月夜に蔓延る吸血鬼 (【ガリア】)
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吸血鬼



 これは逃げではありません、新たな道を開闢する神聖な行為です。

 決して逃げではありません。

 逃げじゃないです。

 ごめんなさい。

 それでは、どうぞ…


 

 

 

 俺が吸血鬼として生まれてから、実に2000と45年は経った。

 

 赤子の姿でも大の大人と謙遜ない力を発する俺に、楔やら釘を打つ大人達の恐怖した表情を今でも覚えている。

 

 今でこそ吸血鬼という存在は平常と化しているが、それでも人間から歓迎されない存在だと言うのは変わらないらしい。

 

 何せ、ヴァンパイアハンターなるものもあるのだ。ごく稀に吸血鬼を迎え入れる変態等もいるが、そいつらは等しく碌な日々を送っていない。

 

 人間は吸血鬼を歓迎しない。そして、吸血鬼も吸血鬼を歓迎しない。

 

 プライドが高いがために、己の匹敵する力を持つ存在は同族でも許さないのだ。

 

 この時代の吸血鬼は無駄にプライドが高く、そして弱い。

 

 昔は吸血鬼が当たり前のように持っていた”魔法“も、今では限られた才能となっている。

 

 それでも、吸血鬼という存在は傲慢なのだ。

 

 そう。例えば、高位の存在にも、当たり前に喧嘩を売る程。

 

 俺ことヴァイオレット=シルバは、目の前で蹲る”吸血鬼“を前に溜息を吐いた。

 

 

「…指先ひとつも動かせんか」

 

「っ………っ…」

 

 

 所詮は”下弦級“か、と俺はもう一度溜息を吐いた。

 

 吸血鬼には階級がある。

 

 一番下が”晦級“、上が”満月級”。異常個体に“新月級”と名付けられ、その強さの比は階級が一つ違うだけで絶対の壁となる。

 

 唯一新月級だけがその壁を打ち壊す可能性を秘めているが、大体の吸血鬼はその可能性の蕾を開かせないままに殺される。というより、数が非常にすくない。

 

 50000吸血鬼に1吸血鬼といった感じだ。見つけたら四葉のクローバーよりもレアだと思ってもいいが、その後に訪れるのはただの不幸だ。

 

 目の前の吸血鬼では、俺を殺せない。既に事切れてしまっている。

 

 

「…つまらん」

 

「ひぃっ!!」

 

 

 動き出すと、背後から大きな悲鳴。

 

 既に死んでいる吸血鬼が攫ってきた村の娘だ。

 

 俺を見て恐怖している。

 

 

「怯えたままでも構わんから聞け。ここの吸血鬼は堕ちた、既に配下も始末している為、村は新たな吸血鬼が来ん限り吸血鬼は来ん。常に夜には火を焚いておけ」

 

 

 それだけを言い捨て、俺は身の丈ほどある翼を広げて大きな窓に足をかける。

 

 すると、後ろから声をかけられた。

 

 

「ぁ、ぁのっ」

 

「…なんだ」

 

「ぁ、ぁり…がとぅございま、す」

 

 

 恐怖感故か辿々しい感謝。

 

 それを聞いた俺は、こう返す。

 

 

「…吸血鬼に感謝など要らん。お前達人間は、ただ来る恐怖に怯え、救いを待つしかないのだから。…ではな」

 

 

 足と翼に力を入れ、俺は窓を蹴って空へと躍り出た。

 

 さて、次はどこに行こうか…と。

 

 俺は“紅く輝く満月”へと飛び立った。






 (´・ω・`)


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ミスラ族



 続きです。

 それでは、どうぞ…


 

 

 

 

 今日は夜から珍しいものがきた。

 

 俺が雲の上を越えて上空で飛行していると、背後から古びた機械が併走してきたのだ。

 

 しかも有人。操縦席と思われる場所にはヘルメットを被ったパイロットがおり、こちらを見て手をピースにして振っている。

 

 確かあの合図は“近くで着陸しましょう”の合図だった筈なので、手頃な“空島”を見つけてそこへ目指すと、パイロットもハンドルを操作して俺についてくる。

 

 島へと辿り着き着地すると、パイロットも平坦な場所に滑空しながら降りて、キキーッと甲高いブレーキ音を出しながら停止した。

 

 そしてドアを開いて降りて、少し背伸びをすると俺の方に駆け寄ってきてヘルメットを脱いだ。

 

 淡い栗色のロングヘアーがバサリと落ち、ゴーグルもズラすと茶色のぱっちりとした瞳が露わになる。

 

