リリカルにエロいことしたいんですが、かまいませんね!! (He Ike)
しおりを挟む

プロローグ

 この世におぎゃー、と生まれ落ちてから早八年。誕生日が四月上旬の俺は、二年のクラスメイトの中で誰にも知られることなく八歳を迎えた。

 

 この季節はいつもそうだ。入学式なりクラス替えなりで十年来の友人でさえもひと月くらい経ってから『ああ、そういや誕生日だっけ? おめでとー』で済ます。

 

 いやいいけどさ! もう慣れたけども。ただ、なんで前世と誕生日が同じなのかね。神様ってば俺で遊んでんじゃね?

 

 ……さて、本題だ。ここまでの中であったように俺には前世の記憶というものが存在する。いやもうそれは、完全に完璧に前世で培ってきた十九年分の記憶を覚えている限り覚えている。

 

 あれ、それ完璧じゃないような……?

 

 まあ、それはともかくとして俺には、二週間前の誕生日から前世の記憶が戻ったのだ。突然の事態に慌てはしたが、思ったよりも素直に受け止め、自分が転生したことを自覚した。普通なら発狂ものの出来事な気がするがそれはきっとそういうものなんだろうということで納得しておいた。

 

 死んで神様とやらに聞けば詳しく分かるかもだが。……いや、そもそも前の俺が死んでるから今の俺がいるわけで。その上で俺には、神様転生をした記憶がない。

 

「つまり神はいなかった!」

「へっ?」

「いやいや、こっちの話。おっと、保健室につくまでに傷口の砂は流しておかないとね」

「……? うん、ごめんね」

「保健係だからね」

 

 肩を貸している栗毛の彼女が、突然の言葉に驚いたようだがすぐになんでもなかったかのように元に戻る。

 所詮はただのクラスメイトの意味不明な言葉だ。一々気にするようなことではないだろう。

 

 彼女を蛇口のある所にまで連れて行き患部を流水にあてる。

 

「……っ、うぅ」

「傷口が大きいからもうちょっと我慢してね」

「……うん」

 

 砂の除去が終わったら、先とは反対の肩を貸し再び保健室を目指す。

 余談ではあるが痛みに耐えながらぷるぷると震える彼女につい可愛いという感情を抱いてしまった俺は八歳児としては間違ってはいないだろう。精神年齢的にはアウトだが。

 

 さて思考を再び前世云々に戻す。

 

 前世の記憶があるとは言っても、この体として生きてきた記憶もきちんと残っている。

 前世の記憶がよみがえったとはいえ、前世の俺がこの体を乗っ取ったというわけではない。また、この体の俺がただ前世の記憶を手にしたというわけでもない。ついでに言っておくが、ピラミッドパズルを完成させた少年のように人格が二つあるわけでもない。

 上手い例えが思いつかないが、感じたままに言わせてもらえば俺は、十九歳の前世と八歳の現世の二つで一つなのだ。つまり超融合なのだ。

 もっとも、自意識の差なのかベースは前世の俺なのだが。

 

 と、ここまで思考しておいてなんだが問題なのはこんなことじゃない。こんなものは、せいぜい高校まで勉学がイージーモードになるくらいだ。むしろやり直しが面倒くさい。

 あと少しで飲酒、喫煙が解禁だったのに。チクショウ!

 ああ、そういや積んでたゲームの消化が……。

 

 閑話休題。

 

 いかんいかん、どうにも思考がよそに流れるクセは前世から健在のようだ。

 さっき俺は、問題はこんなことじゃない、と言った。それはつまり他に問題があるということだ。

 

 一つ、ここは地球ではあるが俺のいた地球とは違うということ。

 二つ、ここが俺の知っているアニメの世界であるということ。

 三つ、俺が今肩を貸している相手は、

 

「先生、急患です!」

「わわっ、そんな大げさな」

 

 保健室に着くなり、医療ドラマで見るような迫力のある演技をしてみる。

 俺の演技に保健室の先生は苦笑いしているが、横の栗毛をツインテールにした彼女は、恥ずかしかったのか肩に手を回していない方の手でぶんぶんと振って否定している。

 ふむ、俺の演技力もまだまだか。

 

 体操服に『高町』と書かれた彼女をイスに座らせ少し離れた位置で待機。あとは先生に任せておけばいいだろう。

 

 三つ目、ここは『魔法少女リリカルなのは』の世界であり、彼女が主人公の高町なのはであるということ。




 先人は偉大なエロ主を残していきました。
 といわけでこんな出だし。R-18でない以上は、まあ微エロ程度で済ませます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バカめ! すぐにエロが始めると思ったか

 過程が大事なんです。


「あら、ちょっとひどいわね。擦り剥いたのは肘と膝の二カ所だけ?」

「はい」

 

 じゃあ、ちょっと染みるわよー、なんて会話から消毒液を塗られて、ぴくんぴくんっ、と跳ねる高町さんを見て照れた俺を責められる人間がどこにいようものか。

 

 十九歳でもあるが、八歳の部分も確かに存在するのだ。だから俺は悪くない。

 

 ボーッと壁にもたれながら高町なのはを観察する。

 前世の記憶がよみがえったあの日。事態を整理しながらもクラスに彼女がいたことを思い出し、ここがアニメの世界であることをすぐに察することができた。

 

 そこで俺は、よくある二次小説のようにオリ主になって美女ぞろいである彼女たちと仲良くなろうなどと考えたのだがすぐに断念した。

 

 まず魔法が使えるのか、魔法の源であるリンカーコアがあるのか分からないのだ。まだ十年近く経たないと使えないであろう能力が備わっていることにも気付いたのだが、魔法とは関係ないので後回しだ。

 

 そして肝心なのがとある二人の存在だ。実はこの世界には既にオリ主君がいたのだ(踏み台君も)。更に言えばオリ主君は、高町なのはの幼なじみらしい。そして残念なことについ最近覚醒した俺には当然ながらそんなフラグは建っていない。

 よく訓練されたオリ主は入念なフラグ建てを忘れないのだ。

 

「はい、終わったわよ。あら? えらいわね。ちゃんと待っててくれたの」

「……ん? あ、はい。保健係なので」

 

 いや普通待つだろ、と思ったが、よく考えれば小学二年生だとそんなものかな。とくに今は体育のドッチボールの時間だ。相手が特別仲の良いわけでもない女子なら送るだけ送ってダッシュで帰る子もいるかもしれない。

 

「あの……」

「うん?」

 

 気付けば患部にガーゼを貼ってもらった高町さんが申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。

 信じられるか? この子、十一年後には魔王になるんだぜ。うーむ、エロい体になるだけなんか勿体ない。

 

「ごめんね」

 

 さて、何かと思って待ってみれば、彼女の口から出てきたのは謝罪の言葉だ。いや、さっきも聞いたけど?

 

「別にいいよ」

「でももう終わっちゃうし」

 

 言われて時計を見れば、確かにもう五分もない。走って戻ったところでロクに参加できないだろう。

 なるほど。小学校、それも低学年の頃なら体育のドッチボールの時間なんてものは退屈な学校生活の数少ない憩いの時間だろう。彼女は、それを申し訳ないと思っているわけだ。

 もっとも、当然ながらにそんなことはさほど気にしていないんだけどね。

 

「むしろ高町さんをダシに次の時間をサボるチャンス」

「だ、ダメだよ! ちゃんと勉強しないと」

「消毒液を嫌がって逃げた高町さんを追いかけていたことにすればワンチャン」

「ひ、ひどいよ! わたしそんなことしなもん」

 

 ちょっと辛気臭いのをどうにかしようと、からかってみれば思ったよりも効果があった。心配してるに! とばかりにぷりぷりと起こっている。何この子、すっげー可愛いんだけど。

 

 まあ、子供特有の単純さでなんとかなったかな、と思っていればすぐに次の事案が発生。

 高町さんがやってしまった、という顔で俺を見る。俺というか肩の位置……ってああ。

 なんてことない。ただ体操着が汚れているだけだ。最初に肩を貸していた方には血と泥が。洗ってからまた汚れないようにと貸した反対側の肩にはこれまた血と水で。

 

「ああ、このくらいなら」

「ご、ごめんね。洗って返すから」

 

 俺が言い切る前にさえぎっておれの服を掴む高町さん。

 いや、弁当箱とかじゃないんだから服はいいでしょ。というか、

 

「ここで半裸になれと?」

「へ? あ、あああ、あの違うの。そうじゃなくて、その、えーっと」

 

 途端、真っ赤になって右往左往する。やっぱ楽しいな、なんて思っていれば今まで傍観していた先生がからかったらダメよ、と視線で注意を促してきた。

 えー、先生も今まで楽しんでましたやーん。

 

「冗談冗談」

「うぅ……」

「まあ、あれだよ。体操服はあげられないけど、翠屋に行った時にちょっとおまけしてよ」

 

 ね? と頼んでみれば高町さんも落とし所として納得してくれたのか頷いてくれた。

 ふぅ、良かった良かった。時間もいいところだし、そろそろ教室に戻らないと。

 

「じゃあ、戻ろうか」

「うん。ありがとうね、江口君」

「僕は保健委員だからね」

 

 高町さんから俺の言葉を受け取り、保健室を後にする。

 どうでもいいことだが江口秀(えぐちしゅう)とは俺の名である。どうでもいいついでで言えば、対外的には一人称が僕なのは、八歳の方の影響だ。どうでもいいが。

 

 さてさて、このまま何事もなく甘酸っぱい青春風で終われば、いい話だね、で済むんだがどうにもそうはならないらしい。

 

「大丈夫かなのは」

「おいモブ、どさくさにまぎれて俺の嫁に手を出してないだろうな」

 

 オリ主と

 踏み台に

 からまれた。

 

 三行にするならこんな感じだろうか。もっとも、別にオリ主君は絡んでるわけではないけど。

 

 少し長めの黒髪で普段は赤い瞳を隠しているのがオリ主君。名前は、まあいいか。高町さんからは赤君と呼ばれてる。

 物静かで普段は男子から男子のグループに絡まないため若干ハブにされてるこの世界のオリ主だ。

 原作にしか興味がないのかもしれないけどもう少し上手く立ち回ってくれないとクラスがギスギスして困るんですけど。ちなみにニコポ系の技はない。見たことないし。

 

 

 俺に絡んできた銀髪ロングで金銀のオッドアイが踏み台君。ロン毛が鬱陶しいな。五分刈りにでもしてろよ。ちなみに彼の名前は面白いので表記しておく。

 巫魅戴刹那とかいう非常にセンス(笑)あふれる名前だった。ちなみに刹那は名前ではない。巫から那までで苗字だ。確かカタカナっぽい読みだったけど忘れた。

 とりあえず最初の三文字で『ふみだい』なので心の中で踏み台君と呼んでいる。

 あと彼も多分ニコポ系のものは持っていない。彼に対して赤面したのなんて俺と担任教師くらいなものだ。

 黒歴史的な意味でだが。

 

「あー、えっと、僕は高町さんを保健室まで運んだだけだから。じゃあ」

「あっ」

「待てお前! まだ話は」

「やめろ、巫魅戴刹那」

 

 さすがにこれらと一緒にいたときにボロを出して、転生者とバレると怖いので退散する。

 後ろで名残惜しそうにしてくれる高町さんに、後ろ髪を引かれる思いをしながらも今回はさっさと戻る。踏み台君を止めてくれるオリ主君が正確に名前を呼んでいた気がしたけどまあいいか。




 というわけで今回はここまで。こんな感じに進んで行きます。
 次回くらいでエロ主を目指し始めるかな?


 これを執筆中に既にお気に入りが13件。感想が1件もあったぞ。
 ハッ!? 気をつけろ! 新手のスタンドだッ! 近くにスタンド使いがいるハズだ!
 ありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これは事故なんだ!

