ほ、ほじるって……ほじるって……!?)

 

ひゃぁぁああああ~~~~、と耳まで真っ赤にさせて興奮するコトミ。

彼女は聞き漏らすまいと全身でべったりと壁にくっついていた。

 

『君が動くからだ。私のテクニックを信じろ』

 

『そ、そうは言っても……』

 

『ほら、大人しくしなさい』

 

『はい……はぁあ……』

 

『どうだ?気持ちいいだろう?』

 

『はい……すごくいいです……』

 

『ふふ、こんなのはどうだ?』

 

『くああ!? そこは!?』

 

相も変わらず聞こえてくるのはピンク色の妄想を掻き立ててくれる言葉の応酬。

コトミは口をあわあわと動かし、悶えていた。

 

「た、タカ兄が大人の階段を上ってる……」

 

知らない間に随分と大人な体験をしているらしい兄に鼻息を荒くする妹だった。

 

 

 

 

 

【交代】

 

両耳とも津田の耳掃除が終わって一息ついた二人。

 

「ありがとうございました」

 

「ふふ、なんのなんの」

 

礼を言う津田に自慢げに胸を張るシノ。

彼女の耳掃除テクニックに、すっかり耳の中がすっきりとした気分の津田。

 

「よかったらお礼に俺も会長のしましょうか?」

 

「む? だがそれでは……」

 

「俺もこの二日寝てばかりで退屈だったんで、よかったらさせてくれませんか?」

 

「そ、そうか?」

 

それじゃ頼もうか、と頷くシノ。

津田はベッドに腰掛け膝の上を叩く。

シノもベッドに上り、寝台のスプリングがぎしりと音を立てた。

彼女は正座した津田の膝の上に頭を置いて寝転ぶ。

ただし顔を彼の股間にむけて。

すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅ごうとするシノ。

 

「あの、会長……?」

 

「お約束だ、津田」

 

「ですよねー」

 

部屋と違って彼の股間近くは何気に少しイカ臭いな、と思ったシノ。

意識すると恥ずかしくて顔が赤くなったが、顔は津田の腹の方向に向いていたために彼にはばれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【隣人の吐息2】

 

嬉しそうに責めるシノとされるがままにあえぐ津田の声。

その声が聞こえなくなってしまった。

 

「もう終わったのかな?」

 

壁に耳をつけても、特にそれらしい音も聞こえてこない。

既に終わって部屋の中で行為の余韻に浸っているのだろうか、と考える。

もう耳をそばだてていても無駄と思い壁から離れようとした。

その時、壁の向こうからベッドがぎしりときしむ音が聞こえた。

瞬時に壁にへばりつきまた耳をそばだてる。

 

『さぁ、会長……力を抜いて』

 

『だ、だが……どうにも緊張してしまって』

 

『クスッ、ならここをこうしましょうか』

 

『ふぁあ!? こ、こら津田! そこは!?』

 

『あれ? 駄目でした?』

 

『いや、駄目というわけでは……そこは性感帯でな、もう少し優しくしてくれ』

 

『こうですか』

 

『あぁ……んくっ、そう……そんな風に……ひぃん!?』

 

『おや、会長はここも弱いんですね』

 

『ば、馬鹿もの!!……ひゃうん!?』

 

耳にかすかに届く二人の声にぶるぶると体を震わせるコトミ。

 

(攻守逆転してるーーーーーーー!?)

 

どういった経緯を経て先ほどと180度攻守が逆転したのか。

その肝心な部分を聞き逃してちょっと後悔する。

しかし、わからないからこそ妄想は膨らんでいくもの。

彼女はゲーム機を床に投げ捨て、二人の声に耳を立てながらいけない作業に没頭し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

【兄想い】

 

「それじゃあ、また明日学校で」

 

「ええ、ありがとうございました」

 

玄関でシノを見送った津田。

その彼の背中に声をかける人物がいた。

 

「タカ兄……」

 

「ん?」

 

振り返るとそこにいたのはコトミだった。

なんだかもじもじとしながらこちらを窺っている。

 

「どうした?」

 

「あ、あ、あの……これ!」

 

意を決して背中に隠していた物を兄に渡すコトミ。

それは中心が丸くくりぬかれた形のざぶとんだった。

 

「お尻大変でしょ?」

 

彼女の言葉に、ああ、また聞き耳立ててたなぁと理解する津田。

まぁ、毎度のことだと思うのであまりそこはつっこまない。

シノとの耳掃除でお互いふざけて艶っぽい声を出していたのを聞いたのだろう。

そして18禁な行為をしていたと勘違いしているのだろう。

兄としては、おもしろいので誤解させたままにしておいた。

だが、そんな優しい?兄である彼も妹に聞かなければならないことがある。

 

「なんで……下に何も着てないんだ?」

 

「てへ、さっきちょっと汚しちゃって……」

 

シーツと一緒に洗濯中、と茶目っ気たっぷりに舌をだしておどけるコトミであった。

 

 

 



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十五人目

 

【スズのつっこみ】

 

いつものように会議中の生徒会室。

議論の最中、津田が手をあげた。

 

「すいません、ちょっとトイレ」

 

腹部を押えて立ち上がると、中断させて申し訳ないと頭を下げる。

 

「そうか、行って来い」

 

シノのGOサインに津田は生徒会室を後にした。

その後姿を見守っていたアリアが心配そうな声を上げる。

 

「津田君、どうしたのかしら?」

 

「お腹が痛かったんじゃないですか? 押さえてましたし」

 

冷静にスズが分析する。

津田は退室時、腹部を押えていたし顔もどこか青かったことから腹痛だったのだろうと推測した。

しかしその分析に待ったをかけるシノ。

 

「はたしてそう言い切れるかな?」

 

「どういうことですか?」

 

「巨根だったら手があの位置にあってもおかしくはない」

 

「溜まってたのね~」

 

「ありえねーよ」

 

それでは彼が会議中に勃○させていることになる。

ナニを想像してそんなことになったと言うのか。

ありえない、ありえてたまるかとスズはシノの意見を切って捨てる。

 

「じゃあ津田君ナニをオカズにして勃○したのかしら?」

 

「いや、ありえねーっつってんでしょ」

 

「そうだな……ここには女が三人もいることだし、この中の誰かかもしれないな!」

 

「あらあらまぁまぁ……」

 

「人の話聞けよお前ら」

 

 

 

 

 

 

 

 

【失態】

 

会議の終わった生徒会室。

シノが一人残って自分の担当の作業をしていた。

ふと、来週から水泳の授業が始まることを思い出したシノ。

彼女は泳ぎは得意だったが、スタイルに自信がなかったので水着になることは苦手だった。

視線を下げれば、親友とは違って小ぶりな山が二つ。

一応女性であると主張はしてはいるが、平均よりは小さなそれ。

個人的にはバストは80代は欲しいと思う。

そういえば……と、以前誰かが胸をマッサージすれば大きくなると言っていたのを思い出した。

なんとなく両手で自身の胸を揉みしだいてみる。

 

「う~む……」

 

これで本当に大きくなるのだろうか?

正直揉み続けたところで先端が別の意味で大きくなるくらいしか考えられない。

そこに、ガチャリと何の前触れもなく津田が部屋に入ってきた。

お互いを見て一瞬硬直する二人。

 

「こ、これは!!……欲求不満なだけだ!!」

 

「なるほど、わかりました。手伝いましょうか?」

 

何がわかったというのか。

津田は一つ頷いたと思うとシノに近づいた。

これに慌てるのはシノのほうだ。

彼女としては咄嗟にごまかすために出た言葉だったが、手伝うとは一体何を手伝うというのか。

まさか本気で彼女の欲求不満を解消しようというのか。

そんなこと、どんな方法であっても駄目に決まっている。

 

「あ、いや……これは、その……違うんだ!」

 

「会長……」

 

「ひゃい!?」

 

目の前まで来た津田が、少しかがんで彼女の肩に手を置く。

気が動転しているシノは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

そんな彼女をほほえましいものを見るような暖かい視線で見る津田。

 

「会長……胸は揉んでも血流が良くなって一時的に肥大化するだけです。

 マッサージしても大きくはなりませんよ?

 二次性徴時に自然と大きくなる時にマッサージをして、成長を揉んだおかげだと勘違いする人も多いですが。

 あくまで都市伝説で、揉んだところで良くなるのは感度だけです。

 大きくしたいのなら脂肪の多い食事をとって、胸以外の体型を維持できるよう運動するのがベストです。」

 

「…………は?」

 

彼の言葉に固まるシノ。

確かに津田は彼女のことを理解していた。

何故か詳しく説明する彼の言葉に呆然とする。

もし津田の言うことが本当なら、自分の行動はなんだというのか。

とんだピエロである。

 

「それじゃあ、御先に失礼します」

 

津田は一人生徒会室を後にした。

残されるのは胸を揉んだ状態で硬直しているシノであった。

 

 

 

 

 

 

【ふるなー】

 

窓の外、怖いくらいの青い空が広がっている。

そんな窓の方向を見つめる津田。

ぼーっと一人眺めていたのだが、そんな彼にシノが語りかけた。

 

「明日はプール開きだ。最近暑いからちょうどいいな」

 

「ですねー」

 

彼女の言葉に適当に相槌をうつ。

 

「しかし明日は降水確率が40%と聞く。すこし不安だな」

 

40%と聞いて、明日は雨か曇りなのかと考える。

今現在は雲ひとつない快晴である。

空気もからっとしているし、正直雨が降るなどと思えない。

窓わくの中に見える世界には白いところなど一つしかない。

つまるところ、だ。

 

「楽しみなんですね、水泳」

 

「いや……みんながな?」

 

そこにはニッコリとほほ笑むテルテル坊主がぶら下がっていた。

 

 

 

 

 

【ふれー】

 

そんなほのぼのとした生徒会室の扉が開かれる。

顔をのぞかせたのは新聞部の畑ランコであった。

 

「失礼します。新聞部の畑です」

 

「おお、畑か」

 

「こんにちわ」

 

津田に挨拶され、こんにちわ、と彼女も二人に軽く頭を下げる。

畑はシノを見つめて話を切り出した。

 

「会長、約束通り明日の授業で撮影を行いますので。

 体育の授業、うちのクラスと合同ですからね」

 

「あ、いや……あれは……」

 

彼女の言葉に、あれは寝ぼけていたのだと言い訳しようとするシノ。

しかし彼女が言おうとする前に釘をさしてしまう畑。

 

「会長に二言はありませんよね?」

 

「あ、いや……まぁ……」

 

シノが言い淀んだのを承諾として退室してしまう。

 

「……」

 

彼女は無言でテルテル坊主に歩み寄ると、それをいじくって逆さにした。

 

「嫌なんですか。撮影?」

 

「……」

 

「こうするともっと雨が降るかもしれませんよ?」

 

「?」

 

心優しい津田はシノの思いを助けようと助力することにした。

逆さになったテルテル坊主をいったん外す津田。

彼が何をしようとしてるのか、不思議そうにシノは手元を覗きこんでいた。

 

「ここをこうして……こうして……できた!」

 

「おお、これは!?」

 

器用な津田は、タコ糸でテルテル坊主を亀甲縛りにしていた。

 

「雨が降るのを祈祷して、亀甲縛りにしてみました」

 

「器用だな。亀頭と祈祷をかけたのか」

 

 

 

 

 

 

【的】

 

「いい天気だ……」

 

翌日、プールサイドでつぶやいたシノ。

その言葉からもわかるとおり、見上げた空は雲ひとつない快晴だった。

昨日テルテル坊主を逆さにつるしてまで願った雨は、気配すら感じられない。

こうなれば気は進まないが、腹をくくるしかないのだろう。

周りを見れば、純粋にプールに入れると楽しそうにしている同級性達の笑顔。

考えようによっては、もし雨が降っていればこの笑顔が残念そうな顔に変っていたのだ。

雨が降らずに良かったとすべきだろう。

シノは雨が降ることを祈りつつも、昨日念のため無駄毛処理を行っていて良かったと思った。

そこにカメラを手に新聞部の畑が近付いてきた。

いつものカメラと違い防水仕様。

自身もスクール水着を着用し、完全にプールでの撮影の準備は万全のようだ。

 

「欲しい絵は一般的な授業風景なのであまり気にせずに。

 あくまで新聞記事に使うものですから」

 

「そうか」

 

それを聞いて少し安堵するシノ。

以前セクシーグラビアなどと言っていたのは冗談だったのだろう。

まぁ、水着の美少女が載っているだけで青少年には変わらないだろうが。

 

「ではさっそく……男子生徒に視姦されて体が火照るシーンから」

 

「それ一般的なのか!?」

 

「一般的ですよ?

 じゃあ今はここには男子がいないので……私を津田副会長だと思ってください」

 

 

 

 

 

 

【見下ろし加減】

 

所変わって一年生の教室。

窓際の席に座る三葉は、外に見えるプールにふと目をやった。

そこではこれから50メートルのタイムを計ろうとしている生徒がコース前に並んでいた。

 

「あ、あれ会長じゃない?」

 

彼女の目に留まったのは、今まさに飛び込み台にたったシノの姿。

自身の後ろの席に座る津田に、教師に聞こえないように小声で話しかける。

津田も同じようにプールを眺めていたらしく、すぐにシノの姿を見つけることが出来た。

 

「会長大丈夫かな……?」

 

「あれ、会長泳げないの?」

 

津田がふとこぼした言葉に疑問を上げる三葉。

シノは成績優秀、運動もできる文武両道の生徒会長として知れ渡っている。

その彼女がまさか泳げないということがあるのだろうか?

どちらかと言うと、魚のように自由に泳ぎ回る光景のほうが想像しやすかった。

 

「いや、会長高いところ苦手なんだよ」

 

「あぁ、そっか~。あそこ意外と高く感じるもんね」

 

なるほど、と頷く三葉。

高所恐怖症ならまだなんとなくイメージできるし納得できる。

彼女も、飛び込み台に立つと必要以上に高く感じたことはあるので共感出来た。

確かにここからではそこまでは見えないが、どこか入るのをためらっている感じがする。

近くで見れば彼女が恐怖で小刻みに震えているのがわかるだろう。

 

「なんだか会長、こらえてるっぽいもんね?」(恐怖とか)

 

「そうだな、こらえてるっぽいな」(おしっことか)

 

 

 

 

 

 

 

 

【栄養の行き所】

 

プールサイドで一休みしていたシノとアリア。

相変わらずプールからは女生徒達の楽しそうな嬌声が響いている。

アリアはぼーっと水面が光を反射しているのを眺めていた。

その横でシノは彼女の無駄に大きな胸と自分の残念な胸を見比べて世界の理について考察していた。

 

「さてと……一休みをすんだし、もうひと泳ぎしましょうか」

 

「ん?……あ、あぁ、そうだな」

 

よいしょっ、と立ち上がるアリアの声に我に帰るシノ。

彼女を追うようにして自らも立ち上がる。

鼻歌交じりに水の中へと歩みを進めるアリアの跡を追おうとして、ふと今までいた場所を振り返る。

そこには彼女たちが座っていた場所、アスファルトの上に尻の形に水がしみこんで跡ができていた。

 

(何故私の方がお尻はアリアより大きいんだ……?)

 

そんな疑問がわきあがる。

思わず自身の尻をさすってしまう。

スクール水着のざらざらとした感触が手に伝わり、その大きさを彼女に教える。

そんな彼女の視界に、妙な行動をする人物が映った。

 

「畑……何をしている?」

 

「いえ……会長と七条さんの尻拓の撮影を」

 

彼女は『天草シノ』『七条アリア』と書かれたネームプレートを尻跡に添えて撮影していた。

 

 

 

 

 

【16さいです】

 

今日一日の授業が全て終わった放課後、生徒会室にて。

水泳という全身運動を行ったせいか疲れてぐったりとしているシノとアリア。

彼女たちはめずらしく机に突っ伏してだらしな姿をさらけ出していた。

 

「今日はお疲れ様でした」

 

「本当に疲れた……」

 

「うぅ~……」

 

どこか平然としている畑が、そばに立って彼女たちをねぎらう。

結局彼女は撮影に夢中で一回もまともに泳いでいない。

そのせいで同じ授業に出ていたにも関わらず体力はまだまだ残っているのだった。

しかし真面目に授業で泳いでいた二人はすでにグロッキー状態。

生徒会室にいるだけで、今日は仕事も手がつかないだろう。

 

「男子の写真も欲しいからあなたの授業にもお邪魔するからね?」

 

「はぁ……」

 

津田の方を振り向いてそんなことを言う畑。

その言葉にやる気なさげに相槌をうつ津田だった。

正直自分の写真なんて誰得なんだろうと思う。

 

「横島先生のリクエストなのよ」

 

「ああ、なるほど」

 

彼女の言葉に、その場の全員が納得した。

 

「ちなみにその時は学校指定の水着ではなくこれを着用してくださいね」

 

横島先生のリクエストだから……と畑が取り出したのはTバックのような危険極まりないブーメランだった。

 

「わぉ!? こんなの履いたらお稲荷さんがこんにちわしてしまいますよ!?」

 

「絶対に履くんじゃないわよ津田」

 

ちょっと面白そうとは思いつつ、ズスの視線に負けてブーメランは断った。

まぁ、撮影事態はOKしたことだし、畑も特に残念そうにはしていない。

彼女も別にその水着に関してはどちらでもよかったのだろう。

それではこれで、と帰ろうとした彼女をスズが呼び止めた。

 

「あの……私のは?」

 

「? 萩村さん用のアブナイ水着はありませんよ?」

 

「いや、そうでなく!! 撮影はいいんですか?」

 

「?……あぁ! そっちですか。

 最近世間の風当たり強いんで……子供のセクシーグラビアはちょっと」

 

スズがいろんな意味でキレたのはいうまでもない。

 

 

 



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十六人目

 

【自由恋愛】

 

いつもの桜才学園。

雑談をしながら廊下を一緒に歩く津田とアリア。

 

「へー、この学校創立50年なんですか」

 

「そ、だからいろんな伝説があるのよ」

 

伝説と聞いておお、と興味を刺激される津田。

たかだか50年、されど50年。

その歴史は深いだろう。

そういった場所で生まれる伝説、逸話というのは男女問わず心をひき付けられる物だ。

 

「たとえばどんなのがあるんですか?」

 

「んーと……そうねぇ。

 あっ、たとえばあの中庭の木」

 

丁度通りかかった場所から中庭が見下ろせた。

その中庭の片隅には、なかなかに立派な木が植えられている。

彼女の指はその木を指示していた。

自然、彼の目もその木を見る。

 

「あれは告白の木って呼ばれててね」

 

「告白の木ですか。定番ですね」

 

「うん。あの木の下で告白すると恋が成就するって言われているの」

 

「へーーーー」

 

「そしてあそこでHなことをすると子宝にも恵まれるらしいわ」

 

「でもこの学園、去年まで女子高でしたよね?」

 

「うん」

 

「確か、それまでは教師も全員女性じゃなかったでしたっけ?」

 

「うん、そうね」

 

「恋愛はともかく……子宝?」

 

「きっと男の娘がいたのよ」

 

「なるほど」

 

漫画じゃないんだからそんなわけない。

そう思いつつ、でもそっちの方が面白そうなので賛同しておく津田であった。

こういうことはあまり深く考察してはいけないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

【閉鎖空間】

 

放課後の桜才学園。

今日は会議もないので特にすることもなく、なんとなく廊下を歩いていた津田。

そんな彼に声をかける人物がいた。

 

「おお津田、いいところに」

 

「ん?横島先生、こんにちわ」

 

それは生徒会顧問の横島ナルコだった。

どうやら資料室で仕事をしていたらしく、ちょうど扉を開いたら前を津田が歩いていたようだ。

 

「悪いんだけどさ、資料室の整理手伝ってくれない?」

 

「いいですよ、別に」

 

一人じゃちょっときつくって……と苦笑いで話す横島先生。

特に用事もなく、なんとなく足の赴くままに歩いていただけの津田は快く引き受けた。

要するに、彼も暇だったのだ。

 

「いやー、悪いね。助かるよ」

 

笑顔の先生に促されるままに資料室に足を踏み入れる津田。

そこは様々なものがうず高く積み上げられ、なかなかに混沌とした状態である。

一応、部屋の中央に動き回れるようにスペースは確保されているものの、正直ごちゃごちゃした印象をうける。

 

「へー、これは確かに……一人じゃ大変そうですね」

 

「だろー?(ガチャリ)」

 

「?」

 

部屋の中央に彼が来たとき、背後で何か音がした。

なんだろうとと津田が振り返ると、横島先生が後ろ手に扉の鍵をかけてしまっていた。

 

「おう!? 俺ってば閉じ込められました?」

 

「ちょっと雰囲気だそうとしようとしただけ……ハァハァ……何もしないわよ」

 

「そう言いつつ息を荒立ててるところが背徳感を刺激しちゃう~~~!!」

 

ノリノリでお互い向かい合い、まるでカバディのように臨戦態勢をとる二人であった。

 

 

 

 

 

【廊下にて】

 

「津田……?」

 

ちょうど廊下の角を曲がったところで、偶然津田を発見したスズ。

彼は今資料室に入っていくところだった。

今日は生徒会の活動は特にない。

そんな彼が、いったい資料室になんのようだろうと少し気になった。

資料室の廊下側の窓は二つ。

彼女に近い方から覗いてみようとしたがその窓は荷物が積み上げられてふさがれている。

同様に二つある入口の近い方も閉め切りになっていた。

特にこれと言って彼に用事があるわけでもないし、声をかける必要もないか。

そう考えていた時に、津田が入って行った扉のカギが閉まる音が聞こえた。

 

(鍵? なんで?)

 

そのことを不審に思ったスズは、立ち去るのを止めた。

もう一方の窓からそっと、中をのぞいてみる。

 

「津田…………」

 

資料室の中では、彼と横島先生が向かい合って息を荒立てながらお互い威嚇するように腰を低く構えていた。

 

 

 

 

 

【閉鎖空間2】

 

「ハァハァ……ハァハァ……」

 

「ハァハァ……ハァハァ……」

 

資料室の中で息を荒立てながら、お互いの隙を窺う二人。

先生はこれから行おうと思っている行為に期待しつつ、予想以上に津田のノリがよくてこのやり取りを楽しんでいた。

一方の津田も、思春期の情動と葛藤が渦を巻いて息を荒立てていた。

隙を見せれば殺される。彼のプロフィールから童貞という項目が消されてしまう。

むしろ思春期真っ盛りの彼からすれば大いに結構。

どうぞ私の童貞を奪ってくださいと差し出したいくらいである。

しかし受動的か能動的という大問題が彼に緊張感をもたらしていた。

美人女教師に迫られて、されるがままに童貞を奪われるのもいい。

それは健全な男子高校生の夢、ロマンあるシチュエーションの一つだろう。

しかし、情動に任せてむしろこちらから迫って童貞を捨てるというシチュエーションも捨てがたい。

今ここで隙を見せれば、なし崩し的に横島先生のされるがままになってしまう。

本当にこれでいいのか。

SでもありMでもある彼にとって、最初というのはこれからの方向性を決める大事なことなのである。

行為に及ばないという選択肢はそもそも彼の中にはこれっぽっちもなかった。

 

「ハァハァ……津田もどうして……なかな隙がないじゃないか……」

 

「ハァハァ……そういう先生こそ……ハァハ……は?」

 

お互い牽制し合いながらにやりと口を歪めて対峙しあう二人。

そんな時、津田が何かに気づいた。

ちょうど廊下側を向いて立っていた彼の視界。

横島先生の背後の窓に、見知った顔がこちらを覗きこんでいた。

 

「はぅあ!?」

 

「?」

 

いきなり奇声を発した彼を横島は不思議な顔をして眺めた。

 

「あわ、あわわわわわわ……」

 

突然慌てだした津田に、何か背後にいるのかと振り返る。

しかしそこには誰もいなかった。

特に窓の外から誰か覗いている風でもない。

それは横島が振り返る直前、スズが身をかがめて隠れたからなのだが。

しかしばっちりと津田は、彼女がこちらを冷たい蔑んだような眼で見ていたのを知っている。

あれは、教師と退廃的な行為に及ぼうとしていた自分を蔑んだ目だ。

あれは、結局お前は女なら誰でもいいんだなという呆れている目だ。

あれは、私のこと無理やり押し倒してあんなことしたくせにという目だ。

あれは、あのハイライトの消えた闇のような瞳は見たことがない。

あんな冷たい目で見られたらぞくぞくしちゃう~、とか思っている暇はない。

 

(このままじゃ、俺、萩村に話もしてもらえなくなるかもしれない!?)

 

津田が話しかけても無視する彼女。

津田がセクハラ発言をしても、ツッコミを入れずに全てスルーな彼女。

それ……なんて放置プレイ?

 

「放置はいやだぁああああ!!」

 

「おおう!? どうした津田!?」

 

いきなり豹変した彼に戸惑う先生。

しかし彼はお構いなしに窓に向って土下座した大声で誤った。

 

「スイマセンしたーーーー!!」

 

M属性も持っている彼も、放置プレイは嫌なのである。

 

 

 

 

 

【廊下にて2】

 

「放置はいやだぁああああ!!」

 

廊下で座り込んで、資料室から聞こえてくる津田の声を聞いていたスズ。

その彼女に声をかけるものがいた。

 

「ねぇねぇスズちゃん、こんなところで何してるの?」

 

「あっ、七条先輩……」

 

どうやらこんなところで座り込んでいるスズを見かけたアリアは、気になって声をかけてきたようだ。

なんとなく彼女がまるで隠れているように見えたので、アリアも何となく姿勢をかがめて近づいた。

 

「実は……」

 

簡単にスズは事の顛末をアリアに教えた。

 

「なるほど、津田君が先生と……」

 

興味を俄然そそられたアリアは、スズと一緒に覗いてみることにした。

 

 

 

 

 

【閉鎖空間3】

 

窓に向って土下座する津田に困惑する横島。

相変わらず振り向いても、窓の外には誰も立っている様子はない。

 

「おいおいどうした津田、誰に謝ってるんだ?」

 

お前私になんかしたっけか?と首を傾げる先生。

そんな彼女の様子に、もしや本当に誰もいないのかと津田は疑問に思った。

もしかしたら、心のどこかで感じていたかもしれない罪悪感が見せた幻だったのだろうか?

そんな淡い期待を胸に、そっと顔を上げる。

そこには、二つの見知った顔がこちらを覗いていた。

スズとアリアである。

 

「jshごっこrしえjけc!?」

 

「こ、こんどは何だ!?」

 

勢いあまって顔面を床にたたきつけるようにして再び土下座する津田。

あれは、あの眼はまずい。

あのハイライトの消えた眼は、俗にいうヤンデレというやつの眼ではないか?

もしかして俺、刺されるの?と不安になる。

しかも数が増えてる。

先ほどは一対二つの視線が彼を責めていたのに対し、今度は二対四つに増えていた。

何故だ、あんなヤンデレな目で見られるようなことを自分はしただろうか?

スズに対しては未遂ではあったが危ないところまではしてしまった。

でもアリアに関しては特に思いつかない。

どこで間違った。

俺は童貞のまま死ぬのか、殺されるのか?

いろいろと思考が渦巻き混乱する。

とりあえず彼には土下座をして許しをこうことしか選択肢が思いつかなかった。

 

 

 

 

 

【閉鎖空間4】

 

相変わらず土下座を続ける津田に困惑しっぱなしの横島先生。

彼女の頭からも、当初考えていたにゃんにゃんな行為はすでに吹き飛んでいる。

ただただこの状況をどうにかしようと彼に話しかけ続けた。

 

「なぁ、本当にどうしたんだよ津田」

 

彼はどうやら窓の外を気にしているようだが、何度か窓を見てみても誰かが覗いてる様子は見受けられない。

実際は窓の下に隠れているのだが、そんなことをいちいち確認しに行く彼女ではなかった。

 

「何を見たかしらんが……顔上げろって。な?」

 

「うぅ……」

 

優しく諭されてゆっくりと顔を上げる津田。

彼の鼻は床に叩きつけられて鼻血こそ出ていないものの赤くなっていた。

窓を見れば、そこには誰もいない。

その光景にあれは幻だったのかと、ほっとする自分がいた。

 

「ほら、誰もいないだろうが」

 

彼と一緒に確認した横島先生が津田に向きなおってにやりと笑う。

 

「そうですね……!?」

 

安堵のため息をつこうとした津田。

しかし出たのは口からの気体ではなく、鼻からの液体だった。

横島先生が彼に向きなおった瞬間、正確には窓に背を向けた瞬間。

窓の下からにょきりと人の顔が伸びてきた。

それはどれも見覚えのある顔で、ハイライトの消えた目をしていた。

左から順にスズ、アリア、シノと生徒会そろいぶみである。

 

「jpctcdcぬrcんrjhjんjにjckdzんぅいびrんvcぃんrpxじhrcjfjbcjんczxmdwぁm!!??」

 

二度あることは三度ある。

彼の奇声は校舎内にとどまらず町内にまで響き渡ったという。

ちなみに彼は「増えてる」と言いたかったらしい。

 

 

 



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十七人目

仕事から帰ってきたらランキング2位とかなってて思わずグーフィーみたいにアッヒョ!?って言ってしまいました。作者です。


 

【夏の前菜】

 

夏日の差し込む生徒会室。

生徒会の面々が噂話の雑談に興じていた。

 

「一年生用のトイレには昔、自殺した生徒の幽霊が出るらしい」

 

シノが言うには何でもその昔、不幸なことがあって自殺してしまった女子生徒の霊が

自縛霊となって一年生用トイレに出没するらしい。

目撃したものが何人かおり、最近話題になってきている。

 

「――という怪談がまわりで流行っている」

 

「夏の定番ね~」

 

「非常にくだらないですね。

 高校生にもなってそんな作り話で盛り上がるなんて」

 

シノが楽しそうに話しているのに共感するアリア。

しかしスズは冷たく切り捨てるのだった。

彼女としては非現実的なことは子供っぽいというイメージがあるのかもしれない。

そんな彼女をまぁまぁ、と津田がなだめつつも気になった疑問を口にする。

 

「でも会長、それって一年生用の女子トイレって話ですけど……

 俺が聞いた話では二年生用のトイレだって聞きましたよ?」

 

「何、本当か!?」

 

「あら? そういえば私は三年生用のトイレに変質者の霊が出るって聞いたわ」

 

「幽霊はともかく変質者の霊か? 自殺者のじゃなくて?」

 

「なんでも昔、盗撮目的で侵入して足を滑らせて死んでしまった人の霊らしいの」

 

「なんですかそれ?」

 

「おもしろそうだな!」

 

せっかくだから探検にいこうと騒ぎだす三人。

 

「いや、作り話に決まってるでしょうが」

 

そんな彼等をスズのいつも通りの冷静なツッコミが止めるのだった。

 

 

 

 

 

後日。

 

「萩村、最近よく会うよなぁ……教職員用トイレで。」

 

「気のせいです」

 

「いやいや、気のせいじゃねぇだろ? 生徒用の使えよ」

 

「あなたは私にトイレに行くなって言うんですか!?」

 

「……だから生徒用を使えば……いや、何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【私にかまうな】

 

「あら、こんにちわ」

 

昼休み、食後になんとなくぶらぶらと歩いていた津田とスズ。

そんな彼等は中庭で偶然にも新聞部の畑とはちあわせた。

彼女はいつものようにカメラを手に何か撮影しようとしていたようである。

 

「畑先輩、何してるんですか?」

 

「盗み撮り」

 

「そういうのは駄目だって前に言いましたよね?」

 

「冗談ですよ。本当は学校の怪談の特集をしようと思ってその取材に……聞きたい?」

 

「へー、どんなのがあるんです?」

 

「……いいの?」

 

「?」

 

畑の何かを確認するような視線に、津田は隣を見た。

そこでは両耳に指を突っ込んで、両目を閉じて澄まし顔をしているスズがいる。

 

「耳がかゆいのよ。気にせず続けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ノンフィクション】

 

スズが暗に構うなという姿勢を見せているので、そのまま話しを続ける津田と畑。

 

「これは実際にあった話よ」

 

定番の前ふりで話しだす畑の話を真剣な顔をして津田は聞いている。

ある女子生徒が気分が優れないといって保健室のベッドで休んでいたらしい。

疲れのせいか体調のせいか、気づけばそのまま寝入ってしまった女子生徒。

ふと腹部に違和感を感じて目を覚ます。

そこで彼女が目にしたものは……

 

「ベッドのシーツが血で真っ赤に染まっていたそうよ」

 

ごくり、と息を飲む津田。

耳をふさいで聞こえていないながらも、その空気にびくりとするスズ。

 

「なんでも生理が近いの忘れてて、あててなかったみたい。

 うっかりさんよね?」

 

「なんだ~、てっきり保険医に寝込みを襲われて処女を失ったのかと思いましたよ」

 

そのオチにほっとする津田。

その安堵した様子を面白く思いながら、後輩の考えをやんわりと否定する。

 

「それはないわね、女子高だったからそれまでの校医も女性だったから」

 

「でも同性愛者の可能性もありますよね?」

 

「……それは盲点だったわ」

 

彼の言葉に何か思いついたのか畑はメモを取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ちぇっ】

 

「でも結局その話じゃ全然恐くないですよね?」

 

「大丈夫、怖くなるよう捏造するから」

 

「駄目じゃん新聞部!!」

 

自信満々にサムズアップする畑に、ついつい本来のボケ役を忘れてツッコミをいれる津田。

その事実に気づきハッとする。

 

「この人……できる!?」

 

「フッ、まぁその話は置いておきましょう。他にもとっておきのネタがありましてね……

 夜の音楽室から夜な夜な女の泣き声が……」

 

「まさか喘ぎ声ってオチじゃないですよね?」

 

「……ちぇー」

 

先に話のオチを言われてすねた顔をする畑。

彼女の口は漫画にすれば数字の3のようなやる気のない口をしていた。

 

「……」

 

なんとなくその口を見ていた津田は、何を思ったか人差し指を彼女の唇のすぼまりに突き入れた。

 

「……ほふぇはふぁんろふぁふぇふぇふふぁ?(これは何の真似ですか)」

 

「いや、つい」

 

特に意味はありません、と彼ははにかんだ。

なんとなく無表情な彼女が口をすぼめているなど珍しくてついやってしまったのだ。

その答えに、何を思ったのか。

 

「ふぉぉお!?」

 

「ひっ!?」

 

彼女は歯で彼の人差し指をロックすると口内でその指を舐めまわした。

これには予想外だった津田が素っ頓狂な声を上げる。

その声に隣にいたスズはより一層身を縮こまらせて目をきつく閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【rhるうおhそvwhs!!】

 

ちょっとしたじゃれあいを済ませた津田と畑。

畑はいつも通りの無表情で「じゃ」という一言とともに去って行った。

残された彼は、今もまだ隣で耳をふさいでいるスズを見た。

眼はきつく閉じており、未だ畑が去ったことにすら気づいている様子はない。

足は内股ぎみに閉じており、微妙にぷるぷると震えてる気がしなくもない。

どうやら彼女は相当な怖がりなようだ。

その様子を見て何か使命感のような物を感じた津田。

決意の光を目に宿し、彼女の背後に気配を殺して回り込む。

腰をかがめて丁度顔が彼女のうなじの位置の高さに来るようにする。

そして……

 

「ふぅぅぅぅぅうううう~~~」

 

「rhるうおhそvwhs!!」

 

不意打ちで襲ってきた感覚に全身が鳥肌になったようにぞわぞわとするスズ。

あまりのことに絶叫してしまった。

中庭を囲むようにして立つ校舎の外壁に反響して、絶叫が木霊する。

 

「何すんだこらぁあああ!!」

 

「ごぶぅ!?」

 

