影浦先輩が歪んだ少女に視線でセクハラされるお話 (ああああ)
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来栖京華①

もはやエロ同人に利用しない方が無作法なのでは?と迷推理してしまうぐらいエロ同人適正高いSEを177㎝の目付き悪い男が持って爆誕したせいで性癖が歪む歪む

こんな考えをしてるやつが本編にいなさそうなあたり、正隊員はえらいなって思いました。


影浦雅人には特殊な力がある。

 

それは副作用

 

高いトリオン能力を有する人間の中には、稀にそのトリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼして超人的な感覚をもたらす者が存在し、それらの超感覚を総称して「サイドエフェクト」と呼ぶ。

具体例を挙げれば

・優れた聴覚

・短時間での記憶や経験の定着

・未来視

 

などといったものがある。

 

ここまでいくと非常に便利なもののように思えるが、影浦自身はこんな能力欲しくもなんともなかった。

 

影浦の副作用は「感情受信体質」と呼ばれる能力であり、自分に向けられる感情を感覚として受信する力だ。

 

喜怒哀楽のみではなく、好意や恐怖、敵意や殺気といったものも感情に含まれるため、戦闘面では大いに役に立つが、日常生活では苦痛でしかない。

 

自分に向けられる感情を知ってしまうが故に不快な気分になる。それだけではなく、負の感情の場合は嫌な刺さり方でストレスが溜まってしまう。

 

この副作用故か生来の気質故か、影浦は自身があまり気が長くないことを自覚しており、問題を起こしたことも少なくない。

 

そんな影浦だが、最近受けたことのない感情を受信し、悩んでいた。

 

ここ数週間、ボーダー本部にいる時

例えばブースに居座っていたり、ぶらぶら移動していたり、食堂にいる時

流石に作戦室の中は安全地帯だったが

 

不定期にある感情が影浦に向けられるのだ。

 

何度も感じているため、既に下手人は発覚している。

 

確か少し前に新人王とか言って話題になっていたルーキー。

 

自身と同じスコーピオンを使い、瞬く間にB級に昇格し、ポイントを稼いでいる少女。

マスタークラスまで上がってくるようならいっちょ揉んでやろうか、などと考えていたがそうもいかなくなってしまった。

 

名前は確か…来栖京華だったか?

 

彼女からとんでもなく強い感情を受信しているのだ。

 

普段うざったい感情を向けてくる輩には怒鳴り声を上げたり、手が出ることも珍しくはないが、そうもできない理由が2つあった。

 

1つ目は彼女が向けてくる感情が少なくても悪感情ではない…ということだ。

 

感情受信体質は、向けられる感情に応じて微妙に感覚が異なる。

悪感情であればチクチクと突き刺すような感覚で、はっきり言えば不快になる。

好感情であれば柔らかいものを当てられるような感覚であり、不快ではない。

 

彼女から向けられる感情は、こう…何というかねっとりしているのだ。

 

生暖かいべたつくスライムのようなものが肌に当たる感覚とでも表現すればいいのか…

 

刺さり方的には悪感情ではなく、恐らくだが好感情に分類されるため聞くに聞けないのだ。

 

今までの経験上、刺さり方で大雑把に相手がどういう感情を向けているのかはある程度推測ができる。

 

同じ好感情や悪感情であっても、強さや内容によって微妙に刺さり方が変わってくるからだ。

 

だが今までこのような感情を向けられたことがなく、相手が何を思っているのかわからない、というのはどうにも戸惑ってしまう。

 

 

2つ目は体裁上の問題だ。

悪感情ならともかく好感情を確かめに行く、というのはやりにくいのだ。

 

もしこの感情を向けてくる奴が鋼や荒船、穂刈といった同年代の同性なら軽いノリで聞き出せるが、年下の少女には同じことは出来なかった。

 

最悪セクハラやナルシスト扱いされるのは普段他者からの評価を気にしない影浦とはいえ躊躇う。

躇われる、というわけだ。

 

相談しようにも同年代のやつらはあまりあてにならない。

不快な感情を刺してくるようなことはないだろうが、なんとなくイラつくことが予想できるからだ。

 

そういうわけで影浦は自身が手放しに尊敬できる数少ない先輩の元へ相談しに行くのだった。

 

 

「つーわけなんすよ、ザキさん。」

 

夕食時に影浦の実家であるお好み焼き屋に誘い、ことのあらましを話した。

普通に話すならラウンジでも良かったのだが内容的に盗み聞きされたくなかったのだ。

間違ってもクソ犬にだけは聞かれたくはない。

 

 

「うーん...あくまで俺の主観になるけど、その子はカゲのことが好きなんじゃないか?」

 

「話を聞く限り刺さる感情はどちらかといえば好意的なものなんだろ?」

 

「まあ分類上はそうっすけど...そんな感情今まで向けられたことがないんでよくわからねえってのが本音っす。」

 

「...なら確かめて見たらどうだ?個人ランク戦の最中にそれとなく探ってみればいい。音声までは記録に残らないから他のやつに聞かれる心配もないはずだ。」

 

成程。

感情云々を抜きにしても、短時間で成りあがったその実力には影浦も興味があった。

明日あたりにラウンジで張って個人戦を吹っ掛けるか、などと考えながらお好み焼きを口にした。

 

その後ひと悶着起きるのは影浦はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すこし時間は遡のぼる。

場所はボーダー本部の対人ブース。

 

隊員同士で競い合い、技量を高めるための場所だ。

来るもの全員が戦うために来るわけではなく、他の人の対戦をモニターで観戦することもできるため、いつも盛り上がっている。

特に、マスターランク以上の実力者同士が戦う場合などは、多くの隊員が観戦しているのだ。

 

この日も対戦が行われており、大画面には二人の少女が映し出されている。

二人ともボーダーでは数少ない少女である。

 

今回のランク戦は5本先取。

ツインテールの少女が4本、毛先がはねたセミロングの少女が2本取っている状況だ。

 

押されている状況に痺れを切らしたセミロングの少女が拳銃とスコーピオンを構えて突撃する。

弾丸を避け、振るわれたスコーピオンを同じくスコーピオンで受ける。

それらの攻防を何度か繰り返したのち、集中力の切れたセミロングの少女の首が一瞬にして刈り取られる。

 

