最強伝 (全智一皆)
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第一箱「付属品は付属品」

         【登場人物紹介】
九十神斑雲(つくがみ・むらくも)――――――最強。
伽髮千紘(ときがみ・ちひろ)――――――凡人。

黒神めだか(くろかみ・めだか)――――――生徒会長。
人吉善吉(ひとよし・ぜんきち)――――――庶務。
阿久根高貴(あくね・こうき)――――――書紀。
喜界島もがな(きかいじま・もがな)――――――会計。

不知火半袖(しらぬい・はんそで)――――――学友。
悪石凶悪(あきいし・まがあき)――――――学友。
黒針夜酔(くろばり・やよい)――――――学友。
澱継正真(おりつぎ・しょうま)――――――学友。

雲仙冥利(うんぜん・みょうり)――――――風紀委員長。
桜島一途(おうじま・いちず)――――――学級委員長。
相楽斗真(さがら・とうま)――――――風紀員。
赤平甘夏(あかびら・かんな)――――――学級員。


変わり続けて

代わり続ける

 

 太陽の陽射しというのは、とても暖かいものであり、そしてそれを浴びながら眠る事が出来る窓側の席というのは、とても素晴らしい所だと、私は思う。

 高校において授業中の睡眠というのは、とても危ないものである事は私も理解している。

 点数が下げられ、そして最悪の場合には単位が落ちて留年が決まってしまう。

 だが、そうであったとしても私は構わないと思っているのだ。

 あぁ、これは点数が下げられるのが良い、というだけであって留年するのが良いという訳ではない。

 私も、留年して親に迷惑を掛けるのは嫌だ。

 点数が下げられたとしても、それらは成績やその他の行動でどうにか巻き返す事が出来るのだし。

 それに、眠ると言っても最初だけだ。

 言われればその後はしっかりと起きて、授業を受ける。

 私は、真面目な子なのだ。

 まぁ、そんなこんなで話していれば授業は終わり、教科書を閉じて皆が立ち上がり、先生に礼をする。

 そしてそのまま休み時間へ突入し、教室が騒がしくなる。

 まぁ、そんな時も私は眠るのだけど。

「また寝てるよ。お前、そんなんじゃ夜眠れなくなるぞ?」

 眠れなかったよ、パトラッシュ。

 まぁ、別に構わないけれど。

「休み時間の睡眠と夜の睡眠は別よ。だから良いの」

「そんなもんか?」

「そういうものよ」

 そう、私は私に話し掛けてきた青年―――もとい、私のクラスメイトである悪石凶悪に言葉を返した。

 こんな名前だけれど、このクラスで私に話し掛けてくれた最初の人物であり、この“箱庭学園”で出来た初めての男友達である。

 悪石凶悪―――箱庭学園壱年1組、出席番号一番。

 まぁ、さっきも言ったけど、こんな名前だけど優しい奴である。

「おぉい、こら。聞こえてんぞ、誰がこんな名前だ、あぁ?」

「事実じゃなぁぁぁ…痛い、痛いわ。頭を抑えて机に押し付けないで」

「明らか感情が籠もってねぇけど?」

 仕方ないじゃない。だって、貴方の力がとても優しいんだもの。

 押し付けてはいるけれど、しかしその力はあまり強くはない。

 手加減してくれているのが丸分かりな程。

「キャハハハ☆ 相変わらずの仲良しだね、お二人さん♪」

「カッ、全くだぜ…これでも、ただの友達ってんだからな」

「お前らには言われたかねぇよ、人吉、不知火」

「それには同意だわ」

 人吉善吉、不知火半袖。

 この二人も、クラスメイトで私の友達。

 特に不知火とは仲良くしていると、自分でも思う。それこそ互いにご飯を食べ合うくらいには。

 人吉とも…まぁ、仲は良いと思う。会長さん程ではないだろうけど。

 でも、私と最も仲が良い人はこのクラスには居ない。

 だって、私と最も仲が良い人は別のクラスに居るのだし。

「おーい、千紘。一緒に食堂行こうぜ」

 ほら、現れた。

 ツンツンした黒い髪、真紅とも言い表せる綺麗な赤い瞳、そこに居るだけで凄いと思わせる程の雰囲気を纏っている青年。

 私の親友―――もしくは、幼馴染と言える唯一無二の存在。

 彼の名前を、九十神斑雲。

 この世界で最も強い、最強の人間である。

 

 私こと伽髮千紘は、親友である斑雲と比べてしまえば途轍もないと言っていい程に才能が無い。

 まぁ、それは勿論人並みの才能はあるんだろうけれど、それも彼と比べてしまえばあまりにも低く、もはや無いにも等しい程の才能だ。

 この箱庭学園では、『普通』、『特別』、『異常』の三つで、其々クラスが別けられている。

 1〜4組が普通科。

 6・8組が芸術科。

 5・7・9組が体育科。

 10組が特別普通科。

 11組が特別体育科。

 12組が特別芸術科。

 そして、13組が特別特別科。

 私や悪石達は普通科に当たり、斑雲や人吉の幼馴染でありこの学園の生徒会長である黒神さんは特別特別科、即ち13組に当たる。

「しっかし、此処は相変わらず広いな。見学しに来た時から思ってはいたが、広すぎて困るぜ」

「まぁ、ディズニーランドくらいの面積があるからね。そう思うのも仕方ないわ」

「だよなー。そういや、人吉が居ねぇけど、アイツどうした?」

「黒神さんに連れて行かれたわ。」

「あー…なるほど。となりゃ、人吉が生徒会に入るのは確定だな」

 人吉と黒神さんは、私と斑雲と同じように幼馴染である。

 不知火からすれば、ただの腐れ縁らしいけれども、まぁ私達からすれば立派な幼馴染だと思う。

 何でも、小学六年生までは一緒にお風呂に入っていたんだとか。

 幼馴染というよりは、姉と弟と呼んだ方が正しいような気もするけれど。

 …ちなみに、私と斑雲は一緒にお風呂に入った事はない。

 だって、親が許してくれないんだもの。

「今頃、剣道場で問題解決してんだろな」

「剣道場? なんで剣道場なの?」

「不良共の溜まり場だからな。まぁ、必然っちゃ必然だろうよ」

 カツカレーのカツをライスと一緒に口の中に運んで、ゆっくりと噛みながら私はそれを聞く。

 うむうむ、不良の溜まり場、ね。

 箱庭学園にはありとあらゆるスポーツ施設が完備されていて、中でも剣道場は伝統ある建造物として大切にされていた。

 でも、それは数年前までの話し。by人吉善吉。

 だから、それをどうにかするべく二人は動いているという訳か。

 大変なものだね、生徒会というのは。

「お、仲良しお二人さんじゃないか」

「仲睦まじいね、本当に」

「おぉ、黒針に澱継。お前らも昼食か?」

 またもやクラスメイトと邂逅を果たした。

 なんか、今回は色んな人と出会っているような気がする…ここから色んな人と出会うんだよという伏線か何かなのだろうか。

 伏線の使い方違うかな…まぁ良いか。

 倒置法で喋ったのはクラスメイトで女友達の黒針夜酔。

 私達を仲良しだと言ったクラスメイトで男友達の澱継正真。

 まぁ、私からすればこの二人も大概だとは思うけれど。

 大概だぞ夜酔くん。おっと失礼、ユニ先輩が出てしまいました。

「まぁ、そんな所だよ。本当なら悪石も来る筈だったんだが…」

「連れて行かれた、甘夏に。」

「またかよ…これで3回目だぞ?」

「悪石は好かれてるわね。全く、羨ましいわ」

「嬉しくねぇだろなぁ…」

 どうやら悪石は赤平甘夏学級員に連れて行かれてしまったようだわ。

 私はごちそうさまと言って合掌し、斑雲と一緒にお皿を片付け、時計を確認して―――剣道場に行く事にした。

 何でって?

 斑雲が行こうって言うんだから、行かない訳にはいかないじゃない。

 今更ながら、私は口調が定まっていないのではないだろうか?

 …まぁ、気にする必要もないか。だって、こんなの聞いている人なんてそう居ないだろうし。

「む? 斑雲と伽髮同級生ではないか。」

「オメェ等、なんでここに」

「よぉ、黒神、人吉。いやなに、俺も剣道場について思う所があったからな。来てみたって感じだ」

「私はその付添人よ。あと、私の事は千紘で良いわよ。伽髮って呼ばれる事あまりないから慣れないわ」

 まぁ、取り敢えず最初に行っておこうかな。

 この剣道場を占拠していた先輩方に。んでもってこの依頼をした日向くんに。

 

 “ご愁傷様でした”。

 

「剣道なんてした事ねぇから、正直俺にはよく分からねぇんだがな」

 一歩、一歩。

 静かに先輩方の前にまで、斑雲は歩む。

 ぎし、ぎし、と床が軋む音が、剣道場に鳴り響く。

 ただ、それだけである筈なのに。

 ただ、歩んでいるだけに過ぎないというのに。

 そうであるにも関わらず、どうしてか―――先輩方の体は、まるで錘が降ってきたかのような感覚に襲われた。

「な、なんだよ、てめぇ…!」

「黒神みたいに説教するつもりはねぇがな。でもまぁ、此処が使えないと日常生活に支障が出る奴も居るんだ。それに、そうでないとしてもアンタ等の行いは、正さなきゃならねぇしな」

 にやり、と斑雲が笑みを浮かべて先輩方の間合いに入り込む。

 先輩方は木刀を構えて、斑雲を警戒する。まぁ、それも仕方ないわね。

 そりゃ警戒したくもなるわ。ただ近寄ってきただけなのに、錘が降ってきたみたいな感覚に襲われる程の“雰囲気”を醸し出してる訳だし。

「なぁ、千紘。九十神って、めだかちゃんと同じ13組だったよな? どんな理由で13組になったんだ?」

「そうね…まぁ、理由は黒神さんと大して変わらないわ。黒神さんが『完璧』故に13組に入ったならば」

 

「だから、ちっとばかり後輩の小言を聞いてほしいんだよ」

 そう言った次の瞬間―――先輩方が構えていた木刀全てが、一瞬の内にして奪い取られた。

 それに気付く事が出来たのは、私と黒神さんだけで、黒神さんと長年一緒に居た人吉でも斑雲の“動き”に気付く事は出来なかったようだ。

 小さな風圧が起こり、それが私達の体を通り抜け、そして髪を仰ぐ。

 時間にして、一分くらいかな。

 一分経って、ようやく先輩方は自分達の握っていた木刀が取られていた事に気が付いた。

「なっ…、お、お前、何をしやがった!?」

「何をしたって聞かれても、ただ“取った”だよ」

 斑雲は、ただ“木刀を取る”という行為をしただけに過ぎない。

 黒神さんは“無刀取り”を披露して見せたんだろうけど、でも斑雲はそんな事はしていない。

 ただ、物を取るという動作しか、していないんだから。

 私は、言葉を紡いで、人吉に語る。

「斑雲は、『最強』故に13組に入ったのよ」

 九十神斑雲が、箱庭学園特別特別科、もとい13組になったその理由。

 それは、九十神斑雲が生まれたその時より持っている―――『最強性』。

 斑雲を知っている人間ならば、誰もが口を揃えてこう言うのよ。

 それこそ、世界共通で。斑雲を知っている人間全員が、世界共通の人間達が、完全にシンクロしてこう言う。

 『九十神斑雲は最強だ』―――ってね。

「まぁ、これもアンタ等が本来歩むべき“日常”と、これから歩む事が出来る正しい“日常”の為だ。少しばかり付き合ってくれよ」

 九十神斑雲の真骨頂、その一つ―――『平和平凡な日常主義』!

