下手物喰らいの王女様 (匿名委員)
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01 始まりの入口

 

 

ふと目覚めて、1番に耳を賑やかにさせるもの・・・。   その正体は、今まで穏やかだったはずの静寂を乱すバイクの音だった。

 

 

 

 

 

気持ち良さそうなうたた寝から鬱陶しそうに眉を顰め、続けて大欠伸をする。

所謂“体育座り”と呼ばれる、膝を両腕で抱えた格好からぐーっと頭の上へ両腕を伸ばし、凝り固まった身体をほぐした。

それから、正面の横に置かれた壊れ気味の乾燥機へ手を伸ばし、その上に乗る、すっかり冷めたココアを一口だけ啜る。

 

 

 

 

 

 

コップの淵ギリギリまで注がれ、寝入るまで湯気が立っていたはずのマグカップは、触れた指先からひんやりとした冷たさが伝わる。

 

覗き込んだコップの中は、5cmちょっとしか減っていないココアの水面が波紋になって揺れていた。

 

 

 

 

 

 

口の中で居所がなく浮遊している、溶け切らなかった甘ったるいマシュマロの固まりを無理やり飲み込み、直後、喉元まで這い上がってきた吐き気は深呼吸をしてごまかす。

 

再び、今度はゆっくりと茶色の液体を覗き込めば、無機質な瞳と視線がかち合った。

 

 

静かな寝室で、窓の外の景色をぼんやり見つめながら溜め息をつく。

 

 

 

 

 

(☓☓☓side

ーーーー『現実』なんて、いつだって理不尽だ。

打ち拉がれるような事実に非情で、幸せと同等か、またそれ以上の不幸があるのは当たり前。

希望とか幸せの数なんて、地面に転がっている石ころにさえ満たない。いつだって、不安定な足下の上で、触れればすぐにでも崩れてしまうような些細なものだって知っていた。・・そうだ。分かっていた、はずなのに)

 

 

 

 

 

 

そこまで心の中で独白して、彼女は自嘲気味に、

 

 

 

「ははっ」

 

 

 

と渇いた笑いを洩らした。

 

 

 

 

 

小柄だが、一定の発育が見えることから、年頃は凡そ10代半ばだろう。

灰色がかった薄紫色の、胸元に掛かった柔らかな髪が風に弄ばれてふわりと揺れた。

 

伏せめがちで、大きなくりっとした薄茶色の瞳に、真っ暗闇に広がる中で唯一、淡く光る明かりが写りこむ。

 

 

 

 

ーーーその時。

 

 

 

ガラガラと音を立てて横に開いた扉から、驚いた表情の少年が顔を覗かせた。

 

 

 

「あれ?糸乃(しの)?え、・・珍しいじゃん。こんな時間まで起きてるなんて。何してんの?」

 

 

 

 

桃色と、黒髪のツーブロックに染まった独特の髪型を持つ、細身だが、服の上からでも筋肉質と感じ取れるガタイのいい彼。

格好は、いつも着ているパーカーにジーンズ姿で、如何にも今から出掛けます(・・・・・・・・)というようなラフな格好だ。

 

 

 

・・言わずもがな、これから入眠する人間の服装ではない。

 

 

 

 

ーーーやはり『この日』が来たか。

なんて他人事のように考えながら、糸乃亜は表情には出さず、

 

 

 

「あら、嫌ですねぇー。乙女がセンチメンタルになっているところに。私にだって、そういう気分の時(・・・・・・・・)もあるんですよ~?」

 

 

 

ぶすっとわざとらしく口を尖らせれば、少年は、一瞬キョトンとした後。

 

 

「あー・・。そっか」

 

 

 

特別気にした様子はなく、あっさりとした反応の悠仁。

それなりに長い間、家族として一緒に暮らした仲だ。

・・彼女がふざけ混じりに頑として言わない態度ということは、いくら追求しても本心を吐き出すことはないだろう。

そして糸乃亜も、互いに心情を察し合ってると勘付いている上で、話は一旦ここで切った。

 

 

 

 

血の繋がりを持たない2人だが、とある出会いから、戸籍上『兄妹』と記載されて以降。

 

 

 

 

虎杖 糸乃亜(いたどり しのあ)として、第2の人生へ生まれ変わった彼女は、兄の悠仁(ゆうじ)と、その辺りの兄弟と等しく、本当の家族のような関係を築いている、と思う。

 

 

 

(糸乃亜side

とは言え、虎杖家(ここ)に引き取られる前は、ごく一般家庭で産み落とされた訳じゃないらしいですけどねぇ〜)

 

 

ふう、と溜め息をつき、胸から脇腹まで真一文字に広がった傷痕(・・・・・・・・・・・)をパジャマの上からそっと指先でなぞる。

 

 

 

―――顔も名前も知らないのだし、恨んでいるかなんて聞かれることすら下らないと思う。

かと言って、この行い(・・・・)を許せるのかと問われれば、もう過ぎてしまったのに何を今更、と、自問自答した自分をせせら笑った。

 

 

 

(糸乃亜side

あっははー。我ながら面倒臭い人生(・・・・・・)を送ってますねぇ、私)

 

 

 

すると、意外に鋭いところのある兄は、その場で座り込むなりこちらを覗き込みながら

 

 

 

「どったの?」

 

 

と首を傾げる。

 

 

 

 

(side糸乃亜

やれやれ。コミュ力は伊達じゃないってことですかね・・。他人の感情を察知する能力が異常に高いんですよねぇ、この人・・・)

 

 

 

 

勘付かせるにはまだ早いと、笑みを口元に貼り付けながら

 

 

 

「あはっ。いえー、別に」

 

 

と誤魔化せば、徐に兄は立ち上がりながら

 

 

「あ!やっべえ!」

 

 

と叫んだ。

 

 

 

慌てるあまりやや挙動不審となる悠仁は、バタバタと身の回りの支度を整え出す。

・・その素振りを無言で見つめていれば、兄と目が合い、

 

 

「あー。悪い・・・。兄ちゃん、用事があってさ」

 

 

申し訳なさそうに眉を下げて、俯きながら視線を揺らす悠仁。

―――詳しい話を聞いたところ、簡潔にまとめれば、兄は部活の友人と共にこれから、学校へ肝試しに行くらしい。

まあ、それ自体はよくあることなので、別段不思議なことではないが。

 

 

 

 

壁に掛けられた時計の針は、既に12時を回っていた。

常識的に考えれば、こんな真夜中に、と思うが・・。肝試しと言えば、定番は夜だ。

で、深夜ともなれば更に不気味さが増す。

とことん設定にこだわる辺り、流石、雰囲気重視の先輩達である。

 

 

「へぇー。まあ、いいんじゃないですか?青春ですから。補導されないよう、くれぐれもお気を付けて~」

 

 

 

 

よくわからない理屈を述べて、ふわふわと欠伸をしながら手を振る。

・・・止めるどころか、心配すらしていないように見える、淡白な妹。

  

 

 

 

「いや、でも・・」

 

 

と悩む様子は察するに、家に糸乃亜を1人で残すことが不安らしい。

確かにまだ未成年であるが、留守番なんて余裕の年齢だ。

 

それに糸乃亜は、万が一何かがあったとしても、怖くて泣くようなか弱い女の子ではない。

 

 

「あはー。大丈夫ですよ~?私、こう見えてとーっても強いので♪」

 

 

 

へらへらと余裕の笑みを浮かべながら、力こぶを見せるように、片腕を立ててもう片手で自分の腕をポンポンと叩く糸乃亜。

 

 

 

しばし見つめ合っての沈黙が続くと、ぱちくりと瞬きした後で、悠仁は

 

「フハっ!」

 

と吹き出して笑った。

 

 

 

 

実はこの妹、ごく最近、たまたま見掛けたカツアゲする不良に向かって、自ら喧嘩を売り、5分と経たずに素手で伸したことがあるのだ。

心も身体も強く、その明るさがいつも通りであることにホッとする悠仁。

 

 

そうしていると彼女はニヤニヤ笑いながら、途中から声色を変えた口調を交え、

 

 

 

「さあ、ほらほら。約束したのでしょう?早く行かないと、天国のお祖父ちゃんが夢に出てきて、フルボッコにされちゃいますよ~?

