鉄血のオルフェンズ 次元を超えし出会い (五月雨☆。.:*・゜)
しおりを挟む

登場人物

鉄血のオルフェンズの小説は初めて書きますのでよろしくお願い致します。


2人の容姿は書いておきますがイナズマイレブンギャラクシーで調べてください。

 

 

 

 

名前:カエデ・ビットウェイ・オズロック

 

 

性別:男

 

 

年齢:19(オルガ達より2つ歳上)

 

 

容姿:真っ白い肌色で、瞳は黄緑色。

二本の触手のようなものが生えた髪型で、髪色は濃い緑色。

 

 

操縦機体:ナイトメア(ダンボール戦機仙道ダイキの愛機をお借りしました。)

基本武器はハンマー、銃。

カラーリングは黒、紫などを使っている。

ナイトメアの説明↓

ジョーカーの後継機として開発された機体で、魔術師の格好をしているがトリッキーな動きで相手を翻弄する戦い方と得意とする。

単機で分身を生み出すほどの高い機動力に加え、パワー出力も最大限まで高められており、その機動力はハンマーなどの大型武器を装備してもなお損なわれない。

 

 

必殺ファンクション↓(ダンボール戦機からお借りしました。)

ハンマー:デスサイズハリケーン

:Ωエクスプロージョン

片手銃:レインバレット

 

 

 

化身↓(イナズマイレブンからお借りしました。)

暗黒神ダークエクソダス

 

 

備考:元々は違う次元の世界の人間で自分の故郷である惑星イクサルが滅ぼされた原因であるファラム・オービアスに復讐する為に宇宙を巻き込んだ"グランドセレクタ・ギャラクシー"を開催した張本人。

 

 

最終的には負けたのだがファラムの兵士に参謀諸共に銃殺され火星に全ての記憶を持ってスラム街に転生して名前がカエデだけだったので前世の名を付けることにした。

 

 

スラム街で参謀と再開しCGSに入るが阿頼耶識システムを4つ入れることになり一軍に所属となるが主な仕事はCGSの書類仕事と3番組の教官になる。

一軍からは嫌われ3番組には兄と慕われている。

必殺ファンクションを発動するSSの十字架ペンダントを付けている。

 

 

今の所は此処まで…。

 

 

 

 

名前:イシガシ・ゴーラム

 

 

性別:男(女に見えるが男である)

 

 

年齢:19(オルガ達より2つ歳上)

 

 

容姿:中性的な顔立ちで肩にかかる程の青いセミロングの髪に、瞳は緑色で肌の色は肌色と言うよりやや灰色寄り。

表情に乏しく常に無表情である。

 

 

操縦機体:ジョーカー(ダンボール戦機仙道ダイキの愛機ををお借りしました。)

基本武器は大鎌。

カラーリングは黒一択。

ジョーカー説明↓

「トランプのジョーカー」を彷彿とさせる道化師の様な外見が特徴の機体。

高い機動力を持ちかつトリッキーな動きで相手を翻弄する戦い方を得意とする。

 

 

必殺ファンクション↓(ダンボール戦機からお借りしました。)

ハンマー:デスサイズハリケーン

片手銃:レインバレット

 

 

備考:カエデに付き従う忠実な部下の男。

その正体は前世でカエデと同様、惑星イクサルの生き残りであり故郷を滅ぼしたファラム・オービアスに復讐し宇宙を征服するために"グランドセレスタ・ギャラクシー"を仕組んだ。

 

 

最終的には負けたのだがファラムの兵士にイクサルのリーダーであるカエデ諸共に銃殺され火星に全ての記憶を持ってスラム街に転生した。

 

 

スラム街でリーダーであるカエデと再開しCGSに入るが阿頼耶識システムを三日月と同じ3つ入れることになり一軍に所属となるが主な仕事はCGSの食事担当と3番組の教官になる。

一軍からはカエデ同様に嫌われ3番組には兄と慕われている。

必殺ファンクションを発動するSSの十字架ペンダントを付けている。

 

 

今の所は此処まで…。




誤字脱字は報告お願い致しますが荒らしなどは辞めてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

CGS編
全てが始まった日


 

 

雨が降らない荒野のような不毛な大地。

野生動物による激しい生存競争など行える程の自然もない荒れている大地の上で激しく土煙をかき鳴らしながら走りぬけながら打ち合いをしているものがある。

 

 

モビルワーカーと呼ばれる兵器である。

三本足のローラーを駆使しながら地形に合わせるような激しい動きをしながら砲等を動かし目の前の敵目掛けてペイント弾を発射する。

 

 

その一発がローラー部分に命中し地面に擦り付けるように車体を落とすMWの中の少年が毒づく。

直後にそれらを見守るようにしている1人のまだ成人してはいない少年が通信機を使いながらまだ残っているMW全機に呼びかけた。

 

 

「シノ、アウトです。頑張らないと何時までもあの子達には勝てませんよ。」

 

 

 

『んなこと言ったって、あいつらめちゃくちゃ反応いいんすよ!?』

 

 

 

「その位考慮して撃った方がいいですよ。本日のお昼ご飯争奪MWの優勝者には特盛りとお味噌汁のお代わり付きです。頑張りなさい。」

 

 

MWの操縦技術向上の為の模擬戦を見守るセミロングの1人の少年は、通信機越しに鋭いが優しい声を響かせた。

操縦している少年達の耳に響いてくるだけではなくそれによって知らされたこの模擬戦での優秀者に送られる食事の特典という素晴らしい商品の事がより彼らの意欲を刺激して行った。

 

 

『うおおおお!今日こそイシガシ兄さん美味いあの料理は俺のもんだ!!それに特盛りと味噌汁ありだぜ!?俺が貰った!!』

 

 

『いいや!今度こそ俺が貰うぜ!!三日月!!今日こそ特盛りと味噌汁は俺が貰うからな!!』

 

 

『今日も俺が貰うんだ!イシガシ兄さんの料理は美味いからね。』

 

 

「全く貪欲な少年達ですね…」

 

 

イシガシは通信機を切り模擬戦を見守っていた。

前世は故郷を滅ぼされて復讐を誓い戦い負けて敬愛する"あの方"諸共処刑された。

自分の最後を覚えてないと言うのは一瞬で死んだのだろう苦しみも無く痛みも無く死んだのだろが残して来た仲間たちは無事なのだろうか?

 

 

私とあの方は兵士に撃たれて死んだがあの幼き女王の事だ。

仲間達を私達のように存在抹消の刑にならないと思いますがね。

おそらくだがファラムの政治の手伝いだろうと思うが…そうこうしてるうちにMWのお昼ご飯争奪戦は終わったようだ。

聞いた話では最終的に昭弘と三日月の2人が残ったが、三日月が勝者となり本日のお昼ご飯争奪戦が終了したそうですね。

 

 

「三日月、美味しいですか?」

 

 

「イシガシ兄さんの料理は何時も美味しいよ、もっと食いたいな」

 

 

「お代わりしますか?」

 

 

「うん」

 

 

勝者の特権を活用して本日のお昼ご飯を食い尽くしていく三日月。

大きなどんぶりに盛られた特盛りの食事を周囲の少年達は羨ましそうに見つめつつも次こそはと執念を燃やしたりしている少年達もいる。

 

 

私がどんぶりとにご飯を盛ってやってくると三日月は再びお昼ご飯に集中し始める。

それを見守るのは、このクリュセ・ガード・セキュリティ(訳してCGS)の一軍で19歳の少年社員であり、少年達が所属する3番組の教官をしてもう1人一軍に入っている少年社員の部下であり秘書をしてこの会社に入る為に阿頼耶識システムを3っ入れている"イシガシ・ゴーラム"だ。

 

 

それにイシガシ本人ともう1人の少年社員の能力も極めて高い。

2人は射撃に至っては誰も敵わずライフルを持たせれば百発百中で走りながらの射撃でも異常なまでの命中率を叩き出しているらしい。

 

 

「なあ兄貴、如何したら三日月に勝てんだよ。ずっと俺達負けっぱなしだぜ」

 

 

「三日月は基本的に独りだから、他の子達と話して集団で襲い掛かる…それが1番でしょうか?」

 

 

「やっぱりか~……俺1人で勝ちてぇんだけどなぁ…」

 

 

「昭弘の操作技術も凄いですけど三日月の操作技術もそれ以上ですからね」

 

 

「でもイシガシ兄さんよりは全然だろう?」

 

 

「私なんかよりカエデ様の方が強いですよ。操作技術は私より上ですからね。シノ、悔しいなら私が頭を撫でますか?」

 

 

「い、いらねえよ!!」

 

 

イシガシと此処には居ないもう1人は、未成年の非正規部隊の3番組の少年達にも大人気である。

子供、自分達をガス抜きで虐待するような一軍屑野郎達と違って筋を通した事をする大人だからである。

訓練は虐めの要素が一切ない確りとした物、体罰などはせずに口頭で注意しつつ慰めてくれる。

 

 

日も落ちた夜、イシガシは自分の命を預けたその人をCGS唯一様付けを付けている人の元に向かっていた。

 

 

「失礼致します。カエデ様」

 

 

「何か一軍屑野郎共がやったのか?」

 

 

「いえ、書類仕事のお手伝いをと思いまして…」

 

 

彼の名はカエデ・ビットウェイ・オズロック。

イシガシと共に故郷の復讐をしたが兵士に銃殺されたイシガシのもう1人の仲間だ。

一軍では書類仕事が専門になっているが量が多いのが特徴だ。

 

 

「はあ、この書類は社長が本来やるべきものだがあの社長は高みの見物か…」

 

 

「えぇ、この書類も自分がやったと言うつもりでしょう。あの社長がやりそうな事ですね。」

 

 

「戦場だと最初に逃げるだろうな。ところで例のお嬢様の話と例のアレの整備は大丈夫か?イシガシ」

 

 

「はい、整備もお嬢様の動きも万全ですので御安心を…。」

 

 

「そうか、ありがとうな。イシガシお前のお陰で多かった書類仕事が終わった。」

 

 

「いえ、お茶を御用意致しましたのでお飲み下さい。」

 

 

「あぁ、部屋に戻っていい。」

 

 

「では、失礼致しました。おやすみなさいませ、カエデ様」

 

 

イシガシはカエデと共に書類仕事終えて廊下に出ると身体を伸ばした。

一軍であり教官という役職はカエデと同様に何かと仕事が多いだけではなく、何かと此方を敵視というかゴミのように見てくる一軍から来る嫌がらせのような物まで処理させられている。

 

 

「(その目、気に入らないですね。まぁ、私とカエデ様はヒューマンデブリから一軍に上がったのですから気に入らないのでしょうね…まぁ構いませんけど…)」

 

 

ハッキリ言って今の一軍の方がよっぽど邪魔だ。

サボりは当たり前で書類仕事はカエデに投げやりで少年達をガス抜きと言いつつ暴行する腐った人間達だ。

 

 

イシガシとカエデはそれを発見すると直ぐに止めに入ったり逆に殴り飛ばしたり経理のデータにこっそりと侵入して殴った一軍の給与から治療費をせしめたりしていた。

 

 

「(相手だって汚い手を使うなら私達も同じようなことしても良いでしょう?)」

 

 

イシガシは誰も居ない廊下で不敵に笑うその時声が聞こえた。

 

 

「こんな所で何してるんですか?教官、いやイシガシの兄貴。」

 

 

「おや、オルガ。いえたった今カエデ様と一軍と会社の書類仕事を終えていまから部屋に戻る所ですよ。」

 

 

声がした方には浅黒い肌をした少年がいた。

3番組のリーダーであるオルガ・イツカ。

どうやら社長が持って来た仕事を彼ら3番組に持って来たのだ。

地球へ行く仕事で使うMWの点検作業の手伝いをおやっさんとやって今終わって来たようだ。

 

 

「そっちも終わりですか?オルガ。明日には例の仕事のお嬢様がくるのでしょう?」

 

 

「あぁ、だから今日中にMWの整備をおやっさんと終わらせたんだよ。イシガシの兄貴とカエデの兄貴は来れねぇんだろ?」

 

 

「本当は行きたいのですが社長に止められてましてね…。それ程に私とカエデ様を手放したくないのでしょう。阿頼耶識システムを搭載して19歳の少年社員だけど3番組では無く一応は一軍の所属って事になってますからね。」

 

 

明日、3番組は大きな仕事を持ち込んだご令嬢と対面する。

この火星では今独立への機運が高まっている。

その中心に立っているとも言える人物が明日CGSに来るご令嬢、クーデリア・藍那・バーンスタイン。

彼女を護衛しながらオルガ達3番組は地球へと向かうのだ。

 

 

「まぁ、俺は取り合えず出来る事をやるさ、イシガシの兄貴とカエデの兄貴に教えて貰った事を存分に活かしてやるよ。」

 

 

「そうしてくれるとこちらも教えた甲斐がありましたね。」

 

 

「何時も疑問に思うんだけど、イシガシの兄貴とカエデの兄貴だけが通れるこの扉。この先に何があんだ?」

 

 

オルガは首を傾げるがイシガシは不敵に笑う。

 

 

「フフッ…知りたいですか?そうですね私とカエデ様の宝物ですね。貴方達が無事に地球から帰ってきたら教えて上げますかカエデ様に交渉してみましょうか?」

 

 

「カエデの兄貴が許可出すのかよ?」

 

 

「フフッ、カエデ様も3番組の皆さんには甘いですからね。許可を出すと思いますよ。」

 

 

「本当か?その話忘れんなよ?イシガシの兄貴!!」

 

 

「えぇ、必ず約束です。オルガ」

 

 

イシガシとオルガは絶対に帰ってくるという約束を立てて2人は別れてそれぞれの寝床へと向かう。

あの扉の先にある宝物はイシガシとカエデが転生した時に見つけた物だ。

いつか彼等に見せれる時が来る事を願っていた……がそれは唐突に訪れたんだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲撃






 

 

翌日の夜遅く、カエデ様との書類仕事を終えたイシガシは部屋に戻ろうとしていた時に鳴り響いたサイレンと警報。

 

 

敵襲を知らせるそれを聞き、急いで外へと飛び出した。

空から落ちてくる光は次々と落ちては爆発と土煙を上げている。

こちらが出来ないような贅沢な絨毯爆撃をしてくる。

余程出撃をして来た軍隊は羽振りが良いらしい、その2割で良いから此方に欲しいと思いつつ通信機を取ると既に出動しているMW全機に繋いだ。

 

 

「皆さん、聞こえてますか?イシガシ・ゴーラムです。遠距離射撃で牽制しつつ相手を確認して下さい、無理は禁物ですからね。

三日月と昭弘はタイミングを見計らって飛び込み相手を引っ掻き回して下さい。直ぐにオルガも直ぐに来ます。あと少し耐えて下さい!」

 

 

『了解!!兄さん/兄貴!!』

 

 

少しうろたえていた3番組の少年達は、イシガシの指示が入ると一斉に顔が引き締まっていく。

一軍だけど信頼を置けているイシガシの指示を受けて少年達の顔に生気が吹き込まれていきすぐさま対処と攻撃が開始されていた。

 

 

そして確認された敵戦力がこの火星を支配していると言ってもいいギャラルホルンだと分かるとイシガシは顔を顰めた。

 

 

「(ギャラルホルン、彼等もファラムと同様に腐っているのか…戦争いや侵略と言うのか…まともな奴は居ないのか…ギリッ)」

 

 

イシガシは顔を歪ませて納得したくないが認めたくもない。

地球で絶対的な武力を以て武力を制す世界平和維持の為の暴力装置であるギャラルホルンならこんな豪勢な攻撃が出来る筈だ。

 

 

「(奴らの狙いはクーデリア・藍那・バーンスタインでしょう。しかし…彼女を捕まえる為に何故こんなにも大勢いるんですか…。)」

 

 

「イシガシの兄貴、遅れてすまねぇ!!此処からは俺が3番組の指示に入る!!」

 

 

「えぇ、此処はお願い致します。オルガ、してもギャラルホルンだとは…面倒ですね…」

 

 

その時、イシガシの耳に付けている青色のイヤーカフが光る。

このイヤーカフは通信機にもなっていてこの通信機を使う者はイシガシ以外には1人しか居ない。

そしてイヤーカフを触り画面を観続けるオルガ達を横目に心の中でその相手とテレパシーを会話する。

 

 

「(カエデ様、どうか致しましたか?)」

 

 

「(イシガシ、例のアレを出撃させる。オペレーターとして使われて居ない部屋で出撃準備に頼む)」

 

 

「(かしこまりました。お任せ下さいませ。カエデ様)オルガ、此処は任せますよ。」

 

 

「わかった。任せてくれ!」

 

 

オルガの返事を聞いてイシガシはこの場の指揮をオルガに一任すると駆け出していった。

オルガは3番組のリーダーとして3番組の戦力や強みを完璧に把握していからこそ団員達とも信頼が厚い彼になら此処は任せられる。

 

 

イシガシはそのまま使われなくなった部屋に着くと椅子に座りイヤーカフを触りながら現在火星で手に入れられるオペレーターの機材に電源を入れてカエデに通信しながら返答を待っていた。

 

 

その頃カエデは、昨日の夜イシガシがオルガと出くわした扉へと来るとパスワードを入力し中に飛び込む。

ライトが無い為に暗闇ではあるが、イクサル人には暗闇などは関係ない。

歩いていきカエデは目的地でスイッチを押すと内部の照明が付けられた。

 

 

そして照明に照らし出されるように魔術師が映し出された。

滑らかな装甲は黒く美しい光を放ちながら確固たる力を保持し続けていた。

 

 

カエデはそんな魔術師へとリフトを使って乗り込むと電源を入れると臨時のオペレーター室にいるイシガシの画像がコンクピットに映し出された。

リアクターが稼動し各部にカエデの持つエネルギーが魔術師に供給されていく。

静かな駆動音を掻き均しながらもそれは徐々に高まっていく。

そして魔術師の両目に光が灯った。

 

 

「イシガシ、タイミングを頼むぞ。」

 

 

「はい、かしこまりました。カエデ様」

 

 

カエデは両手のステックのスイッチを押すと機体の各部に繋がっていたケーブルが排除されていくと同時に機体頭上の隔壁が開いていった。

間違い無くイシガシのハッキングだろう。

そしてまるで魔術師は長い時間の出撃を喜んで居るのかも知れない。

 

 

「カエデ様、2番ゲートからの出撃の準備が完了致しました。いつでもどうぞ。」

 

 

「流石だな、イシガシ。カエデ・ビットウェイ・オズロック。ナイトメア、ギャラルホルンの奴らに悪夢を魅せてやれ!!」

 

 

スロットルを押し込みながらペダルを踏み込むと軽く膝を曲げながらジャンプするようにしながらカエデと愛機のナイトメアは一気に加速し通路を付き進んでいく。

直線の通路だが途中道が閉ざされていたが爆撃によって歪んでしまった為に開かなかった隔壁のようだがそんな事で自分は止まらない止まる訳には行かないのだ。

初めて出来た弟分達を見殺しには出来ない。

前世は人の命などはどうでもよかったがこの人生では無駄な犠牲は出したくは無いとカエデは思っていたのだ。

 

 

大切な弟分達、3番組を救うためにカエデとイシガシは道無き道を歩んで行くのだから。

所持していた杖型のハンマーに小さな光が集まり徐々に巨大な光なって一気に放つと歪んでいた隔壁は吹き飛び鈍く光を放っている空が見えると一気にナイトメアは高い機動力で加速し外に躍り出た。

 

 

「な、何だあれ!?」

 

 

「なんか飛び出して来た!?」

 

 

MWの中や補給を行っている少年達から声が漏れた。

空に躍り出たナイトメアは手に持っていた杖型のハンマーを背中に戻してまた背中に背負っていた銃をぐるぐると回してそれが止まると同時に先程登場したナイトメアに攻撃を仕掛けてきたギャラルホルンのMS、グレイズに向かって発砲した。

 

 

グレイズは銃弾を頭部に食らってよろめいて膝を突くがこちらを確認すると銃をMWに乗った子供達にに向けて撃って来た。

 

 

「(馬鹿者が、そんなものでナイトメアがやられるわけが無いだろう。)」

 

 

「やめろ!!そこには俺達の仲間が!!」

 

 

『よせ!ダンジ下がれ!!』

 

 

もう一体のグレイズは接近をしてしてきたダンジのMWをもっているライフルで破壊しようと砲塔を向けていた。

 

 

『ダンジ!!』

 

 

ノルバ・シノが叫んだ時、黒い機体が飛んできてグレイズのライフルを杖型のハンマーで投げ飛ばし遠くから撃ってきた弾丸を杖型のハンマーで回しながら弾丸を防いだ。

ダンジはすぐに後退をして命からがら助かった。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

「あの機体はなんだ!?」

 

 

オルガ達はいったいどこから攻撃が来たんだと思い見ているとグレイズに接触して蹴りを入れる黒い機体が現れた。

右手に持っている杖型のハンマーで放ったであろう攻撃で相手の武器を壊され蹴り倒されたグレイズに右手に持っていた杖型のハンマーでコクピットを殴りグレイズは動かなくなった。

二機のグレイズは突然として現れた黒い機体に驚いていた。

 

 

『そんな・・・・・・オーリス隊長がやられた。』

 

 

「・・・・・・オーリス・・・・・・アイン、お前は援護をしろ!!」

 

 

『りょ、了解です!!』

 

 

クランク・ゼントは部下であるアイン・ダルトンに援護をするように指示を出して自身はアックスで黒い機体に振り下ろす。

黒い機体はその高い機動力で瞬時に後ろに下がり杖型のハンマーを背中に戻してまた背中に隠していた2つの銃を抜いてグレイズに放った。

 

 

「く!!」

 

 

『クランク二尉!!ってなんだ!?』

 

 

アインは援護をしようとした時メイスが飛んできて自身の機体の右手が吹き飛ばされた。

 

 

「アイン!!」

 

 

クランクは一体何が起こったとみると基地の方から上空に飛びアインが搭乗をするグレイズを蹴り飛ばした白い機体が降りたった。

機体名はガンダムバルバトス・・・・・・搭乗をしているのは三日月・オーガスである。

彼は投げ飛ばしたメイスを拾ってアインが搭乗をするグレイズに構えている。

 

 

「(あれがソロモンの72柱の1つ、ガンダム・バルバトスか…)」

 

 

『おのれ・・・・・・』

 

 

アインは左手に持っているアックスで攻撃をする。

三日月はバルバトスのメイスで彼が振り下ろしたアックスを受け止めてから蹴りを入れてスラスターを起動させてある場所に向かう。

 

 

『何処に・・・・・・あれは撤退中の我が軍のMW部隊!!』

 

 

三日月が乗ったバルバトスはそちらに行きMW部隊を蹴散らした。

クランクは二機もこの基地にはMSがあるとは聞いていない。

 

 

だからこそ今相手をしている敵に今の自分たちでは勝てないと判断をして黒い機体に蹴りを入れてアインを助けるためにバルバトスにタックルをしてアインを回収をした。

 

 

「逃がすとでも思うの?」

 

 

「そこまでだ、三日月。相手のギャラルホルンは撤退をしている追い駆けても無駄だ。」

 

 

「その声…カエデ兄さん?」

 

 

バルバトスは黒い機体の方を見ていた。

3番隊のオルガ達もあの機体から自身らが慕っている兄のような人の声が聞こえてきたので驚いている。

彼らは帰投をして黒い機体も共に帰投をして膝をついて胸部のコクピットが開いた。

そこから縄を使って降り立つ少年、カエデ・ビットウェイ・オズロックが降り出来た。

 

 

「カエデの兄貴!何だよその機体てかMSは!?」

 

 

「この間、イシガシと話していただろう。私とイシガシの宝物であり私の愛機、ナイトメアだ。装備によって接近をして攻撃をしたり銃で攻撃したり出来る機体だ。」

 

 

『それに、三日月も大活躍でしたよ。休んで下さいね』

 

 

「イシガシ兄さんも居たんだ…うん…」

 

 

三日月は兄さん達の言葉にそんな嬉しさとは真逆にMS、バルバトスから受ける情報量の多さに三日月はいい加減に限界を迎えようとしていた。

そしてそんな2人の兄から"休んで良い"という言葉を受けると同時に三日月は意識を手放した。

 

 

「…お疲れ様、三日月。(イシガシ、ナイトメアを格納庫に収納してくれ)」

 

 

「(はい、かしこまりました。カエデ様)」

 

 

戦闘が終了しみんなが思わず身体から抜いてしまった時、皆の前にナイトメアが降り立った。

オルガからあれにはカエデが乗っているという通達があったが、本当なのか半信半疑だったのだ。

 

 

見た事もない未知の機体に思うのは命を助けてくれた恩義と未知という響きから来る恐怖心だったが、コクピットから縄のような物を掴んで降りてくるカエデの姿を見るとみんなは心から安心して幼い子達はカエデ駆け寄って来た。

 

 

「カエデ兄さん、本当にカエデ兄さんだ!!」

 

 

「オルガさんの言うとおりだったんだ!!」

 

 

「すっげえよ!これに乗ってたの兄さんだったんだ!」

 

 

カエデは幼い子供達の頭を撫ぜるがシノは羨ましそうにした。

 

 

「頭を撫ぜて欲しいのか?シノ」

 

 

「そ、そんな訳!」

 

 

しかし、シノは頭を撫ぜられる感覚がした。

シノはおそるおそる自分の後ろを見るとイシガシがいて彼の頭を撫ぜていた。

 

 

「良く頑張ったな、みんな。お前達が奮闘をしてくれたからこの基地を守ることができたんだ。私とイシガシはお前達を誇り思うぞ。イシガシ、一旦シノの頭を撫ぜるのは辞めて負傷者の収容と治療、MWの回収を始めるように指示を飛ばす。それから時間があればナイトメアの整備を頼んだ。バルバトスもおやっさんとやってくれ。」

 

 

「はい、カエデ様。」

 

 

「私は負傷者達の治療に当たる。頼んだぞ…」

 

 

カエデはそのまま負傷者の手当に向かう。

その時、オルガ達3番組は何かを話していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クーデターと決闘の始まり

 

 

カエデが負傷者の治療に専念してイシガシはカエデの補佐とナイトメアとバルバトスの整備に向かうって倉庫から居なくなった時にオルガは話を切り出した。

 

 

「イシガシの兄貴とカエデの兄貴が居たから俺達は此処まで生きれたんだなって思うのさ…良し今決めた。

ユージン、ビスケット…このままじゃ俺達は殺されてしまうのは事実。なら俺達でCGSを乗っ取っちまおうぜ。」

 

 

「な!!オルガ本気かよ。」

 

 

「あぁ俺は本気だ。一軍の奴らはおそらく腹いせで俺達を殴ってくるのは間違いない。

このまま黙っていてやられるだけの俺達じゃない。

 

 

だからこそクーデターを起こす。

それにマルバの野郎は逃げだして此処にはいない。

なら一軍の奴らさえどうにかしたらな。」

 

 

「なるほどね、カエデ兄さんとイシガシ兄さんにはこれは伝えるか?」

 

 

ビスケットの問いにオルガは首を横に振る。

 

 

「いや、兄貴達には言わずに俺達だけでやる。ビスケット、一軍のご飯の中に痺れ薬を入れておいてほしい。あっ、兄貴達には入れんなよ。」

 

 

「わかった。やるなら今晩だね?」

 

 

「そうだ、昭弘とミカにも協力をしてもらうさ。今晩やるぞ!!」

 

 

そして夜、オルガ達はCGS基地の使われてない倉庫に向かって歩いていた。

その頃、とある一室では…。

 

 

「カエデ様、始まったようですよ。行きますか?」

 

 

「あぁ、行こうか、今までのこの仕打ちに耐えて来たんだから3番組にはご褒美をやらなければな。変わりに一軍屑野郎達には絶望へとご案内しようか。」

 

 

カエデは懐に拳銃を持って立ち上がりイシガシはその少し後ろに付いて2人は3番組と一軍屑野郎達がいる倉庫に向かった。

その頃オルガ達は…。

 

 

「此処にあいつらを収監させたの?」

 

 

「あぁ、兄貴達とは別にあいつらのご飯だけに睡眠薬を入れておいたからな、さーて、行くぞお前ら。」

 

 

中へ入り一軍の人物たちがオルガ達を見ていた。

オルガは一軍は全員いるのを確認をしてから挨拶をする。

 

 

「おはようございます。一軍の皆さん。薬入りの飯の味はいかがでしたか?」

 

 

「ガキ共これは何の真似だ!!」

 

 

「まぁ、はっきりさせたいんですよ。誰が此処の一番かって事をね」

 

 

「ガキ共!貴様ら一体誰を相手にしてると・・・・・・」

 

 

その時、部屋に鋭い声が響いた。

 

 

「ろくな指揮も執れない人間が何を言っているだろうな。貴様らが会社の金を横領をして彼等に渡さなかったり、腹いせに幼い子供達を殴ったり、その金を使って飲みに行ったりしているのもすでに私とイシガシは把握をしている」

 

 

「カ、カエデ・ビットウェイ・オズロックそれにイシガシ・ゴーラム!!てめぇもガキ共を…そうかてめぇがこいつらを!!」

 

 

「残念ながら答えはNOと言います。……このクーデター自体は彼等が立てたこと…ですから」

 

 

イシガシは愛用の拳銃を自分に声をかけた相手の頭に突き付ける。

相手は恐怖で顔をこわばらせた。

 

 

「ま、待ってくれ!!」

 

 

パン!!最後まで言う前にイシガシの銃が発砲をして相手は倒れた。

 

 

「さて・・・・・・これからCGSは俺達の物だ。」

 

 

「「「ふざけるんじゃねぇ!!!!」」」

 

 

「カエデ!!イシガシ!!てめぇらは元ヒューマンデブリの癖に俺達に逆らうつもりか!?」

 

 

「そうだ、元々気に入らなかったんだよ!!ヒューマンデブリの癖に此処(一軍)まで登り詰めたのだってマルバに媚び売ったんだろうが!!」

 

 

オルガ達は次々と一軍屑野郎達から出てくる言葉に驚いているらしい。

 

 

「社長に媚び売ったか…そんな事して私とイシガシに何の得がある?一軍まで登り詰めたのは私達の実力だ。」

 

 

「それもありますが一番の理由は"コレ"でしょうか?」

 

 

イシガシは上半身を一軍屑野郎達とオルガ達3番組に見せた。

 

 

「阿頼耶識システムがミカと同じ3つあんのかよ。イシガシの兄貴。」

 

 

「私は3つだけですよ。私はね…」

 

 

「イシガシ兄さんは俺と同じ3つなんだじゃあカエデ兄さんは?」

 

 

急に話を向けられたカエデは一軍屑野郎達を見ながら三日月の問に答えた。

 

 

「私は4つだ。おそらくはCGSで初めての阿頼耶識システムを4つも埋め込まれた子供は私だけだ。」

 

 

「へぇ、カエデ兄さんだから強かったんだ。」

 

 

そうこう話している内に一軍屑野郎達の何人かが襲い掛かろうとしたがイシガシが発砲をして襲い掛かろうとした大人たちは倒れていった。

 

 

「さぁ選べ!!俺達宇宙ネズミの下で働き続けるのかそれとも此処から出ていくのか。

そしてどっちも嫌ならイシガシの兄貴が撃ったこいつらみたいに此処で終わらせるか…今のあんた達にはこの三択しかないんだよ!!」

 

 

眼鏡の男性は出ていこうとしたがカエデはすぐに止めた。

 

 

「貴様は会計を担当をしてるデクスターだろう?貴様にはちょっと残って貰うからな」

 

 

「うそーーーーん!!」

 

 

こうしてオルガ達のクーデターは成功に終わり、彼らはCGSを乗っ取ることに成功をした。

カエデは後は3番組とイシガシに任せようとしたが…オルガのところへ向かう。

 

 

「オルガ、もし金などに困ったりしたらイシガシを連れてマルバの部屋に連れて行けばいい。」

 

 

「どういうことだ?カエデの兄貴?」

 

 

「あとで分かるさ。イシガシ、此処は任せたぞ。」

 

 

「はい、お任せ下さい。カエデ様」

 

 

カエデはイシガシとオルガにそう言葉を告げると倉庫を出る。

一方でデクスターは計算をしていた。

一軍の退職金及びMWの修理などを考えても運営資金は約三か月しか持たないと言った。

 

 

「おいおいまじかよ。」

 

 

「いや待ってくれ、実はカエデの兄貴から伝言があるんだ。」

 

 

「オルガ、カエデ兄さんからだって?」

 

 

「あぁ、カエデの兄貴曰くイシガシの兄貴をマルバの部屋に連れて行けば分かるといっていたが…どういうことなんだ?イシガシの兄貴?」

 

 

「とりあえず、元社長の部屋に参りましょうか。」

 

 

イシガシの言葉に全員が納得をして元社長の部屋を漁ってみると大きいダイヤル式の金庫みたいなのが現れた。

 

 

「おいおい、金庫が出てきたけどよ。ダイヤル式だろう?開けれねぇじゃんか。」

 

 

「その金庫を開ける為にカエデ兄さんはイシガシ兄さんを残したんじゃないの?」

 

 

三日月の何気ない言葉でオルガはイシガシの方を見た。

 

 

「その通りですよ。三日月は正解ですのでご褒美に私が作った飴をあげましょう。」

 

 

「うん、ありがとう。」

 

 

イシガシはオルガを金庫から下げるとダイヤル式の金庫の解除を開始したがものの数十分で開けることに成功した。

 

 

「成功したので開けても大丈夫ですよ。オルガ」

 

 

オルガは金庫を開けると中から宝石やお金などが出てきた。

カエデはマルバの部屋に金庫がある事を知っていた逃げたことでこの金庫を開けれなかったのだろう。

 

 

「これならかなり持つことができますね!!ありがとうございます、イシガシ兄さん。」

 

 

「えぇ、皆さんにご褒美ですから、それにお金があってもクーデリア嬢を地球へ送る事だけは変わりませんよ。」

 

 

「お前たちすっかり忘れていないか?」

 

 

「何がだトド。」

 

 

「お前たちがドンパチをしてくれたせいでギャラルホルンから狙われていることをな!!」

 

 

「まぁ、あれだけやっちまったらな。」

 

 

全員が考えていると通信が聞こえてきた。

 

 

『監視班から報告!!ギャラルホルンのモビルスーツが一機、赤い布をもってこちらに向かって来ています!!』

 

 

「赤い布だと?」

 

 

一方で外ではおやっさんが驚いていた。

 

 

「あれは決闘の合図だ。」

 

 

「決闘?」

 

 

「あぁ、まさかこの時代で決闘をする奴がいるとは思ってもいなかったがな…」

 

 

その布を持ったグレイズを見て、自分と同じくこのCGSに残った大人であり3番組の皆とイシガシとカエデからおやっさんと呼ばれ慕われているメカニックのナディ・雪之丞・カッサパが少年達の疑問に答えた。

 

 

『私はギャラルホルン実働部隊所属、クランク・ゼントである!!そちらの代表との一対一の勝負を申し込む!!』

 

 

「勝負ってマジかよ」

 

 

「300年前、厄祭戦の前は大概の揉め事は決闘で白黒つけてたらしいですよ。まさか敵であるギャラルホルンの人が本気でやってくるとは思いませんでした。」

 

 

イシガシはは呆れ半分関心半分というところであった。

 

 

『私が勝利したなら、そちらに鹵獲されたグレイズ。そしてクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡してもらう!!』

 

 

「お嬢さんを!?」

 

 

「相手はそれしか能が無いのですね。」

 

 

グレイズのパイロットであるクランクの要求はある意味イシガシの予想通りと言った所だ。

 

 

此処にある物で価値がある物と言ったらカエデが仕留めて鹵獲したグレイズと、革命の乙女と言われ火星の独立運動の地球では神の声が聞こえたというジャンヌ・ダルクとして祭り上げられているお嬢さんことクーデリアしかいないだろう。

トドは賛成と言わんばかりにさっさと渡してしまおうと声を上げるがクランクは更に言葉を続けた。

 

 

『勝負がつき、グレイズとクーデリアの引き渡しが無事済めば、そこから先は全て私が預かる。ギャラルホルンとCGSの因縁はこの場で断ち切ると約束しよう!』

 

 

「はぁ?何だその条件は、こっちに得しかねえようなもんだぞ」

 

 

「俺らが負けたとしてもあのおっさんが良いようにしてくれるって事か?」

 

 

此方にとっては旨すぎる条件にイシガシは表情を険しくした。

どう考えても罠としか考えられないイシガシは拡声器をオルガから借りて声を上げた。

 

 

「いきなりの会話を失礼致します。その条件幾らなんでも此方に旨みがありすぎだと思うますがそれに貴方にそんな力があると私は到底思えないのですが…」

 

 

『クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄とグレイズさえあれば、私は上と交渉する事が出来る。

私としてもその施設への攻撃は不本意であった。

故にこの命と引き換えとなったとしても必ず交渉を実現させて見せよう!!』

 

 

「なんとも頭のお堅そうな発言ですね。これは何言っても引きそうにないですね。」

 

 

「でもどうします!?これじゃあクーデリアさんは!?」

 

 

「行きます!!」

 

 

皆が迷っている時に件の乙女クーデリアが声を張り上げた。

気丈ながらも強きに言葉を紡ぐ彼女は何処となく戦う覚悟が滲み出しているようにも見える。

 

 

「私が行けば済む話なのでしょう!ならば無意味な戦いは避けるべきです」

 

 

「そ、そうだよな!!んじゃついでに金もがっぽりと貰えるように交渉を…」

 

 

「駄目だ。それじゃあ筋が通らねえ」

 

 

「ああっ!?」

 

 

だがオルガはクーデリアを行かせる事に反対した。

あのクランクという男の言葉が何処まで本当なのかも分からないし、仮にクーデリアを渡したとしても此処が無事であるという確証はないし証明も出来ない。

 

 

元々ギャラルホルンからいきなり攻撃された身としては渡した後は皆殺しに遭うような気がしてならないのだ。

その時、カエデからの通信がオルガ達に入る。

 

 

「話は聞いていた、私が出る。」

 

 

「大丈夫なのか?カエデの兄貴。」

 

 

「私の強さは先程見せただろう。あのMSに私が負ける訳が無いだろう。」

 

 

画面に映るカエデはイクサルフリートのユニフォームを着ていたが背中には4つの穴が空いていた。

 

 

イシガシはクランクへと了承の言葉を返すと、カエデは直ぐにナイトメアの所に向かい始めた。

周囲には戦いに向かおうとしているカエデを応援する少年達が集まっており声援が送られていた。

 

 

「頼むぜ、カエデの兄貴!!」

 

 

「私を誰だと思っている。勝利を相手から貰ってくるだけだ。」

 

 

オルガ達に勝利を貰ってくると返しながらナイトメアは空へと舞い上がりグレイズの眼前へと降り立った。

クランクは直接矛を交えたバルバトスが来ると思っていたのかナイトメアが来た事にやや驚いているように見えたが直ぐにコクピットに戻っていた。

 

 

「それでは、始めようか。クランク・ゼント。」

 

 

『貴様も、子供なのか…』

 

 

「来年成人だからな。いまはまだ子供だ。」

 

 

『……そうか』

 

 

「貴様らはクーデリア・藍那・バーンスタインを捕らえる為だけにたくさんの子供達を殺したのだ。手加減などはいまさら無用だ。」

 

 

外部スピーカーから漏れるクランクの声には何処か悲しそう雰囲気が含まれていた。

出来る事ならば子供と戦いたくないという思いを孕んでいるようだった。

 

 

それを聞いてカエデは先程の条件にある意味納得したのだ。

彼は誠実で真面目で良い大人なのだと、前世では居なかった大人だ。

 

 

あの条件も少年兵として戦っている子供を出来るだけ傷つけたくないという思いから出した答えのようなものなのだろう。

 

 

「ならば…私が負けた時の事は決めいたが私が勝った場合の事は一切言ってなかったな。それについてはどう思う?クランク・ゼント。」

 

 

『…私にはそんな権限はない』

 

 

「真面目過ぎる男か…。では、取り合えずそのグレイズを貰おうか。それと貴様の身柄だ!」

 

 

『良いだろう。勝敗の決定はどちらかの死亡、または行動不能で異議は無いか』

 

 

「異議はない。始めようか。」

 

 

ナイトメアは一歩引きつつも背中に装備していた杖型のハンマーの引き抜いた。

基本接近戦型のナイトメアだが、長距離で攻撃された時の事も考えて銃も装備されている。

杖型のハンマーを構えながら体勢を落とすナイトメアを見たクランクは油断できない相手である事を実感しつつ斧と盾を構える。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決闘の終わりと鉄華団としての旅立ち

 

 

 

「ギャラルホルン火星支部実働隊、クランク・ゼント!!」

 

 

「CGS一軍兼3番組教官、カエデ・ビットウェイ・オズロック」

 

 

刹那の静寂、3番組の皆はカエデの勝利を願う中、機体のユニットが稼動しエネルギーを放出しつつ互いは今か今かと戦いの始まりの時を待っていた。

 

 

そして2人が同時に声を発するとグレイズとナイトメアは突進して行った。

クランクは迫ってくるナイトメアの速度に驚きつつも防御の姿勢を取りながら斧を振るうが瞬間、視界から相手ナイトメアが消えると機体が振動した。

 

 

ナイトメアが斧の一撃をすり抜けるように回避してグレイズを踏み台にしながら高々と跳躍したのだ。

高度を取ったナイトメアはそのまま落下し杖型のハンマーを一気に振り下ろすがグレイズは良い反応でそれに対応し盾で防御した。

 

 

「中々やるでは無いか…ただのギャラルホルンが内部は腐っていると思っていたが貴様はそうでも無いらしいな…」

 

 

「オオオオッッ!!!!」

 

 

クランクの乗ったグレイズは防御した直後に斧を振るうが、ナイトメアは即座に後退してそれを回避した。

杖型のハンマーで盾を押しのけてグレイズの体勢を崩そうとするがグレイズはしっかりと踏ん張り斧を振るうがナイトメアは高い機動力で瞬時に回避した。

 

 

「君も何故子供を戦いに出すのだ!?」

 

 

「私達、子供が戦うのは御気に召さないようだな。クランク・ゼント。」

 

 

「あぁ、そうだ!!」

 

 

一気に接近して斧を振り上げたグレイズに対応すべく杖型のハンマーでそれを受け止めるナイトメア。

 

 

「子供とは良く食べ良く学び良く遊び育つ!!そして夢を持ち、その夢が未来を作る!!それを戦わせるなど、私は認めない!!」

 

 

「貴様が良い大人って事が良く分かった。だがな……世界はそんなに優しくないのだ!!」

 

 

カエデは思ったクランクは良識を持った良い大人だと言うことが…だが彼にとって私達子供は大人の思惑で戦わされるような存在ではなく、大人が守り大人の背中を見て育つ存在だと思っている。

 

 

それは正しいと思うだがそれはあくまでクランクの理想論にすぎないのだ。

現実問題としてそのように過ごせる子供達ばかりではない。

生きる為に少年兵として生きてヒューマンデブリとして売り物にされる子供だっているのだ。

それが今ある火星いや世界の現実だろう。

 

 

「貴様の思いはとても素晴らしいだがそれだけで我々は生きていけないのだ!!」

 

 

「だとしても……私は諦めたくなどない!!私がそうだと思っている限り、私はそれを貫き通す!!それが私の信条だからだ!!!」

 

 

一段と重くなってくる斧、それを杖型のハンマーで受け止めるナイトメア。

だがナイトメアも出力を上げていき徐々に斧を押し返していった。

 

 

「そうか。なら私とイシガシも彼等達の兄として、彼等達を見守る義務があるのだ!!だからっ!!私は此処で負ける訳には行かないのだ!!貴様をナイトメアの悪夢へとご案内しようでは無いか!!」

 

 

正面から無策にもこちらに向かってくるクランクのグレイズは斧を振り上げてナイトメアに向かって一気に斧を振り落として攻撃が当たったと思ったクランクは目の前で起きたことに思わず目を疑った。

 

 

「なっ、ど、どこだ!? どこに消えたのだ!?」

 

 

クランクはグレイズのカメラアイをギュルンギュルンと動かして先程攻撃をしたナイトメア相手の影を探していた。

 

 

「そこかッ!!」

 

 

自分から遥か後方で杖型のハンマーを肩にかけて余裕そうにしているその姿を見て、すぐさまクランクのグレイズは距離を詰めると再び斧を振るう。

しかし、また手応えはなくクランクは驚きの声を漏らした。

 

 

その光景は3番組のオルガ・イツカや三日月・オーガスから見ても異常であった。

またも姿を消したナイトメアの姿を目で追うとさらに驚くべきことが起きていた。

 

 

「流石です。カエデ様…(元々ナイトメアは高い機動力と高い攻撃力を有していたがその代わりにかなりコンクピット付近が弱くなっていたのです。その弱い部分を敵に分からないように敵を翻弄して倒すやり方や分身等を編み出して敵を倒していたのです。)」

 

 

「な、なんだ! 君はッ!? な、何故……」

 

 

クランクのグレイズの周りには全く同じ姿のナイトメアが3機。

黒と紫の機体色にT字に光る双眼、各部に配置されたスラスターに禍々しく広がるマントの形は全て瓜二つであり、クランクと3番組の皆驚愕させるには十分であったがイシガシは尊敬の目をしていた。

 

 

「さぁ、味わって頂こうか。クランク・ゼント。私のイリュージョンをな!!」

 

 

通信機越しに聞こえるその声は、今までのお返しをさせてもらおうという怒りに聞こえたのだ。

 

 

3機のナイトメアから繰り出される連撃にクランクは翻弄され、斧を振り回すも華麗に避けるナイトメアには一切当たらず、当たったとしてもそれは残像であり本体からの切り上げを受けてその機体を宙に舞わせる。

 

 

「く、なんという操作技術なのだ!!」

 

 

ナイトメアの攻撃は止まらず、しかもその速度は加速していき3機の行動は同一ではなく、1機が正面から切り上げ、他の1機が横から杖型のハンマーを振り下ろし、もう1機が背後から杖型のハンマーをフレームのシリンダー目掛けて薙ぎ払った。

 

 

「さすがの貴様でも、ナイトメア3機に勝てるわけないだろ?」

 

 

「凄い、カエデ兄さん…」

 

 

通信画面を見ていた三日月は感嘆の言葉を漏らした。

カエデの"イリュージョン"と称したその動きはまさに魔術師の手品のように魅せられたのだった。

 

 

ナイトメアの3機の攻撃でクランクの機体を仰向けに倒してナイトメアは3機から1機に戻りそのままナイトメアはグレイズのコクピットに杖型のハンマーを突きつけるとカエデはクランクに告げた。

 

 

「私の勝ちで良いな?」

 

 

「あぁ、そうだな。俺は敗者だ、君の好きにして構わない」

 

 

「そう。とりあえずは…」

 

 

カエデはナイトメアの杖型のハンマーを空に突き上げて試合を見ていた全員に告げた。

 

 

「勝利を手にしたぞ。歓喜と祝福を今此処に!!」

 

 

「やはり、私が命を捧げた方だ…カエデ様。このイシガシ・ゴーラムは永遠にあなたと共に行く道が例え茨の道でもお仕え致します。」

 

 

イシガシの言葉は誰にも聞こえなかったがカエデのその宣言に皆は歓声を上げながらカエデの勝利を祝ったのだ。

三日月はカエデの戦いぶりに見惚れ分身を教えて貰おうと誓い、昭弘はカエデの強さに驚き、オルガは確信していた勝利に笑った。

 

 

「決めたぜ……鉄華団。俺達の新しい名前だ」

 

 

「テッカ……鉄の火ですか?」

 

 

「いや……鉄の華だ。決して散らない鉄の華だ」

 

 

カエデはナイトメアとグレイズと共に帰還をしてカエデは縄から降りたつと幼い子供達が群がるが頭を撫ぜながらオルガに告げる。

 

 

「グレイズのパイロットのクランク・ゼントの処遇だがオルガ、私に預からせ貰っても良いだろうか?」

 

 

「あのパイロットをか?」

 

 

「あぁ、彼は真面目な人間だと私は判断をしたのだ。だから幼い子供達の先生をしてもらおうと思ったのだ。」

 

 

「先生?」

 

 

「そうだ。文字などを覚えたほうが良いだろう。私とイシガシも教えたりするが何せ時間が無かったからな。

 

 

これからは私もMSの整備などや書類仕事もやらないとダメだからな。

クランク・ゼント、彼ならグレイズとかのMSの整備などもやってくれると思うからおやっさんのサポートもしてくれると私は思うのでな。」

 

 

「なるほどな、確かにおやっさんはMW専門だったからな…わかったぜカエデの兄貴とイシガシの兄貴にあの人のことは任せるぜ!」

 

翌日

「ふぅ、クランク・ゼントに決闘に勝ったは良いがその分書類仕事がどっと増えたな…」

 

 

「カエデ様、お茶でございます。」

 

 

「あぁ、イシガシ。お前も少し椅子に座って休むと良い此処に来るまでバルバトスとグレイズとナイトメアの整備を手伝いしていただろ?」

 

 

「はい、では失礼致します。」

 

 

イシガシが椅子に座るのを確認すると今までの事をカエデは思い出していた。

カエデは決闘に勝利しグレイズとクランク・ゼントの身柄を手に入れたCGS改め鉄華団。

 

 

そして3番組の教官職兼相談役という任に付いたカエデ・ビットウェイ・オズロックと同じく3番組の教官職兼相談役補佐という任に付いたイシガシ・ゴーラム。

 

 

だが鉄華団と名前を変え新しくスタートする為の書類仕事などの整理や始末にカエデとイシガシは追われていたのだ。

これは来年成人になる勤めとしてやっているが他にも鹵獲したグレイズを売却し少しでも高値にしようと修繕の為のマニュアル作りやMSの整備マニュアル作りと中々に多忙であり2人はかなり疲労していたのだ。

 

 

「オズロック、此方のマニュアルは仕上がったぞ」

 

 

「流石はギャラルホルンで働いていた事はあるな。殺さなくて良かったといま私は思っているぞ。クランク、助かったぞ。」

 

 

「しかし本人の目の前で殺すと言うな。だがこれだけの量をもう…2人は凄まじく優秀なのだな」

 

 

「まぁ、CGSの元社長と一軍屑野郎達には色々あってな……」

 

 

「私はカエデ様の補佐をしているだけでございますので褒められても困りますので…」

 

 

先程カエデの部屋に入ってきたのは鉄華団に身柄を置く事になったクランク・ゼント。

最初はカエデの事をフルネームで呼んでいたのだがカエデ自身がオズロックと呼べと言われてクランクはそう呼ぶようにしている。

 

 

クランクはただ身柄を置いているだけではなく彼にはカエデとイシガシが手を回せない子供達の先生役を頼む事にしてグレイズの整備の手引きや知識面での補強を依頼していたのだ。

 

 

「鉄華団の変更業務申請書はこれで良いだろう。桜農場の契約更新もこれで終わりだな。

あぁ、そうだったアトラ・ミクスタが入った事で契約書とかも持って行かないとな。

なんとか地球に行くまでに間に合わせないダメだな…」

 

 

アトラ・ミクスタは鉄華団の炊事係としてカエデが雇っていたのだ。

元々はイシガシが炊事係をしていたのだがカエデの仕事が倍増した事によりイシガシはカエデに傍で仕えたいと頼み込んだ時に来たので即炊事係として採用したのだ。

アトラ・ミクスタの炊事係としての料理はイシガシ公認であるので味は問題は無い。

 

 

「オズロック、少し休んだらどうだ、流石に働きすぎだ。」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

書類を終わらせ一段落付いたカエデは椅子の背もたれに倒れこみ疲れたと声を漏らした。

クランクが鉄華団の一員として働き始めて数日が過ぎたが彼とその補佐であるイシガシの優秀さには舌を巻いていた。

 

 

少年達からの信頼も厚く腕も立ち仕事人間で鉄華団では要的な存在となっているカエデ・ビットウェイ・オズロックとイシガシ・ゴーラムの2人。

だからこそクランクは2人には聞いて起きたい事があった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宇宙への準備と戦いと旅立ち

 

 

「オズロック、イシガシ少し良いか。何故子供達を…戦いから離す事は出来ないだろうか」

 

 

それを聞いて椅子から身体を起こしてイシガシが持って来たお茶を喉に流し込みながらカエデは言葉を詰らせた。

 

 

「君達もそうだが子供が銃を握り、戦いに出て相手を殺すなど間違っている…私はそうとしか思えんのだ。」

 

 

「私も出来る事ならそうしたが……残念だけどそれは難しいだろうな…」

 

 

「しかし…」

 

 

「私とイシガシとオルガ達にとって出来る仕事が他にないのだよ。クランク、生きて行く為にな。」

 

 

苦々しく口を開いたカエデの表情はこの数日中で見た事もないようなものだった。

 

 

「私達には他の仕事を出来るだけの能力がない。文字を読む事が出来ない子も多い。

出来るのは銃を持って撃ったり機械を弄ったりする事が精々なのさ。

そんな私達ヒューマンデブリにとって金を稼ぐにはこんな仕事しかないのだ。

子供だって戦わないと生き残れないって現実がいま此処にあるのだ。」

 

 

「……」

 

 

「クランク、私とイシガシもオルガ達に危険な仕事させたくない。

しかし、それだと十分に仕事が出来るだけの能力や知識を教え込むのは私とイシガシの2人だけでは難しいのだ。

 

だからこそ、今はこの仕事場で出来るだけの事をしていくのがベストだと私達は考えているのだ。」

 

 

齢が10歳にも満たっていない子供もこの鉄華団には居るのが現実だ。

そんな子供が生きていくのは今のこの社会は厳しすぎる。

だから今この鉄華団で出来るだけの事をしてそんな子供達が生きていけるようにしていくしかないとカエデは思っているのだ。

 

 

「私とイシガシは同い年でオルガ達や幼い子供達より歳上なのだ。だからこそ此処で知識などを学んで将来の役になって欲しいのだ。」

 

 

カエデの強く握り締められた手には強い悔しさがクランクの目に見えた。

 

 

「まずはこの鉄華団を大きくしてオルガ達に銃を握らせない位の会社に致します。

そしてオルガ達には真っ当な仕事をして貰うこと、それが私とカエデ様の今の目標です。」

 

 

「なんと真っ当な……オズロック、イシガシ。私なんかより君達は何倍も強いようだな」

 

 

「本当に、色々あってな…」

 

 

そう、本当に色々な事があったのだ。言葉では言い表せない程の出来事が…あの頃はカエデとイシガシは故郷を失い復讐に走ったのだ。

カエデとイシガシが何処か自分達の過去をはぐらかすような言い方にクランクは肩を竦めた。

 

 

それが2人の選んだ道なのだろうとクランクは理解した。

ならば自分も少しでもその手助けと幼き子供達の未来の為に尽力してみようとクランクは思った。

 

 

「ならば俺も今の役目を全うするとしよう、子供達のクランク先生として……。大人としてな」

 

 

「期待していようと思いますよ。クランクさん」

 

 

イシガシはそういうとドアを開けてクランクはカエデとイシガシが処理し終わった一部の書類を持って部屋から出て行くクランクを見送ったカエデとイシガシは溜息をつきながら自分の過去いや前世の行いを後悔しているのかと…。

 

 

「イシガシ、お前は後悔しているか?」

 

 

「カエデ様、私は後悔などはしてはいません。あの時、コールドスリープされた宇宙船でただ座り込んでいた私に声を掛けて頂きファラムに復讐しようと言ってくださったことで私は復讐を決意したのですから。

 

 

もし、そのようなお声が無ければ私とあと9人の仲間もただコールドスリープされた他の仲間達を見上げながら長い年月をただ座り込んでいたことでしょう。」

 

 

「そうか、…私自身も後悔はしていない。復讐をしても当然だと今でも思っている。」

 

 

それから2人は前世の話を切り上げ明日への準備に向けて話し合いを進めたのだった。

そして遂に鉄華団が青き星地球へと向かう為に宇宙へと飛びたつ日がやって来た。

シャトルには宇宙へと上がり鉄華団の船となったイサリビに乗り込みトドが紹介したオルクス商会の案内の元、地球へと向かうメンバーが乗り込んでいた。

 

 

未来に向かう為のシャトルがいよいよ旅立とうとしていた。

火星に残り帰りを待つ団員、旅立つ団員に手を振り無事を祈る家族、企みを抱えそれが如何転ぶかを楽しむ者の思いを受けながらシャトルは重力の緒を引き千切りながらどんどん加速して宇宙へと飛び出した。

 

 

鉄華団の主要メンバーを乗せたシャトルはいよいよ暗黒の宇宙へと漕ぎ出し低軌道ステーションへと向かう為に案内役であるオルクス商会の輸送船に拾ってもらう予定だったのだが…。

 

 

「あっ、あれがオルクスの船じゃないですか!?」

 

 

「えっ、予定より早くない?」

 

 

「だな、何でこんなに…」

 

 

窓から見えた巨大な船、それこそがオルクス商会の船だがまずは低軌道ステーションでその船が来るのを待つ手筈なのに幾らなんでも早過ぎたのだ。

 

 

「(カエデ様の予感は当たりましたか…ならば私のすることは…)」

 

 

何かあると思いつつそれを見つめていると複数の光が此方に向かって来ていた、それは船に比べると小さいが速い……。

 

 

「あれはグレイズ!?それに奥に見えるのはギャラルホルンの船か!?」

 

 

「おい奥に見えるあれがかよ、クランクのおっさん!?」

 

 

クランクが大声を張り上げながらその正体を見破った。

それは間違いなくギャラルホルンのグレイズとその船だった。

明らかに此方を狙って接近して来ていた。

 

 

「はぁ、どうなってんだよ!?」

 

 

「おいトド!!テメェ説明しやがれよ!!」

 

 

「俺が知るかよ!?ギャラルホルンなんて聞いてねえ!!くそっ!!」

 

 

トドが操縦室に飛び込んでオルクス商会の船へと連絡すると返ってきたのは『我々への協力を感謝する』という通信であった。

 

 

それを聞いたシノやユージンはトドを問い詰めて殴られた。

殴られたトドは何も知らないと叫ぶがこんな事態になってしまったはそれも意味は成さない。

兎に角このままではまずいとオルガは加速するように指示を出すがあっさりとグレイズに追いつかれてしまい囲まれてしまった。

 

 

「敵のMSから優先通信です!クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡せとか言ってますけどぉ!?どうするんですか!?カエデ兄さん!?」

 

 

「はぁ、やはりこうなったか…元々は覚悟していた事だ。オルガ、私と三日月で向かう。異論は無いな?」

 

 

「勿論だ、カエデの兄貴、ミカ頼んだ。」

 

 

「あぁ、分かっている」

 

 

「わかった。オルガ」

 

 

カエデは立ち上がると右手で左肩を掴むと一気にマジシャンのようにイクサルフリートのユニフォームに早着替えした。

呆然といていた鉄華団メンバーはイシガシに怒られて目の前の出来事に集中した。

 

 

三日月とカエデは別々の格納庫へ向かう途中にカエデはクランクから話し掛けられた。

 

 

「なんだ、時間が無いのは貴様も分かっているだろ。」

 

 

「あぁ、だが今言わなければダメなんだ。」

 

 

「手短に頼むぞ」

 

 

「敵はコーラルが指揮をする部隊だ。あいつはクーデリアを狙っているのは事実だ。」

 

 

「それは分かっていた。何か裏取引でもしたのかしたのだろうな。それで…私に何をやらす気だ?」

 

 

「おそらく緑色のグレイズが出てくるはずなんだ。それには俺の部下が乗っていてな。君達と同じように火星の血が半分流れている。」

 

 

「はぁ、それで可能な限り私に助けてほしいって事か?」

 

 

「すまないオズロック。三日月にはそれを言うのは難しいと思ってな。」

 

 

「まぁ、確かにな。可能な限りやってみるが期待はするなよ。」

 

 

「オズロック、感謝する。」

 

 

カエデはナイトメアに乗り込み、三日月はガンダムバルバトスに乗り込んでシャトルを守る宇宙での戦いを始める。

 

 

「行くぞ、三日月!」

 

 

「了解だ、カエデ兄さん!」

 

 

シャトルのハッチが開いて煙幕が発生をする。

グレイズのパイロットは小細工をと言った瞬間滑腔砲を突き付けられてからの砲撃でグレイズの1機は宇宙に浮かんだ。

 

 

他の2機はシャトルを撃墜をしようとしたがナイトメアが持つ銃から銃弾が放たれて2機のグレイズのコクピットに命中をして撃破したが三日月の背後を取ったグレイズへと攻撃するという援護を行うナイトメア。

 

 

「ごめん、有難うカエデ兄さん」

 

 

「構わん、次来るぞ。」

 

 

その援護を受けたバルバトスはすぐさま反転しつつ奪った斧でグレイズの腕を切断しつつ0距離でコクピットを打ち抜いたがナイトメアの背後にも敵がいたがカエデが気づく前に狙撃された。

 

 

「大丈夫か?カエデ兄さん、三日月!」

 

 

「昭弘?」

 

 

「昭弘か、助かったぞ。」

 

 

ライフルでグレイズを撃ったのは回収をしたクランク・ゼントの機体を修復して昭弘に上げた機体であるグレイズ改であった。

 

 

「さて、昭弘も来たことだ。私の相手は…貴様か…」

 

 

カエデの真正面にはクランクが言っていた部下が乗っている緑色のグレイズがいたのだ。

 

 

「三日月、あの緑の奴は私がやろう」

 

 

「解ったっよっ!!」

 

 

迫ってきた1機の攻撃を回避しつつその胸へとメイスを突きつけつつその先端から鋼鉄の杭を打ち込む三日月。

 

 

「ふん少しは出来るようだな、宇宙ネズミが!!」

 

 

「ネズミネズミとうるさい奴だ。そんなに戦いたいならば私が相手になろう。」

 

 

カエデの乗るナイトメアは杖型のハンマーを肩に掛けていたがそれを両手に持ち替え緑色のグレイズが攻撃して来た。

 

 

「はぁ、何とも血気盛んなことだな…では始めよう。」

 

 

緑色のグレイズは荒々しく斧を振るいナイトメアを仕留めようと躍起に会っている緑色のグレイズを遇いつつも一気に後退していきながら杖型のハンマーで軽く牽制する。

 

 

装甲に任せながら防御もせずに迫ってくる緑色のグレイズ、ギャラルホルンのナノラミネートアーマーは優秀だと思い知らされるがカエデは止めと言わんばかりに分身とは行かないが高速移動からの杖型のハンマーをコンクピットへと当てた。

その激しい振動はアインへと襲いかかりグレイズは動きを止めてしまった。

 

 

「おい、緑色のグレイズ。生きているか?」

 

 

「ぅぅ…」

 

 

「気絶しているだけか…コンクピットをブチ抜いたと思ったぞ…やはり力加減は難しいな…」

 

 

そしてカエデは接触回線を用いてモニターを強制的に開いてコクピット内を確認して見ると小さくうめき声を上げているアインの姿があった。

だが此方へと向かってくる機体があったそれは青い指揮官用のグレイズであった。

 

 

『君のお相手は、次は私がしよう』

 

 

「はぁ、休む暇も無いのか。」

 

 

一旦アインを置いて青いグレイズとの戦闘に入るナイトメア、高い推力とコンクピットの高い操縦技術が光り中々の強敵だとカエデに直感させた。

 

 

「ちっ…」

 

 

ナイトメアは高い機動力で消えて出てを繰り返し続けて攻撃を当たらないようにしていた。

 

 

「まだまだ……なっ!!」

 

 

が突然青いグレイズは後退して行ってしまった。

何事かとカエデが思い画面を見るとなんとイサリビが此方へと近づいて来ていた。

どうやら小惑星にアンカーを打ち込んで強引に進路の転回を行ったらしい。

 

 

「イシガシの指示か…」

 

 

「まぁな、カエデの兄貴、待たせたな!さぁ行こうぜ、地球へ!!」

 

 

クランクの約束通りにアイン本人と緑色のグレイズを回収してカエデはさっさとイサリビの内部へと入って行った。

ハンガーに移動したナイトメアからカエデは降り立った。

すでに三日月のバルバトスや昭弘のグレイズ改は回収されていた。

 

 

一方マクギリス達の機体は浮いていた。

 

 

「マクギリス大丈夫か?ひどくやられたらしいな…」

 

 

「君の方もじゃないかガエリオ、ランスユニットとアンカークローを彼等に盗られたみたいだな。」

 

 

「あぁ、不覚をとった。お前が相手をしていたガンダムはいったい何者だ?」

 

 

「…バルバトスの方は固有周波数が出たが…もう1機の方はナイトメアと呼ばれるガンダムフレームだった。

だが私もあの機体が突然居なくなり気づいたら目の前にいたとしか言えない。」

 

 

「いったいどういう力だそれは…まるであの機体は幽霊のようだった…消えたり姿を現したりしてどういう操作技術をしてるんだ。」

 

 

「いずれにしても我々の機体も修理が必要だ。ガエリオすまないが引っ張ってくれないか?機体が思っていた以上にダメージを受けていたんだ。」

 

 

「わかった。」

 

 

ナイトメアに手痛い目に遭った2機は帰投をした。

カエデがコンクピットを出ると目に付いたのはクランクが緑色のグレイズのコンクピットを上げて中のパイロットを引きずり出している光景だった。

 

 

「アイン!おいアインしっかりしろ!!」

 

 

「うううっ……クラン、ク二尉……?えっクランク二尉!!?ど、どうなっているんですかぁ!!?此処は何処ですか!!?」

 

 

「また、問題が増えるかも知れんな…」

 

 

一方その頃ギャラルホルンの戦艦に帰って来たマクギリスとガエリオは先程戦闘を行っていた鉄華団の機体について話し合っていた。

 

 

「ガンダムフレーム、バルバトス。我らギャラルホルンの伝説として語られた存在が今や宇宙ネズミに使われるとはな」

 

 

「しかしその力は確かな物だ。実際に果たしあったお前ならそれは良く解るのではないか?」

 

 

「普通のMSに比べると強いと言わざるを得ないが勝てない相手ではない」

 

 

「それで?マクギリス、お前の方で相手をしていた奴はどうだった?」

 

 

「あぁ、この機体の事か。」

 

 

データを出力し映し出されたナイトメアを改めてガエリオは目にした。バルバトスにばかり気を取られていた為にナイトメアには余り目を配れていなかった。

 

 

漸くマジマジと見る事が出来たが黒く滑らかな装甲と杖型のハンマーと紫と黒のマントその出で立ちはまるで魔術師のようにも思えた。

 

 

「ほう……中々珍しいMSだな」

 

 

「私もそう思う。しかしこの乗り手も中々のやり手でな、やや手玉に取られてしまった」

 

 

「それでこいつの詳細は…見た事もないタイプの機体だな……」

 

 

「見た目からの該当は一切無しワンオフの機体かもしれんな。エイハブリアクターのマッチングは今行う所だ」

 

 

2人にとっても興味深いナイトメア、その機体と似ている機体がもう1機あると知ったらどのような反応するのだろうか?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タービンズ編
タービンズと元社長との再会


 

 

 

イサリビの内部

 

 

「つまり、今クランク二尉はこの鉄華団で子供達の教師をしていると……?」

 

 

「まあそんな所だ出来る事はその位でな。雪之丞、イシガシ、MS整備のマニュアルだ。」

 

 

「おう、助かるぜ!!んじゃ、イシガシやるぞ」

 

 

「えぇ、分かっています。」

 

 

「お前、カエデ以外には態度悪くないか?」

 

 

「カエデ様は敬愛すべきお方なのです。それ以外は普通の対応ですので別に差別などはしてはおりません。」

 

 

イサリビの格納デッキでは戦闘を終えたナイトメア、グレイズ改、バルバトスの修理とリアクターなどの調整などが行われていた。

そこにはカエデとイシガシの姿もあり、2人は主に一番面倒ともいえるリアクターの調整作業へと入っていたのだ。

 

 

本当は戦闘をしていたカエデもイサリビで指揮を取っていたイシガシも疲れている事だろうが、2人は休みたいとは一切言わずに作業に黙々と働いていたのだ。

 

 

そんな光景を見つめながら、ドックの通路に凭れながらクランクは部下であるアインと話をしていた。

アインはクランクが任務に失敗し死んだものとばかり思っており、その仇を取る為に鉄華団に襲いかかったと言っても過言では無かったのだ。

しかし実際はクランクは生きていてその鉄華団で働いているという。

 

 

「お前も戦ったあの黒いMS、あれに乗っていた少年もあそこにいるだろう。

彼はカエデ・ビットウェイ・オズロックに私は決闘で負けてグレイズと身柄を彼に預ける事になったのだ。そして今は鉄華団で子供達の先生をやっているのだ。」

 

 

「そ、そうだったんですか……」

 

 

アインの胸中は複雑であった。

胸の中にあったのは自分の事を唯一対等に扱ってくれたクランクを殺した鉄華団への怒りと憎しみだけだった。

 

 

実際はクランクは生きていたのだ、それは嬉しいが……その鉄華団には自分の半分も生きていない子供達ばかりが必死に働いていた。

自分はこんな子供達を殺そうとしていたのかと思えてしまう。

 

 

「自分はどうなるのでしょうか。便宜上捕虜という事になるのでしょうが……」

 

 

「そうだな…なあアイン、俺はこのまま鉄華団に残ろうかと思うんだ」

 

 

「の、残る!?」

 

 

クランクから信じられない言葉が出てきた事に驚愕しアインは大声を上げてしまった。

 

 

「何故ですクランク二尉!?まだ原隊復帰は出来る筈です!!」

 

 

「いやアイン……俺はギャラルホルンにはもう戻らない。俺はまだ数日しか居ないがこの鉄華団と行動を共にし先生として子供達と触れ合ってきた。

 

 

幼く罪のない子供達が銃を握る事でしか生きていけないなど……俺はそんな彼等を見捨てて戻る事など出来ないんだ」

 

 

そう言われてアインはかつて自分が周囲から自分が半分火星人の血を引いている事から差別されて自分の機体すらまともにギャラルホルンに整備して貰えなかった事を思い出していた。

 

 

あの時、自分は目の前の人に救って貰えたから生きているんだと思う。あの時、救ってもらえなかったら如何なっていただろうか。

差別に我慢出来ずに火星に戻って不自由な生活を送って居た事だろう。

 

 

「だが彼らが生きていくには今は銃を握るしかない。カエデとイシガシの2人は鉄華団が大きくなりあの少年達がまともな仕事が出来るようになるまで見守るらしい。だから私もそれが今出来る最善の手だと思うのだ。」

 

 

「最善の……」

 

 

「あぁ、そうだ。アイン、お前はどうするのだ?」

 

 

そう問われてもアインは困る。

つい先程までギャラルホルンだった筈の自分だがハッキリ言って自分も今のギャラルホルンには疑問と不満しかなかった。

 

 

クランクの仇を取ろうとしたのも自分を救ってくれた恩師の為だからだ。

だが今恩師は鉄華団にいるのだ。

自分を救ってくれた人がそうするなら……自分もそうしてみても悪くないかもしれないとアインは思っていた。

 

 

「良いのでは無いのでしょうか?」

 

 

「き、君は?」

 

 

「申し遅れました。私は鉄華団の教官職兼相談役補佐、イシガシ・ゴーラムと申します。よろしくお願い致しますよ。アイン・ダルトンさん。」

 

 

「それで良いとはどういう意味だ?イシガシ」

 

 

「簡単な話ですよ、クランクさん。彼は便宜上捕虜ですが此処でギャラルホルンに戻ればおそらくは処刑を免れないことでしょう。ですのでアイン・ダルトンさん。貴方にはクランクさんの補佐として鉄華団で働いて頂きますよ。」

 

 

「…………」

 

 

「おや、この条件では気に入りませんか?でしたらお部屋とお風呂付きで3食ご飯付きのMS整備と子供達の先生として忙しくコキ使いますが…どう致しましたか?」

 

 

「何故、そこまで俺の事を…」

 

 

「カエデ様のご意志です。おそらく大人の人手が欲しいのと思われますが貴方も差別などされて来たのならば…阿頼耶識システムを埋め込まれた子供達も人々から差別の対象になります。

なので貴方も子供達の先生として子供達を導いて欲しいのですよ。戦うだけが人生じゃないとね。」

 

 

「イシガシくん…」

 

 

「あと、カエデ様のことを宇宙ネズミと言ったことはこれから永遠に貴方を許すことはありませんので…悪しからず」

 

 

「わかった、すまない。」

 

 

「おいクランク、サボっている訳では無いだろう?少しナノラミネートアーマーの補強の手を貸せ、三日月や昭弘、他の子供達は宇宙での作業に慣れてないからな。行くぞ、イシガシ。」

 

 

「はい、カエデ様」

 

 

「あぁ、解った」

 

 

「あっ、待ってください!!」

 

 

通路から離れ、無重力の中ゆっくりと整備中のナイトメア、バルバトス、グレイズ改へと向かっていくクランクとカエデとイシガシを止めるようにアインは声を上げた。

 

 

3人は器用に回転ながら此方を見る。

それに恥ずかしそうにアインは頬を赤くしながら声を高くして言った。

 

 

「お、俺もお手伝いしても良いでしょうか!?こう見えてもグレイズの整備をしっかりとして貰えるまでは自分で全部やっていたので整備は出来ます。」

 

 

「ふん、それは助かるな。やはり貴様は重宝する人間だな私の目には狂いは無かったようだ。ではアイン・ダルトン。君にお願いしようか。

 

 

皆、クランクの隣にいるのはアイン・ダルトンと言うらしい。

彼も整備を手伝ってくれると言っていた。クランクの教え子らしいから全員仲良くするんだぞ。わかったか?」

 

 

「「「「はーい!!カエデ兄さん/兄貴」」」」

 

 

鉄華団の少年達が慕うカエデの声に少年達は声を上げてその言葉に従ってアインの傍まで接近しては挨拶をしていた。

アインはそれに戸惑いながらも挨拶をして子供達に手を引かれていたのだ。

 

 

「ねぇねぇ、クランク先生の教え子?って事はアインさんも先生なの?」

 

 

「えっ!?い、いや俺は先生だなんて……!?」

 

 

「じゃ、アイン先生だね!」

 

 

「宜しくアイン先生!」

 

 

「えっ?ええっ~!!?」

 

 

なぜか先生扱いされている事に困惑しつつも、アインを見て暖かな笑みを浮かべているクランクと少しだけニヤついているイシガシを見て思わず助けを請う。

 

 

「皆、アイン"先生"が困っているぞ?さあ仕事に掛かるぞ」

 

 

「そうですよ。アイン"先生"のご迷惑にならないように気を付けなさい。」

 

 

「ク、クランク二尉!!?イシガシくん!!?助けて下さい!!」

 

 

この後、アインは鉄華団に正式に入り再びクランクの部下として子供達の先生及び整備班の班長として仕事をする事になったのだが如何にも班長や先生と呼ばれるのに慣れないのか呼ばれる度に頬を赤らめていたのだ。

その事を知っているのはイシガシ・ゴーラム、1人だけだ。

 

 

ナイトメアの整備も完了しアトラ・ミクスタの作ったご飯も食べたカエデは書類仕事や操縦で溜まっていた疲れを癒す為にベットに潜り込んだその時イシガシからのイヤーカフからの通信が来た。

 

 

「何の用だ、イシガシ」

 

 

「緊急事態です、カエデ様。直ぐにブリッジまで来て下さい。」

 

 

「わかった…直ぐに行く。」

 

 

カエデはイクサルフリートの服のままブリッジに向かう途中に大声が聞こえて来た。

この声は忘れるはずの無い元社長の声だ。

 

 

「人の船を勝手に乗り回しやがって!!この泥棒ネズミどもが!!」

 

 

ブリッジに付くとモニターには元社長マルバが現れてカエデはため息をついていた。

すると元社長マルバが消えて白い服を着た人物が現れた。

 

 

「さっきから話がさっぱり進んでいない…」

 

 

「あんたは?」

 

 

「俺か?俺は名瀬・タービン、タービンズって組織の代表を務めさせてもらっている。」

 

 

「鉄華団団長オルガ・イツカだ。」

 

 

「なーにが鉄華団だ!!」

 

 

「最初の襲撃でオルガ達を置いて逃げだした腰抜けは何処の誰なんだろうな?イシガシ」

 

 

「それは、CGS元社長マルバ・アーケイですね。カエデ様」

 

 

「て、てめぇらは、カエデ・ビットウェイ・オズロック!!?イシガシ・ゴーラム!!?」

 

 

「イシガシ、私は途中来たから説明してくれ。何故元社長が画面の向こう側にいるのか。」

 

 

「はい、ご説明致します。」

 

 

「俺の考えも聞いてくれ、カエデの兄貴」

 

 

「あぁ。」

 

 

イシガシとオルガの口から状況が知らされた。

近付いて来たその船からの通信で顔を見せたのは自分達から逃げ出したCGS元社長のマルバ・アーケイだった。

 

 

そしてそのマルバは元CGSの全資産をタービンズという会社を運営する代表の名瀬・タービンに譲渡するという契約になっているらしくさっさと船を止めろという事らしい。

 

 

だがそれでは鉄華団は事実上の解散、メンバーは真っ当な仕事を名瀬本人が責任を持って紹介するらしいがそれは鉄華団としては許せないとオルガがカエデに伝えた。

 

 

何より自分達が受けたクーデリアの仕事という筋を通せなくなる。

加えて言うなればこれは千載一遇のチャンスでもあったのだ。

地球に行くための案内役が使えなくなったため新しいのを探す必要があったがギャラルホルンと揉めてしまった以上火星の本部の事を頼める大きい後ろ盾が必要となってしまった。

 

 

そこで目を付けたのがタービンズが傘下に入っているテイワズという巨大な組織だった。

しかし、オルガはその要求を突っぱねて自分達の力を見せる事でテイワズ入りを交渉出来るようにしようと考えたのだ。

 

 

「なるほど、申し訳ないが名瀬・タービン、あんたの要求はとても呑めた物じゃない。

私達は鉄華団としてクーデリア・藍那・バーンスタイン嬢を地球まて送ると引きうけた仕事なのだ。それを私達は投げだすわけにはいかない。」

 

 

「……お前達生意気の代償は高くつくぞ。」

 

 

名瀬・ダービンとの通信を切りカエデは格納庫へ向かいイシガシはオペレーターとしてブリッジで指揮を取る。

カエデは出撃前に再度機体チェックをしているとアインがモニターに現れた。

 

 

「オズロックさん、ナイトメアの方もイシガシくんに教わりながら出来る限りの調整はさせて貰いましたが一部分からない装置があってそこは俺はノータッチです。そこは解ってください」

 

 

「構わん、お前も位置につけ。」

 

 

「ご武運を!!」

 

 

何故、アインがカエデに敬語なのかと言うとイシガシとクランクの指示である。クランクにとってはカエデは自分の命の恩人だから。

イシガシは自分のことを好きに呼ぶことを許す代わりにカエデに忠誠を誓うと約束させたのだ。

そしてナイトメア、バルバトス及びグレイズ改、新たにグレイズカスタムと流星号が新たに加わりシノの機体に阿頼耶識が搭載されていた。

 

 

 

「MS部隊出撃、ガンダム・グレイズ出撃どうぞ。」

 

 

「イシガシ兄さん、そこは流星号で頼む!!」

 

 

「ガンダム・流星号出撃どうぞ。」

 

 

「よっしゃ!!サンキュー、イシガシ兄さん!!ガンダム・流星号 ノルバ・シノ出るぞ!!」

 

 

「続いて、ガンダム・グレイズ改出撃どうぞ。」

 

 

「ガンダム・グレイズ改 昭弘・アルトランド出る!!」

 