状況を把握したスズは左足を振りかぶり気合一閃。

世界を狙えるかのような見事な金的蹴りを彼にお見舞いした。

その衝撃に意識が飛びそうになりながら、地面へと崩れ落ちる津田。

その彼の顔面に彼女の靴底が雨あられと降り注ぐ。

 

「この、この、この、この、毎度毎度人をおちょくりやがって!!」

 

「あぁああ!! 久々のこの感じぃいいいいい!!」

 

恍惚とする彼と、どこか怒りながらも生き生きとしているスズ。

いつのまにか恐怖感がすっきりと彼女の中から消えていた。

おちょくっているようではあるが、彼なりの優しさなのである。

そんな二人を学園の生徒たちは校舎から微笑ましく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【不機嫌?】

 

じゃれあいを終えた二人は中庭から移動して歩いていた。

並んで歩いてはいるものの、スズはそっぽを向いて彼の方に視線を向けようとしない。

どうやらまだ不機嫌な様子。

 

「ふぁぎむるぁ、くぅあいのにぐわてぬぁんだ?(萩村、怖いの苦手なんだ?)」

 

踏まれまくって、顔をぼこぼこに腫れあがらせた津田が隣の彼女に問う。

そんな彼の問いにそっぽを向きながらすねた様子でスズが答えた。

 

「……そうよ。どうせ私のこと子供っぽいって思ってるんでしょ」

 

スズは彼の聞き取りにくい声を正確に理解していた。

どうやらこんな状態も二人にとっては慣れたものらしい。

 

「まあひょうひき。ひぇもひょひぇひひょうひ、ふぁぎむるぁろころひれはのはひょはっはとほもうひょ

 (まあ正直、でもそれ以上に、萩村のこと知れてよかったと思うよ)」

 

普段の顔なら男前に決まったようなセリフを吐く津田。

しかし顔がぼこぼこなため台無しだった。

横を通り過ぎた一般生徒も、彼が何を言っているのかさっぱりわからず首をかしげていた。

 

「…………」

 

スズには聞きとれたのかどうなのか。

ただ、彼女の顔は夕日に照らされてる異常に赤かった。

 

 

 

 

 



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十八人目

 

 

 

【三人くらい思い浮かぶ】

 

昼休みの一年生の教室。

特に誰とも約束していない津田はいつも通り生徒会室で弁当を食べようと席を立った。

教室の出入り口まで歩いている途中、クラスメートの三葉の姿が目に留まる。

なんとなくその姿に声をかけてしまう津田。

 

「三葉の昼飯、随分と質素だな」

 

「最近金欠でねー」

 

そう、彼が気になって声をかけた理由。

それは彼女の昼食がコンビニおにぎり二つだけだったからである。

彼女が女の子にしてはかなりの大食いであることはすでにクラス内で周知の事実だ。

その三葉がおにぎり二つで満腹になるとは考えにくい。

どうやら金欠らしく、これ以上のものは懐的に買えなかったようだ。

なら弁当にすればいいという意見は毎日の朝練のため朝が早い彼女には酷なことだろう。

ふと、津田は彼女が自分をじっと見つめていることに気が付いた。

 

「ん? 何?」

 

「男の子おかずにすると身体が満たされるって聞いたんだけど、そーでもないね」

 

「それ誰から聞いた? だいたい想像つくけど」

 

身体が満たされるというのは、女の子であることを考えれば否定はしない。

しかし満たされるというのは別の意味でだろうと思う。

この純粋な三葉に間違った知識を植え付けた犯人。

まぁ、身近なところで三人ほど思い浮かぶ。

 

1 天草シノ

2 七条アリア

3 横島ナルコ

 

順当にいって3の横島先生あたりかなぁと、検討をつける津田。

大穴で4の萩村スズとかだったらおもしろいかもしれない。

 

(萩村……はありえないか)

 

そんなことを考えつつ、三葉の前の席の椅子を動かして座る。

ちょうど彼女と向かい合うようにした状態だ。

今日はなんとなく生徒会室ではなくここで食べようと思ったのだ。

 

「ここ、一緒にいいか?」

 

「ふぇ? あ、うん」

 

いいも何も既に座って同じ机の上に弁当まで広げ始めている。

特に拒否する理由もない三葉は一瞬不思議そうな顔をしつつも頷いた。

 

「……(もぐもぐ)」

 

「……(もぐもぐ)」

 

特に話すこともなくもくもくと弁当を食べる津田。

しかしその視線はまっすぐに前に座る三葉を凝視していた。

彼女も津田を凝視していたので、お互いが見つめあうことになる。

 

「……(もぐもぐ)」

 

「……」

 

「……(もぐもぐ)」

 

「あっ、あの……タカトシ君どうしたのかな? 私の顔になんかついてる?」

 

なんだか気恥ずかしくなってきてついつい目線を彼の顔から外してしまう三葉。

その問に彼は口の中の物を飲み込んだ後に真顔で答えた。

 

「いや、俺も三葉をおかずにしたら身体が満たされるかなって思って。試してるだけ」

 

「あっ、そ、そうなんだ」

 

な~んだ、とちょっと安心する。彼は単に自分のマネをしているだけなのだ。

しかしそこで三葉は先ほどから自分の、おにぎりを食べる動きが止まっていることに気が付いた。

先ほどまであれほど空腹に苛まれていたというのに、今はそれを感じない。

それどころか胸の奥、肺や胃の部分が圧迫されるような感覚さえ覚える。

 

「あれ? なんかお腹いっぱいになっちゃった」

 

「そう? じゃあ三葉は俺をオカズにして腹が膨れたんじゃない?」

 

「そうなのかな?

 なんかお腹の中が逆にジンジンするっていうか、ムズムズし始めたんだけど……」

 

「お腹痛いのか?」

 

「ううん、痛いわけじゃないんだけど……なんだろ?」

 

変な感じ、と呟く彼女。

 

「タ、タカトシ君はどう? 私をおかずにするとお腹膨れた?」

 

「うん?ん~……むしろもっと腹減った気分」

 

「そうなんだ、男子と女子で違うのかなぁ?」

 

「はは、変だよな」

 

「ふふ、変だよね」

 

弁当を間にはさみながら向かい合って笑う二人。

ちょっとずれてはいるが微笑ましい青春の一ページである。

 

 

 

 

 

 

 

【妙な間】

 

その次の日。

今日は生徒会室でお昼を食べている津田。

他にはアリアが弁当を広げて食べていた。

二人向かい合って弁当を食べていれば、自然と相手の弁当箱の内容にも目がいくものである。

 

「毎度ながら七条先輩の弁当豪華ですよね?」

 

「そう?」

 

「よかったら一口いかが?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

別に催促したつもりはなかったのだが、嬉しい提案である。

豪華な内容に、味はどうなのだろうとやっぱり気にはなっていたのである。

 

「はい、このアワビのステーキなんてお薦めよ」

 

アリアは弁当からアワビを箸でつまむと、津田の口に持って行った。

確か以前、彼女はアワビが苦手と言っていたなぁとか、嫌いなもの押しつけられただけなんじゃとかも考えた。

でも手皿で箸で具を掴んでの『あ~ん』である。

青少年の気恥ずかしいながらも憧れのあれだ。

昨日の食事風景とはまた違った、これも青春の一ページである。

拒否するわけがない。むしろ進められているのがアワビだ。

女の子が食べさせてくれるおかずがアワビ、意味深である。

 

「あ~ん……」

 

「……あ~ん、もぐもぐ……うまい!?」

 

「そう? よかった。じゃあ次はこれは?」

 

そう言って今度は箸をいったん置いて、スプーンを取り出すアリア。

タッパーを取り出し、中からすくい上げたのは赤いゼリー状のもの。

 

「はい、スッポンのゼリー。おいしいわよ?」

 

「わぁ、俺スッポン食べたことないです」

 

「あらあら、はいあ~ん」

 

「あ~ん……」

 

スッポンを食べたことがないという津田に何故か嬉しそうなアリア。

意気揚々と手皿をそえて彼の口へとゼリーを運ぶ。

そんな時、背後の扉ががちゃりと開いた。

顔を見せたのはシノだった。

 

「…………」

 

「……?」

 

「……」

 

なんとなく固まってしまった三人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【天草対七条】

 

「……なんだそういうことか」

 

それまでの経緯を聞いてどこか胸をなでおろすシノ。

どうやら知らぬ間に生徒会間で恋愛に発展しているのかと危惧したらしい。

 

「しかしアリア、あまりこういうことは感心せんな」

 

「あらどうして?」

 

「手皿は一見上品に見えるが、実はれっきとしたマナー違反なのだ!!」

 

「でも精液の場合は妖艶さが増すと思うわ」

 

「くっ! なら、むしろ手を使わずに食べる方が妖艶じゃないのか!」

 

「両腕を拘束されたりして、自由に出来ない時の食事のこと?」

 

「そうだ!」

 

「確かにエッチな感じがするけど、それって犬食いじゃないの?」

 

「ぐっ!? なら口を使って……」

 

「口うつし? さすがに友達同士ではしないんじゃない?」

 

「……論破されてしまった」

 

「シノちゃんは口うつしがしたいの?」

 

「ち、違う!!」

 

「じゃあ両腕を拘束されて犬食いがしてみたいのね?」

 

「ち、違うんだ!! 津田もそんな目で見ないでくれ!!

 本当に違うんだ……これは……その……あれだ…………違うも~~~~~~~ん!!」

 

手詰まりになったシノは敗北の悔し涙を流して走り去った。

今回の天草対七条の討論はシノの完全敗北で終わった。

最近何かと口でアリアに勝てない彼女である。

 

 

 

 

 

 

 

 

【津田君インタビュー】

 

「今日は副会長という立場から学園一有名な男子生徒、津田タカトシ君にインタビューをしたいと思います」

 

とある昼休み、階段の踊り場で津田は新聞部の面々に取り囲まれた。

どうやら抜き打ちでの突然なインタビューらしい。

畑がマイクを持って見知らぬ新聞部員の子が手にするビデオカメラに向かって話している。

 

「ずばりあなたの好みの女性は?」

 

彼女はマイクを津田の口元に持って行き、質問する。

いきなりのことで少しうろたえつつもとりあえず無難な回答をする津田。

 

「え、えー……あっ、笑顔の素敵な子とか」

 

「アへ顔の素敵な子だそうです!」

 

言質を取ったというような顔でカメラに向かって決め顔をする畑。

彼女はわざとらしく聞き間違えた。

彼女の中では副会長はエロいというのは決定事項なようだ。

 

「まぁ、聞き間違いではありますが……否定はしませんよ」

 

間違ってとらえられはしたものの、アへ顔も好きな彼は肯定した。

だって男の子だもの。

 

「では生徒会の面々の中ではどの女性が一番好み?」

 

「えっ、あの中ですか?」

 

そう問われて、う~ん、と考え込む津田。

黒髪ロングの美少女であるシノ。

普段凛としているが下ネタ好きで、ちょっと想定外なことがあるとすぐうろたえてしまう。

中々に内面も可愛らしい魅力的な女性だ。

豊満なバストの美人であるアリア。

おっとりとお淑やかで、しかし三人の中で一番思考がピンク色な女の子。

嫌みのない天然なところも魅力的な女性だ。

一番小さく子供のようなスズ。

三人の中では一番常識があり冷静であるが、子供っぽいところも一番多い女の子。

ああ見えて生徒会一の美脚をもつ。

ぱっと考えても、皆甲乙つけがたい魅力を持っている。

正直この子だ、と簡単には決められなかった。

 

「会長のような黒髪と、七条先輩のような女性らしい体型、萩村のような美脚。

 三人を足して割ったら丁度ストライクかもしれませんね~」

 

ハハハ、と笑いながら冗談めかして言ってのける。

結局はみんな魅力的でいい女性ですよ、と津田は言いたかったのだ。

 

「黒髪、女性らしいスタイル、美脚……成程。

 副会長は私のような女性が好みのようですね」

 

「あるぇー? なんでそうなるのー?」

 

自意識過剰な畑だった。

 

 

 

 

 

 

 

【ブラインダー】

 

所代わって生徒会室。

シノがノートパソコンに向ってぎこちなくキーボードに触れていた。

今現在彼女はパソコンの勉強中なのである。

アルファベットの母音と子音の位置を探しては、カチカチと一文字ずつ打つさまはまだまだぎこちない。

初心者まるだしの操作である。

 

「う~ん……パソコンは目が疲れるな」

 

画面から視線を離し、目がしらを揉むシノ。

 

「疲れない方法ありますよ?」

 

そう言って、今回のシノの教師役であるスズは鞄からあるものを取り出した。

取り出されたのは一つのアイマスク。

彼女は自身でそれを装着してみせると、手本とばかりにパソコンのキーボードに指を置く。

次の瞬間、指の動きが捕えられないほどに素早いブラインドタッチが始まった。

瞬く間に書類一枚分の文章を打ち終えるスズ。

あまり書かないと忘れがちだが、彼女は何でも完璧にこなす天才児なのである。

アイマスクを外し、簡単でしょう?と目で物語るスズ。

 

「お貸ししましょう」

 

「それで素人の私にどうしろと?」

 

私にできるわけないではないか、と呆れながらもシノはアイマスクを受け取った。

とりあえず装着してみる。

するとどうだろう、視界は真っ暗に閉ざされ何も見えない。

耳に聞こえてくるのは、グラウンドで練習する運動部の掛声。

吹奏楽部の笛の音。廊下を歩く誰かの靴音。

足に触れるパイプ椅子の金属部分のひんやりとした感触。

 

「成程……視界を閉ざすことでその他の感覚が研ぎ澄まされるんだな。

 目隠しプレイがSMでもてはやされるわけだ」

 

「やっぱり返してください」

 

スズは一瞬で彼女の顔からアイマスクをもぎ取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【丸のみ】

 

一学期の終業式を行う体育館。

生徒会の面々はステージにあがり、校長のスピーチ中なので隅に立っていた。

ステージ中央では校長がありきたりな言葉を並べており、下にいる生徒たちは一様に気ダル気な雰囲気を醸し出している。

 

「毎度ステージに立つ時はキンチョーしますね」

 

高鳴る心臓を押えこむように胸に手を当ててつぶやく津田。

両隣にいたシノとアリアはその言葉が聞こえたらしく、同意したように頷く。

スピーチの邪魔にならないよう、顔は正面を向いて真面目な表情のまま。

しかし校長の話はいっさい聞かずに小声で雑談を始めた。

 

「確かにな。しかしこればかりは慣れるしかあるまい」

 

「そうね」

 

「気休め程度にしかならんが、『人』という字を書いて飲み込んではどうか?」

 

「気休めには程遠いかと……」

 

「では『妹』と書いてみてはどうか」

 

「津田君的には『姉』じゃない?」

 

「それじゃキンチョーの代わりにハツジョ―しちゃうでしょ?」

 

「お前ら私語は慎め」

 

「「「はーい」」」

 

皆の先生役、スズちゃんの小さな叱責の声が飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【必要ないと思うんだ】

 

終業式も終えた放課後。

一学期最後の会議を行う生徒会の面々。

 

「みんなには夏休み期間中も登校してもらう日があると思う」

 

内容は夏休み中の生徒会の行動についてだ。

イベントごとの集中する二学期に向けて、何度か集まる必要がある。

その日程を決めてしまおうということらしい。

 

「その際、必要なものはありますか?」

 

「ほとんど雑務だから特にないな」

 

すぐに気になった点を質問するスズ。

 

「じゃあ手ぶらでいいんですね?」

 

「いや、服は着て来い」

 

「グラビア用語じゃねえよ」

 

「そっか、そうだな。今のは私の早とちりだった」

 

「ふふ、シノちゃんったら」

 

「そうですよ会長。

 萩村がそんな手ぶらだなんて……むしろブラはまだ必要ないんじゃべし!?」

 

津田の顔面にスズの渾身の右ストレートがめり込んだ。

 

 

 

 



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十九人目

 

【奥手好き?】

 

親睦を深める生徒会の毎年の恒例行事ということで海に行くことになった生徒会一行。

その前日、それぞれは家で明日の海水浴のための準備をしているのだった。

津田も今現在、自分の部屋でリュックに水着を詰め込んげいるところだ。

 

「いいなぁ、タカ兄。私も海行きたいな~」

 

彼が準備している光景を眺めながら、兄のベッドに腰かけているコトミがつぶやいた。

 

「お前は今年受験生だろ?」

 

しっかり勉強しろ、と妹に釘をさす津田。

本来なら今も自室で受験勉強をするべきなのに、この妹と来たらまた彼の部屋にさぼりに来ている。

 

「も~タカ兄は駄目だな~。

 やろうとしてる人にやれって言うのは逆効果だよ?」

 

「逆効果って言ってもなぁ……」

 

前提として津田は自分の妹が勉強にやるきを出しているところを見たことがなかった。

元々やる気ならそれも当てはまるだろうが、彼女に関してはむしろもっと言った方がいいのでは?

などと考えてしまう。

 

「Hの時だってヤろうとしてる時に向こうからヤってって言われたら萎えるでしょ?」

 

「まぁ、恥じらいは大事だよな」

 

でも想像してみれば、津田的には向こうから誘ってくるのもアリといえば大いにアリである。

 

「まぁ、勉強はお前のペースに任せるにしても、海は諦めろ」

 

「うぇ~~……」

 

「お前焦らしプレイ好きだろ?

 逝きたい、でも逝けない。もう少しで逝けるのに~ってやつ」

 

海も同じに考えればいい、と津田は言う。

その彼の言葉に想像するコトミ。

 

「海も同じ……」

 

 

 

↓以下妄想。

 

『あぁ~ん!(海に)逝きたいのに、逝けない!

 もうすぐそこまで(夏が)来てるのに、もうちょっとなのに……逝けない~~~~ん!』

 

妄想終了。

 

 

 

「ハァハァ……そんな……このままの状態で、一年なんて……私狂っちゃうよ~~……」

 

なんだか枕を抱いてくねくねとしている妹を見て、津田は優しく微笑んだ。

今日も津田家は平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【保護色】

 

「かくかくしこしこで、海にやってきたぞ!!」

 

翌日、いろいろありつつも海水浴場に到着した面々。

眼前に広がる青い海を前に、声高らかに到着を宣言するシノ。

「わー」と小さく歓声をあげて拍手する津田とアリア。

スズは砂浜に見える人の多さにちょっと顔をしかめていた。

同じく運転手兼保護者の横島先生もテンションが上がらないのかしかめつらだ。

すぐさま水着になるために備え付けの更衣室で着替えをすますことにする。

ちなみにシノと津田は私服の下に水着を着てくるという中学生のようなことをしていた。

そのため更衣室に入らずにその場で脱いでしまい、スズに怒られた。

アリアは二人の真似をして脱ごうとし、しかし下に水着も下着も着ていなかった。

そのため途中で肌色が多いことにいち早く気づいたスズが更衣室に連行していった。

アリアが彼女にもっと怒られたのは言うまでもない。

 

「シノちゃん赤いビキニ決まってるねー」

 

「ふふ、そうだろう?今日のために買ったのだ」

 

「……」

 

色々ありつつも全員無事水着姿になった生徒会共。

先のセリフからもわかるとおり、シノは真っ赤なビキニ。

くびれたウエストと、腰の骨が浮き出たラインが艶めかしい。

健康的な肌に鮮やかな赤が栄え、なかなかな色気を醸し出していた。

しかし赤いからと言って通常時の三倍のボリューム感があるわけではない。

アリアもシノと同じビキニタイプの水着を着ている。

ただしこちらの色は清潔感漂う白だ。

同性でも目を引いてしまう彼女の豊満なバストが、白に包まれ母性を強調している。

白と言う清潔感漂う色に対し、ある種暴力的なほどの色気がある。

彼女たちの横で無言なスズはワンピースタイプの水着を着ていた。

ピンク色の水着で、色気よりも可愛らしさを前面におしだしたようなデザイン。

彼女の身長と体型から、このような水着しかなかったのではあるが。

わかってはいても同年代であるはずの先輩二人の水着姿を見て憂鬱になるのだった。

 

「なんで赤にしたの?」

 

「そりゃあの日が近いからな」

 

「いつ来ても大丈夫だね」

 

「……んなあほな」

 

ちなみに皆さんのご想像通り、津田はすでに股間を押えて砂に顔を埋めている。

まぁ、彼女たちの水着を見て彼がどのようなリアクションを取ったのかはあえて語るまい。

ちなみに彼は普通のトランクスタイプの水着を履いていた。

突きだすように上に掲げられている尻は、薄布一枚隔てていても他のメンバーにも負けず劣らずのハリがあるぷりっけつだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【注意事項】

 

「引率兼ドライバーの横島先生、引率らしく何か一言」

 

パラソルの下で気だるげに座っていた横島先生にシノが話しかけた。

見れば生徒会の面々が先生の前に勢ぞろいしている。

津田も復活を果たしていた。

 

「う~ん、そうね……」

 

特になにも考えてなかった彼女は、シノの振りに何を言おうか考える。

しかし暑さのせいで上手い言葉も思いつかない。

 

「あー、まぁ……みんなはめを外しすぎないようにね」

 

よって、出てきたのはありきたりな言葉だった。

そんなものだろうと考えていた面々は頷いている。

最初から何か為になるような話を期待していたわけでもないのだ。失礼な話ではあるが。

ただドライバーとしてだけでなく、一応引率としての立場からのけじめというものを

表そうとしただけにすぎない。

 

「ハメるのはいいけど」

 

「どっちも駄目だろ」

 

結局、引率らしいけじめすら彼女に期待するのは無駄であるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

【侵入を許し流される】

 

波打ち際で遊ぶ生徒会共。

打ち寄せる波が、彼等の体にあたってしぶきを上げる。

 

「ひゃー」

 

「うわぁ、あはははは!」

 

「おお、結構波強いですね」

 

楽しそうに笑う面々を見ていて、ふと脳裏にあるイメージが思い浮かぶ津田。

まぁ漫画だからよくある場面なわけで、現実にはないだろうと考えた彼は現実のむなしさに鼻で笑った。

それに気づいたスズが彼に話しかけた。

 

「どうしたの津田、変な顔して」

 

「いや、そういえば水着がこういう場面で波に流されるシチュって漫画に多いよなって思って」

 

「馬鹿ね、漫画の話でしょ? 現実的にそんなことめったにないわよ」

 

「だよなー。あるわけないよなー」

 

「きゃ!?」

 

そんな二人の会話を裏切るかのように横から悲鳴があがる。

もしや誰かの水着が流されたのか? と今の会話の流れから想像する二人。

そこには自らの股間を抑えるアリアの姿。

しかし水着は問題なく着ており、何かあったようには見えない。

 

「どうしたんですか七条先輩?」

 

「今の波はすごかったねー、アハハ、水が膣に入っちゃったよ」

 

頬を赤らめつつものすごい発言をする先輩にスズはあんぐりと口をあけた。

津田はナニを想像してか鼻の下をのばしていた。

 

「ハッハッハ。さてはアリア、昨晩オナ○ーのしすぎで花びらが少し開いた状態だったんじゃないか?」

 

「もー、シノちゃんてばー」

 

「うおぅ!?」

 

先輩二人の会話に思考が停止しているスズの隣で、津田の声が響く。

何事かと皆の視線が彼に集中した。

 

「いやー、今の波は凄かったなー。波で水着が流されちゃったよ。ハハハハハ」

 

そこには股間を両手で隠した津田が全裸で立っていた。

 

「…………どうやったら男ものの水着が流されるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【シノは語る】

 

遊ぶのを中断して、海を眺めながら休憩する生徒会共。

到着してからというもの、一時間ほどはしゃいでいたので少し疲れてしまった。

 

「海水浴場に来るたびに思うのだ」

 

「はい?」

 

それまで静かに波の音と、他の観光客の声を静かに聞いていた中。

急にシノが語り出した。

 

「巨大なサメが人を襲う映画」

 

「ああ、あれは怖いですよね」

 

「でももしあれが……あれがサメではなくタコやイカだったら18禁になってしまいそうだな、と。」

 

「ですねぇ、葛飾北斎は偉大ですねぇ」

 

「……」

 

シノの独白に津田が適当に相槌を打ち、馬鹿な内容にスズがつっこむのも疲れた顔をしている。

そんな中、何やらさきほどからごそごそしていたアリアが、シノに何かを手渡した。

 

「はい、シノちゃん」

 

「ん、なんだ?……ってタコ!?」

 

それは60センチはある生きたタコだった。

シノの腹の上に落とされたタコが、にゅるにゅると動きまわる。

 

「うわぁああああ!? とって、取ってくれぇえええ!!」

 

「ちょ、七条先輩!? なんでタコなんて持ってるんですか!?」

 

「うふふふふ」

 

予想以上の滑り感に鳥肌が立つシノ。

パニックに陥るシノを助けようと、津田が手を伸ばした。

 

「ひぃぃいぃい、気持ち悪いぃいいい!! にゅるにゅるしてるー!!」

 

「待っててください会長!! 俺が今取りますから!」

 

「ばっ、ちょ、どこ触ってるんだ津田!? ひゃっ、あん!」

 

「じっとしててください会長……いで!? いでででで!?

 吸盤が痛い、予想以上に痛い!」

 

シノの体の上を這っていたタコだったが、津田の伸ばした手に攻撃されていると思ったのか。

触手を彼の体に絡ませて吸盤で吸い付き攻撃してきた。

おかげで解放されるシノ。

騒ぐ間にもタコは腕をよじ登り彼の顔へと襲いかかる。

 

「イタ、痛い! マジで痛い!?」

 

その後、彼はタコを絡ませたまま海へとダイブしたことでタコが離れ助かった。

しかし至る所に吸盤の跡が真っ赤に残っていた。

 

 

 

 

 

 



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二十人目

 

 

【おまけ】

 

前回に引き続き海水浴を楽しんでいる生徒会の面々。

津田とスズは海の家で冷たい飲み物を買って、飲み歩きしている最中だった。

 

「暑いな~」

 

「そうね」

 

チュゴゴゴゴ、と音を立てて買ったばかりのジュースを飲みほす津田。

ストローから口を放して、日差しの強さを指摘する。

隣に並んで歩くスズもその意見には同意だった。

今年の夏は例年よりも暑く、最高気温を更新しているそうだ。

といっても温暖化の影響か知らないが、記録更新はすでに毎年のことなので今さらだが。

しかし暑いとはいっても、普段よりも不快感をあまり感じないのは海水浴というイメージのおかげか。

これぞ夏といった風情にすら感じる。

 

「あ、タカくーん!」

 

二人並んでチューチューとジュースを飲みつつ歩いていると聞き覚えのある声がした。

声の方を向くとそこにはアリアの姿。

こちらに向って手を振っている。その隣には見知らぬ男性がいた。

 

「タカ君って俺のこと?」

 

「そうなんじゃない?」

 

いつもの呼び方と違うことを不思議に思いつつも、呼ばれているみたいなので近づいていく。

まぁ、あらかたしつこいナンパにでも悩まされているのだろうとは予想がつくが。

彼女ほどの美人で、しかも男の目をひきつけてやまないワガママボディの持ち主だ。

お近づきになってあわよくばと考える男も多いだろう。

案の定、津田が近付くと「助かった」とでもいうような表情になるアリア。

すぐさま彼の腕に自身の腕を絡め、いかにも親しい関係ですとアピールするかのように密着する。

津田はああ、やはりナンパ関係かと理解しつつ、腕に感じる彼女の柔らかい胸の感触に鼻の下をのばした。

 

「この人が私の彼氏―――「チュゴゴゴゴゴゴゴゴ」―――……」

 

アリアがナンパ男に向かって、津田を彼氏に見たてようとしたセリフ。

それにスズのジュースを吸い上げる大きな音が被ってしまった。

思わずスズに目をやってしまう。

ナンパ男の目もスズに向かっていた。

津田が彼氏だというのならこの子はなんなのだろう?という怪しんでいる目だ。

これはまずい、と判断したアリアは先ほどの言葉を訂正した。

 

「彼氏……じゃなくて、夫です!!」

 

「「!?」」

 

「ちっ、コブ付きかよ」

 

悪態をついて男は去って行った。

ほっと胸をなでおろすアリア。

彼女の胸の谷間の感触を楽しむ津田。

そしてスズは、アリアに子供扱いされたことよりも彼女の言葉を信じた男にショックを受けていた。

 

「仮に夫婦であったとして、私はそこまで小さな子供に見えるのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【仲よし家族】

 

ナンパ男を上手く躱すことができた?三人。

彼等はシノと横島先生がいるであろう場所に向かって横にならんで歩いていた。

 

「さっきはごめんね? ナンパがしつこくって」

 

「別にいいですよあれくらい。俺でよければいつでも相手役になりますよ」

 

「ふふ、ありがとう」

 

お互いに笑顔で先ほどのことを談笑する津田とアリア。

 

「私はごめんなんだが」

 

しかし二人の間に並んで歩いているスズは不機嫌そうに答えた。

特に必要もないのになんでこの二人の子供の役をしなければならないのか。

普通に二人で恋人という設定で私は友達とかでいいではないか、と思う。

そもそも先ほどのように彼等が夫婦とした設定だとしよう。

そらはまぁ、若年婚ということで見た目はいけそうだ。

しかしいくらなんでも私は子供にしては大きすぎだろう、とスズは思った。

もしスズと同じ年齢の子供がいるというのなら、一体何歳で産んだというのか。

仮に先ほどの男がアリアを二十歳と判断したとしよう。

今現在スズは16歳。4歳の時に生んだ計算になる。

一体さっきの男にはスズは何歳に見られていたというのか。

自分が子供っぽい外見をしているのは嫌というほど自覚している。

しかしせいぜい見間違えて小学生だろうと思うのだ。

だというのに、まるで間接的にお前は幼稚園児だと言われているようで腹がたつ。

 

「あらあら、スズちゃんは子供の設定は嫌だった?」

 

「そっか、とっさとはいえ悪かったな萩村」

 

そういえばスズは子供扱いされるのが大嫌いだったと思いだす二人。

知っていたはずだったのに咄嗟のこととはいえ、彼女にはわるいことをしたと思う。

 

「じゃあ、萩村が俺たちの子供という設定は次は使えないな」

 

「そうね、新しい子供を作らなきゃ。

 スズちゃんは男の子か女の子、どっちがいい?」

 

「……何故私に聞く?」

 

「だって弟か妹になるんだもの、お姉ちゃんとしてはどっちがいい?」

 

「お父さんとしては次は男の子がいいな」

 

一姫二太郎って言うしね、とは津田の言葉。

 

「もうタカ君たら……でも男の子と女の子の双子もいいわよねぇ」

 

双子のお母さんになるのが夢なんだぁ、とアリアが語る。

 

「ハハハ、じゃあお母さんには双子を産んでもらえるよう、お父さんも頑張らなくちゃね!」

 

「いやんもう、子供の前で!」

 

「……だから恋人設定でいいだろうが。いつまでこのおままごとを続ける気だ」

 

さっき津田とアリアがスズの対して謝ったのはなんだったのだろうか。

あれか、その場のノリで謝罪を口にしただけか?

結局は二人とも私に喧嘩売ってるのか?

