ドラクエモンスターズ カレキの国のアンダーランド (極薄饂飩)
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タンスの向こうはワンダーランド

この作品のモンスターの配合及びステータス等は、ゲームボーイ版『ドラゴンクエストモンスターズ』、若しくはスマートフォンアプリ『ドラゴンクエストモンスターズRETRO』に準拠しております。


「どうか頼む。最後のカレキのマスターよ。

どうかわしに…いや、この国に最後の夢を見させてくれ」

 

 骨の様に痩せ細り、それでもその眼光は衰えぬ老人は私にそう言った。

 断るつもりは無かったが、正直なところ、私には夢を見せるだけしか出来ない事が分かっていた。

 思わず最後の夢(ファイナルファンタジー)というよりは、竜の伝説(ドラゴンクエスト)だろうと軽口で誤魔化したくなったが、どうせこの老人に言っても伝わらない。

 この世界が架空の物語だなんて、物語の住人には言っても伝わらないし、言うべきでもない。

 

 だが、それ以前に私では役者が不足している事も分かっていた。

 

 何せ、テリーがいる。

 この世界はテリーが夢見た、テリーの為の夢の世界だ。

 テリーが主人公であり、観測者である『テリーのワンダーランド』だ。

 

 私など、精々他国マスターとして、霜降り肉でレア特技を持ったレアモンスターをテリーに奪われたり、肉やキメラの翼を渡すくらいが関の山だろう。

 

 彼の孫娘と違って、健康的では無さ過ぎる見た目の、元気なご老人の夢を防御無視で潰すつもりはないが…。

 この王自身が凄腕のモンスターマスターであるのにも関わらず、何も変えられない状況が今なのだというのも、芳しく無い。

 第一、ここが『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』である以上、テリーが勝利するまでの物語であるはずだ。

 

 

「頭を上げてください陛下。かくれんぼうがどこにも見当たらない以上、最初から私も分の悪い賭けに乗る他は無いのですから。

このレイカ、微力ではありますが、星降の大会に向けて全力を尽くしましょう」

 

 カレキ王はピタリと動きを止めたかと思うと、震えだして感涙しながら話し出した。

 

「おお…。

やってくれるか!! そうじゃ、わしはマルタやタイジュのケチ共の様に出し渋ったりはせん!!

城にある全てを好きにして良いぞ。

ゴールドでも、牧場の魔物も、孫娘も、全部持っていけ」

 

「お爺様、それ言い過ぎです」

 

 カレキ王は当の孫娘本人に窘められていた。

 少しタイジュの王と道化の遣り取りを彷彿とさせた。

 

 それがなくとも、かくれんぼうに拉致された時には、「自分の力でやってみなよ」と言われたのだ。

 あまりにもカレキ王の力を借りていると、かくれんぼうが出て来ない可能性もある。

 せめて、配合の祠関係の使用料だけは、全額出してもらう程度にしておこうか。

 あとは貧困国家には酷かも知れないが、異界の扉から帰って来た時には、薬草じゃなくて魔物の餌を貰えたら嬉しい。

 

 カレキ王の孫娘のホーリィに連れられて、彼女の部屋へと入った。

 別に妙な雰囲気になったりはしない。

 色んなゲームでよくある、最初のモンスターを貰うイベントがあっただけだ。

 『グレムリン』だが、彼女が仲間にしたらしい。

 大したものだ。

 

「レーカ。グレムリンは最初の扉にいるモンスターだから、別に珍しくはないわ」

 

 そう言いながらも、それなりに嬉しそうなことは指摘しないでおく。

 何せ相手は王族だ。

 機嫌を損ねて良い事など一つもない。

 ホーリィとはドラクエモンスターズというよりは、ファイナルファンタジーかモンスターファームみたいな名前だね、みたいな意味不明な事も言う必要は無かった。

 

 

 さて、最初から出てくるモンスターは、タイジュならスライム、ドラキー、アントベアなのだろうが、いきなりグレムリンとはハードルが高い。

 新人マスターには、厳し過ぎるのではないだろうか?

 カレキが没落した理由の一つが分かった気がする。

 

「あとフェアリーラットも」

 

「フェアリーラットですか…」

 

 フェアリーラットは一見アントベアよりも強力に見えるが、実は同レベル帯ではアントベアよりもステータスが弱い。

 難なく勝てる相手、いわゆるドラキー枠だろう。

 バランスとしては変ではない。

 

 そしてフェアリーラットは、虫系統のモンスターと子を作らせると、ヘルホーネットという恵まれた容姿と名前に反して、全ステータスが最低基準なモンスターが誕生する。

 そのステータスの低さは、あのキリキリバッタをも下回る。

 

 私がこれ程までにテリーのワンダーランドに詳しいのは、ユーチューブでとあるVtuberがプレイしている動画を見たせいで、自分もやってみたくなったからだ。

 幸いにして、スマートフォンのアプリで遊べたのでデスタムーアまで作ったところで、かくれんぼうと名乗る、わたぼうみたいな何かが現れて、一方的な説明と共にタンスの中に無理矢理引き摺り込まれてしまった。

 

 些かホラー染みた導入から、カレキの国へと連れられて、気が付いたら一人だった。

 突如現れた私を無理矢理引き摺って王の間に連れて来たのが、このホーリィだ。

 この国に来る前といい、来た直後といい、引き摺られてばかりだ。

 

 この国には外の世界から、もうずっと長いことモンスターマスターが来ていない。

 それはかくれんぼう、本来の名はかげぼうという世界樹の精霊が姿を消したからだ。

 この国はもう死んでいるのだ。

 

 この国を作る世界樹は、既に枯れている。

 少なくとも、目視する限りは枯れている様に見える。

 カレキの王が世界樹のヘソを壊しかけたとか、ずっと星降の大会で負けているとか、まあ理由はあったようなのだが、この国には精霊はいないし、世界樹は枯れた。

 

 世界樹が枯れたから精霊がいなくなったのか、精霊がいなくなったから世界樹が枯れたのかはどうでも良い。

 この国にとって衝撃だったのは、かくれんぼうが生きていて、そして異なる世界からマスターを連れて来たという事実だった。

 

 国民全てが夢を見たのだろう。

 枯れる国で、最後の希望を見たのだろう。

 

 

 自惚れでもなく、私がこの国の夢であり希望なのだ。

 出来ないでも、出来る限りでもなく、やらなければならない。

 

「ホーリィ殿下」

 

「何かしら」

 

 

 私は跪いて礼を取った。

 その形が正しいかなんてのは分からない。

 ゲームやお芝居で見た所作を真似ただけのものだ。

 

 

「必ずや、この国に栄光を」

 

 

 先ずは誓いを立てよう。

 そして誓いを立てるのなら、きっとそれは麗しき姫にこそ見届けて貰うべきものなのだ。

 

 だってこの世界は魔法が存在する御伽話(クエスト)

 この世界が誰かが夢見るものだとしても、この国の人々が夢見る希望を否定する事にはならない。

 

「レーカ、期待しています」

 

「お任せ下さい」

 

 

 この世界に私が呼ばれた理由が漸く理解出来た。

 枯れ果てた国が最後に見た夢を叶えるために、私はここにいる。

 夢は────、枯れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【この世界は確かにドラゴンクエストモンスターズではあるが、『テリーのワンダーランド』ではない。】


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枯れた木の若芽

 ホーリィ王女に手を振られながら、私は『始まりの扉』に飛び込んだ。

 前後左右どころか上下まで回転して浮遊する感覚。

 果たしてしっかりと着地出来るのか?