「おいおいもうすぐマスタークラスじゃねぇか、こりゃ戦うのが楽しみだな。」

 

「相変わらずの戦闘狂っぷりだな槍バカ。でもまあ大したもんだと思うぜ。香取ちゃんだって戦闘センスは相当だ。それをああも打ち破るんだからA級レベルはあるはずだ。」

 

ボーダーの精鋭たるA級隊員からも評価される彼女だが、当の本人は自身のポイントを見て恍惚の表情を浮かべていた。

 

(これで個人ポイントが7941。さっきの人もそこそこ強かったけど、このくらいならもうマスタークラスになったようなもの。)

 

フレンチベージュのロングツインテールが特徴のスタイル抜群の少女であり、顔立ちも非常に整っている。

一時期はメディア対策室長の根付が広報部隊に入れることを検討していたが、対戦で勝った後や、いたるところで恍惚の表情を浮かべてるのを聞き断念したという。

いくら外見が良くてもさすがにこんなものを公的にはお出しできない。

 

実力だけでなく、上記の行動から訓練生、正隊員含めて有名だったりするのだ。

 

(楽しみだなぁ。マスタークラスになったら迎えに行こう。あたしが送信した感情に気づいてるよね。)

 

彼女は正隊員になってからずっと影浦のことを付けまわして、じっと彼のことを陰から見つめている。

 

端的に言ってしまえばストーカー行為に及んでいるやべー奴である。

 

(ふふふ...。あたしと戦う時にどんな顔をするのかなぁ。どんな反応をするのかなぁ。)

 

(あたしのことで頭をいっぱいにしてほしいなぁ。)

 

(あたしは沢山知ってるよ、先輩のこと。ギラギラとした目つきかっこいいなぁ。喧嘩っ早いやんちゃなところもあるよね。噂に反して情に厚いところも大好き。)

 

(あたしのこと、沢山知ってもらいたいな。先輩は覚えてないかもしれないけど、ネイバーに襲われて助けてくれた時、好きになっちゃったんだ。)

 

(なんだが体が火照ってきちゃった♡明日からはもっと近くで、直に会えるよね♡)

 

「あはっ!興奮しちゃって寝れないかも!」

 

「ねぇ、もっと近くで顔を見せてよ。」

 

歪んだ執着心と独占欲を抱いた少女と影浦の邂逅は近い。

 




ヤンデレストーカー きょうか

窮地の状況を助けてもらう、というよくある美談がきっかけなのだがどういうわけか歪んだ方向に進化してしまった美少女。どうしてこうなった。
その実力と容姿から数多くの部隊に勧誘されていたが、もう入りたい部隊が決まっていると言い一蹴した。
セクハラまがいの視線を送っていることを迅は気づいているが、止めない方が良い未来になることや、普段おしりを触っている自分に止める資格がないなどの理由によりそのままになっている。
幸か不幸か通っているのは進学校であり、カゲとは別の高校である。
カゲの未来はどうなるのか。


トリオン 7
攻撃 9
防御・援護 6
機動 8
技術 9
射程 2
指揮 4
特殊戦術 3
トータル 48

メイントリガー サブトリガー
スコーピオン   スコーピオン
グラスホッパー  グラスホッパー
シールド     シールド
カメレオン    バッグワーム

影浦先輩のサイドエフェクトは個人的にエッチなサイドエフェクト選手権最優秀賞


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影浦雅人①

なんで続いたんですか????

展開上主人公が構想よりだいぶマイルドになりました
期待外れだったらまことに申し訳ない

あと影浦に関して解釈違いで殺されるかもしれない

今回の登場人物
『来栖京華』
実は身長が少し低め。けっこう気にしているので指摘されると怒ります。

『影浦雅人』
時系列的には「根付さんアッパー事件」の後。軽い気持ちでランク戦のブースに向かったら予想外の展開に逢ってしまった男。強く生きよ。

『北添尋』
日々遍く事に感激する温厚かつ優秀なヘビーガンナー。隊長に春が来たことに嬉し泣きする模様。

『絵馬ユズル』
「型にはまらない自由な才能」の持ち主である天才中学生スナイパー。人が人を好きになるってこんな感じなのか、と眺めていたが後にチカに惚れることはまだ知らない。

『仁礼光』
影浦隊のパワー系軍師。姉貴風を吹かせる相手に飢えており、特に年下を希望している。



あの時に先輩と会ったことがあたしにとってのターニングポイントだったと思う。

あの日から随分と生き方を変えたから。

 

自分を変えようと沢山お洒落について雑誌やネットで調べた

*1眼鏡を外してコンタクトに変えた

だらしない体型だと相手にされないからダイエットした

馬鹿だと嫌われると思ったから沢山勉強をした

家庭的な方が気を惹けると思ったから家事の練習をした

弱いと興味を持ってくれないと思ったから必死に腕を磨いた

 

そして今、ようやくスタートラインに立つことができた。

あたしのスコーピオンの個人ポイントは『8082pt』

先輩に会うにはマスタークラスになってから、そう自分で決めたことだったけど思ったより時間が掛かっちゃった

お陰で夜に何度も自分を慰めるはめになったけど...もう我慢しなくていいよね。

 

ようやく会えるね、先輩。

 

 

 ×××

 

 

「チッ」

 

影浦雅人はイライラしていた。

平日と違い今日は休日。必然的に個人ランク戦ロビーも多くの隊員が集まっており、それだけ自分に突き刺さる感情も多くなっていた。

 

畏怖、嘲笑、軽蔑

生まれた時からの付き合いで慣れてしまってはいるものの不快であることは変わりない。

 

(相変わらずうぜぇな)

 

例のルーキーが遂にマスタークラスに到達したと風の噂で聞いたので「いっちょ揉んでやろうか」とロビーで張っていたものの一向に現れない。

 

(こりゃ空振りか? あと30分待って来なかったら帰るか)

 

人が多く集まる場所に長時間いるのはやはりストレスが溜まる。

ロビーのソファに座って足を組みながらスマートフォンを見て気を紛らわせようとしていると、いきなり肌にべったりと張り付くような気持ち悪い感覚に襲われた。

 

