【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 (塵塚怪翁)
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第一部
第1話 求む、異能者が真っ当に就職する方法


前作の反省点を踏まえ、新しく設定を練り直したメガテン物です。
三人称に挑戦しています。

時間軸は、青森の攻略が終わり霊視ニキが襲われている頃です。


※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第1話 求む、異能者が真っ当に就職する方法

 

 

 この世界は、悪魔が存在する。

 マグネタイトという不可思議な粒子でもって悪魔は存在することができ、異能者と呼ばれる者たちも超能力や魔法に普通の人ではあり得ないような身体能力を持つ者もいるだろう。

 でもそれは社会の裏側に限ったことであり、余程運か頭が良いのでなければ真っ当に暮らす場合は表の社会での就職や社会的信用にはあまり繋がらない。例え、多量のマグネタイトを有する高レベルの異能者であっても。

 

 

「突然で悪いんだけどもね、隆和くん。

 今月付けで仕事を辞めて貰うことになるんだ。本当にすまない」

 

「木下社長。

 納得できません。俺が何かしましたか?」

 

「隆和くんが悪いわけではないと判ってはいるんだ。

 君は6年間もの間、真面目にうちの工務店で働いてくれて免許も取得してるのも知っている。

 経営も余裕が出たから正社員にしようと話をしていたのも忘れていないとも」

 

「だったら、何故なんですか!?

 木下社長!」

 

 

 大阪市外の外れにある小さな社員数十人ほどの規模の工務店である『木下工務店』のプレハブ社屋の夕日が眩しい事務室で、社長と呼ばれている気の弱そうな初老の男性と一人の若い背の高いだが鍛え上げた身体の男性がいる。

 彼の名前は、【安倍隆和】。

 容姿は某所で有名な同音異句の名前の男性とよく似た顔と声の持ち主だが、彼はツナギを着ることはあっても車の修理工ではないし、何より巨乳の大好きな極ノーマルの性癖である。

 その証拠に、目の前の社長とその手の巨乳の娘が多くいるお店の『おっぱいパブ』に行って社長の奥さんに一緒に叱られた事があるのだから。

 その彼の恩人でもある目の前の木下社長は、本気で気の毒な顔で言う。

 

 

「数日前に事務所に来た親会社の金上新社長が来たじゃないか。

 その時に彼からの申し出を断ったのが原因だよ」

 

「でも、あれはよりにもよってこっちに来て部下になれって言うんですよ!?

 俺はここで正社員になるんだから受けられる訳がないでしょう!?」

 

「あー、うん。そんな申し出だったのか。

 その返答は嬉しいんだがなぁ。

 しかし、彼は数年前に実の父親から会社を乗っ取って大きくした遣り手でもあるんだ。

 何しろ、大手ゼネコンから回される仕事を孫請けに割り振るのも彼の会社が牛耳っているんだ」

 

 

 話題に出ているその男は【金上金作】と言う。読みは、『かねがみかねさく』である。

 元々彼は『極亜信用組合』という中堅の民族系金融機関の社長をしていたが、実の両親と兄弟が里帰りのための日本海での船旅の事故で全員死亡してから葬式を終える間もなく、30代後半の年齢ながら両親と兄弟が経営していた『金上建設』も手に入れて一気に大きくした実績がある社長だ。

 もっとも、今回の事故は彼の差し金だろうと噂されるほど私生活の評判が悪い人物でもある。

 その点も、彼が金上からの誘いを断った理由の一つでもあるだが。

 

 

「もしかして、俺を辞めさせないと仕事の割り振りをしないとか?」

 

「周囲には言っていなかったが、彼の父親とは同胞でね。

 一緒に数十年前に日本に来た仲だったんだが。

 この辺の同胞の会社はほぼ皆、彼の所から融資を受けているし、今までは彼の父親の会社だった所から仕事を回して貰っていたんだ。

 だから、仕事の割り振りだけでなく融資も打ち切ると言われてね」

 

「すいません、社長。

 そうとは知らずに断ってしまって」

 

「いや、いいんだ。

 今の金上社長は汚い事も平気でやるようだし、プライドが山ほど高く能力もあるから年上でも儂らみたいなのは下に見て言う事は聞かないだろう。

 ましてや、彼からしたら下請けの一従業員が自分の申し出を断るなど我慢が出来なかったんだろう」

 

「社長、労基や弁護士に相談するっていうのは?」

 

「無理だよ。

 大阪の役所や弁護士会にも帰化した同胞も含め何人もいる。

 おまけに、向こうの方が金も持っていて会社の規模も大きいんだ」

 

「……分かりました。

 ロッカーの中身も片付けてすぐに出られるようにします」

 

「今まで本当にありがとう。

 二十歳の時に、必死な表情で面接に来たのが懐かしいね。

 明日から有給を消化してもらって終わったら、正式に退社だ。

 後日、諸々の書類を郵送するから元気でやるんだよ」

 

 

 彼らは今までの六年間を思い出し、少し悲しく思いながらも別れる事になった。

 隆和はもともと着替えくらいしかなかったロッカーを片付け、鍵を社長に返すとお世話になった人達にも深々と一礼し自分の自宅の安アパートに帰っていった。

 

 

 

 

 彼のアパートは、月5万の風呂のない木造の古い建物で1DKの物件である。  

 室内には、それこそちゃぶ台と畳んだ布団に古い家具類、電化製品の冷蔵庫と電子レンジに携帯の充電器ぐらいしか無い殺風景な部屋である。

 

 何故、彼がこんな生活をしているのかはちゃんと理由がある。

 彼には、今と変わらない日本で生活していた前世の記憶があるのが理由だ。

 前世で彼は、まともな正規雇用も結婚も果たすことはなく一人で働き通して体を壊して50歳前で死んだが、今度こそ彼は履歴書に書ける真っ当な職歴の正社員となり慎ましやかな結婚を夢見ているのだ。

 だからこそ、今まで稼いだ金は4割は貯金に回し口座も財閥系の大手の銀行に預けている。

 残りの6割は、マッカや宝石などの換金出来るものに変えて信用できる人に預けている。

 それもこれも全ては、結婚資金と老後のためのものである。

 

 隆和はくよくよしている暇はないと思い、帰りがけに夕食の弁当を買ったコンビニで貰ったアルバイト情報誌を見ながら1つ480円ののり弁当を温めて食べた。

 貯蓄もあるし、失業保険も貰えるのでしばらくは過ごせるだろう。

 そうしていると、充電していたガラケーの携帯に着信が入った。

 固定電話? 電話番号を複数持つ金の余裕はもったいないと彼は言うだろう。

 もそもそと急いで食べ終わり、ペットボトルのお茶で流し込み電話に出る。

 

 

「もしもし、安倍ですが?」

 

「よう、俺だ。仕事があるんだがいいか?」

 

 

 低い男性の声が電話の向こうから聞こえてくる。

 

 

「ウシジマさん? 何かありましたか?」

 

「お前が表の仕事を辞めさせられたと聞いてな。

 こっちの仕事も多めにやってくれると思って連絡したんだよ」

 

「……どこで聞きました? つい数時間前の話ですよ?」

 

「そりゃ、お前の所の元社長の関係者からだよ。

 お前さんには、意味不明な独り言を言う幽霊の出る物件の解決を何度もやってもらっているからな。

 恩に感じている耳の早い建築関係の友人は何人もいるんだぜ」

 

 

 彼の名は、通称【ウシジマ】。

 短く刈り込んだ髪と丸眼鏡、いかつい顔つきに大きい体格といかにもな30代の男性であるが、彼の恐ろしさは体格などではない。

 彼は、この辺のフリーのデビルバスターの仲介元締めと金融業【ウシジマファイナンス】の社長の顔を持っている。そして、隆和と同じ転生者でもある。

 

 つまり、例えば多額の借金を背負って堕ちる女性が辿るルートとしては水商売から泡姫に泡姫から女優にというのが創作でも有名だが、彼はその女性に霊能の素質がある場合に他の闇に落とす闇金の業者でもある。もちろん、それは男でも変わらない。

 昨今の霊能関係の旧い家であればあるほど、家の体面に傷が付かないなら【素材】に【母体】に【種馬】と高い素質の人物はこれらの需要に尽きないと彼から直接聞いた。あと、日本だけでも年間約3万人の行方不明者はいるのだとも。

 それだけに、金の事に関して言えばちゃんとしている限り信用ができる人物なので彼の会社の貸金庫に資産を預けている。

 

 

「それで誰からの仕事ですか?

 また、幽霊物件でもありましたか?」

 

「今回の仕事は、佐川の親父からの依頼だ。

 キャバレーの料金の切り取りなんだが、相手が霊能の使い手らしくてな。

 料金を払う時に催眠をかけて逃げた上に、自宅まで取り立てに行った連中も帰って来ないそうだ。

 俺の知る限り、今連絡できる仕事を丁寧にこなす真面目な高レベルの霊能者はお前ぐらいなんだよ」

 

「【魔王】の姐さんや【モリソバ】さんはどうなんです?」

 

「魔王の方は何でも粗方吹き飛ばすからこの依頼には向いてないし、モリソバは青森まで長期で仕事に行ったままでまだ帰って来ていないぞ」

 

 

 彼の言う「佐川の親父」とは、道頓堀近くで一番大きいキャバレー「グランド」のオーナーで関西最大勢力の「関西連合」の直参の佐川組組長「佐川司」である。

 彼自身も覚醒者であり、ウシジマのケツ持ちでもあり、隆和の育て親の知人でもある。

 隆和の育て親には命を助けられたらしいが、詳しいことは聞いていない。

 あと、「魔王」や「モリソバ」とは知り合いのデビルバスターの通称である。

 ちなみに隆和自身の通称は、本人の前では言われないがあの作品を知っている人達からは【アーッニキ】である。発音が少し変なだけなのでバレていない。

 

 

「(何で、青森?)分かりました。それで、場所はどこです?」

 

「〇〇にある屋敷だ。

 大阪市内のJRの駅の近くだな。小学校と屋根付きの商店街が目印だ。

 大型車も入れないような路地を通るから気をつけろ。

 報酬はいつもの場所で、資料は新聞受けに入れさせたから見ておいてくれ」

 

「じゃあ、そういうことで。

 あと、出来れば報酬は金銭じゃなく表の仕事の紹介とか……」

 

 

 プツンと、電話が切られる。

 電話が切れると、ガタンと音がして新聞入れに大型の封筒が差し込まれていた。

 いつもの彼の所の部下が届けてくれたのだろう。

 ため息を付き、さっそく封筒を開けて中を見る。

 そこには、事件のあらましが書かれていた。

 

 料金を踏み倒した彼は、『月岡一郎』と言う36歳の男らしい。

 今から2週間ほど前に彼は店で8桁近くまで豪遊し、料金を払う際に出口の職員たちを前後不覚にして逃げ出したのがカメラに写っていた。

 カメラから割り出した顔写真を持って身内や興信所などからの調査に1週間後、彼の自宅が割れた。

 近所の話では、数ヶ月前にその家の中年の娘が結婚してから急にリフォームの業者が入って工事をしたかと思うと、住んでいた家族の姿が見えなくなり身なりの怪しい連中が出入りするようになったので近づかないようにしているとの事だ。

 そして、料金の取り立てに最初は職員が行ったがそこに居た愚連隊のような格好の連中に追い返され、組の関係者や業者の強面を数人ほど何回かに分けて送ったが誰も戻らず、店長がオーナーに報告を上げてこちらに回ってきたのがあらましだった。

 

 資料を読んで、隆和は考え込んだ。

 警備員を含めた職員を同時に前後不覚にするという事は、何かの状態異常を複数人に与える効果のあるスキル持ちだろう。

 そして、近所の話とその後の取り立ての経緯から組織立って何かをしているのかもしれないという懸念も出て来た。

 普通ならこういう場合は警察と霊能組織に話が行くが警察は巡回を多くするのが今の時点では限界だし、関西の霊能組織を仕切っている【京都ヤタガラス】を名乗る勢力は血統・伝統主義が過ぎて根願寺と日本メシア教とは冷戦状態なので内々で無かった事にして終わらせるだろう。

 これは自分単独でやるしか無いと隆和は考え、明日の朝に出向くことにし眠りについた。

 

 朝になりいつもの出勤時間に合わせて早起きをしてしまったが、ちょうどよいので準備の時間に当てるようだ。

 準備と言っても朝飯代わりのゼリー飲料を飲み、タンスの奥から装備を引っ張り出すくらいである。

 装備は、比較的小綺麗なシャツとGパンに大枚を叩いて買った自衛隊の型落ちのサバイバルベスト、腰のサイドポーチに畳んだ資料と育ての親で師匠だった人物から貰った封魔管が2つと治療用の魔石を何個かを入れて終わりである。

 2つ付いた扉の鍵を閉めて、駐輪場の愛用のママチャリで現場まで隆和は向かう事にした。

 指定されている資料の地図では、ここから徒歩でも2時間以上かかるのだが気にしていないようだ。

 今までの出勤でも身体能力に任せて、かなり離れた現場でも自転車と公共交通機関で済ませていたのでそれが彼の当たり前だった。

 何しろ、自動車の購入は免許はあるが代金と維持費が高すぎるので。

 それから、通勤に向かうサラリーマンを羨ましく思いながらその横を軽快に走り抜けて行った。

 

 

 

 

 商店街近くの駐輪場に自転車を置くと迷路のような住宅街の路地を抜け、目的の家まで来ることが出来た。

 その家は、路地から見るだけでもここら辺の住居の3軒分の幅がある大きいものだった。

 路地側から向かって右側の塀に引き戸式の頑丈そうな入り口がありその奥に2階建ての真新しい住居が、左側は塀に沿って奥の庭を覗けないようにするためかこれも新しい倉庫が建っている。

 塀は2m位の高さで、要所によく見ると監視カメラまで偽装してありよじ登るのは難しいだろう。

 彼は正面から行くことにしたようで玄関の前に立つと、カメラを見ながらチャイムを鳴らす。

 

『ピンポ~ン』

 

 今の時刻は8時を回った頃だから誰か起きてるだろうが、反応がない。

 今度はチャイムを連射する。辺りに音が木霊する。

 

『ピピピポピポポ~ン。ピポピポピピポピピポピポピンポ~ン』

 

『朝っぱらからうるせーぞ、誰だ!?』

 

 インターホン越しに若い男の声が聞こえてきた。

 無視して連打を続ける隆和。

 

『ピポピポピポピンポ~ン。ピンポ~ン、ピンポ~ン、ピッンポ~ン』

 

『てめえ、そこを動くなよ』

 

 キレた声がして声が止む。

 声の主が出てくるのを、術の用意をして待つ隆和。

 程なくして、中から一昔前の特攻服を着た木刀を持った若い男が怒り心頭の表情で出て来た。

 見鬼の術で観ると、レベル2と出ている。

 うっかりと殺さないように優しく彼のみぞおちを撫でて、彼を支えながら隆和は中に入る。

 ゲホッと倒れる彼を放り出し、空曜道(マッパー)の術を使い周囲を見る。

 

 敷地内の状況はかなり荒れていた。

 庭は空き缶やコンビニの弁当などのゴミが散乱して酷いことになっており、彼らがよく通るだろう道以外はゴミだらけであった。生ゴミの腐った臭いも酷い。

 玄関の外にはこの臭いは漏れていないことから、何らかの仕掛けがあるのだろう。

 ふらふらとさっきの男が立ち上がって、こちらを睨んでいる。

 話を聞くべく隆和は、腰のポーチから封魔管を取り出し声をかける。

 

 

「コレット」

 

「はい、今出ますね」

 

 

 隆和が名を呼ぶと、長い金髪の少女が現れる。

 背丈は160に届かない白地に青いラインの入ったワンピースを着たその少女は、その血の気のない白い肌を頬だけは桃色に染めて青い瞳で彼の方を見ている。 

 隆和は驚愕にこちらを凝視する男の方を指差すと、彼女に話しかける。

 

 

「彼に話を聞きたいのだけど、素直になって貰いたいんだ」

 

「分かりました。ごめんなさいね、【マリンカリン】」

 

 

 術が掛かったのかトロンとした目でこちらを見る男。

 彼にここの事を聞くべく隆和は話しかけた。

 

 

「ここで一体何が起きているんだ?

 ここの主の『月岡一郎』という男性に心当たりは?」

 

「ああ、えっと?」

 

「お願いだから話してね?」

 

「わかったよ、お嬢ちゃん。実はな、……」

 

 

 彼のたどたどしい話を総合するとこうなる。

 

 ここの主の『月岡一郎』を名乗る男は、【半島】人であり故郷で何かを経験し力を得たらしい。

 それから日本に渡り、こちらに居た親戚の伝手でこの家の娘と結婚した後で他の家族をどこかに消し、同胞の銀行から金を借り同胞の伝手で彼ら愚連隊を引き入れたと言う。

 彼は『力の再現』を始めるために繁華街の家出少女を彼らに集めさせ、容姿の気に入った娘は家の中に連れていき他の余ったのはそこの倉庫内で楽しんでいると嬉しそうに彼は話している。

 人数は数えていないが、10人は超えているんじゃないかとまでのたまった。

 

 至極不愉快げに眉をひそめているコレットに隆和は告げる。

 

 

「コレット、こいつはもう人間じゃない。なりたての【外道】だよ。

 その証拠に見鬼の術も、こいつの種族名を【外道 グレンタイ】だ。

 正気に戻る前に殺してやれ」

 

「分かりました。死後に安らかに眠れますように。【エナジードレイン】」

 

「はあぁあぁぁぁああ」

 

 

 コレットは彼の手に触れると彼の生命力を吸い出し始めた。

 彼女の種族名は、【幽鬼チュレル】。

 伝承においてチュレルは、若い男性を美女の姿で誘惑し一夜にして生命力を吸い取り老人の姿に変わるか死ぬまで離さなかったと言う。

 ただし、彼女の下半身は反対を向いていない。

 その例に漏れず、コレットに手を掴まれていた彼も、快楽に染まった表情のままミイラのようになってマグの塵になり消えてしまった。

 

 

「ふう、隆和さん。まず、倉庫の中の娘達を助けましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 コレットにそう言われ、ゴミを避けながら倉庫の中に入る。

 その倉庫の中もまた別の意味でひどい有様だった。

 ゴミと毛布やタオル、引きちぎられた女性の洋服に脱ぎ散らかした男物の下着にズボンが床一面に散乱し、高いびきをしている下半身を晒した男たちが6人。そして、体中を汚され気を失った裸の少女たちが4人いた。

 隆和の見鬼の術には男たちは皆、人間ではなく【外道】となっている。

 こいつらには手加減無用だろう。

 隆和は男には使いたくはないが奥の手を使うことにした。

 

 

「コレット、アレを使うから無力化した奴から吸い殺せ。

 コイツラはもう悪魔だから処分しないといけない」

 

「いいんですか? 相手は男ですよ?」

 

「この状況で人質とか乱闘は面倒だろう? 嫌だけど行くぞ。【耽溺掌】」

 

 

 彼が名付けたそのスキルは、【耽溺掌】。

 効果は、【小威力の物理攻撃。高確率で魅了・緊縛・至福の状態異常を付与】である。

 ただそれは、彼が生まれ育った環境で生き残るために身に付けた師匠直伝の奥の手だった。

 

 そもそも彼、「安倍隆和」は実の両親を知らない。

 名札と共に、今はもう無くなったある児童施設に捨てられていたのだ。

 後年になって知ったが、そこは霊能の素質のある孤児を集め必要に応じて畿内の各旧家に養子や家人として配分するのが目的の施設だった。

 普通に小学校にも通い、時々その子供の素質に合った霊的な指導があるだけの幼児時代だった。

 そんな彼の生活が一変したのが11歳の精通の時だった。

 その頃から彼の周囲では異性間のトラブルが頻発するようになり、その時に『天狗』と名乗る男性が現れ彼に女性悪魔を大人しく挿せるスキルを閨の技術や房中術と一緒に伝授した。

 しかも、当時はその『天狗』の使い魔だったコレットに優しく筆下ろしをされながらである。

 彼によれば、その時に前世の記憶が蘇ったという。

 彼の強すぎる素質に寄り集まっていた絡新婦も協力の末に退治され、術の全てを伝えるとその『天狗』はコレットの入った封魔管を残して姿を消した。

 

 それからの中学を卒業し施設を出るまでの5年間、隔離された一人部屋で術の復習名目で襲い彼の技で屈服していたコレットに『天狗』の事を教えられた。

 彼の名は、【大内隆(たかし)】。京都にある異界【大内屋敷】の管理人である。

 

 【異界・大内屋敷】。

 そこは山中にある寺だった場所が異界化したものである。

 元々は、かの大寧寺の変で謀反を起こした陶晴賢に、一族を皆殺しにされた大内義隆の忘れ形見と称する一族が起こしたという眉唾ものの伝説のある寂れた寺であった。

 しかし、霊能に関する何かがあったのか戦後にGHQと共に来たメシア教の部隊に襲撃を受け、その襲撃部隊諸共に寺全体を異界に沈め葬り去ったという。

 以来、その場所は公的な記録から消され京都府内にも住所のない場所とされ、根願時と日本メシア教が揃って『不可触』と記録に残した場所だった。

 だから、気まぐれと偶然で彼を助けた『天狗』に施設の職員は何も言わないのだそうだ。

 

 コレットによれば、彼はその異界で自分の妻を自称する家の祭神の鬼子母神の【地母神ハリティー】、同じく妻を自称する家で祀っていた稲荷が進化した【妖獣タマモ】、また同じく彼の妻を自称する撃退したメシア教の部隊のリーダーだった【大天使ライラ】を閨に引き込んで鎮めている技を伝授されていると。

 また、彼女自身も元はその襲撃の時に命を落としたメシア教の聖女で、死亡後に魂を今の形で呪縛されているので死んでも一緒だと笑顔で告げられた夜の事は今でも忘れられないそうだ。

 それが、彼のスキル【耽溺掌】の成り立ちである。

 

 物理攻撃した相手を魅了(CHARM)して逆らえなくし、緊縛(BIND)で動けなくし、至福(HAPPY)にして何も考えられなくする。

 そんなスキルを受けたクズ共の様子は詳しく描写はしたくないが、端的に触れられた彼らは白目向いて身体中から色々な汁を噴出し痙攣している間にコレットの糧になったとだけ言っておこう。

 少女たちはコレットの【ディアラマ】と【パトラ】で傷を癒やし、倉庫の奥で毛布に包まって眠っていてもらうしかない。MPの元はたくさん転がっているのだから。

 

 

 

 

 倉庫を片付けて、次は母屋の方である。

 コレットと共に玄関から入ると、一般的な日本の住宅ではなくどこか中国様式に似た外国の屋敷内の様子が続く異界と化していた。

 ただ、出てくる悪魔は低レベルの幽鬼や悪霊だけなので、簡単に一番奥のボス部屋にまで到達することが出来た。

 

 手下が手下なだけに、ボス部屋の内部も悪趣味極まりない様子であった。

 室内には檻や多種多様な拘束具などあり、目の前の箱で『SM部屋』で画像検索し寝台を取り除いて色を木材の茶色一色にすれば想像できるだろう。

 ただし、檻の中で眠っている服はきちんと着ているが猫耳と尾がある黒髪の少女と、拘束具に捕まり明らかに激しい乱暴をされ焦点のない目で虚空を見る切り裂かれたシスター服の黒髪の少女、そしてツリ目気味の切れ目や特徴が目立つ容貌の男が慌ててズボンを穿いている様子がなければであろう。

 部屋に踏み込む隆和に、その男は金切り声を上げて意味の分からない言葉で叫んできた。

 

 

『何だ貴様は! 島国の倭猿が俺の家に入って来るんじゃない! 出て行け!』

 

「日本語で喋れよ。お前、『月岡一郎』だろう?

 そこにいる女の子らの事も全部話してもらうぞ、クソ野郎」

 

「こっちは楽しんでる最中なんだよ!

 せっかくメシア教の女を捕まえられたっってのに邪魔すんじゃねぇ!」

 

「もういい。動けなくしてから話を聞くことにする」

 

「うるせぇっ! テメエの方が死ねぇ! 【マハラギオン】!」

 

 

 金切り声で叫ぶその男は黒い山羊の頭の姿に変わり、広範囲に強力な火炎魔法を放って来た。

 それに構わず、両腕を翳して男に走り寄る隆和。

 そして、男の後ろを顎で指す。

 

 

「余所見していいのか? 彼女は助け出したぞ」

 

「何っ!?」

 

 

 男が振り向くと隆和の大柄な体の影から飛び出したコレットが、拘束されていたシスターの革ベルトを外して始めている。

 振り返り彼女を殴ろうと踏み出した見鬼の術には【邪神バフォメット】と映るその男の片腕を掴み、隆和は告げた。

 

 

「“状態異常の対策をしていない以上、俺が触れた時点でお前は終わりだ。”

 アヘ顔でも晒していろ、クズ野郎」

 

「な!? ……?? あ、アへ。アヘヘアはへへへへへへはへ???」

 

 

 物理攻撃と言うなら、状態異常にするだけなら相手に触れればそれでいい。

 上半身を黒い毛で覆う山羊の頭をしたその男は、奇怪な声を上げながら舌を出し崩れ落ちてしまった。それからしばらくコレットが彼女たちを完全に解放する頃には、触れたままのその男は股間を大きく濡らし痙攣を始め異界が解けていた。

 

 

 

 

 隆和が携帯で終わったことを知らせてタオルや毛布で包んだ救助した女性たちを運んだり痙攣したままの山羊男を拘束して待っていると、しばらくしてウシジマが護衛らしき男らを連れて直接乗り込んできた。

 そして、隆和が此処であった事を一通り説明するとウシジマは頭を抱えてしまった。

 しばらくして表を片付けてこいと護衛たちに命令すると、隆和にウシジマは告げた。

 

 

「こんなオカルトだらけの事態になっちゃあ、俺や佐川の親父だけではどうしようもないな。

 かと言って、関西を今仕切っている京都の石頭共は頼れねぇ。

 ちょうどいい、【ガイア連合】に連絡を取るか」

 

「ガイア連合?」

 

「パソコンもないしネットもしないお前は知らないだろうが、近年力を付けてきた新興のオカルト組織だよ。

 そして何より、俺やお前みたいに前世の記憶持ちの連中が相互扶助のために立ち上げた組織だ」

 

「本当にそいつらは頼れるのか? 金はかかるのか?」 

 

「少なくとも京都の連中よりは頼れる。

 お前も顔つなぎしたほうが表の業種に返り咲けるかもよ?」

 

「ぜひ頼んでくれ!!」

 

「お、おう」

 

 

 そう言うと、ウシジマは携帯を取り出し連絡を始める。

 こうして、数奇な運命が転生者の組織【ガイア連合】で隆和を待つことになるのだった。




後書きと設定解説


・主人公
名前:安倍隆和(あべたかかず)・【アーッニキ】
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・26歳
職業:工務店契約社員→フリーター/ダークサマナー
ステータス:レベル39・フィジカル型
耐性:破魔無効・呪殺無効・精神無効
スキル:悪魔召喚(封魔管)
    見鬼(アナライズ)
    空曜道(マッパー)
    ジャイブトーク(通常会話の不能なダーク悪魔と交渉できる)
    妙技の手管(状態異常時の相手へのダメージ25%増加)
    不屈の闘志(HPが0になる攻撃を受けた際、1回だけHP全快で復帰する)
    背水の陣(苦境時に万能属性及び即死攻撃を除き、受ける攻撃の命中率低下)
    耽溺掌
    (敵単体・小威力の物理攻撃。高確率で魅了・緊縛・至福の状態異常を付与)
詳細:
 捨てられた状態から16歳まで霊能関係の施設で成育された
 相手をアヘ顔にする【耽溺掌】は、師匠直伝。出来なければ死んでいた
 性癖は男色ではなく、普通の女性との普通の恋愛を夢見るほどの極ノーマル
 夢は前世でも果たせなかった履歴書に書ける職業での正規雇用と普通の結婚
 夢を果たすために10年ほど表側の就職活動をし続けている


【挿絵表示】

主人公のイメージ図

・仲魔
名前:コレット
性別:女性
識別:幽鬼チュレル(特異個体)
ステータス:レベル34 破魔弱点・呪殺無効
スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
    シバブー(敵単体・中確率で麻痺付与)
    ムドオン(敵単体・中確率で即死付与)
    ディアラマ(味方単体・大回復)
    パトラ(味方単体・軽度の状態異常回復)  
    エナジードレイン(敵単体・小威力の万能属性のHPとMP吸収)
詳細:
 元々は、大内屋敷の異界に攻め込んで死んだメシア教の聖女
 彼女は人間としての魂が悪魔化して再生され封魔管と共に師匠から下賜された仲魔
 享年16歳で、金髪をロングヘアにしていて胸が薄いのを気にしている
 身長156cm、B:73(A)・W:53・H:81(黒医者ニキのメモより)
 主人公の幼なじみであり初めての女で在る事が、彼女の立脚点にして全て


【挿絵表示】

waifulabsで作成したコレットのイメージ図
 
・今回のボス
【邪神バフォメット】
レベル28 耐性:破魔弱点・呪殺無効
スキル:マハラギオン(敵全体・中威力の火炎属性攻撃)
    ムドオン(敵単体・中確率で即死付与)
    フォッグナー(敵全体・低確率で幻惑を付与)
    道具の知恵(悪魔が道具を使用可能にする)
詳細:最初の事件の主犯と同化して悪魔人になっていた悪魔


次はガイア連合関係者との遭遇
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第2話 ガイア連合山梨支部にて その1

長いので幾つかに分割して、とりあえず書き上がった分です

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第2話 ガイア連合山梨支部にて その1

 

 

 さて、ウシジマの一報から大阪で起きた霊能事件の後始末にガイア連合の本部である山梨支部の人々が巻き込まれることになったのであるが、ウシジマの情報の売り込み方のいくつかの文言で山梨支部側も少し本気を出す事になったのである。

 

 一つ目は、『関西方面に在野のレベル30を越える比較的善良な転生者がいる』という点。

 何しろウシジマにしてみれば、「ダーク系の悪魔と契約して使役し闇金業者を経由して暴力団の依頼を受け続けている自分」=「ダークサマナー」だと思いこんでいる彼である。

 とにかく拡大方向に舵を切っているガイア連合は、少しでも使える異能者を欲していた。

 そこへ、質はまだ分からないがこの件を解決する事により取り込みも可能な高レベル転生者という人材がいるとなれば、後始末に協力して会ってみたいと2~3徹上等な仕事に追われているショタオジは判断した。

 

 2つ目は、『市街地に異界を作りレベル20を越える悪魔に姿を変え怪しげな実験の為に少女を誘拐させる犯人』という事件の特異性の点。

 この時期、レベル10を超える異界のボスが普通に地方一帯の危機だと言われ、いくら【羅生門】や【大江山】などの大型異界を抱える京都付近だとしても見過ごせないだろう。

 しかも、事件は解決済みで確保した犯人や被害者の処置をこちらに任せるというのだから、関西の地元の組織に頼んだら無かった事にされる可能性が高い事件の調査や解析がしたい技術班や医療班のちょっとイッてる連中は話を(盗聴器で)聞くと諸手で賛成した。

 

 3つ目は、『箱だけは出来ている大阪出張所の人材確保への紹介』である。

 ウシジマ自身、こちらの世界でもあと数年以内に出来るだろう【暴対法】で今の闇金業も先細りになるのは目に見えているし、ここらで本格的に隆和とセットでガイア連合に繋がりがあれば、将来的に『暴力団から仕事を貰うフリーの異能者=狩ってもいい反社のダークサマナー』と見做されて攻撃される可能性も減るという打算があった。

 ガイア連合側としても現場の地方の霊地に行くガイア連合員の要求に押されて、大阪城付近の霊地を確保しカプセルホテルの形態の派出所を作りはしたが管理できる転生者に余裕がなかった。

 そこへ覚醒していて金勘定も得意で交渉もできる転生者は管理人としてはうってつけであるし、こちらから派遣する職員に監視役も混ぜておけばいざという時も大丈夫だと事務方の千川は判断し少本格的に動くべく手配を行なった。

 

 こうして連絡してから一時間も立たない内に文字通り転移で跳んできたガイア連合とウシジマの手配した人員で、事件現場の処理は滞りなく済むことになった。

 一度に数人を山梨の第二支部まで運べるトラポート持ちの【腐百合ネキ】が動員され、行きは日本橋のまん○らけの近くの物陰まで跳んで、帰りは山梨第2支部内のアニ○イトの近くへ跳ぶというものではあるが、現地で対処するために残ったウシジマたちを除き無事に隆和とボスの部屋にいた女性二人は山梨へと運ばれた。

 

 

 

 

 現場で待機していたストレッチャーに乗せられて運ばれて行く彼女たちを見送り、隆和は案内役としてここに残った女性である【腐百合ネキ】を見た。

 身長は160ちょい位で年の頃は10代半ばくらいであろうか、服装も動きやすいトレーナーにGパンで短い黒髪と凹凸に乏しい体型から少年にも見える少女である。

 こちらを向いた彼女に隆和は話しかける。

 

 

「えーと、フユリさんだったか? ここはどこなんだろうか?」

 

「……フユリさんとか言われたの初めてだ。【フユリネキ】と呼んで下さい。

 ここでは本名じゃなくあだ名で呼び合うのがルールみたいなものだから。

 あなたが【アーニキ】さんよね?」

 

「そう呼んでいたのはウシジマさんだけだったが、何で間を伸ばすんだ?」

 

「そういう物だからだと思う。

 あと、ここは山梨県ですよ。

 ほら、あっちに富士山が見えますよね?

 じゃ、アーニキさん。一緒にこっちに来て下さい」

 

 

 いまだに空間転移などという体験に驚いていた隆和だったが、遠くに見える富士山を眺め溜息をついて彼女の後について行った。

 建設中の大型の工場やビルがあちこちにある小さい町のような場所を通り過ぎ、一番奥にあった鳥居の横の窓の少ない3階建のビルに入る。

 ロビーを通り過ぎて3階に昇り部屋に入ると床が畳張りの和室のようになっていて、そこには3人の男女がいた。パイプ椅子と簡素なテーブルの向こうに、向かって右から緑色の事務員の制服を着たお下げ髪の女性、真ん中に一番小柄だが髪の長い男性が、左端には黒いスーツを着た男性が座っている。

 こちらに来るときにウシジマから説明のあったこの組織のトップの神主がこの人だと、真ん中にいる一番威圧感のある男性を見て隆和は気付いた。

 ペコリとお辞儀をして腐百合ネキが足早に去ると、ニコニコとこちらを見ていた神主が眉をひそめ小首を傾げている。しばらくすると、何か諦めた表情で前にあるパイプ椅子に座るように手を翳すので不思議に思いながら隆和が椅子に一礼して座ると向こうから話しかけてきた。

 

 

「遠路はるばる山梨へようこそ。安倍高和さん。

 俺は、【ショタオジ】。ここの一応トップをしているよ。

 こっちの彼女が事務の【千川ちひろ】さん。

 で、こっちの黒いのが医療班の【黒医者ニキ】。

 君と一緒に運ばれて来た女性たちの担当だ。よろしく」

 

「よろしくお願いします。それで、説明とかして貰えるんですよね?」

 

「ああ、俺たちの仲間である君を助けるのが目的だからね。

 そうだね。じゃ、まず君個人の話から行こうか。

 ちょっと待ってね。…………これを見てくれるかな?」

 

 

 そういうと彼は何かデジタルカメラのような物を隆和にしばらく向けると、画面を見ながら書き連ねた紙を見せてきた。

 そこには隆和をアナライズしたものが書かれていた。

 

『名前:安倍隆和

 性別:男性

 識別:転生者・26歳

 ステータス:レベル39 破魔無効・呪殺無効・精神無効』

 

 

「このデータは今ガイア連合製のスキャナーで測ったものだけど、何か違和感は感じないかい?

 もし感じないと言うのなら、かなり危険な兆候だよ?」

 

「えっと、どう言うことですか? これ、俺のデータですよね?」

 

「君がどうやってここまでのレベルまで上げられたかが疑問なんだよね。

 うちにいるごく一部の人のようにちゃんと戦闘経験を積んでいるなら問題はないんだ。

 でも、君の体の動き方とかにレベルに見合うものが少なすぎる。

 まるで、『パワーレベリング』か『養殖』されたようだ。

 悪いことは言わない。ここで修行していきなさい」

 

 

 隆和はそう言われて混乱していた。

 何故、自分がそう言われているのかが分からない。

 戸惑っている隆和の顔を見て、仕方がないという表情でショタオジは話を続ける。

 

 

「そもそも君のスキルはどうやって憶えたものなんだい?

 ジャイブトーク、不屈の闘志、背水の陣は自分の経験から生まれたものだろう。

 悪魔召喚、見鬼、空曜道(マッパー)の術は陰陽師か修験者系の師匠でもいたのかな?

 妙技の手管と耽溺掌は他で見たことがない。家伝の技かな?」

 

「術系は皆、師匠から基本を教わって後は独学です。

 最後の二つは、師匠が編み出した独自の技だと言っていました」

 

「師匠って誰だい?」

 

「仲魔の幽鬼チュレルのコレットによると、【大内隆】と言うそうです。

 師匠は異界の最奥に居て、俺自身も何年も会っていません。

 師匠のいる異界【大内屋敷】の場所はコレットが知っていたので行けましたけど、この数年、間引きも兼ねて何度も潜っていますが最奥付近の悪魔が強すぎて師匠のいる居室まで行けないんです」

 

「なるほど。その異界の噂は聞いたことはあるよ。

 実在するとは思わなかったなぁ。

 じゃあ、そのレベルの高さはその異界で戦っていたからかい?」

 

「はい、大体は異界の戦闘によるものになりますね。

 ただ、レベルが15を越えるまでは違うやり方でした」

 

「どんなやり方だい?」

 

 

 隆和はちらと横にいるちひろを見ると、すまなそうに言った。

 

 

「コレットが安全だと判断した依頼の解決と、その……コレットとの交合による房中術をひたすらしていました」

 

 

 ショタオジは意味が分かって真っ赤な顔のちひろを横目で見て顔に出さないように吹き出しながら、コツコツと指でテーブルを叩きながら納得していた。

 

 

「なるほど。【幽鬼チュレル】は、だいたいのレベルが20代の半ばだ。

 【エナジードレイン】を応用したのかな?

 房中術により、自分のMAGと循環させて君のレベルを引き上げていたのか。

 健気だねぇ、その悪魔。

 よし。ここは結界が張ってあるから、呼び出してごらん?」

 

「多分、それは【妙技の手管】のスキルの効果です。

 このスキル、師匠いわく【房中術を含む総合的な閨の技術のスキル】なので、【応用すると状態異常の相手へのダメージを増やす】効果が出るんです。

 それと、いいんですか?」

 

「あ、ああ、その位の強さなら大丈夫だよ」

 

「それじゃあ。コレット」

 

 

 隆和が呼びかけてコレットを呼び出した。

 呼び出された彼女は周囲を見渡し、こちらをじっと見つめるショタオジに気づくと幽鬼特有の蒼白い肌をさらに白くしてガタガタと震え始めた。

 それを見ていたショタオジは、内心淫魔みたいなスキルに若干引いているのを隠しつつ静かな声でコレットに問いかけた。

 

 

「やあ、初めまして。君がコレットかい?

 ああ、自己紹介はいいよ。

 なるほど、レベル34。通常のチュレルよりもかなり強いね。

 それで、君が彼の師匠としていた契約の内容は何だい?」

 

「あ……いや、その……これは」

 

「多分、【彼の守護】が内容かな?

 それで、君より強くなったら契約先が彼になるとか?」

 

「あ…………えと」

 

「姿からすると、元はメシア教の聖女かな?

 恋もしないまま死んで、それでも初めて想い人に出会えた、と。

 個人間の恋愛には口は出さないけど、女性の幽霊噺によくある心中は止めてね。

 まあ、これからも彼とは上手くやって欲しい」

 

 

 その言葉を聞いた途端、コレットは顔を覆い泣き崩れた。

 そして、しきりに「ありがとうございます」と言い続け始めた。

 横でじっと抗議の目で見ているちひろと黒医者ニキを尻目に、ショタオジは自分の持たれているイメージに憮然としながら困惑している隆和に告げる。

 

 

「ごほん。かなり長い前置きになったけど、ここからが本題だ。

 君たちのスキル構成から見て、【状態異常で動けなくして倒す】のが戦闘における基本パターンのようだね。

 さっき言っていた異界でもそうやって戦っていたんだろうけど、これ、相手の数が多かったり遠距離から魔法を撃たれ続けたり状態異常の効かない相手にはレベル差があっても詰むよね?

 それなのに、肝心の君は戦い方が喧嘩殺法がいいところだと思う。

 違うかい?」

 

「確かに思い当たるフシはあります。

 でもそれは俺に戦うセンスがないからで……」

 

「確かにそうですけど、それは私が彼を護りたいからで……」

 

「あー、取り敢えず二人とも少し待ってくれるかな?

 まず、その【大内屋敷】の異界の情報とそこでどういう風に戦っているのかを説明してくれるかな?」

 

 

 そう問われて隆和とコレットが知る限りの情報を話すと、ショタオジは頭を抱え、ちひろは理解を放棄し、黒医者ニキは興味深げに聞いている。

 少し遠い目をしながらショタオジは、今聞いたことの確認をし始める。

 

 

「まとめるよ。

 基本的に異界内は寺の境内を模したもので、君の師匠は最奥の居室で異界のボスとされる女性悪魔を閨の技術で鎮め続けている、と。

 ボスは彼の妻を自称する女性悪魔たちで、今のコレットより強い悪魔の【地母神ハリティー】【妖獣タマモ】【大天使ライラ】の三体。

 50年以上それを続けているなら、君の師匠はもう半分以上人ではないかもね。

 

 そこで遭遇した悪魔が、妖精、鬼女、夜魔、魔獣、妖鳥、天女などなど。

 つまり、レベル10~30後半位までの7割が女性型悪魔。

 しかも、最奥付近にはボス部屋のお溢れに与ろうと強い悪魔が出待ちしている。

 

 異界の法則の推測は出来るよ。

 男性間の痴情のもつれで滅んだ大内義隆の子孫が、四六時中、ボスたちと盛っている。

 そしてそれが数十年に渡って続いている。

 だから、そのMAGの影響で女性型悪魔がかなりの確率で出現しやすくなっている。

 それが【大内屋敷】だと」

 

「はい。

 そして俺が11になった頃に、異界の入り口のある廃寺に地元の若い連中が大勢で来て封印の石を蹴り壊して今まで硬く封印していた入り口が開放されたそうです。

 師匠はその時に数十年ぶりにこちらに戻り、異界から動けない自分に代わり外から再封印を託せそうな相手を探している時に俺に出会ったんです。

 自分の技術を俺に教えてコレットを渡すと、その後師匠は異界に戻ってそれ以来会っていません」

 

 

 それに、コレットが隆和の意見を補足するように続ける。

 

 

「彼は表の世界での職業について平穏な生活を強く望んでいます。

 私はそんな彼が好きですから、出来るだけ安全に強くなるようにしてきました。

 だから、保有マグネタイトを増やして強くなることだけを優先しました。

 数が多かったりして倒せない相手からは逃げましたし、倒せる相手を行動不能にして倒し、後は上げたレベルのスペックに任せてゴリ押しする戦い方は彼を歪にしたかもしれません」

 

「師匠は俺の命を助けて、今まで生き残るための全てを授けてくれました。

 平穏な生活を送りたいのは確かに希望ですけど、恩は返したいんです。

 このままで駄目だと言うなら、どうか戦い方を教えてください。

 お願いします」

 

 

 二人はそう言うと揃ってショタオジに頭を下げた。

 まだレベルをそこまで上げた方法を言い淀んでいる節はあるが、素直に教えを請うその二人を見たショタオジは少し感動していた。

 ここ最近に訓練を施した数々の転生者達に比べて、なんて素直で前向きなんだろう。

 これは会談が終わったら、必ずそのレベルアップの方法の詳細を聞き出した上で高レベルだし特別にスペシャルな特訓方法でやろうと決めた。

 ものすごい寒気を感じて周囲を見る二人を余所に、ショタオジたちに追加の書類を渡して巻き込まれるのを恐れて足早に立ち去る職員を見送り上機嫌な顔でショタオジは続ける。

 

 

「大丈夫、訓練の方は任せてくれ。

 よし、俺の話は終わりだな。

 調査報告も来たようだし、それにも関連した話を二人から頼むよ」

 

「ええ、分かりました。

 では、今回の事件に関する事と今後に関する事を話し合いましょうか?」

 

 

 上機嫌で話すショタオジを見ながら、二人のこの後の訓練の事を気の毒に思いながら黒医者ニキとちひろは書類を手に取り話し始めた。




後書きと設定解説


・関係者
名前:腐百合ネキ(桂木美々)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・17歳
職業:ガイア連合山梨支部連合員
ステータス:レベル14・スピード型
耐性:破魔無効・呪殺耐性(装備)
スキル:トラフーリ(戦闘脱出)
    トラポート(長距離転移)
    エストマ(敵遭遇率低下)
    スクンダ(敵全体・命中と回避低下)
    迅速の寄せ(素早さと先制率上昇)
    逃走加速(逃走確率の上昇)
装備:軍用バックパック(耐刃防弾仕様)
   呪殺耐性の指輪
詳細;ガイア連合員専用の物資の配達をする部署の関西方面担当の一人
   テレポート地点はBL本を買った思い入れのある場所が基点となる
   異能ではなく趣味のことで家族と疎遠になり家を出た
   友人の手で腐海に引き込まれ、貴腐人と百合モノ好きになった
   友人の栗原すずかは有明で売れっ子の同人作家
   つるん・ぺたーん・すとーん(黒医者ニキのメモより)


【挿絵表示】

腐百合ネキのイメージ図


次はガイア連合関係者との会談の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第3話 ガイア連合山梨支部にて その2

続きです。


 

 

  第3話 ガイア連合山梨支部にて その2

 

 

 上機嫌で話すショタオジを見ながら、二人のこの後の訓練の事を気の毒に思いながら黒医者ニキとちひろは書類を手に取り話し始めた。隆和は、新しいパイプ椅子を持って来て隣に座ったコレットと神妙な表情で話を聞いている。

 

 

「さて、話が前後するがまず今いる【ガイア連合】についてだ。これは千川さんから頼むよ」

 

「はい。では私から説明させて頂きますね。

 ガイア連合は、ここ日本最大の霊地である富士山、そこに立つ日本最高の神社【星霊神社】を中心にして設立されました。

 ここは、転生者専用の掲示板でここにいる神主の【ショタオジ】が【富士山覚醒体験オフ会】を呼びかけ、それに賛同した転生者達が集まったのが全ての始まりでした。

 徐々に集まる人も増えて業務が拡大する内に、転生者を助ける相互組織【ガイア連合】は生まれ日々拡大しているのが今の状況です。

 最近でも青森の恐山の大型異界を鎮め、初の大型地方支部が建設されている途中です」

 

「そして、彼女がこのガイア連合の実質的な事務方のトップで、ここで怒らせると一番おっかない【千川ちひろ】さんだ。

 よく憶えておくように。では、改めてよろしく」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 

 二人して真面目に頭を下げる姿に、どうしてダークサマナーを自称しているのか調査資料を不思議に思いながら、黒医者ニキの足の甲を踏みつつちひろは話を続ける。

 

 

「まず、こちらがあなたを『転生者』だと判断したのは、ウシジマさんからの情報でした」

 

「ウシジマから?」

 

「はい。

 彼はあなたが通信制の高校卒業資格を取るために倉庫整理のバイトをしている時に知り合ったそうですね?」

 

「はい。そうですが?」

 

「彼はその頃にはもう闇金業者として働いていたそうですが、そうして仲を深める内にお互いの事を話して除霊の仕事を貰うようになった、と」

 

「ええ、そうですね」

 

「転生者として判断した情報ですが、あなたはお酒の席でこの世界ではまだ発行されていないとある作品の『オルソラ』という女性キャラが好みとおっしゃっていたとか?」

 

「ウシジマぁ!?」

 

「ふーん、へー」

 

 

 思わず叫びだした彼の横で、不機嫌そうなコレットの顔を見てくすりと笑って追加情報を出すちひろ。

 

 

「なるほど。

 金髪碧眼でシスター、女性の好みは変わっていないようですね」

 

「!?」

 

 

 その言葉を聞いてぱあっと明るい顔をするコレットと焦りだす隆和、それを楽しく眺める三人。

 期待に満ちた目で彼を見つめるコレットと助けを求める視線を出す彼を見て、もう充分と思い次の話題に移るちひろ。

 

 

「資料によると、先日、建設現場での仕事をお辞めになって、それからウシジマさんから受けた仕事先で今回の事件に出くわしたので間違いありませんね?」

 

「はい、そうです。

 そういえば、助けた彼女たちは無事ですか?」

 

「それについては向こうで助けた4人は、警察病院で収容されて入院していますが命に別状はないそうです。

 これについては向こうの方で処理されるので大丈夫でしょう。

 問題はこちらに連れてきた3名です。

 そちらについては、黒医者ニキからお願いします」

 

 

 そう言われ、資料を手に黒医者ニキは話し出す。

 

 

「まず主犯の男についてだが、現在、眠らせて拘束し変身能力の検査と記憶の洗い出しを進めている。

 身元は戸籍自体がいじられているから、追うのに時間がかかりそうだ。

 記憶の方も時間がかかるのでまだ途中だが、変身の方は分かったぞ。

 言ってみれば、至極原始的な人間と悪魔の悪魔合体の術だな。

 あれだ、『デビルマン』が近いな。

 意識の方も悪魔側に侵食される形でやや悪魔主導のようだ。

 記憶の吸い出しが出来ればもっと詳しく判るだろう」

 

 

 今度は資料から2枚の写真を取り出し、こちらに見せた。

 一枚は檻の中で眠らされていたあの猫耳の少女のもので、2枚目は同じ彼女だがどこかの制服を着ていて猫耳がない身分証の写真だ。 

 

 

「この少女は、現地から発見された遺留品の中にあった身分証から分かった。

 彼女の名前は、【百々地希留耶】。中学2年生の14歳。

 今回の主犯の手で行われた“実験”の被験者で唯一の生存者だ。

 彼女は【魔獣ネコマタ】と合体させられ、悪魔人となっている。

 彼女は家出中に誘拐され巻き込まれたようだが、現在は意識も取り戻しこちらの女性スタッフが彼女と話している最中だ。

 落ち着くまでは暫く掛かるだろう」

 

「彼女の両親に連絡はしないんですか?」

 

「彼女自身が両親や警察への連絡を拒否しているんでな。

 落ち着かせたら、時間を置いて再度話す予定だ。

 その時は同席してもらうぞ」

 

「何故、俺が?」

 

「彼女は現地人だ。

 我々は転生者を手助けするのが目的の組織であって、現地人を助けるのは関係した転生者本人の裁量に任せるルールだ。

 今回は『安倍隆和』の名義でここで治療を受けさせる形になっている。

 その後で、彼女を放り出すのも面倒を見るのもそちら次第だ」

 

「……」

 

「よく考えろ。まだ、あるんだからな」

 

「まだ?」

 

 

 黒医者ニキは資料の別の書類を手に取ると、訝しげに見る隆和の方を見て話し出す。

 

 

「3人目は現場であの男に乱暴されていた現地人のシスターだ。

 遺留品の装備からもメシア教のシスターであるのは明白だ。

 復元して綺麗にした顔写真付きで教会の日本支部に問い合わせて、彼女の遺体は近日中に教会に引き渡される予定だ。

 まあ、身体を検死したらそういうのも納得だが」

 

「何があったんです?」

 

 

 そう彼が聞くと、黒医者ニキは不愉快げに続ける。

 

 

「彼女は今回の事件を別の視点から個人的に調査していたらしい。

 実際、地元の霊能組織は気付かずに君が関わってから気付いたようだからね。

 あと、あの男がバフォメットの姿になっていたのが最悪だった。

 相手がシスターだからか、彼女は魂まで犯されて蘇生は不可能だった」

 

「助けた時までは生きていて、コレットの回復魔法で傷は癒やしたはずなのに?」

 

「身体の傷が癒えても、魂が欠けてしまったら蘇生魔法でも無理だ。

 君にそこまでの思い入れがある相手なら助けるが、知らない人物だろう?

 悔しく思うなら、ショタオジの訓練で強くなることだ。

 それに、もう一人いるんだぞ。忘れるな」

 

「……分かりました」

 

「隆和。私はずっと側にいるから頼って」

 

 

 落ち込んでいる隆和の手を握り、慰めるようにいうコレット。

 それを見て、「自分の話はこれで終わり」と黒医者ニキは手をひらひらさせながら部屋を出て行った。

 ごほんと咳をして空気を入れ替えるように続きの話をするちひろに、慌てて居住まいを正して二人は真面目な態度に戻った。

 

 

「さて、今度は私からのお話です。

 今回の事件の後始末は、私たちも慈善団体ではありませんから代金なども発生します。

 それに今後のことについてもありますので、その辺についてお話しましょうか?」

 

「いくら位掛かるのでしょうか?

 それなりに貯金はありますけど大丈夫でしょうか?」

 

「落ち着いて下さい。それは、後でお話しますので。

 まず、【女神転生】と【終末】についてはどこまで理解されています?」

 

「前は、両親や病気や仕事に追われてゲームとかよく知らないまま終わっています。

 なので、今世でウシジマさんからある程度は聞いています。

 この世界は前の世界でゲームにあった世界の危機が起きうる世界で、それが【終末】だと。

 だから、資産の半分以上はマッカや宝石に替えて彼に預けています」

 

「最低限の情報は得られているようで助かります。

 我々は、その終末が10年以内に起こると予想して動いています。

 具体的にはアメリカのメシア教が世界中に核ミサイルのICBMを降らせ、悪魔がどこにでも現れるようになり、文明の崩壊後はメシア教と他の有力な神々が争いながら世界を治めるようになるか、または聖書の大洪水が起きて2回めの『方舟』で文明リセットされると考えられています。

 ご理解されましたか?」

 

 

 そこまで聞いて、隆和は自分の将来の夢がガラガラと音を立てて崩れていくような感覚を感じていた。逆に横に居たコレットは、昔に自分が所属していた頃のメシア教を思い出し、彼は気の毒には思うがアレならやるだろうなと納得していた。

 ちひろにしてみれば、もし仮に彼の話に聞いた異界をどうにか解決できたとしても、コレットもいるのだし表の職業について平穏な生活が出来るとは思えない。何しろ、彼の死後も離れないと目で示している彼女がもう後戻りが出来ないところにまで連れて来ているのだから。

 (まあ、それは彼の事情だし)と思い、構わずに彼女は話を続ける。

 

 

「そこで我々は、そのために転生者の皆様用に特典として無料で【個室のシェルター】を用意しています。

 また、覚醒されてこちらの霊能関連の仕事をして頂くなら『シキガミ』と呼んでいる主に忠実なパートナーとなる人造悪魔も御用意できます。

 なお、ご家族や配偶者の方のシェルターの増室や治療は基本【有料】ですのでご注意下さい。これは、今後はあなた方にも適用されるのでご注意下さい」

 

「……そうだ。今回の事件の件ではどうなるんですか?」

 

「その辺に関する細かい手続きや交渉などは、こちらの事務所と現地のウシジマさんとで話がついています。逆に、こちらからお支払いする事になると思います」

 

「え、そちらにお支払されるような事はした憶えはないんですが?」

 

「隆和。私たちの身の上話をしたでしょう?

 その中に、彼らが値段を付ける情報があったの。

 こうやって言ってくれるなんて、この人たちは親切なことなのよ?

 真面目に素直に働くあなたが好きだからそのままにしていたけど、これからはその辺も勉強するからね?」

 

「ああ、分かったよ。コレット」

 

 

 愛する彼を守ることが最優先のコレットにすれば、こうして自分や裏の世界に浸っても変わらずに真面目で誠意を持って働こうとする15年をかけて子供の頃から見てきた彼の素直さは、今日は特にたまらなく可愛らしく思える。今夜は絶対に一緒に寝ようと考えつつ、彼を守る決意を新たにしている。

 どピンクな雰囲気を目の前で示されたちひろは、かなり長時間となっていたのでもういいやと今日の話を締め括ろうとした。

 

 

「とりあえず、今晩はそちらにはこちらで用意した宿泊施設でお泊りいただいて、明日からショタオジの覚醒再修行を受けていただいて、その間に他の件は我々とウシジマさんで進めておくので頑張って下さい」

 

「はい、長い時間ありがとうございました。千川さん」

 

「ん? 終わったか、終わったね。

 俺もかなり休憩が取れたし、明日からまたよろしくね。アーッニキ」

 

「はあ。神主さんもよろしくお願いします」

 

 

 そして、この場で行なわれた会談は終了しそれぞれにやる事を考えつつ解散となった。

 

 

 

 

 その日から、彼らは二ヶ月ほど山梨支部に滞在することになった。

 二ヶ月とは、ガイア連合側の事情と彼への特訓の事情が理由である。

 

 まずガイア連合側の事情だが、現在は恐山の大型支部の建設をしているがそれと並行して、次の大型異界(後に【ヒノエ島】と呼ばれる島)の攻略計画と合わせて瀬戸内支部と北陸支部の建設計画も進んでいた。

 最もそれらの計画は、数カ月後には張り切った連合員の頑張りとちゃんとした睡眠への情熱により、日本全国に19の支部を完成させることになりショタオジを呆れさせていたが。

 とにかくそれらの計画のためにも、その中継地点になる関西に霊地にあるちゃんとした宿泊施設が求められ幾つかの派出所が作られていた。

 彼の今後にも関わってくるそのうちの一つが大阪城付近に造られ、箱だけは出来ていたそれの内装と内部の施設の設置に二ヶ月は掛かるというのがガイア側の事情である。

 

 もう一つの彼の特訓の事情とは、主に彼に施されるのが体術と攻撃の回避がメインになるのだがそんな物は普通にやったら数年は掛かるので、短期間でダメージが抜けるのまで考慮して二ヶ月でやろうという楽しげなショタオジの判断によるものだった。

 それでは、彼への特訓の方から観ていくことにしよう。

 

 

 

 

 あの会談の翌日から始まった『痛くなければ覚えませぬ』とモットーにしたそのショタオジの彼が受けた【覚醒訓練】は、他の被験者ならトラウマを再発させていただろう。

 まずは前菜として、本家様のAAスレ『愉快な転生者がメガテン世界で生きあがくようです』の三話と四話の【高難易度修行】(非覚醒者時体験コース)と似た物を二日ほど同じ体験して能力が増えるかどうか様子を見ることになった。したが、増えなかった。

 

 それでその翌日、彼らからショタオジに強くなった理由の物品が届いたから見て欲しいと連絡があった。

 強い結界のある部屋で出来ればショタオジ一人でというので彼がそれなりの用意をして向かうと、昨日までの影響から【パトラ】で頭をハッキリさせたらしい二人が緊張した面持ちで指定した部屋で待っていた。彼らの側には、長さ1mほどの長さの何かを厳重に封印するように力の強い札を貼られた箱が置いてある。

 気になるが軽く挨拶をしてショタオジが彼らの前に座ると、隆和とコレットが話し出した。

 

 

「実は、この中の物が急速にレベルを上げられる原因になったアイテムなんです。

 今まではウシジマさんのビルの地下倉庫に預かって貰っていたんですが、『もう預かれない。ガイア連合に行けたのだからこれを引き取って処分してくれ』と言われてしまって困っているんです」

 

「隆和の住んでいた安アパートには置けませんし、出来れば買い取りか処分して貰えませんか?

 私たちはもうこれで強くなれませんから」

 

「特別なアイテムを使ってそこまでレベルを上げていたのか。

 じゃあ、中を見せてくれるかな?」

 

「この部屋は結界はありますよね?」

 

「大丈夫。ここは俺の本拠地の【星霊神社】の敷地内だよ?」

 

「よかった。じゃあ、開けますね。コレット、しばらく開けてなかったから、念のために封魔管に戻って」

 

「はい。気をつけて」

 

 

 心配げなコレットが退場すると、隆和はそっと紐を解き蓋を開けた。

 蓋を開けると一瞬可視化するくらいの強力な魔力が溢れ、中の物が見えた。

 そこには緩衝材に覆われていた高さ40cmほどの顔が削られて無い身体の衣装から仏教の像と判る立像が入っていた。

 ショタオジの目にも、明らかにヤバイ物だと見えた。

 

 

「……それは?」

 

「自分の地元は関西な上に、霊能関係の依頼で行くのも京都や奈良なんかも含まれる畿内だったんで偶にこんな物が見つかるんです。

 これを手に入れたのは、前の職場で働いてる頃だから3年くらい前でした。

 異界化して死亡した好事家の別荘を何とかしてくれと依頼がウシジマさんから来まして、最奥の部屋でこの仏像と好事家の遺体に絡みついていた悪霊の塊を倒して見つけたんです。

 記録には、【呪いの仏像】と。

 その後に残された資料を調べると借金の代わりにこれを今は潰れた寺から買ったとかで、伝承だとこの仏像を持つ者は試練を与えられ打ち勝つと強い力が手に入るとありました」

 

「なるほど。それからはかなり強力な【リベラマ】が発するみたいだね。

 無分別に周囲の悪魔を呼び寄せるんだから、その好事家が未覚醒なら助からないのも道理だね」

 

「はい。だから、あまり他の人には知られたくなかったんです。

 トラブルの元にしかなりませんから」

 

「それでどうやって、集まった悪魔を倒したんだい?」

 

 

 そう聞かれて、少し遠い目をしながら隆和は答えた。

 

 

「俺の知り合いに、【高橋なのは】さんてよく知ってる作品にそっくりの女性が居るのです。

 その人、陰で【魔王】さんと言われるくらいに何でも吹き飛ばす範囲魔法が得意な人だったんです。

 俺のスキルは女性には好かれませんので、師匠の異界に行って俺がこの仏像を紐で縛って背中に背負って囮になりました。

 そして、近付いてきたのを高橋さんが吹き飛ばして、抜けてきたのをコレットが倒すパターンでした。

 休みの日にこれを続けていたら、レベルだけはこんなに上がったんです」

 

「ああ、その女性も先日ここに来た転生者だね。……その顔は知らなかったのかい?」

 

「はい」

 

 

 かなり驚いている隆和に、ショタオジは楽しそうに告げる。

 

 

「今回、君をここに紹介したのがいい機会だとウシジマニキは思ったんだろう。

 こちらに、今まで知らなかったりしてこっちに接触して来なかった転生者を数人ほど連れて来たんだよ。

 その中の一人に、その名前の彼女がいたんだ。

 声も『田村○かり』にそっくりだった」

 

「ええ、そっくりなんですよ。格好は普通の服なんですけどね。

 まあ、ウシジマさんにも考えがあるんでしょう。

 金銭で何かない限り、こっちに不義理をする人じゃないですから」

 

「まあ、君が信用しているならいいか。

 それじゃあ、その仏像はこっちにはかなり有用な物だから買い取らせてもらうよ。

 いいかい?」

 

「お願いします」

 

「それじゃあ、【新車のポルシェ・ボクスター】円位で買うね?」

 

「……は? えー、え?」

 

「不満かな? それじゃあ、【諸々オプション付き】位がいいかな?」

 

「そじゃなくて、NANでソんナに田書く1?」

 

「落ち着いて。口調が変なふうになっているよ?」

 

 

 混乱している彼に、クックっと笑って続けるショタオジ。

 多分、彼は今も表の世界の金銭感覚でいて、除霊仕事も一件で○十万円位だったのだろうとショタオジは予想をつけた。

 彼にはもう必要ないだろうけど、使い方次第で化けるこの仏像は手に入れたいと考える。

 

 

「この仏像のことを知っているのは、君と【魔王ネキ】とウシジマニキだけかな?」

 

「はい。その3人だけです」

 

「なら、割合は少ないけどその三人にも代金を分けるから売って欲しい。

 もちろん、この値段は他に売って欲しくないのと当分の間の口止め料もあるから」

 

「えーと、じゃあお願いします」

 

「うんうん。この件はこれで終わりだ。

 会計はちひろさんに言って処理して貰うから、大丈夫だよ。

 それじゃ、午後から本格的に始まるので昼飯は程々にしてから来てね☆」

 

 

 仏像を箱に閉まってショタオジに手渡すと、一礼して隆和は訓練の準備をするべく部屋へと戻って行った。

 封印の箱を大事そうに持ち、上機嫌で事務所の方に向かうショタオジは考える。

 

 これは昔、どこかの僧が周囲の人物の成長を願って創り、代々その寺で彼のようなやり方で異能者を促成するのに使われたのであろう。

 しかし、戦後になって記録は焼失しこの仏像も厄介なものと成り果てて、数奇な縁から彼の手を経てこうしてここに来た。これは、大事にうちで使うことにしよう。

 やっぱり彼には色々な物を齎してくれたのだから、感謝を込めて丁寧に午後からの訓練を指導することにしようと彼は新たに内容を考え直していた。

 その日の午後、クスクスと笑いながら来たショタオジに隆和は本能的な危機を感じたらしい。

 

 その後に行なわれた特訓は大怪我しても死んでも魔法で治るから大丈夫と、『痛くしなければ覚えられないなら、なんなら死んでも痛い位にしてもいいよね☆』というある程度本気で殺しに来る戦闘訓練だったという。

 

 ショタオジ曰く、「二ヶ月でやる予定だから、ギリギリのギリギリを突いてみた☆」だそうだ。

 合掌。




後書きと設定解説


・アイテム

【呪いの仏像】
高さ40cm、重さ4kg、金メッキの金属製の極めて頑丈な顔のない仏像
どこぞの霊能組織が売ったのを入手した好事家が変死した事件で入手
所持者に覚醒しないと意味がない【経験の幸運】の霊験を授けるが、
苦難として周囲の悪魔を呼び寄せる極めて強い【リベラマ】を発生させる
買い取り手が居ないため、大枚はたいて封印用の箱を買って所持していた
異界で背中に紐で括り付ければレベル上げのアイテムになった


次はガイア連合関係者との会談のその続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第4話 ガイア連合山梨支部にて その3

山梨支部での生活編、ようやく終了。

※waifulabsで作成したイメージ図を追加


 

 

  第4話 ガイア連合山梨支部にて その3

 

 

 例の仏像を渡した日から、時間は過ぎていく。

 

 安倍隆和は山梨支部に来てから、座学でこの世界がいかに危険でいかにどうしようもないかを学び、訓練ではアレも試そうコレも試そうと上機嫌なショタオジ監修の地獄の薩人戦闘訓練でいかに今までの戦闘体験がそのレベル帯に合わない甘さだったのかを学んでいた。

 コレットは山梨支部に来てから、そんな生活で彼が身体と精神の傷は完治されるものの疲弊する精神を守るためという名目で、休憩時は側で励まし夜は大いに甘やかし、その過程で頻度の多い夜の運動をして自分の種族が変わっていることに気付かないくらいに大いに満足していた。

 彼らは基本的にそうやって過ごしていたが、今回はいずれ彼の周囲に居ることになる彼ら彼女らについてそれを見て行きたい。

 

 

 

 

「あんたなんか産むんじゃなかった。そうすれば……」

 

「だから言っただろう!? もう一人なんて産まなければ……」

 

 

 彼女、【百々地希留耶】にとって家は居場所ではなかった。

 かといって、学校は家のことを相談した女性教師に、

 

『彼女の家庭はこのように大変なので、皆さんも親切にしてあげて下さいね?』

 

 と、バラされていじめとは行かずとも腫れ物扱いされ居場所ではなくなった。

 ネットで調べて弁護士の所に行ったが、相談料を五千円払わされて追い出された。

 警察や役所では明確な何かがないとどうにも出来ないと言われて家に連れ戻されて、恥をかいたと言われて父親にお腹を殴られた。

 居場所が無くなって路上生活を続け、繁華街を歩いていたら後ろから殴られて連れ去られ、そこから先はよく憶えていないが、彼女は気がついたらきれいな病室で病院のパジャマを着ていて寝ている所だった。

 

 起きたところでぼうっとしていると、白衣を着た黒医者ニキや女性の看護師たちが来て現在の状況を解りやすく教えてくれた。

 自分の身体がどうなっているかやどういう事件に巻き込まれていたか等のもう後戻りは出来ない今の状況を聞く度に半狂乱するのを、彼らが何か一言言うだけで強制的に何度も冷静にされて彼女も実感させられ理解した。

 時々、看護師達が「キャル虐なの?」「リアルでは止めてくれよ」と意味の分からない事を言っていたのを聞いたが、まんじりとしない入院生活が1週間ほど続いたある日の午後、彼女に面会に来る人物がいた。

 

『ガイアアニメーションの新作アニメ「魔法少女☆マギアレコード」、ついに開始!』

 

 そんなCMをテレビで見ていた希留耶の病室に、ノックの後に隆和と黒医者ニキが入って来た。

 担当医の黒医者ニキも同伴で来たのは、ちょうどよくショタオジが他の仕事に追われて隆和の訓練が休みになっていたからだった。

 一時的に帰宅して、着替えや重要な資格証などの書類を含めた貴重品を持って来ていたため、真面目な話をするからと言われ珍しくスーツ姿でこちらに来ていた。

 そして、挨拶をした彼らがベッドの横の椅子に座り話が始まった。

 

 

「こんにちは、初めまして。安倍高和と言います。

 巻き込まれた事件で貴女を助けたのは俺になります。

 気分の方は大丈夫ですか?」

 

「はい。まともな温かいご飯は食べられるし、男の人に襲われたり父親に蹴られたりしないので安全によく眠れます。

 あ、名前は百々地希留耶で、中学2年生です。

 ありがとうございます」

 

「そうですかー」

 

 

 隆和が「ここまで酷いとは聞いていないぞ」と隣の黒医者ニキを睨むが、「だって言っていないから」とニヤリと返している。

 不安そうにこちらを見る彼女を前に、気分を落ち着け隆和は話を続ける。

 

 

「それで体質の事はさておき、警察と親御さんへの連絡をしないでくれと頼んだのは何故かな?」

 

「親はあたしに無関心ですから。

 二人揃って兄を連れてメシア教会に入信してから、あたしは完全に放置されたんです。

 それに警察は、家に送り返すだけで信用できませんから」

 

「……家出はいいのかな??」

 

「世間体と面子が大事ですから、うちの親。

 それでそこそこいい学校も行けましたけど、学校で無視されていると知ったら何を言われるか分かりません。

 とにかく、あたしに煩わされるのが嫌なんです」

 

 

 自分の生い立ちも大概だが、彼女も酷いなぁと隆和は思った。

 だが、同時に助けられるなら助けたいとも考えている。

 続いて、黒医者ニキが話し出す。

 

 

「君の家庭環境も彼は理解したようだし、君も今の自分が普通では無い事は理解していると思う。

 さてそこでだが、提案がある。

 彼はここで1、2ヶ月ほどしたら大阪で住み込みで働く事になっているんだが、彼を保護者にして君も来ないかね?

 君の個室も貰えるし、自分で勉強をしっかりやれば中学の卒業資格も何とかするよ。

 彼は了承するようだが、君はどうだい?」

 

「えっ!? いいんですか? うちに帰らなくても!?」

 

「君が了承するならね」

 

「正座させられて、何時間も怒鳴られなくていいんですよね?

 ご飯も無くて、洗面台の水で我慢しなくてもいいですね?」

 

「あ、ああ。大丈夫だとも」

 

「でも、安倍さんはいいんですか?

 こんな面倒くさい家の中学生の女の子の面倒を見るなんて。

 おまけに、怪物ですよ。あたし」

 

 

 黒医者ニキと彼女の環境に素で引いている隆和だが、彼女への同情とは別に引き受ける理由が出来ていた。

 

 それは、今日の午前の事だった。

 ここに来る前に、隆和は一時的に戻った大阪で不快気な様子のウシジマと会っていた。

 少し離れた所には、今まで住んでいたアパートが全焼した姿があった。

 彼の説明によれば原因は夜間の放火で、焼死者も出たらしい。

 たぶん、前の事件の報復ではとも考えているが、放火犯は目撃者がいないため不明とのことだ。

 例の事件の犯人の男の方も、ここの地元の同胞のネットワークにも所属していないのでいまだ調査中という事だ。

 

 幸い、重要な書類や貴重品はウシジマの会社の地下金庫にあったので無事だった。

 燃えた高価な物は、家に置いておいた電化製品などだけだった。

 そこで、隆和は大阪のガイア連合の派出所の一つに契約社員として仕事を紹介される予定だったことを知らされた。

 その上で、そこは宿泊施設も兼ねているのでそこに部屋を借りてはどうかと言われた。

 家は焼けたが住み込みで働けると考えた隆和はその提案を受ける事にして、また腐百合ネキの手を借りて山梨に戻って来たら黒医者ニキに話しかけられ今に至っている。

 

 さて、そんな事を思い出しつつ隆和は彼女に答えた。

 

 

「そんな家に戻らなくても、大丈夫。

 ここの人たちに頼めば、身体の機能とかどうしたらいいかを教えてくれるし、俺も強くなるために特訓しているからね。

 法律なんかの難しい事もちゃんとした専門家に頼めるから、安心して大丈夫だよ。

 ここの人達は、最近有名になってる大企業のガイアグループの人たちだから」

 

 

 そう答えると、彼女はハイライトが消えた目で微笑んで聞いてきた。

 

 

「あ、あの、安倍さん。

 安倍さんは……変な事しようとしないですよね? 信じて良いですよね?

 今回の事件もそうですけど、前に何回か襲われそうになって逃げ出した事があって。

 でも、信じさせてくれますよね?」

 

「信じなさい。

 俺にはちゃんと同棲している恋人もいるし、大丈夫。

 ここで掛かるお金だって大丈夫だよ。

 何しろ、今の俺はちょっとしたお金持ちだしね」

 

 

 この後、ボロボロと泣き出し落ち着いて彼女が眠るまで隆和は手を繋いで頭を撫で続ける事になった。

 その後、大阪に行くまでの間に次第に彼女は明るくなり、頻繁に彼に会いに行き自分でも戦えるようにと訓練をし始める事になる。

 ただ、時々隆和が見ていない所で、微笑んだコレットと彼女が一見仲良く対峙しているのが目撃されるようになり掲示板では、

 

『リアルの家庭板は嫌だが、リアルの修羅場も嫌だ。アーッニキ、何とかしてくれ』

 

 と、いう意見で彼の事を噂する皆の意見は一致したようだ。

 

 

 

 

 さて、もう一人見てみよう。

 

 彼女の名は、【高橋なのは】。通称、【魔王ネキ】と呼ばれる女性である。

 彼女は友人の隆和とは違い、早々にガイア連合に参加していた。

 彼とはレベルアップを共にした戦友であり、6年ほど付き合いのある飲み友達でもある。

 

 そんな彼と知り合ったのは、今は彼女自身も思い出したくない仕事絡みだった。

 当時、彼女は新人の下請け専門のコールセンターのクレーム対応係で、電話の内容は電化製品が何もしていないのに全部壊れたという老人からのものでいくら説明しても話にならず、終いには上司が宥めて菓子折りを持って謝罪する流れになった。

 上司が会社内でも嫌われているお局だったこともあり、新人の彼女が一人で行く羽目になってしまった。

 そして、彼女が行った先に霊能事件の解決で来た彼がおり、すでに自覚なく死霊になっていた電話の主との戦闘に巻き込まれて覚醒し、一緒に倒したのが切っ掛けだった。

 その後、彼のレベルアップが仏像を用いても無理になった頃、彼女は一目惚れした渋い男性だったガイア連合員に転生者だと告げ、仕事を辞めて地元の大阪を離れ付いていった。

 数日後に、彼が嫁と公言していたシキガミに初恋が破れる結末だったが。

 

 そんな事を一年ぶりに思い出したのが、青森の攻略作戦の参加後に周辺の異界を掃除している最中に受け取ったメールだった。

 そこには例の仏像をガイア連合が買い取ったので至急戻るように、とあった。

 前方で戦う同じ転生者の高校生の彼が、「【大切断】!」とボス周辺を薙ぎ払った所で声をかける。

 

 

「大きいの行くから、頑張って避けてね!」

 

「あああっ、またですかぁ! くそっ、たあっ!」

 

 

 彼がギリギリ安全圏に行ったのを視界の端で確認し、パッシブスキルを順次起動し溜めていた範囲魔法をぶっ放した。

 

 

「【万能ハイブースタ】、【魔導の才能】、【大虐殺者】、よし。

 【コンセントレイト】、【メギドラ】!!」

 

 

 ひと目で物凄い破壊力だと思えるピンクのゴン太い光線が、ボス悪魔と周囲を薙ぎ払った。

 迫り来る光線を見て「あ、終わった」という顔で、ボス悪魔たちは消えて行った。

 異界攻略後、地元の彼女にお土産を買うという彼と別れ、一足先に彼女は山梨へと戻って行った。

 

 山梨に戻ると、応接室の方に通されて暫く待つと友人のちひろが書類を持って入って来た。

 それに、軽く挨拶を返すなのは。

 

 

「やっほ、ちひろ。元気だった? 相変わらず、忙しそうだけど」

 

「久し振りね、なのは。

 最初は楽をするつもりで事務に入ったのに、いつの間にかショタオジの専属秘書みたいになっていたのよ?

 そして、いつの間にか事務方のトップみたいになっているのは本当に忙しいのよ? 判る?」

 

「どうする? また、事務のヘルプに入る?

 戦うのを辞めても、こっちでも手助けできるわよ?」

 

「事務の資格持ちで色々知ってるからそうして欲しいけど、貴女の火力は現場で生かさないとってショタオジが止めたからねぇ。

 後進の転生者用に事務の枠は開けないといけないし。

 そうそう、その辺も関係して急に戻ってきて貰ったのよ。

 この書類を読んで、理解したらこの欄にサインと親指で判を押してね?」

 

 

 一枚目は、例の仏像の売買に関する契約書だった。

 確かにアレは使い方次第で有効に使えるなぁと、あの異界で連続してぶっ放していたのを思い出す。

 あれは気分爽快だったと思いつつ、口止め料込みのちょっとした大金の振り込み書類にサインを書く。

 

 二枚目は、大阪での事業計画書への参加要請書である。

 それは、現場では自分も欲しいと思っていたちゃんと回復する霊地にある宿泊施設の派出所に関するもので、場所が大阪城近くの国道沿いにある3階建てのホテルという地方で泊まるならこういうのが良いと思えるものだった。

 そこには彼が住み込みで働く旨も書いてあり、なのはにも事務のまとめ役と現場での火力役を期待するとあった。

 疑問に思った彼女は、ちひろに色々聞いてみることにした。

 

 

「ねえ、ちひろ。

 この計画のことなんだけど、参加者は他にも居るの?」

 

「参加者? 転生者の事でいいのかしら。

 代表に男性が1人、事務員と女性スタッフが貴女を含めて4人、住み込みの男性スタッフが2人かしら。

 後のいろいろなスタッフは、身元調査の終わった現地の人を使う予定よ」

 

「代表って、もしかして隆和くん?」

 

「違うわ。他の人よ。

 彼、話を聞いてから私の所に履歴書を持って来て、日商PC検定三級を持っているとかTOEICで600行っていますって事務員になる気だったみたいよ。

 でも、『それなら今の訓練は何のために受けているんですか?』って聞いたら、かなり落ち込んだ様子で戻って行ったから悪い事したかしら?」

 

「彼、前の職場を辞めたのかな?

 それと、それなら大丈夫なの。

 彼に取り憑いてるあの幽霊が、夜にガッツリ慰めたでしょうし」

 

「あの娘ね。なるほど、それならいいか。

 前の職場は、何かあって辞めたそうよ。

 彼には、主に関西方面の異界の攻略を担当してもらう予定だから。

 ほら、彼が知らせてくれた大型異界の事もあるし。

 あと聞いたわよ。貴女も知っていたって。

 何故、報告しなかったの?」

 

「あの異界、中の悪魔がいつも最奥の方を気にして外に出ようとしないの。

 それに、定期的に戻って彼と一緒に掃除していたし大丈夫かなって」

 

 

 ため息を付いたちひろは彼女に注意し、お茶と煎餅を用意して休憩も取るつもりでがっつりなのはと話し込み始めた。

 

 

「大事になっていないからいいけど、これからは止めてね。

 それで、シキガミもまだいないし特定の人は見つかった?

 彼とはどうなのかしら?」

 

「まだよ。

 それに、自分でシキガミ彼氏を持つのは何か負けた気がするの。

 わたしの好みって、大○周夫さんや大○明夫さんに石○運昇さんが演じるような渋い男性よ。

 その点でいけば彼は、年上であの幽霊がいなかったら狙っていたかも」

 

「ふ~ん、そうなんだ。それでね、……」

 

 

 結局、サインをして話し終わるのに2時間ほど掛けてしまった。

 ちひろは、これで直帰だからと書類をまとめて帰って行った。

 なのはは彼に会おうと思ったが訓練はまだ続いていると聞き、宿泊施設が開設した時にまた会えばいいかと山梨にある自分のシェルターに泊まるべく歩いていった。

 

 ただ、その姿を見て不審がられないように道を開けられている事を彼女は知らない。

 何しろ掲示板では、某ハム子ネキとツートップで共に異界に行くのを避けられているのだから。

 「そんなだから彼氏が出来ないんだろう?」は、この二人には禁句である。

 

 

 

 

 最後に、もう一人見てみよう。

 たびたび登場している彼、【黒医者ニキ】である。

 

 彼は前世も今世も医者の家系に生まれ、医者として生きるのが運命づけられていた。

 前世では親の院内の人間関係に嫌気が差し、早々に人間関係のいい地方の診療所に行って亡くなったが、前世の経験を思い出した事で今世の両親に“神童”と見られ、前世以上にゴリゴリと人間関係に精神を削られる子供時代を送った。

 そのまま地方の両親の病院に勤めた時に、地下の遺体安置所で出た幽霊を覚醒して倒した事で疑問に思いネットを調べ掲示板に真実に辿り着いて、彼は弾けた。

 

 今の家族の事情も、人権という名の倫理によって雁字搦めにされている現場も、現場で荒れ狂う患者やその家族のヒステリーの坩堝も、全てを放り出して出来たばかりの山梨支部へと走り込み、ドン引くショタオジに雇ってくれと直接頼みこみ迎えられる事になった。

 そして【フェイスレス】氏のような趣味の合う仲間たちにも恵まれ、異能者やシキガミに悪魔と今までにない知識に果敢に挑み、立派なガイア連合の誇る凄腕HENTAIマッド技術者の一人に染まっていった。

 

 そこへ、今回の事件である。

 見つかり難い科学的な盗聴器で詳細を知ると、他に仕事を抱えている連中とは別の仲間たちとなだれ込み、貴重なサンプルたちを確保し治療と検査を嬉々として行なった。

 今回、一番彼の興味を引いたのは、他では診た事のないスキルを所持しサマナーをCOMP無しでしている上に歪な成長をしていた彼、『安倍隆和』だった。

 ショタオジ監修の座学と訓練で隆和は見る間に矯正されていった。

 異能者や悪魔のスキルが成長したり変質するのは知られていたが、彼が観察をするに隆和もまたこの訓練に於いてそれを起こしていた。

 だが、いかんせん手数が足りず、あの幽鬼単独では背後を守りきれない。

 

 ちょうどそこへ隆和がなにがしかの霊具をこちらに売り、他の情報のも含めて代金が多いために一部を物納してはどうかという意見が出た。

 それに彼は乗り、隆和専用のシキガミを創るのを提案した。

 あんな面白い観察対象は早々に死なれては困るので、顔見知りの彼が作製することを願い出て隆和とコレットにも受け取るように理詰めで説得し許可された。

 完全オーダーメイドは初めてだったが、造形資料は隆和の友人であるウシジマ氏からコレットに見つからないようにと預けられていたスケベ本を入手し、隆和の体の一部は特訓で飛び散ったものを大量に入手して隆和と同じ趣味のシキガミ製作者の協力を得てその娘は完成した。

 

 彼女の紹介はサプライズで行なうことにした。

 特訓を終えて大阪に帰る2日前の隆和たちの寝所に、ガイア連合製の依存性のない悪魔も淫乱になるお薬を持たせて彼は送り込んだのだ。

 経過は省くが、彼らへの挨拶と家族と成る事には成功していた。

 1日経過した出発日、大阪に帰るげっそりとやつれた隆和の横には、肌をつやつやとさせたコレットとトモエと名付けられたシキガミに不潔なものを見る目の希留耶の姿があった。

 

 腐百合ネキの転移で大阪に帰る彼らを見送り、黒医者ニキは今回の経緯を資料にまとめるべく上機嫌で帰って行った。

 そして、彼は思う。

 『巨乳シスターではガイア連合ではメシア関係で許可が降り難いが、黒髪ロングの巨乳巫女好きで助かった。今度行く店でそういう子を選ぼう』、と。

 

 

 

  

 かくして、山梨支部での日々は過ぎ、再び大阪で物語は幕を開けることになる。

 彼がどうなるかは続きをお待ち頂きたい。




後書きと設定解説


・関係者

名前:百々地希留耶
性別:女性
識別:異能者(悪魔人)・14歳
職業:中学2年生(不登校)
ステータス:レベル11・スピード型
耐性:火炎耐性・電撃弱点・衝撃耐性
スキル:アクセルクロー(敵複数体・2~4回中威力の物理攻撃)
    マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
    獣眼(自身の攻撃の命中率上昇)
    見切り(物理回避率が10%増加)
    野性の勘(自身が受ける攻撃のクリティカル率を25%減少)
詳細:
 カルト(メシア教)に嵌った両親に放置された末に悪魔合体の実験に使われた少女
 杜撰な「魔獣ネコマタ」との悪魔合体で唯一成功し生き残った
 度々怒鳴られていたため、大きい音には身が竦む癖がある
 前髪の一部がストレスで白くなっていて、耳と尾が隠すのが苦手
 身長152cm、体重41kg、処女(黒医者ニキのメモより)


【挿絵表示】

waifulabsで作成したイメージ図(2~3年後?)


名前:魔王ネキ(高橋なのは)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・28歳
職業:クレーム対応のコールセンター職員→ガイア連合の契約社員
ステータス:レベル26・マジック型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:メギドラ(敵全体・大威力の万能属性攻撃)
    フレイダイン(敵単体・大威力の核熱属性攻撃)
    コンセントレイト(使用後の次の魔法攻撃の威力が一度だけ2倍になる)
    万能ハイブースタ(万能属性攻撃のダメージが25%上昇)
    魔導の才能(全属性の魔法攻撃力が25%上昇)
    三段の賢魔(ステータスの魔が15増加)
    大虐殺者(全体およびランダム攻撃スキルで与えるダメージが20%増加)
装備:呪殺無効の指輪
   魔女のタリスマン(ステータスの魔に+2)
   霊木製の魔術師風の杖(鈍器)
詳細:
 栗色の髪のサイドテールが目立つスタイルの良い家庭的な技能も万全な美女で喪女
 普段はOLでクレーム対応しているが、ストレスが溜まると魔法を異界でぶっ放す習慣がある
 絡み酒で最後はトイレとよく仲良しになる酒癖で男性からは避けられている
 身長160cm、B:88(E)・W:60・ H:89(黒医者ニキのメモより)


名前:黒医者ニキ(黒沢忠夫)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・32歳
職業:地方病院医師→ガイア連合山梨支部医療班医師
ステータス:Lv21・マジック型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:ハマオン(敵単体・中確率で即死効果)
    ディアラマ(味方単体・HP大回復)
    アムリタ(味方単体・不利な状態異常を全て回復)
    リカーム(味方単体・死亡状態をHP半分で復活)
    グラム・カット(敵単体・小威力の物理攻撃。クリティカル率高)
    ハイアナライズ(解析不可能な一部のボスなども解析可能)
    心霊手術(霊的な要素も含む外科的処置が可能になる技術)
    適切な処置(戦闘時以外で味方一人の不利な状態異常を医療処置で回復)
詳細:
 ガイア連合の誇る凄腕HENTAIマッド技術者の一人で素人童貞
 他にも何人かいる漫画のBJの格好をしている本当の免許持ちの医者
 難しい施術の成功と自分で病気を治せるので性風俗が好きで興奮する性癖
 女性の身体の個人情報を目視で判る特技がスキルのハイアナライズになった


名前:トモエ
性別:女性
識別:シキガミ・18歳相当
職業:主人公のシキガミ
ステータス:Lv20・アタック型
耐性:物理耐性・破魔耐性・呪殺無効(装備) 
スキル(戦):マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
       ギロチンカット(敵単体・大威力の物理攻撃。中確率で麻痺付与)       
       霞駆け(敵複数・2~4回の中威力の物理攻撃。低確率で幻惑付与)
       物理ブースタ(物理攻撃のダメージが15%増加)
       コロシの愉悦(クリティカル率が上昇)
       かばう(主人が致死ダメージを受ける時、その攻撃をかばう)
       シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):家事・会話・食事・房中術(極)
装備:日本刀(模造刀)  
   巫女服(呪殺無効。ガイア連合謹製改造巫女服)
詳細:
 腰まである黒の長髪のおっぱいがデカい凛々しい巫女服美少女
 黒医者ニキが曰く、「自分謹製のシキガミの最高傑作」
 霊装は、呪殺無効付与のガイア連合謹製改造巫女服
 乳袋型巨乳補正付き白衣と襦袢、紫袴、足袋と草履付き
 身長160cm、B:87(F)・W:57・H:85(黒医者ニキのメモより)


【挿絵表示】

waifulabsで作成したトモエのイメージ図


今回で序章は終了。
次回は、大阪での生活が再スタート。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第5話 会員制カプセルホテル・ガイア大阪

続きです。
次の事件への状況説明回です。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第5話 会員制カプセルホテル・ガイア大阪

 

 

 「あのね、現実はゲームとは違うんだよ。

  パッシブスキルだって身に付けたら、種類によっては自動的に効果を発揮し続けるとかはしないんだ。

  自分はこんなスキルが有るって頭の片隅で意識し続けていないと働かないんだ。

  だから、君のスキルも一部が置物になっていたんだよ。

  この訓練で、それを意識ながら一生懸命に回避するんだ」

 

 

 隆和はこれから住む事になる大阪の派出所に皆と向かいながら、訓練の時のショタオジの言葉を思い出していた。ついでにその後の訓練を思い出し全身を走る幻痛でしゃがみ込むも、怪訝に見る周りに気が付き何食わぬ顔で歩き出した。

 

 実際に彼の言う通り、スキルを意識して動くと体の動きが違うのはハッキリと理解できた。理解は出来たが、「まず両足を固定して避けてみよう」とか、「直経1mの円の中で四方八方から来る飛来物を避けろ」とか、「まだこれは序の口だよ☆」などなど他の彼の訓練を受けた転生者のように彼もショタオジを【先達としては感謝はするが、訓練では名畜将】と考えるようになっていた。

 

 スキル構成と戦い方からショタオジが、彼は回避を重視すべき『遊撃役』もしくは『牽制役』のようだと考えたのは間違いではない。

 実際にアナライズで訓練を受けた彼を見れば、その変化は一目瞭然だ。

 例えば、このように変化したスキルがよい例である。

 

『背水の陣(苦境時に万能属性及び即死攻撃を除き、受ける攻撃の命中率低下)』

 ↓

『アリ・ダンス(攻撃を受ける際、敵の命中率が半減する)』

 

 前者のスキルの“苦境時”とは、彼も意識していなかったが要するに【奇襲を受けた時】の事であった。たぶん、実際に奇襲を受けてパトらなかった時に生えたスキルなのだろうが、不意を打たれた時に普段意識していないスキルなどあっても意味はない。意味がないなら、【色々な攻撃なんかもいつも避けれるようにした方がいいよね☆】とされ実際にそうなった。

 こうして字で書くと短いが、スキルが変化するほど体に覚え込ませる特訓とは筆舌に尽くし難い訓練だったのは想像に難くない。

 後述するシキガミのトモエの素体作成時に使用された訓練場から採取された彼の血肉だけでも、500mlペットボトルと同じくらいと言えば分かるだろうか?

 

 ただ、こうして安定した戦い方が出来るようになった上に、火力のある前衛が出来るシキガミのトモエが加わった事で後衛のコレットも合わせて今まで以上に彼らは戦えるようになっただろう。

 今は封魔管の中で昼寝中のコレットと言えば、レベルやスキルは変わらないものの種族が【幽鬼チュレル】から【鬼女リャナンシー】に変わり衝撃耐性が増えていた。

 理由としては、山梨支部のある星霊神社の霊地の影響とその霊地で夜に陽の気を隆和からたくさん注いで貰ったからだろう。

 まあ、チュレルにしろリャナンシーにしろ、男性に取り憑いてその精を吸う女性の悪魔には違いはないのでさほど問題はない。

 

 隆和が隣を歩く黒髪の巫女服を着た美少女を見ると、静かに微笑みながら彼の左腕を取りそのとても豊かな双丘に強く押し当てている。

 この新たに隆和のもとに来た専用のシキガミの【トモエ】であるが、全体破魔魔法と火力のある物理スキル2種、物理攻撃を底上げするスキル2種、かばうスキル、と安定した前衛型である。

 基本ステータスも、高レベルの彼の体の一部をかなりの量を使っているために優秀である。

 汎用スキルも、家事・会話・食事と基本的に揃っている。

 ただ、他にないものとしては【房中術(極)】であろうか。

 

 このスキルは、隆和とシキガミのレベル差を気にした黒医者ニキが最近参加したエロい女性技術者が試作したものの一つを無理を言って貰って来たもので、数年後に実現される高グレードの女性型シキガミに標準搭載の【レベル同調補正エロ魔力供給システム】のプロトタイプになるスキルカードによる物だった。

 この効果は、1レベルだったトモエが【悪魔も淫乱になるお薬】を持たされて隆和たちの寝所に行き、3人で1昼2夜【仲良く】したお陰でレベルが20まで上昇していた事で実証された。

 後に、彼女の健康診断時に記録したデータは貴重な例となったと言う。

 彼女の制作費が彼に払われる情報に関する代金と仏像の代金の一部と相殺になり、後にその詳細を記した明細記録を見た時に彼は、一瞬気が遠くなった一幕もあったが命の代金としては高いものでは無いはずだろう。

 

 

 

 

 日本橋から前方で希留耶と楽しそうに話しながら腐百合ネキこと【桂木美々】は、彼らを大阪派出所へ歩いて案内していた。流石に同年代の何も知らない少女に腐百合ネキ名乗りは今は憚れるし、自分の知る腐や百合の世界への啓蒙はまだ早いので、本名を名乗り友達になるべく彼女が知らない漫画やアニメの話をしている。

 初めて友人らしい友人が出来そうだと楽しそうに話を聞く希留耶に、彼女の素性は粗く知ってはいるものの気になることがあって後ろの隆和に聞こえないように音量を潜めて聞く。

 

 

「ねえ、百々地さん。

 事件で助けられたのは聞いたけど、彼とはどういう関係なの?」

 

「希留耶でいいわ、桂木さん。こっちも美々って呼んでいいかな?」

 

「いいわよ、それじゃあ『キャル』って呼ぶね。それでどうなの?」

 

 

 初めてあだ名で呼んでくれた友人が出来たことに感動した希留耶は、それに浸った後に少し考えてから話し出す。

 

 

「ここに来る時に弁護士さんを交えて話した時は、戸籍も移動してもう隆和さんが法律上は保護責任者になっていたわ。

 だから、今のあたしは義理の娘になるのかな?

 あたしとしては、お金を積まれてすぐに放り出したあの人達とは縁を完全に切りたいから姓も変えたかったけど、隆和さんに止められたわ」

 

「え、どうして?

 そんな連中の姓なんて捨てればいいのに」

 

「隆和さんがそ、その、『好きな人が出来てお嫁に行く時に幸せになるために捨てなさい』って」

 

 

 真っ赤になって照れ出す希留耶に、「何この可愛い生き物?」と心の中の百合の花が目を覚ましかけるが後ろの保護者の事を思い出して封印し、呼吸を整えて話を続ける腐百合ネキ。

 

 

「なかなかいいこと言うじゃない。『お義父さん』は?」

 

「ごめん、『おとうさん』て呼ぶのは止めて。アレを思い出すから」

 

「わ、わかった。もう言わない。

 でも、それなら何でさっきから時々、不潔なものを見る目で彼を見るの?」

 

 

 真顔になって言い出す希留耶に謝りつつ続けて聞く。

 

 

「だって、もう長い間一緒にいるコレットさんがいるのに、トモエさんとも関係しているんですよ?

 し、しかも、三人で一緒にだなんて不潔じゃないですか?」

 

「あー、キャルって数ヶ月前まで一般人だったし知らないのか。

 私たちがいる社会って、反社な稼業の人たちとはまた別な意味で裏の世界だから。

 男性に甲斐性があれば、一夫多妻とか全然ありなんだよなぁ」

 

「え? それってハンサムで女性にモテるとかそういうのじゃ?」

 

「あはは、違う違う。

 顔が良い事で稼ぎがいいなら別だけど、そういうのじゃないから。

 あのコレットさんもトモエさんも人じゃないから、顔よりMAG的な甲斐性の方が優先しているの。

 あ、安倍さんは整っていて清潔感がある方だから、その辺も大丈夫だけど」

 

「?????」

 

 

 希留耶の反応がいちいち面白いので、話に興が乗り出す彼女。

 

 

「山梨支部にいた時に、トモエさんみたいな美形な人や動物や変わった生き物が人と一緒にいるところを見たでしょう。

 アレのほとんどが、シキガミっていうガイア連合で作っている人造の悪魔で自分の主と契約して共にいるパートナーでもあるのよ。

 だから、彼らの間で感情的な納得があればそれはもう他人が口をだすことじゃないわ。

 悪魔に法律はほとんど無意味ですもの」

 

「え?」

 

「ガイア連合で教えられたでしょ?

 キャルだって戸籍はあるけど、厳密にはもう半分は悪魔なんだから自覚しないと。

 人と違って、貴女は破魔魔法でも死ぬかもしれないんだから」

 

「うん、それは習ったわ。

 神社にいたとても強い猫の女の人にいろいろと。

 改めて、気をつけないといけないね。ありがとう」

 

「どういたしまして。

 ほら、ちょうど良く見えて来たよ。

 あれが目的地の建物、【会員制カプセルホテル・ガイア大阪】だよ!」

 

 

 

 

 腐百合ネキの指差す先、かなり歩いた彼らの目にその建物がようやく見えてきた。

 

 そこは、河と堀を挟んで南の方に大阪城が見える国道沿いのかなり交通の便の良い場所だった。

 建物全体は、4階建ての茶色いレンガ模様で覆われたアパートにも見える建物だ。

 建物横の10台は停められるコインパ-キングを通り過ぎ、建物中央の入り口についた。

 入り口のドアの横に『会員制カプセルホテル・ガイア大阪』のプレートと、準備中の張り紙があるが彼女の先導で中に入っていく。

 中で「どこにいます?」と声をかけると、奥の方から「こちらです」と男性の声で返事があり向かうとカフェスペースと思われる場所に主要なメンバーが集まっていた。

 「じゃ、案内したからそれじゃ」と言って転移で帰る腐百合ネキを見送り、隆和たちは彼らに順番に挨拶した。

 

 まず、挨拶してきたのは眼鏡を掛けた平凡なサラリーマン風の若い男性だった。

 軽く会釈すると、彼は話しだした。

 

 

「こんにちは。お噂はかねがね。

 わたしは掲示板では【サラリマンニキ】の服部と言います。

 このガイア連合大阪派出所の所長を任せられていますので、よろしく」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「『サラリーマン』なのか『ニンジャ』なのか、戦闘スタイルがブレブレの服部さん」

 

「止めて下さい。気にしているんですから」

 

 

 次に挨拶してきたのは、どこかで見た記憶のある20前の男性だった。

 彼はペコリと頭を下げると挨拶し出した。 

 

 

「どうも、ここで雑用をする【伊東誠】っていいます。

 そっちの和服の人、高級シキガミですよね?

 すごいなぁ」

 

「よろしく。運が良かっただけだよ」

 

「いよっ、【ナイスボートニキ】」

 

「似てるってだけですから!

 オレはシキガミ嫁一筋にするんですから、止めて下さい!」

 

 

 最後に挨拶してきたのが、今まで茶々を入れてきた隆和の顔見知りの友人だった。

 彼女はニヤリと笑うと、片手を上げて挨拶してきた。

 

 

「やっほ、久し振り。隆和くん。

 しばらくぶりだね。あの幽霊の子以外に女の子増えたじゃない?

 あ、わたし、ここで事務の取り纏めすることになったから」

 

「久し振りだな。あいかわらず。

 さっきも紹介したけど、この娘がシキガミのトモエでこっちの娘が俺が保護している百々地希留耶ちゃんだ。

 二人とも、ここで暮らすらしいから女性でないと駄目なことで相談に乗ってやってくれ」

 

「うんうん。隆和くんの頼みならちゃんとやるから任せてね」

 

「【魔王ネ……」

 

「それは言わないで。聞かないでね?」

 

 

 何かしっかりとお局しているなと隆和は思ったが、口にするのは止めてあげた。

 

 一通り挨拶が終わると、建物の中の説明がサラリマンニキから始まった。

 ここは大阪派出所の一つ、正式名称「会員制カプセルホテル・ガイア大阪」である。

 地下1階、地上4階の建物で、ガイア連合の身分証を持つ人専用の宿泊施設になっている。

 

 1階には、カフェスペース、コインランドリー、事務室、応接室、職員用の居室2個がある。

 この居室6畳の1Kに隆和とトモエ、もう一つに希留耶が賃貸契約で入ることになる。

 2階は男性用で、個室4、カプセルベッド8個、シャワー室、トイレ。

 トイレは3箇所で、シャワー室は漫画などでもよく登場する間仕切りの個室があるタイプで造りは2階3階共通である。

 3階は女性用で、個室4、カプセルベッド8個、シャワー室、トイレ、パウダールームがある。

 なお、3階はフロントで貸し出すキーカードが無いと入れない仕組みだ。

 地下は簡易核シェルターにもなっており、一般倉庫、呪物倉庫、警備室、警備員用仮眠室、サーバー室がある。

 ナイスボートニキはコンピューターが使えるので、ここの仮眠室とサーバー室に泊まると言っているが、何故かと皆に聞かれ、その度に前の世ではそれが当たり前だったので落ち着くと答えて引かれている。

 そして、最大の仕掛けが万が一の際に建物全体を守護する結界装置だ。

 本体が建物の地下の基礎部分に、4階全体が発生装置になっているというらしいとサラリマンニキは説明する。

 詳しい仕様は山梨の専門家でないと分からないので、とにかくサラリマンニキと隆和となのはが起動登録されることになった。

 

 こうして、施設の説明も終わり各々自分のやる事を確認するために動き出し、数日後、正式な他の職員も決まり正式に大阪派出所がオープンする事が出来たのだった。

 

 

 

 

 場面は変わって、同日頃、京都市内の古くからある日本屋敷が立ち並ぶ観光客は絶対に入って来れない場所にある屋敷に移る。

 今時珍しい鹿威しのある庭園に面したかなり広い和室に、護摩壇と仏像を背に二人の老婆が座っていた。

 齢八十は越えているだろう彼女らはうり二つの邪悪な面貌の顔で、服は古式ゆかしい狩衣を着込んでいる。

 彼女らの名は、【土御門みい】と【土御門けい】。

 彼女らをよく知る恐山の長老はこう呼んでいる。【金剛石頭の双子の妖怪婆】、と。

 自称、関西最大の霊能組織『京都ヤタガラス』の代表である。

 自分たちこそ日本で最も古い伝統と血統と格式を維持している組織だ、と言っている京都でも特に頑迷な旧家の集まりである。

 

 ちなみに、他の組織からの評価は以下の通りである。

 

 恐山、大赦「一応、誼はあるが上から目線で話したくないし、ガイア連合の方が大事」

 根願寺「何か伝統とか言って偉ぶっているけど、帝都結界の維持とメシア教の相手で忙しいから無視」

 他の地方組織「知らないし、それどころじゃない。助けて」

 メシア教「内部の過激派対策で忙しいので知りません」

 ガイア連合「他の組織よりはノウハウが残っているようですけど、それより、関西で活動する時によく横槍を入れてくるので邪魔です」

 

 さて、そんな彼女らではあるが、その二人の前に二十代半ばの若い女性が正座で座っている。

 栗色の長い髪を白いリボンで後ろでまとめ、巫女服を着込んでいるがそれでも良いスタイルなのが分かる。

 平伏している彼女に、双子の老婆は代わる代わる声を掛けた。

 

 

「珠希、顔を上げなさい。

 報告にあった大阪の一件、極道でこちらに非協力的な佐川が処理したその報告に間違いはありませんね?」

 

「解決に我らを通さず、ガイア連合なる新参の組織に直接頼るとは何たる無礼。

 関西ならば、我らに一言通すのが義理であろう」

 

「はい、間違いありません。

 下っ端しか話は聞けませんでしたが、複数人、魅了の呪法で誑し込みましたので間違いはないかと」

 

「探っていたのは露見していないね?」

 

「非覚醒者でしたし、顔を変え専用の隠れ家に連れ込んで意識をなくした後はカクエンに始末させました」

 

「報告の中に、『安倍隆和』なる名前がありましたが相違ありませんね?」

 

「はい」

 

 

 そこまで言うと彼女らは何事か小声で話しあった後で、珠希という女性に指示を出した。

 

 

「珠希。その男に接触して異界の攻略を依頼し見定めなさい。

 場合によっては、誑し込み我らの駒とするのです」

 

「利用できぬ場合は、いつものようにするのです」

 

「はい、畏まりました」

 

 

 再び平伏した彼女が出ていくと、双子の老婆はぶつぶつと呟くように話している。

 

 

「よもや、我らが【牧場】を潰した原因を作ったあの子供の名をまた聞くとは」

 

「ああ、不愉快だ。

 あれのせいで、我らが家々に素質のある孤児を差配する稼ぎ場を失のうたのだぞ」

 

「まあ、あの娘、【斉門珠希】ならば上手く誑し込むだろうて。

 血族でも随一の淫猥にして淫蕩な肢体ゆえな」

 

「利用できるなら、骨の髄まで使こうてやろうて。

 使えぬなら、あれでも我らの一族の末席よ。慈悲故、種馬にでもしてやろう」

 

「「ひっひっひっ」」




後書きと設定解説


・主人公

スキル:
『背水の陣(苦境時に万能属性及び即死攻撃を除き、受ける攻撃の命中率低下)』
  ↓
『アリ・ダンス(攻撃を受ける際、敵の命中率が半減する)』

・仲魔

コレット
識別:幽鬼チュレル(特異個体)
ステータス:レベル34 破魔弱点・呪殺無効

識別:鬼女リャナンシー 
ステータス:レベル34 衝撃耐性・破魔弱点・呪殺無効

・関係者

名前:サラリマンニキ(服部正成)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・34歳
職業:ブラック企業社員→ガイア連合大阪派出所職員
ステータス:Lv24・スピード型
耐性:物理耐性(装備)・破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:絶命剣(敵単体・中威力の物理攻撃。クリティカル率高)
    暗夜剣(敵単体・2回中威力の物理攻撃。低確率で封技を付与)
    ラピッドニードル(敵全体・小威力の銃属性攻撃)
    気合(使用後の次の物理攻撃の威力が一度だけ2倍になる)
    ステルス(物理回避率20%増加。さらに、【食いしばり】の効果)    
    奈落のマスク(状態異常になる、及び即死する確率を大幅に減少)
装備:忍者刀(模造刀。予備あり)
   カチグミ・サラリマンスーツ(物理耐性と呪殺無効が付与されたグレーの背広)
詳細: 
 ガイア連合の地方派遣の戦闘要員で童貞
 いつも眼鏡を掛けた平凡なサラリーマン姿
 知り合いから勧められた忍殺にハマり作品は初心者で勉強中
 「ドラゴン・ユカノ」のシキガミのために貯金中


【挿絵表示】

サラリマンニキのイメージ図

名前:ナイスボートニキ(伊東誠)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・19歳
職業:高校生→ガイア連合大阪派出所職員
ステータス:レベル3・ラッキー型
耐性:物理耐性(装備)・破魔無効・呪殺耐性(装備)
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
    パララディ(味方単体・麻痺を回復)
    イルク(自身を透明化)    
    応急処置(戦闘時以外で味方単体・HPと一部の状態異常回復)
    コンピューター操作(プログラム作成含む技術)
装備:物理耐性のペンダント
   呪殺耐性の指輪
詳細:
 某ゲームの主人公に容姿や家庭環境がそっくりに生まれた童貞の転生者
 前世はブラックな現場専門のSEだったのでPCは得意
 関東の高校で女性トラブルから逃げ出して山梨支部へ逃げこんだ
 「横恋慕や目のハイライトが消えた女性は嫌だ」が口癖
 働いて理想の嫁になるシキガミを得るために貯金中


次回は、次の事件の開始。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第6話 異界突入 

続きです。
いよいよ、事件開始。

現状の時系列は、本編第8話の間に飛んだ数年間の頃です。


 

 

  第6話 異界突入

 

 

 ここに来てから、2週間ほどが経過した。

 

 ここは依頼を取り扱う場所ではなく純粋に宿泊だけを目的にした施設のため、人員配備や仕事の割り振りなどで他の出張所より早く業務が流れるようになったのは、現場で不満を言っていた地方派遣の人員にはありがたい話ではあった。

 例えば、

 

『地方に派遣されて地元神社とかホテルで泊めてもらえても、1日休んだ程度じゃあんまり体力回復しないからなぁ』

 

『簡易式神買ってむりやりディア覚えさせたけど、地方だとわりと焼け石に水感が強い』

 

『式神側の回復は霊地によって回復力がもろ影響出るからなぁ』

 

『ガイアレトルトカレー以外では地方の回復効果のある食事は味が終わっている』

 

 などの不満や意見が掲示板や現場の愚痴で出されていた。

 それに対応するためにこの場所が用意された理由でもある。

 

 大阪の霊地は何と言っても、石山本願寺の本拠となり太閤豊臣家の象徴でもある大阪城が霊脈の中心である。そのためこの場所は、北から流れ込むラインの上にありちょうど霊穴が吹き出す所でもあったので、事故物件になって異界が出来かけていたのを抑えた物件だった。

 とにかく大阪で泊まれる場所を早くという意見から、箱だけ造って人員が揃い次第始められるようになっていた。

 スタッフも後から加わった転生者が事務と部屋担当の女性が3人で、彼女らはスタッフを直接見る立場になりサラリマンニキとなのはの直属になる。

 他の清掃やメンテナンスにカフェスペースなどのスタッフは、隆和たちと身元調査を終了した現地民を使っていて補佐として希留耶も手伝っている。

 あとは施設付属のシキガミとして、毒物の混入などを防ぐためにオスのアイルー型シキガミの『料理長』が配属されて来ているくらいだろうか。

 なお、地下の警備モニター室とサーバー室はナイスボートニキのテリトリーとなっている。

 

 仕事にも慣れ、そろそろ入れ替わりで異界でレベル上げなど修行を再開しようかと現場にも出たい組が話していた時にその依頼が来た。

 ガイア連合の査定を経由したちゃんとした依頼である。

 

 その内容は、『異界で行方不明になった人員の調査』であった。

 二日前に地元では高レベルの名家の男性が、郎党と傭兵を雇って現在は止められていた異界の浅層突入を強行して行方不明になったので痕跡だけでも見つけて欲しいというもので、依頼元の斉門珠希と言う女性が彼は知人で家でも優秀な跡取りだったので見つけて欲しいのだと個人的に報酬も用意したという内容だった。

 ただ、不可思議なのは隆和を名指しで指名している事と目的地の異界が大きいために依頼料もそのため高額になっているのに了承されている点だろう。

 添え書きに理由として、彼自身に過去に事件を解決して貰ったからだとあった。

 

 隆和は考えた。

 彼としては覚えがないが、ガイア連合の審査を通っている以上受けるつもりでいた。

 彼のレベルは今、39である。しかし、現状では師匠の異界の最奥に到達し約束を果たせない。

 守るものが出来た今ではかつてのように、あの仏像となのはの火力を宛にしてのがむしゃらなレベルアップはもう出来ないしするつもりもない。

 だが、今の自分ならば。ガイア連合での貢献を積んで異界攻略の手助けを求められたら、もしかするかもしれない。

 そしてその暁には、先日注文して取り寄せた簿記とマイクロソフト・オフィス・スペシャリストと秘書検定の参考書も無駄にはならないだろうと。

 

 

 

 

 翌日、彼らは社用の白の大型バンの車中にいた。

 運転しているのは隆和で、助手席にトモエがいる。

 後ろには、サラリマンニキとナイスボートニキがいた。

 後ろの二人が来たのは、依頼が捜索であって吹き飛ばしていい物ではないからである。

 指定場所への現地集合のために今は移動中であるが、ラジオやCDは付けないため静かな車内に耐えきれずナイスボートニキが話し出した。

 

 

「そういえば、安倍さんて恋愛対象は女性なんですよね?

 あの金髪の子やトモエさんもいますし」

 

「……? そうだが、何かあるのかい?」

 

「ああ、いえ。深い意味はないんですが、現実の女性って疲れないかと思って」

 

「俺の親しい相手は、コレットにトモエ、希留耶ちゃんになのはだけだしなぁ。

 皆、悪くない関係だと思うけど」

 

「二人と親しくなり過ぎて喧嘩になりませんでしたか?

 どうやって仲裁したんです?」

 

 

 真っ赤になって俯いているトモエをちらりと横を見て、隆和は答える。

 

 

「俺のスキルもあるだろう。

 喧嘩しないように理解するまで、スキル込みで二人とも啼かせ続けて理解させた。

 コレットも昔、そうやって説得した事が何度もあったし」

 

「………………………主様の莫迦ぁ」

 

 

 耳まで真っ赤になって顔を覆い俯くトモエを見て、同時に「チッ」と舌打ちする後ろの二人。

 彼の腰にある封魔管も、何故か慄くように細かく振動している。

 親しくなるために自分なりに惚気けてみたが失敗して、努めて視線は運転に集中する隆和。

 嫉妬と悔しさで涙が出るが、呻くように語り出すナイスボートニキ。

 

 

「オレには出来ませんよ、そんな事!

 オレ、友達だと思っていた女の子に刺されて覚醒して記憶が戻ったんですよ。

 刺された傷を治すのに【ディア】を覚えて、

 その娘の友人に一服盛られた時に【パララディ】を覚えて、

 夜の街を彼女たちから逃げるのに【イルク】を覚えて、その足で山梨支部まで逃げました」

 

「「お、おう」」

 

「あの娘達、実は地元でも資産家で、おまけに片方は道場と神社の娘でこっちの世界の事も知っていたんです。

 どうやったのか富士山周辺まで追いついて来て、弁護士もお願いして匿って貰ってから高校を卒業するまでずっと山梨の結界の中にいました。

 帝都の学校ですから、さすがに大阪までは来ないと思いますけど」

 

 

 さっきとは違い、緊張した面持ちでナイスボートニキに質問するサラリマンニキ。

 隆和は運転とは別の意味で冷や汗が止まらない。

 

 

「その子らの名前は?」

 

「『桂川琴葉』と『清村雪菜』です。

 容姿もそっくりなんです、あのゲームと。

 オレは、横恋慕や目のハイライトが消えた女性は嫌なんですけど」

 

「もう一人、いなかったかい?」

 

「そっちは関わったらアウトだと何となく思って避けてました。

 結局、一服盛られましたけど」

 

「帰ったら、その子らの顔写真と名前を教えて欲しい。

 ホテルに来ても、会わせないように周囲に周知しておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 泣きながらサラリマンニキに頭を下げるナイスボートニキ。

 少し疑問に思ったらしいサラリマンニキがさらに質問する。

 

 

「今はその子らは?」

 

「ショタオジが『知らなくてもいいようにしたよ』って」

 

「「ああ」」

 

 

 いろいろと察した三人は話題を変えようとする。

 

 

「そういえば、指定された場所って京都市内の住宅地の近くなんですけど大丈夫なんですかね?」

 

「うーん、どうだろう?

 指定された場所は【羅城門公園】らしいですけど、安倍さんは知ってます?」

 

「それ、【羅生門】じゃないですか? 渡辺綱と茨木童子の伝説の」

 

「「え?」」

 

 

 

 

 彼に指定した場所で待つ【斉門珠希】は、イライラと霊装である巫女の服装で待っていた。

 隣には、同じ格好でハニートラップでの諜報を得意とする家の出身の【鈴谷】がいる。

 血縁上では従姉妹になる彼女と、彼らが来る前の最後の打ち合わせをしていた。

 

 

「いい、鈴谷。この写真の『安倍隆和』と言う男性はわたしの獲物よ。

 婆様たちの言いつけだから、それ以外を狙って」

 

「年上やからて、そないに言わんでもええよ。

 出戻りでも才覚があるからて、調子にのんなや?」

 

「はあ? 

 こっちで都合の良い異界を探している時に、余計な真似をするのを出したのに?

 出戻りと言うなら、身内のアホの首に縄くらい付けておきなさいよ」

 

「ウチかて嫌やわ。

 あのアホ男、一族でも高位になれて物理技2つも持てて天狗になってたんやもの。

 ウチらの家、娼婦扱いなんや。近寄りとうないわ」

 

「それなら、引き入れるのは無理でも情報くらい持ち帰れるようしなさい。

 これで失敗したら、婆様からの小言はあんたが聞きなさいよ」

 

 

 関東の地元で、当時、年上の大学生の彼氏と年下の幼なじみの二人と同時に関係を持っていたのが周囲にバレて関西の実家に送られた珠希だが、全く懲りていなかった。

 今回の件では異界に勝手に行った馬鹿の事はどうでも良く、屈指の実力を持つらしいこの男を物にして一族で大きな顔をするか、場合によっては、管理する異界もほとんど無い今の一族に見切りをつけて『夫』の組織で成り上がるのも良いかもしれないとまで考えていた。

 ただ、抜け駆けも視野に入れている鈴谷も同じであったが。

 

 そうこうして彼女らが待っていると、公園の入り口に横に『ホテル・ガイア大阪』と書かれた大型バンが停まり、青い安全ヘルメットに白の作業着の上下に安全靴の隆和とナイスボートニキ、グレーの背広のサラリマンニキ、巫女服のトモエが各々カバンを持って降りてくる。

 ちなみに、彼らの着ている服は皆、法律やTPOに配慮した立派な防具霊装である。

 

 二人の方はというと、鈴谷の方がオカルト方面にも出資しているパパ(意味浅)から強請って貰ったガイア連合製のレベルだけ分かるビデオカメラ型測定器の画面の数字に引きつっていた。

 

 

「えっ、嘘っ!?

 この間、貴女が4であのアホが8でわたしは10って出たのよね、これ?」

 

「そうや。ま、あの男の子が3なのはまあええわ。

 あのどこぞの巫女が20とか言うんは、伊勢なり大きいとこの巫女とかならまだ我慢する。

 けど、一般人みたいな残りの二人が24と39って何やのん??」

 

 

 近づいて来る彼らに慌ててカメラを仕舞い、石碑の前で出迎える体勢になる二人。

 彼女らに皆を代表して挨拶をするサラリマンニキ。

 

 

「依頼主の斉門珠希さんですね?

 私は代表の服部、こちらにいるのがうちの安倍と伊東に、安倍の助手のトモエくんです。

 よろしく」

 

「はい、よろしくお願いします。

 こちらは同僚の鈴谷です。今回はここで結界の入り口の見張りをします」

 

「ウチは鈴谷といいます。よろしゅう。

 入り口の見張りと人払いの結界の維持、何かあった時の救援を呼ぶ役ですわ」

 

「中にはどうやって入るのですか?」

 

 

 サラリマンニキが聞くと、珠希はちらりと鎖骨が見えるようにして襟元から袋を取り出した。

 彼女が袋の中から取り出したのは、何かの金属片だった。

 

 

「これは、伝説の渡辺綱が茨木童子の腕を切り落としたと言われる【髭切】の破片です。

 一条戻橋と羅生門での説が有名ですが、うちの一族の家の記録には2回とも実際に切り落としたのが正解だそうです。

 その後の腕を取り返す話でうちの一族の祖先の安倍晴明が出てきますけど、その関係でここに異界が出来た時に茨木童子が嫌悪するこれを封印の鍵としているんです」

 

「それをどう使うんです?」

 

「こう、します」

 

 

 彼女が金属片を構え石碑横の空を上から下に動かすと切れ目が現れ、その向こう側にここの隣の資料館にあるのと同じ造りの【羅城門】が実物大で見えた。  

 振り返った珠希が、ガイア連合の連中に声をかける。

 

 

「準備が良いのなら、このままわたしも同行し中に入ります。大丈夫ですか?」

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

「それでは気いつけて」

 

 

 鈴谷に見送られながらその空間の切れ目を跨いで全員が中に入り、中からもう一度珠希が逆になぞると切れ目が閉じられ、もうその公園には鈴谷以外誰の姿も無かったのだった。




後書きと設定解説


・関係者

名前:斉門珠希
性別:女性
詳細:データは後ほど
   容姿は、『同級生~Another World~』(R18)の「柴門たまき」を参照して下さい

名前:鈴谷
性別:女性
詳細:彼女もデータは後ほど
   容姿は、『アズールレーン』の「鈴谷」(赤い角なし)を参照して下さい


次回は、事件の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第7話 異界・羅生門 

続きです。

異界突入の続きです。


 

 

  第7話 異界・羅生門 

 

 

 珠希が結界の切れ目を閉じると、その空間は淀んだ空気が漂っていた。

 既にそれぞれが、カバンや袋から取り出した各々の武器を構えて周囲を伺っている。

 隆和はバールのようなものを、トモエは模造刀を、サラリマンニキは模造刀の忍者刀を、ナイスボートニキはモデルガンを構えていた。

 視線を他に向けながら、サラリマンニキが珠希に説明をするようにと話しかけた。

 

 

「説明を。それでわたしたちはどう動けばいいんです?」

 

「ここは京都でも有数の大異界【羅生門】。鬼と付く悪魔の住処です。

 過去にここに来た者の記録だと、門の中は広大な平安京を模した物で、大通りを直進した先に異界を2分する大きな川と其処に掛かる一条戻橋そっくりの橋があり、そこに茨木童子が居ましたとされています。

 異界の攻略は今はまだ大丈夫ですが、探して欲しいのは、あの馬鹿が勝手に持ち出した異界の封印の鍵【髭切の欠片】の一つです

 妖鬼オニと渡り合える実力はあれど、頭の中がアレな男の身はどうでもいいんです」

 

「事前の説明とは違うようですが?」

 

「個人的にも知り合いで、あの男の実家には有能な跡継ぎなので捜索を頼まれたのも本当ですよ。

 ですが、『抱かせろ』と家柄を鼻にかけて迫るだけの男は嫌いです。

 あと、そちらの安倍さんを指名したのは、うちの血族じゃないかと調査報告が来たので確かめようと口実を」

 

「うーん。まあ、いいでしょう。それで、探す宛はあるんですか?」

 

「この欠片は有り体ですけど、血筋の人間が持っていると共鳴するんです。

 それを辿っていけば、分かるかと」

 

 

 そこまで聞いて、サラリマンニキが指示を出し門の先に進むことになった。

 

 

「隊列は前衛がわたしとトモエくん。

 間に斉門さんと伊東くんで、安倍さん、後ろを頼みます」

 

「トモエ。今日は君が戦闘に慣れるのも目的だから、今はコレットはなしで」

 

「了承致しました、主様」

 

 

 トモエの指示を求めた視線に隆和は頷き、隊列が組まれると動き始めた。

 自分の準備は万全だが、仕事前の指差し確認と「ご安全に」がない事に何か足りない感じがしていた隆和が「空曜道」こと【マッパー】の術を作動させる。

 珠希に言われたように、通路が碁盤のようで本当に古代の京を模したのだろう。

 南にある門をくぐると大通りに出て、距離にしてかなり遠いが北の方に遠目に橋がかかっているのが見える。

 そして、そのさらに向こうに見える白い線は模した御所の壁なのだろうか?

 だが、金属片の袋を持った彼女の目は、大通りの先ではなく東の方を向いていた。

 

 

 

 

 完全にただの感知器と化した斉門珠希は、目の前の様子を現実なのかと疑いながら見ていた。

 彼女だとて、ガイア連合基準でレベル10になるので決して無能ではない。

 九字印による【ハマ】、遠当ての術の【ザン】、さらに薬師如来呪法の【ディア】も修めている一族でも五指に入る術者だ。さらに、切り札としての秘術も授かっている。

 しかし、目の前の光景は自分より弱いはずの少年のナイスボートニキにも活躍で負けていた。

 

 

「伊東くん、そのモデルガンの玉は破魔属性付きだ。

 トモエさん以外、味方を気にせず撃ちなさい」

 

「はい。グロい死体ばかりっ、この」

 

「ア…ア…」

 

「トモエ! 最優先は近づけない事、次にあの紫の奴は自爆持ちの【幽鬼モウリョウ】で最優先に排除、アイテムの使用は自己判断で!」

 

「はい、主様。【霞駆け】」

 

「ウ…、ゴガァァ」

 

「水路で見ている【妖鬼アズミ】は来ないなら無視で。【暗夜剣】」

 

「ギギィ」

 

「普通に、躱して、殴っても、行けるなぁ! おら、ガキのくせに奇襲すんじゃない!」

 

「グギェ」

 

「数が多い。【気合】、【ラピッドニードル】!」

 

「これかな? 施餓鬼米だ」

 

「一掃します。【マハンマ】!」

 

「「「グギャアアア!!」」」

 

 

 珠希の案内により4人が並べる広さだが狭い方の通路に入るが、通路を埋め尽くす数の【屍鬼ゾンビ】、屍鬼たちの影から奇襲してくる【幽鬼ガキ】、屍鬼たちを追い立てる【邪鬼イッポンダタラ】、屍鬼が途切れたのを見て自爆を狙う【幽鬼モウリョウ】、それらを後ろから【妖鬼オニ】たちを従えた【妖鬼モムノフ】が指揮する。

 

 記録では敵は雲霞のごとくと書いてあったが、そんなに出る訳が無いと彼女は思っていた。

 ただ、先達の記録を信用するかどうかは別として、仮にも根願寺に『大型異界』と認識される異界が彼女らの対処できるレベルではないのがこれで珠希にも理解できた。

 異界の入り口からまろび出る悪魔を対処できたからと言って、凡百の彼らが入り込むことは死を意味するのだろうだから。

 

 組織立って動く集団の司令塔だったオニやモムノフをスルスルと攻撃を避けながら近付いた隆和が動けなくして、気持ち悪い表情の彼らを他の皆がマグネタイトの塵に変えて一息つくことが出来た。

 その場所からしばらく離れた場所で、彼らは休憩を始めた。

 それぞれがチャクラドロップや傷薬を、珠希から見るとふんだんに使っている。

 普段の彼女らだと、貴重すぎておいそれと使えない代物ばかりなのだ。

 この強さ、このアイテムの豊富さ、自分たちの一族にはないこの理解の出来ない『ガイア連合』とは何なのだろう?

 動揺している珠希はさておき、ガイア連合の彼らはそれなりに緊張した面持ちで話していた。

 

 

「トモエ、調子は?」

 

「敵影なし。問題ありません、主様」

 

「いやぁ、山梨を出て初っ端の異界がこんな調子で大変なことになったね。伊東くん」

 

「下手したら、あの量は駄目かと思いましたよ。

 でも、なんか強くなれた気がするのでどうでしょう?」

 

「それは、屍鬼の群れが【軍勢】なみの量だったから上がっていてもおかしくないな。

 【見鬼】。うーん、レベルは上がったけどスキルは変わりなしだね」

 

「レベル10台後半の悪魔もいたからね。

 そりゃ強くなるだろう。回復も終わったし、休憩も終わりだ。

 斉門さん、方角はこっちですか? ……斉門さん?」

 

「は、はい! こちらの方角です!」

 

 

 呆然としていてサラリマンニキに声を掛けられてビクッと反応した珠希は、通路の先を指差す。

 反応のあるらしい道の先は中央から外れ、奥の方へと続いている。

 隊列を組み直してそちらの方向に行くと、血の跡があるのをサラリマンニキが見つけた。

 路地全体に大量の血痕があり、そのまま引きづられたような跡が近くの大きいお堂の中へと続いていた。 

 それを見て、考え込む一同。

 

 

「斉門さん、それの反応は?」

 

「ええと、……この中です」

 

「……罠、ですか?」

 

「脳筋のオニ達のやり口じゃないですねぇ」

 

「ちょっと、あからさま過ぎるような?」

 

「伊東くん、あからさまでも踏み込まないといけないんですよ。

 これも、お仕事ですから」

 

「他に入り口も無いですね。隊列は?」

 

「このままで行きましょう。安倍さん、いいですか?」

 

「分かりました。トモエ」

 

「主様?」

 

「トモエ、蹴り開けろ」

 

「はい」

 

 

 皆で構え、サラリマンニキの指の指示でトモエにに扉を蹴り開けさせた。

 障子戸の扉はたやすく破れ、中に踏み込んだ。

 

 

 

 

 中に入ると、奥にあったらしい仏像の祭壇には巨大な蜘蛛の巣が出来ており、そこには下半身が3本足で黒と黄色の縞模様をしている蜘蛛の姿を、上半身を長い黒髪の美女の姿をした裸身の女性がいてこちらを見てクスクスと笑っている。

 お堂の中の壁は蜘蛛の糸で覆われており、中央には複数人の人間の食べ残しの山とそれをおやつのように食べている2匹の同じ姿の蜘蛛がいた。

 奥の全長3mはあろうかという方は妖艶な美貌の成人女性だが、下にいた1mほどの2匹は上半身がコレットより胸が大きいがいいところ12、3歳ぐらいだろうか?

 【見鬼】には、大きい方がレベル29【鬼女絡新婦(アルケニー)】、小さい方はレベル15【妖虫ジョロウグモ】と出ている。

 そして、その2匹はしゃぶっていた骨を捨てケラケラと笑うと、こちらを指さしてきた。

 

 

「ねえ、母様。また、人間が来たよ」

 

「ねえ、母様。また、餌が増えるね」

 

「ほほ。ほんに運がいい。妾にも運が向いてきたようだの」

 

「ねえ、母様。食べていい?」

 

「ねえ、母様。食べていい?」

 

「おなごの柔らかい肉は、まず妾からぞえ?」

 

「「ええーーー」」

 

 

 和やかに親子?の談笑をしている絡新婦たちを見ながら、隆和が意見を言って走り出す。

 

 

「奥のはレベル29です。俺が抑えます。

 服部さん、他の15レベルの2体をトモエと手分けしてお願いします。

 そっちの二人は、防御優先。いいね?」

 

「安倍くん!?」

 

「主様!」

 

「いくぞ、コレット!」

 

「やっと、出番ですね。行きます!」

 

 

 隆和が呼び出したコレットと母親蜘蛛に走り寄ることで、位置的に娘蜘蛛の一体とサラリマンニキ&ナイスボートニキ、娘蜘蛛のもう一体とトモエ&珠希の組み合わせが出来上がっていた。

 そして、そのまま戦いは始められた。

 

 

 

 

 一番早く決着がついたのは、サラリマンニキたちだった。

 彼らの近くにいた娘蜘蛛は、ニヤニヤと笑って胸を隠してしなを作ってみせた。

 

 

「やだぁ、助平。そんなに胸を見るなんて童女趣味なの~?

 犯されちゃうのかな~、あたし。クスクス」

 

 

 それを聞いたサラリマンニキたちは顔を見合わせると、彼女に言い放ち攻撃を開始した。 

 

 

「どーも、人食い蜘蛛さん。Cカップ以上になってから言いなさい。【暗夜剣】」

 

「メスガキはノーサンキューだ」

 

「何すんのよ! 【ジオ】」

 

 

 サラリマンニキの攻撃でかなりのダメージを食らった娘蜘蛛はお返しにと電撃を放つが、突き出した腕からは何も出ずに動揺する。だがそれならばと舌打ちし、防御している弱そうなナイスボートニキの方を攻撃するべくそちらの方へ体を向けた。

 ただし、向けた先にいるナイスボートニキの姿は消えていく。

 

 

「じゃあな、【イルク】」

 

「ええっ、何で?」

 

「『俳句を読め』! 【気合】、【絶命剣】!」

 

 

 ナイスボートニキの姿が消えるのに驚き、動きの止まった娘蜘蛛の首にサラリマンニキの忍者刀が叩き込まれそのまま首を刎ねる事に成功した。

 首が落ち、マグネタイトの塵に変わる娘蜘蛛の姿を見つつ、他の援護をするために彼らは動き出した。

 

 

 

 

 次に決着がついたのは、トモエたちだった。

 

 

「シャァア!」

 

「くっ」

 

 

 その隣で戦っていた娘蜘蛛とトモエの戦いは、各々のレベル差があれど拮抗していた。

 それは、両者の戦闘経験の差でもあった。

 かたやオニ共や姉妹とも戦って生き残った娘蜘蛛に比べ、本格的な実戦は今日が初めてというトモエの差である。

 その証拠に、相手の攻撃をいなし切れていない様子だった。

 

 娘蜘蛛の何度目かの振りかざした腕を模造刀で受けるトモエ。

 そして、そのまま噛み付きに来たのを顎を肘で殴りあげて躱す。

 娘蜘蛛の口内に生えた鋭い牙には、ポタポタと紫色の液体が垂れている。おそらくは、毒だろう。

 いまだに隆和の指示なしでの行動に不安を覚えているトモエは、思わず彼の背中をちらりと見てしまう。

 それを隙と見て、飛びかかる娘蜘蛛。

 

 

「ギキィ!」

 

「あっ」

 

「【ザン】!」

 

「ギャンッ!」

 

 

 トモエへ飛びかかった娘蜘蛛に、思わず遠当ての術を当てる珠希。

 相手の弱点だったのか、思わぬ痛痒を与えているのに自信を持ちトモエに声をかける。

 

 

「何やってるの!? 早く!」

 

「くっ、【ギロチンカット】!」

 

「ギ、イィィィィィ!」

 

 

 続けて袈裟懸けに攻撃が入り、大きな傷を負い動きが鈍る娘蜘蛛。

 スキル効果の麻痺も入ったようで、驚愕の視線で簡単な獲物だと思っていた彼女らを見ている。

 

 

「とどめを刺さないと。【ザン】!」

 

「むっ、【ギロチンカット】!」

 

「ギイィアアアア!」

 

 

 珠希の遠当ての術とトモエの一撃と更にもう一回の攻撃が入り、切り裂かれた体を倒れ伏しそのまま消えていく娘蜘蛛。 

 思わず座り込みそうになる二人だったが、一番の大物を抑えている人がいるのを思い出し二人はそちらに歩き出した。

 

 

 

 

 絡新婦と対峙した隆和だが、何故だか目の前の奴に見覚えがあるような気がした。

 コレットはその事に気がついたのか何か言おうとした所で、ギリッと牙を噛み締めた音と怨嗟に満ちた絡新婦の声がそれを遮った。

 

 

「そこの金髪の童女、見覚えがあるぞ。

 貴様、我らがかか様を葬ったあの男と共にいたな?」

 

「童女じゃないわよ。

 貴女、あの時のジョロウグモにそっくりね。

 娘とでも言うつもり?」

 

「そうよ。

 妾は貴様らがかか様を殺した時、巣の異界で帰りを待っていた娘の一人よ。

 あの時、かか様が我らと番うに相応しい子どもを見つけたと言って出ていき、死の淵で送った死の間際の心象に貴様が写っていた。

 あな、嬉しや。仇を討てる好機が来るとは」

 

「コレット、つまりこいつはあの時の蜘蛛の生き残りか?」

 

「そうなるわ。隆和」

 

「ほほ。翼付き共に追われ、この異界に潜り込んで傷も癒えた。

 お主も他の者共と喰ろうて滋養にしてくれるわ。

 邪魔するでない。眠れ、【ドルミナー】」

 

 

 放たれた眠りの魔法は効かないので無視し、コレットに作戦を告げると隆和は構えて前に出た。

 

 

「俺が攻撃を捌いて時間稼ぎをするから、離れて回復を頼む」

 

「気をつけて、隆和」

 

「ほ。ただの男が妾の邪魔を出来ると思うてか。

 この増上慢が。直々に誅してくれるわ、【巻き付き】!」

 

 

 絡新婦が両腕を振るい、光に反射しているよく切れそうな蜘蛛糸が隆和に迫る。

 しかし、隆和はまるで踊るような歩法で常体をずらさず捌いて避けた。

 

 

「ええい、面妖な動きでヌルヌルと鰻か、貴様は。【毒針】!」

 

「よっと、どうしたよ。

 俺はあの時、お前らの巣に持ち帰られるはずだった子どもだぞ?

