サイヤン ハイスクールライフ (なごみち)
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転校初日
生温かい目で読んでください。
原作と同じ流れの部分は省略気味です。
自己紹介も終わり、指定された席に座る。
転校初日ということもあり悟飯の周囲は会話が絶えない。
いくつか質問をしたりされたりしている内に、ビーデルがある話題を持ち出した。
「そうだ!あなた今朝の銀行強盗が逮捕された現場にいた人でしょ!」
現場にいたのは事実な上、よくよく見ればビーデルの顔には見覚えがある。今朝会った人物だった。否定はできない。
「ああ、金色の戦士が現れたっていう?」
「金色の戦士?なんですかそれって……」
聞きなれない言葉に悟飯は首をかしげる。
「あんたは来たばかりだから知らないわよね。ここ最近3回も現れた正義の戦士よ!ものすごく強いらしくて逆立った金色の髪の毛の男の子だって有名なの」
イレーザは丁寧に説明してくれたが、悟飯は冷や汗が止まらなかった。
活動時期と特徴にあまりにも覚えがあったからだ。
「そういえば金色の戦士はこの学校のバッジをつけてたそうよ……。
白っぽいシャツに黒色のベスト、茶系のパンツ……偶然だけどそっくりね」
「やだなあ……僕じゃないですよ」
背中の汗がたらりと流れる。嘘をついていると責められているような気分だ。
「そりゃそうだ。相手を見て言えよビーデル。そいつが戦士ってガラか?だいいち金髪じゃない」
「それはそうだけどさ……」
シャプナーの助け船で悟飯への金色の戦士の疑いは一旦取り下げられそうだった。いくら服装的特徴が一致しているとはいえ、今の悟飯の印象と金色の戦士とでは重ならない者が大半だったのだ。
悟飯はほっと息をついた。
一時はどうなるかと思ったがこれでしばらくは大丈夫だろう。これからバレたりしないよう対策を取らなくては。
しかし、束の間の安堵は長く続かなかった。
「なに言ってるんだ。そこの孫悟飯が金色の戦士だろ?」
「いっ!?」
突然の言葉に悟飯は振り返った。
発言をしたのは真後ろの席の女子だった。茶系の髪を大雑把に括っている。せっかくなあなあになりそうな雰囲気だったのに、彼女のおかげで台無しだった。周囲の視線が痛い。
「あのねえルコラ、根拠もないのに便乗して適当なこと言わないの。悟飯くん困ってるでしょ?」
後ろの彼女の発言で悟飯への疑いは決定的になったと思われたが、ビーデルの反応は少し違ったものだった。
「適当だと?私はいつも真剣だ!ちゃんと見たんだ。そもそもこの間した惑星コーザの話だってなあ!」
「また野菜人の戦いの話?もう……」
ビーデルは呆れたようだった。
「ビーデル!今日という今日はちゃんと話を聞いてもらうぞ。いいか!惑星コーザに降り立ったサイヤ人たちは──」
「いい加減にして。その話六回目じゃない、聞き飽きたわよ!せめてもう少し現実味のある話を──」
ビーデルとルコラの予想外の言い争いに呆気に取られていると、隣のイレーザが申し訳なさそうに声をかけてきた。
「ごめんねゴハンくん。あの子オカルト話大好きでいっつも『宇宙一の戦闘民族』の話とかしてくるの。今回も転校生だからってこじつけちゃってさ……。で、実際のとこどうなの?金色の戦士くん」
「違いますよ!」
「だよねえ、ルコラの話って大抵おおげさなんだもの。ゴハンくん弱そうだし」
「あははは……」
(なんでサイヤ人の話なんか知ってるんだろう)
緊張と安堵の連続で、初日からこれでは心臓がもたない。
悟飯は少し泣きたくなった。
─────────
初めての体育の授業は野球だった。
悟飯は力を抑えるつもりでやったが、しかし周りと比べるとやはり外れた記録を出してしまった。
これでもやりすぎだったかと反省する悟飯だったが、その目の前で悟飯のやらかしなど霞んでいくような盛大なパワーを見せつける者がいた。
ルコラだった。
「かっとべ!!!!」
力任せに振られたバットは投手の投げたボールを捉えると勢いよく吹き飛ばした。