 斑雲は相手の『平和な日常』を第一として行動している。

 朝に起き、親に挨拶。朝食を食べて歯磨き。学校へ向かう。友達と出会う。共に学校に行く。勉強する。昼食を摂る。遊ぶ。休む。家に帰る。ただいまと言い、おかえりと言ってもらえる。勉強、もしくはゲームをする。夕飯を食べる。風呂に入る。歯磨きをする。寝る。

 こんな平凡普通で平和な日常を送る人々の為、日常を送れていない人々の為に動くのが、九十神斑雲という人間だ。

「私はそれを長い間、側で見続けた。だから、まぁ…人吉と同じよ。まぁ、唯一違う所と言えば、私は斑雲に振り回されていないという所くらいかしらね」

「おーい、千紘。お前も付き合ってくれねぇか?」

「…はいはい、分かったわ。取り敢えず剣道用の服をちょうだい。制服じゃ動き難いもの」

「分かった。じゃ―――

 

一緒に頑張ろうぜ、先輩」

 人吉、頑張りなさい。

 私は同情してやれないもの。一人で、並び立てるように、ついて行けるようになりなさい。

 私は斑雲と出会った時から、斑雲に付属する付属品だもの。

 嫌でも一緒について行くわ。まぁ、嫌だと思う時なんて無いけどね。




どもー、■■■■だ。え、名前が隠されてるって? 気にすんな、簡単に分かる。
ここは後書きなんだが、活用方法が思いつかなかったんでキャラについて話すコーナーにすることにした。
じゃ、今回は悪石凶悪についてだ。
主人公の伽髮千紘の友人の一人であり、男友達だ。
名前で誤解されがちなんだが、別に不良とか悪人って訳じゃないぜ? 寧ろその真逆、善人ってやつに当てはまるぜ。
ま、そのうちスキルも得るだろうから楽しみにしとけ。


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第二箱「やる時はやる」

ここらで俺が登場だ。名前は…次回だな。
まぁ、大体は予想つくんじゃね?


君の隣に立っていたい

 

 私、伽髮千紘は物心ついた時から九十神斑雲と一緒に過ごしていた。

 2歳か3歳くらいだったか。多分、その辺りから一緒に過ごしていた。

 その時から、私と斑雲は互いに親友だと認め合い、そして暮らしている。

 両親公認で、私と斑雲は同じ家に住んでいる。

 私としても、斑雲としてもそれは喜ばしい事だった。

 それくらいに、私達は仲が良い。それこそ、喧嘩なんて一度もした事がないし、お互いに泣いた事も泣かした事も泣かされた事もない。

「ねぇ、伽髮千紘さん。貴方はどうして、此処に居るのか分かってる?」

「さぁ? 一切分からないわ。私、何か怒らせるような事でもしたかしら」

「そう…分からないのね。じゃあ言うけど―――貴方は、普段の授業態度があまりにもだらけきっている!」

 私を指差して、彼女…もとい、学級委員長の桜島一途さんは、声を張って私にそんな言葉を放つ。

 うん、まぁ…反論の余地もないわ。だって私、殆ど寝てるんだもの。

 私は特に反論する事なく「まぁ、そうね。その通りだわ」とあっけらかんと、もしくは呆気なく返した。

 ワナワナと、彼女が震える。あら、怒らせてしまったかしら。

 まぁでも、どっちにせよ事実だから仕方ないのよね。

「それを分かっているなら、何故改善しようとしないの!?」

「改善出来るならやってるわ。でも、無理なものは無理なのよ」

「だとしてもよ! 少しは抗いなさい! 他の人達の迷惑は考えないの!?」

「一応、端には置いてるわ。寝てるからすぐに忘れるけど。というか、それなら不知火にも言うべきじゃない? 彼女、早弁の常習犯よ?」

「もう何度も言ったわ。でも聞かないし、呼び出しても来ないし、連れてきてもすぐ逃げられるもの」

 呆れたように、大きなため息を吐いて肩を落とす桜島さん。

 流石は不知火、私に出来ない事を平然とやってのける、そこに痺れる憧れるぅ。

 しかしまぁ、それでも諦めないのは貴方の偉い部分よね。誇りなさい。上から目線で申し訳ないけれど。

 そんなやり取りをしていると―――

 

 

 私は咄嗟に桜島さんの腕を引っ張り、そのまま後ろへと投げ飛ばした。

 しかし、私の頭上には既に瓦礫の山。

 うーん…これは、万事休すかしら?

 私、ただの女子だから、こんな瓦礫の山をどうにかする力なんて持ってないのだけど。

 …まぁ、仕方ないわね。

「伽髮さん!」

 桜島さんが叫ぶ。

 出来るなら、名前で呼んでほしかったんだけど…まぁ、今更言っても意味ないか。

 …うん、やっぱり死にたくないわ。

 まだやれてない事、沢山あるし。

「――助けて、斑雲」

 だから、私は貴方の名前を呼ぶ。

 早いかもしれないけど、でも私は死にたくないから。

 まだ貴方と過ごし足りないし、遊び足りない。何なら学校生活も、もっと楽しみたい。

 だから、助けて。

「おう。了解だ」

 翻る制服。大きな背中が、私の目に写った。

 

 振り翳した拳が―――瓦礫の全てを、破壊した。

「ったく、他人の事を考えねぇで動く辺り、流石は風紀員だな。千紘、大丈夫か? 怪我とかしてねぇか?」

「大事無いわ。それより、黒神さん達は大丈夫かしら?」

「多分、大丈夫だろ。黒神だしな。それに、人吉とか阿久根センパイも、無事だろうさ」

 しかし、校舎をまぁこうもボロボロにするなんて、馬鹿げた風紀委員ね。

 いや、馬鹿げたからこそ、狂っているからこそ、風紀委員なんだろうね。

 まぁ、それはそれとして。

 私は立ち上がり、パタパタと手でスカートの砂埃を払って、校舎の窓から黒神さん達を見る。

 赤い長髪―――確か、『乱神モード』だったっけ。

 リミッターを外して、ありのままの暴力を振るう力の塊だ。

 恐ろしいったらありはしないわ。

「ふぅ…よし。斑雲、行くわよ」

「行くのか? 黒神達の戦いだろ?」

「彼女達の“都合”と私達の日常を守る為よ」

「そっか。なら行くか」

 そういって、斑雲は私の隣に立ってくれて。

 でも―――油断してたのかな。

 

 私は、喉笛を切り裂かれた。

 

「全く…面倒な仕事を任せられるよ、俺は」

 私は、ばたりと、後ろから床に倒れ伏す。

 床に、鮮血が流れていくのが、ぼんやりとした瞳の中に写っている。

 はっきりとしたものではないけれど、男の声が耳に入る。

 でも、そんな事より…斑雲の顔が、口を開いて驚いている、真実を受け入れられていない斑雲の表情が、気になってしまう。

「まさか、《最強》の唯一無二である幼馴染を殺せ、なんて言われるなんて。そんなの自殺しろって言ってるのと大して変わらないんだが…まぁ、それであの人の役に立てるなら、良い犠牲にはなれるかな」

 どうやら、男は風紀委員のようだ。

 しかもその言い方だと、命令したのは雲仙冥利風紀委員長じゃん。

 私、何か恨まれるような事したのかな…全く心当たりないんだけどなぁ…

 おっと、昔の話し方が出てしまった。

 いけないいけない、私は素直クールなんだから。

 …って、そんな事を考えてる暇なんて無いんだけど。

 話したい。でも、言葉が出てこない。

 喉を切り裂かれたからかな…

 

「千紘…?」

「     。      」

 口パクだけど、きっと伝わる筈。

 『落ち着いて。大丈夫だから』

「大丈夫な、訳あるか。血が…彼奴のせいで、血が」

「…   。    、  」

 『…ダメよ。怒っちゃ、ダメ』

 でも、やっぱり無理だった。

 髪が、逆立つ。

 気迫が、ついに学園を粉々にしてしまった。

 その場に、否、その世界に居る誰もが、動けなくなってしまった。

 空気が壊れる。空間が壊れる。世界が揺れる。

「テメェは―――潰す。絶対に、潰す」

「っ…い、い、さ。それが、俺の、目的なんだ、から」

 冷や汗をかいている青年。

 黒神さんが、乱神ならば。

 乱暴に何もかもを破壊する神の姿をしたのが乱神モードならば。

 最強の神。あらゆる全てに勝利し、あらゆる全てに負ける事がない最強無敵、生涯無敗の姿―――九十神斑雲、その憤怒の姿、『強神モード』。

「―――」

 …あれ? 衝撃が来ない。

 目を開く。そうすれば―――私は教室に居た。

 でも、さっき居た教室じゃない。どこか見覚えがある教室だ…けど、正確には思い出せない。

 何か、フィルターが掛かっているような…そんな、感覚。

 

「全く、凡人らしくやられるもんじゃないぜ、伽髮ちゃん。アイツの隣に居るんだから、そう簡単に殺られるんじゃ、こっから先の物語じゃ通用しないぜ?」

「おっと、喋るんじゃねぇぞ? 本来なら、俺とお前は此処で関わるべきじゃないんだから。そうだな…球磨、あぁいや、『過負荷』と関わる時に、俺とお前は関わる筈だった。なんで狂ったんだろうな? まぁ、俺がお前の記憶を消せばそれで済むんだが」

「ん? 俺が誰かって? しかも見覚えがある? ふーん、一応見覚えがあるくらいの認識は残ってるのか。流石はアイツの幼馴染だ。本来なら頭の端から端まである俺の記憶全部無くなってる筈なのに。まぁ、そこを含めて『女主人公』だな。良いじゃないか、そういうのも悪くない。めだか以外の女主人公、善吉みたいな女主人公。良い組み合わせだよ」

「まぁ、それはそれとして、だ。どうする? このまま復活するか、もしくは―――一足先に、『スキル』でも取るか? 俺はそれでも構わないぜ? そっちの方が面白そうではあるしな。あ、でも『■游憲』はダメだぜ? あれは俺と安心院さんが合流して、んで尚且、お前がアイツに勝ちたいと思ってから入手出来るスキルだからな」

「んー…でもなぁ。そうなると、『得倒■』もダメ判定なんだよなぁ…『欲視力(パラサイトシーイング)』みたいなのも、あれだし…あ、でも不知火と仲良いなら『攻来眼』でも良いな。よし、じゃあ今から与えてやるよ。原作崩壊ってのもオリジナルらしくて良い。快楽主義の俺からすりゃ、実に“都合”が良いぜ。」

「今からお前に早めにスキルを与えてやるよ。なに、無双出来るようなもんじゃねぇから安心しろよ」

「安心院みたいに説明無しでは与えねえよ。説明してやる。まぁ、読者はつまらなくなるかもだがな。…今からお前に与えるスキルは、“迫り来る危機を視るスキル『攻来眼』アタックアイズ”だ。俺が作り出した『予備』のスキルの内、その一つだ。相手の攻撃を限定とした未来予知みたいなもんだと思ってくれ。」

「よし、解説終わり。簡単なものじゃないと長くなるからな。」

「あ、校舎については心配すんな。“こっち”のアイツはスキル無効の力が薄いからな。若いからかね? 他の奴らのは無効化されちまうが、俺やなじみのは無効化されないみたいだし。ご都合主義って本当素敵☆ 俺が直しとくからよ」

「じゃ、帰ってくれ。んでアイツを止めてくれ。

 

 じゃあな、伽髮。『生徒会選挙』でまた会おうぜ」

 

「校舎なんて、もう有って無いろうなものじゃない…はぁ。本当、嬉しい事してくれるわ」

 さて―――“視る”限り、3個くらいかしら。

 ガシャッ!!! と天井が崩れ、瓦礫の山が再び落ちてくる危機を、私の眼は捉えた。

 便利なものね、スキルというのは。

 私は穴が空いている床に向かって走り、壊れかけている床を握り、体を前に動かして下の教室へと移動する。

 受け身を取って衝撃を無くし、そのまま教室の扉を開いて壊れかけた廊下を駆け抜ける。

 恐らく一階で戦ってる…戦ってる?

