もしも秋名スピードスターズが北関東最速クラスのチームだったら (にしむー)
しおりを挟む

Act.1 S13、大クラッシュ!

北関東最速と謳われるチーム、赤城レッドサンズとの交流戦を前に、焦りながらも奮闘する、秋名スピードスターズのリーダー、池谷浩一郎。秋名山のコースを、愛車のS13走シルビアで走り込む池谷。しかしそこに……

池谷「うわあぁぁぁぁ!!!」

ギャアアアアア
\ガッシャーン/

突然現れた対向車を避けたは良いものの、その後コントロールを失い、ガードレールに激突、愛車のS13を大破させてしまう。しかし、そのダメージは予想を遥かに超えるものだった……

しかし、ここからが快進撃の始まりだった……
秋名スピードスターズ、もう一つの世界線……北関東最速チームへと登り詰める、圧巻のサクセスストーリー、ここに開幕……!!




 

 

 

 

199X年

群馬県渋川市にて

 

 

 

池谷「レッドサンズとの交流戦が控えてるんだ……とうふ屋の親父さんが100%来てくれる保証はないんだ……俺たちも走り込みをしないと、地元のメンツが立たないぜ……!」

 

 

 

北関東最速と謳われるチーム、赤城レッドサンズとの交流戦を前に、焦りながらも奮闘する、秋名スピードスターズのリーダー、池谷浩一郎。しかし……

 

 

 

 

〜秋名山 PM10:00頃〜

 

「フォーーーン\プシュー/フォーーーン」

 

秋名山のコースを、愛車のS13走シルビアで走り込む池谷。そこに……

 

池谷「うわあぁぁぁぁ!!!」

 

ギャアアアアア

\ガッシャーン/

 

 

 

 

突然現れた対向車を避けたは良いものの、その後コントロールを失い、ガードレールに激突、愛車のS13を大破させてしまう。しかし、そのダメージは予想を遥かに超えるものだった……

 

対向車の人「ったくあぶねぇなあ……っておい!大丈夫か!しっかりしろ!!」

池谷「すみませんでした……救急車……呼んでください……」

頭から出血し、気を失ってしまった池谷。

 

 

 

 

しかし、ここからが快進撃の始まりとなるとは、この時は誰も知る由もなかった……!

 

 

 

 

────池谷は救急車で病院に搬送され、幸い頭部の出血と軽い脳震盪で済んだ。

 

 

 

しかし……修理工場に持ち込まれた池谷のS13は、予想を遥かに超えたダメージを負ってしまっていた。そのダメージは、シャーシはおろかエンジンにまで及び、シリンダーブロックの一部にクラックが入っていた。

 

エンジンは、完全に使い物にならなくなったと言っていい。

 

 

 

 

池谷「ごめんよS13……俺のせいで……必ず治してやるからな……」

「交流戦を前に、俺は一体何やってるんだ……チクショー!!」

 

悔しさと悲しさが入り混じり、辛さを堪えきれない池谷。

 

 

 

 

 

事故の後の最初の出勤日。

 

???「……谷……おい、池谷!!」

職場のガソリンスタンドに顔を出した、池谷の親友・健二だった。

 

池谷「なんだ……健二か……」

先日のことでずっと上の空な池谷。

 

健二「なんだ……はないだろ…!それより、大丈夫なのか!?体の方は……?」

 

池谷「体は見た目ほど大したことないさ……それより……」

 

 

 

S13の損傷状況を健二に説明する池谷。

 

 

 

健二「おいおいマジかよ……交流戦を前にお前のS13が……そりゃショックだよな……すまなかったよ」

 

池谷「こりゃ治るのにどれくらいかかるのかわからないよ……」

 

健二「どれくらいってのは……時間か……?それともお金のほうか……?」

 

池谷「どっちもだよ……」

 

健二「(廃車して新しいSR20搭載のPS13に……なんて言えないよなぁ……よっぽど大事にしてたからなぁ……あのS13)」

 

 

 

 

そこに、店長が聞き耳を立ててやってきた。

 

 

 

 

店長「池谷、相当ショック受けてるみてえなんだ……朝からずっとこの調子だよ……」

 

健二「そうなん……ですか……(そりゃあそうだよな……あんなに大切にしてた愛車が、殆ど再起不能なんだからな……)」

 

店長「だがな……少し心当たりがあるんだ……池谷のS13、初期型だからエンジンCA18だろ……?」

「ちょっと知り合いに話しつけてみるよ……とんでもないやつが転がり込んで来そうなんでな……」

 

池谷「!?」

 

 

 

 

店長のその言葉に、さすがの池谷も顔色が変わる。

 

さて、店長が心当たりがあるといった、その内容とは……? 

 

 

(次話 2022.09.17 17:00 投稿予定)         



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.2 復活の兆候(きざし)

焦りによる秋名山での走り込みで愛車S13を大破させてしまった池谷。不運なことにエンジンにも深刻なダメージを負ってしまった。しかし、店長の思わぬ計らいにより、池谷のS13は、大化けしそうな方向へと進んでいく……!


 

 

 

………店長が心当たりがあるといった、S13のエンジンの話。

 

S13の想像以上のダメージに上の空だった池谷も、顔色が変わった。

 

 

 

 

店長がとある所に電話を掛け、池谷に話しかける。

 

店長「池谷……朗報だ。おまえのS13、エンジンCA18だったろ」

 

池谷「ええ……そう…ですけど……」

 

やや不思議そうな顔をする池谷。

 

店長「思い通りだ……転がり込んでくるぞ……?とんでもないヤツが……!」

 

池谷「!?」

 

固唾を呑む池谷。

その内容とは……?

 

 

 

 

 

店長「聞いて驚け!全日本ラリー選手権で使われてた、ブルーバードSSS-Rのエンジンが手に入るかもしれないぞ!?」

 

池谷「その話、本当ですか!?」

あまりの仰天ニュースに、手の平を返したようにテンションが上がる池谷。

 

 

 

 

 

────ブルーバードSSS-Rとは、日産が小型セダン・ブルーバードをベースに開発した、本格的なラリー用マシンである。簡単に言えば、日産版ランエボ・インプのような存在である。奇しくもそのエンジンは、池谷のS13と同じ、CA18なのだ……!

 

SSS-RのCA18には、イギリスのF1エンジンメーカーでもあるコスワースが製作した鍛造ピストンに、専用のハイカムが組まれている。

 

さらにそれが、全日本ラリー用にチューニングされているのだ。峠のステージにはもってこいの、ストリートには反則級ともいえるスペシャルエンジンというわけだ……!────

 

 

 

 

 

 

店長「だがもちろんタダで……というわけにはいかない」

 

池谷「そのエンジン……いくらで譲ってもらえますか……?」

 

店長「いくらという話じゃない……お金で手に入るような代物じゃないからな……池谷にエンジンの換装作業を手伝ってもらう」

 

 

 

 

 

 

店長「自分の車に自ら魂を吹き込むんだ……お前の気持ちが政志……あぁ、俺の知り合いの車屋のことなんだけどなぁ、そいつにお前の想いがどれだけ伝わるか……それによってどうするか決めさせてもらう。またとないチャンスだぞ池谷、さぁどうする!?」

 

池谷「やります……いえ、やらせてください!!」

 

店長「よっぽど惚れ込んでるんだな……あのS13に……お前、一人の女の子をずっと大切にするタイプと見たぞ……?(笑)」

 

池谷「S13は、俺のパートナー……いや、恋人みたいなものですから……!」

 

店長「(やはりな……あのSSS-R、政志に話しつけといて正解だったぜ……池谷はそういう奴だって信じてたからな……)」

 

 

 

 

 

 

店長「そしたら池谷、そのエンジンの目処が立ち次第、また連絡する!」

 

池谷「わかりました!お願いします!!」

 

 

 

 

 

 

全日本ラリー仕様ブルーバードSSS-Rのエンジンが持ち込まれるのは、やはり店長や文太の旧来の知り合い、そして後に秋名のハチロクに搭載されるグループA用の4A-Gを入手することになる、政志の自動車工場だった。

 

果たして、今後池谷のS13は、どのような復活を遂げるのか……!?

 

 

 

 

(次話 2022.09.18 17:40 公開予定)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.3 復活への道しるべ〜池谷とS13 前編

全日本ラリー選手権用のブルーバードSSS-RのCA18エンジンの情報を店長から聞いた池谷。しかし引き渡す条件は、「自ら愛車に魂を入れること」、つまり載せ替え作業の手伝いをすることだった。それを自ら率先して引き受けることにした池谷。そして池谷は、S13を持ち込んだ工場の代表にして店長の旧来の知人・政志へ、どのように修復するか提案していく……


 

 

 

池谷「すみません、そういうことなんで、私のシルビア、知り合いの所に任せることにします。少しの間でしたが引き受けてくださって、ありがとうございました!」

 

事故の後に一時的にS13を預けていたショップに事情を話し、申し訳無さそうに礼を言う池谷。

 

そう、池谷のS13は、板金修理も、全て店長の知人、政志のところへ引き受けてもらう決断をしたのだ。

 

 

 

 

 

 

仕事の後、政志のところへ店長と共に向かう池谷。

政志の工場の積車で、そのショップへと向かう。

 

3人乗りの積車の真ん中に座る池谷。政志に挨拶を交わす。

 

 

池谷「池谷浩一郎と申します。この度は、本当にありがとうございます!」

 

政志「はっはっはっ、やっぱりキミのことだったんだな!(笑)祐一と文太から話は聞いてるよ」

(祐一=店長、便宜上表記は「店長」で統一)

 

 

政志は文太から、呑み屋で「頭を怪我した誠実で熱意のある好青年」の話を聞いていたのだった。

 

 

 

 

 

 

池谷はそれまでに2度、レッドサンズの交流戦の話を、文太のところへ持ちかけに行っていた。文太自身は乗り気ではなかったが、池谷のような人間は嫌いではない。

 

文太はその時、池谷のS13の音を聴いて、なんと一発で初期型のCA18搭載のシルビアだと見抜いていたのだった。

 

実はブルーバードSSS-RのCA18の話を最初に政志に持ち掛けたのは、元ラリーストの文太だったのだ。池谷の熱意に最初に気付いた人物であった。

 

直近の全日本ラリーで、極上のエンジンながらクラッシュで廃車になったSSS-Rの存在を知っており、それを譲ってもらえないか裏で政志に話をつけていた。文太は池谷の熱意を感じ、密かに楽しみにしていたのだった。

 

そして文太や政志のツテのおかげでその交渉がうまく行き、SSS-RのCA18入手に漕ぎ着けた。

 

 

 

 

 

まずはS13を置いてあるショップに出向く。そして積車でS13を引き上げた後、政志の工場へ降ろす。

 

S13の様子をじっくり観察する政志。

政志「ほーう、なるほどねぇ……これはエンジンだめだねぇ……ブロックぱっくり割れちまってる……」

 

「シャーシの方はフロントメンバー、フェンダー、ヘッドライト、グリル、ラジエーターってとこか」

 

「(ふふっ、俺ならヘッドライトを新しいPS13型のプロジェクターヘッドライトを入れて、フレーム修正の後遺症をフェンダーにサイドブレースバー入れて帳消しにするかな……さて、この青年はどう来る……?)」

 

色々試行錯誤しながらも、あえて何も提案しない政志。池谷を試しているのだ。

 

 

 

 

 

池谷「コイツを、元通りかそれ以上にしたいんです。俺のせいで痛い目に遭わせちゃったから……ワガママですけど、俺のお願い、聞いてもらえませんか……?」

 

政志「おう、なんだい?何でも聞くぜ?」

 

政志も楽しみにしている様子。

 

 

 

 

 

池谷「まずは、今回せっかくお世話になるんで、これからこのS13の面倒、ここで見させてもらえませんか……?」

 

 

政志「おう、そりゃ嬉しいねぇ。全然構わねえが、つまりどういうことだい?」

 

 

 

 

 

政志はこの後、池谷の意志を深掘りさせていく。

 

そして池谷は、政志の予想通りどころか、それを超える提案を口にしていく……

 

果たして池谷は、どのような提案をするのであろうか……?

 

 

 

(次話 2022.09.19 18:00 公開予定)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.4 復活への道しるべ〜池谷とS13 後編

S13を、政志の工場へと降ろした池谷・店長、政志の3人。そこで政志はS13の状態をチェックし、自分なりに想像を膨らませながらもあえて池谷に伝えず、根掘り葉掘り池谷の提案を聞いていく。だがその提案は、プロのメカニックである政志の予想を超えるものだった……!!


 

 

 

池谷「思い知ったんです。自分の実力のなさを……群馬の他の峠には強いチームが沢山います……でも俺たちの地元秋名がこの体たらくじゃ……」

 

 

 

 

「政志さん……でしたよね?俺たちのチームも、秋名最速をただ宣言するだけじゃなく、真の最速チームになれるようにしたいんです。どんどん腕も磨いて、このS13と人馬一体で戦えるようになりたいんです。だから政志さんの所で精一杯、このS13に尽くさせてください!そのお手伝いをお願いしたいんです。」

 

政志「おうおう、熱いねぇ!若い頃を思い出すよ(久々に楽しい仕事が回ってきそうだなこりゃあ)」

 

 

 

 

 

池谷「フレーム修正は、さすがに俺みたいな素人に毛を生やした程度の人間じゃ無理だと思うんで、そっちの方はお任せしていただいてもいいですか?代金はきっちりお支払いします。ですがそこで、プラスαお願いしたいんです。」

 

政志「おう、何だい?」

 

池谷「フレームって、修正して形は元通りになっても、剛性とかはどうしても落ちますよね……?」

 

政志「あぁ。(ふふっ、解ってるな〜コイツ)」

 

池谷「だから、折角の機会なんで、フェンダーにサイドブレースバーを取り付けてほしいんです。」

 

政志「なるほど……いいアイディアだねえ……他にはないのかい?(いい傾向だな……車のことをよく解ってる)」

 

 

 

 

 

 

池谷「あと……コイツは俺の恋人みたいなもんです。前より綺麗になって帰ってきてほしいんです。だから、壊れたヘッドライトを、折角なんで新しいPS13型のプロジェクタータイプのやつを入れてほしいんです」

 

政志「おう、それくらいどうってことないぜ〜!(おいおい俺の思ってた通りじゃねえかよ……すげえな、こいつぁ面白い)」

 

 

 

 

 

 

池谷「あと」

 

政志「ん?(何!?まだアイディアがあるというのか!?)」

 

 

池谷「ラジエーターなんですけど、R32の大容量タイプのやつが使えるって、仲間から聞いたんです。折角政志さんが調達して下さったエンジン、無駄にしたくないんです。後々パワーアップすることになっても、最高のコンディションで走らせてやりたいんです。ラジエーターも、そちらでお願いできないでしょうか?」

 

政志「おう、任せとけ!(コイツは驚きだ……そこまで情報収集してるなんてな……)」

 

 

あまりの池谷の熱意と知識に驚く政志。

 

 

 

 

池谷「そして、今すぐじゃないんですが、足廻りもR32のが流用できるみたいなんです。後々このS13の足廻り、そのR32のやつに換装したいんです。そうすれば5穴の鍛造ホイールも履けて、32用の大容量ブレーキも換装できます。これは急坂下りの秋名のダウンヒルで、最強の武器になると思います。俺も、それを乗りこなせるようになる覚悟で走り込みます。いつになるかわかりませんが、頭に入れといていただけませんか!?」

 

政志「フッフッフッ、驚いたよキミ!よっぽど地元の秋名とこのクルマに惚れ込んでるってわけだな……わかったよ、キミの要望、忘れずに覚えとくよ」

 

池谷「どうも、ありがとうございます!」

 

店長「(まさか池谷のやつ、ここまで考えていたとはな……文太と政志のやつ、ますます池谷のこと気に入るだろうな)」

 

 

 

 

 

こうして、池谷のS13復活計画もとい、北関東最速クラスのマシンへの計画は、幕を開けたのである……!!

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.5 秋名のハチロクの実力(前編)

池谷の希望、想いをすべて聞き、今後のS13、そして池谷自身の計画を聞いた政志と祐一。予想を遥かに超える情報収集力に、プロのメカニックである政志も息を呑む。そんな中、遂に赤城レッドサンズとの秋名スピードスターズとの交流戦は膜を開ける。果たしてとうふ屋のハチロクは姿を現すのか……!?


 

 

 

 

 

〜22:00 秋名山頂上〜

 

 

 

 

 

啓介「何考えてんだよ全く……ハチロクが姿を見せねえじゃねえか!」

 

 

 

 

 

北関東最速と謳われるチーム、赤城レッドサンズが秋名に攻め込むと聞き、大勢のギャラリーが押し寄せる中、とうふ屋のハチロクは姿を見せない。そこに……

 

 

 

 

 

 

レッドサンズメンバーA「いま一台、車が登っていったぞ!」

 

啓介「おい!それ、どんな車だった?」

 

A「ハチロク……だったかな?白と黒のパンダトレノ」

 

啓介「本当か!?わかった!(フッ……全く待たせやがるぜ……!)」

 

 

 

 

 

 

池谷「まさか……あの親父さんが……本当に来てくれるなんて……!!」

 

健二「フゥ〜、助かったよ〜」

 

 

 

 

 

しかし、ハチロクが頂上に到着して降りてきたドライバーは……?

 

 

 

 

 

 

樹「おいっ!!なんでお前が乗ってくるんだよ〜!!このボケ拓海!!お前はどこまでボケなんだよぉ!!お前が来ても仕方ないだろ〜!?」

 

池谷「おいおい、てっきり親父さんが来てくれたと思ってたのに……なんでお前なんだ……?」

 

健二「助かったと思ったのになぁ……こりゃダメだ」

 

 

 

 

 

啓介「おい、ドライバーはこいつか!?(若いな……本当にコイツがあの時の……)」

 

健二「あ、いえ……車はこのハチロクのはずなんですけど、まさかドライバーが……」

「(おい、どういうことなんだよ池谷!?)」

池谷「(そんなこと、俺に聞かれても……)」

 

 

 

 

 

 

「ん……?」

 

あることに気付いた池谷。

 

池谷「おい拓海、今拓海は免許持ってるから、ひょっとして豆腐の配達は親父さんと交代でやってるのか……?」

 

拓海「そんなわけ……ないですよ……」

 

池谷「だよなぁ……そんなわけないか……」

 

拓海「はい。ずっと俺ですよ……5年前から」

 

池谷・ 健二「……!!おい、ウソだろ!?しかも、ご、5年前……!?(中学の時から無免で運転してたのか……拓海は)」

 

拓海「はい……」

 

 

 

 

 

 

状況が読めたスピードスターズのメンバー達。

 

 

 

 

 

 

樹「おい拓海〜、お前本当に大丈夫なのか?まさかいつもみたいに、ボケてるだけじゃないだろうな〜!?」

 

拓海「わかんねえけど、とりあえず親父に秋名の下りでRX-7って車に勝ってこいって、今日言われて来ただけだから……」

 

「それに一度俺、配達の帰りに、たぶんこの車だと思うんですけど……同じようなデカい羽つけてて飛ばして走ってる黄色い車、抜かして帰ったことありますから……たぶん、勝てると思いますよ」

 

3人「(本当かよ……)」

 

 

 

 

 

 

啓介「おい、いつまで駄弁ってんだ!主役が来たとありゃ、さっさと始めるぞ!!」

 

池谷「わかった!すまない!」

 

 

 

 

 

いよいよ本格的にバトルに突入しそうな雰囲気になってきた。

レッドサンズのエースの一人、高橋啓介と、初めてバトルにやってきて状況が読み込めず戸惑う拓海……そのバトルから池谷が得るものとは……!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.6 秋名のハチロクの実力(後編)

遂に秋名山に姿を現したとうふ屋のハチロク。しかしそこに乗っていたのは、文太ではなくまさかの拓海だった。正直呆れ半分、舐め半分だったが、話を聞いて池谷は拓海に賭けようと決意する。そしてそのバトルの結末が池谷に与えたインスピレーションが、今後どれだけ大きなものになろうとは、誰も予想だにしなかった……!!


 

 

 

啓介「よく来てくれたな、ハチロクの青年……俺は赤城レッドサンズの高橋啓介だ。お前の名前は……?」

 

拓海「藤原……拓海……」

 

全く読めない状況に、戸惑った様子で返事をする拓海。

 

 

 

 

 

池谷「おい!拓海、本当にやるのか!?相手は赤城レッドサンズでも有名な高橋兄弟の弟だぞ!?」

 

拓海「やってみなくちゃわかんないですけど……とりあえずいつも通り走ってみますよ」

 

池谷「(とりあえずって……しかもいつも通りなのか……?)わかった……どうせ俺たちがやったって勝てる相手じゃないんだ……ここは一か八か、まかせるぞ、拓海!」

 

拓海「わかりました。(なんか初めて見るなぁ……こんな秋名……なんでこんなに人がいるんだ……?)」

 

池谷「(本当に拓海で大丈夫なのか、正直わからない……でももし無理だったとしても、どうせ俺達が走ることになるんだ……それならもう拓海に賭けるしかない)」

 

 

 

 

 

 

史浩「勝負は下り一本!秋名の麓の温泉街手前がゴールだ!」

 

啓介「(こんな若いやつだったとはな……この前の借り、返させてもらう……軽くひねってやるぜ!)」

 

 

 

 

 

 

拓海「池谷先輩……」

 

池谷「何だ、拓海」

 

 

 

 

 

 

拓海「下り一本って何ですか?」

 

池谷「(ズコッ)……ああ、バトルやるの初めてだもんな……この秋名の下りを、麓まで全力で走って2台で競争するんだ。それで先に前でゴールした奴の方が勝ち、ってわけだ」

 

拓海「競争するんですか……なんでそんな事するのかわからないですけど……親父に勝ってこいって言われたから、やってみますよ」

 

 

 

 

 

いよいよ、バトルカウント開始……!

 

 

 

 

 

史浩「スタート5秒前!4、3、2、1、GO!!」

 

バトルはスタートする。はじめは啓介が先行するが、中盤以降、背後霊のように張り付かれ、最終的に拓海のハチロクが前に出てそのまま勝利。

 

 

 

 

 

 

レッドサンズメンバーA「先にゴールしたのは……」

 

固唾を呑むレッドサンズ・スピードスターズ両者……

 

 

 

 

 

 

A「ハチロクです……啓介さんが……負けました……」

 

池谷・健二・樹「………!?本当かよ!?拓海が高橋啓介に……勝ったぁ!?」

 

レッドサンズメンバー達「………」

 

 

 

 

 

 

涼介「(フッ……モンスターなのは車じゃなく、ドライバーのようだな……発進の時の加速、シフトタイミング、ラリー用のクロスミッションを入れていると見た……そう考えると精々150馬力程度だろう……それで啓介を打ち負かすとはな……これだから峠は面白い……あのハチロクは……俺が仕留める……!!)」

 

 

 

 

 

 

池谷「(拓海があの高橋啓介を、しかも戦闘力の劣るハチロクで……気が変になりそうだよ……そんなことが可能だなんて……拓海の車がもしS13だったら、もっと圧勝だったってことなのか……?俺、秋名スピードスターズのリーダーとして、S13の能力、もっと引き出せないのか……!?折角この機会に政志さんのご厚意で、特別に手を入れてもらってるんだ……そのポテンシャル、無駄にしたくない……!!)」

 

 

 

 

 

今までまったく知らなかった、拓海の実力を思い知った池谷達。まさかこの後、拓海からインスピレーションを得て、スピードスターズのメンバー達が覚醒することになるとは、誰も予想だにしなかった……!!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.7 池谷の意識の変化

赤城レッドサンズと秋名スピードスターズとの交流戦で、拓海の実力を目の当たりにした池谷達。秋名のメンツを守れた安堵と同時に、拓海に頼らざるを得なかった状況に、池谷はスピードスターズのリーダーとして、自分達の実力について真剣に考え始める……


 

 

 

〜秋名山山頂にて〜

 

 

 

池谷「拓海!一度俺を、ハチロクの横に乗せて走ってくれないか?」

 

拓海「まぁ……いいですけど……きっとつまらないですよ……いつも通り普通に下るだけなんで」

 

健二「かぁ〜羨ましいぜぇ〜、あの高橋啓介を倒した拓海の助手席に乗れるなんてな……」

 

池谷「そりゃそうさ……俺たちは一応、秋名最速を宣言してるんだ……名実共に、最速にならなきゃないけないんだ……その走りを、見ないわけにはいかない……!!」

 

決して健二や樹を馬鹿にすることなく、真剣に向き合う池谷……

 

 

 

 

 

 

池谷「頼むぞ!拓海!全力でな!!」

 

拓海「はい……それじゃあ、行きますよ……」

 

 

 

 

 

そしてスタートする。ライトチューンのハチロクなので、はじめの加速は当然S13と比べるまでもなくかったるい。しかし……

 

池谷「………!?おい拓海、ブレーキ、ブレーキ〜〜!!」

 

長い直線のあとの中速1コーナー、ほとんど慣性ドリフトで曲がるハチロク。真顔の拓海。これが「いつも通りの普通の走り」のようだ。

 

 

 

 

 

池谷「ぐおおおおおおお!!!!」

経験したことのない斜めからのGに、顔を斜めにして絶叫する池谷。

 

池谷「やめてくれ〜!わかった、わかった〜〜!!」

 

 

 

 

 

ほぼ慣性ドリフトのみで秋名序盤の中高速コーナー区間を抜け、遂にヘアピンに差し掛かる……!!

 

池谷「拓海〜〜!!ぶつかる〜〜!!」

 

フルブレーキングから一気にドリフトに入り、立ち上がりでハチロクをアウトに寄せた時、ガードレールが助手席側の池谷スレスレのところに来た……!!

 

 

 

 

 

池谷「ふんが」

ファアアアアアアアン………ファアアアアアアアン………

 

 

 

 

 

ファンーーーーーファンーーーーー

 

健二「おい、どうしたんだ?戻ってきたぞ?」

樹「どうしたんっすかねぇ?」

 

帰ってきた助手席の男を見て、二人は驚く……!

 

 

 

 

 

樹「どうしたんっすか〜池谷先輩!!」

健二「あ〜あ、こりゃやっちまったなぁ〜、安らかな顔だぜ」

 

拓海「なんか、初めの方は何故か叫んでたんですけど、急におとなしくなったな〜と思って、池谷先輩の方見たら、こうなってました」

 

 

 

 

 

池谷は、拓海のあまりのダウンヒルの恐ろしさと、それに反してすました顔をする拓海に恐れおののき、意識が朦朧としたあと、鼻水とよだれを垂らして気絶していた。

 

 

 

 

 

健二「そっとしておいてやろうぜ……」

樹「そうっすね〜……」

 

そのまま秋名を後にする4人。

 

 

 

 

 

 

………「ん?ここは?俺、寝てたんだっけ……」

職場のGSのベンチで目を覚ます。そして状況を思い出す。

 

 

 

 

池谷「……俺、拓海の助手席に乗って下ってもらった後、どうしたんだっけ……?はじめは恐ろしかったけど、なんか気持ちよくなって……その後のことが思い出せないや……ひょっとして俺、気絶してたのか……?」

 

 

 

 

 

一人物思いにふける池谷。

 

 

 

 

 

「あんな走りができるのか……拓海には……」

「つまり、他の最速クラスの走り屋もあれくらいは耐えられるってわけなのか……あんなんで気絶してるようじゃ、俺は走り屋失格だ……なにが秋名山最速だ……もっと実力をつけないと……!」

 

 

 

 

 

池谷「あっ……」

 

 

 

 

 

非常に重要なことに気づく池谷。

 

 

 

 

 

 

池谷「風呂……どうしよう………」

 

 

 

 

────

 

走り屋としての実力を付けるためにどうすれば良いか熟考する池谷。このあと池谷は、拓海の協力、そして自らの努力と猛特訓で、大きく成長していくことになる……!!果たしてその方法とは……!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.8 S13、復活の儀式(前編)

拓海のハチロクの助手席に乗り、軽くダウンヒルで走ってもらっただけで気絶してしまった池谷。その場では笑い話だったが池谷は真剣だった。一方でS13の板金修理は終わり、いつでもエンジンの換装作業に突入できる状態となっていた。池谷と健二は挨拶に政志の工場に顔を出すが、そこに置いてあったものは……!?


 

 

 

 

池谷は、職場のGSで気絶から覚め、もの思いにふけったあと、どうしようもなく再びベンチで睡眠を取ることにした。

 

 

 

〜翌朝〜

 

 

 

店長「なーにやってんだ〜池谷〜?」

 

池谷「ん……はっ!おっ、おはようございます!店長」

 

 

 

 

 

店長「はっはっはっ、話は樹から電話で聞いてるよ、お前拓海の助手席で気絶したんだってな」

 

池谷「はい……あんなの……経験したことありませんでした……」

 

店長「まぁそうだろうなぁ、池谷なら無理もないさ(俺だって文太の助手席だけは何回乗っても恐ろしいからな……)」

 

 

 

 

 

池谷「俺、S13が治ったら、もっともっと上手くなって、名実共に秋名山最速を目指します!店長も、昔はバリバリいわしてたんですよね?何かアドバイスか何かあれば、教えてください!!」

 

店長「うーん……そう言われてもなぁ……(本当はそんなに速くなかったなんて、言えないからなぁ……)そうだ、拓海の助手席に同乗させてもらって、せめて気絶しないようになるまで訓練を重ねたらどうだぁ?笑」

 

 

 

 

 

池谷「!!それだ!店長、ありがとうございます!」

 

 

冗談のつもりで言った店長だったが、池谷にとってはナイスアイデアだった。

 

 

 

 

 

店長「さーて、そろそろ開店時間だ、非番の奴は、帰った帰った」

 

池谷「(あっ……そうだった……俺今日休みだったんだ……良かった〜風呂に入れる……助かった〜)」

 

体臭男にならなくて済んだ池谷。

 

 

 

 

 

 

そこに健二が迎えに来る。

 

店長「来たぞ、お前の恋人が」

 

池谷「や、やめてくださいよ店長!!(笑)」

 

 

 

 

 

健二「お邪魔しま〜す」

 

店長「やぁ、おはよう健二君、いつもありがとね」

 

健二「いえいえ、どうってことないですよ!」

 

 

 

 

健二「よ〜う池谷、昨日は安らかな寝顔だったぜ〜、ハチロクの助手席でな!」

 

池谷「俺……本当に気絶してたのか……」

 

健二「ああ、そりゃあもう安らかな顔してたぜ〜」

 

池谷「や、やめろよ健二〜!」

 

健二「ほら、家まで送ってやるから、乗れよ池谷」

 

池谷「あぁ、いつも助かるぜ、健二」

 

 

 

池谷のS13がない間、親友の健二が池谷をGSまで送り迎えしている。

 

 

 

 

 

池谷「それじゃ店長、今日は失礼します」

 

店長「ああ、また明日な」

「ところで池谷」

 

池谷「はい、なんでしょう?」

 

 

 

 

 

店長「政志がS13のシャーシ、治ったってよ〜。そろそろエンジン積み換え作業に入れるぞ。昼はあいつも他の仕事で動けないけど、夕方から夜になったら空くと思うから、一度顔出してみたらどうだ?エンジン積替え作業もやってもらうことになるしな」

 

池谷「わかりました、顔を出してきます!それじゃあ!」

 

 

 

健二の180に乗り込む二人。

 

 

 

健二「じゃあ、お前の家まで」

池谷「いや、ちょっと待ってくれ」

 

健二「お?どうしたんだ?」

 

池谷「俺の家に返してもらう前に、ちょっと付き合ってほしい所があるんだ」

 

健二「お前まさか……いきなりだなぁ、気合入ってるよ、迷惑にならないか〜?」

池谷「顔出して挨拶とお礼しに行くだけだから、大丈夫だよ」

 

 

 

健二に池谷の家まで送ってもらう前に、政志の工場に顔を出すことになった。

 

 

 

 

 

\キュキュッ/

 

池谷「ごめんくださ〜い、池谷で〜す」

「……!!(俺のS13のシャーシ……メチャクチャ綺麗に治ってる……ヘッドライトも後期型になってる……!)」

 

 

あまりの仕上がりの良さに、感動する池谷。

 

 

 

 

 

政志「(ガサゴソ)おっ!来たねぇ好青年!」

 

池谷「そんな、好青年だなんて……あ、こいつはおれの親友の健二っていいます」

 

 

 

健二「あっ、どうも〜」

 

政志「おう、どうも〜、君は180なんだなぁ、SR20の方だね」

 

健二「そうです、新しい方のですよ」

 

政志「まるで兄弟みたいな仲、ってわけだな!」

 

健二「どうなんですかね〜?(笑)」

 

政志「よかったら見てくかい?君も」

 

池谷「まさか、SSS-Rのエンジン……早速見せてくれるんですか……?」

 

政志「おう、取っておきだぜ〜?」

 

 

 

 

 

 

挨拶だけのつもりだった池谷たちだったが、早速政志は工場内に二人を招き入れる。被せてあるエンジンカバーをめくると、そこには……!!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.9 S13、復活の儀式(中編)

朝、健二と共に政志の工場を訪れた池谷。そこに置かれていたのは、ピカピカに蘇ったS13のシャーシと……池谷はその姿に息を呑んだ。そして早速、その夜にエンジンの換装作業に取り掛かることに。果たして、生まれ変わったS13に魂を吹き込む真意とは……!?


 

 

 

 

池谷・健二「………!!こっ、これは……!!」

 

 

 

 

 

政志がブルーバードSSS-Rのエンジンカバーをめくった瞬間、一瞬で空気が張り詰めた……!!

 

 

 

 

 

池谷「本当に良いんですか……?俺なんかに、こんなお宝」

 

政志「おっと、秋名スピードスターズは秋名山最速なんじゃなかったのかい?リーダーさん」

 

 

 

 

 

池谷はハッと気づく。今まで発してきた言葉の重みと責任感を……

 

 

 

 

 

池谷「……はい!もちろんです!!と言いたいところですが、まだまだ現状俺には修行が足りません……でも、いつかこのエンジンの性能、最大限に引き出せるようになってみせます。そして、名実共に秋名山最速のチームを引っ張っていきます!!」

 

 

 

 

 

 

政志「(やっぱりだ……食い付きいいな……この青年)そうだその意気だ!そうやってエンジンに魂を吹き込んでやるんだ。念を掛けながら作業をすると、不思議と車は答えてくれるんだよな」

 

 

長年メカニックとして車に携わってきた政志の言葉は強く鮮明に池谷の心に刺さった。

 

 

 

 

 

 

池谷「店長から、いつでも積み替えできるって聞きました。いつが都合いいでしょうか?」

 

政志「昼から夕方は他のお客さんの整備で手が開かないんだが、夜なら開いてるぜ?君が決めな、好青年」

 

池谷「そしたら早速、今日の夜、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

政志「ああ、わかった。夜7時以降くらいなら開いてるぜ?1日2時間ずつやって、少しずつ完成させていこうな」

 

池谷「わかりました!それじゃあ、今日の7時、またお伺いします!」

 

政志「オッケー、待ってるぜ〜!(やる気あるなぁ〜、早く相棒に乗りたくて仕方がないんだろうなぁ〜。若い頃を思い出すよ)」

 

健二「あの……俺も作業の見学というか、手伝えるところは手伝ってもいいですか……?」

 

政志「もちろん、大歓迎だ!」

 

 

 

 

 

 

 

池谷・健二「それじゃあ、一旦失礼します」

 

工場を後にする二人。池谷は健二に自宅まで送ってもらった。

 

池谷「いよいよ今日の夜からか……S13が前以上になって蘇っていくのか……楽しみで仕方がないよォ!!」

 

 

 

 

 

 

夜7時前、政志の工場へ向かう池谷と健二。

 

健二「いよいよだなぁ、お前のS13復活に向けての儀式」

 

池谷「そうだよ……ウズウズしてたまんないよォ!!」

 

健二「また早くお前と秋名山で走りたいよ」

 

池谷「そうだな」

 

 

 

 

 

 

政志の工場に着いた二人。

 

池谷「ごめんくださ〜い!池谷です!」

 

政志「おう、来たな好青年!準備は万全だぜ!入ってくれ!」

 

S13のそばに置かれたSSS-Rのエンジンに、再び息を呑む池谷と健二。

 

 

 

 

 

 

健二「本当にこれが、お前のS13の心臓部に載るのか……!?」

 

池谷「そうだな……俺にも信じられないぜ……」

 

 

 

「そういえば」

 

 

 

池谷はある重要なことに気付く。

同じCA18エンジンでも、S13とSSS-Rとの相違点に……

少し不安になって政志に聞く。

 

 

 

 

 

池谷「政志さん、そういえばブルーバードのエンジンって、横置きですよね?でもS13のエンジンは縦置き……てことは、当然ポン付けは無理……ですよね?」

 

政志「ああ、よくメカのことわかってるな青年、そうだ、まずSSS-Rの補機類を全部取っ払って、S13の補機類に付け替えるんだ」

 

池谷「それはつまり……」

 

政志「そうだ、前に付いてたS13の補機類は引き継がれるってわけよ!」

 

 

 

 

 

池谷「(自ら魂を吹き込むってのは……こういうことだったのか……!!)つまり、前のエンジンは完全には死んでない、魂は引き継がれるってわけですね……!?」

 

政志「おう、そうよ!勘がいいねぇ!俺は今までそうやったエンジン換装作業を何回かやってるよ。縦置きのAE86に、横置きのAE101のエンジン積んだりな」

 

池谷「やっぱり!まずはその補機類換装作業、やらせてください!」

 

政志「あぁ、いいぜぇ。君、GSの店員やってんだっけ?工具の使い方は慣れてるよな?」

 

池谷「はい、もちろんです。今までS13の整備、自分の手でやってきましたから……後々は整備士免許も取って、うちのGSで本格的に整備もやる予定です」

 

政志「なら大丈夫だな!工具貸して見ててやっから、一回自分達の力だけでやってみな」

 

池谷「わかりました!」

 

 

 

 

 

 

池谷「健二、見守っててくれよ……俺の作業……少し雑用があったら手伝ってくれ」

 

健二「もちろんだぜ!こんなお宝がお前のS13の心臓部に乗るんだ……俺までワクワクしてくるよ!!」

 

 

 

 

 

いよいよブルーバードSSS-RのCA18エンジンに池谷の手が入る。はたして、上手くいくのだろうか……そしてその先、S13はどのように生まれ変わるのか……!?

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.10 S13、復活の儀式(後編)

S13と、ブルーバードSSS-RとのCA18エンジンの違いに気付いた池谷。S13はFRベースなので縦置き、SSS-RはFFベースなので横置きなのだ。だが、補機類を換装させられれば搭載できる。換装作業を済ませ、搭載し、いよいよS13のニューエンジンに火が入る……!!


 

 

 

 

池谷「じゃあ、やるか……まずは根本的に違うのは……給排気系だな、インマニとエキマニ、そしてターボ関係を取り外そう」

「健二、ラチェットと12と14のソケット、そしてエクステを取ってくれ」

 

健二「あいよ〜!!」

 

 

 

 

 

「ギィーッ、ギィーッ、ギィーッ」

工場内にラチェットハンドルの音が響き渡る。

 

 

ボルトナットを一つずつ外し、まずはインマニとエキマニ、ターボ系を取り外す。これだけで随分スッキリする。

 

 

 

 

 

池谷「あとはオルタネーターとパワステポンプ、エアコンコンプ……あれ?

 

政志「はっはっはっ!そいつは完全な競技用車両のエンジンだからな、エアコンなんざ付いてないぜ?どうだい?君のS13も?(笑)」

 

池谷「それはちょっと……」

 

もちろん、エンジンブロックにS13の補機類ブラケットを取り付ければ、エアコンは換装可能である。

 

 

 

 

 

そうこうしてる間に、SSS-RのエンジンはS13用へと完全に姿を変えた。

 

池谷「これが……俺のS13のエンジン……!!」

 

 

 

 

ピカピカに磨き上げられたSSS-Rのエンジン本体、そしてそこに取り付く今まで走りを共にしてきたS13の補機類。あとは、搭載して配線配管類を取りつけるのみだ。

 

 

 

 

 

政志「よぉ〜し、いい時間だ、今日はここいらで終わりにしよう」

 

時計を見ると、丁度2時間弱の8時50分だった。

 

 

 

 

 

政志「しかし君、整備の筋もいいねぇ〜、もうちょっとかかると思ったんだけどなぁ、友達との連携も完璧だったよ。是非うちの後釜として働かないか?(笑)」

 

池谷「ははは、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

SSS-Rのエンジンは、遂にS13のエンジンアッセンブリーへと姿を変え、いよいよ作業は次のタイミングへ持ち越しとなった。

 

 

 

 

 

また健二に送ってもらい、帰宅する池谷。

 

池谷「いよいよ次だな……俺のエンジンに火が入るのは……!!ワクワクして寝られねぇぜぇ〜!!」

 

 

 

 

────後日。夜7時。

 

池谷「こんばんは〜」

 

政志「おっ、来たな次世代の秋名のヒーロー!」

 

池谷「そんな……(笑)拓海に比べたら、まだまだですよ」

 

政志「おぉ??そんな弱気なこと言ってていいのかなぁ?秋名最速チームのリーダー!」

「それにしても、いよいよ今日だな!キミの相棒に新たな魂が宿るのは……一発でうまくエンジンがかかる保証はないがな、キミ次第だ」

 

S13のそばにはエンジンホイストが用意されている。

 

 

 

 

 

政志「流石に搭載作業は経験積んだ人じゃないとキツイからな、共同でやるぞ!これからやる感覚、よーく覚えておくんだぞ〜?」

 

池谷「わかりました!」

 

 

 

 

 

エンジンをホイストに掛け、釣り上げる。そしてボンネットフードの外されたS13の心臓部に、ゆっくりと降りていく……

 

 

 

 

 

政志「俺がホイスト少しずつ降ろすから、エンジンマウントの位置合わせを頼む!手を挟むんじゃねえぞ〜?」

 

池谷「わかりました!」

 

シャーシとエンジンは、エンジンマウントを介して遂に一体化した……!!

 

 

 

 

 

政志「さぁここまで来たらもう一息だ!配線類と配管類、駆動系を組み合わせて、完成だ!!」

 

 

 

 

 

「はい、これ」

 

政志が池谷にラジエーターを渡した。それは明らかにS13のそれとは異なっていた……!

 

池谷「政志さん……!!ありがとうございます!!」

 

政志「おう、正真正銘、R32スカイラインのラジエーターだぜ?」

 

 

 

 

 

 

まずはR32のラジエーターをS13取り付け、その冷却系ホースを繋ぐ。

そして後は、S13に付いていた通り元通りにする。エンジンコンピューター、インジェクターなどの配線類、コンデンサー、エアコンホースなどのエアコン類、エアクリーナー、インタークーラーなどの吸気系、エキマニとマフラーフロントパイプ、など。

 

 

 

 

 

配線配管類が終われば、最後にクラッチセンターにミッションのインプットシャフトを挿入して、エンジンブロックとミッションケースを一体化し、エンジンを乗せてあるだけのエンジンマウントをボルト・ナットで固定。

 

プラグコードを繋ぎ、バッテリーを接続する。

 

そしてこれが最後……エンジンオイルを入れる。

ターボ用の粘度10w-50、競技用のエンジンオイルだ。

 

 

池谷「………!!」

 

政志「ほい!完成っ!!」

 

 

池谷「これが………生まれ変わった……俺のS13……!!」

 

自分で補機類を、いわば前のエンジンの魂を吹き込み、搭載作業も手伝い、最後に車の血液ともいえるエンジンオイルを入れた池谷。その意味合いが、この後どれほど大きなものになるか……!!

 

 

政志「よし、じゃ火入れるか……さーて、一発でかかるかなぁ??」

 

池谷「俺が……キーを回すんですか……?」

 

政志「勿論さ。君がこのエンジンに魂を入れるんだ」

 

 

 

 

全身に緊張が走る池谷。プロのメカニックでも、最も手に汗握る瞬間。果たして無事エンジンに火は灯るのか……!?

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.11 S13、復活!!

エンジンの補機類換装、シャーシへの搭載作業を完了させ、遂にその時がやってきた。最初にキーをひねり、エンジンに火を入れるのは、S13の持ち主本人である池谷に託された。自ら魂を吹き込んだエンジンは、はたして無事に始動するのか……緊張の一瞬。


 

 

 

 

池谷「久しぶりだな……S13。お前のキーを見るのも久しぶりだ。頼む、一発で始動してくれ……!!」

 

 

 

\キューーッキュッキュッキュッキュッキュッ/

 

 

 

健二、政志「………」

 

その場にいる全員が固唾を呑む────

 

 

 

そして────

 

 

 

 

 

 

 

\ヴォオオオオンンンン/

 

 

池谷「よっしゃああああ!!!かかった〜!!(ただいま、俺のS13)」

 

 

 

 

 

無事、ブルーバードSSS-RのCA18を搭載した池谷のS13は、見事に息を吹き返し、その産声を上げた。

 

 

 

 

 

 

\トゥルットゥルットゥルットゥルッ/

 

 

 

 

 

 

オーバーホールしたわけではないので、アイドリングも初めからスムーズだ。もちろん様子見は必要だが、回転もスムーズなままなので理論上はいきなりぶん回しても問題ない。ましてや本格的なモータースポーツ用に組み上げられ、僅かながら実際にラリーでしごき回された極上エンジンなのだから……

 

 

 

エンジンもフルバランス取りされ、燃焼室の鏡面仕上げにシリンダーヘッドのエキゾーストポート研磨、インテークポートのディンプル加工、クランクシャフトの鏡面ラッピングも施されている、まさにお金ではなく手間がかけられたモータースポーツ用スペシャルエンジンだ。

 

(あとは機密の関係で言えないがクランクシャフトやコンロッドのオイル穴に特殊な加工を施し末端油圧を向上させることでスムーズな回転と耐久性を同時に得ている)

 

 

 

 

 

エンジンをしばらくアイドリングさせたあと、ブリッピングさせて回転を上げても異常が出ないかチェック。

 

……合格。これで、池谷のS13は、再び走り出せる……!!

 

 

 

 

 

政志「おーし、上出来じゃないか〜!さて、エンジンも無事に回ると判ったことだし、仕上げのボンネット付けるか」

 

池谷「はい!健二、重いからサポート頼む!ボルト止めは俺と政志さんでやる」

 

健二「おう、任しとけ!……ってこんなに重いんだなボンネットって」

 

池谷「後々カーボンボンネットなんか入れられたら最高だよなぁ……」

 

健二「フロントの動きがめちゃくちゃ軽くなるだろうなぁ」

 

 

 

 

 

ボンネットが付き、見た目は完全に元のS13シルビア、何ならライトが後期型になっているのでPS13型のそれになった。

 

池谷のニューS13、ここに爆誕した……!

 

 

 

 

 

\フォン……フォン……/

 

アクセルを軽くふかす池谷。

 

池谷「なんだこれ……めちゃくちゃ軽いぞ……このエンジン……!!」

 

 

 

 

 

池谷「それじゃあ、この辺グルっと回ってまたすぐ戻ってきます」

健二「おい池谷、俺も横に乗せてくれよ!」

池谷「いいぜ、乗れよ、俺のニューS13に」

 

 

 

 

政志「気をつけてな〜、治ったのにいきなり事故るなよ〜」

 

池谷「ゆっくり様子見するだけなんで、いつも通りですよ(笑)でも、安全第一でいきます」

 

政志「調子いいと思ったら、グルっと回るだけとは言わず国道に出て様子見ながらアクセル全開にしてみてもいいぜ?」

 

池谷「わかりました!それじゃあ、行ってきます!」

 

政志「おう、改めて気をつけてな!」

 

 

 

 

 

初めは細い路地をゆっくりと走る。だが、それだけで解る。前のエンジンとは比較にならないくらい、フィーリングが良い。

 

 

 

 

 

健二「どうだ?池谷」

 

池谷「どうだもへったくへもないよ、最高だよこのフィーリング……軽く流しただけで、全く違うよ」

 

健二「そんなエンジン載せられたなんて、羨ましいぜ!」

 

池谷「お前だって、エンジンSR20だろ?それで頑張ればいいじゃないか!(笑)」

 

健二「このこの〜!!」

 

 

 

 

 

 

そうこうしてる間に、国道17号線へ出た。

この道は殆どバイパス状になっており、信号も少ない。時間も時間なので車もまばらだ。

 

 

 

 

 

池谷「よし、じゃあまず様子見に、アクセル半開くらいで6000rpmくらい回すか……!」

 

健二「いよいよか……楽しみだなぁ……!!」

 

 

 

 

 

アクセルを踏み込む池谷。

 

 

 

 

 

\フォオオオオオオン/

 

池谷「!!なんだこれ!!すごく軽く回っていく……!!」

 

 

 

 

 

少し負荷をかけても異常が出ないことを確認。速度を落としたあと、いよいよアクセルを全開にする……!!

 

 

 

 

 

池谷「よし、いくぞS13!!」

 

健二「………!!」

 

 

 

 

\ファアアアアアアアン/ \プシュー/ \ファアアアアアアアン/

 

 

 

 

 

池谷「………!!なんだこれ!!どこまでも回っていきそうだよ!!」

 

健二「横に乗ってても解ったよ……すげえスムーズな加速だった……」

 

池谷「それに、アクセル戻すとエンジンブレーキが妙に弱い……相当エンジンがスムーズな証拠だよこりゃあ」

 

健二「これは楽しみだな!このままトラブルがなかったら、早速今週末、走りに行こうぜ!」

 

池谷「おう、もちろんだ!!楽しみにしとけよ〜?お前の180なんか、ぶっちぎりだからなぁ〜!!(もうお前のこと、絶対に壊さないからな……S13……!!)」

 

 

 

 

試走の後、トラブルは全く出ず、政志の工場へ戻った。

 

 

 

 

池谷「政志さん、めちゃくちゃいいエンジンでした!どこまでも伸びやかに加速するようなフィーリング、SSS-R専用のハイカム入ってるのに低回転でももたつかない絶妙なセッティング、全てが最高でした!こんなエンジン手に入れて下さって、本当にありがとうございました!!」

 

政志「いいってことよ!そこまで気に入ってくれたんなら、今後もとことん付き合うぜ?また用があったら頼ってくれ!」

「(こういう若者見てると、久々に俺も楽しめそうだな……じきに文太のハチロクのスペシャルエンジンも手に入りそうだしな……こりゃそれぞれどうなっていくか楽しみだ)」

 

 

 

 

 

池谷「ところで現実的な話なんですが……このエンジンの代金、どうすればいいですか……?」

 

 

政志「あぁ、それなら板金補修代ちょっと高めに取ってあるから、それで十分だぜ?キミが補機類の換装作業やったわけだし、このエンジンも、コネで半ばタダで手に入れたようなもんだからな、俺が本格的にやったのはエンジンホイストの作業の手伝いくらいだ」

 

 

 

池谷「本当に……それだけでいいんですか……?」

 

政志「いいってことよ、久々に楽しい仕事回してくれたからな、今後もよろしく頼むぜ?好青年!」

 

池谷「ありがとうございます!!」

 

 

 

 

政志「実は、この全日本ラリーでクラッシュしたSSS-Rのエンジン、ほっといたらエンジンごと廃車になってたところだったんだせ……?なんだかんだ、もうモータースポーツ用としては旧型だからなぁ、CA18は……」

 

 

「でもこれはこれでは最高のエンジンだって自信を持って言えるぜ?こんな施工されたエンジン、普通は手に入らないしな……SR20に排気量は劣るけど、鋳鉄ブロック(シリンダーブロック)だから、SR20には出せないフィーリングも持ってる。今後のこのS13の活躍、楽しみにしてるぜ?」

 

 

池谷「本当にありがとうございます!一生このS13、大事にします!!」

 

 

 

 

 

 

S13の復活に歓喜すると同時に、あまりのニューエンジンのフィーリングに衝撃を受けた池谷。果たして今週末の秋名山での走り、どうなるのであろうか……!?

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.12 ニューS13、シェイクダウン!

見事な復活を果たし、少し流しただけで解るほど最高のフィーリングを得た池谷のS13。政志の手によって完璧に修復されたそのマシンは、神々しいほどのオーラを放ち、池谷を惚れ惚れさせる。そして魂を込めた真意が、遂に復活後初の週末の秋名山で発揮されることになる……!!


 

 

 

 

 

〜週末 秋名山山頂 午後9:00頃〜

 

 

 

 

 

健二の180と共に、秋名山を登っていく池谷のS13。普通に走っているだけでそのフィーリングに惚れ惚れする池谷。

 

今日は樹、拓海も連れてきている。樹は先輩たちと絡みたくて、拓海は池谷がある頼み事をお願いしたくて、共に連れてきていた。そうこうしてる間に、頂上に着いた。

 

 

 

 

 

健二「はぁーーー!やっと秋名山でお披露目だぜ、池谷のS13」

 

池谷「ようやく生まれ変わった俺のS13が、本格的にシェイクダウンだ……!」

 

樹「楽しみっすよぉ!!池谷先輩の、生まれ変わったS13の走り!!」

 

拓海「……なんで……俺まで……?」

 

 

 

 

 

 

頂上で軽く談笑した後、いよいよ健二の180と、池谷のS13が走り出す……!

 

 

 

 

 

健二「さぁ行くぞ池谷!SR20の底力、今一度見ておけよ!?」

 

池谷「ふっ、どうかな……俺のS13、前とは全く違うぜ……?そんな大口叩いて、大丈夫なのか……?」

 

 

 

 

別にバトルするわけではないが、共にランデブー走行をする。もちろん腕や性能が劣っていると、離されたり煽られたりする。

 

助手席には、樹が池谷のS13に、拓海が健二の180に乗ることになった。

 

 

 

 

\フォンーーフォンーーーー………フォオーーーーーー/

 

 

 

 

 

ゆっくりとクラッチを繋ぎ、走り始める両者。

 

池谷が先行、健二が後追いする形だ。

 

そして、アクセル全開……!!