スズのイライラが爆発するまで、もうそろそろであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【レアなうっかりさん】

 

それから約30分後。

程よく空腹を感じ始めた生徒会役員共はパラソルの下で弁当を広げていた。

 

「津田よ」

 

「はい?」

 

「シャツが裏表逆だぞ」

 

「うぇ!?」

 

食事をしていて、なんとなく津田を見た時に気づいたことを指摘するシノ。

思わぬ指摘にうろたえる津田。

裏表逆であることに気づかずにさっきから結構海水浴場をうろうろしてしまった。

おそらくいろんな人間にまぬけな姿を見られただろう。

彼は羞恥心でちょっと頬を赤くした。

 

「気付かなかった……」

 

「ハハハ、うっかりさんめ」

 

急いでシャツを脱いで正す津田を見て笑うシノ。

彼女としても後輩のこういう姿は微笑ましく感じる。

 

「まぁ、私もナプキン裏表逆に使ってしまって大変な目をしたことはあるがな」

 

この程度の軽い失敗なら誰にでもあるさ、と笑う。

男の津田はナプキンを装着したことなどあるわけもないので、その例えはあまりわからなかった。

だが確かに小さな間違いなどよくあるよな、と彼女のフォローに開き直る。

実際、結構抜けたところの多い津田は日ごろから何かと失敗を繰り返している。

 

「そうですよね。こういう小さい失敗なら許容範囲ですよね」

 

「むしろナプキンつけるの忘れたりな」

 

「タンポ○つけてるのにパンツ履くの忘れて下に落としちゃったりね」

 

「俺はたまに家にある栄養剤、リ○Dとマカを間違えて飲んじゃったりしたことありますよ」

 

「お前らのそれは許容できる失敗じゃないと思うぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【手遅れなうっかりさん】

 

「あ」

 

談笑しながらの食事中、シノがまた何かに気が付いたかのような声をあげた。

今度は何事かと皆が彼女に注目する。

もしや今度は海パンまで裏表逆だったか?と自分の履いているものを津田は見てみたがそんなことはなかった。

では彼女は一体何が気になったのだろうか。

 

「ジュースをこぼしてしまった……」

 

どうやら彼女は飲んでいたスポーツドリンクをこぼしてしまったらしい。

その拍子に漏れ出た声だったようだ。

こぼした液体がどこに落ちたのかを目線をめぐらす。

 

「しまった、水着にたれてシミが出来てしまった」

 

「スポーツドリンクだから気にする必要ないんじゃないですか?」

 

すぐ乾きますしどうせ目立ちませんよ、とスズがフォローを入れた。

確かに水着なんだから濡れても問題ないだろうし、スポーツドリンクなのでそこまで気を使わなくとも大丈夫だろう。

しかし、今回はこぼした場所が問題だったようだ。

 

「本当に目立たないか?」

 

よりにもよってタレた場所は股間のど真ん中部分であった。

まるで小便を漏らしたかのような位置にシミが出来てしまっている。

 

「あらあら、まるでおしっ○しちゃったみたいねぇ」

 

「この年でそう思われるのは避けたいな……」

 

「お○っこじゃなくて愛○ってことにすればいいんじゃないですか?」

 

「皆してそんなに見るな……本当に濡れてしまうではないか……」

 

「乾くまで隠しとけばいい話でしょうが」

 

いい加減、食事中にあまり下ネタを話すのは止めてくれないか?と思うスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【そそる黄金色の水】

 

生徒会のメンバーが和気あいあいと食事をしている最中。

引率兼ドライバーとしてこの旅行に同伴している横島先生は砂浜を散歩していた。

彼女はすでに20代のいい大人。

恋人が一緒にいるわけでもなし、海に来たからと言って高校生の彼等のようにはしゃぎまわれる程には若くなかった。

そもそも海に一緒に来てくれる恋人がいるわけでもない独り身の彼女である。

浜辺を歩いていれば嫌でも目につくカップル達を視界に入れては「チッ」と舌うちしていた。

 

「暑い……」

 

ビール飲みてー……とうなだれる。

ちょっと見渡せばそこにあるのは海の家。

そこでは自分と大人たちがわいわいと盛り上がりながらキンキンに冷えたビールで乾杯している。

暑い日にはやっぱり冷えたビールが恋しくなるのが大人というもの。

しかし彼女は引率の身であるし、何より帰りも車を運転しなければならない。

駄目だ駄目だ、と自制心を振りかざし海の家で酒盛りをしようとしている連中から目を離す。

彼女もなんだかんだで、一応教師であった。

 

「気晴らしにトイレいくか……」

 

しかしこの判断がいけなかったのかもしれない。

トイレの個室で彼女が目にしたもの。

それは自身の体から流れだし、便器へと流れ落ちる黄金色の水。

便器に溜まった水に流れ落ち、少し泡立つ様は彼女の渇望しているビールを否応にも連想させた。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”……」

 

なんだかんだで彼女は教師である。

ただし、その前には『一応』とつく肩書きであった。

人間自制心よりも欲求が上回ることはよくあること、彼女はそれが顕著なだけである。

ということにしておいてほしい。

まぁ、ぶっちゃけその後は予想通りであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【運転手の乱】

 

日が暮れ始めた海。

水平線に太陽が沈もうとしており、昼間は青かった空と海が今は真っ赤に染まっている。

生徒会の面々は一列に並び夕陽を眺め、今回の旅行に想いをはしていた。

 

「海、楽しかったな」

 

「そうですね」

 

これで今回の小旅行はお終いか、と感慨にふける。

ただ、感慨深げな顔のメンバーに対しスズは一人瞼が閉じかかっていた。

うつらうつらとしており、今にも寝てしまいそうである。

 

「萩村、大丈夫?」

 

「……平気」

 

「萩村も疲れてしまったようだな。無理もない。

 かくいう私もすっかりくたくただ」

 

早く帰ろうか、と皆を促すシノ。

しかしそれにアリアが待ったをかけた。

 

「どうしたアリア?」

 

「横島先生がもう寝ちゃってる」

 

「なら早く起こして――――」

 

そこで彼女は口を止めた。

眼の先にはブルーシートの上で気持ち良さそうに根息を立てる先生。

その周囲にはビールの缶が10本ほど転がっていた。

このまま運転させれば明らかに飲酒運転だ。

生徒会長として社会のルールに間違った行いはできないとかそんなレベルではない。

横島先生の顔は明らかに真っ赤で酔っているように見える。

下手すれば事故になりかねない。

 

「宿を探すか……」

 

「そうですね」

 

こうして本来日帰りのはずの旅行は、交通手段を失ったために一泊することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【5人姉弟】

 

海水浴場からほど近い一見の旅館。

その受付で部屋を借りようとしている生徒会役員共。

彼等は引率者の失態のために一泊するはめになっていた。

 

「お姉ちゃんお姉ちゃん、ここの温泉24時間利用できるんだって」

 

「ほう凄いな、それは楽しみだ」

 

代表で受付をしているシノとアリアが、利用案内を見て談笑している。

ちなみにアリアがシノのことを姉と呼んでいるのは、体歳のために姉弟ということにしているからだ。

ちなみに今現在津田が背に背負っている酔いつぶれた横島先生が長女。

シノが次女でアリアが三女。津田はその弟で長男。

 

「本当、一部屋でも取れて良かったわね……お・に・い・ちゃ・ん?」

 

「ごめんね、お兄ちゃんで本当にごめんね」

 

怖い笑顔で下から津田に話しかけるスズは四女にして末っ子という設定だった。

旅館の受付の人が胡散臭げに視線を投げかけてくる。

まぁ明らかに皆見事に似ていないことから、姉弟といっても信じてはもらえていないだろう。

「全員異母姉弟で母親が違うんですよ」と苦し紛れの言い訳をする津田。

 

「はぁ……すごいお父さんなんですね」

 

たぶん信じてはくれていないのだろうが、それ以上旅館の人がこちらのことを追求してくることは無かった。

彼等もプロであり、客に対する余計な詮索はタブーなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【持ってて安心】

 

部屋に案内され、荷物を置いて一息つく生徒会共。

横島先生は部屋に着いて早々に布団を敷いて寝かされた。

彼女のせいで一泊するはめになったというのに、呑気に夢を見て涎を垂らしている。

とりあえずは夕食の前に風呂に入ってしまおうと、入浴の準備を進めていた。

それぞれが荷物をあさり、替えの下着やらタオルを用意する。

 

「しまった、携帯電話の充電器を忘れた」

 

まさか一泊することになるとは思っていなかったシノ。

日帰りで帰れることを見越して充電器は最初から持ってくる予定ではなかった。

すでに彼女の携帯のバッテリーは切れかかっている。

どうしたものか、と首をひねっていたところに思わぬ助け船があがった。

 

「あっ、携帯の充電器なら俺が持ってますよ?」

 

「本当、用意がいいな」

 

シノは津田がぬかりなく用意していたことに驚いた。

彼は言っては悪いが、彼女の中では生徒会のメンツの中で一番抜けていると考えていた。

アリアも大概天然で抜けているが、少なくとも津田はこのように備えあればあ~といったキャラではない。

そう思っていたにも関わらず、自分よりも用意がいいことに驚いたのだ。

 

「まぁ、これは俺じゃなくて妹が気を利かせ――――」

 

鞄を漁り、偶然取り出されたものはコンド○ムだった。

用意した覚えのないものに、そもそも買った覚えもないものに驚く津田。

さらには穴のあいた座布団やワセリンまで入っていた。

 

「本当にいろいろ用意しているな……」

 

どうやら妹のコトミは以前シノが家に訪ねてきた時のことを覚えているようであった。

そして未だに彼女は自分の兄とシノが大人体験をしているような仲だと勘違いしている。

彼女なりに気を利かせた結果だった。

 

「妹のこの成長を兄として喜んでいいやら嘆いていいやら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【スルーできないでもないので、面倒くさくてスルーしました。】

 

この旅行に余計なものを持ってきたとして、シノに説教される津田。

そもそも怒られている要因となっている品々はすべて彼が用意したものではない。

コトミが勝手に兄の鞄の中に詰め込んだものであり、彼はそのことを把握していなかった。

しかしコンドー○を所有していたことから、いいわけはいらない、と始まる説教。

お前はこの中の誰かとそういうことをするつもりだったのか。

原則、桜才学園は恋愛禁止であり、生徒会はそれを守らなければならない。

そもそも付き合ってもいない相手と行為に及ぶなどうんぬんかんぬん。

津田は今日一日はしゃぎ疲れていたので、いちいち弁解するのも億劫だった。

どうせ弁解したところでいいわけだと切り捨てられるだろう。

そもそもシノが言うように行為に及ぶ気があったとして、津田は中○し派なのでゴムはもたない主義だ。

俺が使うわけないじゃないか、となかば呆れながらも怒られるに任せていた。

というか、シノにこうやって怒られるのは何気に久し振りだった。

ここ最近彼女をからかう側であったことが多かったため、なかなかに新鮮な気分になる津田。

ちょっとだけ内心悦んでいたのは秘密である。

 

「まぁまぁシノちゃん。そのくらいにしときなよ」

 

そこに津田の助けとして割って入ったのはアリアであった。

 

「アリア……しかしだな」

 

「コ○ドームを持つことは悪いことじゃないよ。

 生でアナ○セックスは危険だもの」

 

「いや、そういうつもりの道具ではないですけど……」

 

「でも津田君は中出○派だって前に言ってたわよね?

 普通にヤる分にはゴムなんてしないよね」

 

「あぁ、まぁ、そっすね。じゃあもうアナ○用のゴムってことでいいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【安全な男】

 

「あの、一泊することを家に連絡する前に……男と外泊って大丈夫ですか?」

 

俺が言うのもなんですが……とちょっと心配する津田。

実際に何かある無し関係なく、外聞的にもどうなのだろうと思ったのだ。

親によっては特に気にすることもあるだろう。

彼の問いに確かに、と頷くシノ。

 

「そうだねー、津田君は安全な人だけど……」

 

「そこを親に上手く説明する必要があるな」

 

何をもってしてかはわからないが、何故か津田のことを信頼しているっぽいシノとアリア。

 

「こいつが安全……なのか?」

 

スズ的にはちょっと疑問であった。

彼女としては、お互いに忘れたことにしているが一度押し倒されたことがあるのだ。

あまり簡単に安心とは言えなかった。

ただ彼女の場合、家に連絡したらむしろ母親にこの事態を歓迎されている節があった。

どうやらスズの母親はついに自分の娘にも春が来たと勘違いしているようだ。

 

「あっ、じゃあこうしましょう!」

 

いいこと思いついた、とばかりにひらめき顔で手を叩くアリア。

 

「津田君は二次コンって説明するのはどうかしら?」

 

「すいませんが他の案で」

 

それで彼女の両親が納得するのかどうかはともかく、津田としてはちょっとごめんこうむりたい属性だった。

 

「じゃあ津田はBLというのはどうだ?」

 

「却下で」

 

「ふむ、別に親に説明するだけだからなんでもいいと思うがな」

 

「じゃあ津田君はロリコン」

 

「アリア、それじゃ萩村がアウトじゃないか」

 

アウトとは言っても、この場合ストライクという意味でアウトなのだが。

 

「そっか~」

 

「なぁ、あんたらそんなに私に喧嘩売って楽しいか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【前隠し】

 

所代わって温泉。

生徒会の面々はそれぞれ湯につかってくつろいでいた。

女湯ではスズとアリアが同じ湯船につかり、隣会って座っていた。

 

「知ってるスズちゃん? ここの露天風呂って混浴らしいよ」

 

「らしいですね」

 

「男の人とお風呂に入るなんて、考えるだけでドキドキするねぇ」

 

彼女の想像の中では、タオルを巻いた女性といきり立った○○○にタオルをかけて混浴する男女の姿。

 

「そのタオルの使い方はないと思いますよ」

 

お風呂に入ったことで先ほどまでと違い、ツッコミが復活しだしたスズ。

言葉にしていない妄想にまで冷静に突っ込んで切り捨てた。

そんな所にシノがどこか慌てたように近寄ってくる。

 

(お、おい! アリア、萩村、ちょと!!)

 

「どうしたんですか会長? そんな小声でひそひそと」

 

「シノちゃん?」

 

シノは慌てているにも関わらず声を押し殺し、小声で話しかけてきた。

焦っているというよりも、何かに興奮しているといった様子だ。

 

(い、いいから! すごいぞ!)

 

(何がすごいの?)

 

アリアがシノのマネをして小声でひそひそと話す。

 

(ここの露天風呂、混浴なんだが……津田がいた!!)

 

(ええっ!? 何やってんですかあいつは!!)

 

まさか混浴だからどうどうと覗きでもしているというのか。

しかしシノが言うには他に入浴しているものはいないように見えたという。

 

(いや、他に客はいないようだったが……何やら一人でやっていたな)

 

(まさか何って……ナニ!?)

 

(ちょっ、七条先輩!?)

 

ムフー、と鼻息を荒くして興奮したアリアが湯船から立ち上がり露天風呂の方へと進んでいった。

シノも顔を赤くしながらももう一度覗きに行く。

スズはどうすべきか迷ったが、結局は彼女も顔を赤らめつつ後についていくのであった。

しかし三人とも露天風呂に入るわけではない。

こそこそと岩影から風呂の方を覗き見る。

そこには一人分の影。

どうやら津田一人らしく、他の人はいる様子がなかった。

特にアリアが想像していたようないけないことをしている様子はない。

そのことでちょっと残念に思いつつも、覗きをしているという背徳感に動悸が高鳴る。

見れば、津田はいけないナニをしているわけではない代わりに一人で変なことをしていた。

湯につかるでもなく、全身を外気にさらされながら仁王立ちしていた。

 

「コォオオオオオオオ……」

 

何やら深く息を吐き出し、全身に力をめぐらせているように見える。

三人にちょうど背中を向けているために、背中の筋肉が呼吸にあわせて引き締まっていくのがわかる。

尻の筋肉もくっきりと形を浮き上がらせ、そのいでたちは武道家の修行風景を思わせた。

 

「ゴクリ……」

 

小さく聞こえてきた息を飲む音は一体誰のものだったのか。

昼間の水着姿と腰回り以外は露出度は変わらない。

だというのに、この雰囲気の違いはなんだというのか。

 

(津田のやつ、なかなかにいい尻をしているな)

 

(ええ、そうね)

 

(…………)

 

彼等の前で、津田が少しづつ構えを取り出した。

膝を曲げ、重心を落とし左足を半歩前に出す。

右手を腰だめに引き絞り、それに添えるようにして左手を構える。

 

「ハァ!!」

 

次の瞬間、気迫とともに腰だめに構えていた両手を前に突き出す。

どう見てもかめは○波の動きだった。

 

「ハァアアアア……やっぱり漫画みたいにかめ○め波は無理か」

 

深いため息をつく津田。

なんてことはない。

修行などでは一切なく、彼は単に周囲に人がいないのをいいことに遊んでいるだけであった。

ちなみに一連の動作の中、絶妙なアングルのおかげで一度たりとも女性陣に息子を見られることはなかった。

 

「見なかったことにしようか」

 

「そうですね」

 

「あぁ~ん、もう少しで見えそうなのに~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【畑から見れば】

 

風呂上りにはち合わせた津田とシノ。

身体から湯気をあげつつ、いい湯だったと談笑しながら部屋に向かう。

 

「いい湯でしたね~、会長」

 

「コラ、ここでのわれわれの立場を忘れるな」

 

姉と弟ということいなっているのだから畏まって話しては駄目だ、と指摘する。

ついいつも通りの調子で話しかけてしまった津田はしまったと思った。

今現在彼等は体歳をつくろうために姉弟ということになっているのを思い出したのだ。

 

「じゃあやりなおしで」

 

「うむ」

 

会話を一から仕切りなおすことにした二人。

 

「いやぁ、いい湯だったねぇ姉ちゃん」

 

「そうだな、今度は一緒に混浴でもするか」

 

「「あっはっはっはっは」」

 

精一杯、思い描く仲睦マジい姉弟を演じる二人。

彼等のことを知らない人間が見れば、年頃なのに仲のいい姉と弟だと思うかもしれない。

しかしそれは大前提として、彼等のことを知らないということがある。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

彼等の進行方向、廊下の中央にこちらを見つめる一人の人物。

我らが桜才学園新聞部の部長、畑ランコであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【スキャンダラス】

 

「私は新聞部の合宿でここを訪れているのですが……」

 

まさか姉萌えプレイをする仲だったとは、とちょっと驚き気味の畑。

 

「あ、いや……これは……」

 

何か弁解しようと試みるも、そんなことはあまり意味がないことを知っている津田とシノ。

畑ランコ、彼女の特技は張り込みと記事の捏造である。

 

「安心してください。私は口が堅いですから」

 

「黙っててもらえるんですか?」

 

「ええ、記事にするまでは情報は漏らさない!! マスメディアとして当然です!!」

 

「バらす気満々だな」

 

これはいい記事のネタを手に入れた、と無表情ながらもどこかホクホク顔の畑。

その彼女に困惑する二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【口止め】

 

無駄ではないかと思いつつも、記事にしないようにと事情を説明して説得する津田とシノ。

成程、事情は理解しました、と頷く畑。

 

「ですが、あなたがたが男女で同じ部屋に寝泊まりしているのもまた事実」

 

捏造はなしにしてもその事実は記事にするつもりだと話す。

 

「そこをなんとか記事にするのを止めてもらえませんか?」

 

「ふむ……では取引と行きましょう」

 

「取引か?」

 

「ええ、先ほど津田君が会長を姉と呼んでいたように、私のことも呼んでみてもらえませんか?」

 

「畑さんをですか?」

 

「ええ、姉萌えプレイがどのような感覚を与えるかという実験です」

 

「プレイというわけではないのだがな……まぁいい。

 それで満足するのなら、津田、畑のことをお姉ちゃんと呼んでやれ」

 

「はぁ、わかりました……お姉ちゃん」

 

「ほほぅ?」

 

姉と呼ばれちょっとゾクゾクときた畑。

しかしこれくらいでは特に面白いとは思わない。

 

「もっと別の呼び方をしてみてはもらえませんか」

 

「畑姉ちゃん?」

 

「……何か違いますね」

 

「ランコ姉ちゃん」

 

「違いますね」

 

「ランコ姉さん」

 

「違う」

 

姉御、アネキ、お姉ちゃん、オネエ、ラン姉ちゃん、畑ネエ、ランコ姉、姉々、etc・・・

いろいろと呼び方を変えてみるも畑がしっくりくるものがない。

 

「ええい、お姉さま!!」

 

「!?」

 

津田が彼女をお姉さまと呼んだ時、彼女の背中がびりびりと快感で震えた。

 

「お姉さま……お姉さま……そう、それです。その響き。

 成程、これが姉萌えプレイですか」

 

何か畑の中でぴたりとはまったらしく、満足そうにうなずく彼女。

 

「津田君、もう一度読んでみてもらえますか?」

 

「……お姉さま?」

 

「!? くっ……くふ、くふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふ」

 

何が面白いのか、無表情で静かに笑う彼女はちょっと不気味だった。

 

「いいでしょう、今回のこの件については私は記事にしないことを誓いましょう」

 

記事にしないと約束して、満足げに立ち去る畑。

何が彼女を満足させたのかはわからないが、とりあえずは助かった生徒会であった。

 

 

 



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二十一人目

 

 

【タヌキ】

 

前回に続いて旅館にいる生徒会役員共。

それまで雑談に興じていたが夜も更けてきたのでそろそろ就寝とすることにした。

 

「ではそろそろ床につくとしようか」

 

「そうね」

 

シノの提案にアリアが同意する。

 

「じゃあ津田、あんたは少し離れて寝なさい」

 

「え? うん、わかった」

 

スズの命令に素直に従おうとする津田を見て、シノが声をかけた。

どうやら津田を必要以上に疑おうとすることをどうかと思ったらしい。

 

「そんなことしなくても私たちは津田を信用しているぞ」

 

「そうだよ」

 

「津田が信用できるんですか?……まぁ、それは別にいいんですけど。

 ……それよりも私はいつのまにか津田の横を陣取ってかつ服を脱いでるっぽいこの人が信用できません。」

 

「ぎく」

 

同じ部屋の中でいかがわしいことされてたまるかと吐き捨てるスズ。

彼女の言葉に根息を立てていたはずの横島先生の体が反応した。

 

「横島先生、そこは私が」

 

結局津田の隣にはシノが寝ることになった。

ちなみに先生は布団ごと丸められス巻きにされ、部屋の隅に放置された。

しばらく「むーむー」と何かを言いながら暴れていたが、数分後には何故か「ハァハァ」と興奮していた。

どうやら放置プレイに興奮したようである。

どこまでも残念な横島先生であった。

 

 

 

 

 

【寝ぼけま○こ】

 

「……すーすー……」

 

「……zzz……」

 

「……ハァハァ……」

 

「……くー……」

 

「……んん……」

 

明かりが消され、寝息が静かに聞こえる部屋。

生徒会の面々は誰もいびきをかくような人間はいないようだ。

そんな中、寝相を乱して目を覚ましたシノ。

自分の格好を見れば腕をのばして大の字のようにしてしまっている。

どうやら枕もどこかに追いやってしまったようだ。

 

(いかん……私としたことが寝相を乱してしまった)

 

寝起きで視界がぼやけながらも体を起こし、枕がないことに気付く。

 

(枕、まくら……)

 

眠気のせいであききらない目で首を動かしながら枕を探す。

その視界に丁度枕の高さに会う場所を発見した。

 

(ああ、そこか……)

 

彼女は寝ぼけながらその枕と認識した場所に移動してそのまま首を預けて寝てしまった。

丁度近くにあって人肌のぬくもりのする物体に抱きつくようにして安心して夢へと落ちていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

【これは夢?】

 

「んん……?」

 

津田は寝苦しさに目を覚ました。

なんだか無性に暑苦しく、なんだか胸のあたりがムズムズするのだ。

眼を開けてみれば、津田の伸ばした右腕にシノの顔が乗っかっていた。

丁度腕枕の体勢で幸せそうに眠るシノ。

しかも彼女は津田の体を抱き枕のようにして抱きついている。

さらにはだけた彼の浴衣に手を突っ込み、津田の乳首をこねくりまわしていた。

 

「……うぇ?」

 

一瞬なんだこの状態は、と自分の目を疑った。

しかし考えてみればあのシノがこんな自分を誘うような真似をするはずがない。

すると寝ぼけているのかとも考えたが、まさかあの完璧超人であるシノに限って……と思った。

では目の前の彼女はなんなのだろう。

 

「ああ、寝ぼけてるのは俺の方か」

 

これは夢だ。そうに違いない。

寝ぼけているのはシノではなく津田であって、このシノは彼の夢の産物なのだろうと判断する。

その間にも乳首をこねくり回され、興奮して息を荒くさせてしまう津田。

段々乳首が勃起し始めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【これも夢?】

 

これはあれか、据え前というやつか?

どうせ夢なんだから何をしてもいいのだろうか?

いや、いいに決まっている。

隣からはシノの髪から漂うシャンプーの甘い香りが漂っている。

リアルだなぁ……と思いつつ興奮して下半身まで勃起させる津田。

心なしか布団の中もものすごく暑い。

今すぐ布団を剥いで隣のシノに覆いかぶさりたい衝動に駆られた。

身をそらしてシノに左腕を伸ばそうとした……その時。

 

「……?」

 

ふとあることに気づいた。

隣のシノにばかり意識が行っていたが、なんだか腰から下が重く感じるのである。

それに動こうとすれば何かが上に乗っかっているかのようで動きを阻害される。

布団の中も、下半身が充血しているだけとは思えないほどに熱い。

見れば布団が自身のいちもつ以上に膨れ上がっている。

まるでもう一人布団の中に人がいるかのように。

何となく左手で掛け布団を剥いでみた。

 

「……!?」

 

「……zzz……」

 

そこには、彼の下半身に覆いかぶさるようにしてアリアがしがみついて寝ていた。

しかもちょうど股間の位置に彼女の顔があり、息子に布ごしに寝息を吹きかけられている状態。

これは熱くて当たり前である。

 

「えっ……ちょ、何この状態?」

 

さすがの彼も意識がはっきりしだした。

これ夢? 本当に夢?

しかし鼻を刺激するシノの甘い香り、乳首をこねくり回す指の感触。

股間に感じるアリアの吐息、太ももに感じる彼女の豊満で柔らかな肉感。

そのすべてがこれが現実なのだと訴えていた。

 

 

 

 

 

 

 

【第一声】

 

さすがにこのまま据え前なんとやらでいたしちゃうのは気が引けた津田。

彼女たちは就寝前に自分のことを信じると言ってくれたのだ。

このまま手を出すのはなんだか罪悪感を感じる。

 

「あの、会長……」

 

よって、津田は彼女たちを起こすことにした。

とりあえず手始めに横にいるシノに声をかける。

 

「んん……?」

 

その声に乳首をこねくり回すのをやめ、目をこすりながら目覚めるシノ。

彼女の視界一杯には津田の顔が映っていた。

頬の下には筋肉質な腕の感触。

視界には津田の顔。

鼻に感じる臭いは男性の寝汗の臭い。

自分が今現在津田に抱きつく形で腕枕されていることに気が付いたシノは一瞬で目が覚めた。

 

「……っ!?」

 

一瞬で顔が真っ赤に染まる。

しかし電気の消えた夜の部屋ではその色の変化まではわからなかった。

それでも彼女のうろたえている様子はよくわかる。

 

「き、近親相姦はいけないぞ!?」

 

「その設定まだ生きてたんですか?」

 

津田から離れ、胸の前でバッテンを作って叫ぶシノ。

彼としては第一声がそれかぁ、と思いつつシノでもこういう失敗をするんだなぁと親近感が湧いていた。

親近感である。近親姦ではない。読みは似ているが違いますよ? 念のため。

 

「んん~~~~……な~に~……」

 

シノの叫び声で目を覚ましたらしいアリアが顔を上げる。

津田の股間は彼女の涎でほのかに湿っていた。

アリアの存在を認識したシノは、さらに驚愕の表情を作り絶叫する。

 

「しかも3Pか!?」

 

 

 

 

 

 

【快楽タイム】

 

朝が来て目を覚ます生徒会の面々。

着々と身支度を整えて帰る準備をしようとしている女性陣に対し、津田はまだ布団にもぐっていた。

 

「津田!! 君もそろそろ起きないか!」

 

「うーん……あと5分。zzz……」

 

未だに布団から出てこないで寝の体勢の津田に説教をするシノ。

しかし津田は起きることを拒んで出てこようとしない。

 

「往生際が悪い、5分で何ができる!!」

 

「朝立ちの処理」

 

「なら仕方ない」

 

「朝から嫌な会話するな」

 

津田を前にそんな会話をする先輩たちに頭痛がするスズであった。

このままでは埒があかないと判断したスズは、津田を強制的に起こすことにした。

彼の布団に手をかけ、無理やり引っぺがす。

 

「ほら津田、さっさと起き……!?」

 

「……zzz……」

 

「おお!?」

 

「まぁ!?」

 

掛け布団を引っぺがしたスズ、それを傍観していたシノとアリアが目にしたもの。

それは未だに睡魔に勝てず寝息を立てている津田。

その彼の下半身、浴衣とトランクスでは抑えきれずに顔を出した生理現象。

朝日の光を浴びて屹立する男性だった。

 

「……zzz……」

 

「これは……立派な」

 

「凄く……大きいのねぇ」

 

「…………」

 

顔を真っ赤にして見入る先輩二人の隣で、スズは思考が停止して固まっていた。

津田はそんなことも知らずに未だ寝息を立てるのだった。

 

横島先生がトイレから戻ってくるまであと40秒。

それまでにスズが意識を復活させるか津田が起きるか。

それは想像にお任せしよう。

 

 



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二十二人目

 

【新競技】

 

二学期も始まった桜才学園。

その生徒会室では、来月に行われる体育祭についての会議が行われていた。

 

「今日の議題は来月に迫った体育祭についてだが……

 共学化して初めての体育祭だ。何か新しいことができるといいのだがな」

 

何かいい案はないか?と役員達に尋ねるシノ。

各々妙案を思い描こうと思案顔をする。

 

「そうなると競技ですよね。

 リレー、借り物競走、玉入れ……」

 

「君は何を言ってるんだ?」

 

津田のつぶやいた言葉に、シノが不思議そうな顔をして疑問をあげる。

逆に津田やスズ、アリアは解らない顔をしていた。

 

「え?」

 

「会長知らないんですか? 玉入れ」

 

「入れるのは玉じゃなくて竿だろ?」

 

スズの問いかけにちょっと頬を赤く染めて応えるシノ。

 

「せっかく珍しく津田がまともに考えていたのに」

 

あんたがそういう流れに持ってってどうするんだ。

呆れかえるスズの隣で、あぁ!と理解をしたように手を打つアリア。

 

「シノちゃんは津田君の竿を入れたいのね?」

 

「そうなんですか!?」

 

「いや、違うぞ?これは単なる冗談……なんで脱ぐ!?」

 

津田は嬉しそうにズボンを下ろそうとベルトを外す。

うふふと笑うアリアと一緒にシノににじり寄った。

 

「や、違うんだ!……悪かったから! な?」

 

「もうシノちゃんったら、遠慮しなくてもいいのに」

 

「遠慮じゃなくて!? だ、駄目だ津田!!……まだ駄目―――――!?」

 

「がふっ!?」

 

シノににじり寄ってからかう二人を止めたのは、やっぱりスズによる津田の股間への蹴りだった。

 

 

 

 

 

 

 

【天然お嬢さん】

 

「じゃあ参考までに去年行った競技名書いていくねー」

 

何事もなかったかのように、ホワイトボードに記入していくアリア。

シノもスズも津田を無視して椅子に座り、真面目そうな顔をしている。

その後ろでは津田が壁に手をついて腰をトントンと叩いていた。

彼等にとってはこの程度、日常茶飯事である。

 

「アリア、誤字があるぞ」

 

「え?」

 

どれだろう?と自分が書きだした内容を上から確認してみる。

・玉入れGOLD

・あいつのアレを奪い取れ騎馬戦

・障害があるほど燃え上がる恋のようだね競争

・ドキ!くんずほぐれつ女子校生だらけの組体操

・あなたの彼氏貸してください!借り物競走

・私のハートを受け取って!クラス対抗リレー

・あの子を出し抜く100m走

・パンツじゃないよ、パンを食べる競争だよ

・etc…

 

「あっ、間違えた。正解はこっちかー」

 

失敗失敗、と笑って女子校生の校を消して高に書き換える。

 

「うっかり屋だなアリアは」

 

「わざとじゃないですよね? ていうか本当にそんな競技名だったんんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【へろへろ】

 

まだまだ会議中の生徒会室。

ちょっと疑問なんですが、とスズが手をあげた。

 

「何だ萩村? 何か気になったのか?」

 

「男子がいるクラスといないクラスで戦力に差がでませんかね?」

 

女子と男子では基礎体力も違うでしょうし、と話す。

 

「一理あるな」

 

「綱引きとか力を使う競技は特にねー」

 

ふぅむ、と悩む生徒会の面々。

この学園はまだ一年生にしか男子はいない。

しかもその数は圧倒的に少ないせいで、男子の数がクラスごとで釣り合わないのだ。

 

「よし、ハンデをつけるか」

 

「例えば?」

 

津田の問いにしたり顔でシノは答えた。

 

「男子は前日に限界まで自家発電を……」

 

「それじゃ徹夜になっちゃうよ」

 

「あらあら、津田君ったら絶倫さんね!」

 

「あんたらもーちょっと真面目に考えようや」

 

 

 

 

 

 

 

【先駆者】

 

「こういうのはどうでしょう?」

 

そう言って津田が話す内容は、男子に競技の参加出場回数に関する制限を設けるということだった。

なかなかの理にかなっている案に皆が同意する。

 

「あんたが楽したいだけじゃないの?」

 

ただ、スズは津田がいい案を出したことにちょっと悔しそうだったが。

でも彼女も特に反対しているわけではない。

 

「うむ、新しい観点を得るために君をスカウトしたのは正解だった。

 今後も新しい桜才のパイオツマニアとして期待しているぞ!」

 

親指を立てて決めてみせるシノ。

だがその内容は残念なものに聞こえた。

 

「パイオツマニア?……何言ってるんですか会長」

 

どうしてそこでそんな単語が出てくるんだと呆れるスズ。

脈絡ないにもほどがあるだろう。

 

「……パイオニアを噛んでしまった」

 

「器用に噛みましたね。…まぁ確かにおっぱいは好きですけど。

 でも俺は女の子の髪もうなじも手も足も腰つきもすべてが好きです」

 

「お前も何言ってるんだ津田……」

 

 

 

 

 

 

 

 

【受験生です】

 

その夜、津田の家にて。

コンコンと部屋の扉がノックされる音がした。

 

「どうぞー」

 

部屋で漫画を読んでいた津田は、枕の下に瞬時にその漫画を隠す。

まぁ、なんだ。ちょっと18歳未満には適しない本だった。

 

「タカ兄ー、勉強教えてー」

 

扉から顔をのぞかせたのは妹のコトミであった。

その頭部には矢が刺さっており、ぼろぼろの甲冑を着込んでいた。

全部コトミの手作りである。彼女は一応受験生であった。

 

「何?」

 

「英語ー」

 

いつものごとくスルーする津田に、いつも通りスルーされても平然としているコトミ。

甲冑の下に履いているスカートに手をつっこんで教科書を取り出してみせる。

その本はEnglishⅢと書かれている。

しかしその表紙に描かれている外国人のイラストは真っ赤な絵の具に塗りつぶされていた。

 

「お前、教科書が血糊でべったりじゃないか。もっと大事に扱えよ!」

 

「てひひ、ごめん。

 でもそれ血糊じゃないよ?今ちょうど生理だからさー」

 

この兄妹にとってはこれが日常であった。

 

「お前英語苦手だなー、桜才の受験大丈夫か?」

 

「他の教科でカバーするさ!」

 

無問題モウマンターイ!と騒ぐコトミ。

そんな妹に本当に大丈夫かと溜息をはく兄であった。

 

「私って生粋の日本人なんだね、横文字とか難しすぎだよー。

 この前も授業でクリーニングのことクンニリングスって言っちゃったし」

 

「俺も中学の時はよく間違えたなぁ」

 

「あっ、そうなの?……そっかー、タカ兄もそうなんだー」

 

「なんで嬉しそうなんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

【初対面】

 

次の日の朝、津田家のチャイムが鳴った。

制服に着替えた津田が出てみると、そこに立っていたのはスズであった。

 

「あれ、萩村?どうしたの?」

 

「今日校門で制服チェックするでしょ。

 あんた以前遅刻したから迎えに来てやったわ」

 

感謝しなさいよね、と言うスズに津田は感動した。

 

「萩村が、俺のために……サンキュな!」

 

「べ、別に……生徒会の人間が後から遅れて来られたら締まらないのよ!

 それだけなんだからね!」

 

ちょっと赤くなって顔をそむけるスズに、ツンデレの定義を垣間見た津田であった。

そこへ、こんな朝早くに誰が来たのか気になったコトミがやってくる。

 

「タカ兄、誰ー?」

 

「!?」

 

玄関にやってきたコトミは、何故か裸の上に白いYシャツだけを着た格好であった。

ピンクの二つのぽっちが透けている。

 

「ああ萩村、紹介するよ。これ妹のコトミ」

 

なんてことないように普通に紹介を始める津田の様子から、彼女のこの格好はいつものことなのだろう。

やっぱりこいつと同じように家族も頭おかしいのかしら?と疑いをもつスズであった。

 

「タカ兄ってペド?」

 

明らかに子供扱いする、彼女に対して言ってはいけない言葉を口にするコトミ。

それにやはり彼女はぶちぎれた。

 

「せめてロリって言え!!」

 

「そっち!?」

 

「いいかぁ!? ペドってのはなぁ、正式にはペドフィリア!!

 アメリカの精神医学の診断基準での定義ではペドが性的対象とする年齢は13歳以下!!

 津田と私を見て、こいつをペドだって言うなら私は13歳以下ってことじゃない!!」

 

「……10歳くらいじゃないの?」

 

「キ――――――――――――――――――――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

【自己紹介3回目】

 

「私は萩村スズ! あんたより年上の16歳!

 しかもIQ180の帰国子女!! 英語ペラペラ!!

 10桁の暗算なんて朝飯前!! どう、これでもまだ私を子供扱いする!!」

 

いかに自分がすごいかをまくしたてるスズ。

しかし低い身長に、今はさらに玄関の下にいるので段差のせいで余計に小さく見える。

だからどうしてもコトミには、彼女が高校生には見えなかった。

 

「そういう夢を見たの?」

 

「現実だー!!」

 

「そうだぞコトミ、萩村は色気ある大人の女だ」

 

「そうよ、もっと言ってやりなさい津田」

 

思わぬ援護射撃に自信気に胸を張るスズ。

しかし津田のいうことはなんというか、ずれたものであった。

 

「萩村の脚線美はな、生徒会一なんだぞ!!」

 

「わー、本当だ―。凄い綺麗な足してるー」

 

いつのまにか、コトミがスズの隣にしゃがみこんでスカートを大きくめくりあげていた。

黒タイツに包まれた彼女の下半身が露わにされ、タイツの下のうさぎさんが透けて見えていた。

 

「朝っぱらから何すんじゃー!?」

 

「なんで俺ぶほぁ!?」

 

しっかりと目に焼き付けていた津田は、朝から彼女のコークスクリューパンチを腹に喰らって屑折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【もっとある】

 

とある日の生徒会室。

今日は特に会議でもなく、それぞれ集まってふり当てられた仕事をこなしていた。

その丁度休憩時間。

アリアがシノにちょっとした遊びをしかけた。

 

「シノちゃん、雌犬って10回言ってみて」

 

「む?」

 

なるほど、引っかけ問題か。懐かしいな。

小学生の時にはよくやっていたと昔を懐かしみながら、彼女はアリアの誘いに乗ることにした。

 

「雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌いにっ!?……噛んでしまった。

 もう一度、雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬……」

 

指を数えながら、途中噛んでしまったものの言い切るシノ。

 

「雌犬の乳首の数は?」

 

「二つ」

 

「……」

 

同じく休憩中だったスズは、突っ込むのも面倒だったので無視して仕事を一人再開した。

 

「はっ!? 図ったな!?」

 

 

 

 

 

 

 

【試してみた】

 

その時、津田がトイレから帰ってきた。

彼を見てシノの瞳が怪しく光る。それは獲物をとらえた眼であった。

自分が引っ掛かってしまったこの難問を、こいつにも試してやろうと思ったのだ。

 

「なぁ津田、ちょっといいか?」

 

「はい? 何です?」

 

「雌犬って10回言ってみてくれ」

 

「いいですよ。雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬雌犬……でいいんですかね?」

 

「うむ。それでは雌犬の乳首の数は?」

 

「えーっと……あれ? 犬って乳首いくつなんでしょう? 6つ? 8つ?」

 

すくなくとも人間よりずっと多いですよね? と返す津田。

その言葉に考え顔をするアリア。

結局最初に問題を振ってきた彼女も知らなかったのだ。

 

「……プッ」

 

引っかけようとして引っかからなかった津田に愕然とするシノ。

その彼女の顔を見て思わず拭いてしまうスズであった。

 

「くそ―――!! 津田の癖に―――!!」

 

「あっ、ちょっ、会長!? どこ行くんですか会長―――!!」

 

最近他人にいたずらをしようと目論んだりしても、上手くいかない会長であった。

 

 

 

 

 

 

【そして天然】

 

生徒会の書記を務める七条アリア。

彼女はいいとこのお嬢様である。

 

「華道以外にも何かやってるんですか?」

 

彼女は確かいろいろと習い事をしていると言っていたことを思い出した津田。

特に用事もない時になんとなく聞いてみた。

 

「うん。お茶にお琴に、あと書道」

 

「へー、凄いですね。なんか正に大和撫子になるための修行って感じです」

 

「ふふ、そうかな。

 でもあんまり日常では習い事で習うことってあんまり使わないんだよ?」

 

そう言いつつ照れる彼女だったが、満更でもなさそうである。

飾り付けの花を変えようと思って持っていた花瓶を机に置いた。

 

「そんなことないでしょう?

