クアンタの活躍をもっと見たかった男の妄想 (二兎)
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クアンタの活躍をもっと見たかった男の妄想

 はじめまして。
 
 長編は続けられると思えないので、思いついたネタ短編をぽつぽつ投稿しようと思います。
 
 どうぞよろしく。


 

 1、転生オリ主の理由

 

 

 その男は、ガンダムが好きだった。

 

 様々なモビルスーツがぶつかり合う様は、いくつになっても彼のロマンを刺激する。

 

 シリーズごと、ファーストからAGEまで、それぞれが魅力的で素晴らしい。

 

 新しいガンダムが放映されるたび、彼は心を踊らせ続けた。

 

 そんなシリーズ全般を愛している男が、近年取り分け熱中したのが機動戦士ガンダム00だ。

 

 他のシリーズに比べここが良い、あそこが悪いなどと優劣を比較するわけではなく、ただ単純に彼の好みにど真ん中の作品が00だったのである。

 

 モビルスーツのデザイン、キャラクター、世界観、全てを愛していた。

 

 近年多くのガンダムファンから好評を博した新シリーズ、ビルドファイターズに00のモビルスーツが登場した時には、年甲斐もなく狂喜しTVに齧りついていた程だ。

 

 

 そんな彼が、ビルドファイターズの世界に転生した。

 

 理由はわからない。

 

 前世からどうして今のような状況に陥ったのか、記憶も曖昧だ。

 

 ただ気が付けば彼は、イラブ・ソラという名で、ガンプラバトルの普及する世界の日本に生きていた。

 

 そして、生まれ変わった自身の見た目が、刹那・F・セイエイに酷似しているのを鏡越しに確認できた時、彼の中で固まった決意がある。

 

 

 『ビルドファイターズ原作の全国大会に武力介入しよう』

 

 

 言葉としては物騒ではあるが、とにかく彼は思ったのだ。

 

 自身もガンダムを、ガンプラを愛する一人として、原作キャラたちと鎬を削り合いたいと。

 

 何よりもこの世界ならば、彼が前世から抱き続けた一つの夢も叶うだろうと考えた。

 

 

 その夢とは、一機のモビルスーツを思う様戦わせる事。

 

 劇場版00に登場する主役機、ダブルオークアンタ。

 

 真なるエクシアの後継機のようにも思え、彼が惚れ込んだ機体。

 

 

 対話の為の機体というコンセプト故に、その有り余る戦闘能力を映画館のスクリーンでは発揮しきれなかったガンダム。

 

 もちろん、彼も理解しているのだ。

 

 クアンタという機体が、00という作品のテーマや、主人公刹那の導き出した答をこれ以上ない程に体現した機体である事も。

 

 劇場版でのクアンタの活躍が、これまでのストーリーを反映した最善の解である事も。

 

 だからこそ、彼もクアンタというモビルスーツが好きだという一面だってある。

 

 だがそんな想いの反面、それでもクアンタの戦闘がもっと見たいという願いもあった。

 

 

 その願いが、このビルドファイターズの世界ならば叶う。

 

 対話の為のガンダムではなく、ビルダーとして、ガンプラバトルの頂点を目指す為の愛機としてならば、何憚る事なくクアンタを活躍させられるのだ。

 

 

 そう思いたった時から彼は、イラブ・ソラは走り出した。

 

 ガンプラバトル世界大会を目指した彼の戦いが始まったのである。

 

 

 

 

 2、世界大会までのあれやこれや

 

 

 最初にブチ当たった壁は、原作の事情だった。

 

 前世が絡んでいるだろう、いわゆる版権問題。

 

 

 この世界、何故か00はファーストシーズンまでしか存在していないのだ。

 

 彼の目指す劇場版のクアンタどころか、ダブルオーライザーのキットすら発売されていなかった。

 

 その癖、原作キャラのリカルド・フェリーニが駆るフェニーチェのメテオホッパーがオーライザーのパーツに酷似したナニカを使用していたりと、納得のいかない部分はあったが仕方ない。

 

 無いものは無いのである。きっと大人の事情というやつであろう。

 

 もとより、その程度の障害で立往生する覚悟でソラは走り出してはいない。

 

 無いのなら造れば良いじゃないとばかり、近所で町工場を営むガンプラ好きの同志を見つけ、巻き込み、フルスクラッチである。

 

 この同志。通称おやっさんは、どこか00のメカニック、イアンを彷彿させるだけあり凄腕だった。

 

 ソラとおやっさん、二人の飽くなき情熱と試行錯誤の末、フルスクラッチのエクシア、そして後継機ダブルオーガンダムと、次々と産み出されては改良が加えられていく。

 

 目指すはダブルオークアンタ。

 

 出会いから世界大会本選出場まで、ソラとおやっさんは、信頼できるパートナーとして二人三脚で歩む事になる。

 

 

 さて、機体の問題が解決して一安心と思いきや、それだけで勝ち抜ける程甘くないのがガンプラバトルだ。

 

 おやっさんのガンプラが高性能だからこそ、それを操るソラのビルダーとしての未熟さがより顕著に浮き彫りになった。

 

 作中、イノベイターへと覚醒し最強のパイロットへと成長した刹那と同じく、クアンタを操るのなら、それに相応しいビルダーになるべきだとソラは考える。

 

 しかし現状、エクシアにすら振り回され、トランザムすらまともに使いこなせないソラが、クアンタを駆るなど、夢のまた夢である。

 

 強くなる為に、誰かに師事するべきだろうか。

 

 そう思い悩むソラを救ったのも、これまたご近所さんだった。

 

 

 ノハラ・ヒロシ。

 

 元ガンプラマフィアという異色の経歴をもつサラリーマン。

 

 今は、妻であるミサエとの結婚を期にカタギに戻った冴えない容貌のマイホームパパではあるが、その実力は本物だった。

 