 

「どうも、吸血鬼さん!私は空軍対策防衛隊のミミルです!」

 

「…ヴァイオレット=シルバだ。シルバでいい」

 

「わかりました!それで、シルバさんは吸血鬼でございますか!」

 

「…あぁ」

 

 

 自己紹介の時に俺を吸血鬼と呼んでいた気がするが…。

 

 そう答えると、彼女は「ふぉおお!」とキラキラした目で奇声を発する。

 

 

「私、吸血鬼と話してみたかったんですよ!でも最近の吸血鬼って理性がありませんし、もし話せても話が通じなくて…いやー、ようやく話の通じる吸血鬼さんに出逢えましたよ!」

 

「…して、ミスラ族であるお前が俺に何の用だ?種族的に俺はタブーだろう」

 

「わぁ、ミスラ族をご存知なんですね!結構マニアックな知識をお持ちで!」

 

 

 ミスラ族。

 

 異種族をこよなく嫌う種族で、小さな島国で他の国家ともなんの情報や物資を交わさない鎖国国家だ。唯一人間とだけは容姿が似ているほかに、過去に存在していた人間の冒険者に国を助けてもらった恩があるため少ない交易をしている、との文献がある。

 

 異種族を嫌うだけ、無差別に生き物を襲う吸血鬼はミスラ族からは圧倒的に嫌悪されている。

 

 ミスラ族である彼女は俺を見かけたら離れるどころかこうして話もしているが…一体何の目的だろうか。

 

 

「古い文献を見ただけだ。詳しいことは知らん。…して、俺に何の用だ?」

 

「あ!いえいえ!そんな警戒しなくても大した用事ではありませんとも!えっとですね…近頃、コキュートス付近の吸血鬼が不自然に消えていってるっていう報告があったんですけど、何かご存知ありませんか?」

 

 

 コキュートスとは、この世界で一番大きな氷山のことだ。

 

 雲より高い標高で、天辺は天界に繋がっているとの噂の流れている。

 

 そんな氷山の周りは寒いかと思われるが、実はそんな予想地は裏腹に色とりどりの花が咲いていたり、まるで春のような環境が広がっている。

 

 だからこそコキュートス付近には村が沢山あり、吸血鬼も多い。

 

 最近はコキュートスの周りを飛んでは吸血鬼を殺して回っていたし、恐らく俺が犯人だろう。

 

 

「…恐らく、俺が始末して回ったせいだろうな。景色を楽しみながら飛行していただけだというのに襲いかかってくる者が多くてな…癪に触ったため付近の吸血鬼は残らず殺してしまった」

 

「ふむふむ、なるほどです!貴重な情報、ありがとうございます!あ、それとですね!」

 

 

 まだ何かあるのだろうか。

 

 

「これはただの注意勧告なのですが、近々ヴァンパイアハンターがコキュートス保護のために群を作って来るそうです!今までは吸血鬼の中に”十六夜級“がいたため進軍できなかったそうなのですが、強い者がいなくなった途端にこれですね!」

 

「…あぁ、そういえばいたな。確かコキュートスの谷底に突き落としておいたが」

 

「では安心です!私も軍の先行隊として来たのですが、それなら今回の任務は楽勝そうです!貴重なお時間、ありがとうございました!」

 

 

 ヘルメットを小脇に抱えながら、ビシッと敬礼するミミル。

 

 俺はそれに片手を上げるだけで答え、ふと疑問に思った。

 

 

「…俺はいいのか?」

 

「?」

 

「…俺も吸血鬼だが」

 

「あぁ!私、勝てない相手には喧嘩売らないので!」

 

 

 …なるほど、ただの吸血鬼との会話を望む夢見るバカかと思ったが、そうではないらしい。

 

 それにしても、これだけの実力差がありながら俺との差を察するか…なかなか良い観察眼をしている。

 

 

「…良い目だ」

 

「ありがとうございます!では、本軍はこれにて再飛行に戻らせていただきます!」

 

「あぁ。空はあまり魔物はいないが、遭遇した場合はかなり危険だ。無理に交戦せずに逃げの徹するのが吉だ」

 

 

 普段ならこういうことは言わないのだが、彼女の親切心に免じてここは高齢者のお節介を出すことにする。

 

 一瞬パチクリと目を瞬かせた彼女だが、すると笑みを更に咲かせながら、

 

 

「大丈夫です!これでも空のエキスパートですので、魔物に遅れを取ることはありませんよ!それでは、失礼します!」

 

 