 

 

『約束を守らないとは、何事だー』

 

 

なんて♪」

 

 

と、楽しそうに祖父の真似をする。しかし途中で首を傾げ、

 

 

「いや、あの人のことだから、

 

 

『俺に構わず青春してろ、馬鹿たれ』

 

 

とか言いそうですねー」

 

 

 

そう言いながらクスクスと笑う妹だが、ーーーー実は1週間程前、親のように慕っていた祖父が、ずっと患っていた病気により病院で息を引き取った。

 

 

 

 

悠仁が所属するオカルト研究部の先輩2名は、暫く付かず離れずで接していたのだが、彼は彼なりに思うところがあり・・・。

むしろ悠仁にとって、腫れ物に触れるような態度を取られる方が辛かった、というのもある。

 

 

祖父の死を痛み、泣きそうなのを我慢したようにも見える笑顔で、

 

「もう大丈夫だから、部活に誘ってよ」

 

 

 

と言われて、先輩達は迷いながら、気分転換として今夜の”肝試し“に誘ったのだった。

看取って間もない人間に肝試しとはどうなのかとも思うが、

元はと言えば彼らの中に1人同伴者がいたらしく、その友人とやらが急にキャンセルと言ってきたので、数合わせ(と言う名の案内人)として参加して欲しいと頼まれたらしい。

 

 

 

 

(糸乃亜side

でもまあ、家で塞ぎ込んで腐り始めるよりは、友人とワイワイしてやんちゃする方がずっといいですもんねぇ・・)

 

 

 

亡き祖父だって、きっとそれを望んでいるはずだ。

 

 

そう思いながらちらりと兄を横目で見る。

 

 

 

「いや・・、まあ、そうかもな。じいちゃん、アレで結構義理堅いところあったし」

 

 

そう言いながら、自分の頭をわしゃわしゃと掻く悠仁。

くしゃりと表情を崩す兄はどこか、いつもより幼く見えた。

 

 

 

立ち上がりながら、ちらりと時計を見て腰に手を当てると、

 

 

「あー。じゃあ、・・。なるべく早めに帰って来っから、戸締まりはしっかりな?」

 

 

とニカッと笑う。

 

 

 

まだ、その顔にははっきりと

 

 

「1人で残すのは心配だ」

 

 

と書かれているが、先輩との約束もある。・・・というか、元はと言えば、部活に参加させてくれと宣言したのは悠仁だ。

 

 

 

 

 

 

「お前、明日・・っていうか、もうこの時間じゃ日付け変わってんね。今日も学校なんだから。ちゃんと寝ろよ?」

 

 

 

玄関を出る直前で振り返れば、妹はニヤニヤと笑いながら、

 

 

 

「あはー、分かってますよ~。兄さんも、青春を満喫してきて下さいね~」

 

 

 

と言って兄を見送った。

バタンと閉じられた横開きの扉を見つめ、

 

 

 

「あははー。・・・まぁ、無事に帰って来られれば(・・・・・・・・・・・)の話ですけれどねぇ」

 

 

と呟く。

 

 

 

(糸乃亜side

全く・・・。『あの人』も、酷な事を。って、それに協力してる私が言えた義理ではないですが、、、)

 

 

 

「――――!!」

 

 

 

 

その時、気配を感じた糸乃亜はカッと目を見開き、左腕に黒い紋様が浮かび上がると同時に、ピキピキッと関節を鳴らして動いた腕を、素早く片手で押さえ込む。

 

 

すると、数秒後・・・。

何でもなかったように紋様は消え、いたく慣れた様子で、表情すら変えず吐息をついた後。

 

 

 

とぼとぼと寝室へ戻った彼女は、引き戸の扉を閉め終えてから、ズルズルと背中を預けながら座り込んだ。

 

 

 

 

「これ、絶対『先輩』の意志にそぐわないでしょうねー。・・あはっ。怒られるかなー。私」

 

 

苦笑気味に呟き、太陽が上った頃になっても兄は帰って来なかった。

 

 

 

・・・そして、一方。

 

 

 

 

古い象形文字のようで、毒々しい気配を放つ夥しい数の文字が刻まれた、古い紙や頑丈そうな太い縄に繋がれているのは件の少年――――虎杖悠仁、その人。

 

だが、室内一面に札が貼られて異質な空気感の場所にいるのは、彼だけではない。

 

 

 

 

眠りこける彼を前に、収まりきらないスラリとした足を椅子の脚に引っ掛け、背もたれに腕をかけて椅子に胸を預ける姿勢で、彼と向かい合う格好でいる1人の男。

白髪が目立つ、紫がかった黒い服を纏う彼は、まだ若い肌質と、細身に見えて鍛えられている事がわかるがっちりした体格から、20代前後くらいだろうか。

 

 

 

先程まで偉く真剣に凝視していた、ペラりとした1枚の紙を指先で摘み、

 

 

 

「ふーん・・・」

 

 

と洩らした後。

 

 

男は胸ポケットから片手でスマホを取り出し、1件の電話をかける。

 

 

残念ながら忙しいらしく、数回のコールの後で伝言へと切り替わった先に、彼は“ある身勝手極まりない頼み”を言い残して通話を切った。

 

 

 

 

「さーて、・・・これから、忙しくなりそうだ♪」

 

 

 

 

偉くご機嫌に楽しそうな呟きをして、丁度目を覚まし、

 

 

 

「・・・あれっ、此処、何処・・?」

 

 

 

まだ意識がぼんやりしているらしく、虚ろな表情で呟く彼に、ニンマリと笑いながら声を掛ける。

 

 

 

 

「――――おはよう。今の君は、どっち(・・・)なのかな?」

 

 

 



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02 運命の出遭い

 

 

時は、1日前に遡る。

日が暮れ始めた夕方頃、悠仁は家から1本の電話を入れていた。

 

 

 

 

数回の呼び出し音が続いた後。

女性の声から、慣れた様子で病院の名前が羅列される。

 

 

 

『はい。××病院です』

 

 

 

「・・あ。もしもし。虎杖です。あの、・・・じいちゃんから全然折り返しないんすけど、どうしてます?」

 

 

 

 

留守の言葉を残したはずなのに、ちっとも連絡が来ないまま、1日が経過していた。

 

 

 

今どきの若者らしいというか。

砕けた口調で問うてくる少年に看護師は嫌な様子など感じさせず、寧ろ親しげに対応する。

 

 

 

 

『あれー?ちゃんと伝えたんだけどなあ・・。そのまま待ってて?もう私が聞いて来ちゃうから』

 

 

 

 

入院患者の家族に対して、相手が子供と言えこの女性の反応も随分軽い調子だが、要はそれだけの信頼が芽生える程に長い付き合いがあるのだ。

 

 

 

それもそのはず・・・。

見舞いを繰り返しているうちに看護師達とは挨拶から雑談をする仲へと変わり、悠仁のコミュ力の高さもあって、兄妹共々すっかり慣れ親しんだ関係になっていた。

 

 

 

 

それから看護師は、受話器を繋げたまま、悠仁の祖父が寝ている入院室へ急ぐ。

恐らく、伝わってはいたものの、肝心の本人が忘れていたか、無視をしたのだろう。

・・・・あの性格から考えれば、後者の可能性が高いが。

 

 

 

あまり考えたくはないが、万が一何かあった時には間違いなく、親族の代表として年長である自分に連絡が来るだろう。

逆を言えば、何事も心配がないのだから、電話が来ないのも当然と言えなくはないが・・・。

 

ならば、音沙汰がないままで安心できるのかと言えば、そこは気持ちの問題である。

 

 

 

 

 

「虎杖さんって、全然ナースコール押さないよね?」

 

「逆に怖いっていう・・」

 

 

 

近くの机で書類をまとめていた看護師2名が、ボソボソとそんな話をしている頃。

 

「虎杖さーん、お電話ですよー?悠仁君が何か持ってきて欲しい――――」

 

『喧しい!来んなって言っとるだろ!部活しろ、部活!!』

 

 

 

 

繋がれた通信機に、祖父の怒鳴り声が響き渡った。

叫ぶ声は受話器を通して周囲にも聞こえ、看護師が何事かと驚く中、悠仁はやれやれといった表情で肩を竦める。

 

 

『・・だって。悠仁君、何部?』

 

 

 

 

祖父が押し付ける形で続けて電話に出た看護師から苦笑交じりに問われる。

 

 

「うす。――明日、夕方頃に行きます」

 

 

 

 

そう言って電話を切った。

 

 

 

 

ーーーーその夜。

悠仁が通う『宮城県杉沢第三高等学校』と彫られた建物へ、1人の少年がこっそり侵入していた。

 

 

月夜に照らされて、整った顔立ちに、逆立った癖のある黒髪が露になる。

全身を紺色の服に包んで、気の強そうな、ややつり目で仏頂面の彼は、校舎の周りをぐるっと回った。

この辺ではあまり見ない服装だが、渦巻きの型を彫った変わったボタンや、背格好から察するにどこかの学生なのだろう。

 

 

 

学生という身分は概ね、その制服ーー特にボタンなどに学校の紋章を刻んでいるものなのだ。

学生と呼称される年齢にも合致しているし、まず私服でそんな洋服があるとは思えない。

 

・・まあ、コスプレという可能性もあるが、夜にそんな格好をしてまで学校へ来る理由もないだろう。

 

 

 

慣れない様子でキョロキョロ辺りを見回す姿から、ここへ来るのは初めてらしい。

その後、彼は1つの白い箱の前で立ち止まると、機嫌が悪そうにぼそりと呟いた。

 

 

 

 

「こんなところに『特級呪物』保管するとか、馬鹿すぎるでしょ・・・」

 

 

 

少年の経験談から言ってしまえば、コレは過去の因習と、上層部の尻拭いでしかない。

が、しかし。今後もたらされる災厄を考えれば、どのみち、そのまま放っていい問題ではなかった。

 

 

 

溜め息をついてから、気だるげに百葉箱へ手を伸ばす。

元々は鍵と錠前があったのか、開きかけている金具に気付いて、一瞬止まってから扉を開けた。

 

 

 

 

―――しかし、そこにあるはずのものが空っぽだとは、誰が思うだろうか。

 

 

 

瞬きせずに固まった後、彼は半ば無理やり百葉箱に頭から突っ込んで中をまさぐってみたり、ダメ元で百葉箱の周りも探してみる。

 

屋根の上に、地面の上。

・・・・そして、最後にもう一度、百葉箱を開け閉めする。

 

 

 

 

 

冷静になってから、少年は自分のスマホから、ある人物に電話を掛けた。

 

 

 

 

「―――ないですよ!」

 

 

『え、』

 

 

 

 

 

その言葉の意味は分かっているが、予想外の事態に、信じられない。

電話の向こうの人間も、声色から察するにそんな様子だった。

 

 

 

 

 

「百葉箱、空っぽです!」

 

『マジで?ウケるねー。夜のお散歩かな~?』

 

 

 

