偶に愛が重くなるまぞくと、愛されてる男のまちカド物語 (名無しのモンスター)
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プロローグ 原作開始前にやらかしました。優子、すまん……
主人公をヤンデレにしてしまったので、それなりの覚悟をすることに決めました。


シャミ子の誕生日じゃん今日!! そろそろ投稿せねば!! ってことで初投稿です。
今日から自覚系無害型ヤンデレな感じのシャミ子と転生オリ主中心の、ちょい重め(?)のラブコメ二次小説、はーじまーるよー。

ん? 百合要素? なにそれおいしいの?


 

 突然だが、皆さんはヤンデレという言葉を知っているだろうか。精神が不安定になるほど好きな人や恋人への愛情が強い人を指す造語である。好きな人に依存したり、その人を独占したり、ストーカーの様にその人の事を知り尽くそうとしたり、他者をお邪魔虫の如く排除しようとしたりと……様々なタイプや表現がある。

 

 これは個人的意見なのだが、そういった者と関わることになるのは、ハーレム系やアダルト系の二次創作の主人公ぐらいだろう。様々な女性キャラと関わっていくことになるのだから、1人でもヤンデレキャラがいないという設定はいくらご都合主義でもあり得ないはずだ。そしてその者と関わったら最後。選択を一歩でも間違えれば、確実に誰かが物理的にだろうと精神的にだろうと傷つき、最悪死人も……

 

 いや、こんな事を説明するのは止そう。これ以上説明しても皆に大きな恐怖心を植え付けるだけだ。まぁ、ここまで話した時点で植え付けてるだろうけど。要するに、皆も自分の事を好きになってくれてる人がいたら、その人が道を踏み外さない様に適度な対応で相手の精神を安定させながら付き合うようにってわけだ。難しいだろうけど、頑張れ。

 

 

 

 ん? 何故急にヤンデレの話をしてくるのか、だって? いやただ、ふと思いついた注意喚起を言ってみただけだ。気にしないでもらいたい……おい、なんだその『ふと思いつくわけねーだろ。どうせお前何かやらかしたんだろ。誤魔化しが効かねーぞ』みたいな事言ってる様な眼差しは。違う、別にそんなんじゃ……

 

 ………………

 

 ………………

 

 ……わかったよ、白状する。実は、俺の幼馴染みの女の子がヤンデレ化した可能性が浮上してしまったんだ。ヤンデレになる前の彼女は、只々誰に対しても素直で真面目で優しい子なだけなんだ。まぁ今でもそうなんだが。そこにヤンデレ成分が投下されたからなのか、皆が思ってるのより酷くはなってない……と思う。

 

 そして、そんな彼女をヤンデレみたいにさせてしまった要因は既に知っている。彼女をそうさせてしまったのは……この俺なんだ。

 

 本当はこんな事をするつもりは一切なかったのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうしてこうなってしまったんだ……

 

 優子……俺はどこでお前を狂わしてしまったんだ……? そして、()()()()()()()()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 俺は、どうしたら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は変わるが、実は俺は()()()()()()()()()()()()()。俺は()()()()()()()()()()()()()……ノベル小説で言う、所謂異世界転生者ってヤツだ。数年前までは普通の会社員だったのに、いつの間にか小学生に逆戻りしたんだ。もちろん姿も声も、名前だって別人のものになっていた。

 

 俺が転生したってことに気づいたのは、仕事帰りに水溜まりでタイヤがスリップしたトラックにぶつかって数時間してからだ。事故に遭ったのだから、目が覚めれば病院のベッドに寝てたらしい。ここまでは冷静でいられた。けど起き上がると座高が低く感じ、ふと見た手足もいつもより細く短く感じた。しかも、両親だって別人だった。まぁあの二人に泣きながら抱きつかれた時の温かさは、俺の本当の両親と似てたけどな……

 

 

『すいません。今記憶が曖昧なので、俺の名前とか色々教えてくれませんか? 後、手鏡もあれば貸していただけると……』

 

 

 離してもらった後、俺は両親にそう言った。とりあえずまずは今の自分について把握しておきたかったからね。その時両親は『記憶喪失か⁉︎』とめっちゃ焦ってたな……。まぁ今思えば実質そうなんだけど。だって俺は、()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 両親から聞いた今の俺の名前は平地(ひらち) 白哉(びゃくや)。小学生。顔は金色の瞳をした吊り目のイケメンフェイス。やったぜ。髪は濃い紫色のメッシュ付きで、ハーフアップした肩まである長い銀髪を結っていたそう。性格は明るくもなければ暗くもない、普通の男の子だったらしい。普通の小学生って、妖○ウォッ○の○野○ータかよ。

 

 ちなみになんで病院送りになったのかと言うと、学校帰りに自動車に撥ねられただそうだ。全くの別人すぎてめっちゃ焦ったけど、トラックによる事故で若返りとかするわけないよな、と思い冷静になれたんだ。いやどんな結論に至って落ち着けたんだよ俺。思い返せばあの時の俺すごかったな。

 

 とりあえず整理するとこんな感じかな。

・俺は仕事から家に帰ろうとした。

・雨だったからタイヤがスリップしたトラックに轢かれた。

・そして一回死んだ。

・気がつけば別人になってた。

・おまけで若返った。

・しかもイケメン。

・転生ノベル小説で大抵ある転生前に神様に出会うイベントもなし。

・ましてや転生特典などというものをもらったのかすら分からない。

 とまぁ、こんな感じに理解したな。

 

 そして最後に、俺は両親や偶々来た看護師に聞いてみたんだ。『今俺はなんて名前の病院にいるのか』って。もしかすると俺の知っている二次創作──漫画・アニメやゲーム──の世界にいるのではないかという可能性を信じたくて、そう質問したんだ。もしも知らない世界に転生したとなれば、後の未来とかが分からず二度目の人生も最悪な結末で終わりそうで、嫌だったから。そして聞かされた病院の名前は……

 

 せいいき記念病院。『まちカドまぞく』の世界にある病院だった。そして俺の知ってる世界だった。内心めっちゃ喜んだわ。

 

 

 

 

 

 

 さて、また話は変わるが、ここで『まちカドまぞく』って何? と思っている人達もいそうだから、その世界の物語をなるべく簡潔に教えようと思う。

 

 『まちカドまぞく』とは、まんがタイムきららキャラットで連載中の伊藤いづもによる4コマ漫画作品。主人公は十五歳のある朝、突然まぞくとして覚醒した吉田優子。一族の呪いを解除すべく奮闘する彼女に狙われつつもなんやかんやで彼女を放っておけない魔法少女・千代田桃を中心に繰り広げられる逆転マジカルヒロイン4コマ。一見するとほのぼの日常系に見えるが、実は至る所に伏線が仕込まれているストーリー物であり、その緻密な構成から高い評価を得ている……

 

 はい、今『Wiki参照にしとる?』と思った奴は表に出ろ。小学生だからって舐めんなよ……あっ、今高校生だったわ。

 

 俺がこの漫画を知ったのは、古本屋で漫画一巻に偶々目が入ったからだ。気になったので試しにその一巻を読んでみた時は最初はほのぼのしてんなーとは思ったけど、本の後ろの話になっていくに連れて……

 

 

『アレ? ほのぼの漫画でなんか深い闇を抱えてる奴がいるんだけど?』

『主要キャラ達の心境の変化が、人のあるべき成長というものを感じさせとる……アレ? これってそんなに深く考えさせる漫画だっけ?』

『あ、いつの間にかコメディに戻っとる』

 

 

 って感じにどハマりしていったなー。それで五巻まで買って結構読んでたよ。特に宿敵の桃に振り回されながらもめげずに頑張ろうとするシャミ子こと優子が好きだった。なんか結構応援してた。

 

 まぁ、後に実際に彼女と関わって、彼女の性格を変えてしまうことになるとは思わなかったけどな……

 

 

 

 

 

 

 話を戻そう。身体の怪我が治るまではしばらく松葉杖で登校し、病院に泊まり込んでリハビリする事になった俺。そんなある日、俺はふとあの子の病室に行ってみたんだ。いきなり知らない人が来たと怪しまれるだろうとは分かってはいるし、関わると本来その子が辿るべき運命を捻じ曲げてしまうのではないかと危険視してたのに、だ。

 

 それでも俺は行ってみたんだ……この世界の物語の主人公・シャミ子こと吉田優子のいる病室に。

 

 Q.なんで危険かもしれないと分かってるのに行こうと思ったの?