 

 私は頭部を守る様に手で抑えながら、頭から落ちない事だけを祈っていた。

 

 結論から言うと、それはただの杞憂であり、私は頭部を抑えたまましゃがんだ状態で大地の上にあった。

 

 グレムリンは間抜けな私を見て笑っている。

 笑っているのも今のうちだ。

 直ぐに消えることになるのだから。(配合的な意味で)

 

 定番はグリズリーだろう。

 獣系に悪魔系を配合すれば作れるモンスターで、序盤においてゲームバランスを崩壊させる存在だ。

 具体的には、レベル1からレベル20までの間は???(魔王)系に匹敵する攻撃力の伸びを見せる。

 序盤のモンスターなんて、レベル20を超えたあたりで配合に注ぎ込まれる事や、成長限界が40超えたくらいで止まる事を考えれば、それで充分に過ぎる。

 

 獣系のフェアリーラットを捕まえたら、悪魔系のグレムリンと掛け合わせてグリズリーを作って、序盤でグリズリーを三体揃えればタイムアタックさえ狙える。

 そこからグリズリー×物質系でキラーマシンを作り、獣系とメダルおじさんのスライムファングでユニコーンを作り、キラーマシンとユニコーンを掛け合わせてキングレオにする流れなど、伝統さえ感じる

 

 それはそれで夢のある話だが、しかして機械的過ぎる。

 知らない者に夢を見させる事が出来るのだが、まあそれはおいおい考えるとしよう。

 取り敢えずはフェアリーラットを仲間にして、グレムリンと共にレベルを10以上にしてから考えれば良い。

 

 そう考えていたら、早速モンスターと遭遇した。

 運良くか悪くかは分からないが、二匹のフェアリーラットだった。

 早速魔物の餌を投げる。

 ゲームだと最後の一匹しか仲間にならないルールがあった気がするが、この世界だとそれがどう解釈されているのかは知らない。

 

 だが、魔物の餌に飛び付いて空腹を満たしている二匹は余りにも隙だらけで、息を吐く系や呪文が使えなさそうな位に、必死に口に肉を詰め込んでいるフェアリーラットを攻撃するのは悪い気がした。

 ここで攻撃したら鬼か悪魔だろう。

 

 いや、グレムリンは小鬼で悪魔だからセーフか。

 やれ、グレムリン。

 

 えっ? 今襲うの?

 みたいな顔をしているフェアリーラットだったが、左側の方がグレムリンに殴られて倒れた。

 多分死んではいないのだろう。

 気絶しているモンスターって、強制的に拘束して捕獲出来そうなものだが、そんな勧誘方法だと、後で暴れられても困る。

 もう一つ魔物の餌を投げると、やはりフェアリーラットは食い付いた。

 先程よりビクビクしているが、食べないという選択肢は無かったらしい。

 これはどのモンスターでも、賢さ255以上にはならない訳だと思った。

 

 グレムリンはニヤニヤと拳を振り上げている。

 これで仲間になったとしても、パーティーでやっていけるのか? そもそも、このグレムリンとの配合様にフェアリーラットを捕まえるのだけど問題無いのか?

 倒されるのを分かってビビり気味なら、降参してくれた方がマシなのに…。

 と色々悩んだが、力の差を教える事で初めて人間をマスターと認めるのだろうし、ボコらない選択肢はない。

 

 グレムリンが再び殴り付けるとフェアリーラットは倒れ込んだ。

 そしてフラフラと立ち上がる。

 起き上がり仲間になりたそうにこちらを見るって、どんな動作かと思ったが、見た目から仲間になりたそうな感が溢れてくる視線でこちらを見ていた。

 なるほど。

 これは鈍い人でも分かりそうだ。

 

 

 ゲームの時は、フェアリーラットならフェという適当極まりない名前を付けただろう。

 ファーラットならファ。

 出現するタイミングも近く、フェとファでどちらかどちらか紛らわしくなったりもするだろう。

 図鑑を埋めたり、基本配合に使う前提のモンスターだから、当然そうなる。

 しかし、四文字以下の名前の制限が無ければどうなるだろうか?

 私の場合はそのまま種族名を呼ぶ事にした。

 

 

 そこから暫く野生のグレムリンやフェアリーラットと戦っていたが、ふと確認すべき事に気が付いた。

 

 残念な事が分かった。

 このフェアリーラット、グレムリンと性別が同じだった。

 本当に残念なので、フェアリーラットに肉を与えてもう一匹仲間にすることにした。

 先程倒れていたフェアリーラットは死んでいないようだったので、様子を見ることにした。

 時間が経っても動かない…。

 死んではいないだろうが、放置しておくと死にそうだったので近くの浅い洞に引っ張る事にした。

 世界樹の葉が無いと復活しないやつだろうか?

 

 カレキの国では世界樹の雫も世界樹の葉も売られていないし、もし旅の扉から持ってきたら高価買取するとも言われている。

 カレキの国だから仕方ない。

 寧ろ世界樹の中にあるにも関わらず、世界樹の葉でなく薬草ばかりをくれるタイジュの方がケチなのかも知れない。

 

 薬草くらいならあげても良いが、私は薬草はいらないから魔物の餌をくれと言ったせいで、手持ちにはない。

 

 でも問題は無い。

 グレムリンというホイミを覚えた、特技に恵まれた魔物がいるから。

 このグレムリンに関しては、タイジュの魔物と同じくギラ、ホイミ、マホトーンの構成だった。

 野生のグレムリンは微妙に違うようだが、ホイミは覚えていたのは間違いないが、他にもマヌーサを使っていた。

 これは他国のマスターの魔物のは違う特技を覚えているという事の再現なのだろうか。

 

 まあそんなことは今は良い。

 取り敢えず起きないフェアリーラットにホイミをかけておく。

 

 少し動いたが、それ以降再び動いていない。

 死ぬのなら、腐った死体かゴーストになってくれたら、肉で捕獲するのにと考えるのは、少々ヤバい思考かも知れないな。

 フェアリーラットの前に魔物の餌を持って来ると、鼻をクンクンとさせていた。

 …死んだふり、か。

 

 低レベルなフェアリーラットの低い体力は、生きていれば全てホイミで快復しているはずだ。

 悪いけど、フェアリーラットというか魔物の知能では我慢の限界は早いだろう。

 

 ほら、食い付いた。

 起き上がったばかりのフェアリーラットをもう一度叩きのめそうとしたら、大人しく仲間になった。

 …降参というのもあるのか。

 それとも一度既に倒したからか。

 理由は追々調べれば良いさ。

 

 

 グレムリンとフェアリーラット二体の経験値を高めながら、私は二度、次の階層へと進む穴へと落ちた。

 