決して笑い事で済まされる事態じゃないが、ヘラヘラする男に、

 

 

「ぶん殴りますよ・・」

 

 

と、ドスの効いた声でイライラを隠さずにキレる。しかし、返ってきた返答は、何とも無責任な―――指示とも呼べない言葉だった。

 

 

 

 

『ソレ、取り戻すまで帰ってきちゃ駄目だから』

 

 

 

 

 

余程忙しいのか、それとも、ただ面倒臭くて放棄したのか。

 

確かに、その辺をふらふら歩いて遊んでいていいような人材ではない。

が、軽い口調からはとても、任務を重要視する人間とは感じ取れなかった。

 

 

 

 

「今度マジで殴ろう・・・」

 

 

 

ぼそりと、小さな決意を呟いて少年は学校を去った。

 

 

 

 

 

そして翌日―――。

授業が終わった放課後、各部活動に所属する生徒達が、いつも通りに外で青春の汗を流す頃。

 

わざわざ空き教室の一部屋に残った彼らは、3つの机をまとめて真ん中に置き、集まった中心でごくりと喉を鳴らしていた。

 

 

 

 

 

「――――本当にいいんですね?佐々木先輩。井口先輩」

 

 

 

 

悠仁の真剣な問いに、緊張した面持ちで無言を肯定とする2人の男女。

 

 

 

 

「じゃあ、行きますよ・・。せーの!」

 

 

3人はドキドキと心臓を鳴らし、緊張が伝わる一室に、悠仁の、

 

 

 

 

「こっくりさーん、こっくりさーん♪生徒会長がギリ負ける生き物を教えて下さい!!」

 

 

と、ノリノリな大声が響いた。

すると、小銭の上に置いた3人の指がプルプルと震えて、敷いた紙の上をゆっくり滑っていく。

その文字を追って、読み上げた名前は、

 

 

『く・り・お・ね』

 

 

 

事実であれ出鱈目であれ、3人は腹を抱えながら、足をバタバタと振って大爆笑した。

 

 

「クリオネだってー?!だっせー!」

 

 

否。青春を謳歌する彼らにとって、真実か否かなど、どうでもいいのだ。

 

 

ただ、一緒にいるこの空間がとても居心地よくて、部活と称して、彼らはいつも共にいた。

 

オカルトの答えを解き明かすまでが楽しくて、そのドキドキとわくわくを求めて、だからこそ肝試しにだって行くのだから。

 

 

 

 

ただそれだけの理由だが、周りから見れば大したことのない内容と思われても、毎日が本当に充実していた。

 

 

 

(糸乃亜side

なんというか、・・・平和ですねぇー)

 

 

 

 

兄を迎えに、自分が通っている学校の制服のまま校内へ紛れ込んだ糸乃亜は、窓辺に腰を掛けて、ぼんやりと外を見つめながらふわりと欠伸をする。

彼女は此処から、自転車で20分弱あれば到着する、某女子中に通っていた。

 

そんな、一同が盛り上がっているところへ、荒々しく訪問者が訪れる。

バン!と勢いよく扉を開けて、1枚の紙を片手に、

 

 

「オカ研!」

 

 

と、つい今しがた悠二達がプランクトンの名で爆笑していた対象である男子生徒が入ってきた。

 

 

「お?プランクトン会長~。どったの?」

 

 

悠仁の揶揄に、赤縁眼鏡をかけた、黒髪のおかっぱ少女―――佐々木が吹き出す。

 

 

 

 

理由は分からないながらも、揶揄されたことと佐々木の反応に怒りで頬を引き攣らせつつ

 

「活動実態のない部活には、事前通告の通り、部室を明け渡して貰う!さっさと退去しろ!」

 

 

悠仁は椅子の背もたれに肘をかけながら、腕を組んで

 

「ふん!」

 

と鼻を鳴らす生徒会長に、

 

 

 

ニヤリと笑って体ごと彼に向かいながら告げる。

 

 

 

 

「うちの先輩方をなめてもらっちゃ困るなー、会長~」

 

 

それを合図であるかのように、直後、佐々木は、『怪奇事件ファイル』と背表紙にパソコン打ちされた、棚に幾つか並ぶクリアケースから2冊を取り出した。

棚の上から叩き付けて机へ置くと、青縁眼鏡の生徒会長は、眉を潜める。

 

 

 

「・・何だそれは」

 

 

 

対して、3人は一斉にニヤリと笑い、

代表で、佐々木が自慢げに告げた。

 

 

「うちのラグビー場が閉鎖されているのはご存知ですね?」

 

「あぁ。体調不良で入院した部員まで出たからな」

 

 

 

 

びしっ、と指をさしながら意義を申し立てる。

 

 

 

「可笑しいと思いませんか?!あの屈強なラガーマンがですよ!」

 

 

 

そして彼女は、彼らが体調を崩す直前、奇妙な物音や呻き声を聞いた、という噂や体験を話した後。

先程のファイルを開いて、1枚の新聞記事を生徒会長に見せた。

 

 

 

「そこで!この30年前の記事です!建設会社の吉田さんが、行方不明になったという事件。最後の目撃情報はここ」

 

 

彼女が指差す記事に記されていたのは、建設途中の、杉沢第三高校の名前と写真。

 

 

 

「―――資金ぶりに困った吉田さんが、ヤミ金に手を出して、その筋の組織に狙われていた。

つまり!一連の騒ぎの原因は、ラグビー場に埋められた、吉田さんの怨霊だったのです!!」

 

 

 

 

 

 

こじつけと妄想真っ盛りの内容だが、本人はいたって満足そうに、両腕を広げて決めポーズをとった。

 

ガタイのいい角刈りの男―――先輩の井口は悠仁と共に、左右に別れてひらひらと手を広げて盛り上げようとする。

 

 

 

 

 

 

楽しそうに盛り上がる彼らだったが、これに生徒会長は、

 

 

 

「いや、マダニが原因らしいぞ」

 

 

 

と真面目に切り返した。

・・聞けば、きちんと専門家にまで調べて貰ったそうで、間違いないとか。

 

 

 

 

(糸乃亜side

まあ、それだけ(・・・・)が原因じゃないですけれどね〜)

 

 

 

 

ふと、 背後で蠢くものの気配(・・・・・・・・・・)を感じるが、彼女は振り向かず、視線を宙で漂わせてしれーっと見えないふりをする。

 

 

「あはー。大丈夫ですかぁ~?」

 

 

 

机に近付いた彼女が、顔を覗きこみながら声を掛ければ、佐々木はショックで言い返す言葉もなく、椅子に座ると、顔を青ざめさせて震えていた。

井口も、立ったまま同様の姿である。

 

 

 

「だったら何なんだよ!オカルト部がオカルトを解き明かそうとしたんだから、立派な活動理由じゃねぇか!」

 

 

 

必死に弁解すれば、生徒会長がここで、部活が成立していない大きな要因を上げた。

 

 

 

 

「餓鬼の遊びじゃないんだよ!そもそも、虎杖悠仁!お前の席が『オカ研』ではなく陸上部(・・・)にあり、”同好会規定が定める最低人員3名に達していない”ということだ!」

 

 

 

・・兄にくっついて糸乃亜もよく部活に紛れ込んだりするが、彼女はまだ中学生だ。

 

 

仮入部ですらないのだから、当然人数としてカウントされない。糸乃亜がやれやれと肩を落としていれば、入部云々の問題を今、初めて知った悠仁はキョトンとする。

 

 

 

 

「・・・、いーたーどーり~?」

 

 

 

裏切ったのか、と悪い顔をする先輩達に、

 

 

 

「いや!俺、ちゃんとオカ研って書いたけど?!」

 

 

 

と言えば、そこに第三者が加わった。

 

 

「俺が書き直した!!」

 

 

 

 

どや顔で現れた、坊主頭に緑色のジャージを着用する男は、陸上部の顧問・高木だった。

 

 

 

「虎杖!全国制覇にはお前が必要だ!」

 

 

理由はどうであれ、本人に相談することなく書類を改竄するとは、何とも身勝手な大人である。

 

 

 

(生徒会長side

生徒より問題のある教師が出てきてしまった・・・)

 

 

 

 

 

 

最早空気になり、ややこしくなっていく事態に、黙りこむ男子生徒。

入る、入らないの押し問答の結果。

何故か、勝負して決めようと言う話になり、呆れて帰ってしまった生徒会長を除き、一同は校庭へ移動した。

 

 

・・因みに、糸乃亜が放課後にこうして校舎に浸入するのはよくあることで、厳重注意を繰り返しているうちに、まあ、兄妹なら―――となあなあでOKになったのは余談である。

 

 

 

 

 

2人の勝負を聞き付けて生徒がざわつき、校庭へ集まる頃―――。

 

 

任務の伝で、この学校の制服を手に入れた昨日の少年は、ふらふらとラグビー場を歩き回っていた。

 

 

 

 

 

(☓☓side

・・何だ、この学校は。死体でも埋まってんのか(・・・・・・・・・・・)?)

 

 

 

 

勿論、普通の(・・・)学びどころで、そんなことがほいほいと有っては堪らないが・・。

しかし、呪いがあちこち蔓延る状況は、あまりに異様な光景と言えた。

 

 

 

こうしている今も、波紋のように揺れた地面から、呪いが鈍い動きで這い出てきて、棒にしがみつくと

 

 

『ヴぇぇぇ~』

 

 

と鳴いている。

 

 

 

 

(☓☓side

だとしても、このレベルがうろつくとは・・。恐らく、2級の呪い。『例の呪物』の影響か)

 

 

 

呪いを目で追いながら考えるが、今は探し物の方が優先事項だ。

まして、『帳』がなく、一般人が多いここでは無闇に戦えない。

 

 

 

(☓☓side

くそっ、気配が強すぎて絞れねぇ!遥か遠くにあるようで、すぐ近くでも可笑しくない。

――――特級呪物、厄介すぎだ・・。一体誰が持ち出した?)

