アレンの冒険[世界は広いなぁ~]編 (チョモランマ斉藤)
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旅立ちの時
1話


 

 

 

とてもとても大昔のお話。

まだ世界に朝も夜も無かった、そんな昔の時代のお話。

 

光のモノと闇のモノ

 

争いの理由はわからない

 

とにかく、2つの大いなる存在が衝突した

 

最初の衝突で大地が5つに割れた

 

闇のモノが全てを飲み込む暗闇を創れば

 

光のモノが全てを照らす灯りを創った

 

闇のモノが燃え盛る山を創れば

 

光のモノが命生まれる水溜まりを

 

朝を、夜を、火山を、海を

 

大いなる存在が戦う度に、この世界は荒れ狂い、美しく輝いていった

 

それが、この世界の成り立ち。どっちが勝ったかはわからない…案外、うまいこと世界ができて、満足しちゃったのかもね?

 

 

 

 

「んぁ……っ」

 

聞き覚えのない、だけどどこか懐かしい声で意識が覚醒するのを感じた。と、同時に体のあちこちに痛みを感じて目が覚めた。

 

「目が覚めたか、アレン」

 

俺を呼ぶ声に目を向ければ、こちらを見下ろす見知った顔があった。

木刀を肩に担いで、燃えるように赤い髪をもつ勝ち気な印象を与える美人。どうやら俺は全身をしたたかに叩かれて気絶していたようだ。額には濡れタオルが乗っていた。

俺の戦闘の師匠であり、姉のような存在でもあるフレイ姉。

 

「ぬぅん…なんだ、また負けちまったか」

 

痛む体をなんとか起こし、すぐそばに落ちていた木刀を拾って見てみる。

木刀は半ばからポッキリと折れていて、もう使い物にならなかった。

俺は手にした木刀をへし折られてから、そのまま全身に殴打を食らったようだ。相変わらず、容赦がない。

 

「ふふん、そうやすやすとワタシに勝てるとでも?」

 

いや、いやいや。ドヤ顔で言ってますけどアナタ我が国の最高戦力だからね?

そんな簡単に勝てるなんて思ってないわい!

作戦を練りに練ってのこの結果だよぅ!

うぅん、ちきしょうめ。今回はかなり良いところまで行ったと思ったんだけどなぁ。また作戦を練らなければ……。

くそぅ。次こそは必ずギャフンと言わせてやるぜ……。

だいたいさぁ!強すぎるんだよ!

そして大人げない!昔っからそう!

 

 

「アレン」

 

「ん?」

 

「お前はいつまでたっても世話のかかるヤツだなぁ」

 

「!!」

 

俺がブツブツと心のなかで文句を呟いていると、美しい顔をニヤニヤとさせた戦闘の師匠兼姉がそんなことを言ってきた。

 

カッチーン!おうおう、おうおう言ってくれるじゃねぇか!こちとらアンタら幹部に毎日しごかれて何度死にそうになったことか!

そりゃあ俺は"魔族"と"人間"の"ハーフ"さ!半人前よ!それに俺の義母は"魔王様"さ!強く在らねばカーチャンの顔に泥を塗っちまう気がする!多分だけど!

戦闘訓練だってこの国の最高戦力が直々に指導してくれてるってのも分かってる!でもさ、でもさぁ!

 

「少しくらいは誉めてくれたって良いじゃねーかチキショォォ!」

 

うわぁぁんと泣くフリをしながら、笑う彼女の横を走り抜ける。

泣かないさ、男の子だもの!

 

「………あざっした」

 

戦いの余波で所々崩れてしまっている訓練所から出る時に、お礼を言うのは忘れない。

彼女も忙しいのにこうして訓練してくれたんだからな、毎度の事ながらキチンと手当てだってしてくれている。親しき仲にも礼儀ありだもんな。

 

「ああ、お疲れ、アレン…………しっかりと強くなっているよ、お前は」

 

そんな俺を、フレイ姉が楽しそうに笑って見送るのを当然俺は見ていない訳で。

走りながら

(ああ、次はウィン姉の座学かぁ…体を動かした後だと眠くなっちゃうんだよなぁ。でも寝るとめっちゃ怒られるしなぁ……)

なんて思っているのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

さて、自己紹介が遅れたな。

俺の名前はアレン。アレン・ニンバス。

世界に5つある大陸の1つ。魔族達と魔物・魔獣達が住む"サタナキア大陸"にある、魔王が統治する"ドライグ国"。

 

つまり、俺はこの国の魔王である"魔王ゼノ"の義理の息子でい!

住んでる場所は魔王城!ヒュー!格好いい!

 

歳は17歳。幼い頃に俺は人間と魔族のハーフなんだとカーチャンに教えられた。16年位前に突然玉座に現れたんだってさ。

実の両親は俺が物心つく前に死んでしまったみたいで、それからは魔王であるカーチャンが母親代わりとして育ててくれている。

実の両親を知らない俺にとってはカーチャンこそが母親だ。

 

で、魔王業でなにかと忙しいカーチャンに変わって俺の面倒を幼い頃から見てくれてるのが、我が国の最高幹部かつ、俺にとっては姉のような存在の

フレイ姉(魔王国最高戦力)

ウィン姉(魔術長兼魔王補佐)

アリア姉(隠密部隊長)

シェリス姉(医療長)

 

だ。

 

英才教育と言えば良いのかな?

彼女達から幼い頃より様々な技術を学んでいる……叩き込まれているのが俺の今の現状だ。

 

最初こそなんでこんなに厳しく鍛えられてるのか訳も分からず、言われるがままに訓練をしていたけれど、成長した今となっては正直言って有難い。

なんといってもこの国の中枢を担う人達から直々に指導してもらってるわけだから、この国の極々限られた場所しか知らん俺にとって彼女らの指導が全てだと言っても良い。

あ、あともう一人居たか…ふふふ。

 

 

城のある町を一歩外に出れば、凶悪な魔物や魔獣達が生息していて、ソイツ等と戦う力がなければとてもじゃないが出歩ける環境じゃ無い。

 

「アレン!私の話を聞いてるか?」

 

「あい!!?」

 

と、言うのを今しがた俺を叱った人に昔教わったし、実際に連れていかれて学んだ。強制的に。

だからこその、この厳しい訓練なんだなぁ。と、幼い頃に無理やり納得したのを覚えている。

魔獣に追いかけられながら。

 

 

今教わっている座学のあまりの難しさに軽く現実逃避なんかをしていると、ウィン姉の声によって無理矢理意識を覚醒させられた。

 

 

「たるんでいるようだな。もう一度フレイのところに行くか?」

 

「やです」

 

緑色の長い髪に切れ長の目、10人中9人が美人であると断言するクールビューティーが俺を睨み付けていた。

(残りの一人は多分変態)

俺の魔術と教養の師匠のウィン姉である。この国で一番魔術と常識に詳しい人だ。

カーチャンの補佐役であるにも関わらず、何気に一番長い時間俺に付き合ってくれているのだ。

いつ休んでいるのだろうか、少し心配。

 

「なら、集中しろ」

 

「はい」

 

ウィン姉の脅しに即効で屈しつつ、黒板に書かれている事をノートに写していく。

今日の授業内容は魔力コントロールの応用編。

いかにして体内の魔力を効率良く練り上げて、"魔術"や"魔力纏い"を併用するか。

黒板にはびっしりと文字が書かれており、可愛らしいイラストで魔術を放っている女の子も描かれている。

 

この世界に住む人々は体内にある魔力と呼ばれる力を使用して様々な魔術を扱うことが出来る。

4つの属性からなる、火・水・風・土の攻撃魔術。

攻撃魔術には初級から上級まで様々な攻撃魔術が存在して、上級になるにつれて修得難易度も威力も上がる。

さらには、敵やモノを探したり、様々な回復薬を作ったりする補助魔術なんてのもある。

 

ウィン姉からは、今のところ生存に必要な魔術だけ教わっている。

他は、おいおいなのだと。

 

 

んで、特定の人物しか持たない、又は修得出来ない特別な能力なんかもあったりする。

4つある属性に属さない攻撃魔術であったり、補助魔術であったり。

 

 

そして、主に近接戦闘で使用される魔力纏いと呼ばれる自己強化。

自身の魔力で体を強化して攻撃力やら防御力やらの使用者の身体能力を上げる技術。こちらは武器やモノにも纏わせることが出来る。

 

 

魔術も魔力纏いも、全て綿密な魔力コントロールが必要とされる、この世界で生き残るために必要な技術達。

覚えたからといって終わりじゃなくて、2つの技術は修得した人の錬度によってその性能が大きく変わる。

 

先程のフレイ姉との戦闘訓練では俺が木刀に纏った魔力より、フレイ姉が木刀に纏った魔力の方が上回ったから俺の木刀がへし折られてしまったのだ。

まだまだ修練が足らん結果って奴だね。

 

 

そして、目の前で教鞭を振るうウィン姉。

彼女も、この国の魔術長という肩書きが表す通りに様々な魔術を修得しており、魔力コントロールはこの国随一だ。

身体能力と魔力量の差でフレイ姉には一歩劣るらしいが、それでも多彩な魔術を扱うウィン姉がこの国の戦力の1人である事に変わりはない。

 

というか、身体能力も魔力量も劣ってるのに、あのフレイ姉にたった一歩で済むのが凄い。

俺がもし魔術だけでフレイ姉と戦えと言われたら、瞬殺される自信がある。

てかされた。

 

「アレン、今どれだけの魔術を併用出来る?」

 

「えぇと、2つかなぁ。戦闘で言えば魔力纏いと索敵だよ」

 

「よし。じゃあ次からは追加で攻撃魔術も使えるように訓練してやる。喜べ、訓練中に寝てしまってもすぐに目を醒まさせてやる」

 

全く喜ばしくない事をサラリと言うウィン姉。

ひえぇ……。

ウィン姉もフレイ姉と同じくらい容赦の無い人だからなぁ……。

さっき言った魔術だけでのフレイ姉との戦闘訓練もウィン姉の指示だったし……。

 

 

こうして、俺の訓練漬けの毎日は過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話

 

 

「…………………」

 

うっそうとした木々の生い茂る森のなかで、俺は息を殺して隠れていた。

周りには強力な毒をもつ魔蟲や危険な魔物達も居るが、ソイツ等から隠れている訳じゃあ無い。

もっと危険な相手から逃げているのだ。

 

魔王城から10㎞程離れた場所にある広大な魔の森。ろくに訓練をしていない人が迷い混もうものなら、ものの数分であの世行きな恐ろしい森。

 

そんな森で俺は索敵魔術を全開に展開し、かつ魔力をその辺をうろつく魔物クラスまで下げて魔の森から出ようとしていた。

今の俺ならば、魔力を下げた所でこの辺りに生息する魔物達に遅れをとることは無い。

 

(……行けるか…?)

 

索敵魔術とは自分を中心としたレーダーを展開する基礎的な魔術だ。

自分にとって害のある物、そうでない物を振り分ける便利な魔術。これの精度によって自分の生き死にが掛かっているのだから、真っ先に叩き込まれた。カーチャン直々に。

 

察しの良い皆さまならお分かりだろう。そう、俺は今、隠密部隊長のアリア姉と訓練中である。

勝利条件はこの魔の森からアリア姉の索敵を潜り抜けて脱出すること。

 

(……よし!)

 

焦らず、されど急いで静かに俺は駆け出した。

なんとか森の出口まで索敵範囲が届く距離まで近づく事が出来た。アリア姉程の魔力が索敵に引っ掛かれば一瞬で気付くし、何よりこの距離だ。フレイ姉に鍛え上げられたこの俺の脚力をもってして抜き去ってくれる!

 

「!!!」

 

森の出口まで残り2㎞といったところで、俺の索敵範囲に危険を感知する反応があった。

俺の後方数㎞離れた所だ。この反応は間違いなくアリア姉であり、恐ろしいスピードで迫ってきた。

 

だが!しかし!ふはは!甘いぞアリア姉!!シュラール産の蜂蜜がごとき甘さよ!!森の出口まで俺は残り500m!反応はまだ3㎞後方!勝った!ついに!俺は!幹部が一人を打ち破る程に成長したのだ!うはははは!

 

全速力で走り出した俺は笑みを浮かべて勝ちを確信した。今の俺のスピードの方がアリア姉より僅かに早い。たとえヨーイドンで駆け出しても俺の勝ちは揺るぎ無いのだ!!ゴールは目前だァ!

 

「ふはは!遂に勝ったぞ!やれば出来る子なんだよぉ!!」

 

 

 

 

「ふーん、誰が?」

 

 

 

隣 か ら 声 が し た 。

 

 

「ん?誰が、誰に勝ったって?アレンちゃん?」

 

楽 し げ な 声 が 、 隣 か ら し て い る 。

 

うわぁぁぁあ!!?アリア姉!?なんで!?隣からなんでぇ!?

 

俺は心底驚いた顔で声のする方を見た。そこにはニコニコと笑いながら汗1つ流さずにピッタリと俺に並走する黄色い髪を三つ編みにした、可愛い少女の姿が!!

 

「はい!ざんねーん!今日もアレンちゃんの負けだねぇー!」

 

「 」

 

出口目前にして俺は捕まった。捕獲された。

 

なんで!?反応めっちゃ後ろだったじゃん!!隣に反応なんて無かったじゃん!??分身!?分身したの!??飛んできたの!??

 

「へっへー!アリアさんお得意の転移魔術だよー!」

 

ピース!ピース!と、天真爛漫に言い放つアリア姉に俺は驚きを隠せない。

 

転移魔術。この世界で貴重な魔術の1つであり、取得者は殆ど居ないとされている。

自身を狙った場所に文字通り転移させる魔術で、使用者は膨大な魔力と引き換えに空間転移を可能とする。

転移範囲は使用者によって様々との事だが(ウィン姉談)、少なくともアリア姉は数㎞先から飛んでくる事が出来る。てか出来た。

 

無論、アリア姉が転移魔術を得意としている事など分かっていた事なのだが、俺が驚いているのはソコじゃあない。

 

彼女が魔力を抑えた状態で、かつ、猛スピードで移動しながらこの魔術を行使したことに俺は戦慄を覚えたのだ。

 

本来、この魔術を使用する際には大量の魔力を使用する。発動時はもちろん、転移先でも、だ。

それにめちゃくちゃな集中力を必要とし、何か別の行動をしながら転移を行う等もってのほか。狙った場所に飛べずに、転移先が地面の中でしたーなんて、笑えない事態になる。

 

突然隣に現れた程度であれば感知出来るし、すぐさま迎撃に移ることだって今の俺ならば可能だ。

それだけの訓練をフレイ姉としてきたのだ。余裕よ余裕。

 

今まではアリア姉の転移魔術を感知し、接近された瞬間に戦闘態勢を取り、迎撃→ボコられる

この流れだったのだが、今回は俺に感知などさせずに捕獲してみせたのだ。

いったいどれ程の魔力コントロールが必要なのか。

全く検討がつかない。

 

「え、なに、そんなん出来たの…?今までのは遊びだったの…?」

 

「うん!」

 

にっこーっと笑う彼女に俺はこの勝負に勝つことは不可能なのではないかと思うのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ずるくね!?あんなん勝てないじゃんよ!」

 

「あらあら、うふふ」

 

薬品の匂いがツンと鼻を刺激する、そんな部屋で俺は、アリア姉の力のあまりの理不尽さに、憤慨しながら魔の森で採取してきた薬草達を選り分けていた。

 

怒れる俺の目の前で穏やかに笑う緑色の髪の乙女は我らが魔王国の癒し手、俺の最後のユートピア

シェリス姉。この国の医療長である。

 

今俺は、アリア姉との訓練の愚痴をブツブツ言いながら薬草を治療用、毒物用とに分けている。

魔の森は入るものを選ぶ怖い森だが、薬草の宝庫でもある。

薬草も多種多様あり、医療用に使用される物から、無味無臭の劇毒の材料まで、かなりの種類の植物が生息している。

 

俺はシェリス姉にそんな薬草達の知識と精製方法を教わっていた。

ちなみに、俺はこの訓練?授業?が一番好きである。

ウィン姉の座学も面白いっちゃ面白いのだが、たまに実技があるものの、大体が座りっぱなしで話を聞くだけの授業が眠くて眠くて……まあ、寝たらめちゃくちゃ怒られるが。

 

だが、この授業は実際に作業しながらな事が多いので、俺は気に入っていた。

シェリス姉は優しいしね!

 

しかし、そんなシェリス姉だが怒らせると一番怖い。

かつて、まだ俺が9歳かそこらの頃かな、採取した薬草で勝手に薬品を精製してしまった時には烈火の如く怒られた。

どうやら回復薬を作るつもりが、どうやってか劇毒を作ってしまったらしい。

 

らしい、というのは当時の俺があまりの恐怖に失神してしまい、その時の記憶を完全に忘れてしまっていたからだ。

あれ?なんかシェリス姉機嫌悪くね?なんて思っているとアリア姉が教えてくれた、真顔で。

 

後日、二人にも怒られるのを覚悟でフレイ姉とウィン姉に事情を話して、なんとか着いてきて貰ってシェリス姉の元に謝りにいったのだが、シェリス姉の余りの剣幕に2人が俺を庇うというなんともカオスな展開となっていた。

 

「皆アレンの事を可愛がっているから、格好いい所をみせたいのよ」

 

昔のトラウマを思い返しながら作業をしていると、シェリス姉が微笑みながらそんな事を言っている。

 

「俺としては、早く一人前と認めて貰いたいんだけどなぁ」

 

勿論、カーチャンを含め、幹部の全員から愛されているという自覚はある、認めるのは非常に恥ずかしいけど。

訓練は厳しいが、厳しさの中に愛情も感じている。

それぞれ多忙な業務の合間に俺を鍛えてくれているのだ、その事に気付かない程子供じゃあないと思いたい。

しかし、俺だって男だし、もう17歳なのだ、物語の英雄達は俺くらいの歳にはもう偉業を達成している。

 

「ふふふ、どうだろう、アレンってまだ少しおっちょこちょいなところがあるからなぁ」

 

シェリス姉が微笑みながら言う。

俺は少しバカにされたような気がしてムッとしてしまった。

それがきっかけとなって手元が狂ってしまい、回復薬の精製を失敗してしまった。

 

「あっ」

 

「ほら、ね?」

 

………ぐぬぬ。

 

 

 



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3話

 

 

「聞いておくれよ!べーやん!」

 

自室にて、俺は人形に向かって話しかける。

かわいらしい熊のような魔獣の形をした人形に。

 

おっと、俺の正気を疑っているな?安心してほしい。俺だって他人がこんなことをしているのをはたから見ればヤベー奴じゃん!と思うだろうさ!

しかしだ。

 

「あーん?どしたい、アレンよ」

 

なんとこの人形、生きているのだ!

出会いはいつだったろうか。俺がまだガキで、訓練を始めたばかりの、泣いてばかりいる俺に声をかけてくれたのが始まりだったと思う。

いつの間にやら俺の部屋にあって、ガキの頃から俺を励まし、時には叱り、女性だらけの生活において俺の大切な相棒のような、アニキのような、そんな人形さ。

それに、ウィン姉が教えてくれない事も教えてくれる。

 

 

「今日こそアリア姉に勝てるかと思ったんだが、凄まじい精度の転移魔術を披露されてなにも出来ずに捕獲されてしまったんだが!!」

 

そう、俺は日々の鬱憤を良き理解者でもあり、頼れるアニキのべーやんにぶちまけているのだ。

シェリス姉にも泣きつくけどな!!

 

「ほほう?そりゃ、良かったじゃねぇか、成長の証だぜ」

 

「ええ?どこがさ、なにも出来なかったんだぜ?」

 

べーやんに訓練での手痛い敗北を報告すると、彼はいつもポジティブに俺を励ましてくれるのだ。

 

「今までは、格闘戦の末に捕らえられてたんだろ?それが今回はそれを回避してまでアレンを捕らえることに全力を出した…そう考えられねぇか?」

 

「うん?」

 

「つまりだ、もし今のアレンと格闘戦になったら、アリアの嬢ちゃんは負けちまうかも知れねぇと思ったのさ、だから今回は切り札を切った」

 

「!!」

 

ほほぅ…なるほど?

確かに、最近俺はフレイ姉とぶっ通しで3時間は闘える程に成長している。

最初の頃は2秒と保たなかったのに。

それにアリア姉は戦闘において格闘戦が得意な方ではない。

最近は俺もそれを見越して、最後のおいかけっこでアリア姉を倒して訓練を勝利で飾ろうとしていたくらいだ。

ははぁん?納得。

 

「つまり、俺は……あのアリア姉の本気を引き出させてしまった…?」

 

やだー!俺ってばしっかり成長してるじゃなーい!!ガハハハ!勝利は目前かぁー!?

 

「ま、次からの問題はお前に一切感知させずに接近出来る相手をどうやって対処するか、なんだがな」

 

「…………………おっふ」

 

これである。べーやんは俺を励ましてくれるが、キチンと次の問題点を容赦なく突きつけてくるのだ。

優しく受け止めてくれるシェリス姉との違いはこれだ。

 

確かに、フレイ姉みたいな真っ正面からの格闘戦ではアリア姉を倒せるかもしれない。

しかし、アリア姉との訓練はそういった訓練ではないのだ。

最高の隠密行動を取ってくる相手をいかにして出し抜き、目標を達成するか。

たとえ俺がガン待ちスタイルで待ち構えていたとしても、アリア姉ならば別の方法で俺を捕縛するだろう。

本気を出したとはいえ、底が見えたかと聞かれれば、間違いなく否だ。

既に俺の方が強いかもしれないが、それはあくまでも仮説である。

制限時間もあるしね。

 

「ぐぬぬ…」

 

「はっはっは、しかしアレンよ、お前も随分と立派になったなぁ…泣きべそばっかりかいていたあの頃とは大違いだ」

 

「俺だって成長するさ、相手が悪いだけだよ」

 

「ははは、違いない」

 

べーやんとそんな話をしながら思い返してみる。

 

物心ついた頃からずっと訓練漬けの毎日

最初は何度死ぬ目にあっただろうか。

フレイ姉との格闘訓練では決して軽くない傷を毎日負っていたし。

ウィン姉との魔術訓練では燃やされたり凍らされたり、地面に生き埋めにあったり、大空に投げ飛ばされたり。

アリア姉との索敵訓練では最初は魔の森で生存するのが精一杯で。

そんな生傷耐えない俺を癒してくれたシェリス姉でも、訓練では毒の効果を身をもって味あわされたりした。

 

何で自分はこんな辛い目にあっているのだろうと、何度も挫けそうになってべーやんに毎日泣きついていた。

しかし、そんな俺を毎日べーやんは励まし、姉達の気持ちを代弁し、俺が決して腐る事の無いようにフォローしてくれたのだ。

 

しかし、それでも、耐えきれない時もあった。

一度だけカーチャンに聞いてみたことがある

俺の事がキライなのか、と。

 

そう聞かれた時のカーチャンの悲しそうな顔が今でも忘れられない。

 

俺の周りの人達はべーやんと4人の姉と、この国の魔王であるカーチャンだけ。

魔王城での生活は訓練と勉強漬けの毎日で、友達なんてべーやんしか居なかったし、魔王城の人達も子供ながらに分かるくらいにはよそよそしさを隠しきれてはいなかった。

 

外の世界には何があるのだろう。

そう考えるのにそれ程時間はかからなかった。

カーチャンとウィン姉にねだって買ってきて貰った沢山の本を読んだ。

俺の部屋には沢山の本がある。何度もワクワクしながら読んだ、世界各地の英雄達の活躍が書かれた英雄譚。

 

世界には俺達魔族や魔獣達だけでなく、様々な種族が住んでいるというのも、本で読んで知った事だ。

そりゃそうだよな。なんたって俺自身が人間とのハーフなんだ。人間の住む大陸だってあるわな。

 

世界各地に居る冒険者なる存在も本で読んで知った。

冒険者の活躍が書かれた本には

強大な魔物を仲間と共に倒したり

ダンジョンの奥深くでお宝を発見したり

助けた人と恋に落ちたり

そんな、自由に生きている冒険者達の生活が物語には書かれていた。

今の俺とは……違うよなぁ。

 

幼い頃にフレイ姉とウィン姉に聞いてみた事がある。

ドラゴンに勝てる?と。

返答は無かったが、2人とも不敵に笑っていた。

きっと、それが答えなんだろう。

 

だからこそ、今まで以上に必死で訓練に取り組んだ。

一人前になったら、もう訓練なんて必要ないぜ!ありがとう!

とか言って旅に出てみたいと思った。

 

鍛えられてきたから分かる。

姉達の実力が生半可なモノではないと。

サタナキアの歴史だって学んだんだ。

この大陸で長年魔王として君臨し、それをサポート出来る姉達。それがどれほど凄いことなのか。

 

そんな人達に鍛えられた俺だ。外の世界でも生きていく事は出来るんじゃないか?

なんて、考えてしまう。

 

 

「…………」

 

「アレン?どうした、いきなり黙りこくってからに」

 

「なあ、べーやんよ」

 

「んー?」

 

「世界って、どんなだ?」

 

「おー、世界か…」

 

────面白いぜ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ある日、俺は少しだけ決意をしてこの場に座っていた。

広いテーブルには、カーチャンや姉達も座っている。

部屋の隅ではメイドさん達が控えている。

 

 

「なぁ、カーチャン。俺、冒険者になって良いか?」

 

「いきなり何言ってんのアンタは」

 

俺がカーチャンを悲しませちまったあの日から、よっぽどの事が無い限りはこうして親子で食卓を囲んでいる。

ある程度食べ終わって、食後のお茶でも啜りながらまったりしているときに俺はカーチャンに聞いてみた。

俺の突然の言葉に周りのメイドさん達がビックリしてこちらを見ていた。

同席していた姉達もそうだ。

 

「アレン、アンタ、またあの人形に何か吹き込まれたの?」

 

カーチャンがジト目で俺に聞いてきた。

吹き込まれたとは失礼な!べーやんは何時だって俺を励ましてくれるのだ!親友をバカにするない!自分で考えた事だい!

 

「違うよ!ただ世界って奴をこの目で見てまわりたい…そう思ったのさ」

 

キラーン☆と効果音がつくようなニヒルな笑みを浮かべて俺はカーチャンに答えた。

 

「アンタにはまだ早い」

 

「そ…そうだぞ、アレン!」

 

カーチャンは即答し、フレイ姉にも否定された。

 

「あの人形は関係ないと言っていたが、どうしたのだ、いきなり」

 

「そうだよ!どうしちゃったのさアレンちゃん!」

 

「うふふ」

 

ウィン姉とアリア姉が聞いてくる、シェリス姉は穏やかに微笑んでいた。

手にしたティーカップがカチャカチャと音を立てていたが。

 

「いきなりって言われてもな、皆との訓練で俺もある程度の力はつけたし、見聞を広めるために外の世界を見てまわるのも良いんじゃないかって思ったんよ」

 

「ダメ」

 

「なんでぇ!?」

 

カーチャンは取りつく島もない。しかし、俺にはべーやんという優秀なブレインが居るのだ。

考え無しでこんなことを言うと思ったか!?

はじめから断られるのは想定済みさ!うおぉ!頑張れよ俺の舌ぁ!

 

「戦闘能力はフレイ姉に鍛えられた、今では数時間は打ち合えるし、何本か良いのも入れられるようになった。この国の最高戦力にだぜ?そんな俺が有象無象にやられるなどフレイ姉に申し訳が立たない…いつもありがとう、フレイ姉、大好き」

 

「え?あ…うむ」

 

よし

 

「戦いの魔術を初め、生きていく上で必要な魔術に、この世界の知識もウィン姉に丁寧に叩き込まれた。そんな俺が外でヘマをやらかせば、それはもはやこの国の恥だ。それくらいの自覚が持てるくらい感謝してるよウィン姉、大好き」

 

「…ふむ」

 

よぉし

 

「今の俺の探索系魔術の精度を知っているかい?様々な生物達が生息している魔の森でだって小さな石ころ1つを探し出せるくらいには研ぎ澄まされている。これも全てアリア姉の鍛練の賜物だよ、もうほんと感謝感謝、大好き」

 

「えへへ…」

 

よしよぉし

 

「自分の腕が取れたくらいの怪我なら秒で治せるレベルの治癒魔法に、様々な薬草の生息場所から、解毒薬、回復薬の精製方法が今の俺の頭の中には入っている。もうこの知識だけでも世界で食っていけるんじゃあ無いかってくらいシェリス姉に教わった。感謝感激雨あられ、大好き」

 

「あら…あらぁ」

 

よぉしよぉし!

 

 

「そして誇り高き魔王ゼノの一人息子であるこの俺が、世界に通用しないとでも?今なら分かる。全て愛ゆえに。愛ゆえに幼い頃から最高の教育を授けてくれたお母様には心より感謝しております。愛してるラビュー」

 

「…ふん」

 

よぉぉぉぉし!!

 

「だからこの俺、アレン・ニンバスは皆の恥にならぬように、皆が誇れるような冒険者として世界に羽ばたこうと思います!!良いですね!?」

 

「ダァメ」×5

 

「なぁんでさぁ!!!!」

 

俺はグレた。

 

 



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4話

 

 

「おかえり、どうだった?」

 

「ダメだった」

 

 

即答である。

部屋に帰りつくなり軽い感じで聞いてくるべーやんに俺は落ち込みながら答えた

 

 

「ちゃんと愛してるとか大好きとか付け加えたかー?」

 

「言ったよ!めちゃくちゃ恥ずかしかったけどちゃんと言いましたよボカァ!思春期に何言わせとんじゃい!!」

 

 

激昂である。

このぬいぐるみは思春期に何を言わせているのか小一時間問い詰めたい気持ちで一杯だった。

珍しく照れている皆は新鮮だったけれども、俺はそれ以上に照れていたのだよ!

 

 

「あれぇ?おかしいなぁ…アレンに言われたら一撃だと思ったんだがなぁ」

 

「全員からダメの一言だったよ!」

 

 

本気で理解できないといったようなこのクマちゃんをどうしてくれようか。

 

 

「で、どうする?」

 

「へ?」

 

頭の中でこのぬいぐるみをいかにして蹂躙してやろうか考えていると、真面目な声色でべーやんが訊ねる。

 

 

「諦めるのか?」

 

「うーん…」

 

 

正直、一回で説得が成功するだなんて思って無かった。あわよくば、といった程度だ。

だけど、あそこまで聞く耳を持たれぬとも思って無かった。取りつく島もない程の即答で拒否された。

 

ぬーん。こんなに頑張っている俺を少しは認めてくれたって良いじゃないか。

皆に言ったことは間違いなく本音なのにさぁ。

俺があそこまで赤裸々に言ってあえなく無下にされてしまったのだ。ろくに理由すら教えて貰えずに。

 

ふっふっふ。ならばこちらにも相応の考えがあるというもの。

 

 

「抜け出すか、城」

 

 

俺はニヤリと笑ってべーやんにそう言った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いきなりどうしたのでしょうか、アレンは」

 

「………」

 

「ここの生活が嫌になったのかなぁ…」

 

「バカを言うな、アレンに限ってそんな事」

 

「でも、今まで外の世界に行ってみたいだなんて、聞いたことがなかったよ?」

 

「ではやはり、あの人形か…?」

 

 

魔王補佐であるウィンが魔王ゼノに問いかけるも、ゼノは口をつぐみ、何かを思案していた。

 

食後のひと悶着のあと、魔王と幹部達が1室に集まり緊急会議と称して話し合っている。

 

アリアが落ち込みながらポツリと呟けば、すぐさまフレイがそれを否定する。

 

シェリスがこれまでのアレンの態度におかしな所など無かったことを伝えれば、幼い頃よりアレンの部屋に居るという、アレンがべーやんと呼び慕う謎の人形が幹部全員の頭に思い浮かぶ。

 

 

謎のクマのぬいぐるみ、べーやん

 

 

幼いアレンが数回、魔王を含め幹部全員に見せてくれたことがあった。

はじめは子供特有の妄想かと思っていたが、なんと、自分の意思をもって言葉も話すではないか。

 

 

ウィンによって調べられた結果、非常に高度な魔導生命体では無いか、との結論に至った。

ウィンとしてもこの結果に納得出来るものではなく、解剖して詳しく調べたいところではあったが、友達をいじめないでとアレンに泣きわめかれれば、ウィンとしても引き下がるしかなかった。

 

 

魔王ゼノとしても、そのような奇妙な物体を幼い我が子に買い与えた記憶も無ければ、アレンが自分で魔の森で拾ってきた形跡もなかった。

ならば、元々魔王城にあったのか。

 

クマ本人(?)に聞いてみても煙に巻くように誤魔化される。

分からんと、気がついたらここにいたと。

本心なのか、何かを隠しているのか。

魔王ゼノであっても見極める事は出来なかった。

 

結局、アレンは懐いているし、特に害は無いと判断され、アレンの部屋に妙に口のまわる奇妙な同居人が住み着くこととなったのだ。

 

 

「アレンは、私の息子だ」

 

「?…ええ」

 

「性格は、お前達や……癪だが、あの人形のお陰で、明るく育った」

 

「我々としても、自慢の弟です。ゼノ様」

 

不意にポツリとゼノが呟く。

フレイは自分の主が何を言わんとしているか今一図りかねていたが、胸を張って家族であることを誇った。

 

 

「だが、根底は私の性格を良く受け継いでいる」

 

「はあ…」

 

 

いきなり何を言い出すのだろうこの主は。

雪のように真っ白な肌に、これまた雪のように真っ白な髪。

同性の自分からみても寒気すら感じるほど美しいと思う自分の主に、フレイは曖昧な返事をする。

 

 

「部屋に行くぞ、息子は、すぐに行動に移すはずだ」

 

「!!!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「アレン、いるか」

 

コンコン、と

アレンの部屋の扉をゼノはノックする。

 

 

「……アレン?」

 

 

いつもならばあの人形と楽しげな会話をしている時間帯だが、返事がない。

まだ眠るには早すぎる。

 

後ろに控えた幹部達から少しばかり動揺した様子を感じたゼノはアリアに目配せをする。

アリアに索敵魔術を使用させ、部屋の中の気配を探る。

たとえ家族であってもここから先は息子のプライベートな空間であり、母親であっても立ち入ることは気が引けたが、事態が事態だ。

 

「ゼノ様、反応はあります」

 

「………アレン、入るぞ」

 

アリアの言葉にコクリと頷き、ゼノはアレンの部屋の扉を開けた。

 

 

 

「よう、遅かったな」

 

 

魔王と幹部を出迎えたのは、空いた窓からそよぐ夜風と、アレンのベッドにちょこんと座ったお喋りな人形ただ1人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 




べーやんを「人形」から「ぬいぐるみ」に変更しました。


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5話

 

 

「……キサマ」

 

「おいおい、落ち着けよ。俺みたいなプリティなクマちゃんになんて殺気向けてるんだよ!」

 

軽口をたたくクマはまずは捨て置く。

軽く見た限りではあるが、部屋にアレンの姿はなく、乱雑に開けられたままのクローゼットに、物の散乱した机。

本棚には、英雄達の物語が整理されて並んでいた。

 

「ゼノ様」

 

「任せる」

 

ウィンが短く声をかけ、ゼノが頷くと、幹部達は部屋から姿を消した。

 

「あらら、華やかだったのに一気に冷ややか」

 

「キサマ、ふざけるのも大概にしろ…アレンはどこだ」

 

「あん?どこってそりゃ…新天地だろうさ、此処じゃ無い、な」

 

べーやんがヘラヘラとそう答えた瞬間

キィンッ!と一瞬にしてアレンの部屋が凍りつく。

魔王ゼノ。ドライグ国魔王にして、絶対零度の女王、その魔術は氷龍ですら凍え殺す。

一部の、極々限られた者しか修得できない氷魔術。

魔王ゼノを魔王たらしめる、彼女の魔術。

 

 

「下らん問答は無しだ、答えろ」

 

「わかった、わかったよ…アンタの精鋭達が探し始めたんだ、今さら俺が言わなくても、見つかるのも時間の問題だと思うがね」

 

 

自身以外の部屋一面を凍らされ、魔力の籠る鋭い氷柱に矛先を向けられていてもなお、軽口を止めないぬいぐるみにゼノは静かに凍てつく殺気を放つ。

 

 

「まてまて!俺だってアンタとサシで話したかったんだ、氷の魔王よ。こんな機会が無いとお互い話しなんて出来ないだろう!?だからよ、腹を割って話そうぜ!?」

 

「キサマの腹に綿以外の何が詰まっているか見てやろう」

 

「いや猟奇的ィ!いちいち物騒なんだよアンタは!」

 

「黙れ、キサマの存在がアレンの人格形成に少なからず影響を与えたなどと思うと、虫酸が走る」

 

「ひどぅい……」

 

 

このクマとアレンの返答の癖がどうにも似ていると思わざるを得ない。

それくらい、2人は長い間共にいたのだ。

それが悪いこととは思わない、だが、母親としては認めるのは癪だった。

 

ゼノは凍ったアレンの椅子を、自らの苛立ちを表すかのように無理やり引き抜き、腰かける。

 

幹部達の能力ならば今のアレンでも逃げ切るのは不可能と考えたゼノは、アレンが親友と呼び慕う不可思議なクマと対話してみることにした。

砕くのは後だ、戻ったアレンが悲しむかもしれない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「よし、まあ…なんだ、俺だってアンタ達の敵って訳じゃない、それは分かってくれ」

 

「…………」

 

「アレンは大好きさ、弟のように思ってる」

 

「…………」

 

「まだガキだった頃のアレンがアンタ等を嫌わないよう憎まないよう随分とフォローに苦労したもんだぜ?」

 

「…………」

 

「……壁と話してるみたぁい」

 

「続けろ」

 

「ハイ……で、だ。アンタ達の教育ってのは、良い。戦闘面や知能面でも既に並みいる実力者達と遜色無いレベルにまで高まっている。」

 

「………」

 

「けど、今のままではアレンに与えられないモノがある」

 

「経験か」

 

「分かってるじゃん……いやゴメンて、いちいち砕こうとしないで」

 

「続けろ」

 

「アンタも言っているとおり、アレンには圧倒的に経験値が足りない。城と、魔の森の往復の毎日。アレンが知っているのはこの窓から見える外の景色と、本の中の物語だけ」

 

「………」

 

「それだけが、アレンの世界だ」

 

「………」

 

「アンタも分かっているだろう?いくら知識を深めたところで、実際に経験して、体験しなければ所詮はただ知っているだけ、ただ理解した気になっているだけだ」

 

「………」

 

「良い機会だと思ったぜ。アレンが外の世界に興味を持ち、外の世界で生きていけるだけの力は十分に備わった……なぜ好きにさせてやらない?」

 

 

 

「寂しいから」

 

「おおい!!うっそだろ!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「腹を割って話そうとキサマが言ったはずだが」

 

 

ゼノの返答にべーやんが驚く。

流石に予想できなかったようだ。

べーやんの驚愕をなど知らぬように淡々とゼノは言う。本人はいたって大真面目だ。

 

 

「キサマとて、煙に巻く返答など必要なかろう…ならば、事実を言おう、今さらアレン無しの生活など考えられん」

 

 

魔王として君臨し、優秀な部下達に囲まれている。これからも変わらずに魔王としてこの国を治めていくつもりでいた。命尽きるまで。

 

しかし、突然現れた赤子のアレンによって我々5人の生活が一変した。

ゼノが魔王となって暫くした時の、ようやく魔王業にも慣れてきた時の話だ。

 

 

子育ての経験など無い。

もっといえば、若い頃から今までずっと戦いの中で生きてきたのだ。これまでだって他人の子供とすら接したことは数えるくらいしか無い。

 

アレンが赤子の内はとても苦労した。何をやっても泣き止まず、何を食べるのかすら分からなかった。赤子には何が必要なのか。何も分からなかった。

 

自身の母を頼ろうにも、すでにこの世に無い。

自分がかつて育てられたようにアレンに接して良いものか。

この子は純粋な魔族ではなく、ハーフだ。

 

1人で四苦八苦していると、魔王業が少しばかり疎かになってしまった。

見かねたウィンが周囲の子を持つ親に話を聞いて回り、自分でも調べて、手伝ってくれた。

 

外に出ることの少ないシェリスが、自身の研究室で幼いアレンの面倒を見てくれた。

 

アレンがある程度成長して、その辺の棒なんかを振って遊んでいるのを見たフレイが遊び相手になっていた。

 

アレンの中に特別な力が備わっていると気付いた時には、アリアにも相手をするように言った。

 

気が付けば、心より信頼している部下達と協力しての初めての子育てが始まっていた。

部下達も子育てなど初めての経験だったので、何が正解なのか分からないままにアレンと接していた。

 

魔王としてこの国を治めなければならない。

自然とアレンと接する時間は他の幹部達よりも少なくなる。

だが、それでも暇を見つけては様子を伺いに顔を見せた。

 

笑うのだ。とても。この子は。

何が楽しいのか、あんなに泣いてばかりだったのに、顔を見るとお母さんお母さんとヨタヨタと寄ってきては、抱きついて笑う。

 

アレンを抱き止めながら私もきっと、笑っていたのだろう。

 

母性というのだろうか。それが芽生えるまでにそう時間はかからなかった。

だが、サタナキアは特殊な大陸だ。強くならねば生きてはいけない。

だからこそ幹部達に本格的なアレンの訓練を命じた。

幸いにしてこの国の各分野でのトップが集まっている。

部下達の能力を信頼している。だから訓練にも口は出さなかった。

 

アレンの訓練は厳しいものになるだろう。自分がそういう指示を出したのだ。辛かったが、全てはこの子の為だ。アレンに嫌われるかも知れないと考えた時には身が張り裂けそうな気持ちだった。

 

現に、ある日アレンが泣きながら僕が嫌いなの?と訴えてきた時には計り知れないショックを受けたものだ。

その日から、なるべく親子の時間と言うのだろうか、そういった機会を設けるようにした。

 

随分と辛い思いをさせただろう。

しかし、それしか無いのだ。

この世界で生きて行く。そのためには。

愛しい我が子。血の繋がりなど無くても、愛している。

 

魔王ゼノにとって、アレンとはそれ程大切な存在であった。

と、同時に、このクマに対して自分の嘘偽りのない答えを伝えることは、やぶさかではなかった。

 

 

魔王となる前も、魔王となった後も。

それなりの修羅場を潜ってきた。

相手が自分を害する存在なのかどうなのか、言葉が嘘偽りにまみれているのかどうか

それこそ、経験で分かる。

 

いつの間にか子育てに参加していた不思議なクマ。

アレンに聞けば、落ち込んだりすると自分を慰めてくれるし、ゼノ達5人を必死でフォローしてくれていると言う。

 

べーやんは、心よりアレンを。そして魔王ゼノと幹部達ですら同様に案じていた。

仮に、べーやんが居らず、不器用な彼女等の教育だけでは、家族の形は間違いなく歪んだモノとなっていただろう。

 

 

そのような、ともすれば恩人と言っても良い程の者に対して心無い問答など、魔王としての矜持に反する。

 

 

それはそれとして、アレンに1番信頼されているっぽいこのクマに嫉妬し、感謝している等の言葉の代わりに、どうしても辛辣な言葉を投げつけてしまう母親なのであった。

 

 

 

 

 



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6話

 

 

魔王達が部屋に訪れる前、アレンの部屋にて。

 

 

「よぉし!準備は出来たか!?アレン!」

 

「完璧ぃ!」

 

 

必要なものや大切なものを詰め込んだリュックサックを背負い

べーやんにサムズアップして応えた俺は、改めてべーやんと共に考えた家出計画を振りかえる。

 

① べーやんに俺の魔力を移す。で、まだ部屋に居ると思わせる

 

② 最初は短距離での連続転移魔術を使う(100m刻み)

 

③ 5㎞程距離を稼いだら、そこからは魔力を解放して全力疾走で北にある祠を目指す

 

④ 毒の沼に囲まれた祠の前にある台座に掌を乗せれば扉が開くので、そこに入る

 

 

⑤ 世界が俺を待っている!

 

ビューティホー…完璧すぎるな、この作戦!

さて、この作戦を解説しよう!

 

まず①だが、これは武器を魔力で強化を施すのを応用する。

魔力纏いを使ってべーやんに俺の魔力を纏わせる。

他人に魔力を直接付与することは今の俺にはまだ出来ないが、ベーやんはぬいぐるみだから、可能だ。

フレイ姉に魔力纒いの基礎から教わった。

 

 

次に②、一気に長距離の転移魔術を使うと、大量の魔力放出により俺の居場所がバレる、つまり①のカムフラージュが無駄になる。

探知されてすぐにアリア姉あたりに捕縛されてしまう為、魔力を抑えて距離を稼ぐ。

俺だってアリア姉程ではないが転移魔術を使用できる。

カーチャンから必要な時以外は使うなと言われていたが、今がその時だろう?

こっそりとアリア姉の技を見て練習していた。

 

 

そして③、距離を稼いだら目的地に向けて一直線!

余計に魔力を消費する事なく体を強化して俺の最大速度で走り抜ける。

魔力コントロールはウィン姉に教わった。

 

んで、④。

目的地である祠の周りには多種多様な強烈な毒を放つ植物や、沼があるらしい。

なので、俺はこれらの毒を解毒しながら進まねばならない。

べーやんが言うには、複数の毒性生物達が共生しているため、必ずそれぞれに適応した解毒薬が作れる、との事。

俺は瞬時にそれを見極め、解毒薬を作らねばならい。

シェリス姉との授業の腕の見せ所だ。

 

 

 

最後の⑤

べーやんから教わった、俺が世界へ羽ばたく為のスタート地点、らしい

中に入れば後はこっちのもので、なりふり構わず台座にタッチしろとの事だった。

 

 

まあ、正直?しょーじき、穴だらけの作戦だと思う。

もし、カーチャンが俺の家出に気が付いて連れ戻そうと放った追っ手が、姉達だったなら、それだけで失敗だ。

 

 

気付かないかもしれない。

そしたらのんびり時間をかけて解毒薬を作り、祠へ入れば良い。

 

だが、気付く。間違いなくカーチャンは気付く。

 

そして、間違いなく追っ手は姉達の誰か。

もしくは、全員。

 

 

つまり俺は最初の試練として、姉達を越えなければならない。

今まで一度も勝てたことのない相手に対して

俺は今日、勝利しなければならないのだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「よっしゃ、最終確認だ!祠へのルートは覚えたな?アレン!………アレン?」

 

「…………」

 

べーやんが俺に問いかけてくるが、応えることが出来ない。

怖い。

正直、怖い。

 

このまま行動せずに、もしも、カーチャン達が俺が居るか確認しに来た時に

 

お?どしたん、皆そろって。遊びに来たのか?よっしゃ!なにする?

 

なんて惚けてみたら、明日もきっと変わらない日々がやってくるはずだ。

 

フレイ姉に鍛えてもらって

ウィン姉にたくさん教わって

アリア姉と追いかけっこして

シェリス姉に癒されて

 

そして、カーチャンに今日一日の出来事を話すのだ。

んで、部屋に帰ってべーやんと次こそ勝つぞと作戦会議をするんだ。

 

 

そんな変わらぬ毎日が、やってくるのだ。

そんな、幸せな時を、俺は今から手放そうとしている。

 

 

「……やめるか?何せ急に練った作戦だ。いやぁ…作戦ですらない。ただの、たらればの繋ぎ合わせだ」

 

 

べーやんが俺に聞いてくる。

俺は、俺は、俺は………。

 

 

俺は自分の頬を思いっきり叩いた。

 

 

「ごめん!弱気になった!でももう大丈夫!!」

 

 

力加減を間違えて、少し涙が出てしまったが、俺はべーやんに笑いかけた。

 

 

そう、大丈夫だ。

自分を信じろ!姉達との訓練を信じろ!俺は出来る!…違った!

俺はやるんだ!!

やり遂げてみせるんだ!!

ナニかを変える時が来た!

それが今日!!

今なんだ!!

 

 

「はっはっは、えらく男前になったな!アレンよ!」

 

「ガッハッハ!そうだろう!?」

 

べーやんと馬鹿みたいに笑いあう。

これで良い、俺達はこれで良いのだ。

よっしゃ、始めよう!

 

 

俺はべーやんの手を握る。

 

「知将べーやんが立てた作戦を、実行するのはこの俺アレンだぜ?成功する未来しか見えねぇ!」

 

俺がそんな事を言えば

 

「よしよし、なら行けすぐ行け早く行け!なぁに、時間稼ぎは任せろ、魔王位は引き留めておいてやるよ!」

 

何も変わらぬ、いつものべーやん

 

「ヒュー!頼もしいぜぇ!………いってきます!!」

 

最後まで笑いあって、俺は荷物と共に部屋の窓から飛び出した。

16年過ごしたこの部屋から、振り返らずに。

振り返る、なんて行程は作戦に無いもんな!!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「行ってこい、アレン」

 

 

振り返らずに旅立っていった少年を、クマが見送る。

共に過ごした10数年、永い寿命を持つ魔族にとっては短い時間だ。

それは、ハーフのアレンであっても。

だが、色々な思い出が刻まれた、かけがえのない10数年であった。

 

まあ、別に今生の別れでも無いのだ、いずれまた会える。さて、俺は俺でひと仕事しようかね。

 

 

んー……お、気付いたなぁ。

ふふふ、アレンは今頃どのあたりかな、もうすぐ街を出る頃かな。

 

 

おうおう、律儀にノックなんてしちゃって

残念、アレンは行ったぜ~

 

 

遠慮がちにドアが開く。

歓迎しよう!盛大ではないけどなぁ!はっはっは

 

 

「よう、遅かったな」

 

 

 

 

 

 



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7話

 

 

「アリア、アレンが今何処に居るか分かったか?」

 

「うぅ~ん…」

 

 

アレンが居ないことを確認してすぐにウィンは最も索敵魔術が得意なアリアに魔術を使わせたが、未だに発見には至らなかった。

 

 

「部屋で感じた魔力、あれは間違いなくアレンのモノだったな」

 

「そうだね、見事に騙されちゃったみたい」

 

 

唸りながら探知を続けているアリアを待ちながら、フレイとシェリスが部屋での出来事を思い起こす。

 

部屋にはアレンの反応。しかし、居たのはあのクマただ1人。

見事にしてやられた。

 

 

「ウィン、アレンは何処へ向かう?この分じゃあ大分遠くに進んでいると考えるが」

 

「そうだな、食後のアレンの会話からこの…なんだ、家出か。家出したとなれば目指すはこの国からの脱出だが……ふむ」

 

ウィンは考えを巡らせる。

チラリと部屋の状態を見た程度であるが、事前から計画を立て、それを今日実行したというよりは、反対され、衝動的に出ていったと考える方がしっくりくる。

 

アレンはどうやら冒険者になりたいらしい。

だが、このサタナキア大陸には冒険者が所属するギルドそのものが存在しない。

なので、この大陸で冒険者になるのは不可能。

 

 

であれば、海を越えて別の大陸を目指すために港町を目指したのだろうか?

しかし、どうも腑に落ちない。あのクマがそのような提案をするだろうか。

他の大陸へ渡る船が出る港町まではこの国から軽く3日はかかる。

時間が経てば経つ程アレンを連れ戻す事は容易になる。

 

 

「………まさか」

 

「どうしたの?アレンの向かう先が分かった?」

 

 

アレンの向かう先、その一つを思い付いたウィンだが。何故?という疑問が生まれる。

シェリスが考え込むウィンに問いかけるが、ウィンの表情は優れない。

シェリスにはいまいちウィンの考えていることが分からなかった。

んー?と、シェリスが顎に指を添えて首を傾げていると。

 

 

「フレイ、お前に動いてもらうかもしれん。確証は無いが、下手をすれば、間に合わないかもしれない」

 

「なに?それはどういう…」

 

ウィンがフレイに指示を出そうとしたその時

 

「見つけた!ここから5㎞先で大きなアレンちゃんの魔力を見つけたよ!えーと……北に真っ直ぐ、猛スピードで進み始めた!」

 

「やはりか!」

 

ずっと唸っていたアリアが声をあげた。

アリアの報告にウィンがいち早く反応する。

何故あのクマがあの祠の存在を知っているかは今は良い。だが、このまま行かせればアレンは本当にこの大陸を出ていく事になる。

 

 

「フレイ、試練の祠だ」

 

「!」

 

「アレンは祠の存在すら知らん、あのクマの入れ知恵だろう」

 

「なんとまあ…戻ったらあのクマを問い詰めなければならんな」

 

あのクマめ。フレイが苦笑する。

なるほど、これは少し厄介だ。

急がなければ手遅れになるだろう。

フレイがすぐに追跡に出発しようと魔力を体に纏わせ始めると

 

 

「フレイ、コレを」

 

「ん?……私にあの辺りの毒など効かんぞ?」

 

 

シェリスが出発しようとするフレイにとある液体の入った瓶を渡す。

受け取ったフレイだが、瓶の中身を見て首をかしげる。

今さらこのような薬、自分には必要のないものだ。

 

 

「貴女にじゃないよ、アレンに」

 

「ああ、なる程」

 

シェリスから受け取った瓶を懐にしまうと、今度こそフレイは凄まじいスピードでアレンの追跡に出発した。

 

「アリア、お疲れ様」

 

「うん…でもゴメンね、凄く時間がかかっちゃった…」

 

 

シェリスが索敵魔術を終えたアリアに声をかける。

探知に時間がかかってしまった事を気にして落ち込んでいるアリアだが

少しだけ、アレンを最後まで見つける事が出来なかった事に姉として、アレンの成長を嬉しく思っていた。

 

 

「私はゼノ様の元へ向かう、2人はどうする?」

 

「そうだね、私もアリアももう出来ることはないだろうし…あのクマちゃんとお話でもしてみようかな?」

 

「あ!良いね!アリアさんもアイツに文句が山ほどあるんだよー!良い機会だし、アリアさんも着いていくよー」

 

 

ウィンはゼノにアレンの目的地を伝えるため。

シェリスは純粋に興味があるから。

アリアは、普段からずいぶんと翻弄してくれた憎きクマに一言物申さねば気が済まぬと、再びアレンの部屋を目指すのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「む、流石に早いな……これはフレイの嬢ちゃんか」

 

「この場所は…やってくれたな」

 

 

強大な魔力が猛スピードでこの城から動き出したことを察知したべーやんと

その方向から行き先に見当がついたゼノ。

確かにアレンは見つかったようだ、しかし、向かった先が良くない。

 

「はっはっは、まさに最初の試練ってな。今のアレンには丁度良い……いや、フレイの嬢ちゃんをどうにかする事の方が難易度が高いか?」

 

「減らず口をよく叩くクマだ」

 

 

ゼノが立ち上がる。

場所さえ分かればもうここに用は無い。

厄介な所を教えたものだ、急がねばならない。

フレイが追っているのだ、アレンに勝ち目は万に一つも無いだろう。

だが、億に一つがあるかもしれない。現にアリアを出し抜いた。

ならば、行かねばならない。

母として、魔王として。

 

(さあ、アレン。これからが正念場だ…頑張れよぉ!)

 

ゼノが立ち去り部屋に1人

べーやんが心の中でエールを送る。

今のところは作戦どおり。しかし、追手が非常に悪い。指揮はウィンが執ったのだろう、最善の人選を最短でブチ込んできた。

 

 

「おん?」

 

部屋の外で話し声がする

ゼノとフレイ以外の幹部達がなにやら話しているようだ。

 

「ではゼノ様。お気をつけて」

 

「ああ」

 

幹部達がゼノを見送る。

そして、幹部達が部屋に入ってきた。

凍りついた部屋の様子にに少しだけ驚いていたようだが、それよりも普段からべーやんに対する鬱憤が溜まっていたのだろう。

無言でこちらに近づく三人、特にウィンとアリアは不機嫌さを隠そうとしていない。

楽しい世間話をしに来た訳ではなさそうだ。それはそうだろう。

痛くしないでと祈るばかりである。

 

 

(わあ、俺、これからも正念場だぁ…助けてぇ…)

 

完全に自業自得であった。

 

 

 

 

 



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8話

 

 

俺の家出作戦も中盤に差し掛かった。

市街地を一瞬で飛び越えて、夜の草原を走り抜ける。

連続の転移魔術で結構魔力を消費してしまったが、もう遠慮する事はない。全力で走り抜けてやるぜハッハー!!

 

初めて見た魔王城と魔の森以外の景色に意識を割く事なく俺は前を向いて走った。

余裕があれば、初めて見る景色に心踊らせてもっと観察とかしていたかもしれないが

そーんな余裕あるわけねぇ!なんかヤバイ予感がひしひしとし始めたんだけど!

 

「うっ…」

 

全力で走り続けること数十分後。目の前に鬱蒼とした森が見えてきた。

その不気味さに思わず立ち止まってしまう。

 

なるほど、ここが目的地か。たしかに一気に空気が変わった。

森の周囲は、ここから先は限られた者しか生きることは許さん!とばかりに不自然に枯れた草が広がっている。

 

森全体が毒を放っているのか…この国の全ての毒性生物達を集めたかのような森だなぁ。

だが、怯んでもいられないな!目的地はこの森の中だ。よっしゃ!あと少し、やったるぜ!

俺は意気揚々と森の中へと入っていった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アレンが毒の森へと入っていったその頃、アレンを連れ帰る役目を担い猛進するフレイはすでに毒の森のすぐ近くまで来ていた。

 

「さて、アレンは試練の祠を目指しているのだったか…そぉら、今から私が行くぞ!」

 

ここまで接近すれば自分は既にアレンの索敵魔術の範囲内だろう。

しかし、一向に探知された気配がない。

毒の森に苦戦して、索敵魔術を行う暇が無いのだろうか?

まったく、手のかかる弟だ。

 

獰猛に笑ってフレイが全魔力を解放した。その魔力は紅蓮の焔となってフレイの体を纏う。

視認出来るほどの魔力を体に纏わせてアレンに伝える。

私が来た。

と。

 

アレンならば、いや。少しでも索敵魔術を使用できる者ならば魔術を使用しなくても分かる程の高出力の魔力を身に纏い、ドライグ国最高戦力が更にスピードを上げて駆け抜ける。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

早速だが現在、俺の体は猛毒に冒されていた。

 

もう一度言おう、猛毒に冒されていた。めちゃくちゃ辛い。

正直なめてた、誠にゴメンナサイ案件である。

 

言うて魔の森レベルの毒じゃろう?余裕余裕ガッハッハ!