 本人曰く、ガンプラバトルが好きで好きでたまらない、人間のプリミティブな衝動に準じて生きる最低最悪な人間。との事で、彼に教えを請う度にソラとそのガンプラは容赦なく叩きのめされ、しかしその分だけソラはビルダーとして確かに成長していった。

 

 ノハラ・ヒロシは素晴らしい先達だったのである。

 

 そして、そのヒロシと同じく、ライバルにも恵まれたともソラは思う。

 

 それは、仮面の変態なビルダーだったり、大型新人声優なビルダーだったりと多岐に渡るが、彼らとのガンプラバトルの全ても、ソラは己が糧として心に刻み、強くなった。

 

 

 そう、クアンタを操るに足る程にだ。

 

 

 『ソラ、お前は優勝しろ。予選にすら出場できなかった俺のかわりに……』

 

 

 ソラと同じくガンプラ世界大会優勝の夢を追い求めながら、ソラのお隣に住む美少女外国人フェルトちゃん(12)に手を出しかけて今は警察のお世話になっているロックオフ兄貴にも、面会時にそう言われた。

 

 様々な人達の想いの果てに、ソラは明日、決戦の地静岡へと赴く。

 

 

 (そうだ、俺は優勝する。出場できなかったロックオフの為にも)

 

 

 決意を新たに、ソラは自身のガンプラ、エクシアRと、ダブルオーライザーに視線を向けた。

 

 造りあげては壊し、また造り、共に戦ってきた愛機達だ。

 

 

 「ここまで、ありがとう」

 

 

 感謝を告げる。

 

 おやっさんが言うには、クアンタも調整完了が間近との事だ。

 

 ネックだった最初から完全同調可能なツインドライブも、ヒロシより免許皆伝祝いにと、つい最近もたらされた、プラフスキー粒子の結晶体により解決した。

 

 なんでも、マフィア時代に忍び込んだ先にあった巨大な結晶体を少し拝借したとは、ヒロシ本人の談である。

 

 が、使い途もないのでと渡されたそれを、原作知識を持つ故に有用性を知るソラが手に入れた意味は大きい。

 

 その結晶体を二つに削り出した球体アリスタを内蔵する事で、ガンプラを超えるガンプラ、ダブルオークアンタが完成したのだから。

 

 

 さあ、行こう。

 

 イラブ・ソラ、現在高校二年生。

 

 ガンプラ世界大会に、転生オリ主の旋風が巻き起ころうとしていた。

 

 

 

 

 3、クアンタ無双、その始まり

 

 世界大会予選第二ピリオド。

 

 突如として表れた1/48ザクⅡからの執拗な攻撃を受け、セイとレイジのスタービルドストライクは窮地に陥っていた。

 

 通常の火力をものともしない怪物を相手に、事ここに至っては出し惜しみをしている場合ではない。

 

 ディスチャージシステムによる最大火力で、あの巨大なザクを打倒する。

 

 そう結論したセイ達に応えるように、フェリーニのウィングガンダム・フェニーチェが、ヤサカ・マオのガンダムX魔王が、時間を稼ぐ為に巨大ザクに挑みかかっていく。

 

 レイジもまた、ディスチャージシステムの展開の為、機体を操作して…………

 

 

 

 その直後だ、空が割れたのは。

 

 

 

 轟音と共に天より降ってきたのは、光の柱。

 

 そうとしか形容ができない程の、どこか神罰めいたエネルギーの塊。

 

 その極光は、いとも容易く巨大なザクを飲み込み、溶かし、跡形も無く消し去った。

 

 

 『なんですの、あれは!?』

 

 

 マオの呆然とした声が、通信機越しにセイの耳に響く。

 

 セイと同じく、その声に我に返った皆が、空を見た。

 

 セイが、レイジが、フェリーニが、マオが、ニルスやメイジン・カワグチまでも、否、その極光を目にした全ての者が、光の降ってきた先に目をやった。

 

 

 

 “降臨”。

 

 

 そんな言葉が多くのビルダー達の脳裏を過る。

 

 光の粒子を撒き散らし、セイ達を睥睨するかの如くに、その機体は悠然と空に佇んでいた。

 

 白と青を基調とした、スリムな姿形でありながら、漲る力強さが否が応にも伝わってくる。

 

 どこかエクシアを彷彿とさせるその立ち姿に、セイは息を飲んだ。

 

 

 『エクシア?……いや、違う』

 

 

 武装が違う。

 

 細部のデザインが違う。

 

 何より放出する粒子量の桁が違う。

 

 恐らくはスタービルドストライクなどと同じオリジナルのカスタム機だ。

 

 しかも、とてつもなく洗練された。

 

 だって、あれは完成している。調和している。

 

 00の作品世界にそのまま放り込んでも、何一つ違和感を感じさせない程の美しい出来栄えは、オリジナルの機体とはとても思えなかった。

 

 

 『び、ビルダー名は!?』

 

 

 急いで登録選手の情報に目を走らせれば、そこにあったのは、

 

 

 『イラブ・ソラ。……ダブルオークアンタ?』

 

 

 セイ達自身と同じ、初出場の少年の名前。

 

 確か、放送が待たれる00セカンドシーズンの主役機ダブルオーガンダムを、その放送を待たず自分で造ってしまった酔狂で有名なビルダーだった筈だ。

 

 ならば、今目の前にあるあのガンプラは、その改修機だとでもいうのだろうか?