まるで手加減を知らない打球はグラウンドのフェンスを一瞬で飛び越え、あっという間にどこかへ消えていった。
「ファウル!」
審判の容赦のない声が響く。
パワーこそあれ、まるで技術がない。むしろよくバットに当てられたものだと周囲は呆れていた。
「ルコラ、力だけはあるんだけどなあ。ちょっと強引すぎるというか……チームには欲しくないよな」
「お前はもう少し頑張ったら多分いい感じにハマるぜゴハン」
チームメイトに肩をぽんと叩かれる。
しかし悟飯はうわの空だった。
(あの子おかしいぞ。サイヤ人のことは知ってるし力はやたら強いし……)
─────────────
「よう孫悟飯」
「ルコラさん」
放課後ベンチで涼んでいた悟飯に、ルコラが声をかけた。
今朝悟飯を危機に陥れてくれたわりにはあっけらかんとしている。
その所業や地球人としては異常な力を持つ彼女に、悟飯は警戒の色を隠せないでいた。
「なんで金色の戦士のこと隠そうとするんだ?事実だろう」
「……見てたんですか?今朝のこと」
「おかげでスカウターも壊れた。弁償してくれ」
「……」
「あんたなかなかの戦闘力だよな。変身もできるみたいだし。それだけ強いんなら地球だって征服できるだろうに」
ちょっとイかれた不思議ちゃん。そんな評価とは裏腹に、ルコラは至って真剣に悟飯を見据えていた。
「そんなことをする必要がないよ。平穏に暮らせたらそれでいいんだから」
「平和主義者ってわけか。それとも戦いが怖い?」
「どっちもかな。相手を殺す選択肢があるってのは恐ろしいよ」
「腑抜けたやつ」
ルコラは悟飯の隣に腰掛けると、持っていた荷物を地べたに置いた。
発言からしてどうにも彼女が地球人だとは思えない。
目的が読めない。悟飯は警戒レベルを引き上げた。
「まあいいや。アンタの主義主張に興味なんてないし。それよりもサイヤ人って知ってるか?地球にいるはずなんだけど」
「……君がよくしているっていう話の登場人物だっけ」
イレーザから彼女がその話をよくするというのは聞いていたが、目の当たりにすると自分のことを言われているようでドキッとする。
間違いなく心拍数が上がっている。
「そうだ、だが実際にいるんだからな。宇宙一の戦闘民族で、住人を殺して星を売るのが仕事だ」
「…………」
「フリーザという極悪の宇宙人がいてな。そいつの命令でたくさんの星を滅ぼしてきた。サイヤ人の名は宇宙中に轟いた!恐ろしい種族としてな。……しかしそんなサイヤ人も母星を破壊されては助からない。生き残りも散り散りとなってしまったんだ」
ルコラは悲しそうな声色で語った後、悟飯の耳元に顔をよせた。
いったいなにが言いたいのか。
『お前がそうなんだろ?』『サイヤ人め!母星を滅ぼされた恨み!』
いくつかの言葉が脳裏をよぎり、消え去っていく。身に覚えのない恨み言でも言われるのだろうか。今日一日自分が『異常』であることがバレることを恐れていた悟飯は、それを直接指摘されるのではと不安になった。
「実はな、私はサイヤ人なんだ」
「へ、へえ……」
予想とはちがう言葉が来たので悟飯は思考が停止し、素で反応を返してしまった。
「黒髪じゃないのに?」
「これは母方の血だ!残念ながら私は純血じゃない……だが戦闘力は純粋のサイヤ人よりも上だ。大猿になれば地球なんて一瞬で終わる」
「尻尾は」
「隠しているだけだ!見ろ!」
ルコラはズボンを下げ、尻尾を見せつけてきた。パンツが見えることも厭わないあまりの大胆さに悟飯は目を逸らした。
「地球人に紛れなきゃいけなかったからな。隠してたんだ。で、どうなんだ?見たことあるのか、サイヤ人」
期待がありありと込められた視線。
「な……ないかも」
嘘をついた。この隠すという言葉を知らなすぎる同族に関わりあいになりたくなかった。
誤魔化すためにペットボトルに口をつける。
「そうか!だがアンタほどの戦闘力ならその内会うこともあるだろう。そしたら教えてくれ。私はこの星のサイヤ人と結婚するんだ」
ルコラは胸を張って宣言した。
悟飯は水を吹き出すのを止められなかった。