 

「続いて、ガンダム・バルバトス出撃どうぞ。」

 

 

「ガンダム・バルバトス 三日月・オーガス 行くよ!!」

 

 

「最後になります。ガンダム・ナイトメア出撃どうぞ。」

 

 

「ガンダム・ナイトメア カエデ・ビットウェイ・オズロック 悪夢を魅せてやろう!!」

 

 

イサリビから猛スピードで発進したナイトメアは先に出撃していたグレイズの改造機のシノ(命名:流星号)と昭弘のグレイズ改と三日月のバルバトスにあっという間に追い付いた。

 

 

「待たせたな、三日月、昭弘、シノ。」

 

 

「別に待っちゃいねえよ、カエデの兄貴。」

 

 

「うん、ナイトメアって凄い速いんだね。」

 

 

「そんな事より来るぞ!!」

 

 

鉄華団が所有し出撃可能な存在の中でも矢張り速度ではナイトメアが飛びぬけて速度に秀でているので合流した際にはブレーキを掛けて速度を調整しないとあっという間に追い越して敵艦にカエデ1人で特攻を掛ける事になるのだ。

 

 

レーダーには前方から2機のMSが迫って来ていた。

望遠するとマッシブな身体つきをしたMS。

近接に入り込まれると中々きキツいと思うカエデ。

 

 

「昭弘の知り合いか?」

 

 

「そうな訳ねぇだろう!!?カエデの兄貴!アンタは俺を何だと思ってるんだよ!?」

 

 

「暇さえあれば筋トレをしてるバカだが仲間想いの昭弘・アルトランド。」

 

 

「俺の印象それだけかよ!!?」

 

 

「だが、仲間想いは此処にいる全員に言えることだな。」

 

 

などというくだらない話をやっている間にイサリビにいるオルガから通信が飛んでくる。

如何やらもう1機のMSが出現し此方を攻撃し続けているとの事だった。

誰か2人戻ってきて欲しいという要請だった。

 

 

「んじゃ俺とシノが戻るよ。カエデ兄さんと昭弘に此処任せるよ」

 

 

「!………ああ、任せろ!」

 

 

「三日月、シノの事を頼んだぞ。初めてのMS操縦だからな。」

 

 

「うん、わかった。」

 

 

反転して一気に戻っていくバルバトスと流星号を追撃するようにタービンズのピンク色のMS、百錬がライフルで追撃を仕掛けるがナイトメアは杖型のハンマーを回しながら銃弾を防いだ。

 

 

「邪魔をするもんじゃないよ坊や」

 

 

「申し訳ないな、タービンズのパイロットよ。」

 

 

ナイトメアは素早く機体を切り返しながら相手の肩を杖型のハンマーで殴りつけながら一気に距離をとってまた近付いて強い力でまたタービンズの機体を杖型のハンマーで殴るのだ。

 

 

「中々、やるじゃないか。どんな坊やなのか顔を見てみたいよ。」

 

 

「そりゃどうも、だけど勝負は負けられんな。」

 

 

「それは、私達も同じだよ。」

 

 

オクスタンランチャーに持ち替えながら迫ってくる百錬を振り切るように速度を上げつつ消えたり出たり幽霊のように杖型のハンマーを振るい百錬の関節を狙っていたつもりだったがそこも確りとカバーするように装甲が覆われてナイトメアの攻撃が余り通じていない。

 

 

「…堅い装甲だな。」

 

 

「旦那持ちだからね、この位がちょうど良いのさ!!」

 

 

「それは贅沢な事だな!!(どうする、切り札の分身をやるか…だが…)」

 

 

再び間接狙いだがそれをあっさりと回避した上に回避先を先読みして杖型のハンマーをあっさりと防御しされた。

 

 

それを見てカエデはタービンズのパイロットも全く油断出来ない相手だと実感していたのだ。

力量は互角かもしれないけど負ける気は毛頭ない。

迫ってくる弾丸を高い機動力でスケートのように避けつつ昭弘の方へと目を向けるが其方は苦戦を強いられていた。




観てくれてありがとうございます。m(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦闘終わりと契約

 

 

 

「ぐっ!!オオオオッッ!!」

 

 

「しつこい……!!」

 

 

ライフルを破壊された昭弘は目の前のもう1機の百錬と戦闘を繰り広げているがカエデと三日月ほどの腕もない上にグレイズに改は阿頼耶識は装備されていない。

 

 

今までの戦いで培った勘と経験を頼りになんとか目の前の今強敵に食らい付いているようなものだ。

斧を掴みブレードを受け止めるが力量の差か出力の差かグレイズ改の斧は容易くヒビが入り砕けグレイズ改は蹴りを食らった。

 

 

「昭弘、大丈夫か?」

 

 

「カエデの兄貴、俺は……あいつに任されたんだ、兄貴と一緒に任された……此処は引けねぇぇぇっ!!引く訳にはいかねぇんだよぉぉ!!!!」

 

 

「くっ!!こいついきなり勢いがっ!!」

 

 

三日月の先程の言葉が発破となったのか一気に息を吹き返した昭弘は出力を全開にしながら百錬にタックルするとそのまま頭部を殴りつけ超至近距離で肩に付けられた砲塔を向けてぶっ放すと肩の一部の装甲を丸ごと破壊した。

それにより砲塔は壊れてしまった昭弘は怯まない。

 

 

「やはり、昭弘は根性が強いな。一気に片付けるといい。」

 

 

「おおおっ!!!おおおおおおおおお!!!!!」

 

 

カエデの言葉もあり大声を張り上げながら百錬の身体に組み付くとガンガンと装甲が無くなった部分へと拳を何度も何度も振るい続けていた。

 

 

相手の装甲が無くなった部分を何度も攻撃されれば幾らタービンズのMSといえどダメージはどんどん蓄積されていた。

 

 

「アジー!あっちの援護に行きたいけど、アンタが行かせてくれないねぇ!!」

 

 

「行かせるわけが無いだろ?弟分が頑張っているのだ。兄が戦場を離れる訳には行かないからな。」

 

 

援護へと向かおうとする機体すら自分に釘付けにしているカエデ、相手が重装甲だろうが全く怯まずに時には一直線に突撃して相手を驚かせて目の前で消えたり出たりして杖型のハンマーで殴り付けたり遠距離で高速移動しながらから幽霊のように攻撃して来て人外的なテクニックを連発していた。

 

 

それに百錬のパイロット、アミダは恐ろしさを感じていた。

自分が相手にしている少年はどれだけ強いのかと。

 

 

「悪いが一撃で終わらせてもらう。」

 

 

「アンタ一体どれだけ引き出しがあるんだい?」

 

 

「さぁな、"コレ"で終わらせてもらう。」

 

 

カエデは懐のポケットから十字架のペンダントを取り出して認証システムの中に入れると最大の攻撃が出来るようになるのだ。

 

 

「行くぞ!必殺ファンクション!!デスサイズハリケーン!!」

 

 

ナイトメアは左手で杖型のハンマーを右手を頭に持ってくるとT字で赤く光る双眼で左回転しながら上空まで行くと杖型のハンマーの先に大きな黒紫色の球体が出来ていた。

ナイトメアはそれを一気に振り落とすとカエデの相手をしていた百錬の両腕と片足が吹き飛んでいた。

 

 

そしてまた突撃しようとしたらイサリビからではなくタービンズの船であるハンマーヘッドから通信があったがそれはイシガシの声だった。

 

 

「直ぐに戦闘を終わって下さい、カエデ様。」

 

 

「タービンズとの話は付いたらしいな。」

 

 

「はい、カエデ様、三日月、昭弘、シノのお陰で御座います。」

 

 

「そうか。」

 

 

そう言いながらランチャーを肩に担ぎながらグレイズの方に目を向けて見るとそこには百錬の腕に組み付いて腕ひしぎ十字固めを行っているグレイズ改と腕を完全に決められている相手の機体、百錬の姿があった。

 

 

思わずカエデは噴出しかけたが良く見たら百錬の腕は後少しで千切れそうになっていたのた。

 

 

「ハァハァハァハァッ……やった、のか……?」

 

 

「良くやった、昭弘」

 

 

「カエデの兄貴…有難う、アンタがグレイズ改にインプットしてくれたこのモーションが無かったら今頃ボコボコに殴られてたぜ」

 

 

「あぁ、それか。それはイシガシがインプットした物だ。私は関与してはいない。だが、昭弘には似合いそうだと言っていたな。」

 

 

ナイトメアは本来はイサリビに戻るべきだが、カエデは相手の百錬をボコボコにしたので昭弘の相手をしていた百錬にくっついてカエデは相手の百錬を担いでタービンズのハンマーヘッドの中に入った。

 

 

戦闘終了約30分前。

MS部隊……仲間が身体を張って戦って暮れているのだから自分達もそれに報いる為の行動をしなければならないと危険は承知てイシガシ達はリスクなど知った事ではないと実行した。

 

 

結果として作戦は大成功、ブリッジまで進行したイシガシ達は銃を突きつけられたマルバは気絶しタービンズの代表の名瀬・タービンは取引の交渉に応じる事を約束してくれたのだ。

 

 

カエデがナイトメアから降りたところで、カエデの相手をしていた百錬のパイロットと話す名瀬・タービンがいた。

 

 

「アイツがお前に手を焼かせた男か?」

 

 

「あぁ。でも、少年だと思っていたが大人になれば結構いい男になるじゃないか。」

 

 

「おいおい、アミダ」

 

 

「ふふっ、冗談だよ。まだ少年だからね。」

 

 

「話している所に申し訳ないがオルガ達の所に案内してくれないか?」

 

 

「あぁ、俺達も今から行くとこだったんだ。」

 

 

「感謝する、名瀬・タービン」

 

 

タービンズ代表の部屋に通された団長のオルガ、クーデリア、MSの戦闘で疲れている筈の鉄華団相談役のカエデとお付のイシガシとユージンとビスケットはお洒落な部屋の内装に少々驚きつつも勧められて席に付いた。

 

 

「マルバはうちの資源採掘衛星に放り込む事にしたぜ。今回掛かった経費はあいつの身体で返してもらうことにした。」

 

 

「そちらに預けた話です、お任せします」

 

 

「元社長には相応の罰だ。それにしても男なのに結構いい性格してるな、名瀬・タービン。」

 

 

「そうかい。あんたも良い性格してそうだ。」

 

 

「お互い様だ。」

 

 

「はははっ、戦ってた時にも思っていたが中々の性格だね。」

 

 

先程までナイトメアとMS戦闘をしていた百錬のパイロットであるアミダが思わずそう口にした。

互いに通信は通じていたので声を知っているので目の前の相手がそうだとは分かったが名瀬は少年、カエデ・ビットウェイ・オズロックと名乗った少年は此処まで頭が良かったと思っていた。

名瀬は戦闘から戻ってきたアミダから聞いた話は…。

 

 

「あの黒い奴のパイロットは相当な腕だね。百錬と同等かそれ以上の推力で移動しながら間接部を近距離から精密攻撃なんて普通出来るもんじゃないよ」

 

 

と聞いていただけにどんな男がパイロットなのかと思えば目の前にはまだ成人してはいない少年で名瀬もある意味驚いていた。

 

 

「にしてもこの船に乗り込んだ時も思いましたが、女性ばっかりですねこの船」

 

 

「そりゃそうさ。この船は俺のハーレムだからな」

 

 

「はっ?」

 

 

無表情のカエデとイシガシ以外の鉄華団側の空気が死んだ。

流石にハーレムをやっているとは想像もしていなかったらしい。

ハーレムは男がそれ相応の財力や体力、活力などなど求められる物が多い。

それを実現出来る人間などハッキリ言って前世でも少ないのだ。

 

 

「まぁ、そう言うことだ。子供も5人ぐらいいるな、腹違いだが全員俺の可愛くて愛する子供達さ」

 

 

「世の中の男が羨ましそうな男の夢の園、色男だとは思っていたがそれ以上だな。」

 

 

「少年、否定はしねえな。まあ一度に抱くのは一人一人だけどな、そうしないと皆が嫉妬深くになっちまう」

 

 

「しかも全員と関係良好と来ましたね。これは負けてられませんねオルガ。」

 

 

「ええ……って何で俺に振るんですかイシガシの兄貴!?」

 

 

イシガシは「鉄華団の団長なのでそういうことも必要でしょう」という言葉に再びガックリ来るオルガに笑う名瀬とアミダ、何とも頼もしい教官と相談役補佐もいたものだ。

 

 

「んじゃ鉄華団団長殿、相談役殿。一旦話を戻して……ギャラルホルンとの戦いと今回の俺達との戦いでお前達の力は良く分かった。それで俺に何が望みだ?」

 

 

「私達は此処にいるクーデリア・藍那・バーンスタイン嬢を地球まで送り届ける仕事を依頼されている。だが、オルガ達は地球への旅は初めてですので案内役が必要なのだ。その案内役をタービンズに依頼したい。」

 

 

「そして俺達をテイワズの傘下に入れてもらう事は出来ないでしょうか?」

 

 

それを聞いて名瀬は成程と納得する。

圏外圏の一大商業組テイワズなら強大なギャラルホルンに対する後ろ盾になると考えている。

じっとオルガを見つめる名瀬は強く睨み返してくる姿に軽く笑って答えた。

 

 

「いいぜ、俺から親父に話を通してみる。」

 

 

「結構あっさりでしたね、これならこれは必要なかったですね。カエデ様」

 

 

「あぁ、そうだったな。」

 

 

そう言いながらイシガシは中ぐらいのトランクの中を開けると見たことは無い宝石と宝石のデータが入っていた。

 

 

「これは、美しいサファイアの宝石だな。だがこんな高価なサファイアの宝石は俺は見た事がないな。」

 

 

「私も見た事が御座いませんわ。どのような宝石なのですか?」

 

 

名瀬やクーデリア嬢も見た事がないらしい。

宝石を見つめながら目配せで説明を求められると素直に答えた。

 

 

「その宝石は"スターサファイア"という。私の家が代々管理していた物だ。普通のサファイアとは違い完璧にカットされたサファイアの中心から延びる6条の光線が特徴だな。私とイシガシも加工して持っている。」

 

 

カエデはヒューマンデブリでスラム街で生活する前はクーデリアと同じ貴族出身でCGSに入る前に潰れた家に行きその宝石を大量に手に入れていたのだ。

それでナイトメアの認証システムに入れた十字架のペンダントもスターサファイアを加工したものだ。

勿論、イシガシの持つ十字架のペンダントもスターサファイアを加工したものだ。

 

 

「加工しいても尚美しい宝石だ。」

 

 

「名瀬・タービンとテイワズに譲っても良い。大量にあるからな引き取り手が欲しかったのも事実だ。

それにこのスターサファイアは地球で"勝利の石"や"運命の石"と言われて来たのだ。スターサファイアの交差する光の帯が信頼、希望、運命を象徴すると信じられていたらしいからな。」

 

 

「それに身を守るための護符とも言われていますからハーレムを持っている貴方の身を護る宝石になると思いますよ。それにペンダントだけでは無く武器にも加工していますので戦いの幅も広くなるので良いのではないでしょうか?。」

 

 

「武器って何の武器だ?」

 

 

オルガの質問にカエデは答えた。

 

 

「ナイトメアが使っている杖型のハンマーがあるだろう。あの1部の球体になっている場所にスターサファイアを加工して埋め込んでいるのだ。

 

 

そうすることで元々高い攻撃力を持っていたナイトメアはさらに強くなるのだ。

 

 

しかし、それではかなりのエネルギーを消費することになるだからスターサファイアを加工したペンダントを持って出てくるエネルギーを抑えていたり逆にエネルギーの枷を外したり出来るのだ。」

 

 

カエデとイシガシの説明に名瀬の回答は…。

 

 

「……なぁ、カエデ・ビットウェイ・オズロック。このスターサファイアとスターサファイアを武器とアクセサリーにした加工したデータ、タービンズ否テイワズと独占契約を結ぶ気はねえか?」

 

 

その言葉に全員が驚いた。

 

 

「私ではなく鉄華団の独自加工技術としてテイワズに加工料をくれるならいくらでも使えば良い。」

 

 

「お、おいカエデの兄貴、良いのかよ!?俺達全然わからねえけどカエデの兄貴の家の宝石とデータだろ?まじで良いのかよ!!?」

 

 

技術的な部分がどれだけ凄いのかは分からないが事態の深刻さは良く分かったオルガは慌てたようにカエデに問いただした。

名瀬の言い方して相当に凄い加工品と宝石なのは間違い無い。

 

 

ある意味カエデ自身が独占すべき物とも言えるのにそれをあっさりと使って良いと決めてしまっていい物なのか。

 

 

「構わん、それに元々家は壊滅していまの当主は私だ。そのスターサファイアとスターサファイアの武器と加工品をどう使うかは私が決める。それに少しでもお前達鉄華団の財源が潤えば、オルガ達が楽になるだろう。」

 

 

「っ……カエデの兄貴」

 

 

オルガは言葉に詰りそうになりながらも珍しくイタズラが成功したような笑みを浮かべたカエデに改めて尊敬した。

 

 

経った2つ年上で自分達よりも長く生きているような感覚があるが…それにどれだけ自分達の事を考えてもらえているのかと何よりも自分達の事を優先してくれている事に改めて嬉しく思えてしまった。

 

 

「こりゃ想像以上に素晴らしい少年だな。まぁ正式な契約をするかどうかは本拠地の歳星に着いた時に決めるとしよう。」

 

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

「カエデ様の家の宝石と加工品のデータを貴方に見せたのですから出来るだけ良い値段を期待していますよ。」

 

 

「こんなお宝、下手な額出せねえよ。」

 

 

カエデとイシガシは名瀬の部屋から出てナイトメアに乗ってイサリビに帰還したのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

テイワズの傘下と兄弟の盃

 

 

 

タービンズとの戦闘及び交渉からまもなく10日が過ぎようとしていた頃、タービンズと鉄華団は圏外圏随一と言われている大組織であるテイワズの本拠地である巨大な船、歳星へと到達したのだ。

 

 

此処から自分達の運命が再び変動していくといっても過言ではない場に皆はやや緊張しながらも名瀬の案内の元で歳星へと降り立つ前にイサリビにいたカエデに呼ばれたオルガと三日月はカエデの部屋に着くと見知らぬ服を着ていたカエデとイシガシがいた。

 

 

「カエデ兄さんとイシガシ兄さん、何の用?」

 

 

「早く行かねぇと…」

 

 

「馬鹿者、そのままで行くつもりか!鉄華団のパーカーで行ったらテイワズの代表に失礼だろう。」

 

 

「名瀬さん達はちゃんと少しだけ遅れることを伝えていますので安心しなさい。」

 

 

そういうイシガシは黒と赤の着物で帯は茶色でカエデは黒と紫の着物で帯は赤色の着物を着ていたがその背中には金色の鉄華団のマークと蝶の絵柄が刻まれていて髪につけるタイプの金色の房飾りを付けてスターサファイアで加工した十字架のペンダントを付けていた。

 

 

「それを、俺とミカが着るのか?」

 

 

「そうだと言いたいところだがこの着物では無く袴を着てもらう。着物よりは動きやすいからな。

 

 

だが、色はこちらで決めているが文句は言うな。もしかしたらまた着る機会があるかも知れんから着方を覚えろ。今回は私とイシガシが着付けしてやる。」

 

 

カエデは三日月の手を引いて奥の部屋に連れて行きイシガシも呆然としたオルガの手を引いてまた奥の部屋に連れて行く。

そして数十分後、袴を窮屈そうにしている三日月とオルガ。

 

 

2人の着物は黒の袴だったが三日月とオルガの袴の裏には金色の鉄華団のマークと蝶の絵柄が刻まれて髪につけるタイプの房飾りを三日月だけ付けた。

オルガにはスターサファイアで新しく作った加工品である青色のブレスレットを付けていた。

 

 

「すげぇな、カエデの兄貴こんなのいつ買ったんだ?」

 

 

「うん、動きづらいけど豪華な服だよね」

 

 

「買ったのでは無い。作ったのだ…イシガシと私が2人でな。」

 

 

「えっ、作った!?」

 

 

「えぇ、今回は時間が無かったので私が着物を作ったのです。

カエデ様が着物に使う装備品を作ったのですよ。

まぁ、今回出席する鉄華団の主要メンバーだけの着物を用意したのです。」

 

 

「では、着替えを済んだので行きましょうか。」

 

 

カエデとイシガシは普通に歩き出すがオルガは転ばないようにゆっくりと歩くが三日月は1歩も動いていない。

 

 

「三日月、どうした?」

 

 

カエデは三日月の側まで戻ると三日月に手を掴まれた。

 

 

「カエデ兄さん、連れてって…」

 

 

「おい、一体どうしたんだ?三日月。致し方ないな…イシガシ、オルガ!先に行っていてくれ!」

 

 

「かしこまりました、カエデ様。行きますよ、オルガ」

 

 

「あぁ、早く来いよ。ミカ」

 

 

「三日月、何があった?」

 

 

「この頃、オルガとばっかり話してる…俺もカエデ兄さんと一緒にいる時間ない…」

 

 

カエデは考えていると確かに三日月と話している時はほとんど無かったと思い出していた。

 

 

「寂しかったか?」

 

 

「…ん…(コクッ」

 

 

「フッ、お前はイシガシと同じで表情が変わらないし、余りお前は感情を表に出さないから心配していたが寂しいと言う感情を覚えたか…」

 

 

「…ん…」

 

 

「それで、三日月…そろそろ抱きしめるのは止めて離してくれ無いか?」

 

 

「ん…わかった…」

 

 

だが、まだ不満がありそうな顔をしている三日月を見たカエデは右手を三日月の頭に持ってくるとゆっくりと撫ぜた。

 

 

「(さっきの顔より今の顔の方が少しだけ表情が良くなったな…)」

 

 

カエデは三日月の手を引いて先に向かったイシガシとオルガの後を追った。

 

 

カエデと三日月は急いで名瀬の場所に向かうとイシガシとオルガがいた。

そして鉄華団主要メンバーはゆっくりと進めていく歩みの先にはこれから話をするテイワズの代表、マクマード・バリストンの館があった。

 

 

圏外圏一恐ろしい男と語る名瀬の言葉にその場全員が身だしなみを再度整え、入り口の人間に門を開けてもらい名瀬は脅しておきながら

 

 

「んじゃ行くか」

 

 

と軽く言った。

鉄華団主要メンバーが緊張している中で全く緊張していない人が2人いた。

 

 

「あぁ、行くぞ。お前達」

 

 

「かしこまりました。カエデ様」

 

 

普段と変わらないカエデとイシガシの2人のみであった。

カエデのMSの操縦技術と頭の回転の速さや鉄華団の資金等の調達、イシガシの圧倒的の指揮力と知識量等で助けられている鉄華団だがこんな時に緊張しない方法を教えて欲しいと思っていた。

 

 

余裕綽々と言わんばかりの名瀬の軽い足取りに着いて行く鉄華団の主要メンバーとクーデリア、そして通された部屋では恰幅が良い男性がカエデとイシガシに似ている和服を着ながら盆栽の手入れに使う鋏を持ちながら此方を見つめていた。

 

 

「おう、来たか名瀬」

 

 

「ええ。久しぶりです親父」

 

 

「こいつらが鉄華団か……話は聞いてるぜ、全員良い面構えしてるじゃねえか」

 

 

穏やかな表情で此方を持て成しつつお茶菓子を用意してやれと声を掛ける姿に圏外圏一恐ろしい男という名瀬の言葉から連想していたイメージからかなり的外れな印象を受けてしまっていた。

 

 

カエデは表情は普段どおりにしつつも内心では軽く笑っていたのだ。

こういうタイプの人間は表ではなく内面が怖いのだと前世で散々分かっているからだ。

 

 

「こいつらは大きなヤマが張れる奴だ。親父、俺はこいつらに盃をやりたいと思っている」

 

 

「えっ?」

 

 

小さくオルガが驚きの声を上げる。

あくまで交渉の道筋を作ってくれるという話だったのにそれを飛び越えて名瀬自らがテイワズの一員として推薦したいといっている。

予想外な話にオルガは戸惑ってしまう。

 

 

「ほうお前がそこまで言うとはな……。何とも珍しいな、いいだろう俺の元で兄弟の杯を交わせばいい」

 

 

「タービンズと鉄華団が兄弟分……!?」

 

 

驚いて暇も無く兄弟の盃の件は五分ではなく四分六、タービンズが兄で鉄華団が弟という事になった。

 

 

余りな急展開にオルガはなんとか事態を受け止めようと必死になっていたが取り合えずしたい話は済んだので一度クーデリアとマクマードの話に入った。

カエデとイシガシと三日月は護衛として残っている。

 

 

「あんたがクーデリア・藍那・バーンスタインか。時の人と会えるとは光栄だ」

 

 

「時の人だなんて……そんな……」

 

 

カエデとイシガシは2人の話の邪魔をしないようにしていたらクーデリアとテイワズの代表がハーフメタル利権の話になっていたがクーデリアが三日月に視線で助けを求めていた。

 

 

三日月は"ハーフメタルの権利"はクーデリアの最期を決めるような決断だから自分が決めろ的なことを三日月が言うと、テイワズの代表が三日月に興味を示したのだ。

しかし、クーデリアは今すぐには決められずに翌日に決める事にしたらしい。

 

 

「おい、カエデ・ビットウェイ・オズロック。」

 

 

「何でしょうか?テイワズの代表。」

 

 

「何時もの口調で構わん。てめぇがアミダを足止めしたっていうパイロットで合ってるか?」

 

 

カエデが答える前に三日月が答えた。

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

「はぁ、あぁそうだ。それが何かしたか?」

 

 

「いや、アミダを足止めできるパイロット等は余りいないからな。それでお前らモビルスーツ乗りのやつだな?」

 

 

問いかけられた三日月がカエデに目を合わせて共に頷くとテイワズの代表が笑います。

 

 

「坊主、てめぇの名はなんだ?」

 

 

「三日月・オーガス…あっ…です。」

 

 

「三日月。お前のモビルスーツをウチで見てやろう。ウチの職人は腕がいいぞ」

 

 

「は?」

 

 

「取って食ったりしねぇよ。じじいの気まぐれだ」

 

 

そうやって朗らかに笑うテイワズの代表の顔はとてもじゃないけどヤクザのボスには見え無かった。

名瀬が鉄華団が鹵獲した物に対して金額がついたといってきた。

 

 

「これで良ければ請求を寄越してくれ」

 

 

「こ、こんなに!?」

 

 

「中でもグレイズのリアクター二基は高く売れた。

エイハブリアクターを新規に製造できるのはギャラルホルンだけだからな。しかもうち1機は重要な部分にダメージがないから良い値が付いた」

 

 

その1機とはカエデが鹵獲したアインのグレイズであった。

カメラとスラスター部分は破損しているがその辺りは修理したり代わりのパーツに換装するだけで済むので余り値には響かなかったらしい。

 

 

売る際にアインに大丈夫かと聞いたら気にせずに売ってもいいと言っていた。

元々自分の所有ではないし既に自分は鉄華団だと力強く答えてくれた。

 

 

「こんな値段するのならば火星の軌道上でもっと鹵獲しておくべきだったな。」

 

 

「おいおい、これ以上だと業者も金準備するのに困っちまうぜ」

 

 

「ちっ、そうだな。」

 

 

オルガは名瀬に恥ずかしそうに兄貴と呼び感謝を示した。

カエデとイシガシには普通に呼んでいるのに何故か照れていた。

 

 

そしてオルガこの金を使い火星からの出発やギャラルホルンとの衝突なので疲れとストレスが溜まっている団員を労いたいと申し出ると名瀬とカエデとイシガシはそれを大いに推した。

 

 

「そりゃいい考えだな。団長としては家族のストレスをいい感じに抜いてやるのも仕事だからな」

 

 

「宇宙では娯楽は限られていますからね、息抜きは大切ですよ。」

 

 

「だよな、イシガシの兄貴!……うし!!今日はこれでパ~っとやるぞ!!皆疲れてるだろうし色々大変だったからな、ここらで皆で一気に疲れを癒すとするか!!」

 

 

「おう、そうしろ!歳星は金さえあれば楽しめる場だ。思いっきり羽を伸ばせよ」

 

 

 

そういうと早速オルガはイサリビにいるユージン、ビスケットと三日月とクーデリアを連れて商業施設へと繰り出していった。

まずは幼年組に対する簡単なご褒美と艦内でストレス解消をする為の機材を見にいった。

 

 

それを見送ったカエデはイシガシに例のスターサファイアとスターサファイアの武器と加工品のデータを出して名瀬と向き合って同じように名瀬は契約書を取り出した。

 

 

「んじゃ、早速契約と行くぞ。カエデ・ビットウェイ・オズロック。鉄華団保有の独自技術であるスターサファイアで作られた武器と加工品のデータ。

 

 

その技術とノウハウはテイワズでも加工研究開発を行うに伴いその許可料金と使用料を支払い独占契約を成立させる。

 

 

そして条件として鉄華団所有MSである『ガンダム・バルバトス』のメイスにスターサファイアを加工した武器の搭載を望むだったな」

 

 

「あぁ、そうだ。」

 

 

「親父もノリノリだったな。こんなお宝に対してこんな条件でいいのかって驚いてたぜ。

だけどその分かなりの金額と弾薬や薬品、補給物資なんかを鉄華団に渡すって話だ。それでOKか?」

 

 

「あぁ、勿論だ。それにしても凄い金額だな。これに加えて毎月毎月鉄華団に金振り込まれる訳だからな。」

 

 

書類に書かれている金額だけで一体どんな買い物が出来るのだろうか。少なくとも火星の鉄華団本部の経営に関してはもうこれだけでやっていけるんじゃないかと思えるほどだ。

 

 

カエデとイシガシが前世の記憶を元に生み出した技術のぶっ飛び加減が改めて理解出来た。

そして内容を熟読し確りと確認したうえでカエデとイシガシはサインを行った。

 

 

テイワズの用事も済ませた事でカエデとイシガシは漸くイサリビに帰還する帰り道でオルガ達青年組が意気揚々と出掛けて行くのが見えた。

 

 

「いい顔しているな、あいつらは…」

 

 

「えぇ、そうですね。カエデ様、我々もオルガ達と合流致しましょう。おやっさんとクランクさんとアインさんも既に誘っておりますので…。」

 

 

イサリビに戻ったカエデとイシガシは大人3人とカエデとイシガシはオルガ達と合流し楽しく騒ぎつつその後2次会と称して静かに大人と来年大人になる2人の少年だけの酒の時間を過ごした。

 

 

因みにアインは余り酒が得意でもないのに飲みすぎて顔を真っ赤にして倒れこんでしまったのでそこでお開きとなってしまった。

この時の目を回している姿はイシガシが撮影しており艦内にばら撒かれそうになったのをアインが止めようとするのがまた別の話である。

 

 

「フフッ…いい物が手に入りましたね…」

 

 

「イシガシ君、お願いですからばら撒かないで!!?」

 

 

そして後日、鉄華団はテイワズの元でタービンズとの兄弟盃を交わし正式にテイワズの傘下の一企業となった。

そして同時に……

 

 

「うおおおおお!!何だこのスターサファイアを使ったのシステムは!!?凄い凄い凄すぎる!!重力制御と攻撃力を上げることが出来る装置なんて見たことがないぞ!!

 

 

これを作り上げたカエデ・ビットウェイ・オズロック君!!君天才だ!!更にこれをガンダムと武器に搭載しろって言われなくてもやっちゃうよ私は!!!!」

 

 

「これがマッドメカニックか…」

 

 

「バルバトス、ナイトメアみたいに速くなって分身出来るかな?」

 

 

「三日月、バルバトスは重量級ですからおそらく無理ですよ。」

 

 

一方ではとんでもない事が起ころうとしていたのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブルワーズ編
ブルワーズと2人の兄弟


 

 

 

テイワズの傘下となりタービンズの兄弟分となった鉄華団、歳星での取引やカエデのスターサファイアの武器と加工品技術契約が終了した事で漸く鉄華団の仕事に入る事が可能となった。

 

 

オルクス商会とは違い本当の意味で信頼出来る案内の元で地球を目指す事が出来る。

一枚隔てた向こう側に広がる宇宙の海へと漕ぎ出して行くイサリビとハンマーヘッドを見送る三日月、雪之丞そしてカエデとイシガシ。

 

 

彼等はバルバトスの完全整備とスターサファイアメイスの搭載の為に待機し、それが完了次第追いかける事になっているが如何にも三日月は何処かさびそうに見える。

 

 

「寂しいのか三日月?」

 

 

「うん寂しいよ、皆と離れるってそんな無かったから」

 

 

「大丈夫だ。バルバトスとナイトメアの整備が終われば直ぐに追いかけられる」

 

 

「うん、そうだね。カエデ兄さん」

 

 

普段の強さから不意に忘れがちになるが彼もまだ子供なのだ。

仲間の為なら、オルガとカエデとイシガシの命令なら簡単に銃を手に取り嘗ての上司ですら容易く殺すだろう。

 

 

そんな恐ろしさと強さから子供っぽさのない事から子供というのが如何にも頭から抜けがちだなと雪之丞は笑う。

 

 

雪之丞は出来るだけ対等な立場目線で話をしているが彼等を弟として子供として正しく扱っているのはカエデとイシガシの2人だ。

 

 

「楽しみだな、スターサファイアを加工した搭載型のバルバトス」

 

 

「カエデ兄さんのナイトメアみたいになるのかな」

 

 

装甲が薄いと言っても過言ではないナイトメアだからこそあの動きが出来るのであってバルバトスに同じような動きをされてしまったらもう手の施しようがない。

 

 

そうなったらカエデと同じ速度で敵陣に突っ込みつつメイスで相手を叩き潰していく悪魔が爆誕する事になるが是非ともそうなったらカエデの立場が狭くなるのでご勘弁していただきたい。

 

 

「お~い、三日月君にカエデ君!君達の阿頼耶識のチェックを始めるからお願い〜。」

 

 

「う~す」

 

 

「分かっている。」

 

 

整備長の言葉を受けてそれぞれのナイトメアとバルバトスに乗り込んで居た。

 

 

幾ら傘下に入れてもこんな大掛かりな整備はしてくれない筈だがどうやら三日月がマクマードに気に入られたからこそ予算上限無しという整備士にとっては夢のような条件下での整備が可能になった。

 

 

整備長は幻のガンダム・フレームを整備出来るというだけでテンションMAXだったのにスターサファイアを加工した武器と装甲が搭載されたナイトメアという存在のせいでもうテンションゲージが振り切れているのかもう目がやばい事になっている。

 

 

そして数時間後、ナイトメアとバルバトスの全ての準備が完了するとバルバトスは巨大なブースターが装備されている輸送機のクタン参型の中に収容されるとクタンの操縦席へ雪之丞が乗り込むのを確認するとバルバトスに三日月が乗ってナイトメアにはカエデとイシガシが乗って歳星を出た艦を追いかけるように宇宙へと飛び出して行った。

 

 

流石に大型のブースターがあるだけにクタン参型の速度は速くナイトメアも出力を上げて加速し並び立った。

 

 

「やはり速いな。整備されて調子が良いナイトメアでも追いつくのがやっとか。」

 

 

「エネルギーを開放されれば抜けますけどね。」

 

 

「それはそうだがあれは最終手段だ。」

 

 

「それでもナイトメアは元からバルバトスと同等かそれ以上の速度があるって事になるんだけどな、それでも十分やべぇよ」

 

 

「これなら直ぐにイサリビとハンマーヘッドに追いつくだろう。」

 

 

結果としてはそれほど時間が経つほども無くナイトメアとバルバトスのレーダーにイサリビとハンマーヘッドのリアクターの反応を捕まえる事が出来たが他の反応も拾った。

 

 

「っ!三日月!昭弘のグレイズと未登録の反応が三つあるぞ!」

 

 

「分かった、バルバトスで一気に加速して突入するから!」

 

 

「行くぞ!!」

 

 

迷う事無く出力を全開にする三日月とカエデ、イサリビをあっさりと抜かしつつ戦闘空域へと侵入するとバルバトスはクタンから出て単身で突撃して行ったのだ。

 

 

「お、おい待て俺は操縦なんかできねえぞ!?」

 

 

「御安心を…おやっさん、私が操縦モードでイサリビまで御案内致しますので…」

 

 

イシガシはそういい残すとナイトメアを操縦しているカエデの横でクタンを操縦モードでイサリビに置いて来た。

バルバトスと同じように加速して空域へと突撃して行くナイトメア。

 

 

モニターに映っているのは複数の敵に囲まれながら銃弾を打ち込まれ続けているグレイズの姿と反撃はしているが相手のMSはずんぐりとした厚い鎧を纏っているかのようなMSでグレイズのライフルでは傷一つついていなかった。

 

 

そして1機のMSが昭弘のグレイズに向けて斧を振り下ろそうとしたその時、頭上よりやって来た悪魔が首へと入れるように真っ直ぐと太刀を突っ込んだ。

装甲の内部へと潜った太刀は機体の内部とコクピットを一瞬で破壊しMSを再起不能とした。

 

 

「流石は三日月だな。」

 

 

「えぇ、恐ろしいことですね」

 

 

「カ、カエデの兄貴!?イシガシの兄貴!?み、三日月なのか?っというか3人とも早くねえか!?まだ数時間しか立ってないぞ?」

 

 

「あぁ、急いで来たからな…」

 

 

改めて新しくなったバルバトスを見た。

テイワズの整備長が厄祭戦当時の物を再現したと行っていたがあれが恐らく本来のバルバトスの姿に近い物なのだろう。

そしてそこへスターサファイアで加工した短い翼のような突起、それによって全体的な性能が上昇しており三日月もその動かしやすさに驚いて笑っていたのだ。

 

 

「カエデ兄さん、イシガシ兄さん!助かりました!!」

 

 

「タカキ、君まで居たのですか…」

 

 

「はい。昭弘さんと哨戒に出てたんです」

 

 

「三日月は昭弘とタカキの護衛だ。私が殿を努めようと思う。」

 

 

「分かった、カエデ兄さん、無理はしないでね」

 

 

バルバトスは軽い動きで昭弘のグレイズとタカキの乗った背負われたMWを護衛するようにイサリビへと向かっていた。

 

 

その背後から迫ってくる緑色で何処かカエルらしき印象を受けるMSにナイトメアは狙いを定めた。

 

 

「此処から行かせん。」

 

 

杖型のハンマーで敵機には大したダメージがあるようには見えなかった。

やはり重装甲タイプの敵はやりづらいので新発明を使うことにした。

ナイトメアは杖型のハンマーを背中に戻して銃を装備し直した。

 

 

「食らうと良い。」

 

 

ナイトメアの放った銃弾が直撃と同時に高熱を発しながら爆発を引き起こしマン・ロディの装甲のナノラミネートアーマーを瞬時に剥がしてしたのだ。

そして透かさずそこへ杖型のハンマーを打ち込んでみると光は腕を貫通し破壊した。

 

 

「想像以上の出来前ですね、カエデ様。スターサファイア入りのナパーム弾。」

 

 

「あぁ、敵が撤退し始めている。」

 

 

「うわああああ!!な、なんだよあれMS用のナパーム弾なのかよ!!普通じゃないぞ!!」

 

 

「くそっ!!兎に角動き回れ、隙を見せたらやられるぞ!!」

 

 

もう1機の言葉を受けて機体の見た目とは反した高い機動性を見せて此方の射撃を受けまいと動き始めるマン・ロディ。

だがしかし唯激しい動くだけで当たらなくなるのでは高速移動している機体でまともに遠距離射撃など出来ないと踏んだのだろうが…。

 

 

「ナイトメアに効くわけなかろう。」

 

 

カエデは笑いながら正確に頭部と胸部それぞれ通常の弾丸を寸分違わずに命中させて見せた。

 

 

「な、何だこいつ……!?やばい、やばすぎるぞこいつ!?」

 

 

「くそ!!一旦デブリの影に行くぞ!!」

 

 

ナイトメアに恐怖を感じたのか一目散にデブリの中へと逃げ込んでいく2機を見るとナイトメアはその隙に一気に後退し三日月の援護へと向かっていく。

 

 

だがそこでは既に名瀬率いるタービンズからの援護が到着していたのか三日月とマン・ロディを更に大型化させたような機体と交戦をしていたのだ。

 

 

そこから勢いよく遠ざかるようにしているグレイズ改を発見するとカエデはそちらの護衛につく。

 

 

「昭弘にタカキか?どうしたんだ!?」

 

 

「カ、カエデ兄さん!タカキが!!タカキが!!!!」

 

 

昭弘は何時もカエデのことは兄貴と呼ぶがいま兄さんと呼んでいた。それほどに動揺していたのだ。

昭弘のらしくない悲鳴のような声を聞きMWを見るとそこには拉げた装甲のMWがグレイズ改の手の中にあった。

それを見た瞬間ナイトメアに乗っていたカエデとイシガシの血の気が引いて行った。

 

 

「急げ!!イサリビへ!!」

 

 

「タカキ、タカキしっかりしろ!!もう着くんだ、頼むしっかりしてくれ!!!!」

 

 

イサリビのドッグへと戻ってきたナイトメアから飛び降りるようにカエデとイシガシは拉げた機体からタカキを救出しようと奮闘している皆の元へと急いだ。

 

 

カッターなどを使用し必死にMWの装甲を抉じ開けようとする中でライドの声が木霊する。

そして開いたMWの中から出てきたのはスーツの中で激しく流血し意識を失っているタカキだった。

それを見たイシガシはドッグにある応急キットを取るとタカキの元へ向かうがカエデの声が聞こえた。

 

 

「イシガシ!!それでは間に合わん!!」

 

 

「しかし!!カエデ様!!」

 

 

「私に任せろ!!全員そこを引け!!」

 

 

鉄華団全員は普段大声を出すことの無いカエデに驚きその場で立ち止まった。

その隙にカエデはタカキの元に行き心臓の場所に手を置いて目を閉じるカエデの背中から青黒い影が出て来た。

 

 

「…出て来い、暗黒神ダークエクソダス…」

 

 

「んだよ、あれ…」

 

 

「ダークエクソダス、タカキの中に入り命を繋ぎ止めろ…あとは頼んだぞ、イシガシ」

 

 

カエデはそう命令するとダークエクソダスはまた青黒い影になってタカキの身体に入るとイシガシが輸血パックと包帯を持って応急処置を始めた。

 

 

必死な応急処置は医務室から治療道具を持ってきたクーデリアとそれを受け取ったテイワズからの仲介役にしてお目付け役のメリビット・ステープルトンが来るまで行われた。

 

 

メリビットが治療を行おうとした時驚いた、応急処置とはいえ自分がやる事がもうかなり少なくなり後少し行えば大丈夫というところまで来ていた。

 

 

「後は私がやります、イシガシ君は医務室のメディカルナノマシンベッドを!!」

 

 

「此処はお願い致します。」

 

 

そう言って去って行くイシガシを見送ったメリビットは応急処置が行われたタカキの治療を行うが簡単な最終工程しか行うとそのまま数人の手を借りてタカキを医務室へと連れて行った。

 

 

「イシガシ兄さん!!タカキは!!?」

 

 

医務室へと駆け込んできたオルガと昭弘、連絡を聞いてすっ飛んできたのだがそこには正常な心拍音を立てる計器と呼吸をしながら横たわるタカキを見守る1人の女性とイシガシの姿があった。

息を荒げながら入ってきたオルガに対してイシガシは…。

 

 

「無事ですよ。」

 

 

「良かった……本当に…」

 

 

その時、三日月に肩を借りて医務室まで来たカエデの姿があった。

 

 

「どうやら…命を繋ぎ止めたらしいな…」

 

 

「はい、しかしカエデ様。何故あのような危険な行為をしたのですか!!1歩間違えれば貴方様も死んでいたかもしれないのに!!」

 

 

「あぁ、だが結果的には賭けに勝ったのだ。それに私が無茶をしなければタカキは高確率で死んでいた。」

 

 

カエデはゆっくり歩きながらタカキの元へ向かうと頭を撫ぜた。

 

 

「私の命とタカキの命…それを天秤に乗せただけだ…。」

 

 

「…………はい…」

 

 

「カエデの兄貴、なんて無茶をしたんだよ…でもタカキとカエデの兄貴が生きててくれて良かった。」

 

 

その時、昭弘がカエデとイシガシに先程の影について尋ねた。

 

 

「あれは化身。人の思いが形となって現れた実体を持たない存在が人の視覚に見える姿を取ったものです。」

 

 

「人の思いが形になった…」

 

 

「俺達も使えるの?」

 

 

三日月は何気ない一言で言ったつもりだが…イシガシは否定する。

 

 

「不可能です。私とカエデ様しか使えませんし使う事に体力を奪われ続けるのです。」

 

 

「…そうなんだ…残念…」

 

 

三日月は化身が使えなくて残念そうだがその時

 

 

「イシガシ君、貴方は船医を兼任してるんですか?」

 

 

鉄華団の内部状況に詳しくないメリビットはそう尋ねると頷いた。

 

 

「大体私とカエデ様が皆が出来ない仕事請け負っています。鉄華団にはまともに教育を受けられてない子とか経験がないこが多い上にテイワズとの交渉で漸くまともなお金が入ってきたばかりなので、私とカエデ様が重要な所は全て…」

 

 

それを聞いてメリビットは相当驚いていた。

イシガシとカエデの年は見た所10代後半、それなのにどれだけの苦労を重ねているのだろうか。

 

 

そして苦労せざるを得ない鉄華団の状況の悪さにも驚きと心のどこかで船医が居ない事を責めようとした自分を恥じた。

雇っていないのではなくいままで雇えない状況だったのだから。

 

 

「カエデ様、そろそろ化身をタカキの中から引き出して下さい。これ以上はカエデ様の身体にも異変が起こります。」

 

 

「あぁ、出て来い、ダークエクソダス。」

 

 

カエデの呼び掛けで暗黒神ダークエクソダスはタカキの身体から出て来てカエデの身体にまた宿ったのだった。

この後、体力が戻ったカエデとイシガシは自分達を襲ってきたのがブルワーズという海賊であることが発覚し加えてそこに昭弘の弟が居るという驚愕の事実までが明らかになった。

そんな中カエデが口にしたのは…。

 

 

「なら決まりだな。全員、昭弘の弟を助け出すぞ。」

 

 

「ありがとう、みんな、カエデの兄貴。」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブルワーズの戦い2

 

 

 

こちら側に喧嘩を売ってきた武闘派として知られている海賊ブルワーズ。

大組織の傘下のタービンズにも喧嘩を売ってきているのも関らずに名瀬曰く向こうは妙に強気だったらしい。

 

 

「強気と言うことはそれ程の後ろ盾があるとすればなんだと思う?オルガ」

 

 

「それは、ギャラルホルンか?」

 

 

「当たりだ。」

 

 

この圏外圏でそれだけ強気で居るためにはそれだけ強い後ろ盾が必要となってくるのだがテイワズ以外でそんな組織となるとギャラルホルンしかない。

決定付けるようにクーデリアを渡したら命は助けると言ってきたらしい。

 

 

「さてと……」

 

 

「三日月、頼んだぞ」

 

 

「うん、行って来るよ、カエデ兄さん」

 

 

ブリッジから出て行く三日月の背中を追い終わるとカエデはイシガシが出したモニターに目を移した。

タービンズが予測したブルワーズが奇襲を仕掛けてくると思われているのは近道として、隠密性の高い物が求められる仕事に使われるデブリ帯内の抜け道とされた。

 

 

だが正面から行くのではなく宇宙ネズミの強みを活かして戦艦二隻はデブリの中を突破し敵艦の背後を取って奇襲を仕掛ける作戦になった。

その為に航続距離の長いラフタの百里とブースターを付けたバルバトスでこちらの艦との距離感覚を狂わせる二重の作戦を行う事になった。

 

 

「んじゃ、船の操舵はユージン頼むぜ」

 

 

「おう任せとけよ」

 

 

着々と進んでいくブルワーズへの攻撃作戦と昭弘の弟、昌弘の救出作戦だがカエデは考えていた。

昭弘から話を聞いたが"本当にただ話をするだけで分かってくるのだろうか"と…。

 

 

何年も会えずじまいでいた兄と弟、必ず迎えに行くといっていた昭弘ももう死んでいると思っていたらしい。

それは弟も同じで絶望してしまっているのではないかと考えていた。

 

 

「オルガ。ハッキリ言うが昭弘が弟に迎えに来たぞ!と言って素直に鉄華団に来ると思うか?」

 

 

「んっ?あぁ……難しいのかもしれねえな、カエデの兄貴。」

 

 

必ず鉄華団に迎え入れようと全員で決めたのにと思ったがカエデは瞬時に頭が冷えて考えてみると確かに難しいと思う。

 

 

確かに昭弘は迎えに行くと言っただが結果として今まで来なかった。

カエデとイシガシは元ヒューマン・デブリだが昭弘の弟は絶望と希望を与えていたのかは分からないがどうせ昭弘は来ない来たとしても何でもっと早く来てくれないとか遅いんだとかでもめる可能性も大いに有り得ていたのだ。

 

 

「話をしないと分からないものもありますからね…」

 

 

「いや、まぁそうだろうけどよ…イシガシの兄貴。」

 

 

「カエデ兄さんとイシガシ兄さんって偶に物騒だよな」

 

 

「悪かったな…」

 

 

操舵の準備に掛かったユージンの言葉に思わずブリッジクルー全員が同意した。

そんな話を済ませるといよいよイサリビとハンマーヘッドはデブリ帯の中へと突入していた。

そんな中格納ドックへと到達したカエデはナイトメアに乗り込むと昭弘のグレイズ改に通信を繋げた。

そこには精神統一でもしているのか静かに目を閉じている昭弘がいた。

 

 

「昭弘」

 

 

「カエデの兄貴、何だ…」

 

 

「私も君の弟の説得に協力する事にした。」

 

 

「でもこれは俺達ヒューマン・デブリ同士で……」

 

 

「私も元ヒューマンデブリだ。私とイシガシは鉄華団全員を弟分と思っているのだ。ならばその昌弘って子も私とイシガシにとっては弟分なのだ。」

 

 

強引な理屈と考えを展開しつつ話を進めていく2人の兄貴達に昭弘は戸惑いつつも心の何処かで安心感を覚えていた。

タカキを連れて撤退している時に繋がった通信。

 

 

そして組みあったMS同士が軋む音。

それから感じられたのは昌弘の喜びではなく驚きと呆れに近かった気がした。

以前自分はもう人間ではなくデブリゴミだと思っていたんだ。

きっと今の昌弘もそれに近い状態なのだろうと思う。

 

 

「カエデの兄貴、俺は昌弘になって言えばいいのか少し分からないんだ。こんな遅くなって今更約束を守りに来たって言っていいのか解らねぇ…。俺なんかよりずっと酷い事をされて来たに決まってる。」

 

 

鉄華団、いやCGS時代から続くヒューマン・デブリの扱いはそれらを扱う組織の中ではトップクラスに良い待遇だったと言えるだろう。

一軍の大人に虐めは受ける物のしっかりとした寝床や食事は必ずあった。

 

 

そして何よりもカエデの兄貴とイシガシの兄貴の存在が大きいかったのだ。

そんな環境にいた昭弘と弟では雲泥の差、弟の辛さは理解出来ない。

だからどんな言葉を言っていいのか分からないと昭弘が漏らした。

それを聞くとカエデは昭弘に告げた。

 

 

「ならばこう伝えれば良い。"お前はデブリなんかじゃない。屑やゴミ扱いするのは本当にゴミな上の奴ら"だと」

 

 

「カエデの兄貴?」

 

 

「私とイシガシは一度もお前達を"ゴミ"だのって言った覚えはない。人間は一度たりとも"ゴミ"にはならない。

例え身体が機械だとしても腕や足が無かろうとも自分が人間だって言う限りそれは人間だ」

 

 

「そうか、そうだよな、ありがとなカエデの兄貴!なんか俺まで嬉しくなって来た。だから俺1人であいつを連れてくるからな!」

 

 

「フッ、それじゃあちゃんと弟を連れて帰って来ると良い、そうしたら2人纏めてイシガシが抱きしめてくれる筈だ。」

 

 

「それは勘弁してくれよ。」

 

 

そう言って昭弘は通信を切った、照れ隠しだろう。

やはり弟達は全員大きく成長している…人として鉄華団の一員として大きく一歩一歩確実に前へと進んでいるだろう。

 

 

そう思っていると新たに通信が2つ入ってきた。

カエデが応えるとそこにはパイロットスーツを着ているアインとクランクの姿があった。

 

 

「オズロック、昭弘の話は聞いた。私達も鉄華団の一員として協力するつもりだ」

 

 

「自分もです。それに先程三日月君が倒したロディ・フレームの内部を見た所ヒューマンデブリなのですが酷く痩せ細っていました……。しかもメリビットさんとイシガシ君の話では医務室で検査をした所では胃の内容物は殆ど無かったと…。」

 

 

それを聞いてカエデはレバーを握る力をかなり強くしていた。

ブルワーズのヒューマンデブリの環境は最悪と言っても過言ではない事が確定したのだ。

全員出来る限り助けて上げたいと思う。

 

 

「そうか…出来る事なら全員助けたいな…」

 

 

「勿論、そのつもりだ。そして君とイシガシが歳星で見つけて来たこのナイト・フレームのトリトーン2機で我々も出撃する」

 

 

歳星にてテイワズとの契約終わりにスターサファイアの十字架のペンダントが青い光を放っていたのでカエデとイシガシの2人はその場所に行くと古い工場にひっそりと動いていなかったトリトーン2機が居たのだ。

 

 

しかもその機体はカエデとイシガシの持っている機体の設計図がかなり似ていたのだ。

おそらくはナイトメアとジョーカーを作った奴が歳星に置いていたのだろうと思う。

いずれこの場所に来た人間が操縦する為に。

 

 

カエデとイシガシはイサリビに戻って直ぐに機体名:トリトーンの整備に取り掛かったがそんなに時間は経たなかった。

何故ならばエンジン部分のトラブルが多少あったがほとんどは無傷だったのだ。

 

 

カエデとイシガシはこのトリトーン2機をナイトメアとジョーカーが使えなくなった時の予備機にしようとしたがまだこの鉄華団にパイロットが居ることを思い出した。

 

 

元ギャラルホルンのパイロットとして経験のあるクランクは非常に戦力になる上、アインは予備のパイロットとしても期待できていた。

その考えからカエデとイシガシはクランクとアインにトリトーン2機を譲ったのだ。

 

 

勿論、最大火力を出せるようにスターサファイアを加工した装備品も既に渡していた。

クランクにはブレスレットをアインにはアンクレットに加工した。

そして現在。

 

 

「自分は…出来る限り救いたい。子供達をこの手の届く範囲で!!」

 

 

「私も同じ考えだ。出撃許可を取って貰えるか、オズロック。」

 

 

「わかった。イシガシ、私だ。クランクとアインの新たな機体トリトーン2機での出撃許可を頼む。」

 

 

「カエデ様、了解致しました。」

 

 

そしてイシガシの許可を取ったカエデは休む暇なく出撃要請のブザーが鳴り響きその場にいたカエデ、クランク、アインは気を引き締めた。

 

 

「カエデ・ビットウェイ・オズロック、ナイトメア 悪夢を魅せてやろう!!」

 

 

「クランク・ゼント、キャプテン・トリトーン 出撃する!!」

 

 

「アイン・ダルトン、トリトーン 出撃します!!」

 

 

出撃した3人は三日月とラフタの後を追ったのだった。

無数に浮遊し漂い続けるデブリ、厄祭戦時代の遺物やガラクタがただ無造作に漂い続けているデブリの奥にて鎮座するように居座る二隻の船。

 

 

その船は地球火星間にて名が知られている武闘派の海賊ブルワーズの船。

その船の前方ではラフタの百里と三日月のバルバトスが斥侯として出撃偵察を行っているところだったが待ち伏せを仕掛けてきたブルワーズのマン・ロディと戦闘を繰り広げていた。

 

 

「おい、まだ奴らの船は見えてこねぇのか!!」

 

 

「はい、まだ反応は……」

 

 

ブルワーズのキャプテンはまるでアニメに出て来るオークのような顔立ちをしているが辛うじて人間だと分かるような男、ブルック・カバヤン。

 

 

今回の仕事は、あの地球を支配していると言っても過言ではないあの強大な組織であるギャラルホルンからの依頼。

これさえ成功させれば自分達にも凄まじく大きい後ろ盾を作る事が可能になるのだ。

 

 

その為にもタービンズ達からクーデリアを必ず奪い取るとほくそ笑んでいると突然船内のアラートが鳴り響いた。

 

 

「何事だ!!」

 

 

「左舷よりエイハブウェーブの反応!!デ、デブリ帯の中から!?」

 

 

「ま、まさかぁ!!?」

 

 

自分達の船が居る場所ですらデブリの薄い道を選び慎重に操艦してきたというのにまさかデブリがありまくる上に周囲の状況さえ把握出来ないデブリ帯を艦艇で突破してくるなんて正気の沙汰ではない。

 

 

だがそんな正気ではない事ですら簡単にやってのけるのが鉄華団なのである。

イサリビの後に続いてきたハンマーヘッドは敵艦を確認すると一気に加速して敵艦へ突撃していた。

 

 

「よし、全員準備はいいな!?うちの船が何でハンマーヘッドって言うのか教えてやれ!!!!」

 

 

「はい!総員、対ショック用意!!」

 

 

「リアクター出力最大、加速最大!艦内慣性制御!!」

 

 

「吶喊!!」

 

 

動力炉の出力を限界にまで高めたハンマーヘッド、海賊ブルワーズはまさか来る訳がないと思い込んでいたデブリ帯から来た事で右往左往している敵へと船が出せる最大限のスピードを発揮しながら一気に突撃したのだ。

 

 

金槌のような形状をしているハンマーヘッドの衝角、それを最大限のスピードで殴りつけるかのように海賊ブルワーズの船に押し付けながら巨大なデブリの山へと突撃した。

なんという出鱈目なやり方だがあれではやられた側の船はたまったものではないとイサリビの画面から見ていたイシガシは思う。

 

 

「こっちも負けてられねえぞぉ!!!!」

 

 

「うおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

 

ハンマーヘッドの勇姿を見たオルガが叫びを上げると操舵を担当するユージンも同意するかのように気迫を上げながら艦首からアンカーを射出しもう一隻の敵艦へと取り付いた。

 

 

そしてそこからシノ率いるMW隊が突入し敵艦の内部制圧を目指していた。

ブルワーズも焦っているのかまだ残していたMSを出撃させて掃討を狙おうとしているがそこへ"イサリビ"や"ハンマーヘッド"から出撃したMS隊が対処していた。

 

 

「デブリ帯、噂以上のゴミだらけだな。」

 

 

次々と迫ってくるマン・ロディにカエデは杖型のハンマーを持ちかえながらヒューマンデブリが乗っているのでカエデは動かなくなる程度の攻撃をしていた。

 

 

だが昭弘の弟がいるという機体とはリアクターの反応が合わないがそれでも出来るだけ助けようと決意しながら握るレバーにいつも以上の力が入っていたのだ。

 

 

「クランクとアイン、大丈夫か?慣れない機体だが…」

 

 

「問題ない大丈夫だ、操縦系はグレイズとそこまでの相違はない!」

 

 

「はい、それに……」

 

 

アインは背後から迫ってくるマン・ロディに気付いていないのか動きを見せようとしない。

援護しようとカエデは杖型のハンマーを構えるが間に合わず鉈が振るわれようとした時にアインのトリトーンはナイト・フレームの特徴(装甲が厚いのでそんなにダメージが通りにくい)を理解してマン・ロディの鉈の攻撃を食らいつつマン・ロディの肩を捕縛して持っていた斧で鉈を弾いて完全に動きを封じてしまった。

 

 

「このトリトーンは如何やら俺好みですので!」

 

 

「…私とイシガシの予備機を此処まで理解しているとは……それにあっさりと終わらせるとは…」

 

 

「アインもあれで結構やる男だ!俺はイサリビの援護に当たる!アイン、そっちは任せるぞ!」

 

 

「任せてください、クランクさん!!」

 

 

相手の肩をギリギリと締め上げていくトリトーンは更に出力を上げていき遂にはそのままマン・ロディの重装甲を突破してフレームにまで到達しフレームを軋ませ破壊するという事までやってのけいた。

 

 

「(私はもう何も言わん、無視だ無視。)」

 

 

両肩を切断されてしまったマン・ロディはそのまま捕縛されアインに拿捕されてしまった。

 

 

「カエデ様、アインがマン・ロディを捕縛しました。」

 

 

「途中まで見ていたからな、私も行くか。」

 

 

だが海賊ブルワーズの船からマン・ロディよりも巨大な1機のMSが躍り出てきた。

背中には巨大なハンマーを背負ったMS、そのエイハブウェーブの波形は何処かバルバトスに似通っていた。

 

 

「な、なんだあれは!?デカいな…ってやばい!」

 

 

そのMSの見た目にカエデは一瞬驚いていると周囲のマン・ロディ4機がナイトメアに目掛けて向かってきた。

どうやら前回の戦闘で見せたナイトメアの戦闘能力をかなり警戒しているようで此処までの戦力を傾けたようだ。

先程のMSを追いかけるようにバルバトスが接近していた。

 

 

「三日月はイサリビに向かえ!!でかいのが行ったからな!」

 

 

「カエデ兄さん、わかった!」




今回出て来た新しい機体を紹介します。


操縦機体:キャプテン・トリトーン(ダンボール戦機海道ジン(ゲーム版)の愛機をお借りしました。)


操縦者:クランク・ゼント


基本武器はシーホースアンカーを強化したシーロードアンカー。
カラーリングは濃い緑と黄色などを使っている。
キャプテン・トリトーンの説明↓
頭部を中心に海賊要素の強い外見となっており、両肩には推進力増強の為のブースターが増設されている。


操縦機体:トリトーン(ダンボール戦機海道ジンの愛機をお借りしました。)


操縦者:アイン・ダルトン


基本武器は錨型のハンマー、シーホースアンカー。
トリトーンの説明↓
水色中心の爽やかなカラーリングと細身のフォルムが特徴的でキャプテン・トリトーンよりは高い性能を持つものの、単純なパワーに関してはキャプテン・トリトーンに劣るらしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ブルワーズの壊滅と兄弟の和解

 

 

 

先程の機体がイサリビの方が心配になり三日月に行かせカエデは迫ってくる4機のマン・ロディの相手をする事にする。

 

 

「さぁ、来ると良い。」

 

 

連携を取り2機が射撃で此方の動きを封じるように射線を取り残りが接近戦を仕掛けて来た。

かなり実戦で行ってきたコンビネーションなのか手馴れたように迫ってきては鉈を振り下ろし回避すればすぐさまこちらに向けられて銃弾が迫って来た。

 

 

「中々のコンビネーションだ…だがナイトメアをナメるな。」

 

 

デブリ帯でありながら縦横無尽に高い機動しながら攻撃を回避していく最中、その内の1機が昭弘が探していた波形をしたリアクターを持っている事にカエデは直ぐに気付いた。

 

 

つまりあの機体に昭弘の弟が載っている事になるだろう。

 

 

「昭弘、お前の弟らしき機体を見つけた。直ぐに来い。」

 

 

「ありがとうな、カエデの兄貴!」

 

 

それをすぐさま昭弘に連絡するとイサリビからグレイズが発進して此方に向かっていた。

ナイトメアは軽々と回避行動を取りながらの精密近距離攻撃で1機のマン・ロディを行動不能にしているとグレイズが来た。

 

 

「カエデの兄貴、さっきも言ったけどありがとうな。」

 

 

「気にするな、行け昭弘!」

 

 

「おうよ!!行くぜ昌弘!!」

 

 

そう言い残して1機のマン・ロディへと迫っていくグレイズに驚いているのか他のもそちらへと目が向いている。

だがこの作戦は昭弘が弟と落ち着いて話をする必要があるため此方に意識を向ける為に杖型のハンマーをぶ1機のマン・ロディにぶつけて挑発してナイトメアに誘導していた。

 

 

「こっち来ると良い。」

 

 

「待たせたな、昌弘。迎えに来たぞ!!」

 

 

「兄貴……?迎えに来たって…今更、何言ってんだよ。なんで今更……折角諦めてたのにもう期待して辛くならなくて済むと思ってたのに……」

 

 

「昌弘……」

 

 

「何で今来るんだよぉ!!」

 

 

モニターに映り込んでいる弟、幼い頃よりも成長してはいるがあの時と変わっていないように兄の眼には見えた。

そして変わっているものもあった瞳の中にある感情。

 

 

出来るだけ何も考えずどうせヒューマンデブリとして死ぬんだ。

そうだと思い込んで終わろうとしていた過去の自分と同じ目をしていた。

 

 

「俺達はヒューマンデブリなんだ!!どうせゴミみたいに屑みたいに終わるんだよ!!!ゴミみたいに死んで行くだけだ!!!!」

 

 

「煩いんだよ!!さっきからゴミゴミゴミゴミ!!!ならお前は何だ!!昌弘っていう名前は何の為にあるんだ!!!」

 

 

昭弘が叫んだ。

それに思わず言葉を失った昌弘は何を言っているんだと呟いた。

 

 

「昌弘っていうのは俺達の親父と母さんがくれた大切な人間の証だろうが!!!物の名前なんかじゃねえ!!人として生きて行く為にくれた名前なんだよ!!!」

 

 

「お、俺達はヒューマンデブリで…」

 

 

「あぁ!!もう何がヒューマンデブリだ!!いいか昌弘、本当にゴミなのはお前達をそんな風に扱う奴らのことだ!!俺達はゴミなんかじゃねえんだよ!!!」

 

 

同時に蘇ってくるのはCGS時代。

当時教官として働いていたイシガシの兄貴とカエデの兄貴に無茶をしすぎだと怒られたがその時に自分はヒューマンデブリなんだからどうせ使い捨ての道具だと行った時に本気で怒られた記憶だった。

 

 

「何が使い捨ての道具だ!良く聞くといい!!私とイシガシはお前達を一度もゴミだなんて思った事はない!!貴様の昭弘って言う名前はなんの為にあるのだ!?貴様の父親と母親から貰ったんじゃないのか!!!!」

 

 

「それにお前は俺の弟だ!!ゴミだヒューマンデブリとか関係あるものか!!今度は俺が守ってやる!!命懸けでどんな奴からもだから俺と来い、昌弘ぉぉぉ!!!」

 

 

叫ぶ昭弘にそれを聞いた昌弘は静かに呆然としていた。

そして思い出すはヒューマン・デブリとなる前の兄や家族と過ごしていた楽しい記憶。

 

 

そして昭弘はどんな約束も絶対に守ってくれた事を思い出した。

ヒューマン・デブリとして離れ離れになった時も必ず迎えに行くと言って今来てくれた。

そして今度は守ってくれると……そんな魂の叫びを聞いた昌弘はただただ静かに涙を流し続けていた。

 

 

「兄貴……俺、行っていいのかそっちに……兄貴のいる、所に……!!」

 

 

「あぁ、来い!!俺達、鉄華団は歓迎する!!」

 

 

「あ、ああああぁぁっっっ……」

 

 

コンクピット内に光る無数の涙、それを隠すように顔を覆う手。

そして木霊する泣き声。

昌弘はそのまま子供の時のように昭弘に手を引かれて新しい道を歩んでいく。

 

 

そしてそれと時を同じくしてブルワーズの船はシノ達MW隊によって占拠され残った隊長格のMSも三日月によってコンクピットを破壊され戦闘は終了したのだった。

 

 

タービンズと鉄華団に勝負を挑んだブルワーズ。

だが最後は情けなく敗北しその賠償として全財産を奪われブルワーズのクルーもタービンズの資源採掘衛星に放り込まれる事が決定された。

そしてブルワーズにいたヒューマンデブリの子供達は……。

 

 

イサリビのドッグの片隅にて集められたヒューマンデブリ達。

クランクやアインも奮闘した結果マン・ロディの大半を鹵獲する事に成功し殆どの子供達を引きずり出す事に成功した。

 

 

出来る事ならば三日月が自分を殺そうと迫ってきたからと2人を殺ってしまったがそれは仕方がないという物だ。

そのヒューマンデブリ達の元へオルガとカエデがやって来た。

 

 

「ダンテ、これで全部か?」

 

 

「あぁ。団長とカエデ兄さん、こいつら……」

 

 

「安心しろ、悪い様にはしない」

 

 

カエデがそういうとオルガも頷いてブルワーズのヒューマンデブリ達に視線を合わせるようにカエデとオルガは膝を付いた。

ブルワーズのヒューマンデブリ達は警戒するように此方に鋭い視線を送ってくるが団長はそれを受け流しながら口を開いた。

 

 

「火星は良い所でもないが悪い所でもねぇぞ。カエデの兄貴とイシガシの兄貴達のお陰で本部の経営はもう楽になったしな。飯にも肉入りのスープが出るし美味いぞ。」

 

 

「はっ……?」

 

 

「名瀬の兄貴には話は付けて来たんだ。こいつらは俺達が預かる!」

 

 

子供達は何を言っているんだと困惑したように顔を見合わせたりオルガの方を向いたりしているがオルガは更に言った。

 

 

「俺は鉄華団団長のオルガ・イツカだ。俺はお前達ヒューマン・デブリって言われてる宇宙で生まれて宇宙で散る事を恐れない選ばれた勇者達と仕事がしたいと思ってる。俺達の仲間になって一緒に仕事しないか?」

 

 

「でも俺達は……あんた達と戦ってて……」

 

 

「それが仕事だったのだろう。致し方ないことだ。」

 

 

1人の子がそういうとカエデは優しく頭を撫でた。

今まで暴力ばかりで優しさなど受けた事も無かったカエデに撫ぜられた少年にとってそれは暖かくて心地が良い物だった。

 

 

「鉄華団は君達を歓迎しよう、今日から私達の家族だ。」

 

 

カエデの一言が切っ掛けとなってブルワーズの少年達はボロボロと泣き崩れていった。

 

 

優しい言葉が今まで暴力と辛さだけで塗り固められていた彼等の心を優しく溶かして開放した。

しばらく泣き続けていた元ブルワーズの少年達はカエデ達によって食堂へと通された。

 

 

「あっ!みんな!」

 

 

「昌弘……昌弘!!?」

 

 

「昌弘、昌弘だ!!」

 

 

「よかった無事だったんだ!!」

 

 

共に食堂に来ていた昭弘の隣にいた昌弘に少年達は嬉しそうにしながら近づき生きている事を喜び合っていた。

それを見たカエデはやっぱり子供にはこんな笑顔が一番なんだと再認識したのだ。

 

 

「アトラ、イシガシ。準備は出来ているか?」

 

 

「は~い!カエデさん。仕込みは終わってますよ~!」

 

 

「勿論ですよ。カエデ様」

 

 

「私もお手伝いしましたのでバッチリですよ。カエデさん」

 

 

「クーデリア嬢もありがとうな。では、全員で食べるか。」

 

 

食事と聞いて全員、余りいい顔をしなかった。

彼らにとって食事は娯楽などではなくただの栄養補給でエネルギーバーを食べるだけの作業でしかなかったのだ。

またそんな時間が来るのかと顔を暗くしていたら昭弘が声を上げた。

 

 

「今日は兄貴達がお前達を歓迎する為の特別なメニューだ。沢山食って良いんだからな!」

 

 

「そうですよ。座って下さい。」

 

 

言われて席に着いた全員に出されたのは熱々の炒飯、ポテトサラダに甘いタレと一緒になっている焼いた肉、そして暖かなスープにミルクが出てきた。

 

 

湯気とその匂いに一瞬全員呆然としてしまった。

これが食事なのかと…。自分達が食べてきたのと全く次元の違った物だった。

本当に自分達がこれを食べていいのかと全員戸惑ってしまうが昭弘が大きな声で言った。

 

 

「いただきます!!」

 

 

そう言って昭弘はガツガツと食べ始めるのを見ると全員喉を鳴らして一斉に食べ始めた。

もう何時振りなのかも分からない本当の意味の食事だった。

貪るように食べて行く全員の表情は崩れていた。

ブルワーズから来た全員、大粒の涙を流しながら食事を口へと運び続けていた。

 

 

「…な、涙で前が……見えないよぉ……」

 

 

「…うめぇ……うめぇ……」

 

 

「…っあったかいよぉ……」

 

 

「皆さん、お代わり一杯作りましたので遠慮なく食べて下さい。」

 

 

今日、新たに鉄華団の入った少年達は存分に腹を満たした。

ただの栄養補給ではない楽しくて美味しい食事。

彼等の心も同時に満たされていき本当の意味での食事はこれからも続いていくだろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドルドコロニー編
新たな仲間とコロニーの反乱


 

 

 

ブルワーズとの戦闘後新たなに仲間が増えた鉄華団、元ブルワーズの少年達は先程まで戦っていた筈の自分達をあっさりと受け入れ良くしてくれる鉄華団の皆に驚きつつも少しずつであるが馴染み始めていた。

 

 

何より鉄華団とブルワーズではヒューマンデブリという意味での差別はまるで無く一人の人間として扱ってもらえることが大きかった。

もう此処から離れたくないという意味で必死に仕事を覚えたり馴染もうとしている子が大多数であった。

 

 

「アストン君、そろそろ区切りを付けて休憩に入ろう」

 

 

「分かりました班長」

 

 

「う、うむ」

 

 

「デルマ、此処はこうやってやるんだ。

まだ慣れていないんだから時間は掛かってもいいんだぞ。最初は丁寧にやり遂げる事を優先するんだ」

 

 

「わ、分かりました」

 

 

新入団員は基本的に整備班に入って貰いクランクやアインといった大人達の元で仕事を覚える事になりしっかりと仕事に励んでもらえている。

 

 

中々仕事の出来前と覚えがいいので教え甲斐があると2人からの評価も上場で鉄華団としても素晴らしい人材補強が出来て嬉しい限りである。

そんな風景を眺めて三日月と共にバルバトスのシステムチェックを行っているカエデは笑みを浮かべていた。

 

 

「もう慣れ始めているな…」

 

 

「皆、頑張ってるからね」

 

 

デブリ帯を突破する事約2日、クーデリアからの依頼を果たす為に地球へと向かう鉄華団だがその前に歳星で依頼された行く途中のドルトコロニー群へと荷物を運ぶ仕事をする事になっていた。

 

 

その事に付いてはクーデリア嬢は勿論納得しており了解も取れているので安心だ。

新入団員の皆にはそこで一旦タービンズが手配した迎えの船に乗船して貰って火星の本部に移動してもらいそこで働いてもらう事になっている手筈だ。

 

 

それまでの間だけでも確りと仕事を覚えて欲しいという事で始めた事だが上手く行っているようで何よりだ。

 

 

「それで『スターサファイア』を埋め込み搭載したバルバトスと武器はどうだった?」

 

 

「扱い易いよ。カエデ兄さん、それなのに前より燃費も出力も上がってて強くなってる」

 

 

「流石は私が作った特製の推進装置と武器だな。」

 

 

三日月によればデブリ帯での戦いではあの巨大なMSとかなり有利に戦えたと言っていた。

そして後から分かった事だがあの機体の正体はバルバトスと同じくガンダム・フレームの1機である『ガンダム・グシオン』であることが明らかとなった。

 

 

改めてリアクターの波形を確認してみた所リアクターを二基搭載したガンダムだと判明した。

ブルワーズはその出力を活かしてあんな重装甲にしたのだろう。

そしてグシオン以外の機体は全て売却しグシオンは一応鉄華団預かりとなり今はタービンズのドックで改装となっている。

 

 

「カエデ兄さん、これからコロニーって所に荷物届けに行くんだよね?」

 

 

「んっ?そうだ、楽しみなのか?三日月」

 

 

「違うよ。カエデ兄さん、その前に荷物の確認とかしなくていいの?前の戦闘で中身が壊れたり傷ついたりしてたら俺達が賠償金だっけ?それを払う事になるんじゃないの?」

 

 

「あぁ、その通りだ。いまイシガシに確認して貰っている。」

 

 

「そうなんだ…」

 

 

その時、イヤーカフからの通信が入ったのでテレパシーでイシガシと会話を始めた。

 

 

「(イシガシ、コンテナの中はどうなっていた?)」

 

 

「(カエデ様の予想通りでした。中身は間違いなく銃でした。しかもかなり高性能な物でしたが細工がしていました。遠隔操作出来るように…。)」

 

 

「(だろうな。一応中身は物資で良い。)」

 

 

「(かしこまりました。カエデ様)」

 

 

「我々を敵に回すとどうなるか…教えてやろう。ギャラルホルン…」

 

 

そして、カエデはイシガシとの通信を切るとバルバトスの整備にまた取り掛かり整備が終わるとカエデはブリッジに着くと、ドルトコロニーが見え始めて和気あいあいとしていたのだ。

 

 

ビスケットによるドルトコロニーの解説が入りアトラが買い物に行きたいと言うのでオルガは…。

 

 

「女だけってのもアレだな。ミカ、頼めるか?」

 

 

「…うん」

 

 

「オルガ、一応イシガシも連れて行け。三日月だけではもしもの時対処出来んだろうからな。」

 

 

カエデがそういうとイシガシがブリッジに現れた。

 

 

「あぁ、イシガシの兄貴頼みます。」

 

 

「えぇ、任せなさい。オルガ」

 

 

スペースランチでイサリビからドルトに入港したら、アトラ、クーデリア、フミタンは買い物をしていた。

その時にクーデリアがお風呂に最後に入ったのはいつかと聞かれたので答える。

 

 

「どんなに忙しくても毎日入っていますよ。」

 

 

「俺も毎日入ってる。」

 

 

「だよな、昔は3日間から5日間入らないなんて普通だったからな…」

 

 

「カエデ兄さんとイシガシ兄さんに怒られた記憶があるよ。」

 

 

「当たり前のことを言っただけですよ。」

 

 

その言葉にアトラとクーデリアは頷いていた。

色々話していると女性陣が鉄華団の着替えや洗剤などを買いに行ったので三日月とイシガシとビスケットは外で待っていた。

 

 

ビスケットにとってドルトコロニーは憧れだったりとか此処でお兄ちゃんが働いてるなどの話を聞いていると女性陣が帰って来た。

 

 

「会っていかないの?」

 

 

アトラにそう言われて急に来たら迷惑じゃないかと頬を掻くビスケットにイシガシは…。

 

 

「本当のご兄弟ならば嫌がる訳は無いと思いますよ。」

 

 

「あっ、イシガシさんはビスケット君をお願いします。」

 

 

アトラにそう言われたのでイシガシは頷き三日月達にはホテルに戻るように告げてイシガシは三日月に3人に近づく不審者に気をつけることを忠告しながらイシガシは"あるもの"を三日月に渡した。

 

 

「……これ持ってるけど。なんで?」

 

 

「三日月が持っているのは実弾でしょう。それは麻酔弾ですなので使って下さい。もしかしたら捕虜からなにか聞けるかも知れないですから。」

 

 

「わかった、あとで返すね。」

 

 

三日月はイシガシから受け取った麻酔銃を懐に締まったらビスケットが実の兄に電話をかけて合流地点を決めたらしいのでイシガシはビスケットの後を追ったのだ。

 

 

ビスケットの兄side

火星にいるはずの弟から連絡が来た。どうやら弟は仕事でこちらに立ち寄ったらしい。

 

 

ナボナさん達の組合に武器を流した鉄華団という連中もこのドルトコロニーに来ているようだし、あいつがデモに巻き込まれてはいけないと上司に休憩を貰って会社を出た。

 

 

ビスケットと会うのは何年ぶりだろうか。

こちらも、おそらくだがあちらも忙しくて連絡は取り合えていなかったので久しぶりの再会に心が踊っていた。

 

 

トルドコロニーで起きている会社と労働者の軋轢を何とかしようと躍起になっている俺にとってはビスケットとの待ち合わせ場所に向かうのがとても心地よいものになっていた。

 

 

「サヴァラン兄さん!」

 

 

「おぉ、ビスケット……大きくなったな。」

 

 

自分の名前を呼ばれてその先を見れば多少ふくよかになってはいるがあの顔を忘れたことは無かった。

言葉は意外にもすんなりと出てきてビスケットに近づくと自然と笑みが零れていた。

 

 

「ビスケット、お前ちょっと太ったか?」

 

 

「はは…うん、まぁね」

 

 

火星の暮らしが窮屈でやせ細ってるのではないかと思ったが杞憂だったらしい。

きっと良い食事を摂っているのだろう。

再会を喜びあったところでビスケットと同じジャケットを着ている少年について尋ねた。

 

 

「あの人はイシガシさん、俺の同僚です(イシガシ兄さんに紛らわしくなるから同僚って言うように言われなかったら普通にサヴァラン兄さんの前で兄さんって呼ぶ所だった。)」

 

 

紹介されたイシガシ・ゴーラムという青髪の男は俺に一瞥するとすぐに視線を外した。

常に何かを警戒しているような様子に怪訝に思うも何か言いたげな弟へと目を戻した。

 

 

「それでビスケット、話ってなんなんだ?」

 

 

電話で話があると言っていた。どんな話かは分からないが、こいつの表情からいい知らせなんだろう。

 

 

「俺、会社に入ったんだ。いや会社って言ってもまだまだ名も上げれてないんだけど…」

 

 

「おぉ……そ、そうか。良かったな」

 

 

「うん、良かった。今やってる仕事が終わればクッキーとクラッカを学校に通わせれる。それにおばあちゃんにも楽させてあげれると思うんだ。」

 

 

どうやら弟は俺以上に立派になっていたらしい。

頭がいいからとドルトコロニー幹部の家に養子として招き入れられた俺さえエリート街道を歩んでいるとはいえやっていることは会社と労働者の仲介役。

 

 

一触即発の状態を何とか収めようとしているけれど…どうにも上手くいかない。

対して弟は置いていった妹達や祖母をしっかりと守っていてくれているらしい。

 

 

「ありがとうビスケット。オレの代わりに…」

 

 

「ううん、いいんだ。俺が鉄華団に入れたのも兄さんのおかげだし」

 

 

「……なに? 鉄華団だとっ!?」

 

 

「えっ、サヴァラン兄さん?」

 

 

まさかこいつが鉄華団に!? 動揺したオレに顔を覗き込むようしてくるビスケットに悟られないように「なんでもない」と表情を変えた俺はとある女のことについて尋ねた。

 

 

「ビスケットはクーデリア・藍那・バーンスタインっていう女の人を知ってるか?」

 

 

「え?知ってるというか、俺達が今やってる仕事がクーデリアさんの護衛なんだ」

 

 

「なっ!?」

 

 

なんということだ……。いや、けれどこれはチャンスだ。クーデリアの身柄を確保してギャラルホルンに突き出せば……!

