ストレンジレイス (ミートソースカブトムシ)
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プロローグ

身体を炎が包む。

私、フローガにとっては暖かくて心地良いのだが、他の人間は熱いと感じるらしい。

 

ストレンジレイス

 

私達能力者を、この施設の大人はそう呼ぶ。

普通の人間と異なり、何らかの異能を持った存在、それがストレンジレイスだ。

私の場合は炎を操る能力。

対象を燃やしたり、炎をボールのようにして投げつけたりなどもできる。

まぁ、そんな事ができても日常生活では特に意味は無い。

冬の寒さが楽とかその程度だろう。

 

「フローガ、暑苦しいからそれやめてくれません?」

 

私に文句を言ってきたのはアモスという少女だった。

彼女は私の監視役兼相棒だ。

能力者は精神的に追い詰められたり不安定になると自身の能力が暴走し、周囲に何かしら影響を与えながら息絶える。

記憶に新しいのは風の能力者が暴走した物だろうか

風の能力者、当時七歳の子供だったソレはその特異性から忌み子として扱われた。

唐突に発現したその力により、かつての友人からは避けられるどころか石を投げられる。

それは村の大人や両親も例外では無かった。

そんな環境に晒され続けた結果、能力者は過剰なストレスから精神的に追い詰められて暴走し、巨大な竜巻が発生した。

そこにあった村一つを地図から消し、能力者がその中心で息絶えると竜巻は終息した。

その事件は最終的に私達が所属する組織、『ソテリア』が隠蔽してなんとか事なきを得たが、完全には隠蔽しきれておらず、今でもこの事件を追ってる者も少なくない。

ちなみに、今話した風の能力者とその能力者が暴走した経緯はこの事件の数少ない五人の生き残りから得た情報だ。

 

私がアモスに監視されるのはつまりそういうことだ。

私は精神的に不安定な状態に陥りやすい。

今は薬で無理矢理安定させているが、万が一の場合を想定して『ソテリア』は私をアモスに監視させている。

 

「アモス、クッキー取って」

「…それくらい自分で取ってください」

 

そう言いながらクッキーの入った袋を手に取り、こちらに手渡してくれる。

常に監視されているとはいえ、今ではこの状態に慣れてしまったので気にならない。

 

「アモス、コーヒー取って」

「わたしは今仕事中です、自分で取ってください」

 

アモスの方を見るとアモスは少し深刻そうな顔でノートパソコンとにらめっこしていた。

 

「何見てんの?」

「先日わたし達が襲撃した能力者の犯罪者集団の資料です」

 

能力に目覚めた人がその能力を悪用する事は珍しくない。

透明になれる人間が覗きや窃盗をしたり、超人的な力を手に入れた人間が人を殺したり強盗をする。

これ以外にも既に能力者による犯罪は起きている。

世の中は都合良くできていない、蜘蛛の力を手に入れた男が自らの正体を隠してヒーローをするなんて夢のまた夢だ。

 

「こいつらは私達が全員潰したのにまだ何かあんの?」

「全員じゃありません、あの場にいたのは下っ端だけです」

「うへぇー…まだいるのか……」

 

アモスはテキパキと服を戦闘用に着替える。

 

「……もしかして今から行くの?」

「そうですよ、あなたも早く準備してください」

 

返事をする暇も与えずにアモスは部屋を出ていった。

 

「……めんどくさ」



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不思議との出会い

オリジナルを書くのは初めてです。
タグにもある通り異能バトルモノです。


俺、稲光(いなびかり) 直也(なおや)は普段よりも早く起きた。

午前六時に起きてその二十分後には外に出て地下鉄に乗ったはずだ。

俺の通う石守高校はウチから地下鉄に乗ってだいたい一時間の距離にある。

普段はすし詰め状態で揺られているが、流石にこの時間だと乗客は少なかった。

 

「……腹減った」

 