 あぁいや、戦ってるんじゃなくて蹂躙してるっていうのが正しいかしら。

 階段を一気に飛び越え、再び受け身を取って転がり、次々と階を降りていく。

 そして―――風紀委員、相楽斗真を踏み付ける斑雲を、見つけた。

「斑雲」

 私は彼の名前を呼んだ。

 ゆっくりと、斑雲はこちらに首を向け、冷めた目線を私に向ける。

 いや、冷めた目線ではなかった。どちらかと言えば、絶望した、というのが近い目だった。

「なぁ、千紘」

「なに?」

「俺は…壊しちまった。皆の日常を」

「…まぁ、そうね。それは否定出来ないわ」

「…俺は、お前を守れなかった」

「私は生きてるわ」

「でも、守れなかった事に変わりはない」

「確かにそうだろうけど、私が生きていることにも変わりはないわ」

「…でも」

「でもじゃないわよ。全く、細かい事を気にする所は貴方の良い所ではあるけど、こういった所も気にするのは悪い所ね」

 人間らしく、忘れたって良いのに。

 まぁ、そういった事も忘れずに頑張ろうとする姿も格好いい所ではあるけれど。

 私は斑雲の前にまで歩いて、優しく斑雲を抱き締めた。

「私は生きてる。校舎は戻せる。彼に関しては自業自得だし、貴方も悪くはないわ」

「…」

「それに、日常を壊してしまったなら新しい日常を与えれば良いだけよ。貴方、理性が効いたのか彼の事、殺してないないじゃない」

「え…」

 彼は瀕死の状態ではあるが、しかし呼吸はしているし心臓も動いている。

 斑雲の理性はしっかりと効いていた。理性は、働いていたのだ。

 だからこそ、殺していない。セーフティのお陰で、殺人にまで至っていない。

 怒りに呑まれながらも、人を殺さないようになっている辺りは、やっぱり人間ね。

「貴方が自分が悪いと思っているなら、後から謝って貴方がリハビリやらに付き合えば良いわ。それでチャラになるんだから」

「…そうか」

「そうよ。さぁ、彼は運ぶわよ」

 反省は後から。

 今はとにかく、運ぶ事。

 さて…どうしようかしらね。




じゃ、今日はスキルについてだ。
俺が与えたスキルの名前は攻来眼。読みはアタックアイズ。言葉遊びは…アタックが攻撃って意味なんだが、目であるアイズを漢字にして合図。そのまま読んで攻撃の合図。合図があればその攻撃を避けられるだろ? 実力者にも依るんだがな。


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第三箱「誤りを謝り」

         【登場人物追加】
都城王土(みやこのじょう・おうど)――――――創帝。
行橋未造(ゆくはし・みぞう)――――――狭き門。
名瀬夭歌(なぜ・ようか)――――――黒い包帯。
古賀いたみ(こが・いたみ)――――――骨折り指切り。
宗像形(むなかた・けい)――――――枯れた樹海。

八頭因幡(やず・いなば)――――――底無しの峡谷。
氷川矜恃(ひかわ・きょうじ)――――――壊頂。
秦野当月(はだの・とうげつ)――――――漁心衰心。
防府尾張(ほうふ・おわり)――――――胤無しの命。

球磨川禊(くまがわ・みそぎ)――――――大嘘憑き。

高雄幸(たかお・ゆき)――――――低下嗜好。
供犠橘(くぎ・たちばな)――――――必終架繆。



堕ちましょう

そして上がりましょう

 

 そういえば、私はいつの間にかスキルを手に入れていた訳だけれど。

 一体何故、私はスキルを手に入れているのだろうか?

 相楽くんに殺されかけて、目が覚めた時には扱えるようになっていたんだけれど…本当に何故なんだろう?

 あれだろうか。死にかけた時にこそ力が目覚める、みたいなものだろうか。

 まぁ、それはさておいて。

 私は今、この箱庭学園の校長である不知火火袴と、校長室で話し合いをしている。

 いや、話し合いというよりは質問といった所だろうか。

「伽髮千紘さん。貴方は『スキル』を持っているのですか?」

「持っているわ。確か…『攻来眼』だったかしら。“自分に迫り来る危機を視る事が出来るスキル”だった筈よ」

「筈、というのは?」

「目が覚めたら使えるようになっていた、というのが正しいのよ。だから自分じゃ曖昧なのよね」

 え、敬語じゃないのはどうなんだって?

 私、誰に対しても敬語は使わない主義だから。使いたくないもの。

 理由なんてそれで十分じゃない。敬語を使いたくないから使わない。これで十分だわ。

 っと、話しがそれるわね。

 私にも、どうしてこのスキルの名前が分かるのか、どういった能力なのか分かるのか、それが分からない。

 でも…誰かに貰った、というのだけは覚えている。

「ふむ…分かりました。では、質問は終えましょう。しかし、伽髮さんには提案があります」

「提案? 何かしら」

 

「13組に来る気はありませんか? そして、あわよくば『フラスコ計画』に協力してほしいのです」

 理事長は笑顔を浮かべていた。

 しかし、対する私は無表情のままだった。

 絶句、というか固まっていた、というか…どう表現すれば良いのか分からない感情だった。

 でも―――私は今、珍しく動揺していた。

 だって。

「そ、それは」

「はい?」

「それは、つまり…私が、斑雲と同じクラスに、なれる、ということかしら…?」

「―――えぇ。同じ13組に入る訳ですから、彼と同じクラスで過ごす事が出来ますよ」

 理事長は笑顔を浮かべたままで、そう答えてくれた。

 ―――やった。

 ダメ、笑みが零れそう。どんな事が起きようともポーカーフェイスを保っている私だけど、今回ばかりは抑えるのが難しいかもしれないわ。

 だって、だって。

 今の今まで、同じクラスになれなかった斑雲と、ようやく一緒になれるんだもの。

 こんなに嬉しい事が、ある訳ない。

「…ふぅ。落ち着いたわ。13組には勿論入るわ。でも、その前にその『フラスコ計画』について、話してもらっても良いかしら?」

「えぇ。フラスコ計画について、説明します。

「フラスコ計画とは『完全な人間を作る』という目的の下、『異常』と呼ばれる人間を研究材料に様々な研究をしています。『天才がなぜ天才なのか』を解明し、人為的に天才を創り出すというのが、この『フラスコ計画』です。

「『普通』、『特別』、『異常』―――そして、『過負荷』。我々は人間をこの四つの分類に別けています。雲仙くんや黒神さん、九十神くんや貴方などは『異常』に分類されています。

「この計画は数十年も前から、多くの機関が協力して取り組んでいますが、しかし未だ解明には至っていません。

「しかし、我々は滅気ずに今も研究を続けています。『完全な人間』を作り出す為に。

「その為に、貴方に協力してほしいのです。ですが、強制はしません。

「何せ、貴方や九十神くんは『異常』の中でも『特別』な存在ですから。

「しかし、もしもその気があるのなら。

「どうか、ご協力をおねがいします」

 私は考えなかった。考えるまでもなかった。

 考えることもなく、考える必要すらないと理解出来る程に、すぐ答えは出ていたから。

「フラスコ計画についてはお断りするわ。でも、参加者と関わらせてはもらうわ。斑雲の為にも、私の為にも」

「…というと?」

「異常者と言えど、人間なのよ? しかも学生の身。高校生よ? 青春時代の最終期と言っても過言ではないわ。

 

なら――友達作りは大切じゃないかしら?」

 後から不知火に言われたのだけど、私はこの発言をした時点で十分『異常』になっているらしいわ。

 不知火曰く、『現実ではありえない事を引き起こす異常者の集団をただの生徒にしか見てなくて、尚且友達になろうとするなんて正気の沙汰じゃないね☆』だって。

 私…そんなにおかしいのかしら?