なんて思っていた数分前の俺を殴り飛ばしてやりたい。

 

解毒しても解毒しても、先へ進む度に新しい毒が俺に襲いかかる。

中には物理的に刺してくる奴だっていた。特に赤い奴、赤い奴はヤバイ。

魔物としても普通に強い。

こっちが解毒に四苦八苦していてもお構いなしに襲ってくる。まあ、そりゃそうだけれども。

少しは融通をきかせてほしい。

 

そんな訳で、俺は解析魔術と精製魔術の2つを駆使してこの忌々しい毒の森を進まねばならないのだ。もうね、アホかと。

索敵魔術?無駄、周りに敵しか居ないもん。

 

まず解析魔術で俺を蝕む毒を解析し、その毒が効かない生物を探しだす。

で、精製魔術でその生物から抗体を抽出。即効性のある解毒剤を作って、飲む。

この繰り返しだ。

 

奥に行けば行くほど毒は強力になっていく。

共生してるとはいえ、序盤のヤツ等はこの毒の森でも生存競争に敗れて端へ端へ追いやられたヤツ等だ。

え、つまりなにかい?この森の中にある毒の沼って……

 

 

「うおっ!!?」

 

 

俺が嫌な予感に冷や汗を流していると、突然強大な魔力が凄まじい熱量と共に森の外に現れた。

虎視眈々と俺に襲いかかろうとしていた生物達が魔力を察知してか、一目散に逃げ出した。

あー…これはまずい……フレイ姉だ……。

 

俺はついさっき思ったことを改めて思い出す。

 

 

赤い奴は、ヤバイ

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「なんだ、まだこんなところに居たのか。随分のんびり屋さんだなぁ、アレン」

 

紅蓮の焔を身に纏い、毒など知らぬとばかりに周りの空気を焼きながら悠々とフレイ姉が現れた。

空気が熱い。息をする度に喉が焼けそうだ。

 

 

「んー、しかしいつ来てもここの毒は鬱陶しいな…どれ、アレン」

 

 

ポリポリと頬を掻きながらそんな事を言う姉が最後まで言い終わる前に、俺は瞬時に体に魔力を纏わせて防御体勢を取る。

次の瞬間凄まじい魔力の奔流が業火と共に周囲の木々を焼き払った。

 

「よし、これで話しやすくなったな!」

 

この程度、なんてこと無いような気軽さで、俺の苦労を嘲笑うかのようにフレイ姉はこの毒の森を攻略して見せた。

俺の頬を伝うこの汗は絶対に暑さのせいではないと断言できた。

 

 

もう一度言おう、何度だって言おう。

 

 

 

アカイヤツハ、ヤバイ

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

辺り一面を焼け野原にして、悠然と佇むフレイ姉が俺に微笑みかける。

その顔はとても、残酷なほどに優しい顔をしていた。

 

「こんな場所、ピクニックには向かんだろう?お前の気持ちも、覚悟も分かった。だが、ここまでだ。さあ帰ろうアレン」

 

強烈な魔力を抑えて普段通りの温和な表情で俺に手を差し伸べてくるフレイ姉に応えず、思考を巡らせる。

 

考えていた最悪の展開になってしまった。だが、姉達の誰かが向かってくることなんて最初から覚悟の上で俺はここに居るのだ。帰る?バカを言っちゃあいけないぜフレイ姉。

 

俺は帰るつもりはない。いや、勿論たまには里帰りするよ?でも、今は帰らない。

 

 

「イヤだ、俺は行く。冒険者になって、自分で生きていく」

 

「なにも冒険者にならずとも、この大陸でお前の望みを叶える事はできるじゃないか。私からもお前の自活をゼノ様に進言してみよう」

 

「ここじゃダメだ、俺は魔王ゼノの息子だ。どうしたってカーチャンや姉ちゃん達の存在が、その……」

 

「邪魔になるか?ははは、まあ、ゼノ様や我々はこの大陸で名前が知れ渡ってるからな。安心しろ、手は出さんさ」

 

「なら、このまま行かせておくれよ」

 

「ダメだ」

 

「なんでさ!理由を教えてくれよ!」

 

「ずっと弟のように可愛がってきたお前が急に居なくなるなんて、寂しいじゃないか」

 

「そんな理由で!………え?そんな理由?」

 

「他になにが?ゼノ様はどうか分からんが、少なくともウィンやアリア、シェリスは私と同じ気持ちだよ」

 

「えぇー……」

 

「さ、もう良いだろう。いい加減帰ろうじゃないかアレン、明日も訓練だ。その後は…そうだな、皆でピクニックでも行こう。私のお気に入りの場所を案内するよ」

 

駄々をこねる子供に言い聞かせるようにフレイ姉が再度俺に帰宅を促す。

 

違う。嘘だ。

寂しいってのは、嘘じゃないんだと思う。だけどもっと別の、俺をこの大陸から出したくないなにか別の理由が有るはずだ。

実力不足って訳でも無いだろう。

現に、一人でここまで辿り着けた。

来て分かったが、ここはドライグ国でも特にヤバい場所の1つだ。

しょーもない理由過ぎて現実逃避してる訳じゃないぜ?いや、正直したいけども!

 

フレイ姉は嘘をついている。フレイ姉の表情と言葉に長年顔を合わせてきたから分かる些細な違和感がある。

本当と嘘を織り混ぜて俺をなんとかこの地に残そうとしている。

 

家族を想うなら、この場に残るのが正解なんだろう。だけど

 

 

 

「イヤだね、いい加減姉弟離れしようぜ、お互いにさ」

 

「アレン」

 

「俺は行く、絶対に行く!例えフレイ姉を倒してでも俺は行くんだ!!」

 

「ほう?ほうほう…ほうほうほうほう?」

 

 

俺の叫びを聞いたフレイ姉が再び魔力を高め始めた。辺りが殺気に包まれ、空気が熱を帯び始める。

 

 

「誰が誰を倒すだと?ほんの少し見ない間に随分と面白いことを言うようになったなぁアレン。本当に面白いよアレン。仕方ない、実に仕方ない。聞き分けの無い子供にはお仕置きをしないといけないなァ」

 

「ぐっ…」

 

 

フレイ姉の強烈な魔力に思わず怯む。しかし

退かん!絶対に退かん!男に二言はねぇ!自問自答はもうやり飽きた!だから俺はここにいるんだ!ゴールは目前なんだ!俺は前に進むぞ!

ちくしょうフレイ姉なんて怖くねぇ…やってやんよぉ!

 

 

「よっしゃ来いやぁ!!」

 

「ははは……骨の2~3本は残してやるよアレェェェン」

 

うわわわ超怖ぇぇぇぇ!!!

紅蓮の焔を煌々と纏うフレイ姉の迫力にチビりそうになりながらも、俺も魔力を全開にして、フレイ姉に突撃した。

 

 

 

 

 



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9話

 

辺り一面が焦げ臭い。草も木も、辺りを覆う毒すらも、何もかもが焼き払われた戦いの舞台で俺は必死にフレイ姉に食い下がる。

集中しろ、目の前にいる相手は本気で俺の手足を折って連れて帰ろうとしている相手だ。

もちろん、今までの訓練なんて非じゃないくらいに容赦なく俺に襲いかかってくる。

 

初めは徒手空拳で戦っていた。フレイ姉の攻撃を避け、反撃。食らって、反撃。

魔力で強化されたフレイ姉は俺の強化した攻撃なんてものともせずにカウンター気味に俺のガードをぶち抜いて少なくないダメージを与えてくる。

 

強い。ひたすらに強い。ただただ強い。

この国の最高戦力だ。侮るなんてもっての他。しかし遠い。あまりにも、遠い。

 

 

「おお、コレを捌くか」

 

 

俺が一瞬たりとも気を抜けない状況であっても、フレイ姉にとっては所詮訓練の延長線上のお遊びなのだろう。

フレイ姉が放った攻撃を俺がなんとか捌いて見せると、嬉しそうに笑っている。

 

 

「師匠が…ハァッ……優秀…なんでね!!」

 

 

接近戦はダメだ。どうしたってフレイ姉に分がある。フレイ姉の攻撃を捌いた勢いそのままに一度大きく距離をとり、向かい合う。

息も絶え絶えに俺が軽口を叩けば、それでも変わらぬ笑顔。

 

「はは、嬉しいじゃないか。どれ、抱き締めてやろうか」

 

「くっそ!!」

 

大きく空けたはずの距離をフレイ姉はたった一歩で詰めてきた。俺を抱き抱えんと迫ってくる。

いくら美人でも笑顔のまま猛スピードで迫られればちょっと怖い。

こなくそぉ!!

 

 

「!……転移魔術か」

 

「フゥッ……正解ぃ!」

 

俺は転移魔術を使用して、今まさに抱き抱えんとしていたフレイ姉の背後に周り込み、そのままおもいっきりフレイ姉の脇腹辺りを蹴り抜いた。

よっしゃあ!クリーンヒットォ!

フレイ姉が俺の蹴りを食らってまだ青々とした森の中まで吹き飛ばされていった。

 

出来た。戦いの中で集中力が増したのか、ぶっつけ本番にも関わらず俺は転移魔術を戦闘で使用することに成功した。

よぉし!これで次のアリア姉との追いかけっこで……違う!次はない!いい加減にしろ俺!

 

覚悟を決めたはずなのに、未だにここでの明日を想像してしまう自分に嫌気がさす。

正直に言おう。それだけ心地よかったんだ。毎日が。

たとえ外に出れなくても。出れたとしても魔の森だけであったとしても。家にはべーやんや皆が居た。

本気で心配している家族を傷付けてでも俺は行くのか。

……でもさぁ。

 

憧れたんだ。まだ見ぬ広い世界に。

生きてみたいんだ。物語の中の登場人物みたいに。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「いてて、油断した」

 

フレイがむくりと身体を起こす。

蹴られた衝撃で結構飛ばされてしまった。

眼前には自分がなぎ倒したであろう木と、衝撃で抉れた地面が線を引いていた。

アレンはあの瞬間、フレイの防御を超えた攻撃を放ってきたのだ。この災害のような爪痕は、アレンの蹴りの威力をものがたっていた。

 

何度目だろうか、楽しくて楽しくて。嬉しくて嬉しくて。ついつい笑ってしまう。

あの小さかったアレンが。毎回毎回私たちに泣かされていたあのアレンが、ついに自分にダメージを与えたのだ。

 

確かにフレイは本気ではない。相手は大事な家族だ、しかも、この戦いの理由だってただの家出少年を連れ戻しに来て、駄々をこねられたからじゃれあっているにすぎない。本気などだす必要が無いのだ。

だが、それでも。それでも今までの訓練以上の力は出している。

 

(あの転移魔術は見事だったな。血と言うヤツかな?)

 

アレンのいる場所へと歩みを進めるフレイは、落ちていた木の枝を拾う。フレイにとってはただの枝でさえ立派な武器になる。

今のアレンには先程までの魔力に任せた戦い方は通用しないだろう。

(皆、私だけ楽しんですまんな)

 

帰りを待つ他の幹部達を思い浮かべて心の中で謝罪する。

アレンとの戦闘はそれほどまでに心躍らせる一時だった。

しかし、これも強き者の特権なのかも知れない。

フレイ以外に今のアレンを止められる者が居るだろうか。

 

アリアは隠密を得意としている為、なるべく直接的な戦闘を避けなければならないことから、戦闘力自体はあまり高い方ではない。

シェリスに至っては回復専門だ。この毒の森なら誰よりも速く簡単に攻略することは可能だが、明確にアレンより戦闘力は劣ると言っても良い。

フレイに次ぐ戦闘力を持つウィンならばあるいは… といったところだ。

 

ただ、それはあくまでも4人の幹部達を比べた時の話であって、他の魔族達からすれば、アリアもシェリスも十分に高い戦闘力を有している事に変わりはないのだが。

 

単騎でアレンを止める事が出来そうな者は、ドライグ国において、わずかに数人しか居ないのだ。

それ程、アレンは力をつけていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

フレイ姉が姿を現さない今のうちに、尻ポケットにいれていた回復薬を飲み干して、空になった瓶を投げ捨てる。うーん、苦ぁい。

今飲んだのは消費した魔力の3割程を回復する薬だ。

よし、これで移動で使った分の魔力は取り戻せた。

ここが踏ん張りどころなんだ、出し惜しみなんてしてられない。

 

すると、フレイ姉が現れた。

 

「……マジかよ」

 

ほぼほぼ無傷といった姿で現れたフレイ姉に俺は戦慄する。

改心の一撃だった。今までで一番の一撃だったと自信をもって言える先程の攻撃でさえ、フレイ姉には効かないのか。

 

 

「やるじゃないかアレン。お前は酷いなぁ、こんなに愛している姉に向かって」

 

「よく言うよ!愛する弟に普段からハチャメチャやってくれる癖に!」

 

よよよ、と泣いたフリをするフレイ姉はとても楽しそうだ。ほんとやめてほしい!こっちはいっぱいいっぱいなのに!

ふと、フレイ姉の手をみると枝を持っている。

これは、つまり……。

 

「さ、アレン。第2ラウンドだ」

 

「ちくしょうバケモノめぇ…!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ほらほらどうした!気を抜けば真っ二つだぞ!」

 

フレイ姉が枝を振り下ろす。ギャイン!と魔力同士がぶつかり合う激しい音が辺りに響く。

フレア姉が武器を携えて戻ってくるや否や俺も慌てて枝を拾って応戦する。

くそっ、本気で斬るつもりだ!さっきなんて言ってたよ!愛する誰がなんだってぇ!?

 

俺は魔力を纏わせた枝を使いながらフレイ姉の斬撃をなんとか凌いでいく。

フレイ姉が横薙ぎの攻撃をしてくれば、後ろに下がって避ける。

そのまま俺から袈裟斬りを放てば、フレイ姉の構えた枝で受け流される。

どれくらい斬り結んだだろうか。俺は傷を負い、フレイ姉は無傷だ。

 

 

「違うだろう!技術で劣る相手に技術で対抗するな!お前の力はそれだけではないだろう!」

 

フレイ姉が俺を弾き飛ばしながら怒鳴り付ける

 

ならば!!

 

「違う!バカの一つ覚えみたいに背後に回るな!感覚の鋭いものなら直ぐに反応できるぞ!転移魔術の持ち味を活かせ!」

 

くそっ!こうか!?

 

「そうだ!転移魔術の使い手は空間を支配する!アリアはどうだった!?縦横無尽に攻めてこい!」

 

ダメだ!格闘戦じゃ地力に差がありすぎる!

 

「ほう?次は攻撃魔術か!だが何をしている!いたずらに魔力を込めるな!避けられたら無駄に魔力を消費するだけだ!」

 

うぐぐぐ! こうなのかぁ!?

 

「ぐっ……よおし!悪くない!魔力を研ぎ澄ませろ!ウィンはどうだった!アイツは少ない魔力消費で凄まじい攻撃を放ってくるだろう!」

 

くそっ無駄撃ちしすぎて魔力が減ってきた!

 

「ああ!アレンお前なに飲んでるんだ!?ズルいぞ!私にも一本よこせ!」

 

何言ってるんだ誰が渡すもんか!

 

「ぐっ……ぬっ!……ええい!ちょこまかと!大人しく…うわっ!」

 

よしよし!こういうことか!大分慣れてきた!

 

「おおい!他の奴の技ばかり使うなよ!妬けるじゃないか!私の教えた技はどうした!?一緒に使うぞ!せーので使うぞ!?」

 

もー!わかったよ!せーの!!!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

 

「フゥッ…フゥッ…フゥッ…」

 

2人してゼーゼーと肩で息をする。どれ程戦っていただろうか。毒の森は俺とフレイ姉との戦いの余波で酷い有り様だ。周辺に木々などは残っておらず、辺りを覆っていた毒素すら感じない。

ん?2人して…?

 

「そんなフレイ姉の姿っ…ハァッ…初めて見たっ…ハァッ…よ…!」

 

「フゥーッ……もういい…もう、十分だ」

 

くっ!もう息を整え終わったのか!クソッもう魔力がすっからかんで回復薬もないってのに!

俺が慌ててファイティングポーズを取ると

 

「私は疲れた」

 

「え…」

 

「行け、祠はもうすぐだ」

 

あー、疲れた疲れた。なんて言いながら地面に腰をおろしたフレイ姉が森の奥を指差す。

俺は呆然としてその姿をただただ眺めていた。

 

「どうした、行かんのか。私はもう一歩も動けない。それともなにか?連れて帰ってくれるのか?ならばお姫様抱っこが良いな!」

 

んっ!と俺に両手を差し出してフレイ姉がおどけて見せる。

いや、そんな…でも…

俺が戸惑っていると

冗談だよ。と手を下ろす。

 

「ははは…アレン。」

 

強くなったなぁ

 

そんな事を安堵したように、とても穏やかな表情でフレイ姉が言う。

何故だろう、胸の奥が急に締め付けられたように苦しくなった。

毒にやられたかな、毒の森だもんなここ。きっと毒だわ。

とりあえず上を向いておこう。月がとても綺麗だ。

 

「ああ、そうだった。忘れるところだった…ええと…ああ、あったあった、ほれ!アレン」

 

上を向いて歯を食いしばっている俺に構わずにフレイ姉が小さな小瓶を俺に投げて渡した。

反応が遅れてしまって受け取るのに少しもたついてしまった。

 

「これは…?」

 

「シェリスから。お前にだとさ」

 

手にした小瓶を月明かりに照らして見てみる。

これは…

 

「懐かしいな。憶えているか?お前が昔ソレを作ってシェリスに怒られたこと」

 

そうだ、思い出した…これは俺がシェリス姉に滅茶苦茶怒られて、記憶をなくすくらいびびり散らかしたあの時の

自分で初めて作った回復薬だ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

あの日、俺は教わったばかりの魔力回復薬を自分で作って、シェリス姉に褒めて貰おうと、喜んで貰おうと勝手に

道具を引っ張り出して回復薬を作り始めたんだった。

 

魔力回復薬は、文字通り消費した魔力を回復する薬だ。

製法は回復術師によって様々だが、高い魔力を持つ魔獣やら魔物やら、植物やらの素材を材料として、精製魔術を使用して作る。

 

もちろん、俺もそのつもりで魔の森で拾ってきた薬草を素材に魔力回復薬を作ろうとしていた。

だが、俺は精製魔術を使うつもりが、ただひたすらに魔力を込めただけだったのだ。

 

出来上がったのは確かに魔力回復薬だった。

ただ、回復量がとてつもなく、異常なまでに多い。

シェリス姉をして劇毒と言わしめたモノだ。

 

出来上がった回復薬を自慢気にシェリス姉に見せたらそりゃもう怒られた。勝手に道具を使った事よりも。

 

「あの日お前は私とウィンに泣きついてきたな。シェリス姉が凄く怒っている、と。理由を聞いてもお前はすっかり忘れてしまっていて、アリアを探す暇なくお前に引っ張られていった」

 

 

肝が冷えたよ、あんなシェリスをみたのは久しぶりだったなあ。

と、フレイ姉が月を見上げながら言う。

 

 

「お前が作ったのは、ゼノ様や私達を一気に回復出来るほどの魔力を秘めた回復薬だったんだな……成る程、シェリスが怒るわけだ。当時のお前が飲めば一瞬で廃人になっていたのだからな」

 

 

ああ、俺は回復薬を自分で使うつもりで精製したのだった…なるほど、そりゃ怒るわなぁ……。

身に過ぎた魔力など毒でしかない。しかもカーチャンや姉達が一気に回復するレベルの魔力など、劇毒だなぁ。

 

 

「でも、なんで今さらこんなもの…」

 

「今のお前ならば使える。魔力の総量は私達とそう変わらんよ」

 

座ったまま、空を見上げたフレイ姉が言う。

 

「ほら、もう行けアレン。お前はもう、大丈夫だよ」

 

「……………………いってきます」

 

 

俺は手にした薬を一気に飲み干した。

いつまでもここに居てはダメになる。

先へ進むために俺はここにきたんだ。

フレア姉が指差した方へ。フレイ姉を通りすぎて。

振り返らずに走り出す。

 

「いってらっしゃい、アレン」

 

 

そんな俺を師匠兼姉代わりであるフレイ姉が楽しそうに笑って見送るのを当然俺は見ていない訳で。

走りながら「ありがとう」なんて思っているのであった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「無粋な奴らだ」

 

アレンが去り、一人座るフレイの周りを魔物が囲う。

もう怯える必要など無いというように。逃げる必要など無いというように。

魔物達が一斉にフレイに飛びかかろうとしたその瞬間

 

 

キィン

 

と、周囲が魔物ごと凍った。

 

 

「おや、ゼノ様。申し訳ありません、失敗しました」

 

「そのようだな…ここには私とお前だけだ。普段通りでいい」

 

「そう?…アレンにしてやられたよ、見事だった」

 

「そうか」

 

 

現れたゼノに砕けた物言いをするフレイ。

2人の関係は魔王と部下というよりも、友人のように気安い関係であった。

魔王ゼノに討たれた先代魔王の娘。それがフレイだった。

 

 

「どうする、使いを寄越すか」

 

「いいや、もう少しここにいるよ」

 

「そうか」

 

ゼノがアレンを目指して森へ入って行く。

フレイは一人、座って月を眺めているのだった。

アレンとの在りし日の思い出を思い返しながら。

酒でも持ってくれば良かったな。なんて考えながら。

今日は、とても良い日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 




仕事中に「あれ?俺フレイの名前間違えて書いてね?」と思って確認したら案の定でした。
自分で書いてて見事に頭がコンガラガッチュレーションでした。
誠にごめんなさい!


その他誤字脱字等ありましたら、教えていただければ幸いです。


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10話

 

フレイ姉から受け取った回復薬は、どうやらシェリス姉の手で改良を施されていたらしい。

めっちゃ回復した。魔力全快の上、フレイ姉との戦いで出来た傷すら治ってしまった。

シェリス姉は凄い。俺は改めて思った。

 

全快した魔力と、フレイ姉との戦いの経験を生かし、毒の森を駆け抜ける。

なるほどなぁ、周りの毒素が効かないくらい魔力で身体を強化すれば良かったのかぁ。また一つ賢くなった。ガッハッハ!

 

序盤の苦戦が嘘のようにスイスイと毒の森を進めば、強化していてもなお感じる、今までで以上の毒素に立ち止まる。

目的地についたようだ。

 

「ここか…」

 

鬱蒼とした森の一部にぽっかりと拓けた空間が出てきた。

少し離れた場所から観察してみれば、この森のすべての毒が溶け合い混ざりあって出来たであろう毒の沼が見える。

 

こりゃあ、俺に解毒薬を作るのは無理だな。混じりあった毒の種類が多過ぎて抗体が作れそうにない。そもそも沼の周りに草一本生えていない。

この沼は、毒の森すら殺している。

予想はしていたが、まさかこれ程とは…。

 

さて、どうしたものか。

沼はドーナツ状になっており、沼の中心部分の地面に台座が見えた。

 

べーやんが言うには、アレに触りさえすれば良いというが。解毒方法がわからない以上、無闇に近づく事すら出来ない。

 

と、いうのは昨日までの話。

フレイ姉との戦いを経た俺にはあんな台座に触るくらいなんてことはなかった。

 

作戦は至ってシンプル

①滅茶苦茶魔力で身体を強化する。

②転移魔術で台座に移動し触る。

③完 全 勝 利 !!

らくしょー!

 

よっしゃ行きましょうかね!

と、身体に魔力を纏わせようとした瞬間

強烈な寒気と共に沼ごと周囲が凍りついた。

 

……ラスボスのお出ましってヤツかな。

まあ、流石に誰が来たかなんて確認するまでもない。

 

「……カーチャンまで来たのかぁ」

 

「当たり前でしょう」

 

あまりの寒さに凍えそうになる。

振り返れば。月明かりに照らされた真っ白な魔王。

フレイ姉との戦いが正念場だと思っていたが、そうか。

 

無理矢理考えないようにしていた。カーチャンと戦うことなんて。

穴だらけの作戦はここまで成功してるのだが、最後の大穴が向こうからやってきた。

 

 

(くっそ!最後の最後に…!やるしかない、か!)

 

 

俺が必死にカーチャンとの戦い方を考えていると、ゆっくりとした足取りで俺の側までやってきたカーチャンは慌ててファイティングポーズを取る俺を無視して通りすぎた。

 

戦闘は避けられないと思っていたが、違うのだろうか?

呆けてしまっている俺を振り返って少し呆れたようにカーチャンが言う。

 

 

「なにをしているの。行くよ」

 

「え?」

 

「この先に用があるんでしょ。ほら、早く」

 

凍った沼の上をスタスタと歩いていくカーチャンの背中をしばらく唖然として見つめ

俺は慌てて追いかけた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「この台座に手をかざせば、扉が開く」

 

「う…うん」

 

カーチャンの真意を測りかねている俺はなんとも曖昧な返事をしてしまう。

言われるままに手をかざせば、ゴゴゴという地響きと共に台座が奥に移動し、下へ向かう階段が現れた。

 

「はえー……」

 

「いくよ」

 

あっ!ちょ!

台座の仕掛けに驚いている俺を余所にさっさと下へ降りていくカーチャン。

また慌てて付いていく。

 

「ほえー…」

 

階段を下り終えると、広い空間に出た。壁につけられていた光石が俺達と部屋を明るく照らす。

何度目かの感嘆の声を洩らしながら俺がキョロキョロと周りを観察してみれば

誰だろう、お偉いさんかな?豪華な装飾の銅像が複数建っている

なにか絵と文字が刻まれた壁。読めそうだ。ええと…?

 

「なにしてるの。早くおいで」

 

と、カーチャンが急かす。

呼ばれて慌てて付いていく。目的地に着くまでその繰り返しだった。

 

「ここだ」

 

「ここは…?」

 

「転移部屋。そこに石があるでしょ。それにアンタの魔力を流せば大陸間の転移が可能になる」

 

「ひえっ」

カーチャンが普段どおりの淡々とした様子でとんでもないことを言う。

大陸と大陸とを転移だって?何をバカな。

 

カーチャン以外からこんな話を聞いても俺は信じなかっただろう。

 

べーやんが最後まで教えてくれなかった最後の行程。沼の台座に触れば良いとしか教えてくれなかったが…。

 

「フレイを倒したようだね」

 

「え?ああ…どうだろう。アレを倒したって言えるのかなぁ」

 

この部屋のとんでもない装置に俺が驚いていると、カーチャンが話しかけてくる。返答はするものの、俺はカーチャンの方を見ずに部屋を観察していた。

 

「見事だったと褒めていたよ」

 

「そう?へっへっへ」

うわ、なんかびっしり書いてある。

 

「アリアも。アンタを早く見つけられなかったことを凄く悔しがっていたよ」

 

「マジで?」

なんだろう、呪文が彫り込まれているのかな?

 

「ウィンも。全く無駄の無い魔力コントロールだったと褒めていた」

 

「おいおいべた褒めじゃーん!」

この石はなんなんだろう…えと、台座にも仕掛けがあるのかな

 

「シェリスも。アンタなら毒の森を攻略できると最初から確信していたみたい」

 

「やだもー!みんなして褒めてからにー!」

うーん。よく分からないなぁ

 

 

 

「愚かな母ですまん。アレン」

 

「えっ」

 

 

俺はカーチャンの言葉に思わず振り返る。

そこには俯いて顔の見えないカーチャンがポツンと立っていた。

 

 

「アンタはこんなにも力を付けていたのに。それに気付かないフリをしてしまった」

 

「ずっとこんな日々が続けば良いと。アンタを窮屈な場所に閉じ込めてしまった。すまない」

 

「私は……とても愚かだったよ、アレン」

 

 

「カーチャン!」

 

 

俺の怒鳴り声に、俯いていたカーチャンが顔を上げる、珍しいな、驚いてら

だが!しかし!これはゆるせん言わねばならん!

 

 

「カーチャン!いくらカーチャンでもカーチャンをバカにすることは俺がゆるさん!!」

 

「???」

 

 

プンプンと怒る俺に首をかしげるカーチャン。

 

 

「ふふ、そうか…そうだね。アレン」

 

「おう!」

 

 

珍しいな、今度は笑ってるじゃん!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「アンタの旅立ちを認めるよ。アレン」

 

「!!」

 

「力を示した。認めるしかないよ」

 

「カーチャン……」

 

「広い世界を見ておいで。アンタにはそれだけの力が備わっていると私達に証明したんだ」

 

「……うん」

 

「ああそうだ。ご褒美と言う訳では無いけど、なにか聞きたいことがある?一つだけ答えてあげる」

 

うっ…相変わらずサラッととんでもない事を言う。

聞きたいことか…そうだなぁ。

 

今さら両親の事はどうでも良いと言えば聞こえは悪いかもしれないけど、顔も知らないし。俺にはここまで育ててくれた家族が居るし。

 

ああ、そうだ。アレがあった。

 

「なぁカーチャン。なんで子供の頃の俺はあんな回復薬を作れてしまったんだろう?」

 

そう、魔王クラスすら完全回復してしまう程の魔力を秘めた回復薬。

子供の頃の俺が作れて良い代物ではない。

 

今だって、作るとしても物凄く時間はかかるし、素材だってそれなりのものを用意しなければならない。

 

「血、と言えば良いのかな。アンタの父親の方のね」

 

「俺の父親………」

 

うーむ、意図せず両親の話となってしまった。

しかし、そうか、血かぁ。

 

「それはどういう事?」

 

「答えるのは1つだけだよ。もうおしまい」

 

「ええ!?ウッソだろ!?」

 

いや確かに1つって言ってたけども!そんなのってアリなの!?

無表情だが、どこかおどけて見えるカーチャンはとても楽しそうだった。

 

「答えは、きっと見つかる。」

 

だから、気をつけて行っておいで

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

俺の質問には1つしか答えてくれなかったのに、この場所については、カーチャンから教えてくれた。

 

ここは試練の祠と呼ばれているらしく、魔王や幹部達にしか場所は知られていないらしい。

もし、カーチャンが一緒に来てなかったら魔王ではない俺は何処からともなく現れる魔物や魔獣達を倒しながらこの部屋を目指さなければならなかったらしい。

 

それが試練なの?と聞けば、他にも部屋があっただろう?とはぐらかされた。

 

ここ以外にも他にも部屋があって、そのうちの1つがこの部屋。転移部屋。

 

この部屋の用途は魔王達が10年に1度、会議に出かける際に使用されるらしい。

 

会議?……あ、はい、知るべきではないですね、うっす。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ちゃんと手紙を出してね、待ってる」

 

「あー……半年に1度で良い「ダメ」か…月に「ダメ」……1週間に1度ね…」

 

「よし。あのクマの面倒はまかせて」

 

「あんまり苛めないでおくれよ。俺の大事なアニキで、親友なんだからさ」

 

「ふん。あんなヤツのどこがいいんだか」

 

「ははは」

 

 

それじゃあ、いってきます。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「お、戻ってきたな。アレンは行ったのか?」

 

「ああ」

 

「なんだよー。私にもアレンの時みたいな話し方してくれよー」

 

「嫌だ」

 

「冷たいヤツだなぁ」

 

「うるさい」

 

「アレンが居なくなって寂しくなるなぁ」

 

「そうだな」

 

「手紙、私にも見せろよな」

 

「何の話だ」

 

「とぼけるなよー」

 

「うるさい」

 

「ははは……さぁて、あのクマをどうしてくれようか」

 

「そうだな。流石にあの知識。捨て置けん」

 

 

 

肩を組んでくるフレイに、鬱陶しそうにしているゼノ。

2人は城を目指して歩き出す。

今まであったアレンとの楽しい思い出を語り合いながら。

これからの事を語りながら。楽しそうに。

そんな2人を、月だけが照らしていた。

 

 

 

 

こうして、アレンの冒険が始まった。

 

 

 

 

アレンの冒険 第1部 旅立ち編

 

 

 

 

アレンの冒険 第2部 冒険者は辛いよ編

 

 

スタート

 



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カーチャン。冒険者って大変なんだね。
いえーい!第一村人発見!


 

 

転移が終わったのを感じる。自然の匂いが俺の鼻腔をくすぐる。

さっきまで毒の森にいたからか、余計に空気が澄んでいるように感じる。

 

ここが新天地。ここからが俺の新しい生活のスタート地点なんだ。

期待に胸を膨らませ、閉じていた目をゆっくりと開ける。

 

 

 

「……?」

 

 

 

……どこだ此処。

いや、確かにカーチャンから何処へ飛ぶとか聞かされてなかったし、聞いてなかったか。

 

 

ふふ、俺ってばおっちょこちょいだぜ☆

 

 

誰も見てないのに額を叩いて舌を出しておどけてみる。

さて、反省は済んだ。

早速探索してみよう!

俺は改めてリュックサックを背負い直して歩き出す。

 

さて、時刻は何時くらいだろうか。

ついさっきまで夜だったのに、太陽が大分高いところにある。

ウィン姉が言っていたな。時差ってヤツか。

 

…………。

 

………えっ!?ミカエリス大陸か!?

サタナキア大陸の反対側じゃないか!!

うっそだろ!?

あの一瞬でここまで来たのか!?

ヤッベー。転移部屋ヤッベー…。

 

 

 

あまりの衝撃に戦慄していたが、驚いてばかりもいられない。

ただ単にここで朝を迎えた可能性だってあるし。うん。

 

 

改めて、周りを見てみる。

周りは…廃墟だろうか?崩れた家っぽいのが周辺にたくさんある。

崩れた家らしきものには植物が巻き付いていて、廃墟になってから随分と時間が経っているのか分かる。

 

 

 

索敵魔術を使用しながら暫く歩いていると、反応があった。

これは……人かな。行ってみよう。

 

 

 

…………………。

相手がどんな存在か分からない以上、慎重にならねばならない。

俺は反応の有った場所に気配を消して近付いてみる。

 

 

居た。人間…かな。

人間のおじいさんが一人でなにか作業をしているのが遠目から見えた。

害は……無さそうだな。とても弱そうだ。普通の人間だろう。

一応戦闘になっても大丈夫なように、俺は落ちていた木の枝を拾っておじいさんに向かって歩き出した。

 

 

 

 

「ン……誰ぞおるのか」

 

 

うへっ!ミカエリス語じゃん!!

俺も使う言葉を変えよう。ウィン姉に教わっていて良かった…。

さて…なにはともあれ!

俺も初めておじいさんの存在に気が付いたようにビックリしたフリをして、ペコリと会釈。

 

 

 

「あ、どうも、こんにちは」

 

 

「…こんなところにお主のような若いのが何の用だ…家出か?」

 

 

おじいさんの言葉にドキリとしてしまう。

いや、もちろん最初は家出のつもりだったけど、結局皆に送り出される形で来たからなぁ、違うかもなぁ。

 

 

 

「その…道に迷ってしまって。アレンって言います。アレン・ニンバスです」

 

 

うん、何一つ嘘は言ってないな。ミカエリスなんてもちろん来たことない。実際迷ってると言って良い。

 

 

「………そうか」

 

 

 

おじいさんは俺をチラリと見たら作業に戻ってしまった。

なんとなく気まずい雰囲気に俺が頬をポリポリと掻いていると、周囲に魔物の気配を感じた。

 

 

 

「また出おったか……」

 

 

 

俺とおじいさんの向こう側。そこから灰色の魔獣…アレは、図鑑で見たな。確かワイルドウルフだったかな。狼型魔獣の中で一番弱いヤツだ。

 

ワイルドウルフが3頭グルルル言いながら現れた。

 

 

 

「若いの…戦えるか。戦えないのであれば逃げろ。」

 

 

俺に声をかけながらおじいさんが側に置いてあった杖を拾い、立ち上がる。戦うつもりらしい

……ん?待てよ

 

 

 

「敵か!?敵なんだな!?よぉし!俺にまかせておくれおじいさん!アレン・ニンバス!新天地で初戦闘、いっきまーす!」

 

 

 

別に戦闘狂って訳じゃないと思うんだけど、初戦闘という事で妙なテンションになってしまった俺は、杖を構えるおじいさんを庇うように前に出る。

 

 

 

「ふふん。お前らみたいな犬ッコロ、ボッコボコのボコにしちゃる!」

 

 

 

ブンブンと手にした枝を振りながらワイルドウルフに向かって歩き出す。

初めて見る魔獣だが、このくらいならなんとでもなりそうだ!

笑みを浮かべて近付く俺にワイルドウルフ3頭がうなり声をあげて飛び掛かってきた!

 

 

 

よっしゃ!おいでワンちゃん!しつけの時間だぁ!

なんて思っていると後方からおじいさんの怒声が響く。

 

 

 

「バカめ、そんな枝で何ができる!」

 

 

 

ゴウッ!という音と共に、俺に襲いかかろうとしていたワイルドウルフ3頭が俺に当たらないように背後から放たれた炎に包まれた。

突然の事に慌てて振り返れば、おじいさんが杖を構えていた。

 

 

 

えぇー…。

あ、所々燃やされたワイルドウルフが逃げていく。キャンキャン言いながら逃げていく…。俺の初勝利が逃げていく……。

 

 

 

「ハァッ…!ハァッ…!」

 

 

「!!おじいさん!どした!?」

 

 

あんまりな展開に俺が呆然としていると、突如おじいさんが杖を落とし、胸を抑えてうずくまる。

その尋常ではない様子に俺は慌てておじいさんに駆け寄る。

 

 

 

「凄い熱だ…!ちょっとごめんよ!」

 

 

脂汗を浮かべて苦しむおじいさんの身体に俺は慌てて解析魔術をかける。

!!魔力がすっからかんじゃないか!!ええと、この辺りに使えそうな薬草は!?

 

 

キョロキョロと周りを見渡しても使えそうな薬草は生えていない。

俺はおじいさんの身体を寝かせて、使えそうな薬草を探しに慌てて走り出した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「…………む」

 

 

「よかった、目が覚めたかい?」

 

 

 

しばらく走り回って、なんとか使える薬草を見つけることが出来た。一本一本に解析魔術をかけるのは骨がおれたぜ…。

俺はそれを使って魔力回復薬を精製し、おじいさんに飲ませた。

横に座っておじいさんの様子を伺っていると、うめき声と共におじいさんが目を開く。

 

 

 

探索魔術が使えれば良かったんだけど、初めて訪れた土地では使うことが出来ない。

探索魔術はその土地に生息している薬草やら魔獣、魔物達を実際に自分で見て、ソイツが放つ魔力を覚えて初めて使える魔術だ。

便利だけど、使いづらい。

 

 

 

「びっくりしたよ、いきなり倒れるんだもん」

 

 

「助けるつもりが…助けられるとはな…今日はもう無理だな…」

 

 

おじいさんが身体を起こして置いてあった道具を拾いだす。

俺もそれを手伝う。何の道具だろうコレ。あ、それはそれとして…。

 

 

「あのー……」

 

 

「…付いてこい。助けてもらった礼をせにゃならん」

 

 

お、やったあ!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

おじいさんが持ってきていた小さな荷車に道具を積み込み、ついでにおじいさんにも乗って貰って荷車をひいて歩き出す。

道中、おじいさんにいろいろと話を聞いた。

 

 

 

おじいさんはここから少し離れている町に1人で住んでいて、あの廃墟は20年くらい前に戦争で滅んでしまった小さな村だったらしい。

おじいさんはその戦争で、当時村に住んでいた息子さんを亡くしてしまったとのこと。

 

 

 

あの場所が魔獣達の住処となってしまったのを不憫に思い、魔法使い(魔術師の事か)だった頃の経験を活かしてモンスター(こっちでは魔物や魔獣をそう呼ぶんだったっけ)避けの護符を作成、あの場所に埋め込んでいたらしい。一人で。

 

 

 

「その…他に頼れる人は居ないのかい?1人じゃ危ないよ」

 

 

 

「娘夫婦と孫が近くに住んでおるが、お主と同じ事ばかり言う」

 

 

 

そりゃそうだ。

いくら一人で魔獣…モンスターか。を撃退できても、魔力切れで倒れちゃうんじゃいつ命を失ってもおかしくない。

 

 

 

綺麗に舗装された道を荷車をひいて歩く。

しばらく他愛もない話をしていると、すれ違う人が多くなってきた。町が近いのかな。

おじいさんがここで止まれと言うからまだ町も見えないのに何事かと思えば、舗装された道から外れた所にあったボロい納屋に荷車を隠していた。

 

 

 

このおじいさんめ…。なんて呆れながら2人で歩いていると、町が見えてきた。

おお、町だ。なんて、当たり前なことにいちいち感動してしまう。

 

 

 

「おや、モーゼスさん、お帰りですか」

 

 

「うむ」

 

 

おじいさんが門番の人と話している。

なにやら話し込んだあとに、おじいさんが俺に付いてこいと手招きする。

すれ違うときに門番の人に会釈をすると

「モーゼスさんが散歩中に倒れていた所を助けてくれたんだって?ありがとな!」

とお礼を言われた。へっへっへ

……いやおじいさん。あなた嘘を付いていますね?

 

 

 

 

「はえー…人がこんなに沢山」

 

 

「?……そんなに大きな町ではなかろうて」

 

 

 

初めて見る人の多さに俺が驚いていると、そんな様子の俺に不思議そうなモーゼスさん。

すみませんね。初めてなんですぅー。

 

モーゼスさんから離れないように町をキョロキョロと観察しながら歩いていると、モーゼスさんの家に付いたのだろうか。一軒家にモーゼスさんが入っていく。

 

 

お邪魔しまーすと家に入れば、元魔法使いというのもあって色々な道具が沢山置いてあった。お世辞にも綺麗に整頓されてるとは言えないけど。

失礼にならない程度に部屋を見ていると

 

 

「まあ座れ…なにか飲むか」

 

 

「ありがとう。あー…じゃあ水で」

 

 

「酒もあるぞ?」

 

 

「水で大丈夫だよ」

 

 

そうか、とモーゼスさん。

2つのグラスと酒瓶と水差しを持って俺の前に座ったモーゼスさんが頭を下げて俺にお礼を言ってくれた。

 

 

 

「改めて礼を言う。しかし、お主が枝をもってワイルドウルフの前に立った時は肝が冷えた。アレで立ち向かうのは蛮勇と言うものだ……だが、あのマナポーション、自分で作ったのか?」

 

 

 

「マナポーション?…ああ、魔力回復薬の事か」

 

 

 

 

「魔力回復薬……そうか、お主サタナキアの生まれか…もしくは親がサタナキアの者か」

 

 

 

「あ」

やっべ。

 

 

 

「随分と田舎から出てきたのか?ここも田舎ではあるが…お前のようなハーフは目立つ。この辺りでは見たことがない顔だ」

 

 

 

うっ。そうか…これで田舎なのか…知らなかった…。

しかし、俺が半人前というのも見破られたなぁ。

まあ、別に隠してないけど。

 

 

 

さて、どうしようか。

俺は半人前の証である赤と黒の髪の毛をいじりながら、なんて誤魔化そうか考えを巡らせるのだった。

 

 

 

 

 

 



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「あれはなんだい?」「…馬糞だよ」

 

 

 

 

アレン・ニンバスと名乗る不思議な少年は自分の髪を指先で弄り、あーだのうーだのと唸っている。

 

 

儂がもう廃墟となってしまったあの村で独りモンスター避けの護符を埋め込んでいると、突然現れた少年。

 

 

はじめは近所の子供かと思ったが、この辺りの子供は皆学校へ行っている時間帯であるし、何よりも魔人と人間の混血を伺わせるあの髪色。この辺りでは見たことがない。

家出かと問いかければ、道に迷ったと抜かしよる。

 

 

儂が少年に構わずに作業を続けていると、モンスター共が性懲りもなく現れよった。

あと少しで全ての作業が終わるというのに。迷惑な奴らだ。

 

 

側に置いておいた杖を取り、一応少年にも声をかける。少年とてこの辺りをうろついていたのだ。多少心得はあるのだろうが。

 

たしかに奴等は下級モンスターである。

だが、爪や牙を持ち、人や家畜を襲う危険な存在である事に変わりはないのだ。

 

 

すると少年が儂とモンスターの間に割って入るではないか。

手にしたのは…木の枝か?バカな、あのような物でモンスターを撃退しようというのか?

 

 

すると、次の瞬間

意気揚々と戦おうとしていた少年の背中が数倍に大きくなって見えた。今思えば幻覚…だったのだろうな。

少年はこちらを向いていないのに、大昔に遭遇したドラゴンのような…圧倒的な捕食者の気配。

 

 

儂は思わず手にした杖を振るう。

半ば本能的に魔法を放ってしまった。

永年共に戦ってきた相棒とも言える杖が、その時は酷く頼りない木の枝かのように思えてしまった。

 

 

儂は…あの時。モンスターにではなく…彼に魔法を放ってしまった。

彼に恐怖してしまった。

 

 

儂は自分のとってしまった行動に驚きつつも、このままでは彼に魔法が当たってしまうと放ってしまった炎魔法の軌道を無理矢理変えることに成功した。

 

あの時とっさに叫んだ言葉は、果たしてどちらに向かって言った言葉だったのか……。

少年か…己か。

 

 

 

結果、魔法の軌道を変えるために多くの魔力を消費した儂は魔力切れを起こしてしまい、うずくまる。

 

 

目が覚めれば、儂を心配そうに見下ろす少年。

儂が魔力切れを起こして倒れたのを少年は介抱してくれたのだと言う。

マナポーションを作るのに酷く苦労したと笑っておった。

 

 

儂は、なんてことをしてしまったのだ…このような気持ちの良い少年に対し、儂を庇い、モンスターへ立ち向かおうとしてくれた彼に対し。

恐怖し、背後から攻撃してしまうとは……。

老いなど、言い訳にもならんな……。

 

 

 

今日はもう、とても作業を続ける気にはならず、片付けを始める。

助けてくれた感謝と、罪悪感から我が家へと招くことにした。

 

 

 

少年の引く荷車に揺られながら帰路に着く。

少年は…アレンは、とても不思議な少年だった。

 

話してみれば

冒険者を目指してこの大陸にやって来たと言う。

ここから徒歩で行くのかと問いかければ、そうだと答える。

この国で冒険者ギルドがある場所まで歩いて何日かかると思っているのか。

 

自分が今何処に居るのか、分かっていないように感じた。

 

 

 

家族はと聞けば、元気にしてると。

歳はと聞けば、17と。

あの廃墟は?と聞かれれば、答えたりもした。

 

 

町に帰るまで、会話が途絶える事はなかった。

あれはなんだい?これはなんだい?と。

その度に儂が答えて、1人なるほどと納得していた。

少年は、ずっと笑顔だった。

 

 

町に着いた時など特に顕著だった。

大きい町ではない。この国の中でも、小さい方だ。

それでも少年は初めて見たかのように、この町をとても楽しそうに眺めていた。

 

 

まるで幼子のような純真さを思わせながらも、的確にマナポーションを作る技量に、強者がもつ独特の雰囲気を放つ、何処からともなく現れた不思議な少年。

 

それが、儂の感じたアレン・ニンバスという少年だった。

 

 

家に着き、再び話をする。

今思えば、少年はあの木の枝でモンスター共を撃退することなど容易かったのだろう。

儂は少年をたしなめるような口をきいてしまった。随分と失礼な事をしてしまったものだ。

…なにか儂に力になれることはあるだろうか。

そうだ、冒険者になりたいと言っていたな。丁度良い。

 

 

 

少年と話をすればなる程、サタナキア大陸の。

ミカエリスとサタナキアはとても離れている。

混血の証である黒と赤の混じりあった独特の髪色。

両親のどちらかがサタナキア出身なのだろう。

 

サタナキア大陸は殆どが魔人達…彼らの言葉では魔族か。の、国だったな。

儂の若い頃はサタナキア大陸の国々は他のどの大陸とも交流などなかったが、今は違う。

 

 

 

昔は殆ど居なかったが、サタナキアとのハーフはこのミカエリスでも、今ではさほど珍しくはない。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「無理に話すことはない。人には話したくないことの1つや2つあるものだ。」

 

 

俺がなんて説明しようか悩んでいるとモーゼスさんがお酒を飲みながら言う。

お。そうかい?いやぁ助かる。カーチャンが魔王で、そのお陰でミカエリスまで来れただなんて、信じて貰えそうにない。

それに、折角親元を離れて来たんだ。できればここからは親の名前は使いたくない。……転移はノーカンね!

 

 

 

モーゼスさんが懐から木製の筒を取り出す。

ははぁん?知ってるぜ、パイプってんだろ?

モーゼスさんが指先に灯した火でパイプに火をつける。

フー…と白い煙。なるほど、煙い。

 

 

「明日、娘の婿が王都へ向かう。馬車で向かうはずだ。それに乗せて貰うと良い。」

 

 

「えっ!良いのかい?とてもたすかるよ!」

 

 

おっ!やったね!

ミカエリス大陸に居るという事は分かったが、詳しい場所が分からなかった。流石に王都まで行けばここがどの国なのか分かる。

 

 

 

「泊まる場所も…決まってないだろう。今日はここに泊まっていくと良い。」

 

 

「なにからなにまで…良いのかい?」

 

 

「命を救われた。それに、個人的に謝らねばならないこともあるからな。泊まっていってくれ」

 

「?…そうかい?じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 

おいおい泊まる場所まで提供してくれるなんてとても良い人じゃないかモーゼスさん!

いやあ、前途洋洋ってヤツですな!ガッハッハ!

 

その晩、モーゼスさんに食事までご馳走になって、風呂まで入らせてもらってまったりしていたら急激に眠気が襲ってきた。

今日は色々ありすぎた。激動の1日だったなぁ……明日は…王都だ……結局…ここ…ど……こ……すやぁ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「やあ!君がアレン君だね?僕はデビット!王都まで護衛をよろしくね!」

 

 

新天地で2日目の朝を迎えた俺は、少し寝過ごした。

寝ぼけ眼で起きてくると、先に起きていたモーゼスさんに顔を洗ってこいと笑われた。

外の井戸に案内して貰い、顔を洗っていると

真っ青な空の下で真っ白な歯を見せて笑う丸メガネの男性に声をかけられた。

 

 

「デビット、早いな。」

 

 

「やあ!お義父さん。おはようございます!」

 

 

モーゼスさんと親しげに話しているデビットと名乗る人物が、モーゼスさんが昨日話していた婿さんなんだろう。

……護衛?

 

 

「もう出るのか?」

 

 

「ええ、今日は天気も良いし、2人旅ですので」

 

 

モーゼスさんとデビットさんが話している。

俺が寝たあとに話をつけたのだろうか?

あれよあれよと会話が進む。

 

 

 

「さ、準備が出来たら王都へ出発だよ!アレン君!」

 

 

太陽の日差しに負けないくらい元気な人だった。

 

 

 

 

 

「では気をつけてな、アレン」

 

 

「お世話になりました、モーゼスさん」

 

 

 

沢山の野菜や果物が積まれた荷馬車にデビットさんが乗り込み、俺はモーゼスさんと少し話をしていた。

本当に、とてもよくして貰った。

最初に出会えたのがモーゼスさんでなかったら、こんなに早く王都へは向かえなかっただろう。

ごはんも美味しかったし。

 

 

「冒険者を目指すのだったな。ならば丁度いい。向かう先はアラドエルの王都だ。あそこは冒険者達の聖地とも呼ばれる場所だ。」

 

 

「アラドエル!」

 

 

ミカエリス大陸の中でも大国として有名なアラドエル王国。

なるほど、ここはアラドエル王国領だったのか。

ようやく自分の居場所が分かった。

しかも、冒険者達の聖地として名高いアラドエルで冒険者が始められるだなんて。最高ですねぇ!フッフゥー!

 

 

「アレン、お主の名前がこの小さな町にも聞こえてくるのを楽しみにしている。世話になった。ありがとう」

 

 

「こちらこそ、本当にありがとう。モーゼスさんと出会わなかったらどうなっていたか…改めて、お世話になりました。身体に気をつけてね、ムチャしちゃダメだぜ?」

 

 

 

モーゼスさんと笑い合う。

俺はデビットさんの待つ荷馬車へと乗り込みモーゼスさんに手を振る。

モーゼスさんは俺達が見えなくなるまで見送ってくれていた。

 

 

 

さあ!待っていろよアラドエル!アレンが行くぜぇ!!ガッハッハ!!

 

 

 



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「あの中心の赤い星、アレがソレさ!」【再編集版】



一度投稿したものを再編集して投稿しなおします。
余りにも辻褄が合わなすぎた…もう読まれてしまった方、申し訳ございません。


 

 

デビットさんの操る荷馬車に揺られ、俺達は王都へと向かう。

大きな荷車を引くのはこれまた大きな馬型モンスター2頭。

図鑑で見たことがあったな、たしか、そう。

バンエーという名前のモンスターだったかな。

 

 

その大きな体格に似合った体力を有し、人によく馴れることからもミカエリス大陸ではよく移動用に利用されるポピュラーなモンスターと図鑑に書いてあった。

 

 

 

「お義父さんを助けてくれてありがとうねアレン君!」

 

 

バンエーを観察していると、デビットさんが俺にお礼を言ってきた。

確か、モーゼスさんは散歩途中に倒れていた事になっていたな…話を合わせた方が良いのかな。

 

 

 

「お義父さんにも、一人で作業は危ないって言っているんだけどね」

 

 

「え?」

 

 

 

モーゼスさんが倒れた本当の理由をデビットさんは知っているようだった。

俺が驚いてデビットさんの顔を見たら、デビットさんは前を向いて苦笑していた。

 

 

「一応妻には散歩途中に倒れたと説明していたみたいだけどね」

 

 

「そうなんですか」

 

 

 

僕には分かるのさ。

と、デビットさん

俺がなんとも曖昧な返事をしていると、デビットさんが彼自身の話をしてくれた。

 

 

 

「僕はね、昔はアラドエル王都で働いていたんだよ!大陸の歴史や文化専門の学者でね!」

 

 

「へー!すごい!」

 

 

アラドエル国の学者さんか!すごいなぁ。

う、しかし。そうなってくるとサタナキアの文化にも詳しいのかな。

もしかしたらカーチャン達の事とか知ってるかもしれない…。

 

 

 

「ま、今はごらんの通り農家だけどね!たまにこうして王都へと町で採れた作物を運んだりしてるのさ!」

 

 

「へー」

 

 

「後ろを見てごらん、この荷馬車は保冷馬車と言われていてね、知ってるかい?」

 

 

保冷馬車?聞いたことがないなぁ。普通の馬車とは違うのかな?

俺は素直に首をふる。

 

 

「説明しよう!この馬車は長期の移動で作物や魚介類が腐ることのないように開発された画期的な馬車なのさ!」

 

 

 

ほほう、保冷馬車とな。

そういえば屋根のない荷台に作物を積み終わったあとに、荷台部分を覆うように上から箱のようなものを被せていた。

日除け的なモノなのかなと思っていたけど、違ったようだ。

 

 

「上に被っているカバーの中には氷モンスターの魔石が入っているのさ!その魔石から冷気をだして、中の作物が腐ることのないように温度を保っているんだよ!」

 

 

え、すごい。

そう思ってカバーを触ってみても、カバー自体に冷たさは感じない。

どういうことだろう?

俺が首をかしげているとまたデビットさんが説明してくれる。

 

 

 

「この荷馬車の開発にはとても多くの人達が関わっているのさ!」

 

 

デビットさんの説明によれば

人間、エルフ、ドワーフ、オーガ、獣人といった多くの種族があーでもないこーでもないと各々の知識を振り絞り、長い時間をかけて開発されたのだという。

 

 

保冷馬車の中は氷の魔石が備えてあり、カバーは熱を通さず冷気に強い特殊な素材で作られているのだという。また、荷台自体も同様の素材でできているというではないか。しかも冷気の温度調整すら可能らしい。

ほへー…スッゴい。

 

 

 

「すごいだろう?多くの種族が集まってそれぞれ知識を出し合えば、この世に作れないものは無いとさえ思えてしまう。この装置もそうだけど、これだけ技術が進歩したのはたった15年かそこらの話なのさ!」

 

 

「え?そうなんですか?」

 

 

「そうとも。アレン君は歴史は詳しいかい?」

 

 

どうだろう。一応ウィン姉がサタナキアの歴史は教えてくれたけど、他の大陸の歴史は自分で調べた程度だ。

しかも興味のある部分だけ。過去の英雄とか。

そういえば、ウィン姉はなんでミカエリスの言葉だけは教えてくれたのだろうか。

 

 

「この大陸については、あまり」

 

 

「?…そうかい!ならば説明しよう!なぁに、王都への旅は始まったばかりさ!僕と話でもしながら行こうじゃないか!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

アレン君が生まれた直後くらいかな、ミカエリスで大きな大戦があったのさ。

 

とても大きな大戦でね。多くの人が参加して、多くの人が亡くなった。

 

 

魔王ギリアム。知ってるかい?サタナキア大陸1の大きな国を治める最大最強と名高い魔王さ。

 

 

彼は突然このミカエリスにある神聖シュラール王国へと戦争をしかけてきたのさ。

 

 

今でこそシュラール国は多種多様な種族の暮らす国だけど、大戦前は人間だけの国だったんだよ!

 

 

 

話の続きだけど、反対側にいる大陸の魔王が何故?誰も理由なんて分からなかった。

しかも当時サタナキア大陸はどことも交易なんてしてなかったしね、なおさらさ。

宣戦布告と共に大航空船団を引き連れて、魔王自らが周りの全てを破壊しながらシュラールに乗り込んできた。

 

 

 

圧倒的な力をもつギリアム軍にシュラール国の聖騎士達も立ち向かったが、陸から空から攻めてくるギリアム軍に苦戦を強いられていた。

 

 

戦況がシュラール国不利に傾いたとき、新たな別の魔王がシュラール王国にやってきた。

ミカエリスに住む様々な種族、エルフやドワーフ、オーガや獣人達を引き連れてやってきたのさ。

 

 

それが魔王ゼノだった。

 

 

?…どうかしたかい?なんでもないって?そっか!

 

 

なんにせよ、シュラール国はさぞ驚いただろうね。サタナキアから増援が来たかと思えば、なんと魔王ゼノはギリアム軍と戦闘を開始したじゃないか。

しかも自分達とは交流を断っていた多くの種族達と共に。

 

 

シュラールの友人からの話でしか聞いてないけど友人はとても感動したと言っていた。

傷付き、もうダメだと思っていたら、手をさしのべてくれたのがオーガだったのだから。

あのオーガだよ?三度の飯より戦好き!って有名な

 

そこからミカエリス連合軍とも呼べる部隊の快進撃が始まった。

大陸中のありとあらゆる種族が協力し、強大な敵に立ち向かう。

 

 

 

そうして、長い戦闘の末に連合軍は魔王ギリアム率いるギリアム軍を撃退した。

 

 

そこからかな。魔王ギリアムの治めるドゥニーム国を除くサタナキア大陸の6大国と、他の大陸の交易が開始されたのは。

 

 

シュラール国は、国を救ってくれた魔王ゼノや他の種族達に大変感謝して、過去の自分達を恥じ、多くの種族との友好関係を築いたのさ。

素晴らしい話だよね!

 

 

 

……どうかしたかい?アレン君?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「とまあ、こんな感じで多種多様な種族との交流を開始したシュラール国は、多くのモノを発明した発明大国でもあるようになったのさ!」

 

 

 

デビットさんの話に俺はとても驚いた。

そんな事があったのか…全然知らなかった。

だから城にはシュラール産のハチミツとかあったのか。

というか!やっぱりカーチャンの名前を出さなくて良かった!この大陸にがっつり関わってるやんけ!!