 仇の一人だぞ。ほら、どうした?」

 

「おのれ、ちょこまかと。ぬん」

 

 

 頭上から床板が壊れる勢いで蜘蛛の足を叩きつけられるが、飛び散った破片以外では怪我を負わない隆和。あの山梨の地獄の訓練に比べれば攻撃が大振りで単調すぎて躱すのが楽だと感じている隆和だが、それは自分のスキルとステータスがレベル相当の動きをしている証拠でもあるのだが気がついていない。

 実際に、今いるメンバーでもサラリマンニキや後衛型のコレットでは躱すのは至難であるし、一撃でも喰らえば致命傷になるだろう。

 後の二人は、躱すこともなく一撃で死ぬだろう。

 

 だが、隆和が絡新婦を引き受けている間に、彼女の耳に娘達の断末魔が聞こえてきた。

 その声に周囲を見ると、娘達は倒れ伏し既に消える所だった。

 周囲の人間を見渡し、怒りで震え大声を上げる絡新婦。

 

 

「おのれ、おのれおのれぇ!

 妾の子らを殺したなぁ、貴様らぁ! 

 殺して、臓腑を引き抜きバラバラにして喰ろうてくれるわ!」

 

 

 それこそ般若の形相の絡新婦だが、駆けつけた周囲の人たちにはその姿に恐怖は感じられなかった。

 何しろ先程まで、とてもシュールな光景が展開されていたのだから。

 想像してみて欲しい。

 工事現場で交通整理をしているような姿の男性が、腰を落とし膝の力を抜き踵をやや上げた構えで、右手にバールのようなものを持ちスルスルと蜘蛛の怪物の攻撃を躱している様子を。

 これが袴を履いた道着の姿ならまだ良かったが、もう一度描写するが彼の今の服装は【青い安全ヘルメットに白の作業着の上下に安全靴】である。

 そんな彼らの自らに恐怖するならともかくやや弛緩した雰囲気に気が付いた絡新婦は、ブチッと血管のキレるような怒りで頭が真っ赤に染まり我を忘れた。

 

 

「殺す!!!」

 

「お前をな」

 

「!?」

 

「【耽溺掌・改】」

 

 

 隆和は絡新婦がこちらから目を外したその間に、彼女の間近まで潜り込み一撃を与えた。

 ちょうどいい位置にある彼女の上半身のへその穴に指を突き入れて。

 

 【耽溺掌・改】。

 

 あの山梨の地獄の訓練で隆和が開眼した、スキル【耽溺掌】の進化したものである。

 切っ掛けは、あの山梨で有名なあの猫又の彼女に訓練相手をして貰っている時であった。

 襲い来る彼女の攻撃を1m四方の範囲で避ける訓練だったが、その時思わず彼女の口の中に指を入れスキルを発動してしまった。

 もちろん(大笑いするショタオジが放置したため)スキルの効果が過ぎたその後に、真っ赤になった彼女にボロくずのようにされ相手をするのを完全に拒否されるに至ったが、その時に彼は考えついてしまった。

 彼は状態異常とは、要は相手の体内のマグネタイトの流れを乱して効果を発揮する術では、と。

 ならば、相手の体内に直接触れて術を流し込めばよりスキルが強くなるのではと彼は考えた。

 そして、そこに滞在の最後に経験した【三人で一昼夜仲良く房中術】である。

 その時にスキルの使用をせがんで来た二人に対して遺憾なく発揮し習熟したことで、この効果に目覚めた。

 【相手の体内に直接触れる間は状態異常のみ相性を無視して貫通する】、である。

 

 その結果が、今ここにあるR15な情景である。

 勘違いしないで欲しいが、隆和は至極真面目にスキルを行使している。

 

 

「!????!? ………❤!? あっ、ああ! ❤❤❤❤❤❤」

 

「「「うわぁ」」」

 

「おーい、ぼうっとしていないで攻撃してくれ」

 

「「「あ、はい」」」

 

 

 それからの光景は、目に余る物だった。

 時間経過で状態異常が回復するのを見計らって、絡新婦のへそに指を何度も突き入れる隆和。

 その度に、真っ赤な虚ろな顔でビクンビクンと痙攣する絡新婦。

 早く終われと言わんばかりに全力で攻撃する他のメンバー。

 こうして、その作業は絡新婦が完全に消えてその跡から金属片が2つ見つかるまで続いた。

 

 

 

 

 金属片を回収した彼らは、無言で足早に周囲を警戒しながら撤退を始めた。

 不思議と行きはあれだけ襲ってきた鬼たちの姿がない。

 そして、何事もなく門まで辿り着いた時に、童女とも老女とも取れる女性の声が聞こえてきた。

 

 

「わしは、【茨木童子】。この異界の主よ。

 目障りな寄生虫を始末した褒美に見逃してやろう。

 わしは、酒呑が目覚めるか誰かが挑みに来るまでここの奥にいるつもりだ。

 

 が、そこにいる男は別だ。わしの所には来るなよ。

 わしは、鬼としてあのような無様な死に様は嫌だ。

 来たら、綱や清明ですら捉えられなかった逃走術を見せるぞ。

 いいな、来るなよ。

 用事が済んだなら、もう二度と来ないでくれ」

 

 

 その声を聞き、早く帰ろうという考えに一致した彼らはそのまま足早に異界を出ていった。




後書きと設定解説


・主人公

スキル:
耽溺掌
(敵単体・小威力の物理攻撃。高確率で魅了・緊縛・至福の状態異常を付与)

耽溺掌・改
(敵単体・小威力の物理攻撃。
 高確率で魅了・緊縛・至福の状態異常を付与。
 相手の体内に直接触れる間は状態異常のみ相性を無視して貫通する)


・敵対者

【鬼女ジョロウグモ(アルケニー)】(絡新婦)
レベル29 耐性:破魔無効・呪殺耐性・神経無効
スキル:ドルミナー(敵単体・高確率で睡眠付与)
    セクシーダンス(敵全体・低確率で魅了付与)
    毒針(敵単体・小威力の物理攻撃・中確率で毒付与)
    巻き付き(敵単体・小威力の物理攻撃・低確率で緊縛付与)
詳細:
 隆和が子供の時に師匠と倒した絡新婦の分体の1体

【妖虫ジョロウグモ】
レベル15 耐性:電撃耐性・氷結弱点・衝撃弱点
スキル:毒かみつき(敵単体・小威力の物理攻撃・中確率で毒付与)
    ジオ(敵単体・小威力の電撃属性攻撃)
詳細:
 迷い込んだ人間と姉妹を喰って成長した絡新婦の娘蜘蛛


次回は、さらに事件の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第8話 異界突入・あとしまつ

続きです。
これで今回の事件は全て終わり。


 

 

  第8話 異界突入・あとしまつ

 

 

 午前中に来た彼らが中に入って数時間が過ぎている。

 既に時間は夕暮れを過ぎて暗くなり、人払いの結界もあって人影もまばらである。

 一応はそれなりの準備はしてここに来たが、不安なので早く戻ってきて欲しいと思い地面の結界の発生機を指でつつき、温くなった缶コーヒーを飲みながら鈴谷はしゃがみ込んでいた。

 

 

「暇だよ-。いまだに異常な~し」

 

 

 彼女がそう言っていると、石碑の横の空間から切れ目が生じて中からぞろぞろと珠希とガイア連合のチームが全員とても疲れた表情で出て来た。

 ぎょっとして鈴谷が立ち上がると、真剣な表情の珠希が彼女に近寄り彼らから離れた場所に引っ張っていくと話し始めた。

 

 

「わ、わ。ね、ねえ、どうしたんえ?

 中で何かあったん?」

 

「ねえ、例の料亭の予約しているわよね?」

 

「ええ、料亭の『待宵草』やよね?

 対応専門の『夜顔』と『月見草』の待機させていたんやないか」

 

「『月下美人』にも連絡して」

 

「は? 本気なん?」

 

「本気よ。あの人達、出来れば男は誰かモノにしなくちゃ。

 他の寺社の連中や大阪や奈良の連中にはもったいないわ」

 

 

 ここで彼女らの言う語句についても説明しておこう。

 『待宵草』とは彼らの一族の息の掛かったお泊り可能な料亭の名であり、『夜顔』と『月見草』とはお酒の接待まではするコンパニオン系の年上のお姉さんとティーンの娘たちのことであり、『月下美人』は閨の作法と【魅了の呪法】を手に入れた選抜された色事系の娘の事を指す。

 また、「色分け」で言うと、珠希は『月下美人』に鈴谷は『月見草』の区分になる。

 

 これらはあの婆様達が言っていた隆和のいた孤児院の【牧場】もその一つになるが、戦後にメシア教の弾圧で払底した霊能者の再生産のために京都の特に矜恃と頑迷さの高い旧家がその面子の維持の為に集まった組織『京都ヤタガラス』の数十年掛けて作り上げた有能霊能者を外から簒奪する人間ダビスタシステムの成果である。

 

 不満げな鈴谷に珠希は問う。

 

 

「それで、貴女はどうするの? 参加する?」

 

「ウチは止めとく。

 そこまで動員を掛けるいうんなら、ガツガツいくのは趣味やないし」

 

「そ。じゃ、連絡はするから、その結界具の片付けはよろしく」

 

 

 こうして、珠希たちが今後の相談をしている横で、隆和たちも今回のことで話し合っていた。

 渋面のサラリマンニキがコレットを封魔管に戻した隆和に問い質す。

 

 

「安倍さん。今回のこう、やり方はちょっと、いや、かなり問題があり過ぎます。

 このやり方が一番効率的だったとか、命の掛かっている場で手段を選ぶなというのもあるでしょう。

 しかし、今回は初めて組む人や外部の人もいたんですからそのやり方は慎むべきです」

 

「あちらさん、出迎えにこう綺麗所を用意するのは美人局の意図もあるかなと思って。

 ここまでやれば、ドン引きして報酬を渡して終わりになるかな、と」

 

「ああ、そこまでは考えてやっていたんですね。

 かと言って、あのアレはわたしでも正直引きます。

 スキルのことは聞きましたが、ここまで絵面が酷いとは事前に相談して貰いたかったですよ」

 

「その辺は失念していました。

 今までは俺とコレットだけでやるか、高橋さんは『的の動きが止まるからちょうどいい』としか言わなかったものですから、ガイア連合の人なら大丈夫かと思って。

 配慮が足りずに、すいませんでした」

 

 

 自分に後頭部が見える角度で頭を下げる隆和に、サラリマンニキは溜息をついてどうするかを考える。その間に、アレについて興味があるのかナイスボートニキが聞いてくる。

 

 

「安倍さん。

 あのスキルって、要するに、相手が行動不能になるチャームとバインドとハッピーの状態異常のどれかになるんですよね。

 あの『アレな顔』になるのはどれが原因ですか?」

 

 

 頭を上げた隆和は山梨での事を思い出しながら答える。

 

 

「他で見ないスキルだから、山梨の研究者の人たちに色々と実験対象にされて教えてもらったんだけど、主に、チャームとハッピーの複合らしい。

 ハッピー、つまり【至福】の異常は人によってはアッパー系かダウナー系かは違うけど、違法ドラッグの快楽に近いらしい。被験者になった技術者が、マッスルドリンコのそれはよく似ているとか言っていたよ」

 

「自分で受けたんですか? その人」

 

「ああ、自分から。

 変になりながら正確に実況しているのは俺も怖かった。

 治療できるからと、気にせず記録を取り続ける周りの人も」

 

「それで、魅了の部分はどう関わるんですか?」

 

「『アノ顔』ってさ、もともとは快楽に意識が飛びかかってそうなるんだよね。

 語源は、三次かららしいけど。

 大雑把に言うと魅了はさ、一時的に術を掛けた相手が自分の一番信頼している愛している相手だと錯覚させるものだけど、一番愛している相手に与えられる幸福感からくる快楽の錯覚と薬物系のアッパー系快楽が合わさるからアノ顔になるらしい」

 

 

 なお、魅了のみでも快楽は凄まじいらしい。

 それについては、かつてその身をユキジョロウに物理的に貪られたTS魔人ニキネキが赤裸々に語っていたし、ショタオジもノンケの男性の被害者が性的嗜好を無視してホモの悪魔にメスにされた事例を語っている。

 そんな話題を真面目に議論している横で、こちらに背を向けて顔を俯いている耳の赤いトモエを横目で見てナイスボートニキはこんな事を言った。

 

 

「安倍さんて、今回のあのアレなやり方って創作で出てくる『竿役』も出来そうですね。

 こう、どんな女性や例え男性でも一度押し倒すと快楽でいいように出来る系の」

 

「伊東くん!」

 

「あ! ごめんなさい。失礼なことを言ってしまって」

 

「い、いや。貴重な意見だよ、うん。

 そんな事は滅多にしないから。

 少なくとも、そういう性癖はないから。ははは」

 

 

 笑ってはいたが、自分でもそう見えているのではないかと思っている部分を仲間だと思う人たちから言われて隆和は少し傷ついた。

 他に手段がない場合は躊躇いなく使うつもりの隆和だが、少なくとも男性を押し倒す趣味はない。

 間に入ったサラリマンニキが話を締める。

 

 

「とにかく、この件は一旦、山梨にも相談して決めよう。

 それじゃあ、彼女らに断わってから帰ろうか?」

 

「そうしましょう。

 これから帰ったら、着くと日付が変わる前ですよ」

 

 

 車に向かおうとする彼らの前に、微笑む珠希たちが現れた。

 彼女は隆和の手を取って、上目つかいで微笑みながら話し始めた。

 

 

「この時間から大阪に帰るとなると、かなり遅くなりますよ?

 こちらで宿を用意しているので、どうぞいらっしゃって下さい」

 

「いや、我々はもう……」

 

「それじゃ、俺だけは泊まるということで」

 

「安倍くん?」

 

 

 断ろうとしたサラリマンニキの言葉に、重ねるように答える隆和。

 彼の方を向いて隆和は答える。

 

 

「お誘いを掛けてくる彼女の真意なんかも聞いておかないと、と思いまして。

 車の運手ができるのは俺か服部さんしか今はいませんから、伊東くんはお願いします」

 

「ああ、うん。

 それは確かめた方がいいかな?

 安倍くん、あの道具は?」

 

「もちろん、持っていますよ。

 斉門さん、トモエも同行しますよ。いいですね?」

 

「え、でも、出来れば皆さんも……」

 

「トモエは俺の従者ですから、その時は控えさせますよ。

 俺は貴女だけの歓待なら受けたいですね」

 

 

 彼女の目を見て言う隆和。

 珠希の頭の中で、【自分の都合】と【組織への忠誠】が天秤を揺らす。

 自分ならとうに死んでいる異界の中での彼らの強さ。

 彼らの使用するアイテム類の豊富さ。

 アレな光景だったが、あのような大妖怪を手玉に取る未知のスキルを持つ目の前の男性。

 頭の中の【組織への忠誠】を蹴り飛ばし、彼女は行動することに決めた。

 呆れた表情でこっちを見る鈴谷に振り返り、彼女は告げる。

 

 

「鈴谷、連絡はまだだったよね?」

 

「何?」

 

「予定変更ね。『茉莉花』と『朝顔』でいくわ」

 

「ちょ、本気やの?」

 

「本気よ。そう、上に報告しといて」

 

「わかったわ。勝手にしい」

 

 

 そう答えると、鈴谷は怒りながら携帯で連絡している。

 珠希も携帯でどこかに連絡し、『茉莉花』と『朝顔』と言うと電話を切った。

 そうしていると公園の入口にタクシーが2台来て停まり、1台にこちらに頭を下げた鈴谷が乗り込み去って行った。

 珠希が、もう一台の方に隆和を連れて行く。

 隆和はサラリマンニキに目線で合図すると、トモエと共にタクシーでその場を後にした。

 

 

 

 

 さて、実際は旅館ではあるが料亭の看板を出しているその店に向かう車内で、珠希は笑みを浮かべどういう手順で行くか考えていた。

 先程の『茉莉花』と『朝顔』とは、要は「特別な用意ありで私が朝まで彼に絡みつく」の意味である。

 

 隆和からは珠希が何かを企む笑みを浮かべているのが夜の車窓越しに反射で見えるが、美人局をするだろうという以外にもう一つの事を考えていた。

 あの母蜘蛛を始末した際に、彼女が【髭切の破片】と呼ぶ金属片が2つ見つかった。

 その直前まであのようなアレな状況だったのにも関わらず、それを見た時の彼女が驚きと歓喜の表情を浮かべていたのを見ていた。

 それが気になってしょうが無いのだ。

 そう考えつつ、不安そうに隣でこちらを見るトモエの頭を撫でつつ車が着くまで無言で待っていた。

 

 

 

 

 料亭に入り、そのままある程度埃などを払って隆和はトモエと座敷に通された。

 しばらく待つと懐石料理を乗せたお膳が運ばれ、彼らの前に供された。 

 舞妓や芸鼓だと思われる白塗りの着物姿の女性たちは料理を運んでくると、「しばしお待ちを」と言い退出して行った。

 隣に座るトモエにも指示し何も口を付けずに待っていると、新しい巫女服に着替えたのか身綺麗にした珠希が現れて隆和の前に正座し頭を下げると話し始めた。

 

 

「本日はお越しくださいまし有難う御座います。安倍隆和さま。

 折り入って今日はお話したいことがございます。

 お疲れでしょうが、どうかお聞き下さい」

 

「ここまで来たので、はい、帰りますとはいかないでしょうから言って下さい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 そう言ってすっと頭を上げると、珠希は隆和の目を見てこう告げた。

 

 

「わたしたち『京都ヤタガラス』をガイア連合の傘下として頂き、貴方様に組織の長を襲名して頂きとうございます。

 貴方様は我らの一族の血縁者の男子で、最も強く且つ真面目な方でございます。

 どうかお受け頂いた時は、わたしを含めお好きなだけ気に入った女子をお受け取り下さい」

 

「待った。待ってくれ。まず、理由の説明をしてくれ。

 それがないと、答えようがないぞ」

 

 

 前向きだと思った彼女は、懐からあの金属片を2つ取り出した。

 袂の胸元とそれを見せつつ、笑みを深くして答える。

 

 

「これはあの時にもお答えしたように、【羅生門】の異界を封じる結界の要でございます。

 うちの組織に管理する異界は、この羅生門以外に十数年前に発見した異界が1つだけありますが、異界の抑えとは本来命がけです。

 わたしを含め覚醒したものはその異界で成人の儀として鍛錬をする習わしですが、その異界が見つかる前は羅生門の異界に行っていたと聞いています。

 今回、馬鹿な身内が持ち出した金属片は1つで、あともう一つはどこから来たのでしょう?」

 

「あの絡新婦が盗んだとか?」

 

「いいえ。

 かつて20年以上前に羅生門で成人の儀が行われた時に参加者が壊滅し、監督者だけが逃げ帰った時に紛失したものです。

 其の者は、現組織の長【土御門みい】と【土御門けい】です」

 

 

 滔々と語られる内容にどんどんと嫌な汗が出てくる隆和。

 何で仕事を受けたら、こんな話を聞かさせることになっているんだと思えてくる。

 彼の内心には関係なく珠希の話は続く。

 

 

「これを血族の貴方が奪還したという功績があれば、あの二人の戦後から続く数十年の独裁に終止符を打てます。

 今こそ、組織は新しく生まれ変わる時なのです。

 そして、その時はお傍にわたしがいるのを認めてくだされば幸いです」

 

「うーん、すぐには答えられないよ。

 俺自身、ガイア連合では新参で立場も低いのだからね」

 

「それは当然でしょう。

 なら、夜も長いのです。まずはこちらをお召し上がり下さい……?

 ……なるほど。失礼致します」

 

 

 そういうと珠希は、隆和とトモエの膳の料理と酒を少しだけ口にし頭を下げる。

 

 

「この通り。何も入ってはございません。

 安心してお召し上がり下さい」

 

「……分かった。いただくよ」

 

「主様?」

 

「トモエも食べていいぞ。ただし、『作法通りに』」

 

「はい」

 

 それから30分程経ち、意外と酒精の強かった酒と料理で満腹になり隆和たちは赤みの増した顔で弛緩した雰囲気になっていた。

 それを見計らい、ニヤリと珠希が告げる。

 

 

「そろそろお泊まりの部屋にご案内しますね。

 内風呂もございますから、楽しみましょう隆和さん。

 どうか、わたしの物になって下さいね。【マリンカリン】」

 

「ああ。やっぱり、そうするんだ」

 

 

 珠希が掛けた魅了の呪法を意に介することなく、隆和が手を伸ばしてきた所で彼女は激しい快楽で意識を失った。

 

 

 

 

「それで?」

 

「あ❤。くーでたーがぁせいこうしたらぁ、ああ❤。とうしゅふじんにぃ、あ、そこ❤」

 

「余計な邪魔はしないで。【シバブー】」

 

「【ギロチンカット】、素手でも負けません。死になさい」

 

「ぐへっ、ここで終わりかよ。儂の女がそこにいるのによぉ。……がはっ」

 

 

 今、ICレコーダーを片手に持った隆和に言い様にされている珠希には誤算だっただろう。

 これは、今までこれで落ちなかった男はいない組織の鉄板のやり方なのだ。

 まず、彼らの料理には組織独自の秘薬が入っていた。

 それは、この料亭の名前にもなっている麻痺の感覚が深酒による酩酊にそっくりな薬『待宵草』で、さらに彼女らの魅了の呪法の【マリンカリン】と色仕掛けで既成事実を作れば大抵の男は一族に加わった。

 また彼女には万一の為に、己の身体と祭具で契約している高位の悪魔の【妖獣カクエン】も控えており万全のはずだった。

 

 しかし今の彼女は、身に付けていた貴重な【状態異常耐性の護符】諸共に全部の衣服を剥ぎ取られて、応援に来た他の女の帯で両手足を拘束され尋問をされている。

 薬もコレットの【パトラ】と持っていた【ディスパライズ】ですぐに解除できたし、彼女の守護をしていたカクエンはトモエとコレットに倒され、周囲に控えていた大勢の女性達も皆、手加減して叩きのめされ呻いている状態でこの部屋のあちこちに転がっている。

 

 

 

「他には?」

 

「あ❤。も、もうこれで、あ❤。おわりですぅ」

 

「それじゃ、ご苦労さま。逝っちゃていいぞ」

 

「ああああああああ❤❤❤❤!!!! ……あはっ❤」

 

 

 体のあちこちから液体を吹き出し白目でビクンビクンと震えながら倒れている意識のない珠希にシーツを被せ、レコーダーを止めて手を拭き携帯でショタオジへ直接メール連絡する隆和。

 忙しいのか暇なのかこの時間なのに、彼から数分後に返事が来た。

 なお、メールの登録名称は気の毒なので意味はまだ誰も教えていない。

 

アーッニキ:マリンカリンと薬で組織に婿入り強要されました。

アーッニキ:制圧後。連絡待つ。

神主:え、どこに?

アーッニキ:京都ヤタガラス

神主:国内にそんな事をする余裕のある組織があるのに驚いた

神主:人を送るから場所は?

アーッニキ:京都の料亭『待宵草』

神主:おけ

神主:そのまま待機で

アーッニキ:了解

 

 メールを打ち終わり、時計を見る隆和。

 すでに時間は翌日になっている。

 眠気からあくびをしていると、コレットが話しかけて来た。

 

 

「隆和。それで、この人達はどうするの?」

 

「逃げ出さないようにだけ見ててくれ。

 今、上の人に連絡したから、応援が来るまで待機だなぁ」

 

「そっか。じゃあ、家に戻ったら身体は念入りに洗ってね。

 一眠りしたら、トモエと一緒に頑張ってもらうから」

 

「何で??」

 

「他の女の臭いが染み付いているから上書きするの。

 そこのバカ女やクソ蜘蛛の臭いがするのが、我慢できないから」

 

「あ、はい」

 

 

 ニッコリと笑うコレットと真っ赤な顔で頷くトモエ。

 二人以外は今は抱くつもりはないよと隆和は考えながら、もう一度欠伸をした。

 

 

 

 

 隆和が無事にガイア連合の応援と合流し、帰れた後の話をしよう。

 

 京都ヤタガラスのやらかしは、ガイア連合の京都への来訪を待ち望む他の組織からの激しい怒りを買った。ガイア連合からの得点稼ぎをするために、手は出しかねるが監視だけはしていた周囲の家々はこれを機にガイア連合が動く前に強襲し、組織の敵対していた各家を潰して回る事態となった。

 そして彼らが動く時にはもう、手を出したくない【羅生門の封印】だけを残った宗家の土御門家の残りに押し付けると、それ以外の物は全て奪い取ってガイア連合に差し出す用意までしていてショタオジを呆れさせたという。

 結局、組織は解体して親類縁者を頼ってまともな人たちは他に移り、あかん人達はそれぞれで【有効利用】されたという結果になった。

 

 実行犯の【斉門珠希】は、調査が終わるとその素質だけは惜しまれた為に京都側の意向で【記憶は綺麗】にされた上で、とある地方の霊能家に嫁いで幸せに暮らせたそうだ。

 あの後、家に帰った【鈴谷あずみ】は、組織解体の報を聞いたがため息をつくと気にする様子もなく日常に戻って行ったという。

 

 そして土御門家では、この件の詳細が入り当主に相談しようとした時には既に双子の老婆の姿はなくどこを探しても見つからなかった。

 彼女らの居所が知れたのは、数年後。

 

 彼女らがいたのは京の山中にあるメシア教にも見つからなかった隠された庵で、そこは転移と隠形を使う天狗に守護されていた。

 彼は代々の当主のみが知るこの庵の守護を契約で守っており、求めに応じ彼女らをこの庵に連れて来たのだ。だが、彼女らはこの庵からは出ることは出来なかった。

 食料などを運ぶ世話人が山中で死亡し本当に場所が判らなくなったのと、【外敵からの守護】のみを契約とする天狗が外出させず契約外だと世話もしなかったためである。

 数年後、偶然天狗のいる庵があると知れてガイア連合のメンバーが調査に行き発見された。

 その時、彼女らは飢えを満たすためか泉の側で苦悶の表情で重なるように死んでいたということだ。

 

 この事件はこれで終りとなり、隆和は次の事件に向かうことになる。




後書きと設定解説


・関係者

名前:ナイスボートニキ(伊東誠)
ステータス:レベル3 
 ↓
ステータス:レベル9 

名前:鈴谷あずみ
性別:女性
識別:異能者・18歳
職業:神社アルバイト巫女/京都ヤタガラス所属
ステータス:レベル4 破魔無効
スキル:九字印(ハマ)
    護符作成(呪殺除けの身代わり札)
詳細:
 黒髪と清楚な雰囲気と豊満なスタイルが特徴の京都弁の美少女
 諜報を得意とする家の分家出身で、平時はお札作りと巫女のアルバイト
 実家の家業はカレンダー業者

・敵対者

名前:斉門珠希(さいもんたまき)
性別:女性
識別:異能者・24歳
職業:京都ヤタガラス事務員兼実働要員
ステータス:レベル10 破魔無効・魅了弱点
スキル:限定的悪魔召喚(妖獣カクエン)
    九字印(ハマ)
    遠当ての術(ザン)
    薬師如来呪法(ディア)
    魅了の呪法(マリンカリン)
詳細:
 茶色に近い髪質の長髪と後ろで纏めた白いリボンが特徴的なスタイルの良い美女
 幼馴染と年上の彼氏に同時に振られて関西に来て実家の組織に就職
 色々と尻軽具合がバレているので地元には帰っていない
 自分より強力な男性悪魔を身体と契約札(祭具)を使って契約し使役している
 
【妖獣カクエン】
レベル16 耐性:物理耐性・火炎耐性・衝撃弱点
スキル:ベノンザッパー(敵全体・中威力の物理攻撃・毒付与)
    アギラオ(敵単体・中威力の火炎攻撃)
    ポズムディ(味方単体・毒消去)
詳細:斉門珠希と祭具で契約していた悪魔
   人間の女性を浚い子どもを産ませる伝説のある猿の妖怪
   一回使役される度に一晩好きに抱く契約だった


次回は、新しい事件。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第9話 過去が追いかけて来る

続きです。
これで一応最後の新たなヒロインのはず。


 

 

  第9話 過去が追いかけて来る

 

 

 あれから、1ヶ月が経過し年の瀬の12月となった。

 

 その後、あの事件は後始末のほうが大変な事になっていた。

 事件を直接解決した隆和たちは報告書を上げるだけでよいが、それを受け取って後処理する方はそれからが大変だった。

 出来たばかりのガイア連合関西支部から派遣された担当者と、文部省監督宗教法人「京都府神社庁」理事で京都周辺のオカルト関連を丸投げされる【一条麿呂】氏は揃って京都府内を走り回り、今回の件で勝ち馬に乗る形での勝手働きによる各家や各組織に沙汰や処分を決めてなんとか混乱を治める事が出来た。

 

 特に鼻つまみ者が消えた京都土御門家では羅生門の封印の管理と一族の再編の関係で、関東の地元でメイドシキガミの『アイリ』を手に入れて順調に活躍していた転生者の【メイドスキーニキ】(本名:土御門姓)に義妹か京都の従姉妹と結婚して総代にと話が飛び火して、一騒動あったのだが隆和たちには関係ないので割愛する。

 

 

 

 

 そんな天気は晴れたが冷たい風が透き通るように吹く大阪の郊外にある教会に、隆和の姿があった。

 そこの教会は元は宗派に関係なく亡くなった一神教の関係者が葬られている慰霊碑がある場所で、今は日本では恨みを買っているメシア教の関係者が過激派天使抜きの死後の安寧を求めて葬られている墓所でもある。

 そこに彼の姿があるのは、以前の事件で助け損ねたシスターの墓参りの要請の手紙の送り主の名にコレットが反応したためだった。

 どうしても確かめたいと言う彼女の懇願を受け、隆和はスーツ姿で同じくスーツ姿のトモエと共に待ち合わせ場所の慰霊碑の前で花を供えながら待っていた。

 しばらくすると、杖をついた体格のいい高齢の神父が付き添いのシスターと一緒に現れた。

 彼はゆっくりとした速度で近くまで来ると、隆和に話しかけた。

 

 

「今日は来て頂きありがとうございます。安倍隆和さん。

 儂は、ここの教会の管理人をしているクラトスと言います。

 ガイア連合の方には我々は嫌われているものと思っていましたが、彼女も喜ぶでしょう」

 

「いえ、嫌っている人が多いのは確かですが、個人的にはそこまでではないので。

 それに、亡くなった彼女もあいつの被害者ですから」

 

「あの娘は、信仰とは関係なくただ友人を探そうとしてこうなりました。

 無事に彼女の亡骸も清めて渡して頂けましたし、仇も討って下さったと聞きました。

 あなた方には本当に感謝しています」

 

 

 神父はゆっくりと慰霊碑の横のたくさんの名前を刻みつけた黒い石碑の前に移動し、「マリア」と書かれた文字をなぞっている。

 そこには、生年月日と亡くなった日に加え『享年17歳』と刻まれていた。

 そうしながら、彼は懐かしそうに語り出す。

 

 

「彼女はね、儂の若い頃に失った信仰の姉妹の一人で『コレット』という少女とよく似ていたんですよ。

 何にでも一生懸命で、友人を大切にして、そして少しおっちょこちょいな所があって。

 容姿は違っても彼女を見ているようで孫のように見ていましたが、この娘も儂より先に逝ってしまった」

 

「その女性はどういう人だったのでしょう?」

 

「コレットかね?

 そうだな、まず少し天然でおっちょこちょいで動物好きだったな。

 料理下手で、台所に入るのも禁止されていたようだ。

 幼馴染のロイドという少年を気にしているのに、それを隠そうとしていたのは本当に笑えました」

 

「他には?」

 

「ふむ、そうですな。

 真面目な割には甘いもの好きで、つまみ食いをしてはよく叱られていました。

 動物は好きでしたが、天使の加護があるので動物には逃げられていつも落ち込んでしました。

 けれど、周りの人を大切にするいい子でしたよ」

 

「彼女は事故か何かで?」

 

「いいえ。

 当時、京都のある寺院に部隊を派遣することが決まりましてね。

 その中にそのロイドも含まれていましてね。

 『心配だから付いていく。大天使様もいるから心配はない』と、そう言い残して。

 けれど、彼らは帰ってこなかった。

 異界と化したその場所は強固な封印があり、彼らの遺体すら回収できませんでしたよ」

 

「…………」

 

「儂は今でも思っています。

 せめて、彼女だけでも引き止められれば、と。

 あの娘まで死ぬことはなかった」

 

 

 なかなかに興味深い話でトモエも聞き入っていたが、封魔管から、

 

『あああああああああ! やーめーてー! 昔の事は聞かないでー!!』

 

 と、テレパシーで声がするのでそろそろ隆和は出して上げることにした。

 

 

「いいよ、コレット」

 

「やっと、出れた! 隆和、何を昔の事を聞き出そうとしているのかな??」

 

「弱みが聞けるかな、と」

 

「帰ったら覚えてらっしゃい」

 

 

 こほんと咳をしてコレットは名前の石碑の前に立つと、驚き立ちすくむクラトス神父に微笑んで挨拶をする。

 よく見ると彼女の後ろに彼女自身の名前があり、隆和にはそれが見えない位置にいる。

 生年月日が『193◯年◯月~』とあるのを、彼に見られたくないのだ。

 

 

「クラトス神父。久し振り、かな?」

 

「本当にコレットなのか? 幻ではないのか?」

 

「私だよ。他の誰に見えるの?」

 

「お、おおおおお!」

 

 

 クラトス神父は背をコレットを抱きかかえると泣き出してしまった。

 身長差が20cm以上あるので仕方がない。

 隆和は178cmなので彼より若干、差が小さい。

 一しきり涙を流すと、コレットを下ろして視線を合わせて話しかけた。

 

 

「君はどうやってここに?

 主の御下に行ったと思っていたのだが?」

 

「色々あって、彼と契約してリャナンシーをしているの」

 

「そうか。

 元気にしているというのは変だな。

 その様子だと、幸せそうだな。コレット。

 リャナンシー、アイルランドの『妖精の恋人』か。そうか」

 

「何か言いたそうね?」

 

「いや。

 色々と思うところはあるが、儂が言うべきではないな。

 とにかく、また会えて嬉しいぞ。コレット」

 

「私もよ。クラトス神父」

 

 

 クラトスは内心、

 

『あの生真面目で博愛溢れる純粋な聖女だった妹分の彼女が、数十年前の姿そのままで知らない男に古女房じみた雰囲気で女の顔をしているのを見るのは、いろいろとかなり辛い』

 

 と、考えたが、賢明にも口に出すことはなかった。

 その後、隆和とトモエに付き添いのシスターは少し離れた場所で、数十分ほど彼らだけで楽しげに話し合うのを見届けるとその日は別れる事となった。

 帰り際、コレットはまた彼と話したいとは言っていたが、これが彼らの今生の別れとなった。

 

 数日後、起こしに来たシスターがベッドの中で眠るように亡くなっているクラトス神父の姿を発見した。

 その顔は穏やかに微笑んでおり、彼女宛の手紙には『信仰ではなく自分の為に幸せになれ』とだけ書かれていたとコレットには知らされた。

 そして、彼の墓参りをしてから数日は、やけに隆和に甘える姿が仕事場でも見られたという。

 

 

 

 

 あの悪魔人事件の被害者で言えば、あの死亡したシスターもそうだが今はガイア大阪で隆和が預かっている【百々地希留耶】、普段は派出所内で生活している彼女の状況にもこの数ヶ月で変化があった。

 まずは彼女の保護者関連であるが、あの事件で保護してからガイア連合の弁護士を立てて交渉すると7桁の提示で同意し、あっさりと親権を実の両親から隆和に正式に移せた。

 わずか1ヶ月で完了して彼女は書類上は養女の『安倍希留耶』となった。

 

 問題となったのは、彼女が通っていた中学校だった。

 そこは私立ではなく公立ではあったが、元担当の教諭と彼女を擁護する女性の教頭の考え方が彼女に関する交渉を滞らせた。

 

 彼女ら曰く、担当教諭の行動は生徒たちの自主性と自由を尊重したものであり間違った行動ではないにも関わらず、そちらの弁護士が元担当教諭の処分を求め校長が職員会議を通さずに決定したのは不遜極まる行為で学校教育に干渉するなど不届きである。

 保護者が変わったのなら親子共々、こちらに挨拶をしに来て生徒を通わせるようにするのが親の務めである。そうでなければ、『高槻方式』を採用する我が校ではこちらで指定する高校への入学の手続きや推薦は出来なくなるがいいのか、と。

 要は、頭を下げて今まで通り何もなかったとして通わせないなら、市内での彼女の高校進学は出来ないぞと言いたいらしい。

 

 もっとも、学校内で『彼女は援助交際をしていた』、『彼女は不良達に強◯された』、『彼女はカルトの親に引き取られた』と言う噂があるような場所へ隆和は希留耶を行かせるつもりはなかったので、交渉を打ち切りさっさとガイア連合の息の掛かった市外の別の学校に転校させた。

 

 そういう事なので、クラトス神父の墓参りから数日後に見学がてら保護者として希留耶と一緒に面談する運びになった。

 その前の学校とは違いまともな教師のおかげで面談自体はすぐに終了した。

 その帰り際、隆和に見覚えのある女性と校内ですれ違ったのが次の波乱の切っ掛けだった。

 

 

 

 

 その日の夕方、ホテルの受付でたまたま当番だった隆和は窮地に陥っていた。

 ダラダラと冷や汗を流す彼の目の前には、宿泊を希望する若い女性が困惑顔のウシジマニキを連れて立っている。

 ロビーの離れた方には、冷たい視線の希留耶、興味深そうに覗いている他の面々がいた。

 そして、彼の隣には引きつった笑みを浮かべる魔王ネキが立っていた。

 時間を数分前に巻き戻してみよう。

 

 その女性が入ってきた時、隆和はとても不思議な気分になった。

 後ろに彼女を守るようにウシジマニキが居て、自分を見たどこかで見た覚えのあるその女性は花が咲くような笑みを浮かべて近付いてきた。

 

 

「いらっしゃいませ。

 お泊りでしたら、ガイア連合の身分証を提示して下さい。

 ウシジマさんも泊まるんです?」

 

「いや、俺は…」

 

「ウシジマさんは今はうちの護衛ですけど、どうします?」

 

「お嬢の護衛だから俺も頼む」

 

「お嬢?」

 

「お久しぶりです、安倍はん。【天ヶ崎千早】です。

 6年ぶりになりますねぇ?」

 

「…………おお。あの、千早ちゃんかい?

 大人の女性になって、立派になったねぇ」

 

 

 隆和は思い出した。

 6年前、本格的になのはと組んで異界に潜りだした頃、ウシジマニキの依頼で異界に潜った人たちの救助をした時に唯一助け出したのが彼女だった。

 その頃は15、6の小さい女の子だったのが、今では立派に大人の女性になっているのは何か感慨深い思いをしていた。本当に立派になっている、胸部的にも。

 嬉しくなった隆和は、事務室にいるなのはにも声を掛けた。

 

 

「なのはさん、なのはさん」

 

「なに、隆和くん。トラブル?」

 

「ほら、6年前に助けた娘が来ましたよ。

 市内の公園の異界で一人だけ助けられた子がいましたよね?」

 

「……んーと、ああ。あの、小さな子!

 久し振りなの。元気そう良かった」

 

 

 なのはの『小さな子』に顔が引き攣ったが、努めて笑顔に戻し彼女はこう告げた。

 

 

「うちもあれから転生者や、つう事が分かってな。

 ショタオジのオフ会にも参加して、今はちひろさんの下で働いとるんや。 

 仕事柄、【いろいろと】情報にも精通していてな?

 魔王ネキや誰とも結婚してへんみたいやし、うちが養おうかと思てな。

 どうや、安倍はん。うちでは駄目やろか?」

 

「え?」

 

「は"あ”!?」

 

 

 なのはが彼女の言葉にドスの利いた声を出した所で、時間が戻る。

 渋面のウシジマニキに、隆和が救助依頼の視線を向けるも逸らされる。

 彼の視線をこちらに戻すために、スカートを太腿までたくし上げる千早。

 

 

「ここの支払いはこれでどうです?」

 

「……2名様ですね。こちらが鍵になります。

 女性の方は、個室をどうぞ」

 

「安倍はん、何かありませんのん?」

 

「一応、今は仕事中だからね。そういうのはちょっと」

 

「小娘だった頃より、色々と成長したんよ、うち。

 確かめてみいひん?」

 

「お部屋へどうぞ、お客様。

 ウシジマさん、頼む」

 

 

 なのはの圧のある視線と希留耶の氷の視線、周囲の好奇心の視線に負けそうになり隆和は彼に直接助けを求めた。

 渋々とそれに答えるウシジマニキ。

 

 

「あー、彼女は佐川の親父の溺愛してる義娘でな。

 ケツ持ちして貰っている恩がある以上、俺からは彼女に強く言えねえ。

 とりあえず、お嬢。ここは人目があるからな、抑えてくれ」

 

「しょうがないなぁ。ウシジマはんにも世話になっとるしな。

 ほな、安倍はん。待っとるからな?」

 

 

 千早は隆和の耳元で壮絶な色気のある声で囁くと、個室の鍵を貰ってウシジマと奥の階段へと歩いて行った。

 ボーっとそれを見送る隆和の肩をポンと叩き、なのはは彼ににこやかにこう告げる。

 

 

「ちょっと顔を貸せなの。話があるの」




後書きと設定解説


・関係者

名前:一条麿呂
性別:男性
識別:異能者・46歳
職業:文部省監督宗教法人「京都府神社庁」理事
ステータス:レベル3 破魔無効
スキル:霊視・見鬼・占術など
装備:呪殺や状態異常を防ぐ護符や札×多数
詳細:
 京都府内の霊能関係者のオカルト方面の相談役
 京都府内の霊能組織の要請を何とかする役所の担当者とも言う
 最近はガイア連合への要請をまとめる調整役でもある

名前:クラトス神父
性別:男性
識別:異能者・76歳
職業:メシア教穏健派神父
ステータス:レベル9 破魔無効
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
    ハマオン(敵単体・中確率で即死効果)
    スラッシュ(敵単体・小威力の物理攻撃)
詳細:
 メシア教穏健派の教会の【墓標教会】を統括している神父
 コレットと共に死亡したロイドの友人で兄貴分だった
 かつて司祭を狙えたが機会を捨てて、今の教会も絶望して諦めている


次回も、過去からの続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第10話 過去が追いかけて来た

続きです。


 

 

  第10話 過去が追いかけて来た

 

 

「ちょっと顔を貸せなの。話があるの」

 

 

 そう言われた隆和は、なのはに事務室の奥の防音仕様の応接室に連れて来られた。

 隆和自身、事態が飲み込めていないが、不機嫌な表情のなのはにソファに座らされた。

 いつもより低い声色で問いただされる。

 

 

「あの子、6年前に助けたあの子で間違いないんだよね?」

 

「ああ。見鬼の術でも名前は名乗った通りだった」

 

「それなら、あれは何なの?」

 

「こっちが聞きたい。今現在の彼女が何者なのかも知らないんだ。

 分かっているのは、【彼女は佐川さんの可愛がっている義娘】て事ぐらいだな」

 

「心当たりはないの?

 【ちひろの下で働いている】とも、言っていたの」

 

「仕事関連にしては、いきなり【養う】と来るのはおかし過ぎるんだ。

 ちひろさんに連絡は取れないか?」

 

「ちょっと待っててなの」

 

 

 そう言うと、なのはは事務室に行き山梨へ電話をかけた。

 しばらくやり取りがあり、応接室で待っている隆和の元へ彼女が戻ってきた。

 

 

「ちひろが言うには、彼女は向こうから仕事関連で派遣したって言っていたの。

 こっちからも改めて言っておくから明日、話を聞いてやってと言われたの」

 

「わかった。じゃあ、明日。

 今日はもう宿泊の受付の時間も終わるし、部屋に戻るよ」

 

「そう。

 明日は、わたしも気になってしょうがないから参加するの。

 それじゃあ、上がるの」

 

 

 そう言うと、彼らは今日の仕事を終えて家へ帰って行った。

 

 

 

 

「『うちが養ってあげる』って、会っていきなり何言うてん? アホちゃうか、うち」

 

 

 ベッドとテーブルが有るだけの小さな個室で【天ヶ崎千早】は、顔を真っ赤にして枕に沈めながら羞恥に震えて久しぶりの再会で空高く舞い上がり興奮しすぎたと反省していた。

 

『私は仕事のために立候補した優秀な貴女を派遣したのであって、婚活の為ではありませんよ?』

 

 と、なのはが連絡した事により先程受けたちひろからの注意の電話は、簡単に言えばそういう内容だったが、彼女の少し険のある押し殺した声は氷水を頭から被せられたように千早の頭を冷えさせるのには充分だった。

 彼女がここに来た今回の表向きの任務は、出来たばかりの関西支部の事務や後処理の応援である。

 実際、つい先日まで京都府の神社庁の一条氏とあちこち飛び回っていたが、その過程で6年前のあの時自分の命を救ってくれた憧れの人の詳細な情報を知り実際に見かけたのだから。

 明日話しかける時は、もっと冷静に『できる女』になったと見せないといけない。

 そうして気持ちを切り替えると、彼女は携帯にタイマーをかけ就寝した。

 

 

 

 

 翌朝、職場の反応は様々だった。

 希留耶は、ツンとして「おはよう」とだけ言うとそのまま学校に行き、

 サラリマンニキは、にこやかに「【地返しの玉】用意しておきますね?」と言い、

 ナイスボートニキは隆和をそっと手を合わせて冥福を拝み、

 他のスタッフにはヒソヒソと何かを話されていて、

 なのはには耳を引っ張って応接室に連れて来られた。

 

 それからしばらく経ち、応接室にスーツ姿の隆和となのは、向かい側に千早が座り黒スーツ姿のウシジマニキが後ろに立っていた。

 隆和は昨夜、物陰で一部始終を見ていて部屋で不安で泣いていたトモエへの釈明のために遅くまで起きていたため、昔はいつもやっていたカフェイン剤と耐性の【精神無効】の内の睡眠無効を強く意識して眠気を抑えている。

 

 

「昨晩は失礼しました。

 それでは、改めて自己紹介します。

 ガイア連合山梨支部監査部所属の天ヶ崎千早と申します。

 後ろのウシジマさんは護衛として来て頂いています。

 今回は、先日の件を含めた安倍さんの関わった事件に関する件のために来ました。

 昨夜の失言は、一旦忘れて下さい」

 

「千早ちゃ…、天ヶ崎さん。

 まず、この6年間の間に何があったのかそこから教えてくれないか?」

 

「そうそう。そこから聴きたいの。失言の事は忘れないけど」

 

「どうしても必要ですか?

 ……う。そ、そやね。そこから説明せんとあかんか」

 

 

 6年前、天ヶ崎千早は大阪の既に父の本業がサラリーマンと化している裏の稼業を畳む寸前の小さな拝み屋一家の娘だった。

 その日は、『近所の公園におじいさんの幽霊が出るから何とかしてくれ』といういつも請けるような依頼で千早も助手という形で両親とともにそこに赴いていた。

 ただ、その幽霊はいつもの相手とは違った。

 そいつは奇襲し【ムド】と唱えると次々に彼女の両親を殺し、【悪霊ディブク】へと進化するとそのMAGで異界を作り出した。

 異界の中でそいつに追いかけ回された記憶は残っていないが、唯一彼女が憶えているのは、彼女を抱き抱えて庇う隆和と何もかも閃光で薙ぎ払うなのはの姿と蘇った前世の記憶だけであった。

 

 その後、彼女は母の兄であった佐川組組長【佐川司】の元に引き取られ、高校と大学は関東へ進学して大学生の頃にショタオジのオフ会に参加し完全に覚醒を果たした。

 各種の資格を手に入れて大学卒業後はガイアグループの企業に就職する形で連合に参加し、今の部署で隆和の名の記録がある今回の任務を知り、立候補して帰郷も兼ねて大阪に戻ってきて現在に至るということだ。

 

 

「それで、6年ぶりに安倍はんにおおて、つい昨日みたいなことを言ってしまったんや。

 でも、ITバブルの株式投資とガイアグループへの投資で旦那はんを専業主夫に出来る収入はあるのは本当や。

 『将来、必ず貴方に会いに行きますから……立派になって会いに行きます』。

 別れ際にしたこの約束は嘘やないから、この件が終わってからでええから考えて欲しいんや」

 

「へえ、あのどさくさでそんな事をしていた訳?」

 

「あ、あれから一度も連絡はなかったし、きれいな思い出のままかと思っていたので」

 

 

 頬を赤らめながら告白する千早と横から睨むなのはから視線をそらす隆和。

 修羅場は別の場所でやれと考えつつも、咳をして話題の変更を促すウシジマニキ。

 

 

「そういうのは仕事を終えてからしてくれねえか、お嬢。

 浮かれるのはまあ分かるし、佐川の親父も前向きと言えな」

 

「そうやね。

 こうやって会いに来たんは、仕事の件もあるんやし」

 

「仕事?」

 

「はい、まずはこれを見てや」

 

 

 ようやく元の冷静な顔になった千早は、カバンから数枚の書類を取り出し隆和たちに見せてきた。

 そこには希留耶と関わる事になったあの事件の詳細が書かれていた。

 

 

「そこに書かれている通り、バフォメットになっていたあの悪魔人の出自は隣国の【半島】人や。

 偽造旅券で入国したため足取りを追うのに時間が掛かったんやが、日本側の手引であの事件の一家の『背乗り』目的で来たようや。

 いつあの能力を手に入れたのかまでは判明しておらんが、あの家に潜り込んだ時にはもうなっていたようや。

 そして、あの屋敷で派手にやり過ぎて安倍はんが介入する事になったん」

 

「分かるだけで10人以上の娘が犠牲になっていて、遺体は見つからなかった、と。

 やっぱり、悪魔化して【外道】に成りうるだけの事はしていた訳だ」

 

「屋敷の床底から魔法陣が見つかったってのは?」

 

「高橋はんも知っている通り、異界は地脈に繋がっている。

 ショタオジは、富士の神社で日本の全体の地脈を詳しく観れるので気がついたそうや。

 あの屋敷でマグネタイトを発生させ、それを別の場所に送るそういう仕掛けがそれなんや。

 けど、送り先が既に途切れていて見つからんかったそうなん」

 

 

 マグネタイトは人間の激しい感情から生まれる。

 つまり、あの屋敷で幾人もの少女が犠牲になることで生まれたマグネタイトを、魔法陣を通じて『上納金』のように受け取っていた者がいるという事だ。

 しかも、わざわざ隣国の外国人を呼び寄せて力を与えている資金と手段がある奴だ。

 絶対に捕まえるか、最悪、潰さないといけないだろう。

 千早がもう一枚書類を差し出すが、それを見て顔をしかめるなのは。

 

 

「そこで、この書類の場所を調べて欲しいんや。

 微弱で途切れ途切れやけど、同じ仕掛けらしいとショタオジは見とる。

 しかも調査では、ここの雑居ビルには若い少女が居なくなる噂が出ているんや。

 うちの調べでも確かにいなくなった少女がいるのは間違いないんです」

 

「本当にここで合っているの?

 西成の飛田新地のすく近くじゃない、ここ?」

 

「うちの今のおとんは道頓堀でも大きなキャバレーのオーナーで、そっち方面には顔が利くんで調べてもろたら地元じゃない人間が出入りしとる話なんで間違いないと思う。

 ウシジマさん、そうやな?」

 

「ああ、親父が名義貸ししてる店も幾つかあるから間違いない」

 

 

 『飛田新地』とは、大阪西成区にある1910年頃から続く日本最大級の遊郭の建物が今も150軒以上残る歴史のある街で、実際にこの地域の最も古い建物であり料亭でもある「鯛よし百番」は国の登録有形文化財にも認定される程である。

 

 問題の5階建ての雑居ビルは、料亭の並ぶ通りから外れて裏通りに入った場所にあった。

 1階がビルの事務所、2階がナースイメクラ、3階がゲーム麻雀店、4階がガールズバー、5階がキャバレーである。佐川氏が名義貸しをしているのは5階の店で、店のママが元愛人らしいので信用できる情報だそうだ。

 主に消えているのは2・4階の店の子で、それぞれの店主は補充は直ぐにできると豪語し店舗の内容から警察には届け出は出していないらしいとそれには書かれている。

 それを見ながら、隆和は千早に尋ねる。

 

 

「何故、この調査を俺たちにやってくれと言うんだ?

 仮にも関西支部が出来たのなら、実力者はいるだろう?」

 

「あんな、自覚してや。安倍はん。

 高橋はんとあんさんは、この辺で頭一つ抜け出た実力者なんやで。

 おまけに、おとんとウシジマさんから何度か仕事も受けていて、うちも助けてもろたという信用もあるガイア連合の異能者は他に知らへんわ」

 

「なのはさんはどうする?」

 

「わたしもやるの。

 久々に、隆和くんとも組んでみたいし」

 

「わかった。

 じゃあ、いつから掛かればいい?」

 

「準備ができ次第やな。

 決まったら、教えてや。ママさんの方にも連絡するんやから」

 

「ああ。それでいいぞ」

 

「ほな、お願いするわ。安倍はん。

 それと、あの話も忘れんといてや?」

 

 

 そう言い残すと、千早は彼に蠱惑的な笑みを浮かべウシジマニキと共にホテルを後にした。

 彼らが帰るのを見送ると、隣で一緒に見送っていたなのはが横目で隆和に尋ねた。

 

 

「それで、隆和くんはあの娘の話を受けるの?」

 

「魅力的な話なんだが、突然過ぎるし受けるのは躊躇するよ。

 コレットやトモエみたいに他の選択肢がない娘ならともかく、彼女にはもっと他に選択肢もあるだろうしね。

 『普通の職業について普通の結婚をして平穏に暮らしたい』なんて、コレットやトモエを受け入れている癖に中途半端な夢を見ている俺には無理だろう」

 

「ま、隆和くんならそう答えるとは思っていたの」

 

「こんな中途半端な夢を未練たらしく持っているのに、二股している俺を受け入れてくれる都合のいい女性なんて居るわけがない」

 

「……そっか。じゃあ、戻ろうか?」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 千早の依頼をなのはと受ける旨を、机の上にこれ見よがしに短剣の多く刺さった『黒ひ◯危機一発』置いているニコニコと笑うサラリマンニキに報告し、数日後、大型バンを借りて隆和は目的のビルの駐車場までたどり着いていた。

 初めて組むなのはに不安そうな目で見る巫女服のトモエに、竹刀ケースを持って楽しげなスーツ姿のなのはと作業着姿の隆和は車から降り準備をしていた。

 そこへ、若い女性が声を掛けてきた。

 

 

「待っていましたよ、安倍さん」

 

「天ヶ崎さん? どうしてここに?」

 

「今回はわたしが案内しようと思って来ました。

 現場でも大丈夫ですよ」

 

 

 そこに居たのは、ニコニコと笑う天ヶ崎千早であった。

 彼女は、前に来た時と同じスーツ姿でそこに立っていた。

 

 

「……ふーん。

 ま、いいんじゃないかなの。それじゃ、よろしく」

 

「……ああ、そうだね。じゃあ、よろしく」

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 

 3人を案内しようと前を歩く彼女を追いながら、なのはと顔を見合わせて薄く笑うと不思議そうな顔のトモエを連れて千早の後を追って隆和たちは移動し始めた。




後書きと設定解説


・関係者

名前:佐川司
性別:男性
識別:覚醒者・67歳
職業:関西連合直参佐川組組長
ステータス:レベル4 破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:霊視・財力・蛇の道は蛇・鋭い勘・カリスマ・根回し
詳細:
 大阪道頓堀近くでキャバレー「グランド」などの幾つかの店を持つ極道の組長
 【財界俺ら】や極道関係や霊能組織にも顔が広いフィクサー

名前:ウシジマニキ
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・30代
職業:金融業「ウシジマファイナンス」社長
ステータス:レベル13・フィジカル型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    マカジャマ(敵単体・中確率で魔封付与)
    パララアイ(敵単体・中確率で麻痺付与)
    潜伏(自身・敵から狙われにくくなる)
    交渉術・執り成し
詳細:
 元々は、霊能組織相手の闇金系派遣仲介業(人身売買含む)業者
 ガイア連合に参加後は、ちゃんと許可を得たガイアグループ所属の金融業社長
 シキガミは、動物型の兎「うーたん」で回復やトラフーリなどのスキル持ち


次回も、過去からの続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第11話 過去が追いついた

続きです。
これで今回の事件は終わり。

皆さんも、気温激しい上下による風邪には気をつけましょう。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第11話 過去が追いついた

 

 

 離れた所に見える『飛田新地』の歴史ある建物の並ぶ通りを見ながら、目的地のビルへと3人は歩いて行く。まだ昼間であるからか、歓楽街に近いこの辺は人通りが少ない。

 そこをやや目立つ格好で美女も多い一団である彼らは通っていくが、時々すれ違う路地裏にいそうな連中が不思議と声を掛けてこない。

 先頭を行く天ヶ崎千早がアイテムで何かしているようだが、隆和たちには分からない。

 移動中、千早の方から話しかけて来た。

 

 

「これから目的のビルに行きますけど、私がいなかったら宛はあるんですか?」

 

「まず、5階の店のママに話を聞くように連絡しておいてくれると言ったのは、そっちじゃないか?」

 

「そうです。だから、こうしてここに来ているんですよ」

 

「連絡はしたの?」

 

「してますよ。

 でも向こうも忙しいでしょうから、わたしが案内します」

 

「あの……」

 

 

 トモエが話そうとした所で隆和が頭を撫でて止め、何か言いたげにこちらを見る彼女に首を振って答える隆和。

 角を曲がり、目的のビルが見えてきた。

 千早に案内されるままそのまま中に入っていくと、三畳ほどの広さの入り口に階段とエレベーターが、右側にはシャッターの閉まった事務所の入り口と各階の店舗のポストが並んでいる。

 千早はそこでエレベーターを指差すと、こちらを向いて説明を始めた。

 

 

「お店の女の子がいなくなる事が起こり始めたのは、随分前からなんだとか。

 仕事が終わってエレベーターで一階に降りたはずなのに、それからは姿を見なくなるというものです。

 二階と四階の店の店主たちは、女の子たちが【東南アジア】人だから大した事じゃないと周りに言っているそうです」

 

「そこまでは書いてあったな。で、三階の店主は?」

 

「書類にある通りです。

 女性が来ることはほぼない男性だけの雀荘ですので、店主も自分の打つ邪魔をするなと」

 

「それでどうするんだ?」

 

「安倍さんは二階の店にもう一度聞きに行って下さい。

 わたしと高橋さんにトモエさんは、五階のキャバレーにエレベーターで先に行きますから」

 

「わかったよ。

 なのはさん、じゃあまた後で」

 

「わかったなの。そっちも気をつけて」

 

 

 そう言うと、ボタンを押して千早はエレベーターを呼んだ。

 隆和はなのはに何かを手渡すと、声を掛けて階段を登って行った。

 そして、来たエレベーターに三人は乗り込んだ。

 

 

 

 

 “千早”に化けたその女は、密かにほくそ笑んでいた。

 

 あのバフォメットの過失のおかげで、ただでさえ遠くの地に居た彼らのボスの兄弟が殺されて異界も潰されたという事でボスが荒れていたのに、大阪各地の組織関係の異界の活動を彼らは自粛しなければならなくなっていた。

 そんな時にバフォメットの拠点を潰した関係者がいる中に入れなかった大阪のホテルを手下に見張らせていた時に、幹部候補らしいこの姿の女のカバンを駅のトイレで盗めたのは彼女にとって幸運だった。

 だからこそ、自分のテリトリーだったここの異界にこいつらを誘導できたのは、最近大きい顔をし始めたガイア連合にも痛い思いをさせて功績を上げるいい機会だと彼女は考えた。

 自分達の足元にも及ばない実力の能力者しかいない“倭猿”の事だから、運良く破魔呪文が決まったに違いないバフォメットを潰したさっきの男はこれで分断し、後は、この女共を異界に連れ込んでマグネタイトの素に変えれば成功である。

 何しろこの異界は『エレベーターに一定以上の容姿の女性だけが乗り込んで下降する』の条件を満たせないと、組織外の相手は入れない仕組みにしているのだから。

 そして、他の二人が乗り込んだ途端、エレベーターは下降を始め彼女の目論見通り【存在しない地下一階】に到着した。

 

 

 

 

 なのはたちが乗り込むとエレベーターは勝手に動き始め、下降をし始めた。

 驚いた様子の千早がいろいろなボタンを押すも反応がなく、そのまま地下一階に到着し扉が開いた。

 扉が開くと気づいたトモエが止める間もなく、千早の身体が浮きそのまま外へと引き出されてしまった。

 慌てて外に飛び出すトモエを追いかけるようにして、思案げな様子のなのはも外に出た。

 

 扉の外に出ると、そこは10畳ほどの広さの倉庫のような場所だった。

 床や壁の所々には血痕があり、奥の隅には女性の服や小物やカバンが多数打ち捨てられて積み重なっている。

 正面には、千早を捕まえている大男と側に黒い人影な様な姿の悪魔がいた。

 そのニヤニヤと笑っている大男は、得意げに彼女らに大声で話しかけて来た。

 

 

「おおっと、そこの女ども。

 そこを動くなよ。この女がどうなってもいいのか?」

 

「その人を離しなさい。人質のつもりですか!」

 

「はっ、そうだと言ったらどうするよ。巫女の嬢ちゃん。

 いいから、手に持ってる刀を捨てな。

 そっちの女もだ」

 

「もういいかな、小芝居に付き合うのも疲れたし。ねえ、偽物さん?」

 

 

 溜息をついてそう言い切るなのはに、振り向いたトモエが問う。

 

 

「偽物ですか?」

 

「そ。隆和くんがもうその女が他人が化けているものだと見抜いていたし。

 見鬼の術を彼は使えるからね」

 

「嘘をつくな。倭奴ふぜいがそんな高度な術を使えるものか!

 ぼんやりと相手の力の強さを見れるような奴しかいないはずだ!」

 

「馬鹿! 釣られてんじゃないよ、間抜け!」

 

 

 あっさりとバラした男に文句を言う“千早”。

 その女は、姿が変わっていき整った顔立ちの【アジア人】の女性に変わった。

 舌打ちするその女に、なのはは告げる。

 

 

「あなた達の言う術ってさ、昔の術しか使えない人ことでしょ?

 ガイア連合のアナライズの機械なら、種族にレベルの数値化も出来るの。

 それに合わして術の使い手の認識も変われば、術その物だって進化するに決まっているじゃない」

 

「はあ!?

 あたし達に頭を下げるべき島国の倭奴がそんな事出来るわけがないわよ!

 それに、あたしはあんたらの倍以上の強さを持っているのよ!」

 

「ふーん。その強さって、ここで女の子に酷いことをして得た力なんでしょう?」

 

「それがどうしたの?

 倭奴や【東南アジア】人の人間がいくら死んでも代わりはいくらでもいるじゃない。

 あたし達の為に死ねるなら幸せでしょうが!

 あんたらもそうなるのよ!【テトラジャ】!」

 

 

 化けていた女がそう叫ぶと、他の二人も動き出す。

 影の男は魔法を唱え、大男は突進し殴りかかってきた。

 

 

「【スクンダ】」

 

「おら、痛い目見ろ。【突撃】」

 

 

 魔法で動きが鈍り殴られたが、トモエはさして痛痒を感じずに逆に敵に向かって切り返す。

 

 

「効きません。【霞駆け】! ……くっ」

 

「ぐげっ」

 

「ば~~か、あたしを殴っても無駄だよ!」

 

 

 トモエの複数回攻撃できる斬撃で大男と女を攻撃したトモエだが、女にした攻撃がはね返された。

 それを見たなのははトモエに声を掛け、女に向けて魔法を唱える。

 

 

「物理攻撃をはね返して他人に化ける…、やっぱり【ドッペルゲンガー】なの。

 その女は殴っても無駄なの、トモエちゃん!

 だから、【フレイダイン】!」

 

「ぐげっ、魔法使いかい!

 でも、そんな強い魔法ならあと1、2発だろう。

 なら、こいつで。【マカラカーン】。

 ほ~~ら、もう効かないねぇ」

 

 

 なのはの魔法でかなりのダメージを負った女だが、魔法反射の魔法を使いほくそ笑む。

 こうして魔法さえ唱えれば、正体がバレても今までどうにでも出来た彼女の必勝法である。

 後はもう一度掛け直して殴り倒して動けなくすれば上手くいく、彼女はそう考えていた。

 もっとも、トモエとなのはが彼女と同じくらいのレベルである事には気づいておらず、今まで遭遇していた日本の術者を基準に考えている時点でもう詰んでいるのだが。

 ニヤつくその女に、ニコッと笑ったなのはが言う。

 

 

「巻き込まれるような人質とか居ないのは幸運なの。【メギドラ】」

 

「ぎゃあああああ! な、何で反射できないんだああ!」

 

「そういう物だから?」

 

 

 なのはの放ったパッシブスキルを抑えた手加減ごんぶと光線が彼女たちを薙ぎ払う。

 全身がボロボロになったその女の問いに、彼女の足元の炭になった大男と消えかけている影の男を見ながらなのはは答えて杖を向けた。

 

 

「色々と喋ってくれると助かるのだけど、消えたくないでしょう?」

 

「はっ、バカを言うんじゃないよ。喋ったら殺されるんだよ!」

 

「じゃあ、今消えたいの?」

 

「は、ハッタリはよしな!

 あんな強い魔法を2発も撃ったらもうMPはない筈だ。

 それに、【性的に奔放だと侮辱する下劣な表現】女の言うことなんて聞く訳が無いだろうが。

 これだから、【日本の女性である事を侮辱する下劣な表現】は!」

 

 

 ブチッと何かがキレる感覚をなのはは感じた。

 本当なら人質が居ないのなら薙ぎ払って終わりに出来たのを、相手に喋らすために色々と調子に乗らせていたがもう我慢の限界だった。

 意識して抑えていたスキルも開放し、彼女は魔法を解き放った。

 

 

「そうなの、さよなら。

 【コンセントレイト】、【メギドラ】」

 

「……は?」

 

 

 閃光を伴った強烈な爆発が目の前の異界全体を包んだ。

 そして、その後になのはたちの視界に入ったのは何もかも吹き飛び、崩壊を始めている異界だった。

 スッキリした表情のなのはは驚いた表情のままのトモエの手を引きエレベーターに戻ると、ボタンを押してエレベーターを上昇させた。

 

 

 

 

 その後の話をしよう。

 

 なのはが異界から引きずって来て隆和から渡された地返しの玉で蘇生した大男と、隆和に捕まった逃げる準備をしていた奴らの仲間だった4階の店の店長の男を捕まえて知っている事を吐かせた。

 ただ、こいつらは雇われ店長だっただけで大した事は分からなかった。

 本物の千早が連れて駆けつけてきた警察にこの二人を引き渡すと、彼らは話し合うために一度事務所に戻る事にした。

 

 事件に関しては、やはり主犯だったドッペルゲンガーの女がいない以上詳しい事はいまだにわからない事だらけであった。

 ただ、組織立って関西周辺で動き、その組織が悪魔人を作り出す技術を持っていると思われる連中だとはっきりしただけでも成果はあったと千早は結論付けたのだった。

 

 

 

 

 そして、もう一つ話し合う事柄があるために、事務所の近くにあるなのはの自宅に彼女たちは集合していた。

 テーブルには度数の高いウイスキーとつまみがあり、室内にはコレット、トモエ、なのは、千早が揃っていた。隆和は、「女子会だから」と言われて自室に一人で帰っている。

 お互いにしばらくちびちびと飲んでいた面々だったが、コレットが口火を切った。

 

 

「それで、そこの二人はどうするつもりなのかな?

 私は彼に取り憑いているリャナンシーであって、彼の死後も一緒にいるつもり。

 トモエは……」

 

「わたくしは主様の刀にして従者です。

 主様の近くに侍るため、その為に生まれた存在の式神です。

 ですので、主様に拒絶されぬ限りは冥府までお供いたします」

 

 

 持っていたグラスの酒をぐいっと飲みきり、千早が続ける。

 

 

「うちは元々、口約束やろうとあの時に言った立派になって会いに行く約束を果たす為に来たん。

 あん人は、うちにとっては憧れで初恋の相手でもあったんや。

 先走ることになったけど、彼が一人なら連れていくつもりやったわ。

 せやけど、もうあの人の隣には受け入れられたあんさんらがおる。

 どないせい言うねん、ほんま」

 

「貴女を怖がらせるからと私はあの時貴女に姿を見せなかったし、トモエがここに来たのは最近だしね。

 彼の隣にいる可能性があるのは、なのはだけだと思ったんでしょう?

 でも、彼女は別の男性に惚れてここを出て行った」

 

「そや。だから、上手く行くと思っていたん。

 でも、今はこのざまや」

 

「それで、どうするの?」

 

「諦めたわけやないけど、事件の事もある。

 でも、今回はもう無理やと思う。

 だから、一度実家に帰るわ」

 

「そう。

 踏ん切りがついたら、また話し合いに来なさいね。

 彼の隣で待っているわ」

 

「……ほな、帰るわ。

 タクシー呼ぶから、見送りはいらへん」

 

 

 余裕のある表情のコレットと真剣な表情のトモエを睨みつけ、千早は静かに出て行った。

 千早を見送ると、無表情のままちびちびと喋らずに飲み続けていたなのはにコレットが向き直る。

 

 

「こうやって彼抜きで話すのは久しぶりかな、なのは」

 

「そうね」

 

「それで貴女はどうなの?」

 

「…………」

 

 

 そう聞かれたなのはは、グラスにドボドボと注ぐとストレートで飲み干し、座った目でコレットを睨み話し始めた。

 

 

「だいたいさ、6年も友人やってて一度もそういう事考えない訳ないじゃない。

 あの娘もそうだけどさ、貴女と隆和くんの間に入り込む様な隙間が無いの。

 だから、これはと思う人に付いていったら式神嫁を紹介されるんだもの。

 戻るに戻れないなの」

 

「いいじゃない、隆和と結ばれれば。

 貴女ならかまわないよ」

 

「……え?」

 

「それに、前に一度関係を持っているじゃない。あなた達」

 

「ぶふぅ。……えっほ、ごほ」

 

 

 コレットの発言に吹き出し、その後でムセ込みながら驚いた顔で彼女を見るなのは。

 くすくす笑いながら、彼女は告げる。

 

 

「貴女が大阪を出ていく少し前だったかな、お互いに記憶が飛ぶくらいに泥酔した時よ。

 朝起きて確認してから、『お互いに無かったことにして忘れよう』って言ってたじゃない。

 記憶が無いふりをしていたのに忘れたの?」

 

「や、やだなぁ。ほんとに覚えてないんですって」

 

「隆和の方は、本当に覚えていなかったのにね。

 貴女の方は、隆和が理性が飛んで手加減抜きでしていたから強制的に酔いも何も吹っ飛んでいたみたいだけど。

 理性が飛んでるから隆和の馬鹿、考えている事が封魔管の中の私にダダ漏れだったし。

 例えば、【行為中の無意識ななのはへの感想の数々】とか」

 

「うにゃぁ」

 

 

 真っ赤な顔で、テーブルにうつ伏せになるなのは。

 コレットの演説はまだ続く。

 

 

「その後はぎこちなくお互いに意識してさ、『中学生か』って思ったよ。

 なのに、変に振り切るようにして大阪を出ていくんだもの。

 嫉妬するより、呆れたよ」

 

「そ、そうなの?」

 

「そうだよ。

 それで微妙に荒れてる隆和を何とかして落ち着いたら、今回の騒動だし。

 こうして、一緒の職場になってあの娘が来て、焼け木杭に火が付いたんでしょ?」

 

「さ、さあ?」

 

「誤魔化すのはもういいからさ、彼にさっさと抱かれてくれない?」

 

「何で!?!!?」

 

 

 真っ赤な顔のまま飛び起きるなのは。

 顔を赤らめているトモエをちらっと見て、コレットは続ける。

 

 

「山梨であの神主から受けた特訓で隆和は強くなったの、あっちの方も。

 スキルだけじゃなくて、身体の動かし方全体が洗練されて鋭く上手くなったのよ。

 最後のあの日、トモエが来ても封魔管の中で動けないまま大阪に帰ったし。

 最近は2人でも持たないのよね」

 

「……ごくっ」

 

「それに、私やトモエでは隆和の子どもは産んであげられないのよね。

 彼、『自分の子ども』ってのにすごく憧れていたし。

 それなら、私や隆和もよく知っていてあっちの方も付いて行ける体力があるのは、あなたしか思い浮かばなかった。

 貴女だって、興味が無いわけではないのでしょ?

 誰に使うつもりだったのか、寝室のテーブルにガイア連合製の媚薬を出しっぱなしにしているんだし」

 

「あ」

 

「どうせ、このままだとうじうじして進まないと思ったから、そのグラスに一服盛ったからね。

 隆和を今からここへ呼ぶから、電話を借りるね」

 

「待ちなさ……あ」

 

 

 力が抜けて体中が熱くなって動けなくなったなのはを見て、ニコニコ笑いながら顔の赤いトモエにも指示を出す。

 

 

「トモエ。貴女も参加できるように準備しててね。

 彼女の媚薬、隆和にも服用してもらうのでそっちの準備は私がするから」

 

「はい、コレットさん」

 

「や、止めなさい。この悪魔!」

 

 

 そう叫ぶなのはに、受話器を持ってキョトンとして答えるコレット。

 

 

「何言ってるの? リャナンシーだよ、今の私。

 私は彼が幸せになるならどんな事でもするつもりだもの。

 もちろん、隆和が拒んだら止めるつもりだよ。

 さあ、貴女も一緒に幸せになろう?」

 

 

 

 

 その翌々日、事務所の隅で『反省中』と書かれた木の板を首から下げて正座をしているコレットとトモエに、何かと隆和といつになく仲良くしているなのはの姿を見た希留耶は臍を曲げた。




後書きと設定解説


・関係者

名前:天ヶ崎千早
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・23歳
職業:ガイア連合山梨支部監査部関西派遣員
ステータス:レベル12・マジック型
耐性:破魔無効・呪殺耐性(装備)
スキル:見鬼(アナライズ)
    呪符作成(魔法の石相当の護符の作製技術)
    コンピューター操作(ハッキング含む技術)
    誘惑(異性の相手によく効く交渉術)
    財力(アイテムの購入などの資産運用術)
    図書館(書物による的確な情報収集技術)
装備:呪殺耐性の指輪
詳細:
 隆和が初恋の相手で、関西の陰陽師系の家の出身の転生者
 高校生の時に両親が除霊に失敗し死亡した事故で隆和と知り合う
 事故後、地元を離れて大学に進学し資格を取り最近、帰郷
 大学時代に富士山覚醒体験オフ会に参加
 株式などの資産運用で多大な個人資産あり
 黒髪をボブカットにし、主にスーツと丸いフレームの眼鏡を着用
 身長167cm、B:89(F)・W:55・H:82
 (サイズは、黒医者ニキのメモより)


【挿絵表示】

天ヶ崎千早のイメージ図

・敵対者

【外道ドッペルゲンガー】
レベル25 耐性:物理反射・銃反射・破魔弱点・呪殺弱点
スキル:デスタッチ(敵単体・小威力の万能属性のHP吸収)
    マカラカーン(味方全体・1度だけ魔法を反射)
    テトラジャ(味方全体・1度だけ破魔と呪殺を無効化)
    道具の知恵(悪魔が道具を使用可能にする)
装備:偽造身分証×多数
   認識妨害(弱)の護符(盗品・使いすぎで劣化)
詳細:天ヶ崎千早に成り代わっていた女と同化して悪魔人になっていた悪魔

【悪霊ポルターガイスト】
レベル18 耐性:衝撃弱点・破魔弱点
スキル:スクンダ(敵全体・命中と回避率を低下)
    九十九針(敵単体・小威力の銃属性攻撃)
詳細:この異界の主として苦労して探した制御できる高レベルの悪魔

【異能者の男】
レベル7 耐性:破魔無効
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    脅迫・脅し
詳細:ドッペルゲンガーの手下。2階の店長

※国籍に関係なくこういう犯罪に手を染める連中の発言なので、
 作中の表現にはご留意下さい


次回は、閑話。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第12話 閑話・年の瀬の彼ら彼女ら

続きです。

今回は閑話。

※付き合う女性が三人以上になったので「ハーレム」タグ追加


 

 

  第12話 閑話・年の瀬の彼ら彼女ら

 

 

「ぶっちゃけさ、結局ヤったの? ……このっ」

 

「正式におつきあいは始めたよ、とだけなの。……【メギドラ】っと」

 

 

 この辺に居た幽鬼の群れを粗方処理し、ビジネススーツの霊装の姿のなのはは彼女の問に適当に答えて息をついた。

 

 あの事件から数週間が過ぎ、クリスマスも過ぎてもう少しで今年も終わる日になった。

 彼女たちは、この年の瀬に発生した異界の攻略の仕事を受けて奈良の山中にある廃寺の異界の中にいた。理由としては、なのはと一緒に潜っている女性が「お金が無いから助けて」と頼まれたからである。

 彼女は通称、【モリソバ】。本名を嫌っているため、なのはの付けたあだ名で通している。

 なのはの高校時代からの友人で、ガイア連合の関西支部になのはの推薦で所属している現地の能力者としてはかなりの素質を持ったデビルバスターである。

 もっとも、そのスキルの多くは防御のものが主でもあるが。

 そして、稼ぎの多くをソシャゲの推しショタに貢いでいる廃課金者でもある。

 

 

「ふう。後は奥にいるボスだけね。

 いやあ、助かった。これで年明けのピックアップに間に合うわぁ」

 

「また、爆死して【クルシミマス】だったの?

 去年と同じなの」

 

「ぐふっ。だって推しの短刀の子がPUなんだから、回さないと!

 ガチャが回るから、日本の経済も回るのよ!」

 

「今、何個やってるんだっけ?」

 

「男性アイドルと刀剣と騎士ものがメインかな?

 後は、サ終した奴ばかりだし」

 

「みんな、ガイアグループのなの」

 

「いいじゃない。

 そこの系列が一番、R18も含めて運営が多いんだし」

 

 

 モリソバは持っていた片手剣をガチャガチャと音を立てながら脇に抱え、指を折って今やっているソシャゲの数を数える。

 彼女が今使用している装備は、ガイア連合が初期に売り出したがその法的携帯性の悪さから安くなり、さらに中古の放出品で値段の下がった【ししょーパラ子・レプリカ】のフルセットである。

 鋼鉄製の片手剣とカイトシールドに、フルプレートと肌の露出のない本格的な鎧下も付いた確かな防御力と重量のある霊装である。

 先程まで、この装備をまとって息切れもせずに幽鬼の群れを押し留めていたのだから、彼女の実力も現地の人の間では群を抜いているのだろう。

 

 その後、モリソバが呪殺で死に掛かるトラブルはあったがボスの悪霊の討伐と異界の消滅を終えて、地元組織の歓待を断わって足早に装備を中古の軽自動車に積み彼女らは大阪まで戻って来ていた。

 もう日も暮れているため、近くのファミレスで夕食を取ることにして注文を済ませた所でモリソバになのはは質問されていた。

 

 

「前に見かけたことがあるけど、彼氏ってあの作業着を着てた人でしょ?

 長い事、友人付き合いのままでヘタレてたあんたがどうやったの?」

 

「ヘタレ言うな、なの。

 その、ヘタレたいろいろな原因が重なってこうなった?」

 

「ヘタレたいろいろな原因って、何?

 その彼って、小姑みたいな使い魔の子いたよね。

 その子はどうしたの?」

 

「まあ、その子が彼の意思を無視してやらかして?

 あの子は彼にこっぴどく叱られて?

 彼と話している内に、流れで本音を思わず言ってそのまま、ね」

 

 

 真っ赤な顔でもじもじと答えるなのはに、呆れた表情でモリソバは言う。

 

 

「ああ、これが『かーっ見んね、卑しか女たい』かぁ。

 リアルで見るとは思わなかった」

 

「卑しくないし、昔はそっちの方があざとかったくせに。

 ねえ、ふぇいとちゃん?」

 

「本名言うな。

 貴女にそう呼ばれると、あの痴女フォームの自分を想像して嫌なのよ」

 

 

 モリソバの本名は、【田中菲都】。

 読みは『たなかふぇいと』で、もちろん純粋な日本人ある。

 この名前で就活にも失敗し、実家を出ることにもなった事でこの名前を彼女は嫌っている。

 ちなみに本人の容姿は某騎士王似なので、体型的には痴女フォームは子供時代の方が近い。

 モリソバは注文していた150gステーキを食べながら、パスタを食べているなのはに聞いた。

 

 

「それであまり詳しく知らないんだけど、その彼はどう?」

 

「どうって?」

 

「ムグムグ。……人物としてはどう?」

 

「んー彼って、あんな生い立ちなのに真面目でお人好しなんだよねぇ。

 今だって、行き場のない子を抱えているし。

 交友関係もまあ問題があるようにはないかな」

 

「嫌な所は?」

 

「強いて言うなら、これ以上は女性関係を増やして欲しくない、かな?」

 

「…ほほう?」

 

「使い魔の子や式神の子はもう彼の術理の一部だから、もし排除して彼が死ぬような事になるのは嫌だからこの二人は我慢するけど、人間の恋人はわたしだけにして欲しいな。

 それに、使い魔の子の言い分も私がいれば充分なの」

 

「言い分?」

 

「……何でもないの。他には?」

 

 

 3つ目のライスと追加の100gステーキを頼みながら、モリソバは続ける。

 

 

「彼の趣味とかは?」

 

「彼の?

 資格の勉強と筋トレ、かな。

 あとは、色々なスキルの考察と実践かなぁ?」

 

「スキルの考察?」

 

「ほら、わたし達の魔法とかスキルとかゲームみたいじゃない?

 でもこれは現実だから、コマンドを入れれば自動的にはしてくれない。

 下手すると、味方に当たる危険性だってあるんだから。

 だから、ガイア連合の上手な使い方のノウハウの書かれた『魔界魔法概論』とか面白いの。

 彼に貸して貰って、とても勉強になったの」

 

「魔法は使えないからよく分かんないけど、ためになった?」

 

「もちろん。例えば……」

 

 

 なのはは、メモ用紙を取り出し簡単な図を描いて説明する。

 

 例えば、【マハラギ】という魔法が使えたとする。

 ゲーム的に言えば、『敵全体に小威力の火炎属性の攻撃をする』の効果である。

 しかし、現実となった場合、大きく3つのパターンに分類される事になるだろう。

 

 1つ目が、炸裂する火球を投げつける【射撃型】。

 2つ目が、火炎放射器のような【放射型】。

 3つ目が、火炎をばら撒く範囲を決めて炸裂させる【起点指定型】である。

 

 なのはの使う【メギド】系なら、普通は3つ目の使い方をするがなのはは2つ目の使い方のごん太光線を得意としているように皆が個人で感覚で使っているので、この魔法にはこの使い方という基本はあまり無いとその本には書いてあったという。

 

 

「それで、そんなすごい本を書いたのは誰?」

 

「ガイア連合の頂点の人。

 色々仕事で忙しいはずなのに、よくそんな執筆の時間があったのかといつも仕事に追われている神主だよ」

 

 

 デザートのクレープを食べながら答えるなのはに、追加のステーキを食べながらモリソバは話題を戻した。

 

 

「まあ、そんな本を読むくらい趣味も真面目なのもわかった。

 それで、デートしている時はどう?」

 

「遠出する事はあまりないし彼の今の自室が会社の寮だから、わたしのマンションの部屋で過ごすことが多いかな?

 やっぱり手料理とか喜ばれるし、片付けとかの家事も自分からしてくれるからそれだけでも一緒にすれば楽しいよ。

 嬉しいけど、頑張るのは程々にして欲しいなの」

 

「ステーキが甘いわぁ。……それで夜は?」

 

 

 顔を赤らめてフォークでクレープに付いている果物を突きながら、なのはは一息に答える。

 

 

「彼、わたしと会う時は、二人の時間を大切にしたいって他の二人は連れて来ないでいつも一人で来るの。いちばん大事な夜の時間とかさ、いつも優しくしてくれるの、激しくても良いのに。実際、一番最初の時なんか頭が真っ白になって意識が飛んだし。それで、終わった後も髪や頭を撫でてくれたり愛してるとか言ってくれたりこれがまた嬉しいの。嬉しくてもう一回もう一回としてしまって、朝が眠いから大変なの。優しくされると、本当に困るの。おまけに、この間のクリスマスの時は、お姫様抱っことか花束やペアリングをくれたりとか本当に本当に困るの」

 

「うらぎりもの」

 

「な、何で?」

 

 

 ナイフをガッと肉に突き立てて、モリソバは座った目つきで言う。

 

 

「『困る』ってさ、何か不満があるの?」

 

「概ね無いけど」

 

「修羅場の一つもない訳? 風俗通いとか」

 

「その修羅場が原因で今の関係が始まったようなものだし?

 今いるわたし達で満足しているから、他には行かないって彼が言うの。

 照れるから困るの」

 

「正直さ、本気で困ってないでしょ?」

 

「うん、そうだけど」

 

 

 ナイフで突いた肉をムシャムシャと食べて、わざとらしく泣き真似をし始めるモリソバ。

 そんな彼女に、はいはいと答えるなのは。

 

 

「あの日の『我ら生まれた日は違えども、彼氏を作る時は同じ日同じ時を願わん』という誓いは忘れたのかぁ」

 

「そんな『桃園の誓い』は誓った覚えもないし、嫌なの」

 

「ノリが悪いな~。

 そこは『喪女園の誓い』かって、突っ込んでくれないと」

 

「あと、読みの方は『モモゾノ』じゃなくて、本当は『トウエン』だよ」

 

「え、うそ!?

 あ、それはそれとして、誰か同僚の人を紹介してくれない?」

 

「本音はそれかなの。あのね……」

 

 

 こうして女性組のなのはとモリソバ、彼女たちは楽しく夕食を終えて家路についたのだった。

 さて、もう一組の彼らの方も見てみよう。

 

 

 

 

 同日の午前、隆和も依頼を受けて彼女らとは違う場所に来ていた。

 

 そこは、先日、なのはと正式に付き合うことになったと関西支部にいた天ヶ崎千早の元を訪れて頭を下げて報告した時に、目が笑っていない笑顔の彼女からお詫びと思うならと渡された幾つかの依頼の目的地であり、代わり映えのしない洞窟が奥まで続く異界である。

 1つ目の依頼は【幽鬼ガキ】が無数に湧き出る廃寺の異界の封印が壊れたので何とかして欲しいというもので、同時に2つ目の依頼もそこで達成するようにと言われていた。

 そんな異界で、隆和が何をしているかと言うと。

 

 

『上腕二頭筋ナイス・チョモランマ!』

 

「安倍さん。奥から追加のガキが!」

 

「そっちは施餓鬼米を撒いてくれ。トモエ、こっちのに破魔呪文!」

 

「はい。【マハンマ】!」

 

「「「ギギギィッ」」」

 

 

 ナイスボートニキの気づいた声を聞き、トモエが範囲破魔呪文でガキの群れを消し去った。

 残っていたガキを殴りつけて倒し、隆和は息をついた。

 そして、ナイスボートニキが手に持っている『それ』について話しかける。

 

 

「それで、そのアイテムは本当に効果が出ているのか分かるかい?」

 

「確かに働いてはいるようなんですが」

 

『ケツのキレがバームクーヘン!』

 

「説明書だと、こうやってセリフを言う間は作動中だとありますね」

 

「これを作った奴は何を考えているんだろうか」

 

 

 ナイスボートニキが持っているのは、高さ30cm程の禿頭のボディビルダーがにこやかに笑いながらサイドチェストのポーズをしている金色の金属製の像である。

 その像の名は、【お願いゴールデンマッスル】。

 以前、隆和が持ち込んだ仏像を解析して作ったらしい産物で、あの仏像とは反対の敵を寄せ付けない【エストマ】の効果を発揮するらしいと説明書には書かれている。

 つまり、2つ目の依頼とはこの怪しげなアイテムのテスターである。

 

 

『筋肉国宝! ルーブル美術館に展示したい!』

 

「台詞はオフに出来ないのかな?」

 

「仕様だそうです。そういえば、もうひとりの彼女は?」

 

「ああ。

 コレットなら他のアイテムのテストに協力してもらったから休んでいるよ」

 

 

 コレットは先日の件での罰の代わりに、もう一つのアイテムのテストに協力したおかげで封魔管の中で腰を押さえて唸っている。

 知り合いだった神父の死からやたらと奔放になった彼女がテストに協力した試作アイテムの名前は、【螺旋棒カラドバイヴ(仮)】。

 山梨での隆和のスキルの解析データを見たとある女性技術者が、彼女の悲願を達成するべく己の趣味全開で作った突っ込むと【ハピルマ】が掛かる女性用の大人の試作玩具である。

 技術者の女性本人が山梨からわざわざ来て昨日いっぱい掛けて試したため、いまだにコレットはまともに歩けない状態である。ちなみに、女性技術者の方はほくほく顔で元気に帰って行った。

 

 

『プロテインにイースト菌混ざってんのかい!』

 

「時間も惜しいし、それじゃ奥に行ってボスを倒しましょう」

 

「そうだな、トモエ。前方は任せたよ」

 

「はい、主様」

 

『筋肉の徳が高すぎる! 前世で国でも救ったんか!』

 

「煩いぞ、この像」

 

「そうですね」

 

「わたくしもそう思います」

 

 

 この後、危なげなくボスだった【幽鬼ストリゴイイ】を殴り倒し異界を消滅させることが出来た。

 前の一件から地元組織の歓待やらはスルーして速やかに大阪に戻り、老舗のお好み焼き屋の奥の個室で3人で早めの夕食を食べていた。

 注文したモダン焼きを食べながら、豚玉を食べている隆和にナイスボートニキは聞いてきた。

 

 

「それで、この像の報告書どうしましょうか?

 あの異界だといまいち効果が分かりませんでしたけど」

 

「悪魔の強さとしては試験的には良かったかもしれないけど、封印が破れた途端にガキがぞろぞろと出てくる異界はちょっと数が多すぎる」

 

「結局、全部で何体くらい居たんでしょうかね、あそこ。

 持っていった施餓鬼米や破魔札、カバンいっぱいに用意したのに全部無くなりましたからね」

 

「トモエは分かるか?」

 

 

 モソモソと少しづつ焼きそばを食べていたトモエは問われて、少し考え込んでから答えた。

 

 

「直接刀で倒したのだけで、20は越えていました。

 一番奥の湧き出てくる裂け目にお地蔵様を置くまで、全部で50近くは倒したかと」

 

「一応あれで治まったからいいけど、あそこを管理してた人たちが全員やられたのはあの数のせいだろうしな。

 しばらくはガキって、もう見たくないな」

 

「じゃあ、あの像の報告書は『効果はイマイチ』という風にしておきます」

 

「それでいいんじゃないかな」

 

 

 それからしばらくは食事を続けていたナイスボートニキは、恐る恐る隆和に聞いた。

 

 

「あの、……もしかして高橋さんとお付き合い始めました?」

 

「そうだけど、何かあった?」

 

「あー、ほらこの間来ていた女の人、あの人、関西支部の監査部門の所属になったみたいです。

 それで、安倍さんが居ないときに来て高橋さんとバチバチやりあっていた時に聞きました。

 そこに立ち会った服部さん、胃が痛そうにしていましたよ」

 

「服部さんに今度何かお詫びを持っていかないといけないなぁ」

 

 

 呑気にサラリマンニキに持っていく品を考えている隆和に、真剣な顔で忠告するナイスボートニキ。

 

 

「安倍さん。

 包丁ケースになりたくないなら、高橋さん達と話し合っておいて下さいね。

 やっとそういうのから逃げれたのに、職場で見たくないですから」

 

「はい、すみませんでした」

 

「わたくしとコレット様の事もお忘れなく。主様」

 

「はい、埋め合わせはいずれするから」

 

 

 忠告をするナイスボートニキとボソッと主張するトモエに謝りつつ、彼らは楽しげに夕食を終えてガイア大阪に帰って行った。

 

 

 

 

「仮にもさ、義理とは言え父親だったらさ、他の女の人の事ばかりで娘の事を放りぱなし過ぎじゃないかな?

 言ってる事、おかしい? 隆和さん」

 

「ごめんね。正月はどこかに出かけようか?」

 

「ふ、ふうん。じゃ、じゃあ期待しておこうかな?」

 

 

 その日の夜、ガイア大阪の食事スペースにて、お土産にお好み焼きを買って帰って希留耶のご機嫌を伺う隆和の姿が見られたそうな。

 どっとはらい。




後書きと設定解説


・関係者

名前:モリソバ(田中菲都・たなかふぇいと)
性別:女性
識別:異能者・自称20(29)歳
職業:フリーター→ガイア連合関西支部所属デビルバスター
ステータス:レベル19(成長限界)・フィジカル型
耐性:破魔無効・呪殺耐性
スキル:変なスラッシュ(敵単体・小威力の物理攻撃・低確率で幻惑付与)
    全門耐性(物理・万能以外の属性攻撃を受けた際、ダメージを50%にする)
    みかわし(物理攻撃を回避しやすくなる)
    食いしばり(HPが0になった際、自動的に一度だけHP1で復帰する)
    不屈の闘志(HPが0になった際、自動的に一度だけHP全開で復帰する)
    生還トリック(即死効果攻撃を受けた際に自動的に必ずHP1で生き残る)
装備:片手用の剣(ガイア連合の初期製品)
   片手用の盾(同上)
   フルプレート鎧(同上)
詳細:
 某騎士王に似ているが黒髪で日本人顔の女性デビルバスター
 高卒での就活に全滅し、両親と揉めて家を追い出されこの業界へ
 魔王ネキの学生の頃の友人で、あだ名の命名者も元ネタを知ってる魔王ネキ
 ソシャゲの複数の彼(ショタ)のために、ガチャやグッズに課金する廃課金勢


次回は、新しい事件。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第13話 新居に引っ越そう

続きです。

前半の考察はこちらの独自のものなので注意して下さい。


 

 

  第13話 新居に引っ越そう

 

 

 何事もなく無事に年が明け、それぞれに新年を迎えしばらく経った。

 その内の一人に、視点を向けてみよう。

 

 彼、佐川司は関西連合の年賀会に参加後、帰りの車の中で考えていた。

 

 彼が一代で築き上げた『関西連合直参佐川組』は、大阪人らしく算盤で成り上がった企業舎弟上がりの組である。関西連合自体、隣の神戸市に本部がある某全国組織の傘下団体であるため組の規模としては小さいが、シノギの金額は組織全体でも五指に入ると自負していた。

 

 だがその彼自身、覚醒はしているため同年代のライバルにはまだ若さで負ける気はないが、もうすぐ70になる年齢はとても気にしていた。

 

 そのため、前々から描いてた自分の隠居後の組の絵図面が、突然の事態と少しの期間で崩れ去ると予想もしていなかった。

 彼が描いていたそれは、今いる組の構成員はほぼ全て金勘定の得意な奴であるため企業の経営と組の金庫番はこれと見込んだウシジマに任せ、妹の娘で義理の娘でもある天ヶ崎千早が立派に成人したので、彼らとも昵懇で恩人の忘れ形見の安倍隆和をその常人も超える能力もあって千早の婿として迎えて組の跡目にするつもりであった。

 隆和からしたら、とても大きなお世話であるが。

 それが、自分が経営する最大の箱の一つであるキャバレーの料金踏み倒しをする奴がオカルト関係者であるためウシジマを通していつものように隆和に解決を依頼したら、自分の手が届く前にガイア連合が絡んできていつの間にかこのような状況になっていたのだ。

 おまけに、絵図面の最大の前提である隆和が千早の婿ではなく、昔馴染みの女性やガイア連合から贈られたらしい美少女と結ばれたと聞かされては面白くないのは彼にとっては当然である。

 

 ただ、義娘でもある千早が関西支部の幹部にもなったというこの新進の霊能組織『ガイア連合』は、ここ数年の間に急成長して地方の異界の活性化を瞬く間に鎮められる優れた人材の多さと技術力に表の世界にも影響する規模の資金力とそして、あのメシア教も一目置いて接しているという噂もあるのは誇張ではなく事実である。

 ならば、彼らとなるべく敵対せずに自分の希望を叶えるにはどうしたらいいか?

 それを叶える術を知るべく、彼は受話器を取り方々へ連絡を取るのだった。

 

 

 

 

 さて、彼の行動がどうなるかを語る前に、前提としてこの【メシア教とガイア連合が存在する世界】を彼がどう認識しているかという事を考えておきたい。

 

 まず、メシア教についてである。

 

 【北米政府と軍】という強大な力を背景に戦後すぐの頃から動き出し、世界中の一神教の諸宗派を抑え浸透して自分達の宗派に大部分を統合した巨大な世界宗教である。それに近年は軍事力だけでなく、昔は少数しか呼び出せなかった【天使】を名乗る悪魔を軍隊規模で多数召喚してさらに世界を自分たちの思想で統一する活動を過激化しているカルト宗教団体である。

 

 これらの事は共通認識ではあるだろうが、逆に日本に限って言えば、自分達の教義の敵で商売敵でもある彼ら以外の新興宗教団体、例えば【地下鉄で毒ガステロをした団体】や【隣の国由来の詐欺商法団体】などは全て潰され存在はしないだろうと言う事を上げておきたい。

 

 つまり、こちらでのカルト集団の報道で大きく取り上げられるテロや犯罪の記憶のある【俺らの日本】と違い、それらがないここの日本では宗教団体への忌避感が薄いという事でもあるのだ。

 おまけに、前述の団体達が信者をただの収奪対象としてのみ見ているのと違い、メシア教は彼らなりの善意で接して浸透し同化しようするのでそういう対象に無警戒な日本人にはなおたちが悪い。

 

 次に、ガイア連合についてである。

 

 90年代になって突如として現れたこの団体と【俺ら】によって、表側の日本は大きく違っているだろう。

 政権運営は【俺ら】が関わっているなら、今までの慣例を全て無視して政治主導の名の下に迷走した野党政権ではなく安定的な古くから根願寺とも繋がりの深いだろう【55年政権与党】主体のものであるだろうし、経済的には『好景気が続いている』という本家様の記述からもバブルを弾けさせること無く軟着陸させて【失われた20年】など無く安定させ、未来の知識も応用してガイアグループを大企業集団に成長させているに違いない。

 その上、ショタオジが日本の地脈をある程度制御し安定化できると言う事は、長崎の大噴火は時期的に分からないが北海道や関西で起きた大きな震災は起きることはないだろう。

 

 以上のように、核ミサイル投下前のこの時期の表側の日本はこのような平和な世界だったと結論づける事ができる。

 そういう時期の日本である事も踏まえて、彼の考えも見て貰いたい。

 

 

 

 

 自分の邸宅の書斎に於いて佐川は、自分の目論見を達成させる前の事前の段階でのガイア連合の調査結果を見て深く考え込んでいた。

 それらは自分のコネや信用できる調査会社を使い、さらにウシジマや千早からも得た情報で出来ている優れたものだった。もっとも、その二人も【転生者の俺ら】として言うべきでない事以外は身内の彼にはほぼ全て告げているので、この立場の彼としてはまともに考えれば大変な内容であった。

 

 

「【終末】、【メシア教】、【天使】、そして【ICBM】。

 ……流石に信じ難いが、千早が【核シェルター】について言っているしどうしたものか。

 いや、儂としてもどうしようもないのでは?」

 

 

 これは他人に見せるわけにはいかないので金庫に仕舞い、最近知り合いでシェルターを作り始めた奴にも話を聞こうと考える佐川。

 次に、千早のライバル対象となる個人の調査記録を見始める。

 

 最初に、隆和が保護した少女の『百々地希留耶』。

 経歴は、所謂毒親の家族不和のネグレクトの末の家出中に、悪魔事件に巻き込まれて人ではなくなくなった少女である。

 彼とは義理の親子の関係であり、二人ともそのつもりでいる様でそういう関係になる可能性は年齢差を見てもかなり低いので、むしろ『娘』として接する方が難しいだろう。

 

 次に、『トモエ』と呼ばれている少女。

 彼女に関しては記録自体が存在しないために表向きの調査は頓挫している。

 千早によると、彼女はガイア連合の正式な資格のある会員として認められた相手にのみ贈られる人造の式神であり、彼の使い魔であるからそういうライバルとしては考えなくていい相手だとされている。

 だが佐川にしてみれば、人にしか見えない存在を創り上げて量産しているガイア連合の技術力の証左の存在として恐怖を感じている。

 

 次に、『コレット』と呼ばれる少女の姿の何か。

 彼女に関しては、記録が存在する場所がメシア教会の疑いが濃いために調査は頓挫している。

 ただ、前述のトモエの様に隆和自身が何らかの方法で手に入れた使い魔だとは想像がつく。

 ある意味、隆和の育て親でもある訳だが、人とは違う思考をしていると思われる彼女との関係の構築はかなり困難だと思われる。 

 

 最後に、本命相手の女性である『高橋なのは』。

 経歴は、彼と出会うまでは至って普通の女性である。

 両親が経営する喫茶店の娘として生まれ、高校と大学を留年無く卒業して知り合いに勧誘されてブラックな会社に入社し、隆和と出会って覚醒し紆余曲折の末に今の事態になった。

 家族は子供時代に父親が癌で亡くなり、母が一人のみ。

 性格は善性で前向きで我慢強いが不満を溜め込む質で、一旦溜まったものが爆発するとウワバミでもあるので飲酒か異界の悪魔を魔法で爆破しに行くのがストレス解消法で趣味と書かれている。

 ただ彼女もガイア連合に正式に所属しているので、干渉するにしても方法が限られるだろう。

 

 思い描いていた『絵図面』を現実に即した形で実現させるためにも、千早に幾つか伝言をすると彼は動き出した。

 

 後に、ガイア連合の銀髪の若者を迎えることに成功したと喧伝する家があると四国に人を派遣したようだが、【種付け乞い全裸土下座】などその事例はあまり参考にできないと思う。

 

 

 

 

 後の地方の霊能関係者がガイア連合の黒札の取り込みをするように佐川が動きだした頃、隆和はなのはやトモエと共にそれまで住んでいた場所から少し離れた場所にある引っ越し場所候補の物件へと来ていた。

 彼らがそこに来たのは、当然の理由があった。盛大に盛ったからである。

 

 カプセルホテル『ガイア大阪』は大阪城の北にある大川沿いのホテル街の一角にあるが、その近くに社員寮として月6万ほどの1kのマンションを確保しており、なのは達職員はそこに住んでいた。

 逆に隆和が住んでいたのはホテル内の寮室だったのでそういう行為をする時は彼女の部屋に行って盛っていたが、漏れ出る音で隣室の女性がキレてクレームが出た上に浴室の排水管が詰まる事態まで起き、サラリマンニキから罰の意味も含めて二人揃ってこちらで用意した物件に移るように通達されたのである。

 

 一言で『物件の紹介』と言ってもいろいろとあるように、彼らに提示されたのは依頼が付属しているものであった。

 今回の物件の仲介をしたのは、ガイアグループに所属する全国規模で事故物件の買い取り専門をしている不動産会社の【御陀仏不動産】。

 つまり、『気に入った物件は格安で売るけど除霊は自分でしてね。他の大阪市内の物件の除霊もしてくれたら報酬出すよ』という事であった。

 なのはもあまり深く考えずにそれで安く手に入るならと、隆和がやんわりと注意するのも聞かずに引き受けていた。

 

 1件目は、築20年ほどのマンションの一室。

 間取りと日当たりは良かったが、交際相手の女性に滅多刺しにされた男性の幽霊が居たため除霊後になのはの希望で次の物件へ移動した。

 2件目は、築30年ほどのアパートの一室。

 ここは元は闇営業のデリヘルの拠点だったが金銭トラブルの殺人事件が起きた部屋で、多数の亡霊が居たため排除は出来たが居室内の空気の淀みは彼らではどうしようもなかったので次の物件へ。

 3件目は、築10年と少しの高級マンションの一室。

 ここは借金苦からこの部屋で首を吊った元ベンチャー企業の社長がなった【悪霊ガロット】と戦闘になり、部屋内を大きく破損したために次に移動する事になった。

 そして、現在の彼らは紹介された物件の4件目の一戸建ての近くにいた。

 

 

「疲れたの。こんなに酷いとは思わなかったの」

 

「だから、異界の悪魔を吹き飛ばすのとは違って、事故物件の除霊はしんどいよと言ったのに」

 

「わたくしも少し疲れました。主様。

 もしかして、こういう案件に慣れていらっしゃるのですか?」

 

「ああ、だいぶこういう案件は依頼で受けたよ。

 【ジャイブトーク】ってスキルで普通の人には会話できないタイプの悪魔とも会話できたからね。

 おまけに素で向こうがよく使う呪殺や状態異常が効かないから、前職の社長の知り合いの不動産関係の人達には重宝されたよ」

 

「隆和くん、何かコツってあるの?」

 

「大体の幽霊って心残りからそこにいるんだ。

 普通は、1件目の彼みたいに殺した相手がどうなったかを教えたりして納得して消えるというのがほとんどなんだよ。

 2件目や3件目みたいな事は滅多になかったんだけど。

 これも、GPの上昇が絡んでいるのかな?」

 

「吹き飛ばした方が楽でいいの」

 

「確かに。殴り飛ばした方が手っ取り早いですね」

 

「言いたいことは分かるけれど、慎重にね。

 さて、ここで最後だな」

 

「今後の生活に必要な条件を付けていたら、手頃なのはここが最後なの。

 資料だと、一人暮らしの方の孤独死から出るようになって引き取り手がいないとなっているの」

 

 

 見上げるとそこは、空き室の目立つ雑居ビル街の中にぽつんとある2階建ての古い日本家屋で庭もありそこそこ広い大きさである。問題なのは、その家の玄関の近くにエンジンを掛けたまま停まっていた黒いバンが、隆和たちが近付くと急発進していなくなった事である。

 隆和となのはは顔を見合わせると、トモエも連れて玄関から踏み込んだ。

 

 

「嫌な予感がするの。急いで中に!」

 

「同感。ナンバーはメモしたから、後で」

 

「主様。先頭はわたくしが」

 

「頼む」

 

 

 隆和たちが屋内に踏み込むと、異界に入った時特有の感覚がして中は瘴気とも言うべきマグネタイトのドス黒いモヤが立ち込め、奥の方から女性の悲鳴と男たちの笑い声が聞こえてきた。

 

 

「うぐっ。い、いやぁ。……あぐっ。だめぇ、家に帰してぇ」

 

『あははは。馬鹿じゃねーの? 

 帰すわけねーじゃん。生贄なんだからさぁ』

 

『あー、俺もヤりてぇ。後で使わしてくんね?』

 

『バッカ。この倭女はもう無理だっての。風俗行けよ』

 

 

 泣き叫ぶ女性の声と外国語で小馬鹿にする様に話す男たちの声が聞こえた途端、なのはは奥に向けて走り出した。少し遅れて隆和たちも続く。

 室内に踏み込むと一番奥にある魔法陣の中に制服を半裸に向かれた若い娘が泣き叫んでおり、その手前に3人のチンピラ風の男たちが、そして彼女に覆いかぶさるように蠢く半透明の悪魔らしき何かがいた。

 驚く男たちを無視して、その悪魔らしき影に向けてなのはは全力で魔法を放った。

 

 

「その娘から離れなさい! 【フレイダイン】!」

 

「○▼※△☆▲※◎★●!?!?!?」

 

「ぐえっ」

 

「うごっ」

 

「ぎひぃ」

 

 

 魔法陣の悪魔の影はなのはの魔法で消し飛ばされたが、隆和が踏み込んだ時には代わりに周囲に立ち込めていた黒いモヤが苦鳴を上げる男たちに吸収されその姿が変化していった。

 髪が白くなり赤く光る目をしたその男たちは、隆和の【見鬼】には人ではなく【外道ナイトストーカー】と映っていた。

 そいつらはこちらを振り向きなのはとトモエを見つけ、ニタリと笑いナイフを抜くとこちらに一斉に魔法を掛けてきた。

 

 

「「「【ドルミナー】」」」

 

「あっ」

 

 

 この中で唯一、眠りの魔法が効くなのはが崩れ落ちる。

 なのはとの間に立ちふさがるように立ちつつコレットを呼び出す隆和と、その横を通り抜け模造刀を抜いて斬りかかるトモエ。

 

 

「ちっ、コレット。なのはを守れ」

 

「了解、任せて。隆和」

 

「【霞駆け】」

 

「ちっ」

 

「ぐぅ」

 

 

 その内の2体が複数回切り裂かれ傷を負うが、構わずそいつらはトモエに向かう。

 無傷だった1体はそれを見て、隆和の後ろにいるなのはとコレットに目を向けると彼女らを目掛けて突進してきた。

 

 

「「オンナ、オンナァ。【ダマスカスクロー】」」

 

「きゃあ」

 

「ジャップッ、ソコヲドケェ! 【ダマスカスクロー】!」

 

「ぐおっ」

 

 

 単体の相手に複数回斬りかかるスキルで攻撃するナイトストーカー達だが、攻撃する相手によって顕著にやり方が変えてナイフを振るっていた。

 隆和に対しては急所を狙うように、トモエに対しては着ている服を切り裂くようにと。

 ナイトストーカーのナイフを避けながら、巫女服を切り裂かれたトモエに隆和は叫び殴り返す。

 

 

「そいつらは破魔弱点だ、トモエ! おら、【耽溺掌】!」

 

「ゴフッ! ……ハヘェ!??」

 

「よくも主様に貰った服を! 【マハンマ】!」

 

「「ギャアアア」」

 

 

 隆和と相対していたナイトストーカーが顔が変形する勢いで左頬を殴られた上に動きを止め、トモエに群がっていた2体が破魔呪文でマグネタイトの塵へと変わる。

 隆和は動きを止め魅了のかかっているナイトストーカーの襟首を掴んで、そいつに聞いた。

 

 

「おい、ここで何をしていた?」

 

『上ノ命令デ悪魔ヲ呼ビ出シテマシタ』

 

「日本語で喋れないのか?」

 

「スコシダケ」

 

「じゃあ、全部話せ」

 

「上ノ命令デ悪魔ヲ呼ビ出シテタ。ヤリ方ハボスノ女ニ教ワッタ」

 

「ボスはどこにいる?」

 

 

 そこまで言うとそのナイトストーカーは、隆和の上着で肌を隠すトモエとコレットの【パトラ】でふらふらと起き上がったなのは達の方をちらりと見てこう言った。

 

 

「ソコノ女タチ、オ前ノダロウ? ヤラシテクレタラ、全部……」

 

「死ね。……あ」

 

「ひっ!?」

 

「「あ」」

 

 

 その発言に怒り思わず思い切り殴った隆和の一撃で破損したナイトストーカーの頭部の破片が、魔法陣から這い出していた女の子の顔に掛かり彼女は白目をむいて気絶してしまった。

 異界化が解け普通の家屋に戻ると。そこには壁に穴の空いた部屋と【乙女の尊厳】が決壊したあられもない姿の気絶した少女と隆和たちだけが残された。

 そして、我に返った隆和たちは慌ててガイア連合の関西支部の方へ応援を要請した。

 

 

 

 

 その後の話をしよう。

 

 結局、そいつらの素性は今まで遭遇した連中と共通点はあるが判らず仕舞いだった。

 救助された少女は近くで攫われた被害者だとコンビニの駐車場の防犯カメラの映像から判明したが、その間の記憶は彼女からは失われていた。

 よほど恐ろしいものを見たのだろうと医者に言われたらしいが、彼女にとっては忘れていた方が幸せだろう。

 

 御陀仏不動産の方からは謝罪と除霊の報酬として、事故物件ではないちゃんとした家を紹介された。

 そこは、彼らの出す条件にも合致した梅田と大阪天満宮にほど近い2LDKの高級マンションの上階の一室だった。

 

 

 

 

 そして、その物件で隆和、希留耶、なのは、トモエ、コレットの共同生活は始まった。

 引っ越してから数日後、彼らの隣の部屋に引越して来た女性がいた。

 

 

「うち、天ヶ崎千早いいます。

 隣に引っ越してきたんでよろしゅうな、なのははん?」

 

「いい度胸なの。その心意気だけは買うの」

 

「主様?」

 

「隆和。頑張ってね」

 

「…………」

 

 

 それを見て、溜息をついて希留耶は部屋に入っていった。

 

 

「静かな生活が送りたいなぁ」




後書きと設定解説


・関係者

【御陀仏不動産】
なお、大阪に実在のモデルになる会社があります。
社名を調べておいて良かった。

・敵対者

【外道ナイトストーカー】
レベル15 耐性:破魔弱点・呪殺耐性
スキル:ダマスカスクロー(敵単体・1〜3回の中威力の物理攻撃)
    ドルミナー(敵単体・中確率で睡眠付与)
    道具の知恵(攻)(攻撃用のアイテムを使える)
詳細:
  悪魔召喚に失敗して悪魔になったカルトの一員達
 
Win10のアプデでノートが度々使えなくなるのは本当に困る。

次は、出来るだけ早くに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第14話 地縁と血縁と

続きです。
転生者の恋愛模様ってこんな感じでいいのかなぁ?

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第14話 地縁と血縁と

 

 

「『隣に引っ越してきたんでよろしゅうな』って、本当に私用だけで言えたらよかったんやけどなぁ。 

 はあ。すまんけど、安倍はんと高橋はん。

 真面目な用があるさかい、こっちの部屋に来てくれへん?」

 

「どういうことなの?」

 

「仕事絡みやし、来てくれたら分かることや」

 

 

 希留耶が部屋に引っ込むのを確認した千早は、ため息をつくと隆和たちに隣の部屋に来てくれるようにと頼みだした。

 すでに彼女の雰囲気は、彼に言い寄る時のそれではなく仕事をする時のそれに変わっていた。

 それを見てなのはと隆和は顔を見合わせると、疑問に思いながらもドアを締めトモエに居室に戻るように伝えて隣室へと入った。

 

 

 

 

 千早の案内で『天ヶ崎』とだけプレートの貼られた隣の部屋に入ると、そこは室内はソファやテレビなどの最低限の家具は揃っているが、全てが新品でまるでモデルルームのように生活した形跡のない室内だった。 

 そして、そこには2人の人物がソファに座りこちらを待っていた。

 

 一人は中年の男性だが、烏帽子に狩衣に独特の白塗りのメイクといい家の中に中世のお公家さんがそこに居て扇子を持って興味深げに隆和たちの方を見ていた。

 もう一人は女性というより少女で、ストロベリーブロンドのロングヘアに蒼い目に透き通るような白い肌、着ている巫女服を大きく盛り上げるこの場の女性の誰よりも大きい胸をしている上に誰もが振り返るような美貌の少女が無表情で隆和を静かに見つめていた。

 

 千早の案内に従い隆和たちが彼らの正面に座ると、千早は冷蔵庫からペットボトルのお茶を人数分取り出してテーブルに置き横側の一人用のソファに座り複雑な表情で彼らの紹介を始めた。

 

 

「安倍はん。

 こちらの男性は、「京都府神社庁」の理事で【一条麿呂】はんや。

 見ての通り、京都の霊能関係の方で例の『京都ヤタガラス』の一件の後始末を手伝って下さった方なんです」

 

「ほほ。お二方、初めましておじゃ、一条麿呂でおじゃ。

 お主が話に聞く安倍隆和殿か、よろしく頼みますぞ。

 あと、この装いと口調は好きでしているのはなく仕事用故、ゆめゆめ勘違いなさるでないぞ」

 

「ああ、えっと初めまして。安倍隆和です」

 

「恋人でパートナーの高橋なのはです」

 

 

 困惑し一礼して挨拶する二人に扇を扇ぎ、鷹揚に微笑む一条氏。

 

 千早によると、こう見えて彼は文部省が監督する宗教法人である『神社庁』の幹部であり、京都周辺の霊能組織の相談役でもある立場的にはかなり偉い人であるという。だが逆に、今回のような事があれば後始末に奔走する役人側の代表でもある訳だ。

 それに最近では地元からガイア連合に伝える諸々の陳情などの調整役となり、現場に行ったまま帰って来ない支部長に代わり関西支部の事務の統括をしている千早の仕事相手でもある。

 なお、仕事上で顔を覚えて貰うために始めた今の姿はもう20年以上続けているため、幼かった実の娘にメイクを落として洋装したら「知らないおじさん」と言われた事は彼の前では禁句である。

 

 一条氏に続いて、今度は複雑な表情でにもう一人の女性を紹介する千早。

 

 

「それで、安倍はん。

 こちらの女性はな一条さんが保護された元『京都ヤタガラス』の人で、【華門和】さんや。

 何でも、あの連中の秘蔵っ子だったみたいなん」

 

「お初にお目に掛かります。

 華門和(はなかどのどか)と申します。

 一条様と天ヶ崎様にはすんでの所をお助け頂き感謝しております。

 今宵は残った土御門の家人の代表として罷り越しました。

 隆和様、どうかよろしくお願い致します」

 

「はあ、どうぞよろしく」

 

「ふーん、よろしくなの」

 

 

 室内に透き通るような声が響くと立ち上がり深々と一礼する華門嬢の揺れる胸と魅力的な肢体に見惚れる隆和と、それを横目で見て見えない所で抓りながら説明を求めるように千早を見るなのは。

 それを受けて、面白くない表情の千早と微笑む一条氏たちが説明を始めた。

 

 

「安倍はんが山梨に連絡をくれたあの日、ショタオジから直接こちらに動員の要請が届いてな。

 慌てて、手すきのメンバーをみんな連れてあの料亭を抑えたん。

 それから、調査が入ったら出るわ出るわで大捕物もあって大騒ぎになったんや」

 

「そこに麿呂の所にも一報が入って、こちらも動かせる伝手を辿って天ヶ崎殿に合流したでおじゃ。

 元々あの一派は、麿呂のことなど歯牙にも掛けぬ今は行方不明の権謀術数では老獪な妖怪婆どもが率いる強硬な家々の一派での。

 余所の有能な霊能者を手段を選ばず一族に加えて血筋を強化する組織づくりの巧みさで成り上がり、各家への利益配分と覚醒者の多さで京都の顔役のように振る舞う連中だったでおじゃ。

 しかし、鼻つまみ者と陰口を言われるだけの傲慢さで内心では嫌われていたおかげで、この一件を知るや多くの離脱者や敵対していた他の家の介入により組織はバラバラになったでおじゃ」

 

「そんで一条はんの協力もあって、他からの障害も防いで本家や関係各所に踏み込んで制圧したんやけどな。

 あいつらの最重要施設だったハニトラ用の女性達を集めて育てていた【華屋敷】と呼ばれる場所に、一条はんと踏み込んで逃げ支度をしていた連中から助け出したのが彼女なんや」

 

「あの時は、他の娘と一緒に助け出して頂いて本当に感謝しています。

 皆様のご協力もあって、外の社会で暮らせる娘たちは皆、真っ当な生活を送れるようになりました。

 私はこの体質もあり表の社会で暮らすことは適わないので、同じように他に移る伝手のない者たちを率いて『羅生門の鍵』を護る為に一条様の後見の許、賠償のための売買で売れ残った屋敷にて暮らしております」

 

 

 そこまで語った所でペットボトルのお茶を開けて飲むと、複雑な表情の千早と興味深げな表情の一条氏は話を続ける。

 説明によると、ただ資料を抑えて制圧するだけなら問題はなかったのだが、それを機だと見た土御門家と関係していた大小十数家が自分の利益のために一斉に動き回り混乱に陥ったのだという。全てを鎮圧し、諸々の手続きや始末などが年末まで続いていたそうだ。

 これは関西支部が大阪市の梅田のジュネスにあり、景観や地元組織の多さなどの制限で京都や奈良にはホテルや旅館の形式の派出所しか置けなかった事も一因であるらしい。

 彼らの中心であった土御門の家は、ほとんどの大人は逃げ出すか抵抗して捕らえられた為に今は華門和を仮の代表として行き場のない女子供ばかり十数人がいるばかりだと告げられた。

 こうして前提だというあの事件のその後の説明を終えると、一条氏は本題に入った。

 

 

「こうやって麿呂が後見して纏めてはいる土御門の家でおじゃるが、如何せん麿呂には他にも仕事がある故いつまでも残業続きなのはきついのでな。

 それ故、早めに京の家の総代なり正式な当主を決めて任せたいのでおじゃ。

 そこで、安倍隆和殿。

 そちらにその地位に就いて欲しいのでおじゃ」

 

「その、何故、俺なんかに?」

 

「そこよ。

 京の土御門の家は、この後ガイア連合の傘下組織にされると決まっているでおじゃ。

 宗家としての土御門は、根願寺に参加した関東に回向した家になる方針での。

 ただガイア連合の傘下となる際、代表に相応しい人物が継いていれば障害も少なく済むでおじゃ。

 【安倍晴明の血を引く一族】という血統と権威は、面ど…矜恃の高い京や奈良に複数ある霊能組織を纏めるのにうってつけの看板ではあるのは間違いないであろう?

 その上、仮にその代表がガイア連合の一人なら文句も付けられないでおじゃ」

 

「いやいや。他に相応しい血筋の人はいるでしょう?」

 

「確かにそれはいるであろうが、より強くまともな覚醒者である事が望ましいのでな?

 逃げ出したり、抵抗して捕らえられた者は論外。

 親戚筋の覚醒者は、面ど…我が強く矜恃の高い害にしかならぬ者ばかり。

 関東の分家出身のガイア連合に所属している者も、返答は梨のつぶてよ。

 そこにいる華門殿とて、箱入りな上に体質的に人を率いるには向いておらぬのよ」

 

 

 話を振られたその彼女はと言えば、変わらず無表情のままじっと隆和を見ると一条氏に続けて話し出した。

 

 

「私が育てられた『華屋敷』と呼ばれる場所は、所謂有能な霊能者を篭絡するための人材を育成する為の場所でした。

 けれど、先の一件でそこの管理を任されていた者達は、当主不明の一報を知るや金目の物を持ち出して一目散に逃げたり、育てていた娘や子供を無理やり連れて逃げ出そうとするなど狼藉を働くような者達ばかりでした。

 私には強力な魅了の能力があったので、それで仲間を守りつつ助けが来るのを待っている時に天ヶ崎様や一条様が来てくださったのです。

 そして騒動も終わり私と共に残った者達と言えば、身寄りが無かったり、異能の使い方だけしか知らず外に順応できなかったり、私のように覚醒時の体質で表の世界で普通に暮らせない者ばかりでした。

 どうかお願いでございます。私たちをお助け下さい。

 その為なら、我が身を差し出しても構いません」

 

 

 そう言って、彼女は正座すると深々と隆和に頭を下げた。

 困惑し何と答えていいか言いよどむ隆和に代わり、なのはがバンとテーブルを叩き大きな声で答えた。

 

 

「黙って聞いていれば、自分勝手な理屈で問題をこちらに押し付けるのは止めて欲しいの!

 そもそも、彼自身、両親も判らないのに何故血縁者かどうかなんて知っているの?

 そこからはっきりして欲しいの!」

 

「それがそうでもないんや、なのははん。

 連中の隠し持っていた資料とおとんの調査結果を調べ合わせたら、それが判ったんや」

 

「は? え?」

 

「どういうことなの!?」

 

 

 驚きどういう事なのかと彼女を見る二人の視線に、真剣な表情でそれに答える千早。

 

 

「そこの所は提案に関係なくちゃんと答えるさかい、まずはちひろはんと相談して来た提案を聞いて欲しいんや。

 うちはこの件の調整も任されとるさかい。

 まずガイア連合としては、地元の組織の救済と復興をして来たるべき日のリソースの消費を抑えたいのは全体の方針や。

 ただ、この件の場合の彼女らは組織としての体裁を保っておらず、異能者の集団でしかあらへん。

 そこで、安倍はんには代表としての名義貸しをして欲しいんや」

 

「名義貸しって、俺は名前だけ彼女らの家の代表になるのか?」

 

「簡単に言えばそうや。

 『現地の人を助けるのは個人の裁量で』という方針の拡大解釈やけど。

 安倍はんがこの件を受けた際のメリットとデメリットを上げるから、それから考えてや」

 

「そういう事なら、聞かせて欲しい」

 

「まずメリットとしては、将来的に彼女らが安倍はんに定期的な利益を齎せるようになるという点や。

 彼女らに掛かる手続きと資金の用意、安倍はんの役に立てるように鍛えるなどの実務はうちの方で面倒見たるし、安倍はんの指示には従うように教育もしたる。

 さらに、彼女らが持つ『羅生門の鍵』の管理も関西支部の方で有効利用しとるから、それ絡みの管理や異界の攻略なんかの面倒な事は安倍はんは心配せんでも大丈夫や。

 そして、安倍はんが攻略を目標にしている京都のあの異界に関する事柄は、何をおいても安倍はんが優先されるように取り計らわれるようになる。

 デメリットとしては、彼女らが安倍はんの保護下にあると霊能関係者に認識される事と、時々彼女らの所に顔を出して仲良くして欲しいくらいやな」

 

 

 そこまで聞いて考え込む隆和は、顔には出さないが実はもう一杯一杯であった。

 期待を込めた視線を送る一条氏と華門嬢を見て、思わず了承するところをなのはがそれを止めてじろりと千早を睨む。

 

 

「おかしいの。

 何でそんなに貴女が持ち出しで手を貸すの?

 普通人助けだとしてもそこまではしないし、条件もおかしいの」

 

「あー、それはやな……」

 

 

 言いよどむ千早をますます睨むなのは。

 隆和や周りの二人も思わず彼女を見ているため、千早は視線をウロウロとさせ始めた。

 

 

 

 

 さて、今の状況について簡単に解説しておきたい。

 

 まず前提として、ここにいる3人の転生者である隆和・なのは・千早であるが、彼らは能力は優秀ではあるが一般的な【転生者俺ら】の例に漏れず【まともな恋愛の経験値はとことん低い】。

 

 例えば、隆和は前世では絶食系のまま中年で病没し、今世ではコレットによって好みの男性になるようにと歪んでしまっている。

 なのはの前世はブラック企業で30前に過労死、今世ではまたブラック企業に入って潰れそうになるのを隆和と出会って覚醒しふわふわと生活して今に至る。

 千早は前世では仕事が面白くて婚期を逃してお局独身で事故死、今世でも仕事が面白く恋愛は時々忘れかける始末である。

 

 そして、今回の件である。

 

 内容の細かい部分をすっ飛ばして簡単に言うならば、仕事の成果を誇示して相手をこちらに向かせようという男性のようなアプローチをする千早と、棚ぼたで手に入った自分の物を奪われまいと威嚇するなのはという構図である。

 つまり、華門嬢を始めとする美味しそうな特典を用意して一般人の感覚の彼を大量の情報で押し切ろうとした千早を、勘所は鋭いなのはがストップを掛けて押し切らせなかったのである。

 

 もう少し違うアプローチは出来ないのだろうか?

 それでは続きをどうぞ。

 

 

 

 

 結局、隆和は名義貸しは了承する事にした。

 

 なのはの追求と交渉で、後々この件で徐々に隆和を取り込むつもりの千早の目論見はバレて、彼女が提示した条件の通り全ての面倒は千早が見る事になり華門嬢らの所に隆和が赴く際はなのはの同伴必須と条件に盛り込んだからである。

 勝ち誇るなのはを見て涙目になった千早は、契約の書類を纏めると最初に言ったように隆和の経歴について語りだした。

 

 

「安倍はんの母親の女性はな、華門さんもおった華屋敷で育てられていた土御門の一族の娘や」




後書きと設定解説


・彼らが引っ越した物件

梅田にある関西支部の家族もいる職員用に買い取られている高級マンション。
ちなみに、千早がここに用意した物件は自宅ではなく、今回のような会談をするためのセーフハウスが目的。


・関係者

名前:華門和(はなかどのどか)
性別:女性
識別:転生者(女神アメノウズメ)・18歳
職業:巫女
ステータス:レベル4・ラッキー型
耐性:破魔無効・精神状態異常無効
スキル:極上の肉体(敵味方全体・中確率で魅了付与・パッシブ)
    セクシーアイ(敵味方単体・中確率で魅了付与・パッシブ)
    キャンディボイス(敵味方全体・中確率で魅了付与・パッシブ)
    天宇受売神の加護(肉体依存の魅了の状態異常スキルが全て自動効果になる。
             ただし、魅了の対象は男性のみ)
    悪魔のキス(♀)(男性単体・高確率で麻痺付与)
    不動心(感情が抑制され精神状態異常にかからなくなる)
装備:魅了封印の護符
詳細:
 初潮が来て覚醒したストロベリーブロンドの長髪、蒼い目、白い肌の美少女
 女性のみの屋敷で幼少の頃から“人形”としての英才教育を受けていた
 父親は白人の一神教の能力者らしいが、両親ともに行方知れず
 土御門の当主が秘蔵していた掛け合わせた血筋の集大成の傑作の一つ
 組織崩壊時に一族が離散し、男性経験前に一条氏により保護
 身長154cm、B:100(K)・W:58・H:86
 (サイズは彼女を健康診断した黒医者ニキのメモより)


【挿絵表示】

華門和のイメージ図


次は、出来るだけ早くに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第15話 血縁と因縁と

続きです。


 

 

  第15話 血縁と因縁と

 

 

「安倍はんの母親の女性はな、華門さんもおった華屋敷で育てられていた土御門の一族の娘や」

 

 

 長く話し込んでいたおかげで昼食の時間になり、一休みしようとなって隆和がトモエや希留耶の分も買って来た金龍ラーメンのテイクアウトを食べて、食後の諸々も終わり全員が人心地つくと仕切り直しとばかりにカバンから書類を取り出し千早は話の続きを切り出した。

 

 

「彼女の出生に関する連中の記録にはこう記されとる」

 

『帝都にて霊災を起さんとした一族の血筋の娘、産まれる。

 七番目に産まれし娘の為、名を【安倍七菜】とす』

 

「そこが麿呂にも不思議でおじゃった。

 かの安倍晴明の陰陽に通じる子孫は、普通、『土御門』か『賀茂』の姓を名乗るのが通例。

 されど、姓が『安倍』なのは不可解でおじゃる」

 

 

 その出生に関する一文に一条氏が疑問を呈し、千早は答えを返す。

 

 

「それについても調査は済んどるよ。

 かつて土御門の一族の衰退に憤慨した者達が帝都にて邪悪な神を呼び出さんとして、かの葛葉ライドウにより『安部』姓を名乗った一族が結社ごと潰された事件が実際にあったんや。

 ガイア連合のデータベースにも記されとった。

 【秘密結社コドクノマレビト】、安倍はんはこの結社の生き残りの血筋や」

 

 

 

 

 デビルサマナー葛葉ライドウ対コドクノマレビト (ファミ通クリアコミックス)

 

 著者 作画:綾村切人

    原作:金子一馬(ATLUS)

    監修:山井一千(ATLUS)

    脚本:真壁太陽

    脚本:原田庵十(RA―SEN)

 

 ゲーム「葛葉ライドウ対アバドン王」のその後の物語

 2012年4月より全6巻刊行 今なら電子書籍がおすすめ!

 

 

 

 

「何や?

 おかしな間があったような気いがするけど、まあええわ。

 とにかく、これに賛同したけど参加仕損なって運良く生き残ったのがご先祖さまや。

 どうや、安倍はん」

 

「なるほど。じゃあ、続きを」

 

「反応がえらい薄いな!?

 自分のルーツに関することやで?」

 

「いや、ぶっちゃけ今世の自分の血筋がどうと言われても、あまり関心がないし。

 あと、出来れば手短に出来るかな?

 元々今日は、希留耶やなのはと買い足りないものとか相談する予定だったんだ」

 

 

 時間をおいて冷静になった隆和の反応の薄さにがっくりと来る千早。

 だが、隆和からしたらいろいろと手を尽くしてくれている事には感謝しているが、もういろいろと勘弁して欲しいのが正直なところだと考えている。

 

 両親がどうしたのかは興味があるが、それ以上にいかにレベル30を越える実力や直に悪魔と殴り合える精神的なタフさがあろうと、それとは別に隆和にとってぐいぐいと押して来る女性と一緒に過ごす事はたとえ美女でも苦手である。

 適切な距離の構築を恐る恐る進めているなのはと希留耶だけでもこちらのやる事に完全に合わしてサポートしてくれるコレットとトモエが居ないと難しいのに、さらに千早と華門嬢を合わせた十数人の女性達が「面倒を見て」と現れたとしたらハーレム云々言う前にもう手一杯である。

 

 そんな隆和の内心と彼にはわたし一人でもう充分と考えるなのはの内心は別にして、千早は憮然として話を続けた。

 

 

「ええとな、その七菜はんやけど大人になって巫女として拝み屋を修行がてら言い付けられてな。

 その過程で、敵対者の呪殺から身を守って貰った事でうちのおとんも助けて貰っているんや。

 だから、安倍はんは恩人の息子でもある訳やな。

 で、父親は行きずりの関係やったらしく不明でその後に出産の際に七菜はんも亡くなり、赤子の安倍はんは組織の孤児院に預けられて今に至るちゅう事や。

 ざっと纏めるとこれで全部や」

 

「それで母の墓とかは分かるかい?」

 

「ああ、それならこの資料のコピーにあるさかい、後で見てや」

 

「ありがとう」

 

「ええんや。

 ほな、そういう事ならうちらはそろそろ引き上げるわ」

 

「ほほ。興味深い話であったおじゃ。

 勿論、他言はせぬ故、安心してたもれ」

 

「それでは隆和様、また折を見てご相談させて頂きとうございます。

 本日はこれにて失礼致します」

 

 

 それぞれに別れを告げられ、千早に資料の書類を渡されるとなのはと隆和は疲れた表情で隣の自室へと帰って行った。

 それを見送り、自分達も帰る準備をしながら千早は二人に聞いた。

 

 

「どや、安倍はんは?」

 

「麿呂の術でも分からぬ程の実力を持つのに、只人と変わらぬ意識の稀有な男子よの。

 市井の出が多いガイア連合の実力者も、あのような者が多いのは理解しておったのでおじゃるが」

 

「私の知る男性の中でも、とびきりにまともな方でした。

 『悪魔と相対するならば、女性は遺書を書き残し純潔も悪魔に散らされる前に経験すべし』と教えられていましたが、実力といい心持ちといい一族の方である事もとても素晴らしいです。

 ぜひ、あの方に私や皆のお相手をして頂きとうございます」

 

「言うてる事は分かるけど、そんな申し出は直接言いに行ったらアカンよ。

 なのははんのとの契約があるし、監督責任はうちにあるからな。

 今は我慢しい。悪いようにはせんさかい。

 まずは、男の気を引くなら実力と経済基盤からや。

 バリバリ行くで」

 

「はい。精進致します」

 

 

 頬を染めフンスと意気揚々とする華門嬢と懲りずに彼女なりの『男の気の引き方』を箱入り娘に教える千早を見て、引き気味の一条氏はポツリと小声で述べた。

 

 

「それはもしや、結婚ではなく男をヒモにする気でおじゃ?