 幸運にも宿屋があった。

 次で4階層目。

 最後に扉の主(ボス)がいるのだろう。

 ゲームならここでセーブ出来たのだろうけど、人生にはセーブはない。

 沢山レベル上げをしたつもりだが、負ければ終わる。

 せめて、負けても見逃してくれる温厚なボスなら良いのだけれど…。

 

 そう期待して、私は最後の穴に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、豊かな自然だった。

 長年マスターが来ていないカレキの国の旅の扉。

 その奥に待っていたのは─────

 

 

「マンイーター…」

 

 そうか、それはカレキが衰退していく訳だ。

 そして生き残りは強い訳だ。

 魔物の中では強くない。

 何なら、ステータスで見ればエビルシードの完全下位互換な訳だ。

 エビルシードとエビルシードを配合して作るマンイーターは、エビルシードよりも弱い。

 芽生えた植物よりも、その種の方が強い。

 もっと言えば、ダークアイからエビルシードが作れるが、ダークアイとマンイーターではダークアイが圧勝してしまう。

 

 ホイミスライムは以外にも全ステータスは平均以上のハイスペックモンスターであり、初期ステータスと寿命さえ何とかすれば、普通に使っていける。

 有名なマネマネ無限増殖法で、ホイミスライムにマネマネを掛け合わせ続けて強化する手段もある。

 マネマネはコアトルを作る時にとても便利だったから、この世界にもマネマネが沢山確保出来る手段が欲しい。

 カレキの国の人々が皆マネマネなら、配合材料に困らないと言えば、あの王女は「それ、言い過ぎ」と言うだろうか。

 

 

 さて、冗談はそろそろ良いだろう。

 マンイーターは動かない。

 それは、ボスを倒せなければ帰ることが出来ないからだ。

 

 勿論、例外もあってキメラの翼というアイテムがある。

 これを使えば直ぐにカレキの国の王の間に戻れるだろう。

 

 キメラの翼を眺めながら、考えていた。

 マンイーターとは洒落にならない。

 人間を食べるという事は、倒された後のマスターの末路は、つまりはそういう事だ。

 ホーリィ王女に渡されたキメラの翼の意味を、今になって悟った。

 エビルシードの何が邪悪(エビル)なのか。

 その答えは明白だ。

 マンイーターもひとくいそうも、英語か日本語かが違うだけで同じいみだが、エビルシードが育った先には人を食らう花が咲く。

 

 勝てるとは思う。

 勝つ可能性が高いのは分かっている。

 他国特有の理不尽な強さの特技を持っていなければ、単純なステータスはグレムリン以下だ。

 マホトーンには強いが、グレムリンのギラにもフェアリーラットのマヌーサにも強くない。

 タイジュ産と同じ特技構成なら、ドラゴン斬り、甘い息、気合を溜める。

 他国マスターの魔物と同じなら、ライデイン、岩石落とし、舐め回し。

 デインはあるとしても、岩石落としは無いと信じたい。

 アレは100を超えるダメージを与える技で、最序盤で出て良い特技ではない。

 

 相対したから分かる。

 正直なところ、ステータスが高いとか、特技が強いとか、そういった事は大した重要度は持たない。

 グレムリンやフェアリーラットしか見ていなかったから、今になって唐突に理解させられたが、マンイーターは人を食べる。

 これまで持っていた魔物の餌。

 その上位互換に骨付き肉や霜降り肉というものがある。

 草食の魔物達でさえも夢中にさせるものだ。

 マンイーターには、私もそう見えているのだと分かった。

 

 材料はおおにわとりやあばれうしどりの肉だとは思うが、目の前のマンイーター…、いや、私の手持ちの魔物にとっても、魔物の肉でも人間の肉であっても変わらない。

 そう思うと、近くにいる自分の魔物でさえ信じられなくなる。

 

 周りをキョロキョロと見回すと、高価な首飾りが落ちていた。

 首飾りだけではない。

 ブレスレットもあった。

 こちらも高そうだ。

 

 

 高貴な身分のマスターも、ここで食われたのだろう。

 高価な物を持つ者は、無駄に金を使う馬鹿ではない。

 それだけの物を持てる能力がある分、他者より賢い。

 優れた者は成功して、良い物を身に着ける。

 立場の強い人には、それを裏付ける能力があるのだ。

 そんな人がここに、高価な物を落とした意味…。

 そんな人でもここに、高価な物を落とした意味……。

 私には、キメラの翼だけ(・・)が命綱に思えた。

 

 

 視線を前に戻すと、動かないと思っていたマンイーターが、じわりじわりと、近付いてきていた。



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魔物の餌とは誰のこと?

「フェアリーラット達、マヌーサ!! グレムリンはギラで焼き払え!!」

 

 マヌーサはマンイーターには良く効く。

 成功率で考えれば一度で十分のはずだ。

 でも余りに不安だったので、二重に掛けてしまった。

 

 濃密な霧で覆われているマンイーター。

 姿が見えなくなったら見えなくなったで、それはそれで怖い。

 何時、あの霧の中から触手が伸びてくるのか…。

 こちらに近付いてくる足を止めたかった。

 

 マンイーターからの攻撃は無かった。

 どうやら、物理的な通常攻撃をしようとしていたらしい。

 呪文であれば、こちらに届いているはずだから。

 マヌーサがあるからハッキリとは見えないが、きっとそうだ。

 攻撃が後攻という時点で、こちらよりも素早さが低い。

 即ち、レベルも高くない事が分かる。

 少しだけ、安堵出来たがそれでも怖さは消えてはいない。

 

 

「フェアリーラット達、ボミエ。グレムリンは通常攻撃で叩け」

 

 マンイーターの足を止めたいがあまり、この場にいるモンスターの中では、既に最鈍のマンイーターにボミエを掛けさせた。

 フェアリーラット達の呼び名がどちらもフェアリーラットなので、区別を付けられないというのもある。

 グレムリンはこの後はホイミ要員として、MPを温存させておこう。

 

 

 突如雷鎚が落ちてきた。

 私にも当たりかけた。

 まだ震えが止まらない。

 

 しかし、やはりデインは持っていたか。

 所謂下級モンスターは、デイン系への耐性が低い事が多い。

 フェアリーラット等は寧ろ、デイン系統には弱いと言っても良い。

 グレムリンがホイミを使ってくれて良かった。

 

 

 グレムリン自体が回復出来たので、次は薬草があれば、次のホイミと薬草でパーティの三体とも回復出来たが、薬草の手持ちは無い。

 あったとしても、マンイーターに近付くリスクを承知してフェアリーラットに近付き薬草を与える勇気があったかは疑問が残る。

 

 またデインが来たら、ホイミを受けていない方のフェアリーラットは倒れるだろう。

 しかしどうにかする手段がない。

 

 フェアリーラット二体が霧の中のマンイーターを叩く。

 グレムリンは片方にホイミを掛けた。

 

 そして再び落ちてくる雷鎚。

 フェアリーラットの片方が倒れた。

 こちらは残り二体。

 

 次でデインが来たら、もしかしたらホイミ出来ていない方が、倒れるだろう。

 グレムリンよりフェアリーラットの方が攻撃力が高い。

 それに回復無しでデインを二回受けたら死亡確定のフェアリーラットと違って、グレムリンの体力と耐性を考えれば、二度は耐えられる。

 

