ブラック・ブレット-蘇りしリべリオン部隊- (影鴉)
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始まり

テラフォーマーズ(気に入ったキャラ死に過ぎィ!!)×ブラック・ブレット(幼女死に過ぎィ!!)=この作品(可能な限り死亡キャラを無くす予定)

この作品には以下の成分が含まれております。

・この物語は「ブラック・ブレット」×「テラフォーマーズ」のクロスオーバーです。
・この物語にはオリジナルキャラ、オリジナル組織が登場します。したがって原作キャラが一切出てこない話が発生する可能性があります。
・メインクロス相手である「テラフォーマーズ」は技術や能力、用語のみのクロスとなっております。
・能力上、パワーバランスの崩壊が生じる可能性があります。
・メインクロス以外に他版権作品(兵器、武装、設定、用語)が多重クロスオーバーします。
・クロスオーバー作品の知識が無い場合、理解が難しい描写や表現が生じる可能性があります。
・装備、話の都合上によるご都合展開が起きる可能性があります。
・話の展開上、残酷な描写や流血表現が生じる可能性があります。
・オリジナルキャラと原作キャラでのカップリング要素が含まれます。
・原作キャラの魔改造が発生する可能性があります。
・独自解釈、オリジナル設定が発生します。
・オリジナルのストーリー展開が発生する可能性があります。
・様々なネタが話の中に含まれます。
・括弧は以下のように使用します。
  「」:発声による発言、会話
  【】:無線等の機械音声、通信機での会話
  『』:施設・物等の名称
  ():思考、心の声

・目指すはハッピーエンド!!
・以上の成分をご理解上、スコップが爆☆砕しても当方は責任を取れません



日本 S県D市

 

 

『阿鼻叫喚』

非常な辛苦の中で号泣し、救いを求める様や非常に悲惨でむごたらしい様。または、地獄に落ちた亡者が、責め苦に堪えられずに大声で泣きわめくような状況の意である。

 

 そして今、男がいる街は正に言葉通り、阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 

 建物が、車が、道が燃えている。

 時折、爆発音と共にヒトだったモノや異形の残骸が宙を舞う。

 砲撃音や悲鳴、絶叫、誰かを必死で呼ぶ声が聞こえる。

 そして其処等中で横たわっている死体、死体、死体…

 

そして、何より

 漫画や映画で見る様な、異形の怪物達が街中を蹂躙していた。

 

 

『ガストレア』

寄生した生物の遺伝子を書き換え、肉体の巨大化や性格を狂暴化させる『ガストレアウイルス』に感染した生物達の総称であり、人間であっても感染すれば例外無く人類の天敵となる。その攻撃性は然ることながら、驚異的な再生力によって重火器を用いても簡単には死なず、時間が経過するに連れて進化し、更に強力になっていく驚異の存在である。

 

 

 昆虫型や獣型のガストレア達が朱い眼を光らせながら津波の様に押し寄せて来る。建物を破壊し、逃げ遅れた市民や兵士に襲い掛かり肉片へと変えていく群れの姿はまるで死の河だった。そしてその侵攻を止めるべく自衛隊が砲撃や爆撃を続けていた。

 

 

「もはやこれまでか…」

 

 

 目の前の惨状を見詰めながら男は呟く。トレンチコートに包まれたその男の周囲にはガストレアの死骸が山となっていた。

 ふと、男の後ろの死骸の山が蠢く。そして死骸を撒き散らしながら黒い影が男へ飛び掛かる。

 

が、

 

「大将、蟲共の数が多すぎる。とてもじゃねぇが抑えきれ無ぇよ」

「……脱出は完了したのか?」

「無問題。今は自衛隊が置き土産で砲撃をぶちかましてるさ」

「そうか…」

 

 

 少年が男に迫っていた黒い影の正体である蜘蛛型ガストレアの頭を飛び蹴りで叩き潰しながら報告する。

 

 

「ドクターの脱出、間に合うのかな?」

「分からん、だが脱出する迄は持ちこたえなければならん」

 

 

 彼らの目的、其れは彼らの指導者であり、この街に拠点を構えている研究者を研究データと共に脱出させる事であった。

 

 

【隊長、B地区の最終防衛戦が突破された】

【こっちもや、多勢に無勢過ぎるで】

「被害は?」

【あたしは無事だけど、逃げ遅れた避難民とそれを助けようと無理をした自衛隊員が数名やられたよ】

【こっちも同じく。おまけに感染者による2次被害が起きとる】

「撤退しながらで良い、可能な限り侵攻を抑えろ」

 

 

 無線から防衛網を突破されたという報告が下る。街を護る為に出撃した自衛隊の攻撃を援護する形で参戦している彼等であるが、押し寄せて来るガストレアの数に対抗し切れず徐々に押されていた。

 

 

「やっぱ俺達6人じゃ無理だって。武器だって有り合わせだし」

「少しでも時間を稼げているんだ、そう言うな」

「ドクターだってもっと被験者を募れば良かったのに、この時代金が欲しい傭兵なんてごまんといるんだから報酬金を餌にすればホイホイ集まるのにさ?」

「無茶を言うな。唯でさえ適合手術の成功確率が低い上に因子サンプルの数も少ないんだ。確実に適合する者にしか使えず、適合者か確認するにも時間が掛かるのだから文句は言えん」

「とは言ってもさぁ…」

「文句があるなら他の地区の防衛をしている連中の援護にでも行け」

「う~い」

 

 

 ブツブツと文句を言う少年に男は叱り、少年は渋々別働隊の元へ向かって行った。

 暫くして研究所の警備を担当していた仲間から無線が入る。

 

 

【リーダー…】

「どうした? ドクターの脱出の準備が整ったのか?」

【蟲共が地下から攻めてきた。それで……ドクターが…死んだ】

「何だと…!?」

【必要なデータは纏め終わった。だが、次の作業に入ろうとしたところに床をぶち抜いてきて…床の真上に居たドクターは……】

「………くっ」

 

 

 突然の訃報に男は苦虫を噛み潰した様な表情になる。彼らの指導者であり、技術提供者であったドクターが死んだ今…

 

 

【データチップこそ確保出来たが、それ以外の資料がまだ回収出来ていない。だが、集めようにも蟲共で溢れかえっていて俺一人では回収がほぼ不可能だ】

「……」

「回収するには少なくとも後2人欲しいが可能か?」

「編成次第送り込む。待ってろ」

「大将、ヤツが来た!!」

「ゾディアックか…、こんな時に」

 

 

 別働隊の援護へ行った筈の少年が叫びながら戻って来た。地平線にはステージVのガストレアが山の様な巨体でビルや建造物を吹き飛ばしながらこちらへ進んで来る姿が見える。もはや躊躇する時間は無かった。

 

 

「メンバー全員に告げる」

 

 

 男は無線機越しに仲間達へ語り掛ける。

 

 

「蟲共が地下から研究所進行し、ドクターが死亡した」

【!! …嘘やろ!?】

【そんな…】

【これからどうすんだ!?】

【……】

【それってヤバいんじゃないですかぁ?】

「おまけに一部データが集め終えれていない上にゾディアックが接近中だ。従って、作戦を変更する。良く聞け」

 

 

 男の言葉に先程まで動揺していたメンバーは静まり返る。

 

 

「防衛戦を研究所手前まで下げ其処を決死線とする。2番と5番は研究所へ行って7番と資料回収を手伝え。残りは俺とゾディアック達が研究所に辿り着かないよう、決死線での防衛だ。良いな?」

【【【【【【【了解!!!】】】】】】

「それでは…」

 

 

 男は懐から仮面を取り出し、顔に付けた。

 

 

「作戦開始!!」

 

 

 仮面越しに獰猛な笑みを浮かべ、男はガストレアの軍勢に駆けて行った。

 

 

数時間後

 

 

 D市はガストレアの侵攻によって壊滅。犠牲者は決して少なくなかったが、救助隊の活動が滞りなく進んだことによって、他の襲撃された都市と比較すると極めて少なかった。その理由として謎の戦闘集団が一騎当千の活躍で市民の脱出までガストレアの侵攻を遅らせた為であったという。しかし彼等は街の壊滅と共に姿を消し、生死不明である。

 そして2021年、人類とガストレアとの戦いは人類の敗北で終わり、開戦前に80億人いた世界人口は9割近くも減少した。

 残った人類はガストレアを衰弱させる特殊な金属『バラニウム』で造った巨大壁『モノリス』で残った生活区域を囲んで『エリア』を創り、束の間の平和を手に入れたのであった。

 

 現在、D市で活躍した謎の集団について知っている者は殆ど居ない。だが数少ない目撃者の証言によると…

 

曰く、軍人のような姿をしていた。

 

曰く、槍や斧といった一般的な武装のみでガストレアを大量に仕留めていた。

 

曰く、人ならざる動きでガストレアを歯牙にも掛けなかった。

 

そして何より、戦っている際に仮面の目の部分が朱く光っている様に見えたと言う。

 

 

彼らは知らない。

D市を防衛していた者達が特別な存在である事を、

 

彼らは知らない。

その者達が『機械化兵士計画』の様にガストレアに対抗するべく秘密裏に行われていた”ある計画”の被験者である事を、

 

 

その計画は『リべリオン計画』

 ガストレアの能力を人間に移植し、同等以上の力を持った兵士を生み出してガストレアに対抗する計画である。

 

 

 そして西暦2031年現在、日本にあるエリアの一つ「東京エリア」を舞台にD市で行方を晦ました『リべリオン計画』で生みだされた7人の戦士達の新たな物語が始まる。




今後暫くは原作前における各メンバーの話になる予定。

感想コメント、意見・質問お待ちしております。


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かくして役者は戦士と出会う
葛城 蓮という男


暫くはオリキャラが原作開始まで何をしていたかの話になると思いますが、ブラック・ブレット原作キャラもちょっと登場します。


『葛城家』

 東京エリア内のマーケットを牛耳る複合企業『葛城グループ』のトップに座する一族であり、第5区に屋敷を構える有名な商家だ。ガストレア戦争終了直後の補給物資の不足を直ぐ様解消した功績を持ち、その後も食料品から武器弾薬まで扱う巨大マーケットへと成長した。この様な事から財界や政界へのパイプを広く持ち、その影響力は計り知れないものとなっている。

 

 そしてこの葛城グループ、近年になって特殊な薬品の開発に成功した事により更なる利益を得る事となった。

 

『ガストレア化抗体薬』

 これまでの抑制剤は細胞の一定レベル迄のガストレア浸食を抑制する事しか出来なかった。それに対して、ガストレア化抗体薬は安全マージンまで抑え込む効果を持っていた。これにより、抑制剤ではガストレア化を防げない被害者も完全に浸食されない限りガストレア化を防ぐ事が出来る様になったのだ。

 

 この成功の功労者が葛城家の新当主となった葛城 蓮であるという。前当主、葛城 宗司の一人息子である彼は、ガストレア戦争勃発時に兵士になると言って出奔し、以降行方知れずとなっていたのだが、ある日ひょっこりと帰って来た。前当主本人は死んだと思っていた息子の帰還に大喜びであり、周囲の者達の困惑はあれど特に問題無く新当主として引き継ぐ事となった。帰って来た際に蓮は戦場で知り合ったと言う者達を連れて来ており、ガストレア化抗体薬もその内の1人が作ったモノである。

 葛城家当主となり、蓮は前述した薬品の開発に始まり、様々な新しいビジネスを編み出して更なる富を獲得していき有能な企業の主として認められた。

 また、企業の長でありながら屋敷周辺を妹2人(大戦時に孤児であったのを引き取った)を連れて散歩して住民とも交流している為、一般市民からの評判も良かった。

 ところが、エリア外周区で暮らす『呪われた子供達』の保護にのり出した事で騒動が起こる。

 

『呪われた子供達』とは、

 ガストレアウイルス抑制因子をもち、ウイルスの宿主となって人間のままで肉体を維持できる子供達をそう呼ぶ。妊婦がガストレアウイルスに接触することによって生まれた胎児がそれに該当し、出生時に目が赤く光っていることにより判明する。ただし、ガストレアウイルスは生物の遺伝子に影響を与える上にガストレア大戦時初めて生まれてきた存在な為、該当者はその全員が女性、10歳以下の少女達であるという特徴があった。

 ガストレアウイルスを保菌している事や、ガストレア由来の人間離れした身体能力から人々に差別され、半ば迫害されている。特にガストレア大戦を体験し、ガストレアによって近しい人を殺された『奪われた世代』の人間からは激しい憎悪の対象となっている。

 大部分の呪われた子供達は出生時の赤目を確認されるや否や大戦時の赤目のトラウマから殺されるか、親に捨てられてエリア外周区にて物乞いやマンホールチルドレンとして暮らさざる得ない状況に立たされている。

 

 蓮はエリア外周区の一部を開拓して村を造り、そこに子供達を集めて暮らせるようにしたのだ。

 この事業に対して部下は元より周囲は困惑し、一部からは大きな反発が起きた。

 

ムダ金だ、

 

危険極まりない、

 

金持ちの道楽だの散々な言われ様だった。

 

 しかし蓮はそんな意見に対してたった一言、

 

 

「で? それの何が問題なんや?」

 

 

 周りの言葉など意を介す事無く、蓮は己がやりたい事を続けた。事実、外周区の開拓が他区域に迷惑を掛けている事は無く、逆に開拓工事による利潤や呪われた子供達の犯罪が減少している事から、これ以上の文句を言おうにも出来ずにいた。