 

 

「僕の義兄もね、他の種族との共存を夢見てたのさ。」

 

 

「それって、その、亡くなったっていう…」

 

 

「そうさ。今でこそシュラール国を参考にどこの国でも交易や交流がなされているけど、昔はそうじゃなかったのさ…。とても愚かな事だと思うよ。もっと早くに多くの人と理解し合えれば、こんなに素晴らしいものがもっと早く世に出回っていただろうに……義兄にも、この今の世界を見て欲しかった」

 

 

太陽のように明るいデビットさんが暗い顔をしている。

彼には彼の想いというものがあるのだろう。

俺が踏み込んで良いものでは無い。

 

 

 

「さ!暗い話はここまでさ!楽しい話をしようじゃないかアレン君!僕の家族の話を聞いてくれ!」

 

 

「お!良いですね、教えて下さい」

 

 

「僕には愛する妻と娘と息子が居てね。妻と息子はこっちに住んでいるんだけど、娘はなんと!王都の学園に居るんだよ!凄いだろう!?」

 

 

 

デビットさんはとても嬉しそうに話す。

さっきまでの暗い雰囲気など吹き飛ばすように。

王都まではどれくらい時間がかかるのだろうか。

俺はこの人ともっと話をしてみたいと思った。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「もう20年以上前かな。妻との出会いはね、僕がフィールドワークに出ているときにモンスターに襲われていたところを助けられたのがきっかけさ!」

 

 

「ふむふむ」

 

 

「いやあ美しかった。魔法もさることながらモンスターに立ち向かうその勇姿!一目惚れというやつさ!」

 

 

「ほうほう」

 

 

「そのあと何度も何度も妻に交際を頼み込んだのを覚えているよ。今でも思い出す…。最終的に折れてくれてね。いざお義父さんに結婚の許可を貰いに行ったらこれまた反対されてね!お義父さんはとても頑固でね!大変だったよあっはっは!」

 

 

「へー…恋愛って奴ですかぁ」

 

 

「アレン君は恋人は居ないのかい?」

 

 

「はい、そういったものは全く」

 

 

「そうかい!ならば娘には絶対に会わせないよ!」

 

 

「えっ」

 

 

「君からはどことなくモテの波動を感じるからね!絶対に会わせないよ!今ならお義父さんの気持ちがよく分かる!」

 

 

 

「は…はあ…(モテの波動…?)」

 

 

 

「そういえば、僕はいつもこのペンダントに家族の写真を入れているのさ。見るかい?」

 

 

「え?良いんですか?」

 

 

「ダメさ!娘が写ってるからね!見せないよ!」

 

 

「もぉー!なんなんだよこのオッサン!!」

 

 

俺は敬語を使うのを止めた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

夜、宿屋近くの草原にデビットさんに誘われて2人して寝そべりながら星空を眺めていた時の会話

 

 

 

「見てごらんよアレン君。綺麗な夜空だろう?」

 

 

「おお…星がこんなに沢山…」

 

 

「あそこに白いモヤがかかったような星の1団が見えるかい?僕の指の先さ」

 

 

「あれっすか?」

 

 

「そうさ!あれはね女神の母乳と呼ばれているのさ」

 

 

「へー」

 

 

「命名は僕さ!僕しか言ってない。ふふふ、女神の母乳…素敵な響きさ」

 

 

「………………」

 

 

 

「星と星を指で繋げば…ほら、ご覧よアレン君!巨大なおっぱいさ!」

 

 

 

「………………」

 

 

「僕は王都でこんなことばかり言っていたら、エロ学者なんてとても名誉なあだ名をつけて貰ったのさ…嬉しかったなぁ!」

 

 

 

「………………」

 

 

 

「アレン君、寝たのかい?…起きてるじゃないか!…あれ?どこに行くんだいアレン君!そっちは宿屋だよ!アレン君!おーい!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

次の日、よく晴れた日に荷馬車に揺られての会話

 

 

 

「おや!あそこを見てごらんアレン君、ワイバーンだ」

 

 

「あ、ホントだ……襲ってこないの?」

 

 

「今は繁殖期じゃないからね!よっぽどの事がない限り地上には降りてこないよ。お義父さんの護符もあるしね!」

 

 

「ふぅん」

 

 

「まあ、この辺りは野党も居ないし、平和なものさ!」

 

 

「護衛のつもりだったんだけどなぁ」

 

 

「あっはっは!もしもの時は頼むよアレン君!あ、ワイバーンが上を通過するね!気を付けないと」

 

 

「?襲ってこないんでしょ?」

 

 

「彼らは空でうんちするのさ!天より降り注ぐ巨大なうんちさ!」

 

 

「……………」

 

 

「しかし勇敢だねアレン君。冒険者になりたいんだって?」

 

 

「うん、そのためにここに来たんだ」

 

 

「だったら、王都の前でお別れかな!」

 

 

「え?どうしてだい?」

 

 

「王都では新規の冒険者登録はしてないのさ。冒険者にもランクってのがあって、王都ではCランク以上の冒険者しかクエストを受けられないんだよ」

 

 

「そうなのかい?知らなかった…ありがとうデビットさん」

 

 

「お安いごようさ!娘はやらないけどね!」

 

 

「もー!わかったって!大丈夫だから!」

 

 

「それは娘に興味が無いって事かい!?」

 

 

「どうしろっていうのさ!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

翌朝、王都近くの町付近での会話

 

 

 

「お義父さんは昔は高名な魔法使いだったんだよ。アレン君!」

 

 

「モーゼスさんが?」

 

 

「そうさ。今では魔法使いも引退して、故郷でもあるあの町に帰ってくるまでは王都でも名の知れた冒険者だったのさ」

 

 

「え!大先輩じゃん。色々教えて貰いたかったのに」

 

 

「あっはっは!これからは君達若い世代の時代だからね。お義父さんも遠慮したんじゃないかな」

 

 

「そんなものかなぁ」

 

 

「そんなものさ!僕はね、アレン君」

 

 

「んー?」

 

 

「君のようなハーフが、今の時代の象徴だと考えているのさ」

 

 

「?」

 

 

「今まで世界でもハーフは珍しく、場所によっては禁忌とまでされていたのさ。僕は学者として色々な文献を読み漁り、時には遺跡に出掛けて調べたけれど、君達ハーフの存在はこの国のどこにも書いてなかった」

 

 

「うん」

 

 

「思想も、文化も、どこか自分達とはわかり会えないものだと勝手に決めつけていたのさ。もちろん人類に友好的な種族とは交流もあったけれど、根っこの部分では、お互いを信用できてはいなかったのさ」

 

 

 

「…」

 

 

 

「だけど、あの大戦で全ての価値観が変わった。誰かの為に…自分以外の種族の為に、人々は協力し合えるのだと。その証がこの保冷馬車であり、君達ハーフなのさ」

 

 

 

「…」

 

 

 

「君を、義兄に紹介したかったよ。アレン君。僕の、僕達の父親を救ってくれた大切な恩人を。」

 

 

「光栄だよ。そういって貰えて」

 

 

「僕はね、アレン君。心から義兄を尊敬しているんだ。過ごした時間は短くとも。血の繋がりなんてなくても。本当の兄弟だと心から思っているのさ。僕の誇りだよ」

 

 

「……とても、よく分かるよ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「さあ、着いたよアレン君」

 

 

「うわぁ…」

 

 

デビットさんとの二人旅を終えて、一つの町へとたどり着く。

俺の目の前にはモーゼスさん達が暮らす町よりももっと大きな町。

モンスターからの襲撃を防ぐためだろう巨大な壁が町全体を囲んでいた。

 

 

「ここでお別れだね。僕はこのまま王都へ向かうよ」

 

 

「ありがとうデビットさん。色々話をしてくれて、とても楽しかったよ!」

 

 

「ここで冒険者として名をあげて、王都でクエストを受けるようになってもセラフィー学園に近づいちゃダメさ!娘が居るからね!」

 

 

「わかったて!最後までなんなんだよもー!」

 

 

2人して笑い合う。俺は苦笑だったかもしれないけど。

デビットさんの乗るこの時代の結晶たる保冷馬車を見送る。

モーゼスさんのように、その姿が見えなくなるまで俺は手を振っていた。

 

 

 

 

さあ!ここからが本当のスタートだ!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

お義父さんの言っていたとおり、とても気持ちの良い少年だった。

デビットは手にしたペンダントの写真を見ながらアレンとの短い道中を思い返す。

随分と懐かしい過去を話したものだ。

 

 

魔王ギリアムとの戦争で何故この国のあの村だけが戦火に巻き込まれたのか。

果たして、本当に巻き込まれたのか?

疑問は残る。

 

 

最後まで解り合えずにいた義兄に贖罪するように廃墟となった村へ1人でモンスター避けの護符を埋める義父。

 

 

その助けになればと学者を辞めた。未練はない。

結局頼っては貰えてないけれど。

 

 

随分と身勝手な話だけれども、新しい世代に期待してしまう。より良い世界を作ってくれと。

でなければ2人が余りにも不憫だ。

 

 

同乗者が居なくなって、少し寂しくなった馬車でデビットは1人、王都を目指すのだった。

亡き義兄に想いを馳せながら。

 

 

 

さ、久しぶりに娘とご飯でも行こうかな!

がんばれよ、アレン君!

 

 

 

 

 



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あなたの体に電流が流れます。

 

 

 

 

モーゼスさんとデビットさんの助けによって、ようやく俺の冒険者生活がスタートしようとしていた。

改めて壁を見る。いやあ、しかしデカイ、凄くデカイ。

 

 

近づけば町全体を囲っているであろう巨大な外壁が威圧感を放っている。

まあ、怯んでもいられないな!

おれは意気揚々と町の入り口へと近づいていった。

 

 

町の入り口である門には通行窓口が併設されており、窓口の中では男女種族様々な人達が同じ制服を着てなにやら作業をしていた。

 

う。町がデカければ門番さんの質も違うのかな。窓口を担当していた狼の獣人であろう彼は座っているだけなのに威圧感を放っていた。

 

 

「こんにちは!アレンと申します。この町へは始めてきました、よろしくお願いします!」

 

 

「ん?ああ。よろしくアレン。プレートは持っているか?」

 

 

「プレートですか?」

 

 

プレート?なんの事だろう。そういえば宿屋に泊まる時にデビットさんが受付で何か見せていたが、アレか?

 

プレートとやらを持っていない俺は、プレートを所持していない事、この国に初めて来た事、この町で冒険者に成りたいという事を説明した。

 

 

プレートがなければ入れないのだろうか…

俺がドギマギしていると、そうか、と門番さん。彼が詳しく話をしてくれた。

 

 

門番さんいわく。このアラドエル王国の住人は生まれたばかりの者以外は国から発行されるプレートを所持するのが決まりとなってるのだとか。

 

 

なんでも、先の大戦以降活発化した多数の種族との交流化の関係で以前よりも人の流れが多くなってきたミカエリス大陸では、それにともない種族間のトラブル等も増加傾向にあったらしい。

 

 

それを抑制、解消するために近年生まれたのがプレートシステム。

住人同士でトラブルがあった際にこの人はどこの誰なのか。どこに住んでいるのか。

それを分かりやすくするために国から発行される証明書なのだと。

 

 

シュラール国が先頭に立って始めた取り組みで、今ではミカエリスの国々で採用されているらしい。

 

 

また、冒険者達はこのプレートを用いて自分のランクや、所属しているクラン?の証明をするのだとか。

 

 

 

「あのぅ…持ってないと入れないのでしょうか…?」

 

 

「そんなことはない。そんなことをしたら旅行者など立ち寄れないからな。この国の住人となるならば、所持していろ。というだけさ。この書類を書いたら入れるよ」

 

 

なるほど、と納得して門番さんが差し出してきた書類を受け取る。プレートを所持していない旅行者等に記入して貰う簡易的な確認書類らしい。

うっ!しまった…。

 

 

「どうした?」

 

 

「その、字が……。」

 

 

「ああ、なるほど。流暢に話すから気が付かなかったよ。上から名前とこの町へ来た目的を書いてくれ。自分の国の文字で良い。だが嘘を書くんじゃないぞ、そのペンは嘘を探知して電流が流れる仕組みになっている」

 

 

忘れていた。俺はミカエリスの字が読めないし書けない…ウィン姉から読み書きまでは教わってなかったぁ…。

えっ電流……?ま、まあ良いか。

俺はサタナキア文字で書類を書いていく

書き終えた書類を門番さんに渡す。彼は書類を見たあとに近くにいた女性の門番さんに書類を手渡した。

 

 

書類を受け取った女性の門番さんがあら、サタナキアなのね!なんてこちらに手を振ってくれた。彼女は同郷かな?魔人と人間は細かい違いはあれど、パッと見よく似てるからなぁ。

書類を読んでいた女性の門番さんが指でOKマークを作る。

 

 

 

「よし。シュライグへようこそ、アレン。冒険者になるんだったな。君の活躍を期待しているよ。さっそくギルドに向かうと良い。この通りのから見える大きな建物、見えるか?あの四階建ての建物、あれがギルドだ。冒険者用の窓口に行くと良い。プレートがすぐに発行できる。次からはソレを見せてくれるだけで良いからな。」

 

 

「なにからなにまでご丁寧に。どうもありがとうございました」

 

 

この町はシュライグというのか!

 

つまり、ここで冒険者となれば

ミカエリス大陸・アラドエル王国・シュライグ町の冒険者・アレンって事!?

 

 

フゥー!カックイー!テンション上がるぅー!!

門番さんの頑張れよ、なんて声を背に俺はギルドへ向かってワクワクしながら歩きだした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

さて、道行く人の多さにドキドキしている田舎っぺ丸出しの俺がたどり着いたギルド正面。

ここから私の伝説が始まるのね!

なんておかしなテンションのまま、期待に胸を膨らませて大きな扉を潜った。

 

 

 

ギルド内は老若男女問わず、多くの種族の人々で賑わっていた。

広い。凄く広い。門番さんの言葉通りならこのギルドは国の役所としての役割もあるのだろう。

 

 

俺がキョロキョロしていると、それらしき一角があった。

酒場でもあるのだろうか?沢山のテーブルやイスが並ぶ一角。

そこでは冒険者らしき人達がクエストを吟味していたり、酒を飲みながらクエストでの活躍を語る人達で賑わっていた。

あの辺りが冒険者用の窓口かな?

 

 

「おい、邪魔だぜ」

 

 

「あ、すみません」

 

 

はえー、スッゴい。

なんて入り口で圧倒されていると、冒険者であろう一団に声をかけられた。

頭を下げて脇によけながら、失礼にならない程度に彼らを観察してみた。

 

 

歳は全員俺とそう変わらないであろうか?新品の防具に、それぞれ剣と槍を携えた男性2人に、杖を抱えた女性と軽装の女性の4人組だった。

俺に声をかけた人物が俺の姿をみてフン、と笑い、通り抜ける。

 

 

その笑みに若干の侮蔑が含まれているのを感じとった俺であったが、まあ、気にすることでもない。

 

 

「よお、ジーク!初クエストはどうだったよ!」

 

 

「ハンッ、余裕過ぎてあくびが出たぜ。この分じゃあ、あっという間にアンタに追い付けそうだ」

 

 

ジークと呼ばれた剣を装備した人物がリーダーなのだろうか、酒を飲んで上機嫌なオッサン冒険者…彼はオーガ族かな。見事な体格の赤い肌に頭に2本の角がある。に声をかけられて、不敵な笑みで応えていた。

 

 

「生意気言いやがって、油断しておっ死ぬんじゃあねーぞ!」

 

 

そんな彼の言葉に気を悪くするでもなくガハハハと笑っているオッサン冒険者。

そんな一幕を見ながら、俺はこれ以上邪魔にならないように受付っぽいカウンターへ向かって歩きだした。

 

 

「すみません、冒険者へ登録したいのですが、こちらでよろしいでしょうか?」

 

 

3つある受付のうち、若干ガラの悪そうな金髪の女性が座っているカウンターの前に立ち、声をかける。

隣ではまだ列を作って待っている人も居るのだが、この人の前はガラガラだったからだ。

ガラガラ過ぎて金髪の人は机に足を投げ出して雑誌を読んでいたくらいだ。

 

声をかけてみたのだが、無反応だったのでもう一度声をかけてみた。

 

 

「あ?…アタシに言ってんのかよ」

 

 

2度目でようやく反応してくれた彼女は、自分に声をかけてきた俺が意外だったのか、キョロキョロと周りを見渡して、ようやく俺の目当てが本当に自分だと理解したようだ。

 

 

「で、なんだよ。なんか用か?」

 

 

「あの、冒険者登録をしたくて…」

 

 

「チッ…ンどくせーな…」

 

 

「えぇ~……」

 

 

隣の受付の人が丁寧に対応しているのを横目に、この人の対応は多分きっと間違っているんだろうと確信しつつ、彼女の前がガラガラだった理由を俺は理解した。

 

 

さて、ガラの悪い女性から受けた案内はというと。

 

 

チッ、何でアタシのトコに来んだよ…

いいか?一度しか説明しねーから良く聞いとけよ!

まずアンタはこの紙に自分の名前と種族、年齢、出身地を書いておけ。この国に定住してるのなら、家族構成と住所もな!

ねぇなら無しって書いとけ!

 

 

嘘書くんじゃねーぞ、そのペンで嘘書いたら電流が流れるからな

 

 

……なにボサッとしてんだよ?

……ああ!?ミカエリス文字が書けねぇだぁ!?テメーどこ出身よ!……まあ良い。テメーの分かる字で書いとけ。

 

 

ンで、次だ…あーっと、ドコやったかな……おう。マリカ、計測器貸してくれや。…サンキュー。

 

……書けたか?チッ…どこの文字だよコレ……ま、反応が無かったんだ。嘘は書いてねーようだな。

 

 

でだ、次はこの計測器に気合い入れて手ェかざせ、魔力を測定してやる……えっと……だぁっ!相変わらず設定がめんどくせーな!コレで良いか。

おら手ぇ出せ……5か。まあ、普通だな。

 

 

んで、次は実技だな。コレが終わったらアンタの初期ランクが決まるんだが…

あ?上からABCDEFって分かれてて…めんどくせーな。後で資料やるから読んでろ。

字が読めない?んなもん気合いで読めェ!

 

チッ、実技か…誰か居っかな……

 

 

ガラの悪い女性の説明を時折ビビりながら聞いていると、実技とやらの段になって彼女が困った顔をした。

どうかしたのかと聞けば、どうやら俺は今から誰かを相手に模擬戦を行い、それによって初期冒険者ランクが決まるらしい。

 

 

ガラの悪い女性いわく誰がやってもせいぜいEランクスタートが関の山らしいので、やるだけ無駄なんじゃないかとのこと。

 

 

「あ!ジンさん!ちょうど良かった!ちょっと頼まれてくんねーかなぁ!」

 

 

しっかしこの人口悪いなぁなんて思っていると、ガラの悪い女性が今しがた入ってきたであろう人に声をかけた。

その人物は銀髪に眼帯、刀…だったかな?と呼ばれる武器を携えた鋭い目つきの男性だった。

 

 

「どうしたレベッカ。めずらしいな」

 

 

ガラの悪い女性…レベッカさんからジンさんと呼ばれた人物は彼女からの頼み事が珍しいのか、はたまた仕事をしている姿が珍しいのか。そんな事を言いながら近づいてきた。

 

 

「なるほど、実技の相手か…良いだろう、俺がやろうか」

 

 

レベッカさんから説明を受けたジンさんは快く引き受けてくれた

チラリと俺を一瞥したときに目が合って、なんとなく冷たそうな印象を受けたが、どうやらいい人そうだ。

 

 

「すまねぇジンさん、他に受けたいクエスト有ったろうに…助かる」

 

 

「なに、問題ないさ。暇だったしな」

 

 

出会って数分しか経っていないが、なんとなくレベッカさんの性格を分かってきた俺であったが、ジンさんの前でハニカミながら笑う彼女は少し印象が違って見えた。多分あれだ、ジンさんと仲良しさんなんだろうな。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて、アレンだったな…俺はジンだ。ランクはD」

 

 

と、ジンさんから非常に簡潔な自己紹介を終えた俺は、ギルド内の中庭に位置する広場に来ていた。これから模擬戦が行われ、コレが終われば俺は正式にこの街で冒険者として活動できるのだ。

 

 

「アンタ、武器はそれで良いのか?」

 

 

どうせ暇だし、アタシも見ていくわ。との事で堂々とサボり宣言をして付いてきたレベッカさんに木刀を見ながら聞かれた。

広場の周りには模擬戦用では有るのだろうが、鉄製キチンとした武器も一通り揃えられていた。

 

 

この木刀は、なんとなーくフレイ姉との訓練でよく使っていて手に馴染んでいる木刀をそのまま選んだのだった。

 

 

「これで大丈夫です。ジンさん、よろしくお願いします!」

 

 

「ん」

 

 

俺とジンさんは広場で向かい合う。

俺は木刀を構え、ジンさんは無手だった。

ジンさんの刀はレベッカさんが大事そうに抱えており、他の武器も使う気が無いようだ。

俺が新人だからなのだろうか。

 

 

たしかに俺は新人さ、だからって、素人なんかじゃあないんだぜ?ふふふ。

流石に舐めすぎじゃあないですかねぇ!

 

 

さて、静かに闘志を燃やしている俺であるが、模擬戦とはいえ、俺としては家族以外で初めての相手であるし、新天地での初陣だ。

 

 

何より対人戦では今まで一度も勝てた経験の無い俺だ。自分の実力がどれほどのものなのかさっぱりわからない。

 

 

フレイ姉というバケモノに毎日鍛えられてきたので、クソザコナメクジって事は無いと思うが…はたして。

 

 

しかし、ここからだ。ここから俺の物語がスタートするのだと武者震いしながら俺は自然と笑みを浮かべていた。

 

 

「いきます!」

 

 

と、同時に俺はジンさんに向かって突っ込んだ。

フレイ姉直伝の戦闘術をとくと味わえと言わんばかりに、地面を蹴ってジンさんへと突っ込む。

地面を蹴った衝撃で土煙が上がる程の勢いでジンさんとの距離を詰めた俺は、そのままジンさんの脇腹から肩にかけて、下から木刀を振り抜いた。

 

 

が、ジンさんは俺の攻撃を半身を反らす形で簡単に避けた。

しかもそのまま木刀を振り抜いた俺の隙だらけの脇腹に向かって回し蹴りを放ってきた。

 

 

「くっ!」

 

 

初手を軽く避けられて体が流れてしまっていた俺は、蹴りを避けれないと判断し、勢い良く飛び退くことで、蹴りのダメージを減らすことに成功。再び空いた距離を詰めるべく再度突進を敢行した。

 

 

「まだまだぁ!」

 

 

今度は肩からのタックルで先にジンさんの体勢を崩そうと木刀を下に構えたまま突っ込んだ。体ごと突っ込めば先程のように避けることは難しいだろうと考えたのだ。

 

 

再び土煙を上げながら猛スピードで突進してくる俺に対してジンさんは、それでも冷静に俺の突進を、難なく腕一本で止めて見せたのだ。

 

 

二人のぶつかった衝撃により、ドゴン、と轟音とともに土煙が舞い上がる。

それだけの勢いをもってしても、ジンさんの体勢を崩すことはおろか、その余りのビクともし無さに俺が驚愕していると、肩を受け止めていたジンさんに物凄い力で俺は空中へと投げ飛ばされた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

なんとか空中で体勢を整え、着地したと同時に前を向けば、すでに目前にジンさんが距離を詰めてきていた。

恐ろしいスピードかつ静かに距離を詰めてきたジンさんは、再度驚愕する俺をよそに恐ろしい精度と速度の打撃を放ってきた。

 

 

一手一手に凄まじい威力を持った打撃を捌き、受け、避け、時には喰らい、負けじと反撃したりもした。

此方の反撃はことごとく避けるくせに、ジンさんの攻撃はことごとく俺を捉えていた。

 

 

(ふ…フレイ姉と戦っているようだ…!!)

 

 

どれ程打ち合っただろうか。再びジンさんの蹴りを貰い、吹き飛ばされた俺は覚悟を決めた。このままでは勝てぬ。ならば次の一撃を、最強の一撃をもってあの男に勝つと。

木刀に自身のありったけの魔力を込める。

 

 

ドライグ国最高戦力であるフレイ姉が最も得意とする技を、ジンさんにぶつけてやるァ!

初陣での思わぬ苦戦に思わず熱くなる。

度肝抜かしたる!!

 

 

「ハァァァ!!」

 

 

「…む」

 

 

平然としていたジンさんが初めて反応を返した。俺の繰り出そうとする技に対して、初めて構えらしい構えを取ったのだ。

何となくだが、その姿を見れただけで嬉しく感じてしまった俺がいるのは気のせいでは無いだろう。

 

 

「行くぜぇ!俺の最大火力の技だ!」

 

 

「いや、まて、アレン」

 

 

「ハァァァ!超!必殺ぅ!………う?」

 

 

ありったけの魔力を今!解き放とうとしたところでジンさんから待ったをかけられた。

 

「お前の力はわかった。もう十分だ」

 

「へ?」

 

「ギルドを壊す気か?そんな技をここで撃ったらただでは済まんだろう」

 

「あ」

 

 

なるほど、確かにそうだった。

この技は軽く地形を変える破壊力を持っているのだった。

ジンさんとの戦闘でその事を完全に失念していた俺は、照れを隠すようにポリポリと頭を掻いて武器に込めていた魔力を消した。

が、1つ疑問が残る。

 

 

「あれ?ジンさんこの技知ってるんですか?」

 

 

そう、この技はフレイ姉が最も得意とする技なのだが、かつて初めて見せてもらったときに姉が自慢気に語っていたことを思い出す。

 

 

フレイ姉いわく。この技は喰らったものは必ず死んでるから、お前や他の幹部達、ゼノ様以外で知ってるものは居ないのだよ!フゥーハーハー!

 

 

と、ドヤ顔で言っていた筈だ、そう思って聞いてみたのだが。

 

 

「どのような技なのかは見れば何となく分かる」

 

 

と、非常に簡潔な答えが返って来た。

 

 

「お前の力は大体わかった。これからは俺と共に冒険者としてやっていくことを勧めるが…どうだ?」

 

 

「えっいいんすか!?」

 

 

こちらとしては願ってもない提案だ。依然として余裕綽々なジンさんに対して、最初は度肝抜いたろうと勇んでいたものの、結果はご覧の通りの惨敗。

 

 

ジンさんは確かDランクと言っていたから、彼に手も足もでなかった俺はもっと下のランクだろうし

こんなに強い人のそばで一緒に行動できるなんて初日からツイていると言う他無い。

 

 

「レベッカ、どうだろうか?」

 

 

「…………はえっ?えっ!?……終わった…のか?」

 

 

レベッカさんが唖然とした表情で俺とジンさんを交互に見ていた。

?…どうしたのかな。

ジンさんに声を掛けられても、暫くは反応はなく、戦いの余波でボサボサになった髪をそのままに、ポカーンとした表情で聞いてくる。

 

 

「うぃっす、完敗です。手も足もでなかったっす」

 

 

「謙遜するな。とても良く鍛えられている」

 

 

「そっすか!?ヘヘッ」

 

 

お互い全てを出していないとはいえ、手も足も出なかった事実に悔しくはあるものの、どうしてだろうか、この人に誉められると凄く嬉しい気分になる。

ベーやんや姉達と話している時のようだ。

 

 

俺とジンさんがそんな会話をしていると、レベッカさんが

 

 

「あー…えっと、じゃあ……ボロ負けって事だから、一番下のFランクからスタートって事で良いよな……え、良いんだよな?」

 

 

「良いっす!あざっす!」

 

 

まあ、あれだけボコボコにされたのだ、Fランクが妥当だろうなぁ

 

 

しっかし世界は広いなぁ!俺も随分と鍛えられてきたつもりだったが、フレイ姉クラスの人がまだDランクだなんて…旅にでて良かった。この世界はもっと楽しいことが待っているはずだ!!

 

 

「……????」

 

 

これからの生活にさらに胸を膨らませる俺と、未だに腕を組んで首をかしげているレベッカさん。涼しい顔して傷ついた地面を整え終えたジンさんと共に、ギルドへと戻っていくのであった。

 

 

 

 

 



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ふふ…コレはね…官能小説だよ

 

 

ジンさんとの模擬戦を終えた俺は再びギルドへと戻ってきた。

レベッカさんは俺とジンさんを見比べて首を傾げてを繰り返していたが、模擬戦の結果を報告するためにギルド内の事務所へと入っていった。

首は傾げたままだった。

 

 

「もう少ししたらプレートが出来る。これで晴れて冒険者となるわけだが、住む場所とかは決まっているのか?」

 

 

「住む場所……あっ」

 

 

2人でギルド内のイスに座ってレベッカさんを待つ。

俺としてはもうドキドキワクワクしているのだが、何気ないジンさんの質問に大事なことをすっかり忘れていた事を思い出した。

 

 

そうか!俺はこれからこの町で一人で暮らしていかないといけないんだ!

念願の冒険者になれることに浮かれすぎて衣食住全てをぶっ飛ばして今ここに座っているのだ。

 

 

「その様子だと、なにも決まっていないようだな」

 

 

「うぐ…浮かれすぎてまして…」

 

 

やっべぇ、どうしたものか。

大体俺はこの国のお金すら持っていない。

この国で月に1人で暮らしていくのに必要なお金ってのはどれくらいなんだろうか…。

こんなこと1人で悩んでいても仕方がないので、俺はジンさんに聞いてみる。

 

 

「ん?…そうだな、大体20万エル程有れば余裕を持って暮らしていけるのではないかな」

 

 

20万エル……わからぁん!それってどれくらい!?

というか魔王城に住んでいた頃から自分でお金なんて払ったこともねぇ!

とんだお坊ちゃんだったようだな俺ぇ!

 

 

「あの、大体1クエストでどれくらい稼げるものなんですか?」

 

 

「アレンの場合だとそうだな、今はまだ大体5千エルくらいかな。ランクが上がれば報酬も増える」

 

 

なぁるほど、つまり1日1回クエストをこなしていけばなんとか生活は出来るのか。

しかし、このギルドの人の多さを見る限りではクエストの取り合いになるのかなぁ…そのへんはどうなんだろう。

 

 

あ、そういえばリュックの中に魔の森で拾った綺麗な石があった。

べーやんが持って行けと言うから持ってきたけど。

もし売れそうなものなら容赦なく売っ払ってしまおう。価値が有るものなら良いけど、その辺で拾った石だしなぁ。

 

 

そんな事を考えていると、レベッカさんが戻ってきた。

 

 

「おーう。待たせたなプレートが出来たぜ」

 

 

ウッヒョー!!待ってましたぁ!!衣食住!?後々後々!んなもん今はどうでも良いわい!!見して見して!!

 

 

「はあ……カッコ良い……カッコ良すぎる……」

 

 

レベッカさんから受け取ったピカピカのプレートを掲げて見てみる。

これで俺はシュライグの冒険者となったのだ…素敵すぎる…うへへへ…。

 

 

「ジンさん、コイツ大丈夫か?」

 

 

「そっとしておいてやろう」

 

 

2人がなにやら言っているがそんな事今の俺には何一つとして関係が無かった。

うへへへ、うへへへへへへ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「おし、アレンこっち来い、色々説明してやんよ」

 

 

「え、でも自分で調べ「ああん?」…ありがとうございます助かります」

 

 

さっきまでと対応が違いすぎるレベッカさんに戸惑いながらも、レベッカさんの申し出はとてもありがたいことなので、素直に窓口に座る。

後ろにジンさんが控えてる。

 

 

レベッカさんの説明によると

 

 

アンタは今、アラドエル王国の住人となった訳だ。問題なんて起こしたら捕まるからな。ジンさんに迷惑かけるんじゃねーぞ!ね、ジンさん!へへっ

 

 

コホン…冒険者ってのは特殊な…まあ、職業って言って良いな。

ギルドに貼り出される住人やら国やらの依頼、クエストな。コレをこなして報酬を得るのが主な収入源だな。

 

 

アンタは一番下のランクであるFランクスタートだ。

今は受けられるクエストも少ないし貰える報酬も少ねーが、上のランクに昇格すりゃあ受けられるクエストと報酬も多くなる。

まぁ危険度も高くなるから気を付けな。

 

 

んで、プレートを見てみな。わかったから!ヘラヘラすんな!

Fって書いてある下に窪みが3つあるだろう?スターシステムって奴で、星が3つ溜まったら上のランクに昇格出来るからな。

 

 

昇格やらランクやらの詳しい説明はしばらくしたら新人冒険者達を集めた研修があるからそれに参加するといいぜ。

しばらくはジンさんに付いて回ると良い。ゼッテー迷惑かけんなよ!!

 

 

あ、あとアンタまだ定住してる場所ねーんだろ?住む場所決まったらもっかいギルドに来いよな。また書類とか書かねーといけねーんだ。

おすすめはナルベル通りだな。あの辺りは店も多いし治安も良いし家賃も安い。新人冒険者にうってつけだ。

 

 

以上!分かったか?分かったらレベッカ姉さんに感謝しな!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「まだ昼か…アレン、早速町を案内しようか」

 

 

「わあい!ジンさんあざーす!」

 

 

「えっ!良いな!アタシも行きた……った!何すんだよマリカ!」

 

 

レベッカさんからの説明も終わり、ジンさんのありがたい申し出に喜んで飛び付いた俺と、これまた付いてこようとしたレベッカさん。

しかし隣のマリカと呼ばれたエルフの女性に頭を叩かれていた。

流石にそれは許されなかったようだ。

 

恨めしそうに俺を睨むレベッカさんを置いて、俺達は町へ繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

「はー…改めて凄い人だなぁ!」

 

 

「ここは王都からも近い大きな町だからな。それに今日は休日だ、生徒達が出歩いているのだろう」

 

 

「生徒?学園は王都にあるんじゃ?」

 

 

「王都に有るのはセルフィー学園。この町にはドミオン学園がある。生徒達の中にも冒険者が居てな、王都からこの町にクエストを受けに来るセルフィー学園の生徒も多いから休日は更にギルドが賑わうぞ」

 

 

学園かぁ。俺と同い年くらいの人達が勉強をしに行く施設だったよな。俺の知ってる学園の知識なんてそんなもんだ。

ドライグ国にも学園とか有ったのかな。

 

 

 

「今からレベッカの言っていたナルベル通りへと向かう」

 

 

俺が今は遠き故郷に想いを馳せていると、ジンさんがレベッカさんのおすすめしてくれたナルベルという通りへ案内してくれようとしていた。

 

 

「あ、その前に換金所みたいな所あります?コレなんですけど、見て貰おうと思って」

 

 

俺はジンさんにリュックの中から石を出して見せる。無一文な俺としてはさっさとお金を手に入れたい所。拾った石に価値があるかは分からないけど。

 

 

ジンさんは石を見て頷き、良い所を知っていると進路を変えて歩きだした。

 

 

 

俺達はギルド近くの賑やかな通りから一転、薄暗い路地をジンさんと歩いていく。

すれ違う人達もどこか剣呑な気配を放っている。

 

 

「お前ならば大丈夫だと思うが。まあ、用がない限り近付かん方が良いかもな……ここだ」

 

 

ジンさんが薄暗い路地の中でも一際不気味な雰囲気を放つ扉の前に立つ。

ここがそのお店なのだろうか?看板も何も出ていない。

ジンさんは慣れた様子で扉を開けて入っていく。

 

 

「エリィ、客をつれてきた」

 

 

「おや、ジンじゃないか…久しぶりだねぇ」

 

 

店の中は意外にも綺麗に整頓されていた。

とても薄暗かったが。

棚にはドクロやら、モンスターの標本やら城でも見かけたことが無い用途不明の物だらけで凄く不気味だったが。

 

 

ジンさんにエリィと呼ばれた青い肌の女性。

うぅん?オーガ族なのかな。頭から角が1本生えている。

エリィさんは店のカウンターで寛いだ様子で本を読んでいた。

気付いて居るのか居ないのか。ジンさんに声を掛けられるまで本から顔を上げなかった。

 

 

 

「ジン…君がカイ以外の人と一緒にここに来るのは初めてだね…どちら様かな?」

 

 

「アレンと申します。アレン・ニンバス」

 

 

エリィさんが俺に声をかける。カイというのはジンさんの友人だろうか?

 

 

「よろしくアレン…本日はどのようなご用件で…?」

 

 

「えと……ジンさんにコレを見せたら、良い所を知っていると」

 

 

俺はエリィさんに見えるように魔の森で拾った石をカウンターに置いた。

エリィさんは妖艶な美女というかなんというか。

彼女はゆっくりとした動作で石をつまみ上げ、眺める。

 

 

「これは……ふふ、成る程。コレを売ってくれるのかな…?」

 

 

「は、はい…良ければ、ですけど…」

 

 

この人に見つめられると圧倒されるというか。

この店の雰囲気も相まって彼女の妖しい雰囲気に拍車がかかっている。

 

 

「200万エルでどうかな…?」

 

 

「ひえっ!?そんなに!?」

 

 

「…相変わらず君達は良いモノを連れてくるね…ふふ…確かにこの石の価値は私にしかわからない…」

 

 

「そうか。金はすぐ用意できそうか?アレンはこの町に来たばかりでな。まとまった金が必要なのだが」

 

 

「ふふ…用意するよ」

 

 

 

ええ…あの石にそんな価値があるの…?

俺が唖然としているとジンさんとエリィさんがどんどん話を進めていく。

エリィさんがカウンターの下から箱を取り出してお札を取り出す。あれがこの国の紙幣なのかな。

 

 

「…さあアレン…これで商談成立だ…よいかな?」

 

 

「え、あ、はい。有難うございます…」

 

 

「ふふ…これからもご贔屓に…」

 

 

「世話になったなエリィ。良かったなアレン、行こうか」

 

この国で一年近くは過ごせるくらいの思わぬ収入に未だに唖然としている俺をよそにさっさと外に出ていくジンさんに、石を引き出しに仕舞って話は終わりだと言わんばかりに本を読み始めるエリィさん。

こちらを見ていないエリィさんに一応お辞儀をして、店を出たジンさんを追う。

 

 

 

「…ドライグ国の魔鉱石…ふふ…アレンと言ったねぇ……」

 

 

 

なにやらエリィさんが呟いていたようだが、思わぬ大金を手にした俺には聞こえていなかった。

ドアを閉めるときにエリィさんが俺に笑いかけていた気がするが、薄暗くてよく分からなかった。

 

 

 

 

「さあ、次こそナルベル通りに行こうか」

 

「よろしくお願いします!」

 

薄暗い路地から再び明るい大通りへ。少し眩しくて目を細める。

俺は再びジンさんと共にシュライグの町を歩きだした。

 

 

 



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「この部屋は?」「隣に変態が住んでおります」

 

 

 

道中、ジンさんから聞いたこの国のしくみを自分なりにまとめてみた。

 

 

・シュライグはアラドエル王国の中でも、王都に次ぐ広さを持つ町で、レディス大爵が町長としてこの町を治めている。

 

 

・アラドエル王国では一番上を王様として、大爵、中爵、小爵呼ばれる貴族達がこの国の特権階級として、政治に関わっている。

ジンさんいわく他にも細々とした爵位があるらしいが、今はこの認識で問題ないとのこと。

 

 

・町には国の役人として門番さんや衛兵さん達が町の治安を守っており、ギルド職員も国の役人なのだとか。因みにレベッカさんは休日限定のバイトなんだと。

国の職場でバイト…?まあ、そういうものなのかな。

他にも国の役人がこの町で働いている。

 

 

・王都では衛兵さんや門番さんの役割を騎士さん達が担当しているらしく、この町で優秀な人達は

騎士として王都へと引き抜かれたり、逆に騎士さんが悪いことして降格してやってきたりする。

 

 

・この町での主な移動方法としては、町中では徒歩か空飛ぶホウキと呼ばれる魔道具(免許が要るらしい)。お金がいるがバスと呼ばれる人専用の座席が付いた荷馬車みたいなのが定期的に走っている。

バスは大きいのから小さいのまでサイズは様々なのだとか。

 

 

・別の町への移動方法は、これまたバスか、持ってる人は荷馬車や移動用のモンスター。なんと空行くワイバーン便なんてのもあって、大金さえ払えば一般人も利用出来る。大金持ちは個人でワイバーンを移動用として利用しているのだとか。

飛空挺なんてのもあるらしい。

 

 

・町には東西南北4つの門があり、俺が入ってきたのは東門。町が大きいのでギルドも4つあって、俺が登録したのは東ギルド。ここは東区。今目指してるのが東区ナルベル通り。

多くの冒険者がこの東区に住んでいる。

東ギルドの傾向として、多種多様なクエストが貼り出される。

 

 

・南区は全体が学園街となっており、ドミオン学園が有る。

6歳から学園に通えるらしく、最長22歳まで学園で勉強できるらしい。

小等部中等部と呼ばれる9年間以外は親元で過ごし、高等部からは学園街にある寮に住むのだと。

王都の学園にも進学することも可能らしいが…まあ、俺には関係ない場所なので詳しくは聞かなかった。

南ギルドには生徒用のクエストが貼り出される。

 

 

・北区は……俺にはまだ早いと言われた。どう言うことだろう?危ないのかな。

北ギルドは護衛系のクエストが多い。

 

 

・西区は工業地域で職人達が多く住んでおり、新人冒険者は西区で武具を作るのを目標として頑張っている人も居るのだとか。

主に武具や魔道具の作成に必要な素材を集める、討伐系のクエストがこの西ギルドには多く貼り出される。

 

 

・各ギルドにテレポートという非常に高価な魔石を使用した装置が置いてあり、有事の際にはコレを利用して東西南北4つのギルドを行き来することが出来る便利な転移システムがあるらしい。

難点としては一人一人しか送ることは出来ず、再使用に時間もかかる。

小規模な転移部屋みたいなものか。

 

 

・冒険者の派閥とかも有るらしく、ジンさんはそういうのが煩わしくてソロで活動しているのだとか。わざわざ俺のために有難い話である。

 

 

 

 

 

「大体こんな感じか。分からないことがあったら聞くと良い」

 

 

「あざす!…空飛ぶホウキって?」

 

 

「あれだ」

 

 

早速質問をした俺にジンさんが空を指差す。

ジンさんが指し示した方をみれば、そこには魔道具に跨がり大空を自由に駆け抜ける人が。

その形は…なんと言えば良いのだろうか。箒というよりも流線型の馬のような形をしていた。

 

 

「ホウキという名前は昔の逸話の名残らしい。あれは空飛ぶモンスターの魔石をエネルギーとして空を自由に飛ぶことを目的に開発された移動用の魔道具だ」

 

 

高純度の魔石でなければすぐに魔力切れを起こしてしまう為、別の町へ行く等の長距離の移動は向かないものの、この町を移動する程度ならば問題無いのだと。

もっとも、エネルギーが切れたら新しい魔石を買わねばならず、メンテナンス等も必要なため金銭に余裕がある人達しか今は所持していないらしい。

 

 

「エネルギーの切れた魔石はどうするんですか?」

 

 

「ギルドで回収している。それと高位のモンスターの落とす高純度の魔石は高値で取引されるからな、俺達冒険者の収入源にもなる。この国で資格のない者が魔石を販売すると違法だ。冒険者は大丈夫だが、一度ギルドを通す必要がある」

 

 

ギルドで回収して再利用でもするのかな?

ともあれ、討伐系のクエストを受けた時は魔石の回収も視野にいれなければならないのか、リュックを持っていった方が良いかな。

ふふふ、クエストか…明日には行けるかな、どうかな。

 

 

俺はいずれ来る初クエストに想いを馳せてジンさんと共に賑やかな町を歩いていく。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「ここがナルベル通りだ」

 

 

ジンさんと目的地であるナルベルという通りにたどり着いた。

おお…コレが私の住むエリア(予定)ね!

 

 

ナルベル通りもまた、多くの人で賑わっていた。

アパートと呼ばれる1つの建物に多くの住人達が部屋を借りて住む賃貸物件から、一軒家まで様々な住宅が建ち並ぶ。

 

 

すぐ近くには商店街といえば良いのだろうか?

武具屋や飲食店、アイテム屋から八百屋に精肉鮮魚店なんかが並んで建っている。

 

 

「こっちか」

 

 

ジンさんが通りの地図が書いてある掲示板を見て、歩きだす。後で俺も見ておこう。

 

 

ジンさんに連れられて一軒のお店の前に立つ。

ここは?と聞けばこの辺りの住居を管理している

不動産屋という所らしい。色々な職業があるんだなぁ。

 

 

「いらっしゃいませぇ~」

 

 

俺達が店に入ると、どこか気の抜けた挨拶をするメガネ姿の男性。くたびれたスーツを着ていた。

 

 

「彼が部屋を探しているのだが」

 

 

「アレンと申します。よろしくお願いします」

 

 

「そちらのお方ですねぇ、こちらにお掛けになってお待ち下さいねぇ」

 

 

俺が案内されたイスに座ると、メガネの男性が書類を準備している。

すると奥から別の男性が俺の前に来てどうぞ、とコップを置く。飲んで良いのかな?湯気が立ち、黒い液体が入っていた。これは……なんだろうか。

 

お連れ様もどうぞ、とジンさんにも同様に飲み物?が出される。

後ろに立っていたジンさんも俺の隣に座ると有難うと一言言ってコップを手に、そのまま飲む。

 

 

 

…熱っ………苦ぁい…なぁにコレェ…。

ジンさんに倣って出された飲み物を飲んでみたら、焦げたような、酸味の有る酷く苦い味。

 

 

ジンさんは平気な顔して飲んでいたが、俺にはとても飲めたモノではない。顔をしかめていると

俺の様子を見つけたジンさんがコップと一緒に出されていた紙の筒?と小さな容器を指差した。

 

 

「ジンさん、コレは…?」

 

 

「コーヒーという飲み物だ。初めて飲むなら苦いだろう、この包みに砂糖と、容器にミルクが入っている。甘味を足して味を調整するんだ」

 

 

「へぇ、コーヒー」

 

 

この飲み物はコーヒーというのか。水とフルーツジュースしか飲んだことの無い俺にとって初体験だ。

ジンさんの言うとおりにやってみよう。

とりあえず苦くて飲めたものではないので、全部ぶちこんでやろう。

 

 

…………うむ、苦い。苦いが……まあ、飲めない事はない。

チラリとジンさんを見ると砂糖もミルクも使わずに苦いのを平気な顔で飲んでいた。俺にはその姿がとても似合っていて、格好良く見えた。

か……カッコいい………。

いつか俺もコーヒーの似合う大人になろう。

そう決心していると。

 

 

 

「お待たせしましたぁ、こちらの物件などいかがでしょうかぁ」

 

 

どこか気の抜けた物言いの店員さんと、ジンさんの3人で

これがいいあれがいいと住む部屋を見繕っていく。

楽しい。凄く楽しい。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

外に出るとずいぶんと薄暗い。

時間はもう昼を過ぎて大分涼しくなってきた。

 

 

不動産屋さんの案内でナルベル通りから少し離れた2階建てのアパートの前に連れてこられた俺達。

外観からは年数はそれなりに経っていることが伺えるものの、住宅街から離れていて静かな場所にあり、家賃も安い。いくつか上がった部屋候補のうちの1つだ。

 

 

「あちらに大家様がいらっしゃいますねぇ~」

 

 

アパートの前を掃除している狐耳の獣人の女性。

不動産屋さんが彼女に近づきなにやら話している。

彼女がこのアパートの大家さんなのだろう。

ジンさんはアパートの一室をじっと見ていた。

 

 

?…あ、不動産屋さんが手招きしてる。

 

 

「こちら大家のルナ様です、こちらは物件を見に来たアレン様に、付き添いのジン様」

 

 

自己紹介とともに、お辞儀。

 

 

「初めまして!大家のルナです!お部屋、見に来てくれたんだって?気に入ってくれたら嬉しいな!」

 

 

なんとも元気に笑う女性だ。この国には美人しか居ないのか?

ルナさんが言うには全部で6部屋あって、1階と2階の101号室と201号室以外は空いているのだという。

 

 

うーん、こんなに部屋が空いているんだったら103号室か203号室のどちらかが良いかな。隣人がどんな人か分からないし。

 

 

「203号室を見せてもらって良いですか?」

 

 

「あっそこは…」

 

 

「?」

 

 

「ちょっと問題があって…その、前の住人が怪しい召喚術に傾倒していたらしくて、変なバケモノを召喚してしまったみたいなの。住んでた人もバケモノに食べられちゃって。そのままバケモノが部屋に住み着いちゃったの!」

 

 

テヘペロ☆

テヘペロではないが。

 

 

「よし、次に行きましょう」

 

 

「あーん!まってまって!そこにさえ目をつぶれば良い部屋なのよ!ね?お願い!私も生活しないといけないの!お母さんから任されて大家になったのは良いけどあんなものが住み着いちゃって誰も住んでくれないの!封印だってしてるし!たまにしか悪さしないよ!お願い!助けると思って!家賃安くするからぁ!」

 

 

ね?ね?とルナさん。ものすごい勢いで俺に泣きついてきた。

いや、ね?ではないが。たまに悪さするのかい。

 

 

「ええ…隣にバケモノ住んでる部屋って…因みに家賃はおいくら?」

 

 

「5…いや!3!3万エルでどうかな!?」

 

 

ううむ。この辺りの相場は大体6万〜9万エルくらいだったか。大体半分くらいかぁ…。

しかしバケモノが住んでる部屋の近くかぁ。

 

 

「ちなみに、ソイツを討伐しても家賃はそのままか?」

 

 

「え?元に戻すよ?8万!」

 

 

ジンさんがルナさんに問いかけると、ルナさんはキョトンとして答えたあとニコニコと笑っていた。

 

 

「…不動産屋さん」

 

 

なんて物件を紹介してくれたんだこの人は。

といった様子で俺が彼を見ると

 

 

「すみませんねぇ~こちらも契約している物件が多くて……申し訳ございません。」

 

 

不動産屋さんも困ったように汗を拭いていた。

彼も知らなかったようだ。

 

 

「とりあえず、見てみるか」

 

 

ジンさんが歩きだす。

え?部屋を?バケモノを?

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ジンさんが件の部屋へと向かっていく。

階段を登って2階の、1番奥の部屋。

部屋の扉にはびっしりと護符が貼ってある。これが封印の護符なのかな。

扉からは護符の雰囲気や時間帯もあって、異様な気配。

不動産屋さんは下で待っている。

 

 

「ふむ……これなら大丈夫じゃないか、アレン」

 

 

「え?」

 

 

「え!?ほんと!?」

 

 

ジンさんの言葉に首を傾げる俺と凄く嬉しそうなルナさん。

ちょいちょい出てくるジンさんの俺に対する評価はなんなんだろうか。凄く嬉しいけれども。へへへ。

 

 

「この程度の存在ならば逆にお前には近付くのを避ける筈だ。下手に障れば消滅させられるのはこいつだ」

 

 

「ふーん」

 

 

「ね!なら大丈夫だよね!住んでくれるよね!どの部屋がいい!?この部屋の隣!?それとも下かな!?ねえ!ねえねえ!」

 

 

ルナさんが俺の肩を持ってブンブンと振ってくる。

この人…必死だ。

 

 

「わかっ…わかったからぁ!揺らさないでおくれよ!」

 

 

「あーん!ありがとうアレン君!」

 

 

よっぽど嬉しかったのかルナさんが俺に抱きついて背中をバシバシ叩いてくる。

意外と力が強くて痛い。

 

 

 

思わぬジンさんからの援護で気分を良くしたルナさんに押しきられる形で、結局俺はこの部屋の隣に住むことにした。

ルナさんいわくこの部屋のバケモノはたまに外に出ようとするらしい。なので気がついたら抑えて欲しいのだという。

抑えつけてくれたらお小遣いをくれるとも言っていた。

……なんて人だ。

 

 

 

この部屋に住むと不動産屋さんに伝えたら、彼はとても恐縮した様子で何かあったら力になりますと言ってくれた。

 

 

ルナさんも知り合いの伝を使って家具やらを用意してくれると言っていた。まあ、コレくらいは甘えても良いだろう。なぜなら新居の隣にバケモノが住んでいるのだから。

 

 

そういえば、ルナさんは俺と歳がそう変わらなかった。

ドミオン学園に通う19歳。冒険者でもあるらしく、ランクはE。普段は南区の寮に住んでいるのだが、休日はこうして大家として東区にやってきているのだとか。

 

 

 

「後は銀行と…服屋くらいだな。その前に飯にしようか、アレン」

 

 

「私は家具を準備しておくね!一緒にやろうねアレン君!ジンさん!一人じゃ怖いもん!明日また来てね!明日までには用意しておくから!夕方来てね!まってる!」

 

 

「私、美味しいところを知っていますので、お詫びといってはなんですが、ご案内させていただきます~」

 

 

 

ブンブンと手を振って俺達を見送るルナさん。

不動産屋さんに教えてもらったご飯屋さんはとても美味しかった。

食後にコーヒーを飲むジンさんの真似をして俺もコーヒーを飲んでみるが、やはり苦い。

 

 

しばらくまったりしてから。再び町へ。

2人で銀行にいき、口座を作ってエリィさんから受け取ったお金を預ける。

この国の殆どのサービスはプレートでやり取り出来るので、簡単な手続きでスムーズに口座が開設できた。ちなみにここでも電流ペンは大人気だ。

 

 

 

そんなこんなしていると、空がとっぷりと暗くなっている。

道には街灯が規則正しく並んでいた。人ももうまばらだ。

服も部屋の準備が出来た明日で良いだろう。持ち歩くには邪魔すぎる。

 

 

ルナさんが家具を用意してくれるらしいし、明日も忙しくなりそうだ。

俺はナルベル通りの宿屋に泊まり、東ギルドに集合の約束をしてジンさんと別れた。

1日中付き合ってくれたジンさんには感謝感謝だ!

 

 

 

…?

………なにか忘れている気がする。

 

 

 

………あっ手紙!!

 

 



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下からビューン!

 

 

 

この町に着いて2日目の朝を迎えた俺は眠たい目をこすりながら大あくびをする。

昨晩慌てて宿屋の女将さんに手紙の出し方を教わって、夜遅くにドライグ国へ向けて手紙を出すためにずいぶんと走り回った。

 

 

さぁて、今日は朝からジンさんと東ギルドで待ち合わせだったな!

女将さんに挨拶をして宿屋を後にする。

うーん!今日も良い天気だ!

気持ちの良い朝日を体に浴びて、俺は東ギルドへと走り出した。

 

 

 

東ギルドに到着した俺は、朝から賑わう人の多さに相変わらずドギマギしてしまう。

キョロキョロと周りを見渡せば、居た。

 

ジンさんは刀を立て掛けて1人で座っていた。遠くにはレベッカさんがソワソワと髪の毛を弄りながらジンさんを気にしているのが見えた。

 

 

「ジンさんおはようございます!」

 

 

「おはようアレン」

 

 

とても簡単な挨拶を交わし、ジンさんが立ち上がる。

今日は何処へ行くのだろうか?部屋は決まったしお金も預けた。ルナさんとの約束の時間までまだ大分余裕がある。

 

 

「今日はクエストを受けてみようか」

 

 

「クエスト」

 

 

うっひょー!キタよキタキタ。ついに来ました初クエスト!討伐すか!?護衛すか!?何でもござれってなもんですよ!!

一気にテンションの上がった俺はクエストが貼り出されるボードへと向かうジンさんの後ろを小走りで追う。

 

 

ボードは全部で4つあり、左から初級・中級・上級・緊急と分かれているとジンさんが教えてくれた。

初級ボードの前でジンさんがクエストを吟味している。

他の人が何個かクエストを受注したのか、ボードに規則正しく並んだクエスト用紙が所々剥がされていた。

 

 

チラリと隣を見れば、他の冒険者もクエストを吟味している。彼らはみんな俺よりランクが上なのだろう。先輩って奴か!

 

 

「コレにしようか」

 

 

 

俺が先輩冒険者を観察していると、ジンさんがボードから1つのクエスト用紙を手に取った。

そのまま窓口へ向かうのかな?と思えばさっきまで座っていた場所へ向かう。首を傾げてジンさんの後を追う。

 

 

あ、説明してくれるのか。そうだった。俺は字が読めなかった。

ジンさんからの説明によると

 

 

いいかアレン。クエストを受ける際はボードに貼り付けられたクエスト用紙を持って窓口へ向かう。

クエスト受注には条件があり、必要な人数が指定されている場合もあるから気を付けろ。

この用紙の、この部分だ。数字は分かるな?

 

 

この上に文字が書かれているだろう?これが受けられるランクを示している。

今回受けたのはFランクのクエスト…ここだ。

ソロだと自分のランク以上のクエストは受けられないからな。

上のランクを受けたくなったら俺に声をかけるといい、Dランクまでなら俺と同行という形でクエストを受注できる。

この場合は人数も気にするな。レベッカが融通を効かせてくれる。

 

 

それから、このマーク。採取系なのか討伐系なのか護衛系なのか。クエストの種類が記されている。

今回は採取系だ。西区の農耕地帯へ向かう。

モンスターの討伐の場合はモンスターのイラストが書かれているが、Fランクじゃ討伐クエストは殆ど受けられない。護衛もな。

 

 

ここには受けたクエストの報酬金が書かれている。

今回は…そうだな。半日で4000エルだな。

依頼人の意にそぐわない結果に終わればクエスト失敗として報酬金は出ないのでこれも注意だ。

 

 

大体こんな感じか。近々研修があると言っていたな。それに参加すると良い。

冒険者としての基礎を教えてくれるはずだ。

俺か?俺は行かなかった。

 

 

 

俺はジンさんの説明を受けて少し落胆する。

そっか。一番下のランクだと受けられるクエストも少ないのか…まあ、実績もなにもない新人に討伐やら護衛やらは任せられないもんな。

ランクを上げるのを頑張ろう!

 

 

 

説明を終えたジンさんが今度こそ窓口へと向かう。

ジンさんは採取系と言っていたが、初クエストな事には違いない。

俺はウキウキしながら付いていく。

 

 

 

うーん。相変わらずレベッカさんの担当する窓口は空いているなぁ。

流石に時間帯もあるのだろう、レベッカさんの前にも冒険者が隣ほどではないが列を作っていた。

 

 

あ、俺達の番になったらめちゃくちゃ丁寧に座り直した。

 

 

「おはよ!ジンさん!あとアレンも」

 

 

いや温度差ァ!

ジンさんとレベッカさんの元へ行くと前の冒険者との扱いの差が凄い。

さっきまでニコリともせずに淡々としていたのに。

ジンさんに花の咲くような笑顔で挨拶をしている。俺には凄く適当だけど。

 

 

「おはよう、レベッカ。よろしく頼む」

 

 

「あいよ!」

 

 

うーん元気な返事。

ニコニコと嬉しそうにジンさんとやり取りをしている。

さっきまで無表情で対応していたのが嘘のようだ。

 

 

「西区の農耕地の手伝いクエストだな!アレンは初クエストか、ジンさんに迷惑かけんなよ!」

 

 

がんばれよ!

なんて、そんなレベッカさんの応援に力強く頷く。

さあ!初クエストだ!

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ジンさんと2人、サイズの小さいバスに乗って西区の農耕地へたどり着いた俺の前に、真っ青な空の下、一面の畑が出迎えてくれた。

ふわぁ、でっかい。

西区は工業地帯と聞いていたが。なるほど、農業も西区で行ってるのか。

 

 

 

住宅街から離れたどこか牧歌的なエリア、そこを2人で歩いていると

畑の近くに民家が見える。

おじいさんが1人で農機具の準備をしていた。あの人が依頼人かな?

 

ジンさんと依頼人であるおじいさんの元へ向かう。

 

 

「すまんね、うちの倅が腰をイワしちまったみたいでな、2~3日でこの畑を耕さにゃならんのだが、ワシ1人ではどうもな。そこでお前さん等に頼んだ訳だ。早く来てくれて助かるよ」

 

 

どうやら急ぎの依頼だったようだ。西区はモンスターの討伐が主に貼り出されるため、手伝い系のクエストは見向きもされないらしい。

だから東区に回ってきたのかな?

 

 

なにはともあれ。

目の前には、広大な畑。

この場所を、2人で……?