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グレートサイヤマン出動
「それにしても残念だ」
ルコラは悟飯の顔をじっと見ている。
「な、なにが……?」
「孫悟飯は黒髪黒目だし、それなりに戦闘力があるだろ?これで尻尾が有ればなあ」
「……仮にそうだったとしても、僕は君とは結婚しないと思う」
「安心しろ!私もサイヤ人以外と結婚するつもりはない」
バシバシと悟飯の背を叩く手にはそれなりに力がこもっている。万が一にも尻尾が再び生えてきませんようにと悟飯は祈った。
───────────
ルコラと別れ帰路に着く悟飯だったが、心中は穏やかではなかった。金色の戦士のことだ。もうその正体が悟飯であることはルコラにバレてしまっている。このまま超サイヤ人の姿で活動すれば、彼女が余計に話を広めてしまうかもしれない。いくらルコラが周りに信用されていないといえども、活動回数が増えれば別の話だ。
なにか別の方法で正体を隠さなければならなかった。
「ブルマさんに相談してみよう」
筋斗雲に話しかけると、悟飯は進路を西の都へと変えた。
正義の行動を止める気は悟飯にはなかった。彼は目の前の悪を見過ごせる人間ではなかったからだ。
───────────
「あるわよ、方法」
「本当ですか!」
「見た目で悟飯くんってわからなきゃいいんでしょ?要するに変身スーツをカプセルのように粒子にして装着できるようにすればいいのよ、簡単だわ」
相談をすると、ブルマはあっさりと言い切ってくれた。
「ぜひお願いしたいんですが……」
「作ってあげるけど、ちょっと時間がかかるからそれまで待ってくれる?そうね……2時間くらい」
「ありがとうございます!あの、ベジータさんっていますか?待ってる間にちょっとお話ししたいことがあって」
「ベジータに?」
ブルマは不思議そうにした。思えば悟飯は今まで自分からベジータに絡みにいったことはなかったかもしれない。珍しがられるのも無理はない。
「ちょっと学校で妙なひとに会っちゃって……」
ブルマにルコラとのことをかいつまんで伝えると、彼女は笑い出してしまった。
「あははは!何よその子、面白いじゃない……ふふふ、確かにそれはベジータに聞くしかないかもね……」
「笑い事じゃないですよ」
「そう怒んないでよ。ベジータなら重力室でトランクスをしごいてると思うからいってらっしゃいな」
ブルマはそう言って重力室のある方を指差す。それに従って悟飯は退室するが、背後で笑うブルマの声を聞き逃さなかった。
「なんだかなあ……」
重力室はどこだったか。
ブルマの差した方向へ歩いてきたのはいいが、具体的な場所を悟飯は覚えていなかった。
そうやってカプセルコーポレーションの中を歩いていると、トランクスがやってきた。
「あ!悟飯さん」
駆け寄ってきたトランクスは汗でびっしょりと濡れており、タオルを首にかけていた。
「やあトランクス。お父さんと修業してたんだって?」
「まあね。悟飯さんはいつきたの?」
「ついさっきだよ。お母さんに用事があったんだ」
トランクスと出会ってからややあって、ベジータがやってくる。ベジータは悟飯を一瞥するとまた歩を進めようとした。
「あ、ベジータさん……おじゃましてます」
「ふん。体が鈍っているぞ。鍛えておけ」
「はい!あ、いやそうじゃなくて。ちょっと待ってください!お話しがあるんです」
ベジータを呼び止めると、不機嫌そうに振り向いた。
「貴様がオレに用だと?珍しいな」
「はは……でも結構重大でして」
「なんだ、言ってみろ」
悟飯はベジータを見据えると、ひと呼吸おいた。
「学校にサイヤ人を名乗る子がいて……髪の毛は黒じゃないんですけど、尻尾まであったんですよ」
「サイヤ人?貴様以外にか」
「はい」
ベジータは疑いの目で悟飯を見る。
悟飯は負けじと見つめ返した。
「惑星ベジータが滅びたとき死ななかったサイヤがオレが把握している以外にいないとは正直言い切れない。オレも全員の顔と名前を知っていたわけじゃないからな」