 

 

「そうなのか! いや、火星独立運動の旗印の女性には1度でいいから会ってみたかったんだ!」

 

 

「え? それなら近くのホテルにいるから会えるけど……」

 

 

「本当か!? ぜひ頼むよ!」

 

 

良くこんな嘘が出てくるなと我ながら感心する。

だがせっかくビスケットが運んできてくれたチャンスだ。

此処で物にしなければナボナさんを初めとした組合のみんなに俺やビスケットも助かるんだ。

 

 

「じゃあ車を回してもらうから、ビスケットはお嬢さんに連絡をしてくれないか? 2人で会いたいって」

 

 

「う、うん、わかったよ。兄さん」

 

 

俺はそう言って立ち上がると、ビスケットが使う電話から2つ離れた外からは中が見えないボックス電話に入り仲間に連絡を取ろうとした。

その時だった。

 

 

「動かないで下さい」

 

 

腰にスーツ越しでもわかるくらい冷たくどす黒いものを突きつけられた。

 

 

「な…」

 

 

「喋らないで下さい」

 

 

先程の無機質な声とは違う。

従わなければ殺すという明確な殺意を向けながら先程まで俺達に目もくれていなかった少年はいつの間にか俺の背後に回って拳銃らしきものを突き付けていた。

 

 

「良いですか。今から私の言うことを聞けば貴方の望みを全て叶えてあげます。」

 

 

オレの望みを? 何を言っている?

 

 

「労働者の理不尽の解消。家族や仲間を大切に堅実で幸せな人生を送らせてあげますよ。」

 

 

「なっ!?」

 

 

何故それをと声を出そうとしたらより強い力で拳銃の銃口を押し付けられた。

どうして今日会ったばかりの少年が俺の夢やナボナさん達のことまで知っているんだ?

 

 

一刻も早く、この少年から離れないといけないというのに大声で叫んだとしても俺を殺してこの少年はすぐに逃げるに違いない。

そうなれば、こいつがナボナさん達を助ける理由はなくなってもしかしたらこいつがナボナさん達を殺すかもしれない。

 

 

「ほ、本当に叶えてくれるのか?」

 

 

「えぇ、私とあの方と契約すればですけどね。」

 

 

「け、契約?」

 

 

まるで悪魔の囁きのように心臓を掴まれる。

 

 

「どんな行為にも代償は付き物ですよ。違いますか?」

 

 

「うぅ……! わ、分かった。君に従うよ」

 

 

俺は少年の言うことを仕方なく了承すると誰にも見られないように用心しながら電話ボックスを出た。

するとビスケットが急ぎ足でこちらにやってきた。

 

 

「た、大変だ! ってアレ、イシガシ兄さんは?」

 

 

「に、兄さん?彼が?同僚じゃないのか?」

 

 

「サヴァラン兄さん、あとで話すよ!!」

 

 

「此処です。どうしました?」

 

 

「あぁ、実は!」

 

 

するりと同じボックスから出てきたというのにビスケットは先程俺に銃口を突きつけていた少年を兄と呼んでいた。

しかし、そんなことを気にしてる余裕が無いのか話を進めた。

 

 

「フミタンさんとクーデリアさんが?」

 

 

「うん、三日月とアトラが目を離した隙にいなくなったらしいんだ!」

 

 

クーデリアというワードに思わず反応しそうになったが、俺は押し黙ると彼等の会話に耳を傾けた。

 

 

「分かりました。2人は私とカエデ様と三日月で探しますのでビスケット、君は兄を連れてホテルに行きなさい。」

 

 

「え、でも、イシガシ兄さん。サヴァラン兄さんは……」

 

 

「いいから早く行きなさい!市街地はこれから危なくなるんですよ!」

 

 

イシガシという少年はそう言って足早にこの場から離れると俺達兄弟だけが置いてけぼりとなった。

 

 

「……悪い、サヴァラン兄さん。こんなことになって…」

 

 

「え? あぁ、いいよ。見つかるといいな、2人共」

 

 

「うん、きっと大丈夫だよ。イシガシ兄さんとカエデ兄さんの2人なら」

 

 

ビスケットは彼とカエデと言う2人を心の底から信用しきっているような目で彼の小さくなっていく後ろ姿を見つめていた。

俺もみんなの命の手綱を彼に握られている以上、彼を信じるしか無かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ドルドコロニー反乱2とクーデリアの気持ち

SSとはスターサファイアの略。


 

 

カエデはオルガとイシガシからの通信でフミタンとクーデリアが居なくなったと聞いて市街地に向かっていた。

テレパシーでイシガシから聞いていたサヴァランの願いを叶えるがただし、ナボナ達を助けるとは言ってはいない。

あくまで労働者の不当な労働環境の改善だけだ。

その時、イシガシから通信が入った。

 

 

「なんだ?イシガシ」

 

 

「クーデリアさんを狙っているスナイパーを見つけました。カエデ様から見て左手にある建物の屋上にいます。」

 

 

「あぁ、此方も見えた。」

 

 

建物内はおろかドア前にも警備が居なくカエデは足音を立てないで屋上まで着いた。

外からは爆音も聞こえて来た。

 

 

「クーデリアはあそこか」

 

 

「カメラを見ている民衆の前で華々しく散ってもらおう」

 

 

カエデはドアを開けて拳銃を構えた。

 

 

「では誰も見ていない所でお前達も散ってもらおうか?」

 

 

「お、おま」

 

 

相手の返事を聞く前にカエデはスナイパーの頭を撃った。

これで外の喧騒もあり此処での殺害は鉄華団が出港するまで気付かれない。

その時イシガシから通信が入る。

 

 

「カエデ様、無事にフミタンさんを見つけて三日月達と合流したのでカエデ様も私達と合流を急いで下さい。」

 

 

「今行く。」

 

 

イシガシと合流するとフミタンとお姫様抱っこで三日月と一緒にいるクーデリア嬢とも合流してオルガ達と合流するとユージンに背負われてるサヴァランがいた。

 

 

頬に傷があるあたりナボナ達が死んだのを聞いたか見るかして発狂したのをユージンかオルガに殴られて気絶させられた。

カエデと三日月はイサリビに戻るとバルバトスとナイトメアを出撃させてドルドコロニーにいるギャラルホルンを倒していた。

 

 

フミタンside

私は何をやっているのだろうか。

ドルトコロニーでのクーデリアの死を以て労働者達の反乱を拡大させる。それがノブリス・ゴルドンの書いたシナリオであった。

なぜなら、私はノブリス・ゴルドンの間者でいつでも真っ直ぐで穢れを知らない彼女が汚れてしまえばいいと思うくらいに嫌いだ。

 

 

けれども、長年一緒にいたせいもあるのか。

あるいは彼女に死んで欲しくないと思う自分もいる。

 

 

自分のような不幸な女を生まれさせないようにこの腐った社会を変えて欲しいと願っていた。

あの真っ直ぐさがあれば出来るはずだと心のどこかで信じている自分がいたのだ。

 

 

本当に嫌になる。

デモ隊の真ん中で革命の乙女と祭り上げられるクーデリアはおそらくギャラルホルンの弾丸の雨に晒されて死ぬのだろう。

それでは私に助けようなどある訳が無い。

 

 

だが、彼女は生き残った。

運がいいのか悪いのかはわからない。

でも、彼女を庇ったデモ隊の女性を看取りながら、 その場から動こうとはしない。

早く逃げろと叫ばなければクーデリアは今度こそ死ぬ。

 

 

駆け出したい、叫びたい気持ちを抑え込んでいると……何も起こらなかった。

驚く程に何も…。

三日月くんがクーデリアに駆け寄って動こうとしないクーデリアをお姫様のように抱えるとホテルの方へと走り出す。

 

 

これでお別れかとフミタンはふと寂しい気もしたがどうせ私は此処でクーデリアと決別する運命だったのだ。

だからこれでいいと思ったその時だった。

私の手に誰かの手が伸びてきたのは…。

 

 

「あ、貴方は……」

 

 

肩で息を弾ませて普段の顔はどこへいったのか。

イシガシ・ゴーラムは私の目の前に現れると息を整えて背筋をまっすぐと伸ばして私を見下ろした。

 

 

「行きますよ。」

 

 

「……どこにですか」

 

 

「? 決まって居るでしょう。」

 

 

そう言いながら彼は私の手首を掴み私を引き寄せると……いつもは青色に光る十字架のペンダントは赤く光っていた。

 

 

「十字架のペンダントが赤く光る。君はその先には必要な人間です。私達の完全なる勝利のためには君が必要なんですよ。」

 

 

「……!」

 

 

必要…そんなことを言われたのはいつ以来だろう。

所詮は殺しのための間者。

情報収集以外ではメイドの役職どおりの身の回りの世話しかできない自分に対して必要と言ってくれた人間は果たして今までいたのだろうか。

 

 

今まで道具として生き、道具として死ぬことを強いられたフミタン・アドモスを正面から見据えて必要だと言う人間は現れないと思っていた。

 

 

そんなことを言ってくれるのはきっとこんな無表情で何を考えているか分からない行き遅れの私と同じ無表情で何を考えているか分からないこの少年くらいなのだろう。

 

 

「必要とあらば…」

 

 

私はそう言って、彼に手を引かれるがまま元来た道を引き返していった。

フミタンside終

 

 

カエデと三日月の活躍でギャラルホルンを撃退し地球へと向かう所でフミタンはクーデリアに自らの過去を話したとアトラから聞いた。

その事でクーデリアはある決意をしたらしいがその前にカエデはイシガシを連れてある部屋に向かう。

 

 

「……あぁ、キミか」

 

 

まずはナボナ達が死んで折角、首吊りを回避したのに船内で自害とかはさせれないからな。

 

 

「キミは約束を破ったばかりか、俺をこんなところに拉致して……」

 

 

「まだ結果は分かりませんよ。」

 

 

「結果はまだ分からない……だって? ………ふざけるな! ナボナさんも! 他のみんなも! みんな、みんな……死んだじゃないか! そんな中でオレだけ生きても……生きても……」

 

 

「そんなに言うならば降りれば良い。まぁ、降りれるのならな。」

 

 

そう言うとカエデとイシガシは部屋を出た。

その頃、クーデリアはモニターに映る男はノブリス・ゴルドン。彼はかつてないほどの冷や汗をかいていた。

 

 

サウナの中にいるのに寒くて寒くて致し方ない。

心の奥から身体の奥から冷えていくような感覚がある。何故このような事になっているのだろうか。

自分の配下であるフミタン・アドモスからの通信が来たと思いきや聞こえてきた声はクーデリア・藍那・バーンスタイン。

自分が始末しろと命令した人物であった。

 

 

「今回の出来事、貴方が引き金を引いていたのですね。ノブリス・ゴルドン、フミタンから全て聞きました。」

 

 

「はて、何を聞いたのですかね」

 

 

ノブリス・ゴルドンはとぼけてみたが効いていないようだ。

 

 

「ドルトコロニーへと鉄華団が運ぶ荷物。それを手配したのは貴方の傘下の会社であるGNトレーディング。そしてそのGNトレーディングはギャラルホルンと癒着している証拠を私は完全に掴んでおります」

 

 

イシガシとフミタンが共にドルトカンパニーのネットワークに侵入し不祥事などのデータを漁っている際に発見したそれにはギャラルホルンと密接な関係を持っている会社のリストと今回のデモの鎮圧の連携計画書を入手したのだ。

 

 

そこには"GNトレーディング"が武器などを用意しギャラルホルンの意志一つで使用不可に出来るように細工するというところまで確りと書かれていたのだ。

 

 

「そして貴方がどれだけ下賎で愚かな事をしていたかの証拠も大量に……フミタンから全て話は聞きました。

貴方の部下であったがもうそれも辞めると…」

 

 

「……」

 

 

「フミタンは"私はあの男に魂まで売った気はありません、お嬢様に尽くすメイドですから"っと言葉を預かっておりますわ」

 

 

ギリリっという音を立てて歯軋りが起きる。普段考えられないような力に口から一筋の赤い線が垂れる。

 

 

「……それでクーデリア・藍那・バーンスタイン。私に如何しろというのだ?」

 

 

「フミタンの事を諦めてくださるなら公表はしませんわ。そして貴方はこれからも私に資金援助を続けてくださるならこの証拠は見なかった事にします。そうすれば貴方はハーフメタルの利権で儲けられるのでは無いのでしょうか?」

 

 

「いやはや言いなさるな……良いでしょう.。それで手を打ちましょう。クーデリア・藍那・バーンスタイン。」

 

 

同時に通信が途絶する音がサウナ内に響くと思わず身体から力が抜け同時に汗が噴出していた。

あんな小娘に自分が此処まで手玉に取られるなんて思いもしなったことだろう。

 

 

火星支部のギャラルホルンさえ操り戦争の戦火拡大による利益を増すフィクサーである自分が……。

兎も角今は何も考えずにサウナから出て思い存分アイスを食う事に決めたノブリスはノロノロとサウナから出ようとして自分の汗で転んで頭を打って気絶してその後秘書に発見され脱水症状を起こして僅かな間、入院したという。

 

 

そしてイサリビに話を戻すと…。

 

 

「よし出航すんぞ!!」

 

 

イサリビはハンマーヘッドとの合流ポイントに向かっていざ意気揚々と地球への進路を取ろうとしていた。

念のためとしてハンマーヘッドは既にドルトから離れた場所で待機しているのでそこへ向かう。

 

 

これからは漸く地球を目指す事になる。

ドルトでの戦いも無事に終わった事で最初の仕事を片付ける事が出来ると思っていた矢先の事だった。

ブリッジにアラートが鳴り響いた。

 

 

「なんだっ!?」

 

 

「エイハブウェーブの反応を確認!戦艦クラスの物、数は3!!」

 

 

「映像出します!」

 

 

フミタンが操作して出したモニターの映像にはイサリビの後方から迫ってくるギャラルホルンの船ともう1隻が迫ってきているのが見えていた。

だがその内1隻はウェーブの波長が記憶されていた。

火星を出発する際に此方を攻撃して来たギャラルホルンの船であった。

 

 

「おいおい、まさか此処まで追って来たのかよ!ご苦労なこった!!」

 

 

「フミタンさん、カエデの兄貴達に出撃準備をさせてくれ!」

 

 

「了解しました。総員第1戦闘配置、繰り返します総員第1戦闘配置。各パイロットは搭乗機へ」

 

 

格納ドックにてナイトメアとバルバトスの調整の手伝いをしていたカエデはすぐにイクサルフリートの服を着てナイトメアのコンクピットに入った。

 

 

「すまないオズロック。私とアインのトリトーンはブルワーズとの戦闘の修理が済んでいないのだ。私達は整備班の手伝いをする」

 

 

「構わん、新たな機体も居ることだ。」

 

 

「すまんな、頼んだぞ!」

 

 

クランクの通信内容を頭に入れ着々と出撃準備を済ませていた。

今回の戦力は少ないかもしれないがいまの自分はかなり気分が良いのだ。調子も万端なカエデは喜々としてナイトメアの立ち上げを終了させ颯爽と出撃したのだ。

続いてバルバトスが出撃するとその後に続くように少々キツいピンクに塗装されたグレイズが飛び出した。

 

 

『おう待たせたな!今回からこの俺も参加させてもらうぜ!!』

 

 

「あれシノ?グレイズで出るの?」

 

 

「違うぜ!三日月!こいつは流星号だ!!」

 

 

「だが流星っていうカラーリングではないぞ。ピンクは…。」

 

 

グレイズに乗り込んでいるのはシノ。今まで昭弘が乗っていた筈の機体は完全にシノの専用機だと言わんばかりに塗装され頭部には鮫のような鋭い目までペイントされていたのだ。

 

 

では昭弘はどうなったのかというと最後に飛び出した機体が答えとなっていた。

クリーム色の装甲に特徴的なバックパックとシールドを保持している機体、それこそタービンズの手を借りて改修され昭弘の機体となった『ガンダム・グシオンリベイク』であった。

 

 

ブルワーズに使用されていたような重装甲は影も形も無く機体を軽量化、稼働時間が大幅に延長されているのが見た目からでも伝わっていた。

高い汎用性とタービンズが製作した『SS』の加工や武器も搭載されており高い機動性も獲得する事に成功していた。

 

 

「昭弘、それ完成したんだね。」

 

 

「あぁ、さっきタービンズから受け取った所だ。だけど俺はまだ阿頼耶識に慣れてねえ、援護頼むぜ」

 

 

「無理は禁物だ。時には逃げることも必要だからな。」

 

 

「おう、俺もこの流星号で活躍してやるぜ!!」

 

 

全員の士気が高い中、此方に迫ってくるリアクターの反応を検地する。向かってくるのはグレイズが約6機。

此方の機影を見た瞬間にライフルを構えて早速発砲をして来た。

この距離では撃っても装甲で弾かれるだけなのでつまり脅しや牽制の類であるが鉄華団にそんな手は意味を無さない。

 

 

「三日月は好きにやるといい。昭弘とシノはタッグを組んで互いをフォローしてギャラルホルンの機体撃破だ。」

 

 

「わかった、カエデ兄さん」

 

 

「わかったぜ、カエデの兄貴!」

 

 

「おう、昌弘の前で情けねえ姿は見せねえぜ!!」

 

 

それぞれがカエデに了承の言葉を返してくると真っ先にバルバトスが飛び出して行きその後を追うかのように流星号とリベイクが追いかけるように速度を上げてグレイズへと向かって行った。

 

 

それを援護する為に杖型のハンマーを終い銃を構えるが今回必要かどうかという事を考えていた。

それは通信から聞こえてくる声が原因であった。

 

 

「バルバトス、凄い上機嫌だなお前。俺もだ。」

 

 

『SS』が搭載された事でバルバトスを動かす三日月の顔は以前より良くなっていた。

期待の反応が良くなっただけではなく機体そのものが軽くなっているかのように動きに更なるキレが出るようになっていた。

 

 

超至近距離にて振るわれるグレイズの斧ですら紙一重で産毛だけを切らせるような回避で華麗な回避をしながらメイスを叩きつけ頭部を潰すとそのまま胸部を膝蹴りするとそのまま0距離での滑空砲をお見舞いしていたのだ。

コンクピット部には穿った穴が空きそのままスパークを起こして爆発を起こした。

 

 

「うん、やっぱり機嫌良いんだなお前も」

 

 

「やれやれ凄まじいな、更にパワーアップしているのが分かるな。」

 

 

三日月とバルバトスは明らかに強くなっているのを実感して銃の引き金を引いた。

それは流星号とリベイクが2機がかりで仕留めようとしているグレイズの頭部を捉えたのだ。

 

 

「カエデの兄貴の援護か!助かったぜ行くぜ昭弘!!!」

 

 

「おう!!」

 

 

頭部に受けた銃弾によって動きが鈍ったグレイズ。

その隙にリベイクは一気に距離を詰めると背後に回りこむと両腕ごと拘束するように腰に腕を回して動きを封じると流星号が斧を奪い取ると頭部に突き刺し止めに胸部へ深々と斧を突き刺した。

 

 

流星号はブルワーズのマン・ロディから阿頼耶識を移植しているらしくかなり動きをしており同じく阿頼耶識を搭載しているリベイクとの連携が様になっているようにも見えていた。

 

 

「良い連携が取れいるな。」

 

 

弟分達の戦いに見惚れているようで確りと此方に向かってくるグレイズにカエデは気付くと機体を翻し距離を詰めながら『SS』搭載の銃を連射する。

グレイズも回避行動を取るがそれさえも計算に入れた銃撃に成す術も無く捕まった。

 

 

そして近距離にまで接近したナイトメアは杖型のハンマーを装備し直して相手の斧を叩き落とした。

武器が無くなって逃げようとする敵を逃がさ無いようにすぐさま高い機動力で接近してコクンピットを破壊しグレイズを動かぬ屑鉄へと変えたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地球編
地球へ


 

 

 

先程の敵を倒したらアラートが鳴り響いた。前方から何かがかなりのスピードで迫って来ていたのだ。

カエデは軽くナイトメアを動かしてそれの進行上から動くがそれは弾丸のように宇宙を駆けて行くMSだったのだ。

それは真っ直ぐとバルバトスへと向かっていた。

 

 

「三日月!MSがそっちに向かったぞ!昭弘にシノ、私は三日月の援護に向かう!」

 

 

「わかった!残りは任せてくれ!」

 

 

グレイズを任せるとナイトメアの機動力の出力を上げ先程のMSを追いかけた。

追いかけながらカエデは「SS」の認証システムにペンダントを入れて先程のが何なのか解析させるが先程僅かに拾えたリアクターの反応を調べて見るとそれはガンダム・フレーム特有のツインリアクターであった事が明らかになったのだ。

 

 

「なるほど、ソロモンの72柱の1つか。」

 

 

バルバトスの元へと向かうが流石に時間の為かあれは既に三日月と交戦状態へと入っていた。

凄まじいスピードでバルバトスへと突進してはリアクターの慣性制御と複数のバーニアによる方向転換によって縦横無尽に飛び回りながらバルバトスへと槍を構えた突撃を繰り返していた。

 

 

「三日月、無事か!?」

 

 

「カエデ兄さん大丈夫だよ、でもこいつ速い……!!!」

 

 

三日月はなんとか滑空砲で狙ってみようとして見る余りにも早すぎるためにそれが出来ずにいた。

それどころか狙おうと足を止めればそこを狙われ巨大な槍を構えて突撃して初めての相手に三日月も手間取っていた。

 

 

「三日月、下がれ。久しぶりのアレの出番だな。行くぞ、ナイトメア!!」

 

 

ならば速度には速度で対抗しよう。

ナイトメアの「SS」を最大限に発揮しナイトメアのフルスピードを発動するカエデ。

カエデはフルスピードを維持しながらナイトメアは3機に分身してガンダム・フレーム、キマリスを追いかけていた。

圧倒的な速度だがナイトメアは3機は同等の速度に達するとキマリスの背後を取った。

 

 

「このガンダムフレーム キマリスの背後を取っただと!?それに1機だった筈なのに3機!?しかも3機共なんて速度だ!!」

 

 

「ナイトメアの特徴は高い攻撃力も魅力だが高い機動力も捨て難いからな。さぁ、分身イリュージョンの始まりだ。」

 

 

しかもその速度は加速していき3機の行動は同一ではなく、1機が正面から切り上げ、他の1機が横から杖型のハンマーを振り下ろし、もう1機が背後から杖型のハンマーをキマリスに目掛けて薙ぎ払った。

 

 

ナイトメアの3機分身でスピードが落ちてしまうキマリスは槍の矛先をナイトメアに向けようとしたがそこへバルバトスの滑空砲の弾丸が飛来し胸部を捉えられた。

 

 

「ぐぅ!!くそ汚らしい宇宙ネズミが!!」

 

 

「そのネズミに殺られるのはどんな気持ちだ?」

 

 

カエデは嫌味な言動を話しながらキマリスの各部へと杖型のハンマーを殴り込んで行く。

ナイトメアの3機分身を受け続けた事でナノラミネートアーマーが弱まってきているのを感じたのか離脱しようとするキマリスだが…。

 

 

カエデは懐のポケットから十字架のペンダントを取り出して認証システムの中に入れ必殺ファンクションを発動した。

 

 

「逃がさん!必殺ファンクション!! Ω エクスプローション!!」

 

 

ナイトメアは右手に杖型のハンマーを構え逃げようとするキマリスより高く飛び上がり杖型のハンマーにオレンジ色の光が集まりそのまま回転してキマリスに当たったが槍に防御され武器を落としたがキマリスはかなりのダメージが蓄積されていた。

 

 

だが武器である槍には目もくれずキマリスは一気に加速して後退して行くと同時に信号弾を放ち残った1機のグレイズと共に撤退していた。如何やらそれ以外のグレイズは昭弘とシノが仕留めたようだ。

 

 

「槍は使わんが戦利品として貰って置こうか。」

 

 

ギャラルホルンからの追撃を振り払った鉄華団、キマリスのスピードと攻撃には驚かされたがそのキマリス以上の速度で戦場を移動するナイトメアの影響からか三日月もそこまで驚かずに対応出来ていたらしい。

 

 

キマリスから奪取した大型の槍、グングニルは一応バルバトスの予備兵装とされる事になったが三日月本人曰く使い難いということでそのままタービンズの方で売却する事になった。

 

 

そもそもが加速による運動エネルギーと機体の質量を上乗せした突撃が本来の使用法らしく鉄華団ではそれを発揮出来る機体がいないというのが理由でもある。

 

 

「少しでも金になるのなら良いだろう。」

 

 

というキマリスから武器を奪ったカエデの言葉でこの件は終了となったのだ。

そしていよいよ鉄華団は地球へと降りる段階にまでやってきた。

 

 

このまま地球軌道上にある共同宇宙港にて降下船を借りてそれで地球へと降りる手筈になっていたのだがギャラルホルンに手を打たれてしまったのか借りるのを断れたと名瀬が困ったように呟いた。

恐らく先程の船が手を打ったのだろうが厄介な事をしてくれた物だ。

 

 

「何とかならないのでしょうか?名瀬さん」

 

 

「そういうなイシガシ。俺達も案内役として兄弟分として手を尽くしてるんだがな……。圏外圏じゃ天下なテイワズも地球圏では一企業に過ぎないからな……現在交渉中としか言えねぇなんだよ。」

 

 

名瀬も手を尽くしてくれているようだが状況は芳しくはないようだ。

自分達も何か手筈を考えた方が良いかもしれないと皆が考え込んでいる時にイシガシの代わりに臨時オペレーターのフミタンが声を上げた。

 

 

此方に接近してくれるエイハブウェーブを感知したとのこと。

再びギャラルホルンかと全員、身体を硬くするが接近してくる反応は一つだけとのこと。

あのギャラルホルンが1隻で来る事は考えにくいがそれなら何だと警戒を抱いているとその船から通信が来ていた。

 

 

「どうしますか…団長さん。受けますか?」

 

 

「カエデの兄貴、名瀬さん。良いっすか?」

 

 

「一応、話をする価値はあるかもな。」

 

 

「あぁ、受けてみろ」

 

 

「フミタンさん、正面に出してくれ!」

 

 

正面に投影されるモニターに全員が釘付けになる。

この状況で一体何が来るのかと身構えていると驚きの声が漏れてしまった。

映し出された先にあったのはくすんだ灰色の長髪と顔の上半分を金属の仮面のようなもので覆っている恐らく声からして男であった。

 

 

「いきなりの事で驚かせてしまって申し訳ありません。私はモンターク商会と申します。代表者とお話をしたいのですが…」

 

 

「鉄華団団長のオルガ・イツカだ、話ってのは何だ?」

 

 

「えぇ。実は一つ、鉄華団の皆様に商談がございまして…」

 

 

「モンターク商会?」

 

 

「えぇ、クランクさんとアインさんはご存知なのですか?」

 

 

「幾らか聞いた事があるな。確か100年続く地球の老舗という事ぐらいしか知らないが…」

 

 

格納ドックにてイシガシはナイトメアの整備を手伝いながら元ギャラルホルンの2人にモンターク商会について尋ねて見た。

 

 

だが得られる情報は大した事は無く老舗で貿易を主とした商会だという事ぐらいしか分からなかった。

それはカエデも名瀬も同様で怪しむところがない所が余計に怪しく思えていたのだ。

 

 

「カエデ様、モンターク商会はなんて言ってきたんですか?」

 

 

カエデはブリッジから格納ドックにいたイシガシ、クランク、アインの3人に先程の話をしていた。

 

 

「地球への降下船を使わせてやると…あとはクーデリア嬢の目的が達成された時にハーフメタルの利権に混ぜろだと…」

 

 

「成程……確かにあそこの利権を得たいと思っている連中は大量にいる。そこへ今の話で上手く滑り込もうという訳か。」

 

 

「しかしこれで地球に下りる算段は付いたという訳ですね」

 

 

「まぁな…(… あの男、モンタークという仮面の男からは何やら不愉快な物を感じたな…。)」

 

 

見えてきたのは前世でも来た美しい青の星地球、そして火星とは比べ者にならないほど美しく青い星。

 

 

豊富な命と自然に溢れている星を目指す鉄華団、それらを待ちうけるかのようにギャラルホルンは動いていた。

 

 

進路を阻むかのように展開している艦隊"地球外縁軌道統制統合艦隊"がその剣を掲げながら鉄華団へと瞳を向けていた。

その艦隊司令官はイシュー家の娘、カルタ・イシューは声を張り上げながら親衛隊に檄を飛ばした。

 

 

「我ら!!地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

 

 

「面壁九年!!堅牢堅固!!」

 

 

長ったらしい上に超が付くほどの硬い言葉の連続だが言葉と共に発せられる親衛隊の覇気と士気は非常に高い。

何度も何度も訓練を積み重ね美しいとまでいえるほどの完璧な同一タイミングでの宣言にカルタは気分がよさそうに言葉を漏らしながら席に着いた。

 

 

「確認しました、奴らです!」

 

 

「停船信号、発信!」

 

 

鉄華団の存在を確認するとまずマニュアル通りに停戦信号を投げ掛ける。

これで止まってくれれば1番楽な事だがどうせ止まる事などのないとカルタは確信していた。

だからさっさと来い!撃沈してやるとやる気が十分だった。その思いに答えるかのように返答は無くカルタは改めて大声で命じた。

 

 

「鉄槌を下してやりなさい!!砲撃開始!!」

 

 

合計七隻の同時砲撃が開始される。

たった一隻も十分な火力があるというのにそれが七隻も揃っての砲撃、最早虐めや嬲り殺しにも等しい攻撃だが下賎な火星の人間が地球に下りようとしているのだから当たり前の報いだと内心で思いながら降り注いでいく砲撃の雨に撃たれていく船を見つめるカルタの瞳に爆散するような爆炎が見えたのだ。

 

 

「手応えのない事ね。」

 

 

「エイハブの反応増大!こ、これは反応が増えた!?」

 

 

「なに!?まさか……あいつら!?」

 

 

爆炎を突っ切るように飛び出したのは確かにイサリビであったがただのイサリビではない。

 

 

その前方にブルワーズの船を盾にするように設置し猛進し続けていた。砲撃の殆どはブルワーズの船で受け続けイサリビには殆ど損傷は無かった。

 

 

余りにも無茶苦茶で常識はずれな戦法に大声を張り上げて野蛮な事だとカルタは叫ぶがそれでも鉄華団は止まらない。

 

 

「くっそ!なんつう砲撃の雨だよ!」

 

 

「ブルワーズの船の装甲補強しといて正解だったなユージン!!」

 

 

「あたぼうよ!この鉄華団副団長のユージン様とカエデ兄さんの考えだぜ!!もっと深く突っ込むぞ!!!」

 

 

「「おおおおお!!!!」」

 

 

阿頼耶識によってイサリビとブルワーズの船を制御するユージンは常に多量の情報量の圧迫による苦痛を受けているのにも拘らずそれに耐えながら必死に操舵をしながら艦隊との距離をどんどん詰めた。

 

 

そしてもう艦隊が目と鼻の先という直前にまで来た時イサリビはブルワーズの船との連結を解除し進路を変更してブルワーズの船はそのまま真っ直ぐ艦隊へと真正面から突撃していた。

 

 

「カ、カルタ様!?ど、どちらに砲撃を!?」

 

 

「撃沈撃沈撃沈!!真正面から迫ってくる船から先に沈めなさい!!」

 

 

進路を変えた船も気になるが真っ直ぐと迫ってくる船の方が問題だと判断したカルタはそちらを優先するように指示した。

 

 

こちらとの距離がかなり迫った時に爆弾で自爆でもして道連にれされたらたまらないという判断から砲撃が集中していく船の装甲はどんどん抉れ穴が開けられた。

 

 

そして遂に最早スクラップと変わらなくなった時船が爆発炎上を起こしながら細かな金属片と共にナノラミネートアーマーにも使われる塗料が周囲一帯にばら撒かれた。

それが一帯を包んだ時地球外縁軌道統制統合艦隊の光学モニター、僚艦とのリンクが消失した。

 

 

「何事よ!!」

 

 

「これは……ナノミラーチャフです!!これでは目も耳も塞がれたも同然です!」

 

 

「そんなあれは実戦では通用しない物だろ!?」

 

 

「今使われているでしょうが!この程度で我らがうろたえるな!全艦に光信号で伝達、周囲にミサイルを自動信管で発射。

古臭いチャフを焼き払いなさい!」

 

 

一時はうろたえていたクルーもカルタの言葉を受け落ち着きを取り戻し的確な指示の元命令を実行して行く。

信号にて艦との連携を取りつつ周囲にミサイルをばら撒きチャフを焼いていく。

それによってセンサー類が回復し再びイサリビの位置の特定を急ごうとするが……

 

 

 

「行くぞお前ら!!」

 

 

「総員対ショック防御を!!」

 

 

カルタは対処に追われている間にイサリビは衛星軌道にあるグラズヘイムⅠへと特攻まがいの突撃を敢行した。

最大速度で突っ込んでいくイサリビはグラズヘイムⅠの外壁をガリガリと奥深く削りながらそのまま宇宙の彼方に逃げ出すかのように移動していくが特攻を受けたグラズヘイムⅠは炎を吹き出しながら地球へと落下しようとしていた。

 

 

「総員MS隊の発進!!その後グラズヘイムⅠの救助へと向かうのよ!!急ぎなさいよ!!鉄華団なんて手を使うの…!!」

 

 

その作戦を立てたのはカエデとイシガシの2人だった。

勿論作戦は成功、ユージン達がイサリビとブルワーズの船を囮にしその隙にモンターク商会が準備した降下船へと乗り込み一気に降下するという物だった。

 

 

極めて順調な物だっただがそれでもMS隊が此方を狙って向かってきた。

それを周囲で待機していたイサリビのMS部隊、ナイトメア達はその対応に向かう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

舞い降りた地球と厄介事

 

 

「良いか?低軌道だと地球からの引力を受けるから気を付けろ!」

 

 

「うん、なんか機体が重いな」

 

 

「だけど問題ねえ、やってやるぜ!」

 

 

「イシガシ兄さん、おっさん達、オルガ達の事任せるぜ!!」

 

 

「あぁ、任せてくれ」

 

 

「暴れて来なさい。」

 

 

「搬入完了、次のランチを急いでくれ!」

 

 

船の守りをクランクとアインに任せて迫ってくるMSへと向かっていく各機。

多数のグレイズに紛れるように1機全く違う機体がいた。それはキマリスであった。

キマリスはナイトメアとバルバトスを確認すると一気に加速して迫って来たのだ。

 

 

「見つけたぞ宇宙ネズミ共!!」

 

 

「また、貴様か。しつこいな。」

 

 

此方も急加速しながらナイトメアで近距離攻撃を仕掛けるが以前戦った時よりもキマリスの速度は増加しているのかナイトメアの最大出力でもどんどん迫ってきている。

 

 

「ちっ、此処までの速度が出るとはな。」

 

 

「カエデ兄さん、こいつは俺も任せて」

 

 

ナイトメアを庇うように躍り出たバルバトスはあの時落とした予備と思われる同系の大型の槍を突き刺そう迫ってくるキマリスへと向かって行った。

圧倒的な加速による突きをメイスと太刀の二刀流で受け流して頭部を殴りつけた。

 

 

「ぐっ!この宇宙ネズミ共が!!今日こそ引導を渡してくれる!!」

 

 

「何それ、俺そんなのいらないよ」

 

 

再度距離を取ったキマリスは加速してバルバトスへと向かっていくが今度は真正面から向かっていく三日月。

キマリスも血迷ったか思いグングニルを構えてその胸部へと突き動かすが当たる寸前にバルバトスは急激な反転をしキマリスの背中の大型ブースターに組みつきそのままそこへ太刀を突き刺した。

 

 

「な、なに!?」

 

 

「確かに速いけどカエデ兄さんのナイトメアの分身に比べたら単調な突進ばっかりでパターンを見切るのは簡単」

 

 

「くそ離れろ宇宙ネズミ共が!!」

 

 

「分かった」

 

 

バルバトスはブースターを破壊するとそのままキマリスのスラスターを壊してそのまま地球へと向けて蹴った。

地球の引力に引かれてキマリスは落ちていくが残ったスラスターを全開にしてなんとか持ち堪えたのだろう。

あのままだったら何れガスが切れて落下する。三日月はそのままキマリスを放置して降下船へと向かっていく。

 

 

「中々エグいことをしたな。三日月」

 

 

三日月の所業にカエデは少し引きも接近戦を仕掛けてきたグレイズを杖型のハンマーで殴り距離を取るとカエデは笑った。

そしてナイトメアは…。

 

 

「長々とやるのはめんどくさいのでな。」

 

 

カエデは「SS」搭載のペンダントをナイトメアの認証システムに入れた。

 

 

「必殺ファンクション!!デスサイズハリケーン!!」

 

 

タービンズのアミダの機体をボロボロにした必殺ファンクションを発動したのだ。

ナイトメアは左手で杖型のハンマーを右手を頭に持ってくるとT字で赤く光る双眼で左回転しながら上空まで行くと杖型のハンマーの先に大きな黒紫色の球体が出来ていた。

ナイトメアはそれを一気に振り落とした。

 

 

それを受けたグレイズは吹き飛んでしまいそのまま勢いを殺す事も出来ずに地球へと落下していってしまった。

それを見届けたカエデは降下船の護衛に付こうとしたらそこには見慣れぬMSが降下船を守っていた。

 

 

「オルガ、あのMSはなんだ?」

 

 

「あぁ!カエデの兄貴!!アジーさんとラフタさんだ!名瀬の兄貴が心配だからって2人が来てくれたんだ!さっきもグレイズをあっという間に片付けてくれたぜ!!」

 

 

「そうか、それは感謝しなければな。」

 

 

「カエデの兄貴も早く降下船に来てくれ!!もう降りるぜ!!」

 

 

「あぁ、わかった。」

 

 

そのままカエデ達は敵の増援が来ぬうちに地球への降下を開始した。無事に地球へと降下して行く彼等を待つのは一体何なのだろうか……。

 

 

待ち受けた地球外縁軌道統制統合艦隊を突破し地球へと降り立つ事が出来た鉄華団。

降りた先は地球四大経済圏が一つ【オセアニア連邦】の領内のとある島の近くであった。

 

 

降りた時には既に夜中で薄暗かったが鉄華団全員は無事に地球に降りられた事に感動し大声を上げて喜んだ。

鉄華団として初めて請け負った巨大な仕事を地球へクーデリアを送り届けるという仕事を見事に達成する事が出来たと皆喜んだ。

 

 

「うおおおおお!!此処が地球か!!いやっほぉぉおおおう!!」

 

 

「シノさんずり!!俺も!!」

 

 

「シノなんか遅れて堪るかよ!!」

 

 

「海の水はしょっぱいので飲まないように!!」

 

 

海上に着水した降下船から海へと飛び込んでその喜びに浸りながら大声で騒ぎ回る子供達と注意するイシガシを見つめるカエデは笑っていた。

 

 

「此処が地球……美しい所、だなやっぱり……」

 

 

トリトーンのコクンピットから周囲を警戒しているアインだが初めて目の当たりにする地球の海という大きな存在に目を奪われていた。

 

 

夜だというのに月明かりに照らされてキラキラと光っている水面は遥々火星からやってきた自分達を祝福し出迎えてくれているかのように思えた。

同時に自分が来る事なんてないと思っていた地球へと来れた事に感動して1人でこっそりと涙を流していた。

 

 

だがしかし何時までも感動に浸っている訳でもなく早速作業を開始するとオルガが号令を掛ける。

自分たちの降下地点などギャラルホルンは恐らく把握済みだろう。ならば速やかに降下船に積み込まれている荷物を下ろして体勢を整える事が先決となるのだ。

それらを作業を行っている島の奥から1人の老人が姿を現わした。

 

 

「えっと御爺ちゃんは一体何の用で?」

 

 

「いやなんでもお話をしたいとかで……」

 

 

「お前さん達だな?鉄華団というのは地球へようこそ歓迎するぞい」

 

 

「誰だアンタは?」

 

 

和服に身を包みつつも蓄えられたひげと歳が積み重ねられた皺。ただの老人というには威圧感というものがあり只者では無いというのが一目で分かる。

 

 

「儂はこの島の持ち主である蒔苗 東護ノ介じゃ。お主らの事は良く知っておるぞ」

 

 

「持ち主……その悪いな。勝手に荷物を下ろしちまってな。」

 

 

「いやいや構わんよ。それより荷物を運ぶ場所としてこの島にある廃棄された中継基地を提供したいんじゃが如何かな?」

 

 

「何が狙いだ?蒔苗 東護ノ介」

 

 

此方を誘導をしたそうにしている蒔苗に怪訝そうな瞳を投げ掛けるカエデは笑みを浮かべていた。

 

 

蒔苗 東護ノ介という名前にはカエデには覚えがあったのだ。

地球のアーブラウの代表を努めているやり手の政治家であり見た目こそ老人だがその中に秘められている鋭い刃のような部分はカエデには見えていた。

 

 

そしてこの男こそクーデリアが火星ハーフメタル資源の規制解放に関して交渉を進めていた相手でもあった視線を向けると首を縦に振った。

 

 

「少年には嘘は言えんの。だがこの老骨にはもう夜更かしはちと辛くてな。明日の夕刻にこの島にある儂の屋敷に来て欲しい。そこで詳しい話をしようではないか。基地は自由に使ってくれて構わんぞ」

 

 

そういうと蒔苗は去っていくがオルガはカエデやクランクに視線を投げてどうするかと聞いてみる。

クランクも蒔苗が代表である事を承知しているしやり手の政治家には下手に逆らえば絡め捉える事は知っているので素直に使わせてもらおうと進言しオルガもそれを受け入れる事にした。

 

 

結果、鉄華団は蒔苗の言葉に甘える形になり中継基地に物資やMSを運び込んでいくとすると次第に空は明るくなっていき初の地球での朝を迎えた。

 

 

「イシガシ、お前はオルガ達に付いて行け。良いな?」

 

 

「はい、カエデ様。ですがカエデ様は何を?」

 

 

「少しやることが出来てな。」

 

 

そして、全員が少しだけ仮眠を取りオルガとイシガシとクーデリアに数人の団員を連れて蒔苗 東護ノ介の元に向かったのだ。

その時カエデはイサリビの自分の部屋にいた。

 

 

「これを…こうすれば…」

 

 

カエデは三日月のバルバトスに必殺ファンクションを発動出来るように「SS」で作れる加工品を作っていたのだ。

勿論、三日月本人にも必殺ファンクションを付けるか聞いた所…。

 

 

「必殺ファンクションってカエデ兄さんが良くやってる奴でしょ?俺もやってみたい。」

 

 

「まぁ、バルバトスにも「SS」の認証システムを万が一の時に埋め込ん居たからな。それでどんなアクセサリーが良いんだ?」

 

 

「邪魔にならないのなら何でも良いよ。」

 

 

と即答されたのでカエデは「SS」の加工は済んでいまは埋め込むアクセサリーで悩んでいたのだ。

 

 

「やはり無難なのはペンダントだな。」

 

 

カエデは三日月のアクセサリーに「SS」を埋め込むのは十字架のペンダントにした。

 

 

「これで良いだろう。落とすことは無いだろうが一応本人と分かる加工をしたがな。」

 

 

カエデは三日月の十字架のペンダントに月のマークを付け加えて加工作業を終えて片付けていると外から話し声が聞こえて来た。

 

 

「帰って来たか。」

 

 

カエデは三日月に渡すペンダントを持って外に向かうと残っていた鉄華団のメンバーが魚を寄越して来たので受け取って皆は座って食べ始めた。

しかし時苗の所から戻って来たイシガシ、オルガ、ビスケット、クーデリア、メリビットの表情は良くなかった。

 

 

「つまり蒔苗はこう言いたい訳だな。自分は鉄華団を庇ってやっているんだから此方の要求を呑め飲まないなら直ぐに我々をギャラルホルンに引き渡すと言う訳か。」

 

 

「あぁ、そう言う事だ。カエデの兄貴……くそやってくれるぜの爺」

 

 

それを聞いて表情を硬くしたカエデ。戻ってきたイシガシ達の口から話されたのは衝撃的な内容だったのだ。

 

 

現在蒔苗には何の権力も無くクーデリアとの間にハーフメタル関連の交渉も意味は無さない。

だが再び"代表に返り咲ければそれは実現可能だから連れて行け"連れていけないのならば今すぐ庇うのを止めてお前達をギャラルホルンに引き渡すことも出来ると。

 

 

何とも一方的でふざけた条件だがそうするしかないというところまで来ている気もしていた。

だがそれを実行する為には真っ向からギャラルホルンと対決するのを覚悟しなければならない。

 

 

「んで、団長はどういう考えなんだ?」

 

 

「……考え中だ……流石に、まだ考えてぇ……」

 

 

流石のオルガも迷いを見せていた。

顔に影を作り困っていた。

 

 

「受ける必要などありません!鉄華団の皆さんは私からのお仕事を確りと果たしてくださいました。ならば後は私の仕事なのです。大丈夫なんとかなります!!」

 

 

そう後押しするようなクーデリアの言葉にオルガは更に詰った。そしてオルガは1人で砂浜に座りこんで空を見上げた。

満天の星空、少し前まで自分達はあの中に居たというが信じられない。真っ暗な宇宙、それが真実なのに地球からは青い空に浮かぶ星々となっている。

オルガは不思議なものだと言葉を漏らすと背後から物音がした。振り返るとそこにはビスケットとイシガシが居た。

 

 

「なんだビスケットとイシガシの兄貴、まだ寝ないのか?」

 

 

「オルガこそ、如何したの」

 

 

「私は星空を見ていただけですよ。」

 

 

「全然、考えが纏らなくてな」

 

 

3人揃って座りこんだ砂浜は静かに打ち寄せる波の音だけが木霊していた。そんな静寂を破るようにビスケットが言った。

 

 

「オルガ、オルガは蒔苗さんの話を受けようとしてるんじゃない?」

 

 

「……分かるか」

 

 

「うん、まぁ長い付き合いだしね。でもハッキリ言うと僕は反対だよ。危険だしクーデリアさんを送り届けるっていうオルガの言う所の最低限の筋は通してる訳だから」

 

 

「あぁ、筋は通してる。確かにな……」

 

 

"筋"自分が重視しているもの。それはしっかりと通され果たされていた。地球に留まる理由もない筈……。そうない筈なのに火星に帰るという選択肢を選びたくない自分がいた。

 

 

「このまま火星に帰っても俺達はきっと上手くやっていけると思うよ。カエデ兄さんと此処にいるイシガシ兄さんのお陰で本部の経営もやっていけてるし仕事もテイワズから来る。もう確りとやっていけてるよ」

 

 

「だな……帰るっているのも確りとした道の1つだな」

 

 

「じゃあ何で……」

 

 

「俺はよ。ビスケット、今の鉄華団が好きなんだよ」

 

 

何の飾りもない言葉、心に従った結果の言葉に偽りはなくただただ心の中で思い形作られた物。それをビスケットは少し驚いたように受け止めた。

 

 

「CGSを鉄華団にしてよ。皆で馬鹿騒ぎしながらも必死に前に進もうとする鉄華団が好きだ。シノがユージンと女がらみのことで話しててヤマギがそれ見て呆れてるのが好きだ。

 

 

昭弘と昌弘が一緒にトレーニングしてるのを見てるのが好きだ。

カエデの兄貴とイシガシの兄貴がたまに皆を笑わせてが全員で笑うのが好きだ。ミカとアトラ、そしてクーデリアが一緒に皆に飯配ってるのが好きだ。今、皆が居る鉄華団が好きだ。

そうだな。俺は今の鉄華団が好きなんだよ。」

 

 

「オルガ?」

 

 

「俺にとっちゃ……クーデリアも鉄華団の1人なんだよ」

 

 

その言葉を聞いてビスケットは悟った。何故蒔苗の提案を呑もうとしているのか。

鉄華団の1人、クーデリアを残して自分達は火星に戻っていいのかと…もし団員のやりたい事に手を貸して一緒にやり遂げるのが鉄華団じゃないのかと考えていたオルガ。

 

 

「だけど、蒔苗の依頼を受ければ当然危険が付き纏っちまう……今の鉄華団が壊れちまうかもしれねえって心のどこかで思っちまったんだ……でも俺はクーデリアをあいつが見た目的の手伝いをしてえとそう思ってるんだ」

 

 

 

「オルガ……ごめん。てっきりオルガは危険な道ばっかりを選ぼうとしてるって思ってた。三日月に見られてるからって無理してるってでも違った。オルガは誰よりも鉄華団を大切に思ってたんだ」

 

 

立ち上がって笑ったビスケットはそのまま歩き出して行く。それを止めるように名前を呼ぶと振り返ってこう言った。

 

 

「好きにすればいいんじゃない?団長が決めた事ならそれに従うし全力でサポートするよ!!」

 

 

そう言い残して去っていくビスケットにオルガは大きく笑った。

やっぱり自分はビスケットという存在が必要だ。あいつは自分の相棒だと改めて実感させられた。

三日月とは違った頼れる仲間にその言葉が何処までも有難かった。心の楔が消えたようながした。そんな時、今まで喋らなかったイシガシが口を開いた。

 

 

「オルガ、ビスケットが言いたいことを言ってくれましたから私からは話すことが無くなりましたか…1つだけ。」

 

 

「イシガシの兄貴?」

 

 

「私達はいつまでもオルガ達について行きますからね。大事な弟分なので…そうですよね?カエデ様」

 

 

イシガシのその言葉でオルガは木々の隙間からカエデが顔を覗かせていたのだ。

 

 

「オルガ、決めたらしいな?」

 

 

「あぁ。決めたぜカエデの兄貴!なんか心配かけちまったか?」

 

 

「私とイシガシは何時も弟分のことを信じてるから心配なんかしてないからな。」

 

 

「結果的に心配して来てくれたんだろ?」

 

 

「まぁな。」

 

 

互いに言葉を交わすと共に空を見上げた。あの空の向こう側に帰るべき火星があるがその前に一仕事をこなそう。

 

 

「ですがビスケットはオルガの足りない物を補ってくれましたね。私が出る幕では無かったです。」

 

 

「なあ、カエデの兄貴とイシガシの兄貴。俺に足りないものって何だよ?」

 

 

「"明確なビジョン"どんな未来を掴みたいのか。それを考える事だろうな。」

 

 

オルガはそう言われると確かにそうかもと思っていた。

 

 

「また何かあれば私とイシガシに言うと良い。私達がお前に力を貸してやろう。」

 

 

「ありがとう、カエデの兄貴、イシガシの兄貴!」

 

 

そう話しながら3人はイサリビの中に戻った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄華団行くべき場所へ

 

 

オルガが覚悟を決め、鉄華団の団員の1人であり此処まで旅を共にしてきたクーデリアの目的の実現を手伝う為に蒔苗の話を聞く決心をした直後…島にギャラルホルンの部隊が接近している事が発覚した。

 

 

蒔苗がオセアニア連邦に働きかけギャラルホルンを止めるという算段だったはずだがギャラルホルン内でも独自の指揮系統を持ったセブンスターズの第一席カルタ・イシューが直接出向いてきたとのこと。

 

 

 

オセアニア連邦でも抑えきれないとの事でそしてギャラルホルンからの通達があり中身は最早パターン化してきたクーデリアを引き渡せ、応じなければ武力を持って制圧する。

 

 

「最早テンプレですね。

当然応じる私達鉄華団とクーデリアさんではないのですけどまだわからないですね。」

 

 

直ちに迎撃と脱出の為の準備が行われていた。

MSの立ち上げやトラップの設置、CGS時代からの積み重ねもある為かそれらは非常にスムーズに進行していた。

 

 

カエデとイシガシの指導のお陰でもあるのだが全ての準備が済んだ時には日が昇り間もなくギャラルホルンから勧告された制限時間が終わろうとしていた。

 

 

沖に展開されたギャラルホルンの水上戦艦は島への飽和攻撃を始めて次々と発射されていく砲やミサイルだが島の中央部を狙うミサイルは次々と撃墜されていくのであった。

 

 

「何だ!?何故ミサイルが空中で一斉に迎撃されているんだ!?」

 

 

「わ、分かりません!」

 

 

「エイハブリアクターの反応を確認!!空中に展開しているMSが居ます!!」

 

 

「な、何だと!?」

 

 

「モニターにて最大望遠映像を出します!!」

 

 

艦のモニターにて出力されたのは島の上空にて居座って銃を自在に扱いながら次々とミサイルを撃ち落としていく黒い魔術師の姿であった。

歯噛みをしながら睨み付ける指揮官カルタ・イシューだが意味は成さずに迎撃は続けられていた。

 

 

「しかし、こんなにもバカスカとミサイルを撃ってくるとは余程クーデリア嬢を捉えたいと思っているのだろうな。」

 

 

空中にて静止したまま次々とミサイルを迎撃して行くカエデのナイトメアを各機は見上げながらその腕前に感心しながら弾薬を節約できる事に軽く笑みを浮かべていたのだ。

 

 

「昭弘。私の代わりに船を狙って貰えるか?敵の奴らは躍起になってかなりの量のミサイルを撃って来てるからな。」

 

 

「そりゃカエデの兄貴がミサイル落としまくってるから相手が躍起になるのも分かる。でもうっし、やってみるぜ!!」

 

 

大型のライフルを構えた昭弘は艦を狙って射撃を行った。初めての遠距離射撃だが本人としては確り狙ったつもりだったのだがそれは僅かに艦をかする程度にしか命中せずに大きな水柱を上げた。

 

 

「ちっ!外した!」

 

 

「何やってんのよ!へたくそ!あとでカエデ君にどやされるわよ!」

 

 

「い、いやだってな……」

 

 

「大気圏だと大気の影響を受けるからデータを修正して撃つんだよ。」

 

 

「まだ来ます!ミサイル追加です!」

 

 

「イシガシの兄貴!んなこと言ってったよ……!」

 

 

「昭弘、さっきの感覚身体に残ってるだろ。それに合わせて撃てば良いんだよ」

 

 

初めての大気圏内射撃は宇宙とは全く勝手が違う。流れる風や重力など様々な環境が織り成す事象が影響し射撃にぶれを生じさせる。

 

 

それによるブレのデータを素早く入力し修正を加えて射撃するのが一般的だが阿頼耶識を持った人間はそんな事をせずとも良いと三日月は言うがその時三日月は手に持っていた「SS」のペンダントを持って昭弘にアドバイスを行った。

 

 

三日月は「SS」のペンダントを出撃前にカエデから貰っていたが首に掛けるのを忘れて手に鎖を巻きつけていた。

昭弘はライフルを放った際の感覚にライフルの反動によって動いた腕にそれらが全て身体に記憶として残っていた。

 

 

それらに従って放つと弾が艦艇に見事に直撃して浸水を発生させた。

艦は大急ぎでMSの発進を行い次々と乗員は脱出して居た。

 

 

「案外、昭弘は狙撃手として資質があるかもな。」

 

 

「いや、あんなガチムチな昭弘の奴には似合わないって!それよりも海上から来る敵の迎撃手伝って!カエデ君!」

 

 

「わかった。」

 

 

次々と艦から発進してくるフライトユニットのような物を背負い海上を滑るように迫って来たギャラルホルンのグレイズ達。

それらのユニットなどを狙って射撃するナイトメアとタービンズの漏影にトリトーンとキャプテン・トリトーン。

 

 

迫ってくるのを撃つだけなので楽な作業だと思っていたが突如アラートが頭上からの敵機を知らせた。

機体を翻して空を見てみると何か鉄の塊が次々と降ってくるのが見えてきた。

 

 

「おいおい!なんか降ってきたぞ。地球の異常気象かよ!?」

 

 

「そんな訳ないだろう。どんな恐ろしい気象だ。」

 

 

昭弘とカエデがそう言っている間に鉄の塊から次々とグレイズの系統のものだと思われる機体が降下して来たのだ。

それらは牽制射撃を繰り返しながら着地してナイトメア達へと向かって行くと思いきや敵機であるグレイズリッターは一列に並び始め中央の赤いラインが引かれている機体を中心にしながら剣を地面に刺しながら構えると外部スピーカーをONにして叫び始めた。

 

 

「我ら!!地球外縁軌道統制統合艦隊!!!」

 

 

「面壁九年!!堅牢堅固!!」

 

 

何やら名乗りを上げているところだったが飛来した銃弾二発が左から1番目と2番目の機体の頭部パーツを吹き飛び倒れ込んだ。

正々堂々と戦いを申し込むという前の名乗りでの攻撃に思わず敵は固まった。

そして謎の沈黙が訪れ黙っていられなくなった昭弘が口を開いた。

 

 

「カエデの兄貴、撃って良かったんだよな……?」

 

 

「あぁ、よくやった。」

 

 

「てかなんで名乗り上げてんだ?別に決闘する訳でも無いのにな」

 

 

「馬鹿だからじゃない?」

 

 

「三日月、そこまで言ってやるな。まぁ、本当の事でも言っちゃ駄目なんだ。敵を見て狙撃しない奴は居ないだろう?」

 

 

「そうだね、カエデ兄さん。ごめんね馬鹿な人達」

 

 

同じく外部スピーカーで外に聞こえるようにして会話をしていた三日月達鉄華団の会話は当然降下して来たMSのリーダーであるカルタに確りと聞こえていた。そして三日月の遠慮無しの罵倒に青筋を立てていた。

 

 

「無作法な野蛮人がぁ!!圏外圏の鉄の野蛮人に制裁を加える!!」

 

 

「鉄拳制裁!!鋒矢の陣!吶喊!!一点突破!!」

 

 

剣を構えたまま一気に加速して突撃してくるグレイズリッターに流星号が射撃を行うがそれすら物ともせず突進して来たのだ。

だがそれに怯まずバルバトスは今まで手にしたメイスよりもさらに巨大で恐竜の頭部のような形状をしたメイスを手に引きずるように前進していた。

 

 

そして先程ナイトメアとリベイクによって損傷をした2機に狙いを定めた。軽くジャンプするとそのままバルバトスは飛行を開始し巨大なメイスを一気に振り下ろすとグレイズリッターを2機纏めてコンクピットを潰しながら吹き飛ばした。

 

 

「カ、カルタ様!!我らの陣が!!」

 

 

「お、おのれぇ!!!落ち着きなさい、各機散開!!冷静に各機敵を各個撃破!!我ら地球外縁軌道統制統合艦隊が負けるはずなどない!!」

 

 

「面壁九年!堅牢堅固!」

 

 

策が破られたカルタだがそこまでうろたえる事もなく冷静に指示を飛ばして1機を複数で攻撃するように命令する。

幸いな事に先ほど此方を狙い撃って来た機体は上陸したMSと戦闘し上空の機体は沿岸部に到達したMSの対処をしている。

 

 

ならば今こそ好機だと攻め始めるが相手は阿頼耶識を搭載したMS、2機1組で襲い掛かっても攻め切れずに寧ろ押し返されていた。

 

 

「こんな戦いイシュー家の戦歴に必要ない……!!早く、撃滅なさい!!」

 

 

「カ、カルタ様!!上陸部隊との通信途絶しました!!状況不明です!!」

 

 

次々と飛び込んでくる此方にとって都合の悪い事ばかりにカルタは強く歯軋りをすると1機の部下が流星号が引いた所を追い討ちしようとした時に足場の崩落というトラップに掛かってしまった。

 

 

助けに入ろうとするがバルバトスのメイスが襲い掛かり助けられずコンクピットを斧で抉られた際の断末魔が聞こえてきてしまった。

 

 

「おのれぇぇ!!あれは!!?」

 

 

バルバトスの一撃から逃れた時に遠くからにMWが見えた。それだけなら気にも止めないがそこから顔を出している男は指示を出しているように見えた。

 

 

恐らくあれが前線指揮官、あいつさえ撃ちとれば指揮系統は崩壊すると睨んだカルタはバルバトスの足止めを部下に指示すると一直線にオルガとビスケットの乗ったMWへと向かっていった。

 

 

「良くも私の可愛い部下達を!!!」

 

 

「ビスケット!!!」

 

 

「分かってる!!オルガ!!」

 

 

反転して森の中へと向かおうとするMWだがMSとは速度の違いがありすぎていた。

その為に容易に接近され今にも剣が振るわれ自分達ごと機体が抉られようとした。

 

 

オルガは迫ってくるカルタのMSが剣を振りかぶりこちらを斬りつけようとするのが視界一杯に広がり此処までなのかと思ってしまった。三日月も必死に向かおうとしているが阻まれて間に合わない。

もう終わりなのか。そして剣が振るわれ……

 

 

……装甲を抉る音が島に木霊した。周囲に飛び散ったオイルはまるで血のように地面を塗装していた装甲の破片は肉片のような無様な姿を晒していた。

 

 

「あ、あれ……俺生きてるのか……!?お、おいビスケット無事か!?」

 

 

「う、うんなんとか生きてるみたい……で、でもなんで……?」

 

 

オルガもビスケットも確かに無事だったMWは森の木々に突っ込んでやや傾いているが確りと無事であったのだ。

だが何故自分達は生きているのか…先程の攻撃はどうなったのか…思わず目を後ろに向けてみた。

 

 

だがその時、2人が目が映し出したのは見たくない物だった。

そこにあったのは胸部にグレイズリッターの剣が杖型のハンマーを貫通して装甲が抉られながらも攻撃を防いでいたナイトメアの姿だった。

 

 

「お、おい嘘だろ……?カエデの兄貴!!!!」

 

 

「カエデ兄さん!!!!」

 

 

あの時、MWに攻撃が当たろうとした時その間に最大出力の機動力でナイトメアが割って入ったのだ。

最大出力でグレイズリッターに肉薄したナイトメアは身体を張ってオルガとビスケットを守った。

通信に悲鳴じみた2人の声が響いていたのだ。

無事なのかそれを知りたいと言う一心で通信機に声をぶつける。

 

 

「兄貴、おい返事しろよ!!カエデの兄貴!!!」

 

 

「お願いです!カエデ兄さん返事をしてください!!」

 

 

「カエデ様!!!」

 

 

「………どう…ら無事、な感じ…で…安…心……した…ぞ…」

 

 

「!!!カエデの兄貴!!大丈夫なのか!!?」

 

 

通信から漏れてきたカエデの声は小さく薄れていて掠れていた。苦しげな息遣いと痛みに耐えるような声が聞こえた。

ナイトメアのコンクピットは胸部。

コンクピットを貫通しているのかもしれないそんな心配が過ぎりながらもナイトメアは必死にグレイズリッターを抑えつけていた。

 

 

「わた、しの……弟、分……たちには……指一本、ふれさせは……」

 

 

「えぇ!いまだ生きているのか!!ならばこんどこそ引導を……!!な、何!!?」

 

 

「おい…お前、カエデ兄さんに何をやってる…!!」

 

 

自らを抑え付けていた機体を振り払ったバルバトスは怒りのままに巨大なメイスを振りかざした。

それは展開し獰猛な肉食恐竜のようにカルタへと食らい付きそのまま易々と持ち上げるとグレイズリッターを地面へと叩きつけた。

 

 

それでも三日月の怒りは収まらないメイスを頭部へと叩き付けて粉砕しても収まらない。

三日月はバルバトスの認証システムに十字架と月が入ったペンダントを入れて必殺ファンクションを発動したのだ。

始めて発動するがカルタの機体を逃がさぬように…。

 

 

「お前が……!!!必殺ファンクション!!インパクトカイザー!!!」

 

 

バルバトスはメイスを地面に叩きつけると底から火柱が上がりカルタの機体を傷付けたが今度はコンクピットを重点的に潰そうとした時に残った機体がカルタの機体を庇うように躍り出てると自分を蹴り体勢を崩してその隙にと言わんばかりに最大出力で撤退していた。

 

 

「待て……!!!」

 

 

「ミカもうそいつらことは良い!!それよりもナイトメアを寝かせるんだ!!」

 

 

「オルガ……分かった……!」

 

 

バルバトスはメイスを手放すとナイトメアを抱えてその場にそっと横にするとそこへ飛び乗ったオルガはコンクピットを開ける。

どうか無事であってくれとオルガは願いながらハッチが開くとそこにはモニターに飛び散った血と眠っているかようにしているカエデの姿があった。

 

 

「お、おい嘘だろ……!?おい嘘だよな……!?」

 

 

「オルガ!!早く、早くカエデ兄さんを治療しないと!!手遅れになる前に!!!イシガシ兄さんも準備してる!!!」

 

 

「あ、あぁ!!分かってる!!」

 

 

カルタが撤退した事で戦闘は終了しギャラルホルンも引いて行った。

 

 

「早く!カエデ様を此方へ!!」

 

 

「イシガシの兄貴!!」

 

 

全員が基地に戻ると全員はそこでイシガシに教わって通りに応急処置をしているオルガとイシガシ本人だった。それを受けているカエデの姿に言葉を失ったのだ。

必死に応急処置をするオルガとイシガシの鬼気迫る表情と眠るようにしているカエデに誰もが最悪の事を連想してしまった。

 

 

「これで、良い筈だ……良い筈、だよな……!?」

 

 

「えぇ、良くやりましたね…オルガ…。」

 

 

「イシガシの兄貴…」

 

 

でも身体が震え喉が枯れていた。そんな感覚に襲われ押し潰されそうになった時そっと自分の頬に暖かい感触があった。

 

 

「……あぁ…上手く…出来たな……」

 

 

意識を取りも出したカエデの言葉とややぎこちない笑顔が浮かんだ時、鉄華団全員は島全体が震えるような大歓声が巻き起こった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

相談役の怪我と怒りのジョーカー

 

 

鉄華団とタービンズそして蒔苗。彼らはクーデリアが手配した船に乗り込みアーブラウへと向かう為に海上を進んでいた。

クーデリアが手配したのはモンターク商会の船、その船長はギャラルホルンが使用している監視衛星の情報を得ているのかそれらを回避するように船を動かしギャラルホルンからの追撃を逃れていた。

 

 

船は一旦アラスカに向かいそこでテイワズの定期便の列車に乗り込みそこからエドモントンへ向かう。

クーデリア発案のこのコースはギャラルホルンに発覚しにくい事や周囲に都市部がなくエイハブリアクターによる電波障害を気にする必要が無いので堂々とMSを運べるという利点を狙っての物だった。

 

 

「良く考えられているな。」

 

 

「イシガシさんから勉強しました。私も今は鉄華団の一員のようなものです。」

 

 

船の一室、身体に包帯を巻きベットに大人しく横になっているカエデとクーデリアが話をしていた。

先の戦闘でオルガとビスケットを庇って事で受けた傷、ナイトメアの胸部を貫通した事でダメージがコンクピットの計器にも発生し小規模の爆発が起きたのだ。

それにより脇腹と額に傷を作ってしまった…出血は多かったが命に別状はなく皆は酷く安堵していた。

 

 

「それにしても……傷もそんなに深くない。もう動けるというのに大袈裟だ。」

 

 

「皆さん本当に心配してたんですよ。あの時、カエデさんが死んでしまったんじゃないかって思って私も含めて皆絶望の一歩手前でした……だから今は皆さんの安心の為にも安静してください。」

 

 

「しょうがないな。イシガシの説教よりはマシだ。だが列車に乗り換えたら動くと全員に言って貰えるか?何時も忙しかったから何もしないっていうのは変な感じだからな。」

 

 

昔から常に忙しかった故の習慣で身体に残っているのは書類にサインをする方法にMSの整備方法と仕事をする為の事ばかりだった。

 

 

ある意味仕事中毒に近い何かかもしれない。怪我もしないし病気にならなかったからこその仕事中毒。そんな事を言うカエデにクーデリアは笑った。

 

 

「やっぱりカエデさんって鉄華団のお兄さんですね。皆さんの事を本当に大切に思ってる…少し羨ましいです」

 

 

「そうか?君のことも私とイシガシはずっと前から妹分だったがな。」

 

 

「ありがとうございます。カエデさん」

 

 

そんな言葉の駆け合いで生まれた笑みからは自然と笑いが零れた。そしてクーデリアは蒔苗との話があると言って去って行った。

クーデリアを見送るとカエデはベットに背中を預けながら持ってきて貰ったナイトメアの状態報告書を読み始めた。

 

 

致命的な損傷という訳でもない為現在修理中で定期便に乗り換えるまでには完了するとの事。

それに安心すると暇になってしまい何かしようかなと考えると扉が開いた。

 

 

「カエデ兄さん、今良い?」

 

 

「三日月か、勿論良いぞ。暇だったのでな…。」

 

 

入ってきた三日月の手にはお菓子やエネルギーバーなどが入った小皿が持たれていた。

どうやら幼年組からのお見舞いの品という物らしい。

カエデは嬉しく思いながらそれを受け取り机の上に置くと三日月は先程までクーデリアが座っていたイスに座った。

 

 

「ごめん。俺が止められてなくてカエデ兄さんが怪我しなくてすんだのに…。」

 

 

「気にするな。今更起きた事を後悔しても何も変わらんぞ?」

 

 

何処かテンションが低く凹んでいるような三日月に物珍しそうな視線を送る。

実際三日月はやや落ち込んでいたのだ。カエデは三日月にとっても大切な人でもある。

そんな人が怪我をしてしまったのは自分があの機体を逃し足止めを受けてしまった事が原因だから落ち込んでいた。そんな弟分の頭を軽く撫でながらカエデは言葉を紡いだ。

 

 

「優先すべきなのはその後悔を次に活かすか活かさないかだ。私は生きてるそれが事実よ。だから三日月、この顔は辞めろ」

 

 

「カエデ兄さん……分かった。次あいつが出てきたら絶対に潰す。徹底的に潰すから」

 

 

「それでいい。それにイシガシから聞いたが必殺ファンクションを発動出来たらしいな?」

 

 

「うん、なんか無我夢中でやってた。」

 

 

「そうか。」

 

 

カエデは三日月の頭を撫ぜた。

そして撫ぜ終わると三日月は普段通りの表情に戻りそのまま部屋から出て行った。

 

 

「やっぱりキレてたか。折角だから私の分の仕返しを三日月にやって貰おう」

 

 

その言葉がまもなく実現する事をカエデは予知していたのだ。

いよいよテイワズの列車に乗り換えたカエデは漸く動く事を許された今まで働けなかった分を取り戻すかのように整備に作戦会議等を取り仕切った。

 

 

「やっぱりじっとしてるのは私の性には合わない。」

 

 

「全くカエデの兄貴。……俺としてはもっとゆっくり休んでて欲しいんだがな。仮にも俺とビスケットを庇って出来た傷だからそうしてくれた方が安心するというか。つかもっと怪我人らしくしやがれ!」

 

 

「無理だ。」

 

 

「だよな……ハァッ……」

 

 

廊下で出会ったオルガに深い深い溜息を吐かれたカエデは彼の心配などお構い無しに今度は見張りの交代でもしに行こうと直ったばかりナイトメアへと足を向けた。

 

 

だがそんな時に列車全体に危険を知らせるアラートが鳴り響いた。カエデはイクサルフリートの服へと着替えていたので急いでナイトメアへと向かっていった。

 

 

線路上に立ち塞がった3機のグレイズリッター。地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシュー率いる親衛隊が先回りして待ちうけていた。

透かさず列車は停止するとそれに合わせるようにカルタがマイク越しに声を張り上げた。

 

 

「私はギャラルホルン地球本部所属地球外縁軌道統制統合艦隊司令官、カルタ・イシュー!!鉄華団に対してMS3機同士による決闘を申し込む。

 

 

我々が勝利した場合、クーデリア・藍那・バーンスタイン及び蒔苗東護ノ介の身柄を引き渡してもらう。そして鉄華団の諸君には投降してもらう」

 

 

「おいおい!これって確かクランクのおっさんがやった決闘の合図じゃ……」

 

 

「あぁ、その通りだ。私がやったのと同じだが……まさかあのセブンスターズの第一席のイシュー家の人間が此処までやるとは……」

 

 

「如何しますクランクさん、この決闘を我々鉄華団は受けるべきなのでしょうか?」

 

 

「受ける価値がないな」

 

 

意見を述べるクランクはそう断言した。

自分が鉄華団に対して持ちかけた決闘の時とは状況が違うのだ。此方からしたら決闘を受けるメリットが無い。

あちらはクーデリアと蒔苗の身柄を押さえればだがこちらは押し通れば良いだけなのだからそれに受ける道理も無い。向こうも素直に此方が応じると思っているのだろうか。

 

 

「あぁ、クランクの言う通りだ。受ける価値がない。」

 

 

「まぁそう言う事だな。」

 

 

「全員!直ぐにMSへ!押し通るぞ!」

 

 

「おうカエデの兄貴にやった事を倍返しにしてやるぜ!!」

 

 

「シノ、嬉しいことを言うな……あっ…」

 

 

そんな時にカエデはある事を思い出した。それは先日行った三日月との会話だった。

 

 

「……いまの見張りは三日月だよな。」

 

 

「えっ?そうだけど如何したの?」

 

 

「…あいつ、私が怪我した事でマジギレしてな。多分もう……飛び出している筈だ。」

 

 

「待ってくれ!今気付いたがイシガシの兄貴も居ねぇ!!」

 

 

「あっ…」

 

 

全員の気持ちが重なった瞬間だった。

 

 

「30分、セッティングに掛かる時間を考慮し我らは待つ。準備が整い次第に正々堂々と戦おうではないか。」

 

 

言いたい事を言いきったカルタはコンクピットに戻ろうとした時、目を見開いた。

メイスを持ったバルバトスが列車から飛び出し猛スピードで此方に向かってきていたのだから。

自分が待つといってたのにそれを完全に無視しての行動に驚きつつも親衛隊の一人が声を荒げて何故カルタの言葉を無視したと咎めるがバルバトスはそのまま止まらずグレイズリッターの胸部へとメイスを叩きつけた。

軽々と浮いた機体はそのまま装甲とフレームを歪ませながら吹き飛んだ。

 

 

「カルタ様一度体勢を整えて……ぐあ!!!」

 

 

1人がカルタにそう進言するがそれよりも早く投げられたメイスによって倒れこむ。

バルバトスはそのまま立ち上がる隙すら与えずに「SS」の技術より高々と跳躍するとそのまま一気に降下しコンクピットを踏み潰した。

 

 

バルバトスは地上戦仕様の為に足をヒールのようにし反応速度を高めているがそれは踏み潰す際にも有効な武器となり機体のコンクピットを貫き潰した。

 

 

「な、なんと卑劣な!!誇り高き私の親衛隊をっ……!!!」

 

 

「……後は、お前だ……俺はカエデ兄さんと約束したんだ」

 

 

「待ちなさい、三日月。その者を殺す役目を私にも譲ってくれませんか?」

 

 

三日月の乗るバルバトスに通信を繋げたのはナイトメアとはかなり装備が似ていた黒い機体。

 

 

「この声、イシガシ兄さん?」

 

 

三日月は映し出されたモニターを見るとイクサルフリートの服を来てガンダムフレームに乗っていたイシガシがいた。

 

 

「その機体ってイシガシ兄さんの機体?」

 

 

「えぇ、トランプでは「切り札」と言われているJOKER。これこそが私の機体、ナイトメアの原型!ジョーカーです!」

 

 

ジョーカーはバツ印の赤眼の双眼、妖しく笑う口元、杖型のハンマーではなく赤い鎌、ナイトメア見たいにマントは無いがナイトメアと同様な雰囲気を感じていた。

 

 

「セブンスターズのカルタ・イシューさん。私は今から貴方を殺します。何故ならば…貴方は私の敬愛すべきカエデ様を亡き者としようとした!!それは私にとっては許されないことだ!!貴様の罪をあの世で後悔するが良い!!行きますよ!三日月!!」

 

 

「わかった、イシガシ兄さん」

 

 

メイスを持ち直したバルバトスは一気に迫りながらメイスを振りかぶるがカルタはそれを素早く回避するだがバルバトスでは無くジョーカーから発せられている覇気と殺意が異常である事が自分を圧倒しているかのように感じられた。

 

 

「今度、あんたが出てきたら…潰す。徹底的に潰すってカエデ兄さんと約束したんだ…」

 

 

カエデとの約束とカルタへの怒りが今まで以上にバルバトスの動きを機敏に鋭くしていた。

 

 

剣の一撃を身体を沈めて回避するとそのままジョーカーの鎌を叩きこみ吹き飛ばし追撃に鎌をグレイズリッターの肩へと切り付けた。

 

 

ジョーカーの鎌の内部に仕込まれていた刃が作動し肩の装甲を切断し破壊していた。再びバルバトスがメイスとジョーカーは鎌を振り切ると今度はグレイズの脚部が潰れた。

 

 

「私は、私は恐れない!!」

 

 

「あっそ、だったら……」

 

 

「そうですか…」

 

 

通信越しに聞こえた声はイシガシと三日月の声だった。

 

 

「「なら!!」」

 

 

「「さっさと死ね!!」」

 

 

ジョーカーとバルバトスにコンクピットを思いっきり殴りつけられた機体は雪原を転げ回るように回転しボロボロになった装甲の切れ目から機体から発せられる熱で溶け出した雪がコンクピットの内部にまで入ってきていた。

 

 

傷だらけになったカルタは気丈に振舞いながら目の前の悪魔とJOKERを睨みつけながらまだ戦おうとするが残っていた最後の四肢である右腕を叩き潰されてしまった。

 

 

完全な達磨になったグレイズリッターを三日月とイシガシは静かに見下ろした。

そして止めをさすためにバルバトスはメイスで剣を折るとジョーカーは鎌でその刃を握りコンクピットへと差し向けた。

 

 

「これで終わりです。セブンスターズ、カルタ・イシュー。」

 

 

自分の誇りである筈の剣が折られ鎌が自分へと向けられている。

そんな現実をカルタは受け入れられなかった。そして一筋の涙を流した時にその場に新たな悪魔が姿を現した。

 

 

新たなエイハブウェーブの反応と共に高速で迫ってきた機体は銃弾をバルバトスとジョーカーに浴びせかけながら雪上を滑るように登場した悪魔、新たな姿となったキマリスであった。

 

 

バルバトスは身構えるがキマリスは銃弾で雪を巻き上げるとそれを煙幕のようにしながらボロボロとなったグレイズリッターを抱えるとそのまま撤退して行った。

追おうとするがイシガシに止められたのだ"速度が違い過ぎる"とその言葉で三日月は身体から力を抜いた。

 

 

「……カエデ兄さん、約束守ったよ…」

 

 

今、三日月は十字架と月のマークが入ったペンダントを握り胸の中にあったのはカエデとの約束を守れたという達成感で溢れていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エドモントンへの攻防

 

 

夜明け前の早朝にオルガは団員全員を集めた。自身は適当に作った台に立ちながら皆を見つめていた。

 

 

「皆、今日までよく働いて来てくれた。もう直ぐ鉄華団初の大仕事も正念場だ。

だけど俺は此処まで皆と此処までこれた事を誇りに思ってる!