 過程が大事。うん、これも大事な過程だな。ウソは言っていない。


「さて、どうしたもんか」

 

 自宅に着いてから今日の出来事を振り返る。

 正直、オリ主君と踏み台君がいる時点で原作に関わるのは半ば諦めかけていたのだ。いくら踏み台君とはいえ、ロクな力も持っていない俺が挑めば返り討ちにあうだけだろう。

 

 ただ今日のことでその考えはやめた。

 だって高町さんすっげー可愛いし。なのはちゃんマジ天使。

 ロリコンではないが相手は将来が約束されている美少女だ。それをオリ主君たちに攻略されていくのを指をくわえて見ているなんてのは正直嫌だ。

 俺もなんとかして彼女たちにアピールできないものか。

 

 まあ、考えてもすんなりと良い案が出るわけもなく今日は寝た。八歳だとすぐ眠たくなるな。

 

 

 翌朝。登校中。

 登校はバスだ。さすがいいとこの学校とでも言うべきか。

 毎朝、班で集まって集団登校しないで済むのは非常に助かる。あれって、大概悪ガキが何かしでかすからな。俺もよく班長には迷惑をかけたものだ。

 

 なんてことを考えていると我がクラスの珍集団が乗り込んできた。

 高町、バニングス、月村、オリ主、踏み台の五人組だ。ちなみに名前を読んだ順番は俺的好感度順なのだが今はどうでもいいだろう。

 そんな感じに五人組を見ていると高町さんが見られているのに気が付いたらしく、こちらに小さく手を振ってくれた。ああ、天使やわ。

 

 無視する気はないので振り返しておいたが、どうしよう踏み台君がこちらを睨んでくるんです。

 高町さん、天使なのはいいんだけど自分という存在の危うさに気付いてお願い。あの子、人を殺すような目をしてるんです。

 

 とりあえず、今日は一人にならないよう気を付けることを胸に誓うとバスが目的に着いた。

 さて、今日もお勤め頑張りますかね。

 

 

 コツコツ、と国語の担当教師が教科書のキーワードを黒板に書き写す。

 非常に静かな時間だ。授業の時間はいい。

 真面目なオリ主君含む原作陣はきちんと授業を受けているし、今更小学校の授業なんて余裕な踏み台君は爆睡してくれるからな。

 

「えー、では次の段落を高町」

「は、はい!」

 

 急に当てられ、ガタリと立ち上がる高町さん。周りのやつはそんな彼女の慌てようが面白かったのかクスクスと笑っている。

 おいこらやめろよ。高町さん恥ずかしがって顔真っ赤じゃん。いいぞ、もっとやれ。

 ちょっと、本音が漏れたりしている間にも高町さんは、ところどころつまりながら無事読み終える。漢字苦手なのかね?

 

「うむ。では、ついでに文中にあった四字熟語の意味は?」

「え、えっと……分かりません」

 

 シュンとするようにうなだれる高町さん。まあ、初めて習うところだし仕方ないだろ。

 

「では、バニングス。分かるか」

「はい」

 

 座らされた高町さんに変わりバニングスさんが当たり、スラスラと淀みなく答える。

 日本育ちだったかな? だから問題はないんだろうけど、金髪碧眼の彼女が国語の授業をすんなりと言えてしまうと不思議と凄いと思ってしまう。

 ヒュー、かっこいいー。

 

「次はそれを使った例文を江口」

「うぇいっ!?」

 

 ガタッガタンッ、ゴスッ!

 立ち上がる時に何を引っかけたのか机が倒れ、スネに襲い掛かってきた。小学生相応の身体能力しかない俺が当然それを避けられるわけなく、

 

「~っ! んんん……」

 

 マジ痛い。つか涙出てきた。

 

「江口? 大丈夫か」

「……まさか机が倒れてくるなんて。油断大敵だ」

 

 クラスでちらほらと笑いが起こる。とりあえず、ネタにはなったらしい。って、うわぁ、青くなってるし。

 

「はぁ、ちゃんと答えてくれるのはいいがこれからは注意するように。保健室へは行くか?」

「はい」

「では、悪いが保健係の人は江口に付き添ってやってくれ」

 

 とりあえず、片足立ちながらも立ち上がって教室後方のドアまで行って待つ。

 この学校では、授業中に保健室に行くときは男女どちらかの保健係が必ず付き添わなければならないのだ。

 もっとも、女子の方は風邪をひいて昨日から来ていないのだが。そして男子の保健係は俺だ。つまり誰も付き添ってくれる相手がいないというわけだ。

 

 いや、まあいいけど。こんなアホくさいケガに付き合う方もたまったもんじゃないだろう。

 一人でいいんで行ってきます、と言おうと思った時だった。

 

「あ、あの女子の子は今日はお休みなのでわたしが一緒に行ってきます」

「そうか。高町頼むぞ」

 

 なんか天使が付き添ってくれることになった。

 オリ主君も意外だったのか、訝しげなな目でこちらを見てきた。なんでだよ。別にこのくらい問題ないだろ。

 

「行こう、江口君」

「お、おう」

 

 高町さんに連れられながら廊下へ出る。

 昨日のお礼なのだろうか。だったらマジで天使だな、なのはちゃん。オリ主君め、幼なじみなんて良ポジションをゲットしやがって。

 

「ねえ」

「なに?」

「その、足大丈夫?」

 

 大丈夫だよー、ほら。わっ、真っ青。なんて会話をしながら保健室へのんびりと歩く。

 途中、肩貸そうか、なんて言われもしたが丁重に断りさせていただく。さすがに女の子に肩貸されている姿は、情けないだろう。それに痛むけど、我慢できないほどじゃないし。

 けど、

 

「あれだね。翠屋のおまけが無くなったのはちょっと惜しいかな」

 

 これで貸し借りゼロだと笑って見せる。というか、高町さんを連れて行ったのは仕事だから何か恩を返さないといけないのは俺じゃないだろうか?

 

「でも、服は汚しちゃったから。……そうだ! シュークリーム一個サービスするね」

「あー、うん、楽しみにしておくよ」

 

 どうにも高町さん的に譲れない一線があるらしい。

 そんな風にこの二日間でずいぶんと仲良くなったものだな、と考えながら談笑を続けている時に事件は起こった。

 

「うわっ、とっとと」

 

 俺が躓いたのだ。足をかばいながらのヒョコヒョコ歩きのせいで足がもつれ、転びかける。

 ただ、転びかけただけで本来ならきっとなんとか踏みとどまれただろう。だがそうは天使がさせなかった。

 

「あ、あぶな……うわぁっ」

 

 高町さんが俺を受け止めようとしたことで、ぶつかりバランスを崩し二人ともに転倒する。

 とりあえず、俺が押し倒すような形から回転して、地面にたどり着くまでには俺がクッションになることに成功した。男として最低限のフォローはできたかね。

 

「いてて」

「うぅ、ごめん……ね? ひゃっ!」

 

 うん? 高町さんの様子がおかしい。一体何が……!?

 そして俺は目撃してしまった。こ、これは、

 

 今の俺たちの格好は俺が下で高町さんがその上に乗りかかる形となっている。ここまではいい。

 だが俺は、倒れ掛かってくる高町さんに潰されまいと二人の間に手を置いてしまった。そう、置いてしまったのだ。そして無我夢中で伸ばした手は高町さんの胸に。

 胸に!

 

 二度言ったが意味はない。いいか本当だぞ?

 

 さて、この状況をどうするか。おっと、手をどかせばいい、なんてのは無しだぞ。無理だし!!

 さて高町さんは完全にフリーズしている。しかし小学二年生にとって、胸を触られるということはどの程度の出来事なのだろうか。

 

 ふにふに。

 

「んっ……」

 

 まだ当然ながら性知識なんてないだろうし。せいぜい男の子には、象さんがあって、女の子は胸に風船ができると知っているくらいだろうか。

 

 ふにふにくにっ。

 

「んくぅっ!」

 

 となると、適当にごっめーんで済ますのが一番か。まあ、まかり間違っても転生した俺の特殊能力は使うべきではないのだ。

 

「はぁはぁ……なんでこんなに」

 

 さわっ。

 

「んぁ! 急に優し」

 

 きゅうぅぅぅ!

 

「っ! ぁんんんんんんっ……ぅん」

 

 せっかく上げた好感度をわざわざ下げるようなことはするべきではないだろう。そうと決まれば、

 

「あれ、高町さん?」

 

 気付けば意識を落としている高町さん。それになんか息が荒いような。

 

 ふにふに。

 

「ああっ!」

 

 ここで初めて事態に気付く。やってもうた……。

 静かな廊下で二人きり。ようやく特殊能力の暴走を止めた俺は、失った刺激を求めて体を擦り付けてくる高町さんを胸に抱え呆然とするのであった。




 初めて挑戦するエロス。最初はタッチ程度で済ませるつもりだったのにどうしてこうなった。つか、特殊能力の暴走でこんなバカエロ展開になる主人公もそう多くはいまい。

 あ、あとこれってR-15的にどうなんだろうか。誰か判定を。場合によっては、R-18行きに……そっちの方が自由に書けるんじゃね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚醒~エロ主爆誕~

 最初に言っておく、これはシリアスとかする気ないから。エロスだから。


 八歳の誕生日を迎えたその日、俺には前世の記憶以外にとあるものを理解した。

 そう、理解したのだ。生まれてから八年間ずっと持っていたのか、それとも前世の記憶と共に手にしたのかは定かではないが、とある力を手にしたことだけは理解できた。

 

 一応、言っておくがカッコイイ感じの力だったり、バトルに役立つような能力だったりはしない。もしそんな能力なら、オリ主君、踏み台君で悩まんわ。

 

 まあ、能力上使う機会は十年近く先だろうと気にしていなかったらこれだよ!

 

 現在、保健室。

 

「すうすう。んんっ……」

 

 二人きりの空間で高町さんは未だ俺に体を擦り付けてくる。本来なら嬉しいはずの時間なのだが、正直今に限ってはあせっている。

 

「あー、もうっ! 勝手に揉むとかどこのトラぶってる主人公だよ。つかこんなの聞いてないって」

 

 俺が自覚した特殊能力。その一つの効果が今の高町さんだ。

 俺の両手は、事に及んだ相手の性的快感を格段に高め、最善を尽くすという効果がある。それこそ今初めて知ったが、まだ初潮も来ていないような相手にも効果がある程のものだ。

 

 恐らく異性の胸を一定時間触り続けたことで、事故ではなく行為だと認識したんじゃないだろうか。よく分からんけど。

 

「もうこれ絶望的じゃないかね」

 

 高町さんの好感度的にもそうだが。それよりも、もしオリ主君と踏み台君がサーチャーだったか? そんなので高町さんの行動を見ていたりしたらアウトというわけだ。

 SSSランクだかEXランクの魔力量で蒸発してしまうだろう。いや、比喩じゃなくて。

 

 そんなことを考え戦々恐々としていると、高町さんに異変が。

 

「んぅ……もっ」

「あ、あの高町さん? 起きましたか?」

 

 びくびくしている俺に、うっすらと目を開けた高町さんが一言。

 

「……もっと」

「待て! 待つんだ俺。その伸ばした手を引っ込めろ。よし、素数を数えろ」

 

 不思議だね、不思議そう、不思議花。ダネフッシー……って違う! 図鑑順だそれ。

 ダメだ俺。この頭イカれてやがる。

 

「ちょ、高町さーん。ダメだって。女の子がそんなこと言ったら。いや俺のせいなんだけど」

「んん、うん? 江口君……?」

「そうだよー。人畜無害、清廉潔白、一家に一人の江口君だよー」

「うぅ、国語嫌い」

 

 どうやら失敗したようだ。高町さん起動しません。

 いやいや、そうじゃなくて。とにかく、まずは高町さんの誤解を解かないと。……まあ、誤解なんてないわけなんだが。

 

「ごめんね。僕、大分調子乗ったわ。色々と謝りたいから起きて。お願い!」

「んん、うん? 江口君……?」

「いや、それさっきやった!」

 

 俺のツッコミにより今度はきちんと起動したらしい高町さん。

 眠そうな目をこすりながら、ゆっくりと開き固まった。

 

「高町さん?」

「ち」

「ち?」

「近いよ!?」

 

 ああ、そういえば俺の胸に抱きついているわけだから、目を開ければ必然的に俺の顔がドアップに。

 何が起こったのかとパニクリながらも、俺を突き放さず服を掴んでてくれるのが何気に嬉しい。まあ、特殊能力による効果と寝起きで頭が回っていないだけなんだろうが。

 

「ほら、とりあえず深呼吸。吸ってー」

「すぅー」

「吸ってー」

「すぅー」

「もういっちょ吸ってみようか」

「す……すぅー」

 

 俺の指示通りに詰まらせながらも息を吸い続ける高町さん。

 ベタなネタだけどこういう従順で可愛い子がやってくれると楽しいな。

 さて、では名残惜しいけど真面目に。

 

「じゃあ、すすってー」

「す、ずっすぅ……ぷはぁー! できないよ!」

 

 ごめん、真面目とか無理だったわ。

 可愛らしく怒る高町さんをなんとかなだめながら状況を説明していく。

 

「……えっと、それから転んじゃって」

「う、うん」

「それで……」

 

 問題の場面前まで説明したところで高町さんの顔が真っ赤になった。

 そうだよね。そんな都合良く、その部分だけの記憶が抜けてくれるなんてのはオリ主イベントだもんね。

 なんて謝ろうかと考えたが、結局は、まずは普通に謝るべきと判断。

 

「ごめんなさい。出来心だったんです」

「うー、えっちぃ……」

「もういっか……本当に申し訳ない」

 

 危ない。本音が出かけた。この正直者め!