 

 

 『ダブルオーガンダム。世界を変える機体……』

 

 

 そんなセリフが意図せぬままに、セイ自身の口から溢れた。

 

 沸き上がったのは、恐怖に似た感情だ。

 

 不可解なエネルギー量の多さもさることながら、それ以上に得体の知れない凄みをあの機体からは感じる。

 

 それは、セイだけでなく、レイジも、他のビルダー達にも感じ取れた確信。

 

 

 今大会、間違いなくあの機体が台風の目になる。

 

 

 第二ピリオド終了のブザーが鳴ると同時、空へと帰っていく規格外のガンプラを、出場選手の全てが、最大の脅威と認識した瞬間だった。

 

 

 

 クアンタの伝説が始まる。

 

 

 

 

 

 4、おまけ バスライをブッ放した経緯

 

 

 「第二ピリオドでやっとクアンタをお披露目できるな、おやっさん!」

 

 『とは言っても初出撃だ、不安もある。いいかソラ、トランザムは使うなよ!』

 

 「了解。トランザムッ!」

 

 『ちょ』

 

 

 直後、エネルギーを持て余してるところにちょうど良い的(巨大ザク)を見つけた模様。

 

 

 「素晴らしいネタフリを前に我慢できなかった。今は反省している」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 私はガンダム作品全て好きですが、中でもXと00が好きです。

 ビルドファイターズ発表された時の、X魔王にはマジ痺れました。

 そんなビルドファイターズでならきっとクアンタもフルセイバーしてくれる筈。

 そう思って書きました。

 ちなみにこの世界でのクアンタはソラ君の造ったさいきょーのガンダムって感じで周りから認識されてます。

 一応、クアンタTUEEEEモノですが、量子化しようとバ火力で攻めようと、何故かビルドナックルを攻略できる未来が切り開けそうにないので短編でお茶を濁しました。

 アイラ辺りなら粒子過剰放出による目眩ましで完封できるかもしれない。


 そこそこ読めたよ。とか、クソつまんねぇ。とか、どんな形であれ感想貰えれば泣いて喜びます。





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クアンタの活躍をもっと見たかった男の妄想2

 前回、たくさんの感想ありがとうございました。

 これからも、よろしくお願いします。



 

1、ラルさんR35の思うところ

 

 

 ガンプラバトルにおいて、その機体性能は原作でのスペックに左右されない。

 

 大切なのはビルダーとしての技術、発想と、そうして組み上げたガンプラを操るファイターの手腕である。

 

 もちろん、才能も必要ではあるだろう。

 

 しかし、キットの製作にかけた情熱と、バトルに費やした時間や経験値が噛み合えば誰しもが、例え原作で低スペックとされている機体でも高みを目指せる。

 

 それこそがガンプラバトルの醍醐味であり、多くのビルダーを惹き付けてやまない魅力の一つだ。

 

 故に、ザクやジムがガンダムタイプを打倒することも珍しくはないし、ジェガンがデビルガンダムを圧倒するなんて事態も起こり得る。

 

 そう。原作で設定された機体性能はさして重要ではなく、全てはビルダー達の手腕と、ガンプラに対する愛次第。

 

 それこそガンプラバトルに携わる者が多く共有する前提であり、強者になる為の絶対条件だ。

 

 

 が、それを踏まえても尚、今ランバ・ラルが見つめるガンプラ世界大会予選の録画映像に映る機体は、規格外と呼ぶしか他に言い表しようのないものだった。

 

 ダブルオークアンタ。操るはイラブ・ソラ。

 

 第二ピリオドにて、セイ達を苦しめた巨大ザクを一撃の下に葬り去ったことに始まり、予選ピリオドを残す所あと一ピリオドとした今も、圧倒的強さでの全勝を勝ち取っている、今大会の超新星。

 

 ディスチャージシステムや、マイクロウェーブなど、各ビルダー達がエネルギー増加の為に様々な工夫を凝らす中で、外部エネルギーに頼ることなくそれ以上のエネルギー量を実現するガンプラの性能もさることながら、それを操るファイターとしての手腕も決して他のトップビルダー達から見劣りしていない。

 

 不可解なまでに高スペックな機体と、それを自身の体の延長のように扱うファイターの技巧を兼ね備えたからこその規格外。

 

 ならばそれは、どれ程の愛や発想、時間を、機体の完成度と、ファイターとしての技術を研磨する為だけに費やした結果だというのか?

 

 ガンプラバトルの第一人者を自負するラルをもってしても想像し難い情熱の結実が、まさに今大会で吹き荒れるダブルオークアンタのこの進撃の嵐なのだとすれば……。

 

 

 「これ程のビルダーが、今まで埋もれていたというのか」

 

 

 唸る。

 

 聞けば、イラブ・ソラは現高校二年生だという。

 

 若くして、しかし間違いなく、全ビルダーたちに立ち塞がる中で最大の障害となった少年。

 

 その彼の挙動を、何一つとして見逃すまいとラルは画面を注視しする。

 

 先から流れているのは、蹂躙といっても過言ではない光景だ。

 

 

 第三ピリオドの射撃では、その素早さと正確さで、メイジンと変わらぬタイムを叩き出し。

 

 第四ピリオドの玉入れでは、相手チームの玉をソードビットなる武装で入れる前に全て破壊するという機転と狡猾さを見せ付け。

 

 第五ピリオドの三対三バトルでは、ノリスケ選手操るアルヴァトーレを中に潜むアルヴァアロンが外に出る間も与えず、他二機諸共に剣一本で三枚におろし。

 

 第六ピリオドのオリジナルウェポンバトルでは、引き当てたウェポンであるメリケンサックで、対戦相手のイナクトを、パトリック・マネキン選手が泣くまで殴るのを止めずにフルボッコにした。

 

 

 「これはひどい」

 

 

 そして録画映像の最後、第七ピリオドのガンプラレースで、ダブルオークアンタの開幕GNバスターライフルが他の出場選手の機体全てを消し炭にするのを見終えて、ラルはそう呟いた。

 

 頬に冷たい汗が流れるのを感じながら脳裏に浮かべるのは、ラル自身が応援しているセイ、レイジペアの事である。

 