今までの場面でもあぶねえ局面はあったがそれを俺達は乗り越えた来た!だからそれはこれからも変わらねぇ!俺達は皆この仕事をやり遂げて火星に帰るんだ!!」

 

 

一字一句に気持ちと力の込められた演説に皆身構えてそれを聞いている。

 

 

思えば火星から宇宙に上がる時もタービンズに自分達の力を証明する時にもブルワーズとの戦いにも地球に降下する時にも蒔苗を島から連れ出す時もどの場面も本当に危なかった。

 

 

島に至っては団長であるオルガやビスケットをカエデが庇わなければマジで死んでいたところだった。

 

 

「これから俺達は蒔苗の爺さんを議会に連れて行くが…そこにはギャラルホルンが待ち受けてやがるだろうが俺達は止まらないんだ。

 

 

俺達は怯まない。その上で仕事を完遂する。だがお前達に団長として絶対的な命令を出す。

 

 

絶対に生き残れ!!絶対に死ぬんじゃねえぞ!!勝手に死んだら団長権限でもう一辺殺すからな!!」

 

 

その演説に鉄華団全員は奮起し大歓声を上げた。

自分達だってこんな所で死ぬつもりはない。仕事終わりのボーナスを貰って皆で騒いでこれからもそれを何度も何度も続けるつもりなのだかだから。

 

 

そんな思いを語りながら叫ぶ子供達をクランクやアインは見守りながら自分達も何時の間にかそんな思いに感化されていた。その中に混ざろうと思っていた事に驚いていたが自然を絶対に生き残ろうと誓っていた。

 

 

ラフタ、アジー、エーコ。タービンズから出向して来た鉄華団を見守る為の三人は団長のオルガが思っていた以上に家族の事を考えていてそのための選択をした事に笑い兄貴分である名瀬に良い報告が出来ると笑っていた。

そしてカエデとイシガシは……これからも弟分達と共に進み続ける事を誓った。

 

 

そしてその演説は、鉄華団全員の力となってエドモントンへの侵入を拒むギャラルホルンへと牙を向いたのだ。

エドモントンへと配置されたギャラルホルンの防衛線。通常では撤退するか降伏するのかベターな戦力だが彼らそれなのに猛然と立ち向かって行った。

 

 

「オラオラオラオラ!!!!」

 

 

「オオオオオオ!!!!」

 

 

1機、また1機とグレイズが落とされていた。挟み打ちにしようと背後から迫って来るギャラルホルンのMS隊を撃退いや撃破し続けている。流星号が斧で相手のコンクピットを抉るとリベイクが負けてられるかとハルバードでグレイズの上半身を吹き飛ばすという昭弘の怪力を体現するかのような鬼のような戦いを見せいた。

互いが互いの刺激となり気付けば戦果を競うように戦っていた。

 

 

「これで8だ。」

 

 

そんな対抗意識を燃やしている理由としては三日月の存在が大きかった。

誰よりも巨大で凶悪な得物を手にしながら誰よりも多くの敵に囲まれながらも悪魔のような鬼神のような戦いをするバルバトス。

 

 

メイスを振るえばグレイズごと地面を割り、太刀を握らせれば装甲の内部に滑りこませて抉り壊す。

常に前線に立ち続けて多くの敵を引き付け続けている三日月にギャラルホルンはバルバトスの姿を見るだけで恐怖し士気が下がる。

 

 

「さて、この私に"悪夢を魅せし幽霊の魔術師"と二つ名をつけたギャラルホルンの隊員は…何処にいるのだ。しかも何故お前も此処に居る団員の指揮はどうした!イシガシ!」

 

 

「指揮権はオルガに譲っていますのでご安心下さいカエデ様。私も時々指示をしますがカエデ様とこのジョーカーと共に戦いたいのです。

今言った言葉は本当ですがもう1つ私はギャラルホルンに怒っています。私に"魔術師の死神"と言う二つ名を付けたギャラルホルンにです。」

 

 

カエデとイシガシは凄まじい活躍をしていた。上空から地上のMSの関節を狙い撃ちながらもエドモントンの都市部侵入を図ろうとするMW隊の援護を行うという事をしている。

 

 

どちらにしてもナイトメアとジョーカーの魔術師と死神のような外見からは想像も付かない程の戦果を発揮していたのだ。それゆえにギャラルホルンがナイトメアに付けた名が悪夢を魅せし幽霊の魔術師。ジョーカーに付けた名が魔術師の死神。

 

 

その姿を見れば抵抗出来ずに殺されていた悪魔に手を貸す魔術師と死神だと称されていた。それを否定する気もないし寧ろ肯定するカエデとイシガシはそのままナイトメアとジョーカーを駆り続けていた。

 

 

鉄華団を磨り潰そうとするギャラルホルンだが逆に大きな損害を受け続ける事になっている。既に撃墜されているMSの数は30を超えて更に拡大しているというのに此方は相手に全く有効なダメージを与えられていないのだ。

 

 

MWですらまともに撃墜出来ていないそれもある意味当然と言える。ギャラルホルンが経験している戦闘はその皮を被った虐殺のみでありその殆どがゲリラ戦を未経験のマニュアル戦闘が大半だ。

 

 

それに加えて上空から援護を加えるナイトメアとジョーカーの遠距離射撃により防戦一方で相手にまともな打撃を与えれていない。

 

 

二日間の戦いの末にいよいよギャラルホルンが展開した防衛線の限界が見えてきた。

MSの数もMWも以前と比べれば少ないと言わざるを得ない状況と化していた。

オルガとイシガシは間もなくと迫ったアーブラウ議会代表選挙の投票日、いよいよ本格的なエドモントンと支部への突入作戦に打って出る事とした。

 

 

「皆、今日で終わりにするぞ……三日月や昭弘、シノ、カエデの兄貴とイシガシの兄貴の奮闘のお陰であいつらの戦力は大幅に削いでやった!!そしてラフタさんやアジーさん、クランクのおっさんとアインさんのお陰であいつらの補給も十分じゃねえ、今日で終わりにするぞ……俺達は仕事をやり遂げるぞ!!」

 

 

「「「「オオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」」」」

 

 

そして鉄華団最後の大攻勢が始まった。

補給物資はそこまで届かずに臨時に草原に作られたギャラルホルンの駐屯基地。

そこでは整備班とパイロットの確執が出来ていた。

自分の機体を直せという言葉を物資がないからこれ以上無理だという罵詈雑言、輸送部門を担当するタービンズだからこそ補給ラインの重要性を理解しそれを攻撃していた。

 

 

既に機体は満身創痍、パイロットも悪魔、魔術師、死神に恐れを抱き一部はノイローゼを発症していたのだ。

これから如何すればいいのかと迷う部隊長、カルタ・イシューの部下として仇を打つために此処にいるのにそれが出来ずにいる事苛立っていたのだ。そんな時だった待機中のグレイズに次々と銃弾が叩きこまれ爆発していた。

 

 

「な、何だ!?」

 

 

悲鳴にも似た声が上がると正面から煙を上げて迫ってくるものがいたのだ…鉄華団のMSだった。

バルバトスやグシオンリベイク、流星号にキャプテン・トリトーンにトリトーン、そしてタービンズの漏影、上空からはこちらの物資を集中的に狙ってくるナイトメアとジョーカーと恐れていた奴らが遂に最大限の力を持って強襲して来た。

 

 

「「SS」を駆使すれば戦いやすくなるがそれでもこちらの戦力をばらすことになるがこの総力戦には必須だな。」

 

 

「えぇ、そうですね。カエデ様」

 

 

「行くぞ、イシガシ!」

 

 

「はい!カエデ様!」

 

 

「「必殺ファンクション!!レインバレット!!」」

 

 

カエデとイシガシはMW突破の為に「SS」で必殺ファンクション「レインバレット」で橋を占拠していたギャラルホルンのMW隊を打ち払う。

 

 

天からの光の一撃で開けられた希望への道にオルガはカエデとイシガシに感謝の言葉を漏らすとそこへ一気にオルガの乗るMWにアトラと蒔苗、そしてクーデリアの乗せた車、護衛のMWが突入していた。

 

 

いよいよ終わるのだ…これで本当に…いやまだ終わらないんだ…自分達がMS隊を引き付けておく必要があるのだ。

 

 

「カエデの兄貴、イシガシの兄貴。この前の奴が来た増援連れて来た。」

 

 

「そうか、ナイトメア、ギャラルホルンに悪夢を魅せてやろうか。」

 

 

「ジョーカー、私もカエデ様に続きますよ!!」

 

 

キマリスが大部隊を率いて参上したがそれらに怯む者は一人としていない。これで終わりにするのだ。だがそんな時、空から降った無数の弾丸がナイトメアとジョーカーの装甲を掠めた。

 

 

「何事だ!?」

 

 

「カエデ様!上を!」

 

 

咄嗟の機体操作と今まで蓄積されたデータによるナイトメアとジョーカーの「SS」技術によって難を逃れたが本気で驚いた。

 

 

だが今の何だとイシガシに言われて空を見上げるとそこには巨大なMSが2機、空に浮かんでいた。

 

 

ガンダム・フレームよりも一回り巨大なそれは1機は地上におりつつももう1機はナイトメアとジョーカーのように空を浮遊し続けながら此方へと睨みを利かせていた。

 

 

「おいおい!何だこいつ!?でかすぎるだろ!?」

 

 

「俺達の機体の一回りでけぇんだけど………」

 

 

「あ、あれってグレイズ!?でもデータにはなにも無い!」

 

 

「こんなタイミングで新型を投入するとは……」

 

 

「何だ……このプレッシャーは……!?」

 

 

驚きが周囲を支配する中でそのMSは声を上げた。

 

 

「我ら……地球外縁軌道統制統合艦隊!!カルタ様どうか見届けてください!!我らが果たすカルタ様のご意志を!!!」

 

 

「私はあの魔術師と死神を!!」

 

 

「私はカルタ様に仇名したこの逆賊を!!」

 

 

「「撃つ!!」」

 

 

決意を固めように動き出した機体は猛スピードでナイトメアとジョーカーに接近し剣を振りかざしてくるがそれらを回避して「SS」の力で杖型のハンマーで狙うがまるで人間のような柔らかな動きでそれらを回避していた。

 

 

「まさかこの動きは私たちと同じ……阿頼耶識だと!?」

 

 

「その通りだ!魔術師よ!!我らはカルタ様の為に人間をやめ悪魔になる決心をしたのだ!!」

 

 

「我らは決して負けぬ!!カルタ様の為に!!」

 

 

人体改造は悪であるという思想を持つギャラルホルンがそんな事をするなんて思えないが現実が此処にあるのだ。

本当にギャラルホルンに阿頼耶識があるとしか思えない動きに阿頼耶識を4つ搭載してるカエデは少し苦しげな声を上げた。

あの巨体で三日月以上の動きにカエデとイシガシと同じく飛行が可能で厄介にも程があった。

 

 

「カルタ……見ていてくれ!お前達の部下の戦いぉぉぉ!!!」

 

 

そして槍を構えて突撃するキマリス。戦場は、一気に混沌とした物へと変じて行った。




カエデの二つ名は悪夢を魅せし幽霊の魔術師。ナイトメアは悪夢を意味し高い機動力で幽霊のように出たり消えたりして分身などを魅せることから魔術師。


イシガシの二つ名は魔術師の死神。ジョーカーの鎌で機体を切り刻み亡き者にする事とジョーカーの立ち姿を見た人達からはあの世から迎えに来た死神に見えることから死神と呼ばれた。
魔術師はナイトメアを護る為の切り札に見えたから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄華団の戦い

 

 

地上では巨人が軽い身のこなしで弾頭を避け一閃を受け流しカウンターの一撃を振りかざすがそれを焼き直しという名を持った家族の為に戦う悪魔が受け止めた。

鈍くも甲高い金属音が響く中に巨人の力に思わず驚いても必死に食らいつくがそれでも巨人の想像以上の力に舌打ちと怖気が止まらない。

 

 

「こいつなんて馬鹿力だっ……!!」

 

 

昭弘の駆るガンダム・グシオンリベイクは現行の他のフレームタイプMSとは違ったエイハブ・リアクターを2基並列稼働によって他とは一線を画した出力によるパワーを発揮出来るのにそれでも互角並の馬鹿力に驚愕を禁じえなかった。

 

 

「昭弘どけっ!!」

 

 

「シノッ!!」

 

 

リベイクの背後から飛び出した流星号はボディプレスを仕掛けるように飛びかかった。

横っ飛びをするような体勢のまま通常のグレイズリッターよりも二回りは巨大な機体。

グレイズリッターベルセルクの頭部を捉えるかのような斧が振るわれたがその頭部の一部が上下に開閉するとそのまま斧を受け止めるかのように閉ざされた。まるで生物の口のように…。

 

 

「なっ!?」

 

 

「無駄だ。私はカルタ様の為にこの身を悪魔に捧げ狂戦士となる事を誓ったのだ!!例え野蛮だと蔑まされようと私はお前達を倒しカルタ様の栄誉を守り続けるのだぁ!!」

 

 

「くそっ!!」

 

 

斧から手を離して頭部を足蹴りして離れる流星号を援護するようにリベイクはサブアームを展開し4本の腕でベルセルクの両腕両足を拘束した。

 

 

出力を最大にしながら全力の力で持って動きを封じようとするがそれを好機と見てキャプテン・トリトーン、トリトーン、漏影が近接戦闘を仕掛けようと一斉に武器を持って襲い掛かる。

幾らあの巨体でもリベイクの馬鹿力で抑え込まれては動けまいという判断からだったが甘かった。

 

 

「舐めるなぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

ベルセルクの背中のユニットから異形の物が姿を現した。それは機械の腕、新たな腕であった。4本の腕が展開してクランク達を同時に殴りつけたのだ。

 

 

それを見た昭弘は此方に超反応して殴りかかろうとするベルセルクから離れるためにサブアーム一本を犠牲にしながら後退したが今のあの姿は完全に異形の物。

ベルセルクの奥の手とも言えるサブアームを搭載したユニット。それを展開した姿は正しく阿修羅。

 

 

「クランクのおっさんたちは射撃重視で頼む!!ありゃ阿頼耶識じゃねえと捌き切れねぇ!!昭弘まだいけるか!?」

 

 

「あぁ、まだサブアームが一本逝っただけだ!まだ行ける!!」

 

 

それを聞いてシノは少し安心した。あの六本腕に対抗するのは間違いなく自分と昭弘だけなのだから。

三日月はキマリスを抑えてくれているがカエデとイシガシの話ではあれもバルバトスやグシオンと同じガンダムらしい。

 

 

なら今はそれに集中していて貰おうそれが一番だ。あれまで混ざっての乱戦なんて勘弁。そして今頭上では自分達以上に辛い戦いを強いられている兄達がいる。そんな兄達に負けないように自分達も気張られけばならない。

 

 

「おい昭弘、カエデ兄さんとイシガシ兄さんに良い所見せてやろうぜ!!俺達はカエデ兄さんとイシガシ兄さんの扱かれた鉄華団、こんな奴なんか負ける訳がねえ!!」

 

 

「当たり前だ!誰に行ってやがる!!」

 

 

「へへっ!だよな!んじゃ!」

 

 

「「行くぜ!!オラアァァァァァアアアアア!!!!」」

 

 

「くっ!こいつ!!!」

 

 

「今度こそ、お前が俺が倒す!!宇宙ネズミ!!!」

 

 

短い距離でも上手く加速してスピードを生み出して槍の威力に上乗せしてくるキマリスにバルバトスはやや苦戦を強いられていた。

 

 

今までの時よりもガンガン攻めてくるようになった上に今までとは全く違ったキマリスに三日月は戦いづらさを覚えていた。

脚部が変形し騎馬のような形に変化しキマリスは常にホバーしながら襲ってくる。

常に浮遊しているため受けた攻撃の衝撃を受け流しバルバトスのメイスの一撃を上手く殺していた。

 

 

「貴様らのような紛い物の阿頼耶識とは違った真の阿頼耶識となったカルタの部下達!俺もお前を討ちカルタの仇を討たせてもらう!!」

 

 

「知らないな。そんな事。」

 

 

嘗て奪われた槍の代わりに携えた巨大な槍、デストロイヤーランスを構えて突撃するキマリスに対抗するように同じく超重量級のメイスを構えたバルバトスは「SS」によって完璧な飛行を可能とした事を活かして機体を浮き上がらせてメイスを持ったままハンマー投げを行うかのように勢いよく回転し始めた時三日月は「SS」で出来た十字架と月のペンダントをバルバトスの認証システムにセットして必殺ファンクションを発動した。

 

 

「必殺ファンクション!!インパクトカイザー!!!」

 

 

バルバトスは回転しながらメイスを地面に叩きつけると底から火柱が上がり最高速に達したキマリスにクリンヒットすれば例えガンダム・フレームだろうと一溜まりも無い一撃をギリギリの所で回避しながら回転の勢いが乗った必殺ファンクションの一撃をキマリスに目掛けて全力で振りぬいた。

 

 

それをシールドで防御しようとするキマリスだが「SS」によって生まれた必殺ファンクションの一撃はシールドを一撃で粉砕しながらキマリスを吹き飛ばした。

 

 

必死に機体を制御して倒れこむのを防ぐガエリオ。騎兵形態だったのが功を奏したようだ。

だがさらに追い討ちをかけるかのように投擲されたメイスが機体を後ろ倒しにしてしまった。

流石の騎兵形態でもそれなりの質量が勢いよく飛んできてぶつかった場合受け止めきれない。

 

 

「今っ……!!」

 

 

三日月は倒れ込んだキマリスに構う事無くリベイクや流星号に襲い掛かっているベルセルクへと向かって行く。

キマリスに相手をしている暇など無いと言わんばかりの行動。それを支援するかのように一機のMSがバルバトスと後退するかのようにキマリスの前に立ち塞がりそのままその動きを拘束した。

 

 

「昭弘、シノ!!」

 

 

「三日月!?」

 

 

背後から迫ったバルバトスは最大出力で突入しながら太刀を構えてベルセルクの阿修羅の如き腕の2本を串刺しにしながら突進をかました。

 

 

「ぐぅぅぅぅ!!貴様、カルタ様を討った憎き悪魔か!!!!」

 

 

「誰?そいつ」

 

 

「貴様ぁぁぁぁカルタ様を!!カルタ様を侮辱するなぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 

背中越しに刺さった太刀など気にも止めずにバルバトスを引き剥がそうと跳躍するとそのまま背中を地面に叩きつけようとしたが太刀を素早く引き抜いたバルバトスは脱出してベルセルクは一人で背中を強打しながら再び立ち上がった。

 

 

「昭弘にシノ、行ける?」

 

 

「あぁ、だいぶあいつの動きには慣れてきたぜ!あいつは動きが硬いから行けるぜ!」

 

 

「あぁ、今度こそあいつを仕留める!!」

 

 

「だが今度は俺達も接近戦を仕掛けさせてもらうぞ」

 

 

バルバトス、リベイク、流星号と並び立つようにジョーカー、キャプテン・トリトーン、トリトーン、漏影が立った。ジョーカーは赤い鎌で他は機体の手には近接武器を手にして三日月達と同じ立場で戦うという覚悟を示した。

 

 

「あんた達だけに美味しい所なんで上げないからね!」

 

 

「他のグレイズも片付けた。後はこいつらだけ…連携してやるよ!」

 

 

「アイン覚悟はいいな。阿頼耶識だとしても負けないところを見せてやるんだ!」

 

 

「はい!!アイン・ダルトンとして鉄華団の剣の一本として輝きを見せてやります!」

 

 

「カエデ様から此処を任されました…だからこそこの場は必ずや死守致します。 」

 

 

「へっ!おい昭弘に三日月、俺達ってカエデ兄さん、イシガシ兄さんにクランクのおっさんにアインさん、ラフタさんにアジーさん、良い大人ばっかりに恵まれてるな!」

 

 

「だな、さあ終わらせようぜ!!」

 

 

「うん、皆行こう!」

 

 

ベルセルクへと一斉に襲い掛かる鉄華団とタービンズのMS隊、連携し異形のグレイズへと一斉に向かっていた。

 

 

その上空では同じように激しい戦いが繰り広げられていた。それも同系の機体とたった一人…孤独な戦いを強いられているモノがいた。

 

 

「あんなに巨大なのに何でなんてスピードだ!!」

 

 

「魔術師、貴様は私がこの手で裁いてやる!!!」

 

 

ベルセルクと同型の機体、グレイズリッターJ。

両腕や肩に搭載されている多数の火砲による圧倒的な火力とその巨大でありながらナイトメアに迫るような速度を発揮する異常な敵に相手にカエデは立った一人でそれを抑えこんでいた。

 

 

こんな力を秘めている敵を既に1機相手取っている三日月達に向かわせれば確実に大きな被害出る。

弟分達にはこれ以上負担をかけられないからイシガシを三日月達の元に向かわせた。

ならば自分がその負担を追うしかないとナイトメアでタイマンを張っていた。

 

 

「魔術師ぃぃぃぃ!!!!」

 

 

「そんな激しいコールは要らん!!」

 

 

圧倒的な加速を見せながら突撃してくるグレイズリッターJに対して小回りを利かせながら背後を取って杖型のハンマーで殴るナイトメア。

 

 

普段の精密射撃をしている暇が無い。

兎に角相手の気を引き相手を仕留める気でやらなければならない。

 

 

「SS」モードを扱いながら相手の火砲に狙いを絞って行くが阿頼耶識特有の人間のような動きで回避していた。

本来人間には無い火砲すら自分の一部として感じているかのような動きに気持ち悪さすら覚えた。

 

 

「それならこれはどうだ!必殺ファンクション!!レインバレット!!!!」

 

 

直線的な機動に限定すればナイトメアとジョーカーすら凌駕する速度で迫ってくるグレイズリッターJ。

 

 

ただ直線的な動きに加えて阿頼耶識の人間的な動きがリズムを狂わせ予想外な運動性能を生み出していたのだ。

やり難そうにしながらカエデは「SS」の必殺ファンクションを発動した。

 

 

迫ってくるグレイズリッターJへと向けた銃。

必殺ファンクションを発動して銃の引き金を引くとレインバレットが発射されグレイズリッターJを狙うがそれをアクロバティックな動きで回避していた。

しかし必殺ファンクションは発動されたままビームが放たれ続けていた。

 

 

「まだだ!!」

 

 

コンクピットには銃内の温度が急上昇している事を知らせるアラームが鳴り響くがそれを強引に機体ごと動かすように銃身を動かすとビームが撓るように動き回避したはずのグレイズリッターJを飲み込んだのだ。

 

 

ナノラミネートアーマーが施されているグレイズリッターJにはダメージらしいダメージは無いなんて事は無い。

ビームの干渉を受けて爆発を起こして破壊されてカエデは圧倒的なグレイズリッターJの火力を激減させる事に成功した。

 

 

「貴様!!!!」

 

 

「まだ、足りないのか!?」

 

 

グレイズリッターJは怨嗟の叫びを撒き散らしながら狂ったかのように超スピードを発揮しながら接近して来た。

先程とは比べ物にならない速度、鬼神のような動きをするグレイズリッターJがナイトメアに迫る。

 

 

だがナイトメアは「SS」の必殺ファンクションのゲージが減った為にいつもの機動力が減少して分身なども不可能に近く動きが鈍った。そこを付け狙われ杖型のハンマーでガードするがナイトメアの胸部へとグレイズリッターJの拳が炸裂した。

 

 

「クッソが!!」

 

 

ナイトメアの胸部は一瞬で剥ぎとられてしまった。コンクピットにまで達した一撃は正面のモニターを割りコンクピットハッチを抉った。

 

 

それでバランスを崩して落下して行くナイトメア、カエデは必死にナイトメアを制御しなんとか墜落だけは避けるが抉られた装甲の隙間からは映像ではなく実際の景色が見えていた。

そしてあのグレイズリッターJもいた。

 

 

ギャラルホルンに付けられた二つ名…悪夢を魅せし幽霊の魔術師と呼ばれるナイトメアも自分もまだ戦えのだ。

 

 

「行くぞ!ナイトメア!私達の全力全開をあのギャラルホルンに見せ付けるのだ!!」

 

 

この世界に転生してからの付き合いで僅か10年連れ添った相棒に声を掛けた。

同時にその瞳が紅く輝くと出力を上げて悪夢を魅せし幽霊の魔術師、ナイトメアはグレイズリッターJに突撃して行く。

 

 

切れ目から入り込んでくる風の重圧が操作を鈍らせるがそんなカエデを気遣うように緊急用ハッチが作動し風を遮りつつ予備のモニターが灯った。まだまだナイトメアも死んではいない行けると確信した。

 

 

「まだ足掻くか!!ならこれで終わりだぁぁ!!」

 

 

まだ向かってくる魔術師に腹を立てたのかグレイズリッターJが肩と胸部装甲を開放した。

そこからは無数の弾丸が射出されていく。グレイズリッターJの最大の火力を誇る前面集中射撃形態、鉛弾の雨、それでもナイトメアは高い機動力は使えないが進み続けている。

ナイトメアの肩、脚部に被弾しても止まる事は無い。そして頭部の半分を吹き飛ばし瞳の光が露出するように見えても"悪夢を魅せし幽霊の魔術師"は止まらない。

 

 

「そこだ!!」

 

 

此方を仕留めようと最大限の武装を展開したのが誤りだった。握り締めたレバーに力を込めると杖型のハンマーで胸部の発射口を潰した。装甲を展開した事でナノラミネートアーマーが機能しない内側を晒す事になっているそこを狙ったのだ。

 

 

そして杖型のハンマーでそのまま同じポイントを幽霊のように出たり消えたりしながら殴り続けた。杖型のハンマーで殴り続けたことでグレイズリッターJは内部から焼かれていき苦悶の声が周囲から響いていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄華団の戦い2&未来へ

 

 

最後にナイトメアの手に貫通弾をセットしてそのまま焼け爛れボロボロとなったのグレイズリッターJの胸部へと押し付けた。

ナイトメアの手は機体の内部に潜り込みコンクピットの目の前で静止した。自らの身体を悪魔に売り渡した忠義の塊とも言えるカルタの部下を屠りながらグレイズリッターJは沈黙し落下し動かなくなった。

 

 

「っ!グレイズリッターJまさかおまえ!?」

 

 

「隙が出来た、今だ!!」

 

 

「喰らえっ!!」

 

 

グレイズリッターJが落とされた事で動きが止まったベルセルク。そこへ所持してバズーカを打ち込みラフタとアジー。

動きを止めた事でそして阿頼耶識という考えその物が機体に連動するシステムの影響で動揺が諸に機体に反映され完全に静止したベルセルクへと弾丸が炸裂した。

 

 

「グググッ!!!貴様らぁぁっ!!!」

 

 

「どこを!!見ているぅ!!!」

 

 

頭上からアインが飛びかかるとトリトーンの脚部を両肩へと食い込ませると更に自分へと伸びてきた二本の腕を抑えこんだ。

必死にアインを振り払おうとするがガッチリ両肩に食い込んだ脚は離れない。

そしてそこへ追い討ちと言わんばかりにキャプテン・トリトーンが最後の武装であるバスターブレードを残った片腕で保持しながらベルセルクの右足へと突き刺した。

 

 

「がああああ!!!貴様ぁぁぁっ!!!」

 

 

怒り狂ったベルセルクは器用に肘から先を動かしてキャプテン・トリトーンの頭部へと腕についていたパイルバンカーを打ち込んだ。

それは僅かにコンクピットをかすめクランクの直ぐ傍を杭が襲い掛かりその際の爆発でクランクは頭部から血を流した。

 

 

「おっさん!!」

 

 

「私など気にするな!!三日月今だっ!!!」

 

 

「うん、ありがとうっ!!!」

 

 

十分に距離をとったバルバトスは一気に加速して手に持った太刀をそのままキャプテン・トリトーンの肩へと突き刺しそのまま装甲を貫くとベルセルクの腹部へとブチ当てた。

クランクは残った最後の腕をパージするとそのまま後退するがベルセルクはその一撃によって動きが鈍った。

 

 

「シノ!昭弘!イシガシ!」

 

 

「喰らえぇぇぇ!!アルティメットスーパー流星キィィィイイイクッッ!!!」

 

 

「喰らいなさい!!必殺ファンクション デスサイズハリケーン!!!」

 

 

バルバトスの背後から流星号とジョーカーが躍り出たのだ。

ジョーカーの必殺ファンクションと流星号がベルセルクの頭部へと渾身の蹴りと必殺ファンクションを命中させ頭部を抉りそのまま破壊した。

 

 

そしてベルセルクの背後に落ちた流星号とジョーカーはまだ終わらずクランクの一撃によって最早片足でバランスを取っているベルセルクに残された左足へと蹴りと赤い鎌で攻撃を入れたのだ。それによって身体を上へと反らせたベルセルクへと…。

 

 

「喰らええええええええええええ!!!!」

 

 

リベイク渾身の右ストレートが炸裂した。

その一撃は装甲を歪めコンクピットを露出させる一撃となった。

 

 

そしてそのまま吹き飛ばされようとしたベルセルクへと太刀を引き抜いたバルバトスが真一文字に全力で振るった。

今まで太刀を突きさすなどの方法でしか使った事の無い三日月にとってそれはカエデに教えて貰った方法で無意識に取った行動だった。

 

 

バルバトスの振るった太刀、その一閃はベルセルクのコンクピットを破壊しそのままベルセルクの機能を完全に停止させ沈黙させた。

 

 

「終わったのかな……?」

 

 

「あ、ああ終わった……」

 

 

「やったぜ……」

 

 

「終わりましたか…」

 

 

それと同時にMS全機へと通信が舞い込んできたのだ。それはオルガからの物だった。

 

 

クーデリアと蒔苗を無事に送り届けた。それが示すものは鉄華団の仕事の終わりとこの戦いの勝利であった。

 

 

終わった戦い、それによって齎された勝利と仕事の成功に鉄華団は歓喜の声を上げた。

蒔苗はアーブラウの代表に返り咲きクーデリアとの交渉にあったハーフメタルの事を実現させようとクーデリアと握手をした。

 

 

そして数日後……

 

 

「明日には火星に向けて出発する。早くしないと置いて行くぞ。」

 

 

「はーい!!/ウィ~ス!!」

 

 

地球での仕事も終わっていよいよ鉄華団は火星へと帰る為にアーブラウの宇宙港へと荷物を運び込み準備を行っていた。

長くはいなかったが本当にこの地球での時間は印象に残っていた。これから鉄華団の名は大きく知れ渡っていく事だろう。

 

 

それがどんな事態になるのかは分からない。

だけど鉄華団は必死に生きていくだろうそれは間違い無い。

 

 

「カエデの兄貴!何やってんだよ、休んでいろよ。」

 

 

「だがな…」

 

 

「いいから指揮は俺とイシガシの兄貴がやるから!!」

 

 

オルガにどやされて準備指揮から降ろされたカエデだがそれは皆からも同意見だった。

あの阿頼耶識対応型のMS、三日月達とは違ってたった一人で倒しただけではなく一歩間違えれば死んでいた所まで追い込まれていたカエデには確りと休んでいて欲しかった…それが鉄華団全員の総意だった。

 

 

カエデは宿舎へ戻るとある一室へと入った…そこには一人の男がベットに横になっていた。

 

 

「具合はどうだ?」

 

 

「……」

 

 

男は口を閉ざしたまま何も言わない、口も利きたくないというのが見えているようだ。

そこにいたのは友に裏切られて絶望を知った青年、ガエリオであった。カエデはオルガの勝利の通信を聞きながらボロボロになったキマリスを発見し回収してガエリオを手当てし此処に寝かせていた。

 

 

「何故、俺を助けたんだ……?」

 

 

「怪我人を助けるのに理由はない。」

 

 

「俺は、お前達の敵で何度もお前達を襲ったんだぞ」

 

 

「私は敵だったヒューマン・デブリの子達を弟分として迎え入れる位の男だ。敵だった怪我人を手当てするぐらい当たり前だ。」

 

 

当然のように語るカエデにガエリオはやや呆気に取られた。今まで会った事の無いタイプの少年だと思い治療してくれた事に感謝して初めて顔を合わせた。

 

 

「俺は、ガエリオ。ガエリオ・ボードウィン……だが既に俺は死んだ身……俺はこれから如何するべきなんだろうな……」

 

 

「貴様のやりたいようにしろ。人間それが一番だろ。」

 

 

まさか即答されるとは思っていなかったガエリオはキョトンとすると次の瞬間には愉快そうに笑った。

 

 

「そうか、俺のしたい事をか……ありがとう、カエデと言ったな。感謝する」

 

 

「別に、これは私の連絡先だ。貴様は友人が居なさそうだな。私が友人になってやっても良い。」

 

 

「俺にも友人ぐらいいる。まぁ貰って置こう。」

 

 

カエデはそのまま笑うと少しばかりガエリオと話してから部屋を後にした。

気紛れで助けたようなものだがこれがどうなるのか少し楽しみにも思えたのだ。

そんな事を思っているとイシガシとオルガが呼んでいると言われて表に出た。そこではバルバトスとナイトメアとジョーカーを前にしてオルガが鉄華団の皆を見下ろしていた。

 

 

「皆、今回の仕事良くやってくれた!!鉄華団としての初仕事、お前らのお陰でやりきる事が出来た。けどな、俺達はこれからもまだまだ仕事を続けていくんだ。

俺達はもっともっと立派になる!そして今まで宇宙ネズミだとか馬鹿にしてきた大人を見返してやろうぜ!!けど、まあ次の仕事までには間がある。お前ら成功祝いのボーナスはたんまり出すから期待しとけよ!!」

 

 

歓声が上がるとオルガはカエデとイシガシと三日月の元へと歩いた。もう明日には地球を離れるのだ。

 

 

 

これから戻る火星、鉄華団の帰るべき場所。此処からがスタートライン…此処から本当の意味で鉄華団は始まる。

 

 

「なあミカ、カエデの兄貴、イシガシの兄貴。終わったな」

 

 

「うん」

 

 

「そうだな」

 

 

「そうですね」

 

 

これからどんな事があろうと彼らは前へと進み続けるだろう。頼りになる大人達の手を借りながら。

それでも立派に前へと進んでいくのだ。何れ手を借りずとも進める時が来るだろう。でも今は……一緒に進んでいける事に喜びを感じる。

 

 

「さぁ、帰ろうぜ」

 

 

「あぁ、そうだな。皆が待ってるからな…」

 

 

「えぇ、帰りましょう。我々の居場所…火星に…」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜明けの地平線団編
再び現れた鉄華団


 

 

 

地球での鉄華団とギャラルホルンの戦闘、いやアーブラウの代表選挙から約2年。

蒔苗 東護ノ介の代表再選とギャラルホルンが用いたMSに搭載されていた人道に反した人間を生体ユニットにするという腐敗の発覚による世界の縮図と情勢は大きく変化していた。

 

 

クーデリアを地球へと送り届けただけではなく蒔苗をアーブラウへと送り届けた鉄華団の名前は一気に知れ渡る事となった。

 

 

加えて鉄華団がテイワズの傘下に入りタービンズの兄弟分となる際にクーデリアとマクマードの交渉によってテイワズに齎されたハーフメタル利権、それによってテイワズに大きく貢献した鉄華団は改めてテイワズとの盃を交わし直系団体としてテイワズ内でも大きな成長を見せた。

 

 

アーブラウは弱体化し信頼度が落ちたギャラルホルンに頼るのをやめ防衛力を強化、それに当たり軍事顧問として鉄華団を指名した。

 

 

これにより地球に鉄華団支部が誕生、鉄華団整備チーフであったクランク・ゼント、整備班班長であったアイン・ダルトンが地球支部の支部長と副支部長にカエデとイシガシの推薦で就任して奮闘していたのだ。

 

 

弱体化の背景には地球外縁軌道統制統合艦隊指揮官カルタ・イシュー、地球本部監査局付武官である特務三佐ガエリオ・ボードウィンの死亡による物が大きかった。

 

 

クーデリアは火星での独立と経済の発達の為にハーフメタルの採掘一次加工輸送業務を行うアドモス商会を設立。

更に鉄華団と提携し桜農場内に孤児院を設立し社会的弱者への能動的支援と火星全土の経済的独立の為、その社長として副社長のフミタンと共に奔走する毎日を送っていた。

 

 

2年前まで名も知られず、人知れずに起業された鉄華団は今や地球圏及び圏外圏において知らぬものはいない企業となった。

その企業は嘗てヒューマン・デブリと呼ばれた子供達が立ち上げた物、そこに希望を見出した子供達は鉄華団に憧れ入団者は増え続けていたのだ。

 

 

そんな新入団員を鍛える教官職と相談役補佐に就いた2年前はまだ19歳の少年でいまは21歳になったイシガシ・ゴーラムは新入団員を鍛えていた。

 

 

「足が止まりそうになってますよ。あと5周です。」

 

 

鉄華団は今や唯の民兵組織では無くなっていた。

ギャラルホルンという組織の力の弱体化により火星の治安は悪化して来ていた。

 

 

それをカバーするように鉄華団に護衛や治安維持のための出動依頼が増えて来ていた。

武器こそ握るが目的はパトロール、今や火星では鉄華団に逆らおうという物好きはいないのだろう。

ただそこに居るだけで威圧感を与え抑止力となっているのだ。だがギャラルホルンの弱体化により出動依頼は増えており人手が不足がちになっていた。

 

 

「…あぁ……なんか川と新しい地平が見える……」

 

 

「ザック、あと半周です。デインはペースを崩さないようにしてください。」

 

 

「うっす!イシガシ兄さん!」

 

 

「うおおおおお!!が、頑張れ!俺!!」

 

 

一時はカエデと共にイシガシは教官職を退きカエデが鉄華団に提供した技術、"スターサファイア・ドライブ"通称「SS」の技術者としてカエデと共にテイワズに出向して開発などに協力していたが鉄華団からの要請を受けてカエデと共に教官職に復帰していたのだ。

 

 

イシガシは今日も新入団員に訓練を施していた。

その訓練の厳しさと励ましてくれる優しさでイシガシとカエデの前だと何時もは訓練にやる気を示さない者も真剣になる為、それまで教官をしていたシノはその気持ちを理解しても複雑な気持ちを抱いていたのだ。

 

 

今日の外周が終了して全員が座って休んでいると遠くの荒野で土煙を上げながら2機のMSが模擬戦を行っていた。

 

 

「ダンテ、反応遅いぞ!!」

 

 

「んなこと言ったって!?カエデ兄さん無理だって!?」

 

 

「ほらほら!余所見しない!!」

 

 

そこで模擬戦を行っているのはテイワズが開発した新型MS、ナイト・フレームが使用された獅電。

 

 

それを操るのはタービンズから鉄華団のMS操縦技術向上の為に出向して来たラフタとアジー、そしてそれらのメカニック指導を行うエーコであった。

 

 

テイワズ内での地位が向上して莫大な利益を齎した事で鉄華団は獅電をカエデが低価格で購入してそれらを主として運用していた。

 

 

「すっげぇ……あれがMSか……」

 

 

「かっけ!あれ初めて動かしてるんだよな?デイン」

 

 

「あぁ、確かそう」

 

 

「あれが、阿頼耶識の力か……」

 

 

最近入団したハッシュが思わずそう呟いた。確かにダンテは今日初めて獅電に搭乗し操縦している。

 

 

それゆえらアジーに駄目出しをされまくっているが初めての操縦にしては良い方だと思われた。だがハッシュの言葉に納得するザックを見たイシガシは声を上げた。

 

 

「獅電に阿頼耶識は乗ってないですよ。確かにカエデ様が監修した学習型のコンピューターを載っていますけどあれは純粋なダンテの腕前です。まだまだ甘っちょろいですが…。」

 

 

「えっ?イシガシ兄さん。あんだけ動けてるのに阿頼耶識じゃないんすか」

 

 

「そうです。あれは300年も昔の古いローテクな技術でハイテクな最近のには載せられないんです。まぁ、我々だとどこぞのスケベ君は無理矢理に搭載していますけど…」

 

 

それは勿論シノの事である。彼は先代流星号、即ちグレイズから阿頼耶識を取り外してそれを自分の機体に搭載し直した。

本来は出来ない筈だが整備班班長代行のヤマギの努力と培われた戦闘データの移植によってそれは叶っていた。

 

 

「みんなには阿頼耶識なんて必要ないのです。学習型のコンピューターだって使い続ければ乗り手の動かし方を学習してどんどん自分で回避パターンとか攻撃の動作を覚えて行くので…」

 

 

「へぇ~……」

 

 

目の前でラフタの獅電にぶっ飛ばされているダンテを皆が見つめながらも自分もあんな風に操縦できるようになるのかと想像を捗らせいた。

 

 

矢張り憧れがあるのだろうかMSを見つめる皆の視線は何処かキラキラとしていた。そして獅電からグロッキーなダンテが降りた時、そこへ新たな機体が登場した。

 

 

「お、おい何だあのMS!?」

 

 

「すげえ!俺初めてみた!!」

 

 

「黒い、紫!!そしてマント!カッコいいな!!」

 

 

「あれってナイトメアとジョーカーじゃねえか!!やっぱりカッコいいな!!」

 

 

リフトアップされたのはカエデとイシガシの愛機でもあるナイトメアとジョーカーであった。

悪夢を魅せし幽霊の魔術師の異名を持つナイトメアと魔術師の死神の異名を持つジョーカーは圏外圏にまで轟いており宇宙海賊達はその姿を見ただけで恐怖で撤退して行くらしい。

 

 

狙われたら最後の終わりとまで言われているがそれはナイトメアとジョーカーの性能ではなくカエデとイシガシの腕前。

 

 

「さて、全員の訓練はこれで終わりですが…このままMSの訓練に入りたいっていう人は絶対に居ますよね?」

 

 

「ハイハイハイハイ!!!」

 

 

殆ど全員が手を上げていた。是非ともMSに乗りたいというので溢れていた。

本来新入団員にはまださせるべき事ではないがそれぞれの適性は早めに判断しておくに越した事は無いイシガシが判断した。そしてナイトメアとジョーカーを見つめなおすとその周囲に3機のMSが運び込まれた。

 

 

「あ、あのイシガシ兄さん、あれも新型っすか!?」

 

 

「えぇそうです。先日届いた「SS」を使用した新型、試作型MSのパンドラです。」

 

 

魔術師と死神という意味の名を持つナイトメアとジョーカーとは対照的に並び立つ獅電よりも装甲は薄く防御力はナイトメアと同様で機動力が重視しているようにも見える。

 

 

「カッコいいな!パンドラでしたっけ?」

 

 

新入団員の質問に答えたのは模擬戦の観戦を終えて来たカエデ・ビットウェイ・オズロック。

 

 

「そうだ。私の愛機ナイトメアを基にして作られたMS、機動性と安定性を持たせる為にナイトメアとは少し違う作りになっている。基本武器はホープ・エッジと呼ばれるダガーだ。」

 

 

「確かに基本的にナイトメアの方が異端って感じしますもんね」

 

 

世間一般のパイロットからしたらナイトメアとジョーカーなど使ってられない機体だろう。

 

 

「さて……これらはいま動かせるのか?」

 

 

「流石にまだ無理ですね。実は急かされて持ってきたので最終調整が終わってないんです。

 

 

取り合えず確認のメンテとOSのチェックが終われば動かせるようになりますから訓練に使うのはそれまで待ってください。後追加モーションデータの準備もお願いします」

 

 

「わかった。」

 

 

手元のタブレットのデータを確認しながら作業員はパンドラを本部のドックへと運んでいた。

テイワズの次期主力機として獅電と争いをしているパンドラはカラーを選べるようにもなっているらしい。

 

 

流石に量産性と操縦性は獅電の方が上回るが性能面ではパンドラが上回っていた。その為テイワズでは隊長機をパンドラにして他の機体を獅電にするというチーム編成を考えているとの事だった。

それを試験して評価する為に鉄華団にパンドラが搬入される事となった。

 

 

「致し方ありませんね。今日はMS訓練出来そうに無いです。地球に獅電を送る為にパンドラの搬入を急いで貰ったのが仇になりましたね、カエデ様」

 

 

「仕方ない。」

 

 

「ありゃ…それじゃあMSの適正テストはお預けっすか?」

 

 

「そういう事になりますね。その代わり……」

 

 

イシガシは鉄華団のジャケットから飴玉を取り出して全員に配り終えた。

 

 

「飴玉しかありませんが皆で仲良く食べてくださいね?」

 

 

「「「はーい!!」」」

 

 

新入団員は飴玉に群がって食べ始めた。その時、カエデはこの場所に来ていたオルガに話し始めた。

 

 

「オルガ、パンドラ3機の納入確認したぞ。予定通りに2番隊と3番隊に回すけど良いか?」

 

 

「あぁ、それで頼む。カエデの兄貴。これで後は歳星からバルバトスとグシオン、本部で使う獅電がくれば戦力は十分に揃う。でかくなっていくのは良いがその分厄介事も増えてきてるからな」

 

 

提出される書類を見てオルガは呟いた。鉄華団を設立してテイワズの傘下になり2年間、オルガはカエデとイシガシによって書類仕事や挨拶回り、様々な事を必死に覚えながら鉄華団団長としてオルガは成長をしていた。

 

 

時には名瀬の、時にはカエデとイシガシの手を借りながら苦労しながら自らの成長と鉄華団運営の為の団員教育などにも手を回しながら鉄華団を引っ張って行っているのだ。

 

 

そんな鉄華団を良く思わない人間達がいる。

海賊や他の企業。海賊などを通じて鉄華団に対して攻撃などを仕掛けてなども来るので自衛の為の戦力はあって困らない。その為に歳星から戻ってきたカエデとイシガシとナイトメアを基にして作られた新型MS、パンドラ。

 

 

「そういえば運び込んだあれは?もう変わってるのか?」

 

 

「あぁ、それならシノが新人とかライドと一緒に変えてた。俺としてはノーマルカラーの白の方が好きなんだけどな……」

 

 

「シノの個性というやつでしょうか?」

 

 

「私は知らん。」

 

 

カエデはオルガから受け取った書類を見て無表情になる。最初に鉄華団でテストとして搬入されたパンドラ1号機はそのまま鉄華団実働一番隊の隊長機とされているがその一番隊の隊長はシノである。

 

 

書類にある写真には白ではなくピンクに塗装され頭部には鮫の目がペイントされて三代目流星号となったパンドラの姿があった。彼らしいと言えばらしいのだが……。

 

 

「そうだカエデの兄貴、来週末アドモス商会の仕切りで採掘現場の視察が行われるんだけど俺もそっちに行っちまうんだ。その間の団長代行頼んでも良いか?」

 

 

「あぁ、見て学んで来い。」

 

 

「補佐は私がやるので」

 

 

「ありがとうな、カエデの兄貴、イシガシの兄貴」

 

 

1週間後、鉄華団としては久しぶりのクーデリアの再会と喜んでその護衛を行っていた。ハーフメタルの採掘現場は火星にとって独立の旗印、それと同時に莫大な利益を生み出す場であった。

 

 

そんな場へと行き鉄華団としての団長として、テイワズの人間として参加するオルガは重要な立場にあった。そんなオルガの代行として団長の席に座って書類仕事をカエデはしていた。

 

 

オルガが少しでも楽になるようにとイシガシと共に遅くまで書類仕事を続けているとアラートが鳴り響いた。

カエデとイシガシが持っていた通信機からヤマギの声が響いていた。

 

 

「ヤマギ!何事だ!?」

 

 

「カエデ兄さん、イシガシ兄さん!!ユージン副団長から緊急の発進要請です!!ハーフメタル採掘場に敵が来たとの事です!」

 

 

「一番隊を直ぐに上げろ!装備はB、それと援護の為にMW隊の3班と4班もMS隊出撃後発進しろ!」

 

 

「了解です!ナイトメアとジョーカーはどうしますか?」

 

 

「ヤマギ、聞くまでも無いですよね?当然私とカエデ様は行きますよ。」

 

 

カエデは通信を切るとイシガシとカエデは鉄華団のジャケットを脱ぎ捨て格納庫へと走って行く。

 

 

途中慌しく動く団員達をすれ違いになりながらも格納庫へと到達するとイクサルフリートの服に直ぐに着替えて上を見るとそこには何時ものように鎮座するナイトメアとジョーカーの姿がある。

 

 

思わずカエデは2年前、CGSの時にナイトメアを起動した時の事を思い出しながらカエデはナイトメア、イシガシはジョーカーへと乗り込み通信を一番隊へと繋いだ。




今回出て来た新しい機体を紹介します。


操縦機体:パンドラ(ダンボール戦機 川村アミの愛機をお借りしました。)


操縦者:ノルバ・シノ


基本武器:ホープ・エッジと呼ばれるビームの刃を搭載したダガー


パンドラの説明↓
スタイリッシュな外見と白主体の機体カラーが特徴的であり、腰部に搭載された"スターサファイア・ドライブ"通称「SS」によって、ナイトメア同様の機動力・反射性能と、安定した操作性を両立している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄華団の悪魔&魔術師&死神現る

 

 

 

「一番隊聞こえるか?発進後リアクターと「SS」と出力は全開で採掘場まで行くぞ!飛ばせば直ぐに着ける筈だ!!」

 

 

「はい、カエデ様!」

 

 

「了解!それとカエデの兄貴、一番隊じゃなくて流星隊だぜ!!」

 

 

「流星隊って……」

 

 

「俺達そんな名前なのかよ……」

 

 

シノのそんな発言でダンテ達のテンションがやや下がりながらも出撃していくナイトメアとジョーカー達。

 

 

ナイトメア達は外に出ると同時にスターサファイア・ドライブよりに浮かび上がり一気に加速し空へと舞い上がって行った。

ナイトメアを先頭にジョーカー、流星号、獅電と続いていた。一直線に採掘場を目指して飛んで行く。

 

 

「ユージン3分、いや2分待っていろ!そうすれば我々は到着する!!」

 

 

「分かった!でも早く頼むぜ!!」

 

 

現地への連絡をしながらもカエデとイシガシの瞳にはまだ見えていない筈の採掘場近郊での戦いの灯火が見えるようだった。

ポツリポツリと明るく照らされていく死の光。それを拭う為にナイトメアは杖型のハンマー、ジョーカーは赤い鋭い鎌を手にし構える。

 

 

「行くぞ、お前達!!」

 

 

「はい!!」

 

 

「「「「おう!!」」」」

 

 

現場ではMW隊同士による激しい砲撃が行き交う中、遂に敵側のMSが姿を現した。

マン・ロディと違い機動性と汎用性を重視ていると思われるガルム・ロディが躍り出ては鉄華団のMW隊へと銃撃を行い始めた。MW同士とは違った死の恐怖が一気に襲い掛かってくる中それを払拭するように到着したシノ率いる流星隊とナイトメアとジョーカーは戦闘を開始した。

 

 

「オラァァァァッッ!!!!」

 

 

シノのパンドラ、いや流星号の左腕が唸りを上げた。その腕に装備されているのはビームダガーはプラズマを纏い高熱化し激しく音を立てていた。

 

 

敵をそれを危険と判断して後退しようとするがそれよりも早く加速してタックルを喰らわせるとそのまま転倒させ仰向けになったガルムの胸へとビームダガーを突き立てた。

 

 

高熱化したビームダガーはナノラミネートアーマーを突破して内部へと潜り込むと連続的に内部へと攻撃を打ち込み敵機を撃破した。

 

 

「シノの野郎、パンドラを上手く乗りこなしやがって羨ましいんだよ!!」

 

 

「全くだぜ、俺だって乗りたいのによぉぉ!!!」

 

 

負けじとダンテとデルマの獅電は互いに連携を取りながら敵を薙ぎ倒していた。

ダンテは相手の得物を破壊するとデルマが通り過ぎるように脚を払い体勢を崩しそこへダンテが一撃を加えて確実にコンクピットを潰していった。

 

 

確実かつ正確な連携で相手を倒す2人は次の敵へと向かうがその視界の端で自分達の背後を狙おうとした敵が空からの攻撃を受けて爆散するのが見えた。

 

 

「私の弟分達に手出しはさせん…」

 

 

「全くですね、カエデ様」

 

 

鉄華団の悪夢を魅せし幽霊の魔術師、魔術師の死神、悪魔と同じく恐れられている存在であるナイトメアとジョーカー。

 

 

どれだけ激しく動こうが狙われたが最後全身を殴り抜かれ動けなくなった所を必殺の一撃が襲う。

そんな噂は事実であり各部の間接を遠距離と近距離と高機動を両立させたまま殴りつけ鎌で切り付けて止めをさすナイトメアとジョーカー。

 

 

カエデとイシガシは酷く恐れられているがそれを討つ為に敵もかなりの戦力を投入しているらしい。

新たなリアクターの反応が8もあった。

 

 

「追加が来ましたね」

 

 

「見たいだな…相手も必死だな」

 

 

「おう!どんどん来やがれってんだ!!」

 

 

「おい!シノお前は阿頼耶識あるから良いだろうけどこっちはガスの消費とかきついんだぞ!!」

 

 

「そうだ!増援とかたまったもんじゃねえよ!!!?」

 

 

という声が響いた時、夜明けが訪れ始めた空から1機のMSが落下するように此方へと向かって来た。

 

 

片腕に得物を携えながら自分達へと向かってくる敵を全て薙ぎ払い潰す悪魔が翼を広げながら降臨したのだ。

天から地上に向けて銃口を向けながら降りてきたそれは瞳を輝かせ敵を睨み付けた。

 

 

「制御システム、スターサファイア・ドライブ、スラスター全開解除!!」

 

 

地上から敵へと喰い付くかのように飛びかかり1機のガルム・ロディへと得物を貫通させると顔を上げた悪魔はギラリと周囲を睨むと得物を構え、突撃しながら2人の兄に言葉をかけた。

 

 

「カエデ兄さん、イシガシ兄さん…ただいま」

 

 

「帰ってきたか、三日月」

 

 

「おかえりなさい、三日月」

 

 

鉄華団の魔術師、カエデ・ビットウェイ・オズロックと悪夢を魅せし幽霊の魔術師のナイトメア。

鉄華団の死神、イシガシ・ゴーラムと魔術師の死神のジョーカー。

鉄華団の悪魔、三日月・オーガス、そしてテイワズによって改修され生まれ変わったバルバトス・ルナ・ルプス。

いま、最強の戦力が敵へと襲い掛かった。

 

 

地上へと降り立った翼をバルバトスは折りたたむと地上を滑るかのように駆け抜けながら新たな獲物を喰らう為に動き始めた。

 

 

悪魔に睨まれ命の危険を感じ取った敵は発狂したかのように銃を乱射するが発射された銃弾を手にした細長い剣、ソードメイスで受けながらその反動と衝撃を利用しながら回転しその勢いでメイスをMSへと炸裂させて装甲をフレームごと歪ませるという圧倒的な破壊力を生む一撃を放った。

 

 

「な、何だよあれ……!?あんな簡単にMSを……!!?」

 

 

MWに乗っていたハッシュは呆然とするようにその光景を目に焼き付けていた。

突如、空から舞い降りてきた天使よりも遥かに慈悲も無くて目の前に立ち塞がる敵を屠り抉るだけの悪魔は次々と敵を狩って行った。正に悪魔のような狩人だ。

それを横で見ていたデインは思わず"バルバトスと三日月さんが帰ってきたんだ"と言う。

 

 

「み、三日月って何時も寝てるあの……!?」

 

 

「あぁ、間違い無い。見た目は変わってるけどバルバトスを動かせるのは三日月さんだけだ」

 

 

「あれが……」

 

 

戦いは何時の間にか一方的な殺戮へと転じていた。

先程まで攻められていて防衛していた筈の此方が何時の間にか相手を全滅させる為に身体を動かしていた。

 

 

それを見つめるハッシュは気付けば笑いを浮かべながらゾクゾクとした感覚が身体を突き抜けるのを感じながら背筋が熱くなっていた。

その力に憧れたのか…又はMSという存在が発揮する力に憧れたのかは分からないがハッシュは獰猛そうな笑いを浮かべ続けていた。

 

 

「これで最後っ…!」

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!!」

 

 

気付けば最後の1機もバルバトスが殲滅したハーフメタル採掘場へと襲い掛かってきた敵MS部隊は壊滅していた。

それを目の当たりにした新入団員はその圧倒的な力に憧れたりその強すぎる力に震えたりと様々だったが悪魔たる三日月とその隣に降り立った魔術師と死神を見つめ続けていた。

 

 

戦闘も終了して本部へと戻ってきた。そこで襲ってきたのは"夜明けの地平線団"という大規模な海賊である事とそれを依頼した人物をイシガシとオルガが突き止めた。

 

 

オルガとイシガシはこれから如何するべきかと会議をしている間に戦闘によって出来た破損などの修繕作業に入っている中久しくドック内に入ったバルバトスを三日月は見上げながらエネルギーバーを啜っていた。そんな三日月へと雪之丞が近づいていく。

 

 

「んで如何だったよ。バルバトス・ルナ・ルプスの調子はよ」

 

 

「うーん……なんか今まで以上に出力とか機動性が上がってるのに凄い扱いやすい。なんか俺自身の身体?みたいに違和感なく動かせるよ」

 

 

「グシオンと同じくガンダム・フレームに対応する為の新型設計の「SS」搭載型だからな。小型化もされて燃費も良い…それでいて空を飛べるからな。」

 

 

「今までのMSの常識を完全にぶっ壊してるな。カエデの技術だった「SS」って代物は…」

 

 

こうなったのもカエデがテイワズにスターサファイア・ドライブの契約を結んだからである。

そのお陰かテイワズは圏外圏で更に勢力を伸ばしておりギャラルホルンの正規部隊ですら戦う事を恐れるようになっていた。

 

 

そんな中でも最も恐れられているのはダントツでカエデとイシガシと三日月だろう。三日月はバルバトスを見上げると背中から伸びている翼にも似ている機関が目に入った。

そこに新型「SS」が搭載されておりバルバトスの性能を底上げする結果となっている。

 

 

「ナイトメアとジョーカーの改修プランも考えても良いって言われて居るが……現状で満足しているからな。

 

 

パーツを新しいのに変えればそれだけで性能はある程度上がるから私とイシガシはそれで満足だ。」

 

 

「まぁ、ナイトメアとジョーカーは性能は良いからな。余り必要としてないって感じだな」

 

 

そんな世間話をしているとドックに2人の女性が入ってきた。その人物はクーデリアとフミタンであった。

 

 

「お久しぶりです三日月。エクセ姉様に雪之丞さんも」

 

 

「おう、久しぶりだな」

 

 

「久しぶり、なんかオルガと話してたんじゃないの?」

 

 

「はい。お嬢様……いえ私と社長は暫くの間、桜農場の方にて避難させていただく事になりましたのでその後挨拶にと」

 

 

「そうか、2年前みたいに一緒にいられるのか」

 

 

「はい、なんだか懐かしいですね」

 

 

しばらく世間話をして桜農場に向かうクーデリアをカエデは見送るとカエデはナイトメアとジョーカーの整備を開始する為に動き始めるのであった。

 

 

ナイトメアとジョーカーの整備と調整、補給要項などを纏めて団長補佐のビスケットに渡すと食堂に姿を現したカエデを皆が囲って自分達と一緒に食べようと誘ってくる子供達。

 

 

鉄華団の食堂は以前よりも大きく拡張されておりそこでは本格的な調理器具が揃っており何時でも美味しい食事を食べられるようになっているのだ。

 

 

そんな引き金となったのは「SS」の技術を提供した際の契約金や次々支払われるお金だった。

 

 

本部に残りながらオルガ達の帰りを待っていた皆にとってカエデの資金のお陰で美味しい食事が食べられるので更に人気が過熱する事になっていた。

 

 

「アトラ、今日の夕食はなんだ?」

 

 

「あ、カエデさん!お疲れ様です!えっとこの前、地球からのレシピで見たケバブって料理です!おっきなお肉からお肉を削いでそれを野菜と一緒にソースで食べるんですよ!」

 

 

「そうか、因みにどんなソースがあるんだ?」

 

 

「ヨーグルトとチリソースです、はいどうぞ!」

 

 

カエデはケバブを受け取って席に着くと早速ソースをかけようとするが手を伸ばそうとした瞬間、周囲の子供達や食事をしに来ていた雪之丞やヤマギ、デインや三日月までもが此方を見つめていた。

 

 

「なんだ?お前達、私を見ても何も無いぞ。」

 

 

「カエデ兄さんは何のソースを掛けるんですか?」

 

 

「まだ決めては居ないが…それがどうした?」

 

 

「だったらヨーグルトでしょ!!」

 

 

「チリソースで決まりだろ!!」

 

 

と一斉に声が上がった。

実はこのケバブの料理は…以前カエデが1人で仕事をして居ない時に昼食として出た際に大人気となったものらしいがその際に掛けるソースで派閥が出来てしまった。

 

 

辛くて元気が出て肉の旨みを引き出し食欲も増進するチリソース派と肉の臭みや油を旨みへと昇華させ後味のさっぱりさと酸っぱさが身体を癒すヨーグルト派が誕生しケバブが出る度に言い争いが生まれていた。

 

 

「カエデ兄さんならヨーグルトですよね!あんな奴らにケバブに対して冒涜に等しいソースなんて掛けませんよね」

 

 

「ヤマギ…顔が凄いことになってるぞ…」

 

 

「俺もヨーグルト派です!カエデ兄さん!試す価値はあると思いますよ。特に疲れてる時なんか堪りませんから」

 

 

「デイン、お前もか…」

 

 

「うっす!」

 

 

心なしか普段会話する時よりも饒舌になっているデイン。

カエデはヨーグルトも悪くないと思って手を伸ばそうとするがそれを三日月が止めたのだ。

 

 

「ケバブはチリだよ。身体が暖かくなって元気が出るんだ。それにこれならチリが鉄板」

 

 

「はぁ、三日月はそっち派か……」

 

 

「そうだぜ!カエデ。このピリリとしたのが肉と絶妙にあってな。特に体力を使う俺達に取っちゃ最高の栄養食みたいなもんだぜ!」

 

 

「おやっさん…あんたもか…」

 

 

「兎に角試してみてよ、カエデ兄さん」

 

 

大好きな兄に自分の好きな味を試して欲しいと三日月は親切心からチリソースを掛けようとソースを手に取った。だがそれに負けじとヤマギもヨーグルトソースを手に取った。

 

 

「待ってください三日月、カエデ兄さんには白くて優しいヨーグルトです」

 

 

「チリ!!」

 

 

「ヨーグルト!!」

 

 

「チリだってば!!」

 

 

「カエデ兄さんまで邪道に落とす気ですか!!幾らなんでもそれは見逃せません!!」

 

 

「それ味が弱いから強いカエデ兄さんには似合わないよ」

 

 

カエデの皿の上で繰り広げられる小さな戦争、それらを周囲の子供達も応援するようにしていた。

 

 

カエデは争いで混ざってしまったヨーグルトソースとチリソースのケバブを覚悟を決めて食べたが結局素材の味はせずソースの味が口一杯に広がる結果となった。

 

 

「普通だったな…」

 

 

「おい、お前ら何やってんだ?ケバブにはガーリックマヨネーズに決まってんだろ!」

 

 

「ヨーグルトソースとチリソースも良いですがやはりケバブにはガーリックマヨネーズです。」

 

 

「イシガシ、お前もか…」

 

 

まさかの第三勢力のオルガとイシガシの登場に更に食堂は賑やかになった。

だがMSに乗せて欲しいとお願いしに来たハッシュはケバブ論争に巻き込まれてしまいカエデと一緒に延々とケバブのソースに付いて散々に語られるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夜明けの戦いと再会の仲間

 

 

「はぁ、互いに大変な事に巻き込まれてしまったな…ハッシュ」

 

 

「そうっすね…カエデ兄さん…まさか夕食で2時間も説教染みた話をされるなんて思いもしなかったですよ……」

 

 

「2年前まで本部で私とイシガシ以外の大人はおやっさんしか居なかったからな…それで漸くご飯もまともになってきたからな。こんな平和な事で喧嘩までするようになったからな。」

 

 

結局、夕食のケバブ論争は互いに味が素晴らしいのだから攻めあう事自体が意味を成さないという結論に至った結果収束へと向かったのだ。

 

 

夕食のソースを何種類も食べたハッシュはお腹がパンパンになったのを少しでも軽くする為に本部の周囲を散歩がてら歩きながら話をしていた。

 

 

「それで私に話とはなんだ?」

 

 

「はい、俺もMSに乗りたいんです。早く乗せてもらう事は出来ませんか?カエデ兄さん」

 

 

「獅電の空きには余裕もあるが一応可能ではあるんだ。問題なのはハッシュの操縦適正がどの位高いのかって事だ。だから近々やる訓練でそれを判別して全員には進む道を決めて貰おうと思ってるがな。」

 

 

新入団員の錬度も日に日に増してきている鉄華団。これからすべきなのはそんな団員達の進むべき道であるのだ。

整備班、経営班、管制班、そして実働班などに分ける必要が出てくる訳だが一部の団員を除けばまだまだ適正は出ていないのだ。

 

 

「俺がMS使えるって分かった場合どの隊に入るんですか?」

 

 

「そうだな……2番隊だな。だが成績が良いなら遊撃班に入ってもらうって選択肢もあるな」

 

 

「遊撃班?」

 

 

鉄華団には実働隊としてシノ率いる1番隊(別名:流星隊)、昭弘率いる2番隊、実質3番隊とも言える遊撃班が存在しているのだ。

 

 

遊撃班は高い実力を持ちながら高い活動範囲を行えるメンバーとMSを配備する予定であり今の所その班員は遊撃隊長である三日月と教官であるカエデと臨時オペレーター&教官のイシガシのみであった。

 

 

「遊撃班……なら今度の訓練で俺が良い成績ならそこに入るんですよね?」

 

 

「それもありだと言ったのだ。強制はしないが嫌だったら他の所に異動する許可だって出すからな」

 

 

「いえ。カエデ兄さん、俺は意地でも遊撃班に入らせていただきますから」

 

 

強気に言葉を口にしながらもハッシュは頭を下げて宿舎へと向かって行った。やる気があるのは結構と思ったカエデ。

 

 

遊撃班はエース級の人間が入り相手に対して大きな打撃や全体の補助など役割も多い…そして何より危険性が高いのだ。それを分かってくれてるなら良いのだ。

 

 

「はぁ…海賊退治の前に厄介な事になって来たようだな」

 

 

鉄華団へと襲撃を行ってきた夜明けの地平線団という海賊。地球火星間で派手に暴れている海賊であり構成員3000人、10隻にも及ぶ艦とそれに比例するような数のMSを所有する海賊。

 

 

そんな海賊に目を付けられ襲撃された鉄華団。

だが無視する事も出来ず如何するべきかとカエデとイシガシとビスケットとオルガは話し合いを続けていた所に地球のギャラルホルンから直接の依頼が舞い込んできたのだ。

それは夜明けの地平線団の討伐という物だった。

 

 

流石のビスケットも驚いたがギャラルホルンからしても夜明けの地平線団というのはかなり厄介な存在で早く処理出来るとしたら助かるという話だった。

 

 

その話を持ってきたモンタークでは無くマクギリス・ファリドの依頼をオルガは受ける事を迷ったが鉄華団が既に狙われているという事実とギャラルホルンからも戦力を出して貰えるという事を総合してカエデとイシガシとビスケットと共に審議を繰り返した結果は海賊討伐の依頼を受ける事に決定した。

 

 

「ギャラルホルンと共闘か……」

 

 

「そう言わないでくれよ、カエデの兄貴。俺達としても戦力を増やした状態でぶつかれる。俺達だけで戦うよりずっと勝算もあるだろ?」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

既に宇宙へと上がった鉄華団はイサリビと新しく鉄華団の船となったホタルビと共に今まで避けてきた筈のギャラルホルンが宇宙航行に使用する灯台とも言えるアリアドネを堂々と使いながら此方に向かってきているギャラルホルンの艦艇との合流地点へと向かっていた。

 

 

本来はもう一隻艦艇を所有している鉄華団だがそれは完全な輸送船で戦闘が目的である今回は除外することにしたのだ。

 

 

「ですが、予定だと5隻って話なのでしょう?何故3隻だけなのでしょうか?」

 

 

「どうやら向こうにも事情があったらしいぜ、イシガシの兄貴。アリアンロッドとのいざこざがあって2隻が遅れるってよ。

 

 

それでも最初の予定だと1隻が先行する予定だったらしいが向こうが努力してくださった結果だって話だ。」

 

 

「努力、か……」

 

 

カエデは簡単な言葉の裏にある地球の策謀と渦に思わず毒づくように溜息を吐いた。

 

 

出来る事ならばギャラルホルンとなんて手を組みたくはなかったが2年前は普通に銃を向けていた相手なら尚更だ。

此方も向こうも互いに向ける感情は決して良い物ではない筈だ。

 

 

今回の共闘とて皆は渋々納得しているに近い。出来るだけ借りは作らないように戦った方が良いのかもしれない。

 

 

「そろそろ、私とイシガシはナイトメアとジョーカーの所に行くからな」

 

 

「えぇ、カエデ様。」

 

 

「頼んますぜ、遊撃班のカエデの兄貴、イシガシの兄貴。」

 

 

「3人しか居ないのに遊撃班とは可笑しいな」

 

 

「良く言うぜ、カエデの兄貴、イシガシの兄貴、ミカで最低中隊分の戦力になるくせによ」

 

 

軽口を飛ばしあってブリッジからカエデとイシガシは格納ドックへと向かって行く。

そして展望ブロックを通る際に見えたギャラルホルンの船、ハーフビーク級戦艦が3隻。

 

 

ある意味、カエデが行った予想通りの結果とも言えるだろ。

そんな事を振り切り格納ブロックの愛機のコンクピットへと入っていく。

 

 

カエデとイシガシが居なくなってから僅か数分後に新たなエイハブウェーブの反応を各艦が捉えた。

それに一番機敏に反応したギャラルホルン、流石建前上世界を守る組織。ギャラルホルンへ鉄華団は素早く連絡を入れた。

 

 

ギャラルホルンはそれを援軍だと鉄華団に知らせた。その船はタービンズのハンマーヘッドに少しだけ似ている強襲装甲艦、そしてその船からホタルビのオルガに対して連絡が入ったのだ。

 

 

「遅くなって申し訳ない、途中海賊に遭遇して始末に手間取った。」

 

 

「こっちとしては作戦開始前に合流して貰ったんだから無問題だ。鉄華団団長オルガ・イツカとして今回の援軍感謝しますぜ。」

 

 

「オルガ・イツカ団長。礼など必要ない、俺としてもカエデとイシガシと鉄華団には世話になっているからな」

 

 

モニターに映っている男は静かに此方を見つめながらも強い意志を投げ掛けている。

これからの為に兄貴達が手配した戦力なのだから頼りにさせてもらおう。

 

 

「頼りにさせてもらうぜ。傭兵団イクサル代表、フォボス・クェーサーさん。」

 

 

「君達の期待に応えられるように努力をしよう。」

 

 

「オルガ、傭兵団イクサルって一体どんなとこだ?」

 

 

「俺もそこまで詳しくはねえけどテイワズの中でも有数の武闘派って聞いたな。俺よりもメリビットさんに聞いた方が良いんじゃねえか?」

 

 

通信を終了させて真横に接近して来たイサリビよりも一回り巨大な艦に思わずユージンが息を飲んだ。

先程までは距離があったせいでおもちゃのように見えていたものも此処まで接近すると艦に描かれた十一芒星のエンブレムが現実味を帯びてくる。

 

 

「相対速度、傭兵団イクサル所有艦アテナとの合わせ完了しました」

 

 

「どもっす。んでメリビットさん傭兵団イクサルって知ってます?」

 

 

「えぇ勿論、鉄華団に来るまではテイワズで働いてましたから。良く知ってますよ」

 

 

メリビットの口からフォボス・クェーサーという男について語られる。

傭兵団イクサル、テイワズの直系団体に属しており所属してる隊員、全員は元ヒューマン・デプリであること。

 

 

テイワズの中でも有数の武闘派組織で彼らだけで敵対組織の4つほど壊滅させているというほどの腕利き集団。

主に合法的なギャンブルや傭兵に近い仕事を生業にしていて特に有名なのがその代表で自身も元ヒューマン・デプリのフォボスクェーサーという男。

 

 

テイワズの代表のマクマードから直接スカウトされ親子の盃を交わした人物であると同時に凄腕のパイロット。

 

 

以前までは専用にカスタマイズされた百錬を使用していたが重装甲に高出力のブースターを装備して相手の迎撃を無理矢理突破して戦艦に風穴を開けたとのこと。

 

 

「おいおい、なんだよそれ……おっかねぇな」

 

 

「最近ではパンドラを購入して自分仕様に改造して愛機として使っているらしいです。でも噂ではエイハブリアクターの慣性制御があってもかなりのGが掛かるとか……」

 

 

「なんか……俺らも人のこと言えねぇかもしれないがその機体も如何かしてんな」

 

 

伝説的な活躍をしたガンダム・フレームにMSとしては破格過ぎる速度と操縦者の能力によって異常な狙撃能力と近距離能力を発揮するナイトメアとジョーカー。

 

 

これらの戦力を抱えている鉄華団としては何かを言える立場ではないがフォボスの愛機はナイトメアとジョーカーかそれ以上に狂った機体なのだなとオルガは思った。

 

 

「そう言えば……その愛機を作る際にはカエデくんとイシガシくんの手も借りたと聞きましたね」

 

 

「あぁ、それは俺も知ってる。フォボスさんはカエデの兄貴とイシガシの兄貴の知り合いで2年前の歳星で再開していたとは知らなかったけどな。傭兵団イクサルに連絡が取れたのも兄貴達のお陰だ。」

 

 

「なんか、気に食わないな…」

 

 

一人だけムスッとしたユージンは前へと向き直って胸の中で蠢く感情を抑えつける事に専念した。

そしてギャラルホルンからの情報通りに進めていくとその情報にあったエイハブ・ウェーブの反応を感知した。遂に海賊の艦隊を捉える事に成功した。

 

 

「一応情報通りか……偵察隊からの報告は?」

 

 

「オイオイ!冗談きついぞ!!」

 

 

「どうした?シノ!?」

 

 

通信が繋がっているシノから零れた言葉に全員が驚きを隠せなかった。それはシノも同様であり提供された情報では合流前の艦艇3隻を叩くという物だったのに相手は10隻。

 

 

夜明けの地平線団の全艦隊が勢ぞろいしていたのだ。だがレーダー上では3隻では確認で来ていないのに如何いう事だとオルガが声を荒げる中でレーダーには新たな艦の反応が次々と出現していた。

 

 

「そんな……相手は10隻!?」

 

 

「まさかあいつら……!!」

 

シノの流星号から送られてきた映像を見てみるとそこには3隻の艦が他の艦を牽引しながら此方に迫っているのが確認出来た。何とも上手い戦法だとオルガは舌打ちした。

 

 

相手へ自分達の戦力差を間違えさせるという手法。

稼動しているリアクターの反応は他の艦を牽引している3隻のみ。これなら確かにレーダーに反映される数を抑える事が出来るのだ。

 

 

「MS隊、出撃だ!!」

 

 

「来たか、行くぞ。イシガシ、三日月」

 

 

「はい!」

 

 

「うん!兄さん」

 

 

既に待機していたカエデとイシガシと三日月は出撃準備を完了させていた。そして敵が此方へと向かって来ながらMSを出しているのを確認すると出撃の合図が出た。

 

 

「カエデの兄貴、イシガシの兄貴、三日月、あいつらは俺達を包囲する気らしい。それを正面突破してそこから叩く!」

 

 

「相変わらず強引な手ですね。ですがそういうの私は好きですね、では私とカエデ様と三日月でMS隊を引き付けておきます。」

 

 

「イシガシ兄さん、分かった。兎に角目立つように暴れれば良いんでしょ?」

 

 

「正解だ。三日月。カエデ・ビットウェイ・オズロック、ナイトメア 海賊共に悪夢を魅せてやろう!」

 

 

「イシガシ・ゴーラム、ジョーカー 海賊共に永遠の深淵と常闇を魅せ切り刻みましょう!」

 

 

「三日月・オーガス、ガンダム・バルバトス 出るよ」

 

 

イサリビから出撃して行く鉄華団の最高戦力とも言える三機のMS、先陣を切るように突撃して行くバルバトスとナイトメアとジョーカーは同時に射撃を開始して敵の射程外から次々と弾丸を命中させていき相手のライフルなどを潰していた。

 

 

「んじゃ、カエデ兄さん、イシガシ兄さん。俺行って来るから」

 

 

「あぁ、行ってこい」

 

 

「行ってきなさい、三日月」

 

 

ナイトメアとジョーカーは縦横無尽に分身や回転、常識外れな機動力を見せながら敵の頭部や間接部へとハンマーや鎌や銃弾を叩きこんでいた。

 

 

ナイトメアとジョーカーの援護射撃を受けながらソードメイスを握り締めたバルバトスが一気に距離を詰めて行くと胸部などを集中的に狙って得物を振り回した。

カメラや間接を撃ち抜かれて動きの鈍るそれを一気に抉るような一撃が悪魔によって加えられた。




名前:フォボス・クェーサー


性別:男


年齢:21歳


容姿:赤目に長い白髪で頭に触覚のようなものが生えている。 
鉄華団の中では、一番目立つ容姿の持ち主。


操縦機体:アキレスD9
説明↓
白を基調としたトリコロールカラーに赤いモヒカンが目を惹くがスパルタの兵士の様なデザインだが青主体のカラーリングやマントが腰部に付いている。