 思えば、グレムリンが最初に自分にホイミをしたのが間違いだった。

 …いや、指示しなかった私のミスだ。

 魔物の責任ではない。

 散々魔物の知能に限界があると言っておきながら、作戦の立案をしなかった私が悪い。

 

 更に言うなれば、薬草をもっと重視しておくべきだった。

 何故初心者マスターには薬草ばかりが与えられるか。

 それは体力が低い魔物が多いと、バギやギラやデイン等の全体魔法を受けた際に、パーティの回復役だけに任せておけばジリ貧となるからだ。

 偉そうに薬草よりも魔物の餌を下さいなんて、言うべきではなかった。

 

 私は命が惜しい。

 無敵の人にはなれない。

 無敵の人というのは、失うものの無い人だ。

 失うものの無い人は、そもそも何も持ち得ない人。

 つまりは価値のない人の事だ。

 それなりの教養と能力と容姿は持っている私は、自分の価値があることを知っている。

 だから無敵の人にはなれない。

 

 換えの効く魔物を捨てて、私だけでも助かろうか。

 手元に掴んだキメラの翼を見て、いざという時の対応を考えた。

 

 グレムリンにはフェアリーラットにホイミを掛けさせた。

 雷は二体を襲う。

 そしてまた、フェアリーラットだけを回復させた。

 雷は二体を襲った。

 グレムリンはまだ生きていた。

 フェアリーラットにホイミを掛けさせた。

 雷が二体を襲った。

 グレムリンは倒れた。

 

 フェアリーラットだけが残された。

 後はない。

 …雷は落ちなかった。

 希望的観測としては、MPが切れた。

 そうでない観測としては、残り一体に対して全体攻撃の必要を感じなかった。

 

 後者であれば二重に良くない。

 フェアリーラットは麻痺に弱い。

 麻痺攻撃を持たれていれば、もし攻撃が当たった時点で一体しかいないフェアリーラットが麻痺して終わりだ。

 

 キメラの翼を掴む手の力が強くなり過ぎて、疲れによる感覚の低下により、しっかりと掴めているかが不安になる。

 

 だが、マスターとして最後に務めは果たすべきだろう。

 駆け出して、倒れたグレムリンとフェアリーラットを掴む。

 マンイーターから少しでも距離が取れれば良い。

 ヤバいと感じたら、フェアリーラットをこちらに退却させてキメラの翼を放り投げれば良い。

 

 そうしていると、何かが視界の端を掠めた。

 皮膚が擦れた。

 軽く血が滲み出ている。

 

 だが、全く痛くない。

 痛く…ない…?

 感覚そのものが、無い。

 

 嘘だろう?

 足も動かせているのか分からない。

 感覚が鈍い。

 

 嘘だろ…。

 そんな、もっと早くキメ…ラ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 レイカが倒れた後、マンイーターの攻撃が一度己から逸れたところを狙って、繰り出されたフェアリーラットの攻撃がマンイーターを倒した。

 マンイーターは大人しくしなしなと萎れたままレイカを見ていた。

 

「もし食べたら、もうここに来る人間はいなくなるんよ」

 

 マンイーターは植物系としての最高位の存在を背後に感じた。

 

「もし、そこのレイカに着いていくんなら、肉を食べる機会には恵まれるだろうね。人間のものかどうかは別やけど。…どうする?」

 

 マンイーターはのそのそと地面を摺りながら、レイカに近付くと、そのまま触手を伸ばした。

 

「そうか、それが君の選択なんだね。じゃあ、帰ろうか

 

 

 

 

 マンイーターは巻き付けた触手の中のものを、高く高く空へと掲げた。

 世界は歪み、捻れ、そして流浪し暗転する。

 

 カレキの王の間が映し出された。

 闇に光が差し込み、流れは停まり、捻れと歪みは正される。

 

 

 

 

§

「…カ、レー…カ!!…レーカッ!!」

 

 ホーリィ王女…だ。

 そうか…。助かったのか…?

 

 手に握っているものを目の前に引き寄せると、やはりそこにはキメラの翼…ではなく、高価なネックレスとブレスレットがあった。

 

「あれ…?」

 

「ああ、レーカ。目を覚ましたのですね。わたくしのぱぷぱふ看護が功を奏したのでしょう」

 

 …私はもっと早く目覚めるべきだったのかも知れない。

 

「あら、それは…」

 

 マスターとはいえ平民の私には似つかわしくない、明らかに高価なそれ。

 私は以前にお姫様がグレムリンを仲間に旅の扉に出掛けた件を思い出した。

 

「もしかして、殿下のですか?」

 

「はい」

 

 私がそれを返すと姫は静かに笑いながら言った。

 

 

 

 

 

「わたくしが、マンイーターに食べられた時に落としたものです」

 

 

 驚いて姫を見ると、その形は崩れてマネマネへと変わってしまった。

 

 思わず後ろへと下がると、マネマネの後ろからホーリィ王女が現れた。

 

「こら、驚かしてはいけませんよ」

 

 …ああ、王女の手持ちの魔物のイタズラだったのか。

 少し安心した。

 マンイーターに食べられたお姫様はいなかったのだと。

 

 

「…実はわたくしも、マネマネなのですけれどね」

 

 二人目のホーリィ姫も、モシャスを解いてその本性を表した。

 安堵は次の恐怖の為の布石に過ぎなかったようだ。

 私は疲れと恐怖と不条理の余り、再び気絶した。

 

 

 

 

§

 

「少し驚かせてみただけなのですが…」

 

 十体のマネマネに囲まれたホーリィ姫は、再び気絶したレイカを膝枕して、その額を撫でている。

 彼女はこわいはなしの本を幾ら読んでも臆病にはならず、勇敢なままだという、スプラッタジョークが大好きな18歳である。

 

 彼女のジョークは、客観的に見てそこそこ性質が悪い。

 

「お爺様を諌めていたわたくしは、レーカにだけ見えている亡霊で、たからこそ私が諌めてもお爺様の反応が鈍かった…と言ったらどんな顔で驚いて下さるでしょうか」

 

 いや、かなり性質が悪いと言えるだろう。

 ウットリとしながら、己よりも僅かだけ歳上な青年の髪を指で弄びながら笑う。

 絶世の美女である故に、恐ろしさと美しさが同居していて尚更に恐ろしい。

 

 

「お爺様の方が亡霊に見えるので、騙されてはくれないかも知れません。そうですわね。

御爺様とわたくしがレーカだけに見えている亡霊という設定なら、リアリティがあって良いのでは無いでしょうか?」

 

 周囲のマネマネの半数はキャッキャと同調していたが、もう半分くらいのマネマネは、とっとと寿退社したそうにしていた。

 

「何かレーカがわたくしに仕出かしてくれれば良いのですが。

真剣に追い詰めた振りをしたら、カワイイところを見せてくれると思うのです」

 

 彼女はレイカの冷静なようで、本心は臆病なところを一目で見抜いていた。

 そういうところを克服していく様を見るのも格好良いと思うし、それを隠そうとして隠せていないのもゾクゾクさせる。

 

 自分好みの男が成長していくのも、分不相応な癖に、既に成長の必要が無い程のハイスペックである振りをしているのを、敢えて気が付かない振りをしているのも、どちらにしても彼女にはとても美味しい展開であった。

 

 配下のしにがみきぞくとマネマネを引き連れて、敢えて最初の扉の最奥に自分のアクセサリーや、バザー市場で買った作り物の人骨を置きにいった演出が、予想と寸分違わずの彼の反応を引き出してくれたので、今晩もぐっすりぐっしょりと眠れそうだ。

 

 彼女はある意味において、このカレキの国で一番の魔物と呼べる存在なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『始まりの扉』クリア!!