 ほとんどアウトな気がするど高町さんが気付いていないならセーフなのだ。

 というか高町さんが涙目でこちらを見上げながら、なんて……もうたまらんのです。ロリでもいいかな、と思い始めたが原作ではアインスさん派ということを思い出し事なきを得る。

 

 そういや、オリ主君と踏み台君がいるということは、アインスさんが助かる可能性が増えるわけで。

 つまり俺は、労せず救われた彼女を掠め取れば俺的に万々歳……最低の屑思考ですね。本当にありがとうございます。

 

「なんで……その、えっと、なのはのお、お……っぱいを揉んだの?」

 

 ヒャッハ―、恥ずかしがりながらおっぱい発言とか最高だぜ! ……はっ!

 失礼。それはこういった部分の俺がいるからなんだ、なんて言えるわけもなく必死に最適解を考える。

 

「え? えーっと」

「……」

 

 必死に考える俺を前に高町さんは俺に何も言わない。

 

 怒っているのだろうか?

 当たり前だろう。どこの世界にセクハラをされて怒らない人間がいる。

 俺に惚れてたり……?

 ないない。チョロイン過ぎ。ワロタ。

 けど、雰囲気がおかしくないか?

 

 様々な思考がよぎる中、ようやく高町さんの現状に一つの考察が思い浮かぶ。

 彼女は、ただ戸惑っているのではないか?

 俺たちは現在小学二年生。正しい性知識を得るのはまだまだ先のことだ。高町さんもスカート捲りと同じ感覚で、えっちだから良くない程度にしか思っていないのではないか?

 もしそうだとしても普通、胸を揉まれたら怒るはずだ。それをしないのは、

 

「気持ち良かったの?」

「……え、えぇっ!?」

 

 自分でも驚くくらい馬鹿げた声色が出せた。

 まるで呆れるように、バカにするように、どこか非難めいた声色で問う。

 高町さんは戸惑っている。それもそうだろう。質問していたのは自分のはずなのに、いつの間にか主導権が入れ替わっているのだ。

 

「も、もう! ちゃんと質問に答え」

「ごめんね。高町さんが可愛くてつい」

「なにゃ、にゃぁっ!?」

 

 普段ならとても言わないようなセリフで高町さんの言葉を制す。

 ちなみにウソは言っていない。愛らしいペットのような感覚の可愛らしさも感じていたが、女性としても可愛らしいと、これからまだまだ可愛らしくなる(・・・・・・・)と俺の直感が告げている。

 

「ほら高町さんの質問には答えたよ」

 

 今度は君の番だ。

 

「え、わたし……そんなこと」

 

 どんどんと高町さんの目に涙が溜まっていく。

 ああ、可愛いなぁ。俺の中の嗜虐心が沸々と高まっていくのを感じる。

 だがその一方で、今はまだその時ではないと冷めた俺が行動を制する。それもそうだな。

 

「ごめんね」

「わ、わたし……え?」

 

 まるで何か悪いことでもしてしまったかのようにぷるぷると震えだす高町さんに精一杯の人の良さそうな笑みを見せる。

 ニコポこそないが、人の笑顔というのは状況によっては、対象に十分な安心を与えることができるのだ。

 

「僕の言い方が悪かったね」

「言い方?」

「うん。僕はね、いたずらして気絶しちゃった後の高町さんがずっと抱き着いて来るから嫌じゃなかったのかな、って思っただけなんだ」

「え、わたし、そんなことを……」

 

 言って、再び顔を真っ赤にする高町さん。恐らく起きた時のあれが自分によるものだと理解したのだろう。

 ふぅ、さてそろそろ良い時間だ。もう少し唆してから終わるとしよう。

 

「だから先に責めてるわけじゃないと言ってからまた質問するよ。気持ち良かったの?」

 

 宣言した通り、責めるような、追い詰めるような聞き方はしない。もう必要ないのだ。彼女の心は既に乱れきっている。正確な判断は無理だろう。

 そして彼女は、ゆっくりと首を縦に振る。

 うん、いい感じだ。けど、そうじゃない。

 

「ほら、言葉にしてくれないと相手に正確に伝わらないよ?」

 

 俺の言葉に僅かに視線を揺らしながら、言葉を紡ぐ。

 

「う、うん。気持ち良かった……の。なんでか分からないけど起きてからも胸がくすぐったいような感じで……またやって欲しい……かも」

「そっか」

 

 高町さん、決死の告白に対してできる限りの優しい笑みで応える。そして後半のセリフはスルーする。

 さて、では聞きたいことも聞けたし準備でもするかね。

 えーっと、湿布は……。

 

 がさがさごそごそ。

 

「あ、あのぉ」

「うん? ああ、もうそろそろ授業が終わっちゃうからね。高町さんもどこか痛いところある?」

 

 見つけた湿布を見せながら高町さんにも問う。

 首を横に振って答えてくれたので、湿布を一枚勝手に拝借して青くなったスネに貼る。

 保健室の先生には戻る時に職員室に寄って、言えばいいだろう。

 

「まったく、この時間はどこも体育がないとはいえ、僕みたいなバカが来るかもしれないのにね?」

「ふふっ、そうだね」

 

 おどけるように言う俺に高町さんは、いつもの柔らかい笑顔を見せてくれる。

 

「じゃあ、戻るけど僕に口裏を合わせてね?」

「うん、正直になんて言えないしね」

「ああ、あと今日のことは、二人だけの秘密ってことで。勿論、赤君にもだよ?」

「と、当然だよ!」

 

 やったことが、えっちで恥ずかしいことではあるけど悪いことではないと思っている高町さん。うん、こちらに都合の良い倫理観になってきている。

 

「そうだ。……また二人だけになったらしよっか」

「……っ!」

 

 二人だけしかいないというのに、小声で高町さんに尋ねる。

 秘密や内緒話というのは良い。二人だけの共通の隠し事があるから、連帯感や信頼が生まれるし、秘密や隠し事が生み出す優越感に似た感情は、中毒性がある。

 

 俺の言葉に高町さんが頷きかけたところで、保健室のドアが勢い良く開けられた。

 

「おい、俺の嫁はいるか!!」

「なのは! 良かった。授業が終わっても戻って来ないから心配したぞ」

 

 オリ主君と踏み台君の登場である。ったく、邪魔を……いや考え方によってはナイスアシストってところか。

 さっきまでは、サーチャーで見られてたらどうしようか、などと考えていたが今はそれほど心配していない。

 だって、見ていたのならあれだけ高町さんに迫っていたのを、今の今まで邪魔しに来ないということはないだろう。

 恐らくだが、この二人。不可侵条約のようなものを結んでいるのではないだろうか。どちらかが抜け駆けしたら、高町さんが魔導師になった日に盗撮をばらす、みたいな感じに。

 

 それに心配していながらも授業が終わるまで、探しに来なかったのは学校が安全だと思っているからかな? まあ、踏み台君は今まで寝てただけだろうけど。

 甘いよ、オリ主。一番危険なのは日常だ。

 

「おい、お前!」

 

 俺だ。今まで高町さんにちょっかいをかけては、オリ主君に妨害されていた踏み台君が、鋭い眼光でこちらを睨んでくる。

 ただ、オッドアイだとなんか中二っぽくてギャグにしか見えないんだよなぁ。

 

「今まで、なのはと何をしていやがった!」

「え、江口君は悪くないよ」

「いや、俺も気になるな。保健室へ湿布をもらいに来ただけじゃないのか?」

 

 普段は寡黙なオリ主君も興味があるといった様子だ。自分のヒロインに何があったか心配なのだろうか。

 

「いや、実は転んでしまった時に高町さんを巻き込んでしまって」

「はぁッ!?」

 

 こえーよ。

 既に抹殺対象とばかりに血走った目でこちらを見る踏み台君。

 

「その時に気絶してしまったので、今まで様子を見てました」

「あ、あのね。江口君は悪くないの。なのはが支えれないのにかばおうとしたから」

 

 必死に俺のフォローをしてくれる高町さん。

 まったく可愛いなー。大丈夫だよ、少し近くで観察したらこの二人の共通点を見つけた。

 

「これからは気を付けろ」

「ちっ、役立たずが」

 

 彼らは、エキストラになど興味がないのだ。見ているのは、まだ一年近く先の原作の解決法かな。

 まったくいいのかね? 展開を知っている原作よりも真に注意しなくてはいけないのは、エキストラの方かもしれないというのに。

 二人に連れられながら心配そうにこちらを見てくれる高町さん。こちらを見ているのは彼女だけなので、大丈夫だと手を振っておく。

 

 さってと、俺も職員室に寄ったら教室に戻るとしよう。

 高町さんたちとは反対方向に向かおうとして、ガラスに映った何かに気付く。

 

 八年間、見てきたもの。自分の顔だ。いつもは、もっと没個性のような顔をしているのだが今は違った。

 かつてない程に口角が上がっている。

 それに気付いてようやく俺は今、楽しんでいたことに気が付いた。

 楽しかったのだ。あの、いつもは関わりたくないと、面倒だと思っていたオリ主と踏み台の二人を相手にして、この上ない愉悦を感じていたのだ。

 

「ヒロインたちと表面上は友情を育むといいさ。それから先の展開は全部俺がもらっていこう」

 

 なんとなくラスボスっぽいな、なんて思いながら口角を戻し、職員室を目指す。

 

 

 ではでは、これより始まりますは、我らが高町なのはによる友情・努力・勝利の王道劇ではなく、オリ主のもたらすチートストーリーでもなければ踏み台による逆転劇でもない。

 

 ただのエロ主が行う、魔法もシリアスもないエロコメディーでございます。お時間のある方は是非ともお付き合い願いたい、なんてな。




 なんか、すっごい筆が乗った。行動によるエロスではなく、言葉によるエロスを感じていただけたら幸いです。主人公の変化は、あれだ。調教モードというか、愉悦モードみたいな。基本的には楽しくエロスで行きます。……背徳的な描写がないとは言ってない。


p.s.投稿初日でお気に入り78って紳士多すぎだろ。皆ありがとう。大好き!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エロ主の言葉には毒がある

 とても甘い甘い毒がな。


 あの日から三日経った。今日は土曜日だ。世間一般の小学校では休日だろうが、聖祥では隔週で第一と第三土曜日の午前中にのみ授業を行っている。

 そして今日は第三土曜日。つまり登校日だ。

 