朝食を摂らなかったのは失敗だったかもしれない。

普段の朝は空腹感など感じないのに、今日に限って腹の虫がうるさい。

後でコンビニに寄って菓子パンでも買おう。

そんな事を考えていると、目的の駅に到着した。

改札を通り駅から出ると、目の前を少女が横切る。

石森高校の紺色の制服とは違い、白を基調とした制服はここら辺では見かけない物だった。

銀の髪が風に揺られている様子に、少しの間見惚れていた。

 

コンビニで餡パンを購入し、学校へと向かう。

しかし時刻はまだ七時十二分、いくらなんでも早く来すぎた。

公園のちょうど木陰に入っているベンチに座る。

時間を潰すために餡パンを齧りながらスマホをいじっていると、とあるニュースが目に入った。

 

「ビルの倒壊?」

 

昨日の夕方、ビルが突如崩れたという内容だった。

幸い被害は小さく、怪我人こそ出たものの死傷者はいなかったらしい。

地盤が緩んでたとか違法建築だとか色んな事が記事に書かれているが、どれも信憑性のある情報では無かった。

それにしても…

 

「────写真が載ってない」

 

この手の記事なら周囲の画像くらいは載せると思ったのだがそれらしき物はどこにも載ってない。

SNSや掲示板などを見ても、画像はおろかそれに関する情報を発信してる人がいなかった。

そんな状況に違和感を覚えながらスマホで時刻を確認する。

時刻は七時四十七分、もう向かって良い頃合いだろう。

隣に置いていた鞄を持ち、高校へと向かった。

 

 

 

教室でスマホを見てると、突然電流が流れたような感覚があった。

振り返ると、金髪に青い目が特徴的な少年、花蘇芳(はなずおう) 友太(ゆうた)が手から痛みを振り払うようにして立っていた。

 

「痛ってぇ〜、お前、まだ夏休み前なのに静電気ってどうなってんだよ」

「知らないよ、帯電体質か何かかもね」

 

友太は気の合う友人だ、彼の言う漫画やアニメの話は正直言うとよく分からないが、友太の話し方が上手いからなのかとても引き込まれる。

 

「そういえば知ってるか?今日このクラスに転校生が来るらしい」

「へぇ、どんな人なの?」

「知らん知らん、でも可愛い子だったらいいなぁ。アニメだったらいわゆるヒロイン枠でそこから何やかんやで主人公と恋人関係に発展していくんだよ!」

「いつにも増して元気だね」

「捗るからな」

 

捗る、というのはよく分からないが友太は楽しそうなので良しとしよう。

 

「俺も、何かアニメとか漫画みたいな刺激的な経験がしてぇなぁー!」

「例えば?」

「異世界転生」

「絶対無理なのだけは分かったよ」

 

友太とそんな談笑をしていると、ホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。

大人しく席に着くと間もなくして担任の教師、が教室のドアを開き入ってくる。

 

「はーい、立ってるやつは座れよー。…もう知ってる人がいるかもしれませんが今日このクラスに転校生が来ますー。入ってきて」

 

生徒の注目が教室のドアに集まる。

教室に入ってきたのは、特徴的な銀の髪、ここら辺では見かけない白い制服。

それは紛れも無く駅前で見た少女だった。

 

「今日から皆さんと一緒にこの学校で過ごす遠藤(えんどう) 咲雪(さゆき)さんです。皆さん仲良くしてねー」

「遠藤 咲雪です、趣味は特にありません。これからよろしくお願いします」

 

緊張しているのか言葉の雰囲気が堅く、表情も強ばっている。

 

「ほんじゃ空いてる席に座ってねー」

 

遠藤が席に座ると、いつもと同じホームルームが始まった。

 

 

 

ホームルームが終わると、遠藤の席の周りに人集りができた。

 

「ねぇねぇ、好きな食べ物は何?」

「好きなタイプは!?」

「部活興味ある!?」

 

「案の定、質問責めされてるな」

「そうだね」

 