 A.せっかく主人公が入院している病院でしばらく過ごす事になったんだし、まだ主人公入院している時期のはずだから、顔ぐらいは見ようかなと。

 

 Q.行って何する気だったの?

 A.只々何気ない話をしようと思っただけだ。最近の病院での生活はどうなんだとか、今日は退院の為に何を頑張ったのかとかを話し合いたかった。学校は違うかもだけど、同じ入院者同士仲良くしたかったし。

 

 Q.本当は主人公の恋人になりたかっただけじゃn

 A.俺に原作崩壊させろと?(怒)

 

 Q.シャミ……あっ、この時期はまだ優子だった。彼女の知人とかには見つかっちゃったの?

 A.見つかってしまいました。チラ見し始めたら彼女の母の清子さんが病室にいて、すぐに目が合っちゃったんす。

 

 Q.見つかった後はどうなったの?

 A.『気になって覗いちゃいました。すみませんでした』と言って去ろうとしたけど、どうやら白哉(おれ)は優子と同じ小学校に通ってたらしくて、しかも少しだけだけど何気ない事で話してたらしいため、清子さんから来てもいいという許可を取れました。白哉(おれ)が優子の知り合いで助かったー……

 

 何はともあれ、白哉(おれ)の設定のおかげで何の不安もなく堂々と優子の様子を伺えるようになった俺は、宿泊ならぬ院泊が終わるまで毎日来る様になった。

 

 そして三日後には優子も目を覚まし、彼女とおしゃべりする機会も出来た。どうやら彼女は白哉(おれ)の事を覚えていたらしく、いざ話しかけてみたら『いつもより明るくなってますね』って言われた。白哉(かれ)の喋り方なんて知らないからそりゃあ違和感を感じるだろうよ……。けど優子は笑ってくれてたのでホッとした。そしてしばらく何気ない話をして自分の部屋に戻ろうとした時、彼女にこう言われたんだ。

 

 

『また……私の部屋に来てくれますか?』

 

 

 学校でちょっとだけおしゃべりしただけなのに、そんな白哉(おれ)に対してちょっと恥ずかしそうにそうお願いしてきたので、その時は正直驚いたな。ゲームでいうメインキャラのイベントみたいなヤツを俺がやっていいのかと迷ってはいたけど、よくよく考えてみれば、変なことさえしなければ原作が崩壊することはないじゃないか? と思ったので、了承することにしたよ。

 

 それからはほぼ毎日の様に、優子のところに来ては何気ない会話で親睦を深めていった。俺なんかが関わってもラブコメみたいなことは起きないと思ってたから、問題ないと思って結構話していたな。俺が退院しても病院に立ち寄ったし、優子が退院してもこっちから彼女の家に行って話し合ったりゲームしたりしたし、それを中学生になってもやってたし……

 

 ……アレ? 優子がヤンデレみたいなのに変わってしまった原因、これじゃね? やっぱ俺、やらかしてたわ……

 

 けどまぁ、その時の俺はそんな優子の変化には気付かず只々仲良くしていったわけだ。ほぼ毎日友達同士の会話(フレンズトーク)しただけだから、ラブコメみたいなのは起きず物語にも影響を与えずにしばらく原作が開始するのを待つだけだと思ってたから。

 

 

 

 けど、その考えは甘かった。優子がヤンデレになりかけてるのを知ったのは、お互い中学3年になったある日、彼女に告白されてからだ。

 

 迂闊だった。本来主要人物とかかわるはずのない人間が介入しても、それほどヤバいアクションとか犯さなければ物語に酷い影響は出ないだろうという、甘い考えを持ってしまった。その結果として、主要人物の一人の性格を変え、苦しませてしまったのだから。本人は自分がおかしくなってしまったことに気付いてはいるし、それを自覚して何とか抑えるとか言っていたが、その事実がさらに本人を苦しませている。

 

 優子を本来あるべき人物像から引き離し、苦しませてしまっているのは、全部俺の甘い考察や思い上がりのせいだ。だからといって距離を置こうものならば、彼女はさらに壊れてしまい、俺や周りまでも巻き込み、傷つかせ、壊してしまうだろう。そんなのは絶対嫌だ。俺はそんな酷い目には遭いたくないし、何より本人がそれを望んでいない。

 

 だから俺は決心した。ヤンデレになりかけている優子を止め、救うために、彼女からの愛をなるべく受け止めよう、そしてなるべく勘違いされないようにしよう、と。アプローチしてくるのならば、何かしらは反応してあげよう。他の女の子と関わっていたところを見られたのならば、余程なことではない限りは何をしていたのか正直に全部話そう。その関わった子の香水とかの匂いがついていたら、その子には悪いが、優子が勘違いして暴走しないようシャワーとか浴びてその匂いを落とそう。

 

 これらは逃げ道でもあるが、優子と向かい合うための近道でもあるはずだ。とにかく彼女からの愛情を無下にしないようにする、それが今俺のすべき手段なんだ。やっていく内に辛いと感じるだろう。けどこれ以上原作崩壊する地雷を踏まないためにも、やるしかない。大丈夫、無茶しないようにするさ。

 

 こんな俺のことを好きになってくれた子に、大切な何かを失ってほしくないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時の出会いは運命だったのか。それとも必然だったのか。それは今となっても分からなかった。けど彼と再会したおかげで、私はあの時の苦しみを乗り越えてきたのだと思う。というか、私は生まれつき体が弱かったので、小さい頃は院内生活を送っていたはずのに、何故かその時の辛さを全部忘れるようになったのですが……

 

 白いネコさんの夢を見た後に目が覚めた翌日、私は病室を訪れた松葉杖の彼……同級生の白哉さんと再会しました。彼とは皆と一緒に好きなものについて話し合っていたぐらいでしかおしゃべりした覚えはなかったのですが、濃い紫色のメッシュと同い年ながらも大人びた雰囲気で皆から注目を浴びていたので、再会した時は思い出せてよかったと思っています。そういえば初めて会った時も彼のことを『さん』付けしてましたっけ。

 

 どうやら彼は交通事故でしばらく病院に泊まり込んでいたそうです。『なんで俺が車に轢かれなきゃならなかったんだ』とか愚痴をこぼしてた時は思わず笑っちゃいました。よく自動車さんに轢かれて生きてましたね(笑)。今思えば笑い事ではなかったですけど……

 

 泊まり込んでしばらくした時に、彼はふと私もこの病院にいる事を知って、心配で毎日様子を見に来てくれたそうです。それがきっかけでお母さんや良とも仲良くなって……。よく思えば、おしゃべりして間もなかった私を心配してくれたのは、今となれば結構嬉しかったですね。彼と再会して、私も変わっていったのですから。

 

 あっ、変わったといえば白哉さんの性格ですかね。いつもは楽しいのか楽しくないのか分からない雰囲気を出していたのですから、いざまたお話ししたとなると私達みたいな子供らしい明るさを見せてきたので、思わずポカンとしちゃいましたよ。それでつい笑っちゃって、彼を恥ずかしがらせちゃいましたけど。

 

 しばらくして、彼は『看護師さん達を困らせたらまずい』と言って自分の部屋に戻ろうとしました。けど、私はもっとお話しがしたかった。もっと白哉さんの事が知りたくなった。だから、つい言っちゃいました。

 

 

『また……私の部屋に来てくれますか?』

 

 

 今となっても恥ずかしかったですね。初めてお話した時間も再会した時間も短いのに、そんな彼に対して泣いてしまいそうな声で上目遣いでお願い事してるようなこと言っちゃったので、あの時の私はきっと顔を真っ赤にしてたと……いや今になっても恥ずかしいわ!! 何やってんだ私!! けど、そんな私に対して白哉さんはこう言ってくれました。

 

 

『俺でよかったら、いつでも相手するよ』

 

 

 この時、私の心臓は結構バクバクしてました。優しさのある声とさわやかな笑顔が結構胸に響いて……

 

 

 

 

 その時からだったのかな。私が……初恋の味を知ったのは。

 

 

 

 

 それからも彼は、私が連絡とかすれば毎日のように私のところに来てくれるようになりました。彼が退院してからも学校帰りに来てくれて、私が退院した後もおうちに来てくれて、中学生・高校生になってからも……あっ、さすがにGWや正月とかの連休には呼んでませんよ? 白哉さんには家族との旅行を楽しんでもらいたかったし……。私の家族は貧乏でしたからちょっと羨ましかったですけど、白哉さんからその日の事をお話してくれた時は結構楽しめましたよ?