「そんな訳で、斑雲と同じクラスになれました。ぶいぶい」

「お、おぉ…マジか。高校一年になって漸く同じクラスか…長かったな」

 私と斑雲は、『拒絶の門』と呼ばれる場所を目指して歩きながら、私が斑雲と同じクラス――もとい、13組に入れた事を語り合っていた。

 小学一年生、斑雲は1組、私は3組。

 小学二年生、斑雲は1組、私は2組。

 小学三年生、斑雲は1組、私は4組。

 小学四年生、斑雲は1組、私は5組。

 小学五年生、斑雲は1組、私は2組。

 小学六年生、斑雲は1組、私は4組。

 中学一年生、斑雲は1組、私は5組。

 中学二年生、斑雲は1組、私は9組。

 中学三年生、斑雲は1組、私は9組。

 九年よ? 九年…あまりにも、長かったわ。

「えぇ…つい跳び上がりそうだったわ」

「それは見てみたかったな」

「貴方が居たなら抱き着いてたと思うけど」

「俺は大歓迎だがな。いつだってウェルカムだよ」

「…そう。なら、次から嬉しい事があった時は存分に抱き着くわ。覚悟してなさい」

「無論だな。覚悟なんてとっくに出来てるってもんだ」

 いつも通り、ニカッと笑って見せる斑雲に私は呆れてものが言えなかった。

 でも…そんな笑顔も、やはり私は好きなのだ。

 私は人吉と違って素直だ。素直クールなのだ。自分で言うのもなんだけど。

 だから、甘えたい時には甘えます。

 まぁ、それはそれとして。

 私と斑雲は門の前に辿り着いた。

「確か、パスワードを入力するんじゃなかったかしら?」

「六桁だろ?」

「えぇ。しかも突破する確率が10の6乗で100万分の1。…で? 何か方法はある?」

 私は扉に触れながら、斑雲にこの扉を突破する為の方法を問う。

 正直、私には見当もつかないし予測すら出来ない。

 斑雲なら理事長から何か聞いてるんじゃないかな、なんて事を思って私は聞いたんだけど…

 斑雲は私の思っている答えとは全く違う答えを出した。

「自力で開く」

「お馬鹿? 貴方はお馬鹿なの? 脳筋主義のお馬鹿様なの?」

 理知的な答えを出してくれるかと思ったら、まさかの出てきた答えは脳筋的な解答だった。

 脳筋だ…脳筋にも程がある。というか、それが出来るのは貴方だけなのよ。

 私は本当に呆れて、ため息を吐いてしまった。

 全く、私にため息を吐かせるなんて相当なものよ。

 斑雲は扉の中心に立ち、その左右に手のひらを押し込むように載せる。

 そして、力を込めて、扉を開かんとスライドさせようと―――した、筈なんだけど。

 思えば、気迫だけで建物を崩壊させるような斑雲が、力を込めて扉に触れるなんて、恐ろしい以外の何でもなかった。

 バギッッ!!! と派手な音を立てるし、ベゴッッ!! と扉は凹んだし…何だったら罅が全体に渡ってるし。

「あーあ…やっちゃった」

「やっべ…壊しちまった」

 私達は互いに、『教室の花瓶を落としてしまった』程度のリアクションしかしなかった。

 だって、大して驚くような事でもないし。

 でも、その場面を見ていた金髪の男の子は、そうじゃなかったみたいだ。

「拒絶の、門を…壊した、だと…?」

 有り得ないものでも見るかのような目で斑雲を見る金髪男子。

 えっと…確か、都城王土さんだっけ。私達の先輩となる三年生の筈だけど。

「あー…わりぃな、センパイ。扉壊しちまって。これ、学校の金でどうにかなんねぇ?」

「先輩に言ってどうすんのよ。ごめんなさいね、都城先輩。私の脳筋幼馴染がやらかして」

「…あぁ、そうか。貴様らが九十神斑雲と伽髮千紘か」

 納得したように、都城先輩は私達を見る目を、物を見るような目にかえて呟いた。

 うわー、この人絶対に傲慢な性格してる人だわー、と私は心の中で思う。

 対して斑雲は「おう。俺が九十神斑雲だ。よろしく頼むぜ都城センパイ」と平然とした態度で挨拶をしていた。

 まぁ、斑雲ならそうなるわよね…

「…伽髮千紘よ。今日から13組になったわ。よろしく、都城先輩」

「偉大なる俺に敬語を使わんとは…まぁ良い。貴様らに奴隷としての資格があるか、試してやる」

 ―――平伏せ。

 そう、都城先輩が言った瞬間に、私は体の自由が効かずに、平伏す―――事は、なかった。

 都城先輩の言葉を聞いても尚、立っていた斑雲が右腕で私を抱えるようなにして助けてくれたから。

 ありがとう斑雲。でも、これはちょっとキツいのだけど。

「ほぉ…偉大なる俺の『発信』が効かんとは。なるほど、被験名『果て無い英雄』とは名ばかりではなかった訳か」

「なんだよ、その名前…まぁいいや。千紘、大丈夫か?」

「一応は大丈夫よ。でも、離してくれないかしら? この体制意外とキツいわ。銀魂みたいに吐くかもしれないから」

「マジか。じゃ降ろすわ」

 そう言って、斑雲は優しく私を降ろしてくれる。

 私は立ち上がり、深呼吸をして―――素早く身構えて、地面を抉るような勢いで蹴って、都城先輩に殴りかかった。

 私の拳は既に―――彼の腹部に、めり込んでいた。

「ガァッ――!?」

 呼吸もろくに出来ないだろう。

 でも、そんな事は関係ない。私は少し距離を取って、腹を抑えて膝を着こうとした先輩の脳天に踵落としを食らわせる。

 グキッ――と、音が響く。でも、気絶させるに至らなかった。

「貴様ッ…! “跪け”!」

「別に跪いても構わないけど―――このままだと、貴方の脳天に私の頭突きが来るけれど」

 そう。

 都城先輩は膝をついて、私を見上げているかのような体制になっている。

 そうなると、私がこのまま先程のような勢いで跪けば―――私の踵が落とされた脳天に、更に私の頭突きが飛んでくる事になる訳だ。

 まぁ、その後は―――都城先輩が気絶する可能性が高い訳だけど。

 私も怪我するけど、まぁ名誉の負傷よね。

「っ、“離れろ”!」

 そう言われると、私はバク転して元の位置まで戻り、そして斑雲の隣へと立つ。

「大丈夫か?」

「問題無いわ。スキルのお陰で動きの対処は出来たし」

 自分に迫りくる危機を視る事が出来る。それが私のスキル―――『攻来眼』。

 まぁ、危機を視る事が出来るなら、それを通して相手の動きを予測して動く事が出来るのは当然よね。

 あくまでも私の中での“当然”ではあるけれど。

 構えを直していると、その時には都城先輩は立ち上がっていた。

 憤怒の表情を顕にして、立ち上がっていた。

 うわ、顔凄い事になってる。

「伽髮千紘…! 偉大なるこの俺を殴るだけに飽き足らず、偉大なる俺の頭を踏み付けるとは…万死に値するぞ!」

「いや、そんな英雄王みたいな事を言われても困るのだけど。そもそも? 貴方が人の事を奴隷呼ばわりしたのが問題な訳だし。人権について習わなかったのかしら?」

「偉大なる俺を除く人間は全て、偉大なる俺の道具に過ぎん!」

「はぁ…呆れる程の傲慢さね。可愛そうにも思えてくるわ」

 やれやれ、と私は頭を抑えた。

 こんなに傲慢な人間、現実じゃあ生まれて初めて見たわ。英雄王の子孫か何かなのかしら?

 斑雲すらもが、『こいつは一体何を言っているんだ?』みたいな顔になってるんだから相当ね。

 さて…どうしたものかしら。

 この人と友達になるは少し難しいかしら?

 でも、13人全員と友達になる予定だし…

 まぁ、無理な時は生徒会を頼るけど。

 あれ? でも確か生徒会も此処に来てなかったかしら。

「ん?…チッ。癪ではあるが、この良いだろう。偉大なる俺が貴様達を見逃してやる。感謝するんだな」

「消え失せろ英雄王」

「なんつー文句だよ…」

 都城先輩は居なくなった。

 …まぁ、気にせず私達は進むとしましょうか。

 




どうにもならなさそうだな。
さてさて、どうしたもんかな。


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第四箱「素直に裁け」

事象からは誰も逃げられないよな。
銃弾は指を見たりで避けられるし、刀とかナイフも見切って避けられる。
でも、事象からはどうやっても逃げられねぇ。
事象、現象ほど理不尽なもんはないぜ。

じゃ、万象を操る奴が現れたなら、どうなるんだろうな?


罪有る者に裁きを

罪無き者にも裁きを

 

 皆さん、私は今、何をしていると思いますか?

 斑雲と一緒に歩いている? もしくは二手に分かれてる?

 正解はそのどちらでもありません。

 私は今―――殺人鬼を相手に、戦っています。

「全く…殺人鬼を相手にするなんて、世も末ね」

「殺人鬼を相手取る事が出来ている貴方も、可笑しいと思うけどね」

「伊達に《最強》と一緒に何十年も過ごしてないのよ。あの人、日常を守る為なら軍事兵器にも立ち向かうような人だもの。殺人鬼相手に臆してなんかいられないわ」

 左右から同時に振るわれる日本刀の一閃を、私は屈んで回避する。

 そして、頭突きをする勢いで彼の眼前にまで迫り、器用に彼が握り締めている柄を掴んで取り上げ、地面に投げ捨てて彼の心臓部へと掌底を放った。

 …筈だったんだけど、彼もまた私と同じように屈んでそれを回避し、私から大きく距離を取った。

 八頭因幡―――験体名《底無しの峡谷》。

 『表の六人』でも『裏の六人』でもない十三組。

 『間の十三人』――計画に協力的ではない、しかし勝手という訳でもない。

 個々が其々、正確な意思の元に動いている。それが、『間の十三人』。

「しかし…面妖よね。暗器に関しては、貴方のお友達が既に使っているんじゃないの?」

「形が使っているのはあくまでも戦闘スキルとしての暗器さ。俺が扱っているのは『異常』としての暗器だよ。」

「“暗器のスキル『完全暗器』”。体の彼方此方に武器を収納する事が出来るスキル、ね。しかも重量が増えないとなると…まぁ、完全な暗器っていうのも頷けるわね」

 何ともまぁ…やっぱり『異常』よね、スキルっていうのは。

 私のが凄いちっぽけに感じるんだもの。

 なんて、考えられる程に、状況は全く楽じゃない。

 日本刀に続き、今度は十文字槍ときた。全く、対処が面倒なのだけどね、槍は。

 私に向けられた槍の切っ先が、直様私の頬を掠めた。

 やっぱり鋭い。何より、彼の動きが速い。慣れてるのかしらね。

 でも―――対処が出来ないこともない。

 だって、結局は長棒に刃を付けただけの、ただの棒でしかないんだから。

 私は槍の中心を右腕で掴み、左拳を槍に叩き込み、粉々に破壊する。

 左拳が槍に当たった、その瞬間に力を入れる。そうすれば、あら不思議。

 槍が粉々になりました。

「今のは、何なんだ…?」

「あー、今のは『ストライク』だな。」

 私達が戦っているのを見守っている宗像先輩と、斑雲がそんな事を会話している。

 どうやら、宗像には私が何故槍を破壊出来たのか分からなかったらしい。

 うんまぁ、だろうね。だって本来なら物を壊す技じゃないし。

 

「ロシアの軍隊格闘術『システマ』。近代戦における様々な状況を想定した実戦的格闘術、その技の一つだ。拳以外は全て脱力した状態で、拳がものに当たるその瞬間に力を込める事で、強い一撃を放てるんだが…まぁ、普通なら物は壊せないんだけど、アイツは色々組み合わせてるからな」

 斑雲の言う通り、私は色々な技を組み合わせている。

 技、というよりは格闘術を組み合わせている、というのが正しいんだけど。

 システマ、截拳道、クラヴマガ、ウェイブ、影武流、合気道、八極拳。

 この七つの武術を、私は組み合わせて使っている。

 まぁ、見ての通り、私が持っている技や使っている技は、主に接近戦だ。

 人吉のサバットなどとは違い、接近戦の対処が主で、遠距離の対処はほぼ出来ないと言っても過言ではない。

「ふむ――なら、これならどうかな」

 槍を手放し、大きく距離を取って彼は二丁の拳銃を袖から取り出し、そして両腕に拳銃を握り締め、銃口を私に向けている。

 GLOCK17Lとコルトパイソンか…合わないわね。

 しかし、どうしたものかしら。

 私、さっき言った通り近接戦闘が主で遠距離は苦手なんだけど。

 …まぁ―――。

 どうにかなるでしょ。

 私は真っ直ぐ走る。

 ぱんぱん、と乾いた音が響き渡ると同時に、幾つもの弾丸が放たれる。

 小さく、しかし深く、私は息を吸う。

 脳裏に浮かぶのは―――『自分が弾丸に貫かれて死ぬ』という危機。

 それを視て、弾丸が肌に接触するギリギリまで、私はどう避けるかを考える。

 弾丸がどこに当たるのかは危機の中に含まれているから分かる。

 問題は、どう避ければ次の危機も回避出来るのか。

 …よし、決まった。

 私は『ウェイブ』を使って、左肩と左脚を後ろに下げるように動かして、本来左肩と左脚を貫く筈の弾丸を回避する。

 出来る限り、動きは最低限に留める。そうじゃないと、右がやられちゃうし。

 そうした瞬間に、今度は右腕と右脚を下げ、そこから回るように動いて右方向の弾丸を回避する。

 そして、そのまま真っ直ぐ駆け出す。

 放たれる弾丸を、出来る限り少ない動作で回避し続ける。

「っ、な」

「…」

「ウェイブの可変とシステマの流れるような動作の組み合わせか。なるほど、互いに殆どが似ている軍隊格闘術の組み合わせ。少ない動作での攻撃の回避に、これ程適したものはないな」