 第七ピリオドを終えて、今のところは彼等も全勝中。

 

 第八ピリオドを待たずに、決勝トーナメントへの出場を決めている。

 

 が、今のままの彼等がこのイラブ・ソラと戦うことになれば、敗北は免れないだろう。

 

 トーナメントで上手く別の山に別れ、その間に彼等が強敵に揉まれ成長してくれれば、あるいは……。と言ったところか。

 

いま戦い、跡形もなくガンプラを吹き飛ばされれば、とても決勝トーナメントには間に合わない。

 

 そうならない為にも、まずはこれから始まる第八ピリオドにて、セイたちがダブルオークアンタと戦う羽目にならない事を天に祈ろうではないか。

 

 もしかすれば、何かの拍子に、ダブルオークアンタが敗北することもあるかもしれない。

 

 と、そこまで考えて首を振る。

 

 何が起こるのかわからないのがガンプラバトル。

 

 それでも、敗北は有り得ないと確信できる程に、このダブルオークアンタは強い。

 

 

 「メイジン・カワグチや、アイラ・ユルキアイネンでも勝てるかどうか」

 

 

 口から溢れたのは、強豪たちを並べた上での純粋な戦力評価。

 

 考えるに、ラルが応援するセイたちの優勝への一番の近道は強敵同士、お互い潰し合ってくれる事だ。

 

 だが、ラルはそうなって欲しいなどとは露とも思わないし、セイ達とてそんなことは欠片も望まないであろう。

 

 自力での、実力での勝利こそがビルダーとしての誉れであることを、彼らはしっかりと理解してくれている。

 

 

 だからこそラルも、そんな彼らに優勝して欲しいのだ。

 

 

 そして、その願いに彼が少しでも手を貸せる事があるとすれば、それはセイたちにダブルオークアンタの弱点を見つけ、何かしら伝えてやることくらいだろう。

 

 

 「うむ。ではもう一度最初から」

 

 

 そう決意して、ラルは録画を巻き戻す。

 

 ダブルオークアンタの残虐ファイト映像から、少しでも攻略の糸口を見つける為に。

 

 

 

 

 2、ライナーの勇姿 あるいは伊達男の苦悩

 

 

 『これでもそこそこ腕は立つ。修羅場もいくつかぬけてきた。そういうものだけに働く勘がある。その勘が言ってる。オレは第八ピリオドで死ぬ。』

 

 

 第八ピリオドの組み合わせが決まった場で、リカルド・フェリーニに、ある男が告げた言葉である。

 

 リカルドへの恋人をとられたことに対する復讐が叶わなかったその男は、実に口惜しそうにしながらも、彼にそう告げ去っていった。

 

 ガンプラバトルで死ぬも何もないだろうが、気持ちは分からないでもない。

 

 男の名はライナー・チョマー。

 

 既に決勝への道が閉ざされていながらも、リカルドへの復讐を果たす為だけに第八ピリオドに全ての望みを懸けた男。

 

 同時に、その運命の第八ピリオドで、ダブルオークアンタの対戦相手に選ばれてしまった、最も運のない男でもある。

 

 

 そして、当日。

 

 

 『決勝には行けなかったが、このオレにもドイツ代表の意地がある! イラブ・ソラ。このとっておきのシュピーゲルで、お前のガンプラにせめて一太刀ぃいっ!』

 

 『その意気や良し! 来い!』

 

 『うぉおおおっ! コード麒麟!!』

 

 『っ、速い! ならば……』

 

 『いける、いけるぞ! 覚えておけイラブ・ソラ! お前を倒した男の名を! オレはライナー! ライナー、』

 

 『トランザム!!』

 

 『ちょ、ま!?』

 

 

 《勝者、イラブ・ソラ》

 

 

 『ああ、名前は覚えておこう。ライナー・ちょま』

 

 「ライナーが死んだ!」

 

 「この人でなしィ!!」

 

 

 ライナーの頑張りに比して悲惨な結末に、観客席からも悲鳴が飛び交う。

 

 ここまでがクアンタと戦った勇者たちの大体のテンプレである。

 

 

 その一部始終を見ていた上で、リカルドは思う。

 

 幾度か戦った自分だからわかるが、ライナーは決して弱くない。

 

 そのライナーがとっておきとまで宣言したシュピーゲルも、それに相応しい良機だった。

 

 実際、自分がフェニーチェで戦っていたのなら、負けはなくとも苦戦は免れなかったに違いない。

 

 そう素直に称賛出来るくらいに、今日のライナーは気迫が違った。強かった。

 

 

 「なら、それを苦もなく倒しちまうアイツはなんだ?」

 

 

 苦々しく自問するも、本当はわかっている。

 

 もう一度言うが、今日のライナー強かった。ただ、相手が悪すぎたのだ。

 

 最初から答など出ていたではないか。

 

 ライナーのシュピーゲルに一撃すら許さなかったクアンタという機体が、更に途方も無い化け物だったというだけのことだと。

 

 つまりそれは、優勝を目指す限り、リカルドの前にもいつかあの化け物が立ち塞がるということでもある。

 

 

 「嫌になるぜ。……けどまあ、その前に今はレイジ達との勝負に集中しますか」

 

 

 知らず強張っていた肩の力を抜き、そうぼやく。

 

 軽い調子で、しかしその足取りは重く。リカルドは自身の対戦相手の待つ会場へと向かった。

 

 ガンプラベースの前に崩れ落ちる、ライナーの冥福を祈りながら。

 

 

 

 

 3、オリ主の器が知れる話

 

 

 ・クアンタさんが、X魔王より大魔王な件。

 

 ・武力介入出来すぎシリーズ。

 

 ・決勝はダブルオークアンタ対他全員で良いんじゃないかな。

 