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………

 

 ……けど。日が流れていく内に、私の心は複雑なものになっていっている、そんな気がしてきました。白哉さんが他の女の子と話していたり、ラブレターやプレゼントを渡されたり(ラブレターは断ったらしい)、距離を詰められたりしてるのを見ていたら、その心はさらに歪なものとなる。

 

 白哉さんはみんなのものじゃないのに。白哉さんは私に一段と優しいのに。私なんか白哉さんにラブレターを渡す勇気が出ないのに。私なんか白哉さんとそんなに密着してないのに……

 

 

 

 

 

 

 

 白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか白哉さんは白哉さんは白哉さんは白哉さんは私なんか私なんか私なんか私なんか……

 

 

 

 

 

 

 

 嗚呼、ダメだ。私は、白哉さんの事を想いすぎて頭がおかしくなり始めてきている。私は、嫉妬しすぎてこんなにも心が醜くなってきている。

 

 私は白哉さんの事が好きだ。できるなら独り占めしたい程だ。でも、そんな束縛するようなことをしても白哉さんは喜ばないし、本人だって望むはずがない。だからって白哉さんの周りに寄る女の子達に危害を加えても、それこそ全てを失う羽目になる。彼女達だって皆が悪意を持っているわけでもない。そもそも、私は皆と仲良くなりたい……

 

 けど、白哉さんの事を想うと、私の心の中の闇がそれらを否定して溢れてきそうで、怖い。このままでは本当に自分を見失ってしまうかもしれない。大切なものを全てこの手で壊してしまうかもしれない。だから私は、修学旅行が終わってしばらくした日に……

 

 

 

 

『私、白哉さんの事が好きです。病院で出会った時から、ずっと』

 

 

 

 

 今の心境を、そして本心を、彼に打ち解けた。彼に救いの手を、()()()()差し伸べるかのように。

 

 

『あの時の私は、きっと寂しかったんだと思います。目が覚めるまではずっと家族に会えなかったし、何もない暗い世界でほぼ毎日呆然と座り込んでいた感じだったので。起きた後もその感覚が抜けてない気がして……』

 

『それが終わった後に出会ったのが貴方だったんです。【会いたい】と想ってくれるほどの面識がないはずなのに、まるで私に優しく救いの手を差し伸べてくれた気がして……そんな貴方の優しさに、私は惚れてしまったんです』

 

『それからはほぼ毎日の様におしゃべりしましたよね。白哉さんはいつも何気ない日常の事を面白く話してくれますし、よく私の事も気にかけてくれましたし……そんな会話していく内に、私はどんどん貴方に惹かれていったんです。あはは……気づけませんでしたよね? 私もあの時はこの本心を必死に隠していたんですよ? やっぱり告白するのは恥ずかしかったんで……』

 

『……でも、そのせいで、私は色んな人を妬み始めてしまったんです。貴方と仲良く接している人に、貴方を助けたり助けられたりしてる人、貴方に贈り物をあげてる人……とにかく白哉さんに絡む色んな女の子を見ていると、怒りや悲しみが混ざって複雑な気持ちになっちゃうんです』

 

『修学旅行の時もそうでした。白哉さんと同じ班になれたのに、貴方が他の班も含めて色んな女の子からグイグイいかれてたのを見てると、より強い複雑な嫉妬感が出てしまうんです。その時はすぐにみんなから離れて私のところに戻ってきてくれたので何事もなく済みましたけど、怖くなってきたんです。もし白哉さんが戻ってきてくれなかったらどうなったんだろうって……』

 

『このままだと私、誰かを傷つけてしまいそうです。もしかすると誤解を招いて、白哉さんにだって……。私はそんなの嫌なんです。私はみんなと仲良くなりたい。でも白哉さんを愛したいし、愛されたい。とにかく今の私は矛盾しているんです』

 

『だからお願いがあります。私も白哉さんの事で取り返しのつかないことをしそうになったら、【こんなこと誰も望まない】と全力で言い聞かせて自分を抑え込みますが……もしそれでもダメになりそうな時は、白哉さんが私を止めてくれませんか? こんなことを頼めるのは、今は白哉さんしかいないんです』

 

 

 

 

『どうか、私が愛している貴方の手で、私を優子(わたし)でいさせてください』

 

 

 

 

 嗚呼、これじゃあ結局白哉さんを縛っているようなものだ。本人もその時は結構驚いた顔で固まっていたし、何より不安そうだったし、私も答えを聞かずに思わず逃げてしまったし……

 

 けど、彼はこんな私のお願いを聞き入れてくれた。他の女の子と絡んでたのを見た時はちゃんと状況を自分から教えてくれたし、思わず凝りに凝って作ってしまったプレゼントを喜んでもらってくれたし、とにかく私の事を想っての行いがよく見れた。

 

 それでも、彼はきっと無理をしている。私もおかしくなりそうな自分を止めようと無理をしている。けど、今では杏里ちゃんがよく私達を気遣ってくれているおかげで、お互い安定している気がする。このままお互い何も起きなければいいのだけれど、それでもいつか、いつかはちゃんと、お互いが不安にならないように、白哉さんに告白を……

 

 

 

 

 

 

 

 そして、私達の運命は大きく変わることになる。私の体に突然、角と尻尾が生えてきた、その日から。

 

 

「……なんぞこれ?」

 

 




はい、これにて第一話終了です。ヤンデレ表現するのムズイ……。けどみんなと仲良くなりたいという欲持った優しいシャミ子を完全なヤンデレにしたらそれはそれで可哀そうだから、あんな感じにするのが妥当かな……?

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原作一巻編 原作開始‼︎ 優子を暴走させない様に原作に関わっていきます。
気がつけば原作一話が終わってた件。とりま優子のヤンデレ度が高くなりそうだけど慰めるか。


試しに1週間経ってないけど早めに投稿することにしたってことで初投稿です。

シャミ桃・桃シャミに喧嘩売っているやんってことに気づいたけど、好きなもん書けて嬉しいからどうでもいいや。

今回でいよいよ原作開始です。けど主人公は原作一話に関われません(ネタバレやめい)。


 

 優子がヤンデレになりかけてるのを知ってから約一年が経った。他校への優子の勘違いでのヤンデレの犠牲者が出ないようにと、俺は彼女と同じ桜ヶ丘高等学校へと入学した。

 

 入学を試みようとした時は男子でも入れるかどうかかなり不安だったが、原作では女子校なのかどうなのかという設定が明らかになってないためか、男である俺でもすんなり入試を受けれた。そして受かった。やったぜ。これで少なくとも他校の犠牲者は出ない。いや桜ヶ丘だろうと別の高校だろうと、どこに入学しようと犠牲者なんて出させないからな? 絶対に。

 

 あっ、話変えるわ。入学といえば、中学の入学式はやらかしたなー。いやヤンデレに関することじゃないよ? 無論この頃はまだ優子がヤンデレったかどうか分からないし。ただ原作四巻で得た知識で優子が学校で迷子になったことを忘れて、そのまま会場である体育館に行ったものだから。『あっ、ヤベッ‼︎ これで優子怒らせたらどうしよう⁉︎』って思ったよ。まぁ優子は原作通り、後の友人となる佐田杏里に助けられたおかげで入学式に出れたけれども。

 