 あな、恐ろしや。家に帰りたい」

 

 

 さて、そんな彼女の企みは関西支部にもたらされた急報によって中断する事になる。

 関西支部の支部長が大怪我を負って運び込まれた、という急報で。

 

 

 

 

 この日、関西支部長である【レスラーニキ】こと関本順一郎は、いつもの如く大雑把な彼はもともと内部監査で来た千早に監査するなら全部見てくれと事務の権限を放り投げて任せると、自分は低位の俺らや現地の霊能者の訓練の為に関西支部で幾つか確忍している山中の低レベルの異界で彼らを率いて湧き悪魔と戦っていた。 

 何しろ彼は身長2mにもなる和風ザン◯エフのような容貌でかつ前職の関西日本プロレスの興行ではヒール役として有名だったので、参加する人員が大人しく従いトラブルが非常に少ないと好評な主に男性向けコースの指導役をしているのである。

 

 その日の彼や参加者が覚えている限りでは、先頭を一反もめん型のシキガミ2体と最後尾に彼が付き途中の広間で戦っている時に奥の通路から閃光を発する物を投げ込まれ、視界を封じられている状態で奥から来たレスラーニキに匹敵する体躯の何かに打ちのめされ、財布や参加者の霊装を奪われたという事だった。

 レスラーニキは、この際に襲撃者や悪魔等から皆を逃がすために殿を努めて大怪我を負ったという事だった。

 

 その後、関西支部ではしばらく異界の訓練は中止して犯人の捜索に注力する事になった。

 2m近い体躯に目出し帽をして、服装は革の手袋に革ジャンとGパンとスニーカーで、腕や首元に入れ墨の一部が見られるおそらく若い男性であるため、そいつは仮称で“ヤンキー”や“半グレ”と呼ばれることになる。

 

 

 

 

 視点をその襲撃者の所に変えてみよう。

 

 襲撃を終えたその大男は、近くの峠の駐車場で待機していた仲間のバイクで早々に逃亡した。

 もちろん、すぐには追えないように不良共は、彼らが乗ってきたバンしか車がないことを確認して車上荒らしとタイヤに穴を開けた上で逃げていた。

 戦利品を伝手のある質屋で売り払い、アジト代わりにしている仲間のバイト先のカラオケで日も暮れて暗くなった中、コンビニで買った酒や食べ物で宴会をしていた。

 

 目出し帽は脱いでいたリーダーらしいその大男は飲んでいたカップ酒を置くと、副リーダーらしいマスクをした痩せぎすの男に話しかけた。

 

 

「そんで、木下よぉ。儲けはどんくらいだ?

 あいつら、お前の情報通りすげぇ強かったんだ。金、持ってたんだろぉ?」

 

「ああ。

 手持ちも、そこそこ持っていた。

 車もリーダーじゃなきゃ壊せないくらい頑丈だったしな。

 車内に指輪とか首飾りとかあったから、いい稼ぎになった」

 

「ああ、この木刀とかこの指輪とか、クソ雑魚のくせになかなかいいの身に付けていたしな。

 この木刀があったから鉄パイプで殴っても駄目だったあの車、壊せたんだしなぁ」

 

 

 手に入れた木刀を誇示するリーダーに、木下も酒を飲みつつ聞き返す。

 

 

「なあ、人は殺してないよな?」

 

「中で出て来たでけぇレスラーだって殺してねぇよ。

 殺しは面倒になるから今は止めろと言ったのはお前じゃん」

 

「レスラー?」

 

「おお。

 このクソ寒いのに半袖シャツとGパンだけでよ。

 その格好で、プロレスマスクを付けていた俺よりでかい男だったぜ。

 いくら頭をぶん殴っても倒れないくらい頑丈だったな」

 

「…………」

 

「おい、どうしたよ。木下?」

 

 

 考え込んでいた木下は、リーダーをじっと見た上で話を続ける。

 

 

「知り合いがさ、稼ぎが上手くいかないって嘆いていたんだよ。

 最近、今日相手にした連中に幾つも仲間やアジトを潰されたからってさ。

 なあ、リーダー。そいつに力を貸してくれねぇか?」

 

「金が手に入って、今日みたいな潰しがいのある相手がいるならやるぜ」

 

「上手くやりゃ、金も女も手に入り放題だぜ、リーダー。

 あんたの強さなら、向こうも納得するだろう。

 じゃあ、向こうの奴に話をつけるから待っててくれ」

 

「そんじゃ、前祝いだ。もっと飲もうぜ!」

 

「「「ヒャッハ~~!」」」

 

 

 騒ぎ出す彼らを横目に見ながら部屋を出て、電話を掛け始める木下。

 リーダーの強さを再認識し、ニヤリと笑う。

 

 

「もしもし、木下ッス。

 ジングォンの兄貴に伝えて下さい。

 うちのリーダー、あいつらの幹部を潰せたって」




後書きと設定解説


・主人公

職業:工務店契約社員→フリーター/ダークサマナー

職業:ホテルガイア大阪警備員(契約社員)/京都土御門家総代(名義貸し)

・関係者

名前:レスラーニキ(関本順一郎)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・38歳
職業:関西日本プロレス選手→ガイア連合関西支部支部長
ステータス:レベル16・アタック型
耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺無効(装備) 
スキル:マッスルパンチ(敵単体・中~大威力の物理攻撃。
            自身の残りHPが多いほど威力が上昇)
    投げ技(敵単体・中威力の物理攻撃・低確率で転倒による緊縛付与)
    ぶっ潰し(敵全体・中威力の物理攻撃。命中率が低い)
    気合(使用後の次の物理攻撃の威力が一度だけ2倍になる)
    挑発(しばらくの間、敵から狙われ易くなる)
    地獄のマスク(状態異常になる、及び即死する確率を減少)
装備:プロレスマスク『ザ・ギエフ』(呪殺無効付与)
詳細:
 元は『関西日本プロレス』のベテラン選手で引退後にガイア連合に最近合流した転生者
 面倒見の良さを買われ支部長になるが、現場にばかり出て書類は部下任せ
 体格は2メートルを越える和風ザンギエフのような風貌で女性は苦手 
 自分専用のシキガミ嫁はまだ資金不足でなく貯金中


次回は、次の事件。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第16話 黒医者ニキは大いに語る

続きです。

今回は、バカ話。
あと、彼の見解は歪んでいるのでご了承下さい。


 

 

  第16話 黒医者ニキは大いに語る

 

 

 あの隆和の経歴が分かった話し合いの日から数日が経った。

 

 千早と言えば、先の急報による混乱の解消の為に駆けずり回っており、大怪我を負って運び込まれたと言う割には次の日には怪我もなく元気にしていた支部長のレスラーニキを、自分から捜索しに行かないように支部のあるジュネスの極秘エリア内の執務室で仕事漬けにして忙しくしているようだった。

 

 あれから異界の攻略の依頼もなくホテルで通常業務をしていた1月最後の週末、隆和を訪ねて久しぶりに黒医者ニキが腐百合ネキと一緒に大阪に姿を見せていた。

 彼の足代わりとなって一緒に来ていた腐百合ネキの方は、さっそく久々に会えた希留耶と一緒に遊びに出かけている。

 彼は今、山梨支部の医療現場で知る人ぞ知る名医だった才賀氏の元で、3Dプリンターの導入も始まっているシキガミパーツの移植による義肢の研究のためにシキガミの素体の制作もしているという。これに関係して、今回はここのガイア大阪内にいるシキガミの健康診断ともう一つの目的のために来ていた。

 健康診断の方を手早く片付けると、彼は隆和にカフェスペースで軽食を取りながら関西支部の様子をそう語る。

 

 

「私が直接診たが、レスラーニキの怪我は防御していた両腕の骨折だけだったしさっさと治したぞ。

 むしろ、怪我をしている時より書類整理の方が苦痛そうだったな。

 まあ、いくら他の人を逃がすために【挑発】で攻撃を引きつけて一方的に殴られたとは言え、物理耐性持ちで大男の彼にあそこまで怪我をさせるような襲撃者は想定外だったはずだ。

 そもそもあの異界は初心者用で、ガキやオンモラキにオバリヨンが主な敵で最奥のボスだってモムノフ一体だから彼がいれば問題ない場所だったんだが」

 

「そう言えばどうやって脱出したんですか、彼?」

 

「ああいう訓練の場合、万一の為に緊急用のアイテムがあるんだ。

 美々のやつが、年末の有明での資金欲しさに山梨の工房で作りまくっていた【トラポートストーン】。

 それを使った【トラポート】で全員脱出したそうだ」

 

「美々?」

 

 

 不思議そうに問う彼に、首を傾げて気が付き答える黒医者ニキ。

 

 

「ああ、言ってなかったな。

 腐百合ネキの本名だよ。

 あの娘は姉の子で姪になるんだ。

 事情があって家を出ているから、私が身元の責任者をしているんだ」

 

「ああ。だから、いつも一緒にいるんですね?」

 

「足代わりにするのに、一番声を掛け易いからな。

 いや、逃げるためだけのスキル構成のあいつも、目的はどうあれ努力しているのは偉いもんだ」

 

「彼女は、立派な子じゃないですか。

 あまり構ってやれない希留耶の友達にもなってくれたようですし、何かご褒美でもあげたらどうです?」

 

「でも、あいつの一番喜ぶものは、最新のBL本や百合漫画だぞ?」

 

「ああ、えっと、美味いものでも食べさせてあげれば……」

 

「そうするか」

 

 

 隆和の意見に、首肯する黒医者ニキ。

 だが、彼が考えている『回らない寿司店』は、腐百合ネキはあまり好まないのを彼は知らない。

 そして、隆和も知らない。

 その彼女が、自分に全幅の信頼を置き素直で可愛らしい反応をする希留耶に激しく萌えている事を。

 彼女の恋愛対象が女性である事も。

 

 

 

 

 その頃の希留耶と腐百合ネキはと言えば、大阪の街を楽しんでいた。

 

 

「ねぇねぇ、美々ちゃん。今度はあそこの『まぐたこ』ってお店に行こう?」

 

 

 そう言いつつ、無邪気に腕に掴まって来た彼女のムニュッとした感触に、腐百合ネキは笑顔が崩れかけるが必死に耐える。

 

 

「(おっほ、この慎ましさはなかなか)そ、そうだね。じゃあ、キャル行こうか?」

 

「ほら、早く食べに行こう。早く行こう!」

 

「うん、(感触が遠のくから)あまり引っ張らないでね?」

 

「友だちとこうして遊べるなんて楽しいなぁ」

 

「(なんて可愛いんだろう。……たこ焼きじゃなくてこっちを食べたら駄目かな?」

 

「ん? たこ焼き以外にあのお店で何を食べるの?」

 

「な、何でも無いよ。さあ、行こう」

 

 

 何か邪念が混じっているようだが、二人は楽しんでいるようだった。

 

 

 

 

 話題を変えるように、黒医者ニキはもう一つの目的について語る。

 

 

「そう言えばだ、彼女についてはどう思う?」

 

 

 そう言うと、彼はカフェスペースの端を指差した。

 それに釣られ隆和もそちらの方を見ると、サラリマンニキが一人の胸の大きい少女を横に座らせてトモエとその少女が談笑しているのをいつになく満面のにこやかさで眺めている。

 その少女の名は、【ユカノ】。

 サラリマンニキの念願のシキガミ嫁であり、製作者の一人が黒医者ニキでもあるので今回一緒にここへ連れて来たトモエの妹と言ってもいい存在である。

 隆和もその彼女の方をしげしげと見ているのが分かり、得意気に彼女の事を語る黒医者ニキ。

 

 

「どうだ、彼女の姿は?

 ブラックボックスはショタオジ謹製でデザインも技術班こだわりの容姿であり、パーツの作成は私と才賀先生も参加した抜群の曲線の美しさと柔らかさを兼ね備えた一品だ。

 彼女用の装備も彼が奮発したらしく、かなりいい物だぞ」

 

「確か、元ネタは『ドラゴン・ユカノ』だったかな?」

 

「そうだ。コンセプトが忍者漫画の『くノ一』だった。……対魔忍じゃないぞ?」

 

「今は普通のブラウス姿だし、そんな事は考えていない」

 

 

 そう話していると、向こうも話し終えたのかサラリマンニキは満面の笑みでトモエと別れ、顔を赤らめたユカノと恋人つなぎをしながらスキップを踏むような足取りでホテルを出て行った。

 彼らと話し終えたトモエがほうじ茶を持って隆和の隣に座ったため、隆和は彼女に聞いた。

 

 

「トモエ、彼女と何を話していたんだい?」

 

「はい。主様。

 彼女はわたくしと違ってまだマスターと過ごす経験が少ないので、過ごし方のコツなどを少し。

 あと、正式な契約にはマスターの血液ではない体液の接種が義務付けられていますので、この後は【デート】に向かわれるそうです」

 

「んん?」

 

「ああー」

 

 

 少し顔を赤らめたトモエの答えに、疑問を浮かべる隆和と納得の声を上げる黒医者ニキ。

 隆和が黒医者ニキの方を見ると、楽しげに笑っている。

 

 

「まあ、これはしょうがない。

 今現在、技術班のシキガミの製造技術が上昇してほぼ完全な人体と見紛うパートナーが一般的になりつつあるんだ。

 それで、男性や一部の女性の【俺たち】の間であるスキルカードがかなり高騰しているから、代わりにデートしてそれからというつもりなんだろ」

 

「あるスキルカード?」

 

「【房中術】。

 ストップ高の値段だと、装備抜きで彼女がもう一人分くらいかな?

 だから、彼もこのスキルは今回はユカノに導入出来なかった。

 いずれは高級式神には標準搭載する予定だが、まだ数年はかかりそうだからしょうが無い。

 あと体液の接種は、主とのレベル同調もあって仕様だぞ」

 

「まあ、気持ちは分からないでもないが」

 

「運命の相手と出会ったっていうロマンだからだよ。

 最初の出会いの場面で、いきなりディープキスをしてくるシチュもいいが、こういうシチュも男なら好きだろ?

 彼も舞い上がっていたようだし、お前さんもそんな感じだっただろ?」

 

「いや、それは……」

 

 

 言いよどむ隆和を前に軽食のサンドイッチを食べ終わると、コーヒーを片手に黒医者ニキは指を指して話を続ける。 

 

 

「いいか。【俺たち】のほとんどは、異性が苦手か陰キャが大勢を占めている。

 恋愛の得意な陽キャやパリピなんて、ほんの極小数だ。

 それに、男なんて『女性は苦手だが女体は好き』って馬鹿な生き物だぞ?」

 

「まあ、確かに」

 

「うぐ」

 

 

 近くの場所で休憩していたナイスボートニキが心にダメージを負って机に蹲っているが、話は続いている。

 

 

「女性だって逝きつくとこまで行くと、

 

 『髪は月一で美容院で切り髭剃り爪切りは欠かさず毎日の入浴と洗髪とちゃんと洗濯した服を着るのは基本として、30代前半までで年収500万円以上でマーチ大卒で身長は170以上で自分も知ってる企業の正社員で一人っ子でなく長男でなく禿げてなく太っておらず清潔感があり趣味はオタクじゃない大人の趣味で自分のことを最優先に考えていつも行動する普通の男性』

 

 と、いうどう見ても普通じゃないハイスペックの伴侶を求めるようになるんだぞ?」

 

「そのような男性はいるのでしょうか?」

 

「国の統計だと“30代前半で年収500万以上の男性”なら、日本全体で約3%位いるらしい。

 こっちの業界を含めればもう少し増えるだろう。

 ただ、全部の条件を満たすような【普通の男】はいないと思うぞ」

 

「ううう」

 

 

 不思議そうに聞くトモエに、首をすくめて答える黒医者ニキ。

 話の聞こえた一部の女性が、思い当たる節を思い出し心にダメージを負っているが話は続く。

 

 

「そこへ来て、ガイア連合では他にない解決策を用意した。

 君たち、【高級シキガミ】だ」

 

「わたくしたちですか?」

 

「そうだ。

 覚醒してガイア連合に所属さえすれば、(転生者なら)理想のパートナーを手に入れるチャンスが出来るんだ。

 普通の人より頑丈で、老いによる容貌の衰えもなく、本人が望むままの姿のパートナーが。

 しかも、主人に一途で軽んじる事など絶対にしないパートナーだぞ」

 

「はい、もちろんです。

 そのような女性と同じ事は絶対にしません」

 

 

 トモエのその答えに満足そうに頷くと、黒医者ニキはカバンからポスターを取り出しカフェスペースの隅にある掲示板に貼った。

 そこには、男女や動物やロボットなどの様々な見惚れるような姿のシキガミ達の写真で作られたシキガミの購買意欲をこれでもかと煽るポスターであった。これは、表向きは来るべき【終末】に向けて覚醒するための修行を挫折する人が多いのを危惧したショタオジの発案でもあった。

 ただ、本人としては射幸心を煽り趣味も兼ねた地獄の訓練に望む人を増やしたいという軽い考えでもあったが、後に全国の支部で張り出したこのポスターの出来の良さから余計に注文が殺到し本人が地獄を見る事になったのは言うまでもない。

 

 そして、ポスターの側に居る黒医者ニキの所には、ナイスボートニキを始めとした幾人かが集まり熱心に話しかけている。

 

 

「先生、木◯本桜ちゃんでも大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だ! ロリでもシキガミは合法OKだ!」

 

「先生、FG◯のデ◯ンくんちゃんみたいに両方あっても大丈夫ですか!?」

 

「伊東くん、業が深いな。でも、大丈夫だ!

 値段は増すが、付いたままでも可変式もあるぞ!」

 

「はぁはぁ。先生、五◯退きゅんみたいなショタもありですか?」

 

「ロリもOKだから、全然大丈夫だ!」

 

「「「先生! 先生! 先生!」」」

 

 

 シキガミ熱で盛り上がっているのをテーブルで眺める隆和たちの所になのはが書類を持って歩いてきた。そして、盛り上がる彼らを訝しげに見ている。

 

 

「隆和くん。あれ、何なの?」

 

「シキガミ教、かな?」

 

「???」

 

「何か用事があったんじゃないのか?」

 

「ああ、そうだったなの。

 例の襲撃事件の犯人が分かったから、討伐チームに隆和くんが指名されたの」




後書きと設定解説


・関係者

名前:ユカノ
性別:女性
識別:シキガミ・0歳
ステータス:レベル9・スピード型
耐性:物理耐性・呪殺耐性
スキル(戦):暗夜剣(敵単体・2回中威力の物理攻撃。低確率で封技を付与)
       物理鋭化(物理属性の攻撃時、その威力が通常の1.1倍になる)
       食いしばり(HPが0になった際、自動的に一度だけHP1で復帰する)
       かばう(主人が致死ダメージを受ける時、その攻撃をかばう)
スキル(汎):会話・食事
装備:忍者刀(模造刀。予備あり)
   白疾風(物理見切り付与。白疾風ナルガ女性装備再現)
詳細:
 サラリマンニキこと服部正成の専用シキガミ嫁
 モデルはニンジャスレイヤーのドラゴン・ユカノ
 レベルの上昇はサラリマンニキの努力の結晶


次は、出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第17話 襲撃者討伐作戦

続きです。


 

 

  第17話 襲撃者討伐作戦

 

 

 討伐チームに指名された隆和は、ホテルで馬鹿話をしていた日の翌日にトモエを伴って関西支部の会議室の方に顔を出していた。会議室内には隆和の知らない人物も含め個人やチームなどの十数人がおり、室内はかなりざわついていた。

 隆和が後ろの端の方の席につくと、隣にトモエが座る。

 

 すると、目端の利く何人かが隆和に気づき「……【アーッニキ】、実在したのか」「掲示板の噂は本当だった!」「嘘だろ、女連れだ!?」「道下じゃない?」「ウホッ、なかなかいい男」と小声で話す声が聞こえ、隆和は新調した霊装の服が何かあるのだろうかと気にして暖房の効いた室内のため上着のジャンバーの前を開けると、何故かざわつく声が増えたので彼は疑問に思った。

 

 彼がいま着ているのは、テスターやら何やらのお礼の名義で技術班の一部のお腐れの方々から贈られた先日来た黒医者ニキが持ってきたもので、安全靴型の霊装とセットになっている前側にあるチャックを開け閉めして着るタイプのブルーベリーの色のような青い全身つなぎの霊装である。

 今は寒い時期なので上着を来ているが、同封されていた説明書によるとツナギの下はパンツのみ着用する仕様で、麻痺無効を付与され回避しやすい様に動きやすくなる代わりに防御力は低いと書かれていた。

 後日、腐百合ネキも含むその方々からリクエストのあったその服装での【ベンチに座った例のポーズ】の再現写真は、本人は知らないままショタオジも知らない山梨のアンダーグラウンドの一部のマニアの間で高値で取引されたらしい。

 

 そうやってしばらく待っていると、見た事のない書類を持ったきつい印象の女性の事務員を連れた天ヶ崎千早が部屋に入って来て隆和を見て笑みを浮かべるが、事務員に小突かれて表情を戻し来ていた全員に向けて話し始めた。

 

 

「よう集まってくれたようで、感謝するわ。

 うちは、今の関西支部の事務を統括しとる天ヶ崎千早いう者や。

 先日起きた支部長への襲撃事件、犯人が判明したんで聞いて欲しいんや」

 

「支部長は大丈夫なのか?」

 

「もともと、頑丈で荒事には慣れた人やったし元気やで。

 今は丁度いいさかい、溜まった書類の片付けをさせとるから今回は不参加や」

 

「……それで、集めた理由や犯人について教えてくれ」

 

 

 参加者にそう聞かれると、彼女は会議室の大画面モニターに一人の男性の上半身の写真を映し出した。厳つい顔に角刈りの髪、腕や首元の入れ墨に派手な革ジャンとGパンという典型的な不良の姿をした大男の姿がそこに映っていた。

 それを指差しながら、千早は事務員から渡された書類を読み上げた。

 

 

「支部長たちの目撃証言と占術で姿を割り出して、警察のデータベースを参照したら主犯の襲撃者がわかったわ。

 名前は、【芥田六三四】。「あくたむさし」や。現在は19歳。

 暴行と傷害で補導歴がある男性で、20人程のグループのリーダーや。

 身長は190cmで体重は94kgと記録にはある。

 性格は、粗暴でバトルジャンキーと言う事や。

 前に捕まった時は、会社の重役の父親が裏から手を回してすぐに釈放されとる」

 

「その父親の方はいいのか?」

 

「父親は黙らせるから、ええ。

 今回は警察には危険やし、表は関係ないうちらの業界の話や。

 支部長はんを怪我させるんやから覚醒している事は間違いないんや。

 もし、捕まえたらこっちで処置するさかい」

 

 

 そこまで答えた所で、千早の後ろにいた事務員の女性が千早を押しのけて全体を見渡し言葉を続ける。

 押しのけられた千早は、不愉快気に彼女を見るが横にそのまま退いた。

 

 

「ここからは、この件を指揮する【幸原みずき】が進めます。

 あなた方へ、作戦の参加要請です。

 複数のたまり場を点々として移動する捕まえにくい小賢しい連中が相手です。

 今回、ここに集まってのは支部長と同じか上のレベルの人です。

 そこで、ここにいる複数人若しくは最低でも2人以上で組んで新人のレベル上げをします。

 連中で覚醒しているのは主犯のこの男だけですから、襲撃も単独に間違いありません。

 支部長が逃げ出した事でこっちの事は甘く見るでしょうから、そこを捕まえます」

 

「新人を囮にするのか!?」

 

「ここにいる人たちは充分なレベルはあるはずです。

 おまけに支部長みたいに一人でいるならともかく、複数でいるなら単独の襲撃など大した事はないでしょう」

 

「……俺たちも暇じゃない。報酬はどうなんだ?」

 

「言われなくても、関西支部で確保しています。

 レベル上げの指導役を引き受けるのなら、捕まるまでの間は報酬は一割増し。

 もし捕獲に成功したら、こちらで確保している闇鍋ガチャで出たA賞とB賞のスキルカードのどれかか、今かなり高騰している【房中術】のスキルカードを譲渡します」

 

 

 ざわっと室内にいるシキガミを連れた人たちが驚いた。中には、明らかにやる気を見せる主人やシキガミが散見される事態となっている。

 何故ここまで、このスキルが高騰し需要が高まったのか?

 答えは簡単、このスキルの所持者が掲示板で盛大に煽ったからである。

 

 最初は「★シキガミ欲しいスレpart69」において、一人の人物の書き込みが始まりだった。

 その人物は、このスレに常駐する【鬼畜生ニキ】と呼ばれる人で度々顔を撮さないようにした様々な自分の美女シキガミの写真で煽る人物だったが、ある時彼はシキガミが扮した『口に避妊用ゴムを咥えている口元と胸元の開いた女子高校生の制服写真』の画像添付と共にこう書き込んだ。

 

『自分のシキガミに【性交】スキルしかない連中、ゴメンなぁww

 【房中術】込みのセッッッの気持ちよさ、ハンパねぇわwwww

 んじゃ、彼女が待ってるからいない奴は一人で寂しく寝ろよwwww』

 

 もちろんスレは炎上したが、同調するように彼と同じようにパートナーに【房中術】持ちのニキネキが同じような意見を書き込む事でさらに大炎上し運営がスレストップする事態になった。

 さらに他のスレでもこの話題が広まり、検証スレの暇な奴がある程度ありうると証明するに至りこの需要過多の状況になっていた。

 なお、隆和自身は自身のスキルからその違いを知っているが相手のプライバシーもあるため、他の人にその話題を聞かれた際は口を濁して噤んでいる。

 

 

「これは我々、ガイア連合の面子や信用にも関わる問題です。

 『チンピラに何も出来ない』など、格下の現地組織に思われる訳にはいきません。

 張り切って参加するように」

 

 

 最後に彼女はじろりと室内の全員を見るとこう締めくくって通達は終わり、千早を急き立てるように小声で言い争いをしながら部屋を出て行った。

 その後、要請を請ける者請けない者に別れて集まっていた面々は三々五々と散って行き、隆和としては千早には悪いが数も多く受付で混雑が起きるほど参加しているため、彼は彼自身の事情もあるため要請を辞退して帰路についた。

 

 暫くの間、数日ほどこの状態が続いた所で事態は動きを大きく見せる事となった。

 

 

 

 

 その日、隆和は依頼を受け普通の服を着たトモエと共に行動していた。

 

 師匠の異界の攻略のため、実力を上げるべく戦闘の発生しやすい依頼を隆和は探していた。 

 そして紹介され請けた依頼はと言えば、大学の友人が新興宗教のチラシに誘われていなくなったという物だった。

 届けられたそのチラシには、このような事が書かれていた。

 

『今の自分が嫌になりませんか?

 今までの自分を変えてみませんか?

 未来に希望を持ちたくありませんか?

 そんな貴方を、我々は歓迎します。

 まずは、ボランティア活動に参加しませんか?

 連絡は、0120-◯◯◯◯まで  光福の社』

 

 届けられたチラシには呪的な加工があり、【最後の行の番号が22歳以下の者にしか見えない】という物だった。明らかに、その年齢以下の人物を信者か贄として誘うものである。

 もちろん隆和にはそれが見えず、その説明をしてくれた女性の鑑定者は憤慨しながらそれを教えてくれた。

 電話番号に連絡すると日時と場所を指定して迎えに来るらしく、トモエをその鄙びた駅前の待ち合わせ場所に立たせツナギ姿の隆和は離れた場所から荷物を持ちそれを見守っていた。

 

 おとなし目のブラウスとスカートという姿の美少女が立っているというのにナンパ目的の男性グループすらいない寂れたそこでトモエが待っていると、明らかにやばい雰囲気の中年女性が彼女に話しかけ場所を移動しようとしている。

 ちらりとこちらを見るトモエの視線に頷くと、移動し始めた彼女たちの後を隆和は尾行する。

 その女性に話しかけられながら、トモエたちはさらに郊外の山の方へと移動していった。

 

 

 

 

 向かった先にあったのは、廃棄されたと思われる建築会社の倉庫であった。

 周辺には何かの悪魔崇拝らしいオブジェが転がりそれらしい雰囲気のある廃墟であったが、今日は様子が違っているようだった。

 入口付近には大勢のバイクが止められ、中からは男女問わず大勢の騒ぐ音と破壊音がしている。

 

 

「こんな連中、ぶっ殺しちまえ!」

 

「我が神の降臨を邪魔するな! 不心得者共!」

 

「ああ、なんて事! 不信心者がここに入り込むなんて!

 いい? あなたはここで待っていなさい。

 教祖様、今お助けしますわ! キィエェェェ!!」

 

 

 その様子に驚いた中年女性はトモエにここで待つように言うと怒りで逝った目になり、ハンドバッグから包丁を取り出すと奇声を上げて建物の中へと突っ込んで行った。

 呆然として立ちすくむトモエに近づくと、隆和は荷物から模造刀を取り出しトモエに渡し話しかける。

 

 

「戦闘になるぞ。準備しろ。

 ダークサマナー同士の襲撃のようだから、様子を見て突っ込むぞ」

 

「はい、主様」

 

「コレットも出てくれ」

 

「あれ。久々にこのメンバーね?」

 

「ああ。MAGの温存のためにコレットには窮屈な思いをさせてすまない」

 

「私はいいの。こうすれば消耗は最小限に出来るもの。

 でも、気づいてるの? 隆和。

 あなた、レベルが下がっているわよ?」

 

「……ああ」

 

 

 実際、今の隆和はレベルが39から38へと緩やかに落ちていた。

 

 数年前まで攻撃魔法のあるなのはと組んでレベル20~30の悪魔がゴロゴロと出る師匠の異界の奥へと行っていたのだが、彼女と組まなくなってから建設現場の仕事が忙しくなり、さらには異界の悪魔に手の届かない遠距離から魔法を打ち込まれ続ける対処法を憶えられてからは異界には両手で数えるほどしか潜っていなかった。

 そのため、緩やかではあるが体内のマグネタイトが揮発し増えるより減る方が上回っていた。

 前職を首になりガイア連合に加わる事で、数々の高レベルの相手との戦いやちゃんとした霊地で暮らす事によりマグネタイトの消耗はコレットと房中術で交わるだけの頃よりは抑えられていた。

 しかし、その後になのはと結ばれて安定を求める意識と快楽のために大事な相手を状態異常にするのは嫌だという個人的な感情で【房中術を用いた夜の行為そのもの】を忌避して行わない事で、再び減る量の方が増えていたのだ。

 

 

「今、優先するするべきなのは何か思い出して。

 あの異界を攻略していずれ来る【終末】を乗り切るには、これ以上弱くなるのは避けないといけない。

 私とトモエは既に何があろうとあなたに付いていくつもりよ?

 なのはともよく話し合って意識を切り替えて、隆和」

 

「主様。わたくしは主様の刀で盾です。

 どこまでもいつまでも何処でも伴に参ります」

 

「ありがとう。俺は…」

 

「イヤだぁぁぁぁ! 死にたくねぇぇ!」

 

 

 建物の方に視線を向けながらもすっかり話し込んでいる間に中の騒ぎの声は消え、一人の若い男が飛び出して来た。

 格好から不良集団の一人だと思えるが、隆和には彼の顔に見覚えがあった。

 バイクの所へ走り込んできた彼に、思わず門のところから駆け寄る隆和。

 

 

「たかしくん!? 木下社長の息子のたかしくん?」

 

「あれ? あんた、社員の人で見た覚えがあるような?」

 

「6年勤めたけど、去年、事情があって会社を辞めた安倍です。

 どうしてここに?」

 

 

 彼がそう聞くと、膝を付き両手で身体を抱きしめるようにしてガタガタ震えながら答える木下。

 

 

「ああ、オレめちゃ強えぇリーダーの下でグループをまとめていたんだよ。

 馬鹿らしいオカルトなんざ、リーダーがみんなボコにして上手く行っていたんだよ。

 なのに、何だよ! リーダーが簡単に殺られるようなあんな怪物が出て来るなんて知らねぇよ!」

 

「リーダーって誰です?」

 

「ムサシだよ。あいつが殺られるなんて聞いてねぇ! あああああ!」

 

 

 泣きながら地面を叩く彼に、隆和は聞く。

 

 

「たかしくん。ここにいる金髪の女の子は見えるかい?」

 

「そのキレイな子がどうしたんだよ?」

 

「よし、【デビルスリープ】」

 

「……え、あれ?」

 

「隆和?」

 

「この子は知り合いだし、色々と知っているようだからね。

 連れて帰らないと」

 

 

 万一の捕獲用に用意しておいたデビルスリープと拘束用のロープで彼を手早く拘束すると、隆和は門の近くの物陰に彼を隠した。

 そして、彼女らを促し建物の中へと向かうことにした。

 

 

「じゃあ、向かおうか。

 かなりの大物の様だから気をつけていこう」

 

「畏まりました。主様」

 

「わかったわ、隆和」




後書きと設定解説


・主人公

ステータス:レベル39→38

【青い色のツナギ】
前側にあるチャックを開け閉めして着るタイプの青い全身つなぎの霊装
安全靴型の霊装とセットになっている
麻痺無効と回避強化を付与されている代わりに防御力は低い

・関係者

名前:木下たかし
性別:男性
識別:覚醒者・17歳
職業:無職
ステータス:レベル1
耐性:破魔無効
スキル:なし
詳細:
 隆和がかつて勤務していた木下工務店の社長の息子
 悪知恵が働くタイプの参謀気取りの不良
 今回の遭遇で覚醒した


プロットを組んだ際の主人公の高いレベル周りの設定が本家様で解説されていたのは驚いた。

次は、出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第18話 敵は迷いなく殺すべし

続きです。


 

 

  第18話 敵は迷いなく殺すべし

 

 

 眠らせ拘束した不良グループの木下を物陰に隠し、倉庫の方へ隆和たちはやって来た。

 倉庫の中へ入ると空気が重くなり、強い悪魔の出現時特有のマグネタイトの圧力を伴う独特の空気へと変貌した。

 周囲には、寝袋やテーブルにかまどなどのここで生活していたと思わしき残骸があちこちに見られ、教団員と思わしき普通の服の上からフードを被った者達や不良グループの一員と思しき茶髪のチンピラなど姿の男達が倒れ伏している。

 倒れている幾人かを触れて見ていたコレットが、こちらを向いて言う。

 

 

「隆和。この人達、みんな死んでいるわ。

 怪我で死んだんじゃなく、これは【エナジードレイン】で殺された状態に似ているわ」

 

「奥にいる何かに生気を吸われて死んだという事かな?」

 

「たぶん、そうだと思う」

 

 

 そういうと、トモエも合わせて3人共に奥へと視線が向く。

 奥にはひしゃげて壊れかけたシャッターと折れて捨てられた木刀が転がっており、その半開きのシャッターの奥から男と女の声で歌う音がかすかに聞こえている。

 3人は顔を見合わせると、隆和を先頭にひしゃげたシャッターの隙間から中に入って行った。

 

 

 

 

 そこは、彼らの祭事場だったのだろう。

 祭壇と多数の椅子、端に乱雑に本や祭具が飾られたテーブル、そして周囲には防戦していたと思われる一般人の服装の信者たちと入り込んだ不良たちの多数が全員乾涸びた体で倒れている。

 

 中で彼らが最初に見たのは、その中で唯一立ち上がり掛けている2m近い巨漢の背中だった。

 その男は跪いた姿から立ち上がり、足元に転がる木乃伊のような姿の司祭らしき男を蹴り飛ばすと振り向いた。革ジャンにGパンという服装の内側から盛り上がる筋肉で膨れ上がり角刈りのその顔は、瞳が金色に輝いているが先日見た襲撃者の男のそれだった。

 こちらを睨みつける男の影から現れたコレットと同じくらいの身長だろうか、白い翼を生やした金髪の白い貫頭衣を纏うその女は歓喜に満ちた顔で杖を掲げふわりと舞い上がった。

 

 

「ほほう、この者にも負けぬ強そうな者が現われたものですね。

 それで、あなた方も我が降臨に馳せ参じたのですか?」

 

「おい、死んじまった手下の連中は信徒じゃねぇぞ。

 それに、神の恩寵は信徒であるオレに授けられるんだろう?」

 

「野卑な物言いは止めなさい、信徒よ。

 あなたは神の御名において悪霊から私を守護するのですから」

 

「そこにいる天使、ここで死んでいる連中はお前の糧になったのか? 

 それに、お前が【芥田六三四】だな?」

 

「お? オレを知ってるのか?」

 

「そうですとも。

 家伝の仏教の女神を模したマリア像で私を呼び出し、全てを捧げた殊勝な信徒たちです。

 それに、これと見込むこの新たな神の兵まで連れて馳せ参じたのです。

 神の身許へと皆、無事たどり着けたでしょう。ハレルヤ!」

 

 

 隆和の見鬼には女の方がレベル28の【天使プリンシパリティ】と映り、男の方はレベル14【転生者アクタムサシ】と映っていた。しかし、天使が杖を振るうと周囲のミイラ状の遺体が全て赤いマグネタイトの霧に変わり彼へと集まり出す。

 そして、瞬く間に全て吸収し目の金色の光が強くなると表示がレベル19【ジエレーター・ムサシ】と変わっていった。

 溢れる力に歓喜の表情を浮かべるムサシを余所に、天使は笑みを浮かべ隆和に問うてきた。

 

 

「それで何用です、部外者よ。

 今は気分がいい。聞いてあげましょう」

 

「……今、何をした!?」

 

「この場に漂う捧げられた生命を彼に分け与え、生まれ変わらしただけですよ?

 何をそんなに驚く必要があるのです?」

 

「俺はそこにいる芥田六三四を捕まえに来ただけだったんだが。

 今の行為は見逃せないな」

 

「ほう、主の命を果たさんとする我々に手を出すのですか。

 誅罰を与えなさい、我が戦士よ」

 

「ああ、“神はそれを望まれる”」

 

 

 天使の指示を聞きそう唱えるとムサシは拳を振り上げ、隆和たちに素早く殴りかかった。

 

 

 

 

 芥田六三四は、前世の記憶を持つ転生者である。

 

 彼の前世は、施設育ちから暴走族を経て右寄りな思想を持つ暴力団に入り大陸マフィアの頭目への鉄砲玉として死んだ。

 そのためか金持ちの一人息子して生まれた今世でも、いつの間にか思い出した暴力しか知らない生き方の前世の記憶のまま同じように中卒で居心地の悪い家を飛び出し暴力の世界に飛び込んだ。

 彼にとって幸運だったのは、たまたま他のダークサマナーに悪魔や異能者を叩き潰すと金になる事や方法を教えてもらい、その教えてくれたそいつを殺して金品を奪う際に覚醒し、そいつの残したメモの通りに行動したら相手を叩き潰せるスキルを覚えて強くなれた事だった。

 そして不幸だったのは、今のグループと出会い変に頭の回る木下を手下に加え、木下が知り合いから教えてもらった金目の物を隠し持っているというカルト団体の集団を襲撃する事を幾度か繰り返すうちにガイア連合に追われ、ここのメシア系のカルトで天使に皆殺しにされた事だろう。

 

 そして今の彼はプリンシバリティの蘇生魔法と洗脳で操られ天使の羽根を埋め込まれた事により、神の忠実な戦士である強力なジエレーターへと生まれ変わった。

 彼は今、幸福だった。何も考えずに思い切り誰かを殴れるのだから。

 だから、ただ彼は神の名を唱え隆和たちに殴りかかった。

 

 

 

 

 彼は一番得意なスキル【暴れまくり】で、前にいた隆和とトモエに乱打を浴びせる。

 それなりの痛打を与えた所で天使から支援魔法がかかる。

 

 

「ぐっ」「くっ」

 

「どうだ、オレの一撃は!」

 

「【タルカジャ】。しょうがない信徒ですねぇ。

 まあ、好きに戦いなさい。見守ってあげますよ」

 

「ここは、【ギロチンカット】!」

 

「へえ、細っこいのにけっこう痛てぇじゃねぇか」

 

「天使ならこれが効くでしょう? 【ムドオン】」

 

「ふっ、そのような祝福されたこの身にそのような呪いが効くはずがないでしょう!」

 

 

 トモエが反撃の一撃を加えるが、ダメージも大して喰らわず麻痺もしない。

 そして、コレットが放った呪殺もこの天使には無効化された。

 出遅れた隆和は舌打ちしつつアナライズした内容を二人に伝え、隆和もムサシをスキルを込めて殴った。

 

 

「二人とも。

 こいつはレベル19の【ジエレーター】で、物理耐性、破魔無効、呪殺耐性もちだ。

 女の方は、レベル28の【天使プリンシパリティ】、……くそ、こいつボスか?

 銃が弱点だが、破魔と呪殺が無効だぞ!

 邪魔だ、【耽溺掌】!」

 

「効かねえなぁ、何だよそのへろへろな攻撃はよぉ」

 

「ふむ、まだ大丈夫そうですね?

 それならもう一度、【タルカジャ】で」

 

「おら、もう一度だ!」

 

「ふっ」「くっ」

 

 

 状態異常にまったく掛からない大男のムサシの影に巧妙に隠れて、直接狙えないのをいい事に魔法を使い続けるプリンシパリティ。

 威力の増した【暴れまくり】で攻撃され、隆和は回避したもののトモエにはダメージが蓄積する。

 それを見て、慌てずトモエの回復をするコレット。

 

 

「トモエ! 【ディアラマ】!」

 

「すみません、この【霞駆け】!」

 

「この、【耽溺掌】!」

 

「おっと、天使様は殴らせねぇぜ。

 それになぁ、天使様の加護だ。変な小細工は効かねぇぞ!」

 

 

 プリンシパリティに攻撃をしようにも、巧みに体躯を活かして回り込もうとする彼らを牽制し攻撃させないムサシ。レベル差があってもじりじりと不利になっていく隆和たち。

 そして均衡という物は、どこかで油断していれば崩れる時はあっという間である。

 コレットを見て行動する天使プリンシパリティの仕業のように。

 

 

「ん? よく見ればそこにいる悪魔、我らの聖女が堕したものではないか!

 なんと、不浄な! 消えるがいい、【マハンマ】!」

 

「く、【テトラj……」

 

「邪魔させねぇよ、おら」

 

「……あ、隆か……」

 

 

 プリンシパリティの破魔呪文に気づき隆和は【テトラジャの石】を取り出そうとするも、ムサシに邪魔をされ取り落とした。

 破魔弱点のコレットは彼の見ている前で、破魔魔法により死亡し封魔管へと強制送還される。

 耐性のおかげでかろうじて耐えたトモエと隆和が反撃するも、やはり有効打にならない。

 

 

「【霞駆け】!」

 

「【耽溺掌】!」

 

「そろそろですね、【ディアラマ】」

 

「分かりました、天使様。本気を見せてやるよ、【凶化】!」

 

「ヤバ…」

 

「逃がすわけねぇだろ」

 

 

 危険を感じ後ろに下がろうとする隆和の足の甲を踏みつけて、不敵に笑い踏み出すムサシ。

 そして、炸裂する【タルカジャ】で二段階強化されて同等レベルの攻撃力となった上に【物理強化】と【同族の心得・攻】が乗り、【凶化】で必ず急所へ飛んでいく最大値五連撃の【暴れまくり】。

 回避できない隆和の代わりに、トモエが【かばう】のスキルを発揮した。

 

 

「駄目です、主様! ぐはっごほっがはっ!」

 

「ぐふっ、トモエ!」

 

「ちっ、邪魔が入ったか」

 

 

 隆和に抱きつくようにかばうことで攻撃をもろに三回急所に食らい、共に弾き飛ばされて離れた床に転がるトモエと隆和。

 血を吐きながら起き上がろうとし周囲を探るも、手に持っていた刀は近くには転がっていない。

 トモエのおかげで自分も思わず防御した左腕への一撃だけで済み、後ろ手に魔石を握らせるとその彼女を庇うようにして立つ隆和。

 笑みを浮かべながら天使の主従がゆっくりと近づいて来て、そんな様子の隆和に話しかけて来た。

 

 

「万策尽きたようだな、愚か者よ。

 降伏し、己の命を神の前に差し出すのだ。

 私、自ら首を刎ねる栄誉をやろう」

 

「おお、名誉な事じゃねぇか。有り難く死にな」

 

「は、はは。ハハハハハハ」

 

「何がおかしい?」

 

「頭がおかしくなったんじゃ?」

 

 

 隆和はあまりの自分の馬鹿さ加減に不意に笑い出しながら、ここに入る前にコレットに言われた事を思い出す。

 

 彼女は言った。意識を切り替えろ、と。

 『自分は周囲に居る誰よりもレベルが高い』『芥田六三四は保護しなければ』という驕りと甘い考えから来る油断、師匠の異界はこのままに誰かに任せてもいいでのはという楽観、追い詰められないと気付けない自分の愚かさ。

 何だ、あのお上品で自重した戦い方は。

 死んだら全部終わるんだぞ。全然、出来ていないじゃないか。

 

 笑うのを止めた隆和は、決めた。

 まずは、コイツラを殺す事にしよう。

 

 

 

 

 まず、隆和はポシェットの中の各属性範囲魔法のマジックストーンを確かめ、訝しげにこちらを見る天使の主従に折れた左腕を庇いながら【くらましの玉】を放る。

 本来、これは確実に逃げるために相手の視界を眩ませるものだが、現実だと逃げない時にも視界を遮るのに役立つものである。

 この隙に特によく効く元人間のムサシの横をすり抜け、隆和は元凶の天使にたどり着く。

 そして、マジックストーンを右手で握ったままこちらを認識できない天使の右目の中へ、スキルを込めて指を二本突き込んだ。

 

 

「ギィイヤァァァァ!」

 

「てっ、天使様。大丈夫で……がふっ」

 

「点火」

 

 

 不意のダメージと緊縛のみ掛かった状態異常、右目に何かを付き込まれた痛みにより動きの止まった天使とそれを見てムサシも動きを止める。

 そして指を抜き飛び退りながら隆和は、師匠の異界の攻略の切り札の一つだった【メギドストーン】をこちらを見るムサシの顔面に叩きつけるように投げて起爆した。

 大爆発。いつも見慣れたなのはそれよりは小さいが、周囲を粗方破壊し主従に大ダメージを与えたのは間違いない。

 隆和は移動しながら注意深くそちらを見ていると、薄れ始めた煙の中に動く2人の人影を見つけた。

 

 

「あ、あの下郎はどこだぁ!!」」

 

「あ、あ。て、天使様。…け、怪我を…」

 

「…………点火」

 

 

 まだこちらを見つけられず混乱する主従に、隆和は今度は【マハジオストーン】を無言で放り込む。

 発雷。連中の居る場所を焼き焦がす勢いの電撃が覆い包んだ。

 

 

「ギィアアアァ!」

 

「…………」

 

 

 傍らで大男のムサシが崩れ落ち、プリンシパリティは悲鳴を上げながら片目を抑えていた。

 それを確認し、隆和はふらつく天使に目掛けて駆け込む。

 その姿に気がついた天使は手に持った杖を振り下ろすが、隆和はこれを容易に避けて小柄な少女の姿のプリンシパリティを引きずり倒し馬乗りになった。

 体と速中心にステータスが伸びる隆和でも、10レベル差のある後衛型の天使ならばこうなるように右目を抑える片手以外翼も使って暴れるが動けず、冷徹にこちらを見下ろす隆和の目に気がつくと恐怖を感じつつもプリンシパリティは密かに自負を持つ自身の言葉で懐柔を試みた。

 

 

「や、止めるのです。

 偉大な神の御使いである私をこれ以上傷つけてはなりませんよ。

 そ、そうだ。私は回復も蘇生魔法も持ちます。

 あなたの下僕たちも解放するのなら、助けましょう!」

 

「そうか。死ね」

 

「ぎゃっ、や、止め、ぐっ、わたし、をうっ、がはっ、だれっ、も、もうっ」

 

 

 プリンシパリティの命乞いとも言える提案を一蹴した隆和は、そのまま右腕で天使の顔面をスキルを込めて乱打し始めた。【耽溺掌】は、状態異常を抜けばHP消費タイプの敵単体への小威力の物理攻撃スキルである。ならば、状態異常にするつもりもない相手なら死ぬまで殴ればいいだろう。

 そして、さんざん殴りつけ動けなくなったのを確かめると立ち上がった隆和は、後ろに飛び下がりながら止めの【マハブフストーン】を投げ込んだ。

 

 

「……主よ!」

 

「地獄に落ちろ、鳩の出来損ない」

 

 

 荒れ狂う氷雪の嵐が天使の周囲を包むと、慚愧の声を上げながらプリンシパリティはようやくマグネタイトになり消えていった。

 異界が消え、周囲は破壊され尽くした狂った一神教系カルトのアジトの跡に変わる。

 隆和は唯一残った芥田六三四の屍体を引きずりつつ携帯を取り出すと、これで2度目となる山梨への緊急コールで助けを呼んだ。

 

 

 

 

 今回の事件のその後を語ろう。

 

 所持していた魔石でなんとか生きていた隆和だが、回収された山梨の病院に1ヶ月ほど入院することになった。すぐに蘇生されたコレットや骨折もそうかからず治る隆和が原因ではなく、トモエの背中にある中枢部分にかばった際にダメージが入った為だった。 

 そして、駆け付けて泣かれる事になった希留耶やなのはの対応をしている時にその知らせが齎された。

 

 回収した芥田六三四の蘇生にはかろうじて成功したが、隆和と血縁者の可能性がある、と。




後書きと設定解説


・敵対者

名前:“ヤンキー”芥田六三四(あくたむさし)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)→ジエレーター・19歳
職業:ダークサマナー
ステータス:レベル14→19(変異後)
耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺耐性(装備)
スキル:怒りの一撃(敵単体・中威力の物理攻撃・命中率半減・必ずクリティカル)
    暴れまくり(敵全体・2~5回の小威力物理攻撃)
    物理強化(物理属性の攻撃時、その威力が1,2倍になる)
    同族の心得・攻(同種族へのあらゆる攻撃のダメージが50%上昇)
    凶化(使用直後の物理攻撃が最初の1回のみクリティカル)
    信仰の加護(天使以外からの状態異常耐性。変異後獲得)
装備:呪殺耐性の指輪(ガイア連合製のドクロ指輪型の霊装。強奪品)
   鉄パイプ、木刀など(一般品の盗品)
   霊木製の木刀(ガイア連合製の高級霊装。強奪品)
詳細:
 中卒で家を出て愚連隊や暴走族の用心棒を稼業にしていた転生者
 角刈り、ピアス、入れ墨などヤンキー漫画にいる巨漢の不良そのままの姿
 力任せに相手を叩き潰すのが得意なバトルジャンキー
 天使によって蘇生時に忠実な戦士に変えられた
 ジエレーターとはメシア教徒の位階の一つで、熱心者、狂信者の意味がある
 身長190cm、体重95kg

【天使プリンシパリティ】(ボス)
レベル28 耐性:銃弱点・破魔無効・呪殺無効
スキル:マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
    ディアラマ(味方単体・大回復)
    リカーム(味方単体・死亡状態をHP半分で復活)
    タルカジャ(味方全体・攻撃力を1段階上昇させる)
    洗脳(敵単体・レベル以下の相手を洗脳する会話スキル)
詳細:
 カルト教団が召喚し、その場に居た者を全て餌食にした悪魔
 第7位「権天使」に数えられる下級天使。国家や文明の盛衰を司るとされる
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性がある


レベル30を越える転生者はどこか変なのは確定的にあきらか?

次は、出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第19話 彼女は『桜梅桃李』を目指す

続きです。

祝え!ニューヒロインの誕生を!


 

 

  第19話 彼女は『桜梅桃李』を目指す

 

 

 あの事件で救助されてから既に数日が過ぎていた。

 

 警察と共に関西支部から派遣されてきた後処理と隠蔽を担当するチームとすれ違うようにして、隆和たちはガイア系列の病院へと収容されていた。

 隆和自身の骨折とコレットの蘇生は特に問題なく治療された。だが、問題があったのはトモエの損傷であった。

 ここの病院にもいくつかシキガミ用の予備パーツはあるため多少の損傷ならば大丈夫であったが、こと脊髄にあるブラックボックスのある中枢部分にダメージが入っている状態の治療はできなかった。

 

 今回は運が無いと言えば運がない事であるし、隆和の油断であると言えばその通りだろう。

 

 いつも着ていた防御力のある霊装の巫女服ではなく変装用の普通の服を着ていたのも原因の一つであるし、致命的な一撃を促すスキルを使う相手の強烈な攻撃から文字通り致命的な一撃を運悪く食らってしまったのも原因なのだろう。少なくとも、どちらかが無ければ彼女はまだ関西支部の治療で復活できただろうとは担当の医師からそう診断されていた。

 そのため、隆和はサラリマンニキに事態を告げ希留耶の事をなのはに任せると、自力で動けない状態のトモエと一緒に車両で黒医者ニキとショタオジと面会するために山梨の支部まで来ていた。

 

 山梨に到着後すぐに連絡をしてあった黒医者ニキに迎えられると、トモエと共に山梨支部に付属する病院へと移動し2時間後には診察結果を聞くことが出来た。

 ただし、このトモエの治療は隆和にとって見れば青天の霹靂となる事態になったのだった。

 

 

 

 

 診察後の説明でトモエの中枢部分を作成したショタオジは、隆和にこう説明を始めた。

 

 

「君のシキガミだけど、ここの機材を使えば修復自体は簡単にできるよ。

 でも、彼女自身が今のままではなくてもっと強くなりたいと治療を拒んでいるんだ。

 本人が無理なら、シキガミの攻撃力を上げたいというのは理に適っているしね。

 そこでだけど、君はどうしたいのかまず聞こうと思って。どうだい?」

 

「トモエが望むならそうしてやりたいですよ。

 何なら、俺の口座の資金も言い値で払いますけど?」

 

「うん、君がそういうのならやるのは吝かじゃない。

 けれど、君と一緒にいるもう一人の彼女もこの強くなる事に関連しているんだ。

 彼女の話も聞いてみた方がいいんじゃないか?」

 

「わかりました。コレット?」

 

 

 隆和が封魔管を取り出し声をかけると、コレットが出現し彼の方を向いた。

 中で話を聞いていたのだろうか、苦笑いと言うか彼女は複雑な表情で笑っていた。

 

 

「あはは、こうなるとやっぱり複雑だよね。

 でも、このままだと私とトモエは隆和を守る事が出来ない。

 だから、こういう時は【サマナーの仲魔は悪魔合体を望む】んだよね?

 少しでも強くなれるように」

 

「悪魔合体? トモエとコレットで?

 そんな事、可能なんですか?」

 

「可能か不可能かで言えば、くっっっそ面倒だけど可能だよ。

 君のシキガミのアップデートと共に、彼女を中枢の部分に組み込む形でなら出来ない訳でもないよ。

 ただし、いろいろと手間と資金がかかるよ?」

 

「実現可能だということはわかりました。

 ならコレット、何で自分が消えるかもしれない事を言い出すんだ!?」

 

 

 そう問う隆和に、コレットは寂しげに笑う。

 その横で他人の愁嘆場は見ていられないと、少し離れて書類整理を始めるショタオジ。

 

 

「ねえ、隆和。私ってもう死んでから何十年と立つわ。

 あなたとこうして暮らした16年、本当に楽しかったしずっとこうしていたかった。

 でもね、私はあなたの師匠と交わした契約があるの。

 『あの異界を解放するために助力する代わりにもう一度表の世界に行ける様にする』。

 この契約を果たし隆和を守るために、二人で何度も相談していたんだ」

 

「誰とだよ、コレット?」

 

「トモエとよ。

 だからその時間を作るために、なのはと関係する前に何度か二人がかりでベッドで搾り取って隆和に寝てもらった事もあるのよ?」 

 

「いや、ああいうのは気絶と言うんだと思う」

 

「いいの、細かい事は置いておいて。

 私も悪魔合体で融合するならトモエが良いわ。

 トモエは隆和を守る新たな力を得て、私は肉体を得て隆和の隣に立てるのだもの」

 

「……それが本音かい、コレット?」

 

 

 その発言に怒りの混じった声で問う隆和に、コレットは半泣きで自分の胸をパンと叩いて吠えた。

 

 

「いいぃ? 10cm以上よ、10cm以上も違うの!

 生前と違って、マグで構成された成長しない身体の今の私とは違うの!

 隆和の周りにいる女性は、みーーーんな実体を持って私の目の前で揺らしているの!

 トモエもなのはも千早もあの桃色の髪の娘も、希留耶とテレポートの娘以外はみんなよ!

 皆よ、みーーーんな走るだけで【バルンバルン】させているの!」

 

「お、おう」

 

「隆和だって、何度もな・ん・ど・も揺れると視線で追っているでしょう?

 私のはないけど、あの4人のは特に!

 いろいろ理由は付けたけど、これが本音よ!」

 

「…………」

 

 

 隆和は居たたまれなくなり視線をそらしショタオジに助けを求めてそちらを見たが、話は聞いているのだろうが彼はいつの間にか限りなく薄く気配を消して部屋の隅で書類整理をしていた。

 ちなみに、コレットは何処とは言わないがサイズはAで、彼女が名前を上げた女性たちのサイズはE以上である。

 その後、涙目で睨むコレットにたじろぐ隆和は、助けに入るかのようにやって来た黒医者ニキが示したトモエの強化計画案にコレットの圧もあり言われるままサインする事になった。

 もちろん、【普通自動車3台分】のその装備も込みのお値段を後に少し後悔した。

 

 

 

 

「安倍隆和さん。

 例の事件で回収した芥田六三四の蘇生にはかろうじて成功したのですが、残念ながら人としての蘇生は無理でした。

 完全に天使の尖兵に魂まで変質している為、情報を抜き取った後は魂はショタオジの手で冥府に送り、“唯一完全な形で発見された遺体”として親元へと移送される事になりました」

 

「それで、あの事件自体はどうなったんですか?」

 

「オカルト関連の集団失踪事件として処理されました。

 遺族には昨今では珍しい事でも無くなってきてますので、『遺体が見つからないので行方不明案件として鋭意捜索します』という警察発表で納得してもらう形になります。

 それと遺体の彼がDNA鑑定で安倍さんと血縁者の可能性があると、検分をした黒医者ニキさんから言伝がありますが何かありますか?」

 

「見ず知らずのそれも俺が殺した相手が、例えそうだとしても関係ありませんよ。

 他人は他人です。そちらで処理して下さい」

 

「分かりました。こちらでそう処理をしますね。

 あと、もう一つ。

 今回の件で事件の処理に関して、関西支部の方で少し揉めているようです。

 ただ、監査役としてうちの天ヶ崎がいるので大丈夫だとは思いますが、地元に戻った際は話を聞いて下さい」

 

「知らせてくれてありがとうございました」

 

 

 説明のあった日から3日が経ち、隆和は山梨支部のショタオジもあまり近づかない技術班の変態が多く居る建築物に完成したとの連絡があり来ていた。

 一礼して走るように立ち去る山梨支部の事務員を見送り、病院風の廊下のソファで隆和はため息を吐いた。見ると、彼の直ぐ側の手術室ではトモエの改造が続いている事を示す『手術中』のランプが待っていたかのようにフッと消えた。

 しばらく待つとと扉が開き、中から明らかに徹夜開けの顔の黒医者ニキが顔を出し、彼は隆和を見つけると満面の笑みを浮かべておかしなテンションでこう述べた。

 

 

「おお! よく来てくれたた!

 さあ、私の娘にして君のパートナーは完成しているぞ。入ってくれ!

 皆、彼女のマスターが到着したぞ!」

 

「あの、ちょっと待っ……うわぁ」

 

 

 引きずり込まれるように腕を掴まれ、室内に引きずり込まれた隆和は周囲を見てドン引きした。

 

 部屋の中央には手術台を思わせるベッドがあって、そこには体のラインがもろに出る目のやり場に困りそうなロボット物のパイロットスーツのような服を着たトモエが眠っており、その周囲を黒医者ニキと助手たちが取り囲み、さらに頭上に位置する見学室らしき場所に技術班だと思われるハイテンションの顔の白衣の集団がガラス越しにこちらを覗き込んでいた。

 隆和にはそこは、まるで昭和の特撮の改造人間の手術室のように見えた。

 彼ら彼女らの視線が集まる中、黒医者ニキによってトモエの近くまで連れ来られた隆和は彼に声を掛けようとしたが、黒医者ニキは両手を大きく広げるとそのまま説明を始めてしまった。

 

 

「見たまえ、新たな彼女の姿を!

 我々も見たことがないショタオジの施術は完璧だった!

 もちろん、コレット嬢とトモエの意識と力の統合は理想以上に成功した!

 レベル、ステータス、スキル共に、君を守らんがために強力なものへと進化した!

 さらに、体躯の方も身長とサイズも増えて、より魅力的になっているだろう?

 どうだね??」

 

「いやまあショタオジも参加したそうですし、貴方達の技術力は信用していましたから失敗は無いとは思っていました。

 確かにすごいですけど、何故こんなに沢山の人が参加しているんです?」

 

「何故だって、決まっているだろう!

 理論では完成していたがショタオジしか出来ない新しい技術の誕生に居合わせるなど、皆が見学したり参加したがるのは当たり前だろう!?

 何しろ、シキガミとしての身体が彼女たちの融合に合わせて成長するかのように変化したのだ!

 素晴らしいじゃないか!

 それに、ここにいる彼女らは君たち用の新しい装備も作ってくれたのだよ!?」

 

 

 オーバーアクションで腕を翳す先にいた見学室の集団の中に、いつぞやの【螺旋棒カラドバイヴ(仮)】を持っていた見覚えのある女性技術者も混じっている。もちろん、彼女たちも徹夜明けの様子でかなり興奮していてガラスにへばり付く様子は隆和でなくとも恐怖を感じるだろう。

 そして、ガラガラと抜き身の刀身の日本刀とSF染みた様相の鞘を乗せた台車をニキの助手は奥から押してきた。

 黒医者ニキは、それを指差し書類を引っ張り出して説明を始めた。

 

 

「まずは、その刀からだ。

 それの名は、【名刀ムラサマ】だ。

 あそこにいる彼女を含めた専門アイテム開発の【NSFW】チームが研究していたアイテムの技術を応用して作られている。

 トモエたちがとにかく敵をぶった斬れる刀を希望していたので、MPを消費して起動する【準物理貫通】を付与したそうだ。

 起動時は刃の部分が赤く光り、【物理耐性】を貫通できるようになる。

 ただ、技術的にまだ『無効』『反射』『吸収』は貫通できないとの事だ」

 

「何かすごい事を言っていませんか?」

 

「ああ、私も見るのは初めてだ。

 あと彼らは、今回のこれを参考にしてロッド状の大きさまで小型化するのが目標だそうだ。

 次にトモエの着ているスーツを見てくれ」

 

 

 この刀、【名刀ムラサマ】は某サイボーグ剣戟アクションの主人公の持っていたSF日本刀を再現した物で、製作者はモデルのように巨大ロボも真っ二つに出来るのを刀としては最終目標にしている。

 ただ、開発チームとしては、突っ込む用の大人の玩具への実用化を狙っているようだが。

 続いて黒医者ニキは、黒と濃い青のカラーリングで肩と腕の甲と足先に装甲がある以外はボディにぴったりと張り付いたラバー状のスーツの、トモエが着ているとても目のやり場に困る服装を指差した。

 

 

「これは、“あいとゆうきのおとぎばなし”のロボット物のパイロットスーツを再現したものだ。

 トモエが着ているこれは、作品内で『99式』と呼ばれるバージョンのものだな。

 これも、彼女たちが主人を庇った際にもっと頑丈な物が欲しいというので、【呪殺無効】を付与した物を『NAFW』の面々に用意してもらった。

 デザインはこうだが、一般向けの鎧型の霊装より防御力はあるぞ」

 

「いや、こんな恰好だと町中を移動できないが?」

 

「まあ、ちゃんとした室内でないと着替えるのは難しいな。

 対策として、専用の着脱がワンタッチで出来るフード付きの上着用のコートがある。

 車を使うとかコスプレだのの言い訳とかで、後はこれで何とかしてくれ」

 

「ああ、まあ。そういう事なら」

 

 

 黒医者ニキの説明は本当ではあるが、今回はオーダーに従って『99式』のカラーリングになっているのが特徴だ。

 ちなみに、ここのチームでは注文に応じて別のタイプの物も作成しているのだが、訓練校タイプの肌の透過した物や極薄タイプなどのより過激なものは完全受注生産で受付販売中である。

 そこまで説明を受けた所で、黒医者ニキが手をパンと叩き注意を集めた。

 

 

「さて、もう上では待ちきれない様子の奴もいるので彼女を目覚めさせる事にしようか。

 ほら、彼女の手を握っといてやれ」

 

「ああ、そうだな」

 

「じゃあ、やるぞ。ポチっとな」

 

 

 隆和がトモエの手を握っているのを確認し、黒医者ニキは近くのコンソールにあった黄色と黒の縞々の模様で囲まれた赤い大きなボタンを押し込んだ。

 すると、彼女が寝ている台を直接照らすライトが消えて、トモエが目を開けてトロンとした眼差しで隆和に気が付き微笑みかけた。

 

 

「トモエ?」

 

「はい、主様。貴方のトモエです。

 コレットの記憶もあるのでコレットでもありますよ?」

 

「うん、良かった。目が覚めてくれて。

 起きれるかい、えーと【トモレット】? 【トモコ】かな?」

 

「名前まで合体しないで下さい。

 基本はトモエですので、今まで通り【トモエ】とお呼び下さい」

 

「そうだな、これからもよろしく。トモエ」

 

「はい、ずっと何処までもお側で仕え、あらゆる敵を屠りましょう」

 

「それじゃ、起きれるかい?」

 

「はい。体の調子もいいのでこr…………イヤァァァア!!」

 

 

 隆和と話すうちに意識がはっきりとしてきたトモエは、自分の格好と大勢の視線に気が付き真っ赤な顔になると傍にあったコートで身体を隠した。

 そして、涙を流して苦笑する隆和とテンションが高揚し過ぎて万歳三唱をする黒医者ニキを始めとする面々の大騒ぎの彼女の目覚めを、影から見ていたショタオジは誰にも気付かれないうちに気分良さげに立ち去ったのだった。

 

 

 

 

 それからの隆和はもともと決めていた滞在期限の1ヶ月を、山梨でもう一度鍛えるために訓練用の異界にリハビリを兼ねたトモエと共に潜り続ける事にした。何しろ今回の依頼の解決の評価で、以前から申請していた師匠の異界への規模の大きい応援の派遣が通る見込みが付いたと千早から報せが来たのである。

 

 今現在の例の異界は、ガイア連合製の結界で入り口を封じて中の湧き潰しのために高レベルの転生者を中心とした人員が何度か潜っている状態であった。ただし、奥の方ではレベル20~30の悪魔が複数体で出て来るためにボスの所までは無理をせずに行かないという状態のようだった。

 

 ガイア連合から依頼を受ける異能者とは、言ってしまえば「連合に登録している派遣社員」か「業務委託を受ける個人事業主」の様なものである。

 だからこそ隆和のような要請は、個人で誰かを雇うかガイア連合で予算をつけて呼びかけて貰うしかない。

 そして、千早の尽力でそれが叶いそうなのである。 

 それを聞いたからこそ隆和は、地元に戻り次第すぐに異界へ行くため鍛えることにしたのだった。

 

 トモエも新しい状態には慣れて以前よりも格段に強くなったが、隆和にも提供された新装備に慣れる方が大変であった。

 隆和に提供されたのも、『NAFW』の面々の作品である。

 隆和が、この装備を用意してくれた黒医者ニキに聞いた時にこんな会話があった。

 

 

「なあ、こうやって性能の良い霊装を用意してくれたのは感謝するが、あの連中は何なんだ?

 このやたらと性能の良いネタ装備の数々は、俺を性犯罪者にでもしたいのか?」

 

「ああ、技術班の幾つかあるアイテム開発チームはだいたい【趣味人】の集まりだ。

 興味や関心に好奇心や閃きの赴くまま開発しているから、そのままでは一般向けに出せないものもある。

 『NAFW』の彼らの場合は、エロ方面にアレ過ぎて18禁の物が多い。

 だが逆に、在庫が確実にあるので手に入れやすい面もあるので、比較的穏当な物を今回は依頼した」

 

「如何にも、俺に『エロゲの竿役』になれと言わんばかりのこれらが?」

 

「ああ、穏当で実用的な部類だ。

 【悪魔でも着れるエロ装備】や【エロスキル】に【式神用水着】【神聖な無毒媚薬】なんかも研究中だと聞いた」

 

「そうなのか」

 

「そうなんだ」

 

 

 彼に提供されたのは、新型の【青い色のツナギ】、【ギリギリブーメラン】、【チャラ男のゴールドネックレス】、【追跡者の安全靴】、【パワアーッグローブ】の5点であった。

 装飾や名称に問題があり過ぎるが、それは別として能力は優れたものであったので隆和はこれらを使う事にした。

 

 そして、1ヶ月が経ち隆和たちが大阪に戻った時、また新しい問題が発生していたのだった。




後書きと設定解説


・関係者

名前:トモエ=コレット
性別:女性
識別:シキガミ・18歳相当
職業:主人公のシキガミ
ステータス:Lv27・アタック型
耐性:物理耐性・衝撃耐性・破魔耐性・呪殺無効(装備) 
スキル(戦):マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
       タルカジャ(味方全体・攻撃力を1段階上昇させる)
       黒点撃(敵単体・大威力の物理攻撃)       
       疾風斬(敵全体・中威力の物理攻撃)
       物理ハイブースタ(物理攻撃のダメージが25%増加)
       攻撃の心得(戦闘開始時に自身のみタルカジャが発動する)
       愛の猛反撃(主人への全ての物理攻撃を確率で反撃。
             愛情の深さで確率と威力が変化する)
       鬼女の献身(味方全体・HP中回復)
       シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):家事・会話・食事・房中術(極)
装備:名刀ムラサマ(ゲーム風のSF日本刀。【準物理貫通】付与)
   小太刀(模造刀。予備武器) 
   衛士強化装備・レプカ(呪殺無効。マブラヴ強化服完全再現。コート付き)
   巫女服(呪殺無効。ガイア連合謹製改造巫女服)
詳細:
 容姿は基本トモエのままであるが、言動や仕草などはコレットの面が強い
 黒医者ニキが曰く、「コレットの記憶も受け継がれて融合している珍しい例」
 コレットと融合した事で大幅に強化され、主への執着心も大いに強化された
 霊装は、衛士強化装備(コート付き)の他に斬れ味のとても良い刀を手に入れた
 身長165cm、B:90(F)・W:58・H:86(黒医者ニキのメモより)

・アイテム

【名刀ムラサマ】
某サイボーグ剣戟アクションゲームの主人公の持っていたSF日本刀を再現した物
MPを消費して起動する【準物理貫通】が付与されており、その際は刀身が赤く光る
【準物理貫通】:【物理耐性】を貫通する。『無効』『反射』『吸収』は貫通できない

【衛士強化装備・レプカ】
某あいとゆうきのおとぎばなしのゲームに登場するパイロットスーツを再現した物
この名称は、元ネタのアニメがとあるMMOとコラボした時のものを借用した
エロいまま完全再現されているが、見た目に反し防御力と動きやすさはかなりのもの
トモエ用の物は、『99式』と呼ばれるタイプで【呪殺無効】を付与されている
また、上から着る専用のすぐに着脱が可能な隠蔽用の黒いコートも付属している 
各種タイプ違いと訓練兵用は、技術班専門アイテムチーム「NSFW」で受注販売中
(NSFW:『Not safe for work』の略で、『職場で見るのは危険だぞ』という意味)

『桜梅桃李』とは、『オンリーワン』の事


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第20話 悪意の胎動

続きです。

一気に範囲を拡げたばかりの民間組織って内部統制は難しいですよね?


 

 

  第20話 悪意の胎動

 

 

「さあ、どう?

 これが、私とトモエが一つになって誕生した【ネオトモエ】あるいは【超コレット】よ!

 あ、でも容姿もこうだし面倒だから今まで通りに【トモエ】って呼んでね?」

 

「嘘よ! コレットちゃんがトモエさんと一つになって成長したなんて嘘よ!

 あたしよりも、そんなに背もスタイルもすっごく良くなるなんて!

 悪魔だから、ずっと幼児体型だとばかり思っていたのに!」

 

「希留耶ちゃん??

 私の事をそんな風に考えていたの??」

 

「そうなの。

 わたしより視線が上になって、胸もそんなに大きくなるなんて世の不条理なの」

 

「なのは??

 二人とも、私の事を何だと思っていたの??」

 

「えーと、『永遠の合法ロリ』?」

 

「あたしは、『若作りが過ぎる中身色ボケおばさん』だと実は思ってた」

 

「むがああぁ」

 

 

 隆和たちが山梨での調整と訓練を終えて大阪に戻った日の夜、変化したトモエ=コレットを見て説明を聞いたなのはと希留耶がそんな事を仲良く言い合いしていた。

 しかし、その数週間前であるトモエの処置が終わり隆和に連絡が行く少し前、関西支部では隆和の出した異界の攻略の応援要請について揉めていた。

 

 

 

 

 大阪梅田駅近くにあるジュネス内の関西支部。

 そこの会議室では、二人の女性が激しく声を上げて言い争っていた。

 一応、支部長であるレスラーニキもその巨体を窮屈そうな背広で包んで参加しているが、他の幹部同様に止める手立てがなく沈黙して成り行きを見守っていた。

 

 一人は、天ヶ崎千早。

 山梨から監査と監視のために来ている大阪が地元でもある転生者の女性だ。

 約束通り、今回の隆和から応援要請をされた件を持ち込み予算案も含めて提出し、関西支部の正式な依頼として承認を得て大規模に行動しようとしていた。

 

 もう一人は、【幸原みずき】。

 肩書としては【関西支部副支部長】であり、千早が乗り込むまで支部どころかジュネス側の総務部と経理部を悪い意味でも牛耳っていた女傑である。

 彼女とって今回の案件は小生意気な小娘が持ち込んだ気に入らない物であり、尚且つ、自分が進めていた襲撃者の捕獲作戦を偶然とはいえ潰してくれた男の要請でもあり、踏み台ではあるが自分の縄張りである支部がそこまでしてやる義理はないと考えていた。

 

 もちろん、幸原みずきも転生者である。

 前世では90年代初頭に起きた『マドンナ旋風』に乗って、独善的な人権意識も強い彼女が賛同していた野党の一議員として参加したが国政に出る前に病死していた。

 今世でも同じように裕福な家庭で生まれ育ち、取得した弁護士資格を生かした女性市民活動団体を主導して前世と同じように政界に出ようとしていたが、仕事の案件での離婚問題で本物のオカルトに遭遇して覚醒したのが変わり目だった。

 そこで裏の世界の調査を重ね、ちょうど出来上がったガイア連合とガイアグループにたどり着いた彼女は、ガイア連合を自らの理想とする日本を実現するのに利用するため組織内で成り上がるべく、市民団体も活用し関西支部の副支部長にまでなっていた。

 

 だからこそ小生意気な小娘の言い分を潰し、自分の考える方向で処理させるべく声を張り上げていた。

 

 

「そもそも、ただの会員に過ぎない彼の要請にそこまでやるのは身内びいきに過ぎるのでは?」

 

「身内贔屓やあらへんわ。

 ガイア連合に正式に依頼するのに、所属していたら駄目やなんて規則はどこにあるん?」

 

「依頼するにしても、他の支部に居る複数の高レベルにも声を掛けるような大規模な物は認められません。

 こんな異界も処理できないのか等と、他に思われるような面子の問題があります。

 それに、報告書には“大型の異界相当”とありますが誇大な表現ではありませんか?」

 

「安倍はんの言い分だけでなく、ちゃんと調査もしたわ。

 わざわざ仕事の忙しい【霊視ニキ】はんにも来てもらったわ。

 あの人の検分に何か文句でもあるん?」

 

「ふん!

 それならそれで、こんな手間を掛けてその彼にやらせる必要があるんですか?

 そこまで大変なら、本部の神主に処理してもらえばいいでしょう?」

 

「あのな、あの異界の攻略は安倍はんがやるからこそ意味があるんや。

 それが分かっているからこそ、ショタオジも安倍はんに色々と支援しとるんや。

 それに、ただでさえ忙しいあん人を手軽に使えるなどと思わんとき!」

 

 

 千早の剣幕と周囲の咎めるような視線から言い過ぎたと判断した幸原は、一旦黙るが備え付けの水を一口飲むと何もなかったかのような顔で話を続ける。

 

 

「それなら、彼の要請がそこまで重要に扱われる根拠となる組織への“貢献”とやらにも疑問が残ります。

 彼が報告した敵対悪魔のレベルは20を越えるものが通算で数体以上いたと言う事ですが、それは我々の観測機械ではなく彼の術による物が根拠です。

 レベルの詐称や捏造があるのではありませんか?」 

 

「それはあらへん。

 報告書にも矛盾は無いし、占術の使い手や嘘発見も出来る調査専門のスタッフにちゃんと見て貰っとるから大丈夫や。

 その辺の調査能力はしっかりしとらんとアカンから、どこの支部でも一番力を入れとるのはあんたも知っとるやろ?」

 

「ふん! そこまで言うのならいいでしょう!

 ただし、募集するのは関西支部に登録や所属するメンバーだけに限ります。

 サポートをするまでは他の所属でもいいですが、攻略する人員はそれのみで行います。

 それと、サポートするメンバーへの声掛けは関西支部では行いません!

 個人で探すようにして下さいね!」

 

「現場に出て異界にも潜らへん癖に、自分勝手に決めるんやな」

 

「これでも覚醒はしていますので、あしからず。

 ブルーカラーの3K仕事は、私の業務ではありませんから」

 

 

 そこまで言うと、不愉快そうに資料を纏めて持つと幸原は足音も荒く会議室を出て行った。

 それを見送ると、千早はレスラーニキの前に来て支部長としての確認の判子を求めた。

 

 

「ほな、関本はん。判子をお願いします」

 

「あ、ああ。すまないね、天ヶ崎くん。

 俺や男の幹部では、どうにも口では彼女を止められなくてね」

 

「ええです。

 ある意味、あん人を見張るために来たようなものですし。

 ほな、この案件を進めるので何かあったら協力はお願いしますさかい」

 

「こんな事しか出来ないが、それで良ければ頼まれるよ」

 

 

 レスラーニキの判子を貰うと、千早は早速動き出すべくこの所秘書のように扱っている華門和と一門の女性たちがいる部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 幸原みずきは会議後、自分のシンパの多い部署へ来るとストレスを発散させるべく、いつものように目を付けていた女性職員たちに細かいミスをネチネチと説教をしていた。

 

 

「いつも言っているでしょう?

 あそこに送る際はこの封筒ではなく、こちらを使うようにと!

 それに、この書類の判子の位置と順番が間違っています。

 早急に作り直して、判子を貰ってきなさい!」

 

「あなたはこの書類の資料を明日の朝までに作りなさい。

 もうすぐ定時だから無理? いいから、やりなさい。

 それと、あなたの残業は法定時間を越えるから早朝にやりなさい」

 

「は? 昼間に飛び込みのトラブルがあって定時までに終われない?

 あなたの工夫や努力が足りないからそうなるんでしょう!

 罰です。タイムカードを定時で処理してからやりなさい!

 終わるまで帰ることのないように!」

 

「はぁ? 依頼書の内容と違う? 仕事をしている間に終了した?

 その手のクレーム処理は、受付の貴女がなさい!

 『既に襲撃者は倒されていますので、報酬の割増はもうしていません。

  終了時刻に関しては、こちらでアナウンスすると事前に告知しました。

  それに納得されてサインされたのですから、規定の報酬をお受け取り下さい』

 それで、納得させなさい!」

 

 

 一通り言い終わって落ち着き、自分の机に着くと親指の爪を齧りながら考えた。

 

 彼女としてはとにかく千早がと言うより、その背後に見え隠れする『千川ちひろ』に途轍もなくイライラさせられていた。『未覚醒なのに、有能で自分の上役である』という一点においてだけで。

 それには自分の功績となるはずだった作戦を邪魔したくせに、それまで単なるレベルが高いだけの3K仕事に従事する女好きとしか考えていなかった隆和についての情報が足りない。

 彼女としても、異界の攻略を完全に頓挫させる事のリスクは多少知っているだけに余計面白くなく思っていた。

 だが、だからこそあの小娘を一度黙らせないと我慢できない。

 そのため、彼女の行動を完全に潰したり頓挫させるような真似は出来ないが、失敗しない程度に足を引っ張る事に決めた彼女は、手下の女性職員達に千早たちの処理の遅延などの嫌がらせをさせつつ情報を集めていた。

 

 そして、山梨にも居る自分の影響下の職員からの情報を受け取った時、彼女は他人が見たら怖気が走る様な笑みを浮かべると動き出した。

 

 

 

 

 その日、差出人不明の封書を受け取った【芥田進】は、このところの連続して起きた身内が起こしたトラブルの処理に追われて自宅で深酒をしている所だった。

 

 彼は若い頃、詐欺師として貴金属や和牛にゴルフ会員権での仕事を成功させて一財産築き、金のある所を見せてある会社重役の娘を口説き落として結婚し、後を継いで重役になる事で社会的に成功していた。

 しかし、生まれた息子が“化け物”だったせいで家庭は崩壊し、責任を擦り付けあった末に今では双方に別に相手を作って別居をしている状態だった。

 

 その“息子の姿をした化け物”が遺体になって戻ってきた。

 

 久しぶりに見た半狂乱でその遺体に縋り付く妻を抑えて妻の強い希望で教会式の葬式の喪主を務め、妻だったものを実家の親戚たちが心の病院へ連れて行くのを見送った。

 色々と疲れ自宅で酒を飲み始め、ふと気がつくと仕事でよく使う封筒に似たこの封書が新聞入れにあるのを見つけたのだった。

 

 

「何だこりゃ、まあいいか。

 …………………、おい本当なのか、それは!」

 

 

 その封書には、黒塗りのされたDNA鑑定書の写しと写真、そしてワープロ印刷の手紙が入っていた。

 写真は遠目から隠し撮りした隆和の写真で、手紙にはこう書かれていた。

 

『拝啓

 貴社の重役たる貴方におかれましては益々ご清栄のことと心よりお慶び申し上げます。

 このたびはこちらにて厳選した情報をお贈りしました。

 是非ともご利用いただけると自負しております。

 

 添付したデータにある通り、そちらのご子息と写真の男性は母親違いのご兄弟でしょう。

 彼は今、そちらとも取引のあるガイアグループにて勤務しております。

 ご子息を亡くされたばかりなのは悲しいでしょうが、お会いになられてはいかがでしょう?

 

 それでは、今後も変わらぬご厚誼のほど宜しくお願い申し上げます。

 本来であれば拝眉の上ご挨拶を申し上げるべきところ、略儀ながら書中にて失礼致します。  敬具』

 

 確かに朧気だが、この男には30年近く前に子供が出来たと告げたので行方をくらませて捨てたあの女の面影があると彼は思い出した。

 しかも、工業部品を納めているうちの会社の大手取引先であるガイアグループに勤めているとあるではないか。

 頭の中を打算が蠢き、上手いことこちらに取り込めば自分の功績と出来るのではないかと進は思いついた。

 そして電話を取り、個人的によく使う興信所を呼び出し仕事を頼んだ。

 

 

「こいつが今どんな仕事をしているかはこれから調べなきゃならんが、手紙のことが本当なら利用のしがいはいくらでもある。

 壊れたあの女や死んだ化け物は切り捨てて、こいつを使ってみることにしようか。

 さて、どんな父親の顔で会いに行こうか」

 

 

 かつて、“ハイエナ”と呼ばれた詐欺師の頃の事を思い出し、芥田進は暫く振りに愉快そうに嗤った。

 

 

 

 

 大阪に戻って隆和が連絡をくれた異界の件について千早に会いに行った時、彼女は渋面のまま彼に告げた。

 

 

「安倍はんの実の父親を名乗る男性から、しつこく問い合わせが来とるんや。

 しかも、毎回うちの所に対処が回されて来とる。

 すまないのやけど、一度会ってくれへんか?」




後書きと設定解説


・関係者

名前:幸原みずき
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・36歳
職業:市民活動家弁護士→ガイア連合関西支部副支部長
ステータス:レベル4 破魔無効
スキル:金切り声(雄叫び)(敵全体・攻撃の威力を2段階下げる)
    逃走加速(逃走の成功率が上昇する)
    説得、脅し、恐喝、根回し
詳細:
 政界に見切りをつけガイア連合関西支部に潜り込んだ女性転生者
 ヒステリックで煽る言動が多い性格でキツい印象の容姿の美女
 上昇志向が強く、フェミニストを標榜する独善的な理想主義者

彼女、アニメ準拠だから声も無駄に綺麗なんだぜ。


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第21話 悪意の終焉

続きです。

策謀の場面、上手く表現できているかな?


 

 

  第21話 悪意の終焉

 

 

 その日、隆和と面会する約束を取り付けた芥田進は、“人生に疲れて希望となるかもしれない生き別れの息子に会おうと必死な可哀相な父親”となるべく髪型や無精髭、最低限の身だしなみ以外のヨレヨレのスーツやメイクまで用意し、そう成り切るように準備万端にしてタクシーで指定の場所へと向かった。

 

 親子だという情報は、興信所の調査とこれも昔馴染みの裏の顔もある医者にDNA鑑定書を見せて確認を取り七割は真実だと考えていた。

 これで上手く行けば新しい息子を得て再出発が出来るかもしれないし、そこまでいかなくてもガイアグループ相手の社の売り上げを向上させる何かのコネや交渉材料に出来るのではと皮算用していた。

 

 彼が指定されていたのは、再開発の進む梅田駅近くの高層ビルにある貸し会議室だった。

 タクシーの中で演技の確認を考えていた彼は、入り口につくとオドオドキョロキョロと落ち着かない雰囲気を出した想定通りの演技をしつつ警備員に案内され中に入った。

 そして、通された部屋には、彼から見ると写真に写っていた男である隆和と千早がそれぞれスーツを着込み待っていた。

 当初の予定通り、涙を流して隆和に縋りつこうした彼に隆和はこう言い放った。

 

 

「はじめまして、芥田進さん。

 こうしてお会い出来ましたし、もう満足でしょう。

 これ以降、接触を試みるなら弁護士を立てますのでいいですね?」

 

「え? は?」

 

「今回、連絡を受けてこうして場を用意した天ヶ崎千早です。

 お互い生きてる事が分かりましたし、彼の意思としてもう会うことはないです。

 彼も言うとる通り、これ以上の接触は弁護士を通して下さい」

 

「い、いや、ちょっと待ってくれ! 

 こうして息子かもしれない彼と会えたんだ。話くらいさせてくれ!」

 

「真偽も不確かな情報でこちらを調べ、ここまで執拗に干渉するんやで?

 会えただけで、満足しい。

 もう話す事はあらへんやろ。お引取りを」

 

「少しだけでいいんだ。少しだけでも!

 もし、本当に息子なら償いくらいさせてくれ!

 うちの会社で良ければ、無理を言ってポストも用意するから!」

 

「警備員はん。

 お客様はお帰りや。表までご案内してや」

 

「は、話をさせてくれーーーっ!」

 

 

 騒いで暴れる芥田進を二人がかりで運び出す警備員たち。

 それを見送り、ため息をつく隆和。

 

 

「これで良かったのか?

 これで、まだ何かされるようなら困るんだが?」

 

「ええよ。ええよ。

 向こうの希望通り、一度は面会はした。これでええ。

 後の対応はこっちで用意した弁護士に任せるさかい、安倍はんは安心してや。

 ああいう手合いには話をさせん事が一番の対処法やし。

 もう、会う気は無いんやろ?」

 

「ああ。もうこれで、異界に向かえるんだね?」

 

「そや。

 態度次第では考えたんやけどなぁ。

 あの男に関しては、もう一手打っておいたからこれで終いや」

 

「もう一手?」

 

 

 にっこりと笑みで返答する千早に、危険を察知し黙る隆和。

 そして、隆和の腕を取り笑みのまま話しかけた。

 

 

「ちゃんとこうやって役に立っているって見せたんやさかい、少しはご褒美欲しいわぁ」

 

「ご褒美?」

 

「せっかく時間を調整して終わらせたんやし。

 一緒に昼食をするくらいええやろ?」

 

「うーん、まあ。夕食じゃないし、それくらいなら」

 

「やった!

 ほな、このビルに新しく出来たレストランがあってな……」

 

 

 そう言うと、隆和とウキウキとしながら千早は連れ立って食事に行った。

 この後、食事後にまるで初心な中学生のようなデートをして日暮れ前に帰った隆和に、楽しく会話と食事をできた事で午後からいろいろな事を狙っていた千早は拗ねた。

 

 

 

 

 ビルから追い出され、タクシーを待つ芥田進は途方に暮れていた。

 何がいけなかったのかまるで解らないまま、考え込んでいた彼に電話がかかって来た。

 折りたたみ式の携帯を取り出し出た途端、怒りを押し殺した様子の今は彼の上役で義父でもある専務の声が聞こえてきた。

 

 

「今はどこにいるのかね? 芥田常務」

 

「は、はい。有給を取り、所要で梅田にある〇〇ビルにいます」

 

「そうか。すぐに戻りたまえ。話がある」

 

「は? 話とは?」

 

「娘と孫を一度に失い、気落ちしているかと思っていたのだがね?

 他の女を抱く元気はあるみたいじゃないか?」

 

「は、はあぁ!?」

 

「弁護士の内容証明付きで社内で不倫をしていた事が知られたぞ。

 相手の夫の弁護士からも連絡が来ている。

 最後の義理だ。社内での弁明の場は与えてやる。

 すぐに戻って来い」

 

「す、すぐに戻ります」

 

 

 ピッと電話を切り、脂汗を流しながらちょうど来たタクシーに乗り芥田進は戻って行った。

 この後、彼から隆和に干渉してくる事は二度と無かった。

 

 

 

 

 この日の数日後、大した嫌がらせにもならなかった芥田進の顛末を知って幸原みずきは、表に出してはいないがいつものパワハラのストレス発散をする余裕もないほどに内心はとても荒れていた。

 数十分前、デスクの彼女宛に直接かかって来た電話が彼女をさらにそうさせていた。

 相手は、彼女がこの世でこの上なく嫌悪している【千川ちひろ】からだった。

 

 

『聞きましたよ、幸原さん。

 なかなか面白い事をしている様ではありませんか?』

 

「はい、何の事でしょうか? 千川さん」

 

『いえ、直接ではないにしろ、内部情報を余所に漏らすような事を示唆した方がいるみたいじゃないですか?』

 

「さあ、心当たりはありませんが?」

 

『なるほど、まあそう来ますよねぇ。

 ああ、関係ない話ですけど、技術班の研究棟で働いていた彼、大阪にいるご両親の分のシェルターが買えたそうで。

 早速、ご両親を山梨へ呼んだそうですよ?』

 

「はあ、それは彼にはおめでとうと言うべきかも知れませんね」

 

 

 冷静な話し方をしているが、この時点で彼女は既に腸が煮えくり返っていた。

 せっかく苦労して用意した、大阪にいる両親の事をそれとなく言うことで山梨から情報を得ていた重要なラインの一つが潰され、また新しい生贄を探さなくてはならない労力を考えると損害賠償の請求をしたくなる位だった。

 彼女をひどく苛つかせるちひろとの話は続く。

 

 

『話は変わりますけど、関西支部が担当している大型異界の攻略は大変そうですね。

 ただでさえ、京都や奈良といった千年以上日本の中心だったところですから、対処しなければならない大型クラスの異界も多いでしょうし。

 さぞ、仕事も多いかと思います』

 

「いいえ、優秀な人材も多いので他の支部では対処できないでしょうが、うちは違うので。

 どこかの年増女ばかりの遺物しかいない北の果ての支部とは戦力が違います」

 

『それはすごいですねぇ。さすが関西支部と言ったところでしょうか。

 まあでも、それでも味方の足を邪魔するような人もいるとか?』

 

「さあ、何のことやら判りかねますね。

 うちにはそのような事を直接的にするような愚か者はいません。

 それに、他人の縄張りに嘴を突っ込むのは嫌われると思いません?」

 

『そうですよね。

 流石に、支部内で大っぴらにそんな事をけしかける人なんていませんよねぇ。

 ああ、そうそう幸原さんが代表をしている市民団体ですけど、外国人の方多いみたいですね。

 メシア教に関係している人はいないようですけど、在留資格の期限は大丈夫ですか?』

 

「…っ! え、ええ。大丈夫ですわ。

 差別のない女性が自立できる事を目指す平和な団体ですから」

 

 

 そこを言い当てられた途端、幸原みずきの背中に冷たい汗が流れた。

 

 市民団体の連中は、外部で活動する彼女の重要な手駒でもある。

 彼女の言う目標の個人情報を調べ、彼女の望みを間接的な物言いで大勢で優しく伝えるのが主な使命である。

 まあ時々、素直ではない相手の悪評を流したり、器物の損壊や動物の死骸の遺棄に怪文書の配布などをするが【彼女らの正義】のためであるから誤差の範囲である。

 例の大阪に両親のいた彼や幾人かを素直にし、芥田進に封書を送りつけたのもこいつらの仕業である。

 

 どこかでオカルトを軽視し山梨支部の人間とは面識が薄い彼女には、どこまで向こうがこちらの事を把握しているのか判らなくなった。

 今までの彼女にとって、ショタオジは【得体が知れないが、便利な道具を作る子供みたいな男】で、霊視ニキは【目がいいらしいヤクザ】、ちひろは【未覚醒なのに、有能で自分の上役である生意気な女】で、他の幹部も【自分が管理してやるべき可哀相な連中】という認識でしかなかった。

 

 だからこそ、支部の誰にも言わず隠蔽しているはずの団体の詳しい内情を言い当てられて、彼女は激しく動揺してしまった。

 

 

『それでは、次はないと思いますので気をつけて下さいね。

 それと理由は分かりませんが、戒告処分と三年間の減給の指示が出ると思いますので。

 ああ、他の方々も解放されたので。それでは』

 

「はい、し、失礼、し、しますっ!」

 

 

 ギリギリと爆発しそうになるのを抑え、自分の机から離れた場所にある女性トイレに入ると洗面台の鏡を殴った。

 もちろん覚醒者対策済みなので割れることはなく、彼女の拳の方が出血していた。

 そして、親指の爪をギリギリと噛みながら鏡を睨みつけ、自分の手駒や手段は漏れなく全て潰すと宣言したちひろの顔を思い浮かべ彼女は叫んだ。

 

 

「あんの、小娘ぇぇぇぇ!!

 いつか必ず、絶対に潰してやるぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

「馬鹿じゃないんやろか?

 監視対象なんやから、詳しく調査するんは当たり前やろに」

 

「何か言いました? 千早さん」

 

「和はん、何でもあらへん」

 

 

 幸原みずきがトイレで吠えていた日からさらに数日後、諸々のトラブルがようやく片付き隆和の要請に対しての準備が出来たと伝えるために、千早と華門和は隆和たちの家に来ていた。

 ニュースでどこかのNPO法人に不正受給で警察が踏み込んだと流しているテレビを消し、なのはやトモエと共に隆和は彼女たちを出迎えるとお互いにソファに座り、彼女らが用意してきた資料を見ながら今後の予定について話していた。

 

 

「予定の期日は一ヶ月後、3月の最初の日曜日や。

 こちらの予定では、うちのツテで外部から協力者を2チーム呼び寄せるつもりや。

 最奥への突入は、基本、安倍はんとトモエはんになのははんのチームになる。

 関西支部からは、レスラーニキを始めとする混合チームと外部のチームが一緒に突入する。

 それと、入口付近にこれも外部の協力者も含めた治療用のベースキャンプを作るつもりや」

 

「ここに書いてあるが、突入に外部のメンバーは使えないんじゃないのか?」

 

「その人ら、有名な傭兵集団でな。この作戦の間だけ、関西支部に所属扱いになる。

 まあ、彼らは悪魔を殺すのが目的の集団やけど」

 

「その言い方だと、不安が残りますよ。千早さん。

 傭兵ですから、払いが確かなら契約は遵守していると記録にあります。

 だから、大丈夫ですよ」

 

「主様の邪魔にならなければ、どうでもいいわ」

 

「それで、そっちの準備はどうなん?」

 

 

 千早にそう聞かれ、手帳を取り出して確認するなのは。

 少し頬が紅潮している。

 

 

「わたし用の新装備と隆和くんの新装備が山梨から届いて、慣れる必要があるけど間に合うの。

 練習用の異界も調査済みなの」

 

「それなら、大丈夫そうやな」

 

 

 そこまで千早たちが言うと、隆和は彼女たちに告げた。

 

 

「ありがとう。千早ちゃん、華門さん。

 こうして、やっと師匠のところへ行けるよ。

 なのは、トモエ。生き残って一緒に戻ろう。

 そうしたら、みんなで凱旋パーティでもしたいな」

 

「大丈夫なの。敵はみんな、私が吹き飛ばすの!」

 

「そして、私が前にいる敵は全て斬り伏せますから!」

 

 

 こうして、彼らはようやく隆和の師匠が待つ【大内屋敷】の異界へと赴くのであった。




後書きと設定解説


・関係者

名前:“ハイエナ”芥田進(あくたすすむ)
性別:男性
識別:異能者・56歳
職業:ガイアグループ取引企業の常務
ステータス:レベル2 破魔無効
スキル:闇討ち(敵複数体・新月時に限り4回の少威力の物理攻撃)
    口説き落とし・ゴマすり・引き止め
詳細:
 元詐欺師で、隆和の母親(安倍七菜)を一方的に捨てた実父
 口が上手く会社幹部の娘と結婚して今の地位についた
 芥田六三四の父親で、妻とはお互いに別居状態


次は、出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第22話 異界突入準備

続きです。

今回は、ある意味装備ネタ回。


 

 

  第22話 異界突入準備

 

 

 準備期間の1ヶ月が過ぎ、師匠のいるであろう異界攻略の当日となった。

 

 異界のある場所は、京都の公的な地図から消された小さな廃集落の中にある廃寺の一角にある。

 そのため、かろうじてアスファルトの残る1台分の幅しかない車道を、『ガイア運送』と書かれた冷凍トラックが3台、黒塗りの大型バンの4台がそこを通って目的地の廃寺の近くの広場まで移動していた。これらのトラックは連合員の装備運搬目的の為に中が改造されており、1台が表だって運べない装備運搬用で、他の2台は女性の着替え用の車であり冷蔵機能は車内用のエアコンに付け替えられている。

 寺の門の階段の下にある元は屋敷の瓦礫を片付けて作られた広場に、大型バンが次々と停まり中から大勢の人たちが降り始めると、一際大きい体格のレスラーニキが声を張り上げる。

 

 

「よーし、それじゃあ各自決められた通りに準備開始だ。

 突入班は装備の準備だ。

 ベースキャンプの設営班は俺について来てくれ。

 突入は、30分後だ。動くぞ!」

 

「「了解です、支部長」」

 

「我々も行動開始だ。駆け足!」

 

「「はっ、大佐殿!」」

 

 

 他の各チームが動き出すのを見て、隆和もなのはとトモエに話しかける。

 

 

「濃い人が揃ったなぁ。

 こっちも準備をしようか?」

 

「人前であれを着るのは恥ずかしいんですけど、主様?」

 

「そうなの。さらに、『元ネタそのまま』だなんて言われるの」

 

「かと言って、今回はレベル30超の悪魔が出るだろう最奥に突入するんだ。

 ちゃんと、防御力の高いやつを大枚はたいて買ったんだからね。

 大丈夫。二人ともよく似合っていて綺麗だし、ね?」

 

「そ、そこまで言われると照れるの」

 

「悪い気はしませんけど」

 

「それにさ、充分、他のみんなもコスプレの集団みたいなものじゃないか。

 それに、俺の【能力は優秀な下ネタ装備】よりはいいんじゃないか?」

 

「あっ。じゃ、じゃあまた後でなの」

 

「す、すぐに戻ります、主様」

 

 

 隆和の言葉になのはとトモエはそそくさと自分の装備を運搬用のトラックから受け取ると、着替え用のトラックへと移動し中には入った。

 隆和も憮然とした表情でバッグを取ると車の中でさっさと霊装に着替え、表に出て改めて車のミラーで自分の格好を見る。

 

 一見何処にでもあるような前側にあるチャックを開け閉めして着るタイプの青い全身つなぎの改良型【アーッニキのツナギ】、少し開けた首元にはHPの上昇する【活脈】のスキルが付与され女性型悪魔の目を惹き付ける効果もある男性用の金のシンプルなネックレス霊装【チャラ男のゴールドネックレス】、両足には外見は工事現場でよく使われるハーフブーツ型の革製の安全靴だが、障害物を躱して移動でき転倒しにくくなる効果と装備者の速のステータスを少し増加する【追跡者の安全靴】、ここまでは隆和でもまだ許せる範囲だ。

 

 でも、両手に付けた格闘家が使う手首と拳を保護できる黒のオープンフィンガーグローブで、右手の甲に『耽』と左手の甲に『靡』がそれぞれ達筆の白字で書かれている格闘ダメージを上昇させる効果のある【パワアーッグローブ】と、中に着ている効果を使うのも憚れる尻に達筆の白抜きで『摩』の印刷がある黒いブーメランパンツの男用水着霊装【ギリギリブーメラン】は、我慢できずに隆和は山梨の黒医者ニキに抗議の電話を入れた。

 入れたのだが、その有用な効果をこんこんと説明されて実際に有用なため折れるしか無かった。

 

 それを思い出し、ため息をついていると着替えたトモエが現れた。

 

 あの某あいとゆうきのおとぎばなしのゲームに登場するピッチリとした体のラインが諸に出るパイロットスーツを再現した【99式衛士強化装備・レプカ】の上に専用の黒いコートを着込み、左腰にはメカメカしい鞘に納められた刀身が1m近くある【名刀ムラサマ】を下げている。

 

 

「主様。準備完了です」

 

「ああ。ん? ……なのはは?」

 

「それが……」

 

 

 トモエが後ろを振り向くと、【ししょーパラ子・レプリカ】の女騎士姿のニヤニヤと笑っている某騎士王似のモリソバに引っ張られて着替えが終わったなのはが真っ赤な顔で現れた。

 

 

「やっぱり、この歳でこの服は恥ずかしいの!」

 

「何言ってるの? よく似合っているじゃない。

 ほら、上を向いて『少し頭を冷やそうか』と言ってみて?」

 

「言・い・ま・せ・ん」

 

「ほら、もう彼氏の前だから遅い遅い。

 あ、彼氏さん、どうも。

 恥ずがしがって、動かないから連れてきたよ」

 

「…………どうかな?」

 

「うん、可愛いよ。選んでよかった」

 

 

 真っ赤な顔でもじもじとしながら、なのはは両手で持っていた専用の杖をドスンと地面に立てた。

 

 あの彼女がそっくりだと散々言われていた某リリカルな魔砲少女アニメに登場する主人公が19歳時の胸元の赤いリボンと青と白で構成された服を再現した衣装を、唯一サイドテールの髪型のまま白いリボンをつけた彼女は纏っていた。この服は他の3人娘の衣装と同様に連合員向けに販売されているものを、隆和が代金を全て払って彼女用に仕立て直したものである。

 ただ、手にしている杖は少し違うものだった。

 柄の途中から某白羽根つきWのロボットが持っていた主力兵装である大出力ビームライフルの様に変わり、途中に左手で保持する取手とトリガーの付いたゴツい両手持ちのなのは専用の杖【バスターライフル・スタッフ】を彼女は持っていた。

 製作者曰く、【ビームライフルに見えるかもしれないが、これは杖です】と述べていたと言う。

 

 恥ずがしがっているなのはを頷いて見ながら、隆和は最後の追加装備を封魔管から呼び出した。

 

 

「出てこい、【ファース】」

 

「はっ、上官殿!」

 

 

 隆和の傍らに、白地に赤十字のマーク付きのヘルムと腕輪をした自衛隊の衛生兵の服装をした金髪碧眼の10代前半の美少女のような容姿の美少年?が、彼に敬礼をして現れた。

 ただ、その背中には白い羽根が生えていた。

 

 彼?の名前は【天使エンジェル】の【ファース】。『ファーストエイド』の略で【ファース】である。

 

 もともと彼?は、とある異界の過激派の天使を掃討する依頼で捕獲されたボス天使に召喚されていた天使である。

 捕獲した転生者のその人物は技術検証用の実験用悪魔を欲しがっていた技術班の友人に彼?を譲渡し、その技術者の所で趣味の入ったやり方で散々いじくり回され飽きられた後はガチガチに契約で縛り上げて治療用の“備品”として使われていた。

 そこを偶々、隆和が抜けた治療役の仲魔を探してくれと相談されていた黒医者ニキが丁度いいとばかりに交渉の末に二束三文で譲り受け、隆和の新しい仲魔として送られて来たという経緯でここにいた。ちなみに、この姿も天使っぽい白い服からその技術者の趣味で今の服装に変えられた。

 

 どこか諦観のある光のない目でこちらを見るファースに、やり辛いなと思いつつ隆和は告げる。

 

 

「いいかい、君の任務はここにいる3人の現場での治療が任務だ。

 その次は、なのはの護衛を優先するんだ。

 後は、適宜、MPに余裕があるなら周りの人間の治療をしなさい。

 あと、MPが切れそうな時はここにいる3人の誰かに報告すること。いいね?」

 

「はっ。了解しました、上官殿。

 なのは殿、随伴しますので何かありましたらご命令を」

 

「よ、よろしくなの」

 

「天使が彼氏さんの使い魔かぁ」

 

 

 甲高い子供の声でそう答えると、複雑そうな表情のなのはの傍らで待機するファース。

 準備が出来た5人は、異界の入り口を目指して階段を上り崩れた寺の門を通り過ぎた。

 

 

 

 

 廃寺の中に入ると、そこは隆和が来ていたときとはまるで違う光景がそこにあった。

 

 彼らが来ていた頃は崩れ落ちて朽ちた木造の建物があり、その角に異界の入り口の目印になっていた岩と小さな祠があってそれ以外は何も無かった。

 しかし、今の状態は入り口のすぐ近くに設置型のバリケードと簡易テントがあり、忙しく色取り取りのコスプレの集団にしか見えない人々が大勢動き回っていた。

 

 その中で一際目立つ人物といえば、隊列を組んで全員が目出し帽と迷彩服の上から防弾ジャケットを着込み、手にボウガンや改造モデルガンを持った20人ほどの一団を後ろに従えた某錬金術師漫画の火炎使いにそっくりな軍服の人物がいる。

 そして、それ以上に目立つのが、白とピンクのリボンがたくさん付いたへそ出し魔法少女の衣装をピッチピッチに着ている身長2mマッチョのレスラーニキが真面目な顔で軍服の男性と打ち合わせをしている風景だろう。

 それに、近くにいる軍服の一団の何人かは小刻みに体を震わせながら隊列を維持しているのは、こちらにも飛び火しそうなので止めて欲しいと隆和となのはとモリソバは思った。

 

 その光景を見て足を止めていた隆和たちに気づいたレスラーニキが手を振るのを見て、そこから一抜けするかのようにモリソバは声を掛けて駆け足で離脱した。

 

 

「おーい!」

 

「ぷっ、そ、それじゃこっちはあそこの簡易テントのベ、ベースキャンプと入り口の護衛がし、仕事だから。

 なのは、彼氏さん。じゃ、じゃあ!」

 

「あ、こら。ふぇいとちゃんてば!」

 

「だ、だから、本名言うなし!」

 

「こっちだ、こっち。打ち合わせするから来てくれ、アーッニキ」

 

「ああ」

 

 

 走り去るモリソバに文句を言うなのはと右手で太ももを抓りながら無表情で黙っているトモエを伴い、お互い様な格好だよなと思い笑う気にはなれない隆和は魔法少女レスラーニキの所へと話が出来る距離の側まで近寄った。

 そして、表情を崩さずこちらを冷徹に見つめる軍服の男性と挨拶をし、主に視線をそちらに向けて打ち合わせが始まった。

 

 

「アーッニキ、魔王ネキ。

 こちらは今回、天ヶ崎くんが本部に掛け合って呼んでくれた味方の【大佐ニキ】だ。

 大佐ニキ。

 彼らが今回最奥まで突入するチームの一つで、アーッニキと魔王ネキだ」

 

「大佐ニキだ。

 異能者のPMC【国境なき復讐者】の代表でもある。

 今回、君らと共にこの異界の悪魔の殲滅の依頼を受けた。

 よろしく頼む」

 

「よろしく」

 

「よろしくなの」

 

「今回の作戦では、彼ら大佐ニキとこちらで選抜したメンバーが数人ずつチームを組んで奥に突入する。

 大佐ニキのところとは違ってこちらはバラバラに動くだろうから、そこは注意してくれ。

 それと、俺はレベルが奥まで行くには足りないからな。

 救助と入り口の確保のために、内部の入口付近で指揮をする事になる。

 何か質問は?」

 

 

 大佐ニキが隆和たちをちらりと見て質問する。

 ファースを見た時、一瞬だが睨みつけるようにしているのに隆和は気づいた。

 

 

「一つ聞きたい。

 最奥にいるらしい彼の師匠とやらの扱いについてだが、こちらは触れなくても構わないな?」

 

「そうだな。

 彼によると奥でボスの女性悪魔を封印し続けているらしいが、その辺の対処は彼に任せよう」

 

「そうなると、彼らを最奥まで送り届けるのも目的の一つになるな。

 では、もともとこちらは悪魔の殲滅を目的にしているから、露払いは任せてもらおうか」

 

「ああ、大佐ニキはそういう事で頼む。

 治療は、本部からも呼んだ応援をそこのベースキャンプに置いているから安心していい」

 

 

 簡易テントのあるベースキャンプの方を見ると、本部から来た応援の人らしいウサギを肩に乗せた若い男性や胸のとても大きい某源氏の総大将の女性シキガミを連れた少年に、ピンク色のマシュマロのようなシキガミを連れた中年男性などこの辺ではあまり見かけない人たちも出入りしている。

 彼らが、レスラーニキの言う治療担当の応援だろうと隆和は考えた。

 

 そこへ、ピピピッとレスラーニキの左腕のこれだけは男性用の銀色の腕時計がアラームを鳴らした。

 突入開始のようだ。

 レスラーニキと大佐ニキは周囲へと声を掛け始めた。

 

 

「時間だ!

 それぞれチームを組んで、突入開始だ。行くぞ!」

 

「聞いていたな、隊員諸君。

 こちらもチームを組んで突入開始だ。

 効率よく悪魔を殺すぞ! 状況開始!」

 

 

 バタバタと一斉に動きが慌ただしくなり、祠の前で待機していた職員が結界を解き入口を開ける。

 暗い穴のようになっているそこへ、準備の出来たチームから総勢数十名がぞろぞろと突入して行った。

 隆和も皆に声を掛け腰のアイテム入れのポーチを確かめると、入り口へと移動を開始した。

 

 

「それじゃあ、行こうか。必ず生きて戻るぞ!」

 

「はい、主様」

 

「はいなの」

 

「了解です、上官殿」

 

 

 そして、隆和たちも暗い穴のような異界の入り口へと突入して行った。




後書きと設定解説


・仲魔

名前:ファース(ファーストエイド)
性別:両性
識別:天使エンジェル
ステータス:レベル13
耐性:破魔無効・呪殺弱点・精神無効(契約者は除く)
スキル:ハマ(敵単体・低確率で即死付与)
    アギ(敵単体・少威力の火炎属性攻撃)
    ディアラマ(味方単体・大回復)
    アムリタ(味方単体・状態異常を全て回復)
    飛翔(障害物を無視した移動が出来る)
    房中術(弱)(取得経緯は察して欲しい)
詳細:
 金髪碧眼の10代前半の美少女のような容姿の備品扱いされていた天使
 一部の技術班員により趣味の入った調整処理済みで絶対に逆らえない仕様
 白地に赤十字のマーク付きのヘルムと腕輪をした衛生兵の服装をしている

・アイテム

【アーッニキのツナギ】
前側にあるチャックを開け閉めして着るタイプの青い全身つなぎの霊装
いろいろと改良され、正式名称がこれになった
麻痺無効と回避強化を付与されている代わりに防御力は低い

【ギリギリブーメラン】
尻に達筆の白抜きで「摩」の印刷がある黒いブーメランパンツの男用水着
効果は後ほど

【チャラ男のゴールドネックレス】
チャラ男がよく着けそうな金のシンプルなネックレス
HPの上昇する【活脈】のスキルが付与されている
また、女性型悪魔を惹き付ける自動効果あり

【追跡者の安全靴】
外見は工事現場でよく使われるハーフブーツ型の革製の安全靴
障害物を躱して移動でき、転倒しにくくなる効果がある
また、装備者の速のステータスを少し増加する

【パワアーッグローブ】
格闘家が使う手首と拳を保護できるオープンフィンガーグローブ
色は黒で、両手の甲の箇所に白字で「耽」と「靡」がそれぞれ達筆で書かれている
使用している間、格闘ダメージを少しだけ強化する効果がある

【ナノハ・バリアジャケット】(なのは用)
某リリカルな魔砲少女アニメに登場する主人公19歳時の服を再現した物
コスプレ衣装の様だが、見た目に反し霊装としての防御力はかなりのもの
【呪殺無効】を付与され、靴やストッキングにリボンまで全てセットで揃っている
女性用の霊装として、他にフェ◯トやは◯ての物も一般販売している

ネタ装備は考えるのが楽しい。


次は、出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第23話 異界・大内屋敷

続きです。
いよいよ、ラスダン突入。


 

 

  第23話 異界・大内屋敷

 

 

 【異界・大内屋敷】へと、いよいよ突入した。 

 もちろん、雪崩込むような勢いではなく奇襲を受けないように慎重に進むのだが、隆和たちが見覚えのある異界内の入り口に到着すると先に入っていたメンバーが困惑したように立ち止まっていた。

 遅れて自分が率いるチームを連れて入って来たレスラーニキに、先に斥候に出ていた一人が大慌てて戻って来て彼に報告している。

 

 

「支部長! 大変です!

 事前の情報と内部が食い違っています!」

 

「どうしたぁ、報告しろ!」

 

「は、はい!

 内部の外観も変化していますし、出現する悪魔も違います!

 天使の群れがいます!」

 

「何だと!」 

 

 

 目の前には隆和も見慣れた入口になる左右を高い瓦屋根付きの塀で遮った寺風の大門があるが、先行しようとしたチームが門の扉を開け放つとその向こうには異様な風景が広がっていた。

 

 山梨支部にも報告書を上げた隆和が見た異界だと、中は常に曇天が広がり薄暗い空のある寺の庭のような風景が広がっていた。

 また、ここの異界は高い塀と門で遮られたエリアが連続で続く造りになっており、最奥に行くにはそれらのエリアを守る敵を倒し複数回それを突破しないとたどり着けなくなっていた。

 塀の高さは2mを越えていて侵入者は乗り越えようとすると、透明な壁で遮られ乗り越える事は出来なかった。さらに、この異界にいる空を飛ぶ悪魔と互いの攻撃は通過できるため、遠距離攻撃を隆和たちはよくされていたものだった。

 そして、奥の方角には小高い石垣で出来た高台に塀で囲まれ一際大きい瓦屋根が中央に見える事からそこが最奥の屋敷だと思われていた。

 

 しかし、今そこに広がる光景はそれとは違っていた。

 

 奥に広がる空は晴天の明るい空となっており、エリアを遮る塀と大門が白亜の西洋風の石を積み上げた城風の塀と大門に変化していた。また、床は白い砂利と石畳の日本風のものが芝生と白い石の通路に変わり、節目節目で通路を照らしていた石灯籠は聖人の石像や十字架の立像へと変わっていた。

 そして、奥に見えるはずだった日本家屋の屋敷も一際高い鐘楼を持つ荘厳な白い教会へと変わり果てていた。

 

 その変わり様に呆然とする隆和の横で、それを見つけた大佐ニキが叫ぶ。

 

 

「見ろ! 天使の群れが飛んでくるぞ! 迎撃準備!!」

 

「なのは! うってつけの出番だ!

 ファース、トモエ、彼女を後ろから支えて!」

 

「オーケーなの。早速、これを試すときが来たの」

 

「了解です」

 

「はい、主様」

 

「射線上の奴はすぐに退避しろ!」

 

「「「わああああ!」」」

 

 

 慌てて迎撃のために動き出す彼らを他所に、ファースとトモエに後ろから支えられたなのはが腰を落とし構えると天使の群れに杖の先を向けた。

 奥の教会の方から雲霞のごとく飛んでくる天使の群れを狙い、隆和が声を掛けた前にいる色とりどりのコスプレチームの連中が射線から泡を食ったように逃げるのを確認すると、彼女は杖のロックを外した。 

 そして、右脇に抱えるようにして持ち左手で取手を持って添えながら、某白い羽つきWのロボットと言うより白い尖った頭の異星ロボットのランチャーのような体勢でその大型ビームライフルにしか見えない先端からピンク色の閃光を解き放った。 

 

 

「バスターライフル、セットアップ。スキル解放、照準よし。

 【コンセントレイト】、OK。

 逝けなの! 【メギドラ】!!」

 

「う、うぐぐぐぐ!?」

 

「ちょっ、狙いが!?」

 

 

 全力の反動は流石に厳しかったのか、ファースの方がバランスを崩し天使の群れだけの狙いが少しズレてしまった。

 だが、今まで以上に強力な勢いとエネルギーの奔流のような光線は空中をこちらに向けて近付いて来ていた天使の群れを薙ぎ払い、最初のエリアの門の上部分と奥にある本拠地だろう教会の上に突き出た鐘楼を消し飛ばしそのまま異界の空の彼方へと消えて行った。

 この威力は、彼女自身のスキルの【コンセントレイト】【万能ハイブースタ】【魔導の才能】【三段の賢魔】【大虐殺者】に、バスターライフル・スタッフに込められた1日に3回まで使用可能な【追加魔法威力】【千発千中】により威力を増幅された【メギドラ】のおかげだろう。

 

 なのはの持つ『バスターライフル・スタッフ』、これはもともと山梨支部の技術班で鳴かず飛ばずの成果しか残せていなかったある転生者の技術者が作り上げた迷作であった。

 

 後に【ホビー部】と呼ばれるグループに入りあらゆる魔法少女の変身アイテムを作り出す一員となる彼は、かつて夢中になった【大きいお友達】の意地であの魔砲少女アニメの主人公の赤い宝玉の再現に躍起になっていた時に、3徹の末に意識が朦朧とした頭に浮かんだ【前世で見た白い服を来たかの魔砲少女と白い羽根を持ったWなロボットアニメのBGMとSEが使われたMADムービー】という天啓(という名の煮詰まった妄想)が閃き、これを作り上げたという。

 

 これの彼が元々命名していた名は、【ディバインバスターライフル】。

 

 しかし、完成後に仲間内から、「取り回しを考えろ」「杖じゃねえだろ?」「重くて長すぎて片手じゃ持てないぞ」「そもそも魔法少女じゃねえだろ」と散々に言われて現在の形に落ち着いた。

 しかし、彼は最後までこう言っていたという。

 

『MS魔法少女だっていいじゃないか! ライフルに見えたって魔法を放つならそれは魔法少女の杖だろう!』

 

 そして、本体に命中率を上げるスキルの【千発千中】とプレロマやブースタ系の魔法の威力増幅スキルカードを多数打ち込んだ【追加魔法威力】スキルを込めたカートリッジを組み込む事で、このなのは向けに売れたもの以外は在庫になっているこの“杖”は完成してしまったのだ。

 

 ともかく、撃ち終わり薬莢を排出し冷却させるエフェクトを作動する杖を降ろし、なのはは撃った先を見た。

 その先には、一部が消失した門と慌てたように飛び回っていた生き残りの天使たちが奥の方で地上に降りる様子が伺えた。

 それを見て息をついたなのはは、隆和の方を向き話しかけた。

 

 

「すっごい威力なの。すっごく気持ちがいいの!」

 

「それは良かったね。

 でもやっぱり、支えるのにファースみたいに力が無いと取り回しに難があるなぁ。

 それに1日4回以上撃つと銃身が融解するらしいし、カートリッジも1発500マッカじゃなければなぁ」

 

「相変わらず、ストレス発散で魔法をぶっ放すのは好きなのね?」

 

「その辺はお互い言いっこなしなの、色ボケトモレット」

 

「トモエ、だからね。

 悪魔合体とか夜の事情とか、こっちの内情は他人に知られたくないでしょ?」

 

「まあ、それはそうなの」

 

 

 それを見ていた近くにいた数体のリリカル魔砲少女作品の姿の少女シキガミ達が、自分もあのシキガミの彼女の杖が欲しいとマスターに強請っているが、隆和はそれを見て「彼女はそっくりだけどシキガミじゃないし、あの杖を持つのは難しいだろう」と思ったが説明するとややこしくなるので黙っていた。

 わいのわいのと言い合っているなのはとトモエの方に、笑みを浮かべて大佐ニキが近づいて来た。

 そして、とても物欲しそうになのはの方を見ながら声を掛けた。

 

 

「素晴らしい! 素晴らしい火力の上にこんな見目麗しい女性でもあるとは!

 見ろ! 天使共が慌てふためいて逃げ散っている!

 どうだね、魔王ネキ。ウチで砲兵をしてみる気はないかな?

 報酬も望む物を出来る限り用意しよう。

 ぜひ、検討して頂きたい!」

 

「女性としてでなく、火力で求められたのは初めてなの」

 

「いや、大佐ニキ。俺の彼女を戦場に連れて行こうとしないでくれ。

 副官の女性も睨んでいるぞ」

 

「はっはっはっ。おっと、これは失礼な事をしたかな?

 あまりの素晴らしさに興奮してしまったよ。

 なら、そのビームランチャーの製造元だけでも教えてくれないか?」

 

「まあ、それくらいなら」

 

 

 大佐ニキに入手先を教えている隆和たちに、レスラーニキが彼に付き従う十数人ほどの直参の筋肉集団を引き連れ声を掛けてきた。

 

 

「おう、宣戦布告にして派手だったな。

 切り替えの早い連中はもう奥に向かったぞ。

 それと、入口の確保と救助の方は俺たちに任せてくれ!」

 

「………………」

 

 

 そう言われ、隆和たちと大佐ニキは彼らの方を見て無言になった。

 そこには、プロレスマスクに白いへそ出し魔法少女衣装をピッチピッチに着込んだサイドチェストのレスラーニキを筆頭に、ブレザーやセーラー服に魔法少女にヒロインの衣装などの女性向け霊装をピッチピッチに着込んだマッチョメンの集団がポージングをして立っていた。

 しかもアナライズの使える隆和には、全員がレベル15前後はある物理耐性のあるマッチョ大男の集団に見えている。

 

 彼らの名は、人呼んで【シックスバッグレディーズ】。

 

 普段は支部長のようにその体格とタフさで初心者達の指導をしているが、危険地帯用の衣装を着るための覚悟を決めたレスラーニキの呼集があると、愛用の廉価で防御力がある一番供給量も多い女性用霊装を着込んで集まる筋肉マッチョメンのチームである。

 あくまで趣味でなく、実用性の観点からこれらを着ていると彼らは主張している。

 合言葉は、【筋肉は自分を裏切らない。さあ、君も一緒に鍛えよう!】である。

 

 そんな彼らがにこやかに隆和たちを見ている。

 

 

「ん? どうした?

 ああ、君らもこの筋肉の美しさに魅了されたかな? はっはっはっ。

 こうして、俺らがバックアップはするから安心して往くといい」

 

「ふーっ、全隊駆け足。移動するぞ!」

 

「こっちも行こうか?」

 

「はいなの」

 

「行きましょう、主様」

 

「了解です」

 

 

 足早に移動を始める彼らを、不思議そうに見送るレスラーニキ。

 この時のためにと買い込んだ、高さ30cm程の禿頭のボディビルダーがにこやかに笑いながらサイドチェストのポーズをしている金色の金属製の像である【お願いゴールデンマッスル】を取り出し、レスラーニキは首を傾げた。

 

 

「こうやって、安全のために悪魔避けのアイテムも手に入れたんだがなぁ?」

 

『上腕二頭筋、ニ頭がいいね! ナイス・チョモランマ!』

 

 

 

 

 隆和たちも門を越えて次のエリアに入るが、そこに出たのは隆和たちだけだった。

 ただ、壁を越えてあちこちから戦闘音や掛け声が聞こえるので、完全に断絶されてはいないらしい。

 彼らの目の前に、エリアを守る悪魔らしい天使たちが舞い降りた。

 【天使エンジェル】が8体、リーダーらしい【天使アークエンジェル】が1体そこにいた。

 即座に攻撃しようとするなのはとトモエの肩に手を置き、隆和は情報を得られないかと考えファースを伴って前に出た。

 それを見て、不審そうに話しかけるアークエンジェル。

 

 

「ふむ。

 我らが領土を犯す不心得者の仲間かと思えば、我が同胞と契約しているとは。

 何用か? 答えによっては裁きが降ると知れ」

 

「それなら、一つだけ。

 この異界はいつから御使いの領土になったのかを聞きたい」

 

「……よかろう。

 人の暦で太陽と月が10回ほど入れ替わる前か。

 信心深き者がもたらした聖遺物により、大天使が降臨されたのである。

 汝らも、その力と主の威光の前にひれ伏すがいい」

 

「ところで、ファースは上級天使についてどう思う?」

 

「…………」

 

 

 こっちに来てからは従順に従っていたファースではあるが、敵が同じ天使なら従うのか不安になると考えた隆和はここであえてファースに聞いてみた。

 全員の視線が集まる中、光のない目で隆和を見てファースはこう答えた。

 

 

「上官殿、主への信仰と契約の遵守は別です。

 ボクは、個人の思惑で契約を反故にするような愚か者ではありません」

 

「いや、悪かった。試すような事をして」

 

「いえ、それにもう同じ天使は信用もしていませんし。

 使い捨てにされるのはもう御免です」

 

「貴様ぁ、ただのエンジェルのくせにそんな事を抜かすのか!

 主の怒りを知r……」

 

「【トリスアギオン】!」

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

 

 

 ファースの返答に怒った様子のアークエンジェルが何か言いかけた所で、後ろの入口から来た大佐ニキの放った豪炎によって天使が燃やされ瞬く間にMAGへと変えられた。

 残りの天使たちも、彼の連れて来た隊員たちの放つスキル込みのボウガンや呪殺魔法ですぐに消されてしまった。

 ファースを小脇に抱えて横に避けていた隆和に、不機嫌そうな大佐ニキが話しかけた。

 

 

「何を害鳥共なんぞと、呑気に喋っていたのだ? アーッニキ」

 

「ファースを連れて話しかけたら情報が得られるかと思ってね。

 基本的に人を見下しているから、案の定、話してくれたよ」

 

「ほう、それで?」

 

「言っている事が本当なら、10日ほど前に誰かが来て異界がこうなったらしい。

 かなり大々的に準備していたから、どこかでここの異界の事を聞きつけたんだろう。

 【大天使が降臨した】とか言っていたから、メシア教徒が何かした可能性があるな」

 

「ちっ、やっぱり連中は害悪だな。

 それと、こっちもわかった事がある。

 この異界にエリアが幾つあるか知らないが、エリアを突破して門をくぐるたびに別のエリアの門に転移させられているようだ。

 ループはしていないようだが、ランダムの可能性がある」

 

 

 周囲を警戒しているトモエと大佐ニキの部下たちを見ながら、大佐ニキは懐からマジックストーンを持ち出して隆和やなのはと話を続ける。 

 

 

「事前の情報だと、以前は転移など無く門をくぐって奥に移動するだけだった。

 そうだな、アーッニキ?」

 

「前に来た時はわたしも一緒にいたから、その辺は間違いないの。

 前は天使なんて出ずに、妖精や鬼女に夜魔とか女性悪魔ばかりだったのも違うの。

 あと、樹木に擬態して不意を打ってきた妖樹とか」

 

「前は、奥の屋敷の手前のエリアで、ローレライやサキュバスにヴィーヴィルなんかが多数出て撤退した。

 俺では近寄れないし、なのはが魔法を撃つ隙もないほど攻撃されたからなぁ」

 

「なるほど。

 それらの悪魔はまだ見ていないな。

 ならば、参加者に配られた前報酬のこの【トラエストストーン】でチーム毎に撤退するのもありか」

 

 

 考え込む大佐ニキに、向かって前と左にある門を指差して隆和は聞いた。

 

 

「ところで、どっちに向かう?

 こちらは持ち込んだアイテムもかなりあるから、最奥に行くまでは粘ろうかと思う。

 以前と違って、ガイア連合に所属して手段が増えたからな」

 

「では、俺たちは左に行こう。

 無事に最奥に行けるのを願っている」

 

「ああ。じゃあ、俺たちは正面だな。

 まあ、強いて祈るような神さまもいないしな」

 

「違いない。それでは」

 

 

 そう答えると、隊列を組んで大佐ニキとチームは左に見える門から立ち去って行った。

 それを見送ると、隆和たちももう一つの門へと歩き始めた。

 その途中で、なのはが声を掛けた。

 

 

「ねえ、隆和くん。

 脇に抱えたその子、離してあげたら?」

 

「お、おっと、済まないな。ファース」

 

「いえ、慣れているのでお気になさらず」

 

 

 その言葉を聞き、『自分はお姫様抱っこがいいな』とか考えているトモエを先頭に彼らは門を潜って行った。




後書きと設定解説


・アイテム

【バスターライフル・スタッフ】(なのは用)
先端の長さが1m程の白と青の塗装がされた彼女専用の魔法の杖
先端が某白羽根つきガンダムの武器にそっくりだが、これは杖です
1日3回まで【追加魔法威力】【千発千中】が発動する
【追加魔法威力】:次の攻撃の魔法の威力を収束し大きく上昇する
【千発千中】:攻撃の命中率が20%増加する

・関係者

名前:大佐ニキ(藤岡眞一郎)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・28歳
職業:ガイア連合山梨支部地方派遣PMC代表
ステータス:レベル25・マジック型
耐性:火炎耐性・破魔無効・呪殺無効(装備)・精神無効(装備)
スキル:トリスアギオン(敵単体・大威力の火炎属性攻撃。相性を無視して貫通)
    マハラギ(敵全体・小威力の火炎属性攻撃)
    掃射(敵全体・小威力の銃属性攻撃)
    火炎ギガプレロマ(火炎属性攻撃のダメージが大きく上昇)
    指揮・カリスマ
詳細:
 某錬金術師の漫画に出てくる火炎使いの人物にそっくりな転生者
 大切だった家族や友人を殺した悪魔を根絶やしにするのが目的の復讐者
 同じ様な目的の仲間を集めてサバゲーマニアだった知識で傭兵部隊を設立した
 男女混合の傭兵チームの名前は、PMC「国境なき復讐者」
 現在、主標的の天使潰しの為の海外遠征をするための計画中
 チームメンバーは10~20レベルで、国内ではボウガンと改造モデルガンを使用

なお、大佐ニキの副官の現地人の女性は背中に入れ墨はありません。

次は、異界突入の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第24話 異界・大内屋敷攻略 前編 

続きです。
今回は、中ボス戦。


 

 

  第24話 異界・大内屋敷攻略 前編 

 

 

 こうして、異界である『大内屋敷』の攻略は始まった。

 

 実際に攻略しているメンバーもそうだが、それらのほぼ全ての準備を整えた彼女と彼女に従う華門和とその一党も今回の件では張り切っていた。 

 関西支部はと言うより天ヶ崎千早は、恩返しと少しの打算のためにかなりの金額とコネを張り込んで今回の攻略に望んでいた。

 何しろ子供の時分に一人だけ助けて貰った記憶と恩への感謝は、千早の中に強く刻まれている。

 この件を片付けて少しでも恩返しが出来たなら、とそう考えていた。

 もちろん、庇護されて認識が古いままの家の駒として生きるように教育されていた華門和と一族の女性たちも、隆和に向ける感情は彼女とあまり違いがない。

 

 ともあれ、彼女は邪魔な存在の副支部長だったいけ好かない女を大人しくさせると動きだした。

 まず、いろいろと貸しのあった腐百合ネキ他数人の転移能力持ちに【トラエストストーン】の必要数作成のために報酬も用意して2週間ほど拘束し、大佐ニキを始めとする外部の応援を交渉して呼び寄せ、恐山やヒノエ島などの大型異界の攻略情報を取り寄せて必要だと思われる機材や車両の数を調べて手配し、現地の情報などを集めて資料を作成するなどをちひろにも協力してもらい準備したのだ。

 

 それも数を減らせはしたが、人事の引き継ぎや人員不足のためにすぐに切り捨てる事が出来ない明らかにこちらへの敵対心から手を抜いて作業をする副支部長のシンパの事務員も使いながらでの事だ。

 実際、彼女の秘書団として動く華門和たちや反副支部長派の事務員たち、ついでに伝手で連れて来たウシジマニキがいなければ準備はあと数週間は伸びていただろう。

 だからこそ、現場で脱出路を確保しつつ外との連絡役をまとめるレスラーニキからの異界の情報は、彼女を驚かせるのに充分だった。

 

 

「それで攻略の方は問題はないんですか、支部長!?」

 

「ああ、それは今のところ大丈夫だ。

 むしろ雑多な悪魔が出るより、天使どもで相手が統一されているなら対処が楽だ。

 天使対策はいつもしているから、【蠱毒皿】や【マハムドストーン】の備蓄もある」

 

「それは良かったわぁ」

 

「それよりも問題なのは大佐ニキの部下から連絡があったんだが、この異変は10日ほど前に始まったらしい。

 その時にメシア教関係者らしい人物がここに入り込んだらしいが、何か知らないか?」

 

「10日前ですか、ちょっと待ってや。

 …………、その日前後の報告書を見たんやけど『異常なし』となっとる」

 

「監視員本人に確認は取れないのか?」

 

「シフトでは、…………数日間同じ人2名やな。

 すぐに、話を聞くように人を手配します」

 

「大至急、よろしく頼む」

 

 

 その1時間後、彼らの所在確認は取れたが彼らは死亡してしまっていた。

 彼らがいたのは、警察病院の死体安置所で司法解剖中であった。

 警察の調査では一昨日にかなりの飲酒をした酒酔い運転による死亡事故で、2人の乗っていた車は高速で淀川に車ごと飛び込んだらしいとの事だった。

 元々、彼らはガイア連合の転生者の関係者だからと雇われていた多くいる現地霊能者の一人だったが、家族の話だとその仕事から戻って来てからその日の朝に出かけるまでは変化はなかったそうだ。

 ガイア連合の調査員の調べでは、何かに洗脳されたのはないかという事だったが結局誰が行なったのかは判らずじまいだった。

 

 

 

 

 ここで、現在のこの異界内を迎撃側の視点から見てみる事にしよう。

 

 この異界は、全ての端が壁で囲われた箱庭のような形状をしている。

 今はこの異界の天使たちしか見れないが、言ってみれば前が小さな日本風の山城のようだったとするなら今は十数個の西洋風の塀で遮られたエリアが並ぶ迷路のようである。

 そこを、関西支部のメンバーと大佐ニキの部下たちを含め総勢50人弱で攻め入り、それを超える数の天使たちは各エリアと本拠である教会のあるエリアに守備の主力を配置し迎え撃っている状態である。

 

 そこの主力を配置したエリアにて、この異界のボスにして異界の奥に封印されている物から湧き出るマグネタイトを吸い上げ天使たちを生み出している大天使を守るべく、親衛隊長とでも言うべき【天使パワー】はとても苛立ち持っていた槍の石突きで床を大きく鳴らした。

 本来ならば、自由に空を飛べる天使たちで地を這う不信心者共を一方的に嬲れていた筈が、開幕のあの常軌を逸する一撃でそれが出来なくなったのだ。

 次々と突破されている部下たちの不甲斐なさにギリギリと歯ぎしりをしている時に、大天使の側にいたはずの中年男性の神父が現れた。

 

 

「御使い殿、奴らの様子はどうでしょうか?」

 

「戦況は膠着しているという所だ。

 大天使さまのところへ戻り安心させるがいい、信心深き殊勲者よ」

 

「御使い殿の精鋭と俺が連れて来た連中も使えば、全員止められるでしょうか?」

 

「貴様の連れてきた不浄な木偶どもはともかく、我々の実力を疑うのか?」

 

「い、いえ、そんな事はありません。主の威光もありますから!」

 

「そうだ。仮にここに来たとしても我々がいる限り、大天使様の所へは行かせん」

 

「わ、分かりました。では戻ります。御使い殿よ」

 

 

 そう言うと、パワーは難しい顔をしてまた入口の方を睨んだ。

 

 一方、天使パワーとそう話したその神父は教会へ戻ると、こちらにはもう注意を払わないあの不気味な大天使のいる礼拝堂を通り抜けようとして大天使を見た。

 それはもともとこの異界を守っていた天使に、持ち込んだ黒いフォルマを掲げることで勝手にその天使と融合し変化した大天使だった。

 その不気味な姿を横目に見ながら奥の扉を開けると、教会へと変化したここで唯一変化せずに日本屋敷のままの室内に入った。その部屋の中央にある下り階段を降りれば、不気味な狐のレリーフがある石壁がありその奥に何かあるらしいのは分かっている。

 この事態を引き起こしたこの男にとっては、ここの階段のある部屋で早く事態が治まるようにとブツブツと何か言いながら震えているしかなかった。

 

 

「くそっくそっ。

 『密告をすれば地獄に落ちる』とあれ程、体に諭したのに裏切るとは!