「じゃあやっぱり本物なんでしょうか」
「可能性はあるというだけだ。コスプレか何かの方があり得るんじゃないのか」
「他にもサイヤ人がいるの?ボクにも会わせてよ!」
話を聞いていたトランクスが興味津々といった様子で混じってくる。場所を伝えれば今にも飛び出していきそうな勢いだ。
「やめた方がいいよ。あの子トランクスくんがサイヤ人だって知ったら求婚してくるよ」
「きゅうこん?」
「結婚してほしいってこと」
するとトランクスは表情を変えた。やってしまったとかそういう感情が含まれていそうだ。
「やだなあ、悟飯さんと同い年ってことはおばさんじゃん!やーめた!」
「おば……」
ルコラをおばさん扱いするということは悟飯をおじさん扱いしているということと同じだ。そのことに気づいた悟飯はショックを受けた。
「トランクス!僕は君とは10歳くらいしか違わないの!おじさんじゃなくてお兄さんだろ!」
「えへへ。悟飯おじさーん!」
駆け出すトランクスを悟飯は追いかける。楽しそうに走り去ったトランクスと後を追う悟飯を見送ったベジータは一人取り残された。
「ガキどもめ……」
─────────────
二時間後、ブルマから変身のための装置を受け取った悟飯はサタンシティ上空にいた。背中のマントが風でひるがえる。
「やっぱりカッコいいや、この変身装置。ブルマさんは天才だ!」
オレンジのヘルメットに緑の装束と赤いマント。黒いインナーが全体を引き締めている。どこをとっても“カッコいい”スーツに悟飯は感動していた。
「町は平和かな?」
眼下の町を見下ろす。おおむね平穏な町に見える情景だが、悟飯の目はひとつの異常を見逃さなかった。暴走車両だ。一台の車が道路の上をジグザグと危険な運転をしていた。スピードもかなり出ている。
「よーし!さっそく出動だ!」
悟飯はこの暴走車両とのやりとりで名を聞かれ、咄嗟に『グレートサイヤマン』と名乗った。もちろんグレートサイヤマンは立派に暴走車両を制圧し、正義の味方の役目を果たした。しかし悟飯は忘れていたのだ。この町で『サイヤ』と名乗ってしまうことの意味を……。
第二話です!
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翌日
「なあ聞いたかゴハン。ニューヒーローがこの町に現れたんだぜ。金色の戦士じゃなくってさ」
眼鏡の少年はとびっきりのスクープだと、興奮気味に悟飯に話しかけてきた。
(僕のことだ……!)
正義の味方グレートサイヤマンが誕生した翌朝。
悟飯は家を出るなり変身装置を使い、舞空術で学校までやってきていた。
新たな装いでの登校は悟飯を高揚させたが、どうやら盛り上がっているのは悟飯ひとりだけではないようだった。
「格好はすげーダサいけどけっこう強いらしいぜ。えー……グレートタイヤマンとかいったかな」
「違います!グレートサイヤマンです!」
「そう、それそれ。なんだ知ってたのかよ」
「あ……その、直接見た人からきいたんですよ」
一番のりじゃないのか、と少し落胆した様子を見せた眼鏡の少年だったが、荷物を片付け終わったらしく教室の中へと入っていった。
悟飯も後に続こうと、ロッカーに向き直り鞄を確認する。時間割と照らしあわせ、持ち物に間違いがないことを確かめ終わった頃、二人の少女がやってきた。
「おはようゴハンくん、なんか楽しそうだね」
「あ、イレーザさん。そう見えます?ちょっといいことがあったんですよ」
軽い会話をしつつもイレーザはテキパキと授業の準備をする。ビーデルも同様で、二、三言葉を交わす間にすべてを終わらせていた。
これが学校生活のベテランの腕前かと悟飯は感心した。
昨日の学校生活の感想を聞かれ答えたり、これからの授業について尋ねたりしているとあっという間に十分ほど経過してしまった。
そろそろ教室に入ろうと促したビーデルに従って扉をくぐると、尋常ではない人物が教卓の上に鎮座していた。周りには何人か集まっており、その中心に近いところでは先ほど話した眼鏡の少年も混ざっていた。
