最後の贈り物は幸せなBADENDとしよう (勝てなくても努力して勝つのが好き)
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1-1

もしなんかココチガウデ!ってところあったら小声で教えてくれると嬉しいです......。

プロットは一応ありますが書いていくうちにガバも出ると思うので、読みたい人だけ読んでってください。


 たしか2050年に製薬会社フェンリルが、なんでも捕喰し進化する性質を持つ【オラクル細胞】の集合体【アラガミ】を発見したらしい。

 その6年後、アラガミを討伐するために【神機】のプロトタイプが作られ【ゴッドイーター】が登用されだした。

 そこからなんやかんやあって2071年、原作開始ともいえるゲームのプレイアブル、主人公が新型神機に適合する。

 

 しかし、今はまだ2067年だ。原作が始まるのはだいぶ先になる。まずそこまで生きていられるかも怪しい世界ではあるが、そんなことを考えても仕方ないだろうし、何とか足掻くとしよう。

 

 さて、こんなことを口に出したら、文字通りの気狂いとしてアラガミ防壁の外に投げ出されそうなので、今まで誰かに喋ったことは無いが、私こと加納 (かのう)ニーナは転生者である。なんならTS転生者である。

 前世ではそこそこ真面目に生きていて、同棲していた彼女に振られてショックで夜道を歩いていたら、車に轢かれそうになった所までは覚えているので、恐らくそこで死んだんだろう。

 

 転生先が青ざめた血を求める(Bloodborne)世界や不死人として彷徨う(DARKSOULS)世界を始めとしたフロム世界じゃないのは嬉しいが、何年経っても死の危険が付きまとう(GODEATER)世界なのは正直クソだと思う。

 

 この世界はシナリオがどこまで進もうと、ナンバリングをいくつ進もうと、一般人がアラガミの脅威に晒される可能性が無くならないのだ。

 改めて思う、クソだ。

 

 しかし、こんなクソったれな世界ではあるが、いくつか恵まれたものもある。

 まず私自身の容姿だ。

 ニーナ、という名からわかる通り日本......じゃない、極東からみて外国人の血が半分入ってると分かる整った顔立ち。

 前世基準ではろくでもない生活なので杜撰な手入れにもかかわらず艶のある赤髪に色白な黄色肌。

 声も他人から聞いた感覚は知らないが、高音から低音まで綺麗に出せて地声はアルト位の心地いい声だと我ながら思う。

 

 次に私が前世でこのGOD EATERの世界を結構やり込んでいたということ。

 やっていたのはGOD EATER2までではあるが、大体の任務は

 ソロでアイテム使用無く無傷(パーフェクト判定)を実践出来ていた。

 この世界でアラガミがゲーム通りの挙動をするとは思わないが、身体の可動域がある以上一定レベルの参考にはなる筈だ。

 

 最後に、家族。

 私にニーナ()なんて名前を与えてくるくらいには、私のことを愛してくれた両親。

 そして、最愛の妹 加納 アリアの存在だ。

 前述した通り、私は今世の自身の容姿にかなり自信を持っている。

 水商売なんてする気はないが、最悪そうなってもかなりの額をこの世界でも稼げそうなレベルだ。

 だが、最愛の妹 アリアと比べたら、私なんて神が左手で適当に創作しました。なんて言われても納得してしまうだろう。

 

 可愛い。本当に可愛い妹なのだ。

 未だ3歳ながら将来の成功を約束された容姿をしている。

 クリクリの目にぷにぷにの頬、むにむにの手足なんて何時までだって触っていれる。

 神はアラガミとかいうクソったれな世界だが、天使は間違いなくアリアだろう。

 今は外部居住区でアリアと両親と私の4人で生活している。

 父と母が稼ぎに行って私が家事と育児をやっている。

 

 だが、最近はこんな世界で何を言ってるんだという話だが、不況のレベルが段違いなようだ。食卓に並ぶ品数は当然減り、量も減り、使える水の量も減る。マジでやばい。なんて言葉しか出てこないレベルでやばいのだ。

 原因は今いるフェンリル極東支部の付近でアラガミが大量発生しているらしく、ゴッドイーターの皆さんも頑張ってるが、それ以上に被害も多いらしい。

 

 そこで、フェンリル極東支部は大々的にゴッドイーターの配備を増やすことを宣言。外部居住区も内部居住区の者も関係なく適合検査に合格すればゴッドイーターになれるということらしく、また手当も仕事柄厚いとのこと。

 

 今の生活事情ではアリアの健やかな成長の妨げになってしまう。

 なによりゴッドイーターの手当の1つに、家族を比較的安全な内部よりに移すことも出来る権利があるらしい。

 その思いを込めて両親にフェンリルへの就職、もといゴッドイーターになる。と話をしたら「16の女が何を考えてるんだ!」「命懸けなんだよ!?」と猛反対されたが、アリアに対する愛を熱弁したら最後には泣きながら送り出してくれた。

 

 まぁ、適合検査に受かるかどうかは神のみぞ知ると言ったところであるけども。

 

 思い立ったが吉日ということで両親の説得を済ませた翌朝、フェンリル極東支部ゴッドイーターの拠点ことアナグラにゴッドイーターになるための申請、というか就職面接に来た。

 適合検査は、アルコールパッチテストのようなものと銘打ってはいるものの、実態を知っている身からすれば正直身震いモノだ。

 適合、できるだろうか。

 そんな不安が顔に出ていたのか、軽い面接と書く書類の受理をしてくれた担当の女性に、心配をかけてしまったのが少し申し訳ない。

 志望動機や書類に問題は見られなかったらしく、そのまま適合検査の部屋へと移された。

 

 ゲームで見たアレと同じだ。

 手首用のギロチンみたいな見た目をしている。服が脱ぎにくくなると思うので、予め腕周りがダボッとした服を着てきたのはやはり正解だったっぽい。

 

 機械的に、各種バイタルデータの正常を読み上げるエンジニアの声を聞いて、別の男性がスピーカーから私に右手をギロチン、もとい神機適合の為の腕輪を取り付ける台座に置くように指示する。

 

 あの主人公ですらもがき苦しむレベルで痛いらしいし、相当痛いんだろうなぁ。

 考えていても仕方ないので、溜息を1つついて覚悟を決めた。

 台座にある神機の持ち手を握った直後に上下から手首を挟まれた。

 痛みは思ったより無いけど圧迫感が強いかな? 

 なんて思ってたら、神機から伸びてきた黒い管が、腕輪に触れた途端に激痛がきた。

 

「っぐぎぎ」

 

 絶叫は何となくみっともないので食いしばって我慢したら、欠片も可愛くない呻きになってしまった。

 痛みのあまりに台座を蹴りつけると同時に、手首を挟んでいた台座が開く。

 勢い余って神機ごと引き抜けばそこにはゲームでも見た事のある初期装備ショートソードの【ナイフ】とバックラーである【対貫通バックラー】がくっついていた。年代的に分かっていたがやはり旧型らしい。

 年齢から配慮されたのか、軽めの装備なのがありがたい。肩で息をしながらそんなことを考えていると、スピーカーから先程の男性の声がした。

 

「適合おめでとう。身体になにか不調は無いかな?」

 

 言われて改めて自分の身体を見ておかしくなさそうと思い、スピーカー付属のカメラの方を見るために、意識を体の外へ向けた。

 

 すると、自身のいる適合検査場を囲う形である上層に31人の人間がモニターをチェックしてる様子が何故かわかった。

 

 はて? こんな描写はゲームでは無かった筈だが、五感の情報というより、何となくそこに居るなと分かる感じ第六感と言うにしてはあまりに確信的だ。もしかしたらスキルの【ユーバーセンス】なのか? 

 

「えっと、なんか目に見えてないところのことがわかるようになりました? そこに今31人位人居ますよね? なんでか分からないですけど分かります」

 

「っ! ......そうか。5分ほどその場で待ってくれるかな。そのような症状が現れた例は今まで余り居なくてね。君のメディカルチェックの担当者をそのまま其方に送るから」

 

 はぁ。と生返事で返すと、適合検査場外で慌ただしく人が動いてるのがわかる。

 にしても、なんか視界と脳内での情報が違うから気持ち悪い感じがすごい。端的に言って酔いそうだ。

 それにこんな凄い能力あると、副作用がとんでもなくなりそうで不安だ。

 暇だったので神機を軽く振り回して遊んでみて分かったが、身体が軽い。ショートブレードのモーション再現でもしてみようか、なんて考えていたら部屋に看護師さんと主治医っぽい人、それと狐目の胡散臭い人が入ってきた。

 あ、この人ペイラー榊博士では? 

 

「君がユーバーセンスの発現者かい? いやぁ、実に若いね。いいデータがとれそうだよ。まず聞きたいんだが君のユーバーセンスはどれくらいの事が分かるのかな? 範囲は? 状態は? ああ、名乗るのが遅れてしまったね。私はペイラー榊。極東支部技術開発統括責任者を任されている」

 

 す、すごい早口だ。ユーバーセンスやスキルの研究は時代的にまだ進んでないからだろうか。にしても近い。もう目と鼻の先だ。

 

「か、加納ニーナです。すいません、少し離れていただけると.....」

 

「ああ、年頃の子だったね! 実に失敬。好奇心が刺激されると前のめりになってしまう悪癖がまだ治らないんだ。許してくれると嬉しいな」

 

 はぁ。と生返事を返してるうちに看護師さんが押してきた簡易的なベッドに座らせられ、淡々と脈拍や血液のデータの採取が行われる。

 榊博士の質問にわかる範囲で答えれば、主治医っぽい人が端末になにかを打ちこむ。数分ほどそれの繰り返していると無性にお腹がへってきた。

 

「なるほど、生命体の位置と大凡の地形は分かる。生命体の状態については今は健常者しかいないから比較のしようがないか。範囲はこの閉所だから狭いのか、外に行けば広がるのかは不明だけれど、現状ざっと半径300m前後と言ったところだね、改めて聞くけどどこか不調は見られないかな?」

 

「さっきも言った酔いそうな事以外なら、その、恥ずかしい話なんですけどお腹が空いたくらいです」

 

 キラリと榊博士の眼鏡が光る。

 

「実に興味深い、今日はご飯は食べてきたかな?」

 

「はい。干し芋と麦粥をいつも通り食べてきました」

 

「普段から健啖家なのかな?」

 

「いや、人並み程度だと思います」

 

「なるほど」

 

 榊博士は主治医っぽい人から端末をひったくると、オラクル細胞の捕喰性質が云々と言いながら、去っていってしまった。

 ポカンとしてその後ろ姿を眺めていると主治医っぽい人にチョコレートを渡されながら謝られた。

 貴方が悪い訳では無いだろうに。あ、チョコ美味しい。今度アリアに買って行ってあげよう。

 

 曰く榊博士は時々【ああいう風に】なってしまうらしい。原作通りなのは良いが実際に振り回される人達の苦労が多少なりともわかった気がする。

 

 チョコを食べながら主治医っぽい人のメディカルチェックを受け終えると、異常は無い様なので、そのまま配属先の発表らしく上司の元に案内されることになった。

 

 ゲームでは衛生、偵察、強襲、防衛と様々な部隊があったけれど、現実ではどんな役割をしてるんだろうか?



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1-2

サブタイトルが1-Xまでの話は駆け足進行していきます。


「今日から貴様の上官となる雨宮ツバキ少尉だ、アラガミ討伐を主目的とする第1部隊を率いている。つまらん事で死にたくなれば私の命令には全てYESで答えろ。いいな?」

 

「い、YES」

 

 上官があの雨宮ツバキだった。

 数少ない引退まで戦い抜いたゴッドイーターの1人で、ものすごい射撃の腕を持っているらしい。あとユーザー間では上乳なんて下品なあだ名を付けられていたが、少なくとも今生でそんなことを言う度胸は私にはなさそうだ。

 

「加納、貴様はなぜゴッドイーターになった」

 

「家族、特に妹の生活を助けるためです」

 

「そうか、では家族のためにも死にたくはないな?」

 

「......? ええ、家族関係なく死にたくは無いです」

 

「よし、ならば鍛えてやる。と言いたいところだが私の神機は遠距離武器(アサルト)だからな。近接の武器種の事は......おい、こっちへ来い」

 

「はいはい、お呼びですか姉上」

 

 ツバキさんに声をかけられたソファで寛いでた人は、のんびりと此方へ来るとツバキさんに頭を叩かれた。グーだったし、音が鈍器みたいだった、かなり痛そうだ。

 

「アナグラで姉上と呼ぶなと何度も言わせるな。......見苦しい所を見せたな。コレは雨宮リンドウ、私の愚弟だ。適当な性格をしているものの近接としての腕は確かだ。見習うところも多いだろう。

 で、リンドウ、新兵の加納ニーナだ。先輩として色々教えてやれ。とりあえず3日は教育期間としてお前につけるから、できる限りのことを叩き込め」

 

「了解しました。隊長殿」

 

 では、あとは頼む。なんて言い残してツバキさんは行ってしまった。

 残されたリンドウさんの方を見遣ればニカッと笑われたので、何となく笑い返してみると、じゃ、着いてこいなんて言われるのでホイホイ着いていく。

 

 どうやらアナグラを案内してくれるらしく、ここが神機保管庫、ここが医務室、といった具合にパパっと紹介してくれた。

 原作通り自堕落というか適当な様で、大体のことは【詳しい事は使う時になれば分かるさ】で済まされること以外は問題なさそうだ。

 話によるとアラガミを倒せば倒すほど、偉くなって賃金や待遇も上がるらしく、神機の強化もできるらしい。その辺はゲームと変わりないようだ。

 

「よし! あらかた施設の紹介は終わったな。じゃあ今日はとりあえず飯にするか! 訓練は明日からやるから今日はよく休めよ!」

 

「え? 終わりですか?」

 

 流石に神機の使い方くらいは教えてくれるものだと思ってたのだが、どうやらそうでは無いらしい。

 

「だってお前さん、体調良くないだろ。適合検査がキツかったのか分からんが、そんな状態でやってもろくなことにならないからな」

 

 ......流石の観察眼だ。確かに少しは慣れてきたとはいえ、未だにユーバーセンスの酔いはあるし、何より空腹で倒れそうだが、そんなに分かりやすかっただろうか。

 まぁ、ここは素直にお言葉に甘えておくとしよう。

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 じゃ、食堂はこっちな。と言われて飲食スペースに連れていかれる。腕輪をターミナルみたいな機械に通すと、配給されている食事の券一覧が表示されるので、その中から選ぶ券売機スタイルらしい。お腹すいたしこの、原作で味は微妙だったらしいが、量は多いジャイアントトウモロコシにしよう。この空腹を鎮めないと、配属初日で空腹のあまり倒れる、なんてポカをやるわけにもいかない。

 そう意気込んだのだけれど、私が買った券を覗いたリンドウさんが微妙な顔をしていた。......もしかしてガチのハズレだろうか?

 リンドウさんの手にはビールとおつまみセットなる券が握られていた。この人......さては日暮れ前から飲みたかっただけなのでは? 

 まぁいいか、今日運動しなくて良くなったのはいい事だし。

 

「ニーナ、ジャイアントトウモロコシは結構なハズレだぞ?」

 

「そうなんですか? 適合検査以降妙にお腹が空くんですよね。だから量があればまぁとりあえずはいいかなと」

 

 なるほどね。なんて呆れ顔で返される。

 食べれば分かる。程度に思われてるのかもしれない。もしくは色気より食い気か......みたいな感じで引かれただろうか? いや原作でも、ゴッドイーターは喰うのが仕事って台詞があった位だし、問題ないだろう。うん。

 

 そんな気持ちで食堂の係の人に券を渡せば、数分のうちにお盆に乗った私の腕位の長さで、太さは直径約15cmちょっとくらいはありそうなほんとにジャイアントなトウモロコシがでてきた。前世で見たトウモロコシより3倍近くデカイのではないのだろうか? 

