「超多次元宇宙ウマドル・ファル子とファン1号の関係を巡る銀河の戦い・case1」 (宮ちゃん♪)
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 刻は地球の暦にして21世紀。天の川銀河の小さな恒星系の第3惑星に誕生した、スマートファルコンなるウマ娘が、全宇宙、いや多次元宇宙間にその名を轟かせ、そこに住む多くの人々を魅了し、膨大な数のファンを獲得したこの時代。そのコミュニティ規模は3兆人を超え、空間という概念が誕生した有史以来、史上最大の勢力へと拡大したのは、もはや疑問に思う者すらいない当然の現象であると認識されていた。

 もはや全宇宙の平和の象徴であるはずのファル子という偶像。しかし人とは対立を宿命付けられた存在であるのだろうか。ファル子ファンと言う一つのイデオロギーで包括された者たちの間にも、やがて思想の相違による争いが生まれ、その溝は時を経るにつれ拡大していくこととなるのであった。

 そしてファル子による新シングル曲の発表およびミュージックビデオが全宇宙に公開されてより幾日、ついに過激派による蜂起が宣言されたのである。

 地球と同じ銀河系にある、およそ1万光年を経た距離にあるホ―フェン星系に、首都星バンカラを構える連邦国家アーンシュラ。自由民主主義を国体として掲げながら、熱しやすく流されやすい国民性から、しばしば暴走的な振る舞いが目立つこの国が、地球に向けての武力侵攻を宣言したのである。

 アーンシュラ連邦の国家元首であるボルドン・サンプス大統領名義で公布された宣戦布告文書には、大きく次のような侵攻理由が明示されていた。

『歴史的なウマドルであるスマートファルコンと、そのファン1号であるトレーナーの関係が遅々として進まないことに対して遺憾の意を表すると共に、その進展に対して、武力の行使も選択肢とした介入を行うため、艦隊を派遣することを決定した』

 全宇宙人類が驚嘆し、また戦慄を禁じ得ないでいた。ファル子・トレーナー強硬派の意見が、よもやここまで大きくなっているとは、考えていなかったのである。

 以前からファル子とトレーナーが、どこからどう見ても想い合っているだろうに、何故かその関係に艶の欠片も見られないことに多くの人々が不満を抱いていたのは事実である。それに対して、強制的に介入してでも仲を進めよう、という過激な意見を述べる者も少なくはなかった。しかし結局は、当人たちの問題であるのだからと、外から無用な圧力を加えることに反対する者の方が多いのだ。

 だが、ファル・トレ強硬派の不満が活火山の下で煮えたぎるマグマのように急速に密度を増していたのも、多くの者が感じ取っていたのである。そこに一石を投じたのが、半年ほど前に就任したばかりの、サンプス大統領であった。巧みな話術と流麗な自画自賛、過激な対抗馬への罵詈雑言を駆使して連邦国家の最高指導者へと成り上がった扇動の申し子は、沸点の低い国民たちのナショナリズムを掻き立て、自分たちの意見こそ正義であると吹聴し、熱狂する市民たちの勢いそのままに、武断的な行動を自らの支持基盤とすることに成功したのである。

 サンプス大統領は選挙の公約通りにファル・トレ間の介入に関する特例法を国会に提出し、与党の絶対多数を持って数日の審議で通過させると、即座に軍部に部隊編成を命令した。国権の最高指導者にして国軍の最高司令官たる大統領の命令を受け、統合幕僚本部が遠征軍総司令官に任命したのは、軍属40年を誇る同国最高の名将ロベルト・ボラーテ上級大将であった。

 その他の星系に住む多くの国々が狼狽した。アーンシュラ連邦と言えば、自らの行動に狂信的な信念を持ち、それに逆らう者を悉く悪と断じて鉄槌を下す、凶暴な国家であると知られていたからだ。今から半世紀ほど前に、専制国家ながら安定した治世を運営していたリングドン帝国に対し、民主主義政体への移行を要求して開戦機運を高めた事があった。連邦は専制主義の打倒を掲げて出兵準備を急ぐと共に、同じ民主共和制を掲げるゲルリン共和国に参戦を求めたのである。

 しかしゲルリン国は内政不干渉を理由に連邦の要求を拒否し、中立の立場を宣言した。政体が違うという理由だけで、特に圧政を敷いているという訳でもないリングドン帝国と戦争をする理由は、彼らにはなかったのである。

 アーンシュラ連邦は激怒した。正義の民主主義である自分たちの意見に逆らい、悪の専制体制に対して与するというのならば、それはどんな相手であろうと悪なのである。連邦は直ちにゲルリン国に侵攻し、圧倒的な兵力を持って全土を掌握、首都星カイネギンは破壊と殺戮の嵐が吹き荒れ、略奪の暴風の中で灰燼と帰した。何百万もの人々が血と炎の泥濘の中で息絶えたことを知った連邦の市民たちは、これぞ民主主義の勝利だと盛大に祝い、美酒を煽って正義に酔ってみせたのである。

 その後、勢い込んで帝国に侵攻した連邦軍だが、帝国軍の焦土作戦により奥深くへ侵入しながら兵站が崩壊し、結局は何の成果もみせることなく撤兵し、当時の大統領が辞任して帝国軍との和約を結んで終了となったのである。この事で明らかに損をしたのはゲルリンの民であり、彼らは国土を併呑されて連邦の辺境に組み入れられ、銀河国際社会の批判やゲルリン民の反発が続く中でも、連邦の人間は誰一人、ゲルリン自治国の存在に疑問を呈することはない。