基本装備は、ロングソード「オートクレール」と、レイピア「デュランダル」の二刀流。


必殺ファンクション↓
背中の装置から8本の剣型のビット(子機)を射出して相手を狙い撃つ「ソードビット」


備考:その正体は前世でカエデとイシガシ同様、惑星イクサルの生き残りであり故郷を滅ぼしたファラム・オービアスに復讐し宇宙を征服するために"グランドセレスタ・ギャラクシー"を仕組んだ。

 
ファラムの兵士にイクサルのリーダーであるカエデと参謀兼側近であったイシガシが銃殺され幼きファラムの女王に全て過去の事と言われ許しを貰った。
しかし、ファラムを治めるのを手伝いして欲しいと言われ仕えたが星を滅ぼそうとした良く思わないファラムの貴族に暗殺された。


火星に全ての記憶を持ってスラム街に転生した。
スラム街でリーダーであるカエデと参謀兼側近のイシガシと再開して2人はCGSに入ると言われ一緒に来いと言われたがフォボスはそれを断ってヒューマン・デプリのみで構成された傭兵団イクサルを結成した。


鉄華団の破壊神(鉄華団と手を組むまではイクサルの破壊神)と呼ばれて仲間に近づくもの全てを破壊し尽くす。
イシガシの次にオズロックの側近的存在。


十一芒星=ウンデカグラム


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚めた静寂なる翼編
魔術師と死神と破壊神の共闘


 

 

 

「こ、これが噂に聞く悪魔って奴かよ!?」

 

 

「か、数では此方が圧倒してるんだ距離をとり…ぐわぁ!!」

 

 

確かにバルバトスは接近主体のMSだ。

距離をとろうとするのは悪い選択肢ではないのだがその援護を行っている魔術師と死神の存在を忘れてはいけない。

 

 

相手は遠距離からの援護狙撃を行う機体なので距離をとればナイトメアとジョーカーが襲い掛かって距離を詰めようとすればバルバトスのメイスで命が抉られるという見事な関係が出来上がっていたのだ。

 

 

その影響か夜明けの地平線団のMSの勢いは大いに削がれその隙に鉄華団は艦の守りを固めるMSを次々と出撃させていたのだ。

 

 

「オオオオッラァァァァッッ!!!」

 

 

ホタルビから出撃した1機のMSが雄たけびを上げながら手にしたライフルを連射しながらなんとか艦に取り付こうとしているMSを薙ぎ払っていた。

 

 

「SS」のナパーム弾を使用しているからかそれを受けたMSのナノラミネートアーマーは剥がされてしまい獅電や流星号などの射撃であっさりと落とされていたのだ。

 

 

その連携の核をなしているのがやや黒っぽくなった強靭な4本腕のMS、改修された悪魔「ガンダム・グシオンリベイクフルシティ」であった。

 

 

「どんどん行くぞぉぉ!!」

 

 

バルバトスと同じくテイワズによって改修されたグシオンは新型「SS」が搭載され性能が向上と必殺ファンクションが使える事になったので昭弘は十字架に鉄華団のマークが入ったペンダントを腕に巻き付けていた。

 

 

「SS」ナパーム弾と通常弾頭を打ち分ける事が出来るカエデがテイワズに依頼して作ったライフルは高い効果を発揮しながら相手を落としていた。

そんな嵐のようなグシオンの弾幕を掻い潜るかのように突破して来たガルム・ロディが迫ってきた。

 

 

「ちっ!なんだ!?」

 

 

突然のアラートで後方から凄まじい速度で何かが突っ込んできた。

それは目の前まで迫っていたガルムに突進をかますとそのまま胴体を真っ二つにするかのように破壊すると更なる前線へと突っ込んで行った。

 

 

その突進力と速度にナイトメアを連想した昭弘は当然だがIFFには味方と表示されていた。そしてそこには十一亡星のエンブレムが刻まれていたのだ。

 

 

「あれが、まさか話に聞いてた……」

 

 

その機体の残痕を追うように昭弘はカメラを動かすとあっという間にMSの防衛陣を突破すると左舷の一艦へと突撃していったのだ。

 

 

無謀とも言える行動だが艦の迎撃さえも無駄と吐き捨てるかのように突撃したそれは莫大な推力によって生じた運動エネルギーをそのまま破壊力に転換するように腕を振るうと艦橋を破壊した。

 

 

「おいおい!?何が起きてんだ!?なんか突っ込んだと思ったら相手の一隻沈んだぞ!?」

 

 

「しかし、シノの流星号よりかなり流星染みてましたね。カエデ様」

 

 

「はぁ、あいつらしいと言えばらしいがな…」

 

 

「んなぁ!?」

 

 

驚きと心外と言いたげな表情をシノが浮かべながらも敵を落としながらも突撃から戻ってきた機体を見つめた。

先程敵艦に突っ込んだというのにもうこちら側に戻ってきていたのでとんでもない推進力だ。

 

 

「すまない、単機突撃をしてしまったが此方としてはそれだけ力になれるという事だろう」

 

 

「その為にこんな派手なアピールをする必要があるか!無茶をするな、フォボス!」

 

 

「そうだな…だが、突いて撃ち貫くのみだ。それが俺に出来る最大限の事だからな」

 

 

それを形容するならば白と青を基調としたトリコロールカラーに赤いモヒカンが目を惹くがスパルタの兵士の様なデザインだが青主体のカラーリングやマントが腰部に付いている機体。

まず目を引くのは機体に複数装備されている大型のバーニア、それがあの化け物のような突進力を実現させているのだろう。

 

 

そしてその突進力を余さず破壊力に転換出来るロングソード「オートクレール」と、レイピア「デュランダル」の二刀流。

試作型のパンドラをフォボスとカエデとイシガシでフォボスに合うように改造した結果誕生した機体「アキレスD9」の力に鉄華団は驚いていた。

 

 

「今がチャンスだ!!フォボスの馬鹿の突進で相手が浮き足立ってるからな!」

 

 

「無茶苦茶な突撃するとは…相変わらず破壊神と言われる戦いですね。フォボス」

 

 

「敵の機体を切り刻んで破壊するお前には言われたくないぞ。イシガシ」

 

 

「けど、まさかMSが戦艦ぶっ壊すとか普通思わねぇよ。しかも単機で一撃だぜ。」

 

 

「アンタ凄いね。ねぇ俺と一緒に突っ込まない?」

 

 

「良いだろう、カエデ、イシガシ、援護を頼むぞ」

 

 

「わかった。」

 

 

「カエデ様と鉄華団の為です。フォボス」

 

 

「よし鉄華団及びギャラルホルン、そして傭兵団イクサルの全員!!今の一撃で彼奴ら驚いてやがる!!今のうちに畳んじまうぞ!!!」

 

 

オルガの号令と共に大攻勢が開始された。

異常な力を見せ付けて既に名が知らたアキレスD9。恐れられているバルバトスとナイトメアとジョーカー、その影響か海賊達は最早まともに連携すら取れていなかった。

 

 

「邪魔だ!」

 

 

「切り刻まれなさい!」

 

 

「どんな装甲だろうと俺の剣で突くのみ!!」

 

 

背後からナイトメアとジョーカーの援護を受けながら前進して行く2機は次々と敵を薙ぎ払っていた。

メイスでコンクピットを潰して装甲の隙間から腕を差込みコンクピット内部を破壊したりと正に悪魔的な活躍をするバルバトス。

 

 

圧倒的な突進力を破壊力に変えMSを粉砕するかのような一撃で相手を突くアキレスD9。

一騎当千の活躍をしていく2機を支えるナイトメアとジョーカー、それらに触発されるように獅電や流星号、リベイクの動きも格段に良くなっていた。

 

 

結果として夜明けの地平線団は構成艦3隻が撃沈させられてMSの大半を沈められるか鹵獲され上にボスまで完全に捕縛されこの世界から消滅する事となった。

 

 

「さぁ海賊共、このイオク・クジャンが正義の鉄槌を……あれ?」

 

 

「はぁ……イオク様が妨害にまんまと嵌ったせいで完全に出遅れたじゃないですか…」

 

 

「わ、私のせいか!?」

 

 

「それ以外に何があると?ラスタル様には確りと報告させていただきますので」

 

 

「ちょっ!?」

 

 

月外縁軌道統合艦隊の部隊の指揮官であるイオク・クジャンがMSで出撃しながら声明を出すが既に戦闘は終了して後始末をしている最中であった。

その影響でアリアンロッドは赤っ恥をかく事になった上にイオクの評判が火星と地球で下がった。

 

 

「ねぇ星の人、カエデ兄さんとイシガシ兄さんとはどんな関係なの?」

 

 

「どんなか……難しいな」

 

 

この後、打ち上げとして鉄華団と傭兵団イクサルはパーティをするのだがそこでカエデとイシガシがフォボスを呼び捨てで親しげに呼んだりしたので感謝の念と嫉妬の念が鉄華団の団員内に渦巻いた。

 

 

「すまねえなフォボスさん。カエデの兄貴とイシガシの兄貴は俺達鉄華団にとってかけがえのない存在でな」

 

 

「気にしていない。カエデとイシガシが慕われる理由は俺も理解している」

 

 

「そうか。ありがとうな…」

 

 

海賊トラブルから数日後

 

 

「そうか、良い感じに事は運んだか」

 

 

「あぁ、こちらとしても問題が多く発生したが何とかする事が出来た。だがそのお陰かここ数週間まともに寝ていなくてな」

 

 

火星の本部へと齎された通信、それを受け取ったカエデは地球からのものであると気付くと自室でその通信を開いた。

 

 

通信相手は鉄華団地球支部支部長であるクランクであった。現在アーブラウの防衛軍設立の為に軍事顧問として動いている鉄華団の代表として毎日奔走しているとのこと。

 

 

途中テイワズから出向して来たラディーチェの裏切りや現地での少年達との確執などもあったがアインが事前に察知しそれを処理したりして緩衝材となってそれらを上手く防ぐ事に成功し無事に地球支部の仕事を完遂する事が出来たとのこと。

 

 

「だか、ラディーチェって奴はとんだ食わせ者だな。罰はしたのだろう?」

 

 

「当然だ。横領に未遂だが機密情報の横流しなどもあったからな..現地の防衛軍に処理を任せたさ。悪を許さぬ皆だから心配いらんだろう。オズロックが回してくれた人の情報のお陰もあったからな」

 

 

「私は何もしてないがな」

 

 

地球での重要な仕事をやり遂げたのはあくまで地球支部の全員の力でありカエデはその手助けをしただけだった。

本当に功労されるべきはクランクやアイン達だ。

 

 

「それでは此方はもう切らせて貰うがまだまだ忙しくてな。やれやれ、しばらくはゆっくり寝られそうになくて適わないな」

 

 

「それなのにやけに嬉しそうだと私は思うがな」

 

 

「フッ…」

 

 

カエデは連絡を切ると椅子に背中を預けながら天井を見つめた。これで地球支部も御役御免でこれからは火星での仕事が中心になって行く。

 

 

夜明けの地平線団を討伐した事でテイワズから手柄として大きな物が与えられた。

クリュセのハーフメタル採掘場の管理採掘を預けるという話だった。これによって更なる財源の確保や仕事の確保まで調達出来た。

 

 

いよいよ鉄華団の皆がMSに乗って戦わなくても無事に生活出来るビジョンが見えてきた。そしてカエデはある番号を入力すると通信回線を開いた。

 

 

「久しぶりだな、またお世話になった。夜明けの地平線団での事とか地球での事でだ。」

 

 

「気にするな、俺とてお前には世話になっているんでな。」

 

 

「フッ…お互い様だな。それと私は貴様をなんと呼べば良い?」

 

 

「ヴィダール、そう呼んでくれ。オズロック」

 

 

通信の先から響いて来るエコーの掛かった声に軽く笑うが矢張り慣れない所がある。

 

 

ヴィダールと名乗る男と思われる通信相手、カエデとイシガシと何処で繋がっているのかは不明だがカエデとイシガシは彼を通じてアリアンロッド艦隊の情報や妨害などを依頼してそれを実行して貰った経緯があり間接的だが鉄華団の夜明けの地平線団の討伐に貢献して貰っているととも言える存在である。

 

 

「ヴィダールか……随分趣味的な名前だな?オーディンかフェンリルではダメだったのか?」

 

 

「そんな尊厳的な物ではないと思うがな。それとそちらはどうだ?此方には早速クジャン公の赤っ恥の件が届いているぞ。」

 

 

「あぁ、終わってるのに正義の鉄槌云々言ってたお坊ちゃまか?」

 

 

カエデのぼやきのような独り言を聞いたヴィダールは深い溜息のようなものを吐きだした。

 

 

「本当に奴はアリアンロッドの指揮官なのか?それにしては随分と無能な人間だと思うが?」

 

 

「むぅ……ハッキリ言ってそうではないな。今のクジャン公、イオク・クジャンの評価が高いのは前クジャン公が余りにも勇猛且つ有能すぎる方だったからだ。

 

 

それゆえにその嫡子であるクジャン公にもそんな能力があるのではないかという期待があるからと言えば満足かな。

次いで言うとまぁ、MSの腕前はハッキリ言って糞だ。あれなら訓練校を卒業した新兵の方がよっぽどいい働きをする。」

 

 

「…そうか」

 

 

「総評すると経験もなく未熟であるに加えてMSの操縦がヘタクソである自覚がない!自分は凄腕と思い込んいておまけに無駄に正義感が強い!さらにお偉いさんという事だな!」

 

 

ヴィダールの歯に衣着せぬ発言に思わずカエデは絶句してしまった。彼自身虚言は言わずに率直な言葉を言う事を好んでいる事からそれが事実であると悟るが事実だとしたら相当な無能という事になるような気がするのだ。

 

 

だが問題児にも程があるだろう。自分の腕前をどうやったらそんな風に勘違い出来るのだろうか。

彼の周囲にはそれほどまでにイオクの手柄に見せ掛けられる技術を持った者がいるのかそれともギャラルホルンお得意の情報操作なのか。

 

 

「私が提供したコンピュータはどうだ?」

 

 

「漸く俺の癖や挙動の学習が終了した所だ。まもなく実戦だな。そのための調整でこれからもまた掛かりきりだ。すまないが今日はこの辺りだ。また連絡してくれ」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

カエデは通信を切ると同時に室内の呼び出しようのスピーカーからオルガの声が漏れてきた。

団長室に来て欲しいとの事だった。また何か面倒な事でも起きたのだろうか。

 

 

最近、草臥れて来たから新調した鉄華団のジャケットを羽織ると団長室へとカエデは歩き出して行く。

辿り着いた団長室にはオルガやイシガシやビスケットに加えてフォボスの姿まであった。

 

 

「フォボスまで居たのか。どうかしたのか?」

 

 

「カエデの兄貴、それを深めた話をしようと思ってんだ。実はクリュセのハーフメタル採掘場の管理採掘を鉄華団でする事になった。」

 

 

「けど、鉄華団はそれに関してノウハウなんかは知らないので…」

 

 

「そこで今回の採掘場は傭兵団イクサルとの共同経営にする事になりましたので…カエデ様。その打ち合わせをする為にフォボスは此方にいます。」

 

 

「そういう事だ、カエデ」

 

 

「なるほど、歳星に加えて火星でも良く顔を合わせるようになりそうだな。」

 

 

嬉しそうな表情を浮かべるカエデに比べて冷めているような表情だが薄い笑みを浮かべているフォボスにオルガは何処か複雑そうな思いを浮き彫りにしながらそんな思いを仕舞い込みながら咳払いをした。

 

 

「鉄華団本部の空いてるスペースを傭兵団イクサルに使ってもらう事になったからその際の注意事項とか連携に関する事とかもあるからカエデの兄貴とイシガシの兄貴には会議には参加して貰うが加えてこいつこともだ。」

 

 

イシガシがオルガから書類を受け取りカエデへと回した。

カエデはそれを覗きこんで見るとそこには様々なデータと共に写真が貼り付けられていた。

 

 

ハーフメタル採掘場と隣接するように置かれているので現場の写真かと思っていたが合っているようで違った。

そこに映り込んでいたのは地面から顔を覗かせながら何かを抑え付けているかのように埋まっているMSの姿だった。しかもそれは鉄華団としては非常に見覚えがある物だった。

 

 

「これは、ガンダム・フレームか!?こんなお宝が埋まっているとは…」

 

 

「シノがよ…どうしても俺が乗りたいって聞かねぇんだよ。まぁあいつも一番隊の隊長だから相応しいって言えば相応しいんだけどよ」

 

 

「シノは我先にパンドラを欲しがってませんでしたか?」

 

 

困ったような表情を浮かべるイシガシに肩を竦めるカエデ、まぁ幾ら新型と言ってもパンドラは所詮量産モデルの機体。それと幻のガンダム・フレームを比べるのは可笑しい事だろう。

 

 

「良いだろう、隊長機にガンダムっていうのは二番隊と同じだ。

まずは歳星へ持っていく事になるからな。」

 

 

「あぁ、頼むぜ。それとよ…もう一つMSにしてはでか過ぎる物が出て来てよ」

 

 

「でか過ぎるものだと?」

 

 

「あぁ、ついでにそれの近くにあったMWモドキも一緒に歳星に持って行って調べてもらってくれ…カエデの兄貴、イシガシの兄貴。」

 

 

「分かった」

 

 

「えぇ、任せてください。」

 

 

カエデとイシガシはオルガの言葉に頷きその場を後にした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目指すべき道と目覚めし厄災

 

 

鉄華団本部の団長室、そこへと繋げられた専用回線に連絡があった。

誰かと思いながら繋げた結果相手はモンタークことマクギリスであった。

 

 

彼からは改めて夜明けの地平線団討伐の礼やアリアンロッドのイオクの恥をかかせたくれた事に関する事であった。

酷く愉快そうにしながらも艦隊の一部の艦艇にダメージが入っているとマクギリスからしたら喜ばしい事が続いているらしい。

 

 

そんな声を聞きながらオルガは何処か興味がなさそうに耳を傾けていた。

オルガのさっさと本題に入れという言葉にマクギリスは言葉を切った。

 

 

「例の採掘場からの情報だが…これは本当に事実なのか?」

 

 

「あぁ、事実だが…一応周辺はアンタの言う通りに立ち入り禁止にしているぜ」

 

 

「兎も角私も火星に向かっている最中だ。警戒は厳にしてくれ」

 

 

ガンダム・フラウロスと共に発見されたMSよりも巨大な何か。

それを詳しく調べる事も余り出来ずにテイワズのデータベースにも何もなく結局地球で最も情報があるギャラルホルンのマクギリスに問い合わせてみた所その正体が明らかになったのだ。

 

 

地球で行われた忌まわしき記憶。厄祭戦の発端となった「人間を殺すこと」を基本プロトコルとして開発された大型機動兵器でありた対人殺戮兵器、MA 別名:モビルアーマー。

 

 

人類の総人口の4分の1を殺し尽くして地球の衛星である月を無残な姿にした戦の原因たる存在。

 

 

「俺とカエデの兄貴とイシガシの兄貴でアンタから送った本を読んでみたがあれマジなのか……?」

 

 

「紛れもない事実だよ。それが地球と火星間で行われたのもね」

 

「それはぞっとしねぇぜ……」

 

 

機械の自動化が人類にとって豊かさの象徴となっていた。

だが機械技術の発達の結果…。

 

 

やがて各勢力は戦争の自動化すら積極的に推進していった過程で効率化を突き進めていく中で開発されたMAは過剰な殺戮兵器として進化を遂げ人類の手には余る存在として人類を脅かす存在となった。

そしてその対抗策として開発されたのがMSと阿頼耶識システムだと言う。

 

 

「それもいいがオルガ・イツカ。私と手を組むという話は考えてくれたかな?」

 

 

「その話か…」

 

 

突然切り替わった話に良いのかと思いながらも話を合わせる。夜明けの地平線団討伐では一時的とはいえギャラルホルンと手を組んだ事となったのだ。

 

 

そして2年前クーデリアを送り届けるという仕事の際には協力を仰いだ相手がマクギリス。彼はその後もギャラルホルンの改革の為にと鉄華団への接触と勧誘じみた事を続けていた。

 

 

オルガの性格上組んだならば通す筋、それを利用しようとするかのように…。

そして今回マクギリスが撒こうとした餌はギャラルホルン火星支部の権限を鉄華団へと委譲するという物だ。

実質それによってえられるのは火星の支配権、火星の王の椅子である。

 

 

「火星の王、響きは悪くねえ。鉄華団の目指す場所、ある意味そこかもしれないな」

 

 

「ならば…」

 

 

「だが断るぜ!」

 

 

「っ!」

 

 

キッパリと強く言葉を口にしたオルガにマクギリスは一瞬声を吐息を震わせた。

 

 

「確かに最短で駆け上がって成り上がる道だと思う…昔の俺ならそれを飲んだ。だが今の俺は違う」

 

 

「……」

 

 

「今の俺は多くの家族を背負ってるんだ。その家族を守る為に養う為に鉄華団をやってる。その為に火星の王になる必要なんてねえし最短だとしてもその先が崖だったらどうする?意味がないんだ。」

 

 

「そうか……分かった。だが気が変わったら何時でも言ってくれ。では…」

 

 

そう言いって何処か落胆したような雰囲気のマクギリスの回線は切れた。

通信を終えるとジャケットを脱ぎ捨てるとオルガはベットに横たわった。

 

 

最近如何にも忙しかったからかまともに眠れていなかった。今日ぐらいは確りと眠ろうと思いながら火星の王という事に考える。

 

 

僅かに惜しかったかもと思ったがオルガは直ぐに振り払った。自分が大好きな鉄華団をそんな物の為に危険に晒すなんて有り得ない。

そう思うと心が決まった…これでいいのだと…。

考えが終わると睡魔が襲いオルガは久方ぶりの睡眠を楽しむのであった。

 

 

「やれやれ、長なったな…漸く帰って来れた」

 

 

「えぇ、そうですね。カエデ様」

 

 

歳星から帰還したカエデとイシガシは本部へと脚を踏み入れると同時に身体を伸ばした。

採掘場で発見したガンダム・フラウロスの改修とそのスターサファイア・ドライブの調整の為に赴いたが満足出来る仕事が出来た。

 

 

しかも「SS」のお陰でもあって実質上オミットされていたフラウロスの機能の修復と必殺ファンクションの認証システムまで出来たので万々歳なのであった。

 

 

「おう!カエデ兄さん、イシガシ兄さん!俺のガンダム戻ってきたって本当か!?」

 

 

「えぇ、本当ですよ。早速テスト致しますか?」

 

 

「おう!勿論だぜ!!」

 

 

「わかった」

 

 

早速トレーラーを使って搬入したコンテナを開けて見るとそこには雄雄しくも眩しい姿をした新たな悪魔の姿があった。

 

 

両肩から伸びている砲身が特徴的なガンダム・フラウロス。

シノ流に言えば新たな流星号となるのだろうか。

 

 

発見された時は銀に近い白でカラーリングされていたらしいがパンドラと同じく目立つピンク色にリペイントされていたのだ。しかもシノの自腹で…。

 

 

「うおおおおお!!こいつがガンダム・フレームかぁぁ!!!」

 

 

「すっごいはしゃいでるな……シノの奴は…」

 

 

「えぇ、そうですね…カエデ様」

 

 

一旦カエデとイシガシは魔術師(フード付き)色は紺色のイクサルフリートパイロットスーツへと着替えてナイトメアとジョーカーに搭乗して地上へと出てみるとそこには模擬戦場という名目の荒野で縦横無尽に駆け回っているフラウロスの姿があった。

 

 

ハイキックに裏拳、挙句の果てには背中に砲撃戦を行う為の砲身があるのにも拘らずバク転まで決めていたのだ。凄いというべきか余りにも無邪気すぎるというのか。

 

 

「はぁ…シノ、乗り心地はどうだ?」

 

 

「おう!最高だぜ!」

 

 

「それは良かったです。では、特殊機能と必殺ファンクションの確認と行きましょう。」

 

 

「必殺ファンクションは三日月とかカエデ兄さんとイシガシ兄さんがやってるの見てるけどよ。特殊機能って?」

 

 

そう、テイワズにて改修されガンダム用に開発された「SS」を搭載した事によって生まれたある意味フラウロスの真の姿とも言うべき物。

 

 

「シノから見て右手に赤いボタンがありますから押して見て下さい。」

 

 

「え~っと……こいつか?」

 

 

コクピット内を見回すシノは赤いスイッチを見つけて押してみる。

するとフラウロスは瞳を輝かせ始めて自動的に前傾姿勢を取り始めるとそのままガントレットを展開し始めた。

 

 

各部の装甲が動き始めてシノの驚きの声が通信越しに聞こえる中フラウロスは四足獣型への変形を行ったのだ。

 

 

「うおおおおお!!何だこりゃああああ!?」

 

 

「それがフラウロスの機能の一つだ。そのガンダムは変形機構を持っているがその形態は砲撃モードを持ってる。そしてもう一つ」

 

 

「まだあんの!?」

 

 

「高機動形態ってなっているな。でもそれはオミットに近い状態だったのをテイワズの整備長が復活させた。」

 

 

ガンダム・フラウロスは砲撃戦仕様の重火力MS、しかしナノラミネートアーマーの性質故に射撃が決定打となりにく近接武器による接近戦が推奨されるがそれでもツインリアクターの仕様上砲撃でも圧倒的な破壊力を発揮する事が可能となっている。

 

 

この変形機能もリアクターの出力を余さず砲撃に注ぎ込む為の物なのだが整備長はフラウロス内に残されている高機動形態のデータを発見した。

 

 

しかしそれは実質的にオミットされているに近い状態で放置されていたので折角なので「SS」を搭載すると共に復活させ必殺ファンクションを使えるようにしたとのこと。

 

 

フラウロスは人型の汎用形態で様々な状況に対応して高機動形態で素早く動きそこから砲撃形態へとなるというのが本来の運用方法らしい。

 

 

「次は「SS」の飛行テストと先程カエデ様が渡した十字架のペンダントを認証システムに入れ必殺ファンクションの練習ですよ。」

 

 

「おう!やってやるぜ!!」

 

 

ナイトメアとジョーカーと共に飛び上がるフラウロス、ナイトメアとジョーカーの速度ほどではないがやはり凄い出力で飛び上がった。

流石はツインリアクターのガンダム・フレームだけの事はあるのだろ。

 

 

次の段階に進もうと声を掛けようとした時、カエデは凄まじい頭痛と背筋が凍りつくような気持ち悪さに襲われた。

 

 

「っ!?な、なんだ…この痛みは………!!?」

 

 

「カエデ様!どうしたのですか!?」

 

 

「カエデ兄さん!?お、おい!どうしたんだよ!?」

 

 

気分が悪い、眩暈がしてきた、頭痛が止まらない。

生前から今まで感じた事も無いような物が一斉に押し寄せてきた。自分を脅かすような何かが目覚めたようが気がした。

カエデはナイトメアの向きを変えるとそこには…火星の空を切り裂く光が走っていたのだ。

 

 

「お、おいおい!?何だよ!あの光!?」

 

 

「…厄災、が……目覚め、た……?!」

 

 

スリープモード解除、状況把握。状況イエロー、プルーマ作動。戦闘開始、殺戮開始、欠陥品抹消工程再始動。モビルアーマー『ハシュマル・ゲミュート』行動、再開。

 

 

穢れた翼が目覚めてしまったのだ。

 

 

カエデ、イシガシ、シノが空を切り裂く光を見た時にクリュセの採掘場ではモビルアーマーの存在確認をする為に火星へとやってきたマクギリスを案内するオルガや三日月達がいた。

 

 

そしてギャラルホルン側の人間としてモビルアーマーの恐ろしさを語りながらその姿を確認しこれをどうするかという議論に入った所だった。

 

 

火星の空に現れた鉄の塊は空を見上げた三日月に何かを与えた。

空から降りて来るそれはMSが大気圏を突破する際に使用する大型のグライダーであった。

 

 

「ふっ!動くな、マクギリス・ファリド!!」

 

 

「この声はイオク・クジャンか。なんという事を……まさかMSで直接来るとは……」

 

 

それから降り立ったのはグレイズとその発展型と思われる新型のMS、レギンレイズと呼ばれる物であった。

そしてそのレギンレイズから聞こえる声の主はカエデがヴィダールからイシガシはカエデから聞き及んだ酷評塗れで能力に乏しい愚か者、イオク・クジャンであった。

 

 

「貴様がMAを倒して七星勲章を手にしてセブンスターズ主席の座を狙っている事は分かっている!!

 

 

ギャラルホルン全軍で対処すべきMAを隠蔽してファリド家のみで対処しようとしている事こそ何よりの証だ!!」

 

 

「どうやら誤解を招いたようだな……。だとしても貴公がMSを持ち出しこうしている事の危険性がどれほどの事が理解しているのだろうな?」

 

 

「私は貴様の戯言など聞かん!!さあ貴様を拘束させてもらうぞ!!」

 

 

一歩、レギンレイズが踏み出すとマクギリスが必死に声を上げて止まれと言った。

だがそれを自分を恐れていると解釈した戯け者、イオク・クジャンは愉悦に浸るような表情で脚を進めたのだ。

 

 

この男、イオクはギャラルホルンなら知っている筈のMAの事に関しての知識が非常に乏しい。

ギャラルホルンの兵士なら常識である「モビルアーマーが厄祭戦の原因になった」という歴史を知っていなかったのだ。

イオク・クシャンはその危険性すら分からないまま近づこうとした時に静かな駆動音が聞こえて来たのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愚か者と天使を狩る者達

 

 

 

それに気付いたのは動物の言葉を理解することが出来るなどの能力を有する悪魔の名を冠するガンダムのパイロット、三日月・オーガス。

 

 

「っ…」

 

 

静かな駆動音が徐々に高まっていくのを三日月の身体が本能が感じ取っていた。

眠りに付いて300年という時を経てそれに命が灯ってしまった瞬間を三日月だけが理解出来ていた。

 

 

同時にそれの異常性すら理解していた。それと同時に埋まっている筈のMAから煙が立ちこめた。

それは地面を抉るように広がっていき徐々に大きくなっていきながら赤い土を撒き上げた。

 

 

「なっ!!?」

 

 

「へぇっ!?」

 

 

まるで長い時の経て目覚めた厄祭が目覚めの声を上げているかのようだった。声にすら聞こえるような音は空を裂きながらその目覚めを祝福する福音となった。

 

 

身体を持ち上げ、再開するかのようにMSを発見するとそのまま跳躍しイオク達へと襲い掛かった。

純白の機体に根ざすように広がる植物のようなラインでそれは標的を見つけたと歓喜するようにイオク達へと自らの刃と爪を差し向けたのだ。

 

 

「グッ……ゲホゲホ……」

 

 

「だ、大丈夫かよカエデ兄さん!?具合悪いなら医務室付き合うぜ?」

 

 

「カエデ様!ご無理をなさらないで下さい!」

 

 

「…大丈夫、だ…イシガシ…シノ…」

 

 

突如として体調を崩してナイトメアから降りたカエデに肩を貸すシノとイシガシはカエデの身体をタオルで汗を拭いた。

何が起きたのか分からないがオルガから連絡が入ってきた事が本部に知らされた。

 

 

MAが目を覚まし最寄の人口密集地、クリュセへと向かっているのでその防衛線を鉄華団とマクギリスとその副官で敷くという事になった。

その為に鉄華団の動かせるだけの全てのMSを総動員するという事であった。

 

 

「私も直ぐに行く、シノ先に行け…MAなんて…鉄華団に掛かれば、大丈夫だろから…」

 

 

「あ、あぁ!そうだな!!カエデ兄さん四代目流星号の初陣、派手に決めてやるぜ!!」

 

 

駆け出してフラウロス改め四代目流星号へと乗り込んだシノは素早く機体を起動させると高機動形態へと変形させ防衛ポイントへと急いでいった。

 

 

それを見送ったカエデは必死に身体を起こしてナイトメアへと脚を踏み出すがどうにも気分が悪すぎた。だがそれでも行かなければならない。

鉄華団の矛となり盾となるという決意の為に一歩踏み出すとフォボスとイシガシが肩を掴んだ。

 

 

「そんな状態で何処に行く気だ。カエデ、残れ」

 

 

「カエデ様、フォボスの言う通りですから休んで下さい。」

 

 

「ダメだ、私は行くのだ。彼らだけに戦わせる訳には行かないのだ。離せ、フォボス」

 

 

「そんな不完全な状態で出られると余計に彼奴らに負担をかけることになるぞ」

 

 

冷静に簡潔に事実を突きつけて来たフォボスにカエデを休ませようとするイシガシにカエデは唇を噛んだのだ。確かにあの光を見てから身体が何か可笑しいのを感じている。

 

 

カエデの精神が何かに襲われるような不快感と圧迫されるような感覚があるのだ。

ハッキリ言って今の状態のカエデは足手まといになる可能性が非常に高い。

 

 

だからフォボスは止める生前自分達を引っ張ったリーダーにこれ以上の無茶はさせない為に代わりに自分とイシガシが出るからカエデは大人しくしていろと言うのだ。

 

 

「……ならフォボス、イシガシ一緒に行ってくれないか?私のサポートを頼む」

 

 

「……はぁ……。本当にこれ以上の問答は無駄のようだな。生前から変わらないな…カエデ、ナイトメアで先行しろ。

俺はアキレスD9で追いかける。イシガシ、カエデが無茶しないように一緒に行け!」

 

 

「貴方に言われなくともそうします。カエデ様、サポートは我々にお任せ下さい。」

 

 

「イシガシ、フォボス。やはりお前達は私の意思を感じ取るのが早くて助かる。」

 

 

生前に星を滅ぼされた時の強く高い意思をカエデから感じとったイシガシとフォボスは折れたように諦めた。

 

 

イシガシとフォボスはジョーカーとアキレスD9に乗り込むとカエデと共に防衛ポイントへと飛んだ「SS」を搭載している関係上アキレスD9も飛ぶ事は出来るが機体重量の影響で他の搭載機に比べて飛行高度は非常に低い。

 

 

だがそこを自前の推力で強引に浮かせるという荒業でナイトメアとジョーカーよりも少し遅いペースで済む程度に済ませていた。

それをモニターを確認したカエデはやはりアキレスD9も化け物のような機体だと思った。

 

 

「くっ……嫌な感じが強くなるな。やりたくないが…そうは言っていられないな」

 

 

カエデは一時的にナイトメアをオートに切り替えるとコンクピット内の応急セットから注射器を取り出してそれを腕へと突き刺して注射した。

 

 

その中身は所謂アドレナリン、興奮剤であった。

精神を高揚させ強引に精神を蝕むそれを払い除ける為の物で応急セットをしまいながらマニュアルに戻すとクリュセへと続く渓谷が見えてきた。

 

 

「っ!!」

 

 

同時に襲い掛かってくる強い嫌悪感、だがそれを濃い濃度で注射したアドレナリンが強引に打ち消していた。そしてMAの姿を直視した。

 

 

周囲に黒い従者であり兵器であり使い捨ての道具であるサブユニット、プルーマを大量に引き連れながら闊歩するそれは酷く異様なものにカエデは見えていた。

そこには渓谷の上から銃弾の雨を降り注がせている鉄華団の獅電とパンドラ、そしてラフタとアジーの獅電も見えた。

 

 

「あれが、MAか……!!」

 

 

「カエデ、俺はもう少しで到着する見込みだ。落ち着いて行け」

 

 

「分かっている。フォボス!行くぞ、イシガシ」

 

 

「はい!カエデ様!ご無理は為さらずに!」

 

 

高揚していながらも思考は冴えていた。

赤い鎌を構えて佇むジョーカーと杖型のハンマーを構えるナイトメアだったがそんな時であった。

圧倒的な出力で放たれた一撃が渓谷を抉り取り大量の瓦礫がMAとプルーマへと降り注いで行った。

瓦礫の山は次々とプルーマを押し潰して行きながら平然と進み続けていくMAと分断して行た。

 

 

「よっしゃあああああ!!見たかお前ら!これが四代目流星号の破壊力だぜ!!」

 

 

「やったぜ!シノ!!そのまま援護射撃頼むぜ!!ガンダム・フレームで近づくとやべぇらしいって話だからな!!」

 

 

「分かってるぜ!!オラオラオラ!!」

 

 

その一撃を放ったのは流星号を操るシノであった。

自分が此処に至るまでに判明した情報を基に立てられた作戦、MAとプルーマを分断しての各個撃破。

 

 

ガンダムはMAに対してリミッターのようなものが発動してしまいまともに動けなくなってしまうとのこと。

故に接近主体のバルバトスは動けずに待機しているらしい。その為に砲撃戦主体の流星号が出張ったという事らしい。

 

 

「よし、これなら……!」

 

 

見えてきた希望、成功しそうな作戦だったがそこへ飛来した一発の弾丸と共に1機のMSが登場した。

それはイオクの乗るレギンレイズであった。

 

 

「お、おい!何だこいつ!?」

 

 

「貴様ら邪魔だどけ!!このMAは私が倒す!!そして、部下の仇は私が取る!!私を守ってくれた部下の為に!!」

 

 

レギンレイズは残った片腕で保持したレールガンを構えるとそのままMAに向けて連射を開始した。

 

 

だがその殆どはMAに命中せずにプルーマとの分断の為に降り注がせた瓦礫へと命中して爆発して瓦礫を崩していくだけだ。

 

 

これでは何の為に分断したのかも分からなくなっていた。周囲の獅電がレギンレイズを止めようとする中遂にMAの矛先がイオクへと向いた。

 

 

「うおおおおおおお!!部下達よ!私の為に散った!勇者達の仇だぁぁ!!!」

 

 

叫びを上げながら連発される弾丸は全く当たらないどころかプルーマを再合流させようとしていた。

 

 

だがそれを終わらせようとハシュマルが脚を上げ蹴ろうとした時レギンレイズを抱え込んで飛び上がった機体、それはナイトメアだった。

 

 

「馬鹿者!!貴様は何をしているのだ!!折角、奴が分断したのに邪魔する気か!!?」

 

 

「そちらこそ私の邪魔をするな!!これは正義の仇討であるぞ!!」

 

 

抱え込んだレギンレイズから聞こえてくる聞く価値など無かった言葉に思わずカエデは苛立った。

 

 

こんな奴のせいで自分は生前を思い出してこんな気分になっているのか。

弟分達が危険な目にあっているのかと思うとカエデは此奴を今すぐにでも殺したくなってくいた。

 

 

「すまない遅れた!」

 

 

「フォボスさん!!よかった来てくれたのか!?」

 

 

「当然だ。イシガシ、お前はカエデのサポートを頼んだぞ!アキレスD9 フォボス・クェーサー、戦闘を開始する!!」

 

 

「わかっています。無事を祈りますよ。」

 

 

到着と同時にジョーカーはナイトメアの元に向かってアキレスD9が最大出力で突っ込んで行く。

 

 

獅電やパンドラには無い厚すぎるとも言える装甲を武器にしながら突撃していた。

ハシュマルは機械とは思えぬ生物顔負けの動きをしながら脚部のクローで切り裂かんと迫っても鞭のように撓っている尾の刃をアキレスD9に向けた。

 

 

「アキレスD9の装甲を、甘く見るなっ!!」

 

 

それを2つの剣で受け止めても無事な姿を見せるアキレスD9に鉄華団の皆が勇気付けられた。

 

 

必死にハシュマルの動きを止めながらもナイトメアは右手に杖型のハンマー、左腕に片手銃をジョーカーも同じように右手に赤い鎌と左手に片手銃を向け注意を引きながら火線が集中しやすいよう誘導して「SS」の弾を撃ち込めるタイミングをカエデとイシガシは見計らってカエデはイオクに叫んだ。

 

 

「何が仇討ちだ!自己満足もいい加減にするが良い!!貴様は愚か者だ!!イオク・クジャン!!」

 

 

「なっ……!?」

 

 

「元は貴様がMAの事を無視してMSで来てあの厄災を覚醒させたのだ!!部下が守ってくれた!?本当に愚か者だ!!貴様が部下を殺したのだ!!」

 

 

「貴方の部下は貴方のような方に仕えて真っ当な仕事が出来たのでしょうか?部下の中には家族も居たでしょう!!上司とは部下を導いたり光を与える存在です!!貴方はそんな存在では無い!!」

 

 

アキレスD9の援護射撃を続けながらカエデとイシガシはイオク・クシャンに叫び続けた。

 

 

「わ、私は……私はただ、部下の仇を……!!」

 

 

「黙りなさい!!金持ちの貴族お坊ちゃんが!!では何故!部下は貴方を守り死んだ!!それも考えずに仇を討つのですか!!?イオク・クシャン!貴様が命を舐めるんじゃねぇ!!!!」

 

 

「ぁ、ぁぁっ……」

 

 

イシガシの怒りで発せられた言葉に遂に何も言えなくなるイオク・クシャン。彼も此処まで一方的に強く言われた事も無いのだろう。

目眩すらしてきたカエデは捨ててやろうかと思いながら彼の機体を抱いたまま飛行していた時。

 

 

「っ!!?くっ!!」

 

 

「なっ!なにを!!?」

 

 

突然、ナイトメアはレギンレイズを離した。刹那、イオクが見たのは自らの代わりに胸に刃を受けた魔術師であった。

 

 

「な、何てことを!!?」

 

 

「!!カエデ様!!」

 

 

刃に突き刺さったままのナイトメアは鞭の様に振るわれる刃のまま振りまわれ渓谷へと叩き付けられたのだ。

 

 

落下しようとする機体をイオクは咄嗟にレギンレイズをクッションにするかのように受け止めたがナイトメアは肩と胸を大きく抉られていた。

 

 

「くっ……私も焼きが回ったか……?」

 

 

「な、何故!!私を庇った!?そんな理由ない筈だろう!?」

 

 

「貴様が、邪魔だった、から…そうなっただけだ…これなら盾にすれば良かったか…(昔ならば…こんな奴は、直ぐに切り捨てて…いた、私も…鉄華団に関わって…生前よりは、復讐心が無くなって…焼きが回ったな…)」

 

 

額から血を流しながらもナイトメアを動かすカエデだがまだナイトメアは動く。

ならばする事はあると跳躍しながら「SS」弾を装填するとハシュマルへと発射した。

 

 

だがそれすら片足立ちで回避してその勢いまま脚部から弾丸を発射するハシュマルだが普段なら回避できるはずの攻撃すら今のカエデには難しかった。




※イシガシは苛立つと敬語混じりの口調に変化する


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

悪魔と死神と破壊神の怒り

 

 

 

「カエデッッ!!!」

 

 

「カエデ様!!!」

 

 

ナイトメアの左肩とマントを吹き飛ばすように貫通した鉄芯のようなハシュマルの弾丸はナイトメアを渓谷へと串刺してにしそのまま固定するかのようにしてしまった。

その光景に思わずフォボスとイシガシは叫んだ。その一撃でナイトメアの機能は停止して動きも静止してしまった。

 

 

「くっ……イシガシ…分かってるな…」

 

 

「………」

 

 

イシガシがカエデに駆け寄りたい気持ちを抑えつけながらフォボスはアキレスD9をハシュマルへと向けたがその直後その隣に空から降りてきたバルバトスが着地した。

 

 

本来この場にはいてはならないガンダム・フレームでオルガの静止すら振り切って出撃した三日月はドスの聞いた声で怒りのままに言葉を口にした。

 

 

「おい!お前……カエデ兄さんに…っ何をしている……!!」

 

 

「三日月、イシガシ、こいつを、潰すぞ!」

 

 

「えぇ、壊すだけではこの怒りは絶対に冷めることは無いからな…」

 

 

「あぁ、イシガシ兄さん、星の人…やるよ…!!」

 

 

「ミカ……」

 

 

MA迎撃とクリュセへの進行を止める為に防衛線を築いた鉄華団、仮に設置した前線拠点にてMAとの激しい戦闘の状況を得ているオルガは不安でたまらなかったのだ。

 

 

マクギリスにMAの事を知らせたと同時に送られてきた電子書籍の本。それはギャラルホルンの創設の理由と人類を全滅の危機にまで追いやったMAの危険性について知りされていた。

 

 

人間を殺すという基本プロトコルに機械とは思えぬ生物のような動きをするという怪物を鉄華団は攻撃しているのだ。

 

 

シノのフラウロスがプルーマとの分断を成功させて現在はフォボスを中心とした攻撃が行われていると連絡が来た。

だが自分も行くとミカも飛び出して行った…じっとしていれらなかったのか。

 

 

「それとも…バルバトスとずっと戦ってきたからこそ分かるのか。MAのやばさが……」

 

 

本当は出したくなかったが三日月抜きでMAを止められるかと言われるとどうしても不安が過ぎる。

 

 

三日月はカエデとイシガシと並んで鉄華団の最高戦力に数えられているのだ。

そんな3人が前線で身体を張って仕掛ける相手への攻撃が鉄華団全員へ発破をかけて更なる攻勢に繋がっていた。

 

 

様々な意味で重要な立場にいる3人。

だがガンダム・フレームに起きたリミッター機能によってバルバトスは出さないと決めたオルガを無理矢理に説得して飛び出した三日月にオルガは不安げな思いを抱いていた。

 

 

「そ、そんなっ!!?そ、それは事実なんですか!!!?」

 

 

空を見上げながら思いを募らせていると通信機に張り付いているメリビットが悲鳴のような声を上げてそれに反応しておやっさんとオルガも此方を見つめた。

不吉な声に不安が更に募っていく中に追い討ちて青ざめたメリビットの顔が此方を見つめていた。

 

 

「な、何があったんだ!?」

 

 

「そ、それが……」

 

 

「おい!落ち着け、深呼吸をしろって!」

 

 

おやっさんの言葉に深呼吸をしたメリビットは少し落ち着いたので連絡をくれたハッシュの言葉を正確にオルガに伝えた。

 

 

「カエデくんが……やられました……」

 

 

「なっ!!!?」

 

 

「嘘だろ!?カエデの兄貴が…おい!?」

 

 

「ナイトメアは大破、回収したくてもそれに怒り狂った三日月くんとフォボスさんとイシガシくんの戦いで誰も近づけもしないそうです……!!」

 

 

「―――!!!!」

 

 

奇声を上げながらも威嚇するように大口をあけて敵意を剥き出しにするハシュマル。

アキレスD9と戦っている際には見せなかった"何か"を発散させながら各部にある赤い球体を赤く輝かせながらバルバトスを見つめていた。まるで怨敵に遭遇したかのように憎悪を発散させながら。

 

 

「……おい!バルバトス、余計な事やってないで見せろよ。あいつを狩る力を……カエデ兄さんを傷つけたあいつを潰す力を……!!!」

 

 

三日月は自然と握り締める手に掛かる力が増していた…自分でも気付かないほどに…硬い筈のレバーが柔らかく感じられてしまった。

 

 

同時にバルバトスのリミッターが完全に解除されていた。

MAを目の当たりにした瞬間から開放された機体出力の制限をパイロットが使用出来るようシステムが変わっていくのだ。

 

 

今までのバルバトスが悪魔だとしたら今からのバルバトスは真の悪魔、狩人の悪魔となる。

 

 

混濁して行く赤い瞳がそれを物語るかのように輝きを増していった。赤く濁って行く筈のに輝く…矛盾を孕みながらもそれすら超越して行った。

 

 

「フォボス、三日月。あの厄災を完全に倒す為に囮になって貰えるか?ジャッチメント・レイで決めようと思う。」

 

 

そう話しているイシガシの身体とジョーカーから紫色のオーラが溢れ出ていた。それは"ソウル"と呼ばれる物、人の中に芽生える獣だ。

 

 

「イシガシ、お前…ソウルを機体に纏うとは…それ程の覚悟があるんだな…わかった、あいつを倒す最後の一撃をお前に託すぞ!アキレスD9……お前の力を、俺に貸せ……!あいつを潰すぞ……!!行くぞ、三日月!!」

 

 

「ソウルとかジャッチメント・レイとかわかんないけど…イシガシ兄さんにあいつの攻撃が行かなければ良いんでしょ?行くよ!!星の人!!」

 

 

同時に出力を最高までに持っていくとハシュマルへと2機は向かって行った。開戦の合図と言わんばかりに放たれたハシュマルのビーム砲を素早くアキレスD9が前に出るとそのビーム砲を二刀流の剣で受け止めながらも更に加速していった。

 

 

ナノラミネートが施された装甲とは言えそれを受けながら逆に押し込めるような出力を誇っているアキレスD9だからこその持ち味を活かしてどんどん接近して行った。

 

 

接近するとビーム砲を中断して接近戦に備えようとするハシュマルの脚を掬い上げるようメイスを振るったバルバトス。

それでも体勢を崩しながら尾のブレードを伸ばしバルバトスを狙うが普段とは違った速度でそれらを回避していた。

 

 

「こいつっ!!尻尾がしつこいな!!」

 

 

「ならばっ!!」

 

 

片手に剣、もう片方には銃で連射しながら跳んだアキレスD9、上からの攻撃を仕掛けようとするがハシュマルが片足を深く突き刺す用にするとそれを軸にしもう一方の剣を振り突き刺した。

 

 

「今だね」

 

 

ブレードを右腕で弾いたバルバトスはメイスをハシュマルの軸足へと投擲するとそれが間接部に直撃させたのだ。

それによって自重を支えていたバランスが狂ってしまい片足をもぶれてしまった。

 

 

そこへアキレスD9が飛び込みながら右手の剣を掲げると…剣がハシュマルの身体の一部へと炸裂するがアキレスD9の推力で更に深く食いこませようとしながらそれに合わせて剣で突き刺しを連続で引こうとするがそれを邪魔するかのようにテイルブレードが飛来してアキレスD9を吹き飛ばした。

しかしそれでもハシュマルの肩の一部を破壊する事には成功していたのだ。

 

 

「次は、俺……!!」

 

 

剣の一撃を受けて各部がスパークを起こしているハシュマルへ飛び込んでいくバルバトスを迎え撃つようにテイルブレードを動かすがそれを蹴り飛ばし渓谷内の岩盤に突き刺すとハシュマルへと飛び乗り先程の剣の一撃で穴があいた部分へ両手を突っ込んだ。

 

 

「そうだ、もっと教えろ…こいつの倒し方をっ…!!」

 

 

傷口を更に広く深く広げていくバルバトスとそれに対して痛みを訴えるかのような動きをするハシュマル。

悲鳴のような声と動きは三日月を更に喜ばせる要因にしかならない。こいつハシュマルはカエデ兄さんを傷つけた。

 

 

殺すにはそれだけで十分過ぎる意味を持つ。

そして更に出力を増していくバルバトスは遂にハシュマルの本体から左肩を引き裂いてしまった。

 

 

「ッ!!」

 

 

岩盤から引き抜かれたテイルブレードが再び飛来するがそれをあっさりと受け止めると刃部分を脇で挟みこんで固定したのだ。

そしてハシュマルの頭部にすら手を伸ばしていった。

 

 

「三日月!そのまま捕まえろ!!」

 

 

「うん」

 

 

距離をとったアキレスD9は最大出力でスラスターを吹かすと圧倒的な推力で機体を飛ばした。

同時に「SS」が作動して宙へと浮かび上がりながら構えられた剣が光ながらハシュマルへと向かって行ったのだ。

 

 

「突き刺して貫くっっ!!」

 

 

「―――ッッッ!!」

 

 

ナイトメアにすら匹敵する推力からなる機体重量とその運動エネルギーから生まれる一撃は今度こそハシュマルの身体へと突き刺さった。

 

 

今度こそ味合わせてやろうとアキレスD9はトリガーを連続で引いた。

アキレスD9の片手銃内のシリンダーには火薬ではなくナイトメアの「SS」から開発されたビームによって衝撃派を発生させる特殊弾となっている。

 

 

それらが全て炸裂してハシュマルを内部から崩壊させていった。

自身に搭載され人間を殺す為の兵器とされているビームが自らの身体へと流れ込み崩壊されていた。

それに堪らなくなったのかハシュマルは肩をパージすると身体を回転させて両機を振りきった。

そして内蔵されていたスラスターを起動させると浮上し一気に飛びあがろうとするが…。

 

 

「逃がすか!この距離での必殺ファンクション、貰ったぞ!!」

 

 

フォボスは認証システムに「SS」の十字架のペンダントを入れるとアキレスD9の必殺ファンクションが起動された。

 

 

「必殺ファンクション!ソードピット!!」

 

 

そこからは8っの小型のピットを出して前後左右に攻撃して近距離から一気に撃ち込んでいた。

全身に浴びせられて行く小型のピットの雨に飛び上がる事も出来ずに落下するハシュマルへとバルバトスが襲い掛かろうとした時…。

 

 

「三日月、そのまま引いて下さい、トドメの準備が出来たからな…」

 

 

バルバトスのモニターにイシガシが映って三日月は上に飛び上がりそのまま引いた。

 

 

「私の中に眠る獣、"ソウル"レディオ、その力を私に貸せ!目覚めし厄災の天使!!ハシュマル!!審判の光に焼かれるが良い!!」

 

 

イシガシの機体、ジョーカーの周りに赤黒い魔法陣が無数に展開されてハシュマルに向けられていた。

 

 

「永遠に壊れるが良い!!死神の怒りに焼き貫かれて..."ジャッチメント・レイ"!!」

 

 

イシガシの個人の技、ジャッチメント・レイが発動されジョーカーの周りに展開されていた魔法陣から無数の細長い光がハシュマルに降り注いでハシュマルは機能停止した。




ソウルレディオ(イナギャラで調べて下さい)
説明↓
イシガシの中に眠る獣の力。
宇宙の何処からに生息する生物で人間の言葉を理解するほどの知能を持つ。


ジャッチメント・レイ(イナギャラで調べて下さい)
説明↓
惑星イクサル人しか使えない特殊な技。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目指す場所

 

 

 

イシガシの魔術の重すぎる一撃は300年間眠りについていた厄祭を永久の眠りへといざなった。

全身から光が消え爆散すると同時に鉄華団からは歓声が上がった。

 

 

「ふぅ……はっ!お前ら喜ぶのは後だ!!早くカエデを!!」

 

 

「はぁはぁ…カエデ様!!」

 

 

「イシガシ!お前は休んでろ!限界ギリギリでソウルとジャッチメント・レイを撃って無事な訳ないだろう!」

 

 

フォボスが言う通りだった、いまのイシガシはソウルとジャッチメント・レイを撃ってジョーカーを動かす体力も無かったのだ。

だが、忠誠を誓った主を1人に出来なかった。

 

 

「イシガシ兄さんは休んでて、ハッシュ、ナイトメアを確保!!急いで本部に運ぶ!」

 

 

「はっはい!三日月さん!」

 

 

「イシガシは俺が運ぶ。」

 

 

MSの適正試験で優秀な結果を上げたハッシュ。

彼にはパンドラが与えられ遊撃班のメンバーの1人として、圧倒的な強さを見せた三日月に憧れたのか彼について行くと決めたのか従順に従っているのだ。

 

 

そんなハッシュは左肩が完全に消し飛んだナイトメアの特徴的だったマントや杖型のハンマーがもげた姿を見てMAの圧倒的な強さを改めて感じつつもそんなものを倒せた三日月とイシガシとフォボスの凄さを垣間見た。

 

 

「…なんて、恐ろしい……」

 

 

目の前で自分の事など完全に忘れているのか無視されているレギンレイズの中でイオクは唯、MAの恐ろしさに震えていた。

 

 

そして鉄華団が引き上げた後に自分を探しに来たジュリエッタとヴィダールに連れられて行ったが彼の頭の中には自分を突き飛ばして身代わりに傷ついてしまったナイトメアが離れなかった。

 

 

「んでカエデの容態はどうなんだ?おいオルガ、大丈夫か?」

 

 

「あっはい、すいません……」

 

 

MAとの戦闘の約6時間後。

鉄華団の本部へと足を運んできた名瀬はそこでMAの発見と激しい戦闘があった事を聞いた。

そしてその戦いで鉄華団の相談役のカエデの愛機、ナイトメアが大破したという話も聞いた。

 

 

「身体の方は…左腕の骨と鎖骨にヒビが入ってたらしいですがそれはなんとかなったらしいです。

今では意識もハッキリしてるらしくてチビ達に泣きつかれてイシガシの兄貴とフォボスさんに怒られて困ってる所でした。」

 

 

「そっか。それなら良かったじゃねえか。家族が無事でよ。三日月も大丈夫なんだろ?」

 

 

「ええっ…!少し片目が見えにくくなったとか言ってましたけど大丈夫みたいです。あいつには今度眼鏡を作るとか考えてます」

 

 

心の奥底から深い安堵の息を吐いたオルガに名瀬は笑顔で言葉をかけた。

カエデは大怪我をしていたものの命に別状がある程の事で大事には至らなかったらしいが頭の額に切り傷が残る程度だった。

 

 

「それでMAで出た被害は?」

 

 

「獅電が数機中破、パンドラが1機小破。大半は三日月とイシガシの兄貴とフォボスさんが戦いを引き受けてくれたお陰です」

 

 

「流石あの3人って所か…んで歳星には何時来るんだ?」

 

 

「ええ、三日後を予定してます」

 

 

今回のMAでの大きな損害、それはナイトメアとジョーカーとバルバトス、そしてアキレスD9であった。

 

 

ナイトメアは言うまでもなくMAの攻撃を受け大破してしまったのでそれを含めて改修を行うという事になった。

 

 

バルバトスとジョーカーとアキレスD9はそこまで深いダメージは負ってはいないが激しい戦闘によって間接部が異常な磨耗とシステム系が三日月とイシガシとフォボスの動きに付いて行けなくなるという事態になってしまいそちらも改修が行われる事となった。

 

 

「それで整備長がMAも持ってきて欲しいと言ってたので持って行こうと思ってます」

 

 

「なるほどあの人、MAのパーツとか技術でまた魔改造する気だな?」

 

 

様々な話をしている最中だが名瀬は先程とは違った鋭い瞳をした。

 

 

「今回の一件は親父も高く評価してた。それで俺の所にある連絡が来たんだ。MAの討伐に関係あるかは分からないが月外縁軌道統制統合艦隊のラスタル・エリオンがお前達鉄華団と話がしたいって言って来やがったんだ。」

 

 

「ア、アリアンロッドが!?」

 

 

「MAの討伐……フフッ…やはり素晴らしいなガンダム……。やはりその力こそ、アグニカ・カイエルと同族の力だ……」

 

カエデの部屋

 

 

「それにしてもまぁ随分と派手にいったねぇ、カエデくん?それにイシガシくん」

 

 

「仕方ないだろう、本当ならばナイトメアを大破するつもりは無かったのだからな」

 

 

「ジョーカーにも負担を掛けてしまいましたからね…動きが鈍くなりましたので…」

 

 

歳星へと繋がった通信、ナイトメア、ジョーカー、バルバトス、そしてアキレスD9を送り出してある程度経った頃だった。

漸くMAによって出来た傷跡が塞がり通常業務に戻れてきた鉄華団。

 

 

歳星にて改修を始めたという連絡をしてきた整備長は漸く全面的に弄れるナイトメアとジョーカーに興奮しても怪しげな瞳をカエデとイシガシに投げ掛けていたのだ。

 

 

「MAでの戦いで確かギャラルホルンの人間を庇ったとか言ってたねぇ。それで鉄華団の皆荒れただろう?

 

 

こっちにも話は来てるよ、カエデくん?

鉄華団の皆が火星支部に殴りこみをかけそうになったのをイシガシくんとオルガ団長とビスケット補佐と一緒に必死になって止めたってねぇ。」

 

 

「はぁ、あいつらを甘やかし過ぎてギャラルホルンを滅ぼそう!って事になってたからな。

 

 

イシガシが殴り込み組に入っていたらと思うとゾッとしたぞ…三日月はバルバトスがあったら本気で殴りこみに行ってただろうな。」

 

 

「私はMAに全ての怒りをぶつけたのでそのような事は致しません。カエデ様が命じればやりますが?」

 

 

「やらんでいい。良いか絶対殺るなよ!!」

 

 

「あはは、それにイシガシくんってキレると敬語外れるんだってねぇ!見てみたかったねぇ。」

 

 

「嫌です。今後も見せるつもりは無いので…ご了承下さい。」

 

 

「そうかい、残念だよ。それでバルバトスの件だったね!これを見てくれるかい?」

 

 

そう言いながら出力されたのは改修終了予定のバルバトスの姿とそのデータであった。

それを見た瞬間、カエデとイシガシは思わず目を丸くした。

 

 

「……えっ」

 

 

「いやぁ!私渾身の設計だよ!!残されていた三日月くんのデータを最大限に発揮するようになるにはこれが一番効率的なんだよ!!」

 

 

「これは…なんというか…」

 

 

「ですがだからってこれは……凄すぎです。ご立派なモノっていうレベルを超えていますよ!」

 

 

流石のカエデとイシガシも若干引き気味になる完成した姿をしているバルバトス、一般的なMSからすると正に異形の悪魔といえた。

 

 

ルプスのスマートなシルエットは一体何処に行ったのだろうと言えるほどにビルドアップしている上に背中には翼のようなものまで背負っているのだ。

 

 

「何をどうしたらこうなった!?」

 

 

「バルバトスを全体的にビルドアップして私のやりたい事を!!主にMAの要素を盛って見たらこうなったのだ!」

 

 

「はぁ…頭が痛い話だ。」

 

 

「もしかして私とカエデ様とフォボスの機体も同じようにしたのですか?」

 

 

「勿論さ!イシガシくん!!」

 

 

力強い返答共に現在改修中のアキレスD9のデータが出力された。

元々頭がおかしい凄まじい突貫力を持つアキレスD9であったが、今回のハシュマルの戦闘でアキレスD9はもっと上へと登る事が出来ると確信出来たフォボスが更なる強化改修案を提出してそれを整備長が一応否定しても同様のコンセプトで改修したものであった。

 

 

「因みにフォボスが出した改修案ってなんだ?」

 

 

「色々書いてあったけど、簡単に纏めると

 

 

二刀流の武器を大きくすれば強い!!

 

 

装甲を厚くすれば硬くて攻撃が通らない!!

 

 

ブースターを増やせばナイトメアやジョーカーより速い!!だったね。

 

 

全く子供のような発想だったよ。だけど私も同じコンセプトでそれを実行したけどね。」

 

 

「あいつは…全く」

 

 

ハッキリ言ってフォボスが提出した物よりも酷い事になったらしいがフォボスは酷く満足げにこのまま進めて欲しいと行っていたらしい。

 

 

続いてナイトメアとジョーカーのデータも出力されたがそれを見た瞬間にカエデとイシガシは硬直した。

 

 

見る者に言いようもない恐怖を与えそうな、不気味な笑みを称えたマスクが特徴的な機体になって頭部にあったセンサーにはハシュマルに付いていた赤い宝玉が追加されてカラーリングもベース機から反転したような白基調のものとなっていた。

 

 

ジョーカーはカラーリングは変わらなかったが頭部にのセンサーはナイトメアと同じであり駆動系をかなり弄って性能が向上したことによって文字通りナイトメアの専売特許だった分身を作るほどの機動力を持つことになった。

 

 

「「………(絶句)」」

 

 

「ふふん!どうしたんだい!?ハッキリいってバルバトスの改修よりも手を入れたからね!!MAから解析した厄祭戦時の技術をふんだんに盛り込んだこのナイトメアとジョーカー!!恐らく最早君達にしか扱え切れない代物となっているよ!!」

 

 

「わ、私のナイトメアが……魔術師じゃ無くなってるじゃないか!!?」

 

 

「カエデ様!お気を確かに!!」

 

 

「いやいや!悪夢を魅せし幽霊の魔術師が何を言うんだい!?」

 

 

そんなこんなもあってそのまま改修が進められる事になったナイトメア達を引き続き整備長に頼むと何処か疲れたのかカエデは外に空気を吸いに行く事に決めたのだ。

 

 

既に日も落ちて夜空が広がっている火星の空、ひんやりとした空気が身体に当たりながら深呼吸をして振り向くそこにはフォボスが立っていた。

 

 

「怪我は、もう良いみたいだな」

 

 

「大丈夫だ、骨だってちゃんと戻っているんだ」

 

 

「そうか」

 

 

無愛想に何時もどおりの鉄仮面ぶりを披露するフォボスにカエデは何処か違和感を感じた。

確かに無口で表情変化が少ないが彼は静かに燃える熱血漢、なのに今の彼は何処か落ち込んでいるように見えるが気のせいではないだろう。

 

 

「すまないな、俺がお前をフォローすると言っておきながらあのような事に…これでは生前と同じだな。」

 

 

「まだ気にしてるのか?お前が悪い訳じゃ無い。

元は私が無理言って出たせいだ。生前もそうだっただろう。」

 

 

「……」

 

 

どうにも納得してなさそうにするフォボスにカエデはデコピンをして暖かい紅茶を持って来たイシガシと共にこれからの事や生前の事を夜が明けるまで話し込んでいたのだ。

 

 

そしてその翌日

 

 

「月外縁軌道統制統合艦隊司令官、ラスタル・エリオンだ」

 

 

「鉄華団団長、オルガ・イツカ」

 

 

「鉄華団相談役兼教官、カエデ・ビットウェイ・オズロック」

 

 

「同じく、鉄華団相談役補佐兼教官、イシガシ・ゴーラム」

 

 

そして、事態は大きく変わろうとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

同盟とパーティ編
アリアンロッドとの同盟


 

 

 

「噂に名高き鉄華団、その団長に会えてこちらとしては光栄だ」

 

 

「そりゃどうも。俺としてもまさかのアリアンロッドの司令官が直接会いに来るなんて思いもしなかったからな。」

 

 

「はっはっは!驚いてくれたかな」

 

 

「正直、顎外れかけたがよ。」

 

 

鉄華団はその日、最も緊張する日を迎えていた。

鉄華団団長のオルガ(スーツ姿)と鉄華団相談役と相談役補佐役のであるカエデとイシガシ(和服姿)は共に宇宙へと上がるとギャラルホルン火星支部の宇宙ステーションにてその時を待ち続けていた。

 

 

そんな彼らへと姿を見せたのは月外縁軌道統合艦隊、通称 アリアンロッド艦隊の総司令官であるラスタル・エリオンと仮面を付けている謎の男、ヴィダールであった。

 

 

名瀬からラスタルが自分から望んだという鉄華団との会談、正式な物であった為に受けない訳にも行かず了承して日取りを決めた日だった。

 

 

オルガは隣に居るカエデと後ろにいるイシガシのおかげで辛うじて冷静を保っていたが内心は驚きと警戒心で飽和していた。

 

 

「それでそちらの青年は?オルガ団長の秘書ですかな?」

 

 

「初めまして、月外縁軌道統合艦隊、総司令官ラスタル・エリオン殿。私は鉄華団相談役兼教官を担当しております。カエデ・ビットウェイ・オズロックと申します。以後お見知りおきを」

 

 

「カエデ様と同じく、鉄華団相談役補佐兼教官を担当しております。イシガシ・ゴーラムと申します。ラスタル・エリオン殿」

 

 

「教官!こいつは驚いた。そして鉄華団の団員が酷く羨ましく思えますな。」

 

 

「本当にお上手ですね。」

 

 

ラスタル・エリオン、セブンスターズの一角であるエリオン家の現当主。ワイルドなままに残された髭と以下にも勇猛そうな顔つきは相手に威圧感と共に一種の安心感のようなものを与えていた。

 

 

会談中だというのに口説くような言葉回しからすると見た目に違わず豪快な性格の男なのだろうという印象を受けた。

 

 

「んでそっちの……仮面の人は……?顔の傷でもあるんだったら聞いちゃ悪いが」

 

 

「すまない。とある事情からか外す訳には行かずにこのままで失礼する。名はヴィダールという。」

 

 

「そうか、なら気にしないでおくぜ。んで天下の月外縁軌道統合艦隊の司令官様が俺達火星の一企業になんの御話があるんですかね?」

 

 

何処かニヒルっぽく口を開いたオルガ。ハッキリ言って自分達はギャラルホルンとはこれ以上関わる気はなかった。

 

 

マクギリスからの勧誘を蹴った上にMAはギャラルホルンの力を借りる事もなく討伐する事に成功し無用な貸しを作らずに済んだ。

 

 

「(MAの覚醒自体はギャラルホルンの責任なのだからこちらに非はないだろうな、だがMAを掘り出したのは此方だけど……。)」

 

 

火星内での経営も軌道に乗り始め仕事も良い感じに入るようになってきてカエデとイシガシが目指す真っ当の仕事だけで運営して行く鉄華団が形になろうとしている所だった。

そんなオルガにラスタルはニヤリと笑った。

 

 

「一企業とは謙遜をするな。君達は伝説的なガンダム・フレームを3機所有している上にあのMAを討伐しているという。

既にその戦力は火星ではトップと言えるだろう。

ギャラルホルンの火星支部も君達と真正面から戦っても勝つ事は難しいだろう」

 

 

「ラスタル・エリオン殿。ですが我々達はこの力を使ってどこかに攻め込む気はないのです。あくまで自衛や防衛の為なのでご了承下さい。」

 

 

「分かっている。イシガシ・ゴーラムくん。そして君達はマクギリス・ファリドからの誘いを蹴った。故に今こうして会いに来ているのだ」

 

 

瞬間的にカエデの瞳が鋭くなった。

マクギリスが鉄華団と繋がっていたのは公然の秘密のようになってはいるが火星の王に関する事は完全な機密な筈。

それを知っている上で会談の申し出をしたという事はこちらも何かがあるという事になるだろう。

 

 

「それで私達に何を望む?ラスタル・エリオン殿。」

 

 

「そうだな。面倒な事な言い回しや理由は退屈だろうからな。ならば率直に言うとしよう。

我々月外縁軌道統合艦隊は君達鉄華団と協定を結びたいのだ。

 

 

その内容はアリアンロッドの火星圏及び地球との境における案内役兼顧問を鉄華団に委託したい」

 

 

「「「……はいっ!?」」」

 

 

思わず変な声を出したオルガとカエデとイシガシ。

思わず木星までぶっ飛びそうになるほどの衝撃に3人は顔を見合わせてしまった。

 

 

この男は今なんと言ったのだろうか!?鉄華団がアリアンロッドの案内役を請け負うと同時にその顧問になるという事だ。

 

 

「(前代未聞どころの話ではない。一体、我々に何のメリットがあるというのだろうか。)理由をお伺いしても?」

 

 

「あぁ、カエデくん。理由はいくつかあるのだ。

2年前より地球火星間では以前よりも宇宙海賊共が活発化している。

 

 

その影響はギャラルホルンが火星支部へと輸送する物資にまで手を出しているところもあってな。

 

 

唯の海賊なら対処の使用が出来るのだが奴らは阿頼耶識対応型のMSを大量に投入して来て被害も大きくなっているのだ。」

 

 

2年前と言えば鉄華団始まって依頼の大仕事でありクーデリアを地球へと送り届けるという仕事を行いそれを無事に達成した時の事を指されていたのだ。

 

 

「だが数なら上なんじゃねえのか?」

 

 

「数だけならな。しかし海賊共も馬鹿じゃない。

複数の組織が手を組み戦力確保した上で阿頼耶識対応型MSを大量投入されては幾ら数で上回っても押され気味になるのだ。」

 

 

そう言われると確かに納得できる所がある。

自分達は正にそれをやってのけていたのだからしかも自分達の場合は戦力は少なかったのにその乗り手が全員腕が良かった為に数で圧倒されても盛り返し押し返す事が出来ていた。

 

 

MSを操縦するのにタイムラグが発生せずに人間のような動きが出来る阿頼耶識対応型は普通のギャラルホルンのMS乗りからしたら厄介な事でこの上ないのであった。

 

 

「蛇の道は蛇、茨の道は茨、阿頼耶識の強さを最も把握している者達に協力してもらうのが一番だと考えた結果が君達鉄華団にこの話を持ちかけたという訳だ」

 

 

「成程……詰る所それを受けた場合はギャラルホルンの輸送船を護衛に軍事演習の参加協力とかになるってことか?」

 

 

「その通りだ。カエデくん頭も切れるとはますます羨ましい。この件についてテイワズのトップ、マクマード・バリストンからは鉄華団の許可があれば良いと言われているのだ。」

 

 

「親父が!?」

 

 

「…手回しが早いですね…流石はマフィア。」

 

 

オルガが断ろうとした親父に確認して見ないという事を先に封じられてしまった。

加えてマクマードからは合法的な商売になるんだから良いだろうと加えてお前達が表に出て動けば裏に輸送依頼が多くなって利益が大きいとの事だった。

 

 

「……」

 

 

「勿論、鉄華団の案内役という便宜は通常の業務でも使っても構わない。民間企業が地球へと行きたいと言えばアリアドネを使用してもらって構わない」

 

 

「随分と高待遇過ぎないか?ラスタル・エリオン殿」

 

 

「あぁ、裏があるとしか思えない」

 

 

「……フッ、流石に分かるか」

 

 

やはり何かあるかとオルガは身体を硬くした。

 

 

「来る時に備えた布石とでも言えば良いかな。近々起こる大きな戦いに備えて鉄華団にはアリアンロッド側に回って貰いたいのだ。」

 

 

「でかい戦い……?」

 

 

「それはどういうことでしょう?」

 

 

「あぁ、ギャラルホルンを…いや地球と火星を巻き込んだ大きな戦いになるだろう。その為にだ。」

 

 

それを聞いてカエデが真っ先に連想したのはマクギリス、あの男の事だった。

常々話していたギャラルホルン改革の話、腐敗したギャラルホルンを変えたいというあの男が出てきた。

 

 

しかしこうしてアリアンロッドの司令官が出てきている以上マクギリスが何か大きな事を起こすのだろうというのは明らかだった。間違い無い事なのだろう。

 

 

「俺達は、鉄華団は降りかかってきた火の粉を払う為に戦う。それで良いか」

 

 

「十分だ!ではこれで成立だな、オルガ・イツカ団長、相談役カエデ・ビットウェイ・オズロック、相談役補佐イシガシ・ゴーラム」

 

 

満足げに笑いながら豪快な笑みを浮かべるラスタル。

先程まで冷徹な武人のようだったのに陽気なおっさんのように見えてオルガは若干この男の事が分からなくなってきたが決めた。

自分達は真っ当になって平和に暮らしていく為にアリアンロッドと組むと…。

 

 

「あぁ、宜しく頼むぜラスタル・エリオン」

 

 

「よろしく頼みたい、ラスタル・エリオン殿」

 

 

「よろしくお願い致します、ラスタル・エリオン殿」

 

 

「うむ。では後日火星の鉄華団本部を訪ねよう。部下を連れていこう。そこで我々の協定を祝って焼肉パーティでもしよう」

 

 

「肉か……良いな、久しぶりに皆が喜ぶだろう」

 

 

「ヴィダールお前も強制参加だ!その仮面外せよ!!」

 

 

「いや、この仮面のままで出させてもらう」

 

 

「ですが食べられるのですか?」

 

 

「無問題だ。この仮面は口元の部分がスライドして開くようになっているからな」

 

 

「何だよ!その無駄なギミック!?」

 

 

本来とは別の道を進む事になった鉄華団だがオルガに後悔はなかった。きっとこれが家族を真っ当な仕事をする鉄華団に導いてやれる道だと信じている。

そう思いながら握手をするラスタルの手を強く握り返した。

 

 

「しかし、アリアンロッドとの事実上の同盟……よくもまぁ此処まで来たって感じだ。あの頃よりは…。」

 

 

「鉄華団が発足してまだ3年も経っていないだろう?それになのに此処までの急成長、ハッキリ言って傭兵団イクサルの代表としては羨ましいものがあるな」

 

 

「ですがフォボス、貴方だって鉄華団お抱えの傭兵団イクサル、ハーフメタルの採掘場は共同経営なんだからそっちも十分美味しいでしょう。」

 

 

「あぁ、事実ギャンブルに傭兵事業よりも儲かっているな」

 

 

カエデの執務室にて先日のラスタルとの会談の結果によって出来上がった鉄華団の成り上がりに付いて話し合うカエデとイシガシとフォボスの3人。

 

 

鉄華団だけではなくテイワズそのものを深くまで潤していく結果となり鉄華団のテイワズ内の評価が上がっていった。

他の組織からの妬みや悪意は更に大きくなっていく事だろうがその辺りの対処になれているフォボスも動いているので下手な手は取れないのだ。

 

 

「それとラスタル殿達が今回の事を祝って鉄華団の本部に顔を出して友好を深める為にやるパーティをやるがお前も出るか?」

 

 

「……すまないがその時は傭兵団イクサルの皆はギャンブル事情や傭兵団について会合があってな。恐らく俺以外の連中は出れないだろうな。」

 

 

「なんで貴方は出れるのですか?代表なのでは?フォボス」

 

 

「……ギャンブルにおいて俺はカモにしかならんからだそうだと団員が言っていた。」

 

 

「大穴ばかり賭けるからカモにされるのだ。昔ならば近づく者を破壊していたのにな。」

 

 

「そうだったな。」

 

 

「事務作業も上手くなっていましたから相当にファラムに仕込まれたのでしょうね?」

 

 

「良く分かったな。姫君はお転婆姫で上の貴族共は俺達の事を敵視していたからな。暗殺されても気にしない。元々そのつもりで"オズロック"お前の作戦に乗ったのだから。」

 

 

「そうだな、それにいまは私の事はカエデと呼べと言っているぞ。オズロックとは呼ぶな。」

 

 

実際、フォボスは経営者としては非常にやり手ではあるがギャンブルの一点に限っては全くもって駄目。

何でもの大穴の分の悪い賭けばかりをするので事業は成長するが自分自身は負け続けているという奇妙な事になっていた。

 

 

その影響かギャンブル事業に関わって大負けでもしたら困るからという理由で傭兵団イクサルの団員達から除外される扱いを受けておりカエデにも借金をしているのが現状であった。

 

 

「それでフォボス。何時返してくれるんだ?もうリアクター2基分位は貸しているが?」

 

 

「……」

 

 

「イシガシや傭兵団イクサルの売り上げで返すなよ?自分で働いた分の給金から出す事が条件だ。」

 

 

「貸しませんよ?フォボス」

 

 

「……分かっている」

 

 

フォボスは頭を抱えるがそのまま立ち上がった。

 

 

「そろそろ、アキレスD9が戻ってくる頃だ。見てくる」

 

 

「逃げたか……ナイトメアはどうなっていることやら」

 

 

「ジョーカーもですね」

 

 

鉄華団食堂

 

 

「ふぅ……これで受け入れ準備は完了だね」

 

 

汗を拭いながら空を見上げるビスケットと昭弘抜きのアルトランド兄弟達。

今日行われるアリアンロッドとの協定を祝してのパーティ。その為に外に発注し届いた道具を昌弘とデルマで運んだりとビスケットは忙しくも嬉しそうに働いていた。

 

 

漸く鉄華団の悲願とも言える真っ当な仕事のみでの事業に大きな一歩を踏み出せた。合法的なルートの使用許可に地球圏との大きなコネでこれを喜ばずにはいられない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

パーティ準備と生贄

 

 

 

「ビスケット!こっちは終わったよ!!」

 

 

「こっちも終わりましたよ。ビスケットさん」

 

 

「肉が大量にあるな。」

 

 

「ありがとうアトラ、昌弘、デルマ、でもまだ時間はあるんだし休んでも良いんだよ。」

 

 

「ううん!折角大人数のお客さんが来るんだから気合入れなくちゃ!よ~しいっぱい作るぞ~!!」

 

 

「楽しみにしてるよ。」

 

 

最近料理長に就任して更に腕前が上がってきたアトラは張り切りながらバーベキューパーティ(三日月がバーベキューしたいと言ったので)の付け合わせなどの準備をする為に傍にいたクーデリアと共に食堂へと駆け込んでいった。

 

 

今までなかった大人数のお客さんというのが何か掻き立てるものがあるらしい。

 