「解説、ありがとね。っと」

 もはや眼前にまで、私は近付いていた。

 拳銃を『ディザーム』で奪い取り、銃身を掴んで左右から短く、しかし素早い動作で振るい、グリップを頭に直撃させる。

 多分、脳震盪くらいは起きた筈よね。

 でも、許せない。

 私、肌に傷付けられた訳だもの―――乙女の肌に傷を付けたんだから、少しくらいは痛い目みてもらわないと。

 銃を手の中で回し、構えて引き金を引けば、ぱんぱん、とまた乾いた音が轟いて、弾丸が彼の両肩を貫く。

 痛みで少し顔が歪んだ八頭先輩。でも仕方ないよね、是非も無し。

 銃を分解してその場に捨て置き、蹌踉めいた彼の腹部に、ワンインチパンチを食らわせる。

 多少、内蔵は傷付けられた筈。

 八頭先輩はそのまま膝を付いて、私の前に跪く。

「どう? 女後輩でもやる時はやるのよ」

「っ…あぁ。全く、恐ろしい後輩を、持った、ものだ…」

「いやー、怖ぇな、俺の幼馴染は。そうは思わねぇか? 宗像センパイ」

「怖い、という所には同意するよ、九十神くん。黒神さん程じゃないにせよ、十分脅威だと思うよ」

「ま、そりゃ黒神と比べちまったらなぁ。アイツの『異常』、めっちゃ馬鹿げてるし」

「ちょっと斑雲。八頭先輩をそっちまで運ぶから手伝いなさい。私、犬より重たいものは持てないのよ」

「…こんなんでも非力の部類に当てはまるんだよなぁ」

 斑雲と一緒に八頭先輩を岩まで運び、私と斑雲は次の階まで―――降りていった。

 

 曰く、黒神さんは『改神モード』? なるものを身に着けたらしい。

 乱神モードを制御する事が出来るようになったのだと言う。

 凄い事じゃない? それ。斑雲、貴方も出来ないの?

「いやな? 簡単に言うけど結構難しいからな? そもそも『強神モード』の下位互換の『強人モード』すら手加減が難しいのに、どうしろってんだよ」

「どうにかしなさい」

「んな無茶な…」

 やれやれ、と言った感じで言う斑雲。

 やっぱり難しいものなのね、怒りを制御するというのは。

 私、あんまり怒った事がないから分からないけれど。

「あれが、九十神斑雲くんと伽髮千紘さんか」

「あぁ。黒神の『完成』よりも遥か上を行くスキル―――あらゆる全てにおいて最強のスキル『最強』を持つ九十神斑雲と、これまで普通でありながら『最強』に並び続けた伽髮千紘だ」

 へぇ…斑雲の最強性はスキルとして認識されるのね。

 “あらゆる全てにおいて最強のスキル『最強』グレイトフル”…ね。

 『完成』と『最強』…もうこの二人だけで良いんじゃないかしらね?

 そんな事を思っていた―――けれど、次の瞬間にはそれが消え失せていた。

 開いた扉の先には、惨状が広がっていた。

 『裏の6人』、『チーム負け犬』』、『間の十三人』、等しく全滅。

 壁に、磔にされていた。螺子で、磔にされていたのだ。

「相討ちで、こうなるものかしら…?」

 

『いや?』『相討ちじゃあ』『こうはならないよ』

 

 

 気持ち悪い。そんな感覚が、体を蝕んだ。こんな感覚、いつぶりかしらね。

 

『二十六人全員が磔にされている』『どんな異常を使っても』『自分で自分を倒す事は』『不可能だよ』

 

 

 白々しい声。明らかに、犯人は貴方でしょうに。

 

 

『これは明らかに』『第三者の仕業に違いない』『誰がどんな目的で』『こんな面白おかしい事をしたのか』『分からないけれど』

 

 

 嘘ばかり。嘘しか、その言葉には込められていなかった。

 

 

『おっと、』『勘違いしないでおくれ?』『僕が来た時には』『最初からこうなっていたんだ』『―――だから』

 

 

 手に握られた螺子。頬に、学ランに付いている血が全てを物語っていた。

 

 

『僕は悪くない。』『久しぶり、めだかちゃん』『僕だよ』

「くっ…球磨川…!」

 まぁ、随分と―――凄い人間が出てきたものだわ。というか“懐かしい”わね。

「なんでお前が此処に居るんだ? 禊」

「察しなさいよ。転入生でしょ、明らかに」

 でも、残念。私達、これが平常運転だから。

 他の人達みたいに怖がったりとか気味悪くしたりとかしないのよ。

『やぁ!』『千紘ちゃん』『斑雲ちゃん』『久しぶりだね』

「おう。昔と変わらず随分と派手だなお前」

「派手、なんて使っちゃダメでしょ。あの人は『過負荷』なんだから。そうでしょ?」

『アハハ』『嬉しいよ、千紘ちゃん』『君みたいな美少女に』『そう言ってもらえるなんて』

「そう。素直に受け取っておくわ。」

 え? なんで平気なのか?

 伊達に長年最強と一緒に居てないのよ。この程度、『普通』でしょ。

 




八頭因幡。『間の十三人』の一人で、《底無しの峡谷》と呼ばれてる殺人鬼だ。
スキルは完全暗記。服の隙間とかに武器を暗記させる事が出来るスキルだ。暗記させた武器に重さは無いから、体が重くなる事もねぇのが強みだぜ。
人識みてぇだろ?


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第五箱「生徒会選挙」

嘘も突き通せば真実だって言うよな。
思い込みってのは恐ろしいもんだって事でもある。真実を嘘と思い込めば真実は虚構、虚構を真実と思い込めば真実だ。
真実も虚構も本人次第ってのが、また面白い。
真実が真実とは限らないし、虚構が虚構とも限らねぇのにな。


僕は悪くない

だって、僕は悪くないんだから

 

 −十三組。

 それが球磨川くん達『過負荷』のクラスらしい。

 何でも、『新生徒会は』『僕らだよ』とか何とか…しかもその中には不知火が居るという。

「で? 何故に私達も参加する事になってるのかしら」

「関係者だからじゃねぇか?」

「…そう。正直、あまり納得はしてないけど…斑雲が戦うというなら、戦うわ」

「頼むぜ。じゃ、俺は行ってくるから」

「行ってらっしゃい」

 

 

「何故かは分からねぇが、こうして戦う事になっちまったな」

「らしいな。んで…アンタは誰なんだ? あ、俺は九十神斑雲だ。」

「供犠橘。−13組の担当だ。ま、スキルは『異常』なんだがな」

「へぇ。でも、生憎だが俺にスキルは効ねぇぞ?」

「あぁ。普通のスキルならな。だが―――

 

 

俺のスキルは、あの人から貰った特別製だよ

 

 

 バギッ―――と、橘の拳が、斑雲の顔面に打ち込まれた。

 それに、誰もが驚いた。

 驚愕した。絶句した。唖然とした。呆然とした。

 今まで、誰一人として傷を負えられなかった《最強》が。

 今まで、誰一人として勝てなかった《最強》が。

 殴られた。傷を付けられた。フィジカルで、スキルで、敗けた。

 訳が分からない。ただそれだけが、頭の中に浮かんでいた。

 何故、殴られた? 何故、傷を負った?

 あらゆる全てにおいて最強である筈の自分が、何故、吹き飛ばされた?

「訳が分からないって顔だな。まぁ、無理もないっちゃないが…でも、残念ながら現実だよ。俺のスキルは、ありとあらゆるものとありとあらゆる事象を操る。即ち、万物万象を操る事が出来るスキル。名を―――『必終架繆(エンドコントロール)』。」

 万物万象を操るスキル『必終架繆』エンドコントロール。

 なんて出鱈目なスキルだ。それこそ、めだかの『完成』よりも恐ろしいものではないか。

 万物万象―――それには、スキルすらも含まれる。『スキル発動の停止』、『スキルの無効化』という事象を操れば、もうそれだけで彼の勝利になる。

 この世の全てを操る事が出来るそのスキルこそ、あらゆるスキルの天敵…!

 

「万物万象を、操る、だと…?」

「あぁ。『お前に攻撃を与えられる』という事象を発生させただけの事だ。確かに今のお前も向こうと同じで『最強』だが、しかし無敗でもなければ無敵でもない。これは所謂“修行”だ。あの人の為の、お前の為のな」

 斑雲には分からない。

 相手が何を言っているのか。向こうのお前とはなんだ。

 九十神斑雲という存在は、まだ居るのか。

 だが、そんな事はどうでも良い。

 これは戦いだ。

「――」

 髪が伸びる。気迫が増す。圧力が強くなる。

 怒気をはらんだその姿こそ―――『強人モード』。

 相手より強く在らねばならない。相手が強いならば、それよりも強くなれば良い。

 それすら操るのが相手であろうと、それすら操られぬ程に強くなる。

 そうすれば、勝てる。

 簡単なことではないだろう。だが、可能性はある。十分に、可能性がある。

「じゃ、よろしく頼むぜ、供儀師匠―――!」

「あぁ。よろしくしてやるよ、脳筋弟子」

 轟ッッ!!!