「あ! 先輩。ひょっとしてあたしのこと待ってくれてたのかな?」

 

話しかけてきた少女に視線をやった影浦は絶句した。

現れたのは例のルーキー。

160cmないぐらいの背丈。茶髪のツインテールに、琥珀色の瞳。

顔立ちはおそらく、整っている方なのだと思う。異性の美醜というものに、影浦は微塵も興味を抱いたことがなかった。そんなものは他者と関わる上での判断材料になり得ないので、わざわざ意識する必要がなかったのである。

だが、今回ばかりは流石に意識せざるを得なかった。

客観的に見て整っているであろう容姿を台無しにするほど目がとんでもなく濁っていたからだ。

刺さる感情は何によるものかは考えたくもないぐらい粘ついており、今までの比ではない。

 

「ねぇ先輩、あたしとランク戦シよ?」

 

はっきり言って断りたかった。

生々しい感情を刺してくる女とわずかな時間とはいえ二人きりになるのは嫌だったのだ。

だが大勢の隊員が此方に注目している状況で、年下の女からの個人戦の申し込みを拒否することは影浦のプライドが許さない。

所謂「バカどもに舐められる方が100倍ムカつく」というやつである。

 

「...いいぜ。ちょっと遊んでやるよ」

 

心なしか声が震えていたかもしれない。

 

 

 ×××

 

 

思っていたよりもずっと面白い。

個人ランク戦をしていて影浦はそう思った。

 

最初のうちはどうなるか内心少しヒヤリとしたが、3本目あたりからは粘ついた感情は鳴りを潜め真っ直ぐな闘志がこちらに向けられている。

 

悪くない。

お互いに攻撃用のトリガーはスコーピオンしか持ち合わせていないため、ザクザクと切り刻み合う激しい戦いになっているが、この展開は実に影浦好みのものだった。

 

お互いに必殺の間合いで攻防を繰り返しているため、僅かな遅れやミスが致命傷となり得る。それ故に距離を置いたり他のトリガーを使って搦め手を入れる万能手などと比べて一本一本の決着は非常に早くあっという間にラスト一本を迎えていた。

 

互いの武器が激しくぶつかり合う中で、お互いのトリオン体にダメージが入る。

だが影浦のトリオン体からは殆どトリオンが洩れておらず、逆に来栖の全身には切り傷がありトリオンもかなり洩れている。

 

しかし、来栖の目は死んでいない。既に圧倒的な差で勝負は確定してしまっているものの強い戦意を影浦に向けていた。

 

(十中八九、何かしらの切り札があんな)

 

至るところが削られており、左手に至っては切断されている。このまま反射神経とサイドエフェクトを活かして攻撃をいなし続ければトリオン漏出過多で危なげなく勝利することができる。

 

だがそんなつまらない戦い方をするのは趣味ではない。

とどめを刺そうとマンティスで心臓を狙うと一転読みされていたのか二刀で受け流され、来栖の手からカウンターとしてスコーピオンがしなるように伸びる。

 

(マンティスだと!?)

 

初めて試すが故の鈍さはあるものの、己の技の模倣であることに、影浦はすぐに気がついた。

自身が開発して以来誰も使ってこなかった技を目の前で見せられ反応が僅かに遅れる。

本来であれば同じマンティスで迎撃するところだが、出足が遅れたためそれは間に合わない。

迎撃が間に合わないことを察した影浦は己に刺さる感情を頼りに回避に転じるも、刺さった箇所からズレた場所に斬撃が襲いかかった。

 

「...やんじゃねぇか」

 

『トリオン供給機関破損。影浦緊急脱出。10本勝負終了。勝者 影浦雅人』

 

 

 ×××

 

 

影浦⚪︎ ⚪︎ ✖︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ △⚪︎ ✖︎

来栖✖︎ ✖︎ ⚪︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ △ ✖︎ ⚪︎

 

――7-2。影浦雅人と来栖京華の10本勝負は、前者の勝利という形で幕を下ろした。

 

個室ブースを抜けて、同じように隣の部屋から出てきた影浦と顔を合わせると、来栖は上機嫌そうに微笑んだ。

 

「10本勝負もあっという間だね。これであたしと先輩との蜜月も終わりか...でも先輩のおかげで溜まってたものもすっきりしたし! これはこれで良し、かな」

 

妙な単語が混ざっていたような気がしたものの、面倒な予感がしたのか影浦はスルーした。

そんなことよりも、聞き出したいことがあったという方が大きいのだが。

 

「最後のマンティス、どこで覚えやがった。そう簡単にできるもんじゃねぇぞ」

「ああ、あれ? ぶっつけ本番だよ。ログで先輩の動きは何度も見たし...それに戦ってる時に間近で見られたから...多分出来るかなって」

 

さらっと言ってのけるがアレはそう簡単に真似されるほど軟な技ではない。

相応のセンスや技術が必要なはずだ。

つまりこの女はそれを持ち合わせているということになる。

 

「...まさか俺がマンティスでしてやられるとは思わなかったぜ」

「もしかして初めて貰っちゃった? だったら嬉しいなぁ。そうだ! 先輩の初めてをあたしから奪われたこと、一生忘れないでね。あたしも一生忘れないから」

「いちいち誤解を生むような言い回しをすんじゃねーよボケ!」

 

サイドエフェクトのせいで本心から言っていることがわかってしまうため、むず痒くて仕方がない。

 

「じゃ、先輩! またね!」

 

いつの間にか影浦を見つめる来栖の視線は澄んでいた。

常にそのくらいの目でいてくれるなら、たまには遊んでやってもいい。そんなことを頭の片隅に浮かべていた。

 

 

 ×××

 

 

「...ったくとんでもない女だったぜ」

 

影浦隊の作戦室に備え付けられたソファーに背を預けながら影浦は個人戦の内容を愚痴っていた。

 

「え? つまり楽しかったってこと?」

「なんだよ恋バナか? もっと聞かせろよ!」

「カゲさん以外でマンティス使う人っていたんだ」

「どういう解釈してんだアホ二人。そんなんじゃねーよ」

 