 また、『奪われた世代』の中で逆上した者達が蓮を襲撃するという命知らずな事件が起きたりもしたが、蓮自身、腕っぷしが強い為に返り討ちに遭い、聖天子が暮らす第1区に晒し者にされる事となり、逆らおうとする者はいなくなった。

 更に、東京エリア現統治者である聖天子からもこの事業は評価されており、周囲に培ってきた評判や信頼もあって、反感感情は次第に消えていった。

 

 

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葛城家屋敷

 

 

「兄様、朝です」

「起きておくれやす」

 

 

 寝室の襖が開き、2人の少女が寝ている男を揺すって起床を促す。掛け布団が蠢き、男が体を起こす。

 

 

「ん……、朝かいな?」

「お早う御座います、兄様」

「今日はええお天気や」

「くああ~。お早うさん桔梗、牡丹」

 

 

 欠伸をしながら糸目の男、葛城 蓮は少女達に挨拶をする。それに彼女達は笑顔で返すのだった。

 

 

「兄様、ヴィクトルからメールが来てます」

 

 

 蓮が寝間着から着替え終えるのを部屋の外で待った後、出てきた彼に報告するのは桔梗。淡い紫色の振袖姿であり、紺色の髪をボブカットにしている。

 

 

「ん~、抑制剤の材料が切れたんか?」

「はい、”何時も通り頼む”との事です」

「今日の予定は何やったけ?」

「夜に聖天子様と菊之丞氏との会食がありますえ」

「なら其れまでに済ませよか?」

「「はい」」

「それじゃ、朝餉に行こか?」

 

 

 今日の予定を教えるのは牡丹。牡丹色の着物を着崩して肩を露出させている所謂花魁風の格好をしており、ストレートの黒髪に髪飾りを付けている。牡丹からそれを聞いた蓮は彼女達を連れて朝食を摂るべく母屋へ向かった。

 

 

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エリア外周区 森林地帯

 

 

「おうおう、ぎょうさんおるで」

「あれだけいれば不足は無いですね」

「今日は荒稼ぎ出来そうどす」

 

 

 準備を整えた蓮達は自家用ヘリに乗り、モノリスを超えたエリア外周区の森林地帯に来ていた。簡易発着場から徒歩でガストレアを探している内に30体規模のコロニーを発見した。

 

 

「ステージⅢが6体、ステージⅡが10体、後はステージⅠの様ですね」

「是位ならわっち達2人だけでも楽勝でありんす」

「油断は禁物や。じゃあ、いくで?」

「「はい!」」

 

 

 蓮は懐から仮面を取り出して顔に着ける。そして右手に扇子を、左手に飛針を持ち、ガストレアの群れへ臆する事無く飛び掛かった。桔梗と牡丹もそれぞれ金属弓と仕込み刀を構え彼に続く。

 

 

「しっ!!」

 

 

 ガストレアの群れの中に降り立った蓮は流れる様に鉄扇を振るう。仕込まれた刃によってステージⅠはバラバラに、ステージⅡも真っ二つになる。獲物が来た事に気付いたガストレア達は蓮にその牙を向けようとするが…

 

 

「兄様には触れさせません!!」

「あんさん等の相手はわいらどす」

 

 

 桔梗と牡丹に蹴散らされる。そして彼女達が取り逃したガストレアを蓮が飛針で仕留めていく。飛針は硬い甲皮に覆われている虫型ガストレアすらも貫き、刺さったガストレアは数秒の内に痙攣しだして倒れた。

 この状況は桔梗と牡丹の2人の元でも起きており、彼女達の武器で斬り付けられたり、果ては彼女達が素手で触れられたガストレアは致命傷を受けていない筈なのに倒れていった。

 あっという間にステージⅡ以下のガストレアは全滅し、残りはステージⅢの6体だけとなった。ステージⅢ達はその巨体を活かして蓮達を押しつぶそうと迫るが、

 

 

「遅過ぎやで?」

 

 

 風の如くステージⅢの体表を駆け巡っていく。

 

 

「舞い散る華の如く、散れや」

 

 

 一瞬にしてガストレアの体は切り刻まれ、バラバラになっていく。それを尻目に蓮は別の個体へ襲い掛かる。こうして、1時間も経たぬ内にガストレアのコロニーは壊滅した。

 

 

「ワイや、狩りは終わったで。座標はもう送っといたさかい、回収宜しゅうな」

 

 

 撃破したガストレアを回収する部隊に連絡をし、蓮は伸びをする。

 

 

「桔梗と牡丹も有難な」

「構へんでおくれやす」

「私達は兄様のお役に立ちたいのですから」

 

 

 蓮の感謝の言葉に2人は微笑む。

 

 

「ほな、帰ろか?今日は頑張ったからなんかご褒美をやげやうか? 」

「なら兄様が作った御萩が食べたいです!」

「わっちも!」

「そんなんで良いんか? なら早う帰って準備せえへんとな」

 

 

 そう言いながら蓮達は簡易発着場へと戻って行くのであった。

 

 

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???

 

「30体ものガストレアの群れに無傷で勝利するか、流石だね…」

 

 

 簡易発着場へ戻って行く蓮達の姿を遠くの木の上で観察している者がいた。

 

 

「くくく、だがまだそんなもんじゃ無いのだろう? 葛城 蓮君?」

 

 

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葛城家屋敷

 

 

 エリア外周区から返って来た蓮は自分の部屋に戻り、今日中に済まさなければならない事務仕事をテキパキとこなしていた。

 桔梗と牡丹はまだ子供故に専属の家庭教師の下、現在勉強中である。

 

 

「司馬重工の武器は相変わらずでかっ(高い)な。みおちゃんに頼んだらもうちびっとまけてくれんやろか?」

 

 

 比較的出費が高い武器の購入リストを見ながら蓮はぼやく。

 

 

「しっかし、天誅ガールズグッズがバカ売れしとるな。ワイのとこも一口噛ませて貰おうかいな?」

 

 

 次に東京エリア内の流通状況のリストをチェックしながら呟く。

 

 

「………んで、玄関から入らずに土足で人ん家に上がり込むっちゅうのはどういう了見や?」

「済まないね。早く君に会いたくて居ても立っても居られなかったんだよ」

 

 

 作業の手を停める事無く呟く蓮に、入り口前に立っていた謎の男は答える。派手な色の燕尾服にシルクハット、そしてその顔は笑顔を浮かべた仮面に覆われていた。

 

 

「朝っぱらからずっとストーカーしとった癖にか? 意外とシャイなんやな?」

「くくく、まさか尾行がバレていたとは…、益々気に入ったよ」

 

 

 愉快そうな声を上げながら男は言う。蓮は仕事机の書類を纏めると立ち上がって男の方を向く。男の後ろには黒いドレスを纏った少女が蓮の様子をチラチラと見ていた。因みに少女の瞳は朱かった。

 

 

「子連れ狼ならぬ子連れ道化師かいな、そんでどちらさん?」

「おっと失礼、私は蛭子 影胤(ひるこ かげたね)。そしてこの娘は私のイニシエーターで…」

 

 

 影胤は後ろにいた少女に前に出る様に促す。少女は腰に下げた小太刀をプラプラさせながら影胤の前に立ち、スカートを摘み上げて軽くお辞儀をした。

 

 

蛭子 小比奈(ひるこ こひな)、十歳。パパぁ、こいつ斬っても良い?」

「駄目だよ子比奈、今日は彼と話をする為に来たんだから」

「随分と物騒やな、お宅の娘さん………で、元『陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊』所属でIP序列134位の元プロモーターが娘を連れて何の用やねん?」

「ほう…私を知っているか。君とは是非とも話がしたくてね、葛城 蓮君?」

「娘さんといい、その風貌といい、わいとしてはお近づきにはなりとう無いんやけどな」

 

 

 蓮の言葉に対し、影胤はクスクスと笑うだけだった。

 

 

「東京エリアの者ならもう誰もが知っている事なのだろうが、君は外周区に村を建設しているね?」

「まぁな」

「しかも君は呪われた子供達をそこに住まわせて養っている。何故なんだい?」

「未来の主役になる若い連中を助ける事に何か問題があるんかいな?」

「彼女達はこの世界に存在している奪われた世代の者達に忌み嫌われているのだよ?」

「んなもん知った事かいな、ワイは自分が遣りたい事をしとるだけや」

「知った事無いか………。くくく、素晴らしい」

 

 

 影胤は愉快そうに笑いだす。

 そして蓮に問い掛けてきた。

 

 

「葛城 蓮君、君は東京エリアの現状をどう思う?」

「………」

「人間は醜い。罪が無い呪われた子供達を罵っては憎み、迫害する。救い様が無いと思わないかね?」

「おどれは違うんか?」

「生憎私は既に人間とは言えない存在でね」

「何や? 人体改造されただけで人外認定かいな?」

「ふふっ、兵器となった身だ。もはやヒトでは無いよ」

 

 

 仮面を着けている為に影胤の表情は読めない。

 彼は話を続ける。

 

 

「実はD市で君の戦いぶりを見させて貰った身でね」

「撤退戦にいたんかいな…」

「国の任務でガストレア共を狩っていた時に見掛けてね。あの時の君は凄かった、今日の戦い等比較にならない位にね」

「褒めても何も出ぇへんで?」

「あの戦い方は人間を超えていた。そして、私と同じ匂いがする」

「……何が言いたい?」

「君は私と同じ人間を超えた存在だ。そう、彼女達と同じく新たな時代を生き抜く為に生まれてきた新たな人類なのだよ! だからこそ旧世代の人間達など何の価値も無い」

「………だから旧世代の人間、奪われた世代を根絶やしにでもするから手を貸せと? 改造人間になっただけで随分と偉そうや」

「私は存在意義を求めているのだよ。兵器である私は戦う存在でしか無い、だから戦争を求めている」

「戦争屋が、戦いたいなら蟲共とやっとれ。他人を巻き込むな、迷惑や」

「君なら理解してくれると思ったのだがね……?」

「阿呆、好き勝手やっとるけど人間止めた覚えは無いで。それにな、ワイは商人や。客がいなくなったら商売あがったりやろが?」

「そうか、残念だ。ならいっそこの場で…」

 

 

 蓮の言葉に交渉は決裂したと思った影胤は彼を始末すべく力を使おうとする。

 しかし、

 

 

「後な…」

「?」

「おどれらワイ達を嘗め過ぎやで?」

「む、体が……」

「パパ! 体が動かない!?」

 

 

 鉄扇を取り出した蓮が近づいてきたので構えようとした影胤達だったが、体が動かない。辛うじて口と視線だけが動かせ、視線を横に移すと、自分と小比奈の間に牡丹色の着物を着た少女と振り袖姿の少女が立っていた。

 

 

(彼のイニシエーター達か、何時の間に? いや、それよりもこれは彼女達の仕業か……?)

「何やけったいな気配がしいやおこしやすみたら、いかいな鼠が2匹もおるではおまへん」

「兄様に何の用ですか? 場合によっては…」

 

 

 その姿からは想像もつかない殺気をぶつけられる影胤達。しかし、影胤はこの状況すらも愉快だと言わんばかりに笑い出す。

 

 

「くくっ、はははは! 彼女達を唯のイニシエーターと思って油断していたよ。随分とこの子達に慕われているのだね君は!」

「家族なんや、当たり前やろ?」

「家族か、呪われた子供達を憎む者は其処等中にいる。何時までそう言えるかな?」

「っ! 戯言を!!」

「その命、いりんせん様でありんすね」

「桔梗、止めや」

「でも兄様!?」

「良いでありんすか?」

「ワイは気にしとらん。手を降ろしい」

 

 

 影胤の挑発に桔梗と牡丹が構えるが、蓮の言葉に渋々構えを解く。

 蓮は手に持っていた鉄扇を戻すと、影胤達に近づいて素早く何かを刺した。

 

 

「これで良し、と」

「……動ける、解毒剤か何かかね?(一体どうやって私と小比奈を動けなくしたのか、そこのイニシエーターが関係してそうだが…解らない事が多すぎるな)」

「んなもん教えるかい、企業秘密や。ほら、さっさと玄関へ行かんかい」

 

 

 体を動かし異常が無いか確かめる影胤。そのまま彼等は玄関まで送られるが小比奈は桔梗から何かを渡されていた。

 

 

「次は玄関からちゃんと入りや、さもないと唯じゃ済まさんで?」

「………肝に銘じておくよ」

 

 

 抵抗する様子も無く、影胤達は去って行った。彼らの姿が消えたのを確認し、蓮は深く溜息を吐いた。

 

 

「やれやれ、面倒な事になったでホンマ。戦争屋なんて聖ちゃんになんて言えばええんや?」

 

 

:::::

 

 

「やれやれ、生きた心地がしなかったね。まさかあそこまで底が知れないとは…」

 

 

 人気の無い裏路地に着いた影胤達は一息吐く。今回、勝つつもりは無かったが、自分が襲う事で蓮が持っているであろう力の正体を知る事が出来れば良いと思っていた。D市で蓮は自分の周囲や遠くにいるガストレアを吹き飛ばす力を持っていた。しかし、今日のガストレア狩りで、彼はD市で使っていた何らかの力を使わず、つまり本気を出す事無く戦っていた。

 

 

(彼の実力は解らず、おまけにイニシエーター達にすら勝てないかもしれない、か)

 

 

 あの時自分と小比奈の体の自由を奪ったのは間違い無く蓮のイニシエーターであろう。しかし、何時の間に、どの様にして動けなくしたのかが分からない。頭の意識ははっきりしており、目と口だけが動けた訳だが、彼に何かを刺される事によって動ける様になった事から毒か体のツボを突かれたとしか考察でき無い。