 そう言って、自分の機体へと戻っていった。

 

 エンジンを吹かしながら発進し、十分な助走を付けて空へと飛び立った。

 

 去り際にこちらに手を振っていたため、俺も控えめに手を振り返す。

 

 彼女はそのあと、こちらが見えなくなるまで手を振っていた。

 

 

「…さて、コキュートスはもう潮時か」

 

 

 次はどこに向かおうか。と、俺は翼を広げて飛び立った。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「いやー、思ったより良い人…いや、良い吸血鬼でしたねえ」

 

 

 空を駆ける機体の中で、彼女…ミミルはひとりごちる。

 

 

「まさか十六夜級を倒されていたとは…”戦車(ルーク)“を呼び出し必要もありませんでしたねえ」

 

 

 やっちまったという顔をする彼女だが、その表情の中にはわずかに歓喜の色が見える。

 

 

「恐らくは最低でも十六夜級…いや、こともなげに言っていたので満月級ですかねえ。それもかなり強い部類の」

 

 

 思い出す中で、彼女は”瞳“で見た彼の内にある魔力を思い出す。

 

 

「真紅…ヴァイオレットですか…ふふっ、またいつか会えたらいいなぁ」

 

 

 そう言い、彼女は片手でヘルメットを被り直す。

 

 ヘルメットには、”女王(クイーン)“のチェスの駒が刻まれた紋章が貼り付けられていた…。







 見切り発車ですので、どこで終わるかもわかりません。

 そしていつまた失踪するかもわかりません。

 では、また次回…


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王都:ミリスフィリア



 それでは、どうぞ…(前置き無し)


 

 

 

 今日は、日除けの魔法を行使して朝の時間から王都の中にいる。

 

 特にこれといった理由はないが、強いていうならば観光だ。

 

 ここにくるのは実に数百年ぶりなので、何か変わっている物があるかもしれないという期待を込めてここにきたのだ。

 

 

「安いよ安いよー!おっ、そこの嬢ちゃん!うちの大根買ってくかい?嬢ちゃんの足のように滑らかでしっかりしてるぜ!」

 

「あらやだクソジジイ、そんな照れるわ!私の足が細くてしなやかなんて!」

 

「それにここのとこなんて嬢ちゃんの足そっく___ぐぶ!?な、なん」

 

「なに平然と話進めようとしてんのよこのデリカシー無しジジイ!!誰が大根足ですって!?私の蹴りを喰らってみたいわけ!?」

 

「い、いや、俺が言いたいのはこの大根はおすすめだよーって」

 

「だったら大根を女性の足に例えるんじゃないわよ!」

 

「ぶべっ!?」

 

 

 綺麗な弧を描いて放たれた女性の蹴りは吸い込まれるように野菜売りの男性の顔面に直撃した。

 

 吹っ飛ぶわけでもなく、一応衝撃を首で堪えた為か吹き飛ぶことはなかったが、それでもダメージは少なくないのか男性は手に持った大根と共に倒れ伏した。

 

 その際にトマトが下敷きになってぶちゅりと音を立てながら赤い汁を飛び散らせ、まるで腹から大量出血した男性の死体のようになった。

 

 その光景を見届けてから女性はふんと鼻息を鳴らしながらその場を去っていった。

 

 

「…朝から面白い物が見れたな」

 

「だねぇ」

 

「あぁ………ん?」

 

「ん?どうかした?」

 

「いや…誰だお前は」

 

 

 自然と俺の独り言に割り込んできたためすぐに気づけなかったが、気付けばいつのまにか隣にいた女が不思議そうな顔でこちらを見ている。

 

 その表情は俺がするべきだと思うのだが、最近の王都の常識は変わったのだろうか。

 

 

「僕はアミ、しがない一般王国騎士さ」

 

「いっぱ…王国騎士?」

 

「おや、知らないのかい?珍しい」

 

「いや王国騎士自体は知っているが…」

 

 

 俺がいま一番知りたいのは何故俺に関わってくるかなのだが。

 

 

「だって、そりゃ基本的に人間に害を与える種族が王国内に侵入してきたら警戒するでしょ?勿論」

 

「…俺が吸血鬼だというのはバレバレだということか」

 

「まぁ気づいたのは僕だけだろうね。これも経験の差というやつさ」

 

「処女がなにをほざいている」

 

「ごめん一回殴って良いかい?こんな公衆の全面で吸血鬼の嗅覚を利用したセクハラされるとは思ってなかったからさ」

 

 