 いや、まだだ。まだ。

 ここを切り抜けて海外へ行きさえすれば、また前のようにヤれるはずだ。

 うん、日本人は教え飽きたしな、今度は白人がいいか。

 ああ。ああ、楽しみだ。

 また、抑えたように泣く女達に“霊肉祝福”を施してやれるのが。は、ははっ」

 

 

 この神父の名は【長田保】。

 

 隣の半島にある国から来た帰化人で、メシア教の神父の一人でもあった。

 以前からこの男は、地位と洗脳の話術で婦女暴行を何件も影で繰り返していた。

 この事態を引き起こす切っ掛けになったのは、相手をさせていた信者の少女の手紙から上に犯行がバレて教会内の執行部隊に追われ捕縛されそうになったことだった。

 長田は夜逃げした時に、前に誤って殺してしまった少女の死体の処分を依頼したある同胞のいる犯罪組織の「ジングォン」に逃げ込んだ。

 逃げ込んだ先で長田はこの組織を取り仕切っている邪術師の若い女に引き換え条件として、指示書と道具、それに連れて行く連中を渡され、上手くいった暁にはこの異界を作り上げた功績で海外の過激派への合流の手助けを約束されている。

 この怪しげな女の言う事を、そう信じ込んでいた。

 

 しかし、彼は気づいていなかった。

 その約束をした妖しく笑う女の影の頭部と四肢が、触手のように揺らめいているのを。

 

 

 

 

 ガイア連合による異界の攻略は順調に進んでいた。

 一部の破魔魔法への対策をしていなかったシキガミが天使の破魔魔法でリタイアしたり、不意を撃たれて大怪我をしたメンバーが撤退したが、天使に相手が統一された事が返って対策が取りやすくなり攻略を後押ししていた。

 それは、攻略中の隆和たちにも言える事だった。

 

 

「今です! やりなさい!」

 

「「「ハッ! 【ヒートウェイブ】!」」」

 

 

 隆和たちがエリアに侵入したと同時にプリンシパリティが号令を出し、その入口目掛けて8体ほどのアークエンジェルが殺到して【ヒートウェイブ】の複数の剣閃が不意打ち気味に叩き込まれた。

 

 

「散開!」

 

「この、【メギドラ】!」

 

「主様には触れさせません。【疾風斬】!」

 

「「がああああ!」」

 

「余所見は危ないぞ」

 

「そんな馬鹿な! 我々が簡単に……ぐぺぇ❤」

 

「これでっ、終わりっ、かなっと!」

 

 

 しかし、天使たちによる不意打ちでの全体攻撃の連打は、隆和たちには対処は簡単だった。

 すでにこのやり方は、以前の女性悪魔達に散々されていたのだから当然である。

 隆和の合図と共に放たれた攻撃を避けるように3人共に散開すると、多少のダメージをなのはが食らうも反撃の全体攻撃でアークエンジェルたちを殲滅した。

 最後に隆和が攻撃を掻い潜り、指揮官のプリンシパリティに接近し攻撃を叩き込んで状態異常にすると、【疾風斬】のダメージと【耽溺掌】の状態異常で白目を剥き動かなくなった天使を掴み上げ人中と顎に拳を叩き込み、最後に鳩尾に膝蹴りを叩き込んで止めを刺した。

 隆和は周囲を見渡しながら空曜道の術で周囲に敵はもういないのを確認し、懐の封魔管を弄りつつ皆の傷の具合を尋ねた。

 

 

「怪我の具合は大丈夫か?」

 

「これくらいなら魔石で充分なの。

 この服、着るのは恥ずかしいけど防御力はすごいの」

 

「こちらも軽症です、主様。

 ただ、コートがもう使えません」

 

「ファースを出して治療してもらうまでもないか。

 さて、これでエリアも5つ目だし、そろそろ着いてもいい頃なんだが」

 

 

 隆和が奥の方を見ると、遠くに見えていた高台の教会も近くまで見えてきた。

 今まで戦った天使達との戦闘による消耗も数が多いだけなので、隆和よりむしろ範囲魔法で多数を薙ぎ払う役目のなのはの方が消耗している。

 コロコロとチャクラドロップを舐めつつ、なのはが話しかけて来た。

 

 

「わたしたちが来ていた時より異界が広くなっているのに、攻略するのがとても楽なの。

 どこかの軍人の人が言ってた『戦いは数だよ、兄貴』は、本当だと思うの」

 

「ああ、俺とコレットになのはを加えた3人では10年掛けても無理だったからなぁ。

 それがガイア連合に加わって一年と経たずにここまで来れた。

 すごいと思うぞ」

 

「主様。コレットとして言うなら、まだ果たした訳じゃないから感慨にふけるの早いよ」

 

「ああ、分かっているよ」

 

「それに今までは、こういう回復アイテムとか大阪では普通は手に入れられなかったの」

 

「ああ。それは確かに」

 

 

 実際、隆和自身がガイア連合に加わるまでは、なのはが山梨から時々持ってきたものを除くとここまで潤沢にアイテムの入手は出来なかった。

 それを考えると、今のこの機会に一気に攻略して師匠に会わなくてはと改めて隆和は考えた。

 そろそろ次のエリアに向かうために皆に声を掛けた。

 

 

「休憩も終わりにしよう。次の場所に向かうよ」

 

「分かったの」

 

「はい、主様」

 

 

 不意打ちに注意しつつ、作業着の青いツナギ姿の隆和とバカでかいSFのビーム砲を持った白と青のアニメ衣装のなのはに、腰にSF装飾の鞘に入った日本刀を腰に下げたロボットもののパイロットスーツを着たトモエがたゆんたゆんと胸を揺らしながら白亜の石積みの門をゆっくりとくぐり抜けた。

 

 

 

 

 くぐり抜けた途端、男性の叫び声がして隆和たちがそちらを向くとくぐり抜けた先では戦闘が続いていた。

 身長は5mに達するだろうか、ドクロのような顔と厚い白い毛で覆われ頭部にトナカイのような大きな角をした大きな怪物と、この攻略にも参加していた痛みに顔をしかめているサラリマンニキと上半身にダンボールを被り黒のブーメラン水着を履いた素足の男性が怪物の前で攻撃を加えている。

 

 

「【絶命剣】! これでどうです!?」

 

「駄目だ! 傷がどんどん治っているぞ、サラリマンニキ!

 くそっ、【覚悟の挑発】!

 うちのダンボーは大丈夫か!?」

 

「瀕死状態です!

 持ち込んだ蘇生アイテムはもうありません!」

 

 

 彼らの後ろで倒れた全身をダンボールで出来ているシキガミを、サラリマンニキのシキガミであるユカノが右手に刀を持って倒れたそのシキガミの様子を見ていた。

 その様子を見て取り、隆和が声を上げて走り出した。

 

 

「なのは、彼女たちの近くで待機してくれ。

 トモエ、こっちも攻撃するぞ。

 服部さん、代わります!」

 

「すまない!

 こいつは元は人間で、傷がすぐに治るぞ。気をつけてくれ!

 【ダンボールニキ】、引くぞ!」

 

「おう!

 行きがけの駄賃だ! 【牙折り】!

 あ、おまえアーッニキか! ウホッ、後は頼むぞ!」

 

「グガウッ!」

 

「お、おう!?」

 

 

 そのダンボールを被った男性はその悪魔を蹴るとその反動で華麗なジャンプを決めてシキガミたちのところに降り立ち、ダンボールの『●▲●』が印刷された顔らしき場所をこちらに見せて隆和に声を掛けた。そして、痛みに顔をしかめながらもサラリマンニキが隆和たちの方に会釈をし、彼らは懐から取り出したトラエストストーンで撤退して行った。

 撤退して行ったダンボールニキの挑発に釣られていたその悪魔の隙に、走り込んだトモエが名刀ムラサマを抜き放ち攻撃を仕掛けた。

 

 

「しっ、【黒点撃】! ……手応えが悪い?」

 

「グルウッ!」

 

「こいつは【邪鬼ウェンディゴ】!

 火炎弱点で、物理耐性持ちだぞっ、トモエ!」

 

「隆和くん!」

 

「なのは、援護を頼……!」

 

「グガァァァァァ!」

 

 

 血走り真っ赤になった目で、周りを見たウェンディゴが【雄叫び】を上げる。

 隆和たちの力が抜け、トモエも【攻撃の心得】でかかっていたタルカジャの効果が消えた。

 舌打ちしながらも、ダメージは見込めないだろうがスキルを込めて殴る隆和。

 

 

「ちっ、【耽溺掌】! ……どうだ!?」

 

「グルゥ?」

 

「少しは痛がれよっ! 効いてもいないのか! 

 最近こういう奴が多いなっ!」

 

「こちらでやります!

 ムラサマ起動! 【黒点撃】!」

 

「なら、【フレイダイン】!」

 

「ガッ! グガァァァッ!」

 

 

 トモエとなのはの攻撃はそれなりにダメージを与えているようだが、今度はこちらの攻撃に怒ったのか、ウェンディゴが両腕を足元にいる隆和とトモエに連続して叩きつけてきた。

 【狂気の暴虐】。一度に複数回攻撃して来るスキルである。

 

 

「ちっ」

 

「隆和くん!」

 

「主様! 私が守りますっ、【愛の猛反撃】!」

 

「ガアッ!」

 

 

 隆和とトモエが避け損ねてそれぞれ一撃を受け重いダメージを食らうが、隆和への2撃目はトモエが切り払い逆に手傷を負わせた。

 しかしよく見ると、ウェンディゴの最初にトモエが攻撃した足の斬った痕がもう繋がりかけているのが隆和には見えた。

 埒が明かなくなる。ここは、一気になのはの火力で押し切る事に隆和は決めた。

 

 

「なのはっ、チャージしてそいつをぶちかませっ!

 トモエっ、こいつの動きを止めるぞっ!」

 

「わかったの」

 

「分かりました、主様っ!」

 

「行くぞっ!」

 

 

 なのはが背中を塀に預けてバスターライフル・スタッフの発射態勢になったのを隆和は横目で確認すると、腰のポーチからアイテムを取り出しウェンディゴの足の方へ走り寄る。

 彼が取り出したのは、特別な加工がされたアイスピックである。

 

 【マジックアイスピック】。

 

 彼は、山梨で修行をしていた時に、自分の攻撃力をマジックストーンで補うやり方にもう少し火力を上げられないかと考えた。そして、息抜きに見たとある作品で相手に刺して爆発させるナイフを見て閃いた。普通に投げるよりダメージが上がるのでは、と。

 そこで、黒医者ニキに紹介してもらったアイテム作成者に、アイスピックの柄の部分にマジックスト-ンを付けて発動できないかと聞いた。大笑いした彼は、ニヤリと笑うと「まかせろ!」と言うと、一日でそれを作り上げた。 

 構造は、単純である。

 アイスピックの柄の部分にマジックストーンを装着できるようにした使い捨て品で、ピックの部分はとても鋭い呪的処理された硬化系ステンレス鋼製である。

 

 隆和は逆手に持ったそれのカバーを外すと、ウェンディゴの右足の小指に突き刺し起動させた。

 

 

「起動!」

 

「ガッ、ガアァアァ!?」

 

「ならば、【黒点撃】!」

 

「ギャアアァァァァッ!」

 

 

 隆和が起動したアイスピックの【アギラオ】に火炎弱点のウェンディゴはたまらず姿勢を崩した。さらに、トモエが焼け焦げた小指と隣の指を切り飛ばした。

 たまらず膝をついたウェンディゴは、右手で傷口を押さえながらこちらを睨みつけると範囲魔法を使った。

 【マハブフーラ】。

 隆和たちに向けてここら辺一帯に、強烈な氷雪の嵐が吹き荒れる。

 

 

「ガアァァッ!」

 

「くっ」

 

「きゃっ」

 

「…【コンセントレイト】、くうっ」

 

 

 ダメージを負うがまだ動ける。なのはが撃つにはもう少しかかる。

 隆和はもう一本アイスピックを抜くと、今度は左足に向けて走り出した。

 隆和が何をしようとしているのかに気づいたのかウェンディゴは、隆和を捕まえようと左手を伸ばす。

 その左腕に隆和を援護するように、トモエが斬りかかった。

 

 

「【黒点撃】!」

 

「ガアッ!」

 

「よしっ、そっちに!」

 

 

 隆和は狙いを左の足からトモエが斬りつけた腕の傷に変え、持っていたピックをその傷にねじり込みマジックストーンを起動した。そして、傷の中で破裂した【アギラオ】の火炎が吹き上がる。

 痛みに絶叫するウェンディゴと重なるように、なのはが声を掛けた。

 

 

「グガァアァァ!」

 

「隆和くん!」

 

「…! トモエ、射線をっ!」

 

「はいっ!」

 

 

 隆和とトモエがそれぞれ左右に飛び退るように避けると、なのははそれを確認しバスターライフル・スタッフをウェンディゴに向けて本日2回目の大出力の人を飲み込める太さのピンクの光線を解き放った。

 

 

「バスターライフル、セットアップ。スキル解放、照準よし!

 いけっ! 【メギドラ】!!」

 

「グ、グガッ、グガアアァァァァッ!!」

 

 

 自分の上半身を消し飛ばされるつかの間の間にウェンディゴは、いや、ウェンディゴの転生者で半グレ集団を率いていた【ハン・ジングォン】は理性を取り戻し、最後に憶えているベッドで組み敷いていた愛人のはずのあの女の暗がりの中でもはっきりと見えた三日月の形の笑みを脳裏に浮かべながら、マグネタイトの霧となって消えて行った。

 

 このウェンディゴを消し飛ばした光の奔流が再び異界の空へと消えていくのを、この異界にいた全て者が目撃していた。

 そう、この異界を侵食し続けていた教会に座する異形の大天使も。




後書きと設定解説


・アイテム

【マジックアイスピック】
アイスピックの柄の部分にマジックストーンを装着できるようにした使い捨て品
主に相手に刺して起爆して使用するが、普通に石を使うより石の加工賃が掛かり高い
ピックの部分は呪的処理された硬化系ステンレス鋼製

・関係者

名前:ダンボールニキ
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・20?歳
職業:ガイア連合地方派遣異能者
ステータス:レベル20・フィジカル型
耐性:破魔無効
スキル:とんぼ蹴り(敵単体・小威力の物理攻撃・クリティカル率高)
    牙折り(敵単体・小威力の物理攻撃・しばらく攻撃力を1段階低下する)
    覚悟の挑発(自分へのダメージを軽減し、攻撃を引き受けやすくなる)
    みかわし(物理攻撃を回避しやすくなる)
    全門耐性(物理・万能以外の属性攻撃を受けた際、ダメージを50%にする)    
詳細:
 ガイア連合に所属するいつもダンボール型の霊装を被っている覆面転生者
 いつも全門耐性を付与されたダンボール霊装と黒のブーメラン水着を着ている
 回復魔法を使う専用シキガミの「ダンボー」を所有

・敵対者

【天使アークエンジェル】
レベル10~20 耐性:破魔無効・呪殺弱点
スキル:ハマ(敵単体・低確率で即死付与)
    ヒートウェイブ(敵全体・小威力の物理攻撃)
詳細:
 この異界ではレベルはランダム

【天使プリンシパリティ】
レベル20~25 耐性:銃弱点・破魔無効・呪殺弱点
スキル:マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
    ディアラマ(味方単体・大回復)
詳細:
 この異界ではレベルはランダム

名前:ハン・ジングォン
性別:男性
識別:転生者(邪鬼ウェンディゴ)・36歳
職業:在日外国人半グレ集団リーダー
ステータス:レベル30 
耐性:物理耐性・火炎弱点・氷結耐性・破魔無効
スキル:マハブフーラ(敵全体・中威力の氷結属性攻撃)
    狂気の暴虐(敵複数・1~4回の中威力の物理攻撃)
    雄叫び(敵全体・攻撃力と防御力が1段階低下)
    活脈(最大HPを上昇させる)
    大治癒促進(戦闘中行動順になる度に、HPが少し回復する)
    悪魔化(精神状態異常無効及びステータス増加。
        ただし、スキルを使用すると理性的な判断力を失う)
詳細:
 容姿は、典型的なアジア人顔を鬼のように邪悪に歪ました顔の大男
 大阪を拠点にしている数十人規模の過激な半グレ集団のリーダー
 殺人、強盗、強姦、窃盗、麻薬売買など何でもやる極悪人だった
 身内の術師によって洗脳強化改造済み

謎の女性は一体誰なんだろう?


次は、異界突入の続き。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第25話 異界・大内屋敷攻略 後編

続きです。
ラスダン、最終戦開始。


 

 

  第25話 異界・大内屋敷攻略 後編

 

 

 怪我をある程度治した隆和たちが最後のエリアである教会前に足早にたどり着いた時、そこは戦場になっていた。

 教会の入り口の前には一際大柄の体格で西洋の甲冑を着込み大盾と槍を携えた【天使パワー】がおり、大声で周囲に居る治癒魔法持ちが多くいるためか数十はいるだろう数の天使達を指揮してこちらの侵入を防ごうと躍起になっていた。

 

 対してこちら側には、どうやら隆和たちとは別のルートで辿り着いたらしい 大佐ニキが率いている『国境なき復讐者』を中心としたガイア連合のメンバー15名ほどが陣取っていた。

 どうやら大佐ニキが連れて来た精鋭も、全員レベル10~20とそれなりにレベルの高い現地勢でも上澄みの人たちだったが半数以下に数が減っているようだ。

 しかし、こちら側には2名ほどアメリカ軍の爆発物処理班が着るような耐爆スーツを着た精鋭のメンバーがいて、両手に直立したままの人が隠れられる大きさの金属製の盾を持ってジリジリと教会の方へと近付いていた。その二人が相手の攻撃を引き受けながら進み、他のメンバーはその隙に天使達の数を呪殺呪文やアイテムで減らしながら近づくのにこちらも躍起になっていた。

 

 彼らが着ているのは、アメリカ軍の型落ちした耐爆スーツをガイア連合で改造した霊装防具の【ジャガーノート】。

 全身を分厚い装甲で覆い顔の部分も透明な特性の樹脂で出来ている物を霊装に改造し、【物理耐性】、【火炎耐性】、【衝撃無効】が付与され防御力は凄まじく高いが移動力がかなり低い一品である。それに、パワーアシストが不完全な為に使用には自前の筋力が必要な点も難点である。

 彼らはこれを2つ【挑発】系のスキル持ちに着させ、デカデカと『ゴッド◯ァックユー』と赤字で書かれた大盾を持たせて天使の攻撃を集中させながらも前進している。

 そこへ、隆和たちが合流した事に気付いた大佐ニキは、慌てて彼らに近づくと話しかけた。

 

 

「アーッニキ、魔王ネキも無事に来てくれて助かる。すぐに頼めるか?」

 

「待ってくれ。この状況は?」

 

「見ての通り、向こうの羽つき共も必死なのだろう。攻めあぐねている。

 もう一度、アレを放てるか?」

 

「わたしの方は大丈夫なの。ただ、これでこの杖は撃ち止めだけど」

 

「それでも構わん。その分は俺の炎で何とかしよう」

 

「どうせなら、タルカジャは使える奴はいるか?

 4つ最大まで攻撃力を上げて、後ろの教会ごと吹き飛ばそう」

 

「よし。それなら、副官の彼女が使える。そっちは?」

 

「トモエが使えるぞ。トモエ、なのはを守れ。ファースもだ」

 

「了解です、上官殿」

 

「分かったわ、主様」

 

「隆和くん。撃ってしまって、お師匠様は大丈夫?」

 

「それは……」

 

 

 言いあぐねる隆和に、トモエが声をかける。

 

 

「主様、彼が守る封印は今は教会の地下にあると思われます」

 

「何故、分かるんだ? トモエ」

 

「コレットとしての記憶に、彼が普段は最奥の部屋の地下によく降りていた記録があります。

 たぶん、そこに重要な物があるはずです」

 

「そうか、よし。じゃあ、それで行こう。

 その間、あいつらはこっちで引き受けることになるな」

 

「周りの雑魚の羽つきはこちらで減らしているが、アーッニキはどうする?」

 

「あのデカブツのリーダーは、【天使パワー】か。

 電撃耐性、衝撃弱点、破魔無効、呪殺弱点ね。

 あいつは俺が足止めをするか。

 始めるぞ!」

 

「主様!」

 

「トモエたちはなのはの死守だ!」

 

 

 トモエが声をかけるが、隆和はそのままパワーへと走り出す。

 なのはが両手で構えるのを見て、大佐ニキは周囲に声をかけた。

 

 

「鷹目くん、聞いていたな?

 君はタルカジャを掛けながら、反動に対して彼女を支えるんだ。

 皆、またアレをぶちかますぞ!

 射線に気をつけて、害鳥共を減らすぞ!」

 

「「了解」」

 

「「おう」」

 

 

 なのはが教会正面の入り口に向けてバスターライフル・スタッフを構え、大佐ニキの副官の女性の鷹目とファースが後ろから支える。

 そして、なのはの横でトモエがムラサマを構えて待機する。

 教会の入口の前に居る自分に向けられるその砲塔を見て、あの光の奔流の元だと気付いたパワーは自分に飛ぶ呪殺を別の天使を蹴り飛ばして身代わりにしつつ絶叫した。

 

 

「ああああ、まさかそれがっ…!?

 非常呼集!! 大天使の危機であるぞ!

 全員ここに集まるのだ!!」

 

「お前の相手は俺だぞ、パワー!

 【耽溺掌】!」

 

「ちいっ!」

 

 

 隆和が殴りかかるのを見て、パワーはとっさに近くに浮いていたエンジェルを捕まえて盾の代わりにし、隆和の攻撃が当たり悶えるエンジェルを投げ捨てて隆和を睨みつけた。

 

 

「~~~~~ッ❤!? ~~~~~たすっ❤」

 

「嫌な予感がしてみれば! 厄介な真似をするなっ、背教者よっ!」

 

「俺はメシアンじゃないのだから、当たり前だろう?

 お前らより、公園の鳩のほうがまだましだ」

 

「おのれっ、我だけでなく全能なる主も馬鹿にするのか!?」

 

「そういや、鳩の姿が多かったな4文字は。

 ああ、勘違いするなよ。

 バカにしているのはお前ら、食う気も起きない手羽先の事だからさ」

 

「貴様ぁぁぁっ! 死ねい、【白竜撃】!」

 

 

 パワーが突き出す白光に包まれた槍や他の天使の攻撃を後ろに跳び避けて、隆和は見鬼で周囲を見る。

 周囲に居る天使の集団は他のメンバーの攻撃で数を減らしているのにも関わらず、他のエリアから飛来する天使のせいでいっこうに減る様子が見られない。

 隆和たちが持ち込んだ呪殺系アイテムは既に無いのが惜しまれるが、とりあえず斬りかかってきた手近な天使の顎を殴り砕いて再びパワーに接近する隆和。横目で見ても天使達が殺到しているようだが、なのはの方は順調のようだ。

 

 

「【タルカジャ】です」

 

「【タルカジャ】。なのは、準備はいい?」

 

「【コンセントレイト】、OKなの。次で撃つの」

 

「ええい、鬱陶しい! 【マハラギ】!

 我々の攻撃力も上がっているっ。彼女に近づけさせるなっ!」

 

「了解! 死ね、天使共!」「ははっ、【ムド】だ!」

 

「死にさらせっ、【マハザン】!」

 

「【挑発】! どうした害鳥共っ、そんな攻撃効かねぇぞっ!」

 

「ベースキャンプ送りになった嫁の仇! 【地獄の焼きごて】!」

 

「これぞ、波動! 【破邪の光弾】!」

 

「ぬぅん! 筋肉の力を見よ、【肉体の解放】!」

 

 

 …一部なんか変なスキルを使うガイア連合のメンバーがいるが、概ね順調のようである。

 それを確認した隆和は右手でマジックピックの一つを抜くと、天使達の間を縫ってパワーへと駆け寄って行く。

 周囲に号令をかけつつ、パワーは槍から光弾を放って彼を迎え撃つ。

 

 

「誰かあれを止めろぉ!

 ちぃっ、貴様は近寄るなぁ! 【タスラムショット】!」

 

「おっと。これでも喰らいな」

 

 

 隆和は近くで怪我のために蹲っていたエンジェルを掴むと、パワーに向かって放り投げた。

 パワーの攻撃に当たり四散し破片となって飛び散るエンジェルの体と手に持つ大盾で奴の視線を塞ぎつつ、天使に近付いた隆和は宙に浮かぶパワーの左膝の裏に跳び上がってピックを突き刺すと地面に降りた所で【ガルーラストーン】を起動した。

 

 

「起動」

 

「ぎぃ、がぁぁぁあっ!」

 

 

 自分の弱点でもある衝撃属性の攻撃で左足が千切れそうなほどの傷を負わされたパワーは、今度は自身の痛みのために再び絶叫した。

 隆和が、衝撃属性ではなく同じ効果の疾風属性の魔法を選んでいたのは理由がある。

 空気の塊をそのままぶつけるような衝撃波を出すザン系の魔法より、かまいたちのような衝撃波を出すガル系の魔法の方が傷を負わせた際に効果的だと判断したからである。

 その傷により態勢を崩し、パワーは隆和を憎悪の眼差しで睨み絶叫し続けている。

 

 

「きぃ、貴様っ、殺してやるぅ!!」

 

「いいや、もうお前の方が終わりだよ。じゃあな」

 

「【タルカジャ】です!」

 

「【タルカジャ】。なのは、OKよ!」

 

「バスターライフル、セットアップ! スキル解放、照準よしっ!

 いけっ、【メギドラ】発射!!」

 

 

 隆和が身を翻してその場を跳び去ると、パワーの眼にはその向こうでこちらに銃身を構えて放つなのはの姿と視界一杯にピンクの輝きを持つ光の奔流が迫ってくるのが見えた。

 

 

「……おお、主よ。我にすk…」

 

 

 膝を付いたままのパワーは、思わず主への祈りの言葉を呟くと周りにいた天使達諸共に光の中に消え去っていった。

 

 

 

 

 なのはの放ったその光の奔流のようなメギドラの破壊力は、天使達だけでなく天使パワーの背後にあった大天使の座する教会にもそれを及ぼしていた。正面の扉を吹き飛ばし礼拝堂の最奥にある十字架の前にいた大天使を飲み込んだ直進するその光は、そのまま奥の壁も荘厳な内装の教会内部も消滅させながら異界の果てにある壁にぶち当たり消えてしまった。

 その威力に銃身が融解しその熱さでなのはがスタッフを地面に落とす音が響く中、勝利の歓声を上げようとした彼らの目に教会の中にいたその異形の大天使の姿が飛び込んで来た。

 

 その直径は5m程だろうか、宙に黒い球体が浮いていた。

 その表面には絶えず動き続けている白い幾何学模様の様な線が走っており、損傷を受けたのか全身から煙が上がっていた。

 隆和のアナライズとメンバーの持つアナライズ用の測定器には、【大天使レリエル】という名が映っていた。

 大天使レリエル。

 それは『エノク書』に登場する天使の一人であり、その名は「神の夜」を意味するという天使で懐妊を司る天使ライラ(ライリエル、ライラヘル)とも同一視される大天使でもある。

 そして、飢えたレリエルは傷により失った力を取り戻すべく自分のスキルを使った。

 

 【光を飲む闇夜】。

 

 それは、敵味方関係なく周囲にいる全てに放たれる大威力の呪殺属性魔法であった。そして、この魔法は相手に与えたダメージに応じて自らの傷を癒やし、呪殺が弱点の相手は確率にもよるが即死させる効果がある。

 それが、全周囲に崩れかかった教会を吹き飛ばす勢いの黒い色の衝撃波として撃ち出された。

 概ね、呪殺対策として耐性や無効化装備をしているガイア連合のメンバーと違い、この場にいた他の連中は違った。

 

 まず犠牲になったのは、天使パワーの号令で異界中からかき集められていた天使たちだった。

 

 

「あああっ、呪詛がっ!」

 

「そんな大天使様っ!」

 

「……何故っ!?」

 

 

 レリエルがわざわざ全ての天使に【呪殺弱点】を共通して付加して召喚していたのかは、こうしていざという時に傷を癒やすためのマグネタイトの素とするこの為だったのだろう。

 

 その次に犠牲となったのは、教会の中で隠れていた長田保であった。

 自らを守る最後の砦でもあった【封魔の鈴】を握りしめて部屋の隅で今更ながら神に祈っていた彼は、レリエルの放ったそれに巻き込まれ瞬時に四散しレリエルに吸収された。

 ただ、彼が最後に不思議に思ったのは、脳裏にあの邪術師の女性の舌打ちする音が消える瞬間に聞こえた事だがそれを深く考える暇もなくそのまま消えて行った。

 

 この行動で半分ほど傷は癒えたが、まだレリエルにはマグネタイトが必要だった。

 今しがた消えて自分の糧となった男によって持ち込まれたフォルマによりこの異界の封印を守っていたハリティーとライラが融合して生まれた彼女であったが、封印していた呪物をガラクタになるまで吸い上げて天使の軍勢を産み出していた為、他にこの場にある一番マグネタイトを持つ個体を吸収するべく影にしか見えない口をそれに伸ばした。

 

 

 

 

 一方、ガイア連合の面々もその姿を見て困惑していた。

 他の天使の姿は消えたのだが、その場から動こうとしないあの天使の姿に見覚えがとてもあるのでその姿を見ながら距離をおき話し合っていた。

 

 

「レベル40の【大天使レリエル】か。

 うわっ。物理吸収で、当然ボスだから破魔と呪殺は無効か」 

 

「弱点は?」

 

「電撃属性だ」

 

「何だったっけ、何かのアニメで見たような?

 確か、迂闊に近づくといけなかったような気がする」

 

「ああ! エ◯ァンゲリ◯ンだ! パチンコのリーチで見たぞ!」

 

「仮に似た攻撃をするとして、他にどんな方法だった?

 さっきのは呪殺属性のダメージ魔法だから、我々には効果が薄いとしてだが」

 

「昔の作品だし、解らないな。

 だが、さっきの威力が威力だから耐性装備の体力の低いやつは危ないぞ」

 

 

 そこまで話した時に、チャクラドロップを複数個噛み砕いて飲み込んだ大佐ニキが号令をかける。

 

 

「さっきのやり方はまだ出来るか、魔王ネキ?」

 

「スタッフがもう使えないけど、普通の呪文ならまだ使えるの。

 チャクラポッドの飲み過ぎでお腹が苦しいけど」

 

「よし、レベル25以上のメンバー以外は即刻、撤退だ。

 ……残るのは、俺とアーッニキたちだけか。

 無効化装備の奴は動きがないうちに攻撃を再開だ。

 アーッニキ、すまんがレベルが一番高い君にあいつの足止めを頼む」

 

「ああ、任された。

 トモエは、ここでなのはたちの護衛だ。

 ファースは、……ちっ、さっきので殺られていたか。

 なのは、ここで大佐ニキと援護を頼む」

 

「うん、気をつけてなの。隆和くん」

 

 

 他の面々がトラエストストーンで撤退していく中、この場に残るように言われたトモエが思わず聞き返した。

 

 

「主様!?」

 

「今、マッパーの魔法で確認して敵対者はアレ以外いなかった。

 だが、伏兵は注意すべきだ。

 それに、物理吸収のボス相手に破魔と物理技だけのトモエでは無理だ」

 

「……わかりました、主様」

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 

 そう言うと、マジックピックを抜きつつレリエルに向けて走り出す隆和。

 それを援護するように大佐ニキとなのはが魔法を放つ。

 

 

「【トリスアギオン】!」

 

「【フレイダイン】!」

 

『!』

 

「何だっ!?」

 

 

 二人の魔法が炸裂し震えるレリエルだが、視線は隆和に向いていた。

 やたらと目を引く金のネックレスもそうだが、この個体はこの中でマグネタイトが一番多く且つこの異界で唯一いたあの男と同質の力を持っているとレリエルは感じていた。

 だからこそ、奇襲に近い形で隆和を影の中に引き込んだ。

 

 【丸飲み】。

 

 文字通り、敵単体を飲み込んで緊縛(バインド)で動きを封じつつHPを吸収するスキルである。

 レリエルはこれで後はあそこに居る3体を倒し怪我を癒やせば、また徐々に天使を産み出しつつ異界を広げられるだろうと考えていた。

 

『【神の夜】の名において、我と一つになり全ての人間に安寧の眠りを』

 

 それこそが、今の彼女の目的である。

 だが、その迂闊な行動は彼女の死を招く行動だった。

 

 

「【耽溺掌】!」

 

『~~~~~~ッ!? ~~~~~~~~~~~ッッッ❤❤❤』

 

 

 今までに経験のしたことのない脳髄を焼くような快楽にレリエルは襲われた。

 球体の表面に浮かぶ白い模様が明滅し、それ以上に体が振動を始め隆和をその場に吐き出した。

 

 何故、こうなったのか。

 理由は単純である。緊縛は精神無効の耐性を持つ隆和には効果がなく、隆和のスキル【耽溺掌改】は【相手の体内に直接触れる間は状態異常のみ相性を無視して貫通する】のだから。

 つまり、隆和を飲み込めばこうなるのである。

 

 レリエルは動きを止めた。それを好機として動いた者がいた。

 

 

 

 

 彼女は己を悔いていた。

 彼女は己の油断と弱さを悔いていた。

 

 彼女はもともと己の主以外は眼中になかった。

 主の家の祭神だった鬼子母神のハリティーが偉ぶっていた時も、

 屋敷の地下に眠る呪物を求めメシア教の部隊が襲ってきた時も、

 迎え撃つために屋敷を異界に沈めた時も、

 そのリーダーだった女性の天使を主が従えた時も、

 守っていたのが主である彼の先祖が大陸から持ち帰ったというお経の木簡だと知った時も、

 長年の一族の負の感情が溜まり呪物と化していたと聞かされた時も、

 長年の封印が解け、主が外の世界に出た時は少し心配したが、

 戻って来た事で全ては些事だと思っていた。

 

 もともとこの屋敷の片隅で祀られていた稲荷だった彼女にとっては、彼の側に居られればそれで良かった。

 

 だから、主が封印を強めて外に作った弟子を待つ為に即身仏になるのも止めなかった。

 だから、ライラが門番として守護者を気取るのも気にしなかった。

 だから、ハリティーが主のいる部屋の前で守護者を気取るのも気にしなかった。

 

 だから、動かなくなった主の側で彼女はただ丸くなって眠っていた。

 

 だから、あの日、こうなるのを止められなかった。

 

 あの日、いつの間にかこの異界に来た男が持っていた禍々しいフォルマは、男が掲げると警戒のために出迎えていたハリティーとライラをあっという間に異形の天使へと変え、それはここに眠る呪物と封印、その上己や彼女の愛する主までそのマグネタイトを吸い上げ異国の羽根つき共を大量に産み出し始めたのを止められなかった。

 彼女にはその時にはもう主の魂を抱え、諸共に地下で石となり身を守るより手段が無かった。

 

 悔いていたからこそ、階上のあの忌まわしい異形の動きが止まり近くに主と同じ力を持った存在を感じ取った事で好機と考え彼女は、復讐のために石と化した己の身を戻し階段を駆け上がった。

 

 

 

 

 レリエルの動きが止まり吐き出された隆和は、立ち上がり【ジオンガ】の石の付いたマジックピックを構え直した。

 くらくらとする頭を振り、隆和が攻撃をしようとした所で奥にあった地下への階段から3尾の白い狐が飛び出して来た。

 警戒する隆和を優しげな目で見たその狐は咥えていた緑の結晶を隆和に手渡すと、頭を下げそれを頼むとでも言うように彼に一礼した。

 不思議に思った隆和が呼び止めようとしたが、狐は「コーン!」と高らかに鳴きそのまま身を翻すとレリエルを睨みその身を白熱した状態へ変えると体当たりをした。

 轟音と爆発。

 顔を手で覆っていた隆和が煙が晴れた時に見たものは、狐が体当たりした場所の球体が欠け中の赤い肉のような物が露出し血を大量に吹き出しているレリエルの姿だった。

 倒すチャンスだ。ここに居た皆はこれを見逃さなかった。

 

 

「ジオンガストーンだ。喰らえ!」

 

「【トリスアギオン】! 【トリスアギオン】!」

 

「【フレイダイン】! 【メギドラッ】!」

 

 

 電撃が、火炎が、核熱が、そして万能属性の魔法が何度も飛び、ようやく球体の表面の白い模様は消えレリエルは幾つもの破片へと砕けて落ちるとそのままマグネタイトの霧となり消えて行った。

 そして、異界の崩壊が始まった。

 隆和は、走り寄って抱きついてきたなのはとトモエを支えながら歩き寄って来た大佐ニキに声を掛ける。

 

 

「大佐ニキ、脱出だ。なのは、トラエストストーンは?」

 

「大丈夫、ここにあるの」

 

「ああ、早く出よう」

 

「じゃあ、起動なの」

 

 

 こうして、4人の姿はこの場から消え脱出したのだった。




後書きと設定解説


・アイテム

【ジャガーノート】
デモニカ開発前、アメリカ軍で使用される耐爆スーツを改造した霊装防具
物理耐性、火炎耐性、衝撃無効が付与された防御力は高いが移動力の低い防具
難点はパワーアシストが不完全な為、使用には自前の筋力が必要な点
主に、大佐ニキの隊のようなミリタリー大好きな人に使用されている

・敵対者

【天使パワー】
レベル30 耐性:電撃耐性・衝撃弱点・破魔無効・呪殺弱点
スキル:タスラムショット(敵単体・中威力の銃属性攻撃)
    白龍撃(敵単体・力依存による中威力の破魔属性攻撃。
        弱点を突いた場合、確率で即死付与)
    ディアラマ(味方単体・大回復)
    堅盾の秘法(戦闘開始時、味方全体の防御力を初期値の25%上昇)
詳細:
 この異界での守備隊長であり司令塔の天使

名前:長田保
性別:男性
識別:異能者・51歳
職業:日本メシア教関西支部司祭
ステータス:レベル5 破魔無効
スキル:ハマ(敵単体・低確率で即死付与)
    逃走加速(逃走の成功率が上昇する)
    洗脳、脅し、誘拐
装備:封魔の鈴(ボス敵以外との遭遇をキャンセルできる・邪術師製)
詳細:
 関西メシア教支部の司祭で帰化人
 地位を利用して複数人の日本人女性を暴行していた
 諸々の悪事が発覚しそうになり過激派への鞍替えのために行動中
 使用後の女性の後始末のために半グレに協力していた

【大天使レリエル】(ボス)
レベル40 耐性:物理吸収・電撃弱点・破魔無効・呪殺無効
スキル:光を飲む闇夜(敵味方全体・大威力の呪殺属性攻撃。
           ダメージに応じてHPを吸収する。
           弱点を突いた時、確率で即死付与)
    子守唄(敵全体・中確率で睡眠を付与)
    永眠への誘い(敵味方に関係なく睡眠状態の相手を即死させる)
    丸飲み(敵単体を飲み込んで緊縛し、毎ターン、HPを吸収する)
    デクンダ(味方全体・能力減少効果を全て消す)
    天使召喚(自身のレベル以下の天使達を召喚できる。
         ただし、インターバル時間とMAGが必要)
詳細:
 大内の家に攻めて来たメシア教部隊の元リーダーの大天使ライラが変化した
 ライラと同一視される大天使で、「神の夜」が名前の意味である
 宙に浮かぶ黒い球体に幾何学模様の白い線が走っている異形の大天使
 長田保が持ち込んだ邪術師特製フォルマによって、暴走しボスになった
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性がある

・関係者

名前:タマモ
性別:女性
識別:妖獣タマモ
詳細:大内の家で祀っていた稲荷神が成長変化した妖獣
   レリエルに力を吸われ弱体化していた
   主である大内隆の魂と共に石化して身を守っていた

この最終戦を書いている途中、本家様のラストを見て大変驚いた。


次は、第一部最終回。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第26話 やらないか? 

続きです。

これにて、一応、第一部完結です。


 

 

  第26話 やらないか? 

 

 

 大内屋敷の異界にて、長田保がレリエルのスキルで消えたのと同時刻の頃。

 

 大阪市生野区の地元の人間も近づかないその地域に、半グレグループ『ジングォン』の拠点となっている古い雑居ビルがあった。ただし、今のこのビルの内部は既にただの犯罪者集団のたまり場などではなく、組織を動かしていた女性邪術師によって異界と化していた。

 美女であるのは間違いないが既に目が全て黒色に変わり時々地球のどこにもない言語で独り言を呟く異形となっているその女は、長田が死亡した事で中継の途切れた事を罵倒しながらそこらにあった生き残りの悪魔化した構成員を殴りつけると、次の瞬間にはけたたましく笑っていた。

 

 

「あーっ、視えなくなったぁ。くそっ、もう少し頑張れよなぁ。

 最後まで観戦出来なかっただろう、がぁ。

 まあ、いいやぁ。在庫処分も出来たし。

 次はどうしようかなぁ?

 あの猫耳ちゃんでも拐ってみようか。

 それでそれで、ここのデストラップダンジョンにした異界にご招~待~とかぁ?

 いいねいいねぇ。アハははハハはハっ!」

 

 

 この女の名前は、【金本清美】または【キム・ジヨン】という。

 

 容姿は20そこそこの美女だが、実年齢は65になる。

 元々は故郷で細々と活動していたダークサマナーであったが、ある日古道具屋で盗んだ金属製の箱に入っていた黒く輝く多面体の声と取引をし、類まれな美貌と霊能の才、それに若さを永遠に保つスキル【闇の再生】を手に入れた。

 そして、今から20年ほど前に隣国で活動していたメシア教から幸運にも悪魔合体の技術を盗み出す事に成功し、用心棒兼愛人としてジングォンを見つけると幹部を悪魔化するなどして日本と隣国で活動するマフィアのような組織を動かしていた。日本の同胞が多くいる街に拠点を構え、拐った子供で悪魔合体がもっと上手くいくように実験を重ね、これからという時にガイア連合が出て来て全て潰された。

 

 と、いうのが依代となったこの女の今までの人生だったが、今はもう見物するのに飽きた【這い寄るもの】によって単なる端末と化していた。

 暇になった端末の女は、閃いた新しいギミックを異界に組み込むべく動こうとした所で何処か異界の空気が焦げ臭く感じた。

 不思議に思い最奥のボス部屋から顔を出して覗くと、そこに通路全体を焼き払う猛火がギミックやトラップを彼女の頭ごと薙ぎ払っていった。

 

 

「【ラグナロク】」

 

「アチャチャチャ、熱ちゃー!!!」

 

 

 ボス部屋の床で顔を抑えてゴロゴロと転がる端末の女の元に、焼き払った通路から白髪の若い男性が現れた。彼は転がりまわるその端末の女の近くまで来るとため息をついた。

 そのため息を聞き、彼女はガバッと立ち上がって彼に叫んだ。

 

 

「ハァッ。また、お前か」

 

「何であなたが!? バレないようにしていたのに!」

 

「今の日本の状況で、大阪近辺にだけ街中にレベル20を越える悪魔がこうもポンポンと出たら原因を調べないはずがないだろう?」

 

「待って! あなたが来るのはまだ想定していなかったの!

 あなた用に異界のギミックを組み直すから猶予を!」

 

「するわけ無いだろう。【ラグナロク】」

 

「嗚呼あ、熱っつ! あ゛あ゛あ゛ぁっつーーーっ!!」

 

「【火炎ブースタ】、【火炎ハイブースタ】、【火炎ガードキル】、【ヒノカグツチの加護】、【ラグナロク】」

 

「あああああああーーーっ!!!」

 

 

 その後、異界にある物を全て燃やして消滅させた後、火事になっている雑居ビルが消防に消火されているのを離れた所で確認しながら、白髪の彼は携帯でどこかに連絡を入れていた。

 

 

「もしもし。……うん、うん。

 ああ、終わったよ。例によってまたあいつだった。

 詳しい事は帰ってから伝えるよ。それじゃ」

 

 

 そう言い電話を終えた彼は、仲間の待つ車に乗り込むとこの場を去って行った。

 

 

 

 

 隆和たちが脱出するのを見届けるように異界の入口は消滅した。

 異界があった場所の跡に残されたのは、廃屋敷の瓦礫と地鎮祭用にガイア連合によって建立された真新しい祠のみとなった。

 

 4人が脱出し脱落者を含めた全員の確認が終わると、魔法少女衣装を着たままのレスラーニキの号令があり撤収作業が始まった。

 参加者は皆、規定の報酬の他に未使用のトラエストストーンや大量に手に入ったマッカや天使のフォルマなどの収入を得たらしく、揚々とした気分で次々と引き上げていくようだ。

 それらを脱力し祠の近くで座り込んで眺めていた隆和たちに、呼びに来た副官の女性と話していた大佐ニキが話しかけて来た。

 

 

「アーッニキ、魔王ネキ、ご苦労さまだな。

 あのような上物の害鳥を駆除できたのはなかなかいい体験だった」

 

「こちらもありがとう。

 助けてくれたことには感謝するよ。ありがとう」

 

「いろいろと助かったの」

 

「いや、我々だけではあの害鳥の群れは駆除しきれなかっただろう。

 ところで、魔王ネキ。

 我々の砲兵担当の件、あらためてどうかね?」

 

「お誘いは、残念だけどご活躍をお祈りするの」

 

「そうか、気が変わったら連絡してくれ。

 次に何か大掛かりな異界の攻略があったなら、ぜひ呼んでくれ。

 それじゃあ、我々は先に撤収するよ。では,また会おう」

 

「ああ、またな」

 

「またなの」

 

 

 こうして、大佐ニキたち『国境なき復讐者』やガイア連合の面々は撤収して行った。

 そうしているうちに、祠の設立をしていた職員が話しかけて来た。

 

 

「もう全員行かれましたよ。

 撤収作業も終わりましたので、最後の車が出ますので急いで下さい」

 

「すみません。今行きますので、ちょっと待ってて下さい」

 

 

 そう言うと隆和は、あの小さな狐から預かった緑色の結晶を祠の中の御札の横に納めると手を合わせて祈り始めた。

 それを見て、何とはなしにトモエとなのはも手を合わせた。

 

 

(師匠、安らかに眠っていて下さい。また、会いに来ます)

 

「それじゃあ、行こうか?」

 

「もういいの?」

 

「ああ。トモエは?」

 

「これでコレットとしての契約は果たされたわ。

 それじゃ、これからもトモエとしてよろしくね。主様」

 

「よろしくな。疲れたから、家に帰って休もうか」

 

 

 こうして、隆和たちも最後まで残っていた職員たちの車で大阪へと帰還した。

 彼らが帰り、しばらくした後で祠に緑色の光が溢れ消えたがその後はもう何も起こることはなかった。

 

 

 

 

 その日の夜、夕食を冷凍のピラフで簡単に片付けると、隆和となのはにトモエは早々に疲れのために就寝していた。

 していたはずなのだが、隆和は一人でどこともしれない場所に立っていた。

 これは『明晰夢』という奴なのだろうかと考え辺りを見回していると、目の前に緑色の光が溢れ目を疑うような巨大な物体が現れた。

 金色の戦車に乗り、緑色のそびえ立つご立派な威容を誇る【魔王マーラ】だった。

 ポカンと自分を見る隆和に、気分が良いのか楽しげに話しかけて来た。

 

 

「うむ。この度の働き、誠に見事であった。

 だからこそ、直々の謁見となろうぞ。我が弟子よ!

 ワシこそが、かの有名な『魔王マーラ』である!」

 

「弟子? いや、マーラ様の事は知ってますけど、何でここに?」

 

「ふむ、事情を知らなんだのか。よし、説明してやろう」

 

「お願いします」

 

 

 隆和がそう言うと、緑色のその卑猥な形状の大きな頭を持ち上げ話し始めた。

 

 

「まず、お前の師匠であった『大内隆』はワシの転生体でもあったのだ。

 だからこそ、お主にも授けたおなごを蕩けさせるスキルはそのためよ。

 そして、この度の活躍。

 転生体のワシの願いでもある『お主の手による終わり』も、

 転生体のワシの仲魔の願いでもある『天使どもへの復讐』も、

 ワシ自身の願いでもある『転生体の分霊の回収』も果たしてくれた。

 まことに、見事である」

 

「はあ。

 まあ、師匠がそう望んだと言うのなら良いのですけど」

 

「そこでだ。今回の褒美を授けよう。

 お主の持つそのスキル、完全なものとしてやろう。

 それともう一つ、お主の手足となる者も用意しようかの」

 

「は???」

 

「……ほほう。ふむふむ。

 お主、その反り返り、太ましさにその照り。

 うむ、霊的素質といいワシの転生体が選んだだけあってなかなかの逸品だな!

 ……よし。これでよかろう。

 さて、これでお主もワシに負けぬなかなかのお盛んボーイになるはずだ。

 これからも精進し、よりお盛んな境地へと至るがいい。

 さらばだ!」

 

「あの、ちょっと? もしもし??」

 

 

 言うだけ言うと、その姿が薄れ徐々に覚醒していくのを感じた隆和はもっと問いただそうとしたが目が覚めてしまった。

 

 

「主様、主様!」

 

「大丈夫ですよ。マスターさんは強くなっただけですから」

 

 

 隆和が目を開けるとそこには彼を揺すって起こそうとしている寝巻き姿のトモエと見覚えのない少女が居た。

 肩の所で切り揃えた銀色の髪を左側に付けた赤いリボンで留め、紫の薄絹と蓮の花を思わせる黄金の飾飾で身体の重要な部分を覆う衣装をしている10代前半くらいの美少女である。

 布団から上体を起こした隆和に、その少女は光のない赤い目のジト目でこちらを見ると話しかけて来た。

 

 

「私と同一視なんてされてるあんなモノに言われてここに来ました。

 秘神じゃなくて、【幻魔カーマ】です。

 おまけに、ちょうど良くいたあの天使の霊基を使ったせいかこんな姿です。

 何でこんな姿なんです?」

 

「たぶん、俺の知り合いに聞いたらほとんどがカーマはその姿だと言うぞ。

 それより、あの天使、ファースはどうなったんだ?」

 

「マスターさんの知り合いって変な趣味ですね。

 それと彼、『ああ、やっと解放される』って言い残して消えましたけど何したんです?

 マスターさん、変態さんですか?」

 

「主様は、あの天使には治癒魔法を掛けさせることしかしていません。

 それに、アブノーマルな趣味もありません。ごく一般的な性癖ですっ!」

 

「トモエ、トモエ。その辺にしような。

 とりあえず、君はどうしてここにいるんだ?」

 

「もともと、成功の暁には分霊として私が下賜される予定だったんですよ。

 でも、その元になるはずだった連中の聖女もいつの間にかいませんから、この天使の霊基を顕現の元にしたんですよ」

 

「待った。とりあえず、困ったからショタオジに相談しよう」

 

 

 言い合いを止めて寒いので半纏を着ると隆和は、携帯でショタオジに連絡する事にした。

 

 

「朝の6時か。大丈夫かな?

 ………………あ、もしもし。安倍隆和です。早朝からすいません」

 

『ああ、大丈夫大丈夫。

 3徹目だからまだ余裕あるし。それで、どうしたの?』

 

「実は、……」

 

 

 隆和は、夢で見た事とカーマの事を説明した。

 全部聞き終わると、ショタオジは少し待つように言って話を続けた。

 

 

『…………うーん、ざっと占術で見た限りでは大丈夫そうだな。

 確か、昨日異界の攻略が終わったばかりだろう?

 直接見るから、身体を休めてからこっちに来てくれるかな?』

 

「判りました。それじゃお願いします」

 

『うん、じゃあそういう事で。

 ……電話終わりかじゃなくてもう少し休k…(ブツン)』

 

 

 何か言い争いが向こうであったのか山梨の方で電話が切れてしまった。

 隆和は眠気ももう飛んでしまったので、トモエとカーマを連れて完全に起きる事にした。 

 

 

 

 

 その日の夜、隣の千早の家の方で隆和となのは、トモエにカーマ、それに千早と華門和の6人は祝勝会として鍋を囲んでいた。希留耶も食べないかと誘ってはみたが、ちょうど遊びに来ていた腐百合ネキと春休みだという事もあり山梨へ泊りがけで遊びに出掛けてしまっていた。

 

 カーマの事も昼間の間に紹介が終わり、後日ショタオジと面談するという事でこの場では一応話は付いていた。

 話も進み持ち込みで大吟醸の値段のいい日本酒も置かれ、肉や野菜を煮た味噌ベースの鍋もいい感じに煮上がっていた。

 そして、千早が乾杯の音頭を取った。

 

 

「異界攻略成功、おめでとうやね!」

 

「「おめでとうございます!」」

 

「安倍はんも念願の師匠との約束も、ようやく果たせたみたいで良かったなぁ」

 

「ん、まあ。そうなるかな? 実感は無いんだけどね」

 

「私としては、なのはにほとんど頼りきりな状況には悔しいです。

 もっと強くならなくては」

 

「にゃはは。火力一辺倒なのもそれはそれで問題だと思うの」

 

「でも、大佐ニキはんからの報告書やと大活躍だったやんか」

 

「それは、そうだなぁ。

 攻略は周りの人たちの協力による陽動となのはの火力で成功したようなものだしな」

 

「そろそろ鍋も出来たみたいです」

 

 

 華門和が蓋を開けると、動物肉らしいその鍋は美味しそうに煮上がっていた。

 そこへ、なのはが華門和に聞いた。

 

 

「そういえば、これは何の肉なの?」

 

「腐百合ネキさんが、黒医者ニキさんの友人の女性から貰った肉だそうです。

 1kgもあるから、検疫済みだけど食べきれないので食べてくれとか。

 何でも、試作の【悪魔フード・ラッコ肉】とか」

 

「ラッコ自体、毛皮の乱獲で絶滅危惧指定で狩猟は禁止されているんや。

 だから、食べたくなった技術班の誰かが再現しようとしたんやないか?」

 

「なるほどなぁ。うん、なかなか美味いな」

 

「イケるの」

 

「美味しいです」

 

「本当や」

 

 

 そうして、黙々と食と酒が進むうちにおかしな空気になって来た。

 どういうわけか互いに互いが色っぽく、スケベに、可愛く見え出し、発散できない感情に飲まれてしまって来ていた。

 

 

「ふう、暑いな」

 

(そんな風に胸元を開けるなんて、……隆和くん、スケベ過ぎる!)

 

「えーと、あれ? 頭がくらくらします」

 

「大丈夫、和はん?」

 

「ソファで横にした方がいいの」

 

「胸元も開けて楽にした方がええな。下まで脱がすのはアカンな」

 

 

 あまりの熱さに完全に上を脱いだ隆和は、千早の方を見て語り出した。

 

 

「安倍はん?」

 

「千早、今回は本当にいろいろとありがとう。

 そういえば、少し見ないうちにいい女になったなぁ」

 

「嫌やわぁ。そないな事急に言わんでも」

 

((かわいい))

 

「トモエもあれから色っぽくなったよなぁ」

 

「そ、そうですか? 主様」

 

(何なのこの感情、隆和くんが本気の時くらいすごいの)

 

(こんな気持、初めてやわ。抑えきれへん)

 

「駄目だ。…もう、我慢できん」

 

 

 そう言うと隆和は立ち上がると自宅に行き、霊装の【ギリギリブーメラン】を持って部屋に戻ると服を脱ぎそれを身に着けた。

 【ギリギリブーメラン】は、尻に達筆の白抜きで『摩』の印刷がある黒いブーメランパンツの男性用水着の形状の霊装である。その効果は、着用者がMPを消費して【チャージ】の魔法が使えるようになるが、同時に【使用者の愚息も強制的にチャージ状態】になる最近スケベ部に名前を変えたグループの作品である。

 

 彼のその怒張した【立派な息子】に頭が茹だって赤面の彼女たちの視線が集まる中、赤面した顔で隆和はこれまた茹だった頭で笑みを浮かべると、彼女たちにこう告げた。

 

 

「ーーヤらないか?」

 

 

 

 

 向こうで始まった饗宴を冷静に見ながら一人黙々と鍋を食べていたカーマは、そのまま蓋をして火を消し玄関の鍵を閉め窓のカーテンを完全に閉めると、日本酒を出して向こうの様子を肴に飲み始めた。

 

 

「まあ私、新参者ですし、愛の神さまでもあるのでここで見守っていますね。

 後片付けとか色々とあるでしょうし」

 

 

 その宴は、翌々日の昼に家に戻った希留耶が異臭に気づいて怒鳴り込んでくるまで続いたそうな。

 

 

 

 

   第一部・終




後書きと設定解説


・敵対者

名前:金本清美(キム・ジヨン)
性別:女性
識別:異能者?・20(65)歳
職業:ダークサマナー
ステータス:レベル17 火炎弱点・破魔耐性・呪殺無効
スキル:悪魔召喚(窃盗した技術の独学だが成功率はそこそこ)
    悪魔合体(窃盗した技術の独学のため成功率は低い)
    ジャイブトーク(ダーク悪魔と交渉できる)
    ネクロマ(死亡した味方を幽鬼として短時間蘇生できる)
    吸魔(敵単体・小威力の万能属性MP吸収)
    闇の再生
      (自身が死亡状態になった場合でも毎ターンの手番ごとに、
       最大MPの半分までHPに転換できる。
       全てのHPが回復するか、魂の限界まで可能)
詳細:
 組織の悪魔合体師で実質的な指導者でもあるニャルの自覚なき玩具
 隣国のメシア教から技術を盗むのに成功したダークサマナーという経歴だった
 (ニャル産の)スキル効果で、若さを維持するのに他人のMAGが必要だった

・アイテム

【ギリギリブーメラン】
尻に達筆の白抜きで「摩」の印刷がある黒いブーメランパンツの男用水着
着用者は、MPを消費して【チャージ】の魔法が使えるようになる
ただし、同時に【使用者の愚息も強制的にチャージ状態】になる


これにて、一応、第一部は完結です。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございました。


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第1部登場人物資料集(仲魔・関係者)

第1部に登場した主人公の仲魔と関係者たちの登場時のデータです。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


仲魔設定

 

名前:コレット

性別:女性

識別:幽鬼チュレル(特異個体)

ステータス:レベル34 破魔弱点・呪殺無効

識別:鬼女リャナンシー (第5話)

ステータス:レベル34 衝撃耐性・破魔弱点・呪殺無効

スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)

    シバブー(敵単体・中確率で麻痺付与)

    ムドオン(敵単体・中確率で即死付与)

    ディアラマ(味方単体・大回復)

    パトラ(味方単体・軽度の状態異常回復)  

    エナジードレイン(敵単体・小威力の万能属性のHPとMP吸収)    

詳細:

 元々は、大内屋敷の異界に攻め込んで死んだメシア教の聖女

 守護天使の大天使ライラは、彼の師匠に女にされて妻の一人になった

 彼女は人間としての魂が悪魔化して再生され封魔管と共に師匠から下賜された仲魔

 享年16歳で、金髪をロングヘアにしていて胸が薄いのを気にしている

 主人公の幼なじみであり筆下ろし相手で、それを自身の立脚点にしている

 彼女にとっては15年愛を注いだ隆和が全て。彼に一番愛される事が最優先 

 身長156cm、B:73(A)・W:53・H:81(黒医者ニキのメモより)

 

 

【挿絵表示】

 

コレットのイメージ図

 

 

名前:トモエ

性別:女性

識別:シキガミ・18歳相当

職業:主人公のシキガミ

ステータス:Lv20・アタック型

耐性:物理耐性・破魔耐性・呪殺無効(装備) 

スキル(戦):マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)

       ギロチンカット(敵単体・大威力の物理攻撃。中確率で麻痺付与)       

       霞駆け(敵複数・2~4回の中威力の物理攻撃。低確率で幻惑付与)

       物理ブースタ(物理攻撃のダメージが15%増加)

       コロシの愉悦(クリティカル率が上昇)

       かばう(主人が致死ダメージを受ける時、その攻撃をかばう)

       シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効

スキル(汎):家事・会話・食事・房中術(極)

装備:日本刀(模造刀)  

   巫女服(呪殺無効。ガイア連合謹製改造巫女服)

詳細:

 腰まである黒の長髪のおっぱいがデカい凛々しい巫女服美少女

 黒医者ニキが曰く、「自分謹製のシキガミの最高傑作」

 霊装は、呪殺無効付与のガイア連合謹製改造巫女服

 乳袋型巨乳補正付き白衣と襦袢、紫袴、足袋と草履付き

 身長160cm、B:87(F)・W:57・H:85(黒医者ニキのメモより)

 

 

名前:トモエ=コレット

性別:女性

識別:シキガミ・18歳相当

職業:主人公のシキガミ

ステータス:Lv27・アタック型

耐性:物理耐性・衝撃耐性・破魔耐性・呪殺無効(装備) 

スキル(戦):マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)

       タルカジャ(味方全体・攻撃力を1段階上昇させる)

       黒点撃(敵単体・大威力の物理攻撃)       

       疾風斬(敵全体・中威力の物理攻撃)

       物理ハイブースタ(物理攻撃のダメージが25%増加)

       攻撃の心得(戦闘開始時に自身のみタルカジャが発動する)

       愛の猛反撃(主人への全ての物理攻撃を確率で反撃。

             愛情の深さで確率と威力が変化する)

       鬼女の献身(味方全体・HP中回復)

       シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効

スキル(汎):家事・会話・食事・房中術(極)

装備:名刀ムラサマ(ゲーム風のSF日本刀。【準物理貫通】付与)

   小太刀(模造刀。予備武器) 

   衛士強化装備・レプカ(呪殺無効。マブラヴ強化服完全再現。コート付き)

   巫女服(呪殺無効。ガイア連合謹製改造巫女服)

詳細:

 容姿は基本トモエのままであるが、言動や仕草などはコレットの面が強い

 黒医者ニキが曰く、「コレットの記憶も受け継がれて融合している珍しい例」

 コレットと融合した事で大幅に強化され、主への執着心も大いに強化された

 霊装は、衛士強化装備(コート付き)の他に斬れ味のとても良い刀を手に入れた

 身長165cm、B:90(F)・W:58・H:86(黒医者ニキのメモより)

 

 

【挿絵表示】

 

トモエのイメージ図

 

 

名前:ファース(ファーストエイド)

性別:両性

識別:天使エンジェル

ステータス:レベル13

耐性:破魔無効・呪殺弱点・精神無効(契約者は除く)

スキル:ハマ(敵単体・低確率で即死付与)

    アギ(敵単体・少威力の火炎属性攻撃)

    ディアラマ(味方単体・大回復)

    アムリタ(味方単体・状態異常を全て回復)

    飛翔(障害物を無視した移動が出来る)

    房中術(弱)(取得経緯は察して欲しい)

詳細:

 金髪碧眼の10代前半の美少女のような容姿の備品扱いされていた天使

 一部の技術班員により趣味の入った調整処理済みで絶対に逆らえない仕様

 白地に赤十字のマーク付きのヘルムと腕輪をした衛生兵の服装をしている   

 

 

名前:カーマ

性別:両性(切替可能)

識別:幻魔カーマ

ステータス:レベル25

耐性:火炎弱点・破魔無効・呪殺耐性・魅了無効

スキル:天扇弓(敵全体・大威力の銃属性攻撃)

    魅了突き(敵単体・中威力の銃属性攻撃。低確率で魅了付与)

    ムドオン(敵単体・中確率で即死付与)

    ディアラマ(味方単体・大回復)

    アムリタ(味方単体・状態異常を全て回復)

    真・夢幻の具足(障害物を無視した移動が出来る。

            使用すると味方の隣接距離に移動も可能)

詳細:

 隆和の愛神を主張して封魔管に居座る契約悪魔

 マーラ様から褒美として贈られたいい感じに調整された劣化分霊

 元の霊器と転生者が思い浮かべる姿からFGOの少女の姿に変化した

 ファースに変態技術者が施した反逆不可の強固な契約はそのまま残った

 

 

関係者設定(第1部)

 

名前:佐川司 (第13話登場)

性別:男性

識別:覚醒者・67歳

職業:関西連合直参佐川組組長

ステータス:レベル4 破魔無効・呪殺無効(装備)

スキル:霊視・財力・蛇の道は蛇・鋭い勘・カリスマ・根回し

詳細:

 大阪道頓堀近くでキャバレー「グランド」などの幾つかの店を持つ極道の組長

 【財界俺ら】や極道関係や霊能組織にも顔が広いフィクサー

 天ヶ崎千早の母の兄で義理の父

 

 

名前:ウシジマニキ(丑嶋肇) (第1話~)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・30代

職業:金融業「ウシジマファイナンス」社長

ステータス;レベル13・フィジカル型

耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)

スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)

    マカジャマ(敵単体・中確率で魔封付与)

    パララアイ(敵単体・中確率で麻痺付与)

    潜伏(自身・敵から狙われにくくなる)

    交渉術・執り成し

詳細:

 元々は、霊能組織相手の闇金系派遣仲介業(人身売買含む)業者

 フリーのデビルバスター(ダークサマナー含む)のまとめ役もしていた

 ガイア連合に参加後は、ちゃんと許可を得たガイアグループ所属の金融業社長

 シキガミは、動物型の兎「うーたん」で回復やトラフーリなどのスキル持ち

 

 

名前:一条麿呂 (第14話~)

性別:男性

識別:異能者・46歳

職業:文部省監督宗教法人「京都府神社庁」理事

ステータス:レベル3 破魔無効

スキル:霊視・見鬼・占術など

装備:呪殺や状態異常を防ぐ護符や札×多数

詳細:

 京都府内の霊能関係者のオカルト方面の相談役

 京都府内の霊能組織の要請を何とかする役所の担当者とも言う

 最近はガイア連合への要請をまとめる調整役でもある

 

 

名前:クラトス神父 (第9話登場)

性別:男性

識別:異能者・76歳

職業:メシア教穏健派神父

ステータス:レベル9 破魔無効

スキル:ディア(味方単体・HP小回復)

    ハマオン(敵単体・中確率で即死効果)

    スラッシュ(敵単体・小威力の物理攻撃)

詳細:

 メシア教穏健派の教会の【墓標教会】を統括している神父

 コレットと共に死亡したロイドの友人で兄貴分だった

 かつて司祭を狙えたが機会を捨てて、今の教会も絶望して諦めている

 

 

名前:百々地希留耶 (第4話~)

性別:女性

識別:異能者(悪魔人)・14歳

職業:中学2年生(不登校)

ステータス:レベル11・スピード型

耐性:火炎耐性・電撃弱点・衝撃耐性

スキル:アクセルクロー(敵複数体・2~4回中威力の物理攻撃)

    マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)

    獣眼(自身の攻撃の命中率上昇)

    見切り(物理回避率が10%増加)

    野性の勘(自身が受ける攻撃のクリティカル率を25%減少)

詳細:

 カルト(メシア教)に嵌った両親に放置された末に悪魔合体の実験に使われた少女

 杜撰な「魔獣ネコマタ」との悪魔合体で唯一成功し生き残った

 度々怒鳴られていたため、大きい音には身が竦む癖がある

 前髪の一部がストレスで白くなっていて、耳と尾が隠すのが苦手

 身長152cm、体重41kg、処女(黒医者ニキのメモより)

 

 

【挿絵表示】

 

百々地希留耶のイメージ図

 

 

名前:黒医者ニキ(黒沢忠夫) (第2話~)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・32歳

職業:地方病院医師→ガイア連合山梨支部医療班医師

ステータス:Lv21・マジック型

耐性:破魔無効・呪殺無効(装備) 

スキル:ハマオン(敵単体・中確率で即死効果)

    ディアラマ(味方単体・HP大回復)

    アムリタ(味方単体・不利な状態異常を全て回復)

    リカーム(味方単体・死亡状態をHP半分で復活)

    グラム・カット(敵単体・小威力の物理攻撃。クリティカル率高)

    ハイアナライズ(解析不可能な一部のボスなども解析可能)

    心霊手術(霊的な要素も含む外科的処置が可能になる技術)

    適切な処置(戦闘時以外で味方一人の不利な状態異常を医療処置で回復)

詳細:

 ガイア連合の誇る凄腕HENTAIマッド技術者の一人で素人童貞

 他にも何人かいる漫画のBJの格好をしている本当の免許持ちの医者

 難しい施術の成功と自分で病気を治せるので性風俗が好きで興奮する性癖

 女性の身体の個人情報を目視で判る特技がスキルのハイアナライズになった 

 腐百合ネキは姉の娘で姪

 

 

名前:腐百合ネキ(桂木美々) (第5話~)

性別:女性

識別:転生者(ガイア連合)・17歳

職業:ガイア連合山梨支部連合員

ステータス:レベル14・スピード型

耐性:破魔無効・呪殺耐性(装備)

スキル:トラフーリ(戦闘脱出)

    トラポート(長距離転移)

    エストマ(敵遭遇率低下)

    スクンダ(敵全体・命中と回避低下)

    迅速の寄せ(素早さと先制率上昇)

    逃走加速(逃走確率の上昇)

装備:軍用バックパック(耐刃防弾仕様)

   呪殺耐性の指輪

詳細;ガイア連合員専用の物資の配達をする部署の関西方面担当の一人

   テレポート地点はBL本を買った思い入れのある場所が基点となる

   異能ではなく趣味のことで家族と疎遠になり家を出た

   友人の手で腐海に引き込まれ、貴腐人と百合モノ好きになった。

   友人の栗原すずかは有明で売れっ子の同人作家

   実家は地方の大病院で黒医者ニキが親戚で身元引受人

   処女である(黒医者ニキのメモより)

 

 

【挿絵表示】

 

腐百合ネキのイメージ図

 

 

名前:サラリマンニキ(服部正成) (第5話~)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・34歳

職業:ブラック企業社員→ガイア連合大阪派出所職員

ステータス:Lv24・スピード型

耐性:物理耐性(装備)・破魔無効・呪殺無効(装備) 

スキル:絶命剣(敵単体・中威力の物理攻撃。クリティカル率高)

    暗夜剣(敵単体・2回中威力の物理攻撃。低確率で封技を付与)

    ラピッドニードル(敵全体・小威力の銃属性攻撃)

    気合(使用後の次の物理攻撃の威力が一度だけ2倍になる)

    ステルス(物理回避率20%増加。さらに、【食いしばり】の効果)    

    奈落のマスク(状態異常になる、及び即死する確率を大幅に減少)

スキル(資格):

    大卒資格

    普通自動車免許

    日商PC検定3級

装備:忍者刀(模造刀。予備あり)

   カチグミ・サラリマンスーツ(物理耐性と呪殺無効が付与されたグレーの背広)

詳細: 

 ガイア連合の地方派遣の戦闘要員で童貞

 いつも眼鏡を掛けた平凡なサラリーマン姿

 知り合いから勧められた忍殺にハマり作品は初心者で勉強中

 「ドラゴン・ユカノ」のシキガミのために貯金していた

 

 

【挿絵表示】

 

サラリマンニキのイメージ図

 

 

名前:ユカノ (第16話登場)

性別:女性

識別:シキガミ・0歳

ステータス:レベル9・スピード型

耐性:物理耐性・呪殺耐性

スキル(戦):暗夜剣(敵単体・2回中威力の物理攻撃。低確率で封技を付与)

       物理鋭化(物理属性の攻撃時、その威力が通常の1.1倍になる)

       食いしばり(HPが0になった際、自動的に一度だけHP1で復帰する)

       かばう(主人が致死ダメージを受ける時、その攻撃をかばう)

スキル(汎):会話・食事

装備:忍者刀(模造刀。予備あり)

   白疾風(物理見切り付与。白疾風ナルガ女性装備再現)

詳細:

 サラリマンニキこと服部正成の専用シキガミ嫁

 モデルはニンジャスレイヤーのドラゴン・ユカノ

 

 

名前:ナイスボートニキ(伊東誠) (第5話~)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・19歳

職業:高校生→ガイア連合大阪派出所職員

ステータス:レベル3・ラッキー型 

 ↓

ステータス:レベル9・ラッキー型(7~8話)

耐性:物理耐性(装備)・破魔無効・呪殺耐性(装備)

スキル:ディア(味方単体・HP小回復)

    パララディ(味方単体・麻痺を回復)

    イルク(自身を透明化)    

    応急処置(戦闘時以外で味方単体・HPと一部の状態異常回復)

    コンピューター操作(プログラム作成含む技術)

スキル(資格):

    普通自動二輪免許

装備:物理耐性のペンダント

   呪殺耐性の指輪

   作業服(上下)(霊装防具)

   安全ヘルメット(霊装防具)

   安全靴(霊装防具)

   破魔弾丸入りモデルガン(賃貸対霊武器)

詳細:

 某ゲームの主人公に容姿や家庭環境がそっくりに生まれた童貞の転生者

 前世はブラックな現場専門のSEだったのでPCは得意

 関東の高校で女性トラブルから逃げ出して山梨支部へ逃げこんだ

 「横恋慕や目のハイライトが消えた女性は嫌だ」が口癖

 働いて理想の嫁になるシキガミを得るために貯金中

 失言癖があり、それで人間関係がおかしくなる事がある

 

 

名前:レスラーニキ(関本順一郎) (第15話登場)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・38歳

職業:関西日本プロレス選手→ガイア連合関西支部支部長

ステータス:レベル16・アタック型

耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺無効(装備) 

スキル:マッスルパンチ(敵単体・中~大威力の物理攻撃。

            自身の残りHPが多いほど威力が上昇)

    投げ技(敵単体・中威力の物理攻撃・低確率で転倒による緊縛付与)

    ぶっ潰し(敵全体・中威力の物理攻撃。命中率が低い)

    気合(使用後の次の物理攻撃の威力が一度だけ2倍になる)

    挑発(しばらくの間、敵から狙われ易くなる)

    地獄のマスク(状態異常になる、及び即死する確率を減少)

装備:プロレスマスク『ザ・ギエフ』(呪殺無効付与)

詳細:

 元は『関西日本プロレス』のベテラン選手で引退後にガイア連合に最近合流した転生者

 面倒見の良さを買われ支部長になるが、現場にばかり出て書類は部下任せ

 体格は2メートルを越える和風ザンギエフのような風貌で女性は苦手 

 自分専用のシキガミ嫁はまだ資金不足でなく貯金中

 

 

名前:大佐ニキ(藤岡眞一郎) (第23話~)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・28歳

職業:ガイア連合山梨支部地方派遣PMC代表

ステータス:レベル25・マジック型

耐性:火炎耐性・破魔無効・呪殺無効(装備)・精神無効(装備)

スキル:トリスアギオン(敵単体・大威力の火炎属性攻撃。相性を無視して貫通)

    マハラギ(敵全体・少威力の火炎属性攻撃)

    掃射(敵全体・少威力の銃属性攻撃)

    火炎ギガプレロマ(火炎属性攻撃のダメージが大きく上昇)

    指揮・カリスマ

詳細:

 某錬金術師の漫画に出てくる火炎使いの人物にそっくりな転生者

 大切だった家族や友人を殺した悪魔を根絶やしにするのが目的の復讐者

 同じ様な目的の仲間を集めてサバゲーマニアだった知識で傭兵部隊を設立した

 男女混合の傭兵チームの名前は、PMC「国境なき復讐者」

 現在、主標的の天使潰しの為の海外遠征をするための計画中

 チームメンバーは10~20レベルで、国内ではボウガンと改造モデルガンを使用

 

 

名前:ダンボールニキ (第24話登場)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・20?歳

職業:ガイア連合地方派遣異能者

ステータス:レベル20・フィジカル型

耐性:破魔無効

スキル:とんぼ蹴り(敵単体・小威力の物理攻撃・クリティカル率高)

    牙折り(敵単体・小威力の物理攻撃・しばらく攻撃力を1段階低下する)

    覚悟の挑発(自分へのダメージを軽減し、攻撃を引き受けやすくなる)

    みかわし(物理攻撃を回避しやすくなる)

    全門耐性(物理・万能以外の属性攻撃を受けた際、ダメージを50%にする)

装備:至高のダンボール(【全門耐性】付与。ガイア連合製の専用特注防具霊装)    

詳細:

 ガイア連合に所属するいつもダンボール型の霊装を被っている覆面転生者

 いつも全門耐性を付与されたダンボール霊装と黒のブーメラン水着を着ている

 回復魔法を使う専用シキガミの「ダンボー」を所有

   

 

名前:木下たかし (第15話登場)

性別:男性

識別:覚醒者・17歳

職業:無職

ステータス:レベル1

耐性:破魔無効

スキル:なし

詳細:

 隆和がかつて勤務していた木下工務店の社長の息子

 悪知恵が働くタイプの参謀気取りの不良

 今回の遭遇で覚醒した

 

 

名前:鈴谷あずみ (第6話登場)

性別:女性

識別:異能者・18歳

職業:神社アルバイト巫女/京都ヤタガラス所属

ステータス:レベル4

耐性:破魔無効

スキル:九字印(ハマ)

    護符作成(呪殺除けの身代わり札)

詳細:

 黒髪と清楚な雰囲気と豊満なスタイルが特徴の京都弁の美少女

 諜報を得意とする家の分家出身で、平時はお札作りと巫女のアルバイト

 実家の家業はカレンダー業者

 

 

名前:メイドスキーニキ(土御門基春) (第9話登場)

性別:男性

識別:転生者(ガイア連合)・17歳

職業:高校生

ステータス:レベル20 破魔無効

スキル:不明

詳細:

 土御門家の関東に行った分派の分家の出身の転生者

 グラサンとアロハシャツをよく着ていて髪を金髪に染めている

 メイド型シキガミ「アイリ」を所有

 鈴谷の従兄弟

 

 

名前:タマモ (第25話登場)

性別:女性

識別:妖獣タマモ

詳細:大内の家で祀っていた稲荷神が成長変化した妖獣

   レリエルに力を吸われ弱体化していた

   主である大内隆の魂と共に石化して身を守っていた

 



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第二部
第27話 カーマと女子会と新しい目標


続きです。
第二部開始です。


 

 

  第27話 カーマと女子会と新しい目標

 

 

 あの文字通り、酒池肉林のあの4人を相手にした饗宴のあった日から数ヶ月が経過した。

 

 あれからの隆和は、何処か今までとは変わっていった。

 それまでの人生の目的となっていた師匠の異界の攻略を果たしたと思えば、今度は複数人の女性と関係を持った事への責任感というかそういう物に今度は追われていた。

 ただ、それを根は前世でもそうだったように何かしていないと落ち着かない性分と、それを自分でどうにか出来ないかというような衝動で常に動き回って解消しようしていた。

 最初、困った隆和はどうにか出来ないかと相談を方々にして回った。

 

 スキルの変化やその後の影響を診てもらったショタオジには、体質などには今のところ悪影響はないと言われたが異性関係の相談は別の人にしてくれと言われ断られた。

 修行ではお世話になったネコマタには、「女の敵ニャ!こっちに来るんじゃないニャ!」と全力で威嚇された。

 なのはの友人のちひろには、ガイア連合関係のその手の問題に関するサービスのパンフレットをにこやかに手渡されて無言で追い返された。

 アイテム関係で色々とあった黒医者ニキの友人の女性技術者には、仲良くなれるようにと夜の大人の玩具霊装のパンフレットを多数渡された。

 最後に、最近の掲示板の俺たちの間では伝説の『全裸足舐めを地方の組織の女性にさせた挙げ句、弟子と称して現地のJCを囲った』という噂で有名な四国のある男性にも人づての紹介で話を聞けた。

 彼は電話口で噂に関しては一部大声で否定し、渋々とこう答えた。

 やっぱり男が甲斐性を見せるべきなんじゃね?、と。

 

 家に戻ってから隆和は、ガイア連合にある自分の口座の残高を見た。

 その残高は、あの異界攻略で新調した自分となのはとトモエの装備代や最近になってあの4人に何か贈るべきだと考えたアクセサリー類の代金もあり、連合に加入した時より3分の1以下に落ち込んでいた。

 かと言って、今の彼に出来るのは悪魔を殴り倒す事ぐらいである。

 ガイア連合系の建設会社に就職する事も考えたが、今の一番の強みでもあるレベルの高さと引き換えにするのは収入の差の点で選択肢から消えるので諦めた。

 

 仕方なく彼は今まで通り、ホテルの警備員業務を勤め、関西支部から回されてくる依頼や周りの人からの頼みの解決に出掛け、そして月に何度かは更に強くなるべく山梨の富士山異界に潜るという事を隆和はこの数ヶ月の間ひたすらにし続けていた。

 富士の異界に関しては師匠の異界が無くなった以上、そこ以外に同格以上の悪魔の出る場所が無かったためである。唯一、トラポート持ちで伝手のあった腐百合ネキは臨時収入が増えてホクホク顔だったが。

 そして、彼自身は知らない裏で事態は進んでいた。

 

 

 

 

 あれから、隆和の周囲はと言うと人間関係も含め大きく変化していた。

 そしてそれを新加入したばかりのカーマは、酒の肴にはちょうどいいなと思いつつ相変わらず光の死んだ目で新しい契約者の右往左往する様子を見物して楽しんでいた。

 ただ、姿が子供の姿であるのでTPOに合わせ酒ではなく甘いものになっていた。

 

 今の契約者は、とても面白いと彼女は考えていた。

 気に入っている、と言っても良い。

 たからこそ、加護という形で他の神に取られないようマーキングもしている。

 普通の人間がマーラないしカーマの加護を受けたら下手をしたら色欲の権化になってそれ以外考えられなくなってもおかしくないのに、あの4人の女だけを相手にしてあの男は自分からその手の店などには行かずに自制しているのだ。

 一人こちら側のもいるがそこらでは見かけない程の容貌と素質の女たちだし、人数差があるのでそうしている面もあるのだろうが、あの薬でも決めているかのような激しい夜の行為に耐えて自分から望んでいるようだしと彼女自身の参加はご遠慮するがまあ大丈夫だろうとカーマは考えていた。

 

 そして、その四人の女が今、彼女の目の前でカーマにとってはとても楽しい話をしていた。

 場所は、いつも彼らが行為をしている千早名義の隣の部屋である。隆和は普通にホテルでの業務に行っているためここにはいない。

 

 まずは、高橋なのは。

 ガイア連合でも指折りの火力の魔法を放つ転生者の女性だ。

 彼女は先日、隆和から贈られた呪殺無効の付与されたシンプルな金の指輪を左手の薬指に大事そうに付けている。

 次は、トモエ。

 主人に敵対する相手は神でも斬るつもりでいる隆和の専用シキガミだ。

 彼女は先日、隆和から贈られた呪殺無効の付与されたシンプルな黒のチョーカーと新調された改造ミニスカ巫女服を誇らしげに身に付けている。

 次に、天ヶ崎千早。

 山梨支部の内部監査部門の所属で、関西支部の立て直しに現在尽力している転生者の女性幹部だ。

 彼女も先日、隆和から贈られた呪殺無効の付与されたハート型の鍵の飾りの付いた黒のチョーカーを大事そうに付け、無意識に何度も触っている。

 最後に、華門和。

 天ヶ崎千早に保護され、血族の隆和に家の総代の名義を名乗って貰っているアメノウズメの転生者の現地民の少女だ。

 今は千早の秘書となり、彼女に従う者たちは住んでいる屋敷を【華門神社】として組織を立てて活動を開始した。

 その彼女も、先日、隆和から贈られた呪殺無効の付与されたシンプルな銀の指輪を左手の薬指に大事そうに付けている。

 これらの服飾の数々の形状は、隆和が贈る際に尋ねた彼女らからのオーダーによるものであった。

 

 用意してあったケーキと紅茶が配り終えられると、口火を切ったのは仕事でも仕切ることが多い千早であった。

 なおケーキ自体は、ジュネス内のメイド喫茶店『アリスのエプロン』で千早が買ってきたものである。

 

 

「さて、今回集まって貰ったんは、隆和はんとの事もあるんやけどな。

 今後の事についてに関する打ち合わせや。

 まず、前提として【ガイア連合は来るべき終末を生き残るのに備える】。

 これを目的として集まった集団や。

 だから、うちらもこの目標について情報を合わせておく必要があるっちゅう事なんや」

 

「それは【わたし達】なら、共通の認識のはずなの。

 コレ…トモエはともかく、和ちゃんはどうなの?」

 

「わたくしとしては、皆様より一歩引いた立場ですので従うつもりでございます。

 もちろん神社の皆も、千早様が考えておられる計画に乗るつもりでございます」

 

「計画?」

 

「それを説明するために集まって貰ったんや」

 

 

 千早は『華門神社異界化計画』と書かれた書類を取り出し、テーブルに乗せた。

 興味深げにそれをパラパラと読み込むなのはに、千早は尋ねた。

 

 

「ところで、なのははんの家族の備えはどうなってるん?」

 

「ん? わたしの方はもう終わっているよ。

 確保した山梨のシェルターに母がもう移り住んでいるの」

 

「ああ。確か、山梨の結界の側に出来た街で喫茶店やっているんやっけ?

 確か、『翠』だったような?」

 

「そうよ。

 わたしの家は、母の桃子が一人だけで兄弟もいないから楽なの。

 元々は大阪で店を開いていたんだけど、説得して引っ越して貰ったの」

 

「そういや噂になっとったで? 『山梨にあの翠屋がある』って」

 

「うちのお母さん、50過ぎてるのに30代にしか見えないから大変なの。

 …って、わたしの事情はもういいの。そっちの方こそどうなの?」

 

「うちのおとんなら、ウシジマさんが何とかしてくれるように話はつけてあるから大丈夫や。

 むしろ、隆和はんの方を心配しとったわ。

 うちが何とかする言うといたから心配あらへん」

 

「……親に紹介とかしたの?」

 

「もともと、隆和はん自身が昔からの付き合いや仕事の依頼とかで面識があるんよ。

 うちとの関係も、おとんも複数面倒見とる女性もいるさかい何も言わせへんよ。

 隆和はんとの関係も仕事も、どっちも大切やからこそ今回の計画もあるんよ。

 まあ、これを見てみい」

 

 

 千早は、計画書の骨子のページを開いて見せて話し出した。

 カーマも含めて、皆が興味深そうに見ている。

 

 

「要は、強固な異界を作って核シェルターの代わりにして生き残ろうというものや。

 実際、各支部は大型核シェルターとして、派出所も一部は簡易シェルターに出来るように設計されとる。

 それには各種組織の結界の技術も使われて、ヒノエ島みたいに異界のように出来る場所もある。

 そもそも、異界はこっちの世界とは切り離された空間や。

 中の環境を整えて過ごせるようにすれば、理論上は大丈夫や」

 

「理論上なの?」

 

「神社にした場所も、あの娘らが暮らしてた霊地の場所やから平気や。

 その辺はショタオジにも確認して大丈夫、言うとる。

 なんや、自分でも試した事があるような口ぶりやったけど」

 

「あのー?」

 

 

 そこまで説明して、今までケーキを食べて見物していたカーマが千早に訝しげに尋ねた。

 

 

「何や、カーマはん?」

 

「その神社の場所に異界を発生させるようですけどー、異界の主はどうするんですー?」

 

「結界で異界と同等にした後は、カーマはんにお願いしよかと思っとったんやけど」

 

「嫌ですよー、そんなの。

 契約だから彼には従いますけど、誰かの下で働くなんて本当は心の底から嫌なんです。

 そもそも、そこにうってつけの娘がいるじゃないですか」

 

「え?」

 

 

 カーマの指差した先には、華門和がいた。

 彼女本人は静かに話を聞いていたが、突然指差されて驚いている。

 

 

「わたくしですか?」

 

「そう。貴女、あのアメノウズメの転生体ですよね?

 それなら、霊格を上げて強くなったらうってつけじゃないですか」

 

「うってつけ、ですか?」

 

「そうでーす。

 本体はまだメシア教にどこぞに封印されてるみたいだけど、貴女がいるじゃないですかー。

 アメノウズメと言えばストリップの舞の話が有名だけど、境を守る道祖神の女神や宮殿を守る女神と同一視されていますよ。

 そっちの方がふさわしいでしょー?」

 

「それ、確かにそうやけどそないに上手くいくやろか?」

 

「それこそ、私は知りませんー。

 彼をこき使えばいいんじゃないですかー。

 私も付いていきますけど、実際に現場で動く事になるのは彼なんですから」

 

 

 肩をすくめてそう答えるカーマに、考え込む千早。

 そこに、なのはが声を掛けた。

 

 

「とりあえず、隆和くんにも相談してからでいいんじゃない?

 ほら、ケーキを食べましょう」

 

「ふう、そうやね。隆和はんの意見も聞かないと」

 

「そうですね。隆和さまのご意向もお聞きしませんと」

 

 

 そして、皆が食べ始めた時に、それまで黙々とケーキを食べていたトモエが千早に聞いた。

 

 

「あの」

 

「トモエはんもか、何や?」

 

「それで、私は何を斬ればいいんでしょう?」

 

「……はあ。それは隆和はんに聞いてや」

 

「はい。判りました」

 

 

 素直に頷いたトモエにガックリとした千早を見て、カーマはコロコロと笑っていた。

 

 

 

 

 仕事から戻って来てこの計画の事を聞かされた隆和は、千早が進め他の女性陣が全員この計画を了承しているのを知り憤慨した。

 どうして教えてくれなかったのか、と。

 しかしそれは、計画自体が出来上がったのが昨日である事や意見はこれから聞く所だったなど説明され、さらに、男である彼が議論で彼女らに勝てるはずもなく、しっかりと翌日を休日にしていた彼女らに久々の1対4の夜戦に持ち込まれ奉仕され搾り取られ納得させられていた。

 

 それをまた見物しているカーマは思う。

 今回の契約者は本当に見ていて飽きないなぁ、と。




後書きと設定解説


・仲魔

名前:カーマ
性別:女性(切替可能)
識別:幻魔カーマ
ステータス:レベル25
耐性:火炎弱点・破魔無効・呪殺耐性・魅了無効
スキル:天扇弓(敵全体・大威力の銃属性攻撃)
    魅了突き(敵単体・中威力の銃属性攻撃。低確率で魅了付与)
    ムドオン(敵単体・中確率で即死付与)
    ディアラマ(味方単体・大回復)
    アムリタ(味方単体・状態異常を全て回復)
    真・夢幻の具足(障害物を無視した移動が出来る。
            使用すると味方の隣接距離に移動も可能)
詳細:
 隆和の愛神を主張して封魔管に居座る契約悪魔
 マーラ様から褒美として贈られたいい感じに調整された劣化分霊
 元の霊器と転生者が思い浮かべる姿からFGOの少女の姿に変化した
 ファースに変態技術者が施した反逆不可の強固な契約はしつこく残った
 隆和のスキル全開の強力な麻薬のような性行為には内心では引いている


次は、早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第28話 新たな事件と喫茶店『翠』

続きです。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第28話 新たな事件と喫茶店『翠』

 

 

 話を始める前に、このデータ見てもらいたい。

 

 寺院の数:大阪・約三千五百ヶ所、京都・約三千百ヶ所、奈良・約千八百ヶ所。

 神社の数:大阪・約千二百ヶ所、京都・約二千ヶ所、奈良・約千五百ヶ所。

 

 数だけなら寺院が愛知に約四千八百ヶ所、神社なら新潟の約四千九百ヶ所や兵庫の約四千二百ヶ所など存在していると国の機関には登録されている。これで、未登録の物を加えるとさらに増えるだろう。

 この国の霊能組織は、大体が宗教組織となっている所が多い。そうすると、この関西の3府県の数を見ただけでも、戦後のGHQを利用したメシア教の霊能組織潰しの頭がおかしいとさえ言えるリソースの注ぎ込み具合と執拗さの片鱗が伺えるだろう。

 

 そして現在、隆和たちの地元近くのガイア連合の進出具合だが、大阪梅田に関西支部、北陸・東海・長野・中国・瀬戸内のヒノエ島・四国の大赦近くに支部が出来ている。派出所は大都市に一つは必ず最低一つは出来ているので、支部の無い県でも複数の施設は出来ているだろうと思われる。

 

 問題は、京都と奈良である。

 当然、京都と奈良にも派出所は幾つかは出来ているはずだ。

 ただし、数よりもこの周辺の千年以上の歴史の積み重ねが厄介であるのだ。

 当然として名家と自称する家の数は他の地方より膨大になるだろうし、ほぼ観光地化して無力化している神社仏閣は多いだろうし、更に言えば蠱毒と言ってもよいオカルトの歴史の積み重ねから処理すべき異界の数は考えたくもない物になるだろう。

 ましてや、つい先年に大きい顔をして悪さをしていた土御門家の一部の跳ねっ返り共がいなくなったばかりである。

 そんな状況で、京都や奈良に支部を作るから支部長をやってくれと言われたら普通の俺たちなら「ノーサンキュー」である。

 

 しかし、そんな状況だからこそ割を食っている人もいるのである。

 それは、近畿地方の各神社庁も彼に交渉を委託させ始めたガイア連合への要請をまとめる調整役でもある、京都府神社庁理事の一条麿呂氏その人であった。

 

 

 

 

 女性陣の異界化計画の打ち合わせと隆和が夜戦をした日の数日後、隆和は天ヶ崎千早と華門和を伴って関西支部の面談室に来ていた。

 

 その日はトモエとなのはの二人は折り悪く装備の点検や所用の為に山梨へと赴いていて留守だったので、ちょうど適当な攻略すべき異界の情報を探しにきた隆和たちに、受付から一条氏が来訪して君らを探していると報せがあり赴いたのだ。

 面談室に来た隆和たちの向かいには、かなり急いでいる様子で来たどこかで見覚えのある草臥れたスーツを着た中年の男性が待っていた。しかし、よく見るとその人は白粉と狩衣をしていない一条氏だった。

 彼は隆和たちが現れるや、手招きすると真剣な様子で書類を取り出し話し出した。 

 

 

「ああ、よかったでおじゃる。お主らに出会えたのは僥倖であった。

 急でおじゃるが、力添えを頼みたいのでおじゃ。

 これを見て欲しいのでおじゃ」

 

「何があったんです?

 いつもの姿ではないようですが?」

 

「麿も忙しくてする暇もないし、すぐに汗で化粧が落ちるので大変なのでおじゃ。

 それより、それを見て欲しいでおじゃ」

 

「隆和はん。これ、すぐに動いた方がええかもしれん」

 

「説明してくれ、一条さん」

 

「それはな、……」

 

 

 彼が説明するにはこういう事だった。

 

 事件が置きたのは数日前、京都府の北の若狭湾に面する寂れた温泉町の宿「武部荘」で起きた。

 珍しく若い二人連れの女性客が、温泉目当てに町の人以外がめったに来ない宿に泊まりに来ていたが、その日の深夜に大きな音がして宿の主人が部屋に行くと、2階の窓が壊され何かが暴れた跡があって宿泊していた女性たちは貴重品も残したまま姿が消えていたという。

 もちろん宿の主人は警察にすぐに通報し調べて貰ったが人のものでない大きさの泥の足跡が室内から発見され、その濡れた足跡は点々と海沿いにある古い祠まで続いていたのが警察の調査で解った。そして、京都府警内の担当者からオカルト案件として一条氏に連絡が来たらしいのだ。

 その地元には霊能組織らしいものは絶えてなかったので、急いでこちらに来たら隆和たちに会えたとの事だった。

 

 

「……と、いう事でおじゃる。

 現地の祠の話はこちらにも残っておらなんだでおじゃる。

 出来れば、すぐにでも調査して欲しいでおじゃる」

 

「トモエもおらんし、どうします。隆和はん?

 本来なら、調査員を送ってそれから依頼いう形になりますけど」

 

「いや、調査だけなら俺だけでも出来るだろう。

 カーマもいるしな」

 

「ただ、若狭湾一帯には少し懸念がおじゃる」

 

「懸念ですか、一条さん?」

 

「あの辺り一帯には、厄介な【八百比丘尼伝説】がおじゃる。

 伝説自体は日ノ本の色々な所にあるのでおじゃるが、あそこには入定したとされる洞窟もある故な」

 

 

 難しい顔でそう言う一条氏に、申し訳無さそうに手を上げ告げる千早。

 

 

「あの……」

 

「何でおじゃる? 千早殿」

 

「福井県のその洞窟、異界になっていて現在は北陸支部が攻略中や。

 八百比丘尼本人が異界の主で、説得中だという事らしいんや」

 

「??」

 

「何でも戦後すぐのメシア教のアレで、その時の当代の巫女を殺されてその後に雑な封印をされて昨今の霊地の活性化で怨霊として復活したとか。

 伝説が伝説や。致命傷もすぐに消えるように癒えるとかで何とか説得できないかとしているそうや」

 

「???」

 

「伝説自体、記録で確認できるだけでも室町の頃からのものや。

 で、福井県だけでなく他の地方でも伝説関連で異界が多数発生して処理をしている最中なんやよ。

 だから、距離的にその祠も伝説が引き金になっとる可能性もあるわ」

 

「おおう」

 

 

 顔を覆って項垂れる一条氏。

 それを申し訳無さそうに見ていた千早は、隆和の方を向いて告げてきた。

 

 

「そういう訳やから、隆和はんあんじょう頼みます。出来るなら、解決したってや」

 

「ああ、任しておけ」

 

「だから、この一件、和はんも連れて行ってや」

 

「お願い致します、隆和さま。皆が助かるためにも弱気ままでは居られませぬので」

 

 

 真剣な顔をしてこちらを見る和の顔を見て、どちらにしろ今後の事を考えると彼女のレベル上げも必須だと考え渋りながらも応じる隆和。

 

 

「うーん、危険だと判断したらすぐに逃げるぞ。それでもいいなら?」

 

「はい、構いません。ありがとうございます、隆和さま」

 

「さて、そういう事なら新副支部長の方にも話を通しておくさかい、地下の社用車を使ってや。

 ほな、依頼書の方を作成するんでうちは事務所の方に顔を出しておくわ。

 一条はん、行きますんで起きてや?」

 

「おお、すまんでおじゃる。

 それでは安倍殿、よしなにでおじゃる」

 

 

 細かく装備の準備などを話しながら出ていく隆和と和と別れ、顔を上げて頷く一条氏を連れて千早も面談室を出た。

 しばらく前に、シンパも居なくなり自身の待遇に我慢できずに爆発し支部を辞めて行ったあの女に代わり、新しく彼女が推薦して説得したウシジマニキのいる副支部長室に向かいながら千早は考えた。

 彼なら華門和の安全に気を使うので危険に突っ走るのを防げるし、彼女がいれば行った先でまた以前の依頼のように女を充てがわれる事はまず無いだろう。

 依頼の成功率は八割を越える彼の事だ。これで、和のレベル上げも出来れば万々歳である。

 上手く運んだ先で隆和に褒めて貰えるのを思い浮かべ、顔が緩むのを抑えながら彼女はまた無意識に首元のチョーカーを弄りながら移動した。

 

 

 

 

 一方、山梨でトモエの『名刀ムラサマ』と『衛士強化装備・レプカ』、それになのはの『ナノハ・バリアジャケット』の点検と修復にアップデートもするらしく数日は掛かるというそれになのはたちは、なのはの母が経営する喫茶店『翠』に泊まり店を手伝いながら暇を潰していた。

 暫く振りに帰って来た一人娘の変わり具合に気付いた母の桃子であったが、何も言わずに「おかえり」とだけ言って出迎えていた。

 

 店舗の形状や色合いに家具まで用意されていたこの店舗の建物は、建設したガイア連合系の社員の中にいた連中が気を利かせてあの『翠屋』と瓜二つに忠実に再現され造り上げた逸品だったりする。

 今、この店舗兼住居に住んでいるのは、なのはの母である【高橋桃子】とその護衛役として飼い犬としているなのはの専用シキガミの【シロウ】である。

 シロウはなのはが母の護衛のために作って貰ったオオカミ犬型のシキガミで、なのはが自分の前衛役もこなせるようにとある程度のレベル上げもしているので安心して母の護衛を任せている。

 本人(本犬?)としては、既に彼女のご飯の虜になってより一層忠誠心を高めている様子である。 

 

 営業が終わり後は就眠だけとなり、なのはの部屋に布団を敷きトモエは泊まっていたので一緒に風呂上がりに部屋に向かった。お互いに寝巻き代わりのラフな服装で着替える途中で、なのはが携帯のメールに気付いて見るとそのメールには『一条氏の依頼で異界に向かう』とだけ記されていた。

 その姿をトモエが彼女を問いたそうに見ていると、なのははそれに気付き苦笑したようにひらひらと手を振ると答えた。

 

 

「隆和くんがまた、異界に潜るって書いてあるだけだよ」

 

「またですか?

 最近の主様は、資金稼ぎなのか鍛錬なのか頻度が多すぎます。

 もう師匠との約束は果たしたのですから、もっと落ち着いても良いのに」

 

「わたしもね、もう戦うのは落ち着いてもいいと思うの。

 だからわたし、隆和くんに前に言ったの。

 和ちゃん達の事は千早が何とかするから大丈夫だって。

 なんなら、わたしと結婚してトモエも一緒で構わないからこの家でゆっくり過ごそうって」

 

「何て答えたんですか、主様は?」

 

「それがね、こう言ったの。

 『ごめん。複数と関係を持って逃げるみたいなのはちょっと』って」

 

 

 そう言われたトモエは、ため息をつくとなのはを見つめ話し出した。

 

 

「しっかりして下さい。

 私たちの中で主様が自ら望まれた女性って、貴女だけなんですよ。

 コレットや私は主様に誰かから贈られたものですし、和さんも似たような者ですよね?

 それと、千早さんは言い寄った末にですし」

 

「それはそうなのだけど……」

 

「あのですね?

 育て親のコレットとして言わして貰うなら、貴女が主導権をちゃんと握りなさいな。

 ちゃんと彼、私たちに順位をつけて扱っているじゃないですか。

 彼から贈られた呪殺無効のアクセ、これを見れば立場は一目瞭然でしょう?」

 

「まあ、たしかにそうなの」

 

「結婚に拘るのはまあしょうがなくはないですが、今更、独占は無理ですよ?

 男だから彼は受け入れているみたいですし、彼、これで仲違いして醜く争ったら逃げますよ。

 私も含めて離れる気はないですし」

 

「それは困るの」 

 

「それに、気が付いています?

 夜に全員抱く時に、徐ろにスキル全開でこちらが飛ぶまで抱くの私と千早だけですよ。

 貴女と和さんがそうなる時は、そうしてって言った時だけじゃないですか。

 彼なりに大切にされていますよ、貴女」

 

 

 トモエに指摘され、赤くなるなのは。

 さらに、マーラから力を授かってからほぼ数日おきに隆和に誰かしら抱かれているのを思い出し赤面する二人だが、ふとある事に気が付きなのははトモエに尋ねた。

 

 

「あのー。それじゃあ、千早があの鍵の飾りのついたチョーカーを選んだのは……」

 

「私の場合は、彼専用のシキガミでもあるので当然この形ですけどね。

 要は、『私をあなただけのものにして。私に刻み込んで』って事じゃないですか?

 ほら、ドラマで見たホストに入れあげる女性客みたいなものでしょう。

 初めて来た時から『彼を養う』とか言っていたじゃないですか。

 抱かれてから、変なふうにタガが外れたみたいですけど」

 

「うわぁ、なの」

 

「帰ったら、また話し合いましょう。色々と問題が起こる前に」

 

「そうするの」

 

 

 そうして長い事話し込んでいた彼女らは、ようやく眠りについた。

 そして、帰ってから話し合った時に千早の症状を改めて確認する羽目になった二人だった。




後書きと設定解説


・関係者

名前:天ヶ崎千早
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・23→24歳
職業:ガイア連合山梨支部監査部関西派遣員
ステータス:レベル12・マジック型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:アナライズ
    呪符作成(魔法の石相当の護符の作製技術)
    コンピューター操作(ハッキング含む技術)
    誘惑(異性の相手によく効く交渉術)
    財力(アイテムの購入などの資産運用術)
    図書館(書物による的確な情報収集技術)
装備:鍵の飾り付き黒色のチョーカー(呪殺無効の霊装)new!
   魅了無効の指輪 new!
詳細:
 15歳時、身長162cm、B:72(AA)・W:55・H:78
 現在時、身長167cm、B:89(F)・W:57・H:82
 隆和のパトロンを自認し【色々と駄目な気質】が開花しつつある美女
 株式などの資産運用で多大な個人資産あり
 黒髪をボブカットにし、仕事中はスーツと丸いフレームの眼鏡を着用
 山梨支部から関西支部の内偵に派遣されていた内部監査部員
 過去の恩と感謝と初恋が混ざった感情のまま突き進み、念願の関係に
 ただ、仕事が忙しいためなかなか顔を見れないのが悩み


【挿絵表示】

天ヶ崎千早のイメージ図

名前:一条麿呂
性別:男性
識別:異能者・47歳
職業:文部省監督宗教法人「京都府神社庁」理事
ステータス:レベル3
耐性:破魔無効
スキル:見鬼(アナライズ)
    拍手祓い(ハマ)
    占術、執り成し、根回し
装備:呪殺や状態異常を防ぐ護符や札×多数
詳細:
 京都府内の霊能関係者のオカルト方面の相談役
 京都府内の霊能組織の要請を何とかする役所の担当者とも言う
 最近はガイア連合への要請をまとめる調整役でもある
 現在、近畿地方の各神社庁も彼に交渉を委託し始めた


次は、早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第29話 異界・悪太郎の洞窟

続きです。
一部、不快な表現があります。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

 第29話 異界・悪太郎の洞窟

 

 

 依頼を受け後処理を千早に頼んだ隆和は一旦自宅に戻って装備を準備すると、こちらも霊装防具の巫女服を着て準備が終わった華門和と一緒に支部から借りたライトバンに乗り一路、目的地まで移動した。

 車で約3時間と少し、京都の北にある丹後半島の南側の近くにその村はあった。 

 一言で言えば、そこは寂れた漁港のある小さな村だった。

 バブル華やかなりし頃、ここの近くにそこそこ有名な温泉宿や海水浴場が出来たので、この村でも村おこしのために大枚をはたいて温泉を掘り当てて、村には似つかわしくない規模の中途半端な大きさの温泉宿を建てたのだろう。

 

 昼過ぎに着いたその旅館の駐車場で車から降りた隆和たちが見たのは、その建物に街の人らしい老人や中年女性が温泉利用のために出入りしている姿だった。話に聞いていた宿泊施設の方は黄色い制止テープが張られて出入りが出来ず、2階の一室の近くがブルーシートで覆われているのが見えた。

 そちらに移動しようとした所で、周囲の人が和の方に視線を向けざわつき始めた。

 

 

「何処の神社の人かしら。綺麗ねぇ」

 

「お人形さんみたいだねぇ。外人さんかねぇ?」

 

「うちのババァと取り替えて欲しいのぅ」

 

「……なんですって? この宿六がっ!」

 

「痛っ。ご、ごめんて。ゴメンて、かあちゃん。いててて」

 

「……皆、和の方にばかり視線が行っているなぁ。まあ、魅力的だししょうがないか」

 

「ありがとうございます、隆和さま。

 ただ、こうして注目されるのは恥ずかしいものです。

 最近、こうして周囲の方々に見られる事が増えて一人で買い物にも行けず不便です」

 

「そうなのか。今日は俺がいるから心配はないな」

 

「はい」

 

 

 隆和に向けて浮かべるその笑みに、余計に視線とざわめきが大きくなった。

 

 もともと、ストロベリーブロンドに青い瞳に白い肌とハーフらしい彫りの深い人形のような容姿と未だ残る少女らしさと成熟した女性としての美しさに、最近は妖艶さも加わり余計に人目を引くようになった。そして、厚手の巫女服を着込んでいても誰もが一度は見てしまうそれを盛り上げる胸の大きさは、彼女を余計に人の視線を惹き寄せる誘蛾灯のようになっていた。

 原因は分かっている。隆和に抱かれ、彼女の今まで抑えられていた【天宇受賣命の転生者】としての資質が花開いたからだろう。

 まだこれでも魅了を封印する為の護符が効いているからこの程度で済んでいるが、それを外した時に起きる事は千早経由で検分したショタオジからも取り扱い厳重注意と警告された。

 偶然とは言え、彼女が前に属していた集団に利用される前に保護された事は本人にも周囲にも幸運だったと言える。

 

 そんな所へ、制服警官と旅館のロゴ入りのジャンパーを着たスーツの中年男性が走り寄ってきた。

 そして、その中年男性は例の青いツナギに上着を着た隆和ではなく、巫女服の和の方へと恭しく話しかけて来た。

 

 

「これはこれは、ようこそ来て下さいました。

 事態を解決に来られた根願寺の方ですね?」

 

「い、いえ、神社庁の一条様からのお話を聞き調査に参ったガイア連合の者で御座います。

 えーと、お話をお伺いしたいのですが?」

 

「神社庁の方のご依頼でいらしたと!

 それではこちらへどうぞ。あ、お付きの方も」

 

「……お、お付き!? いえ、この方は……」

 

「お付きの安倍と申します。さ、お嬢様向かいましょう」

 

「え、えーと、はい。参りましょう」

 

 

 和が目を白黒している間に、中年男性に案内され建物内を移動する隆和たち。

 その途中で、和はニコニコしている隆和に小声でどうしてなのかと問い質した。

 

 

「隆和さま。これはどういう事でしょうか?

 悪ふざけならひどいと思います」

 

「素人の人らしいじゃないか。

 それらしい服装の和が代表だと判断したんだろうな。

 それにいずれは和も、こういうやり取りには慣れないといけない立場になるんだ。

 手助けはするから頑張れ」

 

「判りました。後で、ご褒美を下さいまし」

 

「考えておくよ」

 

「……着きましたよ。こちらの応接室でどうぞ」

 

 

 案内された応接室で、その男性はこの旅館『武部荘』の社長の【武田信一】と名乗った。 

 そして、彼から聞かされた話では一条氏の話とほぼ同じだった。

 ただ、海岸沿いの崖の上にあった足跡の消えた祠に纏わる言い伝えは聞くことが出来た。

 それは、こんな言い伝えだった。

 

 

「昔、私が子供の頃の話ですが、亡くなった父が祖父から聞いた話だそうです。

 大昔、漁村だったこの村で魚が全く採れなくなった事がありました。

 死者も出た飢えに村長は、近隣に住んでいたという八百比丘尼さまに助けを求めました。

 彼女は快く応えられ、天より天女を遣わしてもらい豊漁を願われたそうです。

 天女はそれに応え、祠を建てて祀るならと言われてそうした村の者は救われました」

 

「めでたしめでたしですね」

 

「そうではないんですよ、巫女様。

 比丘尼様が去られ村も平和になって、天女様も村の者達ともすっかり仲良くされていました。

 しかし、それを村の乱暴者で鼻つまみ者の『悪太郎』が見ていました。

 天女の姿に懸想した悪太郎は、村人を信用していた天女の好意を逆手に取り拐いました。

 そして、自分のねぐらに連れ去ると貪るようにその身を犯したと言います。

 三日三晩続いたその果てに、天女は悪太郎に罰を与えるとその身を消しました。

 罰により怪物へと姿を変えられた悪太郎も、姿を消したそうです」

 

「両方ともですか?」

 

「はい。

 悪太郎は、何処かへ消えたとも海に身を投げたとも伝えられています。

 この事件を悲しんだ村の者は、数年に一度天女を偲び巫女を立てて祭りを始めたという事です」

 

「今も祭りはしているのですか?」

 

「いえ、村長の血筋だった父が亡くなって、私もこの温泉旅館の経営で忙しくなったので。

 一応、近場の神主さんを呼んで祝詞を上げて貰って縁日を開く位ですが何か?」

 

 

 困った顔でこちらを見る和に頷くと、この人は素人で祭りも断絶していると考えた隆和は武田社長に答えた。

 

 

「お話は充分に伺いました。

 後は祠の場所だけ教えてください。

 お嬢様のお力で解決してみましょう」

 

「おお、それはありがたい。お願いします」

 

 

 位置の描かれた簡単なメモを渡され、席を立った隆和たちは一度車に戻ると装備の入ったカバンを持つと祠の場所に向かった。宿の裏手から10分ほど歩くと、崖沿いのそこには簡単な補修はされているものの長年の潮風で朽ちかけそうになっている高さ1m程の小さな古い祠があった。

 その近くによってじっと見る隆和に和が尋ねた。

 

 

「どうでしょうか、隆和さま?」

 

「マッパーの反応を見る限り、この中に異界がある。

 向かうぞ、準備はいいか?」

 

「はい、いつでも」

 

「カーマ」

 

「はいはい。お呼びですか?

 話は聞いていましたよー。潮臭くて嫌になりますけど」

 

「問題はないな。行こう」

 

「ちょっと!?」

 

 

 ブツクサと文句を言うカーマをあやしながら、祠の扉を開けた隆和たちはその場から姿が消えた。

 そして、パタンと誰も逃さないかのように扉が閉まるとそこには誰もいなくなった。

 

 

 

 

「嫌、いやあああっ! 抜いて抜いてもうやだぁああ!

 あ! あ、あ。嫌、いやいや、嫌っ! もう出さな、ああああっ!」

 

「ぐうっ、がああっ」

 

 

 【それ】は、飢えていた。

 3mに達するかという巨体で鬼よりも醜くなった顔を伸ばし放題の髪で隠した【それ】は、人形のように手に持った元気に悲鳴を放つ女を動かすのを一時止めて笑い出した。

 かつて『悪太郎』と呼ばれた【それ】は、久々に手に入れた若い女に歓喜し貪っていた。

 動かなくなったもう一人の女は後で食べるべく、飼っていた人魚に氷漬けにさせている。

 この女は覚醒しているのか、それに比べて頑丈で長持ちしそうだった。

 これならしばらくは魚臭い半魚人共を喰い、これまた魚臭い人魚を犯して無聊を慰めずに済むと【それ】は喜んでいた。

 女をもう一度貪り始めながら、ふと奥にある氷漬けの天女の姿を見て昔の事を【それ】は思い出していた。

 

 あの日、自分の犯した天女の呪いでこの姿になった彼が先ずした事はおぞましい事だった。

 いつの間にか異界と化していたねぐらの崖下にある洞窟で、驚愕に染まる顔の天女を動かなくなるまで殴ると偶々そこに湧いていた人魚に氷漬けにさせ洞窟の奥に飾り付けた。

 そして、それから数えるのも億劫になる年月の間、村の人間を度々脅しつけては若い女を出させていたが、ある時外に出られなくなり飢えを我慢する日が続いていた。

 だがつい先日、祠のその古さから封印に綻びが出来たのを気付いた【それ】は表に飛び出し、たまたま目についた若い女を2人拐い、今に至るという事だ。

 

 貪っているうちに、ふと【それ】は気がついた。

 入口の方から騒がしくここ数百年、女の悲鳴以外無かった人の声がする。

 【それ】は腰を振るの止めて終わらすと、貪っていた女を冷凍役の人魚に向けて放り「まだ凍らすな」と命じて入口に向けて移動を始めた。

 ゆっくりと歩き着いた洞窟の広間になるその場所で、【それ】は見つけた。

 妙な格好をした若い男や弓を持った子供の女はどうでもよいと考えた【それ】は、あの天女よりも美しい桃色の髪をした若い巫女の方へとおのれの物にするべく吠えると、周囲の魚人を蹴散らしながら突進を始めた。

 

 

 

 

 隆和たちが異界に入ると、その中は仄暗い鍾乳洞となっていた。

 道は狭く2人並べばやっとという広さで、あちこちで窪みに水が溜まっていたり膝まで水没していたりと歩き難い物となっていた。そして、その道が曲がりくねるようにして奥へと一本道で続いている。

 奥の方を見た隆和は、念のためにカバンからライト付きヘルメットを取り出すと二人に提案した。

 

 

「俺が前でカーマが最後尾、間に和の順で行こう。何かあるか?」

 

「後ろの方は見ておくから大丈夫ですよ。

 でも、暗いし潮の臭いがキツいし終わったらシャワーが浴びたいですね」

 

「隆和さま。

 他の方はおられないようですのでご許可を」

 

「カーマは女性で魅了が効かないから大丈夫だな。いいよ」

 

「では。ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・ここの・たり」

 

 

 隆和が和に許可を出すと、彼女は首からいつも掛けていたお守り袋を外すと隆和に差し出した。

 カバンに隆和がしまうのを確認し、祝詞を唱えると彼女の様子が一変した。 

 彼女の容姿が急激に変わった訳でないのだが、何気ない仕草や目線に声などに尋常でない妖艶さが付加され隆和は魅了は効かないはずなのに目が離せなくなりかけた。これで魅了も効いていたら、何も考えられなくなって彼女に襲いかかるのではと隆和は思った。脳裏に『傾国の美女』と単語が浮かんだが、和は和であると思い出し頭を振って考えを切り替えた。

 カーマの方はと見ると彼女は突然、奥に向かって弓を射った。その先には、早速釣られてきたのか【妖鬼アズミ】が左目を射抜かれ消えていく所だった。

 

 

「うわー、半魚人でもオスだからですか? 正直、引きますねこれ」

 

「おお、すごいな。それじゃ、このまま進むよ」

 

「はい、隆和さま」

 

 

 その後の道行きはとても楽なものになった。

 出て来ては和を見た途端、彼女を目掛けて近づいて来るのを隆和とカーマが蹴散らすというパターンが続いた為であった。例え、奇襲をするために潜んでいたとしても、

 

 

「和。ほら」

 

「あっ❤」

 

「はい、お終い。声にも釣られて来るんですね。馬鹿みたい」

 

 

 と、このように隆和が和の尻を揉むなどして【キャンディボイス】を定期的に上げさせて釣り出し無駄になるという事を繰り返して、多少の形状の違いはあるみたいだがアズミしか来ない襲撃をほぼ全部潰しながら奥まで順調に進んでいた。

 

 しかし、状況が変わったのは、ボス部屋にほど近い広間に着いた時だった。

 そこはアズミたちが集まる集会場だったのか10体ほどのアズミが屯していたが、襲いかかる前に和の姿や視線だけでほぼ全てのアズミが魅了され無力化した。

 そして、隆和とカーマが倒そうかという時にそれが現れた。

 隆和のライトに照らされた先にいたそれは、3mに達しようかという巨体の伸ばし放題の黒い髪とひげをした筋肉質の鬼ような顔の醜悪な巨人であった。しかも、その浅黒い肌の体には何も纏わず、股間のグロテクスなそれは屹立したままだった。

 隆和のアナライズにはレベル23の【邪鬼ウミボウズ】と映っているそれは、咆哮を上げると和に目掛けて腕を伸ばし突進して来た。

 

 

「それ……オデの!」

 

「誰がお前のだ。俺のものに手を出すな。【地獄突き】」

 

「ぎぃいがあああっ!!!」

 

 

 前に立ち塞がった隆和を無視しその頑丈な巨体で吹き飛ばそうとしたウミボウズは、股間から来る激痛と衝撃にそのまま尻餅をついてしまった。

 そして、ウミボウズが見たのは隆和の拳によって殴り潰された自分のアレと、自分の前に立つ汚いものでも触ったという風に右手を振りながらこちらを見る隆和だった。

 

 【地獄突き】。魔王マーラが得意とする技である。

 マーラと夢で会ったあの時、隆和の持つ技【耽溺掌】は2つのスキルに変化した。

 その攻撃面で得たのが、このスキルだった。

 その効果は、オリジナルより威力は劣るが反射以外の物理相性を【貫通】して攻撃するものである。

 だから、物理耐性を持ちその巨体から今まで王のように君臨していたウミボウズも例外ではなかった。

 

 自分のモノを潰したのがこの奇妙な服装の男だと理解したウミボウズは、怒りに任せその丸太のように太い両腕を何度も隆和に叩きつけた。

 【暴れまくり】。

 敵対したものを今までミンチにして来たウミボウズのその技は、一撃だけ攻撃が隆和に掠るもそれ以外は躱されてしまった。

 その直後、ウミボウズとアズミ達の頭上から多数の矢が降り注ぎ串刺しにした。

 痛みと怒りで上げるウミボウズの苦鳴と、うんざりしたようなカーマの声が洞窟に響く。

 

 

「【天扇弓】。マスター、遊んでいないでその汚いものを早く始末して下さい。

 見るに絶えません」

 

「い゛だい゛、い゛だい゛ぃ! あ゛あ゛っ、ぞの゛お゛ん゛な”をよ゛ごぜぇっ!」

 

「はあ? バカですか? 女を見れば襲うしかしないような愚図が煩いんですけど?」

 

「微妙にこっちもディスるなよ、カーマ。【地獄突き】」

 

 

 スキルの乗った隆和の拳が、とっさに防御したウミボウズの左腕を破壊する。

 ここに来て、ウミボウズもこいつらは自分よりも強いとようやく気付いた。そして、そういう場合は人質を見せればいいと今までの経験から思いつく。隆和たちがここに来たのは拐った女か奥に飾った天女のどちらかだと考え着いたウミボウズは、その巨体に見合わぬ素早さで身を翻すと奥の部屋へと走り出そうとした。

 だが、広間の出口から飛んできた冷気の魔法とカーマの矢によってその目論見は頓挫した。

 

 

「今こそ、恨みを。【アイスブレス】!」

 

「死になさいよ、悪太郎。【ブフ】」

 

「逃がすわけないじゃないですか。【魅了突き】っと」

 

「ぐがっ、お゛ん゛な゛の゛ぐぜに゛ぃっ!」

 

 

 広間の奥には、天女だと思われる【アプサラス】と、ウミボウズにさんざん嬲られていた裸の女性に肩を借りた【マーメイド】がウミボウズを睨みつけていた。怒りの声を上げその攻撃で足を止めていたウミボウズに、投げ掛けられた女性の声と同時に隆和の拳が背後からウミボウズの体に突き刺さった。

 

 

「よくもメグをっ! 死んじまえ、化け物!」

 

「誘拐された娘か、よし! 【チャージ】、【地獄突き】!」

 

「あ、ああ。天女、みんなオデの……ぐぶっ」

 

「誰があなたのものですか。愚か者」

 

 

 アプサラスへと手を伸ばしたウミボウズこと『悪太郎』は、冷たく言い返すアプサラスの目前でようやく消える事になったのだった。




後書きと設定解説


・主人公

名前:安倍隆和(あべたかかず)・【アーッニキ】
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・26→27歳
職業:ホテルガイア大阪警備員(契約社員)/華門神社総代(名義貸し)
ステータス:レベル38→40・フィジカル型
耐性:破魔無効・呪殺無効・精神無効
スキル:悪魔召喚(封魔管) 
    アナライズ
    マッパー
    ジャイブトーク(通常会話の不能なダーク悪魔と交渉できる)
    妙技の手管(状態異常時の相手へのダメージ25%増加)
    不屈の闘志(HPが0になる攻撃を受けた際、1回だけHP全快で復帰する)
    アリ・ダンス(攻撃を受ける際、敵の命中率が半減する)
    地獄突き(敵単体・中威力の物理攻撃。相性を無視して貫通する)new!
    (貫通:反射を除く物理相性を持つ敵に、通常通りのダメージを与える)new!
    黄金の指(通常攻撃・物理系スキル使用時に発動する。
         中確率で魅了と混乱と至福の状態異常を付与)new! 
    愛神の加護(加護の対象の位置と状態が常に把握できる。
          女性への交渉成功率が上がり、与えるダメージが上昇する)new!
装備:アーッニキのツナギ
  (回避強化と麻痺無効が付与された青いツナギの霊装)
   チャラ男のゴールドネックレス
  (活脈と女性悪魔への挑発効果が付与された金のネックレス型霊装)
   追跡者の安全靴
  (転倒防止とステータスの速が上昇する効果のある革のブーツ霊装)
   パワアーッグローブ
  (格闘ダメージの上昇の効果のある防御力のある格闘家用グローブ霊装)
   ギリギリブーメラン
  (MPを消費して【チャージ】が使用できる効果があるが、
   使用者の股間もチャージ状態になる副作用もある男性用水着型霊装)  
詳細: 
 身長178cm、体重80kg、1人称は俺
 落ちぶれた陰陽師の一族の血筋で、16歳まで霊能関係の施設で成育された
 力と技術に育ての姉のような相手をくれた師匠と再会するのを目標としていた
 周囲の人たちとガイア連合の助けを得て目標を果たす事が出来た
 周囲の人たちの内4人の女性と関係を持ち、何処か吹っ切れた

スキル変化詳細:
 【見鬼】のスキルは訓練の結果、より精度の高い【アナライズ】に変化した
  具体的には、相手の相性耐性とバッドステータスの状態も解るようになった

 【空曜道】のスキルは訓練の結果、より精度の高い【マッパー】に変化した
 
 【妙技の手管】のスキルは、元々房中術スキルの変化型で特に効果に変化はない

 【耽溺掌】のスキルは修行とマーラ様の介入の結果、次のように大きく変化した
  攻撃面は、隆和用に調整された【地獄突き】のスキルに変化した
  状態異常の面は、隆和専用に調整された【黄金の指】のスキルに変化した
 【黄金の指】は、デビルサバイバーの【〇〇追加】スキルの亜種

 【愛神の加護】は、文字通りカーマの主人公に対する自己主張スキル
  女性への交渉成功率が上がり、与えるダメージが上昇する


【挿絵表示】

主人公のイメージ図

・関係者

名前:華門和(はなかどのどか)
性別:女性
識別:転生者(女神アメノウズメ)・18→19歳
職業:巫女→ガイア連合現地雇用契約事務員
ステータス:レベル4→12・ラッキー型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)・精神状態異常無効
スキル:極上の肉体(敵味方全体・中確率で魅了付与・パッシブ)
    セクシーアイ(敵味方単体・中確率で魅了付与・パッシブ)
    キャンディボイス(敵味方全体・中確率で魅了付与・パッシブ)
    ファイナルヌード(敵味方全体・高確率で魅了付与・パッシブ)new!
    天宇受売神の加護(肉体依存の魅了の状態異常スキルが全て自動効果になる。
             ただし、魅了の対象は男性のみ)
    悪魔のキス(♀)(男性単体・高確率で麻痺付与)
    不動心(感情が抑制され精神状態異常にかからなくなる)    
    房中術(男性を知り加護によって自動取得した)new!
装備:首掛けのお守り袋(魅了封印の護符入り)
   呪殺無効の銀の指輪 new!
   巫女服(ガイア連合謹製巫女服霊装)new!
詳細:
 身長154cm、B:100(K)・W:58・H:86
 隆和の現地妻を真顔で主張する現地霊能者の美少女
 千早が保護し隆和が代表の名義貸しをしている現地霊能者集団の代表
 霊能者集団は京都市内の住んでいた屋敷を神社にし「華門神社」として活動中
 常に冷静で物静かな性格だが、最近は千早に感化され部下としても行動的
 男性を知った事により、より一人歩き出来ない性質のスキルに特化した
 そのため常時の警戒もより強くするようになった


【挿絵表示】

華門和のイメージ図

・敵対者

【妖鬼アズミ】
レベル10 耐性:物理耐性・火炎弱点・電撃弱点
スキル:暴れまくり(敵全体・2~4回の小威力物理攻撃)
    ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)
詳細:
 「悪太郎の洞窟」に湧いていた半魚人のような姿の悪魔
 ウミボウズに餌として食われていた 

【邪鬼ウミボウズ(グレンデル)】(ボス)
レベル23 耐性:物理耐性・銃耐性・破魔無効・呪殺無効
スキル:暴れまくり(敵全体・2~4回の小威力物理攻撃)
    奇襲(敵単体・中威力の物理攻撃。先制時、攻撃力増加)
    物理ブースタ(物理攻撃のダメージを15%上昇する)
詳細:
 村の言い伝えにある欲深く愚かな「悪太郎」の成れの果て
 叙事詩「ベオウルフ」に登場した水底を棲み家とするオーガー系の巨人
 それと同質の水底に潜む人食いの怪物
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性がある


次は、今回の異界の後始末回。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第30話 華門神社

続きです。


 

 

  第30話 華門神社

 

 

 隆和たちは異界から無事に脱出した。

 

 右脇にカーマの魔法で怪我は治した拐われていた女性とマーメイドを持ち、左脇にはもう一人の女性の遺体が入った氷柱を持ち、背中に長年の封印で走る事の出来なかったアプサラスを背負った姿で隆和は走り、無事に脱出できたのだ。

 なお、装備の副作用で元気になった隆和の息子は、ガイア連合に加わる前の拝み屋時代に遭遇した除霊の依頼主だったトメさん(8X)の諸肌脱いだ色仕掛けを思い出し強制的に沈静化させた。

 こんな格好で脱出する事になったのは、ここから連れ出してくれというアプサラスとマーメイドに、友人の遺体も持って行って欲しいという被害者女性の求めもあったからである。

 

 そして脱出後、携帯で連絡しガイア連合の処理チームの応援を待つ間、隆和は「おつかれー」と封魔管に戻るカーマを見送り、彼女らに色々と尋ねる事にした。犯された後に氷漬けにされ長年動けなかったアプサラスに等しくあのウミボウズに長年の間、玩具の如く扱われていたマーメイドは、その問いに華門和に介抱され持ってきていた毛布で身を包んだ女性が和と一緒に驚く位の勢いで、憎悪と不満をぶち撒けるように機関銃のように語り出した。

 曰く、死んで清々したとか、この数百年で何人の女性が犠牲になりその女性の世話を延々とさせられたのかとか、自分はあいつの性処理の道具じゃないとか、鼻を明かすために助けようとして殺されかけた事とか、等といろいろだった。

 隣でそうだそうだと頷くアプサラスは別として、延々と続くその語りを聞いている間に応援が到着し、隆和たちは後処理を任せて被害者の女性たちやアプサラスたちを引き渡すと車で引き上げたのだった。

 

 

 

 

 その数日後の午後、隆和は天ヶ崎千早に呼ばれ『華門神社』まで来ていた。

 その場所は桂川と宇治川に挟まれ、岩清水八幡宮の北東、淀城跡と京都競馬場に程近い住宅街の中にあった。

 広さはあるが小ぢんまりとした人気の少ないその神社に隆和が着いた時、千早と和に神主らしい頑固そうな壮年の男性が一緒に立っていた。

 その男性はタクシーから降りて鳥居をくぐりこちらに来るスーツ姿の隆和を一瞥すると、声を掛けようとした千早より早く語りかけてきた。

 

 

「こっちや。隆和は……」

 

「ほう、千早の嬢ちゃんとうちのお嬢が選んだ男と言うのは、お前さんか。

 なるほどな、かなり鍛え上げているようだな」

 

「あなたは?」

 

「隆和はん。

 こっちの人はな、和はんの小さい頃から世話役で【樫原蔵六】はんや。

 今はな、ここに住んどる皆の代表とここの神社の禰宜もしてくれとるお人や」

 

「お前さん方には、お嬢を救い出してもらったという恩があるからな。

 俗世に関わりなく育ったお嬢が願うなら、儂としても叶えてやりたい。

 そこの所はどうなんじゃ?」

 

「彼女らに説得された形にはなっていますが、伊達や酔狂で名義貸しとかしませんよ。

 少なくとも彼女らの側にはいるつもりですから」

 

「なら、儂から言う事はもう無い。

 こんな家業だ。くれぐれも泣かせんようにな。

 儂の宝を大事にしてやってくれ」

 

 

 そう言うとその男性は和の頭を撫でると、ムスッとした顔のまま神社の奥へと歩いて行った。

 それを見送った千早は苦笑して話し出した。

 

 

「隆和はん、嫌わんといてあげてな?

 あん人が、和はんの事を一条はんに知らせてくれたんや。

 『お嬢たちを助けてくれ』って必死な形相でな。

 一条はんとは古くからの知り合いだったらしいんや」

 

「嫌う理由はないんだよ。

 自分のものって言ったんだぞ?

 これで今になって見捨てたら、クズじゃないか。

 そもそも、彼女を連れてきたのは千早だろうに」

 

「……そうやね♡」

 

「だから、『ご褒美? お仕置き?」っていうそのうっとりした顔は止めなさい。

 ほら、和も困っているだろう?」

 

「いえ。わたくしは先日、溢れるほど頂きましたので大丈夫です」

 

「ええい、良いから本題に入ってくれ。

 大事な用だったんだろう?」

 

 

 真顔でとんでもない事を昼間から言う和の発言を隆和は遮り、千早に話を進めるように促した。

 首のチョーカーを弄りながらニコニコしていた千早は、奥の方へと隆和を案内し始めた。

 

 

「この辺にしとこか。

 いつまでもあの娘らを待たせるのもあかんやろし」

 

「あの娘ら?」

 

「行けば判るで、隆和はん」

 

 

 千早の案内で和も一緒に、一般的な造りの神社の奥へと歩いて行く。

 正面にある拝殿を周って裏手に入ると、奥の居住用の部分と遮る塀とその塀と重なるように配置された柵に囲まれた一回り小さい本殿が見えてきた。そして、その正面の扉まで来ると千早はそれを指し示した。

 

 

「ここや。

 ここの中が今回の肝になる場所や」

 

「ここが?」

 

「隆和はんは『異界』の仕組みは分かっているん?」

 

「え? ああ、大雑把に言って【世界の特定範囲が悪魔の出現するダンジョンになること】か?」

 

「細かい種別は別にして、大筋ではそうや。

 一定のエリア内にマグネタイトの濃度が濃くなり、一定の臨界を越えると異界の主である悪魔を中心にしてそのエリア内は通常の空間から切り離されて文字通りの【異界】へと変わる。

 けどな、一例として【影時間】みたいな例もあるんや」

 

「噂に聞く【ペルソナ】の?」

 

「そう。だから、うちらの研究者はこう考えたんや。

 【世界の一部に悪魔の出現に伴うダンジョン化という既知の法則性の書き換え】て。

 だから、うちらがこれからやるのもそれに基づいたやり方なんや」

 

「隆和さま。さあ、こちらに」

 

 

 和に手を引かれ後に続く千早と共に隆和は、本殿の扉をくぐると和に手を引かれるまま暗闇を抜け、その本殿内に造られた異界に入った。

 そして、その目に映る光景は美しい島だった。 

 隆和たちが通って来たお堂を出た先には、目の前に岸沿いに建てられた赤い柱と黒い屋根で出来た大きな神社があり、その建物の背後は切り立った山に囲まれていて岸は遠浅の砂浜が広がり入江のようになっている。そして、入江と外側の境目の水上にはどこかで見たような赤い大きな鳥居が建っていた。外海の方は、遠くで霧のようになっておりそれが異界の外壁なのだろう。

 この光景を見て、隆和は思わずこう叫んだ。

 

 

「あの鳥居や周囲の建物の作りは、厳島◯社じゃねぇか!」

 

「しょうがないんや。

 ガイア連合で頼んだ専門家はんが、『設計はパクって楽できる部分は楽しよう』て言いはってな。

 こうなったんや」

 

「専門家?」

 

 

 隆和の心からの叫びに、思わず苦笑して答える千早。

 

 

「せや。

 こういう事はうちらは判らへんから、【人工の異界の構築】を研究しとる専門家に頼んだんや。

 わざわざ山梨から来てくれはった凄腕の方や。

 『良いデータと実践と仮眠が出来た』言わはって忙しく帰られたんやけどな。

 向こうの人に来たのバレると怒られるから、あくまで【匿名希望の凄腕専門家】の方や」

 

「はあ、こんな事が出来るようなすごい人もいるもんだね?」

 

「いるもんなんやで。

 京や大阪の銘菓や特産品をお土産に渡したら、ごっつう喜んでくれてな。

 また今度会うたら、あらためてお礼せなアカンな」

 

「隆和さま。立ち話はここまでにしてこちらへどうぞ」

 

「せや、紹介したい人がおるねん」

 

「おっと」

 

 

 二人に手を引かれ、隆和は厳◯神社もどきの本殿へと連れて行かれた。

 

 

 

 

 水辺にある本殿の縁側において、あの時助けたアプサラスとマーメイドが光が死んだ目をして隆和たちを出迎えた。

 訝しげに見る隆和に、千早はこの二人の事情を含めあの海辺の異界の後始末の説明を始めた。

 

 あの異界の後処理を任されたチームの報告からは、既に現地組織が無くなり異界が再度発生した場合の管理は見込めないため、祠周辺の土地を買い異界が発生しないように要石を打ち込んで蓋をして抑える事に決定したそうだ。異界は地脈の吹き出し口である霊穴に出来易いため、定期的な監視は必要だがこの処置で再発生率はかなり低くなるという事だ。

 次に、拐われていた被害者女性の二人に関しては、一方は死亡が確定したため警察病院を通じて遺族の元へと送られると決まった。もう一人の生きていた女性の方は、もともと覚醒していた人物な上に家族も引き取りを拒否したので、念のため入院という形で拘束している間に身元の調査をしているという事だった。

 そして、アプサラスとマーメイドの方はというと、そのまま消えるのを嫌がったためにガイア連合に引き取られた後に千早と【匿名希望の凄腕専門家】によってリクルートされ、強固な契約で縛られた上でここの異界の管理を任される事になったようだ。

 

 千早は水の精であるアプサラスと人魚のマーメイドの方を示し、隆和たちに説明を続ける。

 

 

「と、言う訳でこの二人にはここの管理人になってもらうんよ。

 あくまでも、ここの異界の主はアメノウズメの転生者の和はんとうちやけどな?