 それからは何故か杏里によく絡まれたっけ? なんか最初は『君が優子の彼s……ボーイフレンドかー⁉︎』ってな感じで肩組んできたな。優子のヤンデレに気づいてからは、彼女の匂いとかがついて優子がヤンデらないかどうかで結構冷や汗かいたよ……。他にも杏里には『優子へのお裾分けに』とか『いつか来る夜のために』とかで実家の精肉店の肉を買わせてきたりされたな。そういう悪ノリがあったからなのか、優子の杏里に対する勘違いは一切出なかったけど。

 

 高校の事から話逸れたわ。杏里の話の続きはまた今度ということで。

 

 合格が決まったその日は優子と一緒に喜んでたな。やっぱり試験を受けた後の合格発表はいつになってもハラハラするもので、受かればその達成感ではしゃげるってもんよ。……で、この後すぐ優子のヤンデレモードが密かに発動。『これでまた白哉さんの隣にいられる』とか『白哉さんとの青春が待っている』とか、そんな初歩的みたいなものだったけど。もちろんそれがヤンデレ発言であることに本人は気づき、焦りを見せたが。

 

 合格発表が出た翌日、両親から突然『一人暮らししてみないか』と言われた。なんで? しかも優子とその家族が暮らすぱんだ荘やで? 狙ってたんか? 二人とも狙ってたんかコラ? 『何れ大人になる為の特訓になる。生活費等はこちらが出すから安心して』と言っておきながら吉田家の隣の部屋に引っ越しさせるとか、絶対俺が優子絡みで何かあったの察してるんだろ? 優子の話を含めた話してる時の二人の顔、結構ニヤついてたぞ? 俺にはお見通しだからな?

 

 優子と同じ超激安アパートに強制的に住む事になったせいで、彼女のヤンデレモードの被害に遭う確率は高くなりました。ざけんな。より一段と彼女のヤンデレに対処せなアカンくなったぞ。とりあえずちゃんとした台所とか風呂場とかは完備してくれたみたいだけど、そのせいで吉田家に風呂場を貸してあげる羽目に……ま、これは自主的に『宜しければどうぞ』と言っちゃった俺も悪いんだけど。

 

 また高校から話ズレたわ。めんご。

 

 一応この世界では女子校ではない桜ヶ丘高等学校に入学した俺ではあるが、さすがはまんがタイムきららの作品であってか、女の子が結構多かった。女の子の多さ=ヤンデレ発動率の高さ。誤解が生みそうな絡みがあってはよく優子に説明してたな。やる度に怪しまれてる気がするけど、深刻なものではないから大丈夫かな……?

 

 優子をエロい目で見る男達は……まぁいないかな。優子が目立ってるわけじゃないし、体の弱さの問題で早退もよくあったし……。アレ? 早退が多くなるのは逆に目立つんじゃ?

 

 でも、原作と比べたら早退した回数は少ないはず(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)だよな……? おっと、どういうことなのかはまたいつか話すよ。

 

 そんなこんなはありながらも、とりあえず優子が暴走する傾向を見られずに済んでいっているため、これで心おきなく原作が来るのを待つだけだ。

 

 

 

 

 ……アレ? 原作開始って、優子がご先祖様に会う夢を見た日曜日の朝、だったよな?

 

 んで、今日は日曜日の夜と……

 

 

 

 

 ヤベッ、今日はいつも通りの生活送ってたわ⁉︎ 休日はヤンデレ回避ルートの考察を一人で行うか、優子と軽くお出掛けをするかぐらいで、今日は運が悪いのか前者の生活してた……

 

 まずい、もしもの事を全然想定してなかった……ゆ、優子は⁉︎ 優子は無事なんだろうな⁉︎ だ、大丈夫なのか⁉︎ もしも原作通りに優子が一人で出掛けてダンプに轢かれそうになるまでのところまでいってたら……⁉︎ もしもその時にまだ角とか生えておらず、その時に後の宿敵かつ親友になるライバルの千代田桃に気づかれなかったら……⁉︎

 

 

「あ、あのぉ……白哉さん、いますか?」

 

 

 俺が悩んでる間に、俺の部屋のドアをノックする音と、聞き覚えのある声が聞こえた。このちょっと弱気ながらまあまあの元気さはある可愛い声、優子の声だ。よかった、生きてたんだな。そりゃあそうだよな、大体この週が優子の先祖返りの日となるとは限らないし……

 

 

「あ、ああ優子か。風呂借りに来たのか?」

 

「は、はい。そんな感じ、です……」

 

「入っていいぞ。今鍵開けてるし、部屋綺麗だから」

 

「し、失礼しまーす……」

 

 

 ん……? 今日の優子、なんかどこか余所余所しい気がするな? まさか……。いやいや、俺がいるこの世界は『二次創作』ではなくて『現実』だぞ? そんな漫画やアニメみたいに今想像したことがすぐ現実になるわけ……

 

 

 

 

「あぎゃっ⁉︎ つ、角をドアにぶつけた……あっ」

 

 

 

 

 な っ て た わ 。 

 

 羊みたいに曲がった角が開いたドアに引っかかってたわ。しかもそれ、優子のこめかみに生えてたわ。よく見たら尻尾もあったわ。ちゃんと先端がスペードマークの形の黒色だわ。何? 結局二次創作の世界は『現実』になっても『二次創作』の時間の流れで進むの(何言ってんだ俺)?

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 いや、気のせいだよな? まだ先祖返りした日じゃないよな? これは俺が見てる幻覚だよな? 優子の口から『角』とか聞こえたけど、それは幻聴だよな? とりあえず目を擦ってもう一度……

 

 ゴシゴシ

 

 角見える。尻尾も見える。

 

 ゴシゴシ

 

 角見える。尻尾も見える。

 

 ………………

 

 

「悪い、ちょっと失礼」

 

「えっ、あの……? ぐえっー⁉︎」

 

 

 角に触れてみる。コンッとした硬度が感じられる。引っ張ってみる。優子がきちんと痛がった。

 

 

「また失礼」

 

「あびゃあっ⁉︎」

 

 

 尻尾も触ってみる。意外とサラサラして少し柔らかい。引っ張ってみる。優子はちょっと色気ありのコメディっぽい声を出してた。

 

 

「………………」

 

「えっ、ちょっと……白哉さん……?」

 

 

 ……うん。ちゃんと触れた感覚ある。優子も触られた感覚を出してる。これは間違いなく……いや、まだ本人が角とか尻尾とか生えてないのに気づいてないだけであって、本来の先祖返りの日よりも数時間早く生えてるんだよこの角と尻尾は。うん、きっとそうに違いない。うん。

 

 ……一応、聞いてみるか。

 

 

「……悪い、絶対角と尻尾ついてるよな? それもモノホンの」

 

「……あっ。で、ですよね⁉︎ やっぱりそう思いますよね⁉︎ さっきまで行動からして絶対そう思ってましたよね⁉︎」

 

 

 はい、意味のない現実逃避終了。

 

 ウッソだろお前⁉︎ 原作一話もう終わってたのかよ⁉︎ なんでこの日に限っていつも通りのんびりしてたのかな俺⁉︎ あー貴重な伝説の始まりの場面がー‼︎

 

 

「……ところで、白哉さん?」

 

「えっ、はい?」

 

「何だったんですかさっきのは‼︎ いくら私の体に未確認物体が生えてきたからって容易に引っ張るものではないですよ‼︎ それでもし取れたらどうなるのか私でも分からんぞコラー‼︎ 貴様せめてもう少しデリケートに扱え‼︎」

 

「あっ、それは正直すまんかった……」

 

 

 いっけね。勝手に先祖返りのもの触ったせいで怒られたよ。けどその先祖返りのおかげなのか、ここまで強気のある優子の説教は初めてかもな。いつもはもう少し優しさがあったというか。

 

 つーか貴様って言われたの初めてなんだけど。

 

 

「……でも、尻尾ぐらいは許します。よくよく考えたら、尻尾を触られたのは白哉さんが初めてですから……エヘヘ」

 

「へっ? あぁ、うん……」

 

 

 そういや原作一話では尻尾を触られる場面(コマ)はなかったな。そうなると一番最初に触れた俺はラッキーだったりして⁉︎ ……いや、そのせいで今優子のヤンデレモードが発動しちゃったよ。『もっと触ってほしい』みたいな黒いオーラが見えた気がするんだけど。おーい、戻ってこーい。