 

 

 

スマホに写るのは、木の箱に入り、封印が施された細長い『何か』。

おおよそ、人間の指程の大きさである。

 

 

 

 

下手に手を出せないが、何も行動を起こさない訳にはいかない。

少しでも手掛かりを得られないかと、通行止めの板を跨いで校庭へ足を踏み入れる。

 

 

 

すると、大勢の生徒達が集まり、沸き上がる騒ぎに目を向ければ、教師と生徒が立って砲丸投げをやっているところだった。

 

 

 

「14m!」

 

 

 

 

※因みに、日本記録は18m85㎝らしい。

 

 

 

世界的な競技のコーチでなく、普通の学校の教師をしているのが勿体無いくらいの数値である。

頑張れ、と男子生徒が沸き立つ中、佐々木がぼそりと、隣に立つ井口と糸乃亜に聞く。

 

 

 

 

 

「ねぇ。糸乃亜の兄貴ってそんなに有名なの?」

 

「眉唾だけど、SASUKE全クリしたとか、ミルコ・クロコップの生まれ変わりだとか・・」

 

「死んでねぇだろ、ミルコ」

 

「ははっ。胡散臭いですねぇ~」

 

「で、ついた渾名が『西中の虎』」

 

「だっさ~」

 

 

 

呆れた表情で呟く佐々木と、噂を面白がって笑う糸乃亜。

 

 

 

そして、次に男子生徒が投げた砲丸は、その数値すら軽く塗り替えていた。

 

 

 

「・・ええっと、大体30m」

 

 

目測だが、ズレは少ないだろう。

※因みに、世界記録は23m12㎝であるとか。

 

サッカーのゴールにぶつかって止まっていたので、あれさえなければ、もっと記録が伸びたかもしれない。

ショックと驚きで固まる男性教師を取り囲み、生徒達はゲラゲラ笑いながら写真撮影をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

(☓☓side

すげぇな・・。呪力なしで、素の力でアレか。禪院先輩と同じタイプ(・・・・・)か)

 

 

 

驚いて少しだけ目を見張って立ち止まっていれば、知り合いらしい男女が話し合う。

 

 

 

「虎杖~。あんた、運動部の方が向いてるよ。無理して残んなくてもいいんじゃない?」

 

「え・・?いや。先輩ら怖いの好きな癖に、1人で心霊スポット行けないじゃん」

 

 

 

好き嫌いの問題以前に、彼は、怖がる先輩らの縦のようになって道先案内人となり、糸乃亜はと言うと、面白そうだからと後ろからほいほい着いてきたりするのが日常だった。

 

 

 

 

「好きだから怖いのよ~」

 

 

恥ずかしがって頬を染める彼女に、悠仁は、

 

 

「それに、うち、全生徒入部制じゃん?」

 

 

と言ってから、

 

 

「こういうの無理だし」

 

 

と運動部を指差す。

 

 

 

 

 

「色々あって、5時までには帰りたいからさ。先輩がいいならいさせてよ。結構気に入ってんだ、オカ研の空気」

 

「・・そういうことなら」

 

 

先輩2名はほっこりして、嬉しそうに、そして、照れ臭そうな様子も残しつつ頷いた。

 

 

 

「あー。おほん。兄さ~ん?」

 

 

わざとらしく咳払いをして、糸乃亜が、学校の時計をちらりと見る。

 

 

 

「あ!?やっべ、もう5時半過ぎてんじゃん!」

 

 

悠仁は先輩達に軽く挨拶をしてから、玄関を目指して、少年とスレ違った瞬間。

 

「・・・っ!!」

 

 

 

 

(☓☓side

―――呪物の気配(・・・・・)!)

 

 

 

少年が慌てて振り向き、手を伸ばしながら

 

 

「おい、お前!」

 

 

 

と止めにかかる。

が、彼の存在は気付かれず、早々と学校の門を出て行ってしまった。

 

 

「あいつ、50m3秒で走るらしいぜ?」

 

「車かよー」

 

 

笑いあう男子生徒2人に、たまたま聞き齧った少年は目を剥く。

 

 

 

 

糸乃亜も、そこらの平均的な女子よりは優れた頭脳と身体能力の持ち主ではあるが、慌てて追いかけたところで追い付ける訳じゃないし、兄は兄で、のんびり散策を好むマイペースな自分の性格を理解している。

 

 

 

 

 

なので、置いて行った―――というより、来たい時に着いてくるだろうという意味で先に向かったであろう悠仁の後を追いかけようとはせず、校舎へ踵を返す。

 

 

 

 

今日は少し、やることがあるのだ。

 

 

『∨∇∏∏∧∞∥√∝∫∌∧?』

 

 

【・・はいはい。分かってますってー。全く。せっかちさんなんですからー】

 

 

 

 

頭の中で響く声(・・・・・・・・)にうんざりした表情をしていた時。

 

 

 

 

「――――、満昼(まひる)?」

 

 

 

呟かれた名前に振り向けば、少年が目を見張り、穴が開きそうなくらいにじっとこちらを見つめていた。

 

 

 

・・まさか、再び他人からその名前を聞くことになるとは。

いつもは伏せめがちの瞳を大きく開き、ハッ―――と吐息が溢れた。

 

 

もう、顔や声なんて朧気にしか覚えていなかったはずの、最後に会った時の記憶が鮮明に甦る。

 

 

 

 

『ふふ。本当に怖がりねぇ?でも、大丈夫よ。恐れることはないの。だって、貴方は私の―――』

 

 

 

うっとりと微笑む女の唇は、怪しく弧を描いた。

だけど、それ以上は一切の音が消えて、世界の音色が消し去られてしまったかのように静けさを保つ。

 

 

 

それまで、時が止まったように動かなかった2人だが・・・。

見つめ合って、よく似ているが、同一人物ではないことに気付き、我に返った少年。

 

 

閉じかけた口から、

 

 

「お前、」

 

 

と何か言いかけたところで、少女はわざと

 

 

 

 

「―――糸乃亜です」

 

 

 

 

と言葉を重ねる。

 

 

 

タイミングよく被せてきた彼女に、彼は口を真一文字に結んだが文句は言わず、こう続けた。

 

 

「さっきのアイツ。・・糸乃亜の、兄貴か」

 

 

少しの間、何かを言いたげに唇をもぞもぞさせていた彼だが、目を伏せて考え事をする素振りを見せた後。

 

 

 

「・・悪い。知人によく似ていて、人違いをした」

 

 

と、丁寧に謝罪をした。

対して糸乃亜は、微笑みながら

 

「いえいえ、気にしてませんので」

 

 

 

と軽くかわし、

 

 

「ええ。兄の悠仁です。と言っても、血は繋がってませんけど。仲良くしましょ?」

 

 

 

仏頂面の少年に片手を差し出す。

 

 

(糸乃亜side

―――地獄へようこそ。これから、一緒に戦っていきましょうね)

 

本音と反した文句を心の中で並べながら、少女の髪を束ねる、紫がかった赤いリボンがふわりと揺れた。



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03 兄妹

簡単に自己紹介だけで話を終わらせるつもりだったが、この少女、なかなかお喋り好きのようだ。

 

 

 

 

 

名前と学校だけ名乗った後。

仏頂面で棒立ちする伏黒に、糸乃亜と名乗った彼女は貼り付けたような笑みを浮かべながらこちらを覗き込む。

 

 

 

 

 

時々、

 

 

 

「恵さーん?もしもーし。聞いてます〜?」

 

 

 

 

なんて、煽るような問い掛けが一瞬、見知った人間(最強の男)と重なって見えて、イラッとした気分を深呼吸でねじ伏せた。

 

そんな伏黒の心情を知ってか知らずか、少女はニヤニヤと笑ったままだ。

 

 

 

 

 

(伏黒side

なんつーか。・・変わった奴、だな)

 

 

 

 

伏黒は疲れた表情で、そっと溜め息をつく。 

別に、人の考えや育ちをとやかく言うつもりなどない。

しかし、同じ環境で生活してきたにも関わらず、見るからに高校生活を満喫しているような明るい兄にして、人を喰ったような笑みを浮かべる、あの妹。

 

 

 

まだ少し幼さの残る容姿に、余裕ぶった振る舞いを含めて、 外見と内面がちぐはぐ(・・・・・・・・・・)]]と言うか・・・。

 

 

 

例えようのない違和感が居心地悪くて、伏黒は思わず、口をへの字に曲げる。

 

 

 

 

 

 

 

無言のまま、何の反応も示さない伏黒であったが、彼女は何を考えているのか。

不思議と、気分を害した様子は見せずに、ただ笑ってこちらを見つめ、出方をじっと伺っている。

 

 

 

 

 

無言を貫いていれば、飽きて兄の後でも追うだろうと思っていたのだが、彼女のようなタイプにその手は通じないらしい。返って興味を持たれてしまったようだ、と、伏黒は小さく溜め息をついた。

 

 

 

 

 

(伏黒side

面倒臭ぇ奴に絡まれたな・・・)

 

 

 

伏黒が所属する呪術界は万年人不足で、身近に同級生がいないだとか、気晴らし程度の自由時間すらあまり取れないという環境の事情もまあ、あるけれど。

 

 

 

 