 何やら拳を握りしめて青筋を立てているが、いかんせん頬が少し赤くなっているからか全く怖くない。むしろさっきの女性の方が怖かった気がする。

 

 

「はぁ…で、王都に何の用だい?市民には手は出させないけど、僕が管理してる囚人の血なら吸い上げても良いよ?」

 

「いや、俺は人間の血は好んで飲まん。どうせなら野菜や肉を摂る派だ」

 

「なんて健康的な吸血鬼だ。…健康的なのかな?吸血鬼的に」

 

 

 どうだろうな。吸血鬼本人である俺からしてもその疑問には答えられない難問だ。

 

 あと七百年は誰にも答えられない課題だろうな。多分。

 

 

「ただの観光だ。数百年前に一度来ただけだからな、何か変わったものは無いかと無断侵入してきた」

 

「なんて傍迷惑な観光だよ…。しかも数百年前って、かなり高齢なんだね?絶対満月級でしょ君」

 

「ついでに元新月級でもあるな」

 

「異常個体の満月級って…あーもう僕には手に負えない案件じゃないか。唯一の救いは君が理性的だっていうことだね」

 

「まぁ、俺は基本的に人間に手を出さん。まぁ危害を加えられたら反撃するがな」

 

「まぁそれは仕方ないから良いよ。でも裏路地とか人目のつかないとこでやってね。…はぁ、まーた隠滅することができちゃったし、また埋め合わせのウソ書かないとなぁ」

 

「…では、俺はこのまま失礼して良いだろうか?他にも色々見ておきたいんだが」

 

「あーうん。少なくとも王都に悪い影響を与える存在でもなさそうだし…良いよ、ついでに通門書も渡しておくから、出る時はちゃんと門から出てね」

 

「了解した。感謝する」

 

「あーはい。じゃ、僕はこれで」

 

 

 そういうと女は踵を返して、王城の見える方へと足を進めて姿を消した。

 

 …最初から最後までよくわからん人間だったが、王国騎士だけあって一定以上の強さはあった。ただもう少し強くなければ俺と戦うどころかと俺の前で喋ることすらできないだろう。

 

 というより所属は聞いたが、階級はなんなのだろう。

 

 昔は確か“王将級”が団長だと聞いたことがあるが…まぁ多分“銀将級”位だろう。

 

 そんなに強くなさそうだったしな。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ何アレ!?

 

 さっきの吸血鬼と別れた僕は、人目につかない場所に入ると、今まで押し込んでいた感情を爆発させて座り込んだ。

 

 一体アレはなんなのか。

 

 アレはどう考えても吸血鬼という種を超越した存在だ。

 

 あんな生物が存在して良いはずがない。

 

 僕の頭の中はそんな思考で埋め尽くされていて、整理して落ち着くのに数十分はかかった。

 

 改めて思い出しても理不尽な魔力制御。

 

 “視る”事に特化した僕でも微かにしか見えず、それでも濃密に凝縮を重ねたようなあの重圧感。

 

 そういえば彼は数百年前とか言っていた。

 

 ということは僕が何気なしに言ったように間違いなく満月級。彼も否定せずに、しかも元新月級という頭がパンクしそうな情報までぶち込んできた。

 

 通常、満月級は実はそんなに希少な存在ではない。

 

 弱い吸血鬼でも血を吸い続ければ強くなるし、事実、現在確認されている満月級の何人かは下弦級のやつもちらほらいる。

 

 問題は、”元新月級“であるかなのだ。

 

 この肩書きがあるだけで、満月級の価値が大きく変わってくる。

 

 通常の満月級がアリであるならば、元新月級の満月級はドラゴンみたいな物だ。それだけ力関係に大きな差があるのだ。

 

 そして、満月級には等しく“月”を持つ。

 

 それは、満月級の吸血鬼が等しく持っている“領域”と呼ばれる物のことだ。

 

 魔力を解放して、自身を中心に世界を塗り替え、夜にしていく満月級の特権。世界の一部を自分だけのものにする、ある意味反則的な技だ。

 

 そして、塗り替える夜は満月級によって違う。

 

 森の中だったり、大きなお城の中だったり…兎に角バリエーションが豊富だ。

 

 ただ、彼は“領域”を薄く纏っていた。だから日の中でも活動できていたのだ。

 

 だからこそ、僕は“視る”ことができた。彼の“領域”を。

 

 

 

 その世界には……“太陽よりも大きな、紅い月が覗き込むように浮かんでいた”。

 

 

 







 一人称視点難しくないですか?

 もっと練習しなければ…

 それでは、次回もお楽しみに…


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