 凄まじい勢いで踏み込み、橘へと猪突猛進の如く斑雲は突っ込んだ。

 ビキビキッッッ!!! と地面に亀裂が走り、斑雲が踏み込んだその地が抉れる。

 腕を振り上げる。ただそれだけの動作で、ソニックムーブに匹敵する衝撃が発生し、その空間に亀裂を作り出す。

 

 

 もはや、拳は眼前にまで迫っていた。

 だが、橘は動じない。冷や汗一つかく事なく、そこに立っている。

「確かに、お前の力は文字通り『強力』だが―――まだ、完了には至っていない」

 拳は、橘に当たらなかった。

 当たるその寸前に、橘は体を右に動かして、直撃してしまえば即死するであろう最強の一撃を躱し、彼の腹部に膝蹴りを食らわせる。

 だが、斑雲は吹き飛ばされなかった。痛みこそ伝わってきたけれど、しかし先程のように吹き飛ばされはしなかった。

(なるほど…もう耐性がついてきたか。速いな)

 橘は内心、『進化』に時間は掛からなさそうだ、と確信する。

 斑雲は動じない。痛みが伝わってこようと、それを無視して次の攻撃へと行動する。

 ギリギリと、まるで弓弦を引いているかのような音と共に握り締められた左拳が、既に攻撃の準備を済ませていた。

 だが―――攻撃の準備を済ませているのは、斑雲だけではなかった。

 膝蹴りを食らった斑雲の腹部には、黒い鉄の塊が突き付けられていた。

 ソードオフショットガン―――零距離からの、散弾銃。

 バァンッッッ!!!!! と、大きな火花と共に、威力の高い弾丸が、散る事なく収束して最強の腹部に放たれる。

 弾丸は、貫通しなかったけれど、しかしその肉体に大きな傷を作り上げた。

 が―――最強は、気にも留めない。

「―――」

「零距離射撃にも耐えるか《最強》…!」

 ゴッッッ!!!!!!! と、爆風とも言える衝撃と最強の一撃が、橘の全身を迸る。

 右脳に放たれたその一撃によって、頭蓋骨は破壊され、その脳味噌もまた粉々にされた。

 だが、その事象は『必終架繆』により『無かった事』にされ、斑雲の攻撃は無効化される。

 だが、その程度でどうにかなるものでは、なくなっていた。

 右脚から繰り出された足刀が、橘を切り裂く―――

 

 

 

 ならば、どれほど良かった事だろうか。

 

 

―――

      \―――

 切り裂かれたのは、千紘の方だった。

 

 

「よぉ、伽髮。二度目だな。こうやって合うのは。どうだ? 《最強》の足刀を食らった気分は」

「痛みすら感じなかった? まぁ、だろうな。一応、お前の体は凡人な訳だから、アイツの攻撃力に耐えられる訳がねぇんだよな。わかってたし知ってたし理解してた。予想も予測も予知も、あまりにも簡単だったよ。」

「原作で言う所の、アイツが日之影で、供犠が蛾々丸、お前がめだかって訳だな。『不慮の事故(エンカウンター)』よりも面倒なスキルだがな、『必終架繆(エンドコントロール)』は。ん? あまりにも無理ゲー過ぎるって? なーに馬鹿げた事言ってんだお前は。」

「アイツを相手にしてる供犠が一番言いたい事だろうよ。今のアイツがどうなってるか分かるか? ま、分からねぇだろうから教えてやるよ。」

「今のアイツはな、新たな進化を迎えた状態だ。お前の二度目の死を切掛に、自分の弱さを自覚して、歩み始めた訳だ。どういう事か分からないか?」

「『発信(アクティブ)』を『完成(ジ・エンド)』によって習得し、憤怒の制御を完了させて、乱神モードを自我があるまま発動する『改神モード』のように、アイツは自分を制御して、先に進んでいる。」

「“今の自分の強さを『弱さ』と認識して改善し、今の強さを消して新たな強さを手に入れ、更に先へと進む”という、アイツの前向きな性格が力として顕となった常時進化系、強化進行系の形態――――――言うなれば、『正神(こうしん)モード』。」

「どうせ忘れるだろうから言うが、お前が『攻来眼』を手に入れたように、人吉も“相手の視界を覗くスキル『欲視力』パラサイトシーイング”というスキルを手に入れる。そして、それが最終的には『自分の限界を覗くスキル』へと喰い改められる。」

「“スキルを喰い改めるスキル『正喰者』リアルイーター”。全く、つくづく善袖はてぇてぇぜ。イラスト少ねぇんだがな。百合も悪くねぇよ? お前と不知火の絡みは見てて面白いからな。うーん…ちーそで? 語呂悪いな、うん。って、それは置いといてだな」

「重要なのは、お前にはどうしようも出来ないって事なんだわ。なんでって、だって俺お前にもうスキル渡してるし。人吉をリスペクトしてるんだから、スキル三つにするのはな? え、二つじゃないのかって? いや、三つだよ。お前はスキルを三つ手にする事になる。『攻来眼』、『得■■』、『■■憲』。それに、今回のは事故にも等しく死んだからな。ほら、さっさと甦れ。」

 

「まぁ、帰る頃にはお前のスキルは喰い改められてるんだがな」

 

 

 自分に迫り来る危機を視るスキル『攻来眼』―――スキルを喰い改めるスキル『正喰者』リアルイーター。

 

 喰い改められたスキルの名を、“自分の強さの先を視るスキル『凌眼』ペリスコープ”。

 副産物―――正神モード千紘モデル。




じゃ、今回は供犠橘と必終架繆についてだ。
供犠橘。俺の《■平等》に所属する人間で、なじみ風に言うならば俺の『部品』の一つだ。
そんな供儀に与えたスキルは、万物万象を操るスキル『必終架繆』エンドコントロールだ。
まぁ、能力は説明通り、あらゆる物体とあらゆる事象を操る事が出来るってもんだよ。チートにも程があるだろうが、《最強》を相手にするならこんくらいじゃねぇと。な?


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第六箱「頑固に諦めろ」

        【登場人物追加】
全智一皆(ぜんち・いちみな)――――――人外。
安心院なじみ(あじむ・なじみ)――――――人外。
不知火半纏(しらぬい・はんてん)――――――人外。

貮梁釖鐡(ふたな・とうてつ)――――――刀剣使い。
金城金銭(かなぎ・きんせん)――――――超舌使い。
火気弾道(かき・だんどう)――――――銃器使い。

白鳥鴉(しらとり・からす)――――――造語使い。
黒鳥鳶(くろとり・とんび)――――――言語使い。

不知火半逆(しらぬい・はんぎゃく)――――――ただ進むだけの人外。



勇気を持って行進

 

 黒神さんみたいな髪色、黒神さんみたいな瞳、黒神さんみたいな雰囲気を纏った斑雲が、膝を着いている供犠橘先生の前に、仁王立ちで立っていた。

「えっと…これ、どういう状況かしら?」

「と、伽髮! お前、生きてたのか!?」

「いや、多分死んだわ。でも、生き返ったといった所かしらね。それで? 今のこれはどういう状況なの? 私、斑雲のあんな姿、見たこと無いんだけど」

 斑雲と何十年と一緒に居た私ですら見たことがない姿。

 見た目が完全に黒神さんなのよね。一体、どういう事なのしら?

 髪色も、瞳眼も、雰囲気も、気迫も、何もかもが黒神めだかという一人の人間と全く同じ。

 私は、その場を見ている全員に、今がどういう状況なのかを問う。

 すると、名瀬先輩が解説を始めてくれた。

「お前が死んだ後、九十神は《強人モード》から《強神モード》に切り替わって蹂躙を始めたよ。あまりにも恐ろしくて、あまりにも強過ぎて、全員が全員、戦慄しちまったよ。でもな、それは突然終わった。供犠橘先生が放った一言で、蹂躙は終焉を迎えた。

「『その強さこそが、伽髮を殺すお前の弱さだ』。九十神斑雲という最強性が、伽髮千紘を殺してしまう最弱性。九十神斑雲が最強だから、九十神斑雲が強過ぎるから、伽髮千紘が死んでしまう。伽髮千紘が殺されてしまう。九十神の強さってのは、伽髮を殺す毒だ。九十神斑雲は最強であると同時に最弱であると。

「それを聞いた斑雲がどうしたか?―――馬鹿げた事を言いやがったよ。根本的な所が何も解決してねぇのに、解決するつもりなんだろうよ。

「アイツは今の自分の強さを『弱さ』と認識した。そして―――自分の力で、それを『改善』したんだよ。今の強さを消し去って、新たな強さを手に入れてた。だが、それだけに留まらず、ああやって戦ってる今もアイツは強くなっている。更に先の道を進んでやがる!

「あまりにも馬鹿げていて、呆れる程の脳筋だ。今の強さが弱さに繋がるならば、その強さを捨てて弱さに繋がらない強さを手に入れる、なんて巫山戯た暴論、阿呆らしい無理やりポジティブで、黒神の『改神モード』を超越する位置にまで走りやがったんだ。

「名付けるならば『正神モード』! 常時進化系状態、進化進行形形態。強さを更新し続けるそのモードを手にした九十神は、この場に居る誰よりも、否、この世界の誰よりも強い!」

 正神モード―――強さを更新し続ける常時進化系状態、進化進行形形態。

 知ることは出来たけど―――それよりも、私は自分が嫌になった。

 斑雲にとって、私は弱点だったって事だ。

 《最強》の隣に立ち続けている事が出来ている。そう、思っていた。

 でも、違ったんだ。私は、斑雲を弱くしていた。斑雲の隣に、立っては居なかった。

 私こそが、斑雲の弱点で、斑雲の弱さの象徴だったんだ。

 私が斑雲に並ぶ事が出来たなら。

 斑雲の強さに、追い付けたならば…

 でも、それは絶対に無理な事だと、世界は告げている。

「勝者、九十神斑雲。ま、そりゃ勝つわな」

「…え?」

 ここで、突如として視点は奪われた。

 勝負は終わった。勝負に問題は無かった。

 だが、勝負の終わりを宣言したその人間にこそ、問題があったのだ。

 金髪緑眼の青年。

 首にぶら下げたヘッドホン。

 箱庭学園生徒会の黒い制服。

 彼女が夢の中で出会った存在。

 …あれ? なんか天の視点で話してたんだけど。

「“視点を変えるスキル『責任転観』チェンジワールド”。まぁ、こういう世界じゃないと使えないんだがな。っと、はじめまして、もしくは久しぶり。」

「…えっと、私は知らないのだけど…」

「俺も…」

「だろうね。記憶消してるんだし、そりゃそうさ。」

 その人は笑う。

 へらへらと、球磨川くんとは違う笑みを浮かべて、笑っている。

「全智一皆。それが俺の名前だ。」

「全智、一皆…」

「そう。全能の全に智慧の智、一体の一に皆無の皆で、全智一皆だ。」

「…終わったぜ」

 そんな自己紹介を終えたら、斑雲が帰ってきた。

 制服はボロボロで、肌も傷付いていて、髪すら傷んでいる。

 …これも、私の所為なんだと思うと、やはり苦しくなってくる。

 胸が痛む。心に、傷が付いた。

 私は、斑雲を見る事が出来なかった。

 でも、それは私だけじゃなかった。斑雲も、私を見る事が出来ていなかった。

「ごめん」

 私と斑雲は、揃ってそんな言葉を吐いた。謝罪を、口にした。

 初めての、すれ違い。

 斑雲は、私を通り過ぎて歩いて行った。

 私は、私を通り過ぎる斑雲の姿を見ずに、ただ立ち尽くしているだけだった。

 私の所為で、斑雲を困らせてしまった。私はそれを後悔している。

 斑雲は、自分の所為で私が殺されてしまったと、後悔している。

 あぁ…私は、なんて。

「諦めるか? アイツの隣に立つのをよ」

 ニヤリ、と笑みを浮かべながら、彼は私に聞いてくる。

 でも、きっとそれは私だけではなかった。

 まだ遠く離れていない斑雲にも、きっとその言葉を掛けていた。

 …答えは、決まっている。

 

「―――嫌だ。私は、斑雲の隣に立ちたい。これからも、ずっと一緒に居たい」

「んー、予想通りの答えだ。これだから幼馴染の絡みってのは微笑ましいぜ。オッケー、じゃ、ちょっくらなじみ達より早く訓練始めちまうか」

「訓練?」

「そう、訓練。そうさな…彼奴等がやったのが『凶化合宿』なら―――『合宿賢収』だな」

 そう言って―――

 

 彼は、世界を変えた。

 

「“並行世界を作り出すスキル『並行並走』トラップラップ”。思えば、こうやって読者が見る物語の中で使ったのは初めてじゃねぇか? なんて、言った所で意味なんざねぇんだがな。ま、それはそれとして、だ。

「いいか、伽髮? これから俺はお前に色んなスキルを放つ。もうお前に“自分に迫りくる危機を視るスキル『攻来眼』アタックアイズ”は無い。不知火の『正喰者』によって喰い改められたそのスキルは、“自分の強さの先を視るスキル“凌眼”テレスコープ”に改められてる。

「自分に迫りくる危機を見れなくなったお前に、攻撃の回避や防御を難しいだろうが―――んな事、俺は知ったこっちゃ無い。お前がそれで死のうが死にかけようが、俺はガン無視してお前にスキルを使い続ける。

「主に刀剣系スキルと銃火器系スキルと格闘系スキルとオリジナルスキルを使っていくからな。

「つか、そういう時こそ『凌眼』が使えるんだよ。さっき言った事覚えてるか? 忘れてねぇよな?