 それに、書道って書記にはぴったりじゃないですか。」

 

「うん。書道を習って字も綺麗に書けるようになったし、私も書道は好きなんだ。

 今ちょうど作品あるんだけど見てくれる?」

 

花瓶を置いた彼女は、自分の鞄を手に取るとごそごそと目的の物を探す。

やがて白い折りたたまれた一枚の和紙を取り出した。

それを津田の前で開いて見せる。

達筆な文字で書かれているのは【妻妾同衾】という言葉。

 

「やっぱり皆仲良くできるのって素敵だよねぇ」

 

「そうですね」

 

わー、生々しい。

確かにそれは妻と妾が仲良くないとできないだろうが、何か違う気がする津田であった。

でもそう思いつつそんな指摘はしない。その方が面白いから。

だから彼は精一杯のさわやかな微笑みを彼女に向けるのであった。

 

 

 



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二十三人目

 

 

【再び目安箱】

 

生徒会室前に設置されている目安箱。

設置当初はいろいろな生徒の要望が入っていたが、さすがに二学期にもなると利用者がかなり減っていた。

 

「最近これあんまり使われてないんですよね。

 先生も何か不満とかあったら書いてくださいよ」

 

「ん? 教師の私でもいいのか?」

 

横島先生は津田の提案にどうしたものかと、尋ねるような視線をシノに向ける。

その視線の意図を理解したシノは特に反対することもなかった。

 

「良いんじゃないですか? 別に不満をもっているのは生徒だけでもないでしょう。

 他の教師の方々にも声をかけておいてください」

 

「そうね、私達もクラスのみんなに声かけして意見を出してもらいましょう」

 

「それがいいですね」

 

最近めっきり使われなくなった目安箱の現状を憂い、話し合った結果、

今一度周囲に不満や要望があれば投書するように呼びかけることが決まった。

前回は生徒の意見のみであったが、今回は横島先生の協力のもとに教師の意見も加わることとなった。

 

 

 

 

 

【数日後、開封してみた】

 

それから数日後の生徒会室。

今日はあれから投書された目安箱の中身を開けて確かめてみることになっている。

 

「ふむ、なかなか多くの意見が寄せられているようだな」

 

ではさっそく……と目安箱をひっくり返して中身を机の上にぶちまけるシノ。

箱唯一の穴である※の落書きをされた場所からいくつも紙が飛び出してきた。

 

「……ちょっと卑猥だなこれ」

 

「落書きした張本人が言うな」

 

なんだかちょっと嬉しそうなシノにスズが突っ込む。

本当、なんでこんな落書きしたんだったか、今となってはどうでもいいことだが。

箱の中にはたくさんの折りたたまれた紙が入っており、たくさんの意見が寄せられているのがわかる。

その中の中身を一枚、津田が無造作に手にとって開いて見せた。

 

「え~、なになに?……ペンネーム・おまるこさんからの意見。

 【最近好きな人が出来たのですが、どうやって彼をゲットすればいいのかわかりません。

  どうしたらいいでしょうか?】だって」

 

「知るか」

 

「なんだペンネームって、ラジオ番組かなんかのつもりか?」

 

「おまるこさんって、まるを○に変えると大変ね」

 

かなりどうでもいい内容に一言で切ってすてるスズ。

対照的にシノとアリアは少し興味を持ったようではあるが、やっぱりどうでもいいことなので次に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

【2枚目】

 

 

「えーっと、次!……最近不満なもの=欲求」

 

「……直球だな」

 

「誰だこんなふざけた内容書いたのは?」

 

「匿名だからわかりませんね」

 

「あらあら……」

 

あまりに直球すぎる内容に、どう対応すべきか悩む。

津田としては内容に関しては大いに賛成できるのだが……

いや、津田に限らずシノもアリアも若い性衝動を持て余すことは多々あるが、

知りたかったのはそういう不満ではない。

この場合、聞きたかった意見というのは学園の改善案に役立つ意見なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【どんどんいこう】

 

最初からふざけたような内容の意見だったが、気を取り直して次の確認を行うことにした。

さっきまでは津田が引いていたので、今度はシノが適当に見つくろって手にとって見た。

きっと常に欲求が不満気味な津田が引くからこのような意見を引き当てるのだろう。

そう思って手に取った紙を広げる。

 

「え~と……不満→欲求………」

 

「またですか?」

 

「あらあら……」

 

その内容も、先ほどと同じものであった。

呆れかえるスズであったが、もしや同一人物がいたずらで同じ内容を書いたのかと疑った。

しかし先ほどの物と今の物を見比べてみるが筆跡は明らかに別人である。

 

「まぁまぁ、思春期だしね。高校生なんだからしょうがないんじゃないか?」

 

眉間にしわの寄るスズをなだめる津田だったが、彼が言うともの凄く説得力を感じるスズであった。

主に思春期というところにである。

まぁ、彼を思春期というほぼ高校生全員にあてはまる言葉でカテゴライズしていいものかどうかは判断に迷うが。

二度あることは三度あるとも言うし、これは必然だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

【改善要望】

 

さすがに次は違うだろうとシノはもう一枚手にとって開いてみた。

 

「次だ次!……女子の体操服をブルマ指定に戻してください」

 

「却下ですね」

 

速攻で否を唱えるスズ。

しかし今回は津田がそれに意見した。

 

「ちょっと待って! いいじゃないですかブルマ! 俺は賛成です!!」

 

「おぉう!? いつになく目が輝いているな津田……」

 

「あらあら……」

 

「……」

 

椅子から立ちあがり、拳を握って力強く発言する津田にさすがのシノもちょっと引いた。

アリアは特に困った様子もないが、スズは無言で津田をゴミを見るような眼で見ている。

 

 

 

 

 

 

【下に履くもの】

 

ぜひ女生徒の体操服は指定をブルマにすべきだと熱く語る津田。

 

「赤ブルマもいいけどやっぱりここは定番の紺がいいと思うんですよ!!

 そんで上着をブルマの中に入れることを校則とすべきです!!」

 

「キモい」

 

顔を紅潮させて熱弁する津田を、軽蔑した目で見るスズ。

しかしその視線になんだか興奮しちゃってさらに頬を染めてテンションがあがる津田であった。

まさに悪循環である。

 

「確かにブルマはすばらしいものであると私も思うが……」

 

「思わないでください」

 

「……しかし今は男女平等の時代だ。

 女性だけあんな露出の多い恰好は嫌がる子も多いのではないか?」

 

珍しく正論を口にするシノ。

その隣でアリアは何かを真剣に考えていた。

 

「確かに不平等化もしれませんが、これも美の追求のためです」

 

美じゃなくてエロスへの追求だろ、と心の中で突っ込むスズであった。

今の彼に話しかけるのはなんだか気持悪いのであえて口にはしなかったが。

そこでいままで黙っていたアリアが何かいい案を閃いたらしい。

 

「そうだ。 女子だけブルマだから不平等なのよ! 

 男子も下はブルマにすればいいんだわ!!」

 

「成程、それは盲点だったな!! さすがアリアだ」

 

いいこと思いついたと言わんばかりに発言するアリアに、シノが同意する。

しかし津田はリアルに男のブルマ姿を想像してしまった。

 

「……やっぱりブルマは諦めます」

 

「……賢明な判断ね」

 

 

 

 

 

 

 

【改善要求その2】

 

津田に続き、シノが引き当てるものも大概変なものであった。

そのために次にチャレンジするのはアリアである。

彼女は自分に一番近い紙を指で掴み広げてみせた。

 

「これは……購買部にコンド○ムの入荷希望だって」

 

それは購買部に商品に関する改善要求。

しかし、希望する商品が非常にあれなものだった。

 

「おい、そいつ校内で不純異性交遊する気満々じゃないか?」

 

「却下で」

 

そもそもこの学園は校内恋愛を禁止している。

普通に考えて恋愛の先にあるであろう不純異性交遊ももちろん禁止である。

というかコンドー○を購買で売っている高校など聞いたこともない。

 

「でもシノちゃん……この人は不純同性交遊かもしれないよ?」

 

「同性?……BLか!?」

 

「ありえねーよ」

 

 

 

 

 

 

【集計結果】

 

全ての投書を確認し、集計してみた。

その結果は下の通り。

 

・欲求が不満であるという意見 27票(内1票は横島先生らしき筆跡)

・ブルマ希望 3票

・コンドームの入荷希望 1票

・ブルマが駄目ならスパッツ希望 6票

・彼氏or彼女が欲しい、どうにかしてくれ 31票

・結婚してください 2票

・七条先輩のブラをください 1票

・会長に罵ってもらいたい 2票

・もっと部の予算を増やしてほしい 1票

 

集計結果に愕然とする生徒会役員共であった。

この学園にはこのての人間しかいないのだろうか?と頭が痛くなるスズ。

 

「というか名指しでこんな意見出されてもなぁ……」

 

「困っちゃうよねぇ」

 

特に名指しで変な願いをされているシノとアリアは困惑気味だ。

そもそもまともそうな意見が部の予算を増やすという1票しかないのはどういうことか。

 

「……てか、この紙って七条先輩の字ですよね?」

 

津田がそう言って手に取った紙には筆を使って書かれた達筆な文字で『性欲』と書かれていた。

 

「あらあらうふふ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【無人ノック】

 

二学期も始まって2週目に突入した桜才学園。

その生徒会室で役員共が集まっている中、入口の扉がこんこんとノックされた。

 

「ハーイ……あれ?」

 

津田が返事をして扉を開けるが、そこには誰の姿もなかった。

確かに誰かがノックしたはずだがどういうことだろう?と首を傾げる。

そんな彼の態度にどうしたのかとシノが話しかけた。

 

「どうした津田、誰か来たんじゃないのか?」

 

「いえ、それが……確かにノックはされたんですけど誰もいないんです。

 誰か女の子の気配は残っているんですけど……感覚からして金髪でちょっと気の強い感じの人だと思います」

 

「なんでそんなこと解るんだ」

 

金髪で気が強いと聞いて、何となくシノがスズを見やる。

 

「私じゃないですよ。というか部屋の中にいる私には無理に決まってるじゃないですか」

 

「ふむ、それはそうだ」

 

その時再び扉がノックされる音が聞こえた。

今度はアリアが返事をして扉を開ける。

 

「ハーイ」

 

「失礼します」

 

扉を開けたそこには、金髪の凛とした表情の女生徒がいた。

てっきりまた誰もいないと思ったのに、これは一体どういうことか。

 

「あれぇ?」

 

さっきはなんでいなかったのだろうと首を傾げる津田であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【正しい接客?】

 

彼女の名前は五十嵐カエデ。

二年生の女子生徒で風紀委員長を担当している人である。

その容姿は津田が感じ取っていた通り金髪で、2本のおさげを作って背中に垂らしていた。

眼は意思の強そうな凛としたものであり、なかなかに気の強そうな雰囲気を醸し出している。

 

「立ち話もなんなので、椅子をどうぞ」

 

「ありがとう。座らせてもらうわね」

 

入口で立ったままの彼女に気を利かせたスズが、椅子を引いて座るように促した。

それに応じてシノの対面へと着席する五十嵐。

先を越されたと感じた津田は、即座に氷入りの麦茶を用意する。

 

「今日は暑いですからね、冷たいお茶どうぞ」

 

「あ、あ、ありがとう……きょ、きょ、今日は暑いものね……」

 

何故かプルプルと震えながら距離を保って礼を述べる五十嵐。

彼女はどこか津田を警戒しているようであった。

しかしその体の震えを別のものと解釈したアリアが、鞄からある物を取り出して五十嵐に見せる。

 

「ムラムラしちゃうものね。はい、ピンクロ○ター」

 

「いりません」

 

アリアが彼女に渡そうとしたもの。

それは掌の上でブブブブブ……と音を立てて振動するピンク色の物体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【へりくつともいう】

 

真剣な顔をしてシノと向かい合う五十嵐。

彼女は今日ここに来た本題を話し始めた。

 

「では本題に入ります。

 現在、生徒会にはある嫌疑がかけられています」

 

「何?」

 

嫌疑をかけられていると言われ、眉をひそめるシノ。

彼女は自分の行いに何らいかがわしいことはないと思っているので、この意見は寝耳に水である。

アリアも津田も少なからず驚きの表情をしている。

だが皆一様に驚く表情をしている中、スズは他の役員共を見て何かやらかしたのだろうと考えていた。

正確には津田を諦めた表情で見ていた。

 

「夏休み中あなた方が男女で外泊!! しかも同じ部屋で!!」

 

そう言って五十嵐が机に広げたのは数枚の写真だった。

 

「私も嫌疑に入ってたのね」

 

「海に行った時のだから全員だろうねぇ」

 

何気なく写真を眺める津田とスズ。

そこにはどうやって入手したのかと疑う写真がいくつもあった。

浴衣を着てアリアがトイレから出てくる写真。

同じ浴衣を着て牛乳を一気飲みしているスズの写真。

同じ浴衣を着て廊下を歩くシノと津田の写真。

津田が露天風呂でかめはめ波の練習をしている写真。

津田の腕枕で眠るシノの写真。

ス巻きにされて悦んでいる横島先生の写真。

寝ぼけて津田の布団の中にもぐりこもうとするアリアの写真。

幸せそうに眠るスズと、写真の奥で涎を垂らして悦に浸っている横島先生の写真。

浴衣を脱いで下着姿になっているスズの写真は、見つけた瞬間に彼女が跡形もなく葬り去った。

 

「こんなのどこで入手したんですか?」

 

津田の問いに、五十嵐は静かに自分の隣を指さした。

そこにはいつの間にいたのか、新聞部の畑ランコがちゃっかり椅子に座ってお茶を飲んでいる。

 

「畑さん!? 誤解をまねくから他人に話さないって約束したじゃないですか!?」

 

「あぁ……津田君、そんな畑さんなんて……他人行儀な呼び方をしないでくださいな」

 

津田が以前の約束を破ったのかと問いただすと、畑は声だけは悲しそう?に嘆いた。

相変わらずの無表情であったが、それが逆に声とのギャップで違和感絶大である。

 

「お姉様! 誰にもしゃべらないって約束してくれたじゃないですか!」

 

訂正して、畑をお姉様と呼んで問いただす津田。

その理由を知らないシノ以外の者は、何故にお姉様?と首をかしげていた。

 

「いや、言ってませんよ? ただ写真を見せただけですから。」

 

「さっすがお姉様!! 屁理屈が上手なんですね!そこに痺れる憧れるぅ!!」

 

「そこは褒める所じゃないぞ津田。

 あと畑もそんなトンチはいらんぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

【真面目な会話】

 

「生徒会長ともあろう人がこのような不埒な行為、見逃すわけにはいきません」

 

腕を組んで相手を詰問するかのように話す五十嵐。

その間に、いつの間にか畑は忍者のようにどこかへと消え去っていた。

だがそれについては畑だから、と誰も気にしている様子はない。

 

「というと?」

 

シノが彼女の話の先を促す。

 

「当然、解任という事態になりかねません」

 

「「「「…………!?」」」」

 

その言葉に衝撃を受ける生徒会役員達。

しかし当の本人であるシノにはいまいち上手く伝わっていなかったようだ。

 

「別に懐妊なんてしてないぞ?」

 

「やることやってませんもんねぇ」

 

「そうよねぇ」

 

訂正、シノだけでなく津田もアリアにも上手く伝わっていなかったようだ。

 

「は?」

 

「この人達基本変なので気にしないでください」

 

呆気にとられる五十嵐に、スズがフォローになっていないフォローをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【潔白の証明】

 

スズにちゃんと理解できるように説明を受けたシノは、改めて五十嵐と対峙する。

 

「そもそも、その件には大きな誤解がある。

 酒癖の悪い横島先生がかくかくしこしこ……」

 

「しかじかでしょ」

 

ついつい言い間違えたシノの言葉をスズが訂正しているころ、職員室で横島先生がくしゃみをしていた。

そのくしゃみで机の上のプリントが飛び、飛んできたプリントに驚いた科学の山田先生。

その山田先生が運んでいたコーヒーが近くに座っていた数学の広谷先生42歳男の後頭部にかかり火傷を負わせ、

突然襲いかかった熱に跳び上がった広谷先生が頭から前の席に座る社会の関口先生の巨乳の谷間に突っ込んだ。

関口先生は悲鳴をあげて広谷先生を突き飛ばし、突き飛ばされた彼は教頭先生に激突。

その衝撃で教頭先生のカツラが外れてしまい、彼のヅラ疑惑の真相が職員室中に知られてしまっていた。

……話を戻して生徒会室。

 

「そうだよ、不埒なんていいがかりだよ!」

 

ちょっと怒った様子でアリアが五十嵐に言う。

 

「しかしそれを証明できますか?」

 

だが向かい合う五十嵐も負けてはいない。

そもそも疑いがあるというだけで駄目なのである。

今回の嫌疑が間違っていると証明できないのであれば、それは即生徒会への不信につながるのだ。

こういう場合、事実の有無が分からない場合はたとえ無実であろうと疑いを持つのだ常である。

 

「証明?勿論できるよ!! ちゃんと全員膜あるから!!」

 

さぁトイレに行こうと息をまくアリア。

 

「「……」」

 

そういう証明方法なのかと無言になるシノとスズ。

 

「すみません。俺は男なので膜はないんですけど……

 俺の亀さんもまだ未使用のピンク色なんでよかったら見ます?」

 

ちょっと仲間外れで残念なような、むしろ嬉しいような複雑な表情で照れる津田。

 

「やっぱり証明しなくていいです」

 

五十嵐は即答だった。

 

 

 

 

 

 

 

【そっぽ】

 

 

「そ、そんなことせずとも私は洞察力に自信があるので

 嘘か真かは相手の目を見ればわかります」

 

腕を組んで言い切る五十嵐。

その言葉に前に出る挑戦者は津田であった。

この中で唯一の男である自分が行くべきであると判断したのだ。

男が自分しかいないのだから、自分の疑いが晴れればそれだけで生徒会への不純異性交遊の疑いは晴れる。

 

「望むところです。

 先輩達の言うとおり、俺たちは潔白ですよ!」

 

真剣な表情できりりと顔を作る津田。

しかし、五十嵐の前に立つもすぐに顔をそらされた。

 

「あれ?」

 

彼女の顔の前に回り込むも、再びそっぽを向かれる。

そのことに不思議そうな顔をする津田であったが、その答えをアリアが語った。

 

「言い忘れていたけど五十嵐さんて男性恐怖症なの」

 

「さっきから津田が避けられていたのはそれでだったんですね」

 

「フッ、なら一層、見られないわけにはいくまい!!」

 

これは自分への挑戦と受け取った津田。

彼は素早く五十嵐の視界へと移動した。

 

「ひっ!?」

 

慌てて首を動かして目を合わせまいとする五十嵐。

しかし彼女が視線を移動させた場所には既に津田が立っていた。

 

「ひぃぃ!?」

 

右を向いても、左を向いても、前も後も360度。

どこを見ても津田が先回りをしている。

なんで!?なんでどこを見ても彼がいるの!?……と混乱し始めた五十嵐。

咄嗟に天井を向くも、そこには天井に蜘蛛のようにへばりついた津田がいる。

 

「ハッハッハ!! これでも子供のころはNINJAを目指してましたからね!

 このくらいは朝飯前ですよ!」

 

「いやああああ!!」

 

光のような速さで移動する彼に、目をつぶって半泣きになる委員長。

むちゃくちゃに首を振るうが、彼女がいつ目を開けてもいいように津田も常に彼女の顔の正面に立とうとする。

いい加減五十嵐が可哀そうになってきたスズは、適当に前方を蹴り上げた。

 

「いい加減にしろ津田」

 

「ぐぼぅ!?………ぁぁぁぁ~……」

 

適当に蹴り上げたかのように見えた足は、高速で動きまわる津田の股間を正確にとらえた。

そのまま丁度開いていた窓に向かって吹っ飛び、彼は下へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

【スーパー紳士】

 

津田が窓から落ちて静かになった生徒会室。

正気に戻った五十嵐が、残ったメンバーと向かい合っていた。

 

「わかりました。あなたがたの言い分を信じましょう」

 

ただし……と忠告を付け加える。

だが肝心の忠告の対象をなる人物はここにはいなかった。

 

「今後、津田副会長が本当に女子に手を出すようなことがあれば、

 その時は覚悟しておいてくださいね」

 

「それはわかったが……それは津田本人に向かって言うべきではないか?」

 

シノの言葉ももっともであるが、男性恐怖症の委員長はその言葉にうっ……と詰まる。

 

「こ、この場に彼がいないのでは仕方無いでしょう?」

 

「いますよ?」

 

彼女の言葉に掃除用具入れから津田が出てきた。

 

「ひぃ!?」

 

「ややこしくなるからもう少しそこでおとなしくしてろ」

 

「ああ!?」

 

しかし津田が出てこようとしたのを発見したスズが、いち早く彼を掃除用具入れに押し込んで閉じ込めた。

ジェスチャーで話を先に進めるようにシノに合図を送る。

シノはスズのジェスチャーの意味を理解したのか、津田をスルーすることに決めた。

 

「まぁ津田には後で私の方から伝えておこう。

 しかしそんな警戒しなくても津田はそんなことしないぞ?」

 

「……そうでしょうか?」

 

「そうだ。津田は責めるよりも責められるほうが好きだからな。

 よく萩村に蹴られて悦んでるし」

 

「それに津田君の場合、出すなら手じゃなくて白濁液よね?」

 

「不届き者―――――!!」

 

五十嵐カエデは生徒会室から逃げ出した。

本人を無視して変態ということになってしまった津田。

しかしあながち間違いではないというところが、彼の駄目なところであった。

 

 

 

 



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二十四人目

 

 

私立桜才学園。

元は伝統ある女子高だったが近年の少子化の影響で今年から共学化。

その生徒数の比率・・・女子524人男子28人。

これはそこに入学して、かくかくしかじかな理由から生徒会に入ることになった少年と、

彼を取り巻く人間たちとの青春の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【若者の性が乱れる現代】

 

いつも通り生徒会室で作業をしていた役員達。

手を動かしながら、ちょっといた雑談に興じていた。

 

「この学校って、女子の比率が高いから落ちついてますよねー」

 

「そうか?」

 

津田の言葉にシノが首を傾げる。

彼女からしてみれば、別段落ち着いているというほどに大人しいイメージはないようだ。

 

「友達が行った男子校ではジャージ降ろしが流行ってるって」

 

「子供ねー」

 

津田の友人の学校の現状を聞いて、スズが呆れた声をあげる。

高校生にもなったジャージ降ろしとは。

それではスカートめくりをする小学生と大差ないではないか。

男子はいつまでたっても子供なのだと彼女は思った。

 

「ふむ。

 共学となった今、警戒する必要があるな」

 

シノが真剣な顔をして考える。

確かにジャージ降ろしは今のところないが、スカートめくりはあるかもしれない。

……いや、さすがにそれはないか。

スズもいくら賢いといえど、男子について詳しいわけではないので断言はできない。

でも共学という環境ではさすがにないだろうと考えた。

 

「筆おろしが流行るかもしれん」

 

「まぁ!」

 

「むしろ流行って欲しいですね」

 

「流行ってたまるか。いいからあんたら手を動かせ」

 

上手いこと言ったみたいなドヤ顔をするシノに、なんだか楽しそうなアリア。

鼻息あらく夢膨らます津田。

そんな彼等にいつも通りツッコミを入れるスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【見たままを伝えました】

 

昼休みの生徒会室。

津田がお茶を入れようと椅子から立ち上がった。

 

「津田、ズボンのボタンとれかけてるわよ」

 

「え?」

 

彼のズボンの後ろのポケット。

そこのボタンの糸がほつれてとれかけていたのをスズが見つけた。

津田は確認しようと身体をひねって見てみるも、体の裏側なので見えない。

尻に手を這わせてみると、なるほど、確かにボタンがとれかけている。

 

「縫ってあげるからじっとしてて」

 

「悪いね」

 

女の子らしく、ソーイングセットを持ち歩いているスズが助けてやることにした。

その場に立ったままの津田の背後にまわり、器用に糸と針を使ってボタンをつけなおしていく。

さすがに今履いているズボンを脱ぐわけにはいかない。

必然的にこういう格好になってしまったのだ。

その様子をほほえましい目でアリアは見つめていた。

食事を終えた彼女は、邪魔してはいけないと生徒会室を早めに出て教室に戻ることにした。

その帰り道。

 

「おおアリア」

 

「あらシノちゃん」

 

アリアが出くわしたのはシノであった。

 

「津田を見かけなかったか?」

 

教室にいなくてな、と語るシノ。

どうやら彼女は津田に用があるようであった。

だからアリアは正直に答えた。

 

「津田君なら生徒会室でスズちゃんに下の世話してもらってるよ?」

 

「なんと!!」

 

彼女なりに見たままを伝えた結果だった。

 

 

 

 

 

 

【彼女なりに見たままを伝えました】

 

次の日、アリアがトイレに行くために廊下を歩いていると津田とスズを見かけた。

二人はは廊下でたわいのない会話をしているようである。

その時スズは廊下の壁にもたれかかっている格好であった。

 

「なぁ萩村、そこの壁汚れてるっぽいんだけど……」

 

「え!?」

 

津田の指摘に驚いて壁から離れるも、すでに背中は汚れてしまっていた。

 

「うわ、気づかなかったわ」

 

「あらら、背中汚れちゃってるな」

 

「ほんと?」

 

「うん。ちょっとハタクからじっとしてて」

 

「悪いわね」

 

津田はスズの背中を痛くないように気遣いながらはたいた。

パンパンと軽い音がすると、壁についていた埃が落ちる。

二人とも仲良いなぁと、その様子を見ていたアリアは微笑ましく思った。

 

数分後。

トイレの入口で、昨日と同様に彼女はシノに出会った。

どうやら今度は昨日と違ってスズを探しているようである。

 

「おおアリア、ちょうど良い所に……

 萩村を探しているんだが知らないか?」

 

「スズちゃんなら、さっきそこの廊下で津田君に汚された体をきれいにしてもらってたよ?」

 

「ちょ!? どういうことだそれは!!」

 

正確には“汚された”ではなく“汚れた”である。

単純な言い間違いであるが、その言葉は大いにシノの中で勘違いを産んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【美容一番?】

 

夜の萩村家にて。

一番風呂に入っていたスズ母が、娘に風呂が空いたことを告げにリビングに向かう。

 

「スズー、次お風呂空いたわよー」

 

リビングのソファで雑誌を読みながらくつろいでいたスズは、声のする方を見た。

そこでは機嫌の好さそうな風呂上りの母が、タオルで髪を拭きながら立っている。

ちゃんとしたパジャマを持っているはずなのに、何故か彼女は裸の上からYシャツ一枚であった。

 

「お母さんなんで裸Yシャツなの?」

 

「んー、だって今日はタダヒトさん早く帰ってきたしー。

 だ・か・ら・今日はお楽しみ!」

 

イヤン!と嬉しそうにいい年こいて娘の前で体をくねらせる母親。

すでに30半ばであるというのにこの人は……

そして今はこの場に姿のない父親も、この母についていけるだけのテンションの持ち主だ。

 

「タダヒトさん裸Yシャツ好きなのよね」

 

これで今晩も悩殺よー、と娘に父親の性癖を暴露しながら惚気る母親。

スズは自分の親のことを思うとちょっと頭が痛くなった。

 

「あっ、ちなみに今日は半身浴デーでお湯少ないけど協力してね!」

 

「はぁ……」

 

“協力してね”の“ね”の部分で口の端から舌を出し、ウィンクする母親に呆れるスズであった。

とりあえずはお湯が冷めないように早く入ってしまおう。

そう思って着替えの下着とパジャマを用意して脱衣所に向かう。

脱衣所で彼女が見た物は、洗濯機にむりやり突っ込まれた血糊まみれの軍服であった。

 

「ちょっとお母さ――ん!!

 血糊のついた服を他の洗濯物と一緒に洗わないようにしてっていつも言ってるでしょ!?

 洗濯機に入れてたら間違えて洗っちゃうじゃない!!」

 

「あー、ごめーん」

 

スズは家でも気苦労が絶えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【サポーター】

 

桜才学園の武道場。

そこを活動の拠点にしている桜才学園柔道部。

主将の三葉ムツミは朝からやる気に充ち溢れていた。

それは、今日が部を創設してから初めての対外試合だからである。

 

「やぁ、みんなで応援にきたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

生徒会も、立ち上げから関わっているので柔道部には思い入れがある。

そのため今回は初試合と聞いて応援に駆け付けたのだ。

シノ達の姿を見て、嬉しそうに笑う三葉。

 

「これ必勝のお守り。今日のために用意してきた」

 

「わあ、ありがとう!」

 

スズはどうやらこの日のために近くの神社で必勝祈願のお守りを購入していたようだ。

お守りを渡された三葉は大喜びである。

神棚に飾っとこう!と、盛り上がっている。

 

「私も今日のためにてるてる坊主つるしてきたよ」

 

中止にならないように、とアリア。

しかしここは屋内である。

天気は全く関係がない。

 

「それはいらんでしょう」

 

「? こけしの方が良かった?」

 

「いや、なんでこけしを吊るすんですか?」

 

「?」

 

「?」

 

アリアの脳内は天然すぎてスズにはついていけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【不思議な擬音】

 

「痛っ!?」

 

三葉が生徒会メンバーと会話をしている時、武道場に痛みをこらえるような声が響いた。

何事かと皆の視線が一点に集まる。

そこでは柔道部員の一人が手首を押えて痛そうに眉をしかめている。

 

「どうしたの、大丈夫!?」

 

「それが、受身の練習中に失敗して……手首がコキッって……」

 

「手がコキッ!?」

 

「手コキか!!」

 

そのキーワードに反応したのは、思春期まっさかりのシノであった。

 

「……なんか大丈夫に聞こえるな」

 

「んなわけないでしょ。早く保健室行って来なさい」

 

 

 

 

 

 

 

【心配】

 

「ナナコが手首の捻挫でドクターストップ!

 欠員だー!困った~……」

 

手首をねん挫したらしい部員が保健室から帰ってきた。

結果はドクターストップ。

今日の試合への出場は許可できないと保険医に言われてしまった。

試合の人数は5対5で行われる。

相手側にもそう言ってしまっている、こちらに控えの選手はいない。

これでは試合が成立しなくなってしまう。

三葉はかなり慌てていた。

そんな彼女を救おうと、一人の男がたちあがる。

 

「三葉、俺にまかせろ!」

 

「タカトシ君!?」

 

津田の力強い言葉に、顔をあげて彼を見る三葉。

 

「へ?」

 

「俺が代わりに出る!」

 

津田はいつの間にか柔道着を着ていた。

しかもシノのような長い髪をしている……カツラだ。

さらにアリアのような胸をしている……パッドだ。

唇はリップクリームを塗ったのか何気に潤っている。

彼は黙っていればイケメン顔なので、なかなかに綺麗に化けていた。

パッと見、長身の美人の女の子に見えなくもない。

だがいかんせん、女の子といいはるには肩幅がありすぎた。

 

「津田君、さすがにそれは無理じゃない?」

 

「……無理ですかね?」

 

さすがのアリアの目から見ても無理があった。

というか、女の子相手の試合に男が出るなど卑怯なことこの上ない。

 

「バーカ」

 

「ちょっ、会長!?

 イテッ!……なんで今、萩村俺のこと蹴ったの?」

 

「……ふん!」

 

偽物の胸のくせに自分より大きいものを見て、シノが子供みたいに津田をけなす。

スズは偽物と理解していてもいろいろとずるい津田を見て、彼の足を蹴るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あんたも心配】

 

「仕方あるまい。

 ここは私が代理として出場しよう!」

 

いつのまにか柔道着に着替えたシノが、自信満々に宣言する。

しかし待ったをかけたのは、未だに女装したままの津田であった。

 

「しかし会長、あなた受身も知らないでしょ?」

 

津田は部の創設時の、彼女の柔道への無知ぶりを覚えていたのだ。

 

「大丈夫だ。それよりもお前はその女装をはやく止めろ」

 

いい加減見ててむかつく、と偽乳を見て言うシノ。

 

「でも会長は柔道やったことないのにいきなり試合とか危険すぎやしませんか?」

 

スズも心配してシノを止めようとする。

だが彼女の言葉にも、シノがためらいを覚えることはなかった。

 

「大丈夫だ、問題ない。

 小説では受身のキャラに共感を得ている」

 

「全然大丈夫に聞こえません」

 

何の小説ですか、と呆れつつも何を言っても無駄だと悟るスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【青春絵日記】

 

対外試合一本目。

先鋒を務めるのは主将の三葉である。

 

(思いがけないアクシデントで皆が動揺してる)

 

相手との間合いをたくみに測りながら、牽制して考える。

 

(私が先鋒に立って盛り上げなきゃ!!)

 

相手がこちらの襟を狙って手を伸ばしてきた。

大技を狙ってか、動きにも無駄が多い。

 

(そこぉ!!)

 

相手の手の動きを先読みし、それを避けながらふところにもぐりこむ。

 

(怪我で出られないナナコのためにも……危険を顧みず参加してくれた天草会長のためにも!!)

 

すばやく相手の腰に手をまわし、こちらを掴めずに空振りした相手の袖をつかむ。

相手の重心をくずし、下から持ち上げるようにして回転させる。

 

(みんなの分まで私が戦う!!)