 まあ、もう終わったところなんだが。

 あれから高町さんには一切手を出していない。エキストラなんてどうだっていい、と思っているオリ主君に踏み台君も露骨に高町さんに迫り出せば、黙ってはいないだろう。

 それは俺の望むところではないため、ほとぼりが冷めるまで待つつもりだ。もっとも、他にも狙いはあるのだが。

 

「帰るぞ嫁よ」

「なのは、今日は桃子さんが早く帰れって言っていたぞ」

「え、ちょっと。ごめんね、アリサちゃん、すずかちゃん。わー、引っ張らないでよう」

 

 慌ただしく、例の三人が帰ったところで、バレないように観察を始める。

 

「まったく、あいつらは! なのはもなのはよ。今日は一緒に帰るって約束だったじゃない」

 

 長い金髪をツーサイドにして、激しく怒っているのがアリサ・バニングス。

 

「お、落ち着いてアリサちゃん」

 

 紫紺のウェーブがかった髪を白いカチューシャで止め、アリサを制しているのが月村すずか。

 

 

 この二人が、いや、高町さんも含めて三人が暫くの攻略対象……さすがに失礼か。これじゃあ相手を人として見ていない。では、訂正して調教対象である。

 

 目標は本編が始まるまでに、性癖を知ることと性感帯の開発かな。三人とも将来性のある美少女だから実に頑張りがいがある。

 中等部に行って、男女で校舎が別れても関係をやめないくらいの仲にはなりたいものだ。

 おっと、いけない。二人が帰る準備をし始めてしまった。行動に移らないと。

 

「あ、あのバニングスさん」

「何か用?」

 

 非常に素っ気ない態度だが月村さんとの会話を打ち切り、こちらを見てくれる。これがオリ主君や踏み台君が高町さんと話している時だったら一区切り着くまで話し続けるんだからひどいものだ。

 

「先生がクラス長二人で運んでほしい荷物があるって……」

 

 後半から声を小さくしていき、オリ主君の席を見る。彼は我がクラスのクラス長なのである。なんで高町さん以外に興味がなさそうな彼がクラス長をやっているかと言えば、きっと高町さんに格好いいところを見せたいとかじゃないですかね。

 そしてバニングスさんにこの話をしているということは、つまりそういうことで。彼女は女子の方のクラス長なのである。

 

「はぁ!? ちょっと聞いてないんだけど!」

「ご、ごめん。僕も先生に言われてすぐ来たんだけど……」

 

 ウソです。オリ主君が帰るのを見計らってきました。ごめんね。

 それにしても今日のバニングスさんは機嫌が悪いな。まあ、さっきの流れを見ていれば理由は明白なんだが。

 

「まったく、あいつもさっさと帰っちゃうし……」

「えっと、僕も手伝うから」

「いいわよ。あんたが悪いわけじゃないんだし」

 

 怒っていながらも俺がおっかなびっくりを演じながら提案を出せば、きちっと断る。そういう人なのだ、バニングスさんは。

 ツンデレだけど当たり散らかさない。多少、感情のコントロールは下手だが相手を思いやることができる人だ。だが、今回は断られると困るため、俺も食い下がる。

 

「けど、結構たくさんあったよ?」

「小分けにして往復するから」

「時間がかかっちゃうと月村さんも退屈だろうし」

 

 経験則から言って、月村さんは十中八九バニングスさんを待つだろう。確かこの時間は急ぎの用事が無かったはずだ。そしてバニングスさんの性格からして、理由もないのに他人に仕事を押し付けるようなことはしない。仮に月村さんが手伝うと言ったところで絶対にさせないだろう。

 

「ぬ、ぬぅ。けど、あんたに頼む理由もないわよ」

 

 さて、ここまで俺の予想通りだ。だから俺はこう答えよう。

 

「理由ならあるよ」

「は?」

「前に、助けてくれたからね。その恩返しがしたいんだ」

 

 一瞬、何のことかと考え込むバニングスさんだが、すぐに思い当たったようでバカらしそうに俺を見る。

 

「まさかとは思うけど始業式のこと?」

「それ以外はないよ」

 

 始業式のことというのは、俺がまだ俺として自意識を戻してから間もなかった頃だ。

 まあ、簡単に言えば踏み台君に絡まれていた俺を助けてくれたのだ。あの頃の踏み台君はまだ今よりもピリピリしており、エキストラが相手だろうがなんだろうが好き勝手やっていたのだ。

 今思えば、あの頃の踏み台君はオリ主君ともっと仲が悪かった気がする。つまり、自分以外の転生者が気に入らなくて八つ当たりしてたのかな? 

 まあ、踏み台君の話なんてどうだっていい。大事なのはそれから助けてくれた相手がバニングスさんだったというところだ。

 

「はぁ、あんたね。あんなのは助けたなんて言わないの。あたしにとって邪魔だからどうにかしただけ。あんたは関係ないの」

「関係はあるよ。僕の為でなくとも結果的に助けられた形になるのなら感謝するべきだ」

 

 ここまで言ってようやく、バニングスさんは言葉につまる。彼女は中々に頑固だが、素直な人でもあるので、こちらの主張に間違いがなく、正論であるなら反論する言葉が出てこないのだ。

 そして、ここで今まで事の顛末を見守っていた月村さんに視線を送る。

 聡い彼女は、その意味にすぐに気が付いてくれたようで、行動に移す。

 

「アリサちゃん。江口君もこう言ってるわけだし。お願いしたら?」

「もうっ! 分かったわよ。なのはみたいに頑固なんだから。頼んだわよ江口」

「うん、任せて」

 

 月村さんの一言ですんなりと陥落してしまう、バニングスさん。高町さんみたい、というのは褒め言葉として受け取っておこう。

 

 月村さんに目線でお礼を送ってから彼女について少し考察する。月村さんは緩衝材だ。あのグループの中で決定的な仲違いが起こっていないのは彼女の功績だろう。自分の意見は殺し、衝突し合う両者の妥協点を提案する役目にいる。

 ゆえに月村すずかは、グループの中でかかせない存在であり、俺にとって厄介な相手でもある。まあ、手がないわけではないのだが。

 

 とりあえず今はバニングスさんだ。同時に二人を相手に事を始めるには、俺のスキルが足らなければ信頼も足りない。まずは一歩一歩着実に行こうか。

 

「うわ、本当にたくさんあるわね」

「だから言ったでしょ」

「ふんっ」

 

 俺がそう言えば、少しへそを曲げたように荷物を持って先に目的の資料室まで向かってしまう。

 おっと、いけない。ご機嫌を散り直さねば。

 

「ま、待ってよ。バニングスさん」

「何よ……」

「いや、せっかく二人でやってるんだから一緒に行こうよ」

「あたしは早く終わらせたいんだけど」

「うん、バニングスさんのペースに合わせるからさ」

 

 などと、まるで人畜無害な好青年のようなセリフを吐けばバニングスさんは、呆れたようにペースを少し落としてくれた。よっ、ツンデレ!

 

 それからまずは、ジャブとして授業の話題で会話を進めていく。

 最近、算数が難しいね。

 あんた、当てられたところはきちんと答えてるじゃないの。

 訂正。面倒だね。

 そういう素直さは褒めるべきなのか悩むわね。

 

 さて、会話が温まったところでこれが最後の荷物だ。そろそろ特殊能力も踏まえて本題に行こうか。

 

「ふぅ、やっと次で最後だね」

「お疲れ様。悪いわね最後まで付き合ってもらって」

 

 ちょっと照れたようにお礼を言うバニングスさん。さすがにまだこの年だと仲が良くなるのはあっと言う間だ。まったくツンデレ可愛いな。

 

「いや、僕が彼が帰る前に伝えられれば良かったんだけど……」

「ど、どうしたのよ」

 

 あからさまに何かありますよー、という雰囲気にバニングスさんが心配してくれる。

 

「いやね、実は僕、クラス長のことが苦手で」

「赤のことを?」

 

 そういえばバニングスさんや月村さんもオリ主君のことを赤と呼んでいたな。まあ、高町さんと仲が良いってことは、必然的にオリ主君にも一年の頃から関わっているということだから当然なのかもしれない。

 もっとも付き合いが長いからといって、仲が良いとは限らないのだが。

 

「なんだか、こう……陰口みたいになっちゃうけど、相手に興味がないように見えるというか」

「……」

 

 バニングスさんは黙って聞いている。だが、その顔は陰口を叩く俺を非難するような目ではなく、核心をついている、ということに対する驚きのような視線な気がする。

 よし、考察通り。このままの方向性で行ってみようか。

 

「その、極端に言うと高町さんにしか興味がないんじゃないかなって……思って」

「あんた良く見てるわね。いや、ただのクラスメイトにさえそう思われるあいつが異常なだけかしらね」

 

 そこからポツポツとバニングスさんからオリ主君について語られる。

 曰く、昔から高町さんに付きっきりで、高町さんと遊ぶ時には大体付いて来ること。

 曰く、一年の最初の頃はもっと仲が良かったはずなのだが急に素っ気なくなったこと。

 などなど。オリ主君に対する不満が少しずつだが語られ始めた。

 

 彼女にしては珍しく要領を得ない話し方だったが、それも仕方ないだろう。

 これが俺の二つ目の特殊能力、本音を引き出す力だ。もっとも催眠術とかとは違い、話術によって相手の心の警戒を解き、誘導するだけの力なのだ。

 だから相手から本音が聞きたければ、それ相応の信頼が、つまりこいつになら話してもいいという仲にならなければいけないのだ。

 

 今回はまだ、当然ながら信頼というレベルに達しているわけがない。だが、オリ主君について不満を漏らした。つまりは、バニングスさんにとってオリ主君の存在はその程度だというわけだ。

 

 しっかし、なるほどねー。どうにもオリ主君と踏み台君は転生者にしては珍しく、バニングスさんと月村さんの両名を蔑ろにすることが多かったのだ。いや、踏み台君は少し気にしてたかな。

 これは俺のただの想像……どちらかというと妄想レベルのものだが、オリ主君たちはもしかしたらバニングスさんと月村さんを切り捨てたのかもしれない。

 

 前に言ったが、恐らくオリ主君たちはニコポを持っていない。それで彼らはハーレムを築くのを諦めて高町さん一人を狙いに行ったか、魔法関係者にのみ的を絞ったのではないだろうか。

 バニングスさんたちは一期、二期でこそ、主人公の親友ポジで出たが三期ではぞんざいな扱いであった。

 先の話から察するに彼も最初はバニングスさんたちにフラグを立てようとした。だがしかし独占欲の強い幼少期に三人の好感度を維持するのは難しい。むしろ大本命、物語の主役である高町さんに嫌われてしまえば本末転倒である。そんな事情から彼女たちを切り捨てたというわけだ。

 

 完全、俺の妄想ではあるがまるっきりバカにできるものでもないのではないだろうか。

 

 それに、だ。彼女たちのフラグを立てるのに絶好の時期がある。二期の後半。彼女たちは結界の中に迷い込み、敵の攻撃を受けかける。

 原作ではそれを防ぐのは高町さんとその黒い親友なのだが、その役を奪ってしまえば……。

 一気に乙女のピンチに駆けつけるヒーローの図が完成である。マイナスだった好感度が爆上がりするのではないだろうか。それに高町さんたちの好感度が上がることも間違いないだろう。

 

「はぁ……あたし、何を言ってるんだろ」

 

 仮にも幼なじみである人物の陰口を言ってしまって、自己嫌悪してしまうバニングスさん。

 おっと、ちゃんとフォローはするさ。

 

「不満が出るのも多少は仕方ないと思うよ」

「でも……」

「別に彼のことが嫌いとかいうわけじゃないんでしょ?」

「まあ、そりゃあ」

 

 不満を感じるのは人間である以上、仕方ない。そう仕方ないのだ。

 俺が狙っているのはグループ内での不仲ではないのだ。むしろ仲良くしてくれていた方が愉悦が増すというものだ。

 

「ほら、溜まってるものを吐き出してごらん。僕の口は中々堅いよ」

「う……」

 

 いいぞ。いい感じに揺らいでる。後は俺が余計なことをする必要はないだろう。

 最後の一線は自発的に超えるからこそたまらないのだ。少なくとも俺は、高町さん相手にこのことをよーく理解した。

 

「……」

「あ、あたしだってなのは友達なのよ!」

 

 まだだろう。その時々に感じている不満をぶちまけていても、根本的な不満を言ったことはないんじゃあないのか?