 ・絶対に卑怯な手段で機体強化してるよ。チートだよ。

 

 ・だいたいクアンタって名前なんだよ? オリジナルにしても中ニ過ぎだわ。

 

 

 等々、あんまりと言えばあんまりな世界大会でのダブルオークアンタへの評価に、イラブ・ソラは凹んでいた。

 

 某掲示板などでは留学生の友人アーデくんが、自作PCのヴェーダたんを使いクアンタのステマを行ってくれてはいるものの、それも焼け石に水。

 

 いまやその扱いは、完璧なまでのヒールである。

 

 

 彼としては、クアンタの活躍が見たいと言う夢の為に駆け続けてきて、その結果としてたまたま無双できるくらい強くなってしまっただけなのだ。

 

 舐めプは他のビルダーの皆さんに失礼にあたるとも思い、常に敬意をもって全力で対戦相手を葬ってきた。

 

 が、それがこうも悪評に繋がるとは。

 

 そりゃあ、ハメを外し過ぎたかな。と思わないでもないが、前世からの夢がようやく叶ったのだから、多少は情状酌量の余地くらいあっていい筈だ。

 

 

 「ちくしょう」

 

 

 このままでは、わざわざ春日部から静岡にまで応援に来てくれているフェルトちゃんや、マリナお姉さんにも会わせる顔がないではないか。

 

 おやっさんは、そんな悪評は優勝して覆しちまえば良いんだ。と笑っていたが、彼はそこまで割り切れない。

 

 だいたい、ソラは大会外のところでも頑張ったのだ。

 

 特に、第ニピリオドのあとマシタ会長に、これ以上妨害をするのならレイジに全てバラすと脅したのは、原作知識がある故のファインプレイだと、個人的には思っていた。

 

 

 「それなのに……」

 

 

 誰もわかってくれない。わかりあいたい。よし対話しよう! と彼が思ったかは別にして、とにかくソラは涙した。

 

 が、

 

 

 「くそ、なにがチートだよ。まだ量子化すら見せてないのに」

 

 「その量子化なんだがな……」

 

 「うわ、おやっさん!? いきなり声かけないでくれよ」

 

 「いきなりじゃねぇよ。お前が泣いてるから……」

 

 「な、泣いてねーし! ってか、量子化がどうしたよ? ……まさかっ」

 

 「ああ、あの不思議な石、アリスタっつったか? あれの削りカスをクアンタのパーツに混ぜたりしてたらな、完璧に安定したぜ」

 

 「うおおお! 流石おやっさんだ!」

 

 「条件としちゃ、フィールド中のプラフスキー粒子がある一定量必要だが、トランザムならなんとかなるだろ」

 

 「おやっさん、まじイアン! さっそく実験しようぜ、実験!」

 

 「お、おう」

 

 

 凹んでいた事も、泣いていた事も、おやっさんからの吉報一つで忘却の彼方に捨て去ったソラは、この後、滅茶苦茶量子化した。

 

 そこに反省など、ない。

 

 

 

 

 4、おまけ 伏線らしきものと次回の被害者

 

 

 「そういやソラ、決勝トーナメント一回戦はフィンランド代表に決まったみたいだぞ。強敵だな」

 

 「え?」

 

 「あとお前、なんか目が金色に光ってて気持ち悪いんだが、なんだそれ?」

 

 「……え?」

 

 

 

 




 次回は、ちゃんと戦闘描写ありでクアンタ無双。のはず、たぶん。

 オリ主の強さを一生懸命描写してこいつぁ臭えぇ! とかなってしまうのが怖かったんで、そこはかとなくラスボスポジションっぽく収めてみた方がマシじゃね? とか浅慮してみました。

 あとなんか、各ピリオド全部真面目くさって書いてたらメチャ長くなってムリっぽかったので、こんな感じに書き直しました。

 やはり描写が足りませんでしょうか?

 いまはこれが精一杯なので、説明不足なとこは最終話までに少しずつ埋めていこうと思います。

 今回も、なにかしら感想いただけたら泣いて喜びまする。ありがとうございました。


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クアンタの活躍をもっと見たかった男の妄想3・前編

 前回もたくさんの感想と、お気に入り登録ありがとうございます。これからもよろしくどうぞ。

 今回は長くなりすぎてしまう為、申し訳ないのですが二つに分ける形での三話、前編となります。


 ※今回より、R-15とギャグのタグを追加しました。



 1、オリ主はイノベイター(最低系)

 

 

 「ッベーわー。これマジでヤッベーわ」

 

 

 決勝トーナメント一回戦当日。イラブ・ソラは控え室で頭を抱えていた。

 

 先日、おやっさんに瞳の色を指摘されて気付いたのだが、自分はどうやらイノベイターへの変革を始めてしまったらしい。

 

 気付いてしまえば思い当たるところも多々あった。

 

 妙に空間を把握するのが得意になったり、勘が冴え渡っていたりと、省みるにつけクアンタを駆るようになってから随分と顕著にその兆候が見られたと思う。

 

 そもそも、それまで全く使ってすらいなかったビット兵器の類いを初めから完璧に使いこなしていた時点で気付いて然るべきだったのではないだろうか。

 

 

 「いやいや、それはいいんだよ。でもイノベイターって確か寿命延びたりとか色々と常人と違ってくるよね?  これ、他人にバレたらデカルトと同じくモルモット一直線じゃね?」

 

 

 なにせ新人類である。

 

 世界は違えど、恰好のサンプルとして隅にも置かれぬ扱いを受けるだろう。

 

 例えば、二十四時間常時監視生活とか。

 

 

 『オナニーもろくにできやしない』

 

 

 その想像に、頭の中で人類史上初のイノベイターさんの声が聞こえた気がして、ソラは顔を覆い叫んだ。

 

 

 「絶対にイヤだっ!」

 