 そのような、他の国々には理解が及ばない思考過程を経るアーンシュラ連邦に対し、他の国々は尻込みした。何を言っても聞かないであろうことは明白だし、何かしらの対処を行えば敵国認定され、その鋭鋒は自分たちに向けられるのだと分かっていたからである。

 連邦の宣戦布告に対して、銀河国際社会は連名で非難決議を採択したが、そこに強制力どころか効力すらないことは、誰もが理解していた。

 人々が指をくわえて見ていることしかできない中で、ついにアーンシュラ連邦地球遠征軍は部隊編成を完了させ、その威容を銀河系に表すことになる。首都星バンカラの宇宙港から出立した旗艦マクナンにはボラーテ上級大将が鎮座し、惑星前に巨大な列を作る光点群の中へと進み出て行った。その数、戦闘用艦艇だけで優に40万隻を数え、堂々たる布陣を敷いて、星々の海の中へと艦列を連ねて漕ぎ出していったのであった。

 

 アーンシュラ連邦軍40万隻の大艦隊、出撃す――

 この報が出てなお、銀河系諸国家は逡巡を重ねていた。しかしファル・トレ穏健派の世論は過激派よりも大きな母数を持ち、今回の不当な暴挙に対して、批判を訴える意見の方が数多い。しかし犠牲を覚悟してまで介入することに、為政者たちが消極的になるのは仕方がないことだった。

 故にこの時、ファル・トレ間、ひいては地球の平穏を鑑みて、国民投票を実施してまでアーンシュラ連邦に対抗する道を選んだのは、非常に少ない勢力になってしまったのである。

 その対連邦の中核として艦隊を組織したのが、レーンドキ共和国であったのだ。



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 アーンシュラ連邦の大艦隊を迎え撃つべく出撃したのは、レーンドキ共和国7万隻を中心に、近隣3ヵ国も合わせた連合艦隊、戦闘用艦艇が合計で10万隻弱というところであった。普段ならばこれでも、類を見ない程の大戦力であるのだが、今回に限ってはそれでも圧倒的に不利な状況であり、将兵たちの悲壮的な緊張感は常にも増して大きなものとなっていた。

 送り出す国民たちは、宇宙に冠たる象徴を守るための自己犠牲に心酔し、自らの国家が身を挺することに対してヒロイックな感傷を抱いていたようだが、そんな自己満足の熱狂の中で送り出される身になってみると、到底、そんな気分にはなれないのである。なんせ自分の命がかかっているだから。

 それでも、スマートファルコンという現代の偶像を守るという大義は、戦地へと赴く全員が共通して抱くモチベーションではあったのだ。故に士気は決して低くはない。ただ、冷静に状況を観察できる思考力を持つ者には、そのような願望とは別種の、皮肉を言いたくなるような心情が浮かんでしまうものなのである。

 今回の迎撃艦隊総司令官に任命されたロマン・バイバルス大将こそが、正しくそのような観察眼の持ち主で、このような形で責任を押し付けられたことに対して、恨みがましい思いが拭えないのであった。

 ロマンとて40歳手前で宇宙軍の高級将校に上り詰めた、エリート軍人ではある。しかし、つい一月ほど前まで第8艦隊司令官として中将の地位におり、少壮の提督として実績を重ねていこうというところで、いきなりアーンシュラ軍迎撃司令官の任命を言い渡され、大将への昇格辞令と共に艦隊編成の嵐の只中へと放り込まれたのだから、溜まったものではない。準備期間が短い中で、四苦八苦しながら幕僚団を指名し、部隊編成を指揮した上で、補給部隊との打ち合わせと兵站線の確保を済ませて、何とか発進まで漕ぎ着けたのである。こんな苦労は二度と御免だが、そもそも今回の出撃が終われば忙しさで苦労することはなくなるかもしれないとも思うのだった。

 こういう大事な時こそ、普段からふんぞり返ってあれこれ偉そうに支持してくる、統幕長だの宇宙艦隊司令長官だのという大層な役職についている元帥様方が、責任をもって前線に出るべきではないか。たまたま艦隊司令官に就いたばかりの若者に全責任をおっ被せて、何倍もの規模の大軍と正面から戦ってこいとは、無責任を通り越して酷吏の所業である。

 そんな不満を抱えつつも、連合艦隊指揮官として、不安を顔に出すようなことは決してしないロマン・バイバルス大将である。

 一方でロマン大将が驚きを隠せなかったのは、反アーンシュラ艦隊に参戦した、一神教宗教独裁国家マルアンの存在であった。周囲の国家とすら最低限の交流しか結ばず、宗教指導者の託宣を至上の方針として、秘密主義を貫く神秘の国。そんなマルアンが、よもや非常に世俗的な理由で結成された連合艦隊に戦力を提供するとは、意外の念を禁じ得なかったのである。

 連合戦力が結集した後に行われた、レーンドキ艦隊旗艦ビダルに参集しての連合艦隊作戦本部設置式および初回作戦会合を終えた時、ロマンはマルアン艦隊司令官マラームサラ・アブドゥ中将に、非礼とは知りつつも、参戦理由を問うてみたのである。重厚な髭を蓄えた痩身の中年提督は、生真面目そうな鋭い眼光で年下の総司令官を見据えると、静かにこう語るのみ。