 アプサラスは異界内の水質の管理と調整、マーメイドは水中に発生した生物の監視と調査が主な任務や。

 都合がいいことに、アプサラスもマーメイドも水と芸事に関係する説話があるから相性はええとお墨付きも貰っとるしな」

 

「確かにこのまま消えるのは業腹だから働きますとは言いましたが、広くて二人では手が足りないんですが?」

 

「お願いです。人手を増やすか、せめて何か鞭ばかりでなく飴も下さい」

 

「そこは追々増やすさかい。今は我慢してや。

 外の甘味でええなら、銘菓の残りは好きにしてええで」

 

「まあ、そういう事なら」

 

「食べてる間は休憩しまーす」

 

 

 そう言うと、途端に笑顔になってアプサラスたちは出て行った。

 それを見送っていなくなると、千早と和は真面目な顔になり隆和に告げた。

 

 

「関西支部の立て直しはもう目処がついた。

 和はんもある程度レベルも上がったようやし、今日からはここに詰めて働いてもらうで。

 うちは他にやっとる人みたいに、ここの人たちを子飼いの組織にして終末に備えるつもりや。

 いずれここも、派出所と同じ位の施設にして異界内もシェルターに出来るようにする。

 うちらには隣で戦う力はあらへんから、隆和はんの帰れる家を作るつもりや」

 

「隆和さま。

 もう今までのように頻繁にお会い出来なくなるかも知れませんが、ここを守っております。

 何時でもお越し頂けるようお待ちしています」

 

「なのははんとの約定、破るような真似をしてもこうして言いたかったんや。

 今日は来てくれて、ほんまありがとうな。

 ここの場所があるいう事だけは忘れんといてな?」

 

 

 そう告げられた隆和は、なのはとの約定もあるという千早の理由とホテルでの仕事もまだあったので今日は戻る事になった。

 

 

 

 

 その日の夜、帰宅していたなのはとトモエに希留耶と共に夕食を食べ、希留耶が就寝のために部屋に入った後はいつものように三人はすっかりそれ専用になった隣の家で風呂上がりに飲み物を飲みつつ談笑していた。

 ソファの中央に隆和が座り、左になのはが右にトモエがそれぞれ寄せ合うように座っていた。

 整備の終わった彼女らの装備品は、既に隆和たちの家の専用の保管箱に納められていた。

 

 

「あらためてただいまです、主様」

 

「ただいまなの」

 

「おかえり」

 

 

 風呂上がりのしどけない姿の二人を見つつ、隆和は苦笑した。

 そんな隆和に、トモエが今回の領収書やメモを見つつ話しかけた。

 

 

「主様。装備の整備は全て滞りなく終わりました。

 なのはの方は、あの杖の再入手は無理なようでした」

 

「そうか。まあ、手に入らないなら別のものを探そうか。

 あらためて、おかえり。なのは。

 実家の方はどうだった?」

 

「…え? あ、うん。何事もなかったの。

 実の母が常連の男性に口説かれる場面なんて無かったの」

 

「あー、それはまあ、ほらあれだ。

 桃子さん、若く見えるから」

 

「実際の年齢を知っても、『だが、それがいい』って笑顔で言い切る【俺たち】の人だとしても?」

 

「そういうのは本人同士の気持ち次第じゃないかな?

 あまり、俺も人のことは言えないから」

 

 

 視線を逸らす隆和に、なのはは大阪に戻る際の母の言葉を思い出していた。

 

『なのは。あなた、もうすぐ30になるんだよ?

 彼氏はどうなの? そういえば、隆和くんとはどうなの?

 お母さん、そろそろ孫ができてもいいと思うんだけどねぇ?』

 

『え? 最近は30過ぎで結婚するのも珍しくない?

 それは出来る人が言う台詞なのよ、なのは。

 それとも、貴女、先に弟か妹が欲しいのかしら?』

 

 割りと最後の方は、母親との触れ合いとは思えないガチトーンだったとなのはは考えた。

 普通なら無理だと思うが、彼女のいる場所の技術力だと相手がいれば本当に出来そうなのが怖い。

 反対側からの「ほら、さっさと攻勢に出ろ」という横目で送られたトモエの視線の圧に、躊躇するの止めて意を決したなのはが隆和に話しかけた。

 

 

「…………よし。

 今日、わたしには言わずに和ちゃんの神社に行ったって聞いたの。

 前に、行くときはわたしも同伴でって約束だったはずなの」

 

「そういう目的じゃなく、神社に異界を作って派出所にするって話だったよ。

 彼女はもうすでに終末に向けて動き出しているんだよな。

 俺にも何か出来る事をしないと」

 

「それなら、最近は山梨の異界にも潜っているみたいだし、山梨に拠点を持つのはどうなの?

 わたしの実家とかどうかな?」

 

「先に正式な挨拶が必要になるだろうから、それはそれで。

 一応まだ向こうの個人用シェルターの権利はあるけれど、ここには希留耶がいるしね。

 千早と和だっているんだし、彼女の話に乗るのも。うーん」

 

「あ、希留耶ちゃんか」

 

 

 考え込む隆和の反対側で、失敗したという顔のなのはを見て呆れた表情のトモエがため息をついて彼に話しかける。

 

 

「そういえば、このくらいの時間でしたよね。

 なのはが媚薬盛ってテンパってモーション掛けて、初めて抱かれたのって。

 割りと酷い有様になりましたよね?」

 

「ぶふっ!」

 

「あれは違うから」

 

 

 吹き出すなのはと震え声で何かを否定する隆和を無視し、話を続けるトモエ。

 

 

「異界付きの拠点を造ってアピールするのも、どうかと思いますけど。

 あまり優柔不断でいるのも駄目ですよ、主様。

 良識は忘れない範囲で【がはは、グッドだー】するのもいいんですよ?

 私たちの利益になるなら」

 

「ごほごほ」

 

「そいつ、駄目なやつだろう?」

 

「戦って守れる力があるのが最重要ですよ、これからの時代。

 それに戦うだけならなのはや私もいますけど、リーダーとして期待する私たちもいるんですよ?

 それとも、私たちでは不満ですか?」

 

 

 そう問うトモエに、真面目な顔で答える隆和。

 

 

「いいや、過ぎたものだと思うよ。君たちは」

 

「真面目な顔をしていますけど、4人に手を出しているのは忘れないでくださいね?」

 

「はい」

 

 

 それを聞いてニヤリと笑ったトモエは、なのはを小突いて言った。

 

 

「わー、そんな悪い子はお姉さんがオシオキしないといけませんね。

 ほら、なのは」

 

「……わ、わたし!?

 え、えーと、おねえさんがおしおきしちゃうの?」

 

「ええい、もう面倒くさい。

 早く脱いでそのエロい体を晒しなさい!」

 

「え、ちょっと!?」

 

 

 なのはをひん剥きに掛かるトモエに苦笑した隆和は、明日の事は明日考えようと結論を出し彼女たちを押し倒しスキル全開の【ひとぴょい】を始める事にした。 

 

 

「ほら」

 

「「あ❤」」

 

 

 離れた場所でおっ始めた3人を眺めつつ、撒き散らされるMAGを得ながらカーマは「年齢を考えなさいよ」と思いため息をついた。




後書きと設定解説


・関係者

名前:樫原蔵六(かしはらぞうろく)
性別:男性
識別:異能者・67歳
職業:華門神社禰宜
ステータス:レベル10・マジック型
耐性:破魔無効
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
    ポズムディ(味方単体・毒状態を回復する)
    ザン(敵単体・小威力の衝撃属性攻撃)
    薬草師(傷薬、ディスポイズン、ディスパライズ、ディスチャーム、
        ディスクローズ、ディストーンの作成が可能)
    禁断の知識(門外不出の美容法の数々)
詳細:
 華門和と共に暮らす元土御門家の家人たちの最年長でまとめ役
 短く切った白髪と口ひげを生やしガッチリした体格の老人
 和の幼い頃からの世話役で祖父代わりを自認している
 普段は屋敷内で連合から受注した薬品の制作を熟している

名前:アプサラス
性別:女性
識別:天女アプサラス
ステータス:レベル10
耐性:火炎弱点・氷結耐性
スキル:ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)
    マハブフ(敵全体・小威力の氷結属性攻撃)
    子守唄(敵全体・中確率で睡眠を付与)
    ディア(味方単体・HP小回復)
詳細:
 かつて悪太郎によって乱暴を受けた祠の天女
 インド神話における水の精だがたまたま日本に現れた
 現在は、祭神から立派なブラック労働者に転職した

名前:マーメイド
性別:女性
識別:鬼女マーメイド
ステータス:レベル12
耐性:火炎弱点・氷結無効・電撃弱点
スキル:アイスブレス(敵複数・2~4回の小威力氷結属性攻撃)
    ドルミナー(敵単体・中確率で睡眠付与)
詳細:
 「悪太郎の洞窟」に湧いていた人魚の悪魔
 ウミボウズに世話役として飼われていた
 現在は、彼女も立派なブラック労働者に就職した

次は、新しい事件。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第31話 華門神社の新人と若返りの霊水

続きです。


 

 

  第31話 華門神社の新人と若返りの霊水

 

 

 華門神社を訪れ、異界の事を知らされた日から数週間が経過した。

 

 初夏になったその日、隆和はとある場所の異界に電子ジャーを片手に持ち立っていた。隣にはトモエが並んで立ち、目の前で起きている喧騒を一緒に眺めていた。

 目の前の状況を見ているうちに、トモエが隆和に不思議そうに尋ねた。 

 

 

「あの、主様?」

 

「【ハマ】っ、邪魔するんじゃない! 悪霊風情がっ、【ハマ】っ!」

 

「何だい?」

 

「【突撃】よっ! ガキなんか、さっさと死になさいっ!」

 

「私たちがここにいる意味、あります?」

 

「【マハラギ】っ! ほらっ、右側が手薄よっ! シキガミたちはそっちに!」

 

「ボスがかなり強いみたいだから、念の為だってなのはがね」

 

「もうっ、ちまちまと数だけは多いのっ! 【メギドラ】!」

 

 

 奥の方から湧き出していた悪魔の群れの一角を吹き飛ばすなのはの放った万能魔法の爆発を眺め、隆和はこの数週間前のことを思い出していた。

 

 

 

 

 事の起こりは、あの日から数日後、高橋なのはと天ヶ崎千早の予定を合わせた日に改めて異界の事を話し合うことになった日だった。

 

 話し合いは組織の主だったメンバーの顔合わせと紹介の後、女性同士で話す事があると笑顔で言われ追い出された隆和は社務所にて樫原翁にお茶を貰い、騒音の響く神社内を窓越しに眺めていた。

 

 既に神社内では派出所と同等の施設建設に向けての工事が始まっていて、ガイアグループ系ゼネコンの『ガイア建設』と『だいだら工務店』の車や作業員が頻繁に出入りしており、社務所の増築に入口横のコンクリート製の外来者用の宿舎の建築、外塀の強化とそれに合わせた敷地の結界の配置直しと強化に、組織人員の住む古い木造屋敷部分の改築とリフォームが進んでいる。

 

 樫原翁の執務室でお茶を飲みつつ、隆和は書類の整理をしている彼に話しかけた。

 

 

「皆さんの様子はどうです?」

 

「ん? 少なくとも前にいた組織にいる頃よりはあの子らも笑顔が増えたぞ。

 もともとあの子らは、組織が用意した美人局や枕要員だったしの。

 それを強制する馬鹿どもが消えて清々しとるじゃろ」

 

「それじゃ、樫原さんは何をしていたんですか?」

 

「薬師じゃよ。

 家伝の美容法や化粧に使う薬や霊草を混ぜた妊娠誘発剤や堕胎薬なんかを作っとった。

 じゃから、今は罪滅ぼしの為にも今の子らは助けたいんじゃよ」

 

「そうだったんですか。

 それじゃあ、長い事彼女らと一緒にいたんですよね?」

 

「そうじゃな、一族の出じゃから長いの。

 それがどうしたんじゃい?」

 

「……【安倍七菜】って名前はご存知ですか?」

 

「む? ……ああ、憶えとるよ。お前さんの母親じゃったな」

 

「はい。……あの誰から聞きました?」

 

「千早の嬢ちゃんに名義の件で事情を聞いて思い出したんじゃ。

 なかなか破天荒で行動力のある娘っ子じゃったぞ?」

 

「知ってる事を聞かせてもらえますか?」

 

「ええとも。確かな……」

 

 

 その後、女性陣の話し合いはまだ続いていたが華門和が呼びに来るまで、隆和は樫原翁から母の思い出話を聞くことが出来た。

 

 

 

 

 女性陣が何を長く話していたかというと、ここの新しい職員としてトモエやなのはのよく知る人物がいたからである。

 その人物は、ガイア連合関西支部に所属するデビルバスターのモリソバこと【田中菲都】であった。

 友人の登場に驚くなのはに、ため息をついて千早が事情を説明し始めた。

 

 

「ふぇいとちゃん!? どうして、ここに?」

 

「だから、本名は……ああ、まあ。……それはとても答えづらい質問でして……」

 

「ソーシャルゲームやろ、原因は」

 

「ソシャゲ!?」

 

「あんな。こん人、大のソシャゲ狂いやったんよ。

 それも最新のガイア製のスマホを買って、ガイア運営の複数のゲームに手を出しとってな。

 大爆死して家賃が払えなくなって、ウシジマはん所に借りに行ったみたいなんや。

 ほんで、うちの所に連絡が来てここに連れて来たんや」

 

「「……うわぁ」」

 

「……うぐぅ」

 

 

 思わずトモエとなのはにドン引かれ、真っ赤になって顔を覆い蹲るモリソバ。

 可哀相なものを見る目で見る千早が話を続ける。

 

 

「貯蓄もほとんど散財して残っとらんと言うし。

 けど、なのははんの友人で、なのははんが推薦した有能な人や。

 このままでは惜しいんでな? 

 レベルも高いし、ここの守衛に住み込みで雇う事にしたんや」

 

「だから、あれほど程々にしなさいって言ったの」

 

「……面目次第もございません」

 

「それで、ゲームは辞めたの?」

 

「……そ、それは……」

 

「それはやな……」

 

 

 得意気に言いかけた千早に、真っ赤なまま首を振るモリソバが縋り付いた。

 

 

「ああ、天ヶ崎さん、お慈悲を!」

 

「うちの組織、元々は目標になった有能な人物を枕で誘い込む人員だったやん?

 その中には女性だけやなくて、『陰間』、いわゆる【男の娘】もおったんや。

 で、その中の一回りも下の子に岡惚れしたらしいんや」

 

「あああっ」

 

「しかも、『浮気はしない』とか言うて全部ゲーム消したんやで?

 立派な覚悟やないか? なあ、田中はん?」

 

「あああああっ」

 

「「「それはいい事を聞きました」」」

 

 

 再び、真っ赤になって顔を覆い蹲るモリソバに、工事のせいで神社が開店休業状態のため暇だったので聞き耳を立てていた巫女達が、話をしていた事務室の隅の応接セットの場所へと大挙してやって来た。

 そして、彼女たちによるモリソバへの相手は誰かという追求尋問が始まった。

 

 

「さあ、誰なのか吐いて楽になるの」

 

「……拒否します」

 

「答えてくれたら、主様には内緒で応援や協力もしますよ?」

 

「……きょ、拒否します」

 

「うちが思うに、あの小悪魔チックな『鞠也』やと思う」

 

「正統派な『準』では?」

 

「女装するとお嬢様っぽい『瑞穂』とか?」

 

「意外とワイルドな『涼』の可能性も?」

 

「男なのに色気有りまくりの『るか』でしょう?」

 

「や、やめっ、止めろぉぉぉぉっ!!」

 

 

 真っ赤になったモリソバの声が事務室に響き、恋話好きの巫女たちのからかい混じりの追求に彼女の抵抗は長時間続いた。

 

 

 

 

 一方、話が今だ弾んでいるなのはたちを残し工事の脇を抜けて本殿に入った隆和は、和に案内されて4体に増えたマーメイドと異界内の岸沿い屋敷で会っていた。

 彼女らは例の異界【八百比丘尼の洞窟】から連れて来られたのだ。結局、あの異界は万策尽きた北陸支部の救援要請で山梨支部からの“応援”が出動し沈静化されたという事である。

 なお、その帰りに某氏がどこぞによって1日たっぷりと“仮眠”が取れてお土産を手に入れたのは、周囲には秘密しているらしい。

 ただ、その人魚たちなのだが、全員緑髪の似たような美少女顔と容姿である。アナライズの使える隆和には最初の彼女がレベル12なのですぐに分かるが、他の3体はレベルも同じ10のため見分けるのは非常に困難であった。

 メモを見ながら背景を語った和は、隆和に彼女たちの紹介を始めた。

 

 

「隆和さま、紹介しておきます。

 その平定された異界【八百比丘尼の洞窟】でスカウトされて来たマーメイドの増員の3人です」

 

「「「すっごい強い人が来た! よろしくお願いしまーす!」」」

 

「はい、よろしく。最初の娘がリーダーだから言うことを聞くように」

 

「「「はーい!」」」

 

「それで千早さまは、彼女らを『ブラボー』『チャーリー』『デルタ』と呼ぶそうです。

 それに合わせて、最初の娘は『アルファ』と呼ぶ事にするつもりだそうです」

 

「「「異議あり! もっと可愛い名前で!」」」

 

「流石にそれはあんまりです」

 

「それ、コードネームじゃないか。俺が考えようか?」

 

「お任せします、隆和さま」

 

 

 和にそう促され、期待の目で見るマーメイド達に圧されつつ考え込む隆和。

 

 

「んー、じゃあ『ABCD』の並びは崩さずに、順に『ベルタ』『クリス』『ドーラ』でいいかな?

 リーダーの君は『アリ◯ル』は某所が怖いので、少し捩って『エイプリル』で」

 

「「「うわぁ、ありがとう!」」」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「それじゃ、仕事に戻ってよし」

 

 

 ニコニコとしたマーメイドのエイプリルは、他のマーメイドに「ずるいー」とか「えこひいきー」と言われても気にせず皆と一緒に上機嫌で潜って行った。

 それを横でじーっと見ていた和は、無言で部屋の奥に行くと一抱えはありそうな大きさの物を抱えて来ると隆和の足元に置いた。よく見るとそれは、横側に赤い文字の書かれた黄色い御札の貼られた昭和風の古いデザインの炊飯器だった。

 隆和は、それを見て和に尋ねる。

 

 

「何か、はるか昔に見たような覚えがあるこれは?」

 

「【魔封波電子ジャー】です」

 

「【魔封波電子ジャー】?」

 

「はい、そうです」

 

 

 そう言うと、彼女は無表情で『取り扱い説明書』と書かれた冊子を渡してきた。

 それにはこう書かれていた。

 

『契約して使役する事になる悪魔は、普通はマグネタイト消費の関係で封印器具で入れて過ごすものである。

 しかし、【悪魔召喚プログラム】と【COMP】は今だに未発見なのだ。

 そうなれば【封魔管】なのだろうが、使用に特別な素質と訓練が必要である上に残数が少なく希少であるのが難点なのだ。

 さらに、封魔管自体が高度な職人技の製品でその職人自体もメシア教の戦後のアレのせいで希少過ぎる状態だ。

 我々でも簡易に使える封魔管の代わりが欲しい。

 そこで、我々が開発した契約悪魔封印器具【魔封波電子ジャー】。

 これ一つに契約に同意した悪魔を1体封じて持ち歩くことが出来る頑丈な優れものだ。

 いずれ小型化し、赤白のボールの形状のものも鋭意開発中であるのでお待ち頂けたい』

 

 読み終えた隆和が奥の方を見ると、これと同じものが2つ置いてあるのが見えた。

 返された説明書を受け取った和が、隆和に説明を続ける

 

 

「あの人魚たちは、これらに入れられてガイア連合から梱包されて来ました。

 隆和さまには、これを使ってこの異界で管理を担当させられる様な悪魔を連れて来て欲しいのです。

 千早さまも伝手を辿って探していますが、なかなか見つからない様なのでお願いします」

 

「異界を巡って仲魔探しか。メガテンぽくていいな。

 よし、乗った。見つけて来るよ」

 

「ありがとうございます、隆和さま。

 では、こちらへ。報奨の前渡しと言うやつで」

 

 

 頬を上気させ隆和を奥へと誘う和に、さっきのマーメイドとのやり取りで思う所があったのかと可愛らしいなと考えた彼は誘われるまま奥へと行き、他の女性陣が探しに来るまで建物の裏手にある綺麗な泉で彼女との逢瀬を楽しんだ。

 なお、この泉はアプサラスの家でもあるので、後日、千早経由でなのはたちにバレて怒られた。

 

 

 

 

 電子ジャー片手にあちこちの異界に行ったがこれはという悪魔が見つからず、困っていた隆和のもとになのはがニュースと異界の情報を持って来た。

 

 先日、恐山支部でイタコの女性達が待ち望み、防御施設やジュネスと並んで最優先で復旧作業が続いていた【恐山の冷水】が復旧し、アラフォーやアラフィフのオネエサマ方が先を争うようにして効果の程を実証しているというニュースが飛び込んで来た。

 このニュースを知って、刺激されたうちの地元にも若返りの伝説の泉があるという所は優秀な異能者呼び込みのためにガイア連合の支部に掛け合って動き出しているのだという。

 

 その一つが岐阜県にある【養老の滝と菊水泉】である。

 ここはかつて奈良の都から元正女帝が行幸され、この水を飲まれたことで病気が全快し白髪も黒髪に戻ったと言われており、元正女帝はそれを称え「老いを養う」として元号を養老と改めたのが名称のもとになったという伝説の『日本の滝百選』にも選ばれた名水の地である。

 

 ここの付近を統括する北陸・東海の各支部はそのエリア内はほとんどが山岳地帯である。

 故に、山村を巡るような交通の便の悪い場所へは優秀な異能者である『俺たち』は忌避する傾向がある。

 従って、海沿いや都市部より山手側は余計に他より人手不足に陥る傾向がとても強くなった。

 そこへ恐山のニュースが来てじゃあうちもやるかと作業を始めた途端、現場で作業していた誰かのミスで敵対的な悪魔の異界が出来てしまう事態に陥った。

 この事態に困った支部の上層部だったが、一人の幹部がある事を思いついた。曰く、

 

『これで人手が余計に足らなくなる? 逆に考えるんだ。人手を呼び込むネタにするんだ』

 

 そしてここを管理する支部は、近場の連合員と関係者にこう言った。

 

『異界の討伐に貢献された方から順番に無償で若返りの水を提供します』

 

 こうして、老人や年齢が微妙になりだしたオジサマとオネエサマたちが挙って集結し、転生者も現地民も関係なく異界へと突撃したのだった。

 隆和がなのはに連れられて参加した時に数えると、あの師匠の異界の攻略の人数をはるかに越えていた。

 

 そして、場面は冒頭へと戻る。

 

 人数と能力と技術の差で文字通り、蹂躙されていく異界。

 鬼気迫った表情で、それでも巧みに連携して悪魔達を駆逐していく参加者たち。

 立ち向かったものも恐怖にかられ逃げ出そうしたものも悪魔達は等しく消えて行った。

 なのはのフォローをしつつ順調に異界の奥へと進む隆和たち。

 

 もうじき、若さを求める者たちの魔の手は異界の主へと届こうとしていた。




後書きと設定解説


・関係者

名前:モリソバ(田中菲都・たなかふぇいと)
性別:女性
識別:異能者・自称20(29→30)歳
職業:フリーター→ガイア連合関西支部所属デビルバスター
ステータス:レベル19(成長限界)・フィジカル型
耐性:破魔無効・呪殺耐性
スキル:変なスラッシュ(敵単体・小威力の物理攻撃・低確率で幻惑付与)
    全門耐性(物理・万能以外の属性攻撃を受けた際、ダメージを50%にする)
    みかわし(物理攻撃を回避しやすくなる)
    食いしばり(HPが0になった際、自動的に一度だけHP1で復帰する)
    不屈の闘志(HPが0になった際、自動的に一度だけHP全開で復帰する)
    生還トリック(即死効果攻撃を受けた際に自動的に必ずHP1で生き残る)
装備:ししょーパラ子・レプリカ(ガイア連合製の剣盾鎧のセット霊装)new!
   黒服スーツ(サングラス付きのガイア連合製のセット霊装)new!
詳細:
 某騎士王に似ているが黒髪黒目の日本人顔の女性デビルバスター
 高卒での就活に全滅し、両親と揉めて家を追い出されこの業界へ
 魔王ネキの学生の頃の友人で、あだ名の命名者も元ネタを知ってる魔王ネキ
 ソシャゲ生活に行き詰まり、千早に定職を求めて雇われた
 三十路を迎え、将来の貯金のために泣く泣くソシャゲは辞めた

・アイテム

【魔封波電子ジャー】
COMPが無い頃、封魔管の劣化・廉価品として開発された悪魔の捕獲容器
使い方は、相手の同意を得るかポ◯モンのボールと同じ物理的やり方で可能
もちろん、形状違いで紅白ボールや他の形のものも開発予定


次は、早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第32話 異界・菊水霊泉

続きです。


 

 

  第32話 異界・菊水霊泉

 

 

 さて、今回の異界の発生した場所は上流の養老の滝ではなく、今は一般人立入禁止になっている養老神社の境内にある菊水泉の方である。

 泉の湧き水を採取するだけなら石段の下に取水場があるが、今は異界化の影響かこちらでは汲む事が出来ないでいる。

 現地を見れば判ると思うが、本来なら泉のある池の真ん中に『菊水泉』と書かれた立て札があるはずなのだが、現在は水は全て無くなり黒い渦のような異界の入口がある状態である。

 

 本来ならここの異界は、神社の祭神である菊理媛神とした数柱を戦後のメシア教の封印から解放する事で若返りの水を手に入れるのがガイア連合支部の予定であった。

 だが、好事魔多しである。

 ガイア連合の関心を買うのを成功した事に嫉妬し腹を立てたある近隣の別地元組織が、妨害と嫌がらせ目的で秘密裏にダークサマナーを雇って呪物の【白蛇石】を異界の中に捨ててこいと命じ、そいつがなまじ有能だった為にボーナス目的で呪物で呼び出した悪魔が想定より強い物に変異した為に今回の事態を引き起こす原因になったのだ。

 だからこそ、今の事態になった原因の自分が生まれる元となった死んだ女ダークサマナーを、最奥のボス部屋の戦いの中で【妖精ルサールカ】は罵倒していた。

 

 

「あああっ、もう恨むわよ。あの女ぁ!」

 

「ええいっ! ごちゃごちゃ言わずにそなたも働け!

 このままなら道連れにするぞよ? 死ねい、【ブフーラ】じゃ!」

 

「ちっ、分かったわよ! ええい、【ラクンダ】!」

 

『嗚呼嗚呼嗚呼』

 

「被害を受けた人は後退! 左手に隙があるわっ! 前進!」

 

「「「おうっ!」」」

 

 

 自分を召喚したここのボスである全身が白一色の女悪魔の命令に舌打ちしながら、前衛代わりの悪霊共を盾にしながらルサールカは異界に攻め寄せている人間たちに範囲妨害魔法を放っていた。

 

 

 

 

 隆和たちがボス部屋にたどり着いた時、現地人や転生者にシキガミの混成集団である参加者側と悪魔達の戦況は一進一退という状況になっていた。

 その参加者の集団なのだが、シキガミを除くと生え際が気になったり夜の生活で駄目になり始める年頃の男性や、小じわが気になったり婚活市場で見向きされなくなる年頃の女性が大勢を占めているという集団だった。

 なのはも気にしているのだろうかという疑問が浮かんだが、隆和は頭を振って消した。

 

 

「私は若さを取り戻すのよっ! 【ハマ】!」

 

「何が『若いほうがいい』よ、あのチャラ男がっ! 【アギ】!」

 

『ギィギィギィ』『ギャッギャッ』『ギィィ』

 

「ええい、どけっ。ガキ共! わしは髪を取り戻すんじゃあ! 【薙ぎ払い】!」

 

「『もう駄目なの?』などともう言わせんぞぉ! 【マハジオ】!」

 

『嗚呼嗚呼嗚呼』『こ…は我…のも…、【ムド】』

 

「くっ。イタコの連中が分けてくれないのが悪いのよっ!

 悪霊が邪魔っ。施餓鬼米よ!」

 

「うわっ、危なっ! もうっ、【スクンダ】!」

 

「ええいっ、貴様らの事情など知ったことかっ! 

 ここの水は全部、妾のものにするのだ! 【まどろみの渦】!」

 

 

 そこは異界全体と等しく足元が水浸しになった鍾乳洞の広間で、時々足を取られて転んでいる人が出ているほど濡れて突起物も多い床となっていた。

 

 隆和が戦況を確認すると、ボスらしい髪や肌に着ている着物まで全て白色なのに両目だけが赤い女悪魔と、浮遊した緑色の肌で白いワンピースを着た赤い髪の少女の姿の悪魔、それに大量に湧いて来ている悪霊やガキの群れが邪魔をして近づかせないようにする事で悪魔側がやや有利な状況を作っていた。

 隆和のアナライズには、白いのがボスのレベル27【邪竜ハクジョウシ】で赤い髪の娘がレベル18【妖精ルサールカ】と映っており、後はいつもよく見る悪霊やガキ達の群れであった。それを見て取った隆和は、ルサールカの確保を思いついた。

 

 何しろ華門和と「探す」と約束はしたものの、コレという悪魔には隆和は見つけられていなかった。

 あの異界に合わせた条件が、【レベルがそこそこで比較的善良な水に関係した悪魔】が望ましいとしていたからだ。それに、一番条件に合致する水場に関係する悪魔のいわゆる『水妖』は、溺死を起源として考えられた者が多いからかとにかく溺れさせて人を喰う性質の悪魔が多すぎるためでもあった。

 それだったら、もうマーメイドもいるし水辺で男を誘うくらいなら許容範囲である。

 人の肉を喰うのでなく精気を吸い取るタイプまで妥協しないと、いつまでたっても集められないだろう。

 

 そこまで決めた隆和は、広範囲の状態異常魔法で能力差による攻撃が止まり戦線が停滞しかけているその場へ、なのはたちに声を掛けた後に左手に重さ4kgの電子ジャーを持ったまま走り込んだ。

 

 

「トモエは、あのほぼ同レベルのハクジョウシを斬るんだ。

 火炎弱点で破魔と呪殺は無効、物理耐性はないから存分に殺れ。

 なのはは、範囲魔法で悪霊たちを薙ぎ払って皆の撤退の援護を。

 カーマは自分の判断で援護だ」

 

「隆和くんは?」

 

「あのルサールカをあそこの異界用に確保する。行くぞっ!」

 

「あ、ちょっと……もう! 【メギドラ】!」

 

「参ります! 【マハンマ】!」

 

「おのれっ……くっ」

 

「【魅了突き】。貴女は邪魔をしないで下さいねー?」

 

 

 状態異常で進軍の止まった隙に参加者たちを襲おうとしていた前にいた悪霊の群れは、なのはとトモエの範囲魔法で薙ぎ払われて開いたその場所を通って隆和が駆けて行く。それを邪魔しようとしたハクジョウシの動きをカーマが制した。

 そして、それを見て思わず逃げようとしたルサールカに、走り込んで来た隆和は大きな声でこう告げた。

 

 

「ルサールカ、俺は(異界の労働者として)貴女が欲しい!」

 

「……え? 私が(恋人として)欲しい!?

 ……突然、そんな事を言われても……」

 

「ここで君が死ぬのは駄目だ。

 貴女は(人食い悪魔より比較的ちょうど良く)素晴らしいのだから」

 

「え? (女性的に)素晴らしい?」

 

「そうだ。

 貴女の事を、(今回の件について)もっとよく知りたい」

 

「……そ、そんなに(女性として)知りたいだなんて、初めてで……」

 

「いやそもそも、そこのハクジョウシに義理立てする必要があるのか?」

 

「え? それは……」

 

 

 ちらっと伺うように、ルサールカはハクジョウシを見る。

 思わず、周囲も戦闘を止めて隆和とルサールカに注目している。

 はっと気が付いたハクジョウシは眦を上げ指を差して、頬を赤らめているルサールカに怒鳴り返す。

 

 

「戦っている最中に何を言っておる!

 そなたは妾の配下なのだぞ!

 呼び出してやった恩を忘れるのかえ!?」

 

「俺とここを出て、(次の職場という)新天地へ一緒に行こう? さあ!」

 

「……あ、私は……」

 

 

 この異界に入り若返りの水をあわよくば、等と考えていた女ダークサマナーを元にして生まれた彼女である。

 今までにこういう経験がなく、まともに男性から口説かれるのに慣れていなかった。

 もうひと押しだと思った隆和は、決め顔で近づき逡巡するルサールカに囁いた。

 

 

「ルサールカ、(出入りする異界の従業員として)契約して俺のものになってくれ」

 

「……はい♡」

 

 

 頬を赤らめたルサールカは、笑顔で隆和が蓋を開けた電子ジャーの中に入って行った。

 しっかりと蓋を閉めた隆和は、多少勘違いしているようだがまあ大丈夫だろうと思いハクジョウシに向き直った。

 ポカンとしている参加者たち、白い目で隆和を見るなのは、ジリジリとハクジョウシに斬りかかるタイミングを図るトモエ、蹲って下を向き痙攣しながらバンバンと床を叩いているカーマ、目の色と同じくらい顔を紅潮させ叫び出したハクジョウシに隆和は笑顔で告げた。

 

 

「お、おの、おのれぇぇっ! 馬鹿にしおってぇぇ!!」

 

「彼女を呼び出してくれてありがとう。じゃあ、死のうか?」

 

「隙あり! 【黒点撃】!」

 

「本当にもう。【コンセントレイト】【フレイダイン】!」

 

「~~~~~~~~!!!」

 

「じゃあな。【チャージ】【地獄突き】!」

 

「今だーーっ! あいつは火炎に弱いぞっ! 【アギ】!」

 

「【アギ】!」「【マハラギ】!」「アギストーンを喰らえ!」

 

「ぐおおおっ、こ、こんな殺られ方は嫌じゃーーーーっ!」

 

 

 攻撃を始めた隆和たちを見た状態異常から回復したり我に返った参加者たちの総攻撃がとどめとなり、ハクジョウシは悲鳴を上げながら消滅し異界の攻略は成功したのだった。

 なお、ハクジョウシが消滅するまで、カーマは腹筋地獄から生還してくる事はなかった。

 

 

 

 

 さて、その後の事である。

 

 無事にあの後、ここの神社で祀られていた祭神としてのキクリヒメの分霊は解放された。

 ただ、残念ながら『若返りの水』としての霊泉の効能は、充分に時間が経って祭神の力が戻ってからでないと効能が発揮できないという結果が出てしまった。

 そのため、今回の参加者たちは参加賞の報酬を受け取り肩を落として帰って行ったが、養老神社を守ってきた地元組織は効能の復帰を早めるために継続的にガイア連合から大きな支援が貰えるとなって大喜びだった。

 

 また、今回の件を引き起こす事になった近隣の別組織だが、生前が元ダークサマナーだったルサールカの証言が元になり、裏で煽っていた祭神もろくでもない代物だったので今回で不利益を被った転生者たちに殴り飛ばされ、霊地諸々も買い叩かれて養老神社側の監視下になる結果になったと隆和たちはしばらく経ってから千早から聞かされる事になった。

 

 

 

 

 そして、隆和たちに持ち帰られる事になった妖精ルサールカであるが、

 

 

「あ゛あ゛~っ。ここは、極楽だわぁ~~」

 

 

 わりと華門神社の異界での暮らしを自堕落に満喫していた。

 

 最初は思っていたのと違うと憤慨した。しかし、かなり縛りのキツい契約を結ばされ、泣く泣くここで暮らし始めたがその気持ちはどんどん失せていった。

 

 なにせ、異界の管理というノルマはあるが自分たちが住む場所の片付けや掃除のようなもので他にも複数人いるのでそれほど大変ではない、強制されて命じられる事はないのに逆に要望はある程度聞いてくれる、攻めて来られる事も今のところ無い上に何かあったらあのとても強い人間たちが飛んでくる、なによりマグネタイトに不安はないどころか、時々褒美として出される人の食べる甘いものや美味しいものが出ると彼女には魅力的であった。

 

 そのルサールカこと呼びにくいと『ルサルカ』と呼ばれている彼女は、人間たちが持ち込んだビーチチェアと大型パラソルをさして浜辺でマーメイドたちと横になりながらぼけーっとしていた。

 異界の中は、初夏の過ごしやすい頃の瀬戸内海を想定した環境のため昼寝にはちょうどいい状態だった。

 今日は人間は誰もいないためルサルカはボケッとしながらも、隣で寝ていた先輩のマーメイドのエイプリルに話しかけた。

 

 

「ねえ、エイプリル」

 

「な~に~?」

 

「海の中、どう?」

 

「ん~、異常なし?

 この間、スイゾクカンてところから持って来た魚を大量に放した時は大変だったけど、もう落ち着いたし」

 

「結構すごかったもんねぇ。

 車とかで運び込めないからって、総出の人力で水槽抱えて運び込んでいたし」

 

「それがあたしには大仕事だったわけですけど~」

 

「だけど、こっちは魚が増え過ぎたり、悪魔化しない様に海の中を見張るのも私たちの仕事だよ?」

 

「それは分かっているわよ。それと、今日の分は終わったの?」

 

「後は、クリスにお任せで」

 

 

 それを聞いたルサルカは、プラスチック製のトランプと金属の缶で封をされている焼き菓子の詰め合わせを持ち出すとニヤリと笑ってマーメイドたちに話しかけた。

 

 

「勝負しない?

 一番勝ったものが、一番多く食べられるの」

 

「「「乗った!」」」

 

 

 後でアプサラスやすっ飛んで戻って来たマーメイドのクリスも加わり、トランプ大会は日暮れまで続いていたという。

 華門神社の異界は、とても平和であった。




後書きと設定解説


・関係者

名前:魔王ネキ(高橋なのは)
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・28→29歳
職業:ガイア連合大阪派出所の契約社員
ステータス:レベル26→29・マジック型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:メギドラ(敵全体・大威力の万能属性攻撃)
    フレイダイン(敵単体・大威力の核熱属性攻撃)
    コンセントレイト(使用後の次の魔法攻撃の威力が一度だけ2倍になる)
    万能ハイブースタ(万能属性攻撃のダメージが25%上昇)
    魔導の才能(全属性の魔法攻撃力が25%上昇)
    三段の賢魔(ステータスの魔が15増加)
    大虐殺者(全体およびランダム攻撃スキルで与えるダメージが20%増加)    
装備:呪殺無効の金の指輪 new!
   魔女のタリスマン(ステータスの魔に+2)
   霊木製の魔術師風の杖(鈍器)
   ナノハ・バリアジャケット(魔法少女衣装の専用霊装)
詳細:
 身長160cm、B:88(E)・W:60・ H:89
 隆和の正妻を主張する魔法火力の権化の魔王ネキ
 栗色の髪のサイドテールが目立つスタイルの良い家庭的な技能も万全な美女
 絡み酒の酒癖とストレスが溜まると魔法をぶっ放す習慣があった
 6年以上友人としていたがある契機に思い詰めそのまま恋人に突入した
 もういい年なので隆和との結婚等いろいろと予定を立てたいと考えていた
 片親の母親は山梨の結界周辺の都市で喫茶店を経営している

名前:ルサルカ
性別:女性
識別:妖精ルサールカ
ステータス:レベル18
耐性:火炎弱点・電撃反射・破魔弱点
スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
    タルンダ(敵全体・攻撃力を1段階低下させる)
    スクンダ(敵全体・命中、回避率を1段階低下させる)
    デカジャ(敵全体・能力上昇効果を消去する)
詳細:
 スラヴ神話の水神、または水妖とされる赤い髪の女性悪魔
 若くして死んだ花嫁や水難事故で死亡した女性がなるとされる
 他人の邪魔をするのが得意な白い服を着た緑の肌の美少女の容姿

・敵対者

【邪竜ハクジョウシ】(ボス)
レベル27 耐性:火炎弱点・氷結耐性・破魔無効・呪殺無効
スキル:ブフーラ(敵単体・中威力の氷結属性攻撃)
    夢見針(敵単体・小威力の銃属性攻撃。低確率で睡眠付与)
    メディア(味方全体・HP小回復)
    まどろみの渦(敵全体・中確率で睡眠、幻惑付与)
詳細:
 中国に伝わる物語「西湖三塔記」に登場する白蛇の精の女性悪魔 
 呪物として良質だった「白蛇石」と周囲の若さへの執念が強い悪魔を呼び出した
 この異界の地にある若返りの霊水の独占を狙っている
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性がある 

配下の悪魔は、レベル4~12の【悪霊レギオン】【悪霊ディブク】【幽鬼ガキ】
人間側参加者は、レベル3~20ぐらいまで雑多だったと想定


次は、新しい事件。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第33話 地方巡業・猿佛村 前編

続きです。
※「猿佛村」は「さるぶつむら」と読みます。


 

 

  第33話 地方巡業・猿佛村 前編

 

 

 菊水霊泉の異界攻略で若返りの水の入手に失敗して、自棄酒して泥酔したなのはとそのままトモエも一緒にホテルにしけ込んで朝帰りし、隆和が希留耶に事前に連絡しろと説教された日から2週間が経過した。

 先日、急ピッチで進んでいた神社の施設工事も終了し、千早たちに招待されて隆和はなのはやトモエと一緒に様子を見に行く事になった。

 

 現状としては、こうなっていた。

 

 表のこちら側で目立つのは、増改築されて立派になった社務所と入口横に建てられた外来者の宿泊用の2階建て10部屋のワンルームアパートだろうか。基本的に、派出所としての受付や事務はこの二つの建物で行なうとの事だ。

 そして、奥の本殿を通り抜けた先にある異界の方はこうなっている。

 

 名称は、【華門島(仮)】。

 最終的に島の大きさは約500m四方ほどの広さになり、入江と砂浜のある西側に本屋敷と入口のお堂に避難時用のプレハブの長屋が並んでいる。東側は、切り立った高さの山を中心に林が広がっていた。

 気候は過ごしやすい初夏の海に近く昼と夜も擬似的にちゃんとあり、天気もランダムで変化するという優れものであった。

 現在、この異界に逃げ込む予定なのは、人間側が隆和たちと管理者権限のある華門和と天ヶ崎千早、モリソバこと田中菲都、樫原蔵六翁と神社所属15名の巫女たちがおり、悪魔側はアプサラスとルサルカにマーメイドの4人だと隆和たちは千早に説明された。

 これに、常時は異界の林の中を自由に漂っている山林の管理のために千早が手に入れて来た、【地霊スダマ】が2体と【地霊コダマ】の2体が追加される。

 

 昼過ぎになって見学が一通り終わり、本屋敷の広間で休憩を取ることになった。

 ガスや水道がないのでルサルカやアプサラスの家になっている裏手の泉から水を汲んで来て、備え付けの薪の竈で沸かした湯で和が入れたお茶を皆で飲んでいた。一息ついた所で、千早が隆和たちに現状について説明を始めた。

 

 

「これで説明と見学は大体終わった訳やけど、どないや隆和はん?」

 

「いや、すごいよ。これだけの物を用意して作り上げるのは並大抵じゃない」

 

「へへ、褒めてくれてありがとな。隆和はん。

 それで、なのははんの方はどうや?」

 

「確かにすごいの。

 わたしだけでは、絶対に無理なの。

 でも、ここに逃げ込むかは待って欲しいの」

 

「どうしてや?」

 

「希留耶ちゃんの事があるの。

 隆和くんは自分用の山梨のシェルターに入れるつもりらしいけど、何処に入るかは希留耶ちゃんの意思で決めた方がいいと思うの。

 ここに逃げ込むにしろ、うちの実家で預かるにしろね?」

 

「そうだな。

 それは聞いた方がいいな。

 そこまで考えていなかったよ、ごめん。

 トモエと和は……そうだな」

 

 

 二人とも、答えは決まっているので聞かずとも良いという顔で隆和を見ている。

 それを隆和が確認して頷くのを見て、千早が話を続ける。

 

 

「まあ、そういう訳でな。

 ここはまだ出来たばかりで収入が出るようになるのはまだ先や。

 そこでな、管理悪魔の収集もやけど、うちが仲介する仕事を隆和はんにお願いしたいんや。

 どうやろ?」

 

「異界の攻略なら望む所だ。なのははどうする?」

 

「わたしはこの事について希留耶ちゃんに聞いてみるの。

 同じ女性の方が話しやすいかもしれないの」

 

「ああ、そうか。そうだな。

 それじゃ、トモエと俺たちだけで行くとするか。

 どんな依頼なんだ?」

 

「それがやな……」

 

 

 

 

 それから、今年も暑い夏になった数日後。

 隆和たちは、その受けた依頼の場所の山村に新調した中古の軽自動車で向かっていた。

 

 千早から受けた依頼の書類にはこう書かれていた。

 場所は、奈良県と和歌山県の県境に近い山奥の集落である『猿佛村』。

 現在では村の者は二十戸ほどの村長の一族の人達が暮らしており、本家の【夜刀神家】に付き従って祭神の眠る異界に湧いて溢れ出てくる悪魔達を退治しているという地方にはよくある霊能組織だ。

 そこから、組織の人間だけでは対処しきれなくなってきたので誰か送って欲しいとの依頼が来ていた。

 内容も、里の者と共に異界の間引きを手伝って欲しいという物だった。

 ただし、この依頼は塩漬けになりかかっており、隆和が派遣されるのが三人目だという事だった。

 

 それは何故かというと、依頼主の本家の長が追い返したからだという。

 一人目は、ごく一般的な若い転生者だった。

 彼の理由は、【俺たちの基準でごく一般的な個人的趣味丸出しの服】を着た女性シキガミを連れていたからだった。

 着いて早々に彼は、依頼主と思われる中年男性に生理的嫌悪をあからさまにして彼女を酷く侮辱されたので、憤慨してすぐに引き返し依頼の受領をキャンセルした。

 二人目は、少年で正義感の強い人物だった。

 彼の理由は、当主のやり方に異議を唱えたからだ。

 彼はいざ異界の攻略を始めた時に、地元の人間が一人の少女を追い立てるように一人だけでやらせているのを見たからだった。彼女に同情した彼は当主にやり方を変えるように言ったらしいが、「若僧で余所者のお前に何が判る!」と激しく口論となり激高した末にある程度間引いただけで引き返したそうだ。

 その後、彼は支部に村長から届いた『役立たず』と罵る慇懃無礼なクレームを聞き二度と引き受けなかった。

 このため、異界は放置できないが対処に困る案件のために隆和に回ってきたのだそうだ。

 

 隆和はこの仕事を受けるために幾つか準備して現地に向かった。

 服装は、隆和はいつもの青のツナギの霊装だがトモエは緋袴を履いた巫女服の霊装を着用し、当主対策の品をいくつか携えて向かったのだった。

 

 

 

 

 事前に連絡しておいた昼すぎの時刻に、隆和たちは到着した。

 歩いている内に眺めた村の中は、棚田と畑が広がる中にまばらに建っている家など山間にある典型的な農村の集落だった。

 屋敷近くの空き地を利用したらしい駐車場で車から荷物を持って降りた隆和たちは、屋敷の入口で呼び鈴を押した。そこは本家と言うだけあって、植木屋が出入りするような木も生えた庭があるらしく周りの家よりもかなり大きく塀で囲まれていた。

 ビーッと音がして暫く経つと、家の中から農家の作業着の格好をした中年男性が出て来て、ジロジロと眺めた上で隆和に尋ねてきた。

 

 

「……見ない顔だが、どちらさんで?」

 

「依頼を受けて来たガイア連合の者です。

 ご当主に面会を希望していたはずですが?」

 

「ああ、あの都会の。

 ……まあ、こっちに来な。案内する」

 

 

 無言で付いてくるトモエと共にその男性に案内されると、応接間らしい広間に通されここで待つように言われその男は去って行った。しばらく座布団に座って待っていると、さっきの男性が付き添うようにして厳ついがやや太った中年男性が現れた。その男は上座に用意された座布団に座ると、ジロジロと隆和とトモエを眺めた後に話しかけて来た。

 

 

「……ふん。それで、あんたが今度のやつか?」

 

「今回の仕事を請ける事になります安倍隆和と言います。

 こちらは助手のトモエです。

 あと、こちらが紹介状と菓子折りになります。どうぞ」

 

「ほう。前の連中よりは年齢が上なだけあって礼儀は解っているようだな。

 どれどれ。…………ほう、神社庁の方のほうほう」

 

 

 少しお高めの菓子折りと一緒に渡したのは、神社庁の理事である一条氏に一筆したためて貰った紹介状である。とかく、こういう田舎の名家の人間は、自分の価値観で判る権威を有り難がる傾向があるらしいと千早に聞き、念のために忙しい彼に隆和が無理を言って頼んだものである。一条氏自身は、隆和に恩はあるし悪用はしないと思っていたのですぐに書いてくれたのだが。

 そして、先程までとは違い、上機嫌になったこの男には効果があったようである。

 

 

「いやいや、あの土御門の血筋の方がいらっしゃるとは!

 ようやくまともな人間を寄越すのですからなぁ、全く新参の組織は常識がない。

 ああ、名乗りが遅れてすみませんな。夜刀神家の当主の剛造です。

 まずは、部屋を用意させますのでそちらで休憩を」

 

「まあ、そういう事なら。後で異界への案内役を頼みます」

 

「はい、それはもう重々に。おい!」

 

「はい」

 

 

 剛造が付き添っていた男に声を掛けると、その男性は隆和たちに恭しく一礼をすると「ご案内します」と言い隆和たちを客間へと案内していった。

 隆和たちが離れるのを確認すると、剛造は室外に声を掛けた。

 

 

「おい、華。いるか?」

 

「ここにいます」

 

 

 返事があって襖が開くと、ポニーテールをした若い娘が反対側の廊下で正座をして座っていた。

 彼女は一礼すると、恐る恐る剛造に話しかけた。

 

 

「何でしょう、お父様」

 

「華。お前が彼をご案内しろ。

 お前の仕事を見てくださるんだ。粗相の無いようにしろよ?

 実力の程を確かめて報告するんだ。いいな?」

 

「……分かりました」

 

「いいか。お前のような化け物の娘を今まで飼ってやっていたんだ。

 上手くやれよ?」

 

「はい」

 

「愚図愚図するな! さっさと行け!」

 

 

 一礼した彼女が部屋を出ていくのを見て、剛造が仏壇に視線をやりポツリともらした。

 

 

「まったく、あいつもあいつだ。

 あんな誰の種とも知れない化け物を産んでくたばるんだからな」

 

 

 

 

 隆和たちが案内されたのは、庭の横にある離れの一室だった。

 周りに人が居ないのを確認すると、トモエは隆和に尋ねた。

 

 

「主様。何故、このような面倒な手続きを踏んでまで下手に出るんです?」

 

「余計な面倒を避けるためだよ。

 拝み屋やってた頃をコレットの記憶で思い出してごらんよ。

 ああいう連中は、自分の価値観で立場が下だと判断すると七面倒じゃないか」 

 

「……ああ、いましたねぇ。

 本物だったのを除霊したのに、『そんなモノは居なかった』って報酬ゴネた人。

 地主だか知りませんけど、『詐欺師の拝み屋風情が生意気に』とか」

 

「俺は【ジャイブトーク】で、普通は会話不能な幽霊とでも話せるからな。

 背中に憑いていた女に話を聞いて、質問した時のあの顔は今でも傑作だよ」

 

「あれは可笑しかったですね。

 結局、捕まったんでしたっけ? あの男」

 

「ああ。

 彼女、あいつに殺されていたんで遺体の場所を聞いて匿名の通報でね」

 

 

 話題の男は、痴情のもつれの殺人がバレて懲役刑になり今は塀の中である。

 そう歓談していた隆和たちに、外から女性の声が掛けられた。

 

 

「すみませんが、入ってもよろしいでしょうか?」

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

 

 そう答えると、若い少女と言ってもいい年齢の女性が室内に入って来た。

 一礼した彼女は、隆和たちにこう告げた。

 

 

「初めまして、私はこの家で異界の駆逐を任されています【夜刀神華】と申します。

 案内役も勤めさせて頂きますのでよろしくお願いします」

 

 

 そう告げる彼女の瞳は、蛇のように細長い縦の瞳孔と金色に光っていた。




後書きと設定解説


・異界

名称:華門島(仮)
大きさ:約500m四方の島と周囲を囲む海
    (東京ネズミーランドとほぼ大きさの島)
形状:西側に入江の砂浜と平野部
   東側は切り立った標高の高い山と林
   周囲は入江以外は砂浜は無く林になっている
気候:初夏の瀬戸内海とほぼ同じ想定・天気変化ランダム・昼夜あり
建築物:厳◯神社風の主屋敷と出入り口のお堂
    異界避難時用プレハブ長屋
    ※ガス・水道は無く、電気は小型発電機のみ
    ※煮炊きと明かりは主に薪の竈とランプ使用


次は、後編。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第34話 地方巡業・猿佛村 後編

続きの後編です。
※「猿佛村」は「さるぶつむら」と読みます。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第34話 地方巡業・猿佛村 後編

 

 

 お互いの自己紹介が終わり、さっそく彼女に異界へと案内してもらう事になった。

 

 【夜刀神華】。

 

 伸ばした黒髪をポニーテールでまとめ、身体の起伏は乏しいがよく鍛えられたスタイルが魅力的な美少女だった。学校の運動部のエースをしているような健康的な容姿ではあったが、彼女の雰囲気は逆に常に張り詰め何かに怯えている様子だった。

 年齢を聞くと15歳らしいが、学校には行った事がなく屋敷の自室で本を与えられて自力で文字などを勉強したと語っていた。

 

 その彼女であるが、隆和のアナライズにはレベル7と映っている。村落に当主を含めて高くてもレベルが3~4ほどの人間が数人居るくらいのここでは、頭一つ抜きん出ている強さである。しかし、隆和たちが装備や荷物の確認をし準備をしている間、その彼女は運動に適した少し厚手の服以外は装備らしい物は何一つ持っていなかった。

 ただ、気になるのはその独特の瞳であろうか。もっとも、養子にしている希留耶も偽装を解けば猫の瞳なので隆和たちには綺麗ではあるがさして珍しいものではない。

 その彼女の横を歩きながら、隆和は彼女に話しかけていた。

 

 

「君は何か防具や武器はないのかい?」

 

「父様からは『そんなものは必要ない』とだけ。私は化け物ですから」

 

「目の事かな? 綺麗だとは思うが、それが?」

 

「気を使わないで下さい。村の皆は陰で口々に言っています、『不気味だ』と」

 

「本当のことだぞ。それに、村の外にはたくさんいるぞ。

 特にうちの本山だとカラフルになるし」

 

「え? 瞳がカラフルですか??」

 

「ああ。君みたいな金色の瞳はむしろ大人しい方だな。

 仲間内だと両目が金と銀だったり、瞳が赤で白目が黒になっている人もいたぞ」

 

「村から出た事がないので知りませんでした。外ってすごい」

 

「主様。着いたようです」

 

 

 森の中の獣道を歩きトモエが気付いた先には、寂れた祠とその背後の崖に洞穴が開いていた。

 そのまま、華に導かれるままに中へと入って行く。入ってしばらくすると異界に入った感覚があり、普通の洞窟に見える奥の方からはもう嗅ぎ慣れた死臭が漂ってきていた。

 数体ほどこちらに歩いて来る屍鬼を見て、隆和が華に声を掛けた。

 

 

「それじゃあ、普段はどうやっているのか見せてくれるかな?

 トモエ、1体だけ残して他は排除して」

 

「はい、主様。【疾風斬】」

 

「え、ええと。じゃあ、やります」

 

 

 トモエが一振りで斬り伏せた以外の屍鬼を前にして、驚いていた彼女は戦い始めた。

 相手はレベル4の【屍鬼ゾンビ】であったが、彼女は両手の爪を鈎状にすると危なげなくこれを倒した。

 隆和はトモエに周囲の警戒を任せると、再び華に話しかけた。

 

 

「問題なく倒せるようだね。

 一人でやっているとは聞いていたけど、いつも出てくるのはどういう悪魔かな?」

 

「よく目にするのは、先程の屍鬼や悪霊にガキを多く見ます。

 数が多い時は10体くらい出てくる時もありますが、その時は二回くらいしか使えませんが炎の息で倒すか逃げていました」

 

「他には誰も手伝ってはくれないのかな?」

 

「はい。父様や上の一郎兄様は村の経営に忙しいと。

 下の二郎兄は、……村の若い娘を相手するのに忙しいそうです。

 他の人も、『化け物退治は化け物の仕事だ』と」

 

「ふーむ。じゃあ、俺たちが呼ばれたのはどうしてかな?」

 

「少し前に、とても強くて勝てない相手に嬲られて逃げ出して大怪我を負った時にです。

 数日ほど経って動けるようになった時に、前の方が来られました」

 

「誰かに、治療は?」

 

「昔から怪我の治りが早いと皆が知っていました。

 だから、父様は『化け物は寝ていれば勝手に治るだろう』と」

 

「よし、だいたい分かった。

 じゃあ、今日はこの辺を軽く掃除して帰るか」

 

「え?」

 

 

 隆和の発言に驚く彼女を引き連れ、周囲に出現した屍鬼やガキなどを彼の基準でそれなりに多く掃除すると隆和たちは日もすっかり落ちた村へと帰って行った。

 

 

 

 

 隆和たちの歓迎会を兼ねた夕食の場で「異界の攻略は時間が掛かるので華嬢の訓練も兼ねて行なうのでしばらく滞在する」と隆和が告げて離れへと彼らが去った後、村の宴会場にもなっている広い居間で当主の剛造は、隆和たちの前だからと座敷の端で夕食を食べさせていた華を長男の一郎と呼びつけて尋ね始めた。

 

 

「いつまで食っているんだ! こっちに来い、華!」

 

「は、はい」

 

「本当にお前は役立たずだな。

 化け物の目にその貧相な体じゃ、誰も嫁にしようとはしないだろうしな」

 

「…………」

 

「一郎は黙っていろ。

 それで、あの男の実力はどうなんだ?」

 

「途轍もなく強いと思います。

 私が手こずるような数でも、お付きのトモエさんがすぐに全部片付けていました。

 安倍様の方は、私が殺されかけた毒の息を吐く土瓶に入った蛇の妖怪もほぼ一撃で片付けていました」

 

「次だ。お付きのあの美女は愛人だと思うか?」

 

「分かりません。そういう事は経験がないので」

 

 

 そこまで聞き、剛造は考え込んだ。

 彼の家は戦後の混乱期にアメリカ軍が来て神社が焼かれ、本家の人間が誰もいなくなった後にここを乗っ取った分家であった。

 金は出来た。何しろ村の中の店は一つしかない上に、街に出るまで車で山道を2時間以上は掛かる。そのうえ、村に住む者の口座は全て自分の支配する農協にあるのだから。実際、覚醒はしているが、彼は村議会議長に村の農協の代表と村唯一の雑貨商店の経営で忙しい。

 そして、家の一部の視える家人の進言で異界を華任せにせずに人を雇ったが、ハズレを二度も掴まされた後で来たのがあの礼儀を多少は弁え血筋も確からしい男だった。

 それならば、と剛造は決めた。 

 

 

「よし。あの男をうちに取り込むぞ」

 

「親父、本気か!?

 あの余所者をうちの人間にしようだなんて!」

 

「どっちにしろ、あの厄介な洞穴を何とかするにもこいつだけでは不安になっていた。

 器量はまあ悪くないからな、こいつの他に2、3人女を抱かせて離れをやれば居着くだろう。

 一郎、儂は何人か二郎に女の候補を選ばせるから、店の方はしっかりやれ。

 華、お前は何とかあの男に気に入られろ。

 他のを見繕ったら、合図するからな。いいな!?」

 

「面倒事を押し付けるんならいいぞ、親父」

 

「…………分かりました」

 

 

 子ども達が頷くのを見て剛造は、今まで通りに村の中の事は自分の思う通りに動かせると自尊心を満足させ笑っていた。

 

 

 

 

 一方、離れに着いて『最大1週間ほど滞在する』と彼なりの理由を添付して千早となのはにメールを送った隆和は、不快気なトモエに強く問い正されていた。

 

 

「主様。今回は仕事に手を入れ過ぎじゃないですか?

 異界の主を倒して終わりにするか、適当に間引いて終わりにすればいいのでは?」

 

「一応、【祭神が眠る異界】だから主を倒す訳にはいかないだろう?

 ある程度、間引いたとしてもここにまた俺が呼ばれるのは面倒だ。

 なら、あの娘には悪いけど、自力で対処できるようになって貰うのが一番いいんだよ」

 

「確かに気の毒ですが、私たちにはそれが一番いいのかも知れませんね。

 ところでそのう、主様。閨の方は?」

 

「仕事だから終わるまでお預けな」

 

「……はあ、やっぱりですかぁ」

 

「そういう訳だから、念の為、夜の間の見張りは頼むよ。カーマ」

 

「はいはい。眠っている間は見張っておきますよー。

 後でちゃんとMAGの方は頼みますね?」

 

「この仕事が終わったらな」

 

 

 不承不承頷くカーマに声を掛け、隆和はどう訓練するべきか考えながら眠りについた。

 そして、翌日から異界に潜って戦いながらの彼女への訓練が始まった。

 

 

 

 

「屍鬼やガキみたいな人型の悪魔は、人体の構造や急所が同じ場合が多いんだ。

 だから、関節をこう壊して動きを止めたり、一瞬動きを止めるのに正中線の急所をこう打つんだ。

 そうそう、そんな感じ。攻撃したら、次の行動が取れるように繋げて動くんだ」

 

「そうそう、上手だ。

 炎の息のような範囲攻撃は、出来るだけ多く巻き込める敵の配置や味方への誤射を防ぐために味方の位置も考えて撃つんだ。

 あと、強敵とやる時に顔に炸裂させて怯ませて隙を狙うのもいいぞ」

 

「地形も武器になるからな。

 こう掴んで手近な壁に叩きつけるのも有効な武器になる。

 ああ、地面の砂を掴んで目潰しや投石をぶつけて相手の行動を阻害するのもいいぞ」

 

「あの蛇は【邪龍トウビョウ】と言って、氷結と破魔が弱点だ。

 あと、そこそこ強い電撃と広範囲の毒の息を吐く。

 君よりレベルは上だが、種が割れると倒しやすくなる。

 情報は大事だとよく分かる例だ。解毒と治療は出来るから倒してごらん?」

 

 

 訓練を始めて5日、もともとセンスがよく動体視力もよい華はメキメキと実力を上げていた。

 隆和が教えているのは、今までの戦闘経験や山梨での先達に教わったりして培った戦い方であった。

 弟子を取ったようなものだが、本人としては基本を教えているだけのつもりである。

 サンドバックや教材となる屍鬼やガキに、何故かリポップの早い経験値の塊と化したトウビョウもあり修行は順調に進んでいた。

 そして、今までこういう風に接してくれた人は皆無だった華も、言いつけとは別に隆和に懐いていった。

 

 懐かれれば、休憩などの時に雑談などして自身が話したくない彼女の身の上話も隆和は聞く事が出来た。

 彼女の実母は当主の妻で上の兄達とは同腹だという事だったが、産まれた末の娘の目がこうだったせいで家の中ですら村八分となりそれを苦に崖に身を投げた事。

 幼少期から『売女の娘』『化け物娘』と罵られながら育ち、8歳の頃から覚醒していた体の頑強さを活かして一人で異界の悪魔を倒すことで居場所を確保していた事。

 そんな身の上話に、現地人では間違いなく上澄みの彼女をもったいないと思いながら隆和はこう答えた。

 

 

「俺も親は居なくてな。

 でも、育ての親代わりの人がいてくれていろいろと教わったんだ。

 君もこうして俺に教えてもらったんだ。 

 身の振り方を自分で考えるのも良いかも知れないな」

 

「もし、村を出たとしても私に行く場所なんて……」

 

「この小さな村しか知らないだろうけど、案外、なんとかなるものだよ。

 村の連中の言う事とか関係ないが、君はすごい出来る子だぞ」

 

「はい、先生!」

 

「そういう所ですよ、主様」

 

「そういう所って何だよ」

 

「何でもありません」

 

 

 この数日で隆和にとって初めて出来た弟子のような存在だからだろうか、始めの思惑と違い彼女に情が移り始めて彼女だけなら応援するつもりになっていた。

 最初に会った頃の濁っていた目が、輝いて隆和を見るようになっていたのが彼は楽しくなっていたからだ。

 

 

 

 

 事態が動いたのは、翌日の夕方だった。 

 その日の訓練が終わり、隆和たちと別れた華は一人考え込みながら自分の部屋へと戻っている途中で家人に声を掛けられた。

 

 

(いつ、先生は居なくなってしまうんだろう。そうなったら、やだなぁ)

 

「…………おい、聞こえているのか!? 売女の娘!」

 

「は、はい!」

 

「村長がお呼びだからさっさと行きな」

 

「父様が?」

 

「理由なんか知らん。さっさと行け!

 余所者なんぞに、色目を使うような売女の娘の分際で弁えろ!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

 慌てて剛造のもとに向かった華を待っていたのは、下の兄の二郎と数人の見かけた事のある村の娘だった。

 ニヤニヤしながら日本酒の瓶を渡してきたその男は、怯えた表情の娘たちを親指で指しながら華に告げた。

 

 

「よう、親父に言われて持ってきてやったぜ。

 この強い薬酒を飲ませて酔わしちまうんだ。

 二人とも酔わしたら、合図を出せよ」

 

「……その人達は?」

 

「ああ? 俺のお下がりだ、余所者に宛がうには充分だろ。

 それと、もう一人のすっげぇイカした巫女いたろ?

 あれ、俺のな」

 

「トモエさんは先生の助手で……」

 

「そんな事、関係ねぇよ。

 俺のお下がり分けてやるんだから、一人くらい良いじゃねぇか」

 

「でも……」

 

「あのな、化け物のお前を置いてやっていたのは誰だよ?

 親父が決めた事は俺らの意見でもあるんだよ。

 気に入られたんだろ?

 売女らしく体でも何でも使ってさっさとやれ!」

 

「……は、はい」

 

 

 華が酒を持って離れの方に行くのを見送り、娘たちの方を睨みつけながら二郎は怯えた彼女たちに告げた。

 

 

「いいか、あいつが失敗したら勝手にやった事にしろ。

 口裏を合わせておけよ。いいな!?」

 

 

 

 

 その日の晩、綺麗に身を清めた薄着の華は、渡された酒の瓶を持って離れの部屋へと来ていた。

 訝しげに見る隆和たちに、酒を差し出しながら涙ながらにこう告げてきた。

 

 

「先生、もうすぐ居なくなってしまうんでしょう?

 それなら、私を抱いて下さい。お願いします」

 

「魅力的なお誘いではあるんだけど、ちょっとなぁ」

 

「ふーん。

 誰かに言わされたとしても、抱いてあげればいいじゃないですか?」

 

「カーマ?」

 

 

 今まで見ているだけだったカーマがするりと姿を現すと、驚いている華を見ながらクスクスと笑いながら隆和に話し出した。

 

 

「だって、彼女、今まで奴隷みたいにされてまともな愛情とか受けた事がなかったみたいじゃないですか。

 そこへ来て、マスターですよ?

 優しくしてくれた誰かに依存したい、守ってもらいたい、傅きたい。

 そう思うのは当然でしょう? これも“愛”ですよ」

 

「どうするんです、主様?」

 

「ふうう。うーん、よし。

 トモエ、カーマ、荷物をまとめてここを出るぞ」

 

「あの、先生?」

 

「祭神に話をつけよう。君も行くからね」

 

「え?」

 

 

 せっかく穏便に済ませてここを離れようとした努力を無駄にされ、自重は止めて直接出向く事に隆和は決めた。

 驚いている華を片手で小脇に抱き上げると、隆和は荷物を背負い異界の洞窟へと離れを出て走り出した。

 

 夜の闇の中を移動し、洞窟の異界の中もトモエやカーマだけで出て来る悪魔達を蹴散らし、壊れかけていた封印の扉を蹴破って1時間とかからずに最奥までたどり着いた。

 そこに居たのは、全身が銀色の金属色に覆われた大きな一本角を持った老人の顔を持つ大蛇だった。

 その全長4mほどの宙に浮かぶ不気味なそれは華を見つけると、喜色をあらわにして話かけてきた。

 

 

「おお、おお。

 そこにいるのは我が血を引きし子孫ではないか。

 よもや、封印を破ってくれるとは! 礼を言うぞ」

 

「レベル22【龍王ヤトノカミ】か。

 おい、礼はいい。お前の信者たちの不始末どうしてくれるんだ?」

 

「は? んんん?

 人間にしては並々ならぬ力を持っているお主は何者だ?」

 

「ガイア連合の者だよ。とにかくだな……」

 

 

 隆和とヤトノカミは互いに知っている事を話し、互いに深いため息をついた。

 そして、両手で彼に抱きついている華はともかくとして具体的な交渉をし始めた。 

 

 

「つまり、メシア教に封印されて?

 しばらく経って、封印が弱まったから使いのトウビョウを派遣していたと?」

 

「儂の事は何も知らずに全部忘れられ、我が血の加護を現した娘をそのように扱っていただと?」

 

「この子を嬲って殺そうとしたトウビョウが使者?」

 

「と、とにかく、封印を破ってくださった事には感謝する。

 して、どのような事を望まれる?」

 

「謝礼として、この娘の身柄は貰っていく。こんな場所に置いておけるか!

 後は残った奴で何とかしろ。

 手助けが欲しいなら、ちゃんとした態度で謝礼を用意して依頼しろ。

 俺はもうゴメンだがな」

 

「それは困る!

 その娘は我が血を濃く引いた巫女に相応しいのだ!」

 

「知らんよ。異界の沈静化は果たした。

 呪的契約にある今回の報酬とは別に、この娘は連れて行く。決まりだ」

 

「ぐ。いかに力を持つとはいえ人間如きが……」

 

 

 その言葉に、いつでも斬り掛かれるように準備していたトモエとカーマが反応する。

 華を一旦降ろして後ろにかばうと、隆和も殴りかかれるように構えを取ってヤトノカミに告げた。

 

 

「今、選べ。条件を飲むか?

 それとも、お前を倒して異界攻略終了にするか?」

 

 

 

 

 それから、数日後。

 華門神社で巫女見習いとして元気に働いている夜刀神華の姿があった。 

 

 結局、ヤトノカミは条件を飲み、隆和は手荷物だけの私物を持った華を連れて猿佛村を後にして彼女を華門神社まで連れ帰った。今回の報酬はちゃんと払い込まれたが、隆和と経緯を聞いた千早としては次は他の誰かに任せる気であった。

 こんな依頼を仲介したお詫びにと彼女をここに置く事を了承した千早だったが、彼女を見ていて気付いた事があったので隣に立って彼女を眺めている隆和に聞いた。

 

 

「なあ、隆和はん。あの娘、がっつりと喰わはったやろ?」

 

「ぶっ! ……何故、そう思った?」

 

「昨日の閨で、うちらの行為で出るMAGを嗜好品にしとるカーマはんが偉く満足そうやった。

 長期の仕事で出ていてしばらくぶりだったはずやのにな」

 

「……………」

 

「視線を逸らしてもあかんで。

 あと、何よりも彼女の目が証拠や」

 

「……目が?」

 

「あ、せんせ~い!」

 

 

 ニコニコと隆和へ手を振る華を見る彼に振り向いた千早が告げた。

 

 

「だって、あの娘の目。

 うちと同じで、ドロドロに隆和はんに依存しとる眼なんやもの」




後書きと設定解説


・関係者

名前:夜刀神華
性別:女性
識別:異能者(悪魔人)・15歳
職業:夜刀神家末娘→華門神社巫女見習い
ステータス:レベル12・マジック型
耐性:氷結弱点・破魔無効・呪殺耐性
スキル:ファイアブレス(敵複数・2~4回の小威力の火炎属性攻撃)
    ウィンドブレス(敵複数・2~4回の小威力の衝撃属性攻撃)
    引っかき(敵単体・小威力の物理攻撃)
    龍眼(攻撃の命中率が大きく上昇する)
    龍変化(下半身が蛇の姿になり、水中の移動力が上昇する)
詳細:
 身長154cm、B:74(A)・W:57・ H:79
 地方の名家「夜刀神家」で生まれた異形の眼の娘
 黒髪をポニーテールにした起伏の少ない体型の美少女
 家での才能は一番だが、家での地位は最下辺で下女と同じ扱いだった
 真面目で自罰的な性格で、自分が一人で戦えば良いと教育されていた
 本来、彼女の眼は吉兆とされるはずが、資料の散逸でこうなっていた
 各種の能力はこちらに来て調べた結果、判明し自覚した


【挿絵表示】

夜刀神華のイメージ図

・敵対者

【龍王ヤトノカミ】(ボス)
レベル22 耐性:銃無効・破魔無効・呪殺無効
スキル:マハジオ(敵全体・小威力の電撃属性攻撃)
    スクカジャ(味方単体・命中、回避率を1段階上昇させる)
    パララアイ(敵単体・中確率で麻痺付与)
詳細:
 夜刀神家の守る異界の主で祭神の悪魔
 ここ数十年、封印され外界の事はまるで知らない
 誰にも参拝もされないため、流石に目を覚まし活動を始めていた
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性あり

【邪竜トウビョウ】
レベル14 耐性:氷結弱点・破魔弱点
スキル:ジオンガ(敵単体・中威力の電撃属性攻撃)
    毒ガスブレス(敵全体・中確率で毒付与)
詳細:
 主に四国や山陰地方に伝わる小さな蛇の姿をした蛇神
 人に憑く妖怪で、土製の瓶で飼われその家を守るという
 逆に粗末にされれば災いをもたらすとされている
 使者の役目は真面目にやる気はなかった


次は、来年に。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第35話 安珍清姫伝説・現代版

新年最初の続きです。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第35話 安珍清姫伝説・現代版

 

 

 夜刀神華が華門神社へ来て、1週間ほどが経過した。

 新たに彼女がここへ加わった事で、隆和の周囲もまた大きく変わる事になった。

 

 

「あのね、希留耶ちゃんと同年代の娘に手を出して責任は取るって言ってもね、説得力に欠けるの。

 しかも、境遇からしてそういう子な訳でしょう?

 隆和くんにだけ任せる訳にいかないじゃない。わたしもあそこに移るの」

 

 

 まず、隆和の住居を完全に華門神社に移す事になった。

 それに合わせて同棲しているなのはも、華に手を出した事を正座付きで隆和を説教し話し合った末に貸家だったマンションの部屋は退去して一緒に移る事になった。隆和は異界内の主屋敷に、なのはは屋敷内に千早の隣の一室を得てそこに引っ越した。

 

 次に百々地希留耶であるが、彼女は「やりたい事があるので一人暮らしがしたい」と言い出し隆和やなのはと話し合うことになったのだが、彼女に、

 

『二人ともいい大人だから、そういう関係なのにはもう言わないわ。

 複数人でするのもまあ、そういう物なのだろうからもういいわ。

 それなら、あたしも少しは我儘になってもいいわよね?』

 

 と、言われて反対できず何も言い返せなかった二人は、前に住んでいたホテル『ガイア大阪』の職員用の居室に彼女が移り住むのを見送る事になった。

 

 夜刀神華については、祭神からお叱りを受けたらしい実家からの執拗な帰宅要請は排除している。支部専属の弁護士の交渉と組織としての事情から来る周辺組織からの同調圧力で、もう少しで黙るだろうと千早は見ているようだ。

 本人自身は真面目で言うことを素直に聞く性格のために、周りにも受け入れられ初めての村の外での生活を楽しんでいるようだった。

 ただ、彼が神社にいる間は、まるで大型犬のようにいつも側にいるようになっていた。

 

 そして、引っ越しも終わり落ち着いた隆和に、ウシジマニキからの連絡があり関西支部に出かけて行った。

 

 

 

 

 その日の午前、関西支部の副支部長の執務室にて隆和は、スーツを着込んですっかり管理職が板についたウシジマニキと資料を手に依頼について話し込んでいた。

 

 

「それで、この資料の女性があの『悪太郎』事件で助けた女性の素性だと?」

 

「ああ、名前は【赤間杏里(せきまあんり)】。現在、18歳で無職。

 昨年、母親の不倫で両親が離婚し、親権は母性優先の原理により母親が取得。

 その後に、就職や進学に失敗した彼女を母親が自分の再婚に不利になるからと放逐。

 前に入院した際の引き取りも、母親は拒否し父親は離婚調停の面会交流権の関係で知らされなかった為に誰も迎えに来なかった。

 ちなみに、この件の母親側の弁護士はあの【幸原みずき】だ」

 

「その弁護士って、前にここを辞めた?」

 

「ああ。今じゃ、『女性の権利を勝ち取る活動』に邁進する弁護士様だとよ。

 あと、『ガイアグループに不当に扱われた人々を救済する活動』とやらもしているぞ。

 まあ、いい。今、重要なのは赤間杏里の方だ」

 

「そうだな。

 それで助けた時にもう一人の女性と違って、生き残っていたのはやはり覚醒していたからか?」

 

「いつかまでは判らないが、家を追い出されたすぐ後には覚醒していたのだろう。

 生計を所謂、援助交際や美人局で立てていたらしくてな。

 ある時期から【マリンカリン】が使えるようになっていたらしい。

 あの旅行も、大金を手に入れて援交仲間の友人との旅行中だったようだ」

 

「それで彼女は【ペルソナ能力者】なのか?」

 

「そうだ。ペルソナ能力者は貴重でな。

 彼女の身の回りの問題解決を条件にスカウトして、スライムニキの所に送るつもりだった。

 その交渉中に彼女は出会っちまったんだ、『運命の人』とやらに」

 

 

 隆和が呼ばれた経緯はこうである。

 

 貴重な現地人のペルソナ能力者を見つけたウシジマニキは、病院で検査入院という形で拘束していた彼女と交渉中であった。そこで彼女は、同じように怪我をして能力者向けの病院であるここへ入院していた【愛清安彦(あいきよやすひこ)】という京都の親戚に会いに来た根願寺の僧侶と出会ってしまった。

 彼の姿を見た彼女は、ペルソナの導きもあり彼を『運命の人』だと思い込んだ。

 そして一昨日の晩、彼女は愛しの『安珍様』を夜這いすると彼を攫って病院を抜け出したのだそうだ。

 

 

「あ、安珍と清姫?」

 

「そうだ。彼女のペルソナは【鬼女キヨヒメ】だ。

 僧侶のほうがよほど似ていたんじゃないか?

 とにかく、お前さんには彼女らを助け出してもらいたい」

 

「連れ戻すじゃなくて、助け出す?」

 

「『男を担いだ若い女が笑いながら駆けて行った』って証言があって、警察の聞き込みから居場所の情報が来ているんだよ。

 ただ場所がな、病院の窓から見えていた廃ホテルなんだがそこは今、色々と不味いんだ。

 だから、今動かせる一番強いお前さんに頼みたい」

 

「わかったよ。

 その場所の詳しい情報と依頼の契約書を出してくれ」

 

「すまん。お嬢を通す暇もなくてな、恩に着る。

 拐われた男の方も、根願寺の若手のエースらしく救助したいんだ」

 

 

 そう言って手を合わせて頭を下げるウシジマニキに、隆和は笑いかけトモエに装備の用意をするように頼んで出発の準備を始めた。

 

 

 

 

 その日の昼過ぎ、隆和はトモエを伴い目的の廃ホテルへと到着していた。

 

 その廃棄された薄いピンク色の城のようなデザインのビルである元カップル用のホテルは、老朽化と経営会社の営業不振で閉鎖されたもので岩清水八幡宮の北西の住宅街の国道沿いに建っていた。そこは廃墟としても有名で女性の霊が出るなどの噂があり、肝試しなどの若い連中が入り込む事が多かった。

 しかし今は、多数の行方不明者が出た事で周囲も閉鎖されて出入りも禁止される状態となっていた。

 それもそのはず、女性の幽霊や死者が出たという噂が本物を呼び込み、ホテルの内部は幽鬼の多数潜む異界へと変貌していたからであった。

 

 周囲を見回り入口を見つけた隆和は、旨味が少ないと支部の依頼でも半ば敬遠されていた異界内へと足を踏み入れた。

 

 

「スキルを使うまでもありませんね。よっと」

 

「ギィギィ、……グギャッ」

 

「幽鬼とは言っても、ガキばっかりだな。

 強さも、3~8レベル程でバラツキかあるな」

 

「主様、そんなに行方不明者が出ているんですか?」

 

「二桁出ているんだ。何かあると思った方がいい」

 

「「「ギィギィギィギィ」」」

 

「数だけは多いな。

 やっぱり、ここで大量に死者が出たのか? トモエ」

 

「はい、【マハンマ】」

 

「「「ギィィーーッ!」」」

 

 

 隆和は、その場に大量に湧いていたガキをトモエの破魔魔法とマハンマストーンで一気に処理した。

 

 ホテルの廊下を模した異界の内部は薄いモヤが立ち込めており、扉が並んでいるのに部屋には入れず階段で複数回上や下に行くなど複雑に入り組んでいた。

 隆和自身、自分のマッパーの魔法が無ければ迷っていたかもしれない。

 確かに、こうまで入り組んでいて見通しも悪く落とすマッカも少ない幽鬼しか出ないとなれば、他のガイア連合のメンバーには敬遠されるだろう。 

 入り組んだ迷路状の異界内を通り抜け、たびたび出るガキや更に強い【幽鬼グール】など倒しながら探索を続けた隆和たちは、約二時間ぐらいだろうかようやくマップを歩き詰めて最後のエリアへと到着していた。もうここ以外には行っていない場所はないが、異界へ入り込んだとされる二人の姿は何処にもなかった。。

 そして、そこだけは唯一開いているドアを開け隆和たちは室内へと入った。

 

 その室内の中は濃い霧のようなものが立ち込め、周囲の視界を奪っていた。

 しばらく歩いた隆和は、ふと誰かに呼ばれた気がして振り返った。

 

 

『こっち』

 

「誰だ? ……ん、トモエが居ない? 幻惑? 何だ?」

 

『こっちだよ』

 

「何処だ?」

 

「マスター、これ」

 

 

 キョロキョロと辺りを見回す隆和に、封魔管から出て来たカーマが声を掛けた。

 彼女が指差す床には、よく見ると渦巻きのような模様が描かれている。

 カーマは辺りを見回すと、隆和に告げた。

 

 

「多分これ、私には効かないけど【回転床】の罠ですよ。

 この霧も視界を制限して惑わすようになっているんじゃないですか?」

 

「なるほど、これで分断するのか。

 マッパーもただ広いだけの部屋だから役に立たないな」

 

『こっちに来て』

 

「こっちに来て、だって。どうするんです、マスター?」

 

「行ってみようか。

 俺だと、【罠はハマって踏み潰す】位しか解除法はないし」

 

「どこの方法なんです、それ?」

 

「まあ、いいから。床の罠の方はよろしく」

 

 

 ブツブツと文句を言うカーマと共に前だと思う方向に進むと、隆和たちの前に人影が見えて来た。

 近づく隆和の前に現れたのは、『コレット』だった。

 その『コレット』は隆和を見つけると、微笑んで両手を差し出し話しかけて来た。

 

 

『久しぶり。さあ、こっちに来て?』

 

「ああ、久しぶりにその姿を見たなぁ。……死ねぇ!」

 

「へ? ……ぼぐぅ!」

 

「うわぁ、いきなり殴りますか? マスター」

 

 

 『コレット』の姿を見た途端、隆和は走り出し彼女の不意をつく形で殴り飛ばした。

 数メートル飛ばされ、床に転がった『コレット』の姿をしたそれは驚いた顔で隆和の方を見て叫んだ。 

 

 

「な、何で私の魅了が効かないの!?

 今までの奴らなら、これでみんな殺せて喰えたのにっ!」

 

「魅了は効かないんだよ、俺にはな。

 なるほど、こういう手口で嵌めて相手を喰っていたのか。【幽鬼マンイーター】」

 

「この姿だって、お前が失った親しい女のものだろう!?

 どうして殴れるの!?」

 

「どうしてって、彼女は死んだわけじゃないしなぁ。

 それより、男を担いだ若い女がこの異界に入り込まなかったか?」

 

 

 隆和のアナライズにはレベル19【幽鬼マンイーター】と映っている『コレット』は、拳を鳴らしながら近付いてくる隆和に後退りしている。

 確かに相手がよく知る失ったと考えている女性の姿に化けて、両手を差し出す動作で発揮する【セクシーダンス】の後に襲うやり方は彼女より低いレベルの相手には脅威であっただろう。

 しかもこの大広間は、複数人いても単独にして惑わせ視界も遮る仕掛けの施されたそれを行ない易いボス部屋だった。

 だが、魅了も効かず滅多に居ない自分より強い相手が乗り込んで来たのは不運と言う他はない。

 近付いてくる隆和たちに恐怖したマンイーターは、ヤケグソ気味にその問いに答えた。

 

 

「知らない!

 あんな男を担いて笑いながら炎を撒き散らすような女は知らない!

 喰う気にもなれないようなあんな奴は知らない!」

 

「うん、嘘じゃないみたいだな。

 それじゃ、さっさと片付けるか」

 

「まだ、アタシは喰うんだっ!

 殺されてたまるかっ、【麻痺引っかき】!」

 

 

 そう言うとマンイーターは、鋭く尖った爪を振りかざし飛びかかって来た。

 避け損なった隆和に傷をつけ、ニヤリと笑うマンイーター。

 

 

「これで動けなく……何でならないの!?」

 

「『俺たち』なら対策を取るんだよなぁ。【地獄突き】」

 

「普通の人はそこまで手が回らないと思います。【魅了突き】」

 

「ごぼはっ! ああ、死にたくない!

 もっと喰いた……あ、あれ、何こ、アヘェ♡」

 

「うわぁ、相変わらずえげつないですねそのスキル」

 

 

 大きなダメージを受けたマンイーターは身を翻して霧の中に潜もうと考えたが、それより早く自分が状態異常で行動不能にされてしまった。

 

 隆和の持つスキル【黄金の指】は、通常攻撃や物理系スキル使用時に発動し、中確率で魅了と混乱と至福の状態異常を付着させるスキルである。

 本来はこのように敵対した相手に使用するスキルなのだが、閨でのプレイにどんどん活用している隆和には言っても無駄だろう。そういうプレイに使うようにマーラが調整した節もあるのだから。

 ともあれ、ボスとしての状態異常耐性をくぐり抜けられてフラフラとしながらも立ち上がったマンイーターに、向こうの霧の中から赤いミニスカートを翻しながら改造巫女服のトモエがものすごい勢いで彼女に走り寄って来た。

 

 

「誰に断ってその姿をしているんですかぁ!

 死になさい、【黒点撃】!」

 

「あ、アヘ? ……アハ♡」

 

「「あっ」」

 

 

 走り寄ったトモエの振るう『名刀ムラサマ』の赤い刀身によって、マンイーターの首が刎ねられてしまった。

 最近、スキルの入れ替えで【ミナゴロシの愉悦】を手に入れたのも関係しているのか、美しいとも取れるその剣閃で首を刎ねられた『コレット』はそのままマグネタイトの粒子へと変わり消えてしまった。

 そして、隆和に気付いたトモエは彼の方に走り寄り無事を確認していた。

 

 

「ご無事でしたか、主様!

 しかし、『コレット』の姿を真似る悪魔など何だったのでしょうか?」

 

「ああ、見ての通りだ。

 あのマンイーターはそういう能力を持っていたんだろう」

 

「あれー、でもあの姿って、マスターが失って悲しい親しかった女性の姿ですよねー?

 何であの姿だったんでしょうねー?」

 

「え?」

 

 

 ニヤニヤと隆和にとっては余計なことを言ったカーマと意味に気が付いて赤面したトモエに、何と言おうかと隆和が逡巡している間に周囲の霧が晴れていきボスを倒した事により異界が消えてしまった。そして、周囲は廃墟となったラブホテルの一室へと変わり、彼らの前に探していた二人が現れた。 

 

 

「安珍様♡安珍様♡ お慕いしております♡ 清は、清はまた、アアアアーッ♡」

 

「もう、もう無理だから、誰かたすk……んほぉおおおっ!!」

 

「「「うわぁ」」」

 

 

 そこには、ボロボロのかろうじて原型を留めている大型ベットの上で、裸に剥かれた若い男性の僧侶を組み敷いてその上で腰を振る女性の姿があった。彼女の背後には、緑の髪と黒い着物を着た角の生えた少女の幻が満足そうに浮かんでいる。

 その光景を見てトモエやカーマと共にドン引きしていた隆和だったが、二人が資料の写真にあった二人だと気が付き、取り敢えず捕獲用に用意しておいたデビルスリープを彼らに投げつけた。

 

 

 

 

 さて、今回のその後を語ろう。 

 

『あたし、この人と結婚します!』

 

 救助後、病院で目を覚まし最初にそう宣った元気な赤間杏里嬢は、既に悟りを開いたかのような表情の愛清安彦氏の左腕にしがみついて離そうとはしなかった。しかも、後ろでペルソナらしき幻も威嚇していた。

 

 結局、愛清氏の承諾も有り彼女の家族周りの縁切りなどの法的手続きが終わると、彼女は乾いた笑みを浮かべた彼と共に帝都へと旅立って行った。貴重なペルソナ能力者である事には違いないため、帝都の方で彼女はその能力を生かした仕事には付くらしい。

 何でも「夫婦共働きは当たり前だよね?」とは彼女の言である。

 

 そして、事件を解決した日の夜。

 今回の「安珍と清姫」の顛末を聞いたなのはと千早は、龍に変化する女性の本質を改めて認識した。

 また、夜刀神華の人前には出し難い体質と常識の欠如、それに隆和の側を離れようとはしない性格を考慮されて、4人で彼女に色々と教えて導いて行くと隆和に宣言した。

  

 そして、異界の主屋敷の広間にて星明かりと行灯の明かりの中、和も含めた3人はもう一つ宣言した。

 

『それはそれとして、外で余計な事をしないようにしておかないといけないの。

 だから、罰としてあのスキル無しで3人と今晩一人最低でも三回なの。

 あと、華ちゃんとの時に手伝った共犯のトモエは今回はお預けなの』

 

 無事に夜を何とか乗り切った隆和だったが、翌朝に抜け駆けしようとした千早のお陰ですぐに皆が起きてまた始まり、華とトモエが乱入したことでカーマの回復魔法にお世話になったのだった。

 

 なお、一部始終を見ていたカーマはその日、昼近くまで広間の隅で腹筋が崩壊し痙攣していたそうな。




後書きと設定解説


・仲魔

名前:トモエ
性別:女性
識別:シキガミ・18歳相当
職業:主人公のシキガミ
ステータス:Lv27→28・アタック型
耐性:物理耐性・衝撃耐性・破魔耐性
スキル:マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
    タルカジャ(味方全体・攻撃力を1段階上昇させる)
    黒点撃(敵単体・大威力の物理攻撃)       
    疾風斬(敵全体・中威力の物理攻撃)
    物理ハイブースタ(物理攻撃のダメージが25%増加)
    攻撃の心得(戦闘開始時に自身のみタルカジャが発動する)
    愛の猛反撃(主人への全ての物理攻撃を確率で反撃。
          愛情の深さで確率と威力が変化する)
    ミナゴロシの愉悦(クリティカル率が大きく上昇する)new!
    シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):家事・会話・食事・房中術
装備:名刀ムラサマ(ゲーム風のSF日本刀。【準物理貫通】付与) 
   衛士強化装備・レプカ(呪殺無効。マブラヴ強化服完全再現。コート付き)
   改造ミニスカ巫女服(破魔無効。ガイア連合謹製改造巫女服霊装)new!
   黒色のチョーカー(呪殺無効の霊装)new!
詳細:
 身長165cm、B:90(F)・W:58・H:86
 隆和の無二の忠犬を自認する黒髪ロング巨乳巫女型専用シキガミ
 コレットと融合した事で大幅に強化され、主への執着心も大いに強化された
 コレットの経験と房中術のスキルのせいで隆和に対してだけ夜の技術も完備
 敵対者には見敵必殺(サーチ&デストロイ)で真っ二つ


【挿絵表示】

トモエのイメージ図

・関係者

名前:ウシジマニキ(丑嶋肇)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・36歳
職業:金融業「ウシジマファイナンス」社長
ステータス;レベル13・フィジカル型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    マカジャマ(敵単体・中確率で魔封付与)
    パララアイ(敵単体・中確率で麻痺付与)
    潜伏(自身・敵から狙われにくくなる)
    交渉術・執り成し
詳細:
 元々は、霊能組織相手の闇金系派遣仲介業(人身売買含む)業者
 現在、ガイアグループ所属の金融業社長と関西支部の副支部長を兼務
 店舗は上記のために大阪市梅田のジュネス内に移動した
 シキガミは、動物型の兎「うーたん」で回復やトラフーリなどのスキル持ち

名前:愛清安彦(あいきよやすひこ)
性別:男性
識別:異能者・28歳
職業:根願寺所属の僧侶
ステータス:レベル3
耐性:破魔無効
スキル:霊視(弱)
    九字印(ハマ)
    結界術
詳細:
 根願寺所属の美形の若手僧侶で今回の被害者
 京都の親戚に会いに来て霊障にも出会い負傷し入院していた
 清姫伝説の「安珍」によく似ているが本人ではない

・敵対者

名前:赤間杏里(せきまあんり)
性別:女性
識別:異能者(ペルソナ)・18歳
職業:ダークサマナー
ステータス:レベル8・マジック型
耐性:破魔無効
スキル:ペルソナ(鬼女キヨヒメ)
詳細:
 所謂、援交や美人局で能力を生かしていた犯罪者の少女
 ボブカットのおとなし目な印象の美貌をしている
 母親の再婚のため、邪魔に思われ家を追い出された
 援交中に事件に巻き込まれ、ペルソナに覚醒した

ペルソナ:【鬼女キヨヒメ】
耐性:火炎無効・氷結弱点・電撃反射
スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
    アギラオ(敵単体・中威力の火炎属性攻撃)
    シバブー(敵単体・中確率で麻痺付与)
    マハザン(敵全体・小威力の衝撃属性攻撃)
詳細:
 有名な「安珍清姫」伝説の清姫
 安珍の生まれ変わりを探して徘徊する習性あり

【幽鬼マンイーター】(ボス)
レベル19 耐性:火炎弱点・氷結無効・破魔無効・呪殺無効
スキル:麻痺引っかき(敵単体・小威力の物理攻撃。低確率で麻痺付与)
    デスタッチ(敵単体・小威力の万能属性のHP吸収)
    セクシーダンス(敵全体・中確率で魅了付与)
    変化(自身・対象が失った一番親しい女性の姿のみ可能)
詳細:
 自殺者の幽霊が出ると噂が立った廃屋で生まれた悪魔
 多くの人を喰らいガキからここまで進化しドッペルゲンガーまでもう少しだった
 犠牲者のよく知る人物に化けて反応を愉しみつつ相手を食らうのが趣味
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性あり

【幽鬼グール】
レベル10 耐性:火炎弱点・氷結耐性・破魔弱点・呪殺無効
スキル:毒引っかき(敵単体・小威力の物理攻撃。低確率で毒付与)
    麻痺噛みつき(敵単体・小威力の物理攻撃。低確率で麻痺付与)
詳細:
 人を喰うために湧いた

【幽鬼ガキ】
レベル5~8 耐性:火炎弱点・破魔弱点・呪殺無効
スキル:引っかき(敵単体・小威力の物理攻撃)
    噛みつき(敵単体・小威力の物理攻撃)
詳細:
 人を喰うために湧いた


次は、新しい事件。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第36話 地方巡業・実麻集落 前編

続きです。
今回は事件の前後編の前編です。


 

 

  第36話 地方巡業・実麻集落 前編

 

 

 昔々、ある田舎に寂れた寺のある集落がありました。

 

 その集落は戦争に若い人を取られ、老人と子どもしか残っていませんでした。

 その集落には、昔から入ってはいけないと言われる山がありました。

 そこには古くから恐ろしい怪異が住んでいると伝えられていました。

 そこに住む怪異は集落の守り神でもあり、外から見つからないように守っていました。

 しかし、その怪異は強欲で、黄金や美食に果ては人を集落から奪っていきました。

 

 集落の人々はその強欲さに苦しんでいました。

 その守り神がもたらした古くから在るとある物により集落は裕福になり、

 そのとある物を求めて若い人達が移住して来てくれていてもです。

 いつ自分達に害を与えるのか分からず不安でならないからです。

 しかし、そのとある物により外から正規の人員を呼べませんでした。

 

 ところが、集落からそのとある物を買い取っている商人は考えました。

 

『報酬は払うので、人知れず山の化け物を退治してくれる人はいないか?』

 

 

 

 

「ナイスボートニキが行方不明になった?」

 

 

 あの何とも言い難い『清姫騒動』からしばらく時間が経ち、夏も終わりとなったある日。

 カプセルホテル『ガイア大阪』にいたなのはからそう連絡が入り、山梨の異界奥での修行を早々に切り上げた隆和はトラポート持ちの腐百合ネキを急遽雇って大阪に大急ぎで帰って来ていた。

 急いで戻った隆和が聞いた第一声が、【ナイスボートニキ】こと『伊東誠』の行方不明の報だった。

 

 

「そうなの。

 最近の彼、頑張ってレベル上げも順調でシキガミも手に入れていたの。

 それで、彼のスキル的に正面からの異界攻略より異界の偵察が得意だからそれをしていたの。

 でも、定期の連絡も無くなって」

 

「それで俺は何をしたらいい?」

 

「すぐに現地へ向かって欲しいの。

 関西支部の占術の人からまだ生存しているから急げって。

 服部さんにはこれから伝えて、正式な依頼として貰うからお願いなの。

 わたしは希留耶ちゃんを飛び出さないように抑えておくから」

 

「何故、希留耶が?」

 

「彼女、ここの地下に引きこもりがちな彼の面倒を見る内に気になり出したらしいの。

 こっちに残ると言い出したのもそれが理由だったらしいの」

 

「分かった。

 すぐに向かうとするよ。それで、その場所は?」

 

「奈良県の山間部にある集落の【実麻村(みあさむら)】なの」

 

 

 隆和は彼が受けていた依頼や現地の情報が書かれた書類を受け取ると、一度華門神社に戻り準備をすると紀伊半島にあるその実麻村へと出発した。

 

 【実麻村】。

 

 資料によると、もともとは密教系の寺があるだけの小さい集落だったようで衣類や寝具に使う麻類を細々と作っていたようだった。その寺も密教系とは言うものの、周囲に在る吉野や高野山に熊野三山といった有名所にも加わっていないモグリだったためか、さらに10人前後しかいない小さすぎる規模だった為かメシア教の焼却からも逃れられた場所だった。

 彼が受けた依頼も、近年限界集落になりかかっていたその村に若者が出入りしていると警察から情報があり、連絡のない現地にあったその霊能組織としての寺の様子を確かめるのと合わせて調査の依頼があったのだ。

 そして、3日前に彼の携帯電話から「何かおかしい。長引きそうだ」との連絡を最後に途絶えたと言う事らしい。

 

 狭い車がようやく通り抜けられるだけの山道を抜け、最近乗り慣れてきた軽自動車に乗った隆和は数時間掛けてそこに到着した。

 

 その集落は戸数20ほどの小ささで棚状の畑では白菜やキャベツが並び、老人たちとポツポツといる若者が一緒に畑の世話をしている奇妙な光景がある山間の集落だった。老人たちは着物や作業着などの古めの衣服に対して、若者は一昔前のヒッピーとでも言おうかどこか緩い感じのTシャツにジーンズに何処か線の細い連中が一緒にいた。

 ただ、双方ともにこちらに対する視線は余所者を嫌うコミュニティのそれだった。

 

 隆和はこの集落で一番大きい建物である寺へと車を進め、唯一そこにある駐車場らしき広場に停車した。そこにはナイスボートニキが乗って来たと思われる軽自動車が停まっていた。トモエと共に車を降りそれを確かめていると、彼らに近付いてくる人影があった。

 手に手に鍬や鎌を持った数人の連中を従えたリーダーらしい若者の男が現れ、いつもの青ツナギ姿の隆和と緋袴の巫女服を着たトモエをジロジロと眺めると訝しげに尋ねてきた。

 

 

「おう、あんたら。その車に何の用だ?

 事と次第によってはただじゃ置かないぞ、余所者」

 

「俺の前に来た若い男は知らないか?

 友人を探しに来たんだ。この車に乗っていたはずなんだが」

 

「ああ、なんだ。お前もフリーのデビルバスターか。

 そいつなら、俺が出した依頼を受けて山で消えたぜ」 

 

「あんたの?」

 

「ああ。俺は【藤川】だ。

 ここの若い連中のリーダーをしている。

 前の奴よりは強そうだ。どうだ、探すついでに仕事も受けちゃくれないか?」

 

 

 どうも何か勘違いしているらしいニヤニヤと笑うそいつに、隆和もニヤリと笑いアナライズには周囲の未覚醒者の連中を従える『レベル7異能者』と映る彼への問いに答えた。

 

 

「仕事か。

 詳しい話を聞かせてくれるなら受けてもいいぞ」

 

「じゃあ、こっちに来てくれ」

 

「いや。俺はこのままあいつを探すから、ここで聞かせてくれ」

 

「な! 藤川さんの言うことが聞けないのかよ!?」

 

「……よせ。いいぜ、聞かせてやるよ。

 あの男は、俺が仕事を頼んだ他のやつと一緒に山の化け物退治をしに行って消えたのさ。 

 もう一人は結構な美人だったしな。いい格好を見せたかったんじゃないか?」

 

「なるほど。

 話を聞かせてくれてありがとう。

 じゃあ、俺たちはまず寺に行ってみるか」

 

「……おう、そうか。

 じゃあ、俺らはもう行くわ。おら、行くぞ」

 

 

 取り巻きのチンピラを黙らせたその男は隆和が寺に向かうと言った途端、黙り込むとそそくさと踵を返して村の方へと引き上げて行った。

 疑問に思う態度ではあったが、それより救助と捜索が先であると考えた隆和はこの集落でまず一番目立つ建物である寺へと向かった。

 

 その一方、隆和たちに背を向けて自分たちのねぐらの家に向かう【藤川洋一】は、嫌な予感がしてならなかった。

 周囲のやつには分からないが、何よりさっきから背中にしがみつきガタガタと震えている自分が契約している【夜魔インプ】の態度がそれを物語っている。

 さっきからインプが彼にこう告げているからだ。

 

 

「お、おい、洋一。早く逃げようぜ。

 寺にいるやつも今の連中もたやすくオレなんか簡単に踏み潰せる相手だぜ。

 あんな奴らがぶつかるかもしれないこんな場所にはもういたくねぇ」

 

「ああ、そうだな。

 アレの買い付けも、当分無理だな。

 しばらくここを離れて様子を見よう」

 

「あ? 何です、藤川さん?」

 

 

 独り言のような会話を聞かれ取り巻きに問われて決心がついた藤川は、周囲の連中に叫びながら走り出した。

 

 

「命の惜しいやつは、今すぐにまとめてある荷物を持って逃げろ!

 俺は惜しいからすぐに逃げるぞ!」

 

「あ、待って下さい!」

 

 

 そして、藤川は荷物を取るために自分が寝起きしていた家に駆け込んだ。

 

 

 

 

 隆和が境内に入るとそこには、かろうじて崩れていないとしか言いようのない廃墟寸前の寺があった。そして入口に近づくと、中から引き戸が開けられ中から機嫌良さそうな男の声が聞こえてきた。

 

 

「そこで呆けて立っとらんで中に入らんか?」

 

「誰だ?」

 

「ここを預かる坊主じゃよ。そこでは話も出来んぞ。入れ入れ」

 

 

 その声に隆和が中を覗き込むと、仏像のある本堂となっており仏像の前には中年の達磨のような容姿の袈裟を着た男性が立っていた。彼はニコニコと隆和に対して手招きをしているが、隆和の目には彼が人ではないと映っていた。

 おもむろに隆和はグローブを着け、彼の合図で刀を抜いたトモエと共に中へと踏み込んだ。

 

 

「初対面の相手にそのような無作法とは、外の者とは乱暴ですなぁ。お客人」

 

「お前、人間じゃないだろう?」

 

「何を申されるのかな? 不審に思うなら近くによって見ると良い」

 

「『見鬼』が使えるんだよ、俺は。

 屍鬼でもない、化けているでもない、その皮の下は何だ?」

 

「……くっ、くははははっ!

 今どきの外の術者は見鬼の術を使える者が多いな!」

 

 

 その男は笑いながらそう言うと、人の姿を内側から被っていた皮を破りながら姿を現した。

 体長は3m以上に達する大きさの鬼のような顔をした大きな蜘蛛の姿へと変貌し、隆和たちへと襲いかかって来た。

 隆和はかなり俊敏な動きで噛みつくために跳びかかって来たそいつを、左右へとトモエと散開して躱した。

 扉を突き破りこちらへと向きを変える大蜘蛛の顔の牙から滴る紫の液体が、地面に落ちた時にジュウッという異音を立てて煙を出した。

 

 

「なかなかすばしっこいじゃないか。大人しくその肉を喰わせろ」

 

「レベル21【妖虫ツチグモ】! 氷結弱点、電撃耐性だ!

 トモエ、毒の牙に気をつけろ!」

 

「はいっ、主様! 【黒点撃】!」

 

「ぐへっ、何だこの強さはよぉ! 【猛反撃】!」

 

「くっ」

 

 

 隆和の声にトモエが名刀ムラサマで脚を切り落とす痛撃を与えたが、逆にスキルによる他の脚の反撃を食らってしまった。

 トモエのその横から走り込んだ隆和も、ツチグモの顎に拳を叩き込んだ。

 

 

「よっと、【地獄突き】!

 さあて、お前【魅了弱点】らしいがこいつが効くかな? 【黄金の指】」

 

「がべっ、……ぐげ? あげげげ? あべ? おほーっ♥」

 

「主様。効いたようですが、醜いです」

 

「自分でやってなんだが、アヘ顔のツチグモは絵面が酷いな。

 それじゃ、いろいろと答えもらおうか」

 

「おほーっ♥」

 

 

 隆和の拳で身体が浮き上がるほどの一撃を受けてのけぞったツチグモは、程なくして隆和のスキル【黄金の指】による状態異常に掛かると白目になり舌を出しながらとても気持ち悪い表情へと変わった。その表情は殊更無視するように、隆和は時々追加の状態異常を加えながらツチグモにここの事を聞き始めた。

 

 ツチグモによると、ここの集落は昔からこいつが巣を張っていた隠れ谷であった。

 ここに住む人間は外界からの脅威から守る代わりに従えていたが、数十年前に1体の深手を負った絡新婦が逃げ込んできてから状況が変わったようだ。その弱点に漏れず、こいつがその美女の姿の絡新婦にまんまと篭絡されたからだ。

 そいつはこの集落の長だった僧侶が修行の薬としていた麻の葉が『大麻草』であると見抜くと、薬の作り方を僧侶から聞き出し中身を食うとツチグモに人への化け方を教え皮を与えたのだそうだ。

 そして、村の者を操って外の裏社会の人間と繋がりを持つと、大麻薬を売り出してさらに多くの人間を餌にするべく集め出したらしい。

 

 

「俺たちの前に来た若い男は知らないか?」

 

「そ、そいつは、使い魔らしい絡繰りの見鬼の術で俺の正体を見抜くと逃げ出したぞ、おほっ♥

 どこに逃げたのかなんて、し、知らねぇ。

 い、一緒にいた女の拝み屋は、つ、捕まえているがな、おほっ♥」

 

「それじゃあ、その絡新婦はどこにいる?」

 

「集落の奥のワシの異界にいるぞ。

 て、亭主のワシの代わりに異界の主になっているんだ、おほっ♥」

 

「さて、聞ける事は大体聞けたな。

 生きているのは分かったが、伊藤くんもどこに逃げたのか。

 こいつ、氷結が弱点だしちょうどいいな。出て来てくれ、アプサラス」

 

 

 封魔管での召喚は隆和では一度に一人までなのでカーマに呼びかけようとしたが、ツチグモのために召喚しないでと中で騒いでいる。仕方なく隆和は最近手に入れた2本目の封魔管に呼びかけ、神社の異界に居るはずのアプサラスを呼び出した。

 封魔管の方は、ガイア連合製で技術班の一人が作ったはいいが使える人がいなくて売れ残っていたのを安く手に入れたものだが、アプサラスがここにいるのは強くなるために隆和の山梨の異界修行に志願していたからだ。

 理由も単純で、同じ異界の水質担当の妖精ルサルカに煽られたからだった。

 

『あっれー、ここで一番レベルが低いのは貴女なんだ。ふーん。

 ここに来た理由も、他の異界で働ける場所を求めて?

 あたしなんて、彼にお前が欲しいって言われて来たんだから。

 それに、貴女より8もレベルが上だしね。

 まあ? あたしに任せてくれたら彼の信用もこっちに来るだろうし、ネ?』

 

 こう煽られた彼女は悔しさから隆和に同行を願い出て、そのままこちらにも付いて来ていたのだ。

 出て来た彼女は目の前のアヘ顔ツチグモから視線を外し、困惑気味に隆和に尋ねた。

 

 

「はい、来ました。それで何をすれば良いんでしょう?」

 

「すまないけど、それに直接触るのはもう嫌なんで魔法で止めを刺してくれ。

 氷結弱点だから早めに済むだろうし」

 

「ええぇ」

 

「すみません、アプサラス。

 なんか刀が穢れる気がするのでお願いします」

 

「はあ、もういいですよ。

 そいつが変なことしないようにだけしておいて下さいよ?

 え~い、【ブフ】【ブフ】【ブフ】!」

 

「おほほーっ♥」

 

 

 アプサラスの放つ冷気の魔法も快感に感じるのか、気持ち悪い表情のままツチグモはマグネタイトとなり消えてしまった。

 アプサラスがぽつりと漏らした。 

 

 

「こんな奴のマグネタイトで強くなるのは嫌なんですけど」

 

 

 

 

 その後、寺の中を捜索し隆和たちは一人の女性を救助した。

 その女性は本堂の奥にあった地下の座敷牢で両手を拘束され、服を破かれて半裸のままあのツチグモに犯されていた状態で発見された。

 アプサラスとトモエに彼女の介護と着替えを任せている間、隆和は何か手がかりはないか他の場所を探っていた。しかし、他の座敷牢に着ていたものから男女だと思える数体の白骨死体以外は発見できなかった。

 隆和が戻る頃には彼女もボロ布を巻きつけるような格好ではあるが、意識もしっかりし立ち上がれるようになっていた。

 彼女は隆和が戻ってくると、頭を下げて礼を言ってきた。

 

 

「助けて頂きありがとうございます。

 私は【久喜本加奈】と言います。こう見えてデビルバスターなんです。

 実家の伝手で回して貰った依頼でここの異界の調査に来たんですけど、こんな様で」

 

「俺は安倍隆和。彼女は助手のトモエ。それと契約しているアプサラスだ。

 君と一緒にいた若い男はどこに行ったのか知らないか?」

 

「彼なら一緒にいたロボットみたいな式神が、あの住職の正体を暴いて襲われた時に別れ別れになりました。

 体から生やした蜘蛛の脚の一撃を式神が庇って倒れた時に、そのまま姿を消してしまって。

 私は逃げ遅れて力付くでここに運ばれました」

 

 

 両手で身体を庇い、すまなそうな表情の彼女に隆和は話を続けた。

 

 

「とにかく。あの蜘蛛坊主はもう始末した。

 後はみんなで脱出するだけだ。

 細かいことは生き残ってからにしましょう、久喜本さん」

 

「ありがとうございます。

 それでこれからどうするんですか?」

 

「集落の中を探すしかないでしょうね。

 異界のボスがツチグモと同じくらいの強さなら、彼なら脱出しようと動き回っているはずだ。

 それじゃ外に出ますけど、あなたは自分の身を最低限でも守れますか?」

 

「すみません。歩くのが精一杯で」

 

「よし、じゃあこうするか」

 

 

 隆和は背負っていた背嚢をトモエに渡すと、意外と長身なのと大きすぎる胸で手こずったが彼女を背中に背負って紐で結びつけた。真っ赤な顔の加奈に隆和は告げた。

 

 

「動きにくいので、両腕と両足は身体に絡めるようにしてしっかり掴まって下さい」

 

「あ、あのかえって動きにくくありませんか?」

 

「貴女の身体が揺れてバランスを崩すよりはマシですよ。

 とても軽いので大丈夫です」

 

「は、はい。どうも」

 

 

 正直隆和にとっては、ショタオジの地獄の特訓で背負わされて戦わされた時のオバリヨンに比べれば羽根のように軽いと思っているのだが。

 真っ赤な顔の加奈を背負うと、トモエとアプサラスに呆れた目で見られながら隆和は外に出た。

 そして、外に広がる赤黒く染まった空と、武器を持って戦い合う集落の老人と若者の血みどろの争いを眼下に見て隆和はため息をついた。

 

 

「ああ、やっぱり一筋縄ではいかないか」




後書きと設定解説


・敵対者

【藤川洋一】
レベル7 耐性:破魔無効
スキル:悪魔召喚(インプ)
    突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    脅迫・脅し
詳細:
 麻薬のバイヤーでヒッピーグループの代表でもあるダークサマナー

【夜魔インプ】
レベル7 耐性:銃耐性・呪殺無効
スキル:ザン(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
    ドルミナー(敵単体・中確率で睡眠付与)
詳細:
 ダークサマナーと契約し使役されている悪魔

【妖虫ツチグモ】
レベル21 耐性:氷結弱点・電撃耐性・魅了弱点・毒耐性
スキル:毒かみつき(敵単体・小威力の物理攻撃・中確率で毒付与)
    マハジオ(敵全体・小威力の電撃属性攻撃)
    猛反撃(物理攻撃を受けた時、確率で通常攻撃を返す)
    人化(自身・不完全だが人間の男性に化ける事が出来る)
詳細:
 全長3m以上に及ぶ大きさの鬼のような顔をした大蜘蛛の姿の悪魔
 古くからここの山に潜み集落を守っていた祭神モドキ
 この里の住職の身体を中身を食い尽くして化けている
 絡新婦に篭絡され、地霊から妖虫へとそのあり方も堕ちた


次回は後編。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。
 


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第37話 地方巡業・実麻集落 後編

続きです。
今回は事件の前後編の後編です。


 

 

  第37話 地方巡業・実麻集落 後編

 

 

 救助した女性の加奈を背負い脱出のために寺の門の外に出た隆和たちの目に映ったのは、赤黒く曇った空の下で異界へと変わり果てた集落の人間が殺し合う凄惨な状況だった。

 

 それまでは晴れた空のもとで一緒に畑仕事などもしていたはずなのに、集落の老人達が手に手に鎌や包丁に手斧、果ては猟銃を持ち出している人もいた。12、3人程の若者達の方は逃げ出すつもりだったのだろうか、リュックやカバンなどの荷物を持ちバイクで集落の唯一の出口らしいあの谷間の狭い山道の方へと走り出そうとした所を襲われたようだ。

 逃げ遅れたり転倒するなどした彼らに、倍の人数はいると思われる隆和のアナライズにはもう人ではなくレベル5程の【外道フーリガン】と映る老人達が襲いかかり、数人で押さえつけるとその後ろから現れた数体の少女の上半身が生えた蜘蛛の姿のレベル10~15の【妖虫ジョロウグモ】達が覆い被さり、バリバリという咀嚼音と断末魔の声が隆和たちには聞こえてきた。

 

 門の影に隠れてそれを見る隆和たちだったが、その様子を背中で見ていた加奈が隆和に尋ねた。

 

 

「あの、あの人達を助けないと。

 貴方がたの実力なら容易いのではないのですか?」

 

「数がもう少し少なければ、蹴散らして助けているんだが。

 ただ、俺たちの目的は仲間と貴女の救出とここからの脱出だ。

 俺にはあの数の【外道】と【妖虫ジョロウグモ】の群れを、貴女を庇いながら戦うのは難しい」

 

「でも、あなた達も正義と人助けのために戦っているのでしょう?」

 

「……俺が戦うのは、義理と人情と自己満足のためだが?

 それに例え、力があって善人であっても天使みたいなのが居るんだぜ?」

 

「いくらなんでも、“アレ”と一緒にしないで下さい」

 

 

 そう言うと黙り込む彼女と隆和が話していると、集落の方を警戒していたトモエが一方を指さして隆和に知らせてきた。隆和が見ると、集落の入口近くで襲われている集団とは別に高台の方のとある家にもジョロウグモと老人の悪魔の一団が集まっているのが確認できた。

 

 

「主様。あそこの様子が変です」

 

「向こうにも集まっているな。迂回してあそこに向かうぞ」

 

 

 隆和がそう宣言し、彼らは争っている大きい集団に見つからないように移動を始めた。

 

 

 

 

「右方向の曲がり角の先に2体。カーマ」

 

「はいはいっと」

 

「もう一つの左は私が」

 

 

 生き残りを探して巡回していたと思われる複数の老人の悪魔を、隆和がマッパーで位置を確認して指示を出し、陰からカーマの弓とトモエの急所を一撃するやり方で排除しながら高台の目的のその家の側まで来ていた。

 そのやり方を隆和の背中で見て「私より忍者らしい」と愕然としていた加奈が、「老人なのにフーリガンなのはやっぱり変だな?」と自分のアナライズの結果に内心首を傾げている隆和に小声で聞いてきた。

 

 

「あの……」

 

「何かな?」

 

「何でそんなに手慣れているんですか?」

 

「実際に異界の行動で役に立つから、大佐ニキって知り合いの専門家に教えて貰ったのさ。

 こういうやり方は珍しいのかな?」

 

「はあ。実家のやり方と全然違うので驚きです」

 

「実家は代々続く忍びの家なんです。

 嫁ぎ先でもほとんど同じやり方でやっていたので、軍隊みたいなのはちょっと」

 

「なんだ、結婚しているなら尚更生きて帰らないと。

 ……お、着いたみたいだな」

 

 

 隆和たちがその場所の近くの物陰につくと、2体の女性の悪魔が言い争いをしていた。

 1体は先程も見た何処かで見覚えのあるジョロウグモと、もう一体は蜘蛛の図柄の赤い着物を着た黒髪の胸のやたらと大きい美少女のように見えるレベル22【地霊ブラックウィドウ】が立っていた。どうやら、ブラックウイドウが入口を守る家というか小屋の中に入れろとジョロウグモが突っかかっているようだ。

 ジョロウグモの側には2体の老人フーリガンがいるが、止めようがなくオロオロとしていた。

 

 

「お姉さま、そこをどいて下さい。中にいるのニンゲンの男ですよね?

 独り占めするのですか?」

 

「そうよ。旦那さまは私の番にするの~。

 手を出すと言うなら、例え姉妹でもただではおかないわ~」

 

「はっ! 少しばかり早く成長出来ただけで何様のつもりよ!

 いいから、渡しなさいよ!」

 

「彼はね、そこいらにいる並の男とは才能が違うの。

 それをただ喰うだけの貴女に渡すと思うの~?」

 

「お、お母様に逆らう気なの!?」

 

「お母様は姉妹同士の諍いは気にされないわ。

 警告はもう充分よね~、【ザンマ】」

 

「ぎゃふっ!」

 

 

 様子を伺っていると、ブラックウイドウが躊躇なく衝撃魔法をジョロウグモに叩き込んだ。

 衝撃弱点だったジョロウグモは大怪我を負って吹き飛ばされたのを見た隆和は、皆に合図をするとそこに乱入するように物陰から躍り込んだ。

 

 

「手前の3体を排除! 【地獄突き】!」

 

「せいっ」

 

「やあっ」

 

「誰!? ……ふぐっ」

 

「ぐえっ」「ぐをっ」

 

 

 隆和は左手で背中の加奈を掴んで支えながら宙を飛び、頭上からジョロウグモに右拳を叩き込み一撃で消滅させた。その隙に周囲の2体の老人フーリガンもカーマとトモエに処理された。

 驚いた表情でこちらを見るブラックウイドウに、構えたまま隆和たちは向き直った。

 

 

「地霊ブラックウイドウか。

 妖虫や外道の連中よりかはマシなようだが、ここで何をしている?」

 

「なかなか魅力的な殿方ですけど、あなたは誰です?

 あなたも旦那さまに手を出そうと言うのかしら?」

 

「俺は安倍隆和だ。それで、旦那さま?」

 

「ええ。数日前にお父様の元に現れたとても素敵な殿方を見つけまして。

 姿を消して逃げようとなさっていましたけど、匂いでどこに居るのかすぐに判りました。

 そして、見つけて私の愛の巣にお連れしましたのよ」

 

「その声、安倍さん!? オレです。伊東です!」

 

 

 家の中から、ナイスボートニキの声がした。 

 それを聞き、隆和を興味深そうに見るブラックウイドウ。

 

 

「あら、旦那さまのお知り合いでしたの?」

 

「彼を探しに来た友人だ。彼と少し話せないか?」

 

「でも~、彼を連れて行くつもりではなくて?」

 

「そうだな……」

 

 

 ナイスボートニキと会うのを渋るブラックウイドウに、そこで少し考え込んだ隆和がある提案を持ちかけた。

 

 

「なあ、下剋上に興味はないか?」

 

「『げこくじょう』ですか~?」

 

「簡単だ。

 俺がこの異界のボスである女王蜘蛛を倒すなり封印なりして、お前がここの女王になる。

 そして、この地を守る祭神として彼を娶って幸せに暮らす。

 めでたしめでたしって寸法だ。どうだ?」

 

「……それ、本当に出来ます~?」

 

「お前の母親の強さ次第ではあるが、少なくとも俺たちはお前よりは強いぞ?」

 

 

 隆和をじっと見ながらしばらく考え込んだブラックウイドウは、ニコリと笑うと入口の横に移動すると隆和にこう答えた。

 

 

「……その約束、果たしてくださいね?

 私は旦那さまと幸せに暮らしたいだけなのです」

 

「嘘は言わないさ。

 必ず、ここのボスは倒すからな」

 

 

 そう言うと、隆和たちは小屋の中に入った。

 その中は綺麗に掃除され整えられた部屋があり、その奥のベッドの上でナイスボートニキが粘着性のある蜘蛛の糸で手足を拘束されているのを見つけた。その側にはロボットのような球体状のものも転がっている。

 彼は中に入って来た隆和たちを見ると、安堵したように息をつき小声で話しかけて来た。

 

 

「ああ、良かった。助かりましたよ、安倍さん。

 生きた心地がしませんでした。

 ああ、そっちの女性も助けたんですね」

 

「相変わらず、ああいう感情の重い女性に縁があるみたいだな。

 さすが、ナイスボートニキ」

 

「女性関係の事で安倍さんに言われたくありませんよ。

 それで、どうやって出るんです?」

 

「時間がないから、さっさとやるぞ。

 これから拘束を解くから、彼女と一緒にこの『トラエストストーン』で逃げろ。

 集落全体が異界になっているから、これで外に出られるだろう」

 

「安倍さんは?」

 

「ここの後始末だ。

 どうも、異界化の引き金を引いたのは俺みたいだからな」

 

「まだですか~?」

 

 

 外から、焦れているらしいブラックウイドウの声がする。

 トモエが素早く糸を切ると、床に転がっていた球体のロボットを拾ってナイスボートニキは立ち上がった。

 隆和は背負っていた加奈を降ろし、彼の側に立たせるとトラエストストーンを渡した。

 

 

「じゃあ、行け。

 彼女を連れて外で応援を呼んでくれ」

 

「判りました。

 無事でいてくださいね、安倍さん」

 

「助けていただきありがとうございました。

 後で必ずお礼に伺います」

 

 

 そう言うと、2人の姿はこの場からかき消えた。

 中の様子を気配で解ったのか、ブラックウイドウがかなり焦った様子で部屋に飛び込んで来た。

 それに合わせて、3人は彼女にスキルを叩き込んだ。

 

 

「旦那さ……、ガハッ!」

 

「悪いな、【地獄突き】!」

 

「【黒点撃】!」

 

「クスクス、【魅了突き】」

 

 

 そのままその攻撃で致命傷を負ったブラックウイドウは、地面に倒れ伏し呆然とこちらを見上げてきた。

 それに、隆和は冷酷に答えた。

 

 

「……何で? 旦那さまと暮らしたいだけなのに?」

 

「ジョロウグモにしろ、お前にしろ、見覚えのある顔なんだよ。

 お前の母親には因縁があるんだ。

 どちらにしろ、あの人食いの絡新婦の娘どもは鏖殺だ」

 

「……それだけの事で?」

 

「だから、お前は人間と寄り添えないんだよ。じゃあな」

 

 

 そう言うと、隆和はブラックウイドウの頭を踏み砕きマグネタイトの霧へと返した。

 そして、2人に指示を出して集落へと向かった。

 

 

「手始めに集落の中の連中を皆、始末するぞ。

 強くても、レベル15前後のジョロウグモが中心だ。

 氷結弱点だからな、ボスまでカーマは一休みしていてくれ。

 行くぞ、アプサラス」

 

 

 

 

 集落の中の相手はアプサラスの【マハブフ】とトモエの【疾風斬】による範囲攻撃を叩き込み、生き残りを隆和が潰すことで2、30体はいた連中を掃討する事が出来た。その途中で喰い荒らされたあの藤川という男の遺体も発見でき、せめて慰めにと土を掘り返して埋める事にした。そして、隆和は寺の横を通り過ぎて切り立った崖の集落の最奥にある異界の入口らしい洞窟の前にやって来た。

 空を見上げるて雲の色がどんどんと赤黒く濃くなって来ているのを見た隆和は、チャクラポットや傷薬で回復すると洞窟内に向けて大声で呼びかけた。

 

 

「そこにいるんだろう、ジョロウグモ!

 お前の母蜘蛛と姉妹を殺した男が来てやったぞ!

 外にいたお前の娘も全員始末したぞ!

 さっさと出てこい!」

 

「おのれぇぇぇぇ!!

 妾の子らを殺したなぁ、貴様らぁ! 

 殺して引き千切り、臓腑を引き抜きバラバラにして喰ろうてくれるわぁ!!!」

 

「殺したお前の姉妹も同じセリフだったなぁ!

 過去の因縁はもううんざりだ!」

 

 

 返事と共に飛んできた蜘蛛糸を避けた隆和は、姿を現した【鬼女ジョロウグモ】にそう答えた。

 その姿はかつて羅生門で見た下半身の3本足で黒と黄色の縞模様をしている蜘蛛と上半身の長い黒髪の美女の裸身という同じ姿だったが、あの時の個体より若干蜘蛛の部分が大きくレベルも少し上である。

 ただ、違うのはこちらは異界のボスで体力や耐性も上だと言うところだろうが、あの時より大幅に実力を上げて装備も充実し手数もこちらが上だと本気で両者が戦うと理不尽なまでの差が広がっていた。

 

 

「妾は、こんなにも強大で多くの人を喰ろうた大妖怪ぞ!

 何故、小奴らには妾の攻撃が効かぬのだ!!」

 

「あのなぁ、こっちは睡眠も魅了も効かないんだよ。

 それに毒の牙は大ぶりの攻撃がミエミエで、他の攻撃もモーションが姉妹と同じなんだ。

 いくら力が強くなろうと、その単体目標ばかりのスキル構成では勝てるわけがないぞ」

 

「そんな理不尽な理由があってたまるかぁあぁ!!」

 

「アプサラス!」

 

「はい! 【ブフ】!」

 

 

 隆和の背中に張り付くように浮遊しているアプサラスが、ジョロウグモの顔面を狙って氷結魔法をしつこく放ちさらに行動が雑になる隙を狙ってどんどんと体力を削るという攻撃パターンで、既にジョロウグモの体力は底を突きかけていた。

 フラフラになりながらも、矜持だけで攻撃を続ける相手に隆和たちは攻撃を叩き込み終わりにした。

 

 

「何故じゃ、何故なのじゃあ!

 かような餌でしかない人間なんぞにぃぃぃ!!」

 

「親切に説明してやっただろう?

 状態異常は効かなかったようだが、まあいいか。

 それじゃあな、【チャージ】【地獄突き】!」

 

「はぁぁぁ、【黒点撃】!」

 

「私も、【マハブフ】!」

 

「ぎゃあああぁぁぁ!!!」

 

 

 ジョロウグモの巨体が倒れ、マグネタイトの霧へと変わり消えていく。

 ボスが倒れたからだろう、周囲のマグネタイトが薄くなり空も夜空へと変わり集落も異界から元の姿を取り戻した。崖にあった洞窟は崩れ落ち、完全に塞がってしまった。 

 これでもう大丈夫だろう。そう思っていると、隆和の携帯が鳴り出した。

 隆和が出ると、ナイスボートニキの声が聞こえた。

 

 

「あ、つながった。大丈夫ですか、安倍さん!?」

 

「おう、皆無事だぞ。……無事?」

 

「どうかしたんですか?

 これから、応援の人たちが迎えに行くそうです」

 

「ああ、いや。大丈夫だ。それじゃあ、こっちも帰る事にするよ」

 

 

 携帯での連絡を切り、隆和はアプサラスに向けて声を掛ける。

 

 

「よう、強くなれたみたいじゃないか。

 自分の姿を確認してみろ」

 

「はい? これは!」

 

「【天女アナーヒター】。水の精から水の女神様か。

 綺麗な姿になれたし、良かったじゃないか」

 

 

 アプサラスの姿が白い衣を纏った水色の肌の女性から、6枚の金色の板を浮かべその裸身をその水色の波打つ長髪で隠した姿のアナーヒターへと姿が変わっていた。その裸身を片手と髪で隠し頬を赤らめているアナーヒターはニッコリと笑ってこう言った。

 

 

「これでルサルカにも負けませんし、何も言わせません!