 思わず「おお.....」なんて感嘆の声まで漏れてしまった。

 

 味変用の何かが必要かもしれないが、まぁ食卓にある調味料みたいなのが見えるので、それらを適当にかければいいだろう。

 にしても空腹だからか、この味気のなさそうな量だけが取り柄の様なトウモロコシがやけに美味しそうに見える。

 

 こうして私に食べられる為に生まれてくれた、このジャイアントトウモロコシに感謝の念を込めて「いただきます」と手を合わせてから、齧り付く。

 

 大きすぎて食べにくいと思ったが、大きくするのに伴って食べやすさも品種改良されているのか、思ったより抵抗なく芯から可食部が取れた。

 味は、うん、普通のに比べてなんだか水分量が多くて、甘みが少なくなってる感じだ。

 食べれなくは無いが普通に不味い。

 塩か醤油、もしくは味噌が欲しい感じの味だ。

 

「な? 不味いだろ?」

 

 同情半分からかい半分のリンドウさんの言葉に首肯する。

 ぐびぐびと、配給ビールを呷り、気持ち良さげに喉を鳴らすそんなリンドウさんを見てると、1口くらい欲しくなってきた。

 

 じとっ、とリンドウさんのビールを見つめていると、その視線に気づいたのか、ビールを守るように少し体勢を整えて、かわりにおつまみセットの中から1つ、適当な貝柱みたいなやつがトウモロコシの載った皿に置かれた。

 どうやらこれで我慢しろとのことらしい。

 

 というか何かしらの恵みを期待して見つめていたが、本当にくれるとは思わなかった。

 なんだか逆に申し訳ない気分にもなる。

 

「本当に恵みがあるとは思いませんでした。ありがとうございます」

 

 軽く礼を言えば、おう。って軽く返してくれる。

 現在は2065年、つまり原作の6年前と考えると、リンドウさんはまだ20歳になったばかりだと思うのだが、このイケメン振りだ。さぞ数多くの女性を泣かしてきたのだろう。

 

 まあ、私はカプ厨ではないが、リンドウさんはサクヤさんと結ばれるのが公式解釈なので、その間に割り込める程良い女のつもりはないし──容姿だけは自信があるけども──、私が惚れることも惚れられることも無いだろうな。

 なのでその頼れる兄貴っぷりに、今はおんぶにだっこしてもらって楽しようと思う。

 

 卓上にあるよく分からない化学調味料を、ジャイアントトウモロコシにかけて食べていれば、リンドウさんは食べ終わったのか、先に自室の方に帰られた。明日は0800、つまり朝の8時までにエントランスのソファにいればいいらしい。さすがに寝るのはまだ早いと思うので、自室のターミナルであるか分からないが、開示されているアラガミの資料でも見て予習でもしておこう。

 

 

 *

 

 翌日、私は神機使いの訓練として贖罪の街に来ていた。

 訓練場ではなく、贖罪の街に来ていた。原作主人公くんちゃんは、訓練場でツバキ教官(今は隊長だが)のご指導があったと思ったので、遠回しにリンドウさんに聞けば「訓練場? ああ、今開発中のアレか?」とのことだった。

 どうやら習うより慣れろ方式が極東では採用されているらしい。嘆かわしいことだ。そんなんだから新兵が死ぬんだぞ。

 

「じゃ、今回は見てるだけでいい。余裕がありそうなら最後に一体倒してもらうかもしれないがな。一応聞くがアラガミについてどんくらい知ってる?」

 

「オラクル細胞の集合体で、コアを近接型神機の捕喰形態(プレデターフォーム)で抜き取る、もしくは破壊すればオラクル細胞が霧散し、討伐が完了します。神機で捕喰すれば対象アラガミの素材を回収出来て、アラガミ研究等に回せます。また、現在アラガミとして種の名前を与えられている者達は、今後姿を変えるよりもその姿のまま強度を高める形で進化していくことが予想されています。私のアーカイブにはオウガテイル、コクーンメイデン、ザイゴート、コンゴウ、グボログボロ、ヴァジュラの紹介はありましたが、小型アラガミ以外詳しいことが書いてなかったため、詳細は何も知りません」

 

「おうおう、よくもまぁ配属2日目でそんなにペラペラ出てくるな。想像以上の真面目ちゃんとみた」

 

 大体が前世の記憶(原作知識)ではあるが、模範解答に近いものだったようで呆れ眼で感心された。

 今回のミッションは【オウガテイル5体の討伐】である。

 遠目から見えるオウガテイルはやはりと言うべきか、普通に人間よりも大きい。あんな雑魚アラガミに殺られる気はまったくないが、油断していると華麗な男(エリック上田)の二の舞になりかねない。いや、今殺られたら時系列的に私が先でエリックが二の舞なのだろうけど。

 内心で今一度気を引き締めれば、リンドウさんの指示に従って動き出す。アラガミがよく通る道や、素材が落ちていそうなポイントを道すがら教えて貰いながら、移動すること数分で目的地についたようだ。

 私は原作知識とユーバーセンスのおかげで、最初からここにオウガテイルが4体居ることは分かっていた訳だが、リンドウさんは何故ここにオウガテイルが居ることが分かるんだろうか? 経験? もしくはオペレーターの人と密かに連絡でもとってるんだろうか? 

 

 いやでもそんな気配はまるでないしな......よし、後で聞こう。

 

「んじゃあ新入り、お前に出す命令は2つだ。周囲を警戒しながら俺の戦いを見ろ、俺が交戦中に他のアラガミに襲われたら逃げろ、そんで隠れて助けを待て。あ、これじゃ3つだな」

 

「わかりました。リンドウさんの戦いを見学しつつ周囲の警戒、もしアラガミに襲われれば逃走、アラガミを撒いたら物陰にて助けを待ちます」

 

「いい子だ。その都度なんか言うかもしれないから、そん時は臨機応変に対応してくれ」

 

 固く頷けば、リンドウさんは神機を担ぎ、オペレーターに声をかけた。いよいよミッションがスタートするようだ。

 

「よーし、サクヤ聞こえるか? 新入りに対する説明は終わった。これより討伐対象を駆逐する」

 

『オペレーターよりリンドウ、モニターを開始したからいつでもどうぞ......気をつけてね』

 

 アナグラ出発前に説明されたインカムから来る通信はオープン形式らしい。

 リンドウさんと、その幼馴染のオペレーター 橘サクヤさんの会話が聞こえる。一応私の声も拾っているようなので、無駄口には注意しよう。

 少なくとも、ツバキさんが隊長のうちは真面目に見られておきたい。まあ原作まで生き残れるか分からないので、意味の無い見栄になるかもしれないけど。

 

 益体もないことを考えていれば、リンドウさんが神機──ブラッドサージのチェーンソー機構──を起動して1体目に突貫して行った。

 足音によってか、もしくはブラッドサージの駆動音によってリンドウさんの存在に気づいたオウガテイル4体が咆哮で威嚇する。

 その威嚇すら気にした素振りもなく、ブラッドサージを先頭にいたオウガテイルの頭部に叩きつけた。

 いや、叩きつけたというよりも、食い込ませたが近い表現だろうか。

 ブラッドサージのチェーンソー機構はその見た目通りの能力を発揮し、オウガテイルの血と肉をぶちまけながらも、その頭部を両断している。

 リンドウさんは一撃で絶命させたソレを、力任せに振り払い次の獲物に視線を移した。

 3体のオウガテイルはそれぞれ既に行動を起こしていた。

 

「は?」

 

 ......起こしていたのだが、3体が3体ともに噛み付こうとしていた。

 まず、リンドウさんと至近距離にいる個体。コイツはまぁ、至近距離なのだから噛みつきを繰り出すだろう。

 次に、リンドウさんとオウガテイルの足で半歩分距離のある個体。コイツもまぁいい。その馬鹿でかい尻尾を振る方がいいのでは? と思えるような距離感ではあるが、まだ半歩踏み込めば噛みつける範囲だ。

 問題は最後、ゲームであれば恐らく針を尾から飛ばしている距離にいる個体。コイツが大口をあけ、仰け反りながら噛みつこうと、リンドウさん目掛けて突進しようしていた。

 

 全くもって意味がわからない。

 そりゃあアラガミといっても、オウガテイルの様な低知能個体であるため、噛み付きを避けさせて、もう一体がしっぽを当てる。さらにそれ防いだ所に尾針が飛んでくる。なんて言う高度な連携が出来るとは思っていなかったが、人1人というあまりに小さな的に対して、3体全員が無理やり噛みつこうとするとは思わなかった。

 ゲームだったらAI壊れてるのか? と思われるレベルの挙動だ。

 

 リンドウさん1度バックステップをとるだけで、当たり前の様にそれら全てを回避してみせる。その後は1体目の焼き回しだ。切り裂いては振り払い、切り裂いては振り払う。

 そんな様子をどこか納得のいかない表情で眺めれば、サクヤさんが話しかけてくる。

 

『加納さん、どうかしましたか?』

 

「いえ、なんだがオウガテイルの動きが、その、あまりにも下手? な動きに見えたので」

 

『ああ、それはまだオウガテイル神族自体が未熟だからでしょう。

 基本的に小型アラガミは群体で多数の弱者、もしくは1体かつ大型の存在を狙うことが多いの。だからゴッドイーターのような的が小さいかつ、1人を群体で狙うことに対する学習が、アラガミたちの中に未発達な結果よ』

 

「では、今後年単位で時間が経てばアラガミはそういったことも学習するんですか?」

 

『ええ、そうなるだろう。と以前榊博士を始めとした専門家が記事に出してたわよ』

 

「なるほど、いつ進化するかまでは分からないでしょうし、油断なりませんね」

 

『その心構えは大切よ』

 

 サクヤさんが、リンドウさんの状況に合わせて言葉を切れば、リンドウさんがオウガテイル4体を倒し終わり、私を手招きしていた。

 そちらへと向かえば、どうやら倒したオウガテイルの捕喰、つまるところコアの抜き取りをやらせてくれるらしい。

 

 事前に説明があった通りの方法で神機の捕喰形態(プレデターフォーム)を起動する。

 黒々とした色の中に時折赤色がメタリックに光る。

 形はゲームで見たものよりもずっとスリムで、丸みを帯びている。

 例えるならば、そう、マーベル・コミックのヴェノムみたいな感じだ。

 さすがに喋ったりはしないようだけど。......いや、私もリンドウさん並に歴戦のゴッドイーターになれば、リンドウさんの神機よろしく私のにも意思が宿るのかもしれないけど。

 

 ──喰事の時間だよ──

 

 捕喰形態のロックを外して、オウガテイルの死骸に差し出せば、神機がその大顎をもって死骸を貪る。

 程なくしてコアを探し当てたのか、ズルズルと音を立てながら神機が元の形に戻る。持ち手部分を確認すればコアの所持数が表示されていた。

 コアを抜き取られた死骸は直ぐに霧散し、大気に溶ける。

 

 にしてもなんだろう、神機が捕喰したのに私の小腹も満たされた感じがする。こう、学校の友達にお菓子をひとつ分けてもらった感覚だ。

 

「じゃあ新入り、今度はお前の番だな。ユーバーセンスだっけ? 最後の1体の位置はわかるか?」

 

「えっと、はい、ここからあの大きい建物を右へ迂回していけば、恐らく会敵すると思います」

 

 リンドウさんの言葉にハッと我に返って感覚頼りに説明すれば、満足気に頷き先へと促される。

 やばそうだったら助けてやる。との言葉をもらったので、大船に乗ったつもりで私は最後のオウガテイルの元へと歩を進めた。




こんなのにもうお気に入りしてくれる人いて嬉しいね。ありがとうございます 


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1-3

予約投稿してたつもりがするのを忘れてました。


 リンドウさんに急かされて歩くこと数分、ユーバーセンスの感覚を頼りに物陰から顔を覗かせれば、オウガテイル1体が呑気に喰事をしている所だった。てか何喰べてるてんだアレは。眼を凝らせば植物のような物が見える。......ハーブ? だろうか。たしか回復錠とかを回復錠改とかに合成でアップグレードする際、必要なアイテムだったと思う。

 

 なんでも喰べる性質とはいえ植物まで喰ってるとは思わなかった。

 それはともかくとして、今オウガテイルは喰事中で、私の神機が【ナイフ 序】であることから、上手くいけばゲームで言うバックスタブが決めれるはずだ。

 

 そう考えて、慎重に足音を立てないように近づく。

 頭は角度的に狙えないため、武器になるだろう尻尾を根元から切り落とそうと、右袈裟斬り──ゲームで言うところの□ボタン1の動き──を繰り出せば、尻尾の根元約半分の所で止まってしまう。慌てて力づくで抜き取り、バックステップを踏む。

 

「固すぎじゃない?」

 

 文句を言いつつオウガテイルを見やれば、斬られたことに怒っているのか、咆哮を上げた後に尾針を飛ばそうとするモーションに入った。

 普通なら横に避ける所かもしれないが、前に突っ込む。尾針が当たる直前に前方へとステップを踏み、頭を下げてやり過ごす。

 ステップの勢いを殺さず、神機をオウガテイルの頭蓋目掛けて刺突する。オウガテイルは尻尾を振り回す予兆が見えたので、神機がオウガテイルの頭蓋に突き刺さったまま、力任せに捻り、飛び上がる(ライジングエッジ)。オウガテイルは、鮮血を撒き散らしながら尻尾を振るうが、それも空振りに終わる様を上空で見た後、トドメとばかりに上空から刺突する。

 

 会心の手応えを感じ、最後の反撃をくらわないように、念の為バックステップで距離を取れば、リンドウさんが肩を叩いてきた。

 

「おつかれさん。初めてとは思えない動きだったな、もっとワタワタするもんだと思ってたんだが」

 

「ありがとうございます。夢中に動いてただけです。それにリンドウさんの神機みたいに、一撃で両断できるかと思ったんですけど、中々上手くいかないものですね」

 

「俺のはロングブレードで切断に特化してるからな。お前さんのショートブレードみたいな刺突を捨てた結果さ。まあ、一長一短ってやつだな」

 

 なるほどなぁ。と心の中でメモをする。

 斬撃、打撃、貫通とあった物理属性はこの世界ではこういう形で表出するらしい。

 ショートブレードを使うならやはり貫通単独特化(シュヴァリエ)ホールド特化(獣剣 老陽)斬撃と各属性特化(四神刀)位は取り揃えたいものだけど、実際使うとなると重さとかリーチが変わるのは良くないか......? それにまだ開発部の方に実装されてないだろうし、何より現実で武器素材を落とすアラガミを倒せるかという難しい問題が山積みだ。

 

 リンドウさんに質問しながらも、倒したオウガテイルを神機で捕喰し、ミッションは無事に終了した。何やらオウガテイルを捕喰すると空腹が紛れる気がする......?気のせいかな?まあいいや。

 

 オペレーターを務めてくれたサクヤさんからも、初めてなのに動きがやはり良かったらしく、ベタ褒めしてくれたので気分が上がる。

 そのサクヤさん曰く、帰投用のヘリは相乗りらしい。

 乗っているのはツバキ隊長と同じ第1部隊のソーマ君らしい。え、ソーマ君? 2071年に18歳だったってことは今は何歳だ......? 12.3歳? わ、若すぎる......あまりにも過酷な現実。

 リンドウさんも微妙な顔をしながら、ビックリすると思うが、変な反応はとらないでやってくれ。なんて言ってくる。

 

 いきなり原作知識ありきで話す訳にもいかないので、一応人となりをリンドウさんに聞いておく。

 褐色の白髪で、私より年下の子供、しかし戦闘能力は普通の神機使いよりは数段上。ぶっきらぼうで周りから距離をとりたがっていて、ツバキさんやサクヤさんと共に心配している......なるほど。

 

「おい、先に言っとくけどあんまりグイグイいくなよ? ソーマとはじわじわ距離を詰めるようにしねぇと喧嘩になっちまうぞ」

 

 おそらく目を輝かせていたのが分かったんだろう。釘を刺されてしまった。ショタソーマ君は絶対に可愛いと思うんだけどな。妹の次くらいには可愛いと思うけど、まあ、そういう事なら仕方がない。

 

「......わかりました。気をつけますね」

 

 不承不承という感じで頷けば、リンドウさんは笑いながら、仲良くしてやってくれといって、私の肩を軽く叩く。

 そうこうしてる内にヘリがやってきた。

 中にはツバキ隊長とソーマ君が、互いに対角線になる様に乗っていた。ツバキ隊長はタブレット端末でなんか読んでるし、ソーマ君はフード被って外を見ている。なんか空気悪くない? いや、どちらも静寂を苦としないタイプなんだろう。これでは中々距離が縮まらない訳だ。

 しかし、私は知っている。エリック・デア=フォーゲルヴァイデ(ソーマ君の親友という前例)を知っている。

 ソーマ君に対して必要なコミュニケーションとは、押してダメなら押し倒せであるということを。

 

「ツバキ隊長、お疲れ様です。あ、リンドウさんはツバキ隊長の隣へどうぞ。フードの人! 隣失礼しますね!」

 

 ツバキ隊長が返事をする前にまくし立て、ソーマ君の隣へと座る。

 第一印象は大切だ。だが、グズグズしていても拒否されるのが目に見えている。なので、拒否する間もないくらい突っ込む。

 リンドウさんとツバキ隊長が目を見開いて驚いているが、私がやりすぎたと思ったら、どうせ止めてくれるだろう。

 

「私の名前は加納ニーナ、第1部隊に昨日配属されました! よろしくお願いします! 貴方は?」

 

「......ソーマ」

 

「ああ、君がソーマ君! リンドウさんから聞いてます! 私より年下なのにすごい強いらしいですね! 凄いです! 神機は何使ってるんですか?」

 

「......バスターブレード」

 

 ソーマ君が自身の神機を指さしながら、すごい顔を顰めている。初めて見た理解できない存在みたいに私を見てくる。多少の心苦しさを感じるも、どうせなら仲良くなりたいことだし、まだまだ詰めさせてもらおう。

 

「バスターブレード! そんなに大きいのを振り回せるんですか!? 凄いですね! 私はショートブレードなんですけど、まだ上手く扱える気がしなくてですね、あ! そうだ私今日初めての実戦でオウガテイル倒してきたんですけど、ソーマ君は今日どんなアラガミを倒してきたんですか?」

 

「シユウとヴァジュラだ、もうい」

 

「シユウとヴァジュラですか! ヴァジュラの方はアーカイブでみました! 極東周辺でトップクラスに危険らしいですね! そんなのも倒せるなんて凄すぎます! あ、でもシユウは初めて聞きましたね。ツバキ隊長! シユウってどんなアラガミなんですか?」

 

 ソーマ君が会話を無理やり切りそうだったので、食い気味に繋げる。

 それにこれ以上は辛そうだったので、1度ツバキ隊長に話を投げて休憩させてあげよう。

 

「ああ、シユウというのは人型のアラガミでな、硬度の高い長大な翼手から格闘攻撃、及びエネルギーの放出による攻撃をしかけてくるアラガミだ」

 

「なかなか手強そうなアラガミなんですね......勉強になります!」

 

 無論知っているし、ゲームでは何度もお世話になった訳だが、あくまで新人なので、知らなかった体裁を保つ為に大袈裟に関心しておく。

 以降も褒め言葉のさしすせそを適宜混ぜつつ、ソーマ君に会話を振れば、ああ。とかそうだ。とかうん。とかめんどくさそうではあるが返してくれる。

 

 きっと、もうなんでもいいやとなってる状態ではあると思うが、今後もこのだる絡みをしていけば、普通にお喋りができる日も遠くないだろう。

 私の主観では楽しくお喋りをしていれば、あっという間にアナグラに着き、ヘリから降りると、ソーマ君はスタスタと足早に去ってしまったので、背中に大きく声をかけて手を振っておく。

 

 ソーマ君が見えなくなったタイミングで、リンドウさんに頭を小突かれた。普通に痛い。

 

「グイグイいくなって言ったろうが」

 

「いやぁ、でも、このまま絡み続ければ多分1年位で仲良くなれそうな気がします」

 

「その辺にしておけリンドウ。案外歳の近い者同士ならば、あれぐらいのがいいのかもしれん」

 

 流石ツバキ隊長、分かっておられる。

 リンドウさんも姉上には逆らえないのか、肩をすくめた。

話が一区切りしたところで、ツバキ隊長が改めて私に向き直った。

 

「それよりもニーナ。初めての戦闘はどうだった?」

 

「まだ1体としか戦ってないのでなんとも言えませんけど、思ったより怖くはなかったですかね」

 

「オウガテイルの尾針は突っ込んで避けて、尻尾の振り回しは飛び上がって避けて、って具合でしたからね。コイツ相当肝が据わってますよ」

 

 まるで曲芸でも見てるのかと思いました。なんて呆れ顔で言うリンドウさんに、瞠目したツバキ隊長がまじまじと私を見つめる。

 何となくにへらと笑って誤魔化そうとしたらデコピンをされた。

 

「当たらないのは最善だが、シールドの存在を忘れるなよ」

 

 ......遠距離神機使いの人に言われるとは思わなかったな。

 痛む額を擦りながら返事をすれば、よろしい。と微笑んでくれる。当たり前だがやはり美人だ。飴と鞭の使い方も20そこそこ程度の歳の癖になのにとても上手に使ってくる。これもカリスマと言うやつだろうか?