「おい孫悟飯、グレートサイヤマンというのが現れたらしい。間違いなくサイヤ人だ。今から一緒に探すぞ」
彼女は自分の異常が気にならないのか平然と悟飯に声をかける。途端に周囲の視線は今教室に入ってきたばかりの悟飯に集まってしまった。
「悪いけど今から授業があるし、僕はやめておくよ」
いたたまれなくなった悟飯が断るとルコラは眉尻を下げたが、すぐに居直ると教卓を飛び降りた。
「地球人は勉強が大事らしいな。まあしょうがない。私は探しにいくが、もしそっちで見つけたら教えてくれ!」
いうことだけ言うとルコラはさっさと教室を出て行った。騒ぎの中心地にいたルコラがいなくなると、集まっていた人達もまばらになっていく。
ルコラから話を持ちかけられたあたり、おそらくグレートサイヤマンの話題で集まっていたのだとは思うが、いまいち状況が掴めない。誰か事情がわかる人がいないかと見回すと、眼鏡の少年はまだ教卓付近に残っていた。
「これ、どういう状況だったんですか」
「いや、ルコラにグレートサイヤマンの話をしてやったら一人で盛り上がっちゃってさ、これから探しにいくぞって、ついてくる奴を募ってたんだよ」
まあ誰も一緒に行くって奴はいなかったんだけどな、と彼は続ける。
「いつもサイヤ人の話してるからいい反応してくれるだろうって教えてやっただけだぜ。本当に教室出て行っちゃうとは思わなかったさ」
「あの子話の真偽はともかく本気で言ってるんだから、あんまりからかっちゃダメよ」
「ビーデルさんに言われちゃあね。ま、気をつけるよ」
ビーデルが嗜めると少年は自分の席に向かっていく。
「ところでグレートサイヤマンってなに」
ことを眺めていたイレーザが疑問を発した。
「昨日現れた正義の味方です」
「ふーん。なんか誇らしそうね」
「え!いや、そんなことは」
悟飯がとっさに否定すると、イレーザは新しいおもちゃを見つけた子供のように笑顔になった。
ぐいっと身を寄せ悟飯の肩に手を置く。
「ゴハンくん、グレートサイヤマンのファンなんでしょう」
「へ?」
「別に恥ずかしがることないわよ。そこのビーデルさんだって正義オタクなんだから」
「正義オタクって、ビーデルさんヒーロー好きなんですか?」
「そういうんじゃないわ。ただ警察に協力したりしてるだけ!イレーザも適当なこと言わないでよ」
ビーデルが軽く睨みつけると、イレーザは舌を出した。
それから悟飯にそっと耳打ちをする。
「ゴハンくんもヒーローファンならビーデルを推しておいて損はないわよ。あのミスターサタンの娘だし、一番身近な正義の味方なんだから」
「イレーザ?」
「えへへ、なんでもなーい」
イレーザはごまかすように笑うと悟飯から手を離した。ビーデルもため息をついてはいたが、たいして怒っているわけではないらしい。
やがて始業のチャイムがなり、三人も席に向かうこととなった。
───────────────────
五限の半ばといった頃。英語の授業は粛々と進み、黒板に英文が綴られていく。
悟飯の後ろの席は未だに埋まっていなかった。
「帰ってこないな。ルコラさん」
「見つかるまで帰ってこないでしょうね。もっともグレートサイヤマンが外で見つかるとは思えないけど」
悟飯の独り言に反応したのは一つ席を挟んだビーデルだった。
「どうしてそう思うんです?」
「だって『サイヤ人』の話をしてたのはルコラだけなのよ。そんな言葉を知ってるのは校内──それもこのクラスの人くらい。他に誰が『サイヤマン』なんて名乗れるの?」
経緯はともかく核心に近いところをさすビーデルに、悟飯はドキリとした。
「近所の人とかに話してたってことはないんですか」
どうにか疑いを逸らせないかと尋ねる悟飯だったが、ビーデルはゆっくりと首を振る。
「あの子の話を聞くようなご近所さんはいないわ」
「……結構くわしいんですね、ルコラさんのこと」
「まあ、ルコラはパパのやってる『教育を受けられない子ども』支援でうちの学校に来たから。仲良くしろって言われてたし、……むこうもすごく絡んできたし」