 

 

ジンさんを見ると、上着を脱いで腕まくり。

早速仕事に取りかかろうとしていた。

なんというか…似合わない。

この人はモンスター相手に戦っている姿がとても似合っている気がする。

 

 

「さ、やろうか。アレン」

 

 

おじいさんから麦わら帽子を借りたであろうジンさんが帽子をかぶってそんな事を言う。うーん……。

 

 

「はっはっは、お前さん麦わら帽子似合わんなぁ!」

 

 

「はわわ!おじいさんシー!シー!いやっジンさん!似合ってるよ!そんな落ち込まないで!さあおじいさん俺にも帽子を貸しておくれよ!よっしゃあジンさん耕そう!耕しまくろう!」

 

 

 

少しテンションの下がったジンさんと、俺のフォローなんて無視して未だに大笑いしている依頼人のおじいさん。

おじいさんから道具を借りて、俺達は広大な畑へと立ち向かう。

 

 

よっしゃあ!やったるぜー!!………大丈夫だからジンさん!!似合ってるって!!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「おーい!そろそろ休憩にしようかぁー!」

 

 

俺とジンさんで畑を耕していると、おじいさんが俺達に声をかける。

時間は何時くらいだろうか。太陽がずいぶんと高いところにある。

ジンさんは慣れているのか黙々と畑を耕していたが、俺は初体験。初めての鍬にとても苦労していた。

終わってみればジンさん6割俺4割と、ジンさんの半分も畑を耕すことが出来なかった。

 

 

体力に自信はあったんだけど、とても疲れた。

おじいさんの言葉はすごくありがたい。後半から魔力で体を強化しながらなんとか午前中の仕事を終えた。

 

 

「おつかれさん!いやぁ若い2人に来てもらって助かった。この分じゃ予定よりもかなり早く終わりそうだ」

 

 

おじいさんの家に招かれて、食事をごちそうになる。

うーん!仕事の後のご飯はとても美味しい!

俺が出された食事を食べていると俺の食べっぷりに気を良くしたのか、もっと食えとおじいさんが料理を沢山出してくれた。

 

 

 

「あの畑は何を作る予定なんだい?」

 

 

「ジャギーモという芋だよ。ワシの畑では芋やらデーコンやらの根菜をつくっとるんだ」

 

 

ふぅん。そうなのかぁ。

 

 

「昼からは何を?」

 

 

食事を終えたジンさんがおじいさんに聞く。

そうだなぁ。とおじいさん。

 

 

予定よりも早く耕し終わったので、次からは畑全体に肥料を撒いていくのだという。

それが終われば種まきなのだが、それは後日息子さんと2人でやるらしい。

 

 

ということは、後は肥料を撒いたらクエストは達成なのかな?

おじいさんの家でしばらく休憩してから、俺達は再び畑へと向かった。

ジンさんの麦わら帽子も見慣れたものさ。

 

 

 

「ありがとよ」

 

 

「んん?どうしたんだい?」

 

 

「西区じゃ武器や魔道具ばっかりに目が向けられて農業の方は依頼を出してもなかなか受理されることがなくてな。大体は家族で作業をしてるんだが、こうしてお前さん達が来てくれて本当に助かったよ」

 

 

おじいさんと一緒に肥料を畑に撒いていると、おじいさんから感謝の言葉。

おじいさんは2~3日でこの畑を耕したかったそうだが、間に合わなかったらどうしていたのだろうか。

危険度の無いクエストとはいえ、やりたいかどうかと言われれば…うーん。

もし俺に字が読めて、ジンさんが居なかったらこのクエストは受けなかったかも知れない。

 

 

だけどまあ、こうして感謝されるのならば、やってよかったと心から思える。

 

 

「さ!あともうひとふんばり!頑張っていこうかの!」

 

 

「おっしゃー!」

 

 

おじいさんと俺とで、2人して畑に肥料を撒いていくのだった。

 

 

 

 

全ての作業が終わり、おじいさんが言うように予定よりも早く終わった俺達は帰宅の準備をする。

おじいさんがシャワーを貸してくれたので、俺とジンさんが交互に入る。

うーん!気持ちいい!!

 

 

とてもさっぱりした俺が部屋に戻ると、ジンさんとおじいさんが待っていた。

?…どうしたんだろう?

 

 

「アレン、今回のクエストは達成だ。報酬金はお前が受け取ると良い」

 

「えっ!でもジンさんの方が働いていたし…」

 

「なに、あの程度。お前の初クエスト達成の祝いだ。待たせると悪いぞ」

 

 

そんな事をいってさっさと外へ出て行ってしまうジンさん。

俺が戸惑っていると、おじいさんが「なんだ、初クエストだったのか?これからがんばれよ!」なんて報酬金を渡してきた。

 

 

きっちり4000エルある。

自分で働いて、自分で得た報酬。

エリィさんの店で手に入れた200万エルよりも俺にはよっぽど価値があるように思えた。

 

 

言い知れない感動にうち震えている俺を、おじいさんがとても気持ちのよい笑顔で見ていた。

 

 

 

俺はおじいさんから受け取ったお金を懐にしまって、2人して来た道をもどる。

これにて初クエスト完了!俺は冒険者としてのスタートを晴れやかな気持ちで終えたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お!戻ってきたな!おつかれ!……なんだよニヤニヤしてからに…ジンさん、アレンの奴どうしたんだ?」

 

 

「なに、初クエストを終えたんだ、そんな顔にもなるさ」

 

 

 

東ギルドに戻り、クエスト完了の報告をしに来た俺とジンさんを見てレベッカさんが言う。

む。ニヤニヤしてたかな、してたかも。だって嬉しいもの!

 

 

「ふぅん?…これからどうする?またクエスト受けるかい?」

 

 

「いや、夕方に少しアレンと用事があってな」

 

 

「そっかぁ…あー。明日にゃ学園かぁ。なぁジンさんも南区のクエスト受けてくれよー」

 

 

とレベッカさん。窓口でおもいっきり伸びている。

なるほど、レベッカさんは生徒さんなのね。

休日を利用してギルドの窓口で働いているのか。

しかし生徒ではない俺達は学園街である南区でクエストを受けられるものなのかな?

ジンさんの反応を見る限りでは、無理そうだ。

 

 

「良い時間だな。アパートへ行ってみよう」

 

 

「おっす!それじゃあレベッカさん!おつかれさまです!」

 

 

おーう。と手を振るレベッカさんと別れて、俺達は再びあのバケモノが住むアパートへと向かう。

俺以外の2人の住人も気になるところだ。

だってバケモノ住んでるんだぜ?どんな人達なんだろうか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「あ!来た来た!もう!遅いよ2人とも!あ!でも夕方としかいってなかったね!あはは!」

 

 

アパートに着くとルナさんが既に来ていた。

元気な人だなぁ。

これが言っていた家具なのかな?

ルナさんがソファーやら机やら一通り生活に必要な家具を準備してアパートの下で待機していた。

 

 

「ルナさんこんにちは。コレ貰っちゃって良いのかい?」

 

 

「はーい!こんちわ!貰っちゃって貰っちゃって!ドワーフの同級生が暇を持て余して作った家具なんだ!」

 

 

暇を持て余して作ったにしてはクオリティが随分と高いなぁ。

ソファーとか暇だからって作るものなのかな?

なんにせよ、ありがたい。

さっさと部屋へ運んでしまおう。

 

 

「鍵は開いているから、手分けして運ぼっか!」

 

 

「はーい」

 

 

「アレン、俺が上に行くから下から投げてくれ」

 

 

「おーす!」

 

 

「えっ」

 

 

なるほど、それなら階段とか昇らなくて良いから効率が良いな!流石ジンさん。頼りになるぜ!

さて、部屋は2階だったな。

 

ジンさんが部屋の前へとジャンプする。

そんなジンさんにビックリしているルナさん。

 

 

「えっ」

 

 

「ジンさん行くよー!」

 

 

「ああ」

 

 

俺はソファーを抱えて、ジンさんがいる所へとぶん投げる。

ジンさんがそれを難なくキャッチして、部屋の中へと運んでいく。

 

 

「えっ」

 

 

「次は机ねー!」

 

 

「ああ」

 

 

?ルナさんがなにやら驚いているが、どうしたんだろうか。

まあ良いや、さっさと終わらせないと日がくれちゃうな。

俺は次々と家具をジンさんに向かって投げ、それを危なげなくキャッチして次々と部屋へ運んでいくジンさん。

 

 

放心しているルナさんを余所に、下に置いてあった家具は全て部屋の中へと運び込まれたのだった。

 

 

「ふー。終わった終わった!…どしたん?ルナさん」

 

 

「えっ!?……終わったの!?」

 

 

「?うん、後は俺が家具の位置とか整えるだけだね」

 

 

「えと……そっか!うん!仕事早いね!あはは!」

 

 

なにやらどうでもよくなったようなルナさんと2階に上がって、3人で家具を配置する

助かるなぁ!ルナさんもジンさんもとても良くしてくれる。

ジンさんに至っては別にこんな作業しなくても良いのに、当たり前のように手伝ってくれる。

初日に出会ったのがジンさんで本当に良かった。

あ。そうだ!

 

 

「2人共手伝ってくれてありがとう!お礼にご飯をご馳走したいんだけど、どうかな?」

 

 

「ああ、良いのか?」

 

 

「わあ!ありがとうアレン君!」

 

 

俺の提案に2人とも喜んでくれた。

とはいえこの町のご飯屋さんは不動産屋さんから教えてもらったご飯屋さんしか知らないのだが。

さてどうしたものかと悩んでいると、ルナさんが東区のギルドで食事をしてみたいと言い出した。

 

 

なんでも、東区のギルドはあまり行かないみたいで、とても気になっていたのだという。

ジンさんもそれで大丈夫だと言っていたし、もちろん俺としても断る理由がない。

作業を手伝ってくれた2人にご馳走するために、再び東ギルドへと戻っていく俺達だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時刻は夕方が過ぎて夜といっても差し支えない時間帯。

ギルド内は食事をしている人で賑わっていた。

あれま、座れるかしら。

 

 

 

「あ!ジンさん!………おいアレンちょっとこっち来いや」

 

 

「?なんだいレベッカさん」

 

 

賑わうギルドで俺達が座る場所を探していると、仕事終わりであろうレベッカさんに出会った。

俺達を見つけて、というかジンさんを見て嬉しそうにしたあと、顔が強張った。

そんな様子のレベッカさんに俺が首をかしげていると、チョイチョイとレベッカさんが俺に向かって手招きする。

近付いたら肩を勢い良く組まれた。そして小声で

 

 

「あの女ダレよ」

 

 

「え?ルナさんかい?ルナさんは俺の住む所の大家さんだよ。今日色々お世話になったから、食事をご馳走しようと思って」

 

 

「ジンさんもか」

 

 

「もちろんさ。ジンさんが一番手伝ってくれたんだから」

 

 

「アタシだってまだジンさんと飯行ったことないんだぜ」

 

 

「それは知らない」

 

 

「アレン、アレン、アレンよ」

 

 

「なんだい?」

 

 

「アタシだってアンタに色々教えてやったろ?そんなアタシは誘わなくて良いのか?アンタはそんな冷たい奴なのか?どうなんだよ、どうなんだよアレン?ええ?おい」

 

 

ぎゅうぎゅうとレベッカさんが肩に回した手に力を込める。痛い。

そんなレベッカさんの小声にあわせてつい俺も小声になってしまう。

 

う。確かにそうかもしれない。最初こそどうかと思ったが、後半はとても丁寧に教えてくれた…気がする。

 

 

「確かにそうだね!レベッカさんも…

「いやしょーがねぇな!お世話んなったレベッカ姉さんにもご馳走したいって!?ったくしょーがねー!行ってやるよアレン!」…うん」

 

 

レベッカさんがご機嫌に笑って俺の背中をバシバシ叩く。だから痛いて!

 

 

結局4人での食事となった俺達はなんとか空いてる席を見つけて、今日一日を振り替えるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「へー。アンタもドミオン学園の生徒なんか」

 

 

「うん!レベッカちゃんも?」

 

 

「あー、一応な。歳は?」

 

 

「19!」

 

 

「同い年かよ」

 

 

一通り食事を楽しんだ後に、まったりとした時間が流れる。レベッカさんはジンさんの隣に座ってずっとニコニコしていたし、ルナさんも美味しそうにご飯を食べていた。

ジンさんは淡々と食事をしていたけど。

女性陣の会話を聞きながら改めてジンさんにお礼を言う。

 

 

「ジンさん、今日は一日ありがとう!とても良い経験になったよ!」

 

 

「ああ、そう言って貰えてなによりだ」

 

 

「あ!そういえばアレン君も冒険者だったよね!今日が初クエスト?」

 

 

「うん。今日はジンさんと畑を耕したんだ!」

 

 

「迷惑かけなかったかよ」

 

 

「大丈夫だよ!……大丈夫だったよね?」

 

 

「ああ、とても良く働いていた」

 

 

へっへっへ。

やはりジンさんに誉められると嬉しい。

 

 

「あんな風に人から感謝されるのが冒険者なんだね」

 

 

「まあ、基本的にはな。だが失敗すれば依頼人は怒るし、中には変な依頼人だっている。ギルドの方でそういった人物はある程度弾いているようだが、コレばかりは実際にやってみないとわからない」

 

 

「そうなんだ…そういえば、期限までに受ける人が居なかったクエストってどうなるの?レベッカさん」

 

 

「あ?そーだな、こんだけ人が居りゃあ大体は期限前にクエストが受注されるが、中には期限間近になっても終わってないクエストもある、そん時はギルドの職員が行ったり、手の空いてる門番が行ったりするが……最近はもっぱらジンさんがやってくれんだよ」

 

 

「ジンさんが?」

 

 

「ああ。優先して期限の近いクエストやら誰もやらねーようなクエストを受けてくれてなぁ…めっちゃ助かってんだよ」

 

 

「すごーい!だからあんなに力持ちだったのかな!?違うか!あはは!でもでもレベッカちゃん2人とも凄いんだよ!家具をビューンて!下からビューンて!」

 

 

興奮した様子のルナさんに何を言っているんだコイツはといった顔のレベッカさん。

しかし、そうなのか。ジンさんが…。

なぜだろう?とても強いのに。他の冒険者と一緒にクエストに行ったわけではないけれど、なんとなく感じる。

 

 

この人は、違うと。

カーチャンや姉達と同じような高みに居る人物。

それがジンさんなのだと思う。

ランクはDだと言っていたが…。

 

 

「アレン、俺にはジャギーモやデーコンは作れない」

 

 

「?」

 

 

不意に話し始めたジンさんに3人とも自然と耳を傾ける。

 

 

「だが、ジャギーモやデーコンを作れる人の力になることは出来る。家具を作れはしないが、家具を作れる人の力にはなれる。モンスターの脅威から人を守る事は出来る。だが、武具や魔道具は作れない」

 

 

「…うん」

 

 

「俺はな、アレンよ…その……なんだ………俺は何が言いたいんだ?」

 

 

「はえ?」

 

 

静かに語っていたジンさんが突然俺達にに聞いてくる。腕を組んで首を傾げるジンさん。

そのあまりにもギャップのあるジンさんの様子にずっこけるルナさんと俺。

何故かレベッカさんだけは頬を染めてジンさんを見つめていたが。

復活したルナさんも大笑いだ。

 

 

こ…この人は…!

銀髪に眼帯、鋭い眼差しですこし怖い印象を与えるが、付き合いは良いし面倒見も良い。

麦わら帽子が似合ってなくて落ち込んだりもする…!

そんなジンさんは…実はとてもお茶目な人なのかも知れない……!

 

 

 

「相変わらずとんちんかんなこと言ってんなぁ、ジン」

 

 

俺がジンさんに別の意味で戦慄していると、1人の男性が俺達に声をかけてきた。

ワイルドな印象の、黒髪の男性。

 

 

「あ!カイさん!王都から戻ってきたのかよ!」

 

 

「おーうレベッカ!相変わらず口悪いなお前!」

 

 

「やめろやめろ!頭触んなボケェ!ぶっとばすぞ!」

 

 

「え、怖い。ごめんなさい」

 

 

レベッカさんに怒鳴られてシュンとしているカイと呼ばれる男性。

彼がエリィさんが言っていたジンさんの友人?なのだろうか。

 

 

「なんだよーそんなに怒らなくって良いじゃんよー……さて、お前がアレンだな?珍しくジンが面白い奴が居ると言っていたが…俺はカイだ、よろしくな!」

 

 

「私ルナだよ!アレン君はこっち!」

 

 

「あれぇ!?ゴメン!もう一回最初からやって良いかな!?」

 

 

 

なんだなんだこの騒がしい人は。

こうして、俺はカイさんに出会った。

 

 

 

 

 



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先にトイレ行っててよかった…

 

 

 

「さて、お前がアレンだな?ジンから面白い奴が居ると聞いていたが、なるほどな。一目見て分かったぜ。俺はカイだ、よろしくな!」

 

 

「は…はい」

 

 

本当に最初からやり直したよこの人。

流石にレベッカさんの頭を触るのは止めたみたいだけど、なんかしれっと一言増えてるし。

完全にさっきまでの件が無かったかのように振る舞っている。

 

 

カイさんが他のテーブルから余ってたイスを勝手に持ってきてドカッと座る。

 

 

「はー疲れた疲れた…流石に王都は遠いぜ…あ、お姉さん!オレンジジュースをくださいな!」

 

 

えっ!オレンジジュースあんの!?俺も欲しい!

くぅー!メニューが読めないのが辛すぎる!明日は図書館に行って読み書きの本を借りて勉強せねば!確か図書館の前を通った気がする!

 

 

「カイさん、オレンジジュースってどれだい?」

 

 

「おん?なんだよ、字ィ読めねーのか?コレだよコレ」

 

 

「ありがとう!お姉さん俺もオレンジジュースお願いします!」

 

 

わあい!久々のオレンジジュースだ!

俺がオレンジジュースを堪能していると、ルナさんとカイさんが楽しく会話していた。

ウマが合うのだろうか、初めて会った2人なのにもう仲良くなっている。

 

 

「ねえねえカイさん!王都に行ってたって事はカイさんってCランク以上なの?」

 

 

「おー。一応なぁ。ルナちゃんも冒険者なのか?」

 

 

「うん!まだEランクだけど、星は2つ溜まってるんだ!」

 

 

「お!後少しじゃんか!」

 

 

「そうなの!えへへ!」

 

 

「なぁなぁカイさんよ」

 

 

「あん?どしたよレベッカ」

 

 

「マリカがさっきならすっげぇ顔でこっち見てるけど、アンタまたなんかやったな?」

 

 

 

さっきまでルナさんと楽しそうに話していたカイさんの動きが止まる。

あのレベッカさんが少し青ざめた表情でカイさんにヒソヒソと話している。

レベッカさんをあんな表情にさせるマリカさんとは果たして?

 

 

「ひえっ」

 

 

マリカさんって昨日のエルフの女性だよな?

あの人が瞬きもせずにカイさんをじっと見つめている。え。怖い。なんだろう凄く怖い。

綺麗な顔の人がジーッとこちらを見ているだけなのに。

 

 

「バッカ!アレンそっち見んなって!レベッカ、1から10で言うとどのくらい?」

 

 

「9」

 

 

「9かぁ…どれだろう…クエストがめんどくさくなって行かなかった件かな…それともギルドから借りた馬車壊した事かな…依頼人と喧嘩した件かな…」

 

 

この人は…。

 

「あはは!カイさんロクでもないね!」

 

 

「な、この人ロクでもないんだよ……あ、マリカ来た」

 

 

レベッカさんの声にチラリと伏せていた顔を上げて見る。

コツコツと靴をならしてマリカさんがこちらにやってきた。

緑色の髪の、とても美しいエルフの女性。

瞬きせずに、カイさんから目を反らす事なく、とても美しい姿勢でこちらにやってくる。

なぜだろう。本当に怖いんだけど。前向けないんですけど。

 

レベッカさんは俯いている。

ルナさんですら黙っている。

ジンさんは……えっ?寝てるの!?なんで!?

 

 

 

「カイさん」

 

 

「………や、やあマリカ、おつかれ」

 

 

「ええ、お疲れ様ですカイさん。ねえ、カイさん。カイさんは王都からはいつお戻りになったのですか?」

 

 

「えと……3時間くらい前…です」

 

 

「3時間。そうですか。3時間。とてもこちらにいらっしゃるまでに時間が掛かりましたね?」

 

 

「えと……その……」

 

 

「私は貴方が来るのをずっと待っていたのです。ずっと。ずーっと。貴方が来なければ私の業務は終わらないのです。貴方からの報告を副ギルド長に私も報告しなければならないのです。貴方がこちらに来るまでの間私はずっと待ってました。同僚が楽しそうに食事をしているのを見ながら私はずっと待っていました。ねえ。カイさん。私は言った筈ですよね。王都から帰ったら報告してくださいねと。言いましたよね?言ったんですよ私。帰れないから。本日の業務が終わらないから。王都へ向かわれた他の皆様は既に報告されましたよ。そうですね、3時間も前の話です。なのに貴方はジュースなどを飲みながらとても楽しそうにお話していらっしゃいますね?羨ましいですよカイさん。とても羨ましいです。何度目でしょうカイさん。貴方にこうしてお願いするのは。何故でしょうか。教えて欲しいですカイさん。貴方へのクレームを何度処理したことでしょうか。何度依頼人の元へ伺って謝った事でしょうか。おやカイさん。どうされました?土下座などして。寒そうですね。震えてるじゃ無いですか。ギルド内はとても暖かかったですよ。外は寒かったですか?」

 

 

「ご…」

 

 

「ご?なんでしょうか?よもや。よもやゴメンナサイでしょうか?まさか。まさかですよねカイさん。そのような一言で私の溜飲を下げようとでも?違いますよね。違う筈です。ええ。そのようなことがあってよい筈がないのです。おや?どうなさいました?とても。とても震えているじゃあないですか……………ねえ?カイさん」

 

 

 

いつの間にかギルドが静まっている。

皆マリカさんの迫力に圧されて一言も喋れないでいた。

いつの間に移動したのだろうか。ルナさんとレベッカさんが肩を抱き合って震えている。

全員が、カイさんの次の一言に注目していた

 

 

 

「ごめんなさい、もうしません。2度としません。次から必ずいの一番に報告に向かいます。今度こそ本当です。嘘ついたら腹切ります」

 

 

土下座したままカイさんが震えた声で言う。

 

 

「カイさん。顔を上げてください」

 

 

「ハイ」

 

 

ゆっくりとカイさんが顔を上げる。涙目になっていた。

無表情のマリカさんがカイさんに顔を寄せる。

瞬きは、してない。目のハイライトも消えている。その状態でゆっくりと、ゆっくりと時間をかけてカイさんに顔を寄せていくマリカさん。

鼻と鼻とがくっつきそうなほど顔を近付けたマリカさんが一言

 

 

「ヤ ク ソ ク デ ス ヨ ツ ギ ハ ナ イ デ ス カ ラ ネ 」

 

 

「………………………ハイ」

 

 

カイさんが喉の奥から絞り出したような返事を聞いてしばらく無言のマリカさん

ゴクリと誰かが息を飲む音が聴こえた。ギルドの誰かだったかもしれない。カイさんかもしれない。俺だったかもしれない。

 

 

 

「ふぅ。分かりました、カイさんも忙しいのでしょうし…次からはよろしくお願いしますね?さ、報告お願いします」

 

 

「はい!すぐ行きます!」

 

 

カイさんから顔を離し、とてもにこやかに笑ったマリカさんが俺には女神に見えた。

カイさんが立ち上がってマリカさんと共に窓口へと向かっていく。

暫くしてから、再びギルドに喧騒が戻った。

 

 

「こ…怖かったぁ…!」

 

 

「マジで怖かったなマリカの奴…ありゃ目がマジだったぜ……」

 

 

「ひえぇ…おっかねぇ…」

 

 

「む……ん?カイが来ていなかったか?どうしたんだお前達、肩など寄せあって」

 

 

 

俺達3人があまりの恐怖に震えていると、ジンさんがようやく起きてきたのか、とても惚けたことを言う。

やはりこの人は只者ではないと痛感した。

 

そしてカイさんは本当にどうしようもない人だな、とも。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

レベッカさんとルナさんが南区への最終バスが出るからと、その日の食事会はお開きになった。

真っ白なカイさんとジンさんとで、2人を見送る。

彼女達がこちらに来るのは次は来週だ。

 

 

「はー!……怖かった」

 

 

「いや、なにやってんのさカイさん。あんなのカイさんが100悪いよ!」

 

 

彼女たちの乗ったバスを見送り、ようやく一息ついたのか改めて先程の感想を漏らすカイさん。

俺のツッコミにバツの悪そうな顔をしている。

 

 

「いやぁ、ちょっと色々あったんだよ」

 

 

「どうせロクでもない事だろう」

 

 

「うるせー!寝てたクセに!何であの状況で寝れんだよお前は!」

 

 

ジンさんの一言にカイさんが噛みつく。

いや、本当にロクでもない事なんじゃないかと勘ぐってしまう。

夜の町を男3人で歩く。遅くまでやっている飲食店以外の明かりのない町はとても静かだ。

 

 

 

「それで?その色々とはなんだ」

 

 

「うっ……」

 

 

「カイさん?なんでそこで言葉に詰まるの?」

 

 

「いや、それが…」

 

 

カイさんが俺達に事情を説明しようとしたところで

 

 

「あー!居たぁー!副団長!カイさんが居たよー!」

 

 

と、静かな町に女性の声が響く。

その声を聞いて、カイさんが顔をしかめる。

そんなカイさんを見て俺とジンさんが顔を見合わせる。

またロクでもない事をやったなこの人は。

 

 

「ここに居たのね、カイ」

 

 

「やっと見つけた!」

 

 

「カリンにサリィか」

 

 

「あら、ジン。お久しぶり」

 

 

「こんばんはジンさん!」

 

 

 

カイさんを探していたであろう、ジンさんにカリンとサリィと呼ばれた人物。

背の高い女性がカリンさんかな?緩くウェーブがかかった短い髪の、茶髪の女性

そしてサリィと呼ばれたオーガ族の女性。エリィさんと違って肌が赤い。背の高いオーガ族にしては、随分と小柄だ。

 

 

「カイを探していたようだが、また何かやったのか?」

 

 

「そうなの!聞いてよジンさん!カイさんったらまた私達のクランの馬車に勝手に乗ったんだから!無賃乗車だよ無賃乗車!」

 

 

「お前………」

 

「カイさん………」

 

 

俺達がカイさんを見ると、カイさんは隅っこで小さくなっていた。

ほんとどうしようもないなこの人は。

 

 

「いや、俺だって王都に行くときゃ自分で行ったさ、でもよ、知ってるか?アレン。王都にゃ色んな世界の食材が集まるんだぜ?最初は王都なんて行きたくねーと思っていたけど、あの市場は良い、とても良い。んでな?いっぱい買う。珍しい食材をいっぱい買っちゃうんだよ。したらお前、荷物が重いなーって。でも馬車は高いなーって。そしたら丁度フォルトゥナの連中が帰るところだったから、乗せて貰った訳ですよ」

 

 

「カイさん……アンタって人は…この2人の様子だと許可貰ってないじゃないか!乗せて貰った訳ですよじゃないよ!この国に初めて来た俺でもやっちゃダメだってこと位分かるよ!」

 

 

「そーだそーだ!」

 

 

「うん。良いことを言う少年ね」

 

 

 

すみません。と再び謝るカイさん。

その姿はとてもしょんぼりしていた。

 

 

「大方、彼女達から逃げ回っていてギルドへの報告が遅れたのだろう」

 

 

「まあ…ハイ」

 

 

やべーよこの人。とてもダメな人だ。

フォルトゥナ?というクラン?の人達に謝って、なんとか許して貰えたみたいだけど、たぶんこの人はもう一回やる。何度でもやる。

 

出会って数時間しか経っていないけど、この人はダメな人だ、ダメな大人だ。

 

 

「次は無いからね、カイ。次やったら…そうね、私達のクランをピカピカに磨いて貰おうかしら」

 

 

「あ!それいいね副団長!わかった?カイさん!」

 

 

「え?そんなんでゆ……なんでもないです、気を付けます」

 

 

しっかりと90度に腰を曲げて2人を見送るカイさん。

まるで反省していないその様子を俺とジンさんが呆れて見ているのであった。

 

 

帰り道、3人で再び静かな道を行く。

気になっていたことをジンさんに聞いてみる。

 

 

 

「さっきの人達は?ジンさん」

 

 

「ああ、彼女達はこの東区の代表的なクラン…冒険者の集まりでな、名をフォルトゥナという。先程のカリンという茶髪の人間の女性、彼女は副団長でBランクの猛者だ。オーガ族のサリィはCランクだ」

 

 

「ほへー。クランか…」

 

 

「因みに団長はAランクだぜ。この町でも数えるくらいしか居ない」

 

 

「ふぅん…あれ?カイさんは?」

 

 

「俺はCだ、間違って上がっちまった。定期的に王都に行かにゃならんて知ってたら上がってなかったのに…ジンが羨ましいよ」

 

 

「えぇー……上がっちゃったって…」

 

 

「まあ、良いんじゃないか?Dランクも討伐系は少ない。カイに連れていって貰うと良い」

 

 

「えぇー…」

 

 

「なんだその反応はコラー!連れてかねーぞコラー!アレンのクセに生意気だぞコラー!」

 

 

 

なんて、カイさんとじゃれながら帰る。

この人はどうしようもない人だけど、どこか憎めない。そんな人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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うおお!よけろシュナイダー!

 

 

 

「おう!おはようアレン!探検に行こーぜ!」

 

「なにやってんすかカイさん」

 

 

朝、ギルドに行くか図書館に行くかどちらか迷いつつも、とりあえず出掛けようと身支度を整えて外へ出たら、カイさんがにこやかな笑顔で立っていた。

 

 

「昨日はジンとクエスト行ったんだろ?なら今日は俺と遊ぼうぜ!」

 

「いや、遊ぼうって…」

 

 

俺の返答など聞かずに肩を組んで歩きだすカイさん。

カイさんの方が俺よりも背が高いので、引っ張られる形で歩いていく。

う。組んで分かる。この人もかなり強い人だ。

 

 

「しっかしアレン、お前スゲーとこに住んでんなぁ…隣ナニあれ」

 

「あー…なんか人食いのバケモンが封印されてるみたい」

 

「えぇ…倒せば?」

 

「あのバケモノが居ると家賃が安いんですよ」

 

 

なんつー場所住んでんだよ、とカイさん。

全くもって同意である。新居で初めて朝を迎えたが、昨晩も何も起きなかったのでほっといても良さそうだが…ちなみに、昨晩帰ってきたときに1人でおっかなびっくり隣の部屋を意識しまくりだったのは内緒だ。

 

 

「つーか、敬語なんて要らねーぜアレン。俺とお前の仲じゃねーか!」

 

「わかった!カイさんに敬語ってなんか嫌だったもん!」

 

「え?酷くない?」

 

 

しれっとジンさんにも敬語は止めていたけど、ジンさんの反応を見る限り大丈夫そうだ、すこし嬉しそうだったし。

俺の返答に若干ヘコんだカイさんと2人でギルドを目指す。

今日も良い天気だ!しかし暑いから早く離れておくれよ!もう!

 

 

「そうだカイさん。図書館ってギルドの近くにあるかな?俺読み書きが出来なくてさ、勉強しようと思って」

 

「お!偉いじゃねーか!本ならギルドの2階で借りれるぜ。ギルド内なら持ち出し自由だったはずだからクエストが終わったら行ってみようや」

 

 

いい加減にこの国の読み書きを覚えなければいつまでたってもジンさんやカイさんに迷惑をかけてしまう。

今のところ問題はないが、このままでは1人でクエストを受けられないし、買い物とかも困ってしまう。

部屋でゆっくり勉強するのも良いし、ギルドで勉強出来るのならば誰かに教えてもらいながら勉強できれば一番良いんだけど。

 

 

「ありがとう!そういえば探検って言ってたけど、どこにいくんだい?」

 

「今日は町から出てみようと思うんだが、まあ場所はクエスト次第だな。そろそろ爺さんのクエストが貼り出される頃だからよ」

 

 

 

 

クエストにあてがあるのか、カイさんの頭の中では今日の流れがある程度計画されているみたいだ。

ギルドを目指す道すがら。ふとナルベル通りに違和感を覚える。

そういえば、今日は平日か…なるほど、どことなく若い人達が少ないような気がする。

 

 

「この町の若い人達はみんな学園に行ってるのかい?」

 

「ん?いや、お前だって若いじゃねーか。若い奴が全員ドミオン学園に行ってる訳じゃねーぜ。貴族の3男3女あたりは冒険者やってたりするしな」

 

「ふぅん…なんで?」

 

「何でって…そりゃ、アレよ。当主になれないからじゃあねーかな。」

 

「ああ、聞いたことがあるなぁ…その家の長男長女しか家を継げないんだっけ」

 

「そっそ。変な話だよなぁ。俺もその辺は良く分かんねーんだ。ま、若い奴が全員が貴族って訳じゃねーからそう構えなくても平気だぜ」

 

「カイさんは貴族相手でも畏まらなそうだよね」

 

 

なんだとこのー!とカイさんとはしゃぎながら歩く。

ジンさんとはまた違った楽しさがある人だなぁ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

平日でも変わらず賑わうギルド。カイさんは馴染みの冒険者と挨拶を交わしながらボードへ向かう。

俺もいつか誰かとパーティーを組んでクエストに行く日がくるのかな。知り合いの多いカイさんが少し羨ましい。

他の冒険者に会釈しながらそんな事を考えていると、カイさんは初級ボードの前でクエストを探していた。

 

 

「おっ!あったあった。行こうぜアレン」

 

どうやら目当てのクエストは貼り出されていたようだ。少し雑にカイさんはクエスト用紙を剥がす。豪快と言うかなんというか。

 

2人して窓口へと向かう。今日はレベッカさんとマリカさんの姿は見えない。

今日はレベッカさんが居ないのでそこそこ順番待ちの時間は長かった。

 

 

「おうドニー。コレ頼むわ」

 

「おやカイさん、王都から戻ってたんですね」

 

 

俺達の番が来て知り合いだろうギルドの職員さんに親しげに声をかけてクエスト用紙を渡すカイさん。

カイさんからドニーと呼ばれた男性。この人は…魔人かな?綺麗に整えられた髪がワックスで光っている。

 

 

「君がアレン君ですね?僕はドニー。サタナキア出身の魔人だよ、よろしくね」

 

「よろしくお願いしますドニーさん!」

 

「カイさんの言うことはあまり聞かなくても大丈夫だからね、是非ともそのままの君でいて欲しい」

 

「おいコラ。ドニーコラ」

 

「はいっ!!」

 

「おいコラ良い返事をするなアレンコラ」

 

「さて、今回のクエストはコーザさんの薬草採取ですね。人数制限無しのDランククエストとなります…町の外へ出ますか?」

 

「おう。テロー平原へ向かおうと思う」

 

「テロー平原ですね。あの辺りは大丈夫ですが、奥の森林でキラーウルフの目撃情報がギルドに寄せられています。お気をつけて」

 

「おーう。そうだ、遠いから馬車貸して欲しいんだけど」

 

「ええー。カイさん壊すじゃないですかー」

 

「だーからあれはワイバーンの糞を避けようとしたら壊れたんだって!お前らだって糞まみれの馬車より車軸が歪んだ馬車の方がまだマシでしょーが!」

 

「もー。しょうがないですねぇ…東門の門番さんに連絡しときますよ」

 

 

それでは、お気をつけて。とドニーさんに見送られて、俺とプンプン膨れているカイさんとで今日の依頼人の元へと向かう。

カイさんと親しい人は皆遠慮がないというか、なんというか。

不思議と嫌われている様子を感じないのは、カイさんの人徳なのだろうか。……ホントかぁ?

 

 

 

「コーザの爺さんはこのギルドの近くでアイテム屋やってんだよ。報告ついでに籠とか借りに行こうぜ!」

 

「オッス!」

 

 

 

道中、そういえばジンさんはどうしたのだろうかとカイさんにジンさんの所在を尋ねたら今日は朝早くから迷子の猫探しクエストを受けているらしい。

うーん。あの人が猫を追いかけてる姿が想像できない。真面目にやっているのだろうけど。

 

 

「ここだ、着いたぜ。おーい爺さん、クエスト行くから籠貸してくれーい」

 

 

目的のアイテム屋に入っていくカイさん。

俺も後を追う。初めてアイテム屋に入ったけどこうなっているのか。

お店の中はとても綺麗に整理されていて、棚に様々な種類の薬品が売られている。

店内に漂う回復薬の香りがシェリス姉の部屋を思い起こさせる、少し懐かしい。

 

 

「なんじゃ、やっぱりお主が受けたのか。ならば説明は不要じゃな。いつものように頼むぞ。籠はソコのを使えば良い…おや?お主は?」

 

「初めまして。つい先日冒険者になったアレンと申します。今日はカイさんと一緒にクエストに参加させてもらいます」

 

お辞儀した頭を上げて、椅子に座る小柄なお爺さんを見る。

白い髭を立派に蓄えたドワーフのお爺さん。

ドワーフ族は武具や魔道具作りが得意だとウィン姉に習ったけど、違ったのかな?

 

 

「なんじゃ、本当にお主の知り合いか?カイ」

 

「なにが言いたいんだよ爺さん」

 

「とても礼儀正しい子じゃ。お主も見習え」

 

「う、うるせぇやい……アレン、この爺さんはドワーフ族だが回復アイテム専門の変わり者の爺さんだ。見てくれはおっかないが、まあ、とって食われたりはしないから安心しろ」

 

「カイさん。そういうところだと思う」

 

「まったく失礼な奴じゃ。影響などされるなよアレンとやら」

 

「はいっ!!」

 

「ウム。良い返事じゃ」

 

 

俺とコーザさんの会話を聞いているのかいないのか、籠を背負って外に向かうカイさん。

ついに無視を決め込み始めたみたいだ。

いや、自業自得だと思うんだけど。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カイさんと東門の隣にあった厩舎へ向かうと、ドニーさんが連絡してくれたのだろう一台の馬車が門番さんと一緒に待っていた。

 

厩舎ではバンエーからサラブレーという名のスピード重視の馬型モンスターが30頭程飼育されていた。

ギルドに頼めばあの馬達を貸してくれるのだろう。

 

「シュナイダー!元気だったかオイ!」

 

カイさんが用意されていた馬車を引く馬に駆け寄って親しげに体を叩いている。

ほう。あの馬の名前はシュナイダーと言うのか。格好いいな。

種類はサラブレーかな?バンエーよりも体格が小さい。

 

 

「シュナイダー違う。この子の名前ポポ」

 

 

馬車を用意してくれた赤い肌で銀髪のオーガ族の女性。この人は俺の想像するオーガ族だ、体格が良い。

というか、え?名前違うの?でもカイさんはシュナイダーって言っていたけど…?

 

「細かいことを言うなよリリィ!馬車用意してくれてありがとな!」

 

「次は壊すな。修理は大変」

 

「悪い悪い、気を付けるよ。シュナイダーに何かあったら大変だもんな!ロウガは今日は居ないのか?」

 

「シュナイダー違う。ポポ。ロウガ居る。呼んでくるか?」

 

「いいよいいよ、俺達で行くよ。アレン!リリィだ!リリィ!アレンだ!」

 

 

いや雑ゥ!ついにこの人まともな紹介すら放棄しちゃったよ!

俺はシュナイダー?ポポ?…いや多分ポポだ、ポポが正しいんだ。カイさんが勝手に名前つけて勝手にそう呼んでるんだ…。

ポポと戯れるカイさんに呆れつつ、リリィさんに挨拶をする。

 

 

「よろしくアレン。私はリリィ。言葉変かも。許して」

 

「よろしくリリィさん!俺もこの国の読み書きはまだ出来ないんだ!」

 

「そうか。私は読み書きは覚えた。後で本貸そうか?」

 

「良いのかい?とてもたすかるよ!」

 

 

にこやかに笑って頷くリリィさん。滅茶苦茶良い人じゃん!

リリィさんの言葉はカタコトではあるけれど、別に不都合はない。

読み書きの本は図書館で借りようと思っていたけど、リリィさんが貸してくれるなら必要ないかもな。大事に使わないと。

 

 

「騒がしいと思えば帰ってたのか、カイ…おや、君は先日の。アレンと言ったか」

 

「おう!ロウガ!久しぶり」

 

「あ!あの時の門番さん!」

 

 

厩舎の方にこの町へ来たときにお世話になった狼の獣人の門番さん。ロウガさんがやってきた。

カイさんとも知り合いなのかとても親しげだ。

 

俺はロウガさんに駆け寄って冒険者のプレートを見せる。初日に見せに行くつもりだったが、バタバタしてて遅れてしまった。

 

 

「見ておくれよロウガさん!おかげで冒険者になれたよ!」

 

「ほう。それは良かった。アレンならば良い冒険者になれるだろう。これから町の外でクエストか?」

 

「へっへっへ…うん。カイさんと薬草集めだよ、テロー平原って所」

 

「テローか。あの辺りはキラーウルフが目撃されている。カイが一緒ならば心配はないと思うが、一応気にしておけよ」

 

「そういえばドニーさんも言ってたっけ。危険なの?」

 

「キラーウルフの討伐はCランククエストだ。ワイルドウルフよりも一回り体躯が大きく、非常に狡猾なハンターだ。この辺りには出ないモンスターなのだが…」

 

「おーい!アレン!そろそろ行くぜー!」

 

「はーい!じゃあロウガさん、リリィさん、いってきます!」

 

 

ロウガさんからモンスターの情報を聞いていると、カイさんが俺を呼ぶ。

ロウガさんとリリィさんにお辞儀して、馬車に乗り込む。

手綱を握るカイさんは気合い十分。勇ましく馬車を出発させる。

 

 

「行くぜシュナイダー!風となれぃ!」

 

 

カイさん違う、この子はポポだよ。

そしてカイさんの勢いを他所に、馬車はとてもゆっくりと発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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僕がワイバーンに乗っているときに気付いたのさ!

 

 

 

カイさんの操る馬車に乗ってテロー平原へと向かう。

こうして2人で馬車に乗っていると、デビットさんとの2人旅を思い出す。

デビットさんはスケベではあったが、デビットさんの家族に対する想いや、今の時代に対する願いはとても共感できた。

 

 

俺は生まれる前の、この大陸の事を知らない。

歴史は学んだが、それはドライグ国の歴史だけだ。

他の国や大陸の事はほとんど知らない。

 

 

カーチャンがこの大陸で魔王ギリアムと戦ったことなど知りもしなかった。あのウィン姉が教え忘れるなんて考え難いから、意図的に隠していたのかな。

何故?なにか理由があるのだろうが、今の俺には知る由もない。

 

 

まあ、考えても仕方がない。姉達やカーチャンが俺に教えなかったのならば、知る必要がなかったのか、知るべき時がいずれくるのか。それだけの話だ。

 

 

突き抜けるような青空の下、俺がそんな事を考えているとカイさんが今日のクエストについて説明してくれた。

 

 

「今日はテロー平原でポーション用の薬草集めだかんな。この籠がある程度埋まれば達成だ。アレン、ソナーは使えるか?」

 

 

荷台に積み込んだ籠を親指で示すカイさん。

結構大きい籠が2つ。俺の分とカイさんの分だ。

これを一杯にするのは苦労しそうだが、テロー平原にはポーション用の薬草が沢山生えているのかな?

 

 

「ソナー?探知魔術の事だよね。うん、使えるよ!範囲はどれくらいかな…結構広いと思うけど」

 

「お!なら頼りにしてるぜ!」

 

 

アリア姉との訓練で否が応でも鍛えられたソナーと、索敵魔術…この国ではサーチか。

比較対象がアリア姉しか居なかったから自分のソナー能力がどれ程のものかは分からないが、まあ魔の森の半分くらいは探知出来たから、足手まといにはならないと思う。

 

 

「そういや、お前生まれはサタナキアなのか?」

 

「うん。ドライグ国だよ、ずっと」

 

「ふーん?サタナキアからここまで来たのか?」

 

 

う。カイさんが世間話で俺の事を聞いてくる。

デビットさんとの旅ではあの人が一方的に喋っていたから、自分の事を話す機会があまり無かった。

どうしようか。素直に言っても信じて貰えないだろうし、この大陸に来てまでカーチャンの名前を出したくない。

それが嫌で、サタナキア大陸以外を目指したのに。

 

 

「…ま!そういうこともあらぁな!」

 

「え」

 

 

俺がうんうん唸っていると、カラカラと笑うカイさん。

 

 

「俺もジンも、他所から来たんだよ。お前と違って最初は言葉分かんねーし読み書きも出来なかった。苦労したぜ…この国の仕組みもよくわかんねーしよ。ただまあ、住んでみると良い国だって事は分かった」

 

「そうなのかい?」

 

「おうよ。なんか来る前にデカい戦いがあったんで最初は大陸中がゴタゴタしてたみてーだが、今じゃご覧の通り平和なもんさ…全員で前向いて歩いていこうって時だ。誰が何処から来て、何の目的で~なんて、気にするだけ無駄だぁね」

 

「……」

 

「ありのままで居りゃ良いのさ。中にはサタナキアの連中を恨んでる奴だって居るが、気にすんな。見当違いだよ。そもそもこの大陸の危機を救ったきっかけもサタナキアの魔王らしいしな」

 

「カイさん…」

 

 

知り合う人全員が良くしてくれたこの国で、考えないようにしていたこと。

この大陸に突然戦いをしかけた魔王ギリアム。

デビットさんがいうには、沢山の人が犠牲になってしまった大きな戦い。被害にあった人達でサタナキアの人を恨んでいる人は居るだろう。

 

 

そんな話は俺には知ったことではないのだと、笑い飛ばせる事は出来なかった。

話を聞いてからなんとなく、自分の出身地を書くときに緊張していたことを思い出す。

 

 

「お前みたいなハーフも今は珍しくない。それこそサタナキアとのハーフだって居る。全員で前に進んだ証が、お前達ハーフなのさ」

 

「この町に来る時にお世話になった人も同じ事を言ってくれたよ。こんな感じで2人で馬車に乗ってさ」

 

「ほーう?そりゃ良い。どんな奴だったんだよ」

 

「あー………エロ学者」

 

「なにそれ詳しく」

 

 

デビットさんの話をするなら、彼の過去に触れなければならない。

本人の許可なく他人にペラペラと話すのは失礼だし、そんな事を俺から人に伝えるなんてやってはいけないことだと思う。

 

というか、道中娘さんの話とスケベな話しかしてなかったし、あの人。最後の最後でとても真面目な人だと分かったが、それまでは紛れもなく親バカエロ学者であった。

 

 

「そうか…風圧がおっぱいの感触に……盲点だった」

 

「そういやさ、俺みたいな半人前ってまだ会ったこと無いけどこの国にも居るのかい?」

 

「あん?半人前?おいおい、そりゃ昔の蔑称だぜ。自分で言うなよ自分で」

 

「え!?そうなの!?…知らなかった…てっきり良い意味かと…」

 

 

 

昔、実は一度だけシェリス姉に連れられて城下町に行ったことがある。

 

まだほんの小さな時の話だ。シェリス姉に手を引かれて城下町を歩いている俺に近所の子供達が俺を指差してやーい!半人前!半人前!と笑っていた。

 

俺は初めて出会う同世代の子供達が俺を指差して何故笑っているのか分からなくて、でもとても楽しそうにしていたから

いえーい!半人前だー!

と笑っておどけて見せた。

 

俺と子供達が笑っていると、シェリス姉の握っていた手の力が強まった。

痛いよ、シェリス姉

とシェリス姉を見上げれば。

 

なにかを必死で堪えるように唇を噛み締めるシェリス姉。

ごめんね、ごめんね。と俺に何度も謝るシェリス姉に訳が分からなくて。

結局すぐに城へ帰ることになったから、城下町へのお出掛けはすぐに終わってしまった。

あんな顔のシェリス姉を見たことなくて、半人前という言葉の意味を聞くことはなかった。

 

 

ああ、そういえば…それからか。城と魔の森の往復の毎日が始まったのは。結局その日以降、俺が城下町へ出かける事は無かった。

 

 

「アレン…お前…」

 

城に住んでいた事とかを濁してカイさんに昔あった出来事を話すと、なんとも言えない表情のカイさんが俺を見ていた。

それはそれとして。

 

「なるほど、アイツ等俺をバカにしてたのか…くっそー!アイツ等めぇー!危うく恥をかくところだったじゃないか!はー…気を付けよ」

 

 

「……フッ」

 

「?どうしたんだい?」

 

「なんでもねーよ!そら!テロー平原が見えてきたぞ!薬草を採って採って採りまくろうぜ!」

 

「オー!!」

 

「よーし!行けぇシュナイダー!駆け抜けろぉ!」

 

 

 

勢いよくポポに声をかけるカイさん。

ポポはヒヒーン!と1つ嘶いて、目的地へとゆっくり俺達を運んでいった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

テロー平原はその名の通り広々とした場所だった。

町の外というだけあって小型のモンスター達が居たが、襲ってくる様子も無いし近づけば逃げていく位の下級モンスターだらけだ。

 

奥の方に目を向ければ、キラーウルフの目撃例のあった森林が見える。

まあ、ここから離れているし、向こうから来てもこれだけ見晴らしの良い場所だ。すぐに気付けるだろう。

 

 

しばらく馬車に乗っていたので、凝り固まった体をカイさんと2人して伸ばした。

目的地について籠を下ろしたり準備をしていると、カチャカチャとカイさんがシュナ…ポポを解き放っていた。

 

「大丈夫なの?キラーウルフが居るって言ってたけど」

 

「心配するな。俺のシュナイダーはそんじょそこらのモンスターに後れを取る事はねー。な!シュナイダー!」

 

多分カイさんのではないし、名前を正す気は無いようだ。

ポンポンとポポの体を叩いて問いかけるカイさんに応えるようにヒヒンと嘶いてポポは平原を元気よく駆け出した。

 

 

ポポを見送ると、籠を背負ったカイさんが歩き出す。

 

 

「よーし、早速採取していくか。アレンはヨギって薬草知ってるか?」

 

「ヨギ?うーん。聞いたこと無いなぁ」

 

「よっしゃ、じゃあまず一本見つけてから、ソナー頼むな」

 

「はーい」

 

 

カイさんはソナー使えないのかな?

何度もこのクエストを受けているなら使えても良いと思うけど…いや、この人の事だからしらみ潰しに探していても不思議ではないか。

 

 

「お、あった。こいつがヨギだぜアレン」

 

しばらく2人で薬草を探していると、カイさんが目的のヨギを見つけたのか俺に見せてくれた。

ギザギザの葉っぱが特徴的な薬草ヨギ。

ふぅん、これがヨギか。

俺は持ってきていた手帳にヨギをスケッチする。

 

「ねえカイさん。これはポーション以外になにか使い道はある?料理に使ったりだとか、お茶にしたりだとか」

 

「おん?いや、ヨギはどこにでも生えてて採取が簡単な分ポーション以外の使い道は無いな。出来るポーションも回復量の少ない初級ポーションだし」

 

「ふぅん」

 

スケッチをする俺の手帳を覗き込んで上手いもんだと誉めてくれるカイさん。

へっへっへ。よし!スケッチも終わったしヨギの放つ微量な魔力も覚えた。これでソナーが使える。

 

「よーし!カイさん、この辺りをソナーすればいいかい?」

 

「おう。ソナッてソナッて」

 

 

目を閉じて、自分の周りを囲む円を想像する。

その円を自分を中心として広げていくのがソナーだ。

索敵魔術…サーチの方も同様で、自分を中心とした円を広げていく魔法だが、込める魔力と目的が違う。

ソナーは植物や鉱物等のモノを。

サーチはモンスターや人物を探すのに用いるのが一般的な使い方だ。

 

この魔法も練度によって精度が変わる。

練度が高ければ円の範囲も広くなりピンポイントで目的のモノを絞り混む事だって出来る。

サーチの方は相手の魔力量まで分かる、便利な魔法だ。

 

 

俺がソナーを展開すると、この平原にちらほらとヨギの反応があった。

うーん…少し少ないような気がする。

その事をカイさんに伝えると

 

「そっか。まあまだ育ってないのかもな。とりあえずヨギを採取しながら森林の方へ行ってみようぜ」

 

「え?でもキラーウルフが…」

 

あ、カイさんがとても悪い顔をしている。

この人は…。

 

「さ!やるぞーアレン!日が暮れちまう」

 

ニヤリと笑って歩き出すカイさんを呆れて追う。

て言うか俺が場所教えないと分からないんだからさっさと行かないでよ!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「さっきのハーフの話の続きだけどよ」

 

 

2人でヨギを採取しているとカイさんが話し始める。

そういえば話の途中だった。

 

 

「ハーフもここ数年当たり前になったから、この国のハーフはまだ皆学園に通ってるんだよ。アレンは17歳だったよな。お前が第一世代みたいなもんだ」

 

 

なるほど。あの戦いの後に他種族との交流が始まったらしいのでまだ皆若いのか。

むしろ俺が一番年上まであるのか。

 

「よし。この辺は大体採り終わったな。ようしアレン。もう一回ソナー頼むわ。あとついでにサーチも。使えるだろ?」

 

籠の中身は…半分くらいといったところか

この平原全てを採り終えたわけではないが、ずいぶんと森林の近くに来ていた。

 

もー。この人最初からこの森林に来る予定だったでしょ!しれっとサーチまで要求してくるし!

 

カイさんに言われるままにソナーを使う。

お!反応が凄くあるな。この分だとこの籠も直ぐに一杯になりそうだ。

 

次はサーチか………?ん?

 

「あれ?」

 

「どしたー?」

 

「サーチの端っこに一瞬反応があったんだけど、すぐに消えちゃった…」

 

「ふぅん?なる程ね」

 

 

俺の説明に納得顔のカイさん。いやいや1人で納得してないで俺にも教えてほしい。

ここからは手分けして採取しようぜ、とカイさんはさっさとヨギ採取へと向かっていってしまった。

 

 

 

さっきの反応はなんだったんだろうか。

俺の勘違いという事はないだろう。サーチは一番自信のある魔法だし。

 

まあ、遠い所での反応だったし、それ以外に危険な反応も無い。

ポポも元気に走り回っていたし。

 

 

籠の中身が程よく埋まった頃、カイさんが俺の様子を見に現れた。

 

「調子はどうだ?…お!予定よりも沢山採れたな、そろそろ帰っか」

 

「うん」

 

カイさんと2人して森林を抜けて馬車の元へと向かう。

平原を駆け回っていたポポの姿は見えない。

森林に入ったのかな?

 

「おーい!シュナイダー!」

 

カイさんがポポを呼べば、しばらくしてから俺達とは別方向の森林からポポが姿を表す。

おお、凄い。名前はずっと間違えてるけど。

 

 

?ポポが背中に誰かを乗せている?

あれは……男性かな?

カイさんと2人で顔を見合わせて、ポポの元へと向かう。

 

!…これは!

ポポの背中に気絶してうつ伏せで乗っていたのは、背中を大きく切り裂かれた男性だった。

男性は鎧を着ていたが、その上からでも分かるくらいに深く爪かなにかで切り裂かれていた。

 

 

「アレン、ポーション作れるか?」

 

「任せて」

 

カイさんの問いかけに答えてすぐさま行動に移す。

幸い俺達の背中にはヨギがたんまりある。回復量の少ない初級ポーションしか作れなくても、これだけあればこの人を回復できる量のポーションは作れる。

 

 

籠のヨギを複数使って中級相当の回復量のポーションを数本作成。この傷だと飲ませるよりも直接傷口にぶっかけた方が効率が良いかな。

作成したポーションを傷口に流すと、呻き声を上げる男性。

様子を見ながらポーションを使用していけば、1本と半分ほど使った所で男性が意識を取り戻した。

 

その間カイさんは森林の方を見ていた。

 

 

「……う…ん」

 

「目が覚めたかい?」

 

「ジニー!……うぐっ」

 

「いきなり動いちゃダメだよ!傷は塞がったけど血が流れすぎている、安静にしないと!」

 

「す…すまない……しかし…まだ、あの森にジニーが…」

 

 

男性は、オニールという名の人間の男性だった。

オニールさんの話によれば、彼は森林を抜けた先の村に住む男性のようで、最近目撃されたキラーウルフの調査で森林を捜索していた所、何者かに背後から襲われたらしい。

 

ジニーというのは同じ村に住むハンターの女性で、彼女と手分けして調査していた時に襲われたみたいだ。

 

襲われたオニールさんは突然の事で、相手の姿は見ておらず、死を覚悟したところに突然現れたポポに助けられたらしい。

風のように現れたポポに背中に乗せられてこちらに向かっている途中に気を失ってしまったようだ。

 

 

「あんた達、見たところ冒険者のようだが……ランクは…?」

 

「俺は新人で、F。あっちのカイさんはCランクだよ」

 

「そうか……そうか……」

 

俺達のランクを聞いて項垂れるオニールさん。

聞けば、オニールさんもジニーさんも冒険者登録をしており、ランクはCらしい。

森林に居るのは自分を一方的に殺しかけた相手だ、もしかしたら俺達が上級冒険者かと期待しての質問だったんだろう。

俺達のランクを聞いて悔しさを滲ませるオニールさん。

 

 

「クソッ!!…いや、すまん…あんた達には感謝してるよ……早くジニーを探さないと…くっ!」

 

ヨロヨロと立ち上がろうとするオニールさんだけど、貧血で直ぐに倒れてしまう。

俺が慌てて体を支えても、オニールさんは立ち上がろうとしてしまう。

 

「寝とけ寝とけ、そんな状態で森に行ってもたどり着く前に死んじまうぜ」

 

「カイさん…」

 

 

その様子を見ていたカイさんが呆れたようにオニールさんに言う。

話を聞いた限りでは、カイさんと同格のCランク冒険者を一撃で瀕死の重症を負わせる程の相手があの森に居るのだ。

 

俺達が行っても……。

 

 

「あーあー。薬草が随分減っちまったな…アレン、あの森に行ってまた集めてきてくれねーかな」

 

「え?」

 

「あんた…なにを…!?」

 

この状況にはとても不釣り合いな声色でカイさんが俺に声をかける。

きょとんとする俺と、驚くオニールさん。オニールさんがカイさんにどう言うことか説明を求めていた。

 

「なにをって…俺達ゃこの籠一杯のヨギを集めるクエストを受けてるんだよ。この量じゃクエスト失敗で報酬金が貰えないからよ」

 

「違う!新人冒険者にあの森に向かえだなんて…くっ」

 

「おいおい、あんま無理すんなってアレンに言われたばかりだろ?」

 

 

カイさんの言葉に理解が追い付かないのか、非難の目を向けるオニールさん。

俺に突然薬草を拾ってこいだなんてなにを…?

カイさんはオニールさんを気にした様子もなく俺に顔を向ける。

 

「おいアレン」

 

「なんだい?カイさん」

 

「頼めるか?」

 

 

不敵に笑って俺に聞くカイさん。

その顔はとても。とても……。

 

 

「もー!しょうがないなぁ!行ってくるよ!2回目でクエスト失敗なんて俺も嫌だしね!」

 

「お…おい!無茶だ…!」

 

「よーし、アレン、あの辺りだ。あの辺りからヨギの波動を感じたようなそんな気がする」

 

「あの辺だね?」

 

カイさんがポポの現れた森林を指差す。

ヨギの波動ってなんだよ。適当な人だなぁと思わず苦笑い。

 

「このオッサンは俺が先に村に連れていっとくから、後で合流しようぜ」

 

「わかった」

 

「お…おい!」

 

尚も引き留めようとするオニールさんを脇に置いて、話を進める俺とカイさん。

カイさんがポポを馬車に繋いで、オニールさんを抱き抱えて馬車に乗せる。持ってきた道具もだ。

オニールさんが荷台でまだなにやら言っているが、まあ、気にしない。

 

 

「あの付近でソナーかサーチを使えば見つかる筈だ、まだ有るが、急いでいった方がいいな。分かりやすいのが2つある」

 

「了解」

 

 

随分と回りくどい言い方をする。まだ薬草を探しに行くテイで話を進めているのが少し面白い。

籠は2つとも荷台に積み込んだと言うのに。

 

カイさんのアドバイス通りなら、急いだ方が良いな。

誰か別の人に摘み取られてしまうかもしれない。

 

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「おーう」

 

「お…おい!」

 

 

カイさんは手を振って、オニールさんは俺を止めようと手を伸ばして。

2人に見送られながら俺は走り出した。

魔力で体を強化して、猛スピードで。

あっという間にたどり着いた森林に、勢いそのままに俺は突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 



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来いよ!武器なんて捨ててかかってこい!