 

 

(彼も『新人類創造計画』の被験者の筈、でないとあの時の戦いっぷりは説明出来無い)

 

 

 当時、機械化兵士として戦いに明け暮れていた自分でも人間離れしていると思える戦闘力でガストレアを葬っていた蓮。様々な過去の記録を探したが、彼に纏わるモノは一切見つからず、精々一般の歩兵として戦地に赴いていた事位しか解らなかった。

 しかも、撤退した他の自衛隊員や避難民の話では他にも彼と同じ様な者達が戦っていたと聞く。自身は彼だけしか知る事は出来なかったが是非とも会ってみたいものだと影胤は考えていた。

 

 

「ところで小比奈、あのイニシエーターから貰った袋は一体……いや、何を食べているんだい?」

 

 

 小比奈が先程から桔梗から受け取った紙袋から何かを取り出して食べていた。

 

 

「えっとねぇ、兄様が作った御萩だから後で食べてねって言われたぁ」

「………パパの分も有るかい?」

「えぇっと、美味しかったから全部食べちゃった」

「………………(´・ω・`)」




オリキャラ1人目、葛城 蓮さん登場。
企業のトップ枠として聖天子様や司馬 未織さんと知り合いだったりします。
そして色々と救済をしていたり……
そして蛭子親子の登場、影胤さん勘違いするの巻だったりします。

初っ端と言う事で碌に描写されていませんが、蓮とイニシエーターである桔梗と牡丹はテラフォーマーズに登場した能力がモデルとなっています。


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その女、剛毅につき

今回、原作キャラの性格が崩壊しております。
どうか、ご了承ください。


『民間警備会社』

 ガストレアが絡む事件を担当する組織であり、一般に省略して『民警』と呼ばれている。ガストレア大戦後、エリア各地で発生したガストレアの対応には当初警察が対応していたが、警察官の死亡率が著しかった為、対ガストレアのエキスパートを集めた組織として民警が結成され、ガストレア出現の際には彼等の同伴が必須となる法律が制定された来歴を持つ。しかし、警察からしてみれば自分の所轄に土足で踏み込まれているに等しいので民警と警察は基本的に仲が悪い。

 主な仕事はガストレアの駆除だが、時折政府から世間に公表し難い依頼を受けたりもしている。

 業務の中枢を担うのは戦闘員で、プロモーターとイニシエーターが基本1人ずつペアを組んで現場へ派遣される。

 また、”民間”の会社である為、民警の規模は大手から弱小、零細と呼ばれるところまで様々である。

 

 ある日、大手民間警備会社『三ヶ島ロイヤルガーター』にとある依頼が来た。

 

 

「他のプロモーターと合同でガストレア討伐だぁ?」

「はい、撃破した数やステージの高さに応じて報奨金が増えるそうです」

 

 

 IP序列1584位のプロモーター、伊熊 将監が怪訝な表情で尋ね、彼のイニシエーター、千寿 夏世が軽い説明をしながら依頼内容の書類を彼に手渡す。

 

 

「合同ってこたぁ、分け前が減るじゃねぇか」

「報奨金は撃破数に応じた分しか渡さないのですから当然です」

 

 

 頭をガシガシ掻きながらぼやく将監に夏世は淡々と答える。

 

 

「他の依頼は無ぇのか?」

「他のプロモーターの方々が受注していてこれしかありません」

「ちっ、しゃあねぇな」

「因みに集合場所は葛城グループ32区支部。集合時間は13:00です」

「……おい、移動時間考えてギリギリじゃねぇか」

「そうですね。尚、集合時間きっかりに移動するらしいので遅刻したらアウトです」

「だぁあああ! 冷静に答えてんじゃねぇよ。夏世、急ぐぞ!!」

 

 

 将監達は大慌てで集合場所に向かう事となるのだった。

 

 

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葛城グループ32区支部

 

 

 集合時間10秒前に到着した将監達。タクシーの運転手を急かしながら目的地へ向かっていたのだが、よりにもよって渋滞に遭遇。一向に進まない事に痺れを切らした将監は、夏世を脇に担いで全力疾走で向かう事となるのだった。

 

 

「ぜぇ…、ぜぇ……、なん……とか…間に合ったか?」

「10秒前ジャストですね。入り口前に受付の方がいると言う事なので私がしておきます。将監さんは息を整えてヘリポートへ向かっておいてください」

「あ、あぁ。わ……解った」

 

 

 手持ちの武器や道具に加え、夏世を担いだ上で約15分間の全力疾走を果たした将監。息は絶え絶えであり、しばらく息を整えたかった。

 尚、彼の姿はムキムキマッチョな肉体にタンクトップとズボン、口元を髑髏のフェイススカーフで包んでいる世紀末ルック。そんな彼がワンピースとスパッツといういたって普通の格好である夏世を武器や道具と共に抱えて走っている姿はどう見ても人攫いであったと目撃者は語っている。

 夏世が受付へ向かい、一先ず落ち着いてきた将監はヘリポートへ向かった。

 

 

「はぁ…、漸く落ち着いてきたか…」

 

 

 深呼吸をし、目的地に着くと、自分の他に2、3組の民警と思われる者達が出発の為の準備をしていた。

 

 

「ん?」

 

 

 一人だけイニシエーターがいない者がいた。1人で荷物と思われる強化プラスチック製のボックスに腰を下ろし、タバコをふかしている。

 

 

(いけ好かねぇ女だな……)

 

 

 将監が感じた第一印象がそれだった。見た目は悪く無い、寧ろ美女と呼んで良い容姿であり、ワイルドな服装から見えるスタイルも抜群であった。だが、何と云うのか、将監の直感が彼女とは馬が合わないと囁いていた。

 一瞬、将監とその女の視線が合うが、興味が無いと言う様に女は直ぐ様視線を逸らした。

 そこへ受付で登録を終えた夏世が戻って来た。

 

 

「将監さん、参加登録終わりました」

「おう、問題無かっただろうな?」

「はい」

「皆様、本日の御依頼に参加して頂き誠に有難う御座います」

 

 

 夏世に確認したところで、フライトジャケット姿の男が表れて民警の面々に挨拶をする。

 

 

「早速移動しますのでヘリに御乗り下さい。詳しい話はヘリの中で話します」

 

 

 男の言葉に従い、将監達は輸送ヘリへ搭乗する。ヘリはそのまま飛び立ち、目的地へ向かって飛んでいく。

 

 

「今回の御依頼の詳細についてですが、御送付した依頼書の内容通り、周外区のガストレア討伐になります」

 

 

 ヘリに揺られて数分後、男は書類を広げて話を始めた。

 

 

「森林地帯第526Bエリアにてガストレアのコロニーが確認されました。規模はクラスB、ステージⅣが10体、Ⅲが60、Ⅱが130、Ⅰが250の計450体と観測員から報告されております。皆様にはコロニーの壊滅及びガストレアの死骸の回収をお願い致します。尚、報酬となる報奨金ですが、各自が撃破したガストレアのステージ及び数で決まりますので爆薬等で木っ端微塵にして判別不可能な場合はカウントされませんので、ご注意下さい」

 

 

 説明が終わり、ヘリは目的地の近くに建設された簡易発着場に降り立った。

 

 

「それではこれより2組のペアを組んで頂きます。各自準備が終了次第、討伐を開始してください」

 

 

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森林地帯第526Bエリア ガストレアコロニー付近

 

 

 討伐が開始され、ペアを組んだそれぞれの組が宛がわれたポイントへ移動する。

 将監達は簡易発着場から一番遠いポイントを宛がわれた。

 

 

「っち……」

 

 

 バスタードソードでガストレアを真っ二つにしながら将監は舌打ちをする。ペアを組む事になった相手はイニシエーター無しの女。持っていた強化プラスチック製のボックスには武器を入れていたらしく、その中から2本の大型チェーンソーを取り出し、それぞれを両手に持ち、軽々と振り回しながら向かって来るステージⅣを易々と切り刻んでいた。

 

 

(30分近くも暴れてやがるのに疲れた様子は無ぇな。相当な手練れの筈だがレオナなんて名前は民警内で聞いた事が無ぇ)

 

 

 将監と夏世が組む事になったのはイニシエーターを連れていない女だった。ペアを決定する際に『レオナ・アーヴィング』と呼ばれていたが、あれ程の実力者なら有名になっていてもおかしくない。しかし、女性プロモーターでは聞いた事の無い名前だったのだ。となると、賞金稼ぎだと思われるが生憎将監は有名どころの賞金稼ぎの名前まで網羅してはいなかった。

 

 

(何者か解らないにせよ、俺の取り分が減るのはいただけねぇな…)

 

 

 レオナは見る見る内にガストレアを撃破していく。

 

 

「おい、夏世」

「なんでしょうか、将監さん?」

 

 

 将監は後方からアサルトライフルの狙撃で彼をサポートしていた夏世に声を掛ける。彼女は将監の方を振り向く事無く、迫って来るステージⅠを狙撃しながら返事をする。

 

 

「俺のサポートはもういい。暫くあの女の後ろに追いていろ」

「……将監さん、それは…」

「何時もの通りだ。俺の手を煩わせるなよ?」

 

 

 将監の命令に夏世は内心辟易する。

 

『仲間殺し』

複数人で挑む依頼の際、報酬が歩合制の時は自分の分け前を減らさない様に、先着制の時は自分が確実に手に入れる為に、将監は他のプロモーターやイニシエーターを事故に見せ掛けて殺す。殺した相手は大抵ガストレアに喰われる為、バレた事は無い。

 

 今回もレオナを殺害して、自分の撃破数を稼ぐと共に彼女の取り分を横取りするつもりなのだ。

 この命令に夏世は未だに嫌悪感を持っていた。将監のイニシエーターである彼女も今の様に当然、この仲間殺しを命じられる。しかし、将監にとってイニシエーターは自身の道具でしか無く、彼女も道具扱いから変わる事は無いと諦めており、そんな諦めている自分にも嫌気が差していた。

 その内、レオナは森林が密集している方へ移動していった。

 

 

「今がチャンスだ。あれだけ木が密集している場所なら奇襲もし易いし他の奴に見られる事も無いだろう。行け、夏世」

「………分かりました」

 

 

 夏世は頷きレオナの後を追って行った。

 

 

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 視界に入る範囲でいたガストレアの最後を切り裂く。周囲にはガストレアの気配は無く、レオナは武器を下ろした。

 

 

「………何時まで隠れているんだい?」

「……気付いていましたか」

 

 

 唐突に声を上げるレオナ。すると、彼女の背後にある木の陰から夏世が現れる。

 

 

「で? さっきからずっとアタシを追跡して観察していた様だけど、何の様だい?」

「……もう解っているんじゃないのですか?」

 

 

 そう言って夏世は自分の武器であるアサルトライフル『SR-16M4』を構える。気付かれていた以上、奇襲は出来ないが将監から命令された以上、レオナを殺さなければならない。

 そんな彼女を前にしてレオナは溜息を吐きながら尋ねる。

 

 

「一つ聞いて良いかい?」

「…何でしょうか?」

「アンタのそれは自分の意思かい?」

「…………」

 

 

 レオナの問いに夏世は口籠る。将監の命令とはいえ、正直に”はい”と答えれば今回の仕事の報酬が無くなるどころか警察沙汰になる可能性がある。夏世が出した答えは銃口をレオナに向ける事だった。

 

 

「………やれやれ、あのデカブツは相当に碌でも無い奴の様だね」

「……それについては否定しません」

「それで、アタシを殺す気かい?」

「恨みはありませんが、命令ですので」

「…そうかい」

 

 

 諦めた様に淡々と応える夏世にレオナは溜息を零し………

 

 

「嘗めるなよ、糞餓鬼」

「!!!?」

 

 

 強烈な殺気をレオナからぶつけられた夏世はバックステップで距離を大きく離した。一瞬、殺されたと思う程の濃厚な殺気に冷や汗が止まらない。

 

 

「私にはこれしか道が無い様な諦めた目をしやがって…」

「…くっ(こんな殺気、今迄感じた事が無い!!)」

 

 

 夏世はSR-16M4の引き金を引き、放たれた5.56NATO弾がレオナへ襲い掛かる。

 レオナは横に跳んで避けた。

 

 

「私にはこれ以上どうしようもないんです!!」

 

 

 泣きそうな表情で叫びながら夏世は撃ち続ける。

 

 

「私達イニシエーターが生きていく為には誰かに利用されないといけないんです! 普通の子供みたいに自由には生きてはいけない!!」

 

 

 レオナが隠れている木へひたすら撃ち続け、一部を削られた木はそのまま倒れる。

 

 

「貴女に、何が分かるというのですか!!」

「分かる訳無ぇだろ」

「な、早い!?」

 

 

 夏世へ一気に距離を詰めたレオナは回し蹴りを打ち込む。夏世はSR-16M4を盾にするがその銃身は曲がり、そのまま吹き飛ばされて木に叩き付けられる。

 

 

「か、かはっ」

 

 

 叩き付けられたことによって肺の中の空気が一気に吐き出される。夏世はそのまま地面に倒れた。

 

 

「け、けほけほっ」

 

 

 一瞬意識が飛ぶが直ぐに覚醒する。全身を叩き付けられたことによって体中が痛むがSR-16M4を杖にしてなんとか立ち上がるが……

 

 

「グルルル……」

「こんな時に…」

 

 