ビーデルは遠くを見ながら息を吐いた。
「あの子ひどいのよ。入学初日から変な片眼鏡をかけてきて『戦闘力7……地球人にしてはなかなかだな。地球人にしては』とか言ってきたの」
「へえ……」
悟飯の脳裏にスカウターを装着してビーデルに自慢げに言い放つルコラの顔が浮かんだ。言葉の末尾に「私の方が圧倒的に強いがな」とついていそうで少し憎たらしい。
「あのさ、人を挟んで長々と話さないでくれる」
悟飯とビーデルの席は一つ離れている──間に座っていたイレーザが不満げに漏らした。
「ごめんなさい」
「まあ、あたしも入れてくれれば──」
「別にそれくらい良いじゃないか。お前だってビーデルやルコラと授業中しゃべくってるだろ」
イレーザが自分も話に混ぜてもらおうと言葉を続けようとしたところに、シャプナーが横槍を入れた。手の上でボールペンを回しているあたり、授業に身が入らず暇だったのかもしれない。
「それとは別の話でしょ。間に人はいないじゃない」
「間にいなくても周りにいるだろう」
「アンタが言えた口?」
イレーザとシャプナーが睨み合っている。悟飯は場を収めなければならないかと慌てたが、二人に挟まれたビーデルはいつも通りだと平然としていた。
「静かにしなさい!」
教卓からチョークが飛ぶ。狙いは逸れ、悟飯の後ろの席に当たる。コロコロと転がったそれは悟飯の足にぶつかり、ゆっくりと止まった。
チョークが飛んでからしばらく、教室にはシャーペンとノートの擦れる音と教師の声だけが反響している。
悟飯やその周りの生徒たちも会話をせずに黒板の文字を追っていた。
心地良くも眠たくなってくるような空間。実際後方の不真面目な生徒の中には眠っているものもいる。その中に、突如軽い通信音が鳴り響いた。
「はい、こちらビーデル」
発信源の腕時計に話しかけたビーデルは何度か応答をすると、教師に断りを入れて教室を出て行ってしまった。
「ビーデルさん、どうしたんですか?」
疑問に思った悟飯が隣のイレーザに問う。
「今朝言ったでしょ。ビーデルは正義の味方だって。警察に協力して強盗なんかを捕まえたりしてるのよ」
「強盗って……危ないじゃないですか」
「そうでもないさ。ビーデルは少なくとも俺よりは強いし、ミスターサタンにだって匹敵するんだからな」
イレーザとシャプナーは安心させるようにいくつかビーデルのフォローをしたが、悟飯は気が気ではなかった。
(ミスターサタンと同じくらいの強さって……いや、戦闘力は7あるみたいだし大丈夫なのかな?でも7ってどのくらいの強さなんだ?強盗相手でも問題ないほどなのか?)
ビーデルの強さについて考察する悟飯だが、判断材料に乏しい上に通常の人間の強度がいまいちわかっていない彼には結論を出すことが出来なかった。
数秒思い悩んだ末、ビーデルを信じきれなかった悟飯は行動に出ることにした。
「先生!便所に行ってきます!」
────────────────
悟飯はビーデルの気をたどって、まちはずれの工業地帯にまでやってきていた。いくつもの倉庫や工場が立ち並ぶその場所で、すでにビーデルと強盗たちとの闘いは始まっていた。
「案外強いな、ビーデルさん」
二人の強盗を相手にしたビーデルだったが、大の男相手にまったく物怖じせず、その攻撃を軽くいなし反撃さえしていた。
(これは僕の出番はないかも……)
この様子ではビーデルはまったく問題なく対処してしまうだろうと考えた悟飯は、空を飛んでいたのでは目立つと考え、少し離れた物陰から様子をうかがうことにした。
二人組の大きな方と立ち合いを演じるビーデル。男の隙を突き、強烈なアッパーを顎に入れる。一度は倒れた男だったが、男の方も根性があるようで再び立ち上がった。大ぶりなパンチをビーデルにくらわそうと突進をするが、これはかわされ、むしろビーデルからの更なる攻撃を受ける一因となってしまう。
「アニキ〜!」
もう一人の小柄な男が懐から拳銃を取り出しビーデルに向ける。ビーデルは大柄な方との競り合いに夢中で気づいていないようだった。
(危ない!)