 

「そうだ、任務明けで済まないが、これから榊博士の研究室に顔を出してくれ。なんでも、この前のメディカルチェックの結果の説明がしたいらしい」

 

「わかりました。じゃあ、私は神機預けたらペイラー榊博士の元へ向かわせてもらいますので、ここら辺で失礼しますね。リンドウさんも! 今日はありがとうございました! 明日もお願いします!」

 

「おう、おつかれ。明日も0800に同じ場所に来いよ」

 

 スパッと挨拶をして神機格納庫に神機を預けた後、研究室へと向かう。

 

 ものの数分でたどり着き、丁寧に3回ノックをすれば入室を促されたので、遠慮なく入らせてもらう。

 

「失礼します、加納ニーナ新兵です。メディカルチェックの結果説明の為に呼ばれていると聞いています」

 

「よく来てくれたね! 改めてペイラー榊だ。私の隣に居るのが」

 

「極東支部の支部長をしているヨハネス・フォン・シックザールだ。ああ、私は見学者のようなものなのでね、居ない者として扱ってくれて構わない」

 

「し、承知しました」

 

 予想外の人物が居たため思わず敬礼を取ろうとすれば、手で制された。居ない者として扱えといってもそれ無茶では? と思うが口に出さないのが懸命だろうし、黙って榊博士の方を向く。

 

 榊博士は本当にシックザール支部長を居ない者として扱うようで、複数のモニターに目を向けながら、手元のキーボードを忙しなく叩いている。

 さて、と一区切りして榊博士から結果の告知前の質問が飛んできた。

 

「以前言ってた酔いや空腹はその後どうかな?」

 

「酔いの方は慣れてきました。イメージ的には、どちらか片方に焦点を合わせれば酔いにくくなってる感じです。空腹の方はあまり改善は見られません。常に腹3分目? くらいな感じですかね。あ、でも今日の戦闘でオウガテイルを神機で捕喰した際、微かに空腹感が薄れた気がします」

 

「ふむ、やはりそうか」

 

 どうやら榊博士にとっては予想通りの結果らしい。

 

「まず君の適合率に関して話さしてもらおうかな。

 君の適合率は一般神機使い達に比べて遥かに高い。

 現在の神機使いに投与されている、P53偏食因子の中でも歴代最高の値である雨宮リンドウ君。彼の次に高い値だ」

 

榊博士がモニターアームを1つ、私の方に向けて画面を見せてくる。内容としてはゴッドイーターの平均値とリンドウさんの値と私の値の比較だった。

 

 たしかP53偏食因子は適合率の高さが強さに直結する......とまではいかずとも身体能力等のブースト値が決まるんだったかな。

 リンドウさんが平均的なゴッドイーターより3.2倍位の適合率を誇ってるわけだから、私も凡そ3倍位は身体が強化されてるのか。

 

「とはいえ、先のオウガテイル討伐時の君のモニターを見ていたが、適合率の高さ程の身体能力は発揮されていなかった。そして、検査当日君に質問しながらさせてもらった、あのメディカルチェックで分かったことが、このモニターに映ってる通りだ」

 

 そう言った榊博士が、もう1つモニターを吊るアームを此方に向けた。

 そこには人型に数多くの細かい線が入っていて、6割ほどが灰色から緑色に変わっており、特に頭付近は大体緑色に変わっている。

 

 ......つまり? 

 

「つまり、君の身体の神経の約6-7割、特に頚部から頭部にかけては驚異の87%がオラクル細胞に置き換わっている。君の異常に湧いてきた喰欲、そして新たな感知能力ことユーバーセンスと、その過剰情報の処理。それら全てを可能にしてるのがコレだろう」

 

 それって本当に人間って言っていいんだろうか? というかアラガミ化の可能性が高そうで怖い。

 というかまだ試していないけど、活動中のアラガミを捕喰した際のバーストモードが怖くなってくる。

 不安が顔に出ていたのか、榊博士が感心したように眼鏡をクイッと上げた。

 

「ふむ、もう危険性に気づけたのかな? どの程度まで察してくれたのかは分からないが、我々研究者側から君の状態を簡単に説明しよう。

 加納ニーナ君、現在の君の状態はP53偏食因子によって制御していたオラクル細胞が、過剰に君の身体を侵食しているような状態だ。ああ、アラガミか人間かでいえば、間違いなく人間だから殺処分なんてことにはならないから安心したまえ。

 そして、我々が君に求めることは、基本的に他の神機使いと変わらないし、制約が増える訳では無い。ただ、その特異な身体状態は、他では見れない有意なモノだから研究にはできる範囲で協力してくれ。と言った具合かな。

 さて、なにか質問は?」

 

 とりあえずはアラガミではなく、人扱いなのが聞けただけで正直十分すぎるかな?

 

「いえ、今思い当ることは特にないです」

 

「そうか、ではヨハン。君の番だよ」

 

 そう言って榊博士がシックザール支部長に声をかける。

 やはりただの見学ではなく、何かしら用があって居たらしい。

 壁際に立っていたシックザール支部長は、咳払いをして話し出した。

 

「君も知っていると思うが、この極東支部周辺でアラガミが急増している。

 現状は大きく討伐部隊の第1部隊。防衛部隊の第2、第3部隊のみでゴッドイーターを編成しており、その中に細々とした偵察部隊や巡回部隊が存在している。

そして来年には捜索及び回収を目的とした、第4部隊を新たに増設する予定だ。職務内容は言った通り捜索と回収。つまるところ作戦中行方不明(MIA)となった者や作戦中死亡(KIA)となった者の捜索、神機と腕輪、出来れば遺体等の回収が主となる。もしかしたら研究職から指定された素材を、回収してもらうことにもなるかもしれないが」

 

 話の流れに、凄い嫌な圧を感じるのは私だけだろうか。

 なんだろう、こう、お前がやるんやでと言われてるような気がする。

 

「加納ニーナ君、話の流れから察してはいるとかもしれないが、君には1年後にこの第4部隊を率いてもらいたい。それまでは第1部隊にて腕を磨き、第4部隊に欲しい人材を何人か選抜してくれ。希望を通すと断言は出来ないが考慮しよう」

 

 どうやら配属2日目の新人に、1年後の栄転(笑)を宣告してくるブラック企業があるらしい。



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1-4

「だ、第4部隊の隊長......ですか? 1年の猶予があるとはいえ、まだ私は16歳の小娘です。周りからの反発といいますか、その、私よりも適任の方がいると思うのですが......」

 

 確かに捜索、回収の任務を請け負う第4部隊であれば、私のユーバーセンスは非常に有用なのは分かる。無論、原作においてユーバーセンス、またはその類似を発揮しているのは、強化パーツによってスキルを得る主人公と、ナンバリング2番のシエルの血の力【直覚】位である為、名も出ないモブが得ていたとて、適合率が私より高い適任が出てくるとは思えないけれど、それはそれとして買われすぎだと思う。何度も言うがまだ16歳、1年後でも17歳の小娘ですが? 

 

「ふむ、随分と真面目な性格のようだな。

 アラガミによって荒廃する前の世界ならそうかもしれないが、今は一定の地位迄ならば、就くのは実力、能力があれば問題ない世界と言える世界だ。仮に問題になるほど反発が起こるのであれば、私が黙らせることも出来るからな」

 

 反対意見は実力行使で消す。と部下に笑顔で宣言するブラック企業があるらしい。

 このまま謙遜して逃げようとしたら、家族を消されそうな勢いまであるな。無いかな。ありそうだ。無くあってくれ。

 まあ、隊長ともなれば給与とかも良くなるのだろうし、嫌なことばかりではないのかな......? 労働はそもそも嫌だけど。

 

「シックザール支部長がそこまで言ってくださるなら、わかりました。1年後に私以上の適任が見つからなければ、その話慎んでお受けします」

 

「若い身にプレッシャーを与えるような真似をして済まないな。その決断に感謝する。今後も励んでくれたまえ」

 

 シックザール支部長の固い言葉に敬礼を以って返せば、榊博士の研究室から退出しようとした。

 

 けたたましいアラートが研究室、いやアナグラ中に響いていた。

 

『アラガミ防壁の一部破損を確認。アラガミ多数。出撃可能な全神機使いはエントランスに集合せよ』

 

「ペイラー」

 

 シックザール支部長が呼びかければ、既に動き始めていた榊博士が被害状況と侵入してきたアラガミの数を告げた。

 小型が15体、中型が5体、大型が2体だそうだ。そして、損壊したアラガミ防壁はどうやら私の家族の住まい付近の様だ。

 ......両親と妹が危ない! 

 

「榊博士! シックザール支部長! 私はエントランスに向かうので失礼します!」

 

「ああ、頼んだよ」

 

「武運を祈る」

 

 失礼だとは思うが、2人が話切る前に駆け出してしまった。

 エレベーターは今全てが使用中、なら、階段のが早い! 

 

 神機格納庫に向かえば、既に整備の人が再出撃の為の準備を済ませておいてくれたようだ。

 

「ありがとうございます!」

 

 お礼だけ伝えてまた走りだす。今度はエレベーターが使えたので、エントランスに着くまでの10数秒で息を整え、持ち物の確認をする。

 幸い、任務後にそのまま榊博士の研究室へと向かった為、回復錠は持ち合わせていた。スタングレネード位は欲しいものだけど、ワガママを言ってる場合じゃない。

 

「加納ニーナ新兵到着しました!」

 

「よく来た! これ以上は待たん! このメンバーで出撃する! 動きは行きながらオペレーターから伝えられる、インカムの電源は入れておけ!」

 

 ツバキ隊長の言葉に各々が装備を整える。周りにはリンドウさんとツバキ隊長、それと名も知らない旧型近接神機使いが1人と、遠距離神機使いが1人、それと旧型も旧型、ゲームでも見た事がないピストル型神機を持っている男性が1人。

 

 

「1人でも多くを助けるぞ! ──出撃!」

 

 ツバキ隊長の檄を聞いて、私を入れて6人の神機使いが、外部居住区に侵入したアラガミ掃討の為、駆け出した。屋根から屋根へと飛び移り、全員が、ほぼ一直線のルートで向かうとしても、到着まで約5分はかかってしまう。

 妹、アリアは無事だろうか......。

 心が不安に押し潰されそうになったタイミングで、インカムから音声が流れた。

 

『百田ゲン中尉と加納ニーナ新兵のオペレートを担当するシックザールだ。立場の差を気にして言葉を選んでる場合ではないので、言いたいことは全て言ってくれ。

 今回大型2体は雨宮姉弟が、残りを君たちともう2人で掃討する。

 加納ニーナ新兵は避難民、アラガミの状態、位置、その他なんでもわかり次第報告してくれ』

 

「了解しました! 今感知している範囲では大型アラガミの種別は一体は輪郭的にヴァジュラ! もう一体はボル......蠍型をしています! 

 中型はコンゴウが2体シユウが3体! 小型はオウガテイルが10体、ザイゴートが5体です!」

 

『でかした新兵。位置は分かるか』

 

「細かい所は分かりませんが、アラガミ防壁破損部付近で大型は暴れてますが、小型中型は扇状に広がっていて、民間人が、今も多数死んで、いってます。まともに避難出来ているのは、......500m以上破損部から離れている人達だけです!」

 

 ユーバーセンスで感知出来る範囲の情報は、余すことなく全て伝えた。

 

 家族が住んでいる場所は破損部から400m弱。避難出来ていてもおかしくない位置だ。ちゃんと避難に遅れていなければいいんだけれど。

 

 焦りが顔に滲むのを自覚して、眉を顰める。

 

「おい加納、落ち着けよ。俺たちの焦りは取りこぼしに繋がる」

 

 ハッとして隣を見ればピストル型神機を持っている男性、百田ゲンがバシンと背中を叩いてくる。

 

「今のお前さんが言った情報はな、値千金の情報だ。あの情報があっただけで、俺たちはグボログボロとコクーンメイデンの狙撃に警戒しなくてよくなるし、雨宮姉弟はボルグ・カムラン、お前が言った蠍型とヴァジュラを相手にするにあたっての打ち合わせが出来るようになった。それだけで俺ら神機使いは救える民間人が50人は変わってくる。これからやる俺らの仕事は、その救えたはずの命を零さねぇようにするだけだ。わかるな?」

 

 背中の痛みと共に、百田さんの言葉が身体に染み入る。

 既に50歳は過ぎてる筈なのに、やけに逞しく見える身体は、きっとこれまでの彼の行動が作ってきたんだろう。

 会って間もないというのに、私のような新兵の機微にまで気が回せるのは、百田ゲンという男が優秀な人材である証左だと思う。

 それに、なにより百田さんの言う通りだ。家族が無事かどうかは、後で確かめればいい。私が1人でも多く取りこぼさなければ、結果的に、家族を助けることにも繋がる。

 

「はい! もう大丈夫です! 私は助けれる人を助けます!」

 

「よく言った!」

 

『気合いは充分なようだな。今他との情報共有も終わった。2人にはアラガミと接敵し次第、新兵の言う扇型に広がる被害の右側を担当してくれ。左側は防衛部隊所属の2人に、雨宮姉弟には、大型にたどり着くまでにいるアラガミ全てを担当してもらう。君達は担当地域を掃討次第、中尉は避難の補助、新兵は他の交戦地帯への援護を頼む』

 

「「了解!」」

 

 最初に会敵したのはツバキ隊長とリンドウさんだった。ザイゴートを撃ち落とし、オウガテイルを両断し、左右のアラガミに目もくれずに、防壁破損部にいる大型2体を目指していく。

 

 名前も知らない防衛部隊の2人と、アイコンタクトで散開し、私が前衛、百田さんが後衛と言うには近すぎるほどの距離から、銃撃で援護してくれる。

 

 流石神機使いの黎明期から戦っているだけあり、アラガミの移動に合わせて弾丸を前置きしていく。

 アラガミが動いた先々で、全て急所と呼べる位置に弾丸が当たるのは、正直怖くて引く。

 けれど的確すぎる援護は頼もしい。

 

 オウガテイルを2体、3体と切り伏せ、空を舞うザイゴートを地に叩き落とす。

 都度アラガミの位置を報告し、シックザール支部長のオペレートに従って、アラガミを掃討する。

 

 しばらくそんな切った張ったを繰り返せば、私の家族が元々住んでいた付近まで来た。流石にもう居ないだろうと思いつつ、つい、ユーバーセンスで家の中を知覚した。

 

 私たちからは死角となる。向こう側の壁が壊れていて、そこにシユウと、その前に棒状の物を持って壁に打ち付けられた父さん。妹を抱いて逃げようと、玄関へと走り出す母さん。

 どういう訳か、逃げ遅れていた家族の姿を知覚してしまった。

 

 数瞬、呆然としてシックザール支部長のオペレートを聞き流し、異変に気づいた百田さんから肩を掴まれた。が、しかし

 

「すいません、無理です」

 

 気が付けば走り出していた。後ろから焦って追ってくる百田さんの声を振り払い、母さんが未だ辿り着かない玄関を切り飛ばして道を開く。

 母さんの驚いたような声が聞こえたけど、無視して腕を引っ付かみ、アリア諸共、後ろから迫る百田さんに投げる。

 

 そしてその直後、時間にしてコンマ4秒後、シユウの巨体が此方に空から迫っていた。滑空攻撃。ゲームで培った知識が脊髄反射で判断してくれる。

 

 今の私のバックラー性能では受けきるなんて到底不可能。避けるしかないが、後ろに家族がいる。ゲームでは無理だったが、相打ち覚悟の捕食しかない! 

 

 アラガミの中枢(コア)などと呼ばれるのだ。グボログボロのような肉厚ならいざ知らず、シユウのように人型の薄い肉体であれば、頭から胴にかけてを喰いちぎることによるワンパンは、理論上可能な筈! 