 騒ぎを聞き付けたのか、ウルフタイプステージⅠのガストレアが夏世の前に数頭現れた。SR-16M4はレオナの蹴りによって使用不可能になっており、手持ちの武器はコンバットナイフのみ。とてもじゃないが捌ききれない。

 

 

(ああ、私はここで死ぬんだ……)

 

 

 暫くの間、涎を垂らして夏世を窺っていたガストレアであったが、待ち切れなくなったのか飛び掛かって来た。その姿を見て夏世は諦めと共に遅い来るであろう痛みに目を閉じる。

 しかし、痛みは一向に来ない。瞑っていた瞳を開いた夏世はその光景を見て驚く。

 

 

「……嘘?」

 

 

 そこには夏世に飛び掛かったガストレア達をチェーンソーで纏めて切り裂くレオナの姿があった。

 

 

「この蟲共が、弱ってるガキに群がるんじゃないよ!」

 

 

 あっという間にガストレア達を死骸の山に変えた。

 

 

「ほら、立ちな?」

「何故助けたんですか?」

「はぁ? ガキを見捨てる程アタシは腐っていないさ」

 

 

 座ったままの夏世を起こしたレオナは問い掛けてきた彼女にそう答える。

 

 

「私は…、呪われた子供なんですよ?」

「知ったこっちゃ無いね。それにアタシから見たらアンタは唯の子供さ」

「唯の…子供?」

「そう、子供、ガキさ」

 

 

 ガストレアの死骸を蹴って一か所に集めながら受け答えするレオナに夏世はポカンとする。ガストレア因子を持ち、並の大人以上の力を発揮する自分達を彼女は唯の子供と言った。

 

 

「さぁて、子供に嘗めた事をさせる馬鹿を折檻しに行くかね?」

 

 

:::::

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

 将監が目の前のステージⅡを叩き斬る。周りにはもう生きているガストレアの姿は無く、死骸のみが散乱していた。武器であるバスタードソードを下ろし、一息吐く。

 

 

(ここいらはこれで終いか? なら後は夏世が戻って来るのを待って発着場まで戻れば良い。あいつの事だ、確実に殺っているだろうしな)

 

 

 ふと、後ろの方で誰かの足音が聞こえる。

 

 

「夏世、終わったn……ブゥッ!!?」

 

 

 後ろを振り向くや否や、レオナのストレートが顔面中央にクリーンヒットする。鼻血を飛ばしながら将監は茂みの中へ吹っ飛んで行った。

 

「まず一発な」

「あ、あのレオナさん?」

「アンタは木の陰に隠れてな。ただし蟲に襲われんじゃねーぞ?」

 

 

 心配そうに声を掛ける夏世に対し、手をプラプラさせながらレオナは将監が飛んで行った方向へ歩いて行った。

 

 

「かっ、は…。な、何が起きた?」

 

 

 レオナに殴り飛ばされた将監は折れた鼻を抑えながら、倒れた体の上半身を起こす。後ろから誰かに殴られた様だが一体誰が……?

 

 

「よぅ、生きてるかデカブツ?」

「!? テメェは…」

 

 

 目の前には夏世に殺せと命じたレオナの姿があった。

 

 

(夏世の奴、しくじりやがったか…)

「ガキ使って嘗めた真似しやがって、覚悟出来てんだろうね?」

 

 

 拳をポキポキ鳴らしながらレオナは近付いて来る。

 

 

「……夏世はどうした?」

「あのガキかい? ぶっ飛ばした後は知らないね」

(奴の言葉が本当なら気絶してるか…。くそっ、援護は期待出来無ぇか)

 

 

 本当はレオナが将監に見付からない様に隠れろと言われて木陰に隠れているのだが、将監が分かる筈も無い。

 

 

「おら、掛かって来いよ」

「!?」

 

 

 レオナは近くに落ちていたバスタードソードを将監の元へ投げる。

 

 

「アタシを殺して報酬を独り占めしたいんだろ? さっさと来い」

「くっ、嘗めんじゃねぇ!!」

 

 

 将監がバスタードソードを持っているのに対し、レオナは丸腰だった。しかし将監は気にする事無く彼女へ斬り掛かる。

 真上から振り下ろされる凶器をレオナは臆する事無く避ける。

 

 

「一発目から外してんじゃないよ」

「っちぃ!!」

 

 

 振り下ろしたバスタードソードの刃を横に向け、避けたレオナへ振り上げるがこれも避けられた。

 

 

「うおらぁああああああああ!!!」

 

 

 自身の体長並の大きさを誇るバスタードソードを軽々と降り回し、レオナを真っ二つにするべく襲い掛かる将監に対し、レオナは至って冷静にその斬撃を避けていく。

 斬り掛かる、避けるを数十回繰り返したところで、将監の突きを避けたレオナはその退路を大木に防がれる。

 

 

「貰ったぁ!!!」

 

 

 確実に殺れると踏んだ将監は振り被ったバスタードソードを一気にレオナへ斬り込んだ。 力の限り振った斬撃は衝撃波と共にレオナの後ろにあった大木を易々と斬り倒し、衝撃波と倒れた大木によって土埃が濛々と舞い上がる。

 

 

「はぁ、はぁ、殺ったか……?」

 

 

 レオナを殺す事に全力を尽くしていた為に疲れた様子の将監は武器を下ろし、肩で息をしている。その内、土埃が薄れていった。

 

 

「んな訳無ぇだろ、馬鹿が」

「んな!?」

 

 

 将監の足元にしゃがんでいるレオナ、その右手は後ろに振り被っており…

 

 

「ぶっ飛びな」

「ごぶぉ!?」

 

 

 そのまま渾身のアッパーを将監に打ち込み、その巨体を高く打ち上げる。将監は受け身を取る事無く地面に叩き付けられた。

 

 

「ごふぁあっ!!」

 

 

 腹部を殴られた事によって胃の中のモノを吐き出す。その吐瀉物を気にする様子無く、レオナは唯、将監を睨みつけていた。

 

 

「終わりかい?」

「げほっ、がはっ、く、くそっ」

 

 

 腹部を抑えながら、なんとか将監は立ち上がる。

 

 

「こ、この……」

「まだ終わらないよ?」

「ぶがぁっ!!」

 

 

 鋭い右フックで殴り飛ばされた将監は倒れ、レオナはその上に馬乗りになる。

 

 

「覚悟は出来ているだろうな?」

「て、テメェ……」

「アンタが泣いて謝っても、殴るのを止め無いからな?」

「な!? がべっ!?」

 

 

 マウントを獲ったレオナはそのまま将監を殴りまくる。

 

 

「ごぶぅっ ぎゃぼっ や、止め…べがぁ!!」

「オラァ!」

 

 レオナは唯、殴る

 

 

「オラ」

 

 

 殴る

 

 

「オラ!」

 

 

 殴る

 

 

「オラ!!」

 

 

 殴る

 

 

「オラ!!!」

 

 

 ひたすらに殴り続けた。

 

 

「レオナさん、もう宜しいです」

 

 

 そこへ夏世がレオナの肩に手を当てて止める。

 

 

「………良いのかい?」

「はい。こんな人でも、私を拾ってくれた方ですから」

「………アンタも甘いね。将来苦労するよ」

「その時はその時です」

「はっ、違いない」

 

 

 顔面をボコボコにされた将監は見るも無残な姿だった。鼻の骨は折れ、鼻血によって顔中血まみれになっており、歯も数本折れて無くなっていた。

 

 

「それじゃ、このデカブツをさっさと発着場へ持って行くかね」

 

 

 そう言ってレオナは将監の片足を掴んで引っ張っていく。自身の武器も回収し、いざ帰ろうとした時…

 

 

「キョエアアアアア!!」

「!? また新手ですか?」

「やれやれ、しつこいね」

 

 

 木々の合間からガストレアが現れるが先程よりも数が多い。しかもステージⅡ、Ⅲの個体も多く紛れ込んでいた。

 

 

「ステージⅢクラスまで!? それに数が多過ぎます!」

「他のポイントから流れてきたか…。報酬が増えるのは嬉しいけど全く面倒だね」

「何を悠長な事を言っているんですか? 早く逃げないと!」

「逃げる? 冗談はよしとくれ」

 

 

 そう言ってレオナは持参のボックスを開く。すると使っていた2本のチェーンソーの他に後6本のチェーンソーが入っていた。

 

 

「下がっていな」

「一体、何をするのですか? (8本のチェーンソー?)」

「良いかい? 今から起きる事は誰にも言うんじゃ無いよ?」

「?」

 

 

 そう言ってレオナはポケットから丁度、葉巻サイズのスティックを取り出して口に咥えた。

 そして…

 

 

「こ、これは!?」

「いくよ、糞蟲共」

 

 

 その後ガストレアの群れに向かって行くレオナの姿に夏世は驚愕する。

 

 

「レオナさん、貴女は一体…?」

 

 

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「将監さん、起きてください」

「ん、あぁ?」

 

 

 将監は夏世の声で目が覚める。顔中が熱く、そして痛い。

 

 

「此処は何処だ夏世、いや、俺は何を……」

「此処は葛城グループ32区支部のヘリポートです。将監さんはレオナさんにボッコボコに殴られて気絶していたんです」

「気絶………!?」

 

 

 ここで将監の記憶が甦る。夏世にレオナを殺す様に命じたが失敗したらしく返ってきたのはレオナのストレートパンチだった。後が無い将監は自らレオナを殺しに掛かるが彼女は歯牙にも掛けず拳だけで自分を叩きのめした。

 

「おい、夏世! テメエよくもしっp「おや、起きたかいデカブツ?」……テメェは!?」

 

 

 夏世に食って掛かろうとしたところにレオナが現れる。

 

 

「お帰りなさい、レオナさん。報酬はどうでしたか?」

「アタシ達のポイントで150匹相当狩ったんだ、何もしなくても1ヶ月は遊んで暮らせる位は貰えたさ。ほらっ」

「!?」

 

 

 夏世の問いに答えながらレオナは将監にナニカを投げる。受け取った将監が確認すると札束が詰まった封筒であった。

 

 

「テメエ……?」

「アンタが狩った分の報酬さ。アタシは別に横取りなんてする必要は無いしね」

「良いのですか? 私達はレオナさんに…」

「アンタ達程度の雑魚に一々構っていたらキリがないさ」

「な…!? 雑魚!!?」

「キッパリ言うんですね…。まぁレオナさんにとってはそうでしょうけど」

「そもそもアタシが稼ぎたい分はアンタ達がちょっかい掛けて来る迄にとっくに狩ってたさ」

 

 

 ジト目で見詰めてくる夏世にレオナは肩を竦める。

 

 

「それじゃあアタシは行くよ。今後は嘗めた真似するんじゃないよ? デカブツ」

「うるせぇ、今度会ったらブッ殺してやる」

「は、大した奴だよアンタは……そうだ。アンタ達、ちょっと付き合いな」

「は?」

 

 

 突然の誘いに将監は間の抜けた声を洩らしてしまう。先程殺そうとして返り討ちにした相手だというのに……

 

 

「仕事終わりには酒を飲んでその日の憂さを晴らす。それがアタシの流儀さ」

 

 

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「…どうしてこうなった」

「レオナさん、此処はどういうお店ですか?」

「んあ? そえさね、酒や料理を楽しみながら店員のお兄ちゃんやお姉ちゃんと駄弁る店さ」

「いや、強ち間違っては無いけどよ…」

 

 

 レオナの説明に将監は突っ込む。

 

 

≪姐さん、いらっしゃいませ!!≫

≪お姉ちゃん、いらっしゃいませ!!≫

「おうアンタ達、今日も儲けさせに来たよ」

 

 

 レオナに連れられて将監達が来たのは高級クラブ。派手な装飾が店の外にも内にも施されており、レオナ達が店内に入ると美男美女のホスト、ホステス達が元気な声で出迎えた。レオナの受け答え方から彼女がこの店の常連である事が伺える。

 

 

「美味い酒が新しく入ったかい?」

「バッチリっすよ、姉御。新潟の米で作られたもう2度とは飲めないであろう日本酒が!」

「ほぅ、それは楽しみだ♪」

 

 

 ホストの1人に話を聞いたレオナは笑みを浮かべる。

 

 

「将監さん、子供の私が来て良かったのでしょうか?」

「んなもん知るか。俺達はアイツに連れて来られたんだぞ」

 

 

 こっそり尋ねる夏世に将監はぶっきらぼうに答える。レオナに引き摺られながら連れて来られたのだから当然と言えばそうなのだが…

 

 

「ところでお姉さん、そちらの2人は?」

 

 

 そこへ将監達に気付いたホステスの1人がレオナに尋ねる。

 

 

「あぁ、今日の仕事でペアを組んだ奴さ。アタシの仕事を横取りしようとした猛者さ」

 

 

 レオナがそう答えるとざわざわと騒がしくなった。

 

 

「姐さんの仕事を!?」

「チャレンジャー…いや、命知らず?」

「良く五体満足でいるわね…」

「わぁ、すっごいおバカさん♪」

「将監さん、凄い言われようですよ?」

「そんなにヤバいのかアイツ…」

 

 

 ホスト、ホステス達の反応に将監達はレオナが改めて只者でない事を理解する。

 

 

「さて、今夜も楽しませて貰うよ。何時もの持ってきな」

《はい!》

 

 

 その後はホスト、ホステス達に囲まれて飲めや歌えやの大騒ぎとなった。

 シャンパン、ウィスキー、日本酒…種類は問わずが高級な酒が運ばれては空になっていく。

 

 

「よ〜し、ここいらでドンペリ戴こうか?」

「まいどー! ドンペリ一丁!!」

《ドンペリ一丁!!》

 