 

「さぁ、もう一頑張りするよ!!昌弘、デルマ!」

 

 

「「はい!!」」

 

 

その日の夜

鉄華団本部の野外

 

 

「さてと、今日のこの日!我々アリアンロッドは鉄華団との協定を迎えることになった。

日増しに増加する阿頼耶識対応型のMSを大量投入する海賊に対抗する為の事だ。

 

 

知っての通り彼らは少年達だが!だからと言って彼らは我々にとって重要な立場にある人物達であり来る日の友人達でもあるのだ!!」

 

 

「そうだ、お前らも思うところあるだろうが鉄華団はこれでアリアンロッドから正式な案内役を任された。その期待に応えるだけの活躍をする!!」

 

 

「おぉ!頼もしい者だ。では本日は無礼講だ!お前達も鉄華団の皆も好きなだけ飲み食いをして絆を深めようではないか!!」

 

 

「あぁ、んじゃ乾杯!!」

 

 

「「「「乾杯!!!!」」」」

 

 

鉄華団本部の野外ではあちこちから肉の焼ける匂いと煙が天へと向かって伸びていた。

準備されている鉄板の上ではジュウジュウと肉が油によって焼ける音が心地よく鳴り響きながら空腹に訴えかけていた。

 

 

「焼肉だけじゃないですよ。久しぶりに腕を振るいましたのでね。地球ではご飯と共に食べるのが鉄板のお好み焼きです!」

 

 

「おいおい!イシガシ兄さんが久しぶりにお好み焼きを作るってよ!?」

 

 

「マジかよ!早く行かねえと直ぐになくなっちまうじゃねぇか!?」

 

 

イシガシの隣ではカエデが和服姿でイシガシの店に来たお客に緑茶と豚汁を差し入れていた。

肉に負けじと熱々の鉄板にて調理を開始したイシガシはお好み焼きと大盛りのご飯を提供していた。

 

 

CGS時代から稀に出していた人気メニューであり皆に大人気である。

そして経営が安定している今では大量の肉に新鮮な野菜まで入っているのでその旨さも倍増していた。

 

 

その為に三日月を始めとしたメンバーが殺到して行くのを見たジュリエッタを筆頭にアリアンロッドのメンバーも自分達もと駆け出して行った。

 

 

「イシガシ兄さん、今日のは随分肉が多いね」

 

 

「えぇ、バーベキューに負けないように肉も新鮮な野菜も山盛りなので大量に出来ますよ。」

 

 

「あとでカエデ兄さんの豚汁も食べに行こう。」

 

 

「えぇ、ちゃんと飲み物も飲むんですよ。喉に詰まらないように気を付けるんですよ。」

 

 

「分かってるよ。イシガシ兄さん(カエデ兄さんの料理久しぶりだから楽しみだな…)」

 

 

「(ゴクッ……)美味しいのですか?お好み焼きと豚汁というのは…」

 

 

三日月と同じく最前線にいるジュリエッタが思わず喉を鳴らしながらそう聞いてきた。

アリアンロッドのラスタルが目を掛けているMSのパイロットと聞いたがそれだけではなく食欲旺盛な少女とも聞いた。

 

 

今回は鉄華団の腕白達だけではなくアリアンロッドの大人達までいるので気合を入れて作られなければならなかった。

食べた事が無いが思わずソースが焦げる匂いに誘われてきたジュリエッタに三日月が応えた。

 

 

「当然だよ、カエデ兄さんとイシガシ兄さんの作る豚汁とお好み焼きは世界で一番美味いよ」

 

 

「世界で、一番……是非食べたいです!!山盛りでお願いします!!」

 

 

「カエデ兄さん、イシガシ兄さん!!俺は2つとも激山盛りで」

 

 

「あぁ、分かっているからそんなに急いで食うな。昭弘、昌弘、シノ…まだ沢山あるからな。」

 

 

「「無理」」

 

 

「カエデ兄さんの豚汁は最高だぜ!!おかわり!」

 

 

カエデは大きい鍋に手にはお玉を持ってお椀に豚汁を入れて差し入れていた。

野外に出来た椅子に座りながらカエデの料理を食べて即答した昭弘と昌弘の兄弟とおかわりをする為に行列が出来てる列に並ぶシノ。

 

 

「いま出来ますから少し待ってて下さいね」

 

 

新たにソースを熱せられた鉄板へと掛けると大きな音を立てながらソースが焦げながら面に深みを与えて行った。

 

 

「出来ましたよ!好きなだけ食べて下さい」

 

 

「こ、これがお好み焼き……!?このモチモチとして野菜を包むコクのあるソースの香ばしさにジューシーな肉の旨みのそれを上回っているですって!!?それにタレをご飯に付けても美味しいなんてこんな食べ物があるのですか!!?」

 

 

「アンタ分かってるじゃん。これがイシガシ兄さんのお好み焼きの美味さ。

それにカエデ兄さんの豚汁は肉の旨味や色んな野菜が味わえて身体がポカポカするんだよ。

お好み焼きにはこのからしマヨネーズかけるともっと美味くなるよ。はい、豚汁も飲んでみなよ。」

 

 

「では貰います!!?っっ!!?な、何ですかこれは!?辛さが味を引き締めてまろやかになってるですって!?それに豚汁は本当に身体がポカポカして来て美味しいです!!」

 

 

「……アンタ分かるじゃん」

 

 

「……貴方こそ、こんな美味しい食べ方を教えてくださって感謝致します。アリアンロッド所属のMSパイロット、ジュリエッタ・ジュリスと申します。仲良くしましょう」

 

 

「鉄華団のMSパイロット、三日月・オーガス。よろしく」

 

 

なにやら食事を通じて意気投合してしまった三日月とジュリエッタは互いに固く握手を結ぶと次の瞬間にはガツガツと貪欲にお好み焼きと大盛りのご飯に豚汁を貪り始めた。

 

 

「はははっ!良く食うじゃないか鉄華団の小僧共!!ほらそこが焼けているぞ!もっと食え存分に食え!」

 

 

「おう!任せてくれよ。ラスタルのおっさん!」

 

 

「ふむ……この流石美食家としても名を轟かせているエリオン公だ。肉のチョイスも抜群且つこの自家製のタレも良い。」

 

 

「仮面の兄ちゃん!すげぇそれ口の部分開くんだ!?しかもなんか開閉速度がくそ速ぇんだけど!?」

 

 

「なんでそんな機能あるのか分からないけどカッコ良いね!!」

 

 

「ふふん、そうだろ!中々にカッコ良いだろう?」

 

 

「「カッコ良い!!」」

 

 

アリアンロッドの制服の袖を捲くりながら鍛えられた筋肉を露出させた腕でトングを持ち更に肉を焼いていくラスタル・エリオン。

 

 

地球のギャラルホルン、その中枢をなすセブンスターズの一角でありアリアンロッドの司令官が自ら焼肉奉行をこなしながら鉄華団とアリアンロッド双方に肉を振舞っている姿は如何にもシュールであった。

 

 

何も知らない人間が見たら近場の気の良いおっさんが焼肉奉行を引き受けているようにしか見えないのだ。

 

 

「この鉄華団のお嬢ちゃんが漬けたキムチとケバブが凄い美味いぞ!?」

 

 

「おぉ!マジだ!?しかもチリソースとヨーグルトソースの2種類あるだと!?」

 

 

「しかもキムチに紛れている火星ヤシが更に味を深めて更にあとから辛さが来るだと!?ケバブはどっちも食べるぞ!お嬢ちゃん、ケバブを2つ追加だ!」

 

 

「はい!これがクーデリアさんとの共同開発した火星ヤシ入りキムチと鉄華団の皆からも人気メニューのケバブです。

 

 

辛いチリソースとサッパリとしたヨーグルトソースがあるので好きな方で食べて下さい!!」

 

 

アトラもクーデリアと共に作ったキムチと鉄華団に人気メニューのケバブを皆に振るまいながら給仕として調理人として慌しく動き回っていた。

しかし自分の作った料理が受け入れられて嬉しそうにしていた。

 

 

そんな中でオルガは熱々のお好み焼きを頬張りながらご飯と共に豚汁と緑茶を食べながら豪勢な食事を楽しんでいると焼肉奉行と豚汁と緑茶の奉行を部下とイシガシに一旦交代して食べる方に回ったラスタルとカエデが近づいてきた。

 

 

「オルガ団長、楽しんでるか?」

 

 

「ご覧の通りだ。満喫させてもらってるぞ」

 

 

「そうかそれは何よりだ」

 

 

「肉も美味かったぞ。流石に良い物をチョイスしたようだな。」

 

 

「同盟関係の者達に半端な物は出せないのでな。カエデくんの豚汁とイシガシくんのお好み焼きも中々に美味かったぞ」

 

 

「当たり前だ。こちらも半端な物は出せないからな」

 

 

隣に立ちながらビールを開けてぐいっと一気飲みするラスタルと両手で湯呑みを押さえて緑茶を飲むカエデをオルガは驚嘆の目で見た。

 

 

オルガはあれほどラスタル・エリオン見たいにぐいぐいと酒とカエデのように優雅に緑茶を飲めるのは得意ではないので自分からしたら畏敬の物のように映っていた。

 

 

「カエデ兄さん!イシガシ兄さんが呼んでたよ?一緒に行こう?」

 

 

「何言ってんだよ。カエデ兄さんは俺と一緒に行くんだよ!?」

 

 

「2人共、こんな時に喧嘩は駄目だろう?こら2人共!着物が伸びるからそんなに引っ張るな!急ぐことは無いだろ?オルガ、あとは頼んだ。」

 

 

「あぁ、カエデの兄貴!チビ共を頼む。」

 

 

カエデは年少組の子供2人に手を取られながらイシガシが店を開いている場所まで向かった時にオルガはラスタル・エリオンに話し掛けた。

 

 

「そうだ、アンタに一つ聞いてみたい事があった」

 

 

「何かな?」

 

 

「うちのカエデの兄貴がMA戦で一機のMSを助けたんだがそいつは俺達の作戦に割り込んでせっかく分断したMAとプルーマを合流させかねない攻撃をしたんだが俺達はその落とし前を付けたい。そいつどんな奴か知ってるか?」

 

 

それを聞いたラスタルはあぁ…っと思わず溜息をついたのだった。

ジュリエッタから報告を聞いたがそれは恐らく自分が後見人をしているイオクの事だろうと思う。あの無能は何をしてくれているんだと思う。

 

 

「……あぁ、知っている。此方でも処罰は与えているがお前達も気が済むまでやりたいだろう?」

 

 

「あぁ、そうだ。是非頼むぜ」

 

 

「分かった。ではそいつを2週間ほど鉄華団に預けよう。だが殺さない程度にイジるが良い。」

 

 

「助かるぜ、ラスタル・エリオン」

 

 

本人の知らぬ間にイオクの鉄華団の出向及び徹底的な扱きがされる事が決定した。

肝心の本人はMA戦時の行動が原因で謹慎処分とされているがそれ以上にMAの恐ろしさのせいで部屋に閉じこもってしまっているらしい。

それも何時までもという訳にも行かずに……イオクは鉄華団へと送り込まれる事になるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生贄の体験入団

 

 

鉄華団本部

 

 

「オラオラ!もっと気合入れて走れやがれってんだ!ちんたらしてっと倍増させっぞ!!」

 

 

「ク、クソ…こ、このイオク・クジャンがこんな火星の一企業の訓練で音を上げるなど有り得ない…!!」

 

 

「イオク様、もっとキリキリと走ってくださいませんか?もう周回に遅れが生じてますよ。それではお先に失礼します。」

 

 

「ま、まてジュリエッタ!私を見捨てるのか!?」

 

 

月外縁軌道統制統合艦隊、通称:アリアンロッドとの協定を結んだ鉄華団は火星と地球間における案内役兼顧問となった事により鉄華団の仕事はより真っ当な良い物へとなっていた。

 

 

アリアンロッドとの協定によって得られた信用は火星での地位を更に強固な物にしており火星では鉄華団に表だって文句を言うような連中を一掃していた。

 

 

その仕返しをしようにもアリアンロッドと通じてしまっている鉄華団に何かしようものなら即座にアリアンロッドにその事実が流れてしまうので結局何も出来ない事が発生していた。

 

 

急成長を続ける鉄華団を妬ましく思う連中から嫌がらせや奇襲などが問題となっていたのでそれがなくなった事に関してビスケットは大喜びしていた。

 

 

当初こそ未だ鉄華団を下に見るアリアンロッドとの人間との争いがあったがラスタルの懐刀と言われているジュリエッタが積極的に鉄華団との交流をしているのを見て自分の行いを見て改める事もしていた。

 

 

そんな鉄華団を潰そうと宇宙海賊達は徒党を組んでアリアンロッドの輸送船団を襲おうと躍起になるがそれらを潰す鉄華団も活躍して海賊達は歯痒い思いをしながら地球へと行く為にタービンズらの力を借りているという現実があってどうにも喜べない物があった。

 

 

「あぁっ……星が見えるぞ……」

 

 

「妙な事を言っているとシノさんにブッ飛ばされることになりますよ、イオク様」

 

 

「ジュリエッタ!?私はアリアンロッド所属でセブンスターズの人間だぞ!?」

 

 

「今は鉄華団の2週間の体験入団員ですよね?ラスタル様からも好きにしてくれて良いと言われてますから遠慮無しにやってきますよ、イオク様。

嫌だったらさっさとあと3週なので頑張ってきてください。でないと昼食を食べれませんよ」

 

 

そんな鉄華団にアリアンロッドの人間が出向して来ていたのだ。その人物とはイオク・クジャンとジュリエッタ・ジュリスであった。

 

 

元々はイオクのみであったのだが形だけではあるが護衛と連絡員として派遣されたジュリエッタだが本人は嫌々だったが鉄華団の美味しい食事の事を考えると悪くないと思っているらしい。

 

 

本来違う組織である筈なのにイオクが何故居るかと言えばMA迎撃戦においてそれを妨害するかのような攻撃を加えたイオクへの罰であった。

仇を討つなどと言いながらやったのはせっかく分断したMAとプルーマを再び合流させる事になりそうな危険な行為であった。

 

 

加えてそんな奴を助ける為に鉄華団にとっての兄貴分というべき存在であるカエデが傷ついてしまったのが一番許せない事であった。

そんなイオクへの罰を与える為にラスタルは鉄華団への2週間の出向を命じたのだ。

 

 

新たなに協定を結んだ組織との連携と友好を深める為に上の立場の物が率先してそれを実践するのだとラスタルから言われて意気揚々とイオクはやってきたが実際は怒りや恨みで今にも破裂しそうな場へ放り込まれただけだった。

出向してまだ3日、それなのにイオクはもうヘロヘロとなっていた。

 

 

「ゼエゼエ……」

 

 

「イオク様、もうへばっているんですか?午後からはMSの訓練だというのに暢気な物ですね」

 

 

「な、何故!お前はそんなに食欲があるのだ…!?」

 

 

「イオク様とは鍛え方が違いますから」

 

 

ちゃんとした正規訓練を受けているジュリエッタと違ってイオクはそのセブンスターズという圧倒的な名前によってアリアンロッドに入ってラスタルという"七光り"もあった為に一部隊の指揮官を任せられているがそれまでの過程が到底指揮官とは思えないような物なので肉体面も技術面も酷く未熟なのであった。

 

 

彼の機体であるレギンレイズの射撃仕様のカスタマイズも前に出したら直ぐに死にそうだからという理由からとジュリエッタは言っていた。

 

 

「三日月、今日のご飯は何ですか?」

 

 

「今日はケバブ。この間のパーティに出てたけど食べれなかったでしょ?鉄華団だと人気メニューなんだ」

 

 

「ケバブ……聞いた事がないですかきっと美味しいんでしょうね!」

 

 

「美味しいよ、きっとジュリエッタも気に入るよ」

 

 

食堂に入るとイオクに対して一斉にヘイトが集まる中にジュリエッタは無視して三日月に今日のメニューを聞いて一緒に食事を取りに行った。

 

 

イオクが早々に席に倒れこむように座ってゼエゼエと息を荒げているが鉄華団のメンバー全員、イオクの評価は最悪だがジュリエッタの評価は非常に高かった。

 

 

あのイオクの付き添いという事で全員警戒していたが普通のやり手のパイロットでなにより三日月とも仲が良いので全員が直ぐに打ち解けたのだ。

そんなジュリエッタはイオクの分も受け取り三日月と共に席に戻った。

 

 

「これがケバブですか……何やらサンドウィッチの一種のような感じですね」

 

 

「このソースを掛けるんだよ」

 

 

「2種類あるようですが…三日月、貴方のお勧めは何ですか?」

 

 

「赤い方のチリソース」

 

 

三日月のお勧めの赤い容器をジュリエッタは取りソースを掛けて頬張るとチリソースの辛味によって肉の旨みが高められた味に思わず感激して身体を震わせ三日月と硬い握手をした。

 

 

「三日月、貴方には感謝します。私は貴方という友人を持てた事を誇りに思います」

 

 

「やっぱり気が合うね。俺達」

 

 

そんな2人を他所にこっそりとヨーグルトソースを掛けて食べるイオクであったがこっちの方が美味いぞ!と大声を出してしまい三日月とジュリエッタから凄まじい眼光で睨み付けられて萎縮したまま食事をするのであった。

 

 

それを遠巻きに見つめているカエデは何とも言えない表情を浮かべるがオルガとフォボスにガードされていたてイシガシはイオクを睨んでいた。

 

 

「警戒を解くなとは言わないが少し離れてろ」

 

 

「「無理だ」」

 

 

「カエデ様、諦めて下さい。」

 

 

そのような事を話していると三日月とジュリエッタがカエデ達のテーブルに近付いてきた。

 

 

「どうした?三日月」

 

 

「ジュリエッタがカエデ兄さんに話があるって言うから連れて来たんだけど今良い?」

 

 

「あぁ、大丈夫だ。」

 

 

「失礼します、改めてアリアンロッド所属のMSパイロット、ジュリエッタ・ジュリスと申します。先日はMAの攻撃から彼処にいるイオク様を守って頂き感謝致します。本来ならば重い処罰を下す所をこのような訓練だけなど…」

 

 

「君もか、構わない。もう済んだことだ大した怪我もしてはいない。君が責任を負う必要も無いだろう。

アリアンロッド総司令官、ラスタル・エリオン殿からも謝罪をされたからな」

 

 

「ラスタル様から!?あっ、失礼しました。」

 

 

「ラスタル・エリオン殿から君は優秀なパイロットだと聞いていた。あのイオク・クシャンよりは期待しているさ。ジュリエッタ・ジュリス。」

 

 

「はい!勿論、期待していて下さい。三日月よりも戦果を挙げてみせますので!!」

 

 

「俺の方が戦果を挙げる予定だから観ててくれる?カエデ兄さん。」

 

 

「楽しみにしているぞ。2人共。」

 

 

「あと、すみません。貴方の事をお兄様とお呼びしても良いですか!?」

 

 

その言葉で食堂にいた全員はジュリエッタの方を見てイオクに至っては椅子から落ちていた。

 

 

「何処をどうすればそうなったのだ!?」

 

 

「実は先日にギャラルホルンで保管されていたとある映像をヴィダールに見せてもらったのがきっかけだったのです。」

 

 

その映像にはカエデの愛機ナイトメアが3体に分身していた映像だとジュリエッタは語った。

 

 

「その分身の映像を観てとても真似は出来ないMSの操縦だとひと目で分かりました。

だからこそ貴方を尊敬していますのでお兄様とお呼びしたいのです!!」

 

 

「尊敬されるのは良いが私のことをお兄様と呼ぶことをラスタル・エリオン殿は知っているのか?」

 

 

「ラスタル様は貴方が許可したら良いと返事を貰っていますので!」

 

 

「はぁ……分かった。許可しようだがあのイオク・クシャンから目を離さないのが条件だ。」

 

 

「はい!ありがとうございます。お兄様!」

 

 

ジュリエッタは嬉しそうに三日月を連れてイオクの元に向かうと思ったがケバブの方に向かった。

 

 

「良かったのか?カエデの兄貴。」

 

 

「仕方ないだろう。此処で断ったらラスタル・エリオン殿になんて言われるか分からないからな。それにお前達と歳は近い筈だから仲良く出来るだろう?」

 

 

「カエデの兄貴、無理しないでくれよ。」

 

 

「善処しよう。」

 

 

話に入らなかったイシガシとフォボスはずっとイオクの監視をしていたのだった。

その後、MSの訓練が始まったのだが……

 

 

「おい!クジャン!お前本当に一部隊の指揮官か!?全然なってねぇじゃねぇかよ!!基本から全部やり直しだ!!」

 

 

「な、何故!?私がこんな目に!?」

 

 

「大体、イオク様の自業自得です。三日月、次は私とお願いします」

 

 

「いいよ」

 

 

イオクが自分の駄目駄目さを全面的に押し出し徹底的に扱かれている中でジュリエッタは初めて扱う筈の獅電やパンドラを難なく使いこなして阿頼耶識無しの三日月と互角にやり合うという実力を発揮して鉄華団内での評価が更に上昇して年少組の子供達からもジュリ姉ちゃんと呼ばれるようになった。

 

 

「わ、私はこんな所で……(バタッ!!)」

 

 

「こんな所で寝るなんて良い度胸ね……来な!!模擬戦30本だ!!」

 

 

「さぁ、行くわよ!え~っと…ペニヤ・シャン!!」

 

 

「誰だ、それは!?」

 

 

「…イオク・クシャンですよ。ラフタさん」

 

 

「知らない、けどありがとう。イシガシくん」

 

 

MSの技術向上のために出向していたタービンズのアジーとラフタにも徹底的に扱かれてイシガシとのMSでは無く生身での模擬戦を行ったが徹底的にボコボコにされたイオクはグッスリと眠りについたがまだまだスケジュールは続きイオクは更なる地獄を見るのことであった。

 

 

月外縁軌道統制統合艦隊(別名:アリアンロッド)からやって来たイオクとそのお目付け役であるジュリエッタが鉄華団への体験入団をする事10日が過ぎた。

 

 

未だに扱きにひぃひぃ言いながら必死に身体を動かしているイオクに比べてジュリエッタは涼しい顔をしながら訓練を行い鉄華団の中でも人気が出ていたのだ。

 

 

「おい!ビスケット、アリアンロッドから送って貰った資料って何処にしまった!?」

 

 

「B-7だよ!急いでよオルガ!今度やる軍事演習の打ち合わせに必要な資料を作らないといけないんだからさ!もう鉄華団は小さな企業じゃないんだよ!?」

 

 

「分かってる!ビスケット!あぁ!!もうこんな時にカエデの兄貴とイシガシの兄貴もフォボスさんも戻ってきたMSで動けないなんて!!ったく今日はなんて日なんだよ!?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジャスレイ編
緊急事態


 

 

 

アリアンロッドから正式に移譲された権利によって協定を結んだ鉄華団はギャラルホルンと大きなパイプで繋がっている大企業へと成長していた。

 

 

しかし元は民兵組織でそれを運営しているのは子供達という事もあり経験もしていない事で大変な毎日を送っていたのだ。

 

 

「オルガくん、そこはこうするのが良いのよ。」

 

 

「団長さんよ、こっちは終わったぜ!次はどうすれば良いんだ?」

 

 

「早く終わらせて飯に行きましょうや!」

 

 

「あぁ、すんませんね。傭兵団イクサルの皆さん」

 

 

「「気にするなよ!!もう仲間みたいなもんじゃないか!!」」

 

 

そんな彼らをフォローして経営について必要な知識や技術を伝授して行くのはフォボスがトップを努めて現在は鉄華団と共にハーフメタルの管理採掘を行っている『傭兵団イクサル』の面々であった。

 

 

傭兵団イクサルの団員は全員、元ヒューマン・デブリであり差別意識などは皆が無に近くあっさりと鉄華団を受け入れて弟達が出来たと思って彼らとしても仕事を教えているから鉄華団からの受けも良く素直にオルガも助かっていた。

 

 

「よし、団長さん!飯を食いに行きましょうぜ!」

 

 

「今日はなんだっけ、ケバブじゃないよね?美味しいけど毎日は食べれないわ…」

 

 

「確かに美味いけど…食堂が殺伐とするからなぁ…」

 

 

「今日は地球では有名な和食とかいう奴らしいですけどね?俺は食べたことないですけど」

 

 

「げっ!?マジで?俺、魚苦手なんだけどなぁ…」

 

 

思い描いていたかのような日々で忙しく大変ながらも毎日毎日が充実して行っていた。

カエデとイシガシの目標だった武器を持つことの無い鉄華団に近付いていた。

 

 

戦いではなく真っ当な商売だけで皆を食わせていけて楽しく明るく過ごしていける鉄華団。

最近では兄貴分であるタービンズの方も景気が良く連絡をすると笑顔で名瀬が出迎えてくれる事にもかなりの嬉しさを抱くようになった。

 

 

「そういえば、団長さんって女とかいないの?」

 

 

「!いきなり何すか!?お、俺は女なんて別に…」

 

 

「そっか、まだ経験してないのか!!よしよしなら今晩一緒にどうだ?団長さん?」

 

 

「いいいっ!?か、勘弁してくださいよ!?」

 

 

「あんた達はフォボスと同い年で成人してるのに本当に馬鹿なんだから!青少年を穢すんじゃないの!!」

 

 

「「男は穢れてなんぼだろが!!」」

 

 

「そうなのね、あんた達は私の手によってそんなにも殺されたいのね?勿論、良いわよ。

団員はまだまだ居るからね…けど死んで生まれ変わってもフォボスに声を掛けられること無くてあのスラム街で生きて居たいならね。」

 

 

「「それだけは勘弁して!!マジでさぁ!?お前の言うことは洒落にならないから!?」」

 

 

「……オルガくんにビスケットくん、あいつらの言う事は本当に真に受けないでね?」

 

 

「「は、ははははっ……」」

 

 

様々な事が自分よりも経験豊富な彼らにからかわれる事もあるがそれもそれで悪くないと思っていた。

 

 

これが平穏な日常の1ページなんだと思って楽しんでいた…書き続けている団長日誌にも毎日こんな事が羅列され続けていた。

 

 

「シノ、例の坊ちゃんの様子はどうだ?」

 

 

「全然駄目だぜ、オルガ。まともな訓練受けて来なかったんだな。ありゃきっとアリアンロッドも持て余してただろうな。本当に同情しちまうぜ。

 

 

あいつの部下になった奴をよ…。それに引き換えてジュリエッタは良い腕してるけどよ」

 

 

「ミカとカエデの兄貴と同格だからな」

 

 

オルガはシノとそんな会話をしながらも食堂に付けば今日も皆の談笑と食事を貪る音と笑い声が廊下まで聞こえて来た。

今日も料理長であるアトラは大忙しだろうがアトラは楽しみながら仕事をしているのが分かった。

 

 

「オルガ、今日もお疲れ様でしたね。今日は地球での人気メニューのカツ丼ですよ。」

 

 

「カツドン?おぉっ!すげぇな。でけぇ肉が乗ってやがるな…!?」

 

 

「地球では戦いに勝つという思いがあるらしいですからね。お代わりは自由ですからね。」

 

 

「おう!所でカエデの兄貴は?」

 

 

「カエデ様はご自分の執務室で書類整理中ですよ。私も終わり次第に向かうつもりですよ。」

 

 

最近また鉄華団の調理チームに戻って来たイシガシがそう言うとオルガは料理をイシガシから受け取って三日月の隣に座った。

 

 

「おや、三日月。昼ご飯ですか?」

 

 

「よう、ミカ」

 

 

「あっ、イシガシ兄さん、オルガ。うん…今日の訓練は全部終わらせて新しいバルバトスの調整も終わって暇になった」

 

 

「そっかでどうだった?新しいバルバトスは?」

 

 

「なんか、凄くゴツくなったよ。カエデ兄さんとイシガシ兄さんのナイトメアとジョーカーは見てないけど凄いんだろうな」

 

 

「まぁ、確かにな」

 

 

歳星へと送り出され改修が施されたバルバトス、ナイトメア、ジョーカー、アキレスD9。

それらも帰って来たが今まで以上のパワーアップを遂げていた。

 

 

特にバルバトスは三日月とフォボスとイシガシが討伐したあのハシュマルをそのまま背中に背負っているかのパワーアップを遂げておりそれを見た時に全員がたまげたものだ。

 

 

「おぉ!うめぇなこれ……!!すげぇジューシーで本当に美味いぞ!!このカツ丼!」

 

 

「あぁ!どんどんお代わりするぞ!!」

 

 

「だなっ!!」

 

 

まるで競走でも始めるかのように同時にカツ丼をかき込んでいく2人は何処か兄弟のようにも見えた。

そんな時間を過ごしている中でヤマギが食堂に飛び込んでくるかのように走りこんできたのだ。

 

 

「イシガシ兄さん!団長!大変です!!」

 

 

「何事ですか!?」

 

 

「どうしたんだ!?ヤマギ!?」

 

 

「タ、タービンズから緊急連絡です!!カエデ兄さんが対応していますけど団長とイシガシ兄さんも団長室に来て下さい!!」

 

 

「分かりました。直ぐに向かいます!」

 

 

「兄貴から!?分かった。イシガシ兄さんと直ぐに部屋に戻る!」

 

 

イシガシはエプロンを抜いでアトラに食堂を任せてオルガは最後のカツを平らげると大急ぎで2人は団長室へと走り出した。

団長室に飛び込むとカエデと通信回線でモニターに映る名瀬の姿があった。

 

 

「兄貴!!」

 

 

「オルガか!」

 

 

「来たか。イシガシ、オルガ」

 

 

「カエデ様、ヤマギから緊急事態と聞きました。一体何か?」

 

 

「カエデの兄貴!タービンズで緊急連絡って聞いてすっ飛んできたんです!!兄貴、タービンズで何があったんですか!?」

 

 

「あぁ、カエデには少し話したんだが…ちとまずい事になったんだ。」

 

 

神妙な声の名瀬にオルガは自然と身体が緊張してしまったがカエデとイシガシに肩に手を乗せられて少しだけ緊張が解けた。

あの名瀬が此処まで声を硬くするなんて普段なら有り得ない事だったが一体何が起きたのだろうか。

 

 

「テイワズの元ナンバー2、ジャスレイ・ドノミコルスなんだが…そいつが面倒を起こしやがってな」

 

 

「ジャスレイとは確か昔に記憶喪失になってジャスレイの会社の大半は名瀬さんが手中にしたって話では無かったですか?」

 

 

「あぁ、イシガシの言う通りだ。だが最近になって記憶が戻ったらしくてな…。

あの野郎巧妙に手を回しやがってよ。

元JPTトラストの奴らを引き抜いて歳星から自分の船とMSを大量に奪って逃げやがった。しかも他の傘下が動けないように細工までしやがって…クソが…」

 

 

名瀬の声は強張ったままで酷く不快そうな声色をしていた。

 

 

「しかもあいつは他の海賊連中を束ねて新しいでかい勢力まで作ってやがったんだ!そいつらは遅かれ早かれ歳星に向かって来るだろうな」

 

 

「それは滅茶苦茶にヤバい話だな…」

 

 

「あぁ、カエデの言う通りなんだ…かなりやばい。今歳星にはまともな戦力は無いんだ。動けるのはタービンズを含めて少しの戦力しかない状態だ。オルガ、カエデ、2人には悪いが手を貸してもらえるか?」

 

 

「勿論です兄貴!!!」

 

 

「聞くまでも無いだろう、私達は知らない中では無いのだらな。困った時はお互い様だろう。」

 

 

「カエデ様、アリアンロッドにも声を掛けてはいかがでしょうか?その為に同盟関係なのですから」

 

 

「流石だな。気づいていたか…イシガシ」

 

 

「イシガシの兄貴、やっぱり頭が冴えてるんだな…。俺は焦りで忘れてたぜ…。」

 

 

「その悔しさを次の場に活かせば良い。フォボスにも連絡してこちら側の戦力に当てよう。」

 

 

カエデは自分達がアリアンロッドと協定を結んだのは大きな理由があった。それはギャラルホルンだろうが構わずに襲撃してくる海賊の存在だった。

 

 

ジャズレイが束ねているという勢力は殆どが海賊でギャラルホルンに対抗するために手を結んでいるような物なのだ。

ならばこれを一気に殲滅する為だったらきっとアリアンロッド総司令官、ラスタル・エリオンならば手を貸してくれるだろう。

それをオルガが名瀬にいうと彼は愉快そうに笑った。

 

 

「そりゃ良いな!オルガ、イシガシ、お前達良い事を考えるじゃねえか.」

 

 

「んじゃ早速ラスタルに連絡を取ります!」

 

 

「イシガシ、食堂にいる全員にこのことを直ちに連絡してフォボスにも意思確認して来てくれ。」

 

 

「分かりました」

 

 

イシガシは話し終わると直ぐに食堂に向かい名瀬から伝えられたことを鉄華団とフォボスに伝えた。

オルガも直ぐにラスタル・エリオンに連絡すると上機嫌に笑いながら承諾して海賊を殲滅する為の一大作戦を計画する事となった。

 

 

因みにオルガとカエデが食堂に向かいイシガシが鉄華団内でジャスレイ討伐を発表した際に思い出したかのようにカエデが一言呟いた。

 

 

「思い出したぞ、ジャスレイ・ドノミコルス。私を鉄華団からヘットハンティングしようとしてきた奴だったな。当時はそんなことをバカバカしいと思い無視していたがな」

 

 

とカエデが言った結果、鉄華団全体から殺意が染み出して異常なまでに士気が高まった。

 

 

「言わない方が良かったな。」

 

 

「いえ、言ってくれて良かったです。カエデ様」

 

 

「ジャスレイ・ドノミコルス、奴は俺が突き貫く」

 

 

「俺がやるからよ、星の人」

 

 

鉄華団はジャスレイ・ドノミコルス討伐に向けて準備を急いだのだった。

とある船の部屋

 

 

「ははは!!こりゃすげぇぞこの機体!ロディ・フレームとは比べ物にするのも失礼なご機嫌な性能だ!!」

 

 

「パンドラってたかこのMS!?こんなのが17機ってマジで最高だな!!」

 

 

「ジャスレイさんよぉ、アンタの誘いを受けて正解だったぜ!!」

 

 

「全くだ。これだけの機体があれば歳星に攻め込んで其処を俺達の拠点にすることも出来るぜ!!」

 

 

周囲の人間達からの賞賛などの声を盛大に受けながら機嫌よく酒を飲む男の名は、ジャスレイ・ドノミコルスだった。

 

 

記憶を漸く取り戻して準備を整えた彼はテイワズから大量の機体を奪ってそれを自らの艦隊に詰め込むとそれらを手土産にするように連絡を取っていた大海賊同盟への身を寄せていたのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦前

 

 

 

鉄華団のアリアドネの糸の正式利用による仕事受け入れによって裏へのルートを使用しなければ行けない筈の一般的な人々も地球への仕事をする事が以前よりも容易くなっていた。

 

 

それらが使えない裏ルートも信用度が高く実力も確かなタービンズに依頼するようになっていた。

それらを襲えれば良いのだが高確率で鉄華団の一部が随伴するので危険が高すぎるからだ。

 

 

それらを避ける為に同盟でアリアンロッドの補給船団を襲うとしてもそれらにも鉄華団の護衛が付く事によって火星近海は仕事が出来ない状況になってきていたのだ。

 

 

そこへ救いの手を差し伸べたジャスレイ・ドノミコルスであったのだ。

彼の手によって現在テイワズのシステムや戦力は軒並みダウンしてしまっており復旧には長い時間が掛かるのは明白だった。

 

 

今ならばそこを襲撃する事で歳星の施設や産業を丸ごと手に入れ息を吹き返す事も夢ではなかった。

 

 

「これからテイワズは俺達大同盟、新世代の暗闇団のもんだ!!そして、俺達はもっともっと上へだ!!」

 

 

「「「「「おう~!!」」」」」

 

 

高らかに宣言するジャスレイに続くかのようにこの大同盟に身を寄せた小規模な海賊団達が声を上げた。

鉄華団によって示された阿頼耶識の優位性、それらを有効に使いアリアンロッドに対抗するために組まれた大船団。

 

 

それが新たな門出を迎えようとしていた。

これを祝わずして如何するのだろうかという気分なのだろう。アリアンロッドという巨大な鯨が取れずに小さなネズミからの搾取をする時は終わったのだ。

これからは自分達の時代が来るのだとジャスレイ・ドノミコルスは自意識過剰気味にそう笑っていた。

 

 

「―――っ!?お、おいなんだ!この警報は!?」

 

 

艦内に響き渡ったアラートにジャスレイは慌てて立ち上がったが上物の酒は床にぶちまけられた。

 

 

「エイハブウェーブの反応を検知!!っ!?た、大変です、ジャスレイ様!こちらに10隻以上の艦艇が接近してきます!!」

 

 

「んだとぉ!?」

 

 

その報告に酒の余韻など吹き跳んだジャスレイ・ドノミコルス。

間もなく歳星に着こうと言う時に……自分が再び返咲く時が目の前にまで来ているのに何故それらを逃さねばならないのか。

 

 

直ぐに第一戦闘配備が敷かれたが、大戦力を手に入れた筈の新世代の暗闇団は立ち向かう事が無駄であるとはジャスレイは理解していなかった。

床に撒かれた酒は、まるで噴出す自らの赤い血を暗示するかのように残り香を放ち続けいた。

 

 

「ラフタさんから連絡です。敵船団を発見、敵艦数27。ジャスレイの旗艦及び船も発見、これより帰還するとのこと以上です!団長」

 

 

「よし、全艦に通達しろ。総員第一戦闘配備!各自持ち場に着け!!ラフタさんのパンドラが帰還を確認したら各艦との連携を確認後に戦闘開始だ!!」

 

 

「アリアンロッド艦隊、了解!」

 

 

「傭兵団イクサル、承知した!」

 

 

「おう!オルガ、中々様になって来たじゃねえか?」

 

 

「カエデの兄貴とイシガシの兄貴、俺は2人のことを見て来ましたからね。まぁ、まだまだ程遠い存在ですけどね。」

 

 

兄貴分のからかいの言葉を受けてもオルガは鼻の下を擦りながらも指示を飛ばし続けた。

やがて戻ってきたラフタ専用のチューンナップがされているパンドラが見えていた。

 

 

元々搭乗していた百里と同様のカスタムが施されているラフタのパンドラ。

大出力スラスターと腕部の格納スペースを搭載したパンドラは通常戦闘だけではなく偵察や斥侯としても十分すぎる力を発揮する機体となっていたのだ。

 

 

ラフタのパンドラがハンマーヘッドに戻るのをオルガは確認すると手元のスイッチを押してイサリビとホタルビに通信を開いたのだ。それは団長が使用する専用回線だった。

 

 

「鉄華団全員に告げる。これから俺達はテイワズを裏切りやがったジャスレイ・ドノミコルスを潰すんだ。相手は約30隻の大艦隊。こちらはアリアンロッドに名瀬の兄貴のタービンズにフォボスさん達の傭兵団イクサルの船数を含めても17隻、半分ぐらいしかない」

 

 

普通に考えればこんな戦力差で戦闘を仕掛けるのは何て狂っているかもしれない。

拠点を防衛するのではなく攻め込もうとしている敵に対してこれから攻撃を仕掛けようとしているのだが仕掛けないのが無難且つ無意味な事だった。

だが鉄華団はしなければならなかった…それには確固たる理由があった。

 

 

「…だがやらねえとならねぇんだ!!あいつらはテイワズを潰そうとしてやがるけどな。

だがそんなこと俺達にはどうでも良いことだ!!

お前ら、俺はお前らが別にテイワズを助けようなんて考えなくて良いんだ!!」

 

 

それに思わず反応したのは通信士で元テイワズの人間だったらメリビットであった。

仮にもテイワズの傘下の企業である鉄華団の団長から出る言葉とはとても思えなかったからだ。だがその次の言葉を聞いて納得して思わず笑ってしまった。

 

 

「あのジャスレイ・ドノミコルスはまだ餓鬼だった俺達をここまで育ててくれた大切なカエデの兄貴を自分の所に来いとヘットハンティングしやがった!!でもカエデの兄貴はそれを断った!俺は素直に嬉しかったんだ。

 

 

カエデの兄貴は俺達のことを見てくれていると…だからこそ許せねぇんだ…。

 

 

カエデの兄貴にはそれからも俺達のことを見守って欲しいんだ!!だから俺達からカエデの兄貴を奪うとはどういう意味になるのか思い知らせる為に戦え!!!

良いか、てめぇら!団長命令だ!!あいつを"ジャスレイ・ドノミコルス"をぶっ潰せ!!」

 

 

オルガは回線を切ったが聞こえない筈の団員達の声が聞こえてくるような気がしたのだ。

当たり前だ!!と大声で返している声がオルガには聞こえて来た。

これもカエデの人徳というかカリスマ性というか人気が成せる業なのだろうと思う。

 

 

古参の団員だけではなく新参の団員達もそれを叫んでいたのだ。

厳しい訓練の中に咲く一輪の青い薔薇の花、それがカエデであった。

 

 

青い薔薇の花言葉は奇跡・神の祝福。

カエデが道を示す場所には危険もあったが奇跡もありその戦いが終わったあとは神の祝福のように頭を撫ぜてくれたりしてカエデの祝福は鉄華団の活力となって団員たちにやる気と力を与えていたのだ。

 

 

確実に鉄華団内で誰が支持を集めているかと言われたらカエデとイシガシと言われるだろう。

メリビットはカエデとイシガシの人気に呆れるような感心を寄せていた。

 

 

「団長さん、通信が入りましたよ。ハンマーヘッドとアテナからですがどうしますか?」

 

 

「名瀬の兄貴とフォボスさんからか?繋いでくれ」

 

 

言いたい事は言ったなと思っているオルガは通信を開いてもらうと通信の先からは大大爆笑している名瀬とアミダに小さく笑っているフォボス、そして双方のブリッジクルーの笑い声が聞こえて来た。

 

 

「オ、オルガ、お前言ってくれるなぁ…ぷくくく…ハハハッ!!やっぱりお前達、鉄華団は最高だ!」

 

 

「全くそれだから、あんたは坊やって言うのさ…アハハハハ!!」

 

 

「フッ、まぁ…お前たちらしくて安心したけどさ」

 

 

「えっ!えっ!?」

 

 

「オルガ、お前さっきの通信はハンマーヘッドとアテナ(フォボス達)にも丸聞こえだったんだぞ。ククククッ…」

 

 

オルガは思わず先程押したスイッチを見るとそれは全く別の通信スイッチであった。

幸いな事にアリアンロッド艦隊には聞かれていないようだが……。

 

 

「まぁ…良いさ、さぁ派手にやろうぜ。カエデに手を出そうとした奴への罰をな」

 

 

「ふっ、あぁ…そうだな。カエデは俺やスラム街にいた連中に取っても光みたいな奴だったからな。」

 

 

「どういうことだ?フォボス」

 

 

「カエデはスラム街では良く子供達の話し相手をしていたり死にそうになっている子供達にはパンを与えたりしていたな。

 

 

その姿を見た1人の子供が神だって言ったんだよ。

あいつは自分はそんな柄じゃないって言うが当時のスラム街に住んでいた奴らにとってはカエデは神の祝福だったって話さ。

 

 

さて、俺もアキレスD9に乗り込む準備を始める。オルガ、名瀬、ジャスレイ・ドノミコルスを潰すぞ。」

 

 

「「おう!!」」

 

 

まもなく一大決戦が始まろうとしていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

摘み取られる命の花

 

 

 

 

ジャスレイ・ドノミコルスよ、貴様の念仏は唱え終わったか。

鉄華団はお前を許さない、例え地獄の業火に焼かれる事になったとしてもそれだけでは不十分だ。

鉄華団はお前を逃さない。

 

 

……さあ、派手に散らして貰おうじゃないか。自らの命の華を墓前に手向ける為に…。

 

 

真空と闇が支配する宇宙の海にポツポツと命の花が摘み取らて赤い花びらを撒き散らしながら瞬時に花が咲き散って行いのだ。

鉄華団の主力MS、獅電とパンドラが散開していた。

 

 

パンドラと共に編隊を組む百練の砲門が開き銃撃を行っていた。獅電は所持している巨大な盾、パンドラは自らの軽装甲でそれらを容易く弾きながらもお返しと言わんばかりにタガーで相手の武器に狙いを絞って攻撃を行っていた。

 

 

武器が破壊される事で後退しようとする相手を食い破るように突撃する機体があった。

それは黄色をメインにペイントされたパンドラ、腕のタガーを胸部へと突き刺して内部から抉るように破壊して戦線に穴を開けると仲間と共に更に戦線を押し上げていた。

 

 

「二番隊行くぞぉ!!」

 

 

「おいおい!ライド遅いぜ、置いてくぜ!!」

 

 

「あっ!シノさんずりぃよ!?」

 

 

敵機が爆発したことで突破した戦線からさらに奥へと潜り込もうとしながらも残った敵へ機体を向けたライドを尻目にしてマゼンタの機体があった。

 

 

フラウロスこと流星号がくるりと回転するかのように変形すると両肩に装備されている『ショートバレルキャノン』を連射しだした。

ナノラミネートアーマーの防御があってもかなり脆弱なスラスター部へと砲撃を直撃させて三機のパンドラを撃墜した。

 

 

「邪魔」

 

 

「邪魔ですよ」

 

 

そこには流星号と同じくガンダム・フレームであり歳星にて改修を受けたパルバトスとジョーカーが居た。

機体を駆る三日月は以前よりも巨大となったメイスを振り下ろして隊長機の百錬を容易く粉砕したのだ。

ジョーカーもナイトメア程の分身とは行かないがかなりの速度で相手に突撃して赤黒い鎌で相手の命の花を摘み取っていた。

 

 

三日月は以前よりも遥かにパワーアップした相棒バルバトスの圧倒的な力に機嫌を良くしながらも更なる獲物を求めるように機体を動かすと隣にブルーとピンクにカラーリングされたパンドラが付いた。登録コードはアジーとアミダの物だった。

 

 

「やるじゃないか三日月、イシガシ。早速、新しいバルバトスとジョーカーを使いこなしてるのかい?」

 

 

「うん。カエデ兄さんのスターサファイア・ドライブのおかげで制御も楽だからね」

 

 

「私のジョーカーは姿は変わりませんが性能は段違いに上がっていますよ」

 

 

「やっぱりカエデくんは大天才だね。にしても新しいバルバトス凄いゴツいね。ジョーカーも性能は違うけど新しい名前あるんでしょ?なんて言うの?」

 

 

「えっと……何だっけ?イシガシ兄さん」

 

 

「はぁ、"バルバトス・ルナ・ルプス・レクス"

略して"狼の王"ですよ。

私のジョーカーの名は"ジョーカー・フィアー"

略して"恐怖の死神"です。」

 

 

「バルバトス、また、一段と長くなったねぇ……それに恐怖の死神とはヤバそうだね…」

 

 

思わず名前の長さと恐怖の死神、ジョーカーの名前に苦笑するアミダだが三日月もバルバトスの名前には大体同意見であった。

 

 

彼にとってバルバトスはバルバトスに変わりは無い為此処まで名前を変える意味があるのかと疑問を浮かべているがそこへ一機のMSが突っ込んできたがその機体は百里であった。

 

 

瞬時に反応した4機は機体を上昇させて回避するがバルバトスはサブアームを展開して百里の装甲にそれを引っ掛け捉えると腕を振るって投げ飛ばした。

 

 

「そぉら!!」

 

 

「ハァッ!!」

 

 

「ジョーカーの鎌を喰らいなさい!」

 

 

完璧なシンクロを見せながらパンドラのタガーとジョーカーの鎌が百里へと炸裂して完全にコクピットを潰された百里は沈黙した。

機体性能や反応速度では勝っているが純粋な操縦の技術ではあのタービンズの2人とイシガシ兄さんにはまだまだ勝てていないと三日月は思った。

 

 

「百里で此処まで接近するとかアホかい?せっかくの高機動を潰しかねないじゃないの」

 

 

「ラフタの百里に比べたら凄い楽だったよ」

 

 

「カエデ様のナイトメアより機動力が遅いですし機体の性能を理解していないのでしょうね。」

 

 

「だろうね、あの子の分身に比べたら機動力が遅い。それにラフタだったらもっと上手くやるだろうし今の機体だったらそうは行かないだろうけどね」

 

 

「さてと、三日月アタシらに付きあいなよ。一緒にあいつら潰すよ」

 

 

「分かりました」

 

 

「うん、いいよ」

 

 

快諾したイシガシと三日月はアミダとアジーに続くようにバルバトス翼を広げてイシガシは氷の上を滑るのかのように突撃していった。正しく死神と悪魔に相応しい活躍を周囲に轟かせながら…。

 

 

「おうらぁぁぁっっ!!」

 

 

そのバルバトスとジョーカーに負けず劣らずの活躍をするのはグシオンを駆る昭弘。

強化改修が施されたバルバトスほどではないがその怪力と4本の腕を巧みに使いながら相手を圧倒して時にはその怪腕で接近戦を仕掛けて来た敵機を掴むと力任せに装甲を引っぺがすとコンクピットをブロックごと引き抜いて戦闘不能にするという常識外れな力技を披露していた。

 

 

「昭弘!後ろに3機来るよ!」

 

 

「ラフタさん!後ろから4機、来てます!」

 

 

「ありがとう、昌弘くん。もうしつこいなぁ!!」

 

 

高速で戦場を引っ掻き回すラフタ専用のパンドラが背後に迫ってきた相手のパンドラとユーゴーへとライフルを向けるが昌弘の改修したマン・ロディのライフルと共に相手の機体を破壊する。

 

 

最中グシオンは両目を輝かせながら両腕で敵機の頭部を鷲掴みにすると出力を一気に上げて頭部を握りつぶすとそのまま残った1機へと投げつけハルバードを力任せに振り下ろして深い傷を刻み込んで爆発させた。

 

 

「ッシャア!!」

 

 

「兄貴、エグい破壊のやり方をするなよ。」

 

 

「うっわぁ!凄い馬鹿力ね…。

アタシのパンドラちゃんと昌弘くんのマン・ロディとは比べ物にならないなぁ……。

まぁ、いっか!ガンダム・フレームと比べるのが間違ってるからね。昭弘、昌弘くん、今度は敵の船を落としに行くよ!」

 

 

「おう、任せろ!!」

 

 

「はい!!」

 

 

全ての腕にライフルを持たせてラフタと昌弘と共に船へと突撃していく昭弘。

昌弘もマン・ロディの腕にライフルを持たせていた。

 

 

圧倒的な数のライフルによる支援砲撃を背後に受けてラフタは最高出力で一気に敵戦艦に肉薄すると腕部のタガーでエンジン部を破壊するとそのまま砲塔も破壊し僅か1分足らずで一隻の戦艦を戦闘航行不能へと落としいれた。

 

 

「よし!」

 

 

戦闘開始から僅か10分。

新世代の暗闇団は大きな損害を受けて始めているがそれでもまだギャラルホルンという戦力は加わっていなかったのだ。

これからジャスレイ・ドノミコルスと海賊共にとって一生記憶に残る地獄になるのだ。

 

 

黄金のジャスレイ号

戦闘開始から15分が経過しようとしている頃、新世代の暗闇団の旗艦となっている『黄金のジャスレイ号』には月々と凶報が舞い込んできていた。

 

 

「ユーゴ、パンドラ第3小隊隊長機撃墜されました!戦線を離脱です!!」

 

 

「百錬4、6番機戦闘不能!!撤退します!!」

 

 

「カス共が……!!!」

 

 

旗艦に据えられているジャスレイの艦には戦闘状況の全てが入ってくるが次々に入ってくるのは凶報ばかりだった。

次々と落とされ戦線から離れていく報告や撃墜報告、補給の要請などが鳴り止まない。

 

 

新世代の暗闇団は数こそ27隻という大艦隊だがその殆どは生きて行く為に致し方なく手を結んだ別々の組織の混成軍である為に統率などが取れる訳もなくバラバラに判断して行動を続けていた。

 

 

それぞれが海賊として名を上げて来た者ばかりというのが逆に仇となり被害に歯止めが利かない状況が続き続けていたのだ。

 

 

「叔父貴、援軍要請がまた来てやがる!!」

 

 

「クソ共が……何の為にパンドラを渡したと思ってやがんだ!!」

 

 

ジャスレイは怒りのままに拳を振り下ろすが状況は変わらない。

鉄華団、タービンズ、傭兵団イクサルは全く勢いを止めずに自分の喉笛を噛み千切ろうと迫り続けていた。

 

 

テイワズ内で戦闘能力の三強と言われる組織が手を取り合って自分達を討伐しようとしていた。

そしてそこに加わっているアリアンロッドの艦隊。

ジャスレイ・ドノミコルスは悪い夢でも見せられているかのような感覚に陥りそうだった。

 

 

「各艦に通達だ!!

ヒューマン・デブリ共を投入を開始!!こっちの方が数では勝ってるんだ。押し潰させろ!!」




新しい機体を紹介します。


操縦機体:ナイトメア・フィアー(ダンボール戦機 仙道ダイキの愛機をお借りしました。)


操縦者:カエデ・ビットウェイ・オズロック


基本武器:ディープフィアーと呼ばれる杖型のハンマーで色は濃い緑色と黄色の杖。


ナイトメア・フィアーの説明↓
見る者に言いようもない恐怖を与えそうな不気味な笑みをたたえたマスクが特徴的な機体でカラーリングもベース機から反転したような白基調のものになった。
外見は白と薄い緑色の斜め格子模様のマントにナイトメアとほとんど変わらないが内部構造は「SS」の技術が用いられており駆動系の可動域が大幅に改善されていた。
これによってより複雑な動きが可能となっており、攻撃の幅が広がっているのだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恐怖の悪夢、ナイトメア・フィアー

 

 

 

 

「向こうもそろそろ焦って来て子供達を使ってくる筈だな、オルガ」

 

 

「カエデの兄貴、頃合いって奴だな」

 

 

イサリビのブリッジにて戦局を見守っているオルガの隣で魔術師のパイロットスーツを着たカエデが言葉を零した。

 

 

向こうからしたら数で有利な筈なのに有利な所が劣勢な状況を覆したいだろう。

その為に阿頼耶識搭載型のMSを大量投入してくることはこちらでも分かっていた。

 

 

自分達は阿頼耶識の対応には慣れていることもあり化け物的な能力を持っている三日月との模擬戦を重ねている事で対阿頼耶識戦は問題ないがアリアンロッドからしたら大量に迫ってくる阿頼耶識は厄介な事は極まりないだろう。

 

 

「アリアンロッド艦隊に連絡、予定通りにMSは3機構成の小隊運用を基本にして欲しい。そこをパンドラや獅電が入らせろ!」

 

 

「此方アリアンロッド了解した、小隊運用を徹底させよう」

 

 

「あぁ、頼む。被害拡大を防ぐにはそうするのが一番だからな」

 

 

連絡を徹底させながらカエデはそろそろ自分もでるべきだと思ってブリッジを後にした。

通路では補給の為に戻ってきているパイロット達に食べさせる食事を持っていくクルーや補給が終わった事を確認して機体に向かっていくパイロット達が視界に入っていた。

 

 

彼らの傍を通りながら新しくなったナイトメアの元へと辿り着いたカエデは即座に機体の立ち上げを開始したのだ。

 

 

「新生ナイトメアの初の披露目だな。また私に力を貸してくれ…ナイトメア(フォボスの方も出撃したようだな…)」

 

 

MA戦にて大破してしまったナイトメア、歳星によってMAのパーツや新造の「SS」などによって新しい機体へと生まれ変わっていた。

 

 

今までは魔術師や悪夢を魅せし幽霊の魔術師などという言葉が似合う姿をしていたが今では恐怖と化した魔術師と言われるようになっていた。

ナイトメアは機嫌良さそうに機関を起動させて行くと今すぐに敵を叩かせろを言わんばかりに出力を上げていた。

 

 

「カエデ兄さん!出撃準備完了しました。何時でもどうぞ!!」

 

 

「カエデ・ビットウェイ・オズロック、ナイトメア・フィアー、相手に悪夢を魅せてやれ!!」

 

 

イサリビから射出され暗黒の宇宙の海へと解き放たれたナイトメア・フィアーは悪夢の如きマントを広げると一気に出力を高めて閃光の如き速度で戦場を駆け抜けていった。

 

 

以前のナイトメアであれば分身などの攻撃で限界であった筈の速度をあっさりと越えていったがまだまだ速度は上がっていた。

 

 

「くぅぅ!これは、想像以上の速度だ。」

 

 

白い閃光となって突き進んでいくナイトメア・フィアーの前に数機の敵のMSが躍り出て来た。

急激な速度で接近して来るナイトメア・フィアーを食い止める為に迫ってきたのだろうがそれを見て無意識なうちにカエデは唇を舐めた。

 

 

「行かせるなぁぁぁっ!!」

 

 

「止まれぇええ!!」

 

 

「恐怖の悪夢、その餌食になるが良い!!」

 

 

罵声を飛ばしながらライフルを乱射して此方を捉えようとして来るジャスレイの雇った海賊達。

しかしそれは超高速移動を行っているナイトメア・フィアーに掠る事もなかった。

 

 

敵は銃口を向け引き金を引いて弾丸が発射されるまでの短い間にナイトメア・フィアーはその射線上から姿を消したのだ。

捉えたかと思えばそれは残像であり攻撃を全く与える事が出来なかった。

 

 

「こ、攻撃!?何処から……があっ!!?」

 

 

その刹那、周囲から襲い掛かってくる弾丸がライフルを抉った。

敵はライフルを手放すが直後に腕の関節に閃光が突進して穿ち腕を爆炎に飲み込んだ。

 

 

周囲を警戒して全速力で逃げ去ろうとするがその初動すら今のナイトメア・フィアーにとっては隙だらけでしかなく手にした片手銃から放たれる弾丸は無慈悲にスラスター、メインカメラに関節といった急所を打ち抜いていき戦闘能力を奪い去って行った。

 

 

「……悪夢を魅せし幽霊の魔術師じゃない……あれは…恐怖の魔術師だ…!!」

 

 

気を失いかけたパイロットが最後に見たのは僅かに動きを止めた魔術師が瞬時に速度を上げて白い閃光となって去って行く姿であった。

 

 

その魔術師の内部ではカエデ自身も今までとは段違いの性能となったナイトメア・フィアーに驚きを感じずに入られなかった。

 

 

「新しいナイトメア……クククッ…では、暴れてやろうか…ナイトメア・フィアー。

お前の恐怖の悪夢と魔術を海賊共とジャスレイ・ドノミコルスに魅せようでは無いか!!」

 

 

その頃、黄金のジャスレイ号では…。

この日ほどジャスレイ・ドノミコルスは自分の行動を後悔したことはないだろう。

あとから悔やむことになるから後悔とはよく言ったものだと思いながらも目の前で繰り広げられる惨状に身体の至るところから汗が溢れ出した。

 

 

高い金を払って雇った海賊達に、取引先から買い付けた阿頼耶識付きのモビルスーツにヒューマン・デブリを乗り込ませて報復へとやってきたタービンズ、鉄華団、傭兵団イクサル、アリアンロッドを迎え撃つ筈だったのだが真っ先に現れた赤い瞳を光らせた白いモビルスーツによってその算段は崩されたのだ。

 

 

破壊力を高める為に「SS」の特殊宝石で作られた球体を埋め込んだ少し変わった形をしたメイスが的確にジャスレイの雇った海賊やヒューマン・デブリの乗るコンクピットを叩き潰していた。

 

 

機体名も乗り主も分からない不気味なMS機体にジャスレイ・ドノミコルスは声を荒らげながら味方に指示を下すが正確かつ無慈悲でナイトメア・フィアーの機体コントロールが可能になったカエデに勝てるはずなどなかった。

 

 

さらにその向こう側に阿頼耶識システムを搭載したパンドラが2機が漂っていた。

その2機は白いガンダム・フレームことナイトメア・フィアーほどの撃墜量でなくても巧みなコンビネーションでMSを沈めていた。

 

 

鉄華団、タービンズ、アリアンロッドのMSによってジャスレイ・ドノミコルスの部隊は既に3分の1が撃墜されたのだった。

さらにそんな状況に追い討ちをかけるかのように白い機体と黒い機体が黄金のジャスレイ号のレーダーを鳴らした。

 

 

「な、なんだ!? 増援か!?」

 

 

「い、いえこの反応は……!!」

 

 

こんな大変な事態にどこの誰がジャスレイ・ドノミコルスに味方するのだろうか。

現れたのは肩にあしらわれていた所属のマークを胸に移した鉄華団の悪魔、鉄華団と魔術師の死神と呼ばれる機体だった。

2体の機体、バルバトスとジョーカーは白い機体ナイトメア・フィアーの近くにいた敵を手に持つメイスと鎌で殴って斬り付けた。

 

 

「お待たせ…ってカエデ兄さんとナイトメアだよね?黒から白になったの?」

 

 

「お待たせ致しました。カエデ様」

 

 

「あぁ、三日月とイシガシか。テイワズの整備長に黒から白にカラーリングされたんだ。まぁ、性能はナイトメアの時より段違いだがな」

 

 

「それで、カエデ兄さん、ナイトメアの名前は?新しくなったんじゃないの?」

 

 

カエデはナイトメア・フィアーを動かして杖型のハンマーを肩に担ぐと三日月に改めて名乗った。

 

 

「悪夢を魅せし幽霊の魔術師、鉄華団の魔術師などと色んな異名を付けられて来たがこの機体の名は"ナイトメア・フィアー"恐怖の悪夢だ!!」

 

 

「バルバトスよりは短くて良かったね。俺もナイトメアの名前は覚えれそうだな…」

 

 

そう答えた三日月だが内心はさらに腕を上げたカエデの機体、ナイトメア・フィアーことに高揚していた。

 

 

「カエデ様、三日月、左側には昭弘とラフタさんと昌弘が居ますよ。ですが他にもこちらに近付いてくる2機が居ますがどうしますか?。」

 

 

「カエデ兄さん、あれって…ジュリエッタとフォボスさんの機体じゃないの?」

 

 

「そうみたいだな、三日月。行くぞ、イシガシ」

 

 

「はい、カエデ様」

 

 

イシガシと三日月がこれまた器用に敵を倒しながらも目線を向けた先には、昭弘のグシオン・リベイク・フルシティやラフタと昌弘が乗るパンドラやシノの"流星王"と名付けられたフラウロスやライドの獅電などの鉄華団が保有する戦力でも主力と呼べる者たちが目に映った。

 

 

さらにはタービンズの新型機である辟邪にアミダの操る小豆色のパンドラがいるのも見えた。

 

 

しかし、その中に余り見慣れない白く他の機体に比べては巨躯なMSとフォボスが乗っているテイワズの整備長に改造されたがイシガシ同様に性能だけを強化されたアキレスD9がいた。

 

 

「カエデお兄様、イシガシさん、フォボスさん、三日月、先日は鉄華団の体験入団でイオク様と共にお世話になりました。 お久しぶりですね。」

 

 

「待たせたな、3人共。アキレスD9 フォボス・クェーサー、ただいま戻った。」

 

 

「久しぶり、ジュリエッタ。星の人もおかえり」

 

 

「あぁ、ただいま。三日月」

 

 

「三日月、貴方と鍛錬した経験をこの戦いで見せつけますので負けませんよ!」

 

 

「うん、ジュリエッタ、俺も負けないよ。オルガとカエデ兄さんとイシガシ兄さんの為にね。」

 

 

よく見ればギャラルホルンの新型だと分かるその機体を改修したレギンレイズ・ブライドにはカエデを兄と呼んで慕っているジュリエッタ・ジュリスと生前カエデの側近で今は傭兵団イクサルの団長、フォボスがアキレスD9で乗り込んで来た。

 

 

「ジュリエッタ、フォボス。お前達は他の戦艦を潰していたのでは無いのか?」

 

 

「部下達に任せて来た、あいつらは俺と同様の力を持っている奴が多いが俺には届かない」

 

 

「ふふん、カエデお兄様のある所、妹分の私が居なくてはなりませんからね! さぁ、カエデお兄様をヘットハンティングしようとした下賎な輩に私が死より恐ろしい絶望を教えてあげますよ!」

 

 

「ジュリエッタ、抜け駆けはダメ。俺もそいつにはイラついているからってもう行っちゃった。速いな…」

 

 

一方的にそう言ってレギンレイズ・ブレイドのアームに取り付けられたブライドソードで畝らせて敵のMSへと切り込んでいくジュリエッタを見ながらカエデは顔をしかめる。

そんなジュリエッタの戦闘スタイルが少しだけカエデに似ているのを見て三日月は首を傾げた。

 

 

「なんで、ジュリエッタの戦闘スタイルがカエデ兄さんの戦闘スタイルに似てるの?」

 

 

「おそらくですが、ジュリエッタさんが前に言っていた映像でカエデ様の戦闘スタイルを真似をしようとしていたのでは?」

 

 

「それもあると思うがカエデのナイトメアの動きを再現することは普通にキツいと思うぞ。

かなりの機動力と攻撃力が無ければ他のMSで分身をやろうとすれば負荷が掛かり動かなくなることが多いらしいからな。」

 

 

「フォボスの言う通り、大体は合っている…前に機動力だけ似ていたパンドラを動かした時に分身を使おうとしたらパンドラのCPUが駄目になったからな。」

 

 

「既に、実践済みだったんだな」

 

 

「だかこのナイトメア・フィアーならば前のナイトメアよりも必殺ファンクションや機体の性能が強化されているからな。他のMSに遅れを取ることはない。」

 

 

「つまりは強いってことなんでしょ?」

 

 

「一言で言うならばそうだろう」

 

 

4人で話ながらも、敵が守る"黄金のジャスレイ号"を目指しながら念入りに頭部やコンクピットを潰すバルバトス、ナイトメア・フィアー、ジョーカー、アキレスD9に敵のパイロットは全滅していた。

 

 

それは味方も例外ではなくて昭弘は「相変わらずカエデの兄貴とイシガシの兄貴は敵に容赦ねぇな」と苦笑するが昌弘も「三日月さんとフォボスさんも強いけどカエデ兄さんとイシガシ兄さんは規格外だよ、分身とか残像を残して敵を倒すんだから」と言う。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

宇宙に咲いた鉄の華

 

 

 

「チクショウ!! なんであっち側にギャラルホルン最大級のアリアンロッドがいやがるんだよ!! おかしいだろうが!!」

 

 

黄金のジャスレイ号のレーダーが捕捉した戦艦には鉄華団とタービンズ以外にもギャラルホルンのアリアンロッド戦艦も含まれていた。

 

 

ジャスレイはその事に驚きと怒りを隠すことが出来ずに船員にどういうことか調べるように命令するがエイハブ・リアクターが戦闘状況に入って稼働している今はまともに情報収集などできる訳もなかった。

 

 

「お、叔父貴、もうやべぇっすよ! !鉄華団とタービンズだけならともかく…ギャラルホルン、アリアンロッドを相手にするのは……!」

 

 

「うるせぇ!!んなことは分かってんだよ!!」

 

 

何故、自分達の方に付いている筈だったギャラルホルンが鉄華団やタービンズの味方をしているのか分からない上にジャスレイ本人にとって不条理な現実に歯ぎしりをしながらこの状況を打開するために再びセブンスターズのイオク・クジャンに連絡をとった。

 

 

「叔父貴! 繋がりやした!」

 

 

「よし、モニターに映せ!」

 

 

藁にもすがる思いであったのだが繋がったのであればまだ此方には勝機はあるとジャスレイ・ドノミコルスは思った。

 

 

セブンスターズのイオク・クジャンは浅知恵で物事を深く考えずに自らの感情に任せる正義感が強いだけのお坊ちゃまとジャスレイは聞いていた。

 

 

それを利用してこちらが一方的に襲われているからなんとかしてくれと涙ながらの演技で訴えれば一時的にではあるが鉄華団とタービンズと停戦に持ち込める筈だと考えたのだ。

しかし、ジャスレイ・ドノミコルスにとってその考えは浅はかな思考だった。

 

 

そして、モニターに映し出されたのは、若い肌黒の男性ではなくて白い肌に貫禄のある髭を生やした目付きの鋭い男性でその姿をジャスレイ・ドノミコルスは知っていた。

 

 

「やぁ、君とは初めましてになるのかな?ジャスレイ・ドノミコルス」

 

 

ギャラルホルン最大級の部隊、アリアンロッドの頭領であるラスタル・エリオンは僅かに微笑みながらジャスレイに挨拶をするがされた方は「な、なんであんたが……」と開いた口が塞がらなかった。

 

 

「いや何、私が以前世話になった青年が歳星でとある男からうちに来いと脅迫じみたヘットハンティングをされ掛けたと聞いてね。

 

 

私の親友やジュリエッタも彼を心配していてね。

それで職権乱用とまでは行かないが少し乱暴な手段で彼を脅迫じみたヘットハンティングしようとした愚かな人間を探していたのだがまさかジャスレイ・ドノミコルス、君だったとはね」

 

 

笑みは崩さずとも射るような視線は変えずに画面越しにジャスレイを見つめるラスタルは端的にジャスレイの罪状を読み上げて言った。

殺人、他の企業や海賊、陵辱した相手からの窃盗や不正取引に今回の脅迫未遂など……ジャスレイ自身が隠し通したと思っていた罪をひとつ残らず読み上げたラスタル・エリオン。

 

 

「な、なんでそれを……知って…」

 

 

「私も少し乱暴な手段を使ったと言っただろう?

まぁ、私はジュリエッタが君を殴打した後に命と生活の保証を約束しただけなんだがね」

 

 

脅迫して金で釣るつもりはあったがジャスレイにジュリエッタが殴り掛かってしまったのはしっかりと首輪をつけていなかったラスタル本人の落ち度の為に少し乱暴な手段と表現した。

 

 

だが、ジャスレイからすれば部下に手を噛まれてこの状況に立たされている為。

この場にいない部下で自分の秘密を知っている者を思い浮かべるもラスタルの言葉でその者への憎悪の言葉は断ち切られた。

 

 

「安心したまえ、ジャスレイ・ドノミコルス。私は君に対して手出しはしない。

それが君の部下との約束だからね」

 

 

「え、えっ……じ、じゃあ……た、助け……」

 

 

「まぁ、私はだがね」

 

 

助けを呼べると雲間に見えた光。

ラスタルの言葉にそれを見出したジャスレイは数時間ぶりに笑顔を浮かべるも肩肘をつきながらラスタルがこぼした言葉に身を強ばらせた。

 

 

「それからジャスレイ・ドノミコルス、ジュリエッタは許してやって欲しい。

尊敬している者が脅迫じみたヘットハンティングされたとしたらジュリエッタがあのようなことなるのは当然だからね」

 

 

「いや、おい、あんた……さっきの私は……って、どういう……意味……?」

 

 

「あぁ、私は一切何もしないが他の者達が君に危害を加えることに関しては目を瞑ろうということだよ」

 

 

それだけ言い残して通信を切ったラスタルにジャスレイの身体に再び恐怖が襲い掛かった。

 

 

通信が切れて目の前に映し出されているのは、MSの繰り広げる戦いでその中にはあれだけ大勢いた自分のMSと海賊共のMSがもはや数えられる程にまで減っていたのだ。

 

 

そこでジャスレイは最後の頼みの綱としてテイワズの代表、マクマードに連絡して繋がった瞬間に安堵の顔を浮かべながらマクマードへと命乞いをおこなった。

 

 

テイワズの代表のアンタの力で宇宙ネズミ達と女子供でなり上がる卑怯者と宇宙ネズミで構成された傭兵団を止めてくれないかと…。

 

 

「ジャスレイ、そいつは無理だな。自分で撒いた種だろうが…自分でなんとかしろ」

 

 

だが、そんな都合の良い話は無くてマクマードは愛刀である太刀を磨きながらそう返すと…そういえばと思い出したようにマクマードは画面越しにジャスレイを睨みながら言葉を放った。

 

 

「おめぇみたいな犯罪者の、義理とはいえ父親とは虫唾が走るんでな。

親子の盃はこっちで割らせてもらったぜ。

あとのことは、カエデとイシガシとフォボスとオルガに任せてあるんでな。ジャスレイ、命乞いするなら俺じゃなくてあっちにするんだな」

 

 

そうして切られた電話にジャスレイは硬直するがマクマードが最後の最後にかけてくれた情けに欠けてジャスレイは恥と知りながらも鉄華団の船へと回線を繋いでオルガの姿が映った。

 

 

「……なんだお前か、ジャスレイ・ドノミコルス」

 

 

「なんだ!宇宙ネズミ!その口の利き方は!?」

 

 

「落ち着いてくだせぇ!叔父貴!」

 

 

「……ッ!」

 

 

不敬にも見下げながら口を開いたオルガにジャスレイは噛み付こうとするかすぐさま部下達に止められて言葉を飲み込むとオルガへと命乞いを始めた。

 

 

もう自分への復讐は済んだだろう。あの時鉄華団の相談役をヘットハンティングしたのを謝るからと…。

だから、もうやめないかと…。

いくらでも金を出すと…。しかし、オルガはつまらなさそうに息を吐いた。

 

 

「あぁ、わかったよ。"俺"はアンタを殺さねぇよ」

 

 

「お、おう、そうか……なんだよ話が……」

 

 

いや待て…。こいつはなんと言った? "俺"はだと? このパターンは先程もあったようなと汗の雫が割れた顎から落ちると同時に、黄金のジャスレイ号の甲板に白いMSと黒いMSと白いガンダム・フレームが降り立ったのだ。

その3機の手にはジャスレイが贔屓にしていた海賊共の操るナイトフレームのMSの頭部が握られていた。

 

 

「……恐怖の魔術師がわざわざ悪夢を魅せに来たぞ。ジャスレイ・ドノミコルス」

 

 

「……は、はぁ? お、おい、なんかの冗談だろ!?」

 

 

どうしてその声がするんだとジャスレイは自らの耳を疑った。

部下に調べさせたカエデ・ビットウェイ・オズロックの機体は"白いMSに白と薄い緑色の斜め格子模様のマントと杖型のハンマーとのようなMSに乗っている姿から悪夢を魅せし幽霊の魔術師と呼ばれている"というのがあるというのを聞いたことを思い出だした。

 

 

「ま、まさか、ほ、ほんとに……悪夢の…魔術…師……」

 

 

そんなはずはないと思いながらもジャスレイの心には確信が生まれていた。

こいつは間違いなくカエデ・ビットウェイ・オズロックであると…。

杖型のハンマーを振りかぶったナイトメア・フィアーを見上げながらジャスレイは最期の命乞いを行った。

 

 

「わ、分かった!!お前らがすげえのはよく分かったよ!お前らがテイワズに入るのも認めるから! 鉄華団がハーフメタル採掘場の権利を得るのも認める!

な、名瀬がテイワズの若頭になるのも認めるからよ!