 

 

 

 

\フォーーーーーーーン/\プシュー/\フォーーーーーーーン/

 

池谷のS13は、最初のストレートの加速で、健二に追いつかれるどころかむしろ少し突き放している。こんなことは今までにはなかった。

 

 

 

 

健二「どうなってんだよ池谷!?本当に凄いぞ?お前のS13」

 

池谷「凄いよS13、なんてスムーズな加速なんだ……!!」

 

 

 

 

1コーナーである中速コーナーに差し掛かる。もちろんブレーキは何も弄っていないので、ここのフィーリングは変わらない……はずだった………

 

 

池谷「ヤバい……いつもよりスピードが乗ってる上に、エンジンかスムーズすぎてエンブレが弱い…………ヤバい……間に合わない……!!」

 

 

樹「ヤバいっすよ池谷先輩!!明らかにオーバースピードっすよ!?」

 

池谷「くっ……ヤバい……!!いや、絶対にクラッシュなんかさせない……!!」

 

店長や政志の言っていた、『自らの手で愛車に魂を入れる』真価が、このような限界領域において遂に発揮される……!!

 

 

 

 

 

後方の、健二擁する180。

 

健二「おい池谷、いくらなんでも突っ込み過ぎじゃないか?お前にそのスピードで突っ込めるのか??」

 

拓海「そんなに速いっすか?流して走ってるようにしか見えないっすよ……」

 

健二「おいおい、本気か拓海!?(本当にすごいな拓海……これで流してるって……)」

 

 

 

 

 

池谷は、いつもより速いスピードで1コーナーに進入した。しかし、ここでフィーリングの違いが効果を発揮する……!!

 

 

 

 

池谷「行っけぇ!!俺のS13!!」

 

\ギャアアアアア/ \フォン フォン/

 

池谷「!?……なんだ、これは……!?突っ込める……!!こんなフィーリング、初めてだよ……俺にこんな走りが、出来たのか……!?」

 

樹「すごいっすよ池谷先輩!!あのオーバースピードでコーナー曲がりきるなんて、流石っすよ!!」

 

 

 

 

 

池谷のS13のフロントフェンダーには、池谷の要望通り、事故の後遺症の帳消しを兼ねて、サイドブレースバー、つまりフロントフェンダーの剛性アップのパーツが付いてあるわけだが、それがステアリング操作のダイレクト感を生み出している。

 

 

しかし、それだけではない……実は政志が、秋名のハチロクを手掛けたノウハウとして、こっそりS13の足まわりのチューニングを、少し変更していたのだった……!!

 

 

 

 

 

\フォン フォン フォアァァーーーーーー/

 

池谷「!!……抜けた!!あのスピードで、1コーナーを……!!」

 

 

健二「やりやがった……池谷……あの突っ込みをコントロールしやがった……あいつ、密かに練習なんかしてなかったよなぁ……?」

 

 

 

 

偶然ながら、政志の秋名スペシャルのチューニングの神髄を、知らず知らずのうちに感じた池谷。この後も順調に峠を下っていき、徐々に健二の180を突き放していく……

 

 

 

 

健二「ダメだよ……追いつけない……アイツ人が変わったみたいに速くなりやがった……エンジンが生まれ変わるだけで、こうも走りが変わるもんなのか……?」

 

拓海「(この人達、これ本気で走ってるのか……?これが普通の人の感覚なのか……?)」

「健二先輩の走り……怖いっす」(下手であるため)

 

 

 

 

途中でUターンし、再び頂上に戻る。

 

 

 

 

健二「なんだよ池谷〜!!お前のS13があんなに速くなるなんて、思いもしなかったぜ〜!!」

 

池谷「確かに俺のS13は速くなった……でも、それだけじゃない気がするんだ……すげえ乗りやすいっていうか……コントロールできるんだよ……フェンダーに剛性アップのパーツ付けてもらったのもあるかもしれないけど……俺の腕も、S13と共に一皮剥けたような気分だよ……」

 

 

 

 

樹「凄かったっすよ〜さっきの池谷先輩の走り!まるで別人でしたよ!でも不思議といつもより構えなくてよかったんっすよね〜。エンジンもスムーズなのはなんとなく俺でもわかるんっすけど、なんかコーナーもスムーズっていうか」

 

拓海「(ううっ………怖かったぁ〜!!………でも池谷先輩の走り、なんとなく前と違う………怖くなさそうだった)」

 

 

 

 

 

そして、池谷は拓海に本題を切り出す。

 

池谷「拓海、折り入って頼みがある……」

 

拓海「どうしたんですか……?あらたまって」

 

池谷「俺のS13、拓海の運転で、一回俺を横に乗せて走ってくれないか……?」

 

拓海「うーん……俺、ハチロク以外運転したことないから……自信ないっすよ……あんま速くないと思うんで、横に乗っても意味ないと思いますよ……」

 

池谷「それでもいい、そこをなんとか頼む、拓海……!!」

 

拓海「そこまで言うなら……わかりました池谷先輩。でも、ペース落として走りますよ……何にも参考にならないと思いますけど……とりあえず流して走ってみますね」

 

池谷「ありがとう、拓海、恩に着るぜ」

 

 

 

 

 

いよいよ拓海の手によりニューS13が走らされることになった。助手席には池谷が乗る。果たして池谷は、拓海から何かを得ることができるのだろうか……!?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.13 シンクロするS13とハチロク

池谷と健二は、遂に秋名のダウンヒルを走り始めた。しかし健二のSR20搭載の180をもってしても、ニューS13と一皮剥けた池谷に離されてしまう。一本走り終え、池谷は拓海にS13に自身を助手席に乗せて走ってほしいと頼み込む。しぶる拓海だったが、拓海はなんとなく乗ったS13から妙なフィーリングを感じ取った……!!


 

 

 

 

 

池谷「ありがとう、拓海、それじゃあ頼むぜ」

 

拓海「はい。ハチロクとは全然違う車で走らせ方も違うと思うんで、本当に流して走りますよ」

 

 

 

 

健二「拓海、俺たちも付いて行っていいか?拓海が走らせるS13の走り、後ろからこの目で確かめたいんだ」

 

樹「俺にも見せてくれよ拓海ィ!池谷先輩に、格の違いを見せつけてやってくれ〜!!」

 

拓海「樹……だから流して走るだけだって……」

 

 

 

 

しかし、この後予想外の展開を見せる。

 

特に、拓海にとって……

 

 

 

 

拓海「それじゃあ行きますよ、池谷先輩」

 

池谷「よし、頼むぞ拓海!」

 

 

 

 

 

\フォーーーーー/

 

S13のクラッチを繋ぐ拓海。そして発進した。

 

拓海「少し重いんですね……池谷先輩の車のクラッチ」

 

池谷「そりゃあそうさ、拓海のハチロクよりパワーのある車だからな……何せターボがついてるからな」

 

拓海「ターボ……?何のことか、よくわからないですけど、とりあえず行きますね」

 

 

 

 

\フォアァァァーーーー/\プシュー/\フォアァァァーーー/

 

アクセルを全開にして『流し』始める拓海。

 

 

 

 

拓海「なんっすか?いまの『プシュー』って音……」

 

池谷「あぁ、お前ターボ車乗るの初めてだもんな……ターボにはブローオフバルブっていって、圧縮した空気を適度に逃がす装置が付いてるんだ」

 

拓海「そうなんですか……(やべ〜、さっぱりわかんねえ)」

 

 

 

 

メカには疎い拓海。

 

しかし、1コーナーに進入するとき、メカの疎さとは裏腹に、S13でとんでもない動きを見せつせる……!!

 

 

 

 

池谷「おっ、おい、拓海!!ブレーキ壊れたわけじゃないよな!?」

 

拓海「先輩、いつもこんな手前でブレーキ踏んでるんですか……?」

 

 

 

 

 

余裕の顔をする拓海。

 

そして遂に1コーナー直前で一気にブレーキング……!!

 

見事な荷重移動でS13をスライドさせる。

 

 

 

 

 

池谷「くっ……この前もこれだった……でも『流すだけ』って言ってただけあって少しはマシか……っ!!」

 

拓海「(ん………?妙だ……おんなじだ、この感覚)」

 

 

 

 

何かに気づく拓海。そう、このS13、足回りに政志が密かに手を入れた。ハチロクと同じ秋名スペシャルだ。そのため、文太のハチロクとコーナリングのフィーリングがソックリなのは、当然のことなのだ。

 

 

 

 

拓海「なんか、妙ですね……違う車だから、全く違う動きするのかと思ってましたけど、今のコーナー、ハチロクよりちょっと重い感じがするだけで、あとはほぼ同じ感覚でした。(車って、基本的には同じ動きをするもんなのか……?)」

 

池谷「そう……なのか……?(そんなものなのか?凄いな拓海……速さだけじゃなくて、適応力まで持ち合わせてたのか)」

 

 

 

 

互いに混乱しながらも、拓海はそのフィーリングに妙にしっくりくる感覚を覚える。

 

 

 

 

拓海「池谷先輩……流すって言いましたけど、こんなにハチロクと同じように走れるとは思いませんでした……いつも通りに走れそうですけど、どうします……?」

 

池谷「(また失神は嫌だからなぁ……でも、一度見てみたい……コイツの、俺のS13の限界を……!!)それじゃあ、この先のヘアピンだけ、本気で頼む!後は流して走ってくれ!」

 

拓海「わかりました。ヘアピンだけハチロクと同じようにやってみますね」

 

 

 

 

そして幾つかの中高速コーナーを抜け、遂に最初のヘアピンに突入する……!!

 

池谷「うわぁああああ!!ぶつかるーー!!俺のニューS13がいきなり廃車かぁあああああ!!!」

 

拓海「………?」

 

 

 

 

 

いつものハチロクと同じ感じで、ギリギリまで詰めて一気にフルブレーキングし、スライドさせながらコーナーに突入する。

 

 

 

 

 

\シャアアアアアア/\キコキコキコ/

 

\フォン……フォン……フォオオオオオオ/

 

 

 

 

池谷「くっ………そうさ……この前もこの感覚だった………でも次こそは……!!」

 

 

 

 

\フォアアァァァァァ/

 

拓海と池谷が乗るS13は、見事なブレーキングドリフトを決めてヘアピンをクリアした。

 

 

 

 

池谷「マジ……かよ……拓海……」

 

拓海「凄いっすよ池谷先輩……」

 

池谷「どうした?このS13の性能、そんなに凄いのか……?」

 

 

 

 

 

拓海「ハチロクと全く同じ感覚でドリフトできました」

 

池谷「(ガクッ)そっ、そっちかよ……でも、拓海にとっては、あれが普通の走りなのか……?」

 

拓海「はい……そうですよ。ハチロクならやろうと思えばもっと突っ込めますよ」

 

池谷「マジかよ……(俺のS13、あんな動きができるのか……!!)」

 

 

 

 

 

後ろを走る健二と樹。

 

健二「見たか樹……すげぇ突っ込みだったな……1コーナーでもう置いてかれちまったよ……あんなに早えのか……池谷のS13……俺の180もあれだけいけるのか?」

 

樹「あれが拓海の走りっ!!くぅーーー!!最高だぜ拓海ィ!!さっきの池谷先輩の走りとは、大違いだぜーー!!」

 

健二「全くだよ……」

 

 

 

 

一方S13の方では

 

池谷「(凄い……凄すぎて何がどうなってるのかわからない……!!)」

 

拓海「………(すげぇ……まるで少し大きくてパワーのあるハチロクだ……)」

 

全く違うことを考えながら、隣同士走る二人。

 

 

 

 

 

拓海は、『流す』と言っていた言葉を忘れ、知らず知らずのうちにいつものハチロクと同じ走りに切り替わっていた。

 

 

 

 

 

池谷「(怖い……だけど、これは俺のS13、それに、あの高橋啓介を破った拓海が運転してるんだ……絶対大丈夫だって信じるしかない……!!)」

 

 

 

 

\シャアアアアア/

 

\キコキコキコキコ/

 

 

 

 

いつも通りに走る拓海。だが池谷は、意識を変えた瞬間、吸収能力が格段に変わった………!!

 

 

 

 

 

池谷「……くっ!!……そうか、ここでブレーキング……荷重移動させて車体を横に向けて、同時にカウンターを当てて………」

 

「アクセルを軽くポンピングさせてリアに荷重を乗せてトラクションを掛ける姿勢に入って…………ここだ!!」

 

\フォアアアーーーー/

 

 

 

 

池谷のイメージと、拓海のドライビングが、ピタリと一致した。

 

 

 

 

 

結局、ふもとまで降りたS13。約2分遅れで、健二たちも到着する。駐車場で降りて少し談笑する。

 

 

 

 

 

池谷「今回は気絶しなかったぞ〜!?」

 

健二「威張ることじゃないだろ?(笑)でも、拓海の運転ならうなずけるよ……1コーナーだけであんなに置いてかれたもんな……」

 

樹「そうだぞ拓海ィ!!お前凄すぎるよォ!!」

 

 

 

 

拓海「そんなに凄いんですか?俺の運転が」

 

池谷「凄いもなにも、それを遥かに超越してるよ……拓海の運転は……常軌を逸してるぜ……いいモノ見せてもらったよ拓海……(はぁ……つかれたぁ〜)」

 

拓海「そう……ですか……」

 

 

 

 

 

拓海「それにしても、妙に不思議だったんですよ。ハチロクと全く同じ感覚でした。最後は完全にいつものハチロクだと錯覚してましたよ」

 

健二「それで気絶しなかったんだから、池谷も大成長だな!」

 

池谷「こら健二、バカにするな!!(笑)お前も拓海の助手席に乗せてやるからなぁ〜!?」

 

健二「ひぃ〜!!」

 

樹「いい機会なんっすから、健二先輩もどうっすか?いい経験になると思いますよ」

 

健二「それなら樹もっ!!」

 

樹「俺はむしろ、体感してみたいっすよォ!!拓海のスーパーダウンヒル!!」

 

 

 

 

 

 

拓海の運転で同乗走行をする話をしてる間に、ふと池谷にある提案が思い浮かぶ。この提案が、今後のスピードスターズの明暗を、大きく分けることになる。果たしてその提案とは……!?

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.14 池谷の提案

拓海の運転でS13の走りを体感した池谷。池谷、拓海、両者ともに貴重な経験となった。そして池谷は、談笑で同乗走行の話をしている間に、とある提案が思い浮かんだ。それを拓海に提案する……!!


 

 

 

 

池谷「なぁ、拓海」

 

拓海「何ですか?池谷先輩」

 

 

 

 

池谷は提案を切り出す。

 

 

 

 

池谷「拓海は毎日、ハチロクで豆腐の配達やってるのか?」

 

拓海「はい、そうですよ」

 

池谷「今回、S13で拓海の運転の横に乗って思ったんだ……ずっとこの走りを横で経験していけば、拓海の感覚が少しでも身についていくんじゃないかって」

 

 

 

 

 

池谷「頼む拓海!豆腐の配達に、俺を付き合わせてくれないか……!?」

 

拓海「俺は全然構わないっすけど……オヤジが許してくれるかどうか……それに、すげー朝早いですよ」

 

池谷「何時くらいなんだ?」

 

拓海「朝4時くらいっすかねぇ」

 

池谷「(早っ……でもそんなこと気にしてる場合じゃない……もっと速くなりたい……!!)大丈夫だ拓海!親父さんの許可さえ取れれば拓海はOKなんだろ?それなら、俺から直々に親父さんに話つけてみるよ」

 

拓海「わかりました……どうせ俺が言ったって素直にうんっていう人じゃないし……池谷先輩に任せます。それで許可が取れれば、朝4時にうちに来てください。横、乗せていくんで」

 

池谷「わかった!親父さんに、頼み込んでみるよ!」

 

拓海「(あのクソオヤジ、池谷先輩のお願い、素直に聞いてくれるかなぁ?)」

 

 

 

 

 

池谷「それじゃあ、また上まで登るとするか!拓海の運転のフィーリング、忘れないうちに俺も走り込みしないと」

 

 

 

 

 

池谷「なぁ拓海、拓海は上りも全開で走ったことあるのか?」

 

拓海「いえ、上りは豆腐積んでるから飛ばさないですよ……でも、豆腐傷めないように、紙コップに水入れて、それをこぼさないように走ってます」

 

池谷「本当か!?それ!?(すごい荷重移動テクニックだ……常人にはできない……そりゃあんなに凄いわけだよ)」

 

 

 

 

 

池谷「それは、もちろんゆっくり走るんだよな?」

 

拓海「そうですね、軽いドリフトくらいに抑えてます」

 

池谷・健二・樹「………!?」

 

健二「軽い……ドリフトだとォ……!?」

 

 

 

 

 

池谷「拓海、もう一度聞くぞ?紙コップの水をこぼさずに、軽くドリフトする走りをしてるんだよな?」

 

拓海「はい、そうですよ」

 

 

 

 

池谷「………!!」

 

あまりの拓海のテクニックの凄さに、場は凍りついた。

 

 

 

 

 

池谷「拓海、いつも通りでいいから、上りの走りも俺に見せてくれないか?」

 

拓海「いいですけど……そんなもの見てどうするんですか?」

 

池谷「拓海、お前は気付いてないかもしれないけど、紙コップの水をこぼさずに走るなんて、普通の人なら峠はおろか一般道でも至難の業なんだ……だからその繊細な走りを見て、参考にしたいんだ、頼む!」

 

拓海「わかりました……」

 

 

 

 

 

再び下りと同じ組み合わせの、拓海・池谷のS13、健二・樹の180で、秋名の峠を登っていく……!!

 

池谷「(さぁ見せてくれ拓海……この峠でコップの水を溢さずにドリフトまでする繊細な走りを……!!)」

 

しかし、それは池谷の想像を遥かに超えていた……!!

 

 

 

 

 

\フォオオオーーーーー/

 

登り始めるS13。

 

 

 

 

 

拓海「池谷先輩」

 

池谷「何だ、拓海」

 

 

 

 

 

拓海「パワーありますね、この車」

 

池谷「そりゃそうさ、俺のS13は、ターボエンジンだぜ?ハチロクはテンロク、つまりエンジンが1600cc、俺のS13は1800ccで、そんなに差はない。だけど、ターボがついてると、これだけパワーが上がるんだ」

 

拓海「そうなんですね……(そうか……これがターボってやつなのか……)」

 

 

 

 

序盤の中低速コーナーの区間を抜け、最初のストレートに突入する……!!

 

 

 

 

池谷「豆腐乗ってないから、一回全開で踏んでみてくれ!」

 

拓海「わかりました」

 

 

 

 

 

\フォアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアア/

 

 

 

 

 

全開で登っていく拓海とS13。

 

拓海「(すげえ……感じたことないや……上りでこんなスピード……)」

 

ハチロクとは比べ物にならない上りでの加速に、少し驚く拓海。しかしそこは拓海。心配には及ばない。

 

 

 

 

 

池谷「おい拓海!この先ヘアピンだぞ!?ハチロクよりスピード乗ってるんだぞ!?大丈夫なのか!?」

 

拓海「大丈夫ですよ、今度こそ流してるんで」

 

 

 

 

 

今度はショックのない繊細なブレーキング、その後に穏やかなステアリング操作。適切な荷重移動で、体に負荷を感じない。だが車体は軽くスライドしている。池谷にとっては初めての不思議な感覚だった。

 

 

 

 

池谷「(凄い……全く怖くないドリフト……なんてスムーズな操作だ……とてつもない熟練技だ……これは紙コップの水がこぼれないのもうなずけるよ)」

 

 

 

 

この後も同じように順調にコーナーを抜けていき、5連ヘアピン近くに差し掛かった。

 

 

 

 

 

池谷「なぁ拓海、上りでは一回も飛ばしたことないのか……?」

 

拓海「…………ないですね、言われてみれば」

 

 

 

 

 

いつも上りは豆腐を積んでいて、それ以外では秋名を走る機会などなかったので、当然のことだった。

 

 

 

 

 

池谷「一回見せてほしいんだ……上りでも下りみたいに速く走れるのか」

 

拓海「上りで飛ばすのは確かに初めてですけど、コースは覚えてるんで、多分大丈夫ですよ。やってみます」

 

 

 

 

5連ヘアピン手前のヘアピンから、飛ばし始める拓海。

 

 

 

 

 

池谷「うわぁああああ!!!」

 

\シャアアアアア/

 

 

 

 

初めての上りの走りでも、全く問題なく乗りこなす拓海。

 

ハチロクよりパワーがあるので、むしろ上りではこちらのほうが乗りやすいようだ。

 

 

 

 

拓海「池谷先輩」

 

池谷「……なんだ、拓海」

 

 

 

 

拓海「乗りやすいですよ、この車」

 

池谷「本当か?拓海!」

 

拓海「はい……上りでもパワーあるんで、下りと同じような感覚で走れます。ブレーキの感じとかは少し変わりますけど」 

 

池谷「(凄いよ拓海……これが秋名山トップダウンヒラーのヒルクライムか)」

 

 

 

 

 

貴重な体験をする池谷だった。

 

5連ヘアピンも過ぎ、そのまま順調に走っていき頂上まで到着した。

 

気付けば池谷も全く怖がることはなくなっていた。特に後半は、拓海の走りに順応できていた。

 

 

 

 

 

約3分遅れで到着する180の健二と樹。

 

健二「ダメだ……全然追いつけないよ……凄えな拓海は……上りでもめちゃくちゃ速えよ……」

 

樹「もう何やってるんすか健二先輩!!向こうは紙コップの水をこぼさないくらい流して走ってたんっすよ!!」

 

健二「そうなんだよなぁ……格の違いを思い知らされたよ……全く凄いよ、拓海は」

 

 

 

 

上りでの拓海の走りも体感した池谷。感覚を忘れないうちに、この後池谷は自らのS13で走り込みに挑戦する……!!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.15 池谷の覚醒

上りで紙コップの水をこぼさないドリフトの走りを、自らの愛車S13で感じた池谷。あまりのレベルの違いに驚くと同時に、S13でも拓海とハチロクと同じような走りができることに気付く。その感覚を忘れないうちに、秋名山の走り込みを開始する池谷だった……!!


 

 

 

 

池谷「今日は本当にありがとう、拓海」

 

拓海「いえ、問題ありませんよ。こちらこそ、初めて違う車運転させてもらって、貴重な経験になりました」

 

 

 

 

 

お互いに良い経験となったようだ。

 

さて、ここからが本番。いよいよ池谷が自ら、S13をドライブする。

 

池谷と拓海、運転席と助手席を入れ替わる。

 

拓海による本格レクチャーを受けられると考えてのことだ。

 

 

 

 

 

少し前、拓海は池谷の運転が怖かった。それは、ブレーキングやステアリング操作、アクセルワークがちぐはぐで、あまりにもヘタクソだったからだ。

 

しかし、今回は違う。拓海の横に乗った直後、それに政志による秋名スペシャルの隠しチューニング……今回は拓海にもアドバイスの余地がある。それほどまでには池谷は上達している。

 

そしてそれを、同じく180で健二と樹が追う。

 

 

 

 

 

池谷「よし!気合い入れていくぞぉ!!でも絶対にクラッシュなんかさせないからな……!」

 

拓海「あんまり……無理しないでくださいよ……(怖かったからなぁ〜、この前は)」

 

 

 

 

 

\フォン フォン/\フォオォォォォ/

 

クラッチを繋ぎ、発進する池谷。

 

そしていよいよ、先程と同じようにアクセルを全開にする……!!

 

 

 

 

 

\フォアァァァァァァ/\プシュー/\フォアァァァァァァ/

 

「(最高だよ……このフィーリング……いつまでも感じていたい………)」

 

相変わらずニューCA18のフィーリングに感動する池谷。

 

しかし、そんなこともつかの間、いよいよ中高速の1コーナーに突入する……!!

 

 

 

 

 

池谷「(よし……ここだ……!!)」

 

\フォンンーーーー/\フォンンーーーー/

 

 

 

 

 

ブレーキングしながらヒールアンドトゥをしてシフトダウン。

 

前までの池谷では考えられないほどのレイトブレーキングだ……!!

 

しかし、拓海の感覚に慣れきった今、それをレイトブレーキングとは感じない。これが同乗走行直後に練習をする最大の強みだ。

 

 

 

 

 

\シャアアアアアア/

 

 

 

 

 

コーナー手前からスライドを始め、1コーナーに進入する。

 

今までの池谷では考えられない走りだ。

 

 

 

 

 

\フォン フォン フォオーーーーー/

 

適度なカウンターステアをあてながら、アクセルを軽くポンピングさせてリアに適度に荷重を載せてスライドを安定させた後、パーシャルスロットルで安定姿勢に入る。

 

 

 

 

 

池谷「………!!(よし、ここだ!!)」

 

\フォアアァァァァァーーー/

 

 

 

 

 

見事なタイミングでアクセルを開け、コーナー終了手前で立ち上がり姿勢に入る。

 

そしてアクセル全開、次のストレートへと入った。

 

 

 

 

 

拓海「今の……そこそこ良かったですよ……」

 

池谷「本当か?拓海」

 

拓海「はい……そりゃ、俺に比べたら少しブレーキングが手前だったり、曲がる速度もゆっくりだったりしましたけど……全然怖くなかったです、まだ練習途中だった頃の俺にくらいにはなってますよ」

 

池谷「(やっぱりこれで良かったんだ……方向性は間違ってない……!!)」

 

 

 

 

 

次のコーナーの前に、つかの間の歓喜に浸る池谷。

 

そしてまた次の中高速コーナー。

 

 

 

 

 

\シャアアアアア/

 

再びコーナー手前でS13の姿勢を変える池谷。

 

拓海のドライビングによる車の動きが、身体に染み付いているようだ。

 

 

 

 

 

そしていよいよ、第一ヘアピン……!!

 

池谷「(よっしゃあ!ここで本領発揮だ……!!)」

 

 

 

 

 

今までとは明らかに違う車の動きを見せた。

 

ブレーキングポイントは明らかに奥になっている。

 

荷重を乗せたり抜いたりするのとステアリングの操作のタイミングがピタリと合っている。

 

自由自在とまではいかないが、その素質を見せるようなドライビングだ。

 

 

 

 

 

\キューーーキコキコキコキコ/

 

\フォン フォン フォオオオォォォォォォ/

 

池谷「………!!」

 

 

 

 

 

池谷は、難所の一つである秋名の下りの第一ヘアピンを、見事なブレーキングドリフトで抜けてみせた……!!

 

もちろん、サイドブレーキなど使っていない。純粋なブレーキングドリフトだ。

 

 

 

 

 

拓海「池谷先輩、すごく上達したと思いますよ」

 

池谷「やっぱり、そうなのか……自分でも信じられないんだ……下りと上り一本ずつ、拓海の横に乗らせてもらっただけで、こんなに感覚が身につくとは思わなかったよ」

 

拓海「役に立ったんなら……良かったです」

 

 

 

 

 

この調子で、下りの秋名を攻めていく池谷。

 

一方、180擁する健二と、横に乗る樹は……

 

 

 

 

 

健二「池谷……本当に人が変わりやがったぜ……まるで拓海が走ってるみてぇじゃねぇか!」

 

樹「すげーっすよ池谷先輩!!それに比べて、なにやってるんっすか健二先輩!!」

 

健二「いやあんな技いきなりムリだよ……」

 

 

 

 

 

樹「池谷先輩にできるんだったら、健二先輩にもできるようになるっすよぉ!!」

 

健二「本当かなぁ……今度本当に、池谷が言ってた通り、拓海の運転、横乗りさせてもらおうかな……?」

 

樹「絶対その方がいいっすよぉ!!なんたって、拓海のスーパーダウンヒルっすよぉ!?」

 

健二「そうだな……考えてみるよ……」

 

 

 

 

 





と、この調子で下っていく、池谷のS13と健二の180。

しかしこの後、ハチロクじゃない故に起こる下りでのマシンの変化が、両者のマシンに現れることになる……これが池谷のS13を、後々ダウンヒルスペシャルとしての性格も併せ持つ、超オールラウンドマシンとして仕上がるきっかけになるとは……誰も予想だにしなかった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.16 S13の伸び代(前編)

拓海の運転によるS13の同乗走行の直後、走り込みに入った池谷。後ろの健二は全くついて行けないほどに、池谷のドラテクは向上していた。拓海のドライビングの感覚を忘れないうちに走り込みに移り、そこそこなダウンヒルの走りができるようになっていたが、ハチロクには出ない症状が、S13に出始める……


 

 

 

池谷「気のせい……じゃないよな……?」

 

拓海「どうしたんですか、池谷先輩」

 

池谷「俺のS13、さっきよりブレーキの効きが甘くなってる気がするんだ……それに、フロントタイヤの食いつきも悪くなってる」

 

 

 

 

 

そう、ハチロクは小型軽量でそこまでパワーもないため、タイヤに大きな負荷はかからない。そのため、ダウンヒルの肝となるブレーキにも優しい。

 

しかし、S13シルビアは、K's前期型でハチロクより200kg程度重い。この差はダウンヒルにとって致命的だ。

 

そしてシルビアはフロントエンジンであり、ややフロントヘビー気味だ。それがより一層、フロントブレーキとタイヤへの負荷を増強させてしまっていたのだ……

 

 

 

 

 

池谷「だめだ……思うようにコントロールできない……」

 

走りに冴えがなくなってきた池谷とS13。

 

 

 

 

更に、追い打ちをかけるように症状は目に見えて現れ始める……

 

 

 

 

 

池谷「何だこの臭い……プラスチックの焼けたような臭い……もしかして、ブレーキに何か異常か……!?」

 

拓海「そんなに車の調子、悪くなってきてるんですか?」

 

池谷「ああ、そうだ……ブレーキとタイヤ、少し休ませないとダメだ……このまま走り続けたら危ない……」

 

拓海「そういうもんなんですね……」

 

 

 

 

 

ハチロクでしか秋名を走ったことのない拓海には初めての経験だった。

 

池谷「とりあえず、一旦展望台のところで車を止めよう、外から様子を見た方がいい」

 

拓海「わかりました」

 

 

 

 

 

一方健二の方も……

 

樹「そういや健二先輩、さっきから変な臭いしますよ」

 

健二「そういやなんとなく……言われてみればブレーキの効きがさっきからおかしいような……?」

 

樹「この先展望台のところで、車の様子見たほうがいいんじゃないっすか〜?」

 

健二「そうだな……もしものためだ、そうするか」

 

 

 

 

 

こちらもブレーキが限界のようだ。

 

しかし、タイヤには来ていない。これほど池谷との間にスピードレンジの差が現れているということだ。

 

 

 

 

 

スケートリンク入り口のある長い全開区間のすぐ先には、温泉街が見渡せる展望台がある。そこに数台車が止められるようになっている。

 

そこで、思わぬ人物と遭遇する……!!

 

 

 

 

 

???「お前ら、よく頑張ってるじゃないか」

 

池谷「!!てっ、店長!!」

 

走り込んでいるときはドライビングに集中していて気付かなかったが、店長が密かに愛車のビスタで、展望台に涼みがてら池谷たちの様子を見に来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

店長「おいおい、すごいブレーキパッドの臭いじゃないか……相当攻め込んだなぁこりゃ」

 

池谷「なるほど……これは、ブレーキパッドの臭いだったんですね……」

 

池谷の読みは半ば当たっていた。

ブレーキがあまりにも加熱し、軽くフェード現象を起こしていたのだ。

 

 

 

 

 

ブレーキパッドが高温になるとガスが噴出し、そのガスがブレーキローターとの摩擦を阻害してしまう。それによりブレーキの効きが甘くなるのだ。この臭いは、そのガスによるものだ。

 

更にこのまま走り続けると、その熱でブレーキフルードに気泡が入り、ブレーキが全く効かなくなるべーパロック現象を引き起こす為、非常に危険だ。池谷の判断は正解だったのだ。

 

 

 

 

 

そして、正しい判断をした男二人組がもう一組……

 

樹「あっ!あの展望台のとこ……あれ、池谷先輩のS13じゃないっすか〜?」

 

健二「ほんとだ……まさか池谷も……!?」

 

 

 

 

 

店長「おっ、池谷の恋人がお出迎えだなぁ?」

 

池谷「ちょっ、店長!!(まさか、健二も同じことになってるんじゃないだろうな……?)」

 

S13の隣に停車する180と健二・樹。

 

 

 

 

 

店長「おう、お前らも同じだな?この臭い」

 

樹「てっ、店長!!来てたんですかぁ!?」

 

健二「まさか、池谷もブレーキが……?」

 

池谷「そうさ……ブレーキパッドが限界なんだってさ……それに、フロントタイヤも少しタレてるみたいだ」

 

 

 

 

店長・健二「なに!?フロントタイヤがタレる……!?」

 

 

 

 

店長「おい池谷、本当か、それは」

 

池谷「はい……こんなに攻め込んだの、初めてなもんで……」

 

店長「よく聞けよ池谷……フロントタイヤがタレるなんて、相当上手いやつに起こる現象だぞ!?それがお前の車にかぁ!?」

 

池谷「そうなんですか……?」

 

店長「ちょっと待て池谷、確か俺の車にエアゲージがあったはずだ……」

 

 

 

 

さすがはGSの店長、メンテナンスには抜かりがない。

 

 

 

 

すかさずタイヤの様子を見る。トレッド面はアツアツのお茶を入れた湯呑みくらいの熱さになっている。そしてタイヤの空気圧をチェックする。普段は適正空気圧の2.0(200kPa)にしてあるが、今ゲージが示している値は、なんと2.5(250kPa)にまで上昇していた……!!

 

 

 

 

 

店長「あのな池谷、タイヤの温度が上がると、それに応じて空気圧も上がるんだ……本気で下るときは、適正空気圧じゃダメなんだ」

 

 

 

 

 

なんとも耳寄りな情報を聞いた池谷達。

 

店長「(まぁ、昔バリバリやってた時、政志に指摘されたことなんだけどな……)」

 

 

 

 

 

店長「そして、適正空気圧が、一番速いとは限らない……一番速い空気圧は、サスペンションのセッティング、なんならタイヤの銘柄によっても変わる……走り込むのと同時に、一番速くて自分のフィーリングに合う空気圧を見つけてみたらどうだ……?」

 

 

 

 

池谷「なるほど……それは良いアイデアです!空気圧のセッティングなんて、なんにもチューニングしてない車にもできるセッティングですもんね」

 

店長「池谷、良いところに気がついたな……でも、ブレーキがここまで悲鳴上げてるとなぁ……すぐにそれは出来なさそうだな、ブレーキ冷えるまで相当時間かかりそうだぞこりゃあ」

 

 

 

 

 

店長「それまでにタイヤも冷えて空気圧が元に戻っちまう。今のタイヤがアツアツのうちに適正空気圧にしてみて、タイヤが冷めたらどれくらいまで空気圧が下がるか、その差を見て見るといいぞ?」

 

池谷「わかりました!」

 

 

 

 

 

タイヤが冷めないうちに、空気圧をとりあえず適正空気圧の2.0キロに調整する。

 

 

 

 

 

池谷「店長、タイヤの空気圧やってる時もそうですけど、ブレーキから臭いと一緒にすごい熱気が漂ってました」

 

店長「そうだろ?お前の走りが、このブレーキのキャパを超えてしまってるんだ」

 

店長「ラリーのターマックステージで、みんなマシンにデカいホイール履かせてるだろ?あれはハードブレーキングを見越して、大型のブレーキを入れるためなんだ」

 

 

 

 

 

ターマックとは、簡単に言えば舗装路のことだ。様々な路面状況でタイムを競うラリー競技において、アスファルトやコンクリート等の路面のことをターマックと呼ぶ。日本各地の峠も、ラリー用語で言えば一部例外を除き全てターマックステージというわけだ。

 

 

 

 

 

池谷「店長、ブレーキなら、実は凄いアイデアがあるんですよ!」

 

店長「本当か!?話してみろ!(興味あるな……池谷がどんなことを画策してるのか……タダでさえSSS-RのCA18に載せ替えたんだ……それが更にどんな進化をするというんだ……?)」

 

 

 

 

 




まさか愛車を休ませるために立ち寄った展望台で、店長に出くわした池谷たち。そこで池谷の提案を店長に話す。果たして店長の反応やいかに……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.17 S13の伸び代(後編)

下りの攻め込みにより、ブレーキがフェードを起こし効きが甘くなり、練習できなくなってしまったS13と180、そしてS13にのみ現れたフロントタイヤのタレ。それは池谷のテクニックが相当上がったことを意味していた。ひょんなことからスケートリンク場近くの展望台で店長に遭遇し、タイヤのタレを克服するヒントを得て、同時にブレーキを休める。そして池谷は、店長にS13の極秘プロジェクトを話した後、再び走り始める……!!


 

 

 

 

 

池谷「店長、そのブレーキ強化のアイデアっていうのは……」

 

店長「………!」

 

 

 

 

固唾を呑む店長。

 

 

 

 

「足回りを、R32のものに換装するんです」

 

 

 

 

一瞬の沈黙のあと……

 

 

 

 

店長「…………ハッハッハッハッハッ、何を言い出すのかと思ったら、何だそれ?R32なんて、全く違う車じゃないか!付くのかそんなもん!ホント笑えるぜ、メカに詳しい池谷がとんだことを言うもんだ!!」

 

池谷「………それが店長、笑い事じゃないんですよ」

 

店長「何……?」

 

 

 

 

一気に表情が固まる店長。

 

 

 

 

 

池谷「仲間の情報なんですけど、R32の足回り、S13と180と共通設計で、GT-Rじゃないスカイラインのやつは流用できるみたいなんです」

 

店長「………!!何だとォ!?」

 

 

 

 

 

以前政志にも同じ内容を話しているが、これは何とも池谷らしい発案だ。しかし店長は、この情報にぶったまげた……!!

 

 

 

 

 

池谷「俺の初期型S13は、4穴のホイールです。でも、R32スカイラインの足回りにすれば、5穴になります。すると、将来的にもっと大きなホイールとタイヤが履けるようになります。」

 

店長「………!!それはまさか……!?」

 

池谷「フッフッフッ……そうです。」

 

不敵な笑みを浮かべる池谷。

 

「そうすると、このS13に、もっとでかいブレーキ履かせられるようになるんですよ!それにナックルはGT-Rも普通のスカイラインも共通なので、ブレーキローターもろとも、GT-R用のモノブロックキャリパーまで流用可能です」

 

店長「・・・。」

 

あまりの合理的かつ奇想天外なアイデアに、固まる店長。

 

 

 

 

 

店長「つまりそれは、さっき言ったラリーカーの話が、市販のパーツでできちまうじゃねえか……!!」

 

池谷「そういうことですよ!何も特別なチューニングパーツは要りません、知識と工夫次第で、どうとでもなるんです」

 

 

 

 

 

池谷にとてつもない可能性を感じた店長。こんなことを池谷に対して感じたことは、今までなかった。そして別の可能性を感じた男がもう一人。

 

 

 

 

 

健二「ひょっとして池谷、それは俺の180にも……!?」

 

池谷「あぁ、もちろん可能だ」

 

健二「マジかよ!?」

 

池谷「S13と180は、ボディ形状が違うだけで、基本的には同じ車だからな」

 

健二「そうだよなぁ、180ってのは、アメリカ仕様のシルビアみたいなもんだもんなぁ」

 

 

 

 

 

そう、180SXは元々、アメリカ向けに作られたシルビアだった。それがあまりにも好評で、日本にも卸されるようになったのだ。

 

CA18エンジンからSR20と2リッター化して、アメリカでは200SXという名称になったが、日本ではずっと180SXという名称で統一となっだ。

 

余談だが、アメリカでは同時期のフェアレディZも、300ZXという似た名前であり、シルビアとフェアレディZは兄弟車という扱いだ。

 

だが皮肉にも、S13系に流用できる部品は、R32型スカイラインのものというわけだ。

 

健二もまさかの衝撃を受け、将来に希望が持てるようになってきた。この希望がまさか、健二の命運をもかえることになろうとは……!?

 

 

 

 

店長「そろそろタイヤとブレーキ、冷えただろう、もう一回走ってきたらどうだ?」

 

池谷「そうですね、もう一回頂上に登ってから、ダウンヒルに突入します!」

 

健二「(池谷、エンジン載せ替えて、まるで人が変わったなぁ……俺もこの波に乗れっか……!?)」

 

 

 

 

再び登っていくS13と180。ブレーキテストをする池谷。

 

\キュキュキュキュキュキュ/

 

池谷「よし、効くようになってる!!さっきは拓海が全開走行した直後ですぐブレーキが来たけど、今回は……!!」

 

 

 

 

 

頂上に着く二人。

 

向きを反対方向に向ける。

 

池谷「よし、今度こそは……!!(絶対に事故らないからな……S13……!!)」

 

拓海「………」

 

\フォン フォン フォオオオオーーーーー/

 

 

 

 

意気揚々と飛び出す池谷と、隣で静観する拓海。

 

 

 

 

健二「おっ、行きやがったなぁ池谷!俺たちも付いてくぜぇ!!」

 

樹「頑張ってください!健二先輩!!」

 

 

 

 

再びダウンヒルに突入する2台。4人。

 

そして、1コーナー!

 

 

 

 

 

\シャアアアアア/

 

 

 

 

 

見事にブレーキングドリフトを決める池谷、一方……

 

 

 

 

 

\キュキュキュキュキュ/

 

\フォオオオオオ/\ギャアアアアア/

 

 

 

 

 

パワースライドによるスライドが限界の健二。その差は歴然、悔しがる。

 

健二「羨ましいぜぇ池谷、お前にできて、俺にできないことがあるのかよ……?」

 

樹「何言ってるんっすか健二先輩!!健二先輩にも、いつかできるようになりますよぉ!!」

 

健二「いや俺にはあんな……って前には言ってたなぁ……だが俺もいつかアイツに追いついてみせるぞォ!?」

 

樹「その意気ですよ!健二先輩!!」

 

 

 

 

 

その後池谷はいよいよ、スケートリンク場入口の前回区間を抜けたあとのヘアピンに差し掛かる……!!

 

池谷「見ててください、店長……!!」

 

 

 

 

 

超絶なレイトブレーキングから、一気にスピードを落とし、コーナー手前で減速姿勢から荷重移動姿勢に移し、S13をスライドさせる。

 

 

 

 

 

池谷「いっけぇえええ!!俺のニューS13!!」

 

 

 

 

 

店長はしっかり見ていた、が……!?

 

店長「池谷!おい!!来るな!俺を殺す気か!?」

 

 

 

 

しかし……!!

 

\シャアアアアアア/

 

 

 

 

高速域から一気にドリフト姿勢に入った。

 

それは4輪ドリフトそのものだった。

 

少しアウトに膨らむも……?

 

 

 

 

\フォン フォン フォフォン フォオオオオオオ/

 

池谷「(そうか、多少オーバースピードでも、リアにトラクションをかけると粘ってくれるのか……!!)」

 

 

 

 

典型的な成長曲線に入った池谷。今夜だけで、とんでもなく上達している。

 

そして30秒遅れて健二が来る……!!

 

 

 

 

 

健二「アイツ、ここどんなスピードで抜けたんだろうなぁ……よし、俺だって……!!」

 

 

 

池谷よりだいぶ手前からブレーキングを開始する健二。

 

健二「くっ……だめだ……おれにゃあんな離れ業ムリだよ……」

 

いつも通りの走りをする健二。

 

 

 

 

 

店長「健二くんはいつも通りみてぇだなぁ……そりゃ無理もないか、池谷は拓海の同乗を経験してるんだ、あの文太とほとんど変わらないな」

 

 

 




この後もそれぞれ順調に下っていく2台。そして今度は上りに突入する。しかし、そこにまさか、新たな刺客が殴り込みに来るとは、誰も予想だにしていなかった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.18 突然の刺客

愛車のブレーキが冷め、再び走り込みに突入した池谷と健二。店長に成長したダウンヒルでの走りを見せつけた池谷、そしていつも通りの健二。そのまま順調に秋名の峠を下りきり、ヒルクライムに移る。そこに、まさかの刺客が現れるのだった……!!


 

 

 

 

秋名山のふもと。池谷がゴールした後、健二が2分半遅れで到着。

 

 

 

 

池谷「ふふっ、相変わらずだなぁ健二は」

 

健二「なんだとぉ池谷!?俺だって……!!」

 

樹「そうっすよ池谷先輩!!健二先輩だって、拓海の横に一回乗れば、池谷先輩なんか、すぐ追いつきますよォ!!ね、健二先輩」

 

健二「……そ、そうだぞ〜!?俺だって、拓海のドラテクを吸収して……!!(本当に俺もあれに乗らなくちゃダメ……?)」

 

拓海「(そんなに凄いのか……?俺……まるで遊園地のアトラクション扱いだ……)」

 

 

 

 

少しふもとの駐車場で談笑したあと、またブレーキが適度に冷める。そして、今度はヒルクライムの走り込みに入る。

 

 

 

 

池谷「さぁ行くぜ!俺のS13はヒルクライムでも行けるってことを証明してやる!!」

 

健二「くそっ!こっちだってSR20なんだぜ!?いつまでも負けててたまっか!!」

 

 

 

 

\フォン フォン フォーーーーー/

 

 

 

 

クラッチを繋ぎ、発進……!!

 

 

 

 

\フォアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアア/

 

池谷「来た来たぁ!!この感覚だ!!俺のニューエンジン!!」

 

 

 

 

 

池谷のS13に換装したブルーバードSSS-RのCA18DET-Rエンジンは、お世辞にも新型のエンジンとは呼べない。まだ80年代のターボエンジン黎明期の余韻が残る、多少のドッカンターボ特性を併せ持っている。

 

それを、職人のラリーメカニックが細部までチューニングし、速さと扱いやすさを両立した仕様に仕立て上げられているわけだ。

 

適度な中低速トルク、滑らかな回転、そして一気に爆発するような高回転でのパワー……!!

 

 

 

 

池谷「おっ、今度は健二も付いてきてるじゃないか……いよいよあいつも意地をを見せ始めたか!?絶対負けねぇぜ!!」

 

 

 

 

しかし、ストレート区間に入った瞬間、何故か差が一気に縮まる。

 

 

 

 

池谷「追いついてきてる……!?健二お前そんなに速かっ……いや……違う………このエンジン音、SR20の音じゃない……!!」

 

 

 

 

漆黒に光るマシンが、池谷の背後に張り付いた。

 

 

 

 

その音は、数々の日本のレースで勝利を収めてきた、日産が誇る最高傑作のエンジンの音だった……

 

 

RB26DETTエンジン……そう、そのマシンは、BNR32型スカイラインGT-Rだった……!!

 

健二などとっくに追い抜いて、池谷のすぐ後ろまで迫っていたのだ。

 

 

 

 

 

???「チョロチョロと走りやがって……FRでカニ走りをする時代は、もう終わりなんだよ……!!」

 

妙義ナイトキッズのリーダー、中里毅だ。

 

中里「モータースポーツで最強のマシンの実力を見せつけてやる……!!」

 

 

\フォオオオオオオオン/\プシャア/\フォオオオオオオオン/

 

 

 

 

漆黒に輝くマシンは、見事なRB26の美しい直6サウンドを轟かせながら、あっという間に池谷をパスしていった。

 

 

 

 

池谷「なんだ!?あの速さは!?黒の32GT-R……まさか、妙義ナイトキッズの……!!遂に秋名にも攻め込んで来やがったか……!!」

 

 

 

 

池谷は一応秋名山最速を名乗るチームのリーダーだけあって、その筋の情報は詳しい。

 

 

 

 

池谷「頑張ってくれ、俺のS13!!」

 

しかし、どうあがいても、GT-Rには届かない……

 

直線も、コーナーも……

 

 

 

 

 

スカイラインは、1970年代前半、KPGC110型、いわゆるケンメリスカイラインで、GT-Rの生産を一旦終了した。ケンメリGT-Rは、わずか197台ラインオフしたのみで、その生涯を閉じた。オイルショックによる排ガス規制によるものだった。その台数は、あの伝説のトヨタ2000GTをも下回るものだった。

 

 

 

 

 

日本のモータースポーツ史において、GT-Rは切っても切り離せない関係だ。

 

ケンメリの前モデル、KPGC10型スカイライン2000GT-R、いわゆるハコスカのスカGだ。日本グランプリレースにおいて、マツダサバンナRX-3に敗れるまで49連勝、そして最終的に通算50勝を記録したのだ。

 

その「GT-R」の名は、ケンメリの次、スカイラインジャパンから、R30、R31スカイラインと、封印されてきた。しかし、R32型になって遂に、「GT-R」のバッジは、全く新しい姿となって、復活したのだ。

 

 

 

 

 

新型GT-Rは、駆動システムが非常にハイテクなものになっている。このニューGT-R、基本的にはFRがベースだ。しかし、リア駆動だけではなく、フロントの駆動システムも併せ持っている。つまりFRと4WDのいいとこ取りをしているわけだ。

 

 

 

 

FRは基本的に、駆動輪であるリアが滑りやすく、トラクション(車を前に押し出す力)がかかりにくい。

 

だがこのシステムは、そのような時にのみ、フロントタイヤに駆動を分配させ、トラクションを4輪に分散、増強させる。

 

それにより、FRの適度な回頭性と、4WDの抜群なる安定性、そして強大なる立ち上がり加速を併せ持つ、公道には反則級のスーパーウェポンとなるのだ。

 

 

 

 

 

このシステムは、アテーサE-TSと呼ばれ、日産がポルシェのものを参考に開発したものだ。

 

FFベースのものも存在し、池谷のエンジンの元宿主だったブルーバードSSS-Rや、その後継にあたるパルサーGTi-Rにも搭載され、こちらは逆にFFの弱点を補うものとして使われている。

 

 

 

 

 

80年代後半〜93年まで日本で行われていた、市販車ベース最高峰のレース、グループA。路面に車体を押さえつけ安定させるエアロ類の追加装着が、一切禁止にもかかわらず、600馬力近くまで出力規定が許されていたそのレースで、アテーサE-TSシステムは無類の強さを誇り、他のFR勢を蹴散らし、GT-R伝説復活と謳われた。

 

そのマシンを、中里は公道に持ち込んだというわけなのだ。

 

それが、速くないわけがないのだ……!!

 

 

 

 

 

中里「RB26の底力、見せつけてやるぜ!!」

 

 




あまりのGT-Rの速さに、速くなった池谷があっさりと抜かれてしまった……さっきまで歓喜していた池谷は、再び絶望を味わうことになる……しかし、その絶望は、その後更に池谷を強くしていくのだった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.19 マシンの差

峠を下りきり、ヒルクライムの練習に移った池谷と健二。そこに現れたのは、日本のモータースポーツ界で不敗を誇った名車、R32GT-Rだった……彼らは、テクニックでは埋めようのないマシンの戦闘力の差を、まじまじと見せつけられるのであった……


 

 

 

 

……あっという間にストレート区間の彼方へ消え、第一ヘアピンへと姿を消した、漆黒に光る中里のGT-R。地元の意地を見せようと、コーナー区間で勝負に入る池谷。しかし……

 

 

 

 

 

池谷「だめだ……一向に追いつかない……むしろエンジン音が遠ざかってる……地元の俺たちが、コーナーでも勝てないのか……?」

 

拓海「………」

 

拓海は余裕で勝てると思っていたが、成長曲線に入った池谷のペースを乱さないよう気遣い、何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

一方、健二たちの方は……

 

健二「おい!!見たかよ樹……!!あの加速と、変になるようなコーナリング!!」

 

樹「あれはヤバいっすよ!!黒の、R32!!GT-Rっすよ!!」

 

健二「おいおい……あんなの秋名に出てこられちゃあ、俺たちなんか話になんないよ……」

 

樹「何言ってるんっすかぁ〜健二先輩!!いつかあのGT-Rにも勝てる180に仕上げましょうよォ!!」

 

健二「あのなぁ……いくらかかると思ってるんだ……そんなチューニング」

 

樹「スピードスターズが、いつまでも負け続けるわけには、いかないっすよォ……」

 

 

 

 

 

半ば泣きそうになる樹。健二は諦めムードだったが、樹は地元のプライドを傷つけられたことが、健二以上に悔しかったのだろう……

 

 

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

最後のコーナーを抜け、ダウンヒルのスタート地点に戻ろうとする池谷。

 

池谷「クソっ……俺のニューS13をもってしても、GT-Rには叶わなかった……」

 

しかし、その場所には、GT-Rの乗り手にして妙義ナイトキッズのリーダー、中里毅が待ち構えていた……池谷の予想は、当たっていた……

 

 

 

 

 

車を降りる池谷。

 

中里「フッ……見事な走りだったぜ……FRにしてはな」

 

池谷「くっ……なんだとぉ!?」

 

地元のプライドにかけて喰らいつく池谷。

 

 

 

 

 

中里「俺はこのGT-Rに乗り換えてからは、こざかしい低次元なカニ走りの愚かさを、幾度も見てきたぜ……」

 

 

 

 

 

池谷は爆発寸前だった……しかし、その後中里から発された言葉は、意外なものだった……

 

 

 

 

 

中里「俺も昔は、お前と同じ、S13に乗っていた……」

 

池谷「何……!?本当か!?」

 

中里「ああ、そうさ。あるマシンに完膚無きまでに叩きのめされるまではな……」

 

 

 

 

 

語られる、中里の意外な過去。

 

 

 

 

 

中里「そのマシンは……白い32……GT-Rだ……」

 

池谷「………」

 

 

 

 

 

中里の話に聞き入る池谷。

 

 

 

 

 

中里「走り込んだ地元の妙義なのに、どれだけ攻め込んでも、どれだけコーナーで追いついても、立ち上がり加速と直線で置いて行かれる……」

 

 

 

 

 

中里はその時、テクニックでは埋めようのない、マシンの戦闘力の差を思い知ったのだ。

 

 

 

 

 

そうこうしてる間に、健二たちも到着。

 

樹「あっ、さっきの32と、池谷先輩!!でも、なんだか神妙な顔してるっすね」

 

健二「本当だな……止めに入るか……?」

 

樹「とりあえず近くに行くだけ行ってみましょうよ」

 

健二「お、おう……」

 

 

 

 

 

中里「いくらテクニックで勝っていても、マシンの戦闘力が桁違いだった……あの時から、俺は変わった」

 

 

 

 

 

中里「S13から、R32に乗り換えて、全てが変わった……RB26の圧倒的なパワー、そして4WDでもコーナーで邪魔をしない、そして更に立ち上がり加速でその強大なパワーを確実に路面へ伝える、アテーサE-TSシステム……公道に持ち込むのは反則級のマシンだ」

 

 

 

 

 

中里「GT-Rの戦闘力を前に、これまでライバルだった奴らは、ライバルではなくなった」

 

「そして同時に、今までやっていたカニ走りがいかに幼稚か、速く走るためにはカニ走りなど不要……そういうことが、このGT-Rに乗り換えて解ったんだ……」

 

 

 

 

 

中里「いつまでも楽しくカニ走りしていたかったら、ずっとそのS13に乗っているといい……だがな……そうでなければ、所詮ただのお遊びだ……」

 

 

 

 

 

中里「俺がこの秋名まで来た理由はただ一つ……秋名のハチロクとバトルがしたい……レッドサンズの高橋啓介が負けたんだってな……秋名のハチロクに」

 

池谷「ああ、そうだ」

 

 

 

 

 

キッパリと秋名のプライドをかけて返事をする池谷。

 

 

 

 

 

「FRのカニ走りのダウンヒルが、いかに低次元かということ、そして、このナイトキッズの中里毅が、群馬で最速だということを、高橋啓介を破った秋名のハチロクを倒して、証明してみせるぜ……!!」

 

 

 

 

まさかこの時中里は、池谷の隣にいる青年が、その秋名のハチロクのドライバーだとは、知る由もなかった……

 

拓海は面倒事に巻き込まれるのは嫌だったので、あえて何も言わなかった。

 

池谷も、今回の仕返しに、この横にいる青年がまさか秋名のハチロクのドライバーだったと中里にサプライズでお返しするために、何も言わなかった。

 

 

 

 

だが、拓海は密かに考えていた……本当にカニ走りがダメなのか……あと関係ないが、遅れて到着した健二の180が、どんな動きをするのか……

 

 

 

 

中里「じゃあな……付き合わせてすまなかった……もし秋名のハチロクのドライバーに会ったら伝えてくれ……FRでカニ走りをする時代は、もう終わりだってな!!」

 

 

\バン/

ドアを閉め、ダウンヒルに突入する中里。

 

 

 

 

\フォン フォン フォオオオオオオオン/\プシャア/

 

 

 

 

拓海「乗ってください健二先輩、助手席に、行きますよ」

 

健二「え、えぇ!?今かよ!?」

 

 

 

 

拓海の突然の行動に戸惑う健二。しかし、迷っている暇などなかった……!!