人集りの中心にいる咲雪は最初こそ緊張している様子だったが、緊張が解けるのは早そうだった。

 

「行かないの?」

 

先程あんな話をしていたから、てっきり口説きにでも行くのかと思った。

 

「おう、容姿百点だしまさに俺が求めたアニメのような展開だ。だがな!俺にそんな度胸があると思うなよ直也。

そして俺はこんなパツキンだしチャラそうな見た目してるがな、凄い人見知りなんだぜ」

「にしては結構ハキハキ喋るよね」

「内弁慶とかそういうやつだ」

 

胸を張ってそんなことを言うが、それは胸を張っていい事じゃないと思う。

 

「直也はどうなんだ?」

「えっ、なんで?」

「この前俺がどのキャラが好きか聞いた時、銀髪のキャラを選んでたじゃないか」

「キャラクターの好みと実際の女性の好みは違うでしょ」

「えっ?」

「えっ?」

 

ここに来て、友人との認識のズレを味わってしまった。

 

 

 

授業が全て終わり、帰りの身支度を済ませて席を立つ。

教室の外に出る直前で声をかけられる。

 

「直也、新しいプライズフィギュアを取りに行くんだけど直也もどうだ?」

「ごめん今回はパス。金欠なんだ」

 

分かった。という友太の返事を聞き、高校を後にした。

地下鉄の駅に着くと、遠藤とばったり鉢合わせた。

 

「あぁ、確かあなたは…」

「同じクラスの稲光直也です。遠藤さんも地下鉄で来てるの?」

「うん、歩きだと遠いから…稲光くんも?」

「俺もそんな感じ」

 

そんな様子で会話が弾むわけもなく、二人の間に沈黙が流れる。

聞こえるのは俺達以外の足音と会話だけだ。

 

「ああぁああaaAAaaaAAaAaあああ!!!」

「「!?」」

 

ホームに叫び声が木霊する。

叫び声がした方を見ると男が何かを吐いているのが見えた。

その光景は異様だった。

吐瀉物はそれぞれが形を持っていて、ソレはまるで生きてるかのように地を這っているモノもあれば、宙に浮かび不規則に移動しているモノさえある。

 

「あれは…」

「だれかっ、助けっ…!」

 

ソレが突然光り出す。

身体が強ばる、アレに近づいてはダメだと、ここにいてはダメだと警告する。

すると次の瞬間、ソレが一つ爆発した。

ただ破裂したのではなく人を巻き込んで爆発した。

巻き込まれた人は頭を吹き飛ばされる。

駅が揺れる、周囲の人の悲鳴が現実感と言うものを無くさせる。

腹に音が響いた、身体を衝撃が駆け巡る。

それが自身の鎖になったかのように身体がダルい。

周囲の人が逃げ惑っていることは分かる。

しかしそんな努力も虚しく、足元を蠢くソレが爆発し倒れ込みトドメを刺される。

散らばった人だったモノを見て、脳はやっと逃げることを俺に命令した。

 

「遠藤さん、逃げよう!」

 

遠藤の手を掴み反対の方に走り出す。

早く出口に行き、脱出しないと自分の身が危ない事は考えなくとも分かる。

しかし…

 

「稲光くん!!」

 

遠藤に止められる。

一体何があったのかと目線で抗議するが、遠藤の指差す方を見ると、一際大きいソレが浮かんでいる。

宙を浮かんでいたソレは先回りしていたかの様にそこに漂っていた。

よく見ると、ソレは黒い虫のような見た目をしている。

その虫は獲物をやっと見つけたとでも主張するように光り始めた。

まずい。

このままでは二人とも死ぬ。

先程爆発を受けた肉が撒き散らった光景を思い出す。

 

「いや…いやだ…」

 

声をあげたのは遠藤の方だった。

遠藤が膝を着き、両手で自分を抱きしめる。

ふと、辺りの気温が急激に低下するのを感じた。

 