 マスター、これからもお願いしますね?」

 

 

 

 

 さて、事件の後日談を語ろう。

 

 ナイスボートニキの呼んだ応援とそこからの通報で警察の調査も入った集落の後始末は、隠し畑から大麻が実際に見つかったが村の人間と直接取引していたバイヤーグループが纏めて行方不明扱いになったため、廃村とされて集落は閉鎖される事になった。

 ここの霊地については、管理者や祭神となるべき対象も消失し関わった関係者も管理するのを断ったため、近隣の地方組織に後援する代わりに管理を引き受けさせる事になった。

 

 ナイスボートニキは、死亡していた彼の専用シキガミで宙に浮く球体のロボット型シキガミの【コズワース】の蘇生も成功し、またホテルガイア大阪での生活を始めたようだ。ただ、この事件から前以上に生活を希留耶に管理されるようになったと、隆和はクスクスと楽しそうに笑うなのはに聞き複雑な想いになったようだ。

 

 そして、事件の一週間後。

 

 大阪の夜の繁華街で隆和と見知らぬ女性がデートしているのを関係者に目撃された後、かつて隆和たちが暮らしていたマンションの部屋に一組の母娘が入居するようになった。

 彼女の名前は、【吉澤加奈】。

 それと、未亡人である彼女と前夫の娘で10歳の桃子という子どもも一緒だった。

 何でも彼女はシングルマザーで頑張っていたが限界を感じた時に、実家の『対魔忍(仮)』とガイア連合との折衝役だった【パパ活サイミンニキ】の紹介で名字も旧姓に戻して関西支部で働かせて貰う事になったのだと楽しそうに語っていたと、ウシジマニキから千早となのはに知らされた。 

 そして、二人から隆和は、色々と詰問され色々と絞られる事になったと言う。

 

 なお、神社の異界に戻った後、アナーヒターにルサルカは満足するまで煽り返されて悔し泣きした。




後書きと設定解説


・関係者

名前:ナイスボートニキ(伊東誠)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・19→20歳
職業:高校生→ガイア連合大阪派出所職員
ステータス:レベル9→14・ラッキー型
耐性:物理耐性(装備)・破魔無効・呪殺耐性(装備)
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
    パララディ(味方単体・麻痺を回復)
    イルク(自身を透明化)
    トラフーリ(一部の戦闘を除いて確実に戦闘から逃走する)new!    
    応急処置(戦闘時以外で味方単体・HPと一部の状態異常回復)
    コンピューター操作(プログラム作成含む技術)
装備:物理耐性のペンダント
   呪殺耐性の指輪
   ケブラーベスト(霊装防具)new!
   軍用ヘルメット(霊装防具)new!
   改造モデルガン(霊装武器・破魔弾)new!
詳細:
 某ゲームの主人公に容姿や家庭環境がそっくりに生まれた童貞の転生者
 前世はブラックな現場専門のSEだったのでPCは得意
 関東の高校で女性トラブルから逃げ出して山梨支部へ逃げこんだ
 専用のシキガミを色々と日和見し嫁でなくロボットタイプで注文した
 
名前:コズワース
性別:男性
識別:シキガミ
職業:ナイスボートニキの専用シキガミ
ステータス:Lv9・マジック型
耐性:物理耐性・破魔耐性・呪殺耐性
スキル:グラム・カット(敵単体・小威力の物理攻撃)
    放電(敵複数・2~4回の小威力の電撃属性攻撃)
    フォッグブレス(敵全体・命中、回避率を1段階低下する)
    警戒(奇襲を受けにくくなる)
    アナライズ(レベル、名前、相性が判明する)
    カバー(味方単体・ダメージを受ける際、身代わりになる)
    シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):会話・家事・浮遊
詳細:
 ナイスボートニキの専用シキガミで某ゲームのロボットタイプ
 本体の大きさは直径30cm程の球体で色はつや消しシルバー
 移動は浮遊し、3つの目のある球体の下に3本のアームが付いた形状
 老練な執事のような口調で常に冷静に話す

名前:パパ活サイミンニキ
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・30代
職業:ガイア連合山梨支部所属技術者
詳細:
 ガイア連合の技術班でミナミィネキの部下の転生者
 インキュバスの悪魔変身者で、魅了と睡眠を付与するスキル持ち
 別名・光のパ〇活説教おじさん
 群馬県の地方霊能組織『対魔忍(仮)』とガイア連合の窓口役

名前:アナーヒター
性別:女性
識別:天女アナーヒター
ステータス:レベル21
耐性:火炎弱点・氷結吸収・破魔耐性
スキル:ヘルズスプラッシュ(敵全体・中威力の氷結属性攻撃)
    メディア(味方全体・HP小回復)
    ラクンダ(敵全体・防御力を1段階下げる)  
詳細:
 アプサラスが成長し変化した軍神でもある河の女神
 清浄を意味する名を持つ水を司る豊穣の女神でもある
 容姿はメガテン準拠だが、顔つきは若干優しめになっている
 レベルが低いため、黄金の板は8でなく6枚しか無い
 ルサルカとは同じ属性の悪魔として喧嘩仲魔

・敵対者

【地霊ブラックウィドウ】
レベル22 耐性:破魔無効・呪殺耐性・神経耐性
スキル:ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)
    ザンマ(敵単体・中威力の衝撃属性攻撃)
    ディアラマ(味方単体・HP大回復)
    ポズムディ(味方単体・毒状態を治療する)
    巻き付き(敵単体・小威力の物理攻撃・低確率で緊縛付与)
    人化(自身・人間の女性に化ける事が出来る)
詳細:
 ジョロウグモの娘蜘蛛の1体が進化した変異体
 妖虫や妖獣、鬼女に変化せず、比較的善良な地霊に変化した
 黒い長髪をした蜘蛛模様の赤い着物を着た胸がとても大きい美少女の姿
 他の個体よりは善良ではあるが、番以外には姉妹でも冷淡

【妖虫ジョロウグモ】
レベル15 耐性:電撃耐性・氷結弱点・衝撃弱点
スキル:毒かみつき(敵単体・小威力の物理攻撃・中確率で毒付与)
    マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
詳細:
 集落に来た人間と姉妹を喰って成長した絡新婦の娘蜘蛛

【外道フーリガン】
レベル5 耐性:銃耐性・呪殺無効
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    銃撃(敵単体・小威力の銃属性攻撃)
詳細:
 麻薬栽培をしていた集落の老人達が異界化の影響で悪魔に変わった
 高濃度のMAGに触れて最後の人としてのタガが外れた
 フーリガンは直訳すれば『乱暴者』なので、暴れる老人でも問題はない
 数人だけ居る猟銃持ちのみ銃撃を行なう

【鬼女ジョロウグモ】(ボス)
レベル32 耐性:破魔無効・呪殺無効・毒耐性
スキル:ドルミナー(敵単体・高確率で睡眠付与)
    マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
    毒かみつき(敵単体・小威力の物理攻撃・中確率で毒付与)
    巻き付き(敵単体・小威力の物理攻撃・低確率で緊縛付与)
    人化(自身・人間の女性に化ける事が出来る)
詳細:
 隆和と因縁のある絡新婦の娘たちの最後の生き残り
 軽自動車ほどの大きさの蜘蛛の頭部から女性の裸の上半身が生えている姿
 羅生門の姉妹より食べた人間の数が多いため、少しレベルが上になった
 大麻を栽培する集落のある山にあった異界を乗っ取った
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性あり


次回は中休み回。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第38話 華門神社と吉澤母娘

続きです。
今回は、中休み回。


 

 

  第38話 華門神社と吉澤母娘

 

 

「つまり、うちらの事も考えて彼女を勧誘したって言うんやな?」

 

「もちろんだよ。

 ただ、好みだからってだけの理由ではこんな事はしないさ。

 ここの神社の皆も千早やなのはも、最低限の人相手の体術を身に付けた方がいい。

 なのはは固定砲台専門だし、千早たちは後方の担当だ。

 俺やトモエは悪魔相手の我流の戦い方だから教えるのには向いていない。

 だけど彼女には、15の時から今まで生き残って来た経験と系統的な武術の心得がある。

 これほど、うちに引き抜き易い体術のインストラクターに向いている人材はそうはいないと思ったんだ」

 

「確かにわたしも接近されるとまずいと思うところもあるの」

 

「襲ってくるのが、悪魔だけやないとは言い切れんからそうかもしれんわな」

 

「そうだろう。分かってくれたか」

 

「でも、それはそれとして好みの美人の未亡人だからって誘惑したいうのもあるんやろ?」

 

「彼女の出身的に、わりと押し気味に口説いて押し倒してOKさせたんだと思うの。

 15の頃からって話も、その時に聞き出したんだろうし」

 

「………………」

 

「沈黙は肯定と受け取るで?」

 

「よし、それならわたしとも彼女としたようなちゃんとしたデートを要求するの」

 

「なら、うちもお願いするわ。ちゃんと彼女の手続きなんかは見とくさかいな。

 カーマはん、どこか関西以外にしばらく行かないように見張っといてな?」

 

「クスクス、おっけ~。

 私としてはMAGを得られて面白ければそれでいいし。

 それじゃあ、頑張れ。マスター♪」

 

 

 あの『大麻蜘蛛集落』の事件からしばらく経ち、もうすぐ秋になる頃。

 

 隆和と吉澤加奈とのデートが二人にバレて華門神社の閨でそんな会話があってから数日後、華門神社の異界の砂浜でその彼女と十数人の男女が顔を合わせていた。全員が動きやすい運動用のジャージで、参加しているのはなのはと千早、華門和と夜刀神華に、神社のメンバーからも数人参加している。

 見定めるように自分を見つめて値踏みする幾人かの女性の視線に緊張しつつ、加奈は挨拶を始めた。

 

 

「はじめまして、隆和さんの紹介で来ました【吉澤加奈】といいます。

 定期的に、体術のインストラクターとして来る事になると思います。

 実力的には上の方も居るようですが、よろしくお願いします」

 

「初めましてなの。

 隆和くんとは一番付き合いの長い高橋なのはです。

 それで、こっちが天ヶ崎千早さんで華門和さん。

 それと、夜刀神華ちゃんなの」

 

「初めまして、うちはここの管理を纏めとる千早や。

 ガイア連合の所属なんは、うちとなのははんと隆和はんだけや。

 和はんや他の皆は、うちらで面倒見とるここの神社のメンバーや。

 あとで、なのははんが名前を上げた人たちだけで話す事があるさかい。

 加奈はんもよろしゅうな」

 

「私は、先生の弟子で夜刀神華って言います。

 どんな戦い方を教えてくれるのか楽しみです!」

 

「そ、それでは始めますね。

 体術の基本としてまずは受け身の取り方から……」

 

 

 そうやって訓練が始まるのを遠目で見ながら、隆和はトモエと共に一人の少女を連れて異界の中の海岸の方ではなく島の東側の林の方を散策していた。

 

 それは、訓練をしている場所から少し離れた場所にあるビーチチェアとパラソルが挿してある一角にサングラスをしてアロハを着た髪の長い少年のような姿のすごく見覚えのある【匿名希望の凄腕専門家】氏が、クーラーボックス持参で冷えたビールとつまみを横の小さいテーブルに置きのんびりと過ごす姿があったからだ。

 なお、マーメイドやルサルカたちも彼の実力が判るために姿を消しているし、邪魔をしないように千早の指示で他の皆も見ないふりをしていた。

 

 とにかく、隆和はその少女、加奈の娘である『桃子』と一緒にふらふらと離れた場所でコダマやスダマが漂っている林の中を話しながら歩いていた。

 

 

「異界の中なのに本当に何も襲ってこないのは驚きっす」

 

「ここの異界の悪魔は、契約でそういう事はしないでも飢えないようになっているからだよ。

 それはそうと、見えるのかい?」

 

「これでも実家にいる時は、同年代でも素質のある方だったっす。

 けど、あの水着みたいなスーツは恥ずかしくて無理だったっす」

 

「あー、あれはうちの製品だしなぁ。

 『対魔忍は忍者服じゃ駄目だ。ぴっちりスーツじゃないと』って、うちの仲間が売りまくったから。

 なんかゴメンな?」

 

「いえ、隆和さんは関係ないっすから」

 

 

 おとなしめのブラウス姿でも判るこの歳でスタイルも良い容姿なのにかなり影の薄い彼女は、自分を見失わない隆和に少し驚きながら正面を向くとペコリと頭を下げて来た。

 

 

「今回はお母さんを連れ出してくれてありがとう、隆和さん。

 人が良いくせに一人で無茶をするお母さんを、こうしてあの地元から抜け出せたのは本当に良かったっす」

 

「お礼を言われるような事じゃないと思うんだがな。

 俺の方が加奈さんを口説いて連れて来たようなものだから」

 

「4年前に父さんが死んでからお母さん、あたしのために頑張っていました。

 親族の連中はお母さんに再婚だけ命じて、助けてもくれない連中だけですから。

 でもそこへ、隆和さんは任務先で行方不明になったのを助けただけじゃなく怪我も治してくれたっす」

 

「せっかく助けたのに、再起不能になりましたとか嫌じゃないか。

 うちの伊東くんが逃げるために体を張ってくれたそうだし、そのお礼も含めてだよ」

 

「それでもこうやって、お母さんにあまり危なくない仕事も紹介してくれたのは嬉しいっす。

 やっぱり、一人でご飯を食べるのは寂しいですから」

 

 

 隆和は、彼女の背の高さに合わせるようにしゃがんで目線を合わせてその言葉に答えた。

 

 

「出来るだけ桃子ちゃんが悲しませないようにするよ」

 

「それじゃあ妾でもいいので、お母さんと弟か妹を早く作ってくれないっすか?」 

 

「桃子ちゃん??」

 

「何かすぐに作れない理由でもあります?」

 

 

 困惑した桃子と目線を合わせたまま、隆和はその問いに真剣な顔で答える。

 

 

「理由はあるよ。

 俺たちガイア連合のメンバーは、近いうちに起こるだろう文明が終わる【終末】から生き残るために集まった組織だからだ。

 ここの異界も目的としては構築中の核シェルターであるし、中に入れるのは俺たちが『身内』だと受け入れた相手だけだという所が理由につながるよ」

 

「世界の終り?」

 

「桃子ちゃんも実家で過去にメシア教が何をやったかは聞いただろう?

 アメリカを支配しているあの連中が、核ミサイルを発射しないなんて信用できるかい?」

 

「……信用出来ないっす」

 

「うちのメンバーたちも、まず間違いなく起こると考えて行動しているんだ。

 だから、桃子ちゃんもその時はガイア連合のシェルターに逃げ込みなさい。

 加奈さんと桃子ちゃんは、俺の身内になるんだから」

 

「それは分かったっす。

 それなら、尚更早く作っておいて欲しいです。

 そんな事になったら、病院もおむつや粉ミルクの会社も吹き飛びますから」

 

 

 隆和の告げる内容に、右手で人差し指を立てて左手を腰に当てて注意するような表情で彼女は言い返した。

 

 

「あの、桃子ちゃん??」

 

「そもそも、悪魔にそういう事をされて頭から食べられて居なくなるよりは何倍もマシっす。

 隆和さんも、こうして生活の場をお母さんとあたしに用意してくれるのだから責任は取るつもりですよね?」

 

「ああ。

 だから、少しでも仲良くなれるようにこうして話そうとしていたんだけど?」

 

「いいっすか?

 あたしも、将来はお母さんみたいにくノ一になる予定です。

 そして、その技を教えてくれるのもお母さんです。

 それなら、お母さんが居なくなるより惚れた相手の子どもを産んでいる方がいいです。

 だから、もっと押し倒して欲しいっす。

 あたしは、空気を読むのが上手いですから安心して下さい」

 

「いや、俺は安心できないんだが??」

 

「それじゃあ、そういう事でお願いするっす。

 お母さんにも言い含めてこないと」

 

 

 そう言うと、桃子はそのまま浜の方へと走り出した。

 慌てて止めようとする隆和を、トモエが行く手を遮って薄く笑う。

 

 

「トモエ、どうして止めるんだ?」

 

「いい加減、房中術でマグの譲渡扱いにして避妊を辞めさせるのもいい頃合いかと思いまして。

 シキガミの私はともかく、特になのはと和はかなり焦れていますよ?」

 

「そうは言うが、俺はまだ真っ当に就職も出来ていないのに子どもはまだ早い」

 

「『警備員兼傭兵』として立派に就職できているじゃないですか、主様。

 私はどこの戦いの場でもお伴します」

 

「履歴書には書けないだろう!?」

 

 

 桃子はくノ一の訓練をしているだけあって、かなり足が速い。

 このままでは、あの場で何を言われるか分かったものじゃないと隆和は焦る。

 だが、横を抜き去ろうとする隆和を、彼の動きの癖を熟知したトモエはこのレベル差でも完璧に妨害していた。

 

 

「まだ、その事に拘っているんですか?」

 

「例え終末が来るにしても、その前に真っ当な就職だけでも」

 

「知り合いの方に頼めばすぐにでも出来るのでは?」

 

「前世でコネ入社の年下の奴に散々迷惑を掛けられたから、それはなんか嫌だ。

 どこかに今の稼業をしつつ、勤められる表の会社は関西にないかな?」

 

「そんな夢みたいな会社が在る訳無いでしょう?

 それと、私たちの【ヒモ】か【ジゴロ】なら何時でもなれますよ?」 

 

「それだけは嫌だ!」

 

 

 そう言うと隆和は最後の手段でトモエに抱きつくと、そのまま彼女を肩に抱き上げて走り出した。

 ポカポカと驚いた顔で背中を叩いてくるトモエは無視して、林の中を全力で走り抜けた隆和は砂浜へと到達しもう少しで桃子に追いつくところだった。だが、急に砂浜の砂に足を取られた隆和はバランスを崩し彼女に追いつけなかった。

 隆和の視線の先で、桃子は大きな声で母親の加奈にこう言い放った。

 

 

「おか~さ~ん、隆和さんから責任は取るって言質は取ったよ~!

 子どももお願いしたから、今晩から頑張ってね~!」

 

 

 

 

 その様子をビーチチェアで寛ぎつつ遠くから眺めていたショタオジは、よく冷えた缶ビールを取り出しニコニコとしながら栓を開けた。

 

 

「いや~、夏の浜辺で飲む冷たいビールは美味いな~。

 アーッニキも頑張れよ~。……あっ、連れて行かれた」




後書きと設定解説


・関係者

名前:吉澤加奈(よしざわかな)
性別:女性
識別:異能者・32歳
職業:主婦/くノ一
ステータス:レベル10
耐性:破魔無効
スキル:絶命剣(敵単体・中威力の物理攻撃)
    乱射(敵全体・小威力の銃属性攻撃)    
    武道の心得(物理スキル使用時のHP消費量が半分になる)
    房中術
装備:忍者刀(模造刀)
   鎖帷子付き忍者服(実家から持って来た霊装)
詳細:
 身長170cm、B:89(F)・W:60・H:86
 九鬼神流の流れをくむ忍者流派の久喜本家に嫁いだくノ一
 元は対魔忍の出身で交流のあったこの家に嫁いだ
 父親(慎吾)が死亡してからは一人で子どもを育ててきた
 対魔忍の出身のために交流があり依頼を回して貰っていた
 20代にしか見えないショートカットの胸の大きい美女
 10歳の娘の「桃子」がいる


次回は早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第39話 彼女たちの転生者掲示板利用ログ

続きです。
今回は、掲示板回です。


 

 

  第39話 彼女たちの転生者掲示板利用ログ

 

 

ケース1:トモエの場合

 

★式が主人への愛を語るスレ part106

 

326:忠犬巫女シキガミ

こうして、主人の変な拘りも嫁たち総出で布団に引っ張り込んで説得して終わりました

そういう訳で、うちの主人は絶倫なため5人目の嫁を迎えました

5人とも素質ありで美人なため、いずれ生まれてくる子ども達も優秀で可愛いでしょう 

私も熱烈に愛して貰っている上に、労せず子沢山になれるのです

 

327:名無しのシキガミ

何といううらやま

たしかに、私たちだと主人の子も孕めないみたいだし

 

328:名無しのシキガミ

あの神主なら何とかしてくれるかも?

最終手段の本霊通信で、妊娠系地母神が来るのを待つくらい?

 

329:名無しのシキガミ

それが無理なら、式神は主人とともに末代になるか、

諦めて>>326みたいに、主人に婚活を勧めるかの2択になるのよね

 

330:名無しのシキガミ

主人ガチ恋勢にはある意味地獄だよね

自称友情勢とか主人婚活プッシュ勢とかは割り切れてるみたいだし

 

331:名無しのシキガミ

次代に自分を引き継げる子孫を求める方向に向いているみたいだね

まあ、それもありっちゃありかな

 

332:名無しのシキガミ

まあ、まだ完全に産めないと決まった訳じゃないし

日本の神様たちが解放されたら何か解決方法も見つかるんじゃない?

 

333:名無しのシキガミ

場合によっては、海外の地母神に縋ってでも私は欲しいぞ

本霊通信ガチャに当たればそういうスキルもワンチャンある!

 

334:名無しのシキガミ

でも、婚活プッシュ勢だって誰でもいいわけじゃないでしょ?

例えば、主人が地方に行ったり合同の勉強会や懇親会に出る度に湧くのとか

そのたびに排除しているけどキリがない

 

335:名無しのシキガミ

それはそう

 

336:名無しのシキガミ

あれはウザい

せっかく片付いて主人とイチャコラしようという時にも来るから嫌い

 

337:名無しのシキガミ

私は主人の永遠のアイドルの姿だからするのは解釈違いって言われる

誘惑して押し倒してもらうしか無いのか

でも、それをやって嫌われるのは怖い

 

338:名無しのシキガミ

それはなんと言っていいのか

 

339:名無しのシキガミ

ここは主人愛を語る場だから相談はちょっと

 

340:名無しのシキガミ

なんでさ、いいじゃない

どうすればいいのか教えて欲しいわ

 

341:忠犬巫女シキガミ

あ、主人に呼ばれたから落ちます

主人に今夜も愛されてきます♪

 

342:名無しのシキガミ

絶許、帰れ

 

343:名無しのシキガミ

許さない

 

344:名無しのシキガミ

幸せそうに惚気けやがって、けっ!

 

345:★名無しの式鬼

こういうのもアリなのか?

愛とはいったい?

 

 

 

 

 

ケース2:天ヶ崎千早の場合

 

★【進捗】地方派出所構築相談スレ【管理】 part128

 

483:名無しの転生者

こうして随分前に、大都市圏の19支部の構築は全て完了した訳だが、

地方の細かい派出所の新築や増改築はまだですか??

 

484:名無しの転生者

金が無いところ、人が居ないところ、

そして、責任者になる奴がいないところと色々あるな

俺? 所長なんて面倒なんでパスです

 

485:名無しの転生者

そういや青森の恐山、最古の支部だけあって周囲の山を切り開いて街になってるな

あれくらいうちの地元も開けてくれるといいんだが

 

486:名無しの転生者

呼ばれた気がしたのじゃが?

 

487:名無しの転生者

呼んでねーよ、イタコさんじゅうななさい

 

488:名無しの転生者

>>485 何しろうちは最古参でガイア連合上層部の覚えもいいのじゃ!

おかげで、支援も多く古くからの歴史ある霊地故、恐山独自の【霊的防衛施設】は他を超える特級品のものばかりで、

おまけに儂も含めて若返りの水もありピッチピチの美女ばかりじゃ!

さらには、ガイア連合最先端の戦闘術や霊能術にイタコ由来の伝統ある巫術も学べる。

さらに、福利厚生もOK、新人募集熟練者も募集、老若男女問わず一般人でも面接次第では可能!

これはもう、青森に来るしかないのう!

 

489:名無しの転生者

どこにでも出て来て宣伝するなぁ、この長老

 

490:名無しの転生者

ここは自分の地元の派出所の相談スレだ

帰れ、長老さんじゅうななさい

 

491:名無しの転生者

若手のイタコさーん、ここにいますよー!

 

492:名無しの転生者

ちょっと相談ええやろか?

 

493:名無しの転生者

おお、相談者か。どうぞどうぞ

 

494:名無しの転生者

久々の相談者、待ってたぞ

 

495:>>492

うちの所の派出所は、地元の組織を買い上げて本拠地の霊地に作ったんよ

それで、そこの核シェルター複数なんやけどそれで困っているんや

 

496:名無しの転生者

核シェルターが複数って何ぞ?

 

497:名無しの転生者

収容人数の大きさとか内部の施設の違いとか?

 

498:>>492

2種類あってな?

一つは、屋敷の地下にある従来の結界を張った施設型

もう一つは、メインの方で異界を利用したものなんや

 

499:名無しの転生者

異界を人工的にシェルターにしようというのは珍しいな

理論的には可能か?

 

500:名無しの転生者

ヒノエ島の例はある事だしなぁ

いや、そんな事が出来るような技術は……あっ(察し

 

501:名無しの転生者

そういや、出来そうなのが一人だけいたな

 

502:名無しの転生者

ああ、彼なら出来そうだ

ただ、その前に俺のシキガミちゃんを作って♡

 

503:名無しの転生者

眠っている暇はないぞ、早く作るんだ!

 

504:>>492

まあ、誰に頼んだかは置いといてな

異界の中は海に浮かぶ島の形状なんや

 

505:名無しの転生者

南国の島かな?

海外旅行とか今は危なくて行けないもんなぁ

 

506:名無しの転生者

それで、何を聞きたい?

 

507:>>492

異界の中は機械がまともに動かへんから、

中の生活が明治の頃まで逆戻りした感じなんや

建物も田舎の旧民家な屋敷とプレハブ型の仮設住宅で、

夜の明かりはランプで調理は竈になっとる

 

508:名無しの転生者

かなり不便そうだな

何人くらい入る予定なんだ?

 

509:>>492

だいたい最大30人くらいと見とる

それ以上は食料の備蓄で難しいんや

そこで相談させて欲しいんや

 

510:名無しの転生者

ほうほう、それで?

 

511:>>492

内部で作物を栽培するにしても、それにあった神様を契約で連れて来た方がええ

水の方はアプサラスがおるし、海の中はマーメイドがおるから一応は大丈夫なんやけど、

そういう神様に心当たりはないやろか?

 

512:名無しの転生者

作物なら農業や農耕の神様か

封印された日本の神ならたくさんいるんだよなぁ

 

513:名無しの転生者

海外の豊穣神は農耕系が少ないんだよな

ほとんどが遊牧民系だから、家畜の数=豊かさの基準になるんだ

 

514:名無しの転生者

じゃあ、うっかり願ったら作物じゃなくて子どもが多くなるのかw

 

515:名無しの転生者

地方の農村だとそれでもいいけどな

 

516:名無しの転生者

日本で会えそうな所となると、瀬戸内の水田だらけ離島支部に行ったらどうだ?

あと、四国の大赦の祭神も【神樹】だったはずだから会ってみては?

 

517:>>492

なるほど、あそこならスカウト出来るかもしれへんな

四国も近い場所にあるし、伝手か旦那に頼むのもありやな

 

518:名無しの転生者

異界に海があるなら、『塩』の神様も探すのがいいかな

後は人魚だけじゃ不安だから、他にも海の中にいた方がいいんじゃないか?

 

519:>>492

>『塩』の神様

ああ、それは盲点やったわ。おおきに!

それじゃあ、その方向で探してみます

これで、ご主人さまにもご褒美貰えるわ!

 

520:名無しの転生者

お、おう、頑張れよ?

 

521:名無しの転生者

ご主人さま??

まあ、上手く行ったら知らせてくれよなー

 

 

 

 

 

ケース3:高橋なのはの場合

 

★正式に一夫多妻になったけど質問ある?

 

1:名無しの転生者

関係に一区切りつける形で、

去年の年末に、全員分のウェディング写真を撮って全員で懇親会もしてきた

この制度がある中東で多神連合とメシア教が決戦しそうだって聞いたので、

いろいろと吐き出したいんで初めてスレを立てた

 

2:名無しの転生者

年明け早々に、クソスレ乙

自慢か?

 

3:名無しの転生者

ようこそ、人生の墓場へ

歓迎するぞ(既婚者並感

 

4:名無しの転生者

現地の地方組織の女に複数で囲われたのかw

既成事実か? ざまぁw

 

5:名無しの転生者

わたし、女だよ? 妻その1

 

6:名無しの転生者

は???

 

7:名無しの転生者

まてまてまて、どういう事??

 

8:名無しの転生者

スレ主、男じゃないのか?

 

9:名無しの転生者

去年の年末?

もう3が日も過ぎたぞ?

 

10:妻その1

トリ付けるね

>>7 これから説明するね

>>8 女だよ

>>9 全員平等に個別に今まで相手してもらっていたからね

 

 

(スレに来た参加者が混乱中)

 

30:名無しの転生者

よし、落ち着いたな

取り敢えず、>>1のスペックを上げてくれ

 

31:妻その1

特定を避けるためにフェイクが入るからね

 

夫 20代半ば・レベル30以上の修羅勢

妻その1 20代夫より上・レベル20以上の事務職(これがわたし)

妻その2 20代夫より下・レベル10以上の山梨支部所属の幹部

妻その3 レベル20以上の夫の女性型シキガミ

愛人その1 10代・レベル10台の巨乳巫女

愛人その2 10代・レベル10台の悪魔変身能力者

愛人その3 30代・10歳の娘のいる未亡人くノ一

 

夫と妻が転生者でガイア連合の所属で、

愛人が、現地人で妻その2が管理する現地組織の所属ね

 

 

32:名無しの転生者

いやいやいやまって、情報が多すぎる

妻?? 愛人??

 

33:名無しの転生者

修羅勢がそんなに女を抱えるのか?

 

34:名無しの転生者

女性の転生者が二人?

現地の女性を囲ってるんじゃないの??

おかしくない??

なんで納得してるの??

 

35:名無しの転生者

>なんで納得してるの??

これな

 

36:名無しの転生者

説明プリーズ

 

37:名無しの転生者

説明はよ

 

38:妻その1

順番に説明するね

最初に彼と関係があったのはシキガミの妻その3だけ

わたしは長い事友人だったけど、妻その2が出て来てなし崩しで参戦

妻その2が愛人その1を組織ごと夫に貢いで

愛人その2とその3は、彼が仕事先で助けて押しかけて来た娘だよ

 

39:妻その1

それで今は、愛人その1が代表の現地組織の屋敷でみんなで同居中

一番新しく来た愛人その3の人は、まだ別の所に住んでいるけど

そこの屋敷に核シェルターも建造済みだからね

 

40:妻その1

>>32

『妻』と『愛人』の呼称は、所属組織の違いから来る便宜上の呼び名ね

妻の3人が上位だと、組織の対外的にもハッキリさせておかないといけないから

もちろん、仲違いしないなら平等だよ?

 

41:妻その1

>>33

彼が何故こんな風に大勢の女性と関係を持ったのかと言うと、

もともと彼は身内が失われるのが嫌いだったんだけど、

修羅勢だからショタオジの特にキツイ修行を何回か受けていたらしいのだけど、

そこで何かあったらしくて、それからさらに大嫌いになっちゃったみたいで、

助けを請われると危険でも平気で突っ込むし、身内を助ける時は手段を選ばなくなったの

 

42:名無しの転生者

oh…

 

43:名無しの転生者

もしかして:トラウマ

……やべえじゃん!?

 

44:名無しの転生者

大丈夫なのか、それ?

 

45:妻その1

>>44

そういう時は二人きりの時にわたしに甘えてくるから大丈夫

我慢できなくなったら、わたしが癒やしてあげるの

これはわたしだけの役目なの

 

46:名無しの転生者

はいはい、惚気乙

それで?

 

47:名無しの転生者

唐突に惚気を挟むなw

 

48:名無しの転生者

吐き出したいんだろ?

続きはよ

 

49:妻その1

>>34

これなんだけど、妻その2も生まれは地方組織の家で親が任侠の人だから妾が当たり前らしくて、

おまけに、自分が見込んだ男性に貢ぐことが大好きみたい

シキガミの娘は彼を全肯定する性格だし、

愛人の娘らも生まれが生まれだから妻その2に同調しているし、彼に惚れているから反対はしないの

 

50:名無しの転生者

すると、>>1は完全に納得していない?

 

51:名無しの転生者

スレ主は一般家庭の生まれか

 

52:名無しの転生者

そこんとこどうなんよ?

 

53:妻その1

わたしも片親とはいえ、普通の家だったからね

一夫多妻には、まだ納得しきれていないよ

実際、前にわたしとだけ結婚しないかって聞いた事もあるの

 

54:名無しの転生者

答えはなんて?

 

55:妻その1

「もう彼女らは身内だし情もあるので切り捨てるのは駄目だ」って

外堀を埋めるやり方が得意な妻その2の手腕が上だったのもあるけど、

彼自身が一度自分の懐に入れたら手放すのを嫌がるから

 

56:名無しの転生者

山梨支部所属の幹部でそんな事に長けている女性って怖すぎだろう?

どうして旦那は目をつけられたんだよw

 

57:名無しの転生者

スレ主の旦那も旦那で捻くれているけどな

このままだと、もっと愛人が増えるんじゃね?w

 

58:名無しの転生者

ガイア連合の幹部クラスって、変なのが多いなぁ

 

59:妻その1

>>56

それは彼女自身も彼に悪魔事件で命を救われたからだよ

その場にわたしもいたしね

それに、彼女の少し前にわたしも同じように助けて貰った側だし

 

60:名無しの転生者

スレ主も、同じ穴のムジナじゃねぇかw

まあ、命を助けられただけで惚れるというのもそんなにないけどなw

 

61:名無しの転生者

そんなだったら、俺だってモテまくりヤりまくりだろ

でも、そういうのは面倒なので式神ちゃんだけでいいです

 

62:名無しの転生者

まあ、それで知り合いが地方で婿入りして行った奴もいるけどな

そいつは3人相手がいて、精力剤代わりにマッスルドリンコ常飲しているなぁ

 

63:名無しの転生者

それで、スレ主的には今後どうしたいんだ?

女性特有の話に共感して欲しいのなら、ここは男だらけで難しいぞ

 

64:妻その1

>>63

まさに問題はそこなの

たぶん、>>57が言うみたいになるだろうし、

でも、彼が中心の今の共同体を崩したら【終末】で積む可能性があるの

わたし自身、彼が好きだし、他の女性も皆、彼に嵌っていると言えるし、

言うほど他の女性もいがみ合う事はないから女性同士もまず良好なんだけど

 

65:>>63

マジレスするぞ

スレ主、この関係は壊したくないからもう現状維持するって答えは出しているんだろ?

子どもとかセックスの事とかお金の事とかは、ここで聞かずに旦那たちと話し合って決めろ

そういう細かい不満を聞いて欲しいなら、女性同士で話してくれ

 

66:>>63

続けるぞ

家の強制力が高い地方組織なんかだと、まず家の存続が優先で家人の女性の意思が二の次なのは当たり前だ

今どきの社会に出た女性ならそういうのはナンセンスだろうが、『膿家』程じゃないがこの業界はこういう物だぞ

確かに動物だと番を決める決定権は女性側にあるけれど、人間はそう単純なものとは違うだろ?

 

67:>>63

なら、後は簡単だ

その中で他の女性にない自分だけの強みを持てば良い

>>45みたいな他に替えのない強みを持って堂々と接すれば良い

あと、旦那に報連相は忘れるな

はっきりと意見は伝えるようにしろよ

今後はスレ主次第だろうから頑張れ

 

68:妻その1

分かった、そういう風に頑張ってみる

ありがとうなの

 

69:名無しの転生者

……行ったか?

 

70:名無しの転生者

行ったみたいだな

それにしても久々にインパクトのある話だった

 

71:名無しの転生者

ああ

でも本当に、ガイア連合の幹部クラスって変なのが多いなぁ

 

 

 

 

 

 疲れたように便座の背に寄り掛かり、先程までスレに【>>63】として打ち込んでいた彼はため息をついた。

 

 

「あそこの場所では人工異界の構築のテストをしているんだからさぁ、こういう事で潰れるのは困るんだよなぁ。

 もうちょっと奥さんたちの手綱を握っておいてくれよ、アーッニキ。

 何でちょっとスレを覗いた俺が、夫婦仲の相談をしてアドバイスとかする流れになるんだよ、もう」

 

「休憩時間は終わりです、ショタオジ。

 さ、次の仕事が待っていますよ」

 

「……え? もう? いやもうちょっと待っ……」

 

 

 抗議も空しく彼が携帯ごとお世話係に抱えられてその場を後にすると、その男性用トイレは静けさを取り戻した。




後書きと設定解説


※今のこの作品の時系列は、本編第8~10話位の間です。
久々の掲示板形式は難しかった。


次は出来るだけ早くに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第40話 異界・白峰明ノ宮

続きです。
今回の異界のボスの方は、怒られると怖いのでさらっと流します。


 

 

  第40話 異界・白峯明ノ宮

 

 

 事件は彼女、夜刀神華の何気ない一言から始まった。

 

 

「ねえ、先生。

 先生といつも一緒にいる女の子の姿の人、カーマって神様ですよね?」

 

「そうだよ。

 インドの神話でも有名な神様だけど」

 

「あの神様、いつも食っちゃ寝しているだけで、戦い以外で何か役に立っているんですか?

 この異界に居る悪魔たち、いつも他に役目があるんですが」

 

 

 その言葉を聞き、側で隆和と彼女の訓練を見物していたカーマは思わず口に入れていた飲み物を吹き出した。

 

 

 

 

 初秋に吉澤加奈を加えてから、しばらく経ち年が明けた。

 

 あの彼女ら吉澤母娘が来て少しばかり騒動になった日、余人が来ることのない異界の屋敷の寝室にてなのはと千早にこんこんと現実を突きつける形で説得された事で隆和は頭を冷やす事になり、加えて彼女らから示された今後の関係の進展に関するかねてから準備されていたプランに同意した。

 

 まず、既存の結婚という形ではないが“婚姻”という節目は付けようという事になり、秋の間に6人全員とそれぞれ洋式か和式の好きな方でウェディディング写真を取りそれぞれの親に挨拶する事となった。

 挨拶に行った日は、母親の桃子に「やっと片付いた。娘をよろしく」と隆和に明るく言われたなのははぶんむくれ、千早の義父である佐川司は嫌味を言った事で千早と口論になった。他の4人の時はというと、式神のため居なかったり両親が死亡していたり実家と縁が切れているなどで撮影後は内輪で楽しく懇親会をする事となった。

 なお、懇親会に同席していた百々地希留耶と吉澤桃子は、特にもう何も言う事もないので仲良くホテルの高級料理に舌鼓を打っていた。

 

 その次に示されたのが、年末年始の長期休暇を使ったそれぞれ個別のデートと終末前の家族計画のプランである。

 その年齢と体質から今回は外された夜刀神華と実務の取り仕切りがある為に泣く泣く断念した千早を除き、子どもを望む彼女らにはこの異界の寝室に年末年始に行為を集中的にするために籠もる計画が示された。ここでこの計画を確実にしたのは、子どもを授かれる可能性を上げるアプサラスから進化したアナーヒターの存在である。

 アナーヒターはゾロアスター教において水がもたらす湿潤や豊穣を司り、男女の生殖機能を整え、子を産んだ母に母乳をもたらす女神とされている。本人はアプサラスの感覚のままでいた為、この事を指摘されてから気づいたようだったが。

 

 ともかく潔癖症気味の彼女をなんとか説得して動員し、クリスマスイブから3が日明けまで個別デートの後に隆和は代わる代わる来る彼女たち相手に籠もって中から出て来る事はできなかった。最終日、最後に来た肌を桃色に上気させ艶々にしたなのはが身体を洗うために裏の泉に向かっている間に、体重がすこぶる落ちた隆和は疲れた表情で憐れみ顔のアナーヒターに尋ねた。

 

 

「ガイア連合の回復薬に精力剤、カーマの回復魔法も限界まで使ってヤれるだけヤッたんだ。

 これで、なのはと和と加奈の方は大丈夫なのか?」

 

「いえ、初めてこう権能ぽいものを使ったんで判りません」

 

「おい、こら」

 

「だって、しょうがないじゃないですか。

 この姿になったばかりですよ、私。

 授かりものなんですから、継続的に続けてやるんですよ?

 長期の休みが取れそうなら、これからもやるそうですので頑張って下さい」

 

「え゛?」

 

 

 そういう事で、なのはと和と加奈の三人は今までより一層仲良く和気あいあいと仕事をする事になった。

 それで、事情を知ったウシジマニキやサラリマンニキに樫原翁からは隆和が会う度に、生暖かい視線と声援をされるようになったのは些細な事だろう。

 

 

 

 

 さて、それでは年が明けてしばらく経った頃の異界の浜辺で起きた冒頭の場面に戻る。

 その日、隆和はいつものように華と組手を行なっていたのだが、休憩中に彼女が先の発言をした事で口元を腕で拭ったカーマが彼女の方へと走り寄って声を掛け言い争いを始めた。

 

 

「何て事をいうんです、この娘は!

 私がさも役に立たないとでも言うかのような発言は、ちょっとどうかと思いますけど!?」

 

「じゃあ、この異界ではどんな役目があるの?」

 

「それは……、わ、私は彼と契約した神様で、彼からMAGを献上される代わりに彼の守護をしているのです。

 だから、ここでの役目は無くても大丈夫なんですー」

 

「私だって戦う以外だと巫女のお手伝いもしているんだけど、そういう事はしているの?」

 

「うぐっ、それは……」

 

「神話の勉強だってしているんだよ?

 カーマって神様は、何かに乗って弓を使うんだよね?

 乗るものはどこ?」

 

「の、乗り物の代わりに、私には【真・夢幻の具足】というどこにでも行けるスキルがあるのでいらないんですー。

 だから、質問はその辺にして下さい」

 

「それがあったら先生たちが楽になるかもしれないのに、連れて来れないの?」

 

「ぐっ、オウムの方はスキルになっちゃいましたけど、『マカラ』が居たらすぐにここの異界でも乗りこなしてみせます!

 そういう訳で、マスター! マカラを見つけて下さい!」

 

「人任せかよ」

 

 

 差し迫って急ぐ依頼などは無い隆和は、千早にも言われていたマーメイド以外の海中を見てくれる仲魔の必要性があったのでその『マカラ』を探す事にした。

 彼女の言うマカラとは、【龍神マカラ】の事だと分かったのは異界を出てパソコンで調べたからである。

 

 【龍神マカラ】。

 

 ヒンドゥー教神話において神々を河や湖で背に乗せたと言われている聖獣である。

 その姿は、象やワニのように尖った鼻を持ち、とぐろ巻く尾を持つ怪魚や龍、ワニとライオンの合成獣として表現される。

 なお、カーマの神話での異名には「マカラを旗標とするもの」というものもあったりする。

 

 だが、流石に今からインドまで探しに行く事は出来ないし、インドに直接行くのはカーマが絶対に嫌がるだろう。

 そこで、日本国内でどうにか出来ないか伝承に詳しい人に相談する事にした。

 

 

 

 

「それで麿呂でおじゃるか?」 

 

「はい。不躾ですが、それでお力添えを願えればと」

 

 

 隆和が向かったのは、京都神社庁の近くにある一条麿呂の事務所である。

 あてもなく探し回るわけにいかず、それならばと京都近辺の伝承に詳しい彼の所に来たのだ。

 こういう場合、最初に頼る千早は先日の件のその後の準備で何かするために手一杯らしく、トモエや他の皆もその手伝いに借り出されていた。

 こうして訪ねて来た隆和に、いつもの白粉と狩衣姿の彼は思案するように首を傾けている。

 

 

「龍神マカラを所望とな?

 確かに、隆和殿の契約しているカーマ殿のシンボルでもおじゃるがのう。

 麿呂は、ヒンドゥー教はヨガ教室くらいしか知らぬでおじゃるし、うーむ」

 

「何か伝承などで手がかりとかありませんか?

 そこから、目当ての異界が発見できればいいのですが」

 

「ちょっと待ってたもれ」

 

「はい」

 

 

 そう言うと彼は事務所にあった本を取り出し、それをめくり始めた。

 その本のタイトルには、『修験道と大権現~山岳信仰とその由来』と書かれていた。

 それと、ファイルから資料を取り出して見比べ始めた。 

 

 

「一つだけ可能性は高くないが、いる場所は特定できるかもしれぬ」

 

「その場所はどこですか?」

 

「まあ、待たれよ。

 その根拠も説明せぬのはある意味、不義理である故」

 

「不義理?」

 

「まず、カマラでおじゃるが元はヒンドゥー教のガンジス川の鰐の神クンビーラでおじゃる。

 これが仏教の側にも習合し、仏教の水運の神で、薬師如来十二神将の筆頭の【宮比羅大将】となったでおじゃる」

 

「なら、薬師如来を祀る寺を訪ねれば……」

 

「隆和殿。戦後のメシア教の所業を忘れてはおらぬか?

 主だった仏閣も根こそぎにされておるのではないかと麿呂は愚考するが?」

 

「……ああ」

 

 

 がっくりとした隆和に、苦笑する一条氏。

 

 

「まだ説明の途中でおじゃるよ。

 『宮比羅』とは、『金毘羅』『金比羅』ともされるわけで。

 後に、いわゆる『こんぴらさん』へと変わったでおじゃる。

 香川県の地にて神仏習合と修験道の流入と廃仏毀釈の末に、『大物主命』と共に祀られ『金毘羅大権現』となり海運の守り神となっていたのでおじゃる」

 

「……でも、少しでも有名なら」

 

「もちろん、メシア教の所業によりガタガタでおじゃる。

 でも、その地には一つだけメシア教の所業を切り抜けた場所があるでおじゃる」

 

「どこですか、それは?」

 

「讃岐御所の鎮座される廟、【白峰宮】でおじゃる。

 世に伝わる日本三大怨霊のお一人、【崇徳上皇】が眠られる地よ。

 記録では、皇家縁の地であり多少手控えた事で異界の内にて攻め入った者悉くが帰らぬ有様で、神社を守る家々を根こそぎに潰して溜飲を下げて引き上げたとされているでおじゃる」

 

「俺でも聞いた事のある有名人の崇徳上皇さまと金毘羅様に何の関係が?」

 

「なんでも保元の乱にて敗れ讃岐の地に流されたあの方は、生前に讃岐の金毘羅宮に滞在された記録があっての。

 そこから、死後に本社相殿に奉斎した、つまり、合祀されて祀られている縁があるのでおじゃる。

 ならば、あの方に目通り叶えばあるいは、という事でおじゃる」

 

「それが確かなら、四国まで行く準備をしないと」

 

「その前に、京都市内の神社【白峯神宮】を訪ねるでおじゃる。

 蹴鞠の守護神も祀られているためサッカーの関係者に有名な所でおじゃるが、主たる祭神はあの方よ」

 

 

 

 

 それから、数日後。隆和は四国香川県にいた。 

 何故、彼がここに居るのかというと、京都の白峯神宮を訪ねた際に直接彼の方から返答があったからだ。

 曰く、『話は会って聞くので、カーマを連れて直接こちらに来なさい』だった。

 

 目的地は、香川県坂出市にあるかの方を祀った【白峰宮】である。

 瀬戸大橋を渡りそこへ向かう彼の軽自動車には、助手席に地元組織の大赦の案内人である女性と後部座席にはその女性をじっと監視するトモエが同乗していた。案内人の女性は『浅間』と名乗る胸の大きい巫女風の女性で、こちらに来る間は何かと隆和に話しかけていた。

 

 

「そういう訳で慈悲深くも銀時さんはこうして支部も作って定住を決めてくださったんです。

 ですから、地元の女性を顧みるように是非、銀時さんにも推奨してください。

 音に聞こえた各地で男女を食べまくっている貴方のように」

 

「それ、別の人の噂が混じっています。

 【あべたかかず】って、うちの組織には俺の他にも何人か同じような人がいるので」

 

「そうなんですか? てっきり、貴方のことかと。

 じゃあ、最近聞いた京都にハーレム神社を作った方でしたか。

 それなら、うちの方でも見ていかれるのですか?」

 

「大赦の方、そういう事は関西支部の方へご連絡を。

 ちゃんとそういう依頼を正式にされれば、募集はされるそうなので」

 

 

 ギロッと睨むトモエに焦ったように言い返す女性。 

 

 

「いえいえ、今回は向かう先が向かう先ですから、そういう暇は無いと理解しています。

 でも、噂がそういう方ですので一応は確認しておかないと」

 

「そういう確認は不要です」

 

「申し訳ありません。

 ですが、地元の我々でもあそこは触れてはならないと神樹様にもキツく言われていた場所なので。

 そこを目的にガイア連合の方が来られるなら、こちらもいろいろと準備をせねば、と」

 

「今回はそこの神社に詣でるだけなので大丈夫です。

 ああ、着きましたね」

 

 

 車から降りて神社に向かう一行を、その女性は拝殿近くの赤い三輪鳥居を潜った途端に姿を消すまで見送った。

 

 彼らが戻って来たのは、翌日だった。

 隆和やトモエは服がボロボロで、行くときには姿を見せなかったカーマがグスグスと泣きながら出てくるのを鳥居の前で待っていた大赦の構成員が見つけて大騒ぎになった。

 隆和たちは中の事を聞かれると、

 

『目的のものは手に入れた。口止めはされているし、中での事は語りたくない』

 

 とだけ語り、四国を後にした。

 大赦の面々は、やはりここの異界はここの神社の家に任せて距離を置こうと改めて組織内に通達を出したという事だった。

 

 

 

 

 それから、また数日後。

 華門神社の異界の海の沖の方で、得意げなカーマと楽しげな華が全長2m以上はある龍の頭を持った奇妙な魚のような姿の【龍神マカラ】に跨がり水上をかなりの速さで進んでいるのが見られるようになった。

 

 隆和たちがあの白峰宮の異界で遭遇したのは、崇徳上皇とそれを守る【鎮西八郎為朝】とその一党二十三騎の姿だった。

 かの方が言うには、封印前に宮比羅大将に預けられた分霊を元の主であるカーマもいるので譲っても良いとの事だったが、条件があった。

 その条件は、今日、そこまで鍛え上げた者を見るのは久しぶりなのでと、代わりに主上の無聊を慰めるために側に控えていた鎮西八郎一党らと彼らが心ゆくまで腕比べに付き合ってくれだった。数百年、技を鍛えて来た凄腕技量集団であったので結果、隆和は組み討ちでトモエは刀術でカーマは弓術でと得意だと思っていた部門でスキル無しで勝負し彼らはボコボコに“かわいがり”を受けた。

 

 隆和としては、この光景を見れた事でまあ成功だったと思う事にした。

 ショタオジのキツめコース並だったのでもう行きたくないが。

 

 後に、たびたびガイア連合の方へ彼らから強者の派遣を望む依頼が来て関係者が苦労する事になるが、それは別のお話である。




後書きと設定解説


・関係者

名前:マカラ
性別:男性
識別:龍神マカラ
ステータス:レベル13
耐性:火炎弱点・氷結耐性
スキル:ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)
    ジオ(敵単体・小威力の電撃属性攻撃)
    タルンダ(敵全体・攻撃力を1段階低下させる)
詳細:
 インド神話においてカーマや神々を河や湖で乗せたと言われている聖獣
 巨大な魚の一種で、ワニを基本とし、カバや象、龍の特徴を持つとされる
 仏教では宮比羅大将であるともされ、水運の守り神金毘羅様でもある
 メシア教襲来以前に本霊からあの方に預けられていた分霊

【英傑チンゼイハチロウ】
レベル?? 耐性:物理耐性・銃耐性・毒無効
スキル:グランドタック(敵単体・特大威力の銃属性攻撃)
    天扇弓(敵全体・大威力の銃属性攻撃)
    銃プレロマ(自分の銃撃属性攻撃時の攻撃力を強化する)
    勝利の息吹(自分のHPが戦闘勝利時に回復する)
    三分の活泉(自分の最大HPを大きく上昇させる)
    不屈の闘志(自分のHPが0になると一度だけHP全快で復活する)
詳細:
 本名、源為朝。平安末期の武将で九州で反乱を起こした時に鎮西八郎と名乗った
 身長2mを超える巨体のうえ気性が荒く、剛弓の使い手で剛勇無双を謳われた
 保元の乱において後白河天皇ではなく、崇徳天皇の側に立ち戦った記録がある
 弓の一射で300人の乗る船を沈めた逸話がある平安◯ンダム
 この劣化分霊は伊豆大島の本霊より讃岐御所への出仕のために派遣された者

ここはこの為朝にたぶん、呪殺貫通持ちマハムドオンを使うであろう御方がボスの異界です。

次は出来るだけ早くに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第41話 地方巡業・椿ヶ沼村

続きです。


 

 

  第41話 地方巡業・椿ヶ沼村

 

 

 龍神マカラを神社の異界に迎えてからまたしばらく経ち春になった。

 

 ガイア連合としては、エジプトでメシア教過激派と多神連合の大規模な激突が起きてエジプト神話の神々が周囲の地域に増援を求め始めて日本への避難民がより一層増加するという注視すべき大事件が起きていたが、隆和たちの方でも大きな事件が起きていた。

 

 高橋なのは、華門和、吉澤加奈の同時期懐妊である。

 

 彼女たちのたっての希望でもあるので、山梨での修行も月一まで頻度を落とし仕事も依頼は受けずに警備員の業務にのみ絞りひたすら彼女ら一人ひとりと過ごしていた。

 3ヶ月もそうしているならばまあ当然であるし、アナーヒターとカーマの加護と高レベル故の体力にスキル由来の技術もあってあれだけしているなら当然の結果とも言える。

 この事もあり関西支部での体術のインストラクターの講座は続けるようだが、吉澤母娘も正式に華門神社へと引っ越して来て加奈の娘の桃子も年の近い夜刀神華と一緒に元気に過ごしている。

 

 

「前から聞きたかったの。

 どうして加奈さんは彼に抱かれて子どもを欲しいとまで考えるようになったの?

 いくら何でも会ってからの時間が短すぎるの」

 

「地方の霊能者の女性で、ガイア連合の幹部クラスの方とこういう関係になりたい者は多くいるんですよ。

 私の場合はそういう打算も無くはないですが、一番は前の夫や義実家の男達よりすごく優しい方だからですね」

 

「……どんな所が優しいの?」

 

「そうですね。

 私たち母娘の事は大事に扱ってくれる所でしょうか?

 まず酔って殴りませんし、味付けが薄いと料理を投げてきませんし、生理痛で動けない時に邪魔だと蹴ってきませんし、夫が亡くなった後で無理やり夜這いして来ないとか、娘を強引に嫁に連れ出そうとしないとか、あとそれに……」

 

「ごめんなさい、もういいです。

 ここで加奈さんは幸せになりましょう。

 ここはそういう事は絶対にしないから!」

 

 

 彼女がここへ越して来た時になのはが加奈に聞いた事で一騒動あったそんな一幕もあったが、彼女も今は幸せそうにここで過ごしている。

 

 “お父さん”。実感は無いが、自分が父親。

 

 隆和は自分がそう呼ばれる事になるのならば、まず喫緊でしなければいけない事は神社の異界の事をどうにかする事だろう。ここの神社の実務を取り仕切っている事もあり、今回は我慢する事になった千早の喜ぶ3人の顔を見る寂しげな表情を早く何とかしたいと彼は考えた。

 水は何とかなった、海の方も一段落した、次は異界内での食料の調達だろう。異界内の畑に使うエリアの作業はもう終わっているのでそこを担当する担当者が必要だ。ただ、メシア教の戦後すぐの所業により日本の主だった神々は封印されるか消滅させられている。どこかに農耕に権能を持つ神様はいないかと千早が方々に聞いた結果、神社の禰宜である樫原翁からある事を聞かされた。

 

 

「何でお主ら、農業の神を探しているなら恐山の連中に聞かないんじゃ?」

 

「あそこは口寄せを中心とした祖霊信仰の霊地で、そういう神様はいないと聞いているんやけど?」

 

「恐山は祖霊信仰だけじゃないぞ。

 小正月に行なっておる『オシラサマアソバセ』の事は知らんのか?」

 

「その神さまて、岩手や宮城の神様やなかったんか?」

 

「その祭祀には青森南部のイタコが参加するものだぞ」

 

 

 驚く千早と隆和に、樫原翁はその『オシラサマアソバセ』について語った。

 

 『オシラサマアソバセ』とは、【神樹オシラサマ】の祭儀の事である。

 

 オシラサマとは、青森県や岩手県、宮城県の県北部などで信仰されていた男女一対の屋敷神のことである。桑の木の棒に『オセンダク』と呼ばれる布が何重にもかぶせられていて、頭巾をかぶった包頭型、頭が出ている貫頭型の2種類がある。悪魔の姿としては、赤い女性の着物を着た宙に浮く木彫りの人形を思い浮かべて欲しい。

 一般には蚕の神、農業の神、馬の神、女の病の治癒を祈る神、目の神、子の神などとされているが、本質は家を守る神で守る家の家業によってその守護する物を変えて大漁祈願や五穀豊穣の神にもなる神である。

 

 また、オシラサマアソバセは、1月の小正月の時期に家々に祀られたオシラサマを出して遊ばせる、神様を「起こす」儀式だ。もともとは地元の一族の長老の女性が祭主となり遊ばせていたが、江戸時代の末期からイタコが関わるようになった。それには、死者の口寄せと同じようにオシラサマアソバセの唱え言があり、先祖の魂を通して目の不自由なイタコがそれぞれの家の一年を占っていく儀式となっているそうだ。

 

 それを聞いた千早は恐山支部へと電話で問い合わせた。

 すると、向こうからはこちらの依頼を一つ解決してくれるなら、何でもメシア教のせいで途絶えていたが、現地へガイア連合の協力者がいて復活したらしい遠野にある伝承園の御蚕神堂に話を通してオシラサマを一柱こちらへと分祀しても構わないという返答を得た。

 その答えを聞いた隆和は一路、恐山へと行く為にトラポート持ちの腐百合ネキに連絡を取る事にしたが、何故その事を知っていたのか不思議に思い樫原翁に尋ねた。

 すると、彼はつまらなそうにこう答えた。

 

 

「わしの家伝の秘術は、薬師と呪殺を用いた美容法だぞ。

 とても微弱な呪殺で毛根のみを殺して永久脱毛するのがその奥義だ。

 お主の嫁たちやうちの者は皆、全員受けてツルツルなのは知っておるだろうに。

 お主だって嫁たちの要請で、股間以外の首から下の体毛は全て消しただろう。

 何? 理由になってないだと?

 この処置を受けに、はるばる青森から来たイタコの連中がおったというだけだ」

 

 

 

 

「それじゃ、アーッニキ。

 あたしはここで掘り出し物を探して帰るから、迎えはまた連絡してね」 

 

「ああ、すまないな。またよろしく」

 

 

 恐山支部のジュネス内にある太平堂書店のBLコーナーへと消えていく腐百合ネキと別れ、隆和はイタコの女性から依頼の書かれた書類と現地まで向かうための車の鍵を借りると、周囲の一部の女性が発するネットリとした視線から逃れるように同道しているトモエと早足で駐車場へと移動し支部を出た。

 

 依頼の内容にはこう書かれていた。

 場所は恐山から車で約4時間掛かる十和田湖付近の東の山中の里で、そこの10戸程の小さな里で里の守り神を祭る家の確認に向かって行方を絶ったイタコの安否の確認をお願いしたいという内容だった。ただ、占術を使うイタコから念のために出来るだけ高レベルのガイア連合の人にお願いするようにとの助言があったという事だ。

 そして、手すきの人を探している時に千早からの電話がありこちらに依頼が回ってきたという事らしい。

 

 助手席に座るトモエがそれを読み上げるのを聞き、麓の町で車を降りて長時間をかけて狭い山道を通り彼らは目的地の里に着いた。そこは、いつぞやのあの女郎蜘蛛のいた里よりもさらに小さく辺鄙な里であった。

 またあの場所のようになし崩しに戦いに入るよりはと、隆和たちはそのまま里の周囲を迂回するように回り込み慎重に森の中を進む。

 

 

「主様。なぜわざわざこんな事をしているのですか?」

 

「ん? 何故って、目的は調査だからだ。

 里によって話を聞くより、直接異界なりに行って祭神の安否を見た方が早いからだよ」

 

「里の者に話を聞かないのですか?」

 

「連絡が付かなかった割には普通に暮らしているようだ。

 なら誤魔化されたり、【騙して悪いが】されるよりはこうした方が面倒が少なくていいよ」

 

 そう小声で問うトモエに肩を竦めて答えた隆和はトモエを促ししばらく進むと、里の奥から森の方へと続く細い山道を発見した。

 そして、周囲を見渡し誰もいない事を確認すると森の奥の方へと進んで行った。

 

 

 

 

「~~~~~~!? ~~~~~♥♥」

 

「~~~! ♥♥♡♡!!」

 

「~~~~~~~♡♥」

 

「ぐひひひひ、もっと娘がいるなぁ。俺はあいつとは違うんだからなぁ」

 

 

 森の奥にあるその沼地の異界では、岸に並べられた3人の裸の女性達がくぐもった嬌声を上げていた。

 彼女らの中心にいて生温い泥濘の中でほくそ笑んでるのは、頭部が鰻のそれになった男で首から下は着物を纏った人という姿の悪魔だった。

 この悪魔は、【邪竜ウナギオトコ】。

 

 岩手県岩手郡雫石の伝承に伝わる妖怪で、村の美しい娘に自分の子どもを産ませようとしたが娘の家の軒下に潜んでいる時に仲間との話を聞かれてその企みを娘の両親に潰された逸話が伝わる水妖である。この個体は、その時に同族の仲間と話をしていたもう一体の方になる。

 逸話で失敗した方は前に天使に追われた時に死んで、こいつはたまたまこの里へと逃げ込んだ。

 そして、里の女を犯し奇跡的に生まれた魅了の力を持つ娘を村長に据え、近くの街から人を呼び寄せて力を蓄えもっと手駒になる子どもを産ませるつもりでいた。

 ウナギオトコは、たまたまこの村に来て捕まえた特に力を持つ巫女服を着ていた女性たちと一緒にいた天使共の信徒の服を着た娘に目をつけ、この娘達ならまた力を持った子供が出来るとこの幸運にとても喜んでいた。

 

 もっとも、その幸運は続かなかった。

 下卑た笑みを浮かべ再度娘達を犯すべく立ち上がったウナギオトコは、ふと入り口から騒がしい物音がするのでそちらの方を見るや一本の矢が飛来して片目を抉られ絶叫した。

 

 

「【魅了突き】!」

 

「ギイィィヤァァァァ!」

 

「死ねっ、【チャージ】【地獄突き】!」

 

「【黒点撃】!」

 

 

 カーマの攻撃で動きを止めた所に走り込んで来た隆和と【攻撃の心得】【物理ハイブースタ】【ミナゴロシの愉悦】の乗ったトモエの全力の一撃を受け、ウナギオトコは絶叫を上げたまま何が起きたのかも分からないままマグネタイトの塵へと消えていった。

 

 さて、そんな相手の都合など知る由もなく、いつもよく見る死霊や幽鬼ガキを蹴散らし奥に来てその様子からウナギオトコを有無も言わさずに殺した隆和たちは、周囲を調べようとするもボスを倒した事による異界の崩壊が始まってしまった。

 

 

「ちっ、何がなんだか判らないが生きているし救助は出来た。

 二人は俺が運ぶから、トモエが一人背負ってカーマは先導を頼む!」

 

「はい、主様!」

 

「はいはい、じゃあ急ぐから逸れないようにねー」

 

「よし、急ぐぞ!」

 

 

 隆和は意識も虚ろな状態の女性を2人両脇に抱え、トモエがもう一人を背負うのを確認するとカーマを先頭に入り口へと駆け出した。

 

 

 

 

 無事に脱出し異界のあった場所がただの干上がった沼地に変わった森の中の広場で、この裸の女性の三人をどうやって運ぶかが問題だった。とりあえず、木に寄り掛かるように寝かせると隆和たちは相談を始めた。 

 

 

「さて、彼女らをどうやって運ぶかだけどどうしようか?

 このまま裸の彼女らを連れて行くと里の連中に見つからなくても、俺が警察に追われる事になりかねないのが問題だな」

 

「主様、携帯で応援は呼べませんか?」

 

「山奥過ぎて電波が届かないな。

 運ぶだけならいいが、どこかで服を調達しないとな」

 

「うーーん。やっぱり、里から持って来るのがいいんじゃないですかー。

 連中がこの件にどう関わっているかは知りませんけどー」

 

「カーマの言う通りそれしかないか。

 俺が忍び込んでみるから、二人はここで彼女らを頼む」

 

「判りました、主様」

 

「おっけー」

 

 

 女性達をトモエとカーマに任せ、隆和は里に向けて山道を歩き出した。

 里まではそれほどの距離ではないなので慎重に近づいていた彼だったが、しばらく行くと里の方から悲鳴が聞こえて来た。思わず駆け出し、隆和が里の入り口まで来るとそこは大勢の人が倒れ伏す凄惨な現場となっていた。

 

 

「【アギ】」

 

「死になさい、邪教徒たち! 【ザン】!」

 

「よーし、これでも喰らえ。ライデ◯ン!」

 

「ぎゃああ!」「い、嫌だー!」「ひぃぃっ!」

 

 

 白色の服のシスターが衝撃波を一緒にいる神父服のカソックを身につけた男が火炎を放ち、派手な装飾の両手持ちの剣を持ったジャージの上にケブラージャケットを着た少年が広域電撃魔法を放って里の人々を蹂躙している。 

 思わず、隆和が飛び出しそれに声を掛けた。

 

 

「おい、お前ら。何をしているんだ、やめろ!」

 

「ん? なんだ、まだ仲間がいたのか……よっ!」

 

「あ、助け……ぐぶっ!」

 

 

 隆和が声を掛けたのに気付いた里の女性と思われる濡れたような黒髪の美女が助けを求めるが、その近くまで走って来た少年が持っていた剣を振るってその女性を切り捨てた。そして、そのまま少年は隆和に斬り掛かってきた。  

 

 

「どうせ、お前もここの悪党の親玉かなんかだろう?

 一緒に死んどけよ!」

 

「おっと、おい話を聞かせろ。お前ら、メシア教の関係者か?

 これはどういう事だ?」

 

「ちょろちょろ避けんじゃねぇよ、おっさん!

 さっさと死ねよっ!」

 

「うるせぇ、少しは黙れ!」

 

「ぐぼっ!」

 

 

 しつこく斬り掛かって来る隆和のアナライズにはレベル17の異能者と映る少年をかなり本気で殴り飛ばし、そこに慌てて走り寄るレベル11異能者のシスターとこちらを警戒しながら見るレベル10異能者の神父服の男に改めて隆和は話しかけた。

 すると、防具が凹む怪我をした少年に治療魔法をかけたこの一行の交渉役らしいシスターがそれに答えた。

 

 

「俺はここの調査を依頼されて来たガイア連合の者だが、メシア教がここに何の用だ?」

 

「ガイア連合の方ですか?

 私たちはここの近くにある新郷村のメシア戸来教会の者です。

 こちらに邪教徒がいると聞き、征伐に来ました」

 

「マーテル! こんなおっさんなんかに何でそんなに丁寧に挨拶しているんだよっ!」

 

「ゆうくん。ここはお姉さんにまかせて。

 大丈夫だから、ね?」

 

「……わかったよ。

 でも、変な真似をしたらただじゃおかない」

 

「失礼しました。

 私は【シスター・マーテル】。そこの彼は信徒の『ネオファイト』。

 そして、我々の聖戦士である【広野勇気】くんです」

 

「……ふん」

 

「俺は安倍隆和だ。いったいどうなっているんだ?」

 

「それは……」

 

 

 不貞腐れる少年と無口で警戒だけする男は別として、シスターの少女は事情を語り出した。

 

 そもそも彼女らがここへ来たのは拠点としている新郷村近辺の【平定】が目的であり、ガイア連合製のアナライズ機器で周辺を調査していた信徒の一人がここの里に人のふりをした悪魔がいると報告に上がった後に姿を消したからだそうだ。彼女の指差す先にいる少年に斬り伏せられて倒れ虫の息の女性は、確かに隆和のアナライズにもレベル10の半悪魔と映っている。

 彼女らがこの里に来たときに問いただす彼女らへ魅了の魔法をこの女性が使ったので敵対したと判断し、武器を持った里人らも出て来たので応戦したと彼女は語った。

 

 

「なるほどな。

 とにかく、ここの異界のボスはもう俺が倒して異界も閉じた。

 後は俺の方でここは処理するからお引き取り願おうか」

 

「おい、おっさん。出鱈目言ってんじゃないだろうな?」

 

「ゆうくん!」

 

「……ちっ、じゃあもういいんだろ。帰ろうぜ、マーテル」

 

「あ、ちょっと……」

 

「◯ーラ!」

 

 

 隆和が彼女らに帰るように促すと、不貞腐れていた少年が叫びシスターが止める間もなく3人の姿はこの場から消え去った。

 隆和はため息をつくと、倒れていた女性に魔石で応急処置を施し彼女の服を破いて拘束すると、犠牲者の女性の服を調達し電話をかけるために近くの民家に入って行った。

 

 

 

 

 事件のあった日から数日が経った。

 

 あのあと、隆和は携帯が通じないために民家にあった固定電話から恐山と地元の組織の応援を呼んで後処理をお願いした。

 犠牲者として捕らえられていたイタコの女性2人とメシア戸来教会のシスターだった少女も、病院で治療を受けて後遺症もなく順調に回復しているそうだ。また、異界のボスだったウナギオトコが消えた事で里側の首謀者だった女も観念し、村の外の女性を捕まえては父親であるウナギオトコに捧げていたと洗いざらい情報を吐いた後はあの里の場所も含め恐山支部の方で始末をつけたと報告があった。

 

 ただ、懸念すべき事項であるのは、メシア教のシスターと共にいたあの少年は誰なのか?

 今回のクレームと被害者のシスターの事も合わせてメシア教側に問い合わせても、

 

『悲しい行き違いがあったのは残念ですし、救助には感謝します。

 ただ、彼らについてはこちらの方で処分を下しますのでご容赦下さい』

 

 との返答があるだけだった。この事は千早と協議して山梨支部へも報告し、調査を依頼したのでしばらくしたら判るだろう。

 

 それらの報告書を見ながら隆和は、華門神社の異界の北側の畑の広がるエリアで夜刀神華や吉澤母娘なども一緒に畑作業をしている今回の報酬としてお越し頂いたオシラサマを眺めて首を傾げていた。

 その姿は身長2mになろうかというでっぷりした白い肌の巨漢で、頭に赤い盃を被り赤い褌を着用した姿であった。今回は農耕神としての分祀であるので、某巨大な風呂屋の異界に両親と彷徨い込んだ少女が主人公の映画に出ていた大根の神さまの姿でいらしたとの事だった。

 楽しげに作業する皆と一面に広がる大根畑を見て、隆和は頭を振ると自分も参加するべく歩いて行った。




後書きと設定解説


・関係者

名前:オシラサマ
性別:男性
識別:神樹オシラサマ
ステータス:レベル21
耐性:火炎弱点・破魔無効・呪殺無効・精神耐性
スキル:シバニ(敵全体・低確率で混乱付与)
    マカカジャ(味方全体・魔法の攻撃力を1段階上昇させる)
    メディア(味方全体・HP小回復)
詳細:
 日本の東北地方で信仰されている神様
 主に家の神、養蚕の神、農業の神、馬の神などとして崇められている。
 普通はイタコとも縁が深い女性の着物を着た木彫りの人形の姿で現れる
 今回は農業の神なので、赤い盃を被り赤い褌をした巨漢の大根の神様の姿で現れた

・敵対者

【邪竜ウナギオトコ(トゥナ)】(ボス)
レベル16 耐性:氷結耐性・電撃耐性・衝撃弱点・破魔無効・呪殺無効
スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
    マハジオ(敵全体・小威力の電撃属性攻撃)
    巻き付き(敵単体・小威力の物理攻撃。低確率で緊縛付与)
詳細:
 岩手県岩手郡雫石に逸話が残る里の美女に子を産ませようとした水妖
 この山奥の里では上手く行き、十数年ほどここを支配している
 外からの人を棲家の沼に連れて来させては贄にしていた
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性あり

【半魔の女】
レベル10 耐性:氷結耐性・破魔無効
スキル:セクシーアイ(敵単体・中確率で魅了付与)
詳細:
 この山奥の里の里長の家の娘を装う鰻男の実娘
 湿り気のある長い黒髪が目立つ妖艶な容姿の美女
 この里の祭祀を取り仕切る半妖の女怪

今回の『うなぎ男』と『おしら様』は、青森付近に実際に伝わる民話を元にしています。
あと、おしら様の姿は、「おしら様 千と千尋」で検索してみて下さい。


次は出来るだけ早くに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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華門神社資料集(第41話時点)

第41話時点での華門神社と異界の設定を上げておきます。
自分でも時々分からなくなりそうなので。


異界・華門神社設定

 

 

霊能組織・華門神社

 

華門和と共に暮らす元土御門家の家人たち

全員がいずれ一族や土御門家のために篭絡要員になるはずだった

全部で人員は十数人いて、男性は陰間5人と樫原翁だけで後は女性のみ

まとめ役は禰宜で最長齢の樫原蔵六翁

 

 

地上施設設定

 

元々は『京都ヤタガラス』の篭絡要員の養成用の屋敷

現在、神社に改装されてガイア連合製の結界を敷設済み

手前が社務所と2階建て1DKのアパート型宿泊施設10戸

中央に拝殿と異界のある本殿

奥に地下にシェルターがある居住用の屋敷

付近に淀城跡や京都競馬場がある

 

 

異界設定

 

名称:人工異界・華門島

大きさ:約500m四方の島と周囲を囲む海

    (東京ディスティニーランドとほぼ大きさの島)

形状:西側に入江の砂浜と平野部

   東側は切り立った標高の高い山と林

   北側は新設された畑のエリア

   南側は仮設住宅の並ぶエリア

   周囲は入江以外は砂浜はなく切り立っていて上陸は難しい

気候:初夏の瀬戸内海とほぼ同じ想定・天気変化ランダム・昼夜あり

建築物:厳◯神社風の旧民家状の主屋敷と出入り口のお堂(西側)

    異界避難時用プレハブ仮設住宅(南側)

    ※ガス・水道は無く、電気は小型発電機のみ

    ※煮炊きと明かりは主に薪や炭の竈とランプを使用

人員:

 管理者権限所有:天ヶ崎千早・安倍隆和

 主利用者権限所有:高橋なのは・華門和・夜刀神華・吉澤加奈

 利用者:吉澤桃子・樫原蔵六・神社所属十数名(異能者・非覚醒者含む)

 主要警ら担当:田中菲都

 主建築物管理担当:華門和とお付きの巫女3名

 水質管理担当:アナーヒター(天女アナーヒター) 

 水質管理担当:ルサルカ(妖精ルサールカ)

 水中管理担当:エイプリル(鬼女マーメイドリーダー)

        ベルタ(鬼女マーメイド)

        クリス(鬼女マーメイド)

        ドーラ(鬼女マーメイド)

        マカラ(龍神マカラ)

 田畑管理担当:オシラサマ(神樹オシラサマ)

 山林管理担当:スダマ(地霊スダマ)×2

        コダマ(地霊コダマ)×2  

 食客:カーマ(幻魔カーマ)

 

 

異界所属仲魔データ

 

ガイア連合製の契約書の契約で、人間への危害の禁止、居住する異界の維持に務める等を主に記した雇用契約書を結んでいる

 

 

名前:アプサラス

性別:女性

識別:天女アプサラス

ステータス:レベル10

耐性:火炎弱点・氷結耐性

スキル:ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)

    マハブフ(敵全体・小威力の氷結属性攻撃)

    子守唄(敵全体・中確率で睡眠を付与)

    ディア(味方単体・HP小回復)

詳細:

 かつて悪太郎によって乱暴を受けた祠の天女

 インド神話における水の精だがたまたま日本に現れた

 現在は、祭神から立派なブラック労働者に転職した

名前:アナーヒター

性別:女性

識別:天女アナーヒター

ステータス:レベル21

耐性:火炎弱点・氷結吸収・破魔耐性

スキル:ヘルズスプラッシュ(敵全体・中威力の氷結属性攻撃)

    メディア(味方全体・HP小回復)

    ラクンダ(敵全体・防御力を1段階下げる)  

詳細:

 アプサラスが成長し変化した軍神でもある河の女神

 清浄を意味する名を持つ水を司る豊穣の女神でもある

 容姿はメガテン準拠だが、顔つきは若干優しめになっている

 レベルが低いため、黄金の板は8でなく6枚しか無い

 ルサルカとは同じ属性の悪魔として喧嘩仲魔

 

 

名前:エイプリル

性別:女性

識別:鬼女マーメイド

ステータス:レベル12→14

耐性:火炎弱点・氷結無効・電撃弱点

スキル:アイスブレス(敵複数・2~4回の小威力氷結属性攻撃)

    ドルミナー(敵単体・中確率で睡眠付与)

    マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)new!

装備:黒いリボン(リーダーの証。悪魔が着用できるリボン)new!

詳細:

 「悪太郎の洞窟」に湧いていた人魚の悪魔

 ウミボウズに世話役として飼われていた

 現在は、華門神社異界のマーメイドたちのリーダーになった

 部下マーメイド(レベル10・ベルタ、クリス、ドーラ)がいる

 

 

名前:ルサルカ

性別:女性

識別:妖精ルサールカ

ステータス:レベル18

耐性:火炎弱点・電撃反射・破魔弱点

スキル:マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)

    タルンダ(敵全体・攻撃力を1段階低下させる)

    スクンダ(敵全体・命中、回避率を1段階低下させる)

    デカジャ(敵全体・能力上昇効果を消去する)

詳細:

 スラヴ神話の水神、または水妖とされる赤い髪の女性悪魔

 若くして死んだ花嫁や水難事故で死亡した女性がなるとされる

 他人の邪魔をするのが得意な白い服を着た緑の肌の美少女の容姿

 

 

名前:マカラ

性別:男性

識別:龍神マカラ

ステータス:レベル13

耐性:火炎弱点・氷結耐性

スキル:ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)

    ジオ(敵単体・小威力の電撃属性攻撃)

    タルンダ(敵全体・攻撃力を1段階低下させる)

詳細:

 インド神話においてカーマや神々を河や湖で乗せたと言われている聖獣

 巨大な魚の一種で、ワニを基本とし、カバや象、龍の特徴を持つとされる

 仏教では宮比羅大将であるともされ、水運の守り神金毘羅様でもある

 メシア教襲来以前に本霊からあの方に預けられていた分霊

 

 

名前:オシラサマ

性別:男性

識別:神樹オシラサマ

ステータス:レベル21

耐性:火炎弱点・破魔無効・呪殺無効・精神耐性

スキル:シバニ(敵全体・低確率で混乱付与)

    マカカジャ(味方全体・魔法の攻撃力を1段階上昇させる)

    メディア(味方全体・HP小回復)

詳細:

 日本の東北地方で信仰されている神様

 主に家の神、養蚕の神、農業の神、馬の神などとして崇められている。

 普通はイタコとも縁が深い女性の着物を着た木彫りの人形の姿で現れる

 今回は農業の神なので、赤い盃を被り赤い褌をした巨漢の大根の神様の姿で現れた

 




あれ、伝手で集めた仲魔が皆、火炎弱点で氷結に強いタイプばかりになったぞ??


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第42話 異界・羅生門再び

続きです。
今回は有名な方に声だけ出演頂きました。


 

 

  第42話 異界・羅生門再び

 

 

 東北への遠征から一ヶ月が経過した。

 異界の内部もほぼ完成し、徐々にこの華門神社の変化も落ち着いてきていた。

 

 まず、同時に三人が妊娠したことによる影響は徐々に現れていた。

 周りも彼女らが中心になるように行動するようになって行ったのもあるが、それが如実に出ているのが隆和の行動である。所用などでここを離れなければならないとき以外は常に誰かの側にいるようにして、彼女たちの世話なども甲斐甲斐しく熟していた。

 また、山梨での異界の中層での訓練も、突出した魔法戦力のなのはがいないと隆和・トモエ・カーマだけでは物理反射やテトラカーンを使う悪魔が出ると途端に勝率が激減するからというのもあり、レベル維持のためだけに行なうようになり回数を減らす事になっていた。

 

 また、代表でもある華門和の懐妊もあり、隆和のこの行動に神社内のメンバーも活気づいていた。

 

 例えば、神社内の男性構成員である。

 今のクリニックなどの永久脱毛よりも熟練すれば短時間・低価格で済む事もあり、たまに外から樫原翁の施術を受けに来る霊能組織の女性もいる事から彼らは食いっぱぐれないよう翁に弟子入りして技術の習得に励んでいた。

 女性構成員たちの方も普段どおり業務を熟しつつ、あの男性構成員や外部の男性を捕まえるか自分の能力を伸ばしてここの経営側に参加するかなど色々と模索していた。

 

 もっとも今の神社の業務はと言えば、もっぱら京都競馬場目当ての関係者の宿泊客の応対と拝殿に祀られている神々の参拝に関する諸事が主であった。ちなみに、ここの神社で祀っているのは主に和の転生元であるアメノウズメに、ついでに異界内にいるアナーヒターに宮比羅におしら様とご神体代わりの木像が増えていた。

 そのため、地元民や観光客には変な神社だと思われていたのだが神社の構成員たちは気にしていなかった。

 

 さて、ここまで来るとあと問題となってくるのは、『防衛』に関する事だろう。

 

 特に、隆和が不在時のそれが問題だった。この周辺は関西支部とここも含めた各ガイア連合派出所と現地組織の協力で、現在は概ね平和である。あるが、去年の半グレ集団の襲撃やその後に隆和が遭遇しただけでもゴロゴロと火種が転がっていた。あと、この地には、千年以上日ノ本の中心だった魔都『京都』とそれにまつわる多数の異界がすぐ近くにあるのを忘れてはならない。

 

 

「今の華門神社の様子はこんな感じやな。

 そういう訳だから、うちもレベルアップをしようと思うんやけど?」

 

「ん? 今はここの防衛の事を話し合っているんだよな?」

 

「そうや。だからこそ、うちのレベルが低いのがネックになっているんや。

 うちらの中でも実力のあったなのははんは、無理できん身体になったから余計にやな」

 

 

 他人が早々に入れない異界内の主屋敷で、諸々の資料の書類を見ながら今後の見通しについて隆和と千早は話し合っていた。妊婦の3人はトモエも介助し神社内の屋敷で過ごしており、夜刀神華とカーマはマカラ水上走行をしているのか笑い声が時々聞こえてくる。

 ため息をついた千早が、怪訝な顔の隆和に資料の一つを示しながら語り出した。

 

 

「契約で多数の悪魔がここの維持に勤めてるのは隆和はんも分かっとるやろ?

 で、契約の書類上はうちと隆和はんが連名でサインしとる。

 でも、悪魔の皆の忠誠はレベルの高い隆和はんに向いとるんや」

 

「だから、レベルアップが必要か」

 

「そうや。

 いざここが襲撃された時に、うちの指示には従わんとなったら最悪や。

 隆和はんがいつもいるという訳でもないんやし」

 

「そういう事なら、最低でもレベル20は欲しいぞ。

 今は、……12か」

 

「最近出た拠点防衛用のアガシオンは各支部の購入が優先やから、うちが買えるのはいつになるか分からへん。

 だからこそ、手っ取り早く解決するんはこの方法なんや。

 こう見えてもそこそこ戦えるんや、伊達にレベル二桁になっとる訳やないで。

 隆和はん、勝手を知っててうちにちょうどいい異界はこの辺にないやろか?」

 

「自分のよく知る異界で、レベル10~20の悪魔が多く出る場所か。

 山梨ならすぐだけど、千早は長くここを開ける訳にいかないからなぁ。

 う~ん、一つ心当たりがあるけど大丈夫かな?」

 

「なんやええ所があるんか、隆和はん?」

 

「ああ。とりあえず、準備をして行ってみる事にしようか」

 

 

 不思議そうに首を傾げる千早に笑いかけ、隆和は準備するべく立ち上がった。

 

 

 

 

「それではお気をつけて」

 

「どうも、じゃあ行こうか」

 

 

 現場の管理をしている関西支部の職員に挨拶し、隆和は貸出された許可証を取り出して示し中に入った。

 以前は隆和が潰す事になった現地組織が管理していた【髭切の破片】で出入りしていたが、今はガイア連合製の封印機器で簡単に出入りが出来るようになっていた。中に入って隆和たちだけになったところで、赤面した千早が着ているボディスーツ型の防具の【衛士強化装備・レプカ】を手で触りながら隆和に言った。

 

 

「あ、あんな隆和はん、やっぱりこの格好は恥ずかしいんやけど?」

 

「うちにある防具で一番頑丈なのがそれだったから、我慢してくれ。

 トモエとスタイルが同じくらいでちょうど良かった。

 色っぽくて似合っているから安心して」

 

「そういう問題やないんやけど、もう!」

 

「まあ、私も今は使っていないのでどうぞ。千早」

 

「うっわぁ、身体の線が凄い出ているなぁ。

 田中さん、先生ってこういうのが趣味なのかな?」

 

「わたしに聞かないで下さい、夜刀神さん」

 

 

 そう言い合っている隆和と千早の横では、ミニスカ巫女服霊装姿のトモエと新品の防具を着込んだ夜刀神華にいつもの騎士霊装を着込んだモリソバこと田中菲都もいた。

 彼らがいるのは、現在は関西支部が管理している異界の【羅生門】である。ここは10~20レベルの鬼と名のつく種族の悪魔が出るデータも分析し終わった場所であり、異界のボスと思われる茨木童子も最奥にいて出て来る気配がないため湧き潰しがちょうどいい訓練になる異界となっていた。

 彼女らがこうしてここにいるのは、隆和がよく知る異界というのがここであったからである。

 

 

「よし、彼女らの護衛を頼むぞ、ルサルカ」

 

「まっかせて、マスター。

 アナーヒターよりも強くなって見せるから、ご褒美よろしく」

 

「はいはい、老舗菓子店の『村上開新堂』のクッキーだろ?

 ちゃんと予約はしてあるからな」

 

「よっし、頑張るぞ!」

 

「隆和はん?」

 

「先生?」

 

「お土産に皆の分もあるから帰りにな」

 

「やった!」

 

「よーし、久々に本気出すで。グリモワール!」

 

 

 今回のレベルアップに志願した【妖精ルサールカ】ことルサルカを呼び出した隆和が帰りのお土産のことも話していると、千早が【グリモワール】と呼ぶ自分の専用シキガミを取り出した。その姿は一抱えほどの大きさの黒い表紙のハードカバーの本で表紙には銀色で『セフィロトの樹』が描かれており、スキル構成としては4属性の全体魔法と読心が使えると隆和には伝えている。ちなみに、魔術書っぽい図案を千早が注文したら特に意味はないがこの図が描かれていたそうだ。

 

 前衛としてモリソバと華、後衛に千早とグリモワールとルサルカの組み合わせが出来ている。広範囲に攻撃する魔法スキル持ちが2人と頑丈なタンクに全体デバフの得意な妖精と潤沢なアイテムを持つ司令役もあり、彼女たちならばここの湧き潰しでのレベル上げは大丈夫だろう。

 

 

「高レベル過ぎる俺が側にいると、レベル上昇にマイナス効果が出るからこのメンバーで行こう。

 それじゃあ、俺はいつもの挨拶に行ってくるから頑張ってくれ」

 

「隆和はんも気をつけてな」

 

「ボスと会っても戦うわけじゃないから大丈夫だよ。じゃあ」

 

「先生も気をつけて!」

 

「向こうの路地から鬼たちが来ます!」

 

 

 昔の平安京を模した異界であるここの路地の方から鬼たちが現れ、彼女たちはそちらの方へと走って行った。 これなら大丈夫だなとそう判断した隆和は門を潜ると、声を掛け彼女たちと別れてトモエと共に奥の方へと移動を始めた。

 

 

 

 

「イーバーラーギーどーうーじさーん、あーそーびーまーしょー!

 たーたーかーいーまーしょー!」

 

『嫌じゃ! 来るなと言うたのにまた来おったな! 帰れ!』

 

「鬼の頭領が闘いから逃げるのかー!?」

 

『どうせ応じたら、あの女郎蜘蛛の様にするんじゃろ!?』

 

「もちろん!」

 

『あんな顔、部下共に晒して戦えるものか! 帰れ!』

 

 

 異界の奥のボス部屋だと思われる偽内裏の門扉をドンドンと叩きながら、隆和は茨木童子と何回目かになる問答を続けていた。ボス部屋前の広場の彼の周囲では、アヘ顔を晒した鬼たちをトモエがとどめを刺して回っている惨状が広がり、門には『快楽男は面会禁止』と達筆の張り紙がされている。

 このようになったのは、隆和の初回来訪の経緯を知った関西支部がここを管理してから訓練用の異界として丁度よいので、依頼により隆和はほぼ同レベルと思われるボスである茨木童子に対処するために定期的に巡回しに来ているのである。

 

 

「でも、酒呑童子はどのみち動けないぞ?」

 

『うるさい! わしはあの方が呼ばれたならすぐにでも馳せ参じるつもりじゃ!』

 

「そうは言ってもなぁ……」

 

 

 【大江山の酒天童子】。

 もちろんこの有名な鬼の頭領の行方は関西支部でも調査していたが、その結果、分かった居場所は2ヶ所あった。

 

 一つは、丹後半島の近くにある『大江山』。

 異界は結界で封印されていたが、その山で退治された怪異の伝説は酒呑童子以外にもあった為に複数の高レベルの悪魔たちがボスの座を掛けてにらみ合いをしているのが分かった。最古の土蜘蛛の王【陸耳御笠】、酒呑童子の伝説の元ネタとされる【英胡・軽足・土熊】の悪鬼たち、それに酒天童子の一体であった。膠着状態が続いているために、現在は現地の組織と協力し監視と湧き潰しを続けている。

 

 もう一つは、京都の西のすぐ近くにある『大枝山(おおえやま)』で、本命としてはこちらになると思われている。

 この付近は、『老ノ坂清滝トンネル』や近くにある西山霊園の『老ノ坂バス停』に潰れたモーテル跡の『モーテルサンリバー』など幽霊が出る心霊スポットとしても有名な場所が多く、さらに源頼光が斬った酒呑童子の首を納めた言い伝えのある『首塚大明神』もある。これだけこの付近に集中しているのも、メシア教のせいで管理していた家や資料は散逸していた為に推測ではあるが本体がここに封印されているためだろう。

 どちらにせよ、今は双方の異界の結界や封印は破られてはいない。

 

 この茨木童子と酒呑童子の関係は判らないが、異界の主としての彼女は放置できないのでこちらとしてはいずれは契約で抑えるなり倒して異界を消すなりしなくてはならない。隆和にしか出来ないだろうが、いっそ倒した時にそのまま夜魔のように寝所に引っ張り込んで【説得】するのもありかなどとふと考えついた。

 その考えを読んだのだろうか、慌てた様子の彼女の声が聞こえて来た。

 

 

『……っ! 今、お主、とても恐ろしいことを考えついただろう!?』

 

「言い伝えの通りに勘がいいな。

 ただ、FGOの姿でもまあイケるかなとは思っただけだぞ」

 

『えふごうが何かは知らんが、恐ろしいことを考えつくでないぞ!』

 

「伝説にある美女ぶり、一目見てみたいんだがなぁ」

 

『たわけ! お主に見せるために着飾っているのではないわ!』

 

「……今日も駄目そうだな」

 

『お主は未来永劫、出禁じゃ!』

 

「そうか。じゃあ、また来るよ。

 此処から出て来たら、飛んでくるんでよろしくな」

 

『帰れ!!!』

 

 

 茨木童子の怒鳴り声に押されるように、隆和は周囲のとどめと回収を終えたトモエを連れて門の前を立ち去った。隆和が立ち去るのを見送って安堵したが、かつて快楽に蕩けた顔のまま嬲り殺された女郎蜘蛛の痴態を思い出し身震いした茨木童子は布団を被って寝床に潜り込んだ。

 

 

 

 

 隆和が茨木童子の方へ向かい数時間過ごしていた間に、千早たちは無駄に広い異界の中を移動しながら潤沢に持って来ていたアイテムが尽きかけるほど闘い続けてレベルもかなり上がっていた。そして、撤退の合図だった火炎を上空に撒き、離れて彼女らの援護をしていたカーマや周囲の敵を蹴散らして来た隆和たちと千早たちは無事に合流できた。

 合流した千早たちは大きな怪我はないが、無数のかすり傷と大きく疲労しているようであった。隆和が近づくと彼女らは手を降って彼を迎え話しかけた。

 

 

「はぁはぁ、いやぁ久しぶりの実戦やからグリモワールとの連携も思い出すのに時間が掛かったわ。

 ああ、隆和はん、見ての通りみんな大きな怪我とは無いで」

 

「先生、やっぱり人型の相手は殺り易いですね。

 教えて貰った弱点が人とあまり変わりないですから」

 

「安倍さん、貴方どんな戦い方をこの娘に仕込んでいるんです?

 相手の足指を潰したり指を目に引っ掛けたり金的狙ったりと、戦い方がやたらエグいんですが?」

 

「そりゃあ田中さん、小柄でスピードで相手を撹乱するタイプの子ですよ?

 正面から戦うより、人体的急所を突いたラフファイトが手っ取り早い」

 

「「うわぁ」」

 

「ルサルカも一緒に引かないでくれ、失敬な。

 ほら、そろそろ帰るからここからは一緒にいくぞ」

 

「ほな、帰ろか」

 

「あ、そうそう。

 まだ千早が目標の田中さんと同程度の強さになっていないから、またみんなも来るからそのつもりで」

 

「「「え!?」」」

 

「はい、先生! 期待に添えるようにばんばん殺りますね!」

 

 

 その後、千早とルサルカがレベル20に、華とグリモワールがレベル18になるまで何度も続けられ、一部のメンバーを除き彼女らにとっては地獄の特訓となった。もっとも隆和からすれば、ショタオジのそれよりもお遊戯のように優しくしていたつもりだったのだが、彼女らにはその真意は伝わらなかったそうな。




後書きと設定解説


・レベルリザルト

天ヶ崎千早:12→20・ルサルカ:18→20・夜刀神華:12→18
グリモワール:12→18・田中菲都:19(成長限界)

現地人のレベル上限は、上澄みの才能で10から20と想定しています。
また、転生体や悪魔人の娘らは、元になる悪魔の各登場作品の初期レベルの平均の数値を想定しています。

※ただし、個人差で大きく違いあり

・関係者

名前:グリモワール
性別:女性
識別:シキガミ
職業:天ヶ崎千早のシキガミ
ステータス:Lv18・マジック型
耐性:物理耐性・破魔耐性・呪殺耐性
スキル:マハラギ(敵全体・小威力の火炎属性攻撃)
    マハブフ(敵全体・小威力の氷結属性攻撃)
    マハジオ(敵全体・小威力の電撃属性攻撃)
    マハザン(敵全体・小威力の衝撃属性攻撃)
    吸魔(敵単体・小威力のMP吸収万能属性攻撃)
    シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):念話・読心・浮遊
詳細:
 天ヶ崎千早が秘蔵していたハードブック型の専用シキガミ
 黒地に銀色でセフィロトの樹が描かれているアンティーク装飾
 非常に無口で千早以外と話そうとしない冷静沈着な性格

・敵対者?

【妖鬼イバラギドウジ】(ボス)
レベル38 耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺無効
スキル:ドルミナー(敵単体・中確率で睡眠付与)
    マカジャマ(敵単体・中確率で魔封付与)
    ラクンダ(敵全体・防御力低下)
    乱れ撃ち(敵全体・中威力の銃属性攻撃。低確率で魔封付与)
    飛び蹴り(敵単体・中威力の物理攻撃)
    変化(自身・人間の姿に変われる)
詳細:
 異界・羅生門のボスである鬼女でない女の鬼
 誰かが殺しに来るか、酒呑童子が復活するまで怠惰に睡眠中
 かつて覗いた女郎蜘蛛の死に様は若干トラウマになっている
 データは関西支部で偶然遭遇した際に観測されたもので、真2ボスデータとほぼ同じ
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性がある

皆さんも風邪には注意しましょう。


次は出来るだけ早くに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第43話 彼と彼女の恋愛事情

続きです。
今回は閑話気味の会話回。


 

 

  第43話 彼と彼女の恋愛事情

 

 

 羅生門の異界に通ってレベル上げをしてから少し経ち、季節はお盆を過ぎた頃となった。

 すでに暦では残暑ではあるが、盆地である京都の夏はとても暑くて行く気にはなれないので、そうなる前に千早たちのレベル上げを終わらせられたのは僥倖だった。まさに『茹だるような暑さ』とはこの事だろうが、これで前の世での冷房が無いと死にかねない熱夏の頃ならどうだったのかなどは想像もしたくない。

 

 あれからしばらく経ったが、以前、山梨の方へ問い合わせていたあの青森で出会った少年の調査報告書が届いた。外に比べれば同じ夏でも過ごしやすい異界内の屋敷で、千早やなのはと共に隆和は山梨から送られてきた『部外秘』と赤字で書かれたその書類を確認していた。

 異界の海の沖の方では、相変わらずカーマが操るマカラの背に水着を着た華と桃子を乗せて周囲にマーメイドたちも交えて楽しそうに水上を走り回っており、浜辺のビーチチェアでは書類を届けてくれたサングラスにアロハを着たうちのトップの人がまたのんびりと過ごしていた。

 最近よく来ているが、仕事の方は大丈夫なのだろうか?

 

 それはさておき、念のために余人がこちらに来ないようにトモエが入り口で立っている中、彼らは板張りの床に置かれた座布団に座り千早がテーブルに置かれたその書類を読み上げ出した。

 

 

「えーと、名前は【広野勇気】。年齢は14歳やね。

 容姿はっと、普通の子にしか見えへんやね。

 ……隆和はん、写真のこの子で間違いないやろか?」

 

「隠し撮りみたいだが、間違いないこいつだ」

 

「出身地は大阪みたいや。

 両親は『光福の社』というカルトの儀式に参加中に死亡したみたいや。

 覚えとるか、隆和はん。

 トモエはんとコレットはんが一緒になる切っ掛けになった事件の時のカルトや」

 

「思い出したくもないあの時のか」

 

 

 聞こえて来た内容にこちらに背中を向けていたトモエが、ちらと心配気に視線を向け隆和が大丈夫だと頷くとすぐに外に戻した。あの天使と天使の下僕になり変わった半グレの少年の事は、本当はすぐにでも忘れ去りたい事だが隆和はいまだによく憶えていた。

 

 

「あの時に死亡していた連中の一員だったみたいで、息子だった彼は参加せずにいたので生き残れたみたいや。

 その後、児童養護施設に行ってそこがメシア系列の施設だったおかげで、霊能の才が飛び抜けているのが分かってスカウトされてあちこちでトラブルを起こしているみたいや。

 ついたあだ名が【勇者くん】やて」

 

「いきなりこっちを悪人だと思って斬り掛かるような性格だからなぁ。

 ただ俺が見た時はレベル17だったが、今の一般人の中にいたにしては才能が有り過ぎるようだが?」

 

「普通に考えたらそうや。

 だから、自覚のない転生者じゃないかと山梨の方では睨んでるみたいや。

 ただ、向こうに『保護』されているせいか占術でははっきりしなかったみたいや」

 

「スキルを使う時にゲームの呪文を叫んでいたのはそれも関係あるのかな?」

 

「それは違うと思うの、隆和くん」

 

 

 それまで静かに聞いていたなのはが、右隣に座っている隆和に声を掛けた。

 隆和は何となくテーブルの上の彼女の手を握り、笑い掛けながら至近距離で見つめてそれに返す。

 

 

「何が違うんだい、なのは?」

 

「そ、それはね、わたし達って結構感覚でスキルを使っているから、自分が認識しているスキルの名称と効果が違う可能性があるの。

 例えば、その人が『必殺パンチ』と言って使ったとしても、スキルとしては【ひっかく】や【毒ひっかき】とまちまちな可能性があるの。

 ま、前に【ライダーキック】と叫んでいた人がいたけど、ただの【突撃】だったし」

 

「なるほど。

 なのははスキルの効果についても勉強していたしね」

 

「わ、わたしの魔法だって同じ【メギドラ】でも、光線で撃つときや爆発の形で撃つ時もあるからそういうものなの。

 あ、あとちょっと恥ずかしいの」

 

「理屈は分かったけど、それはそれとして。

 子どもも出来たのに、いまだに『隆和くん』呼びなのはどうしてですか、可愛い奥様?」

 

「そ、それはなの……」

 

「ゴホン!」

 

 

 向かいに座る千早が咳払いをしてジト目で二人を睨んだ。

 顔を赤くして視線を逸らすなのはだが、手は握ったままだ。

 

 

「今は真面目な話の途中やからイチャイチャするんは後にしてや、隆和はん。

 確かに報告書の方にも、物理技と【マハジオ】と【トラポート】が使えるのが確認できたみたいや。

 それを本人は、それっぽいゲームの技名で叫んでるだけみたいやな」

 

「ああ、ごめんな。

 このところ千早たちとだけ出掛けていたのを気にしていたみたいだから、折を見てこうしているんだよ。

 それで、その餓鬼を制御していたシスターの方は?」

 

「ああ、それはやな……」

 

 

 彼女の名前は、【シスター・マーテル】。

 所属は、青森県新郷村の『メシア戸来教会』となっている。

 

 その青森県の新郷村には、昭和になって発見されたとされる『竹内古文書』により【一神教救世主の墓】が見つかった地である。一般的にはただの珍しい観光名所だが、メシア教会にとっては重要だったようで戦後すぐに東北地方の一大拠点の一つと化している場所だ。それもあってか、村の麓の十和田湖付近には大きな教会もあり恐山の方ではかなり警戒しているらしい。

 

 彼女自身は金髪碧眼の少女であるが、【マグダレン修道院】と呼ばれる古い歴史を持つ日本の修道院の孤児院の出身で今はある神父の養女となっている。そして、件の彼とは彼が保護されていた施設で【運命の出会い】を経て彼を『正しい道』へと導く恋人となり、いつも一緒に行動していると報告書には記されていた。

 

 

「一言で言うなら、関わり合いにはならん方が良いという手合やな。

 まあ、向こうは東北でこっちは関西やし、もう会う事はそうそうあらへんやろ」

 

「確かにもう会いたくはないな。

 ただでさえこっちは立て込んでいるのにな」

 

「そうそう。隆和くんはもう一人だけの体じゃないんだから」

 

「そう思うなら、『あなた』とか『旦那さま』とか呼んで欲しい」

 

「……それは人前ではもう少しだけ待って欲しいの」

 

「ベッドでは色々してあんな可愛いのに、呼び方の方が恥ずかしいのか?」

 

「隆和はん。

 乙女心というのは複雑なものなんやで。

 乙女心ついでに隆和はんに相談に乗って欲しい人がいるんやけど?」

 

「相談?」

 

 

 

 

 それから、数日後。

 隆和は一人でジュネス内のとある店で人と会っていた。

 

 

「お帰りなさいませ、ご主人さま。何名様ですか?」

 

「先に来て待ち合わせをしているんだが?」

 

「安倍さまですね? こちらにどうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 ジュネス内にあるメイド喫茶『アリスのエプロン』、そこの奥のブースには深刻そうな顔をしたナイスボートニキが座っていた。隆和が現れると、彼は元気無く手を振りこちらだと合図した。

 そして、向かいに隆和が座ると店員が注文を取りに来た。

 

 

「ご主人さま、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「オレはコーヒーで、安倍さんは?」

 

「それじゃ紅茶で頼む」

 

「『丁寧に絞った黒い愛』と『穏やかに滲み出る紅い愛の雫』ですね、お待ち下さい」

 

 

 店員が立ち去ると、隆和はメニューを見て訝しげな表情を浮かべた。

 

 

「意味が分からないな」

 

「こういう店はそういうものですよ、安倍さん」

 

「まあいいか。それで、お互いにシキガミも抜きで俺に相談って一体何だ?」

 

「とりあえず、お子さんが出来たようでおめでとうございます。

 相談ってこれにも関係しているんですよ」

 

「ああ、ありがとう。で?」

 

「複数の女性と関係を持ってるアーッニキのマーラ様っぷりの知恵を借りたいんです」

 

「確かにそうだけど、はっきりと言わないでくれ。

 それで何について聞きたいんだ?」

 

「【ナニ】についてです」

 

「……帰ろうか」

 

「待って下さい。切実な悩みなんです!」

 

 

 隆和が立ち上がりナイスボートニキに引き止められた所で、店員が注文の品を持って来たので再び隆和は座る事にした。

 

 

「お待たせしました。

 『丁寧に絞った黒い愛』と『穏やかに滲み出る紅い愛の雫』です。

 ごゆっくりどうぞ」

 

「……とりあえず飲むか。……リ◯トン?」

 

「よく飲んでるから判りますけど、こっちはネス◯フェですね」

 

「これで700円か。で、コーヒーが600円ね」

 

「そういうコンセプトの店ですから高いのはしょうがないんですよ」

 

「やけに詳しいんだな?」

 

「地元でいろいろとあったので」

 

 

 お互いにお高目のインスタントの飲み物を飲んで、改めてナイスボートニキは話し出した。

 

 

「それで相談なんですけど、以前女郎蜘蛛から助けてもらったじゃないですか」

 

「ああ。あれから俺もあっちの家に引っ越したしな。それで?」

 

「オレ、今はカプセルホテルの『ガイア大阪』の地下にある宿直室だった部屋で暮らしているんですが、同じ建物内の従業員用の部屋に希留耶ちゃんもひとり暮らししていますよね?」

 

「あー、うん。

 『やりたい事がある』ってなのはも許可を出していたし、俺は俺であまり強く言えなくなったからなぁ」

 

「あの事件以降、まだ中学生の妹みたいに思っている希留耶ちゃんなんですけど……」

 

 

 一度俯いた彼は、恐怖に慄いた表情で隆和に震えた声で告げた。

 

 

「最近、オレの部屋を掃除したり、サーバーに掛り切りになっていると食事を用意してくれたりするんです。

 それで、時々、オレを見る目が地元のあの娘らと同じやばい雰囲気になっているんですよ」

 

「あっ。あー、えーと。それで俺に相談を?」

 

「安倍さん、彼女の父親代わりなんでしょう? 助けてください」

 

「助けてくれと言われても、伊東くん自身はどうしたいんだ?」

 

「流石に、事案になる年齢の娘に性的に襲われるのは避けたいです。

 しかも、妹みたいに思っている娘に」

 

「そういえば、まだ童貞だったっけ?」

 

「そうですよ。

 もし、彼女とそうなるにしてももっと時間を起きたいじゃないですか。

 こう純粋に大切にしたいというか、今の彼女は穢したらいけないというか。

 彼女との関係は、もっと少しずつ段階を踏んで進めたいというか」

 

 

 現在、20歳になるナイスボートニキはワナワナと震えながら希留耶の事を訥々と語リ始めたが、隆和はそれを止めてため息をついて自分の考えを述べた。

 

 

「伊東くん、憶えておくと良い。そう思っているのは君だけだろうな」

 

「!!?」

 

「妹のように可愛がってくれているのはよーく解ったけどね。

 妹でも女性は女性だよ?

 年齢に関係なく、好きになった相手には躊躇しないと思うぞ。

 今のあの娘の母親代わりは、あのなのはだぞ?」

 

「え、は!?」

 

「俺自身、彼女が好きだったけどな、関係を持ったのは彼女からだぞ?

 たぶん、その薫陶を受けているなら、なおさらだろう。

 そもそも、他に物証とかあるのかい?」

 

 

 隆和がそう聞くと、ナイスボートニキは口に手を当てて思い出すように語った。

 

 

「彼女、うちが作った最新のスマホを持っているじゃないですか」

 

「ああ。かなり前にプレゼントしたが?」

 

「たまたま、彼女が何か買うのか検索しているのが見えたんですが、うちの組織がやっているオンラインショッピングサイトだったんです」

 

「それで?」

 

「裏側の転生者の親族なら買える商品で、あの【スケベ部】の製品を見ていたんです」

 

「……ああ」

 

「ほら、裏側の商品ならうちのメンバーの親族(後のゴールドランク相当)はある程度の年齢があればいろいろと買えますよね?」

 

「確かに割引だったり、一部の商品はタダだったりするね。

 実際にその辺の料金はなのはが管理しているし」

 

「それにここ最近はやたらと自室に招いて夕食を食べさせようとするし、産休に入る前のなのはさんもやたらとニコニコとしてこっちを見ていたしおかしいでしょう??」

 

 

 隆和は紅茶をズズッと飲み干し、こちらを凝視するナイスボートニキに告げた。

 

 

「諦めたら? もう試合終了だぞ」

 

「安西先生……!! まだ諦めたくないです………」

 

「いや俺が言うのも何なんだが、希留耶は君と関係を持つのを諦めないと思う。

 年頃でそういうのに興味があるのもあるだろうが、そういうサイトを物色しているのはそういう事だ。

 おまけに、なのはもそれを後押ししている節があるみたいだ。

 それなら、遅かれ早かれ【襲う】か【襲わせる】だろう」

 

「…………」

 

「男なら腹を括った方がいいぞ。厚めの雑誌を腹に巻くよりはマシだ」

 

「腹をくくるしか無いのか」

 

「そうだな。

 あと、絶対にしてはいけないのは彼女に【恥】をかかせるなよ?」

 

「恥、ですか?」

 

「どういう手段を取るにせよだ、彼女自身相当の覚悟を持ってやって来るだろうな。

 希留耶は、『ただ興味があるからしてみたい』みたいな娘じゃない。

 それで君が対応をミスったら、最悪、希留耶にトラウマが出来る」

 

「……トラウマ」

 

「伊東くんだって希留耶にトラウマを作るような真似は嫌だろう?」

 

「それは……嫌だな」

 

「嫌ってはいないんだろう?

 なら、彼女の覚悟を男らしく受け止めてくれ。

 変な結果になってしまわないように」

 

「……わかったよ、安倍さん。出来る限り頑張ってみるよ」

 

 

 ナイスボートニキこと【伊東誠】、彼女の16歳の誕生日に彼女の自室に連れ込まれ関係を持つ事になる。

 その後、週1~2のペースで【お泊り】する事になるのを彼はまだ知らない。

 また、近い将来、彼の二人目の女性型シキガミも合流する事になるのも彼はまだ知らない。

 

 

 

 

「見つけたぞ、おっさん! 俺と勝負しろよ!」

 

「駄目だって、ゆうくん! ガイア連合の人と諍いは駄目だから!」

 

 

 ナイスボートニキと別れ、帰りがけに何か依頼はないかと関西支部の事務所に寄った隆和は、指を指してこちらを罵倒するどこかで見た少年とそれを必死に宥めているどこかで見たシスターに絡まれていた。

 

 

「何でここにいるんだ、お前ら?」




後書きと設定解説


・関係者

名前:百々地希留耶
性別:女性
識別:異能者(悪魔人)・14→15歳
職業:中学3年生
ステータス:レベル11→12・スピード型
耐性:火炎耐性・電撃弱点・衝撃耐性
スキル:アクセルクロー(敵複数・2~4回中威力の物理攻撃)
    引っかき(敵単体・小威力の物理攻撃)new!
    マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
    獣眼(自身の攻撃の命中率上昇)
    見切り(物理回避率が10%増加)
    野性の勘(自身が受ける攻撃のクリティカル率を25%減少)
装備:おしゃれなワンピース(ガイア連合製の霊装防具)new!
   人化(弱)のブレスレット(猫の特徴の人化偽装用霊装)new!
詳細:
 カルト(メシア教)に嵌った両親に放置された末に悪魔合体の実験に使われた少女
 【魔獣ネコマタ】との悪魔合体で生存し悪魔人となった
 大きい音には身が竦む癖や前髪の一部がストレスで白くなったのは無くなった
 わりとダメンズな所がありこっちから意中の彼にアプローチしている際中
 悪魔人化の頃より変化しない背とスタイルを危惧して、最近牛乳をよく飲んでいる


【挿絵表示】

百々地希留耶のイメージ図


次は出来るだけ早くに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第44話 大阪メシア教会

続きです。
リアルが忙しくなった原因のコロナに呪いあれ。


 

 

  第44話 大阪メシア教会

 

 

「この部屋でなら、殺す気で来てもかまわないぞ。メシア教の聖戦士さま?」

 

「マーテルが殺しては駄目だと言うから、ぶっ殺すのは止めてやる!

 かわりにおっさん、テメーは絶対に叩きのめしてやる!」

 

「この間の腹を殴ったのがよほど気に入ったみたいだな。

 また殴ってやるから、来いよ。クソガキ」

 

「やっぱ、ぶっ殺す! 『ブレイブスラッシュ』!」

 

 

 隆和と件の彼、『勇者くん』こと【広野勇気】が対峙しているのは梅田にある関西支部の建物であるジュネスの地下にある訓練用の広間である。強固な結界もあり実戦さながらの訓練も出来る体育館ほどの広さのある部屋であるが、周囲には隆和のシキガミのトモエと副支部長のウシジマニキに、広野勇気に付き添ってきたマーテルと彼に呼ばれているシスターの少女だけがいた。

 

 シスターの彼女が正式に依頼をするためにアポイントを取って来訪していたらしいのだが、彼の方がたまたまここに顔を出していた隆和に気が付きこいつと戦わせろと騒ぎ始めたのがこの模擬試合の始まりであった。

 

 有望な戦力となる彼のためにメシア教側でいろいろと調整していたのもあるが、今まで負けること無く天狗になるほど無双していた彼を事もなげに殴り飛ばし、しかも自分の恋人で絶対的な味方だと思っていたマーテルにまで諍いは起こすなと止められ彼にとって隆和は恨みの対象であった。

 また、前に殴られた時に肝臓の辺りにアバラ骨にひびが入る怪我を負わされ、拠点に戻ってから鈍い痛みで眠れぬ夜を過ごしたのもその考えを増幅させていた。

 

 隆和としては勝負を受ける意味は無かったが、ウシジマニキからここの訓練室なら高精度のアナライズの機器があるので転生者疑惑のある彼らのデータを手に入れたいとの要望を受けたので挑発した結果、彼は頭に血を上らせてシスターの少女の制止を振り切って鼻息も荒く臨んでいた。

 

 こうして青い顔でこちらを見るマーテルを無視した広野勇気は、隆和へどこかのゲームで見た柄に羽ばたく鳥の紋章が描かれた長剣にそれらの思いを込め、スキルも使って模擬試合という名目も忘れて本気で切りつけた。

 

 

「しっ!」

 

「ぐへっ、……このやろう!」

 

「おっと、ふっ!」

 

「ぐげっ」

 

 

 上段から振り下ろされる剣を右に躱し、隆和はそのまま右フックを彼の顔面に打ち込む。一瞬ぐらつくもそのまま横薙ぎに彼は隆和へと剣を振るう。それをバックステップで躱した隆和は、もう一度踏み込むと今度は左のストレートを打ち込んだ。

 顔面に拳を受けダメージにふらつくが、苦し紛れに広野勇気は広範囲電撃魔法を放った。 

 

 

「くそぉ、『ラ◯デイン』!」

 

「…もういいか。よし、なら強く行くぞ。死ぬなよ?」

 

「なにを、……ぐぶっ!」

 

「そこまで!」

 

「ゆうくん!」

 

 

 

 広範囲に放たれた電撃魔法の【マハジオ】は避け切れずに受けた隆和は視界の隅で合図を出すトモエを見つけると、こちらに一撃を当てられニヤついている彼へもう終わらせる為に防具のある胴の中心に本気のスキルなしの攻撃を叩き込んだ。

 長剣も手放し数メートルほど吹き飛び転がる彼にマーテルが走り寄り、アナライズも解析が終わったのを確認したウシジマニキの試合終了の声が響いた。彼へと回復魔法を掛けている彼女に向かって、ウシジマニキは声を掛けた。

 

 

「これで、そっちの彼の気はもう済んだだろう?

 依頼は引き受けてこちらでやるから、連れて帰ってもらおうか」

 

「お、オレはまだやれる!」

 

「手加減されているのが判らないのか?

 お前が本気で斬り掛かってもあいつは大した怪我も負わず、お前への攻撃もスキルは使わずに殴るだけで、最後の本気で殴ったのもわざわざ防具のある胴体だ。

 それに、殴った箇所も急所は避けているんだぞ」

 

「……ぐぅ!」

 

「子供のお遊びに付き合うのはこれでお終いだ。

 それと、そこのシスター」

 

「なんでしょう?」

 

「依頼の方は受託するが、依頼の遂行の際の立会人にはあんたら二人は外れてもらう。

 別の人物を用意してくれ。分かったな?」

 

「……分かりました。失礼します」

 

 

 隆和を睨みつけたままの広野勇気に肩を貸しながら、硬い表情のマーテルは迎えに来た教会の人員と支部を後にした。

 彼らが完全に出て行くまで見送ると、電撃で受けた軽症を治している隆和にウシジマニキは話しかけた。

 

 

「よう、すまなかったな。怪我までさせちまって」

 

「いや、こういうトラブルはウシジマさんとの仕事ではもう慣れたよ。

 だが、出来れば完全に心が折れるまでやっておきたかったんだがな」

 

「ここのアナライズの機器であの二人の手の内は分かったから、もう戦り合う必要はないんだがどういう意味だ?」

 

「ああ。あのクソガキの目、昔、闇討ちして来た奴と同じ目をしていたからな」

 

「また仕掛けてきたらその時は、思う存分ボコっていいだろ。

 まあ、あの連中だってペットの躾と後始末くらいちゃんとするだろうしな」

 

「それで、結果は?」

 

 

 隆和がそう聞くと、不味いものでも食ったかのような表情でウシジマニキは告げた。

 

 

「ああ。自覚はないようだが、あのクソガキ、俺らと同じだ。

 占術の担当も近くで視てそうだと判断した。

 こいつの事は、『メシア教に取り込まれた』と山梨の方にも報告しておく」

 

「そうか。

 うちや知り合いの方にも接触は出来るだけ避けるように言っておくか。

 それで、あの連中が持ち込んだ依頼とかはどうするんだ?」

 

「なあ、手が空いているなら片付けてくれないか?」

 

「受けてもいいが、とりあえず詳細を教えてくれ」

 

 

 ため息をついてうんざりとした顔のウシジマニキは、面倒な事になったと同じような表情の隆和に依頼の書類を渡した。

 

 

 

 

 その翌日、隆和はトモエと共にその依頼に書かれていた大阪西成区にある雑居ビルに来ていた。

 

 治安が悪いことでも有名なあいりん地区にもほど近いこの場所は普段からホームレスや薬の売人が路上をうろうろとしており、恐喝や女性を路地に連れ込むような連中を隆和はトモエと同行者の男性と共に追い払いながらここへと辿り着いていた。

 その同行者の男性は『賀来美知夫』と名乗るメシア教の神父で、大阪で最も歴史のある戦前に建てられた赤レンガの教会を一神教新教の牧師たちから快く譲り受けて活動している司祭だと名乗っていた。

 目的のヨガ教室の看板のある部屋のドアの前に立ち、隆和はこの神父と出会った時のことを思い出していた。

 

 

「本当に申し訳ない。

 仮にも養女とした娘と身元を預かっている子がこのような事をするなど、私の管理不行き届きでした。

 友好的に接するようにと上から指示が出ていたのに、ここで改めて正式に謝罪させて頂きたい」

 

「周りに人もいるんだからもう止めてくれ。

 いいから車に乗ってくれ。現場に向かうぞ」

 

「いや、本当に申し訳がない。

 こちら側から依頼を直接持って行かせるだけのお使いがこのようになるとは。

 あの子らは今、教会内で謹慎させていますとも」

 

 

 最寄りの駅だった新今宮駅で会った神父服姿のホストでも務まりそうな美形の彼は、先日関西支部に現れた彼らの保護者もしていると言って合流した駅のロータリーで隆和たちに深々と頭を下げると謝罪してきた。人目を気にして早く乗るように言われた彼は、隆和の軽自動車に助手席にトモエがいるため後部座席へと乗り込むと、にこやかに今回の内容を移動する車内で説明し始めた。

 

 

「今回やって頂きたいのは、邪教の信徒とそれが崇める悪魔の退治ですね」

 

「邪教?」

 

「教主を名乗る男は、『バラモン』を自称するスリランカ出身のヨガ教室の講師でね。

 何でも自分を信仰しヨガを極めれば不老長寿と美は思いのままと、女性に人気の教室みたいだと言うことですよ。

 まあ、客層も教室のあるビル近くの売春婦や風俗の店員が主ですので何かあっても特に問題はないでしょう」

 

「いや、いろいろと問題はあるだろう?」

 

「ああ。

 サバトをしているという情報もあるので、マグネタイトの原料がたくさんあるという意味では問題でしたね。

 インド風の悪魔の姿が複数確認されているので、我々では対処が難しいのでそちらに依頼を出したのですが。はぁ」

 

「そういう意味ではなくてな……」

 

「この時期に内戦をしているような国の邪教徒の祭司とそれの崇める悪魔ですから、遠慮せずに神の誅罰を下しましょう」

 

 

 これ以上の会話は無意味だと思った隆和は近くの駐車場に停めると、現場につくまで必要最低限の会話のみで彼と共に絡んでくる相手を処理しながら雑居ビル内の3階にあるワンフロアを借り切ったそのヨガ教室へと着いた。

 これまでの彼とのやり取りを頭を振って追い出すと、隆和は鍵のかかっていない扉を開けて中へと入り込んだ。

 

 

 

 

 室内ではまさしくサバトが行われている最中だった。

 

 複数の女の嬌声と水音が響き隆和も憶えのある臭いが立ちこめ異界に成りかけている室内では、4体ほどいるそれぞれ相手の女性に腰を振る頭に角を生やした赤い肌の逞しい男性の上半身と黄金の鳥の翼と下半身を持った姿のレベル16の【妖魔ガンダルヴァ】と、教主と思しきレベル8の唯一の覚醒者である男の上で腰を振るレベル8の【妖魔アプサラス】がいて入って来た隆和たちに驚き腰の動きを止めて立ち上がろうとした。

 しかし、それよりも早く踏み込んだ彼らの攻撃が悪魔たちに降り注いだ。

 

 

「見苦しいです、【疾風斬】!」

 

「邪教の悪魔よ、浄化されよ! 【マハンマ】!」

 

「カーマ!」

 

「はいはい。げっ、見覚えのある連中じゃないですか!

 しっしっ、【天扇弓】!」

 

 

 トモエとカーマの強力な全体攻撃と賀来神父の全体破魔魔法が炸裂し、あっという間に悪魔たちは全滅した。

 窓と厚いカーテンを開けて不快気に外の空気を吸っているカーマや、女性達の介抱を始めているトモエに下半身丸出しで勃てたままの教主を結束バンドで手際よく拘束している隆和に構わず、賀来神父は奥にあった祭壇の上の呪物らしい木像を取ると怒りの表情で踏み砕き始めた。

 

 

「おい、壊すのは待ってくれ!

 悪魔を呼び出したのはそれが原因だろうから調査しないと!」

 

「こんな! ものは! 調べる! 必要も! ありません!

 邪教の! 不浄な! ものは! 打ち壊すのみ!

 ああ、やっと砕けましたか」

 

「おい、本当に調査しなくて良いのか?

 報告書とか作るのに資料が必要だろう?」

 

「ええ、構いませんよ。

 こちらがお願いしたのは悪魔の討伐と邪教徒の拘束のみです。

 こんな不浄なものは必要ありません。

 いるのならどうぞ」

 

「まあ、そっちがそれでいいのならいいが。

 じゃあ、これで仕事は終わりだな?」

 

「ええ。

 後始末は我々の方で行ないますので、ご苦労様でした」

 

 

 踏み砕かれた木像を拾ってにこやかに笑う賀来神父に気持ち悪いものを感じた隆和は、うげーっとしていたカーマを封魔管に入れると神父を警戒しているトモエと共にこの場を後にした。

 彼らが立ち去るのを窓から見ながら、教会の実行部署と救急車の手配の電話を携帯でしていた賀来神父は、熱い息を吐き舌なめずりをしながら今日出会った隆和の事を思い浮かべていた。

 

 

「はぁ。彼、あの抜きん出た強さは是非、我々の神の教えを説いてあげたいですねぇ。

 本当にガイア連合の異能者たちは素晴らしい。

 ああ、それにしても残念だ。

 せっかく養女を与えたのですから、あの少年にも投資に見合う『聖戦士』になって欲しいものですね」

 

 

 

 

 隆和たちが依頼をこなしていた日の夜、拠点している教会の宿舎で戻ってからずっと悔し涙を流している広野勇気はとても荒れていた。怪我の方は回復魔法で治癒済みであったが、隆和に軽く鼻であしらわれた事に我慢が出来ない様子であった為だからだ。

 夕食や入浴を済ませてもう就眠の時間であるのに、まだ落ち着かない彼をマーテルは抱きしめながら慰めていた。

 

 

「くそっくそっ、何でなんだよ!

 オレは強いんだぞ。不良の連中に殴られ続ける事はもう無いんだ。

 あんな土方の格好のおっさんにあんなにされるなんてありえないんだ!」

 

(今はまだ弱くても、あの中で一際強そうなあの男性に一撃を入れられたんだ。

 ゆうくんはもっと強くなれるはず。

 たまたま選ばれただけの孤児院出の私には、彼と一緒に行くしか道はないんだ)

 

「なあ、マーテル。

 神様は正しいことをしていれば、死んじまった家族や見放した親戚の連中とは違ってオレを見ていてくれるんだよな?

 マーテルだって、ずっと側にいてくれるんだよな? なあ!?」

 

「大丈夫だよ。

 神様は教えの通りに正しい事をしていれば、ずっと見守ってくれるよ。

 私だってずっと側にいるからね」

 

「見放さないで、マーテル。

 オレは強くなるから、神様の教えも守るから側にいてくれ、頼む」

 

「ずっと一緒だよ。

 今日はこうしていてあげるからゆっくりと眠ろうね」

 

 

 そして二人は、そのまま抱き合うようにして同じベッドで眠りに落ちていった。

 その彼らをじっと見下ろす羽の生えた大きな人影に気付かないままに。




後書きと設定解説


・関係者

名前:広野勇気
性別:男性
識別;転生者(ガイア連合)・14歳
職業:中学2年生(不登校)
ステータス:レベル17・アタック型
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:ブレイブスラッシュ(スラッシュ)
    (敵単体・小威力の物理攻撃)
    ライデ◯ン(マハジオ)
    (敵全体・小威力の電撃属性攻撃)
    ◯ーラ(トラポート)
    (味方全体・長距離転移が可能)
    大天使の加護(万能以外の魔法の回避率が2倍になる)
装備:銀のロザリオ(呪殺無効)
   ケブラージャケット(一般品)
   “ゆうしゃの剣”(それらしい装飾のガイア連合製霊装) 
詳細:
 メシア教のシスターと出会い覚醒し『正しい道』を進む転生者
 力の全能感と修道女の彼女に導かれて『正義』の道に邁進している
 地方の支部関係者からは、【勇者くん】と呼ばれて忌避されている
 スキルの名称は勝手な自称で、発動はするが威力や精度が落ちている
 某アニメのどこかの洞窟でゴブリンの集団に殺された剣士の少年に似た容姿

名前:シスター・マーテル
性別:女性
識別:異能者・16歳
職業:メシア教穏健派シスター
ステータス:レベル11・マジック型
耐性:破魔無効・呪殺耐性(装備)
スキル:ハマ(敵単体・小威力の破魔属性攻撃。
       弱点を突いた時、確率で即死付与)
    ディア(味方単体・HP小回復)
    パトラ(味方単体・軽度の状態異常回復)
    物理ブロック(味方全体・短時間、一度だけ物理攻撃を無効化する)
    大天使の加護(万能以外の魔法の回避率が2倍になる)
装備:銀のロザリオ(呪殺耐性の霊装)
詳細:
 メシア教孤児院出身のメシア教の司祭賀来神父の養女
 金髪碧眼で儚げだが芯の強い生真面目な印象を与える容姿の美少女
 優れた異能者をメシア教に引き込むための孤児院出身の人材の一人
 某アニメのゴブリン殺しの剣士と共にいる僧侶の少女に似た容姿

・敵対者

【妖魔ガンダルヴァ】
レベル16 耐性:火炎弱点・電撃耐性
スキル:ベイバロンの気(敵全体・中確率で魅了付与)
    高揚の歌(敵全体・中確率で高揚付与)
    (高揚:酩酊させて行動がランダムになる状態異常)
    エナジードレイン(敵単体・小威力の万能属性のHPとMP吸収)
詳細:
 インド神話においてインドラに仕える半神半獣の神の居る宮殿の奏楽担当の妖魔
 頭に八角の角を生やした赤く逞しい男性の上半身と、黄金の鳥の翼と下半身を持った姿
 その大半が女好きで肉欲が強いが、ソーマと処女の守護神でもある
 酒や肉を喰らわず香りを栄養とし、自身の体からも香気を発している

【妖魔アプサラス】
レベル8 耐性:火炎弱点・氷結耐性
スキル:ブフ(敵単体・小威力の氷結属性攻撃)
    マハブフ(敵全体・小威力の氷結属性攻撃)
詳細:
 インド神話ではガンダルヴァの妻とされている水の妖魔
 今回はガンダルヴァと共にサバトの相手として呼び出された
 
【異能者の男】
レベル8 耐性:破魔無効
スキル:ブレインウォッシュ(敵全体・低確率で洗脳付与)
    (洗脳:魅了とほぼ同じ効果の状態異常)
    脅迫・脅し
詳細:
 『バラモン』を自称するインド出身のダークサマナー
 表向きはヨガ教室の講師をして、自分のカルト団体を作っていた
 アプサラスを呼ぶつもりがガンダルヴァも呼び出して操り人形に成り果てていた


次は出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第45話 DEMOuntable Next Integrated Capability cAR

続きです。
今回は、装備回。


 

 

  第45話 DEMOuntable Next Integrated Capability cAR

 

 

「それで久しぶりに会ったと思ったら、車が欲しいんだって?」

 

「ああ。すまないな、黒医者ニキ。

 技術部へ紹介して欲しいんだが大丈夫か?」

 

 

 夏も過ぎ秋になると、テレビや新聞ではけたたましい程に一つのニュースを繰り返していた。

 中東において湾岸戦争後にクウェートに駐屯したままだった多国籍軍が、エジプトの首都カイロの付近で反政府武装組織と大規模な衝突を起こして戦闘中だというニュースであった。

 そのニュース記事の新聞を示しながら、黒医者ニキの個人用オフィスで隆和は彼に話を続けた。

 

 

「これなんだが掲示板によると、多国籍軍に化けたメシア教過激派がイラクの中東一神教に大打撃を与えたのが湾岸戦争の裏側らしいじゃないか。

 しかも、その前のイランとイラクの戦争でもアメリカ政府を通してメチャクチャにかき回して、現地の霊能組織でもある宗教組織に打撃を与えるのがメシア教の目的だったとか。

 今回の激突も、裏向きにはメシア教と現地の組織が集まった連中との大規模な戦闘なんだろう?」

 

「ああ。

 山梨支部の方でも詳細な情報を集めている最中なんだが。

 エジプト神話軍が呼びかけて周囲の戦力をかき集めて【多神連合】を結成して、メシア教とぶつかったのは間違いないようだ。

 戦力比などの詳細な情報はまだだ」

 

「場合によっては、これが終末の引き金になるかもしれないと考えるとなぁ。

 今はいろいろと立て込んで大変な時期なんだよ、俺」

 

「そういや奥さんたち、出産日がそろそろなんだってな?

 3人も同時に身籠らせるとかうちのメンバーでもそうそういないぞ。

 未成年で年上に子どもを作らせた某支部長と同じくらいすごいじゃないか」

 

 

 そう黒医者ニキに言われて、照れればいいのか怒ればいいのか分からない複雑な顔で隆和は頷いた。

 

 隆和の子を妊娠している高橋なのは、華門和、吉澤加奈の3人はすっかりお腹も大きくなっていて、裏の事情も良く解っているガイア系列の産婦人科に入院してもうすぐ来る出産予定日を待っている状態だった。父親は同じという事もあって4人部屋の同じ一室に三人で入院しているのだが、隆和は顔を出すたびに看護師たちにはひそひそと陰で好奇心からいろいろと言われているからか3人と一緒にいない時にどこからか股間への熱い視線を感じるのが不気味でならなかった。

 

 彼女らの事も関係しているので、隆和はトモエも伴って彼に相談に来ていた。

 

 

「それで? 車が欲しいなら地元のカーディーラーに行けばいいじゃないか」

 

「これから終末になった時に普通の車が動くかどうかが疑問なんだ。

 異界では電子部品を使ったものはまともに動かないだろう?」

 

「ああ、なるほど。

 それなら、聞くだけ聞いてみようか。

 売ってくれるかどうかは自分で交渉してくれ」

 

 

 黒医者ニキが内線で電話すると、数十分後に一人の男がやって来た。

 成人男性にしては少し低めの身長で、金髪で赤いコートに黒のズボンに右足だけ金属製のブーツを履いている隆和もファンだった漫画の主人公にそっくりの男がそこにいた。

 やって来た彼に、黒医者ニキは挨拶をして話しかけた。

 

 

「よう、呼び出してすまないな、【エドニキ】。

 そういや、弟さんは?」

 

「いや、ガチャにも出してない倉庫の品を買ってくれるかもしれないんだろう?

 アルなら向こうで倉庫の整理をしているよ。

 で、初めましてアーッニキ」

 

「どうも、初めまして。今回はよろしく。

 いやー、本当にそっくりだなぁ」

 

「おう、俺たちハーフだからな。こんな容姿でも日本人だぜ。

 あと、アルのやつも作業用の霊装であのフルプレートを着て働いているよ。

 俺だって『あべたかかず』に会うのは3人目だぜ?」

 

「俺と似たような人がいるのは噂では聞いていましたけど、3人目?」

 

「ああ。

 道下ってキャラそっくりのシキガミを連れた同性愛者の奴。

 この間小学生の子どもを弟子を取った男女の両方イケる【くそみそニキ】。

 そして、転生者も含めて3人同時に孕ませたノンケのアーッニキの3人だ」

 

「似ている人って、割りといるんですねぇ」

 

「まあな。

 そっくりな奴って、マイナーからメジャーまで割りと幅が広いぞ。

 おバカな氷の妖精にそっくりなのに頭脳明晰で支部長をしているやつとか、ゾンビ漫画の美少女キャラそっくりで男の娘アイドルで売り出したやつとかいろいろいるぞ。

 アーッニキの奥さんの一人だって、あの白の冥王そっくりの『魔王ネキ』だろ」

 

「それはまあ、最近あの白い服そっくりの霊装防具も手に入れて時々着ていたからね。

 尋常じゃない威力のメギドラで悪魔を薙ぎ払っていたし」

 

「そこにいる黒医者ニキだって、あの漫画の医者そっくりだろ?

 もっとも、有名だから同じような格好の奴は10人くらい居るけどよ」

 

「私の事はいいんだよ、エドニキ。

 それより、彼を案内してやってくれ」

 

「おう、そうだな。

 じゃあ、アーッニキついて来てくれ」

 

「ああ。

 それじゃあ、今回はありがとう黒医者ニキ。

 決まったら、知らせに来るよ」

 

 

 隆和は礼を言うと黒医者ニキと別れ、案内するためにトモエと別の場所に移動するエドニキに付いて行った。

 

 

 

 

 黒医者ニキのいたシキガミ製造と医療棟のあるエリアから離れ、隆和たちは大型の倉庫が建ち並ぶ特殊な乗り物の開発エリアへとやって来た。ここは地元民はほとんどいない上に、俺たちの仲間内でも熱狂的な連中しか近づかない場所でもある。本人たちは対策していて平気なために気にしていないが、単純に爆発事故も多いからだ。

 開発した動力機関の試験で爆発しそうになると、見学者をそのままに素早く近くの塹壕に飛び込む耐爆白衣の群れはここの風物詩でもある。

 隆和たちが通過した場所でも車両の開発をしているようだが、研究者の俺たちが活発に議論がしているようだった。

 

 

「馬鹿野郎! 作業用ならレ○バーでいいだろうが!

 モ○ルスーツみたいなでかいのが作れるかっ!」

 

「まず小型のスコー○ドッグを作って二足歩行の実証からだろ?」

 

「それならそんな古臭いやつじゃなくて、ナイ○メアフレームだろ!?」

 

「いや、ヒ○ドルブはどうだ!? せめて、ザク○ンクで!」

 

「合体と変形はロマンだ。これなら、車両とロボットのいいとこ取りだろう!」

 

「だからってトランス○ォーマーは止めろ。

 ゲッ○ーみたいな変形機構のせいで人の乗るスペースが無いぞ」

 

「この大型トレーラーは変形して司令官にするんだから、『コン○イ』でいいだろう!?」

 

「これは『オ○ティマス・プライム』だろうが! 正式な名前で呼べよ!」

 

「おい! まだそれに、誰もシキガミコアを乗せるとは言ってないだろう!」

 

 

 作業場の隅を通って扉を閉めて喧騒から遠ざかると、案内していたエドニキが振り返ってこう言った。

 

 

「勘違いしないでくれよ。

 あの連中とは違って真っ当な車両の開発している奴もいるからな」

 

「まだ終末は来ていないのだから、できれば普通の形の車にしてくれ。

 警察に呼び止められるのは困るから頼む」

 

「ああ、分かっているよ。こっちだ」

 

 

 しばらく廊下を歩きエドニキが扉を開けると、そこには彼らが開発した思われる車が多数並んでいた。

 中の様子は、奥の方に昭和の蜘蛛男や光の巨人にと特撮に出て来たトンチキなデザインの車両が所狭しと再現途中で陳列されているのを見ないことにすれば、整然と多数の種類の車がずらりと並んだ車の整備工場のようである。

 隆和とトモエが呆けたように周りを見ていると、部品をどれに優先して使うかを議論している作業着を着た数人の技術者の間からフルプレートの長身の男性が現れた。エドニキが片手を上げて声を掛けて近づいて行った。

 

 

「おーい、アル。準備は出来ているか?」

 

「あ、兄さん。

 言われたとおりに、どの車でも指定してくれればすぐに整備して出せるようにしておいたから。

 じゃあ、ぼくは研究室の方に戻るよ」

 

「ああ、後でな」

 

 

 全身鎧の彼が去ると、エドニキは備え付けのノートパソコンを弄ると隆和たちに話しかけてきた。

 

 

「どうだ、あの鎧そっくりだろう?

 各種耐性やパワーアシストもついた自慢の霊装なんだぜ」

 

「そっくりだった。それで、中身はいるのか?」

 

「もちろん、いるとも。

 それで、どんな車が欲しいんだって?」

 

「まず、前提として終末を見越して、異界の中でも走れる車がいいんだ。

 あと、今使っているのは軽自動車なんだが、小さ過ぎて家族の送り迎えなんかに苦労したんだ。

 だから、日本の道路でも使える大型の物が欲しいんだが。

 欲を言えば、噂に聞くバスに変身できる黒猫の彼が欲しい」

 

「その黒猫、本当にいたらハムコネキが欲しがるけどやる夫さんに渡されるのがオチになるよ。

 …んー、要望に当て嵌まるやつで現在完品なやつは、と。

 3つあるなぁ。

 この中から選んでもらう事になるがいいか?」 

 

「とりあえず、見せてくれ」

 

 

 隆和がそう答えるとエドニキは彼らを最初の車のところへ案内した。

 そこには黒い塗装のされたアメリカ製のスポーツカーがあり、特徴的なのはフロントの先の部分に赤く左右に動きながら点滅しているランプが付いている所だろうか。

 エドニキは得意げに手で示しながら説明を始めた。

 

 

「こいつは見たことのある奴ならすぐに分かるが、『ナイト2000』のレプリカだ。

 異界の内部だと電子部品が働かないのは知っているだろう?