 

 さぁ──

 

「喰事の時間だよ」

 

 イメージは一本背負い。

 シユウの攻撃が当たる前に捕喰形態で喰らいつき、喰らいつくと同時に、身体を反転し、滑空の勢いを利用して地面に叩きつける! 

 

「ぶっっっっ潰れろ!!!」

 

 しかし、如何せん滑空の勢いが強すぎた。

 シユウを地に叩きつけることには成功したが、私も家の天井へと叩きつけられ、次いで重力に従って地面へとダイブした。

 咄嗟に受け身だとか、そんなことも考えれない程の急激な視界の変動に対応ができなかったらしい。

 

 荒れ果てた我が家で、頭を打ったのかチカチカと明滅する視界の中で神機が視界に入る。

 ゲームだと捕喰したあとは多少の溜めの後、元の姿に戻っていたが、現実ではそんなことないらしい。

 それとも私の扱いが杜撰すぎたのかもしれない。

 ともあれ、私の神機は凡そ3秒ほどかけて、ゆっくりとその捕喰形態から通常の近接形態へと移行した。

 

 ──ドクン──

 

 心臓が、かつてないほどに大きく脈打つ。

 

 ──ドクン──

 

 朦朧としていた視界が、急激にクリアになっていく。

 

 ──ドクン──

 

 動かなかった身体に、再び力が入る。

 

 打った頭から流れてきた血が目に入り、視界は覚束無い。

 だが、私のユーバーセンス(超感覚)が告げていた。

 付近にコンゴウが2体。対峙するのは軽く負傷している百田ゲン中尉と、その後ろに庇われる母親と妹。

 

『全テ喰イ散ラカソウ。喰事ノ時間、ソウナンダロ?』

 

 何処かで聞いたことのあるような気のする、私の頭蓋に直接響く男の声。全然知らない筈なのに、不思議と敵ではないと確信できた。

 

「うん、アラガミは! みんな、みーんな! 喰い尽くしてやろう!!!」

 

 いつの間にかインカムがどっかにいったなとか。

 そう言えば、父さんは生きてるのか死んでるのかとか。

 こっからあのコンゴウまで、何歩でたどり着けるかなとか。

 シックザール支部長や百田さんに、後で怒られるだろうかとか。

 

 そういった取り留めのない事が、頭に浮かんでは消えて、最後にはコンゴウ2体(目の前の敵)を喰い殺すことと、妹の無事しか考えなくなった。

 

 満身創痍の筈なのに、身体が羽のように軽い。

 疲労困憊の筈なのに、思考が冴えている。

 視界不良の筈なのに、(プレイヤー)の視点を持ってるみたいにすべてが見える。

 

 コンゴウ2体、内1体はパイプが結合崩壊してる。

 

「ベリーイージーって所だな」

 

 初期武器かつ近接のみという縛りがあるとはいえ、()ならこれくらい1発も貰わずにクリア出来る。

 この高揚感が神機解放(バースト)モードだとして、体感後20秒位で切れてしまうんだろうが、深く考える必要も無く終わらせれるな。

 

「んじゃ、喰事の時間なんでな! コンゴウ2体いただきますか!」

 

 言葉と共に駆け出し、空気砲を撃とうとしている一体へと飛びかかる。

 宙を1度蹴り高度をつけて、落下のエネルギーすら力に変えて、上空から無傷のコンゴウの短い頚部を串刺しにする。

 

 衝撃に耐えかねたのか、はたまた内部で空気砲を撃つパイプに傷がついたのか、空気が奔流の様に漏れでそうになるのを感知。

 反射的に飛び退けば、コンゴウの周囲に暴風が吹き荒れるが、弱点である尻尾はギリギリ暴風域の外。それを狙い、穿つ。

 

 渾身の一突きを繰り出せば、その一撃で尻尾は本体から切り離された。

 コンゴウの絶叫は頭にガンガンと響くが、気にしていられない。

 コチラに振り向き、俺を叩き潰さんと右腕を掲げるコンゴウに、真正面から向かい合い攻撃を誘発させる。

 苦しんでるような、怒っているような鳴き声を上げながら、突進してくる。

 距離がつまり、コンゴウの剛腕が頭上から迫る。

 そしてそれに合わせてバックラーを展開し、体側へと受け流す(ジャストガード)。ゲームと現実の差異があるだろう一つ、ジャストガードはどうすれば可能か、その俺なりの答えがこれだった。

 

 剛腕が俺に当たらなくなる所までズラせば、バックラーを解除し、ナイフをコンゴウの頚部に添える。

 後は、コンゴウの勢いと、自身の力で首を落とすだけだ。

 

 ゴトリと、重々しい音を立てながらコンゴウの首と胴が離れ、その活動を停止した。

 もう一体。そう思い意識を向ければ、既に活動を停止しているコンゴウと、そのコンゴウの口に、神機ごと腕を突っ込んでいる百田さんがいた。

 




展開が早いですが、序盤でだれたくないので仕様です。


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1-5

1-Xとしては最終話です。

あと前話までユーパーセンスと記載していましたが、誤字報告、及び感想にてユーバーセンスやでと教えてくださった方が居たので修正しました......(小声)

教えてくださった方々にはここで改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。


「百田さん!」

 

 悲鳴じみた声だなと、どこか他人事めいた感想を自分の声に抱く。

 慌てて百田さんに駆け寄れば、神機解放モードのリミットだったようで、俺の身体から力がぬけて、私の膝が地に突いた。

 

 思い出したみたいに激痛が身体中に走る。戦闘が一段落して脳内麻薬が切れたのか、それとも神機解放モードの最中は、痛みを忘れる程に『喰い殺す』意思が強かったのか。

 

 無駄な思考で飛びそうになる意識を繋ぎ止めながら、ウエストポーチに入れてあった回復錠を取り出す。

 見かけはただの錠剤だが、過剰服用厳禁として新兵の私は、まだ5つ程しか支給されなかった。

 貴重なものだが、今は四の五の言ってられないため、急いでソレを噛み砕いて嚥下する。

 ジュクジュクと嫌な音を立てながら、身体が再生するように傷が塞がっていくのがわかる。無理だとは思うが、欠損とかも治せるんじゃないかと錯覚する回復の仕方で、過剰服用厳禁な理由は、詳細を言われなくても何となく分かるほどだ。

 

 頭からの出血が止まったので、血を腕で拭い目を開ければ、まだ薄紅く滲んではいるものの、ようやく景色がちゃんと見えるようになった。

 身体が動くようになったので、ようやく百田さんの元へと辿り着けば、丁度コンゴウの口から、無理くり腕を引き抜いたところだったらしい。

 血だらけの腕と、ピストル型神機と共に変形、破損した拳が目に映る。慌てて回復錠を手にとり、急いで差し出そうとすれば手で制された。そして、

 

「すまない、お前の母親を、守りきれなかった」

 

 痛みに堪えた表情ながら、澱みなくそんなことを告げてきた。

 

「は?」

 

 唐突な謝罪。アラガミにだけ意識を向けていたユーバーセンスを、百田さんの背に隠れていた母さんと妹に向ける。百田さんも道を開けるように退いてくれた。

 そこにはコンゴウの撃つ空気砲に当たったのか、それともその余波の瓦礫が飛んできたのか、妹を抱きすくめる母さんの足がひしゃげる、と言うよりは完全に潰れて無くなっていた。

 痛みによる苦悶の声が漏れないように歯を食いしばりながら、引き攣った笑顔で私を見る母。

 

「ニーナ、よく、よく頑張ったね」

 

 アリアを左腕で抱きながら右手で私の頭を撫でる。

 

「私はへっちゃらだけど、母さん、脚がもう」

 

「大丈夫よ。ニーナ、痛いけど、それ以上に、ニーナが生きていてくれた。それにアリアも護りきれた。そこのゴッドイーターさんにも後でお礼を言っておいてちょうだい」

 

 足からの血が止まらなかった。

 止血もしてないのに、ずっと喋ってるから当然だ。

 母さんはまるで最後の仕事が終わったみたいに、痛みに苦しみながらも、凄い晴れやかな顔をしている。

 それからも、なんだか遺言みたいに、私に洗濯物を取り込む時のシワをとることだとか、嫌いな人がいても笑顔で流すこととか、ちゃんと3食食べることとか、そんな当たり前の事をずっと言ってた。

 

 それから、最後に──

 

 アリアをよろしくね

 

 ──そう言って、母さんは死んだ。

 

 それからのことはよく覚えていない。

 後で聞くところによると、百田さんにアリアを任せて、半狂乱になりながらアラガミを殺して回っていたらしい。

 らしい。というのは、あの時共に出撃した防衛部隊の片割れだった人が私と同じ医務室の隣のベッドに入院してた為教えてくれたことによる又聞きの為だ。

 

 それとは別にツバキ隊長から、私は作戦行動違反と、上官命令無視の2つで、私は1週間の謹慎処分が下された。謹慎処分と言ってもこれは、シックザール支部長からの謹慎処分と言う名の休暇のプレゼントらしいので、有難く傷心を休ませてもらっている。

 

 百田さんにも勿論しっかりと謝った。その時に百田さんの経歴──軍人上がりの事とか──を改めて聞かされた。

 結論として百田さん的には新兵を止めれなかった責任、戦場だとしても、自分の手の届く範囲に居た民間人を守れなかったオレの責任。と言い、終始私に反省はしても自身の行動に後悔するなと言いながら、頭を撫でられながら逆に謝られてしまったが、私が迂闊な行動をしなければ、腕を怪我して引退することもなかった筈だ。

 

 原作だといつ怪我して前線を退いたのかは知らないが、少なくとも今生では百田さんのキャリアに終止符を打ったのは私だ。私がもっと強く、怪我なくシユウを殺せてれば、あの2体のコンゴウも問題なく倒せた筈なんだ。

 

 兎にも角にも、これから少しづつ償って行こうと思う。

 

 

 父さんと母さんは幸いにも遺体が遺ったので、極東支部の共同墓地にて供養した。

 妹のアリアも、まだ何が起きたかは分かってないんだろうけど、それでも両親にもう会えないことが分かったのか、大いに泣いていた。

 今はアリアと一緒にアナグラで宛てがわれた自室にいる。

 アリアも落ち着いたのか、はたまた泣き疲れたのか今はぐっすりと私の腕の中で眠っていた。

 あんなことがあってもやっぱりアリアは可愛らしい。

 

 母さんに託された、この愛しい妹を護るためにも、私は謹慎が明けたらまた戦いに行かないといけない。

 

 そう、またアリアを置いて戦いに行かないといけない。

 

 この世界はクソだ。

 ナンバリングが進んでもアラガミはずっと消えない。

 アリアはいつまで経っても、アラガミの脅威に脅えながら生きていかないといけない。

 この子は何もしてないのに、あまりに無慈悲じゃあないだろうか。

 私だけだったら良い。

 死ぬほど辛い目に会うかもしれないが、原作をそばで体験出来るかもしれないなんていうミーハー心で、苦しいながらも楽しめたかもしれない。

 

 どうしたらアリアを護れる? 

 どうしたらアラガミを駆逐し切れる? 

 

 どうしたら、どうしたら、どうしたら......。

 

 

「失礼する」

 

 思考の悪循環を打ち切ったのは、ノックの後返事も待たずに入ってきたシックザール支部長だった。

 返事くらい待ってくださいっていう文句とか、敬礼しなきゃなとか、アリアをベッドに置かないといけないだろうかとか、思考がまとまらないなりに動こうとした私を、支部長は手で制した。

 

「そのままで結構だ。

 先ずいきなり入ってきた非礼を詫びよう。申し訳ない」

 

「い、いえ、それで支部長はなんの御用ですか? まだ謹慎中だと思いますが」

 

「加納くん、いや、加納ニーナ君と、加納アリア君の今後について、幾つか提案をしにきたんだよ」

 

 私と、アリアの今後についての提案を、支部長がわざわざ自ら? 

 

「神機使いの血縁を内部に優先的に招く、という事を謳って募集していたにも関わらず実現する前にあのようなことが起きてしまった。その贖罪だと思ってくれて構わない。

 先ずニーナ君には今後も神機使いとして働いてもらう。君が神機使いとして仕事に従事してる間のアリア君は、極東狼谷学園附属の保育所にて預かろう。年月が経ち、小等部や中等部の年齢になった場合は、君とアリアくんの意志次第でそのまま学園へと入学してもらっても構わない。費用の大部分は免除し、残りの分も君の給与から天引きで対応しよう。

 また、誠に残念な事だが、仮に君が早くに殉職した場合もアリア君の意思次第で学園に入学してもらって構わないし、その間の後見人も信頼できる人物を宛てがうと約束する。

 

 君が今感じているだろう目下の不安の大体は網羅したつもりだが、どうだろうか?」

 

 いくらなんでも、話が上手すぎやしないだろうか? 

 ここでただ頷くだけでいいのは分かる。

 破格、それも度が過ぎると言っていいレベルだ。

 殉職したゴッドイーターに、フェンリルにとって価値など無いはずなのに、その後の親族の面倒まで見るなんてまるで、代償にクソみたいな仕事をさせると言外に言っているようなものだ。

 そう、確認が必要だ。

 たとえ両親の事がショックで頭が上手く働かなくても、ここでただ頷くだけでは私だけじゃなくてアリアまで、将来奴隷の様にこき使われるかもしれないなんて嫌だ。

 

「......本当に有難い申し出です。今すぐ手を取りたいほどには。

 ですが、その前に確認させてください。神機使いとしての仕事とは、アラガミの駆逐、アラガミ防壁の防衛、それから以前言っていた1年後の第4部隊にての遺体や神機の捜索、回収任務と空いた時間の他所の部隊の補助。それ以外になにかあるんですよね? 

 16歳そこそこの私でも分かります。余りに条件が破格すぎますから」

 

 私が質問すれば、シックザール支部長の顔が少し強ばった。

 すぐにでも手を取ると思われていたのかもしれない。

 数秒無言の空間が続いたが、ついに口を開いてくれた。

 

「現在はまだ公にはしていないが、もうすぐエイジス計画というものが始動する。

 簡易的に説明すれば海の孤島にて地下から地上にかけての大型コロニーを建設し、そこに人々を移住させる計画だ。

 海を隔てているため、凡そのアラガミからの侵攻を受けることなく、ザイゴート等の空を飛ぶ類のものに特化したアラガミ防壁をコロニー上部に設置することで向こう数十年から百年の安寧を確保する計画だ。

 そして君には任務の傍ら、エイジス計画に必要になるであろう素材を始めとした様々のものを取得、その後提出してもらいたい」

 

 エイジス計画、アーク計画の隠れ蓑扱いだった筈。いや、この時間軸ならまだシックザール支部長もエイジス計画路線だったか? 曖昧な記憶だ。

 

 だが、そう、アーク計画! アーク計画があった! 

 現時点ではまだ構想されていないとしても、この男は確実にアーク計画を再度実行する筈だ。

 終末捕食と呼ばれる地球のリセット、そしてソレが行われる間必要な物資と最低限の人間を宇宙に飛ばす計画。

 ああ、そうだ! この世界はナンバリングがどれだけ進んでもアラガミが消えないクソみたいな世界! 

 なら、私が主人公達を止めれば、ナンバリングを最初に止めてしまえば、アリアをアラガミの居ない、新世界に、幸せな世界に住まわせてあげることが出来る!!! 

 

「分かりました。アリアの為なら、私は文字通りなんでも(……)やります。よろしくお願いします」

 

 アリアを抱きすくめ、頭を下げる。

 私の思いなんて知る由もないだろうシックザール支部長は神妙に頷き、追ってまた連絡するとの事で、忙しいのだろう、足早に私の部屋から出ていった。

 

 しばらく頭を下げたままだったが、いつの間にかアリアは起きていて、私の髪で遊んでいた。

 

「私が絶対、普通の世界に連れて行ってあげるからね、待っててアリア」

 

 頬を指で撫ぜれば、キャッキャと無邪気にはしゃぐ天使に安堵しながら、私はそのままベッドに倒れ込み、眠りに落ちた。

 

 

 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

 

「という訳で! 本日から第1部隊に復帰させていただきます! 加納ニーナ新兵です! 配属2日目なのに謹慎くらってしまって申し訳ありません!」

 

 整備班に神機の扱いについて──シユウを捕喰形態で一本背負いするな──怒られ、オペレーター一同から勝手な行動をするなと──インカム外すのは以ての外──怒られ、第1部隊の面々からは──ソーマ君は除く──ゲンコツを頂き、極東狼谷学園のお偉方に挨拶をして、榊博士とシックザール支部長に改めてお礼と挨拶をして、とやっていれば、謹慎期間+3日程経ってようやく神機使いとして活動を再開できた。

 アーク計画のためにも、自分が生き残るためにも先ずは神機を強化しなけりゃいけない。決意を新たにそんなことを考えていれば、ツバキ隊長が1歩前に出て声をかけてくれる。すごい笑顔だった。

 

「加納ニーナ新兵」

 

「はい」

 

 すごい怖い笑顔だった。

 

「次命令違反したら、分かるな?」

 

「本当にすいませんでした」

 

 心の底から頭を下げた。本当に怖い。美人が怒ると怖いんだから怒らないで欲しい。

 絶対に次やったら殺す。みたいなことが副音声で付いてる。

 本当に反省しているので本当に許して欲しい。いや許されることでは無いんだけども。

 

「まあまあ隊長殿、ニーナのお陰で助けれた命も多かった訳ですし、これから任務なのに落ち込まれちゃ敵わないんでそのへんで」

 

 頭を下げ続けてたら、リンドウさんが助け舟を出してくれた。

 ツバキ隊長も、リンドウさんの言葉に溜息をつきながらも、同意し、頭を上げろと言われるのでそうする。

 

「では、お前の今回のヤラカシは今後責めん、その代わりにこれからの働きで取り返せ、以上だ。

 これより本題の任務のブリーフィングを始める! 