 

手持ちメンバー

グレムリン

フェアリーラット

フェアリーラット

 

マンイーターが仲間になった!!




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選ぶは自由か統制か

 …………。

 あれから、ホーリィ王女には冗談だと伝えられたが、正直なところ本当に冗談なのか、未だ僅かに疑いは晴れない。

 

 カレキの国で生きているのが実は私だけでした。

 カレキの国は住民諸共滅びた廃墟で、住民は幽霊でした…というオチがあっても、もう納得してしまえる。

 

 ドラクエ3のテドンの村で一度使われた手法だけに、カレキの国がそうであっても、別に不思議な話ではない。

 

 ………………。

 うん、考えるのはやめよう。

 

 

 

 でも星降の大会に優勝したら、あわよくば王女様と…という考えが吹き飛んだのは事実だ。

 流石にマネマネか幽霊かも知れない女性には本気になれない。

 多様化が叫ばれる現代だが、テリーのワンダーランドの発売時は平成前半だった事を含めて、そこは許してもらいたい。

 

 

 

 

 

 私は早速配合にしに行くことにした。

 

 

「…カレキ王?」

 

「いや、よく間違えられるがわしは気の良いモンスターおじさんじゃ。宜しくな。

で、ここでは配合と付加と卵の鑑定と祝福が出来るが、まず説明から始めようか」

 

 …いや、どう見てもカレキ王だった。

 これはアレなのか。

 タイジュの国でメダルおじさんと名乗っていた、本人以外からは即バレなタイジュ国王の派生パターンなのだろう。

 幾らメダルおじさんが国の有力者とはいえ、王妃の部屋に入り浸っているのが王様とは別人のおじさんなら、王妃共々関係を疑われて処されるだろうから。

 

 しかし、気になることがある。

 

「はい・いいえ で答えずにすみません。

もしかして、私が配合関係を無料にしてくれと頼んだから、経費削減で自ら担当されているのでしょうか」

 

 そう。

 この王の奇行が、私の発言のせいであったら、その奇行を訝しむ権利さえ、私には無いのだから。

 

「…いや、何のことか分からんが、これは趣味じゃ。前任者はもうよい歳だったし、わしや孫娘が一番配合をさせているから丁度良かったのもある」

 

 

 ………趣味、なのか。

 それは良かった。

 私の責任でなくて本当に良かった。

 そしてカレキ王自身もかなりの御歳なので、次の後任者を即急に見付ける必要がありそうだ。

 下手に突っ込むと、その役割を任されて、本当は廃墟かもしれないカレキの国に永遠に閉じ込められる事になるかもしれない。

 それは勘弁して欲しい。

 ちょっとこの世界は、気が付かないけど裏面がホラーな雰囲気あるから好きになれそうにない。

 

 

「分かりました。グレムリンとフェアリーラットでお願いします」

 

「よし、心得た…はて、これは王女のグレムリンでは…まあ、よかろう」

 

 

 

 

 

 

 そして一晩が経った。

 一晩で妊娠して出産出来るとか、魔物の繁殖力は恐ろしい。

 

「生まれたのはグレンデルの卵じゃ、そのまま孵化させるかの?」

 

 …あっ、グリズリーではなかった。

 血統(メイン):獣系×相手(サブ):悪魔系だとグリズリーだが、逆になっていたようだ。

 

 …まあグレンデルもMP、素早さ、賢さ以外の伸びは高性能だし。

 

 

 私はグレンデルを連れてバザー市場で薬草を幾つか買うとと、次の旅の扉へと向かうことにした。

 その途中で、ホーリィ王女様に会った。

 

「わたくしのあげたグレムリンは元気にしていますか?」

 

「…あ、配合に使いました」

 

「…………」

 

 とても気まずい。

 

「……良かったら、どうぞ」

 

 それもなんとなく違うと思ったが、私はグレンデルを渡す事にした。

 さて、どうしようか。

 

「もし、宜しければもう一体グレンデルを用意しますので、そのグレンデルとお見合いさせませんか」

 

「…ええ、よろこんで」

 

 何とかなりそうだったので、最初の扉で再びグレムリンを捕まえて育てて、グレンデルを用意した。

 ちゃんとお姫様のグレンデルと性別は別にしてある。

 仲間にしたグレンデルの経験値獲得の為に、敢えてフェアリーラット一体で挑み、フェアリーラットとグレムリンだけで戦闘を繰り返してレベル上げに勤しんだ。

 

 さて、私としては連れて行くのは些か抵抗があるのだが、マンイーターを牧場から連れて行く事になった。

 流石に孵化したばかりのグレンデル一体では洒落にならない。

 牧場はかなり小さかったが、これでも他に殆どマスターがいないから何とかなりそうではある。

 ふと足元を見ると、卵があった。

 先を見るとデンタザウルスがいる。

 恐らくは母親だろう。

 これは怒らせない様にしようと、そーっと下がろうとすると、デンタザウルスはそのまま向こうに去ってしまった。

 育児放棄かと最初思ったけれど、もしやアレだろうか。

 タイジュの国でテリーに卵をくれたスカイドラゴンと同じようなイベントなのかもしれない。

 スカイドラゴンの卵って、高所から産み落とされるようだけど、アレはテリーではなく地面に落ちたら割れなかったのだろうか? 若しくはテリーにぶつかってもダメージがある程の重さではなかったのか? 等の疑問はあったのだが、今は置いておこう。

 デンタザウルスか。

 特殊配合の材料として考えると、ミルドラース(変身)に使う事で有名だが、メタルドラゴンやスライムボーグの材料にもなる。

 単体で見ると、成長は遅いが弱くはない。

 特に守備力とMPの上がり方はそれなりのものだ。

 

 悪くはない。

 私はさっそくカレキ王、もといモンスターおじさんに孵化を依頼した。

 話はズレるが、魔物とモンスターが併用されているので、ドラクエの世界は微妙に面倒だとは、この世界に来る前から感じていた。

 まあ、別に良いけれど。

 

 

 

 取り敢えず、特殊配合で作れる魔物で三枠埋まったのは良い事だ。

 安心感が違う。

 元の世界では、大学に通いながら友人と会社を起ち上げて、人事部長をしていた。

 データベーススペシャリスト試験に合格していた事から、友人に人事を任せられたのだ。

 とにかく統計的な傾向を最重視していた。

 例えば新卒と中途の能力的な傾向。

 有名大卒とそうでない大卒と高卒の能力的な傾向。

 美形と醜形の営業成績の傾向。

 難しい質問をした時に、すぐ答えられる人とそうでない人のIQの傾向。

 MBAを取得した者の成功確率。

 親の資産の多少と、子供の知能の傾向…

 膨大なデータを集めて、それらの傾向を見ることに終始した。

 勿論例外もあったが、大きな枠組みとしては成功していた。

 人間の内面を見ることは自信がなかったが、データを把握する事には長けており、会社の人事としては非常に成果を上げられていたのだ。

 堅実過ぎて挑戦は無かったが、ベンチャー企業を起ち上げる時点で十分な挑戦であったから、要素要素としては堅実であろうとするのは、間違っていなかったと思う。

 