「いや!!!」

 

遠藤がそう叫ぶと、辺りが凍った。

床はアイスリンクのように、天井には氷柱ができ、ホームを照らす照明の一部はダメになった。

氷の世界が一瞬にして出来上がった。

先程まで飛んでいた虫が地に落ちる。

それどころか地面を蠢いていた虫達が、宙を飛んでいた虫達が凍っている。

 

「でも…」

 

虫を吐いていた男の方を見ると、虫に覆われて揺らりと立ち上がり、フラフラと歩きながらこちらに向かってくる。

その様は小学生の時、テレビで見た蜂球を思い出させた。

 

「今のうちに…」

 

今のうちに逃げようとすると、遠藤が声をあげた。

 

「ま、待って!こ、腰が抜けて動けない…」

「嘘でしょ…」

 

見捨てて逃げる事もできるが、生憎そんな胸糞悪い事をして平気な図太さは持っていない。

 

戦うか。

否、爆弾にわざわざ刺激を与えるとどうなるか分かった物じゃない。

 

だとすると…

 

「嫌かもしれないけど我慢してね」

 

遠藤を抱えて逃げようとすると、突然横から命令される。

 

「そのまま伏せてて」

 

声がした方を見ると、女が銃を構えていた。

女が数発銃を撃つ、銃口から放たれたのはどうやら光る銃弾らしい。

そんなSFチックな銃弾は虫に覆われた男を貫いた。

しかし、穴の空いた部分はすぐに修復される。

 

「肉体まで虫になるか」

 

女はそう言うと駆け出した。

右手に短い棒のようなものを持つと、棒から光が出てくる。

それは映画で見たビームソードのような雰囲気のソレだった。

ソレが振り下ろされると、男の右腕が切り落とされる。

切り落とされたソレは女が手をかざすといきなり燃え出した。

女はそれを見てから、次は男に向かって手をかざす。

 

「あああああああああああああ!!!!!」

 

男の絶叫が響く。

火だるまとなった男は駅の柱にぶつかったり、身体を叩いて火を消そうと試みてるらしい。

 

「誰かぁ!だれか水をぉ!」

 

そんな絶叫を無視された男は膝をつく。

すぐに炭になったそれを、表情をピクリとも変えずに見ている女に、俺は恐怖を覚えた。




Twitterやってます。
更新したらその度にTwitterで告知してます。
https://twitter.com/m_kabutomusi?s=21&t=TN1vup0sW5DiPLSnM5DObg

評価、感想、誤字脱字報告はめちゃ募集してます。


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目覚め

ミートソースカブトムシです。
不定期更新かつ更新は多くない方ですが頑張ってます。
決してゲームに現を抜かしてませんよ。
ほんとですよ()


「この場所を凍らせたのはどっち?」

 

女は表情を変えずに問う。

嫌な汗が頬を伝う。

駅は凍っているのに、あの女の周りだけは氷が溶けている。

それは遠藤さんの氷があの女の炎との格付けが完了したことの証明だった。

 

「まあいっか、この規模で能力を使えるんならどうせ素人じゃないし」

 

炎が漂い、氷は溶け、水は蒸発する。

女が腕を前に向けると、炎の激流が放たれた。

避けられない、身体が反応しても遅すぎる。

燃え盛る悪魔の口が迫り来る。

 

「はっ!!」

 

しかし、ソレが俺を喰らう事は無かった。

氷が俺と遠藤さんを守るかのように形成されて炎を防ぐ壁となった。

 

「稲光くん、今のうちに逃げよう!」

 

ダメだ。

 

「逃がすわけ無いでしょ」

 

氷の壁がビームソードで切り伏せられ、炎を身体に纏わせながら女が迫る。

 

「くっ!!」

 

遠藤さんは氷を礫のようにして放つが、女に当たるどころかあらぬ方向に氷は飛んでいき、命中する軌道に乗った氷は纏っている炎や漂っている炎で霧散していく。

閉じ込めても、氷柱を刺そうとしても、尽くを炎が溶かし尽くす。

相性が悪すぎる。

経験が違いすぎる。

 