 ソーマ、ニーナ、リンドウ、私のフルメンバーで出撃する。

 対象はシユウ1体にコンゴウ1体、それとヴァジュラが1体だ。

 ニーナはシユウとコンゴウの討伐及びアラガミの状況報告を命ずる。

 中型アラガミとその他小型アラガミ掃討後、ニーナを除く3名でヴァジュラを討伐する。

 極東ではヴァジュラを倒せる、その実力が付けば一人前の神機使いだ。ニーナはよく観察し今後に活かせ」

 

「分かりました! シユウ、コンゴウ、及び小型を掃討後は後学のために先輩方の戦いを観察します!」

 

「よろしい、それでは15分後に出撃する! 各員装備の最終確認を済ませ次第集合!」

 

 ツバキ隊長の号令にソーマ君は首肯で、リンドウさんが真面目ぶって、私が元気よく返事をする。

 神機使いになってから10日と少し、ようやくチュートリアルと緊急事態以外の任務だ。両親の事は悲しいが、アリアの為にも頑張るしかない。

 今は先ず、獣剣の素材が取得出来ることを願おう。

 

 ......そういえば現在の神機の強化メニュー、みたいなのまだ知らないな。あるんだろうか......?




展開が早いですがコレで新兵時代の話は終わり(の予定)です。
理由としてはあんまり新兵時代やっても原作にたどり着けないと思うからです。なので後から新兵時代の話を幕間として出すかもしれませんが、次話からは1年後、第4部隊の隊長に就任するか、したあたりを書こうと思います。


あ、あと!感想くれて嬉しい、評価者もいてびっくりして嬉しい。あと何よりこんなにお気に入り登録してくれる人がいて、私はとても嬉しかったです。
こんな作品読んでくれるみなさん、ありがとうございます。
仕事の合間にですがチマチマ書いていこうと思います


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2-1

最近下火になってきた某新型ウイルスにやられて寝込んでました。
ここから徐々にまた再開していきます。

サブタイトル2-Xの話は、このSS主人公加納ニーナちゃんが第4部隊隊長になってから原作開始までの数年間を書くつもりです。
ここから独自解釈、独自設定が徐々に出てくると共に、話の展開速度が1-Xの新兵時代に比べて緩やかになってくると思います。
長い目でお楽しみください。

P.S.お気に入り、高評価ありがとうございます!寝込んでる間に評価に色がついて嬉しかったです。


フェンリル極東支部には所謂2つ名だとか、異名、そういうものを持った神機使いが数名存在する。先んじて言っておくが上乳だとか横乳だとか、そういったことではもちろんない。

 

極東最強と名高い雨宮リンドウ、雨宮ツバキの姉弟。

 

怪物、あるいは死神と恐れられるソーマ・シックザール。

 

施し、もしくは蒐集者と呼ばれる私こと、加納ニーナである。

 

他にも防衛の要だとか、職人だとか言われる人達が、防衛部隊に存在しているが、取り分けよく極東で名が知れ渡ってるのは、第1部隊に所属していた私を含める4人だった。

 

私がフェンリルに入社、というか入隊した2067年から早いもので、もう2年と少しが経過していた。

現在は2069年、原作開始の2071年まで後もう2年だ。

 

第1部隊として活動していた1年は、私自身が生き残る為にも、やはり戦えなくなる人は少ない方が良い。そう考えて、回復錠が切れた人には余りを渡したり、味方がやられそうなタイミングでスタングレネード投げたり、重傷を負った人を担いで逃げおおせてから、1人で対象アラガミを討伐したりと、自分でできる範囲の味方の助けをしていたら、いつの間にやら『施し』なんて音的にはかっこいい様な、字面からダサい様な2つ名みたいなのが付けられていた。

蒐集者っていうのは、神機パーツ開発に必要な素材や、支部長から指示された物を探して持ち帰っているうちに、そんなふうに呼ばれるようになった。

にしても施しのニーナ、もしくは蒐集者ニーナ。......うーん微妙だ。もう少し私も極東最高とか、最巧とか、英雄とかそんな感じの名前なら一周まわって喜べたかもしれない。

 

 

それから第4部隊の隊長に、就任というか昇進というか栄転と言う名の、左遷みたいなモノを受けた時は、この小娘が隊長だと〜??みたいな人も少なからず居たけれど、自分に余裕があるとき、積極的に人助けしていたのが幸いしたのか、思った以上に反発は少なかった様に思う。

いや、シックザール支部長が私の耳に届く前に、そういった声を潰した(直喩)可能性も否定できないけども。

 

まあ、なにはともあれ、第1部隊の面々からも快く──ソーマ君は少し寂しそうだったが、今も会えば少しは話してくれる。──送り出され、入れ替わりに橘サクヤさんがオペレーターから第1部隊に転属し、無事に私は第4部隊の隊長になったのだが、ここで1つ問題が発生した。

そう、誰を第4部隊という遺体回収業者に道連れ指名するかである。

 

副官という訳じゃなくても、私についてきてくれて、性格が終わってなくて、そこそこ以上に強くて、だけど他所から引き抜いても大丈夫な人。なんて、当たり前だが居るわけなかった。

自分の都合だけを考えるだけならソーマ君やリンドウさんを指名したのだが、絶対に引き抜けないのは分かっている。

ということで、私は指名権を放棄する代わりに、性格が終わってなければなんでもいいので、周りからの評判がいい人をください。ということを支部長にお願いした。

 

その結果、第4部隊に配属された記念すべき生贄は、かつて極東にいて、当時グラスゴー支部に所属していたある意味で2つ名持ちの真壁ハルオミ(変態紳士)だった。

いや、2063年から神機使いとして戦っているうえに、極東より脅威度は下がるにしても、各地の支部にて活躍していたらしく、そこそこに強いし、優秀なのだ。

武器種はバスターブレードで、溜め攻撃の隙が大きい欠点もあるが、戦い方は非常に巧い。トラップや最近開発された回復柱なんかも、積極的に使って支援してくれているし、アラガミへの程よい恐れがある為、突撃しすぎず、及び腰になり過ぎない塩梅で攻撃もしてくれる。性格は気さくで、ポジティブな発言が多く、周囲をいい感じに盛り上げてもくれる。

と、今はまだ男所帯な気のある神機使い組の中では、それはそれは非常に評判が良かったらしい。

実際任務におけるハルオミさんは非常に頼りになる。

被弾率は少なく、装甲も巧みに使い、トドメのバスターブレードのチャージクラッシュは爽快だ。私が稀に被弾した際もスグに庇いに来てくれて、回復柱の設置かスタングレネードで、私が回復錠で立て直す隙を作ってくれる。

なにより、神機解放状態(バーストモード)中の私を見ても引かずに調子をそのままに任務に当たってくれる。

 

ただ、任務に向かう際と、任務からアナグラ──極東支部の神機使いが拠点としてるところ──へと帰投する際が、いや、なんならアナグラにいる時。所謂作戦行動中以外の全てに問題があったと言える。

 

「なあ、隊長。俺は思うんだよ」

 

「ハイハイ、今日はなんですか?」

 

「世の男たち。いや女性諸君にも新たなムーブメントを引き起こす要素......それはタンクトップなんじゃないかって」

 

「毎度言いますけど、貴方がそうやってセクハラ発言してくるから、私は服装変えてるのに、再度その服装でセクハラするのやめてくれません?後リッカちゃんは流石に犯罪ですよ」

 

そう、この人は事ある毎に、とまでは行かないがある程度の期間毎に、私のお気に入りの服装についてセクハラ発言をかまして、私は身の危険から服装をイメチェンするしかないという、悪循環を生み出す変態紳士だった。

この前はダボダボの服を楽だから着ていれば、ふとした時に見えるボディライン。その前のきっちりとした軍服──フェンリル公式制服──では真面目さの中に垣間見えるエロスだったか。死ねばいいんじゃないのかこの人。

 

「おいおい、俺は別にリッカのことを言ってるんじゃない。第1彼女は将来有望だがまだ15歳とかだろう?幼すぎるのは良くない」

 

「ハルオミさんがロリコンじゃなくて良かった。と言いたいところですが、いい加減にしないと私は貴方を査問会行きにしないといけません」

 

「勘弁してくれよ隊長。俺が居なくなるのはそこそこ困るだろ?それに隊長に会えなくなるなんて残念でならないしな」

 

「マジでその顔で!そういうことをさらって言うのやめてくれませんかね!?」

 

原作でのかっこいいシーン(ストーリー本編)残念なシーン(キャラエピソード)を知っているが故に、絶対にキャラエピソードにのみ登場するNPC達みたいに、ホイホイついて行くようなことはしないと心に決めているものの、このイケメンフェイスで口説かれると、元男だとしても18年も女をやっていれば、コレにそんな悪い気がしないので本当に困る。大体真壁ハルオミはケイトさんがいるでしょ!グラスゴー支部に戻らなくていいんか!?

 

いやまぁ、アーク計画成就させれば自然とGE2になんて入らないだろうし、ルフス・カリギュラとかフラッキング・ギルとかは関係ないけども!それはそれとして、ハルオミさんに私が惚れるのも惚れられるのもやはり解釈違いだ。

 

「なんでそんなに嫌がるんだよ、隊長が初めてだったんだぜ?俺のムーブメントの話に真剣に付き合えるヤツってのはよ......」

 

「世界一可愛いものってなんだ?なんて言われたら私のアリア()以外居るわけないでしょいい加減にしてください腸ここでぶちまけたいんですか?」

 

「ハッハッハ!隊長のスイッチ入る条件ってわかりやすいよな」

 

誰がわかりやすくてちょろい女だ。私は黒幕に私欲のために協力する悪い女なんだぞいい加減にしろ。それにアリアが世界一じゃないんだったら、アーク計画の時に暫定1位の存在を宇宙船に乗せないでやってもいい。いやさすがにこの発想は最低すぎるか。

 

「ま、話はそんくらいにして今日はなんだっけ?」

 

「はぁ、鉄塔の森にてメインの任務は作戦行動中行方不明(MIA)となった神機使いの捜索、及び状態によっては討伐と回収です。その道すがら、ヴァジュラとグボログボロがこの辺りに出ているそうなので、それ等もついでに討伐します。いつも通り、捜索は主に私がしますので、ハルオミさんは戦闘になった際に参加してもらうのと、私が見落としているかもしれませんので目視にて捜索協力してください」

 

第4部隊としてのメインの仕事。

MIAとなった時点で、基本的には死んでいるとみて間違いない。

だが、偶に死ぬ前に腕輪が壊れることによって神機が制御を失い、アラガミ化、最悪の場合私はまだ目撃したことがない上に、フェンリルとして生態確認された訳では無いが、第一種接触禁忌種(スサノオ)に変貌するかもしれないし、作戦行動中死亡(KIA)の人の腕輪と神機を捜索する場合はともかくとして、MIAの人の捜索の際は必ず単独行動は禁止とされている。

 

「ハハハ、グボログボロはともかく、ヴァジュラすらついで扱いできるのは極東でもそう居ないってのに。流石蒐集者と呼ばれる隊長だ」

 

「やめてくださいよハルオミさん。施しよりはマシですが、そっちも厨二病っぽくて少し恥ずかしいです。それに私が積極的に開発・整備班に協力的であるが故に極東では新しい神機のパーツが他所より充実してるんですから、感謝こそすれいじらないでください」

 

そりゃあまぁ、知ってる武器はとりあえず──使うかはともかくとして──全部揃えときたいので、平均的な神機使いが持っている神機のパーツ量、それの大凡3-5倍程は既に文字通りの蒐集しているわけだけども。

これまで私が積極的にアラガミ素材とコア、物資の収集をし続けた結果、ショートブレードに関してはアイス、ヒートのドリル派生に、ヴァジュラ・シユウ系統(獣剣派生)ボルグ・カムラン系統(ペイジ派生)の下位種までを取り揃えることに成功した。

上位種は未だに極東であってもそこまで数が居ないので、中々に取り揃えるが出来ないのが辛いところだ。

現在の私はぶっ壊れ武器(獣剣・陽 新)と強回避バックラーだ。

防御力0の超回避バックラーは作れれば作りたいが、流石にジャストガード前提の戦いは精神的に疲れるだろうし、使うことは無いだろう。

この世界では、ショートブレードのアドバンスステップやライジングエッジも、未だに確立した技術という訳では無いらしい。

未だに新型神機がないため、ロングブレードではインパルスエッジもそもそも出来ないし、アラガミもまだ頭が多少は弱いままではあるものの、少し先行きが不安にもなってくる。

 

閑話休題(話が逸れた)

 

「それにヴァジュラは後1、2体分コアを集めればヴァジュラから作られる神機のパーツ(虎爪派生)が出来るそうなので、ハルさんにも勿論協力してもらいますよ」

 

「ハイハイ、皆の為にってやつだろ?まぁそれに関しちゃ異存はねぇからよ」

 

納得も得られたところで、鉄塔の森へとヘリが到着した。

パイロットの人に互いにサムズアップしながら、ハルオミさんと降下する。

この2年でユーバーセンスの使い方も磨きがかかったお陰で、情報の取捨選択が半ば無意識でできるようになった。

 

一定以上距離のあるアラガミは、そこに居る程度の認識まで、動いてるもので風とかに揺られている布とか、植物はスルー出来るようになった。

戦闘に入れば自身と味方、それを取り巻くアラガミ以外の情報はほぼシャットアウトする代わりに、アラガミの挙動と、味方の状態を最優先に。と言った具合に。

 

「じゃあ、とりあえず動いてる存在の検知から始めます。引っかからなかったら鉄塔の森探索時のルートA、もしくはBの順路で見て回りましょう」

 

「了解だぜ」

 

「じゃ、始めますね」

 

腕輪以外にもなにか遺品が残っていれば、遺族も喜ぶだろうけど、望み薄かな。




ソーマ:冷たくあしらってもずっと話しかけてくる距離が異様に近い女。あんなに話しかけてきたのに、他部隊に行ってから話す機会が減って少しもどかしい。

リンドウ:戦闘技術と収集癖がやべー女。神機解放モードで人格が変わるのを見て、大丈夫か......?と心配している。第4部隊にハルオミを推薦した人

ツバキ:愚弟よりは真面目に仕事をこなすし、隊長としての書類仕事も特段不備なくこなすので信頼度が高い。だけどコミュ力高すぎる弊害かおしゃべりな所を少し抑えて欲しいと思っている。主人公家族が亡くなった時に1番心配してた人。ニーナが殉職したらアリアの後見人になるのもやぶさかではない。

ハルオミ:ケイト・ロウリーがグラスゴーに来る直前に極東に呼び戻された人。
美人に会う前に呼び戻されて少し肩を落としていたが、配属先が外見良しだったのでやる気をだし、下ネタの話をしても普通に悪態付きながら乗ってくる主人公を気に入っている。

主人公:男も女も老いも若きもグイグイ距離を詰めてくる。戦闘中は人格が変わるし、仲間がその時にピンチになれば俺口調で助けてくれる顔のいい可愛い16-17歳。
下ネタにも理解があって、普通の話なら男女問わず肩組んで来たり、なんかあったら抱きついてきたりもする。
童貞と厨二病の白昼夢か?