だっ、だから!い、命だけは!」

 

 

「貴方の言い訳などあのイオク・クシャンと同等なのですね。聞く価値がありませんね。カエデ様」

 

 

「早く潰さなくて良いの?カエデ兄さん」

 

 

「カエデ、お前の許可さえあればこいつの戦艦を俺は叩き潰すだけだ」

 

 

ジャスレイを見た事がある者たちからすれば考えられないほどの清々しいほどに惨めで生に縋りつこうとする命乞いに通信を聞いていたオルガ、イシガシ、フォボス、三日月は哀れや怒りに思いながらこの後にオルガは彼を襲う衝撃音を聞かなくても良いようにと通信を切った。

 

 

そして、ジャスレイ・ドノミコルスへと言い渡された"悪夢を魅せし幽霊の魔術師"改めて"恐怖の魔術師"ナイトメア・フィアーからの判決は…。

 

 

「それを決めるのはジャスレイ・ドノミコルス、貴様ではない。我々だ。」

 

 

その時、ナイトメア・フィアーの左右に2機のMSとガンダム・フレームが並び立って全員は「SS」の十字架のペンダントを「SS」の認証システムに入れて必殺ファンクション発動の準備を開始した。

 

 

「冥土の土産に見せてやろう、ジャスレイ・ドノミコルス。ナイトメア・フィアー!必殺ファンクション!デスサイズハリケーン!!」

 

 

「貴方は私や他の人達から様々な物を奪おうとした罪をその命で償うが良い。ジョーカー・フィアー!必殺ファンクション!デスサイズハリケーン!!」

 

 

「俺は正直、お前のことは何も知らないが鉄華団に手を出したのが運の尽きだったようだな。アキレスD9!必殺ファンクション!ソードピット!!」

 

 

「俺はカエデ兄さん達みたいに話のは苦手だからバイバイ、あんたとは二度と合わないことを願ってるよ。バルバトス・ルナ・ルプス・レクス!必殺ファンクション!Ωエクスプロモージョン!!」

 

 

ナイトメア・フィアー、ジョーカー・フィアー、アキレスD9、バルバトス・ルナ・ルプス・レクス、5機の必殺ファンクションが黄金のジャスレイ号に炸裂して最期の最後に信じてきた者、利用してきた者達、自分が恨み妬みを向けた者達からの正当で真っ当な判決で黄金のジャスレイ号は血のように赤い鉄の華を宇宙に上げたのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄華団の辿り着いた場所

 

 

 

ジャスレイ・ドノミコルスと海賊共を討伐してから1週間が経っていた。その間はナイトメア・フィアーの整備や戦闘後の事務処理をオルガとイシガシとまとめ上げていたのだ。

 

 

「漸く、後処理が終わりそうだな」

 

 

「はい、お疲れ様でした。カエデ様。そういえばフォボスのことは聞きましたか?」

 

 

「あぁ、本人から聞いている。まだ我々鉄華団に手を出しそうな輩が居る可能性があるからしばらくは宇宙を漂って関係のある勢力を潰して来るとな…」

 

 

「えぇ、しかもハーフメタルの採掘に傭兵団の半分以上を鉄華団本部に置いて行くとは…」

 

 

「フォボスなりの信頼の証なのだろうな。まぁ、我々は生前からの仲間だからな」

 

 

「えぇ、そうですね。カエデ様、ではギャラルホルンの本部へと伺いますか?」

 

 

「あぁ、少し言いたいことがあるからな。」

 

 

これからの平和な世界を作る為にはマクギリス・ファリドとラスタル・エリオンの行動の1つに掛かっていたのだ。

 

 

しかし、マクギリス・ファリドに関してはカエデ、イシガシ、オルガ含む鉄華団とフォボス含む傭兵団イクサルの賛同が得られてない時点でラスタル・エリオンに勝つなんて夢の中の夢で無理なのだから。

 

 

ギャラルホルン本部

 

 

「おや?久しぶりだね。カエデ・ビットウェイ・オズロックくん、イシガシ・ゴーラムくん。鉄華団の相談役と補佐役の2人が来てくれるとは意外だな」

 

 

「そんなこと言うのならば、もっと意外そうな顔してくれませんかね?マクギリス・ファリド」

 

 

「はぁ、さっさと話し合いを終わらせて仕舞おうか。マクギリス・ファリド」

 

 

「2人して私の名前をフルネームで呼ぶのかい。

まぁ、良いだろう。それで?改めて私になんの用かね?」

 

 

「マクギリス・ファリド、単刀直入に聞くがアリアンロッド総司令官、ラスタル・エリオンとまだ争う気はあるのか?」

 

 

「……あるよ。けれど、カエデくんとイシガシくん、君達がこちらにつかない限りは無理そうだな。

2人が鉄華団を裏切らないと言う確信が私にはあるならね。」

 

 

「私とイシガシは鉄華団を裏切ることはこれからも来ることはない」

 

 

「えぇ、そしてマクギリス・ファリド、私とカエデ様が貴方に付くこともこれから先はないですよ」

 

 

しかし、私とイシガシがまた此処に来る時はヴィダール否ガエリオの行動次第だろう。

それにマクギリスからガエリオに喧嘩を売ることはないだろう。

 

 

「ならば、私とイシガシは此処で失礼しよう。」

 

 

「では、失礼致します。マクギリス・ファリド」

 

 

マクギリス・ファリドの秘書の痛い視線を受けながらカエデとイシガシはギャラルホルンのマクギリス・ファリドの部屋から退室した。

 

 

カエデとイシガシが出て行ったあとのマクギリス・ファリドの部屋では…。

 

 

「……なんだったのでしょうか、彼らは?」

 

 

マクギリスの秘書、石動の問いかけにマクギリスは明確に答える訳でもなくて使い慣れた微笑を浮かべて言葉を濁したのだ。

 

 

それで納得したわけではないのだろうが、こちらの意図を理解した秘書の石動は黙って「次の予定ですが」とタブレットを見ながら読み上げていった。

 

 

しかし、その声も今のマクギリス・ファリドには届いていなかった。

戦争のない平和な世界とまではいかないが生まれや育ちで性別に関係なく誰もが笑って暮らせる世界。

 

 

そんな世界がマクギリスの目標でたった1人の親友に誓った約束であった。アルミリアを幸せにするには、この腐ったギャラルホルンの社会を変革する必要があるとマクギリスは考えていた。

 

 

そのためには腐敗したギャラルホルンを変えて革命のシステムを1から作り替える必要があったのだ。

 

 

だが、敵対だけが変革の方法ではないことはカエデ・ビットウェイ・オズロックとイシガシ・ゴーラムに教えてもらった。

 

 

ラスタル・エリオンは目の上のたんこぶだが、彼との付き合い方さえ間違えなければこちらに仕掛けてくることもないだろう。

仕掛けてきたとしても何らかの形で鉄華団が介入してくるのだから意味が無いというのはラスタル・エリオン自身も既に理解しているだろう。

 

 

アグニカ・カイエルの愛機、ガンダム・バエルによる威光を示しての変革は残念なことに鉄華団の相談役と補佐役により却下されてしまった。

此処からは地道にアルミリアが幸せになれる世界を目指すしかないというわけだ。

 

 

けれども、2人との関係は継続して疎まれない程度にはせいぜい利用させてもらうとしよう。2人の周りには優秀な人材が揃いすぎているからな。

 

 

「それにしても、彼らはこれからどうするのかね」

 

 

「何か言いましたか?」

 

 

秘書の石動の問いかけに今度は「いや、何も無いよ」と答えてマクギリスは地平線から昇りゆく朝日を見ながら今日は早く帰ろうと仕事に手をつけたのだった。

 

 

その頃、2人はラスタル・エリオン陣営のアリアンロッドに来ていた。

着くと以前に会ったことあるような気がしてならないガラン・モッサと名乗る奴がいて話しかけて来た。

 

「やぁ、おつかれ。見事な活躍だったな」

 

 

「大したことではありませんでしたよ。所で…」

 

 

「ラスタル・エリオンに会いに来た。何処にいるか知っていたら教えろ」

 

 

「ん?ラスタルに会いに来たのか、ジュリエッタでは無くてか?」

 

 

カエデはため息を吐きながら答えを返した。

 

 

「ジュリエッタなら昨日に会ったら今日はあの愚か者の所に行って根性を鍛えて来ると言っていた」

 

 

「あぁ、ジュリエッタの奴…妙に張り切っていたのはその為か…ラスタルの奴なら整備場じゃないか?」

 

 

カエデとイシガシはガラン・モッサと共にアリアンロッドの整備場に向かった。

 

 

「ん? カエデくん、イシガシくんではないか!どうしたこんな所まで来て?」

 

 

レギンレイズやグレイズといったアリアンロッド艦隊が保有するMSがずらっと並べられていてそれを見上げながら話していたラスタル・エリオンがカエデとイシガシに気付きました。

 

 

それにつられてヴィダール否ガエリオもカエデとイシガシを振り向いた。

まぁ、本当はマクギリスの親友だったガエリオに用があったがカエデとイシガシとは画面越しで会っていたのだ。

要件が進まないのでカエデは改めてラスタル・エリオンにマクギリス・ファリドの話をした。

 

 

「なに?マクギリスに反乱や革命の動きはないだと?本当なのか?」

 

 

「えぇ、カエデ様と確かめましたから」

 

 

「ふむ……なるほど、君がマクギリスを止めてくれたわけか」

 

 

「あぁ、結果的には革命派の動きは分からんが…動いたとしても鉄華団には全てをねじ伏せる力の全てが集まってるので簡単に潰せるからな」

 

 

「待ってくれ!オズロック、それは事実なのか?」

 

 

「事実だ。ヴィダール、ガンダム・バエルの力だけで世界が変えれるなら戦争なんて起きることは無いのでは無いか?」

 

 

「ふっ、確かにそうだな。カエデ、イシガシよ」

 

 

カエデの話にラスタル・エリオンが失笑しているとヴィダールは「では、マクギリスの目的はなんだ?」とカエデとイシガシに訊いて来た。

 

 

「私は知るよしなどないので…」

 

 

「自分で訊けば良いだろう。ヴィダール」

 

 

そう話を返してカエデとイシガシの2人はアリアンロッドの陣営から出てイシガシが運転する車で鉄華団本部に向かった。

 

 

鉄華団本部はエドモントンの戦いで蒔苗の爺さんから得た報酬金や海賊退治による懸賞金。

格納庫などの一部施設の改修に加えて、桜農場やアドモス商会と提携して事業の拡大を行うなどして火星の産業に多く貢献していたのだ。

 

 

ハーフメタル採掘場の指揮も任された為に鉄華団と傭兵団イクサルの飛躍は止まる気はない…そんな飛躍を疎む者は必ずいるだろう。

 

 

けれども、今の鉄華団を此処まで団員達を引っ張ってきた団長、オルガ・イツカに彼の道を切り開いてきたMS遊撃隊長の三日月・オーガス。

鉄華団副団長のユージン・セブンスターク、参謀のビスケット・グリフォン、流星隊隊長のノルバ・シノ、筋肉隊隊長の昭弘・アルトランド、筋肉隊副隊長の昌弘・アルトランドなどの火星内でも知らない者など居ないくらいに有名となった。

 

 

CGS時代から教官として鉄華団の快進撃に貢献してきたカエデ・ビットウェイ・オズロックとイシガシ・ゴーラムはそんな彼らを冷静な判断能力・戦闘で支えてきた悪夢を魅せし幽霊の魔術師と魔術師の死神を擁する鉄華団に喧嘩を売ろうとする命知らずの企業は居ない筈だ。

 

 

噂では、セブンスターズ内でも巨大な兵力を持つアリアンロッド総司令のラスタル・エリオンや若いながらも地球外縁軌道統制統合艦隊を取り纏め洗練させたマクギリス・ファリドと繋がりがあった。

 

 

地球圏にまでその名を轟かせるマクマード・バリストンと革命の乙女と名高いクーデリア・藍那・バーンスタインなどと錚々たるメンバーとの繋がりがあるとされていた。

 

 

一度手を出せば死ぬまで追い詰められると言われているのだ。

最近は魔術師と死神にちょっかいをかけたその結果、とある企業の重役が揃って傭兵団イクサルに消されたという噂は既に周知の事実となって今や鉄華団に手を出そうとする者は皆無と言っても良かった。

 

 

そして、鉄華団をそこまでの仕上げた鉄華団の相談役と補佐役の帰還に…団長命令で団員全員で2人を迎えて他の団員よりも1歩前に出たオルガはすぅと息を吸い込んで言葉を紡いだ。

 

 

「これからも俺達を見守ってくれよな、そしてこれからも俺達を支えてくれよな、カエデの兄貴、イシガシの兄貴。」

 

 

オルガは団員を代表してアリアンロッドの陣営から帰って来たカエデとイシガシにそう言うと…言われた当人達は普段の無愛想な顔から僅かに表情を崩して微かに笑った。

 

 

「えぇ、これからもカエデ様と私は貴方達が道を間違えないように見守って続けますからね。オルガ、貴方にはまだまだ覚えて欲しいことがありますからね」

 

 

「あぁ、これから先をイシガシと共にいつまでも見守り続けよう。」

 

 

「そりゃねぇや…イシガシの兄貴。カエデの兄貴もありがとうな…」

 

 

カエデとイシガシの言葉に団員たちは口々に「おかえり!」や「見守ってくれ!」と言葉を発していた。

オルガはそんな温かい光景を見ながら微笑んでいると隣にこれまで連れ添ってきた相棒が立つ。

 

 

「ねぇ、オルガ」

 

 

「なんだ?ミカ」

 

 

「此処が俺達の辿り着くべき本当の居場所なの?」

 

 

「あぁ……そうさ」

 

 

ミカ、ビスケット、ユージン、昭弘、昌弘、シノ、おやっさん、メリビットさん、アトラ、ライド、ヤマギ、タカキ、ハッシュ、デイン、ザックがいるんだ。

地球に残っているビスケットの兄貴や昭弘と昌弘の義理の弟達。

 

 

「そして、カエデの兄貴、イシガシの兄貴が全員がいるこの場所が!!俺達鉄華団の辿り着くべき本当の居場所なんだ!」

 

 

きっと鉄華団にはこれからもっと多くの困難が襲いかかってくるだろう。

けれども、仲間達が居てまた困難なことが起きても今まで出会った人達の力を借りればきっとなんとかなると確信していた。

 

 

オルガにはそんな気がしていた。

無論、それは他の団員達も同じで三日月もまた火星ヤシを齧りながら「そうだね」とオルガの言うことに同意したのだ。

 

 

「何かあっても、カエデ兄さんとイシガシ兄さん達と考えれば大丈夫だよ。」

 

 

「……違いねぇな、ミカ」

 

 

そう言いながら顔を見合せた2人は大笑いした。

オルガはそれはもう高らかに…三日月もアトラですら見たことがないような楽しそうな笑顔で…。

 

 

それにつられてアトラが笑うとそれは周りの団員達にも伝線して大きなバカ笑いが生まれてカエデとイシガシもまた朗らかな笑顔で笑っていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピローグ

 

 

 

 

"鉄華団"決して散らない鉄の華の意味を込めてオルガ・イツカ団長が命名した少年兵達によって組織された民兵組織だ。

元は火星の民間警備会社「クリュセ・ガード・セキュリティ(略してCGS)」を前身としていた。

 

 

その中にいた参番組の少年兵達。

彼らは非正規兵と言う立場にある事でCGSの大人達に不当な扱いを受けて時として困難な任務に従事させられていたのだが少年兵だった彼らに転機とも言える時がやって来た。

 

 

CGSがクーデリア・藍那・バーンスタインの護衛任務を請け負ったのだ。

表向きはクーデリアからの依頼であったが裏ではクーデリアの父とCGS社長のマルバにそしてギャラルホルン火星支部の支部長との癒着があったのだがそれは長くなるので置いておこう。

 

 

ギャラルホルンの襲撃、その混乱から起こった会社幹部や正規部隊の逃走未遂を経てオルガ達がCGSにクーデターをしたことによって使えない大人達の駆逐を開始した。

 

 

反抗的な者はオルガの相棒である三日月・オーガスと三番組教官の1人でカエデ・ビットウェイ・オズロックの秘書であったイシガシ・ゴーラムによって射殺されて残りの一軍メンバーは退職金を持ってCGSから離れていった。

 

 

これによってオルガはCGS会社の実権を握った事で鉄華団を設立。

以降、クーデリアを地球に送り届けてその功績が買われてアーヴラウの軍事顧問となり地球支部を設立。

 

 

また宇宙海賊である夜明けの地平線団を壊滅させたことで経済圏同士の戦争の鎮圧、火星に眠っていたMAの討伐でアリアンロッドとの同盟関係やテイワズ幹部の起こした反乱も犠牲者を出すことも無く無事に終わらせたのだ。

 

 

もはや、火星どころか地球でも知らない人はいないという程にまで成長して少しづつ武器を取ることがない鉄華団を目指して行くことになる。

だが、入団者は続々と増える一方で彼らへと嫉妬の怨嗟を向ける者もいるのた。

 

 

しかし、誰一人として鉄華団に刃と牙を向ける者はいなかった。

何故ならば鉄華団には悪魔、魔術師、死神と同盟関係の傭兵団がいるのだ。

しかも、その魔術師のもう3つの異名は"悪夢を魅せし幽霊の魔術師"鉄華団の魔術師"恐怖の悪夢ノ魔術師"で死神の2つの異名は"魔術師の死神"鉄華団の死神"であった。

 

 

そして現在、一躍有名企業となった鉄華団本部のオフィスにて鉄華団副団長であるユージンは2人の男を探していた。

 

 

鉄華団の本部をオルガと共に束ねていた2人は経理と書類仕事や参謀の祖母の畑で色んな野菜を育てようとしたりしていたのだ。

 

 

2人は鉄華団にとっては兄のような人で有能な人材であることには変わりない為、鉄華団では2人に声を掛ける者や相談をしようとその姿を探す者も多いのだ。ユージン副団長もまたその1人であった。

 

 

「なぁ、シノ、カエデ兄さんとイシガシ兄さんはどこほっつき歩いているか知らないか?」

 

 

「あぁ、確かフォボスさんと三日月と海賊退治と賞金首退治だって聞いたぜ」

 

 

「またかよ……飽きないんだな…」

 

 

流星隊隊長であるノルバ・シノはユージン副団長からの問いかけに簡単に答えた。

 

 

鉄華団の魔術師、死神、悪魔は戦いが無くなったというのに経理や書類仕事が終わると暇だからという理由で鉄華団お抱えの傭兵団イクサル、代表フォボス・クェーサーと共に海賊退治と賞金首の居場所を突き止めては3機のMSで殴り込みに行っていた。

 

 

おかげで鉄華団は護衛任務や提携している桜農場や傭兵団イクサルと協力しているハーフメタル採掘場での収入以外にも大量のお金がわんさかと入ってきているのが現状だった。

 

 

「ったく、俺も行きたかったなー。流星王が出撃したのなんてもう半年前だぜ?」

 

 

流星王ことガンダム・フラウロスはジャスレイ討伐以降の出撃は無くて鉄華団の所有するMS保管庫に鎮座したままであった。

それはシノが新人教育を任されているからであまり手が空いていないことに起因しているからだ。

 

 

「イシガシ兄さんはカエデ兄さんに毎回何処でもついて行ってるよな。

それでイシガシ兄さんのことを見習ってハッシュも三日月に何処までも付いて行ってんだよ。

昭弘はラフタさんとイチャイチャしてるだろうしな。

タカキは妹のことで忙しそうだしなぁ……」

 

 

残りの人材でシノの代わりに新人教育を任せられるのはライドくらいなものでシノと交代制で行っているが最近の入団者には大人も交ざっている為に成長期途中で背の低いライドは舐められがちになるのだ。

 

 

「そういや、なんでユージンがカエデ兄さんとイシガシ兄さんを探してんだ?」

 

 

「あぁ、そのまぁ…また見合いの話がな……」

 

 

「またかよ、飽きねぇな」

 

 

鉄華団が火星で一躍成長を遂げた背景には教官兼鉄華団の相談役と相談役補佐という立場にいるカエデ・ビットウェイ・オズロック、イシガシ・ゴーラムの功績が大きいとされていた。

 

 

カエデとイシガシとの繋がりを持とうとする企業や個人は数多く存在しているのだ。

自分達の組織が大きくなったことで見聞を広めたユージンは手にした見合いを志願する女性達の名前や所属企業全てに見覚えがあった。

 

 

「この人おっぱいでけぇから良いんじゃねぇの?」

 

 

「兄さん達の趣味じゃないだろ?シノ、お前じゃないんだからさ…それにジュリエッタからも来てんだよ」

 

 

カエデのことを尊敬からお兄様と呼んで最近では何故かジュリエッタ自身から"フィアンセ"と名乗るようになってきたのだ。

ギャラルホルンでもトップの兵力を持つアリアンロッド総司令ラスタル・エリオンの直属の部下、ジュリエッタ・ジュリス。

 

 

「大変そうだな、カエデ兄さん。イシガシ兄さんにも来てんだろ?」

 

 

「あぁ、イシガシ兄さん自分に来てた見合い写真を見つけてはカエデ兄さんに送られて来た見合い写真と一緒に破いてゴミ箱に入れてた」

 

 

「マジかよ!勿体ねぇじゃん!?」

 

 

「それにジュリエッタ・ジュリスの見合い写真と紹介状付きでアリアンロッド総司令官、ラスタル・エリオンから来てたぞ」

 

 

鉄華団としては、ラスタル・エリオンは付き合いは余りないにしても是非ともパイプを作っておきたい相手ではあった。

しかし、ラスタルは鉄華団を懇意にしているマクギリスの政敵で両者と繋がりを持ってしまうとどちらも良い顔をしないだろうとユージンは思い至った。

 

 

「このおっさん、カエデ兄さんとイシガシ兄さんとは仲良いんだろ?」

 

 

「あぁ、少し前に高級店に行ったらしいぞ」

 

 

しかも、政敵であるマクギリス・ファリドとその秘書も連れて行ったらしくて行かなくて良かったと胸を撫で下ろしていたオルガの顔は記憶に新しかった。

 

 

なお、そのマクギリスも個人的にカエデとイシガシの力を欲しているのかは分からなかったが彼の女部下を見合い相手に出して来ていた。

 

 

一体このマクギリス・ファリドとは何者なのかと思うユージンだったがイシガシ兄さんに"大富豪で私に勝てたら教えてあげますよ"って言われていざ勝負したら何度も挑んでも負かされ続けてからはユージンは考えるのをやめたのだった。

 

 

火星近くの低軌道ステーション

 

 

「それで、カエデ兄さんとイシガシ兄さんはいつ結婚する気になるの?」

 

 

「…カエデ、イシガシ、お前達いつの間にそんな話が来てるんだ!?」

 

 

「しませんよ、三日月。」

 

 

「フォボス、お前は大袈裟だ。

鉄華団が大きくなって私とイシガシと結婚させて利益を得ようと考えている輩だろう。

それに私は結婚などはするつもりはない。」

 

 

「まぁ、カエデとイシガシはそうだろうな。俺も今の所は相手も居ないが…少し大変なことになってな…」

 

 

カエデ、イシガシ、三日月、フォボスは賞金首退治も終わってギャラルホルンへと身柄を渡して火星近くの低軌道ステーションで一泊することして4人は軽食を摂りながら雑談を交わしていた。

 

 

「星の人…何か悩んでない?」

 

 

「あぁ、テイワズのマクマードの親父からも見合い写真が大量に俺に来ているんだ。」

 

 

「なんでそんなに来ているんです?貴方はテイワズの代表になるつもりはないとマクマードさんに伝えた筈では無いのですか?」

 

 

「そうなんだけどな…」

 

 

そう、ジャスレイ・ドノミコルス討伐後にタービンズの頭領、名瀬・タービンと傭兵団イクサルの代表、フォボス・クェーサーの2人はテイワズの代表、マクマード・バリストンの元に呼ばれてたのだ。

 

 

その内容は次のテイワズの代表に付いて話をしていたのだが結果は名瀬の方からフォボスがテイワズの代表に相応しいと言い切ったのだ。

 

 

勿論、フォボスは断ったらしい。

理由は自分は傭兵団を率いて居るが歳はまだ若いから間違えることが多いので自分よりも経験があるタービンズの頭領、名瀬がテイワズの代表で良いと伝えた。

 

 

マクマードはその時は納得したがフォボス達、傭兵団イクサルが大型惑星間巡航船「歳星」を帰る度にマクマードは自身の部下に見合い写真を大量にフォボスに渡しているらしい。

 

 

それに嫌気を感じたフォボスはタービンズ頭領、名瀬の元にアキレスD9に乗り込んで名瀬にテイワズの代表になって欲しいと直談判した。

 

 

けれど名瀬本人も笑いながら「俺はお前と傭兵団イクサルをオルガと鉄華団同様に認めているんだ。

テイワズの代表になるのはお前で良い。

 

 

まぁ、昔からお前とは兄弟の盃を交わしたいと思っていたがテイワズの代表になるならそれは破棄だな。

これからも頼むぜ、未来のテイワズ代表殿」と言われたフォボスは落ち込み気味になってがそこに追い討ちが掛かったのだ。

 

 

名瀬の第一夫人、アミダからも「あんたがテイワズの代表になってジャスレイのように道を誤ったらMSで潰しに行く」と言われたそうだ。

 

 

「どうすれば良いんだ、カエデ、イシガシ、三日月。なんか良い案を出して欲しい」

 

 

「フォボス、貴方まさかその事を話して意見を貰う為に私達を海賊退治に呼んだのですね」

 

 

「それもあるが暇だったんだろ?

書類仕事はずっと椅子に座ってるだけだろう。

たまには気分転換も大切だ」

 

 

イシガシはフォボスの口から出たその回答に呆れていたが三日月は少しだけ表情を変えてからフォボスに向かって「…ありがとう」と言った。

 

 

「はぁ、いま此処に昭弘がいなくて良かったと私は思っているぞ」

 

 

「あぁ、名瀬から聞いたがラフタはタービンズを抜けたそうだな」

 

 

「えぇ、今では鉄華団で昭弘の補佐をしていますよ」

 

 

「でも、近くで見ていたら分かるけどラフタは昭弘のこと好きだよね。

昭弘本人は気付いてないのに昌弘達は気付いてラフタの手助けしてるらしいけどね」

 

 

昭弘は前回の賞金首狩りに参加していたのだが今回の賞金首狩りには参加しなかったのだ。

まぁ、此処で見合いの話やフォボスの話題を聞かせるよりは良かっただろうとカエデは思った。

 

 

「なんか…平和だね」

 

 

「平和なのは良いことですが海賊退治が少し減ることを祈りましょう」

 

 

「そこは俺達、鉄華団お抱えの傭兵団イクサルに任せて貰おうか!幾らでも蹴散らしてやろう」

 

 

「海賊狩りに大変になって私達を呼ばないことを願っているからな、フォボス」

 

 

「俺達に勝てる奴なんてそういないでしょ?」

 

 

「そうだな、三日月」

 

 

カエデは三日月の言葉に答えながら紅茶を飲んで低軌道ステーションからは火星が見えた…明日には降りる手筈になっていた。

 

 

「めんどくさいから取材をされて新聞に結婚はしないと代々的に報じた方は楽では無いか?」

 

 

「それはめんどくさい事になりますよ、カエデ様」

 

 

カエデはイシガシの言葉に笑いながら「冗談に決まっているだろう、真に受けるな」と呟いた。

 

 

生前は軍事国家、ファラム・オービアスによって愛すべき故郷、惑星「イクサル」を滅ぼされたことで復讐を決意したが別の地球出身の戦争も経験していない少年によって銀河を支配するとは出来なかった。

 

 

だが、戦いが終わって「存在抹消の刑」を言い渡された時に私はファラムの兵士に撃たれてあの世界を去った筈だった。

 

 

第2の人生は一言で云えば「波乱万丈」だった。

少年兵、CGS会社、鉄華団、クーデリア、火星のギャラルホルン、タービンズ、テイワズ、宇宙海賊ブルワーズ、ドルドコロニー、地球、夜明けの地平団、MAの討伐、ギャラルホルン最大級の戦力アリアンロッドとの同盟関係、テイワズを滅ぼそうとして海賊と手を組んだジャスレイ・ドノミコルスの討伐。

 

 

死ぬ可能性が高くて危険で大変な旅だったがこれからも鉄華団やオルガ、三日月、カエデ、イシガシ、フォボスや傭兵団イクサルの周りで何が起こるかはいまは分からない。

けれども、血よりも深い鉄の絆で結ばれた自分達なら何があっても大丈夫だ。

鉄華団と傭兵団イクサルを始めて鉄華団と関わりの深い人間はそう思っているだろう。

何故ならば、止まらずに進み続ける限り鉄華団は例え険しい茨の道でも進み続けて行くのだから…。

 

 

〜Happy End〜




今までその小説を見てくれた方々に感謝致します。
元々は自分の欲望の為に書いた小説だったのです。


原作をガラリと変えて不快に思われた方々には謝罪致します。
半年に渡る鉄血のオルフェンズ次元を超えし出会いを読んで頂きお気に入り登録を感謝致します。


次回の作品はこの小説の続きから書こうと思います。
※注意
読んだあとの悪口や不評は辞めて下さい。
あくまで自己責任でお願い致します。



簡易ストーリー↓



オルガと三日月の父親は鬼が人間を食べる世界に住んでいた、その場所でどうやってオルガと三日月が生まれたのか、オルガと三日月の父親は何故、鬼を狩る組織に入ることになったのか…。
その結末は貴方の瞳でご覧下さい。




題名は"鬼滅の刃、雪と氷2人の辿り着くべき場所"です。
皆様が来てくれることを心からお待ちしております。


五月雨


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鬼滅の刃、雪と氷2人の辿り着くべき場所
登場人物


前回の後書きに書いた通り観覧は自己責任にお願い致します。


 

 

 

 

【名前】カエデ・イツカ

 

 

【性別】男

 

 

【年齢】原作前:15歳、原作後:21歳

 

 

【身長】175cm

 

 

【容姿】オルガと同じ髪の毛で髪型はセミロングで瞳の色が右が赤と左が緑。

 

 

【性格】真面目で義理堅く、高いカリスマ性とリーダーシップを備える事から村にいる多くの少年や少女達から慕われている。

幼なじみの水無月・オーガスとは幼い頃からの付き合いで彼とは実の兄弟よりも強い絆で結ばれて彼の事を誰よりも深く理解してその性格や行動原理に信頼を置いている。

 

 

【階級】原作前:癸 原作後:雪柱

 

 

【日輪刀】

水の呼吸から派生した呼吸。

日輪刀の色は蒼みがかった濃い水色。


舞い落ちる雪のように重力を感じさせない身のこなしで刀を振るう。

 

 

【使用呼吸】

 

壱の型 牡丹雪(ぼたんゆき)

・相手の喉元へ掬い上げるように切る技。


 

 


弍の型 花弁雪(はなびらゆき)

・滑らかな動作で繰り出す三連撃。

それぞれ鬼の腹、胸、頭を素早く斬りつける。

 

 


参の型 細雪(ほそゆき)

・目にも留まらぬ速さで繰り出す五連撃の突き技で両肩、両胸、頭を狙う。


花弁雪は相手を仕留める技だがこちらは相手の動きを封じることに重きを置いている。

 

 


肆の型 銀雪・乱れ突き(ぎんせつ・みだれつき)

・高いところから跳び、真下にいる相手の頭に刀を突き込む技。

 

 


伍の型 江雪・六花斬り(こうせつ・りっかぎり)

・まるで雪の結晶を描くように、相手の身体に6回斬りつける技。
この呼吸の中で1番の威力を誇る。

 

 


陸の型 氷柱乱舞(つらららんぶ)

・氷柱を生み出して弾丸の如く鬼に迫る。

鬼がこの氷柱を喰らえば喰らった場所から少しづつ凍り付く。

 

 


漆の型 雪月花(せつげっか)

・迫ってくる相手を躱してその首に刀を突き立てるカウンター技。

 

 


捌の型 雪華吹雪(せつかふぶき)

・猛吹雪に咲く椿の如く連続で斬りかかる技。

あまりにも速いので、途中でこの技を止めるのは不可能に近いが水無月が入れば途中でも止まることがある。
最大で2分間使えるが使い終わると強烈な眠気に襲われるので水無月が居ないと使えない。

 

 


玖の型 泡雪 (あわゆき)

・9回の連撃技。鬼の当たった所から泡のように溶けして消滅する。


 

 

拾の型 彼岸雪那(ひがんせつな)

・特殊な呼吸方を使い自分の身体能力を上がる技だが長時間使うと目から血が出て失明の可能性がある。

 

 

【入隊理由】村の人間と両親を殺されたから

 

 

【好きなもの】トマト、水無月

 

 

【嫌いなもの】鬼(禰豆子を除く)

 

 

 

【名前】水無月・オーガス

 

 

【性別】男

 

 

【年齢】 原作前:14歳 原作後:20歳

 

 

【身長】165cm

 

 

【容姿】三日月と同じ髪の色だがカエデと同じセミロングで瞳の色は三日月と同じ。

 

 

【性格】感情を必要以上に昂らせたり取り乱す様子もほとんど無いが、決して感情の無い冷淡な人間ではなくて仲間に対しての情は深い。

また、自身の行動の多くは幼なじみなカエデに強く依存していてカエデが下した指示の内容に対しては全幅の信頼を置いている。

 

 

【階級】原作前:癸 原作後:氷柱

 

 

【日輪刀】水の呼吸から派生した呼吸。

日輪刀の色は瑠璃色。


氷のように冷たい切れ味が特徴。

陸上戦が得意で相手と真っ正面から戦うことに優れている。


 

 

【使用呼吸】

壱の型 氷河乱風 (ひょうがらんふう)


・六連撃の突き多めの連撃技。この技をくらうと鬼は動けなくなる

 

 


弍の型 凍雲(いてぐも)


・三連撃の突き技で突いた場所から凍っていく。

 

 


参の型 雪狐・寒凪(ゆききつね・かんなぎ)


・強烈な踏み込みからの静かな横斬り。

一方向にのみ向かう技で確実な隙であれば無傷で首を取れるが、反応されてしまうと回避出来ない。

 

 


肆の型 繁吹氷(しぶきこおり)

・力強い踏み込みと共に繰り出す袈裟斬り。
刀を掲げ構えるので発動まで時間がかかるが、その分相手は首を切られたことも認識出来ないくらいの速さを誇る。

 

 


伍の型 氷川・氷蓮華(ひかわ・こおりれんげ)

・上から飛びかかり、相手を一気に真っ二つに切り裂く技。
当然ながら相当な腕力が必要なので、氷の呼吸の中でも習得するのは至難の技。

 

 


陸の型 雹蘭・乱れ乱舞(ひょうらん・みだれらんぶ)

・氷河乱風と氷川・氷蓮華を交えた突きと斬りの二十連撃。
最早生きる殺戮兵器と化して、ただ眼前の敵を切り続ける恐ろしい技。

 

 


漆の型 氷雨(ひさめ)

・目を閉じて全身の感覚を集中させて間合いに入った相手を斬り伏せる技。

 

 

捌の型 氷刺雪魄(ひょうしせっぱく)

・8連撃の斬り技で刀を振ると小さな氷が舞うがそれを鬼が吸うと刀で斬る前に弱い鬼ならば消滅する。

 

 

玖の型 凍華止水(とうかしすい)

・冨岡義勇が編み出した水の呼吸、拾壱ノ型 凪と似たような感じで攻撃を全て防ぐ。また、回りには氷の華が散っているように見える

 

 

拾の型 彼岸氷月(ひがんひょうげつ)

・敵の技を受ければ受けるほど有効であり受けた攻撃を相手に倍にして返すことが出来るが終わったあとはしばらく立ち上がれない。

無理をすれば両目から血が出て失明の可能性がある。

 

 

【入隊理由】村の人間と両親を殺されたからけど一番の理由はカエデが居たから。

 

 

【好きなもの】桃、カエデ

 

 

【嫌いなもの】鬼(禰豆子を除く)

 

 

雪の呼吸と氷の呼吸

拾一の型 氷雪乱撃・乱れ斬り(ひょうせつらんげき・みだれぎり)

・雪の滑らかな剣技と氷の鋭く棘のある剣技で斬り付ける技だが22連撃まで出来る。

雑魚の鬼には6連撃ほどやる。

カエデと水無月がそれぞれ11連撃をするから2人合わせて22連撃になる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作前編
父親達の歩み


 

 

 

 

幸せが

 

 

壊れる時には

 

 

いつも血の匂いがした。

 

 

ある山奥の村にはたくさんの大人や子供達が住み着いていました。

 

 

その山奥の村からはいつも村人達の笑い声が響いていました。

 

 


けれどそんな幸せは長くは続かった…幸せが崩れ始めて澱んだ赤い血が飛び散った。

 

 


それは本当に一瞬の出来事だった。

最初に小さな子供とその母親が殺された。

 

 

大きな体の大人や屈強の男達で懸命に襲って来た奴を抑え込むが意味はなかった。

 

 

そこに村の近くを通り掛かった黒い服に「滅」と描かれた2人の男は村人が話した「奴」と言う人間は「鬼」だと分かると直ぐに鬼を滅する鬼殺隊に所属している2人は(通称:鬼狩り)鬼の討伐に向かうが無駄だった。

 

 

鬼は村の中心に居て2人の鬼狩りは自らの刀を握る前に既に鬼の刀で殺されていたのだ。

 

 

「おいたわしや、おいたわしや、若い鬼狩りよ。

冥土の土産に覚えて置くと良い。

私の名は"黒死牟"鬼舞辻無惨様より十二鬼月、上弦の壱の名を拝命している」

 

 

その鬼は手には刀を持ち顔には6個の眼を持ち左右の瞳を持つ"上弦の壱"黒死牟は鬼狩りを殺してその村を後にしたのだ。

 

 

唯一、無傷だったのは野菜や果物を村の外に売りに行った2人の少年だけだった。

少年達は一夜にして自分達の家族、友達、村人達を失ったのである。

 

 

その怒りを糧に2人の少年達は他の人々が自分達がした悲しい思いをさせない為に刃を振るうのだ…さぁ、自らの刃で鬼を滅せよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

火星、鉄華団本部

団長室

 

 

「ねぇ、オルガ。変なこと聞いて良い?」

 

 

「ん?何だ、ミカ」

 

 

三日月の問にオルガは書類仕事を一旦辞めて三日月を見ながら首を傾げてた。

 

 

「俺とオルガの両親ってどんな人だったんだろうなって思たんだ…」

 

 

「待て待て、ミカ!お前そんなことなんで今になって言ったんだ?」

 

 

三日月は少し困った顔で呟いた。

 

 

「夢を見たんだよね…」

 

 

「夢だと?」

 

 

「うん、その夢の中で俺は白い空間に居たんだ。

そしたら急に映像が現れたと思ったら…人影が見えて最初はオルガだと思って声を掛けたんだけど無視されたら急に背景が暗くなって人影が鮮明になって顔を覗いたらオルガに似ていたんだ。」

 

 

「ただ似ていただけだろう?」

 

 

とオルガ本人は言ったけど、三日月は何処か確信している顔をしていた。

 

 

「俺も夢の中でそう思っていたら頭からツノと長い爪が生えた人間の男がオルガ似の男に向かって行ったんだけど…」

 

 

「それで…どうなった?」

 

 

「うん…オルガ似の男は右手に刀を持ってその人間に首に向かったんだけど最初はツノと爪を持った男の方が優勢だった…オルガ似の男は刀で防御してるだけだったんだ」

 

 

オルガは三日月の夢の話を聞きながらその話の続きを待った。

 

 

「ツノと爪を持った男が勝つんだと俺が思った時に状況が変わったんだ…急に映像から2人の声が聞こえ出したんだ」

 

 

三日月はその時の声をそのまま語った。

 

 

「もう既にボロボロじゃねぇか、無様だな鬼殺隊の鬼狩り様よ。安心しろよ、貴様が死んだからその肉体は俺が責任も持って食べてやるからよ!」

 

 

そのツノと爪を持った人間の男はオルガ似の男に目掛けて飛び上がって両手の鋭い爪を向けて来たがオルガ似の男は避けない。

 

 

「シィィ…雪の呼吸… 肆の型 銀雪・乱れ突き!!」

 

 

オルガ似の男はツノと爪を持った男が爪を振る寸前に地面を飛び上がって先の木の幹を蹴って男の首を狙って刀を振り下ろして来たのだ。

 

 

「うっ、ぐおっ!?」

 

 

ツノと爪を持った男はオルガ似の男の攻撃は予想出来ずにツノと爪を持った男はその右肩に斬撃を受けて大量に出血してしまう。

しかし、オルガ似の男の攻撃はまだ止まらない。

 

 

「雪の呼吸……漆の型…」

 

 

オルガ似の男がツノと爪を持った男に殺気を向けて気圧されて男は一心不乱に飛び出してオルガ似の男の首筋に自らの爪を突き立てて爪を振るう。ツノと爪を持つ男がその爪でオルガ似の男の首を捉えて肌が破けて鮮血が宙を舞う…………筈だった。

 

 

「………残念だったな…」

 

 

オルガ似の男はツノと爪を持った男の背後に回って鮮血が溢れているのはツノと爪を持った自分の身体であった。

 

 

「……っ!?何故…!?今、俺はお前の首を……狙った筈……」

 

 

「……雪月花!!」

 

 

「……鬼……狩り……」

 

 

「いま此処でお前は消えるが今までどれだけの人間を喰った?知らないとは言わせないぞ、お前の命だけで死んだ者達が生き返る訳がない。

 

 

冥土の土産にお前を殺した俺の名を教えてやるよ!!俺の名は、政府非公認の組織、鬼殺隊、階級は雪柱 "カエデ・イツカ"だ!!」

 

 

オルガ似の男は言葉をゆっくりと言い放って刀を腰の鞘に納めてチンッと音と共にツノと爪を持った男の首に一気に亀裂が入ってゴトンと地に落ちたのだ。

 

 

「…は…し…ら……そ……ん………な…ぁぁ……」

 

 

三日月の口から語られた内容にオルガは声が出なかったがしばらくすると放心状態だったオルガが復活して話だした。

 

 

「ミカ、疑う訳じゃないが本当に"カエデ・イツカ"って言ってたのか?」

 

 

「俺の夢のこと疑うの?オルガ」

 

 

オルガは頭を掻きながら答えた。

 

 

「疑う訳じゃねぇよ、ミカ。ただお前が夢で見たなら俺も両親がなんで俺を捨てた理由が知りてぇな。

その夢の中でツノと爪を持った男が何者で俺似の男が本当に俺の父親なのか…」

 

 

「ふーん、俺と同じこと考えてたんだ」

 

 

そう三日月が呟くとオルガはまた書類仕事を始めて三日月は桜農業に向かったのだった。

2人以外にさっきの話を聞いていた人がいた。

その人物は天井に居たのだが普通の人間には見えなかったのだがその人物は呟いた。

 

 

「貴方達は知らないと行けないわ、別の世界で長きに渡り身命を賭して…世界の為、生きている人間の為に戦ってその命を尽くして…死んで行った…。

貴方達の父親と仲間達の生き様を…私が今日の夜中に観せて上げるわ…」

 

 

全ての仕事を終えたオルガは服をスーツから寝巻きに着替えてベットに横になった。

 

 

「今日は本当に一段と疲れたな…ミカの話は嘘には思えないが…会えるならば会いてぇな…まぁ、夢みたいなこと言わないで寝るか」

 

 

オルガはそういうと眠りに入った時に昼間に話を聞いていた人物は現れた。

 

 

「さぁ、あの世界で生きた貴方の父親の姿を見に行きましょう。」

 

 

オルガは自分を呼ぶ声が聞こえて来た。

その声は今日も何回も聞いた三日月の声だった。

 

 

「ん、ミカ…もう朝か?」

 

 

「寝ぼけてんだな、オルガ」

 

 

その声を聞いてオルガは振り向くて名瀬とアミダがいて三日月の隣にはアトラ、クーデリア、ユージン、ビスケット、シノ、昌弘、昭弘と腕を組んでいるラフタがいたが周りを見ると豊かな草原と澄みきった青空が広がっていた。

 

 

「………此処は、どこだ?」

 

 

「分からないんだ、俺達全員が起きたら此処で寝ていたんだ」

 

 

そんなときに昭弘とシノは何かに気づいた。

オルガは目を細めて遠くを見た。

 

 

「確かに……何か、いるな」

 

 

そこには誰かの人影があったが此処からでははっきりとした姿が見えなかった。

 

 

「…仕方ない。今はその人聞いてみるしかないな」

 

 

「そうだね、名瀬」

 

 

名瀬とアミダがそういうと全員でその場所まで行くと1人の女性がいた。

膝裏までありそうな長い銀髪に青目の綺麗な女性が立って居て彼女の側には白い10脚の椅子と大きなテーブルがあった。

 

 

さらにテーブルの上にティーセットと付け合わせの菓子が置いてあった。

その姿は来客の準備をしているかのようだった。すると、女性は振り向いてオルガ達に声を掛けた。

 

 

「お待ちしておりました。鉄華団の皆様、タービンズの皆様」

 

 

「!?………あんたは誰だ?火星と木星では知らない者は居ないが…」

 

 

「私は、貴方達の世界で生まれた訳ではありません。申し遅れました。私は時の神、クロノスと言います。この場所は私だけの空間だけと伝えておきますわ」

 

 

「時の神が…俺達に何の用だ?」

 

 

名瀬率いるタービンズとオルガ率いる鉄華団は警戒していたが三日月は何時でも撃てるように銃を触る。

 

 

「今回、私が貴方達を此処に招いた理由はある映像を見て頂こうと思いまして…」

 

 

「その映像を観るのが俺達と名瀬さん達に何の得と訳があるんだよ?時の神、クロノスさん?」

 

 

かなり疑い気味のユージンはクロノスにそう返答したらクロノスは「関係ありますよ」とオルガと三日月を見ながら答えた。

 

 

「俺とミカに関係があるのか?」

 

 

「えぇ、実は私は今日…貴方達の住んでいる火星にお散歩に行ったのですがそこでお2人の会話を聞いてしまったんです」

 

 

「話ってミカが語った俺似の男が誰かの首を刀で斬っていたって話だぞ?夢の中の話だろ?」

 

 

「お、おい、オルガ。俺達全員にも分かるように説明しろ!」

 

 

「すみません、名瀬の兄貴。ミカ、俺に語ったことを皆にも話してやってくれないか?」

 

 

「別に良いけど、少し忘れてるからオルガも補足してくれない?」

 

 

三日月とオルガは三日月が見たと言う夢の中の話をそのまま語ったが全員の反応は…。

 

 

「本当のことな訳ないだろう」と言うユージンも意見も居れば「ですが、もしかしたら本当に団長さんのお父様じゃないのですか?」と語るクーデリアだが他のみんなは答えない。

 

 

「皆さんが混乱になるもの仕方ないことなので私が回答しましょう。三日月・オーガスさんが観た夢は紛れも無く本物でツノと爪を持つ男は「鬼」と呼ばれる存在で人間が主食でそんな「鬼」を殺す組織の名は"鬼殺隊"と呼ばれオルガ・イツカさんに似ていた彼は紛れも無くオルガ・イツカさんの父親ですよ」

 

 

時の神、クロノスはそう断言したのだ。

 

 

「待て、「鬼」という生き物は俺達は聞いたことも無いし見たことも無い!!」

 

 

「えぇ、それに「鬼」を殺す組織"鬼殺隊"というのもテイワズや地球や火星では聞いたことはないわ」

 

 

時の神、クロノスは目を閉じながら「聞いたことないのは当たり前です。名瀬・タービンさん、アミダ・アルカさん。「鬼」と言う化け物も鬼殺隊と言う組織も此処では無い世界にあるのですから」と言ったがそれに昌弘とアトラは違和感を感じた。

 

 

「あの、少し良いですか?」

 

 

「昌弘、どうしたんだ?」

 

 

「いや、兄貴。ちょっと…クロノスさんに聞きたいことがあるんだ」

 

 

「わ、私も良いですか?」

 

 

昌弘とアトラは少し緊張気味にクロノスに話し掛けるとクロノスは微笑みながら「なんですか?」と聞いて来た。

 

 

「えと、さっきのことが聞き間違えじゃ無かったら此処では無い世界って言いました?」

 

 

「えぇ、よく気づきましたね。昌弘くん…では、次はアトラさんの質問に答えましょう」

 

 

「は、はい!クロノスさん!此処では無い世界ってどういう意味ですか?」

 

 

時の神、クロノスは少しだけ苦しそうな暗い顔をして「オルガ・イツカさん、三日月・オーガスさん…2人は火星出身では無いのです」と答えた。

 

 

クロノスの答えに全員は驚愕して直ぐに意識が戻ったビスケットが代表して訪ねた。

 

 

「どういう…こと?」

 

 

「お2人は、火星、又はこの世界にある地球で生まれた訳ではありません…此処では無い似ても似つかない別の次元の地球で生まれたのです」

 

 

「嘘だろ…」

 

 

「でも、俺達は火星で育ったんだ。

地球での暮らしなんて覚えてないよ。

あんたか嘘を付いてんじゃないの?」

 

 

クロノスは「私が貴方達に嘘を付くメリットやデミリットは無いです。別の地球での記憶が無いのは次元を超えて火星に辿り着いた衝撃で記憶を忘れているだけです」と言ったのだ。

 

 

「それで時の神、クロノス。あんたは俺達に此処まで語ってどうしたいんだ?」

 

 

「……」

 

 

オルガはかなりキツいショックを受けながらクロノスに言葉を俯きながら話していたが…それは隣にいる三日月も表情を変えなかったが同じように俯いて言葉を聞いていた。

 

 

「先程を言いました通りにある映像をご覧頂きたいだけなのですよ。

2人の父親が歩んで来た人生を…オルガ・イツカさん三日月・オーガスさんご覧になりますか?」

 

 

「オルガ、三日月。どうするんだ?俺達はお前らの判断に任せるから好きなように選択しろ」

 

 

名瀬はオルガと三日月にそういうが2人からの返答は無かったが2人して考えているのだろう。

名瀬以外の全員も口には出さないだけで同じ気持ちだったのだ。

しばらくするとオルガと三日月は俯いていた顔を上げて2人は頷いた。

 

 

「時の神、クロノスさん。お願い致します、俺達に両親の人生を見せてくれ…頼む」

 

 

「俺からもお願い」

 

 

オルガと三日月は頭を下げた。

 

 

「頭を上げて下さい。

オルガ・イツカさん、三日月・オーガスさん。

辛い決断をしてくれた2人に私は感謝致します。

では此処にいる皆様にお見せ致しますしょう。

別の地球で起きていまは集結した「鬼」と「鬼殺隊」の1000年の歩みと長き戦いを…」

 

 

時の神、クロノスは持っていた杖を一振すると次の瞬間にはオルガ達の正面には大きな透明なスクリーン状のモニターが現れたのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

全てを失った日

 

 

 

 

___ザザザザ...

 

 

 

 

 

 

 

 

映像にノイズが混じって次第に晴れていく。

パチッと音を立ててクリアになった画面には、大きな山に囲まれている村には人口は約150人程度の村人達がそれぞれ木造の家を作って数世帯の家族が暮らしていた。

 

 

「俺達の世界にある地球の文明の方がこの映像より発達してなくねぇか?」

 

 

昭弘はそう答えると隣で腕を組んでいるラフタが疑問に答えようとしたが間違えたらどうしようと思ったけど話した。

 

 

「きっと、まだそこまで文明が発達していないのかな?これから先の未来なら私達がいる世界の地球と同じようになると思うよ」

 

 

「流石だな、ラフタ」

 

 

ラフタは昭弘に「すげーな」と言われ名瀬には頭を撫でられてご機嫌になっていたらクロノスは「ラフタさんの言う通り、映像に写っている時代は幼少期、お2人の父親が生まれた"大正時代"と言いますが…また映像が変わり始めましたね」

 

 

___ザザ...

少ししてまた映像が切り替わり始めて映し出された映像には1人の少年が背中に大きな籠を背負って畑で出来ていた野菜などを詰め込む様子が見えて来た。

 

 

その少年の顔は映像を見ていた全員を驚愕させる程に似ていたのだ三日月・オーガスに…。

 

 

三日月似の少年はゆっくり歩きながら野菜などを詰め込んでいると畑に通り掛かった村人に話し掛けられていた。

 

 

「よう、ミー助。また朝から畑いじりか?本当に畑いじりがお前さん好きだよな」

 

 

「うん、まぁね。楽しいしみんなが俺の作った野菜を食べてくれるのが嬉しいんだ、俺…」

 

 

「ミー助、ははは、そうだな。誰だって自分の作った野菜を食べてくれたら嬉しいもんな!」

 

 

そう話す村人老人の2人にミー助と呼ばれた三日月似の少年は少し怒ったように話した。

 

 

「だから!俺の名前を省略しないでってば!!俺には"水無月・オーガス"ってちゃんとした名前があるんだからさ」

 

 

クロノスの異空間では三日月似の少年、否、水無月・オーガスの村人老人達の会話を聞いていた。

 

 

「…水無月・オーガス…」

 

 

「三日月と同じ…月の字を持っているんだね」

 

 

アトラがそう言うと三日月は「うん」と返事をしたが三日月自身はあの少年があとの自分の父親だと確信して納得していた。

自分と似ていないの所は髪の長さだけで他の今の所は無かったからこれから先の映像で分かるのだろうと三日月は映像を見続けた。

 

 

「水無月、お前さんの相方はどうしたんだ?」

 

 

「ん?いま収穫した野菜と果物の籠を背負って荷車に積みに向かったけど?それがどうかしたの?」

 

 

「いや、いつもお前達2人は実の兄弟のように見えているからな、片割れが居ないと変な感じだな!」

 

 

三日月似の少年(次からは水無月)は首を傾げながら疑問を口にした。

 

 

「俺達、そんなに一緒に居るの?」

 

 

「気付いてなかったか!?四六時中とは行かないがいつも隣に居るだろ、水無月」

 

 

「そうだな、まるであいつが居ないと行動出来ないって感じだな!」

 

 

水無月は不思議そうに感じがなら「俺、そんなに変なの?」と村人老人達に聞くと…。

 

 

「だってな、水無月!この間、お前はあいつに「今日は何処に行くの?俺も行く」や「何をすれば良い」とか「この獲物を殺せば良い?」って言ってただろ」

 

 

水無月は「あぁ、確かに言ってたかもね、もう忘れたけど…」と云えば村人老人は笑いながら「その台詞は何十回も聴いているぞ」って言っていた。

 

 

その頃、クロノスの異空間では…。

 

 

「見た目もモロに似てるのに口調まで似てるとかマジで三日月のそっくりさんじゃねぇか!?」

 

 

シノがそういうと隣で映像を見ていたビスケットも頷いたが「村人さん達が言ってた相方ってだろなんだろう?」って話すと名瀬さんが言葉を紡いだ。

 

 

「この記憶はオルガと三日月に関係あるとクロノスは言ってた…おそらくは…」

 

 

「…俺の父親だろうよ、ビスケット」

 

 

「オルガ、大丈夫?」

 

 

「ビスケット、大丈夫だと思いたいが…内心はドキドキしてんだぜ…俺の父親はどんな姿でどんな人なんだろうって考えて緊張してるんだぜ」

 

 

三日月は映像を見ながら「大丈夫だよ、オルガ。見ていればオルガの父親は直ぐに映ると思うよ」と三日月はスクリーン状のモニターを指を示すとまた映像が進み出した。

 

 

「おっと長話し過ぎたな、荷車で城下町に行くんなら気を付けて行くんだぞ。」

 

 

「うん、分かってるよ。おじさん達も無理して腰痛めないようにしてよ、あとでマッサージするのは俺なんだからさ…」

 

 

村人老人達は水無月の方を向いて「水無月のマッサージは力加減が最高なんだよ、だからまた頼むわ」とか「寝付きが良くなったこともあるからな〜」等と様々なことを言ってきた。

 

 

「ん、けど俺行くからまたあとでね。」

 

 

水無月は収穫した野菜の籠を背負って荷車に荷物を積みに行った幼なじみの所に走って向かう。

 

 

村の入り口に大きな荷車が置いてあってその直ぐ近くの木の幹に腕を組んでいる銀髪のセミロングの髪が風でなびいて両目を閉じていた少年は映像を見ていた全員をまた驚愕させたのだ。

少年は紛れも無く似ていたのだオルガ・イツカに…。

 

 

オルガ似の少年は近付いて来た存在に一言。

 

 

「遅かったな、ミナ」

 

 

「やっぱり足音だけで俺だって分かるなんて本当に耳が良いね、カエデ」

 

 

ミナとオルガ似の少年に呼ばれた水無月はオルガ似の少年のことをカエデと呼んだことから彼の名はカエデ・イツカ。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「銀髪の少年…カエデ・イツカさん…では、あの方が団長さんの…」

 

 

「あぁ、オルガ坊やの父親だろうね…」

 

 

「オルガ…」

 

 

クーデリア、アミダは映像を見ながら言葉を紡いで居ると身体を硬直させたオルガの肩を叩いたのは三日月だった。

 

 

「ミカ、お前の夢の話は嘘じゃなかったな…姿を見るまで分からなかったが…映像を見ていたら身体が震えるんだ…まるで今までポッカリと穴が空いた場所に何か満たされるのをずっと待っていたんだって…」

 

 

オルガは映像に映る父親の姿を見ながら涙ぐんでいたがスクリーン状のモニター映像は進んで行く。

 

 

「お前は特定の足音がするからわかりやすいんだよ。ミナ、お前だって猫や鳥、動物達といつも話しているだろう?」

 

 

「まぁね、動物達は色んな場所に行くからこの山と城下町しか行かない俺達に情報を教えてくれるから助かるからね。」

 

 

水無月の言葉を聞いたカエデは木の幹から離れて荷車に近付いて両手で荷車を進み出したのを見て水無月も籠を背負って歩き出した時…。

 

 

村の入り口から少年少女達が2人に突っ込んで来た衝撃があったがカエデと水無月はそれなりに鍛えていたので倒れることは無くて無事だった。

 

 

「カエデ兄ちゃん、水無月兄ちゃん今日も城下町に行くの?」

 

「私も行く!」

 

 

「ずるい、俺も行く!」

 

 

「えぇーー!!?」

 

 

2人は村の子供達に城下町に行きたいとせがまれて居たが村から騒ぎを聞き付けて来た、おばあちゃんが「ダメじゃよ、カエデと水無月みたいに速く歩けんじゃろう」と子供達を止めた。

 

 

「けど、おばあちゃん!カエデ兄ちゃんは荷車引いてるから良いでしょ?」

 

 

「ダメじゃ、いつもならば積荷が少ないから良いが今日はいつもより多いから我慢するんじゃよ」

 

 

おばあちゃんが「諦めなさい」と言うが中々カエデと水無月から離れない子が多い。

 

 

「城下町から帰って来たら俺とカエデで温かいスープ作るから…」

 

 

「夜が明けて明日になったら俺とミナを日が暮れるまで遊ぼうな。約束が出来る良い子はいるか?」

 

 

カエデと水無月が子供達にそう伝えると嬉しそうにしておばあちゃんの手を引かれて村に帰って行ったがおばあちゃんは振り向いて「夜までには帰って来るんじゃよ、夜になると鬼が出るからの」と…。

 

 

村を出たカエデと水無月はたわいもない話をしながら山を降りていた。

 

 

「余計な約束してごめん、カエデ」

 

 

「謝んなくて良い、ミナ。此処しばらく村の子供達には構ってやられない日があったから別に大丈夫だ」

 

 

「うん、ありがとう。それでいつも見たいに左目を髪で隠さないの?」

 

 

「城下町の人達は俺がオッドアイの瞳だって知ってるからな」

 

 

「そうだったね、カエデの瞳は猫の瞳だね」

 

 

「俺が猫に似ているのは瞳だけで性格はミナ似だ」

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「…団長さんと三日月のお父さんは子供達に人気者で大変そう…」

 

 

「村の為にまだオルガと三日月の父親は幼いのに出稼ぎに行くのかい、凄い子だね…」

 

 

「映像を見た感じでは、村の人達は余り若い人は居なかったな」

 

 

アトラ、アミダ、ユージンがそれぞれの思った事を述べるとオルガは「…父さんは俺達と似てたな、俺達も幼い子供達に食べ物をあげる為に色々してたっけな」と三日月は「お父さんの作った野菜食べてみたい」と言う。

 

 

オルガと三日月はいつの間にかカエデと水無月のことを父さん、お父さんと呼んで全員はまた映像を見た。

クロノスの異空間side終

 

 

カエデと水無月が色々話していると城下町に着くと城下町の人達が話し掛けて来た。

 

 

「まぁまぁ、カエデと水無月じゃないか!?こんな暑い日に荷車と重い籠を背負って来たのかい?2人は良く働くねぇ、お茶飲むかい?」

 

 

「おーい、カエデ、水無月!野菜と果物を売ってくれないか!」

 

 

「ずるい、私も売っておくれ!」

 

 

カエデと水無月はたくさんの人に囲まれて野菜や果物を売って行く。

 

 

「水無月、この間は腰を痛めたワシの息子に変わって障子を張り替えてくれてありがとうな」

 

 

「うん、そのあとにお団子奢ってくれてありがとう。おじさん」

 

 

「ミナ、お前…前に城下町でおじさんの家に障子を張り替えて直ぐに戻って来るって言ったのに妙に遅かったのは…そういうことだったんだな?」

 

 

カエデの瞳は笑っていなかったので水無月は慌てて誤解を解いた。

 

 

「確かに、おじさんから奢って貰ったけどあとで一緒に行ったじゃん!?」

 

 

「まぁ、そういうことにして置くが早く野菜と果物を売るぞ。今年の冬を無事に過ごせる為にな…」

 

 

カエデは水無月の肩に手を置いてまた商売に戻って水無月は「うん…そうだね」と言ってカエデのあとを追いかけて行った。

 

 

夕方になってカエデと水無月は城下町での野菜、果物を売ったりして町の手伝いをしていたら日が沈みそうだった。

 

 

城下町を出た2人は暗くなりそうな山道を登っていると水無月があることを口にした。

 

 

「夜には「鬼」が出るんだって…知ってるよね?」

 

 

「村の人達はいつも言っていたからな…夜には出掛けるなってな」

 

 

「でも、俺達は「鬼」が嫌いな藤の花のお守り持ってるから大丈夫だから問題ないでしょ?村でもお香とか焚いてるしさ」

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

此処の主であるクロノスはさっきから一言を話していなくてビスケットが話し掛けた。

 

 

「あの、どうしたんですか?」

 

 

「いえ、このあとに始まる悲劇をどのような人達が見ても気分が悪くなるんですよ。」

 

 

オルガと三日月はクロノスに「そんなに…酷いんだな…」と「オルガの父さんと俺のお父さんはその悲劇を乗り越えたの?」と聞いて来た。

 

 

クロノスは2人の問いに「えぇ、通常の人間では到底乗り越えられないことなのに2人は歯を食いしばって悲劇を乗り越えたと思いますよ」と言葉を返した。

 

 

クロノスの異空間side終

 

 

「おい、ミナ。可笑しくねぇか?村の入り口の灯籠が2つとも付いていないぞ!」

 

 

「カエデ、濃い血の匂いがする…嫌な予感がするんだ…急ごう!!」

 

 

カエデと水無月は村の様子がいつもと違うと思い荷物をその場に投げ捨てて村に向かって走り出した。

 

 

「…なんだよ…これは…」

 

 

「……」

 

 

2人は大急ぎで村に入ると最初に目に付いたのは数人の村人達が死んでいた姿だった。

カエデと水無月は目を合わせて急いでそれぞれに家に向かったがカエデの両親は死んでいたが両親の首が無かった。

 

 

「父さん、母さん…クソッ!!」

 

 

「…カエデ」

 

 

「ミナか…そっちはどうだった?」

 

 

カエデは立ち上がり外に出ると水無月が近付いて来て口に出すことはしなかったが首を振ってからゆっくりと言葉を紡いだ。

 

 

「此処に来る前に広場に寄って来たんだ、そしたら見たことない2人の男がいた」

 

 

ミナとカエデはその広場に向かって死んだ男を見たが村の人間じゃ無いだけではなく腰に刀を差していた。

 

 

「…村の人達を殺したのはこの2人じゃないな?」

 

 

「やっぱりカエデもそう思うよね。

俺も同じ結論になったんだ。

理由は3つ、1つ目は何故、所々に村人の首無し死体があるのか?

2つ目は此処で死んでいる人間が着ている服に「滅」と書かれている文字から推測してこいつらは「鬼」を滅する組織、「鬼殺隊」の隊士だ。

3つ目はこの惨状を創り出したのは「鬼」だと言うこと…それなら1つ目の推測に当てはまるんだ。」

 

 

「飢餓状態になった「鬼」は人の血肉を欲することがある…例え、家族が「鬼」になっても殺してでも喰らうんだったな…ミナ」

 

 

「うん、「鬼」にとって俺達人間は「栄養価」が高いんだ」

 

 

そう推理したカエデと水無月はお互いに目を合わせた時に心が決まった。

 

 

「ミナ、お前は…」

 

 

「勿論、カエデに着いてくよ。カエデの居る場所が俺の居場所でカエデが「鬼」を斬る為に「鬼殺隊」に入るならそこも含めて俺の居場所だよ」

 

 

「全く、茨の道だぞ…いつ死ぬか分からないぞ?」

 

 

「そんなの今頃でしょ?俺達は実の兄弟じゃないけど生まれた時から一緒に居たでしょ?カエデの考えいることなら少しなら分かるよ。」

 

 

カエデは水無月の言葉に笑みを浮かべると死んだ鬼殺隊士の刀を腰に差すと水無月も同じように腰に刀を差していた。

 

 

カエデと水無月は村の裏入り口に着くと後ろを振り向いて心の中で別れを告げた。

 

 

「(父さん、母さん…オッドアイの瞳を持った俺を忌み嫌わずに此処まで育ててくれてありがとう…。

 

 

村の子供達もごめんな、遊ぶ約束を破って…。

村の人達と色んなことをしてミナと馬鹿のことして怒られたりして楽しかった。)」

 

 

「(お父さん、お母さん…俺を此処まで育ててくれてありがとう…そして村の人達の皆…いつも俺が作った野菜と果物を食べてくれてありがとう…。

 

 

そしていつも俺のことをミー助って呼んでくれたこと本当は嬉しかったんだ…。

もう呼んでくれる人は居なくなったけど…俺はカエデと一緒に必ず鬼殺隊に入って皆を殺した「鬼」を探し出して殺してやるから…天国で待っててね。)」

 

 

「「((15年間、お世話になりました…決して二度と此処に戻らない!俺達は「鬼」を滅する為にこの命を鬼殺隊に捧げよう。俺達と同じ思いをする子供達を増やさない為に!!)」」

 

 

カエデと水無月は地面を走り続けるがそこから木の枝にジャンプして忍びのように木から木へと飛び移るが2人の瞳からは涙が出ていたが2人は気づかないように夜の闇の中に消えて行った。

 

 

クロノスの異空間では…。

映像を見ていた全員が泣いていた。

いつも無表情で泣いている所は一度も見たことない三日月ですら泣いていたのだ。

 

 

「時の神、クロノスさん…これはまだ序章なんですよね?(グズッ」

 

 

「えぇ、そうです…」

 

 

「俺達もいつ死ぬか…分からない戦いがあったけど…お父さん達は一夜で…家族を失ったんだね…」

 

 

「…父さん…」

 

 

オルガは利き手に拳を作って握り締めていたら血が出て来た。

 

 

「団長さん!手から血が!?」

 

 

「あっ!?…父さんのことを考えていたらいつの間にか強く握り締めて居たんだな…」

 

 

クロノスはオルガに近づくと手に持っていた杖を一振するとオルガの手から血が止まったのでクロノスは「では、また続きを見ますか?」と聞いて全員はまだ泣いていた人もいるが見ると選択した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鬼との戦いと育手との出会い

 

 

 

 

時の神、クロノスが次の映像を投下すると見えて来たのは木から木へと飛んでいたオルガの父さんと三日月のお父さんだった。

 

 

クロノスは「あの映像から約2時間程度の時間が経っています」と俺達に伝えて自分は口を閉じた。

クロノスの異空間side終

 

 

カエデと水無月は村を出てから2時間程度の時間が過ぎていたが2人はまだ木の上を忍びのように木から木へと飛んでいた。

 

 

「ねぇ、カエデ。あと少し先から光が見えるんだけど…お堂があるんじゃない?」

 

 

「そうだな、此処からお堂まで歩いて行こう。警戒をしながらな」

 

 

「そうだね、カエデ」

 

 

カエデと水無月は話しながら刀を振るったことは無いが2人は刀に手を添えていた。

 

 

「所で、これからどうすれば良い?カエデ」

 

 

「まずは鬼殺隊に入ることが出来れば良いが簡単に行かないだろうな」

 

 

カエデが頭を抱えると水無月は動物達からある話を聞いていた。

 

 

「前に動物達から鬼殺隊士になりたい人は"育手"と呼ばれる人達の所に向かって厳しい修行や稽古をするって言ってたけど…」

 

 

「育手の人が何処に居るのかは動物達でも知らなかったのか?」

 

 

水無月はカエデの言葉に頷いてから「地道に宛も無く探し出す?」それとも「このまま育手の元に行かないで鬼を殺す?」等と言った。

 

 

また「鬼殺隊士を探して育手の人を紹介して貰う?」と水無月は幾つかの選択肢の案を出した時にカエデの足と気配が変わった。

 

 

「ミナ、お堂の様子が可笑しい」

 

 

「ん、例えお堂にいる人達が話していなくても物音はする筈なのに全然してない。それに障子がボロボロに破けている」

 

 

カエデと水無月は気配を消してゆっくりとお堂に近付いて勢い良く障子を開くと…中にはたくさんの人間の死体があって人喰い鬼が喰らい荒らしていた。

 

 

「此処は俺の縄張りだ!人間を喰いたいなら他を当たりやがれ!」

 

 

鬼は、カエデと水無月の気配に気づくとゆっくりと振り返った。

 

 

「何だお前ら?此処は俺の縄張りだぞ。餌場を荒らすなら許さねぇぞ。」

 

 

人喰い鬼はカエデと水無月に襲い掛かってお堂の外へと出された。

 

 

「こいつ!死ねよ!?」

 

 

「ミナ、闇雲に戦ってもダメだ!いつも獲物を捕らえるように連携して行くぞ!」

 

 

「分かった!!」

 

 

水無月の返事を聞いたカエデは鬼との攻防戦を始めた時に鬼が伸びた爪でカエデの髪を何本か切られた時にはもう姿が無かった。

 

 

鬼は周りを見回すが見つけ出せなくて伸びた爪をしまった時だった…鬼の心臓近くにカエデと持っていた刀に貫かれていた。

 

 

「ぎゃああああああああ!!」

 

 

カエデは鬼の警戒を解く為に一旦身を引いてから高速の突きで木の幹に鬼を刀で固定した。

 

 

「馬鹿だな!そんなことしなくても腕と足があれはお前を殺せ…って…」

 

 

鬼は自分の手足を見るといつの間にか斬られていた。

 

 

「くそ、早く再生しろよ!!もう1人の餓鬼も何処に行った!?喰わないと!!」

 

 

「良いや、お前はもう俺達の作戦にハマっているんだ ミナ!!」

 

 

カエデは鬼を刀で固定して大声で水無月の名を呼ぶと木の上からジャンプして空中で刀を構えていた水無月がいた。

 

 

「(カエデが作ってくれたこの好機を見逃さない!!絶対に!!)」

 

 

水無月は鬼の首に目掛けてを力を真っ直ぐに入れて鬼の首を斬り落とした。

 

 

「鬼殺隊士が持っていた刀で鬼を殺すと骨すら残らないんだな…」

 

 

「もしかして、人喰い鬼に同情してる訳じゃ無いよね?カエデ」

 

 

「そんな訳無いだろう?ミナ、むしろ鬼を殲滅したいって思ってるさ」

 

 

水無月は「カエデ、本当に危ないことしたよね!手足を斬って鬼を刀で固定してたから良かったけど…」と口を尖らせていた水無月に「悪かったな」と言ってとある木の幹に話し掛けた。

 

 

「それで、先程から俺達が鬼と戦っていた時から居ましたよね?」

 

 

「さっさと出て来なよ、じゃないと斬るけど?」

 

 

水無月の脅しめいた言葉を聞いた人影は木の幹から出ると…姿が見えて赤い天狗の面をした老人だった。

 

 

「お前達は鬼殺隊士では無いな、それにまだ子供なのに親はどうした?何故、刀を持っている?」

 

 

「お爺さん、話長いんだけど…」

 

 

カエデは木の幹から出て来た老人に今までのことを全て話した。

自分達が出稼ぎに行っている間に村の人達が鬼に殺されていたこと。

村の広場にはむらの人達を殺した鬼を討伐に来た鬼殺隊士が死んでいたこと。

鬼を殺す為に鬼殺隊に入る為に育手を探していた途中に鬼と遭遇して倒したことを老人に話した。

 

 

「成程…鬼殺隊士になりたいか。なる方法を教えても良いが死んでしまった人達を埋葬したい。そのあとでお前達の名前と儂のことを話してやろう。」

 

 

カエデと水無月は老人の言葉に頷くと3人は鬼に殺された人達を近くの土の中に埋葬していると夜が明けて太陽が出て来た。

 

 

「埋葬終わっちゃった?顔も知らない人だけどそこにあった花を持って来たよ」

 

 

「埋葬の途中に居なくなったから探してたぞ、ミナ。終わったから花を置いて手を合わせろよ」

 

 

水無月は「分かった」と言って亡くなった人達に花を置いて手を合わせてからカエデと老人の元に戻って来て話の続きを始めた。

 

 

「儂は鱗滝左近次だ。」

 

 

「俺はカエデ・イツカと言います。」

 

 

「…水無月・オーガス…あっ…です。」

 

 

3人がお互いに自己紹介したら老人(以降は鱗滝さん)が話し始めた。

 

 

「…カエデ、水無月、お前達2人のどちらか鬼になった時、お前達ならばどうする?」

 

 

カエデと水無月は鱗滝さんの問に考えること無く即答で答えた。

 

 

「「首を落として自ら死ぬ」」

 

 

鱗滝さんはその答えが直ぐに出るとは思っていなかったが「そうか」と呟くと…。

 

 

「…(この子達は刀の扱い方は下手な隊士よりは上手かった。

鬼を殺した時の連携も初めてでは無い感じがした。

 

 

常に獲物で狩りをしていたんだろう。

2人が鬼を殺す前に見せた突きと斬りの構えは間違い無く水の呼吸、壱の型と漆の型だった。)

儂はお前達の探していた育手だ。

では、これからお前達が鬼殺の剣士として相応しいかどうかを試す。刀を持ってついて来い」

 

 

「「はい!!」」

 

 

鱗滝さんが走り出した時、カエデと水無月も元に走り出した。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

鬼が出て来た時、悲鳴をあげた者が数人、もう数人は目を逸らすことなどをしていたのだがオルガと三日月は悲鳴、目を逸らさなったのだ。

 

 

「こんな世界に居たら…いつ死ぬの分かんねぇよ。

それなのになんで…オルガと三日月の親父は平然としてんだよ!!」

 

 

ユージンの心の叫びにクロノスは「平然としていると思いますか?そんな訳は無いんですよ。」としかしユージンは「あれは殺しを楽しんだ目だ、鬼殺隊ってのも人殺しの集団なんだろう!?」と言うと名瀬が鎮めようとした時だった。

名瀬の隣から風を切る音が聞こえるとオルガがユージンを殴っていた。

 

 

「ユージン、それ以上言うと鉄華団団長…いや父さん達、俺達自身も否定することになるぞ。俺達も自分達の道を歩く為に邪魔になる奴らを殺して来た」

 

 

「それはそうだけど…オルガと三日月の親父は!?」

 

 

ユージンは何か言いたそうだったが三日月は銃を取り出してユージンに向けていた。

 

 

「…ミカ」

 

 

「ユージン、さっきオルガも言ったけど俺達も人殺しの集団なんだろ?人を殺しているから…でもお父さん達は違う。

これ以上犠牲者を出さないように動いてるんだ…」

 

 

三日月はそう言うと銃を懐に仕舞うとシノがユージンに「俺達は人殺しの集団なんかじゃない…それは三日月やオルガの父親、鬼殺隊に入っている人達もきっとそうだ。

 

 

鬼殺隊に入っている人達は俺達のような奴、いま映っている2人のように鬼に家族を殺された人達が集まった集団なんだろ?クロノスさん」

 

 

シノの問い掛けにクロノスは「えぇ、そうです…鬼殺隊に入っている人達は理由は様々ですがカエデさんと水無月さんと同じように鬼によって家族を殺された人達なんです。

 

 

それに2人は心の中でもう少し早く来ていれば…お堂にいた人達を死なせることは無かった」と伝えた。

 

 

オルガはユージンに手を伸ばしてユージンはその手を取った。

 

 

「無神経だった…悪かったな、三日月、オルガ」

 

 

「銃を向けてごめん、ユージン」

 

 

「殴ったことは謝らないからな、けど仲直りだ…」

 

 

「あぁ、ちゃんと見届けるよ。オルガと三日月の父さんの人生、鬼殺隊の人達の人生を…」

 

 

オルガと三日月はユージンと仲直りに握手をすると見ていた全員は良かったと呟いた。

 

 

「仲直り出来て良かったですわ。

では続きを再生します」

 

 

クロノスの異空間side終

 

 

鱗滝さんの速さは異常だったがカエデと水無月は息を切らすことなくついて行くが少しずつ遅れていた。

 

 

「(カエデ、水無月。儂の速さに遅れること無く着いてくるとは思わんかったな。)」

 

 

「(速いが追いつけない速度じゃないけど…。

鬼殺隊士になる為にはこれくらいの速度が無いと駄目なのか!?)」

 

 

「(速いけど大丈夫、カエデと村にいた頃から色んな鍛錬をしていたんだ!!

絶対に離され無い…ついて行くんだ。

俺だけ受からないなんて絶対に嫌だから!!)」

 

 

カエデと水無月は走り続け、必死の思いで鱗滝さんの家までたどり着くと質問した。

 

 

「鱗滝さん、これで俺達はっ……認めて貰えるんですよね?」

 

 

「…まだあるとか……言わないでね…」

 

 

「馬鹿者、試すのは今からだ。

山に登るから着いて来い。」

 

 

「マジかよ…行こうぜ、ミナ」

 

 

「カエデ、うん…此処まで来て鬼殺隊に入れないなんて嫌だ、どんなことが来てもやってやるよ。」

 

 

カエデと水無月は鱗滝さんに案内されて霧が濃い山の奥の方までやって来ると鱗滝さんは振り返った。

 

 

「カエデ、水無月。

お前達は此処から山の麓にある儂の家まで下りてくることだ。

今度は夜明けまで待たない。」

 

 

鱗滝さんは2人に伝えるとそのまま霧の中に消えた。

 

 

「…まずい、ミナ」

 

 

「うん、そうだね…カエデ」

 

 

2人は鱗滝さんに連れて来られた場所には罠が仕掛けられて空気が薄い場所で体力の限界も近かった。

 

 

「(カエデも分かっていると思う、空気が薄くて大量の罠が仕掛けられていることにでも全てを避けることは出来ない!!なら…)」

 

 

水無月はカエデを見ると目が合った。

 

 

「(こんな調子でミナと一緒に罠に掛かっていたら時間の無駄になる!!この場所は俺達が住んでいた山よりも遥かに空気が薄い!!なら…)ミナ…此処からは喋らずに行くぞ。」

 

 

カエデの言葉に水無月は頷いたが2人は精神力だけで動いていた。

 

 

罠のある場所がわかったとしても、それを避けられる余力がなければ意味をなさない。

 

 

カエデと水無月は少しだけ罠に掛かっていたが、なんとか突破して夜明けまでに鱗滝さんの家に辿り着くことができた。

 

 

「も、戻りました、鱗滝さん」

 

 

「…流石に疲れたんだけど、もう試練とかないよね?鱗滝さん…」

 

 

「……お前達を認める。

カエデ・イツカ、水無月・オーガス。」

 

 

鱗滝さんに鬼殺の剣士に相応しいと認めて貰った……カエデと水無月は鬼殺隊に入隊する為に最終選別に向けて此処からさらに過酷な修行に励むのだった。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「体力を限界まで取られてからの…」

 

 

「空気の薄い山での罠あり山下り…とか過酷過ぎじゃないのか!?」

 

 

ビスケット、シノが思ったことを口に出したが全員査定では無くて三日月と昭弘は「…やってみたい」 とか「あんな罠ありの山があれば俺はまだまだ鍛えられそうだな」と言う。

 

 

ユージンは「辞めとけ」と2人に言ったが諦めてはいないのでオルガの元に向かうと小声で「いつか、作ってみるか…父さん達も強くなったみたいだからな」といつか実現可能になりそうだ。

 

 

ユージンはダメだこりゃと思って映像を見ることに専念したのだ。

クロノスの異空間side終



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

過酷な修行

 

 

 

 

鬼殺の剣士に相応しいと認められたカエデと水無月は鬼殺隊について鱗滝さんの説明を聞いていた。

 

 

「儂は育手だ。文字通り剣士を育てる。

育手は山ほどいてそれぞれの場所、それぞれのやり方で剣士を育てている。

 

 

鬼殺隊に入るためには、藤襲山で行われる最終選別で生き残らなければならない。

最終選別を受けて良いかどうかは儂が決める」

 

 

「「はい!鱗滝さん!」」

 

 

その日からカエデと水無月は鱗滝さんの指導の下で血が滲むような修行の日々を送ることになった。

 

 

最初は石や丸太等の罠だったがどんどん過激になって小刀や落とし穴の中に長い刀が埋められて様々な罠が施された山下りだ。

 

 

「今日はいつも違い過ぎなんだけど!?

小刀で肌を掠った!」

 

 

「話すより足を動かせって…ミナ、そこに罠があるから気をつけろ!」

 

 

「え?うわっ!?カエデ、助けて欲しいな…」

 

 

水無月は落ちる寸前で何とか地面を掴んで穴に落ちることは無かったがカエデに助けを求めた。

 

 

「全く、注意しろよ。」

 

 

カエデは水無月が落ちた穴を見ると山のような刀が刺さっていた。

地獄の山下りを終えると…刀の素振りや鱗滝さんから転がし祭りという素早く受身をとって起き上がる訓練をしたこともあった。

 

 

そしていまはカエデと水無月はお互いに木刀を握り締めて向かい合っていた。

傍には鱗滝さんがいた。

 

 

「良いな、儂が辞めと言ったら止まれ」

 

 

「「はい!!」」

 

 

「では、始め!」

 

 

鱗滝さんの声でカエデと水無月はお互いに距離をとって鬼殺隊士が使う全集中の呼吸を使った。

 

 

「シィィ…水の呼吸!漆ノ型 雫波紋突き!!」

 

 

「シィィ…水の呼吸!拾ノ型 生生流転!!」

 

 

カエデは水の呼吸最速の突き技を水無月は水の呼吸最大の攻撃の技をそれぞれ放つが互いに躱されて次の攻撃に移ろうとした時だった。

 

 

「そこまで!もう2人に教えることはない。」

 

 

「はっ?」

 

 

「なんで?」

 

 

修行を始めて一年、突然言われた言葉。

 

 

「あとはお前達次第だ。

お前達が儂の教えたことを昇華できるかどうか。

この岩を斬れたら最終選別に行くのを許可する。」

 

 

「ねぇ、カエデ。岩って斬るものだっけ?

刀で斬れるものだっけ?

斬れる気がしないんだけど…。刀が折れるよ」

 

 

「俺もそう思う。」

 

 

鱗滝さんはそれから指導をしなくなった。

カエデ達は習ったことを繰り返すがそれでも岩を斬れなかった。

 

 

「なんで、斬ることが出来ないんだろう?

何かが足りないのかな?」

 

 

「死ぬほど鍛えるしかない。全集中の呼吸をまだ俺達は理解していないのかも知れない。」

 

 

「その通りだ」

 

 

カエデと水無月が声のした方を見ると狐の面を被った真剣を持つ少年がいた。

 

 

「お前達は全集中の呼吸をまだ理解していない。

どんな苦しみにも黙って耐えろ。

お前が男なら…男に生まれたなら……」

 

 

少年は急に斬り掛かって来たのでカエデと水無月は応戦した。

 

 

「急に真剣で襲って来るな!!何の用だよ!!」

 

 

「木刀では無くて真剣で俺の刀を弾くとは中々の筋の良い男達だな!!だが俺はお前達より強い!!