 

「一本!!」

 

それは見事な一本背負いであった。

誰が見ても文句の付けどころのない綺麗な一本。

 

「次!」

 

頬を汗がつたいながらも、彼女の眼に気が抜けた様子もない。

まだまだ私は戦える、そう物語っていた。

 

 

「ねぇ津田」

 

「うん?」

 

「あそこに書いてある点取り試合って何?」

 

「5人の代表が順番に戦って3勝した方が勝ちってルールだね」

 

 

本人のやる気に反して、この試合の三葉の出番はこれで終了であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【特ネタ】

 

試合を応援する声が武道場に響く。

そんな中、津田はその一角に新聞部の部員たちが陣取っているのに気が付いた。

その中でも、最近交流がある畑ランコに声をかける。

 

「畑さん、新聞部も来てたんですね」

 

「ええ」

 

相変わらずのポーカーフェイスで試合を眺めていた畑。

今日はカメラの担当は別の部員のため、彼女は壁にもたれながら観戦していた。

 

「こういうのはネタになるからね」

 

「確かに、新設したばかりですが柔道部は期待が高いですからね」

 

「ええ。それに女子高生のくんずほぐれつ……マニアにはたまらないわ」

 

「ず○ネタですか」

 

後で売ってくださいと交渉する津田に、無言でピースする畑。

すでに津田は彼女にとっての常連客であった。

 

「ところで津田君?」

 

「はい?」

 

「あなたの写真も一枚いいかしら?」

 

彼は未だに女装中であった。

売上の一部を譲るからと言われ、特にことわる理由もない津田は快くOKする。

後日、思いもよらぬ津田の写真での売上に懐がほくほくとなる畑がいた。

 

……ちなみに生徒会室前の目安箱に女子生徒からと思える投書が増えた。

しかし内容はどれも津田の女装を希望するものがほとんどで、スズが頭をかかえたのは言うまでもない。

 

 

 

 

余談。

あっ、ちゃんと試合は勝ちました。

3対2の接戦で。

会長?いや、無理でしたよ?

何も知らない素人が勝てるわけありません。

童貞が経験者に勝てる見込みがないのと同じです。

それに会長は受身に共感してるだけあって、初めての受け身も完璧だったけど攻めはしませんでしたからね。

原作よりも柔道部員達が頑張りました。

あと、俺の写真の売上の一割をもらえる約束だったんですが、そのお金が一万円という大金でした。

……いったい何枚売れたんだろう?

 

――――津田談―――――

 

 



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二十五人目 

 

【うわべっこ】

 

10月に入った最初の日。

今日は全国的に衣替えの日だ。

桜才学園も例外ではなく、津田も朝から鏡の前で冬服に着替えて確かめている。

 

(今日から衣替え、10月っていってもまだまだ暑いなー)

 

残暑が厳しく、暑いとまではいかなくともまだまだ暖かい。

夏服ならまだしも、ブレザーまで着込むと汗をかきそうであった。

 

「タカ兄おはよー」

 

いつも通り、ノックもせずに妹のコトミが彼の部屋に入ってくる。

勝手知ったるなんとやら。

昔からノックの一つもしろと言っているのだが、この妹がしたためしがない。

 

「お前それ夏服じゃん。寝ぼけてるのか?」

 

コトミが着用している制服は、夏服のままであった。

たしか彼女の中学も今日から衣替えだと昨晩母が言っていた。

彼の指摘にはっと何かに気が付いた顔をする妹。

どうやら指摘される今の今まで忘れていたようだ。

 

「や、やだなぁワザとだよワザと!

 キャラも衣替えしたんだよ!!」

 

ドジっ子にね!と、慌てて取り繕うコトミ。

今日も彼の妹は愉快であった。

急いで自分の部屋に着替えに戻る。

その数分後。

 

「タカ兄ー、私の冬服知らないー?」

 

下着姿の妹が彼に泣きついてきた。

どうやら冬服の制服をどこにしまったか忘れてしまったようだ。

 

「何故に俺がお前の制服のありかを知っていると思うのか」

 

「ふえーん!もう時間がないよー!!

 助けてタカ兄――!!」

 

溜息をつきながらも、妹の部屋に出向く津田。

彼は妹のことを熟知しているらしく、わずか30秒で探し物を見つけ出した。

なかなかにいいお兄ちゃんをしているようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【好みは100万通り】

 

今日は生徒会室の掃除を行っている面々。

拭き掃除を終えたアリアは、スプレータイプの消臭剤を部屋中にまいていた。

 

「アリアは綺麗好きだな」

 

「それほどでも」

 

ほこり一つないぞ、と感心するシノ。

そんな彼女の言葉に照れたようにはにかむアリア。

 

「でも度が過ぎると潔癖症って言われるから気をつけなきゃ」

 

「確かに人間だらしない部分があってもいいかもしれないな」

 

あまりいきすぎた綺麗好きは、あまり歓迎できるものでもないかもしれない。

何事も適度が一番なのだ。

 

「ちなみに私が得た情報では下着は汚れている方が悦ばれるらしい」

 

「碌な情報源じゃないですね」

 

どうせまた下関係の本かなんかでしょ……と呆れるスズ。

彼女と違って、そうなんだーと感心しているアリア。

同じ女の子でもこの差はなんなのだろうか。

 

「津田君も女の子の下着は汚れている方がいいの?」

 

何故かそこで津田に話題を振る。

 

「俺ですか?

 ……俺はむしろ綺麗な下着が汚れていく過程が好きなのであって、

 別に女の子が普段履いている下着は綺麗なままでいいと思いますけど?」

 

「お前も真面目に答えるな」

 

そして真面目に答えた結果がそれか。

久々に改めて津田のことを気持ち悪いと思ったスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【負の注入】

 

職員室に用がある津田は、途中で横島先生と出会った。

彼女もこれから職員室に戻るところらしく、一緒に廊下を歩く。

 

「あ――いかん。眠い。

 これから職員会議だってのに……」

 

目頭を揉んで眠気に耐えようとする横島先生。

しかしその程度では眠気はとれない。

普段ふざけた言動が多い彼女だが、一応教師の仕事は真面目にやっているのだ。

それ相応に疲れもたまっている。

 

「気合い入れねば!」

 

ましてやこれから行われるのは週に一度の職員会議。

そのような場で船をこいでいてはつるしあげを喰らってしまう。

彼女は気合いをいれるために、自分の両頬を力いっぱい同時にビンタした。

 

「目、覚めました?」

 

「うん……新しい快感に」

 

「おめでとうございます」

 

新しい扉を開いた彼女を祝福する津田であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【激運】

 

津田と一緒に資料室に来ていたスズ。

棚の上にある資料を手にしようと背伸びをしていた。

 

「俺がとろうか?」

 

「全然問題ないわ、だ、大丈夫……」

 

自分でやりきってみせるという彼女の思いを尊重した津田は、ただ見守るに留まった。

こういう状況で無理に手伝おうとして、本気で彼女に怒られた過去があるのだ。

 

(まったく、背が低いといいことないわ)

 

いまいましい、と資料室をあとにしながら顔を歪めるスズ。

隣を歩く津田は、彼女からすれば見上げなければならないほどに背が高く見える。

自分も可能ならあれくらいの身長が欲しい。

彼ほどの身長があれば、必要なところはたいがい手が届く。

それに子供扱いされることもなくなるだろう。

こうやって歩いていても、どうせ今の自分ではまわりから妹のように思われているはず。

男女の違いはあれどこの差はいかがなものか。

だが、二人が渡り廊下にさしかかったところでそれは起きた。

 

「げふ!」

 

突如飛来したサッカーボールがこちらに飛んできたのだ。

それはスズの頭上をスルーし、隣の津田を思いっきり強打した。

不意をつかれた一撃にダメージをおう津田。

彼は地面にうずくまった。

遠くではこちらに向かって走ってくる女子生徒がいる。

どうやら彼女が蹴ったボールのようだ。

 

「別に背が低くて助かったなんて思ってないから」

 

勘違いしないでよね、とうずくまる津田にしゃがんで話しかけるスズ。

だが津田はちょうど肺の上を強打されたのか、それどころではなかった。

 

「よくわからんけど、俺をいたわって……」

 

「自分が背が高いからって調子のってるからそうなんのよ」

 

「いや、背は関係な……」

 

「……ったく、ほら。

 手ぇ貸してあげるからさっさと立ちなさい。

 全く……女の子の蹴ったボールでそこまで痛がるなんて軟弱ね」

 

「……ごめん」

 

彼の悪口を口にしながらも、なんだかんんだで立ち上がるのに手を貸してあげるスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【サブの日常】

 

二年生の教室のあるフロアの女子トイレ。

そこの個室の一つを風紀委員の五十嵐カエデが使用していた。

 

「?」

 

そこへやってきたのは同じく二年生の畑ランコ。

彼女もトイレに用があってきたのだ。

何の用かは、明確に記載せずとも察していただきたい。

しかし特に急いでいるわけでもない彼女は、人の気配のする個室をなんとなくノックした。

この行動に特に意味はない。本当になんとなくだ。

 

「入ってます」

 

使用中なのだから、もちろん返事が返ってくる。

五十嵐は当然のように返事をした。

 

「入っている……タンポン派ですか」

 

「そういう意味じゃありません」

 

ふむ、と何やら考え込む畑。

そして何か解答に結びついたのか、手をぽんと叩く。

 

「なるほど。

 KOKESIか何かでオナ○ー中でしたか。

 いやこれは失敬」

 

「んなわけあるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【被写体共】

 

「今回、生徒会新聞を作ろうと思う!

 我々の活動内容やイベントの告知など、事が伝えやすくなるからな!」

 

意気込むシノの演説に、拍手する生徒会のメンバー達。

今回は生徒会新聞をつくることになったのでその会議である。

 

「―――というわけで、新聞部にも協力してもらう」

 

「ども」

 

そこで登場したのは、もはやおなじみとなった新聞部部長の畑ランコだ。

やはり新聞を発行するのであれば、新聞部にも話を通さなければならない。

ならばいっそのこと経験者である彼女たちにも協力してもらおうということになったのだ。

 

「写真の素材はまかせてください。

 こんな時のために普段からあなた方の姿を写真におさめています」

 

そう言って懐からデジカメを取り出す畑。

 

「こんなこともあろうかとぉ!!……いいですよねご都合主義。」

 

私ご都合主義大好きです、と無表情で語る畑。

ロボットアニメに出てくる博士キャラが口にしそうな言葉をノリノリで口にする。

しかしそんな時でも彼女はあいかわらず無表情だ。

 

「……で、いくらで買います?」

 

「「「「何撮った!?」」」」

 

だが彼女の取る写真はそのほとんどが役にたたないものばかりである。

むしろ彼女の役にしかたたないものばかりである。

これでは到底博士役は無理であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ものほしざお】

 

「今のは冗談。

 イッツァ、カナディアンジョーク」

 

「……どこをどう考えたらカナダ人のジョークになるんですか?」

 

せめてそこはアメリカンジョークでしょう、と語るスズ。

最もである。

 

「おすすめの写真はこれ」

 

気を取り直して、彼女が出したのは一枚の写真。

 

「ドアをくぐろうとした際に上に頭をぶつけた津田君……」

 

「へ?」

 

自分の名前が呼ばれ、どのような写真かを見ようと覗きこむ津田。

しかしそこには自分の顔は映っていはいなかった。

 

「……をちょっとうらやましそうに見つめる萩村さん」

 

「ちょっと!!」

 

そこに映っていたのは、口に指を添えてうらやましそうにしているスズのアップだった。

画面には津田の腰が写っていて、全身は見切れている。

 

「これじゃまるで私が身長にコンプレックス抱いてるみたいじゃないですか!!」

 

いや、実際にそうなのだが。

しかし自身ではそれを認めたくない彼女はプリプリと怒る。

だがそんなことは畑も予想済みだ。

だから対策もバッチリである。

 

「そう言うと思って、コラっときました」

 

彼女が新たに差し出したのは別の写真。

いや、もともとは同じ写真なのだが……それは所謂、合成されたコラージュ写真であった。

先ほどの写真との違いは、スズの頬がほんのりと赤みがかっていること。

そして津田の股間の位置からモザイク処理のされた物干しざおが突き出たように見えること。

 

「コラ―――――!!」

 

「?」

 

一変して卑猥な写真にされてしまい怒るスズ。

しかし彼女の怒る理由が本気でわからないとばかりに首を傾げる畑。

 

「1000円で!」

 

「売りましょう」

 

「おら――――――――!!」

 

「ぐふっ!?」

 

すかさず千円札を取り出して売ってくれとねだる津田。

それに快く了解を示す畑。

スズは津田の股間のボールを、生徒会室の窓のゴールにシュートしてやるとばかりに全力で蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【気になる中身】

 

気を取り直して会議は続く。

 

「それで、どんな感じにする?」

 

「やはり全ての内容に目を通してもらえるようにしたいな」

 

アリアの最もらしい疑問に、シノは自身の希望を口にする。

やはり自分たちで作ったものは、ちゃんと目を通してもらいたい。

 

「ならいっそのこと袋とじにしますか?」

 

「袋とじ?」

 

興味ひけますよ、と提案する津田。

確かに、袋とじなら中の内容がどうなっているかは心理的に誰もが気にするものである。

コンビニなんかでよく中学生が必死に破かずに中身が見えないか頑張っている様などは大変微笑ましい。

しかしコンビニや本屋なんかに自分では行かないアリアはそんなこと知る由もない。

当然、袋とじのついているような本なども読まない。

だから彼女はそれ自体を知らなかった。

 

「ページとページがくっついていて中身が見えないやつのことですよ」

 

「ああ」

 

津田の説明に何か思い当たるものがあったようだ。

 

「イカ臭いエッチ本のことね?

 草むらや河原なんかによく落ちてるやつ」

 

「それだ」

 

「違います」

 

それは違う理由でくっついている。

何故普通の袋とじ付きの本は知らないのに、そんな落ちている本は知っているんだ。

スズは本当にこのお嬢様が普段どういう生活を送っているのか不思議で仕方無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【必然か偶然か】

 

生徒会新聞に載せるエッセイを任されてしまった津田。

小学校の読書感想文以来の文章の作成に頭を悩ませる。

今回はエッセイということで、人に見せるものだ。

普段の書類に書くような事務的な文とは勝手が違う。

始めは調子にのって官能小説ばりのエロ表現にしようかとふざけた考えをした。

しかしその考えはスズに看破されてしまいもろくも崩れ去った。

だから、真面目な内容を問題のない表現で書かなければならない。

津田にはかなり難しいことであった。

 

「津田、できたか?」

 

「あまり自身はないんですが……」

 

机でうんうんと唸る津田にシノが声をかける。

とりあえずの完成はしていたので、シノに確認してもらおうとする。

どれどれ……と津田のエッセイが書かれたレポート用紙を受け取るシノ。

 

「まぁ初めてだからな。

 気張らずに軽い気持ちで書いてくれれば……」

 

エッセイに目を通していたシノが何故か無言になる。

 

「…………」

 

「?」

 

読んだ感想を聞きたいのだが、何か真剣な様子で読む彼女の言葉に声がかけづらい。

なにかおかしな表現でもあったのだろうか?

そう考えていたのだが、ちょっと様子がおかしい。

なんだか読み進めるうちにシノの頬が赤くなりはじめたのだ。

 

「な、なかな……いいんじゃないか?」

 

津田を褒めるシノの顔は、もうすでに真赤であった。

しかも何かを我慢しているかのように口元がひくついている。

 

「……ちょっとトイレ行ってくる!!」

 

「えっ、ちょ!?」

 

レポート用紙に津田に返すと、猛然とトイレに向かって走りだしたシノ。

その様子にわけがわからずに呆然としてしまう津田。

彼女が生徒会室に戻ってきたのは30分以上経ってからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【なんか妙にエロかったらしい】

 

シノの突然の行動に驚きが隠せない三人。

 

「シノちゃんどうしたんだろうねぇ?」

 

「さぁ?」

 

不思議に思いつつ、アリアも津田のエッセイを手にとった。

 

「私も読んでいい?」

 

「どうぞ」

 

彼の許可も出たので読み進める。

だが、アリアもシノと同じく読むうちにどんどんと黙ってしまった。

しかも心なしか体をもじもじとくねらせて赤面しているのが妙にエロい。

 

「あっ、ああああの、津田君!」

 

「はい」

 

数分後、読み終わったらしいアリアが顔をあげて津田を見る。

彼女もすでに顔が真っ赤っかで、妙に瞳が潤んでいる。

そしてやはりアリアも何かを我慢している表情をしていた。

 

「わ、私もお花つみにいってくるー!!」

 

「ちょ、七条先輩まで!?」

 

先に飛び出したシノと同じく、アリアも生徒会室を飛び出してしまった。

彼女が戻ってくるのはこのあと一時間を過ぎてから、下校時刻ぎりぎりであった。

 

「全く、どうしたのかしら二人とも」

 

「さぁ……?」

 

「あんたまさかあれほど言ったのに卑猥な単語満載なんじゃないでしょうね?」

 

疑念を抱いたスズが彼を睨む。

しかし身に覚えのない津田は首を傾げるしかなかった。

 

「いや、そんなはずは……

 問題のない表現だし、内容も大丈夫なはずだけど?」

 

どれどれ、と先の二人同様にスズもエッセイを手に取る。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……どうかな?」

 

「……私も、ちょっとトイレ」

 

「ええっ!?」

 

何故かスズまでもトイレに走っていってしまった。

他の二人とは違い、赤面しつつも何か悔しそうな顔をしていたスズ。

彼のエッセイは出てくる言葉、表現、内容、何も問題はない。

問題はないはずなのに、何故か妙にエロかった。

しかも文句をつけられないほどに文章としてしっかりしているために非難もできない。

その日の放課後、二年生用の女子トイレからは妙に艶めかしい声が響いた。

そして一年生用の女子トイレからは「津田のくせに、津田のくせに……」というつぶやきが漏れ聞こえたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オチ】

 

発行されてから二日たった生徒会新聞。

その内容は好評を博した。

全校生徒が興味深げに読んでいる様子に生徒会の面々も満足げである。

若干一名は複雑な表情をしていたが。

 

(しかし俺に文才があったなんて驚きだ)

 

津田は教室を見渡しながら思う。

この学園に入学してからというもの自分もかなり努力をしてきた。

だが全ての分野で、誰かしら自分よりも上の人間がいることでいろいろと圧倒されてきた。

自分が一番優れているなどと妄言を吐く気はさらさらない。

だが、その自分よりも優れている身近な人物たちは、いかんせん優秀すぎた。

彼が密かに自信を喪失しかけるくらいに。

だから、自分の書いたエッセイを何度も読み返してくれている人の姿を見る度に気分がいい。

まさか自分にこのような才能が隠れていたとは、露ほどにも思わなかった。

読む人間が皆褒めてくれるのだ。

これはうぬぼれではなく本当に文才があるのだろう。

なんだか津田は自分の中に自信が出てくるのを感じた。

だが、どうにも理解できないことが一つ。

 

(どうして俺のエッセイを読んだ人間は顔を赤らめているのか)

 

何故か彼のエッセイを読んだ人間は男女問わず顔を赤らめるのだ。

しかも女子生徒にいたっては大多数が読後、トイレに駆け込むという現象が起きていた。

津田がトイレに駆け込まない女子生徒を見たのは、三葉くらいなものだ。

本人としては至極まともな文章を書いたつもりなのに……

実際にけっこう真面目な内容のため問題視はされていない。

問題があるなら、すぐにスズあたりがけちをつけてくるはずなのだ。

だが未だに彼女からは何も言われていない。

現実は文として問題があるわけではないから、さすがのスズもけちがつけられないだけなのだが。

エロい方向にいかないように押えよう、押さえようと抑制して書いた文章。

そのせいで、まともな内容のはずなのにどこかあやしいエロスが滲みでるという結果になってしまった。

しかしそれを書いた張本人は、エロくしていないという自負があるので気付かない。

その日の昼休み。

彼は偶然、廊下で風紀委員の五十嵐とはち合わせた。

 

「こんにちわ五十嵐さん」

 

顔見知りなのであいさつをする津田。

しかし彼女はこちらを警戒して3歩後ずさった。

 

「津田副会長、あなたが女子生徒を次々にトイレに連れ込んでいるという噂がたっています」

 

「ええ!?」

 

「3M以内に近づかないでくださいね」

 

「ちょ、何かの誤解……」

 

「いやー来るなー!!

 妊娠する――――!!」

 

五十嵐は、津田が一歩距離を詰めたとたんに人聞きの悪いことを叫びながら逃亡した。

 

 

 



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二十六人目

 

【クリーンな体】

 

体育祭のシーズン真っ盛りな秋。

桜才学園も例にもれず、本日は体育祭の日である。

気持のよい晴空が広がる校庭で、生徒たちが整列し開会式を行っていた。

 

「選手宣誓!!

 我々は、スポーツマンシップをのっとり……“に”のっとり、正々堂々と戦うことを誓います!!」

 

舞台の上では、マイクに向かってシノが選手宣誓を行っていた。

他の役員共は舞台の下で一列に並んで大人しくしていた。

大人しくしつつ、ふと疑問に思ったことを隣の津田に小さな声で質問するアリア。

 

「正々堂々じゃないスポーツマンシップってなんだろ?」

 

「ドーピングとかじゃないですかね?」

 

「確かに、Hな気分でスポーツするのは不純だもんね」

 

「勃起してたらこすれちゃって競技に集中できませんしね」

 

「私も乳首こすれちゃってたらスポーツどころじゃないわ」

 

「セックスをスポーツと見做すならそれもありでしょうけどね」

 

「そうね、でもセックスをスポーツというのはちょっとどうかと思うけどね?」

 

「ですよね」

 

「……その前に、開会式中にそういう話をするのはどうかと思うんだけど」

 

小声で話しているために他の人間には聞かれていなくても、アリアの隣にいるスズにはばっちり聞こえているのであった。

舞台の上でのシノの選手宣誓は、誰も真面目に聞いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【空耳合図】

 

種目が順調に進み、盛り上がってきた体育祭。

次の種目は50Mの徒競争だ。

生徒会長であるシノも出場するということもあり、あちこちから歓声があがっている。

その中には女子生徒たちの黄色い声援が多く含まれており、いかに彼女が一般生徒に慕われているかが窺えた。

 

「よーい……」

 

ピストルを構えた女子生徒が、その手を上に構えてスタートの準備態勢に入る。

それを見たシノを含む参加者が、各自スタートラインに陣取って構えた。

次の瞬間、パァン!!……と渇いた音が鳴り響いた。

その音を合図に一斉に一歩目を踏み出そうとする走者たち。

 

「あのっ!?……私まだ鳴らしてないんだけど……」

 

「「「「「え?」」」」」

 

走り出し始めていた女子たちは、その言葉にたたらを踏んだ。

ピストルを持っていた女子生徒は、たしかにまだ引き金を引いていない。

では、先ほどの音はなんだったというのか。

その正体は、ある人物の自己申告によりすぐにわかった。

 

「いやぁ、ごめんごめん」

 

「横島先生……それに津田?」

 

トラックのそばで横島先生があるものを手に持って立っていた。

その傍では何故か津田が尻を押えてうずくまりつつ恍惚の表情を浮かべている。

 

「私がスパンキングの練習をしてたのよ。

 そしたらなんかさー、誰かの尻を叩きたくなっちゃって……」

 

「二人ともつまみだす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【状況考えろ】

 

玉入れの競技中。

現在は一年生の部で、生徒会メンバーである津田やスズも出場していた。

出場者は、一心不乱に自軍のかごに玉を投げ入れていく。

津田もなかなかに頑張っており、今もまた一つかごに入れることに成功した。

次の玉を拾おうと、地面に散らばる白い玉に手を伸ばす。

 

「あ」

 

津田が玉に手を触れたのと同じタイミングで、別の人物の手が彼の手に触れた。

丁度、クラスメートの三葉も同じ玉を拾おうとしたらしく偶然触れてしまったのだ。

その小さなアクシデントに、頬を若干赤く染めて手を引っ込める三葉。

 

「あ……ごめんタカトシ君」

 

「あ、いや。別に謝らなくても」

 

その光景を、別のクラスであるスズは呆れた目で見ていた。

全く、競技の最中に何をやっているのか。

まぁ、今のうちにこちらが多く投げ入れることができるので好都合。

彼女は頑張って高い所にある籠に玉を投げるのであった。

しかし低身長である彼女には位置が高すぎるのか、上手く入らない。

 

「ちっ……」

 

いらいらして小さく舌うちするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【だから状況を考えろ】

 

いまだ玉入れの最中。

制限時間の3分は半ばを切り、残すところ1分弱となっていた。

 

「きゃ!?」

 

「おっと……」

 

大人数が動きまわる籠の下、三葉が足もとに落ちてきた玉を踏んで足を滑らせた。

体勢を崩しこけるかと思われたが、ちょうど近くにいた津田の胸に飛び込む形となり助かった。

特に強い衝撃でもなかったので、危なげなく受け止める津田。

 

「わわわ!?……ごめんタカトシ君!」

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん!! だいじょうびゅ!!」

 

先ほど以上に真っ赤になってうろたえる三葉。

思わず舌を噛んでしまったのを、クラスメートである友人の女子達がにやにやと眺めていた。

津田は思わぬ役得の状態に何食わぬ顔をしつつ、自分の胸に当たっている彼女の胸の柔らかさを堪能している。

もはや白組のほとんどのメンバーが、真面目に競技をしていなかった。

 

「あいつら本当に何やってんだ」

 

馬鹿どもは放っておくに限る。

今のうちに差を広げようと思うが、スズの投球した玉はなかなかうまく入らない。

先ほどから20近く投げているのに、入ったのは未だ3つだけだ。

まるで自分がちびだと籠に馬鹿にされているようで、さらに彼女はいらいらとするのだった。

絶対にそれが原因だ。

他にイライラする原因など、ないったらない。

だから自分を馬鹿にしているように見える籠めがけて、スズは力いっぱい投げつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【考えろよこのド阿呆が!】

 

残り時間30秒となった玉入れ。

立ち直った津田と三葉を含む白組も、玉を投げる作業を再開する。

しかし、そのうちの何人かは競技よりももっと面白いことを見つけたらしい。

もはや彼女たち(主に三葉の友人)には玉入れを真面目にする気は毛頭なかった。

 

「あっ、つだくんごめーん」

 

「うおわ!?」

 

乱戦に紛れるようにして、女子生徒が津田の背中を思い切り蹴飛ばした。

そのセリフが明らかに棒読みなところを見るに、絶対にわざとである。

予想外の攻撃に前につんのめる津田。

その蹴飛ばされた方向には三葉がいた。

 

「ひゃあ!?」

 

自然、思わぬアクシデントに二人とも上手く体勢を留めることができない。

丁度津田が三葉を押し倒す形で地面に倒れた。

 

「いつつ……ごめん三葉」

 

「あわ、わわわわわわわわ……」

 

自分の顔から数センチという所に津田の顔がある。

もはや訳がわからずに茹でダコ状態で混乱している三葉であった。

その様子をにやにやと笑う女子のクラスメート達。

しかし、この現状が楽しいのは彼女たちだけであった。

 

「「「「「いい加減にしろ!!」」」」」

 

「ぶぉ!?」

 

四方八方から津田に物が襲いかかった。

投げられた玉は白も赤も混ざっていることから、敵味方から攻撃されたようである。

さらに空き缶やペットボトル、はてはパイプ椅子が津田に投げられる。

津田の下にいた三葉は、盾のおかげで無傷であった。

良い感じに後頭部に空き缶が直撃して、一瞬眩暈が津田を襲う。

 

「いい加減に離れろ変態!」

 

その彼に、スズの股間蹴りがさらに襲いかかり弾き飛ばされた。

もはや玉入れを真面目にしているものは、誰ひとりいないのであった。

そして今回は何も落ち度がないのにスズに怒られた津田。

しかしその表情はどこか満ち足りていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【借りだされる男①】

 

競技が進んで現在は借り物競走。

この競技には生徒会の女子メンバーは全員参加しているのだった。

現在は第一走者であり、スズが出ている。

彼女はお題を確認すると、見物していた津田のところに向かった。

 

「津田、ちょっと一緒に来てくれる?」

 

「俺?」

 

別に断る理由もない彼はその言葉に、彼女のあとをホイホイついていく。

他の参加者は未だお題の品を探しているらしく、走らずとも十分余裕で一着がとれそうだ。

 

「なんて書いてあったの?」

 

「目標にしてる人」

 

「え……」

 

その内容に驚く津田。

まさか自分が彼女からそのように見られているとは思ってもいなかった。

だが、その内容は別に津田でなくとも通用するものである。

 

「あんた、この前自販機のあんこ茶買ってたでしょ?

 あれ自力で買うのが私の夢なの」

 

「そんな、言ってくれればいつでも土台になるのに……」

 

「あんたみたいな馬鹿がいるから、余計に自分で買いたいのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【借りだされる男②】

 

第四走者になり、今回はアリアが参加している。

お題の内容を確認すると、彼女は周囲をぐるぐると見回した。

そこで丁度津田を見つけ、彼に駆け寄る。

彼女もスズと同様に津田を連れていく気のようだ。

 

「津田君、一緒に来てくれるー?」

 

「いいですよ」

 

再びホイホイとついていく津田。

こんどはなんという内容なのだろうと気になった。

 

「内容はなんだったんです?」

 

「これ、ペットとしている動物」

 

うふふ、と楽しそうに笑うアリア。

成程、確かに普通の動物を探したところで校庭にいるわけもない。

一般客がペットを連れてくるわけもない。

お題としては、見つけられないはずれくじだろう。

だが、男をペットとしている女性は世の中に存在するし問題はないはず。

よく考えたものだと感心した。

 

「はい、それでは紙を見せてください」

 

「はい」

 

ゴールにいた審査員にアリアが紙を渡す。

こうやって、題目にあった品かどうかを確認しているのだ。

アリアに紙を渡された生徒はお題と、連れてこられた津田を見て顔をひきつらせる。

 

「あの……ペットって……さすがに人間はちょっとないんじゃ」

 

「えー? そんなことないわよ」

 

明らかに疑われている、というか表情からしてドン引きしている審査員の生徒。

 

「大丈夫、男がペットな場合もありますよ。ほら」

 

津田は、アリアを弁護するためにズボンの中からある物を取り出した。

それは鎖の付いた革製の首輪。

自身の首に首輪を装着すると、彼は鎖の先をアリアに持たせた。

 

「先輩、失礼します」

 

そう言って、その状態でアリアをお姫様だっこする。

 

「これでもまだペットとして認められませんか!?」

 

「……もうOKでいいです」

 

これ以上関わりたくなかった審査員は、投げやりに是を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【借り出される男③】

 

最終走者になり、今度はシノがスタートラインに立っている。

ピストルの音とともに走り出す競技者たち。

一斉に手に取った紙の内容を確認している。

閃いて走りだすもの、その場でお題の難しさに硬直しているもの様々だ。

シノは、お題を確認すると若干頬を染めながら津田のところに駆け寄ってきた。

 

「つ、津田……一緒に来てくれないか?」

 

「俺ですか?……いいですけど、生徒会メンバーコンプですね」

 

先の二人の時同様、ホイホイついていく津田。

また連れてこられた津田に、審査員の顔が引きつる。

シノに手渡された紙の内容を確認し、津田の顔を見て、また内容を確認し、津田の顔をまた見た。

審査員の顔がみるみる赤くなっていく。

 

「お、OKで……」

 

こうして見事一位通過するのであった。

 

「結局、なんて内容だったんですか?」

 

「う……」

 

スズやアリアと違い、何故か素直に答えてくれないシノ。

その様子に首をかしげつつ、まぁ、無理に聞く必要もないと判断した。

 

「まぁ、話したくなければ別に構いませんが」

 

「じゃ、じゃあ教えない」

 

彼女はどこか先ほどよりも顔を赤くしつつ、この話は終わりだと打ち切った。

ちなみに、津田は結局最後までこのお題を知ることはなかった。

本人の知らぬところで、他人にどう思われたかは定かではない。

 

 

 

 

 

 

おまけ

ちなみにシノの借り物競走のお題は『太くて長いもの』

お題を考えた生徒が悪ふざけで入れたものの一つであった。

 

 

 

 

 



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二十七人目

 

【似た者兄妹】

 

前回に引き続き、未だ体育祭の真っ最中の桜才学園。

今現在は午前の部を終えて昼休憩の時間である。

今日は売店も食堂も休業のため、各自弁当持参である。

津田の妹のコトミは兄の弁当を届るついでに応援に来ていた。

コトミから弁当を受け取っているところにアリアが昼食に誘おうとやってきた。

 

「あれ、津田君その子……」

 

「妹のコトミです」

 

同じ生徒会のメンバーが親しげに誰かと話している。

しかもそれが学園の生徒でなければ、誰かと気になるだろう。

津田は彼女が聞きたがっているのを察して隣の妹を紹介した。

コトミの背中を押して、彼女にも自己紹介するように促す。

 

「いつも兄がお世話になってます」

 

こうして並んで見ると、男女の顔立ちの違いはあるが成程、目元などがよく似ている。

 

「へー、兄妹だけあって似てるねー」

 

「そうですね。共にまだ性体験もありませんし」

 

「そういう意味じゃないよ」

 

「じゃあどういう……ああ!

 そうですね。私もタカ兄も乳首は右の方が感度がいいですよ」

 

「そういう意味でもないんだけどね」

 

「コトミ……なんで知ってるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【差が際立……たない?】

 

昼食が終わり午後の部。

最初の種目は二人三脚である。

この競技には生徒会の二年生もペアで出場していた。

そのため、観客席では津田とコトミが観戦している。

 

「シノちゃん、一位目指そうね」

 

「ああ」

 

スタート位置に並ぶ次の走者たち。

彼女たちはペアを組むものと足元を紐で結び、肩を組んでいる。

ラインに並ぶ位置に、先ほど会話した人がいるのをコトミが気づいた。

 

「あっ、さっきの綺麗な先輩だ。隣にいる人も美人さんだねぇ」

 

「ああ。隣にいるのは生徒会長の天草シノ先輩だよ」

 

「へー……でもあの人、美人だけど偽乳だね」

 

「……言わないであげて」

 

パット2枚も入れてるな、と見抜くコトミ。

兄ももちろん気づいてはいたが、あえて今まで口にしなかったのだ。

 

「別に貧乳はそれはそれでいいものだと思うけど。

 一種のステータスじゃん」

 

「それも本人には言わないであげて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【加速度】

 

種目が進み、残すところあと2つの競技のみとなった体育祭。

次の100M走で出場するので、津田はクラスメートと準備をしつつ作戦をたてていた。

彼の友人である眼鏡君がプレッシャーをかけてくる。

 

「次タカトシが一位になればうちのクラズがトップだ。頑張れよ」

 

「がんばれー」

 

「プレッシャーかけんなよ」

 

眼鏡君の言葉に、特に考えもなく他のクラスメートも応援するだけだ。

その言葉に無駄に今からプレッシャーがかかる津田。

ちなみに眼鏡君とは、津田が教室で一番よく話す男子生徒である。

その呼び名の通り眼鏡をかけているのが特徴でそれ以外に特徴らしいものをもたない男子だ。

おかげで入学早々みんなから「眼鏡」とあだ名をつけられて本名を呼ばれない。

むしろ名前をみんな覚えていない切ない生徒である。

しかしそんな彼のことは無視して、コトミが兄に助言した。

 

「クラウチングスタートでスタートダッシュ決めてみれば?」

 

「どーやんのそれ?」

 

「えっとね……まず服従のポーズを取る」

 

「こうか?」

 

津田は妹の解説通りに服従のポーズをとった。

ただし、地面に手をついてうなだれるようなポーズではない。

犬がするように腹を上にした仰向けの形だ。

 

「次に腰を突き出す」

 

「腰を突き出す?」

 

説明通りに動いたため、仰向けの状態から腰を上に突き出した。

ちょうど人が乗っていれば騎乗位の下から突き上げた形だ。

 

「…………」

 

「コトミ、これはどういうことだ」

 

何を思ったか、津田の妹は彼の突きだされた腰の上にまたぐようにして腰を降ろしたのだった。

明らかに変な行動だが、津田の妹ということでもはやクラスメートからは納得されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【戦いの下ごしらえ】

 

「最後はサークル対抗リレーだ」

 

体育祭最後の競技。

それはエキシビジョンをかねたものだ。

部活や同好会、委員会などのグループによるリレーである。

出場希望のグループは一組四人をメンバーとして一人200M走ることになる。

当然、委員会枠の代表として生徒会も出場する。

 

「我々も生徒会として出場するぞ」

 

「「「おー!」」」

 

シノの声に、残りのメンバーが声を上げる。

最後の競技ということもあってなかなかに気合いが入っていた。

 

「さっそく作戦考えなきゃね」

 

「走る時に重要なのは位置取りですかね」

 

誰を何番目に配置するかで変わってくるだろう。

走りの速い順にするか、遅い順にするか。

それとも交互にするのか。

しかしスズのその考えを全く他のメンバーは理解していなかった。

 

「そ……そうなのか」

 

「ブリーフなら固定できるんじゃない?」

 

シノとアリアは津田の股間を凝視している。

 

「あんたらはもう少ししっかりしたほうがいい」

 

その視線に津田は少し嬉しそうに照れ笑いをしていた。

 

「へへへ」

 

「お前もだぞ津田」

 

「すみません」

 

スズに注意されて一応謝る津田。

しかしそんな彼の肩を背後から叩くものがいた。

後を振り向けば、そこにいたのは妹のコトミ。

 

「ブリーフはないけど、おむつならあるよ。貸そうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オーバーラン】

 

リレーが開始され第一走者がスタートする。

一番目のアリアから好調な走り出しだ。

普段おっとりしているイメージの強い彼女だが、こう見えて運動神経もいいのである。

走者と一緒に、トラックの外周ではカメラを持った畑ランコが激走していた。

そのレンズは絶えずシャッターを切り、アリアを含む女子生徒の乳揺れを激写している。

一位通過でアリアが津田にバトンを渡す。

それを危なげなくキャッチし、津田も快調に走りだした。

それに平行するように畑も外周を走り、走るごとにきらめく汗を激写している。

 

「会長、今度は負けませんよ」

 

「いいだろう」

 

第三走者のスタートラインでは、シノと風紀委員の五十嵐カエデが不敵に笑い合っていた。

この作品では一切描写されなかったが、借り物競走のさいに彼女はシノに負けているのである。

そこに、第二走者のメンバーがすぐ近くまで走り込んできた。

自身のスタートを切るタイミングがもうすぐだと感じ、二人ともいつでも走りだせるように構える。

背後には、一位を走る津田の姿。

 

「会長ー!!」

 

「こい津田!!」

 

いままさにシノにバトンが渡される、その瞬間。

まだバトンを受け取ってすらいない隣の五十嵐が走りだした。

 

「「「え!?」」」

 

思わずバトンを空振りしてしまう。

五十嵐にバトンを渡そうとしていた風紀委員のメンバーを一緒に戸惑いの声をあげてしまった。

しかし一度空振りしたものの、ちゃんとバトンを渡して今度はシノがスタートする。

思わぬアクシデントで気が抜けそうになったが、このまま一位で走りぬく!