 

 

 

\フォン フォン フォアアアアアアアア/

 

 

 

 

健二「おいおい!!マジかよ拓海ィ!!」

 

絶叫する健二。

 

 

 

 

 

拓海「(気のせいか……?このワンエイティって車、池谷先輩の車に、よく似てる……不思議な感覚だな……)」

 

 

 

 

 





突然、自らの愛車の助手席に、拓海の運転で乗ることになった健二。前には全開でダウンヒルを駆け抜ける中里。この後健二の180は、予想外の展開を見せることになる……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.20 テクニックの差

中里毅擁するBNR32型スカイラインGT-Rに、ヒルクライムであっさりチギられた池谷達。だが彼らは、山頂で待ち構えていた中里から意外な過去を聞く。そして、話が終わると中里は秋名の峠を下り始める。すると拓海は急に健二の180に乗り込み、健二を半ば強制的に助手席に乗せ、下っていった中里の32GT-Rを追う。この後、凄まじい展開を見せることになる……!!


 

 

 

 

 

\フォアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアア/

 

 

 

 

 

健二「や、やめろぉ拓海、わかった、わかったからァ〜!!」

 

拓海「(どうしたんだろ健二先輩……そんなに飛ばしてるつもりないのに……やっぱ俺、おかしいのか……?)」

 

 

 

 

 

拓海はスタート前、シートポジションの調整などで多少時間を食った。なので、眼前に中里の姿はもうない。

 

 

 

 

 

そして遂に、中高速の1コーナー。健二は遂に拓海のダウンヒルを初めて体感する……!!

 

 

 

 

\拓海!!ブレーキ!ブレーキ〜〜!!/

 

 

 

 

 

池谷と全く同じ反応をする健二。

 

池谷の時と同じように、ギリギリのレイトブレーキングで車体を横に向けながら1コーナーに侵入する。

 

 

 

 

 

健二「うわぁああああ!!!本当にこれが俺の180の動きかぁあああ!?!?」

 

拓海「(………)」

 

\キューーーキコキコキコキコ/

 

 

 

 

 

澄ました顔で、とんでもない走りを見せる拓海。

 

拓海「(あれ……健二先輩の車、ハチロクや池谷先輩の車と、ちょっと違う感じだ……)」

 

 

 

 

 

その拓海の感想も無理はない。池谷のS13は、政志が隠しチューンで秋名スペシャルにしたセッティングだった。一方180の足廻りはノーマルだ。

 

 

 

 

 

拓海「健二先輩、このワンエイティって車、池谷先輩の車と全然違う動きしますね」

 

健二「そっ、そうなのか!?それどころじゃねえ!!次のコーナー来てるぞ!!早く!ブレーキ〜!!」

 

 

 

 

\シャアアアアアアア/

 

慣性ドリフトを使い、ノーブレーキで次の高速コーナーを抜ける。

 

 

 

 

 

健二「ぐぁあああああ!!次!!ヘアピン!!ヘアピンはぁ〜!?!?」

 

 

 

 

 

いよいよ第一ヘアピンに突入する180。

 

拓海「ハチロクや池谷先輩の車と違う動き……だから……こうするか……」

 

拓海は雪道でよく使うテクニックを、いきなり初めて乗る180で実践する……!!

 

 

 

 

 

 

ノーマルの足廻りの180は、多少リアが滑りにくいようだ。

 

日産の足廻りは優秀で、FRにも関わらずリアが滑りにくく、かといってアンダーステアも出ない扱いやすい乗り味になるよう、絶妙にセッティングされている。だが拓海はダウンヒルで、それを打ち消す走りを、ヘアピンを前にして実践する。

 

 

 

 

 

まず180をインに付かせる。そして曲がる方向と反対にマシンをスライドさせる。

 

 

 

 

 

健二「拓海ィ〜!!逆だ逆〜!!ダメだぁ……俺の180、廃車だ〜!!」

 

しかし、違った。拓海は意図的にその操作を行っている。

 

そしてヘアピンの直前……!!

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

拓海は一気に反対方向にステアを切り、見事なフェイントモーションを掛ける。180の向きは、一気にヘアピンの方向へ向き、その動きにより、クイックにヘアピンを曲がるのだ。

 

 

 

 

 

健二「ぐぁああああああ!!」

 

\キューーーキコキコキコキコ/

 

\フォン フォン フォオオオオオオオ/

 

 

 

 

トラクションを掛け、立ち上がり姿勢に入る拓海。

 

 

健二「やめろ~~!!ぶつかる〜〜〜!!」

 

道幅を目一杯使ってヘアピンを立ち上がる拓海、そして助手席側の健二スレスレまで迫ったガードレール……そして……

 

健二「ふんが」

 

 

 

 

 

 

………やってしまった。それも、池谷と同じ場所で……

 

しかし今回は、池谷の時とは事情が違う……ヘアピンを抜けると、前には中里の32の姿が見えた……!!

 

 

 

 

 

拓海「あれがさっきの車……そんなに速いのか?あの車」

 

しかし、ここからはまた全開区間、中里の背中が遠のく……

 

 

 

 

 

拓海「すっげえ速え……健二先輩の車、ハチロクより直線速いのに、離されてく……」

 

 

 

 

 

だがこの後に待ち受けるのは、複合コーナー……緩い左、中程度の右、そこから一気に左ヘアピンと、難易度の高いコーナーセクションだ。

 

中里はバックミラーをまだ見ていない。

 

中里「フッ……ここは秋名のダウンヒルの中でも難しいセクションの一つだ……だがこのGT-Rなら……!!」

 

 

 

 

 

横滑りしにくいGT-Rは、このような連続コーナーで無類の強さを誇る。右に左に反対方向の動きをかけてもビクともしない安定性を持っている。そのため、ドライバーの思うようにコーナリングが可能なのだ。

 

 

 

 

 

中里「まずゆるい左を目一杯インに寄せてブレーキング、そして反対方向にステアを切ってヘアピン手前の中速コーナーを抜ける……そして一気にブレーキング……グイグイとヘアピンを曲がっていく……!!」

 

 

 

 

GT-R以外には到底無理な動き。流石は幾多のモータースポーツで無類の強さを誇ったまでのことはある。

 

 

 

 

ところがこの後、中里に待ち受けていたのは……!?

 

 

 

 

 

中里「……!?……お前……何故そこにいる……!?」

 

テクニカル区間を抜け、中里の真後には、なんと拓海のドライブする健二の180が、ピタリと張り付いていたのだった……!!

 

 

 

 

 

中里「ふざけんなよ……さっきの上りは手ェ抜いてたってのか……!!」

 

全身の血が沸騰する中里。

 

 

 

 

 

拓海「前のドライバー……ラインはいい……車も高性能なのかな?変な動きをして曲がっていく……だけど……」

 

拓海は早くも核心を突く。

 

 

 

 

 

 

拓海「なんでこの人、後ろのタイヤまで使わないんだろう……?」

 

 

 

 

 

 

そう、中里の安定した走りは、それが故に、フロントタイヤにのみ負荷を掛けることになる。特にフロントタイヤの負荷が大きいダウンヒルでは、それが顕著に現れる。

 

 

 

 

サーキットでは速い走りが、秋名のダウンヒルのように、サーキットではあり得ない勾配区間がずっと続く場所では、かえって足かせとなるのだ。

 

 

 

 

 

一方拓海は、健二の180を、リアタイヤまで目一杯使い切っている。

 

ダウンヒルでタイヤやブレーキをうまく使う秘訣は、リアタイヤにいかに仕事をさせるかにあったのだ……!!

 

 

 

 

 




この後、気絶した健二を乗せたまま下っていく拓海と180。そしてその前を行く中里の32GT-R。拓海は前を行く中里の走りに興味津々で、健二が気絶していることに気付いていない。一体どこまで、この気絶した健二を連れて下っていくのだろうか……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.21 ダウンヒルの走り方

下っていった中里の32GT-Rを、拓海は健二の180で追いかけ、とんでもない動きをさせる。あまりの走りに助手席に乗る健二は、池谷と全く同じ場所で気絶した。そして、あっという間に中里のGT-Rに追い付く。気絶した健二を乗せたまま、拓海は180をドライブしながら興味津々に中里の走りを観察する……


 

 

 

 

中里「ふざけんなよ……秋名のハチロクより速い奴が、こんな所にいたのかよ……!!」

 

 

 

 

あまりの速さに、勘違いをする中里。

 

 

 

 

 

拓海は、初めての180なので、これでもペースを落として走っている。全く峠を攻めている自覚はない。タイムを測ると恐らくハチロクでかっ飛ばした時の方が速いだろう。しかし、それでも全開で下る中里のGT-Rに追い付くまでに、拓海の運転技術は洗練されていた。

 

 

 

 

 

中里「高橋啓介を倒したのは、本当はコイツなんじゃねえのか!?同じリトラで勘違いしていたのか……いや、そんなはずはねぇ、この目であのバトルの様子を、俺は見ていた……確かに高橋啓介を煽っていたのは、白と黒のパンダトレノだった……!!」

 

「ダウンヒルなら、FDも180も変わらねェ……突き放してやるぜ……!!」

 

\フォオオオオオオオン/\プシャア/\フォオオオオオオオン/

 

 

 

 

 

テクニカルヘアピンの次は、短い直線の後に中速コーナー、そして同じくらいの直線のあと、直角コーナーが待ち受ける。

 

 

 

 

 

 

拓海「やっぱ直線は早えや、あの車……でも次のコーナーで追いつきそうだな……ちょっと距離開けよう……」

 

健二「ふはぁ〜〜〜」

 

健二は相変わらず気絶したままだ。

 

 

 

 

 

 

一瞬のフルブレーキングの後、中速右コーナーに入る中里のGT-R。

 

エンジンブレーキのみで減速して距離を開けた後、慣性ドリフトで曲がる拓海と180。

 

案の定……

 

 

 

 

 

中里「クソっ……また張り付かれた……どうなってやがんだ……!?俺がS13の時とあの180、何が違うってんだよ……!!」

 

 

 

 

 

次は直角右コーナーだ。ライン取りとブレーキングポイントが難しい。テクニックの差がかなり出る場所だ。

 

 

 

 

 

先程より更に距離が詰まることを見越し、180のアクセルを緩める拓海。

 

中里「舐めてんのかテメェ……俺で遊んでるのか……!?」

 

「R32の底力、見せてやる……!!」

 

しかし、その走り方がダウンヒルに向いていないことに、中里は気づかない。

 

 

 

 

\フォンンンンンン フォンンンンンン/

 

フルブレーキングで一気にスピードを落とす中里。

 

見事なレーシングラインで、直角コーナーをクリアした。

 

しかし、またである……!!

 

 

 

 

 

中里「………!!アイツ……キレてやがる……!!」

 

コーナー脱出後、バックミラーには再び、ピタリと張り付いた180が映し出されていた……!!

 

 

 

 

 

拓海「あの人、相当速いらしいけど……流して走ってるだけなのかな……?」

 

勘違い男が、こちらにももう一人。もっとも、勘違いの仕方が全く違うが……

 

 

 

 

 

健二「ふにゃあ〜〜」

 

そんな事になってるとは全く気づかず気絶し続ける健二。

 

 

 

 

 

その後のコーナーは、キツい勾配で右・左と続くヘアピンだ。

 

そこを抜けると、スケートリンク入り口のある長い全開区間である。

 

 

 

 

 

中里「GT-Rはコーナーでもいけるってことを証明してみせるぜ……!!」

 

一気にフルブレーキング、そしてブレーキをゆっくりリリースしてフロント荷重を残しながらヘアピンを曲がる。出口が見えたら一気にアクセル全開、RB26の底力を見せる。

 

 

 

 

 

後ろから様子を見る拓海。今度こそ本当に流し運転に入り、ドリフトすらさせないようにした。

 

 

 

 

 

中里「フッ……付いてこれねぇだろうが……これがGT-Rという車だぜ……!!」

 

拓海「突っ込みは凄い慎重だけど、立ち上がり加速が凄い車だなぁ……」

 

 

 

 

「でも……操作が少し荒っぽいかも……あんな真っ直ぐブレーキ掛けてちゃあ、前のタイヤが最後まで持たない気がする……」

 

 

 

 

またしても核心を突く拓海。

 

そして、てっきり180が全開走行をしていると勘違いしている中里。

 

 

 

 

次の左ヘアピンも同様に進み、ついに全開区間へ突入した……!!

 

 

 

 

拓海「健二先輩、GT-Rって車、本当にそんなに凄い車なんですか……?」

 

 

 

 

 

 

………返事がない。

 

 

 

 

 

健二の方を向く……

 

 

拓海「あっ……またやっちゃった……俺、やっぱおかしいのかな……?普通にいつも通り走ってただけなんだけどな……」

 

 

結構前から健二は気絶していたが、全く気付かなかった。前を行く車に興味津々だった。

 

 

 

 

 

スケートリンク場前には、丁度折り返せるようなロータリーになっている場所がある。拓海はそこで引き返すことにした。

 

 

 

 

 

 

\フォンンンンンン フォンンンンンン/

 

180を減速させ、ロータリーで向きを変え、スタート地点に戻る拓海。

 

 

 

 

 

中里「フフッ……付いて来れねぇだろうが……所詮この程度さ……」

 

180がてっきり全開で下って来てると思い込み、攻め続ける中里。

 

 

 

 

 

 

秋名山頂上。

 

池谷「おい!180が帰ってきたぞ!!」

 

樹「どうかしたんっすかねぇ?……まっ、まさか健二先輩も……!?」

 

 

 

 

 

 

180、到着。

 

池谷「やっぱり……」

 

樹「安らかな顔っすねぇ……池谷先輩の時と、まるっきり同じっすよぉ……」

 

池谷「俺……こんな事になってたのか……」

 

 

 

 

 

拓海「すみません……またやっちゃいました……」

 

池谷「いや、拓海の走りなら無理もないさ……心構え無しでいきなりあのダウンヒル体験しちゃあ、そりゃこうなるよ……」

 

樹「健二先輩がなるってことは……まさか俺も……!?」

 

池谷「だろうな」

 

樹「ひえぇぇぇぇ!!」

 

池谷「だが、これを乗り越えないと成長はないぞ〜!?」

 

 

 

 

 

樹が愛車を手に入れてからの話になるが、意外にも池谷の予想は、外れることになる。

 

 

 

 

 

その頃、中里は……

 

中里「フッ……俺の勝ちだ……所詮はFRのカニ走り、付いて来れたのは序盤だけだったな……早く降りてこい……GT-Rの実力を嫌というほど諭してやる……!」

 

 

 

 

 

しかし、一向に降りてこない180。

 

 

 

 

 

 

20分は待った。

 

 

 

 

 

 

中里「舐めてんのかコラァ!!バトルしてたんじゃなかったのかァ!?」

 

 

 

 

 

 

 




無事頂上まで戻った180と拓海、健二。そしてバトルしていると勘違いして下まで降りて待ち続けた中里。しかし、中里はこの後、ついに秋名のハチロクへ向けてアクションを起こし始める……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.22 新たなる挑戦者

秋名のダウンヒルでまたもや助手席の男を気絶させてしまった拓海は、180で頂上まで戻る。そしててっきりバトルしていたと思い込み、ふもとまで一人で勝手に全開で走っていった中里。大恥をかいた中里だったが、遂に本命である秋名のハチロクへアクションを起こし始める……!!


 

 

 

 

池谷「いらっしゃいませ〜!!(……!!この前の32……)」

 

突然池谷たちのGSに現れた中里。

 

 

 

 

 

中里「おっ、お前昨日の……散々コケにしやがって……!!」

 

池谷「何のことかサッパリわからねえが、何の用だ!?」

 

中里「……まぁいい……ガソリンはいらねぇ……」

 

池谷「(何しに来たんだこいつ……まさか……!?)」

 

 

 

 

 

中里「仲間から聞いたんだ……ここのスタンドに来れば、秋名のハチロクのドライバーに会えるってな……」

 

池谷「くっ……(やはりハチロクに挑戦してきたか……!!)」

 

中里「ハチロクのドライバーに伝えておいてくれ……俺が秋名のハチロクに勝って、群馬で最速だということを証明してみせるってな……!!」

 

 

 

 

\バン/ \フォオオオオオオオン/

 

 

 

 

 

それだけ言い残して走り去っていった。

 

そこに秋名のハチロクのドライバーがいるとは知らず……

 

 

 

 

 

池谷「拓海、マジになることなんかないからな!S13や180ならまだしも、あのGT-Rって車、ハチロクじゃ相手にならないくらい速い……」

 

拓海「そうなんですか……?」

 

池谷「あぁ、今回ばかりはやめておいた方がいい」

 

拓海「そう……ですか……」

 

空返事をする拓海。何か決めあぐねているようだ。

 

 

 

 

 

〜後日、週末〜

 

樹「いらっしゃいませ〜っ!!(この前の、黒の32!!)」

 

中里「この前の返事を聞きに来た……秋名のハチロクの返事は……!?」

 

樹「もちろんOKですよぉ!!秋名のハチロクは、秋名山じゃ絶対負けないっすよ!!」

 

ノリで勝手に返事をしてしまった樹。

 

中里「わかった……今週の土曜夜10時、秋名山の頂上で待っている……!!」

 

樹「わかりましたぁ!!」

 

 

 

 

 

 

\バン/\フォオオオオオオオン/

 

その場を立ち去る中里。

 

樹「ノリで返事しちゃったけど、大丈夫っしょ!!拓海ならやってくれるよぉ!!」

 

その時は拓海は非番、池谷も休憩中で居なかった。

 

 

 

 

 

ところが……

 

池谷「何ぃ!?中里のバトル、勝手にOKしただとぉ!?マズいよそりゃあ!!」

 

「拓海の腕をもってすりゃ、S13や180ならどうにかなるかもしれない……だけどハチロクじゃ流石に無理だよ……あんなFRと4WDのいいとこ取りしたようなマシン……ハチロクで勝てるわけないよ……」

 

樹「マジっすかぁ!?どっ、どうしよう……拓海になんて声掛ければいいんだ……」

 

 

 

 

 

しかし、横で聞いていた拓海。

 

拓海「俺、やめる気ないっすよ……」

 

池谷「!?」

 

 

 

 

拓海「昨日、健二先輩の車で、そのGT-Rって車に付いていったんです」

 

池谷「(やっぱり追いついてたのか……)それで、どうだったんだ!?」

 

拓海「なんか、本気で走ってないみたいでしたよ……リアタイヤ、全然使ってませんでしたし……ブレーキかけるのも、真っ直ぐ走ってるときにしかしてませんでした」

 

「だから見てみたいんです……あの人が本気を出したらあの車がどれくらい速くなるのか……そして俺が本当に速いのかどうか……」

 

 

 

 

 

池谷「(リアタイヤを使う……?まぁいいや)本気を出してなかったから追いついただけだ、本気を出されちゃあ、いくらお前とハチロクでも、勝ち目ないぞ……!」

 

拓海「それでもいいっすよ……とにかく知りたいんです、俺がどこまでいけるのか」

 

池谷「拓海……」

 

 

 

 

 

この時拓海は勘違いをしていた。あのとき中里は、本気で走っていた。それに拓海は、流して走らせていた180で、追いつくどころか煽る形になっていたのだ。そして更に、ハチロクのほうが、下りでは総合的に見て180より速い。

 

 

 

 

 

と、なんだかんだで当日バトルすることになった拓海。しかし、そこにまさかの障壁が……

 

 

 

 

 

 

夜9時頃。

 

 

 

 

ハチロクが、ない!

 

 

 

 

 

拓海「どうします?池谷先輩の車貸してもらえるなら、バトルしますけど」

 

池谷「それはダメだ……相手は『秋名のハチロク』に挑戦しに来てるんだ……高橋啓介を破ったハチロクにな……ハチロクに勝たないと、相手は納得しないんだ」

 

拓海「そういうモンなんですか……」

 

 

 

 

 

事情がよく解らない拓海。だが、ハチロクでないとダメだということは解った。

 

拓海「(なんで今日に限ってハチロクがないんだよ……バカ親父、ハチロク返せ!!)」

 

 

 

 

 

夜9時30分頃……ようやく文太が帰ってきた。

 

拓海「親父、今日この車でバトルすることになったんだ、すぐ乗ってくけど、いいか?」

 

文太「あぁ……」

 

拓海「ところで親父……GT-Rって車……そんなに速いのか……?」

 

文太「あぁ、とんでもなく速えよ……」

 

拓海「それで、どうなんだ……ハチロクじゃ、勝ち目あるのか……?」

 

 

 

 

 

 

文太「余裕だね……秋名の下りじゃ話になんねぇよ……勝つね」

 

文太は、秋名の下りでGT-Rに起こり得る事態を、予測していた……

 

 

 

 

 

 

 

拓海「わかった、行ってくる。ガソリン満タン、約束だからな」

 

 

 

 

 

拓海は何か事情ありげな様子だった。

 

 

 

 

 

健二「とにかく急がねぇと、間に合わねえぜ!!早く行くぞ!!」

 

拓海「わかりました」

 

 

 

 

 

すぐにその場を後にする。

 

文太「(ふっ……今度はGT-Rか……勝ってこいよ)」

 

 

 

 

 

 




文太とハチロクが帰ってきて、なんとか時間ギリギリ間に合いそうな拓海。しかし、早とちって責任を取ろうと、秋名山頂上には今回のバトルを申し受けた「張本人」が先に到着していた。いつまで経っても来ないハチロクに、ピリピリしたムードになっていく秋名山と妙義ナイトキッズのメンバー達。果たして、拓海は約束の時間に間に合うのだろうか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.23 本気の勘違い

中里の秋名のハチロクへの挑戦状を、本人の許可なしに勝手に焚き付けた樹。それが災いして、当日の予定時刻近くにハチロクが文太に使われていた。夜の9時半になり帰ってきた文太。果たして約束の10時に間に合うのだろうか……?


 

 

 

 

 

\ファン ファン ファアアアアアン/

 

 

 

急いで秋名山に向かう拓海達。

 

健二の180に、池谷か同乗している。

 

 

 

 

一方、秋名山では……

 

 

 

 

\ペェエエエエエン/

 

樹が原付で頂上まで向かっていた。もし拓海が来なかった場合、ナイトキッズの面々に平謝りするつもりでいた。

 

 

 

 

 

夜9時50分。拓海とハチロクは一向に姿を見せない。

段々と妙義ナイトキッズの雰囲気はピリピリとした雰囲気となってきた。

 

 

 

 

中里「あの野郎……いつまで待たせやがる……どこまで人をコケにしたら気が済むんだ……!!」

 

 

 

 

樹「(ヤバイよ……もし拓海が来なかったら俺、どんな顔して謝ればいいんだよォ……謝るだけじゃ済まされないよォ〜!!頼む、来てくれ拓海ぃ〜!!)」

 

 

 

 

そして、約束の時間になった。

 

まだ拓海達は来ていない。

 

樹「(あぁ……終わりだぁ……俺、どんな目に合わされるんだろう……)うう……たのむよ拓海ぃ〜!!来てくれよォ〜!!助けてくれェ〜!!」

 

 

 

 

その時……!!

 

\ファンンンンン/\ファンンンンン/

\キュキュ/

 

聞き慣れたエンジンの音。

 

ヘッドライトに照らされる樹。

 

 

 

 

 

 

拓海「なーにやってんだ樹〜!道路の真ん中でへたり込んで」

 

樹「た、た、…………たうびぃ〜〜(拓海〜〜)!!」

 

拓海「ほーら、轢くぞ轢くぞ!!」\ファン ファン/

 

樹「拓海……本当に来てくれた……ありがとう命の恩人〜!!」

 

拓海「ごめんな、遅くなって」

 

 

 

 

拓海は、やや予定時刻をオーバーしたものの、なんとか中里の元までたどり着くことができた。

 

しかし、安堵しているのもここまでだった……

 

まさかこの後、予想外の展開になろうとは……

 

 

 

 

 

特に、健二の180に……

 

 

 

 

 

中里「まさかお前だったとはな……秋名のハチロクのドライバーが……」

 

拓海「確かに、周りからはそう呼ばれてますけど……」

 

 

 

 

 

しかし、中里の本題はここからだった……

 

中里「それよりもだ……おい、180の貴様……」

 

健二「おっ……オレ……!?」

 

中里「この前のダウンヒルでは散々コケにしやがったな……人をバカにするのもいい加減にしろよ……!!」

 

健二「へぇ…??何のこと……??」

 

 

 

 

あの時の健二の180は、拓海によるドライブだった。そして、健二は第一ヘアピン以降気絶していたので、何のことなのかサッパリわからない……

 

 

 

 

 

中里「すっとぼけるのもいい加減にしろよテメェ……このままだとタダじゃ済まさねぇからな……」

 

「さんざん煽った挙げ句、途中でバトルを止めて逃げやがって……人をイライラさせる天才だな……」

 

健二「へ?へ!?」

 

半ばパニックになる健二。

 

 

 

 

 

拓海「この前、そのGT-Rの後ろ付いていったの、オレですよ」

 

拓海はすべての事情を察知し、間に割って入る。

 

拓海「このワンエイティの持ち主はこの健二先輩なんですけど……気になって少し走らせてみただけなんです。そしたらいつの間にか先輩、助手席で気絶しちゃってて……それで引き返したんです」

 

 

 

 

 

中里「フッ……そういうことだったのか……あれは様子見だったと……(様子見であんな走りができるってのか……!?)」

 

拓海「あの時、カニ走りの時代はもう終わりだって言ってましたよね……その言葉が気になって、本当なのかどうか、試してみたかったんです。ハチロクに乗ってきてなくて、健二先輩のワンエイティを借りたんですよ」

 

中里「(前乗ってたS13とほぼ同じマシンで、あそこまで付いてこれるのかコイツ……)お前、わざわざハチロクで登場して手ェ抜くってのか……!?」

 

拓海「いえ……そういうつもりじゃ……それに多分、慣れてるハチロクのほうが速く走れますよ」

 

中里「何ふざけたこと言ってやがんだ……ハチロクのほうが速いわけないだろう……!!」

 

 

 

 

 

 

啓介「どうかな、それは」

 

 

 

 

 

 

終わらない口論に、まさかの啓介が間に割って入った……!!

 

啓介「おれはコイツとダウンヒルをやって気付いたんだ……数字の性能だけじゃ、ダウンヒルはダメなんだ……峠は奥が深いんだってことを、このハチロクに背後霊のように喰い付かれて、まじまじと見せつけられた。それが、あの結果だ」

 

中里「フッ……そういうことか……それは面白い……サーキットで速いクルマが公道でも最速だってことを証明する時が来たわけだな……今夜このハチロクに勝って、この中里毅が、群馬で最速であるってことを証明してみせるぜ!!」

 

 

 

 

啓介の登場により、なんとか話は丸く収まり、このままハチロクとGT-Rによるバトルに突入することになった。

 

 

 

 

拓海「(見てみたいな……この人の本気)」

 

拓海はまだ勘違いをしている。

 

 

 

 

 

 

スタート地点に止めてある32GT-Rの横にハチロクを止める拓海。この前のバトルで、多少バトル手順の要領は掴んだようだ。

 

中里「勝負は下り一本!いいな!?」

 

拓海「わかりました……」

 

 

 

 

 

池谷「ちょっと待ってくれ!!」

 

 

 

 

 

突然ストップをかける池谷。

 

池谷「拓海の、ハチロクの助手席に、俺を乗せてくれないか……?」

 

 

 

 

 

中里「ウエイトハンデってのか……まだバカにするつもりなのか!?」

 

池谷「そうじゃない!俺、秋名が地元なのに情けないくらい遅いから……このバトルを助手席から見学させてほしいんだ……頼む、この通りだ……!!」

 

 

 

 

 

半ば土下座状態で頼み込む池谷。

 

 

 

 

 

中里「ふっ……そこまで言うんならいいだろう……助手席に人を載せたほうが重量バランスも良くなる……ましてやこの下りだ……バランスが重要になる下りでは、むしろ有利に働くかもしれない……それに、この秋名のハチロクが敗れる瞬間も見れるんだ……特別に許可してやる……!」

 

池谷「恩に着るぜ!」「拓海、いいよな……!?」

 

拓海「構わないですよ……池谷先輩は俺の助手席で気絶しなくなったんで、大丈夫だと思います。それより不思議なんですよ……俺が本当に凄いのか、まだよく解らなくて……池谷先輩、横で色々教えてください」

 

池谷「わかった……できる限りのことはする……!!」

 

 

 

 

 

中里「(助手席で気絶……!?あの180の野郎もそうだったが、こいつらそんなにレベル低いのか……?それとも……!!)」

 

 

 

 

 

中里「高橋啓介!これでお前がバトルした秋名のハチロクとは少し条件が変わる……この条件でもし俺が勝ったとしても、文句なしだ……それでもいいな……!?」

 

啓介「あぁ、構わねぇぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

健二「じゃあ、カウントは俺がとるぜ!」

 

 

 

 

いよいよ中里と、池谷を乗せた秋名のハチロクとのバトルがスタートする……!!

 

 

 

 

健二「スタート5秒前!4、3、2、1、GO!!」

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュキュ/\ファアアアアアアア/

 

その時……!!

 

涼介「行くぞ啓介!特等席からこのバトルを見せてやる……!」

 

急いで涼介のFCの助手席に乗り込む啓介。

 

 

 

 

 

ギャラリー1「おいおい!高橋涼介のFCまで飛び出していったぞォ!!」

 

ギャラリー2「このまま群馬最速決定戦になっちまうのか〜!?」

 

 

 




池谷を乗せたハチロクと32GT-Rが飛び出し、それを涼介のFCが追う形となり、バトルはスタートした。このバトルで、拓海のバトルに同乗する池谷が得るものが、後々スピードスターズの大躍進に、大いに繋がっていくのであった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.24 乗るマシン 乗せられるドライバー

いよいよ秋名のハチロク2回目ダウンヒルバトルが始まった。ハチロクにはまさかの池谷が同乗することになり、GT-Rの後ろからは高橋兄弟が乗るFCか飛び出していった。まさかの三つ巴のスーパーバトルとなったこの勝負、秋名のハチロクはGT-Rとどのような戦いを見せるのか……!?


 

 

中里「リアサイドに付いているRのバッジは、不敗神話のRだ……俺のRに、付いてこれるか……ッ!?」

 

 

 

 

 

\プシャアアアア/

 

スタートで格の違いを見せた後、アクセルを緩める中里。ブローオフバルブの音が虚しく鳴り響く。

 

 

 

 

中里「フッ……ストレートでチギったら勿体ねえだろうが」

 

涼介「中里のやつ……直線でペースを落としやがったな……ハチロクをわざと前へ行かせた」

 

啓介「どういうことだ!?」

 

涼介「あくまでもマシンの性能ではなく総合力で勝つ……その意思表示だろう……だが、その余裕が後半、命取りにならなければいいがな……」

 

 

 

 

 

先行する拓海。

 

拓海「あっ……あのドライバー、わざと俺達を前に行かせる気だ……」

 

池谷「何考えてやがんだ……ハチロクだからって馬鹿にしやがって……!!」

 

拓海「大丈夫っすよ池谷先輩」

 

池谷「お前は大丈夫かもしれない。だが秋名のスーパースターをバカにされたとありゃぁ……俺たちが黙っちゃいられない……!!」

 

 

 

 

池谷は中里にわざとペースを落とされた事にプライドを傷つけられる。だが、拓海は全く気にしていないようだ。

 

 

 

そして1コーナー……!!

 

 

 

池谷「うっ……!!(これで4回目だ……いつまで経ってもこればかりは慣れない……!!)」

 

 

 

 

\シャアァァァァァ/

 

 

 

 

とんでもない勢いで1コーナーに突っ込む拓海。しかし、池谷の物怖じは慣れないうちだけで、次の高速右コーナーは慣性ドリフトでクリアする。

 

 

 

 

 

\キューーーキコキコキコキコ/

 

 

 

 

 

 

池谷「さすがだな……拓海の走りは……このペースに慣れてきてだんだん惚れ惚れするようになってきたよ……」

 

このように、拓海の横乗りでも余裕が出てくるようになった。

 

池谷は、割と理論派なドライバーだ。全体さえ掴んでしまえば、それを分析すれば何も怖いものはない。

 

 

 

 

一方、中里のGT-Rは……

 

 

 

\キィイイイイイイイ/

 

\キュルキュルキュルキュル/

 

\フォオオオオオオオン/

 

 

 

1コーナーはフルブレーキング、しっかり減速してから、ブレーキを少し残しつつこじるようにステアリングを切り、出口が見えたらフルスロットル。典型的なグリップ走法だ。

 

しかしフロントタイヤをこじっているあたり、荷重移動はそれほど上手くない。それを後ろから見る涼介は見抜く。

 

 

 

涼介「あの走り方……前半ならともかく、後半まで持つのか……!?」

 

 

啓介「そうだ、俺も後半になると、タイヤとブレーキがキツくなった。中里より軽いFDですらそうだったからな……」

 

 

 

 

 

 

 

そして、拓海のハチロクは第一ヘアピンへと突入する……!!

 

池谷「見せてやれ拓海……!!俺なんかどうなっていい……アイツらに本物のダウンヒルってやつを……!!」

 

 

 

 

 

 

さすがにもう4度目の池谷、恐怖などすっ飛んで拓海の応援に必死だった。

 

 

 

 

 

 

\シャアアアアアアアア/

 

ヘアピンを前にハチロクを横に向ける拓海。

 

そのまま第一ヘアピンを、流れるように、そしてクイックに曲がっていく。

 

 

 

 

 

 

そして、後から全力で付いていく中里。

 

中里「くっ……なんだこの突っ込み……だが所詮はお遊び……ただのカニ走りに過ぎない……サーキットで最強のマシンは、公道でも最強だぜ……!!」

 

 

 

果たして、それはどうだろうか……?

 

 

 

高橋涼介のFCも、1コーナーに突入。涼介も、ヘアピンを前に車体をスライドさせる。

 

 

 

 

 

 

\キャアアアアアアア/

 

\パァン パァン パァアアアアアア/

 

 

 

 

 

 

見事なロータリーサウンドを轟かせながら、ヘアピンをクリアする。

 

 

 

この後、テクニカルセクションの後、直角コーナー群に入る。

 

この前と同じように、フェイントモーションのドリフトを繰り返してクリアする拓海。

 

一方、しっかり減速してサーキット走行のように右に左にマシンを安定させながら確実に曲がる中里。

 

 

 

 

 

 

しかし……!!

 

 

 

 

 

中里の前のハチロクの姿は遠のいていた……

 

中里「まだ序盤だ……これくらいのことは想定済みだぜ……」

 

 

 

この後の2連続ヘアピンを抜ければ、超高速セクション、スケートリンク前の全開区間が待ち受けている……!!

 

 

 

中里「俺の本領発揮は、ここからだぜ……!」

 

 

 

 

 




前半わざと手を抜き、自分の得意なセクションを前にして血が沸騰寸前の中里。だがそれはまだ序盤、ハチロクと差が開いているのは自分がペースを落としたからだと錯覚していた……遂に、中里が秋名のハチロクにアクションを仕掛ける……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.25 中里、本領発揮

秋名のダウンヒルで最もスピードが乗るスケートリンク前の全開区間に差し掛かった3台。ここで中里が一気に仕掛けていく!!しかしその後の中速コーナー区間で32GT-Rの後ろについたハチロクに乗る拓海は、中里の弱点を見抜き、それを池谷に伝えていくことになる……


 

 

 

 

 

 

 

全開区間に入り、一気にアクセルを踏み込み全力で加速する中里のGT-R。

 

かなり開いていた拓海との差が、みるみる縮まっていく……!!

 

 

 

 

\フォオオオンンン/

 

 

 

「俺の本気の走りはここからだぜ……!!どこまで付いてこれる……!?」

 

一瞬で拓海を抜き去り、有頂天になる中里。

 

 

 

 

一方……

 

啓介「なぁ兄貴、今回藤原のトレノは……勝てると思うか……?」

 

涼介「あぁ、勝てる、勝算は十分にある」

 

啓介「タイヤか……!?」

 

涼介「あぁ、そうだ、それにブレーキもな」

 

 

 

 

中里の乗るBNR32型のスカイラインGT-R V-Specは、純正から100馬力上乗せで380馬力にまでパワーアップされている。しかしその弱点は、1500kgという重量だ。その重さに加え、超フロントヘビーな重量バランスの悪さもある。

 

 

 

 

拓海の乗るハチロクは、純正でも1トンを切る940kg、さらにそこから軽量化等もされているだろう。ロールケージ等の、重量の増す剛性アップパーツも付いていない。概ね900kgとして考えてもいいだろう。

 

 

 

一方中里は、エンジン以外手を加えていない。それはつまり、重量はハチロクに比べ1.5倍以上、600kgも重いという計算になる。

 

 

 

秋名の急勾配において、これを止めたり曲げたりするのがいかに大変か、容易に想像がつくだろう。

 

 

 

 

更にR32GT-Rの重量バランスは、フロント:リアで、60:40にもなる。フロントタイヤだけで、ハチロクの全重量と同じかそれ以上を支えている計算になる。

 

この下りにおいて、ブレーキングとコーナリングで、GT-Rのフロントタイヤにいかに負荷がかかるかは、想像に容易い。

 

 

 

 

涼介「いよいよ中里が本気を出しやがったな……!!だが、そのペースがいつまで持つか……」

 

啓介「あぁ……」

 

 

 

 

血の上りやすい中里は、一度モードに入ると周りが見えなくなる。そう、それは自らの愛車に対してもだ。

 

 

 

 

 

全開区間で、実に中里の32のスピードメーターは、180km/h近くまで達していた……!!そこからのフルブレーキング!!

 

 

ギャラリー「やべぇ!!GT-Rがものすごいスピードで突っ込んでくるぞォ!!」

 

 

 

 

\キィィィイイイイイイイイイイ/

 

\フォンンンンンン フォンンンンンン/

 

ものすごい速度域から、旋回速度まできっちりブレーキングをする中里。

 

 

 

丁度ここは展望台のところ、ギャラリーの多い場所だ。200km/hにも迫ろうかというほどの速度から、一気にブレーキングする中里の姿は、流石に迫力があったようだ。真っ赤になったブレーキローターを横目に見せて、走り去っていく。

 

 

 

ギャラリー「さすがはGT-R、すげぇブレーキングだ!!ブレーキが真っ赤っ赤になってたぜぇ!!」

 

 

 

 

しかし……

 

ギャラリー「ハチロクが少し遅れてるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

本当に迫力のあるのはここからだった……!!

 

 

 

ギャラリー「やべぇ!!スライドしながら突っ込んできやがる……!!逃げろォ!!」

 

 

 

 

 

 

だが……

 

 

 

\シャアアアアアアアア/

 

\フォン フォン/\フォオオオオオオオ/

 

 

 

 

見事なレコードラインを描き、とてつもないスピードで突っ込みながら曲がっていくハチロク。

 

 

 

 

 

ギャラリー「なんだよ……アレは……!?まるで神業だぜ……!!」

 

 

 

 

 

続いて高橋涼介のFC。

 

 

 

 

ギャラリー「やべぇ!!FCも来るぞ!!」

 

やはりコーナー手前からマシンをスライドさせる。

 

 

 

 

 

\キューーーキコキコキコキコ/

 

こちらも見事なブレーキングドリフトだ。

 

 

 

 

 

 

\パァアアアアアア/

 

ロータリーエンジン特有のサウンドを轟かせ、さらの峠の奥深くまで走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

この辺りを境に、高橋涼介の様子が変わった。

 

 

 

 

啓介「アニキ……さっきから全然喋らねぇ……まさか、本気で走ってるのか……!?」

 

 

かつては赤城の白い彗星と呼ばれ、群馬エリアで伝説的な存在となっていた涼介すらも付いていくのがやっとのペースで、拓海は走っていたのだった……!!

 

 

 

そして、それに反比例するかのように口数が増えてきたのが、32に抜かれた後の拓海だった……

 

 

 

「やっぱりだ……あのドライバー、リアタイヤを使いこなせてない」

 

 

 

 

 




急勾配の秋名を、全力で逃げる中里の32GT-R、それを離れたところから追う拓海と池谷が乗るハチロク、そして更にそれを後ろから見物する高橋兄弟の乗るFC……この後のコーナーが続くセクションで、拓海が核心を付く言葉を次々と発する。果たして中里は拓海にはどう映っているのか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.26 池谷の気付き

ストレートで一気にチギられたハチロク。しかし、その後の中速コーナー区間で、拓海は中里の弱点を見抜く。そして、以前中里を追いかけた時、中里が本気だったということが判明。しかしこの後は高速区間が続く。果たしてハチロクはどこで仕掛けるのだろうか……!?


 

 

 

中里「フッ……32が本気を出せばざっとこんなもんだぜ……このまま突き放してやるぜ!!」

 

 

 

しかし、相変わらずのグリップ走法。それを拓海は、リアタイヤを使えていないという。

 

 

 

 

池谷「どういうことなんだ拓海、リアタイヤを使えていないってのは」

 

拓海「ほら、俺なんかも、高橋啓介って人もそうでしたけど、後ろのタイヤを流す走り方をするじゃないですか……そうすると、本来は前のタイヤだけで仕事をする分を後ろに分散して、曲がる限界を上げてるというか、力を分散してるんですよ」

 

池谷「それって、普通のドリフトとは違うのか?」

 

拓海「ドリフトって、いわゆるカニ走りのことですよね?ただカニ走りさせるだけなら簡単なんですけど……何て言ったら良いんでしょう……後ろのタイヤで曲げる……って言ったらわかりますか?」

 

池谷「後ろのタイヤで曲げる……!?」

 

拓海「そうです。後ろのタイヤを流すと、アクセルの掛け具合で、それができるんです。でもあの前のGT-Rの人、それを全然やってないなって」

 

拓海「そのうち来ると思いますよ、前のタイヤが」

 

 

 

 

 

 

拓海は無意識のうちに読み切っていた。その兆候が、少しずつ現れ始める……!!

 

 

 

 

 

後ろから付いてきている高橋涼介は、相変わらず口を閉ざしたままだ。本気を出しているのだ。そのペースにも関わらず、拓海はおろか、いつのまにか池谷まで、会話できるレベルに慣熟されていたのだった。

 

 

 

 

中速セクションの最後に、ヘアピンが待ち受ける。そこを過ぎれば、再び長い全開区間に突入する。そして軽いS字の後、再びヘアピン、そして中速S字区間に入る。

 

 

 

直線で一気に差を広げた中里だったが、ヘアピンの後のS字区間で……!!

 

 

 

 

中里「なん……だと……!?」

 

後ろには、ハチロクがピッタリと張り付いていた。

 

 

 

 

中里の32GT-Rは、1500kgもの巨体でフロントタイヤとブレーキを酷使し続け、このダウンヒルでコーナリングとブレーキングは限界を迎えていた。

 

 

 

 

そして、5連ヘアピン前のストレート。

わずかにアドバンテージを得るのもつかの間、その跳ね返りがブレーキの負荷に直に現れて帳消しだ。

 

 

 

\キィイイイイイイ/

 

中里「くっ……タイヤとブレーキが言うことを聞かねぇ……」

 

 

 

 

 

拓海「ほらやっぱり……あの車、後ろのタイヤは十分余力が残ってるんですよ、だけど、フロントばっかり使ってブレーキも真っ直ぐばっかり使うと、あんな風になるんですよ」

 

池谷「ブレーキを真っ直ぐ……それは当たり前じゃないのか……?」

 

拓海「ほら、俺なんかだとコーナー入る前に、車を滑らせるじゃないですか、あれで曲がりながら減速もしてるんですよ」

 

池谷「……!!(そういうことか……!!スライドさせながら減速することで、ブレーキ本体の負荷を減らしてるんだ……!!)わかったぞ拓海!このまま行けば勝てる!この調子だぁ!!」

 

 

池谷は、拓海のダウンヒルの速さの秘訣を読み切った……!!

あとは、実践できるようになるかどうかだが……

 

 

 

 

 

中里のペースが格段に落ちてきているので、涼介にも余裕が出始めた。

 

涼介「案の定だな……中里の奴、フロントタイヤとブレーキがタレて、もうこれ以上攻め込めない」

 

啓介「アニキ、つまりそれは……」

 

涼介「中里の32は……負ける!」

 

 

 

 

中里「どれだけタイヤがキツくなっても、インさえ閉めれば入る隙はない……!!」

 

ギリギリのコンディションでなんとかインを閉める中里。しかし……!!

 

 

 

 

中里「!!なに!?外からだと!?」

 

中里「ふざけんじゃねえぞ!外から行かすかよォッ!!」

 

だが何とかその場をしのいだ中里。少し安堵する。しかし、それが命取りとなった……

 

 

 

 

 

啓介「次のヘアピンで、インとアウトが入れ替わる!!」

 

 

中里「落ち着くんだ……インにさえ入ってこられなければ、車体がギリギリ入れないくらいアウト側に寄せてもいいはず……」

 

 

 

 

半車身マシンをアウトに寄せる中里。ところが……!?

 

 

 

 

\スッ/

 

池谷「おっ、おい拓海!?そっちは半車身しか空いてない……まさか……!!」

 

拓海「こういう時は、こうすればいいんっすよ」

 

拓海は、雪道でよく使うテクニックを、またも応用し始めた……!!

 

 

 

 

 

中里「…………!?そんな所にコースはないはずだ……お前まさか……!?」

 

ハチロクは、明らかにコース外を走っていた……路肩に乗り上げて無理やり中里のインを差したのだ……!!

 

 

 

 

\ガシャンガシャン/

 

思いっきり縦揺れしながら路肩を使って曲がるハチロク。

 

 

 

\コォオオオオオオ/

中里「だめだ……クルマが言う事を聞かねえ……!!」

 

 

 

 

涼介「終わりだ」

 

 

 

 

アンダーステアのマシンで、無理やりハチロクの立ち上がりに付いていこうとする中里……そして……!!

 

 

 

 

 

\パァアアアアン!!/

 

\ドヒュウウウウウウッ/

 

 

 

 

 

32をガードレールにヒットさせ、スピンして停止した。その後ろから、高橋兄弟の乗るFC……!!

 

 

\シャアアアアアアアア/

 

\プォン プォン/

 

 

華麗に中里の32をパスした。

 

勝負あった……拓海の、ハチロクの勝ちだ……!!

 

 

 

 

中里「フゥ〜、痛ぇなぁ、板金7万円コースか」

 

 

 

 

 

池谷「拓海、お前すごいぞ!!あのR32の中里を……破ったぁ!!」

 

拓海「そんな……大した事……確かに直線は速かったですけど、タイヤの使い方、下手でしたし」

 

池谷「リアタイヤで曲がる……かぁ……今度走り込むとき、今回体感した拓海の走りと併せて、じっくり練習してみよう」

 

 

 

 

 

涼介「フッ……これは本当に面白いターゲットだ……」

 

啓介「(このハチロク……兄貴ならやってくれる……!!)」

 

 

 

 

 




群馬最速候補と謳われる一人、中里毅のR32GT-Rを破った拓海とハチロク。そしてその走りを体感した池谷。後ろから目の当たりにした高橋兄弟……秋名スピードスターズ、赤城レッドサンズ、それぞれに大きく衝撃を与えた。大きなヒントを得た池谷はこの後「リアタイヤで曲がる」事を意識し、猛練習に励んでいく。そんな中、とんでもなく危険な刺客が舞い込んでくるとは、予想だにしていなかった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.27 狂気の刺客

拓海のハチロクと中里のR32GT-Rとのダウンヒルバトルは、見事拓海のハチロクの勝利で幕を閉じた。横に乗っていた池谷は、大きな感動と貴重な経験、気付きを得た。一方黒星を数えてしまった妙義ナイトキッズ。そのトップの座を奪おうと、狂気の刺客が突然秋名山に出没した……!!


 

 

 

 

 

\フォオオオオオオオン/\プシュー/\フォオオオオオオオン/

 

 

 

 

 

拓海のダウンヒルバトル同乗という貴重な経験を元に、秋名の峠を攻めては分析、攻めては分析、を繰り返す池谷。

 

 

 

 

 

最近の池谷の生活はこうだ。

 

 

 

 

 

毎日朝3時に起床する。

 

そして仕事の用意を済ませた後、家を出る。

 

秋名のハチロクが豆腐の配達に出る10分前、大体3時50分には藤原とうふ店前に到着する。

 

拓海がハチロクを駐車場から出すと、池谷のS13をそこに停めさせてもらい、拓海と共に豆腐の配達に出発する。

 

雨の日も、風の日も、休むことなく走る。

 

初めは朝早く辛かったが、これも自らの腕を磨くため、次第に日常となっていった。

 

拓海のダウンヒルは、もう全く怖くなくなっていた。

 

そして、開店前のGSで走り込みの考察をし、それが済んだら仕事に向けて店長が来るまで仮眠を取る。

 

 

 

 

 

これが、今の池谷の日常だ。宣言通り毎日繰り返している。

 

さすがの文太もこれには関心のようだ。

 

 

 

 

 

そしてその日は、突然訪れた……!!

 

 

 

 

 

ダウンヒルを攻める池谷。

 

以前とは比べ物にならないほどのペースだ。

 

ところが……!?

 

 

 

 

 

\ンパァアアアアアアアン ンパァアアアアアアアン/

 

ダウンヒルで突然、とんでもなく速いマシンが後ろから追い上げてきた……!!

 

 

 

 

 

池谷「速いのが一台来やがったか……毎日拓海の横に乗ってじっくり見物して技を盗んでるんだ……俺のダウンヒル、どこまで速くなったか、いっちょ腕試しだぜ!!」

 

 

 

 

 

ところがそのマシンは、ダウンヒル専用マシンのようで、とんでもなく軽快な動きを見せている。バックミラーからでもそれがわかるほど、その走りはキレていた。

 

 

 

 

 

???「クックックックックックッ………!!」

 

 

 

 

 

池谷「お世辞にも俺のマシンはダウンヒル専用ってわけじゃないからな……道を譲るか……それとも……いや、そんなわけにはいかない、地元のプライドが許さねぇぜ!!」

 

 

 

 

 

???「目の前をチョロチョロチョロチョロと……いつまでもFRでカニ走りしやがって……情けねぇぜ……クックックッ」

 

 

 

 

 

スケートリンク前全開区間を抜けたあとのS字区間。

 

池谷は一瞬で張り付かれた。

 

 

 

 

 

???「FRなんてチョロいモンだぜ……こうやってやれば……!!」

 

 

 

 

 

\バァン/

 

\キューーヒュルルルルル/

 

 

 

 

 

池谷「野郎……ワザとぶつけやがったか……!?」

 

 

???「こうやって荷重の抜けたケツをちょっとコツいただけで……チョロいモンだぜ……」

 

 

 

 

 

 

池谷「クソっ……こんな奴に……負けてたまるかぁッ!!」

 

\フォアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアア/

 

全開走行に突入する。

 

伊達に毎日拓海の走りを見ていない。とんでもなく池谷は速くなっている。次のヘアピンを抜ければ全開区間、後ろのダウンヒル専用マシンとも少しは差が開く。

 

 

 

 

 

池谷「いっけぇえええ!!!!」

 

これまでにないほど全力で突っ込む池谷。

 

 

 

 

しかし、池谷は早く突っ込みすぎた……

 

\グシュッ/

 

 

 

 

イン側のタイヤから、妙な音がした。

 

そして、急にフロントタイヤに余裕ができた。

 

 

 

 

 

池谷「なんだ……この感覚は……!?更にステアリングを切り込んでいける……!!もっとトラクションも掛けられそうだ……!!」

 

 

思い切ってアクセルを全開にする池谷。

 

マシンはレールに沿うように曲がっていく……

 

そしてこれまで経験したことのないスピードで、ヘアピンを立ち上がっていった……!!