生まれ持って育った性格こそ良好と言えない伏黒だ。人とのコミュニケーションがどうかなんて、言うまでもない。

そもそも、相性から言って合わない気配を感じているが、それを上手く回避出来るほど、自分は器用じゃない。

 

 

それを、飽きもせずに付き合い続けていたのは義理の姉と、彼ら(・・)くらいだ。

 

 

 

 

 

取っ付きにくいと感じつつ、―――向こうから興味の熱が冷めるまでは致し方ない。下手にうろつかれる方が面倒だ。

そう思い、急遽であるが、彼女にも付き添ってもらうことにした。

 

 

 

 

「糸乃亜。お前の兄貴のとこまで案内してくれ」

 

 

 

 

一応は冷静を装ったつもりだが、微妙に忙しない視線の動きや、体の強張りでバレてしまったようだ。

言葉では語らないものの、視線がそれを訴えていた。

 

 

 

 

「何か焦っているようですが、兄が何かしたんですかねぇ?どんな迷惑を掛けましたー?」

 

 

 

 

探るような言い方は、―――悠仁が人に迷惑を掛けるようなことを仕出かすはずがない。

そう信じているからこそ、伏黒こそ兄に何かするのではないか、と言うような疑いから来るものだろう。

 

 

 

「・・・、」

 

 

 

 

そう思いながら黙っている理由としては、まず、今の自分に、それを否定できるだけの手段と説得力がないこと。加えて、彼女が“こちら側”へ好んで自ら足を踏み入れようとしない限り(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、もう二度と会う機会などないであろうことから、呪術関連の話をして下手に揉めたくない、というのもある。

 

当事者なのは、あくまで兄だけ(・・・・・・・)だからだ。  

 

 

 

 

 

そして何より、無駄話を長々と続けて、これ以上の時間を喰いたくない。

 

 

 

(伏黒side

ちっ。結構鋭いとこあるな。コイツ・・)

 

 

 

 

 

「・・いや。こっちの事情だ。急いでいるから、なるべく早く済ませたい」

 

 

 

仏頂面で簡潔に急用だと言うことだけ告げれば、彼女は、

 

 

 

「そうですか」

 

 

 

 

とだけ言って、胸のポケットから1枚の紙を出してこちらへ渡した。これは何だ、と言うように視線を向ければ、

 

 

 

 

「どうぞ」

 

 

 

 

としか言わないので、訝しげに思いながら受け取ったそれを開く。

 

しかし、そこに綴られた文字に、伏黒は思いっきり眉を顰めて後悔した。

 

 

 

 

 

 

「『バーカ』」

 

「・・・はぁ?」

 

 

 

 

 

くぐもった低い声を出して、目元を怒りで引くつかせる伏黒の反応は完全に、遊びと悪癖で神経を逆撫でしてくる担任への反応とまるで同じもの。

 

 

 

 

 

初対面の女生徒、しかも、中学の制服から自分より年下だということを忘れて、ドスの効いた声で

 

 

 

 

「おい・・」

 

 

 

 

 

とだけ声を掛ければ、彼女はニヤニヤと笑う。

 

 

 

 

「あはー。何だか、緊張していらしたので、リラックスして差し上げようと♪お気に召――」

 

 

 

「す訳ねぇだろ!」

 

 

 

「あははっ。でしょうね〜」

 

 

 

 

 

彼女に被せて文句を言えば、そういう態度を取られることは重々承知の上でやったのだろう。楽しそうにケタケタと笑う。

 

 

 

 

まるで、幼い子どものようだ。

 

 

 

 

 

やれやれと肩を竦めていれば、パンッと両手を打った音に顔を上げる。

 

 

 

 

 

「さて。では私、そろそろ帰りますねー」

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

案内してくれないのかと問えば、用事があって寄らなければならない場所があるのだとか。

 

 

 

 

 

(伏黒side

・・だったらこんなことしてないで、さっさと行けよ)

 

 

 

 

 

遊ばれたあの時間は何だったのかと、心の中で悪態をつけば、流石に悪いと思ったのか。

 

それとも、予めそうするつもりだったのか。

 

 

 

 

 

「そのスマホ。貸して下さいねー」

 

 

 

と言いながら、伏黒が片手に握っていた携帯電話(スマートフォン)を引ったくるように奪うと、掴んだ右手の指先で器用に何か検索し始める。

 

 

 

 

「おい!何を勝手に――――」

 

 

伸ばした手は、ステップするように回転しながら軽々とかわされた。それからすぐに、

 

 

 

 

「はーい、出来ましたよ」

 

 

と正面で見せるように立てられたスマホの画面に映るのは、病院のホームページと、そこまでの道のりを記す案内用の地図。

 

 

 

「・・・〜〜、」

 

 

その後、難しい顔でくしゃりと前髪を掻きむしってから、伏黒は小さく溜め息をついて、受け取ったスマホの画面から顔を上げる。

 

 

 

 

「ーーーー糸乃亜!」

 

 

 

 

「はい?」 

 

 

 

 

 

既に校舎へ踵を返していた彼女を呼び、振り向いた直後。

伏黒は長年、ポケットに突っ込んでいたものを上へ放り投げる。

 

 

 

 

「えっ、ちょっ・・?!」

 

 

 

 

空を見上げるなり、チラついた太陽の光で目が眩み、少女はぎゅっと瞼を瞑りながらも、慌ててくの字の形で身を乗り出し、感覚でそれを見事にキャッチする。

 

 

 

 

「・・何です?これ」

 

 

 

 

拝むような手の形で、その両手の中にすっぽり収まったものは、古びて薄汚れたお守りだった。

 

だいぶ薄れているが、よく見れば、表には『家内安全』と言う文字が刺繍で縫い付けられている。

因みに、文字の大きさと並びがバラバラなので、手作りのようだ。

 

 

 

 

 

状態は兎も角、そんな持ち歩く程大切なものを、どうして自分に渡すのか。

 

彼の意図が分からない、と言う様子で問い掛けた糸乃亜に、伏黒は、ふいっと視線を反らしてポツリと告げる。

 

 

 

 

 

 

「信じないならそれでもいい。・・糸乃亜が、呪いを引き付けそうな顔をしているから、念の為だ。俺には、もう必要ねぇしな」

 

 

 

 

 

 

「ふむ。―――私、呪い殺されそうな顔してます?」

 

 

 

 

 

 

キョトンとして自分を指差す彼女に、やはり、少女は一般人とズレていると思った。

伏黒の知る人間は、こういう時、不気味がるか、呪いなんてあるはずがないと鼻で笑うかの2択なのに。

 

 

 

 

 

「ーーーー怖くないのか」

 

 

 

 

「それは、どちらが(・・・・)です?」

 

 

 

 

 

 

―――――得体の知れない呪いそのものか、それとも、人を呪う人間そのものか。

 

 

 

影を落として笑う糸乃亜に、ゾクリ―――と伏黒の背筋を気味の悪い寒気が突き抜ける。

 

 

 

 

 

「はははっ。大丈夫ですよー、そんなに怖い顔をしなくても♪」

 

 

 

ひらひらと両手を振ってから、糸乃亜は笑みを深め、自分の胸元に手を当てながらこう告げた。

 

 

 

 

 

「―――大丈夫ですよ。分かってますから。ちゃんと」

 

 

 

 

「、お前、」

 

 

 

 

 

伏黒が瞳を揺らした、ほんの一瞬。

――――まるで、蓋を開けた鍋から匂いが溢れるかの如く、彼女の肉体から濃い呪いの気配が一気に溢れ出す。

 

 

 

 

 

(伏黒side

、今、どこから(・・・・)・・・?!)

 

 

 

 

 

ギクリと体を硬直させて表情を強張らせる伏黒に、彼女はにこりと笑った。

 

 

 

 

「宗教の学校って、ちょっと特殊そうですもんね〜」

 

 

 

 

・・・確かに、表沙汰には呪い云々は伏せ、そういう部類(・・・・・・)の学校であると世間一般の間で紹介されてはいるが。

 

 

 

ーーー喰えない性格だ。

フラフラとかわして、決して心の内を見せようとしない。

 

 

 

「・・信じているのか。糸乃亜は」

 

 

 

 

”何を”と言わなくても、彼女なら分かるだろう。

そう思い、敢えて口にはしなかった。

 

 

 

すると、案の定すぐにそれを察した糸乃亜は、変わらない笑顔のまま告げる。

 

 

 

 

 

 

「こーんな、疲弊して腐った世の中ですからねー。人の妬みや憎悪なんて、数え切れない程渦巻いていることでしょう。人を呪わば穴二つ、なんてよく言ったものです。

―――そんな世界に、『呪いなんてない』って言う方が可笑しな話だと思いません?」

 

 

 

「そう、か・・。そうかもしれないな」

 

 

 

 

頭の回転が速い彼女のことだ。伏黒の意図を汲み取った上で、答えたくない質問だったのか。・・あるいは、糸乃亜の中でも明確な返答は決まっていなかったのかもしれない。

さらりと話題を変えてスルーした彼女に、空いた両手を握り締める伏黒。

 

 

 

 

(伏黒side

だけど、俺は―――――)

 

 

 

 

「俺と、糸乃亜の中の善意は違って当然だ。それを否定するつもりはない。だけどな、」

 

 

 

 

 

(伏黒side

もし、糸乃亜。お前が、俺の善意を否定した時は、)

 

 

 

 

伏黒はそっと両手を組み、式神を呼び出す手順を踏む。

 

 

 

 

 

・・・何も、戦う必要はない。

だけどもし、彼女が、己の内に宿す、有り余る呪いを自覚しているのではあれば、その時は。

 

 

 

 