そう決意するシノであった。

しかし彼女に並走する二つの影。

津田と畑であった。もちろん畑は走る生徒会長の姿を激写している。

 

「な、なんで津田がまだ走ってるんだ!?」

 

「いや、なんていうか……男の本能?」

 

逃げられれば追わずにはいられない。

もはやトラックを離れてどこかへと逃げる五十嵐。

それにあわせて津田も並走を止め、彼女の跡を追って爆走した。

 

「いーーーーやーーーーーーーーー!!」

 

風紀委員長の恐怖の叫びが、人ごみに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【疾走少女】

 

シノからバトンを受け取り、小さな体ながら一生懸命走りぬけるスズ。

小柄なため、他の走者と歩幅で劣っているもののそのまま一位を守りきった。

ちなみに、シノがゴールすると同時に畑は力尽きて真白になっている。

今はトラックの隅に倒れて他の新聞部員に看病されていた。

 

「流れる汗……踊る肉体……乳揺れ……売れる……これは売れる……」

 

燃え尽きながらも、ゴールまでは走り切れなかったが満足げな畑。

その顔はやりきった感がにじみ出ていた。

しかし、後日写真を確信してみると、容量が一杯だったという彼女らしくない初歩的ミスが発覚。

おかげで最後のリレーの写真は一枚もデータに残っていなかった。

体育祭から数日間、新聞部の部員には暗い影が降りていたという。

 

 



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二十八人目

どうも作者です。
最近、家電量販店で仕事しているのですが、TVコーナーでデモ放送をいつも流しているのを見てハラハラしてします。
だってアニ○ックスのサンプルが流れているときに、時々役員共が流れていて、それを夏休みを迎えたらしき家族連れの子供が見ているんだもの。


 

 

【アリア邸にようこそ】

 

ある日の休日。

七条家の家に及ばれした生徒会の面々。

津田とシノ、スズの三人は休日らしく私服姿だ。

彼等は事前に渡された地図を頼りに七条家にたどり着き今は玄関の前にいる。

インターホンを押すと、もうそろそろだと待っていたのかアリアがすぐに扉を開けて出てきた。

 

「いらっしゃーい」

 

「本日は御招きいただきありがとう」

 

「いえいえ」

 

出迎えたアリアは、お嬢様らしく上品な雰囲気を醸し出す衣服を着ている。

年相応のカジュアルな格好である他の面々と違い、さすが育ちの良さが滲み出ていた。

 

「ずいぶん遅かったけど、道迷った?」

 

アリアは、予想していたよりも時間のかかった仲間たちに尋ねた。

最寄りの駅からはそこまで複雑な道のりだとは思っていなかったのだが、解りづらかっただろうか?

もしかしたら自分の書いた地図がわかりづらかったのかもしれない。

そんな心配をした彼女だったが、それはいらぬ心配である。

 

「いえ、家の場所はすぐにわかったんですが……門くぐってから迷いました」

 

彼女の問いに答えたのは、少し疲れた様子の津田。

そう、彼の言うとおりこの家の場所はすぐにわかった。

なにせ周囲の家よりも断然でかいのだから嫌でも目につくのだ。

敷地を囲む外壁がありえないほどに長い。

家を見つけてから、門にたどり着くまでにおよそ5分。

さらに許可を得て門を潜ってから、アリアのいる本邸にたどり着くまでに15分もかかってしまった。

 

「学校の敷地より広い前庭なんてあるんですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【こんにちメイド】

 

「出島さん、みんなを私の部屋に案内してあげて」

 

「かしこまりました」

 

本邸の玄関をくぐってすぐ、玄関ホールの豪華さに驚きの顔をしている面々。

私立の学校に通っている以上、彼等の家も中流階級の普通の家ではある。

そのため決して貧乏というわけではないのだが、それでもここまでの金持ちの家というのは住む世界が違って見える。

そこらへんに飾ってある壺や絵画も、一つで家が買えそうな値段がするのだろう。

門をくぐってからこっち、津田たちは驚きの連続であった。

しかし、さらに彼等を驚かせたのは、アリアの呼び声に応えて現れたメイドの存在だ。

否、現れたというよりもいつのまにか彼女の背後に佇んでいたというべきか。

気配を全く感じさせずに皆の前にいきなり出てきたかのようであった。

黒い髪をポニーテールにして上品なエプロンドレスに身を包んだ女性。

切れ長の目をしていて、主人であるアリアの背後に佇むその様は知的な雰囲気を醸し出している。

女性にしては高い身長ですらりとしたプロポーションをしていた。

そこここに飾られている調度品は、博物館にでも行けば似たようなものなら拝むことができる。

だが、メイドとなると話は別だ。

それこそ、テレビドラマに出てくるような金持ちの家にしかいないだろう。

世の中の認識としては金持ちを象徴するためのフィクション上の存在といっても過言ではない。

しかし、現に目の前にいる女性は正真正銘メイドであった。

昨今流行っているメイド喫茶などというふざけた偽物ではなく、本職である。

しかもなかなかに存在感のある女性なのに、アリアが呼ぶまで誰も気がつかなかったのだ。

これには生徒会の面々は驚くしかなかった。

 

「メイドって本当にいるんだ……」

 

「こちらへ」

 

一切の感情の揺れも見せず、主人であるアリアの命令通り案内役をするメイドの出島。

その表情からは何も読み取ることができない。

まさに主に忠実に仕えし従者といった雰囲気を醸し出している。

こちらへ一礼すると彼女は生徒会メンバーを先導するように歩きだした。

その後を大人しくついていく津田達。

長い廊下な上に複数のブロックにわかれているのか、何度か角を曲がる。

しかし出島の足取りは戸惑う様子もなく、よどみなく一定のスピードで歩く。

初めて来た津田など、もはやどのような道順をたどってきたかわからなかった。

やがて、ある一つの扉の前でとまる出島。

ようやく到着かと扉を見る。

しかしそこにあったのは書斎とかかれたプレートだ。

 

「迷いました」

 

「「「え―――――?」」」

 

「広いですね、この屋敷」

 

先ほどまでのクールな雰囲気はどこへやら。

迷ったと断言する出島は、どこか気だるげに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【天職から転職?】

 

「すみません。実は最近このお屋敷に来たばかりで……正確にはこの仕事自体始めたのは最近なんです」

 

「そうだったんですか」

 

話しを聞いてみると、彼女はメイドになってからまだ一月も経っていないらしい。

さらに、つい最近までは外国の別荘で働いていたそうだ。

出島の話を聞いているうちに、遅いと感じたアリアが皆を迎えに来ていた。

 

「以前は何の仕事をされてたんですか?」

 

スズは出島の過去の仕事が気になったらしく、軽い気持ちで質問していた。

まぁ、気になるのは当然だろう。普通メイドになること自体珍しいのだ。

一体どのような仕事をしていて、どのような経緯でそうなったのかは不思議に思うだろう。

 

「以前は外国での仕事を」

 

「へぇ、何のです?」

 

「戦争とか……」

 

「…………」

 

「以前はフリーランスの傭兵をしておりまして」

 

「……えっと」

 

「?」

 

「……冗談ですよね?」

 

「いえ、冗談ではありませんよ。

 次の戦場へ赴く前に、ハワイで休暇を楽しもうと思っていたのですが、

 そこでお見かけしたお嬢様の美しいバストに心奪われまして……」

 

以来、主人である七条アリアに忠誠を誓っているらしい出島であった。

彼女の答えにスズは激しく聞いたことを後悔していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【バックで】

 

なんやかんやでアリアの部屋に到着した面々。

 

「ここが私の部屋だよ~」

 

彼女に招かれ、部屋に入ると生徒会の面々は感嘆の声をあげた。

部屋といいつつ学校の教室よりも広い。

むしろ下手したら津田の家の敷地面積よりも広かった。

まるで高級ホテルの部屋のように綺麗に掃除が行き届いている。

テーブルや椅子は一人用の部屋とは思えないほどに数も揃っているうえに、一つ一つが大きい。

壁に掛けられた絵画は、この部屋はより一層上品に演出していた。

 

「ここから立派な樹が見えるな」

 

部屋に太陽の光を取り込んでいる大きな窓。

そこから庭の立派な樹が見えることにシノが気がついた。

 

「私の両親にとって思い出の樹なんだって、あれ」

 

「察するにあそこでプロポーズされたんですね」

 

アリアの言葉にスズがくいつく。

乙女としては、まさに少女マンガのような王道だろう夢のシチュエーション。

ドラマの撮影に使われそうな豪邸で、立派な木の下で告白。

ここが学校ならばまさに伝説の告白の木といったところか。

なんだかんだでスズも女の子である。

その手のことは結構好きであった。

 

「ん――――おしい」

 

しかし現実は乙女チックとはかけ離れていたものだった。

 

「正解はあそこで種付けされて私が生まれました」

 

「!?」

 

「はっはっは、おしかったな萩村」

 

「青姦ですか、いいですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【床探索】

 

「あ」

 

アリアの部屋で歓談中、皆にお茶を配っていた出島が声をあげた。

何事かと皆が注目するなか、彼女は抑揚のない声で答えた。

 

「すみませんお嬢様、コンタクトを落としてしまいました。ドジっ子メイドのごとく」

 

「あら大変」

 

「みんなで探そうか」

 

歓談を中止して、手分けして周囲の床を探し始めた。

 

「しかしあれだな。出島さんは迷ったりコンタクト落としたり……少し抜けているな」

 

「お恥ずかしながら……戦場でパイナップルを足元に落としてしまったこともありまして……」

 

「パイナップル?」

 

「手榴弾のことだよ、萩村」

 

「……よく出島さん生きてたわね」

 

「うふふ、出島さんってばドジっ子さんね」

 

うふふで済ませていい問題ではないが、もうその事に関してはあまりつっこまないスズであった。

くだらないことを話しながら、カーペットの上を手探りで探す。

 

「お?」

 

「シノちゃん、見つけたの?」

 

「いや……ちぢれ毛なら三本ほど見つけたが」

 

「必死に探せ……あと津田、見つけたそれ(毛)は捨てろ。ポケットに入れるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【心眼メイド】

 

時間が流れ、夜になり今日はこの辺でお開きとなった。

これから帰る津田達を玄関まで見送るアリア。

夕飯までごちそうになったせいか、もう外は真っ暗だった。

 

「今日はごちそうさまだった」

 

「また来てね」

 

別れの挨拶を告げるシノに、嬉しそうにいつでも来いというアリア。

彼女も、実は友人を自分の家に招くのは生まれて初めてであったのだ。

過去に親の友人の子供が遊ぶに来ることはあっても、自分自身の友達が来たのは初めてであった。

彼女の顔は楽しかったという満足げな雰囲気をしている反面、この楽しい時間が終わることにさみしそうでもあった。

 

「出島さん、皆を門まで送ってあげて」

 

「はい」

 

七条邸に津田達が来たとき、門から玄関までで迷ったと聞いていたアリアは、親切心から出島に案内を頼んだ。

確かにきた時は昼でまだまだ明るかったが今はもう空は真っ暗だ。

道のりも雰囲気が変わっており、また迷うかもしれない。

お嬢様の願いを快く引き受けるメイドさんであったが、それに逆にスズなどは心配そうな顔をする。

 

「大丈夫ですか?」

 

「失敬な、自分が使える屋敷で迷子になるとでも?」

 

心外だと言わんばかりの出島だったが、その言葉を信用できるはずもない。

 

「うん」

 

「さっきなってたよね」

 

「うむ。迷っていたな」

 

現に先ほど、屋敷内で迷子になっていたのは出島なのだから説得力のない話だ。

スズや津田どころか、シノまでも道案内役としての彼女の能力をあまり信用していなかった。

 

「大丈夫ですよ、自分が住む家の庭くらい目隠ししてでも歩けます」

 

何を根拠に言っているのか疑問だが自信ありげに胸を張る出島。

彼女の中では、庭で迷子になることなどありえないのだろうか。

 

「戦場でも毎晩、地雷原を目隠しで散歩してましたから」

 

「よく生きてましたね、本当に」

 

その話が本当ならかなり凄いが、それは彼女の運の良さは証明しても迷子にならない証明にはならない話だった。

結局のところ彼女に案内を任せて再び迷い、夜の庭を一時間ほどさまよう生徒会役員共であった。

 

 

 



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二十九人目

 

 

【一心同体】

 

新聞部部長の畑ランコ。

彼女はいつスクープ現場に遭遇してもいいように、いつもカメラを持ち歩いている。

まぁ、とはいってもスクープなど常にそこらに転がっているわけでもない。

そのためか彼女の撮る写真はよくわからない物も多い。

だが学園からの注目度からして、生徒会役員が被写体に選ばれることが比較的に多いと言ってもいいだろう。

今日もスクープを探して校内を練り歩いていた彼女は、偶然津田と出会った。

 

「畑さんはいつもカメラ持ち歩いてますよね」

 

「ええ、そうね。もはやカメラは身体の一部」

 

「プロ魂ですね」

 

持ち歩いているだけではなく、いつでもシャッタ―ボタンを切れるように構えている。

まさに記者魂といっても過言ではあるまい。

もはや彼女にとってはカメラを持っている姿の方がしっくりとくる。

 

「具体的に指すと性器の部分」

 

「うわぁ、めちゃくちゃそのカメラ触ってみてぇ……」

 

「あら積極的」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あって安心】

 

新聞部部長の畑さんはスクープのためなら張り込みもする。

 

「だからカメラ以外にも色々と所持している」

 

「へぇ」

 

実際に津田に見せようと、畑は肩にかけていた鞄の中身を見せる。

そこには張り込みに必要な様々なものが入っていた。

だが教科書などの勉強に使うものは一切入っていない所を見るに、あまり学生らしくない鞄とも言えるだろう。

 

「傘に防寒具、飲食物に……あれ?」

 

津田は鞄の中身を確認中、他とは違うものを見つけた。

傘に防寒具、あんぱんと紙パックの牛乳というべたな物に紛れていたもの。

それは一本の空のペットボトル。

別段それ自体は入っていてもおかしくはない。

ただ、容量的には鞄は結構いっぱいいっぱいで、このペットボトルが余計に嵩張って見える。

ごみ箱などそこらへんにあるのだし、捨てれば問題ないはずなのだが。

何故彼女は空になったぺっとボトルを持ち歩いているのだろうか。

試しに蓋を開けてみるも、やはり中身は空だ。

 

「これ空ですよ?」

 

「それ用足し用」

 

「成程」

 

なかなかに体を張っている。

仕事のためには自身の羞恥心も犠牲にしてみせるその根性はまさにプロといってもいい。

そんなことを考えながら、津田は自然にペットボトルの口を舌で舐めてみた。

だが特にこれといって味がしない。

しいて言えば、もともと入っていたであろうレモンティーの臭いがする。

 

「それ、用足し用としてはまだ未使用よ」

 

「ちくしょう!! 騙された!」

 

中に少し残っていた黄色い液体は絶対それだと思ったのに!!

心の中で絶叫する津田であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【若草萌え】

 

今日は全校集会が朝からあった桜才学園。

その放課後、生徒会室に向かう津田は偶然シノと廊下で一緒になった。

なんとなく隣を歩いて生徒会室を目指す二人。

 

「今日の朝礼で校歌を歌っただろう?」

 

「はい」

 

思い出したかのように語るシノに同意する津田。

どこの学校でも同じように、全校集会のときには校歌を歌うのが伝統だ。

 

「君、歌詞を覚えていないだろう?」

 

「!?」

 

「口パクだったぞ」

 

思わぬことを指摘されて動揺する津田。

彼としてはまさかばれているとは思わなかったのだ。

 

「いや、校歌って堅苦しいし難しい言葉多くて……覚えにくいんですよ」

 

「それは気持ちの問題だ」

 

言い訳を試みるも、正論で返される。

確かに彼女の言うとおり、こういうのは覚える気があるかどうかの問題だろう。

現に津田は、興味のあることや目的のためならば高い記憶力を持っている。

その能力で実際に試験で高順位を叩きだしているのだから、校歌程度を覚えられないというのは信じられなかった。

シノからすれば、本人に覚える気がないとしか思えなかったのだ。

 

「あれだ、興味がないなら別のものと考えて覚えればいい」

 

「例えば?」

 

「例えば、アニソンと思えば簡単だろう!」

 

親指を立てて自信満々に言うシノ。

 

「会長はアニソンと思って覚えたんですか?」

 

「うぇ!?……やっ、違うぞ!?」

 

津田の中では会長はアニメ好きということになった。

そして、二人の跡を気配を消して尾行していた人物が一人。

 

「会長はアニオタ……と」

 

新聞部の畑がなにやらメモを取っていた。

彼女の特技は誇張表現と捏造である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【勝手にディープ】

 

今日は会議にない生徒会室。

何故か新聞部がインタビューを行うための場と化していた。

 

「今日は風紀委員張の五十嵐カエデさんにインタビューします」

 

「噂では男性恐怖症とか」

 

「……まぁ弱冠」

 

「ふむ……つまり経験をいかし風紀委員になったと」

 

「は?」

 

五十嵐の言葉に、何か一人で納得したかのような顔で頷く畑。

彼女の言う経験と言うものが何を指しているのか五十嵐にはわからなかった。

口元に畑がマイクを近づけ、答えを促した。

 

「それで何人の男にだまされたんです?」

 

「いや、そーゆー過去はないんですけど」

 

「じゃあ質問を変えましょう」

 

「はぁ……」

 

「実際問題、何回妊娠したことがあるのでしょうか?」

 

「だからそんな過去ねぇっつってんのよ!!」

 

人の過去を勝手にディープにするなと怒る五十嵐さんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【下の口】

 

「スズちゃん、そこ破れてるよ」

 

「え?」

 

ある日の生徒会室。

会議が終わり、団欒を楽しんでいた生徒会役員共。

そんな中、アリアがスズのタイツの一部が破けているのに気がついた。

スズも彼女の言葉を聞き、アリアの視点をたどってその場所を見つけた。

確かに左足のひざの部分が破けてしまい、下の肌を露出させている。

 

「確かに破けてるな」

 

「いつ破けたんだろう?」

 

とくにどこかに膝を強くすりつけたりぶつけたりした覚えはなかった。

電線が入るならまだしも、こうも破けているのはなぜなのか。

まぁ考えても仕方のないことではあるが、理由を思いつかなかった。

 

「どれどれ」

 

だが何を思ったのか、女子の会話を聞いていて確かめようとした横島先生。

彼女はスズの前にしゃがむと、おもむろにスカートをめくろうとした。

 

「そっちじゃない」

 

スカートを押さえ、若干怒気のこもった声で言うスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【だって……下のことだと思ったんだもの】

 

そこに津田がトイレから戻ってきた。

何故か若干怒り気味のスズに、横島先生を呆れた目で見ている先輩が二人。

なんだかトイレに行く前の状況とは違うことに津田は首をかしげた。

 

「みんなどうしたんです?」

 

「スズちゃんのが破けちゃったんだけどね……それで……」

 

「なんだって!?」

 

状況を説明しようとするアリア。

しかしその言葉の中には、何が破けていたのかは含まれてはいなかった。

先生同様に勘違いした津田はもの凄いスピードで何かを確かめるべくスズのスカートに頭を突っ込んだ。

まさか立て続けに同じことをされるとは思っていなかったスズは、一瞬呆然としてしまった。

 

「血はついてないし……いつものクマさんパンツだ。

 ……あっ、破けたってこっちのことか」

 

スズのスカートに頭を突っ込んだ津田は、彼女の下半身がいつも通りのパンツとタイツの状態であることを確認した。

膜がいきなり破けてしまったのなら血が出るなりしていただろう。

しかしその様子もなく、別段スズが痛がっている様子もない。

視線を落とすと彼女の膝の部分が破けており、下の肌が露出していた。

そのことから、自分の早合点であったと認識して安堵のため息を漏らす津田。

しかし彼は未だに彼女のスカートに頭を突っ込んだままだった。

 

「津田……覚悟はできてるな?」

 

頭上から冷たい声がかけられる。

その日、久しぶりに彼女の華麗な脚技が披露されて生徒会の残りの面々から拍手があがった。

 

 

 

 

 



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三十人目

 

 

【目につく】

 

秋に入り、涼しくなり始めて夏が過ぎ去った事を実感させ始めたころ。

桜才学園は一大イベントの一つであり文化祭を間近に控えていた。

 

「来週はいよいよ文化祭だな」

 

生徒会室では、シノとアリアが一週間後に迫った文化祭について談笑していた。

このころになると、学園全体が当日に向けて慌ただしい動きを見せている。

文化祭とは本番当日だけではなく、それまでの過程を共に楽しむのも醍醐味の一つだ。

イベント事の好きなシノは、周囲の楽しげな空気に感化されてどこか嬉しそうである。

 

「秋の一大イベントだから胸が躍るねー」

 

シノの言葉に同意するようにして、楽しげに微笑むアリア。

子供のようにわくわくとして体を揺らすので、彼女の豊満な胸が言葉通り踊っていた。

 

「おどらすな!!」

 

「!?」

 

自分にはない母性の大きさに、つい理不尽に怒るシノ。

だが仕方がない。

彼女にとっては、嫌でも目につくほどの大きさの友人の有する母性の塊。

それが自分の胸にないことこそが理不尽なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【目につく?】

 

時間が経過した生徒会室。

先ほどの二人に津田を加えたメンツが、部屋の中で休憩していた。

 

「しっかし、文化祭まであと一週間ですか……」

 

「ああ、楽しみだな」

 

「秋の一大イベントだもんね」

 

津田の呟きにシノとアリアが反応する。

そういえばさっきも同じ内容の会話したなぁ、とか考えつつ彼の言葉に相槌を打った。

先ほどは言葉通りに胸を躍らせてしまい、アリアがシノに怒られたのであった。

それを思い出しつつ、なんとなく津田の股間に目をやるアリア。

 

「津田君も楽しみで股間が膨らんでるね!」

 

「膨らんでるのか!?」

 

「いやー、楽しみというよりも……疲れ?」

 

楽しみという感情半分。

貴重な男手ということで最近あっちこっちと引っ張り出されて疲れているのが半分。

要するに、疲れマ○であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【練習台】

 

次の日の生徒会室。

休憩中の津田にアリアがとある提案をしていた。

 

「演劇部の先輩から文化祭の劇、手伝うように頼まれちゃって……」

 

今回の文化祭での演劇の台本を持って少し困った表情をするアリア。

 

「練習につきあってくれないかなぁ?」

 

「いいですよ」

 

困った顔をしている女性の頼みごとを特に断る理由もない。

津田は深く考えることもなく、練習の相手を引き受けた。

特に相手との掛け合いのあるシーンであれば、一人で練習しても雰囲気もでないだろう。

津田が了承してくれたことに、彼女は嬉しそうな表情をする。

 

「ありがとうー、じゃあ、さっそくこの『メイドと犬が戯れるシーン』を……」

 

「……一応確認しますけど……どっちがどっち?」

 

「私がメイドで、津田君が犬だよ?」

 

「Yes!!」

 

思わずガッツポーズをする津田。

お嬢様であるアリア扮する巨乳メイド。

そして、彼女と戯れる犬である自分。

一粒で二度美味しい背徳的なこのシチュエーション。

役得以外のなにものでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【わんわんプレイ】

 

生徒会室に風紀委員会の書類を届けにきた五十嵐カエデ。

文化祭に向けて浮足立っている今のような時期だからこそ、風紀委員たるもの学園内に目を光らせていなければならない。

当日の警備のローテーションの確認や、出し物に風紀に反するものがないかの定期的な確認。

やることはいくらでもある。

さっさと提出してしまって次の仕事にかかろう。

そう思って生徒会室の前に立ったまでは良かった。

 

「わん!!」

 

「……っ!?」

 

だが、問題はノックしようとした扉の向こう。

そこから彼女の苦手としている男子の声が聞こえてきたことだ。

生徒会室にいる男子など、考えられるのは一人しかいない……津田タカトシである。

男性恐怖症の五十嵐は、学園内の男子の中でもとりわけ彼が苦手であった。

初対面の時は、無理にでも視界に入ろうと変態的な動きでこちらの恐怖心をあおった。

体育祭の時のリレーでは、コースを外れて逃げだした自分をどこまでも追いかけてきた。

色々あって彼女にとって津田タカトシは天敵以外の何物でもなかった。

直接顔をあわしてすらいないのに、扉の向こうに奴がいると実感しただけで動けない。

心臓が早鐘を打ち、どうくどくどくどくと鼓動の音が耳に聞こえるような気がした。

 

「おて」

 

「わん! わん!」

 

「うふふ、上手ね~」

 

「わんわん!! わんわん!!」

 

「ちんちん」

 

「へっへっへっへっへっへっへ………」

 

さらに部屋の中には生徒会書記の七条アリアもいるらしい。

二人で何か変態的なことをやっているのか。

この目で見ているわけではないので確かではない。

だが、どう考えても津田の方の息使いは変態的に聞こえた。

そしてアリアの声も何故か嬉しそうである。

潔癖症の彼女からしてみれば、生徒会役員がアブノーマルなことをしているとしか思えなかった。

 

(どうしよう……ここは風紀委員として現場をおさえて説教するべきなのかしら?)

 

でも正直あの空間に入っていくのが怖い。

これはあれだ、きっと演劇か何かの練習かなんかだ。

普通、犬になりきったプレイなど、しかも生徒会室なんて場所でするはずがない。

いくらあの男が変態的でもさすがにないわよね。

まぁでも、劇の練習中に邪魔するのも悪いし出直そうかしら?

だって文化祭まで日もないし、劇の練習の邪魔しちゃ……

 

「あら、ここがいいの?」

 

劇の練習の邪魔しちゃ……

 

「くぅ~ん、くぅ~ん」

 

劇の……

 

「うふふ、くすぐったいわ。

 あん、駄目、そんなに舐めちゃ……ひゃん!?」

 

練習……

 

「…………不潔よぉおおおおお!!」

 

劇の練習と思い込むこともできず、かといって不純異性交遊の現場に踏み行って止める度胸もない。

そんな自分に涙しつつ、叫びながら走りさる五十嵐であった。

 

 

 

 

 

【わんわんプレイ楽しいなあああああ!!】

 

「わん!!」

 

別の場所で一仕事終えたシノ。

彼女が生徒会室の前まで戻ってきたその時、部屋の中から津田らしき者の声が聞こえてきた。

 

(……津田?)

 

室内から聞こえてきたのは確かに津田の声だった。

だが、何故に「わん」なのだろうか?

犬の真似でもして遊んでいるのか。

ここ最近、生徒会以外でも男手として引っ張りだこの津田。

シノは彼が疲れから一人で変な遊びでもしているのかと思った。

だが……

 

「お手」

 

「わん! わん!」

 

「うふふ、上手ね~」

 

「わんわん!! わんわん!!」

 

室内から聞こえてきたのはアリアの声。

どうやら津田と一緒になりきりプレイをしているらしい。

語尾にハートマークでも付きそうな親友の声と犬真似をする後輩の声。

ドアノブにかけていた手の動きが止まり、シノは完全に部屋に入るタイミングを逸してしまっていた。

 

「ちんちん」

 

「へっへっへっへっへっへっへ…………」

 

「お~、よくできました。

 いいこいいこね~」

 

「わん!」

 

「あら、ここがいいの?」

 

「くぅ~ん、くぅ~ん」

 

「うふふ、くすぐったいわ。

 あん、駄目、そんなに舐めちゃ……ひゃん!?」

 

「…………」

 

中から聞こえてくるアブノーマルな内容を彷彿とさせる声に、さすがにドン引きするシノであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ささいな問題】

 

さらに次の日。

再び合間を縫って劇の練習中の津田とアリア。

 

「失礼します」

 

そこに現れたのは、七条家専属メイドの出島さんであった。

前にアリアの家で会った時と同じく、落ちついたデザインのメイド服に身を包んでいる。

外見だけを見れば知的な雰囲気を醸し出すクールな美人である。

 

「演劇で使いたいというメイド服お届けに参りました」

 

「御苦労様」

 

今回、彼女がわざわざ学園にまで足を運んだのは、アリアがメイド服を所望したからだ。

しかし出島さんは手ぶらで来ており、メイド服は現在彼女が着ているもの以外見当たらない。

 

「いや、でも出島さん着てきちゃってますよ?」

 

そのことを指摘する津田。

 

「御心配なく、全裸で帰りますから」

 

無表情のまま何てことはないように言い切る出島さん。

出島さんは外見は知的美女でも、中身はアレな人であった。

しかし、さすがに女性を全裸で帰すわけにはいかない。

 

「仕方ありませんね……出島さん、よかったらこれ使ってください」

 

「これは……なるほど、紳士の嗜みということですか」

 

制服のブレザーのポケットから津田が取り出したもの。

それは紺色のブルマと、名前のまだ書かれていない体操服の上着であった。

名札の位置にマジックで「でじま」と書きこんで彼女に手渡す。

 

「ではありがたく使わせていただきましょう」

 

「うふふ、よかったね出島さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【言葉の現実】

 

文化祭を明日に控えた桜才学園。

その廊下を歩きつつ、明日に向けて準備する生徒を見て回る生徒会役員共。

 

「にわかに活気づいてきたわね」

 

「文化祭明日だからなー」

 

スズの言うとおり今日は今までで一番と周囲が活気づいている。

どこもかしこもわいわいがやがやと、まるで一日早く祭りが来たような錯覚を覚える。

それもそのはず。

今年の文化祭は共学化して初めての文化祭だ。

例年よりもどこも力を入れており、前日になった今でもてんやわんやしている。

今年は男手がいるということで、今までよりも屋台から何まで気合いが入っているものが多い。

デザインに気合いを入れればその分時間を食うのは当たり前。

要するに、時間に追われて焦っているものが大半だということだ。

だがそれ以上に、明日が待遠しいせいで余計に浮足立っているともいえる。

 

「みんな期待に胸をふくらませているのだろう」

 

「ふくらむねー」

 

シノの言葉に、彼女の隣に並び立つアリアが相槌を打つ。

 

(津田君の場合は股間が、だけどね~)

 

そんなことを考えつつ、アリアの視線は若干いつもよりもっこりしている津田のズボンに向かっていた。

だが、そんなことはシノの知ったことではない。

彼女にとって重要なことは、アリアの期待とともに膨らんだように見えた胸であった。

隣に並び立つせいで、自分と彼女の戦闘力の差が際立って見える。

 

「膨らむわけがない―――――!!」

 

つらい現実の壁に、涙を流して走りさる生徒会長であった。

 

 



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三十一人目

あいも変わらず、店のテレビが生徒会役員共をサンプルで映していて、それを小学校にあがったくらいの子供が見ているのである。
オラ、ハラハラすっぞ


 

【おうさいさい】

 

文化祭当日の朝を迎えた桜才学園。

早朝から活気付く学校内を二人組みで見回りしている生徒会役員共。

現在、津田はシノと一緒に校舎内を見回りしている。

ちなみにアリアとスズは校庭での屋台の確認を行っていた。

 

「会長、目の下にクマができてますよ?」

 

「津田こそ」

 

校舎内を歩く二人は、明らかに寝不足であることを表すクマができていた。

 

「さては津田、昨日の晩もまたオナ○ーのしすぎで徹夜したんじゃないだろうな?」

 

ここ数日の準備でひっぱりだこな津田は、疲れからか普段から勃起してしまっていることがあった。

先日も彼の股間の観察をかかさないアリアに指摘されているのである。

シノはてっきり、文化祭当日に向けて溜まりに溜まった欲求を発散させていたのだろうと考えたようだ。

津田に問いかけつつ、答えは解りきっているんだぞと言いたげに口元をにやけさせている。

 

「いやー、それが……俺も昨日は発散させるつもりだったんですけどね。

 どこも準備が追い込みで、男手が欲しいからって駆り出されてまして……」

 

ついさっき解放されたばかりなんですよ、と苦笑を浮かべる津田。

 

「すまん!!……ぅーーあああーーー!!」

 

「えっ、会長? 会長ーーーーー!?」

 

その言葉を聞いて、楽しみで寝付けずに暇を持て余してオ○ニーで徹夜したシノは涙をちょちょぎらせて走り去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【私には見えない】

 

 

その後、メンバーの組み合わせを変えて見回りを続ける生徒会の面々。

現在津田はスズと一緒に、二年生の学年の出し物に風紀に反したものがないか確認していた。

A組から順に一つ一つ確認していく。

喫茶店やダンボールで仕切られた迷路など、様々なクラスごとの出し物が連なる。

D組みでストリップショーを計画していたのを止めさせたスズは、そのまま次の階に行こうとした。

 

「ふぁぎむらふぁぎむら、ふぎほほだよ?(萩村萩村、次ここだよ?)」

 

E組を素通りしようとした萩村を呼び止める津田。

現在彼の顔は何度も殴られたかのようにぼこぼこだが、理由はご想像にお任せしよう。

 

「ああ、私背が低いから見えなかったわー」

 

明らかに棒読みな口調で誤るスズ。

どう考えても嘘なのだが、自らタブーとすることに触れてまで嫌なのだろうと思いそのことを指摘しない津田。

E組の出し物には「おばけやしき」と書いてあった。

 