「我らの神が望まれたのだ。ファルコンとそのトレーナーの安寧を損なってはならぬ、とな。我々はそれを遵守するのみだ」

 これ以上の問答は必要なかった。謎に包まれた部分が多いとはいえ、独自の価値観を有し、自らの信じる所に向かって邁進する力は他国の比ではないマルアン艦隊である。寡兵といえど強力な味方になってくれる存在であるのだから、この上なくありがたい戦力であろう。

 反アーンシュラ連合としては、戦力的な劣勢は免れないことであるのだから、連邦軍の進路上にある自軍の領土内に引きずり込んで兵站路を断ち、疲弊したところを迎え撃つのが常道であろう。ロマン大将もそのことを念頭に作戦を立てた上で、自軍の補給を領土内の各星系に委託することで、部隊編成を短期間で迅速に行えるようにしたのだ。

 そうして連合艦隊が最初の補給地に入港した時、彼らの下に衝撃的な知らせが舞い込んできた。

 リングドン帝国がアーンシュラ連邦への加勢を表明し、5万隻を超す艦隊を発進させたというのである。



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 漆黒の宇宙のなかに散らばる、星々の絢爛たる瞬きの光。それらを塗りつぶすように現れる漆黒の艦艇軍。空間を歪めて表出するリングドン帝国艦隊が、次々にワープアウトしてその数を増していくのを目視しながら、レーンドキ艦隊将兵たちは緊張に口中を乾かしていた。

 決戦場と定めたアイルトン宙域は、左手側に小惑星帯を連ねた広い空間である。右手側には古い恒星が燦然と輝いているが、生命体が生存できるような惑星は存在せず、危険を冒してまで開発するようなめぼしい資源も確認されていないことから、半ば放置された宇宙の砂漠地帯であった。そんな場所だからこそ、危険を伴う戦場にはうってつけという訳である。

 勇敢で直情的、一度進めば留まることを知らずと謳われるリングドン艦隊である。最短ルートを最速で駆け抜け、また艦隊規模の面からも連邦軍に比べて身軽であることから、後から進発したにも関わらず本軍を追い越し、こうして共和国艦隊と相対しているというのは、何とも奇妙なことであった。

 だが本人たちとしては、これこそむしろ本望であろう。連邦と帝国は元来、犬猿の仲で知られる関係で、今回の呉越同舟のような事態が異例なのである。一時的な共闘とは言え、本来は反目する立場であるのだから、どちらかの戦力に組み入れられるようなことはお互いのプライドが許さないのだろう。さらに言えば、先に目的地に辿り着いて連邦を出し抜くことで、帝国の手柄としたい思惑も見て取れる。一方の連邦は先に帝国が露払いしてくれることで、相手の戦力を減らして自分たちの優位をさらに拡大させたい思いなのだろう。最初から別行動を取ることで、船頭多くして船山に上る事態を避け、互いの利害を睨みながら牽制し合うような構図は、傍から見ると滑稽なものであった。

 しかし連合軍としては、そのような不仲を突いて各個撃破を狙えるチャンスであるから、むしろ好都合と言うべきであろう。そこでロマン大将はレーンドキ艦隊単独でリングドン艦隊を迎撃し、他連合艦隊3万隻をアーンシュラ連邦軍の進路上で留めて牽制する事としたのである。これは戦果の独占を狙ったものというより、所詮は烏合の衆である連合軍で臨むよりも、数の上では優位なレーンドキ艦隊のみの方が練度が高い状態で連係にも不安がないことから、妥当な判断だと思われた。

 こうしてアイルトン宙域に顔を揃えた、リングドン帝国艦隊5万隻とレーンドキ共和国艦隊7万隻による、「銀河内ウマドル会戦」の前哨戦、アイルトン宙域の戦いが幕を開けたのであった。

 戦いは最初、リングドン艦隊優位に進むこととなる。2万隻の差を物ともせずに、全軍突撃隊形を取った帝国艦隊が正面から押し寄せ、その剽悍さに共和国軍が気圧される格好となったのだ。視界を埋め尽くすかのような光の矢がモニター内を埋め尽くし、エネルギー中和磁場に弾かれたビームが燦然と網膜を焼いて、光量調節をされているはずの艦内に、目を細めるほどの光の暴力を投げかけてくるのである。

 中性子ビーム砲の一斉射に双方の前線がエネルギーを飽和させ、中和磁場の耐久力を超えた時、艦艇への直接ダメージが物理的に弾けることになる。被害が核融合炉にまで到達した戦艦や巡洋艦が、眩い光球と化して一瞬後に消滅すると、今度はその背後の艦艇へと膨大なエネルギーが集中するのだ。そんな光景が随所で散見され、人の命もまた、苛烈な暴力の中で散華していくのである。

 数の上では有利であるはずのレーンドキ艦隊であるが、リングドン艦隊の猛烈な突進に押され、じりじりと後退を余儀なくされていた。すでに陣形の先頭部では接近戦が展開され、互いの航空母艦から発進した単座式戦闘艇による近接航空戦闘が行われている。自軍の被害を顧みずに猛進してくる帝国軍に気圧されたように、すでに前線は切り裂かれ、戦線は崩壊しつつあるように見えた。

 艦隊司令官たるロマン大将は歯噛みしながら、何とか持ちこたえてくれるよう、前線指揮官たちへと指示を飛ばす。激烈な電波妨害により互いにまともな通信が行えない昨今の戦場において、連絡手段は古典的な光点滅信号か、もしくは通信艇に指令カプセルを持たせての伝令通信となる。司令部から激戦地への連絡手段は、距離的な問題や発光が交錯する乱戦場の観点から、古代の戦さながらの早馬のように伝令を飛ばすことになるのだが、最先端技術の粋を極めた末にこのような原始的な方法に回帰する迂遠さに、溜息を吐かざるを得ないというものだろう。