 

 

 

「彼は…ヒーラーではないのか…?」

 

「あん?どうだろうな」

 

 

土煙を残してあっという間に森林に消えたアレンに唖然とするオニール。

オニールからしてみれば死を覚悟をする程の重傷を負っていたのだ。それを見事に治してみせたアレンを後方支援職である回復役のヒーラーと思ってもなんら不思議ではない。

 

そう思い馬車を操縦する青年に問いかけてみても、曖昧な返事しか返ってこない。

 

 

「しかし…彼はFランクだろう?あまりにも…」

 

「無謀だと?ハハハ。オッサンはCランクって言ってたよな。あの動きが出来るか?」

 

「それは……」

 

 

カイの問いかけに言葉に詰まるオニール。

ランクは中級のCランクだが、ベテランと言っても差し支えないだけの年月は冒険者としてやってきた自負のあるオニールにとって、非常に困る質問だ。

 

 

あの動きは、出来ない。少なくとも自分には。

元々の身体能力が高いのか、魔力で強化しての動きなのか。それすら判断できない。

 

 

「すまなかった」

 

「え?」

 

 

アレンについて考えを巡らせているオニールに不意にカイが謝罪の言葉を投げる。

初対面の自分をオッサンと呼ぶような不遜な青年からはとても想像できない真摯な声色の謝罪に思わず呆けたような返事をしてしまう。

 

 

「オッサンの怪我は完全に俺のミスだ」

 

「…君の?」

 

「あの森に居るのはキラーウルフだけだと思っていた。野郎、俺とアレンを警戒して完全に気配を消してやがった」

 

「すまない。どういうことだ?」

 

「早い段階からオッサン達が森に入っていたのは気付いていた。キラーウルフ程度なら対処できる力量であることも。俺達が森を抜けたタイミングで仕掛けてくるとはムカつく野郎だ…いや、言い訳だな。気付かなかった俺が間抜けだ」

 

「ま…まってくれ。意味が…」

 

「あの森にはキラーウルフ以外にもう1匹居たんだよ。オッサンに傷を負わせて、俺達を出し抜いた奴が」

 

 

まさか。と思うオニール。

確かに自分とジニーはCランク冒険者であり、何度もキラーウルフを討伐してきた経験もある。

だからあの森の調査に出掛けたのだ。

単独であってもキラーウルフならば対処できる。故の手分けしての捜索だったのだ。

 

捜索中に突然感じた背中の激痛。

冷静になった今、思い返せば不思議なことだらけだ。

最初はキラーウルフの攻撃かと思ったが、自分のサーチには反応が無かった。自分のサーチは最大展開で半径5m。これならばキラーウルフの奇襲にも対応するのには十分だ。

 

だが結果は…。

 

 

「あの森に居るのは……?」

 

「ああ、そいつは────。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

森林に入った俺はスピードを落とすこと無く駆け抜ける。この程度、魔の森にくらべたら何て事は無い。

森に入った段階でサーチを展開したら、ジニーさんらしき人の反応。

モンスターの反応は無かったが、とりあえず反応のあった方へ向かってみよう。

 

 

「居た!………ん!?」

 

 

正面にジニーさんを見つけたと思ったら、その背後に巨大な影。

む!いきなり反応が現れた!攻撃体勢に入ったって事か!?こなくそ!!

 

突然現れた俺に驚いているジニーさんを通りすぎて、俺はその影に勢いそのままにドロップキックをブチ込んだ。

 

ドムッ!という鈍い打撃音とグオァ!というモンスターの呻き声。

俺の蹴りを食らったモンスターは木々を薙ぎ払いながら吹き飛んでいった。

 

よっしゃ!間に合った!

着地してジニーさんの方を見れば目立った外傷もなくて安心する。

 

 

「き…君は……?それに、さっきのは……?」

 

俺の突然の登場と、モンスターに襲われそうになってた事にジニーさんは困惑した様子だ。

そりゃあねえ、いきなり現れたらそうなっちゃうよねぇ。

 

「俺はアレン。お姉さんはジニーさん?オニールさんがさっきのモンスターに襲われたっぽくて怪我したけど大丈夫、治ったよ。」

 

「???あ、ああ…?」

 

俺の矢継ぎ早な返答に困惑気味のジニーさんを置いて周囲を警戒する。

手応えはあったが、あれで倒したとは思わない。

 

 

「気をつけて、どうやら気配を消せるみたいだ。まだ居る」

「!…わかった。ありがとう」

 

 

俺の言葉に瞬時に臨戦態勢になるジニーさん。

流石Cランク。突然の事に少し動揺したみたいだけど、今はもう冷静だ。

 

「アレンと言ったね。姿は見た?」

 

「うん。あれは熊型モンスターだった、かなりデカい」

 

「気配を消す熊型……シーフベアか!」

 

俺の少しの特徴だけで謎の熊型モンスターの正体を見破ったジニーさん。

シーフベアか!やべぇ聞いたこと無い!サタナキアに居ないタイプの奴だ!

 

「どんな奴?」

 

「シーフベア、ランクはDから」

 

「から?」

 

「技を盗む。長く生きている個体程ランクが上がる。気配を消せるのは恐らくキラーウルフの技を盗んだから」

 

 

なるほど、厄介だ。

今吹き飛ばした奴がどれほど生きているか分からない。どれほど技を盗んだのか。

だが、やりようはある!

 

俺はサーチの質を変える。

すると、ジニーさんの背後から反応が!

 

「伏せて!」

 

「!!」

 

俺の指示にすぐさま反応して伏せるジニーさんのすぐ真上をゴウッ!という音と共に見えない刃が通りすぎる。

なるほど!あれがオニールさんに傷を負わせた技か!

 

ジニーさんの上を通り過ぎたシーフベアの攻撃はそのまま正面の木に当たって、鋭い爪痕を残す。

 

 

「エアネイル!ワイバーンの技だ!」

 

傷跡を見たジニーさんが俺に教えてくれる。

ワイバーンの技まで…どうやら、かなりの個体のようだ。

 

依然として姿を見せないシーフベアに冷や汗を流しているジニーさん。

俺はそんなジニーさんを安心させるように声をかける。

 

「大丈夫。見つけた!」

 

「えっ!?」

 

あのヤローめ、俺を無視してジニーさんを攻撃したなぁ?許せん奴だ。ボコす。

 

俺のサーチにはくっきりとシーフベアの姿が見えている。

ふっふっふ…!

 

これが俺とベーやんの生み出した対アリア姉用戦術

名付けて!

【気配が無いなら体温を感じれば良いじゃない】

だ!そのままだね!

 

いくら気配を消してくる相手でも、生物である以上体温は存在するのだ!

ベーやんと対アリア姉用に試行錯誤して作ったオリジナルのサーチ。

ソナーとサーチを組み合わせてなんやかんやしてたら偶然できた新サーチ!ちなみに弱点は範囲が凄く狭いこと!半径30mくらい!

 

ちなみにアリア姉には1度は驚かせたものの、弱点がすぐにバレて2回目以降全く効かなかったぜ!

 

まさか新大陸で日の目を見るとはな…ふっふっふ。

 

俺は真っ直ぐシーフベアに向かって走って行く。

俺を迎撃するためにエアネイルが飛んでくるが、そんなもん効かん!

魔力で強化した腕で飛んでくる爪撃をバシバシ弾く。ジニーさんに当たらないように上空に弾くのも忘れない。

 

攻撃を弾きながら進んでいけば、森に紛れていたシーフベアが見えてきた。

デカい。4mくらいはありそうだ。

歴戦の個体と言うのだろうか、たくさんの古い傷跡が残る体をしている。その辺のモンスターとは比べ物にならない魔力を感じた。

 

 

シーフベアも俺を相手に姿を隠すのが無駄だと悟ったのか、腕を大きく拡げて威嚇している。

 

「グルアァァア!!」

 

「よっしゃ来いやクマ公!オニールさんの敵討ちじゃい!」

 

 

オニールさんは死んでないけどね。

 

シーフベアが強靭な腕を振りかぶって鋭利な爪で直接攻撃を仕掛けて来た。

俺も魔力で強化した体でシーフベアの攻撃を腕一本で受け止める。

ドッ!と鈍い音が森に響く。

 

次は反対の腕で再びシーフベアの攻撃。

これも受け止める。

 

お互いが腕と腕とで組み合い押さえつけ合うような体勢になる。

そのままシーフベアが体重にモノを言わせて俺を押し潰さんとしてきた。だが!

無駄無駄ァ!魔力で強化した俺の筋力に敵うものかよ!

 

「ふん!」

 

俺は隙だらけのシーフベアの土手っ腹に向かって強烈な前蹴りを放つ。

ドゴンッ!

という音とともに呻き声を上げて吹き飛ぶシーフベア。

 

追撃するべく吹き飛ぶシーフベアを走って追いかける。

吹き飛ばされていたシーフベアは前足と後ろ足地面に勢いよく叩きつけてガリガリと地面を削りながらブレーキを掛けて止まる。

すると、走って向かってくる俺に大きな口を開けて

 

ゴアッ!

 

と巨大な火球を放ってきた

なんつー技だ!誰のだそれは!このクマ公め!

 

俺は迫り来る火球を見て、近くにあった手頃な枝を折り魔力を纏わせる。

向かってくる火球に対して上段から一気に振り下ろす。

 

ズバッ!と真ん中から真っ二つに割れた火球は俺に当たること無く背後の木々にぶち当たり、弾ける。

 

流石のシーフベアも動揺したのか口を開けたまま動きが止まる。

俺がその隙を見逃す筈もなく、開いたままの口を思いっきり蹴りあげた。

 

 

「ギャッ!!」

 

シーフベアが短くも鋭い悲鳴を上げる。シーフベアの上体が浮き上がる程の強烈な蹴り。

随分とタフな奴だったが、これで止めだ!

蹴りあげられて上を向いたシーフベアの無防備な首筋に向かって、俺は魔力を纏わせた木の枝を思いっきり突き刺した。

 

 

ギャイン!!という、魔力同士がぶつかった音が森に響く。

 

俺の持っていた木の枝が半ばからポッキリと折れた。

 

 

「!!…へっへっへ…こんにゃろう…俺の魔力纏いを覚えやがったな…!?」

 

 

数歩下がってシーフベアから距離を取り、折れて使い物になら無くなった枝を投げ捨てる。

シーフベアは嘲笑っているかのようにゆっくりとした動作で俺の方を向く。

 

「グルァァ!!」

 

「上等だ!来いよクマ公!」

 

立ち上がって大きな体で威嚇してくるシーフベアに対して、不敵に笑って手招きする。

魔力纏いがなんだ。付け焼き刃の技で俺に対抗しようなんて百年早いわぁ!

 

 

魔力で強化されたシーフベアの猛烈な勢いで振り下ろされる爪攻撃を、俺は今まで以上に強化した腕で今度は受け止めること無く内から外へ思い切り弾く。

 

「オラァ!」

 

バシィッ!と腕を弾かれて無防備となったシーフベアの胴体に強烈な右ストレートを放つ。

鈍い音が森に響く。

 

「ゴアッ!?」

 

何て事は無い。シーフベアがいくら魔力で自身を強化しようが、俺には何一つとして問題は無いのだ。

お前程度の相手なんざ、こちとら子供の頃から戦い慣れてるんだよ!

 

アレン・ニンバスを舐めんじゃねーぞこのクマめ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「な……なんて戦いなの……」

 

 

ジニーの目の前では、巨大なモンスター相手に一歩も引くこと無く、むしろ余裕寂々といったような様子で1人の少年がシーフベアと戦いを繰り広げていた。

 

 

遠くから見た限りではあるが、かなりの技を覚えたであろうシーフベア。ランクはCどころの話では無いだろう。

だが、それを意に介すこと無く繰り出されるシーフベアの技を難なく捌いていくアレンという名の少年。

 

 

森に強烈な打撃音だけが響く。

シーフベアが哀れに思えるような一方的な戦いがジニーの目の前で繰り広げられていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「これで…終わりだぁ!」

 

 

俺は舌を出してヘロヘロのシーフベアの頬に思いっきり右ストレートを放つ。

 

ドゴンッ!という鈍い音と共に、ゆっくりとシーフベアの巨体が地面に沈んだ。

 

「ふぅ…タフな奴だったな」

 

立ち上がる事の無いシーフベアを見て、体に纏っていた魔力を解く。

多彩な技を放ってきたが、何て事は無い。余裕よ!

 

「終わった…の?」

 

隠れて見守っていたであろうジニーさんが恐る恐るといった様子で木陰から現れた。

出会ったときはチラリと見ただけであったが、改めて見ても傷らしい傷は負っていない。

 

 

「うん、もう起き上がってくる事は無いよ」

 

「そ…そう………改めて、危ないところを助けてくれてありがとう。この森にこんなモンスターが居たなんて…こんな奴が村に来ていたらと思うと…」

 

倒れ伏しているシーフベアを見て安堵した様子のジニーさん。

そういえば、このシーフベアはどうするのだろう。

俺達は採取クエストに来ていたんだけど、持ち帰って良いものなのかな?

 

「オニールは…保護してもらえたみたいね」

 

「うん。カイさんっていう俺と一緒に来た人が先に村に連れていくと言っていたよ」

 

「そう。何から何までお世話になりっぱなしね…とりあえず、シーフベアはこのままにして私達も村に向かいましょう」

 

 

ジニーさんの提案に断る理由も無いので、頷いて村へと向かうジニーさんについていく。

道中に改めてジニーさんに自己紹介してもらった。

 

ジニーさんはオニールさんと同じく近くの村に住む人間のハンター兼冒険者で、村を襲うモンスターを撃退したりしていたらしい。年齢はヒミツと笑っていた。

 

俺の事も聞かれたが、俺がまだ新人冒険者で、ランクもFランクだと知ってとても驚いていた。

あのシーフベアは最低でもBランクくらいはあったそうな。

まあね、俺もね、鍛えてますからね、えっへん。

 

 

しばらく2人して歩いていると村が見えてきた。

村の前でカイさんとオニールさんが俺達の帰りを待っていてくれた。

オニールさんがよろけながらもジニーさんに駆け寄って、抱き締め合っている姿を見て間に合って本当に良かったと思った。

 

 

「お疲れ、アレン。どうだったよ」

 

 

と聞いてくるカイさんに俺はピースサインで応えた。

森に居たのはシーフベアだとオニールさんとカイさんに説明をしたら、2人とも予想はしていたのかやはりな。という反応だった。

 

 

「今何処に?」

 

「森の中よ。私達じゃ持ってこれないもの…持ってこれないよね?」

 

「ん?余裕で持ってこれたよ」

 

「そ…そう」

 

 

俺の返答に苦笑いを浮かべるジニーさんと、驚いたようなオニールさん。

いつの間にやらカイさんが村の人を集めてシーフベアを回収するように指示を出していた。

 

そのとてもてきぱきとした様子に、普段のカイさんとはとても似ても似つかなくてニヤニヤしていると、何笑ってんだよお前も手伝えぃ!と笑いながら言われた。

 

 

暫くしてから森林からシーフベアが回収されてきた。

その大きさに村の人たちが驚愕していると、村人全員を集めたカイさんが

 

「改めて、今回オニールのオッサンが怪我をしちまったのは俺のミスだ。一歩間違えば死んでいたかもしれない」

 

と、深々と村の人達に頭を下げるカイさん。

どういう事か困惑している村の人とジニーさんに、慌てた様子のオニールさん。

 

「シーフベアの存在に気付いて俺かアレンがすぐに討伐してれば負わなかった怪我だ。詫びと言ってはなんだが、このシーフベアの魔石を使ってモンスター避けの護符を作る。これだけの魔力のモンスターなら、この近辺のモンスターなら寄り付かねぇだろうさ」

 

カイさんの言葉に再び困惑する村人達。聞き方によってはまるでカイさんがオニールさんを怪我させたようにも捉えられる物言いに、戸惑う村の人達。もちろん俺もだ。

 

しかし、そこに待ったをかけた人物が居た。オニールさんだ。

 

「まってくれ!君はなにを言っているんだ!この村に来る途中に採取クエストはついでで本当はキラーウルフを討伐しに来たと言っていたじゃないか!」

 

えっ。なにそれ初耳。

 

「君の噂は近隣の村から聞いている!思い出したよ!小さな村では対処できないようなモンスターを討伐しては護符だけ残して去っていく黒髪の青年!それが君だろう!?」

 

「ちょっ…オッサ……オッサンて。ちょっと」

 

「傍若無人な態度だけど決して誇ったり金銭を要求したりしない好青年だと近隣のハンター達が言っていたよ!」

 

「もうやめて……」

 

カイさんがオニールさんの言葉に両手で顔を押さえて呻いている。よく見れば耳が真っ赤だ。

その様子に合点がいった村人達がニヤニヤとし始める。

なるほど、なるほどなるほど?

 

「カイさん……え?なに?もしかして感謝され慣れてないの?ねえねえ?もしかして俺と森で分かれた時にキラーウルフ討伐しに行ってたの?ねえねえ?」

 

「う……うるせー!良いから黙って護符貰っとけや!なんなんだお前らみんなしてニヤニヤしてからに!わら……笑うなコラァ!」

 

顔を真っ赤にしたカイさんが怒鳴り声を上げるも、誰一人としてニヤニヤ顔を止めることはなかった。

もちろん俺もだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時刻は夕方。

カイさんがぶつくさ文句を言いながらシーフベアから取り出した魔石でモンスター避けの護符を作り、村長に渡していた。キラーウルフの魔石も渡していた所を見れば、やはりあの時に討伐していたのだろう。

ちなみにシーフベアは食べられるらしく、村の皆で食べるそうだ。

 

「アレン、帰るぞー」

 

「はーい!じゃあねオニールさん、ジニーさん!」

 

未だに照れているのか、さっさと馬車に乗ってしまったカイさんに急かされて、村の人達への挨拶もそこそこに村を後にする。

 

振り返れば、村人全員で手を振ってくれていた。

心地よい満足感に浸っていると何か忘れているような気がする。

なんだったかな……あっ。

 

 

「カイさん、ヨギ!」

 

「…………あっ!」

 

 

 

平穏を取り戻した森林で2人してヨギを集める。

カイさんにシーフベアとの戦いを話しながらヨギを採取していると、1つ気になる事が。

 

「ちなみにカイさんがあのシーフベアと戦ったらどうなってたの?」

 

「あん?そりゃ、一撃よ」

 

 

うーん。多分本当だろうなぁ…。いつの間にキラーウルフも倒していたのか…ジンさんといいカイさんといい。不思議な人達だなぁ。

 

 

 

なんとかヨギを集め終わった俺達がシュライグに戻る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 



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食後のコーヒーは美味いなぁ!

 

 

 

町へ帰ってすぐにコーザさんのお店に向かった俺達は、籠の中身をコーザさんに見せると納得のいく量だったのか、感謝の言葉と共に報酬金である4000エルを貰った。

 

これも、カイさんが俺にそのままくれた。

小声でシーフベアの討伐金としてはかなり少ないが、勘弁なと笑っていた。

まあ、本来のクエストとは予定に無かった討伐なので俺も特に問題はない。カイさんの弱点というか、新しい一面も見れたしね。

 

クエストを達成して、お店を出ようとしていた所にコーザさんから呼び止められた。

 

 

「待て、このポーションは?」

 

「ああ、そこにあったんだ。それは途中で怪我人を見つけてヨギを使って俺が作ったポーションだよ」

 

 

カイさんが籠の中に入れっぱなしだったのか、コーザさんが俺の作ったポーションを見せながら俺達に問いかけてきた。

どこまで話すべきなのかな?自分ではなかなか判断しづらかったので、チラリとカイさんを見れば、肩を竦めて俺の好きにしろ。と言いたげだ。

 

 

「コレを、お主がのう…」

 

 

う。シェリス姉から教わった通りに作ったから、なんら問題は無い筈だ。オニールさんの傷だって治せたし。

でも、本職から見るとやっぱりどこか違和感でもあったのかな?コーザさんはポーションをじっと見つめている。

 

 

「コレをワシに譲ってくれんか?金は出す」

 

「ええ?…俺は構わないけど…」

 

「そうか。そうじゃな、見た所中級ポーション並みの回復量はあるのう。アレンとやら、残り全てを10000エルで買い取りたいのじゃが、よいか?」

 

10000!?確かポーションは4つ作って1つと半分はオニールさんに使ったから、コーザさんの手元には2つと半分しか残っていない。

それを10000エルでって…。

 

「そのポーションがどうかしたのか?爺さん」

 

「見事な出来だ。回復量の少ないヨギをどれだけ集めてもこのようなポーションは出来はしない。フォッフォッフォッ!久々に研究意欲が湧いてきたわい!ほれ金じゃ、コレで交渉成立返せと言われても返さんぞ!」

 

「いや…まあ、良いけど」

 

「気にするなアレン。爺さんの悪い病気だ…俺も何度かやられた……もういいか?朝から何も食ってなくて腹へってんだけど」

 

「おう帰れ帰れ。今日は店じまいじゃ!アレンとやら、お主独学か?」

 

「いいや、とても優秀な先生に教わったんだ」

 

「そうかそうか!フォッフォッフォッ。もちろん作り方は言うでないぞ、ワシが自分で見つけてこそ意味があると言うものじゃ!」

 

嬉しそうにしているコーザさんが立ち上がってすぐに帰れとばかりに俺達の背中を押してくる。

ドワーフなだけあって体は小さいがとても力強い。

 

「ほれほれ出た出た!またクエストは依頼するつもりじゃからな、アレン!期待しておるぞ!」

 

 

えぇー…期待されても困るんだけどなぁ…と、コーザさんに追いやられるままに店を出る俺とカイさん。

コーザさんはお店のドアに架かっていた表札の向きを変えて、さっさとドアを閉めてしまった。

コーザさんの勢いに唖然としている俺に苦笑したカイさんが声をかける。

 

「気にすんな。あの爺さんはいつもあんな感じなんだよ。よかったな、臨時収入だ」

 

「うん…まあ、そうだね。そう考えるかぁ」

 

 

コーザさんからの追加料金で14000エルとなった今回の報酬金。多少のトラブルはあったものの、薬草集めでこの額は破格だ。

そういえば、これからどうするのかな?ポポを連れてきたまんまだ。

 

「さぁて、俺はこれから東門に行くがアレンはどうする?東門に行った後飯にしようかと思うんだが、お前も来るか?」

 

「うん!一緒に行ってもいいかい?」

 

「よしきた!美味い飯屋に連れてってやるよ!乗れ乗れ、シュナイダーに乗りまくれ」

 

うーん。カイさんの笑顔が眩しい。

ポポに乗りまくることは出来ないけどね。カイさんの紹介する美味い飯屋ってのも気になるし

 

 

「そういえば、ポポはお手柄だったね今日」

 

「だろう?すげぇ奴なんだよシュナイダー」

 

な!話しかけるカイさんにまたもやヒヒン!と返事をするポポ。

カイさんと意志が通じ合っているのか、離れたところに居ても呼べば来るレベルで仲良しのようだ。

 

「ちゃんと名前で呼んであげたらいいのに」

 

「細かいことは良いんだよ!シュナイダーはシュナイダーなんだ。まあ、誠に遺憾ながらポポでもあるようだが」

 

いや、ギルドの馬である以上紛れもなくポポなんだと思うけどね。

まあ、本人達がそれでよしとしているなら、俺が口を挟むことでもないか。

 

 

俺達は軽快な足取りのポポに連れられて、東門へと向かうのだった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあなシュナイダー。また次も頼むな!」

 

「今日は有り難うねシュナイ……ポポ!」

 

 

危ない。カイさんにつられてシュナイダーの事をポポと呼んでしまう所だった。

?……違う逆だ!

 

厩舎へと連れていかれるポポを見送っていたら、俺の腹から大きな音がなった。

朝から何も食べてない。体力に自信はあっても、流石に腹は減る。

 

 

「よっしゃアレン、肉か魚か野菜。どれが食いたい?」

 

「肉ぅ!」

 

「当たり前だぁ!肉以外認めねぇ!今日は肉だ!」

 

 

なぜ聞いたんだい?

1人でテンションの上がっているカイさんに連れられて、馴染みの店へと連れていって貰った。

 

 

カイさんの案内してくれた場所は北区寄りにあって、周辺はとても多くの人達で賑わっていた。

なんと言うか、露出度の高い服を着た女性とすれ違う事も多く、非常に心臓に悪い。零れるんじゃないの?大丈夫なの?寒くない?

 

ここは飲食街なのか沢山の飯屋が建ち並び、辺りからは食欲を刺激する良い匂いに更に腹が減る。

 

目当ての店に入っていくカイさんの後を追えば、店内も多くの人で賑わっていて、食事時からは少し時間が過ぎているが、それでもクエスト帰りだろう冒険者や仕事終わりの人でとても賑やかだった。

 

 

「おーう…相変わらず混んでるな。まあ、カウンターで良いよな?」

 

「どこでも!」

 

早く食いたいすぐに食いたい!いざ食べる前になると更に腹が減るのはなんでだろう。

カウンター以外はほぼ満席のようだが、運良く2席空いたカウンターを発見してそこに座る。

 

「俺が勝手に頼むな。嫌いな食いもんあるか?」

 

「ええとね、そうだなぁ…」

 

「店員さーん!注文おねがーい!」

 

何で聞いたの?ねえ、なんで!?

ビックリしている俺を置いてけぼりに、手を上げて店員さんを呼ぶカイさん。それに反応した店員さんが注文票を片手にやってくる。

 

おお、ロウガさんと同じ狼の獣人の女性だ。

キリリとしていて格好いい。

 

 

「なんだ、カイか。ここに来るなんて久し振りだね…いつもは嫌がって来ないのに」

 

「あー……ま、たまにはな。アレン、レティシアだ。おっかないぞ」

 

「アンタにだけだよ。よろしくねアレン君」

 

その紹介はどうかと思うが、レティシアさんは気にした様子もない。

俺が自己紹介をすれば、優艶な笑顔で応えてくれるレティシアさん。どこがおっかないのさ、良い人そうじゃん。

 

「カイに似ちゃダメだよ。それで、注文は?」

 

カイさんの知り合いはそれを言う決まりでもあるのかい?殆どの人が俺に助言というか、アドバイスというか。似たような言葉を言ってくる。

まあ、レベッカさんも言ってたしな。ロクでもないって。

 

 

カイさんがレティシアさんに食事をどんどん注文していく。

頼んだのがどんな料理かさっぱりわからないが、これだけ賑わっているのだから、期待は高まる。

注文を書き留めて、厨房へと向かうレティシアさん。

レティシアさんが持ってきてくれた水で喉を潤す。

 

 

「あんまり来ないの?」

 

「まあな、良い店なんだが、良い店過ぎて…」

 

 

料理を待つ間にカイさんと世間話をしていると、大声で笑い合う冒険者らしき一団。

クエストの話で盛り上がっているのか、店内に大きな笑い声が響く。

カイさんは肩を竦めて

 

「この様さ。良い事なんだがな。有名なクランもここを贔屓にしていて見つかると勧誘が面倒くせぇんだ。お前も目をつけられないように気をつけな」

 

「ふぅん…カイさんもジンさんもクランに入ったりしないの?」

 

「しねぇなぁ。俺に集団行動は無理だ!ま、ジンがお前と行動するってんなら、俺も参加させてもらうがね。面白いし」

 

 

2人の俺に対する評価の高さがとてもむず痒い。

自分で言うのも恥ずかしいけど、姉達に随分と鍛えられたのだ。自分の強さには自信がある。

推定Bランクのシーフベアも苦戦すること無く倒せたしね。

でも、2人とも俺の強さを初めから見抜いていたような気がする。

 

あの平原で俺にモンスター討伐を頼めるか聞いてきたカイさんの顔は

お前なら出来るだろう?

と、確信めいた顔をしていた。

 

 

「カイさん達って───」

 

何者?と聞こうとしたときに料理が運ばれてきた。

美味そうだ!とても美味そうだ!カイさん達の正体?んなもんあとあと!うひょー!肉汁が滴ってますねぇー!!

 

とても美味しそうな料理を前にした俺は、カイさん達が何者なのかとか、すっかりどうでも良くなっていた。

料理美味しーい!連れてきてくれてありがとー!

 

 

 

 

「あー!美味しかった!」

 

「だろう?」

 

何故かカイさんが誇らしげだ。

随分と長居をしてしまったのか、アレだけ賑わっていた店内も今は俺達だけになっていた。

美味しい料理にとても満足感していると、俺の頭にある閃きが。

 

そうだ、アレをやってみよう。

密かに憧れて習慣にしようと画策している事。

そう、食後のコーヒーだ

俺もジンさんのようにスマートに飲めるようになりたい。

 

 

「カイさん、ここってコーヒーあるの?」

 

「ん?お前そんなの飲むのか?あるけどよ」

 

カイさんが近くに居たレティシアさんにコーヒーとフルーツジュースを注文する。

フルーツ……ジュース……?いかんいかん。俺はコーヒーを飲むのだ。うん。そうだとも。

 

 

暫く待っているとレティシアさんが注文した飲み物を持ってきてくれた。

どっち?と聞いてくるレティシアさんにコーヒーは自分だと伝えると

「あら…そう?」

と、とても微笑ましいものを見るような顔でコーヒーを俺の前に置いてくれた。

 

まずは香りを楽しむ

うーん!……わからぁん。

 

次は味だ……ミルクと砂糖はどうする…?入れるか…?いや、まずは……。

 

 

「………美味いか?」

 

「…ッ…お…美味しいよ?」

 

「ふーん」

 

コーヒーの苦味に打ちのめされている俺に、涼しい顔でフルーツジュースを飲むカイさん。

なにさ、なんでニヤニヤしてるのさぁ!

 

「砂糖とミルクで味を変えてみるのも悪くないよ?」

 

近くで見守っていたレティシアさんが苦笑しながら俺にアドバイスをしてくれる。

なるほどなー!たしかになー!用意されてるもんなー!使わないってのも失礼だもんなー!

俺がミルクに手を伸ばすと、ニヤニヤした顔のカイさんが

 

「おいおい、野暮なこと言うなよレティシア。なあアレン?コーヒーってのはブラックじゃなきゃなぁ?」

 

「はへ!?……も、もちろんさ…」

 

ブラック!?何も入れないのをブラックって言うのか!?くそぅ!いちいち格好いいな…!

ミルクに伸ばしていた手を引っ込めて、再びコーヒーを一口。

 

「……ッ…うん。お、美味しいなぁブラックは」

 

「………カイ」

 

 

苦味を我慢する俺の様子に腹を抱えて笑っているカイさん。それを嗜めるような表情で見るレティシアさん。

 

「はっはっは…はー…笑った。おいアレン。美味そうじゃねーか。俺にもくれよ、交換しようぜ」

 

「えっ!?……しかたないなぁ!もー!次からは自分で頼んでおくれよ!?ほら!もー!交換ね!交換!しかたがないなぁカイさんは!ねぇレティシアさん!」

 

「ふふふ、そうだね」

 

 

 

 

うーん。………フルーツジュースおいちー!!

 

 

 

 

 



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突然オラァ!(迫真)

 

 

 

アレンとカイも帰り、客が一人も居なくなった店内は、片付けを行う店員と、カチャカチャと食器を洗う音だけが響く。

 

レティシアは1人、カイの連れてきたアレンという少年について考える。

 

(あのカイが誰かと一緒にここに来るなんてね…どういう風の吹き回しかな)

 

少し汚れてしまった店内をモップで拭く。

店内はとても綺麗に清掃が行き届いているが、食事の後など往々にして食べカスなどが落ちているものだ。

しばらく拭き掃除を行っていると、新たな来客だろうか、再び店の扉が開く。

買い物袋を抱えて入ってくる背の高い女性と、小柄だが活発な印象を与えるオーガ族の少女。

 

 

「ただいまー!」

 

「お帰り。サリィ」

 

「あら、団長ったらまた拭き掃除?私たちに任せてくれて良いのに」

 

静かになった店内に新たな来訪者…否、住人が2人帰って来た。

サリィと、カリン。

カリンは店内の拭き掃除をしている自分達のクランの団長であるレティシアに微笑みながら声をかける。

 

「ふふふ、好きなんだよ。お帰りカリン。それに、今日はまだ来客の予定があるからね」

 

「ああ、そういえば今日だったわね」

 

レティシアの言葉に思い出したかのように頷くカリンは、抱えていた荷物をテーブルに置いた。

カリンの買い物袋を厨房へと運ぶサリィ。

厨房へ消えたサリィのとても元気な挨拶がこちらにも聞こえてくる。

一般の客は皆帰った。しかし、昨晩はもう一組まだ来客の予定がある。

 

 

別の部屋を掃除していたのか、1人の少女が階段から降りてきた。のほほんとした表情の少女だ。

 

 

「あー。副団長おかえりー。そういえばカイさん来てたよー。水くさいよねー。私達にも声かけてくれればいいのにねー。」

 

「あら、そうなの?ミニレ」

 

「うんー。もう一人友達と来てたよー」

 

「ジン?」

 

「違う人ー。赤い髪と黒い髪の男の子ー」

 

カリンからミニレと呼ばれた間延びした物言いが特徴的なウサギの耳を生やした獣人の少女。

彼女の言葉にああ、と納得するカリン。

先日カイを探している時に居た少年だろう、特徴がピッタリだ。

 

「知ってるの?」

 

「ええ、先日カイやジンと共に行動してたもの。とても良い子だったわ。そういえば、名前を聞いてなかった」

 

 

カリンの言葉に少し考えるレティシア。

ジンとも知り合いなのか。あの2人が気に掛けているとは珍しい。基本的に自由奔放な2人だ。以前にこのクランに誘ったときもあえなく断られている。

 

「アレンという少年だよ。面白い子だった」

 

「そっか。それにしても、カイがここに来るなんてね」

 

「ねー。副団長達がしつこく誘うからぱったり来なくなってたのにねー」

 

「酷い言い方。自分だって誘ってたじゃない」

 

 

やいのやいの言い合う2人を横目に、再び思案するレティシア。

カイはクランという組織にあまり興味を持っていないのだ。ジンも然り。

たまにフラリと現れて食事を楽しんでいくが、それは純粋にここの料理が美味しいからだと以前言っていた。嬉しい。

 

そんなカイがこのクランにアレンという少年を連れてきたのは、純粋に食事を食べる為だったのか。

はたまた、コイツにちょっかいをかけるなよと暗に我々に釘を刺しに来たのか。

もしくは、何も考えていないのか。

 

まあ、彼に関しては深く考えない方が良いというのもある。なにぶんとても刹那的に生きている人物だ。考えるだけ無駄である。

 

 

「団長。火は落とさない方がいいか?」

 

「そうだね。一応そのままにしておいて貰えるかな、エーゼ」

 

「ん」

 

 

調理場から顔を出したドワーフの男性の問いかけに応えるレティシアは、時計を確認してそろそろ最後の来客が来る筈だと準備を進める。

レティシアの指示を聞いたエーゼもまた、厨房へと戻って行く。

 

「カリンとエーゼとサリィ以外は帰っても良いからね。今日もお疲れ様。また明日も頑張りましょう」

 

 

はーい!と厨房からの数人分の返事を聞き、手にしたモップを用具入れに片付けようとして、止まる。出していた方が良いかもしれない。また汚れる気がする。

普通の客の来店予定ならば勿論片付けるのだが、これから来る客は普通ではないのだから。

 

 

 

時刻が明日を迎えようとしている頃に、最後の来客が店を訪れた。

 

 

「おう、失礼するぜレティシア」

 

「いらっしゃい、デミトリ」

 

黒のスーツをきっちりと着こなし、金髪をオールバックにした壮年の男性が、背後に部下を数人引き連れてやってきた。

レティシアからデミトリと呼ばれた男性。彼は北区を代表するクランの団長であった。

 

穏やかな笑みでデミトリを迎えたレティシアが用意したテーブルへと招く。

すまんな、と一声掛けて、デミトリは部下であるモヒカンが引いたイスに腰かける。

その背後に控えるように体格の良いモヒカンとスキンヘッドの男性2人が立ち、さらにその後ろにオーガ族の青年と、猫の耳を生やした少女が控える。

 

 

「今日は俺だけか。西も南も集まりが悪いな」

 

「南は仕方ないよ、学生だもの」

 

用意されたテーブルにはイスが4つ用意されていたが、今夜は2つしか埋まる予定はなさそうだ。

レティシアが席に着き、カリンとサリィがレティシアの背後に控える。エーゼは厨房で待機している。

 

お互いが向かい合う形になった空間で、サリィがムッとした表情でデミトリの背後、オーガ族の青年を見ている。

オーガ族の青年はサリィの視線に気付いたのか、ニヤニヤと笑って手を振っていた。

 

 

「そこの君。ここは禁煙だよ。消してくれないかな?」

 

「あー?」

 

レティシアから穏やかに注意されたオーガ族の青年は咥えタバコをしていた。

カリンも表情は変えなかったが、良くは思っていない。サリィは言わずもがな。

 

しかし、レティシアから注意されたオーガ族の青年はタバコを消すこと無く、むしろ煽るかのようにレティシアに半笑いで聞き返す。

 

「このっ!」

 

サリィがその行動に腹を立てて青年に飛びかかろうとする前に動いた人物がいた。

 

 

「テメェなにやってんだゴラァ!!」

 

デミトリの背後に控えていた2人の男性の内、モヒカンの方が、スキンヘッドの方へ殴りかかった。

 

ゴシャ!

 

と、およそ人から出ては良くない音がスキンヘッドの男性。ジョニーの頬から聞こえる。

ジョニーを強く殴り付けたモヒカン。ジョーイはさらに呻き声を上げるジョニーの脇腹をおもいっきり蹴りつけた。その衝撃で吹き飛び、うずくまるジョニー。

 

「えっ?」

 

突然のジョーイのジョニーに対する暴力に唖然とするオーガ族の青年。

オーガ族の青年は自分の横でうずくまるジョニーを呆然と見て、横にいるジョーイを見る。

 

 

「テメェ若ェのになんて教育してんだ!アア!?」

 

ゴスッゴスッ!とうずくまるジョニーの背中を蹴りつけるジョーイ。

目の前で行われる暴力をなすすべなく見ることしか出来ないオーガ族の青年。

 

口の中を切ったのか、綺麗に清掃されている床をジョニーの血が汚す。

 

「テメェなに床汚してんだオラァ!!」

 

と、それを見て更に激昂したジョーイは、今度はうずくまるジョニーの腹を蹴り上げる。

凄まじい力で蹴り上げられたジョニーは、その衝撃で浮き上がる。

 

ジョーイからの暴力が止み、フラフラと立ち上がるジョニーは、これ以上床を汚すことが無いように口の中に溜めていた血をゴクリと飲み込む。

意識が朦朧としているのか、ゆっくりとした動作でレティシアの背後に控えるカリンに訊ねるジョニー。

 

「すみません…モップを…貸して…いただけやすか…」

 

「なに人様の道具使おうとしてるんだお前ゴラァ!!」

 

ジョニーの台詞に更に更に激昂したジョーイは、三度ジョニーに殴りかかろうとするが、カリンが待ったをかける。

 

 

「そこのを使って、ジョニー」

 

「かたじけねぇ…です…」

 

ノロノロとした動きでモップを取りに行くジョニー。

その間、オーガ族の青年は勿論、その場にいる全員が声を出すことはなかった。

 

モップを持ってきたジョニーがフラフラと自分の血で汚してしまった床を拭く。

その姿を見てハッとしたオーガ族の青年が慌ててジョニーに声をかける。

 

「すみませんジョニーさん!俺がやりますんで!!!すみません!!」

 

床を拭くジョニーに駆け寄る青年がモップを取ろうとした時。

 

「テメェがノロノロしてるから若ェのが気にしちまったじゃねぇかオラァ!!」

 

 

と、再びジョーイがオーガ族の青年の横から飛び出し、ジョニーを蹴りつける。

再び吹き飛び、うずくまるジョニー。

 

 

「すみません!!ジョーイさんすみません!!タバコ消します!!勘弁してください!!」

 

「あ?…おう、寄越せ」

 

「えっ」

 

「タバコ寄越せ、カドゥ」

 

感情のこもっていない目でオーガ族の青年。カドゥに手を差し出すジョーイ。

青ざめた表情でジョーイに咥えていたタバコを渡すカドゥは、ガタガタと震えていた。

 

 

「おいジョニー、手ェ出せや」

 

「…うす…」

 

「やめっ!」

 

カドゥの悲鳴にも似た制止も空しく、差し出されたジョニーの掌でタバコを揉み消すジョーイ。

ジョニーの掌からジュウ、と嫌な音が聞こえる。

青白い顔でその様子を見ていたカドゥは、もはや声も出せずにジョーイとジョニーをただただ眺めていた。

 

なにも言わずにジョーイは歩きだし、カドゥを一瞥もせずに通りすぎ、デミトリの背後に控える。

ジョニーもタバコを握りしめ、フラフラと立ち上がり、綺麗になった床をチラリと確認し、重たい足取りでデミトリの背後へと控える。その顔は赤黒く腫れ上がっていた。

 

再び静粛の戻った空間に

 

 

「おい、オメーら」

 

と、デミトリの声が響く。

ビクリとするカドゥ。目の前で行われた暴力に完全に萎縮していた。

 

 

「なげーよ。毎回毎回なにやってんだ。すまねぇなレティシア。カリンに…サリィちゃん。おう、ソマリ。ジョニーにポーション渡してやれ」

 

「はい。どうぞジョニーさん」

 

「……む」

 

ソマリと呼ばれた猫の獣人からポーションを受け取り、一気に飲み干すジョニー。

その顔から腫れがひき、切った口も治ったようだ。

 

 

「おうカドゥ。2度とこの店でタバコ吸うなよ……お前はもう外に出ていろ」

 

「……は…はい!すみませんでした!!」

 

 

デミトリの言葉に深いお辞儀と共にレティシアに謝罪をするカドゥ。

カドゥの謝罪を受けたレティシアはヒラヒラと手を振って応えた。

デミトリの指示に従い外へ行くカドゥを見送るものは誰も居なかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて……と。大丈夫?ジョニー君」

 

カドゥが退出し、一息つくレティシア。

微動だにせずデミトリの背後に控えているジョニーに声をかける。

 

「兄ぃの攻撃なんて全然平気っす」

 

「えっ。それはそれでお兄ちゃん傷つくんだけど?て言うか、お前太った?蹴ったときお兄ちゃん足痛めたかもしれないんだけど?」

 

ジョニーの言葉に反応するジョーイ。

2人は北区でも有名な仲良し兄弟であった。

先程の殺伐とした空気は何処へやら、とても和やかなものへと変わる。

 

 

「毎回毎回迫真すぎて演技だって分かってても怖いんだけど!」

 

「ねー!やりすぎだよ!」

 

ソマリとサリィが兄弟を責める。

2人は頭に手をやって申し訳なさそうにしている。

とても先程の人物と同一人物とは思えない光景だ。

 

「さっきの彼は?」

 

「ジョニーの奴が北区で暴れているのを見つけて拾ったんだけど…言うこと聞きやしねぇ。今回ので静かになってくれればいいんだけどなぁ」

 

カリンの問いかけにジョーイがモヒカンを撫でながら答える。

無礼な彼に随分と手を焼いているようだ。

しかし、ジョニーには悪いがあのカドゥの狼狽えようは笑いを堪えるのに大変だったとカリン。

 

「まあ、なぁ…ありゃいずれ問題を起こすかもしれん。そんときゃ容赦なくやってくれや」

 

「そっちで面倒見ないの?」

 

カリンの問いかけにも、デミトリはなんて事無いように答える。

 

「ウチのクランは託児所じゃねぇんだ。居場所はくれてやるが、尻は拭かねぇ」

 

「ウチとは大違いだね」

 

「ハハハ、まあな…まあ、あんな奴でも飼っときゃ役にたつかもしれん…何かのな」

 

「怖い話?」

 

「怖い話」

 

「ひえー…」

 

デミトリの笑顔に怯えるサリィ。

団長が違えばこうもクランとは違うものかと改めて思うサリィであった。

 

実際、デミトリのクランに在籍するメンバーは血の気が多い。数々の問題も起こしている。

だが、彼がこうして未だに町での権力を確保出来ているのは、それを揉み消すだけの力を持っているからだ。

 

あまり問題を起こしすぎるメンバーは、帰れない討伐クエストに出てもらうようだが。

彼が心から信頼しているのは、金と兄弟と猫の獣人だけであった。

 

 

「そうだ。西も南も居ないからサラッとだけだが、近々シュラールの姫様がアラドエルの王都に来るという情報をつかんだ」

 

「へえ?それは面倒だね」

 

「ああ、詳細が分かったら全員集める。詳しくはその時に」

 

「わかった」

 

デミトリはそれを伝えると、席を立つ。

もう帰るようだ。

 

「見送りは?」

 

「いつも無いだろう。帰るぞ」

 

1人減った部下を引き連れて店を出ていくデミトリ。

本当にそれだけ言いに来たようだ。

兄弟とソマリが頭を下げて出ていく。

 

外で待機していたであろうカドゥの謝罪の言葉が静かになった店内にも聞こえてきた。

効果はてきめんのようだが、はたして。

 

 

 

「はー。団長にあんな態度とるなんて。オーガ族の面汚しだよあいつ!」

 

「あれで反省しなければ、いつか痛い目にあうよ。怒ってくれてありがとね、サリィ」

 

「えへへへー」

 

改めて怒りを露にするサリィに、優しく微笑んでお礼を言うレティシアは本当に気にしていないようだ。

レティシアに感謝されてはにかむサリィはとても誇らしげだ。

 

その様子を穏やかな笑顔で見ていたカリンが店の扉の鍵を閉める。

様々な人びとで賑わう人気の飲食店、兼、東区でも名のあるクラン、フォルトゥナは、ようやく本日の営業を終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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サーチをサッチ(激ウマギャグ)

 

 

 

カイさんからご飯をご馳走になって、自分の部屋に帰って来た俺はソファーに座って今日の事を振り返る。

森林でサーチに一瞬だけ引っかかった反応。あれはなんだったんだろう?

この大陸のモンスターについて直接出会った訳ではないので、サーチに反応があったとしても具体的な正体を見破る事が今の俺にはまだ出来ない。

 

シーフベアはもう覚えたから、次に出会っても大丈夫なんだけどね。

 

仮に、あの反応をキラーウルフだったと仮定してみよう。

もしかしたらこの大陸のモンスターは、サーチを察する能力を持っているのか?

 

キラーウルフは狡猾なハンターだとロウガさんが言っていたし、俺のサーチを察知して射程外に逃げたのかもしれない。だとすれば、一瞬だけ反応を感じて、消えたのも、まあ納得できる。

カイさんはあの森にキラーウルフが居る目処が立っていたみたいだから、俺の言葉に納得顔だったのも頷ける。

 

そして、そのキラーウルフの技を盗んだシーフベア。

奴がキラーウルフの特性まで盗んだのだとしたら、気配を消して潜んでいた所に俺のサーチが飛んできたモンだから警戒を強めたのかな。

 

うーん。わからん。

相手は野生に生きるモンスターだ。俺は学者では無いし、仮定する事しか出来ない。

なんにせよ、今日は死傷者が出なくて良かったと考えるか。明日にでもカイさんかジンさんに聞いてみようかな!

 

 

「そういえば……」

 

 

俺はチラリとバケモノが住む隣の部屋に意識を向ける。

コイツはどんな奴なんだ?

気になった俺は、バケモノの住む部屋に向かってサーチをしてみた。

 

 

途端に、隣の部屋からバッタンバッタンとナニかが跳ね回るような音が。

うーわ。怖ぁ……えっ。怖いんだけど……。

いきなり動き出したバケモノに怯えてサーチを解除すると、暫くしてから、跳ね回っていたであろう音も止んだ。

 

 

うーん?隣のコイツも俺のサーチを察知したのか?

今まで大人しかったのに、俺がサーチをした瞬間に動き出した。

疑問は尽きない。ちなみに、ジンさんが言うように大した奴では無かったので、これからは安眠できるだろう。初日にしておけよって話だけどね。

 

 

さて、モンスターの考察はここまでにして寝ようかな。

心地良い満腹感と疲労感に、俺は直ぐに眠りに落ちた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

朝、俺はギルドではなく東門へとやってきていた。今日も良い天気だ

 

リリィさんからこの国の読み書きを覚えるために勉強した本を借りる為だ。

昨日の今日でリリィさんも用意はしてないかもだけど、約束くらいは取り付けて良いかもしれない。字が読めないのは死活問題だ。

 

 

「おはようございます。リリィさんはいらっしゃいますか?」

 

「ん?ああ、リリィなら向こうに居るよ」

 

門番の制服に身を包んだ人間の男性が厩舎の方を指差す。

昨日もポポを準備していてくれた所を見れば、彼女はギルドが管理する移動用モンスター達の飼育員でもあるのかな?

 

厩舎の前を歩いていると、ポポの世話をするリリィさんが居た。

 

「おはようリリィさん!」

 

「アレン。おはよう。本か?」

 

 

話が早い!

俺が頷くと、リリィさんは少し待っててと、作業を続ける。

いきなり現れた俺を邪険にすることなく対応してくれる所を見れば、本当に良い人だなぁ。

 

邪魔にならないようにリリィさんとポポを眺めていると、作業が終わったのかリリィさんが俺に手招きをして、東門の事務所の方へと歩き出した。

 

 

「ここでまってて」

 

「すみません。ありがとう!」

 

にっこりと笑って事務所に入っていくリリィさん。

俺が事務所の外で待っていると、事務所で書類を書いていたロウガさんがこちらに気付いて出てきた。

 

「やあ、アレン。今日はどうしたんだ?」

 

「ロウガさん!おはよう!今日はリリィさんから読み書きの本を借りようと思って」

 

「そうか、まだ読み書き出来ないんだったな……そうだ、昨日は大活躍みたいだったな、カイから聞いたよ」

 

え?いつの間に?俺と別れた時にここに来たのかな。

 

「キラーウルフだけでなく、シーフベアまで居たとはな。助かったよ、近隣の村に被害が出る前で良かった」

 

「いやぁ。へっへっへ」

 

ロウガさんの言葉に後頭部を掻いて照れる。人から誉められるのはいつだって嬉しいものだね!

そうだ。ロウガさんはモンスターに詳しそうだし、昨日の疑問を聞いてみよう

 

「ねえロウガさん、こっちのサーチを察知するモンスターってこの大陸に多い?」

 

「ん?そうだな……モンスターの中にはこちらのサーチを感じる事が出来る個体も居る。キラーウルフもその個体の1つだ。モンスターに限らず、一部の実力者達にも相手のサーチを感じることが出来る奴も居る。そういった魔法はまだ開発されては居ないが、そうだな、感覚で分かるんだ、なんとなくな」

 

「それってさ、ロウガさんも分かるの?」

 

俺の問いかけに

ふふふ、どうかな?と不敵に笑うロウガさん。

うわぁ、この人も感知出来る側の人だ……!

 

しかし、良いことを聞いた。

この大陸で生きていくと決めた以上は、手強いモンスター達とこれから戦っていく事になる。

戦略的にも生存率を上げる為にも、相手のサーチを察知出来るようになるのは悪い事ではないな。

 

 

「ちょっとロウガ、なにサボってるのさぁ……あら?君はこの間の新人君じゃない!」

 

 

俺とロウガさんが雑談をしていると、事務所の方からこの町に来たときに事務所の中から俺に手を振ってくれた魔人の女性がロウガさんに文句を言いながら現れた。

 

胸元まで伸びる金髪の、妖艶な雰囲気漂う女性だ。

う。なんというか、制服に身を包んでいる筈なのに昨日すれ違った派手な女性よりも色気がある。

エリィさんとも違う妖しさというか、なんというか。

 

「おい、胸元を閉めろティアーナ。青少年に悪影響だ」

 

「あら?ごめんごめんキツくって」

 

 

てへへと舌を出して笑って、ティアーナさんは制服のボタンを閉める。ぱっつんぱっつんやんけ。

なるほど、だからか……いかん!何故悲しむんだ俺は!!

 

 

「アレン君だよね?私はティアーナ。数少ない魔人同士仲良くしましょ?」

 

「は…はい、どうも、よろしく、ええ、まあ、おっす!」

 

 

おっす!ではないが。

挙動不審になってしまった俺にきょとんとした後に、ニマ~、と笑うティアーナさん。

なっ!なんだ!?どうして俺の頬をつっつくんだ!?やめっ…やめておくれよ!?

 

ツンツンと楽しそうに俺にちょっかいをかけるティアーナさんと、その様子をため息混じりに見守っているロウガさん。

 

 

「遅くなった。………?」

 

 

ティアーナさんのちょっかいは、リリィさんが本を持って現れるまで続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はい。これ」

 

「ありがとう!」

 

 

リリィさんから差し出された数札の本を受け取ってお礼を言えば、ニコリと笑うリリィさん。

あれ?そういえばリリィさんはこの大陸の出身ではないのかな?

ミカエリス大陸は共通言語だった気がするけど。

オーガ族は独自の言語でもあったのかな?

 

「あら、私がリリィにあげた本じゃない」

 

俺の手にした本を見てティアーナさんが懐かしんでいる。

ほうほう、この本の元々の持ち主はティアーナさんの本だったのか。

数人の持ち主に使用された本は、多少の擦れはあるものの、とても丁寧に扱われてきた事がうかがえる。

 

 

「懐かしいなぁ。まだ持っててくれたの?リリィったら」

 

「感謝している。ティアーナ」

 

穏やかに笑い合う2人にとてもほっこりする。

ティアーナさんもサタナキア出身だろうから、2人で一緒に勉強したのだろうか?

 

 

「アレン。魔人用の辞書もある。使って欲しい」

 

「それは私のね!分からないことがあったらいつでも聞きに来て良いからね!」

 

「勤務中に来ちゃった俺が言うのもなんだけど、いつもはダメじゃないの?」

 

 

と、ロウガさんを見れば苦笑して肩を竦めていた。ダメっぽいなこれ。

まさか今日借りられるとは思ってなかったけど、リュックを持ってきてて良かった。

俺がリュックに本を仕舞っていると、ロウガさんが女性2人に声をかける。

 

 

「さあ、そろそろ仕事に戻ろう。アレン、勉強頑張れよ」

 

「なによ偉そうにー。私はロウガを迎えに来たのにさー。またね、アレン君!」

 

ティアーナさんがロウガさんに絡んでいるが、ロウガさんは慣れているのか完全に無視している。

ロウガさんとティアーナさんが事務所へと戻っていくのを見送っていると

 

「じゃあね。アレン。分からないことあったら。頼ってね。」

 

「ありがとう!リリィさん!またね!」

 

 

ニコリと笑って手を振るリリィさんに、俺も手を振って別れる。

うーん。リリィさんはオーガ族だけあってとても背が高いのだが、とても可愛らしいというか、なんというか。親しみやすい人だし、良い人だし。

 

 

少し重くなったリュックを背負って、俺は町を歩く

さて、今日はどうしようかな?

ギルドに行くも良し、部屋で勉強するも良し。

冒険者になってまだ日は浅いけど、自由気ままな生活がとても楽しいと思う俺であった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はぁ……。」

 

豪華な部屋の一室にて、美しい銀髪の女性が頬杖をついてため息を溢す。

憂鬱なため息というよりは、どちらかといえば退屈をもて余した為に出たため息。

 

「なにか面白いことはないでしょうか……暇、暇、暇……あまりにも暇過ぎて溶けてしまいそう」

 

「だらしないですよ、フロリアーナ様」

 

彼女専属の騎士だろう女性がだらしなく机に身体を投げ出すフロリアーナに注意をする。

厳しい物言いでなく、穏やかなものだ。いつもの事なのだろう。

 

「そうはいいますけどね、貴女だって似たようなものじゃないですかエメリア」

 

フロリアーナは注意されたからといって姿勢を正すでもなく、だらけた姿勢のまま、騎士に咎めるような視線を向ける。

視線の先には、金髪を後ろで縛った女性騎士エメリアが居た。

 

フロリアーナの指摘通りにエメリアもまた、椅子に浅く腰掛け、背もたれに身体を預けてだらしなく両足を投げ出して天井を眺めていた。その横には銀色の甲冑が脱いで置いてある。

 

2人は主従関係であることは伺えるが、とても気安い関係のようだ。

 

「まだ私の方が気品があるというものですわ、見てくださいよ、このようにだらけていても私の美しさを全く損なう事などないのですから」

 

「えー?自分で言ってて恥ずかしくないですかー?」

 

「とても恥ずかしいです」

 

だらけた2人が何も生産性の無い会話を続ける。

フロリアーナは自身の言った言葉を直ぐに取り消し、エメリアもまた、ニヘラと笑うだけだった。

 

 

「私だってね、気品はありますよ?なんかファンクラブだってあるみたいですから。凄くないですか?」

 

「自分で言ってて恥ずかしくないですか?」

 

「恥ずかしいです。解散して欲しいですそんなクラブ」

 

エメリアも、直ぐに自身の言葉を取り消す。

その様子を微笑を浮かべて聞くフロリアーナ。

名案が浮かんだのか、フロリアーナがだらけた姿勢のまま言葉を紡ぐ。

 

「どちらが気品があるかジョシュアに聞いてみましょうか?」

 

「騎士団長に、ですか?あの人ゼノ様一筋じゃないですか。答えが分かりきってますよ」

 

「当たり前です。ゼノ様の前では私達など石ころ同然じゃないですか、ぶん殴りますよ?」

 

「姫様、下品ですよ」

 

「失礼しました。この拳を貴女の頬に強かに打ち付けて差し上げましょうか?」

 

「あら、お上品ですわ」

 

「うふふふ」

 

2人の美女が依然だらけた姿勢で、会話を続ける。

 

「はー。騎士団長好きぃ……結婚してくれないかなぁ……」

 

「あら、フられたのではなかったでしたっけ?」

 

「そうですよ?フられましたよ?それがなにか?相手はゼノ様ですよ。ノーカンですよノーカン」

 

「百理あります。ゼノ様を慕うだなんて流石ジョシュア。エメリアをフるだなんてダメなジョシュア」

 

「諦めませんよ私は。あの人押せばいけそうな気がします。優しいし」

 

「その意気ですよエメリア!早速行きましょう!ジョシュアの元へ!」

 

「いいですね!姫様がいると心強い!」

 

テンションの上がった2人が立ち上がり、衣服を整えて部屋を出る。

ここは神聖シュラール王国。第2王女フロリアーナ・シュラールの自室であった。

 

 

騎士団長であるジョシュアの執務室に突撃して、あえなく撃沈してこの部屋に再び帰ってくるまで、10分とかからなかった。

そんな、シュラール王国の一幕である。

 

 

 

 

 



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これは……俺が飲まねばならんのか……

 

 

 

俺がシュライグで冒険者として生活を始めて早一週間が経とうとしていた。

ジンさんと猫を探したり犬を探したり、町の清掃をしたり。

カイさんと薬草を採取したり、ギルドに黙ってモンスターを討伐したり。

 

シーフベアクラスのモンスターとはあの日以来出会うことはなかったが、Fランク冒険者にしてはそれなりのモンスターを討伐したことになる。

実績にはなってはなっていないけどね。

 

2回目の家族への手紙をポストに入れて、俺は今日も今日とてギルドへと向かう。

今日は週末だから、レベッカさんがギルドに出勤しているかもしれない。

 

 

ギルドにたどり着けば、相変わらずの人の多さだ。

しかしまあ、俺だって流石に一週間も経てば賑わう人の多さにも慣れたもので、すいすいとクエストボードの元へ向かう。

 

 

南区の生徒達だろう普段見かけない自分と同世代くらいの冒険者達に混じってクエストを探しているが……うーん。今日は良さそうなクエストが無いなぁ。

 

ソロでも出来そうな清掃クエストや採取クエストはあらかたジンさんやカイさんとやってしまったし、残っているのは人数指定のクエストばかりだ。

 

すると、4人でパーティーを組んだであろう冒険者達が、1人でクエストを吟味する俺の横からクエストを取って、窓口へ向かう。

和気あいあいとしていてとても楽しそうだ。

 

うーん。俺もパーティーとか組んだ方が良いのかなぁ?