岩を斬ってるからな!!」

 

 

「「岩を斬った!?」」

 

 

カエデと水無月は刀を構えながら男の話を聞く

 

 

「お前達は全集中の呼吸を身につけているがまだ足りてない!!

お前達の血肉に叩き込め、鱗滝さんが教えてくれたすべての極意を決して忘れることが無いように骨の髄まで叩き込むんだ。」

 

 

「知ってるさ、前に進むしか道は無いんだからな!」

 

 

「そうだ、進め!!男なら!男に生まれたならば!!

進む以外の道などない!!

それと真菰、あとは任せるぞ。」

 

 

真菰と呼ばれた少女は去っていく少年の背中を見送ると少年小さな声で「お前達ならきっと岩を切って……あいつにも勝てるだろう」と…。

 

 

「それで、君は誰でさっきの奴は誰だ?」

 

 

「私は真菰って言うの、よろしくね。

さっき居なくなったのは奏斗よ」

 

 

「よろしく、真菰。俺はカエデだ。」

 

 

「俺は水無月、よろしく」

 

 

「うん、早速だけど修行を手伝いするよ。」

 

 

真菰はカエデと水無月の悪い所を指摘した。

それを受けた2人は無駄な動きや癖を直していった。

 

 

他にも真菰は様々な話をして分かったことは…奏斗と真菰は兄妹ではなくて孤児立ったのを鱗滝さんが育てたこと。

 

 

他にも子供達はいてカエデと水無月を応援していると聞いた。

全集中の呼吸についても血の巡りを速くすること。

心臓の鼓動を速くすることで人間のまま鬼並みに強くなると聞かされた。

 

 

「それは俺とカエデは出来ているの?」

 

 

「うん、でも死ぬほど鍛える。

結局それ以外にできることはないと思うよ。水無月」

 

 

そこからカエデと水無月は更に鍛練を重ね続けたが奏斗には勝てなかった。

半年経つまでは……。

 

 

「半年でやっと此処まで来たな、カエデ、水無月」

 

 

「待たせたな、奏斗」

 

 

「今日こそ俺が勝つから、奏斗」

 

 

「行くぞ!!」

 

 

この勝負は一瞬で決まった。

2人の刃が奏斗の面と髪飾りを斬っていた。

 

 

勝った時、奏斗は笑ったのだ。

泣きそうであり嬉しそうでもあって安心したような笑顔だった。

 

 

「……勝ってねカエデ、水無月、あいつにも……」

 

 

2人が周りを見ると奏斗達は消えており、狐の面と髪飾りを斬った筈の2人の刃は岩を斬っていた。

 

 

カエデと水無月は鱗滝さんの話を聞いていた。

 

 

「お前達を最終選別に行かせるつもりはなかった。

もう子供が死ぬのを見たくなかった。

お前達にあの岩は斬れないと思っていたのに……よく頑張った。カエデ、水無月、お前達は凄い子だ…」

 

 

「ありがとうございます…鱗滝さん」

 

 

「頑張った成果だよ。」

 

 

2人がそう言うと鱗滝さんは頭を撫でた。

 

 

「カエデ、水無月、最終選別…必ず生きて戻れ。

儂も此処で待っている」

 

 

カエデと水無月は狐の面を貰った。

厄徐の面という悪いものから守ってくれる物らしい。

そして2人はは藤襲山に向かおうとする。

 

 

「鱗滝さん!必ず帰って来るから行ってきます。

奏斗と真菰によろしく!!」

 

 

「俺達の修行を手伝ってくれたんだ。

よろしく伝えてよ、じゃあね」

 

 

「カエデ、水無月…何故お前達が……死んだあの子達の名を知っている。」

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「遂に剣士としての修行が始まったな」

 

 

「だけど、山下りが難易度上がってたね……小刀とか落とし穴の中にまた刀を隠して何度か危なかったね…三日月のお父さん」

 

 

「うん、オルガのお父さんがいつも助けてたね。」

 

 

名瀬、アトラ、三日月が映像の内容を見て山下りの修行を終えてオルガと三日月の父親が家に帰ると2人の育手、鱗滝さんが庭で2人を待って木刀を渡すと距離をとった。

 

 

「何をするんだぁ?」

 

 

「私に聞いても知らないわよ、昭弘」

 

 

「距離を取らないと危険なこと?」

 

 

アルトランド兄弟とラフタでは無くて全員が映像に注目すると鱗滝さんの合図で2人が木刀で容赦なく木刀を振ると「シィィ」と言う音が映像から聞こえると…2人の木刀から水が出ていた。

 

 

「何ですか?あれは…」

 

 

「刀から水は出ない筈だよ。」

 

 

クーデリアとアミダの問にクロノスが答えた

 

 

「あれば水の呼吸と言われるものです。呼吸とは鬼との戦いには必要不可欠で習得するのは難しいと言われています。」

 

 

「では、何故、刀が水のように見えるのですか?」

 

 

「2人が水を出している訳では無いのですよ。

隊士達が呼吸術を使って戦っているのを見た人がその動きがまるで水のように見えているから水の呼吸と言うのです。」

 

 

時の神、クロノスの言葉にクーデリアとアミダは納得していた。

そしてまだ映像は続いて見てると岩を斬る為に修行していたら狐の面をした少年が2人に襲い掛かったがカエデと水無月は少年の刀を弾いたのだ。

 

 

真菰と言う少女は2人と一緒に修行して半年経った時に狐の面の少年、奏斗は真剣を持って2人と戦うと笑みを浮かべた。

 

 

「なんで、笑ったんだろう?」

 

 

「それに…奏斗と真菰がいつの間にか消えているぞ」

 

 

ビスケットとユージンは消えた奏斗と真菰に違和感を持った。

映像には2人は鱗滝さんに頭を撫でられて鬼殺隊の最終選別に行くように言われた。

 

 

「長かったな、1年半の修行か…」

 

 

「そうだね、オルガ」

 

 

カエデと水無月は最終選別に向かう為に歩き出した時に奏斗と真菰によろしくと鱗滝さんに伝えると……「カエデ、水無月…何故お前達が…死んだあの子達の名を知ってる?」と呟いたことを聞いたオルガ達。

 

 

「「はっ!?」」

 

 

「どうして、2人共はちゃんと生きていたのに…嘘だよね…」

 

 

「じゃあ、なんでオルガと三日月の父親の前に出て来たんだ?」

 

 

オルガと三日月が驚いて、アトラとクーデリアが泣いそうになって、シノが疑問を口にしたが答えを知る為にまた映像を見た。

クロノスの異空間side終



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最終選別

 

 

 

 

藤襲山に着いた頭に狐の面を付けたカエデと水無月は藤の花の量に驚いていた。

 

 

「(凄い、藤の花が……まだ咲く時期じゃない筈なのに…)」

 

 

「(藤の花だ…。久しぶりに見たな…それにしても40人位いるんだな)」

 

 

2人が人集りが出来ている所へ着くと1人の自分達と同い年の少女が話し掛けてきた。

 

 

「こんにちは、私の名前は胡蝶カナエ。よろしくね 貴方達の名前を教えて?」

 

 

「カエデ・イツカだ。」

 

 

「…水無月・オーガス……あっ…です」

 

 

「カエデくん、水無月くん。1つ賭けをしましょう?最終選別で私達3人が…七日間生き残れた時…お友達になって下さい。」

 

 

胡蝶カナエ、本人はカナエと呼んでと言われたから以後名前ですることにした。

 

 

「あぁ、分かった。カナエ」

 

 

「思えておくよ、カナエ」

 

 

カエデと水無月がそう言うと満足したカナエは違う場所に向かい同時に、最終選別の説明が始まった。

説明をしているのは産屋敷の着物を着た男性と着物を着た女性だった。

 

 

「皆さま、今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます。

 

 

この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めており、外に出ることはできません。」

 

 

「………山の麓から中腹にかけて鬼共の嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます。」

 

 

「しかし、此処から先には藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。

 

 

この中で七日間生き抜く。

それが最終選別の合格条件でございます。

では、行ってらっしゃいませ。」

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「美しい花ですね、紫色の花…。

名は藤の花と言うんですね。」

 

 

「うん、綺麗な花だね…オルガもそう思うでしょ?」

 

 

「あぁ、そうだな…。

……って父さん達に近づいてる女がいるぞ」

 

 

オルガがそう言うと全員がその少女に注目すると少女はオルガと三日月の父親に名を名乗った、彼女の名前は胡蝶カナエと言って2人にある賭けを持ち掛けた。

 

 

「綺麗な人…もしかしてあの人が三日月か団長さんのお母さんだったりして…」

 

 

「俺達の世界のセブンスターズ、みたいな良い所のお嬢様とか?」

 

 

アトラはカナエのことを綺麗な人と言ったりして2人のお母さんじゃないかと疑ったりしていた。

 

 

ユージンは…カナエの身のこなし方や言葉遣いで王族クラスのお嬢様だと疑っていたがアトラとユージンの説は外れることになる。

 

 

カナエが出した賭けの内容は最終選別を無事に乗り越えたらお友達になって欲しいと頼み込んだのだ。

 

 

「でもなんで今じゃないんだろな?

速い方が良いと思うが…」

 

 

「女の子には色々あんだよ、名瀬」

 

 

2人はカナエの賭けに同意してカナエは違う場所に向かうと着物を来た2人の男の子と女の子が現れて最終選別の説明を始めたが映像を見ていた全員は絶句していた。

 

 

「七日間生き延びれば合格なら簡単じゃね?」

 

 

「馬鹿、シノ!鬼がいる中で七日間食料無しで生き抜くんだぞ!?」

 

 

「そんな本気で叩かなくても…」

 

 

軽々しく合格出来るだろうと言うシノを叩いた昭弘とシノを慰めている昌弘。

 

 

「父さん達が門を潜った…」

 

 

「……」

 

 

オルガと三日月は自身の父親が門を潜ったのを確認して映像に集中した。

後ろで馬鹿なことをしている奴を置いて…。

クロノスの異空間side終

 

 

兄妹のこの言葉を最後に鬼殺隊になる為の最終選別が始まった。

カエデと水無月は共に行動して山の奥へと進んで行くと早速、鬼が四体出てきた。

 

 

「オイオイ、てめえは向こうに行け!

俺がこいつを喰うんだ。」

 

 

「いや、貴様が失せろ。」

 

 

「俺が喰う。」

 

 

「はあ?ふざけるな!こいつらは俺の獲物だ。」

 

 

カエデと水無月は鬼二体がそれぞれの方へと向かってくるので必然と二体ずつと戦うことになった。

 

 

「俺の獲物だぞ。」

 

 

「黙れ!先に殺った方が喰えば良いだろうが!」

 

 

「久方振りの人肉だ!!」

 

 

カエデは腰から刀を取り出して構えるがそれは水の呼吸の構えでは無かった。

 

 

「全集中・雪の呼吸!伍の型 江雪・六花斬り!!」

 

 

その技はまるで雪の結晶を描くように鬼の身体に6回斬りつけた。

カエデは水の呼吸から派生した自らの新しい呼吸を完成させていたのだ。

鱗滝さんに水の呼吸では無く自らの新しい呼吸を作ってみろと言われて出来たのが"雪の呼吸"だった。

カエデは襲い掛かって来た二体の鬼を同時に倒した。

 

 

「雪の呼吸、無事に使えるようになったな…ミナの方はどうなった?」

 

 

カエデは水無月が戦闘をしている場所に向かった。

一方の水無月は、自分の目の前で言い争ってる鬼に刀を構えていた。

 

 

「何言ってるんだお前?

俺の獲物に決まってるだろ?」

 

 

「ふざけるな!!俺が最初に見つけたんだ!

俺が喰うんだ!」

 

 

「ぐだぐだとうるさい鬼だな、カエデの声が聞こえ無いんだけど…。

でも此処があんた達の死に場所だからさ」

 

 

「人間が……強気じゃねぇか。早い者勝ちだ!」

 

 

「望むところだ!」

 

 

水無月は飛び込んで来る鬼達に構えていた刀を向けて型を放った。

 

 

「全集中・氷の呼吸!肆の型 繁吹氷!!」

 

 

水無月は力強い踏み込みと共に繰り出した袈裟斬りで二体の鬼を同時に倒した。

カエデと共に水の呼吸から派生した自らの新しい呼吸"氷の呼吸"だった。

 

 

「ふぅ、鍛錬は無駄じゃなかったね、カエデ」

 

 

「そうだな、ミナ」

 

 

カエデと水無月が再び合流すると…2人はとても強烈な匂いを感じた。

 

 

「うっ!?何だ!この腐ったような匂いは…」

 

 

「気持ち悪くなりそうな匂いなんだけど…」

 

 

その時、一人の最終選別の参加者が大声を出しながら何者かから逃げるように走り去っていった。

 

 

「うわあああああ!!何で大型の異形がいるんだよ!聞いてないこんなの!」

 

 

カエデと水無月が彼が逃げてきた方向を見ると…一際大きい顔を大量の手で覆われている鬼が追いかけて来ていた。

 

 

既に一人の少年が大型の異形の鬼は他の選別参加者の首をへし折っていた。

そしてまた新しく腕が生えると逃げてきた参加者を捕まえたが…。

 

 

「ぎゃあああああ!」

 

 

「雪の呼吸!参の型 細雪!!」

 

 

カエデは少年を助ける為に目にも留まらぬ速さで繰り出す五連撃の突き技で異形の鬼の動きを封じて水無月が攻撃を仕掛けた。

 

 

「氷の呼吸!参の型 雪狐・寒凪」

 

水無月の強烈な踏み込みからの静かな横斬りを繰り出した2人の行動が…捕まった参加者を助け出すことに成功した。

そして手の鬼はギョロっとカエデと水無月を見た。

 

 

「また来たな俺の、可愛い狐達が…。」

 

 

狭霧山、奥深くの斬られた岩の上に狐の面をした少年と隣には同じ狐の面をした少女がいた。

その2人は奏斗と真菰だった。

 

 

「奏斗、カエデと水無月…勝てるかな?」

 

 

「分からない。

努力はどれだけしても足りないんだよ。

知ってるだろう、それはお前も…」

 

 

藤襲山では…。

 

 

「狐小僧共、今は明治何年だ?」

 

 

「この鬼、何いってんの?」

 

 

「!?……今は大正時代だ」

 

 

カエデの言葉を聞いた途端に異形の鬼は気が狂ったかのように暴れだした。

 

 

「ああああああ!!!年号が!!年号が変わっている!!まただ!!また!!俺がこんなところに閉じ込められている間にあああ許さん許さんんん!!鱗滝め鱗滝め鱗滝め!!」

 

 

「どうして鱗滝さんを…あんたが知ってんの?」

 

 

水無月の疑問に異形の鬼が答えた。

 

 

「知ってるさぁ!!

俺を捕まえたのは鱗滝だからなぁ!

忘れもしない四十七年前、アイツがまだ鬼狩りをしていた頃だ。

江戸時代…慶応の頃だった……」

 

 

鬼の語りにさっきの選別参加者が異議の声をあげた。

 

 

「嘘だ!!そんなに長く生きてる鬼は此処にはいない筈なんだ!

此処には人間を二・三人喰った鬼しか入れてないって聞いているんだ!

選別で斬られるのと…鬼は共食いするからそれで…」

 

 

だが、参加者の言葉に異形の鬼はそんなことを気にも止めずに言った。

 

 

「でも俺は生き残ってるんだ。

藤の花の牢獄で五十人は喰ったなぁ…ガキ共を!」

 

 

「五十人だと…」

 

 

「確か…」

 

 

カエデと水無月は鱗滝さんに鬼は人を喰った数だけ強くなると聞かされていた。

その事を二人は思い出す。

 

 

「十二……十三でお前達で十四、十五だ。」

 

 

「!?何の話だ?」

 

 

「……」

 

 

カエデは周りを警戒しながら話を聞き出して水無月は無表情で異形の鬼を睨み付けていた。

 

 

「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。アイツの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ。

 

 

そうだなぁ…。

特に印象に残っているのは二人だな、あの二人だ。

 

 

珍しい毛色の餓鬼だったな、一番強かった。

桜色の髪をしてた額に傷がある。

 

 

もう一人は花柄の着物で女の餓鬼だった。小さいし力もなかったがすばしっこかった。」

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「父さん達が鬼とぶつかった…」

 

 

「4体出て来たから二体ずつ倒すことになって…映像はオルガの父親が出て来たな」

 

 

オルガの父親に向かった鬼は…。

 

 

「全集中・雪の呼吸!伍の型 江雪・六花斬り!!」

 

 

カエデの作った新たな呼吸、雪の呼吸で骨を残さずに鬼を殺した時に水無月の方もうるさく喧嘩している鬼を殺そうとしていたのだ。

 

 

「ぐだぐだとお前らうるさいな、カエデの声が聞こえ無いんだけど…氷の呼吸!参の型 雪狐・寒凪」

 

 

水無月は鬼を倒してカエデと合流した。

 

 

「すげー、雪と氷か…水も良かったけど強いな!」

 

 

「あそこまで練り上げられた剣技、あの修行をやり遂げたお父さん達は凄い」

 

 

鬼を殺した呼吸の技に魅せられたシノと純粋に2人の剣技を見た三日月は憧れて凄いと思った。

 

 

その時に異形の鬼が現れて参加者を捕らえようとした時にオルガと三日月の父親が助け出した。

 

 

「こ、怖い。」

 

 

「見ない方が良いよ、アトラ」

 

 

三日月がアトラを背中に隠すと映像が進み異形の鬼は人間を五十人喰らっていた。

 

 

「人を喰った数で鬼の強さは決まるんだよな?」

 

 

「あぁ、鱗滝さんが2人の父親に伝えてたな…普通の鬼では無く強いから気を付けろって」

 

 

昭弘の言葉に名瀬さんが頷いて異形の鬼は鱗滝さんのことを語り出し最終選別の参加者はその話を否定したがまた話し出したらカエデと水無月を見て十四、十五と言った。

 

 

2人は何の事だと首を傾げた時に鬼は…。

カエデと水無月と映像を見ていたオルガ達を激怒する内容を喋ったのだ。

 

 

「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。

そうだなぁ…。

特に印象に残っているのは二人だ。

珍しい毛色の餓鬼だったな、桜色の髪をしてた額に傷がある。

もう一人は花柄の着物で女の餓鬼だった。小さいし力もなかったがすばしっこかった。」

 

 

異形の鬼が言った時にカエデと水無月、オルガ達には怒りが現れていた。

クロノスの異空間side終

 

 

「この鬼に殺されていただと!?でも俺とミナは奏斗と真菰に…」

 

 

「会ったよ、あれは絶対に夢じゃない」

 

 

「目印なんだよ、その狐の面がな。

鱗滝が彫った面の木目を俺は覚えてる。

アイツがつけてた天狗の面と同じ彫り方。

 

 

厄徐の面とか言ったか?

それを付けているせいでみんな食われた。

みんな俺の腹の中だ、鱗滝が殺したようなもんだ。

 

 

これを言ったとき、女のガキは泣いて怒ってたな。

フフフフッ、それからすぐに動きがガタガタになったからな、手足を引き千切ってそれから…」

 

 

「「ッ!(ブチッ」」

 

 

カエデと水無月は異形の鬼に怒りを覚えて話を最後まで聞かずにいつも冷静にしていた2人は…斬り掛かるが呼吸が乱れている影響で異形の鬼の腕一本にカエデは殴り飛ばされて木に叩き付けられた。

 

 

その頃、狭霧山では奏斗が「落ち着け、カエデ、水無月!呼吸が乱れている、もう良いんだ俺達のことは!!」と言っていた。

 

 

「カエデ!!」

 

 

「気にするな!反撃するぞ!」

 

 

木に叩き付けられたカエデは素早く立ち上がって水無月は異形の鬼の手をかい潜って鬼の腹に突きを入れて鬼は飛ばされた。

 

 

「氷の呼吸!弍の型 凍雲!!」

 

水無月の三連撃の突き技で突いた場所から鬼の手や腹が凍っていた。

 

 

「ぐあああああ!!お前…!よくも!」

 

 

鬼は自分に痛みを与えたカエデを恨んで睨み、彼に全意識を向けていた。

そのため、空中に高く飛んでいた水無月に気づくのが遅れたのだ。

 

 

「(!?気づくのが遅れた!!でも俺の頸の守りは硬いから斬れない。

アイツでも斬れなかった。

俺の頸を切り損ねた所で頭を握り潰してやるんだ。

アイツと同じように。)」

 

 

狭霧山では、奏斗と真菰が話していた。

 

 

「やっぱりカエデと水無月も負けるのかな?アイツの頸硬いんだよね…」

 

 

「負けるから知れないし…勝つかも知れない。

ただそこには2つの事実があるのみ。

カエデと水無月は誰よりも硬く大きな岩を斬った男達だということだ。」

 

 

カエデは地面から水無月は空中から鬼に斬り込んだ。

 

 

「全集中・雪の呼吸、壱の型 牡丹雪!!」

 

 

「全集中・氷の呼吸、伍の型 氷川・氷蓮華!!」

 

 

カエデと水無月は澤見の力を込めて刀を振るった。

そして、奏斗でも斬れなかった鬼の頸を2人は斬ったのだ。

 

 

「(くそっくそっくそおお!!死ぬ!!体が崩れて消えていく、止められない。

 

 

どうせアイツらも…汚いものを見るような目で俺を見るんだ。

最後に見るのが鬼狩りの顔なんて…最悪だ…)」

 

 

「さっさと死になよ」

 

 

「今まで殺した人達の罪を償え」

 

 

カエデと水無月は木の上に飛びながら2人で心の中で奏斗と真菰に語った。

 

 

「「(奏斗、真菰)」」

 

 

「(勝ったよ、俺とミナは…もう安心してくれ。

殺された他の子供達もきっと…帰るという約束通りに帰ったんだよな。魂だけになろうと…)」

 

 

「(2人だけじゃない、他の子供達も大好きな鱗滝さんの所に帰ったんだ。

故郷の狭霧山へ

俺とカエデも死んでいたら俺達の魂は何処に行くんだろうね…)」

 

 

それから最終選別が始まってから七日後の早朝、厳しい条件を勝ち抜いて合格できたのは、わずかにカエデと水無月と七日前に会った胡蝶カナエのみだった。

 

 

「生き残ったのは私達だけね…それで七日前の賭けのことだけど…良いかな?」

 

 

「え、もう俺達は友達でしょ?」

 

 

「俺達は家族だろ?」

 

 

カナエはえっ、家族と驚きながら返答を困っていたので水無月は…。

 

 

「カエデは仲間のことを家族って呼ぶことにしてるんだよ…自分や仲間の血が流れて固まって繋がるから鉄の華=家族なんだってさ」

 

 

そのことを聞いたカナエは笑顔を見せて「とっても素敵な言葉ね」と言った時にずっと3人を見ていた2人の子供は話し出した。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「あの鬼許さねぇ!!

奏斗と真菰のことを侮辱してやがる!」

 

 

「兄貴、怒るのは分かるけど!落ち着けよ!」

 

 

「そうよ、昭弘!」

 

 

いま直ぐに映像に殴りそうになる昭弘を止める昌弘とラフタだったがオルガの父親は鬼に木に叩き付けられた時に水無月は氷の呼吸の技で鬼の手を凍らせてから水無月は空中に飛び上がって…地面から起き上がったカエデと連携して鬼に斬り込んだ。

 

 

「全集中・雪の呼吸、壱の型 牡丹雪!!」

 

 

「全集中・氷の呼吸、伍の型 氷川・氷蓮華!!」

 

 

2人の連携剣技で異形の鬼は撃破された。

 

 

「倒したんだな…父さん」

 

 

「これで、父さん達は死んだ奏斗と真菰の仇を取れたんだね…良かった」

 

 

それからオルガ達の父親は無事に七日間生き残ったが40人程いた筈の子供達はたった3人しか居なかった。

 

 

「あっ、カナエさんがいるよ…クーデリアさん」

 

 

「えぇ、あのような鬼達から生き延びるとは同じ女性として尊敬します。カナエさん」

 

 

クーデリアは同じ女性で七日間生き残った胡蝶カナエに尊敬していた。

そして賭けの内容、2人の答えは…。

 

 

「家族だって、オルガ」

 

 

「考え方も同じって事だね。」

 

 

水無月は友達、カエデは家族だと言った。

自分や仲間の血が流れて固まって繋がるから鉄の華=家族って考えだった。

映像を見ると2人の子供達が話し出した。

クロノスの異空間side終

 

 

「まずは、最終選別に合格なされた皆様に鬼殺隊の隊服を支給させて頂きます。

体の寸法を測り終わりましたらそのあとは手に階級を刻ませて頂きます。」

 

 

「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。

 

いま現在皆様は一番下の癸でございます。」

 

 

「本日中に選んで頂き、刀が出来上がるまで十日から十五日となります。

いまから皆様には鎹鴉をつけさせて頂きます。」

 

 

バサバサバサバサッ!

着物を着た子供が手を叩くと…鎹鴉はカエデ、水無月、カナエの元に一羽ずつ鴉が肩に乗った。

 

 

「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます。では、あちらから刀を造る鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し …… 己の身を守る刀の鋼は御自身で選ぶのです。」

 

 

最終選別の最後は刀を作る鋼を自分自身で選んでから解散という流れだった。

その時、狭霧山に向かおうとカエデと水無月は歩き出した時にカナエは2人に向かって言葉を掛けた。

 

 

「任務で会ったらよろしくね!また会いましょう!カエデくん、水無月くん」

 

 

「またな、カナエ」

 

 

「一緒に頑張ろう、カナエ。じゃあね」

 

 

2人はカナエに挨拶を返すとカナエも手を振りそのまま藤襲山を降りて行った。

カエデと水無月も狭霧山に向かう。

 

 

一方その頃、とある屋敷では鎹鴉からの報告を聞いた一人の男性が穏やかな声で呟いた。

 

 

「そうか。3人も生き残ったのかい…優秀だね。それにしても自分や仲間の血が流れて固まって繋がるから鉄の華、良い言葉だね。

 

 

また私の子供達が増えた…。

3人はどんな剣士になるのかな?」

 

 

カエデと水無月はカナエと別れて藤襲山を下りて数十分経った頃に体中が痛くなり始めて凄まじい疲労が2人を襲って来た。

 

 

「カエデ、今頃体中痛くなって来たんだけど…」

 

 

「ミナ、それは俺も同じだ。それに支給服すら重くなって来た…」

 

 

しばらくすると狭霧山、鱗滝さんの家が見えて来た。

カエデと水無月は確実にゆっくりと家のドアの前に気力で立ちドアをコンコンッと鳴らした。

 

 

「鱗滝さん、カエデ・イツカ…」

 

 

「…水無月・オーガス」

 

 

「「……ただいま、最終選別から戻りました……」」

 

 

鱗滝さんはドアを開いてカエデと水無月を抱き締めて一言。

 

 

「よく生きて戻った!!カエデ、水無月!」

 

 

「「はい!!(涙」」

 

 

カエデと水無月はいままでの思いが溢れたように号泣した。

鬼殺隊の刀が届くまで2人は鱗滝さんの家に世話になるのだった。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「ようやく、鬼殺隊に入隊か…」

 

 

「あぁ、頑張ったんだね…2人のお父さんはこれからも進み続けるんだろうね」

 

 

名瀬とアミダは最終選別に合格した2人に階級と刀を作る為の鋼を選んだ。

カエデと水無月の肩には鎹鴉と言う鴉が付けられた。

 

 

「喋る鴉って居るんだな…」

 

 

「少し可愛いですね…」

 

 

昌弘とクーデリアは鎹鴉のことを喋ることや可愛い等を言った。

 

 

「父さん達、疲労と痛みで辛いんだろうな」

 

 

「うん…倒れそうになってるね…」

 

 

狭霧山に戻った2人は鱗滝さんに抱き締められて……カエデと水無月は泣いたのだ。

クロノスの異空間side終



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初任務1

 

 

 

 

カエデと水無月はこの日の修行も無事に終えて就寝の準備をしていた。

最終選別から十四日が経って2人の疲労や傷等はすっかり治って動きや呼吸が鈍らないようにする為に過酷の山下りの修行を欠かさずにこなしていた。

 

 

素振りをカエデと水無月は数時間が過ぎて家に帽子を被った人がやって来たのだった。

 

 

「あ!鱗滝さん、来たんじゃないの?」

 

 

「あの人が…俺達の刀を?」

 

 

その人の帽子は、沢山の風鈴が付いて歩く度にチリンチリンと音がなった。

 

 

「ふっ、風鈴?」

 

 

「なんで?」

 

 

「俺は鋼鐵塚という者だ。カエデ・イツカと水無月・オーガスの刀を打った者だ。」

 

 

「カエデ・イツカは俺で隣にいるのがミナ………じゃ無かった…水無月・オーガスです。中へどうぞ」

 

 

「……よろしく(ペコ」

 

 

カエデは自身と水無月の紹介をして水無月自身は喋らずにお辞儀だけした。

だが鋼鐵塚さんは人の話を聞かずにその場で箱の開封を始めたのだ。

 

 

「これが日輪刀だ。」

 

 

「はっ?此処で…」

 

 

「俺が打った刀だ。」

 

 

「おじさん、お茶を入れるけど?」

 

 

カエデと水無月は鋼鐵塚さんを何とか地面じゃ無くて家にどうやって連れて行こうか考えていた。

 

 

「日輪刀の原料である砂鉄と鉱石は太陽に一番近い山で取れるんだ。

猩々緋砂鉄、猩々緋鉱石、陽の光を吸収する鉄だ。

陽光山は一年中陽が射している山だ。

曇らないし雨も降らない。」

 

 

「(相変わらず人の話を聞かん男だな。)」

 

 

「あの鋼鐵塚さん、外だと熱中症に掛かるのでとりあえずに家に入ってから……」

 

 

カエデが顔を覗きこむとお面が付いて「あっ、ひょっとこのお面だ」と水無月は言った。

 

 

「んん?んんん?あぁ!お前、オッドアイじゃねえかこりゃあ縁起が良い。

 

 

本来ならば猫にしかならない筈、何だが見れるとは…縁起が良い証拠だな、隣にいる坊主も良い瞳をしてるじゃねぇか!

こりゃあ、刀はどんな色になるんだ?なぁ、鱗滝」

 

 

「儂にも分からん」

 

 

興奮が治まったのか…ようやく鋼鐵塚さんは家に上がってカエデは刀を抜いた。

 

 

「日輪刀は別名、色変わりの刀と言ってなぁ、持ち主によって色が変わるのさぁ。」

 

 

「……(ズズズズ」

 

 

カエデの日輪刀は蒼みがかった濃い水色に変化した。

 

 

「水色っ!!」

 

 

「濃い水色だな…水の呼吸から派生した雪の呼吸の色だな」

 

 

「俺の…日輪刀…」

 

 

鱗滝さんがカエデの日輪刀を説明すると鋼鐵塚さんが何故か切れていた。

 

 

「キー!!俺はお前と同じ赤色か緑色の刀身が見れると思ったのにクソー!!」

 

 

「いたたっ…危ねぇな、何歳だよ!?」

 

 

「三十七だ!」

 

 

カエデと鋼鐵塚さんが喧嘩みたいにじゃれていると鱗滝さんが水無月に振り返った。

 

 

「……水無月、お前も刀を抜いてみろ」

 

 

「うん、鱗滝さん」

 

 

水無月は鋼鐵塚さんの近くにあった自分の刀を取ると刀身を引き抜いた。

 

 

「おおっ!お前は何色だ?」

 

 

「……(ズズズズ」

 

 

水無月の刀は瑠璃色に変化した。

 

 

「瑠璃色!?」

 

 

「……瑠璃色だな。」

 

 

「カエデの刀を見た時も驚いてたけど?

俺達、刀の色は不吉なの?」

 

 

「いや、そういうわけではないが……あまり見ないな派生した呼吸の刀から濃い水色と瑠璃色は…」

 

 

「そうなんですか…」

 

 

「ふーん…」

 

 

その時、カエデと水無月の鎹鴉が声をあげた。

 

 

「カァァ!カエデ・イツカ!!水無月・オーガス!!北東ノ町へ向カェェ!!鬼狩リトシテノ!最初ノ仕事デアル!心シテ掛カレェェ!!」

 

 

「仕事?」

 

 

「もう来たの?」

 

 

「北東ノ町デワァ!観光客ガ消エテイルゥ!

毎夜毎夜、観光客ガ消エテイル!!」

 

 

カエデと水無月は鬼殺隊の第一歩を踏み出した。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「体力を回復したのにまた山下りしてるな」

 

 

「山下りが終わったら刀の素振りをしてるわ」

 

 

名瀬とアミダは感心したように映像を見ていると2人は家の前に向かうと帽子を被った人には沢山の風鈴が帽子に付いていた。

 

 

歩く度にチリンチリンと音がなってそのまま刀を出し始めたがオルガと三日月の父親によって何とか家に入って貰ったのだ。

 

 

「あの、お面…どうやって作ってるんだろうな?」

 

 

「シノ、まさか欲しいの?あれが?僕なら鱗滝さんの狐のお面が欲しいけどな」

 

 

シノとビスケットは話しているとカエデと水無月は刀を取り出した。

 

 

「色変わりの刀だっけ?俺のお父さんとオルガのお父さんはどんな色になるんだろうね?オルガ」

 

 

「分かんねぇって、ミカ」

 

 

映像で2人の日輪刀はカエデが濃い水色、水無月が瑠璃色とかなり珍しい色だと鱗滝さんは言っていた。

 

 

「綺麗な色だね、三日月、団長さん」

 

 

「そうだね、アトラ」

 

 

「あぁ、そうだな…」

 

 

映像では鎹鴉が2人に任務に向かった。

観光客が消えていると最速していたのだった。

クロノスの異空間side終

 

 

任務に出る前に鱗滝さんから2人に伝えられたことがあった。

1つ、鬼殺隊の隊士、その数はおよそ数百名…政府から正式に認められていない組織だということ。

 

 

2つ、鬼殺隊の隊服も特別な繊維で出来て通気性は良いが濡れにくく燃えにくい。

雑魚鬼の爪や牙では隊服を裂くことは出来ないこと。

 

 

3つ、これから先に"血鬼術"という特殊な鬼は異能の鬼だということ。

 

 

4つ、人間を鬼に変えられる血を持つ鬼はこの世にただ一体のみ。

今から1000年以上前に1番始めに鬼となった者。

その鬼の名は、鬼舞辻無惨だということ。

 

 

そんな二人は鬼殺隊の隊服を来て北東の町に来る前に鱗滝さんからの餞別でカエデは濃い青色に白い雪の華と赤い椿が描かれた羽織。

 

 

水無月は濃い青色に白い雪の華と蓮の花が描かれた羽織を貰った。

似ている羽織だが違うのは描かれた椿の花と蓮の花だけだった。

 

 

赤い椿の花言葉は「誇り」

蓮の花言葉は「清らかな心」

 

 

北東の町に着いた二人は早速、町の住人に聞き込みをする為にまずは甘味処に向かった。

 

 

「なんで、甘味処なの?カエデ」

 

 

「ミナ、観光客が来る場所は甘味処が多くて町の住人も良く来るから噂話を聞けるだろ?」

 

 

「確かにそうだね」

 

 

カエデと水無月は甘味処に向かって何も食べないのはこの町に来たのに勿体無いのでお団子を食べながら店員さんに話を聞いた。

 

 

「この町で居なくなった人達が何処に行ったか知らないか?親父さん」

 

 

「あぁ、近頃、何人も居なくなるっているんだ。

村の近くにある風景を見に来たお客さん達が……」

 

 

「それって何処にあるの?」

 

 

お団子を食べながら水無月は店員さんに聞くと…町のすぐ近くにある森には滝があり周りの風景と相まってそれなりに良い景色になっていた。

 

 

おまけに夜には蛍が飛び交い幻想的な景色になるとのことで…それを見に来る観光客も多いんだとか…。

 

 

そしてその観光客が時折、町に帰って来なくなったので遭難したのかもと町の人達が捜索しても見つから無かった。

 

 

捜索してもたまにあるのは川の中の石に着物の一部だったであろう布きれが引っかかっていること。

 

 

居なくなるのは夕方から夜にかけて景色を見に行った人ばかりであることから鬼の仕業の可能性があるとのことで今回、カエデと水無月が派遣されたのだった。

 

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 

「兄ちゃん達…。

もしその場所に行くんなら気を付けろよ」

 

 

カエデは店員にお金を払い終わると「大丈夫ですよ…俺達がその噂をもう出ないようにしますから」というと店員は頭にハテナを浮かべていたが「また、来てくれよ」と笑顔を浮かべた。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「あっ、オルガのお父さんのあの姿…夢で出て来た時の格好だ…」

 

 

「そうなのか?ミカ。」

 

 

「間違えないよ。あっ、お父さんも出て来た…」

 

 

2人は鬼殺隊の黒い隊服にカエデは濃い青色に白い雪の華と赤い椿が描かれた羽織。

水無月は濃い青色に白い雪の華と蓮の花が描かれた羽織を着ていた。

 

 

「あんた、綺麗な色の羽織だね。私らの所には売って無いんじゃないかい?」

 

 

「そうだな、アミダ。

お前にも似合う羽織があるかもな」

 

 

映像を見て2人の羽織を絶賛する名瀬とアミダだったが2人は北東の町で聞き込みをする筈なのに甘味処に向かった。

 

 

「なんで、甘味処なんだ?」

 

 

「お腹すいてるから?」

 

 

ユージンとビスケットの疑問は映像のカエデによって理解した。

 

 

「なんで、甘味処なの?カエデ」

 

 

「ミナ、観光客が来る場所は甘味処が多くて町の住人も良く来るから噂話を聞けるだろ?」

 

 

「確かにそうだね」

 

 

カエデと水無月は話しながら甘味処を目指していた。

ユージンとビスケットはオルガの父親が頭脳明晰で驚いていた。

2人が甘味処に着くとお団子を食べながら店員に話を聞いていた。

 

 

町にある幻想的な景色を見る為に観光客が絶えなかったこと。

 

 

ある日を境に観光客が帰って来なくなって遭難したのだと町の住人が探しに行ったが川の近くに着物の一部だけ落ちていた。

 

 

居なくなるのは夕方から夜にかけて景色を見に行った人らしいと言った。

店員さんがお団子を食べ終わってたカエデと水無月に「その場所に行くんなら気を付けろ!また、来てくれよな!」と言った。

クロノスの異空間side終

 

 

カエデと水無月は甘味処から出ると通り掛かった村人にその滝が見れる場所への行き方を聞いた。

 

 

「見に行くの?」

 

 

「一応、確認の為だ…!ミナ、木の枝に飛べ」

 

 

「わかった」

 

 

2人が木の枝に飛ぶと近くの空き地で声を張る子供達の姿が目に入った。

 

 

「本当だよ!僕は昨日見たんだ、人が川の中に引きずり込まれてくとこを!!」

 

 

一人の少し気弱そうな少年が気の強そうな少年に必死に声を荒らげていた。

 

 

「そんで引きずり込んでったのはどんなヤツだったんだよ?」

 

 

「暗くなり始めてた…離れた草むらから覗いてたからハッキリとは見えなかったけど……人みたいな形の腕があった!」

 

 

「……ぷッ、アハハハハ!んだよちゃんと見たわけじゃないのかよ!熊かなんかと見間違えたんだろ!?」

 

 

「ち、違う!あれは熊じゃなかった……きっとあの川には人喰い妖怪がいるんだよ!!」

 

 

「妖怪なんてお前そんなんいる訳ねェだろ!怖い夢でも見たのか!?」

 

 

「夢じゃないよ!

本当だもん、本当にいたんだから!!」

 

 

「へぇ〜そんなに言うなら今晩確かめに行こうぜその人喰い妖怪ってのをさ!」

 

 

腹を抱えて笑っていた少年が涙目になる気弱な少年にニヤッと笑ってそう提案した。

 

 

「だ、ダメだよ!

夜に言ったら僕達も襲われちゃうよ!!」

 

 

「へーきだって!俺達は足速いんだから楽勝だろ。

来なかったらボッコボコにするからな!

覚悟しとけよ、ヨシ!」

 

 

「そ、そんなぁ、待ってよ!ケンちゃん!!」

 

 

少年の抗議に耳を貸す様子はなく勝気な少年は腕を振って空き地から去って行った。

気弱な少年も困った顔をしながら慌ててあとを追い走りだしていった。

 

 

「なるほどな……今日の夜か…」

 

 

「どうする、カエデ」

 

 

「決まってるだろう?

あの子達と滝に向かって鬼を斬るんだよ」

 

 

「了解、カエデ」

 

 

カエデと水無月は空き地で話していた子供達が居なくなった時に……木の枝から聞き耳を立てていた2人は少年達の背を見ながら話していた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初任務2

 

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「父さん達、町の住人から観光客が消えた滝の場所を聞いて向かってるな」

 

 

「あれ、なんで木の枝の上にいるの?」

 

 

映像を見ると空き地で声を張る子供達の姿が目に入った。

その話は川に引き込まれた人喰い妖怪の話だった。

 

 

「なんか、不気味な話だな」

 

 

「でも、人が引き込まれるって鬼しか出来ないんじゃ無いのかな?」

 

 

「ラフタさん、子供達が言ってた妖怪の説がありますよ。」

 

 

昭弘、ラフタ、昌弘は結論を出したが子供達が空き地から居なくなるとカエデと水無月は妖怪では無く鬼だと結論を出していた。

クロノスの異空間side終

 

 

その日の夜。

寝静まって外を歩く者がいなくなった空き地に辺りをきょろきょろ見回しながら少年が歩いて来た。

 

 

「おっ、ちゃんと来たじゃねぇか!ヨシ!」

 

 

「わっ、声が大きいよケンちゃん。だってケンちゃんがあんなこと言うから……」

 

 

「ヘッ、じゃあさっそく人喰い妖怪ってヤツを探しにい……」

 

 

「こんばんは、月が輝く良い夜だね」

 

 

「うん、でも夜に子供達だけで出歩くのは危険だよ」

 

 

「ッッ!だ、誰だ!お前ら!?」

 

 

カエデと水無月は挨拶したらめちゃくちゃビビられたのだ…幽霊が出た訳では無いのに…。

 

 

「デカい声出しちゃダメだよ、町のみんなに近所迷惑だからね?」

 

 

「それで君達だけで何処に行くの?」

 

 

「お、お前らのせいだろ!関係ないだろ!?急に出てきやがって……!だから誰だよお前ら!!」

 

 

キレてくる勝気な少年に改めて名乗った。

 

 

「俺はカエデで隣にいるのが…」

 

 

「水無月だよ」

 

 

ケンちゃんと呼ばれた少年はなんで此処に居るんだと2人に聞いた。

 

 

「実は、この辺の森が良い景色と評判だと聞いて見に来たんだが…」

 

 

「道に迷ったりしてね、時間を無駄にしてこんな時間に到着にしたんだよ」

 

 

夕方頃に事前にカエデと水無月は決めていた話を声を抑えながら勝気な少年はふーんと頷いてから…。

 

 

「俺とヨシは…これから森に入るから一緒に行くなら観光客に人気の"あの場所"まで案内するぜ!」

 

 

「……本当か?」

 

 

「ありがとう、ケンちゃん。

迷わずに行けそうだね、カエデ」

 

 

「そうだな、ミナ」

 

 

2人はワザとらしく提案してきた少年に小さく笑みを零して頷いた。

 

 

「さすがに夜は暗いし歩きづれェな、お前らちゃんと付いて来いよ!」

 

 

「ちょ、速いよケンちゃん!置いてかないでよぉ」

 

 

勝気な少年の持つカンテラの灯りだけを頼りに進んでいるとそんな困り声が聞こえてきた。

 

 

「君の持つ灯りだけが頼り何だよ。

ちゃんと友達のことも気にかけて進まなきゃダメ…」

 

 

「ミナに言われたな、ケン」

 

 

「ったく、ちょっとだけゆっくり歩いてやるよ!

ついてこれねぇなら置いてくぞ!」

 

 

「ケン、素直じゃ無いね」

 

 

「っるせえ!水無月!……てかお前らすげぇなこんな暗い中よくそんな軽やかに歩けるな」

 

 

「あぁ、俺とミナは昔と今も鍛えてるからな」

 

 

勝気な少年…ケンに説明をしたカエデは、一番後ろを水無月と共に歩く気弱な少年に水無月は話し掛けた。

 

 

「ヨシ、しんどいなら俺がおぶって行こうか?」

 

 

「い、いえ!自分で頑張ります……。

カエデさんと水無月さんは凄いですね…でも、2人は僕らと三つしか歳が変わらないのにどうしてそんなに動けるんですか?」

 

 

「小さい頃からずっとカエデと鍛えてたからね。

君達と同じ十歳の頃には毎日、山の急斜面と木から木に飛び乗って全力で遊んでたよ、ヨシ」

 

 

「そうだったんですね」

 

 

後ろから水無月とヨシの会話を聞きながらもう1人の少年、ケンの姿が見えた。

 

 

「おい、3人共!そろそろ着くぞ」

 

 

「ケン、案内ありがとうな。

この景色は確かに綺麗だ。」

 

 

「水無月さん、着きましたよ!」

 

 

「ヨシもありがとう。

此処が観光客や町の人達から人気になるのは分かる気がするよ」

 

 

カエデと水無月が町の人達から聞いていた通りの絶景の景色が広がっていた。

夜の為、ハッキリと全体は見えないがバシャバシャと大きな水音を立てて流れる大きな滝。

 

 

そして辺りを淡い光を発しながら飛ぶ蛍達。

その光や月の光が川に反射していることも相まって…確かに幻想的な景色であった。

 

 

「やっぱ蛍以外なんもいる感じしないな!」

 

 

「ほ、本当なんだからね!絶対見たもん!」

 

 

「ケンもヨシも落ち着けよ。

とりあえず座ってひと息つこうぜ」

 

 

「ん、お団子食べる?」

 

 

カエデは川の近くにある石にに座り込みケンとヨシに手招きをした。

水無月は買ったお団子をケンとヨシに渡してカエデの背中に自身の背中を付けた。

ケンとヨシは顔を見合わせてカエデの隣へ腰を下ろしてケンは疑問を口にした。

 

 

「お前ら、本当に俺達の三つ上なのか?

無駄に大人びてんだよな」

 

 

ケンの言葉でカエデと水無月は肩をビクッとさせたが直ぐに違う話題を水無月が出した。

 

 

「……二人はいつも一緒にいるの?」

 

 

水無月はケンに質問するとケンは一度、水無月の顔を見て視線を川に移してまぁなと頷いた。

 

 

「家が近ぇ…歳も同じだからな。

それにこいつは直ぐに一人でビクビクしてっから俺が遊んでやってんだよ」

 

 

「う、うん……周りの子に自分から話しかけるのとか少し苦手で……それを見かねたケンちゃんが僕を引っ張って色んなとこに連れ回してくれるんです」

 

 

「俺とミナも幼なじみだ。

そういう縁は大事にしろよ。

大人になってもずっと仲良く居れたら最高だろう?」

 

 

「ヘッ!それはどうだかな。

俺はこんな田舎なんて出て警察に入るのさ。

そんで悪いヤツを片っ端から捕まえてやんのさ!」

 

 

「僕だってケンちゃんと同じ警官になって困ってる人をいっぱい助けたい」

 

 

二人には夢を叶えて欲しいと思うカエデと水無月だが立ち上がった。

 

 

「……?カエデさん、水無月さんどうかしました?」

 

 

急に立ち上がったカエデと水無月にヨシが不思議そうに首を傾げていた。

 

 

「ケンとヨシのような未来ある子供達の夢の芽は絶対に摘ませたくないから…」

 

 

「下がってろ、此処からは俺とミナの仕事だ!」

 

 

カエデと水無月は日輪刀を構えていた。

 

 

「え……えっ、刀!?なんでそんな物!2人は持ち歩いてるんですか!?」

 

 

「ごめんね、ヨシ。俺とカエデが滝を見に来たってのは半分本当で半分嘘なんだ」

 

 

川をじっと見つめて水無月はヨシにそう答えながら…2人は羽織の中に隠していた日輪刀を普段の腰の位置に戻して静かに抜刀した。

 

 

「ほら、出て来いよ。殺気……ダダ漏れだぞ」

 

 

「ケッ、勘の良い奴らめ!!」

 

 

カエデが川に向けてそう言い放った直後に大きな水飛沫を上げ飛び掛かって来たそいつを水無月が刀で受け止め押し返した。

 

 

「な、なんだコイツ!?!?」

 

 

「最近ケンとヨシの町で頻発していた観光客が消息を絶つ一件、その犯人だよ」

 

 

カエデの後ろで驚いた顔をしてあと退りするケンに水無月は答えていると身体をブルブル震わせてながらヨシが指をさした。

 

 

「こ、コイツだよ!ケンちゃん!

僕が昨日見た人喰い妖怪だ!!」

 

 

「おぉ、妖怪とは随分ひでぇこと言うじゃねえの……んぉ?

お前は……俺が人を食おうとしてたところをコソコソと後ろで覗いてやがった餓鬼じゃねえか。

 

 

機嫌が良かったから見逃してやったのにわざわざ自分から食われに来てくれるとは嬉しいねぇ!」

 

 

ヨシを鋭く尖った爪のある指で差しながら…そいつは気味の悪い笑顔を見せていた。

 

 

「ひいいい!そんなっ!バ、バレてたなんて……お前一体何なんだよ!!」

 

 

「こいつは、妖怪じゃねぇよ。

人を襲って喰らう鬼だ!」

 

 

カエデの言った言葉に目を細めて舐め回すようにカエデと水無月を順番に見るそいつは…緑がかった身体にくちばしのような尖った口があった。

 

 

水かきのついた手足を持って亀のような甲羅を背負い頭に湿り気を帯びた皿のような物体を乗せていた。

 

 

「あんた、鬼じゃなくて河童でしょ?」

 

 

「違っっげえよ!!鬼だ!俺は!!」

 

 

水無月の言う通りどっからどう見ても河童にしか見えないその鬼の無駄にやかましい叫び声が夜の静かな森に虚しく響き渡った。

 

 

「人に危害を加える鬼ってことで俺達に斬らせくれるよな?」

 

 

「パッカッカッッ!お前達のような子供が俺を斬れる訳がないだろうよっ!!」

 

 

奇怪な笑い声を上げながら爪を振るってくる鬼を2人は刀で防いだ。

そして押し返して軽く後ろに飛び退いた。

 

 

「ケン、ヨシちょっと危ねぇから下がってろ!ミナ…行くぞ!!」

 

 

「カエデ、わかった!」

 

 

カエデは少年達を後方に行かせて水無月と共に日輪刀を胸の前で真っ直ぐ上に向け構えた。

 

 

「雪の呼吸、弍の型 花弁雪!!」

 

 

「氷の呼吸、捌の型 氷刺雪魄!!」

 

 

「あら、よっと!!」

 

 

「あんた、案外すばしっこいんだね」

 

 

2人から放たれた雪の呼吸と氷の呼吸を鬼はバク転してそのまま川に飛び込むことで躱した。

 

 

「良い技を持ってんな鬼狩りの餓鬼。あぁ!早くお前らの溺れ死ぬ姿が見たくなってきたぜえ」

 

 

川から飛び出して上がってきた鬼が目を見開いて気味が悪い表情で笑う。

 

 

「ふーん、成程ね。今までの人達もそうやって殺してから喰ってたのか?」

 

 

水無月の質問に鬼は余裕もって答えた。

 

 

「そうだ。間抜けヅラで景色見に来た奴らを引きずり込んで逃げられないよう川の中でまずは押さえ付けてやるのさ。

 

 

あの恐怖や焦りに染まった顔を見るのが堪らねぇ!

そうやって殺した人間の方が別格な味のさ!」

 

 

「…悪趣味、理解したくない」

 

 

「同感だな、ミナ」

 

 

目を輝かせながら嬉々として語る鬼の姿に思わず顔を顰める2人。

 

 

「一番にお前を殺して仕舞えばあとは楽だからな!

そのためには使える物はちゃ〜んと使わなきゃな…」

 

 

そう言った鬼は指を一本クイクイっと動かした。

カエデと水無月は何か血鬼術でも使う気かと警戒を強めた直後にカエデは気づいた。

 

 

鬼の視線の先がカエデと水無月では無い。

それは俺達の後ろにいる誰かに向けているようで……

 

 

「パッカッカッ!甘かったな鬼狩りのガキよ!!」

 

 

「…はっ?……なるほどそういうことかよ……!」

 

 

背後からヨシ達の叫び声が響き振り返った先にはもう一体姿形が瓜二つな河童の鬼がケンの首を締めながら抱えていた。

 

 

「ごめんな兄ちゃん。

この餓鬼がその弱っちい餓鬼を突き飛ばしちゃってさ二匹同時に捕まえらんなかった!」

 

 

「気にするな弟よ、今すぐにもう一匹も締め上げりゃ良いだけだろう?」

 

 

「や、やだ……!!」

 

 

「させねぇよッ!」

 

 

二体目が動きだした瞬間、尻もちをついて怯えるヨシをカエデが直ぐに抱きかかえ二体の鬼から距離を取った場所に移動した。

 

 

「……んのやろう、二人いたとは気づかなかったぜ」

 

 

「パッカッカッ!オレがお前らに堂々と姿を見せていたからな。草むらからそっと近づいていた弟に気づかないのも無理はないさ」

 

 

「パッパッカッ!

上手くいって俺は嬉しいよ!兄ちゃん!」

 

 

ニヤニヤと笑う弟鬼がそう声を上げて川の近くまで…移動して川を背に立ちこちらを見た。

 

 

「このガキを殺されたくなかったらお前らの刀を川に捨てるんだな。

そんでおれ達がお前らを溺れ殺したら餓鬼共は家に返してやる。

嫌ならこの餓鬼を置いて3人で大人しく村に帰れ!」

 

 

「攻撃を仕掛けてきたりしたら即!

この餓鬼の喉笛掻っ切るからなぁ。

どうしよっか鬼狩りさ〜ん?…こんなお子様見殺しになんてできないよねぇ??」

 

 

カエデは水無月と喋らずにアイコンタクトをとって行動を開始した。

水無月は近くにいたヨシを連れて森の中に向かった。

 

 

「まさか、自分が犠牲になるとは…あとは刀を川の中に置けよ。

そしたら子供を助けてやるよ。」

 

 

そう鬼が言うとカエデは「いま、月が雲に掛かって見えないから月が見えたら刀を置いてやるよ」と言った時にカエデの背中に暖かみが来た。

 

 

「月が出て来たぞ!刀を置け!」

 

 

鬼がそういうがカエデは刀を持ちながら…2人の鬼にゆっくりと歩いていた。

 

 

「この餓鬼を殺すぞ!?」

 

 

ケンを持っている鬼は爪をケンの首元まで持っていた時にカエデは鬼に近づいていた。

 

 

鬼の視線はカエデの持っている刀に向いていてカエデは笑っていた。

 

 

「………(クラップスタナーの発動条件は…

1つ、武器を持っていること。

2つ、敵が手練であること。

3つ、敵が殺される恐怖を知っていること。)」

 

 

カエデは空中に刀を置くように捨てそのままクラップスタナーを決めて一瞬でケンを助けて後ろに飛んだ。

 

 

「な、何が…てめぇ!?喰ってやる!!

いまは丸腰だからな!」

 

 

「そんな訳無いよ、俺が居るんだから」

 

 

鬼は後ろから声がして振り向く前に……。

 

 

「氷の呼吸、漆の型 氷雨!!」

 

 

「…あの餓鬼と…逃げたんじゃ……」

 

 

実は、水無月は逃げた訳では無くてヨシを森の中に隠してカエデが鬼と話して月が隠れている時にカエデの背中に付いてクラップスタナーを決めた時に鬼の首を斬ったのだ。

 

 

水無月は川の中に沈んで置いてあったカエデの刀を持って渡すとヨシとケンが来た。

 

 

「危ない目に付き合わせて悪かったな。

特にケン、殺されると思ったよな。本当にごめんな」

 

 

「うぅ……まぁ、大体わかってたけどよ…」

 

 

無愛想にそう吐き捨てて歩きだして行くケンとヨシ。

 

 

「俺とミナが鬼は倒したからもう人が居なくなることはもう無くなるぞ

 

 

あと今更だけどな!ケン、ヨシ!

夜に子供だけで出歩くなんて絶対ダメだかんな!」

 

 

「今回は鬼の怖さを知って貰う為に俺とカエデは敢えて止めずに一緒に来たけど…。

俺達が此処に来て無かったら2人は死んでたよ?」

 

 

散々危険な目に遭わせてから言っても遅いと思うが…2人はこの場所で伝えた。

本来はそうなのだ、こんな夜に出歩くなんて言語道断なのだ。

 

 

「は、はい…すみませんでした……。

カエデさん、水無月さん」

 

 

「…………おう」

 

 

本当に反省したようにシュンとして謝ったヨシとバツの悪そうな顔をして頷いたケン。

反応はそれぞれだが二人ともちゃんと聞き入れて反省しているようだ。

 

 

カエデと水無月はケンとヨシの頭をわしゃわしゃと撫でてカエデ達は村へと戻った。




ヨシ↓
ストレートの黒髪で青色の着物を着ている。
性格は穏やかでオドオドしがちな子。


ケン↓
薄い黄色の短髪で橙色の着物を着ている。
口調は荒く性格も荒々しい。
ガキ大将で度々村の子供達とケンカしてほぼ勝つ。
(ドラえもんのジャイアンみたい)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休息と合同任務1

 

 

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「夜は鬼が活動するのに2人で行くなんて無茶だよ」

 

 

「あっ、父さん達は子供に話し掛けた」

 

 

アトラとオルガがそういうと…子供達と共に行動を共にするオルガと三日月の父親はたわいも無い話をしていた。

 

 

「君達と同じ十歳の頃には毎日、山の急斜面と木から木に飛び乗って全力で遊んでたよ」と映像から聞こえる水無月の声。

 

 

「その時にドジして木から落ちそうになったのは何処の誰だ?

俺が助けてなかったら頭と地面がぶつかっていたぞ。」

 

 

水無月は「無事だったから良かったけど村の人達に見つかってからはこっそりやってたね」と言っていたら子供の1人が「着いたぞ」と2人を呼んだ。

 

 

「三日月の父親はやんちゃ坊主だったんだな…」

 

 

「俺、そこまでじゃないから」

 

 

名瀬の言葉を否定した三日月。

映像では…行方不明になった観光客が訪れていた場所に着くと夜の為、ハッキリと全体は見えないがバシャバシャと大きな水音を立てて流れる大きな滝。

 

 

そして辺りを淡い光を発しながら飛ぶ蛍達。

その光や月の光が川に反射していることも相まって確かに幻想的な景色であった。

 

 

「まぁ、とても素晴らしい景色ですわ。」

 

 

「クーデリアさん、私達の地球にも同じような景色があると良いね。」

 

 

「えぇ、アトラさん」

 

 

クーデリアとアトラが幻想的な景色に見とれていると映像のカエデと水無月は立ち上がったて出て来た鬼と対峙していた。

その時、子供の1人が鬼をこの間見た妖怪だと言ってカエデと水無月は攻撃を仕掛けるが躱されて鬼は語り出した。

 

 

「間抜けヅラで景色を見に来た奴らを引きずり込んでは逃げられないよう川の中でまずは押さえ付けてやるのさ。

 

 

あの恐怖や焦りに染まった顔を見るのが堪らねぇ!

そうやって殺した人間の方が美味くて別格さ!」

 

 

鬼が言った言葉にカエデ達も映像を見ていたオルガ達も怒りを覚えてカエデ達に倒してくれと願っていたが状況は変わった。

 

 

「鬼が二体、それに子供が人質に!」

 

 

「卑怯な鬼だね」

 

 

オルガは黙って見ていた。

 

 

「この餓鬼を殺されたくなかったらお前らの刀を川に捨てろ。

俺達がお前らを殺したら餓鬼共は家に返してやる。

嫌ならこの餓鬼を置いて3人で大人しく村に帰れ!」

 

 

「そんなこと!

オルガと三日月の親父がする訳ない!!」

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

シノとビスケットは映像を見ながらカエデと水無月のその返答を待っていた。

水無月は近くにいたヨシを連れて森の中に向かった。

 

 

「お父さん!?」

 

 

映像を見ていた三日月はまさか自分だけ逃げるなんてと思った。

 

 

「自分が犠牲になるとは…。

あとは刀を川の中に置けよ。

そしたら子供を助けてやるよ。」

 

 

カエデは「いま、月が雲に掛かって見えないから月が見えたら刀を置いてやるよ」と言った。

 

 

刀を持ちながら2人の鬼にゆっくりと歩いていた。

鬼達の視線はカエデの持っている刀に向いてカエデは笑っていた。

 

 

「なんで、笑ってんだ?

父さん、ミカの父さんも居ないのに…」

 

 

その時、映像から声が聞こえた。

オルガの父親の心の声だった。

 

 

「………(クラップスタナーの発動条件は……

1つ、武器を持っていること。

2つ、敵が手練であること。

3つ、敵が殺される恐怖を知っていること。)」

 

 

カエデは空中に刀を置くように捨てそのままクラップスタナー(猫騙し)を決めて一瞬でケンを助けて後ろに飛んだ。

 

 

「すげー!!あんな方法があるなんて!!」

 

 

「団長さんのお父さんは刀を持ってないよ!

どうするの?」

 

 

映像を良く見ると鬼の首を斬った男がいた。

それは三日月の父親だった。

 

 

「逃げたんじゃ無かったんだ!!でもどうやって?」

 

 

その答えを映像の水無月が説明したのだ「俺は逃げた訳では無くてヨシを森の中に隠してカエデが鬼と話して月が隠れている時にカエデの背中に付いてクラップスタナーを決めた時に鬼の首を斬った」と…。

 

 

「オルガの父親がワザと囮になったのか?

それでも三日月の父親のことを悟らせ無いような会話術と計算された攻撃…」

 

 

「到底、真似出来ることでは無いね」

 

 

そう会話しているとカエデ達は子供達に夜に出歩かないこと。

鬼のことを知ってもらう為に利用したことを謝って子供達もごめんなさいと2人に謝った。

そして4人は村に帰った。

クロノスの異空間side終

 

 

村に戻ると我が子がいないと家を飛び出していたヨシとケンの母親と鉢合わせして大まかに事情を説明した。

その日はカエデと水無月はそれぞれ2人の家に泊めてもらい一夜を明かした。

 

 

翌朝。

ヨシとケンと共にカエデと水無月は再びあの滝と川へ訪れた。

 

 

「あぁ、此処は鬼さえいなきゃ非常に良い所だ」

 

 

「夜も幻想的だったけど朝も綺麗だな」

 

 

「あの、カエデさん、水無月さん、どうして此処に?それにそのお花は…」

 

 

ヨシは水無月に手に持っている花を見ていた。

 

 

「鬼の被害に遭った人達への手向けの花。喰われて骨も残らずじゃ墓に入れてやることも出来ないから…」

 

 

水無月は川辺に村で買ってきた花をそっと置いた。

そしてカエデと共にしゃがみ込み静かに手を合わせ目を瞑った。

近くで布の擦れる音が聞こえて来た。

2人は小さく目を開けてみるとそこには同じように…しゃがんで手を合わせるヨシとケンの姿があった。

 

 

「…やることやったから俺とミナは帰るぜ」

 

 

「ヨシ、ケン。またね」

 

 

カエデと水無月は2人にそう言って手を振って背を向けると声が掛かった。

 

 

「なぁ!」

 

 

「ん、何?ケン」

 

 

「どうした?」

 

 

歩きだした俺達をケンが呼び止めた。

 

 

「お前らは…何者なんだ?」

 

 

「俺達は人々を鬼から守る……鬼殺隊の新人隊士だ」

 

 

「……2人が無事で良かった」

 

 

力強く答えたカエデと水無月は今度こそ二人の元から歩き去った。

北東の町から鬼を討伐したカエデと水無月は鎹鴉から泊まる場所に向かっていた。

 

 

「カアアーーッ休息!!休息!!疲レガ取レルマデ!休息セヨ!!」

 

 

鎹鴉がカエデと水無月を連れて行ったのは藤の花の家紋の家だった。

藤の家紋の家から家主である老婆が門から出て来てカエデ達を招き入れた。

 

 

「はい…」

 

 

「夜分に申し訳ありません。」

 

 

「鬼狩り様でございますね。どうぞ……」

 

 

老婆はカエデと水無月を部屋に案内して食事や風呂の準備などしていた。

 

 

「なんか、怖いほど尽くされて無い?カエデ」

 

 

「鴉から聞いたがこの藤の家はかつて鬼殺隊に命を救われた恩返しで俺達、鬼狩りの隊士達に無償で尽くしてくれる藤の花の家紋の一族なんだとよ。ミナ」

 

 

「へぇ、なら暫くはゆっくり出来そうだね。」

 

 

「そうだな」

 

 

それから1週間、カエデと水無月は任務が来るまでは刀の素振りや露天風呂で好きなように過ごしていた時に鎹鴉が2人の所に来た。

 

 

「次の任務って合同任務なの!?」

 

 

「まだそんなに場数踏んで無いんだけどな…」

 

 

「文句イウナ!支度ガ出来タラ行ケ!!」

 

 

カエデと水無月は隊服と羽織とそれぞれの刀を持って合同任務の場所に向かった。

 

 

「今回の合同任務って俺達とあと何人?」

 

 

「鴉に聞いたら俺達とあと3人らしい」

 

 

カエデと水無月が合同任務場所に着くと夕暮れになり始めていた。

 

 

「最終選別以来ね!カエデくん!水無月くん!」

 

 

「久しぶりだな、カナエ。此処に居るってことは…」

 

 

「あ、カナエ…久しぶり!彼処に居る2人は?」

 

 

「久しぶり、えぇ…私も合同任務の1人よ。

それで彼処に居るのは去年最終選別に合格した人よ」

 

 

カエデと水無月に近付いてくる2人は手を差し伸べてきた。

 

 

「私は風奈よ、階級は壬で使う呼吸は風の呼吸よ。

名前で呼んでね」

 

 

「俺は来弥だ。

階級は風奈と同じで使う呼吸は雷の呼吸だ。

名前で呼んでくれよ」

 

 

そう話す2人にカエデと水無月とカナエはそれぞれの階級と自己紹介を始めた。

 

 

「それで今回、合同任務なんだけど…。

十二鬼月が居るって噂なのよ」

 

 

風奈の言葉に全員は驚愕の事実を知った。

 

 

「十二鬼月…鬼舞辻無惨の直属の配下だったな」

 

 

「倒せんのか?俺達が…。

ちゃんとした作戦と連携しないと勝てないぞ」

 

 

その時、カナエが「リーダーと作戦ならカエデくんが考えて見たらどうかしら?」と言った。

 

 

「彼を…何故?」

 

 

カナエはカエデと水無月が最終選別で倒した異形の鬼を倒した時の話を2人に話た。

 

 

「あの時、近くに居たのか…」

 

 

「えぇ、手助け出来なくてごめんなさいね」

 

 

「別に良いけどよ…」

 

 

その話を聞いた…来弥がカエデの肩を掴むと…。

「頼む、俺達全員が十二鬼月に勝てる為の作戦を立ててくれ!!」と言われたカエデは断ろうとしたが……水無月がトドメをさした。

 

 

「俺、カエデの指示が無いと戦わないからね」

 

 

「あぁ!!わかったよ!あとで文句言うなよ!!」

 

 

それからカエデが考えた作戦で5人は十二鬼月が潜んでいる森林の中に入ったのだ。

奥に進むと頭巾をかぶっていた翁の姿をしたる鬼……笛鬼がいた。

その目には下弦の弐と掛かれていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

合同任務2

 

 

 

 

「下弦の弐である儂が居ると分かってわざわざ来てくれるとはのう…」

 

 

「安心しろよ、俺達がお前を逝くべき場所に連れて行ってやるからよ」

 

 

カエデがそう話すと4人はそれぞれ刀を笛鬼は笛を手に持ってカエデ達は笛鬼に戦いを始めないように攻撃を仕掛けた。

 

 

最初に仕掛けに言ったのは水無月だった。

 

 

「氷の呼吸、壱の型 氷河乱風!!」

 

 

水無月の六連撃の突き多めの技でこの技を食らった…下弦の弐、笛鬼は動けなくなった所にカエデと風奈は技を繰り出した。

 

 

「雪の呼吸、陸の型 氷柱乱舞!!」

 

 

「風の呼吸、伍ノ型 木枯らし颪!!」

 

 

笛鬼の両手が凍って木枯らし颪でその凍った手を斬ってそこにカナエが花の呼吸で攻撃を仕掛けた。

 

 

「花の呼吸、伍ノ型 徒の芍薬!!」

 

 

九連撃の斬撃を笛鬼に斬り付けた時にまた水無月からローテーションで笛鬼に戦いを始めないようにした。

その頃…。

近くの木の幹に雷の呼吸の使い手、来弥がいた。

 

 

「みんな、俺に出来るのか…」

 

 

作戦開始前の会議では…。

 

 

「それでどうするんだ?」

 

 

「どんな鬼かいまは分からないが鬼に戦いを始めさせなければ良い」

 

 

カエデの言葉がわかったのは水無月だけだった。

 

 

「鬼が攻撃する前に俺達5人が一人一人、鬼に向かってそれぞれの呼吸の型を出し続けるんだよ」

 

 

水無月の言葉で理解した風奈、来弥、カナエの3人はあることに気付いた。

 

 

「誰が、鬼の首を斬るんだ!?」

 

 

カエデは来弥を見た。

 

 

「え、何だよ?」

 

 

「来弥、お前の雷の呼吸。

壱の型…霹靂一閃出来るか?」

 

 

カエデは来弥の目を見て聞いて来弥は考えながら

「……出来る…けど俺はみんなと切り合いに参加出来ないぞ?」と言ってカエデを見て頷いた。

 

 

「おそらく、俺達は消耗戦になる筈だが…お前ならば出来ると信じる!」

 

 

「私もこの作戦に賛成するわ!

カナエちゃん、やりましょう!

来弥、貴方に託すからね」

 

 

「えぇ、勿論よ!

女の意地を見せてあげましょう、風奈ちゃん」

 

 

「来弥、失敗しても大丈夫。俺が何とかするからさ。鬼の首を斬ってね。」

 

 

作戦開始後の会議side終

 

 

「みんなに託された…絶対に首を斬る!」

 

 

来弥は抜刀術の体制に入った。

 

 

「シィィ…(失敗は出来ない…やれないんじゃない!殺るんだ!!)雷の呼吸、壱の型!霹靂一閃!!」

 

 

来弥は凄まじい速さで笛鬼の首を捕らえた筈だったが笛鬼は寸前で気づいて躱した。

 

 

「…躱された…」

 

 

笛鬼は来弥の霹靂一閃を躱した時によろけてその瞬間をカエデと水無月は見逃さなかった。

 

 

「大丈夫!あとは任せて!カエデ!」

 

 

「あぁ、行くぞ!ミナ!」

 

 

カエデと水無月はそれぞれ雪の呼吸、氷の呼吸の構えを取って行動した。

 

 

「雪の呼吸、拾一の型!!」

 

 

「氷の呼吸、拾一の型!!」

 

 

「「氷雪乱撃・乱れ斬り!!」」

 

 

カエデと水無月の2つの呼吸による合体呼吸、氷雪乱撃・乱れ斬りによって4連撃で十二鬼月、下弦の弐…笛鬼を撃破したのだ。

 

 

「か、勝ったのか?俺達…」

 

 

「やったわ!来弥、凄かったわよ!」

 

 

風奈は来弥を凄いと褒めたが来弥自身は…。

「俺は首を捕えられなかった。十二鬼月を斬ったのはカエデと水無月だよ」と言った。

 

 

「そうね、カエデくんの作戦が無ければ私達は死んでいたかも知れないわ」

 

 

十二鬼月、下弦の弐を討伐した5人は怪我の治療の為に藤の家に向かって翌日の朝。

 

 

「お前達に出会えて良かった。

また任務で会ったら宜しくな」

 

 

「私も来弥と行くわ、またね。

カエデくん、水無月くん、カナエちゃん!」

 

 

来弥と風奈はそのまま…また鬼を狩りに向かった。

 

 

「えぇ、またね。風奈ちゃん、来弥くん!

それじゃあ…私も行くわ。

またね、カエデくん、水無月くん」

 

 

「あぁ、いつでも会おうぜ。家族だろ?俺達」

 

 

「またね、カナエ」

 

 

「えぇ、家族ね。

勿論、来弥くんと風奈ちゃんもでしょ?」

 

 

「当たり前だろう。」

 

 

カエデと水無月とカナエは藤の家で別れた。

 

 

クロノスの異空間では…。

鬼狩りの疲れを癒す為に藤の家で休息をとっていた…カエデと水無月を見ていた、オルガと三日月。

 

 

「ゆったりしているな…疲れてんだな…」

 

 

「だって、暫くは休んで無いからね。

ゆったりと休んで欲しいな…」

 

 

そんなカエデと水無月は1週間の休息をとっていた時に鎹鴉がやって来た。

 

 

「合同任務ってオルガと三日月の父親とあと3人で鬼と戦うってことだろ?」

 

 

「大丈夫かってことか?シノ」

 

 

シノはユージンに「いつもオルガと三日月の父親しか鬼を討伐して無いからよ。どんな風に討伐すんのか」って気になっていた。

 

 

合同任務場所にオルガ達の父親が向かうと最終選別で会った胡蝶カナエがいた。

 

 

「カナエさんだ。

鬼殺隊の隊服に蝶の羽織…似合ってる」

 

 

「知らない奴も居るぜ」

 

 

5人は先ずは自己紹介から始めて十二鬼月を討伐する為の作戦会議を始めた。

アトラは映像で最終選別以来でカナエに会えたことが嬉しそうだった。

 

 

十二鬼月を討伐作戦はオルガの父親、カエデの作戦で開始された。

 

 

「父さんの作戦、凄い正確な指示だった。

ミカの父さんも躊躇なく従ってんな。」

 

 

「俺と一緒じゃない?

俺にとってもオルガの指示は大切だから。

お父さんに…とってもオルガのお父さんの指示が1番大切なんでしょ?きっとね」

 

 

そして森林の奥深くに十二鬼月、下弦の弐と瞳に刻まれていた。

カエデ達は戦いに入ったがクーデリアは1人居ないことに気付いた。

 

 

「来弥さんが居ません」

 

 

「オルガの父親、三日月の父親。

カナエさん、風奈さん…本当だ。4人しか居ない」

 

 

映像では最初に三日月の父親が斬り付けて次にオルガの父親、風奈、そして最後はカナエが鬼に斬り付けるローテーションを組んでいた。

 

 

その近くに来弥はいた。

 

 

「来弥さんが居ました。

どうして少し離れた場所に…?」

 

 

来弥はその場で抜刀術の構えに入って鬼の首を捕らえた筈だった。

 

 

「躱された!」

 

 

「あっ、三日月の父親さんとオルガの父親さんが…」

 

 

映像を見ると雪の呼吸の構えと氷の呼吸の構えをしている2人がいた。

2人は合体呼吸、氷雪乱撃・乱れ斬りによっての4連撃で十二鬼月、下弦の弐…笛鬼を撃破したのだ。

 

 

「合体呼吸…息が合わないと難しいのでは?」

 

 

「お父さん達の息は合うよ。

俺とオルガがそうだからさ、クーデリア」

 

 

クーデリアの疑問に三日月は答えた。

映像では十二鬼月を討伐してから数日後。

風奈と来弥は一緒に鬼狩りに向かってカナエと2人と話していた。

 

 

「それじゃあ…私も行くわ。

またね、カエデくん、水無月くん」

 

 

「あぁ、いつでも会おうぜ。家族だろ?俺達」

 

 

「またね、カナエ」

 

 

「えぇ、家族ね。

勿論、来弥くんと風奈ちゃんもでしょ?」

 

 

「当たり前だろう。」

 

 

名瀬は映像を見てオルガに…。

 

 

「どんな奴でも受け入れる器にカリスマ性に頭脳明晰な所はお前に似てるな、オルガ」

 

 

「…そうっすね、名瀬の兄貴…」

クロノスの異空間side終

 

 

でもそんな幸せはまた崩れたのだ。

鬼舞辻無惨の配下、十二鬼月、下弦の弐討伐から半年と少し経った時だった…鎹鴉から来弥と風奈の訃報を聞いたのは…。

 

 

風奈と来弥は町の人達を守る為に鬼と戦っていた時に子供が現れて風奈が守ったがその傷が致命傷になって亡くなった。

 

 

来弥は鬼を討伐したがその時に血を流し過ぎたこと鬼との戦いで内蔵にダメージを受けてそのまま亡くなったと鴉から伝えられたカエデと水無月は…。

鬼殺隊は殆どの人達は身内が居ないので鬼殺隊の共同墓地に2人の墓が造られて埋葬されたと聞いたので花を捧げに来ていた。

 

 

「風奈、来弥、来たよ…」

 

 

「風奈と来弥が守った子供だが藤の家が保護してくれるそうだ。

あの村で生き残った唯一の生存者だった」

 

 

「その子は、2人に感謝していたよ。

「助けてくれてありがとうございました」って伝えて欲しいって言われたからちゃんと伝えたからね。」

 

 

「今度はいつ来るか分からないけど…必ず来る。

いつの日か、お前達のいる場所に逝くからな……気長に待ってくれよ。」

 

 

「良い土産話を持って行くよ。」

 

 

カエデと水無月がそういうと風奈と来弥の声が聞こえた気がした。

 

 

「「気長に待ってる!カエデ、水無月!」」

 

 

カエデと水無月はそのまま進み続けた。

 

 

クロノスの異空間では…。

 

 

「あれから半年が経ったのかい。」

 

 

映像では…。

カエデと水無月は鎹鴉から話を聞いていたが…。

 

 

「はぁ?風奈と来弥が死んだ!?」

 

 

「なんで、何があったの!」

 

 

昭弘とラフタは映像を見てそう言った。

映像に映っていたオルガ達の父親も表情には出て無いが動揺していたのだ。

 

 

風奈は子供を守ったがその傷が致命傷になってそのまま亡くなって来弥は鬼を討伐したが…。

その時に血を流し過ぎたこと鬼との戦いで内蔵にダメージを受けてそのまま亡くなった。

 

 

「2人は子供を守った…」

 

 

「まだ若いのに…でも良くやったね…」

 

 

カエデと水無月は亡くなった2人の墓

(鬼殺隊共同墓地)に花を備えに来たのだ。

 

 

2人はあの時風奈が守った子供の事とその子供が藤の家が保護してくれた事とこの子供が感謝していたことを話してカエデと水無月は…。

 

 

「今度はいつ来るか分からないけど…必ず来る。

いつの日か、お前達のいる場所に必ず逝くからな……気長に待ってくれよ。」

 

 

「良い土産話を持って行くよ。」

 

 

「父さん…」

 

 

「お父さん…」

 

 

カエデと水無月がそういうと映像を見ていたオルガ達には死んだ風奈と来弥がカエデと水無月に手を振っていたのが見えたのだ。

クロノスの異空間side終




風奈↓
薄緑色のツインテールの少女で性格は少しだけ強気の女の子だがおっちょこちょいの所もある


来弥↓
黄色の髪に金のメッシュが入った短髪の少年で一件不良みたいで怖がられるが性格は善逸のようにビビりではなくてオドオド系の男の子て善逸のように気絶はしない


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。