 

 

 

 

 

池谷は、図らずも秋名の宝刀「溝落とし」を、偶然やってのけたのだった……!!

 

 

 

 

 

 

池谷「何だったんだ………今のは……!?まるで峠の神様が、俺のS13を後押ししてくれたかのような動きだった……!!」

 

 

 

 

 

???「何だ!?今の動きは!?FRの動きじゃねえ……いや、確かにS13はFRのはずだ」

 

 

 

 

 

そして長い直線区間に入る。さすがの池谷のニューCA18。後ろの謎のマシンを突き放しにかかる。

 

 

 

 

 

???「クックックッ……所詮は直線でマシンに乗せられてるだけさ……この後のテクニカル区間で仕留めてやる……ダウンヒルの本当の怖さってモンを見せつけてやるぜ………」

 

 

 

 

 

全開区間の先には、S字コーナーのあと、ヘアピンが待ち構えている。

 

 

 

 

 

池谷「よし、行け!S13!!」

 

前とは見違えるように、しなやかに右に左にテールスライドさせながら速度を落とし、その反動でクイックにヘアピンを曲がった。ところが!!

 

 

 

 

\ンパァアアアアアアアアン ンパァアアアアアアアアアン/

 

その謎のダウンヒルマシンは、池谷の後ろにピッタリと張り付いていた……!!

 

 

 

 

そして遂に5連ヘアピン手前のS字区間……ここで遂に本格的に仕掛けてくる……!!

 

 

 

 

 

???「終わりだ」

 

 

 

 

\ガッシャン/

 

 

 

 

池谷「!!?」

 

 

 

 

\ドヒャアアアアアアアア/

 

 

 

 

大きく横にスライドする池谷のS13……

 

 

 

 

 

ところが………!!

 

 

 

 

 

池谷「………!!」

 

 

 

 

 

フルカウンターステアを当てる池谷。

 

 

 

 

 

\フォン フォンフォンフォン/

 

 

 

 

信じられないようなアクセルワーク。

 

 

 

 

池谷「……!!」

 

 

 

 

なんと、池谷はスピンモードから立ち上がった……!!

 

 

 

 

池谷「あいつ……絶対許さねぇ……!!!!!」

 

 

 

 

スピンモードで失速してる間に、謎のダウンヒルマシンに抜かれてしまった。だが池谷は全力で追いかける……!!

 

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

あまりの強烈な突っ込みに、付いて行けなかった……

 

 

 

 

 

後ろ姿は、赤のEG6型シビックSiR。秋名では見たことのないマシンだった。FFの安定性を武器に、とんでもない突っ込みをする走りで、その鋭さは拓海以上かもしれない。FRには到底不可能な動きだ。

 

 

 

 

 

池谷「くっ…………クッソオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

 

S13の中で悔しさのあまり雄叫びを上げる池谷だった。

 

 

 

 




FR殺しのダウンヒル専用FFマシン、EG6型シビック。この一件が、まさか秋名のハチロクへの挑戦状だったとは、池谷は知る由もなかった……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.28 狂気のダウンヒラーの正体

突然秋名山に出没した謎のマシン。練習中の池谷の後ろに突如現れ、故意にぶつけて来られた。だが池谷のドライビングは遥かに上達しており、フルカウンターを当てながら見事なアクセルワークでスピンモードに入ったS13を、見事立て直してみせた。失速した池谷を抜いていったそのマシンはEG6型シビック。まさかそのマシンが、思わぬ形で池谷の前に再び現れるとは……!!


 

 

 

 

今日も拓海の豆腐の配達に同乗した後、職場のGSで働く池谷。

 

そこに1台の車がやってきた。

 

 

 

 

 

 

池谷「いらっしゃいませ〜!!………!?」

 

 

???「おいお前、秋名のハチロクを知ってるか?」

 

 

池谷「お前か……!!この前俺のS13を散々な目に遭わせやがった奴は……!!」

 

???「ふふっ、お前だったのかよ、あのS13……あまりにも遅えからぶつかっちまってよォ……」

 

池谷「舐めてんのかてめェ!!」

 

???「……ふふっ、まぁいい、お前に用はねぇ……ここに来たら秋名のハチロクと連絡が取れるって聞いたもんでなぁ」

 

池谷「ハチロクに何の用だ!?」

 

???「決まってるじゃねぇか……バトルを申し込みに来たのさ……」

 

池谷「(遂に拓海の前にも危険な奴が現れやがったか……)」

 

 

 

 

 

硬直する池谷。しかしその人物は続ける。

 

 

 

 

 

???「俺は妙義ナイトキッズの庄司慎吾ってんだ……この前毅のやつがハチロクに負けたってか……?笑いもんだよなァ、GT-Rでハチロクに負けるなんてよ……ところでその秋名のハチロクはここには居るのかァ……?」

 

池谷「今はいない」

 

 

 

赤のEG6の正体は、中里毅のチーム、妙義ナイトキッズに所属する庄司慎吾だった。

 

 

 

 

慎吾「なら伝えといてくれ……俺とバトルするかどうか」

 

池谷「秋名のハチロク……拓海は、どんなやつが相手でも負けない!!」

 

慎吾「面白ぇなぁ……だが普通にバトルするんじゃ面白くない……とあるルールでバトルしてもらう」

 

池谷「拓海はどんなルールであっても、貴様のような奴に負けるような奴じゃない!どんなルールだ!!」

 

 

 

 

しかしこの後口から発されるルールは、想像を絶するものだった……

 

 

 

 

 

慎吾「簡単さ……右手をガムテープでステアリングに縛って、いつも通り走るだけさ……俺達はそのバトルのことを、ガムテープデスマッチって呼んでるけどな……」

 

 

池谷「!?」

 

 

 

池谷は凍りついた。

 

この前池谷は慎吾にぶつけられた際、フルカウンターを当てたが故に、スピンモードから復帰することができた。しかし、ステアリングを固定されるということは、それができないということなのだ。メカに精通し、また自ら危険な目に遭わされた池谷は、直感的に理解した。

 

 

 

 

慎吾「なァ?簡単だろ?条件は俺も同じさ……野暮なことはしねェよ……ちゃんとハチロクに伝えておけよ……妙義ナイトキッズ最強の男は、この庄司慎吾だってことを証明してやるってなぁ……」

 

池谷「くっ……!!」

 

 

 

 

 

\キューーキュキュキュキュキュキュ/

 

相手の返事を待たず走り去っていった。

 

 

 




野暮なことはしないとは言ったが、明らかに庄司慎吾という男からは、狂気で陰湿な雰囲気が漂っていた。到底クリーンなバトルをしてくるとは思えない。果たして、拓海とハチロクに対し、何を企んでいるのだろうか……?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.29 ニューマシン、登場……!?

池谷を危険な目に遭わせたのは、中里と同じ妙義ナイトキッズの庄司慎吾という男だった。どうやらナイトキッズ最速の座を狙っているようだが、あまりの狂気に満ちた雰囲気に、池谷も硬直する……そんな時、また一台、とある車が姿を見せた。それがまさか……!?


 

 

 

 

 

 

拓海「おはようございまーす」

 

 

 

池谷「おはよう、拓海、今日は樹は一緒じゃなかったのか……?」

 

 

 

拓海「今日はなんか緊急の用事が入って、少し遅れてくるって言ってましたよ」

 

 

 

池谷「そうか……ところで拓海」

 

 

 

拓海「何ですか……?」

 

 

 

池谷「お前の所にまた、挑戦状が来たぞ……!!」

 

 

 

拓海「えっ……またですかぁ……(やれやれ……最近急に忙しくなったなぁ……)」

 

 

 

池谷「ナイトキッズの、庄司慎吾って男からだ」

 

 

 

拓海「ナイトキッズ……この前の中里って人のチームですよね?」

 

 

 

池谷「そうだ、だがその男、普通じゃないぞ、今回ばかりはやめておいた方がいい」

 

 

 

拓海「どうしたんですか?」

 

 

 

池谷「そのバトル、とあるルールでやるって言ってたんだが、それがとんでもない……右手をガムテープでステアリングに縛ってバトルするっていうんだ……車は同じ排気量のテンロクだけど、向こうはFF、ハチロクはFRだ……車の動きが全く違うんだ、このルール、FRには危険すぎる……」

 

 

 

拓海「よくわかんないっすけど……逃げる気ないっすよ、オレ」

 

 

 

 

 

池谷「!?」

 

 

 

 

 

その返事に、池谷は凍り付いた。だが拓海は続ける。

 

 

 

 

 

 

拓海「いくら動きが違うからって、タイヤが4個付いててボディがあって、エンジンが乗ってるなら、同じ車じゃないですか、どんな条件であろうと、それは同じですよ」

 

 

 

 

 

池谷「拓海……」

 

 

 

 

 

池谷は拓海のことが心底心配になってきた。そこへ、一台の車が突然現れる……!!

 

 

 

 

 

 

\ブゥウウウウウウン/

 

 

 

池谷・拓海「いらっしゃいませ〜!!」

 

 

 

池谷「って!!」

 

 

 

 

 

 

 

\プップッ/

 

 

 

樹「ちわーっす!」

 

 

 

 

 

 

池谷「お前、それって……ハチロク〜〜!?!?」

 

 

 

 

 

 

樹は突然、カローラレビンに乗って出社してきた。

 

拓海の乗るトレノとは姉妹車だ。

 

 

 

 

 

 

池谷「樹〜、お前、隠してやがったなぁ〜!?このっこの〜っ!!」

 

 

 

樹「そうっすよ!サプライズでハチロクで登場ってわけですよォ!!」

 

 

 

池谷「お前いつの間に……」

 

 

 

樹「コイツに乗ってどんどん練習して、拓海とダブルダウンヒルエースってわけっすよ……!!くぅ〜〜!!」

 

 

 

池谷「お前がそこまで速くなれるのか〜!?」

 

 

 

樹「なってみせますよォ!!なんたって、俺には相棒の拓海がいるんっすよォ!!な、拓海!」

 

 

 

拓海「あっ……あぁ………」

 

 

 

樹「てことで池谷先輩、俺も秋名スピードスターズのメンバーとして、入れてくださいよォ!!」

 

 

 

池谷「よし、わかった!考えてやる!(まさか樹がハチロクを入手するとはなぁ……秋名スピードスターズにも正式にダウンヒラーが登場するか……でも樹が本当になれるのかぁ……?)」

 

 

 

 

 

 

そこに、話を聞きつけた店長が顔を出す。

 

 

 

店長「樹、お前いつの間に車買ったんだぁ?」

 

樹「この前買って、今日納車だったんっすよォ!バイト代貯めて、がんばりましたよォ!!」

 

店長「なるほど……バイト代でか……う〜ん、なんか嫌な予感するなぁ……」

 

樹「どうしたんっすかぁ、店長」

 

店長「樹、お前ちょっとボンネット開けてみろ」

 

樹「あ、はい、いいっすよぉ」

 

 

 

 

 

ボンネットを解錠する樹。

 

そして店長はボンネットを開け、じっくりとエンジン周りを見た。その後軽くため息を付き、ボンネットを閉じる。

 

  

 

 

 

 

店長「やっぱりだ………樹、お前間違えてるぞ」

 

樹「へ……?」

 

 

不思議そうな顔をする樹。

 

 

 

 

 

店長「これはハチロクじゃない……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店長「ハチゴーだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束の間の沈黙の後……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

池谷「ハーーーーッハッハッハッハッ!!ホント笑わせるぜ樹ィ!!ハチロクかと思ったら、ハチゴーだってよ!!ハチロクはDOHC、ハチゴーはSOHC、全く別物だぜ!!そんなのも確かめなかったのかよォ!!傑作だぜこりゃあ!!ハッハッハッ!!」

 

 

 

 

 

樹「ううっ…………(涙)」

 

 

 

 

 

拓海「ちょっと、言い過ぎじゃないですか池谷先輩」

 

店長「そうだぞ池谷、折角自分でお金貯めて自分の車買ったんだ……少しは褒めてやれよ」

 

池谷「そ、そうですね……ごめんよ樹、言い過ぎたよ」

 

樹「……いいんっすよ池谷先輩、誰の相談もなしに、みんなをビックリさせようと思って一人で車探したのが間違いだったんっすよぉ……(涙)」

 

 

 

 

 

一同「…………」

 

 

 

 

 

いくら陽気な樹でも、さすがにこれはショックだったようだ。

 

 

 

高校生にして初めて愛車を手にしたのだ。しかも、自らの力だけで……これは、その車がどんな車であろうと、称賛に値する努力だ。そこに……

 

 

 

 

 

拓海「すごいよ、樹は」

 

 

 

樹「へ……?」

 

 

 

 

 

さっきとは逆の意味できょとんとする樹。

 

 

 

 

 

拓海「俺にはできねぇよ、そんなこと……まだ高校生なのに、自分でお金貯めて車買うなんて……俺なんか、ただ親父の車に乗せられてるだけだから……」

 

 

 

 

 

樹「た……拓海ィイイイイイイイ!!!」

 

 

 

思わず拓海に抱きつく樹。

 

拓海「こら、やめろやめろ」

 

 

立ち直りが早く、いつもポジティブなのが、樹の最大の魅力だ。

 

 

 

 

 




頑張って自らの愛車を購入した樹。だが、ハチロクとハチゴーを間違えてしまったことは消えない事実だ。ところが、この間違いが後々、秋名スピードスターズを思わぬ展開へと導くきっかけになる……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.30 狂気のダウンヒル、開始……!!

ガムテープデスマッチという危険なバトルを申し込まれた拓海。ところが拓海は逃げる気はないという。そこにまた、狂気のダウンヒラー、庄司慎吾が現れる。果たして、拓海の返事は……そしてその後の結末は……!?


 

 

 

 

〜数日後〜

 

 

 

 

池谷「いらっしゃいませ〜!!(……!?また来やがった……)」

 

 

再度、庄司慎吾が池谷たちのGSに現れた。

 

 

慎吾「ガムテープデスマッチの返事を聞きに来た……ちゃんとハチロクに伝えたか……?」

 

池谷「ああ」

 

 

 

 

 

そして、その週末の夜10時から、ガムテープデスマッチが開始されることとなった。

 

 

 

 

 

〜週末、秋名山 午後10時〜

 

 

慎吾「よォ、よく来たなァ、歓迎するぜ、ヘヘッ、貴様が秋名のハチロクかァ?(思ったよりガキだな……本当にコイツなのか?)」

 

拓海「みんなからはそう呼ばれてますけど……」

 

慎吾「聞いてるかもしれねェが、今回はお互いあるルールで戦ってもらう……なに、簡単さ……右手をガムテーブでステアリングに固定して、いつもどおり走るだけさ……」

 

拓海「わかりました」

 

 

 

 

特になんの逆らいもせず、素直に従う拓海。ナイトキッズのメンバーが、お互いの右手をステアリングで縛る。

 

 

 

そして、バトルは開始される……

 

この後拓海は、最大の窮地に立たされる……!!

 

 

 

 

カウントはナイトキッズのメンバーが取ることになった。そして……!!

 

 

 

 

メンバー「5、4、3、2、1、GO!!」

 

 

 

 

いよいよ危険なバトルが幕を開けた……!!

 

エンジン出力は、ハチロクもEG6も同じ程度だ。だが、慎吾がわざと後ろに付く。

 

 

 

 

慎吾「おうおう、元気いいなぁ、だが、何か忘れちゃあいないかァ??」

 

 

いつも通りに1コーナーに進入しようとする拓海。しかし……!!

 

 

 

拓海「……!?」

 

 

気付くのが遅すぎた……いつも通り操作できないことに……

 

 

 

 

 

\コォオオオオオオオ/

 

 

 

 

 

鈍いスキール音を立てるハチロク。戸惑う拓海。

 

すぐに荷重をフロントに移しオーバーステアの体制に持っていく。

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

なんとかいつもの姿勢に入れた。だが、そこからが問題だった……!!

 

 

 

拓海「!!」

 

カウンターステアがまともに当てられない!!

 

スピンモードに入るハチロク。

 

\ファン ファン ファファン/

 

アクセルワークでリアに断続的な荷重を掛け、オーバーステアを回避しようとする拓海。そして……!!

 

 

\ファアアアアアアン/

 

 

拓海「(フゥ……危なかった……何とかなったぜ……池谷先輩の言ってた通りだ……後ろの車は何ともないってことなのか……?)」

 

 

\キューキュキュキュキュ/

 

慎吾「ガキのくせによくやるじゃねぇか……てっきりそのまますっ飛んでいくと思ったぜ……だが本当に怖いのはここからだぜ……?」

 

FFなので、極めて安定した姿勢でコーナーをクリアするEG6。

 

拓海の予想通りだ。

 

 

 

 

 

一方……

 

池谷「なんか嫌な予感がする……健二、俺達も後ろから付いていくぞ!」

 

健二「あ、あぁ」

 

池谷と健二は、もしものことを考慮し、S13で後を追う。

 

 

 

 

拓海はこの後もペースを落として走らざるを得なかった。だがそこで、あることに気がつく。

 

拓海「(あれ……ペースがいつもと変わらない気がする……舵角はそんなに大きく切らないほうが速いのか……?)」

 

 

 

 

片手にホールドされた右手だけでの操作に、次第に慣れていく。

 

慎吾「思ったよりやるじゃねえか……だが、これで終わりだ……」

 

 

 

\ガッシャン/

 

 

 

 

ハチロクのリアバンパーに、思いきりぶつける慎吾。

 

スピンモードに入る拓海。

 

その隙にEG6は前に出る。

 

「全くチョロいもんだぜ……FR小僧は……じゃあな……」

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

拓海「くっ!!」

 

 

\ヒューーーーキコキコキコ/

 

 

 

 

 

なんと、スピンさせられたと思ったら、そのまま一回転して元の姿勢に戻ったのだ……!!

 

 

 

 

ペースの落ちていた2台。なんと、池谷はその2台に追いついていた!拓海がぶつけられ、一回転して元に戻るシーンを、後ろから見ていたのだ。

 

 

 

 

拓海「アイツ……許さねぇ……!!」

 

拓海の走りがキレ始める。

 

 

 

 

コーナーを路肩に乗せてまでして高速で立ち上がる。

 

ボディサイドをガードレールにぶつけ、更にその反動を利用してドリフト姿勢に入る。

 

 

5連ヘアピン近くで、慎吾に追いついた。

 

 

 

ここに来たら、もうこの技しかない……!!

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

\ギュイッ/

 

変な音とともに、通常ではありえない曲がり方をする拓海。

 

 

 

 

後ろから見ていた池谷は、この前自分が経験したことを思い出す……

 

「(このヘンな曲がり方……まさか……!!そういうことだったのか!!)」

 

 

 

 

池谷はなんと、自分で気づいたのだ……秋名のバンクの付いた側溝にイン側のタイヤを落として曲がるテクニックに……!!

 

 

 

 

そして、拓海は溝落としであっという間に慎吾をパスした。

 

流石の上手くなった池谷でも、一発でこれを決める技術は流石にない。

 

5連ヘアピンで、離れて見えなくなってしまった。

 

 

 

 

そして、最終ストレート……

 

慎吾「自分で仕掛けたこのバトル……このルールで俺が負けちゃとあったら、俺はチーム中の笑いモンだ……このバトルの結末は………ダブルクラッシュと行こうぜェ!!」

 

 

 

 

慎吾「ヒッヒッヒッ」

 

ステアリングに手をかけ、撃墜体制に入る慎吾。ところが……!?

 

 

 

 

\キューキコキコキコ/

 

遅かった。丁度直線後の低中速コーナーの手前だった。

 

慎吾の撃墜は、拓海の次のコーナーへのアプローチの際のテールスライドにより避けられたのだ。

 

コーナーと反対方向に曲がっていく慎吾のEG6。

 

 

 

 

\バァアアアアアン!!/

 

\ガッシャン ガッシャン/

 

 

 

 

池谷たちには、あちらこちらに飛び散るヘッドライトの光が見えた。

 

 

池谷・健二「た、拓海ィ!!」

 

 

しかし……

 

 

そこにいたのは、ナイトキッズの庄司慎吾だった……

 

 

半ば泣きそうな顔をする慎吾。

 

慎吾「ごめんよ……EG6」

 

 

 

現場に到着した池谷

 

池谷「うわっ……やっちまったのか……!?」

 

慎吾「俺なんか、構わなくてもいいぜ……」

 

池谷「キックバックで、腕をやっちまったみたいだな……病院まで送ってやるよ」

 

慎吾「……そこまでしてもらう恩義はねぇ……」

 

池谷「乗れよ、俺のS13に。救急車より、ずっと速いぜ?」

 

慎吾「すまねぇ……恩に着るぜ……」

 

 

 

 

 




庄司慎吾は、これを気に心を改め、狂気は影を潜めることになる。池谷は、どんな悪かった奴に対しても、弱っている者や、改心した者には、このように優しく振る舞う。池谷の人間性の良さは、こういうところにあるのだ。その人間性が、後々のスピードスターズの大躍進にも繋がっていく……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.31 屈辱のハチゴー

狂気のガムテープデスマッチは、慎吾のクラッシュという形で幕を閉じた。数日後、樹は手に入れたばかりの愛車、ハチゴーを秋名山に持ち込み、初めて峠で走るつもりだった。しかし、そこに余計な連中が現れた……


 

 

 

 

 

樹「くぅ〜〜〜!!楽しいぃ〜〜やっぱ峠は楽しいよォ!!」

 

拓海「そういうもんなのか……?」

 

 

 

自らの手で走りたかった樹に対し、毎日仕事で走らされている拓海。

 

 

 

 

秋名山の頂上で談笑していると、何やらややこしい連中が顔を出してきた。

 

S13と、180だ。

 

 

 

 

モブA「よぉ兄ちゃん、あんた達も走ってるのかい??」

 

モブB「走るったって、ハチロクだぜ!?今時ハチロクはねぇだろぉ(笑)」

 

 

 

 

樹「なんだよお前ら!俺の車はハチロクじゃなくて、ハチゴーだよぉ!!」

 

 

 

 

モブC「聞いたか!?ハチゴーだってよ!!」

 

モブ一同「ハーーーーっハッハッハッハッ!!ハチロクじゃなくてハチゴー!!笑わせるぜ!!現存してたよかよそんな車!!」

 

 

 

 

モブA「峠走るんだったら、もっとマシな車に乗ってくるんだな!わかったかガキども!」

 

 

 

 

\ドッ/

 

 

 

極めつけにハチゴーのタイヤを蹴り、走り去っていった。

 

 

 

モブA「せいぜい、原チャリに煽られねぇように気をつけてくれや!!」

 

 

 

\フォオオオオオオン/\プシュー/\フォオオオオオオン/

 

 

 

走り去っていく2台。

 

 

 

 

 

樹「うっ………ううっ…………」

 

泣きそうな顔をする樹。

 

しかし、拓海が黙ってはいなかった……!!

 

 

 

 

 

拓海「樹、助手席に乗れ!!誰が何と言おうと、樹の大切な車なんだ……この車の本当の限界を、今からみせてやるからな……!!」

 

 

助手席に乗る樹。

 

 

樹「ううっ……拓海……って、うぁああああああ!!!」

 

 

 

 

 

ハチゴーでスピンターンを決めて一気にダウンヒルに入る。

 

 

 

 

 

一方、連中は……

 

 

\ギィィ/

 

\キューーキコキコキコ/

 

 

 

モブA「ヒヒッ、やっぱこれだぜぇ」

 

 

 

所詮サイドブレーキドリフトしかできない連中だった。

 

 

 

 

 

 

一方、とんでもないペースで峠を下るハチゴー。

 

ハチロクと基本的には同じボディの構成なので、乗り味は池谷のS13以上に似ているようだった。

 

ハチゴーは今、パワーの少ない秋名のハチロクと化していた……!!

 

 

 

 

 

樹「ゔぁあああああ!!わかった、わかったよォ!!拓海、もういい、もういいからァ〜!!」

 

拓海「許せねぇ、あの連中……怖いかもしれないけど、よく見ておけよ樹!!」

 

 

 

 

拓海はキレていた。キレた時の拓海は誰にも手がつけられなくなる。

 

 

 

 

 

そして、前の車のテールランプが見えた……!!

 

 

 

 

 

 

モブC「後から何か速え車が来やがった……俺の180をナメてもらっちゃ困るぜ!?」

 

 

 

 

 

スケートリンク前の全開区間。一気に差が広がる。

 

 

 

 

 

モブC「なんだァ?消えた……気のせいか……?」

 

 

 

 

 

ところが……!!

 

 

 

 

 

モブC「………!!!」

 

 

 

 

全開区間後のS字コーナーをいくつか曲がった瞬間、その車は後ろに張り付いていた……!!

 

 

 

 

拓海「………!!」

 

 

 

 

サイドブレーキドリフトしかできない180を、思いっきりアウトからパス!

 

 

 

 

モブC「うげぇ!!さっきのハチゴーじゃねえか!!一体どんなチューンしてんだよ!?」

 

 

 

 

ハチゴーはほぼノーマル、格好だけの鋳造アルミホイールを履いているのみに過ぎない。

 

 

 

 

そして次はすぐ前を行くS13だ。

 

 

 

 

モブA「何だ……?速いマシンが一台来てたのか………?フッ、チギってやるぜ!!」

 

 

 

 

しかし、同じ程度の腕では、拓海の前には手も足も出ない。

 

 

 

 

同乗するモブB「よく見たら後ろの車、さっきのハチゴーっぽいぜ!?」

 

モブA「んなわけねぇだろ!!ハチゴーがS13についてこれるわけ……」

 

 

 

 

即座にS13をかわす拓海。

 

 

 

 

モブA「うげぇーー!!ハチゴーだァ!!ハチロクの間違いじゃねえのか!?」

 

 

しかし……全開区間手前のヘアピン……

 

 

 

モブB「でも見ろよ、あのロール……」

 

モブA「やっぱりあの車……」

 

モブA・B「ハチゴーだぁあああ!!!」

 

 

 

 

あまりに動揺し、ガードレールに擦りまくる2台。

 

 

 

 

そして、戦慄したのかS13と180の連中はその場に車を止める。

 

 

モブA「ひょっとして………」

 

モブB「あいつら……」

 

 

 

 

モブ一同「幽霊〜〜〜!?!?」

 

 

 

 

 

拓海「しっかし何だ?このタイヤ……ちっとも食いつかねぇ」

 

 

 

 

 




拓海の腕により振り回されたハチゴーは、ヘタなシルビアを凌駕するほどに速かった。古いタイヤにも関わらずだ。この出来事は樹の記憶に刻み込まれ、後々秋名スピードスターズを大貢献させることに繋がっていくのだった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.32 届いた花束

秋名山で若者にバカにされた樹のハチゴー。しかし拓海の運転により彼らをパスしていった。後日、拓海たちのバイト先に、謎の花束とメッセージカードが届く。果たして一体何なのか……?


 

 

 

 

拓海「おはようございまーす」

 

店長「おはよう拓海、ところで拓海、お前宛に何か花束が届いてたぞ?高橋って人からだったなぁ」

 

拓海「なんすか、それ」

 

 

 

 

その花束に添えられたメッセージカードには、こう書かれていた。

 

 

 

 

「8月○日 午後10:00 秋名山山頂」

 

 

 

 

池谷「おい……これ……高橋涼介から直々の挑戦状じゃないか……!?」

 

拓海「………」

 

 

 

 

遂に来てしまった……北関東最速と言われ、全関東を含めた関東最速プロジェクトをも視野に入れていた高橋涼介から、秋名のハチロク、拓海宛に、直々に挑戦状が届いたのだ……!!

 

 

 

 

しかし、問題が発生する……!!

 

 

 

 

店長「どうすればいいんだ、この花束」

 

花束のやり場に困る店長。

 

拓海「俺が持って帰りますよ、一応、俺宛のなんで」

 

拓海が花束を持って帰ることになった。

 

 

 

 

帰宅した拓海

 

拓海「ただいま〜」

 

文太「おう」

 

拓海「これ、高橋涼介って人から貰ったんだけど、どうすりゃいい……?」

 

文太「………なんだそりゃ」

 

 

 

 

 

困惑する文太。

 

 

拓海「高橋涼介っていう、すげー速い人から、うちのGSに挑戦状が届いたんだ……それに一緒に付いてきたというか……その花束に挑戦状が挟まってたというか……」

 

文太「困ったなぁ……こういうの貰ったことねぇからなぁ……みんなどうしてるんだ?」

 

拓海「さぁ?でも、捨てるわけにもいかねぇだろ……」

 

文太「そうだなぁ……」

 

困ってこめかみをポリポリする文太。

 

 

 

 

 

藤原家は父子家庭だ。花瓶など持っていない。

 

文太「とりあえずそこに使ってねぇバケツあるから、そこに水入れて店先に飾っといたらどうだ」

 

拓海「うん……わかった」

 

 

 

 

なんと、高橋涼介からの花束は、ブリキのバケツに入れられて店先に飾られることになった。

 

まるて、そこで誰かが事故で亡くなったかのような風貌だった……(笑)

 

 

 

 

 

翌朝。いつも通り、配達前に池谷がやってくる。

 

池谷はその店先の花束を見て、顔面蒼白になった……!!

 

 

 

 

池谷「おい!拓海!まさか、親父さんに何かあったのか!?まさか……」

 

拓海「いや」

 

 

 

文太が顔を出す。

 

 

 

文太「人聞きの悪い……俺ならピンピンしてるぜ」

 

池谷「あぁ、こりゃ失礼しましたぁ〜(汗)」

 

 

 

 

 

文太「なぁ青年……池谷って言ったっけか?」

 

池谷「あっ、はい」

 

文太「こういう花束、貰ったらどうすりゃいいかわかるか?」

 

 

 

 

ふぬけた様子で安堵する池谷。

 

池谷「(なんだ……昨日の花束か……)」

 

拓海「昨日、高橋涼介って人から届いた花束、どうすればいいかわからなくて困ってるんですよ」

 

池谷「なんだ、そういうことか……こういうのは」

 

 

 

余っていた2Lペットボトルで、即席で花瓶を作る池谷。

 

文太「この青年……器用だなァ……」

 

 

 

 

池谷「こうやって、家の中に飾っとくんですよ」

 

文太「ほぉ……そういうモンなのか……もらった花束ってのは」

 

 

 

 

妙に感心する文太。

 

 

 

 

池谷「本当はちゃんとした花瓶とかあるといいですけど、失礼かもしれないですが滅多にこんなもの飾らないと思うんで、これで充分ですよ」

 

文太「なるほど……確かに店先にこんなモン置いてたら、勘違いされるよなァ……

 

拓海「『こんなモン』はねぇだろ親父」

 

文太「………(汗)ポリポリ 助かったぜ、池谷青年」

 

池谷「いえいえ、いつもこうやって、拓海の助手席に乗せてもらってるんです……これくらい、どうってことないですよ」

 

 

 

 

文太「ちょっと時間押しちまったなァ……拓海、早く支度して、配達行ってこい」

 

拓海「あぁ……」

 

 

 

 

いつものように店先にハチロクを横付けする。

 

そこに注がれた水は……!?

 

 

 

 

\チョボチョボチョボチョボ/

 

拓海「おい親父!何やってんだよ!」

 

文太「ゲン担ぎだ、いつもより張り切って行ってこい」

 

 

 

 

紙コップに注がれたのは、高橋涼介の花束が入った即席花瓶の水だった……!!

 

 

 

 

拓海「……にしても、さすがに多くないか?この水の量」

 

文太「ゲン担ぎだって言っただろう……その高橋涼介って奴のエキスが混じった水だ……絶対にこぼすんじゃねぇぞ」

 

拓海「おいおいマジかよ……(汗)」

 

文太「そして、その北関東最速とか言ってるその野郎に勝ってくればいい」

 

拓海「わかったよ、時間押してるし、さっさと行ってくるよ」

 

 

 

 

 

\フォン フォン フォオオオオオ/

 

 

 

 

配達に向けて出発した拓海と池谷。

 

池谷「おい拓海、お前は親父さんと、いつもあんな感じなのか……?」

 

拓海「あんなもんじゃないですよ……普段はもっとテキトーな感じですよ」

 

池谷「そうなのか……」

 

 

 

 

 

配達に向かうハチロクは、伊香保の温泉街を抜け、秋名山の峠に突入する。

 

いつもより多い紙コップの水。拓海は慎重にステアリングを操作する。

 

 

 

 

 

拓海「やっぱりだ……」

 

池谷「どうした?拓海」

 

拓海「ステアリングの舵角は小さい方が、速く走れる気がするんですよ」

 

池谷「そういや、いつもより紙コップの水が多い割に、そんなにペースが変わらないな」

 

拓海「この前のガムテープデスマッチで気付いたんですよ……あんまりステアリング切らなくても曲がるんだって」

 

池谷「そうなのか……?」

 

拓海「舵角を切りすぎると、かえって速度が落ちるというか……むしろ、ステアリングは真っ直ぐでスライドとアクセル操作だけで曲がっていくほうが、よく曲がるんですよ」

 

 

 

 

速くなるための大ヒントを、池谷は拓海の口から聞いた。

 

池谷は最近、テクニックの壁に当たっていた……

 

池谷の腕は、北関東でも中の上、いや上の下くらいには速くなっていた。

 

しかし、そこから全く伸びなくなった。走っても走っても、同じなのだ。

 

マシンのパワーさえあれば、拓海とバトルしたときの高橋啓介と、ヒルクライムでタメを張れるくらいには速くなっている。

 

その壁を打破するヒントが、ひょんなことから拓海の口から発せられるとは、思いもしなかった……!!

 

コミュニケーションを取りながらヒントを得られる……これが、同乗走行のもう一つの強みだ。

 

もっとも、拓海のように限界走行しつつも話す余裕のある者の同乗に限った話ではあるが……

 

 

 

 

池谷「(すごい……いつもより多い紙コップの水が、見事にこぼれない……それなのにペースは普段とそんなに変わらない……本当に凄いよ……拓海の運転は)」

 

 

 

 

頂上に辿り付くハチロク。その先は、これといった峠道はなく、ずっと長い直線が続いたあと、秋名湖の方へ右折し、食堂や旅館、ホテルにとうふを卸して廻っていく。

 

 

普段なら配達終了したら紙コップの水を捨てて、早く帰るために下りをかっ飛ばして行くのだが、今日は少し気分が違った……

 

 

拓海「高橋涼介の……水……」

 

拓海は湖畔近くにハチロクを停めた。

 

 

 

池谷「どうしたんだ?拓海」

 

拓海「いや、折角なんで、高橋涼介の水、秋名湖にお供えしようと思って……」

 

池谷「おいおいお供えって……(笑)まぁいいぜ、高橋涼介に勝つためのゲン担ぎだ、秋名湖に注いでこい!」

 

\チョボチョボチョボチョボ/

 

拓海「…………」

 

池谷「(どうか拓海が、高橋涼介に勝ちますように……)」

 

 

 

拓海はその時、何を思って水を秋名湖に流したのだろうか……?

 

 




この後、秋名山の下りをかっ飛ばして帰ることになる拓海と池谷。だがその走りは、いつもより水の多かった紙コップによる効果なのか、いつもと違う走りになっていた。果たしてその真髄とは……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.33 紙コップの真髄

拓海はとうふの配達前の紙コップに、高橋涼介からの花束の水を、文太からたっぷり注がれた。いつも通り池谷と共に配達に行き、いつもより多い量にも関わらず水をこぼさずに秋名山を上りきった。とうふの配達後にいつも通りかっ飛ばして秋名山を下る拓海だったが、いつもとは違っていた……それは、いつもより水の多い紙コップがもたらした恩恵だった。


 

 

 

 

 

 

拓海「じゃあ、帰りますよ、池谷先輩」

 

池谷「あぁ、わかった」

 

 

 

 

いつも通り側道から秋名の峠へと続く長い直線道路へ合流し、かっ飛ばす。ここで速度は160km/hほどに達するが、峠のスタート地点手前に緩い左コーナーがあるので、少し減速する。そして、スタート地点をそのままスルーし、恐ろしい速度で1コーナーに突入する。しかし、池谷はもうこの感覚には慣れきり、怖くはなくなっていた。しかし、今日の拓海はいつもと違うドライビングを見せた……!!

 

 

 

コーナー手前。

 

\ギャアアアアアア/

 

 

 

ドリフトのきっかけの作り方が、いつもよりシャープかつ短時間だ。

 

 

 

\ファン ファン ファアアアアアア/

 

 

 

 

そして、ステアリング操作をほとんどせず、ほぼアクセルワークのみで1コーナーをクリアしていった。

 

その他のコーナーや、その先のヘアピン、そしてその先もずっとそんな感じのコーナリングを繰り返す。

 

 

 

 

池谷「拓海、なんかいつもと様子が違うな」

 

拓海「気付いたんですよ、俺……ハンドルは曲がるキッカケのためだけに使って、あとはアクセルで曲がったほうが速いって」

 

池谷「確かにそうだな……いつもより勢いのあるドライビングだ……俺も参考になるよ」

 

 

 

 

池谷にとって、初めは何がどうなってるのか分からなかった拓海の走りも、ここまで慣れれば自動車の理論に詳しい池谷により分析が可能だ。

 

 

 

 

池谷「今の拓海……リアタイヤで曲がってるよ……リアのタイヤをアクセルでコントロールして、コーナリングしてるんだ」

 

拓海「通じましたね……池谷先輩にも、この感覚」

 

池谷「思いっきり踏み込めばテールスライドしてオーバーステア、つまりスライド量が大きくなってイン側に切れ込む。そして、小刻みに踏んだりパーシャル、つまり少し踏んだりすればリアに荷重が掛かってアンダーステア、つまりスライド量が減ってアウト側に寄る。逆に、アクセルを離せば、それはそれでリアの荷重が抜けてスライド量が増えてイン側に切れ込む。拓海は、それをうまく操って、アクセルだけでコーナリングしているんだ」

 

拓海「言われてみれば……たしかにそんな感じです。池谷先輩、説明が上手ですね」

 

池谷「なーに……こんだけ拓海のドライビングに付き合わせてもらってるんだ……俺ができることなんて、これくらいしかないよ」

 

拓海「この同乗走行、役に立ってるんなら良かったです。なんか親父も、池谷先輩のこと、気に掛けてるみたいでしたよ」

 

池谷「そうなのか……?」

 

 

 

 

 

そう、文太は池谷のような誠実で熱意のある人間に弱い。ついつい面倒を見たくなるのだ。だから、池谷がどこまで速くなるのか、文太も気にしている。そのため、ハチロクのチューンの主である旧友の政志に、S13のスペシャルチューンを提案したりしているわけだ。

 

 

 

 

 

そして池谷は、拓海のダウンヒルをもってしても会話できるほど、その感覚に慣れきっていた。あとは自分がそれを実践できようになるだけだ。

 

 

 

 

 

配達を終え、帰ってきたハチロクと二人。

 

拓海「親父、ただいま〜」

 

文太「おう」

 

池谷「親父さん、今日もお世話になりました!また明日もよろしくお願いします!」

 

文太「おう、拓海をよろしく頼むぜ」

 

池谷「わかりました!」

 

 

 

 

 

拓海「親父……わかったよ……紙コップの水を多く入れた意味が」

 

文太「そうか………(フッ、良い傾向だ……池谷の青年にも届いてりゃいいがな……)」

 

 

 

 

 

今後池谷は、拓海の走りを参考に、舵角の小さなコーナリング、アクセルワークのみでのコーナリング、リアタイヤの使い方に主眼をおいて、ドライビングの練習に励むことになる。

 

 

 

 

 

 

〜高橋涼介と拓海の決戦の日〜

 

 

 

夜9:50。いつも主役はギリギリにやってくる。

 

涼介「啓介、俺がいつか負けるかもしれないと思わせられたドライバーは、これまでに2人いる」

 

啓介「兄貴が負けるなんて……一体誰に……」

 

涼介「その一人は、啓介、お前だ」

 

啓介「俺……!?本当なのかそれは」

 

涼介「あぁ、お前からは天性のドライビングセンスを感じる。」

 

啓介「………」

 

涼介「そしてもう一人は……」

 

 

 

 

 

 

\ファアアアアアン ファアアアアアン/

 

タイミング良く現れる、その張本人。

 

 

 

 

 

 

言わずもがな、秋名のダウンヒルヒーロー────

 

 

 

 

 

 

藤原拓海────

 

 

 

 

 

 

涼介「だが実は、最近意外な人物が引っかかっている。その人物は、メカや理論にもよく精通している。そいつに負けるかは五分五分だ」

 

啓介「それは……どういう意味でだ……?」

 

涼介「ドライビングが先か、チームリーダーとしてが先か……そういうところだ」

 

啓介「噂には聞いてたが、まさか……!?」

 

 

 

 

 

 

\フォオオオオオ/\プシュー/\フォオオオオオ/

 

その男も、タイミングよく秋名のハチロクの後ろから現れた。

 

 

 

 

 

自動車によく精通し、メカやドラテクの理論も把握している。

 

拓海の類稀なるダウンヒルの恐怖を完全に克服し、分析してみせた男。

 

 

 

 

 

池谷浩一郎────!

 

 

 

 

 

池谷もなんと、高橋涼介の目に留まるほどに成長していたのだった……!!

 

 

 

 

 

\キュキューッ/

\バン/

 

 

 

 

拓海「あなたが……高橋涼介さん……ですか……?」

 

涼介「あぁ、よく来てくれた。歓迎するぜ」

 

拓海「俺が人より運転が上手いのは、薄々わかってきたんです……でも、本当にそんなに速いのかなって」

 

涼介「ふふっ……相変わらず面白い奴だ、お前は、自分で自分のことを、よく解っていないようだな」

 

拓海「そうなん……ですか……?」

 

涼介「あぁ、それに、ある一人の男のドライビングも豹変させて見せた……噂になってるんだ……秋名山のチームのリーダーを横に乗せて、毎日走っているそうじゃないか」

 

拓海「池谷先輩のことですか……?」

 

涼介「その男……池谷っていうのか……?俺の勘が間違ってなければ……その男……いや、その彼の率いるチームすら、今後とてつもなくビッグになっていく、そんな素質を感じるんだ」

 

拓海「そんな風に感じてたなんて、俺、知りませんでした」

 

涼介「まぁ無理もないさ……初めてここを訪れたときには、それは感じなかったからな……藤原拓海……お前が奴をそこまで引っ張り上げたんだ」

 

拓海「そんな……!!(毎日横に乗せて配達してたのが、そんなに効果があったなんて……!!)」

 

 

 

 

 

涼介「ふふっ、今夜のバトル、楽しくなりそうだ……それじゃあ、始めるか」

 

 

拓海「……わかりました」

 

 




遂に、拓海による秋名のハチロクと、高橋涼介とのバトルが開始される……しかし、スタート直後、そのバトルはまさかの局面を迎えるのであった……果たしてその出来事とは……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.34 走り込みの成果

高橋涼介の挑戦状通り、秋名山に赴いた拓海。池谷のS13に、健二と樹も同乗し、応援に駆けつける。そしていよいよ、高橋涼介と拓海との、伝説のバトルがスタートする。ところが池谷は、とんでもない行動に打って出る……!!


 

 

 

 

 

史浩「カウントは俺が」

 

啓介「いや、これはアニキにとって大事なバトルだ……カウントは、俺にやらせてくれ!」

 

史浩「あぁ、構わないぜ」

 

 

 

 

 

啓介「それじゃあカウント始めっぞ!!」

 

 

 

 

涼介「……っ!!」

 

拓海「………」

 

 

 

 

啓介「5、4、3、2、1、GO!!」

 

 

 

 

\キューーキュキュキュキュキュキュ/

 

\ファアアアアアアアア/

\パァアアアアアアアア/

 

ハチロクとFC、2台はいよいよスタートした……伝説のバトルが始まった……!!

 

ところが……!!

 

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュキュ/

 

\フォアアアアアアアアア/

 

 

 

 

 

もう一台、飛び出していったマシンがいた……!!

 

 

 

 

 

 

健二「おい!あいつ何やってんだ!!どうする気だ!?」

 

 

 

 

 

 

ライトグリーンに、グレーのツートンカラー。

 

鳴り響く、ラリースペシャルのCA18DET-Rエンジンのエキゾーストノート……

 

 

 

 

 

まさしくそれは、池谷のS13だった……!!

 

 

池谷「あの高橋兄弟だって、拓海のバトルを後ろから見物してたんだ……俺にもその権利くらいあるだろ!!腕試しだぜ!!」

 

 

 

 

 

涼介「やはりな……あの男は、そういう男だと踏んでいた」

 

スタート後、わざとハチロクの後ろに付いた涼介。涼介は、まず相手の走りを観察するために、わざと後追いを選ぶ。それが、高橋涼介の勝ちパターンだ。

 

だが、その後ろから、CA18エンジンの音が聞こえる……瞬時に池谷が後ろから追ってきていることを察知したのだった。

 

 

 

 

 

そしていよいよ1コーナー……拓海は全力で突っ込む……!!

 

\ギャアアアアアア/

 

 

 

 

それに何とか追随しようとする高橋涼介。だが……

 

涼介「物凄い突っ込みだぜ……付いて行くのがやっとだ」

 

 

 

 

しかし、池谷のS13が、ここで意外な展開を見せた……!!

 

涼介「何……!?張り付いてやがる……!!」

 

 

 

 

そう、池谷は、1コーナーの突っ込みで、高橋涼介を凌駕していたのだ。つまり、拓海並みのコーナリングを見せていた。

 

拓海との毎日の同乗走行で慣らされた感覚は、とてつもなく研ぎ澄まされていたのだった……!!

 

 

 

 

池谷「…………っ!!」

 

全力で下る池谷。群馬最速のドライバーを相手に、自分の走り込みの成果がどこまで通用するのか、試したかったのだ。

 

 

 

 

その後高速コーナー群を経て、最初のヘアピンに突入する……

 

相変わらずキレのある突っ込みで曲がっていくハチロク。

 

その後ろを、涼介が追う。

 

そして、池谷。

 

 

 

 

だが、ここで遂に涼介との差が開いてしまった。

 

拓海の走りに、涼介は付いて行ってるのだ。現段階での速さは、拓海と同じと言っていい。

 

流石の池谷も、拓海と同じペースには、まだ付いて行けなかった。

 

 

 

 

池谷「ダメか……低速コーナーになると、差が広がる」

 

 

 

 

 

その後も下っていく3台。

 

涼介は内心安堵していた……拓海の走りをじっくり観察するためにわざと後追いを選んだのだ。そこに後ろまでマーキングしなければならないとなると、拓海の観察がまともにできなくなるからだ。

 

 

 

 

しかし、その瞬間は訪れた……

 

拓海は、今まで感じたことないプレッシャーに、高速区間手前のヘアピンでアンダーステアを出してしまった。

 

すかさずインに入り込み、遂に涼介は秋名のハチロク、拓海をパスした……!!

 

 

 

 

湧き上がる周辺のギャラリー。ところが……!?

 

 

ギャラリーA「おい!?もう一台、付いてきてるぞ!?」

 

ギャラリーB「おい……あのS13って……まさかあのスピードスターズの……!?」

 

 

 

 

そう、秋名の走り屋なら知っている。

ツートンのS13、秋名スピードスターズ、池谷浩一郎の存在を……!!

 

 

 

かなり離れてはいるが、ハチロクとFCの2台が見える距離にはいる。

 

 

 

レッドサンズメンバー「何だこの区間タイム!?啓介の時より、10秒も速いぜ!?」

 

「そしてその少し後ろに、スピードスターズのS13が更に追ってる!!一体どうなってんだ……!?」

 

 

 

 

FCとハチロクと、S13との距離は、10秒も離れていない。

 

つまりそれは、現段階での池谷のダウンヒルが、この前の高橋啓介の走りを上回っているということを意味していた……!!

 

 

 

 

 

長いストレート。拓海は涼介のFCに直線で離されていく……

 

同時に、池谷のS13が、ハチロクに近づいていく……

 

 

 

 

池谷「ダメだ……このまま近づきすぎると、拓海のバトルの邪魔をしちまう……離れなきゃ……」

 

 

 

\プシュー/\フォンンンンンンン/

 

 

 

池谷はバトルの邪魔をしないために、アクセルを緩めた。

 

 

 

 

 

 

FCが先行のまま、高速区間の最後に待ち受けるS字とヘアピンをクリアする2台。

 

 

距離を置いて、池谷もそのセクションをクリアする。

 

 

 

 

 

しかし……

 

池谷「やっぱりだ……高速区間からのブレーキングと低速コーナーで、一気に差が開く……」

 

 

 

 

その先は中速S字コーナーが連続する。2台の姿は、コーナーに隠れて見えなくなった。

 

だが、S字区間の後、5連ヘアピン手前の僅かなストレート……そこで、ヘアピンに突っ込んでいくFCとハチロクの姿を捉えた!!

 

 

 

 

池谷「あの2台……尋常じゃない速さだ……とてもじゃないけどまだ今の俺じゃ付いて行けない……」

 

 

 

 

 

拓海は、5連ヘアピン全てで溝落としを駆使し、一気に高橋涼介との差を詰める。

 

 

そして低速区間が苦手だとわかった池谷とS13。

 

池谷が5連ヘアピンを立ち上がった先に、2台はもういなかった……

 

 

 

 

池谷「ダメだ……これ以上はもう追えない……拓海、たとえ負けてもいい……でも、勝ってくれたら最高だ……最後まで頑張るんだぞ……!!」

 

 

 

 

その頃、高橋涼介のFCには、中里のときと同じ、ハチロクには発生しない現象が起きていた。

 

涼介「フロントタイヤの食い付きが、少しずつ怪しくなってきた……タイヤの熱ダレか……!?」

 

 

 

 

フロントの軽いFCには、ブレーキの影響は出ていない。だが、ハイパワーでスピードの乗るマシンでは、ダウンヒルによるタイヤの影響は、ごまかすことはできない……!

 

 

 

 

ヘアピン、中速コーナーを経て、また高速セクション手前のヘアピンに差し掛かる2台。

 

そこで拓海のハチロクが、FCにピッタリと張り付いた!!

 

 

 

拓海「行けるかもしれない……!!」

 

 

 

また直線で離れるFCだが、その先に迫る低中速コーナーへのブレーキングで帳消しだ。再びハチロクが突っ込みでFCに張り付く!

 

 

 

涼介「フロントタイヤの食い付きが、急に悪くなったぜ!」

 

最終盤の低中速コーナー群。そして、唯一3車線に広がるコーナーで、FCとハチロクのラインがクロスする……!!

 

 

 

拓海「いっけぇええええ!!!」

 

涼介「…………!?」

 

 

 

タイヤの熱ダレでアウトに膨らむFC。立ち上がりでインを取ったハチロクが、すかさずFCをパス!!

 

 

 

そして、そのまま抜き返すチャンスもなく、伊香保の温泉街手前の麓へゴールイン。

 

 

 

 

 

レッドサンズメンバー「何だよこれ……!!?」

 

見たこともないタイムに驚愕する、レッドサンズのメンバー達。

 

 

 

 

涼介ですら、コースレコードを更新するほどの走りをしていた。だが、拓海はそれを更に上回って見せたのだった……!!

 

 

 

 

そして……更に凄いことに……

 

 

レッドサンズメンバー「もう一台、すぐ後ろで下りてきた!!S13、ツートンのS13だ!!」

 

 

 

 

 

なんと、池谷もまた、レッドサンズのコースレコードを更新するほどのペースで走っていたのだった……!!

 

何と、池谷のS13には、フロントタイヤの熱ダレは発生していなかった。

 

 

 

〜数週間前〜

 

店長『タイヤの熱ダレってのはな、空気圧のセッティングが関係しているんだ……発熱した状態に合わせて空気圧をセッティングしておかないから、タイヤがタレちまうんだ……』

 

 

 

その店長のアドバイス通り、池谷は日々空気圧のセッティングを試しながら走り込んでいたのだった。

 

そのため、タイヤの熱ダレが起きず、途中は離れた2台にそれ以上離されず、食い付いていけたのだ。

 

 




まさかの拓海の勝利で幕を閉じた、伝説の秋名のダウンヒルバトル。そこに乱入し付いて行ってみせた池谷。その名前が、そしてスピードスターズの名が、この伝説のバトルにより、瞬く間に知れ渡ることになる……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.35 池谷の春

秋名の伝説のバトルから一週間。ひょんなことからふらっと軽井沢の方までドライブに出ていた池谷。しかし、道の駅にある釜めし屋の看板の下の駐車場で、立ち往生している一台の軽自動車に遭遇する。自分のメカの技術で助けたい池谷だったが……


 

 

 

 

 

池谷「………ゴクリ 俺なんかが……話しかけて……いいのかな……?こんな綺麗な女の人に」

 

 

恐る恐る、その軽自動車の持ち主に近づく池谷。

 

 

 

 

 

???「!!」

 

池谷「……っ!?」

 

 

 

 

目が合ってしまった。

 

 

 

もう逃げられない。

 

 

 

 

 

池谷「あっ、、、あのぉ〜、、、怪しい者でも〜何でもないので〜(汗)」

 

???「?」

 

 

 

 

不思議そうな顔をする女性。

 

???「すみません、車が調子くずしちゃって……わかりますか……?」

 

 

 

 

池谷「そっ、それなら任せてください!俺、得意なんで!!」

 

 

慣れない異性との会話にギクシャクしながらも、車のことになり次第に自然体になっていく池谷。

 

 

 

 

 

〜30分後〜

 

 

 

池谷「ふぅ〜、これで大丈夫だ、エンジン掛けてみよう」

 

???「はい」

 

 

 

\キューッキュキュキュキュ/\ゴォォォォォ/

\ブルブルブルブル/

 

 

 

 

エンジンが掛かった。アイドリングも安定している。

 

池谷の応急修理により、女性の軽自動車は息を吹き返した。

 

 

 

 

 

 

池谷「良かった〜、これで直ったね」

 

???「本当に困ってたので、助かりました。私……車の中身のこと、全然分からなくて……」

 

池谷「そっか……役に立ててよかったよ……それじゃあ俺はこれで」

 

 

 

池谷はこの綺麗な女性との緊張感から、一刻も早く逃げ出したかった。ところが……!?