 だが、どれだけ現代戦闘の問題点を嘆いたところで、現状の趨勢が変化するという訳でもない。前線が崩壊しリングドン艦隊の鋭鋒が自分たちを引き裂いたとしたら、それは戦線壊滅からの全軍潰走へと至る敗北の急坂に繋がるのだから。

 ロマン大将の願いに応えるように、前線指揮を担当する提督たちは粘り強く対応し、戦力を損耗しながらもよく耐え忍んでくれていた。ことに第4艦隊司令官マッジョ中将指揮下の部隊は装甲の厚い戦艦を前面に配置して漆黒のリングドン戦艦群の攻撃に対して壁を作り、その勢いを反らして分断を図るなど、老練の宿将に相応しい巧緻を披露してくれたのであった。

 こうしてリングドン艦隊の勢いが徐々に減退してきたところを見計らい、ロマン大将は一際大きな発光信号を指向的に発信した。それを受けて左手側の小惑星帯から、別働部隊7000隻が戦場へと躍り出す。光の矢のように急行した艦隊が帝国軍の横腹に猛烈なビームとミサイルの集中砲火を浴びせると、横撃に耐えかねて獣のようにうねり狂う敵艦隊に、今度は動きを止めた帝国艦艇へと逆撃の砲火を集中させた正面艦隊によって、完全に形勢は逆転したのである。

 殊に大きな戦果を挙げたのが、別働艦隊が小惑星帯から引っ張ってきた無数の岩塊の突撃であった。急行する勢いそのままに、牽引ワイヤーから外された巨大な岩が、等速で艦艇にぶつかってくるのだから、受ける側からしたら溜まったものではない。巨大な衝撃に爆発が連鎖し、帝国軍は勢いを失って防戦へと追いやられてしまったのだ。

 こうなると、前進には強いが守勢に回ると一気に崩れる悪癖を露呈し、リングドン艦隊は敗走へと移っていった。ロマン大将はあえて追撃を避け、戦力の温存に努めるよう指示を出す。これだけ一方的な敗戦を喫したのだから、帝国軍が軍備を再編するには時間がかかるだろうし、アーシュラ連邦軍と合流するような事態もないだろうと想定したのだ。

 ロマン大将は緒戦の勝利に大きな安堵感を覚えながらも、負傷者の後送や損害艦艇の報告など、事後処理に関する指示を副官ドルーベン少佐に伝えていく。そして当人は、今回の作戦に協力してくれた警備艇隊の指揮官へと謝礼の通信を送ることとしたのである。

 今般の戦闘における趨勢を決した別働隊の存在であるが、この作戦の肝となるのは、如何にその存在を隠匿するかにあった。だが艦隊の規模はすでに大々的に発表され、出発式までやったのだから、その数は敵方には周知の情報である。なのでその数字を利用して、事前に7000の艦隊を秘密裏に出発させて小惑星帯に隠しておき、あとは周囲の星系の警備艇部隊などを集めて、足りない分は風船などで作ったダミー艦艇を配置し、見た目の数を誤魔化すことにしたのである。

 現代戦においては、すでに各種レーダー透過装置や吸収素材、妨害電波の発達により、レーダーなどの光学索敵装置は意味をなさなくなっている。故に軍人は、有人偵察艇や監視衛星など、有視界情報を頼りにするしかない。なので敵は、数さえ揃っていれば、それが相手の全軍だと錯覚してくれる。そう考えたロマン大将による伏兵横撃作戦が、今回は見事にハマった格好であった。

 しかし第一戦を制しただけで安心してばかりもいられない。特に次の敵は、ただでさえ圧倒的な数を擁している上に、重厚にして果断と噂される名将ボラーテ上級大将が率いるアーンシュラ連邦艦隊である。今回のような奇策は通じないであろう。そのことを考えるたびに、眉間に皺を寄せるロマン・バイバルス大将なのであった。

 

 こうしてアイルトン宙域の戦いはファル・トレ穏健派の勝利で終わった。レーンドキ艦隊が完全破壊もしくは

戦闘不能に陥った艦艇3000弱に対し、リングドン艦隊は1万隻を超す大損害を出しての大敗であった。この報を受けて勢いづいた連合艦隊が再合流し、ついに決戦を臨む舞台となるドルトゲン宙域へと至った時。

 そこで目にしたのは、視界を覆いつくすアーンシュラ連邦艦隊40万隻が連なる圧倒的な重量感であった。



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 星々の輝きを圧するように、整然と居並ぶ光点の群れは、もはやそれ自体が一つの巨大な生命体のような錯覚すら覚える。目前に控える40万隻の大戦力に、連合艦隊将兵は等しく息を呑み、全身に走る震えが艦体エンジンの揺動なのか、自身の恐怖心から来るものなのか、それすら分からず呆然としていた。

 連合艦隊旗艦ビダルの艦上にて、むっつりと口を閉じて、巨大な光の壁と化したアーンシュラ連邦軍を睨み据えていたロマン大将だが、ずっと不機嫌そうにしているわけにもいかない。全艦隊に戦闘態勢を指示し、隊形を整備し、素早く布陣を完成させた。