本当に素直ではない、仁礼と北添はそう思った。

相変わらず口は悪いし、否定的な言葉遣いではあるものの、表情はどこか楽しげだ。

無論そう考えながら影浦に視線を向けるほど不躾ではない。付き合いは長いのだ。

 

そんないつも通りの日常を過ごしていたところ、作戦室に備え付けられているインターホンが鳴らされた。

 

つまり誰かが影浦隊の作戦室に来訪したことになる。

影浦隊に客が来ることはほとんどない。隊長が強面というのもあるし素行不良なのは周知の事実だ。わざわざ足を運ぶ物好きなどいないし、ここが集合場所になることはほぼない。

 

「おいヒカリ、客が来てんぞ。相手しろ」

「あたしは忙しいんだよ、ユズルに任せた」

「...俺が出るよりゾエさんに任せた方がいいでしょ」

「やっぱりそうなるのね。はいはいゾエさんが出ますよー」

 

動かない三人に代って北添がふくよかなボディを揺らして作戦室への入口へと向かっていく。三人とも我の強い個性的なメンバーであるため、バランサーたる愛され大型マスコットがいないと影浦隊は成り立たないだろう。

 

作戦室の扉が開く音が耳に入り込むと同時に身に覚えのある感情が影浦に突き刺さった。

 

「や、さっきぶりだね先輩! ちょっとお願いがあって足を運んだんだ」

 

先ほど個人ランク戦をした相手ー来栖京華が立っていた。

 

 

 ×××

 

 

「帰れ」

「えー! そんなに邪険にしないでよ。かわいい後輩が会いに来たんだよ?」

「知るか。黙ってUターンしろ」

 

作戦室に入るやいなやコントを始める来客と自分の部隊の隊長を見た3人はざわざわとし始める。

 

「のぁ!? 女子じゃんか! カゲにガールフレンドが出来たのか!?」

「あの人ってもしかしてさっきカゲさんが話してた...」

「カゲにも春が...ゾエさんうれしいよ」

 

当然と言えば当然である。

サイドエフェクトや外見のせいで影浦は人から距離を取られがちだ。それがよもや女子が押しかけてこようとは誰が予測できるだろうか。

 

「あぁごめん。自己紹介が遅れたね。あたしは来栖京華、ポジションは攻撃手さ。よろしく!」

 

 ×××

 

来栖がお土産として持ってきた*2「いいとこのどら焼き」を食べながら話を聞くこととなった。

 

「で? そのお願いってのは何だよ?」

 

テーブルに肘を付きながらめんどくさそうに問いかける影浦に対して、一切ひるむことなく来栖は微笑みながら応答する。

 

「あたしを先輩のチームに入れてよ」

「やなこった」

「そう言わずにさ。自分で言うのもなんだけどあたし結構強い方だし役に立つよ?」

 

確かに来栖は強者に値すると言えるだろう。個人ランク戦で負けはしたものの2本は勝利をもぎ取ったのだ。

影浦とて実力は認めている。今はまだ経験の浅さ故粗削りだがいずれ9000ポイント代に手が届くだろうと確信している。

だが実力だけで部隊のメンバーは選ばれるわけではない。

 

「アホか。こっちの事情も考えろ。四六時中テメーの視線浴びてたら気が休まらねぇんだよ」

 

作戦室は自分にとってのもう一つの家である。家というからには自分にとって快適な場所で無ければならない。そもそも気を遣ったり遣われたり、そういう面倒で息が詰まりそうなことは面倒だったから影浦は自分と気の合う人間だけを集めて部隊を結成したのだ。だからここは部隊に所属する全員が落ち着ける場所で無ければならない。迎え入れる側も、入る側もだ。

…最後の方に関しては、口にすれば面倒なことになるので心に秘めたままなのだが。

そういったこともあって隊のメンバーに視線をやると...思いのほか受け入れられていた。

 

「えーいんじゃんかカゲ入れてやれよ! こいつは多分いいやつだぞ! ヒカリさんが保証してやろう!」

「どら焼きで餌付けされてんじゃねーよこのアホ!」

「まあまあ。ゾエさん的には来栖ちゃんが加入するのはOKだけどヒカリちゃんは平気? 4人部隊になると負担が増えそうだけど」

「おぉ...! あたしがどれだけ優秀なオペレーターか知らないで...」

「ヒカリもそう言ってるし、そこは大丈夫なんじゃないの。ていうか来栖先輩だってマスタークラスじゃん。臨機応変に動けるでしょ」

 

勝手に話を続けるメンバーを見ていて埒が明かないと思ったのか影浦は別の方面から切り込むことにした。

 

「てか何でウチなんだよ。マスタークラスなら引く手あまただっただろ」

「あ、それはゾエさんも思ったかも。こういうのって、仲良い子同士かC級のうちに勧誘されるだろうしねぇ」

「オレもC級の頃にヒカリに強引に連れてこられた口だったからね。そこそこ経ってからていうのは確かに珍しいかも」

「なにおー!? 嬉しかったくせに生意気な口叩くじゃねーか!」

 

ユズルの髪をぽんぽんと叩くヒカリ。

その様子を見て苦笑しながら来栖は口を開いた。

 

「あー...まあいくつかの部隊からは誘われてたんだけど最初からここにしたかったんだ」

「だって、好きな人とは一緒にいたいじゃないか」

 

平然と言い放つ来栖だったが耳の端が少し赤くなっているのが視界に映る。

 

「ケッ...」

 

誤魔化しようのない好意が影浦に突き刺さる。

髪をかきながら視線を横にずらした。

 

「あ、これマジなやつか?」

「だよねぇ。カゲってそういう類の冗談は大嫌いだし」

「...本当に好意だけだとああいう反応になるんだね。初めて見るかも」

 

難しい顔をして唸り始める3人。

膠着した状態を動かそうとしたのか、再び来栖がこちらに声を掛けてくる。

 

「先輩、どうしてもダメ...かな?」

 

澄んだ瞳から不安そうな、幼子が親に縋るような、そんな感情が強く突き刺さる。

それは邂逅した時の生々しさや執着などが感じられない、酷く弱弱しいものだった。

 