 

 

 

???「ちょっと待ってください!!」

 

池谷を止めに入る女性。

 

 

 

車の中から、メモを取り出し、池谷の方へ歩み寄ってくる。

 

 

 

 

???\ポン/

 

池谷「……っ!?」

 

???「私、佐藤真子。電話してね」

 

 

\タッタッタッタッ/\バン/

\ブァアアアアアア/

 

 

 

 

それは、池谷が初めて経験する出来事だった。

 

あんなに綺麗な女性から、直々に連絡先を貰ったのだ……

 

 

 

 

 

 

池谷は淡い気持ちで呆然とし、30分はそこで立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

その後池谷は、佐藤真子と名乗るその女性からもらったメモを大事に取り、我を忘れてただひたすらS13を走らせ続けていた……

 

 

 

 

 

 

〜後日〜

 

池谷「ってことがあったんだよ……今でも信じられない……釜めし屋の看板の下で出会った天使……」

 

樹「って、ずっとこの調子なんすよ店長」

 

店長「ふっふっふっ……池谷、お前その女の子に恋してるな……??」

 

池谷「そっ……そんな、恋だなんて……」

 

 

 

 

店長の読みは図星だった。というか、誰が見てもそうにしか見えない。

 

池谷は完全に女ボケしていた。

 

 

 

 

仕事中も、車がはけたら……

 

 

 

 

樹「見てくださいよ店長!」

 

店長「あぁ、完全に女ボケしてらぁ」

 

 

 

 

 

もうどうしようもない池谷。毎日こんな感じだ。

 

 

 

 

 

 

〜更に後日〜

 

久々に遠征を企てた、池谷達スピードスターズ。

 

この前ドライブに行った、碓氷峠がなかなか攻めがいがあった。

 

ツイスティで先が読めないコース。

 

ほとんどないストレート。

 

複合コーナーのあと突然現れるヘアピン。

 

所々荒れた路面。

 

秋名や赤城など群馬中部とは、一線を画すステージだった。

 

 

 

 

碓氷峠を抜けると、そこは長野県の軽井沢。

 

ちなみにナイトキッズの地元、妙義山からは20分ほどの距離だ。

 

碓氷峠は、群馬でも最西部のエリアだ。

 

 

 

 

 




この後、いよいよ碓氷峠に挑戦するスピードスターズのメンバー達。しかし、あまりの難しいコースに、悪戦苦闘してしまう。そしてそこで、予想外の出来事が起きてしまった……特に、池谷にとっては………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.36 まさかの事実

碓氷峠まで遠征に来ていた、池谷達秋名スピードスターズ。あまりのツイスティでトリッキーなコースに手を焼く。そこで池谷はワンミスを冒しスピンしてしまう。しかし、そこで衝撃の事実を目撃してしまうのであった……


 

 

 

 

 

\ギャアアアアアアアン/

 

 

池谷「突っ込み過ぎたぜ……危なかったァ……」

 

「道塞いじまった……ヤバい、早くどかなきゃ……」

 

 

 

 

 

 

???「ちょっとォS13のお兄さん、こんなとこでスピンなんていい加減にしてくんない!?後ろの車が来て詰まっちゃって危ないよ!!早く退いてくんない!?」

 

女の子の乗るシルエイティにどやされてしまった。

 

それは紛れもなく、碓氷峠で最速と言われる、インパクトブルーと呼ばれるシルエイティだった。

 

 

焦って車両を元の位置に戻し、退避しようとする池谷。

 

ところが、そのドライバーを見るやいなや、池谷は硬直してしまった……

 

 

 

 

 

池谷「ホント……どうもすいませ…………!?」

 

 

 

シルエイティのドライバーと目が合ってしまった。

 

そのドライバーはなんと……

 

 

 

 

先日池谷が助けた女性、真子であった……

 

 

 

 

真子がなんと、碓氷峠最速のシルエイティを操る張本人だったのだ。

 

 

 

 

池谷「まさか……真子ちゃんが……あのインパクトブルーのドライバーだっただなんて……」

 

 

 

このトリッキーでツイスティなコースで最速の、奥手だけど優しくて綺麗な、ブルーのシルエイティに乗る女性。

 

 

 

 

池谷「俺なんかには手の届かない存在だったんだ……そんな凄い子が、俺なんかに振り向いてくれるはずがないや……」

 

 

 

 

異性の事情に関しては、とんでもなく疎くて自信のない池谷。

 

自信をなくすのも無理のないことだった。

 

 

 

 

一方、真子のほうはというと……

 

真子「(池谷さんと、まさかこんな形で鉢合わせしちゃうなんて……私がこんなことしてるなんて知ったら、池谷さんきっと私のことはしたないって思っちゃう……)」

 

こちらとどうしようもなく奥手だった。真子は、外見は綺麗で素敵な女性なのだが、こちらも異性に関しては疎くて自信がなかった……

 

 

 

 

 

まさに典型的な、異性間のすれ違いだった。

 

 

 

 

 

一旦車をアタックコース外まで走らせて停止する池谷。それに付いていくメンバー。

 

 

 

 

健二「どうしたんだ池谷……っておい!おまえすごい顔してるぞ!?どうかしたのか!?さっきの女の子にどやされたのが、そんなにショックだったのか……!?」

 

 

 

 

池谷「まぁ……そんなところさ……」

 

答えて説明する気力すら失っていた池谷。

 

 

 

 

健二は最近、GSに顔を出していない。

 

それはそれで池谷や樹はなんとなく違和感を感じていたが、そういう事情もあって、健二はまだ真子と出会ったことを話していない。

 

 

 

 

そのうち言うつもりだったが、真子のことを手の届かない存在だと思った池谷は、もう言わないでおこう、恥ずかしいだけだ、と考えていた。

 

 

 

 

 

池谷「ちょっと、気分悪くなっちゃってさ……このコース、ツイスティでトリッキーだろ……?俺ちょっとここで休んどくよ……お前たちだけで走っててくれ」

 

健二「あっ……あぁ……わかったよ……」

 

 

 

 

方向転換して再度アタックに入る健二たち他のメンバー。だがそれからしばらくしても、健二のドライビングは全くミスらないどころかどんどん冴えていく。

 

 

 

メンバー1「おい、健二アイツ最近めちゃくちゃ速くねぇかぁ!?」

 

メンバー2「思ったよそれ、ビジターなのに、あいついつの間にあんな走りするようになったんだァ!?」

 

 

 




最近全くGSに顔を出さない健二。そしてドライビングが以前と比較にならないくらい冴えている。池谷はまだそのことに気付かない。一体最近の健二はどうなっているのか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.37 池谷の秘密

碓氷峠最速のシルエイティ、インパクトブルーのドライバーが真子だと知り、ショックを隠せない池谷。遠征に来た碓氷峠を走る気力を失い、健二達だけで走ってくれと言うほどだった。一方、スピードスターズでは速い方だった健二を先頭に碓氷峠攻略は進む。そこで健二の走りがどんどん冴えていくことを知る他メンバー達。


 

 

 

 

コースを満足行くまで走りきり、遠征を終えようと健二たちが池谷の元へ帰ってきた。

 

 

 

健二「おい池谷、お前本当に大丈夫か……?さっきと変わらないぐらいずっと顔色悪いぞ……?」

 

 

 

池谷は2時間ほどずっと物思いに耽っていた。そのため、内心は少し落ち着いていた。

 

 

 

 

池谷「健二……お前、最近うちのGSに来てないから、まだ話してなかったんだけど……大事な話があるんだ……時間ある時でいい、そのことについて相談させてほしい」

 

健二「あぁ、もちろんいいぜ……あんなに調子の良かったお前が、急にこんなになるくらいなんだ……色々抱え込んでることもあるんじゃないか……?」

 

 

 

 

そして、近いうちにファミレスで合うことになった。

 

 

 

 

 

当日。健二は180をメンテナンスに出しているとのことで、池谷が健二を迎えに行き、ファミレスに向かうことになった。

 

 

 

 

 

〜某ファミレスにて〜

 

 

 

 

池谷「健二……隠すつもりはなかったんだが、実は俺この前……」

 

 

 

あった出来事をすべて話す。

 

 

 

 

健二「おい!?それマジかよ!?最近全然スタンドに顔出してなかったから、全く知らなかったよォ……で、あの時のシルエイティのドライバーが、その真子ちゃんって子だったわけか……」

 

池谷「そうなんだ……折角俺にも春が来たと思ったのに、蓋開けてみりゃコレだよ……結局、俺なんかにゃ手の届かない存在だったんだ……」

 

健二「池谷、それは思い違いじゃねぇか……?」

 

池谷「そうかな……」

 

 

 

 

励まそうとする健二に対し、自信なさげに答える池谷。

 

 

 

 

健二「確かにその真子ちゃんって子は、碓氷峠最速のシルエイティだったかもしれない……だけど、それとこれとは話が違うと思うぜ……?だって、向こうの方から連絡先まで渡してくれたんだろ……?そりゃよっぽど感謝してるに違いないよ……一回会ってみたらどうだ……?」

 

池谷「俺なんかに……今更会ってくれるかな……」

 

健二「そんなの、やってみなきゃわかんねぇだろ!お前も一人の走り屋なら、ここで引いてちゃダメだぞ!!」

 

池谷「っ!!」

 

 

 

 

急に剣幕を上げる健二に驚いた池谷。だが、それほど健二は池谷のことを思っての発言だった。そのことは、池谷が一番良くわかっていた。

 

 

 

 

池谷「そうだな……一か八か、一度会ってみることにするよ」

 

健二「あぁ、それでこそスピードスターズのリーダーだぜ!!俺の勘だけど、その真子ちゃんって子、池谷のことそんな見下してなんかないと思うぜ?絶対大丈夫だ!!」

 

池谷「そうか……お前がそう言うんなら、少し自信持ててきたよ……ありがとな、健二」

 

健二「どうってことないぜ!くーっ、そんなことで悩めるなんて、羨ましいぜ〜池谷〜」

 

 

 

 

健二も池谷と同じく恋愛経験はない。通常なら嫉妬するレベルだ。それでもこうやって、自分のことのように考えてくれているのだ。池谷と健二は、真の親友といえる。

 

 

 

 




検事の後押しのおかげで、後日、真子と会う決心をした池谷。それが、更に予想外の展開を生むことになる。そして更に後日、池谷達のGSに、とんでもないマシンが現れる。そのマシンは、なんとGSの誰もが驚愕するものだった……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.38 健二の秘密

真子との出来事を健二に話した池谷。健二は池谷の事情を知り、自分のことのように激を入れ、そして励ました。だが、秘密を隠し持っているのは、池谷だけではなかった……


 

 

 

 

 

樹「池谷先輩、そういや最近、健二先輩すっかり見なくなりましたね」

 

池谷「そうなんだよ……ヒマしてていつも冷やかしに来てたのに、一体どうしたんだろうな」

 

 

 

 

 

最近、健二はGSに顔を出していない。そのため、樹が自分の車を手に入れたことも、話でしか聞いていない。

 

ヒマだったら、一目見ようと来てもいいはずなのだが、それでも来ない。

 

 

 

 

 

そして、碓氷峠での健二の冴えるような走り……だが池谷はショックを受けた後だったため、その一部始終を目撃していない。

 

 

池谷「最近家業の方が忙しくなったとか……いやそりゃないか……」

 

 

特に不思議がる様子はなかった池谷。一体何かあったのだろうか……?

 

 

 

 

 

一方……

 

群馬県の南東部、太田市に、金山というショートコースの峠がある。バトルができるような長さはないが、頂上が行き止まりの駐車場になっており、上りから折り返して下れるようになっている。

 

上下往復しても、秋名はおろか赤城や妙義にも届かないほどの全長しかないコースだ。

 

そのため、これといって地元のチームとかそういったものは存在せず、ただの練習コースとして走られている。

 

 

 

 

 

最近そこで、白い180の目撃情報があるのだ。だが、健二の乗っていたドノマールのものとは違い、フルエアロに大型のリアスポイラー、そしてワイドボディキットまで装備されていた。

 

 

初めは大して速くなかったのだが、あまりに毎日のように出没し、日に日に腕を上げていったため、最近太田市に越してきたばかりのドライバーではないかと噂されていた。

 

 

かといって、最速クラスというわけではなかったので、群馬中で噂になるといったこともなかった。

 

 

一体、この謎の180は何なのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

〜とある日〜

 

 

樹「いらっしゃいませ〜!!(うわ〜、カッコいい180……健二先輩がいたら見せてやりたいよォ!!)」

 

 

 

 

なんと、その謎の金山の180が、池谷たちのGSに出没した。

 

その180は店の軒先に車を止め、ドライバーが降りてきた。

 

そのドライバーは、なんと衝撃の人物だった……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

???「よォ、こっちも久しぶりだなァ、元気でやってるか?」

 

池谷「おっ……お前……!?」

 

 

 

 

 

 

 

池谷「健二〜〜!!?」

樹「健二先輩〜〜!!?」

 

 

 

 

 

 

あまりの衝撃の登場に、驚きを隠せなかった池谷達。

 

 

 

 

 

 

健二「すまねぇ、俺も隠し事してたんだ……拓海が大活躍して、池谷がメキメキ上達してるのを見てたら、居ても立ってもいられなくなってさぁ……そしたらひょんなことからいい話を聞いたんだよ」

 

 

 

 

それは、太田市にある自動車工場の期間従業員として働くという話だった。

 

3交代の交代勤務、給料はかなりいい。そして寮も完備されている。

 

そして何より、すぐ近くに、その金山という峠があるのだ……!!

 

 

 

 

健二は、180を大化けさせるため、そこに勤め始め、仕事が終わったら金山へ練習に……ということを、毎日繰り返していた。

 

幸い土日休みの勤務だったため、スピードスターズの活動には参加できていたのだ。健二はサプライズのため、このことをメンバー全員に秘密にしていたのだ。

 

 

 

 

 

まずはノーマル状態の180で走り込みを行い、コースと腕をある程度習熟した。

 

その後、ワイドボディなどの加工のため、ショップに180を預けていた。

 

この前池谷とファミレスで会ったときの『メンテナンス中』とは、そのことだったのだ……!!

 

 

 

 

 

更に、健二が碓氷峠で冴える走りをしたのにも理由がある。

 

金山は、碓氷峠に近い、狭くてツイスティで路面の荒れたコースレイアウトの特徴を持っており、なおかつ高低差も激しい。つまり、碓氷峠と秋名を足してニで割ったようなコースなのだ。

 

振り返しの多いコース特性に慣れていたため、健二はすぐに碓氷峠のレイアウトに慣れたのだった。

 

 

 

 

 

その後エアロチューンを済ませた180で走り込みを行い、それが巷で少し話題になっていたというわけだ。その正体が、まさかの健二だったというわけだ……!!

 

 

 

 

池谷「それにしてもお前、良くこんなチューンに踏み切ったな」

 

健二「池谷には負けてられねぇからなァ!それに、スピードスターズは名実ともに秋名山最速になるんだろ?誰がヒルクライムをやるんだよ!?」

 

池谷「確かに……それはそうだな……」

 

健二「俺の180、今はまだカッコだけだけど、そのうち足回りやボディ、エンジン関係も仕上げて、350馬力ぐらいまで持っていくつもりだ!この180に積んでるSR20なら、どうってことないぜ!!」

 

 

 

 

 

日産のSR20は、2リッターターボエンジンだ。それは、ランエボやインプレッサ、セリカなどと同じクラスのエンジンになる。つまり、WRCを戦うエンジンのポテンシャル程度は持ち合わせているということだ。峠のヒルクライムでは、このクラスの車は300〜400馬力程度が好ましい。

 

 

 

 

 

健二「やってやるぜ!今度はヒルクライムで打倒・赤城レッドサンズだぜ!!」

 

 

 




謎の180の正体は、まさかの健二だった。とんでもなく様変わりして帰ってきた。GSに顔を出さないのは、太田市の自動車工場の業務に勤しんでいたからだった。秋名スピードスターズにも、ついにヒルクライマー候補が誕生した瞬間だった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.39 真子の本音

まさかの健二の登場にぶったまげた池谷達。その外観はまさにヒルクライム専用マシンそのものだった。この後秋名スピードスターズは、名実ともに秋名山最速を目指していくことになる。だがその前に、解決しておかなければならない問題があった。


 

 

 

 

健二「ところで池谷、あの前言ってた真子ちゃんって子とは会ったのか?」

 

池谷「いや……まだなんだ」

 

健二「お前も男なら、当たって砕ける覚悟で行ってこいよ!番号知ってるんだろ?」

 

池谷「あぁ……」

 

健二「なら尚更だぜ!来週末、会ってこいよ!スピードスターズの活動は、俺が見てやるから!」

 

池谷「ははっ……健二がそこまで言うなら……もう覚悟決めて会ってくるよ……」

 

健二「頑張れよ!池谷!」

 

 

 

 

相変わらず自分の事のように池谷のことを気に掛ける健二。

 

 

 

 

 

そして池谷はその晩、意を決して連絡した。

 

池谷「ピッピッピッ………プルルルルルルルッ プルルルルルルルッ (押してしまった……もう引き返せない……!!)」

 

 

 

 

 

???「はい、もしもし」

 

池谷「もしもし、私、池谷というものですけど(やべぇ……心臓が張り裂けそうだ……)」

 

???「池谷さん……!?」

 

池谷「もしかして、真子ちゃん……!?」

 

???「はい、そうです……ずっと待ってました」

 

 

 

 

 

電話に出た主の正体は、まさかの真子本人だった。

 

そして、「待っていた」という意外な発言。

 

 

 

 

そして池谷は偶然、日曜は休みだった。

 

早速、池谷は軽井沢まで赴いて、真子と会うことになった。

 

 

 

 

 

〜当日、軽井沢のカフェにて〜

 

 

真子「あれからずっと池谷さんのこと考えてたんです……走り屋みたいなことして、はしたないって思われてないかなって」

 

池谷「そんなことないよ!!真子ちゃんはすごいよ!まさか碓氷峠最速のインパクトブルーだっただなんて……こっちこそ、真子ちゃんなんか手の届かない存在なんじゃないかって……」

 

真子「そんな……手の届かないだなんて……私なんかが、そんな風に思われてたなんて……誤解させちゃってすみません」

 

池谷「いや、いいんだよ……俺なんか、走り屋の端くれみたいなもんだし……」

 

真子「実は、池谷さんの噂、聞いてるんです」

 

池谷「噂……?一体何だそれ……?」

 

 

 

 

 

不思議がる池谷。

 

 

 

 

 

真子「この前、高橋涼介さんが、秋名のハチロクとバトルしたときの話です、ツートンのS13が後を追っていって、ゴール地点でそこまで大差なくゴールしたっていう話です」

 

池谷「そんな……でも中盤なんか、速すぎて手も足も出なかったよ……後半は向こうがタイヤがタレたみたいでペースが落ちたんだ……運が良かっただけだよ」

 

真子「私、池谷さんのそういう虚勢を張らないところ、素敵だと思います」

 

池谷「そっ、そうかなぁ??///(あれ……?何かまたドキドキしてきたような……)」

 

真子「やっぱり、そのツートンのS13、池谷さんだったんですね……秋名スピードスターズのステッカーが貼ってあって、車がS13だから、そうなんじゃないかって、群馬中で噂になってるんです」

 

池谷「そうなのか……!?」

 

真子「だから、池谷さん、すごいなと思って……」

 

池谷「いや、俺なんてまだ、練習中の身だから……」

 

真子「練習中でそれなら、凄いですよ!もし今日が日曜でなければ、碓氷峠で横に乗って少し一緒に走れたのに……」

 

池谷「そ、そうだよな……(俺の碓氷峠でのはしたない運転なんか真子ちゃんの前で見せられない……それこそ真子ちゃん、俺なんかから気が離れちゃうよ……)」

 

 

 

 

 

相変わらず、真子の気持ちというか、恋愛というものがわかっていない池谷。もどかしい話である。

 

 

 

 

 

真子「ところで池谷さん、私お願いがあるんです……これは、池谷さんにしか頼めない話なんです」

 

池谷「ど、どうしたの真子ちゃん……?」

 

 

 

 

意味ありげな発言だ……そのお願いとは……?

 

 

 

 

真子「私、いつまでこんな走り屋みたいなことやってるんだろうって思ってるんです……この夏を最後に、引退しようと考えてるんです。でも、悔いだけは残したくない……最後の夏の思い出に、秋名のハチロクと、碓氷峠でバトルさせて下さい!」

 

池谷「わかった!真子ちゃんのお願いとあったら、絶対なんとかして見せるよ!!(やっぱりそれが目的なんだ……俺なんかどうだっていいんだ……結局俺にはそれがお似合いだよ)」

 

 

 

 

しかし、その後真子から発せられた言葉は、とてつもなく大胆なものだった……!!

 

 

 

 

真子「池谷さん……もし私の願いを叶えてくださったら、私のヴァー○ンあげます!!」

 

池谷「!!」

 

 

 

 

それは、ある種の池谷への告白ともとれた。

 

だが、池谷はあまりの大胆発言に、状況を理解できないほどパニックに陥ってしまう。

 

 

 

 

 

池谷「ままままま真子ちゃん……それは、本気で言ってるのかい……?俺なんかがそんな……」

 

真子「そう……ですか……」

 

 

 

 

 

これまた大胆な割には奥手な真子。池谷が自分の告白を拒否したように感じてしまった。ここでもすれ違いが発生してしまう。

 

 

 

 

 

池谷「で、でも、秋名のハチロクと、拓海との話はつけてみるよ!真子ちゃんの願い、必ず叶えてみせるから!!」

 

 

真子「池谷さん……」




まさか真子と会うことになった池谷。だがお互い恋愛には奥手で、すれ違いの連続となってしまった。だが、池谷は真子の願いを何としても叶えようと奔走する。それが池谷にできる唯一のことだと、池谷本人は思っていたから……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.40 拓海の反応

軽井沢で、真子からまさかの告白を受けた池谷。だが、池谷はその事実が現実なのかを受け入れられない様子だ。一方、拓海とのバトルは実現させてあげたいと、拓海に話を切り出すのであった……


 

 

 

 

 

池谷「なぁ、拓海」

 

拓海「なんですか、池谷先輩」

 

池谷「拓海って、秋名だけじゃなくて、よその峠も走ったことあるのか?」

 

拓海「いや……秋名だけですけど」

 

池谷「(そうか〜まいったなぁ〜)そういや拓海、よその峠、一回走ってみたいとか、そういう気はないか……?」

 

 

 

拓海「うーん………」

 

 

 

池谷「……………!」

 

 

 

 

拓海の回答をウズウズしながら待つ池谷。

 

 

 

 

 

拓海「……ありませんね」

 

 

 

 

 

池谷「(ガクッ)そうだよなぁ……」

 

 

 

 

 

期待外れというか、思い通りの回答に、おもわずズッこける池谷。そして、池谷は拓海に本題を切り出す。

 

 

 

 

池谷「拓海、実はお願いがあるんだ」

 

拓海「何ですか?」

 

 

 

池谷「実は、この前言ってた真子ちゃんが、拓海とバトルしたいって言ってるんだ……この夏で引退しようと考えてるみたいなんだよ……それで、最後の思い出にお前と走ってみたいって、そう言ってるんだ……あの高橋涼介とのバトル、見に来てたんだってよ……頼む!真子ちゃんのお願い、聞いてやってくれ……!!」

 

 

 

拓海「そこまで言うんなら、いいですよ……俺も、自分のテクニックが他の峠でも通用するのか、少し興味湧いてきました」

 

池谷「ありがとう拓海!恩に着るぜ!!じゃあ、そう伝えとくぜ!!」

 

拓海「わかりました……」

 

 

 

 

 

〜バトル当日、道中にて〜

 

 

 

 

ハチロクの車内。

 

樹「おい拓海、お前がいよいよビジターバトルデビューかよォ!!」

 

拓海「何だ?ビジターバトルって」

 

樹「何言ってんだよ拓海ィ!相変わらずボケっとしてるなァ!!地元以外の峠で、バトルすることだよォ!!」

 

拓海「そんなの、わかるわけないだろ……」

 

樹「とにかく、拓海が秋名以外でバトルするなんて……くぅゥ〜!!ホント拓海、走り屋らしくなってきたよォ!!」

 

拓海「そういうもんなのか……?」

 

 

 

 

一方、健二と池谷の乗る180の車内は、少し険悪なムードになっていた……

 

池谷は、今回のバトルに至ったいきさつを、健二にひと通り話した。しかしその経緯が健二に誤解を生み、剣幕を立てたのだ……

 

 

健二「お前、拓海をダシに真子ちゃんを誘おうなんて、どういうつもりだ!?お前、男として最低だぜそんなの……お前がもし本当にそんなマネするんなら……お前とは絶交だ!」

 

 

池谷「そういうつもりじゃ………すまねぇ、健二……」

 

 

 

池谷は自信を失っている反面、自分に起こっていることが信じられなくて、半ばパニックに陥っていた。その中で健二にこのように言われたことで、更にわけがわからなくなっていった……

 

 

 

 

そして、到着。碓氷峠……

 

 

 

 

???「あんたらが秋名スピードスターズって連中??」

 

池谷「はい、そうです……あっ……あの、この前はどうもすみませんでした……」

 

???「もういいよ、そんなの……あんなのしょっちゅうだからね……全く困るのよねぇ、下手なドリフト小僧に道塞がれるの……もうコリゴリなんだよねぇ……でも、そっちのハチロクは違うんでしょ?」

 

池谷「あぁ、もちろんだ」

 

真子「ちょっと沙雪!!いきなり突っかかったらダメでしょう!!」

 

沙雪「あぁ、ごめんごめん、自己紹介がまだだったわ……私は沙雪。真子のナビゲーターとしていつも横に乗ってんの。」

 

真子「私達インパクトブルーは、二人でひとつだからね……」

 

 

 

 

池谷「(真子ちゃん……)」

 

 

 

真子本人からインパクトブルーという言葉が出てきて、碓氷最速という実感が湧くと同時に、池谷の中で真子の背中がどんどん遠ざかっていく……

 

 

 

 

 

沙雪「そうよ……真子と私のコンビネーションで、碓氷峠を誰よりも速く走るんだからね!!女だからって手ぇ抜いてると、痛い目見るわよ……!!」

 

 

 

沙雪「で、ハチロクのドライバーは……?」

 

 

 

 

 

ハチロクの運転席から降りる拓海。

 

 

 

 

 

拓海「どうも……」

 

沙雪「(やだ……若い……しかも……何かかわいい〜!!)あんたが本当にあの高橋涼介を破ったドライバーで間違いないのね?で、名前は?」

 

拓海「藤原……拓海……」

 

沙雪「拓海くんって言うのね。いい男じゃない」

 

拓海「そ、そんな……///」

 

 

 

 

年上のお姉さんに褒められて、流石に少し赤面する拓海。

 

 

 

 

樹「おい拓海ィ!!なに赤くなってんだよォ!!これからバトルする相手なんだぜェ!?もっとこう、走り屋らしく、気合入れろよォ!!」

 

沙雪「そうよ!その子の言う通り、もっとシャキッとしなさいよ!!(不思議な子ね……普段はこんなにボケーっとしてるのに、バトルになるとあの高橋涼介の時みたいに、とんでもない走りをするのね……)」

 

拓海「あっ……すみません……」

 

樹「すみません、コイツいつもこんな感じなんですよォ〜」

 

沙雪「ホント、面白い子よね……」

 

 

 

 

 

沙雪「じゃあ、来てもらって早速で悪いけど、バトルについて説明するわ……!!」

 

 

 

 

そこで、ふと目が合ってしまった「二人」。

 

池谷「(真子ちゃん……)」

 

真子「(池谷さん……)」

 

池谷「あっ……あのっ…………」

 

真子「…………」

 

 

 

言葉にならない声を出すしかない池谷だった。

 

 

 

 

 




この後、沙雪が碓氷独特のバトル方式について説明し、いよいよバトルが始まる……池谷は、真子は、何を思うのか……?そして拓海は、初のビジターバトルをモノにすることができるのか……?いよいよ碓氷峠で、インパクトブルーと秋名のハチロクとのバトルが始まる……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.41 ビジターバトル!

池谷は、真子の願いであった秋名のハチロク、拓海との碓氷峠でのバトルを取り付け、拓海と共に碓氷へ向かった。健二は池谷のことを、拓海をダシに真子ちゃんをいい気分にさせようとしていると勘違いし、激昂してしまう。果たして二人の仲はどうなってしまうのか……そんな中、拓海の初めてのビジターバトルが今、幕を開ける……!!


 

 

 

 

 

 

沙雪「そしたら、この碓氷峠のバトルについて説明するわね」

 

拓海「コクリ」

 

沙雪「碓氷峠は狭くてツイスティな上に路面も荒れてて横並びのヨーイドンはできないから、先行後追い方式ってバトルをするの。後ろの車が前の車を抜けば後の勝ち、前の車が後ろの車をブッちぎれば前の車の勝ち。バトルの前に、どっちが前後につくか決めるの。あたしらは地元だから、選択権はそっちにあげる。どうする?」

 

 

 

 

拓海「………」

 

 

 

 

少し考えた後、

 

 

 

 

拓海「後ろで」

 

 

 

 

沙雪「本当にそれでいいの?言っとくけどあたいらは並の速さじゃないよ!付いて来れる?」

 

 

 

 

拓海「やってみなくちゃわかんないですけど……それでいきます」

 

 

 

 

沙雪「わかったわ!(うそでしょ?この子初めてのコースで後追い……!?)それじゃあ、最初のコーナーを過ぎたところから全開に突入するわ……気合い入れていきなさいよ!」

 

 

 

 

拓海「わかりました……」

 

 

 

 

沙雪「さぁ真子!あたしらも気合い入れていくよ!!」

 

真子「OK沙雪、私達は碓氷峠を誰よりも速く走るんだからね……!」

 

 

 

 

池谷「(ま……真子ちゃん……)」

 

 

 

 

真子の遠ざかった背中が更に現実味を帯びてきて、顔面蒼白になる池谷。

 

 

 

 

沙雪「じゃあ間髪入れずに行くよ!!初めてのコースで大事なハチロク潰すんじゃないわよ!!」

 

 

 

\バンッ/ 

\バンッ/

 

 

\フォオオオオオ/

\ファアアアアア/

 

 

 

 

いよいよ2台のバトルがスタートに向かった……

 

 

 

 

一方、健二は……

 

健二「(このコース、ちょっと金山に似てるんだよなぁ……俺の腕がどれほど上達したか、ちょっと後ろから付いて行って試してみるか……!)」

 

 

 

\バン/

 

180に乗り込む健二。

 

 

 

\フォン フォン フォオオオオオオ/

 

 

 

 

拓海の少し後ろを、健二が付いていく。

 

 

 

 

そして真子と拓海は1つ目のコーナーを過ぎ、全開に突入する!!

 

 

 

 

 

\フォアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアア/

 

\ファアアアアアアアン/\ファアアアアアアアン/

 

 

 

 

 

後ろからスタートの瞬間を見ていた健二。

 

健二「うお、いよいよおっぱじめやがったぜ……こっちも全開だ……!!」

 

 

 

 

\フォアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアア/

 

 

 

 

 

健二の180は、エアロパーツを装備している。これは、秋名や赤城など比較的高速コースで真価を発揮する。碓氷峠のような低速テクニカルコースでは殆ど作用しない。

 

 

 

 

健二「くそっ……攻めきれねぇ!!」

 

 

 

 

2台の背中が少しずつ離れていく。

 

 

 

 

健二「ウソだろ拓海!?アイツここを初めて走るんだぜ!?一体どうなってんだァ!?」

 

 

 

 

スピードスターズの中では善戦していた健二だったが、流石に真子のペースは恐ろしく速かった。

 

 

 

 

180とシルエイティは、顔が違うだけで基本的には同じ車だ。

 

それで健二はエアロパーツで武装しているにも関わらず、離されてしまった。

 

 

 

 

健二「クッ、くそっ!!俺じゃ力不足だ……頼んだぜ……拓海……」

 

 

 

 

付いていけないと判断し、健二は道を折り返してスタート地点に戻った。

 

 

ほぼ同じ車に負けるとあっては、健二にとって相当な屈辱だった。

 

 

 

 

一方その頃、残された池谷と樹は……

 

樹「なるほど……車の中で、そんな話になってたんですね……」

 

池谷「そうなんだ……俺には真子ちゃんの背中が届かないなんてわかってる……でも、せめて願いだけは叶えてあげたかったんだ……真子ちゃんに言われたことも、どうせ俺なんかには似合わない夢物語だったんだよ……」

 

樹「なーに言ってるんっすか池谷先輩!!あんなかわいい女の人が、池谷先輩にそこまで言うんですよォ!!それが不純かどうかは置いといて、あんな女の人が、普通の男の人にそんなこと言わないっすよォ!!」

 

 

 

 

そこに、健二が帰ってきた。

 

 

 

 

健二「おいおい、なに突っかかってんだ樹は……」

 

池谷「………」

 

樹「池谷先輩ったら、あの真子っていう女の人の気持ち、ちゃんとわかってないみたいなんですよォ!!健二先輩からも何か言ってやって下さいよォ!!」

 

健二「なぁ……池谷……もう一度聞く……お前どういうつもりで拓海をこんな無茶なバトルに付き合わせたんだ……?」

 

池谷「それは……それは……」

 

 

 

 

樹に話した内容と同じことを話す。その後、こう切り出した……

 

池谷「真子ちゃんと会うのは、これで最後にしようと思うんだ」

 

健二「!?」

 

流石に驚く健二。

 

池谷「真子ちゃんに言われたことは、確かに驚いた。でも、俺にはそんなの似合わないよ……俺には真子ちゃんは不釣り合いだ……だからせめて最後に、願いを叶えてあげたかったんだ……そして拓海も、秋名以外でのバトルに興味を持ってくれた……だから、今日のバトルに至ったんだ……下心なんか、全くないよ……むしろ、俺なんかがあんな子と少しだけでも出会えただけで、ラッキーだったんだ……」

 

健二「池谷お前……さっきはすまなかったよ……キツイこと言い過ぎたよ……そこまで考えてたなんて、俺、知らなくて……」

 

池谷「いや、いいんだ……おれにはこれがお似合いだよ」

 

健二「池谷……」

 

 

 

強く責め立てたことを後悔する健二。

 

流石の樹も、なんと声をかけていいのか分からずダンマリしてしまった。

 

 

 

 

 

一方、バトルの方はというと……

 

 

 

 

真子「沙雪、私乗れてない!?」

 

沙雪「そんなことないよ真子!真子の走りは絶好調だよ!!これまでにないってくらいね!あの子が凄すぎるだけよ!アンタはバックミラー見るのやめな!自分の走りに集中して!」

 

真子「わかった……後ろを見てて、速く走れるわけないよね……もうバックミラーなんか、二度と見ない!!」

 

 

 

拓海「………っ!!」

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

拓海はなんと、碓氷峠最速の走りに、いきなり付いて行ってみせていたのだった……!!

 

 

 




困惑する池谷と真子の関係。そしてまさかの初めての碓氷峠で最速のシルエイティに喰らいつく拓海。果たして、両者の結末は……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.42 インパクトブルーのピンチ

拓海と真子・沙雪がバトルしてる最中、池谷は樹の仲介もあり健二との誤解を解くことができた。しかし、思ったより深刻な様子の池谷。真子は自分には釣り合わない、このバトルを最後に、もう会う気はないという。一方、バトルの方も佳境を迎えていた。それぞれの思惑が交錯する碓氷峠、果たしてそれそれどうなってしまうのか……!?


 

 

 

 

 

\フォアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアア/

 

 

沙雪「(今の真子……最高に乗れてるよ……走り屋ってのは、対向車が来ても避けられるように、多少のマージンを取って走るもの……今の真子には、そのマージンが全くない!すごいよ、真子!!)真子!絶好調!!この調子!!」

 

真子「覚悟してね、沙雪!(今まで沢山バトルしてきたけど、こんな気分にさせられることは初めて……とってもハードなはずなのに、すごく楽しい……後ろのハチロクの子、不思議な子ね……)」

 

 

 

 

これまでにないくらい碓氷峠を攻める真子。だか、拓海はそれに喰らい付いていた!!

 

拓海「(相手も同じ、車に乗ってるんだ……相手にできて、自分にできないってことないだろ……!!)」

 

 

 

 

そして2台は碓氷峠名物、C-121コーナーへと差し掛かる……!!

 

 

 

 

沙雪「さぁ、いよいよC-121よ……覚悟はいい?」

 

真子「もちろんよ……!!」

 

沙雪「対向車なし!!GO!!」

 

 

 

 

このC-121コーナーは、入り口はセンターラインが広く取られて道幅が広くなっているが、出口で元の道幅に戻り、レコードラインが1本しか取れず、なおかつ高速で突っ込めばラインの修正の効かないという、難しいコーナーだ。また、外側に待避所があり、有名なギャラリーコーナーでもある。

 

 

 

 

 

ギャラリー1「おぉ、この音は、インパクトブルーのシルエイティ!?」

ギャラリー2「誰かとバトルしてるのかァ!?」

 

 

 

 

 

\シャアアアアアアア/

 

 

 

ギャラリー一同「うわぁああああ!!!!!」

 

 

ギャラリー1「見たかよ今の!!ヤベェ突っ込みだったぜ!?ここまで気い合入った突っ込み初めて見たぜ!!」

 

ギャラリー2「しかもあのインパクトブルーの突っ込みに、ハチロクが付いて行ったぞ……アイツまさか……最近有名な秋名のハチロク……!?」

 

ギャラリー1「あの二人の突っ込みに付いて行った奴なんて、初めて見たぜ!何モンだ!?あのハチロク!?」

 

 

 

 

 

沙雪「突っ込み、ライン、カンペキ!!このまま立ち上がるよ!!」

 

真子「………!!」

 

 

拓海「…………!!」

 

 

 

 

 

\シャアアアアアアア/

 

 

 

 

 

 

沙雪「…………!!あの子……ウソでしょ……!?」

 

 

 

 

C-121コーナーを、2台はクリアした。

 

そして拓海のハチロクは、この難しいコーナーで、真子と沙雪のシルエイティに付いて行ってみせた……!!

 

 

 

 

真子「ねぇ沙雪、私本当に乗れてる?今までにないほど突っ込んだのに、どうして離れないの……!?」

 

沙雪「何弱気になってんの真子!そんなのいつもの真子じゃないよ!!」

 

真子「そっちこそただ文句言ってるだけじゃないの……そんなんじゃただパワーウェイトレシオを悪くするだけの錘(おもり)だよ!!49kgのハンデね」

 

沙雪「47kg!!」

 

 

 

 

沙雪「ふふっ……でもその意気よ、真子……死ぬ気で攻めなさい……!!」

 

真子「わかったわ……!!どうなっても知らないからね、沙雪……!!」

 

 

 

 

C-121の後のヘアピンも、左に少し曲がった直後の急右ヘアピンなので、非常に難易度が高い。そこもとてつもない速度で突っ込んでいく。しかし……

 

 

 

 

\ファアアアアアアア/

 

 

ハチロクは、全く離れる様子がない。

 

 

 

 

 

沙雪「あの子すごいよ!もう勝ち負けなんてどうだっていい!楽しもうよ!このバトル!!」

 

真子「OK沙雪!こんな気分で走れるなんて、最高よ!!」

 

 

 

 

 

 

ずっと今までで最高の走りを続ける真子と沙雪のシルエイティ。そしてピッタリと張り付く拓海のハチロク。

 

ギャラリーから見ていてもわかる。名実ともに最高のバトルだ。

 

 

 

 

 

 

沙雪「!?」

 

 

 

 

何かを感じ取った沙雪。

 

 

 

 

沙雪「真子!気をつけて!2つ先のコーナー、対向車来るよ!!」

 

真子「わかった!」

 

 

 

 

 

沙雪のナビは、非常に的確だ。路面状況、後ろのマシンの動向から、対向車が来るコーナーのタイミングまで、外したことがない。最高のコンビネーションだからこそ織り成せる、奇跡の技だ。

 

 

 

 

 

対向車運転席「おっ!誰かバトルしてるなぁ!?一体誰がやってるんだァ?」

 

対向車助手席「音からして多分やっぱりインパクトブルーのシルエイティかもよ?今回もぶっちぎり……?ん??」

 

 

 

 

彼らは違和感を感じた。そこには別のエキゾーストノートが混じっていた。直列4気筒、自然吸気エンジンの音だ。

 

 

 

 

 

そしてその瞬間は来た……!!

 

 

 

 

 

\フォン!/

\ファン!/

 

対向車2人「うわぁああああ!!」

 

対向車助手席「見たかよ今の!!とんでもない速さで抜けてったぜ!!」

 

対向車運転席「ヒェエエエエ!!肝が冷えたぜ……インパクトブルーのシルエイティに、一台喰い付いていってたぞ!?何なんだ今のは!?」

 

 

 

 

 

沙雪「対向車パス!最高だよ!真子!!」

 

 

真子「沙雪のナビも完璧よ!このバトル、すごく楽しい!!」

 

 

 

 

 

 

しかし、とうとうそのテンションの糸が、切れるときが訪れた……

 

 

 

 

 

沙雪「ちょっ、ヤバい真子!突っ込みすぎ!!」

 

真子「…………!!ダメっ!!立て直せない……!!」

 

 

 

 

 

 

真子はテンションのあまり突っ込みすぎてしまい、アウト側の壁との接触を避けようとスピンモードに入る。

 

 

 

真子・沙雪「(お願いっ………避けてっ………!!)」

 

 

 

 

拓海「くっ…………!!」

 

\ギャアアアアアアア/\ファン ファン ファン/

 

 

 

 

 

すべてを察し、見事なマシンコントロールをする拓海。

 

 

 

 

\シュンン/

 

 

 

 

 

\ファンンンンン ファンンンンン/

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

 

 

見事にスピンするシルエイティをパスし、スピンターンで止まった拓海。

 

シルエイティの近くに駆け寄る。

 

 

 

 

 

拓海「大丈夫……ですか……?」

 

 

沙雪「ホントあんた、只者じゃないわね……今のを避けるなんて……普通なら接触事故モンよ……アンタの勝ち」

 

 

拓海「でっ、でも……」

 

 

沙雪「いいからアンタの勝ち!!私達を後追いで抜いたのには変わりないんだから!ホント、不思議な子よね……」

 

 

真子「ごめんなさい……わたしのミスで、危険な目に遭わせてしまって……」

 

 

拓海「い……いえ……」

 

 

 

 

 

スピンしたシルエイティを立て直し、スタート地点に戻る2台。

 

 

 

 

 

 

そして、スタート地点で待つ3人。

 

樹「あっ!戻ってきたっすよォ!!」

 

健二「でも、ペース落としてるな……決着がついたのか……さすがにあの走りにゃ拓海も付いてけなかったか……」

 

 

 

 

 

しかし、帰ってきた沙雪から発せられた言葉は、意外なものだった……!!

 

 

 

 

沙雪「あたしらの負けよ」

 

 

 

健二「シルエイティが負けて………って、エェェェェェ!?!?」

 

樹「拓海が……勝った……!?」

 

 

 

 

 

沙雪「その通りよ。あたしらが攻めすぎて、スピンしちゃったの。もっとも、それまでずっとこの子がピッタリ付いてきてたけどね。地元のあたしらが、初めての子にここまでやられちゃあ……その時点で負けみたいなもんよ」

 

 

 

 

 

健二・樹「うそ……だろ……!?」

 

顔を見合わせる二人。

 

 

 

 

沙雪「拓海くん……だったっけ……?不思議で仕方ないんだけど、どうしてあたしらにあそこまで付いて来れたの?」

 

拓海「どうもこうも、相手にできることなら、自分にもできないことはない……そう思って付いていった……ただ、それだけです」

 

沙雪「やっぱり不思議な子ね……(しかも……何かかわいーーー!!)」

 

 

 

 

一方……

 

池谷「(真子ちゃん……)」

 

真子「…………」

 

池谷「あっあっ……あの……」

 

真子「…………っ」

 

 

 

沙雪「そーだ!!いいこと思いついた!!今度みんなで、どっか遊びに行きましょ!!」

 

真子「ちょ、ちょっと沙雪!!」

 

沙雪「いいからいいから!どうする?夏なんだし、プールなんてどう?」

 

健二「おい、俺たちが本当にいいのか?」

 

樹「いいっすねぇ!!行きたいですよォ!!」

 

沙雪「じゃあ決まり!!みんな日程の合う日、分かり次第教えてよね!真子、あの人の番号知ってるんでしょ?」

 

真子「えっ、ええ……」

 

沙雪「じゃあそっちはそのお兄さんを通じて真子に連絡ちょうだい!あたしらは土日ならいつでもOKだから!!」

 

 

 

 

池谷「…………」

 

真子「…………」

 

 

 

 

複雑な心境の二人。しかし、池谷が真子に会うのがこれで最後にはならなかった。

 

 

 

 

真子「ちょっと沙雪!いくら何でも強引すぎない!?」

 

沙雪「これぐらいが丁度いいのよ!じゃあんたたち、そういうことでよろしく!いいバトルだったよ!じゃあね!!」

 

 

 

 

 

これは実は、真子に対して何かを察していた沙雪の、粋な計らいだった。

 

だから、半ば強引に会う機会を作ったのだ。こういう勘は、やはり女性だからこそ気付けるものだった。

 

 

 

 

 

 

\バン/

\フォオオオオオ/

 

 

 

 

走り去っていくシルエイティの後ろ姿────

 

池谷「真子ちゃん……」

 

もはや言葉にならない声を発し続けるしかない池谷だった。

 

 

 

 

 

 




バトルは、シルエイティのスピンにより、まさかの拓海の勝利で幕を閉じた。そして、まさかの沙雪の計らいにより、池谷は再び真子に会うチャンスを得た。すれ違ったままの2人。果たして次回プールで会う時、それを挽回することができるのだろうか……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.43 真子の約束

初の碓氷峠でのビジターバトルで、インパクトブルーに勝利した拓海。その間、真子について思い詰めていた池谷。それぞれの思いが交錯したバトルが幕を閉じた。そして、沙雪のひょんな計らいにより、拓海や池谷達と真子・沙雪は、一緒にプールに遊びに行くことになった。大はしゃぎの沙雪や樹に対し、少し気まずい池谷と真子。二人はうまく距離を縮めることができるのだろうか……?


 

 

 

 

バトルの翌日、池谷はみんなの予定を聞いて回り、結果、今週の日曜日が全員空いていることがわかった。いよいよ、そのことを相手方に伝える。

 

それがどういうことなのか、池谷は重々承知していた……

 

 

 

 

 

 

電話のダイヤルを押す手がブルブル震える……

 

 

\プルルルルルルルッ プルルルルルルルッ/

 

 

「もしもし、佐藤です」

 

池谷「もしもし、池谷です……」

 

真子「池谷さん……」

 

予想に反して、少し安堵する様子の真子。

 

自分なんかに池谷が連絡をしてくれるのか、心配だったのだ。

 

池谷「真子ちゃん……みんなの予定だけど、今週の日曜日、みんな空いてるって……どうする……?」

 

真子「そうですか……わかりました。沙雪にそう伝えておきますね。私達も予定は大丈夫なので、確認取り次第、また電話しますね」

 

池谷「わかったよ……じゃあ、真子ちゃん、よろしくね……」

 

真子「わかりました。それじゃあ池谷さん、よろしくお願いします」

 

池谷「あぁ……」

 

 

 

 

\ガチャッ/

 

 

 

池谷「フゥ~〜ッ………なんとか電話できたよ……」

 

この前真子から伝えられたことが、未だに呑み込めていない池谷。本当にあれが自分に対しての言葉なのか、まだ受け入れられていないのだ。

 

 

 

 

 

そして電話したその日の夜、電話がかかってきた。

 

池谷「もしもし、池谷です」

 

 

 

親に見つからまいと、ずっと電話に意識を向けていた池谷。かかってきた瞬間、速攻で電話に駆け寄り、電話に出た。

 

 

 

真子「もしもし……池谷さんですか……?」

 

池谷「真子ちゃん……」

 

真子「沙雪に予定のこと、伝えました。今週の日曜でOKだそうです……」

 

池谷「そっか……それは良かったよ」

 

真子「それじゃあ、今週の日曜日、よろしくお願いしますね」

 

池谷「わかった。みんなにも伝えておくよ」

 

真子「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

\ガチャッ/

 

 

 

 

いよいよ今週の日曜日、再び真子と会うことになった。

 

どうすればいいかわからず動揺する池谷。

 

当日まで、気が気でならない。

 

 

 

 

 

 

そして、当日。

 

 

 

 

 

 

沙雪「ヒャッホ〜〜!!たっくみくん、かっわい〜〜」

 

\ポョン ポョン/

 

拓海「ちょ///ちょっと///」

 

拓海は沙雪にすっかり気に入られ、ウォータースライダーに一緒に乗せられたり、振り回されっぱなしだ。

 

 

 

 

 

 

拓海「はぁ………助かった………///」

 

沙雪「拓海くん!次あっち行こうよ!!」

 

拓海「あ、あっ……はっ……はい……(ひぃ……この前の碓氷峠のバトルよりキツいぜ……)」

 

 

 

 

 

健二「はぁ……うらやましいなぁ拓海は……あんなピチピチギャルに振り回されるなんて……」

 

樹「ほんとっすよ健二先輩!!拓海のやつボケっとしやがって……ガツンと言ってやんなくちゃ、気がすまないっすよォ!!」

 

 

 

 

 

一方、二人取り残された池谷と真子。

 

真子「池谷さん、この前は私のわがまま聞いてもらって、ありがとうございました」

 

池谷「いや……真子ちゃんに満足してもらえたのなら……それでいいよ……」

 

真子「あと……誤解を生んでしまったみたいでごめんなさい……私がこの前池谷さんに伝えたこと……覚えてますか……?」

 

池谷「あっ……あぁ……///」

 

 

 

 

 

緊張しながらも少し赤くなる池谷。

 

 

 

 

 

真子「あの言葉、秋名のハチロクとバトルしたいがために、取り引きのつもりで言ったわけじゃないんです……」

 

池谷「!?」

 

 

 

 

真子の本心に、ようやく近付いてきた池谷。

 

 

 

 

真子「だから、あの時の約束は……わたしの本心なんです……だから……受け取ってください!」

 

池谷「…………///」

 

 

 

 

恋愛にはどうしようもなく無知な池谷。どう答えていいかわからない。

 

 

 

 

真子「予定が空いてるなら……来週土曜日の夜8時、池谷さんと出会った釜めし屋の看板の下で、待ってます……」

 

池谷「あっ……あぁ……わかった……真子ちゃんの方からそう言うなら……」

 

 

 

休日の夜に、一人の女の子がその人のために待っているということが何を意味しているのか、さすがの池谷にも理解することができた……

 

 

 




結局、ほとんどプールで遊ばず真子と二人きりで過ごすだけになった池谷。次の週の土曜日の夜、いよいよ、池谷の男としての勝負の日が来る。果たして池谷は、真子の想いを受け止めてあげることができるのだろうか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.44 池谷、勝負の日

沙雪・真子たちとプールに遊びに行った拓海と池谷達。拓海は沙雪に振り回され、健二と樹はそれを見て羨ましがるしかなかった。一方、池谷と真子は、ほとんど会話するだけで終わってしまった。そして、真子に告げられた池谷への本心……池谷は、真子の気持ちにどのように答えるのだろうか……?


 

 

 

 

 

〜真子の約束の日当日、夜8時〜

 

 

 

 

 

例の釜めし屋の看板の下にて……

 

 

 

 

 

真子「(池谷さん……来ないなぁ……)」

 

時間になっても現れない池谷。

 

まだ携帯電話など普及していない時代だ。個人間でリアルタイムに連絡を取り合うことは不可能だ。

 

 

 

 

 

綺麗なワンピースに見をまとい、ハイヒールのサンダルを履く姿は、天使そのものだった。誰が見ても一目惚れするような、最も美しい姿で待ち続ける、一人の女性。

 

 

 

 

 

…………しかし、30分経っても、池谷が姿を現すことはなかった。

 

 

 

 

連絡の取れないこの時代、まだ交通渋滞や不測の事態など、許容できる範囲内だ。真子は待ち続ける。

 

 

 

 

 

その頃………

 

 

 

 

 

店長「何ィ!?8時ィ!?もう30分も過ぎてるじゃないか!!」

 

池谷「!?」

 

店長「どうしてお前はいつもそうなんだ!!女の子はそんな単純なもんじゃないんだぞ!!行かなきゃクビだ!!お前も走り屋なら、全力でかっ飛ばして行け!!説教はその後だァ!!」

 

 

 

 

池谷のあまりの鈍感さに、激昂する店長。

 

ようやく池谷は、事の重大さに気づいた。

 

 

 

 

 

池谷は、真子の水着姿を見れただけで、そしてそんな子と横で会話できただけで、もう満足だと思っていた。しかし、気付くのが遅すぎた……

 

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュキュキュ/

 

\フォアアアアアア/

 

 

 

 

 

池谷のS13の、スペシャルチューンのCA18DET-Rが、マフラーから全開のエキゾーストノートを奏でる。まるでそれは、池谷が真子に申し訳ない気持ちと、待ち続けてほしいと願う気持ちを届けるようだった。

 

 

 

 

 

渋川から釜めし屋の看板のある横川までの所要時間は、およそ1時間だ。そこを、全てを賭けて高速道路を全開で走る池谷。スピードメーターはとんでもない位置を示していた……!!