 

「なのにあいつは、いっつもなのはに付いて来るし! なのはも何も言わないし! もっと三人だけで遊びたいのに。勉強会がしたいのに。お昼が一緒に食べたいのにッ!!」

 

 溜めていたものが一度こぼれ出てしまえば、後はすぐだった。

 

「なのはもあいつもバカーッ!!」

 

 全て言い終えてしまってからバニングスさんは、ハッとした顔でこちらを見ると、手を宙でさまよわせあたふたとする。なにそれ、バニングスさんもそんなことするんだ。可愛いね。

 おっと、せめてこれだけは言っておかないと。意地悪なことを言うのはやめて、できる限り優しい口調に気を付ける。

 

「うん、友達と一緒にいたいって思う。当たり前だよね」

「な、ななな……あ、あんたもバカー!」

 

 あらら、行っちゃった。こりゃあ資料室に荷物を置いたら、違う道で月村さんのところにまで戻るかな。まあ、今日はこれで上出来だろう。

 

 

 溜め込んだ愚痴を何も言わず聞いてくれる相手も、自身の後ろ暗い部分を肯定してくれる相手も、とても得難く、一度でも得てしまえば失いたくない相手である。




 さて、これで三人娘全て登場である。一人の尺が短かったけどまだこれからだからね。
 口調や設定は一応調べたり見直したりしていますが、どこか変な場所があればご指摘下さるとありがたいです。こちらでも確認はしていますが。
 あと出て来ていない設定は勝手に補完しています。仕方ないよね、本編とは全然別のことやるからさ。



・ゴッドハンド(仮)
 エロ系主人公に欲しい能力。気になるあの子をエロエロにする他、性感帯開発までできる優れもの。なお、催眠効果などはないため本気で嫌がる相手に使うとひどいことになる。
 悔しい。けど感じちゃう、にはなってもそこから先に進めるにはかなりの好感度が必要。なのはちゃんが餌食になったのは、それを嫌悪するべきことと分からないままに快楽に身を委ねてしまったからである。


・ポイズントーク(仮)
 相手に本音を喋らせるだけの能力。催眠などの効果はないため、頑張って好感度をかせがないといけない。利点は話す気がなくてもそれを話せるくらいに信頼していれば、使用者のトーク力次第で聞き出せる。相手的には不快感はないため、本音で話せる人物なんだな、と誤評価される。


 こんな設定があったりするけど、別に覚えてなくても大丈夫。それに設定は後から増えるもの……!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やだこのエロ主ノリノリだわ

 今回は少なめ。というか前二つが多くなり過ぎた。


 夜の一族。リリカルなのはの元となった『とらいあんぐるハート3』に出てきた設定らしい。

 らしい、というのは実は俺とらハ3をプレイしたことがないため、二次創作で出てくる設定程度しか知らないのである。

 というか吸血鬼ね。ファンタジーかよ。……良く考えたら魔法も転生者もある世界で今更だな。

 

「ねえ、何をしたのか教えてほしいな?」

 

 教えてほしいな? なんて、可愛らしい聞き方をしているが彼女の目は、ちゃんと答えないと解放しないと物語っていた。

 まあ、予定調和のうちですよ。こんなのは一つの可能性として想定していた。

俺は、これから行動するに当たって彼女たち(オリ主君ら含む)の行動を常にいくつか想定している。何を言えば何を返すかまでたっぷりと考えている。

 

 長期的な行動を成功させるのには、綿密な計画が必要である。そして綿密な計画を練るには、対象について深く知らなければならない、というのが俺の持論だ。当然と言えば当然だが。

 そして困ったことに深く知るために近づくには、これまた綿密な計画を立てないといけないのだ。失敗したらチャンスは絶望的だからね。

 だが問題として対象について穴あきの知識しかないのに計画を立てるという事をしなくてはいけないのだ。だからこそ幾通りものパターンを想定し、細心の注意を払いつつ事を進めなければならない。

 

 これが複数人での行動ならもっと安全かつ楽にやれたんだが、ソロで始めるからこそ得られる愉悦というのは何にも勝るものだから仕方ない。俺は愉悦の奴隷なのさ。

 

 ふと思ったんだが、自身の想像するビジョンが現実のものとなった時。それって、さながら未来視と変わらないものなのかもしれないね。

 レアスキル未来視ってか? 残念ながらエロ主個人に魔法は必要ありませーん。

 

「あの月村さん……? 何をしたって言われても。ちょっとお話をしただけだよ?」

「あのアリサちゃんが仲良くなってすぐの男の子になんでも相談するわけがないの!」

 

 ぴしゃりと言い放つ月村すずか。

 ここは放課後の校舎裏のため、誰かに会話を聞かれる心配はない。

 アリサの心を解放した翌々日、まあ今日なんだが。朝、ふと机の中に見慣れない封筒があったことに気が付いた。漫画ならラブレターにでも使われそうなその白い封筒の裏には、月村すずかの名前があり、放課後にここに来るよう書かれていたのだ。

 いやー、実に心躍る展開ですねぇ。

 

「いや、でも実際に……」

 

 あくまで演技は崩さない。

 これはバニングスさんがこの間のことを(詳細は話せずとも)月村さんに相談したのだろう。しかしそれにしても月村さんはやけに強気だな。何か確信でもあるのか?

 ……もしや俺を同類だと思っているとか。

 バニングスさんに対しての認識は俺も月村さんと同じだ。今までロクに話したことのない相手に相談するタイプじゃないのは付き合いの浅い俺にですら分かることだ。

 それこそ夜の一族のような催眠の類の仕業だと想像しているのではないだろうか。

 この考えだと月村さんは夜の一族だと確定することになるのだが……。まあ、しばらくはそういう体で行こうか。可能性が大きくなった。それだけの話だ。

 

 しかしそれにしても、いささか急だな。考えられる理由を挙げるとすれば、

 ただでさえグループ内での仲裁が大変なのに余計なちょっかいかけてくんな! ってところかな? まあ、月村さんはそんなこと言い方しないだろうけど。

 もしそうだとしたらオリ主君雑だよ。君のグループ穴だらけ過ぎだって。仕方ないから俺が繕ってあげよう。俺の都合の良いようにだが。

 もっとも、あくまで妄想なのでオリ主君が悪いのかは分からないけど。

 

「でも、じゃないよ!」

 

 子供特有の頑固モード。もしくは頭でっかちモードかな。

 落ち着かせてきちんと話し合いをさせることもできなくはないだろうけどそれじゃあ、つまらない。

 普段大人しい子が怒ると怖いって良く言うけどさ、あれって怒り慣れていない子も相応に焦ると思うんだよね。大概は怒られた方がすぐに謝っちゃうけどさ。

 

 こう考えると今の月村さんは焦っているのではないか。怒りながらもどこか冷静な部分で自分の行動を悔いながらも止められないのではないだろうか。

 ならば精神的年長者である俺が月村さんを導かなければ。

 よーし、じゃあそうと決まれば、お兄さんがもっとアクセルを踏んであげよう! 目指せF1レーサーだ。

 

「ぼ、僕にだって分からないよ!」

「なっ!? アリサちゃんが変なのはあなたと会ってからなんだよ!」

「そんなの理由にならないよ!」

「なります!」

「ならないよ!」

「なるんです!」

 

 うん、いい感じに頭が湯だってきたんじゃないかな。冷静にはさせないよ。

 月村さんもバニングスさんと同じで本来は聡明で思慮深い性格だ。……どうしてもバニングスさんは直情的な部分が目立つが。

 そんな彼女にきちんと状況を話し、なおかつ落ち込んだように諭せばきっと落ち着いてくれることだろう。だが反対に説明なんてせず、頭ごなしに否定を続ければ月村さんもむきになることは容易に想像できる。

 いくら聡いとはいえ、子供のケンカなんてものはそんなものだ。精神の真の成熟というのはとても時間がかかるものなのだから。

 

 なんだか最近、他人の思考を勝手に推測して誘導するのが楽しくなってきた気がするけど、気がするだけの気のせいだよね。

 というか俺って前世から友人には黒幕タイプとか言われたんだけど失礼じゃないかね。俺はどっちかというとゆるふわ日常系のギャグタイプだろうに。

 何が狂人思考だっての。俺には俺なりの倫理観があるだけなのにさ。

 

 閑話休題。

 

 おっと、いっけね。つい前世を懐かしんでたよ。

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。目の前の仕込みに専念しないとね。

 とはいえ、今日はこの程度でいいだろう。あまり続けても言い争いの平行線になるだけなのは目に見えている。今回は月村さんに敵意を持ってもらったことで終了だ。

 

「もういい! 僕は帰るから!」

「んな! に、逃げるなんて卑怯だよ!」

「ふんっ」

 

 付き合ってられないとばかりに振り返らずに月村さんから離れていく。どうやら追いかけてまで続ける気はないようだ。

 しっかし、逃げるなんて卑怯、ねぇ。ずいぶんと安い挑発だな。最後のセリフがこれな辺り、月村さん御し方は単純そうだ。帰ったらいくつか計画を練り直しておくか。

 普段から主張の少ない月村さんは、個人的に一番時間がかかるかと思ったけど案外一番最初に終わるかもね。

 

 

 個人に対する強い怒りと言うのは執着と同義である。




 しかしこのエロ主、実に外道である。この話を書いている途中で文章の大半が消えて書き直したんだけどずいぶんと内容が変わってしまった。本来ならもっとマイルドだったはずなのに。


 あと前世のエロ主君はそれほど気にしなくて大丈夫です。ぶっ飛んでるのは元からだったというだけの話。むしろ現世のエロ主君はエロスと愉悦のために生きているので心配なく。





 簡単な今後の設定をまとめている時に出てきたワード。
『すずかちゃんマジエロエロ堕天使』
 一体何の暗号なのだろうか……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ほのぼのに見えたらそれは錯覚です

 感想に指摘があったので前話の主人公の前世についていくらか削りました。不快な思いをしてしまった方は申し訳ございませんでした。とりあえずエロ主君はぶっ飛んでる。この認識だけで大丈夫です。


 ここ最近は、食事が美味しくてたまらない! どうもエロ主です。

 月村さんを敵に回してからいくらか時間が経ちました。具体的に言うと今日は、ゴールデンウィーク明けの初日だ。

 ずいぶんと飛んだけど仕方ない。今はまだ仕込みの段階なのだから。

 ゴールデンウィーク中の内容? 普通に初日に勉強を済ませてから、友達と遊んでました。やはり円滑な日常生活を送る上で人付き合いは大事だからね。肉体年齢的に外で遊んどかないと元気が有り余って困る。

 三人娘の調教計画? 日課ですが何か?

 ちなみに計画の内容は全て頭の中だ。証拠を残すようなマネはしないよ。

 

 さて、初めて性的快楽を得た高町さん。

 溜まっていた鬱憤を晴らせたバニングスさん。

 ケンカしたまま敵意を抱いている月村さん。

 

 まだまだ始まったばかりだ。俺たちの戦いはこれからだッ! みたいな。いや、終わってるがなそれ。

 

「あっ」

「やあ」

 

 現在、廊下で高町さんとばったりと遭遇中。

 いやー、こんな放課後の校舎で偶然だなー。運命感じちゃうなー。

 ちなみにここは職員室のない教室棟なので人気はまったくない。というか、なんでこんなところにいるのかと言えば、

 

「尾行なんてしなくても」

「にゃ、にゃははは……」

 

 もう! 可愛いから許しちゃう!