 事前に偵察艇から送られてきた情報通り、連邦艦隊は中央に20万、右左翼に10万ずつを配した3軍体制を敷いている。それに対してこちらが纏まって衝突したら、3方向から囲まれて殲滅されるのは目に見えているのだから、こちらも対抗して軍を分けねばならない。

 苦心の末に考え出された布陣は、左右に2万、中央に6万の艦艇配備であった。戦力差はそれぞれに厳しいが、主力が集まり重要度が大きい中央の戦場に、より多くの戦力を割く方針を決定したのだ。そのため左右の艦隊には、なるべく粘り強く、対面の戦力を押し留め、守勢に回って戦場の均衡を保つ、という難しい任務を課すより他なかったのである。

 この方針を、右翼の二か国連合艦隊、および左翼のマルアン艦隊指揮官も渋い顔ながら承諾してくれた。ロマン大将はそのことに感謝しながら、各所に足りない戦力の分配を行っていったのである。ことに重要な戦場となるであろう左翼には、柔軟性に優れ臨機応変な対応が取れる第7艦隊司令官フォルナルス中将に応援に入ってもらうこととしたのである。この人事にはマルアン艦隊司令官のアブドゥ中将も納得の表情で頷いてくれたものだ。

 整然と艦隊を展開し、布陣を完了すると、両軍の間に一条の光が差した。レーザー通信回線で入電があったのである。これは指向性の高いレーザー通信波の回線で、電波妨害に強い反面、傍受が容易で軍事作戦通信には向かないチャンネルであった。主に恒星活動の活発化による磁気嵐中の商用艦艇同士や宇宙港管制官との通信、または宇宙線が強力で電波の乱れが激しい場所での救難活動等に用いられている回線である。

 通信の受信者は連合艦隊総司令官ロマン・バイバルス大将、発信者はアーンシュラ連邦艦隊司令官ロベルト・ボラーテ上級大将であった。ロマン大将は急ぎ居住まいを正し、背筋を伸ばして通信に応じる。通信画面に現れたボラーテ上級大将は、引き締まった顔つきに鋭い眼光が年齢を感じさせない、深く刻まれた皺と白いものが混じった口髭に威厳を蓄えた、痩身の老提督であった。その迫力に一瞬、息を呑んだロマン大将であったが、ボラーテ上級大将の敬礼に慌てて答礼を返す。

 数言の儀礼的な答弁を交換した後、スクリーン上の老提督は、スッと顎を引いて睨み据える。ピシャリと伸びていた背筋と相俟って、その姿勢は彼の気質を表すように、真っ直ぐに美しいものとなっていた。

『我々アーンシュラ連邦軍はこれより、地球に向かってスマートファルコン女史とそのトレーナー氏の間柄に対し、両名の真意を問いに向かう道中である。その目的を達するために貴国らの領域を通過することとなるが、安全な通行を約束していただけるものであるのならば、その間の礼儀と安全は遠征軍総司令官の名において保証いたそう。貴公らは安心して道を譲られたし』

 これに対しては、迎撃艦隊指令官として、ロマン大将も返答をしないわけにはいかない。内心の辟易を精一杯隠しつつ、老将の眼光を睨み返す。

「我々としては、貴公らの主張には賛同できぬ故、ここより先を通すわけにはいかぬ。元よりスマートファルコン女史とそのトレーナー氏の間柄に関しては、当人たちの問題ゆえ、口を出すべき問題ではないという考えだ。色恋沙汰に赤の他人が手出しして、何の意味があるというのか」

 真っ向から意見が対立している。それは分かっていた事であり、また、今の宣言は個人の意見ではなく、国家の命令に則ったものであるから、どれだけ言葉を交わしても変化が起こることはありえない。故に、これはもはや大昔の騎馬と歩兵の時代の、指揮官同士の名乗りの様なもので、両軍の立場を明確にすると共に、自軍の兵士への鼓舞と戦う理由を提示するための士気高揚の儀式でしかない。であるから、両者が発した言葉は、言ってしまえば対面の相手ではなく、背後の味方に向けて発信された宣誓であったのだ。

 双方の司令官に呼応して、それぞれの兵士たちが艦内で雄たけびを上げる中、

『それでは次はヴァルハラで会おう』

 というボラーテ提督に対し、

「後から行くので待っててください」

 と軽口で応じてしまったのは、ロマン大将の悪い部分が出てしまったと考えるべきであろう。それに対して連邦の宿将は、苦笑を浮かべただけで、敬礼の後に通信が切断された。もはや宣戦布告はなされたのだ、これよりは武力で主張をぶつけ合う他ない。

 ここでロマン大将は全艦急速発進を命じた。数の少ない方が受け身に回っては、物量により押し切られて圧死するだけである。先制的に猛撃して戦場の流れを掌握し、有利な立場で戦況を推移させるべきであった。

 最大戦速で急進する連合艦隊将兵の目には、徐々に迫る連邦艦隊の群れは、より巨大な崖の如き圧迫感を加えてくる。緊張感が恐怖心に変わる前に、ロマン大将はオペレーターに目配せし、右手を挙げて準備に入る。

「ファイアー!」

 オペレーターの有効射程突入の報に、ロマン大将は右手を振り下ろして下命した。全艦砲撃開始の合図とともに、何十万本の光の柱が宇宙空間を灼熱させる。寸分違わず放出された連邦軍によるビームの火箭も連合艦隊に突き刺さり、たちまちドルトゲン宙域はエネルギーの乱流が吹き荒れる、乱戦の暴風域へと様変わりした。