 

 ヤンデレったことを自覚し冷静さを取り戻した優子の話によれば、先祖返りしたのは昨日ドスの利いた夢を見た後らしい。うん、絶対夢の中で優子の先祖リリスさんに会ったなそれ。この後の展開のために黙っとくが。んで、まぞくの事とか光・闇の一族の事とか呪いの事とかを母・清子から聞いたようだ。で、光の一族である魔法少女探ししてた時にダンプに轢かれそうになるも、魔法少女の一人──千代田桃(まだお互いに名前を知らない)に助けられた挙句に菓子パンを施されたと……

 

 

「うん、まぞくとしてのプライドがズタボロだな」

 

「まだプライド持てたかの実感は湧きませんが、馬鹿にされてムカついたのは確かです……。おのれあの桃色魔法少女がー‼︎ 次会った時は絶対ぶち転がして……」

 

「落ち着け」

 

「ぶひゃっ⁉︎」

 

 

 ヤンデレモード程ではないけど一人暴走してたので、そんな優子の頭を撫でる俺氏。日常茶飯事で騒がれるのもよくないし、何より千代田桃相手に対しても冷静になれるようにしてもらわないと。これでヤンデらないかって? 今は優しさ優先にさせて。

 

 

「大丈夫だって。優子は充分強くなり始めてるぞ」

 

「えっ……?」

 

「だってさ? あの一族の宿敵である魔法少女にいきなり退治なんかされず、揶揄われても落ち込んでイジイジしたりしてないだろ? そういう運の良さや心の強さを得ただけでも、お前は一人前のまぞくへと成長し始めてる。その事実だけでも、俺にとっては誇らしいことだよ」

 

「白哉、さん……」

 

 

 別に偽りの言葉を並べてるわけではない。昨日まで体が弱いせいか心もどこか弱かった彼女が、まぞくになったことで宿敵になるだろう魔法少女に馬鹿にされてもめげず、その失態をバネに次に活かそうという、前向きな考えを持つ程に心が強くなったのだから。俺が心の弱い人間だったら、きっと揶揄われたら簡単には立ち直れなかったかもしれない。そう捉えるだけでも、優子は良い子になったと思えるよ。

 

 

「……ありがとう、ございます……。おかげでちょっと勇気をもらえました」

 

「ちょっとだけかよ……。ま、元気になれたのならいいけどな」

 

 

 よし、これで優子の心の曇りは腫れたかな? そう思い、ホッと胸を撫で下ろし……

 

 

「……だったら私、本気であの桃色魔法少女に勝たないといけませんね」

 

「えっ? なんで?」

 

「念のため確認したいんですけど、白哉さんはよく筋トレしてましたよね? 腕立て伏せとか腹筋とか」

 

「へ? まぁ特にやりたい事がない時は自主的にやってるな。トレーニングマシンは偶に学校のランニングマシンを使う程度だけど」

 

 

 というか突然どうしたんだ? いくらアイツがトレーニング馬鹿だからって、俺にトレーニングしてるかどうか聞くなんて……。つーかまだ千代田桃がトレーニング馬鹿だってのは知らないはずだよな?

 

 

「へっくし! ……あぁ、風邪かな?」

 

 

「考えすぎだってのは分かってはいるんですけど、片手ダンプした彼女のことですし、きっと白哉さんが鍛えてることを知ったら何やら期待の眼差しとか向けそうで、それを期に白哉さんにも魔法とか教えそうで……その、何というか……なんだかモヤモヤして……」

 

「確かに考えすぎだな。いくら俺が鍛えてるからって、魔法少女というスケールの高い奴に注目を浴びる程の実力とか噂とか持っていると思うか? それとも何? それを期待しているけど、同時に俺がそいつに視線がいくかもしれないと思ってるの?」

 

「そ、それは……」

 

 

 あ、ちょっと言いすぎたかな。これじゃあ優子のことを完全否定するようなものだ。また曇りそうだし、ちょっと俺なりのフォロー入れるか。

 

 

「安心しろ。お前がいる限り、俺は他の女に鞍替えするような薄情者には絶対ならねーよ。そもそも他の女に対する嫉妬が強くなってしまうお前を傷つけたら、俺がどうなるのか分からねーし」

 

 

 ……アレ? なんか自分のことを優先してるような言い方しちゃった? ヤンデレってほしくないと言ってるようなものじゃんこれ。ミスったな、こんなんで優子の心が晴れるわけ……

 

 

「……そうですよね、私の考えすぎですよね。なんかスッキリしました! ありがとうございます、白哉さん!」

 

「お、おぉ……」

 

 

 晴れたわ。アレ? 優子ってこんなにもチョロインな子だったっけ?

 

 

「それじゃあそろそろお風呂、お借りします! すみません、長話に付き合ってもらって」

 

「あ、あぁいいよいいよ、俺の事は気にしないで。入っておいで」

 

「はい!」

 

 

 優子はそう言って、俺の部屋の風呂場へと向かっていった。去り際になんか顔を真っ赤にしてたけど……俺今回彼女を勘違いさせるような真似したっけ……?

 

 

 

 

 

 

「………………あぁダメ、私また勘違いしてニヤけちゃってる……」

 

 

 白哉さんのお風呂場に浸かりながら、私は真っ赤になっているであろう自分の顔を両手で抑えていた。先程までの白哉さんとの会話を思い出すと、思わずニヤニヤとした感情を表に出してしまう。

 

 けど仕方がないはずだ。まぞくになったばかりの失態を白哉さんの前で話したというのに、本人はその事で馬鹿にしたり煽ったりなどせず、逆に成長しているのだと指摘してくれて、そして私の事を自分の誇りだと言ってくれたのだから。それも同情ではなく、彼の本心のままに。いつもは私の愛の重さのせいで何処か無理をしているように見えていたのに、今回の彼の言葉にそのようなものは全く感じられなかったし……

 

 嗚呼、またニヤけてしまいました。口角上がったような感覚を覚えましたし、何より『エヘヘ』と不気味な声を上げてしまいましたし。やっぱりこんな顔、白哉さんには見せられない……見せてしまったら引かれるはず……

 

  ……それにしても……

 

 

『お前がいる限り、俺は他の女に鞍替えするような薄情者には絶対ならねーよ。そもそも他の女に対する嫉妬が強くなってしまうお前を傷つけたら、俺がどうなるのか分からねーし』

 

 

 あの言葉はどういう意味で言ったのかな……? きっと私がまた愛の重い言葉を言ったり何かやらかしたりしそうなのを止めるための建前なのかもしれないけど、前者の『他の女のものにはならない』と言っているような言葉を聞くと、もしかすると……と思い、また勘違いを起こしてしまいそうだ。あの言葉を思い返すに、白哉さんは心の奥底できっと、私の事を本気で想いやっているのかも……

 

 いや、それはないのかな。あの頃私の口から『自分は白哉さんへの愛が重いんだ』って言ってしまったのだから、それを気遣いすぎて私への愛想なんてきっと……

 

 それでも、何を考えても白哉さんへの期待が頭を離れない。その度に他の女の子への理不尽な嫉妬をしてしまう。いくら一族の宿敵とは言えど、あの魔法少女にすらそういった感情を勝手に持ってしまう。そして彼を独占したい、独占されたいという気持ちが強くなり、それがさらに嫉妬へと繋がってしまう。そんなことを考えてはダメだって前からずっと分かっているのに、その考えが何れ誰かを傷つけることになるのに……

 

 いや、これ以上考えるのはよそう。私がこの感情を表に出さなければ何も問題は起きないだろうし、白哉さんも無理をしなくて済む。それに、今の私はまぞくの成り立てだ。白哉さんの言う通り私にはまだまだ成長の過程がある。

 

 立派な一人前のまぞくになれば、この重い感情だって、きっといつかは治って……

 

 そう思いながら顔半分まで湯船に浸かるも、後になって白哉さんが先にこの湯船に浸かってたのだということを思い出し、頭が沸騰し思わずハアハアと卑しい息を荒げ、先程までの思考を半分忘れてしまう私であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんばんは白哉くん。優子はもう風呂に入ってますか?」