 二つ目の扉で特殊配合三体を揃えた状態というのは、その基準から言えば十分だと判断した。

 マンイーターのステータスは、所謂高卒レベル以下の大卒者に近いのかも知れないが、それはそれで構わない。

 因みにはねスライムの最終的な合計種族値は驚異の2800程度で、マンイーターは1800。

 なのだが、素早さと賢さ、特に賢さは限界値が低い。

 全ての魔物に共通することだが、HP、MP、攻撃力、防御力は999が上限だとしても、素早さは511、賢さは255が上限だからだ。

 よって、賢さが600程上昇する余地があったとしても、それは無駄なステータスとなる。

 マンイーターは、MPの伸びが高くそこが評価出来る。

 植物系全般に言える事としては、他種族だと上がりにくいMPには難が無い代わりに、上げ過ぎても無駄となる賢さにステータスの配分が高い事だ。

 かりゅうそう、ローズバトラー、わたぼう等は攻撃力も高いが、アレらは例外だろう。

 しかし、マンイーターも熱系統以外の呪文には弱いデンタザウルスには、耐性面で優っている。

 雇われやすい労働者はいるが、どんな雇用主にも雇われない程の労働者はそうはいない例と言えるだろう。

 

 さて、マンイーターとグレンデルとデンタザウルスを連れて、私は旅の扉の間に来た。

 

『統制の扉』『自由の扉』

 

 また意味深な名前だと思う。

 私は統制の扉を選んだ。

 どの道、両方行かなくてはいけない。

 自由の先に統制が待つよりも、統制の先に自由がある方がまだマシに思えたからだ。

 自制心ある生徒が多い、有名な進学校程校則が緩い的な理屈で。

 

 

 

 世界の扉に飛び込んだ。

 世界は歪み、捻れ、そして流浪し暗転する。

 回転型ジェットコースターを緩やかにしたような気持ちの悪さ。

 本当に気持ちが悪い。

 

 

 

 三度目の旅の扉の扉も、やはり慣れなかった。

 いつか、慣れる日が来るのだろうか。

 その前に帰れるのなら帰りたい。

 帰れなくて、旅の扉に慣れるというのも望む所ではないのだから。

 

 

 山の麓に立ったまま、この扉の向こうの世界に再構成された感覚。

 まるで最初から立っていたような感覚は、平行世界の私に憑依したかと勘違いさせる程自然だった。

 あまりに荒唐無稽な推測は、逆に妄想を現実に引き寄せてしまうようでやりたくはない。

 だが、怖い想像ほど止められない。

 

 辺りにはフェアリーラットが飛んでいる。

 じんめんちょうと戦っているものも多い。

 じんめんちょうは、大して強くはないが、ギガスラッシュが効かないという変わった特性を持つ魔物だ。

 無論、序盤でギガスラッシュを使う敵は出てこないはずだろうが…。

 

 しかしじんめんちょうはとにかく不気味だ。

 おじさんの頭やお姉さんの頭に大きな翅と脚が付いている。

 勿論首から下はない。

 生理的嫌悪感と、生者を仲間に引き込もうとする死者の様な不気味さを感じさせる。

 因みにタイジュ産のじんめんちょうは仲間を呼ぶを覚えており、そしてじんめんちょうへの仲間を呼ぶは、ギガスラッシュ同様に効かない仕様だ。

 

 まだフェアリーラットの方がマシだと思えたので、じんめんちょうを中心に戦った。

 マンイーターがじんめんちょうを襲う様子は、引き千切られた人間の首を食べているようにしか見えなくて、少し吐きそうになった。

 

 配合で生まれたグレンデルは、初期ステータスが高い分だけ、他の二匹よりも活躍した。

 こんな見た目だが、パーティー唯一の回復役だ。

 デンタザウルスは仲間を呼ぶ以外には、未だに技を覚えない。

 恐らく下級の技ではなく、いきなり中、上級の技を覚えるのだろう。

 それにしても仲間を呼ぶの仲間って何処から来るのだろうか?

 謎は尽きない。

 マンイーターは麻痺攻撃とデインを持っていた。

 もしあの時麻痺攻撃が、私の魔物に当たっていたらと思うと、流石に恐ろしく感じる。

 

 フェアリーラットとじんめんちょう以外には、ピッキーとスライムがいた。

 じんめんちょうとピッキーとスライムは仲間にした。

 ドラキーはいなかった。

 ドラキーはピッキーとスライム系ので作れる特殊配合で、配合面で言うなれば、実はそれなりにレア種族と言える。

 

 私は仲間に出来る魔物は、なるべく仲間にしていくつもりだ。

 配合の材料は多いに越した事はない。

 背後に仲間を増やして、更にその背後には屍を積み上げる。

 それがモンスターマスターだと、私は認識している。

 

 この扉の難易度としては、最初の扉と大きくは変わらなかった。

 私はまたしても三層目でボーナス部屋に当たった。

 今回は道具屋だった。

 セーブは出来ないが、それでも薬草を買えるのは大きかった。

 

 さて、準備は出来た。

 扉の主(ボス)へと挑もうか。



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支配者を支配する力

 統制の扉の最奥は、まるで蜂の巣だった。

 いや、真実蜂の巣だ。

 フェアリーラットが何体も密集している。

 壁のように集まって、中央の通路だけを開けるように分かれている。

 左右に揺れてはいるが、真っ直ぐ進めば当たらないだろう。

 …襲って来なければ。

 

 グレンデルにフェアリーラットに纏めてマホトーンを掛けさせる。

 フェアリーラットはマホトーンへの耐性が弱いから、よく効く。

 これでマヌーサが掛けられる恐れはなくなった。

 

 中央突破する侵入者を素通りさせる程、フェアリーラットも無能ではないようで、波がこちらに押し寄せたタイミングで、一〜三体ごとに襲ってくる。

 

 一度に来られても堪らないが、それはそれで同士討ちも狙える。

 もし受け流しを覚えていたら、その時は大活躍しただろう。

 …これだけの数を揃えられたら、攻撃が通らない魔物を無視して、最初から私を直接襲う事もあり得るが。

 

 

 

 いや、そろそろ慣れるべきだ。

 この世界で魔物に出会ってから、私は常に自分の(・・・)身の危険だけ(・・)を気にしてきた。

 

 私は星降りの大会で勝てなければそもそも戻れない。

 この枯れた国で、今後を過ごす事になる。

 それに、私は誓ったではないか。

 あれはかくれんぼう以外の魔物を知らない故の、魔物の恐怖を知らないが故の自惚れが言わせた戯言であったかも知れない。

 

 だが、それでも誓ったのだ。

 枯れ木に花を咲かせると、この国の希望は未だ枯れていないと証明するのだと。

 