 

 

 

 

 

\フォアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアア/

 

 

 

 

 

池谷「たとえオービスに引っかかってもいい……警察に見つかってもいい……とにかく間に合ってくれ……!!」

 

 

 

 

愛車のS13にすべてを委ね、全開でかっ飛ばす池谷。

 

 

 

 

       \シュン/

 

 

  \シュン/

 

 

           \シュン/

 

 

 

 

 

まるで他の車を、止まっているかのようにパスしていく池谷。

 

 

 

 

 

今まで培ってきた全知全能を、全て真子への願いに託す。

 

 

 

 

 

ところが………

 

 

 

 

 

不幸にも、池谷に最大の試練が訪れる……

 

 

 

 

 

\パパァーー/

 

    \ピーッピーッピーーー/

 

 

 

 

 

池谷「ウソだろ!?事故渋滞!?何でこんな時に限って……クソっ!!」

 

 

 

 

池谷は自分のしでかした過ちを心底悔いた。

 

 

 

 

 

一方……

 

 

 

 

 

真子「もうすぐ9時……池谷さん……何かあったのかな……それとも……」

 

いよいよ不安になり始める真子。さすがに予定時刻から1時間経っても現れないのだ。不安はどんどん深さを増していく……

 

 

 

 

 

 

池谷「どうか神様仏様、お願いします!!俺にチャンスを……他はどうなってもいい……今日だけはチャンスを下さい……!!」

 

 

 

 

 

渋滞から抜け出せないでいた。非常にもどかしい。

 

 

 

 

 

事故の処理が終わり、ようやく流れが正常に戻った高速道路。

 

 

 

再び全開で走り、予定の高速道路を降りた。

 

その時、既に9時30分。予定から1時間半も遅れていた……!!

 

 

 

 

 

下道も片側1車線の道路で、前の車をパスしてでも飛ばす池谷。

 

もう周りのことなど見えていなかった。

 

真子のことで頭が一杯になっていた。

 

 

 

 

 

池谷「頼む……真子ちゃん……待っていてくれ……!!」

 

 

 

 

 

 

真子「…………」

 

時計を見る。時刻は9時40分を示していた。

 

 

 

 

 

真子「サンダル……痛い……」

 

 

 

 

普段はしないくらい、美しい装いをしていた真子。だが、美しさの代償には痛みが付きまとう。

 

足は赤くなり、靴擦れを起こしていた。こんな姿、池谷に見られる訳にはいかない。

 

 

 

 

そして、とうとう真子は決心した。

 

 

真子「(私、もうサンダルなんて、二度と履かない……!!)」

 

 

元の靴に履き替える真子。そして……

 

 

 

 

 

 

\フォンンンン フォン フォンンンンンン/

 

\ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア/

 

 

 

 

 

 

\フォン フォン フォアアアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアアアアア…………/

 

 

 

 

 

 

 

釜飯屋の看板の下で、全ての想いを拭い去るかのようにドーナツターンを決め、そして走り去っていった。

 

 

 

 

池谷はとうとう、自分の過ちから、真子の気持ちを受け止めることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

\フォンンンンンン フォンンンンンン/

 

 

釜めし屋の看板の下。そこには、真子の姿はなかった。

 

 

池谷の眼前にある、ドーナツターンを決めたブラックマークには、タイヤの焼けた匂いが、かすかに残っていた……

 

 

 

 

 

 

 

池谷「俺の……俺の……バッカやろォォォォォォ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュ/

 

\フォアアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアアア/

 

 

 

 

 

 

旧国道18号線、碓氷峠へ向かう。

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

\フォン フォン フォアアアアアアア/

 

 

 

 

ヤケになり、キレた走りをする池谷。

 

もはやそれは、真子と沙雪のコンビ、インパクトブルーの走りと、ほぼ変わらなかった。

 

 

 

 

 

普段では考えられないステアリングの切り返し。豪快かつ的確なアクセルワーク。ブレのないシフト操作とヒールアンドトゥ。全てが完璧だった。いや、完璧を通り越していた。

 

 

 

 

土曜日の夜だ。ギャラリーや他の走り屋がいてもおかしくない。

 

 

 

 

ギャラリー1「おっ、この180の音……インパクトブルーのシルエイティか……?」

ギャラリー2「シルビアの顔!シルエイテイだ!」

 

 

 

しかし……

 

 

 

\フォンンンンン/

 

\ギャアアアアアアアアア/

 

 

 

 

ギャラリー1「何!?ツートンのS13!?」

 

ギャラリー2「ここいらでは見たことないマシンだぜ!?」

 

 

 

 

前を行く他の走り屋に追いついた池谷。

 

 

 

 

走り屋「後ろから迫ってきてる……この排気音……あのヘッドライト……インパクトブルーのシルエイティ……?」

 

 

 

池谷「………っ!!」

 

 

 

前を行く走り屋のインに飛び込む池谷。

 

 

 

 

走り屋「うわっ!!突っ込んできたァ!!」

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

\フォン フォン フォフォン フォアアアアアア/

 

 

 

 

走り屋「何……!?S13……!?」

 

 

 

池谷「……………」

 

 

 

 

S13を無理やりインに飛び込ませ、スピンモード直前のオーバーステアから一気に立ち上がり、前の走り屋をオーバーテイクした。

 

 

 

もはやこの時の池谷は鬼神と化していた。もはやビジターの走りではなかった。周りのギャラリーや走り屋は、ヘッドライトの形状からインパクトブルーのシルエイティと勘違いした。それほど、池谷の走りはキレていた。

 

 

 

これまでモヤモヤしていた鬱憤、手が届きそうだった幸福を自ら手放してしまった後悔。池谷はその全てを碓氷峠に捨て去るような、そんな走りだった。もはや誰にも手が付けられなかった。

 

 

 

 

 

そして、碓氷峠を走り切り、車通りの少ない路肩に愛車を停める池谷。

 

 

 

 

池谷「グスッ……グスッ……うぁあああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

言葉にならない雄叫びを上げる池谷。池谷の精神錯乱状態は、相当なものだった……

 

 

 

 




自らの不覚と不運から、とうとう真子の想いを受け止めることができなかった池谷。その悔しさから、碓氷峠でとんでもない走りで周囲を圧倒した池谷。まさかこの鬼神の走りが、後の北関東最速伝説、ましてや関東全域にまで影響を及ぼすとは、誰もが知る由もなかった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.45 偵察に来た戦闘機

池谷は、自分の自信のなさとすれ違いから、とうとう真子の気持ちを受け止めることができなかった。錯乱状態に陥り、碓氷峠を爆速で駆け抜け雄叫びを上げた。この頃から、池谷は人が変わったような走りを見せるようになる。そんな所に、遠方から群馬エリアに偵察に来た「戦闘機」が出現した……!!


 

 

 

 

 

樹「ホント俺のハチゴー、上りだと死ぬほど遅えんだよなぁ……」

 

拓海「そうだな……」

 

 

 

 

土曜のバイト上がり、二人でハチゴーに乗って秋名湖までドライブに来ていた樹と拓海。

 

 

 

 

そこに、突如とんでもなく速いマシンが後ろから現れた……!!

 

拓海「おい樹!避けろ!後ろからすごい速い車が来てるぞ!!」

 

樹「うわっ!ホントだ!!」

 

間違えて左端ではなく右側に避ける樹。

 

拓海「おい樹、逆、逆!」

 

 

 

 

 

\フォンンンンン/

 

 

 

 

コンパクトなセダンボディに、大型のリアウイング……

 

まさしくそれは、三菱のランサーエボリューションⅣ、地上の戦闘機と言っても過言ではないマシンだ。

 

 

 

 

好敵手の車として、スバルのインプレッサWRXがいる。これら2台のライバル関係は、数十年前の戦時中まで遡る。

 

当時三菱は、かの有名な戦闘機である零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦を、海軍向けに開発した。一方スバル、富士重工業の全身である中島飛行機は、一式戦闘機『隼』を、陸軍に卸していた。それぞれ海軍と陸軍の名戦闘機として、大戦中に第一線で活躍し続けた機体だ。

 

まさしくランサーエボリューションは、その流れをくみ、インプレッサと同じ戦場であるWRCで戦う、まさに現代の戦闘機であった。

 

 

 

 

 

拓海「すっげぇ速え……!!でもあの車……不思議な動きをするな……」

 

樹「げっ!!?ランエボ!!?ここいらでは見たことないマシンだぜェ……コンパクトなボディに、2Lのターボエンジン、そして4WDだぜ……?あんなの反則だよォ……」

 

拓海「(そうか……あの動き……4WD……!!)」

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに、秋名湖に到着し、少し原っぱになったところで休憩する2人。

 

ところが、そこには例のランエボが停まっていた……

 

 

 

樹「ヤベェ〜!!さっきの、ランエボだァ〜!!」

 

拓海「気にすることないよ……俺、缶コーヒー買ってくる」

 

 

 

 

一人になる樹。

 

 

 

 

なんとそこに、ランエボのドライバーが樹の方に向かって歩いてきた……ガラの悪そうな、長髪を後ろで括った髪型の人物だ。

 

 

 

 

 

???\コンコン/

 

 

 

 

 

ハチゴーの運転席のウインドウをノックするランエボのドライバー。

 

樹の方「はっ、はぁ〜い(汗)」

 

ウインドウを開ける樹。

 

???「なぁ少年、ちょっと道を聞きてぇんだけどよォ」

 

 

 

 

意外と絡んできたりとかそういう類ではなかった。

 

……かに思われた。

 

 

 

 

樹「それなら、こっちの方が近いっすよォ」

 

???「ありがとよ少年……ところでよォ」

 

 

 

 

ここからが本題だった。

 

 

 

 

???「この秋名で、一番速いドライバーってのは誰だ……?」

 

樹「ひょっとして、秋名のハチロクに挑戦しようと、秋名に……?」

 

 

 

 

しかし、ランエボのドライバーから発せられた言葉は、心外なものだった……

 

 

 

 

 

???「あァ??俺たちがハチロクに挑戦??」

 

???2「クスクスクス」

 

ランエボの助手席に乗るドライバーも失笑する。

 

金色の短髪の頭に、タオルを巻いている。

 

 

 

 

 

???「もっと速い車に乗ってるなら話は別だが、車がハチロクだってよォ……冗談は顔だけにしてくれよ、レビンの少年」

 

樹「お前達……秋名のハチロクのこと……まだ何も知らないくせに……秋名のハチロクは、まだ一度も負けたことがないんだ!!FCにも、FDにも、R32にだって!!」

 

???「へへっ、そりゃあよっぽどヘタな奴が乗ってたんだろう」

 

樹「違うよォ!!どの車も、群馬でトップクラスのドライバーだよ!!」

 

???「ははっ、レベル低いねェ、群馬エリアも」

 

樹「くっ………!!」

 

 

 

 

 

拓海「やめとけ、樹」

 

自販機から帰ってきた拓海が、すかさず止めに入る。

 

 

 

 

 

???2「お前もだ、清次」

 

こちらももう一人の男が止めに入る。

 

 

 

 

???2「悪かったな……ウチのツレは口が悪くてな……俺たちはお前らをけなすつもりはない……そのハチロク、きっと相当な腕だろう」

 

 

 

 

一旦は希望の光が差したかに見えた。が………

 

 

 

 

???2「しかし、車がな……いくらドライバーの腕が優れていても、車がハチロクってのがな……」

 

清次「そういうことだ少年、バトルするなら、もっといいマシンに乗り換えるんだな……ハチロクなんか乗ってる奴ァ、アウトオブ眼中!頼まれたってバトルなんかしねェよ!!」

 

 

 

 

樹「くっ……くくっ………」

 

見たこともない秋名のハチロクをけなされて悔しがる樹。

 

 

 

 

清次「じゃあ行くか、京一」

 

京一「あぁ……」

 

 

 

\バン/

 

\フォオオオオオオ/

 

 

 

 

 

樹「クッソぉおおおお!!!!あのちょんまげ野郎!!!!」

 

拓海「ほら、樹、コーヒー」

 

樹「……っ、あっ、あぁ……サンキュー」

 

拓海「ほっとけばいいよ……あんな奴等……」

 

 

 

 

 

ほとぼりは、一旦醒めた。本人が、気にするな、ほっとけばいい、と言うのだから、急に冷静さを取り戻したのだった。

 

 

 

 

 

一方、道を聞いた後、秋名のダウンヒルの方面へと向かうランエボ。

 

清次「しっかし、なんでハチロクなんだ?バカなのか?群馬エリアの走り屋は……」

 

京一「いや……そんな事はないはずだがな……どうしてなんだ?(FCにも負けたことがないと言ってたな……まさか……涼介……!?一体どういうことなんだ……!?)」

 

 

 

 




この後、秋名のダウンヒルに突入するランエボ。しかし、バックミラーに一台のマシンのヘッドライトが映し出された。黄色いフォグランプに、横長のヘッドライト……一体そのマシンとは……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.46 戦闘機、撃墜されし

ランエボに乗った男達に、秋名のハチロクを散々けなされた樹と拓海。だが拓海は、気にする様子はなかった。その後ランエボは早々と姿を消し、秋名のダウンヒルへ向かっていた。しかし、その後ろから、一台のマシンが姿を現した。果たしてそのマシンは、ランエボにどう仕掛けるのであろうか……!?


 

 

 

 

清次「あァ?後ろから一台、ポンコツが来やがった……京一、車種は何だ?」

 

京一「ヘッドライトの形状からして、恐らくS13かシルエイティだろう……」

 

清次「ヘッ……またFR小僧か……飽きてるんだよなァ……もうカニ走りのパフォーマンスだけの走りは」

 

 

 

 

\フォオオオオオオオオ/

 

 

 

 

ランエボをアクセル全開で加速させる清次。だが……

 

 

 

 

???「……………………………」

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

 

 

両者、1コーナーを抜けた。そして…………!?

 

 

 

 

 

清次「あァ!?どうなってやがんだ!?」

 

 

 

そのS13は、とてつもない切れ味の突っ込みと、ブレのない舵角、そしてそのスピードを維持したまま、立ち上がってきた。結果、ランエボの後ろに、ピッタリと張り付いた……!!

 

 

 

その後、ランエボは高速コーナーで一旦S13を引き離すも……

 

 

 

 

 

\フォンンンンン フォンンンンン/

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

 

 

またもや突っ込みで張り付かれる。

 

清次「くっ……ふざけやがって……」

 

 

 

 

 

\フォオオオオオオオオ/

 

流石は4WD、立ち上がりのトラクションは他を寄せ付けない。流石のS13も、これには付いて行けない。が、しかし……

 

 

 

 

\フォンンンンンン フォンンンンンン/

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

 

ブレーキングしながら、ヘアピン手前の複合S字コーナーで、またもやランエボはS13に張り付かれる!!

 

清次「どうなってんだァ……ふざけんなァ!!」

 

 

 

 

 

そしてすぐヘアピン。ここの立ち上がりで、再びS13を引き離す。

 

清次「へへっ、所詮FRなんてこんなもんだ……この先FRなんか乗ってても先がないぜ……」

 

 

 

 

 

ところがこの先、4WDが最も苦手とする中速のやや直角のコーナーが2回連続で押し寄せる。まず一つ目……

 

 

 

 

\フォンンンンンン/

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

 

清次「何なんだこりゃア!?」

 

突っ込みがモノをいう直角コーナー。立ち上がりでS13が追い付いてくる……!!

 

 

 

 

 

そして、2つ目のキツい方の直角コーナー手前で、ランエボは遂にS13に並ばれる……!!

 

ランエボは、FFベースの4WDだ。ゆえに、コーナーの突っ込みがどうしても鈍くなってしまう。

 

フェイントモーションを使えば力技でかき消せるのだが、横に並ばれた今、それをするスペースはない。

 

 

 

 

 

 

???「………………………………」

 

 

 

\フォンンンンンン/

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

 

 

とうとう清次のランエボは、S13に抜かれてしまった……

 

清次「何だとォ!?このツートンのS13、ふざけたマネしやがって……!!」

 

 

 

 

 

しかし、ここでストップが入った。

 

京一「やめとけ清次、お前には無理だ」

 

京一はそのS13の実力を見抜いた。

 

リアには『AKINA speed stars』のステッカーが貼られていた。地元の速い走り屋だと判断したのだ。

 

清次はこのコースを走り慣れていない。また、高速急坂下りで、フロントヘビーのランエボのタイヤとブレーキが保たないことも、京一には解りきったことだった。

 

 

 

 

 

清次「くっ………わかったよ………」

 

強気な性格の清次も、唯一京一には頭が上がらない。

 

京一の言葉に、素直に従った。

 

 

 

 

 

\フォンンンンン フォンンンンン ギャアアアアア/

 

 

 

 

 

そのまま前回で下っていくS13を、ただ後ろから眺めるしかなかった。

 

 

 

 

 

\フォアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアア/

 

 

 

 

 

スケートリンク前の全開区間を、とんでもないスピードで駆け抜けるS13。

 

 

 

 

 

土曜の夜だ。当然、ギャラリーがいてもおかしくない。

 

スケートリンク場の直後のヘアピンは、特にギャラリーの多い場所だ。

 

ギャラリー1「やべぇ!!一台とんでもないスピードで突っ込んでくるぞ!!でも秋名のハチロクじゃねえ!!多分S13だ!!」

 

ギャラリー2「ブレーキが遅すぎる!!やばい!!突っ込んでくる!!」

 

 

 

 

そして……

 

 

 

ギャラリー一同「ぐわぁあああああああ!!!!」

 

 

\フォンンンンン フォンンンンン ギャアアアアアアア/

 

 

 

 

ギリギリのレイトブレーキングで、ストレートのスピードをそのままコーナーの突っ込みに乗せていくかの如く、S13は曲がっていった……

 

 

 

 

\フォオンンンンンン/

 

走り去っていくS13。

 

 

 

 

ギャラリー1「おい……あのツートンのS13……スピードスターズの、池谷……だったよなぁ……」

 

ギャラリー2「あぁ……ちゃんとスピードスターズのステッカーも貼ってあった……いつの間にあんなとてつもない走りをするようになったんだぁ……!?」

 

 

 

 

 

その後……

 

 

清次「ペースを落としながら走ってみたが……あのS13、もう消えやがった……」

 

京一「だから言っただろう……速い奴じゃなければ、姿くらいは見えていたはずだ」

 

清次「クソったれがァ……この俺が……俺のランエボが……FR小僧なんかに……」

 

 

 

 

そして、先程のギャラリーコーナーでも……

 

ギャラリー1「おい、もう一台、飛ばしてないけど来るぞ……?」

 

ギャラリー2「見慣れない車だな……ランエボ……?」

 

 

 

 

\フォオンンンンンン/

 

 

 

 

ややキビキビとした程度の走りで過ぎ去っていった。

 

 

 

 

ギャラリー1「この辺のエリアに、ランエボなんかいたっけかぁ?」

 

ギャラリー2「いや、知らねぇ……何か嫌な予感するなぁ……」

 

 

 

 

この数日後、ギャラリーたちの予感は、見事に的中することになる……

 

 

 

 




まさか清次のランエボが、秋名を走り慣れていないとはいえ、『ツートンのS13』に抜かれてしまった。4WD乗りとして、FRに抜かれるのは最大の屈辱だった。もちろんそのS13の正体とは……しかしこの後、そのランエボは、とてつもない集団を引き連れて、編隊飛行で群馬の山々に押し寄せてくるのであった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.47 戦闘機編隊への対抗策

(長らくお待たせしました。筆者より)

謎のランエボⅣは、秋名の偵察の帰りにダウンヒルに入る。そこで、『ツートンのS13』に、苦手の中低速直角コーナーで「撃墜」されてしまう。下りを攻めるのをやめたエボⅣの乗り手・清次は、長い全開区間を前に『ツートンのS13』の姿を見失う。ギャラリー達はその姿を見ており、S13のあまりの突っ込みに驚愕したあと、見慣れないランエボが通過し、不穏な空気が漂う。そしてその予感は、見事に的中してしまうのだった……!!


 

 

 

 

 

〜とある土曜日の朝〜

 

 

 

健二は工場の夜勤上がり、速攻太田市から渋川市の池谷達のGSへ向かう。

 

 

健二「おい、池谷!!速報だ!!マズいことになりそうだぞ……」

 

池谷「おう健二、久しぶりじゃないか……慌ててどうしたんだ……?」

 

健二「栃木にある日光いろは坂からやってきたランエボ軍団が、群馬エリアを一ヶ月で総ナメにするって噂だ……この前赤城山の「サンダーファイヤー(※)」もやられたそうだ……」

 

「サンダーファイヤー」とは、赤城山をホームコースとするモブチームだ。実力としては、以前の秋名スピードスターズと同じくらいである。(※アニメ 頭文字D second stage に登場した紫の180SXのこと)

 

池谷「ほう……それで……?」

 

健二「どうやら今夜、妙義に乗り込むそうだ……中里と「ヒルクライム」で勝負するそうだ……」

 

池谷「なるほどな……ヒルクライム……」

 

健二「池谷、お前どうなると思う?」

 

池谷「あの妙義最速の中里か……拓海の横に乗ってバトルを見学したけど、後半に急にペースが落ちた……だがそれはダウンヒルでの話だ……勝つ確率は……5分5分ってとこだろう」

 

健二「お前……やけに冷静だな……」

 

池谷「実は一度、そのランエボ軍団らしき1台と、秋名で遭遇してるんだ。エボⅣだったな……豪快な走りだったけど、2連ヘアピン前の直角コーナーで、抜いちまったよ」

 

健二「そいつらは、本気で走ってたのか……?」

 

池谷「さあな……だが、俺が抜いたらすぐにペースダウンして付いてこなくなった……まだ実力は読み切れていない」

 

 

 

 

接客を終え、健二達が話してるのを小耳に挟んだ樹がやってきた。

 

 

 

 

樹「あっ!健二先輩!お久しぶりっす!!新しい仕事は順調っすかァ?」

 

健二「結構な体力仕事で大変だけど、なんとかやってるよ……俺の180のためだ、これくらいどうってことないよ」

 

健二は以前話した通り、愛車の180を大化けさせるため、太田市の自動車工場で期間従業員として働き始めた。秋名スピードスターズには、ヒルクライム担当がいないのだ。池谷に負けじと、健二も奮闘を始めたのだった。

 

 

 

 

樹「そうっすかァ……楽しみっすねェ〜、健二先輩の180か、どこまで化けるのか……くぅ〜!!」

 

 

 

 

健二の180、外装は既にフルエアロに進化している。エンジンはノーマルだとかなりマージンが取られているので200馬力程度だが、2リッターターボエンジンであるSR20なら、ランエボと同じクラスだ。吸排気系にブーストアップ、それに合わせたECU書き換えだけで、優に300馬力は超えるはずだ。あとは足回りとブレーキで、峠仕様としてはフルチューン、といったところだ。

 

 

 

 

樹「ところで、この前仕事上がりに拓海と秋名湖までドライブに行ったんっすよ、ハチゴーで」

 

健二「それが、どうかしたのか……?」

 

樹「今話してた奴かどうかわかんないんっすけど、秋名湖で見たんっすよ……白いランエボ……エボⅣでしたよ」

 

池谷「同じだな……ひょっとしたら俺が抜いたの、そいつかもしれない」

 

樹「ほんとっすかァ!?くぅ〜!!さすが池谷先輩!!あのランエボ野郎、こっちに向かって歩いてきて、さんざん拓海のハチロクのことけなしてきたんっすよォ!長い髪をチョンマゲみたいに括って、『ハチロクなんか乗ってる奴はアウトオブ眼中!』なんて言って……許せなかったんっすよォ!!見たこともないくせに、ホントムカつきますよォ!!」

 

池谷「確かにそう聞いたらあのランエボ野郎、ムカつくな……俺も何かしら準備しとかないと……念のため、S13のタイヤ、食い付く方に付け替えとくか」

 

樹「今の池谷先輩なら、あんなランエボ野郎、ぶっちぎりっすよォ!!」

 

池谷「普通なら、あのランエボ野郎に、俺が出るのが真っ当なところだ……だが、拓海のハチロクをそこまでけなされちゃあな……」

 

 

 

 

池谷には、一つ考えがあった。エンジンのパワーアップだ。池谷のS13は前期型で、CA18エンジンはSR20に劣る1.8リッターの排気量しかない。だが、ラリースペシャルのブルーバードSSS-R用CA18DET-Rが載る今、ハイカムにイギリスの名門コスワース製の鍛造ピストンが奢られている。

 

そしてSR20との最大の違いは、エンジンブロックが鋳鉄製であることだ。十分なブーストアップに耐えられるエンジン、むしろそれを見越したエンジンといえるのだ。池谷はまず300馬力程度を考えている。1ヶ月前ならともあれ、今の池谷なら、操れる。

 

池谷は、ランエボ軍団を前に、その計画を遂行するのだろうか……?

 

 

 

樹「そうだ!ハチロクのターボ化なんてどうですか……?そしたらあのランエボ野郎に」

 

池谷「いや、その必要はない」

 

樹「それじゃあ、拓海が負けちゃいますよォ!!流石に今度の相手は、ランエボですよォ!!」

 

池谷「拓海は、今の状態のハチロクで勝ち続けてきたんだ……どんな相手にもな……そして横に乗ってたからわかる……拓海なら……ランエボにも勝てる……!!勝負は終盤だ……ランエボは絶対にペースが落ちる……あの走りだと、確実にな……あのバランスだからこそ、秋名のハチロクは真価を発揮するんだ……俺はそう体感した」

 

樹「池谷先輩……」

 

 

 

池谷らしいといえばらしいが、理論的で冷静な状況判断と分析。拓海はそのままでいい、むしろそのままでこそ真価を発揮するという。

 

 

 

黙々と仕事をこなす拓海だったが、話は聞こえていた。

 

 

 

池谷「それでいいよな、拓海」

 

拓海「何が何だか、わからないっすけど……俺、やりますよ」

 

池谷「よし、わかった!」

 

 

 




池谷は、ランエボ軍団が秋名に「進駐」してきた時は、真っ先に拓海の乗る秋名のハチロクを「出撃」させることを選んだ。それは、ハチロクと中里とのバトルで、一度横に乗ってバトルを見学していたからこその決断だった。池谷は全てを見切っていた。この後、池谷はただのチームリーダーではなくなっていく。その兆候が、このランエボ軍団進駐を境に、開花していくのだった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.48 戦闘機編隊、妙義山雷撃!!

ランエボ軍団が秋名に「進駐」してきた際、真っ先に秋名のハチロクで拓海にダウンヒルを走らせる計画を立てた池谷。しかし、拓海は正式にスピードスターズのメンバーというわけではない。そんな中、とうとうそのランエボ軍団は妙義山に進出した。勝負はヒルクライム、妙義ナイトキッズのリーダー、R32GT-Rに乗る中里が相手になる。果たしてその勝負の行方は……!?


 

 

 

 

〜土曜夜10時、妙義山にて〜

 

 

 

京一「勝負は上り一本、いいな」

 

中里「あぁ……てめぇらみたいなチンケな奴らに、負けるわけにはいかねぇ!!」

 

清次「へへっ、今のうちに余裕こいでるんだな……ランエボの恐ろしさを、嫌というほど見せてやるぜ!!」

 

京一「佐竹、カウントを頼む」

 

佐竹「わかりやした!京一さん」

 

 

 

佐竹とは、後に碓氷峠に出撃するランエボ軍団のメンバーの一人だ。清次には劣るが、ランエボ軍団「エンペラー」の中では実力派の一人だ。

 

 

 

 

佐竹「じゃあ行くぜ……5、4、3、2、1、GO!」

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュ/

 

 

いよいよ妙義山でのバトルがスタートした。お互い4WD、スタートの蹴り出しの良さは互角だ。

 

 

ギャラリー1「中里が前だ!!いっけぇ!!」

 

ギャラリー2「あんな下品なランエボ軍団に、ナイトキッズの中里が負けてたまっかぁ!!」

 

 

 

 

慎吾「クソっ……あんな下品なランエボ野郎に、群馬エリアをバカにされて……俺の右手さえ使えりゃあダウンヒルでも……毅、今日だけはお前を応援してやるぜ……!!」

 

 

 

\フォオオオオオオン/\プシュー/\フォオオオオオオン/

 

中里「群馬の砦は、俺が守る……!!」

 

意気込む中里だった……が、しかし……

 

 

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

\フォオオオオオオオ/

 

清次「へっ、峠となったら、GT-Rもオモチャみたいなもんだぜ……峠の王者は、ランエボだァ!!」

 

 

 

 

格の違う走りに、煽られて必死になる中里。しかし、プレッシャーへの弱さとキレやすさが災いし、遂に………

 

 

 

 

中里「くっ……!!」

 

\キュルキュルキュルキュル/

 

 

 

アンダーステアを誘発してしまった。ハイテクな駆動系を持つが故に、立て直しが効かない……そして……!!

 

 

 

 

\バァン!!ガアアアアアア/

 

中里「ガッ!!グワァアアアアアアアアアッ!!」

 

 

 

 

岸壁に激しく車体をヒットさせてしまった。

 

中里「くっ……くっ………クッソォオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

 

事実上、エンペラーの清次の勝利に終わった。

 

 

 

 

京一「約束通り、ステッカーを貰おう」

 

慎吾「くっ……」\スッ/

 

京一\カチカチカチ/\パシュッ/

 

 

 

ナイトキッズ一同「っ………!!」

 

 

 

清次\スッ……ペタペタ/「お前らのおかげで、また一つ撃墜マークが増えたぜ……オレのリアウイングが、群馬エリアの負けたチームのステッカーで埋め尽くされる日も、そう遠くはないな……ヘッ」

 

 

 

彼らは、群馬エリアで負かしたチームのステッカーを真っ二つに切り裂いては、メインの戦力である清次のランエボのリアウイングに貼り付けていっていた。昔の戦闘機乗りがやっていた、撃墜マークのようなものだ。

 

 

 

 

慎吾「テメェら……ふざけんじゃねぇぞ……群馬にはもっと速え奴はいっぱいいるんだ……!!」

 

清次「負けたヤツが何を言っても、虚しいもんだなァ……」

 

涼しい顔をして答える清次。

 

 

 

 

京一「帰るぞ、清次」

 

清次「あぁ……」

 

用が済んだら、そそくさと帰るランエボ軍団。

 

 

 

 

\フォン フォン フォオオオオオオ/

\フォオオオオオオ/

\フォオオオオオオ/

 

 

 

 

ランエボ軍団『エンペラー』は、妙義ナイトキッズを「撃墜」し、「撤退」していく。

 

 

かつては卑怯な手を使って勝ちまくっていた慎吾ですら、彼らの蛮行には黙っていられなかった……

 

 

そして遂に翌週、エンペラーは秋名に乗り込んでくることになった。

 

 

 

 

 

〜週明け〜

 

樹「そういや池谷先輩、先週からS13見ないですけど、どうかしたんッスかあ?」

 

池谷「俺達もあのランエボ軍団、黙って見過ごす訳にはいかない……」

 

樹「それは、つまり……」

 

池谷「S13の戦闘力アップだ……拓海にばっかり負担かけさせる訳にはいかない……俺達秋名スピードスターズも、やればできるってことを証明してみせなきゃ……!!」

 

 

 

池谷は、真子との一件があってから、吹っ切れたかのように戦闘力を増した。碓氷峠というとてつもなくツイスティで荒れたコースでの鬼神の走り……あれから全てが変わった。

 

 

 

 

池谷のS13は、文太の旧友、政志の自動車整備工場にあった。

 

政志「あれから随分オーラが増したねぇ、このS13」

 

 

 

政志は長年メカニックを勤め、文太がラリースト(ラリー競技でのドライバー)をやっている時も、絶えずメカニックとして仕事をこなしてきた歴戦の猛者だ。一目見るだけで、ドライバーの腕の練度さえも見抜いてしまう。

 

 

 

 

政志「このタイヤの減り方……あの青年、尋常じゃないくらい進歩してるな……フロントとリアが、きっちりバランスよく減っている……フロントタイヤをこじった形跡もない……そういや文太が、毎日このS13の青年が息子の配達に付き合ってるって言ってたな……その影響か……?」

 

「えっと、今回の内容は……主にブーストアップだな……それ自体は簡単さ……大事なのはそれに付随する作業……吸排気、ECU、そしてパワーアップに付随した足回りの強化だな……ヒルクライムも走れる仕様ってトコかな……?CA18だと、300馬力くらいが妥当かな?だからブースト圧1.5キロ弱ってとこか?」

 

 

 

 

政志の手に掛かれば、ダウンヒルでもヒルクライムでも、秋名スペシャルのマシンが、ちょちょいのちょいで完成してしまう。問題はパーツの確保だ。S13のブーストアップ対応ECUが、エンペラーが秋名に進駐してくるまでに間に合うかどうか……

 

政志「あの池谷って青年……土曜日の3日前には完成させてほしいって言ってたな……何かあるな……?この土曜日」




妙義ナイトキッズがやられ、とうとう来週秋名へ進駐してくるランエボ軍団・エンペラー。拓海がダウンヒルで相手をすることが確定している。では池谷は一体、なぜこんなに急いでS13を仕上げようとしているのか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.49 エンペラー、秋名山進駐!!

妙義ナイトキッズの中里、R32GT-Rが、エンペラーの清次、ランエボⅣにあっさりと負けてしまった。そして遂に今週末、秋名山に進駐してくる……拓海がダウンヒルで応戦することが確定した中、何故か池谷はS13を急ピッチで戦闘力アップにかかる。その真意は、ダウンヒルが終わったあと、明らかになる……!!


 

 

 

 

 

〜エンペラー進駐前の水曜日〜

 

政志「ほい、完成したよ、キミのS13」

 

池谷「あっ……ありがとうございます!!エンジン掛けてみてもいいですか!?」

 

政志「おうよ」

 

 

 

 

S13にキーを刺す池谷。そして……!!

 

 

 

\キューッキュッキュッキュッキュッ/

 

\ボワァアアアアンンンンン/

 

 

 

明らかに変わったエキゾーストノートに、高揚感を隠せない池谷。

 

 

池谷「これが本当に……俺のS13ですか……!?」

 

政志「そうだぜ?キミなら乗りこなせるはずさ」

 

池谷「それは一体……?」

 

政志「キミは自分のテクニックに自覚あるかい?この前会った時より、格段に進歩してるぜ?ほら、このタイヤの減り方」

 

 

 

政志と一緒に様子を見る池谷。

 

 

 

政志「下手なドライバーだと、フロントタイヤを強引にこじった跡があったり、ヘタにドリフトさせてリアタイヤが丸坊主になってたりするんだ……君にはその兆候が全く見えない……あのハチロクの減り方と、ほとんど互角なんだよ」

 

池谷「!?」

 

 

 

 

衝撃の事実を聞く池谷。

 

 

 

 

政志「そしてキミ、空気圧のセッティングを綿密に行っただろ?」

 

池谷「……!?何でわかったんですか!?」

 

政志「シルビアとか以上のクラスの車だと、秋名のダウンヒルじゃあ普通、最後の方タイヤがタレるんだよ……でも君のタイヤには、タレながら強引に攻め込んだ形跡が一切ない……下り、最後まで走りきれるだろ……このS13」

 

池谷「はい、勤め先の店長の祐一さんに教わったもので……」

 

政志「なるほど……アイツが吹き込んだわけか……いい線いってるよ、キミの車の走らせ方とセッティング」

 

池谷「ありがとうごさいます!!」

 

政志「てことで、このS13は大体300馬力は出るようになった。それに合わせて足回りもセッティングし直してある……今週末、何かあるみてぇだな……自信持って行ってきな!」

 

池谷「わかりました!!」

 

 

 

 

早速、エンペラーが進駐してくる3日前ではあるが、池谷は秋名山へ向かった。

 

そして、最初はヒルクライムだ。

 

池谷「くっ……これはっ……!!」

 

 

 

 

前とは比較にならないパワーに、悶絶する池谷。

 

だが、コーナー区間に入り、政志の言っていた真髄を知る。

 

 

 

 

池谷「なんだ……これ……この前までのダウンヒルと同じ感覚で曲がれる……すげぇ!すげぇぞ!S13!!」

 

 

 

 

それでいて、ストレートでは以前とは比較にならないほどのスピードが乗る。

 

池谷「これだ……この感覚だ……これなら……イケる……!!」

 

 

 

 

このあと池谷は何本も練習し、それをエンペラーが進駐してくる日まで繰り返した。

 

 

 

 

 

〜エンペラー進駐日当日〜

 

京一「それじゃあ、この秋名で一番速いドライバーを出してもらおう」

 

池谷「何言ってるんだ、そこにいるじゃないか」

 

池谷は秋名のハチロクを指した。

 

清次「あァ!?ふざけてんじゃねぇぞ!ハチロク相手にバトルしに来たつもりはねェぞ!!(って……ん……?このハチロクのドライバー……いつかの湖のほとりで見たアイツ……)」

 

 

 

 

 

京一「……!!」

 

何かに勘づいた京一。

 

だが清次は続ける。

 

清次「それよりもこの前のS13だ……俺たちがコースに慣れてなかったとはいえ、抜かれたのは事実だ……おい、S13のお前!なぜお前が出てこない!?とっとと車出しやがれ!!」

 

池谷「生憎だな……ハチロクがポンコツって言うんなら、そのお前たちが言うポンコツに勝ってから、S13と勝負するんだな……」

 

 

 

ガラの悪い相手を前にしても、全くひるまない池谷。本当にあれから、池谷は何かが変わってしまったようだった。

 

 

 

京一「あのS13の野郎の言う通りだ……気を抜くな清次……このハチロク、見た瞬間、電気みたいなもんが走った……あのS13とは比較にならないかもしれない……普通じゃないぞ、このハチロク……シミュレーション……3で行け……!!」

 

清次「あァ?S13はともかく、ハチロク相手にシミュレーション3!?」

 

 

 

 

エンペラーが遠征用に考えた作戦パターンは3つある。

 

シミュレーション1は先行ブッちぎり、シミュレーション2は前半様子を見て中盤からスパートをかける作戦、そして今回のシミュレーション3は……前半わざと後ろに付き相手の弱点を見切り、終盤に一気にスパートをかけてその弱点を付くというものだ。相手が最も強いときに使う作戦が、このシミュレーション3というわけだ。

 

 

 

 

 

池谷「じゃあカウントは俺が」

 

京一「いや、カウントは要らない……戦闘力の劣るマシンが、好きなタイミングでスタートする。間を取って、俺たちがスタートする。これを俺達は、ハンディキャップ方式と呼んでるがな」

 

池谷「それでいいか、拓海」

 

拓海「コクリ」

 

 

 

 

池谷「思いっきり行って来い、拓海!!」

 

 

 

 

\コクン/

 

ギヤを入れる拓海。そして……!!

 

\キューキュキュキュキュ/

 

 

 

 

ギャラリー「ハチロクが飛び出したぞ」

 

樹「いっけぇ〜!拓海ィ〜!!」

 

 

 

 

 

清次「フッ………!!」

 

\キューキュキュキュキュ/

 

 

 

 

時間を置いて、清次のエボⅣも飛び出した!!

 

そしてエボⅣは、秋名のハチロクにすぐ追いついてしまう。

 

それでもシミュレーション3を遵守する清次。

 

次第にイラついてくる。

 

 

 

 

清次「くっそォ……それにしても俺ァ、何でこんなにイラついてんだァ!?」

 

 

 

 

そして、スケートリンク前の全開区間で、とうとう我慢できなくなってしまった……

 

 

 

 

清次「かァアアアアアア!!いっちまえェェェ!!」

 

 

 

 

とうとう京一の指示を無視し、前に出た、出てしまった清次。

 

清次「へっ……スカッとしたぜ……シミュレーション3じゃなくたってよォ京一、勝ちゃア文句ねぇんだろうが勝ちゃア!!」

 

 

 

 

一方、最終セクションには……

 

賢太「啓介さん……今度ばかりは、ハチロクに勝ち目ないんじゃないっすかねぇ……」

 

啓介「峠はそうシンプルじゃない……アニキが見物するならここにしろって言うんだ……なにか意味があってのことだろう……(俺はなぜか知らないが……あのハチロクが負けるところを……見たくないんだ……こんなところで、俺とのリベンジマッチを前に、負けんじゃねえぞ……!!)」

 

 

赤城レッドサンズの、高橋啓介と、その舎弟的存在の賢太が、ふもと近くのギャラリーのいない場所でハチロクを待っていた。




とうとう始まってしまった、ハチロクとランエボの無謀とも言えるバトル。だが無謀なのは、前半に限っての話だった。そしてこのバトルは衝撃の結末を迎える……更にその後、誰も予想していなかった展開に、エンペラーは巻き込まれる……今週末の秋名は、とある一人の青年により、更に大荒れになることになる……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.50 泥沼の秋名山ドッグファイト

秋名山のハチロクとランエボのバトル、遂にランエボⅣを駆る清次がハチロクの前に出た。しかしこれが仇となり、まさかエンペラーの悪夢の始まりとなるとは、誰も予想だにしていなかった。たった一人の青年を除いては……!!


 

 

 

 

 

 

清次「へっ……これでハチロクなんざ、はるか彼方だぜ……」

 

 

 

バックミラーを見る清次。だが……!?

 

 

 

清次「……!!お前……何故そこにいる……!?離れるどころか張り付いてやがる……!!」

 

 

 

予想外のハチロクの戦力に、半ばパニックになる清次。

 

 

 

そして終盤。

 

 

 

清次「クッ……タイヤが言うことを聞かねェ……」

 

フロントヘビーなエボⅣのタイヤは、ダウンヒルで酷使されたが故に、タレてまともにグリップしなくなっていた。

 

 

 

 

そして、レッドサンズの二人が待つ終盤のコーナー……!!

 

 

 

 

賢太「ハチロクが後ろだ!!」

 

啓介「フッ……」

 

 

 

 

拓海「よしっ!!ここだっ!!」

 

\ギュイッ/

 

 

 

拓海は、秋名独特のテクニック「溝落とし」を、高難度版の立ち上がり重視で行った。レールに乗ったハチロクは、そのコーナリングを維持したままアクセル全開で立ち上がる。

 

 

 

 

清次「フッ……ここまで来たらもうハチロクに勝ち目はねェ……」

 

 

バックミラーを見る清次。ところが……!?

 

 

清次「あァ!?ハチロクが消えたァ!?」

 

 

ハチロクは、エボⅣの横に並んでいた。バックミラーから見えるわけがないのだ。

 

 

 

啓介「終わりだ……」

 

賢太「啓介さん……このバトル、どうなるんっすか!?」

 

啓介「どうもこうもねぇ……もうあのランエボに抜き返すチャンスはねぇ……」

 

 

 

 

そしてハチロクはエボⅣを抜き去り、そのままゴールした。

 

 

 

 

樹「拓海が……ハチロクが……ランエボに……勝ったァ〜〜!!!!」

 

 

 

ギャラリー全体が歓喜に湧く。秋名のハチロクが、群馬エリアを総ナメにしようとしていたランエボ軍団を、打ち破ったのだ。

 

 

 

しかし、一人だけは違った。急いで愛車に乗り、秋名を下っていく。

 

 

 

 

秋名山のふもと。

 

\ペシッ/

 

京一「俺が何に対して怒っているのか、わかるのか清次」

 

清次「わからねェ……なぜかハチロクが離れねェんだ……」

 

京一「当たり前だ!バックミラーを見るだけで、何が解るんだってんだ!!相手の後ろに付けば、もっと色んなことが解るんだ……」

 

清次「すまねぇ……京一……」

 

京一「いくら悔やんでも、この一敗が消えることはない……気を取り直して、次は赤城に乗り込むぞ……俺のターゲットは最初から高橋涼介だ……アイツさえ倒してしまえば、俺の気は済む……」

 

 

 

 

???「お前らの気が済んだら、それで終わりかよ……!?」

 

 

 

 

一人の青年が立ち上がった。

 

 

 

 

???「いい加減にしろよ……自分らが負けたら、それで終わりか!?そんな腑抜けた連中が、群馬エリアを総ナメなんて、まったく大きな口叩きやがる……群馬エリアも舐められたもんだぜ」

 

 

 

 

いつもなら清次が噛み付いているところだが、京一に叩かれてしみったれている所だ……そんな気力などない。

 

 

 

 

 

???「おい!撃墜マーク野郎!まさか下りで負けたから終わりじゃないだろうな……?お得意のヒルクライムはどうした!?ダウンヒルだけでお手上げか!?」

 

京一「………くっ………てめェ………!!」

 

「(ダメだ……ここでカッとなって下手な真似すりゃあ、墓穴を掘るだけだ……それに清次はこの有様だからな……)」

 

清次「……………」

 

まるで前までの威勢が嘘のような清次。

 

 

 

 

京一「S13の青年、お前の言い分はわかった。だが、生憎なことに清次はこの有様だ……馬鹿なことにタイヤも使い切って、人も車もバトルできそうにない……」

 

 

 

 

その青年の正体は……なんと池谷だった。

 

池谷のS13は、この瞬間のために戦闘力アップを行ったのだ。

 

 

 

 

京一「(清次がダメとなると……)おい、佐竹、お前走れるか!?」

 

佐竹「京一さん直々の指示とありゃア、思い切ってやってやりますよ!!」

 

 

 

 

佐竹は、前も述べた通り、後々碓氷峠へ進駐することになるドライバーだ。

 

 

 

 

京一「ダウンヒルのハチロクほどの戦闘力はないと見ているが……念のため、シミュレーション2で行け」

 

佐竹「わかりやしたァ!!」

 

 

 

 

池谷「シミュレーションだか何だかしらねぇが……さっさと来やがれ……!!もしヒルクライムで俺が負けるようなことがあれば……約束通りステッカーをくれてやる……それでいいな!?」

 

京一「あぁ……(こいつ……この前抜かれた時とは……少し違う……排気音……まさか……!!)」

 

 

 

京一は池谷のS13がパワーアップしていることに気付いた。

 

 

 

 

池谷「(秋名のハチロクを、そして後輩の樹を、散々コケにしやがったお返しだ……ボロボロになるまで叩きのめしてやる……)」

 

池谷はもはや狂気に満ちていた。

 

 

 

 

 

一方、頂上では……

 

ギャラリー1「おい、あのランエボ軍団、今度はヒルクライムでバトルするみてぇだぜ!?」

 

ギャラリー2「まさか……さっき降りてったS13……スピードスターズの池谷か……!?」

 

 

\ざわざわざわ/

 

 

ギャラリーの会話を聞いて、さっきとは一変して騒然とする周囲の人達。

 

 

 

 

池谷「いらねぇのか?お得意のハンディキャップ方式」

 

佐竹「舐めてんのかテメェ!?」

 

京一「挑発に乗るな、佐竹。冷静に行け。こいつに勝てば、少なくとも引き分けに持ち込める。ある意味チャンスなんだ。このS13、相当な腕だ。清次と偵察に行った時、ダウンヒルで一度抜かれてるんだ……気を抜くな」

 

佐竹「あの清次さんが……わかりやした!敵は必ず取ってやりますよ!」

 

 

 

京一「それじゃあカウントを取る……」

 

 

 

 

 




いよいよ、エンペラーへのやりすぎとも言える逆襲に踏み込んだ池谷。もしここまで大口をたたいて負けるようなことがあれば、悪評がたちまち広がってしまう。そんな状況に自ら身を置いた池谷。いよいよ秋名のヒルクライムバトルはスタートする。果たして池谷は、ヒルクライムでエンペラーの鼻をへし折ることができるのだろうか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.51 泥沼の秋名山ドッグファイト II

エボⅣを駆る清次は、なんと秋名のハチロクに敗北を喫した。それで撤収しようとした矢先、一人の青年が立ち上がる……池谷浩一郎……秋名スピードスターズのリーダーだ。先日あった一件を境に、人が変わったように攻撃的になっている。ダウンヒルはおろか、ヒルクライムでも決着を付けようとしている。果たしてそのバトルの行方は……!?


 

 

 

 

 

京一「スタート5秒前、4、3、2、1、GO!」

 

 

\キューキュキュキュキュ/

 

両者一斉にスタートした。無論、初期発進は4WDのエボⅣが断然有利だ。佐竹も、エボⅣに乗るドライバーだ。マシンの戦闘力は、清次と殆ど変わらない。

 

そして佐竹は、京一の指示通り、シミュレーション2、つまり最初後ろに付く作戦を取った。京一としては、おおむね妙義山での中里とのバトルと同じような結末になると踏んでいた。

 

後ろに付いて様子見、相手が遅ければ煽ってプレッシャーをかける作戦だ。プレッシャーをかければ相手は簡単にミスを冒し、軽々と前に出られるのだ。

 

 

 

 

池谷が先行でスタートしたバトル。序盤は急勾配の中低速ヘアピンが連続した後、一気に全開ストレートへ差し掛かり、フルブレーキングからの低速ヘアピンへと差し掛かる。

 

 

 

 

\シャアアアアアア/

 

佐竹「へっ、カニ走りのFRでヒルクライムなんて、舐めてかかってやがるぜ……煽りちらしてクラッシュさせてやる……そして清次さんの敵を取ってやるぜ!!」

 

ヒルクライムは、ダウンヒルと違ってタイヤやブレーキへの負荷は少ない。パワーのある車は、思いっきりブッ飛ばせる好条件のコンディションだ。

 

しかし……それは池谷も同じだった……!!

 

 

 

 

\シャアアアアアア/

 

池谷「へっ、大したことないぜ、このエボⅣ……所詮車に乗せられてるだけの連中だ」

 

 

 

 

日産のFR車全般に言えることだが、リアのサスペンション形式はマルチリンクだ。最高級と言われるダブルウィッシュボーンの、更に変異型である。ゆえに、FRながらもしっかりトラクションのかかる秀逸な特性を持っている。池谷が、S13のパワーアップ後ヒルクライムを初めて走って、しっくり来た感覚とは、これなのだ。ノーマルの、つまりメーカーのノウハウ、設計者の意図を外さない、そんな絶妙なセッティングが、政志の手によりなされていたのだ……!!

 

 

 

 

\フォン フォン フォアアアアアアアアア/

 

池谷「…………………」

 

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/\フォオオオオオオ/

 

佐竹「見てろよFR小僧め……4WDの真髄を見せてやる……!!」

 

 

 

 

中低速区間を抜け、全開ストレートに入るS13とランエボ。

 

ストレートスピードは拮抗している。駆け引きの一切ない膠着状態だ。

 

 

 

 

しかし、ここでS13がFRの真髄を見せる……!!

 

 

 

 

\フォンンンンンンン フォンンンンンン/

 

\ギャアアアアアア/

 

 

 

 

コーナーのかなり手前からスライド体制に入る。そして……!!

 

\ギャアアアアアアア/\フォアアアアアアア/

 

 

 

 

ランエボには到底不可能な突っ込みで、恐ろしい速さでコーナーに進入、そしてスピードを維持したまま、マルチリンクサス特有の安定感のあるトラクションで、立ち上がっていった。

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

\フォオオオオオオ/

 

佐竹のエボⅣの立ち上がり加速はかなりのものだった。

 

だがそれ以前に、進入スピードがS13の比にはならなかった。

 

 

 

 

ヘアピン区間が続くセクション。立ち上がり加速に勝るも、突っ込みのスピードでそれを凌駕される佐竹。シミュレーション2どころか、どんどん離されていく……

 

 

 

 

無線から、京一の元へ連絡が入る。それは、京一の予想を遥かに上回っていた。今頃、佐竹がS13を上りで煽っていると考えていたからだ。

 

佐竹「何なんだこりゃア!?上りの立ち上がりをもってしてもあのS13に追いつけないってのかァ!?このオレのエボⅣが!!」

 

 

 

池谷「…………………」

 

相変わらず淡々と攻め続ける池谷。澄ました顔をして、とんでもない走りをしていく。

 

 

 

ギャラリーA「うおおおおお!!池谷のS13が、あのランエボ軍団を突き放してるぜ!?」

 

ギャラリーB「秋名スピードスターズ、最近マジで本気だからなぁ……このまま上りでもあいつらを打ち負かしてやってくれよ!!」

 

 

 

 

 

そして5連ヘアピンを抜けた後、S13の姿は、佐竹のはるか彼方にまで遠のいていた……

 

佐竹「これじゃあシミュレーション2どころじゃねぇ……やばい……この後京一さんにどんな仕打ちをされるか……意地でも追いついてやる……!!」

 

 

 

 

 

しかし、戦況は一向に変わることはなかった。

 

スケートリンク前、2連ヘアピン、直角コーナー、ヘアピンからのS字、わずかな全開区間を超え、いよいよ最終ヘアピンまで来た。そして、ギャラリーの歓声は、最高潮に達した……!!

 

\ワァアアアアアアアア!!!!/

 

 

 

 

 

\フォン フォン フォアアアアアアアア/

 

 

 

そして高速セクションを抜け、最終コーナーを立ち上がる……!!

 

 

 

\フォアアアアアアア/\プシュー/\フォアアアアアアア/

 

最終ストレートへと姿を現した池谷のS13。

 

 

 

 

樹「池谷せんぱぁいっ!!!!やったぁ〜!!」

 

 

 

 

遅れて来る佐竹のエボⅣ。ブーイングの嵐。

 

ギャラリー1「とっとと消えやがれ!このクソランエボ軍団!!」

 

ギャラリー2「群馬エリアを散々舐めやがったお返しだぜ!!」

 

中には唾を吐く者までいた。

 

 

 

 

 

佐竹「くくっ……クソォ……」

 

 

 

 

マシンを降りる両者。

 

池谷「どうだ、気分は……スッキリしただろう」

 

佐竹「きっ……貴様……!!」

 

殴りかかろうとした佐竹。しかし……ギャラリーがそれを許さなかった……!!