 

 

 

 

 

【お口封じ】

 

ヒュ~ドロドロドロ~……と、定番のBGMが流れるお化け屋敷に入る二人。

 

「ふぇいとふぁいのふぉうからみまわうぃにふぃむぁふぃふぁ(生徒会の方から見回りに来ました)」

 

「ひぃっ!? へ、あ、生徒会の……」

 

ぼこぼこの顔で津田が受付の生徒をびびらせている最中、難しい顔をして通路の先をにらむスズ。

こんな子供だましのもので悲鳴をあげれば、生徒会としての威厳が示せない。

どうするべきかと考えている時、彼女の目に入ったのは備品の箱の上に置いてあるガムテープだった。

津田が生徒会の腕章を見せて説明している間に、こっそりとガムテープで自分の口をふさぐスズ。

津田はそれを見て彼女なりに頑張っているのだろうと優しく見なかったことにしてあげた。

 

「~~~~~っ!?」

 

墓石のハリボテを目にして悲鳴をあげそうになり……

 

「~~~~~~っ!?」

 

理科室から持ってきたのか、人体模型に驚くスズ。

 

「ぎゃーーーーーーーーーーーーー!?」

 

だが、お化け屋敷に悲鳴を響かせたのはスズではなく、ぼこぼこに変形した津田の顔を見たお化け担当の生徒であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【演技派書記】

 

午前の見回りを終えて合流した生徒会役員共。

今は我らがアリアが出演することになった演劇部の劇を観に体育館に来ていた。

舞台の上で立ち回る演劇部たちの活躍を、客席から鑑賞する面々。

 

「おて」

 

「わんわん!」

 

今現在は助っ人として呼ばれたアリアが、犬と戯れるシーンを演じていた。

 

「七条先輩演技うまいですねー」

 

顔の形状が元に戻った津田。

以前、劇の練習を手伝ったときよりも格段に演技が上達している様を見て関心する。

実際には他の演劇部の面々よりも舞台映えする上に、一つ一つの所作に目を引かれた。

 

「DVDで研究したらしいぞ」

 

彼のつぶやきに反応したシノが答えた。

最近は昔よりも舞台のDVDも豊富である。

レンタルビデオの店に行けば借りることもできるだろう。

まぁ、金持ちの彼女であればそんなことはせずに取り寄せて購入しているかもしれないが。

 

「登場人物がローター入れて接客するやつだったらしい」

 

「実際にやってないだろーな」

 

シノの付け足すような一言を聞いて、妙な不安を感じるスズ。

そう言われれば、舞台の上にアリアは頬が少し赤いようにも見える。

いや、あれは舞台上での高揚感とか緊張とかのものだろう。

そうに違いない。ないったらない。

 

「あ」

 

ガガガガガガガガガガッガガガ……

彼女のスカートの中から何かが転げ落ちた。

何事も無かったかのようにアリアが拾い上げるまで、何故か妙な音が体育館に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あのこのぬくもり】

 

「素晴らしい演技でしたお嬢様」

 

「出島さんもメイド服ありがとうね」

 

演劇終了後の生徒会室。

着替え終わったアリアは、部屋の中で出島から借りていた服を返そうとしていた。

ちなみに津田も出島に呼び出されて一緒にいる。

 

「ではさっそく着替えますね」

 

「え、でも一度クリーニングしたほうが……」

 

彼女は何故か、以前津田が渡した体操服を着ている。

それを今渡されたメイド服に着替えるらしい。

 

「いえ、メイドの私服はメイド服ですから……それにお嬢様の使用済みはそそりますしね」

 

「あらそーぉ?」

 

「それに津田様も使用済みの方がそそられるでしょう?」

 

「Yes!!」

 

津田と出島は互いにサムズアップして答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【筋書きのあるドラマ】

 

再び見回りを再会する生徒会の面々。

今は最初と同じく津田はシノとペアを組んで回っていた。

 

「天草会長」

 

「む?」

 

そこに声をかけてきたのは新聞部でおなじみの畑ランコであった。

 

「現在ミスコンの参加者募集中なんですが、あなたもいかがですか?」

 

どうやら新聞部主催の毎年恒例のミスコンの参加者を探しているようだ。

事前に出場が決まっているメンバーのほか、現在飛び入りの参加者を募っているとのこと。

津田は持っていたパンフレットを確認する。

確かに一時間後、校庭の特設ステージでミスコンが開催される流れになっていた。

 

「水着姿でやるらしいですね」

 

「私にそういうのは無理だ」

 

津田の言葉にちょっと困った顔をするシノ。

彼女は他人の視線を感じるのは好きなほうだが、自分の体型に自身があるわけではない。

具体的には胸とか。あと胸とか。

身近に書記と書いてボイン読むような人物がいるだけに、必要以上に卑下してしまう。

 

「ハハハ、大丈夫ですよ。会長にポロリ要因は期待していませんから。

 ちゃんとポロリ専門の人も容易してあります」

 

「よし畑、ちょっとむこうで話し合おうか?」

 

畑さんは風紀に反することやる気満々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【びっちょびちょ】

 

午後の体育館。

演劇が終わった後は運動部の催し物が開催されていた。

ちょうど居合わせた横島と一緒に、見回りもかねて一つ一つ参加してみるスズ。

卓球、バレー、バスケットと順に参加していく。

特に最後のバスケットの3オン3はきつかった。

体育館内での運動部で唯一、数少ない男子生徒で結成された部活だからだ。

ゲーム終了後、横島とスズはタオルで汗をぬぐっていた。

5分間のミニゲームだったが息を切らせる自分達とは違い、男子生徒は次のゲームを開始している。

普段部活で動き回っているかの違いもあるが、やはり性別の違いからくる体力の差もあるだろう。

横島は彼らを眺めながら、小さくため息をついた。

 

「いやぁ、やっぱり男の子はイキがいいわねー。えらい汗かいたわ」

 

「……見たところ、あまり汗をかいている様には見えませんが?」

 

彼女の言葉に、スズが何気なく返す。

実際、横島の頬には汗が伝っているがそれほどまででもない。

20代にしては動いていたほうだが、ゲーム中はスズのほうが動いていた。

そのせいか、どちらかといえば目の前の教師よりもどう見ても自分のほうが汗をかいている。

 

「いやー、身体の汗じゃなくてあっちのほうなんだけどー」

 

顔を拭いていたタオルでさりげなく股間の位置を隠す横島。

 

「あっ、萩村そんなところにいたのかー。おーい!」

 

「来るな津田!! 今はこっち来るなー!!」

 

空気を呼んだのか読まなかったのか、寄ってくれば余計にややこしくなる奴が体育館の入り口から手をふっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【筋書きのあるドラマ2】

 

「津田副会長」

 

「む?」

 

「あれ、畑さんどうしたんですか?」

 

見回りを続けていた生徒会役員共。

今現在は全員合流して4人で見回りをしている。

まぁ、もはや回るべきところは全て回っているのだが。

 

「今年から共学になったでしょう?

 なので、実は今年からミス桜才のようにミスター桜才も決めようという声が急遽あがりまして……」

 

「なるほど、それで津田か」

 

確かに津田は外見もそこそこいいし、身長もけっこう高い。

変態であるということを差し引いてもそれなりに人気があるのだった。

 

「ちなみに、出場者にはこちらの水着を着てもらいます」

 

取り出されたのはブーメラン型の水着。

穿けばあきらかにあそこがもっこりと主張しそうである。

 

「畑よ、急遽声があがったといっていたな?」

 

「そうですが?」

 

「何故そんなに用意がいいのだ?」

 

「そりゃあ意見を出した人間がポロリを期待していたからでしょう」

 

「つまり俺にポロリをしろと?」

 

「あらあら」

 

この後会長と会計の手によってミスター桜才コンテストは中止にされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【5分の恐怖】

 

文化祭の日程の3分の2が消化された時間。

ようやっと仕事から解放され自由時間を得た津田だった。

今年は共学になって初の文化祭ということもあり、いろいろと大変だったのだ。

そのため今回の祭りでは生徒会のメンバーにはほぼ自由時間などありはしなかった。

 

「あー疲れた。やっと自由時間作れた……」

 

ため息を吐きながら中庭のベンチに腰掛ける。

思えば徹夜であちこちに引っ張り出され、今日も朝から見回りで歩き回っている。

正直かなり疲れていた。

ちょっと休もう、5分、そう5分だけ……

そう思って目を瞑った津田の意識は、思いのほか深いところまで潜ってしまった。

要するに思いっきり寝てしまったのである。

黙っていればイケメンの仲間入りもできそうな津田が若干よだれを垂らして寝ている。

時折通り過ぎる先輩のお嬢様方はその姿を見て微笑んでいた。

津田を見つけた畑はシャッターチャンスとばかりに写真を収めていた。

生徒会役員の写真は、けっこう需要がある。

まぁつまり、儲かるのだ。

だが誰も起こしてくれない。

そのまま時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【分岐点】

 

「……田……津田!!」

 

自分を呼ぶ声に起こされ目を開ける。

寝ぼけた眼を横に向ければ、そこにはシノが呆れたような目でこちらを見ていた。

 

「あっ、あれ?」

 

「やっと起きたか」

 

どうやらベンチで居眠りをしていた津田を見かねて、彼女は声をかけてくれたらしい。

 

「もう夕方だぞ?」

 

「えーーーーーー!?」

 

慌てて空を見上げれば、確かに茜色に染まっていた。

心なしか周囲も薄暗くなり始めている。

 

「なんたることか、高校最初の文化祭が……寝ている間に終わるとは」

 

ちょっと仮眠を取るつもりが、寝過ごしてしまった。

既に周囲の店は撤収作業に取り掛かっている。

その様子を見て落ち込む津田。

しかし、そんな彼に彼女は声をかけた。

 

「まだ終わっていないぞ」

 

「え?」

 

顔を上げれば、自分の正面に回って立っているシノ。

彼女は照れくささから仄かに頬を赤く染めつつ、視線を校庭のほうに向ける。

視線を追えば、校舎と校舎の間から見える校庭では生徒達が何かの準備をしていた。

 

「後夜祭のフォークダンスが残っている。私でよければ付き合うが……」

 

そういって、はにかむ様にして津田に手を差し出すシノ。

明らかに夕日に照らされているだけではない頬の赤み。

異性をダンスに誘うというのが恥ずかしいのだろう。

そんな彼女を見ていると、こんな文化祭の終わり方もいいかと思えてしまう。

彼女の手に自分の手を重ねようと思った、その時。

左右から二つの手が同様に差し出される。

 

「私もよかったらダンス付き合うよー?」

 

「な、なんだったら私が一緒に踊ってあげてもいいのよ?」

 

手の先を辿れば笑顔のアリアと、そっぽをむきながらもこちらに手を差し出すスズの姿。

えっ、あれ? 何このうれしい状態?

三人のそれぞれ魅力的な少女が自分にダンスのお誘いをかけてくれている。

もしかして俺モテモテ?……と気持ち高ぶる津田だった。

よぅし、皆順番に踊ろうぜ!とはいかないのが現実である。

 

「……ちなみに津田、全員と踊るのはなしだ」

 

「へ?」

 

見れば、先ほどの照れくさそうにしていた顔から一変。

そこには能面のような無表情で、光沢を失った目でこちらを見下ろす生徒会長の姿。

 

「この中から一人、一緒に踊りたいやつを選べ」

 

「選ばなかったらフラグバッキバキね!」

 

「…………」

 

先ほどまでの青臭い青春の一ページはどこへ行ったのか。

感情の読めない目でこちらを見下ろすシノ。

現状をどこか面白がってにこにこしているが、今はその笑顔がちょっと怖いアリア。

無言で静かなプレッシャーをかけてくるスズ。

津田の前には三本の未来の分岐点を現す、三人の手。

どーすんの俺……どーすんの!?

 



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三十二人目

 

【妹は受験生】

 

「タカ兄ー、面接の練習付き合ってー」

 

津田が自室でくつろいでいる時、妹のコトミがそういって扉から顔を覗かせた。

いつもノックの一つもしろと言っているのだが、この妹はきいた試しがない。

はぁ、と小さくため息をつきつつ、暇だったのも事実なので付き合ってやることにしたのだった。

コトミをベッドに座るように促して、自分は勉強机に備え付けられた椅子に座る。

 

「えーと……我が校に入学したら何がしたいですか?」

 

コトミも桜才学園を受験するので、自分が受験の面接の際に何を聞かれたかを思い出しながら質問する。

うろ覚えではあるが、確か似たようなニュアンスの質問をされたはずだ。

 

「あー、その質問は考えてなかった」

 

「自分がやりたいこと言えばいいんだよ」

 

あまり難しく考えずに、まずは正直に答えてみろと促す。

この妹は自分では上手いこと言葉に表せないだろうから、一度聞いて自分が訂正してやればいい。

そう思っていたのだが……まぁ、彼女は他でもない津田タカトシの妹である。

 

「教師との背徳恋愛?」

 

「真っ先に出るのがそれかぁ」

 

却下で、と否定する。

さもありなん。彼女は津田の妹。

その思考回路も似たり寄ったりの思春期まっしぐらなのである。

 

「じゃあ、兄妹での背徳行為?」

 

「……もう学校関係なくね?」

 

訂正。思春期ではなく変態思考回路だった。

しかも恋愛飛ばして行為だよ、ランクアップしてるよ。

津田は妹の脳を諦めた。

彼は妹相手には割かし冷静にマトモな思考をするのだった。

 

 

 

 

 

 

【志望動機】

 

「桜才学園って人気あるから競争激しいんだー」

 

「そうなの?」

 

「制服も人気の一つだよ。可愛いって評判なの」

 

「へー」

 

そう言われると確かに可愛い気がする。

が、そこらへんは津田は男であることだしあまり女の子ほどよくわからない。

そもそも普段目にしている女生徒たちが制服関係無しに美少女ばかりである。

彼女達のイメージが入ってしまっているのもあるので、どう判断したものか。

自分は単純に家から近かったことと、元女子高という響きが良かったから選んだのだけれど。

女の子はやっぱり可愛い制服というのも重要なポイントなのだろう。

 

「じゃあコトミもそれが目的で?」

 

「私は家が近いから」

 

「さすが俺の妹だぜ」

 

「あっ、でもこういう時って「お兄ちゃんがいるから……」て言えば好感度あがるのかな?」

 

「それを俺に相談してる時点で駄目だと思うぞ」

 

「あー、タカ兄フラグ一つ逃した~」

 

コトミは脱力して兄のベッドに寝転がる。

なんでこう上手くいかないかなー、と口にしつつさりげなく枕に何か細工しようとしていた。

 

「おい、人の枕に勝手に何か入れようとするな」

 

「ちぇー、ばれたかー」

 

彼女の手には、自ら撮影したヌード写真があった。

 

 

 

 

 

 

 

【普通に疑問】

 

「あんたの妹、桜才受けるんだって?」

 

「ああ」

 

次の日の生徒会室。

一年生コンビは二人で書類整理を行っていた。

手を動かしつつ、スズは何気なく浮かんだ事を口にする。

 

「だから俺が今、あいつの勉強見てやってるんだ」

 

「ふーん」

 

傾向と対策についていろいろね、と応える津田。

彼も一年前に勉強した内容ではあるので、実際に受かっている以上教える分には問題ない。

ないのだが……

 

「大丈夫なのそれ?」

 

「あれ?」

 

スズの疑問も間違ってはいない。

津田はちゃんとこの学園に合格して通っているわけだが、成績は上位というわけではない。

何気に一学期の中間試験では学年2位という、スズに次いで好成績を記録していた。

しかしそれも、アリアのご褒美目当ての情熱があってこそ。

1位を取れずに燃え尽きた津田は、それ以降自分のペースに戻ってしまい順調に成績は下降していっている。

このままのペースでいけば二年になる頃には平均どころか赤点ラインを切る科目も出てくるだろう。

妹の家庭教師役という、彼からすればモチベーションのあがるようにも思えないもので上手くいくのか?

仮にモチベーションは問題ないとすると、むしろ津田の性格を考えればそちらのほうが問題ありかもしれない。

妹相手にご褒美的な何かを期待しているわけで……

いや、さすがに実の妹相手にそれはないか?

 

「さすがの俺も妹属性はないよ」

 

スズの思考を呼んだ津田が否定する。

変態の彼も、変態である前に妹に対しては一人のお兄ちゃんなのである。

 

「あっそ」

 

 

 

 

 

 

【提案】

 

「なんなら、休みの日とかでよければ私が教えてあげましょうか?」

 

「え?」

 

突然の彼女からの提案に津田の動きが止まる。

 

「だから、あんたの妹の勉強よ。次の日曜にでも教師役してあげようかって言ってんの」

 

「本当に?」

 

「別に用事があるわけじゃないし、構わないわ」

 

萩村が、俺の妹の教師?

それはつまり、コトミの勉強を見るために俺の家に来るってこと?

当然、そこは流れで「津田の部屋ってどんなの」的な流れもありえるわけで。

 

「美少女が俺の部屋にご来訪キタコレ」

 

あんな妹でも兄の役に立つ時があるとは。

さっそく今夜自室の掃除をしなければとテンションのあがる津田。

 

「なっ、ば、馬鹿言わないでよ! あんたが妹連れて私の家に来るの!!」

 

あんたの家に一人でなんて危なくて行けるわけ無いでしょ、と怒るスズ。

それを聞いて固まる津田。

 

「え?……行ってもいいのか?」

 

「べ、別にいいわよ。あんた一人じゃアレだけど、妹も一緒ならその……この間みたいなことには……ならないだろうし」

 

言葉は次第に尻すぼみになっていき、何を言っているのか聞き取れなくなってくる。

しかし、彼女の頬が徐々に赤みがかってきていることから、以前のことを思い出しているのだとわかる。

津田は以前に一度だけスズの家に行ったことがある。

そのとき、かくかくしこしこで思わず押し倒してしまったのだ。

あの時は萩村母が姿を見せなければ行くところまで行っていたかもしれない。

その後、お互い混乱して焦っていたこともあったので若さゆえの過ちとして互いに忘れることにしたのだった。

そのせいか、どこか津田が萩村家に行くような事態になることを避けていた傾向がある。

だが、他でもないスズが彼女の家を指定しているわけで。

そして今では耳まで真っ赤になっている以上、彼女も忘れると言いつつしっかりとあの時のことを覚えているわけで。

それでも、他でもない彼女自身から妹同伴とはいえOKが出た。

つまり、あんなことがあって尚、彼女は自分を家に招いても構わないと思うほどには好意的に見てくれているわけで。

 

「これは夢じゃなかろうか」

 

ああそうだ、これは夢だ。

こんな都合のいい夢を昼真っから見るなんて、ハハ、俺ってばお茶目さん。

とりあえず津田は眼を覚ますために掃除用ロッカーに頭突きをした。

 

「ちょっ!? 津田!?」

 

「……痛い……夢じゃなかったぁぁあああああああ!!」

 

額から血が流れるのもなんのその。

満面の笑みで、抑えきれないテンションに任せるままに津田は生徒会室を出て走り去った。

 

「ひぃ!?」

 

廊下の先に運悪く偶然(という名の必然)居合わせた風紀委員の五十嵐さん。

男嫌いの彼女は、血をだらだらと流しながら夢じゃなかったと叫ぶ男に恐怖した。

 

「いやああああああああああああああああああああああ!!」

 

「ゆめじゃなかったああああああああああああああああ!!」

 

テンションが高ぶって何も考えられない津田は、とりあえず本能の赴くままに逃げる物体を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

【萩村家リターンズ】

 

というわけでさっそく次の日曜日。

以前来たこともあるので特に道に迷うことも無く到着した津田兄妹。

 

「……着いてしまった」

 

「到着だねー」

 

前回、恥ずかしいところを萩村家の母に見られたこともあり若干緊張気味な津田。

対する妹は緊張感などかけらも感じさせていない。

自分の家よりも立派な家に感心している風だ。

玄関扉の横に備え付けられたインターホンを押そうと指を伸ばした。

 

「~~っ、~~~~~!」

 

「~~~」

 

その時、扉の向こうから何か言い合っているのが聞こえてきた。

扉越しなので何を言っているのかよく聞こえない。

 

「また萩村のお母さんが何かしてるのか?」

 

津田が思い出すのは、以前見たマンボウの死体。

どうやら彼女の母親は死んだフリやコスプレが好きなのか、娘は苦労しているようである。

同じくよく兄の前で死んだフリをしたりよくわからない格好をするコトミとは気が合うかもしれない。

そんな兄の思考を一切考慮しない妹。

コトミは中で誰かが言い争っていようがお構い無しにチャイムを鳴らした。

 

「いらっしゃーい!!」

 

「ちょっとお母さん!?」

 

待ってましたといわんばかりに、チャイムの鳴った直後に開け放たれる萩村家への扉。

そこには勝手に先走る母に慌てる娘と、丈の短いチャイナ服で美脚を晒すキョンシーがいた。

 

 

 

 

 

 

【自己紹介】

 

「お邪魔します」

 

「おじゃましまーす」

 

軽く一礼して扉をくぐる津田兄妹。

もう母の奇行を見られてしまった以上、ため息をつきつつスズはそれを迎え入れた。

 

「ほらコトミ、ちゃんと挨拶しろ」

 

「タカ兄の妹で津田コトミといいます。今日はお世話になります」

 

兄らしく、妹にきちんと挨拶するように促す津田。

彼に言われて姿勢を正したコトミは、お辞儀しつつ簡単に自己紹介する。

津田を迎えに来るスズには何度か家の前で会ったことがあるが、彼女の母親とは初対面である。

その為、もう一度名乗ったのである。

 

「あらあら、これは丁寧に。萩村スズの母親です。津田君はお久しぶりね」

 

「はい。お久しぶりです」

 

津田は前回、娘さんを絶賛押し倒し中のところを見られたので若干気まずかったりする。

だが、萩村母の瞳には剣呑なものは見えなかった。

むしろ自称娘の生徒会仲間にして怪しい関係の男との再会を喜んでいるようにも見える。

 

「もう、そんなに畏まらないで。自分のお母さんと話すようにしてくれていいのよ?」

 

「ちょっと待て」

 

何故にそうなる? と、娘が母の発言に対して待ったをかけた。

普通そういうときに言う社交辞令は「自分の家だと思って寛いで」とかだろうに。

スズの疑問に対し、30代後半とは思えない可愛らしさで首を傾げる母。

首を傾げたことで若干額に貼り付けた御札がはがれかけている。

 

「だって津田君がスズちゃんのお婿さんになったら、私にとっても子供でしょう?」

 

「なんと!」

 

スズは兄とそういう関係だったのか!と驚くコトミ。

それに慌てたのは、実際に怪しい場面を目撃された経験を持つスズだ。

 

「ちょっ!? 私と津田はそんな関係じゃないって何度も言ってるじゃない!!」

 

「もーぅ、恥ずかしがっちゃってー。スズちゃんってばかーわいーい」

 

「かーわいーい」

 

「フン!!」

 

「のぼす!?」

 

萩村母のからかいに乗じて、うかれていた津田は調子に乗ったのかスズをからかってしまった。

憤りの矛先を探していたスズの黄金の右足は、津田のボールを蹴り上げた。

久々の股間への一撃に玄関マットに沈む津田。

しかしそんな一連の行動も、萩村母にはいちゃついている様にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

【私も】

 

「タカ兄とスズ先輩がくっついたら、私とも姉妹になりますねぇ」

 

「あらあらそうねぇ。うふふふふ」

 

「だから、そんなんじゃないって……」

 

「先輩のこと、お姉ちゃんって呼んでいいですか?」

 

倒れこむ津田をよそに、会話の弾む女性陣。

彼との関係を否定しようとするスズだったが、コトミの提案に一瞬言葉が止まる。

なんというか、年上扱いされるのがものすごく新鮮で、耳に心地よい響きだったからだ。

同年代の人間よりもかなり小さい背丈の彼女は、今まで年上扱いされた経験があまりない。

自分よりも年下の者にさえ、子ども扱いされるばかりだ。

「お姉ちゃん」という呼ばれ方はそんな彼女にとってひどく魅力的に聞こえた。

そんな娘の思考などお見通しなのか、慈愛に満ちた目で娘を見る母。

津田との関係を否定したいという思いと、年上扱いされたいという葛藤。

娘が迷っていることを微笑ましく感じているようだ。

 

「ふふ、そうなったらコトミちゃんとも親戚ね」

 

「じゃあ、スズ先輩のお母さんのこともママって呼んでいいですか?」

 

「いいわよ」

 

「……なんでママなの?」

 

仮に、百歩譲って仮に自分が津田とそういう関係だったとしよう。

津田と結婚すれば、彼の妹であるコトミとは義理の姉妹ということになるのはわかる。

そういう意味では萩村家の住人と津田家の住人は親戚関係になるだろう。

だけど、婿の妹が嫁の母親を「ママ」と呼ぶのはあまりないと思うのだが……

そこらへん人間関係としてはどうなのだろう?

自分の母親も構わないと言っていることから、別段おかしなことでもないのか?

 

「だってスズ先輩がタカ兄とセッ○スしたら、将来タカ兄とセッ○スする予定の私とは竿姉妹ってことになりますよね!!」

 

「そうねぇ。そうなったらコトミちゃんも私の娘ね」

 

「いやー、ないないないないない」

 

うわー、こいつ実の兄をそういう目で見てるよー。

ドン引きするスズであった。

 

 

 

 

 

【実際問題どうよ?】

 

「あんたねぇ、津田は一応あんたのお兄さんでしょう?」

 

「そうですよ? ちゃんと同じ穴から生まれてきました」

 

「……そこは普通に血が繋がってるでいいだろうが」

 

勉強を教える前に、この子には他に教えなければならないことがありそうだ。

主に常識とか倫理とか常識とか。あと倫理とか。

 

「実の兄妹でそういうこと言わないの」

 

この国では近親相姦は禁忌とされている。

いや、探せばあるのかもしれないが、この国に限らずほぼ全ての国がそうなのではないだろうか?

 

「大丈夫!! 愛(……という名の欲求)があれば兄妹でも関係ないよ!!」

 

「そうねぇ、愛欲があれば問題ないんじゃないかしら」

 

「まてまてまてまてまってー、特にそこの大人まってー」

 

 

 

 

 

【新事実】

 

「でもスズちゃん、愛というのは障害があるほど燃え上がるものよ?」

 

「ですよねー」

 

萩村母の言葉に同意をしてうんうんと頷くコトミ。

 

「それに妹という立場はやっぱり兄に欲情するものなのよ」

 

「ですよねー」

 

「とりあえずお母さんは全国の妹の立場にある人に謝ったほうがいいと思う」

 

なんだか今日はいつもよりも母親が遠くに感じるスズちゃん。

困ったねー。本当に困ったねー。

 

「大体お母さんにはお兄さんなんていないでしょ?」

 

全くこの人は……何をさも自分もよくわかるみたいな顔をしてとんでもない事を言っているのか。

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

「ん?」

 

「私、タダヒトさんのこと昔はお義兄ちゃんって呼んでたのよ?」

 

「……どういうこと?」

 

「私達、順縁婚みたいなものだから」

 

「じゅんえんこん?」

 

知らない単語が飛び出したからか、コトミは目を点にしてボケッとした顔をさらす。

順縁婚とは、妻が死んだ後に夫が妻の姉妹と結婚することをいう。

もしくは一夫多妻の場合、第二婦人に妻の姉妹を娶ったりすること。

ソロレート婚ともいうよ。詳しくない人はぐぐってみてね!

津田が夢の中で説明している間に、スズは母親の言葉に突っ込みを入れる。

だんだん頭が痛くなってきたのか彼女はこめかみをひくつかせていた。

 

「……伯母さん普通に生きてるんだけど」

 

今年の正月にも顔を合わせている。

無駄に頭をなでられながらお年玉をくれた覚えがある。

 

「みたいなって言ったでしょー。タダヒトさん最初は姉さんと結婚してたのよ」

 

「初耳なんだが」

 

「昔から兄妹での禁断の関係に興味津々だったんだけど、私にはお兄ちゃんっていなかったしねー。

 そんな時、姉さんがお義兄ちゃんと結婚したのよ。ね?」

 

何が「ね?」なのか。

理由が解ったでしょ的な顔をされても対応に困る。

 

「私的には絶好の機会!」

 

「ひゃー、ママってばやるぅ!」

 

だから、そんな昔を思い出してきらきらされても困る。

しかも外聞的にも相当アレな話でそんな顔されても本当に困る。

今度あった時は、妹に夫を取られたのにその娘に優しく接する器の広い伯母に優しくしようと考えるスズだった。

まぁ単に器が広いというより、彼女の伯母は当時寝取られに興味があっただけなのだが。

そんな事実は知らない。だーれもしーらなーい。

 

 

 

 

 

【コトミ育成方】

 

このままでは一向に目的の勉強会ができない。

そう判断したスズはコトミをつれて自室に向かった。

津田? 母親と二人っきりにさせたら何を吹き込まれるかわかったものじゃない。

精神衛生上非常によろしくない事態が想像できたので、無理矢理たたき起こしてつれてきている。

 

「……とゆーわけで臨時家庭教師、改めてよろしくお願いします」

 

「うん」

 

「ちなみに私は褒められると伸びます」

 

だから思う存分褒めてくれといった顔をするコトミ。

しかし正直、今までの言動を見ていて褒めるべきところが何一つ見当たらない。

 

「そして罵倒されると興奮します」

 

「どっちもしない」

 

「(ボケに)突っ込まれることに快感を覚えます。女ですから!!」

 

「そう、じゃあ突っ込まないわ」

 

「……そして冷静に流されるのも興奮します」

 

「…………」

 

スズ先輩のスルースキル、背中がゾクゾクするぅ~とプルプル震えて恍惚の表情をしているコトミ。

 

「……あんたの妹面倒くさいわね」

 

「なんかごめん」

 

 

 

 

 

 

 

【年上なお姉さん】

 

結構本気で、津田の妹の臨時家庭教師を請け負ったことを後悔し始めているスズ。

しかし自分から持ちかけたことだし、言い出した以上は責任を持って勉強を教える。

それが我らが生徒会会計、萩村スズである。

 

「―――で、これがこうなるの」

 

「ほー」

 

勉強を開始すると、先ほどまでは変態全開の話ばかりしていたコトミもちゃんと真面目に教わっている。

それはコトミが真面目なのではなく、ひとえにスズの教え方のタマモノなのだが。

問題が解らないことから来る思考停止をさせず、常に考えることをさせている。

コトミの問題を解く様子を観察し、何に躓いているのかを理解しているのだ。

 

「教え方上手いよねー」

 

「だろ? わかりやすいよな」

 

コトミのつぶやきに、以前自分もスズに勉強を見てもらっていた津田は同意する。

あの時はシノ、アリアを含めた三人にそれぞれの教科を教わったが、スズの指導が一番わかりやすかった。

 

「そ?」

 

「ここも教えて、スズお姉ちゃん!」

 

褒められて悪い気はしない。

しかし何より、この「スズお姉ちゃん」という呼ばれ方。

なんだか頬がにやけてくる。

さっきまでは引き受けたことを後悔していたが、今はちょっとだけ良かったと思えるスズであった。

 

 

 

 

 

 

【差し入れ】

 

「みんな差し入れだよー」

 

しばらくして、萩村母が差し入れをもって部屋を訪れた。

それまでずっと勉強をしていたので、ちょうど良いと休憩を挟むことにする。

 

「はいどーぞ」

 

「ありがとーございますー」

 

「わー」

 

「ありがと」

 

教科書とノートを片付けた机の上に、三人分のおにぎりとそれぞれの椀にわけられた豚汁が置かれる。

おいしそうに湯気をたてる作り立ての料理に、歓声をあげる津田兄妹。

 

「勉強するとお腹すくもんねー」

 

そういって、三人の前にそれぞれ飲み物も置いていく。

スズの前には愛用のピンクのマグカップ。

コトミの前には黄色のマグカップ。

津田の前にはビンビンマラと書かれた栄養ドリンク。

 

「いや、おかしいおかしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

【かくし味】

 

「いただきまーす」

 

「はいどーぞ」

 

おにぎりを手に取り、一口かじってみる。

ホカホカの白米が、海苔と塩で甘味を引き立たせられている。

素朴で温まる味だ。

 

「おいしい」

 

「おふくろの味だねー」

 

「よかった。母乳が効いてるのね」

 

「……うぇ?」

 

津田兄妹に続いておにぎりを口にしようとしていたスズの動きが止まる。

いやー、さすがに冗談だろう。

そう思い直して口にすると、いつもと同じ、母が作ったおにぎりの味がした。

 

「わー、この豚汁もおいしー」

 

「胃の中から温まりますね」

 

「本当?おしっこが効いてるのね」

 

「…………」

 

冗談……だよね?

なんで津田兄妹は全く食欲が減退している様子がないのだろう。

冗談とわかっているからか?

むしろコトミにいたっては、先ほどよりも食べるペースが速くなっているような……

 

 

 



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三十三人目

 

 

【旅支度をしよう】

 

「今度の冬休みなんだけど、私の別荘でクリスマスパーティーなどいかが?」

 

冬休みを目前に控え、気持ちの弾む学生達。

桜才学園の生徒も例外ではなく、それは生徒会役員であっても楽しみであった。

津田の携帯に、アリアからのお誘いの電話がかかってきたのはそんな時である。

 

「―――――って七条先輩に誘われた」

 

「へー」

 

冬休み、受験生であるコトミにとっては最後の追い込みシーズンでもある。

そんな妹の勉強を見てやっていた兄の電話に興味を持ったコトミ。

ぶっちゃけ、勉強からの逃避のために聞いたといっても過言ではない。

内容を尋ねてみれば、クリスマスパーティーのお誘いとのこと。

 

「ほんでいつから」

 

「23日から二泊三日」

 

妹として、兄のリア充ぶりには恐れ入る。

まぁ受験生である自分にはクリスマスなんて関係ないけどね……とならないのがコトミクオリティ。

 

「その辺は近いから生理用品用意しなきゃ」

 

「ついてくる気満々ですね」

 

受験とかよりも、面白そうなこと優先なコトミであった。

基本、津田家の人間は享楽主義者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

【りっぱなタテモノ】

 

なんだかんだで当日。

七条家所有のリムジンに乗り、別荘に到着した生徒会役員共+α。

 

「ここがウチの別荘だよー」

 

車から降りた面々の眼前にあるのは、立派な二階建てのログハウスだった。

周囲を森に囲まれており、物静かで落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

「立派な建物だな」

 

「りっぱー」

 

別荘を見上げるシノが漏らした言葉に、コトミも同意する。

 

「立派だわ」

 

彼女達の言葉と同じ感想を抱いたスズが、別荘を称える。

だが、彼女の立ち居地は津田の真横であった。

 

「萩村、その位置でその台詞は駄目だ!!」

 

「?」

 

彼らの背後にいるシノとコトミには、スズの視線がまるで津田の股間を見ているかのように見えた。

 

「実際タカ兄のは立派だよ?」

 

「ほぅ」

 

「通常時だとこれくらいで、半勃ちだとこれくらい。MAXだと……」

 

「ほぅほぅ!!」

 

「確かに立派だったわねぇ」

 

「…………」

 

本人を置き去りにして、兄のサイズを事細かに他人に教える妹。

説教するべきか、自分も会話に混ざるべきか判断に困る。

というか何故にアリアは「だった」と過去形で話すのだろうか?