 

「三体とも戻って来てくれ」

 

 この階層の一番奥まで三体と共に下がる。

 フェアリーラット達の両壁は徐々にこちらに伸びては来ているが、こちらを警戒して、一定以上には伸びてこない。

 …ここで良いか。

 私は群れの奥に向けて宣告する。

 

 

「私達は最底の階層までやって来たんだ。

今度はお前達から来い。

こっちはこれ以上逃げ道は無いんだ。

遠慮なんて要らないさ。

何なら、全員纏めて来ても構わないぞ。

私は君達よりも弱いが、私のツレは君達よりも強い」

 

 

 奥から喚くような声が聞こえた。

 直後、物凄い速度で戦闘のフェアリーラットが突っ込んで来た。

 私達の背後には壁がある。

 故に前、右、左の三方向からしか敵の攻撃は来ない。

 そしてフェアリーラットの攻撃手段に、遠距離のものは無い。

 

「全てを叩き落とせ」

 

 グレンデルが、デンタザウルスが、そしてマンイーターが、フェアリーラットを叩きのめす。

 野生のフェアリーラットに勝てるようなメンバーを、勝てるレベルまで仕上げたんだ。

 攻撃力と素早さのステータス差により、MPを使わず先制の通常攻撃で、一撃で倒せる面子ばかりだ。

 敵が次から次へとやって来ているが、同じ速度で倒せている。

 

 …実はまだ一つ敵の進路は残されている。

 

 

 視線だけ上へ向けると、予想通り私を狙ったフェアリーラットが一匹、真上から突撃してきていた。

 相手が不意を打てたと油断しているのなら、それこそが相手の不意というものだ。

 擦って動かした片足を軸に、身を捻って回避すると共に拳で打ち抜く。

 蝶の様に舞い、蜂の様に刺す。

 高校時代にはボクシング部のキャプテンをしていたんだ。

 この程度なら何とかなるさ。

 美人アスリートと呼ばれた母と、そんな母を妻に出来る財力と権力を持った父に感謝しないといけない。

 人間の才能も魔物の才能も、生まれがほぼ全てだ。

 優れた両親の配合によって生まれた事に感謝せねば。

 勿論私の両親は、魔物とは違い、私が生まれた後に失踪したりはしていない。

 

 …それにしても、フェアリーラットを殴り付けた手が痛い。

 私が人間の上澄みだとしても、やはり戦闘という形においてはフェアリーラット一匹で腕一本損傷する弱者だ。

 人間は魔物よりも脆い。

 …フェアリーラットが思いの外硬くて、左手はもう使えそうにない。

 痛みは何とか耐えるしかない。

 薬草って本来は人間にも使えるのだろうけど、以前の失敗もあるしここは温存しておかなければならない。

 

 

 

 魔物の群れ()は晴れた。

 残された哀れな扉の主(ヘルホーネット)は、それでも不敵にこちらを睨み付けている。

 

 例え兵を失ったとしても、それは王が哀れまれる事にはならないという事か。

 王国の核は民でなく王であり、民が滅んでも王がいるのであれば、王国は健全だ。

 その王一人は、全ての民を足したよりも価値がある。

 それが王国の本質だ。

 

 王国が滅び、当時の民が死に絶えても、王の権威だけは残したピラミッドがあるように、死した後でさえ、王の価値は民より高い。

 

 

 私達の会社も、本質的には創立メンバーだけで成り立っていた。

 いや、リーダー(アイツ)だけであの会社は成り立っていたと言っていい。

 結局のところ、あの頃の私も、王ではなく民であった。

 

 だが、今は違う。

 私もまた王だ。

 

 

 私は社長であった幼馴染の生き方を思い出し、トレースする。

 生まれ持っての強者で、何と戦っても勝ち続けた男の思想を。

 

 

 弱者を切り捨てる。

 弱者を受け入れない。

 弱者を拒絶する。

 弱者には、弱くて悪い者も、悪さ故に弱いフリをする者もいる。

 弱いだけなら足手まとい。

 弱くて悪い者と、弱いフリをした者は、足手まといな上に害悪。

 

 私の仲間に弱い者はいない。

 ステータスに裏打ちされた価値がある。

 弱いのは、無価値なのは、────私だ。

 

 弱い私は生きていてはいけない。

 放っておいて見殺しにするのではなく、積極的に殺さねばならない。

 だからこそ、この場で一番弱い私を、私自身が(・・・・)抹殺しなければならない。

 そうすることで、足手まといはいなくなる。

 

 私は弱い私を殺して、強い(アイツ)の在り方を再構成する。

 

 私は私を強き王だと認識する。

 仲間の魔物を優秀な臣下だと認識する。

 搾取されるような平民はいない。

 私達は皆、奪う側にある。

 故に私達は強い。

 この世に生き延びるべき一群(集団)だ。

 生き延びる価値があるのなら、敵を排除してでも生き残る責務がある。

 

 

 

 およそ普段の己(怖がり)とは対極の思考を貼り付け、それを固着させる。

 普段の己(役立たず)では、生き残れない。

 その為の精神の再構成だ。

 役立たずは生き残れない、ではない。

 役立たずは────生き残らせてはいけない。

 

 世界に弱者は存在していても良い。

 けれど自分達の側に弱者を存在させてはいけないのだ。

 弱者がいない強者だけの集団で、弱者相手に無双する。

 

 世の中には満遍なく弱者がいて、自分達は強者だけで揃えれば優越出来る。

 私は強い。

 グレンデルは強い。

 デンタザウルスは強い。

 マンイーターは強い。

 弱い奴はいない。

 だから勝てる!!

 

 弱き者(カレキの国)を守る為には、私達は強くなければならない。

 弱き者では弱き者を救えない。

 強き者だけが弱きの希望になれるのだから。

 

 元々食らう側として生まれるのが一番良いが、食らわれる側として生まれても、食われる側に成長しなくてはならない。

 食らわれる側で生まれて、そのままの生き方でいる者は、食われたがっているのと変わらない。

 容赦なく食らい尽くせ。

 

 幼馴染で、常に勝ち続けていたアイツの思考を完全にトレースした。

 もはや負ける気はしない。

 

 

「マンイーター、ライデイン」

「グレンデル、身代わりでデンタザウルスを守れ」

「デンタザウルス、捨身で特攻しろ」

 

 デンタザウルスには攻撃を、グレンデルにはその防御を、マンイーターには、倒れているフリをしているだけかも知れないフェアリーラットを含めて、ライデインで場全体の制圧を任せる。

 

 時折、グレンデルのベホイミでグレンデル自身を回復させつつ、合わせて薬草も使う。

 デンタザウルスの体力が落ちてきた。

 ここが使い時だろう。

 

「デンタザウルス、メガンテ。グレンデルは精霊の歌だ」

 

 ここからは、デンタザウルスを再利用可能な爆弾として扱う。

 生まれてきて早々に申し訳ないが、それも仕事だと割り切らせよう。

 

 

 目標はヘルホーネット──────ではなく、フェアリーラット軍の第三陣だ。

 右側の一陣と左側の二陣。

 それだけでなく、ヘルホーネットの後ろにも控えの軍団があるのは理解していた。

 私ならそうする。

 だが、感心したのは第三陣が出てきたのは、ヘルホーネットではなく私達の後ろだったことだ。

 