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2-2

エタッテハナイカラ初投稿です。



この話にはアラガミ、オラクル細胞、結合崩壊等々の独自設定があります。



 ハルオミさんとMIAとなった神機使いの遺体、もしくは腕輪と神機を捜索しだして15分が経過した。鉄塔の森の外周部をぐるりとみて回っている最中に、移動砲台(グボログボロ)と会敵したので、ハルオミさんと協力して討伐し、偵察班の仕事がザルでなければ後は大型なら放電虎(ヴァジュラ)と、チラホラと居る小型種位だろう。

 私のユーバーセンスにも今のところ反応は無いし、比較的順調な任務になりそうだ。

 

「にしても今更だけど隊長は気楽そうだよな、捜索対象がアラガミ化してるかもしれねぇってのに」

 

「まあ、アラガミ化してたら討伐は大変ですけどね、人間だった頃の動きとかが微妙に残っててやりづらいし。

 でも、その人にも居たであろう大切な人をその人が傷つける前に、止めてあげたいし、私はまだ神機使い歴浅い方ですから、その人と仲が良かった人に任せるのは酷だなぁとか。

 そんな考えだから躊躇とかないんですよね、対象が妹なら、また変わってくるかもしれませんけど」

 

「隊長はマセてるなぁ」

 

「ハルオミさんはまだ実際に見たことがないですよね、アラガミ化してたら相手は私がしますから、無理に戦わなくていいですよ?」

 

 これでも隊長なので。

 そう言いながらドヤ顔を決めてみる。

 実際問題としてアラガミ化した神機使い、もしくはアラガミ化寸前の神機使いを処分──殺害──する事に思う所がない訳では無い。

 その瞬間の神機は重いし、断末魔みたいなものは耳に残る。

 けれども、どうせ支部長(黒幕)側になって宇宙船に乗れず、終末捕食を迎える大多数の人間に恨まれるのは確定してるんだから。今更1人や2人や3人や4人、殺した所で変わらない筈だ。

 

 なので本気でハルオミさんには無理して欲しくないし、近い将来──あるかは分からないが──ケイトさんを処理することになるかもしれないのだ。無駄に血に染ることは無いだろうと思っているんだが。

 

 ハルオミさんはハルオミさんで対象がそうなっていれば、処理を戸惑うつもりはないらしい。

 大人の余裕なのか、それとも年下()の前で格好つけてるだけなのかは定かでは無いが、それはとてもカッコイイ姿勢なのだと思う。

 

「あ、居た」

 

「ッどこだ!」

 

 鉄塔の森に乱立している鉄塔の1本。

 その上部に周囲から見つからないように、身体の上にそこらで拾ったであろうゴミを乗せて、微かに震えている神機使い。今回の捜索対象だろう。

 ショートブレードの刀身がこちら側から僅かに覗いている。アラガミ化はまだして居ないらしい。

 

 ハルオミさんに指をさして場所を教えた後、ハルオミさんに周囲の警戒を頼み、私が鉄塔を昇っていく。その音で存在を感知したのか、私が登りきれば薄らとその目を開けた。

 

「柊木さんですね、遅くなりました。今からアナグラへと貴方を送ります」

 

 優しく、刺激しないように衰弱した神機使い、今回の捜索対象の柊木さんに声をかけ、オペレーターに発見の報告をしようと、インカムに手を伸ばす。

 柊木さんは何か言おうとしているのか、唇を懸命に動かしているが、聞き取れないので耳を近づける。

 

「……に、げ、ろ」

 

「東から雷撃だ隊長!」

 

 2人の声はほぼ同時だった。

 反射的に柊木さんを抱えて鉄塔から飛び降りるが、少し遅かったらしい。

 柊木さんは何とか庇ったものの、神機を持つ右腕を、ヴァジュラ特有の球状電撃が掠めた。後少し遅かったら死んでた可能性もある。

 

 鉄塔の柱部分を蹴り、三角跳びの要領で緩やかに着地すると同時に柊木さんをハルオミさんに投げ渡す。

 

「ハルオミさんは帰投要請と、交戦を出来るだけ控えつつ撤退してください。……ヴァジュラと、オウガテイルの群れが来ます」

 

 今になってようやくユーバーセンスの感知範囲に入ってきた。どうやらヴァジュラがオウガテイルを統率する形──正確にはオウガテイル達がヴァジュラに随行している──で行動しているようだ。

 そこらの雑魚とは違い、アラガミの生存年齢というか活動期間が長くなると顕れる特徴の一つ、知能の上昇。

 

 この手のアラガミはなまじ頭がいい為か、原作で出来た動きは既に出来るし、今回の様に柊木さん()を使って救援を待つ(狩る)なんて時もある為に恐ろしい。

 

「コイツを帰投地点に置いたらすぐ戻る! 死ぬなよ隊長!」

 

 足手まとい、というより回収対象を守りながら戦うのは無理とハルオミさんもすぐに判断してくれたようで、柊木さんと自分自身に偽装フェロモンを打つ。

 それを見て私も挑発フェロモンを打ち込んだ。

 ハルオミさん達へのアラガミの目は消え、そして私にこの場のアラガミの目が全て向けられる。

 

 微かに腕の痺れは残っているが、まぁなんとかなる範囲。ダメ押しとばかりにあまりオススメされてない強制解放剤も飲み下す。

 

 神機解放(バースト)モードになった瞬間に私の世界は、ガバリと音を立てて広がった気がした。

 アラガミ達の位置は勿論、どれからどのように動き出すか。そんなことすら手に取る様に分かる、そう思える程に思考が冴え渡る。

 神機がギチギチと、自発的に捕食形態になろうとするのを無理やり止める。

 頭の中に声が響く。が、それを一旦宥める。

 

『喰事、喰事』

 

「足止めメインだからな。喰事の時間は殺しきってからゆっくりだ」

 

 神機を撫でながら、俺達に迫るアラガミを見遣る。

 

「先ずは喰事の前に料理の時間だ。下拵えに切れ込みを入れまくってやろう」

 

 身に沸き立つ高揚感に身を任せ、口角を上げながら俺はオウガテイルに突貫する。

 大口を開けながら突進してくるオウガテイルの口内に獣剣-陽新(神機)を突っ込めば、その形状に沿ってオウガテイルの体内をずたずたに引き裂く。

 神機にアラガミの血を付着される度に捕食形態に移行しようとするのを、グリップを強く握って抑止する。そんな無駄な工程を挟みつつ、オウガテイルの口内から神機を引き抜けば、ヴァジュラは球状電撃を2体のオウガテイルが尾針を飛ばす予備動作(モーション)に入るのをユーバーセンスで知覚。

 

 尾針を前屈みでの跳躍(前ステップ)で躱し、球状電撃をギリギリのタイミングで宙を蹴る(2段ジャンプ)で避けながら接近。攻撃の間隙を縫う様にアラガミとの距離を少しずつ潰していけば、ヴァジュラが痺れを切らしたように飛びかかってくる。

 すれ違う様に左前方へ踏み込みヴァジュラの後脚を切りつけつつ、奥のオウガテイルを目掛けて進む。そうすればヴァジュラがこちらにまた振り返り、飛びかかってくるのを避ける。そんな事を繰り返し撹乱を数分続けていれば、ハルオミさん達は戦闘圏外に離脱したことをユーバーセンスで察知。

 

 足止めは終わった所でオペレーターへと通信を繋ぐ。

 

「此方ニーナよりオペレーターへ、応答願う」

 

『此方オペレーターよりニーナ、既にハルオミより回収ヘリの要請を受け向かわせています。ハルオミの援護予想は3分後です』

 

「援護とか要らないから。ハルオミさんには回収対象の柊さんしっかり守るようにって言っといて」

 

『……かしこまりました。ご武運を』

 

「ありがと」

 

 通信を切った所で神機もようやく喰事の時間だとばかりにギチギチ音を立てる。

 切れ込みが既に入っているオウガテイルが4体。左後脚を傷によってか動き辛そうにしているヴァジュラが1体。はっきり言ってイージーゲームだな。

 

「さあて、行くぜ神機クン(My Dear)。一匹残らず美味しく頂こう」

 

 ヴァジュラは電撃を放つ為のチャージをしてる中、1体のオウガテイルの飛びかかりのモーションを見て2歩下がって捕喰形態(プレデターフォーム)を起動。オウガテイルがいざ飛びかかってくるも、着地点は計算通り俺の目の前。漸く本性が解き放たれた神機は歓喜を叫ぶように大口を開け、眼前のオウガテイル()に齧り付く。

 一撃で的確にオウガテイルのコアを奪い、その身体をヴァジュラの球状電撃目掛けて放り身代わりに。

 

 そうすれば、エネルギー切れになりそうだった神機解放(バースト)モードに再度オラクルエネルギーが充填されるのがよく分かる。

 

 勢いのまま走りだし、オウガテイル達をすれ違いざまに斬り続ける。ヴァジュラを倒すのは流石に最後にしないと事故につながりかねない。

 

 オウガテイルの尾針を避け、牙を避け、飛びかかりを避けながらすれ違いざまに一太刀づつ丁寧に加えていく。ヴァジュラの攻撃は距離をとることを意識しながら努めて無視していけば、1分と経たないうちに残りはヴァジュラだけになる。

 

 さて、アラガミというのは大型であればあるほど、攻撃を加えることで結合崩壊という事象を引き起こす部位が増える。

 眼前のヴァジュラであれば左右の前脚、頭部、尻尾の4箇所だ。

 アラガミとは全てがオラクル細胞の塊であり、基本的にオラクル細胞以外の体組織を持たないとされている。

 ではなぜアラガミはスライムのような塊ではなく巨大な獣の形状を取れるのか、それは原子構造が変われば元素が変わるのと同じように、細胞同士の密度と構造が違うからである。

 

 結合崩壊とはこれまたオラクル細胞の塊である神機を用いて攻撃を加えることで、アラガミのオラクル細胞の結合を切断、破砕、貫通の刺激を持って崩壊させることでその構造に脆弱性を付与し、状態異常に侵されやすくする上、アラガミにコア以外からのダメージが与えやすくなる状態になることを言う。

 

 ゲームでは全体の体力と部位ごとの体力があって、部位を壊す(体力を削る)と怯みやスタンなどが入っていたが現実では違うらしい。

 

 まあ、何を言いたいかと言えば、

 

「前脚切って、獣剣・陽 新で麻痺拘束(ホールド)! からの連続攻撃で前脚の結合崩壊! 自重を支えきれなくなって転倒(スタン)! 落ちてきた頭目掛けて捕喰! 神機解放(バースト)モード! からの連続攻撃で起き上がるまでに再麻痺拘束(ホールド)! 連続攻撃からの頭部の結合崩壊! 料理サイコー!」

 

 まあ今後アラガミのレベルが進化していけばここまでホールドの通りは良くないと思うが、今のヴァジュラ1匹なら獣剣・陽 新(コレ)で楽勝だ。弱い奴ほどよく群れると言うように、群れを率いるアラガミは個になると途端に惰弱になる。

 勢いのまま、一心不乱に結合崩壊した部位を切り続けていれば数分でコアが体表に露出してきた。アラガミは大型であればあるほど、弱る度にコアという心臓と脳を兼ね備えた弱点を守る事以上に身体機能を守ろうとするせいでコアが外から透けて見えるようになる。

 それが見えてくれば終盤も終盤で、コアを捕喰してしまえば現状のアラガミは絶命する。

 

「そら大物だ。しっかり味わえよ」

 

 最後の抵抗とばかり振り下ろしてきたヴァジュラの左前脚を横に跳んで交わし、コアを捕喰させれば戦闘終了だ。

 グボロ・グボロにヴァジュラ、あとはオウガテイルを数体喰ったからか神機も満足したようですっかり大人しくなった。

 

 これなら今日の配給はジャイアントトウモロコシじゃなくてカレーライスチケットで済むかもしれない。少し得をした気分だな。

 

『オペレーターよりニーナへ、聞こえますか?』

 

「ニーナよりオペレーター、感度良好、戦闘終了、帰投準備に入ろうと思うけど何かあったか?」

 

『ご無事で何よりです。ハルオミさんと回収対象の柊さんの回収ポイントにヘリがまもなく到着します。よろしければそちらで帰投準備をお願いします』

 

「オーライ。じゃあ俺もそっちに向かうわ、あーっと、ハルオミさん達は無事ですか?」

 

 話してる途中で神機解放モードが自然解除されたのか、昂っていた感情が落ち着いてきた。

 このオペレーターさんも慣れたもので私の口調や態度の変化に一々反応しないでくれる。まあアナグラに帰ると「単独行動……」って感じにボソッと小言を言っては来るけど。

 

『ええ、ハルオミさんの方にもヘリを待つ間ザイゴートが1体出現しましたが、手早く撃破していたのでほかのアラガミも呼ばれることなく無傷です。ただ、度重なるニーナさんの単独戦闘に少し怒っていましたよ』

 

「うへぇ、わかりました。じゃあとりあえずさっさと帰投ポイントに向かいますね、ありがとうございました」

 

『お疲れ様でした、オーバー』



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2-3

とても久々に有給が取れたので初投稿です


 帰投ポイントにて合流した私は、ヘリの操縦士に招き入れられるまま帰投用ヘリに乗り込む。先に乗っていたハルオミさんがタオルを差し出して出迎えてくれた。

 

「よう隊長、おつかれさん」

 

「はい、お疲れ様でした。柊さんは無事ですか?」

 

「予定通り回収ヘリと一緒にP53*1を持ってきてて腕輪(ハーネス)から入れられてたからアラガミ化はしないだろうし、今はぐっすり眠ってるよ。それよりも、だ」

 

 タオルで身体に付着した返り血を、拭えるとこだけでも拭いながら話していれば、ハルオミさんが少し怖い顔をする。回収用フェンリル職員と柊さんはヘリ内の少し離れた位置に陣取っているのを見るに、きっと他の人とも事前に話して説教するのを決めてたんだろうなぁ。なんて、遠くを見る感じでハルオミさんに目線を合わせれば、案の定だった。

 

「なんで単独で殲滅したんだよ。俺が援護が行くまで待てなかったか?」

 

「いやぁ、建前としては3つあって、1つ目は柊さんが回収されるまで他のアラガミが襲ってこないとも限らないから、2つ目は柊さんを保護して、偏食因子を腕輪(ハーネス)から入れるまではフェンリルの回収職員さんを柊さんのアラガミ化の危険から守る為、3つ目はそれらを完遂してからハルオミさんがコチラへ援護に来るまでに他のアラガミの増援の可能性があったからですね」

 

「で、本音は?」

 

「1人で倒せそうだったからですね、今回は柊さん救助の瞬間の球状電撃を盾越しに受けていただけですし」

 

「あんたツバキさんの元部下だよな? あの人から何を学んでんだよ」

 

「いやぁ、申し訳ないですね、でもしょうがなくないですか? 神機解放(バースト)モードになると出来そうなことはやっちゃうんですよ」

 

「それで! ……それで死んだらどうすんだって言ってるんだ。アリアちゃん()が泣くぞ」

 

 ぐぬぬ、完璧な理論武装をしていたつもりだったがアリアのを引き合いに出すのは流石に卑怯では? 

 それにどの道ヴァジュラの討伐任務も兼任していたんだし、あそこで殲滅していたのは間違いとは言えないわけで、ああいやでもここで言い返したら嫌な奴だな。

 

「……以後気をつけます」

 

「分かってくれたならいいけどな、次こんなことがあったらアリアちゃんに報告さしてもらうからな!」

 

「おいおいおいおいおい! それは禁止カードですよ!? アリアが泣いたら査問会送りにしてやりますからねこの変態紳士が!」

 

「おーおー、上等だよ。別の地で美女と新たなムーブメントに俺がたどり着くだけだしな! それにアリアちゃんが泣くって泣かしてるの隊長だろうが!」

 

「はぁ!? 私がアリアを泣かせるわけなんて人生であと1回しか無い予定ですけど!?」

 

「1回はあるのかよ。しかも予定ってわざとなのかよ」

 

 私達がそんな風に子供みたいな言い合いをしていれば、ヘリコプター内の職員達が一斉に笑い出した。

 ハルオミさんを見やれば計画通りとばかりにあくどい笑みを浮かべている。……この確信犯め。

 せめてもの抵抗でそっぽを向けば、血塗れの私の頭をタオル越しに撫でてきた。

 

「おら、アナグラに着くぜ隊長。ちゃんとオペレーターにも後で謝っとけよ? 心配してたからな」

 

「……まったく、分かりましたよ。あと頭撫でるのは犯罪ですよ、ちょっとキモイです」

 

「……そんな言う?」

 

 せめてもの意趣返しなので精々ショックを受けておけばいいと思う。だいたい2次元顔(イケメン)じゃなかったら乙女の頭撫でてくるなんてマジでグーパンチだぞ。

 まあ心配してくれてこちらが気にしないように立ち回ってくれたようなので、多少の感謝はしていますけど。

 

 アナグラに着いたので、微笑ましい感じの空気を出しているヘリコプターからは挨拶したら一番に降りて、とっとと逃げ出さしてもらった。

 ハルオミさんも追いかけてくることは無かったので、オペレーターさんにもちゃっちゃと謝ると安心した様に溜息をつかれたが、笑顔で無茶しちゃダメですよと一言言ってくるだけだったので、手早く済んだし、小言も無かったのでヨシとしよう。

 神機も預けてシャワーを浴びて着替えをして、時計を見ればまだ時刻は1400じゃなくて14:00だ。これならアリアの学園*2のお迎えに間に合いそうだ。

 学園でアリアはまだ1年生の為オラクル細胞やアラガミの概要を始めとしたフェンリル関連の基礎的な知識+数学や理科、歴史や文章力等の基礎学力の授業、後は体育での運動系授業を受けてるらしい。国語なんて言うものは全世界がフェンリル頼りになったあたりから消滅したようで、代わりに共通語の文章力の授業があるようだ。

 

 最近のアリアは学園でお友達も出来たようで、お友達の話や授業で習ったことを楽しそうに話してくれるので、私もとても嬉しい。

 まだ男の友達(悪い虫)も着いていないようなので、男友達が出来た時はすぐに教えてねと言っている。極東狼谷学園は大多数がお金持ちのご子息ご令嬢の学園なので紳士じゃない男の子なんて居ないとは思うが、やはりまだ1桁の年齢層なので成金カス野……粗暴な性格な子に虐められでもしたら私はモンスターペアレント(怒り狂った姿)となる自信があるのでやはり心配なのだ。なんせアリアは大天使なのでね。

 

 そんなこんなアリアに思いを馳せながら身支度を済ませ、いざ迎えに向かっている最中に、前世でよく見た(見覚えのある)特徴的な姿が映った。どうやら彼もまた極東狼谷学園に愛妹を迎えに行くらしい。

 いやぁ、そうかそうか、そういえば入隊時期はそろそろだったような気もする。

 

「君も狼谷学園になにかご用があるの?」

 

 背後から突然声を掛けたのにも関わらず、その男は驚きもせずにこちらを振り返った。

 

「ああそうだとも、はじめましてフロイライン。ボクはエリック、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ。明日よりこの極東支部で正式に神機使いとして配属される期待の星でね、今は愛すべき妹のエリナを学園へ迎えに行く最中さ。よければキミの名前も聞かせてくれるかな」

 

 前世の記憶通りのキザなセリフに、赤髪サングラスにタトゥーを入れたタンクトップジャケットといった攻めた格好。余りの懐かしさに思わず私も微笑んでしまう。

 

「これはこれはフォーゲルヴァイデ閥の方でしたか。私は加納ニーナ、極東支部にて神機使いの末席を汚す1人です。以後、お見知り置きを」

 

 彼は望まない事だろうが一応財閥も財閥の令息なので、へりくだった様に礼を返せば少し慌てたような仕草も見せる。

 