「そう。“自分の強さの先を視るスキル”だ。“今の”自分が強さの先を視れば、今の自分がどうすれば今から“先の”自分みたいな強さを手に入れたのかが無意識に分かる。なんたって結局は自分だからな。

「その時に自分が行いそうなものを予測して行動する。それが間違った選択であろうと、必ず前には進んでいる。間違ったとしても、後退する訳じゃないんだからな。

「ま、んな訳だから頑張れよ。多少の応援すらしてやれねぇけどな」

 そう言って―――彼は、私の眼前にまで迫ってきた。

 右手に握られているのは日本刀。左手に握られているのは拳銃。

 刃は既に私の首筋に触れていた。銃口は既に私の鼻先に向けられていた。引き金には指が掛けられていた。

 が―――。そうであろうとも。

 接近戦なら、問題無い。 

 私は右脚を地面から離し、左に重心を寄せて、本来ならば私の首を横から切り裂いただろう一閃を、肌を掠める程度のものに抑え込み、支えである右脚を回れ右して体の体制を変え、放たれた弾丸を回避する。

 “一皆”が驚いた。どうやら、未来予知のスキルは使っていなかったらしい。

 私は一皆の襟を掴み取り、自分ごと地面へと引き摺り込もうとした。

「さながら崖落ち心中か。残念ながら、俺は心中なんざしたかねぇんだよ」

 ザシュ―――と、刃が私の頬を切り裂いた。

 ドンッ―――と、弾丸が私の横腹を貫通した。

 避けた筈なのに、斬撃が与えられた。躱した筈なのに、弾丸が貫いた。

 “一振りで二回切るスキル『二重走』ツインランナー”、“当たり判定操作のスキル『任意的な審判』セルフィッシュアンパイア”―――一閃二傷の、一弾直撃の、業。

 でも、私は手を離さなかった。掴んだ襟を、決して離さなかった。

 しかし、一皆は倒れなかった。引き摺り込めなかった。

 一皆は、その場に体が“固定”されていたのだ。それこそ、樹の根っこのように。

「んじゃ―――どうにかしてみろよ?」

 ボンッ!!!! と、私の頬に付けられた切り傷が爆ぜる。

 それと同時に、首筋を掠った傷口が開いて―――そして、首全体に、増殖し始めている。

 “斬ったら爆発するスキル『大爆傷』ダイナマイトスマイル”、“刀傷が自動増殖するスキル『創傷』ライフスカーズ”。

 なんて、無理ゲー。でも、死なない。

 私は今も、生きている。本来なら死んでいる筈なのにも関わらず、まだ生きている。

 どうして生きているのか、なんて考える事は出来ない。

 そんな事をしている間にも、一皆は私にスキルを放ってくるのは明確だ。

 だから―――私は、動じない。怯えない。恐れない。

「うっそだろお前マジかよ。」

 知るか。

 私は離さない。寧ろ、固定された一皆を利用して離れた両足を地面に戻し、そのまま首を掴んで、肩甲骨を回して“波”を伝える。

 ウェイブ―――『可変』という肩甲骨を回す技術を以て相手の体や自身の体に波を伝える。

 マスターともなれば握手だけで首にまで波を浸透させ、首を折る事の出来る暗殺術。

 ゴキッ、と骨が折れる音がなにもない真っ白な空間に響き渡る。

 ―――にも、関わらず。

「近接戦対処の方法がやべぇよ、お前。いや、善吉も大概だがよ」

 彼は、普通に喋りやがった。

「…なんで喋れてるのかしら?」

「人外だから―――以上だ!」

 日本刀も拳銃も消え失せ、また首も元通りに治っている。相変わらず無茶苦茶だ。

 途端、私は自分の体重が無くなったかのような感覚に陥った。

 いや、陥った、ではなく、実際に体重が“無くなった”。より正確に言えば、“散った”というのが正しいのだろう。

 それが、一種の隙に繋がった。

 一皆は私の腹部に膝蹴りを食らわせ、そして体重が散って軽くなった私は、まるで蹴られたペットボトルのように宙に舞う。

 でも、それのみでは終わらなかった。

 一皆は空間を蹴って、宙に浮いた私の眼前にまで迫って、私の額に一撃、私の腹部に一撃、私の肩に一撃、を何度も繰り返した。

 殴られる度に、五感が無くなっていった。しかしその度に、私の体はそれに慣れていった。

 でも、その度に激痛が迸っていく。

 殴られる度に使われるスキル。五感を奪うスキル、打撃を浸透させるスキル、肉体を最適化するスキル、神経強化のスキル、乱れ撃ちのスキル、急所を突くスキル。

 様々なスキルが使われようとも、しかし私は死ななかった。

 最適化した肉体を以てカウンターを仕掛けようとしても、“敵を見切るスキル『朧蔑視』アイコード”によって見切られて躱される。

 …しかし、そうされる程に、自分がイメージされてくる。

 より洗礼されている自分が、次々と視えてくる。

 視えてくる度に―――“スキルに対応出来る”ようになってきた。

「良くなってきたじゃねぇか。いや、馴染んできたの方が正しいか? 人吉よりも早く扱いこなせるかもしれねぇな」

「どういう事?」

「あ? 気付いてねぇのか? お前―――『正神モード』に成ってんだぜ?」

 ほら、と一皆が鏡を出現させて、それを私に向ける。

 私の目に写るのは―――白色の髪が青色の髪になっていて、銀色の瞳が水色の瞳になっている、随分と変わった私自身だった。

 斑雲と同じ姿。常時進化系状態、進化進行形状態―――『正神モード』。

「ま、お前の場合は常時進化系でも進化進行形でもなく、敗北進化系、死亡進化系だがな。」

「フロムゲーくさいわね」

「だってお前は主人公だからな。ま、ぽっと出だけど。でもオリキャラなんてそんなものだから仕方ないわな。じゃ、続けていくぞ」

 再び、右手に刀、左手に銃を握り締め、一皆は接近してくる。

 敗北進化系、努力進行形。それが、私の、伽髮千紘バージョンの、『正神モード』。

 

 “先に行動するスキル『先攻闘志』影を斬るスキル『戦影の尻尾切り』シャドウアウト肉を気切らずに骨を断つスキル『裁人の手技』ボーントゥビーミート命中のスキル『狙数増』ゲットターゲット一振りで二回斬るスキル『二重走』ツインランナー斬ったら爆発するスキル『大爆傷』ダイナマイトスマイル追加攻撃のスキル『二の腕三の剣』アドホックアタック居合のスキル『健脚の抜き足』レッグウォーカー刀が曲がるスキル『ひねくれ者』トリックソード刀を遠隔操作スキル『想査剣』リモートライト刀傷が自動増殖するスキル『創傷』ライフスカーズ刀と同化するスキル『死なば諸共』デッドオアアイラブユー絶対斬のスキル『これっきりの厄足』リミテッドフット刃の長さを変えるスキル『八刀身』ヘッドエッジどんな刀でも妖刀にするスキル『正恣意妖刀』ゴーストカッター曲斬りのスキル『舞踊剣』ソードソング原子を斬るスキル『骨盤号』アトミックナンバー刀を盾にするスキル『腰のものを盾にする』フォーガード斬った相手を酔わせるスキル『酔剣』ハードブレイクショット残像剣のスキル『分刀身の術』ゴーストブレード三回斬れば対象のスキルを封じるスキル『三度目の消自棄』ハードフルカウントかすり傷が致命傷になるスキル『悪化傷』クリティカルキット武器を消すスキル『滅を背負う』レイピアデストピア刀身を見えなくするスキル『隠身不通』ロストブレードどんな物体でも剣化するスキル『剣化両成胚』ノットセレクション剣の重量が自在のスキル『剣思足帝』ウェイトレストラン滅多切りのスキル『定滅多標的』メタジャンクション刀が悲鳴を上げるスキル『とろけた慟哭』レッドアイスクリーム刀が成長するスキル『聖挑戦』セイントアップ勝って兜の緒を切断』アマチュアアーマー斬ったダメージが対象の愛する者に飛ぶスキル『愛の大掌』モストラブ全方位同時斬撃のスキル『多手多様』アロットオブハンド斬らずに斬るスキル『無病死』ノーモーション剣速のスキル『足度違反』ハイファイスピード銃火器精製のスキル『失敗ばかりの銃作り』ガンスミステイク早抜きのスキル『名門構え』ファーストクラスガンマン早撃ちのスキル『控え目にも止まらない』ムービングショット弾避けのスキル『出来合い避け』ドゥトドッジ流れ弾のスキル『流れる弾は当たらず』ギルティストリーマー当たり判定操作のスキル『任意的な審判』セルフィッシュアンパイア防弾無効化のスキル『護防抜き』クリニカルパス銃弾無効化のスキル『火器厳禁』プロフェッショナルヒビット射程距離無限のスキル『地球一周弾丸旅行』ワールドグローブツアー引き金を引かせるスキル『平和の引き金』トリガーピース残弾数確認のスキル『次が最後の六発目』ファイナルシックスセンス弾丸が貫通しないスキル『滞内停弾』ボディシェル対物銃のスキル『生物透過率』リビングスルー遮蔽物無視のスキル『静物透過率』ダイイングスルー水鉄砲のスキル『水圧遊び』ウォーターバレット銃強奪のスキル『無銃鳥』ロビングバードガス銃のスキル『清々しい火遊び』フレッシュリングエリアルジャム誘発のスキル『鉄の練りもの混ざりもの』アイアンストロベリージャム横撃ちのスキル『横々にして横暴』ワンサイドホライゾン撃った相手を奴隷化するスキル『銃順なる銃僕』バレットスレイヴ空から弾丸を降らせるスキル『弾が降ろうと銃が降ろうと』ウェザーガン弾丸補充のスキル『弾爪の麗人』レディギタリスト”

 

 …いくらなんでも、無理ゲーだ。

 

「……えっと、貴方達は誰?」

 グラウンドに倒れ伏していた私は体を起こし、そして目の前に立っている二人の男子と一人の女子に、誰なのか聞いた。

「貮梁釖鐡。一皆さんからの命令で、お前の相手をする事になった。」

「金城金銭。釖鐡と同じく、一皆さんからのお願いで貴方の相手をするよ」

「火気弾道だ。以下同文」

「そう。なら、よろしくお願いするわ」

 “刀剣を扱えるスキル『一気刀戦』ブレイドマイスター”、《刀争剣葬」貮梁釖鐡。

 “言葉巧みに操るスキル『超舌』スタイリッシュスタイル”、《超舌使い》金城金銭。

 “銃を精製するスキル『銃々承知』ガンコレクター”、“弾丸を作り出すスキル『大弾装』レッツバレット”の二つを持つ《大銃装束》火気弾道。

 まさか《善平等》で主な活動をしてる三人が出てくるとはね。

 構えを取って、私は彼らに敵意を向ける。

 