「――――知ってます?恵さん。愛より罪深く、恐ろしい呪いはないそうですよ」

 

 

 

艷やかな唇で弧を描く彼女の足元から、強い呪いの気配が放たれたと同時。

 

 

 

 

糸乃亜の足首をうねる様に移動して胸元まで這い上がり、黒い霧はまとまって、1本の武器へと形を変えていく。

 

 

 

 

黒と緑が混ざったような不思議な青い光を灯し、

 

 

 

『ゴォォォぉ〜』

 

 

 

と唸り声をあげながら霧から現れたのは、淡い青と水色の光―――即ち呪力のオーラを纏わせる、小柄な彼女には不釣り合いの、死神を彷彿とさせるような大きな鎌だった。

 

 

 

「しーちゃ〜ん!」

 

 

 

「なっ、?!」

 

 

 

帳を張っていないこの場で、しかも、一般人が多いこの場で本気で戦うつもりはなかった。・・ただ、時間稼ぎをしつつ戦闘可能なところへ移動するだけが狙いだったのだが。

 

 

 

 

 

 

愛称のようなものを呼ぶと、彼女は背中から大きく鎌を振り下ろし、一線――――。

 

激しい突風と共に呪力を込めた攻撃が放たれ、伏黒は軽々と校庭の隅へとぶっ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

周囲の生徒は何だ、何事だとざわめき、人が集まり始める。呪術師でなければ、呪力すら持たない彼らでは残穢すら見えず、状況の把握なんてできるはずもない。

 

 

 

 

 

 

・・突然現れた巨大なクレーターと、何かで地面を抉られたような跡に、どよめく人々。

 

 

 

 

「ありゃりゃ・・」

 

 

苦い顔で、肩を竦める彼女。

流石にやりすぎた、と後悔するのも遅い。

それでも、今更どうしたって取り付くことはできないのが現実だ。

 

 

 

 

「あはー。これはこれは・・。久しぶり(・・・・)すぎて、感覚鈍りましたかねぇー」

 

 

 

 

ぺろ、と悪びれた様子もなく舌を出しておちゃらけながら、手元でくるりと回した鎌はみるみるうちに縮小して、糸乃亜の手の平に収まる。

鍵くらいの大きさになったそれを、腰に巻き付けたバックにしまい、彼女は急ぎ足で高校を去った。



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04 縁と呪い

 

 

 

 

 一方その頃。

某高校で、そんな騒ぎが起きているだなんて露知らず―――。平和にも、疲労困憊でずっと眠りこけていたとある子供はと言うと・・・。

瞼に差し掛かる明かりに、緩いカーブのかかった藍色の髪だけ外に出して、モゾモゾと布団の中へ顔を埋めていた。

 

 

 

 

 

(☓☓side

眩しいっ・・・。もう、朝?)

 

 

 

 

 

綺麗な刺繍が施され、肌触りの良さそうな毛布は、見るからに高級品。

・・しかし、衣住食が人間の3大欲求と言われる割に、使い込まれた形跡が一切ない新品同様の布団を手繰り寄せながら、子供はぎゅっと眉を瞑る。

 

 

 

 

そしてそのまま、しばらくごろごろと、不規則な時間差で体を左右に回転させた。

こんな調子で、徐々に眠気が覚めるまでゆっくり時間を潰そうとしていた、のだが・・・。

どこぞの犬の遠吠え(・・・・・・・・・)で強制的に起床を催促されてしまい、若干不機嫌な様子で顔を歪めながら、渋々くわーっと大欠伸をする。

 

 

 

―――まだ愛らしい幼さを残す容貌と、華奢な体格から、年は10代そこらだろうか。

 

 

 

 

 

普通に地元の小学生として通っていれば、整った容姿から芸能人としてスカウトされ、顔だけで食べていけそうなくらいのものはある。

 

 

 

 

 

中性的な顔立ちなので、見ようと思えば充分に女の子でも通じそうだが、性別を主張する骨格の作りから、聞かずとも性別が男であることをはっきりさせていた。

 

 

 

思わぬ目覚ましに心地よい快眠の気分を妨げられ、かと言って、今から熟睡することもできず、少年は渋々ながら寝ぼけ眼のまま、顔面を両腕で覆うように強く擦る。

それから大欠伸をして、ゆっくりと起き上がってから潰れたかけ布団を足で蹴り上げれば、その拍子に舞った埃でコホンッと咳が漏れた。

 

 

 

(☓☓side

くそっ。掃除してなかったな?あのバカ・・)

 

 

 

 

心の中で悪態をつきながら、―――いや。そもそも、顔見知りとはいえ、家主に許可なく上がり込んでいる身で文句を言うのは可笑しな話なのだが、のっぺりした布団(・・・・・・・・)を片手でつまみ上げ、乱雑に丸めて敷布団の上に置く。

 

 

 

 

 

・・無難な幸福と言う経験すら覚えの無い彼に、常人(と言っても、多少の贅沢をしたことのある人間に限られるが)なら気付いたであろう仕舞っぱなしの布団(それ)が、どんなに品質の落ちた状態(・・・・・・・・)になっていても気付くはずもなく。

 

 

 

まあでも、育ちや生まれがまるで異なるのは、この世界(呪術か界隈)では割と有りがちだが・・。

 

 

この子供のような件は凡そ特例(・・)であった。

 

 

しかし一方で、彼にとって当たり前だったその日常は、今や、ない方が違和感を感じるくらいの平凡な1つとなっているらしい。

 

 

 

長い間、押入れに仕舞っぱなしの布団の質に気付かないのが、その代表的なものと言えるだろう。

 

 

 

 

 

だが、如何に感覚が狂っている(・・・・・・・・)とは言え、もう分別のつく年だ。

 

 

 

 

一般人が暮らす世界で日常を見ていれば、何かしら気付いて、違和感を改善しようとしてもいいものだろうに。

興味を抱くどころか、どうでもいいとさえ感じさせるのは、育った環境が大きいのかもしれない。

 

 

 

そして、かの子供を預かった身であるここの家主も家主で、彼の事情を知っていながら、一体何を考えているのか。

 

 

助言や後押しがないのは兎も角、まるで他人事のように面倒を見る素振りが見られてこなかった。

自ら世話役を進言したにも関わらず、だ。

 

 

 

 

 

 

双方、それぞれがどうしようもないネジ曲がったモノを抱えているので、どっちもどっちである。

どちらが悪いとか言う以前に、お節介な友人がどんなに気に掛けても、鼻でせせら笑うような彼らなのだ。

 

 

 

故に、『クズ』だの『悪童』だのと散々な言われようと批判を受けてきたものだが、別に人に好まれたいとも思っていない。

 

 

 

所詮、自分は自分、他人は他人だ。

信じられるものは、信じていいものは己だけ。

 

 

 

・・・ずっとずっと、そうやって生きてきた。

 

 

 

 

何にも頼らず、希望も求めずにいたらいつしか、周りには誰もいなかった。

でも、それでいいと思っていた。煩わしい者が居ないほうが、きっと人生は過ごしやすいと。

 

 

 

ーーーーだけど、そんなある日。

 

 

 

 

 

(☓☓side

あのお人好し(・・・・・・)は、今頃何をやってるんだか・・)

 

 

 

 

壁に背中を預けながら、ぼんやりと天井を仰いで見る。

もう、顔も声も、ほとんど覚えていないけれど。

 

 

 

『彼』は確かに、唯一無二と言えるたった一つの光だった。

 

 

 

 

 

 

 別段、何か怒りを買うようなことをしてもいないだろう。

いつもと変わらない、ただ空気のように、代わり映えのない毎日が通り過ぎていく日常のはずだったのに・・。

 

 

 

 

 

何とも運の悪い、というしかないだろう。

 

虫の居所が悪かった阿呆な連中の、下らない憂さ晴らしとしてたまたま目についてしまったらしい。

 

 

 

ある時、買い物帰りのところを待ち伏せされ、囲まれて袋叩きにされていたところを、

 

 

 

『ーーー何やってんだ!君達!!』

 

 

まるで、映画やドラマに出てくるヒーローさながらの台詞を

叫びながら、屋根の上から飛び降りた男は着地と同時に、体重と重力で相手を伸し・・。

 

 

 

唖然として固まるその他は、鋭い回し蹴りやパンチで瞬殺。

 

 

 

その後、険しい顔から一変。

心配するように眉根を寄せた表情で振り向いた彼は、微笑みながら中腰になり、座り込む少年に手を差し出した。

 

 

 

正直、あの頃はやや自暴自棄になっており、他人も自分もどうでも良くなっていた。

 

 

 

勝とうと思えば充分にその実力はあったのだが、敢えてそれをしなかったのだ。

 

 

 

 

けれども、そこに理由なんてない。

痛みも、苦しみも、何も感じなくなる程、無意識のうちに追い詰められていたのかもしれない。

 

 

 

 

どうして助けたのかと、呆けた顔で訝って尋ねれば、『彼』は桃色の癖毛をキラキラと太陽で照らし、邪気のない笑顔で笑った。

 

 

 

 

 

『―――助けるのは当たり前だろ?だって俺達、友達じゃないか!』

 

 

 

『・・は?意味分かんないんだけど。俺達、いつから友達になった訳?』

 

 

 

まず、初対面の相手にそんなことを言われて面食らい、しばし呆けた表情の後、呆れた様子で肩をすくめながら冷たく返す。

 

 

 

斜め上からの、如何にも馬鹿にしたような態度こそ、余計に他人の怒りを買うことだと自覚しているのか、いないのか・・。

 

 

 

 

 

 

全く悪びれた様子のない少年に、彼はキョンとした後。

 

 

 

『フハっ!』

 

 

 

 

と笑いを洩らし、それから、

 

 

『そういえば、自己紹介がまだだったな!』

 

 

と言ってから、徐に手を伸ばす。

それから照れくさそうに温かい表情を崩し、片手はポリポリと頬をかきながら、

 

 

 

 

『ごめんごめん!俺、クラスメートとは仲良くしたくてさ。つい先走っちゃうんだ♪』

 

 

 

 

と言った。

その間も少年は強張った顔で、口を開かず、ただじっと男を見つめる。

・・・すると、彼は何を勘違いしたのか。

 

 

 

 

『そうだ!』

 

 

 

 

と閃いたように明るい笑顔で声を上げるなり、自分の胸ポケットから取り出した、シルバーのスマホを片手に掲げながら唐突に――――――パシャリ!