自分はまだ彼女達に見せた覚えのない津田は首をかしげた。

見せたことのないはずのコトミが知っているのは最早今更である。

他のメンツについては、詳細は皆で海に行ったときの話を参照してください。

 

「……れろ忘れろ忘れろ忘れろ……」

 

彼女達の会話に、ようやく何の話をしているのか理解したスズ。

海水浴の宿で見た津田のアレを思い出して、必死に忘れようとするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

【守護メイド】

 

別荘に入っていく面々。

津田も後に続こうとすると、運転手を務めた七条家のメイドに呼び止められた。

 

「津田さん」

 

「はい、なんでしょう?」

 

振り向くと、こちらを感情の読めない目で見つめる出島さん。

 

「私の許可なく、お嬢様に手を出すことのないようお願いします」

 

「はぁ……別に出す気があるわけでもないですが」

 

逆に言えば、出さないわけでもないような?

津田とて一応、自制心を持ち合わせているわけで。

ただ、しばしば我慢できなくなりそうになるだけの話なわけで。

最初からやる気満々だなんて、まさかそんな、ねぇ?

 

「気を悪くされたらすみません。しかし主の身を守るのもメイドの務め」

 

彼女はスカートのポケットを漁ると、何かの鍵を取り出した。

 

「だから貞操帯の鍵も私が握っています」

 

「面倒くせぇ主従関係」

 

「私の見えない所でお嬢様のロストヴァージンなどさせませんので」

 

「そっちが本音?」

 

主のいけない姿を想像してか、鼻から愛が流れ出ている出島さん。

メイドの勤めとか義務とか、そういった説得力は一切見受けられなかった。

 

「逆に言えば出島さんも交えてならOKということですか?」

 

「お嬢様のアナ○の初めてを私にお譲りいただけるのなら考えないこともないこともないこともないことも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【テンションあがりまくり】

 

「ちょっと探検してくる!!」

 

「あんまりうろつくなよ」

 

リビングにて、荷物を降ろして一息つく面々。

元気が有り余って興奮収まらぬコトミは、荷物を降ろすと即座に探検しにいった。

その様は来年高校生とは思えないほどに落ち着きがない。

兄の津田は、ませていてもこういうところは子供というか小学生みたいだなと思った。

 

「落ち着きない奴ですみません会長」

 

ソファーの隣に座っているはずのシノに向かって謝る津田。

しかしそこに、会長の姿はなかった。

 

「会長なら妹さんと一緒に行ったわよ」

 

「あれ―――――?」

 

生徒会役員共の中で、コトミと一番精神年齢が近いのは意外にも会長であった。

いや、意外でもないのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

【末恐ろしい娘】

 

「七条先輩、トイレって……」

 

「そこ出て突き当りよ」

 

コトミとシノが探検中。

残った面々でリビングで会話していると、スズが尿意を我慢しきれなくなったらしい。

若干赤面しつつトイレの場所を聞き駆け込む。

数分後、トイレでスッキリしてきたにしては妙に釈然としないような顔をしたスズが帰ってきた。

 

「あのー、あの便器の落書きって……」

 

「ごめんねー。私が子供の頃にやっちゃったの」

 

油性マジックで書いたせいでなかなか消えなくってー、と語るアリア。

この別荘のトイレは一階と二階両方に設置されているが、何を隠そうどちらの便器にも「肉」と書かれているのだ。

 

「それ聞いて5倍ドン引きです」

 

 

 

 

 

 

【末恐ろしい娘達】

 

「待たせたな」

 

「いやー、むちゃくちゃ広いですねこの別荘!!」

 

「おかえりー」

 

探検に満足したのか、シノとコトミが帰ってきた。

別荘でも自分の家より広い、とコトミは未だ興奮している。

 

「アリア、あのトイレの落書きはお前が書いたのか?」

 

「子供のころにねー」

 

「おお、やっぱりですか!!」

 

「まぁ子供の頃は落書きとかいたずらしてしまうものだしな」

 

「私も昔、同じことして怒られました!」

 

「何を隠そう私もだ」

 

「あらそうなの? みんな一緒ね」

 

「「「あはははははははは」」」

 

皆昔はやんちゃだった。

共通点を見つけて楽しそうに笑う女性人……スズを除く。

 

「……津田?」

 

「ウチのトイレの便器にも肉って書いてあるよ。昔コトミがな」

 

そういって姦しく笑う妹を指差す兄。

つまり萩村家意外の家のトイレには、便器に肉と書いてあるのだった。

それを聞いてさらにドン引きするスズであった。

 

 

 

 

 

 

【誤作動】

 

「ん、何だこの箱?」

 

リビングのテーブルの上に、ラッピングされた箱が一つ置かれていることに津田は気がついた。

ラッピングされているからには誰かへのプレゼントなのだろうが。

明日のパーティー本番、全員でプレゼントを交換することになっている。

誰に何が当たるかは当日のお楽しみなので、今はまだみんな荷物の中にしまっているはず。

誰かが出したまま、忘れているのだろう。

 

「あ、これ明日のパーティーのためのプレゼントです」

 

「あぁ出島さんのでしたか」

 

どうやらそれは出島さんのものらしい。

先ほど荷物の整理をしていたときにしまい忘れたらしい。

彼女が箱を手に取ると、中のものが誤作動を起こしてしまったようだ。

 

―――ヴィィィィィィイイ―――

 

小さな振動音を立てて震える箱。

見なくてもなんとなく中身がわかってしまった。

 

「まぁ男性でも使い方しだいでは使えますから」

 

「はっはっは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【わらわら】

 

全員入浴を終えて、就寝するまでのくつろぎタイム。

コトミは荷物からなにやら大きめの箱を取り出した。

「人○ゲーム」と題打たれた、定番のボードゲームである。

 

「寝る前にゲーム大会でもどうでしょう?」

 

「いいよー」

 

「勉強しろよ」

 

「いやー、そのつもりだったんですけど勉強道具一式忘れてきちゃって」

 

てへ、とわざとらしい嘘をつくコトミ。

こいつは本当に受験に成功する気はあるのだろうかと、疑問に思うスズであった。

だが、疑問に思ったところで持ってきていないのでは勉強させることもできないわけで。

ならば遊ぶときには遊ぶのが有意義な時間のすごし方と言えよう。

 

「津田も誘いますか?」

 

「うむ。みんなで津田の部屋に行こうか」

 

というわけで、津田に割り当てられた部屋に向かう面々。

ノックをして返事を聞くまもなく扉をあける。

そこにはいきなり扉が開いてちょっとおどろいたような表情の津田。

特に自家発電とかしていたわけでもなく、普通にベッドに座ってぼーっとしていたらしい。

いきなり扉をあければいけない現場に遭遇するかもとちょっと期待していた書記さんはすこしがっかりである。

妹? 彼女は家で鍛えられた聴力ですでに兄が自家発電中ではないことは見抜いていたので特に何も感じていないよ?

 

「フフフ……今夜は寝かせないぞ……」

 

扉が半分ほど開かれ、そこから部屋を除く女性三人+α。

皆湯上りでいい感じに肌が火照っており、パジャマ姿といういでたち。

この公式から津田が導き出した答えはただ一つ。

 

「わかりました。初めてですが全員を満足させられるよう善処します」

 

そういってズボンに手をかけて脱ごうとする津田。

 

「違うわ馬鹿者」

 

瞬歩と見まごう素早さで彼の前に移動したスズの健脚が、彼の顎に吸い込まれた。

 

 



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三十四人目

 

 

【スペシャルメニュー】

 

前回に引き続き、アリア別荘。

一夜明けて24日になりクリスマスイブ当日。

 

「皆様、パーティー前に入浴されてはいかがでしょうか?」

 

「そうだね」

 

リビングに集まって会話やボードゲームなどで楽しむ面々。

そこに夜のパーティーの用意をしていた出島さんが話しかけた。

どうやら風呂が沸いたので、入浴を勧めているようである。

 

「身体は念入りに洗ってくださいまし」

 

「どうして?」

 

アリアにタオルを渡しながら言う出島の言葉に、首を傾げる一行。

よく温まってとかならともかく、何故急に身体を洗うことを念押しするのだろうか。

別に念押しせずとも普通ならば身体は洗うと思うのだが。

 

「女体盛りだしたいので」

 

「「「あーー」」」

 

「じゃあみんなで洗いっこしようか?」

 

「さんせー!!」

 

「フッ、童心に帰るようだな」

 

盛り上がる三人を尻目に、スズは少し距離を開けて見つめていた。

何故誰も、女体盛りと聞いて引かないのだろうか。

誰も疑問にすら思っていないことが本気で不思議なスズであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【会長のお許し】

 

「では、これよりクリスマスパーティーを開催しまーす」

 

夕食の時間となり、今回のメインイベントであるパーティーが始まる。

全員ジュースの入ったグラスを持って、乾杯の音頭を待っていた。

 

「ではシノちゃんより一言」

 

「みんな今夜は存分に楽しんでくれ、今日は無礼講だ」

 

グラスを掲げて、笑顔を浮かべるシノ。

会長である彼女が無礼講と言うことで、普段の関係など気にせずに楽しもうという雰囲気が出る。

 

「だからM男の下克上もありだぞ」

 

そう言って津田を見るシノ。

心なしか、この場にいる面々の視線が全て津田に注がれているような気がする。

別荘内に男は彼しかいない以上、当然のことではあるのだが。

 

「会長さん直々にお許しが出たよタカ兄!」

 

「ふむ、つまりこれは私相手に下克上してみせろという会長の誘いですねわかります」

 

「へ?」

 

テーブルにグラスを置くと、津田はおもむろにチャックに手をかけようとした。

ちょっと津田をからかうだけのつもりだったシノは、彼の目が自分をロックオンしているのに気づく。

 

「させねーよ?」

 

「……」

 

スズがグラス内のジュースを津田の顔面にぶっかけて彼の頭を冷やすのだった。

水もしたたるいい男。

無礼講だもの。水ぶっかけても許されるよね。

 

 

 

 

 

 

 

【しみつき】

 

パーティーが始まり、テーブルの上に並べられた数々の料理に舌鼓を打つ面々。

この人数で食べ切れるのかと思うほどに、卓上には所狭しと料理が並んでいた。

一つ一つが一流レストランにも劣らない一品ばかりで、全員夢中で口に運んでいた。

ただ心なしか、鶏料理から牛、豚と続き、熊や猪と肉料理のバリエーションがやたら豊富なのが気になるが。

テーブルの真ん中には鹿の丸焼きが鎮座していた。

出島さん曰く、昨日のうちに周囲の森でしとめた獲物たちらしいが本当かどうかは誰も知らない。

 

「これは上手すぎる」

 

「出島さんの家事は一流だよ」

 

料理のあまりクリスマスらしくないレパートリーを気にせず食事を楽しむ面々。

普段から食べているからか、津田兄妹のようにがっついた食べ方をしていないアリア。

こういうところに育ちの良さがにじみ出るのだろう。

 

「誉め過ぎですよ。さすがの私にも苦手なものくらいあります」

 

褒められ慣れていないのか、少し照れくさそうに話す出島さん。

しかし相変わらず表情は変化が見られないために、口調の変化で判断するしかないが。

 

「特に洗濯は苦手です。洗うの勿体ないから」

 

「わかるわかる」

 

「同意するな」

 

「そもそもお前は家事とかしないだろうに」

 

出島さんに同意するコトミにスズと兄から愛のツッコミがプレゼントされた。

基本彼女は津田家では家事をする方ではなく、家事(仕事)を増やす方である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【サンタのつぼ】

 

胃も満たされ、食後のドリンクを飲みながら歓談する面々。

話題はクリスマスについての話になった。

 

「小さい頃、靴下ぶらさげてサンタが来るの待ってたな」

 

「だねー」

 

そんな女性陣の会話を聞いていた津田は、かつての記憶を思い出していた。

それは今からちょうど10年前のこと。

まだ今よりもそれなりに純粋だった津田の少年時代。

彼は当時まだ5歳であった妹がなにやら考え事をしているのに気がつき声をかけた。

 

「コトミ、何考えてるの?」

 

「サンタの性癖」

 

まだ舌足らずな印象を否めない妹の口から出た言葉がそれであった。

 

「なんでサンタの性癖が気になるんだい?」

 

「だってサンタも靴下よりもニーソやパンストの方が仕事がはかどると思うし」

 

きっとそっちの方がサンタも喜んでプレゼントをたくさんくれると思う。

妹はそう考えているらしい。

確かに自分の父も普段からパンストが好きだと言っているから一理あると津田は考えた。

その夜、母のパンストを拝借して靴下代わりにベッドのそばにかけてみた。

ふと夜中に物音がするので目を覚ます津田。

幼き津田少年が目にしたのは、サンタのコスプレをして頭に母のパンストをかぶって脱げなくなった父であった。

どうやら被ったはいいが脱げなくなったらしい。

サンタクロースの正体が父親だと知った、津田タカトシ6歳のことである。

 

「どうしたのタカ兄?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

今もサンタを信じている妹には、真実を伝えていない優しい兄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【いけない気分】

 

「お次はお待ちかね、プレゼント交換です!」

 

ルールは単純明快。

輪になって座り、部屋の電気を消して誰が誰のプレゼントを持っているかわからなくする。

その状態で音楽をかけ、音楽が止まるまでプレゼントをまわし続けるだけである。

 

「じゃ、明かり消すよー」

 

照明の電源が下ろされ、真っ暗になる室内。

外は夜なこともあり何も見えない状態だ。

 

「なんか興奮するね」

 

「……はぁ~、はぁ~、はぁ~……」

 

「本当に興奮するな」

 

「……あの、アリア? 何故私の身体をまさぐっているのだ?」

 

「あ、これシノちゃんか。間違えちゃった」

 

「……誰と間違えた?」

 

「そしてコトミ、お前はドサクサ紛れに俺の股間をまさぐろうとするのを止めろ」

 

「何故ばれたし」

 

「……さっさと音楽かけてはじめましょうよ」

 

さっさとプレゼント交換はじめよーぜー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【クリスマスの夜】

 

プレゼント交換も終わり、思い思いに楽しく過ごす面々。

津田は、出島さんのプレゼントが当たってしまいどうするか考え込んでいた。

まだ箱は開封していないが、おそらくはバイ○かロー○ーの類だろう。

流れからして、それらに類する大人の玩具であることはほぼ間違いない。

それを物語るかのように、彼の手の中の箱はヴィィイイと小さく振動している。

どうやら今朝の出島さんとのやりとりの時と同じく誤作動しているらしい。

 

「さて、どうしたものか」

 

別にもらった以上捨てるつもりはない。

だが、彼女のいない津田にはバ○ブの類は正直使い道があまりない。

せいぜい自分の尻を使って、自分自身でセルフ調教するしか使い道がないように思う。

彼自身、女の子に尻を調教されるのであればやぶさかではないのだが。

さすがに自分で自分の尻穴を開発して新たな扉を開こうとは思えなかった。

 

「津田……」

 

「会長?」

 

そんな彼に声をかけてきたのはシノだった。

彼女はどこか恥ずかしそうにしながら彼の前に立つ。

 

「どう……似合うかな?」

 

シノの首元には、シックな印象のネックレスがあった。

 

「あ、俺のプレゼント……気に入ってくれました?」

 

「ああ」

 

どうやら津田の用意したプレゼントはシノに当たったようだ。

最初は下着にしようかと思ったのだが、誰に当たるか解らない。

そのため各自でサイズがばらばらな下着は今回見送ったのだ。

自分以外は皆女の子なこともあり、無難に大人しいデザインのアクセサリーにしたのだった。

 

「それでだが……これ」

 

「え?」

 

シノが差し出したのは、一つのラッピングされた箱だった。

既にプレゼント交換は終わっているので、予想していなかった贈り物に戸惑う津田。

 

「これは私個人の君へのプレゼントだ。今年副会長として頑張ってくれたからな」

 

「ありがとうございます会長」

 

ありがたく受け取っておきます、とシノからの贈り物を手にした。

思いがけない贈り物の嬉しささから微笑む津田。

対してシノは気恥ずかしいのか、照れくさそうにはにかんでいた。

 

――――ヴィイイイイイイ――――

 

津田の手の中で小刻みに振動しだした二つの箱。

出島さんのプレゼントだけでなく、シノからのプレゼントまで同じように振動している。

 

「その、なんだ。男の君でもきっと使い道はあると思うからな。

 君ならきっと使いこなせると私は思っているぞ」

 

どうやら会長は、副会長をからかうネタとしてプレゼントしてくれたらしい。

 

「なるほど、ですが会長?」

 

「うむ?」

 

「実はここにもう一つ同じようなものがありまして」

 

「む」

 

「残念ながら男の僕には楽しめる穴が一つしかないので、頑張っても一本が限界なんですよ」

 

「まぁ、そうだな……」

 

「そこで、ちょうど二つあるわけですし一緒に楽しみましょうか」

 

「……え?」

 

振動する箱を両手に、シノににじり寄る津田。

彼の発するプレッシャーに後ずさるシノ。

 

「会長もコレがどんなものか興味あるでしょう?

 僕が会長の穴で試しますから、ぜひ会長は僕の穴で試してくださいよ」

 

「ちょ、ちょっと待て!! 君は何を言って……!?」

 

「無礼講無礼講」

 

「イーヤー!!」

 

「まてまてー、あははははー」

 

楽しい追いかけっこが始まった。

そんな二人を見て、微笑むアリアと出島さん。

 

「二人とも楽しそうねぇ」

 

「仲睦まじいですね」

 

ちなみに、スズとコトミは大音量でカラオケをしていたので騒動には気がつかなかったらしい。

 

 

 



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三十五人目

 

【正直なからだ】

 

3学期も始まり、再び学校生活が始まってしばらく。

え?……正月の話?

……正月なんてなかったんや。

けっして作者が書くちょうど良いタイミングを逃してゲフンゲフン。

なんとなく飛ばしたとか、そういったことは……ねぇ?

 

「ふぅ……」

 

シノは生徒会室で、小さなため息をついた。

目の前の机には、処理しなければならない案件のプリント達。

冬休みが明けてから、溜まっていた仕事をここ数日こなす日々が続いていた。

 

「あまりの多忙に身体が悲鳴を上げているようだ」

 

「私が肩を揉んであげるよ」

 

そんな彼女の呟きを耳にしたアリアが、肩を揉もうと背後に回ってくる。

シノの肩に手を置き、制服越しに肩甲骨の辺りを指圧する。

 

「どぉ?」

 

「ああ……いい感じだ。

 あまりの、ハァ、気持ちよさに、ンァ……身体が……ンン……あえぎ声をあげそうだ」

 

「本当に出てますよ」

 

気持ちが良いのか、本当にあえぎ声を出しているシノ。

彼女の口は緩んで、今にもよだれを垂らしそうな表情だ。

 

「俺もマッサージ、手伝いましょうか?」

 

「津田が?」

 

「何を隠そう、俺はマッサージには自信があります」

 

そういって、親指で指圧するようなジェスチャーをする津田。

 

「何を隠そう、俺は○○マッサージには自信があります」

 

「そ、そうか……」

 

「何故言い換える必要が?」

 

「うふふふふ」

 

そういって、両手の指を生き物のようにわきわきと動かしてみせる津田。

問題です。○○に入る漢字はなーんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

【トビラをこじあけろ】

 

「ふぁ~~~……」

 

「ふぁ~……」

 

津田のあくびを見て、ついつい自分もあくびをしてしまったシノ。

昼食後のちょっとした休憩時のことであった。

 

「あくびって人にうつってしまうな」

 

「そうですねぇ」

 

「これを活用すればイ○○○オも可能だな」

 

あくびの最中にズドンと、とこれはいいアイデアではないかとひらめくシノ。

そんな彼女を前に、津田は笑顔でズボンのチャックに手をかけた。

 

「なるほど一理あります。

 というわけで会長、もう一度あくびしてもらえませんか?

 ほら、ふあ~~~って」

 

「いやごめんほんとごめんなさい私が馬鹿でした」

 

「そんなことないですって、会長俺よりも賢いじゃないですか」

 

「私が間違ってたから、無理だから、むりむりむりむりむーりーーーー!!

 お昼食べたばかりだからー! 色々と駄目だからー!」

 

せっかく食べたものがリバースしてしまう。

そんな見当違いな事を考えて逃げるシノであった。

 

 

 

 

 

 

【手作りお菓子の巻き】

 

世間がそわそわと浮かれ出す。

そう、今日はバレンタインデー。

世の中のチョコレートの売り上げに貢献する女子が多数発生するあの日である。

 

「津田君、バレンタインチョコどーぞー」

 

我らが生徒会役員が誇る、見た目だけならほんわか癒し系代表のアリアさん。

可愛らしくラッピングされたプレゼントを手に津田に話しかけていた。

 

「ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」

 

「どーぞー」

 

見た目からして、市販のものではなく彼女の手作りだろうか?

おそらく義理チョコの一つくらいはもらえるだろうと想定していた津田。

しかしそれが手つくりのものだと、嬉しさはひとしおである。

顔をにやけさせつつ、乱暴に破かないように包装を解いていく。

 

「あれ、でもこれクッキーですよ?」

 

アリアは先ほどチョコと確かに言っていたはずだが、中身はどう見てもクッキーだった。

 

「いいから食べてみて」

 

「?……ああ、中にホワイトチョコクリームが入ってるんですね」

 

「そ」

 

一口かじってみると、口の中にはサクッとした触感と仄かな甘さが広がる。

齧った断面を見てみると、白いチョコクリームがとろりと垂れていた。

 

「おいしいです。ありがとうございます」

 

「おいしいでしょ? 名づけて白濁液クッキー。

 私の白く濁るまで掻き混ぜた愛液が入ってるの」

 

「わーお」

 

普通に考えれば冗談だろうけど、相手が相手だから本当なのかわからないぜー。

本当なら本命チョコなんだろうが、七条先輩に限ってはそれもわかんないんだぜー。

 

 

 

 

 

 

 

【さりげなく】

 

「バレンタインチョコをたくさんもらった」

 

そういうシノの前には、机に上に山を形成するチョコレート達。

漫画のイケメンキャラかよと言いたくなるほどの量である。

これが同姓なら嫌味の一つも言いたくなるが、相手が女性ならそれもない。

むしろシノの場合、友チョコよりも本命も少なからず存在していそうで。

女の子が女の子に本命チョコ。

津田の頭の中は百合百合しい妄想が膨らんでいた。

 

「一人じゃ食べきれないから津田、協力してくれ」

 

「いいんですか?」

 

シノにあげた子に悪い気もしないでもないが、食べられずに捨てるほうがもっと悪い。

もらった本人が良いと言っているのだから、もらえるものはもらっておこう。

……チョコの中に陰毛とか入ってたりして……なわけないか。

チョコレートの包装を解くシノの手を眺めながら彼はそんなことを考えていた。

 

「ほら」

 

「いただきます……あ、これおいしいですね」

 

「そうか、よかった」

 

何故かほっとした表情を見せるシノ。

彼女の目は、何か嬉しいことを隠しきれない子供のようであった。

 

「てゆーか、それシノちゃんが作った「もう一つどうだ!!」んじゃ……」

 

「んむ!?」

 

突然現れたアリアの言葉に焦ったシノは、チョコを一つつかむと津田の口に突っ込んだ。

この反応から、シノの手作りなのだろうなとは察しがついた津田。

だけどそれを指摘しないのが紳士である。

 

「いやー、それにしてもおいしいですねこのチョコ」

 

「そ、そうか……うむ、作り手の気持ちがこ、こ、込められてるんじゃないかな?」

 

「愛ですねー」

 

「うぇ? あ、愛?」

 

「うふふ、そうねー愛(液)ねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【君のそんな照れ隠し】

 

その日の放課後。

生徒会室の戸締りを終えて、鍵を職員室に戻しにいく最中。

 

「津田」

 

「ん、何?」

 

隣を歩くスズに声をかけられ、彼女の方を向く。

 

「ん」

 

前を向きながら、彼女がこちらに突き出しているのは小さなコンビニ袋。

中には無数の一口サイズのチ○ルチョコが入っていた。

 

「一応、バレンタイン」

 

「ありがとう」

 

「いえいえ」

 

やりとりはそっけない。たったそれだけのことだった。

彼女はこちらを見向きもしない。

事務的に渡して、事務的に感謝の言葉を受け取る。

それだけに見えるが、津田は彼女が必死にこっちを見ないようにしているのに気がついた。

がさがさと袋をあさる音に、その小さな肩がぴくりと反応する。

手に取ったチロ○チョコは、なんとなく一度開封されたものをもう一度包んであるように見える。

包装紙を向いて、一つ口に放り込んでみる。

甘い味が口内に広がるが、いつもコンビニで買って食べるものよりも少し甘さが控えめな気がした。

 

「ん、おいしい」

 

「そ、良かったわね」

 

「うん良かった」

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【恒例行事】

 

「ただいまー」

 

津田が家に帰るも、返事はなかった。

リビングを覗いてみるも誰もいない。

共働きの両親が帰ってくるのはいつも遅いが、コトミも不在のようだ。

まぁ、どこで何をしているのかはわかっているのだが。

最早毎年の恒例行事だからである。

 

「あー疲れた」

 

自室のトビラを開けると、部屋の中央に大きな箱が鎮座していた。

ピンクのリボンでラッピングされた、人一人が入れそうな大きな箱。

 

「ふっふっふっふっふ」

 

箱の中から聞こえてくる笑い声を無視して、彼は机の引き出しを開ける。

そこから無言でガムテープを取り出すと箱に封をした。

 

「じゃーん、タカ兄……って、開かない!? なんでー!?」

 

兄の行動は想定外だったのか、箱の中で慌てる妹。

壁を叩くなりしているのか、ボスボスと音を立てて箱が揺れている。

毎年律儀に裸の妹が飛び出してくるのを見ていたが、今年くらいはいいだろう。

今年くらいは、義理か本命かはわからないが美少女達からチョコをもらった余韻を感じていたかったのだった。

そのうち諦めたのか、箱の動きが止まった。

そして聞こえてくる妹の息遣い。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……駄目、もう漏れる」

 

「え?」

 

 



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三十六人目

久々に投稿します。
待っていてくれた方がいましたらすみません。
基本もう更新する気0なら削除しますので、残している限りはまだ気持ちはあると思ってください。

今回轟さん初登場です。


 

 

【気遣いの王者】

 

 

自分の担当する仕事が下校時刻までに終わらなかったシノ。

仕方なくその日は、自宅に書類を持ち帰り作業をしていた。

 

「……む?」

 

しかし、あと少しで終えようというところでデータが足りない事に気づいた。

他のメンバーも各自担当している仕事があり、最後の最後で津田が担当するデータが必要になってしまった。

仕事については完璧主義なシノはとりあえずで適当な数値を入れることをよしとしない。

 

「この件は津田に確認をとらんといかんな。

 しかし、この時間に電話は迷惑かもしれんな」

 

壁にかけている時計を見れば、既に深夜の11時を迎えようとしていた。

健康な男子生徒であり、特に運動部にも所属しているわけではない津田。

さすがにまだ就寝はしていないだろうが、時間が時間である。

入浴中か、もしくは就寝までいかなくとも寝る準備を既にしているかもしれない。

 

「そう、今まさに絶頂の時間かもしれない!」

 

男子高校生なら寝る前に毎日絶対にヌいている筈。

少なくとも、誰あろうあの津田が外泊でもないのに自室でヌかない筈がない!

ある意味彼のことを信頼しているシノは、彼のお楽しみを邪魔してはいけないと考えた。

 

「―――と思っていたら結局昨晩は連絡できなかった」

 

翌日、自分の担当する仕事が完遂していない言い訳としてそんなことを話すシノ。

てへぺろー、と茶目っ気たっぷりにウィンクしながら舌を出す。

可愛い仕草のはずなのに、何故か人をイラッとさせる仕草だった。

 

「そんな気遣い別にいいのに……

 次からは時間とか気にしないで電話してくれてもいいんですよ?」

 

「そうか? でももし自家発電中だったら悪いだろ」

 

「それならそれでテレフォンセ○クスできるからいいじゃないですか」

 

「おお! 成程!!」

 

 

 

 

 

 

 

【愛好会】

 

特にイベント事がないときは、放課後校内を見回りしている生徒会役員共。

シノを先頭に、津田、スズ、アリアと一列に並んでいる。

その様はまるで某国民的RPGのパーティーのようだった。

津田は先頭の勇者の綺麗な黒髪を眺めつつ、この髪でナニを何したらさらさらで気持ち良さそうとか不健全なことを考えていた。

 

「あ」

 

「へ?」

 

「むぎゅ」

 

「あん」

 

唐突に何かを発見し立ち止まるシノ。

不思議に思い津田もすぐに立ち止まるが、後ろを歩いていたスズが彼の腰にぶつかってしまう。

そんなスズの後頭部が、急に止まれなかったアリアの下腹部にめり込んだ。

シノの視線を辿ると、どうやらロボット研究会の標識を見ていたようである。

 

「こんなのあったんだ」

 

とんと聞いたことの無い名称に、ついつい本音が漏れてしまう。

それに呆れた声を出すのは、思いのほか筋肉質な男の尻肉にぶつかってしまったスズだ。

 

「あんた知らなかったの? そんくらい把握しておきなさいよね」

 

「いや、私も知らなかった」

 

「私も」

 

「……えー」

 

何のことはない。スズ以外全員マイナーなこの研究会のことを知らなかったのだ。

おそらくは、彼女も自分の友人が所属してさえいなければ知らなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

【友人A】

 

 

なんとなく見回りがてら、件のロボット研究会を訪れてみた生徒会の面々。

そこには他の部員が不在なのか、一人で何かしらの作業にいそしむ女生徒がいた。

 

「あれ、スズちゃんじゃない」

 

扉を開けた一行に気が付いた女性とが、スズの姿を見ると作業の手を止めて話しかけてきた。

 

「友達の轟ネネさんです」

 

「はじめまして。ここの部員の轟です」

 

友人らしく、彼女の隣に移動したスズが紹介してきた。

轟は薄い茶色に染めたセミロングの髪をしており、銀のフレーム眼鏡をかけている。

目鼻立ちがしっかりとしていて、眼鏡のせいもあるのだろうが知的な印象を受けた。

 

「皆さんのお噂はかねがね」

 

「噂?」

 

「会長が副会長にビシビシ鞭打ってるって」

 

「ニュアンスがおかしい!?」

 

自分の変な噂が流れていると聞いて驚くシノ。

あらあらと笑顔でアリアがそれを訂正する。

 

「違うわよ轟さん。津田君を鞭打っているのはスズちゃんよ」

 

「おーほぅ?」

 

「違ぇよ!!」

 

得意のキレ芸で反論するスズだったが、別に間違いってわけでもないんだよなぁと思う作者でしたまる。

 

 

 

 

 

 

【私の備品】

 

せっかくなのでロボット研究会を見学してみることにした一同。

思い思いに棚に飾られている作品を眺める。

 

「へー」

 

津田とシノが見ていたのは犬を模したロボットだった。

一昔前にアイ○が流行したが、さすがに今時の高校生は知らないだろうか。

轟に断わりを入れてから電源を入れてみると、どこかぎこちないものの動きだした。

やはりロボットというべきか、動きに滑らかさはない。

しかし工業科でもない高校生が作ったものであれば、十分すぎる代物だろう。

確かにそれは犬の動きをトレースしたかのように見えた。

 

「お手とかするかな?……おぉ!」

 

シノがロボットの前に手に平を差し出すと、器用に前足を乗せて来た。

 

「……お、おぉ?」

 

「いやぁ、犬ですねぇ」

 

そしてそのまま掌にもう片方の足まで乗せると、へこへこと腰を振り出した。

そんなやりとりをしている二人の背後では、アリアがあるものに興味を示した。

彼女にとっても親しみのある形状をしたそれを手に取り、轟に質問する。

 

「これもロボットの部品?」

 

アリアの手の中にある卵形の物体は、スイッチを入れると小刻みに震えだした。

 

「それは私物です」

 

「!?」

 

いい笑顔で答える轟に、友人のそういう一面を見たのは初めてだったのかスズが驚愕していた。

 

 

 

 

 

【私とこけし】

 

室内にあるものが興味深いのか、思い思いに堪能している面々。

何度か顔を出したことがあるスズは、特に珍しいものもないのか轟と会話していた。

 

「こうしてゆっくり見たことなかったけど、本当に色々なものを作ってるのね」

 

「えぇ、機械をいじってるだけで楽しくて」

 

「ふぅん。昔から機械いじりが好きだったの?」

 

女の子の趣味としては、機械いじりよりも裁縫や料理の方が多い気がする。

どちらかといえば彼女の趣味はマイナーな部類に入るだろう。

現に今まで興味もなかったのか、シノもアリアもこの研究会があることすら知らなかったようであるし。

よっぽどの興味が無い限り、女の子ではロボット研究会になどは入部しそうにない。

 

「今は好きだけど、別に昔からってわけじゃないかな。

 どちらかというと、興味を持ち始めたのはつい最近なの。きっかけは―――」

 

そういって彼女は、自分の鞄をあさると1つの物体を取り出した。

姿を現したのは、先ほどのピンクロ○ターよりもさらにえげつないもの。

20センチ程の長さの松茸になにやら小さな突起が複数生えたような形状をしていた。

うっとしとした表情で轟はそれのスイッチを入れる。

彼女の穢れを知らなそうな綺麗な白い指に握られたそれは、ウィンウィンと音を立てながら奇怪な動きをし始めた。

 

「もっと強い刺激が欲しくて」

 

「ごめん途中だけど聞くの放棄するからそれはやくしまって」

 

なんでこの少女と友人になったのか、本気でわからなくなったスズであった。

 

 

 

 

 

 

【受け入れ万全】

 

その数日後、スズは友人に招待されて友人宅で映画のDVD鑑賞会をしていた。

特に考えもせず、予定もなかったので二つ返事で了承してしまったのを今では後悔している。

何故ならば、それはスプラッターシーン満載のホラー映画だったからだ。

画面では化物に女優が見るも無惨に殺されるシーンが流れていた。

断末魔の雄たけびを聞くたびに、不穏なBGMが流れるたびにびくついてしまう。

しかし、両隣に座る自分の友人達が平気そうな顔をしているのに、自分ひとり怖がって見せるのは彼女のプライドが許さなかった。

幸い、三人で真ん中に挟まれるように座っているため、ホラーの苦手なスズでもなんとか映画自体には耐えられている。

しかし、映画の内容自体には耐えられても、身体は正直である。

緊張をほぐすためにジュースを飲んだせいで彼女は今、尿意と戦っていた。

トイレに行きたい。

でも、一人で行くのは怖い。

今いいところなのに、自分のせいでDVDを一時停止させるのも忍びない。

誰か一人ついてくるとなれば、きっと待っているといって停止してしまうだろう。

かといって、このままでは友人の前でお漏らしをしてしまう。

しかも友人宅でというとてつもない黒歴史を作ってしまう。

それだけは避けねばならない。

ここは不本意だけれど仕方ない。

 

「あの、トイレに行きたいんだけど……」

 

こっそりとスズは隣に座る轟に話しかける。

この友人ならば気転を利かせてくれるに違いない。

変な言動の多い彼女だが、人は良いのでこういう困ったときにはさりげなく助けてくれることが多かったし、映画が怖いからといって馬鹿にするような性格でもない。

だからこそ、スズは轟と友人でいられるのだが。

 

「いいよ」

 

轟はそれだけでスズの言いたいことが解ったのか、嫌な顔1つせずに頷いてくれた。

あぁ、彼女がついて来てくれれば怖くない。

これで漏らさずにすむ、とほっと胸をなでおろしたスズであったが……

 

「はい、受け止めてあげる」

 

そう言うと轟は、スズの股間の前に顔を近づけると「あ~ん」と口をあけた。

 

「違う、超違う」

 

「トイレ行くの怖いんでしょう? 大丈夫、私スズちゃんのなら全部飲んだげる」

 

慈愛の表情でこちらを見上げる友人。

違う、そうじゃない。そうじゃないの!

それからスズが彼女に理解してもらうまでしばらくかかり、セーフだったのか、アウトに近いセーフだったのか、はたまたアウトだったのか。

ここでの描写は控えましょう。

 

 

 



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