 高町さんは天使。これ重要だから。

 

「話があるなら机の中に手紙でも入れてくれればいいのに」

「ああっ!?」

 

 どうやら気付かなかったようである。

 もうなんというかさ。高町さんってペット……失礼。愛玩動物に似た可愛さがあるよね。

 高町さんの行動に和みながらも目的の教室を目指し、再び歩みを始める。

 高町さんも、待ってよー、と後に付いて来る。

 

「そういえば、オリ……赤君たちは?」

「えっと、今日はみんな用事があるからって」

 

 バニングスさんたちは習い事だろう。ただオリ主君と踏み台君もいないのは……魔法の練習関係かな。抜け駆けしないように、効率の良いスキルアップのために二人で、ってところか?

 ゴールデンウィーク前に徹底して関わらないようにしたおかげでずいぶんな油断のしようである。これは信頼(笑)に応えざるを得ないね。

 もう、仕方ないな。

 

「で、高町さんはまたアレをやりたいと」

「い、いや! 違うよ。アレだけじゃないもん!!」

「やっぱやりたいんじゃん。高町さんはえっちだなぁ」

「なにゃ!? え、ええ、えっちじゃないもん! どっちかというと、なのはのおっぱいを揉んだ江口君の方が」

 

 おっと、着いた。目的地に到着である。

 

「もう! 聞いてるの!」

「ああ、うん聞いてるよ。ごめんね、ちょっとからかい過ぎたみたいだね」

「むぅぅぅぅ!」

 

 どうやら本当にからかい過ぎてしまったようだ。

 なんというかあれだな。例えるならちょっかいをかけ過ぎたネコ。

 ネコというのは自分が構ってほしいときに適度に構ってほしがる動物である。やり過ぎれば嫌がって逃げてしまうのだ。

 とりあえず高町さんに逃げられると困るので、秘密兵器を出す。

 

「もう! もう! も……ゲーム?」

「せーっかい! 見事正解した高町さんには、もう一つの方をプレゼントだ!」

 

 言っておくけどあげないよ? 貸すだけだからね? この年頃の子供にとってゲーム機というのは金銀財宝並の価値があるんだから。

 さて高町さんに貸した携帯ゲーム機に入っているのは通信対戦のできるパズルゲームだ。あれね。あの上から落ちてくるスライムみたいなのを回転させながら色を揃えて消すやつ。

 うちの父さんが俺と通信対戦できるように二つ買ってきたのだ。友達と遊ぶ時に使ってもいいと言っていたので遠慮なく使わせてもらう。

 

「学校にゲーム持って来たらだ……ダメなんだよ」

「と言いながらも手に持ったゲームを突き返せない高町さんなのであった」

 

 倫理観から注意はしてもそこは子供。学校という場所でこっそりと持つゲームの魅力に抗い切れないでいる。まあ、バニングスさんや月村さんは別として高町さんは割とまだ子供らしい思考が多いからね。

 それに高町さんが僕に会いに来た理由は、えっちなことをしたいからだ。えっちなことと悪いこと。どちらも秘匿するべきことなのに躊躇う理由はないだろう。

 

「さっ、ケーブルを繋ぐよ」

 

 懐かしの有線ケーブルである! ちょっと感動したぞ。

 

「わっ! も、もうぅ……」

「バレたら僕が悪いってきちんと説明するさ。それにここは先生も滅多に来ないからね」

「う、うん……」

 

 なんだか俺に誑かされていく高町さんを見ると、将来悪い男に騙されないか心配になってくる。

 世の中は俺みたいに良い人ばかりじゃないからねぇ。

 事前に放課後に使えそうな空き教室を探しておかげでトントン拍子に事は進んで行く。使えそうな場所がなければ外に出るつもりだったから、余計な心配が無くなったというものだ。

 

 さて、お互いに準備ができたところでゲーム開始である。

 画面上部から降ってくるスライムもどきたちを所定の位置に置きながら、高町さんの方の様子を見る。

 

「よし三連鎖!」

 

 楽しんでくれているようで幸いである。よしお礼に俺の連鎖を見せようか。

 

「ふふん、江口君ってもしかしてこれ苦手なのかな? まだ全然消えてないよ」

「そうだね。やっと連鎖だ、っと」

 

 ゲームをやって気持ちが高まってきたのか得意気な顔をする高町さん。まったくドヤ顔も可愛いなぁ。

 なんて思いながら高町さんに仕掛けられたお邪魔を消しつつ、待っていた色を積む。

 一連鎖、二連鎖、三連鎖……。

 まあ、こう書いたところでつまらないだろうから、高町さんの様子で状況を察してもらいたい。

 

「うう、うん? あれまだ……えっ? えっ? ちょっともう止まって……十超えるなんて聞いてないよぉ」

 

 実にいい反応である。まあ、これでも勝てない相手というは存在するんですがね……。

 ……なんだよあいつら人間じゃねぇよ。

 

 そのままゲームは続くのだが、二度目の大連鎖が来たところで高町さんの画面が埋め尽くされた。

 

「江口君強すぎるよぉ……」

「ははは、ごめんごめん。もう一回やろうよ」

「……江口君は五連鎖までね」

「はーい」

 

 そんな感じで二回戦開始。

 

「さっきよりも早いよぉ……」

「まあ、高町さんの最高が四だしね」

 

 五連鎖の嵐で急かしたのは俺なんだが。

 なんかいじると可愛いからつい必要以上にやっちゃう俺は悪くないね。

 

「むう……じゃあ次は」

「次はハンデとして右手を使わないでやるよ」

「へ? ふーん……次こそは絶対に勝っちゃうもんね」

 

 十分に楽しんだのでそろそろ……ね?

 三回戦目が始まり、いそいそと連鎖の準備をする高町さん。

 話は変わるのだが現在の配置は俺の右隣に高町さんが座る形となっている。

 肩が触れ合うほど近くもなければ手が届かないほど離れてもいない。

 十分に俺の手が高町さんに届く距離だ。

 

 さて質問なんだが、右手がヒマな俺が右隣にいる高町さんにいたずらをすることは許されることなのでしょうか?

 答えは実演してから高町さんに判定してもらおうか。

 

 ふにっ。

 

「うひゃあ!」

「どうしたの高町さん。面白い声なんて出して」

 

 ふにふに。くりくり。

 

「どうしたの、って……んっ。江口君の……手が!」

「僕の手? ああ! なんてことだ。またついうっかりと。ごめんね、高町さん」

 

 ツー。

 

「うひゃ、ぁん……んぅ」

 

 手を引っ込める時になぞりながら戻す。実にいい反応だ。

 いい反応なんだが、反応がやけに大きいような……?

 

「なんで……やめ」

「やめてほしかったんじゃないの?」

 

 えっちなことをしたくて会いに来た人間がやめてほしいと思うわけないけど、高町さんの口から言わせるためにあえて尋ねる。

 それにしても、あの日のオリ主君たちは本当にファインプレーだった。高町さんがまたする、ということを口にしなかったせいで約束が成立していない。またする意思を示したのは俺だけだった。

 つまり高町さんから行動しないと行為は始まらないわけだ。

 そして自分から来たということは、ある程度吹っ切れているわけで。

 

「いや……じゃないから。お願い……」

「何を、かな?」

 

 今の俺の顔は中々に意地の悪い顔をしているのではないだろうか。

 さあ、高町さん言えるだろう?

 

「なのはの……おっぱい揉んで」

「ください」

「……揉んでください」

「うん、それじゃあ遠慮なく」

 

 高町さんの後ろに回り込む。今度は片手だけのいたずらではなく、きちんと揉んであげよう。せっかく高町さんが恥らいながらもお願いをしたのだ。意地悪は良くないよね。

 

 ふにふにふに。

 

 まずは優しく胸を揉んであげる。優しく優しくとても優しく。

 刺激は感じれど、ある一定から先の刺激には到達しないように。優しく揉み続ける。

 

「あぁ……あ、ああ……んん」

「どうかな?」

「あ……っん、へ?」

「気持ちいい?」

「う、うん。きもひいけれど……前とちが」

 

 くにっ、きゅう!

 

 高町さんがまだ喋っている途中だが、出っ張りに少しだけ力を込める。

 

「う、にゅぁああ!!」

「お、おお。さすがに声が大きすぎだよ」

「……っ、ふにゅう」

「あ、あれ? もう飛んじゃったの?」

 

 さすがに色々と想定外である。まだ二回目だぞ? いくら特殊能力込みでも感じ過ぎだろう。

 そんなことを考えながらふと、高町さんを放っておいた期間を思い出す。

 もしかして焦らし過ぎた? それにもしもだが。もしも、今日までの間に高町さんが自分で快楽得ようとしたとしよう。

 俺の特殊能力にて開発され始めた胸は、高町さん自身の手でもいくらか快楽を得られるだろう。だが、あくまでいくらかだ。

 高町さんがどれだけそれをしたかは分からないが、今日までの期間を考えるとかなりフラストレーションが溜まっていたのではないだろうか。

 

「そして今、一気に爆発したと」

「すぅ……」

 

 俺にしなだれかかる高町さんは、規則正しいリズムで呼吸をしている。前回とは違い体を擦り付けてこないのは完全に解放されたからだろうか。

 寝息を立てる高町さんを見ながらいたずらをするか考えるてやめる。まだ始まったばかりなのだ。やり過ぎて壊してしまうのは本意ではない。

 それに目指すのは『高町なのは』とのある意味での友情である。

 壊れて人形のようになったりでもしたらそれは『高町なのは』ではないだろう。

 

「おやすみ。もう少ししたら起こすからちゃんと起きてね?」

「うぅん、やぁ……」




 なんか最後の方、平和に終わった雰囲気だが、あいつやることはやってるからね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

入念な準備をしたことが原因の敗北

 そういうこともある。


「粗茶ですが」

「……ありがとう」

 

 なぜ俺は、自分を睨みつけてくる相手にお茶を出しているのだろうか。

 まあ、俺が彼女を家に招待したからなのだが。

 

「用件は分かるよね?」

 

 出されたお茶に手をつけず机を挟んだ対面に座る彼女、月村さん。

 なぜ彼女がここにいるかといえば、

 

 お話があるんだけど。

 僕にはないけど?

 わたしにあるんですっ!

 分かった分かった。怒鳴らないで。とりあえずまた明日にでも。

 昨日もそう言ったでしょ!

 

 そんな感じの流れから、じゃあ僕の家で話そう、といった提案がなぜか通ってしまったのだ。

 なんでだ? いくら怒って思考が回ってなかったとしても疑惑を抱いている人物の家を訪ねるほどバカではないだろう。

 もし仮に俺が今淹れてきたお茶に薬でも混ぜてたりしたらアウト……って、そういや飲んでませんでしたね。つまりそういった疑いは抱いてるわけだ。

 とりあえず父さんも母さんもまだ当分帰ってこない。さあ、ゆっくりと話し合おうか。

 

「分かるけど、言う事は変わらないよ?」

「なら、わたしも言うことは変わらないから」

「はぁ、頑固め」

 

 俺の挑発に月村さんは、頬をピクリと動かすだけで何も言わない。

 機嫌の悪さは前回と変わらない。ならこの挑発にも乗ってくるかと思ったが、思惑は外れ月村さんは何も言わない。

 

 うーむ。一体何があるのか。

 少なくとも家に見られて困るものは置いていない(置いてあったら招待の提案なんぞ間違ってもするか)ため、気持ちはいくらか楽だ。

 心配事と言えば、月村さんの存在そのものだ。得体が知れない恐ろしさとでも言うべきか。

 元々まだ使う気はなかったが特殊能力の使用はやめておこう。

 

「大体、月村さんは何を思って僕がバニングスさんに何かをしたと思ってるわけ?」

 

 とりあえず、まともに聞いてみよう。別に尋ねたらいけないなんていう縛りプレイをしているわけでもないんだし。

 というかこれで前回と主張が同じだったら笑うけどな。

 そして月村さんは妙な笑みを浮かべて話し始めた。まるで勝利を信じて疑っていないような顔で……。

 

「あなたの態度です」

「はぁ?」

 

 態度? はて、月村さんに何かしただろうか。

 

「普段のあなたはとても友好的で友達と良く遊んでるよね?」

「うん、そうだね」

 

 昼休みなんかは鬼ごっことかで友人連中と良く遊んでるな。描写したことはないけど。

 で、それが?