「能力は凄いのに扱いは素人…不思議な人だねアンタ」

 

余裕そうな様子の女に対して、遠藤さんは辛そうだ。

俺は呆然とそれを見るのをやめた。

ここから生き残るためにはどうすればいいかを思考する。

 

俺も戦う。

否、こんなアニメみたいな戦いに俺はついて行けない。

 

もう一度壁を作ってもらって逃げる。

否、あの女に氷の壁はあって無いような物。

 

否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否、否

 

生き残る方法を思案していく内に、電流でも流されているような感覚に襲われた。

その瞬間、自分が何をできるのか漠然と理解する。

俺は彼女たちと同類だ。

 

理性は勘違いしている。勝ち目がないと。

本能は分かっている。状況を打破する術を。

身体は持っている。戦うための能力を。

 

女に接近して殴るイメージ、身体をそのイメージとリンクさせる。

女を的に例えると、俺は銃弾だ。

足に力を込めると、床がヒビ割れた。

俺の能力は恐らく身体能力を強化する物だろう。

彼女達の氷や炎に比べたら地味だが、だからこそシンプルで使いやすい。

 

「……っ!!」

 

駆け出した。

人では到底出せない雷の如き速さで女に接近すると、何が起きたか認識できていない様子の表情が見て取れた。

漂っていた炎に身体の表面を焼かれる。

この女の周囲は思った通り灼熱地獄だった。

 

「そこっ!」

 

そんな熱さを無視して腹に渾身の強化パンチを右手でお見舞する。

何かを抉り、何かが砕け、何かが折れる。

こいつの身体にダメージが入ったことを確信する。

衝撃で勢い良く吹っ飛んだ女は駅の柱に衝突した。

 

「カハッ!?」

 

女の口から吐かれた血が床を汚す。

血で汚れた口周りを拭いながら女はこちらを見る。

 

「ははっ、そっちも持ってたか……」

 

手がヒリヒリと痛い、どうやら火傷を負ったらしい。

先程までは普通に握れた拳は火傷のせいか指を少しでも動かそうとすると激痛が走る。

だが…

 

「まだもう一本ある、向かってくるのなら容赦しない」

 

左手はまだ使える。

もし左手を使って倒せなくてもまだ足がある。

チャンスはあと二回、その二回の内に倒せなければ俺の負けだ。

 

「はは、容赦無いね……来て、アモス!」

 

女がそう叫ぶと、駅が揺れた。

天井が崩れ光が差し込む。

光と共に流れてきた砂の中心、そこに立っている三メートル程の砂人形こそが女がアモスと呼んだ者だろう。

 

「手酷くやられましたね、フローガ」

「いやー、何もして来なかったから無能力者かと思っちゃって」

「油断するなといつも言っているはずですが」

 

フローガと呼ばれた女は砂人形に抱えられる。

それに安心したのか、まるで親に抱えられた子供のように意識を手放したようだ。

 

「……そこの二人」

「っ!」

「そう身構えないでください、あなた達を今ここでどうこうするつもりはわたしにはありません」

 

そんな言葉を信用できるわけもなく、いつでも能力を使って殴れるように警戒する。

砂人形はそんな事を気にする素振りも見せなかった。

 

「この子の無礼を謝罪します。申し訳ありませんでした」

 

そう言い残してこの場を去ろうとする砂人形を遠藤さんが呼び止めた。

 

「待って!」

「…他に何かありましたか?」

「聞かせてください、能力って何なんですか?あなた達は何なんですか?なんでその人は私達を殺そうとしたんですか!?」

 

質問を畳み掛け、いつの間にか俺の前に立ち、庇うようにしている。

 

「稲光くんは怪我もしてるんです。そのくらい答えてください」

 