(クッソ...やりにくいなオイ)

 

自分に真っ直ぐに縋りついてくる人間を見るとそう思ってしまう。

このクソサイドエフェクトは自分に向けてくる感情を100%、嘘偽りなく受信してしまうのだ。

だから来栖が本気で好意を持っていることも、拒絶される不安を抱えていることも否応なしに分かってしまう。

ああ、実に面倒だ。本気の人間を相手にするというのも。

 

誰彼構わず助けようとするなんて堅苦しいし、面倒臭い。気まぐれでやることはあってもそれを常日頃から求められるなんて思えない。

この億劫な感覚は目の前の女を作戦室から追い出せばいずれ無くなるだろう。

 

だが、なぜかそうしようとしても身体が動かない。

自分の中の何かが待ったを掛けている。

その正体不明さにまたむしゃくしゃとさせられる。

 

らしくない。本当にらしくないと思う。

だから今から自分の発する言葉はただの気まぐれだ。

それに同じ部隊ならブースに行きたくない時でもすぐに戦うことができる。絆されたからでは断じてない。

 

「俺らははみ出しモンだ。妙な噂立てられたり、うぜぇ奴らに陰口叩かれるかもしんねぇぞ。そんな部隊でやっていける自信があんなら、勝手にしろ」

 

話はそれで終わりだと言わんばかりに引き上げようとしたが、直後に個人ランク戦前に匹敵するほどのバカでかい感情が襲い掛かってくる。

それに反応して身体を硬直させた瞬間に物理的な衝撃までもが襲いかかってきた。

 

「せんぱぁぁぁぁぁぁぁい!! ありがとう! 大好き!」

「だああああうぜぇぇぇぇぇぇ!! 引っ付くんじゃねぇ! お前らもそんな目で見んじゃねぇ!!!」

 

ニコニコと微笑ましく見つめる周りの視線がむず痒く怒鳴って威嚇し、来栖を引きはがそうとするもなかなか離れない。

そんな行動も周りは朗らかに「まぁまぁ」などと言って諫めつつ、その向ける視線は誰もが優しく笑っていた。

 

 

*1
宇佐美栞「それを外すなんてとんでもない!」

*2
個人ランク戦の後で買いに行った




ゾエさん、ヒカリ、ユズル
→なんだかんだ個人ランク戦を楽しそうにカゲが話してたので来栖の加入に異論はなかった。あとはカゲがOKを出すかどうかだった。

カゲ
→無意識だがパーフェクトコミュニケーションだった。突き放したら多分もっと面倒なことになっていた可能性がある。

キョウカ
→振られていた場合結構引きずりそう。でもそうなったら懐の深い男前女子が部隊に入れてくれるんじゃないでしょうか?


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主人公設定(BBF風)

次回の投稿がだいぶ後になりそうなので設定集あげときます


【来栖京華】

 

「先輩が覚えてなくても、先輩はあたしにとってのヒーローだからだよ!」

 

〔PROFILE〕

ポジション:アタッカー

年齢:15歳

誕生日:12月28日

身長:155cm

血液型:B型

星座:かぎ座

職業:高校生

好きなもの:自分磨き、料理、食事

 

〔FAMILY〕

父、母

 

〔PARAMETR〕

トリオン 7

攻撃 9

防御・援護 6

機動 8

技術 9

射程 2

指揮 4

特殊戦術 3

TOTAL 48

 

〔TRIGGERSET〕

主(メイン)トリガー

スコーピオン

グラスホッパー

シールド

カメレオン

 

副(サブ)トリガー

スコーピオン

グラスホッパー

シールド

バッグワーム

 

戦闘スタイルは独学によるスコーピオン二刀流。

弧月相手には優位を取るため組みついてのインファイトスタイルを取ることもあります。

技の吸収に貪欲で「脚ブレード」「もぐら爪(モールクロー)」「枝刃(ブランチブレード)」「マンティス」を習得済み。嫌らしいタイミングで使ってきそう。

ログ見る時はだいたい影浦か風間さんのを見てます。

 

B級ランク戦の場合は遊撃担当。

本来は適当メテオラ後のゾエさんや一発撃った後のユズルが囮になる形ですが、そこにバッグワームやカメレオンを使って不意打ちを仕掛けたり、逃走時間を稼いだりします。

単純に影浦が戦いやすい環境を何度も作れるようになるので非常にめんどうなことになりそう。

地味に辻ちゃん特効もあります。

 

【入隊】

入隊時期はだいたい原作の一年ほど前で同期の隊員として黒江、茶野、藤沢がいます。

1話でも書いたとおりルックスは非常に整っているので、根付さんが第二の嵐山隊メンバー候補として目を着けていましたが顔芸のせいで破綻した模様。

 

【学業関係】

成績はどれもほぼ横並びですが強いて言うなら国語が得意で数学が苦手。

ただ六頴館高等学校に通っているので赤点とは無縁の人生を送ってきたものだと思われます。ここ半年で成績が急上昇し、綾辻さんに匹敵する学力を得た模様。勉強が苦手な影浦隊の特異点。

 

【運動能力】

可もなく不可もなく、といった感じです。

最近はやや向上傾向にあるかもしれません。

 

【派閥】

派閥なし自由派です。気持ち的には忍田本部長派に寄っているものの、自分が私欲のために入隊したのを自覚しているのであまり関わらないようにしているとのこと。

 

【モテ度合】

別に大勢にモテたいと思っていないがそこそこモテるタイプ。氷見さんが近いかも。

優れた容姿を性格や顔芸が足を引っ張っています。ですがそれもまたいい、という強者もいるとか。

 

【趣味】

昔から料理が好きで食べることにも重きを置いています。

これといった得意料理は無く、たいていのものは作れるようです。

最近のトレンドはイタリアンで、初給料で家族をレストランに連れて行ったとか。

個人的にも週に何度か足を運んでおり、そのうち全メニューを制覇するかもしれません。

 

【人間関係】

ポイントを稼いで個人ランク戦ブースに入り浸っていたので攻撃手・万能手とはだいたい知り合いになってます。既にダンガーとも対戦済み。

ただ広く浅くなので特別仲のいい隊員はいなかったり。強いて言うなら木虎か雪丸が挙げられます(前者はライバル、後者は同じ学校で同じクラス)