ジンさんやカイさんにいつまでも着いてきて貰う訳にもいかないし……。

 

なんにせよ、今日はカイさんもジンさんもギルドに姿を見せていない。

俺は今はクエストを受けるのを諦めて、2階にある図書館へと向かう。

子供向けの絵本コーナーで適当な絵本を選び、プレートを司書さんに提示して、絵本を借りる。

 

再び1階に戻ってきた俺は、ギルド内に用意された沢山の机の一番隅っこに腰を下ろして、リュックサックから辞書を取り出す。

 

リリィさんから借りた本は自分の部屋でじっくり勉強する用で、出先では魔人用の辞書を片手に絵本を読むところから始めた。これで2冊目だ。

 

絵本の表紙には、とても子供向けとは思えないニヒルな笑みを浮かべるオーガ族の主人公が剣を肩に担いで、狼型と鷹型と猿型のモンスター達と共に描かれている。

 

 

辞書とにらめっこしながらタイトルを読み取る。

えと……ハクトゥー…タロゥ……かな?

表紙をめくると、腕を組んだ赤ん坊が大きなフルーツにまたがって川を下っているイラストが描かれていた。

 

 

 

「おはようアレン。どうやら良さそうなクエストが無かったようだな」

 

「あ、ジンさんおはよう」

 

俺がうんうん唸って絵本と格闘していると、ジンさんが現れた。

ジンさんは俺が勉強しているのを見てめぼしいクエストが無かったのを察したのか、俺の前の椅子に腰掛ける。

 

 

「ねえねえジンさん、これはなんて書いてあるんだい?」

 

「ん?……オークのケツにキスしな……だな」

 

「オークの、ケツに、キス、しな……と。このケツって?これが分からなくてさ」

 

「尻だ」

 

「尻」

 

 

なるほど、やはり子供向けでは無いようだ。

先程から血みどろの主人公と仲間達が悪者相手に随分と暴力的に戦っているシーンが描かれているし。

今開いているページは、悪者のボス相手に主人公が手招きしながらニヒルに笑っているシーンが描かれている。

なるほどね。彼は挑発していたのか。

 

俺が絵本を読んでいると、ジンさんがウェイトレスさんにコーヒーを頼んでいた。

!!コーヒーを飲みながら……勉強……?

それってとっても大人っぽい!!

 

「すみません。俺もコーヒー良いですか?」

 

「かしこまりました、コーヒー2つですね?アイスとホット、どちらにいたしますか?」

 

アイス?ホット?……はて?

 

「アイスで」

 

「えと……俺も同じで!」

 

とりあえずジンさんの真似をしておけば問題無いだろう。

ウェイトレスさんがニコリと笑ってギルド内に有る厨房へと向かう。

 

俺は広げていた本と辞書をリュックに仕舞う。

飲みながら勉強しようと思ったけど、辞書はリリィさんのだし、絵本は図書館から借りたものだ。万が一にも汚してしまうのはまずい。

 

「ふぁー……おぉ、揃ってるな」

 

「カイさんおはよう」

 

俺達がコーヒーを待っていると、カイさんが欠伸をしながら現れた。

カイさんも俺達と同じテーブルに腰を下ろし、頬杖をついてクエストボードを眺める。

 

「まだ無理そうだなぁ」

 

「そうだな」

 

カイさんの言葉につられるようにクエストボードを見る。勉強していて気付かなかったが、クエストボードの前は先程よりも多くの人で賑わっている。俺達がいつも受けているクエストは、誰も選ばないクエストばかりだから急ぐ必要もないのだ。

 

ちょうどそんな時にウェイトレスさんが俺達が注文したコーヒーを持ってこちらに向かってくるのが見えた。

 

まってました!今日こそ美味しくいただいちゃる!

 

「ああっ!お前らだけずりぃなぁ。お姉さん俺もアイスコーヒー1つくださいな!」

 

俺とジンさんの前に置かれたコーヒーを見て、カイさんがウェイトレスさんに自分の分も注文した。

……フルーツジュースでも、良いんだよカイさん?好きでしょう?……まあ、良いさ。なんて事無い。俺はやれば出来る子さ。

 

 

チラリとジンさんを見ると、涼しい顔してブラックを飲んでいる。うーん。格好いい。

なるほど、アイスとは冷たいコーヒーなのね?マグカップではなくてガラスのグラスに注がれたコーヒーの中で氷がカランと音をたてている。

 

 

どれ、一口……。うむ。苦い!!

 

 

この苦味が顔に出ないように我慢しながらコーヒーを飲んでいると、意地悪な顔をしたカイさんと目があった。

う。なんだい?ニヤニヤしてからに。

 

 

「コーヒー。美味いか?アレン」

 

「うん。美味いよ?」

 

そうかそうか。とニヤニヤ笑ったまま立ち上がってギルドの窓口へ向かうカイさん。

その先にはこちらをチラチラとこちらの様子を伺うレベッカさんがいた。隣にはにこやかな笑顔で仕事をするマリカさんも。その横には、こちらもにこやかなドニーさん。

 

相変わらず人の少ないレベッカさんの所に並ぶカイさん。

カイさんの番になってなにやら話し込んでいるカイさんとレベッカさん。

?なんだろうか。嫌な予感がする……。

あ、困り顔のレベッカさんから何か受け取った。隣のマリカさんが嗜めるような目でカイさんとレベッカさんを見ている。

 

カイさんが、ニヤニヤ笑いながら戻ってきた。

その手には……ペン?

 

 

「アレン、これ持ってみ」

 

「?……いいけど?」

 

カイさんから差し出されたペンを素直に受け取る。

なんの変哲もないペンだけど……ん!?これは!?

 

「アレン、もう一度聞くぜ?コーヒー。美味いか?」

 

「………。…………う……美味いよ?」

 

 

俺が答えた瞬間

バリバリィ!!!

という音と共に俺の身体に強烈な電流が指先から流れる。あまりの衝撃に手にしたペンを投げ捨てる。

 

「いってぇ!!」

 

「あーっはっはっはっは!!!」

 

ペンを持っていた手を振りながら痛みを誤魔化していると、俺の様子を見て大爆笑しているカイさん。

俺とカイさんの騒がしさに周りの冒険者達がなんだなんだとこちらを向く。

 

「なぁにするのさ!カイさん!」

 

「あっはっはっはっは!」

 

「あっはっはじゃないよ!身体の芯から痺れたんだけど!?ダンッ!って!ダンッ!てなったんだけど!?超いてぇ!なにこれ!!」

 

「ひゃーっはっはっはっは!!」

 

 

俺の言葉についに腹まで抱えて笑い始めたカイさん。

ギルドの全員がこちらに注目している中、怒りの収まらない俺。なんとかこの男を見返さなければならない。やらねばならない。

 

 

「ギルドの備品で遊ばないでくださーい」

 

 

ドニーさんの苦笑混じりの声が俺達にかけられる。まったくその通りだ。

 

 

未だに爆笑しているカイさん。

カイさんの知り合いである冒険者達は、まったくアイツは……。と言いたげに呆れた様子でカイさんを。

カイさんを知らない冒険者達はなんだなんだと、俺達を見ている。

ジンさんも呆れた様子でため息をついていた。

 

 

ふと、呆れた表情のマリカさんと目があった。

………そうだ。

俺は無言で立ち上がり、放り投げてしまったペンを拾う。

そのままマリカさんの担当する窓口へ向かう。

 

無言で近づく俺に黙って道を空けてくれる冒険者達。ありがてぇ。

マリカさんの前にたどり着き、戸惑っている様子のマリカさんに耳打ちをする。

 

 

「いいでしょう」

 

俺の耳打ちにニコリと笑ってくれたマリカさんを連れて、未だに笑っているカイさんの元へ向かう。

 

 

「はー…腹いてぇ…」

 

「まったくお前は……」

 

お腹をさすりながらようやく落ち着いたカイさんに呆れるジンさん。

俺がマリカさんを連れてきたことに気が付いていない。

 

 

「カイさん」

 

「げっ!マリカ……」

 

 

カイさんがマリカさんに声をかけられて顔をしかめる。

 

 

「ねえ、カイさん」

 

「な……なんだよ」

 

 

静かに微笑むマリカさんに、何を言われるんだと構えるカイさん。

 

 

「いつもありがとうございます」

 

「……へっ?」

 

とても穏やかに微笑むマリカさんの言葉に、予想をしていなかったのか呆けた声を出すカイさん。

 

 

「いつもカイさんが村を救っているのは私の耳にも届いております。確かにカイさんはクレームも多いですが、それ以上に感謝の言葉の方が多くギルドには届いているのですよ。いつもありがとうございます、カイさん」

 

「えっ…ちょ…えっ?」

 

「普段好き勝手しているように見えて、貴方はとても周りに気を配ってくれていますね?私だけじゃなく、他のギルドの職員も非常に感謝しているのですよ?クレーマー気質な依頼人のクエストを貴方が受けた次の日から、とても素直な依頼人へと変わったのは数えきれないほどです。おや?どうされました?お顔が真っ赤ですけど?暑いのですか?ギルドはとても涼しいですよ?」

 

カイさんが顔を覆った!!

今だ……!!

 

 

「カーイさん。カーイさん」

 

俺がマリカさんの後ろで手拍子と共にカイさんの名前を呼ぶ。

1人で何度か繰り返していると、周りの冒険者達も呼応するように俺のリズムにあわせてカイさんの名前を手拍子しながら呼び始めた。

 

「カーイさん!カーイさん!カーイさん!カーイさん!」

 

職員すらも巻き込んでギルド内にカイさんコールの大合唱が響き渡る。

あ、カイさんがブルブル震えだした。

 

 

「う……うるせー!!!バーカバーカ!お前らバーカ!!」

 

と、立ち上がったカイさんが捨て台詞を吐いてギルドから飛び出していった。

ふっ……勝った。

 

俺は静かに握りこぶしを天に向かって突き上げる。

勝利のガッツポーズというやつだ。

 

 

静かに勝利の余韻に浸っていると、カイさんの知り合いの冒険者達が集まってきて笑いながら背中を叩かれる。

やるじゃねえか若いの!あのカイをいわしたるとはなぁ!はっはっは!

なんて、次々に俺を讃えてくれた。

この場に居る周りの冒険者達と仲良くなれた気がした。

 

 

ふっ……アレン・ニンバスを舐めるんじゃないぜカイさん!

俺はやる時はやる男さ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「研修?」

 

「はい、まだ冒険者登録をして間もない方達を集めた研修が明日このギルドであるのですが、アレン君も参加されますか?」

 

 

走り去るカイさんを見送り、妙な一体感に包まれたギルドが平常運転に戻った頃に、マリカさんが俺に聞いてくる。

そういえば初日に研修がどうのこうのとジンさんとレベッカさんが言っていた。

 

 

「良い機会だ、参加すると良い」

 

1人だけマイペースに椅子に座っていたジンさんが俺に研修を薦める。

良く見たらカイさんが注文したコーヒーにまで口をつけていた。

カイさんめ。飲まずに逃げ出すとは……。

 

 

しかし、ふむ。研修か。

特に断る理由も無いし、参加するとしようかな。

俺が参加する旨をマリカさんに伝えると、分かりました。と、ニコリと笑ってマリカさんは窓口へと戻っていった。

 

 

「まったく、カイさんめ……」

 

「アイツは子供みたいな奴だからな」

 

テーブルに戻り、カイさんの悪戯にあらためて文句を言う俺にジンさんが同意してくれる。

カイさんコールで喉の渇きを覚えた俺は、氷が溶けて薄くなったであろうコーヒーを飲んでみる。

お?なんだ、なんか飲めるぞ!勝利のコーヒーって奴か!?ガハハハ!

 

 

「すまねぇな、アレン」

 

「レベッカさん?」

 

1人でテンションを上げてコーヒーを飲んでいると、申し訳なさそうにしたレベッカさんがこちらにやってきた。

電流ペンの事かな?あのペンを貸したのはレベッカさんだけど、事の発端はカイさんなんだ。レベッカさんが気にする事ではない。

 

「あれはカイさんが悪いよ」

 

「そうだ。お前が謝る必要などない」

 

「2人とも……あんがとね」

 

俺とジンさんの言葉に申し訳なさそうに笑うレベッカさん。

そうだ、ついでに研修についてレベッカさんに聞いてみよう。

 

 

「明日の研修ってなにをするの?」

 

「ああ、明日は上の会議室でドミオン学園のセンコーを呼んで座学と、昼からは実際にパーティーを組んでクエストを受けて貰うんよ。軽い討伐系のクエストな」

 

「パーティーかぁ……」

 

「動ける格好で来いよな。町を出てのクエストになるからな」

 

「何人くらい集まるの?」

 

「そうだなぁ……今んとこそんなに人数は集まって無いな、アレンを入れて10人も居ないんじゃねーかな?全員お前と似たような歳だよ」

 

「ふぅん……ありがとうレベッカさん」

 

 

明日の説明を聞いてお礼を言うと、良いって事よ。と、笑って窓口へ戻っていくレベッカさん。

そっか。パーティーを組んで討伐クエストか……。

いつもジンさんかカイさんとしかクエストを受けてないから、複数人でのクエストは始めてだ。足を引っ張らないようにしないと。

 

 

「なに。お前はお前の役割をこなせば良いだけだ。あまり考え過ぎなくても良い」

 

「俺の役割……」

 

「お前はどの役割もこなせる力を持っている。明日の座学とやらを聞いていれば、自ずと分かるはずだ」

 

不安が顔に出ていたのだろうか、ジンさんが優しい言葉をかけてくれる。

なるほど。つまりあまり気負うこと無く俺は俺の仕事をすれば良いのか。

周りは同世代だと言っていたし、全員が新人冒険者なんだ。皆と一緒に学んでいけば良いのか。

 

そう考えると少し気が楽になった。

 

結局、その日はバツが悪そうにコソコソと帰って来たカイさんとジンさんとで、町の清掃クエストを日が暮れるまで行い、カイさんの奢りで3人で飯を食って解散となった。

 

ちなみに、戻ってきたカイさんは俺の反抗に気を悪くするでもなく、寧ろ嬉しそうに

「してやられたぜ、やってくれたなこんにゃろめー」

と笑いながら頭をガシガシと撫でてきた。

事の発端はカイさんなんだけど、まあ、この人はいつもこんな感じだ。

カイさんのお陰と言うのは変だけど、皆と仲良くなれた気がするしね。

 

 

でも、まあ。

へっへっへ。俺を甘くみないでおくれよ!

 

なんて胸を張ってカイさんにアピールすると、

カイさんとジンさんが顔を見合わせて、楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 



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誰か男の人呼んでぇ!!

 

 

朝、普段よりも早い時間帯に起き、身支度を整えて部屋を出る。

今日はギルドで研修がある日だ。研修開始時間まではまだ余裕のある時間帯だが、早く着いておく事に越したことはないだろう。

 

 

部屋を出るときに隣のバケモノが住む部屋を確認する。

ドア一面に貼り付けられている封印の護符が、所々焦げた様子で剥がれかかっていた。

うーん。これってもう効力が尽きてるんじゃないのかな?大丈夫なのかな?

 

俺に封印の護符なんてものを作れる能力は無いので、剥がれた箇所を再び貼り付けなおすくらいしか出来ないのだが、やらないよりかはましだろう。

 

変に俺の魔力とか込めて護符が壊れても困るし。

壊れるのかは知らんけども。

 

ここに住み始めてもう一週間になるが、いまだにこのアパートの住人に会ったことがない。

部屋の前を通ると生活感は感じるので、住んでいることは住んでいるのだろうが……生活リズムが違うのかな?

 

特に詮索とかはしないけど、気になるっちゃあ気になるのも事実だ。

 

 

そんなことを考えながら階段を降りると、約一週間振りに会うルナさんがニコニコ笑って手を振りながら小走りで駆けてきた。

 

 

「あ!居た居た!間に合ってよかった!おはよーアレン君!」

 

「おはようルナさん!俺に用事?」

 

なんだろうか?

俺のもとに寄ってきたルナさんがあははは!と笑いながら俺の背中を叩く。

スキンシップの激しい人だなぁ。

今日はルナさんも東ギルドへ向かうと言うので、2人で歩きながら話す。

 

「今日はギルドで研修なんでしょー?」

 

「うん。あれ?なんで知ってるの?」

 

「私の担任が今日の講師なの!マルちゃん先生っていってね!面白い人だよ!」

 

「そうなんだ、偶然だね」

 

 

ルナさんが言うには、マルちゃん先生とやらに挨拶をするついでに、カイさんかジンさんにクエストに付いて来てもらいたいらしい。

なんでも、EランクからDランクに上がるための昇格試験が近々予定されており、それの予行練習を東区でやってみたいのだとか。昇格かぁ。

俺にはまだ縁の無い話だが、今日の研修で昇格とやらについて詳しく聞けるかな。

 

 

「そういえば、お札が剥げかけてたけど」

 

「本当?焦げてた?」

 

「んー。ちょっと焦げてた」

 

そっかー。と、ルナさん。

完全に焦げきったら効力が無くなってしまうらしく、すこし焦げた程度なら10日程はもつみたいなので、明日にでも知り合いに頼んで護符を用意すると言っていた。

 

家具をくれる人だったり護符を用意できる人だったり、顔が広い人だなぁ。

 

 

俺はルナさんとお喋りしながらバスに乗り込み、東ギルドへと向かう。

最近はいつも1人で東ギルドへ行っていたので、新鮮で楽しい。

 

 

 

俺とルナさんがギルドに着くと、ジンさんとカイさんが既にギルドに来ていた。

良く見るとレベッカさんも交えて3人で雑談をしていた……というよりも、主にレベッカさんがジンさんに話しかけていたみたいだ。

 

ジンさん達に気付いたルナさんが笑顔で手を振りながら3人の元へ向かう。

 

「3人とも久しぶり!」

 

「おーう。ルナちゃんか、久しぶり」

 

「おー。向こうじゃ全然会わねぇな。久しぶりー」

 

「うむ」

 

3人が三者三様にルナさんに挨拶をする。

いやジンさん、うむて。

遅れて向かった俺も挨拶をしてからジンさん達の座るテーブルに腰を下ろす。

 

「レベッカさんサボり?」

 

「ちげーよ!今日の研修の為に朝早くから会場設営に駆り出されたんだよ」

 

「ふぅん」

 

ついに堂々とサボり始めたのかと思ったが、どうやら違ったようだ。

俺が失礼なことを考えている事を察知したレベッカさんに、頭を叩かれる。痛い。

 

「ねえねえジンさんカイさん!今日暇?」

 

「んー?暇っちゃ暇だぜ、アレンも予定あるし、俺等は急ぐクエストも無いしな。なあ?」

 

「ああ、どうかしたのか?」

 

 

ルナさんが朝俺に言ったことをそのまま2人に伝える。

カイさんがなるほどねぇ、と顎をさする。

そういえば2人が俺以外の人とクエストに行ってるところも、2人でクエストに行ってる姿も見たことがない。

まあ、俺が来る前にはあったかもしれないが、少なくとも俺がここに来てからは、見たことがなかった。

 

「ジン行けば?ランク近いからお前のほうが……「カイさん」…ん?」

 

「カイさんだ、ルナ」

 

カイさんの言葉に割り込みながらレベッカさんがずいっとルナさんに顔を寄せる。

 

「どったの?レベッカちゃん?」

 

「カイさんと行った方がいい。カイさんなら、大丈夫だから」

 

「そう?じゃあカイさんにお願いしよっかな!」

 

どう?とカイさんに笑いかけるルナさん。

カイさんはレベッカさんの妙な迫力に圧されていたようだが、レベッカさんが追い討ちをかけるようにカイさんを睨み付けると、戸惑いながらも了承していた。

 

ふぅーと額を拭うレベッカさん。

なにやら一仕事終えたようだが、男性3人は訳が分からず首をかしげ、ルナさんはカイさんに向かってニコニコ笑っているだけだった。

しかし、南区か…学園のある学生街だよなぁ。

 

 

「ジンさんって南区でクエスト受けたことある?」

 

「ん?あの辺りは学生や生徒達の区だからな……特に行く必要もないし、お前ならば不自然ではないが、俺やカイが行っても浮くだけだ」

 

「ふぅん……そういえば、ジンさん達って何歳なの?」

 

俺の何気ない質問に何故かレベッカさんもルナさんも興味津々といった様子でジンさんの返答を待っている。

 

「いくつに見える?」

 

ジンさんではなく、カイさんが頬杖をついてニヤニヤと俺達に聞いてくる。

ええー?質問に質問で返すのぉ?そうだなぁ……。

 

改めてジンさんとカイさんを見てみる。

2人とも20歳は超えているだろうけど、30は絶対に行ってない。

うーん……。

 

「はい!」

 

「はいルナちゃん!」

 

「23歳!」

 

「じゃあそれで!」

 

 

ええ!?そんなのってアリなの!?

俺達が驚いてブーブー文句を言っても、カイさんはヘラヘラと笑うだけで、ジンさんも特に何も言ってこない。

えぇい!ペンは!電流ペンはどこじゃ!!

 

 

レベッカさんに電流ペンを用意して貰おうと思ったが、昨日ドニーさんに叱られたことを思い出す。

くっそー……。

 

「お。アレン、そろそろ時間だぜ。会議室は3階の階段上ってすぐだ」

 

「はぁい。じゃあね、いってくるよ」

 

レベッカさんが教えてくれたとおりに時計を見れば、研修開始30分前になっていた。うん、良い時間だ。

4人に見送られて、俺は会議室へと向かっていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

会議室に入ると、正面に黒板があって、その前に机が1つずつ並べられていた。

俺が1番かな?と思っていたが、黒い髪を後ろで1つに縛った女性が先に来ていて、端っこに座っていた。

後ろ姿しか見えないが、背筋を伸ばして凛と座っている。

 

 

うーん。どこに座ろうか。

席は8つ横並びに用意されているし、これだけ空いていて隣に座るのはなんか抵抗があるから……俺も端に座ろうかな。

 

俺が女性とは反対側の席へ腰を下ろすと

 

「何故?」

 

「え?」

 

「何故私の隣に座らないのだ?あとおはよう」

 

「お……おはよう。だって隣ってのもアレだし、真ん中ってのもアレだし……」

 

「アレとは?良いじゃないか私の隣で。どうしてそんな意地悪するのだ?さあ隣に来い、来い隣に」

 

 

意地悪て……別にそんなつもりは無いんだけど、レベッカさんも俺と同世代だって言ってたしさぁ。

生まれてから今まで年上の女性としか接してこなかったから、同世代の女性との接し方なんて分かんないもん俺ぇ。

 

「さあさあ隣さあ」

 

黒髪の女性がキリッと前を向いたまま、1つ隣のイスをパシパシ叩いて俺を催促する。

あ、なんかリズムを刻みだした。

 

パシパシパシシ、パシシパシ

さあさあ隣、隣さあ

 

「わかったよぅ…行くよぅ」

 

ほっとくとずっと続けそうだし、別に絶対に隣が嫌だって訳でもないし。俺は腰を上げて、黒髪の女性の隣に座り直す。

 

「来たな、隣に」

 

来たよ隣に。

黒髪の女性は俺と同い年くらいで、青い着物……だったかな?を着ている。とても似合っていた。

近くにはこれまた青い刀を立て掛けていた。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

隣に座る女性は相変わらずキリッと前を向いているし。同い年くらいの女性との接し方などわからない俺も特に話しかける事もなく、爪を弄る。うーん。そろそろ切るかな。

 

今日は何人くらい来るのかな。男の人は居るのかな。居て欲しいな。早く来すぎたな。早く来ないかな。「ぃ」今日は何食べようかな。魚かな。魚にしようかな。「ぉぃ」魚が良いな。爪伸びてるな。カイさん美味しい魚料理出す所知ってるかな。知ってるだろな。カイさんと海産。ふふっ。

 

「おい!!」

 

「うわぁ!!」

 

俺が爪を弄っていると、女性が突然大きな声をだす。びくりと体を震わせて女性を見る。

なになになんなの!?びっくりしたぁ!

 

驚いて女性の方を向けば、意思の強そうな目をした女性がこちらを見ていた。

 

「な……なんでしょうか……?」

 

「自己紹介」

 

「ぬ?」

 

「自己紹介は男児からするものと私の読んだ書物に書いてあったが?」

 

捨てちまえそんな書物。聞いたこと無いよそんな事。え?そうなの?そうなのかな?……だとしたら失礼なことをしてしまった。

 

「アレンです」

 

「オウカです」

 

俺がオウカさんにお辞儀をすると、向こうもペコリとお辞儀をしてくれた。

そして再びキリッと前を向くオウカさん。

……誰か、助けて。カイさぁぁぁん!!!

 

 

この地獄のような2人きりの時間がいつまで続くのかと戦慄していると、ガチャリとドアが開く音がした。

やった!誰か来た!男の人!?男の人だよねぇ!?

 

 

「わー。私3番目だー。やったー」

 

妙に間延びした可愛らしい声が聞こえてきた。

振り返らなくてもわかる。サーチなど使わなくても分かる。また女性だよ!!

俺はガンッ!と机に頭を打ち付ける。

俺の突然の机への攻撃に、隣でオウカさんがビクゥッ!と体を強張らせるのを感じた。へっ、かまうもんか。

 

「あー。君ってさー。あの時の人だよねー。久しぶりだねー」

 

?オウカさんの知り合いかな?俺にこのような喋り方をする知人は居ないし……。

なんだよぅー。知り合い居るなら俺隣でなくて良かったじゃんよぉー。オウカさんよぅー。

 

「アレン君だよねー。カイさんの友達のー」

 

「え?俺?オウカさんでなく?」

 

名前を呼ばれて体を起こして振り返る。

?……君は……誰だい?

目の前には、ほわほわと笑う兎の耳を生やした獣人の少女。童話に出てきそうな可愛らしいドレスを着た茶髪の女性など、見たことも会ったことも無い気が……ん?なんか、何処かで見たような気もしてきたぞ?

 

 

「えと……君は?」

 

「私ミニレー。よろしくねー。隣の人は友達ー?」

 

何故隣に座るんだい?ミニレさんとやら。ミニレさんだよね?ミニレーさんじゃあないよね?

 

「ああ。私はオウカだ。よろしくミニレー」

 

ああじゃないが。

ミニレさんだと思うよオウカさん。

 

「いや、友達では……ミニレさん?ごめん。俺達どこかで会ったかな?え?なんで落ち込んでるのオウカさん?」

 

「私達の店に来てくれたよねー」

 

「自己紹介を交わしたらもう友達だと書物に……書物に……」

 

ちょちょちょ、ごめん。一緒に喋った俺が悪かった。完全に俺が悪かった。

だから俺を挟んでほわほわ笑ったり落ち込んだりしないでおくれよ!

 

 

俺があわあわしていると、再びドアがガチャリと開く。

 

「颯爽登場!!ふはは!!よろしく諸君!!俺の名前は」

 

「やぁーっと来たか男ォ!!おっせーよ!!もっとはよ来いよな!!もう!!」

 

「ええっ!?ご……ごめんなさい!!」

 

 

 

研修開始まであと20分─────。

 

 

 

 

 



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「そのコート暑くない?」「激アツ」

 

 

「いきなり怒鳴ってごめんよ。まあまあ座っておくれよ。どんどん座って座って」

 

ついに現れた待望の同性に向かってテンションの赴くままに大声を出してしまった俺は、申し訳なさから少しだけぎこちない笑みで、入り口でおろおろしている男性に声をかける。

 

 

無理もない、部屋に入ったらいきなり知らない奴に怒鳴られたんだ、俺だって戸惑うし、挙動不審になってしまう。

いや、本当。誠にごめんなさい。

 

 

入り口でこちらの様子を伺う男性もまた、オウカさんやミニレさん。俺と同い年くらいのエルフの男性だった。

艶のある金髪を無理矢理、強引に跳ねさせたような髪型の男性。

黒いシャツの上から派手な赤いコートに袖を通さずに肩に羽織っている。

 

 

「お……おう。なんだよ、びっくりしたなぁもう……」

 

「ごめんなさい、本当申し訳ない」

 

肩にかけた赤いコートが背中からずり落ちないように少しだけ肩をすくめながらこちらにやってくる男性は、ミニレさんの隣へと腰をおろした。

これで、用意された席の半分が埋まった。

 

「コホンッ……改めて、俺の名前はシャドウだ。シャドウ・フレイムリボルバー・ザ・ディザスターフレイム……よろしくな!!」

 

エルフの男性、シャドウさんがニヒルな笑みで俺達に自己紹介をしてくれた。

フレイムって2回言ってたけど……。うん?どうしたんだいオウカさん。俺の肩など叩いて。

 

「フレイムと2回言わなかったか……?」

 

肩を叩いてきたオウカさんの方に体を寄せれば、小声でオウカさんがコソコソと俺に聞いてくる。

いや、俺に聞かれても困るんだけど。

それに人の名前をどうこう言うのは失礼な事だし……。

 

「フレイムってー。2回言ったねー?」

 

ああっ、ミニレさんがほわほわ笑いながら俺達に確認してきた!

オウカさんが俺の後ろで何度も頷いている気配がする!それにあわせてミニレさんも頷き始めた!

やめ……やめなさいよそんな、人の名前を……。

 

チラリとシャドウさんの方を見ると、頬を少しだけ赤く染めたシャドウさんと目があった。

 

「ご、ごめんね、シャドウさん。ダメだよねぇ人の名前をそんな、ねぇ?こら!2人ともいい加減にしなさいよ!失礼でしょう!?」

 

「いや、良い。良いんだ。忘れてくれ。嘘。嘘だから。俺の名前はトキオ、トキオと言います。はい」

 

シャドウさん?トキオさん?が、顔を抑えながらそんな事を言う。

ええ?どっちなんだろう?

でも、なんだろう。目の前でとても小さくなっているトキオさんを見ていると、同情というか、同調というか……。

うん。分かる分かる。気にしなくて大丈夫だぜトキオさん。なんとなくだが、俺にも気持ちは分かる。

 

トキオさんが指の隙間からチラリと俺の方を見て、目があった。

俺がうんうん頷いて居るのを見てパアッと顔を明るくしてくれた。同性同士、仲良くやろうぜ?

 

 

と、トキオさんと俺とで微かな友情を感じていると背後からガタンッ!とイスを鳴らして人が立ち上がる気配。

 

 

「なんだと!?貴様、私達に偽名を名乗ったというのか!?ええいゆるせん!!」

 

「ゆるせんー!あははー!」

 

男子達が友情を感じているときに、女子達は憤りを感じていたようだ。ミニレさんは相変わらず笑顔だけど。

ちょちょちょ、オウカさん刀は不味いですよ刀は!逃げて逃げて超逃げてトキオさん!

はわわわ言ってないで立って逃げるんだよぉー!

 

 

なんて、4人でドタバタしているとまたもやドアがガチャリと開く。

 

刀を持ってトキオさんを追いかけるオウカさんと、椅子に座って2人の動向を見守っているミニレさんと俺が新たに登場した人物を見る。

 

 

あの人は初日の……。

俺がギルドで立ち止まっていると声をかけてきた男性だ。

 

 

錆色の髪を乱暴に撫で付けた、眼光鋭い男性。あの日と同じく新品の防具を身に纏っている。

改めて見ると防具にしてはずいぶんと軽装だ。胸元と腕しか守っていない。

 

彼と一緒にパーティーメンバーであろう3人もやって来た。

 

暗い藍色の髪を短く切り揃えた男性も似たような意匠の防具を身に纏っている。彼は槍を持っていた人か。

 

不敵な笑みを浮かべて俺達を見ている、動きやすさを重視した格好の、若草色の髪の女性。短い髪をサイドで1つ結んでいる。

 

最後に現れた、少しオドオドした様子の杖を抱えていた女性。ローブを身に纏い

暗い紫色の肩口で切り揃えられた髪は、彼女の目を前髪で完全に隠していた。

 

良く見たら、全員同じ意匠の防具を身に纏っていた。

 

「なんだ?託児所かなんかか?ここは」

 

「ジーク、絡むな……座ろう」

 

ジークと呼ばれた男性は眉をつり上げて俺達を一瞥したあと、吐き捨てるように言う。

あ、ジークさんの言葉でまたトキオさんが落ち込んでしまった……。

オウカさんは……?えっ。いつの間に俺の隣に?

彼女はいつの間にか、キリッと前を向いて座っていた。

 

 

ジークさんはもう一人の男性に肩を叩かれて、フン、と鼻を鳴らして一番端の席へ乱暴に腰かける。

オドオドした様子の女性も急ぎ足でジークさんの隣に向かい、静かに腰を下ろす。

 

 

「すまん。乱暴な物言いだが、悪い奴では無いんだ」

 

「ごめんねぇ、ウチ等のリーダーが」

 

 

気を悪くしないでね?と、活発な印象の女性がトキオさんに笑いかける。ふふふ、分かるよトキオさん。ドギマギしちゃうよね。

 

最後にジークさんを嗜めた男性がトキオさんの隣に座り、8つの席が全部埋まった。

 

 

うーん。気まずい。

彼らが来てから空気が変わったというか、引き締まったというか。

誰も喋らない。

コチコチと時計の秒針だけが室内に響いていた。

 

 

「そういえば、ミニレさんは俺とどこで───」

 

気になっていたことをミニレさんに聞こうとしたら、またドアが開いた。

 

「あら!もうみんな揃ってるんだね!ちょっと早いけど始めちゃおうか!」

 

元気な声と共に、本日の講師がやって来た。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はーい!おはようございます!今日の研修の講師を担当しますドミオン学園冒険科担当教師のマーリルと申します!よろしくね!」

 

 

黒板の前に立つ長い茶髪の眼鏡姿の女性。スーツ姿が似合っている。

にこやかに俺達に挨拶をするが、挨拶は俺を含めて何人かしか上がらなかった。

 

その事に特に気を悪くするでもなく、手にした資料に目を通す。

 

「今日は新人冒険者さんたちの研修ってことで集まって貰ったんだけど、うん!この2週間で東区で冒険者になった人は皆は来てくれたみたいだね!」

 

ほう。つまりここにいる全員が俺の同期という事か。

8人というのが多いのか少ないのかは分からないが、見たところ全員が同世代っぽいし、仲良くできたら良いなぁ。

 

 

「わあ!すごいね!皆17歳なんだ!ってことはこの部屋に居る全員が17歳なんだねぇ。凄い偶然だねぇ!私も17歳だから、みんな気兼ねなく接してね。ね!」

 

 

すげぇ!俺と同い年なのに教師になってるだなんて……天才って奴か。凄いなあ。

 

「マーリル先生はどう見ても俺達と同い年では無いようなんでもないですごめんなさい」

 

トキオさんが挙手をして先生に質問していたが、先生の鋭い眼光に怯んで直ぐ様手を下ろして謝っていた。

パンッと手を叩いて仕切り直すマーリル先生

 

 

「戯れ言は置いておいて、早速皆さんに自己紹介をして貰おうと思います!名前と、そうだなぁ。これからの目標とか言って貰おうかな?研修と何が関係があるんだ?って質問は受け付けません!先生の趣味です!はい!じゃあ端の男の子、君からお願いしまーす」

 

 

マーリル先生がジークさんに笑いかける。

ジークさんはめんどくさそうにしていたが、隣の女性から服の袖を引っ張られて、仕方なくといった様子で口を開く。

 

「ジークだ。ジークファルク。長いからジークで良い。別にあんた等と仲良くする気はねーがな。……目標は、ドーナローズ国の魔王になること」

 

 

彼の言葉に思わずジークさんの方を向いてしまう。

彼は真っ直ぐと前を見て、はっきりと言った。

 

魔王に、なる。

 

サタナキア大陸に7つ有る国の王。それが魔王。

魔王とは、誰でもなる事ができる。

条件は、現魔王を倒すこと。

たったそれだけで、魔王を名乗ることが出来る。

 

 

だが、それが非常に難しい。

力有るものが上に立つシステムだ。故に、その国で一番強い者が魔王なのだ。

 

 

王として民に圧政を敷けば、反感を買って国民全員が魔王を打倒しようと敵になる。

その全てをはね除けて長く魔王として君臨していた者も過去には居たようだが……。

 

1時間に4回も魔王が変わった国もあるくらいだ。

魔王が我が子の能力に恐れを成して殺害したことも。

子が親である魔王に反旗を翻し殺害したことも。

腹心の部下に討たれた魔王だっている。

 

もちろん、それは長い歴史の、過去の話ではあるのだが。

 

過去を学んだ今の魔王達は、他を寄せ付けない高い戦闘力と、民や部下から支持される圧倒的なカリスマ性を持っている。

 

どちらかのバランスが崩れたとき。それが魔王が変わる時だ。だが、今のところどの国もそんな様子は無い。

ドーナローズ国も、だ。

 

 

彼は、ジークは、魔王を目指すというのか。

彼にも、事情があるのだろう。

サタナキアの住人が魔王を目指すと口にするのは、生半可な覚悟ではない。

 

 

「わ……私はルシオラ……私の目標は……彼を、ジークを……王にすること……」

 

ルシオラさんは大人しい印象の女性だったが、彼を王にする。

それだけははっきりと言いきった。

 

 

「ウチはメリッサ!ウチも、ジークを王にするよ」

 

メリッサさんも、不敵な笑みで。

 

「サイラスだ。俺も前の2人と同じだ。ジークを王にする」

 

サイラスさんも、静かに、だがしっかりと宣言した。

 

全員が一丸となって、彼を、ジークファルクを王にしようとしている。

目標というよりは、決意というか。

 

 

不意に、ジークさんと目があった。

俺も目をそらす事無く彼を見る。

4人に圧倒されていたトキオさんが声を上げるまで、俺達は目をそらす事はなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お……俺は、トキオ。この国一番の魔法使いになる」

 

 

前の4人に触発されたのか、トキオさんは少し緊張しているけど、はっきりとそう言った。

 

 

「私はー。ミニレー。目標かぁー。そーだなー。みんなに美味しーご飯を食べさせてあげることー」

 

ミニレさんも、ほわほわ笑いながら言う。

 

 

「俺はアレン。目標か……目標は、まだ無いよ。これから見つかれば良いなって思う」

 

俺に目標は無い。

冒険者になりたくて、とりあえず世界ってのを見てみたくて家を飛び出した。

世界を見て回る事が目標なのかと聞かれたら、違う気がする。

物語の英雄のようになるのが目標かと聞かれたら、これも違う。

 

彼らに比べたらしょうもないかも知れないけれど、知ったことではない。俺は俺だ。

これから見つかれば良い。これから、見つければ良い。

 

「私はオウカ。目標は友達を沢山つくる事」

 

凛とした表情でオウカさんも言う。

なるほど、だからあんなに友達友達と言っていたのか。

 

俺以外みんな目標が有るんだなぁ。

 

 

「素晴らしい!皆さんとても素晴らしいですね!是非ともウチの学園に学生として来て欲しいです!」

 

マーリル先生がにこやかな笑顔で俺達全員を見渡す。

その顔はとても嬉しそうだ。

 

「ありがとうございました!それでは早速冒険者研修を始めましょう!」

 

 

~マーリル先生の優しい冒険者講座~

 

 

皆さんはこれから冒険者として活動して行く訳ですが、先生の言うことをしっかりと聞いて、これからの冒険者生活に役立てて下さいね!

 

冒険者にはランクというものがあるのをもう皆さんはご存知ですね?

 

ABCDEFの6ランクで別れてまして

EFランクは下級冒険者。

DCランクは中級冒険者。

ABランクは上級冒険者。

と呼ばれます。

 

ランクの昇格にはスターシステムを用いて行います。

プレートを見てもらって良いですか?ランクが書かれている下に窪みが3つ有りますね?

 

それが3つたまれば1つ上のランクへ上がります。

スターはクエストを複数達成すれば溜まっていきますので、皆さん頑張ってクエストを受けて行きましょう!

 

もちろん、クエストを失敗してしまうとスターも溜まりませんので、注意してくださいね!

依頼人と喧嘩をしたり、ギルドの備品を壊したり、ギルドから注意を受けるような事をしてしまうとスターが減ってしまうので注意です!

 

クエストを受けるときの注意点ですが、それぞれのランクに応じて

下級クエスト

中級クエスト

上級クエスト

に分かれているのですが、皆さんはまだ下級冒険者ですので、皆さんだけでは中級クエストを受けることは出来ませんので、気をつけて下さいね!

 

自分のランクに合わないクエストを受けるとギルドの職員が教えてくれますので、間違って受けてしまっても心配しないで下さいね!スターが下がるということもありません。

 

 

同じパーティー内に自分より等級が上の冒険者がいれば、1つ等級が上のクエストを受ける事が可能です。

ですが、下級冒険者のままでは上級クエストを受ける事は出来ませんので、これは覚えていておいて下さいね!

 

例え、自分以外全て上級冒険者であっても、下級冒険者のうちは上級クエストは受けることは出来ません。

 

ただし、1つだけ例外があります。

 

それが緊急クエストですね!

これは国からの要請で冒険者全員が参加可能なクエストになります。

国の危機に対して要請されることがありますので、危険度は高いですが、下級冒険者であっても参加は可能です。

 

上級、中級冒険者は強制的に、下級冒険者達は任意で参加の是非が選べますので、参加する場合は先輩冒険者の指示をキチンと聞いて、安全最優先で行動してください!

いいですね?安全最優先ですからね!決して無理はしないように!

 

 

さて、皆さんはしばらく先の話しになりますが、下級冒険者から中級冒険者に昇格する場合は、昇格試験があります。そのときはギルドから説明がありますので、キチンと説明を聞いて、是非とも等級を上げていってください!

 

 

中級冒険者であるCランクからは王都でのクエストも受注可能になりますので、こちらも等級を上げる理由にもなりますね!

中級冒険者になれば、様々な制約等もつきますが上がるに越したことはないので、皆さん頑張ってくださいね!

 

 

はい!次はパーティーやクランについて説明させてもらいますね!

 

 

 

 

 

 



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尻はどうだ?…………ダメ?

 

 

 

アレンが研修に向かい、暫くしてからレベッカも業務に戻った。

カイとルナがクエストに向かい、1人テーブルに着くジンは、たくさんの冒険者で賑わうクエストボードを眺める。

 

暇になったので良さそうなクエストでもあればそれを受けようと思っていたが、次から次に現れる冒険者達を見れば、自分がクエストボードの前に立つのは暫く先の時間になりそうだ。

 

 

どのようにして時間を潰そうかとジンが考えていると、にわかにギルドが活気付く。入り口の方が騒がしい。

なにか問題でも起きたかと意識を向ければ、どよめきには尊敬や畏怖の声が多く混じっている。

クエストボードを眺めていた冒険者達も、肘で隣の人をつつき、入り口を指し示す。

 

 

ギルド内の冒険者達や、職員の視線を集める3人の冒険者。

ギルド内のどよめき等どこ吹く風、いつもの事だとばかりに3人がジンの座るテーブルへとやってきた。

 

 

「おう、ジン!オメェも来てたんか!」

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「………………」

 

 

 

1人のオーガ族の男性に声を掛けられたジンは、その人物と、一緒にこちらに向かってきた2人を確認する。

 

ジンに声をかけたオーガ族の男性は、アレンがこの町にやってきた初日に見かけた、昼間から酒を飲みジークに声をかけていた人物だった。

名を、バトゥ。

東区のクラン、アースラーズを率いる団長である。

 

そして、狼の獣人の麗人、フォルトゥナのレティシア。

 

最後の1人、無言でジンを睨み付けている人間の女性。

名をリナリー。漆黒の衣服の、長く美しい銀髪に眼帯。そして腕には包帯が巻かれている、端麗な女性。

彼女も東区でクランを率いている団長である。

クラン名は、ネメシス

 

 

「東区の有力クランの団長が揃い踏みとはな。両手に花だな、バトゥ」

 

「ガッハッハ!こいつらにゃ悪いがウチのカカアにゃ敵わんわ!」

 

「ふふふ、相変わらず愛妻家だね」

 

「………………」

 

バドゥが豪快に笑い、ジンの座るテーブルへと腰を下ろし、大きな声で酒を注文する。

レティシアも同じく腰を下ろして静かに笑う。

リナリーだけは無言で、どこか憮然とした表情でジンを見ていた。

 

 

「君も座ったらどうかな?リナリー」

 

 

レティシアが1人立っているリナリーに着席を促すが、彼女は依然として無言だ。

バトゥは注文した酒を飲み干して、すぐに次を注文していた。

リナリーから睨まれているジンは、特に気にした様子は無いが、それを見守っている周りの冒険者達は気が気ではない。

 

この東区で特に有名なクランの団長3人が集まってこのギルドに来ているのだ。

団長達の勇名はこの町はおろか、王都でもその名を知らぬ者がいないほどの豪傑達。

 

全員がAランク。単騎でドラゴンを討伐して涼しい顔をして帰ってくるような連中だ。

その1人が、Dランクプレートをぶら下げた男性を睨み付けているのだ。

 

ジンはカイのように目立つ存在ではないために、東区のほとんどの冒険者達のジンの認識は

迷子のペットを探したり、町を清掃したり。

畑を耕したり、老人の荷物を持っていたりといったごく一般的な、むしろ素朴な冒険者といった程度の認識なのだ。

 

故に、戸惑う。

あの冒険者は一体何者なのだと。

何故あんなに団長達に囲まれて平気な顔してコーヒーを飲んでいられるのだと。

 

なぜネメシスの団長に睨まれているのだ、と。

 

 

「座ったらどうだ、リナリー」

 

 

 

ジンとしても、周りから奇異な目で見られるのは好ましくなく、じっとこちらを見てくるリナリーが流石に鬱陶しくなったのか、ため息混じりにリナリーに声をかけ、空いている席を指し示す。

 

といっても、有名な団長達に囲まれている以上、奇異な目で見るなというのは無理な相談なのだが。

 

 

「貴様……」

 

 

ジンに声をかけられても微動だにしないリナリー。ギルドに来てから初めて喋ったが、その声色には怒りが感じ取れた。

怯える冒険者達。

 

「何度言えば分かるのだ。我とキャラが被っているのだ。いい加減その格好を止めろ」

 

静かに、だがしっかりと怒りの籠った声でジンに向かって命令するリナリー。

その返答に再びため息を溢すジン。

レティシアはその様子を楽しげに眺めており、バトゥは4杯目の酒を飲み始めた。

 

 

「ジン。見ろ、我を。見たか?どうだ?似ているだろう?貴様と我。この眼帯と、この髪色」

 

「……そうだな」

 

「ジン。我はな、ネメシスの誇り高き団長なのだよ。他の追随を許さぬ深淵の申し子。それが我だ。凡人など恐れを成して近づけぬ存在なのだ。だがな、ジンよ。最近我が道を歩けば老人達に囲まれるのだ」

 

 

「……そうか」

 

 

リナリーいわく。

 

あら!ジンちゃん!こないだは荷物持ってくれて有り難うねぇ!これ!ウチの裏の畑で取れた野菜!持ってって持ってって!

 

いわく

 

おわっ!どうしたんだジン!包帯なんて巻いてからに!怪我したんか!?待ってろ!すぐポーション持ってきてやっからな!おーいばーさん!ポーションどこだぁ!?

 

 

いわく

 

 

ジンさん、またウチのミーちゃんが居なくなっちゃったの……ゴメンねぇ、ミーちゃん首輪をすぐ焼き切っちゃってねぇ……でもほら、いくらサラマンダーでも鎖で繋ぐのは可愛そうじゃない?ごめんだけど、また探して貰える?

 

 

いわく

 

 

おーう。ジン坊じゃねぇか……を!?お前さんいつの間に女になったんだ!?ばーさん!ジン坊が別嬪さんになっちまった!はー。美形だとは思ってたが、まさか本当に女だったとは……チチ揉んで良いか?なんつって!ガハハハハ!!

 

 

「分かるか、ジンよ。この我が……この我が……」

 

怒りと虚しさで体を震わせるリナリーがようやく腰を下ろす。

レティシアは彼女に何て声をかければ良いのか考えあぐねているのか、なにかを言い掛けては口をつぐみを何度か繰り返し、最終的には震えるリナリーの肩に優しく手を置いていた。

 

「ガッハッハッハ!リナリー!オメェからジンを真似しといてその言い分は無しだぜ!ジンを初めて見たときに目ぇキラッキラさせながら……おん?どしたぃレティシア?え?酒奢ってくれるのか!?」

 

レティシアがそれ以上はいけないとバトゥを遮り酒代を机に置く。バトゥは言いかけていた言葉を酒と一緒に飲み込み、再び店員に酒を注文する。

 

 

「言い分は分かった。考えておく」

 

レティシアに慰められているリナリーに、少し疲れた様子のジンが答える。

ジンの返答にパァッと顔を明るくしてレティシアを見るリナリー。

レティシアもまた、そんな彼女に良かったね。なんて声をかけていた。

 

 

考えるだけだがな、と1人心の中で思うジン。

最初に出会ったリナリーは黒髪で真っ赤なコートに鎖を全身に巻き付けた格好だったはずだ。

 

ある日いきなりリナリーからファッションとして眼帯ってどう思う?と聞かれたジンは特に深く考えずに、良いんじゃないか?と答えたら、リナリーがにまーっと笑っていたのを思い出す。

 

彼女なりにジンに配慮したのだろうが、ジンとしても特に思う事など無く普通に答えただけだ。

結果が、今の彼女の姿なのだが。

 

ようやく席に着いたリナリーが足を組んでふふふ、と冷笑を浮かべてミルクを飲んでいるのを視界の端に置きながら、団長達に問いかけるジン。

 

 

「それで、ここに来た目的は?」

 

「私たちの可愛い団員が研修を受けに来ていてね、それの見守りだよ」

 

と、微笑むレティシアに、そうか。と、返すジンだった。

周りの視線を無視して、団長達と雑談を始めるジンであった。

良い暇つぶしが向こうからやってきてくれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はい!それではこれからクランと、パーティーについての説明をしますね!受けるクエストによって人数が条件に含まれている場合もありますので、しっかりと聞いておいてくださいね!」

 

 

~マーリル先生のクラン?パーティー?それなに講座~

 

 

と、いってもアレン君とオウカさん以外は全員がクランに所属してますので、ここからは2人に向けた説明になりますね!

 

冒険者達が複数集まって出来た組織、これをクランと言います!

必ずしもクランに属さなければならないという訳でも有りませんが、属していると色々と便利なので、可能ならばクランに属した方が良いでしょう!

 

優秀な冒険者にはクラン側からスカウト等もありますので、良い意味で目立ってくださいね!

時には王都の騎士団からのスカウトだって……ふふふ。

 

 

クランに属すると中級以上の冒険者に中級クエストに連れていって貰ったりだとかがスムーズに行えるのも利点の1つですね!

さらに、大体のクランがモンスターの生態についてだったり、クラン独自の情報を持っていますので、冒険者生活を安全に過ごす為にも、利用出来るものはどんどん利用しちゃってください!

 

すでにクランに属している人たちは、所属するクランによって様々なルールが決められていると思いますので、決められたルールを守って、先輩達から色々と学んで立派な冒険者となることを期待しています!

 

 

そして、パーティー。

こちらは人数が指定してあるクエストを受ける際に組む、4人~5人の一時的な集まりだと考えていただいて結構です!

クランに属している人達はクランの冒険者達とパーティーを組むと思いますのであまり考えなくても大丈夫です!

 

2人は、クランに属していない冒険者や人数が足りていない冒険者達がパーティー募集をかけていたりしますので、行きたいクエストで人数が揃わない場合は、パーティーの募集が無いか窓口の職員さんに聞いてみてくださいね!

ですが、求められた職業で無い場合は、参加を見送ることをオススメしますね!

 

 

中級以上のクエストになってきますと、討伐クエストや町を出てのクエストが主になってきますので、例え採取クエストであってもモンスターと遭遇する危険性があります。なのでほとんどがパーティーを組んでのクエストになります!

 

 

例え下級クエストの人数指定の無いクエストであっても、相手はモンスターです。不意の遭遇が想定されますので、単独での出発はなるべく避けてくださいね!命を大事に!

 

 

さて、少しチラッと言いましたが、ここからはパーティー内の職業や編成についてです。

 

パーティーの理想的な編成ですが

アタッカー。ミドルレンジャー。ヒーラー。サーチャーがそれぞれパーティーに含まれているのが好ましいですね!

 

 

アタッカーは文字通り攻撃職ですね!

ミドルレンジャー。こちらは魔法使いや、中距離での攻撃を得意とする攻撃職です。

ヒーラーは回復職で、サーチャーはサーチやソナーが得意な方の哨戒職となりますね!

 

モンスターによっては物理攻撃が効かないモンスターもいますので、物理と魔法。それぞれの攻撃職を編成している事が生存率を高めることになります!

 

 

もちろん、偏った編成でも人数さえ達していればクエストは受注可能ですが、別のモンスターの乱入等の想定外の事態になった際に臨機応変に対応できない可能性がありますので、可能な限り先程言ったパーティーでクエストに向かうことをオススメします!

 

中には単独で複数の職に対応した冒険者も居るのですが、そういった方々はベテランの冒険者かつ、かなりの実力者ですので、大体はどこかのクランの幹部なんかをやったりしていますね!

 

 

今日はこの研修の後に実際にパーティーを組んで、練習クエストを受けて貰います。

 

そうですねぇ。ジーク君達はすでにパーティーとして何度かクエストを受けた経験が有るようですね?この訓練は受けなくても大丈夫ですが、どうしますか?

 

 

参加します?分かりました!では、ジーク君達はそのままパーティーを組んで貰って良いですか?

はい!当たり前の事を言うなという顔ですね!ごめんなさいね!ふふふ!

 

では、残りの4人には誰かリーダーを決めていただきたいのですが……はい!オウカさん!良い挙手ですね!素晴らしい!皆さんもオウカさんがリーダーでよろしいですか?

 

はいっ!ではオウカさんをリーダーとして、アレン君、ミニレさん。トキオ君のパーティーでクエストに参加してください!

今回は練習クエストです。複数人でのクエストに慣れて貰うのが目的ですので、編成が偏っていても問題ありませんが、皆さんで自分の出来る事など話し合って、編成を組んでみるのも良いかもしれませんね!

 

 

では!早速町を出て練習場へ向かいましょう!

 

 

 

 



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ワイワイワイバーン

 

 

「それでは、下に降りて準備をしましょう!先生も準備してきますので、先に降りていてくださいね!」

 

 

パンッと手を叩きマーリル先生の講義が終わった。

次は、いよいよ初のパーティーを組んでのクエストか。少しドキドキしてきたな。

オウカさんが隣で凄く張り切っている。

 

ジークさん達はさっさと席を立って会議室を出ていった。

その時ジークさんが俺とオウカさんを見て鼻で笑っていたが、ルシオラさんとサイラスさんに窘められていた。

 

俺は少しムッとしてしまったが、オウカさんは特に気にしていないようだった。

 

 

「さあ、私達も下に降りよう」

 

オウカさんの号令に俺達も立ち上がって会議室を後にする。

早速リーダーシップを発揮している、頼りになりそうだ。

 

「トキオさんってクランに入ってるんだね」

 

「ああ、アレンも知ってるだろう?ネメシス・オブ・ジ・エンド。この町で最も冷徹で最も偉大なクランだぜ」

 

「ふぅん……」

 

ごめんよトキオさん、聞いたこと無い。というか、この町のクランはフォルトゥナの人達しか知らない。

というか、フォルトゥナの人達すら知らないといっても良いレベル。

トキオさんと雑談をしながら階段を降りる。

先を行く女子達は女子達で交友を深めているようだ。

 

「アレンは今までクエストはどれくらい受けた?」

 

「そうだなぁ、大体は町の中で手伝い系のクエストを何回かと、採取系を何回かかな。いつも2人か3人でしか行ったことないから、今日は楽しみだよ 」

 

「ふっ。そうか!俺はもう討伐系を達成したぜ?Cランククエストだ……ま、余裕だったけどな」

 

 

トキオさんが誇らしげに言う。

ほほう。Cランククエストはまだ受けたことが無いなぁ。

手伝い系はジンさんと、採取系はカイさんと主に行ってたけど、殆どが下級クエストのソロでも出来るようなクエストばかりだ。

 

「俺はまだ冒険者になって二週間経たないくらいだけど、アレンは?」

 

「俺は一週間だよ」

 

「私は3日だ、クエストもまだ受けたことが無い」

 

「私はー。10日前かなー。」

 

 

丁度会話が切れたのか、女子達が俺達の会話に混ざってきた。

自分が一番先輩だったのが嬉しかったのか各々の冒険者期間を聞いてトキオさんがニヤリと笑う。ミニレさんと似たようなものじゃないか。

オウカさんはまだクエスト自体を受けたことがなかったのか。

まあ、俺もジンさんに出会っていなかったらまずは読み書きからだったからなぁ。下手したら生活すら出来ていなかったかも。

 

「初クエストだが、リーダーとしての責務は果たす。皆私についてこい!」

 

「おー。」

 

「よろしくね、オウカさん」

 

「ふっふっふ!この俺を満足に使えるかな?」

 

「黙れこの嘘つきめ」

 

あ、オウカさんの棘のある言葉と視線にトキオさんが落ち込んでしまった。まだ初対面の事を根に持っているのか……。

いきなり怒鳴りつけてしまった俺も大概だけど、初対面で偽名を名乗られたのがよっぽど頭に来たんだろうなぁ。

 

結局、トキオさんはそれ以降しょぼんとしてしまって、彼を慰めるのに随分と時間を使ってしまった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

下の階に戻ってくると、なにやらギルドがざわついていた。

騒がしいというよりも、どちらかと言えばひそひそ話をしていてそれが室内に響いているような印象だ。

 

?……なんで誰も座ってないんだろう?

目の前には随分と不思議な光景が広がっていた。

1つのテーブルを残してその周囲を囲むように距離を空けた冒険者達が遠巻きにその1つのテーブルを見てひそひそと話してる。

よくみたら最初に俺達が座っていたテーブルだ。ジンさんも見える。

 

 

先に降りていたジークさん達がオーガ族の人と楽しげに話している。あ、あの人初日の人だ……まだ朝だというのにすっかり出来上がっている。

 

俺達が座っていたテーブルにはジンさん、レティシアさんと、見たこと無い女性と、先程のオーガ族の男性が集まっている。その後ろにジークさん達。

 

 

やはりギルド内に残る冒険者達はあのテーブルに意識を向けてざわめいているようだった。

?……あのテーブルになにかあるのかな?

 

 

「あー。団長だー」

 

「団長!来てたのか!」

 

 

見知った人を発見したのか、ミニレさんとトキオさんがジンさん達のテーブルへと駆け寄る。

ミニレさんがレティシアさんと楽しそうに話しているけど

えっ、団長て……レティシアさんってあの飲食店の店員さんじゃなかったの?

 

トキオさんもどこかジンさんと格好の似ている女性と話している。彼女がネメシス某の団長なのかな?