 だから、電子制御の部分をシキガミのコアで制御出来ないか試作されたのがこいつだ。

 シキガミとしての名前は、【Knight Industries Two Thousand、K.I.T.T.】だぞ」

 

「いやな、エドニキ。

 乗せたい人数が10人近い数を想定しているんだ。

 スポーツカーのこれではちょっとな」

 

「そうか。まあ、次に行くか」

 

 

 車の方から「えっ、もう行くのか?」という視線は感じたが、申し訳なさそうに見るトモエ以外の二人はさっさと次の車の方に移動した。

 次に行った場所には、ヒョウ柄の塗装が施され屋根に猫耳のついたマイクロカーと同じようなデザインのサンルーフの窓と後部がオープンデッキになっているトレーラーが接続されているサファリバスがあった。

 

 

「こいつは、2作目が炎上したとある獣娘アニメで登場したバスだ。

 これの特徴としては、異界内部での野営も行えるようにキャンピングも出来るトレーラーがある点だ。

 操縦は、そこに見えるぬいぐるみみたいな形状のシキガミが行なうようになっている。

 しかも、これの動力は開発されたマグネタイトバッテリーを使用したモーター駆動の電気自動車なんだ。

 アーッニキ、これなら大勢乗せられるぞ。どうだ?」

 

「済まないが、一般の公道でサファリバスは使えないぞ。

 確実に警察に呼び止められる事になる。

 もう少し、大人しいデザインの車はないのか?」

 

「まあ、そうだよな。

 動力部分はエンジン音を出すのに結構、苦労したんだがなぁ。

 じゃあ、次で最後だな」

 

 

 物悲しげに操縦席からこちらを見る青いシキガミの視線をトモエはペコリと頭を下げると、そのまま次の車に移動して行った彼らに小走りでついて行った。

 最後に行った場所は倉庫の一番奥にあり、そこには黒い塗装の施されたワンボックスカーが置いてあった。今までのものに比べて形状はあまりにも普通なので、隆和とトモエは身構えてエドニキの説明を聞いていた。 

 

 

「さて、こいつが今うちにあるバラされていない最後の完品の車だ。

 それでこいつは前の2つのシキガミ制御の部分と、MAGバッテリー駆動の電気自動車の部分を既存の車に組み込んでみた一番面白みのない車だな」

 

「いや。こういうのでいいんだよ」

 

「そうなのか?

 見ての通り、車種は一部の界隈でも有名な『ハ○エース』のカスタムモデルだ。

 前に2人と後ろは詰めれば6人乗れるな。

 後ろの座席を全部倒せば、寝台にもなるようにしてある。

 MAGバッテリーは後部の荷物スペースの下に来る形状になってる」

 

「いいじゃないか。これで頼むよ」

 

「ああ、分かった。

 ところで、ステアリングに秘密機能付きのボタンとかいるか?」

 

「いらないよ!」

 

 

 楽しげにそう聞くエドニキに、隆和は思わずそう返した。

 

 

 

 

 それから、数日後。

 隆和の血肉を使ったシキガミコアも組み込まれた黒いワンボックスカーが、隆和の居る華門神社へと届けられた。

 珍しげに神社のメンバーが集まって見ている中、興味深げに見ていた夜刀神華に隆和は聞かれた。

 

 

「先生、この子って名前は何て言うんですか?」

 

「ん? 

 何か長い英語の名前があったけど、縮めてこうしたよ。

 【デモニカー】だ」




後書きと設定解説


・関係者

名前:デモニカー
性別:男性
識別:シキガミ
職業:安倍隆和のシキガミ
ステータス:Lv10・フィジカル型
耐性:物理耐性・電撃弱点・呪殺耐性・状態異常無効
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    押しつぶし(敵単体・大威力の物理攻撃。命中率は低い)
    食いしばり(HPが0になった際、自動的に一度だけHP1で復帰する)
    三段の恵体(ステータスの体が15増加する)
    三分の活泉(最大HPが大きく上昇する)
    シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):食事(水分のみ)
詳細:
 ガイア連合でデモニカの試作品の一つとして作成されたシキガミ
 黒いハイエース型のライトバンの形をしており非常に頑丈な身体をしている
 電子制御の代わりにシキガミコアを用いて車体の制御をしている
 動力はマグネタイトバッテリー駆動のモーターで動いている電気自動車と同じ仕組み
 欠点はバッテリーの充電に大量のマグネタイトを必要とするために実用が困難な点
 意思の表現はそれらしいという理由でエンジン音やライトの点滅などで行なう

ちなみに、彼らはこちらに回される個人用でない希少なシキガミコアを奪い合っていました。


次は出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第46話 新しい家族と新しい問題

続きです。


 

 

  第46話 新しい家族と新しい問題

 

 

「お疲れ様、和、なのは、加奈」

 

「お産てこんなにも大変だったんですね」

 

「悪魔と戦うより難敵だったの」

 

「桃子のときと比べたら、とても楽なものでしたよ?

 『男子を産めない石女の嫁』って、姑にお腹を蹴られるような事もありませんでしたし」

 

 

 新しくデモニカーが来てからしばらく経ち、そろそろ冬になる頃になった。

 

 新しく来た大型車の運転や給油口に入れる傷薬や魔石の粉を溶かした水などのMAGを含んだ水の用意に、屋敷側の地下シェルターに続くガレージへの出入りの確認など隆和がデモニカーに慣れるうちに、ガイア系列の産婦人科に入院していた3人の出産が起こっていた。

 ただ、他のメンバーがさっさと手助けや事務手続き等を済ませていた為に隆和は彼女らの側にいるだけだったので、荷物持ちと運転以外は手伝える事もなかったが何か手伝おうとしては空回りする様は彼女らには愛情を感じる事ができていた。

 

 3人とも無事に帝王切開の必要もなく産むことが出来て、最初に華門和が娘の【花蓮(かれん)】を、次に高橋なのはが同じく娘の【梨花(りか)】を産み、最後に吉澤加奈が息子の【悟(さとる)】を産んでいた。何事もなく産後の入院も終わり、早速ワンボックスカーであるデモニカーを使って彼女らは華門神社に帰って来て、異界内の屋敷でいろいろと持ち込んで子育てを始めていた。

 神社の人員や異界内の悪魔たちも構いたがっていたおかげで、ワンオペ育児になる事もなく子どもたちの周りは賑やかであった。

 

 

 

 

 戻ってから数日、彼女らがゆっくりと育児に専念していた頃、子どもたちを抱き上げると何故か泣かれてしまう隆和は屋敷の北にある畑のエリアでひとりで農作業に精を出していた。

 ちなみにトモエは普通に家事もできるため、補佐のため彼女らの側に付いている。

 

 異界内では普通のトラクターは動かせず、さらに馬や牛などもいないためにもっぱら人力で何とかするような電気や車が来る前の日本の田舎の農村のような風景がそこには広がっていた。もっとも、主に作業をしているのは今の隆和のような手の空いた神社の人員か、ルサルカやスダマに夜刀神華が主要な作業員となっていた。

 ルサルカなのだが、「古代のスラヴ神話では人を水中に引きずり込む水妖でなく水源を守る豊穣神だったし、レベル上げもしたのだから頑張れ」と隆和に言われて、今では地霊スダマ2体を率いて鍬や鎌を持つのが様になる程に風景に馴染んでいた。

 またオシラ様といえば、2mに達する白く大きな巨体のために畑に入れずに農作業の監督をしているのだが、ゆっくりと歩いてきたそのオシラ様に雑草取りをしていた隆和は話しかけられた。

 

 

「チョットチョットヾ(^_^」

 

「どうしました、オシラ様?」

 

「(⌒^⌒)b」

 

「ええ、大根と茄子にキャベツと畑の作成は順調ですね。

 旬とか時節とかあるんでしょうけど、ここではいろいろ栽培できますからねぇ」

 

「(o*゚ー゚)oワクワク」

 

「もう少しで初収穫が食べられますので楽しみですね。

 保存の方も地下シェルターの冷蔵保管庫や、天日で干して乾燥させたりと大丈夫ですよ。

 漬け物の方は今、子どもたちが来て人手がないので少しずつになりますね」

 

「あのうヽ(^_^;)」

 

「品種を選んだ理由ですか?

 比較的栽培しやすい野菜だというのもありますが、異界で野菜を育てれば変異してカエレルダイコンなどに成るのを期待してだと聞いています。

 え? 普通の大根だけじゃなく京野菜の大根も植えたい、ですか?」

 

 

 彼が言っている京野菜の大根とは、『聖護院大根』『淀大根』『丸大根』と呼ばれる蕪のように丸い形状の京都南部で主に栽培されている大根である。

 直径はおよそ20cm、重さに関しては1~4kgにもなる大きいもので、そのルーツは約180年前に尾張の国から黒谷(京都市左京区)の金戒光明寺に奉納された長ダイコンをもらい受け、栽培を続けているうちに形の丸くて味の良い今の淀ダイコンが生まれたといわれている。

 

 今は門跡のみが残る京都市内の聖護院近くが主産地だったのを、大正の頃に今の京都南部で農家の方の努力で栽培されるようになっており煮崩れしにくく甘くて苦味が少ないため、主に煮物の材料となりおでんにも京都ではよく使われている。また、京漬物の大根漬にすると宮重大根より柔らかくなるため好みで漬け分けられるそうだが、家庭で出来る手軽な千枚漬けなどはご飯にとても合うので試してみて欲しい。

 

 どこで聞いたのか大根の神様として来ている東北出身のオシラ様としては、その『淀大根』がとても気になるらしい。

 うーんと考え込んだ隆和は、伺うように見るオシラ様にこう答えた。

 

 

「とりあえず、種か苗か買えるか聞いてみますね」

 

「d( *^ω^*)bヤッター!」

 

「マスター、出かけるなら肥料にするのでその抜いた雑草を片付けて下さい」

 

「はい」

 

 

 隆和は近くで作業をしていたルサルカにそう注意され、片付けてから異界の外に出かけて行った。

 

 

 

 

 気分転換も兼ねて出かける事にしたのだが、千早は中東でのニュースの詳しい情報を得るのとそれに関連して他所との交渉に出掛けていてトモエは母親たちが仮眠を取る間に子どもたちの世話をしているため、封魔管に昼寝をしていたカーマとその横で寝ていたマーメイドのエイプリルを入れて外に歩いて出た。

 

 ここ華門神社がある場所は京都市伏見区淀本町にあり、元々この辺は淀城跡公園に隣接する與杼神社を守る現地組織と京都競馬場にガッツリと資金投下している富豪の俺らの人の勢力範囲にあった。千早はここに拠点を構える際に周囲の現地組織への戦力供給も請け負っていて、神社のメンバーの覚醒者たちを修行も兼ねて派遣しているそうである。

 もっとも、この辺には隆和たちのような高レベルのメンバーを必要とするような悪魔は出現しないため十分なようだった。逆に、少し前に起きた京都の寺社に放火して回る表の左系活動家集団の検挙に協力するなど、人相手の方が多い始末だった。

 それもあってか、この辺は駅周辺に競馬場で一儲けした相手を目的にしたタカリが出るくらいで、宇治川の向こうにある祖国の経済がガタガタになった外国人が最近多く入り込んだ地域よりは治安がいい場所であった。

 

 だからこそ気づけたのだろう。

 大根の種を販売所で買いさらに異界の女性陣が要望していた菓子類10kgを買い込んだ隆和は、散歩がてら背中に背負って歩いていたエイプリルがトラブルに気づいて指をさす方向に向かった。

 

 

「…あの、急いでいるので困ります」

 

「ねぇ、君たち。少し遊ぼうよ?

 君ら、あそこの“美女だらけ神社”の巫女さんだろ、なぁ?」

 

「そうそう。

 そんな重い荷物、俺らの車に乗っていけばすぐだよ?」

 

「ねぇ、マスター。

 あそこで絡まれているの、うちの人たちじゃない?」

 

「そうだな。ちょっと行ってみよう」

 

 

 隆和の視線の50mほど先には、東海ナンバーの白いワンボックスカーの窓から顔を出した金髪に染めたチーマー風の若い男の二人組が、買い出しから戻る途中の華門神社の巫女の二人を昼間の住宅街の歩道に車を寄せてしつこく声を掛けているようだった。隆和が向かううちに一向に靡かない彼女らにしびれを切らしたのか、横のドアが開き中にいた4人ほどの男達が出て来て彼女らを取り囲み始めた。

 

 

「いいから乗りなよ、なぁ? 楽しいことをしてやるからよ」

 

「そうそう。

 いろいろとあの中についてもお話聞かせて欲しいし?」

 

「大人しくついてくれば、痛い思いはしなくて済むぜ?」

 

「これはしょうがないね」

 

「そうだね。やっちゃおう」

 

 

 男の一人が威力を上げる違法改造したらしいスタンガンを取り出した所で、彼女らは反撃に出る事にしたようだ。いくら容姿が可憐な少女でも、彼女らは華門神社の覚醒者でもある。

 大柄な体格のチンピラに囲まれても、相手が未覚醒なので対処できてしまうのだ。

 

 

「えい、この!」

 

「ぐげっ」

 

「やっ!」

 

「ぐおっ」

 

 

 身体能力の差と加奈の護衛術の指導により、隆和が午後の住宅街でも目立たない速度で走り寄る間に四人のチーマーを叩き伏せる二人の巫女。バックミラーで外の様子が分かっていたのだろうか、隆和が来たときには四人を置き去りにして車は走り去ってしまった。

 周りの家の人たちが事態に気が付き通報している中、走り寄ってきた隆和に彼女らは気が付いた。

 

 

「あ、総代様!」

 

「おおい、大丈夫だった…ようだな。良かった。

 ええと、……あさぎとまゆらだっけ?」

 

「はい、和さまのお付きの者です。

 助けに来ていただきありがとうございます」

 

「いや、それはいいんだ。

 とりあえず、警察が来るまでこのままだな。

 逃げないように、こいつらも押さえておかないと」

 

「買い出しに来ただけなのに、こんな事になるなんて思いませんでした。

 ……あのう、ところで何で背中に人魚の娘を背負って歩いているんですか、総代さま?」

 

「深い意味はないよ。散歩だよ、散歩」

 

 

 昼寝していた所を連れて来られた不機嫌なカーマにげしげしと足を蹴られながら、隆和はそう答えた。

 

 

 

 

 

 その日の夜、あの後来た警察に事情を説明しチンピラ達を回収して貰い後日に事情を改めて聞きに来るのでと解放された事を異界ではない神社の方の屋敷の夕食の席で、隆和はなのはたちに話していた。千早はモリソバを連れて山梨の方に泊まると連絡が来ていて、この場には産後明けの彼女らと和のお付きの三人が配膳の手伝いをしながらいた。

 トモエが子どもたちの主に面倒を見ているためにゆっくりと食事を取っている中、加奈は桃子の方も気にしながらお付きの彼女らに尋ねた。

 

 

「あさぎさんとまゆらさん、その人達は“美人だらけの神社”ってここの事を呼んで中の事を聞いて来たのよね?」

 

「はい、そうです。

 断ると車に押し込めようともしていました」

 

「隆和さんもその事は見ていたんですよね?

 何か変わった事はありませんでしたか?」

 

「車のナンバーが東海の方だったのと、あの連中は関西出身の話し方じゃなかったな。

 関東の方ぽかったかな?」

 

「……嫌な感じがするの」

 

 

 ぽつりと、なのはがそう零した。

 隆和が周りを見ると、母親になっても依然その勘は衰えていないなのはに同調するように加奈と華が頷いていた。考え込んだ隆和は皆にこう言った。

 

 

「何かしらこっちに害するような真似を考える奴が居るようだ。

 これからは外出する際は、必ず複数人で行動するようにした方がいいな。

 神社内は侵入者避けの警報も機械と結界で両方あるが、寝ずの番の頻度を増やした方がいいかな?」

 

「隆和さま、神社の皆にもそうご命じ下さい。

 わたくしと皆は既に隆和さま方と共に暮らしているのですから」

 

「千早にもさっそく連絡しておくの。

 そういう纏め役は彼女の仕事だし、黙ってやったら後で面倒くさいの」

 

「桃子の学校の送り迎えも車でした方がいいかもしれません。

 お願いできますか?」

 

「先生。私もそれに参加するね。

 私だって強くなっているんだから」

 

「よし。一応、関西支部の方にも連絡はしておこう。

 また何かあるかもしれない前提で行動するように。いいね?」

 

「「はい」」

 

 

 そう決まると隆和たちは、神社全体にその通達を出して今までより一層気をつけて行動するようになった。

 

 

 

 

「お前ら、着いたぞ。

 この中はじじいと若い男が一人きりで後は女しかいない上に、最近新車を購入できるくらい貯め込んでいるらしい。

 高い金を払うんだ、中の大まかな建物の位置は判るだろうから手早く済ませろ。

 30分過ぎたら車は出すからな。明白了吗(分かったか)?」

 

『………ああ、分かった』

 

『判ってるよ。いちいち指図するな、日本人』

 

 

 動きがあったのはその翌々日、10人ほどの大陸人や半島人の実行役と日本人の指揮役であるダークサマナーと運転手がいる強盗団が2台のレンタカーで乗り付けて深夜に押しかけて来た時だった。

 全員が目出し帽やフードにマスクをして顔を隠して手に手に鉄パイプにバールのようなものや催涙スプレーに改造スタンガンなどを持っており、手慣れた手付きでガレージ横の裏口の戸の鍵を工具で壊すとゾロゾロと中に侵入して来た。

 その内2人が新車の黒い車に行き、他は庭に出る扉を開けて庭から屋敷に入るために移動した。

 入り込んだチンピラの連中が、どう金目の物をポケットに突っ込むかを考えていられたのもそこまでだった。

 

 

「よう。支部付きの占術師の言うとおりの時間だな。

 よくもまあ、1~3程度とはいえ覚醒者のチンピラをこんなに集められたものだな」

 

「先生。こいつらを叩きのめせばいいんですか?」

 

「ああ、そうだ。

 殺すのと術は無しだが、思う存分訓練の成果を試すんだ。

 車の方にはカーマが行っているし、周囲にはもうトモエや神社の皆が行っているから逃げられんぞ、お前ら」

 

 

 そこまで言った時、ガレージの方で大きな物が壊れる音と悲鳴が響いた。

 それが合図のように、チンピラの連中が逃げようとしたりこちらに襲いかかるなど動き始めた。

 それを見て、舌打ちをした隆和は夜刀神華と共に彼らに襲いかかった。

 

 

「ちっ。デモニカーの奴、我慢できなかったか。始めるぞ、華!」

 

「はい、先生!」

 

『たかがその人数でどうにか出来るとでも思っているのか、日本人!』

 

 

 しばらく、経って。

 

 

「それではこいつらは我々の方で逮捕して連れていきますね、安倍隆和さん。

 ご協力ありがとうございます」

 

「ええ、よろしくお願いします。

 対処に困ることがあったら関西支部の方へ連絡して下さい、刑事さん」

 

 

 30分後、襲撃に来ていた連中は皆、動けない怪我を負って近所の通報でやって来た警察の方にと引き取られて行った。

 

 騒ぎで飛び起きた神社のメンバーや睡眠を妨害され怒り心頭で宿泊施設にいたガイア連合関係者も参加し、あっという間に連中は一人残らず叩きのめされ無力化されて突き出されることになった。

 カーマの弓でタイヤを壊され、周囲も回り込まれて逃げられなくなった指揮役のダークサマナーが切り札らしい【幽鬼ガキ】を召喚したようだが、あっという間に倒され自身も取り押さえられて御用となった。

 結局、事情聴取などで警察に一緒に行った隆和が寝られたのは、翌日になってからだった。 

 

 

 

 

 それから、数日後。

 ガイア連合の関係者への襲撃という事もあり、関西支部や帰って来た千早も調査に協力したのでほんの短期間で今回の事件のあらましが判明した。

 

 今回の襲撃の発端は、捕まったダークサマナーが計画した事だったらしい。

 元々この男は、大阪のあるヤクザ組織の構成員だったのだが横領がバレて破門の後に追放され、組でも後ろ暗い仕事のオカルト方面の人員の斡旋をする手配師を稼業としていた。

 ある時、伝手からおいしい話があると聞かされ華門神社の情報を手に入れたのそうだ。

 曰く、

 

『あそこの神社には男は少なくほとんどが女しかいないので、深夜に寝静まっている間に宿泊施設の方でなく屋敷の方に行けば仕事も簡単に済む』

 

『子どもを産んだ女が3人程居るので、何かあれば子どもを人質にすればいいだろう』

 

『黒の新車のハイエースを手に入れたらしいので、逃げる時にそれも奪って車専門の海外組織に持ち込めば高く売れる』

 

『日本人の霊能組織など、ガイア連合の直接に関係した場所じゃなければ大したことはない』

 

 など、その伝手から建物の位置を書いた書類を含めこれらの情報を手に入れたこの男は、大陸系のブローカーから人員を集めて襲撃に至ったのが真相のようだった。あの日、巫女の彼女らに声をを掛けていたのはこいつの手駒の連中が勝手にした事で、急遽襲撃をしたのもこの事が露見するので焦ったからだそうだ。

 

 実行役に外国人を使ったのも、自分への足取りが分かり難くするためと日本に密航して来て連中が金に困っていたので安く雇えるからだった。

 

 大陸の国は、この時期に本来なら工業化が進み『世界の工場』として経済的に飛躍するはずが、アメリカの背後に居るメシア教の影響で欧米が混乱した事で製品の買い手がいなくなり経済も鳴かず飛ばずとなった。

 

 また半島の南の国といえば、本来なら数年後に国家デフォルト後にIMFによる融資が行われるはずが大陸の国以上に貧弱な内需より外需に頼った経済がそれより早く破綻し、またメシア教が資金の調達と海外の霊能組織の弱体化のためにIMFと世界銀行にあったアメリカの資本を引き上げた影響で、融資審査が厳しくなってしまい国の経済がどん底になっていた。

 

 そこに来て、ガイア連合のお陰で好景気に沸く日本がそこにある。

 

 隆和たちの前世でもこの時期にテレビで言う『武装スリ団』のような出稼ぎが増えたように、こちらでも日本国内の在日の同胞の伝手やブローカーのお陰で合法非合法問わず訪日する彼らは日増しに増えていた。

 この動きは、後にガイア連合の手で空港や港に結界施設が敷設されるまで続くことになる。

 

 とにかく、こうして襲撃者たちは警察の手により収監される事になり解決するのだった。

 

 

 

 

 大阪の某ビルの事務所。

 人払いを済ませた事務所の豪華な椅子に座る神経質そうな半島人の形質を色濃く表した顔を、その男は不愉快気にしながら電話先の女と話していた。

 

 

「おい。連中、しくじって全員警察に逮捕されたぞ。

 少なくない金を使って、こんな事をして何の役に立つんだ?」

 

『不法滞在の迷惑な連中を減らせるのだから、貴方にとっても好都合でしょう?

 私としても気に入らないあの女への嫌がらせにもなりますし』

 

「仮にも、お前もあそこに所属していたのだろう?

 あそこの怖さは理解しているのか?」

 

『私を不当に扱って評価も出来ないようなあんな連中に、遠慮する義理なんて無いわよ。

 それに、こっちの事が術で追えないようにする物が手に入ったから実行に移したのよ。

 そっちだって、人を何人も介してあの情報を持ちかけさせたんでしょうに』

 

「もちろんだ。

 ただでさえ、この辺のゼネコンが軒並みあのガイアグループに尻尾を振るようになってやり辛いんだ。

 俺の会社にも悪影響が出ているしな」

 

『貴方の同胞の孫請けに仕事を割り振るのに、ゼネコン側が仲介を渋るようになったのはしょうがないでしょう?

 貴方の会社や貴方自身、いい噂は聞かないのだし』

 

「おい、俺が金を出していたジングォンの兄貴を潰したのはお前らの仲間だろうが!

 力でどうにかされないと思って、孫請けの連中が叛意を出し始めたのはそっちのせいだろう!?」

 

『私に怒鳴らないでくれるかしら!?

 もうこっちはあそこから抜けたのよ!』

 

「まあいい。

 しばらくはこの手は使えないからな、顧問弁護士殿?」

 

『ええ、それで構いませんとも。

 グレーなやり方はいくらでもありますから。

 依頼主様、それでは』

 

 

 受話器を置くとその男【金上金作(かねがみかねさく)】は、棚から度数の高い高級酒を取り出しグラスに注いで煽るように飲み干した。

 そして、机の上の華門神社の調査資料とそこに添えられた安倍隆和の写真を見て、金上は舌打ちし写真を灰皿で燃やした。

 

 

「こいつが絡むといつも俺に面倒なことが起こる。本当に忌々しい。

 まあいい。直にアメリカからアレが来さえすれば、あの女だって用済みだ。

 いずれ、俺に頭を下げるようになるぞ。ガイアグループめ」




後書きと設定解説


・関係者

名前:珠島あさぎ・まゆら・じゅり
性別:女性
識別:異能者・17歳
職業:華門和側付き巫女
ステータス:レベル6・マジック型
耐性:破魔無効
スキル:九字印(ハマ)
    遠当ての術(ザン)
    薬師如来呪法(ディア)
    護符作成
詳細;
 華門和と共に暮らす元土御門家の華門神社の家人たちの一人
 全部で人員は十数人いるが、このデータは覚醒した3人のもの
 容姿は、ガンダムSEEDのアストレイ3人娘

・敵対者

【ダークサマナー】

レベル6 耐性:破魔無効
スキル:悪魔召喚(ガキ)
    アギ(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
    脅迫・脅し
詳細:
 今回の襲撃を依頼され取りまとめていた手配師のダークサマナー
 元はやり過ぎて地元の組から破門されて追放されたヤクザの男
 集めた連中はレベル1~3の覚醒者で、チンピラとしては優秀だった

現地のダークサマナーの襲撃って、こんな感じでしょうかね?


次は出来るだけ早く。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第47話 異界? 大阪梅田地下街

続きです。


 

 

  第47話 異界? 大阪梅田地下街

 

 

「だから、この子たちが泣いてしまうのは、隆和の抱き上げ方に問題があるの。

 こうやって片腕で頭を支えるようにして、もう片方はこう持つの」

 

「こうかな?

 ……うーん、なのはの抱き上げ方なら自信があるんだがなぁ」

 

「もう! 恥ずかしい事を言っていないでちゃんとして欲しいの。

 お父さんなんだから」

 

「ああ、それは分かっているよ」

 

「隆和さま。花蓮も抱き上げて下さい」

 

「隆和さん。悟もですよ?」

 

『次のニュースです。

 先日起きたエジプトにおける反政府武装組織による大規模なテロは、非常に大きなものであった事が公開された写真から少しずつ判明してきました。

 世界的に有名な遺跡であるギザのピラミットやスフィンクス像が倒壊しており、近隣の都市においては毒ガス兵器の使用も確認された為に現地への出入りが禁止されており、被害者の総数や被害総額も判明していません。

 この件に際して、アメリカ合衆国大統領は国連の安保理において「テロによる大量破壊兵器の使用は許されない」と演説しており……』

 

 

 あの襲撃からしばらく経ち、年の瀬もすぐ近くとなった。

 子どもたちと母親の定期検診から帰り隆和たちが神社内の屋敷で夕食を取っている時に、テレビでは連日のように中東で起きた事を盛大にほぼ全部のチャンネルで伝えていた。

 

 表向きには“エジプトにおける反政府武装組織による大規模なテロ”とされているが、現地組織の支援や原油取引の商社関連で現地に赴いていた少数のガイア連合関係者によれば、メシア教と多神連合の激突はそれ以上に悲惨な状況らしいと掲示板にも情報が上げられていた。

 ただ、『メシア教の新兵器』や『現地の連中がやらかした』などのいろいろな情報が飛び交うので、情報の精査のために山梨支部の上の方から年明けまで箝口令が敷かれ情報の収集を進めていると発表があって過熱ぶりは一時の収まりを見せていた。

 

 これが終末の引き金になるのではと危惧して山梨支部で情報を集めていた千早も、すでにこちらに戻っていてその夕食後の席で分かった事を皆に改めて報告していた。

 

 

「襲撃を受けたからと聞いて慌てて戻ってきたら、こないな事になっとるとは驚いたわ。

 でも、皆に被害が無くて安心したわ」

 

「千早もご苦労さま。

 戻って来て早々に調査の方に協力もしてくれたみたいで、大阪府警のオカルト担当の人も感謝していたな」

 

「こういう事はうちの担当やさかい、ええんや。

 子どもたちも問題ないみたいで安心やで。

 中東の方も大混乱らしいわ」

 

「とりあえず、分かった事だけでも教えてくれないか?

 子どもたちに聞かせるような話題じゃなければいいんだが」

 

 

 その言葉を聞いた吉澤加奈と華門和が、自分の娘の桃子と食後のお茶を用意していたお付きのじゅりとまゆらに声を掛けた。

 

 

「桃子。

 悟をお風呂に連れて行くから部屋の用意をしておいて」

 

「はーい。それじゃ、華ちゃんも行こう?」

 

「うん、分かった。

 それじゃ、先生お休みなさい」

 

「じゅり、まゆら、子どもたちの入浴をするので手伝って下さい」

 

「「はい、和さま」」

 

「隆和さま、千早様、なのは様。

 子どもたちはこちらで見ますので、話し合いの方をお続け下さい」

 

 

 ばたばたと子どもたちを連れて皆が部屋を後にするのを見てテレビを消した隆和は、頭を仕事用に切り替えると同じように真面目な顔になったなのはと共に千早に話の続きを尋ねた。

 

 

「気を利かせて貰ったようだなぁ」

 

「最近、彼女も子供が出来てから神社の代表としての自信も付いてきたみたいなの。

 会った当初はお人形みたいだったのに、千早に影響されてからどんどん変わったの」

 

「なのははん。

 和はんはうちが教育したんやし、ええ方向になるに決まっとるんやで。

 まあ、せっかくやし『うちら』だけには話しておくようにした方がええ内容やしな」

 

「それで、何があったんだ?」

 

「詳細は本当に判ってへんのよ。

 遠方から監視していた人によると、前線のその場にいた連中は敵味方関係なく突然倒れてそれから溢れるように現れたミイラの大群に飲み込まれてしまったという事なんや。

 そしてミイラが消えると、一緒にそこにいた人たちの遺体もその場から消えてしまったんよ。

 その後はアメリカ軍がやって来て現場を封鎖したから、見ていた人も引き上げた言うんよ」

 

「たぶん、最初は呪殺のようだけど、ミイラが何なのか解らないな」

 

「…ミイラって、エジプトにしかいない悪魔だよね?

 ゲームだと、高レベルのアンデッドなの」

 

「それやと、エジプトの神さんたちが何かやらかしたんかな?」

 

 

 うーんと3人で考え込むも情報が足りなくて、やはり彼らには分からなかった。

 考え込むのは諦めた隆和は、彼女らに声を掛けた。

 

 

「近いうちに山梨の方から掲示板に発表があるだろうし、とりあえずそれを待とう。

 どうもこれで核ミサイルがどうこうにはならなさそうだし」

 

「そうやね。

 これ以上うちらが考えても意味が無さそうや。

 ああ、そうや。

 隆和はんを指名して仕事の依頼が来とるで?」

 

「仕事?」

 

「数日後のクリスマスにやる毎年恒例の例の仕事や。

 『去年は休んだのだから今年は出ろ』て、ウシジマはんからも言伝あるで」

 

「いや、皆と過ごしたかったんだがなぁ」

 

「それなら久しぶりやし、代わりに今日はうちとなのははんを可愛がってや?」

 

「え!?」

 

「よし、それなら異界の中に行くの」

 

「あの、ちょっと!?」

 

 

 隆和はそう言って意気投合したなのはと千早に両腕を同時に両脇から組まれ、傍に控えていたトモエに先導されながらそのまま異界の入り口である本殿の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 そして、数日後のクリスマスイブの夜になった。

 隆和はいつもの作業着の霊装の姿で、一人だけでネオンが消えて人の気配が消えた指定された現場に立っていた。

 そこは、白い大理石のようなヨーロッパの観光地にあるような噴水のある泉が広場に設置されている大阪の地下街の一角、待ち合わせ場所としても有名な『泉の広場』であった。

 

 『大阪梅田地下街』。

 

 そこは大阪を代表する繁華街である梅田に位置する地下街であり、他の2つの地下街にも直結している上に隣接ビル地下にある商業施設群と、曽根崎通り以南の四つ橋筋の地下にある地下街とも他の地下道を介して結合しており、それらも合わせて日本有数の規模の地下街を形成している。

 その規模は東西南北に数キロの広さがあり、延床面積は5万平方メートル以上で地下三階層、店舗数は二百以上、最寄りの沿線駅は六個ほどもある1日に利用する人数は数十万を数える地元の人も迷う大きさだ。

 

 地元の人間も迷うのには理由がある。曰く、

 

『歩いていると、いつの間にか地下1階のつもりが2階や3階だった』

 

『分岐が直角でないため、2~3回曲がると方向が分からなくなる』

 

『数ヶ月ごとのリニューアルで、通路が増えたり消えたりする』

 

『駅名が統一されておらず、最寄りに大阪と梅田駅が複数ある』

 

『どの改札口から出るかで、全く違う場所や行き先に出る』

 

『あるエスカレーターに何気なく乗ると、地上2階から地下1階に直行する』

 

 などなど、このような大きさと複雑さからテレビや雑誌により全国的にも【梅田地下ダンジョン】としても有名になっているが、この有名になった事が梅田に建設された関西支部の足元に問題を産む事になる原因となった。

 

 通常であるならジュネスを建造する事により、一帯の地脈の安定化と異界や悪魔の発生を防止する強固な結界が出来て付近の霊的な安全は担保されるのだが、梅田の場合は有名になった事で全国からも大勢の人の「何か出るんじゃないか?」というそれらの感情や関心がマグネタイトとなって、かえって地下の結界の隙間を縫うようにして悪魔が発生しやすくなる悪循環を産むという問題となっていた。

 

 そこで関西支部では定期的に広大な地下街の【異界偵察】を行っているのだが、年に数回はお盆などの特定の期間は人の出入りが増えて特に異界まで発生しやすくなっているために、閉店後の地下街を始発の時間まで大勢を動員して徹底的に【魔虫】を祓う霊的清掃をするのが毎年恒例の仕事となっている。

 そして、今日はテレビでは山下達郎や広瀬香美の歌が流れる恋人が寄り添うCMがたくさん流れているクリスマスである。

 だからこそ、こういう悪魔の出現もあり得るのである。

 

 

「り~あ~じゅう~、死~す~べ~し!」

 

 

 そこに現れたのは、赤いブラウスを着た黒のロングヘアをざんばら髪にした美女であった。

 現れた彼女は自分の思いの丈を述べると、思ったより真っ暗な事に気づいて白目のない黒一色の瞳でキョロキョロと周囲を見回した。

 そして、広場の隅に隆和が立っているのを見ると悲鳴を上げた。

 

 

「よう、アキちゃん」

 

「ぎゃああああっ! 去年はいなかったのに何でいるのぉ!?」

 

「去年は嫁さんたちと仲良くしていたからなぁ」

 

「お前もリア充だったのかっ! …おい、待て。『達』って何だ?」

 

「ああ俺、嫁さんが複数いて子どもも生まれたんだ。

 幸せだぞ、家族が出来るって。

 お前さんもこんな事はもう辞めて成仏したら?」

 

「きいぃぃぃっ! うるせぇぇぇっ!」

 

「本当にお前さんも変なふうになったよなぁ」

 

 

 大阪には、梅田の地下街の『泉の広場』には人を憑り殺す赤い服の女が出現するという都市伝説がある。

 

 広場でその女と目が合うと動けなくされてそのまま殺されると言われ、その女の正体は男に振られて自殺した女性ともされている内容だった。実際、その噂から誕生した彼女はレベル10にもなる強さの怪異として多くの犠牲者を出す悪魔であり、地下街に異界を作り出すボス悪魔の最有力候補でもあった。

 

 しかし、ガイア連合の関西支部が作られてジュネス建造による結界の始動により、某駅前ホテルの308号室の幽霊が消えたように彼女も変容した。

 始動直後に結界の圧力で身動きできない所を狩られて以降、ほぼ毎年復活しては結界に潰されたり標的として狩られる事を繰り返しているうちに、男なら誰彼構わず襲う通り魔からカップルの男性を嫉妬から襲おうとする変な怪異へと劣化しながら変貌していた。

 そして前に数度、どこぞの女郎蜘蛛のように快楽に蕩けた顔を大勢に晒しながら倒された経験を持つ彼女からとても恐れられていた隆和は、ジリジリと外への出口側へと回り込みながら彼女に話しかけた。

 

 

「復活するたびに狩りに来るお前らもお前らだ!

 お前がいなかった去年なんか、筋肉の集団に襲われたんだぞ!」

 

「ああ、関西支部長の仲間の【シックスバッグレディーズ】の人たちか。

 筋肉の腹筋と女性用バッグのブランドの名前を掛けているらしいなぁ。

 そういや、レスラーニキたちも他の場所で新人の引率をしているぞ」

 

「やめろっ! 呼ぶなよっ!

 あっ、今年もまたお前ら、私を狩るつもりかっ!?」

 

「人を襲うのを辞めないのが悪い。じゃあ、恒例の選択肢だ。

 対策済みの新人の彼らに倒されるか、前みたいに俺に倒されるか選んでくれ。さあ!」

 

「あんな顔で倒されるのは、もう嫌ぁぁぁっ!」

 

 

 そう叫ぶと【怪異アカイフクノオンナ】は、悲鳴と共に地下街の通路の奥の方へと駆け出して行った。

 隆和も途中の分かれ道に待機していたトモエやカーマと落ち合うと、その後を追うように彼女を追う勢子の役目を果たすべく通路の方へと小走りで走り出した。

 

 

 

 

「【ハマ】! よっし、MVPゲット!!」

 

「あああっ! リア充共に災いあれーっ、がはっ!」

 

 

 そして、数時間後の明け方近くまで地下街を逃げ回った赤い服の彼女は、無事に地下街を探索中だった新人たちによって討伐された。

 それを見届けて帰ろうと支度を始めた隆和に、いい感じに走り回って湯気を出しているレスラーニキが話しかけてきた。

 

 

「おう、お疲れさん。アーッニキ、ご苦労さんだったな」

 

「ああ、レスラーニキ。そっちも大変だったようだな」

 

「うむ。年々、地下街のあちこちでも【瘴気】が濃い場所が増えとるからなぁ。

 このままなら2、3ヶ月に一度の割合も増やした方がいいかもしれん」

 

「新人の研修にはちょうどいいんだけどな。

 それと、赤い服のアキちゃん、レベル6まで劣化していたが次の復活はあると思うか?」

 

「徐々に結界の方も強化が進んでいるから、今回か次で終わりだろうな。

 ああ、そうそう。今回の報酬を渡しておくぞ」

 

 

 そう言うと、レスラーニキはカバンからある品物を取り出した。

 それは、赤い激しく怒った男を象った木製の仮面であった。

 

 

「レスラーニキ、それは?」

 

「ああ、今日はクリスマスだろう?

 これは【嫉妬する者たちのマスク】と言ってな。

 特に効果はないが、防具としての頑丈さは一級品だぞ。ほら」

 

「ああ、ありがとう。

 これって、白いプロレスマスクだったような気がするんだが?」

 

「それは今、雑誌で連載中の元ネタの方だな。

 とにかく、子どもも生まれたばかりなのに呼び出して済まなかったな」

 

「いいや、いいさ。

 これから帰って仮眠したら、家族と過ごすさ。

 じゃあ、良いお年をってな」

 

「ああ、またな。アーッニキ」

 

 

 そう言ってレスラーニキと別れ仮面をカバンにしまった隆和は、ジュネスに寄ってクリスマスケーキとトモエが注文していた特製霊薬の【ライジング・レッドマムシ】を買うと帰路についたのだった。




後書きと設定解説


・アイテム

【嫉妬する者たちのマスク】
赤い怒れる男の顔を象った木製の仮面
特に効果はないが、頑丈さだけは超級の逸品
試しに砕こうとしたショタオジが少し本気を出すのが必要なほどだった

・敵対者

【怪異アカイフクノオンナ】
レベル6 耐性:破魔弱点・呪殺耐性
スキル:パララアイ(敵単体・中確率で緊縛付与)
    デスタッチ(敵単体・小威力の万能属性のHP吸収)
詳細:
 梅田駅地下街の『泉の広場』に出没するという噂のある女性の姿の怪異
 男性を襲ってその生命を吸い取る赤い服の女という都市伝説が生まれ
 昔の容姿は、流行の赤い服を着て黒色だけの目をした黒のロングヘアの美女
 今の容姿は、ボサボサ髪で洗濯もしてない赤い服の化粧もしてない喪女
 名前は「アキ」とも言われているが本人も憶えていない

自分は過去、新宿駅や横浜駅でも迷いましたので梅田には行きたくないです。


次回は、近いうちに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第48話 地元巡業・私立京都洛陽女学園

続きです。


 

 

  第48話 地元巡業・私立京都洛陽女学園

 

 

『エジプトでの多神連合の惨敗は、エジプトの神連中のやらかしが原因とは本当か?』

 

『霊地を壊された腹いせではと、掲示板の方にも報告が上がっていたから探してみろ。 

 メシア教に敗色濃厚になった所で勝手に損切りして、前線に呪殺と病を振りまいて戦場に派遣されていた他所の一流どころの異能者をミイラにして魂ごと魔界に持ち帰って引き上げたそうだ』

 

『残った連中もただじゃ済まないだろう?』

 

『アメリカ軍と天使共に掃討されて逃げ帰ったって、現地の日本の関係者が報告してくれたよ。

 それでいくつもの現地の宗教組織や政府も大打撃を被って、アメリカの石油メジャーが嬉々として乗り込んだとさ』

 

『連中は「主の導きがあった」とでも言うつもりか?

 裏の世界だけじゃなく、原油取引も完全にアメリカ主導になるのかよ。

 日本も9割以上石油は中東依存だろ?』

 

『ああ。だから、新潟とか日本国内でも原油を採掘しようと俺たちが動き出してる。

 原油の取引でアメリカを通じてメシア教に何を言われるか判らないしな』

 

『これのおかげで、先物取引の相場とか資源企業関連の銘柄が世界中で乱高下しているぞ。

 アフリカや中東は霊的には落ち着いても、OECDはもう駄目だな』

 

『そうだな。

 メシア教に取り込まれる前に、人員を国内に呼び戻すようにグループ各社に呼びかけよう』

 

 

 

 

 年が明けてしばらく経ち、もうすぐ節分になる頃になった。

 

 転生者掲示板ではエジプト神話の連中のやらかしが盛大に暴露され、ガイア連合のメンバーである経済界や政界の『俺たち』が対策に追われている中、華門神社ではある一人のお客を迎えていた。

 土産としてその人物が持って来たガイアグループ系列のコンビニである『トリプルセブン』が売り出した恵方巻きを神社の皆に切り分けて、神社内の応接室で隆和と千早は応対していた。

 

 

「いや、子どもも生まれたというのに顔も出せないで済まなかったね。安倍くん」

 

「いえ、お互いに色々と忙しかったのでしょうがありませんよ」

 

「そうや。祝いの品は頂いていたのやから、それで充分や。藤野はん」

 

 

 そう千早が言うと、面前のソファに座る人の良さそうな高級スーツを着た中年の男性はにこにこと微笑みながら鷹揚に頷いた。

 

 彼の名は【藤野槇雄(ふじのまきお)】。

 

 彼はいわゆる『富豪俺たち』の一人であり、現在は日本酒造組合の幹部をしている人物だ。もともと彼は京の出身で河童を宣伝キャラクターにしている蔵元で働いていたが、職人より商人としての才があったので社長に見込まれ伏見の酒造組合を経て日本酒造組合の幹部にまで上り詰めていた。そして、財界で他の俺たちと出会い、地元の関西でのガイア連合の進出の経済的後押しをしている者の一人でもある。

 

 

「ここの改装費用などのグループからの融資は気にしないでいいとも。

 それに見合う成果は出ているようだし、君らにはいろいろと期待させてもらっているからね。

 次に天ヶ崎くんに子どもが生まれた時は、盛大に何か贈るとしよう」

 

「いややわ、藤野はん。恥ずかしいわぁ」

 

「ありがとうございます。

 彼女との子どもも、情勢が落ち着いたらすぐの予定ですよ」

 

「いや、君の働きは本当に助かっているのだよ安倍くん。

 特にあの京都の妖怪ババァ共や関西支部をかき回していたあの女を排除してくれたのは、手が出し難くてね胸がすく思いだったとも。

 おかげで、友人の一条くんも家族と過ごせる時間が増やせていたようだ」

 

「それで今日はどんな用件で来られたのか聞いてもええやろか?」

 

「ああ、そうだったね。いくつかあるが、まずはこれだ」

 

 

 そう言うと彼はアタッシュケースを取り出すと、テーブルに乗せて開いて見せた。するとその中には、数十枚のプラスチック製と思われる色の違うカードが緩衝材と共に入っていた。

 彼は黒色の自分の名前が記されたカードを見せると説明を始めた。

 

 

「これは我々の新しい身分証だよ。

 これがあれば、外部の人間を引き入れた今の状態のうちでもいちいちデータベースで相手を調べて書類を作る手間も省けるからね。

 文字通り、色分けで事前の申請の通りに手早く相手を判別出来るようになる。

 中東の一件は君らも聞いただろう?」

 

「はい、聞きました」

 

「これからは国内の人間だけでなく、より多くの海外の人間がメシア教に追われて日本に疎開してうちに参加してくると山梨では予測している。

 選り分けのためにも、技術的にも霊的にもしっかりとした新しい身分証が必要だったという事だ」

 

「わざわざ持って来てくれてすまない事ですわ、藤野はん。

 それでうちらはその黒いカードという訳やね。

 もしかして、ICカードの機能も含まれているんやろか?」

 

「現金やマッカではなく、ガイア系列の企業でのみ使える【ガイアポイント】だがね。

 ほら、最近CMも始まっているだろう?

 『世界が崩壊しても大丈夫』や『国が変わっても大丈夫』とか。

 あれは嘘じゃないぞ。終末後の通貨の代わりだと計画されているからね」

 

「ウシジマニキに頼んで現金資産のほとんどをマッカや他のものに切り替えていましたが、やけにこれにしておけと言っていたのはそのせいだったのか」

 

「うちの口座やここの会計も、まだ完全に日本円を無くすのは時期尚早やからな。

 でも、出来るだけ早く交換しといた方がええと皆にも言っておかな」

 

 

 相談を始めた隆和たちを見て出されていたお茶を飲み、彼の話は続く。

 

 

「金と銀と銅クラスの名簿はこれでいいかは後で確認して欲しい。

 たまたまこちらに来る予定のあった私も、これを届けてくれと頼まれただけだからね」

 

「頼まれた、ですか?」

 

「ああ。山梨支部の技術者の新田くんだったか。

 何でも神主殿の高弟で、山梨で『邪教の館』を開くらしい。

 人魚を北にある八百比丘尼の異界でスカウトするのだと言っていたな。

 たしか、南雲くんと言ったかな?

 ここ京都の北部に支部を作った知り合いに手助けしてもらうとか言っていたようだが」

 

「邪教の館と言うからには、悪魔合体も出来るんかもしれへんな。

 ショタオジの直弟子みたいやし、すごい術者もおるもんやな」

 

「やっぱり、ショタオジの直弟子と言うだけあってその新田という人はすごいんだろうなぁ」

 

 

 彼の話を聞いて、感心するように隆和と千早は頷いていた。

 ちなみに、彼らは【ミナミィネキ】の本名が【新田美波】である事は知らないし、今まで彼女が作った装備を隆和たちはいくつか使用しているが、黒医者ニキが作成者の名前を言う必要もないと考えて伝えずに渡しているので気が付いていない。

 

 

「まあそこらへんは置いておくとして、そろそろ私の用件の方に移ってもいいかね?」

 

「ああ、はい。どうぞ」

 

 

 隆和がそう答えると、藤野氏は懐から手帳を取り出し説明を始めた。

 

 

「それでその調査員が戻ってこないと?」

 

「うちの子飼いの興信所でね。出来れば、行方と原因の方も突き止めて欲しい」

 

 

 彼の説明によるとこうだった。

 

 彼には藤野秋葉という末の娘がいて、現在彼女は高校2年生で京都の新興ではあるが金持ちの子女が通う全寮制の『私立京都洛陽女学園』に自宅から通っているのだが彼女から相談を受けたのが始まりだった。

 彼女によると、親しくしていた『安藤優子』という友人がある時から夜に寮にも帰らなくなっているとの事だった。

 その日、その安藤優子という女性は図書委員の仕事で日が暮れるまで図書室の掃除をしていたらしい。彼女が昼の授業にも出なくなっているのに学校側は問題はないとして扱っており、学校側からは彼女は他の一部の素行の悪い生徒と特別授業に参加しているとだけ通告があってお終いだった。

 秋葉嬢の証言によれば、彼女は素行が悪い事は決してなくこんな事になるのはおかしいので父親である彼に相談したのだと言う。

 

 

「娘が通っている学校が怪しげな事をしているからと、私は表向きに教育委員会などを通じて調べてもらったが異常はないと言われたんだ。

 ただ、娘がこんな事で嘘を言うはずがないからね。

 個人的に雇っているオカルト方面にも詳しい興信所に調査を依頼したんだ」

 

「それでその調査員たちが戻ってこんのやね、藤野はん」

 

「ああ。

 彼らが突き止めた所によると、ここの校長と教頭が月に一度、教育委員会のお偉方や評判の怪しい会社の重役を学園に招いて秘密裏に懇親会を開いているとの事だ。

 最近になって始まったらしいが、それから学園への寄付金も増えているらしい。

 先月の最後の報告では、その懇親会の内容を盗撮すると言って潜入したまま帰って来なかった」

 

「俺にそこに行って欲しいのは何か理由でも?」

 

「行われているのが新月の夜だと言うから、裏の事情が関わっているのはまず間違いないだろう。

 危険なので娘には学校を休ませているが、年明けからこれ以上長期に渡るのも拙い。

 それなら、私の伝手で雇える最大の大駒である君に頼みたいのだよ」

 

「こちらは構いませんが、次の新月の夜はいつになるんです?」

 

「2日後になる。頼む」

 

 

 

 

 そして、当日の新月の夜になった。

 

 生徒が帰り日も沈みきった頃、学園へと高級車が幾台も入っていくのを離れた場所に停めた黒いワンボックスカーのデモニカーの中から隆和たちは眺めていた。裏口の通用門も閉められしばらく経ったのを待ち、彼らは動き出した。

 車の中には隆和とトモエ、それにカーマと吉沢加奈がいたがドアを開けながら隆和は彼女らに告げた。

 

 

「まず、俺とカーマ、それに加奈とで忍び込んでみる。

 その間は他の皆はここで待機だ。そして、合図があったらデモニカーごと突っ込んでくれ」

 

「あの、私も行くんですか?」

 

「こういう潜入する依頼は加奈の方が経験があるだろう?

 訓練はしていも実戦からあまり遠ざかり過ぎるのもよくない。

 だから、信頼している君に手助けして欲しい」

 

「そう言って貰えるのは嬉しいのですけど、…それでこの服は?」

 

 

 彼女は、自分が着ている胸元の開いた赤と黒色のボディスーツ型の身体のラインがバッチリと出ている霊装を真っ赤になりながら指さして尋ねた。

 

 

「お祝いだって、山梨の黒医者ニキから贈られてきたんだよ。

 ぜひ、加奈に着せてやってくれってメッセージ付きでね」

 

「……あの、年甲斐もなくて恥ずかしいんですけど」

 

「性能はお墨付きだし、似合っていて可愛いよ加奈。

 それに言ってはなんだけど、それより過激なデザインのやつを加奈より年上の人が加奈の実家の方で着ているらしいよ?」

 

「実家のそういう部分は目をつむって下さい。本当にお願いします」

 

「ああうん、わかった。それじゃあ行くとしようか」

 

「主様。お気をつけて」

 

「バックアップは任せたぞ」

 

 

 隆和はトモエにそう声を掛けてデモニカーの車体を軽く叩くと、返事のランプの点滅を受けながら加奈と塀を乗り越えて侵入した。

 

 

 

 

「よっと」

 

『ギギャッ』

 

「【絶命剣】」

 

『ギキィ』

 

「それらしいのはこちらの方みたいだな」

 

『グゲェ』

 

 

 カーマの弓が巡回役らしいレベル4【幽鬼モウリョウ】を貫いて倒し、もう一匹の方を加奈がスキルで倒した。奇襲を試みていたらしいもう一匹を握り潰した隆和は、しばらく移動した校舎内で事前に貰っていた校内の見取り図を月明かりの中で確認していた。

 どうやら新月の間だけ濃いマグが立ちこめて、校舎内が異界のような状態になっているのか悪魔がうろついている状態となっていた。ただ、この状態が続けば、もしかすると一定の条件が揃った時だけ異界が発生するような危険な場所になってしまうかもしれないと加奈は隆和に指摘した。

 

 

「話に聞いた事のある【影時間】みたいな奴かな?

 そういう仕掛けのある異界もあるとは聞いていたが」

 

「前にそういう異界に踏み込んで行方不明になった同僚を拾い出した事があります。

 一旦閉じるとそういう異界はなかなか開くことはなくて、その時は身体や装備の残りの破片しか回収できませんでした」

 

「少なくとも俺が側にいるから安心してくれ。

 そうすると、怪しいのはこの『貴賓室』とかいう広めの部屋だな。

 校長室のすぐ隣にあるし、ここにいるんだろう」

 

 

 人気のない夜の学校の廊下を慎重に移動し、隆和たちは1階の一番奥にある校長室と貴賓室のある廊下にたどり着いた。

 廊下の端に隆和たちを待たせ偵察を申し出た加奈がそっと近づくと、貴賓室と書かれたプレートのついた扉の隙間からは明かりとくぐもった女性の声がが漏れている。中を覗くと、5、6人ほどの裸の中年男性たちが焦点が合わない虚ろな目をした数人の女生徒達を嬲っている光景があった。一番奥の方にはコウモリの翼を生やしたニヤついた表情の背広の中年男性がおり、紫色の肌の痩せぎすのそいつがリーダーのようだった。

 しかしそこでそのまま戻ろうとした加奈は、腰に差していた忍者刀を廊下の脇にあった消化器にぶつけて大きな音を立ててしまった。

 

 

「そこにいるのは誰だ!?」

 

「あっ、しまった!」

 

「加奈、こっちへ。カーマ、外に合図だ!」

 

「まかせて!」

 

「ごめんなさい、隆和さん」

 

 

 部屋の中が騒がしくなった見た隆和はカーマに指示を出すと、こちらに走ってくる加奈の元にと走り寄った。

 中からズボンを慌てて上げてリーダーらしい中年の男が出てくると同時に、カーマが窓の外へと【魅了突き】を込めて空に矢を放つ。

 加奈を背中に庇い、隆和はレベル17【夜魔インキュバス】と目に映る男と対峙した。

 それらを見て舌打ちしたその男は隆和たちに誰何の声をかけた。

 

 

「ちっ。貴様ら、どこの回し者だ?

 ここがオレ様の庭だと知っての行動か?」

 

「お前こそ、誰に召喚された? 答えるなら考えてやるぞ?」

 

「黙れ! いくらオレ様より強かろうがこれで終わりにしてやる。

 さあ、オレ様に従え! 【セクシーダンス】!」

 

 

 勝ち誇った顔で魅了の効果がある腰を怪しげにふるダンスを踊るインキュバス。

 だが【押しつぶし】で校門の鉄柵をぶち破るデモニカーの轟音がして、驚いてその方向を見たインキュバスの隙に隆和は拳を握りそのまま走り寄った。

 隆和たちが近づく事に気が付き、インキュバスは慌てふためいた。

 

 

「な、何で魅了が効かないんだ!?」

 

「愛の神に聞くわけがないでしょう? 【魅了突き】!」

 

「対策くらい当たり前だろうが! 【地獄突き】!」

 

「私は隆和さんのものなのよ! 【絶命剣】!」

 

 

 3人の攻撃を受けてボロボロになりながらも転がり、逃げ込んだ部屋の中の少女たちにインキュバスは声をかけた。

 

 

「おい、お前たち! 俺を早く助けろ!」

 

「クスクス、ばーか。誰が助けるもんか」

 

「「ねー」」

 

 

 ここの制服を着ていた黒い被膜の翼と黒い尾を生やした女生徒たちは皆、クスクスと笑いながらインキュバスを嘲笑った。

 そして、部屋の中にいた中年男性たちを魅了のスキルで動けなくして転がすと、【夜魔リリム】に成り果てた彼女らはインキュバスに答えた。

 

 

「教頭のくせにそんな化け物になって変な術で私たちにこんな事をさせ続けた挙げ句に、同じ化け物に変えたあんたにいつまでも従うとでも思っていたの?」

 

「今までは従うしかなかったけど、あんたより強くて助けてくれそうな人が来たならもう用済みよ」

 

「こんな汚らしい事をしないと飢えるような化け物にしたあんたなんか死んじまえ!」

 

「お、お前ら、容姿がいいからこそ目を掛けてやったのに!」

 

「事情は彼女らに聞けばいいようだし、一度悪魔になると人に戻すのはうちの技術でも手間なんだ」

 

 

 彼女らにも見捨てられたインキュバスに、隆和はそのまま拳を振り下ろしその頭蓋を打ち砕いた。

 

 

「教頭は行方不明になったとしておくよ。じゃあな、【チャージ】、【地獄突き】!」

 

「待て! 俺は騙されただk……ベグゥ!?」

 

 

 

 

 この事件の後日談を語ろう。

 

 デモニカーが駐車場で大騒ぎを起こしたことで周辺住民の通報があり、駆けつけた多数の警察の車両が来た事により事件は終了する事となった。

 インキュバスと化していた教頭が消滅した事により校舎内の異常も消え失せていたおかげもあり、隆和はリリムとなっていた彼女らの協力で目当ての呪物を回収すると彼女らを連れて警察の到着前に引き上げる事が出来た。

 

 貴賓室にいた男達はその後逮捕され、府警のオカルト担当とガイア連合の担当者が隆和と藤野からの連絡と捜査から分かった事を吟味し協議した結果、彼らは強制買春と入札談合の罪で収監される事となった。

 もともとあの場にいた男達は、学園の校長に一部の教育委員会のメンバーに建設会社の幹部だった。

 どうも中途半端にオカルトの知識があった幹部の男が、手に入れた人を淫魔に変える呪物を用いて府内の学校関係の入札で便宜を図ってもらうために、知り合いだった学園の教頭を引き込んでサバトの接待を開いていたというのが真相のようだった。

 全ては悪魔を利用できると考えたこの幹部の男の愚かしさが招いた事件だった。

 

 呪物であった古い書物の『魔女が与える祝福』はそのまま封印処理をされて山梨に送られ、半魔のリリムとなっていた女生徒たちはガイア連合の病院へと送られ治療を受ける事になったと、隆和は娘の友人を助けた事へ感謝する藤野から知らされた。

 治療を受けた女生徒たちもこの事は凄惨な体験となった事で、ある者は完全に人間に戻って全部忘れる事を望み、またある者はリリムとなったままミナミィネキのスカウトを受けて高校卒業後は彼女の店に就職したりする事となった。

 

 また、彼女らの一人だった藤野の娘の友人である安藤優子は、他の彼女らとは違い友人の秋葉と共にガイア連合に参加する事になったと複雑な表情の藤野から知らされ、彼の愚痴を隆和は聞くことになるのだった。

 

 

 

 

 大阪の某ビルの事務所。

 

 人払いを済ませた事務所の豪華な椅子に座る神経質そうな顔を事さらに歪めたその男は、一層、不愉快気にしながら電話先の女と話していた。

 

 

「……という訳で、顧問弁護士のあんたにはしでかしたうちの馬鹿の弁護を頼みたい。

 無罪が無理なら、あいつが独断でしたという事にしてくれ」

 

『は? 強姦魔の弁護を私にやれ、ですって? 冗談は止めてくれるかしら』

 

「おい。高い金を払って顧問にしているのを忘れるな!

 あれでもうちの中では仕事の出来る奴だったんだぞ!?」

 

『ふん。そっちの事情は知ったことではないけど、私自身でなく忠実な後輩ならどう?

 別に有罪でも構わないんでしょう?』

 

「それで構わん。

 クビにはするが、今までの功績を考えて最後に弁護士くらいは付けてやるつもりだからな。

 くれぐれも余計なことを口走らせないようにだけ注意してくれ」

 

『わかったわ。

 近日中にそちらに連絡させるようにするわ。

 せいぜい会社を潰さないようにだけはしてくださいね?』

 

 

 そう言い残し切れた電話の受話器を叩きつけるように置いた金上は、いつかのように度数の高い高級酒を飲み干すと唸るようにブツブツとつぶやいていた。

 

 

「くそっ、あの馬鹿野郎。勝手に持ち出しやがって!

 京都の方に食い込むのもこれでご破産だ!

 まあいい。あの船の方も直に来る。

 それまでは、警察の連中の好きになどさせてたまるものか。

 そうだ。鋭のやつ、テレビ局を手に入れたとか言っていたな。

 なら、この件で協力させてやるか」




後書きと設定解説


・関係者

名前:吉澤加奈(よしざわかな)
性別:女性
識別:異能者・32歳
職業:くノ一武術インストラクター
ステータス:レベル10/12
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:絶命剣(敵単体・中威力の物理攻撃)
    クナイ乱射(敵全体・小威力の銃属性攻撃)    
    武道の心得(物理スキル使用時のHP消費量が半分になる)
    房中術
装備:忍者刀(模造刀)
   対魔忍スーツ(魅了無効付与。ガイア連合製スケベ霊装)new!
   呪殺無効の銀の指輪 new!
詳細:
 対魔忍(仮)出身の他の忍者流派の組織に嫁いでいた未亡人くノ一
 主人公に救助され押し気味に口説かれてOKし彼の元に来た
 20代にしか見えないショートカットの胸の大きい色気の増した美女
 10歳の娘の「桃子」(【ステルス】習得住み)と息子の「悟」がいる
 前の義実家から解放され自分の経験を頼りにされて今の性活を楽しんでいる

名前:藤野槇雄(ふじのまきお)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・56歳
職業:日本酒造組合幹部
ステータス:レベル3
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:ポズムディ(味方単体・毒状態を治療する)
    財力・交渉術・根回し
詳細:
 戦後の早い時期に産まれた転生者の中で経済的に成功した【富豪俺たち】の一人
 河童をイメージキャラにした蔵元の出身で組合で頭角を現して重役になった
 関西支部の大口スポンサーで、京都競馬場のガイア関連にもしっかり食い込んでいる
 京都神社庁理事の一条氏とは友人であり、京都内の霊能関係では協力をしている
 上の息子二人は母の死から父親と折り合いが悪く家を出ている
 末娘に高校生の藤野秋葉(ふじのあきは)がいる
 容姿のイメージは、某錬金術師漫画のティム・○ルコー

・敵対者

【夜魔インキュバス】
レベル17 耐性:電撃弱点・衝撃耐性・魅了無効
スキル:夢見針(敵単体・小威力の銃属性攻撃。低確率で睡眠付与)
    セクシーダンス(敵全体・中確率で魅了付与)
    吸血(敵単体・小威力の万能属性HP吸収)
    人化(自身・人だったときの姿になれる)
詳細:
 「私立京都洛陽女学園」の教頭だった男が憑依され変わり果てた悪魔
 古物商から手に入れた古文書「魔女が与える祝福」により召喚した
 古文書自体に召喚を強要する魅了の術が掛かっていた
 元々は魔女狩り時代の異端審問官が功績を得るために作った書
 悪魔を利用しようとした愚かな金上の部下が教頭に書を渡した

【幽鬼モウリョウ】
レベル4 耐性:破魔弱点・呪殺無効
スキル:吸血(敵単体・小威力の万能属性HP吸収)
    吸魔(敵単体・小威力の万能属性MP吸収)
詳細:
 この件を調べに来た調査員の成れの果て
 殺された後にインキュバスに使役されていた
 隆和たちには気付かれずに倒された

【夜魔リリム】
レベル2 耐性:氷結弱点・電撃無効・魅了耐性
スキル:セクシーアイ(敵単体・中確率で魅了付与)
    吸魔(敵単体・小威力の万能属性MP吸収)
    人化(自身・人だったときの姿になれる)
詳細:
 「私立京都洛陽女学園」の元女生徒たち
 魅了の術で【接待】をさせられる果てに半魔になった


次回は、近いうちに。
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第49話 華門神社での日常と関西支部での不穏

続きです。


 

 

  第49話 華門神社での日常と関西支部での不穏

 

 

「今日はいらっしゃらないんですか?

 先日助けて頂いたので改めてお礼を言いたかったんですが」

 

「うちの人、今日は別の所でお仕事が入っていて出掛けているんです。

 ごめんなさいね」

 

 

 先日の女学園の事件からしばらく経ち、3月になって春になりすっかり暖かくなった。

 今日は神社に居合わせたなのはがお客の相手をしていた。

 

 彼女は先月、隆和がとある事件で完全に休校となった女子校で助け出した娘で、名前を『安藤優子』と言う髪を肩の所で切り揃えた長身の美少女だった。

 彼女は助け出されてから友人の藤野秋葉の援助を受けて、目覚めかけた夜魔リリムとしての力を自分のものにするべく先日までガイア系列の病院に入院し治療を終えたばかりだ。あの時自分は恐れるしかなかった元教頭だったインキュバスを一撃で葬った隆和に彼女は個人的な興味を抱いていた。

 

 彼女はズズッと出されたお茶を飲むと、じーっと伺うように見るとなのはに話しかけた。

 

 

「高橋なのはさん、でしたよね? 姓が違うようですが、あの人の奥さんですか?」

 

「そうなるの。子どもも娘が生まれたばかりで、とても可愛いのよ?」

 

「…そ、そうなんですか。もうお子さんが…」

 

「他にも数人子どもを産んだ人もいるんだけど?」

 

「……え?」

 

「代わる代わる彼に可愛がって貰っているけど、他にも順番待ちがいるの」

 

「……ええ!?」

 

「ところで、今日はお礼を言う他に何かあの人に御用でもあるの?」

 

「…………いえ、お時間を取らしてすみませんでした。日を改めてお礼に伺います」

 

 

 引きつった笑みを浮かべると彼女は、にっこりと微笑んだなのはに一礼するとそそくさとその場を後にした。

 その彼女を見送ると、なのはは憮然とした顔になり後片付けを始めた。

 

 

「この業界特有の相手を増やす理屈は理解できるけど、安易に他所から来るのはもう充分なの。

 ただでさえ、ここだけで大勢いるのにこれ以上増えないで欲しいの」

 

 

 

 

「これはまたなんて言ったらいいんだろうか?」

 

「シュール、ですかね? 主様」 

 

「ちょっとシュール過ぎるんじゃないんですかー?」

 

 

 その頃、隆和はトモエやカーマと華門神社内の異界【人工異界・華門島】の見回りをしていた。

 ここの異界の経過観察という名目でちょくちょくサボりに来ては浜辺のデッキチェアでくつろいでいるショタオジから、「規定量のマグが貯まっていたから、ここのアップデートをしといたよ」と帰り際に新しい仕様書を渡されたので点検に来ていた。

 

 仕様書によれば、ここの異界は屋敷の地下に異界の主の代わりの異界制御に特化した式神が埋め込んであるらしいのだが、思ったより早くMAGの貯蔵が進んだので異界の成長とアップデートを行ったのだと書かれている。カーマがマカラに乗って島の外周をぐるりと周って確かめた所では、今まで島の東側の地霊コダマが漂うだけだった林の部分が大きく面積を広げ森へと成長しているのが分かった。

 さらに、北側の畑の部分と南の住宅部分の外周部分に森との間を遮る高さ1mほどの木製の塀が建てられ、島の中央の山の麓に湧く水源となる屋敷裏の泉も大きくなり畑側への用水路も増設されて海に注いていた。

 

 ショタオジは口を濁していたが、隆和には急激に異界のMAGが増えた原因が大体とではあるが想像がついていた。

 

 人間の精気のことを指し、様々な感情によって生じる一種のエネルギーであるマグネタイトの異界での濃度を上げる一番手っ取り早い手段は“サバト”である。何しろ覚醒に関わらず人間の男女を用意して管理しておけば、長期的にマグを得られる一番簡易な手段でもある。他には【信者脳みそマグ生成器】などもあるが、そんな事をするのは狂ったメシアンと天使だけである。

 

 

「大丈夫、涼くん。年上の奥さんに任せて♡

 天井の木目を数えているうちに終わるから、ね♥」

 

「あ、ああ。ふぇいとさん、…………くうっ」

 

 

 ここの場合はどうかというと、切っ掛けは先月ここの男性職員と結婚したモリソバこと田中菲都だろう。

 

 何しろ結婚祝いとしてなのはが自分用に購入していた恐山の若返りの水を贈り彼女が10歳ほど若返った事で、音が外に聞こえにくい異界内の住宅の一つに住み込むと元気に【夜の行為】に励み出したのだ。さらにそれに触発されて、組織内の男性職員ほぼ全員が一部の女性たちに捕食される事になり異界内のヤリ部…もとい住宅エリアに嬌声が響く事態となった。

 もともと異界内のマグ濃度は隆和が連日異界内で行なう【夜の行為】で徐々に増え、いろいろな契約悪魔も増えて異界内の開拓が進んだことで増加速度が加速していたがここへ来てこの急加速である。

 実質的な経営部分を担っている華門和と千早も、自分たちもしている事もあり乱暴やNTRもないからとそっと見ないことにしたようだ。

 

 そんな神社の異界であるが、隆和たちは他の場所を見回りその森との境にある門を抜けて森の中へと踏み入っていた。

 

 

『フハハハ、恐ろしいか人間よ!! 己の非力を嘆くがいい!!』

 

「ああ、意味不明過ぎて恐ろしいぞ。誰がお前らの姿をこうした?」

 

『決まっている! 召喚主のデザインだ!』

 

「「ああ」」

 

 

 彼のデザイン力ならば、この手抜きのデザインもさもありなんと隆和とトモエは頷いた。

 確かにショタオジの仕様書には、森に実戦相手と食料を兼ねた【フード】種の悪魔が湧くように設定したと書かれている。

 ただ、彼らの眼の前には、首のない加工済みブロイラーチキンの姿の【フード オンモラキ】のリーダー個体が、白い肌の【フード カタキラウワ】の背に跨って周りに多数の同じ姿のオンモラキたちを従えて高笑いをする姿があった。

 

 

『我々はここに宣言する! この森は不可侵の我らが領土とすると!』

 

「【疾風斬】」

 

「「「ぐわーーーっ!!」」」

 

『ぐっ。お、おのれ人間め。我が倒れようといずれ第2第3の我が…』

 

「えい」

 

『ぐわーーっ!!』

 

 

 オンモラキたちは問答無用とトモエが多数を薙ぎ払い、カーマがリーダーを射止めて全滅し後にはそれぞれ肉の塊がドロップしていた。

 この日からたびたび森のフード悪魔の討伐と狩りが日課に加わる事になった。

 

 

「隆和さま。この大量の鶏肉は何でしょう?」

 

「うちの異界で採れるようになったんだ。とりあえず、今晩はこれを調理してくれないか?」

 

「はあ、それではなのはさまとも相談して調理してみますね」

 

「うん、頼むよ。和」

 

 

 その日の夕食の鶏肉尽くしは、異界の悪魔たちにも行き渡る量のご馳走になったという。

 

 

 

 

 同じ頃、天ヶ崎千早は打ち合わせのために、和のお付きの一人の珠島じゅりを連れて関西支部へと顔を出していた。

 

 もともと華門神社はガイア連合の派出所でもあるので、入口近くのアパートも構成員が泊まるためのものであるし関西支部で出される依頼の代理受付も行っている。それらの関係書類を持って来たついでに、自分たちのところに招聘できる技術者や術師を探すつもりであるのと、最も重要である関西支部と京都方面の各派出所を結ぶ淀川水系を利用した『霊道水路計画』の進捗状況の確認にも来ていた。

 

 千早が顔を出した時、関西支部では表のジュネスも地下の食品街以外は臨時休業にするほど多くの裏の人が行き交う忙しさを見せていた。

 手続きの書類を受付に渡し千早はじゅりと顔を見合わせると、通りかかった顔見知りの事務員にどういう事なのかと話しかけた。

 

 

「あの、すみません」

 

「すまないんやけど、何があったん?

 副支部長のウシジマはんと会う約束があったはずなんやけど?」

 

「あ、天ヶ崎さん。

 例の中東での一件、あれで日本へ避難する人たちが増えたんですけど中東からの人たちだけじゃなくて。

 欧州の方でも飛び火して、メシア教過激派と穏健派の内ゲバと非メシアのコミュニティへの襲撃が増えたそうなんです。

 それで逃げて来た人たちの船が大阪港にも何隻か回されてきたらしく、我々も対応に追われているんですよ」

 

「じゃあ、日を改めた方がええんかね?」

 

「いえ。アポイントの方は大丈夫ですので、このまま応接室の方へどうぞ」

 

「おおきに。それじゃ忙しいところすまへんかったな」

 

 

 一礼して忙しそうに小走りで去る事務員を見送ると、千早とじゅりは応接室に向かった。

 応接室で待つこと十数分、少しばかり慌ただしい雰囲気を持ったウシジマニキが部屋に入って来た。

 ソファに座る二人に挨拶をすると、彼も対面のソファに座ると事務員が持って来たお茶を飲み干して一息ついているようだった。

 

 

「なんや、忙しそうやないか。抜けて来て良かったん?」

 

「大丈夫だ、お嬢。

 お嬢があの女とそのシンパを追い出してから正常に回るようにしたからな。

 俺が決済するものはだいたい片付けてきた」

 

「それでその忙しい事の方もやけど、頼んでおいた情報を教えてくれへんか?」

 

「ああ。まず今の忙しい方だが、避難して来た海外組織の人員の受け入れと調査をしているんだ。

 表向きの入国手続きと検疫なんかの法的なものと裏向きの紐がついていないかとかの調査だな。

 それから、受け入れ先を選定してどこに誰を送るか面接などして決めてと、それを百数十人規模でするんだ。

 俺もこの後に調査の済んだ代表と面接だよ、お嬢」

 

「うちも手伝ったほうがええやろか?」

 

「いや、こっちもお嬢から副支部長を引き受けたんだ。

 こっちの事はこっちでするとも。

 お嬢は抱えている連中の方を優先してくれ」

 

「おおきにな」

 

 

 今の世界でメシア教の影響が他と比べて少ないのはアジアで、その上で先進国の仲間入りをして安定しているのは日本だけだ。

 だから、目ざとい彼らがこの国を目指して脱出してくるのも当然だろう。

 そこまで話しお礼を言い微笑む千早を見ながら眼鏡を掛け直したウシジマニキは、懐から手帳を取り出すと別の話を始めた。

 

 

「お嬢が欲しがるような相手は今のところ見つかっていない。

 ただ、技術者に関しては海外から逃げてきた連中の中から見繕ってみる予定だ」

 

「うちの形態は神社やけど、個人の信仰はメシア以外は拘らんからそれでお願いするで。

 出来れば、相手が若い女性やと好都合や。

 うちの人なら【余計なこと】は考えんようにしてくれるからな」

 

「……ああ。あいつなら出来るだろうな。

 だてにお嬢の他にも娶っているわけじゃないしな」

 

 

 うっとりとした顔で何かを思い出しながら語る千早に、数秒ほどウシジマニキも口ごもったが見なかった事にして話を続ける。

 

 

「それと淀川を使った【街道】の計画だが、淀川水系のしゅんせつ工事に紛れる形で川底に結界の発生装置を埋設しているところだ。

 お嬢のところは、桂川経由で淀城跡公園にある淀神社に【街道】の出入り口を任せる形になるから藤野さんのところと連携してくれ」

 

「了解や。

 先日も藤野さんからの依頼を受けたところやし」

 

「ただ、途中にある『石清水八幡宮』の封印異界が手強すぎて攻略が不可能な状態なのが問題だ。

 ここの異界の状態が干渉するんじゃないかと危惧されているんだ」

 

「攻略は出来ひんの?」

 

「難しいだろう。

 ショタオジ本人に長期攻略を頼めば可能かもしれないが、出来ない相談だ」

 

「確かに、それはできん相談や。

 本人が仕事を抱え過ぎている状態やからな」

 

 

 何しろ、あの伊勢神宮や北九州の宇佐八幡宮と並び称される【二所宗廟】である。

 【二所宗廟】とは【皇室が先祖に対して祭祀を行う二つの廟】との意味で、祭神も祭神であるからメシア教の事を考慮すれば現状では不可能に近いだろう。

 彼らはお互いにそれは納得して結論を付けた。

 そろそろ帰ろうかと千早が考えた所で、そこにウシジマニキが机の上に数枚のパンフレットを取り出し乗せた。

 それを何気なく見て、千早はとても不愉快な気分になった。

 

 

「うわ。何やのこれ?」

 

「お嬢。最近、ガイア連合のブラックカード保持者の転生者に子どもを望む地方組織が以前に増して増えているのは知っているか?」

 

「知っとるで。

 だからその要請があまりにも多いので、いわゆる【種ごい】を依頼の一環として受け付けるようになっているんやないの?」

 

「ああ。

 でだ、どこから聞きつけたのかそうやって身籠った女性のところにこれが送られるようになったらしい」

 

 

 机の上のパンフレットにはこう書かれている。

 

『シングルマザー(母子家庭)の方、一人で苦労はしていませんか?

 我々はそんなシングルマザー(母子家庭)を手助けするための団体です。

 【お金を作れる力を得る】【共感のできるコミュニティ】【結婚に前向きになれる援助】を実現しています。

 生活に困るなどの悩みや相談はこちらまでお知らせ下さい。

 女性支援団体『ウーマンライツ・ナウ』 代表:幸原みずき』

 

 不愉快そうに顔をしかめた千早はウシジマニキに尋ねた。  

 

 

「それでこれがどうしたんや?」

 

「それの宛先がここでな。

 名前が『高橋なのは』、『華門和』、『吉沢加奈』だった。

 俺の一存でここに保管していた」

 

「なんやの、それは!」

 

「主に、お嬢や山梨の千川への嫌がらせだろう。

 大半の所では無視したようだが、一部のこれに参加した女性によると裏の事情を考えなければ真っ当な活動だったそうだ。

 つまり以前の腹いせに、合法的な手段でこちらに嫌がらせをしているんだろう。

 これで力付くで何かすれば、警察に駆け込んでこっちはダークサマナーやメシア教と同じとでも言いたいんだろう」

 

「ムカつくわぁ、あの女。まだ懲りてへんやったみたいやね」

 

「だから、違法になるような手段はできるだけ取らずにこういうグレーな手段に出たんだろう。

 こちらはこれの相手にしないように通達を出してある。

 お嬢、この女はまだ恨みに思って見ているぞ。気をつけてくれ」

 

「分かったわ、ウシジマはん。それは何かに使えるかもしれへんからそちらで保存しといてや」

 

 

 そう言うと千早はウシジマニキに別れを告げ、関西支部を後にした。

 華門神社に帰るタクシーの車内で、ふと同行していたじゅりが千早に告げた。

 

 

「あの、前になのはさまが『悪い予感がする』とおっしゃっていました。

 もしかしたら、あの神社の襲撃もこれに繋がっているのではないでしょうか?」

 

「可能性はあるかもしれへんな。帰って対策を考えんと」

 

 

 考え込む千早を乗せて車は一路、華門神社へと向かっていた。

 

 

 

 

「ねえ、秋葉。あの人、とても私では付き合えるような人じゃなかったよ」

 

「だから、会いに行くのは止めなさいって言ったじゃない。

 優子もこっちの業界に足を踏み入れたんだから、その辺の常識ももう一度勉強し直すからね?」

 

「はーい」




後書きと設定解説


・敵対者?

【フード カタキラウワ】
レベル3 耐性:物理弱点・火炎弱点・氷結弱点・電撃弱点・衝撃弱点
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    反撃(自分が物理または銃撃属性で攻撃された際に確率で反撃)
詳細:
 華門神社の異界の森に湧くように設定されたノンアクティブの悪魔
 人員の実戦相手と狩猟相手とされているので倒すと豚肉になる
 容姿は従来の物と違って呪殺は出来ず肌が白くて両目がある

【フード オンモラキ】
レベル5 耐性:銃弱点・氷結弱点・衝撃弱点
スキル:アギ(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
詳細:
 華門神社の異界の森に湧くように設定されたノンアクティブの悪魔
 稀にリーダー種が生まれると率いられてアクティブに動くようになる
 人員の実戦相手と狩猟相手とされているので倒すと鶏肉になる
 容姿は走り回る加工済みのブロイラーチキン
 リーダー種はブロイラーではなく日本3大銘柄の鶏肉になるレア種

伊勢神宮祭神:天照坐皇大御神(天照大御神)、豊受大御神
宇佐神宮祭神:八幡大神(応神天皇)、比売大神、神功皇后
石清水八幡宮祭神:八幡大神(誉田別命、比咩大神、息長帯姫命の総称)
※八幡大神は源氏の総氏神


次回は、近いうちに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第50話 華門神社の新メンバー

続きです。


 

 

  第50話 華門神社の新メンバー

 

 

 華門神社の異界で鶏肉と豚肉が捕れるようになってしばらく経ち、もうすぐゴールデンウィークに入る時期になっていた。

 

 春先に一斉に大量に来た中東や欧州からの避難民の収容と日本での生活する場所への振り分けも、後続が続々と大阪港にも来ている状態ではあるが関西支部の分は大まかには目処が付き落ち着きを取り戻しつつあった。今回、ウシジマニキからうちに来てくれそうな人物の紹介がしたいと言うので、隆和は千早とトモエを伴って関西支部を訪れていた。

 

 

・現地民能力向上計画「魔法少女☆プロジェクト」責任者拘束

 

『現地民能力向上計画「魔法少女☆プロジェクト」は、作品ごとに再現された専用霊装衣装と作品登場人物に似た素質のある少女を見つけ出しグラビアアイドルと実戦部隊にする計画である。

 既にリ◯カルや◯ギカ、プ◯キュアにシン◯ォギア等の作品キャラによく似た女性が発見され、作品の推しを自称する黒札達によるスカウトと訓練が行われてトラブルが起きているのは報告されている。

 そんな中、計画担当者の我々の一人がまた新たに拘束された。

 彼は少女たちの母親を対象とした専用の霊装とチーム名「ムチキュア(仮)」の設立計画を遂行した事で、とある地方支部員で黒札の女性の通報と対象女性らの訴えでセクハラとして拘束された。

 その後の彼の処分と計画全体への監査は動きがあり次第、報告する』

 

 

・山梨支部のシキガミ制作班、関係者入院によりまた製作一時ストップ

 

『現在、シキガミの製作は多岐にわたるが、注文者の趣味性により人型女性のタイプが主流である。

 その女性タイプもまた注文内容や製作者の好みにより種類が多岐にわたるが、その中の一つに艦○れやM○少女やアズー○レーンなどの「機械を纏った少女」がある。

 今回の事件の発端は、そのシキガミ制作班とロボ部に所属する技術者である【スレンダー至高ニキ】。

 彼はその主張で流麗なラインのロボ娘のようなシキガミが造形美と機能美を兼ね備えた至高だと断じ、その中で彼は「大きすぎる胸は邪魔になる」や「スレンダーはロリではないし同じように扱うな」と主張していた。

 そして先日、その主張を受け入れられない者達とマザーマシンをも止めての議論の末に大乱闘を開始し、数時間続いたそれはショタオジの鎮圧により骨折等の重傷者を多数出して終了した。

 再稼働するまで、施設の修理に1ヶ月は掛かるものと推測される。

 発端の彼もうっかり同僚の前で彼らの熱狂的な推しのデザインを痛烈にダメ出しした為に、魔法で治療しにくい複雑骨折等の重体となり現在は山梨の病院のICUで治療中である。

 今後の彼の行動には注意したい』

 

・サッカーワールドカップ、次回の開催はメキシコに決定

 

『数年前から日本でのサッカーの振興を目的に行われてきたワールドカップ(以下、W杯)の誘致が失敗に終わった。

 アジアでの初のW杯開催も、開催を強く推進していたサッカー国際連盟の前会長が直前の選挙で落選し反対派の新会長の後押しで理事会の投票によりメキシコの開催が決まった。

 誘致を推進していたW杯日本招致委員会関係者は大きく落胆していたが、関係者の海外渡航に強い懸念を示していた政財界の我々はこの件を注視しているとの事だ』

 

・ガイアグループ開発の国産OS「TORON」発売

 

『この度、ガイアグループのOS開発企業はアメリカ産OSの「窓95」の普及に先立ち、純国産OS搭載の国内向けのPCの販売を太々的に開始した。

 80年代から開発が続いていたこの国産OSは、一時は国内経済団体の動きによりアメリカの排除法制定と航空機事故により開発が停滞していた。

 しかし、ガイアグループはその発足の頃と同時期に一部のメンバーが強く後押しを始め、今回、グループ内の企業における電化製品やPCの標準OSの使用をこれに推奨すると発表された。

 対外的には日本独自のコンピュータ・アーキテクチャプロジェクト再構築のためとされているが、アメリカ製のOSを使用する事によるバックドア等のメシア教への強い懸念が根底にあるのは言うまでもない』

 

・国内ゲームハード市場、戦国時代到来

 

『今、国内のゲームハード市場は戦国時代を迎えている。

 ただし、それを強く後押ししているのはそれぞれのハードを強く信望する我々であるのは言うまでもない。

 「ガイア=サガゲームズ」の【サーガサターン】、「ガイア・コンピュータエンターテイメント(GCE)」の【トーイステーション】、「前転堂」の【ZENTENDO64】、それぞれの企業のそれぞれのハードに熱狂的なファンである我々の強い後押しが見え隠れする。

 今後のゲームハードの行く末を暖かく見守っていこう』

 

・日本霊能組織との大規模合コン開催に危険信号

 

『日本各地の霊能組織は各地に支部を作る際に、吸収や合併、同盟したのは記憶に新しい。

 合コンそれ自体は小規模の物が各地において行われてきたが、地方においてガイア連合の傘下で生き残った組織や団体からの婿入りや嫁入りした関係者を経由して各支部に見合いの要請が続いていた。

 この度、その要請を受け恐山支部が音頭を取り大規模な見合いや合コンが計画されていたが、一部の日本メシア教の参加要請があり計画を感づかれた危険があるため開催が延期されている。

 詳細は専用ホームページを見て貰いたい』

 

 

 紹介したい人物を連れてくると言うので支部の応接室で待ちながら、掲示板の情報のまとめサイトを見ていた隆和はいくつかの記事を見ていたが『魔法少女~』と書かれた記事を二人に見せて話しだした。

 

 

「なあこれ。この間、なのはがキレて山梨に連絡していた奴じゃないか?」

 

「ああ、これですね。

 先日、わざわざ家まで訪ねて来て、『魔王ネキ! 是非、ムチキュアのリーダーに!』とか変な計画を目の前で言っていた男性をぶん殴っていた件ですね」

 

「拘束して山梨に送り返したあの変なのの事やね、これ。

 なのははんが魔法で吹き飛ばさなかっただけまだ有情やと思うわ」

 

「結局、向こうで処分を受けるみたいですね。

 それにしても、あの男性は何がしたかったんでしょう?」

 

「トモエはん、世の中理解しないほうが幸せなこともあるんやで」

 

 

 そうやって3人が話し込んでいる所にウシジマニキが入って来た。

 

 

「待たせてすまなかったな。

 …何か話していたようだが問題でもあったか?」

 

「いや、問題は解決しているから大丈夫だよ。ウシジマニキ。

 それで紹介したい人はどんな人だ?」

 

 

 向かいのソファに座り、資料を取り出しその隆和の問いに彼は答えた。

 

 

「お嬢からは女性の技術者、魔術や霊的医療の術者が欲しいと言われていたんだがな。

 ちょうど、ウィッチクラフトを使う魔女の一団が中にいたのでスカウトを掛けたんだが、四国にいる土着の魔女一族に伝手がある者やより高額の報奨を持って交渉した他支部の連中に彼女らは掻っ攫われた」

 

「初耳なんやけど、四国に魔女が土着していたのんか? ウシジマはん」

 

「俺も今回の事で初めて知ったんだが、彼女らがアガシオンの作製技術を提供してくれたらしい。

 それでそちらと取引のある山梨の技術者が、同じ魔女ならと紹介してそちらに引き取られるのを希望する者がいたようだ。

 そして、残りはそれを真似てお嬢の提示した条件より良い条件で持っていかれた」

 

「そんなに良い条件だったか?」

 

「ああ。何しろアガシオンの前例があるからな。

 もっと前にアガシオンの技術の出処を知っていた黒札連中が、こぞってもっと良い条件を示して一族毎連れて行きやがった。

 ご丁寧にも、彼女らより前に来た魔女の同胞を紹介するおまけ付きでな」

 

 

 そう言って、ちょうど運ばれてきた茶を啜るウシジマニキ。

 確かにこちらで多くても数人だけ移住を引き受けると言われるよりも、同じ魔女の関係者がいる場所にバラバラにならずにいれるのならそちらに行くのは当然だろう。

 ただ、おそらく日本とはほぼ縁の無い対象の信仰の魔女たちのように変な神や悪魔と縁が薄い霊的技術者は貴重であるため少し残念である。

 がっかりした様子の隆和たちに、苦笑した様子のウシジマニキは資料の書かれた書類をテーブルに乗せるとそれを指さしながら話しかけてきた。

 

 

「早とちりしないでくれ。

 誰も紹介できないとは言ってないだろう?」

 

「それじゃあその人はどこにいるんだ?」

 

「女性ではなく男性だが、彼の名は【ヨハン・ファレンガー】。

 デンマークから逃げて来たドルイド僧で、魔女の一団と一緒に来たそうだ。

 身元の調査は終了しシロだったが、移住先が見つかるまでアルバイトをしてもらっている」

 

「アルバイト?」

 

「ああ。向こうには話が通っているから、直接会いに行ってみるか?

 彼が今いるのは、伏見稲荷大社のある稲荷山の封印異界の入り口だよ」

 

 

 

 

 隆和たちはウシジマニキから貰った資料に従って、彼に会うために関西支部を出発した。

 

 デモニカーで麓の神社の駐車場まで移動し付いていきたいと主張する彼を宥めると、隆和たちは無数にある鳥居を抜けて境内を通り稲荷山の神蹟地にある祭神『宇迦之御魂神』がメシア教により封じられた異界の入口のお堂のすぐ近くの石塚の前に着いた。

 そこはウカノミタマ自身ではないが、その近侍や側近とも言われる有力な稲荷神が封じられている異界であった。

 観光客はいないそこには、暇そうにしている黒札らしき異能者たちと学者や易者のような姿の数人の男性がその石塚にある石碑の所で話し合っていた。

 

 

「ミスター・ファレンガー!」

 

「……?」

 

 

 近づいた隆和が声をかけると、その中にいた痩せぎすの紺色のローブを身につけた白人の男性が不思議そうに振り向いた。彼は周囲の人たちに声をかけると、隆和たちの方へとやって来た。

 

 

「誰かな?」

 

「ガイア連合であなたの移住先となるかもしれない場所の者で、安倍隆和といいます。

 こっちは妻の千早とシキガミのトモエです」

 

「ああ、君たちが。

 じゃあ、私のここでの役目は終わりという事か」

 

「ファレンガーさん、行くのか?」

 

 

 彼がそう言うと向こうの人混みの中から男の声がして、その人混みの中からその姿を現した。

 攻略組らしい改造した和服を着た狐娘のシキガミを従えた茶髪の髪の高校生くらいの学生服の男性は、ファレンガーの方を見て話しかけてきた。

 

 

「ああ、迎えが来たようなのでね。

 私が助力できるのもこれまでのようだし、君も頑張りなさい」

 

「実際、俺たちにはここの入り口の謎掛けとか助けがないと無理だったし助かったよ」

 

「あんさん達は誰やろか?」

 

 

 千早がそう聞くと、攻略組らしい様々な衣装の彼らは顔を見合わすとお前がやれと押し付けあった挙げ句に最初の彼が諦めた顔で隆和たちに説明を始めた。

 

 

「あなた、【アーッニキ】さんの奥さんでしょう?

 噂は色々と聞いています。

 自分たちはガイア連合から来て、ここの異界の封印の解除を同じ俺たちの藤野さんと大社の関係者の人から依頼されているんです」

 

「藤野はんからは聞いてへんやけど?」

 

「頼み事をしたばかりだから頼み難いと言っていましたけど、それじゃないですか?

 とにかくここの異界に入るのに手助けしてもらうので、ファレンガーさんたちみたいな物知りの人に来て貰っていたんですよ」

 

「どういう事かな?」

 

 

 隆和が問うと、石碑の方を指さして嫌そうに彼は答えた。

 

 

「ここの異界なんですけど、一度入るたびにこの石碑に浮かぶ問題に答えないといけないんです。

 ルールは単純で挑戦回数は一日につき1回、聖書に関する問題を宣言して5分以内に答えられれば異界の中に入れるんです。

 異界の中はあらゆる仕掛けを施した迷宮で最奥の封印の要を破壊すればいいみたいですけど、力づくや力押しはお勧め出来ません。

 あと石碑を壊して無理やり通ると、中の封印した神ごと異界は消える仕組みみたいです。

 本当、ここの封印を構築した神父や天使は性格が悪いんでしょう」

 

「あんな事をするメシア教徒が良い性格なはずはないよ。

 それで、どういう問題かな?」

 

「今日出ているのはこれです。

 『聖書66巻の正式な名前を順に全て答えよ』、解かります?」

 

「分かるわけがない」

 

「そもそもメシア教嫌いが多いうちらに、こういう事が詳しい人間なんて早々おらへんやろ!」

 

 

 その千早の叫びに、彼とその場にいた攻略組の人たちが一斉に頷いた。

 それを見て苦笑しているファンレンガーを始めとする学者らしい人たちが話を続ける。

 

 

「だから、私たちみたいなメシア教の関係者じゃない聖書に詳しい異能者が集められているんですよ。

 日付が変わるか正解が出るたびに問題が変わるので、これを考えた人はいい性格をしています」

 

「実際に内部でもまた謎掛けの扉があちこちにあるので、攻略も遅々として進まない状況ですね。

 ここでこれなら祭神様のいる異界はどれだけ意地の悪い仕掛けがある事やら」

 

「各種の罠に完全な暗闇の通路に、立体交差の通路と一定時間ごとに切り替わる回廊。

 致死性の物はないですが、徹底的に惑わす事に特化していますよ。

 作った本人、これを見て笑っているんじゃないですかね」

 

「そういう訳で、着の身着のままで逃げてきたせいで手元のお金が足りないのです。

 なかなかいい報酬になるので、私もこれに参加していたんですよ」

 

 

 そう言って苦笑するファレンガーに、最初の攻略組の少年が声をかける。

 

 

「迎えが来たっていう事は、ファレンガーさんは行くんですか?」

 

「はい。私も落ち着ける場所が欲しいので」

 

「あなたの助言のおかげで異界に入れる人が増えていただけに残念です。

 お元気で」

 

「ええ、それでは」

 

 

 そう言って手を振る彼らに荷物をまとめたファンレンガーは別れを告げると、隆和たちと山を降り始めた。

 その道中、千早が彼に話しかけた。

 

 

「あんさんが希望する『森のほとりの庵』は用意出来るけど、うちらと来て良かったん?」

 

「彼らは彼らだけでも大丈夫でしょう。

 もともと、今回のことはアルバイトみたいなものですし。

 また会うことは出来るでしょう」

 

「それじゃあ、これからはうちでその知識を役立てて欲しい。よろしく」

 

 

 そう言う隆和の手を握り、彼は答えた。

 

 

「ええ、ドルイドの『ヨハン・ファンレンガー』です。

 日本語も大丈夫なのでどうぞよろしく」

 

 

 

 

 こうして華門神社の異界内の森の近くに小さな薬草畑がついた小屋が建てられ、ドルイドの彼は持ち込んだヤドリギを森の木のいくつかに植えるとウィッチドクターとしてここで生活を始めた。

 

 同じ薬師でもある樫原翁とも時々話して技術交換もしているようだとは、華門和から隆和は教えられた。

 また、神社の肉食系独身女性メンバーの何人かは彼にアプローチを始めているので近いうちに誰かに食われるだろうと、仲間を見る目で彼を見る既婚男性メンバーを見て隆和はその時は何か彼に見舞いを贈ろうと決めたという。




後書きと設定解説


・関係者

名前:ヨハン・ファレンガー
性別:男性
識別:異能者・37歳
職業:元健康食品会社社員/ドルイド僧
ステータス:レベル7
耐性:破魔無効
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
    アギ(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
    薬草師(傷薬などの先祖伝来の薬品の作成が可能)
    禁断の知識(ドルイドに関するいろいろな知識)
装備:祭祀用の伝来のローブ(弱い呪殺耐性あり)
   先祖伝来の道具や書物などいろいろ    
詳細:
 デンマークでドルイド達が経営する健康食品会社の社員だったドルイド僧
 ウィッチクラフト系の魔女たちが欧州から脱出する際に一緒に逃げて来た
 元いた仲間はメシア教の襲撃で散り散りになって行方知れず
 理性的で物静かな雰囲気だが人付き合いより研究に没頭するタイプ
 日本のアニメを見ていたので日本語は割りと達者

・ウカノミタマの側近の稲荷神の封印異界

伏見稲荷に存在する当時のメシア教でも性格も悪い方にエリートだった神父と天使たちが作成した封印異界
他人を惑わす稲荷の話を聞き、獣風情が逆に惑わされるのどうだと悪意と侮蔑を込めて作られたらしい
ちなみに異界の難易度は、あなたが過去プレイしたクソゲーの最低の迷路の数倍の面倒臭さを想像して下さい


次回は、近いうちに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第51話 淀神社からの依頼

続きです。

※「waifulabs」と言うサイトで作成したイメージ図を追加


 

 

  第51話 淀神社からの依頼

 

 

「それで、施設の方はどの程度準備は出来ていますか?」

 

「船を納めておく地下シェルターと船着き場は完成しています。

 ただ、実際に動かす船の方にいろいろと問題が」

 

 

 家族と過ごすのに忙しかったゴールデンウィークも終わった5月も半ば、隆和はトモエを伴って淀城跡公園にほど近い桂川に面した古民家の中にいた。そこは、淀神社を護る霊能組織が管理する関西支部が敷設を進めている淀川水系を利用した霊道計画の【船着き場】のあるシェルターであった。

 

 関西支部が計画を進めている大阪と京都間にある各派出所を結ぶ淀川水系を利用する【霊道計画】であるが、支部側から梅田の南に淀川支流沿いに用意したビルの地下にある【港】から大阪城を経由して淀川大堰を東に曲がり、川を遡るように京都方面へと進むものである。

 なお、サラリマンニキが所長を務める派出所の隆和の義理の娘である百々地希留耶がいるカプセルホテル『ガイア大阪』は大阪城の北の支流沿いのホテル街の一角にあり、今いる淀城跡近くに来るには桂川まで遡る必要があった。

 

 隆和たちの目の前には、桂川の堤防が上に開き河に出ることが出来る仕掛けがある地下通路につながる船着き場があり、水のないモーターボートの大きさの小型船舶を停めるはしけが2つあった。河川もここまで遡って来ると、船が通れるギリギリの深さまで浅くなるのでこのサイズの船でしか通行できないためである。

 船の無いはしけだけが完成しているそこを見て、隆和は淀神社と華門神社との連絡役を任されている困り顔の女性【藤野秋葉】に視線を向け話しかけた。

 

 

「船の方はまだ無いのかな?」

 

「父からは今のところ、関西支部の方で運行可能な小型船を確保して改装中だと聞いています。

 こちらとしては何かあった際の人員を確保しておくように指示が出ているので、覚醒している何名かで小型船舶の免許を取得している所です」

 

「淀神社と華門神社の間の行き来は非常時は俺がデモニカーで出るが、その場合はどうなっている?」

 

「はい。

 非常時には出来る限り、ここと地下道で繋がっている淀神社地下のシェルターと連携する様に指示が出ています。

 ですが、うちが持たないか避難に間に合わない時はそちらに逃げ込むようにと」

 

 

 彼女が連絡役を任されているのは、兄二人が父とは折り合いが悪く関東に出て行ったのと淀神社側からの見合いなどの隆和たちへの余計な干渉を抑えるためであるらしい。

 手元の資料を見ながらも時々横にいるトモエの胸をチラチラと見ながらそう答える彼女に、ふと先日の事を思い出し隆和は尋ねてみた。

 

 

「そういえば、この間助けた君の友人がうちに訪ねて来て何か俺を見て引いている様子だったけど、何か聞いていないかい?」

 

「ああ。あの子はこっちの業界では素人だから失礼な事をしたかもしれませんね。

 うちの学校、完全に休校になって転校先がない生徒は残りの単位を課題の提出だけでもいい事になったんです。

 それで、関西支部の筋肉支部長さんの初心者合宿に放り込んできたのでもう失礼な事はしないと思います」

 

「そうなのか。

 君がこの連絡役をしているのもその辺が関係しているのかい?」

 

「ええ。ここは父が面倒を見ているんですけど、まともに除霊も出来る人が少なくて。

 ここ最近、そういう相談が持ち込まれるのが増えて宮司さんが過労死しそうなんです。

 おかげで『暇なら行ってこい』と私も父に駆り出されているんです」

 

 

 彼女の父が面倒を見ている淀神社であるが、主祭神であるトヨタマヒメの他に2柱の神を祀っていたがメシア教により2柱の神は滅ぼされて主祭神の彼女も封印されていた。それを協力の見返りに、異界の封印の解除を実際にやったのは隆和たちであった。

 現在の彼らはガイア連合の傘下として地元に密着した神社としての活動をしていたのだが、その御蔭か地元からの除霊相談や地鎮祭に持ち込まれる多数のお祓いの依頼に追われるようになっていた。

 また華門神社は関西支部からの依頼を扱うだけなのと、この前の襲撃騒ぎの噂でそういう相談は持ち込まれることが殆ど無かった。

 

 

「そういう訳で私たちでは手に負えない上に、関西支部に依頼を出していては間に合わないものをいくつかお願いできますか?

 報酬の方は用意しておきますので」

 

「今は手が空いているから構わないが。

 この後は関西支部で依頼を探す予定だったしな。

 他に何かあったかな? トモエ、カーマ」

 

「主様。帰りが遅くなるようなら連絡はしておいて下さいね?」

 

「面倒ですけど、私も行くんでしょう?

 聞かないでも付いていきますよ、面倒ですけど」

 

「よし、それじゃあどういう物か教えてくれないか?

 少しは稼がないとプレゼントも買えないしな」

 

 

 済まなそうな表情でそう言う彼女に、隆和はトモエとカーマに確認を取ると家の皆にも相談した後で了承する事にした。

 

 

 

 

 ケース1:逃げ出した一家

 

 隆和たちが今いるのは淀神社近くの郊外にある一軒家。

 そこには外からの侵入を防ぐ強力な結界が張っており、そこにはとある廃村から逃げて来た一家が住んでいた。

 家長らしい老人の男性はこう語った。

 

『儂らのいた村は、深い山の中にあり人がいなくなって廃村となりました。

 儂ら一家はそこで代々小さな神社で山の神を宮司としてお祀りしていました。

 廃村になる以上、神社も廃社にしなくてはなりません。

 公式に届け出を出して、決められていた慰霊祭をして儂らも村を出たんです。

 でもしばらくして、家族に怪我や病気が増え続けて親戚だった淀神社の宮司殿に良くないモノに追われていると聞かされました。

 実際、家の周りを何かが彷徨くようになり外にも出れません。

 どうか助けてください』

 

 彼らのいた村は過疎になり過ぎて廃村になり彼ら一家が宮司をしていた神社も廃社となったので慰霊祭を行ない引き上げてきたのだが、そこに祀られていた山の神が良くないモノだったのか、霊感の無い彼らにも怪我や病気が続いて後を追われていると気が付いて親戚だった淀神社の宮司のもとに逃げ込んだのだそうだ。

 

 隆和はその家で待ち伏せる事にして隠れていたが、その日の深夜、家の周りを彷徨く身長3mはあるかのような頭頂部が剥げている猿のような化け物が現れた。そのレベル19【妖鬼ヤマワロ】と隆和の目に映るそれに、隆和は一人で話しかけてみた。

 

 

「おい、ここで何をしているんだ?

 ここは里だぞ。山の住人のお前がいる場所じゃないだろう?」

 

『オレヲマツルト、ヤクソクシタヤツノシソンガニゲタ。

 ヤクソクヲヤブッタノハ、オマエラダ。

 ヤクソクヤブリハ、クッテヤル!』

 

「代わりに別の人を送って祀るようにしてやるから、ここの人は諦めろ」

 

『イヤダ!

 ヤクソク、ヤブッタ! クッテヤル!』

 

「そうか。

 こいつは破魔と呪殺が弱点だぞ、二人とも」

 

『ナニヲイッテ……ア、アババ、ナ、ナン、アエ♡♥?♡?』

 

 

 その言葉と同時に隆和に軽く叩かれたヤマワロは、意味も分からないまま至福と混乱に思考を飲まれて舌を出した快楽の表情のまま立ち尽くしてしまった。

 そこにトモエとカーマから魔法が飛んだ。

 

 

「今です。【マハンマ】!」

 

「うわ、気持ち悪い。消えて下さい、【ムドオン】」

 

『イッタイナニガ…ヒグッ』

 

 

 同時に飛んだ破魔と呪殺の呪文により何も判らないままにヤマワロは消えて行った。

 こうして、人里まで彼らを追って来ていたヤマワロは消えて元宮司の一家は逃れることが出来たのだった。

 

 

 

 

 ケース2:カルト教団「聖なる光」

 

 隆和たちがヤマワロ退治に出掛けていた同じ頃の午後、なのはとモリソバは淀神社から頼まれた急ぎの依頼の一つを引き受けていた。

 彼女らは依頼の目的地であるとある山中にある神道系を自称するカルト教団の本拠地に向けて、案内役の男性の運転する車に乗って山道を進んでいた。外行き用の黒いスーツの霊装姿のモリソバと、例の白い霊装の上に黄色い雨合羽を着たなのはがその車の後部座席でお互いに喋っていた。

 

 

「…なのは、それで前衛役が欲しいからわたしを引っ張り出した訳?」

 

「若返って旦那と盛っているばかりのふぇいとちゃんに文句を言われる筋合いは無いの。

 結局、買っていおいた若返りの水も全部飲んじゃったし」

 

「それは、自分の分を他の瓶に分けるのを忘れたなのはが悪いじゃない。

 わたしとしては助かったけど、それに盛っているのはお互い様でしょ?」

 

「それは仕方がないの。

 週7日で一日が休みだと、他はそれぞれ6人が違う日に交代で相手をするのが決まり事になっているんだもの。

 娘も出来たし、彼以外とはする気にもなれない位にされているのは否定しないけど」

 

「わたしだって彼以外とはする気になれない位に相性はいいんだけどね。 …あっ」

 

 

 運転席で『こいつら大丈夫か?』とバックミラーで見る案内役の彼の視線に気が付き、ゴホンと咳をつくと二人は気まずそうに書類を取り出すと仕事の事に話題を変えた。

 

 

「えーと、相談主は今から行くカルトの連中の被害者だっけ?」

 

「そうなの。

 相手に悪霊を取り憑かせて弱ったところを勧誘して仲間に引き込むのが手口なの。

 何でも祭壇を高値で購入させて、それを拝むと連中の神様の所に信者の生命力が吸われていくらしいの」

 

「それでその相談者の大学生の彼は、途中で除霊してもらうために神社に逃げ込んだと」

 

「勧誘していた相手は偽学生だったらしくて、調べたときにはいなかったの。

 幸い、勧誘のビラから本拠地は分かったからこれから乗り込むの」

 

「着きましたよ」

 

 

 市街地から約1時間ほどの距離のその場所に車は着いた。

 そこには車でこれ以上は入れない細い山道が続いており、その入口には黒ずんだ石で出来た鳥居があって人が立ち入るのを拒むかのような空気が広がっていた。

 二人は車から降りると車の荷物入れからなのはが木製の先が鈍器ようになった杖を、モリソバは片手剣と樽を取り出し背中に背負った。

 

 

「それじゃ連絡をしたらまたここまで迎えに来てください。

 それまでには終わると思うので」

 

「よっし、それじゃ行くの!」

 

「はあ、わかりました」

 

 

 納得できない表情で引き上げる車を見送ると、モリソバは小型のデジタルカメラ型のアナライズ機器を取り出して鳥居を眺めた。そして、表情をしかめると見ろとなのはにそれを渡した。

 

 

「うわ。

 この鳥居の黒ずみ、瘴気とか死霊とかが凝り固まったものじゃない。

 ここで何人死んでいるのか解らないくらいなの」

 

「この先、異界になっているみたいだけど行くの?」

 

「相手が人間を辞めているなら、返って対処が簡単なの」

 

 

 そう言って意気揚々となのはが鳥居をくぐると、その先は道の横のあちこちに人の姿をした黒い木が並ぶ山道が上へと続いていた。

 試しに樽の中に大量に入っていたガイア連合製の清めの塩と業務用の塩化ナトリウムを混ぜた塩を、なのはは黒い木々に一掴みほど掛けてみた。すると、『ギュアアア』と苦鳴のような声を発するとそれらは溶けるように消えてしまった。

 

 

「なにこれ、すごい悪趣味な代物なの」

 

「逆に情けを掛けなくてもいいと思えば楽じゃない?」

 

「それもそうか。それじゃあ前は任せるの」

 

「OK。

 こんな所、さっさとなのはの魔法で吹き飛ばして帰ろう」

 

 

 そう言って歩き出す二人は、屍鬼と化していた元信者たちや殺されたらしい人たちの悪霊を塩をばら撒き手に持った武器で殴り飛ばしながら山道を歩きながらしばらく進み、やがて本拠地らしい立派な作りの神社に似た建物の前に着いた。

 そこには拝殿に当る正面の建物の祭壇に鎮座する仏像を中心とした悪霊の塊がおり、その周囲を屍鬼の信者たちが取り囲んで拝んでいる最中であった。教祖らしい屍鬼が二人に気がつくと、振り返って大仰な仕草で叫び始めた。

 

 

『ミヨ! オロカモノガマタコノチヘトアシヲ……』

 

「生きてる人はなし! 【コンセントレイト】【メギドラ】!」

 

『『『ギャアアア!!』』』

 

 

 相手の口上を遮るように、ビデオカメラを覗いていたなのはの広範囲万能魔法が炸裂する。

 屍鬼たちは全て吹き飛び、唯一ボスらしい悪霊が建物ごと砕けてバラバラになった仏像の欠片の上で蠢いていた。

 それに近づいたモリソバが仏像に向けて樽をひっくり返した。

 

 

「これをぶっかければ終わりかな?」

 

『ヤ、ヤメ……ウボブワバフォブバ…グフッ』

 

 

 悪霊が消えて周囲の嫌な気配が消えると異界化が解けて、後にはなのはの魔法で廃墟と化した元拝殿と塩の山に下敷きになった元祭壇がありそこに二人は立っていた。

 

 

「終わったみたいだねぇ」

 

「もう2、3発撃ちたかったの。頑丈さが足りないの」

 

「結構早く終わったんだし、たまには二人で帰って飲まない?」

 

「彼も今日は外で泊まりだって言っていたし、たまにはいいかもなの。

 皆んなにもお土産買って帰ろうかなの」

 

 

 そう言うと二人は笑い合いながら、携帯で連絡をするともと来た山道を下って行った。

 

 

 

 

 ケース3:姑獲鳥の初夏

 

 他の二組が依頼の解決に向かっていたと同じ頃、夜刀神華も依頼を解決するために依頼主たちと合流していた。

 向かった先は、淀神社の関係者専用の駐車場であった。

 依頼主らしいその集団は取り巻きの連中と淀神社の親戚を名乗る男を中心としたグループと、華と同じように護衛として関西支部で男に雇われたらしい大剣を持った美少女だった。

 依頼主である男【松平総司郎】は、現地までの移動のために用意した小型バスの前で胸や尻に視線を向けつつ2人に向けて説明を始めた。

 

 

「今回の仕事はこの俺、名家の生まれである松平総司郎の名声を上げるためのものだと心得てやれ。

 そのためにも伝手を使ってこの俺に相応しい護衛を雇ったのだ。

 いいか、夜刀神華と【岸辺奏多(きしべかなた)】よ。

 働きによっては俺が頂点についた時には取り立ててやっても構わんからな」

 

「それはいいから仕事の内容の説明をしてくれ。

 護衛の仕事はちゃんとするからさ」

 

「私は淀神社と関係のある華門神社の代表の先生の愛弟子だよ?

 下手なことをするなら、藤野さんにも報告するように言われているからね?」

 

「わ、わかった」

 

 

 華の言葉にたじろぐ男を岸辺奏多と呼ばれた少女は、頭部から角のような何かと金属製の尾のようなものを生やした露出の多い服を着て剣を肩に乗せつつ睨みつけている。

 感情が高ぶったせいだろうか、急に今まで無かった尾と角が生えてきている。

 

 説明を始めた男によると、とある山中の過疎により廃棄された集落に女の姿をした何かが出るらしいという噂が広まって度胸試しや好奇心で集落に行った若い連中が帰って来ない事件が起きたとの事だが、その中に彼の取り巻きの男も含まれていたらしく彼が独自に探しに行くと名乗りをあげたと彼は言っている。

 そのために警察の上層部のコネを使い、関西支部に回されるこの依頼の情報をこっちに持って来たと自慢気に言っているその様子は、この仕事に対する二人のやる気を的確に削いでいた。

 

 

「よし、出発するぞ」

 

「岸辺さんだっけ?

 私、夜刀神華と言うのだけどよろしくね」

 

「うん。あんな奴の護衛とか憂鬱だけどお金は貰えるしね。

 僕は岸辺奏多、よろしく」

 

 

 挨拶し合う彼女らも乗せた一行の車は、山道を3時間ほど掛けて件の村へと到着したがそこには異様な光景が広がっていた。

 村のあちらこちらに食いかけと思われる女性の遺体や食い尽くされた思しき白骨の遺体が散乱し、崩れかけた家々からは女の嬌声が響いていた。 

 車から降りてその様子を見た男達は完全に引いた様子でいたが、華は彼にどうするのかと尋ねた。

 

 

「それでこれからどうするの?

 この村、異界に成りかけているみたいだし、かなりの数がいるみたいだけど」

 

「空を飛んでいる相手は僕には厳しいなぁ」

 

「ま、まずは、……ひぃっ!」

 

 

 新しい男が増えたのに気がついたのか、近くの廃墟にいたらしい美女の頭と胴体に鳥の翼と下半身を持つ姿の多数の悪魔が空に飛び上がった。それを見て恐怖に駆られた男達は、彼女らが止める間もなく二人を置き去りにすると車を急発進させてもと来た道を走って行ってしまった。

 

 

「え、どういう事!?」

 

「あの馬鹿達、やってくれたなぁ! とにかくここを切り抜けよう、夜刀神さん」

 

「うん。今は生き残らないと」

 

 

 せめて餌だけにでもするつもりか、鳥悪魔たちは彼女らに襲いかかってきた。

 

 

「燃えちゃえ、【ファイアブレス】!」

 

「このっ、【薙ぎ払い】!」

 

『『ギキィ!』』

 

「痛っ。この鳥、羽ばたいて衝撃波を飛ばして来た!

 お返しっ、【ウィンドブレス】!」

 

「もう一回、【薙ぎ払い】! よいしょ!」

 

『『ギャキャア!』』

 

 

 華が火炎や衝撃波の息で攻撃し、奏多の方も飛び上がっては大剣を振るって攻撃する事を繰り返す。

 そうして数十分、もうかなりの数を落としたはずだが村の奥の方から数羽ずつだが増援が飛んで来る。

 華が隆和から持たされた多数の傷薬のおかげで疲労や怪我は何とか襲撃の合間にしているが、これではキリがない。

 

 

「このままじゃジリ貧だよ、夜刀神さん」

 

「こういう時は先生なら、……うん。頭を狙おう」

 

「頭?」

 

「こういう悪魔の集団は、必ず群れのリーダーかそれに代わる祠か何かがあるはずだよ。

 だから、向かうとしたら飛んで来るあの方向」

 

「わかった。じゃあ行こう」

 

「うん」

 

 

 奥に向けて走り出した彼女らであったが、結果を言えば村の奥にあった祠を壊すことで群れのリーダーの悪魔と共に他の鳥悪魔達も消滅し事件は終結を見た。

 所詮、ここの集落を飛び回っていたのはレベル3~7の【妖鳥ハーピー】達であるし、レベル18の華と華と同程度の実力の奏多の彼女ら二人に敵うはずもなく両足を変化させた華の尾と奏多の大剣が祠を砕くことで終結を見る事となったのだった。

 

 

 

 

 さて、ケース1と2は関西支部の協力もあって速やかに後始末はされたが、問題はケース3だった。

 

 が、この件で活躍した彼女らの「足手まといがいなくなって返ってやり易かった」という意見と、結果的には依頼の護衛対象は生きて帰っている事を加味されて、この男達は向こう10年の間(つまりは終末になるまで)はガイア連合の協力者や連合員の登録から弾かれる処分が降った。

 

 そうした後始末が終わったある日、夜刀神華を訪ねて華門神社まで岸辺奏多が訪ねてきた。

 そして、彼女は隆和たちに向かってこう言ったのだ。

 

 『僕と親友の女の子を助けて欲しい』、と。




後書きと設定解説


・関係者

名前:夜刀神華
性別:女性
識別:異能者(悪魔人)・16歳
職業:夜刀神家末娘→華門神社見習い巫女
ステータス:レベル12→18/23・マジック型
耐性:氷結弱点・破魔無効・呪殺耐性
スキル:ファイアブレス(敵複数・2~4回の小威力火炎属性攻撃)
    ウィンドブレス(敵複数・2~4回の小威力衝撃属性攻撃)
    薙ぎ払い(尾)(敵全体・小威力の物理攻撃。
            龍変化時のみ使用可能)new!
    引っかき(敵単体・小威力の物理攻撃)
    龍眼(攻撃の命中率が大きく上昇する)
    龍変化(下半身が蛇の姿になり、水中の移動力が上昇する)
装備:鍵の飾り付き黒色のチョーカー(呪殺無効の霊装)new!
   スカート型巫女服(魅了無効付与。ガイア連合霊装)new!
詳細:
 地方の名家「夜刀神家」で生まれた異形の眼の娘
 黒髪をポニーテールにした起伏の少ない体型の美少女
 実家では冷遇されていたが、主人公に救われ明るくなった
 修行の結果、龍変化の状態でも上手く戦えるようになった
 身長154cm、B:75(A)・W:57・ H:80


【挿絵表示】

夜刀神華のイメージ図

名前:藤野秋葉(ふじのあきは)
性別:女性
識別:異能者・18歳
職業:高校生
ステータス:レベル4
耐性:破魔無効
スキル:霊視(サイコメトリーに近い霊視)
    ハマ(敵単体・低確率で即死付与)
    アギ(敵単体・小威力の火炎属性攻撃)
詳細:
 ガイア連合の富豪俺たちの一人藤野槇雄の娘
 長い黒髪が映える気の強い印象のちっぱい美少女
 淀神社と華門神社の連絡役を父から言い使っている
 胸が小さいのをコンプレックスにしている

・敵対者

【妖鬼ヤマワロ】
レベル19 耐性:破魔弱点・呪殺弱点
スキル:ザン(敵単体・小威力の衝撃属性攻撃)
    暴れまくり(敵複数・1~4回の小威力の物理攻撃)
詳細:
 とある山中の祠で祟り神系の山の神として祀られていたナニカ
 贄をよく要求し、収穫物だけでなく村の人間を殺して喰っていた
 廃神社にして自分を祀るのを辞めた宮司の子孫を喰うために追っている

【屍鬼ゾンビ】
レベル4 耐性:火炎弱点・破魔弱点・呪殺無効
スキル:引っかき(敵単体・小威力の物理攻撃)
    噛みつき(敵単体・小威力の物理攻撃)
詳細:
 幽鬼に取り憑かれ力を授かったと思いこんでいた元カルト信者
 完全に取り込まれて屍鬼に変貌した

【悪霊レギオン】
レベル13 耐性:電撃弱点・破魔弱点・呪殺無効
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    ムド(敵単体・低確率で即死付与)
詳細:
 自称神道系カルト教団「聖なる光」で御神体とされていた像の神
 神道系と名乗るもあちこちから手かざしなど教義をパクっていた
 力を授けると言って自分の分体を取り憑かせていた呪いの像の悪霊

【松平総司郎】
レベル7 耐性:破魔無効
スキル:突撃(敵単体・小威力の物理攻撃)
    九字印(ハマ)
    遠当ての術(ザン)
詳細:
 伏見地区にある淀神社宮司の親戚に当たる家の次男
 徳川将軍家の血を引くと称する名家の出身
 尊大で自分は優秀だと思いこんでいる

【妖鳥ハーピー】
レベル7 耐性:銃弱点・電撃弱点
スキル:羽ばたき(敵単体・小威力の疾風属性攻撃)
    マリンカリン(敵単体・中確率で魅了付与)
詳細:
 美女の頭と胴体に鳥の翼と下半身を持つ姿の悪魔
 祀られていた産女が祠を放棄され変異し人間を攫っていた
 男は番と勃たなくなれば餌に、女は全て餌にしていた
 子宝を望まれて祀られていたので盲目的に行動していた


このお話もそろそろ終了。
次からは、物語の締めに入ります。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第52話 岸辺奏多

続きです。


 

 

  第52話 岸辺奏多

 

 

「先生、起きて。お願いがあるんだ」

 

「……ん? 華か、どうした? 支度するから少し待ってくれ」

 

 

 淀神社からの依頼を果たした翌々日の朝。

 前日まで後始末に協力し家に戻ってぐっすりと眠っていた隆和は、起きてすぐに夜刀神華に神社の社務所にある応接室に連れて来られていた。そこには華と同じくらいの年齢の男の子のような髪型の少女が倉庫の予備の巫女服を着て不安げに座っており、向かいには天ヶ崎千早がトモエと共に座っていた。

 隆和たちが入って来たのを見ると千早がこちらに座るように手招きし、隆和がもう一つのソファに華がその少女の横に座ると彼女らに向けて話し始めた。

 

 

「さて、隆和はんも来たし貴女もここに泊まって疲れも取れたやろ?

 もう一度、隆和はんに初めから話てもらえへんか?」

 

「先生、この子と一緒に戦って友だちになれたんだ。助けてあげて」

 

「僕と友達を助けてください。お願いします!」

 

「とりあえず、まずは詳しい話を聞かせてくれないか?」

 

「はい。僕の名前は【岸辺奏多】です。

 最初は友だちと一緒に始めたゲームが原因だったんです」

 

 

 彼女が語るには、最初の切っ掛けは友人である『姫川沙雪』と始めた携帯のアプリゲーが始まりだった。

 

 そのゲームの名前は、『ヒロインズバトル~神々の黄昏』。

 ダウンロード販売が今年の初めに始まったばかりのアプリで、内容はありがちなパズルRPGで主人公は現代に生きる普通の女の子が女神から加護を貰い異次元から来る侵略者の悪魔を倒す魔法少女物だという。ドット絵ながら主人公の姿をいくつもカスタマイズが可能で、彼女はお小遣いが足りなかったが課金をすればいろいろなアイテムが貰える仕組みらしい。

 ストーリーは主人公の魔法少女ヒロインになって魔物を退治する現代ファンタジーで、女神マリアの加護により変身し異次元の侵略者『悪魔王デーモン』を最終的に打倒し願いを叶えるのが目的となっている。

 彼女たちはゲーム内の通信対戦や攻略の競争でよく遊んでいたのだと奏多は語った。

 

 

「その日、僕は彼女の家で一緒に遊んでいたんです。

 彼女は僕よりも先に始めたおかげで、最後のボスの所まで進めていたんです。

 そして、何とか彼女は最高評価でボスを倒してエンディングになったんですけど、最後に女神様にこう聞かれたんです。

 『この世界を救う新しい聖女となってみませんか?』って。

 彼女が『はい』とボタンを押した途端、画面が光って意識を失って倒れたんです」

 

「それでその子はどうしたんだい?」

 

「沙雪は意識が戻らないまま病院に運ばれて入院したままです。

 どうしてそうなったか判らなくて、お医者さんたちも困っているみたいなんです。

 でも、僕にはあのゲームが原因だとしか思えなくて。

 病院のロビーで僕も試してみましたけど、何も起こらなくてそのまま終わってしまって。

 何度も何度も繰り返して、最後のボスを倒した時に僕にもあの選択肢が出たんです」

 

「それで貴女も『はい』と入れてみた。そうやね?」

 

「はい。

 入れた途端、画面が光ってどこかに吸い寄せられるような感覚がしたんです。

 でも、このままじゃいけないと何故かそう思って抵抗していたら気を失いました。

 気がついた時には病室のベッドでした。

 そして、看護師のおばちゃんにこう聞かれたんです。

 『お嬢ちゃん、名前は何て言うんだい?』って」

 

「…? 女の子だよね、君?」

 

「今はこうですけど、僕は男でしたよ」

 

「んん?」

 

 

 とても困った顔でこう答えた彼女に、隆和は固まってしまった。

 

 

 

 

 一旦、昼食をと言うことになり、隆和は千早やトモエと共になのはの作った残りご飯の炒飯で4人で食事を取っていた。

 この場にはいない奏多と名乗る少女は、華と共に吉沢加奈や華門和がいる敷地内の屋敷で子どもたちと一緒に昼食を食べているようだ。

 食事が終わると、4人は彼女の事をどうするかで話しあいを始めた。

 

 

「なあ、なのは。

 あの【TS魔人ニキ】のように手術を受けたわけでもないのに、性別が変わるなんて事がそうそうに起こるものかな?」

 

「覚醒した結果、悪魔の姿に変わる人は見たことがあるからそれだと思うの。

 わたしが知ってる『ピチピチギャルになりたい』が口癖だった中年男性は、ショタオジの覚醒訓練で覚醒した時にリリムの姿になって大喜びしていたの」

 

「…その人、今は?」

 

「山梨でリリムの姿のままで青春を謳歌しているはずなの」

 

「そんな極端な人と一緒にするのは可哀想や、なのははん。

 樫原はんやファレンガーはんも、悪魔変身能力者やないかと見ているわ。

 たぶん、覚醒した際に今の姿のままになったんやないかちゅう見立てや」

 

「それで彼女はどうやって華と知り合ったんだ?」

 

「淀神社からいくつか仕事を受けたやんか。

 彼女はその時に金を稼ぐために松平総司郎っちゅう馬鹿に護衛役として雇われたらしいんや。

 それで仕事先で華ちゃんと協力して切り抜けたのが出会いやと言っとったで。

 まあ、あの馬鹿の仕出かした事についてはウシジマはんにも連絡をして追い詰めるつもりや」

 

 

 千早が関西支部から取り寄せた資料と彼女から聞き出した話によると、『岸辺奏多』についてはこうであった。

 

 『彼』は大阪の一般家庭の子に生まれ、霊能としての血筋に関しては調査の時間が不足して不明。

 中学2年生の彼が女性化したのが、約2ヶ月前。

 この一件において、元より両親が共働きで親子の仲が希薄だった事が災いして女性化による自己の証明を失敗。

 両親や警察に事の経緯を説明するも一笑に付されて、警察により児童福祉施設に送致。

 そこの施設長に懇意でよく出入りするメシア教の神父に強い危機感を抱き、脱走。

 市井の異能者からガイア連合の事を聞き助けを求めるも、誰かの紹介も無ければ依頼のためのお金も無いために頓挫。

 そこを件の馬鹿男に高額の報酬を提示されて雇われたのが現在までの経歴になる。

 

 

「彼女が逃げ出したんは、正解やと思うわ。

 資料によると、この辺の警察の本部長クラスはメシア教の接待漬けでズブズブなんやと。

 さらに、この辺のそういう施設はたいていメシア教の紐付きやからね。

 よくその施設に出入りしているのも大阪の教会の神父やて。

 ほら、隆和はんも会った事がある『賀来』て名前の神父らしいで?」

 

「その賀来神父の動きは?」

 

「あの神父、各地の施設で有能な子どもをスカウトするのが仕事みたいなんや。

 例の『勇者くん』もその時に【保護】したみたいや。

 ほんで、全国を飛び回っているせいか詳しい行方は判っとらんそうや。

 それで隆和はん、あの子も助けるん?」

 

「『袖すり合うも他生の縁』と言うしな、助けよう。

 このまま彼女を放り出す訳にもいかないしな。

 何より、あのメシア教が絡んでいる一件なら無視は不味い気がする」

 

「分かったわ。

 ほな、うちは彼女らを置いて逃げた馬鹿の始末もあるからウシジマはんのところに行くわ。

 あの子の事も伝えてくるから、何か他に判ったら連絡してや?」

 

「ああ、そっちは頼む」

 

「それじゃ、あの子を呼んでくるの」

 

 

 千早となのはが席を立ち、側で静かに片付けをしていたトモエも食器類を持ち部屋を出て行った。

 しばらくして、なのはに連れられて華と不安げな表情の奏多が部屋に入って来た。

 期待の眼差しでこちらを見る華の頭を撫でると、隆和は彼女にこう答えた。

 

 

「あの……」

 

「岸辺さんだったね?

 ここの皆で助ける事にするから、安心していいよ」

 

「ほらね? 先生は私の事も助け出してくれたんだよ。

 強くて優しい先生なら、奏多だって助けてくれるんだよ!」

 

「うん、うん。ありがとうございます」

 

「ただし、……」

 

 

 ポロポロと泣き始めた彼女に、隆和はニコニコと笑顔のなのはの顔を見てからこう続ける。

 

 

「ただし?」

 

「この件が解決するまではここで暮らしなさい。

 今のままだと泊まる場所や替えの服とかいろいろ困るだろう?

 戸籍とか親御さんとの事もいろいろある。

 その辺も含めて今後もうちの華と友だちになって、一緒にいてやってくれ」

 

「はい!」

 

「やった! これからもよろしくね、奏多!」

 

「うん。いろいろとよろしくね?」

 

「それじゃまずは服と下着を買いに行くの。

 あの着た切り雀みたいなボロボロの服は処分するから。

 さ、早速行くの」

 

「ええ~!」

 

 

 二人に引っ張られる形で部屋を出て行く彼女を見送ると、隆和も動き出すべく準備をするために部屋を出て行った。

 

 

 

 

 『ヒロインズバトル~神々の黄昏』

 

 今年の初めにダウンロードが開始され、関東ローカルテレビ局の『極亜(きょくあ)テレビ』を中心にCMも流されて現在までに総ダウンロード数がもうすぐで8桁に達するそこそこ人気のあるソフトとなっている。

 ただ、ガイア連合のメンバーや一部のオタクからはシステムとキャラはなかなかいいが、ストーリーがメシア教に忖度している部分が多くて遊ぶ気になれないと酷評されていた。

 

 千早が調査したところ、開発した会社は尼崎市のビジネス街にあるビルに事務所を構える新進企業の『テウ・ゲームス』であり、メインバンクは大阪の『極亜信用組合』で会社のホームページの協賛団体には『ウーマンライツ・ナウ』の名前が記されていた。

 その団体は、しつこく嫌がらせを続ける千早が最も疎んでいる相手である幸原みずきが代表を務めている団体である。

 その事でも千早は、関西支部で副支部長のウシジマニキと話し合っていた。

 

 

「松平とか言うあの男の処分はこれでええとして、こっちの件なんやけど…」

 

「お嬢、その二人が組んでいるとすると厄介なトラブルにしかならないと思うぞ。

 幸原みずきもそうだが、極亜信用組合の社長の『金上金作』も碌でもないやつだ。

 父親の会社の『金上建設』を、船事故で両親と兄弟を死なせて乗っ取ったという噂がある。

 それに、俺が隆和と組んで仕事をしていた頃から佐川の親父も警戒していた」

 

「ほなら、両方とも排除してもええような連中なんやね?

 ええ加減、あの女がこちらに絡んで来るのにも我慢の限界やったんや。

 そこで、藤野はんにも連絡してまずやって欲しい事があるんやけど」

 

「お嬢、具体的には?」

 

 

 千早はニッコリと笑うと、その説明を始めた。

 

 

 

 

 翌月の月末、急遽、『ヒロインズバトル~神々の黄昏』の販売が停止される事態となった。

 

 日本でも有数の企業グループであるガイアグループから、このソフトが強く発光する演出がありそれによって緊急搬送された人物が複数いるとの発表があったからだが、こうして政府の動きが早いのも、少し前に某テレビアニメで一部視聴者が光過敏性発作等を起こし救急搬送された放送事故があったのも関係していた。

 新聞や週刊誌のみならずテレビのワイドショーでも格好の話題だと飛びつかれた事で、被害者だと思われる少女たちが全国で4桁に届く人数がいると報道されて政府の有識者会議が招集されていた。

 急遽出された業務停止命令では、このアプリが関係して緊急搬送された人物が複数確認されたために安全が確認されるまで販売を停止し改善を要求するとの事だった。

 

 これはこのソフトの拡散をとにかく止めようと、千早の提案で関西支部や藤野を通して富豪や政治家の俺たちから働きかけをしてもらった成果であった。

 そして、この結果に激怒する事になる人物がいた。

 

『いいか!

 とにかく我々は被害者であり、ガイアグループが虚偽の報告をしたおかげで我々は損害を被っているとだけ連中には伝えろ!

 原因は何とかしないのか、だと!?

 馬鹿野郎、余計な意見はするな!

 あれのプログラムは大事なこの計画の出資者から渡されたものだ!

 俺はこれから出資者の方と協議してくる。

 とにかくその事だけを連中には言い続けろ!』

 

 それだけを言い残して消えた金上に対応を丸投げされた各会社の重役たちは、何とかしてくれと一人の人物に縋り付いていた。各企業の顧問弁護士をしていて、それぞれの企業から団体に多額の寄付を受けていた事態から逃げ遅れた幸原みずきにである。

 四六時中鳴り響く電話と来客に追われて追い詰められていた彼女のもとに、関西支部の内部から金と引き換えに彼女に情報を流していた男から連絡があった。

 

 

『よう。ひどい目に合っていると聞いたぞ?』

 

「何っ!? 今は忙しいんだけど!?」

 

『用件は簡単だ。

 情報を流すのはこれで最後にするからお別れだ』

 

「どういう事!?」

 

『このアルバイトの事が身内の黒札様にバレて追放されんだよ。

 それと、今のあんたのこの一件、言い出したのはあんたを追い出したあの女だとよ。

 今までそれなりに貰えたからな。じゃあな』

 

 

 言うだけ言って切れた通話に呆然としていた彼女は込み上げる怒りに受話器を叩きつけると、ヒステリックに叫んだ。

 

 

「あの女、あの女、あのクソ女ァァァッ!

 どこまで私の将来の邪魔をすればいいと思っているのよっ!

 あんたみたいな女は、私のようなエリートに頭を下げていればいいのよっ!

 いいわ。直接、話をつけてやろうじゃないっ!」

 

「所長! これからまだ来客が……」

 

「うるさいっ! 

 少し出掛けてくるから、ここは貴女が何とかしなさい!」

 

 

 そう言うと彼女は上着とバッグを取り、事務所の奥の金庫の中にあった札を貼られた古い木の箱をバッグに入れると事務所を出て自分の車で出発した。

 そして、華門神社の正門から車のままで敷地内の参道まで乗り入れると、車を降りてこう叫んだ。

 

 

「天ヶ崎千早をさっさと出しなさいっ!