「オイオイそんな態度はやめてくれたまえ。つまり君は極東支部でのボクの先輩にあたるんだろう? 他の面々から要らぬ反感は買いたくないからね。それに恐らく歳の頃もボクらは近しいだろう? 普通に接してくれると嬉しいよ」

 

 ボクは15歳だ。そう言いながら出してきた手に此方も応じて握手をする。

 

「そういうことなら。私は17歳かつ、神機使いの先輩として普通に接させてもらいますね。よろしくエリック君」

 

「ああ、よろしくお願いするよ。ニーナくん」

 

 愛妹を持つ者同士、比較的すぐに打ち解けられたので、極東狼谷学園への道中は笑いが絶えなかった。エリックの妹のエリナちゃんは現在9歳で、私の妹のアリアが現在6歳なので3歳の年の差があるようだ。エリナちゃんとアリアが仲良くなれば、私がもし居なくなってからもアリアの面倒を見てくれるかもしれないし、仲良くなっておく事に損は無いだろう。なにより可愛い×可愛いは最強なので私が見たいから仲良くなっても欲しい。

 とはいえ、エリナちゃんは病弱故の療養で極東にきたらしいので、そんなに遊ぶ時間があるかもわからないけれど。

 

「ところでエリック君、きっとこの先耳にタコができるほど聞くと思いますけど、戦場に出た時はちゃんと周囲の警戒を解いてはダメですよ。視界の外、例えば上からオウガテイルが飛びかかってくる。なんてこともあるかもしれませんからね。じゃあ、1年生の学舎はこちらなので今日はこの辺で。また会いましょう」

 

「その時は華麗に避けてみせるとも、御忠告感謝するよ。また後日に」

 

 エリックにはアーク計画の時に宇宙船に乗って貰えれば万々歳かな。殉職任務(エリック上田)のタイミングで私が同行出来れば最高だけど、そう上手くは行くかどうか分からないから出来れば、ね。

 ああ、私以外のいい人はみんな船に乗ってくれれば良いけど、とりわけ未来の第1部隊は頑固だから、どう説得するか今から考えておかなきゃ。

*1
第1世代型神機使いが持っている偏食因子でゴッドイーターがアラガミ化をしないように、体内のオラクル細胞の偏食作用を保つための物。正式名称をP53偏食因子という

*2
アリアは極東狼谷学園初等部に今年度から入学している




原作改変がここからちょっとずつ始めていきたいですね。

ていうか、久々に投稿したら感想くれる人多くて元気出ました。ありがとうございました。

アンケート設置しましたので気が向いたら教えてくれると嬉しいです


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2-4

今週だけで残業が30時間を超えているので初投稿です

それはそうと便宜上その場限りのオリキャラが出たりするんですけど(2-2辺りの柊さんとか)、基本的に続投はされません。が、今話で登場するアリアちゃんは今後もちょくちょく出す予定です。

また今話では神機について少し自分なりに掘り下げています。間違いもあるかもしれません。ご了承ください。


「きょうはね、ごっどいーたーさんたちのね、おしごとのビデオをみてきたよ!」

 

「ゴッドイーターの仕事のビデオ見てきたの!?」

 

 小学1年生相当の子供の教育に、血みどろのグロビデオを流す学園があるらしい。

 ニーナは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の教育機関を除かなければならぬと決意した。ニーナには教育がわからぬ。ニーナは、神機使いである。アラガミを狩り、妹を1人で育てて暮して来た。けれども妹の健やかな成長に対しては、人一倍に敏感であった。

 

「待っててね、アリア。お姉ちゃんは今から先生にお話してくるから」

 

「えー! ねぇねにぶきのほかんこ? のせつめいをきいてきなさいっていわれてるよ!」

 

「んん?」

 

 武器の保管庫、神機の整備室のことかな? もしやアリアのいうごっどいーたーとは神機の整備士の話をしている可能性がある? 

 

「アリア〜? 今日見たビデオってどんな内容だったの?」

 

「んーとね、ねぇねがぶきのそざい? をもってきてー、おとなの人たちといっしょにぶき? のせっけい? をしててね、あー! ねぇねだ! いったらせんせいがね、ちょうどいいからお姉ちゃんにぶきのほかんこのことをきいてきなさい〜って」

 

 そう言いながらアリアがカバンからプリントを出してきた。

 ははーん、なるほど。

 私がゴッドイーターをやっている→私が整備設計仕事のデモPVに偶々出てくる→整備設計の仕事をゴッドイーターの仕事と勘違いするということか。

 まったく、危うくモンスターペアレント以下のクレーマーになるところだった。アリアに困ったものだ。そんなところが可愛いんだけれど。

 

「なるほど、アリアの言いたいことがようやく分かったよ〜。この宿題には取っておきの助っ人がいるから一緒にその人に会いに行ってみよっか」

 

「おお〜! にゅーふぇいすだ!」

 

「どちらかと言うとニューフェイス(新顔)はアリアだけどね。出会った人にはちゃんと挨拶して、私の言うことちゃんと聞くんだよ?」

 

「はーい!」

 

 そうと決まればいざ整備室へ。

 今から行けばちょうど通常業務も終わって、定時間までの1時間程をのんびり掃除してる頃合いのおっちゃんや、最近配属されたと噂の神機整備士の期待の星たる楠リッカちゃんとも会えるかも知れないし。

 タイミングが合わなくてまだ直に喋ったことないから楽しみだ。

 

 アリアが学園で習ったと言うよく分からない校歌みたいなものを一緒に口遊みながら、アナグラのロビーを経由して神機保管庫へとエレベーターで向かう。

 

 行く先々ですれ違う人達に手を振りながら「こんにちは!」と挨拶している大天使(アリア)を引き連れて、神器保管庫の扉をこえれば目当ての人物達がちょうど話し合っていた。

 

「こんにちは〜、ほらアリア挨拶して?」

 

「こんにちは! かのうアリアです! 6歳です!」

 

「おう嬢ちゃんと噂の妹っ子か! こんにちは!」

 

「可愛いですねー、こんにちは〜! 辻さん、この人があの蒐集者さんなの?」

 

「おうともさ」

 

 リッカちゃんに辻さんと呼ばれたおっさんもとい、オジサマこそが現在の神機の設計、制作、整備の統括責任者でもあるオーガスタ・辻さんその人である。立場的にはペイラー・榊博士(部長)の部下の課長みたいなイメージだろうか。

 リッカちゃんは現在父親が急逝した為、継承したその技術や知識を活かすためにも辻さんの元で修行中の身の上らしい。

 アリアに2人の説明をしている間に辻さんは私達の説明をリッカちゃんにしてくれたらしい。

 

「そんで? 大事な妹っ子まで引き連れて今日はどうしたんだ?」

 

「いやぁ、色々あってアリアがこのプリント埋めておいでって先生に言われたようでして。私が説明するより辻さん達みたいなプロに聞いた方が良いかなと思ったんですよね」

 

「はは〜ん? たしかに嬢ちゃんには世話になってるから力になりてぇとこだが、生憎これから榊博士のとこに行かなきゃならんからな。よし、リッカに詳しいことは聞いといてくれや」

 

「ええ!? 辻さんほんとに私でいいの?」

 

「俺みてぇなオッサンより年が近いリッカのがアリアちゃんも喜ぶだろうよ。ほんじゃ、あとは任せたぞ」

 

 辻さんがプラプラと手を振りながら去っていくのを見送ってから改めて私もお願いする。

 

「じゃあリッカちゃん、改めて加納ニーナです。今日はよろしくね? お礼に今度なんか欲しい素材があったらとってくるからさ」

 

「おお! 流石蒐集者って言われるだけはあるね! じゃあドーンと任しといてよ、アリアちゃんだっけ? よろしくね」

 

「はーい! おねがいします!」

 

 リッカちゃんの神機整備の仕事が始まった所で、私も復習がてら聞いておく。

 

 神機とは複数の構成素材からなり、それらをオラクル細胞のコアで合一させたものである。

 現在運用されているのは近距離型としてショート、ロング、バスターの刀身とシールド、捕喰機能が合わさったもので、遠距離型としてはスナイパー、アサルト、ブラストの銃身と、バレット装填機能、バレットを放つ為のオラクル精製機構にて構成される。

 他にも細々としたパーツはあるが、今回は省略させてもらおう。

 そもそも神機が何故近距離、遠距離に分かれているかというと神機に使用されるコアの性質が違うからである。

 近距離用コアを用いている私の神機は、刀身をショートブレードだけでなくロングブレードやバスターブレードに変更すること自体は何の問題もない。だが、稀に癖の強いコアもあるため、そういったコアでは例えばロングブレード刀身をつけている時は捕喰形態(プレデターフォーム)に移行するのはスムーズでも、他の二種類の刀身をつけると捕喰形態(プレデターフォーム)に移行するまで多少時間がかかったりといったこともあるらしい。

 普段はショートブレードのみ使っている私だが、主にボルグ・カムラン(クソ蠍)の尻尾と針を壊すために稀にバスターブレードも使うことがある。

 

 原作では結合崩壊させると特定の素材をドロップしたと思うのだが、この世界では素材をそのままドロップするのではなく、回収したコアにアナグラの研究所でオラクル細胞を付与することで素材が生成されるという形式で素材が入手できる。

 アラガミに結合崩壊をさせた状態でコアの摘出をすると、結合崩壊をさせた部位をコアから優先的に再生させることができるため、素材が得られるといった寸法らしい。こういった事情もあるので研究班からは出来る限り結合崩壊をさせてコアを摘出させてくれという要望がでてはいるが、実際の命懸けの戦闘をしながら結合崩壊をマストで行うのも限界があったりするので、現場の神機使いの結合崩壊完了率は中々上がらないようだ。

 

「それからアリアちゃん、これは一番大事なことなんだけどね、神機っていうのはほとんど元はアラガミでできてるんだ。だからゴッドイーターさんたちは偏食因子っていうお薬で神機に食べられないようにしているけど、自分のじゃない神機に触れたらゴッドイーターさんたちもアラガミ化しちゃう可能性があるんだ。だからこそ神機を扱うのは整備班の私たちもとても慎重にならないといけない。だけどね、扱い方を間違わなければ神機はみんなとっても素直なんだよね。もしアリアちゃんがこれから学園のほうで整備や開発の道とかに進むんだったら私は歓迎するから、いつでも訪ねてね!」

 

「リッカおねえちゃんありがとう! じゃあアリアもせーびしになる!」

 

「ゔっ……うん! 一緒に働ける日を待ってるね!」

 

 どうやらリッカちゃんも我が大天使の可愛さにやられているようだ。私としても研究開発や整備の道であれば、現場仕事よりも危険も少ないだろうし歓迎だ。ところでアリア? お姉ちゃんは私だけだよね? 

 

「アリア、プリントは埋まった?」

 

「リッカおねえちゃんがおしえてくれたからばっちり!」

 

「そっかぁ、じゃあ改めてリッカちゃんにお礼を言おうね、リッカちゃん、リッカちゃんにだよ?」

 

「はーい! リッカちゃんありがとう!」

 

「あ、うん。またおいでね」

 

 ぺこりとお辞儀もしたところでお姉ちゃんも私だけになったので、今日はここいらでお暇しよう。断じてリッカちゃんにアリアを取られそうになったからでは無い。そろそろリッカちゃんを解放してあげないと可哀想だしね。ほぼサービス残業みたいなもんだし。

 

「じゃあリッカちゃん、さっき言った通り何か取ってきて欲しい素材とか、優先して回して欲しい素材とかあったら言ってくれれば私の裁量の利く限りで流すから気軽に言ってね。今日はありがとう、また来るね」

 

「こちらこそ! 素材なら騎面盾(ボルグ・カムランの盾)がまとまった数あると今携わってる新しいタワーシールドの開発が進みそうかも! またターミナル経由でメール送るね!」

 

「お願い! 素材は意識的に集めとくね」

 

 お、じゃあ頼むわ。みたいなノリでクソ蠍の盾を壊してこいと言われてしまった。いや、まぁ私から言い出した事だから良いんだけど、誰か遠距離持ちの人に一緒にお手伝いをお願いしようかな。

 

「ねぇね! リッカちゃんいいひとだったね!」

 

「そうだねぇ、アリアの次位には可愛い良い子だったね」

 

 今日も今日とて、アリアは可愛いかった。




なんか急に感想いっぱいくれるなと思ったらランキングに載ってるとのことらしく、確認したら日刊ランキング8位とのことで小躍りしております。普通にこのSSより面白いの他にあるやろ……()

私は世界観等が原作で詳しく触れられていない所とかを考えて掘り下げたり、ゲームの動きを実際にやる場合の理由付けとかを考えるのが大好きなオタクなので、今後も今話のような独自解釈やそれを説明する為の便利なオリキャラが出てくる事がありますのでご了承ください。

P.S.これを書いてる時は評価バーも赤くなったりしていたのも確認しました。
大したSSではないと思いますが、皆さんからの感想、高評価大変嬉しく思います。ありがとうございました。これからも細々と続けていきたいと思います。よろしくお願いします。


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2-5

お久しぶりです。交際相手と別れたので初投稿です。

最近GE小説が少しまた増えてきてて嬉しいです。
転生神機使いは狩り続ける、いいな……。        ______

P.S.プロットの進行にあわせて主人公率いる第4部隊の人事考課が入りました。


「……あらまぁ、マジかぁ」

 

「どうした隊長?神機整備の費用請求でもきたか?」

 

「いや〜……ハルオミさん、残念なお知らせと、良いお知らせと、残念なお知らせと、良いお知らせがあります。」

 

「多いな!……まあ順番に聞かせてくれよ隊長」

 

アナグラを任務で発つ前のブリーフィングで支部長から来ていたメールを読んでいたら結構衝撃的な事が書かれていた。

 

「まず残念なお知らせ。第4部隊(ウチ)の仕事が増えます。新人神機使いの実地演習係です」

 

「おお、まあそれは第4部隊(ウチ)の任務達成率と損耗率から考えたら妥当だろうな。しょうがないだろ」

 

「そうですね、続いて良いお知らせとして、今日から研修もまだ終わってないですが新人が1人入って来るみたいです、武器種はブラスト使いらしいです」

 

「おお!ようやく俺たちの部隊にも遠距離型が来てくれるのか。助かるな。ところで隊長、女子か?」

 

「男子です。続いて残念なお知らせ2つ目ですが、ハルオミさん、グラスゴーに転属が決定したみたいですね。明日の昼前には極東発らしいので今日は私の権限で任務免除にします。身支度を整えた方がいいですよ」

 

「マジで言ってんのか隊長!?」

 

「私だって泣き叫びたいですよ!新人育成の仕事を新たに振る癖に既存人員は抜くブラック企業があるらしいですね!死ねばいいのに!!

……取り乱しました。えー、最後の良いお知らせ、コレはハルオミさん限定なんですが、グラスゴーでの貴方の新隊長、ケイト・ロウリーさんはタートルネックにメガネにサラサラストレート、オマケに美人です良かったですね」

 

「おお、おお?おお!おお?」

 

ハルオミさんの情緒が壊れてしまったみたいですね。理解はできますけど。

元々グラスゴー支部に転属して半年、しかも2-3人で神機使いの仕事を回していた所を無理やり極東に引き抜いていたのだから、いい加減人材を返さないとルフス・カリギュラ(例のアレ)を除けば殆どが中型以下の雑魚しかいないとはいえ流石にグラスゴー支部もブチ切れ案件だろうし仕方ないことだ。とはいえハルオミさん抜かれるのは本当に痛いなぁ。

 

まぁ、これでケイト・ロウリーと目出度く結ばれることが出来るだろうし、ハルオミさん的には悪い話では無いと思うし、さっさと気持ちを切り替えて身支度でも整えてもらいますか。

 

「さ!ハルオミさん、悲しいですが送別会位は今日の夜開いてあげるので、それまでに各資料の支部長への提出と転出準備しましょー?」

 

「ちょ、待てよ隊長俺はまだ納得してな」

 

「それは支部長に言ってくださーい」

 

バシバシと背中を叩きながらハルオミさんの部屋がある区画へと続くエレベーターへと押し込む。

エレベーターの扉が閉まるのを見送ってから時刻を確認すれば8:45、新人君は現在百田さんの元で最後の基礎訓練をやってる頃合いだろうか。

今日の任務は軽めだし引き継ぎも兼ねて見学に行く、前にジャイアントトウモロコシ交換していこう。任務に就くのが遅くなるとその分お腹減るこの体質、いい加減どうにかならないかなぁ。

 

 

■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

 

「来たかニーナ……ソレの芯はしっかりゴミ箱に捨てろよ」

 

「お疲れ様ですゲンさん、流石にそんな品のないことしませんよ。それで、新人君はどうですか?」

 

「悪くない。適合率、戦闘センス、座学の方もお前には及ばんが平均よりは上だろうな。少しばかり尊大な振る舞いが目立つが、自信の表れと見れるな」

 

「ベタ褒めじゃないですか」

 

最近ようやく完成したダミーアラガミが出せる訓練所でオウガテイルダミーを複数体相手にしながら立ち回る。いや、彼からすれば華麗に(・・・)立ち回っているが正しいのか。

ステップだけでなくローリングをする事も戸惑いがない辺り、華麗判定がどうなってるのかは分からないけれど、ブラストの推奨射程を維持しつつ相手の近接攻撃は当たらない絶妙な間合いを保っている。

 

なるほど、前世ではよくネタにされていた彼だがこうしてみるとかなり良い。伊達に未来でソーマ君と仲良くなれる程共同出撃してないってことかな。

弾道降下の激しいモルター弾(爆発系統弾丸)をしっかり当て続けれてるのを見るに、バレットエディットも多少は心得があるのかな。射出角度が毎回15度くらい付けられてるみたいだし、本当に新人なのか疑わしい優秀さだなぁ。腐ってもと言うと失礼だな。流石は名家の息子、頭の出来は良いらしい。

 

最後の1体も横っ面にモルター弾をぶち込んでフィニッシュ。

ふむ、ゲームで見てた姿からは想像もつかなかったけど思った以上に本当に華麗に戦う男みたいだね。

 

「エリック、これからお前の世話をするヤツが来た。紹介するから上がってこい」

 

「世話って、そんな大したことはしませんよ?」

 

「フッ、かの施し様がよく言ったもんだな」

 

だからその施しって恥ずかしいからやめませんか?