遠藤さんの足が震えている。

そんな様子に溜息をつきながら砂人形は説明をし始めた。

 

「……あなた達は能力者、わたし達はストレンジレイスと呼んでいます。発生原因は極度のストレスや能力者の両親を持つ事、稀に無能力者が親でも発生する事があります。

あなた達の場合は先程の虫の能力者との遭遇が原因でしょう」

 

虫の能力者。

先程焼き殺された男だろう。

凍っている肉塊、人だった物を見て惨劇を思い出す。

ぞわりと冷や汗が頬をつたい、恐怖が蘇る。

それを気にしないように、ただ必死に恐怖を飲み込んだ。

 

「そしてわたし達もその能力者です。とある組織に所属して能力者による犯罪を世間に漏らさないため能力者の抹殺、保護等の活動をしています」

 

いよいよアニメの様な展開になった事に苦笑いしつつも、視界は目の前で起きた現実を無慈悲に叩きつけてくる。

 

「そしてこの子があなた達に危害を加えた理由ですが、その理由はあなたですよ」

 

砂人形は遠藤さんを指さす。

 

「能力者は目覚めた当初はそこまで強い力を持っていません、私も最初はここまで大量の砂を操作できませんでした。彼女の炎だって以前はここまで強い物ではありませんでしたしね」

 

しかし、と砂人形は続ける。

 

「あなたはこの駅を丸々凍らせている。能力に目覚めたばかりとはとても思えない規模で能力を行使している事から虫の能力者の仲間だと思い、一緒に抹殺しようとしたのでしょうね」

「じゃあ、なんで稲光くんにも攻撃したんですか?」

「さあ?知りません」

 

面倒くさくなってきたのか対応が適当になってきた。

 

「さあ?って…」

 

温度が急激に下がったのを感じる。

遠藤さんの足元から氷が広がっていく。

遠藤さんの表情は怒りに染まっていた。

それに呼応するかのように氷が生成される。

 

「やめた方がいいですよ。あなたではわたしに勝てない」

「やってみる?」

 

手に氷の爪を作り構えるその様子を見て咄嗟に身体が動いた。

 

「遠藤さん落ち着いて!」

 

これ以上二人を一緒にしておくのは危険だと判断して睨み合う二人の間に割って入る。

 

「稲光くん退い…」

「退かない。えーっと…アモスさん、呼び止めてすまなかった。もう行ってもらって大丈夫」

 

それを聞き取ると、砂人形は何も言わずに去っていく。

凍った駅の中に残ったのは俺と、凄く不服そうな遠藤さんだけだ。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

「良かったの?殺さなくて」

 

砂人形に抱えられている私はそんな疑問をアモスに投げかける。

 

「わたしはあなたのように短絡的ではありません。仮に殺すとしても、わたし達を奴らの根元に運んでもらってから殺します」

「えぇ…でもそれだとあちらさんある程度成長しちゃうよ?」

「今より強くなっても問題ありませんよ。わたし達のコンビで誰かを倒せなかった事ありました?」

 

確かにアモスと私が一緒に戦って倒せなかった敵はいない。

今回私を一撃でダウンさせたあの男も例外では無いだろう。

 

「……やっぱりあの男、まだ何か持ってる気がするんだよなぁ」

 

腹を殴られた時、ただの鈍い痛みだけじゃなくて、針を何本も刺されたような痛みが体を迸るような感覚に陥った。

腹を見ても変な傷は無かったから私の気のせいだという結論でもいいだろう。

しかし、もしあの男の能力がただ身体能力を強化してるモノでは無かった場合、私達はその認識の齟齬から負けてしまうかもしれない。

一度そう考えると、様々な可能性が頭に浮かび不安になってくる。

そんな思考を振り払おうとしても、ソレはしつこく纒わり付く。

────今日は少しだけ薬を増やした方がいいかもしれない。

私は砂人形の腕の中で、再び眠りについた。

 

♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

 