 

A「ふざけんな!!さんざん群馬エリアをバカにしたくせに!!」

 

B「お前は実力で負けたんだ!ランエボなんてWRCマシンみたいなのに乗りながらな!!」

 

羽交い締めにされる佐竹。

 

 

 

 

 

佐竹「くっ……覚えとけよ……いつか必ずリベンジしてやるからな……!!」

 

\フォオオオオオオ/

 

 

 

 

そそくさと走り去っていった。

 

 

 

 

 

ふもとで待つ京一。結果は既に知っていた。

 

佐竹「京一さん……すみませんでした……」

 

京一「フッ……初めから期待なんかしていない……清次が負けた時点で、俺たちの敗北は確定だったんだ……かといって、ヒルクライムを挑まれて逃げたと言われるのもシャクだからな……それでお前を選んだまでの話だ。最初からヒルクライムで清次を走らせておけばよかった……これは俺のミスだ」

 

佐竹「くっ……」

 

清次「ううっ……」

 

 




群馬エリアを総ナメにすると宣言していたランエボ軍団、エンペラーは、この秋名の峠で、ダウンヒル・ヒルクライム共に総ナメにされるという皮肉な結果に終わった。もはやプライドはボロボロに引き裂かれた。群馬エリア総ナメ作戦は失敗に終わり、いよいよ京一は涼介とのリターンマッチのみに焦点を絞ることになった。だが、赤城レッドサンズは、地元ではバトルしない。一体、どこでバトルすることになるのだろうか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.52 群馬 vs 栃木 魂のバトル(序章)

群馬エリア総ナメを目論んでいた栃木の日光いろは坂のチーム・エンペラーは、秋名山でダウンヒル・ヒルクライム共に総ナメにされるという皮肉な結末を辿った。エンペラーのチームリーダー、須藤京一は、いよいよ高橋涼介撃墜に的を絞り、レッドサンズvsエンペラーの大将戦へと突入していく。しかし、赤城レッドサンズは、地元ではバトルしないと決めている。果たしてどうなるのか……!?


 

 

 

 

 

 

涼介「お断りだな」

 

京一「何故だ……!?俺じゃ相手にならないってのか……!?」

 

涼介「俺たち赤城レッドサンズは、地元ではやらないって言ってるのさ……」

 

京一「………」

 

涼介「地元という有利な材料を背負って勝ったとしても……それは本当に勝ったとは言えないからな……たとえお前が負けたとして、それを言い訳にされても困るからな……」

 

京一「くっ……」

 

涼介「俺とお前とのバトルは、実質、群馬 対 栃木のエリア決戦になる。とっておきのコースがある。あまりメジャーな場所ではないがな……」

 

京一「何……?どこだ、そのコースは」

 

涼介「そのコースはというと……」

 

京一「っ…………!!」

 

 

 

 

束の間の沈黙。そして、涼介から発せられたコースは……

 

 

 

 

 

涼介「梅田だ」

 

京一「梅田……!?」

 

涼介「お前たちにとっては、飛駒……と言った方がいいか?」

 

京一「っ!!」

 

 

 

 

 

梅田とは、県道66号・桐生田沼線、群馬県桐生市梅田町と、栃木県佐野市飛駒町を跨ぐ、非常にバラエティに富んだテクニカルコースだ。

 

 

 

前半は、しばらくダム湖周辺の勾配のない中高速セクションが続く。

 

その後、長いダウンヒルの直線の後、急に4つのヘアピンか現れる。そこを抜けると中盤だ。あまり整備されていない集落セクションで、センターラインはなくなり、外側の白線すら引かれていない。

 

 

 

 

そして、いきなり道幅が広くなると同時に左右のコーナーがうねうねと続くセクションがある。ここからややヒルクライムになる。ライン取りが物を言うセクションだ。近くに採石場があり、その付近の路面はダスティで滑りやすい。採石場を過ぎて少しすると、群馬県から栃木県へと突入する。

 

そしてセンターラインが現れ、少し整備された道になる……かと思いきや、直後いきなり道が一本になる。センターラインも描けないほど道幅の狭い、鬱蒼とした林道セクションへと突入する。

 

急なコーナーはなくスピードが乗るが、2台すれ違うのがギリギリの幅しかなく、ライン取りの融通も効かない。途中山頂で、ヒルクライムとダウンヒルが入れ替わり、ここを境に路面の質が変わる。

 

 

 

 

そして終盤セクション。林道は急なダウンヒルへと突入する。日当たりが悪く、バンピーな上に路面は常に湿っており、苔が生えている場所もある。スピンターンを要するレベルの2連タイトヘアピンが2箇所、つまり計4つある。道幅の狭さを考えれば、いろは坂よりキツいヘアピンだ。

 

最後のヘアピンを過ぎたら、狭い上に滑りやすい路面を全開で下る超高速林道となる。わずかにステア操作を誤ると、即、岩壁にクラッシュだ。そして林道は突如終わりを告げる。

 

 

 

 

ここからが最終セクションだ。視界は一気に開け、道幅も急に広くなりセンターラインも現れ、これまでになく綺麗に整備された道になる。2車線だが路肩部分が広く、それを含めると4車線程度にまで道幅が開け、最後の最後に超高速ダウンヒルセクションとなる。

 

マシンによっては僅か10秒そこそこで200km/h近くまで達するほどの急勾配だ。そんな中、たった一つ超高速コーナーがあり、広い道幅を目一杯使って全開で駆け抜ける。

 

 

 

 

林道とはうって変わった、全く質の異なる最終セクション。林道に慣らされた車幅感覚、スピード感覚から、林道を抜けた瞬間カタパルトのように広けたセクションに飛ばされ、その超高速コーナーを全開で駆け抜けるのは、心臓が飛び出るほど恐ろしい。

 

その後再び直線。そして、最後の最後にシケイン状の中速S字が待ち構え、直後、ゴールとなる。

 

 

 

 

 

通常では、ダム湖周辺のコースは大学生自動車部等のドリフト小僧達が、林道セクションはラリー屋の練習生が、それぞれ走っているのだが、今回は最初から最後まで全て含めたスペシャルフルコースだ。

 

よって、高速セクションや林道、整備された道や荒れた路面が入り乱れ、ヒルクライムとダウンヒル混合、更には群馬と栃木を跨ぐコース……二人の決戦には、最高の舞台となるのだ。

 

 

 

 

京一「いいだろう……イコールコンディションで勝ってこそ、やりがいがあるってもんだ……ましてやあの荒れたコースだ……4WDの真価が発揮されるだろう……貴様のFCのような、ラリーカーとは縁の遠いマシンが、あのテクニカルコースでどこまでやれるのか……お前も真価が問われるな……」

 

涼介「随分と余裕のある発言だな……その余裕が、実戦で命取りにならなければいいがな……俺はそんなことは承知で、このコースを選んだ……その意味が、お前にはわかるか……?」

 

京一「っ………」

 

 

 

一瞬固まる京一。だが、すぐ冷静さを取り戻す。

 

 

 

京一「(俺らしくもねぇ………)フッ、いくらお前がほざいたところで、この世の物理法則が変わるわけじゃねぇ……ラリーベースマシンの真価……嫌というほどお前に見せつけてやる……モータースポーツ仕込みのテクニックが、峠の幼稚なテクニックに劣るわけがないんだ……!!」

 

 

 

 

 




梅田は、涼介の赤城と、京一の日光いろは坂と、ちょうど中間地点ほどにある。コース習熟の労力をとってしても、全くのイコールコンディションだ。2つのチーム、二人のドライバーにとって、全くハンデのない本気の激突となる。これぞ、本物のバトルだ……!!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.53 京一の挑発

涼介から京一に告げられた、決戦のコース……それは、意外なものだった……だが、京一は、何をたくらんでか、意外な行動に走る。何か引っ掛かるものがあるのだろうか……?



 

 

 

 

 

池谷「いらっしゃいませー!(何……?黒のエボIII……!?)」

 

樹「うわぁ〜!!まさかあの時の……ランエボチーム……!?」

 

 

 

 

 

京一「この前のハチロクのドライバーに会いに来た」

 

池谷「……!!」

 

 

 

 

 

京一は池谷に要件を話す。

 

 

 

池谷「(一体拓海に何する気だ……)」

 

 

 

何やら京一は、拓海に何かを吹き込んでいる。

 

京一「俺の言っている意味が解れば、梅田に来い……言いたいことはそれだけだ」

 

拓海「………」

 

 

 

 

\フォン フォン フォオオオオオオ/

 

 

 

 

拓海に何かを伝えたあと、走り去っていった。

 

 

 

 

池谷「拓海、一体何だったんだ?」

 

拓海「何だかよくわかんないっすけど……『俺の言っている意味が解れば梅田に来い』って言われました……」

 

池谷「あの野郎……ネチネチネチネチと……拓海、気にすることないからな!あんな奴の言う事、従うことないぞ!」

 

拓海「わかってますよ……別に、行く気ないですし……」

 

 

 

 

〜一方、梅田にて〜

 

 

 

 

清次「来ると思うか……あのハチロク」

 

京一「どうだろうな……俺の目論見では、来る確率は、40%くらいだと踏んでいるがな」

 

 

 

京一もそこまで本気で挑発したかったわけではないようだ。来てくれればラッキー、程度に思っていた。しかし……

 

 

 

 

レッドサンズメンバー1「おい……今の、秋名のハチロクじゃないか……!?」

 

レッドサンズメンバー2「間違いない……『藤原とうふ店』って書いた、白と黒のパンダトレノだ……!!」

 

 

 

 

 

そして、その光景を見た者は、他にもいた……

 

 

 

 

賢太「なぜ……アイツが……梅田に……!?」

 

啓介「クソっ……!!エンペラーの奴ら……藤原に何か吹き込みやがったか……!?あいつらめ……」

 

 

 

 

 

そして、梅田のスタート地点であるダムの橋の上で、京一は待っていた……

 

京一「よく来てくれた……歓迎するぜ」

 

清次「!!(なんだアイツ……この前と、目付きがまるで別人のようだぜ……何があった……!!)」

 

 

 

 

そして……

 

京一「楽しく走るための車と、速く走るための車と、何が違うのか、お前に教えてやる……これは講習会(セミナー)だ!!」

 

 

 

 

拓海「…………………!!」

 

いつもにはない別人のような顔付きの拓海。しかし、エンペラーに対して向けられているようではなかった。何かあったのだろうか?

 

 

 

 

ダム湖の橋の上に車を並べる2台。

 

例のように、ハンディキャップ方式だ。

 

 

 

 

そしていよいよ、講習会(セミナー)は幕を開ける……!!

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュ/

 

\ファアアアアアアン ファアアアアアアアン/

 

 

 

 

ギャラリーA「ハチロクが飛び出した……!!」

 

ギャラリーB「一体何が始まるってんだ!?」

 

 

 

 

全開でスタートする拓海のハチロク。

 

橋の片端は歩道になっており、沢山のギャラリーやチームのメンバーがいる。

 

 

 

 

橋の直後の1コーナーは、中低速のヘアピン状のコーナーだ。

 

そこに待避所になっている場所があり、そこでも多くの人が見ていた。

 

 

 

 

 

ギャラリーI「やばい!!ハチロクが突っ込んでくるぞ!!オーバースピードだ!!」

 

ギャラリーII「うわぁああああああ!!」

 

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

しかし、とんでもないスピードで、アクセルワークとステアリング操作で、キレた走りで1コーナーをクリアしていった……!!

 

 

 

 

 

清次「アイツの走り……この前とは違う……何かつっかえたモンがあって、そのフラストレーションを吹っ切るかのように、走っていった……俺には、そういう風に見えた……」

 

 

 

 

 

そしてハチロクが1コーナーから消えた直後、京一のエボIIIが動き出す……!!

 

\キュキュキュキュ/

 

\フォオオオオオオ/\パン/\フォオオオオオオ/

 

 

 

 

 

京一も1コーナーへ突っ込んでいく……!!

 

\フォンンンンンン/\パパッ/\フォンンンンンン/

 

 

 

 

 

賢太「そういやあの須藤って奴のランエボ、パンパンとした音と共に変な炎がマフラーから出ますよね……一体何なんっすか……?」

 

啓介「まさか……ミスファイアリングシステム……!?」

 

涼介「いいところに目をつけやがったな……京一……」

 

 

 

 

涼介は続ける。

 

 

 

 

涼介「ミスファイアリングシステムは、ターボラグの大きいハイパワーターボマシンの欠点を帳消しにしてしまう、WRCでも使われているシステムだ……アクセルを抜いた状態でも、わざと燃料を噴射させ、アクセルを踏み込んだ瞬間でもターボが過給できるようにする、つまりターボラグを打ち消すためのシステムだ」

 

賢太「それはつまり……」

 

涼介「4WDのターボマシンは、立ち上がりがとてつもなく速い……そこにターボラグのないレスポンスの良いアクセル……突っ込んで良し、立ち上がって良しの、峠には反則ともいえる、スーパーウェポンになるというわけだ」

 

賢太「そんな……藤原は、そんな奴を相手に、ハチロクで……!?」

 

啓介「一体、あの須藤ってやつ、どういうタイプの走り屋なんだ……!?」

 

涼介「アイツは、極めて合理的な作戦を取ってくるドライバーだ……派手なアクションは好まず、相手の弱点を嫌というほど突いて来る……テクニックが互角な相手なら、相手より有利なマシンを持ち込み、相手の隙を見て、楽に抜き去っていく……今回のバトルもそうだ……ハチロクには不向きの、平坦かつヒルクライムも混合されたコースだ……そういうところに目をつけて挑発を仕掛けるあたりが……良くも悪くも、京一だ……」

 

啓介「アニキにしては、えらく辛辣だな……」

 

涼介「俺は……アイツが嫌いなんだ」

 




何があったのか、拓海は京一の挑発に乗ってしまった。そして、圧倒的に不利な条件を背負い、この梅田まで来てしまった。そして遂に始まってしまった講習会(セミナー)……誰もが絶望的な結末しか思い描くことができなかった……しかし、実は秋名のハチロクは、秘密裏に大化けする計画が進んでいたのだった……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.54 秋名のハチロク、魔改造計画

拓海は、京一の挑発に乗ってしまい、梅田に顔を出し、そして無謀とも言えるバトルが始まってしまった。誰もが最悪の結末を思い浮かべる……しかし、それがまさか偶然、とある人物のシナリオに沿ったものになっているとは、誰も想像していなかった……!!


 

 

 

 

〜数週間前〜

 

 

 

文太「よう、祐一」

 

祐一(店長)「なんだァ文太、こんな時間に」

(便宜上、今話のみ店長は『祐一』で統一)

 

 

 

 

閉店後のGSに顔を出した文太。

 

 

 

文太「ちょっとお前に見せたいもんがあってなぁ」

 

祐一「意味ありげだなァ文太」

 

 

 

 

文太のハチロクにつられて祐一が連れてこられた場所……それは……

 

 

 

 

政志「よーう文太、祐一も連れて来たなァ」

 

祐一「よう政志、一体何なんだァ?」

 

 

 

いきなり政志の工場に連れてこられて、戸惑う祐一。

 

 

 

政志「もう文太のハチロクのエンジン、だいぶ使い込んでるよなァ」

 

文太「あぁ……」

 

政志「そろそろ逝っちまうだろうな……このエンジン」

 

文太「そうだな……」

 

祐一「おい、まさか、それって……」

 

 

 

そして、祐一がそこで見せられたものは、驚愕のものだった……!!

 

 

 

 

政志「いいか?見とけよ……?」

 

\バサッ/

 

エンジンカバーをめくる政志。そこには、こんなところに存在していいはずのないものが、鎮座していた……!!

 

 

 

 

文太「どうだ……驚いただろ……」

 

祐一「驚いたなんてもんじゃない……ブッ飛んだよ……!!」

 

 

 

 

 

政志「コイツがハチロクの心臓にブチ込まれると考えたら、ゾクゾクしちまうよなァ」

 

文太「あぁ、ゾクゾクするねぇ」

 

祐一「じゃあ文太、近いうちにこのエンジンを……」

 

文太「いや、まだだねぇ……」

 

祐一「何でだよ!拓海くらいの腕があれば、こんなのすぐ乗りこなせるだろう!?」

 

文太「……………」

 

 

 

 

 

少しの沈黙の後、文太は続ける。

 

 

 

 

 

文太「あのヘタクソにはまだ早い……」

 

祐一「おいおいヘタクソって……お前には敵わないかもしれないが、ヘタクソってことは……」

 

文太「アイツには、今のハチロクでやり残したことが、まだ一つだけあるんだ……」

 

 

 

 

意味ありげに語る文太。

 

 

 

 

祐一「そのやり残したことってのは……?」

 

文太「………………負けることだ」

 

 

 

 

あまりの残酷な回答に驚く祐一。

 

祐一「おい!!それはあんまりじゃねえかァ!?拓海は今まで、どんな相手にも勝ち続けてきたんだぜ?」

 

 

 

 

 

それでも文太は続ける。

 

文太「そこが気に食わないんだよなぁ……負けることからしか得られないことがある……パワーの有難みだ……相手に戦闘力の劣るマシンで、腕だけで立ち向かう……その心意気はいいんだがな……車の持つポテンシャルを、最大限、最後の一滴まで絞り尽くして、それでも勝てない悔しさを、アイツはまだ知らない」

 

祐一「…………」

 

返す言葉がない祐一。

 

 

 

 

政志「いずれにせよ、このハチロクのエンジン、終わりが近いぜ?負けるのが先か、エンジンが先か」

 

文太「そうだなぁ……そろそろアイツにも、負けというものを味わわせてやりたいもんだがなぁ……」

 

祐一「そんな……」

 

政志「だが、その時がこの化け物エンジンが乗る時だぜ?」

 

祐一「まぁな……(拓海が負けるところは見たくない……だがこのエンジンが載ったハチロクも早く見てみたい……あぁ~俺はどうすりゃいいんだァ!?)」

 

 

 

 

2つの意志が交錯し、葛藤する祐一。




拓海が梅田に乗り込む前、実は秘密裏にこんなやりとりがあったのだ。負けるのが先が、エンジンが先が……それは梅田で、明らかになってしまうのであろうか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.55 京一の挑発 II さようならハチロク

とうとう始まってしまった、梅田での無謀なバトル。しかし拓海は、何があったのかいつもと様子が違う……そして、ダウンヒルでもないこのコースで、圧倒的なペースでスタートした京一のエボIII。この後ハチロクは、その様子のおかしい拓海に呼応するかのように、まさかの結末を迎えることになる……


 

 

池谷「樹!大変だ!拓海がランエボ野郎の挑発に乗って、桐生の梅田まで行ったって話だ!!」

 

樹「マジっすか!?拓海ィ……今度ばかりは……」

 

 

 

横で聞いていた店長。

 

店長(祐一)「(何……?拓海が梅田に……?嫌な予感するなァ……一応文太にも連絡つけておくか)」

 

 

 

 

その頃、梅田では……

 

 

 

 

\ファアアアアアアン ファアアアアアアン/

 

初めてのコースを、全開で走る拓海。

 

 

 

 

しかし、かなりの距離を開けてスタートしたエボIIIは、すぐにハチロクに追いついてしまう……

 

 

 

 

京一「ダウンヒルなら戦闘力のあったハチロクだが、平坦となると話は変わる……ハイパワーマシンへのタイヤやブレーキの負荷も少ない……」

 

 

あえて抜かしはせず、ハチロクを煽る京一。

 

 

 

拓海「……………」

 

キレた走りを続ける拓海。それはまるで、ある時の碓氷峠の池谷のようだった。だがそんなハチロクも、エボIIIを前に無力に等しかった。それでも京一は、わざと後ろに付き拓海の走りをじっくりと観察する。

 

 

 

 

京一「奴はここを初めて走る……それにこのマシンでこのペース……パワーが発揮できるからいいものの、コーナリングはまるで曲芸だ……神業のような峠センスだ」

 

 

 

 

京一はわかっていた。マシンで勝っているからハチロクに追いつけること……だが、勝ちは勝ち、負けは負け。それが京一の信念だ。

 

 

 

 

 

 

〜その頃、渋川市〜

 

文太「(ほう……拓海が梅田にねぇ……しっかし何だ……妙な胸騒ぎがするな……)」

 

 

 

 

 

 

そして両者、前半区間で唯一のダウンヒル、ヘアピン前のストレートに入る。

 

京一「さて……ここで奴が得意のダウンヒルセクション……下りながら一気にブレーキングしてヘアピンだ……」

 

 

 

 

 

しかし……!!

 

 

 

 

 

京一「アイツ!!ヤバい!!次はヘアピンだぞ!?流石に判らなかったか!?」

 

 

 

だが……!!

 

 

 

 

\ギャアアアアアアアア/

 

\ファン ファン/

 

 

 

 

ストレート後のヘアピンは、複合コーナーになっている。

 

入り口は緩く、中速コーナーに見えるのだが……突如としてインに切れ込み、ヘアピンであることをようやく気付かせる。

 

 

 

 

しかし拓海は、マシンをスライドさせながら、中速コーナーにみせかけた箇所で見事にヘアピンに対応できるスピードまでコントロールしてみせたのだ。さすがの京一とエボIIIでも、この走りには到底付いて行けなかった。

 

京一「アイツ……あの突っ込みでここをクリアしやがった……普通ならハイスピードアンダーでクラッシュだ……信じられないようだが……神業のようなマシンコントロールだ」

 

 

 

 

その後、連続ヘアピンの後、集落セクションへと差し掛かる。

 

京一「見ていて惚れ惚れする……こんな走りをする奴に、今まで会ったことがない……!!」

 

 

 

 

 

集落セクションは、道路の両端に白線が引かれていない。夜間の道路は、外側の白線がないと、一気に車幅感覚が解らなくなる。しかし拓海は、それをモノともせずとてつもないペースで駆け抜ける。さすがに京一も焦りだす……かに見えた。

 

 

京一「アイツ……とてつもない……!!清次が負けるのもわかる……どうする……!?このまま先行で行かせて最後のストレートでチギるか、それとも……」

 

 

だが、すぐに我に返る京一。

 

 

「……フッ、俺らしくもねぇ……答えは一つだ……ここでカッとなってチャージするのは、愚の骨頂だ……」

 

 

そして……!!

 

\フォオオオオオオ/\パン/\フォオオオオオオ/

 

 

 

拓海「……………!!」

 

 

林道手前の、一時的に幅が広くなる、上り始めの連続S字セクションで、エボIIIは一気にアクセル全開、京一はハチロクを苦もなく抜き去った。

 

このセクション、コーナー自体はうねうねしているが、直線的なラインを描けば結構なスピードが乗る。もっとも、そのパワーがあればの話だが……

 

 

 

拓海「くっ………!!」

 

 

 

連続S字セクションを、全開で駆け抜ける拓海。しかし、エボIIIの圧倒的なパワーを前に、手も足も出ない。ずっと全開で行けるのも、ハチロク程度のエンジンパワーだからだ。

 

 

 

そして両者、林道セクションへ突入する。しばらく緩やかななヒルクライムが続く。

 

 

京一「アイツ……!!バックミラーからでもわかる……こんな狭いセクション……ハチロクとはいえ、普通は初めてでこんなペースでは走れない……!!」

 

 

 

 

しかし、京一は残酷な現実を拓海に見せつける。

 

 

 

 

\フォオオオオオオ/\パン/\フォオオオオオオ/

 

僅かだがヒルクライムのこの区間。2台がギリギリ並べるスペースしかないこのセクションで、京一は驚異的なスピードで、WRCさながらの走りを見せつける。

 

いくら拓海とて、付いて行けない……

 

 

 

 

同じく驚異的な走りを見せる拓海。この林道をアクセル全開で駆け抜けていく。

 

そして、この講習会(セミナー)の終わりは、意外な形で、だがとある者にとっては予想通りの形で、幕を閉じた。一基のエンジンとともに……

 

 

 

 

 

\バァン!!!!/

 

 

 

 

 

拓海「はっ………………」

 

さっきまでキレていたのが嘘のように、頭が真っ白になる拓海。

 

 

 

 

\ギャアアアアアアアアア/

 

エンジンが壊れてロックし、クラッチを切らないとそれに伴い駆動系もロックする。

 

だがクラッチを切るどころか、微動だにしない、できない拓海。自分の身に降り掛かった現実に、完全に固まってしまっていた。

 

リアタイヤがロックしたハチロクはコントロールを失う。

 

 

 

 

 

\ギャアアアアアアア/\キュキュ/

 

 

何とかどこにもクラッシュせず、道路脇の川にも落ちず、停止したハチロク。

 

 

 

 

 

\シューーーーーーーーーー/

 

\ポトンポトン/

 

 

 

 

ボンネットからは煙が立ち込め、エンジン下からはオイルが滴る。

 

ハチロクのエンジンは、終わった。

 

180000kmオーバーの、大往生だった。

 

 

 

 

拓海「はっ………はぁぁぁぁぁぁ………」

 

何が起きたのか、全く状況が分からない拓海。

 

 

 

 

そして、何かを察知したのか、京一が引き返してハチロクの元までやってきた。そして拓海に話しかける。

 

 

 

京一「レースの世界では、エンジンブローは負けなんだがな……俺は初めに言った通り、お前とバトルしたつもりはない」

 

 

 

諭すように続ける。

 

 

 

京一「完全に、エンジン終わってるだろう……いい機会だから、ハチロクはもうツブしたらどうだ」

 

 

 

拓海「……………!?」

 

信じられないような顔をする拓海。ハチロクとお別れになるんじゃないか……しかもそれが自分のせいだなんて……そんな思いが頭をよぎっていた。

 

 

 

 

京一「お前が新しい車に乗り換えるまで、勝負は預けとくぜ」

 

\フォオオオオオオ/

 

京一は走り去っていった。

 

 

 

 

拓海「大好きな……大好きな……俺の……ハチロク……」

 

 




京一を惚れ惚れとさせるほどの走りを見せたが、ハチロクのパワーではそれもつかの間、京一のエボIIIにあっさりとチギられてしまった。そして、林道のヒルクライム区間で、とうとうハチロクのエンジンはブローしてしまった。頭が真っ白になった後、悲しみに暮れる拓海。しかしこの後、意外な人物が拓海の前に現れるのだった……!!

(一旦連載途切れます 筆者より)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.56 文太の勘

京一の挑発を受け始まった、桐生の梅田での講習会(セミナー)が、思わぬ形で終焉を迎えた。しかしその頃に、妙な胸騒ぎがし、動き始めていた人物。拓海は壊れたハチロクを前に絶望していた。そしてその前に現れた人物とは……?


 

 

 

 

拓海「………………」

 

 

 

エンジンブローで動けなくなった拓海は、どうすればいいかわからず、ただただ運転席に座り続けていた。突然の出来事が、あまりにもショックで、あの瞬間が脳裏に映し出されては、それが何度も繰り返されていた。ところが……?

 

 

 

 

 

\ボォォォォォォォォ/

 

 

 

 

突然ハチロクの前に、一台のトラックが現れた。そして……

 

 

 

 

???「よォ」

 

拓海「!?……おっ、親父……!?」

 

文太「やっぱ俺の勘は正しかったなぁ……」

 

拓海「なんだよ、それ?」

 

文太「まぁいい、ちょっと見せてみろ」

 

 

 

 

ブローして油まみれのハチロクを、澄ました顔でじっくり見る。全てを解っているような顔で、全く動揺もせず状態をチェックした。

 

 

 

 

拓海「親父、お、俺……」

 

文太「話は後だ……さっさとやることやっちまうぞ」

 

拓海「おっ、おう……」

 

 

 

 

作業が終わったら何を言われるのか、不安で仕方がない拓海。そんな中、文太と共同で壊れたハチロクを積載車に載せる作業を手伝う。

 

 

 

牽引フックにワイヤーを引っ掛ける拓海。

 

そして文太はワイヤーの巻き取りボタンを押す。

 

ゆっくりと積載車に引き上げられていくハチロク。

 

積載車の荷台をリフトアップし、ハチロクに輪止めを掛ける。

 

作業は終了し、ハチロクは完全に積載車に搭載された。

 

トラックの高い位置に置かれた、最後まで戦いきったハチロクの雄姿。

 

 

 

 

拓海「なぁ親父、俺」

 

文太「ほら、行くぞ、さっさと乗れ」

 

拓海「あっ、あぁ……」

 

 

 

 

\ブォオオオオオオ/

 

一息つく暇もなく、ハチロクを載せた積載車は梅田を後にする。

 

 

 

 

ギャラリー1「おい!あれ、さっきのハチロクじゃねえか!?」

 

ギャラリー2「どうしたんだ!?油まみれだぜ?エンジン逝っちまったのかぁ!?」

 

 

 

 

その噂が流れていたのは、ここだけではなかった。

 

 

 

 

涼介「一体どういうことなんだ、京一」

 

京一「ふっ……折角ヤツに本気の走りとは何かを見せてやろうと思ったんだがな……」

 

涼介「はっきり説明しろ!」

 

京一「説明するまでもねぇ……これからって時に、エンジンブローでハチロクはオシャカだ」

 

啓介「何!?エンジンブローだと!?」

 

京一「これであのハチロクはもう終わりだ……再び走ることはない……」

 

レッドサンズ一同「……………」

 

 

 

 

 

一方、ハチロクを載せた積載車の中。

 

拓海「なぁ、親父」

 

文太「ん?」

 

拓海「俺、スタンドでバイトして貯めた金、全部出すから、エンジン直すのに、使ってくれ」

 

文太「だめだねぇ……」

 

拓海「えっ……」

 

文太「直すのは無理だと言ってるんだ……」

 

 

 

 

予想外の返事に、戸惑う拓海。文太の返事には2つの思惑があった。文太は続ける。

 

 

 

 

文太「コンロッドとクランクシャフトを繋ぐピンが折れた……暴れたコンロッドが、内側からブロックを突き破って、ボックリ大穴が開いちまってる……このエンジンはもう使えねぇ……」

 

拓海「そんな!折角親父が手ぇ込んで仕上げたエンジンなんだろ?それなら、何としても、直そうよ!足りないなら、借金してでも……」

 

文太「出来るもんならそうしてやってもいい……だが、ダメなものはダメだ……」

 

 

 

 

コンロッドとは自転車で言う人間の脚、クランクシャフトはペダルを繋ぐ棒の部分(クランク)だ。

 

つまり、文太の説明を自転車で例えると、自転車を全速力で漕いでいたら、突然ペダルが折れて、力を掛けていた脚が勢いで他の部分を蹴ってしまう、そんなイメージだ。今回は、その脚であるコンロッドが、ブロックを内側から蹴って穴を開けたということだ。

 

文太の言う「ブロック」、つまりエンジンブロックは、エンジンの外骨格のことだ。アルミ製のものもあるが、ハチロクの4A-GEエンジンは、鋳鉄(ちゅうてつ)というタイプの鉄系素材で作られており、硬いが脆いという性質を持つ。つまり、変形はしないが割れるタイプの素材だ。エンジンパーツの損傷でも、シリンダーブロックだけは修復が効かない。破壊された鋳鉄は、修復が不可能なのだ。

 

ましてやミクロン単位の精度を要する上、高強度に高熱に、大変な環境下で仕事をしているエンジンの部品の一つだ。

 

エンジンブロックは、鋳造(ちゅうぞう)という、型に溶けた金属を流し込んで作る一体成型部品で、修理が効かない。穴が開くなどもってのほかだ。どう頑張っても、修復することは不可能なのだ。

 

 

 

 

拓海「…………………」

 

拓海は後悔と不安で押し潰されそうだった。京一の言う通り、ハチロクとお別れするしかないんじゃないかと……ずっとずっと一緒に、家族のように暮らしてきたハチロク。それが、自分のせいで廃車しなくてはならないかもしれないのだ。ところが……!?

 

 

 

 

 

文太「…………………」

 

黙って拓海の頭に手を添える文太。

 

 

 

文太「拓海、お前、ハチロクが壊れたの、自分のせいだと思ってるだろ……」

 

拓海「…………ヒッ……ヒッ……」

 

珍しく親の前で涙してしまう拓海。だが文太から発せられた言葉は、意外なものだった。

 

文太「たまたまお前が運転していただけだ……お前のせいじゃねぇよ………」

 

 

 

文太も珍しく、拓海の前で父親の顔を見せた。

 

 

 

 

ハチロクを載せた積載車は、静かに国道を進み、渋川方面へと帰っていく………

 

 

 




ブローしたハチロクは、文太の勘により登場した積載車に載せられ、一旦は救われた。だが、今後どうなるか拓海は不安と自責の念で感情がグチャグチャになっている。しかしこれは、文太にとっては全くの予想通り、計画通りなのだった。一方近づく涼介対京一の魂のバトル。果たしてその運命やいかに……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.57 政志の思惑

(更新、長らくお待たせして申し訳ありません。筆者より)



桐生・梅田でブローしてしまったハチロクを載せた積載車は、拓海たちの地元・渋川方面へと向かった。国道を進み、遂に積載車とハチロクは家まで帰ってきた。


 

 

 

 

 

文太「よし、お前はここで降りろ……今日ぐらいはゆっくり寝て休んどけ」

 

拓海「お、おい……ハチロクは降ろさないのかよ……?」

 

文太「あのなぁ……エンジンぶっ壊れた車、こんなとこに置いててもしょうがないだろう……」

 

拓海「………」

 

 

 

 

 

拓海は、ここでハチロクと最後のお別れになる……そう思って、積載車から降りて立ち尽くす。

 

文太「じゃあな……」

 

拓海「………」

 

 

積載車の、ハチロクの姿を、最後の最後まで見届ける拓海だった。

 

 

 

 

家の鍵を開け、自分の部屋のベッドに横たわる。

 

 

 

 

(\ファアアアアアアアアア/\バァン!!/)

 

拓海「はっ!!」

 

 

 

 

さっき起きた嘘みたいな出来事が、何度も脳内で再生される。

 

拓海「親父……あんなこと言ってたけど……内心怒ってるんだろうなぁ……俺があんな無茶なバトルになんか乗ったせいで……」

 

 

 

 

拓海は、今日あった一連の出来事、梅田に繰り出すきっかけになった出来事まで、全てを悔いた。

 

 

 

 

一方……

 

政志「おうおう、見事にやっちまったなァ」

 

文太「あぁ……良くやった方だ……仕方ねぇよ……」

 

政志「どうやら、エンジンが先だったな……」

 

文太「そうだな……」

 

政志「どれどれ、いっちょ見てみるか」

 

 

 

文太は政志の工場に赴き、ハチロクを降ろしていた。

 

政志はハチロクのエンジンをチェックする。

 

 

 

 

政志「なるほどねぇ……こりゃ大惨事だったな……ブロックが逝ってるぜ」

 

文太「どうしようもねぇよ……」

 

政志「ふふっ、そりゃ残酷すぎる言葉だぜ文太」

 

文太「なんだ?意味ありげに」

 

政志「まっ、文太には関係ないことだがな!(笑)」

 

文太「ほぉ……まぁ、いっか」

 

 

 

 

政志には、秘策があった。

 

このエンジンを活かす方法……

 

だが、それはこのハチロクではない。

 

池谷から聞いていた、一つの話があったのだ。

 

 

 

 

政志「軽トラ一台あるから、代車代わりに乗ってけよ」

 

文太「助かるぜ……」

 

 

 

 

文太は軽トラに乗って、自宅へと帰った。

 

そして、いつも通りに晩酌する。

 

幾多の経験を積んできた文太にとって、これぐらいの事どうってことなかったのだ。しかし、拓海にとっては……

 

 

 

 

 

拓海「くそっ!全然寝れねぇ!!しっかし、親父帰ってきたのか……?いつも通りに晩酌なんかしやがって……思い入れってもんがないのか、あのクソ親父!」

 

 

文太には、全てわかっていた。

 

ハチロクに起こった出来事が拓海に及ぼす影響まで……

 

だから、壊れるか負けるかするまで、エンジンは積み替えないと言ったのだ。文太的には、エンジンが壊れるほうが経験になると踏んでいた。まさに文太の思惑通りに、事は進んでいたのだった。

 

 

 

政志「さぁて、明日にでもエンジン降ろすか……使えっかなぁ?シリンダーヘッド」

 




ハチロクは、政志の工場に降ろされ、秘密裏の計画が遂行されようとしている。そして、起こった出来事が衝撃すぎて眠れない拓海。全てを解っている文太。そして、政志の意味ありげな言葉。果たして、どのように事は進んでいこうとしているのか……!?




(今後は、3日に1話程度の更新になると思います。筆者より)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.58 群馬 vs 栃木 魂のバトル!(当日)

衝撃のハチロクのエンジンブローの翌日。いよいよ週末を迎えた桐生・梅田。拓海にとってはあまりに衝撃的な出来事だったが、それは文太の筋書き通りだった。そんな中、いよいよエンペラー群馬遠征の最終目標にして京一の目的、高橋涼介とのバトル当日を迎えたのだった……!!


 

 

〜週末〜

 

 

 

今、自動車工場の期間工として働いている健二だったが、なんとか時間が取れ、池谷と樹を乗せて桐生方面に向かっていた。

 

 

 

健二「なぁ池谷、どっちが勝つと思う……?」

 

池谷「そりゃあ、高橋涼介に決まってる……そうなってもらわないと困るぜ……!!」

 

樹「そうっすよ健二先輩!!あの高橋涼介なら、必ずやってくれますよォ!!」

 

 

 

そんなことを話しながら、いよいよ梅田のふもとの峠道に入る。

 

しかし、そこに突然後ろから現れた、一台の車……

 

 

 

健二「なんだァ……?後ろからスゲェはええ奴が来てる……」

 

池谷「地元の奴かもしれない。ここは無理するな、行かせろ」

 

健二「あっ、あぁ……」

 

 

 

\キィイイイイイイイン/\バシュ/

 

 

 

一同「何ィ!?ハチロク!?」

 

健二「俺のSR20をモノとせず、かっ飛んでいきやがった……行くぞ……お前ら、掴まっとけ……!!」

 

 

 

 

健二も、勤務先の近くにある峠、金山で、日々腕を磨いている。チューニングもかなり進んでいる。恐らく280馬力は出ているだろう。

 

健二「ダメだ……知らないコースだと、攻めきれねぇ!!」

 

 

 

 

ハチロクターボは、徐々に健二たちを引き離していく。

 

そして、立ち上がりの挙動を見て気付く池谷。

 

 

 

池谷「あのハチロク……時代遅れのドッカンターボか……あんな危険なマシンを乗りこなすなんて、相当な腕だぞ……」

 

健二「そうだな……こっちは3人も乗ってるしな……それに、もう目的地も近い……くっ……ここまでかァ……」

 

 

 

 

梅田は、ふもとの峠からスタート地点のダムの橋まで、そんなに距離はない。

 

健二たちは、追いかけるのを潔く諦めた……

 

 

 

健二「俺にはまだ、課題があるってことだなァ……」

 

健二は、ビジターでの走りの経験があまりない。ましてやバトルなどしたことない。金山では相当なレベルに達してきてはいるものの、知らない場所となればまだその真価は発揮できない。

 

 

 

 

一方、スタート地点周辺。

 

ギャラリーのマシンが沢山停まっている。

 

 

 

 

 

???「和美、見るならここがいいな」

 

???「そうね」

 

 

 

\バッ/

 

 

ハチロクから降りてくる男女二人組。

 

健二たちも偶然、そのハチロクの付近に停めることになった。

 

 

 

樹「うわぁあああ!!さっきの、ハチロク!!」

 

健二「しかも、女連れてやがるぜ……」

 

池谷「……………」

 

 

 

だが、何やらその場にいた高橋啓介と口論になっている。

 

???「何故だ?俺がハチロクだからか!?」

 

啓介「違う……今日はアニキのバトルの日だからな……水を差すわけにはいかないんだ」

 

???「くっ……」

 

啓介「誤解のないように行っておくが、俺達はハチロク乗りを甘く見ちゃいない……群馬エリアには、下り専門の凄いハチロクがいるんだ……そいつはバトルで負けたことがない……どんなクルマにもだ」

 

???「どんなクルマにも……だと……!?」

 

啓介「そうだ……俺だって、アニキさえもやられている……」

 

???「フッ……いい情報を聞かせてもらったぜ……」

 

啓介「そういうわけだから、俺は今日お前とはバトルできない……すまないな」

 

???「くっ……」

 

啓介「じゃあ俺は、コースの状況確認をしなくちゃなんねぇから、行くぜ……バトルはまた今度だ」

 

\バンッ/\プォオオオオオオ/

 

 

 

???「……………」

 

和美「ちょっ、兄貴、何考えてるの!?」

 

???\バン/\フォオオオオオオ/

 

和美「あ〜あ……また始まっちゃった……」

 

 

 

 

???「(強引なやり方になっちまったが、悪く思うなよ……!!)」

 

 

 

 

バックミラーを見る啓介。

 

啓介「フッ……来やがったな……どうしようもねぇ奴だぜ……そこまでやるならこっちもやらせてもらうっ!!」

 

 

 

ギャラリー1「おいおい何だぁ!?前哨戦か!?」

 

ギャラリー2「なんだあのハチロク!高橋啓介にピッタリ食いついてってるぞ!?秋名のハチロクかァ!?」

 

ギャラリー1「バカ、秋名のハチロクはトレノだろ!それに、熊谷ナンバーだったぜ!?」

 

 

 

 

\パァアアアアアアア/

 

\フォオオオオオオオ/\パシュ/

 

 

 

 

啓介「この音……あのハチロク、ターボチューンか……!?」

 

???「オラオラ!手ェ抜いてっとブチ抜くぜ!!」

 

 

 

 

\キィイイイイイキュキュキュキュキュキュ/

 

\パァァンンン/

 

\フォンンンン/

 

 

 

 

ギャラリー\ザワザワザワ/

 

 

突然の出来事に、ギャラリー達もざわつく。今回のバトルに、啓介とハチロクレビンとのバトルなど、組み込まれていないからだ。

 

 

 

 

2台はダム湖周辺のセクションを抜け、集落セクション、そして幅の狭い林道セクションへ突入した。ところが……!?

 

 

 

 

啓介「ヤバいっ!!オイルだ!!」

 

\キューキュキュキュキュ/

 

\ギャアアアアア/

 

 

 

路面が虹色に光っているところがあり、さらに昼間に他の車が通ったことにより、引き伸ばされている。拓海のハチロクがエンジンブローによりオイルをダダ漏れにさせてしまった場所だ。

 

 

 

???「!!」

 

\ギャアアアアアアア/

 

レビンターボのドライバーもそれを察知し、即座にスピンモードから停止を試みる。

 

 

 

 

\キュキュ/

 

間一髪のところで、オイルへの乗り上げと接触は免れた。

 

 

 

 

啓介「(全く……下見だってのに、ムチャさせやがるぜ……)」

 

???「(今日はここまでだ……勝負は預けとくぜ……)」

 

啓介にハンドサインを送るレビンの男。

 

 

 

 

 

\フォオオオオオ/

 

レビンターボは道を引き戻し帰っていった。

 

しかし、啓介の任務はバトルコースの状況確認。少し広い所で再びUターンして順路に戻り、ゴール地点まで様子を見て回った。そして、スタート地点に戻り、状況を涼介に伝える。

 

 

 

 

啓介「アニキ、大方は問題ない。だが、一箇所オイルが散らばっている場所がある」

 

涼介「藤原のトレノか……」

 

察しのいい涼介。おおかたオイルの散らばっている場所まで把握した。

 

 

 




コースの状況確認も終わり、いよいよ涼介vs京一のバトルが始まろうとしている。バラエティに富んだコースレイアウト、路面状況、道幅……魂のバトルが、いよいよ幕を開ける……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.59 群馬 vs 栃木 魂のバトル!(前編)

コースチェックに出た啓介のFDに、突如現れたハチロクターボが襲いかかり、前哨戦のような形になったが、先日ブローした秋名のハチロクのエンジンオイルが散らばっており、そこで終了となった。啓介によるコースチェックが済み、いよいよ涼介vs京一の、群馬と栃木を股にかけた、魂のバトルが幕を開ける!!


 

 

 

 

 

啓介「ほら!どいたどいた!スタート位置に付くぜ!!」

 

涼介の追っかけ「キャーーーー!!涼介さーーーん!!負けないでーーーー!!」

 

京一「くっ……こざかしい……」

 

 

 

 

 

啓介によりFCとエボⅢの2台は誘導され、ダム湖の橋の上にあるスタート地点につく。

 

啓介「アニキ……今日はどんな作戦で行くんだ……?」

 

涼介「今日の相手……京一は、去年より格段に進歩している……生半可な仕掛けは通用しない……だが、奴はモータースポーツ仕込みのテクニックを信用しすぎている……そこが勝負の分かれ目になる……!!」

 

啓介「そうか……あんなランエボ野郎なんかに、絶対負けんじゃねぇぜ!!」

 

涼介「勿論だ……負けるつもりはない……!!」

 

 

 

 

一方……

 

清次「京一……今日の作戦はどれで行くんだァ……?」

 

京一「シミュレーション……Xだ」

 

清次「何だァそりゃ!?シミュレーションXだと!?聞いたことねぇぜ、そんな作戦」

 

京一「対高橋涼介のために、今日まで練り上げてきた、涼介スペシャルの作戦だ……今日のバトルは……俺が勝つ」

 

清次「あんなコジャレた野郎に、今の京一とエボⅢが、負けるわけがねぇ!!」

 

 

 

 

 

それぞれ、わかる人間にしかわからないような表現で、作戦を説明した。

 

そして、いよいよ火蓋は切って落とされる……!!

 

 

 

 

 

啓介「勝負は一本!!カウント行くぞ!!」

 

 

ギャラリー達「ワァァァァァァァ」

 

ギャラリー達の歓声は最高峰に達する……!!

 

 

 

 

 

啓介「スタート10秒前!9!8!7!6!5!4!3!2!1!」

 

そして……

 

啓介「GO!!」

 

 

 

 

\キューキュキュキュキュ/\プァアアアアアアン/

 

\キュルキュルッ/\フォオオオオオオ/\パン/

 

 

 

 

スタートは、4WDであるエボⅢが圧倒的に有利だ。そのまま4輪のトラクションを活かし、FCの前に出た……と思われたが……!?

 

 

 

\フォンンンンンン/\パパッ/\フォオオオオオオオ/

 

エボⅢ、京一は一瞬アクセルを緩めた。

 

 

 

 

涼介「フッ……京一のやつ……わざとアクセルを緩めやがったか……だが関係ない……勝つのは俺だ……!!」

 

\パァアアアアアアア/\プシュー/\パァアアアアアア/

 

 

 

 

 

涼介が前に出た!!

 

 

 

ギャラリー1「よっしゃあ!!高橋涼介が前だ!!いっけぇ!!」

 

ギャラリー2「あんなランエボ野郎、高橋涼介なら目じゃねえぜ!!」

 

 

 

一方……

 

清次「コイツら……まるで解ってねェ……京一の本当の恐ろしさを……」

 

秋名のハチロクに負けてから、冷静に物を考えるようになった清次。

 

そして……

 

 

 

ハチロクターボの男「スタートではランエボのドライバーが圧倒的に有利だったはずだ……それなのに奴は道を譲った……この微妙な駆け引きが、わかるか和美?」

 

和美「へぇ〜、そうなんだ……私には、どっちも全開にしか見えなかったなぁ」

 

ハチロクターボの男「勝つためには、ただ前に出るだけじゃダメなんだ……時には後ろにつくことも重要なんだ……人生でも、人間関係に於いても、ただただ前を突っ走るだけじゃダメなんだ……時には一歩引くことも大事なんだ……」

 

和美「そっかぁ……」

 

 

 

 

どうやらこのハチロクターボの男、非常に人間くさい性格をしているようだ。

 

 

 

 

そして、いよいよ大勢のギャラリーが待つ第一コーナー、中低速ヘアピンへと、2台は差し掛かる!!

 

 

 

 

\キィーーーー/\パァンンンンンン/\パァンンンンンン/

 

\キィーーーー/\フォンンンン/\パパッ/\フォンンンン/

 

 

 

 

2台連なって、一気にブレーキング!!

 

そして!!

 

 

 

 

ギャラリー「ヤバい!!突っ込んでくるぞォ!!」

 

 

 

\ギャアアアアアアア/

 

 

 

\プァン プァン/

 

\フォン フォン/\パン パパン/

 

 

 

 

ダム湖の橋の全開ストレートから、一気にブレーキング、そしてとてつもないスピードレンジで、コーナーに突入していった!!

 

 

 

 

ギャラリー達「ワァァァァァァァァ!!」

 

ギャラリーA「これが群馬と栃木との最強ドライバー同士の走りかよォ!!」

 

ギャラリーB「てっきりこのまま路肩まで突っ込んでくるかと思ったぜ……あんなマシンコントロール……見たことねぇ!!」

 

 

 

 

 

そして、ダム湖周辺の平坦な中高速セクションに入る。どちらかというとFCが得意とするようなセクションだ。

 

 

涼介「お前が何をたくらんでいるのかは知らない……だが、ここで引き下がるわけにはいかない……!!」

 

京一「俺がなぜ後ろについたのか、お前にはわかるか、涼介……しばらくは、じっくりとその自慢のFCケツを拝ませてもらおう……」

 

 

 

 

この区間は、全開のコーナーと短いブレーキングの後スーッと曲がるような、そういう区間が続く。

 

そしていよいよ、超高速下りストレートへと突入する……その後には複合ヘアピンが待ち構える……!!

 

 

 

 

\プァアアアアアアア/

 

\フォオオオオオオオ/

 

 

 

 

2台共、一歩も引かない膠着状態だ。そして……!!

 

ギャラリーC「おっ!来たぞ!!この下りストレートからのヘアピンへの進入が見せ場だ!!」

 

ギャラリーD「ヤバい!!2台共突っ込みすぎだァ!!」

 

 

 

しかし……!!

 

 

 

 

\ギャアアアアアアアア/

 

一気にスライドさせ、減速しながらヘアピン初期のRの緩い区間に、とてつもないスピードで飛び込んでいく。そして、一気にRがきつくなると……!?

 

 

 

\プァン プァン プァアアアアアア/

 

\フォン/\パパッ/\フォオオオオオオ/

 

 

 

 

2台共、見事なアクセルワークとステアリング操作で、ヘアピン1つ目をクリアした。

 

 

 

ギャラリーC、D「何だ………今のは………」

 

 

 

 

続いて、低速3連ヘアピンだ。1つ目は、崖の上から常に水が滴り落ちており、路面は常に川状の水溜りになっている。

 

 

 

 

涼介「フッ………ここがストリートの面白いところだ」

 

京一「涼介……そういうことか……考えることは同じだな……」

 

 

 

2台共、明らかなアンダーステアでコーナーに侵入する。だが……?

 

 

\バシャッ/\つるっ/\ギャアアアアアア/

 

なんと2台共、水溜りをきっかけにオーバーステアを作り出し、一気にヘアピンのインへ向かった。そして……

 

 

 

 

 

\ギャアアアアアア/

 

 

 

 

\ギャアアアアアア/

 

 

残りの2つのヘアピンも、振り返すようにしてクリアしていった……!!

 

 

 

ギャラリーE「エンジン音とスキール音が聴こえるぞ!!もうすぐそこまで来てる!!」

 

ギャラリーF「スタートでは高橋涼介のFCが前だったらしい……どっちが先だ……!?」

 

 




超高速ダウンヒルからの複合ヘアピンと、その後の3連ヘアピンを、とてつもないドライビングテクニックと峠センスで、2台共駆け抜けていった。ここからいよいよセンターラインと路肩のラインが引かれていない集落セクションへと突入する。果たして、ここから先に動きはあるのだろうか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.60 群馬 vs 栃木 魂のバトル!(中編)

バトルの火蓋は切って落とされ、京一がわざと一歩引き、涼介先行でダム湖周辺のセクションは進んでいく。ギャラリーたちを湧かせながら次々と中高速コーナー、そして4連ヘアピンをクリアし、集落セクションへと突入していく2台。果たしてここでも動きはないのだろうか……!?


 

 

 

 

ギャラリーE「2台共ヘアピンをクリアしてきたぞ!!」

 

ギャラリーF「ここからが見せ場だ!がんばれ!高橋涼介!!」

 

 

 

 

集落セクション入口付近は、別の道路への分岐点がある。ここにギャラリーが大勢集まり、バトルを見守っていた。

 

 

 

 

 

ギャラリーE、F「FCが前だ!!」

 

 

 

\プォンンンンンン/

 

\フォンンンン/\パパッ/

 

 

 

ギャラリーE「ひぇ~!!あれが相手のランエボのミスファイアリングシステム!すげぇアフターファイアだぜ!!」

 

 

 

京一のエボⅢには、ラリーカーと同じターボラグを打ち消すシステム、ミスファイアリングシステム(別名アンチラグシステム)が搭載されている。

 

エンジン系統の寿命と引き換えに、ターボの弱点は相殺される。一瞬の操作ミスも許されない4WDには、まさに無敵のマシンと化すアイテムだ。

 

この集落セクション以降、それがどう活きるのか……?

 

 

 

 

京一「ふっ……涼介、こんなもんか……ハイパワーターボ、コンパクトなボディに4WD、そしてこのミスファイアリングシステムには、到底及ばない……」

 

 

この集落セクション序盤は、木造の家が少し立ち並ぶ箇所がある。車が停まっている場所もある。少しでもミスをすれば家は全壊だ。

 

そしてここは、道幅が狭い。涼介は、リスクを侵さぬよう、何が起きても対応できるよう、ここでは抜かれないと踏んであえて70%程度にペースを落としていた。

 

 

 

涼介「京一……相変わらずお前は解っていない……ここはストリートだ……閉鎖されたサーキットやラリーのステージとは違うんだ……!!」

 

 

 

そして、無事集落を抜け、本格的に山奥へと突入していく……!