ビーデルを助けようと悟飯が飛び出そうとした刹那。上空から隕石のごとく飛んできた女が男の拳銃を蹴り飛ばした。
「え?」
悟飯を含めたその場にいる全員が呆気にとられ、女を見つめる。
「危ないじゃないかビーデル。もっと後ろにも気を配るんだな」
苦言を呈した女は後ろ手で軽く男を締め上げ、落としてしまう。その様子を見た大男も腰を抜かしたのかへたり込んでしまった。
「ルコラ……アンタ今どこから」
「空からだ。当たり前だろう、サイヤ人だぞ」
ビーデルはルコラをまじまじと見つめた。
「それにしてもまさか騒ぎを起こしていたのがビーデルだったとはな。空から町中を見渡していればいつかグレートサイヤマンが出てくるだろうと思っていたのに」
「ア、アンタねぇ……私はサイヤマンの二の次ってわけ」
「そりゃあサイヤ人が一番だからな。ビーデルは地球人の中では上の方だが」
さっきまでの緊張感はなんだったのか。言い合いを始めた二人を見ていると悟飯は気が抜けてしまった。浮かび上がった体をゆっくりと地面に降ろす──と、足元にあった缶を思いっきり踏みつける。
缶の潰れる大きな音と共に、悟飯はすっ転んだ。
二人の視線が悟飯の方へ向く。
「あはは……どうも……」
「……誰だ?お前」
名を問われては答えないわけにはいけない。転んでしまって無様な姿を晒してしまった状況でも、悲しいかな、変身した悟飯はすぐにスイッチの入ってしまう性だった。
「私は……」
すぐに立ち上がると両腕をあげ、ステップを踏む。いくつかポーズを交えたそれは、昨夜二時間練った悟飯の力作だ。
「悪はぜったい許さない正義の味方!!グレートサイヤマンだ!」
「かっこわるい……」
「グレートサイヤマン!?」
ビーデルはげんなりとしたが、ルコラは反対に目を輝かせる。
「さすがビーデルだ!ちゃんとグレートサイヤマンを呼び寄せるとはな!」
ルコラはビーデルの背中をなんどか叩いたのち抱き寄せる。ビーデルは抵抗こそしなかったが、眉をひそめていた。
「おい、グレートサイヤマン!顔を見せてくれないか。私も将来結婚する男の顔は知っておきたいからな」
「……ダメだ!ヒーローは顔を明かすものではない!」
ヘルメットを外しては正体に直結してしまう。さすがの悟飯も承諾するわけにはいかなかった。
「そうか!貴様が自分で明かさないのならば無理矢理見るだけだ。そこで待っていろ」
ルコラはまったく引き下がる気がないのか、悟飯の方へ飛んでくる。ヘルメットを取られては困る悟飯も飛んで後ずさった。
「なぜ逃げる?私が見るだけだったら良いだろう。結婚するんだからな」
「ダメだ!そもそも君と結婚する気はない」
「とっくに生き残りもほとんどいないんだ。他の選択肢なんかないだろう」
話してわかる相手ではないかもしれない。
そう悟った悟飯はこの場から退くことにした。
マントを翻してサタンシティの方向へと飛んでいく。しかしせっかく見つけたサイヤ人の逃走をルコラが許すはずもない。彼女も悟飯を追いかけて飛び去っていった。
工業地帯にはビーデルと、ふぬけてしまった強盗の二人だけが残された。
「サイヤ人ってなに……?」
遠くから警察車両のサイレンが鳴るのが聞こえた。
第三話!感想を貰えると喜びます。
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