 いくつもの僚艦が火球へと変じて永遠の沈黙を余儀なくされる光景を、艦隊旗艦ビダルの中央指令室で座視しながら、ロマン大将は眉根を寄せて戦況を俯瞰する。元々の数が違い過ぎるのだから広範囲を攻撃してもエネルギーが拡散するだけである。そこである程度の距離に縮まってきた段階で、射撃目標を限定する一点集中砲撃戦法に切り替えた。火力を集中させて確実に敵艦を破壊し、数を少しずつ削っていく方針に転換したのである。

 一つの敵艦に対して、何十本ものビームが撃ち込まれ、エネルギー中和磁場を破壊して爆散させる。隣の艦にはまた何十本もの光子弾が集中し、装甲をボロボロに引き裂いて内部から光球へと飲み込まれていった。各所でエネルギーが飽和状態に陥り、乱れて、激風のように艦体を揺動させる。

 開戦当初は善戦を続けた連合艦隊であるが、時間が経つにつれて物量の差が如実に表れ、勢いが逆転を始めてしまう。特に最も戦力差が激しい中央の戦場が顕著で、徐々に前進速度を緩めたレーンドキ艦隊に対し、じりじりと圧力をかけて押し返し始めたアーンシュラ連邦軍は、攻撃の手を緩めることなく確実に砲火を集中してきた。

 ドルトゲン宙域は、リングドン帝国艦隊と戦ったアイルトン宙域とは違って、ひたすら広大な空間が広がる会戦場である。故に兵を伏せるような場所もなく、後背を取るような奇策を講じることはできない。純粋な戦力差が露骨に戦況を左右し、レーンドキ艦隊は順当に劣勢に立たされていた。

 ここでロマン大将は中央軍に後退を命じた。リングドン艦隊との戦いでも活躍したマッジョ中将を殿に、一度後方へと下って艦隊を再編する構えを見せたのだ。それに気付いた連邦軍は急追を開始し、距離を取れずに四苦八苦しながら、必死に逃げようとするかのように見せたのである。

 下がるレーンドキ軍に吸い出されるように、アーンシュラ艦隊の先鋒は引き出されて、布陣の奥へ奥へと誘い込まれていく。この形を完成させるために苦心して、前線指揮官たちは必死になって戦線を維持しているのだ。

 凸型陣形で突撃していったレーンドキ艦隊だが、中央が下がることによって凹型陣へと変化し、連邦艦隊を窪みの中へ誘導するのが今回の作戦の肝心な部分である。半包囲態勢を取って敵軍を火箭の集中する場所に誘い込み、火力を総動員して殲滅する。これは地球の歴史で言えば、カルタゴの将軍ハンニバル・バルカが共和制ローマの大軍を葬った、カンネーの戦いで取られた戦術に近かった。ローマ軍は八万の兵士で戦いに臨み、生き残ったのは一万ほどであったと言われる、伝説的な大敗である。また中国戦国時代の趙において、匈奴の侵略軍を自陣奥深くに誘い込んで矢の雨を浴びせ、壊滅状態へと追いやった名将・李牧や、隋末に河南討捕大使として賊軍を幾度も破った張須陀も、寡兵ながら大軍を引き込んで伏兵により大破する戦法を得意としたという。歴史上、数多くの名将が駆使して戦功を挙げてきた戦術であるが、言うは易しであり、行うのは非常に難しいものでもあるのだ。

 わざとらしく引いてしまえば気取られる、退却に際して連携が取れてなければ分断され、各個撃破の好餌となろう。練度が足りていなければ引く前に突破され、戦法とは言え逃げるという行為は兵士の士気にも影響するのだ、この戦術は部隊の連携と実力、そして指揮官への信頼が少しでも欠けていては、成立しえない難術なのである。

 ここまで持ってくるのに、胃を痛くするような気遣いを強いられたが、どうやらその努力は報われそうである。縦に長く伸びたアーンシュラ艦隊の先鋒隊へ向け、3方向からの集中射撃が炸裂し、次々と連鎖するように火球が出現している。ロマン大将は肺の中の空気を空にするように息を吐き出すと、額に噴きだした汗を軍服の裾で拭った。

 一方、アーンシュラ連邦軍艦隊旗艦マクナンの艦上にて、ボラーテ上級大将は感嘆の表情を浮かべている。

 連合艦隊の司令官は、まだ40手前の年齢ということだが、その若さで素晴らしい手腕を有している。自然と後退することで対面の相手を誘引し、気付けば集中砲火の渦中へと追いやっているのだ。恐らく自軍の先鋒艦隊は、何故このような事態に陥っているのか、理解できていないことだろう。

 先のリングドン艦隊戦の報告を受けた時も、その鮮やかな戦況推移に感心したものだが、その戦術眼の高さをこの場にて再び証明して見せた。彼は間違いなく、次代を代表する名将として讃えられるべき才能であろう。

 であるなればこそ、ボラーテ上級大将には無念の思いが拭いえない。その若き才能をこのような戦場で失わせてしまう可能性に、彼は心底、苦渋の感を抱いていたのだ。

 共和国軍による半包囲態勢が完了しようとしている戦況を前に、ボラーテ上級大将は副官リドマン中佐に命じ、グユクマン少将およびゲントナー少将の艦隊を出撃させた。彼らはこの戦況を正反対に引っ繰り返す、死神の鎌の役割を担う存在である。