 

「けどこの間、アリサちゃんに話しかけた時はいつもと違ってた」

「……普段話しかけない相手には緊張するタイプなんだ」

「それにわたしとの会話ではわざと挑発するようなことも言ってくる」

「さすがの僕も頭ごなしに否定する相手に優しくはなれないよ」

 

 なるほど。切り替えのやり過ぎね。

 バニングスさん相手の時に人畜無害を演じすぎたか。できる限りオリ主君を思い出たせないようなキャラにしたのが失敗だったようだ。バニングスさん相手に考えれば成功ではあったのだが。

 

 ここまできて月村さんが俺に確信を持っていることに気付いた。それと月村さんに入れ知恵をした存在がいることにもな。

 確か月村さんには歳の離れた姉がいたはずだ。もし月村さんがお姉さんに今回のことを相談して、そのお姉さんが俺の演技に違和感を覚えたなら大体納得だ。

 少なくとも前回の接触で月村さん個人のみでは、俺の演技を見抜くことは、まず無理だと思っている。仮に見抜けてもそれはまだ先のことになるだろう。

 

 月村さんは俺が何かをしたと、少なくともまともな小学生ではないと確信している。だが特殊能力持ちで前世の記憶持ちの小学生だとはさすがに思わないだろう。

 けどこれで俺は、月村さんたちが八、九割方、夜の一族であると思ってしまったぞ? お姉さんに相談したであろうことが仇になったな。それはつまり、普通ではない存在を知っているという証だ。

 

 しかし、そうとなれば月村さんが俺の家にすんなりと付いて来た理由も分かるというものだ。月村家を使ったのかな?

 どの程度動かせるかは知らないけど、最低数人の人物を見張りにつけ、俺が何かをしようとした瞬間に抑え込めばそれで終了である。徹底するならお茶の成分でも持ち帰るか?

 

「あなたは使い分けが上手すぎるんです。こんなのは普通の小学生じゃない」

「……」

 

 月村さんから、とうとう止めの言葉が放たれた。

 さて、もし俺にセコンドがいたとしたら今のでタオルでも投げたかな? だとしたら本当にソロで良かったと心から思うよ。

 

 お互いの大まかなカードは疑惑と確信。傍目から見て俺の方が不利だろう。

 このまま俺が月村さんに危害を加える類の行動をすれば、いるであろう護衛に取り押さえられアウト。

 何もしなければ月村さんは帰り、お茶の成分でも調べるだろう。そして何も見つからず俺が普通ではないという確信だけ抱き、監視でも付けられアウト。

 

 なるほど。大ざっぱな推測だが実にエグイ。完全な包囲網を用意したつもり(・・・)で挑みに来たわけだ。けどそれ、抜け道があるんじゃないかな?

 

「……ふぅ、なるほど。僕は普通じゃないと」

「はい、アリサちゃんに何をするつも……ッ!」

 

 アリサちゃんに何をするつもりだったんですか、かな? その言葉を言い切る前に月村さんは絶句する。

 それそうだろう。今まで敵対していた相手が、つまり俺が涙を流しているのだから。

 やーい、泣かしたらいっけないんだー! せーんせいに言ってやーろー。

 

 ……なんとか涙が出て良かったな。最悪悲しそうな表情をして顔を覆えばいいかと思ったけど。

 さて、言葉が途切れた月村さんに代わって俺が喋ろうか。

 

「普通じゃないと……ダメなのかなぁ」

「えっ……そのそれは、そんなこと」

 

 普通ではないとダメ、その言葉にあからさまに反応して取り乱す月村さん。

 おいおい、こちらも疑惑が確信に変わったぞ。月村さんたちは夜の一族だ。

 これで外れたら素直にエロ主を辞任するよ。ついでに図鑑コンプしたモンスターズのカセットを渡してもいい。

 

「僕は普通でいたいだけだったのに……!」

「……うぅっ!」

 

 俺は普通でいたかったのにー(棒)

 失礼。ちょっとふざけないと精神のバランスが崩壊しそうで。

 ともかくかなりいい感じの演技だったのではないだろうか。観客が月村さん一人なのが残念なことだ。

 さてもう少し、過激にいこうか。

 

「なんで……なんで、邪魔するんだよ!!」

 

 机を叩きながら身を乗り出す迫真の演技。だが少々調子に乗りすぎたようだ。

 

「きゃっ!」

「いてっ!?」

 

 驚いた月村さん。彼女がとっさに伸ばした手が俺の鼻にモロ当たってしまったのだ。

 ちくしょう、すっげー痛い。って、鼻血が……血!?

 鼻を押さえながらも月村さんの方を見ると、

 

「あ……血、血がぁ……ぁむ」

「つ、月村さん……?」

 

 まるで熱にうなされるように、ぶつけた時に付いたであろう血を一心不乱に舐め取る月村さんの姿があった。なんというか八歳に言う言葉でないと分かってはいるのだが、妙に艶めかしい。危険なエロさとでも言うべきか。

 って、そうじゃない。何? 夜の一族って異性の血が体に接触しただけでもこうなっちゃうの? 日常生活やばくね? それとも俺の最後の特殊能力のせいなの?

 とにかくさすがのこれは想定外なので何か手立てを……!

 

「もう少しだけ……もう少しだけちょうだぁい」

「ま、待って! さすがに待って。とりあえず俺の手の分だけは舐めていいからさ」

「うん! あ……む、うんん」

 

 ペロペロ。

 

 うっ、くすぐった……指の隅々まで舐め取る月村さんに我慢しながら彼女を観察する。

 器用に舌先を使う仕草が一々エロかわい……違う!

 と、とりあえず今の月村さんはトランス状態に近い状態であることは間違いない。さっきの返事とか敵対している人間にするものじゃなかったぞ。

 あとは……目が赤い。ああ、いいな。オリ主君なんかよりもずっといい目だ。

 

「失礼します」

「うっ……うーん」

「だ、誰!?」

 

 今まで俺の指を必死に舐めていた月村さんが倒れ込んだと思ったら目の前にメイドさんがいた。

 現状を一文にするとこんな感じだろう。……意味分かんねぇよ。

 つか今、首トンしたよね? 月村さんを気絶させたのって首トンだよね? あれってマジでできるんだ。うっわ、なんかちょっと感動したんだけど。

 

「緊急事態のため勝手に上がらせていただきました。私、月村家のメイド、ノエル・K・エーアリヒカイトと申します」

「は、はぁ……」

「すずかお嬢様のことについて、お話があるので申し訳ございませんが付いて来てもらえないでしょうか。車の準備はできておりますので」

「今から……ですか?」

「はい」

 

 有無を言わせぬメイドさん……エーアリヒカイトさんの言葉につい頷いてしまう。

 そういや、この人ってロボットなんだっけ? それともこの世界では人間か?

 

「では、行きましょうか」

「あっ、待って! 親に知らせておかないと」

 

 そう言って、カレンダーに向かい、今日の日付けの横に赤い丸を付ける。

 

「準備……できました」

「メモなどでなくてよろしいのですか?」

「ああ、はい。うちでは、僕がしばらく外に出る時はカレンダーに印を付けるので」

 

 エーアリヒカイトさんは、かしこまりましたとだけ言うと俺を先導して車の所まで進んで行く。さあ、これからが正念場だ。

 

 

 

 

「……ぅ、し……う」

「うん……?」

「ほら起きなさい秀。もうすぐ晩御飯できるんだから」

 

 母さんの呼び声で目が覚め、起き上がる。どうやら居間で寝ていたようだ。

 居間で……? いや、俺は寝る時は必ず自室に行くぞ。

 それにいつ帰ってきたんだ。くぅ、頭が上手く回らん。寝ぼけてんのか?

 外を見ればもう真っ暗だ。まあ、母さんが帰ってきてる時点で最低でも七時過ぎだから当然だが。

 どこかすっきりとしない気持ちのまま水道に向かい水を一杯飲む。

 

「あんたが居間で寝るなんて珍しいわね。昨日は遅くまで起きてたんじゃないでしょうね」

「違うよ。今日は……なんとなくかな」

 

 コンロの前で鍋の様子を見ている母さんとそんな話をしながら、踵を返す。その時だ。

 

「ああ、珍しいついでで言えばカレンダーに印が付けてあったけど、赤いペンなんて使ってどうしたの。いないのかと思えば居間で寝てるし」

「……っ! たまたま近くにあったからだよ。それに用事は思ったよりも早く終わってさ」

 

 思わず吹き出しそうになるのを抑え、適当に誤魔化しながらカレンダーの前に向かう。

 今日の日付けの横には確かに赤い丸が書かれていた。つまりだ。これは、

 

「……悪いが勝ったのは俺だ」

 

 誰に言うでもなく呟くと、明日からの予定の練り直しに勤しむ俺であった。

 

 

 勝負の途中で勝利を確信するのを気取られてはいけない。勝利の確信とは、終わった時にしか存在しないものなのだから。




 では、(月村すずかが)入念な準備をしたことが原因の敗北でした。
 詳細は次話で。今日はもう寝ます。なんかすっごい時間かかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS超越者

 まるで正統派オリ主のようなサブタイである。


 朝の学校。教室のドアを潜ると俺に気付いた友人たちが近付いて来る。

 

 うっす!

 おはよ。

 なんか機嫌いいね?

 ちょっとね。ああ、そうだごめん。しばらく放課後遊べなくなっちゃった。

 

 えー、マジかよ、なんて友人たちと談笑しながら、とある空席を見る。

 どうやら月村さんはまだ来ていないようだ。

 無理もないかな。昨日の詳細は覚えていないが、彼女が夜の一族であることを知ってしまったことに間違いはないのだから。

 決して仲が良いわけではなかったがクラスメイト相手に自身最大のそれも致命的なまでの秘密を知られてしまったのだ。例え記憶を消したとしてもそのショックは計り知れないだろう。

 

 それに昨日の俺は、月村邸に行くまでは確実に上手くやったはずだ。少なくとも月村さん相手に悲劇の小学生という認識くらいは与えたことだろう。

 昨日、俺は勝ったと言った。少なくとも自宅での出来事はおおむね問題なかったはずだ。それこそ胸を張って勝利と言える程度の自信はある。

 

 だがまだ問題はある。

 月村邸での出来事はまだこれから把握しなければいけないのだ。少なくとも相手が強硬手段に出ていない以上は最悪のパターンではないだろうと思うが。

 こればかりは月村さん本人の様子から探るしかない。しかないのだが肝心の本人がなぁ……。

 

「お、おはよう……」

「え? あ、うん。おはよ」

 

 あ、本人来ました。

 教室後方廊下側の席が俺の席である。この位置で友人たちとの会話に耳を向けながら、思案していれば後ろのドアから月村さんが声をかけてきた。

 それも俺個人にだ。向こうからの接触は想定内だがこうまで早いとは思わなかった。

 それに、てっきり今日は休むかと思ったわ。無事に記憶が消えているかの確認かな。

 

「ちょっと……いいかな?」

「今なの?」

「あ、後でもいいけど」

「じゃあ放課後がいいんだけど」

「う、うん。それじゃあ」

 

 控えめに、遠慮がちにそれだけ告げると、そそくさと自分の席へと向かってしまう。

 この会話、俺が素っ気ないのは仕様である。

 昨晩、記憶を整理したところ俺が失っているのは、昨日の月村さんたちとの出来事だけだった。それ以外は覚えている。もちろん月村さんと俺がケンカしているという出来事も。

 だからケンカ中という態度は崩さない。

 

 俺の想定していたものだと、夜の一族……吸血鬼という記憶がすべて消えるもの。そもそもの月村さんに関する記憶自体を消すもの。大ざっぱにここ最近の記憶ごと消すもの。そして、正体を知ったその日の出来事のみを消すもの。の大まかに四パターンを考えていた。