俺と遠藤さんは駅から少し離れたところにある喫茶店に来ていた。

 

「………」

「………」

 

既に一言も会話が無いまま五分は経っている。

能力についてこれからどうするのかを話し合ったり等を考えていたのだが、このままだとただカフェオレを飲みに来ただけになってしまう。

 

「あの」

 

沈黙を破ったのは遠藤さんだった。

駅で見せた不服そうな顔は既に消え失せている。

 

「さっきはありがとう。助けてくれて」

 

そう言われた瞬間、照れくさくなって目を逸らす。

 

「どういたしまして、別に大したことはしてないよ」

「ううん、私を置いて逃げる事も出来たのにこんな怪我をして……あれ?」

 

遠藤さんが俺の右手に視線をやると、そこにある物を信じられないとでも言いたげな様子で右手に触れる。

 

「さっきの火傷は…」

「もう治ったよ。多分これも俺の能力だと思う」

 

自身の身体能力の飛躍的な向上、超人的な再生能力。

自分の能力がどういう物なのかよく分からなくなったが、今のところは何の問題も無く使えているので良しとしよう。

遠藤さんは良かったという安堵の表情を浮かべるが、少しすると一変して暗い表情に顔を染めた。

 

「……稲光くんはさ、自分の能力についてどう思ってる?」

 

能力について。

自身の能力をよく認識できていない俺は言葉に詰まる。

 

「───────」

「私、怖いんだ。もし能力(コレ)が家族や友達に知られたらどんな顔をされるんだろう。能力に身を任せて誰かを傷付けちゃうんじゃないかって」

 

確かに、能力を人に打ち明ければ、その人との今後の関係性が変わってしまう可能性は十分ある。

普段非日常に憧れる友太でさえ、能力を目の当たりにしたら気持ち悪いと言い拒絶するかもしれない。

「凄い」「かっこいい」と言って受け入れてくれる程人間は強くない。

俺が能力を持たない人の立場なら、快く受け入れる自信は皆無に等しい。

現に俺は炎の能力者、虫の能力者を見た時恐怖を覚えた。

 

「砂の人形に対して怒った時、能力をちゃんとコントロールできなかった。こんな奴消しちゃえって一回思ったら、それが頭の中でいっぱいになって…あんな……」

 

今の遠藤さんからは考えられない好戦的な様子だったのはそういう事だったのだろう。

能力という物は精神面にも影響を与えるのかもしれない。

 

「ごめんなさい。こんな事話してもどうにもできないのは分かってるんだ。でも聞いてくれてありがとう、少しだけ楽になった気がする」

「────俺は」

 

能力についてどう思っているか。

その結論は思っていたよりも早く出た。

 

「俺はこの能力を使えるようになって良かったって思ってる。この能力が無かったら二人ともあそこで死んでただろうしね。

遠藤さんが心配してるみたいに能力を暴発させてしまったらどうしようとか、考えてないわけじゃないけど、それは今心配しても仕方ないよ」

 

それに

 

「もし君が力に呑まれるなんて事があったら俺が止める。約束だ」

 

そう言うと、遠藤さんは憑き物が落ちたかのように雰囲気が軽くなった。

 

「そっか…じゃあ、私も貴方が力に呑まれそうになったら全力で止めるね」

 

遠藤さんが小指を立ててこちらに向ける。

 

「……?」

「指切りだよ」

 

そう言われ、こちらも同じ手を出し、小指を絡める。

 

「「ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます。指切った!」」

 

他の客からは微笑ましいと伝わってくる視線が向けられて恥ずかしい。

しかしそれ以上に、彼女の指が冷たかったことに気を取られた。




誤字、脱字報告、感想などお待ちしております。

苗字読みだとなんか違和感凄いので早く咲雪って呼ばせたいですはい。

https://twitter.com/m_kabutomusi?s=21&t=A8_mW4ZmLHDBQTSS49usTQ

あまり呟きませんがTwitterもやっております。


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