積極的に関わろうとしないので相手は知ってるけど来栖は知らないってパターンもあったり(とりまるとか天羽とか)

仲が悪いのは菊地原と香取ですね。後者に至っては会うたびに喧嘩するレベル。ワンチャン接触禁止令が出されかねない。

 

【家族関係】

来馬さんほど突き抜けてはいませんが、実家は結構裕福。父も母もよく出来た人で色んな意味で恵まれています。順当に育った場合はおしとやかな美少女になる予定だったが、予知予知歩きの介入により可能性の低い未来が実現してしまったので今の有様に。ボーダー入隊に関しては「あまり自己主張の強い子でなかった娘のやりたいことがみつかったのならなにより」と肯定している模様。

 

【部隊への勧誘】

那須隊、鈴鳴第一

→ボディラインがはっきりでてしまうので流石に恥ずかしかった。もしランク戦に参加したら野郎の視線を誘導できるという効果が発揮されます。というか鈴鳴の場合は真の悪とうまくやっていける気がしない。辻ちゃんなんかは宇宙猫状態になるんじゃないでしょうか?

 

東隊

→コアデラでニコイチ感があったのでなんとなく入る気になれなかった。流石に同い年の女子の足に縋りつかないぐらいには分別があった模様。影浦との接点がない状態なら悩んだ末ここに入っていたかも。その場合指揮能力が+1ぐらいされるんじゃないですかね

 

加古隊

→料理の方向性の違いで決裂した模様

 

間宮隊、吉里隊

→自分のワンマンチームになりそうだし入ってもなんの利点も無さそうだったので

 

理性を取り戻したストーカー

『きょうか』

なんとか一線を越えることなく踏みとどまることができた変態攻撃手。ごり押しにより無事に影浦隊への入隊を果たした。元々あまり社交性の高い性格とは言えなかったため、入隊して半年たつものの、交友関係は浅い。カゲさんや木虎経由で今後交友関係が徐々に広がっていくことが予知されているため、そのまま健全な方向に戻って欲しい。ののさんに次ぐGカップ。

 




よくよく考えなくてもこの主人公は閉鎖環境試験に参加させちゃいけないタイプだと思いました。
多分ですが私物でカゲの写真を大量に持ってきちゃうヤベーやつです。


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香取葉子①

台風で予定が潰されたので早めの投稿です

今回の主な登場人物
『来栖京華』
敵認定した相手には苛烈になるタイプの攻撃手。カウンターで香取の地雷を踏んだので結構性悪なとこもある。

『熊谷友子』
名前を6連続で読み間違えられても許せる懐が深すぎる攻撃手。バストカップ対決では来栖に敗れたが多分本人は気にしていないと思います。

『緑川駿』
人懐っこいわんこ系攻撃手。来栖と違って瞳が濁ることがないため年長者から可愛がられていると思います。

『香取葉子』
「馬鹿みたいに胸を盛ればいいってもんじゃないのよ。わかってないわね」なんて幼馴染に言っていたものの、アレが自前と知ってさらに不機嫌になった。才能はトップランカーにも引けをとらないはず。

『若村麓郎』
尻拭い担当。来栖が半年でマスターに到達したと聞いて内心曇ってしまった。個人的に推しているので頑張ってほしい。



「うし! じゃあ影浦隊の簡単なルールを説明すっからな」

 

仁礼が嬉しそうに胸を張って仁王立ちする一方で男性陣は肩を寄せてひそひそと話していた。

 

「...オレが入った時こんなのなかったんだけど」

「だよねぇゾエさんも初耳」

「どーせ姉貴風吹かせたいだけだろ。気にしたら負けだ」

 

来栖は高校1年生。ちょうど仁礼の1つ年下である。

最早何も言うまい。

 

「一つ目! 遠慮はすんなよ。自然体でいるのが一番気楽だからな!」

「二つ目! 冷蔵庫にモノ入れる時は名前書いとけよ。じゃねーと食われちまうからな。ゾエは食い意地張ってるし」

 

「ちょまちょま。ゾエさんちゃんと分別あるタイプよ?」

 

「三つ目! 入ってすぐ左側の空間はアタシの領域だ。入りたきゃ一声掛けろよな」

「最後! 困ったらアタシに言え! どーんと助けてやるからな。逆にアタシが困ってる時は全力で助けろ。いいな」

 

途中で北添が弄られたものの、誰一人気にかけることなく説明が終わった。

ぞんざいな扱いでもめげずに部隊を支える男、それが北添である。

 

「りょーかい!」

「じゃあトリガー返すぞ。隊服の設定も終わったからな。試してみろ」

「うん! トリガー起動!」

 

起動と共に来栖の身体がトリオン体へと切り替わる。これまでの無個性な隊服から黒のミリタリージャケット、カーゴパンツ、ブーツという実に戦闘員らしい隊服へとランクアップを遂げた。

少し身体を動かしたあと、くるりと回るとそれにつられてツインテールがふわりと舞う。

その様子は様になっていたのか、感嘆の声が上がった。

 

「おおー!」

「うん、似合ってる似合ってる」

 

感想を述べる仲間をよそに、来栖は嬉しさが混じりながらもどこか困惑している様子だ。

 

「あれ? エンブレムが襟についてない...?」

「ああ、キョウカはまだちっこいからな。大きくなったら肩から襟に移すから今は我慢しとけ!」

「ウ"ッ!」

 

仁礼の言い放った何気ない一言が来栖を傷つけてしまったようで、さっきまでのテンションの高さから一転うずくまって暗い雰囲気になっている。

大好きな隊長とお揃いが良かったのだろうがこればかりはどうしようもない。

さすがに悪いと思ったのか仁礼が話題を切り替えるために野郎どもに声を掛ける。

 

「ほらほら3人も隊服早く着ろよ」

 

小柄な絵馬・来栖を前方に、大柄な影浦・北添を後方に置いた構図で写真を撮った。

 