 ロマン大将がその報を受けたのは、眼前の連邦艦隊が次々と火球に包まれ、その数を如実に減じている光景を眺めている時であった。連邦艦隊の後方部より、2000から3000隻規模の小艦隊が、左右から大外回りに包囲網へと接近してくるというのである。分隊を使って包囲を外側から食い破ろうとするのは始めから想定していた事態であるので、こちらも予備隊から迎撃戦力を出して、対処に当たるように指示を出した。

 しかし、連邦軍が出してきたのは、ただの予備部隊でなかったことがすぐに判明するのである。機動性の高い高速巡洋艦ばかりを集めた分艦隊は、迎撃部隊が対応する遥か手前の段階で包囲艦隊に後方から突撃し、その隊列を食い破り始めたのだ。宇宙時代の騎兵隊とも言うべき高速機動艦隊は、みるみるうちに包囲していた両翼の部隊に風穴を開け、隊列を切り裂いて分断してしまったのである。

 マズい、と思った時にはすでに、左右両翼は崩れ去り、連邦軍の圧倒的な物量に取り込まれ、重囲の中に孤立していた。こうなると、間に合わなかった迎撃艦隊は手出しできないどころか、分散戦力として各個撃破される危険すら存在する。急いで引き返すよう指令をだしながらも、ロマン大将はすでに敗北を悟っていた。

 包囲網は崩れ去り、もはや戦力差を覆す術は存在しない。流れは逆転し、もはや目の前にあるのは、圧倒的な勢力を誇る巨大艦隊の暴虐のみである。これから展開されるのは戦争ではなく、一方的な虐殺となるであろう。

 もはやロマン大将ができることは、なりふり構わぬ退却のみ。重囲に孤立した左右両翼は助けることが叶わないであろう。中央軍が引くとなれば、ここまで耐え忍んでくれた左右の軍も潰走するより他なく、どれだけ生き残れるかも定かではない。それに、今までの激戦でエネルギーや弾薬を消費してきた前線部隊には、もはや余力は残っていないのだ。現状の事態を招いた司令官の責任として、ロマン大将には、一人でも多くの将兵を逃がすことが、義務付けられているのである。

 敗北の苦々しい酸味が口内に広がるのを実感しながら、ロマン大将は前線部隊の後退と、司令部を含む後軍の前進を命じた。自らが殿に立って、敵軍の追撃を阻む覚悟である。それと同時に連合艦隊全軍への退却命令を出そうとして――

 上方からの熱源探知を知らされることとなった。

 突如として飛来したミサイル弾幕が、アーンシュラ連邦中央軍の右上方へと殺到し、巨大な炎の華を宙へと描き出す。起爆装置に原子爆弾ではなく、レーザーによる熱圧縮によって核融合反応を生じさせるレーザー水爆ミサイルが、ダース単位で次々と連邦艦隊を消滅させる光景を唖然として凝視しながら、続くオペレーターの報告を聞いていた。

『我、スマートファルコンとそのトレーナーとの関係に介入するを許さぬ者なり。同志たちの義挙に応じ、参戦するものなり』

 レーザー通信回線を通じた自動翻訳音声が伝えたのは、連合艦隊への援軍通達であった。それは一つだけのものではなく、次々と連邦軍への宣戦布告と、連合艦隊への援軍が入電し、アーンシュラ艦隊への攻撃が多方向から集中する。

 戦場に殺到した光跡の群れは、実に多種多様なものであった。天の川銀河内の星系艦隊はもちろん、外銀河他星系、遠星雲合同艦隊、果ては空間の壁を乗り越えて駆けつけてきた外宇宙艦隊の姿すら確認されるほどである。

 突如として出現した敵の援軍が、次々とその数を増してドルトゲン宙域を埋め尽くさんとしている光景を見て、ボラーテ上級大将は全軍の退却を命令した。超高出力光学兵器による長距離ビーム狙撃が旗艦のすぐそばを掠め去り、僚艦が光球へと変じるのを平然と眺めやりながら、隊列を組みなおして整然とした後退を実施するよう、言明したのだ。事態が急転換を迎えて敗北が決したことを悟って尚、老練な宿将は動揺の素振りすら見せず、粛々と劣勢を受け止めて、全軍まとめて戦場を離脱していったのである。想定外の事態が起こった場合でも平静を保ち、下手な抵抗を見せることなく即座に意識を切り替える柔軟性は、名将の名に恥じぬ決断力であった。

 一分の隙もなく整列し、遠ざかっていく連邦軍の後姿を眺めながら、ロマン大将は大きく溜息を吐いて指揮座に座り込んだ。命拾いした、というのが正直な感想であり、ボロボロの自軍艦隊の現状を考慮しても、もはや追撃するような余力は残っていない。

 それよりも今は、激戦の只中に駆けつけてくれて、命を救ってくれたまだ見ぬ援軍たちに、感謝の言葉を贈る方が優先されるのである。

 

 こうして「銀河内ウマドル会戦」は幕を閉じることとなった。そして人々は実感することになったのである。今まではファンクラブの会員ナンバーでしか知らなかった、3兆人という膨大な数字が、実際に彼らが感知しえないほどの規模の実在する人物の合計数であることを。外星系、外銀河、外星雲、そして外宇宙に住まう人々が、それぞれに一人のウマドルを応援し、その幸せを願うことで、交流を持つことができる、そのきっかけを作ってくれたということを。