 

「あ、どうも清子さん。えぇ、優子は今風呂場でリラックスしてるとこですよ」

 

「………………」

 

「……? あの、何見つめてるんですか……?」

 

「……心配なさそう」

 

「へっ?」

 

「いえ、なんでも。それじゃあ優子が上がるまで自分の部屋に戻ってますね」

 

「あ、はい………………何だったんだ?」

 

 




ヤンデレって、何だったっけ……? どんな感じだったっけ……?(悟り開いてる)

あ、評価や感想の程よろしくお願いします。


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ほんの少しの原作改変ぐらいはいいだろと考えて行動したら…… ♦

中々というかほぼ全く感想貰えず落ち込みながらの初投稿です。

感想というかコメントがないと不安な性なので、批判含む感想よろしくお願いします……

さて、みんなを煽ってたかもしれないお願いをしたところでそろそろ本編の方をどうぞー。


 

 俺のせいで自覚系ヤンデレになってしまった優子がまぞくになった翌日、俺はいつも通り起きて制服に着替え、顔を洗っていた。それにしても昨日は失敗だったな。昨日が日曜日……優子の先祖返りの日だったことを忘れて一人ヤンデレ回避考察会議を行なってたからなー。もし原作とは異なるルートが発生したらとなると……ヤベッ、背筋が凍ってきた。そのせいか顔に浴びてる水がいつもよりも冷たく感じる。まるで背中に氷を数個あてられたかのようだ。

 

 俺のせいで原作キャラの性格を原作とは違うものにしてしまったんだ。きっとこれからの原作の物語も変わって実際に起きるものとは異なるイベントだって起きるかもしれない。もしものことが起きた時のために、これからは原作の物語に積極的に関わっていかないとな。

 

 そんなことを考えながら朝飯(ちなみに主食はパン)を済ませ、忘れ物がないかの確認を済ませてからドアを開けた俺氏。玄関から出ると、そこにはやはりといったところか、昨日からツノと尻尾が生えている制服姿の優子の姿が。

 

 

「あ、白哉さんおはようございます!」

 

「おう、おはよう」

 

 

 俺が挨拶を返せば、優子の尻尾がブンブンと動いている。これはご機嫌……『嬉しい』という感情を表してるな。こういう動きを見てると、優子が今どんな心境なのかが一目で分かりそうだ。ある意味助かる。つーか、原作を読んだ時も思ったんだが……

 

 

「せめてツノくらい隠そうとする努力はしなかったか?」

 

「……すみません。隠そうにもどうしても帽子から凹凸が出てしまいますし、尻尾もす、スカートの中から……」

 

「あぁ……悪い、聞いて悪かった。そもそも帽子は校則でアウトだもんな」

 

 

 だよね。隠そうにしても隠しきれないよね。ツノデカいし、尻尾も優子の身長並みに長いし。大きさの計算せずに『隠せんじゃね?』って甘い考え方してたわ。ホントごめん。

 

 とりあえずしばらく二人で学校に登校することになったのだけど、突然優子の顔に少し影が落ちてきた。この後杏里も来るからなのか『ずっと二人だけで登校していたい』っていう感じのヤンデレモードの顔ではないらしいが、どうしたんだ急に……?

 

 

「それにしても、やっぱり夢じゃなかったんですね。私が人間じゃなくて闇の一族だったことも、魔法少女に助けられたことも……。あの、白哉さんは人間じゃない子は嫌いですか?」

 

「ん? そんなことないぞ? 逆に皆にはないもの持てるなんて羨ましいぐらいだよ。それにいつもの体にツノと尻尾が生えただけなら、優子は充分人間でもあるよ。まぁ本当に人間じゃなくなったとしても、俺が優子といつも通りに接することに変わりないさ」

 

「……そう、ですよね。なんか変なこと考えてたみたいです、すみません……フフッ

 

 

 なんかまぞくになったことで俺からの対応に不安を持つようになったようだが、俺が頭を撫でながら慰めたら元気を取り戻したようだ。……いやちょっと待って。微笑しながら『ナデナデ以上のことも期待してもいいですか?』みたいな感じにハイライト落とした目で頬赤らめるのやめて? ヤンデレモード入ってる入ってる怖い怖い。

 

 

「優子おはよー。ついでに白哉も」

 

「あっ、杏里ちゃん。おはようです」

 

 

 き、来た! 杏里が合流して救いの手を差し伸べてくれた! そのおかげで優子も自分がヤンデレったことに気づいて正気に戻ってくれた! さすがは唯一何故か優子をヤンデレにさせない行動が自然に取れる親友・杏里! 嬉しいタイミングで来てくれてサンキュー!

 

 

「おはよ……って、よく考えたらついでにってなんだついでにって。俺の事興味無くしたかのような言い方だな」

 

「ちょ、冗談だって。そんな怖い顔しないでよー。白哉は優子みたいに色々な反応してくれて結構面白いから飽きないぐらいだって」

 

「「どういう意味だそれは」」

 

 

 まるで『遊び相手をもう一人見つけた』みたいな言い方だな。俺学校で面白い反応してたか? いや、他の女と関わっていたところを見た優子の誤解を解く時に焦ってたのを見られたとなると、我ながら他人に面白いと思われてる……のか?

 

 

「……ごめん、優子なんかツノ生えてない?」

 

「やっぱりそう見えるかな⁉︎」

 

 

 あ、そう考えてる間に原作通りの会話が出てた。やっぱり杏里も見えてたんだな、優子のツノと尻尾。まぁ体の一部を透明に出来る能力を持てるわけじゃないし、仕方ないかな。

 

 

 

 

 

 

 杏里に優子の先祖返りについて警戒されながらも学校に着いた俺達。優子がそのツノと尻尾を見られて女子に注目を浴びてる中、俺はというと……

 

 

「えぇぇぇ⁉︎ マジかよ⁉︎ ウチのクラスメイトにツノと尻尾生えたまぞくいたのかよ⁉︎」

 

「しかも女の子、それも影薄いのかそうじゃないのか分からない吉田さんだったなんて……」

 

「チクショー意識しちまう程可愛くなりやがって! けどなんかスゲー違和感‼︎」

 

「ちょっと触らせてくれよ‼︎ ツノか尻尾、どっちか先っちょだけでいいから‼︎」

 

 

 優子の変わり様に興味津々なうるさい男どもを黙らせ……落ち着かせております。いつもはそんなに優子に興味示してなかった癖に先祖返りしたらこれかよ。ツノや尻尾に注目がいくのは百歩譲って分かる。けどどさくさに紛れて胸とか尻とか触りそうで怖いんだよテメーら。つーか約二名優子をディスってる気がするけど気のせいか? 後先っちょだけと言った奴ちょっと前に出ろコラ。嘘、はよ座れや。

 

 ん? 俺だったら胸とか尻とか触っても優子に怒られないだろ、だって? ……そうかもしれないし、正直俺もそういう下心がないわけではないけどさ? ヤンデレになる奴に実際にやってみろ? そいつが何考えるかわかんねーぞ? 命を賭けてモミモミしてみるか? ()()俺にはそんな勇気など……あぁすいません!! 揉む気は一切ありません‼︎ 今のは聞かなかったことに!!

 

 まぁ先程の会話のように優子の先祖返りに驚いているクラスメイトは何人かいたけど、実は大抵の奴はすんなり受け止めています。杏里曰く、なんでも多摩町の人達は変な人ばっかりらしい。その会話を実際に聞くと、優子もその部類に入ってるのだと思うと可哀想に思える。本人もツノ隠して怯えてるし。まぁ、その……ドンマイ。

 

 

「とにかく、今は魔法少女を見つけてこのご先祖の像に生き血をまぶさなくては!」

 

 

 あ、そうこうしてる内にまぞくとしての本題に入ったな。優子がまぞくになる前までドアストッパーになってた哀しきご先祖リリスさんの人面石像、ホントに右のツノ欠けてるな。よく長年ドアストッパーにされてバラバラに壊れなかったなオイ。そんないつ壊れても分からない状態なら後で夢の中でリリスさんに叱られるのも無理ないな、うん。……優子、いつでもお灸を据えられる覚悟しとけよ。

 

 

「そういえば、魔法少女ってA組にいたよね」

 

「ほぇー、そうなんだ………………ってえぇ⁉︎」

 

 

 お、今度は宿敵となる魔法少女・千代田桃が学校にいるという情報を得たな優子。これも原作通り、と。昨日出会った宿敵が実は身近にいたと聞いたらそりゃ驚くわな。

 

 つーか皆がまぞくになった優子を見て大袈裟なテンションにならないの、それが原因じゃね? そもそもなんで魔法少女は皆に正体がバレるようなことしてんのかな?