 私が話をしにやって来てあげたんだからさっさとしなさいっ!」




後書きと設定解説


・関係者

名前:岸辺奏多(きしべかなた)
性別:男性→女性
識別:異能者(悪魔変身者)・14歳
職業:中学2年生
ステータス:レベル15・アタック型
耐性:氷結弱点・破魔無効・毒無効・魅了耐性
スキル:限定的悪魔召喚(両手持ちの大剣)
    渾身の一撃(敵単体・中威力の物理攻撃・必ずクリティカルする)
    火龍撃(敵単体・力依存の中威力の火炎属性攻撃)
    薙ぎ払い(敵全体・小威力の物理攻撃)
詳細:
 ゲーム「ヒロインズバトル」で覚醒して男に戻れなくなった中学生
 意識不明になった親友の少女を助けるためにこうなった
 胸と尻の大きいスタイル抜群の美少女に変わり困惑している
 変身先が悪魔の「邪竜ヴィーヴィル」の為、興奮すると角と尾が生える
 親友の少女(姫川沙雪)は意識不明で入院中
 容姿は『魔法少女育成計画』の「ラ・ピュセル」


次は、早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第53話 狂神アラミサキ

 

 

 第53話 狂神アラミサキ 

 

 

「天ヶ崎千早をさっさと出しなさいっ!

 私が話をしに来てあげたんだからさっさとしなさいっ!」

 

 

 そう女性の甲高い声が境内に響く。

 

 結界に激しい反応があり、山梨の異界に潜る時と同じ装備を手に取ると隆和は異界の入口のある本殿から飛び出し、途中でトモエやカーマと合流すると入口の方へと駆け出した。

 そこには、6月も末になり梅雨になった為か小降りの雨が降る午後の人通りも少ない中、乗って来た高級車を鳥居の前に停めたその女『幸原みずき』はヒステリックに叫んでいた。

 鳥居を挟んで向かい合うその姿はトレードマークらしい赤い高級そうなスーツも皺が目立ち、化粧も満足できていないのか目元に隈が目立つ怒りの表情で周囲を睨んでいる。

 

 隆和自身は以前、会合で顔を会わせたきりでこうやって直接に会うのは随分前だったように感じていた。

 しかし、隆和が注意を払うべきと感じているのは彼女自身ではなく、敷地の結界が激しく反応している彼女の持つバッグの中身だろう。

 ちらりと横目で周囲の人を遠ざけている神社の巫女たちや自分の横で手に持った太刀を構えて警戒しているトモエを見てから、鳥居の前に立ちこちらを睨みつけている幸原みずきに視線を向け近づいた。

 

 

「こうやって顔を合わすのは久しぶりだな、元副支部長」

 

「あなたはあの時の、……ああ、そうか。

 そういえば、あなたはあの女を情婦にしているんだったかしら。

 あの女はどこ? すぐに出しなさい」

 

「千早はここでは渉外を担当しているから、今日は出掛けているよ。

 うちの千早に何のようだ?」

 

「それなら、さっさと連絡してくれないかしら?

 彼女には、さんざん私の邪魔をした事を償って貰わないといけないわ」

 

 

 声を掛けた隆和に、少し落ち着いたのかそれに答える幸原みずき。

 天ヶ崎千早は今日はようやくこちらの交渉に応じた岸辺奏多の両親との話し合いのために、奏多自身と付き添いの夜刀神華にモリソバを護衛に出掛けていた。

 彼女が持つ肩にかけたバッグに時々視線をやりながら、隆和は話を続けた。

 

 

「どういうつもりだ?

 それと、彼女は情婦なんかじゃない。そういう言い方は止めてもらおうか」

 

「こっちでも把握しているのよ。

 あなた、複数の女性に手を出して子どもまで産ませているじゃないの。

 それとも、シングルマザーでなく内縁の妻とか愛人だとでも言うつもりかしら。

 まあ、あの女にお似合いと言えばお似合いの種馬ね」

 

「そういう議論をしに来た訳じゃないのだろう?

 とにかく、彼女はここにはいない。

 元は同じ黒札になったかもしれなかった誼だ。

 1度だけ警告するぞ。

 そのバックの中の危険物を置いて大人しくしろ」

 

 

 自分のバッグを指さしてそう言う隆和に、バッグを抱え込み後ずさると彼女は答えた。

 

 

「連絡しないばかりか、他人の物を奪おうと言うの!?

 この恥知らずっ!」

 

「人の話を聞け! 

 あんたが持っているそれは、うちの結界が強く反応するくらいやばいものなんだぞ!?」

 

「嫌よ!

 これは私が手に入れた大事な物なのよっ!

 あなた達みたいな相手を前にしてこれを捨てろとでも言うの!?

 これは唯一、化け物から私を守ってくれるのよ!」

 

「トモエ!」

 

「はい!」

 

「『箱』っ、私を助けなさいっ!

 アイツを超える力を寄越しなさいっ!」」

 

 

 トモエに声を掛けバッグを奪って彼女を取り押さえようと鳥居の先に飛び出した隆和を、彼女の叫びと共にバッグから吹き出した黒い煙が持ち主諸共に飲み込んでいった。

 

 

 

 

 気がつくと、隆和はどことも知れない場所に一人で立っていた。

 荒涼とした暗い夜の荒れ地であるその場所は、直径50mほどの広さで周囲を黒い炎の形の影のような物が取り囲んでいる。中の空気は、隆和が慣れ親しんだ異界のそれと同じである。

 そして隆和から少し離れた場所には、身長が2mは越える大きさの幸原みずきの顔をした人型の赤い服を纏った炎のような姿の悪魔がそこにいた。

 隆和の目にレベル34【狂神アラミサキ】と映るそれは、どこかエコーが掛かっているが陶然とした声で語りかけてきた。

 

 

『ふううぅぅ、素晴らしいわ。

 まるで本当の自分に戻れたかのように素晴らしい気分だわ。

 さすが、不気味だったけどあの馬鹿な男から取り上げたこの像の成果ね。

 あの鳥居から先に何故か進めなかったけど、今なら通れる気がするわ』

 

「どういうつもりだ? 何をした?」

 

『どういうつもりも何も、あの女の吠え面が見たいだけ。

 あなただけここに連れ込めたのね。

 本当、この像に願い事をすると私は運が良くなるわ』

 

「あの箱の中身は素人が持っていい物じゃない。

 仮にもガイア連合の副支部長になっていたあんたが、それも分からないのか!?」

 

『うふふふ、私の役に立つのだからそんな事どうでもいいわ。

 この力があれば、あの女が大切にしているものを壊してしまうのが早いわね。

 だから、まずあなたから死んで頂戴』

 

「ちっ」 

 

 

 舌打ちし走り寄る隆和に、ニンマリと耳まで裂けるような笑みを浮かべるとアラミサキは周囲に鳴り響く【金切り声】を上げた。 

 

 

『キィアアアアアッ!!』

 

「なん…、デバフかっ」

 

 

 殴りかかった隆和の腕の力が抜け、アラミサキにいつもより力の抜けた一撃が突き刺さる。

 その一撃を嘲笑うと、アラミサキはお返しとばかりに腕を振るう。

 

 

『喰らいなさい、性犯罪者っ!』

 

「くうっ」

 

 

 【ヒステリービンタ】。

 スキルの乗った腕の一撃が振るわれ、攻撃を受けた隆和は両腕で防御したまま数m後ずさった。

 こちらを完全に見下し嘲笑うアラミサキの攻撃を防御しつつ、隆和はいつもならトモエと共に攻めながら行なうのだが今は注意深く見ながら攻略法を考えていた。

 

 

(威力はレベル相応か。

 力任せに腕を振るっている攻撃の仕方は素人丸出しだ)

 

「このっ!」

 

「ふっ」

 

 

 力任せに振るうアラミサキの攻撃を捌き、懐に飛び込むと肝臓や鳩尾に拳を叩き込む。

 痛痒も感じないのか逆に叩きつけるように振るってくるアラミサキの腕を、捌いて躱す隆和。

 それを2度、3度と繰り返す。

 

 

(耐性は、破魔無効と呪殺耐性で弱点はなし。

 さっきから攻撃に【黄金の指】を込めているが、魅了・至福・混乱のどれにも反応なしか。

 精神無効でも持っているのか?)

 

 

「このっ、ちょこまかとこれでも喰らいなさいっ! 【ブフダイン】!」

 

「ぐおっ」

 

 

 隆和が攻撃を躱すのに苛立ったアラミサキが、単体向けの氷結高位魔法を放ってきた。

 思わず隆和は身を反らしつつ後方に飛び退って躱すも、青白い強力な冷気の塊が身を掠めた。

 

 

(掠めただけでかなり持って行かれたぞ。

 スキルは、攻撃力を下げる金切り声と単体向けの物理スキルにこれか。

 あともう一つか二つあるか?

 如何せんこの攻撃力を半減させる効果がキツい上に、あれがな)

 

『ウフフフ、今のは効いたようね?』

 

「…………」

 

 

 攻撃が効いた事が嬉しいのか笑うアラミサキの背後に、隆和は視線をやっていた。

 アラミサキ自身は気づいていないようだが、外縁の壁の近くに6人の黒い影が立っていた。

 それらは皆、全身が立体的な黒い影だけの姿であったが、青白い顔だけはそこに浮かび瞳のない暗い穴だけがそこから隆和に向けて期待するようなアラミサキには憎悪を感じさせる視線を送っていた。

 隆和の目には【幽鬼シチニンミサキ】と映るそれらは、何かを彼に期待しているようだった。

 

 

 

 

 隆和はもちろん持ち主の幸原みずきも知る由もないが、彼女の持つ箱に入っていたのはとある四国の山中で祀られていた“願いを叶える仏像”であった。

 

 それは室町時代の頃、とある修験者が自らの寿命も込めて作り上げた“どんな願いをも叶える仏の像”であった。その像は『七人ミサキ』をなぞらえた呪術で出来ており、願いを叶える代わりに持ち主の近しい人物を病死や事故死という形で一人ずつ取り込み、7つ目の願いを叶えた後にその持ち主を取り込んで他の六人に冥府へと連れて行かれるというものだった。

 その修験者は故郷の村を滅ぼしたその地の領主にその像を献上し、領主たちが死ぬのを見届けると自分も死んだという逸話が後の祟りを恐れた人々によって祀られたその地に残されていた。

 

 ところが、戦後のメシア教の介入で没落した名家となっていたその子孫は扱いに困ったこの像をダークサマナーに売り払い、そのダークサマナーが後に離婚争議で嫁側の弁護をした幸原みずきが手に入れたのが持ち主になった経緯だった。

 

 願いを叶えるたびに彼女が代表をしている団体の関係者の女性が不審死を遂げていたが、彼女はそんな事はただの偶然だと片付けてガイア連合からの調査の妨害などに使い続けていた。

 そして今、彼女は7つ目の力を求める願いを叶えて、隆和をこの場に引きずり込み悪魔の姿と化していた。

 

 

 

 

『この変な場所もこの男を殺したら出られるのかしら?

 そうだ。殺してから氷漬けにして、あの女の前で粉々に砕いてあげましょう。

 そうね。それがいいわ。

 ついでに、あの神社も全部壊したら気分も晴れるかもしれないわ』 

 

 

 殴りかかって来ないのをもういつでも殺せると思ったのか殺した後の事をニヤニヤとしながら算段し始めているアラミサキを前に、魔石で回復している隆和は手の内も粗方知れたこの悪魔の戯れ言を止めるためにそろそろ倒そうと走り出した。

 

 

『大人しく死ぬ気はないのね!? 【ブフダイン】!』

 

「そらよっ、点火!」

 

 

 飛んで来る冷気の塊にマハラギストーンをぶつける隆和。

 火炎と冷気がぶつかり広がる火炎でアラミサキの視界が途切れた隙に、弱まったがまだ強力な冷気の塊をその体に受けた隆和は今側にいる唯一の仲魔に向かって叫んだ。

 

 

「がっ、カーマ!」

 

「まかせて、マスター! 喰らえ、【魅了突き】!」

 

『がっ、あああああ!!!』

 

 

 今まで封魔管に潜み姿を隠していたカーマが隆和の背後から現れ、アラミサキに矢を放った。

 その矢は炎を突き抜け、アラミサキの左目を正確に射抜く。

 絶叫を上げ、目を押さえて仰け反るアラミサキの懐に隆和は飛び込むと左側に回り込んだ。

 最初の金切り声からおよそ10分、攻撃力の戻ったその右の拳を身体を回転させながら振り抜き背中から腎臓の辺りに叩き込んだ。

 

 

「【地獄突き】!」

 

『ゲゴォ!』

 

「ほらほら、どこを見ているんですっ!? 【魅了突き】!」

 

『ゲオッ!』

 

 

 背後から攻撃を加えた隆和に振り向こうとしたアラミサキの喉元にカーマの矢が刺さる。

 なまじ人の体からそのまま悪魔化したために、マグネタイトのみの構造の悪魔と違い肉体があったのが痛みや人体の急所への攻撃がよく効くようになったという彼女の弱点となったのだろう。

 激しい痛みと怒りで状況の判断がつかなくなったアラミサキは、とにかく手近にいた隆和を叩き潰そうと振り向き右腕を振り上げたがその時には隆和の準備はもう済んでいた。

 

 

「これでくたばれっ! 【チャージ】【地獄突き】!」

 

『死になさ、…ガボォッ!!』

 

 

 大振りのスキルの乗った隆和の拳がアラミサキに当たり、そのまま鳩尾を突くと勢いのまま身体を貫いた。

 血かマグネタイトかは分からないが真っ赤に染まった隆和が腕を引き抜くと、そのままアラミサキは崩れ落ちるように倒れ伏した。隆和が数歩離れて見ているとアラミサキの姿が崩れ、自らの血で真っ赤になった元の幸原みずきの姿に戻っていった。

 まだ息のあった彼女はふらふらと隆和に手を伸ばす。

 

 

「これ…は…何か…の…間違い…なの…よ。…助け…て…」

 

「馬鹿なんじゃないですか? 何が間違いなんだか」

 

「もう遅い。それにお前を待っているのは彼女らだ」

 

「あ…あ、…何…で…ここ…に…居るの…。あ、…ああ、止め…て」

 

 

 隆和とカーマが離れた場所で見下ろす先で、我先にと寄って来た6人の女性の幽鬼たちは皆一様に笑みを浮かべながら掴んで押さえ込んだ彼女と共にコールタールのような黒い地面の中へと消えて行った。

 そして彼女ら全てが完全に消えると、その場所も色を失い崩壊し元の景色に戻るのだった。

 

 

 

 

 隆和とカーマが周りを見ると、すでに周囲は夜へと変わっており幸原みずきの車もどこかに移動されていた。

 ふと気がつくと、地面には落とした際に壊れた木箱とその中に砕けた仏像らしき欠片が転がっていた。

 隆和がそれを拾っていると誰かが走り寄る音がして、振り向いた隆和に千早が抱きついた。

 

 

「何時間もどこに消えとったん、うちたち心配しとったんやで!」

 

「昼間訪ねてきたあの女が、不可思議なアイテムで悪魔に変わって異界に引きずり込まれたんだ。

 彼女一人だったし、もう倒したから心配はもう無いよ」

 

「それじゃ、あの女は完全に死んでしまったんやな。

 嫌いやったけど、死んで欲しいとまでは思ってへんかったんや。

 あの女もうちらと同じだったんやし」

 

 

 そう言うと複雑な表情の千早の後ろから、なのはとトモエが走って来た。

 近寄って来たトモエがボロボロと泣きながら頭を下げた。

 

 

「申し訳ありません、主様。

 主様の身を何があろうとお守りするのが私の役目でしたのに」

 

「あれは不可抗力だったからな。

 それにカーマがいてくれたから大丈夫だったぞ」

 

「ふふん」

 

「…………」

 

 

 ドヤ顔のカーマとそれを無言で涙目のまま睨むトモエを横に、なのはが苦笑いをしながら話しかけてきた。

 

 

「二人ともその辺にするの。

 千早も、うちの旦那さまは絶対にわたし達の所に帰って来るから信じて待つの。

 それと、隆和くん。山梨から連絡があったの」

 

「何かあったのか?」

 

「例のソフトの解析が出来たらしいの。

 意識不明になった娘達の行き先は、大阪湾の埋立地にある国際情報都市建設跡地らしいの」




後書きと設定解説


・アイテム

【シチニンミサキの像】
詳細:
 昔、とある修験者が作り上げて祠に封印されていた願いを叶える像
 7人ミサキに擬えた呪術で複数回持ち主の願いを叶えるようにした
 願いを叶える代わりに生贄となる人物を殺し取り込んでいる
 7回まで願いを叶える事が出来、願いを叶え切るまでは持ち主は守る
 最後に7人目に死んだ持ち主を道連れに地獄へと赴くと眠る仕組み

【幽鬼シチニンミサキ】
詳細:
 呪いの像に捧げられていた女性の怨霊が6人集まっている幽鬼
 女性の姿の黒い影が複数立っていて足元の影から無数の女性の腕が生えている
 今の彼女らは像を持つ幸原の団体に関係していた女性たちの成れの果て
 力を与えた幸原みずきが思いの外、霊的才能があったので殺せずにいた

・敵対者

名前:幸原みずき
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・38歳
職業:ガイア連合関西支部副支部長→反ガイア連合派弁護士
ステータス:レベル4
耐性:破魔無効
スキル:金切り声(雄叫び)(敵全体・攻撃の威力を2段階下げる)
    説得、脅し、恐喝、根回し
詳細:
 政界に見切りをつけガイア連合関西支部に潜り込んでいた転生者
 ヒステリックで煽る言動が多い性格でキツい印象の容姿の美女
 上昇志向が強く、フェミニストを標榜する独善的な理想主義者
 左遷人事に納得いかず、支部の職員を退職していた
 現在、反ガイアグループの関係訴訟を引き受ける弁護士として活動中
 手足となる女性人権団体『ウーマンライツ・ナウ』を再開していた

【狂神アラミサキ】
レベル34 耐性:破魔無効・呪殺耐性
スキル:ブフダイン(敵単体・大威力の氷結属性攻撃)
    ヒステリービンタ(敵単体・中威力の物理攻撃)
    金切り声(雄叫び)(敵全体・攻撃の威力を2段階下げる)
    捧魂の法(自身・自分のHPを1にする。
         自身の攻撃・防御・命中・回避を最大まで上げる)
    精神異常無効
詳細:
 嫉妬深く、人の仲を離す神、男女の仲を引き裂く荒御魂の女神
 赤い日本の古代の服を纏った燃え盛る人型の炎の姿をしている
 幸原が手に入れたある願いを叶える呪いの仏像で姿を変えた

最近の作品では、カジャ系やンダ系の効果時間は3行動または3ターンとされているものが多いです。
実際にはどれくらいの時間かについてですが、「女神転生IMAGINE」において【カジャ系は味方に10分間】とあったのでそれに準拠しています。


次は、早めに。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第54話 異界・大阪人工島「夢洲」

続きです。
クライマックスに突入です。


 

 

  第54話 異界・大阪人工島「夢洲」

 

 

 『大阪国際情報都市』。

 

 それは、大阪府が80年代に進めていた新都心都市計画の事である。

 大阪湾の埋立地である人工島の舞洲のその南西、大阪市の最西端である夢洲に於いて進められていたそれは、その名の通りITや半導体企業を誘致し流通と情報の中心地“日本のシリコンバレー”を目指していたらしい。

 面積が約390haになる夢洲の南西に完成している大型コンテナ専用の港のコンテナターミナルと、道路沿いに隣接した北側の約50haの部分にビル街を建設する計画だったようだ。

 

 もっとも、その計画は建設の途中で頓挫していた。

 

 その計画に手を上げ強く参加してきたのが当時勢い強く成長中だったIT企業の【アルゴンソフト社】で、関東圏でアルゴンソフトは社の命運をかけた事業を展開する用意しておりその予備として、当時の政府次官の後押しもありここの都市計画に参加したのだという。

 しかし、大阪支社のビルが完成し他のビル群の建設がある程度進んだところで、アルゴンソフトの本社が急に倒産し後押ししていた政府次官も退職となって、現在は再開発費用が捻出できない大阪府によって朽ちるに任せる状態となったはずだった。

 

 

「だけど、そうじゃなかった。

 てっきり本社の方と背後の連中を潰したから大丈夫だと、我ながら見落としていたんだろうね」

 

 

 そう関西支部の会議室で多くの黒札達を前に、ショタオジはいつになく真剣な顔で語っていた。

 

 

 

 

 隆和が狂神アラミサキと化した幸原みずきと戦った日の翌日の午後、関西支部では午前に手隙の高レベルの黒札に緊急案件としてショタオジ自身の名前で招集が掛けられた為、大勢のメンバーが会議室に集まっていた。

 

 ショタオジが分身とはいえわざわざここまで出張って来たのは、隆和のシキガミのトモエの救助を求める通報が原因だった。

 隆和が帰還後、華門神社に来ていた彼は、幸原みずきが持っていた仏像の欠片を受け取りしばらく見ると顔を歪めて隆和たちにこう言った。

 

『これは俺が預からせてもらうよ。

 明日、これに関係した事も含めて招集を掛けるから家で待機していてくれ』

 

 隆和の返事を聞く間もなく彼は姿を消し、翌日のこの招集となったのだ。

 子どもたちと華門神社の事は華門和と吉沢加奈の二人に任せると、隆和はなのはと千早にトモエを伴いここに赴いていた。

 議会進行役となったウシジマニキと壇上に座るショタオジに、サラリマンニキや大佐ニキなど顔見知りがちらちらと混じる室内を移動し隆和たちは後ろの方に座った。

 ある程度集まったと判断したのか、ウシジマニキが話し始めた。

 

 

「今回集まって貰ったのは、『ヒロインズバトル』とか言う携帯用のゲームについてだ。

 この中にも、何人か遊んでいた者もいただろう。

 急にこのゲームが販売中止になって、アンインストールを促す警告表示が出るようになったのは理由がある。

 このゲームをする事によって、とある条件を満たすと遊んでいた人物の意識と言うか【魂がどこかに連れさられる】からだ」

 

「その条件というのは何ですか?」

 

「『ゲームクリア時に最高評価を得ていた10代の少女』。

 これが被害者たちの共通した条件だった」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。

 そんな危険なソフトが販売されていたんですか!?」

 

 

 ウシジマニキの発言に、思わず立ち上がって発言する者がいた。

 それは、隆和たちもよく知っている大阪の派出所の一つを任されているサラリマンニキだった。

 その真面目な彼の怒りの表情に、いつもの無表情な顔でウシジマニキは返した。

 

 

「ゲームの審査機関にこんな仕掛けがあるなどと見抜けるわけがない。

 それに、今の日本はオカルト抜きでも年間5桁の行方不明者が出ている。

 数年の内に、年間8万人を越えるだろうという予測もある。

 オカルトの要素が加われば1桁上がるだろう。

 俺たちやショタオジだって万能の存在という訳じゃない」

 

「すみません。

 うちに来ている若い子たちの間でもそのゲームをしている子がいたので、つい」

 

「そういう事情があるならしょうがないが、今は説明を続けさせてくれ」

 

 

 諭されて頭を下げるサラリマンニキが座り、室内がざわつく中でウシジマニキは話を続けた。

 

 

「このソフトの事が判ったのも、前にここで副支部長をしていた『幸原みずき』を監視していたからだ。

 彼女は追い出してからは、嫌がらせのような事しかしていなかったのは知っていると思う。

 特に現地の組織で子どもを作って、母親の実家で育てさせている者はよく知っているだろう?」

 

「…………」

 

 

 室内の何人かの者たちが思い当たる節があるのか、目を逸らしたり面倒臭そうな表情を浮かべている。

 かなり離れた場所に座っていた隆和によく似た姿の男性などは、「俺の所には十数人くらいまとめて来たんだよな」とうんざりした顔で思わず零していた。

 

 

「この幸原みずきだが、先日、悪魔に姿を変えて派出所の一つを襲撃して返り討ちに会い死亡した。

 蘇生は出来ない状態だったので死亡が確定した。

 この女は例のゲームの制作会社の顧問弁護士をしており、今の事態の収拾に走り回っていたのが確認されていた矢先だった」

 

「あのヒステリー女が?」

 

「俺なんか仕事の報告でネチネチ嫌味を言われて腹が立ったが、追い出されて笑っていたのにこれか」

 

「あの天ヶ崎千早とやりあっていた幹部だったよね?

 わたしはほとんど面識はなかったけど」

 

「私も嫌いだったけど、死んで欲しいとまでは流石にねぇ」

 

 

 さらにざわつき始めた室内を余所にウシジマニキは、後ろにプロジェクターを出すとある映像を流し始めた。

 そこには埋立地の人工の一部、夢洲の本来なら壊れたビル群のある場所の周囲が霧か雲のようなものに覆われている姿だった。

 その光景に隆和たちも含めて室内の者が視線を奪われる中、ショタオジとウシジマニキが説明を始めた。

 

 

「これは今朝から確認されたものだよ。

 この映像は関西支部のメンバーが中継して監視している映像だ。

 今、あのエリアは異界になりつつある」

 

「警察の方から前々からここは不良たちのたまり場になっていたので、警らや巡回も多くしていたそうだが出かけて行った者が戻って来ないらしい。

 アメリカから来たコンテナ船『サンズ・オブ・マリステラ』からコンテナが廃墟内にいくつも持ち込まれていると報告もあったそうなので、調査の依頼も来ていた。

 コンテナ船の方は、公安と入国管理局の連中と一緒に調査に行っている者がいる。

 今監視している連中は、その調査依頼を引き受けて慌てて引き返して来た者達だ」

 

「死んだ彼女の事が今回の引き金になったのではと思われる。

 つまり、目的は不明だけど、確認されているだけで千人を越える少女のマガツヒを集めて何かをしようとしている連中があの中にいるんだ。

 そこで皆んなにはあの異界の調査と攻略を頼みたい。

 山梨支部や俺の方は、今は全国的に進めたい計画を進行中で手が離せないんだ。頼む」

 

 

 ショタオジがそう宣言すると、皆一様にしょうがないなという表情になり動き始めた。

 仲間内で相談を始める者やどこかに連絡を始める者などが出る中、ウシジマニキが皆に声をかける。

 

 

「俺たち関西支部は、港湾の一区画に待機所を設置中だ。

 1,2時間で完了するだろう。

 準備の出来た者から順次、そこに寄って突入を開始してくれ」

 

「ああ」「分かった」「了解だ」

 

 

 各々がそう答えると、皆、足早に部屋を出ていく。

 隆和たちも準備のために一度戻ろうと立ち上がった時、ショタオジが声を掛けてきた。

 

 

「アーッニキ」

 

「どうした、ショタオジ?

 これから俺らも準備をしに戻るつもりなんだが?」

 

「今回の一件、アーッニキの周囲から全部始まっているのは判るよな?

 そういう場合は得てして、事態の解決の最後にまで絡むことになるよ。

 うちのメンバーは、何人もそういうパターンを経験しているから気をつけるんだ」

 

「ああ、ありがとう。

 最大限の準備をしてから行く事にするよ」

 

「必ず戻ってきてくれよ。

 国内にちょうどよく出来たいつでも行ける夏の浜辺の秘密の休憩所とか、他に無いんだし」

 

「それが本音か!」

 

「ハハハ。それじゃ、頑張って」

 

 

 そこまで言うと、ショタオジはウシジマニキと部屋を出て行った。

 それを見て、千早が声を掛けてきた。

 

 

「隆和はん。

 うちでは戦場に一緒に行くのは出来へんから、ウシジマはんの手伝いをしてくるわ。

 必ず戻って来てな。

 ショタオジが出張って来るなんてただ事やないんやから」

 

「ああ。分かっているよ。千早、ここの事は頼むよ」

 

「判ってるで。

 なのははんとトモエには彼の事を頼むわ」

 

「もちろんなの」

 

「主様を絶対に守ります。もうはぐれません」

 

 

 そう言い合うと、彼らも各々の目的のために部屋を出て行った。

 

 

 

 

 一方その頃、夢洲の南にある貨物コンテナ用のターミナル港では、公的機関の人員をサポートするために一緒に大型コンテナ船『サンズ・オブ・マリステラ』の査察に踏み込んでいるナイスボートニキたちの姿があった。

 

 彼の側には宙に浮く球形のロボット型のシキガミのコズワースに、先日の16歳の誕生日に無事彼を押し倒して正式に突き合い出した百々地希留耶、狙っていた彼女が男と付き合い出して心のなかで泣いているが心配なのでついて来た腐百合ネキの姿があった。

 

 警察や公安など多くの人員と一緒に来た彼らだったが、オカルト的なものは一通り発見できなかった為にこの船のブリッジクルーを見張るために操舵室に来ていた。

 4人は少し垂れたのか、雑談を始めていた。

 

 

「そ、それでキャルちゃんからアプローチを掛けちゃったの!?」

 

「そうだよ。

 なのはさんも千早さんも徐々に距離を詰めて一気に行けって、アドバイスくれたの。

 準備とかも色々してくれて、こうやって正式に彼女に成れたんだ」

 

「へ、へー。そうなんだぁ。そうなんだぁ、ハハッ」

 

「その話は別の機会にしよう!

 今は仕事に集中した方が良いとオレは思う!」

 

「旦那様。

 後回しにしても過去は変えられませんよ?」

 

「分かっているんだよ、わかっているんだ。コズワース。

 それでも視線を逸らしたい時はあるんだよ。

 そ、それより、あれは何か解るか?」

 

 

 ナイスボートニキはあまり触れて欲しくない話題を避けるように、操舵室の窓から見える島の上に掛かった分厚い雲のようなものを指さした。

 体から突き出たカメラでコズワースは分析した。

 

 

「詳しい事は判りかねますが、異界の外殻の可能性があります。

 山梨支部のデータベースに前例がございました」

 

「あれが異界の外側だって?」

 

「雲にしか見えないね」

 

「それじゃ、隆和さんたちみたいな実力が上の人達はあそこに行くんじゃないのかな?」

 

 

 腐百合ネキがそこまで言った時、船の最下層で閉じられていた動力室の扉がこじ開けられた。

 それと同時に船内放送が鳴り、船長を始め船内の船員たちが一斉に叫び始めた。

 

 

『時間です。

 さあ、奇跡の始まりを告げる鐘を高らかに鳴らしましょう!』

 

「「「天にまします我らの父よ。

   願わくは御名を崇めさせたまえ。

   御国を来たらせたまえ。

   御心の天になる如く、地にも成させたまえ。

   アーメン!!」」」

 

「何か、ヤバい! 早く逃げ……」

 

 

 ナイスボートニキがそう叫んだ瞬間、大きな揺れが襲い船が傾き始めた。




後書きと設定解説


・関係者

名前:腐百合ネキ(桂木美々) 
性別:女性
識別:転生者(ガイア連合)・17→18歳
職業:ガイア連合山梨支部連合員
ステータス:レベル14→15・スピード型
耐性:破魔無効・呪殺耐性(装備)
スキル:トラフーリ(戦闘脱出)
    トラポート(長距離転移)
    エストマ(敵遭遇率低下)
    スクンダ(敵全体・命中と回避低下)
    迅速の寄せ(素早さと先制率上昇)
    逃走加速(逃走確率の上昇)
装備:軍用バックパック(耐刃防弾仕様)
   呪殺耐性の指輪
詳細;ガイア連合員専用の物資の配達をする部署の関西方面担当の一人
   テレポート地点はBL本を買った思い入れのある場所が基点となる
   最近は視界内に複数人まで転移するなど成長をしている
   異能ではなく趣味のことで家族と疎遠になり家を出た
   友人の手で腐海に引き込まれ、貴腐人と百合モノ好きになった。
   実家は地方の大病院で黒医者ニキが親戚で身元引受人
   

【挿絵表示】

腐百合ネキのイメージ図

ナイスボートニキの現在のデータは、37話を参照して下さい。
百々地希留耶の現在のデータは、43話を参照して下さい。

現在、コロナ療養中につき、しばらくお待ち下さい。


次回から、異界突入。
もし、読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第55話 アルゴンソフト大阪支社ビル、突入

遅くなりましたが、続きです。


 

 

  第55話 アルゴンソフト大阪支社ビル、突入

 

 

「僕も行きます! 友だちを助けたいんです!」

 

「どうしても行くのかい?」

 

「はい!」

 

「じゃあ、約束をしてくれ。

 必ず華と一緒に行動する事と、現場では俺かなのはの指示には従う事だ。

 約束できるかい?」

 

「…はい!」

 

「華、彼女の側を離れないようにな。

 この子は、危なっかしいから見てやってくれ。なのはも頼む」

 

「はい、先生! 目を離さないようにするね」

 

「判ったの。飛び出さないように見ておくの」

 

「…うう」

 

 

 会議の後に隆和たちは一度、華門神社に戻ると異界に行く準備をし移動を始めた。

 デモニカーに乗って異界に乗り込むのは、隆和とトモエにカーマのいつものチームに、なのはと夜刀神華、それに立候補して来た岸辺奏多の現在前線に出られる3人だった。この6人と用意していたアイテム類を荷台に乗せると車は一路、異界側の合流地点へと走って行った。

 

 移動中の車内で、隆和はなのはから奏多について話をされた。

 

 

「隆和くん、奏多ちゃんなんだけどこの件が終わっても家で住まわせあげて欲しいの」

 

「俺としては構わない。

 確か、うちの神社の巫女のうち数人が相手を見つけて出て行ったから空き部屋はあると思うが、何があったんだ?」

 

「…………」

 

 

 俯いている彼女をちらりと見てから、なのはは話し始めた。

 

 

「千早から聞いたんだけど、彼女のご両親が彼女の引き取りを拒否したって。

 話は最初聞いてくれたんだけど、奏多ちゃんを見せたら鼻で笑われたらしいの。

 『そんな馬鹿な話があるはずがない』って言われて!」

 

「元々うちの両親、性格が合わなくなって別れる寸前だったみたいです。

 僕が高校を出たら離婚しようと、二人で決めていたらしくて。

 二人とも、オカルト関係はまるで詐欺だと決めつけて信じない人達でした。

 僕がいろいろと思い出を話しても、やっぱり駄目でした。

 『どこで聞いたんだ!? 息子をどこにやった!?』しか言わなくて」

 

「まだ半年も経っていないのに、早々に失踪届を出して離婚調停中だって言うの!

 まるで居なくなって良かったとでも言いたい様子なの!

 最後には『金が目当てなのか?』って、通報までしようとしたらしくて!

 自分の子どもを何だと思っているの!」

 

「奏多、元気だして。

 僕や先生や皆んなは奏多の側にいるからね?」

 

「……うん」

 

 

 話している内にヒートアップしているなのはと、訥々と語る奏多と隣で励ましている華。

 トモエのナビに従いつつ、デモニカーの運転を監視している隆和はこう述べて締めくくった。

 

 

「うちは何人か君みたいに、こういうトラブルで身元を引き受けているから大丈夫だよ。

 今回の件が終わった後に、うちでゆっくり今後どうするかは考えなさい。

 俺やなのはに皆も相談には乗るから」

 

「そうなの。

 今はこれから行く所で友だちの事にだけ集中しましょうなの」

 

「はい!」

 

 

 

 

 隆和たちの車が大きなコンテナトレーラーが通るための橋を渡り指定された集合場所に着くと、そこは大変な光景が広がっていた。

 周囲の人の話では、集合場所近くの港で大型のコンテナ輸送船が動力部の爆発で沈んだらしく、大勢の警察や救急車両が港側にいて現場でマスコミや見物目当ての野次馬の車など交通規制を始めていた。隆和たちのデモニカーも一時、検問で停められたがガイア連合の関係者だと判ると、バリケードの壁で囲まれた集合場所への道に通された。

 

 そこは建設現場などでよく使われる簡易的な壁で覆われ、大型のテントの下に机や椅子が並べられ関西支部のスタッフと思われるメンバーが走り回っていた。目の前に街そのものを覆う大きさの雲の壁を見つつ、車から降りてきた隆和とトモエは受付らしい場所に向かった。

 入り口にしている雲の壁の方には女性用の色取り取りの衣装を纏ったマッチョ集団の関西支部支部長率いる『シックスバックレディース』の面々が警護しており、受付を済ませたガイア連合のチームが続々とその横を通って中へと入っていくのが伺える。

 

 隆和は受付にいたよく知る人物のもとに向かった。

 そこには受付業務を手伝っていたナイスボートニキがいて、お互いに複雑な顔で挨拶すると話し始めた。

 

 

「…よう、ナイスボートニキ。ここにいたのか?」

 

「や、やあ、アーッニキ。たまたま、港の方でトラブルに巻き込まれてさ。

 後から来た関西支部の人たちに手伝うように頼まれてここに居るんだ」

 

「……希留耶は? 一緒に出掛けたと聞いたんだが?」

 

「あ、ああ。

 沈みかけた船から脱出する騒ぎがあったんでさ。

 腐百合ネキがたまたま一緒にいたんで、彼女のトラポートで一足早く帰したよ」

 

「向こうの港のアレか。……無事なんだろうね?」

 

「も…、もちろん。

 変なものを見たんでびっくりしていたけど、怪我一つしていないさ。

 船が沈み始めると、船員たちが一斉に神に祈り始めるだなんてあの光景はホラーだよ」

 

 

 複雑な表情の隆和の横で『全部知っていますよ』と言わんばかりの笑顔のトモエと車から彼を見るなのはの方は見ないようにしつつ、ナイスボートニキは答えた。

 

 

「そうか。

 それで港の方に、テレビ局のヘリも飛んでいるけど大丈夫なのか?」

 

「こっちの雲の方は未覚醒の人には認識できないみたいでね。

 警察の監視もあるし、こっちには来ないと聞いているよ。

 アーッニキたちも中に行くんだな?」

 

「ああ。

 俺とトモエとカーマに、なのはと夜刀神華と岸辺奏多にデモニカーの7人だ」

 

「既に何人かの人たちが先に行っています。

 たくさんの天使が中で飛んでいるらしいので気をつけて」

 

「ああ、ありがとう。

 それと、今度時間を作って欲しい。

 希留耶の事について色々と話し合おう、な」

 

 

 同じ側に来た相手を見る目の隆和にポンと肩を叩かれて硬直したナイスボートニキを後に残して、ニコニコと笑顔のトモエを引き連れて隆和は車に戻るとデモニカーに乗ったままその中へと続く道路を通り雲の中へと走って行った。

 

 

 

 

「何だこりゃ?」

 

「訳が分からないけど、天使がいっぱいいるなんて碌なことにならないの」

 

 

 デモニカーごと異界に侵入した彼らが見たのは、一種異様な光景だった。

 一面の曇り空の中を廃墟と化したビル群が中央の4車線の道路を挟んで並ぶその異界は、無数の【天使エンジェル】が空を舞う様子がまず目に入った。その天使たちは口々に賛美歌を口ずさみながら、異界に侵入したガイア連合のメンバーたちが奥に向かうのを邪魔している。

 それもこちらからの攻撃を避けはするもののその場を動くことはなく、ただひたすらに『アヴェ・マリア』や『レジーナ・チェリ』などを歌い続けながらこちらの侵入を阻むという異様な行動を取り続けている。

 

 そして一番目につくのは、その異界の奥にある最もビルの形を残している『アルゴンソフト大阪支社ビル』だろう。

 30階建てはあるだろうそのビルを取り囲むように天使たちが舞い、曇天の空からそのビルにのみ雲の切れ間から光が差すという聖書に載っているかのような光景がそこにあった。

 

 女神転生の世界において天使が群れ集うこのような光景はメシア教の信者以外には悪夢の象徴でもあり、ガイア連合のメンバーにとっては大きなトラブルが起こる前兆でもある。そう考えているからこそ他の地方から応援に来ているメンバーも含めて突破しようとしているが、数が多すぎて手をこまねいている状態であった。

 

 その複数の集団の一つに、隆和は顔見知りの大佐ニキを見つけ車を寄せた。

 彼らはいつもの戦術の通りに、大型の装甲服に大きな盾を持たせた数名の隊員を壁にしながらジリジリと前進を続けているようだった。

 

 

「大佐ニキ!」

 

「おっ、アーッニキに魔王ネキも来たか。

 しかも車に乗っているとはな、どこで手に入れたんだ?」

 

「山梨支部の車両開発班で手に入れたよ。

 それより、状況は?」

 

「見ての通り10レベル前後のエンジェルしかいないが、前進するのにも湧いてくる数が多すぎてあのビルまで近づけない状態だ。

 空が4で、害鳥共が6だ。

 続々と応援は来てくれているが、それ以上に湧いて来て人手が足りない状態だよ」

 

「ここは俺らが突破してみるつもりだ。

 こうやって車もあるし、火力もうちのなのはがいるしな」

 

「任せて欲しいの」

 

「それならとりあえず、あのビルの入り口を確保してくれ。

 俺たちが後に続く。幸運を」

 

「わかった。なのは」

 

 

 隆和に声を掛けられ車の窓から上半身を乗り出したなのはが、両手を突き出し叫んだ。

 

 

「いくの! 【コンセントレイト】、【メギドラ】!」

 

「よし、出るぞ!」

 

「なのはさん!」

 

「待ってな、わひゃああ!」

 

 

 なのはの放った範囲万能魔法により前方に広がっていた天使の群れに穴が開いた。

 そこを目掛けて隆和が声を出すとデモニカーが大佐ニキたちの隊列の横をすり抜けて走り出し、バランスを崩したなのはを華と奏多が慌てて引っ張り込むとデモニカーは急速にスピードを上げて、そのまま直線で道路を突っ切り群れの間をくぐり抜けて躍り込んだ。

 

 デモニカー自身の【押しつぶし】による体当たりで前方に出て来た天使を跳ね飛ばし、窓から体を出して放たれた華の【ファイアブレス】やカーマの【天扇弓】で近づいてくる天使の群れを排除しながら彼らは進んだ。

 

 見えてきたビルの正面入口には、多数の天使たちが群れて集まりその身をもって障害となろうとしているのが見えた。

 それを見た隆和はなのはに声を掛けた。

 

 

『我々のその身に変えてもあの方の降臨の邪魔はさせるな!

 おお、主よ! 御身、照覧あれ!』

 

「このままあそこに突っ込むぞ!

 なのは、もう一度頼む!」

 

「わかったの! 【コンセントレイト】、【メギドラ】!」

 

 

 再び、なのはの範囲万能魔法がビルの入口付近に炸裂し大爆発が起きた。

 そして、入り口ごと吹き飛びマグネタイトの霧に消えようとする天使の群れを突っ切って、デモニカーはそのスピードのままに彼らを乗せたまま入り口の中へと突入したのだった。




後書きと設定解説


家族が仕事先から持って来たコロナにかかって、自身も体調不良が続きゴタゴタしていたので遅くなりました。
また、そのコロナで高熱を出した家族が緊急搬送で入院し、続きは今より不定期になるかもしれません。


続きは暇を見て終わりまで書いていくつもりです。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第56話 大天使の誤算 

お待たせしました。
続きです。


 

 

 第56話 大天使の誤算 

 

 

「ハワード! ここを開けろ! 彼女は我々の至宝となる聖母なのだぞっ!」

 

「嫌だっ! もともと彼女は僕の伴侶にするべく創り出したんだ! 彼女は渡さないっ!」

 

「くそっ! 主の教えの素晴らしさも忘れた愚か者め!」

 

 

 アルゴンソフト大阪支社の地下にある元々は大型のサーバーが運び込まれるはずだった体育館並みの広さを持つ地下室の前にある分厚い金属製の扉の前で、この計画を押し進めていた賀来美知夫神父はマイクの横の机を叩き自らの誤算を怒っていた。

 そこへ、部下の信者たちが走り込んできた。

 

 

「神父様!」

 

「外の状況はどうだ!?」

 

「持ち込んだ御使い様方をお呼びする機械でとにかくたくさん呼ぶことで凌いでいますが、持ちこたえられそうにもありません!

 ビル街が異界となって、外からガイア連合の異能者たちが押し寄せています!」

 

「とにかくこの扉を開けて聖母様をお救いするまで妨害し続けろ!

 異教徒の日本人共は使い潰して構わん!」

 

「はっ、了解しました!」

 

 

 地上階の拠点では、のこのことここへ来た彼が資金源にしていた金上やこの地に入り込んだ者たちを材料に天使を呼び出しているのだが、マグネタイトが足りないためにアークエンジェル以上の上位の天使は呼べずにひたすらにエンジェルを呼び出す事で均衡を保っていた。

 

 指示を受けて外へと走り出した部下たちに舌打ちをしつつ、彼は背後を振り返った。

 そこには、銀行の金庫の扉によく似た扉をこじ開けようとしている彼に助力している【大天使ジェレミエル】の姿があった。力づくではどうにもならないと見るや、扉そのものに自らのスキルによる電撃や衝撃波をぶつけているが欧米で核シェルターにも使われているメーカーのそれは多少歪みこそしたがびくともしていなかった。

 

 

「おお、大天使よジェレミエルよ! 貴方のお力でも無理なのですか?」

 

「使徒賀来よ。案ずることはありません。

 主に教えに沿って正しきことを行なっている我々が負けるはずがありません。

 諦めてはなりません、試練に打ち勝つのです」

 

「貴方のお導きならばそうですね。解りました」

 

 

 天使の言葉に納得したのか、賀来神父は今度は扉を開くための端末のキーボードを叩き始めた。

 その様子を見てジェレミエルは土壇場におけるこの計画の誤算を思い、爪を噛みながら扉を睨みつけた。

 

 

 

 

 もともとこの計画は、メシア教過激派内の政治が大きく関与していた。

 

 過激派と言われてもガイア連合台頭初期の頃はまだ完全に一枚岩ではなく、その中は色々な司祭たちの派閥が混在していた。

 その派閥は主義主張の違いはあれど大きく分けて二つ、四大天使のミカエルとウリエル率いる天使たちに唯唯諾諾と従う派閥と面従腹背で利用するためだけに従うという派閥であった。

 後にクトゥルフが召喚される頃には、粛清や穏健派に合流するなどして後者の派閥は姿を消す事になるのだが。

 

 この計画を主導していたサチュリフ司教は後者の派閥に所属し、異教徒の利用はともかく同じ信徒の人間牧場を行なう天使たちに反感を持ち面従腹背を続けながら彼らに対抗できる存在を探し続けていた。そこへ、【デモノイド】と呼ばれる事になる人造悪魔の製造法を編み出した技術者である【ハワード・ヒューイック】を彼を守護していたジェレミエルが見出し、彼の愛弟子とも言うべき日本にいる賀来神父に彼を託す形で秘密裏に船に乗せて日本に逃した背景があった。

 

 賀来神父ことこの【賀来美知夫】も、とある沖縄諸島の離島でジェレミエルが見出しサチュリフが島から連れ出した孤児であった。

 彼がいた島には“MW”と呼ばれていた生物兵器の保管所が隠されており、それを島の住民で唯一探し出していたのが少年だった彼であった。

 優れた頭脳の高さと既に覚醒していた才能を彼は退屈極まりない島から脱出するための手段として、その生物兵器を探しに来たアメリカ軍の従軍司祭だったサチュリフに知らせたのが出会いの始まりだった。

 後に異教徒の居る海外の居住地で使用されることになる“MW”を発見し持ち帰ったことにより、サチュリフは司教位に出世する契機ともなった。

 

 また、上意下達の厳しい階級社会の天使の中も決して一枚岩ではない。

 そのやり方が不快なミカエルとウリエルを掣肘しえる存在を求めていたジェレミエルにとって、今では声も聞こえない主や救世主に召喚を拒否しているガブリエル、彼らに賛同するラファエルに行方の知れないメタトロンを除けば後は【女神マリア】の降臨を望むまで彼は追い詰められ、わざわざアメリカからハワードと共に日本に来てまで計画を進めていたのだ。

 

 ハワードが乗って来た船から秘密裏に機材を運び出し、ここでの協力者である金上の建設会社に大金を渡すことでこのビルの地下に研究施設を造らせた。賀来が見つけてきたとても霊的素質の高い肉体を持つ少年の広野勇気と、大天使の加護を引き受けうる素質を持つシスターのマーテル、“受肉したマリア”を作り出せる技術を持ったハワードが揃った。

 そして、天使へとその身を変えたマーテルと広野勇気を不安定な悪魔合体を成功させて天使人間とすることで『マリア』の肉体に最も相応しい状態にし、欧州にあった『マリアのイコン』や『マグダラのマリアの遺骸の一部』すらも手に入れて召喚術式に組み込んでその肉体に“マリア”は降臨し計画は成功しているはずなのだ。

 

 しかし、この土壇場になってジェレミエルからするとハワードが気でも狂ったかのような事を言い始めた。

 

『彼女は僕の伴侶にするんだ!

 初めて教会で彼女の絵を見た時から僕は彼女に恋をしていたんだ!

 そして、彼女はここにこうして来てくれたんだ!

 それを認めて僕との結婚式を挙げるまでは彼女は絶対に渡さない!』 

 

 マリアが眠る金属ポッドに抱きつき、そう叫びながら入り口の扉を閉めるあのボサボサ髪で痩せぎすのメガネを掛けた如何にもナードな容姿の白人男のハワードの顔を憎々しげに思い出しながらふと疑問に思った。

 

 そもそも全て秘密裏に上手く進んでいたのに何故、大っぴらに異界化などする事になって周囲にバレてしまったのか?

 そこまで考えた時、上階の方で大きな地響きがして建物全体が揺れる事となった。

 

 

 

 

 強化されていたらしいガラスの扉を突き破り横付けでデモニカーは停まった。隆和たちの周囲は、どうやらビルの1階にあるロビーのフロアのようだった。

 

 元は大きい会社のロビーだけあって2階まで吹き抜けの構造になっている広いもので、正面中央に受付になるらしい床に固定されたテーブル類があってそこにのめり込むようにしてデモニカーは停まっていた。正面入口から見て左右に上階へと続く階段と回廊があり、フロアの一番奥にはエレベーターと階段の前にバリケードで囲まれた場所があった。

 そこには外から持ち込んだらしい大型の装置とPCに、その周辺にはその装置と繋がったコードの先に電極の付いたヘッドギアを付けられた十数人の男達がソファやシュラフの上に白目をむいて寝転されている。近くには数人の白衣や神父服を着た男達が呆然とこちらを見ていた。

 お互いの視線が交差し、ハッと気がついたその場のリーダーらしい男が叫ぶ。

 

 

「侵入者だ! 御使さま達を早く呼べ!」

 

「…はっ、はい!」

 

 

 ブゥンと作動音がすると、倒れていた男達が痙攣を始め彼らの周囲に天使たちが現れた。

 それを見て車から巫女服霊装と刀を持ったトモエに自前の弓を持ったカーマと、いつもの作業着霊装で武装した隆和がなのはに声をかけて飛び出した。

 

 

「俺たちは奥に突入する! 外の天使が入ってこないように入り口の確保は任せた、なのは!」

 

「判ったの! デモニカーは動けないから、華ちゃんと奏多ちゃんは前衛をお願い!」

 

「はい!」

 

「うん、分かりました!」

 

 

 お互いに3人と3人に分かれ隆和たちはバリケードを組んだ奥の一団の方へと、なのはたちは吹き飛ばした入り口から入り込もうとする天使たちに目掛けて、悔しそうにエンジン音を鳴らすデモニカーからそれぞれ飛び出し駆け出した。

 

 

 

 

「『アヴェ・マリア』違う、『マルヤム』違う、『サルヴェ・レジーナ(元后あわれみの母)』これも違う。

 くそっ、パスワードは絶対に彼女関連なんだ。ハワードめ!」

 

「使徒賀来、暗号はまだ解けませんか? 1階の様子が不穏です。急ぎなさい」

 

「はい。『聖女マリア』『生神女マリヤ』、これも違うのか。

 そうだ、これなら『パナギア(至聖女)』! よし、これだ、……うおっ!」

 

 

 その頃、賀来神父はハワードが秘密裏に変更していた扉の端末の解錠パスワードを見つけるべくキーボードを叩き続けていた。

 

 普通、異界の内部ではPCや電子部品は動かないはずだが、アメリカのメシア教の内部に研究室を持っていた優秀な技術者だったハワードはそれを回避する手段を手に入れていた。それは、過激派内部でコンピュータ技術者としても頭角を現し始めていた【ナイ神父】から天使召喚のためのプログラム解析を依頼された際に、周囲には黙ってプログラムのコピーを自分のものにしていたのだ。

 そして、病的なまでにマリア信仰を捧げるハワードの内面を見抜く権能のある天使の告発により、ハワードはジェレミエル一派の手引きにより船に乗って日本にまで逃げ出すことになっていた。

 

 もっとも連れ出した際に彼の真意を見抜けずにこのような事態になってしまったのは、彼らの不幸でもあり落ち度でもあった。

 それは扉を開くパスコードを入力し開き始めたところに、地下の入口を固めていた部下や天使たちがトモエとカーマの範囲攻撃で薙ぎ払われ隆和たちが踏み込んで来るという状態になって彼らに襲いかかっていた。

 

 

「【疾風斬】! どきなさい、メシアン共!」

 

「【天扇弓】! 消えてくれるかしら、害鳥は」

 

「「があああっ!」」

 

「よう、久しぶりだな賀来神父。と、お仲間の上級天使さまもいるのか。

 さて、こんな場所で何をしているのか吐いてもらおうか」

 

 

 背後で大型金庫のように複雑なロック機構が解除しながら開く扉を背に、追い詰められていた賀来とジェレミエルは隆和たちと相対した。

 隆和たちに向かって賀来がジェレミエルに目配せして話しかけようとした所で、扉の横に備え付けてあったスピーカーから男の声が響き始めた。

 

 

『やあやあやあ、初めまして。ガイア連合の人たちかな?

 僕の名前はハワード・ヒューイック。

 メシア教のはびこるアメリカから逃げて来た技術者さ。

 頼みがあるんだが、僕の伴侶と一緒に亡命させてくれないか?』

 

「つまらない冗談は止めろ、ハワード!」

 

「何を言っているのです、ヒューイック!

 あなたの技術とその成果は我々に還元されるべきものでしょう!

 許される事ではありません!」

 

『ここまで連れてきてもらった上に、彼女をこの世に誕生させる準備をして頂いたことには感謝していますよ。

 でも大天使様、それは聞けませんよ。

 すみませんがガイア連合の方々、今回の件のデータは全て渡すので僕らを彼らから助けて貰えませんかね?』

 

 

 ハワードの言い出したことに叫び返すジェレミエルだが、彼はその意見は聞かずに隆和たちに話しかけている。

 それに対して、隆和はこう返した。

 

 

「つまり、今回のやらかしの原因のあのアプリやこの異界もお前の仕業だというのか?」

 

『もちろん。

 異界化するほどマグネタイトを集めたのも、君らに気づいてもらうためだからね。

 これで僕の優秀さは理解してもらえたかな?

 それに、あのアプリの仕組みもなかなかのものだろう?』

 

「それじゃ、意識不明で昏睡したままのあのアプリの被害者もその結果か?」

 

『? 何を怒っているんだい?

 彼女が降臨するための礎になれるんだよ。

 カラードで未覚醒の彼女らにはとても栄誉のある捧げ方じゃないか』

 

 

 純粋に訳が分からないと返すハワードの言葉に、舌打ちをして隆和は返す。

 

 

「ちっ。やっぱり、本場のメシアンに交渉なんて時間の無駄だった。

 お前ら全員叩きのめしてやる」

 

『何を怒っているんだい、君は!

 霊能組織ならこんな事は普通にするだろう!?』

 

「俺らをお前らと一緒にするんじゃねぇ!」

 

「使徒賀来!」

 

 

 隆和の言葉に反応して、ジェレミエルがいち早く叫んだ。

 

 

「中に入ってあの男を始末なさい!

 ここは私が引き受けます!」

 

「分かりました、ジェレミエル様! 神のご加護を!」

 

「待て!」

 

「さあ、日本人の異能者よ。

 ここを通りたければ主のご意思に従うのです! 【マハザンマ】!」

 

 

 一番扉に近い場所にいた賀来がその言葉で扉の中に走り込むと、ジェレミエルが翼を広げて立ち塞がると襲い掛かって来た。

 相手の放った範囲攻撃の衝撃波が隆和たちを襲って全員それなりの負傷を負うが、相手を自らのスキルでアナライズしながら叫ぶ隆和を先頭に駆け出した。

 

 

「レベル27、物理耐性、破魔無効、呪殺耐性だ。

 カーマは援護を、トモエはムラサマ起動!」

 

「一番手、行きます! ムラサマ起動、【黒点撃】!」

 

「ぐぬぅっ!」

 

「状態異常はどうかしら? 【魅了突き】!」

 

「ぐうっ、我が信仰は揺らがぬっ!」

 

 

 【攻撃の心得】【ミナゴロシの愉悦】【物理ハイブースタ】の乗ったトモエの【黒点撃】が、物理耐性を無効化する【準物理貫通】を付与された『名刀ムラサマ』の赤化した刃によってジェレミエルの急所に叩き込まれ大ダメージを与えた。そこへ追い打ちとばかりに、袈裟斬りに叩き込まれたその傷にカーマが【魅了突き】の矢を打ち込む。

 魅了は抵抗したようだが、かなりの深手を負ってしまい膝をついたジェレミエルは叫んだ。

 

 

「馬鹿な、馬鹿な。

 過去あれだけ異能者共を根絶やしにしたのに!

 何故、日本にこのような強い異能者が存在するのだっ!?」

 

「日本のことは知らないんだな。ガイア連合が例外というだけだよ。

 死ね、【地獄突き】!」

 

「がぼっ!」

 

 

 隆和の物理耐性を貫通する一撃の乗った拳がジェレミエルの顔面の人中に叩き込まれ、上の歯の部分を粉砕されながらジェレミエルは数メートル程吹き飛び重い金属製の扉に当たるとそのままズルズルと座り込んだ。

 とどめを刺すつもりで近づいて来る隆和たちを見ながら、ジェレミエルはぼんやりと考えていた。

 

 

(私は何か間違っていたのだろうか?

 ただ、あの二柱を掣肘出来る存在を求めただけだというのに。

 私の役目は『神の慈悲』。

 信徒たちに主の慈悲を与えるのが役目だったはず。

 それがこんな東洋の端で目論見の全てを失うことになるとは。

 ああ、主よ。使徒賀来よ。すみませ……)

 

 

 その彼の思考はとどめとばかりに刺し込まれたトモエの刃と隆和に顔面を蹴り潰される事で、最後まで考えることは出来ずにマグネタイトの霧となって消えていった。




後書きと設定解説


・敵対者

【大天使ジェレミエル】
レベル27 耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺耐性
スキル:ジオンガ(敵単体・中威力の電撃属性攻撃)
    マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
    マハザンマ(敵全体・中威力の衝撃属性攻撃)
    メパトラ(味方全体・状態異常回復)
詳細: 
 エノクの書における7大天使の一人で『神の慈悲』の名を持つ大天使 
 人生の節目に現れ道を示す赦しの天使とも言われている
 容姿は透き通るような空の青色の服を纏った紫色の髪をした細身の男性
 聖母降臨を目指すため賀来神父を導き助力している


彼らが使用している『天使召喚機』は、小型化も出来ていない最初期にナイ神父の手で試作されたいくつかをそのまま船に積んで持ち込んだものです。
契約や悪魔会話とかそういう部分は全部削ぎ落として、脳内麻薬を過剰分泌させてMAGを生成し天使を召喚するだけの機械です。
なお、アークエンジェル以上の天使を召喚する際は通常の倍以上のMAGが必要な欠陥がわざと仕込まれている代物です。


次回は早めに。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第57話 聖女マリア

続きです。


 

 

  第57話 聖女マリア

 

 

「【ラピッドニードル】!

 よう、こっちの状況はどうだ? 大佐二キ」

 

「ああ。見ての通り、多少は数が減ったが前に進めん。【マハラギ】!」

 

 

 隆和たちがビルの中に突入した頃、異界の入り口付近ではガイア連合の黒札たちがエンジェルのあまりの数の多さに強力な範囲魔法を持つメンバーがいる彼らでも攻めあぐねていた。

 

 彼らの前にいるのはアナライズするならば、レベル40【軍勢エンジェルの群れ】である。

 HPとMP以外の強さやスキルは個々のエンジェルとそう変わらないが、軍勢ゆえの行動回数の多さとタフさに加えて奥にあるアルゴンソフトビル付近から天使が湧き続けていてまったく数が減らない状態が続いている。

 彼らの目的がこちらの足止めであるならば、こちらの火力以上に数が減らないのだからこれ以上の適任はないだろう。

 軍勢ゆえの密集率により範囲攻撃や全体攻撃の方が減りは早いが、減らした分が向こう側からすぐに合流して来るのでデモニカーのような高速移動手段が無いとじりじりと進むより他になかった。

 

 現在、ガイア連合側の左右はそれぞれ他の地域から来てくれた応援のメンバーが攻めており、大佐二キを中心とした関西支部の面々は中央を受け持っていた。

 指揮をしながらも時折自分も火炎の範囲魔法を放つ大佐二キに、ここに参加していたくノ一姿のシキガミを連れたサラリマンニキが話しかけた。

 

 

「おう、サラリマンニキ。

 少し前に、アーッニキが魔王ネキと一緒に車で突っ込んで行ったぞ。

 こっちに来る数が若干減ったのは、彼らのおかげだな」

 

「これだけ大量に召喚しているんだ。

 さぞ大量のMAGの備蓄があるんだろうが、どれだけいるんだか」

 

「でも、召喚するのも種切れが近いようだぞ」

 

「どうして分かるんだ?」

 

 

 サラリマンニキがそう聞くと、チャクラドロップを噛み砕きつつ大佐二キは一番奥のビルを指差した。

 

 

「あれを見ろ。

 天使共、ビルの周りを囲うように飛び回りながら歌を歌っていたのがもういない。

 こっちに来て合流するか、ビルの入口に殺到しているかだ」

 

「そういえばこっちに攻撃している連中も、足止めを止めてこっちに攻撃しているな」

 

「中で何かあったんだろう。

 しばらくすれば、我々もあのビルの入口まで行けるだろう」

 

「心配だから早く向かいたいんだがな……」

 

 

 そこまで話した途端、大きな爆発音と小さな地揺れが発生した。

 二人が見ると、離れた場所にある最奥のビルの入口の外側で粉塵が舞っているの見えた。

 

 

「魔王ネキの【メギドラ】か。巻き込まれるのはゴメンだ」

 

「ああ。うかつに近づき過ぎると巻き込まれかねん。

 近くまで行ったら、声を掛けるなりしないといかんな」

 

「それじゃそのためにも」

 

「目の前の害鳥を駆除しないとな」

 

 

 そういうと彼らは、お互いにエンジェルの軍勢へと攻撃を再開した。

 

 

 

 

「【メギドラ】! 

 こっちは手が離せないから、そっちの人たちはお願いなの!」

 

「わかった!

 奏多、この機械の止め方って判る?」

 

「華ちゃん、僕にも解んないからとりあえず叩いてみたら?

 こっちは、この辺のテントとかの布を破って手足を縛ろうか?」

 

「縄とか無いしそれでいいんじゃないかな?

 この人達には丁寧にする必要もないし。

 こっちもやろうかな。……あ、力入れ過ぎた?」

 

 

 隆和たちが地下でジェレミエルと戦っている頃、入口付近ではなのはが例の白いドレスのような霊装を纏い仁王立ちして入り口から入り込もうとする天使たちを吹き飛ばしていた。

 また、隆和たちが突入した際に天使たちは倒して行ったが、その場にいたメシアン達は岸辺奏多と夜刀神華の二人の少女たちによって殴り倒されて拘束している途中だった。

 なお、天使を召喚していた機械類は気持ち悪く思っていた二人によって、止め方も解らないのでとりあえずにと華が雑に叩いた結果全部殴り壊されていた。

 倒れ伏しているMAGの材料にされていた男達は既に痙攣するのみだったので、二人に雑に飲料型の傷薬を全身に振りかけられて放置されている。

 

 

「あの人たち、大丈夫かな?」

 

「先生たちの事?

 それなら大丈夫だよ。だって、強いんだもの」

 

 

 一段落ついて、奏多がふと地下に続く階段の方を眺めているのに気付いた華が話し掛けた。

 

 

「うん。それは知っているよ。

 でも、単純な強さだけじゃ相性が悪いと勝てないって教えてくれたのは華だよ?」

 

「私の知っている事も先生やなのはさんたちから聞いた事だから、あまり偉そうに言えないけどさ。

 あの人を見てよ」

 

「なのはさん?」

 

 

 華は入り口付近で天使たちを粗方メギドラで吹き飛ばし、休憩がてら手を腰に当ててチャクラポットをラッパ飲みしているなのはを指差した。

 

 

「あれだけの威力の魔法を連発するなのはさんを奥さんにして、数日置きにベッドで愛でまくって子どもまで作ったのが先生なんだよ?」

 

「うん。そう言われると確かにすごい人だね。隆和さん」

 

「…? なに?」

 

 

 二人に見られている事に気付いたなのはが振り返って問いかけた。

 

 

「「何でも無いです」」

 

「そう? じゃあ、そっちが終わったらこっちの方も手伝って欲しいの」

 

「「は~い」」

 

 

 首を傾げて不思議そうにしているなのはにそう答えると、二人はなのはを手伝うべく歩いて行った。

 

 

 

 

 金庫のような扉を潜り緩やかに下る廊下を、隆和とトモエそれにカーマたちは奇襲を警戒しながらも足早に下りて行った。

 既に走り去った賀来の姿はなく、薄暗い廊下を弱い灯だけが照らしている。その廊下の先にまた金属製の扉があったがそれは開け放たれ、中からは二人の男の言い争う声がして何か機械が作動する音が聞こえてきていた。

 その音を聞きながら隆和たちがその部屋に入ると、そこには異様な光景が広がっていた。

 

 その部屋の広さは学校の体育館ほどの広さだろうか、入り口のある面を除き全ての壁一面には少なくとも百以上の金属製のバスケットボールが収められる位の大きさの円筒形の筒が埋め尽くしており、リノリウムの床の先の一番奥には人間一人が収められる金属製のポッドとそれに付随した機械類が置かれた部屋であった。

 彼らは知らない事だが、周囲の壁を覆い尽くしている金属の筒はマグバッテリー代わりのクローン培養された脳が収められているメシア教由来の悍ましい技術の産物である。

 

 

「おお! 聖母よ! 降臨されし救いの母よ!

 我らが前にまた救世主を遣わし給え! エイメン!!」

 

「違う! 彼女は僕のためにここに来てくれたんだ!

 お前らや天使どもの為じゃない!

 ああ、マリア! 僕の伴侶として生まれたマリア!

 僕の手を取って微笑みかけてくれ!」

 

『…………はあ』

 

 

 その部屋の一番奥には、機械の端末の横で“それ”を狂喜の笑みで見つめるハワードと思われる白人の男と“それ”を目の当たりにしてこちらも狂信の笑みで手を広げて喜ぶ賀来、そして蓋が開きそこから出て来たと思しき白い花嫁衣装を纏った人形のような白人の少女が立っていた。

 その隆和の目にはレベル??【デモノイド マリア】と映る少女の姿の悪魔は、人とかけ離れたその美貌で周囲を見渡して状況を大まかに把握すると大きくため息を付いた。

 その反応に疑問の顔の二人と自分に対して警戒している隆和たちを見ると、彼女は彼らに声を掛けた。

 

 

『貴方がたの要望を受け入れる事は出来ません。

 本来ならば、私は主の御元にて召喚されること無く見守るつもりでした。

 なれど、このような形でこの地へと呼び出されてしまいました。

 それは、この地に大いなる災いを招くのですよ?』

 

「な! 私は主の威光を新たに示すためにも貴女が必要なのだ!

 あの四大天使共を掣肘し従えられる救世主を再び!

 そうすれば災いなど抑えきれる!」

 

「だから、彼女は聖母自身でなく僕の技術で生まれたマリアだ!

 災いなんて知らない! 彼女は僕の花嫁とするんだ!」

 

 

 彼女が否定しても自分の考えのみをまだ叫ぶ彼らから、彼女は隆和たちの方に視線を向け話しかけてきた。

 

 

『貴方がたは少しお黙りなさい。

 ……ふう。

 それで、そちらの方々は私に何か要望でもあるのですか?』

 

「俺たちガイア連合にはあんたに求める事なんぞない。

 強いて言うなら、呼び出されるつもりがなかったのなら消えてくれ。

 この事態を引き起こした後始末してな」

 

『…なるほど。そうですか』

 

「……それだけか?

 この天使だらけの異界のボスだろう?

 『主の威光を~』とか言って襲ってこないのか?」

 

『? 何故、戦う必要が?』

 

「え? メシア教や大天使の関係者ならここは襲ってくる所だろう?」

 

『貴方がたは貴方がたで失礼ですね?

 過激派の天使たちと一緒にしないでください』

 

「主様、変です。メシア教の関係者なのにすごい理性的です。

 あと、違和感もすごいです!」

 

「私みたいに女神と地母神に近いようだから、理性的なんじゃないですか~。知りませんけど」

 

「基本的に敵対するかすり寄って来るかしか見た事がないから、俺も対処に困るな。

 ……さて、どうするかな?」

 

『本当に失礼ですね』

 

 

 戦力として警戒すべきマリアの方を見つつ相談を始めた隆和たちを見て、彼女は取るに足らないと賀来とハワードを視界の外に置いた。

 彼女の視線が外れ意識が彼らから他に向けられたと知った賀来とハワードは、この状況を己の有利なものとすべく行動に移った。ハワードは機械の端末に飛びつきプログラムを起動し、賀来は今まで多くの相手に通用した切り札を使い彼女に干渉を始めた。

 しかし、その行動は逆に彼ら二人に不利なものとなった。

 

 

『…………』

 

(何だ、おかしい? 

 彼女の肉体に仕込んでおいた制御コードが反応しない!? 何故?)

 

(私の【チャームアイ】が一切効かないだと!?

 あのジェレミエルでさえ、こちらの意見を飲ませる程度には効いたのに!)

 

『…愚か者』

 

「……は?」

 

 

 彼女にとって理解の出来ない事をしているハワードはともかく、自分を直接魅了して支配下に置こうとした賀来は許しがたいものだった。

 マリアは衝動的に左手に持ったままだった衣装のブーケをそのまま賀来に叩きつけた。覚醒しているとはいえレベルが2桁になったばかりの彼にそのレベル差かくる力の差に耐えられるわけもなく、彼に当たって散弾銃の弾丸のようにはじけた花束によって上半身をずたずたにされ賀来は呆気なく意識を失った。

 賀来を取り押さえようとしていたトモエと必死に端末を操作していたハワードを取り押さえて捕まえた隆和、倒れた賀来に傷薬を掛けて足で突ついているカーマ、最後に自分に対し愛情というより執着を見せていたハワードを冷たく見下ろすとマリアはさっさと終わらせる事にした。

 

 

『ガイア連合の方、それでは私はそろそろ戻る事と致します。

 この件で被害に合われた方については、この分霊の一命を持って救い上げる事と致します。

 ただ残念ながら、この体の元となった二人の蘇生は叶いませんのでその魂はこの地の黄泉神にお任せするように渡しておきます。

 では、後始末はお任せしますのでよしなに。【リカームドラ】!』

 

「いや、ちょっとま……」

 

 

 隆和が止める間もなくマリアは自己犠牲蘇生魔法のリカームドラを唱えてしまう。

 そして、一礼をするとマリアはそのまま赤いマグネタイトの粒子となって肉体諸共に消えてしまった。

 隆和たちにとっては何がなんだか判らない内に消えてしまった彼女だが、ハワードにとっては自らの恋人となるべき女性を永遠に失う事になったこの事態に彼は絶叫を始めた。

 

 

「ア、アア、アアアアアアアアアアーッ!!!」

 

「お、おい。静かにしろ!」

 

 

 火事場の馬鹿力か突然の絶叫に隆和が驚いた結果か、右腕を自由に出来たハワードは端末のキーボードに素早くある語句を打ち込んだ。

 

『Love is as strong as death,My feelings for only you are as unchanging as the grave.

 (愛は死のように強く、あなただけを思う気持ちは墓と同じように変わることはない)』

 

 隆和が慌てて取り押さえたが、語句を打ち終えたハワードは笑い出した。

 

 

「ハハハハハッ!

 彼女は失われた! もう二度と戻らない!

 それならば、いっそ全てを灰にしてやる!!」

 

「何をしたっ!?」

 

「貴様らには何もくれてやらない! 天使たちにもだ!!

 “我が魂は聖母のもとに!”」

 

 

 隆和が襟首を掴み怒鳴りつけるがそれを無視し、ハワードは叫び終えると全身が炎に包まれた。

 それは元々は作り出した人造悪魔を処分するのに体内に埋め込む為の発火装置であったが、基本的に周囲を信頼しなくなった彼が万が一のために自分の体内にもそれを埋め込んでいた物である。この世で唯一信頼していたマリアに拒絶された彼に躊躇する必要は無くなった結果、彼はこの装置を作動した。

 

 

「ハハハハハッ!」

 

「くそっ!」

 

「主様! 周囲の様子が変です!」

 

「ここ、崩れるんじゃないですかっ!?」

 

「ちっ、脱出するぞ! そこの神父は担いでいく!」

 

 

 隆和が笑いながら炎の中に消えていくハワードを見ていると、周囲が揺れ始め壁から崩れ始めた。

 そして倒れていた賀来を掴み上げると隆和たちは、脱出するために入り口から走り出して行くのだった。




後書きと設定解説


・敵対者

【軍勢エンジェルの群れ】
レベル40 耐性:火炎耐性・電撃耐性・衝撃耐性・破魔無効
スキル:マハジオ(敵全体・小威力の電撃属性攻撃)
    マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
    メディラマ(味方全体・HP大回復)
    2回行動
詳細:
 ここの異界で召喚された「天使エンジェル」のみで構成された軍勢
 軍勢のために行動回数が増え、通常攻撃も3~4回となる
 また、最奥のボスを倒さない限り召喚が続きHPが自動回復する
 ただし構成の都合上、HPとMP以外の強さはレベル10エンジェルと同じ 

名前:賀来美知夫(がらいみちお)
性別:男性
識別:異能者・32歳
職業:メシア教穏健派司祭
ステータス:レベル12・マジック型
耐性:破魔無効
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
    マハンマ(敵全体・低確率で即死付与)
    リカーム(味方単体・戦闘不能をHP半減で回復)
    チャームアイ(敵単体・高確率で魅了付与)
    説得・引き止め
詳細:
 穏健派に所属する司祭である美形の日本人の神父
 マーテルの養父であり、広野勇気の身元責任者もしている
 主のご意思のもとに全てを利用すべきと考える狂信者
 彼の思う「主の意思」とはジェレミエルの教育(洗脳)によるもの

名前:ハワード・ヒューイック
性別:男性
識別:異能者・38歳
職業:メシア教所属技術者
ステータス:レベル10
耐性:破魔無効
スキル:銃撃(敵単体・小威力の銃属性攻撃)
    アイテム作成(専門の霊装アイテムの作成技術)
    コンピューター操作(プログラム作成含む技術)
    心霊手術(霊的な要素も含む外科的処置が可能な技術)
    適切な処置(戦闘時以外で味方一人の状態異常を医療処置で回復)
装備:呪殺や状態異常を無効化するアイテム類
   自裁用の体内埋め込み式発火装置
詳細:
 メシア教過激派に協力していたが発明品を守るため逃げ出した技術者
 ボサボサ髪で痩せぎすのメガネを掛けた如何にもナードな白人男性
 聖母マリアを至高の女性として創り出して恋人にする理想を持つ夢想家
 デモノイドの開発者で、「マリア」の依代に相応しい至高の肉体を探している
 賀来神父と大天使ジェレミエルの導きで脱出した

【デモノイド・マリア】(ボス)
レベル?? 耐性:電撃無効・衝撃弱点・破魔無効・呪殺無効
スキル:マハンマオン(敵全体・中確率で即死付与)
    無原罪の祈り(敵味方全体・全ての補助効果を打ち消す。
           自身のHP小回復)
    子守唄(敵全体・中確率で睡眠付与)
    リカームドラ(味方全体・HPを完全に回復した状態で蘇生する。
           使用後、術者は死亡する)   
詳細:
 未熟な諸々の技術で受肉降臨した劣化している一神教の聖母
 ハワードが求めてやまない至高の恋人の化身となるはずだった
 様々な手に入ったマリアに関する物全てが材料として使われている
 天使と化したマーテルと広野勇気の素質ある身体が肉体の素材
 ※ボス補正によりHPとMPは増大し、破魔・呪殺は無効化、状態異常も耐性がある


次回、最終回。
読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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第58話 これにて閉幕

最終回です。


 

 

  第58話 これにて閉幕

 

 

 それでは、ガイア連合の記録に“聖母降臨事件”と記される事になる今回の事件のその後を語るとしよう。

 

 崩れ始めた地下から地上に脱出した隆和たちが見たのは、後続にいたガイア連合のメンバーと合流しているなのはたちと突入前には天使召喚機により倒れ伏していた男達がふらつきながらも自分で歩いて回収されている様子であった。

 合流とお互いの無事を喜ぶのも束の間、建物全体が揺れ始めデモニカーに救助者を乗せれるだけ乗せると全員が駆け足で異界を脱出するために異界の出口へと走り出し、背後に30階建てのビルが崩れ落ちる様を光景にほぼ全ての人員が出る事が出来たのだった。

 

 その後の調査では大まかな詳細が判明した。

 

 まず異界消滅後のその地は、ビルの瓦礫の地下に埋もれた諸々は掘り出す事はせずにそのままになる事が決定され、公的機関が廃墟のビル街の取り壊し費用が捻出できないという事情もあり結局、終末が訪れるまでそのままであったという。

 

 捕らえられた賀来神父とその部下から聴取により事件のあらましが判明し、聴取後に日本メシア教に後始末を任せる形で引き渡された彼らはその後、存在しなかったかのように姿を消し教会の人員リストからも抹消された。

 ただ、被害者とされたシスターマーテルに関しては関西方面の人員の葬儀を執り行う「墓標教会」の慰霊碑に名を刻まれて死後を弔うという形になったという事だ。

 また、沈んだ貨物船に関する事は事故として処理され、メシア教系列の貨物船会社が港湾の修繕費用を払う形で決着した。

 

 ゲームをクリアする事で巻き込まれて意識不明になっていた少女たちであるが、彼女らは一人も欠ける事もなく全員が意識を取り戻しリハビリは必要ながらも日常に帰って行く事となる。

 これは隆和の提出した報告書にも記載されたあの時、降臨した【女神マリア】の【リカームドラ】による作用だと判明した。

 

 なおこれに関する調査は、『あのメシア教の関係者がそんな殊勝なことをする筈がない』と考えた霊視二キやアンチメシアの黒札たちに加え、ショタオジも駆り出され徹底した執拗な調査の末に間違いがないと判断され混乱したり懐疑的にまだ疑う者もいる中で、

 

『地母神に近い彼女が召喚されたからだということにしよう。

 メシアンの事を深く考えると疲れるだけだから、これは例外だったとして終わったと考えよう』

 

 と、疲れたように言う霊視二キの発言もあって皆も自分の生活へと帰っていった。

 こうして、独り善がりのメシアンと大天使の起こした事件は終わった。

 

 そして、今回の事件の後、華門神社に帰還した隆和たちと言えば…。

 

 

 

 

 帰った日のその数日後、異界内の屋敷にて関係者一同が集まりこの後に定例となる会議が行なわれていた。

 いつもの面々を含めた華門神社の人たちと今は外部にいる人たちがここに参加しており、司会進行の千早の宣言で会議は始まった。 

 

 

「皆んな揃ったようやし、始めよか。まずは、蔵六はんからや」

 

「神社の社務所や派出所の事務は滞り無く順調で問題は起きとらん。

 わしからは以上だな」

 

 樫原蔵六(かしはらぞうろく)

 古くからこの神社の面々の面倒を見ながら、家伝の美容法を伝えていた薬草師。

 自分の技術を弟子達に伝え終わると、孫のような子どもたちの世話をして過ごす。

 終末後の混乱時に運び込まれる人員の治療に当たり、その最中に息を引き取った。

 

 

「薬草やヤドリギの成育も順調ですので、近いうちにガイア連合のものには及びませんが各種治療薬の補充と貯蔵は可能になります。

 これらの成長には、オシラサマにも助けて頂いていますので」

 

「(⌒^⌒)b」

 

 ヨハン・ファレンガー

 欧州から逃げて来てスカウトされここに参加したドルイドの薬師。

 神社の人員の姉妹の二人の攻勢に陥落し、姉妹を共に娶る羽目になった。

 樫原翁がいなくなった後、ここの治療師として終末後も過ごすことになる。

 

 神樹オシラサマ

 隆和が恐山支部からスカウトして契約した農業担当の神様。

 異界内の作物をずっと守護し続ける事となる。

 栽培する大根の種類をどんどん増やすのだけは皆も困ったという。

 

 

「異界内の湧き水の水質は問題ありません。

 それと、“豊穣”の方も順調に増えているみたいです」

 

「畑の方も問題はないわよ。

 ただ今後を考えると、作業員をもう少し増やして欲しいのよね」

 

 天女アナーヒター

 隆和によって救い出され契約した元アプサラスの水の女神。

 異界内の水源の管理を一手に引き受け、豊穣の女神として安産にも寄与して過ごす。

 後に水源の管理だけでなく、子供たちの養母役としても駆け回る羽目になる。

 

 妖精ルサールカ

 隆和がある異界のボス戦時にスカウトして契約した水妖。

 こちらではスダマやコダマを手下にして、畑の管理を一手に引き受ける事になった。

 半終末時、収穫祭を行なった夜に隆和と関係を持ち妻の一人に加わる事になる。

 

 

「海の中も問題ないです。

 魚や海中の中の生物もどんどん増えていますよ」

 

「今のところ、悪魔になるようなものもいないね」

 

「ちゃんと私たちが監視しているしね」

 

「マカラだっているものね」

 

 人魚マーメイド

 名前がエイプリルの個体をリーダーにベルタ・クリス・ドーラの4体がいる人魚たち。

 異界の海の管理を任され、4体姦しく過ごしていく事となった。

 隆和に救い出された出自のエイプリルは、後年想いを打ち明けて隆和と結ばれる。

 

 龍神マカラ

 とある異界から苦労の末に隆和がスカウトして契約した龍神。

 人魚たちと共に異界内の海の安全を守る事となった。

 カーマや子供たちの大勢を背に乗せて海上を泳ぐのが密かな楽しみとなる。

 

 

「あのう、妊娠していました。

 本当なら警備担当なのに産休に入ってしまってすみません」

 

 モリソバこと、田中菲都(たなかふぇいと)

 なのはの親友で紆余曲折の末にここの警備担当として雇われた異能者。

 一目惚れしたここの男性人員と交際の後に正式に結婚した。

 その後、3人の子どもを設け警備から保育担当に配置換えする事になる。

 

 

「なんでここにオレが参加しているんです?

 重要な用があるからって、彼女に連れて来られたんですが??」

 

「それは皆んなにも正式に紹介しないと、ね?」

 

「旦那様。諦めが肝心ですよ」

 

 ナイスボートニキ(伊東誠)

 ガイア連合の黒札で、サーバーの管理などのPCの扱いに長けている転生者。

 これから数年後に彼女の妊娠が発覚し、半終末の忙しい中正式に結婚した。

 2人目の女性型シキガミを始めとして、その後も何度か修羅場に突入する事になる。

 

 百々地希留耶(ももちきるや)

 とある事件で助け出され、隆和に養子として引き取られた悪魔変身能力者。

 なのはを始めとした女性陣の薫陶を受けて立派な肉食系に進化し、彼を捕まえた。

 彼とは2人の子どもを設けて自分の新しい家族を手に入れる事になる。

 

 コズワース

 ナイスボートニキが最初に購入したロボット型のシキガミ。

 戦闘力よりも彼のサポートに徹し、彼を時々諌めながら過ごしていく。

 二人の子どもの面倒も見ながら、彼なりに幸せに過ごしていく事となる。

 

 

「えっと、僕は岸辺奏多って言います。

 友達だった子も今は目が覚めて元気になりました。

 ここでお世話になりますので、改めてよろしくお願いします!」

 

「大丈夫だよ、奏多。

 私だって受け入れて貰えたんだし、一緒に頑張ろう!」

 

 岸辺奏多(きしべかなた)

 とある事件で覚醒時に性転換し隆和たちに救い出された悪魔変身者。

 親友となった夜刀神華と共にここで暮らして行くことになる。

 後に葛藤しながらも心も女性化し、隆和の妻の一人に加わる事になる。

 

 夜刀神華(やとがみはな)

 とある事件で悲惨な境遇から隆和に救い出された悪魔変身能力者。

 龍の血を引くからか、正式に隆和の妻になってからは夜の行為に積極的だった。

 ある時、煮え切らない態度の奏多を引き摺って隆和の寝室に突入する事になる。

 

 

「子どもたちもすくすくと育っているので、後で顔を見せてあげて下さいね。

 武術のインストラクターのお仕事は、さっぱりになりましたけど」

 

「お母さんも年齢を気にしないで、もっとガッツリ行っていいと思うっす。

 学校の方も問題はないっすよ、隆和お義父さん」

 

 吉澤加奈(よしざわかな)

 とある事件で隆和に救い出され、その後口説かれるままに妻になったくノ一異能者。

 最年長にも関わらず、女性陣で二番目に多く子宝に恵まれる事になる。

 後に、成人した長男の悟の父親譲りの女性関係で頭が痛くなる事になる。

 

 吉沢桃子(よしざわももこ)

 吉沢加奈の前夫の娘で、卓越した潜伏のスキルの素質がある少女。

 子供たちの良きお姉さん役となり子供たちの面倒もよく見ていた。

 後に、ここに出入りするナイスボート二キに懸想し修羅場になる。

 

 

「隆和さま。あの、恥ずかしながらまた授かりました。

 三ヶ月になるそうです」

 

「まあ、お嬢様も積極的になっていたしアレだけヤればねぇ?」

 

「寝室の後始末とか掃除とか、私らの担当ですしねぇ」

 

「そうですよ。私らは決まった相手もまだいないのに」

 

「「「そうそう」」」

 

 華門和(はなかどのどか)

 華門神社の巫女代表にしてアメノウズメの転生者。

 自らの魅了の術は封じ、隆和の妻でいる事のみを望んで過ごす。

 隆和の妻の中では最も多く子宝に恵まれる事になる。

 

 珠島あさぎ・まゆら・じゅり(たましま)

 華門神社の巫女であり、華門和のお付きをしている少女たち。

 隆和の妻たちの世話を主に担当して家事をして過ごしていた。

 後に和の勧めもあり3人共、隆和と子を成す事になる。

 

 

「隆和はんたちも無事にまた戻って来てくれたけど、ここの備えはまだまだや。

 まだまだ何やけど、……うちも出来てしまったみたいなんや。

 そんで、暫くの間はなのははんに諸々頼む事になるんや。

 あんじょう頼むんで、堪忍やで?」

 

「そういう訳で、千早が落ち着くまでわたしが全体の指揮をするの。

 だからトモエにも助けて貰うけど、遊び呆けていないで少しはカーマも手伝うの!」

 

 

 天ヶ崎千早(あまがさきちはや)

 ガイア連合の黒札で、卓越した事務関係のスキルを持つ転生者。

 この神社の立役者であり、裏方として隆和の内助の功を担って過ごす。

 なのはとは終生、友人でありライバルでもある関係であったという。

 

 魔王ネキ(高橋なのは)

 ガイア連合の黒札で、比類なき威力の万能魔法で悪魔を薙ぎ払う転生者。

 子どもを身籠っていない時は、彼の横で悪魔を薙ぎ払い続けて過ごした。

 平時の家庭での様子に、他の黒札は目を疑う事が多くあったという。

 

 

「それはまあ、可愛い可愛い主様の子供たちの為でもあるから手伝います。

 でも、主様が外に赴く時は離れませんので」

 

「え~、働かなきゃ駄目ですか~?

 マスターの横で弓を引く仕事だけでも良いんですけど~。

 それはそうと、肝心の彼はどこにいるんです?」

 

 トモエ

 隆和が最初に手に入れたシキガミにして、最初の相棒が宿っているパートナー。

 その彼女の意識が薄くなりつつも、彼の忠実なシキガミとして過ごしている。

 終末後に産むことになった娘には『コレット』と名付ける事になる。

 

 カーマ

 コレットの代わりにマーラ様によって派遣されて来て契約した相棒(居候)。

 愛欲の神として隆和の濡れ場で発生するMAGを得て気楽に過ごしている。

 なんだかんだと言いつつ、隆和が亡くなるその時まで側で助け続けたという。

 

 

 

 

 異界内の畑で彼は、何かから逃避するように黙々と雑草を抜く作業に没頭していた。

 側には、色々な農作業具を積んだ黒い車であるデモニカーが停まっている。

 そして、何かを問うようにエンジン音が鳴った。

 

 

「会議に参加しなくてもいいのか聞きたいのか?

 まあ、ああいう細かい決め事は彼女たちがまとめた方が上手くいくからな。

 『男は女の尻に敷かれるくらいが丁度いい』って知り合いからも聞いたしな」

 

 

 更に鳴るエンジン音。

 

 

「何? 誰が言ったのかだって?

 千早の父親の佐川のおやっさんに、世話になっている一条さんや藤野さんが口を揃えて同じような忠告をくれたよ。

 俺はこうして現場で体を動かす方が性が向いているからな。

 遠くまで来たが、【彼女らの旦那】もやり甲斐のある就職先だと思っているよ」

 

「隆和くん!

 会議も終わったから、そろそろお昼ご飯の時間だし戻って来て欲しいの!」

 

 

 遠くからなのはの呼びかける声がして、隆和は作業を止めて立ち上がった。

 そして、デモニカーの車体を軽く叩くと歩き出した。

 

 

「ほら、行くぞデモニカー。飯の時間だ。

 これからもよろしくな」

 

 デモニカー

 シキガミ制御機能を搭載した山梨支部で試作された電気自動車型シキガミ。

 彼で得られたデータは『多脚戦車』や技術部車両班で活用されたらしい。

 終末後もここの人たちの足として長年使われる事になる。

 

 安倍隆和(あべたかかず)

 マーラ様の転生体を師匠に持ちカーマに加護を授けられた転生者。

 陰陽術師の術とマーラ様直伝の技を混ぜた変なスキルで色々な悪魔を倒して来た。

 この後も色々な事件に遭遇して切り抜け、妻と認知した子が増える事になる。

 なお、最終的に妻の数は10人を越して、子供の数は20人を超える数になる。

 

 

 

 

 隆和たちを写していた画面から場面は離れ、それを見ていた緑色の雄々しくそそり勃つ卑猥な形をした顔がヌウっとこちらを向いて話しかけて来る。

 

 

「これにてあやつの物語は一旦、閉幕ぢゃ。

 この後も、半終末で日本神がICBM目当てに居なくなった隙に暴れた茨木童子を【理解させ】たり、終末時に某混沌のせいで京都で怨霊として復活した葛の葉狐と殺り合ったりといろいろとあったがそれは別のお話ぢゃ。

 あやつの波乱万丈な人生は続いていくが、家族と力を合わせて乗り越えて行ったようぢゃ。

 今はあやつが手に入れた大事なものに祝福をぢゃ。

 あやつが求めた欲望の物語は幕を引こうかの。

 それでは皆の衆、またいつかどこかでの!」

 

 

 【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 ~完~




後書きと設定解説


リアルの都合もありエターより良いと思い、駆け足気味ですがこれにてこの物語は閉幕となります。
最後まで読んでくださった方がいるのならば、本当にありがとうございました。

それでは。  塵塚怪翁


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外伝
閑話・終末後の後日談


他の方の作品を読んでいるうちに終末後の彼らの様子が浮かんで書き上げました。
このお話の時間軸は、自衛隊と協力を始める少し前の本編終了後からさらに時間が飛んで終末直後になった頃のお話になります。



 

「うちはこの通りやから、通信ならともかく外に出て行っての交渉は無理やさかい。

 これからは婿殿に一任するで」

 

「誠さんもお父さんなんですから、子どもたちにも良い所を見せてあげて」

 

「誠さんにはうちに代々伝わる気配の隠し方を伝授したので大丈夫っす。

 それに、長野のKSJさん?が開発した歩法も身に着けてより見つかり難くなっているっす」

 

「すまないな、ナイスボートニキ。

 俺はこの通りここの防衛と、イバラギや信太狐を宥めないといけないから離れられないんだよ。

 よろしく頼む」

 

 

 義母に当たる安倍千早に大きなお腹で一任され、妻の伊東希留耶には娘や息子と共にそう発破をかけられ、押し切られて一緒になった2人目の妻の伊東桃子には身の隠し方を伝授され、義父になる恩人のアーッニキにそう頼まれて断ることも出来そうもなかった。

 

 華門神社から霊道になった淀川を下って関西支部へ進む船の上で、真新しい霊装のスーツ一式を着込んだ【ナイスボートニキ】こと『伊東誠』はため息を付きポケットからタバコとライターを取り出した所で、隣りに座っていた警護役に新たに育てていた専用シキガミのモミジに注意された。

 

 

「ご主人さま、船内は禁煙です。

 あと、先輩のコズワースさんからも言われていますけど、健康のためにもタバコも出来れば止めて下さいね」

 

「ああ、うん。分かったよ。

 それにしても、どうしてこうなったんだろうなぁ」

 

 

 タバコとライターをしまい込んだどんよりした顔のナイスボートニキは、時間を潰すべく自分用のスマホ型のCOMPを取り出し掲示板を見始めた。

 

 

 

 

 前々から言われていた通りに帝都で大結界が崩壊し、日本にも完全な終末が訪れた。

 

 半終末の頃のナイスボートニキは、アーッニキの義理の娘の希留耶の旦那になるからと身内扱いされていたので華門神社の異界シェルターでスロ-ライフを送る気満々であった。

 何しろ自分は前世からシステムエンジニアの端くれに過ぎず、スキルも自分が逃げる方向に特化しているためにここの畑の農作業員でもしてぬくぬくと暮らすつもりであった。

 

 しかし、そうは問屋が卸してはくれなかった。

 

 もともと京都市近辺にはそれぞれの宗教施設と関係した個人的なシェルターを除くと、大きな派出所レベルのシェルターは、伏見稲荷を中心とした富豪俺たちの一人だった『藤野槇雄』の伏見派出所と石清水八幡宮近くの華門神社くらいしか存在していなかった。

 

 そこへ、半終末が訪れた際にどこぞの混沌の仕業で狂強化され暴れた茨木童子をアーッニキが【調伏】した際に、京都に本拠がある神仏達はこのままだとかなりヤバいんじゃね?と改めて考えた。

 

 神仏達は伏見と異界の羅生門を中心に、平安京大極殿跡から時計回りに岩屋神社、平等院鳳凰堂、石清水八幡宮、大原野神社の5点を結ぶ新しい五芒星の結界を築いてその中心部にある伏見派出所と周辺市街を強化・増設して終末時に避難しようという【裏京都計画】を立ち上げた。

 

 彼らからの義理と柵からも断りきれなかったウカノミタマもしぶしぶ賛成し、氏子の黒札の藤野槇雄を通してガイア連合にも協力を申し入れて、アーッニキたちも含めた京都市近辺の黒札達それぞれもそれに参加する事となった。

 

 参加を拒否した一部の黒札達の退去があったが、半終末が来た事により神仏が顕現し易くなった環境も幸いした為、付近のシェルターの無い神仏達の本尊や信徒の引っ越しと覚醒者優先の住民の入れ替え、肝心の五芒結界の敷設や派出所内の地下の整備増設に周辺の個人シェルターとの連携手段の確立なども終了し終末を待つばかりとなった。

 

 そして、終末来訪時。

 

 またもどこぞの混沌が、晴明神社で眠っていた信太の森の葛の葉狐を狂強化して暴れさせるイベントを開催した。

 

 ショタオジ不在の状況の中、アーッニキと魔王ネキを中心とした戦力が周辺の黒札や関西支部の応援の助けを得てこれを撃破し切り抜ける事に成功し、藤野槇雄を頭にし実働をアーッニキたちが担う【京都シェルター】を管轄する『京都支部』がこうしてなし崩しに成立してしまったのだった。

 

 ナイスボートニキもこの一連の流れの中で、PCやCOMPの調整要員になっておまけに事務担当幹部になったり、あちこちとの折衝で駆け回って今の外との直接の交渉担当の基礎を学んだり、子どもが産まれたり桃子に押し切られて関係を持ったりと色々な事があって今に至っている。

 

 

 

 

 さて、ナイスボートニキが終末が来てしばらく経った今の時期に出掛けたのは取引の交渉のためである。

 

 転移装置で関西支部から山梨支部を経由して彼が向かったのは、新潟方面の中心である魚沼支部であった。

 

 面会予約も取っておいたために案内役の現地の女性幹部らしい人に案内されて、シキガミのモミジを連れたナイスボートニキはここの代表である黒札の若い男性に面会する事ができた。

 応接室で待っていたのは、ここの実質的代表のレベル80を越える強さを持つ【田舎ニキ】であった。

 

 

「本日は面会に応じて下さりありがとうございます。

 京都から参りました伊東と申します。ナイスボートニキでも結構です。

 着席してもよろしいですか?」

 

「…ああ。どうぞ」

 

「失礼します」

 

 

 今だにこういう格式張った話し合いには慣れずにどこかぎこちない田舎ニキに一礼をすると、ナイスボートニキは対面のソファに座った。

 クーラーボックスを持ったシキガミのモミジは彼の後ろに立ったままだ。

 さっき案内してきた女性が、お茶を置いて田舎ニキの隣に座るとナイスボートニキに話しかけてきた。

 

 

「初めまして、ここの事務を担当している『九重静』と申します。

 聞いたお話では商談という事なので同席をさせていただいています。

 本日の御用は何でしょうか?」

 

「まず、こちらの京都の状況はご存知でしょうか?」

 

「えーと、掲示板で出ていた情報なら一通り知っているよ。

 あとは、何でも京都の市街地に千人近い人数が暮らしているってのは知ってる」

 

「ええ、まあ。

 京都の性質を考慮して、わりと強引に覚醒者を優先して住民は選別したそうですけど。

 周辺の神社仏閣の信徒が多いので、何とか統制は取れてはいます」

 

 

 そこまで話して、少し考え込んだ九重静はこう切り出した。

 

 

「もしかして、お目当てはうちのお米ですか?」

 

「はい、そうです。

 ヒノエ島の方からも買い入れはしているんですが、人気で供給に不安があるんです。

 代わりに、こちらではマッカや異界物質で支払いを考えています。

 あとは、確保している京都の職人の方々の製品をお譲り出来ますね。

 それと、もう一つ」

 

「もう一つ?」

 

「こちらでは米以外に何か栽培していますか?」

 

 

 ナイスボートニキの問いに対面の二人は考え込んだ。

 

 

「何があったっけ?」

 

「えーと、やわ肌葱にいちごの越後姫。

 それに、大豆に蕎麦に麦に、……あとは枝豆に里芋。

 他のブランドの果物は残っていましたっけ?」

 

「まず、米の確保に集中してそこまでは見ていなかったなぁ。

 市長さんたちなら知っているかな?」

 

「聞いてみないと、判りませんね。

 あの、それでそれが何でしょうか?」

 

 

 九重静にそう問われたナイスボートニキは、内心安堵して笑い答えた。

 

 

「こちらでも大根の栽培はあまりされていないみたいですね。

 北海道や青森が日本でも有数の産地でしたから、栽培されているかと思ったんですが。

 実はオレの本元の所属は、京都支部じゃなく華門神社なんです。

 そこでは青森から来た神樹オシラサマって大根の神様がいて、敷地内の畑のほとんどが大根なんですよ」

 

「もしかして大根を譲るというんですか?」

 

「そうです」

 

 

 ナイスボートニキがそう答えると、二人は困惑してしまった。

 

 普通の日本人的に栽培する食べ物の優先順位は、まずは米、次に醤油や味噌に使う大豆、麺類に使う小麦や蕎麦、次に芋類が来て、比較的栽培しやすい野菜になるのではないだろうか?

 優先順位の低い作物は、もともとその地域の特産品でも無い限りは今の現状では栽培している農家はほぼいないだろう。

 

 確かに大根は嫌いではないが、米や大豆に麦と比べるとそこまで必要かと言われればそうではない。

 それがどうして取引の重要な鍵になるのか、二人には解らなかった。

 

 

「もちろん、普通の大根も一定量でしたらお譲り出来ます。

 実際、【神戸空港なみ】まで大きくなった華門神社の異界も、その殆どが大根畑になりましたし。

 京大根も栽培していて、わりと好評なんですよ。

 こちらとしては、“普通じゃない大根”の方が重要なんですが」

 

「「“普通じゃない大根”?」」

 

「田舎ニキさん、ゲームのペルソナはご存知ですか?」

 

「大まかな事はある程度、……あっ、もしかして!」

 

「ええ、あのゲーム家庭菜園でとんでもない効果の野菜が取れましたよね?」

 

「取れたけど、けどどうやって?」

 

 

 ナイスボートニキはカバンから書類を取り出して見せた。

 そこには、山梨支部であのとんでもない効果の野菜が発見された経緯が記されていた。

 

 

「ゲーム内ですと、あれって苗を主婦のおばちゃんから買いますよね?

 そして、P4のラスボスはイザナミの孫なんですよね。

 で、只者じゃないその主婦は日本の農耕神の誰かで支援していたんじゃないかと予想を付けていたらしいです」

 

「あの、この資料によるとP4案件が実際に起こっていたと書いてあるんだが?」

 

「はい。

 事態の詳細は判りませんが、ショタおじとやる夫さんが出張ってラスボスとイザナミを抑えたとか。

 それから日本神との事後交渉の際に、ラスボスの母親のカヤノヒメを始めとした日本の農耕神の方々に【協力】を願ったそうで。

 その【協力】のお陰で、苗の栽培に目処がついたようなんです」

 

「それで、そのうちの大根の栽培をそちらで引き受けた、と?」

 

「もともとうちの異界は、電脳異界の作成のテストベッドでしたから。

 ショタおじ自身の手はもう離れていますけど、うちで栽培するのもちょうど良かったのかもしれません。

 それをうちのオシラサマが苗の栽培に成功させたんです。

 その特殊な野菜、【カエレルダイコン】を」

 

 

 ゲーム「ペルソナ4」から登場した要素である家庭菜園で採れる特殊な野菜。

 その中には、即死を肩代わりしたり物反鏡や魔反鏡と同じ効果を持つものまであった。

 そのうちの一つ、【カエレルダイコン】。

 ダンジョン内でそれを使用すれば、【トラエスト】と同じダンジョンから脱出できる効果を持つ野菜である。

 それを神様の助力ありきとは言え、栽培に成功させたとナイスボートニキは語る。

 

 

「もともと転移系は需要が多い割に、ストーンもあまり手に入りません。

 能力者だって、希少なためにあちこちで引っ張りだこです。

 そこで、これです。

 使用前なら常温で10日持ちますし、冷蔵しておくなら2週間は持ちます。

 使用法は、ダンジョン内で2つに折れば効果が発動します。

 折った後は、長持ちしないのでもし食べるならお早めに」

 

「……食べれるのですか、これ?」

 

「はい。使用後はただの大根ですから。

 効果の程と試食は調査済みで、山梨支部の技術者の方も確認しています。

 試されますか?」

 

 

 そう言うと後ろにいたモミジが、クーラーボックスを置き蓋を開けた。

 その中には、彼の言う大根が3本入っていた。

 中を見る二人に、彼は話を続ける。

 

 

「これから言うもう一つの案件にご協力頂けるなら、これを差し上げますし一定数栽培できたものをそちらに優先して差し上げます」

 

「……案件ですか?」

 

 

 何を言われるのだろうと九重静が緊張していると、やや深刻な面持ちの顔で彼は続けた。

 

 

「そちらの隣の支部、佐渡ヶ島で『市民様』の最終処分のモデルケースをしていますよね?

 それと似たような事例を、出雲大社のある出雲支部と呉支部が合同で中国地方の『石見銀山』でしていたんです。

 うちの京都支部もそちらに出荷する予定だったんですが、人数超過で断られまして」

 

「「ああ、それは気の毒に」」

 

 

 先日の佐渡ヶ島に送った一行の事を思い出して、二人は気の毒そうにうんざりとした顔になった。

 

 俗に言う、“マーベルヒトモドキ”。

 要は、他人を大勢扇動して飯を食う『プロ市民』とその取り巻きの事である。

 そして、稼ぎの良い国会議員になれるようなプロ市民は、得てして左向きの思想の人が多い。

 

 さらに言えば、京都府の政治はもともと左の人が強い。

 知事は革新系の人が20年以上続いていたし、京都大学の歴史を少し調べたら続々出てくるし、有名なウト◯地区のように大陸の在日外国人も多く関わって勢力を築いているしと、詳しくは書かないがとにかくそちら方面の人が多い。

 

 もう少し言えば、そういう左の人たちの指導層はもともとは地元の人間でなく他の地方から流れてくる者である。

 そしてこちらの世界ではメシア教が存在しているので、それらに混じってメシア教徒が流入して来るのがさらに問題をややこしくする。

 

 京都支部設立の際でも、こうした連中を排除するためにも敢えて覚醒者を優先して掬い上げたが完全に排除できるものでもなかった。

 シェルターの運営上、まともな居住者の感情を配慮すればこういう連中でも堂々と排除するのは拙い。

 静かに居なくなってもらうのは相手のほとんどが未覚醒であるので容易ではあるが、出荷先が無い。

 

 それなので、ナイスボートニキはテーブルに両手をつくと深々と頭を下げた。

 

 

「どうか、うちの『市民様』も佐渡ヶ島で引き取って貰う事は出来ませんか?

 お願いします」

 

「頭を上げて下さい、ナイスボートニキ」

 

 

 田舎ニキがそれに声を掛けて頭を上げるように促した。

 

 

「受け入れられるかどうかは、佐渡ヶ島支部のパピヨンニキに聞かないと判らないので確約は出来ませんがいいですか?」

 

「構いません。よろしくお願いします」

 

「それではキクリ米の取引の件も含めての是非を、数日以内にお知らせしますがよろしいですか?」

 

「そちらもそれでお願いします。今日はありがとうございました」

 

 

 そう言って頭を下げるとナイスボートニキは、九重静に案内されてクーラーボックスを置き退出して行った。

 それを見送ると、お茶を飲み干した田舎ニキも立ち上がった。

 

 

「あっちもあっちで運営は大変だなぁ。

 よし、パピヨンニキに連絡して次の仕事に向かうか」

 

 

 そう言うと、田舎ニキもまた次から次へと来る仕事を片付けるために部屋を出て行った。

 

 

 

 

 交渉を終えたナイスボートニキが京都支部に着くと、ちょうど周辺の悪魔の掃討のために出掛けていた『魔王ネキ』こと白い独特な霊装服を着た安倍なのはが空から降りてくるところだった。

 

 レベルが60を超え、飛行能力のある特製霊装と火力を増強する特製スタッフに浮遊する防御霊装、消費MPが半減する【魔術の素養】スキルとメギドラから進化した【メギドラオン】を手に入れた事でますます原作そっくりな『人間飛行砲台』と化している彼女であった。

 そのうえ、これで2児の母親である。

 

 

「あ、おかえりなさい誠くん。お仕事はどうだった?」

 

「こっちは上手く行きそうです。

 いつも思うんですけど、一人で危なくないですか?」

 

「気をつけているから、大丈夫なの。

 京都盆地から先には行かないし、ちゃんと遠方からアナライズして相手を確認してから吹き飛ばしているの。

 地上はデモニカを着た一般の警備員の彼らに任せないといけないし」

 

「あの隆和さんは?」

 

「彼なら『市民様』のデモの鎮圧に行っているはずだよ。

 のどかちゃんと一緒なら、一番早く連中を無力化出来るしね」

 

 

 【アーッニキ】こと『安倍隆和』。

 彼も終末に入った際にはレベルも70を越え、女性相手の初見殺しだった【黄金の指】スキルもより凶悪な【煩悩掌】というスキルに変化していた。アナライズ曰く、『触れた女性を対象に相性耐性を貫通して高確率で魅了と至福の状態異常にする』スキルだという。

 ナイスボートニキや支部の関係者達は、密かに彼の仲魔のカーマに擬えて『マーラ神拳』と呼んでいた。

 

 それともう一人、隆和の妻の【華門和】。

 彼女はアメノウズメの転生体で、レベルも20を越えた今、天然の魅了体質も磨きがかかっていた。

 彼女の持つスキルは【極上の肉体】【セクシーアイ】【キャンディボイス】【ファイナルヌード】となり、天宇受売神の加護によりそれら彼女の肉体依存の魅了の状態異常スキルが全て男性対象で自動効果になるというものだった。

 ちなみに、彼女は今6人目を懐妊中である。

 

 この二人が出向くと、ものの10分も掛からずにデモ隊も無力化出来る。

 しかし、ここで一番の実力者と妊婦をそうそうこの連中のために出向かせる訳にもいかない。

 

 ナイスボートニキはなのはに礼を言うと、今回の交渉の結果を彼に知らせるべくモミジと共にシェルターの中へと走っていった。




後書きと設定解説


・主人公(閑話)

名前:ナイスボートニキ(伊東誠)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・31歳
職業:ガイア連合華門神社渉外担当
ステータス:レベル30・ラッキー型
耐性:物理耐性(装備)・破魔無効・呪殺無効(装備)
スキル:ディア(味方単体・HP小回復)
    パララディ(味方単体・麻痺を回復)
    イルク(味方全体・自身を含めた数人を透明化)
    トラフーリ(一部の戦闘を除いて確実に戦闘から逃走する)
    黒子の歩法(敵から狙われにくくなる)   
    応急処置(戦闘時以外で味方単体・HPと一部の状態異常回復)
    コンピューター操作(プログラム作成含む技術)
    交渉術(実地で身につけた我流の交渉術)
装備:物理耐性のペンダント
   呪殺無効の指輪
   男性用スーツ一式(霊装防具)
   ケブラーベスト(霊装防具)
   ドルフィンヘルム(霊装防具・精神無効)
   ニューナンブM60(破魔弾と呪殺弾)
   COMP(アナライズ、百太郎、エネミーソナー)
詳細:
 某ゲームの主人公に容姿や家庭環境がそっくりに生まれた転生者
 前世はブラックな現場専門のSEだったのでPCは得意
 関東の高校で女性トラブルから逃げ出して山梨支部へ逃げこんだ
 現在は華門神社の婿のような立場に納まり渉外担当をしている
 嫁✕2と嫁式神の3人と子どものために日夜働くお父さん

・仲魔

名前:モミジ
性別:女性
識別:シキガミ
職業:ナイスボートニキのシキガミ
ステータス:レベル27
耐性:物理耐性・破魔耐性・呪殺無効 
スキル(戦):霞駆け(敵複数・2~4回の中威力の物理攻撃。
           低確率で幻惑付与)
       物理ブースタ(物理攻撃のダメージが上昇する)
       迅速の寄せ(戦闘での先制率が上昇する)
       エストマ(敵との遭遇率を低下する)
       飛行(背中の羽で飛行できる。一人まで運搬可能)
       かばう(主人がダメージを受ける時、その攻撃をかばう)
       シキガミ契約のため主人以外からの精神状態異常無効
スキル(汎):会話、食事、サバイバル、剣術、性交
詳細:
 ナイスボートニキこと伊東誠が護衛用にした2体目の式神
 主に出先での護衛と戦闘からの離脱と逃走の補佐が目的の仕様
 東方の犬走椛にそっくりな容姿の少女の嫁シキガミ
 容姿の指定は最初の嫁の影響で獣耳娘の良さに覚醒したため

・関係者

名前:田舎ニキ(碧神凍矢)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)
詳細:
 現地で新潟県の魚沼支部長になって仕事に追われている転生者
 名無しのレイ著『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』の主人公

名前:九重静
性別:女性
識別:異能者
詳細:
 新潟県の魚沼支部で事務を担当している現地の霊能者
 名無しのレイ著『【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち』の主人公の恋人?

名前:パピヨンニキ(蝶野光爵)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)
詳細:
 佐渡ヶ島支部長になって佐渡島シェルターの運営をしている転生者
 頓西南北著『ファッション無惨様のごちゃサマライフ』の登場人物

名前:KSJ研究所
詳細:
 天使憎しで活動する3人の黒札が中心になっている研究所
 メシア教潰しの研究と活動をしている手段を選ばない傾向のグループ
 場所は長野のとある場所にあるらしい
 「【R-18】アビャゲイルの投下所」スレ様より出典

黒子の歩法:こちらではKSJ研究所が発見した新スキルという認識
P4案件:『カオス転生外伝 ざこそな! 第10話』より

名無しのレイ様、頓西南北様、アビャゲイル様、ネタとキャラをお借りしました。
この場を借りてお礼申し上げます。 

読んでくださった方がいるならありがとうございます。


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閑話・終末後の後日談「関西支部」

他の方の作品を読んでいるうちに終末後の彼らの様子が浮かんで書き上げました。
このお話の時間軸は、自衛隊と協力を始める少し前の本編終了後からさらに時間が飛んで終末後になった頃のお話になります。


 

☆【筋肉が】関西ローカル雑談スレ part.134【輝く!】

 

1:名無しのシェルター民

このスレは関西支部に関する雑談スレです。

黒札、金札、一般民、関係なく気軽に話しましょう。

関西支部に関係のないものは専用スレでどうぞ。

前スレはここ ・ttps:/×××.DDS.net

 

な阪関!

 

2:名無しのシェルター民

な阪関!

 

3:名無しのシェルター民

な阪関!

 

4:名無しのシェルター民

それは334だろ?

 

5:名無しのシェルター民

せやかて工藤

 

6:名無しのシェルター民

誰だよ、工藤

 

7:名無しのシェルター民

ここまでテンプレ

 

8:名無しのシェルター民

いつもの流れだな

それにしても、再びタイ◯ースの日本一を見る事なく世界が終わったな

 

9:名無しのシェルター民

ああ、残念だな。本当に残念だ

 

10:名無しのシェルター民

あの、な反関って何ですか?

 

11:名無しのシェルター民

若い子か他の地方から来たのかな?

 

12:名無しのシェルター民

>>10

タイ◯ースに関する惨劇とだけ言おう

あまり思い出したくないんや

 

13:名無しのシェルター民

そうそう、あれは悪夢だったからな

 

14:名無しのシェルター民

知らない事が幸せな事も世の中あるんだぞ

 

15:>>10

……はあ、分かりました。

もう聞きません。

 

16:名無しのシェルター民

もう、あの勇姿と道頓堀ダイブは見られないんだな

そういえば、カー◯ルサン◯ースの像はどうなったんだ?

  

 

 

 

 

 

(しばらく野球と阪◯タイ◯ースの思い出話が続く)

 

 

 

 

 

42:名無しのシェルター民

しっかし、言い出したのは誰だよ

終末に入って、うちに最初に襲撃してきた悪魔が悪魔化したカー◯ル像と食い◯れ人形に、巨大化したカニの動く看板だぞw

 

43:名無しのシェルター民

いや、前から動く動くと噂されていたじゃん

 

44:名無しのシェルター民

だからって、本当に出て来る事はないだろう?

襲撃警報が出て、慌ててデモニカを着て行ったらあれだぞ?

気が抜けそうになったわw

 

45:名無しのシェルター民

警備部隊の人か?

仮面ライダーのデモニカを着た部隊だよな

いつもご苦労さん。で、実際に見てどうだった?

 

46:名無しのシェルター民

ああ、それは聞きたいな

 

47:名無しのシェルター民

ぜひ教えてくれ

 

48:>>42

まかせとけ。まず最初に、どれもむちゃくちゃ強かった!

カー◯ル像はやたらとすばしっこくて銃が当たらないし、

食い◯れ人形は金縛りにしたり混乱させたりして来てやたらうるさいし、

巨大カニは単純にでかい、硬い、頑丈だった

 

49:名無しのシェルター民

カーネ◯像が素早いとは??

 

50:名無しのシェルター民

そもそも何で連れ立って来るんだよ

他の場所に行けよ

 

51:名無しのシェルター民

カー◯ルは揚げたチキンを投げてくるのか?w

 

52:>>42

>>49

文字通り、すげー素早いんだよ

持ってる杖が仕込み刀でなぁ、持ってた合金製の盾を居合で斬りやがるんだ

ああ、あとフライドチキンを投げつけてきたぞ

盾で受けたら、凹んだぐらい固いけどw

 

53:名無しのシェルター民

うわぁ、食えねえじゃんw

 

54:名無しのシェルター民

歯が欠けるなんてもんじゃねえなw

 

55:名無しのシェルター民

鶏肉なのか、それw

 

56:名無しのシェルター民

カー◯ルが仕込み杖で居合斬りてw

 

57:>>42

まあ、そんなカー◯ルも食い◯れ人形も幹部のザ◯ギエフ氏に殺られたけどな

ほんとに回転しながら宙を舞うのを見たのはすごかったw

リアルスクリューだったよw

カー◯ルなんか、空中で捕まって回転しながら叩きつけられたんだぞw

地面がひび割れて跡がすげぇのw

 

58:名無しのシェルター民

いや、ここで興行しているからさ

クルクル回りながら宙を飛ぶのは知っているけどさ

防衛のときも回るのかよw

 

59:名無しのシェルター民

俺も動画配信や中継で見たことあるけど、あれ本当なんだw

演出かと思っていたぞw

 

60:名無しのシェルター民

おれもおれもw

 

61:名無しのシェルター民

俺なんかガチャの景品だった観戦チケットで直接見たけどさぁw

両腕伸ばしてグルグル回るのもそのまんまだったw

 

62:名無しのシェルター民

それに当たったやつが回転しながら宙に飛ばされたのを、

捕まえてパワーボムで叩きつけるのも様式美w

 

63:名無しのシェルター民

動画そのままなんだ、あの人w

 

64:>>42

昔はさ、違ったみたいなんだって

古株のレスラー仲間の人に聞いたら、強くなる修行中にああなったらしいぞ

何でも物理ダメージが回転すると万能属性?ダメージになるんだと

どうして?って聞いたら、本人や上の人も理由が解らないんだとw

本人は「筋肉のおかげだな」つって考えるのを止めたみたいだけどw

 

65:名無しのシェルター民

理由が分からないとかw

 

66:名無しのシェルター民

ショタオジでも無理だったのは草w

 

67:名無しのシェルター民

すげえ、分からないけどそうなるからとりあえず投げているは草しか生えないんだけどw

 

68:名無しのシェルター民

ショタおじ?

 

69:名無しのシェルター民

>>68

黒札がガイア連合の一番上の人を呼ぶ時の符号だよ

だから、>>66は黒札じゃないかな?

 

70:名無しのシェルター民

ああ、なるほど

 

71:名無しのシェルター民

ここは黒札とか関係なくだから詮索はなしだぞ

 

72:名無しのシェルター民

しないしない

シェルターを追い出されたくないしな

 

73:名無しのシェルター民

それで、カニの方はどうなんたんだよ?

 

74:名無しのシェルター民

何度聞いてもあの脚長のカニの看板が動くのを想像すると笑えるんだがw

 

75:>>42

笑い事じゃないんだぞ

5mはある高さから足を振り下ろしてくるんだ

まともに食らったら潰されるよ

実際、片足持っていかれた奴がいたし

1ヶ月立ったら戻ったみたいだけど

 

76:名無しのシェルター民

うへぇ

 

77:名無しのシェルター民

よくそんなの倒せたなぁ

 

78:名無しのシェルター民

蟹の甲羅だから固いんだろうな

 

79:名無しのシェルター民

まあ、倒せたら蟹肉が食えるんじゃないか

 

80:>>42

残念、『魔獣』とかじゃなくて『怪異』とかで中まで機械だったよ

結局、俺らデモニカ隊が射撃で足止めしている間に、幹部のサラリーマン忍者と嫁のスケベ衣装くノ一がとどめを刺して終わったぞ

いつの間にか、甲羅の上に飛び乗ってグサっとね

 

81:名無しのシェルター民

ああ、あの人!

普段は営業職みたいにあちこち飛び回っているのに、背広着た忍者みたいな格好で戦うんだよな

「イヤーッ!」とか掛け声で叫んでいたけどなぁ

 

82:名無しのシェルター民

嫁さんらしいスケベ衣装のくノ一さんもすげぇんだよな

胸とか尻とかブルンブルンさせてんの

黒札ってあんなスケベ美少女、嫁さんに出来るんだな

うらやましいわぁ

 

83:名無しのシェルター民

でもあの嫁さん、人じゃないっぽいって聞いたな

旦那の忍者サラリーマンもそうだけど、この間、路上で権利がどうとかって騒ぐじいさんをあっという間に気絶させて連れて行ってたぞ

気がついたらじいさんの後ろに立っているんだもの、一緒に見てた店員さんがビックリしてたわw

 

84:>>42

あの人もザンギ◯フ氏とは別方向で変に強い人だしな

たまに作業着を着た美人を引き連れた若い男が会いに来るけど、その人も黒札なのかね?

幹部の人は皆んな、デモニカのアナライズだと計測不能で分かんねぇんだわ

付近の基地からこっちに来た自衛隊の人達も不思議がっていたな

 

85:名無しのシェルター民

Dレベで100超えは余裕でしたって事か

他の地方の幹部も皆んなそうなんだろうな

じゃなきゃ、こんなご時世で悪魔をバリバリ倒せたりしないよなw

 

86:名無しのシェルター民

そうそう

昔は信じなかったけど覚醒?させるために外に連れ出されていたら信じるわ

世紀末な廃墟のビル街に化け物がウヨウヨしているんだからな

覚醒したら女にもモテて世界が変わるらしいぞ

 

87:名無しのシェルター民

レスラーの人の初心者特訓でも受けるかなぁ

筋トレで覚醒できるとか言うし

そしたら俺も童貞から脱出を・・・

 

88:名無しのシェルター民

覚醒する前に、その小さいウインナーをしまえよ

どうせ、覚醒しても小さいままだぞww

 

89:名無しのシェルター民

うるせー、お前だってそうだろうが!

ハイクでも読んでろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

252:名無しのシェルター民

そういや、あれ見たか?

動画配信の特別有料コンテンツのやつ

 

253:名無しのシェルター民

どれのことだよ?

ガイアニの会員プランしか知らねえぞ

 

254:名無しのシェルター民

>>253

ヒノエ島支部幹部のリアルまどか・ほむらの写真は俺の宝だぞw

うらやましいか?ww

あと、おれは関西ガイアプロレスのPPVくらいだが何かあったか?

 

255:名無しのシェルター民

東京の女神アイドル対決のやつなら面白かったが他にあったか?

それとも、呉の支部長の昔のコンサート記録動画のことか?

どっちも性癖が壊された奴が知り合いにいるんだがw

 

256:名無しのシェルター民

>>254

 そう関係ないね

>殺してでも奪い取る

 ゆずってくれ 頼む!!

 

もしかして、リアル仮面ライダーの異種格闘技戦の奴?

 

257:名無しのシェルター民

そう、それ。

まんまプロレスっぽくライダーが戦っているやつの3部作

 

258:名無しのシェルター民

>>256な なにをする きさまらー!

 

そっちか

リアル陰陽師が踊っている妙に記憶に残るヤツかと思ったわ

何であれ、黒札出演枠のスペシャルPPVの所にあるんだろうな?

 

259:名無しのシェルター民

あれって、地方の支部長やってる黒札同士の戦闘らしいな

あんなに氷を撒き散らしたり、馬になったり出来るなんて黒札ってすごいな

 

260:名無しのシェルター民

最近、関西ガイプロも王座の変移とか色々やっているみたいだなぁ

その黒札同士の異種格闘技戦に触発されたみたいでさぁ

覚醒訓練も込みで新人も募集していたぞ

 

261:名無しのシェルター民

プロレスだけじゃなくて格闘技全般が入っているからな

リングもプロレスの四角いのと八角形の金網のニ種類あるし

 

262:名無しのシェルター民

>>258

あのPV撮ったプロデューサー、山梨支部の動画スタジオで見たぞ

ほら、歌謡曲チャンネルの「ヒッツ!ステーション」の司会で

 

263:名無しのシェルター民

じゃあさ、あの動画で戦っていた3人、うちのガイプロに呼べないのかな?

ほら、年2回でやってるイベントPVでさ

今はチャンピオンはザン◯エフの人だし、それに王座に挑戦とかでさ

 

264:名無しのシェルター民

ああ、それは見てみたいな

でも、その人達、地方の支部長だろ?無理じゃね?

 

265:名無しのシェルター民

確か、S県と長野県と新潟県で一番大きな支部の代表だぞ

シェルターの守りとかあるから無理だろ

うちからレスラー連中が他所に行くみたいなもんだぞ

 

266:名無しのシェルター民

関西ガイアプロレスの方ではご意見とご要望は受け付けているって事だし、

言うだけ言ってみればいいじゃね?

 

267:名無しのシェルター民

要望だけはあげてみようか

面白い試合は見てみたいしな

 

268:名無しのシェルター民

あと、もうひとつ要望したい事があるんだが

 

269:名無しのシェルター民

何だ? 言うだけ言ってみれば?

 

270:名無しのシェルター民

マッチョばっかりだし、女子プロも欲しくね?

一人もいないし

 

271:名無しのシェルター民

ああ

 

272:名無しのシェルター民

それは残当

 

273:名無しのシェルター民

禿同

 

274:名無しのシェルター民

それはまあなぁ

欲しいか欲しくないかで言えば見たい

 

275:名無しのシェルター民

要望しよう

 

276:名無しのシェルター民

そうしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

「却下だ」

 

「でも、レスラーニキさん達もかなり前向きでしたが?」

 

 

 関西支部の支部長代行を務めるウシジマニキは、掲示板から上がってきたその要望を一言で切り捨てた。

 ニコニコと呑気そうに、今だにそんな意見を言う事務方の女性黒札をギロリと睨みつけた。

 

 

「そもそも、うちがそんな事をやる余裕があると思っているのか?」

 

「……いえ、すみませんでした。自分が浅はかでした」

 

「もういい、仕事に戻れ。柄崎や高田に何をしたらいいか聞いてこい」

 

 

 ウシジマニキの視線に頭が冷えたのか、その女性はそそくさと執務室を出て行った。

 

 彼女が出て行った後、半終末直前に病気で亡くなった彼が闇金をしていた頃から世話になっていた『佐川司』の事を思い出しため息をついた。

 

 半終末に入った際に、レスラーニキが支部長を辞退した。 

 理由は、支部の戦力の代表となるべき自分があまりにも弱いからだと言う事だった。

 

 前支部長であったレスラーニキとチームのレスラー達が強くなる事を望んだのは、戦力の要として期待していた人物たちが京都に行ってしまったからだ。

 淀川の霊道の結界を作る際に解体したいくつかの役目を終えた黎明期の派出所からサラリマンニキを始めとした黒札達が加わったが、終末後を考えれば戦力的に不安が残るという意見が大半を占めていたからだった。

 

 後に、終末に入る際に周辺の説得できた自衛隊の部隊を迎える事は出来て、レスラーニキ達が山梨支部の大異界での特訓の末に終末前に戻れた事で今は安定しているが油断は出来ない。

 

 そして、その次の支部長に選ばれたのはウシジマニキだった。

 

 本人としては、一介の金貸しに過ぎない自分より親分筋の娘である天ヶ崎千早に任せるべきだと思っていたが、その彼女は関西支部で有数の実力者だった友人でもある男性や幾人かの黒札を連れて京都へと行ってしまっていた。

 他に引き受けるのを申し出るような黒札もおらず、結局彼がそれを引き受けて今に至っている。

 

 

「そもそも、野放図に手を広げすぎたのが原因だ。

 俺では維持するだけで手一杯だ。

 やっぱり情勢が落ち着いたら、お嬢か山梨の誰かに来て貰って整理しないと」

 

 

 現在の関西支部が抱える業務は大きい。

 

 シェルターに抱えた数百人の生活の維持と防衛に人材の育成、京都支部とここを結ぶ『淀川霊道』の維持と巡回、完成した大型ターミナルとそれに伴う流通の維持、ここと瀬戸内ヒノエ島支部と大赦支部を繋ぐ定期船の稼働、“異界鉱山”と化した梅田地下街の探索と採掘、そしてレスラーニキの団体興行とそれに伴う動画作成や医療体制の維持と主要なものを上げるだけでもこれだけある。

 

 それに、西の神戸にあるメシア教穏健派の大型シェルターや全国規模で展開していた反社の本家の方々が用意していたシェルター、ジュネス屋上に結界の鎮護を頼むために迎えた住吉大社の祭神、大阪城と豊国神社を要とする『大阪城領域』との折衝や取引なんかもあった。

 

 支部長の権限が大きかった故に、前の支部長だったレスラーニキがホイホイと許可した事も大きい。

 某ロボアニメのやたらゴツい三男のように、前線指揮官としては優秀な彼には司令官は向いていなかったようだ。

 

 どちらにしろ『パンとサーカス』の喩えもあるように否定はしたが、この案はただ捨てるのは惜しい気もする。

 レスラーニキ達のプロレス興行中継は、関西支部の収入の柱の一つでもあるからだ。

 

 

「向こうに引き受けて貰えるかも判らんし、報酬や場所の設定もある。

 何より関西と中部、山梨を飛び越えて向こうとの距離が離れすぎている。

 これは保留だな。…………こっちの要望はまあ、アリか?」

 

 

 その要望書類を留保の所に入れたウシジマニキは、もう一枚の『女子プロ起ち上げ』の要望書類の方をそっと処理済みの方に入れると昼食を取るために部屋を後にした。




後書きと設定解説


・主人公

名前:ウシジマニキ(丑嶋肇)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・40代
職業:ガイア連合関西支部支部長代行
ステータス:レベル26
耐性:破魔無効・呪殺無効(装備)・精神無効(装備)
スキル:弱者必滅拳(敵単体・小威力の物理攻撃。
          状態異常の敵には大ダメージを与える)
    マカジャマ(敵単体・中確率で魔封付与)
    パララアイ(敵単体・中確率で麻痺付与)
    ペトラアイ(敵単体・中確率で石化付与)
    潜伏(自身・敵から狙われにくくなる)
    交渉術・執り成し・根回し
詳細:
 元々は、霊能組織相手の闇金系派遣仲介業(人身売買含む)業者
 元は、ガイアグループ所属の金融業「ウシジマファイナンス」社長
 現在は大阪市梅田にあるジュネスの関西支部の取りまとめをしている幹部
 支部全体の調整その他の取り纏めを他に出来る人も居ないためにしている
 常々「俺は頭を張る質じゃない」と言って『支部長代行』を名乗っている
 シキガミは、動物型の兎「うーたん」で回復やトラフーリなどのスキル持ち

・関係者

名前:レスラーニキ(関本順一郎)
性別:男性
識別:超人・48歳
職業:ガイア連合関西支部デビルバスター
ステータス:レベル58・フィジカル型
耐性:物理耐性・破魔無効・呪殺無効(装備) 
スキル:マッスルパンチ(敵単体・中~大威力の物理攻撃。
            自身の残りHPが多いほど威力が上昇)
    スクリューダイナマイト(真空投げ)
          (敵単体・力依存の中威力の万能属性攻撃。
           中確率で転倒状態にする)
    スクリューラリアット(暴れまくり)
          (敵複数・2~4回の小威力の物理攻撃)
    気合い(使用後の次の物理攻撃の威力が一度だけ2倍になる)
    地獄のマスク(状態異常になる、及び即死する確率を減少)
    五分の活泉(HPの最大値を50%上昇させる)
    物理ハイブースタ(物理攻撃の威力が大きく上昇する)
    不屈の闘志(HPが0になった時、1度だけHP全快で復活できる)
装備:プロレスマスク『ザ・ギエフ』(呪殺無効付与)
   リングコスチューム(防具霊装)
   チャンピオンベルト(スキル『闘気の装束』を付与した霊装)
   (闘気の装束:敵からの攻撃の一定値以下のHPダメージを無効化)
詳細:
 元は『関西日本プロレス』のベテラン選手で引退後にガイア連合に合流した転生者
 所属中に覚醒し、覚醒者の身体能力を考え「怪我をした」として引退
 面倒見の良さを買われ支部長になるが、現在は支部長は辞めて現場専門幹部
 こよなくプロレスを愛する豪快で大雑把で仲間内への世話好きな性格
 体格は2メートルを越える和風ザンギエフのような風貌で筋トレが趣味 
 自分専用のシキガミ嫁「アナスタシア(FGO)」が大好きな愛妻家

【関西ガイアプロレスリング(WGPW)】
レスラーニキが関西支部で主催するDDS動画配信を行なうプロレス団体
関西支部の防衛部隊も兼ねるマッチョな黒札たちが十数人程、選手でいる
元は「シックスバックレディース」という廉価な女性用霊装を使うチームだった
初心者を訓練する目的で作られ本気で武装する際は安い女性用装備を使っていた
レスリングコスチュームの防具霊装が完成後、チーム名を変更した
プロレス好きの地元民や海外民も参加しているため団体全体だと30名ほど
関西支部黎明期からの黒札参加者も多く、主力は30レベル超えが数人いる
編集や脚本制作者に保護された本職がいるので視聴率はなかなか好調

名前:サラリマンニキ(服部正成)
性別:男性
識別:転生者(ガイア連合)・40代
職業:ガイア連合関西支部幹部
ステータス:レベル47・スピード型
耐性:物理耐性(装備)・破魔無効・呪殺無効(装備) 
スキル:絶命剣(敵単体・中威力の物理攻撃。クリティカル率高)
    暗夜剣(敵単体・2回中威力の物理攻撃。低確率で封技を付与)
    ラピッドニードル(敵全体・小威力の銃属性攻撃)
    チャージ(自身・使用後の次の物理攻撃の威力が一度だけ2倍になる)
    ステルス(物理回避率20%増加。さらに、【食いしばり】の効果)
    迅速の寄せ(バトルでの動きが早まり、先に行動しやすくなる)
    コロシの愉悦(クリティカル率を上昇させる)   
    奈落のマスク(状態異常になる、及び即死する確率を大幅に減少)
装備:ネクタイ・ブレード(普段はネクタイになるガイア連合製霊装武器)
   名刺スリケン(MPを込めれば投擲武器になる名刺型霊装武器)
   カチグミ・サラリマンスーツ(物理耐性が付与されたグレーの背広)
   ニンジャ・マフラー(呪殺無効が付与された口元と首を隠す赤いマフラー)
詳細: 
 元ガイア連合の派出所の所長で現在は関西支部の事務方の幹部
 いつも眼鏡を掛けた七三分けの髪型でスーツを着込む平凡なサラリーマン姿
 シェルター内の治安維持も担当しており物陰から奇襲が得意なサラリマン忍者
 戦う時は眼鏡を外しマフラーを巻きネクタイを刀形態にして戦う
 知り合いから勧められた忍殺にハマり、嫁シキガミは「ドラゴン・ユカノ」の容姿

カーネル・サン◯ースの像:
 1985年の阪神優勝の際に道頓堀に投げ入れられた彼は、2009年に引き上げられて修復後、大阪のあるオフィスにて「幸福の象徴」として非公開ながら保存されています。
 こちらの世界では同様に引き上げられた後に、終末に突入して悪魔化したものとしています。

リアル仮面ライダーの異種格闘技戦:
 ボンコッツさん著「改造人間短編集」の 『開催!ガイアプロレスIN新潟!(上)、(下)』より出典
 れべっかさん著「【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話」の『余話13 第二回ガイアプロレスin新潟』より出典
 名無しのレイさん著「【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち」の『第三次ガイアプロレス大戦 前編、後編』より出典

ポンコッツ様、れべっか様、名無しのレイ様、プロレスネタをお借りしました。
この場を借りてお礼申し上げます。 


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