 

切られたフラッシュに、今度は情報の整理がつかず、目を丸くして固まる。

 

 

 

 

『・・・。何してんの、アンタ』

 

 

 

勝手に取られた、と言うことより、突飛すぎる行動が謎すぎて、もうあしらう為のエネルギーを消費することすら面倒になってきた。

 

 

 

何と言うか、・・・こっちの調子を狂わせる、不思議な男である。

ポカンとする少年に、男はにっこり笑いながら、

 

 

 

『ほら!』

 

 

 

と言ってスマホの画面を見せた。

 

 

 

 

少年を自分の胸の中で包むように、両腕を背中から伸ばして、画面の奥で笑う彼と、年相応の子供らしく驚いた表情をする自分・・。

自分でも初めて見た表情な故、思わずまじまじと見つめていれば、男はこの学校のまま画面を撮影に切り替えた。

 

 

 

それから、大きな声で

 

 

 

『――――はい、チーズ!』

 

 

 

と言った瞬間。

背後から、彼に巻き込まれる形で同級生にどつかれ、転んだ表紙にボタンが押された為画像はブレブレ・・・。

 

 

 

 

『ぎゃはは――!』

 

 

 

と大口を開けて笑う白髪の男に、本気ではないにしても、

 

 

 

『やったなー?!』

 

 

と悪戯っ子のような笑顔で彼は同級生を追いかけ回す。

 

 

 

 

 

以降、気付けば彼を中心に同級生とつるむようになり、毎日屈託なく過ごしてきた。

・・少年にとっての、唯一幸福と言える思い出だった。

“あの事件”が起きるまで(・・・・・)は。

 

 

 

 

血塗れになり、拳を振り上げながら暴れていた彼の姿は、今でも鮮明に覚えている。

いや、忘れたくても、脳裏に焼き付いて離れないのだ。

 

 

 

 

目を半分閉じ、前髪をくしゃりと片手で握りながら溜め息をつく。

 

 

 

 

「馬鹿でしょ、本当・・」

 

 

 

 

ぼそりと呟いてから、少年は、

 

 

 

 

「―――いや。コレは、同族嫌悪(・・・・)かな」

 

 

 

と自嘲気味に笑いを零す。

 

 

 

 

ふと見上げた天井は、綺麗に白塗りされた中に洋風を感じさせる花の模様を刻んでいた。

 

有り余るくらいの金をいいことに、その日の気分で高級ホテルを幾つも泊まり歩くような男が、何を思って新居など購入したのやら・・。

 

 

 

一人暮らしには広すぎるし、しかも二階建てだ。

無駄にだだっ広い、小分けにされたリビングなんて、一体何に使うつもりだったのやら。

 

 

 

おそらく、いつもの気まぐれだろう。

 

 

ぱっと見は綺麗だったので、気まぐれに家政婦か何かは入れていたようだが、見た目に騙されて入ったことを後悔して溜め息をついた。

 

 

 

もう一度欠伸をしながら、カーテンを開こうと窓へ体ごと向けて、そういえば、寝室が暗いままであることに気付く。

 

 

 

 

 

 

そりゃあ、光を遮っていればある程度の暗がりはできるだろうが、にしては漏れる日光の姿すらない。

隙間に指先を入れて、そーっと窓の外へ指を入れながら覗き込んだ彼は、何とも言えない表情で肩を落とした。

 

 

 

 

 

「嘘。まだ夜中じゃん・・」

 

 

 

 

どうやら、太陽と思っていたそれは月明かりだったらしい。

自分でも珍しいくらい、普段よりは割とスムーズに起床できたと少し嬉しい気分だったのだが。

ただの勘違いだと分かり、頭をガリガリと掻く。

 

色々と喧しい家主が不在な為か。

物寂しく感じる部屋をキョロキョロと見回した彼は、ふと、

 

 

 

「・・今、何時だろう」

 

 

 

と呟き、Tシャツにジーンズというラフな格好で寝ていた洋服のまま、階段を一歩降りた瞬間だった。

小気味良いテンポの着信が聞こえ、少し急いで発信源を探す。

 

昨日、疲れた体を引きずって布団を探し回り、その間にも意識は虚ろだったので、内装についての記憶はほとんど吹っ飛んでいた。

 

 

 

音で探せればいいのだが、如何せん部屋が多すぎて、かつ無駄に防音でも設定してあるのか。

僅かな音量ではなかなか特定できず・・。

風呂場、シャワー室もダメ元で探して、音だけを頼りにようやく見つけたのは、まさかの食卓テーブルの上だった。

 

 

 

――――光る画面の表示は、『非通知』。

 

 

顔見知りの人間くらいは、一通り登録してある。

セールスなんて滅多に掛かってこないし、・・いや。来たとしても、一緒に画面に映る時間は、丁度12時半。

 

こんな真夜中に電話する無作法物など、早々いない。但し、約1名を除いては(・・・・・・・・)、だが。

 

 

 

ずっと呼び出し音が鳴り続けるスマホを、うっとおしそうに眺めて、一呼吸置いた後。

 

 

 

「・・はい、」

 

 

 

只今機嫌が悪いです、と全力で伝える声色に、着信相手は的外れとしか言いようのないテンションで答えた。

 

 

 

 

『ーーーーお疲れサマンサー!いやー良かった!!もう寝ちゃったかと思ったよぉー。さーっすが、“夜行性”だよね♪』

 

 

 

 

 

思わず、握り締めたスマホがミシリ―――と嫌な音を立てる。

 

 

少年の“特性”に掛けて、いっそわざとではないのかと疑う、嫌味としか思えない憎たらしいニックネームを呼ぶ男。

・・初めて会った頃から、唯我独尊をそのまま生きるような人間だと思っていた。

 

 

不幸も、悲しみも、人として当たり前に持つ負の感情なんて知らずに育ったと言わんばかりの、理不尽なまでの自画自賛っぷり。

 

 

 

初めは顔を強張らせていたが、電話の向こうでニヤついた表情を思い浮かべ、ゆっくりと唇に笑みを浮かべる。

 

 

 

(☓☓side

――――相変わらず、殺気を沸き立たせる人間だな)

 

 

 

体中の血液が煮立つようにフツフツと上昇し、腕が疼く感覚に、上乗せされた呪力は全身の骨へと伝わって体を小刻みに震わせた。

 

 

 

肉を、血を、人間の体ごと包み込む感情の波―――。

慣れるまで、ただの足枷でしかなかったソレは、今では少年の力を強く押し上げるものの一部だ。

 

 

男は、こうなることを分かっていたのか。

それとも、呼び込んだ結果のことか。

 

 

 

もし携帯電話が壊れても、自分から連絡をとる用件も相手もいないので、こちらにとって大した不便は感じない。

しかし、教師陣や任務の関係者相手からの連絡が来るのであれば話は別だ。

 

 

 

・・・この男に関わるまでは、そんな煩わしいことなど必要なかったのに。

オブラートに包んで言えば、甘い誘惑と、脅しを半々のスカウト。

遠慮せずにぶっちゃければ、弱みを握ったただの誘拐である。

 

 

 

「・・、切るよ」

 

 

 

 

仏頂面でついでに、

 

 

「要件だけ話せ、じゃないともう電話に出ない」

 

 

 

と警告すれば、彼は慌ただしく、

 

 

『あー!!嘘嘘!待った!』

 

 

と叫ぶ。

鼓膜に響く声に、顔を顰めてスマホを耳から離してしばらく待った後。

短い文と一緒に送られてきたのは、1枚の写真だった。

 

 

 

―――古びた封印の札が、何枚もべたべたと被せて貼られている、赤黒く、画面越しでも嫌なモノを感じさせる一本の指。

それを一目見たと同時、こみ上げる吐き気と共に、忌々しい光景が脳裏に浮かび上がった。

 

 

 

見開かれた青色の瞳には、ジクジクと刺すような痛み・・。

硬直して動かない手足はまるで、溶けた皮膚が引き裂かれるような激痛が広がる。

 

 

 

 

そして、耐え難い苦痛のあまり、叫ぶ声すら枯れて、涙と汗で顔がぐちょぐちょになった自分を、震えながら見つめる同い年くらいの子ども達―――。

 

 

 

地獄より酷い拷問は何十日も続き、次々と、冷たい建物の更に深い奥へ連れて行かれたあの子達は、もう、戻って来ることはなく・・・。

 

 

 

『―――、ぐに、ろ、・・丸!、亜―――ッ』

 

 

 

男の焦った声を最後に、気が付くと、消毒の匂いが鼻に付く個室で横になっていた。

体は酷く重たくて、寝たまま首だけを動かせば、薬品の瓶や医療器具が並ぶそこは、どうやら医務室か何からしい。

 

 

おそらく、気を失った後に誰かに運ばれたのだろう。

 