 

 何故自分が変革を始めたのかなんて事はこの際どうでも良い。

 

 どうせ転生特典とか、そんな感じのアレだ。

 

 刹那に見た目が酷似しているのだから、そんな事もあるだろう。

 

 しかし、自家発電できないのはいけない。

 

 高校生の肉体が抱える性欲は決して甘く見てはならないのだ。

 

 前世から数えれば足して五十にもなろうと言う精神年齢のソラではあったが、未だ異性との性交渉をもった事のない童貞の純粋種でもある。

 

 性欲の処理を禁じられるのはなによりの死活問題であった。

 

 

 決勝トーナメントの一回戦。相手はフィンランド代表、チームネメシスのアイラ・ユルキアイネン。

 

 片や今大会にて暴虐の化身と恐れられるダブルオークアンタ。

 

 片や公式記録にて未だに無敗。クアンタの対抗馬の一つに数えられるキュベレイ・パピヨン。

 

 誰しもが一回戦で最も注目するだろう戦いを前に、当の本人はそんなどうでも良さそうな、しかし、健全な青少年からすれば何よりも重大な悩みに嘆き、恐怖していた。

 

 そこにいつもの声がかかる。どうやら試合が近いらしい。

 

 

 「おーい、ソラ。もうそろそろ始まるぜって、気持ち悪っ! また目が光ってるじゃねぇか!? おい、ほんと病院行った方がいいんじゃないか、それ?」

 

 「行かねーよ! バレたらどうすんの!? それにほら、目はこうやって直ぐ戻るし」

 

 「え、任意で切り替えできるのか、その目? よけい気持ち悪っ!」

 

 「気持ち悪い言い過ぎだろ。試合前に俺のモチベーション下げるとか、おっさん本当に俺のパートナーなの?」

 

 

 などと間の抜けた、だがそれでいて肩の力を抜いてくれるおやっさんとの会話を挟んで、ソラはどうにか気持ちを切り替えることに成功する。

 

 

 (そうだ、今はこの事は置いておけ。まず考えるのは初戦突破)

 

 

 それまでは、イノベばれを心配し過ぎて恐怖に囚われるのはマズい。

 

 まずは勝ち、それから……、

 

 

 「……あ、」

 

 

 そこまで思考が及び、ソラはようやくオナ禁問題に隠れ忘れていたもう一つの問題を思い出す。

 

 

 その問題とは、アイラ・ユルキアイネンと言う少女の処遇だ。

 

 

 チームネメシスに所属する、ガンプラバトルに勝ち続けることで、生活の保証をして貰っている少女。

 

 もしソラが勝ってしまえば、彼女は今の待遇を失うだけでなく、原作主人公の一人、レイジとのフラグまで失ってしまう。

 

 マシタ会長を脅し、ガンプラマフィアの介入を未然に防いでしまった現状、アイラとレイジのガンプラ共闘イベントは起きておらず、只でさえカップル成立の可能性が原作より心許ないのだ。

 

 大会中、自分が物語に介入した悪影響が出ぬようにとこっそりと影から原作カップルの関係を見守っていたソラの失態は、それでも少なからず接触を持っていたアイラ達を見て、どこかで安心してしまっていたことだ。

 

ソラ自身が大会に介入した以上、原作の流れが変わることは理解していても、一人の少女の未来を奪うような状況になるとは思いもしていなかった。

 

 楽観視していた、とも言えるだろう。

 

 BFの世界観で。ガンプラバトルの大会で。そのキャラクターが、まさか不幸になるなど、と。

 

 が、実際には現在進行形でアイラの未来に暗雲が立ち込めているのが実情である。

 

 

 (そしてその原因は俺。ってそうじゃない! どうするよ? 作品の登場キャラの中で、一人だけ抱えてる問題が切実過ぎんだろ、アイラちゃん)

 

 

 ならば、どうするべきか?

 

 原作のレイジのようにオレのトコに来い! 的なことを言っても、一度も会話したことのない相手からの誘いだ。断るに決まっている。

 

 だいたい、ソラの家に見ず知らずの少女を養う理由も余裕もない。

 

 それなら、優勝賞金やらなんやらで援助する?

 

 それこそ無理だ。優勝はするつもりだが、出来ると断言も確約も出来ない。それではただの無責任、傲慢だろう。

 

 かと言って、わざと負けるのも論外。

 

 最悪に自分勝手だが、アイラの事情を知っていて尚、心情的に負けたくない。

 

 それは、これまで二人三脚でやってきたおやっさんへの裏切りにも等しいからだ。

 

 勝ちを譲るという選択もまた、到底選べるものではなかった。

 

 

 (ヤバい、何も良い考えが浮かばない。詰んでやがる。……まさか原作知識がこうも罪悪感に繋がるとは)

 

 

 そんな風に悩んでいても時は無慈悲に過ぎていく。間もなく試合が始まるだろう。

 

 オナ禁問題にかまけて、アイラのことを失念していたツケがここで回ってきたのだ。もう時間がない。

 

 おやっさんの急かす声に押され会場向かいながら、それでもソラは打開策を見付けられないでいた。

 

 会場では満員の観客が今か今かとソラたちの試合を待ち望んでいるのだろう。喧騒が会場へと続く廊下にまで、大きく響いてくる。

 

 どう足掻いても、ここが刻限だ。

 

 

 しかし、そんな中でそれでもソラは考えることを諦めなかった。

 

 一人の少女の未来を閉ざす可能性から、そう簡単に目を逸らして良い筈がないからだ。

 

 だから、彼は考えて、考えて、考えて、頭から煙が出る程に考えて。

 

 遂には、

 

 

 (ま、なるようになんだろ)

 

 

 最低なことに、思考を放棄した。

 

 まあ、考え過ぎて頭がパンクしたとも言えるかも知れない。

 