 

 

「アレ? そういや白哉は驚かないんだね。魔法少女みたいなファンタジーな奴がこの学校の同級生という事実を知ったってのに」

 

「ん? ……あぁ、多摩町の人達が変なのばっかりなら、ウチの学校にも二次創作みたいな奴が一人か二人はいてもおかしくないのでは? という結論に至っちゃってね。そう考えたら驚かなくなったな、ハハハ」

 

「順応早っ……というかそんな結論でいいの?」

 

 

 本当は原作読んだのでね、既に魔法少女がこの学校にいるかどうかは把握済みです。ごもっともです。ってオイ優子、ショックを受けたような目で見るな。『貴方なら私と似た反応すると思ったのに』と言うかの如く見つめないでくれ頼むから。

 

 まぁこの時期の優子はまだ桃の事を全然知らないとのことで、どんな奴なのか様子見することに。俺は別にいいとは思ったが、やっぱり原作のイベントを間近で見たいという欲が出て同行しちまった。我ながら注意力が怠ってるな今のは。それで……やっぱり教室にいたわ。しかも原作通り本読んでる。……なんか、隣で糸電話してる女子二人にも目がいくのは気のせいか?

 

 

「なんかあのカミソリ感、どこかで……ほあー⁉︎ 昨日の片手ダンプの君ではないですか‼︎」

 

「おいなんだその変なニックネームは」

 

 

 思わずツッコんじゃったよ。反応しちゃったよ。原作のセリフなのに。そう言うの知ってたのに。反応していいのかもわからないのに。

 

 

「悔しいことに彼女に色々と施されました‼︎」

 

「それが昨日言ってた菓子パンか。中になんか入ってたような……豆? くるみ? どっちだっけ?」

 

「どっちでもいいわ‼︎ というか白哉さんそれ言わないで‼︎」

 

「昨日何があったのかは分からないけど……彼女、なんでも六年位前に世界を救ったらしいよ」

 

ワールドワイドで⁉︎ そ……そんな世界級の魔法少女だったなんて……町内規模の魔族である私が、そのような高嶺の花をころがせるでしょうか……」

 

 

 おん。改めて考えると世界を救った奴が同じ場所に住んでいて、そいつを倒すという使命を与えられたら、そりゃあどうしようとかヤバいとか無理だろとか思うよな。マジ卍。

 

 それから杏里の話によれば、体力測定で握力計を二個も振り切らせちゃったとか、肺活量もカンストしたとか……身体能力はめちゃんこヤバいそうだ。何処ぞのジャン○漫画の戦闘民族だってレベルだなそれ。しかもそれで世界を救ったとなると、フ〇ーザかセ〇、それどころか魔〇ブ〇を倒したレベルになるのでは? いや、〇ラゴン〇ールじゃあるまいからあり得ないかもな。……物理少女というよりは、龍球少女の間違いじゃね(何言ってんだ俺)?

 

 

 

 

「しっかしこりゃあ、優子も色んな方面で危ないかもなー。あんだけスケールがデカい奴となると、優子が片想いしてる男もそっちに視線がいっちゃったりして」

 

 

 

 

「………………」

 

「えっちょっ、待って待って。好みは人それぞれだから地雷踏むなやめて差し上げろ。それ聞いた本人が固まった上に目のハイライト消えとる」

 

 

 つーかその優子の片想いの人、絶対俺だよね⁉︎ 分かって言ってるな杏里オメー‼︎ よく本人の目の前でそんなこと言えるなコノヤロー‼︎ さてはテメーも優子のヤンデレモード楽しんでるな⁉︎ それを優子が発動する度に俺がどれだけ彼女にフォロー云々するのに苦労すると……‼︎

 

 

「優子……親友の言葉だからってまともに受け止めないでくれよな? 実際にそうなるわけないから。あくまでもしもの話だから。お前がそれで暴走したら俺もめっちゃ悲しくなるし

 

「……あ、は、はい。そうですよね! まともに受けていい話と受けなくていい話がちゃんとありますし! と、とりあえずあの魔法少女は身分隠して騙し打ちを……」

 

「千代田さーん。D組の闇の一族の吉田さんが用事だって〜」

 

杏里ちゃん⁉︎ きさまうらぎるか‼︎

 

 

 おいコラ杏里テメー。俺が優子を正気に戻すよう慰めてる間に何原作通りのことしとんじゃ。まだ優子の気持ちの整理が原作よりも出来てねー感じだぞ。遊びすぎも程があるだろーがいい加減にしろ。

 

 

「……何」

 

 

 ってそうこうしてたら来たわ、魔法少女・千代田桃。うん、やっぱり優子の頭一個分身長が高いな。優子もその大きさのことでめっちゃたじろいでるし。

 

 

「あ。昨日の小さい子」

 

 

 おいコラ身長指摘すんな不謹慎だぞ。

 

 

小さなくそにゃー(小さいとはなんですか)‼︎ まだ成長するかもらー(なにくそーこんにゃろー)‼︎」

 

「「優子‼︎ 気持ちに口が追いついてないよ/ぞ‼︎」」

 

 

 あ、ヤベッ。思わず息が合っちゃった。ここ俺がツッコむ必要ないはずなのに……優子のヤンデレモード時の『早く対応せねば‼︎』という必死な感情が、ヤンデレじゃないこういう原作イベントでも反映されてんのかな? ……なんか、俺もある意味ヤバくなってきてね? 急に俺自身への心配が募ってきたんだけど。

 

 

「ごめん。悪気はホントになくて、ただ客観的に小さかったから」

 

 

 千代田桃、お前も無意識な煽りやめとけ。ヤンデレモード程じゃないが優子の怒りの歯止めが効かなくなる。

 

 

「喧嘩の叩き売りか‼︎ 今ので完全にやる気が出ました‼︎」

 

 

 ホラ、優子の冷静さが欠けてるよこれ。こう熱くなった優子は誰にも止められそうにねーよ。……アレ? 今、ヤンデレった時にすぐさま冷静さを自分で取り戻してる時の方がまだマシって思えてきたんだけど……俺の許容範囲、捻じ曲がってる?

 

 

「私はシャミ……」

 

「うん」

 

「シャドウミストレス優子‼︎」

 

「うん」

 

「封印されし一族の復興と闇世界のしゃは……支配のため……ハァ……ハァ……魔法少女の息の根を止めに来ました‼︎」

 

「……うん」

 

 

 あ、いつの間にか優子が宣戦布告代わりの自己紹介してた。つーか最初噛んだよね? まぞくとしての活動名噛んだよね? しかも思いっきり『シャミ』って言い間違えてたような……。もしや、今後皆から『シャミ子』と呼ばれることになる要因って、この場面からだったのか……?

 

 

「………………そういうわけです」

 

「うんうん……途中、中盤噛んだ? 言い直す?」

 

「貴方の合いの手がペースを乱しまくるんです‼︎」

 

 

 ってかそろそろどうにかして優子を止めないとアカンやん。この後全くなってないフォームで千代田桃をポカポカするけど、全くダメージを与えられず逆に息切らして手首と脇腹痛めて、挙げ句の果てに桃の無自覚かつ不器用なフォローによって精神的にもダメージを……

 

 ……うん、やっぱり可哀想だ。前までは原作にあまり深く関わらないようにと思ったけど、ここは優子のメンタルのために止めておくか。といっても、どうやれば……?