「やっぱいいなーこういうの! 部隊って感じだ」

「ふふふ...部隊、部隊かぁ...!」

 

思いの他すぐに機嫌を直した来栖は、何かおもいついたか影浦に提案をした。

 

「あ、そうだ。メンバー申請は試合ギリギリにしようよ」

「ア? 何でんなまどろっこしいことすんだよ?」

「サプライズだよサプライズ。他のチームをびっくりさせたいじゃないか」

 

サプライズとは言っているが戦略的には有効な一手だ。事前にしていた対策を上回ることになるので大きなアドバンテージを取ることができる。

だが何かを思い出したのか、苦々しい表情で影浦はその意見を退けた。

 

「やめとけ。そんなことしようとしても申請忘れんのがオチだろ」

「んー...それもそっか。じゃあ申請書出して自慢しに行ってくる!!!」

 

隊長からのオーダーが出るやいなや凄まじい速さで作戦室を出ていった。

 

「ったく慌ただしいやつだな。アタシみたいにもっと落ち着きをもって...」

「おめーも似たようなもんだろうが」

「なんだと!?」

 

影浦と仁礼がじゃれているのを視界にいれながら、思うところがあったのか絵馬が口を開いた。

 

「良かったの? 次のランク戦ギリギリまで伏せておけば奇襲に使えたかもしれないのに」

「別に隠し玉なんて必要ねーだろ。B級でウチが負ける理由なんてねぇ。どんな相手だろうと勝つのは影浦隊だ。そんだけのことだろ。」

「ゾエさんもそれで良いと思うよ。ていうかキョウカちゃん、テンション高すぎて何も言わなくてもバレちゃいそうだし」

 

「「「あー...」」」

 

あれだけ好き好きオーラ出しまくっていたのだ。

見る人が見ればほとんど筒抜けと言っても過言ではない。

 

×××

 

個人ランク戦で相対しているのは那須隊の攻撃手、熊谷友子だった。

普段は那須のガードに回ることが多いのでポイントは高くないものの、捌きや返しの技術は高い。

スコーピオンの強みである変幻自在さを活かして防御を崩していったが、その過程で色んな技を見せてしまったのでだいぶ警戒されてしまっている。

そのせいで先ほど一本取られてしまっており、少し攻めあぐねている状態だ。

勝敗自体は既に決まっているが、最後の一本まで獲り切るため来栖は頭を回していた。

 

(もぐら爪はだいぶ警戒されちゃったし枝刃を使うには少し遠い。ごり押ししてもいいけどアレを試すいい機会かな)

 

そう考えながら来栖はグラスホッパーを起動すると熊谷の周囲に多数展開する。

囲むように設置されたグラスホッパーで三次元的に高速移動を繰り返し、熊谷を攪乱し始めた。

 

「これは駿くんの...!」

 

乱反射。

緑川が考案したこの技は相手の虚を突くのにもってこいだった。

熊谷の周囲を跳び回る来栖の動きを追うために熊谷は辺りを見渡すが、徐々に追いきれなくなっている。

動きを追いきれなくなった熊谷が真逆の方向を向いたのを見逃さなかった来栖はスコーピオンを起動し、袈裟懸けに切断した。

 

『10本勝負終了。9-1勝者 来栖京華』

 

ロビーに機械音のアナウンスが流れる。仮想空間での模擬戦が終わった合図だ。

 

「よし! あたしの勝ちだね」

「あたしの負けね。というか先に駿くんや東隊の二人とやってるのになんでそんなピンピンしてるのよ...」

「ふふん、そりゃ今日のあたしは絶好調だからね。気分も良いし誰にも負ける気がしないさ」

「ああ、それね。京華は突破力のある点取り屋だし、うちの部隊に欲しかったんだけど...。玲の負担も減るし」

 

個人ランク戦ロビーに影浦隊の隊服に身を包んだ来栖が現れた時はちょっとした騒ぎになっており、来栖の事情を薄々察していた面々からは祝福の言葉を贈られていた。

東隊の片割れである小荒井は「このタイミングで大型補強はズルすぎでしょ」などと溢していたが、大半の人は「東さん引き込むなんてずるいじゃすまないでしょ」と思っているだろう。

 

「誘ってくれたのは嬉しかったけどごめんね。あたしはもう影浦先輩のモノだからさ」

「あんたその言い回し止めた方がいいわよ」

 

「お疲れきょーか先輩、くま先輩」

 

他の誰かとの戦い方が終わったであろう緑川が来栖と熊谷に声を掛ける。

 

「ていうさっきの見たよきょーか先輩。またオレの技パクられたんだけど」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。あたしのセンスがいいだけだよっと!」

「ぐえっ」

 

来栖が緑川の頭を脇に挟んでぐりぐりとヘッドロックを掛けた。身長差があまりないので痛いというより姿勢が辛そうな構図になっている。

思いっきりその胸が当たっているのを見て周囲の男性陣は目を逸らし、熊谷は溜息をつくものの、来栖は緑川を締め上げるので夢中で気づいていないようだ。

 

「きょーか先輩はどうする? まだやる?」

「んー...流石に疲れちゃったし一旦休憩かな。気力があったらまた来るかも」

 

ある程度締め上げて満足したのか、緑川を解放すると来栖はラウンジの方へと向かっていった。

 

「くま先輩はどう? オレと戦る?」

「...そうね。せっかくだしお願いしようかしら」

 

こちらはこちらで、新たな戦いが幕を開けようとしていた。

 

 ×××

 

お茶でも飲んで少し休憩しようかな、そんなことを考えながらブースを出てラウンジに通り掛かっている途中に出くわしたのは香取葉子だった。

思わず顔を顰める来栖に対して、香取は薄ら笑いを浮かべた。

 

「何よアンタその恰好? 全然似合ってないじゃない」

「...審美眼のない低能に言われたくないかな。そっちこそダサい宇宙人みたいな格好をするのやめたら? チカチカして目が腐りそうなんだけど」

「目が腐るって何よ? アンタ実際に目が腐ったことあんの? どういう状態よ。ない癖にモノ言ってんじゃないわよ」

「比喩表現ってわからないのかい? IQが20以上違うと会話が成立しないってほんとだったんだね。いい勉強になったよ」

「どういう解釈してんのよガリ勉」

「直情バカよりよっぽどいいと思うけど?」

 