 そこから先は、やっぱり覚えていない。




楽しくなってきたぜってな?
今回、紹介するスキルは“自分の強さの先を視るスキル『凌眼』テレスコープ”だ。
自分の今の強さの先、最終的に自分が行き着く強さとしての終着点を視て、経験とか過程を飛び越えて魂にその終着点を刻むってスキルだ。
欲視力を全吉モデルへの踏み台にしたみたいな感じだな。


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7話

ストックが無くなった。
次回は長くなるかもだが、まぁ堪忍してくれや。


第七箱「素直に負けを否定しろ」

 

意志は曲げないし、他の意思に負けもしない

 

 何か戻ってきたら色々終わってたんですけど。

 黒神さんが球磨川くんに勝利して、それでいて球磨川くんを生徒会副会長に任命。

 それでいて、球磨川くんの『却本作り』で封印されていた安心院なじみさんと不知火半纏さんが復活して、箱庭学園に現れたらしい。

 何なら一皆も現れていた。

「…えっと、その、なんだ」

「なによ、いつになくぎこちないわね」

「いや、そりゃ…ぎこちなくも、なるだろ。なんでお前はいつも通りに戻ってんだよ」

「だって、いつまでも挫けてたって仕方ないじゃない。それに、ようやく貴方に近付きつつあるんだし」

 私のその言葉に、斑雲が目を見開いて驚愕した。久々ね、驚いた表情を見るの。

 でも、事実なのよね。私が斑雲に近付いているのは。近付けるようになってきているのは、確かな事だもの。

 『凌眼』というスキル、一皆含む《善平等》の人達の協力もあって、私も結構戦えるようになった。

 それこそ、人吉をボコボコに出来る程度に。リハビリということで一戦交えた結果である。

「お前が、俺と…?」

「少しずつ、ね。貴方の隣にちゃんと並べるようになってきてるから」

「…」

「お互い、頑張りましょう。これまでより、私は頑張るわ。貴方の強さになれるように、貴方が私の弱さにならない為に。」

 今は、これで良い。

 

 ちゃんとした仲直りは、まだ、良い。今はまだ、そうするべきじゃないから。

 お互いに、今はこれで良いと納得する。

「えー? それで本当に良いのかな?」

 そんな私達の間に、いきなり入り込んで来た人間が、一人。

 殴り飛ばすぞオイ。

「そんなに怒らないでくれよ、怖くてガタガタと膝が震えそうだ。まぁ、“嘘”だけど。実際は震えてもいないし怖いとも思ってないよ。“嘗めてる”人間が“俺”に対してどんな事をしようがどんな事を言おうが別に気にする必要も無いし。しかしまぁ、随分と都合が良い王道青春ラブコメ漫画みたいな展開に甘えているみたいじゃないか、うん? “莫迦”みたいだね、実に滑稽だ。あまりにも滑稽が過ぎて笑いの“ツボ”がどん底にまで落っこちってしまったようだよ。おっと、嗤ってくれよ? これもまた“人間という善性と悪性を両立させている尊き存在”が開発して人々を笑顔にさせる『冗談』の一つなんだ。

「常套句ならぬ冗套句、なんつってね。え、スベッてるって? 違う違う、“総べってる”んだよ。あーあー、“きーこーえーなーい”。今の“僕”には何一つとして聞こえないよ。君たちの言葉は一切“私”には届かないし聴こえないんだよね。関係無い話しなんだけどさ、一説によれば人間は他者の心どころか自分の内心すら完全に理解する事は出来ていなくて、自分を見つめ直す事なんてのは不可能であるらしい。例えそれが読心が出来るさとりのような人であろうとね。でも、そんなのは結局の所、ただの“一説”だし何なら“持論”なんだよね。関係とか言っちゃったけど、でも関係無い“からこそ”関係があるって言えるんだよね、全く言葉ってのは面白い。まぁ、こんなのは所詮、ただ一人のお喋りが語るだけの“戯言”に過ぎないんだけどさ。全く、世の中“傑作”だらけだぜ。

「まぁ? だからなんだって話しなんだけどさ。“無駄話”ってのは花を咲かせないと意味が無い。君たちの声なんて聞こえてないし、何なら今“動く事が出来無い”んだから、これは“独り言”にも等しいものだ。“動くな”、そう命令したのは俺だけどね。でもそれこそ、こんな長話こそ、無駄話の頂点とも言えるんだろうけどね。あー、“自分語り”してなかったね、ごめんごめん。」

「“括弧”変えるけど、まぁ許してよ。あー、俺、もしくは私、もしくは僕、もしくは妾、もしくは我の名前は黒鳥鳶。くろとり、とんび。そうだねー、『鶴喰』の分家って言うか、遠い親戚って言うか。まぁまだ“設定”があやふやなんだよね。“言葉を使う言葉”こと『言語使い』の持ち主でさ、この通り舌に『言』が刻まれてるんだ。しかしそんな事はどうでもよくてさ。

「問題は、私が此処に居ることだ。ちょっと早い登場で、本来ならばこの場には居ないし、この世界には“存在していない”存在なんだけども、まぁ―――『だからこそ』存在していると言えるんだろうね。でもまぁ、互いに本来なら居ない存在である同士、よろしく仲良くしていこうじゃないか、僕“達”の天敵達」

“言葉を使う言葉”―――『言語使い』。

 鶴喰、という名前に聞き覚えは無い。黒鳥という名前にも、聞き覚えは無い。

 だが、『言葉』という単語には聞き覚えがある。

 一皆が語っていた事を、思い出す。

『異常性でも過負荷でもない、新たな戦闘スタイル。それこそが《言葉使い》だ。漢字とか誤変換など、文字通り《言葉》を武器とする奴らでな。めだかの分家の頭首がそれぞれ違った言葉使いだ。多分、いつか戦うんじゃねぇかな。ちなみに開発者は鶴喰梟っつー悪人な? いやまぁ、俺からすりゃただのシスコンなんだがな?』

 言葉を使って戦うスタイル。現実干渉非現実能力―――『スタイル』。

 彼は、それを『使う』スタイル。

 存在する全てのスタイルを、使う事が出来るスタイル。

「『私語使い』、『虚言使い』、『駄弁使い』、『誤変換使い』、『罵倒使い』、『挑発使い』、『言説使い』、『逆説使い』、『善説使い』、『悪説使い』、『持論使い』、『冗談使い』、『六形使い』、『戯言使い』―――『造語使い』。今さっき我が扱ったスタイルだ。ちなみに、半分が妾の相方である白鳥鴉が作り出したスタイルだ。『造語使い』、スタイルを作るスタイル。スキルを作るスタイルがあるなら当然だな。」

 舌を出しながら、彼は棒立ちしている私達にそんな事を言ってくる。

 だが、私達は反応しない。いや、反応が出来ない。

 『六形使い』―――もとい、『命令形使い』。命令形の言葉で相手に命令する事が出来るスタイル。

 故に私達は、動けない。動くなと、命令されてしまったから。

「嘗めてるかどうかは知らねぇが、敢えて言っとく。嘗めてんじゃねぇぞ、《最強》。テメェがメアリー・スーを体現したような人間だろうがなんだろうが、んな事は関係無ぇんだ。ぽっと出であろうと、俺たちは俺たちだ。『与えられた』言葉を使いに使って、お前を倒してやるよ」

「…いや、突然現れて何言ってんだよ」

 斑雲は、口を開いた。

 スタイルによって喋る事も動く事も出来ない筈だったにも関わらず、口を開いて、体を動かして、彼へと進む。

「嘗めてるとか嘗めるなとか…好き勝手言いやがって。いきなり現れて、いきなり訳の分からない事ばかり言ってきて。しかも、俺と千紘の会話に勝手に入り込んで―――俺と千紘の、覚悟に入り込んで、何がしたいんだ。

「黒神と人吉は仲間割れみたいになっちまっうし、安心院とか一皆とかいう訳の分からん奴らも現れるし。何より―――俺も千紘も、ギクシャクしちまうし。いや、これに関しちゃ俺…って言うと怒られちまうから、俺と千紘の問題だから、こうするのは間違ってるんだろうがな。でも、その会話にお前は入り込みやがった。俺たちの会話に、テメェは土足で踏み込みやがった。

「俺は黒神と違ってよ、スキルのコピーなんざ出来ない。俺に出来るのは、ただ殴る蹴るだけだ。それ以上の事は出来ない。つーか、これからやるのは半分八つ当たりだ。だが、それでも俺は日常を守る人間だ。お前のこれからの日常を考慮して、この学園の生徒達の日常を考慮して、俺と千紘の日常を考慮して、手加減に手加減を重ねて細かい工夫を加えながら抜かりなく手を抜いて戦ってやる。」

 

 斑雲は変わらない。どんな事が起きようと、変わらない。

 

「黒神めだかが何故、人吉善吉に執着しているのか。それは黒神にとって善吉が珍しいから。『異常』である黒神からすりゃ、『普通』でありながら必死に黒神に並び立とうとする人吉が物珍しいんだ。だからこそ、信頼してるんだ。そして、なじみはそれを利用して、善吉と黒神を対立させた。黒神の周りを『普通』で囲めば、善吉は物珍しくも何とも無い。だから見捨てられた。では、伽髮千紘と九十神斑雲の関係性は何なのか? どうすれば対立するのか?

「答えは、残念ながら簡単だ。“絶対に対立しない”。こればっかりはどうしようもないんだわ。

「だって、そもそも斑雲は伽髮を物珍しいとか思ってないし、伽髮もまた斑雲を珍しいとも思ってないんだから。斑雲は伽髮千紘という存在の隣に立ち続けたいと思っているし、例え伽髮が前に進んだとしても斑雲はそれを見届けると決めている。それは伽髮も同じだ。彼奴等はその差を悔しく思わない。

「寧ろ、相方が前に進んでくれた事を嬉しく思っている。自分が置いていかれる事なんて一切考えていない。何故なら実際に置いていかれている訳じゃないんだからな。あくまでも置いていかれたと感じているのはそういった表現故であって、実際に置いていかれている訳じゃないんだ。それに加えて、彼奴等は常に一緒に居るんだ。

「基本的な生活をしていれば、そんな事を感じる事はないんだよ。だって、家で普通に暮らしてるだけならそんな事感じる訳ねぇだろ? 戦いで置いていかれているような感覚に陥るならまだしもよ。

「まぁ、つまりはだ。対立させる事は諦めて、対等に出来るか出来ないかを試せば良いんだよ、なじみ。異常に近付きつつある凡人と、理想の最強が崩れつつある最強。こいつらが対等になれるのか、平等にする事が出来るのかを試せば良い。そのためにも、伽髮を主人公にするのは必要だぜ。んー、そうさな―――善吉の検体名が『持たざる者』なら、伽髮の検体名は」

 

「『在り続ける者(アレフ) 』。異なる種類の無限を表すℵが元だ。最強と並び立つ事が出来る彼奴には無限の可能性が秘められてる。」




投稿速度は気分次第なんだ。どうか寛大な心で見逃してくれよな。


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