 

「とりあえず、俺達も行こうか?」

 

「ああ」

 

取り残された2人でいつまでもここにいても仕方ないので、かなりの大人数になったテーブルへとオウカさんと向かう。

周囲に人は居ないので、集まっても迷惑では無いだろう。

 

「おや、アレン君」

 

「お久しぶりですレティシアさん。レティシアさんってクランの団長さんだったんですね」

 

「うん、そうだよ」

 

オウカさんと共に件のテーブルに向かった俺は顔見知りであるレティシアさんに挨拶をする。

カイさんも人が悪い。一緒に店に行った時にそんな事一言も言ってなかった。

 

「なんだ、レティシアと知り合いだったのか」

 

「うん、こないだカイさんとね。全員ジンさんの知り合い?」

 

「ああ。レティシアは知っているようだな、彼女がフォルトゥナの団長だ。酒を飲んでいる彼がアースラーズの団長、バトゥ。そして、銀髪の彼女がネメシスの団長リナリー」

 

 

ジンさんが説明してくれた。ほうほう、ジンさん以外が全員団長なのか……。

えっ。フォルトゥナ?フォルトゥナの団長だったのレティシアさん。

 

俺が驚いてレティシアさんを見ると、彼女は俺に向かって笑いながら手を振っている。

 

「黙っているつもりはなかったんだけどね、言うタイミングが無くて」

 

「そうだったんですか……カイさんがご迷惑をおかけしたみたいで」

 

ペコリと頭を下げる俺に、きょとんとした後に笑うレティシアさん。

一応ね。カイさんがクランに迷惑かけたみたいだからね。一応ね。

 

「おう、オメェか、ジンの言ってたアレンってのは!俺がバトゥだ!よろしくなぁ!そっちの娘は彼女か!?手がはやいな!ガッハッハ!」

 

「なんでさ!違うよ!友達だよ!よろしく!」

 

酒を飲んで上機嫌になったオッサン、バトゥさんが変な事を言って豪快に笑っている。

ウィン姉が昔言っていたとおりだ。

 

いいかアレン。明るい時間帯から酒を飲んでる奴にロクな奴は居ない。お前はそんな大人になるんじゃないぞ

 

と。なんだこのオッサン!出会い頭にとんでもない事言う人だな!やっぱウィン姉は正しかった!カイさんと違うベクトルでロクでもないな!

 

 

チラリとオウカさんを見れば、特に気を悪くする事無く、むしろ

ふふふ、友達

と、はにかんでいた。

 

 

「全員が挨拶をしたのだ。我もせねば無作法というものか……。小僧。我がネメシスの団長。リナリーだ、恐れ敬い、称えよ」

 

ジンさんと似た格好の女性も、どこか癖のある挨拶をしてくれた。

クラン名はトキオさんの言うネメシス某では無いようだ。

あ、リナリーさんの後ろでトキオが青ざめている。

ははぁん?横を見なくても分かるぞ?俺の横でオウカさんがすごい顔してるな?

 

 

「はーい!皆さんそろそろ………えっなにこれ凄い」

 

マーリル先生が降りてきて、ギルド内を見て、というよりも一ヶ所に集まる団長を見て唖然としている。

この町のクラン事情なんて全く知らない俺だけど、このギルドの様子を見ると流石に分かる。

 

この人達がこの町のトップ冒険者達なのだろう。

 

 

「え……と。はい!集合!皆こっち来て貰って良いですかね!?先生ちょっと近づけない!オーラ!オーラが凄い!」

 

 

はわわわと俺達を高速手招きで呼ぶマーリル先生。

特に此処に留まる理由も無いし、なにより研修中だ、俺達は全員でマーリル先生の元へと向かう。

 

 

「資料で知ってましたけど、まさか団長達がギルドに来てるだなんて……さ!気を取り直して、今回受けるクエストを説明しますね!」

 

 

マーリル先生の説明によれば、俺達はこれからワイバーンに乗ってギルドが管理しているダンジョンへと向かい、ダンジョンの最深部に置いてある魔石を取ってくればクエスト達成なのだと。

 

クエストランクも、管理されたダンジョン内でのクエストになるためにFランク相当のクエストらしいので、緊張せずにのびのびとやってくださいって事だった。

 

「それでは、外にワイバーンが準備されていますので、東門へと向かいましょう!あ!皆さん一応武器を持ってきてくださいねー」

 

すこし慌てた様子のマーリル先生が見守る団長達に挨拶をして、俺達を急かすようにして、ギルドを後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おお、近くで見るとでっかいなぁ」

 

目の前には移動用にギルドが飼育したワイバーン2頭が、リリィさんと一緒に俺達を迎えてくれた。

鈍い緑色の、腕の無い大きな飛竜。野生のワイバーンと違って人を襲うことは無いようだが、それでも元々はCランク相当の危険度があるモンスターだ。

 

向かい合うと自然とワイバーンとの戦い方を頭の中で組み立ててしまう。

空を飛ぶ相手か……火を吐くことは無いが、エアネイルでの遠距離攻撃も持っている。対面すると苦戦するかもしれないな。だがまあ、やりようはあるか。

 

「研修頑張って。アレン」

 

「ありがとうリリィさん!」

 

ワイバーンとの戦闘を脳内でシミュレーションしていると、リリィさんが声をかけてくれた。

余談だが、俺と目があったワイバーンが少し怯えた目でこちらを見ていたが、どうしたのだろうか。

 

「それでは、それぞれパーティーに別れて乗り込んでください。ジーク君達はワイバーンに乗った経験も有るようなので、私はオウカさんパーティーの方に乗らせて貰いますね」

 

先生の言葉を聞いてジークさん達が用意された箱に乗り込む。

これもシュラール国で開発されたモノらしく、人の乗り込んだ箱をワイバーンの胴体に装備された器具にロープで固定し、運ぶのだとか。

箱の外部に飛行系のモンスターの魔石が設置されていて、風圧や揺れを抑制して、中の人が不快にならないよう設計されているらしい。凄い。

マーリル先生が教えてくれた。

 

ジークさん達が箱に乗り込み、ワイバーンが飛び立つ。

あっという間に上空へ飛び上がったワイバーンが空の彼方へ消える。

はえー。スッゴい便利。落ちたりしないのかな?

 

 

「さ!私達も出発しましょう!」

 

マーリル先生を先頭に俺達も箱へと乗り込む。

箱の中はバスのように人が座れる座席が複数設置してあり、とても快適そうだ。

マーリル先生が座席を操作して5人が向かい合って座れるように調整してくれた。

 

男性陣女性陣と別れて座り、向かい合って座る。

これから空の旅が始まる。箱には窓があったので、俺とトキオさんは体の向きを変えて窓から外を見る。

あ、リリィさんが手を振ってくれている。

 

「あの美人さんと知り合いなのか?アレン」

 

「うん、とても良くしてくれてさ、俺まだ読み書きが出来ないんだけど、辞書とか色々と貸してくれてさ。めちゃくちゃ良い人だよ」

 

トキオさんと会話をしながらリリィさんに手を振り返していると、ワイバーンが羽ばたきを始めて、すぐさま空へと飛び上がる。

 

不思議な浮遊感と、少しの緊張感。

ワイバーンは俺達を乗せて、ダンジョンへと向かう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「目的地までは暫くかかりますので、皆さん自由にして貰って結構ですからね!」

 

マーリル先生の言葉に、はーい。と返事をする俺達。

オウカさんがコホンと咳払いをし、俺達を見渡す。

 

 

「改めて、今回のリーダーとなったオウカだ。これからのクエストに向けて各々の能力を把握したいのだが、構わないか?私の武器は刀だ。寄って、斬る。先生の言葉を借りるならばアタッカーだな」

 

オウカさんが青い刀を俺達に見せる。

パッと見鞘の色くらいでしか違いが分からない。

刀の種類なんて良く分からないから良いものなのかどうか分からないが、ジンさんの持っている刀とは違うのかな?。

 

「いいよー。私はねー。武器はこれー。」

 

ミニレさんが持ってきた武器を俺達に見せてくれる。

これは、ハンマーかな?金属製の長い柄をした白とピンクの可愛らしい色合いのハンマー。槌の部分が少し小さい。

 

「ハンマーー。」

 

あ、そう発音するんですね。

 

 

「俺は会議室でも宣言したとおり魔法使いだ!得意とする魔法は全てを焼き尽くす地獄の炎。そう!ヘルフレイム!」

 

ほう。そんな魔法があるのかな?聞いたことは無いけれど。

手にした杖を掲げてチラチラとオウカさんを確認しているトキオさん。

刀を持ったオウカさんに追いかけ回されたのだ、また嘘をつくなんて考えられないけど……。

 

 

「なるほど、つまりアタッカーとミドルレンジャーは揃っているようだな。アレンはどうだ?見たところ無手のようだが」

 

オウカさんが頷いて俺に聞いてきた。

うーん。そうだなぁ。索敵も回復も遠近戦闘も出来るしなぁ、俺。

あら!そう考えれば意外と有能なんじゃないのか俺ってば!ふふふ、まあね。鍛えられましたからね。

 

「使い慣れた武器は剣だけど、大体は現地調達してるから今のところ特定の武器は持ってないよ。サーチも回復も出来るから、今回はサーチャーとヒーラーに回ろうか?」

 

「おいおいアレン……格好いいじゃねーか!でもよ、嘘つくとオウカに追い回されるぜ?先生も言ってたじゃないか、そういうのはベテランか実力者だけだってさ」

 

「それは貴様だけだこの嘘つきめ。私は友達を信じる。そう。友達をな!アレン。私はお前を信じる、今回は哨戒職を頼んでも良いか?」

 

「よっしゃ!任せておくれよ!オウカさん!」

 

 

まあ、先生の言うとおりなのかもしれないけど、使えるものは使えるのだ。へっへっへ、実力者。

オウカさんが力強く頷き、トキオさんが疑わしげに俺を見ている。

ミニレさんは相変わらずほわほわ笑っていて、マーリル先生は微笑ましそうに俺達を見ていた。

 

 

ワイバーンに運ばれながら、ワイワイと雑談を楽しむ俺達は、のんびりとダンジョンを目指す。

 

 

 

 

 

 



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スラッシュ!スラァッシュ!!

 

 

「でさぁ、実技でジンさんにボッコボコにされて、結局Fランクスタートだったんだよね」

 

「ジンさんってのは、あの銀髪の男の人?」

 

「そっそ!ジンさんはDランクなんだけど、手も足もでなくってさぁ」

 

「はーん。そりゃ、Fランクスタートだわな」

 

 

マーリルの目の前では和気あいあいと言った様子で少年達が会話をしている。

自分が今教えている学生達よりも幾ばくか年は幼いが、教育者として元気な若者を見るのはやはり心地よいものだ。

 

 

「それは、刀を携えたあの御仁か?剣士としてかなりの使い手なのか?」

 

「うーん。どうだろう?俺と模擬戦したときはジンさん手ぶらでさ、手ぶらでボッコボコよ。刀を使う必要も無かったみたい」

 

「ふーむ。Dランクと新人冒険者ではそれほど差があるとは思えないが……」

 

「それに、団長達とどこで知り合ったんだろうな?別に有名って程でもないし、Dランクなんだしさ」

 

「でもー。ウチのクランの人達がー。凄く勧誘してたよー。カイさんもねー。断られたけどー」

 

「そうなの?まあ、あの人達は自由だからなぁ……てかさ、ミニレさんってどこかで見た気がしてたんだけど、あのお店の店員さんだったんだね」

 

「そうだよー。ずっと団長が相手してたけどー。私もあの日居たんだよー」

 

「なんだよアレン。お前フォルトゥナに行ったのか?あそこたまに柄の悪い連中が来てて美味いけど新人冒険者では敷居が高いって有名な店じゃねーか」

 

「あ、あの店の名前もフォルトゥナって言うんだ……字が読めてたら気づいていたのかなぁ……てか、トキオさん。店員さんの前でそんな事言っちゃダメだよ」

 

「そうだぞ、この嘘つきめが」

 

「もう許しては貰えないでしょうか……」

 

「あははははー」

 

依然として楽しそうに会話を楽しむ若者達。

マーリルは微笑ましく眺めていたが、ふとその顔が憂いを帯びた。

 

願わくば、この若者達が曇る事無く、ベッドの上で安らかな死を迎えられるように、と。

マーリルは教師としてドミオン学園でそれなりに長く教鞭を執っている。

故に、多くの生徒達の死も目の当たりにしてきた。

 

どれだけ冒険者として必要な技能と知識を教えた所で、やはり死者は出てしまう。未熟な若者は特にだ。幼さからくる慢心と、過信。それで若くして命を落とす。

 

我々大人であってもモンスターの被害はあるのだ。この国ではモンスターによる死者数は年に80万人を越える。その約半数が20歳以下の冒険者の若者なのだ。

 

だからこそ、こうして新人冒険者に向けて研修を行うのだ。

新人冒険者達の鼻っ柱をへし折る為に。

新人冒険者には簡単なクエストだと説明しているが、ダンジョンの最奥、魔石を守るガーディアン役としてドミオン学園の優秀な生徒を配置している。

 

Cランク以上の、だ。

Fランクの冒険者が間違っても勝てない相手。それが、最奥にて待ち構えている。

 

 

この研修で心折れ、冒険者を辞したとしても構わない。モンスターに敗れて死ぬよりかはましだ。

このクエストに失敗して、自分達の力などまだまだこの程度なのだと戒め、精進を促すのがこの新人研修の真の目的なのだ。

 

決して過信することなく、慢心する事無くこれからの冒険者生活を過ごしてほしい。それがこの国の良識ある大人たちの願いである。

 

 

何時だって若者の死を見るのは辛い。こんなもの、慣れたくは無い。

 

 

(だけど……)

 

 

マーリルの脳裏によぎるのは、ジークファルクとそのパーティー達。

彼らは、強い。

 

用意された資料に目を通して随分と驚いたものだ。

冒険者登録をして間もないというのに、実技のほうでアースラーズのCランク冒険者を撃ち破っている。全員が、だ。

 

あの大人しそうなルシオラという少女でさえ、回復職であるヒーラーでありながら多彩な魔法を操り中級冒険者を下している。

我々で言うところの、天才というものなのだろう。

 

かつての大戦の後、自分なりにもサタナキアの事を調べてみたが、その異常性たるや。

実力至上主義の、生まれながらの戦闘民族。

現に、たった一国の軍隊にこの大陸を壊滅させられかけた。

 

我々人間とそう変わらない容姿や魔力量を持ちながらも、その器用な魔力コントロールで他の種族を圧倒する戦闘力を持つ民族。それが魔人。

 

彼等との交流が始まり、我が国の戦闘技能も随分と向上したものだ。

この発展が多くの犠牲を払った大戦によるモノだというのは随分と皮肉なものだが。

 

 

この大陸でかつては一部の者しか、それこそ英雄と称される者達でしか習得出来なかった複合職。それを当たり前のように使いこなす魔人。

それが使えなければ、強力なモンスターの跋扈する大陸で生きることさえ出来ない魔人。

 

そんな彼らが、アースラーズに属し、団長であるバトゥに教えを乞うている。

バトゥ。先の大戦の、オーガ族の英雄。

魔王ゼノと共にシュラール国を、この大陸を救った英雄。

 

彼の目的である、魔王となる為に。

今の統治されたドーナローズ国で魔王となると宣言した瞬間から周りの全てが敵となる。その無謀とも呼べる目標をパーティー全員で達成するために。

 

 

(彼らの鼻っ柱をへし折るのは、とても難しそうですね……)

 

 

ジークファルク達の初期冒険者ランクは経験不足故にEランクだが、戦闘力の方は……。

 

 

ふと楽しげに笑うアレンに目を向ける。

彼もまた、魔人とのハーフである。

故に先程言ったサーチャーとヒーラー。彼は十二分に役割をこなせるのだろう。

戦闘力の方はいかほどか。

 

 

何の因果か全く性格の違う魔人が同じ時にこの町で冒険者となった。

願わくば、良きライバルとして己を高めあっていって欲しいものだと願うマーリルであった。

 

 

そういえばオウカもまた、かつてのサタナキアと似たような境遇の国の出身だったような……。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はー。やっと着いた」

 

「ケツがいてぇ」

 

 

それ程長い時間座っていなかったが、やはり体を伸ばすと気持ちが良い。トキオと2人で伸びをする。

隣で女子達も体を解していた。

 

道中にトキオからさん付けはいらないと言われたので、これからは呼び捨てにさせて貰おう!

オウカさんでは無いけど、これはもはや友達という事なのでは!?

 

因みに、オウカさんもミニレさんもさん付けはいらないと言っていたけど、流石に女子を呼び捨ては……ねぇ?

 

改めて、目の前にはギルドの管理するダンジョンの入り口が俺達を待ち構えていた。

ダンジョンかぁ。初めて潜るけど試練の祠みたいなものかな?あの祠は辿り着くのも十分に試練だったのだけども。

 

 

「はーい!それでは早速ダンジョンに潜って貰いたいのですが、どちらのパーティーから行きますか?」

 

「俺達だ。さっさと終わらしてやるぜ」

 

ジークさんが不敵に笑って宣言する。

随分と自信満々のようだ。まあ、Fランク相当のダンジョン探索らしいし、俺達も気軽にやれば良いか。怪我の心配も無さそうだ。

 

「オウカさん、それで大丈夫ですか?」

 

「構いません」

 

マーリル先生の問いかけにオウカさんが力強く頷く。うーん。頼もしい。

それを聞いたマーリル先生が1つ頷き、ジークさん達に合図を送る。

ジークさん達が武器を携えて、悠々とダンジョンに潜るのを見送る俺達。

 

マーリル先生が気をつけてー!とジークさん達に声を掛けていたが、俺達は何故か誰も声を掛けなかった。

 

 

「へっ!いけすかないヤローだぜ」

 

「こぉら。そんな事言うものではありませんよ?トキオ君」

 

鼻を鳴らすトキオを困り顔で嗜めるマーリル先生。

マーリル先生には悪いけど、トキオ程では無いが俺もジークさんにはあまり良い印象を抱いていない。

彼の俺とオウカさんを見る目は、どこか見下しているような、そんな気配を感じるからだ。

 

「他の者などどうでも良い。気にするなトキオ」

 

「オウカ……お前、初めて俺の名前を……」

 

「黙れ寄るな泣くな馬鹿め」

 

「酷い」

 

 

トキオとオウカさんがじゃれあっているのを楽しく眺めている俺とミニレさん。

そういえば、あのお店がフォルトゥナの本拠地なのだとしたら、ミニレさんは冒険者としてでなく店員として働いていたのかな?

……うーん?

 

まあ、良いか。カイさんも言ってたしね。

誰が何の目的でなんて、探るのは野暮ってもんか。

 

 

「アレン君はー。入るクランとか決めたー?」

 

「ん?いやぁ、まだ決めてないよ。今のところ特に不便でもないしね」

 

「そうー?ウチはいつでも大歓迎だからねー」

 

ほわほわと笑うミニレさん。

おお。この町で有力なクランに勧誘されてしまった。へっへっへ。

しかし、クランか……。

俺がクランに属する事になれば、ジンさん達との交流も無くなってしまうような気がする。

 

ミニレさんには悪いが、ジンさんやカイさんと一緒に行動した方が良い経験になりそうな、そんな気がする。

でも、他のクランとの交流を突っぱねるってのも勿体ない気もする。

 

チラリとミニレさんを見れば、オウカさんにも勧誘をしていた。

オウカさんは少し悩んでいるようだけど、どうするのかな?

 

 

そうだ、ちょうど良い人が居るじゃないか!

 

「先生、質問良いですか?」

 

「はーい!なんでも聞いてくださいアレン君!」

 

「あざす!俺みたいにクランに属してなくても、クランの人達と一緒にクエストに行ったりするのって大丈夫なんですか?」

 

「良い質問ですねぇ!もちろん大丈夫ですよ!例えクランに属していても、いなくても、個人間の交流を咎める事は出来ませんからね!中にはそういったクランも有りますが、少なくともこの東区のクランにはそういった決まりのクランはありませんので、新人のウチはどんどん交流していってください!」

 

ほうほう。大丈夫なのね!

 

「ただし!いずれアレン君が有名な冒険者になった時には注意してくださいね?特定のクランとばかり交流していると、他のクランとのトラブルを招きかねませんので、いずれはその辺りを配慮して貰えれば大丈夫ですよ」

 

「なる程ぅ……ありがとうございます!」

 

ふむふむ。ジンさん達が他のクランの人達とクエストに行かないのはそういった理由もあるのかな?

その割にはフォルトゥナに迷惑を掛けていたみたいだけど……まあカイさんだしな、何も考えていないのかも。

 

 

「お!じゃあよーアレン!この研修終わったら一緒にクエスト行こうぜー!魔法の真髄って奴を見せてやるよ!」

 

「もちろんさ!でも魔法の真髄はこのクエストで見せてほしいな」

 

「私も私もー」

 

「うむ。その時は是非私も誘ってくれ」

 

へっへっへ。まだクエストに行ってないのにねぇ!同期って素晴らしいねぇ!

 

そんな話で盛り上がる俺達を、マーリル先生が一瞬だけ複雑そうな顔で見ていたが、良いですね!なんて笑って言ってくれた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あ!戻ってきましたね!」

 

 

ジークさん達がダンジョンに潜ってからまだそれ程時間はかかっていないが、入っていった時と変わらぬ様子でダンジョンから出てきた。

 

マーリル先生は、無傷で出てきたジークさん達を少し残念そうに見ていた。

?どうしたんだろう。簡単なクエストらしいし、喜ぶべき事じゃないのかな?

 

 

「魔石ってのコレだろ?」

 

ジークさんがマーリル先生にクエスト目標である魔石を投げて渡す。

先生はそれをキャッチし、ジークさんはサイラスさんに怒られていた。

 

「……はい!これでジークさん達はクエスト達成ですね!これで研修は終了ですが、町に戻られますか?」

 

魔石を見て何かを考えていたような先生だが、明るい笑顔でジークさん達に問いかける。

ワイバーンもそのまま2頭待機しているし、研修終了となればこのまま帰っても問題はなさそうだけど。

 

「どーする?ジーク」

 

「アイツ等が終わるまで待ってる」

 

メリッサさんがジークさんに問いかけていたが、ジークさんは少しも考える事無く即答していた。

ジークさんの視線は、俺を見ている。

 

「なあ、アレンっての。俺達は苦戦もなく無傷で終わったぜ?テメーはどうだ?」

 

 

挑発するようなジークさんの言葉。

不敵な笑みで俺を見ている。

リーダーはオウカさんなんだけどな。

 

「さあね。初めてだから分かんないな……ああ、中がどうなってるかなんて言わないでくれよ?それじゃ面白くない」

 

「へっ。そうかよ。テメー等がどんなザマで帰って来るか楽しみに待たせて貰うぜ」

 

 

俺も負けじと言い返す。ジークさんは相変わらずの表情で俺の言葉を聞いていた。

ジークさんの後ろで申し訳なさそうにしているサイラスさんとルシオラさんに肩を竦めて見せてから、ダンジョンへと向かう。

 

後ろでオウカさんが何か言いたげだったが許してほしい、喧嘩を売られたのは、俺だ。

皆も何も言わずに付いてきてくれた。

 

「ごめんね、オウカさん。リーダーは君なのにでしゃばっちゃって」

 

「なに。気にするな、あやつの物言いに私も思うところはあれど、アレンの気持ちも分かる。あれで良い」

 

ジークさん達から離れたところでオウカさんに謝罪をするが、彼女はカラカラと笑っていた。

その後ろで、気合い十分なトキオと、ほわほわ笑うミニレさん。

 

「だが、ここからは私に任せて貰うぞ?さあ、行こうか」

 

オウカさんが俺を追い越して、ダンジョンの前に立つ。

振り返って凛とした表情と声で俺達を見る。

ああ。行こうぜオウカさん。アイツの鼻をあかしてやろうぜ!!

 

俺達は気合い十分にダンジョンへと入っていった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

魔石の灯りが照らすダンジョン内に入り、俺は一番後ろを歩く。先頭はオウカさん。続いてトキオがいて、その後ろにミニレさん。

 

俺はサーチを展開して、周りに危険がないのをメンバーに伝える。

研修用のクエストとはいえ油断はしない。

俺は俺の役目を全力でこなす。一応全員分のポーションも持ってきたが、今のところ使う様子もない。

 

道中に簡単なトラップも仕掛けられていたが、俺のソナーの前では無意味よ無意味!

無機物だらけのダンジョン内に不自然な反応。最初にそれを見つけてしまえば、あとは似たような反応を探すだけだ。

 

鍵開け等のシーフ系の魔法は使えないけど、ただ進むだけなら俺のソナーでも十分だ。

 

特に苦戦もする事無くどんどんと階段を降りて行く。

最初は緊張していたトキオが拍子抜けといった様子で時折欠伸をしている。その声を聞いたオウカさんから怒られていたが、まあ、トキオの気持ちも分かる。

 

 

「どうやら、この先が最深部のようだな」

 

 

先頭を行くオウカさんが1つの扉の前で立ち止まる。

階段を3回ほど降りた頃に目の前に現れた、少しだけ豪華な扉。

 

「アイツこんな簡単なクエストで俺達に偉そうにしてたのかよ」

 

トキオが頭の後ろで手を組んで小馬鹿にしたように言う。

確かに、俺のソナーが無くても攻略できそうなトラップしかなかった。

トキオが間違えてトラップを踏んしまっても、飛んでくる矢じりに吸盤が付いた矢を得意の魔法で自力で焼き払っていたし。

 

 

「一応サーチしてみるね」

 

「頼む」

 

扉を開ける前に室内に向かってサーチを飛ばす。

一応、相手の体温を探知できるタイプのサーチを使用する。

ん……中に2人の反応が有るな。

2人とも気配を消す事無く、1人は自然体で、もう1人はソワソワと隣の人に話しかけているような反応。

 

 

「気をつけて、中に2人居る」

 

 

俺の言葉に全員が武器を構え直す。

オウカさんが俺達に1つ頷き、警戒しながら扉を開ける。トキオもすぐさま魔法が放てるように準備をしていた。

 

重いものを引きずるような音を出して扉が開く。

完全に扉を開ききる事無く数人が入れる程度の扉を開けて、オウカさんが素早く室内に飛び込む。

直ぐに続く俺達。

 

 

目の前には開けた空間と、その奥に2人の人物。

さらにその奥には台座があって、例の魔石が控えめな光を放っていた。

 

「?……なんだアイツら」

 

「あの魔石の番人……といったところか」

 

「あはははー。私とお揃いだねー」

 

トキオが2人の格好を見て首をかしげ、オウカさんは油断無く腰に差した刀に手を添えている。

ミニレさんも言葉こそ穏やかだが、手にしたハンマーを握り直している。

 

 

「あれは……着ぐるみ……?」

 

 

俺の目の前には、動きやすそうだが、不可思議な格好の2人組。

ピンク色のウサギの着ぐるみを着た、シルエット的には男性だろうか?なにやら文字が書かれている木製の柄の長い看板のような物をこちらに向けて持って、少しだらけて立っている人。

 

そして、こちらも同じく木製の看板をこちらに見せるように胸に抱えた……うん。あっちは女性だわ。抱えた柄が何をとは言わないが、とても強調してるもの。

黄色い猫の着ぐるみを着た女性。

 

 

「なんだぁ?なんか書いてあるな……ええと……?」

 

トキオが2人の持つ看板に書かれた文字を読み解こうとしている。

うーん?なになに……?俺も多少は読めるようになったもんね!

 

男性の方が【痛くします】

女性の方が【痛くしないでね】

 

と、書かれた看板を俺達に見せていた。

 

 

 

 

 

 

 



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嘘。本当は意識しまくり。思春期だもん

 

 

「ど、どうする?オウカ」

 

「あの魔石が私達の目的である以上、彼奴等をどうにかせねばならん。邪魔だてするならば倒すまでだ」

 

俺達の目の前には、看板を持った着ぐるみ2人。

書かれている看板の文字から察するに、戦闘を想定して待機していた2人だろう。

 

戸惑うトキオがオウカさんに聞いているが、彼女は勇ましく宣言をする。

俺も後ろでソナーを展開して、この室内に罠などが仕掛けられていないことをパーティーに伝える。

 

「うむ。相手は2人、こちらは4人。相手の実力が分からない以上は気を抜けないが、目的まであともう少しだ……行こう」

 

「作戦は?」

 

「急拵えのパーティーだ。ロクな連携もとれないだろう。各自、自分の力を振り絞って彼奴等を打倒しよう」

 

「りょうかいー」

 

オウカさんとトキオ。そしてミニレさんがゆっくりと、警戒しながら広場の中心へと向かう。

俺も3人の後ろを歩く。

見晴らしの良い部屋だ、サーチもそこまで広げなくても良さそうだ。

相手強さは未知数だ、体に魔力を纏わせて強化する。

敵は2人。

 

【はわわ、どうしましょうピョンさん】

 

【大丈夫大丈夫。相手は新人冒険者なんだからちょちょいのちょいだよニャンちゃん】

 

猫の着ぐるみ、ニャンちゃんがうさぎの着ぐるみ、ピョンさんにおろおろとした様子で、新たに用意した紙に文字を書いて見せ、それを見たピョンさんも励ましの言葉を書いてそれをニャンちゃんに見せる。

 

手間の掛かることを……。喋れば良いのに。

わざわざ俺達にも会話の内容を見せるようにしているところをみれば、俺達を随分と侮っているようだ。

 

「なめやがって!その着ぐるみを燃やし尽くして正体を拝んでやる!良いよな!?オウカ!」

 

トキオがピョンさんの文字に腹を立てたのか、杖を2人の着ぐるみに向ける。

このパーティーのリーダーはオウカさんだ。

トキオも確認を取る冷静さは持ち合わせている様だが、純粋にオウカさんへの恐怖心から来るものかも知れないのがトキオらしい。

 

「構わない。2人の能力が分からない以上、中距離から仕掛けるのも悪くない……ぶちかましてやれ」

 

「よーし!我が身に宿りし地獄の炎よ!我が敵を焼き尽くさんが為にその力を───」

 

「早くしろ!そんな詠唱などいらんだろうが!」

 

「ヒイッ……フ……ファイヤーボール!」

 

トキオが自分で考えたであろう、長い詠唱を聞いたオウカさんに叱られてシュンとしたトキオが、初級火魔法を2人めがけて放つ。

 

トキオの持つ杖の先からゴウッ!と音を立てて放たれた火球は、勢いよく真っ直ぐに相手に向かっていった。

その火球の背後からオウカさんとミニレさんが駆け出す。俺もその後に続く。

 

トキオの魔法を皮切りに戦いの火蓋が切っておとされた

 

迫り来る火球を見ておろおろとしていたニャンちゃんも覚悟を決めたように看板を投げ捨て、自分の武器であろう杖を構える。迎撃するつもりのようだ。

だが、その前に動いた人物。

ピョンさんだ。

 

平然とした様子でニャンちゃんを庇うように火球の前に立った彼は、肩に担いだ看板を両手で横に構え、そのまま勢いよく振り抜いた。

 

ブォン!!

 

と、凄まじい速度で振り抜かれた看板は恐るべき風圧を産み出して、迫り来る火球を掻き消し、その後に詰めていたオウカさんとミニレさん。そして、魔法を放ったトキオを部屋の壁まで吹き飛ばした。

 

 

「ぐわっ!」

 

「あー!」

 

「いってぇ!」

 

3人が壁に勢いよく叩きつけられて呻き声を上げる。

魔力で体を強化していた俺は、ピョンさんから放たれた凄まじい風圧をなんとか踏ん張る事は出来たが、壁に飛ばされた皆を心配して振り返る。

 

「みんな!!」

 

「アレン!前だ!」

 

!!

心配で振り返った俺にオウカさんの鋭い声が飛ぶ。

オウカさんの言葉を聞いて慌てて前を向けば、凄まじい痛みを腹に感じた。

 

いつの間に詰めていたのだろうか。

ピョンさんが俺の腹に跳び蹴りを放っていた。

 

「ぐあっ!」

 

魔力で強化されていた筈の俺のガードをぶち抜いたピョンさんの凄まじい蹴りを食らって、俺も壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。

 

 

全員が片ひざをついて目の前で悠然と佇むピョンさんを睨み付ける。

彼の手には、看板が。

ピョンさんは俺達に書かれていた文字に意識を向けさせるように、看板部分をコンコンと指で叩く。

そこに書かれていた文字は

 

【痛くします】

 

 

にゃろう……!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「舐めるな!」

 

いち早くダメージから回復したオウカさんが刀を抜きピョンさんに突貫する。

彼女も魔力纏いを使えるのだろう、凄まじいスピードでピョンさんに肉薄する。

 

オウカさんは上段に構えた刀を、ピョンさんを真っ二つにせんと振り下ろす。しかし、ピョンさんは手にした看板でいとも容易く受け止める。

そのまま勢いよく切り結び始める2人。

刀と木材がぶつかり合う音が室内に響く。

 

彼が手に持つ看板は自身の魔力で強化されているのだろう。両手で刀を握るオウカさんの刀を受け止めても傷一つ付くこと無く、ピョンさんは片手で器用に看板を操りオウカさんと切り結んでいた。

 

「くっ!」

 

ピョンさんがオウカさんの放った上段切りを、自身に当たるよりも早く看板で斜め上に弾く。

刀を弾かれて体勢を崩されてしまったオウカさんの腹に、ピョンさんの掌底が突き刺さる。

ドッ!と鈍い音とともに、掌底を食らったオウカさんが俺達の踞る壁まで飛んできた。

 

腹を抑えて呻くオウカさんの向こう側、ミニレさんと目があった俺は頷きあって2人でピョンさんに向かって駆け出す。

トキオは後ろでおろおろしていたが、近接戦闘では俺達を巻き込みかねない。

トキオもそれが分かっているのだろう、呻くオウカさんに駆け寄って介抱をしている。

 

「ミニレさん!俺が合わせる!自由に戦って!」

 

「わかったー!」

 

複数で戦った経験など無い俺だけど、仕方がない。

目の前に居る相手は単独で挑んでも勝ち筋が見えない相手だ、ならば、俺がミニレさんの動きに合わせれば良い。

 

先を走る俺はピョンさんを追い抜いて、少し距離を空けて彼の背後に回る。

さあどうだ!挟み撃ちだぜウサ公め!

 

俺とミニレさんが前後から攻める。

走った勢いそのままに飛び上がったミニレさんが手にしたハンマーを大きく振りかぶって、ピョンさん目掛けて振り下ろす。

 

背後に回った俺はピョンさんが受けても避けてもどちらでも大丈夫なようにその様子を伺う。

 

「えーい!」

 

ドゴン!!と凄まじい衝撃音が室内に響くが、ミニレさんの攻撃はピョンさんに当たること無く彼が立っていた地面にハンマーだけが突き刺さる。

凄まじい威力だ、どこか気の抜けた掛け声とは裏腹に、地面にはクレーターが出来ている。しかし、当たらなければ意味がない。

 

ミニレさんの攻撃を軽々と横方向に飛び退いて避けるピョンさん。俺が彼が着地する前に攻撃を仕掛けようと駆け出したとき、申し訳程度に展開していたサーチに反応が。

 

「!?なぬっ!?」

 

俺の側面から複数の風の弾丸。

エアバレットが俺を襲う。

突如現れた攻撃を無視して突っ込む事もできず、魔力で強化した腕で風の弾丸を弾く。

攻撃が飛んできた方を見れば、杖をこちらに向けたニャンちゃん。

馬鹿だ俺は!!敵は2人いたのにピョンさんに気をとられ過ぎた!!

 

 

「わー!……うげぇっ」

 

ドン!ゴッ!

という音と、ミニレさんの悲鳴。

慌ててミニレさんを見れば、オウカさんと同じくピョンさんに掌底を食らって壁に吹き飛ばされていた。

ピョンさんの片足の下には、ミニレさんの武器であるハンマーが地面に深くめり込んでいる。

 

俺がニャンちゃんに気を取られていたさっきの一瞬でミニレさんに肉薄したピョンさんが、ミニレさんが武器を構え直す前に彼女のハンマーを上から踏みつけて、地面にめり込ませたのだろうか。

そして、そのまま掌底。

 

「マジかよ……うおおっ!?」

 

合図も無くピョンさんをフォローしたニャンさんとの2人の見事な連携に呆気に取られている俺に素早く距離を詰めるピョンさん。

手にした看板を小脇に抱えて目にも止まらぬ蹴りの連打を放ってくる。

 

今の強化した体でも避けるので精一杯だ。

当たればただでは済まない威力の蹴りをなんとかかわし、ピョンさんの放った回し蹴りを体を屈めてなんとか避けた時に、バチン!!という音とともに体の側面に凄まじい痛みを感じて吹き飛ばされる。

 

 

何が起きた!?

と、吹き飛ばされながらピョンさんを見れば、こちらに背を向ける彼の小脇に抱えられた看板が目に写る。

回し蹴りは避けたと思ったが、俺から見えないように彼の体の背後に隠されてた看板部分で回転した勢いそのままに思いっきり体の側面を叩かれたようだ。

 

 

なんとか壁に激突する前に体勢を整えて相手を睨む。

目の前では、楽しげにハイタッチを交わす2人の着ぐるみ。

と……とんでもねぇ!!なんちゅう相手だ……!!

 

 

「たーいむ!!!」

 

 

恐ろしい相手を前に戦慄している俺の後ろで凛とした声が響く。あ、ニャンちゃんがビクリとしている。

 

目の前の2人から意識をそらすこと無くチラリと後ろを見れば、真っ直ぐに挙手したオウカさんが凛々しい表情で立っていた。

隣に居るトキオは勿論、あのミニレさんも少し驚いていた。

 

 

「そこな2人組、少しの間、たいむ、よろしいか?」

 

オウカさんの突然の宣言に戸惑う俺達と、ニャンちゃん。

ピョンさんはオウカさんの問いかけを聞いて、どこからか取り出したペンでこれまたどこからか取り出した紙にさらさらと何かを書き始めた。

 

その様子をドキドキとした様子で見守る俺達と、何故かニャンちゃん。

ピョンさんは文字を書き終え、律儀に紙を看板に貼り、俺達に見えるように看板部分を向ける。

そこに書かれていたのは───。

 

【良いよ!( =^ x ^= )】

 

 

あ、良いんだ………。

 

 

「かたじけない。……集合。パーティー全員集合!」

 

ピョンさんにペコリと頭を下げるオウカさん。

顔を上げて、俺達全員に向けて手招きをする。

全員が立ち上がりオウカさんの元へと集まる。

オウカさんが俺とミニレさんの肩に腕を回し、引き寄せる。

なるほど。そういうことね。

1人戸惑うトキオを俺とミニレさんが呼び、近づいてきたトキオの肩を2人で組む。

 

4人で肩を組んで、今更ながらヒソヒソと作戦会議を始めた。本当に、今更だけど。

女子と密着しているが、そんな事気にしちゃいられねぇ。一大事だ。

 

 

「あの兎、とてつもなく強いんだが」

 

「うん」

 

「武器とられたー」

 

「ジーク達はあんな奴相手に無傷で勝ったのか……?」

 

「それは分からん。だが、私達はこのままでは敗走必至だ。それは避けねばならん……しかし、あの兎が魔石を守っている以上突破は困難だ」

 

「そうだね……全員で行っても結果は同じだろうね」

 

「ていうか、あんだけ接近して動きまわられたら俺は何も出来ないぜ、攻撃したら皆を巻き込んじまう」

 

「武器ー」

 

「それに、もし魔法を放ったとしても無駄だろうな。平然と対処されて終わりだ」

 

「だろうね。格闘術もさることながらあのスピードだ、無駄に消耗するのは避けたい」

 

「ハンマーー」

 

「ミニレ、後であの兎に返してもらえないか聞いてみような」

 

「ありがとー……どうしよっかー」

 

「トキオ、お前はどれくらい攻撃魔法を使える?」

 

「一番威力が高いのは火の中級魔法だ。撃てて3発」

 

「アレンはどうだ?戦ってみて」

 

「ニャンちゃんなら俺が抑えられそうだけど、ピョンさんが許してくれないだろうし」

 

「ふむ……。ミニレ、トキオ。お前達はどうだ?あの猫を抑えられそうか?」

 

「ああ!と、言いたいところだが……わかんね」

 

「私もー。でもー。頑張るよー」

 

「お、俺もだ!頑張るぜ?」

 

「よし、アレン。お前の動きを見せてもらった。私と2人であの兎を抑える役目、頼んでも良いか?」

 

「もちろんさ。でも、それ程長くは持たないかも」

 

「だろうな。このクエストの成功はミニレとトキオ、お前達2人に懸かっている」

 

「へっ?」

 

「えー?」

 

「そうだね」

 

「アレンは分かっているようだな。良いか、お前達の役目は────。」

 

 

キョトンとするトキオとミニレさんに作戦を説明するオウカさん。

作戦を聞いたトキオは少しだけ強張った顔をしていたが、覚悟を決めたのか頷いて見せた。

ミニレさんも、ほわほわと笑って頷いている。

オウカさんと目があって、2人で頷き合う。

 

最後に、オウカさんが全員の顔を改めて見渡して、頷く。

俺達3人もオウカさんに力強く頷いて見せた。

 

さあ!反撃開始だ!ジークさんの鼻をあかさないといけないしね!

ここで躓くわけにもいかないさ!

 

 

作戦会議も終わり、俺達は4人揃って目の前の強敵と向かい合う。

俺達が作戦会議をしているのを律儀に待っていた2人は、どこから持ってきたのか、2人して座ってストローを使って飲み物を飲んでのんびりとしていた。どうやって飲んでるんだ。

 

「すまない。その足元のハンマーを返してもらってよろしいか?」

 

 

オウカさんもオウカさんでミニレさんと約束した事を律儀に2人に聞いているが……。

いや、流石にそれはどうだろうか……。普通、返す訳もないしなぁ。

 

【良いよ!( =^ x ^= )】

看板を見せて、足元のハンマーをズボッと軽々と引き抜くピョンさん。

それをミニレさんに向かって投げて寄越すと、ミニレさんはありがとー!とお辞儀をしていた。

それを見て手を振る2人の着ぐるみ達。

 

 

……いや、良いんかい。返すんかい。

なんとも毒気を抜かれる2人だが、ピョンさんの実力は本物だ。

さぁて……やってやろうか!俺達の底力を見せてやるよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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久々のべーやん登場(回想)

 

 

 

「我が愛刀"蒼"よ、その刀身に我が力を宿せ」

 

オウカさんが手にした愛刀の刀身全体を人差し指と中指を揃え、なぞる。

すると、刀身が薄いピンク色に染まり、魔力で出来た複数の、これまた薄ピンクの花弁の様なものがオウカさんの手に持つ刀の刀身を覆うように舞い始める

初めて見た技術だ。彼女独自の魔力纏いなのだろう。

 

「準備は良いか、アレン」

 

「うん」

 

オウカさんの問いかけに、俺も力強く頷く。

ピョンさん。少ししか戦っていないが、彼は間違いなくフレイ姉並みの相手だ。

家出をしたあの日と同等の魔力を体に纏う。出し惜しみなどしていい相手ではない。

 

「あの猫は任せるぞ二人とも。残念ながら、助太刀は……期待しないで欲しい」

 

「おう!俺達は俺達でなんとかするぜ。任せてくれ!」

 

「がんばろー!」

 

トキオも杖を握り直し、ミニレさんも拙いながらも魔力纒いをハンマーに施す。

慣れていない様子だが、きちんとハンマー全体に彼女の魔力が行き渡っている。

 

 

全員準備完了!あとは作戦通り、各々全力でやるだけだ!

 

「行くぞ!!アレン!!」

 

「おっしゃあ!!」

 

オウカさんが勇ましく吠え、魔力で強化した刀を握ってピョンさんに再び突貫する。

俺はその後ろで初級火魔法、ファイヤーボールを自分の背後に複数生み出してピョンさんに向かって真っ直ぐ走るオウカさんに当たることが無いよう、弧を描くようにピョンさんに向かって次々に発射する。

 

トキオの生み出したファイヤーボールが人の上半身くらいのサイズならば、俺のファイヤーボールは握りこぶしサイズ。

それを、50個程背後に展開した。

サイズの小さい、 数だけのファイヤーボールではない。

 

一律サイズと外見は一緒だが、それぞれ性能が違う。

スピードは有るが威力の弱いもの。

威力もスピードも無いが、当たれば弾けて炎を撒き散らすもの。

スピードも炎を撒き散らすことも無いが、純粋に威力だけを高めたもの

 

それを、次々にピョンさんに向かって打ち出す。

あらかじめオウカさんと打ち合わせをしていたので、背後から彼女を追い抜いていく俺の魔法に怯むことはない。

ただただ、真っ直ぐにピョンさんに向かっていく。

 

ピョンさんは最初にしたように火球をオウカさんもろとも吹き飛ばそうとはせずに、横方向に素早く走り出してオウカさんとの距離を空けようとしている。

 

ちっ!俺の放った魔法の特性に気付いたか!

 

 

彼もサーチを展開しているのだろう。ピョンさんは瞬時に俺の放った魔法の特性を見抜き凄まじい脚力でオウカさんを旋回して、魔法を制御している俺に向かってきた。

 

「ちぃっ!」

 

凄まじいスピードで俺に迫るピョンさん。

俺は撃ち出さずに背後に展開していたままの火球を、突っ込んでくるピョンさんに向かって発射する。

 

ピョンさんは俺が放つ3種類の火球を

スピードだけのものは腕で弾き飛ばし。

火を撒き散らすものは避け。

威力を高めたものは、なんと看板を使って俺に向かって弾き返してきた。

 

「なにぃっ!?」

 

背後に展開した火球は全て簡単に対処されて、さらには俺の火球を自分の攻撃へと転用して使って来やがった!

ピョンさんから弾き返された火球は、どうやったのか、俺が込めた魔力以上の威力を持って俺に襲いかかる。

 

「くそっ!」

 

向かってくる火球を腕で弾く。

今の俺にこの程度の火球など大したことは無いが、弾き返された事に驚いてしまう。

そのまま、肉薄したピョンさんと想定外の格闘戦を開始する。

 

凄まじい打撃音が室内に響く。

今の俺であっても、互角に打ち合う事しか出来ない。お互いに攻撃は当たること無く、何度も何度も移動しながら打撃を重ねる。

 

「私を忘れるなよ!兎!」

 

格闘戦をする俺の正面、ピョンさんの背後から追い付いたオウカさんが横凪の斬撃を放つ。

 

ギャイン!!

 

と、魔力同士がぶつかる凄まじい音。

不意をついた筈のオウカさんの横凪の攻撃は、後ろに目でも付いているのか、ピョンさんが手にした看板で軽々とガードされてしまう。

 

だが。

 

ニヤリと笑うオウカさんが見えた。

刀での攻撃は防がれた。しかし、刀身に纏われた花弁一枚一枚が離れて飛び、ピョンさんへと襲いかかる。

すげぇ!そんな攻撃があるのか!

 

 

花弁がピョンさんを襲う。

肉薄していた所にまさかの飛び道具だ。

しかも、俺と戦いながら無理矢理ガードして体勢を崩した今ならば、当たる!

流石に対処は難しいだろうよ!

 

スパパパパ!!

 

と、花弁がピョンさんを斬りつける。

さらに駄目押しだ!

花弁に襲われて意識が俺から一瞬だけ逸れた所を見逃さず、オウカさんの花弁攻撃が終わったタイミングで前蹴りをピョンさんの腹にぶち込む。

 

ドゴッ!

 

という轟音とともに吹き飛ぶピョンさん。

よっしゃあ!手応えありだ!!

 

凄まじい勢いで壁に向かって吹き飛ぶピョンさんを見ながら俺とオウカさんが何度も頷き合う。

最初の予定とは大きく外れてしまったが、それでも連携してダメージを与えることに成功したのだ。

2人でならば、あのバケモノ相手にも十分に戦える!

 

「この調子で──」

 

「──────!!」

 

オウカさんが俺に何かを言いかけて、それに応えようとした瞬間に

 

 

俺とオウカさんの間をピンク色の影が通り過ぎた。

 

 

?……なにが……。

その瞬間、全身に凄まじい激痛。

なんだ。なにが。何が起きた。

殴られたのか。蹴られたのか。

まさか────全部か。

 

オウカさんは。オウカさんはどうした。

 

俺の目の前で膝から崩れ落ちるオウカさんが見えた。

全身を魔力で強化していてなお、凄まじいダメージ。

ピンク色の影が通り過ぎたと思ったら、気が付いたらやられていた。

 

なんとか踏ん張り、前のめりに倒れる事を拒否する。

ピンク色の影が通り過ぎた先を見る。

そこには、平然とした様子で服についたホコリを払うピョンさんがこちらを向いて立っていた。

 

 

油断。慢心。

絶対に。絶対に気を抜いてはいけない状況で、一撃入れただけで気を抜いてしまった───大馬鹿だ!!俺はァ!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アレンとオウカが戦闘を開始した同時刻。

トキオとミニレもまた、猫の着ぐるみと戦闘を開始しようとていた。

 

(そりゃあなんつー魔法だよアレン!)

 

トキオの視界の端で、アレンが見たこともない魔法を発動していた。

先ほどの作戦会議では、アレンは火と水の初級魔法しか覚えていないと言っていた。

 

ならば、あれは火の初級魔法なのだろう。

火の初級魔法はトキオは全て覚えたが、あのような魔法は見たことがない。

形状的には、ファイヤーボールだが……。

 

(いやいや、そんなもん後で聞けば良いな。今は、こっちだ)

 

 

同じ魔法使いであろう猫の着ぐるみも、アレンの魔法が気になったのか、トキオと同じようにアレンに意識を向けていたようだが、2人とも一緒のタイミングで頭を振って意識を切り替える。

 

これから戦うのだ。集中せねば。

 

と、その時。

 

「えーい!」

 

「!!」

 

どこか気の抜けた掛け声がトキオから離れたところから聞こえる。

アレンの魔法に、ミニレだけが気をそらすこと無く冷静に猫の着ぐるみの隙を狙って攻撃を仕掛けた。

 

気をとられて接近を許した事を反省した猫の着ぐるみは、兎の着ぐるみに言われた事を思い出す。

 

ハンマー娘は接近されちゃダメ。中距離からチクチクやっちゃいな。

接近されたら、攻撃するときに隙が有るから、出来るならその隙を狙って下がりながら魔法で攻撃ね。

一撃で持っていかれるから、攻撃を食らったらダメだからね。

 

 

(だったね!ピョンさん……!)

 

猫の着ぐるみに向かってハンマーを横に振りかぶって攻撃を仕掛けようとするミニレ。

 

ブォン!!

 

と、凄まじい音。

手応えは無し。

猫の着ぐるみは魔法を使って一気に下がる。

 

風の初級魔法。ウィンドウォーク

足に風を纏わせて、ホバー移動で機動力を上げる風の初歩的な移動魔法。

 

一時的に距離は詰められたが、教え通りに距離を空けることに成功した。

そして、ウィンドウォークを解除して攻撃が空振りして無防備になっているミニレに向かって、エアバレットを撃ち込む。

 

「あらー」

 

冷や汗をかいて自身に迫る風の弾丸を見るミニレ。

当たったら痛いかもー。

なんて思っていると、横からミニレを守るように炎の波が広がる。

 

「ごめん!遅くなった!」

 

火の初級魔法。ファイヤーウェーブ。

炎の波が風の弾丸を吸い込み、かき消した。

 

杖を構えてトキオがミニレに並ぶ。

アレンに気をとられて遅れてしまったが、ミニレがダメージを負うことは無かったから大丈夫だ。大丈夫だよね?

と、内心冷や汗を流すトキオ。

 

自分達の隣では凄まじい攻防が繰り広げられているが、それはそれ。

今はこっちだ。俺達がこのクエストの成功の鍵なのだ。

 

 

失敗したら、あの化け物相手にたった2人で挑んでいるアレン達に申し訳が立たない。

あの化け物と比べたら目の前のニャンちゃんのなんと可愛い事か。

 

(やってやる!だから踏んばってくれよ!アレン!オウカ!)

 

(まっててねー。この人すぐに倒してー。皆で美味しいご飯を食べようねー!)

 

 

杖とハンマーを構えた3人が改めて向かい合う。

このクエストにとって大事な戦いが始まる。

 

トキオとミニレに与えられた任務はいたってシンプル。

ニャンちゃんを倒して、魔石を奪い取る。

ただそれだけだ。

トキオもミニレも、2人であの猫の着ぐるみを倒せば良いのだ。

 

自分達に与えられた任務など凄まじい打撃音と共に縦横無尽に駆け回る隣の戦場に比べたら、なんて事はない。

 

チラリと隣のミニレを見る。

油断無く相手を見つめる、ハンマーを手に持つ兎の獣人。

あの兎の着ぐるみだってミニレの攻撃は受けること無く回避していた。

この猫も言わずもがな、必死で避けていた所を見れば、ミニレの攻撃さえ当たってしまえば勝利は目前だ。

 

つまり、自分の役割はあの猫の足を止めること。

トキオは1人、後ろから目まぐるしく動く戦況を1人で見ていたのだ。ピョンさんという規格外はまずは捨て置く。

目の前のあの猫は、魔法を見た限りでは大した脅威ではない。

トキオは杖を強く握り直した。勝機は、この場所にしかない。

あとは、アレン達があの兎をうまく引きつけておいてくれれば良い。

 

 

 

ミニレもまた、ほわほわとした笑顔の奥で思考を巡らせる。

彼女はこのクエストをかつて受けたことがある。

一年ほど前だろうか。自分が初めて冒険者登録をした時の話だ。

 

今回、ミニレは嘘をついてこの研修に参加している。

彼女は新人冒険者などではなく、一年以上フォルトゥナに在籍している冒険者だ。

 

彼女の本来の目的、それはアレンを観察する事だった。

フォルトゥナの団長、レティシアのコネをフルに使って今回のこの研修に潜り込んだ。

誰にも属さないと思われていたジンとカイが初日から面倒を見ているという少年。

有用ならば、こちらのクランに引き入れたい。

そして、あわよくばジンとカイも。

それが、彼女の任務だった。

 

彼女ただ1人が、別の任務で動いていた。

パーティー全員を騙して。

 

だが、どうだ。

隣では必死に圧倒的強者に挑む2人の新人冒険者。

アレンとオウカの技量は新人冒険者……いや、フォルトゥナの幹部にだって勝るとも劣らぬ力を持っている。

 

それが、必死の形相であの兎の着ぐるみに食らいついている。パーティーの為に。勝利の為に。

 

ミニレは、のほほんとしたのんびり屋さんという印象を周りに与える。無論、それは正しい。

しかし、彼女は穏やかな笑みの裏に熱い血潮を持っている。

 

あの2人には出会ったばかりだ。それこそ、半日にも満たない。だが、しかし。

それがなんだというのだ。あの2人は、自分とトキオに全てを託してあの化け物を足止めしているのだ。

自分達ならばやってくれると信じて。

理屈ではない。魂で感じた。

 

 

ここで、この状況で燃えないミニレではなかった。

 

(あとで沢山謝ろうー。でもー。まずはー)

 

手にしたハンマーに力を込める。

ほわほわ笑う笑みを消し、目の前の敵を睨み付ける。相棒は少しばかり頼りないが、頼りにしている。

 

 

そして、一気に駆け出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(ピョンさんが凄い。そして────。)

 

この子達も。向こうでピョンさんと戦うあの子達も。

猫の着ぐるみの中で彼女は思う。

 

 

移動魔法を使ってハンマーを持つ少女の接近を許さず、迫りくる火球を風の障壁でかき消す。

ハンマーの少女の一撃の威力は見たし、感じた。

自分が食らえば一撃で終わりだ。

魔法使いの少年はこちらの移動する先を的確に予測し、じわりじわりと逃げ道を潰すような火球を放ってくる。

 

止まればやられる。逃げ続けても、魔力切れでやられる。どちらか片方を倒さねばならない。

今の自分には随分と荷が重い相手だ。

 

仮に、向こうにいる1人がこっちに来ていたら、自分など一瞬でやられていただろう。

 

もっとも、その場合はピョンさんがすぐに助太刀に来てこの子達のクエストは失敗に終わっているだろうが。

 

自分は今日、軽い気持ちでこの研修に参加した。

 

自分もかつては、数年前に受けたことがある授業の一環としての新人研修。

受けた区こそ違うが、同じ場所で、同じ条件。

クエスト達成条件は、魔石を獲得すること。

 

自分達の時はどうだっただろうか。

仲の良い友達と遠足感覚でダンジョンに潜って、笑いながらクエストに失敗した。

先輩がコソっと教えてくれたのだ。失敗を前提にしたクエストであると。

だから負けても、先輩達強すぎー!なんて、ろくに足掻くこともせずに皆して笑っていた気がする。

 

 

あの日の自分達は、このように必死で勝ちに行ってはいなかった。

あの日の自分達は、このように全員で協力なんてしていなかった。

 

 

自分に必死に向かってくる彼女達が凄く眩しい。

どうして、どうして───。

あの日の自分達は、何故こんなに一生懸命になって全員で圧倒的な強者に戦いを挑まなかったのだろうか。

勝てなくても、初めから達成が厳しいクエストだと分かっていても。

あの日、全員でこのようにもがきながら勝ちを拾いに行っていたら、何かが。何かが───。

 

 

(しまっ……!!)

 

 

避けたと思った火球が当たり、熱を感じて体勢を崩す。

目の前には、自分を倒さんと迫り来るハンマー。

避けられない。着ぐるみの中でいずれ訪れるであろう痛みに怯えて目を瞑る。

 

 

「そん……なぁー……」

 

「うそ……だろぉ……」

 

……?

痛みが来ない……?