 

 「おいソラ、お前さっきからなんかおかしいぞ。体調でも良くないのか?」

 

 「問題ない。俺のイノベイターとしての直感が、悪いようにはならないと囁いている!」

 

 

 おやっさんの心配の声もなんのその。

 

 結局、締まりのない顔で根拠の無いことを呟きながら、ソラは無策のままアイラとの対戦に挑むことになったのである。

 

 

 

 

 2、恐らくは作中最大の被害者

 

 アイラ・ユルキアイネンは、ストリートチルドレンだった。

 

 行く宛もなく、寒さを凌ぐ術もなく、食うにも困る。そんな生活を幼い時から送っていた。

 

 そんな彼女が現在の生活を手に入れられたのは、才能を見い出されたからだ。

 

 プラフスキー粒子の可視化。

 

 彼女だけが持つその稀有な才能は、ガンプラバトルにおいて絶対的とも言えるアドバンテージを彼女に齎した。

 

 粒子を介し、相手の動きを先読みすることで、疑似的な未来視を可能とする能力。

 

 その能力は、チームネメシスのチーフ、ナイン・バルトにより解析され、強化され、遂にはアイラを無敗のファイターへと押し上げたのだ。

 

 アイラはその力を使い、勝ち続けることで自分の生活が保証され、バルトたちチームネメシスも、アイラの衣食住を賄うことで、アイラを研究材料として戦わせる。

 

 信頼も何もない、利害だけの冷めた関係ではあったが、ストリートチルドレンとして貧困に喘ぐ生活よりはマシと、アイラはその境遇を受け入れた。

 

 なにせ、ガンプラバルトで、相手を倒し続けてさえいれば良いのだ。アイラにとっては実に簡単な仕事である。

 

 前回の世界チャンピオンでさえ、彼女にはそこらの有象無象と変わらなかった事から見ても、難しいことなど何もないではないか。

 

 そう。例え自由は少なくとも、例え何の面白味すら感じられなくとも、あの路地裏で寒さに震え続けることに比べれば……。

 

 そんな諦めにも似た達観で、アイラは今まで戦い、勝ち続けてきた。

 

 

 (なのになんで、なんで邪魔するのよ!)

 

 

 その彼女が今、追い立てられるかのような焦燥を感じている。

 

 これまで誰も防ぐことのできなかった攻撃を防ぎ、これまで誰もかすりすら出来なかった機体に容易く当ててくる青と白で彩られたその機体の名は、ダブルオークアンタ。

 

 強敵だとは聞いていた。アイラを差し置き優勝候補の筆頭だとも。

 

 それでも、どこかで軽視してたのだ。

 

 未来視にも近い先読みと、キュベレイ・パピヨンのスペックならば、恐るるに足りないと。

 

 それが蓋を開けてみればどうだ?

 

 この敵は、それを嘲笑うかのようにアイラを攻め立ててくる。

 

 

 相手の動きは見えていた。

 

 通常のガンプラの何倍になるかも分からないクアンタの粒子量は、嫌でも鮮明にその動きをアイラに把握させる。

 

 なのにその動きを先取ることが出来ないのは、この馬鹿げた粒子量を誇るガンプラが、アイラの反応を越えて動くからだ。

 

 クアンタだけならば、どうにか対処出来たろう。

 

 だが、縦横無尽にクアンタの周囲を飛び回るビット兵器が、彼女の処理能力を著しく混乱させる。

 

 

 (こんな六つしかない、しかも射撃能力すらない無線兵器に、わたしのファンネルが……!)

 

 今まで、彼女の十八番の筈だったビットによる蹂躙。

 

 それをいとも容易く覆され、やり返されている。

 

 三十にも及ぶファンネルが、相手の十に満たない近接ビットに撃ち落とされ、頼みのクリアファンネルすらも、ただ一つすら残らず砕け散った。

 

 それだけならば、まだ良い。

 

 ファンネルがなければ何も出来ないような鍛え方をアイラはしてきていない。

 

 故にアイラが本当に恐れたのは、クリアファンネルを落とされたその事実ではなく、目視不可能の筈のそれを感知したそのカラクリだ。

 

 

 (間違いない、こいつも見えてる。わたしと同じように!)

 

 

 確信して背筋が凍る。

 

 同じ能力を持っている相手が、こちらのガンプラ以上の機体を駆っている。

 

 つまりその先に待つのは、敗北の二文字である。

 

 

 (イヤよ! 遊びで戦っているヤツに、わたしの未来を閉ざす資格なんかない! そんなの認めない!)

 

 

 負ければ、ネメシスはアイラを見捨てるだろう。

 

 そうなれば、またストリートチルドレンに逆戻りだ。

 

 それだけは、嫌だった。

 

 どんなに現状がつまらなくとも、自由がなくとも、生きるにも苦労したあの頃に戻るくらいならば。

 

 そんな強迫観念に後押しされることで、アイラは覚悟を決めた。決めてしまった。

 

 

「チーフ。エンボディの出力を上げて下さい」

 

「な、アイラ!?」

 

「わかっているでしょ? このままじゃ負けます」

 

 

 そうだ、このままでは勝ち目がない。

 

 ファイターも機体も劣っているのだから、それは自明の理だ。

 

 それを覆す為には別の手札が必要であり、アイラの所属するネメシスには、その手札が一つだけ存在した。

 

 

 エンボディシステム。

 

 アイラの能力を飛躍的に高める代わりに、耐え難い苦痛を彼女に強いる諸刃の剣。

 

 数値を上げすぎれば、凶暴性が増し、最悪廃人になる危険性すら伴うモノではあるが……。

 

 

 (負けるよりは、いい)

 

 

 そう。負けて、生きる術を失うより遥かにマシだ。

 

 

 「はやくやって下さい」

 

 「……恨むなよ」

 

 

 アイラの要請に応え、バルトがコンソールに指を走らせた直後、頭痛と共に景色が歪む。

 

 

 「ぐっ、ああぁあぁぁっ」

 

 

 視界が明滅し、感覚が引き延ばされると同時、凶悪な力が、オレンジ色の光となりキュベレイ・パピヨンに灯った。

 

 

(これなら、勝てる)

 

 

 迸る偽りの全能感に身を任せ、後は相手を破壊しつくすだけだと、アイラはその凶暴性に意識を委ね……。

 

 

 

 その直後、目を焼く程の緑光が、彼女の意識を引き戻した。

 

 

 

(……なに、これ?)