 

路面は荒れ始め、路肩のない路面はドライバーの目が物を言う。

 

そこは二人共拮抗していた。

 

 

 

 

京一「涼介め……集落のところだけビビってスピードダウンか……そんなこざかしいことが、ストリートのテクニックってのか!?」

 

 

 

ここからは、荒れた路面にダスティな路面と続く。4WDのエボⅢに有利なセクションだ。

 

 

そして採石場セクション。道幅が一気に広くなり、昼間ダンプカーがまき散らす粉塵により路面は砂まみれだ。

 

 

 

 

京一「俺の見せ場は………ここだ!」

 

\フォオオオオオオ/\パン/\フォオオオオオオ/

 

 

 

ギャラリーG「おい!須藤京一のエボⅢがここで仕掛けた!!」

 

ギャラリーH「こんなμの低いところで仕掛けるなんて、どんな神経してるんだ!?」

 

(μが低い……摩擦係数が低い=グリップが効かない)

 

 

 

 

涼介「やはりここで来たか!!京一!!」

 

 

 

 

道幅が広いが、路面のμは著しく低い。そしてクネクネしたこのセクション。2台が並ぶことで、このセクションは一気に低速区間へと様変わりする!!

 

 

 

 

京一「フッ……」\パパン/

 

涼介「くっ……!!」

 

 

 

 

そしてそのμの低さを逆手に取って、4WDのアンダーステアをすべて帳消しにしていく。もちろん、その腕がある前提の話だ。素人ならアンダーステアをかえって助長させてしまう。だが京一は違った……!!

 

 

 

 

有効に使える僅かな幅を使い、振り返しながら曲がっていくエボⅢ。そして……

 

 

 

 

京一「コレで俺の勝ちだ……お前に抜き返すチャンスは……ない!」

 

 

京一の言う通り、この先には2台並ぶのがやっとの幅の、林道セクションが待ち構える。抜き場所など、ほぼないも同然だ。

 

そしてこの林道セクション手前を境に、群馬県から栃木県へと突入する。栃木県佐野市飛駒町のセクションだ。

 

 

 

 

涼介「ここで京一が仕掛けてくるのは大方目に見えていた……お前はそういう奴だというのは、俺が一番良く解っている……だが、それが命取りにならなければいいがな……」

 

 

京一「さて……ここから俺のホーム、栃木エリアだ……お前に前を行かせることはさせない……いや、ない!!」

 

 

 

 

林道セクションの手前で、2つのコーナーだけセンターラインと路肩のラインが現れ、まともな道になるように見える。

 

だがそこを抜けた瞬間……一気に2台は林道セクションへと突入する!!

 

 

 

 

京一「こんな狭い道では、お前どころかどんなドライバーも仕掛けられない……お前について来れるか……」

 

\フォオオオオオオ/\パン/\フォオオオオオオ/\パパン/

 

 

 

 

ギャラリーI「いよいよ林道に入ってきたぞ!!」

 

ギャラリーJ「須藤京一が前だ!!すげぇ、まるでWRCさながらの走りだぜ!!」

 

 

 

 

この狭い道は、まるでWRC(世界ラリー選手権)のステージのような場所だ。京一のエボⅢは、無類の強さを発揮する。

 

涼介「付いて行くのがやっとだ……ここはまだ路面がキレイに舗装されている……だが……」

 

 

 

 

林道の前半は、急なコーナーのない高速セクションだ。僅かな道幅を、とてつもないスピードで駆け抜ける2台。しかし、涼介はここで京一に付いて行くのが精一杯だ。そして……

 

 

 

 

\キィーーーーー/

 

\フォン フォン/

 

\プァン プァン/

 

秋名のハチロクの撒き散らしたオイルの位置を、二人共完全に把握しており、華麗にパス。

 

 

 

 

そしてそのまま2台は、林道の山頂へと突入する。ここから路面の性格が一気に変わる!

 

 

 

\ガタガタガタガタガタガタガタ/

 

涼介「クソっ……このままじゃ……」

 

あまりの路面の荒れ具合に、流石の涼介もフラつく。しかし京一は……

 

 

 

 

\フォン フォン フォオオオオオオ/\パン/

 

4WDの安定性を活かし、この路面でもビクともしない。

 

 

 

更に……

 

\つるっ/

 

\ギャアアアアアア/

 

 

 

常に湿っていて苔の生えた路面。FRのFCには、かなりきつい。半端なドライバーなら、即スピンして崖に張り付くか谷底行きだ。

 

 

 

京一「FCが離れたか……さすがのお前でも、物理法則を前にしては太刀打ちはできない……マシンの基本構造なくして、テクニックは活きない!!」

 

 

 

京一がFCを突き放しにかかる。このセクションでの京一の走りは、鬼神がかっていた……!!

 

涼介「予想以上だ……京一がここまでやるとはな……俺が仕掛けられるのは……もうあそこしかない……!!」

 

 




集落セクション後半に京一が仕掛け、順位が入れ替わった。得意の林道セクションを、恐ろしい速さで駆け抜けるエボⅢ。涼介にとっては、秋名のハチロク以来のピンチかもしれない。さらに、突き放しにかかられている。さて、このまま涼介とFCは、どうなってしまうのか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.61 群馬 vs 栃木 魂のバトル!(後編)

林道セクションへと突入した、京一のエボⅢと涼介のFC。京一が先行、さらにここはエボⅢが得意とするセクションだ。涼介をもってしても、ついていくのが精一杯、さらに山頂を境に路面は荒れ放題、更にFRのFCにはキツくなる……このままバトルは決着してしまうのか……!?


 

 

 

 

京一「フッ……所詮ストリートのテクニックなど、こざかしいものに過ぎない……モータースポーツ仕込みのテクニックを前にして、公道の幼稚なテクニックが、敵うはずがないんだ……!!」

 

 

 

そしてこの後、林道には4つのタイトヘアピンが待ち構える。ジムカーナ仕込みの京一にとっては、更にチャンスだ。

 

 

京一「じゃあな……俺の勝ちだ……お前のFCでは無理があったな……」

 

 

\ギャアアッ/\ギャアアアアアア/

\フォン フォン/\パパン/

 

 

京一「このフェイントモーションからのヘアピンの立ち上がりは、勝負を決めに行くという……意思表示だ!」

 

 

一方、涼介は……

 

\キィイイイイイ/

\プァン プァン/

 

舵角の小さいドリフトで、なんとか京一に離されずに付いて行く。

 

 

 

\ガッシャン/

 

ギャラリーK「おい!あの高橋涼介が、路肩に乗り上げたぞ!?」

 

ギャラリーL「違う!あそこまで攻めないと、付いて行けないんだ!」

 

 

 

 

そして残すは2つのタイトヘアピン。

 

\フォン フォン/\パパン/

 

\プォン プォン/

 

 

 

ギャラリーM「うひょー!!見たかよあのヘアピンの立ち上がり!まるでWRCさながらだぜ!!」

 

ギャラリーN「恐ろしい……次元が違うぜ……あの2台……!!」

 

 

 

この後は、湿った路面の超高速ダウンヒル林道の後、一気に道幅が開け、さっきまでの林道が嘘のような道幅の広い超高速ダウンヒルセクションを残すのみだ。未だ高橋涼介は後ろ。このままでは、京一の勝ちである。

 

 

 

京一「俺が抜かれることはもうない……抜くスペースなどない……このまま俺がチギって……ジ・エンドだ!!」

 

だが、京一がそんな事を思っている間に、涼介には1本のラインが見えていた……

 

 

 

涼介「やはりな……勘違いじゃない……お前の弱点は……見切った!!ここを乗り越えれば……チャンスはある!!」

 

涼介は京一のとあるポイントに気付き、確信した。

 

 

 

京一「………フゥウウウウ」

 

深呼吸をし、勝利への道を全開で駆け抜ける。そして、林道セクションはもう終わる。

 

京一「低速セクションからカタパルトのように高速セクションに弾き飛ばされるのは、地元いろは坂の定番だ……終わったな……涼介」

 

 

 

そこに!!

 

 

 

\キュキュッ/

 

京一「!?」

 

バックミラーに映るライトが、急に右方向に動いた!!

 

涼介「っ!!」

 

 

 

林道が終わった瞬間、緩く左に曲がりながら右側にもう一つの車線が現れる。

 

ここはブラインドコーナーで、対向車がいつ来るのかわからない。

 

だが涼介には、全て見えていた……!!

 

 

 

 

\プァアアアアアアアン/

 

新たに現れた車線に、即座に移る涼介。

 

京一「何だとォ!?」

 

 

 

 

本当にビビっていたのは、実は京一の方だったのだ……!!

 

京一「クソっ!!最後の最後だというのに……バカかテメェは!?」

 

涼介「………!!」

 

 

 

 

 

一気に道幅が広くなった超高速ダウンヒルセクションを、並んで駆け抜けていく2台。

 

 

 

 

京一「マズい……インを取られる……!!」

 

涼介「京一、お前の弱点は、ここだ!!」

 

 

 

 

1台だと全開で抜けられる超高速コーナーも、2台並べばアクセルオフが必要だ。そして4WD最大の弱点は……荷重が抜けたときの高速コーナーだ!!

 

 

 

ギャラリー達「ワァアアアアアアアア!!」

 

 

 

ギャラリーO「すげぇ!!完全に横並びだ!!」

 

ギャラリーP「一体どっちが勝つんだァ!?」

 

 

 

 

涼介「この領域でお前が攻めきれることは……まずない!!」

 

 

いよいよ最終の中速S字だ……!!

 

 

 

 

\キィーーーー/\ギャアアアアアア/

 

前へ行かせまいと、FCを塞ごうとした京一。だがそれ以上に……!!

 

 

京一「お前……なぜそこにいる!?」

 

 

 

 

恐ろしいほどの突っ込みで、京一のブロックを、更にブロックしたのだった……!!

 

 

 

 

 

勝負は決した。

 

ギャラリー達「ワァアアアアアアア!!」

 

 

 

ギャラリーQ「俺たち栃木エリアの……完敗だ……」

 

ギャラリーR「まさか……こんな僅差で……」

 

 

 

 

ゴール地点を先に通過したのは、半車身前で、涼介のFCだった……!!

 

執念が勝ち取った勝利だった。

 

 

 

 

 

京一「涼介、お前に聞きたいことがある……」

 

涼介「何だ……」

 

京一「俺のモータースポーツ仕込みのテクニックが、俺がなぜ涼介にこうも敵わないのか……頼む……教えてくれ……」

 

 

 

 

因縁の相手である涼介に、潔く謙虚に勝てない理由を聞く京一。

 

 

 

 

涼介「…………ドライビングのテクニックに於いては、俺とお前に差はない」

 

京一「慰めはよせ……」

 

涼介「俺とお前のテクニックの差じゃないと、言っているのさ」

 

京一「何……?どういうことだ……?」

 

 

 

 

涼介は続ける。

 

 

 

 

涼介「お前の弱点は……対向車への恐怖心にある……お前の主戦場である、サーキットやジムカーナでは、対向車は存在しない。そしてお前のホームコースである、日光いろは坂もまた……一方通行で対向車が存在しない!!」

 

 

京一「!!」

 

 

涼介「いつ対向車が飛び出してくるかわからない林道セクションで、お前は踏み切れていなかった……そして林道が終わる瞬間の左コーナーも……お前は反射的に道幅いっぱい使わず、対向車線を開けてくれていたのさ」

 

 

京一「うっ……」

 

 

涼介「これが、ストリートのテクニックだ……たしかに俺も本来対向車が通る右車線は恐い……だが経験と勘次第で……攻め込むことができるようになるんだ……そこが、俺とお前の勝敗を決めた差だ」

 

 

京一「くっ……わかった……恩に着るぜ……涼介……」

 

 

もうすぐで勝利に手が届くところで、半車身先行を許して敗北を喫した京一。先程までのテンションが嘘のように、シュンとしてしまった……

 

 

 




京一が勝つと思われたこのバトル、まさかの最後の最後で涼介が仕掛け、僅かな差で涼介の勝利に終わった。ストリートにはストリートのテクニックがある……そう京一は深く知ることとなった。京一率いるランエボ軍団は、群馬から完全撤退しようとしていた。しかしその京一の前に、意外な人物が現れた……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.62 走り屋達の楽園(序章)

桐生・梅田 〜 栃木・飛駒間の、北関東同士のガチンコバトルは、群馬の高橋涼介が半車身前で勝利する形で決着がついた。湧き上がる群馬エリア勢、そして落胆するエンペラー。しかし、そこに意外な人物が顔を出すのであった……!!


 

 

 

 

 

\バン/

 

\プォオオオオオオオ/

 

 

 

 

京一に一言残し、その場を去る涼介。

 

京一「(すげぇぜ……お前は……お前こそ、ストリートの天才だ……)」

 

 

 

そして……

 

京一「長居は無用だ……帰るぞ」

 

 

 

ゴールで待っていたエンペラーのチームメイトを引き連れて、さっきまで全開で走った道を戻る。

 

日光方面へは、一度桐生梅田のダム湖まで戻り、別の山道を抜けて草木ルートの道路に乗ると、1本で到着する。(草木: 地名)

 

そのため、エンペラーは梅田のコースを戻る間、地獄を味わうことになる。

 

 

 

ギャラリーE「おらおら!この負け犬パンパン野郎め!!」

 

ギャラリーF「もうお前らは群馬に立入禁止だぁ!!」

 

 

 

ギャラリー達「ウゥゥーーーー」

 

大ブーイングが飛び交う。

 

 

 

 

 

一方、スタート地点では……

 

 

 

健二「さすがに可哀想じゃないか……?こんなブーイングの嵐」

 

樹「何言ってんすか健二先輩!!あいつら、俺たちを散々コケにしたんっすよォ!!」

 

池谷「樹、確かにお前の言う事にも一理ある。だけど、このブーイングの様、ちょっと酷すぎるぞ……かえって群馬エリアの民度が低いって思われちまう」

 

樹「確かに……言う通りっすねェ……」

 

 

 

 

池谷は、豊富な知識と、熱くなりすぎない所、冷静な分析力、そして何より、弱い立場の者にも手を差し伸べる、その人間性こそが、チームリーダーとして、そして走り屋としての強みだ。あともう少しテクニックに磨きがかかれば、群馬最速クラスに達する所まで来ている。

 

 

健二も、この異様なブーイングには違和感を覚えた。健二は知識は持ち合わせつつも、感覚的に物事を把握することもできるタイプだ。

 

 

 

 

健二「池谷、俺にいい案がある」

 

 

池谷は健二に耳を貸す。

 

 

池谷「おいおい、そんな事しても大丈夫か……!?向こうは負けた直後だぜ!?」

 

健二「だからこそだよ……このまま群馬エリアがブーイング野郎ばっかりの民度の低いエリアだって思われたままじゃ、メンツが立たねェだろ、それに……」

 

 

 

そのまま健二は続けた。

 

 

健二は、今住み込みで働いている自動車工場近くの峠、金山においてはなかなか有名になるほど腕を磨いている。

 

健二はずっと気になっていた。一体自分はどれくらいのレベルの走りができているのか……

 

 

 

 

そこに……!!

 

ギャラリーA「おらおら!来たぞ負け犬軍団!!何がエンペラーだ!!」

 

ギャラリーB「調子に乗るのは名前とでっかい下品なリアウイングだけにしろよな!!」

 

 

 

エンペラー達がスタート地点に戻ってきた。

 

ふと池谷は気になり、清次達のいるスタート地点側のエンペラーの方を見た。

 

 

 

清次達はその場に立ち尽くし、ブーイングに晒されるばかりだ。まるで拷問だ。

 

これは放ってはおけない。

 

 

 

池谷・健二「ちょっと待ったぁ〜!!」

 

ギャラリー達「!?ざわ……ざわ……」

 

 

 

ダム湖の橋の上に立って、エンペラーを止めに入る二人。

 

ギャラリーは一斉にざわつく。

 

 

 

京一\キュキュ/「何の真似だ……俺たちは負けたんだ……」

 

池谷「まぁそう固いこと言うなよ」

 

健二「負けたって言っても、ほぼ互角みたいなもんだろ?」

 

京一「俺は涼介に完全に見切られていた……俺の視野が狭かっただけだ……ストリートにはストリートのテクニックがあると……気付けなかった俺が悪い」

 

 

 

涼介に負けて、完全に勢いを失っている京一。だが、健二の提案していたことが、ここで出る……!!

 

 

健二「群馬の峠は、お前たちが回ってきた所だけじゃないんだぜ?秘密の楽園がある」

 

京一「秘密の……楽園……?」

 

健二「ああ、走り屋にとって最高の楽園だよ……皮肉で言ってるわけじゃねェぞ!?」

 

 

そして……

 

 

健二「来いよ、金山」

 

京一「何……金山……!?」

 

 

一度かニ度は聞いたことがあったようだ。巷では有名なショートコースだからだ。

 

バトルには不向きだが、走りを楽しむ者にとっては楽園のような場所だ。また、それでありながらレベルも高い。

 

 

 

時間は夜11時前、土曜日だ。金山は最高に盛り上がっている。

 

走り屋のしがらみうんぬんが嫌いで、ここでそういう事に囚われず、好んで走る者もいる。

 

今金山で盛り上がっている走り屋は、まさに今日の対決など見向きもしなかった連中ばかりだ。

 

 

 

健二はそのことを一通り説明した。涼介にストリートのことを言われたばかりだ。バトルの後で目も慣れている。タイミングとしては、最高だ。

 

 

京一「わかった……そこまで言うんなら、付き合ってやる。あと……」

 

健二「何だ……?」

 

 

 

その後京一から発された言葉は、意外なものだった……

 

 

 

京一「群馬エリアも、悪いやつばかりじゃないんだな……恩に着るぜ」

 

 

京一「お前ら、行くぞ!負けの凱旋となっちまうが……そんな事は関係ない。俺達ができることをやるまでだ」

 

清次「助かったぜ……」

 

 

 

健二たちがエンペラー達に話しかけている間に、野次を飛ばす連中は、いつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

健二「じゃあ、俺たちに付いてきてくれ!栃木エリア最速クラスの奴らが来るとあっちゃあ、盛り上がるのは間違いないぜ!!」

 

京一「わかった……」

 

 

 

 

金山のある群馬県太田市は、梅田のコースのある桐生市の隣だ。つまり、そこまで離れていない。

 

そして、30分そこらで金山のコースふもとに到着した。

 

 

 

そこに、ちょうど下ってきた走り屋もいた。

 

走り屋A「なんだこりゃ!?ランエボだらけじゃねぇか!!」

 

走り屋B「この場所でランエボ見るなんて珍しい……大抵インプなのにな……」

 

走り屋C「先頭は最近有名なあの180じゃねえか!!すげぇ奴等引き連れて来やがった!!」

 

 

 

 




金山は、いわゆるバトルというものを滅多にしない。前の車に連なって走るスタイルだ。金山から下ってきた3台のマシンは、ランエボのスタートを、ハザードを焚いて待っている。果たして、この後どんな光景が待ち受けるのであろうか!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.63 走り屋達の楽園(前編)

金山のコースのふもとに着いた健二の180と、引き連れてきたエンペラーのランエボ軍団。早速下ってきた走り屋のマシン3台がハザードを焚いて待っている。果たして、どんな光景が待ち受けているのだろうか……!?


 

 

 

健二「おっ、インプにシルビア、そしてMR2か」

 

池谷「健二、お前いつもこんな所で腕を磨いてたのか?」

 

健二「あぁ、そうだぜ?なかなかシビれるだろォ!?」

 

樹「進化した健二先輩の走り、見てみたいっすよォ!!」

 

健二「あそこの連中もエンペラーも待たせてるみたいだし、行くか!!」

 

 

 

 

\フォン フォン/

 

待っている走り屋に隊列を組むように並ぶ健二。

 

エンペラーを歓迎するかのように、その隊列は少しずつ前へと進んでいく。

 

そして、エンペラーのマシン全台がコース上に入った。すると……!?

 

 

 

 

\ブロロォォォォォ/

 

先頭のインプレッサが全開走行に入った!!

 

他の走り屋、そして健二、エンペラー軍団もそれに連なる!

 

 

 

\ギャアアアアア/

 

\ギャアアアアア/

 

 

 

走り屋B「速えよアイツ!!」

 

健二「くっ!!相変わらずレベル高ぇよッ!!」

 

 

 

京一「フン……悪くないな……」

 

清次「なんだァ!?ここが楽園かァ!?」

 

 

京一にとっては初めてのコースだ。とはいえ先程のバトルで目が慣れている。軽く付いて行ける。

 

 

何が楽園なのかは、頂上に付けばわかる。

 

 

 

タイトヘアピンに、うねったコーナー、キツい勾配、そして荒れた路面……まるで碓氷峠を短く切り取って、キツい勾配を付けたような、そんなコースだ。

 

 

 

このコースの見せ場は2つある。その1つ目……!!

 

 

 

\ギャアアアアアア/\ブロロォン ブロロォン/

 

 

 

バンクのついたタイトヘアピンだ。

 

直前に反対曲がりのコーナーがあるため、進入が非常に難しい。

 

先頭のインプは、フェイントモーションをかけて一気に進入、そのままタイトヘアピンを立ち上がっていった!

 

 

 

\ブロロォォォォォ/\ヒュルルルル/\ブロロォォォォォ/

 

 

 

 

そしてもう一つの見せ場は……

 

 

 

 

\ブロロォォォン ブロロォォォン ブロロォォォォォォォン/

 

幅の狭い中高速多角形コーナーだ。

 

金山で最も難しいコーナーである。

 

 

 

いつ対向車が飛び出してくるかわからない。イン側の岩壁によりブラインドコーナーになっており、先の状況が全く読めない。

 

そしてカクンカクンと何度もコーナーのRが変わり、ラインが制約される。

 

峠センスが物を言うコーナーである。ポイントは左足ブレーキが使えるかどうかだ。

 

 

 

 

軽々と進んでいく前3台と健二。

 

京一「一体何なんだ、このコース……!?」

 

 

 

京一は涼介に指摘された欠点その通り、対向車を恐れて前4台に付いていくことができなかった。

 

樹「スゴいっすよ健二先輩!あのエンペラーの須藤京一を突き放してますよォ!!」

 

健二「まだまだこんなモンじゃないぜェ!?」

 

 

 

 

そして最終セクション。急勾配が終わり、超高速セクションとなる。そして急に終わりを告げるかのように現れる、一方通行で行き止まりの広い駐車場。

 

 

 

\ブロロロロロ/ \キィィーーーー/

 

広場のような駐車場の枠に適当に停める先頭の3台、そして健二。

 

後ろからは大量のランエボ。

 

集まっている走り屋達は絶叫する。

 

 

 

 

走り屋D「うおぉーーー!!なんだこのランエボ軍団!!」

 

走り屋E「インプでもこんな軍団見たことねぇ!!圧巻だぜ!!」

 

そこにはセリカGT-Fourとロードスターが停まっていた。

 

 

 

 

そして京一たちはマシンから降りる。すると……

 

 

 

走り屋達「ワァアアアアアアア!!」

 

あまりの迫力に、湧き上がる金山の頂上。

 

 

 

 

走り屋F「すげぇ!!みんな栃木ナンバーだぞ!!」

 

走り屋G「遠くからこんな団体でやってくるなんて、すげぇぜ!!」

 

 

 

 

健二「どうだ、これが金山だ!」

 

京一「………確かに、他の峠とは雰囲気が違う……何と言うか……来る者拒まず、去る者追わず、といったところか」

 

清次「大抵俺達は敵意の目で見られるのになァ……こんな峠は初めてだぜ!!」

 

 

 

一方……

 

 

 

池谷「群馬にこんな和気あいあいとした場所があったなんて……健二から話だけは聞いてたけど……予想以上だよ!!」

 

樹「何というか、雰囲気が楽しいッすねェ!!拓海の奴も連れてきてやりたいッすよォ!!」

 

こちらの二人も、他の峠との違いに驚きのようだ。

 

 

 

そして、健二はエンペラーのメンバー達に、金山について説明する。

 

 

健二「この時間帯なら、一般車はまず来ない。だけど、攻めてくる対向車の走り屋が来る可能性があるから、そこは気をつけてくれ!でも、弱点の克服にはうってつけだぜ?下りで誰ともすれ違わなかったら、ほぼ間違いなく上りでも誰ともすれ違わないと思っていい。みんな解ってるからな」

 

京一「そうか……わかった」

 

健二「でも、万が一があるから、気をつけてくれよ!」

 

京一「恩に着る……」

 

 

 

健二「スタート前は、ハザードを焚いて一緒に走りたい車が来るのを待つんだ。全員揃ったら、ハザードを消して全開スタートするだけだ!それじゃ、自由に走ってくれ!」

 

京一「あぁ……」

 

 

 

 

そして……

 

 

 

京一「行くぞ!お前らも付いてこい!!」

 

 

 

\バン/    \バン/ \バン/

 

一斉にドアを占める。そして……!

 

 

 

\フォオオオオオオ/

 

 

 

 

走り屋D「すげぇぜ!ランエボ軍団の迫力!!」

 

走り屋E「こりゃあ、滅多に見れないモン見させてもらったなぁ!!」

 

 

 

健二「さて、俺も」

 

池谷「俺も、横に乗っていいか?」

 

健二「あぁ、乗れ乗れ!!」

 

樹「先輩、俺は……?」

 

健二「すまないが今回は降りていてくれ……2本目で横に乗っけてやっから!」

 

樹「待ってますよ!頑張って下さい!健二先輩!!」

 

健二「おう!!任しとけ!!」

 

 

 

健二「(エンペラーの奴らが不甲斐なくてかわいそうだったのもあるけど……本当に俺のやりたかったのは……これなんだよなァ……!!)」

 

 




遂にエンペラーを金山まで連れてきた健二達。金山の走り屋は、涼介に負けた彼らをさげすむ様子もなく、あたたかくランエボ達を迎え入れた。驚きの様子だったエンペラー達、そして池谷、樹。だが健二が本当にやりたかったのは、ここからだったのだ……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.64 走り屋達の楽園(中編)

桐生・梅田で惨敗したエンペラーを引き連れて、自分の走る金山まで招待した健二。他の峠とは雰囲気が違い、滅多に見ない大量のランエボに金山は湧いた。そして、いよいよ本格的にコースイン。対向車線のある狭いコースで、京一は何かを得られるのか?そして健二は何を目論んでいるのか……!?


 

 

 

\チッカッチッカッチッカッ/

 

ハザードを焚いて全車コースインするのを待つ京一。

 

 

 

そこに、健二につられて他の車も付いてきた。

 

これだけの大世帯のランエボ軍団、一緒に走りたくないわけがない。

 

 

 

そして……

 

京一「行くか」\コクン/

 

1速に入れる京一。

 

遂に一往復目……!!

 

 

 

 

\フォオオオオオオ/\パン/\フォオオオオオオ/

 

 

 

清次「行くぜ!京一!!」

 

\フォオオオオオオ/

 

 

 

そして他のランエボも追随する。そして……!

 

健二「よっしゃ!ここで磨いた俺の腕を見せてやるぜ!!」

 

池谷「見せてくれよ!お前の腕!!」

 

 

 

池谷を隣に乗せて、健二も全開でスタートした。

 

 

 

だがエンペラーにとっては初のコース、レイアウトは覚えていない。そして下りは上ってくる車とすれ違う可能性がある。

 

狭いこのコース、京一は順応できるのか……!?

 

 

 

 

京一「くっ……涼介の言った通りだ……対向車が……怖い。右車線に出た途端、どっと汗が出る。気付けばアクセルペダルを踏む足が緩んでいる……無意識にブレーキをいつでも踏める体制に入っていたのか……?」

 

 

 

だがさすがは京一。初めてのコースにも関わらず、それなりのペースで下っていく。

 

 

清次より後ろからは、少しずつ差が開いていく。そして、健二の所まで来ると大渋滞だ。

 

 

 

 

池谷「おい……何か前のランエボ達、明らかに遅くないか?エンペラーの下っ端ともなるとこのレベルなのか……?」

 

健二「それもある……だがこのコースは、台数が増えれば増えるほど渋滞になるんだ」

 

池谷「そうなのか……」

 

 

 

 

これは、バトルではない。

 

そのため、健二も仕掛けに行くことはしない。

 

 

 

 

池谷「にしても、凄くなったなお前の180……直線でもランエボにひけを取ってないよ」

 

健二「そりゃあ伊達に毎日毎日工場勤めで汗流してねェからなァ!これぐらいパワー出して当然よ!」

 

池谷「一体何馬力ぐらいなんだ……?お前の180」

 

健二「そうだなァ、今んとこはまだ280馬力ってとこかなァ」

 

池谷「に、280!?しかも、今んとこって……」

 

健二「まだ付いてけねェんだよ……ここで最速クラスの奴らに、上りで」

 

池谷「そうなのか……で、最終的にはどれぐらいまでやるんだ……?」

 

健二「大体350馬力以上には持っていく予定だよ」

 

池谷「350って……そんなの、秋名のヒルクライムでも充分通用するレベルだぜ!?そこまでやる気なのか、健二」

 

健二「おうよ!スピードスターズにも、ヒルクライム担当が必要だろ?」

 

池谷「健二……」

 

 

 

 

ここで健二の真意を知った池谷。そしてこの会話を、エンペラーに付いて行きながらしていた。エンペラーの下っぱ程度ともなると、付いて行くのは余裕だった。

 

 

 

そしていよいよ、コースを下り切る。そこで方向転換、上りへと移る。

 

 

 

京一「何とか下り切った……対向車は来なかったな……つまり、行き止まりの駐車場の上からは下って来ないということだ……」

 

 

清次「さすがだぜ京一……初めてのコースでここまで飛ばすとはなァ……お前がいなかったら、こんなペースで走れてはいなかったぜ……」

 

 

 

全車方向転換が終わり、ハザードを焚いて待っている京一の後ろの隊列が整った。

 

先程止まっていたセリカGT-Fourとロードスターも付いてきている。

 

 

 

京一「よし……次は上り……来る時に一度走っている……行くぜ……!!」

 

\フォオオオオオオ/

 

 

 

 

いよいよ上りが始まった。他のランエボ達、健二、そしてセリカ、ロードスターと続く。

 

 

 

上りともなると、ハイパワーマシンはそのポテンシャルを真に発揮する。そして、一度走っている上りだ。下りよりもペースがいい。

 

 

 

 

池谷「おっ、上りとなるとさっきの下りより良いペースじゃないか」

 

健二「そうだな……一度俺が先導してるし、少し慣れてるのかもしれねェ」

 

 

 

またしても、エンペラーに付いて行きながら会話を交わす二人。

 

一方……

 

 

 

京一「なぜだ……やはりだ……上に停まっていたセリカとロードスターは付いてきていた……そして最初にいたインプ、シルビア、MR2は休んでいた……上からマシンが下ってくることはない……だが……100%そうとは限らない……対向車線で、俺は攻めきれない……これがストリートのテクニックなのか……涼介」

 

 

 

上から来ないとほぼ判っていても、対向車線で攻めきれていないことを自覚する京一。

 

京一「涼介……お前はこれを攻めきれていたというのか……やはりお前はストリートの天才だ」

 

 

 

 

そして、行き止まりの頂上の駐車場に戻ってくる……!

 

 

 

 

樹「すげえマシン達の轟音……帰ってきた……!!健二先輩の隣、次は俺の番!!くぅ〜!!」

 

 

 

 

全車頂上に付き、再びマシンを駐車場に並べる。

 

マシンを降りて健二のところまで行く京一。

 

 

 

京一「この1本で、色んな事がわかった……恩に着るぜ……」

 

健二「そりゃあ良かったじゃねェか!夜は長いんだし、もっと走っていけよ!」

 

京一「あぁ……そのつもりだ……」

 

 

 

 

京一「よし、お前ら!もう1本行くぞ!!」

 

京一は、ここで対向車への恐怖心を完全に克服するつもりのようだ。

 

そしてエンペラーのランエボ達は、再び走り出す……!!

 

 

 

 

樹「健二先輩〜!!次は俺の番っすよォ〜!!」

 

池谷「ははっ、交代だな樹、健二、なかなかいい走りしてるぜ!?お前、耐えられるか!?」

 

樹「ばっ、バカにしないでくださいよォ!!」

 

 

 

 

だが、健二は走り出さない。

 

樹「何やってるんッすかァ!?行きましょうよ健二先輩!!」

 

健二「そうしてやりたいが……まだエンペラーの連中はコースの習熟で攻めきれてない……あいつらが一段落したら……とっておきのを見せてやるよ!!」

 

樹「健二先輩〜!!楽しみっすよォ〜!!」

 

 

 




エンペラーが金山のコースを習熟するのを待つ健二。そして対向車線の苦手意識を克服するのに躍起な京一。エンペラーが一段落したあと、健二は樹に金山の全開ダウンヒルとヒルクライムをお披露目する……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.65 走り屋達の楽園(後編)

エンペラー達先行で金山を一本往復した健二。しかしここから健二は休息し始める。同時にエンペラーはこのコースの攻略に入る。樹はまだ健二の同乗走行を体験していないが、「次は乗せる」と健二は明言した。果たして、健二の思惑とは……!?


 

 

 

樹「ねぇ健二先輩〜、まだッスかァ〜!?早く健二先輩の走り、体感したいっすよォ〜!!」

 

健二「まァそう焦るなよ樹ィ、待てば待つほど、面白いモンが見れると思うぜェ!」

 

樹「それって……」

 

 

 

 

健二は、エンペラーがこのコースに馴染むのをひたすら待っている。そして同乗走行をひたすら待つ樹。

 

 

 

 

〜約1時間後〜

 

 

京一「大分このコースを攻略できてきた。涼介の言っていた、対向車線の攻略も、かなりモノになってきたぜ……ただ、ずっと練習走行じゃあな……美味しい獲物が欲しい……」

 

 

健二「獲物なら、ここにいるぜ」

 

樹「ちょっ!!!やめてくださいよォ健二先輩〜ィ!!!」

 

 

 

樹をエンペラーの前に差し出す健二。

 

 

京一「………(汗)」

 

 

 

健二「冗談だよ、樹」

 

樹「フォォォ、てっきり俺が走らされるのかと思いましたよォ!」

 

 

 

ここからが、今回エンペラー達を金山に連れてきた目的にして、本題だ。

 

 

 

 

健二「須藤京一、俺と走らねェか?獲物には、俺がなるぜ!」

 

京一「お前がか……FRじゃ話にならないな……と、言いたいところだが、お前はこのコースを熟知している……少しは楽しめそうだ」

 

健二「そうこなくっちゃな!!」

 

 

 

健二の思惑通りに、事は進んだ。

 

 

 

健二「今回は少し特別だ……一番下からスタートしてまず上り、駐車場でそのまま折り返して下って、一番ふもとまで行くんだ。先行後追い形式でどうだ?」

 

京一「いいだろう……」

 

 

 

健二は、これがやりたかったのだ。

 

北関東最速クラスである京一に、どこまで迫れるのか、自分のレベルがどこにあるのか……

 

 

 

健二「ははっ、いよいよだな、樹」

 

樹「け……健二先輩……マジでやるんですか……!?あの須藤京一と……高橋涼介に負けたと言っても、ドラテクは同じくらいですよォ!?」

 

健二「そうだなァ」

 

 

 

淡々と返事をする健二。よほどの自信がないと、このような振る舞いにはならない。

 

 

 

健二「おいみんな!珍しいがここでバトルだ!駐車場まで全開で上ってきて駆け抜けていく!スペースを確保しておいてくれ!!」

 

 

 

真ん中の方に止めていた車は、みな端の駐車枠に移動させる。

 

エンペラーの他のメンバーも、端にランエボを並べる。

 

 

 

清次「あの180の野郎……京一とマジでやる気だ……そこまでオーラは感じないがな……京一にどこかでチギられるのがオチだぜ……」

 

 

 

健二「先行が後追いか、どっちがいいか選んでくれ」

 

京一「後追い……と、言いたいところだが、今回はあえて先行で行かせてもらう」

 

 

 

清次が京一の側まで来る。

 

清次「おい京一、シミュレーション1か……?」

 

京一「あぁ……あの180の奴から、大したオーラは感じない……余計な詮索をする価値はないと判断した……先行でチギって、格の違いを見せ付けるだけだ」

 

清次「その通りだぜ京一!」

 

 

 

この時点で、彼等は健二のことを完全に舐めきっている。

 

健二があまりにも軽いノリでバトルと言い出したからだ。

 

このバトル、どうなるだろうか……?

 

 

 

健二「んじゃ、ふもとまで下るぜ?下りで軽くウォーミングアップ走行して、上りからスタートだ」

 

京一「わかった……」

 

 

 

樹「くぅうううう!!ようやく健二先輩の同乗走行だ……ワクワクしてたまんないッスよォ!!」

 

健二「見せてやるぜ!俺がここで鍛え上げた本気の走りをなァ!!」

 

 

 

\フォン フォオオオオオオ/

 

 

いよいよふもとまで下り始めた、180とエボIIIの2台。

 

健二はウィービング(ジグザグ走行)してタイヤを温めながら下っていく。

 

京一「フッ……笑わせるぜ……そこまでのことをして、お前に何ができるってんだ……速い奴に感じるオーラは、お前には無かった……上りだけでチギって、ジ・エンドだ!」

 

 

 

 

そして、ふもとに到着した。先行して下った健二は、自動的に後ろに付くことになる。そしてスタートのポジションに付いた。

 

京一のところに駆け寄る健二。

 

 

 

健二「お前の好きなタイミングでスタートしていいぜェ!準備ができたらハザードを焚いて、消したらスタートだ!」

 

京一「わかった……」

 

 

 

樹「(わぁ……いよいよだなァ……下りのウォーミングアップでも、健二先輩の180、たまにヤバい動きしてたよ……どんなことになるのか、正直怖いよォ……)」

 

 

 

健二が180に戻ってきた。

 

 

 

健二「さ、いよいよだぜ、樹」

 

樹「あっ、はーい」

 

健二「シートベルト、しっかり付けとけよォ!」

 

シートベルトを正しく締め直す樹。そして……!!

 

 

 

 

エボIIIのハザードが点滅した……

 

樹「ヤバい……いよいよだァ……」

 

 

 

 

そして……!!

 

 

 

\パッ/

 

ハザードが消えた!!

 

 

 

\フォオオオオオオ/\パン/\フォオオオオオオ/

 

4WDの全開加速で、京一はスタートした。

 

 

 

\キュルキュルキュル/\フォオオオオオオ/

 

樹「ぐあァアアアアアアア!!!」

 

続く健二の180。FRなので4WDに比べるとどうしても出足が遅れる。しかし……!!

 

 

 

\ギャアアアアア/

 

2台とも1コーナーを華麗にクリア。ここからが本当のバトルだ……!!

 

 

樹「くッ……!!ぐァッ!!ヒィィィイイイ!!!」

 

あまりの健二のペースと、280馬力までパワーアップした180の全開ヒルクライムに、言葉にならない声を発するしかない樹。

 

 

今のところ、スタートで出遅れた以外は、エボIIIに付いていっている。

 

 

名物のバンクヘアピンも……

 

 

\ギャアアッ/\ギャアアアアアアア/

 

エボIIIは、ここを強烈なフェイントモーションで曲がった。曲がらない4WDを、曲がる車にするための必須技だ。

 

だが、このアクションが、後半ボロとして出ることになる……

 

 

 

 

\キュルキュルキュルキュル/

 

対して、派手なアクションは起こさず、ゼロカウンタードリフトで曲がる健二。FRのヒルクライムは、これくらいが一番速いのだ。

 

 

 

このままペースは変わらず上っていく。そして、金山名物にして最大の難所、多角形中高速コーナーに差し掛かった。

 

 

\ギャアアアアアア/

 

京一は、ここをスライドさせて走ることで、対向車にいつでも対応できることを身に着けた。ところが……!?

 

 

 

\キュルキュルキュルキュル/

 

健二は再びゼロカウンタードリフト。対向車が来れば終わりだ。

 

 

 

そしてそのまま対向車なしで、この多角形コーナーを終えた。すると……!?

 

 

 

京一「!?バッ……バカな……!?」

 

180がエボIIIにピタリと張り付いている。健二はこのコーナーでマージンを目一杯削り、京一に追いついたのだ。

 

金山で走る走り屋達を信頼しているからこそ為せる技だった。

 

 

 

 

そのまま最終盤の高速セクション、そしていよいよ、駐車場広場の折り返しに入る……!!

 

 

 

清次「あの野郎に何かできるとは思えねェけどな……京一のブッチギり……」

 

 

しかし……!!

 

 

 

 

清次「あァ!?なんだとォ!?」

 

清次が見た光景は、予想していたものとはかけ離れたものだった……!!

 

 

 

 




いよいよスタートした健二と京一とのバトルは、折り返し地点まで来た。2台はエンペラー達の予想を裏切り、接近戦となっていた。この駐車場の折り返し地点、何かアクションはあるのだろうか……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.66 走り屋達の楽園(フィナーレ)

いよいよ金山のバトルも折り返し地点。広い駐車場に差し掛かる。しかしここで、信じられないことが起こる。そしてそれが、このバトルの命運を分けることになる。一体何が起こるというのか……!?


 

 

 

 

金山の頂上の駐車場は、入口のみ一方通行になっている。その手前はシケインになっており、速度がガクッと落ちる。駐車場セクションは、小回りさせてクイックに曲がろうとした京一。しかし……!?

 

 

\ギャアアアアアア/

 

 

思いっきり外に飛び出した健二の180。またゼロカウンタードリフトだ。そして……!!

 

 

\フォン フォン フォオオオオオオ/

 

樹「ぎえェエエエエエエ!!他の車にぶつかる〜〜〜ッ!!」

 

 

 

清次「一体何なんだ!?こりゃア……!?」

 

 

 

同じく見ていた池谷も……

 

池谷「け……健二……お前……ウソだろ……!?」

 

 

 

 

京一は、停まっている他の車を気にして、この駐車場セクションを全開で攻め切れない。モータースポーツを行う京一にとって、この行為はピットロードやパドックを、全開走行するようなものだったからだ。反射的に、そうなってしまった。

 

 

 

 

池谷「いっけぇえええ!健二!!スピードスターズの底力見せてやれ!!」

 

清次「ウソ……だろ……!?」

 

 

 

 

エンペラーの他の連中も騒ぎ始める。

 

 

 

 

健二は、なんとこの広い駐車場で、アウトから京一を抜き去った。

 

停まっている車のギリギリの幅まで使った。

 

 

 

 

 

そして、2台は下りへと差し掛かる。

 

 

 

だが………4WDのアンダーを打ち消すために派手なモーションを繰り返した京一のエボIIIタイヤは、悲鳴を上げていた。

 

そしてエボIIIは、フロントヘビーの車だ。フロントタイヤの負荷を打ち消すために、リアタイヤを積極的に使うため更に派手なアクションが必要になる。

 

一方、180はというと、前後重量配分が適切な車だ。更にリアサスペンションは優秀な日産のマルチリンク。FRながら、安定した走りが可能なのだ。

 

 

 

 

 

下りでもスッとノーズが入る180。一方派手なアクションが必要なエボIII。なんと、その差は少しずつ開いていった。

 

 

 

 

 

樹「ぐあァアアアアアア!!!なにかの間違いっすよォオオオオオオ!!!!」

 

京一を突き放す健二に、絶叫してただけの樹も遂に本気でビビり始める。

 

 

 

 

そして、相変わらずのゼロカウンタードリフトを決める健二。アクセルワークだけで曲がっていく。

 

 

 

 

 

京一「ダメだ……俺は完全にあの180の野郎をナメていた……そんな速い奴のオーラは感じなかったはずなのに……一体何なんだ……アイツは……!?」

 

 

 

 

 

そして、ゴール地点。京一はタイヤが悲鳴を上げ、急勾配ではエボIIIのフロントヘビーが仇となり、なんと健二に100m以上突き放されて負けてしまった。

 

秋名スピードスターズが、北関東最速クラスとして認められた瞬間だった。

 

 

 

 

 

健二が降りて京一のエボIIIの所まで駆け寄る。

 

京一「何の用だ……」

 

 

 

 

 

しかし、健二から発せられた言葉は、意外なものだった……!!

 

健二「ありがとよ!バトルに付き合ってもらって……楽しかったぜ!」

 

京一「そうか……」

 

健二「高橋涼介とバトルした後のタイヤなのに、よくここまでのペースで初めてのコースを走れるな!すげェよ!!」

 

京一「それは……被肉で言ってるのか……?」

 

健二「いいや違うね……俺は梅田でのバトルを見ていた……お前の走りの凄さは充分知ってるよ……また暇つぶしにでもいいから、遊びに来いよな!」

 

京一「次は……必ず勝つ」

 

 

 

 

 

一方、頂上の駐車場────

 

 

 

池谷「何ィ!?本当に健二が、あの須藤京一に勝っちまった……!?」

 

あまりに意外な展開に、ポカーンとするしかなかった。

 

 

 

 

 

清次「ウソだろ……京一が、一夜にして2度も負けた……今回のはお遊びのバトルだったにしろ、負けは負けだ……信じられねェぜ……群馬エリア……俺の群馬エリアに対する認識は、180度変わったぜ……」

 

 

 

 

 

頂上まで戻ってきた2台。

 

 

 

京一「引き上げるぞ」

 

      \フォン/

 

\フォン/

 

           \フォン/

 

エンペラー軍団は、すぐ帰路についた。

 

長居は無用、というわけだ。

 

 

 

 

走り屋1「おーい!ランエボ軍団が帰るぞォ〜!!」

 

走り屋2「たったあれだけの練習であそこまで走れる奴見たことないぜ!!」

 

走り屋3「楽しかったぜ!!また遊びに来いよォ〜!!」

 

 

 

京一「負けたのにこんなに歓声を浴びるとは……不思議な場所だぜ、ここは……何かに行き詰まった時、また来よう……そしてあの180とも……どこかで正式に決着を付ける……!!」

 

 

 

 

 

その後、池谷は健二の所に駆け寄る。

 

 

 

 

池谷「お前……あの須藤京一に……勝ったぞ……!?」

 

健二「まさか俺がここまでのレベルになってるとはなァ……少し自信持てたよ」

 

池谷「少しって……もっと自信持っていいんじゃねぇのか!?」

 

健二「須藤は高橋涼介とのバトルで疲れていた……タイヤもかなり使い切った後だった……勝てたのは、向こうのコンディションが万全じゃなかったからだよ」

 

池谷「いや、それだけじゃない」

 

 

 

 

池谷は続ける。

 

 

 

 

池谷「駐車場のターンの所で見たけど、お前のあのゼロカウンタードリフト……普通じゃないぜ……アクセルだけでコーナリングをコントロールして、アウトからエボIIIを抜き去るなんて……正気の沙汰じゃないよ……お前、今度秋名に戻ってきて一緒に走ってくれないか……?」

 

健二「そんなに凄いのか?あの走り方……自然と身に付いたんだけどなァ……ココ走ってたら……最近秋名もご無沙汰だったし、久々に走りたいと思ってたとこなんだ……次の日勤の時の休み、そっちまで戻るよ!」

 

池谷「頼むぜ!約束だぞ!!」

 

 

 

 

しかし、池谷はあることに気付く。

 

 

 

 

池谷「おい、健二、そういや樹、やけに大人しくないか……?」

 

健二「そういやそうだなァ……最初は絶叫しまくってたけど、慣れたのか何も言わなくなって……って、えェェェェェェ!!」

 

 

 

 

 

樹「ほわぁあああああ………」

 

 

 

 

 

健二「あ〜あ、見事なご尊顔だぜ、いつかの池谷みたいにな!ハッハッハッ!!」

 

池谷「こら、その話はもうナシだろ!!」

 

 

 

3人も帰路についた。

 

 

 

 




まさかの須藤京一に勝った健二。エボIIIも京一も、疲れ切っていたとはいえ、北関東最速クラスであることに変わりはない。その京一に勝ったのだ。そして、速いにも関わらずそのオーラを全く見せなかった健二。それが、この先のスピードスターズの戦いで、大きな武器になっていく……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Act.67 樹の春

ある時、地元の街を歩いていた樹。だが、その瞬間に、樹は息を呑んだ……見慣れないピカピカのハチロクレビンが停まっていたのだ。思わずじっくり見回す樹。しかしそこに……


 

 

 

樹「ふんふふ〜ん♪」

 

相変わらずゴキゲンなご様子でぶらつき歩く樹。

 

だか、そこになんと……!!

 

 

 

 

樹「あああああっ!!!レビンだぁ!!綺麗なレビンだなぁ……」

 

思わずそのレビンに一目惚れしてしまった。

 

 

 

樹「すっげぇ!!熊谷ナンバー……埼玉から来てるんだぁ!!インチアップしたBBSのホイールにスポーツタイヤ、ロールケージも入ってる!!」

 

そして何より驚いたのは……

 

樹「なんだこれ!!ブーストメーターも付いてるじゃん!!てことはこのレビン……ターボ〜〜!!?ひょっとしてこれ、梅田に行った時健二先輩の180をブチ抜いてったやつじゃ……!?」

 

 

 

それに気付き、思わずその場ではしゃぎこんでしまう。

 

 

 

樹「こんなレビン……俺も乗ってみてぇよォ……!!ほっしぃほっしぃ!!ぜったいほっし」

 

???「ちょっと!!」

 

 

 

突然女性に話しかけられた。

 

まだ20歳前後の若い人だ。

 

 

 

 

???「それ、ウチの車なんですけど……!?何やってたんですか!?……ひょっとして、何かウチの車にイタズラしようとしてたんじゃないでしょうね!?」

 

樹「違うよ!!俺はこのレビンって車が好きで、つい見とれてただけだよォ!!」

 

???「この車が……?どこにでもある普通の乗用車じゃない!?」

 

樹「違うよ!このハチロクって車は、俺にとって特別な車なんだよ!!もういいよ!!気分悪い、ケッ!!」

 

 

 

 

樹はその場から立ち去った。

 

樹「ケッ、感じ悪い女ッ」

 

 

 

 

 

その後、その女性の元に、男が現れる。

 

男「悪かった、待たせたな」

 

女(???)「むっ………」

 

男「どうした和美、そんなふてくされた顔して」

 

和美(???)「むっ……何でもない」

 

男「まだ群馬に来たばかりだってのに、そんなんじゃダメじゃないか」

 

和美「わかってるよ……」

 

男「ほら、和美、行くぞ」

 

和美「わかった……むっ……群馬ってサイテー!!」

 

 

 

 

その二人組の正体は、先日梅田に顔を出して無理やり啓介とバトルしにかかったハチロクレビンターボの兄妹だった。

 

 

 

 

兄(男)「おい和美、何があったのか知らないけど、嫌なことがあっても、すぐカッとなっちゃダメなんだ……人間関係に於いても、接客に於いても、我慢しなくちゃいけない時は、我慢しなくちゃ」

 

和美「わかってるよ……わかってるけど……」

 

 

 

 

やはりこのレビンの男、相当人間臭い性格をしている。

 

本人はすぐカッとなって梅田であのような行動に出ておいて、妹に方便を垂れる兄だった。

 

 

 

 

 

〜後日〜

 

 

 

 

 

樹「ふんふふ〜ん♪」

 

またいつぞやの道を歩く樹。

 

 

 

しかしそこに……

 

樹「(あっ……あの時の感じ悪い女ァ)」

 

その女、和美は鯛焼きを買いにお遣いに出ていた。

 

 

 

鯛焼き屋のおっちゃん「はい、いらっしゃい」

 

和美「6コ下さい!5コは包んで、1コはここで食べますから」

 

鯛焼き屋のおっちゃん「はい、660円ね」

 

和美「(!!やだ……10円足りない……)すみません、1万円札でもいいですか……?」

 

鯛焼き屋のおっちゃん「悪いね……いま丁度釣り銭切らしちゃってて……」

 

和美「(どうしよう……)」

 

鯛焼き屋のおっちゃん「ふん〜……」

 

 

 

 

???「(ぽん)」

 

和美「えっ……??」

 

???「使えば?10円」

 

和美「えっ、あっ、ちょっと……」

 

 

 

正体は樹だった。

 

すぐその場から立ち去った。

 

 

 

和美「あっ、ありがとうございます!」

 

鯛焼き屋のおっちゃん「僕も少年に助けられたよ、また来てね」

 

 

 

 

鯛焼き屋の人に礼を言い、駆け足で樹の元に近づく。

 

和美「ありがとう!助かったよ!今度返すね!」

 

樹「別にいいよ、10円くらい」

 

和美「良くないよ!!住所が連絡先か、教えてよ!」

 

樹「………」

 

 

樹は渋々答える。

 

 

樹「俺、この先にあるスタンドでバイトしてるんだー」

 

和美「そうなんだ!私も最近、旅館で住み込みのバイト始めたんだ!知り合いのところだけどね」

 

樹「へぇー」

 

 

 

空返事をする樹。

 

 

 

和美「この前はついカッとなっちゃってゴメンね!私、何かあるとすぐ頭に血が上っちゃって……君、いい奴だったのね!」

 

樹「えっ……///」

 

 

 

思わぬ言葉に急に閉口してしまう樹。

 

 

和美「私、秋山和美!君は?」

 

樹「あっ……武内……樹……///」

 

和美「いつき君ね!私こっちに来たばかりだから友達いなくて……友達になってよね!それじゃ!」

 

\タッタッタッタッ/

 

 

 

走り去っていく、ポニーテールでトレーナーにズボンの、ちょっとボーイッシュな格好の女性。

 

 

 

 

樹「(ポッ)////」

 

心の中に、なにか明かりが灯った気がした樹。

 

 

 

 

樹「(もしかして……これって……春……!!?///)」

 

 

 




樹は、感じの悪いと思っていた女にまさかの再開を果たし、10円がきっかけでどうやら仲良くなりそうな予感。レビンの助手席の女の子の正体は、秋山和美という女の子だった。同じレビン繋がり、なおかつ友達になってほしいとの言葉……果たしてその行方は……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。