 

 レオナの注文にホスト達が声を揃えて復唱する。

 

 

「ま、まだ飲むのかよ…」

 

 幾ら飲んでも顔が赤くなる様子が無いレオナの酒豪っぷりに脇でバーボンをチビチビ飲んでいた将監は何度目になるか分からない驚きの声をこぼす。自身も酒はとことん飲める口ではあるが、レオナはそれを越えるペースでかなりの量を飲んでいる。

 

 

「御代わりは何を飲みますか〜?」

 

 

 バーボンの入ったグラスが空になると将監の隣に座っているホステスが尋ねてくる。将監の両脇にはホステスが陣取っており、彼は逃げられないでいた。初めこそ「鬱陶しいぞ!」と脅し混じりで追い払おうとしたが「怖〜い♪」とキャーキャー騒ぐだけで全く意味が無かった為、遂に諦めて良いようにされていた。

 

 

「日本酒をくれ」

「は〜い、日本酒入りま〜す♪」

「むふぅ〜、良い筋肉〜♪」

 

 

 将監の両脇の片方が御代わりを用意する一方で、もう片方は将監にべったりとくっついて腹筋を撫でていた。レオナ曰く筋肉フェチらしいのだが、先程からくっつかれて体を舐め回す様に撫で回されており、いい加減解放して貰いたかった。

 

 

「夏世ちゃん、可愛い〜♪」

「頬っぺたプニプニ〜♪」

「お持ち帰りしたい〜」

 

 

 尚、夏世も近くの席でホスト、ホステス達に可愛がられていた。ホステスの1人が夏世を膝の上に乗せ、後ろから抱き締めており、その両脇から別のホステス達に頬を突つかれたり、頭を撫でられたりしている。

 

 

「夏世ちゃん、あ〜ん」

「はむ、むぐむぐ」

「夏世姫、美味しい?」

「はい、美味しいです」

「夏世っち、次は何を飲む〜?」

「トロピカルジュースをお願いします」

 

 

 更にその周りでホスト達があれよこれよとお世話しており、その様子はまるでお姫様だ。夏世本人も満更で無さそうであり、楽しんでいる様だ。

 

 

「おら、将監! 飲んでるかぁ?」

 

 

 ふと、将監の前にレオナがやって来る。その手にウイスキーの瓶を掴んで……

 

 

「あ、あぁ。飲んでるが…」

「何だぁ? それっぽっちをチビチビ飲んでいても酔わないぞぉ? ほらもっと飲め!」

「うぉ!? ま、待て…ガボッ!?」

 

 

 そのまま瓶のウイスキーを飲まされる。薄めていない生のままのウイスキーを一度に大量に飲まされた将監はアルコールが一気に廻ったらしく、真っ赤にして倒れた。

 

 

「倒れたちゃった…」

「情けないねぇ、これくらいで倒れるかい?(※お酒の一気飲みは大変危険です。読者の方々は決して真似しないで下さい)」

 

 

 将監が倒れた後も宴会は続いた。

 

 

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翌朝

 

???

 

 

「んあ…、朝か?」

 

 

 窓から射し込む日差しで目が覚めた将監はベッドから起き上がる。

 そして、

 

 

「何処だ、此処?」

 

 

 周りを見渡すと見慣れぬ景色が広がっていた。自分が寝ている大型のベッドの他にはテレビに酒瓶が並んだ棚、大きなソファーが置いてあり、夏世はソファーで毛布にくるまって寝ている。

 

 

「全然分からねぇ、一部記憶もふっとんでやがるし…」

 

 

 向こうからシャワーの流れる音がする。此処が何処で誰の部屋なのかがさっぱり分からない。

 周囲を見渡している内に大事な事に気付いた。

 

 

「………俺の服はどこ行った?」

 

 

 体に被されたタオルケット以外、将監は身に纏うものを着ていなかった。つまり素っ裸である。

 

 

(いやいやいやいやいや、素っ裸ってありえねぇだろ!? マジで記憶が無い間に何があった?)

 

 

「おや、起きたかい?」

 

 

 昨日の酒のせいかまだ妙に痛む頭をフル回転させ、将監が記憶を探る中、いつの間にかシャワーの流れる音は止んでおり、音がしていた方向からレオナが現れた。

 

 半裸で…

 

「うおあぁぁぁぁぁ!!?」

「何だい、五月蠅いね。朝っぱらからなんだい?」

「上、上」

「あん? 上?」

「何か着ろよぉ!!!」

 

 

 髪に滴が付いている為、レオナがシャワーを浴びていた事は分かる。しかし彼女は下こそジーンズを履いているが、上は何も着ておらず、辛うじて首に掛けているタオルが彼女の豊満な胸を隠していた。

 現在、将監の手持ちはタオルケットのみ。直ぐ様、レオナへ投げつけたいところであったが、これが無いと全裸である自身を隠す事が出来ない。なので彼女がいる方向と反対側へ体を振り向けた。

 

 

「あ、ああ。シャワー浴びたばっかだから暑いんだよ。勘弁しておくれ」

「そ、そういう問題じゃ無ぇだろが!!?」

「何だい、半裸の一つや二つ。ん? こんなんで騒ぐって事は……アンタ童貞かい?」

「ど、童貞ちゃうわ!? つぅか、そんな事はどうでも良いんだよ!!」

「何だい、そんなに真っ赤な顔じゃあ説得力無いねぇ」

「余計なお世話だ! んな事言う暇があったらさっさと着やがれ!!」

「はいはい、分かったよ」

 

 漸く服を取りに行った事を足音で確認した将監は深く溜め息を吐いた。

 

 

(くそ、実力で負けるどころか散々振り回されてるじゃねぇか!)

 

 

 第一印象で馬が合わないと感じた理由が漸く分かったのである。自分が昨日からレオナの良い様に振り回されているのだ。元々自分勝手な性格である将監は、自分の思い通りにならない事を嫌う。なのでレオナの様な性格はとてもではないが合う筈が無いのだ。

 

 

「う…ん…」

 

 

 先程のやり取りが騒がしかった為か、ソファーで寝ていた夏世が起きる。

 

 

「くぁあ…。将監さん、お早う御座います…」

「ああ。お早うさん…」

 

 

 夏世の挨拶に返事をしながら、二度とレオナとは関わるまいと誓う将監であった。

 

 

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数日後

 

 

「将監さん、褒賞金500万クラスの依頼が来てますが受諾しますか?」

「お、久々の入り用じゃねぇか!」

 

 

 三ヶ島ロイヤルガーターに戻った将監は夏世から依頼書を受け取る。

 その依頼書を読んでみると……

 

 

_________________________

 

受信日:20XX年6月15日

送信者:レオナ・アーヴィング

件 名:仕事に付き合え

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よう、久しぶりだな。

大入りの仕事が入ったんだが、私だけでは少し面倒な

内容でね、一緒にどうだい?

内容はクラスAのガストレアコロニーの撃破及びガス

トレアの討伐。

デカい蟲は少ないんだがその分、雑魚蟲がたんまりと

いるコロニーでね、雑魚の掃討を任せたい。

良い返事を待っているよ。

 

追伸

この仕事はアタシとアンタ達の3人でやるから宜しく。

_________________________

 

 

「……おい、何だコレは?」

「何と言われましても、依頼書です。レオナさんからの」

「何であの女の仕事の手伝い要請が送られて来てんだよ!? それもどう見ても俺達宛てじゃねぇか!!」

「それに気付くとはさすが将監さんです」

「誉められてもちっとも嬉しく無ぇよ! つーか、それ絶対馬鹿にしてるだろ!?」

「因みに他の依頼は別のプロモーターの方々が受諾されておりありません」

「はぁ!?」

「将監さんは昨日、移動用のバイクを買ったので貯金が尽きていますからこの依頼を受けないと厳しいかと」

「だぁああああああ! 受ければ良いんだろうが。夏世、さっさと承諾の返信を送りやがれ!」

「了解しました(本当は他の依頼もあるのですがレオナさんに会いたいですし……、やりました)」

「………はぁ、何であんな女とまた顔を合わせねぇといけねぇんだ……」

 

 

 将監は溜息を零し、自分の不幸を呪った。

 

 

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将監達とレオナが共に仕事をする事十数回……

 

 

「おっしゃ、大物が来たよ。後に続きな将監、夏世!」

「姐さん、突っ走らねぇでくれよ!!」

「サポートは任せてくださいレオナさん!」

 

 

 巷では中々のチームと噂される将監達であった。




オリキャラ2人目、レオナ・アーヴィング登場。
彼女との出会いが将監&夏世の救済フラグだったり……
今回の話の中でレオナの能力が分かる人いるかなぁ……

感想コメント、御意見・質問お待ちしております。


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とある神父の優雅な日々

亀更新とタグで書いていますがまさか約6年経つとはこのリハクの目を以ってしても…(クッソ節穴作者)

正直待っていた方がいるんですかね…?(感想コメをくれた読者達を裏切った屑)

新たなオリキャラ登場且つ原作キャラとの絡み有りな回です、どうぞ良しなに…


『外周区居住区域(通称・楽園(エデン))』

 葛城 蓮が建設した外周区に存在する居住区域であり、他の区域で隠れながら細々と暮らしていた『呪われた子供達』が多く暮らす小さな町となっている。住民の殆どが呪われた子供達であり、彼女達の面倒や教育の為のボランティアや呪われた子供達を良しとしない『奪われた世代』やガストレアの襲撃に備えた警備員、プロモーター達が住み込みで暮らしている。また、ガストレア大戦によって孤児となった普通の子供達も多く暮らしており、此処では呪われた子供達と普通の子供という境界が無い、正に今迄虐げられてきた呪われた子供達にとっての楽園(エデン)となっている。

 

 

 

 

「お早うございます、皆さん」

《お早うございます、神父様!!》

 

 

 呪われた子供達や孤児達を預かっている教会『天香(かみよし)教会』の神父であるニコライ・ゾーリンは子供達に朝の挨拶をし、子供達も元気良く返事する。

 2メートル近い身長に広い肩幅を持ち、薄色の金髪を後ろに束ねた彼の顔には幾つもの斬り傷があったが、子供達は臆する様子無くゾーリンに笑顔を向けていた。

 

 

「皆さん、今日は聖天子様が視察に来られます。埃一つ無い綺麗な教会を見せて聖天子様を驚かせましょう」

《はーい、神父様!!》

 

 

 ゾーリンが言った様に楽園(エデン)には定期的に聖天子が視察にやって来る。『呪われた子供達』と『奪われた世代』の共生を模索している彼女にとって、呪われた子供達が迫害される事無く普通の人々と共に暮らしている楽園(エデン)は自身が望んでいる世界の姿であり、今後の政策の参考にすべくと訪れている(と云うのは建前で、政策の参考というのは理由の一つであるが実際は孤児達と触れ合ったり、遊んだりするのが本来の目的だたりする)。

 

 

「さぁ、今日も1日頑張りましょう!」

《は~い!!》

 

 

 ゾーリンの号令と共に子供達は清掃作業に取り掛かる。教会内の床を掃き、窓や机などを雑巾で拭く。清掃作業は教会の外にも及び、楽園(エデン)で暮らす他の人々に朝の挨拶を元気良くしながら、草むしりやゴミ拾いを行う。

 彼と共にテキパキと清掃作業を熟して終わらせると、シスターや住み込みのボランティア達が作った朝食を共に囲んで食べるのだ。

 

 

「おかわりだぞー!」

「私もー」

「わーんっ! ボクのベーコンを食べたー!」

「こらっ、御代わりは有るんだから他の子から取るんじゃありません!」

「マリア~、其処のジャムを取って~」

「これですので?」

「それはマーマレードよぉ~?」

 

 

 100人近い子供達が揃って食事をするとなると、もう大騒動である。おかずの取り合いをしてシスターに怒られたりする様を眺めながら、ゾーリンはニコニコと笑う。この場に呪われた子供達と普通の子供達の確執は全く無い。そんな状況がどんなに素晴らしく、そして実現が難しい事であるか彼は知っていた。

 

 

朝食後

 

 

 朝食を終え、片付けを済ませると子供達は黒と白の神父、シスター衣装に着替える。

 

 

「皆さん、準備は整いましたか?」

《はーい!!》

 

 

 ゾーリンの問いに元気良く答える子供達の手には、焼き菓子が入った籠が。先日、子供達自らが作ったお菓子達だ。

 

 

「それでは出掛けますよ。逸れない様に気を付けてくださいね?」

 

 

 ゾーリンとシスター達に連れられ、子供達は楽園(エデン)から外へ出て行く。外壁に覆われた楽園(エデン)の外は花壇に囲まれており、咲き誇る季節の花をボランティア達が手入れしていた。

 

 

「神父様、お出かけですか?」

「はい。今日は都心までお菓子配りに行ってきます」

「都心は楽園(エデン)を快く思っていない者も多いですからお気を付けて」

「大丈夫ですよ、いざという時は私が守りますから」

「ふふっ、神父様がそう言うなら問題無いですね。それではいってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

 

 

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第3区域 ショッピングモール

 

 

 東京エリア都心部である第3区域には、ショッピングモールと言った商業施設が多く集まっている。

 そんなショッピングモール中で、子供達の綺麗な歌声が流れていた。

 

 

嗚呼、神よ私は歌います

 

毎日が幸せである様に

 

嗚呼、神よどうか見守り下さい

 

全てのヒトに安寧が有らんことを

 

 

 ショッピングモールの途中にある大広間にて聖歌を歌う楽園(エデン)の子供達に、道行く人々は足を止めて聞き入る。

 