 魔物にしては流石だと思う。

 このヘルホーネットは名将かもしれない。

 しかし、同じく将が優秀なる軍同士が争うなれば、兵士の質が勝負を分ける。

 経営者だけが優秀で何とかなるのなら、人事部なんて要らない。

 使えない中卒を仕入れても、経営者次第で何とでもなる…はずがないから、有名な企業でも有名大卒を好んで採用するのだ。

 

 優秀な私の下で、優秀な兵士が命懸けで仕事をするのなら、優秀な指揮官に率いられる無能な兵士を蹴散らすのなんて訳ないさ。

 

 成果を重ねる成功者と、死にたくないから生きているだけの負け組の差は、僅かな運の差でしかないという者もいるが、それはある意味でのみ正しい。

 その運の中に、親から受け継いだ本人の才能という点を含めるのならば、という前提においての話だが。

 逆に言えば、その他の運の要素等はおおよそ無視できる。

 

 生まれつき足に問題がある者が、オリンピック選手に勝つ。

 天文学的な確率であれば、運によって起こり得る事象かもしれないが、そんなのは例外も例外で良い事だ。

 基本的には能力が高い者が勝つ。

 同じ研修や教育を受けても、毎回成績が出る者と出ない者は変わらない。

 同じ仕事を任されても、大抵同じ人間が成果を出して、同じ人間が足を引っ張っている。

 そこに運が介在する要素は無い訳では無いが、傾向としてはおおよそ能力と結果が比例する。

 そしてそれは、ずっと続くものだ。

 

 三つ子の魂百までとは言ったもので、幼い時から優秀な者は優秀で、無能な者は無能だ。

 ましてや、二十二歳で就職するにあたって、これまで二十二年間有能だった者が無能になることも、無能だった者が有能になることも起こり難い。

 どんな教育や訓練であっても、生まれてから二十二年間という期間を覆す事は殆ど無い。

 だからこそ、これまで有能であったあかしとしての学歴がフィルターとして有効なのだと言われるのだ。 

 

 

 さて、結論を言おう。

 生まれ持った種族単位の差や、野生個体と配合個体の差は埋め難い。

 有能として生まれてきた私の配下は、そうでないフェアリーラットに負けるはずがない。

 

 グレンデルの親はフェアリーラットだが、それは問題ではない。

 配合による個体という事も勿論ある。

 だが、積み上げは必要なのだ。

 親がお金持ちであったから、楽な生活が出来る者を不平等だと僻む者はいるが、親は子供の為により多く稼ぐ為に働くのだから、親の努力は子に利益を(もたら)して当然だ。

 

 受け継ぐものが無かった無配合の野生個体に、配合という親からの受け継ぎで生まれ持って有利な個体が勝つ事は、理不尽でも卑怯でもなく、当然の権利であり、当然の使命だ。

 

 

 デンタザウルスの生命エネルギーが爆発し、それは精霊の歌で引き戻される。

 何度も、何度も────何度も、だ。

 幾度となく繰り返されたその後には、もはや動けるフェアリーラットの姿は無かった。

 

 

 再び幽鬼の如く復活したデンタザウルス。

 グレンデルにはもうMPは残っていない。

 マンイーターもMPが尽きた。

 

 手札は残りは特技も使えず、単調に殴り付ける以外にはない。

 

 だが、それで十分だ。

 

 

 

 

 

 

「さあ、叩き潰せ」

 

 

 

 

 ヘルホーネットは最後まで誇り高く戦った。

 配下などいなくても、たった一つの命だけで王国が存続することを証明していた。

 だが、遂には落日の時は来たれり。

 

 

「私達の勝利だ」

 

 多勢に無勢。

 無勢の側に圧倒的な才覚があれば話は変わっただろう。

 しかしヘルホーネットは、将としての才は(アイツ)を下回り、兵としての才はグレンデル達を下回っていた。

 

 倒れて尚、ヘルホーネットもフェアリーラット達も、媚びた目は向けてこない。

 それでも最早動かない。

 いや、動けない。

 動く気力をへし折れたのだろう。

 

 十分、十分良くやった。

 私は相手が屈服したのを見て、アイツの思考を取り外した。

 (アイツ)は私に戻った。

 

 その直後だった。

 ヘルホーネットの毒針が真っ直ぐ私を向いた。

 マンイーターの触手が庇ってくれなければ危なかった。

 

 …なるほど。

 本能的に弱い私に戻ったことを察したのだろう。

 アイツの思考をトレースした私であれば脅威だが、素の私程度なら勝てると見込まれたのだろう。

 これ程までに露骨に他者からの評価の差を見せ付けられると、アイツがいない私には価値がないのだと思い知らされる。

 

 ならば良い。

 アイツと同じやり方で教育してやる。

 昔アイツが私達を教育したやり方で。

 アイツではなく、この私が教育してやろう。

 

 

「マンイーター、その蜂をゆっくりと嬲って潰せ。

デンタザウルスは動いているフェアリーラットを叩いて周れ。

もう殺しても良い。

グレンデルはMPが回復したなら時折ベホイミをかけてやれ、その蜂にな」

 

 

 

 時間にして数時間が経過しただろうか。

 ヘルホーネットは動かなくなった。

 死亡はしていない。

 フェアリーラット達とは違って。

 ただ、動けるのに動こうとしなくなったのだ。

 その理由を考える必要はない。

 

 

「グレンデル、精霊の歌だ。

殺したフェアリーラット共を生き返らせろ」

 

 

 

 死者は蘇る。

 この場から死体はいなくなる。

 此処には生者しか存在しない。

 されど、生者らしい騒がしさは此処には存在しない。

 

 蜂とその配下は、今度こそ完全に屈服した。

 私はアイツと同じことをしても、アイツと違って加減が分からない。

 他人を痛め付ける事に慣れてはいないので、上手く出来ないのだ。

 私は使えない者を切り捨てる事はあったが、手元に置いたまま痛め付けた事はない。

 痛め付けなくても逆らわず、それでいて優秀なものしか配下にしようとは考えなかったからだ。

 そんな私が敢えて誰かを傷付けようとすれば、これは予想が出来た結果だ。

 

 

 …さて帰ろうかと考えた時、大量のじんめんちょうが雪崩込んで来た。

 生きているだけの無気力なフェアリーラットに襲い掛かっている。

 

 

「蜂と蛾は戦争中やったんや。

蜂の側が弱ってたら、それは蛾が叩きに来るに決まっとる」

 

 その声に私は咄嗟に振り向くと、そこには何もいなかった。

 けれどその声には聞き覚えがある。

 かくれんぼう。

 わたぼうやワルぼうの同類で、何処かの世界樹の精霊。

 私をこの世界に呼び込んだもの。

 

 

 再度前を見ると、カレキの国に戻れそうな穴と、私を見るヘルホーネットがいた。

 

「着いてこい。お前の敵にも敗北を与えて、侵略を止めてやろう」

 

 

 ヘルホーネットは、平伏す様に私に頭を下げた。

 それを見て私はカレキに続く穴に飛び込んだ。



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