聞こえてくる少年達の悲痛な呻き声。

恐る恐る目を開けると。

目の前には自分に迫るハンマーを軽々と受け止めるピンク色の背中。

 

そして、彼と彼女に絶望を告げる、ピンク色の背中。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なんでお前がっ!……アレン達は!?」

 

トキオは慌ててかつてアレン達が戦っていた場所を見る。

そこには、倒れ伏すオウカと、倒れてはいないが、痛みをこらえるアレンの姿。

 

その奥に、2つの足跡が刻まれた壁が見える。

 

「う……うあぁぁあああ!」

 

ミニレが兎の着ぐるみが掴むハンマーを振りほどこうとする。

しかし、凄まじい力で握られたハンマーが放れないと分ると、手放して雄叫びを上げて兎の着ぐるみに殴りかかる。

 

しかし、それを軽々と避ける着ぐるみ。

 

「あと少し!あと少しだったのにぃ!!このヤロぉー!!」

 

トキオもまた、着ぐるみに殴りかからんと走り出す。自身に残る魔力も心許ない。ならば、せめて。

 

アレンとオウカ。2人がかりでも勝てなかった相手だ。自分達ではどうしようもない。

だからといって、ミニレもトキオも、殴りかかるのをやめなかった。

 

ミニレから奪ったハンマーを肩に担いで、2人から放たれる打撃を軽々と避ける兎の着ぐるみ。

時にはパンパン!と片手で軽い打撃を食らわせ、体勢が崩れたところに足払いをかけて転ばす。

 

それでも歯を食いしばって立ち上がり、何度も挑む2人。

何度も、何度も、何度も。

 

 

(どうして……)

 

 

猫の着ぐるみ。彼女の目の前で何度も立ち上がっては転ばされ、それでも諦めること無く立ち向かう2人の姿。

 

(どうして、そんなに、必死で……)

 

着ぐるみの中で悲痛な表情を浮かべる。

自分を守ってくれているピンクの背中は、相対する2人にとってはどこまでも絶望的な相手だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ぐっ……」

 

「オウカさん!」

 

俺の横でオウカさんが呻き声を上げる。

魔力纒いで強化をしていて尚感じるこのダメージだ。

オウカさんからはそれ程強い強化を感じない。

受けたダメージは相当なモノだろう。

 

「オウカさん、これを」

 

「す……すまない…!」

 

俺はズボンのポケットに無造作に突っ込んでいたポーションを2本オウカさんに渡す。

あの激戦の中で良くもまあ割れずに無事だったものだ。

 

俺から受け取ったポーションを一気に飲み干すオウカさん。

カイさんと出掛けた先で拾ったヨギを使って作ったポーションだ。中級ポーション並みの回復力はある。

 

「ふう。……お前は?」

 

「俺は大丈夫。自力で回復できるんだ」

 

 

ポーション飲み干してダメージの回復したオウカさんが刀を手に立ち上がる。

俺にポーションの使用を聞いてくるが、人数分しか持っていていない。つまり、残り2本。何かあった時用に多く残しておきたい。

 

 

向こうではトキオとミニレさんがあのウサ公と戦っている。早く合流しなければ。ていうかあの2人に残りのポーションを渡さないと。

 

この技は魔力をかなり消費してしまうからあまり使いたくはないが、そうも言っていられない。

俺は体内の魔力を自身のダメージの回復にあてる。

 

込めた魔力の分だけみるみるダメージが回復していく。

ちなみに、魔力をほぼ使ってしまうが、即死でもしない限りはどんな傷でも回復出来る。もっとも、魔力の無い状態でそこまで深傷を負わせられた敵を相手に何が出来るんだって話だけどね。

 

 

「っと!のんびりしている場合じゃないな!早くアイツをあの2人から引き剥がさないと!」

 

「そうだな……だが……」

 

 

凛としたオウカさんが弱気な表情を浮かべる。

無理もない。一撃二撃は食らわせたが、アイツの反撃で2人ともこの様だ。オウカさんにいたっては何をされたのかも分かっていないだろう。

 

 

「大丈夫」

 

「え?」

 

「諦めなければ、俺達なら大丈夫さ」

 

「アレン……」

 

俺はオウカさんに向かって力強く笑う。

そうだ。そうだとも。

この程度の苦難、乗り越えられなくてどうするよ。

序盤も序盤。まだ俺達は始まったばかりなんだ。

 

 

「そうか、そうだな……すまん!弱気になった!もう大丈夫だ!」

 

どこかで聞いたような台詞を言うオウカさんに思わず笑ってしまう。

だが、確かにこのまま行っても結果は同じだろう。策を練らなければ。

 

どうしたものかと頭を悩ませていると、不意にべーやんとの会話が頭を過る。

そうだ、あれは、家出をする少し前の事。

フレイ姉に勝ちを取りに行って惜敗した時の事だ

 

 

──アレン、良いか?お前の強みってのはな、あの嬢ちゃん達それぞれに鍛えられた事だ。

お前は嬢ちゃん達の教えを良く学び、吸収してきた。今はまだ個々の能力に劣るかもしれない。だが、それはあくまでも相手があの嬢ちゃん達だからだ。

 

今だって

フレイの嬢ちゃん以外に格闘戦で負けそうか?

ウィンの嬢ちゃん以外で魔力の扱いで負けそうか?

だろう?

相手からしたらこんなに恐ろしい事はない。

 

なんたってドライグ国の精鋭が一気に襲いかかってくるようなモンだ。

それが、今のお前なんだ。

嬢ちゃん達の教えを信じているだろう?

だったら、お前も信じろ。お前がお前を一番信じるんだ。

それが、お前の強みだ、アレン──

 

 

そして、家出した日のフレイ姉の最後の教え。

俺の持ち味をフルに生かす。

持てる魔力の全てを出し切って、勝つ。皆で勝つ。

そうだ、あれも聞いておこう。

 

「オウカさん。遠距離攻撃有る?威力の高いやつ」

 

「あ……ああ、1つだけならば」

 

「よっしゃ!やったろうぜ?俺がアイツの足を止めるからさ、やったったろうや!」

 

「ああ……ああ!そうだな!やられっぱなしは性に合わん!やってやろう!アレン!」

 

 

へっへっへと2人して笑い合う。

相手はあの日のフレイ姉よりも強いかもしれない。

だけど、こっちにだって心強い味方が3人もいるんだ。

つまり、トントンだ。

 

さあ行こう。2人がそろそろマジでヤバイ。マジでゴメン。ホントゴメン

気合い十分で歩きだした俺の前にあるものが見えた。

これは─────。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おーいこらウサ公こらぁー!俺の仲間に何やってんだこらぁー!!」

 

俺は大声であの忌々しい兎を呼ぶ。

俺の大声に反応したトキオがこれまた大声で

おせーぞアレンこのやろー!!

と、怒っていた。

どうやらだいぶコテンパンにやられたようだ。

 

ミニレさんも俺とオウカさんの姿を見て安心したように腰をおろして

おそいよー!ばかー!

なんて両手を上げて怒っている。

 

へっへっへ。マジごめん。

 

ハンマーを肩に担いだ憎きウサ公がこちらを見る。

表情は見えないけれど、やっと来たかと笑っているような気配がする。

 

 

「おいこらぁ!ウサ公こらぁ!」

 

ウサ公が投げ捨てたであろう看板を拾って、看板部分を相手に見せてトントンと指で叩いて文字をアピールする。

その文字はもちろん

 

【痛くします】

 

だ。

 

 

それを見て声こそあげないが、体を揺らして笑ったような動作をするウサ公。

楽しそうで何よりだよちくしょうめ!度肝抜かしちゃる!!

 

 

「オウカさん。2人にこれを。タイミングは合図するよ」

 

「承知」

 

オウカさんにポーションを2本渡す

彼女は力強く頷いて、2人に向かって駆け出した。

 

ウサ公は肩に担いだハンマーをミニレさんに渡していた。戸惑うミニレさんだったが、ウサ公にポンポンと優しく頭を叩かれて、これまた大いに戸惑っていた。

 

オウカさんとすれ違いながら、ウサ公はニャンちゃんが投げ捨てた看板を拾い、肩に担ぐ。

ゆっくりと俺に向かって歩いてくるウサ公。

へっへっへ。なんて威圧感だよちくしょうめ。

ただただゆっくりと歩いてくるだけなのに、おかしな格好に似合わぬ圧倒的な強者の風格。

 

 

俺は目を瞑り、ふぅー。と長い息を吐き出す。

体全体に魔力を纏わせる。もちろん、看板にも。

そして、背後に火球を展開する。

全て当たったら弾ける奴だ。

アイツはこれだけは避けていた。

 

「今度の俺はちょっと違うぜ?」

 

なんて、不敵に笑って宣言すると、ウサ公が手のひらを上に向けてちょいちょいと手招きをする。

へっへっへっへ!!

やってやらぁ!

 

駆け出した衝撃で地面を壊す程の脚力で一瞬で肉薄して、看板を袈裟斬りに振るう。

そして、待ち構えていたウサ公もまた、看板で俺の攻撃を受け止める。

 

ギャイン!!

 

と魔力同士がぶつかり合う音を聞きながら、俺は背後に展開した火球を至近距離から複数ウサ公に向かって放つ。

 

ちぃっ!!なんつー反応だよくそったれ!!

 

至近距離から迫り来る火球を見て、ウサ公はなんと、俺の視界から一瞬で消えた。

拮抗していた力が抜けて前のめりになる。

目の前では、目標を失った火球が地面に当たり、爆ぜる。

 

「右ィ!」

 

ウサ公は俺の右側に体を低くして回り込み、下から看板を俺に向けて振り抜こうとしていた。

サーチを使っていた俺は瞬時に右に向き直り、下から迫る看板を足の裏で踏みつけるようにガードする。

 

「ぐぅっ!」

 

凄まじい衝撃に体が浮きそうになるが、足を押さえ込んで飛び上がるのを堪える。

しかし、ウサ公は手にした看板を手放す。

またもや踏ん張っていた力がガクンと抜ける。

 

体勢の崩れた俺に向かって低い体勢のまま器用に体を回転させて俺の鳩尾を目掛けて鋭い蹴りを放ってきた。

 

ここだ!!

 

ウサ公が放った蹴りは俺に当たること無く空を蹴る。

 

転移魔術。

この大陸では、テレポーテーション。

うーん。長いから転移で良いな。

 

転移を使い、ウサ公の真上に現れた俺は、無防備にこちらに背中を晒すウサ公に向かって魔力を込めた拳を振り下ろした。

 

「オラァァ!!」

 

ドゴン!!

 

ウサ公の背中に突き刺さった俺の拳と、ウサ公の体が地面に激突した。

衝撃音と、確かな手応え。

 

「まだだ!!」

 

この機を逃さんと倒れ伏すウサ公の背中に馬乗りになって両手の拳を使って背中に連打を叩き込む。

 

ドゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!

 

とウサ公の体が地面にめり込む程の強烈なラッシュ。

このままだ!このままここに縛り付ける!!

逃がしてはならない!ウサ公の気配が一向に弱くならない!!

 

自然と冷や汗が頬を伝う。

攻めている。間違いなく攻めている筈なのに───!!

 

 

ガン!ガン!

 

と、倒れ伏すウサ公の両手が地面を支え、背に乗る俺ごと体を起こし始める。

まるで、俺のラッシュなんて効いていないかのように。

 

そして、ウサ公は腹這いのまま腕と脚の力だけで俺ごと空へと飛び上がった。

 

 

「うおっ!」

 

予想だにしていなかったウサ公の行動に驚いてラッシュを止めてしまう。馬乗りになっていた俺も浮き上がり、密着していたウサ公の体から放れてしまう。

そのままウサ公は瞬時に体を回転させて、俺の脇腹に向かってフックを放ってきた。

 

「当たるかぁ!」

 

再び転移を使い、地面に現れる。

空にいるウサ公が体勢を整える前に攻撃をしなければ!

慌ててウサ公を見上げれば、すでに体勢を整えたウサ公と目があった。

 

やはり、着ぐるみの中でとても楽しそうに笑っている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最終話 アレンの冒険

 

オウカがミニレとトキオと合流し、息も絶え絶えに座り込む2人にアレンの用意していたポーションを手渡す。

ポーションを受け取った2人が感謝と共にそれを飲むのを見守り、魔石の置いてある台座付近を見る。

 

側には猫の着ぐるみも見える。

じっとアレンと兎が戦っている方を向いて立っていた。

魔石を守るように立っては居るが、立っているだけ。

オウカはそのように感じた。

 

 

オウカも、アレンと兎の方を見る。

目の前で異常ともとれる激戦が繰り広げられている。

アレンのあの瞬時に消えて現れるあの技はどのような技術なのだろうか。

アレンが目にも止まらぬスピードで兎と戦っている。単独で、あの兎と渡り合っている。

 

しかし、兎もまた、さる者。

 

一度はアレンも一杯食わせたようだが、すでに兎はアレンの技術に対応したのか、消えては現れて攻撃を仕掛けてくるアレンに対して互角以上に立ち回っている。

やはり、凄まじい反応速度だ。

一見すれば必殺のタイミングで放たれたと思えるアレンの攻撃を見切って、受け流している。

なんという化け物か。

 

もはや今の自分にあの2人の攻防を満足に見ることなど叶わない。

それだけのスピードで、2人は戦っていた。

 

 

「……ああやって使うのかー」

 

 

オウカのすぐ近くで地面に座り込むミニレがポツリと呟く。

全ては見えなくても、攻撃の瞬間や足を止めての攻防の際にはなんとか2人の動きが確認する事が出来た。

 

オウカがミニレを見ると、手にしたハンマーを力無く握り、アレンと兎を見ていた。

改めて、凄まじい激戦が行われている戦場に目を向ける。

ああ、なるほど。と、オウカ。

 

兎は戦い方を変えたのか、手にした看板を剣としてではなく、ハンマーのようにして使っている。

看板を短く持って、石突きや頭部分を使ってコンパクトに打撃を重ね、相手を崩してから一気に攻撃を叩き込んでいる。

 

ミニレの一撃必殺に全てをかけた戦い方よりも随分とスマートかつ、的確に相手にダメージを負わせる戦い方。

アレンの打撃や斬撃をハンマーの柄で受け、弾き、いなす。

決して大振りなどせずに堅実に立ち回り、アレンの隙をついてから攻撃している。

 

どうやら、あの兎はハンマーの扱いにも精通しているようだ。

 

(ふん……最初から勝てる道理の無かった相手……か)

 

目の前では、あの兎がミニレにハンマーの扱い方を教えるような、そのような戦い方でアレンと戦っている。

相手をしているアレンもコロコロと戦闘方法が変わる兎に四苦八苦しているようだ。

必死の形相で兎に食らいつくアレン。十分に戦えている。だが、それも。戦えているだけに過ぎない。

いつまで経っても有効打は与えられずにいた。

 

アレンとて持てる全ての力を出して戦っているのだろう。

縦横無尽に消えて現れては格闘戦を仕掛け、隙を見つけては背後に展開した火球を的確に相手にぶつけている。

高速戦闘の最中に集中を切らすこと無く、随分と器用かつ、綿密な魔力コントロールだ。

 

どれ程の研鑽を積めば、あのような事が出来るようになるのか。

同い年であるというのに、今のオウカなど足元にも及ばない程の実力をアレンは持っていた。

 

だが、兎は、アレンのその悉くをはね除けている。

アレンの積み上げてきた修練を嘲笑うかのように。

 

 

(だが、それがなんだというのだ。諦める道理にはなるまいよな。アレン)

 

激闘の最中、必死の形相のアレンだが時折笑みを浮かべている姿が見える。

圧倒的強者。自分の全てを出しても尚届かぬ相手。

それでも。それだからこその笑み。

 

 

「トキオ、魔法はあとどれだけ放てる?」

 

「えっ?あー…そうだな。デカいの一発だけなら」

 

オウカの問いかけに肩に掛けた赤いコートに手を伸ばすトキオ。

うむ。と頷くオウカ。

 

「3人で魔石、取りに行くか?」

 

トキオが猫の着ぐるみを見る。

オウカと合流した今ならば、あの猫を倒すことなど容易いだろう。

猫はこちらを見ることもなく、依然としてアレンと兎の戦いを眺めている。

しかし、トキオの提案を首を振って否定するオウカ。

 

「いや、あの兎、忌々しい事にアレンと戦いながらもこちらに気を回す余裕があるようだ。魔石を取るには、やはりアレを倒さねば」

 

「うへー……マジかぁ」

 

「ふ。諦めるか?」

 

「冗談だろ。最後までやるぜ俺は。もうジークなんてどうでも良いや。アレンに笑われちまうよ」

 

杖を持ち立ち上がるトキオ。

オウカの隣に並び、アレンを見守る。

冒険者となって日の浅いトキオには、2人の戦闘がどのように行われているかなんて、さっぱり見えていないが。

それでも、必死で戦っているのだろうアレンを見守る。

自分など、まだ何もやっていない。

 

「何か手はあるのー?オウカちゃんー?」

 

ミニレもまた、立ち上がってオウカと並ぶ。

アレンもオウカもトキオも、諦めるつもりなんてさらさら無さそうだ。もちろん、自分も。

ここまで来たのだ。最後までやり抜く。全員で。結果はどうであれ、ここで諦めたら、これからの人生最後まで後悔しそうだ。

そんなのは、嫌だ。

 

 

「なに。やるだけやってみるさ」

 

偶然集まった4人だ。

交流など、道中のワイバーン便の中でしかしていない。それも、世間話程度だ。

お互いの事など何も知らない4人。

どんな思惑があって、何の目的で冒険者になったのか何も知らない。

しかし、そんなものは後から話せば良いのだ。

このクエストを終えて、食事でもしながら。

 

だからこそ諦めない。だからこそ、逃げない。

アレンのように、自分達も。

ここで投げ出してしまっては一生悔いが残る。

 

 

正確に放たれていたアレンの火球が、全くの見当違いの場所へと放たれた。

アレが合図なのだろう。

 

さあ、今行くぞアレン。

あの忌々しい兎に、私達の力を見せてやろうじゃないか──!!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(エゲつねぇ!!なんなんだコイツは!!)

 

最大の切り札である転移すら使ってなお、届かない相手に俺は自然と笑みをこぼす。

もちろん、諦めの笑みなんかじゃない。

 

新人研修で世界の広さってやつをありありと見せつけられた。

強い。この兎は、はちゃめちゃに強い。

ただひたすらに強い。何もかもが、俺の上を行く。

 

さっきまで看板をハンマーのようにして扱っていた。

まるでミニレさんにハンマーでの立ち回りはこうであると教えるかのように。

実際、かなりの攻撃を食らった。

 

そして、俺にも。

俺にとってはベストのタイミングで、必殺のタイミングで攻撃したと思っても、軽く避けられるか、迎撃されてしまう。

まだまだ甘いと。

 

俺のミスを指摘するかのように攻撃を放ってくる。

あの日のフレイ姉のようだ。

いや、もしかしたらコイツは本当にフレイ姉よりも強いのかもしれない。

 

フレイ姉に当たった攻撃がコイツには当たらない。それだけで、嬉しくなる。

 

 

世界は広いなぁ!なぁ!べーやん!

家を出て良かったよ!世界にはこんな奴が他にもゴロゴロしてんのかな!?

へっへっへ!ワクワクするぜオイ!

 

 

感覚が研ぎ澄まされていく気がする。

コイツと戦って、成長している自覚がある。

コイツとずっと戦っていたい。

だが、そりゃダメだよな。

俺達は、勝つためにここに居るんだ。

なあ!みんな!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

アレンが背中に展開した火球を1つ、兎とは別方向へと撃つ。

そして、転移を使って兎から離れるように一気に距離を取る。

 

アレンは手にした看板に魔力を込めて、力いっぱい振るうと同時に込めた魔力を解き放つ。

ドライグ国最高戦力であるフレイの必殺技。

 

"ドラゴニック・ブレイク"

 

放たれた魔力は巨大な龍を形取り、大きな顎を開けて相手を喰らわんと迫る。

フレイをして、一撃必殺といわしめた技。

フレイが全魔力を込めて撃ったならば、山すら軽々と消し飛ばす程の威力の技。

 

それを、看板を振り下ろして受け止める……否、切り裂こうとする兎。

凄まじい轟音と魔力のぶつかり合う音が室内に響き渡る。

アレンの放った技はフレイの技よりも幾分か威力は劣るかもしれない。だが、それでも強烈な技である事に変わりはない。

 

現に、ガリガリと地面を削りながら兎が技に圧されて後ずさりをする。

 

 

「オウカさん!もう一発行く!合わせて!!」

 

「応!!」

 

合図に気付き素早く駆け出したオウカがアレンと並ぶ。

アレンとてこれで決まるとは断じて思っていない。

この技はあくまでも布石。

兎への足止めと、オウカに技を見せるための。

 

 

オウカが愛刀である"蒼"に魔力を込める。

桜色に染まった刀身に無数の花弁が舞う。

 

「百花繚乱!!」

 

オウカが刀を振り抜き、込めた魔力を解放する。

オウカ唯一の遠距離技。

桜の花弁が渦巻き状に、相手に向かって地面を切り裂きながら突き進む。

 

 

「うっしゃあ!もう一発だぁ!!」

 

 

オウカも奥義を放ち、アレンも追い討ちを掛けるように再びドラゴニック・ブレイクを放とうとしたときに、先に放っていた龍が2つに別れて霧散した。

兎が、切り裂いた。

 

しかし、それも折り込み済みの二段攻撃だ。

アレンの技とオウカの奥義が合わさって、桜の花弁を纏う龍が再び兎を襲う。

先ほどとは比べ物にならない魔力と、威力。

アレンの技の破壊力と、オウカの斬撃が見事に融合していた。

 

兎は迫り来る桜を纒し龍を、返す刀で下から上へと切り上げる。

再び衝突。先程とは比べ物にならない轟音が響く。

流石の兎も、先程よりも勢い良く地面を削って龍に圧されて後ずさる。龍の勢いは、衰えない。

 

 

「行けぇ!!」

 

オウカが吠える。願いを込めて、これで終わってくれと。

隣ではアレンが手を膝について荒い呼吸を続けている。

あの兎と単身で戦っていたのだ、己の持てる全ての力を発揮して。

そして、ここに来ての大技2連発。もう、限界だ。

 

 

「頼む、頼むよ!!」

 

「終わってー!!」

 

トキオとミニレも願う。

あらんかぎりの力を振り絞って叫ぶ。

猫の着ぐるみですら、自然と願っていた。少年達の勝利を。

 

 

しかし──。

 

それでも──。

 

───無常。

 

 

──────ギャイン!!!!

 

と、兎が桜纏う龍を天井に向かって弾き飛ばした。

願いも空しく、龍は霞と消えた。

 

 

と、同時に。

 

 

パキィ!

 

と、兎の手にした看板が細かく切り裂かれた。

アレンとオウカの魔力が、兎の魔力を上回った証である。

まさか、斬られるとは。

 

 

兎が降り注ぐ木片を見る。その一瞬の隙を───

アレンは見逃さなかった。

 

 

3段構え。

オウカと自分ならば、必ずやあの兎の防御を突破できると信じていた。

だからこそ、手をついて集中していた。

 

体に纏う魔力を拳1つに全てを集めるために。

防御も捨てた。残りの魔力を全て絞り出した。

この拳1つに。

 

 

アレンの拳が赤と黒に染まる。

込めた魔力が形となって現れる。

 

 

「オォォォッ!!!ラァアッ!!!!」

 

 

一気に転移を使って距離を詰める。

兎の懐に。全てを叩き込むために。

ありったけの魔力を込めた拳を、兎の腹にブチ込んだ。

 

 

ドォウ!!!

 

 

アレンの強烈な打撃は、兎を吹き飛ばした。

凄まじい勢いで壁に激突した兎は、壁にめり込み力無く項垂れている。

 

 

「トキオ!!ミニレさん!!魔石を!!」

 

 

今だ、今しかない。

あらんかぎりの声でアレンが叫ぶ。

アレンの打撃を見て歓喜に湧くトキオとミニレが我に帰って魔石を目指して走り出す。

勝った。アレンとオウカが、ついにあの兎を倒した。

 

猫の着ぐるみは、動かない。

 

トキオの胸に熱いものが込み上げる。

やった、やってやった。ついにやってやったんだ。

 

 

トキオが魔石を、勝利を掴もうとした手を───

 

 

────ピンク色の手が阻んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……嘘……」

 

 

猫の着ぐるみは、呆然とその様子を眺めていた。

ミニレは力無く崩れ落ち、オウカが天を仰いで吠えている。

アレンは、アレンはどこに───。

 

 

ヒュッと、喉の奥で音がした。

初めて聞いた自分の声。

アレンが、猫の着ぐるみの視線の先で力無く倒れ伏していた。

 

 

なんで、なんでなんでなんで!!!

あんなに!!あんなに必死で頑張っていたのに!!!

 

「どうしてッ!!!」

 

猫が声を荒げる。

自分の味方である筈の兎の着ぐるみに向かって。

トキオが兎を無視して魔石を掴まんともがいている。だが、それを凄まじい力で阻む兎。

魔石は、勝利は、あと少しなのに。

 

遠い。どこまでも遠い。

 

 

ブンッ、と兎がトキオを乱雑に投げ飛ばす。

地面を滑り、ミニレの側まで転がるトキオ。

歯を食いしばって立ち上がる。

何度だって、何度だって挑んでやるぞと叫びながら。

 

その叫びを聞いて、ミニレもノロノロと立ち上がる。

オウカも、なけなしの魔力を刀に込めて駆けてくる。

 

猫の着ぐるみは、彼女は───。

 

 

オウカもミニレもトキオも、兎に軽くあしらわれる。

さしもの兎とて、アレンの攻撃のダメージは確かに効いているのだろう。

あの威圧感が成りを潜めている。

 

だが、それでも3人は兎には敵わない。

それ程、3人とは圧倒的な差がある。

 

【そんなもんか?】

 

不意に、紙に書いた文字を3人に見せる兎。

ただがむしゃらに、策もなく何もなく、突っ込んでくるだけ。

無駄に、魔力を消費するだけ。

その先には、勝ちも何も無く、敗北だけが口を開けて待っているだけだ。

 

 

【全員で来い全員で】

 

 

「なにをッ……俺達はッ全員で来てるじゃないかッ!!」

 

トキオの叫びを聞いてやれやれと肩を竦める兎。

スッと、オウカを指差す。

スッと、ミニレを指差す。

スッと、トキオを指差す。

 

そして───

 

 

スッと、猫の着ぐるみを指差す。

 

「え……わ……私?」

 

そして、アレンがいる方を指差す。

 

「バカなッ……アレンはもう……」

 

「お……おい、オウカ……」

 

「ああ……アレン君がー」

 

兎の指の先、そこには、アレンが立ち上がろうとしていた。

再び戦場へと舞い戻るために。

何度でも何度でも、勝ちを掴み取る為に。

歯を食いしばり、体全体に力を込めて。

 

 

「ハァッ……ハァッ……へへっ……へっへっへ……ゴメン、寝てたわ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

あんにゃろうめ、あの攻撃食らってまだ立ってるのかよ。

いいぜ、何度でもブチ込んでやらぁ!

 

「ア……レン。お前……」

 

「おお……トキオ。待たせたな……あと少しだ。あと少しで、倒せるぜ、アイツを」

 

「そんッ……ああ、そうだな!」

 

へっへっへ。渾身の一撃だったのによ。

だったら、渾身の二撃だこんちくしょうめ!!

 

トキオが俺に駆けよって支えてくれる。

ありがてぇ。立って歩くだけでもフラフラなんだ。

おお、オウカさんもミニレさんも、なんて顔をしてるんだい。

勝利は目前だぜ?……おっとっと

 

「アレン君!」

 

「アレンッ!」

 

ミニレさんも反対側から支えてくれる。

オウカさんも、心配そうに俺を見ている。

 

パーティー全員に支えられて、なんとか真っ直ぐ立つ。

目の前には、兎。

そして、なにやら紙を持っている。

……全員で来い?

 

「おお……悪いな、俺待ちだったのね…ゴメンゴメン」

 

「……ッ……ああ、そうだ。お前待ちだ、アレン」

 

何かを言い掛けてそれを飲み込んだオウカさんが凛と笑う。

うん。この人にはこの顔が一番だ。

 

「遅いよー。二回目だよー。アレン君ー」

 

へっへっへ、ごめんよミニレさん。

少しだけ強ばった顔で、それでもほわほわと笑うミニレさん。

随分とボロボロじゃあないか、あの兎め許さん。

 

「あの……アレン君……」

 

おや、ニャンちゃん?どうしたんだろうか。

どこかで聞いたことあるような声だが、着ぐるみでくぐもっていてよく分からない。

 

「私も……私も!一緒に戦う!戦わせて欲しい!」

 

「ほぇ?」

 

なに?なになにどしたの?

俺が寝てる間に仲間割れでもしたの?

どういうことか答えが知りたくて3人を見ても、力強く頷くだけだ。

?……どゆこと?

 

 

「文字通り、猫の手も借りたい状況だ、猫殿、よろしく頼む」

 

「うん!うんうん!任せてよ!」

 

俺をおいて話を進める4人。

あ、リーダーはオウカさんだもんね。従うよ、よく分からないけども。

 

 

「ピョンさん!タイムだよ!ターイム!!」

 

ニャンちゃんが兎に向かって挙手している。

いやいや、流石にそれは……。

 

 

【良いよ!( = ^ x ^ = )】

 

 

いいんかい。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

トキオとミニレさんが全部飲まずに残していたポーションを貰って、全て飲み干す。

ついでに、ニャンちゃんが1つだけ自分用に持っていたらしいマナポーションも貰う。これはマジで有難い。無かったら詰んでた。

 

「アレン、あの魔法教えてくれ」

 

「私も、お願い」

 

「あの魔法?」

 

「あのほら、初級魔法だけど初級魔法じゃない奴」

 

「ああ、アレか。うーん、俺もまだ人に教える立場じゃないけど……わかった」

 

俺は魔法使い2人に自分の魔法を教える。

といっても、火魔法じゃない。トキオは覚えてるしね。

俺が教えたのは、魔力の込め方。

初級魔法は誰でも覚えられる。つまり、拡張性があるのだ。

初級魔法に自分の魔力を上乗せして、威力を上げる。

 

初級魔法と中級魔法、ただ発動するだけでも中級魔法の方が魔力の消費量が多い。

なので、発動するのに魔力の消費が少ない初級魔法を練り上げるのがウィン姉直伝の魔法術。

 

これにより、少ない魔力消費で中級魔法並みの威力を得ることが出来る。

ファイヤーボールで言えば、大きさを抑えてその分威力を上げる。そこからさらにアレンジを加える。

状況を見て使い分けるのが大事だと、教わった。

 

もちろん、この短期間でオリジナルの魔法を作るのは無理だから、2人には魔力の込め方だけを教えた。

 

 

「あれはー?波ー」

 

「はー?」

 

「そうー。波ー。」

 

「あれか、私とアレンの遠距離攻撃」

 

「そうそうー」

 

「ふ。アレはな?ギューっと魔力を込めて、バーンと放つのだ」

 

「いや、オウカさん、それじゃあ何も───」

 

「なるほどー!わかったー!」

 

「ええっ!?」

 

 

最後の作戦会議が終わった。

全員が立ち上がり、三度あの兎に挑む。

兎はストレッチをして、俺達を迎え撃つ気満々だ。そうでなくては。

 

 

「トキオ、そのコートは?」

 

「ああ、これはな!」

 

トキオが肩に掛けていたコートに袖を通していた。

なんとなく、魔力量が上がっている気がする。

 

トキオが言うには、このコートはネメシスの団長であるリナリーさんがかつて愛用していたコートらしい。

特殊な繊維で出来ており、魔力を保管しておくことが出来るマジックアイテムなのだとか。

故に、このコートにはリナリーさんの魔力が保管されているのだと言う。

トキオの切り札と言うことか。

 

中途半端な所で使わなくて良かったと珍しくオウカさんが誉めていた。

 

 

ミニレさんもニャンちゃんも、教えたことをすぐに覚えていた。

ミニレさんに至っては、魔力纏いですら今日覚えたのだとか。

俺が言うのもなんだけど、ぶっつけ本番でよくもまあ出来たものだ。

 

 

全員が、残りの全てを一撃にかける。

 

 

「準備は良いな?」

 

「おうよ!」

 

「ああ!」

 

「うんー!」

 

「うん!」

 

オウカさんの問いかけに俺、トキオ、ミニレさん、ニャンちゃんが力強く頷く。

全員で兎に挑む。

これが、正真正銘最後の戦いだ。

 

 

【よぉし!来いや!】

 

兎が俺達の攻撃を受けて立つとばかりにどっしりと構えて待っている。

 

先手は、トキオとニャンちゃんの魔法使いコンビだ

 

 

「魔力を、込める!ありったけを!」

 

「団長!俺に力を貸してくれぇ!!」

 

ニャンちゃんが風の中級魔法であるガスタハリケーンを放つ。

ありったけの魔力が込められた竜巻は、上級魔法にも勝るとも劣らない程の勢いで回りの全てを吹き飛ばさんとうねりを上げる。

 

そこに、トキオの中級魔法、フレイムウォールが巻き上げられる。

リナリーさんの魔力と、トキオの全ての魔力が注ぎ込まれた炎の壁は、ニャンさんの魔法と融合して、炎の竜巻となって兎に襲いかかる。

 

離れていても凄まじい熱量と、風量だ。

それが、兎一人に襲いかかる。

炎の竜巻に飲み込まれる兎。

 

おいおい!この技だけでも勝っちゃうんじゃ無いのこれぇ!!

 

 

なんて、楽観視はしない。

何故ならば。

 

ギャリギャリギャリ!!!

 

と、魔力同士がぶつかり合う音が竜巻の中で響く。

凄まじい風の音の中にあって響くこの音。

中でなにが起きているのだろうか、見ることは叶わないが、その音があの兎が健在だとありありと表している。

 

「さあ!行こう2人とも!」

 

「応!!」

 

「おー!!」

 

 

徐々に炎の竜巻の威力が弱まる。

うっすらとだが、両腕をクロスしているような兎の影が、竜巻の中に見える。

 

ドグァ!!

 

あの兎が竜巻の中で両腕を勢い良く開いた瞬間に

凄まじい音とともに、竜巻がかき消えた。

相変わらず馬鹿げた奴だ。自分の魔力だけで耐えきって、魔力をぶつけてかき消しやがった。

 

 

だが、それがどうしたよ!!

兎が姿を現した時には、桜を纏う巨大な龍が大きな顎を開けて兎を喰らわんと凄まじい突進力で迫っている。

タイミングはバッチリだ。

 

オウカさんとミニレさんと俺の3人の合体技。

花弁は刃。そして、ミニレさんの魔力を吸収した俺のドラゴニック・ブレイクは文字通り、相手を破壊するべく何度もぶつかる。相手が倒れるか、自分が消滅するか、それまで止まらない。

 

それを、自身の拳のみで迎え撃つ兎。

うわははははは!!と、心底楽しそうな兎の笑い声が響く。

魔力の塊VS規格外の化け物。

 

ガンガンガンガンガンガン!!!!

 

と、強烈な打撃音が響く。

徐々に、徐々にだが、俺達の技があの兎を圧し始めた。

 

「行け……!」

 

「行けぇ……!!」

 

「行けぇぇぇぇー!!!!」

 

全員が声を上げて叫ぶ。

これで!これで終わりだぁー!!!

 

 

瞬間、閃光。そして、爆発。

俺達は猛烈な魔力の奔流に飲み込まれた。

 

結果は─────。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

カーちゃんと姉達へ

 

早いものでこの地に来てもう4回目の手紙になります。

俺は今、病院のベッドでこの手紙を書いています。

 

心配しないでください。ただの魔力切れでぶっ倒れただけです。

隣にはオウカさんとミニレさんとトキオも居ます。

病室はとても賑やかで、楽しいです。はしゃぎすぎて看護師さんに怒られるくらいです。

 

全てはカイさんが悪いんです。

知ってるでしょう?カイさん。

 

3回目の手紙で書きましたよね。

あのクソ強兎の正体の、カイさん。

 

ルナさんと一緒に研修に参加したカイさんと戦って、ボッコボコにされました。

全員で挑んでも、カイさんにぐうの音もでないほどにボコられてしまいました。

あと少しで行けるかな、と思ったけど、魔力を解放したカイさんが俺達の技を殴り飛ばしてしまいました。

 

本人は、テンション上がっちゃった☆テヘッ☆

 

なんて、言ってました。

パンツ一丁で。

俺達の技は、カイさんの衣服を破壊し尽くすだけしか出来なかったみたいです。パンツ以外を。

 

3回目の手紙を見たカーちゃんとフレイ姉がこのシュライグにやってきてカイさんをぶっ飛ばす、なんて息巻いていたみたいですね。

後でベーやんとウィン姉、シェリス姉、アリア姉には贈り物を送ろうと思います。

この町が地図から消えなくて良かったと心から思います。

 

 

さて、そんなカイさんですが、ダンジョンをボロボロにした責任を取って、ダンジョンの修復をしているようです。

かなり頑丈に作られている訓練用のダンジョンをどうしてこんなにボロボロにしたんだとマリカさんにしこたま怒られていました。

 

俺達ですか?俺達は、知らんぷりしました。

カイさんが変なことしなければ俺達は普通にクエストをクリアして終わりだったのですから、当たり前ですよね。

 

何故かレティシアさんとルナさんがカイさんを手伝って、それを知ったフォルトゥナの面々が手伝いに来ているらしく、予定より早く修復は終わりそうなんですって。

 

でも、終わったら終わったで今度はギルドの仕事を任されるらしいです。

詳しくは聞きませんでしたが、カイさんはなんとか逃げる方法を探してみるわと笑っていました。

 

冒険者って、大変ですね。

 

 

さて、話しは変わりまして、何故俺達が病院に居るかと言うと、それはジンさんに鍛えられているからです。

 

兎の正体が俺の知り合いのカイさんだと知ったオウカさんが何度も再戦を挑んではボコられて、半泣きで近くにいたジンさんに頼ったのがきっかけです。

ついでに、俺達も鍛えようか?なんて、優しく言ってくれたジンさん。

 

やはりというか、なんというか。とてつもなく強いジンさん。

カイさんとタメを張るレベルで強いジンさん。

お前達は魔力が切れてからが本番らしいな?なんて、涼しい顔して追い込んでくるジンさん。

その結果が、今のこの現状です。

 

でも、日々強くなっている実感を得ています。

 

そういえば、ジークさんの話をしていなかったですね。

あの研修の日、ボロボロになってダンジョンから出てきた俺達を見て、馬鹿にしたような顔をしていたジークさん。

ジンさんとの鍛練を見て俺達を馬鹿にしてきたジークさん。

トキオが、ならパーティー全員でジンさんに挑んでみろよ、なんて言われて上等だ、とジンさんに挑んだ彼ら。

見事にボコられていました。瞬殺でした。カイさんと違ってジンさんは容赦が無いです。いや、似たようなもんか。

 

うっそだろ……なんて顔をしている彼らを見て、少しだけ仲良くなれそうな気がします。少しだけ。

 

 

明日には退院出来るそうなので、退院したらカイさんがクエストに連れていってくれるそうです。

ドラゴンが近隣で目撃されたみたいだと看護士さん達が噂をしていましたが……。

 

なにはともあれ、俺は元気でやっています。友達もたくさん出来ました。

近々シュラールのお姫様もやってくるみたいで、町がさらに活気づいていて、祭りとかもあるらしくてとても楽しみです。

 

また、手紙を書きます。

体に気を付けてね、アレンより

 

 

 

アレンの冒険 完

 




これにて、アレンの冒険は終了です。
約一ヶ月の間、ありがとうございました。


しばらくは一話から順次加筆、修正などをしていきたいと考えております。
それが終われば、キャラ紹介なんかを書いた後に

冒険者アレンの華麗なる日常とタイトルを変えまして、第二部の方をぼちぼち書いていこうかなと考えております。

拙い文かつ、分かりにくい所も多々あったかと思いますが、さらに精進して行きたいと思いますので、二部の方も宜しくお願い致します。m(_ _)m


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キャラクター紹介【ドライグ国内】※ネタバレ注意

 

 

 

【名前】アレン・ニンバス

【性別】男性

【年齢】17歳

【身長】176cm

【出身地】不明

【好き】お茶目な人・甘味・家族

【苦手】嫌味な人・苦味・家族を馬鹿にされる事

【弱点】くすぐり・搦め手

【趣味】読書・観察

【イメージカラー】黒赤

【特殊能力】転移・???

【キャラあれこれ】

本作主人公。赤ちゃんの時にゼノの治めるドライグ国に突然現れた少年。

人間と魔族のハーフ。

幼い頃より英才教育を施されており、並大抵の冒険者やモンスターよりも強い。

本人の経験不足が仇となって老練な人物やモンスターには遅れをとる事もある。

戦闘力は全能力が高い水準で纏まっており、特化型には多少劣るものの、あくまでも多少である。近接戦が得意な万能型。

 

本人は好戦的ではないと思っているが、端から見たら十分に好戦的である。

17歳であることからも、格好良いモノに憧れるお年頃。

家族が大好きな実直な若者。

家出の理由には、若干の反抗期もあった。

初めて見る、経験するモノ大好き。

女性関係に対しては非常に奥手。思春期大爆発。

物事に対してわりとドライな所がある。

現在の冒険者ランクはF。

 

 

【名前】ゼノ・ドライグ

【性別】女性

【年齢】外見年齢20代

【身長】165cm

【出身地】サタナキア大陸ドライグ国

【種族】魔族・魔人

【好き】アレン・頼りになる人・国民

【苦手】敵・うるさい奴・辛い食べ物

【弱点】猫舌

【趣味】ガーデニング

【イメージカラー】純白

【特殊能力】氷魔術

【キャラあれこれ】

ドライグ国魔王にして、アレンの義母。

特殊能力である氷の魔術の使い手。

戦闘タイプは中距離型だが、万能型でもある。

武器は細剣。

 

若くして魔王となったため、部下であるウィンに補助について貰っている。

アレンの事となるとポンコツと化す。親バカ。

それ以外では、冷静沈着で国民から愛される良き魔王である。普段はとても優秀。

 

ある事件がきっかけで自身の家族が先代魔王に処刑された為、仇をとるべく先代魔王を倒した。そして、新たな魔王となる。

魔王としての就任歴はまだ20年程。

 

柔軟性と協調性があり、事を成すために他の種族とも協力できる実力至上主義のサタナキアでは異端の魔王。

親交の始まったシュラール国から国の運営方法を学び、良いものはどんどん取り入れていく事によって、ドライグ国はサタナキア大陸で一番発展した国となる。国民全員から支持されている。

ドライグ国歴代最高の魔王。

 

かつての大戦よりシュラール国から国を救った救世主として、シュラール王家から半ば妄信的に崇拝されており、それが嫌で最近はシュラール国へ赴く事も無くなったが、アレンがミカエリス大陸に渡った為、息子の顔を見る為に行くのも悪くないな。なんて最近考えている。

 

実はアレンに「ママ」とか「お母様」とか呼ばれたかったが、ベーやんのせいでカーチャン呼びになったのを恨んでいるのは秘密。

 

実はアレンからの最初の手紙を待ちきれずに、ミカエリス大陸に行こうとしてウィンに叱られたのも秘密。

 

 

【名前】フレイ

【性別】女性

【年齢】外見年齢20代

【身長】175cm

【出身地】サタナキア大陸ドライグ国

【種族】魔族・魔人

【好き】アレン・面白い奴・可愛い物・お酒

【苦手】おばけ・面白くない奴・酸味の強いもの

【弱点】怖い話

【趣味】可愛いもの収集

【イメージカラー】深紅

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

先代魔王の娘にして、現ドライグ国最高戦力。

破壊特化型の近中距離戦闘タイプ。得意魔術は火。

武器は身の丈ほどある大剣。

魔王ゼノの腹心の部下の一人であり、親友。

アレンの戦闘面での師匠。姉御肌。ひょうきん。

 

ドライグ国の次期魔王候補として名前が真っ先に上がる程の強さだった。

本人もドライグ国にて圧政を敷く父に幼い頃から嫌悪感を抱いていた為に、次期魔王となるつもりだった。

善良な市民であったゼノの両親を処刑した事をきっかけに父娘の縁を切る。

 

ゼノが魔王討伐に動いていることを知り、協力しようと近づく。

始めはゼノに警戒されていたが、父の放つ刺客であるアリアを何度も退け、ゼノの信頼を得る。

共に父である先代魔王を倒し、ゼノの方が新時代の魔王に相応しいと考えてゼノに魔王の座を譲る。

国民から愛されるゼノを誇らしく思い、ドライグ国最高戦力の座からゼノをサポートしている。

 

飲んべえ。昼間っから飲むタイプ。見つかるとウィンにめちゃくちゃ叱られる。

アレンとは交流は無いが、彼女自身の戦闘部隊を持っている。

可愛いもの好きな彼女にとってベーやんは外見はセーフ。中身はアウト。

 

実はアレンとの戦いの際に6割近くの力を出していたのは秘密。

 

 

 

 

【名前】ウィン

【性別】女性

【年齢】外見年齢20代

【身長】170cm

【種族】魔族・魔人

【出身地】サタナキア大陸ドライグ国

【好き】アレン・仲間・お菓子

【苦手】騒がしい人・運動

【弱点】運動オンチ

【趣味】お菓子作り

【イメージカラー】薄い青

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

ドライグ国の魔王補佐兼魔術長。

多彩な魔銃を使用しての中遠距離戦闘タイプ。

自身の魔力量は他の幹部をはじめ、アレンよりも少ないが、類い希な魔力コントロールでフレイに次ぐ実力を持っている。

アレンの魔術と教養の師匠。

 

狙撃する際にアリアとコンビを組んでの超遠距離からの狙撃はかなりの精度を誇り、数キロ離れた程度なら確実に狙い撃ってくる。

 

一般魔術にも深く精通しており、特殊魔術以外の攻撃魔術は全属性全種類覚えている。

ウィンの放つ下級魔術の威力は中級・上級魔術並み。上級魔術も使用できるが、魔力量の関係で連発出来ない為、切り札としている。

 

みんなのオカン的存在。意外とお茶目な面もある。

アレンとの交流は無いが、自身の魔術部隊を持っている。

 

シェリスと幼い頃からの親友であり、体質に悩むシェリスの為に数年がかりで様々な事を猛勉強し、魔力コントロールを鍛えに鍛え、治療法を見つけた。

シェリスの体質は改善されたが、代わりに自身の魔力の半分を失ってしまう。

本人はその事を気にしておらず、シェリスが楽しそうに毎日を過ごしているのを心から喜んでいる。

 

最初は敵視していたベーやんと意外と話が合うことが分かり、現在は良き友人として共にゼノをサポートしている。

 

実はフレイの影響で可愛らしいイラストを描くようになったのは秘密。

 

 

 

 

【名前】アリア

【性別】女性

【年齢】外見年齢10代

【身長】145cm

【出身地】サタナキア大陸ドライグ国

【好き】アレン・明るい人・辛い食べ物

【苦手】暗い人・虫・人の秘密を知る事

【弱点】たまに部屋に出る虫

【趣味】晴れた日の散歩

【イメージカラー】黄

【特殊能力】転移

【キャラあれこれ】

ドライグ国の隠密長。

アレンの探知系魔術の師匠。

元々、先代魔王に仕えておりゼノを暗殺しようとしていたが、何度も失敗する。それを咎められて処刑されそうになった所をゼノとフレイに救われる。

その後、スカウトされる形でゼノやフレイと行動を共にする。

特殊能力である転移を使用した近距離戦が得意。

武器はナイフ。

幹部達の中で一番アレンと年が近い。幹部最年少。

隠密部隊を持っている。魔王城のメイドさん達がソレ。

 

索敵や探索の性能はアレンの遥か上をゆき、アレンの使用した体温を感知するタイプのサーチも広範囲で使える。

先代魔王時代は感情を出さずに淡々と任務をこなしていたが、ゼノやフレイと交流していく内に感情を表に出すことを覚え、今ではアレンやゼノ、幹部達の前ではとても天真爛漫な明るい少女となった。

 

実はベーやんの入れ知恵を受けたアレンに何度も敗北しかけていたのは秘密。

 

 

【名前】シェリス

【性別】女性

【年齢】外見年齢20代

【身長】160cm

【出身地】サタナキア大陸ドライグ国

【好き】アレン・友人・野菜

【苦手】思いやりの無い人・争い事

【弱点】早起き

【趣味】親しい人達とのお茶会

【イメージカラー】緑

【特殊能力】毒魔術

【キャラ特徴】

ドライグ国の医療を一手に引き受ける医療長。

医療に対して深い知識をもっている。

特殊能力である毒魔術の使用者。

武器は杖。

ゼノにスカウトされる前はドライグ国内の森にウィンと2人で住んでいた。

 

かつては存在するだけで周囲に毒を撒き散らしてしまう体質だった。

成長していくにつれて毒も強力になり、遂には自身の家族や友達のウィンにまで被害が出るようになってしまった。

 

その事から、人との交流を避けて一人で数年間森の奥で暮らしていたが、成長して解決策を見つけたウィンから魔力コントロールを教わり体の毒素を抑え込むことに成功した。

しかし、その過程でウィンが毒に冒されてしまう。

ウィンを救うために体内の毒を回復手段として使用し、ウィンを治療する。これがきっかけで毒使いであると共に、回復魔術の使い手となる。

ウィンが治療の代償で魔力を失ってしまった事を激しく悔いているが、ウィンが「気に病むなら、これからは毎日を楽しく過ごせ」との言葉を貰う。

 

その後、しばらく2人で暮らしていたが魔王討伐を目標としたゼノにウィンと共にスカウトされる。

 

ゼノと共に大戦に参加した唯一の幹部。

シュラール国において、ゼノと人気を二分する。

シュラール国では聖女と呼ばれる。本人は嫌がっている。

 

とても優しい精神の持ち主で、害がなければモンスターだって治療する。

怒れば怖い。過去の事からよっぽどの事がない限り毒魔術を使用することは無い。使えることはアレンも知らない。

 

 

実はシュラール国に元々居た聖女から一方的に敵視されているのは秘密。

 

 

 

【名前】ベーやん

【性別】男性

【年齢】不明

【身長】30cm

【出身地】不明

【好き】一生懸命な奴

【苦手】無口な奴

【弱点】カビ

【趣味】色んな人との会話

【イメージカラー】茶色

【特殊能力】不明

【キャラあれこれ】

いつの間にやらアレンの部屋に存在していたぬいぐるみ。腹の中身は綿のみ。

本人もなぜアレンの部屋に居るのか分かっていない。

幼いアレンが泣いてばかりいたのを心配して声をかけたのがきっかけ。

 

アレンから話を聞けば、上手く優しさを伝えきれない不器用な母親と不器用な姉達の教育に、これは俺が立ち上がらんとヤバいことになる。と考えて全員のフォローに回る。

結果、アレン達の関係はとても良いものになったので、大満足している。影のMVP。

 

幹部の中でアリアが一番倒せる可能性があると考えてアレンに様々な知恵を貸す。

 

アレンが家出をしてから、暇になるかもと考えていたが、気が付けばウィンと共にゼノをサポートしている。なにかある度に凍らされている為、そろそろカビないか心配。

 

本人的にはそんなつもりは無かったが、アレンが若干ワイルドな性格になってしまった事をゼノを始め幹部達から小言を言われる毎日を送る。

実際はアレンは全員の性格を受け継いでいる。

 

実は最近自力で動けるようになったのは秘密。

 

 

 

 



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キャラクター紹介【ミカエリス大陸】※ネタバレ注意

 

 

【名前】モーゼス

【性別】男性

【年齢】72歳

【身長】174cm

【出身地】ミカエリス大陸

【種族】人間

【好き】酒・タバコ

【苦手】娘の説教

【弱点】腰痛

【趣味】若者の成長を見ること

【イメージカラー】暗い茶色

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

ミカエリス大陸に飛んだアレンが最初に出会った老人。

若い頃は冒険者として王都で活躍していた。

20年程前にドラゴンとの戦闘によって負傷し、それが原因で魔力の大半を失い冒険者を引退する。

経験豊富な知識を生かして王都の学園で教鞭を執らないかと勧誘を受けたが、それを断り生まれ故郷である小さな町へと帰って来た。

 

他の種族とも共生出来ると考える長男の思想を最後まで理解出来ずにケンカ別れの形で死別してしまう。

その後、大戦から交流が始まった世界に間違っていたのは自分だと気付き、息子の墓がある廃墟となってしまった村をモンスターに荒らされないように一人モンスター避けの護符を埋める日々を送る。

かつての冒険者ランクはB

 

 

 

【名前】デビット

【性別】男性

【年齢】45歳

【身長】174cm

【出身地】ミカエリス大陸

【種族】人間

【好き】歴史・家族

【苦手】考えの古い人

【弱点】娘からの蔑んだ瞳

【趣味】猥談

【イメージカラー】

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

アレンをシュライグの町へと連れてきてくれた人。

かつては王都で研究者として働いており、その人柄から男性職員はもちろん、一部の女性職員からも慕われていた。

愛称はエロ学者。

学者として優秀で、彼もまた他の種族とも共生できないかと考えていた一人であった。

現在は妻の故郷である町で農夫として日々を過ごしている。

娘との食事は定期的に行われており、嫌われては居ない様子。

親バカ。

 

 

 

【名前】ジン

【性別】男性

【年齢】他称23歳

【身長】190cm

【出身地】不明

【種族】不明

【好き】芯のある人・睡眠

【苦手】特に無し

【弱点】無邪気な子供

【趣味】人助け

【イメージカラー】銀

【特殊能力】不明

【キャラあれこれ】

でたらめに強い人その1。

武器は刀。近遠距離なんでもござれの万能型。

カイとともに謎の多い人物で、正体とかいずれ書ければいいなって思います。

眼帯は左目部分。

 

初日にアレンの力を見抜いて世話役を買って出た人。

実技でアレンをボコしてFランクにした張本人。

もしジンと出会っていなければ、アレンはEランクスタートだった。そして、近くにいたバトゥにスカウトされていた。

彼のせいでアレンは自身の強さをいまいち実感できないでいる。

アレンとしては冒険者になるのが目的だったので、彼とクエストに出掛けるのはとても楽しい。

冒険者ランクはD

 

 

 

【名前】カイ

【性別】男性

【年齢】他称23歳

【身長】191cm

【出身地】不明

【種族】不明

【好き】面白い奴

【苦手】つまんない奴

【弱点】誉められる事・ガチめに怒られる事

【趣味】食べ歩き

【イメージカラー】黒

【特殊能力】不明

【キャラあれこれ】

でたらめに強い人その2。

武器は特にもっておらず、ありとあらゆる武器を使いこなす。万能型。

ジンと同じく特殊能力を持っている。

 

アレン達のパーティーを軽く圧倒できる実力者。

手違いでCランクになったのを未だに後悔している。出来ることなら降格したい。

頑張ってる奴が大好きで、ついつい力を貸してしまう。

周囲の冒険者からはトラブルメイカーとして認知されているが、ギルドからは非常に頼りにもされている。

一部の人から実力を見抜かれており、クランのスカウトが次から次に来ていた。

が、自分より弱い奴の下にはつかん。と、全てを断る。

 

現在はフォルトゥナと交流がある。理由は食事が美味しいから。

冒険者ランクはC

 

 

 

【名前】エリィ

【性別】女性

【年齢】128歳

【身長】187cm

【出身地】不明

【種族】オーガ族

【好き】読書・良いものを持ってくる人

【苦手】落ち着きの無い人・貴族

【弱点】金銭感覚が鈍い

【趣味】珍品収集

【イメージカラー】暗い青

【特殊能力】不明

【キャラあれこれ】

シュライグの裏路地で怪しい店を営む青い肌のオーガ族の女性。

金銭感覚が鈍く、興味が有るものは破格の値段で買い取ってくれる。逆に興味がなければどれ程高価で価値の有るものでも買い取らない。

店の存在もあまり知られておらず、どうやって生活しているか不明。

あらゆるジャンルの本を読む。

最近はジン、カイ、アレンが来てくれなくて少し寂しい。

 

 

 

【名前】レベッカ

【年齢】19歳

【身長】163cm

【出身地】ミカエリス大陸

【種族】人間

【好き】ジン・自分にビビらない人

【苦手】家族・機械

【弱点】冷え性

【趣味】恋愛小説を読む事

【イメージカラー】金

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

乱暴な言動が目立つが、心を開けば面倒見が良く心優しい女性。

初日にやらかしてアレンの魔力測定値が大幅に下がった原因になった人。ハーフ用の設定もあったのだが、1つずれてオーガ用になっていた。

ジン大好き。

初めて担当した冒険者がジンだった。

当時から愛想が悪く周りを威嚇していたのだが、ジンは何も気にせずに接してきた。

気が付けば目で追うようになり、気が付けば好きになっていた。

 

 

 

 

【名前】マリカ

【性別】女性

【年齢】24歳

【身長】160cm

【出身地】ミカエリス大陸

【種族】エルフ

【好き】優しい人・仕事が丁寧で早い人

【苦手】怒りっぽい人・クレーマー

【弱点】頼まれると断れない

【趣味】定時退社

【イメージカラー】黄緑

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

カイを良く叱っているのを見かける人。

カイにだけ厳しい。他の人にはとても優しく、ギルド内職員好感度絶対的首位。時点でドニー。

カイに恋愛感情を抱いているのかどうかは秘密。

 

 

 

 

【名前】ドニー

【性別】男性

【年齢】外見年齢20代

【身長】174cm

【出身地】サタナキア大陸

【種族】魔人

【好き】仕事・多趣味な人

【苦手】休日・無趣味な自分

【弱点】休みの日にする事がない

【趣味】探してます

【イメージカラー】薄い紫

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

東区ギルド内における最も頼りになる職員ぶっちぎり一位。

趣味が無いことが悩みで、ギルド内のマニュアルを暇潰しに読んでいたら全ての業務を覚えてしまった。

 

 

 

 

【名前】ロウガ

【性別】男性

【年齢】27歳

【身長】185cm

【出身地】ミカエリス大陸

【種族】獣人(狼)

【好き】日向ぼっこ

【苦手】書類仕事

【弱点】威圧感から子供に怖がられる

【趣味】土いじり

【イメージカラー】灰色

【特殊能力】不明

【キャラあれこれ】

でたらめに強い人その3。

ミカエリス最強の門番。

王都からスカウトされるレベルで優秀な門番だが、事情があって騎士になる事を断っている。

即騎士団長になれるだけの力を持つ。

10年前にミカエリス大陸に帰って来た。

 

 

 

【名前】リリィ

【性別】女性

【年齢】22歳

【身長】195cm

【出身地】不明

【種族】オーガ族

【好き】動物・同僚・読書

【苦手】争い事・会話

【弱点】お洒落

【趣味】ティアーナとお出かけ。

【イメージカラー】薄桃

【特殊能力】不明

【キャラあれこれ】

心優しいオーガ族の女性。東区の門番

ロウガ、ティアーナとは昔からの知り合い。

言葉が少し苦手なのはミカエリス大陸出身ではないから。

母国ではとても丁寧で美しい言葉で話す。

ロウガとティアーナとリリィの話もいずれ書ければ良いなぁと考えてます。

 

 

 

【名前】ティアーナ

【性別】女性

【年齢】外見年齢20代

【身長】165cm

【出身地】サタナキア大陸

【種族】魔人

【好き】ロウガ・リリィ・意思の強い人

【苦手】ナヨナヨした人・お酒

【弱点】下戸

【趣味】リリィとのお出かけ

【イメージカラー】淡い赤

【特殊能力】不明

【キャラあれこれ】

サタナキアから別の大陸に派遣された諜報員だった過去を持つ魅力的な女性。

紆余曲折あってロウガ、リリィと共にミカエリスにやって来て、現在の東区の門番の職に落ち着く。

早くロウガと付き合えとリリィからよくからかわれる。ティアーナ本人は満更でもないのにロウガが一向に気付いていない事にやきもきしている。

 

 

 

【名前】コーザ

【性別】男性

【年齢】76歳

【身長】136cm

【出身地】ミカエリス大陸

【種族】ドワーフ

【好き】掃除・優秀な冒険者

【苦手】鍛冶

【弱点】最近視力が悪くなった

【趣味】新薬研究

【イメージカラー】薄い緑

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

東区のギルド近くでアイテム屋を営むドワーフの男性。既婚者。孫は王都でアイテム屋をしている。

アレンからもたらされたミカエリスの技術をニ晩で解き明かして見せた。

最近はアレンとカイに名指しでクエストを依頼している。

 

 

 

【名前】ルナ

【性別】女性

【年齢】19歳

【身長】156cm

【出身地】ミカエリス大陸

【種族】獣人(狐)

【好き】友達・明るい人・休日

【苦手】勉強・押しが強い人

【弱点】数学・歴史

【趣味】友達とカフェ巡り

【イメージカラー】橙色

【特殊能力】無し

【キャラあれこれ】

その人柄からとても友人の多い元気な女性。

アレンの住むアパートの大家さん。

真面目なのだが、周りに流されやすい所もあって、過去の新人研修が苦い経験となっていた。

はからずもカイからもう一度新人研修を受けるチャンスを貰い、アレン達と共にカイに挑む。

使用魔法は風。武器は杖。冒険者ランクはE。

 

最近レベッカと2人でなにやら語り合っているのをカフェで見かけるらしい。

どうやら恋バナをしているらしく、彼女に想いを寄せるクラスメイト何人かが密かにフられた。

 

 

 

 

 

 



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