揶揄う様な視線に遺憾の意を込めて目を細めるも、笑って一蹴された。

そのまま流れでこれまでの訓練結果や、言動の仔細を引き継いでいれば、存在感を示しつつ不快感は感じさせない独特な足音と共に彼はやってきた。

上階に来た彼は綺麗なフェンリル式の敬礼をするのが感じ取られる。

 

「新兵 エリック・デア=フォーゲルヴァイデ到着しました」

 

「よし、来たな。さっきも言ったがこっちがお前の配属先の隊長だ」

 

「偵察少尉 加納ニーナです。かなり優秀みたいだね、エリック君」

 

「ニーナ君……いや失礼、まさか先輩とはいえ少尉、しかも隊長だったとは思いませんでした」

 

「ニーナ君でいいよ?うちの隊はアットホームで明るい雰囲気の職場だし、明日からは私たち2人きりだしね」

 

努めて場が明るくなる様に大きめの声で笑いながら言えば、エリック君の緊張も解けたらしい。貴族というか財閥の令息としての場馴れがあることが垣間見える。

 

「ハハハ、それじゃあニーナ君と呼ばせてもらうね。それより明日からは2人きりというのは冗談かい?」

 

「マジだよ?

捜索、回収、ついでに偵察と討伐も行っている私達の隊は昨日まで私ともう1人の近接型の男性、真壁ハルオミで回していて、今日エリック君が配属されて、明日の朝ハルオミさんが極東からグラスゴー支部に転属だね。

だから申し訳ないけど、エリック君の実地演習は普段私達がやってる実際の任務の中でやることになるね。極東の流儀を味わっていこ?」

 

「そ、そうかい。精一杯努めさせてもらおうかな」

 

「まぁエリック君の仕事は主に戦闘と書類関係になるだろうから大丈夫だよ。私こう見えて極東で多分TOP5入りするくらいには強いと思うし、安心して着いてきてよね」

 

「極東でTOP5入り!?」

 

「エリック、ニーナは極東での2つ名持ちの1人だ、底抜けに明るいバカに見えるが実力は本物だから安心していいぞ。加えてアラガミや神機関連の研究にも現場の人間の中では造詣が深い方だ。分からない事はほぼないだろうよ。バレットエディットについても何故か話がわかるらしいから後で話を聞くといい」

 

「2つ名持ちに研究関連に造詣が深い!? しかも近接型神機使いなのにバレットエディットまで可能!?1人で多彩すぎるのではないかな……?」

 

「うんうん安心して欲しい、私もそう思う。」

 

改めて羅列された属性の強さと多さに我ながら少し引く。

これでもバレットエディットに関しては広範囲アラガミ殲滅砲(メテオ)とか全自動頭部破壊弾(脳天直撃弾)やら命中部位確定破壊弾(内臓破壊弾)とかは作ってないので自重してる方なんだけれど、いずれにせよオーバーテクノロジーだったらしい。

 

エリック君が驚くのは無理もないけれど、私がほんとにたった1年で新兵から少尉まで上がるにはそれくらいしないといけなかったってのもあるし、支部長からメールで届いていた興味があるならやっとくといいよ。といった趣旨の内容とその教育日程。アレらが届いていたんなら

出来るかはともかく誰でもやることになると思う。それくらいの圧があった。

 

「さて、話が長くなっちゃったけど、今日もそこそこ予定が詰まってるし、そろそろ行こうか。じゃあゲンさん、エリック君貰ってきますね!」

 

「教官、お世話になりました」

 

「ああ、生きて戻れよ」

 

ゲンさんの教導はスパルタらしいけれど、エリック君は悪態つくことなくお辞儀までしていた。これも育ちの良さということかな。

ゲンさんも気恥しいのか後ろを向きながら、手を振ることで見送ってくれた。

うーん、エリック君のこと、ますます死なせれないなぁ。

どうにかして鍛えるか、あるいは彼が殉職するだろうミッションに同行出来ればいいんだけど。

 

そんなこと考えても仕方がないか。今は彼を一人前の神機使いにするのが優先だな。

 

「じゃあ、エリック君は今回基本は見とくだけでいいよ。もしかしたらオウガテイルかザイゴートとのタイマンくらいはやってもらうかもだから、心の準備はしといてね」

 

「ああ、了解した。勉強させてもらうよ」

 

覚悟も十分な様なので早速出発する。

今日の任務は嘆きの平原への定期偵察及び小型アラガミの可能な限りの掃討だ。

大型も倒せそうなら倒す予定だったけど、ハルオミさんからエリック君にメンバーチェンジした以上あまり無茶はできないので仕方ない。

 

偵察任務は一般的な偵察兵であれば、目視にて発見地点を口頭でオペレーターに報告し、報告地点をオペレーターが纏めることで討伐部隊に任務を発注する。という流れだが、私の場合はユーバーセンスがあるので極短時間で偵察部分が終わる。

なので、後詰めに来る討伐部隊の為に小型アラガミを減らしておくという工程が加わる。

まあ移動時間のが任務時間より多くなると萎えてくるので丁度いい感じはあるから文句は無い。

 

輸送ヘリコプターのパイロットに軽く挨拶したらエリック君に基本的な任務の説明をする。

 

「ていう具合なんだけど、ここまでで質問は?なければ雑談でもする?」

 

「任務については大丈夫そうだよ。雑談、ということならニーナ君の事をもっと知っておきたいな。これから命を預ける、いや預け合う関係になるのだしね」

 

おや、まあそれもそうか。私が一方的に知った気になってるだけだから、彼からすればまだ2つ歳上で、妹がいる事、そこそこ強いこといがい分からないんだし。

 

「そういうことなら加納ニーナ 階級は偵察少尉、肩書きは神機使い第4部隊隊長兼神機開発部企画課長兼アラガミ研究部生態調査課長とかいう大仰のなのがあるね。

趣味は旧時代の音楽を聴くことと妹の成長記録かな。エリック君は?」

 

「本当に出鱈目な肩書きを持ってるね……。

ボクはエリック、エリック・デア=フォーゲルヴァイデ 階級はご存知の通り新兵。肩書き、と言えるのかは分からないけど一応フォーゲルヴァイデ財閥の跡取り息子だ。神機使いとしては新参でも財閥の跡取りとして受けてきた教育は、きっと第4部隊でも役に立たせることが出来ると思う。

趣味は人と話す事と妹を元気づける事。うん、やっぱりニーナ君とは仲良くなれそうだ。ボクも精一杯努めるから改めてこれからよろしく頼むよ」

 

「うん、よろしくね。あ、そうだ!エリック君に是非紹介したい子がいるんだよね。ソーマ君って言う近距離神機使いなんだけど、エリック君と同い年か1個違いなんじゃないかな?」

 

「ほほう、興味深いね。どんな子なんだい?」

 

「いやぁ、いい子なんだけどちょっとアナグラで孤立気味な子でね?めっちゃ強いんだけどコミュニケーション能力に難があるというか。最初はツンツンしてるけどエリック君なら仲良くなれそうだなと思って」

 

「ハハハ、なるほどなるほど。つまりそのソーマ君の友人を増やそうって訳だね?」

 

「そういうことだね!今度なんか適当な任務に一緒に行ってくるといいよ。絶対、とは言わないけど、エリック君はきっとソーマ君を気にいると思う」

 

「わかった。そういうことなら今度セッティングを頼めるかな?ボクがいきなり声をかけるより既に友人のニーナ君を介した方が良さそうだ」

 

「ん、わかった。楽しみにしといてねっと、そろそろ着くね。出る準備しようか」

 



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2-6

比較的早く完成したので初投稿です。
試験的に他者の目線で書いてみた回なので今話はエリック視点です。


感想、高評価、誤字報告、いつもありがとうございます。BIG感謝


幾本も迫るレーザーを掻い潜り、空を踏みしめ飛び上がることでアイテールの天眼に神機の刃を突き立てる。鮮血が吹き出しその綺麗な紅い髪を汚すが、それすらも太陽光に当たれば彼女を演出するメイクかのようによく映える。

 

加納ニーナ。捜索と回収を主目的とする第4部隊隊長。

下ろせば腰ほどまで伸びているだろう紅い長髪を、ポニーテールに纏めた容姿端麗の美人で、その親しみやすい言動はパーソナルスペースをあまり感じさせない。

2つ名は《施し》または《蒐集者》。平時の性格は明朗快活で自信に満ちていることに加えて、話し相手に気も遣える所謂よく出来た女性だ。

そう、平時であれば。

 

アラガミとの交戦時と言うよりは神機でアラガミを捕食し、神機解放状態になってからはまるで別人だった。

 

一人称は俺、言葉遣いはまるで外部居住区の思春期の少年の様で、平時の時にボクにどことなく感じさせた品の良さは消えて荒々しさが表出していた。

神機解放状態になると気分が身体能力に併せて高揚したりする人もいるとは聞いていたが、恐らく神機使いの中でもその影響がトップクラスに強いんだろう。

その荒々しさは言葉と雰囲気だけで、行動の全ては最適化されている。

アイテールのレーザーも、ザイゴートのスモッグも、コンゴウのフックもなにもかも。それら全てをバックラーで受け流したり紙一重で躱したりと、アラガミの攻撃を至近距離捌き続けることで、常にそのショートブレードの(ひどく短い)間合いを維持していた。

小型アラガミには1体当たりに時間かけず的確にコアを貫いたり、はたまた捕食したりで一撃で仕留め、中型以上のアラガミは全ての部位を結合崩壊させた後に喰殺していた。

自己紹介の時に聞いた極東でも5本指に入る実力、ソレは嘘でも誇張でも無いということがまざまざと見せつけられた形となってしまった。

 

交戦が始まる前に彼女が言っていた。

「恐らく理論値的には満点に近い動きだけど、多分真似しようとしない方がいい」と。

なるほど、確かにアレは曲芸か、あるいは神業と称するものだろうし当然だ。私と同じ事をやれなどと言う無茶を言わないあたり、彼女自身自分がどれだけ出鱈目をやっているのかよく分かっているのだろうね。

 

「エリック!アイテールのレーザー避けるコツは引き寄せてからステップを踏むことだ!俺の動きをよく見てな!」

 

軒並み他のアラガミを倒しきって、アイテール1体が残った段階で余裕が出てきたのか攻撃を避ける為のレクチャーまでする余裕があるらしい。

今教えられてもボクがアイテールと戦うことになるのはだいぶ先だと思うけれど、それでも、これはアーカイブにも乗ってない貴重な情報になるだろうし、いい経験なのは間違いなかった。

 

「彼女と命を預け合う関係か。努力しないといけないな」

 

そもそもヘリを降りる時には後詰の討伐(第1)部隊の為に小型アラガミをできるだけ掃討する。という話だったのだが、何やら外部居住区付近にアラガミが大量発生しているらしく、防衛班だけでは手が回らないかもしれないという事でそのままニーナ君が中、大型のアラガミも掃討することになった様だ。なおこれが終わったら一応ボクらも応援に行くことになっている。オウガテイル1体位は体験したいものだったけれどこればかりは仕方ないことだろうし、いきなりの実戦になる可能性も考えておかないといけないな。

フォーゲルヴァイデ家の息子として、華麗にあらなくてはいけないしね。

 

ニーナ君は最後にアイテールの尾状器官を結合崩壊させた直後、空中でそのまま捕食を敢行。コアを心臓部から引きずり出してトドメをさしていた。先に連絡を入れておいた方がスマートだろうね。

 

「第4部隊所属エリックからオペレーターへ、

該当地区アラガミをたった今隊長のニーナが掃討し終えた。これより帰投するためヘリの操縦者に座標を伝えて欲しい」

 

『オペレーターより第4部隊、お疲れ様でした!

外部居住区付近の防衛状態としては第3部隊の方へと第1部隊の皆さんが約2分後に合流予定ですが、お2人には第2部隊の応援に向かっていただきます!合流後は第2部隊隊長大森タツミの指揮下で動いてください!』

 

「了解した。ニーナ君!聞こえてたかい?」

 

「ああ大丈夫だ!しっかり聞こえてたよ、助けが必要みたいだし急ごうか。にしてもエリック君の実地研修が出来なかったや、ごめんね」

 

「構わないさ。スグに君に追いついてみせるとも」

 

話してる最中に神機解放状態が解除されたのか、元の落ち着きを取り戻していた。

2人で駆け足でヘリに乗り込むと、すぐさま発進していく。

聞けばここから3分弱で着くらしい。

ニーナ君はヘリに備えられていたアナグラ周辺の地図を取り出すと、インカムを叩いた。

 

「もしもーし、コチラ第4部隊のニーナです、タツミさん返事できますか?」

 

『ニーナか!忙しい、から手短に頼む、ぞ!』

 

「3分かからないくらいで現着します。ハルオミさんが今日から居なくて、今は新人の実地研修中なので戦力は実質私1人です。なので新人は最後方に配置さしてもらいますが、代わりに今そちらが1番苦戦してるアラガミに私がヘリから直下します。どの地点にいるどいつが邪魔が教えてください」

 

「なるほど助かる!そうだな……アラガミ群最後方からミサイル撃ってきてるクアドリガを頼めるか!おそらく今回の群れの長だ」

 

「了解です。クアドリガ倒したらそのまま後方からアラガミ群を叩きます。挟み撃ちにしましょう」

 

彼女は無駄のないやりとりで短い通信を終えるとすぐにヘリの扉を開く。まだ距離はあるがアラガミの群れが微かに見える。ざっと30-50体程だろうか。コレを1部隊で抑えているというのだから恐れ入るというものだ。

ニーナ君は現状を確認すると地図にペンで赤丸を打っていく。アラガミ達が居る場所辺りかな。

 

「よし、エリック君最初の実戦はちょっと特殊になるけど、ヘリが着地地点に向かう最中にこの赤マルの位置にモルター弾をありったけ撃っていってほしい。ヘリから降りたら高所から他の神機使いが居ないポイントに弾幕を貼ろう。使うバレットはモルター弾だけで、属性は炎で固定。アラガミに当てるのが目的じゃなくてアラガミの進行を抑えるのが目的だから無理に当てようとしなくていいし、安全第一で動くこと。質問は?」

 

「ヘリの着陸ポイントまでにできる限りのモルター投下。着陸後もモルターによる弾幕にて他神機使いを邪魔しない程度の援護。属性は炎固定だね。了解した。華麗にアラガミ達を足止めしよう」

 

「理解が早くて大変よろしい!それじゃあ私は降りるから、くれぐれも死なないように!またあとでね!」

 

矢継ぎ早に飛んできた指示を復唱すれば、嬉しそうに笑ったあとヘリの扉から飛び降りて行った。下を覗き込めばクアドリガ、だったか、キャタピラの4脚を持った戦車の化け物みたいなアラガミの左肩──と言っていいのかはわからないが──ミサイルポッドみたいな器官を捕食しているのが見えた。

いったいどうやったらそんな寸分違わずピッタリ降下することが出来るのか。ユーバーセンスだったか、その特異な感知能力を持っていても出来るかどうかは別だと思うんだが。ああいや、そんなことを考えている場合では無かった。

 

「ボクはボクで華麗に仕事をしなければね」

 

双眼鏡で指定地点に他神機使いが居ないことを確認してモルター弾を発射していく。

ヘリが反動で少し揺れるが、操縦者はそのまま撃てとばかりに直ぐに安定させてくれる。どうやら彼もいい腕を持っているらしい。

ボクが撃ったモルター弾は丁度コンゴウに当たったらしく、そのパイプ状器官を破壊していた。コレは中々いい戦果なのでは無いだろうか?ラッキーショットであるのは間違いないが、できるだけこれからも狙っていくとしよう。

高揚感で手が僅かに震えるけれど、エリナが自慢できる兄である為に今は目の前の戦場で戦果をあげなければね。

 

十数発のモルターを撃ち降ろしていれば、ヘリが着陸地点まで運んでくれたので指示された通り高所に飛び降りる。

赤い服の近接型神機(ショートブレード)を使っている男性が各所に指示をとばしていた。彼が第2部隊隊長の大森タツミだろう。アラガミ群の最も近くで壁役として多くのアラガミを引き付けている銀髪の近接型神機(バスターブレード)の男性、そこから少し離れた位置で遠距離型神機(ブラスト)射撃している乱射している桃髪の女性。──言動が少々、というか神機解放状態のニーナ君並にアレだが大丈夫だろうか?──

他に人が見えない所から恐らく彼ら3人が防衛班こと第2部隊なんだろう。彼等の視界や行動を爆発で遮らず、かつアラガミがいるポイントとなると……

 

「あそこだね」

 

自身の神機の引き金を弾く。

少しでも多くのアラガミを倒す、ボクの華麗な物語の始まりだ。

 

 




エリック君は新兵時代は向上心の塊ないい子で貴族の息子だから教養も勇気もあると思うんですよね。

あと漫画のside by side買ったんですけどいい話だった……


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