 アーンシュラ連邦艦隊敗戦の報を聞いた連邦人民は驚愕し、その結末に恐怖したが、当のボルドン・サンプス大統領は即座に自らの責任を痛感する、という声明と共に辞任し、後片付けを後任の不幸な人物へと押し付けてしまった。敗戦の責任を問う世論が怒りの行き先を見失い、集団ヒステリーが大規模デモへと発展したころ、艦隊を率いて帰還したボラーテ上級大将に批判の矛先が集中し、一時は国民の感情によって超法規的な罪科を創って監獄送りにしようという意見まで出たほどである。その間、謂われなき誹謗中傷に、この厳格な軍人は黙して語ることはなかったが、やがて今回の軍事行動を批判した銀河国際社会が大軍を率いて攻め込んでくるぞ、という風説が流れると、一転して歴戦の名将であるボラーテ上級大将を復職させ、前線に立ってもらおうという意見が大勢をしめることとなる。こうしてアーンシュラ連邦は政治的な混迷を極め、内政的な停滞を余儀なくされることとなった。

 そのような近未来を知る由もないロマン大将は、激戦に疲弊した身体をシャワーで洗い流し、タンク・ベッドによる一時間の睡眠でリフレッシュした後、連合艦隊に参加した各国の指揮官たちと共に、援軍に来てくれた多種多様な来訪者たちと懇談を持つに至る。彼らは互いに、スマートファルコンという一つのイデオロギーを共有した仲間であり、その安寧と活躍のために、各自が応援する事のできる同志たちであるのだ。

 この交流は未来を切り開く画期的な瞬間になるであろう。その確信を胸に抱きながら、彼らは互いに熱い握手を交わすこととなった。

 そんな、多次元宇宙規模の争乱が全銀河を駆け巡ったことを、彼女たちは知る由もない。地球という小さな惑星に住む、スマートファルコンとそのトレーナーたるファン1号は、自分たちに集まる3兆人の期待を無自覚に背負いつつ、その一挙手一投足が及ぼす熱狂を、銀河と、宇宙と、外宇宙へと発信し続けているのである。

 

 

fin



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あとがき

 本作の各登場人物のファル子ファンクラブ会員ナンバーはそれぞれ、

・ファル・トレ穏健派連合艦隊総司令官ロマン・バイバルス大将:1023億84万6588番

・マルアン艦隊司令官マラームサラ・アブドゥ中将:1兆623億888番

・アーシュラ連邦艦隊総司令官ロベルト・ボラーテ上級大将:98億7765万5436番

・アーシュラ連邦国家元首ボルドン・サンプス大統領:2兆8902億6552万1298番

 辺りかなぁと妄想してます。

 同銀河内なので比較的早めにファル子支持が広まった中でのロマン大将の数字は、距離的には平均値に近いところ。宗教国家マルアンは異教やそれに類する信仰の対象に厳しいため、公にファンクラブに入ることができず、密教化していたと考えると、宗教指導者の託宣でファル子ファンが解禁された時期に併せて国民の多くがファンクラブ入りし、大体これくらいの数字で一斉に番号付与されたのかな、とか。

 ボラーテ上級大将は孫娘さんがいち早くファル子ファンになって、家族総出で応援を始めたので100億番以内という古参の数字が割り当てられてる、とかだと面白いですよね。

 サンプス大統領は完全なポピュリストなので、時流に乗って最近、ファンを公言し始めたタイプです。扇動者あるあるです。卑しか政治家ばい。

 

 皆さまこんにちは、大多数の方、初めまして。作者です。

 今回の小説は、ファル子ファン3兆人が宇宙戦争を始めるぞ、とよくネタとして使われているのを見ていて、ふと思いついたものです。一か月くらい前に考えついて、一人で笑っていたくらいのモノだったのですが、なんか我慢できずに書き始めたら止まらなくなった怪文書でなんですね。

 短編として書き始めたは良いけど、勢い込んで手を付けたので、設定とか細かいことは全く手を付けずに仕上がっているので、あまり細かいことまでは考えていません。もの凄く適当です。こういう思考短縮ができるのが二次創作の良いところですよね(言い訳)

 というか、あらすじでも言ってますが、ウマ娘二次創作として書き始めたはずなのに、気が付いたら銀英伝になっていたこの仕上がりは、果たして両方のファンから許されるものなのだろうか、と若干、怯懦している自分もいるのですが、まぁそれは置いといて。個人的には、なんとも珍妙な怪文書ができあがったなぁ、と満足している訳なのです。

 変なものを書き上げたら、めっちゃ周りに見せたいと思うのは、恐らく人間のサガというものでしょう。しかし悲しいかな、私の周囲にはウマ娘トレーナーは少なく、しかも活字嫌いが多くてネタが通じない者だらけです。なのでこの怪文書の反応が見れるのはネットの海にしか存在しないのです。なるべく拡散して、多くの人に苦笑してもらえるよう、お願い申し上げます。

 さて、私はとんでもなく筆が遅く、一か月以内にこの量を仕上げることができたのは、随分と久しぶりのペースでした。ですので誤字脱字および表現のおかしな部分や、間違った知識などが散見されるかもしれませんが、そこはお許しいただければと思います。次回作になるオリジナル作品も書き始めてはいるので、覚えていてくれたら、読んでみてくださいね。

 ちなみにタイトルには「case1」って付いてますが、続きや派生作品を書くつもりはありません。あしからず。

 さて、最後に、こんな変な怪文書をわざわざ読んでくださった貴方さまに心からの感謝を捧げつつ。

 サイゲやらファンやら田中芳樹先生やらにひたすら謝りつつ、作品の終結とさせていただきます。

 



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