 最初の一つ目と二つ目をやられた場合、前世で得た夜の一族という記憶も消える可能性も考えていた。ちなみにそれをやられていたらどうしようもないわけで。そこまでのことができる相手なら最初から無謀であったと諦めようと思っていた。

 まあ、結果的には想定したものの中で一番どうにでもなる四つ目のパターンだったわけだが。

 

 とらハ知識がない俺は、夜の一族の持つ催眠がどの程度のものなのかまったく把握できていないのが問題だった。今回のも、この程度のことしかできないのか、それとも一つ目のパターンもできる中、あえてこれにしたのか。それすらも分かっていない。

 ちなみに後者であった場合は、俺の演技が成功したであろう証なのでそうであってほしいものだ。

 そういえば自白系の催眠の可能性もあったな。

 それは行われたのだろうか? 昨日の自分の武勇伝が気になって来るねー。これも強硬手段に出られていない以上は心配することもないだろうけど。

 

 

 実に俺に都合よく進んでくれるものである。

 もちろん俺としても都合よく進めるために常に最善を尽くそうと考えてはいる。こんな幼少期から始めたのも、長期的な調教計画のため以外に理由がある。

 

 まず、幼いほど対象の心の壁を開き、距離感を詰めるのをやりやすい。これは高町さんとバニングスさんがいい例だろう。

 次に、思考が読みやすく、また思考の誘導が容易なことだ。これは三人娘三人ともに言えることだが、面白いように挑発に乗ってくれた月村さんが一番の例かな。

 そしてこれが大事。俺もまだ幼い子供だということだ。油断させやすく、騙しやすい。月村さんとのケンカも子供だから、の理由で片付けられてしまう。それに、もし普段の態度が演技であるとバレたとしても設定は用意してある。

 

 しかし俺の予定では、夜の一族関係のイベントはまだ最低でも半年は先、下手したら原作が始まってから、なんて思っていた。それが昨日来たなんて言うんだからさすがに焦ったぞ。

 暗躍していくに当たって一番の難所が夜の一族であった。まあ、催眠系はずるいって。オリ主、踏み台、エロ主の三人とも持ってないんだぞ?

 だが蓋を開けてみればカレンダーにあったのは『赤い丸』。そして何一つ変わることのない日常。笑いを抑えるのが大変だよ。

 

 

 江口家では、俺が親のいない時に出かける場合はカレンダーに印を付けておくというルールがある。これは、まだ俺が本当の意味で僕だった頃、黙って出かけないで書き置きしなさい、という親の言葉に反抗してできたルールである。

 そう、本当にある江口家ルールなのだ。もっとも普段は黒でしか付けないけど。

 赤は夜の一族対策だ。確信したら赤で印を付けておくと先月の内から決めていた。それに俺についての疑惑がどうにかなりそうなら丸、危ういならバツと、もしもに備えていた。

 

「……さあ答え合わせといこうか」

 

 どうしたのお前?

 いーや、なんでもない。

 

 さっきまでの余裕あり気な態度とは別に、もしもの可能性を再度想定し直しながら放課後を待つ。

 そして、

 

「で、何の用なの」

「そ、その謝りたくて……」

 

 はあ? と不機嫌な態度を装いながら続きを待つ。

 そわそわとしながら必死に言葉を探す月村さんを見ていると、昨日の記憶がない俺的には大変奇妙な感覚になる。月村さんに一体何があったんだー。

 

「え、江口君に八つ当たりしてごめんなさい」

「……」

「あ、あのこんなの理由にならないけど最近色々と大変で」

「イライラして僕に……?」

 

 うん……ごめんなさい、と謝る月村さん。なるほど実にいい感じだ。

 これは明らかに俺に警戒している人間の態度ではない。演技にも見えなそうだ。この時点で月村邸での接触が好感触であったと確信する。

 

「……はぁ、もういいから」

 

 謝ってさえくれればもうどうでもいい、というような雰囲気を作り月村さんを背にする。

 この後の展開次第で今の月村さんへの調教具合が分かる。さあ、どうする?

 

「ま、待って!」

「……まだあるの?」

「仲直りが、仲直りがしたいの!」

 

 来た!!

 仲直りだと? 元々仲が良くなかった相手に何を言っているんだ。

 昨日がただ、夜の一族であることを知っただけなら普通これで終わりにするはずだ。余計なちょっかいをかけ、あえてまたバレる可能性を作る必要もあるまい。

 だが月村さんはそれをしない。いや、これで終わりにしたくないのだろう。

 現在、月村さんの位置から俺の顔は見えない。今なら上手くいったと、口角を上げても気付かれないだろう。だがまだ油断しない。

 

「僕はしたくないから」

 

 月村さんの方には振り向かず、それだけ言うといつかのように黙って離れていく。

 釣り上げるのはまだだ。大丈夫。月村さんとの接触の機会はまだまだあるのだから。それも俺からという危険は冒さず彼女の方から来てくれるだろう。

 

 さてまずは月村さんがメインだ。

 余談ではあるのだが、この後、家に月村邸から『ケンカのお詫び』として焼肉セット(心なしかレバーが多かった)が届いたことを記しておく。

 

 

 

「と、ここまでが今日の出来事でございます」

「そう……あなたから見て彼はどうだった?」

「限りなく安全であるかと。少なくとも記憶が消える以前と以後で態度に不自然なところはありませんでしたので、とっさのウソではなかったと思われます」

 

 自身のメイドに報告を済まさせると後ろに控えさせ彼女、月村忍は一人頭を抱える。

 今回は完全にこちらの落ち度である。

 妹から彼のことについて聞いた時は、まさかと思った。だが詳しく聞けば彼の異常性が良く分かった。到底、妹と同い年とは思えない行動に、思わず妹に入れ知恵をしてしまった。

 その結果がこれだ。

 彼は普通の少年……いや普通の少年とは言えないだろうが、それでも、自身の異常性に悩む普通の人間であった。

 

 

 つまり、あなたはギフテッドということかしら?

 それほど大したものではないと思いますが、他の皆よりも勉強が得意なのは確かです。

 アリサちゃんに近寄った理由は?

 本当にただの恩返しです。辛そうにしていたので少しでも力になれれば、と。

 すずかとケンカした理由は……。

 あなたたちなら分かるんじゃないですか? 自分の正体を知られたくないなら遠ざけるしかない。

 

 

 あの少年との会話の一端を思い出す。

 ギフテッド……天才児。彼は自分が周りよりも学習能力、精神的成長が共に早いことを気が付いていた。試しに中学生相応の問題を出して見れば難なく解いて見せた。

 そして見た目幼い少年であるというのに、物腰柔らかく、落ち着いた好青年のような態度をしている。もっとも表情は苦痛そうではあったが。

 

 こんな才能いらなかった! 普通で良かったのに、なんで才能が僕を苦しめる。僕は普通に幸せでいたいだけなのに……!

 

 催眠による自白をするか悩みながら会話を進めていると、途中から感情的になり始めたのがとても印象に残っている。

 今まで悩みを吐き出せる相手がいなかったから爆発してしまったのだ。彼は両親にすら相談していないと、心配をかけたくないと言っていた。

 それに忍の見立てでは、今の彼の精神は中高生相当であると思っている。思春期特有の精神的不安定さが良く見られた。あまりに痛々しい少年の叫びに直視していられいほどである。

 もう催眠による自白をする気になんて到底なれなかった。これ以上悩める少年から何を聞けというのか。

 

 だがまだ問題はあった。彼は忍たちが夜の一族だと、吸血種であると知ってしまったのだ。さすがにこればかりはスルーしておくわけにはいかない。

 秘密を共有させ、すずかと生涯を連れ添う関係となるのなら問題はないが、彼は精神はともかくまだ若い。ここは記憶を消し、『何もなかった』ということにするのがお互いのためだろう。忍としては完全にこちらに非があるので心苦しいが、それはまた別の形でお詫びするとしよう。

 

 

 これから、あなたの記憶を、夜の一族の記憶を消そうと思うのだけれど。

 できるんですか?

 ええ、忘れるのは今日の出来事だけ。あなたの日常には何の問題もない。

 分かりました。お願いします。

 

 

 即決だった。部屋の隅では正気に戻った、すずかが少々苦しそうな顔をしていたのは仕方ないだろう。

 彼は忘れたいのだ。夜の一族のことを、人の生血を啜る月村家のことを。自業自得とはいえ、存在を否定されたような気分になる。

 忍が処置を施そうと早く終わらせようとすると、彼から制止の手が出された。

 何かと思っていると彼はおもろに立ち上がり、すずかの下へと歩き出した。

 

 

 あの月村さん。

 は、はい。

 これからあなたたちのこと、夜の一族のことを忘れます。

 ……うん。

 きっと明日からはケンカした時の状態に戻るのかな? だから月村さんにお願いがあるんだ。

 お願い……?

 

 

 彼は、力ないながらもすずかに対して笑顔を作る。

 まるで大丈夫だと、心配しなくて良いと言うように笑う。そして彼のお願いがすずかに放たれた。

 

 

 できれば明日からの僕と仲良くしてやってほしいんだ。

 え?

 

 

 何を言っているのか理解できなかった。

 彼は夜の一族を忘れたいのだろう? こんな異常な存在をとっとと忘れてしまいたいのだろう? そんな疑問がすずかの中を駆け巡る中、彼の言葉は続いた。

 

 

 僕はとても弱いから。こんな突然の出来事に対応できないんだ。どう接していいか分からない。

 ……。

 けど仲良くなってからなら、月村さんのことを色々と知ってからならきっと上手くやれると思うんだ。

 ……ん。

 きっと明日からの僕は面倒なやつだと思う。また嫌なことを言うかもしれない。必要以上に近付けないだろう。そんなのだから月村さんさえ良ければなんだけど、僕と友達になってほしい。

 う……ん、約束、するから。絶対に、絶対にあなたを一人にしないから!

 

 

 ありがとう、彼はそれだけ言うと忍の下へと戻る。では、お願いします、と丁寧に頭まで下げてみせた。

 敗北感で、後悔で一杯になりながらも忍は処理を行い、彼の記憶を消した。

 

 昨日の出来事を思い出し決める。

 

「ノエル。一週間だけお願い。記憶消去による異変がないかもかねて一週間だけ様子を見て。それで何もなければいいわ」

「かしこまりました」

 

 既に彼の両親、血縁者がこちらにまったく関係のない真人間だという調べはついている。

 あまりに人間不信のような行動ではあるが、これで何もなければ彼は完全に信用できる人間であることが証明されるのだ。

 すずかの将来を考えれば信頼できる異性を側にいさせてあげたいという姉心であった。

 

「あと焼肉セットだけじゃだめよね……送るにしても何か理由を考えないと」

 

 月村家の人間は気付かない。これが彼にとって最高の展開になっていることを。

 

 

 人智を超越した相手を出し抜くには、万全の準備と曲芸を続ける覚悟、そして可能性を引き込む幸運が必要である。




 とまあ、これが月村家で彼がしでかした行為です。なんか凄い期待され過ぎて、それに応えられたのか不安なんですが……。
 ご都合主義の連発のような展開ですが、好感度マイナスからの急激な反転と悲劇の設定(笑)に見た目少年ということが相まって冷静に対処される前にエロ主が出し抜いたといった感じです。
 というより同類でもない少年相手にそんな鬼畜な手段取れないと思うの。

 あっ、ちなみにこれ中高生辺りでやったら問答無用で催眠されて色々と喋らされます。見た目少年の醸し出す悲劇感が肝です。演技過多でも気にされない。


 後半の月村家では、一人称視点寄りの三人称視点に挑戦。上手く書けていたでしょうか?

 それにしても後半の展開。主人公の一人称がないといい話っぽく見えるね。不思議だね。あとこれで夜の一族関係の問題は終わりかな? シリアスやらないと明言しているので、これ以上はもういいかと。



 超越者……夜の一族の存在。チートだよぉ。
 曲芸……失敗したら破滅の綱渡り。対談中の主人公かなりドッキドキだったり。
 幸運……一番の山場で引き寄せられない者は主人公になれない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。