 

何時、如何なる時も私は微笑みましょう

 

苦楽を共にするヒトを笑顔にする為に

 

何時、如何なる時も私は歌いましょう

 

共に生き行くヒトの心が晴れる様に

 

 

 子供達が歌っているこの歌は聖歌と呼ばれてはいるが、宗教絡みで作られたモノでは無い。あらゆる人が平等に暮らして往ける事を願い、楽園(エデン)で作られた歌である。

 

 

 子供達が歌い終えると、聞き入っていた人々は盛大な拍手を贈った。

 歌い終えた子供達は小さな箱とバスケットを抱え、拍手を贈る人々の前に駆け寄って行く。

 

 

「外周区復興の為の募金をお願いしまーす!」

「家族を亡くした子供達を支える為の資金集めに協力お願いします!」

 

 

 楽園(エデン)の活動の一つとして、子供達はこうして都心部で聖歌を歌った後、活動資金を稼ぐ為に募金活動を行っている。蓮の下、造られた楽園(エデン)ではあるが、葛城グループだけに頼る訳にはいかないと云う理念の元、募金活動を行っているのだ。

 未だ奪われた世代等の呪われた子供達に良い感情を持たない者達は多いが、子供達を前にして呪われた子供達なのか普通の子供達か区別を付ける事は出来無い。精々、超人染みた力や因子となった生物の外見的特徴、朱い眼位が判断材料だが、どの子供も普通にしか見えないので、募金箱を持つ子供達に小銭を渡していく。

 

 

「私も宜しいですか?」

「は~い、有難う御座います……って聖天子様!?」

「聖天子様?」

「聖天子様だぁ!!」

 

 

 子供達が聖天子へ駆け寄り集まる。

 

 

「こんにちわ、皆さん。元気にしていますか?」

《はーい!!》

「元気で何よりです」

 

 

 子供達の元気な返事に聖天子は笑顔で返す。

 

 

「これはこれは、聖天子様。わざわざ来て下さったのですか?」

「はい。子供達の歌声が聞きたくて」

「聞きたいのでしたら楽園(エデン)で何時でもお聴かせ致しますのに」

「待ち切れませんでした♪」

 

 

 そう言って悪戯っ子っぽく微笑む聖天子にゾーリンは苦笑する。

 

 

「何はともあれ、午前の活動はこれで終わりなので、後は楽園(エデン)に帰って昼食のち勉強会です。宜しかったら聖天子様も昼食をご一緒に如何ですか?」

「はい、子供達と一緒に戴きます♪」

 

 

 ゾーリンの提案に笑顔で答える聖天子。一旦、此処で別れてゾーリンと子供達は電車で、聖天子は専用車で楽園(エデン)へ移動する。

 

 

:::::

 

 

 楽園(エデン)へ続く門へ抜けた先で聖天子を待っていたのは子供達や職員達の熱烈な歓迎だった。

 

 

「いらっしゃい、聖天子様!」

「遊びに来てくれたの~?」

「もう直ぐお昼だから一緒に食べよ?」

 

 

 子供達がわらわらと現れて聖天子の周りを囲んでいく。

 彼女を守る立場である聖室護衛隊の面々は如何したものか戸惑う中、聖室護衛隊長である保脇 卓人(やすわき たくと)楽園(エデン)の子供達を忌々しげに睨み付けていた。

 この男、防衛大学校を首席で卒業後は聖室護衛隊に入隊し、短期間で護衛隊長に任命されたり菊之丞の信頼を得るなど実力は確かなのだが、上昇志向が激しい事に加えて差別意識が強い傾向があった。この為、『呪われた子供達』は勿論の事、一般市民どころか部下までも内心では見下しており、その性格故に、一部の護衛からはあまり快く思われておらず、聖天子自身にも苦手意識を持たれていた。

 

 

(ちっ、忌々しい餓鬼共だ…)

 

 

 聖天子を笑顔で囲む子供達に対し、卓人は内心で悪態を突く。

 

 

(聖天子様も聖天子様だ、こんな薄汚い餓鬼共を相手にするなんて)

 

 

 聖天子は優しい笑みを浮かべながら子供達一人一人の頭を撫でている。

 そんな光景が卓人には気に入らない。

 

 

(何時か俺が聖天子様と婚約を結び次第、呪われた餓鬼共と楽園(エデン)など灰燼に変えて…「いやぁ、邪念がダダ漏れですねぇ?」…!!?)

 

 

 邪な妄想をしている所でゾーリンの声が遮る。

 

 

「聖室護衛隊長という立場なら少しはポーカーフェイスを学んだら如何ですか?」

「き、貴様…」

「貴方の痛い痛~い妄想を周りに知られたくないでしょう? 特に……聖天子様には…ね?」

「!!?」

 

 

 卓人が驚愕の表情になり、忽ち青くなっていく。

 

 

「口は災いの元と言いますが、表情もその為人(ひととなり)を簡単に表します。くれぐれも、粗相を見せない様に」

「……………」

 

 

 他の者には聞こえない様に、されど卓人には刻み付ける様にゾーリンは言い聞かせると、卓人は黙り込んでそれ以上口を開くことは無かった。

 

 

「さぁ皆さん、聖天子様はお客様ですよ? 教会にお連れしましょう!!」

《は~い!!》

 

 

 子供達は元気良く返事をすると、聖天子の手を取って教会へと案内する。

 その後、子供達の笑顔に囲まれながら聖天子は昼食をとり、勉強を見てあげたり、一緒に遊んだり歌ったりしていたが、そこへ新たな客が現れた。

 

 

「皆、元気にしとるか~?」

「あっ、しゃちょう!!」

「しゃちょうが来たぁ~!!」

 

 

 葛城グループ社長、そして葛城家当主である葛城 蓮の姿を見た子供達が駆け寄って来る。彼の後ろには桔梗と牡丹がおり、2人の手には蓮お手製御萩が入った大きな包み袋が。

 蓮は楽園(エデン)の視察に来る際、御萩を差し入れする為に教会に必ず訪れており、子供達もそれが大の楽しみであった。その為、子供達から蓮は『しゃちょう』と呼ばれ親しまれている。そして、聖天子にとっても彼が来る事は何よりの楽しみであり、笑顔だった表情を更に咲き誇らせながら彼に駆け寄ったのだった。

 

 

「蓮さん、会いたかったです…」

「おう…聖ちゃん、3日前に会ったばかりやで?」

「会食の場では落ち着いてお話出来ませんからカウントしません。それに、もう3日も会えなかったのですよ?」

 

 

 上目遣いで不満の声を上げる聖天子。しかし、彼女の表情は嬉しそうであり、頬を赤く染めたその様子は恋する乙女であった。

 事実、聖天子は蓮に惚れており、内密で婚約関係を結んでいたりする。

 

 

「堪忍して欲しいな、聖ちゃん。後で埋め合わせはしゃんとするさかい…な?」

「うふふっ♪ 約束ですよ?」

 

 

 そんな彼女と蓮との馴れ初めに付いてはまた後に語るとしよう。

 

 

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数日後

 

楽園(エデン)正門前

 

 

「此処が楽園(エデン)…」

 

 

 快晴とは言えないまでも青空が見渡せる空の下、楽園(エデン)正門前に二つの影が立っていた。

 バーザー付の帽子を被った青年と、魔女が被っている様な三角帽子を深く被った少女。

 

 

「済みませんが、楽園(エデン)に御用ですか?」

 

 

 正門前に立っていた警備兵が1人近寄り、声を掛けて来た。最近は殆ど現れなくなったが、呪われた子供達を快く思わない失われた世代の過激派達が襲撃する事件が過去に多く起こったので、不審者が見付かれば直ぐに事情聴取を立つ事になっている。現に正門前に残っている警備兵達は青年に武器は向けないまでも何時でも取り押さえられる様、武器に手を当てており、正門の上にある見張り台からは狙撃兵が目を光らせていた。

 

 

「ああ、此処に住み込み申請をしていた者なのだけど…」

「入居希望者ですか、お名前と入居後希望職をお願いします」

薙沢 翔麿(なぎさわ しょうま)、元民警所属で希望職は警備課。この娘はパートナー兼イニシエーターの布施 翠(ふせ みどり)だ」

 

 

 青年、翔麿は自身と少女、翠の名前と目的を警備員に述べる。翠は引っ込み思案な為に翔麿の傍で縋り付いていた。

 

 

「薙沢 翔麿と布施 翠……確認取れました。ゲートを超えた先に案内表示があるので、管理事務所の住民登録課で登録をお願いします」

「解かりました。行こうか、翠?」

「はい」

 

 

 確認が終わるや否や警戒が解かれ、ゲートが開かれる。ゲートを通ると警備員の言葉通り、案内表示があったので管理事務所の場所を確認し、向かった。

 

 

「ったく、なんで俺がこんなボランティアみたいな真似をしないといけねぇんだ…」

「良いじゃないですか。お給料が貰えて食事付、必要ならば葛城グループ印の道具まで無償で渡してくれるんですよ?」

「そりゃ働き手にとっちゃ良物件だけどよ、なんで民警の俺がガキ共の面倒まで見ないといけねぇんだ…」

「仕事内容の一つですから仕方ないかと。それとも子供達の相手は私が全て引き受けましょうか? 報酬を別で頂きますけど?」

「夏世、言う様になったじゃねぇか…」

「レオナさんのご指導を受けた賜物です。松崎さん、この荷物は何処に運べば良いですか?」

「職員食堂に運ぶんだ。いま持っている荷物で全部だから運び終えたら休憩にしよう」

「分かりました。将監さん、行きましょう」

「夏世が将来姐さんみたいな性格になるとか…身が持たねぇ…と言うか、死ぬ…」

 

 

 管理事務所へ向かう途中、プロモーターとイニシエーターが職員と思われる初老の男性と荷物運びをする中交わされていた会話を聞きながら、翔麿達は目的地に着いた。

 

 

「今日から警備課で勤める事になります、薙沢 翔麿と布施 翠です」

「連絡は来ております。ようこそ楽園(エデン)へ、此方の登録書に情報をお書きください」

 

 

 住民登録課の受付を尋ねると住民登録の書類の記入及びパス発行の為の写真撮影をし、楽園(エデン)の住民としての登録が行われた。

 

 

「住民データの登録が完了しました。パス発行まで時間がありますのでこの楽園(エデン)におけるルールを説明したいと思います…

 

楽園(エデン)にて住民登録された方は、楽園(エデン)の住民として登録を消去される時まで職員寮の一室が与えられ、滞在・生活する事が可能となります。

楽園(エデン)の住民は楽園(エデン)内の施設利用においてサービス特典が付きます。

薙沢 翔麿様の楽園(エデン)内における職は警備課となりますが、前職である民警と同じ感覚で勤めて構いません。必要な装備及び物資は用意しますが、装備課にて前もって申請する必要がありますのでご注意ください。仕事に関しては配布する携帯端末にて任務の連絡が入りますが、それ以外の任務を請け負いたい場合はガストレア対策課及び警備課にて任務発注を行っておりますのでそこで受注してください。

尚、布施 翠様は元イニシエーターとの事なので任務遂行時に彼女を同行させるかは自由となります。但し、義務教育を完了されていませんので教会にて授業を受けて戴く事になります。任務同行で休んだ時は補講を設ける事が可能ですが、その際は教育課にて申請をお願い致します。教材等は翔麿様方の自室へ本日の夕方あたりに送付されますので用意する必要は御座いません。

 

…以上で説明を終わらせて頂きます。此方がパスとなります、楽園(エデン)における身分証明となりますので無くすことの無いようにご注意ください」

 

 

 楽園(エデン)でのルールを説明し終えた事務員からパス及び仕事用の携帯端末、職員寮の鍵を受け取り、翔麿達は管理事務所を出た。

 

 

「さて…登録を終えたのは良いけど、荷物が届くまでは時間が有るな。教会にでも行ってみるかい?」

「教会ですか?」

「ああ、これから翠の学び舎になる場所なんだ。これから友達になる子達がいるのだし、挨拶も兼ねて行こう」

「……友達、出来るでしょうか?」

「それは翠次第だけど、此処は楽園(エデン)なんだ。皆、仲良くしてくれるさ」

 

 

 次の目的地を教会に決めた翔麿だったが、翠は被っている帽子を更に深く被りながら不安の声を上げる。

 翠はある事が理由で他者にとある場所を見れられる事を恐れている。それは相手が自身と同じ呪われた子供であってもであり、翠は安心して通う事が出来る学校に行ける事を嬉しく思う反面、不安を抱いていた。

 

 

「大丈夫、翠のソレ(・ ・)も受け入れてくれるさ」

「……はい」

 

 

 翔麿の言葉に翠は納得し、2人は教会へと向かった。

 

 

:::::

 

 

「あら、始めて見る人ですね。教会に御用ですか?」

 

 

 教会に着いた翔麿達。教会前の庭にある花壇を手入れしていた少女が彼等に気付き、用件を尋ねてきた。

 

 

「今日からお世話になる者なんだけど、この娘が此処に通う事になるから見学に来たんだ」

「そうなんですか、ようこそ楽園(エデン)の天香教会へ。歓迎しますよ♪」

「うん、僕は薙沢 翔麿。これから宜しく頼むよ」

「は、初めまして。布施 翠です」

「翔麿さんと翠ちゃんですね? 私は琥珀と言います」

 

 

 翔麿と翠に微笑む少女、琥珀。そんな彼女の瞳から機械音が聞こえる事に翔麿は気付く。

 

 