お互い気に食わない相手であるせいか、言葉を交わすたびに剣呑な雰囲気へと変わっていく。正隊員にとっては最早見慣れた光景であるため「またやってるよこいつら」という認識だが、初めて見るC級隊員は完全に萎縮してしまっていた。顔が綺麗な人の怒った顔は怖いというアレである。

 

「...次のB級ランク戦、アタシたちは影浦隊とも当たることになってんのよ。首洗って待ってなさい」

「ふーん、いいの? チーム戦でも負けたら今度こそ言い訳できないよ?」

「アンタこそ、言い訳の準備をしておいたら? 今度は負けないんだから...!」

「だいたい何が変わるって言うのさ。毎回毎回独断専行で突っ込んで落ちてるくせに」

「ほんっとムカつくわねアンタは...!」

 

正隊員たちもそろそろ止める頃合いか?と思い始めた丁度その時、香取隊のメンバーが焦った様子で現れ介入してきた。

 

「おい! こらヨーコ! また揉め事起こしやがって...!」

「ヨーコちゃん、さすがにそろそろ...」

「何よ? アタシが悪いって言うの?」

「いっつもいっつも感情に任せてつっかかって...少しは自制しろってんだ!」

「は? えらそーにもの言うのやめてくれる?アタシの保護者でもあるまいし」

「手のかかる隊長のせいでこっちも苦労してんだよ...!」

 

今度は止めに来たはずの若村との口論が始まってしまい、却って事態の悪化を招いていた。

冷や汗をかきながら三浦は香取の機嫌をこれ以上損ねないように慎重に声を掛ける。

 

「一度作戦室に戻ろうよ。華が呼んでる」

「華が...? わかったわよ...」

 

染井の名前を出したのが効いたのか、渋々という形ではあったが香取が鉾を収め去っていった。

三浦が香取を連れて行ったことで、必然的に剣呑な雰囲気は収まり、ラウンジに平和が戻ってきたのだった。

 

「毎回すまねぇな、うちのバカが噛みついて」

「あ...別に若村先輩が謝らなくても」

 

若村が申し訳なさそうに頭を下げるが来栖は大して気にした様子を見せていない。

本人からしたら関係ない先輩が後処理をさせられているのを見るのは忍びないという思いがあるからだろう。

 

「わりぃがオレもいかなきゃいけねぇ。次のランク戦のブリーフィングがある。葉子みたいに噛みつく気はねえが、負けてやる気もねぇ。じゃあな」

 

若村はそう言うと、足早に香取隊の二人の後を追っていった。

 

 ×××

 

騒動は収まったものの、さっきから此方にチラチラと視線をやる輩が多く、どうにも気が休まらない。

あんな雰囲気ではラウンジでゆったりすることもできない。

こうなったら仕方ない、先輩に慰めてもらって元気を補給しよう。

そんな呑気なことを考えて作戦室に戻ると3人が迎えてくれた。

 

「ただいまーってあれ? ユズルは?」

「ユズルは狙撃手の合同訓練に行ったよ」

 

北添の返答にそっか、と答えると何かを思い出したかのように影浦が顔を向けて口を開いた。

 

「あー...水曜日にB級ランク戦があるから忘れるんじゃねーぞ。確か相手は...誰だ?」

「ちょいちょいカゲ、隊長なんだから最低限そこは把握しなよ」

「うっせーな...歯ごたえがなくてつまんねーんだよ」

「相手は香取隊と王子隊だぞ! ったくお前らアタシがいなきゃなんにもできねーなー!」

「うんうん。ゾエさん達はいつも光ちゃんに助けられてるよ。ありがとうね」

「よし! その調子でもっとアタシを称えろ! そうしたらもっと頼っていいからな」

 

面白い相手がいるかどうかにしか関心のない影浦とマイペースなユズルは基本的に相手の情報をわざわざ調べたりはしない。この二人を情報面で支えるのが仁礼と北添だ。

そんなやりとりを見て、来栖は得心がいったのかぽろりと言葉を溢した。

 

「なるほどね。もう一つは王子隊だったんだ」

「あれ? キョウカは知ってたのか?」

 

仁礼の問いかけに応答し、ついでに事のあらましを洗いざらい説明した。

いつものように香取と口論になったこと。

その流れでB級ランク戦で宣戦布告されたこと。

おそらく香取のターゲットになっているということ。

 

「あららら。なら次の試合キョウカちゃんが香取隊に狙われることになりそうだね」

 

香取隊は切り込み役の隊長を他二人が援護する形を取っている部隊だ。

そのことを念頭に置いているであろう北添は困ったように声を上げるものの、当の本人は特に気にした様子もなくあっけらかんとした雰囲気だった。

 

「んーそれはそれで別にいいかな。あたしも香取のこと好きじゃないし。来たら返り討ちにしてあげるよ」

「血気盛んじゃねーか」

「人間誰でもソリが合わない奴の一人や二人はいんだろ」

「...そうだね」

 

影浦や絵馬は反応からすると苦手な人間がいることを伺えるが、そこをわざわざ追及するのも野暮だったので口を噤んだ来栖だった。

 

「まあ戦術的に考えても悪くないと思うよ。近くに王子隊がいれば食い合わせて先輩の得意な乱戦にできるし、いなくても先輩たちに横やりを入れないようにできる。どっちに転んでも問題はないさ」

 

 ×××

 

各々がランク戦に向けて爪を研ぐなか、ついにその日がやってきた。

B級暫定2位、影浦隊

B級暫定5位、王子隊

B級暫定7位、香取隊

数々の思惑と、様々な想いを秘めながら。

B級ランク戦、ROUND15、来栖の初陣が幕を上げようとしていた。

 




スパイダーを影浦にぶっ刺した状態で
「ふふっ、運命の赤い糸だね。せぇんぱい?」
って舌舐めずりさせながら京華ちゃんに言わせたかったんですけど既にトリガーがカツカツになっていました

次回はランク戦なのでまた時間が空きそうです
どう考えても影浦隊が強すぎる()


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