 

 

 見れば、ダブルオークアンタが、倒すべき敵が、その機体そのものを粒子に変えたかの如く光輝いていた。

 

 右側に配置されていたシールドが背部にまわり、ビットがその機体を囲うように並んでいて。

 

 

 「アイラ、あれは危険だ! 早くヤツを倒せ!」

 

 

 声を荒げるバルトに、心の中で無理だと返す。

 

 何故ならあまりの粒子の眩しさに、既に彼女の視界は意味を成していないのだから。

 

 故にただ唖然と、その光の流れる様だけを眺めていた彼女に、届いたのは、叫び。

 

 

 『今こそ対話する!』

 

 『馬鹿! ソラ、フルパワーだと装甲が持たんと言っとるだろうがッ!』

 

 

 そんな中年男性のものと思われる悲嘆が耳に入ってくるのと同期するように、光が爆発した。

 

 

 

 

 3、ヒロインの存亡をかけた対話の始まり

 

 イノベイター、パねぇ。

 

 それがアイラと戦い始めてソラが感じた率直な思いである。

 

 相手の挙動が手に取るようにわかる、度を越した感知能力。

 

 驚くべきことに、それはクリアファンネルにも適用された。

 

 見えないのに、感じる。

 

 覚醒した能力にクアンタのスペックも相まって生じる、圧倒的な戦闘力の差。

 

 だからこそ生まれた余裕を、ソラは戦闘を長引かせることに、その時間でアイラの境遇を改善する策を考えることに使えた。

 

 が、どうにもそれがマズかった。

 

 接戦を装った延長工作は、アイラを必要以上に追い詰めてしまったらしい。

 

 なにも策が浮かばぬソラを尻目に、アイラは自らの意志でエンボディシステムのシンクロ率を上昇させてしまったのだ。

 

 

 焦ったのはソラだ。

 

 何しろ彼の認識でのエンボディシステムは、疑似ゼロシステムとも取れる代物である。

 

 そんな、放っておけば原作ヒロインが発狂しかねない事態を前に、ソラの決断は早かった。

 

 選んだ手段は、原作と同じくアリスタによる意志の疎通。

 

 即ち、内蔵されたアリスタ式GNドライブの直結によるクアンタムバーストである。

 

 

 「アイラちゃんの女子力は未知数だ。フルパワーでいく!」

 

 「はぁ? 何言ってやがる。このまま完封できそうじゃねぇか。クアンタムシステムなんざ、使う必要が……」

 

 

 儀礼的にそう宣言し、対話の準備を始めたソラに嫌な予感を覚えたおやっさんが止めに入るも、時既に遅く、

 

 

 「しかもフルパワーって、装甲吹き飛ぶだろうがっ! 誰が修復すると思ってやがる!」

 

 「今こそ対話する!」

 

 

 おやっさんの必死の制止を振り切り、ソラの意識は粒子の過剰放出と同時に、対話空間へと旅立っていた。

 

 

 そうして、何もない真っ白な空間で二人は対峙する。

 

 何もかもが理解不可能な現象に戸惑う少女と、対話に持ち込んだは良いが、何をどう対話すれば良いのか分からない少年。

 

 行き詰まるのは予想以上に早く、煮え切らない少年の態度に業を煮やした少女が、愚痴を溢し始めたのも、ある意味、当然の成り行きかもしれなかった。

 

 

 「で、あんたが原因なんでしょ、なんなのよ、これ? っていうか何その目!? キモッ!」

 

 「き、キモくねーしっ!!」

 

 

 来るべき対話が始まる。

 

 

 

 

 4、おまけ 壁の中 ロックオフ兄弟

 

 「兄さん、面会に来たぜ」

 

 「悪いな、ライル。なあソラは勝ち進んでいるかい?」

 

 「ああ、決勝トーナメント進出を決めたよ。俺もこれからアニューと応援に向かうつもりさ」

 

 「……」

 

 「兄さん?」

 

 「もしかしてお前、アニューちゃん(15)と付き合ってんのか?」

 

 「あ、ああ。先週から、な」

 

 「……さねぇ」

 

 「え?」

 

 「絶対許さねぇ! テメェは少女を毒する権化だっ!」

 

 「な!? お前だって同類じゃねぇか! フェルトちゃんに手を出して捕まったロリコンさんよぉ!!」

 

 「テメェと一緒にすんじゃねぇ! オレはフェルトちゃんを……!」

 

 「喚いてろ、同じ穴の狢が!」

 

 「咎は受けるさ! お前を殺した後でなぁッ!!」

 

 「おい、面会は終わりだ」

 

 「あ、監守さん!? これはその違うんスよ! 弟のヤツがですね……」

 

 「お前、長くなりそうだな」

 

 「……よぉ、ライル、満足か? こんな社会で」

 

 「兄さんっ」

 

 「オレは、いやだね」

 

 

 似たもの兄弟の話 完

 

 




 お読み頂きありがとうございます。

 後編も、なるべく早く投稿しようと思います。

 次回こそ、量子化SUGEEEEと、アイラちゃん救済編の予定。

 今回も感想お待ちしています(直球)。


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