「っ!? もしかして君の眼は…」

「判りますか? 両目とも義眼なんです。生みの親が私の眼を見た際に溶かした鉛で塞いでしまったので…」

「ガストレアショックか…」

 

 

『ガストレアショック』とは、

ガストレア大戦を経験した奪われた世代が、ガストレアに脅かされた経験からガストレア特有の赤く光る眼に対し、過剰な恐怖を抱く心的外傷後ストレス症候群(PTSD)の症状である。呪われた子供達の眼が赤く光るのを見ても発症する為に大戦中は呪われた子供になってしまった嬰児の殺害や遺棄が相次いだ。

 

 

「御免、嫌な記憶を思い出させてしまったね」

「構いません。今は教会の人々が家族ですし、見えなかった目も今では楽園(エデン)の御蔭でこうして見える様になりました」

「お姉ちゃん!」

 

 

 微笑む琥珀に彼女より小さい少女が駆け寄って来た。琥珀に抱き着いてきた少女を彼女は優しく撫でる。その容姿は琥珀を小さくした感じであった。

 

 

「お客さん?」

「今日から此処に住む事になる翔麿さんと翠ちゃんよ」

「初めまして! 琥珀お姉ちゃんの妹の翡翠ですっ!!」

 

 

 翡翠と名乗った少女は翔麿と翠に元気良く挨拶をする。そこへ更に子供達が集まってきた。

 

 

「あらぁ~? 新しい娘かしらぁ?」

「何々、新しい Friend デスカー?」

「新顔ですので?」

「おぉー! 格好いいお兄さんだな!」

 

 

 集まってきた子供達は翔麿と翠を囲む。興味津々で2人を見る子供達であったが、恥ずかしがり屋な翠は顔を赤くしながらモジモジしていた。

 

 

「やぁ、皆。僕の名前は薙沢 翔麿。今日から此処、楽園(エデン)で翠と2人お世話になる。宜しく頼むよ?」

「布施 翠です。よ、宜しくお願いしますっ」

『宜しく翔麿さん! 翠ちゃん!』

 

 

 翔麿と翠が自己紹介すると子供達は元気良く返事を返してくれた。

 

 

「ところでぇ~、この娘は魔女っ娘なのかしら~?」

「不思議な帽子なので気になるですので」

「何でこんなに大きな帽子を被っているんだ?」

「あ、あの……その…」

 

 

 教会の子供達の数人は翠の被っている大きな帽子に興味を持ち、彼女に注目する。

 翔麿は如何したものかと思案する。呪われた子供達が安心して暮らしていける楽園(エデン)であっても不安に御思っている、彼女のコンプレックスの原因が帽子の中にあるのだ。

 

 

「ゴルァーッ! 帽子ゲットォォォー!!」

「ひゃうぅっ!?」

 

 

 翠の周りを囲んでいた子供達だったが、その中にいたガキ大将染みた少年が翠の帽子を素早く取ってしまった。帽子が無くなって露わになった頭部には、髪の毛の間から猫耳が生えていた。

 

 

「うぉっ!? ネコミミ!!」

「ニャンニャンの耳だぁー!」

「翠ちゃんってモデルキャットなんだ~」

「はぅうう~…」

 

 

 ピコピコと動く猫耳に注目され、隠そうとする翠。この耳こそ彼女にとってのコンプレックスであった。

 モデルキャットなら鋭い爪が伸び、モデルスパイダーならば糸を放出する事が出来るといったモデル毎の特徴は有るとはいえ、呪われた子供達は基本的にその因子となるモデルの外見的特徴は現れない。しかし、翠はその頭部にモデルキャットの猫耳が露わになっており、この為に奪われた世代にはその見た目から、呪われた子供達からは外見で直ぐに呪われた子供であると判別されるからと迫害の対象になっていたのだ。

 気付かれてしまった、何時もの様に嫌われるのであろう…そう思い、涙が出そうになった翠だったが…

 

 

「猫かぁ、普通だな!」

「……え?」

「そうだね~。耳出しは珍しいけど、もっと凄い娘はいっぱいいるもんね~」

 

 

 呪われた子供では無い筈の男の子ですらも恐れる様子無く、反応が薄い。これまで体験した事の無い反応に戸惑う翠に対し、彼女の正面に立っていた琥珀は額に掛かっていた前髪を掻き分けると…

 

 

「はい♪」

「わぁっ!?」

「それは…角かい?」

「はい。私のモデルはイッカククジラなんです」

 

 

 何と、琥珀の額から一本の角が生えてきたのだ。ユニコーンの様な一本の角は彼女が言った通り、ユニコーンのモデルとなったイッカククジラの角である。

 

 

「琥珀ちゃんが見せたならお姉さんも見せようかしらぁ~?」

「へ? ひゃうぅっ!!?」

 

 

 翠の後ろにいた大人びた少女が彼女の頬を舐めてきた。

 驚く翠だったが、嘗められた右頬の方を見るとチロチロと動く細長い物体が。その物体は舐めてきた少女の口へと延びており、更に彼女の瞳は蛇の目の様に縦長に鋭くなっていた。

 

 

「へ、蛇の舌……?」

「驚いたかしらぁ~? 私のモデルはハブ。因みに名前は真奈よぉ~」

 

 

 真奈と名乗った少女は舌を引っ込めながら妖艶に微笑む。それと同時に、彼女の瞳は蛇の目からヒトのモノに変わっていた。

 

 

「耳位で心配しなくても良いわ~? そっちの瑠璃は尻尾、翡翠は触角が出せるのよぉ?」

「おりゃ!」

「じゃーん♪」

 

 

 瑠璃と呼ばれた少女のスカート下からサソリの尻尾が生え、翡翠は額から虫の触覚らしく物を伸ばす。その様子に翔麿は何より驚いた。

 

 

「まさか、自由に出し入れ出来るのかい!?」

「そうよぉ~? ちゃあんと自身の能力をコントロール出来れば自由自在なの。翠ちゃんもぉ、楽園(エデン)で訓練すれば帽子で隠さずに済む様になるわぁ」

「ほ、本当ですか?」

「Yes! だからもう怯える必要は Nothing ネー」

 

 

 訓練すれば頭の猫耳を隠す事が出来る様になる。その事を聞いて目を輝かせる翠に金髪でカウガールルックの少女が元気良く頷いた。

 

 

「私はカレンデース。御近付きの印に、私の特技を見せちゃいマース!」

 

 

 カレンと名乗った少女は腰のホルスターに吊るしてあるペットボトルの水を飲み干すと、空になったペットボトルを空高く投げ、ペットボトルに向けて右手を中の型にして狙った。

 

 

「Bang!!」

 

 

 カレンの声と同時に指先からナニカが飛び出し、宙のペットボトルを撃ち抜いた。落ちてきたペットボトルの真中には穴が空いていた。

 

 

「おぉ~っ!!」

「…ふむ、飲んだ水を射出したんだね?」

「That's right!! 私のモデルはテッポウウオネー♪」

 

 

 感嘆の声と共に拍手する翠とカレンの技の正体を推理する翔麿。そんな2人に対し、カレンは笑顔で自身のモデルを明かした。

 

 

此処(楽園)は呪われた子供も普通の子供も No relationship(関係無い)、皆が互いを認めて暮らしています。だから Don't worry(心配しないで)?」

「まだ外の人達が私達を受け入れるのは難しいです。でも…」

楽園(エデン)はちゃあんと受け入れるわぁ」

「カレンさん、琥珀ちゃん、真奈さん…」

 

 

 カレン達の言葉に頷く子供達、そこには普通の子供と呪われた子供の差異が無かった。

 皆の優しさに触れた翠が返事を返そうとした時、翔麿の携帯端末に任務の連絡が入った。

 

 

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外周区郊外 廃ビル街上空 ヘリ内

 

 

 翔麿達に下された任務は楽園(エデン)近郊にある廃ビル街に出現したガストレアの集団の討伐だった。大型の輸送ヘリには翔麿と翠の他、翔麿と同じく楽園(エデン)登録しているプロモーターとイニシエーター、重武装した職員、そして教会に居た子供達が乗っている。

 

 

「まさか君達も来るとは…」

「これでもイニシエーターとして登録しているんですよ?」

「Yes! こう見えても Very Very Strong ネー!!」

「翡翠も皆の役に立ちたいから、頑張ってるの!」

 

 

 ヘリに同行したのは琥珀、翡翠、カレンの3人。そしてその横にはカソック姿の大男、ゾーリンが座っていた。

 

 

「おやおや、皆さんはもう仲良くなった様ですね?」

「はい、神父様。こちらは翔麿さんと翠ちゃん、新しく楽園(エデン)に来た人達です」

「私達の New friend デース♪」

「翠ちゃんは勉強をしに教会に通うんだって!」

「成程、転居者ですか」

 

 

 ゾーリンは立ち上がり、翔麿と翠へと挨拶をした。

 

 

「初めまして、楽園(エデン)の天香教会の神父をしております。ニコライ・ゾーリンです」

「今日から世話になります、警備課所属になる薙沢 翔麿です」

「布施 翠です。これから教会に通います、宜しくです」

「はい。これから宜しくお願いしますね?」

 

 

 ゾーリンは笑顔で翔麿達に挨拶しながら握手を交わす。

 すると、丁度パイロットが声を掛けてきた。

 

 

「ゾーリン神父、目的ポイントへ到着しました!」

「分かりました。それでは私が先行しますのでプロモーターとイニシエーター、武装職員の順で降下し、即席陣を作ります。良いですね?」

『了解!!』

 

 

 確認を取るや否や、ゾーリンは地上に降ろされたワイヤーを掴んで降下していき、翔麿達もそれに続いた。

 

 

「急いで即席陣の作成を、プロモーター、イニシエーターは周囲を警戒してください」

 

 

 降下した場所は元々はマンション団地の中にある公園だった場所。今では荒れ放題で雑草が伸び放題であり、周囲を見渡すとマンションも多くが崩落していた。

 ゾーリンの指示の下、武装職員がコンテナバッグから何やらスピーカーらしき機械を取り出して周囲に設置していく。

 

 

「これは…?」

「!? 何かキーンってします」

 

 

 見慣れぬ装置に翔麿と翠は怪訝な表情になり、翠は装置からナニカの音が発せられている事に気付き顔を顰めた。

 

 

「これは言わばガストレア避けの音響装置です」

「音響装置?」

「ガストレアも生物ですからね、一定の周波数を持つ音波を極端に嫌うらしく。この装置から発する事で我々の陣までの侵攻を防ぎます」

「それは、凄いですね…」

「但し、レベルⅢ以上の個体になると効果は薄くなりますがね」

「ゾーリン神父、前方より接近中の生物反応! 数は40!!」

「来ましたか…プロモーター、イニシエーターの皆さんは迎撃を開始します。武装職員の皆さんは陣地内から遠距離支援を。但し、周囲の警戒は怠らない様に」

 

 

 ゾーリンからの指示の下、プロモーター達は前に出ると、瓦礫の上からガストレアの集団が飛び出して来た。モデル・チンパンジーのレベルⅠが35体、モデル・ゴリラのレベルⅡが5体だ。

 武装職員達が対ガストレアライフルで狙撃を開始する中、プロモーターとイニシエーター達が武器を構えて駆けだして迎撃を始めた。

 

 

「せあぁっ!!」

 

 

 狙撃によって体を弾かれて大きく隙を見せたレベルⅠのガストレアへ翔麿は素早く掌底を打ち込む。胸部に掌底を打ち込まれたレベルⅠは体内に衝撃が駆け巡り、背中から弾け飛んだ。突如弾け飛んだ仲間の姿に狼狽えた他個体へ、翔磨は拳銃『SIG SAUER P226』を抜いて頭部を撃ち抜いていく。

 

 

「ゴアァアアアアアッ!! ガァッ!?」

「翔磨さんには触れさせませんっ!!」

 

 

 翔磨の横から殴り付け様としたレベルⅡだったが、殴ろうと振り上げていた腕に翠が右手を振り下ろすと、腕はポロリと墜ちる。彼女が振り下ろした右手の指からはレベルⅡの血で塗れた鋭い爪が伸びていた。

 突然の出来事に戸惑うレベルⅡだったが、翔磨がその胴体へ拳を打ち込むと、先程爆散したレベルⅠと同じ末路を辿った。

 

 

(あれが天童式戦闘術ですが、中々興味深いですね…)

 

 

 戦う翔磨の姿を眺めながらゾーリンは彼の戦闘スタイルを思考する。

 

 

(確か、「己を磨き、弱き者を守る」を教えとした『天童助喜与』を開祖とした武術でしたね。翔磨さんの格闘術だけで無く、刀剣や槍を使った流派もあると聞いていますが中々にお強い…)

 

 

 悠長に考えているゾーリンだが、彼が腕や脚を振るう度に飛び掛かって来るガストレア達は鈍器で叩き潰された様に潰されていく。

 戦況は好調。音響装置に怯むガストレア達は武装職員達の狙撃やプロモーター、イニシエーター達の攻撃で仕留められてゆき、40あった数が一桁まで減らしていく。

 

その時…

 

 

「キョアアァァァァァアアッ!!!」

 

 

 思わず顔を顰めてしまう程の嬌声が響き渡る。すると生き残りのガストレア達は一目散に声の方へと撤退していく。ガストレア達の撤退先には廃墟となったマンション群があり、その屋上に大型のガストレアが佇んでいた。

 

 

「あれは…」

 

 

 縦長寸胴な胴体に長い腕、そして他の先には鋭く長い爪を生やしていた。

 

 