自分以外、誰もいない空間で吐息を洩らし、べたっと額に貼り付く髪を片手で掻き上げる。

利き手の左手は、『暴走』する前兆のせいか。

指先が微かに動くぐらいで、ほとんど機能しなかった。

ピリピリと痺れた痛みに、やれやれと溜め息をつく。

 

 

 

 

(☓☓side

この程度か。この体(・・・)、随分と鈍くなったものだね)

 

 

 

少しずつ戻ってきた意識に、彼は動きづらい体に鞭をうって、ゆっくりと真っ白なベッドから起き上がる。

しかし、まだあまり覚醒しきっていない体は正直だ。

 

麻痺しているように痺れた手が、サラサラのシーツからズルリと滑って、華奢な体は背中から地面へ叩きつけられるように落下した。

 

 

 

「・・ははっ。馬鹿だな、僕は」

 

 

痛みなんて忘れたはずなのに、瞳からは涙が溢れて止まらない。

 

 

 

悲しくも、実験の繰り返しで肉体の苦痛には免疫がついてきたが、彼はまだ10歳を過ぎたばかりの子どもだった。

常人なら既に精神が崩壊しているだろうが、生憎、彼は普通に生まれ育った子供ではない(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

藍色の髪がはらりと頬を滑り落ち、ゆっくりと目を瞑った彼に、同い年か、少し年上くらいの少女が花のような笑顔で問うた。

 

 

 

『ねぇ!もし、此処から遠くへ逃げ出せたら、どこに行きたい?』

 

 

 

もう何十回繰り返されたか知れない、馬鹿みたいなやりとり。

またかと呆れる子供に、彼女はいいからとせがむ。

 

 

 

『行きたいとこなんて、分からないよ。外を知らないというか、何回も何回も、よく飽きないよね』

 

 

 

面倒臭い、と眉を潜める彼に少女は立ち上がり、にこやかに笑いながら、その手を握った。

 

 

『私と✗✗は家族でしょ?一緒に暮らせるのなら、きっとどこだって楽しいよ!』

 

 

 

 

 

だけどその夜、『彼女』は――――――。

 

 

 

 

壊れたビデオテープのように、何千回も延々と巡り続ける記憶と追いかけっこを一旦切り、ゆっくりと瞼を開けた時だ。

キュッキュ、と靴底が擦れる軽い足取りの後、

 

 

「先生ー?開けるよー?」

 

 

 

と、電話で話した『五条』とは違う、若い声―――――口調から彼の生徒で、まだ子供だろう―――――が掛かる。

 

 

 

生徒個人が何か勘違いして部屋を間違えた、それとも、五条が敢えて、そうやって対面させようとしているのか・・。

 

 

 

涙を袖で拭ってからむくりと起き上がって、振り向き、ひょっこり顔を出した人物を迎え入れる。

・・体の中に呪い(歪なもの)を宿しているようだが、入った動きは素人のもので、警戒なんてあったもんじゃない。

それどころか、目があった子どもに、悠仁は普通に驚いて声を上げた。

 

 

 

「うぇっ、何?!子ども・・・!?――――まさか先生の、じゃないよなー」

 

 

 

なんて、手足をばたつかせた奇妙な動きとオーバーなリアクションをとり、一人で忙しなくノリツッコミを始める少年。

そこへ、ようやく待ち人が登場した。

 

 

 

「やぁ!待った?」

 

 

陽気に手を上げて、いつもの嘘臭い笑みを浮かべながらこちらへ近付いてくる。

 

 

 

「あ。先生!いや、大して待ってないけど。てか、びっくりしたじゃん!何?ドッキリ?!」

 

 

 

オーバーな身振り手振りをする子供はどこか五条と似ており

、五条もそれを楽しんでいるようで、まるで同い年の子供が話すように話題に花が履き始める。

 

盛り上がる二人をジトリと眺めていたが、流石に痺れを切らし、

 

 

 

「ねぇ、僕はいつまで待てばいいのさ」

 

 

と低く抑揚のない声色で話しかければ、悪びれる様子もなく五条が両手を広げる。

 

 

 

「あー。そうそう!」

 

 

 

それから、ちゃっかりとこちらの肩に腕をかけて、馴れ馴れしく密着しながら双方の自己紹介が始まった。

 

 

 

「はーいご注目!こちら、僕の弟の―――」

 

「弟?!」

 

 

 

似ても似つかないので、義理の、を除外するならばすぐに嘘だと分かりそうなものなのだが・・。

厭にこの少年は純粋というか。

 

だが、ちゃんと冷静に物事を考える程度の知恵はあるようで、

目を剥いてジロジロと交互に見る素振りは、真偽を見極めようとしているようだ。

 

 

 

見え透いた嘘に辟易として、子供は脇腹を肘で小突きながら、露骨に嫌そうな顔を作って反論した。

 

 

 

「いい加減うっとおしいし、嘘つくなよ。君の家族だなんて、僕は御免だね」

 

「えー。似たようなもんじゃなーい?ほらほらー、一緒に背中流しっこしたじゃん♪」

 

 

 

 

 

いい年して、語尾にハートマークでも付けそうな甘ったるい声に、等々苦虫を噛み潰したような表情で、

 

 

 

 

「してないよ。だから嫌われるんじゃないの?君」

 

 

 

と毒を吐く。

 

 

 

 

見知った人間であれば、またやってるよと呆れるような、テンポよく繰り広げられるコントのような会話。

・・勿論、予習なんてしていない。

皮肉にも、長い付き合いをしていれば、大概の者は簡単に身に付ける対応だろう。

 

自然と会得したスキルなので、嬉しくはないけれども・・。

 

 

 

 

「えっと、つまり・・・?」

 

 

 

 

やや戸惑う様子の彼に、仏頂面で五条の足を踏み、苦悶して悶えている隙に、渋々だが五条の代わりとして対応した。

 

 

 

「―――唖珠欄丸(あしゅらまる)

。この馬鹿は、僕をそう呼んでる(・・・・・・ )。一応、僕の監視役さ。・・・ところでアンタ、いつからそういう趣味(・・・・・・)になった訳?」

 

 

苦虫を噛み潰したような表情で肩を竦める子供に、五条は何を考えたのかニヤリと笑う。

 

 

 

「嫌だなぁ。唖珠欄丸ってば、どんな趣向してんのー?」

 

 

 

口元に手を当てて、キャッキャと笑いながら、一体いつの時代かとツッコミたくなるような、子ギャル風に煽ってくる教師。

若干引いている悠仁は、何とも言えない顔で口を真一文字に結び、無言で様子を伺っていた。

 

 

 

 

信頼と信用はされても、尊敬こそ抱かれない所以がここにあるというわかりやすい例である。

 

 

 

煽ることしか知らないこの男にも、『同族嫌悪』という皮肉が込められた言葉の意味は伝わってるはずだ。

 

無論、何も知らない、非術師だったと思われる子供の前で、おいそれと情報を漏らすことはしないだろうという計算をしての発言。

 

 

 

別に、気を使った訳ではない。

 

ただ単に、おいそれと語れない事情を知る、この男に対する嫌がらせだ。

 

 

 

 

だが、唖珠欄丸も馬鹿ではない。

何を言っても響かない男に、これ以上の挑発は時間の無駄だと諦め、ただ深々と溜め息だけついた後。

 

目をパチクリさせて固まっている悠仁へ向き直った。

 

 

 

 

 

すると、すっかり蚊帳の外だった悠仁は我に返り、

無言でじっと見つめてくる、『亜朱欄丸』と名乗った子どもーーー悠仁より5つは離れているだろうかーーーは、ふわふわした髪を背中に流しながら目の前までゆっくり歩み寄って来る。

 

 

三白眼の瞳と、片目だけ髪に隠れた、深い真っ赤な瞳がお互いを写し込む。

 

 

 

吸い込まれるような目に、冷や汗をかきながら悠仁が固まっていると、唖珠欄丸はニヤリと笑いながら、

 

 

 

 

 

「君と五条の関係から察するに、高専生?―――でも、呪力が随分と雑だな。動きも戦闘慣れしてないし。・・なるほど。これから入学するのか」

 

 

 

 

と、自分の唇をそっと撫でながら、確信した風に告げた。

 

 

 

 

「え、分かんの?!すげー!」

 

 

 

 

・・つい数秒前まで緊張していた様子は何処へやら。

興奮してキラキラと目を輝かせる悠仁に、それまで黙って2人を見つめてい五条はにっと笑い、パン!と手を打った。

 

 

「いいね!青春芽生えそうじゃない?!いやー!やっぱり紹介して良かったー!」

 

「んぇ?どういうこと?」

 

 

 

 

やっぱり意図的だったのかと思って睨み付ける煽ることしか珠欄丸に、五条は笑みを崩さず、片手の人差し指を立てながらこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「唖珠欄丸!今日から君、先輩として悠仁を鍛えてね!」

 

 

 

 

 

「は、?」

 

 

 

 

 

 

鼻歌すら歌いそうなご機嫌の彼に、煽ることしか珠欄丸は一気に不機嫌な顔になり、悠仁の中の宿儺はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 





キャラクターに関するアンケートです
良ければ参加して下さい



唖珠欄丸の等級について。

①2級

➁虎杖悠仁のような例外で等級なし

➂特級


➁唖珠欄丸の術式と武器はどんなもの?

①素手
相手に直接呪力を流し、操る


➁弓矢
呪力を込めて、放った矢は分裂し、抹殺対象を祓うまで追い続ける


➂短剣
接近戦タイプで、切り付けた場所から呪力を吸い取っていく


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