「モデルナマケモノの様ですが、しかし大きさからしてレベルⅣですね。本来は愛らしい顔つきの筈ですが…ガストレアにそれを求めてもいけませんか」

 

 

 レベルⅣの配下であるレベルⅠ、レベルⅡ達が完全に撤退したのを確認すると、レベルⅣはゾーリン達を睨みつけながら自身も廃屋の向こうへと消えた。

 

 

「ふむ…平地での戦闘は不利と悟り、兵を下げた訳ですね。中々賢い」

「追撃しますか?」

「この先は廃墟群、自分達が有利な土地に我々を誘き寄せてからの包囲殲滅を狙ってるのでしょう」

「つまり…罠を仕掛けていると?」

「瓦礫の物陰からの奇襲で我々を確実に仕留めていくつもりでしょうね」

「爆撃要請をしますか?」

「いえ、この娘達がいれば問題ありません」

 

 

 そう言ってゾーリンは琥珀と翡翠の頭を撫でる。

 

 

「プロモーターの方々を数名残して追撃戦に入ります。決して離れないようにして下さい」

 

 

:::::

 

 

 嘗て並び立っていたマンション群は殆どがガストレア侵攻によって瓦礫の山の廃墟と化していたが、その瓦礫が積み重なっており、複雑な迷宮と化していた。

 

 

「ふぅむ…正にゲリラ戦を仕掛ける場所としては申し分ないですね」

「やっぱりガストレアにも知能があるんですね…」

「侮っていた訳ではありませんが、厄介な相手ですね…」

 

 

 ゾーリンと同行したのは翔麿と翠、そして琥珀の3人。

 入り組んだ瓦礫を避けながら周囲を警戒ながら進んでいが、周囲は静まり返っており何処にガストレアが潜んでいるか判らない。

 

 

「琥珀、そろそろ出番です」

「分かりました」

 

 

 ゾーリンの合図と共に琥珀は己に宿るガストレア因子の力を解放する。

 額の中央の皮膚が膨れ上がり、やがて鋭い角が生えた。

 

 

「皆さん、ちょっと静かにしていてくださいね?」

 

 

 周りのメンバーにそう言うと、琥珀は生やした角に神経を集中する。

 琥珀のモデルはイッカククジラ。その能力は生やした(前歯)で気流や気温を感知し、周囲の様子を探る事。周辺の瓦礫の隙間から流れる気流の乱れと気温の変化で潜むガストレアの位置を導くのだ。

 

 

「っ! 神父様、右手45°コンクリートブロックの隙間です!!」

「分かりました」

 

 

 潜むガストレアを探知した琥珀は直ぐにゾーリンへと指示を送る。指示された場所へと彼の拳が振り下ろされ、隠れていたレベルⅠは何をされたかも解らないまま厚い瓦礫と共に打ち砕かれた。

 

 

「翔麿さん、後方左手30°から2体接近して来ますっ!!」

「分かった、翠!」

「はいっ!! 任せてくださいっ」

 

 

 2人がすぐさま迎撃態勢を取ると同時にレベルⅠ 2体がダクトらしき筒から飛び出してくる。レベルⅠ が振り下ろす鋭い爪を避け、翔磨の掌底、翠の爪による斬撃で倒された。

 

 

「潜んでいたのは是だけのようです」

「分かりました、それでは先に進みましょう」

 

 

 その後も、待ち伏せしていたガストレア達は琥珀によって潜んでいた場所を暴かれ、ゾーリン達に打倒されていく内に彼らは広い空間へと辿り着いた。

 

 

「比較的広い所に出ましたね…」

「しかし…此処は?」

 

 

 迷路の様だった廃墟から一転、空き地の様ではあるが、巨大な鋼材や鉄柱、金属製パイプが所々の地面に突き刺さり、入り組んでおり。まるで鉄の林の様になっていた。

 鉄の森に入っていくゾーリン達、しかし数歩進んだところで異変が起きた。

 

 

「っ!? 皆さん、上です!!」

 

 

 琥珀の声と共に上を見るメンバー達。真上にはレベルⅣがおり、その腕に抱えている鉄柱や鉄パイプを今にも投げ付け様としていた。

 

 

「全員、走れっ!!」

 

 

 ゾーリンの声と共に立っていた場所から駆けだして離れるメンバー達。そのメンバー達が立っていた場所にはレベルⅣが投げた鉄柱が深々と突き刺さる。

 

 

「入口を閉ざしたのか!?」

「翔麿さんっ!?」

 

 

 驚く間も無く、真上に居たレベルⅣが奇襲の形で突如翔麿へと飛び掛かった。

 入口を塞いだ鉄柱に気を取られた事とその巨体にあるまじき素早い動きから繰り出される奇襲に翔磨は反応が若干遅れてしまう。彼に振り下ろされる鋭い爪、彼の名前を叫ぶ翠が駆け寄ろうとするがとても間に合わない。

 しかし、レベルⅣの爪が翔磨を切り裂く事は無かった。爪が振り下ろされる瞬間、彼の身体を突き飛ばすモノがあり、爪はソレへと振り下ろされた。

 

 

「っな!?」

 

 

 爪が振り下ろされると共に切り裂かれたモノが宙へと舞う。

 黒色の袖に包まれた逞しい男性の腕。

 ゾーリン神父の左腕であった。

 

 

「神父様っ!!?」

「っく……やはり慣れませんね、痛みには…」

 

 

 左腕を押えながらゾーリンは顔を顰める。

 

 

「早く、止血しないと!!?」

「有難う御座います翠さん。、でも心配無用です」

「な、何を言って…?」

 

 

 ゾーリンは懐から注射器の様なモノを取り出すと自身の首に突き刺した。

 

 

「後は私が始末しましょう、皆さんは後ろに」

「な、何を………!?」

 

 

 ゾーリンの言葉に疑問の言葉を声を漏らすが、彼の姿の変化に息を吞む。

 まるで映画の変身シーンの様にゾーリンの姿が変化していく。肌は人間のモノから白く、硬質なモノに代わり、右手は見る見る内に肥大化し甲殻に包まれたハサミの様な形状になる。

 

 

「蟹の…鋏?」

「御名答、そして…」

 

 

 驚きながら言葉を零す翔磨に対してゾーリンが答えるや否や、無くなった筈の左腕が生えてきたのだ。斬り飛ばされた腕は離れた所に落ちている。余りの異常な事態に翔磨と翠は驚愕する顔を隠せない。

 

 

「ふむ…やはり細いですね。鍛え直しですか」

「それは一体…?」

「説明は後です、先ずは…」

 

 

 左腕を擦りながらゾーリンはレベルⅣに向かい合う。

 

 

レベルⅣ(コレ)を片付けてからですねっ!!」

「っ!!?」

 

 

 一瞬にしてゾーリンはレベルⅣに接近し、体を捻ると同時に振り被った右腕を裏拳を打ち込む形でその胴体に叩きつけた。

 

 

ゴシャリ…

 

 

 トラックが突っ込んだかの様な音を立て、長身とはいえその体から繰り出されたには有り得ない衝撃がレベルⅣを襲う。

 レベルⅣは血混じりの吐瀉物を吐き散らしながら吹き飛ばされ、背後に突き刺さっていた鉄骨や金属パイプを撒き散らし、鉄筋コンクリートの瓦礫に叩きつけられて漸く停止した。

 その隙を逃さず、更に追撃を仕掛けようと駆け出すゾーリンに対し、突然の一撃と痛みに混乱しながらもレベルⅣは爪を振り下ろすが、彼は難なく鋏で受け止め…

 

 

「!!?」

「戴きますよ?」

 

 

 そのまま受け止めた方の腕を捻ると爪はアッサリとへし折れた。

 

 

「ギイィイイ―――ッ!?」

「おっと…」

 

 

 鋼鉄以上の硬さになっている己の爪が折られた事に驚愕するレベルⅣだったが、それでも爪が残った腕を振り下ろす。しかしゾーリンが空いた腕を振るうと振り下ろされた爪は砕け、腕の先端ごと吹き飛んだ。

 

 

「これで終わりませんよ?」

 

 

 両手の武器を失ったレベルⅣに対し、ゾーリンは腕を振り上げる形でその胴体へと打ち込み巨体を浮き上がらせる。

 

 

Шторм стали(鋼の吹雪)!! ハァアアアッ!!!」

 

 

 掛け声と共に鋏となった両手と脚部で嵐の様な連撃を打ち込んでいくゾーリン。一撃一撃が鋼鉄のハンマーを打ち込むかの如く重く、そして多い。骨は砕け、腕は在らぬ方向へとへし曲がり、レベルⅣの体は見る見るうちに打ち潰されていく。

 

 

「終わりです!!」

 

 

 全身を再生不可能レベルで叩き潰されたレベルⅣは止めに振り被った鋏で両断されると共に吹き飛ばされ、粉々になった。

 

 

「…ふう」

 

 

 完全に沈黙した事を確認したゾーリンは構えを解き、息を吐く。

 そんな彼の姿に翔磨と翠は呆気に取られるのだった。

 

 

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::

 

 

後日

 

 

「行ってきます、翔磨さん」

「ああ、楽しく勉強してくるんだよ?」

「はい!」

 

 

 職員寮、翔磨達に与えられた部屋を出た翠がランドセルを背負い、笑顔で挨拶をして駆けていく。

 翔磨は微笑みながらそれを見送った。

 

 

:::::

 

 

 

「リベリオン計画?」

 

 

 帰りのヘリ内にてゾーリンは向かいの席に座る翔磨達へと説明を始めた。

 

 

「簡単に言うなら“毒を以て毒を制す”計画です」

「この場合毒と云うのはガストレア……と言う事は貴方の体内には…」

「はい。ガストレア因子が埋め込まれています」

「人工のイニシエーターと云う事ですか?」

「そうですね。因みに先程見せたのはタスマニアキングクラブですよ」

 

 

 笑みを浮かべながら答えるゾーリンに翔磨と翠は驚愕の表情を浮かべる。男性のイニシエーターと云う前代未聞な存在である上に普通の人間がガストレア因子を埋め込まれて平然でいられる事がそもそも驚くべき事であるのだから…

 

 

「浸食の問題は無いのですか?」

「手術の際に半永久的に効果が持続するワクチンも投与されます。…まぁ、それでも適合率の低さもあって成功したのは十数名程度ですが」

「他の方は何処に?」

「撤退戦の後は各々が望む道へと分かれました。私の場合はこの地の呪われた子供達を見捨てられなかったから残りました…祖国にも同じような子供達がいるでしょうがね…」

 

 

 自嘲気味に笑みを浮かべるゾーリン。

 彼は選んだのだ、目の前の子供達を救うか、故郷の子供達を救うかで…

 選んだのは目の前で苦しむ子供達。しかし、それを責めれようか? 目の前にいたのは今にも命の灯が消えそうな存在だった、一秒でも惜しい状況で彼が選んだであろう選択を翔磨は責めよう等と微塵も浮かばなかった。

 

 

「…貴方の選択は間違っていませんよ、神父」

「有難う、そう言って貰えるだけで私は救われます」

 

 

 翔磨の言葉にゾーリンは改めて嬉しそうな笑顔を浮かべるのだった。

 

 

:::::

 

 

「お、お早う御座いますっ!!」

「お早う翠ちゃん!」

「あらぁ~、早い到着ね? 関心だわぁ~?」

「初登校になるんだからな! 翠もウキウキしていたんだな?」

「お早う、翠ちゃん。今日から一緒に勉強するんだね? これから宜しく!」

 

 

 教会に着いた翠に教会で暮らしている子供達が挨拶を元気に返していく。皆が好意で返してくれる返事に翠は胸が一杯になる。嗚呼、自分が此処に来て間違いでは無かったと…

 

 

「今日から宜しくな翠!」

「沢山、お話しよう?」

「待てよ! 先ずは教会の案内だろぉ?」

「でも案内する時間無いよぉ~?」

「取り敢えずは教室の席を案内するべきと思うので?」

 

 

 沢山の子供達に囲まれながら翠は教室へ向かっていく。

 胸一杯に幸せを感じ、溢れさせながら…

 普通の子供が感じているであろう幸せを呪われた子供(自分)が感じている。

 なんて素晴らしい事だろう…

 

 

「大丈夫ですよ?」

「琥珀さん…?」

 

 

 嬉しさを噛み締めている翠に琥珀が声を掛ける。

 

 

「貴女の幸せは皆が感じれる幸せなんです。特別な事じゃなくて当然なんだから…」

「そうデースッ! 此処(エデン)では皆、平等デース!」

「生まれとかそんな難しい事なんて関係無ぇ! 俺達は皆幸せになれるんだ!!」

 

 

 琥珀とカレン、そして翠の帽子を取ったガキ大将な少年が笑顔で答える。

 

 

「…はい、はいっ!!」

 

 

 彼女達の歓迎の言葉に翠は嬉しさで涙を零しながらも一緒に教室へ駆けて行く。

 

 翔磨と、翠の幸せは始まったばかりだ…




オリキャラ3人目ニコライ・ゾーリン神父です(ロシア出身)。
ぶっちゃけ、彼が東京エリアの呪われた子供達の多くを救っている立場です。(分かる人なら教会の子供達の中に原作の子供が入っている事が分かる筈…)
因みに今回が翔磨&翠救済フラグですわ。

しかし、本作じゃあ大分先になるだろうけど…ブラックブレッドって新刊出るの?

次回から本編突入になる予定ですが、投稿予定は全くの未定!(書き手の屑)
書きたいけど、仕事が忙しいんじゃあ!!(切実)


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