 

 

「カクゴー‼︎」

 

 

 ってそうこうしてる内に飛び上ろうとしとるー⁉︎ えぇい、過程や方法の模索なんてどうでもいい‼︎ 今はとりま止めないと‼︎

 

 

「優子ストッープ‼︎ 一回落ち着けー‼︎」

 

「はぐえっ⁉︎」

 

「えっ?」

 

 

 よし、腹ギュッとしたことで動きが止まった‼︎ 停止完りょ……

 

 

 

 

 ムニッ

 

 

 

 

「ひゃんっ⁉︎」

 

「へ?」

 

「「あっ」」

 

 

 弾力のある柔らかい感触が、俺の両手を通して伝達。硬直する。二人同時に着地。ふと感触がする方に目を向ける。

 

 優子の体に付いている二つのメロン並の大きな丸い物体が、俺の両手を埋めてる。つーかこっちが思いっきり鷲掴みしてるように見える。これだけで背筋が凍った。ふと丸い物体から上に視線を上げる。そこには、熟した林檎のように紅潮させ、目を渦巻きの如くグルグル回している優子の顔が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや思いっきりやらかしたよマジで⁉︎ いくら事故とはいえ、か弱い女の子の胸を揉むとか何してんだよ俺ェ⁉︎ しかも目の前で二人の女の子にその場面を見られるとか最悪だよ⁉︎ これ正直に事故だって言ってもセクハラしてしまったことに変わりないやん‼︎ 駅などの公共の場だったら警察署行き確定だよ⁉︎ 対象がヤンデレとかヤンデレじゃないとか関係なく普通にアウトォォォォォォッ‼︎

 

 ハッ⁉︎ ……や、やめろ杏里と魔法少女‼︎ なんかエロ本見つけた様な顔で『わーお……』って言うなァァァ‼︎ 違うから‼︎ 狙ってないから‼︎ これ事故だから正真正銘の‼︎

 

 つーか早く優子のデカメロンから手ェ離せよ俺ェ‼︎ なんで即シュパッと離さないのかな俺ェ‼︎

 

 

「す、スマン優子‼︎ 決してわざとじゃ……」

 

「あっ……えっ……へっ……今、手が……えっ……?」

 

 

 やっぱ聞いてねー‼︎ 俺に胸揉まれてめっちゃ顔真っ赤にして動揺してるよこの子‼︎ ヤンデレってなくてもこれはマジでヤバい‼︎ 別の意味で優子のメンタル崩れたよ‼︎ 別の恥を宿敵の目の前で見せつけちゃったよ‼︎

 

 

「えっと………………私達、今のは見なかったことにしておいた方がいいのかな?」

 

 

 コラァァァァァァッ‼︎ 天然魔法少女テメー‼︎ おま、こんな時に不器用なフォロー入れんなァァァッ‼︎ そういったのが優子にとっては逆効果なんだよチクショー‼︎ 絶対優子のメンタルめっちゃ崩れたよもー‼︎

 

 

「………………こっ……こっ……」

 

「「こ?」」

 

これで勝ったと思うなよ桃色魔法少女ー‼︎

 

「えっ、なんで私?」

 

 

 えっ、ホントなんで? 何故か俺が胸揉んでしまったのを千代田桃のせいにしながら走ってっちゃったんだけど……。いや、これは俺が狙ってやったわけでもないし、単なるまぐれが起きた現象なんだけど、だからって俺に何の罰を与えないのはどうかと……。しかも優子、今ヤンデレモードになってないよね? 嫌がってはないけど喜んでもないような……

 

 

 ハッ⁉︎

 

 

「「ジィー……」」

 

「………………な、なんだよ……俺のさっきの失態をわざとやってるものだと思ってんのか? 違うからね? わざとだったら悪巧みしてるような顔してたからね、俺。やめて見ないで見ないでくださいお願いします」

 

 

 頼むよお前ら、今のを事故だときちんと捉えてくれ。悪気はなかったしこんなことになるとは思わなかったんだって。先生にチクったりしようなんて考えないでくれ。頼む、三百円あげるから。

 

 

「……ねぇ」

 

「な、なんだ魔法少女・千代田桃」

 

「君って、あのまぞくの子と何か関係でもあるの?」

 

「は……?」

 

 

 急になんだその質問は。関係があったらなんだと言うんだよ……? けどあやふやに答えてもどうかと思うし、少し正直に答えるか……

 

 

「……しょ、小学生の頃からの仲の良い幼馴染だよ。それがどうしたってんだよ?」

 

「そっか……」

 

 

 えっ? ちょっと待って? なんか急にニヤニヤし始めてるんだけど。何を考えてらっしゃるのアンタ。怖い怖い怖い怖い。

 

 

 

 

「事故とはいえ、その幼馴染の胸を揉んじゃったのだから、これは責任とった方がいいかもね」

 

 

 

 

「ファッ⁉︎」

 

 

 ちょ、おまっ……えっ⁉︎ こいつ今なんて言った? 俺が優子の胸揉んじゃったから『結婚しろ』とでも⁉︎ 待って待って待って待ってホント待って‼︎ いくらなんでも胸揉んじゃったからってその責任の取り方は絶対じゃないよね⁉︎ 他にも責任の取り方あったはずだよね⁉︎ 大体まだヤンデレの感情を抑えきれてない優子と結婚とか……そういうのはもっと段階踏んでから……

 

 ……えっ? 俺、今、なんて……? 段階……? えっ?

 

 

「………………」

 

「どうしたの? 急に黙り込んで……」

 

「………………杏里」

 

「えっ。あっ、お、おう? 何?」

 

「優子ももう戻ってるだろうし、俺も先に教室戻ってるよ……」

 

「あ、ちょっと⁉︎ 結構精神的ダメージ負ってるよね⁉︎ それ抱えたまま授業受ける気⁉︎ ねぇ、ちょっと⁉︎」

 

 

 ヤバい、もう空気に耐え切れねぇ……さっさと教室戻って、頭冷やして、後で優子に謝って、出来るならさっきの出来事は忘れよう……うん、そうしよう……

 

 

「……冗談が過ぎたかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……」

 

 

 なんとか自分に色々言い聞かせて授業を終えた私は、ふとあの昼休みの事を思い返した。不慮の事故とはいえ、白哉さんに胸を揉まれた。きっと私の身の危険を察知して止めてくれたのだろうけど、まさかその時にムニュッてされるなんて……

 

 アァアァアァアァアァアァアァアッ‼︎ 恥ずかしい‼︎ かなり恥ずかしい‼︎ 思い返したら余計に恥ずかしさが増す‼︎ しかも桃色魔法少女の目の前で起きるとか最悪すぎる‼︎ 絶対まぞくとしての尊厳とか純潔の一部とかが失われました‼︎ もうお嫁に行けません‼︎ 絶対どこにでも嫁げません‼︎

 

 いや、この際だからいっそのこと白哉さんにお嫁さんとしてもらってもらおうかな……。そして、いつまでもずっと……

 

 って、また愛が重くなり始めた‼︎ しっかりしてください私‼︎

 

 ……よく考えたら、胸を揉まれたのはこれが初めてだったのかも。

 

 白哉さんにだったら揉まれてもいいとは考えていた時期がよくあったけど、実際にそういった行動には移していない。白哉さんや周囲の目のことも考えてるから、寧ろそういった事は考えないようにしている。もしそれでまた白哉さんへの愛が重くなったら……というわけじゃない。単純に恥ずかしかっただけだ。女の子同士でもそうですが、異性に胸揉まれるなんて羞恥の極みですもん!! 無理無理!!

 

 でも、本当にそれでいいのかな……。あの時『今度は逃げずに改めて告白する』と決めたのに、自分から何の行動も起こさず本心も抑えたままにして……。そんなことしたら盲目になりがちだし、それで相手や周りの心身共に傷を負うかもしれない。だからといって後ろめたくしても、そうしてる内に他の女子に白哉さんを奪われて、それでこそ、その悲しみで二人を傷つける羽目に……

 

 嗚呼、不安がかなり募るばかりだ。先程の件も含め白哉さんの事で、自分がだんだんとおかしくなっている気がする。一族の件が第一だというのに、こんな調子で呪い解除も恋も出来るはずが……

 

 

「ああ……優子?」

 

「はひゃいぃ⁉︎」

 

 

 ほわぁ、思わず変な返事しちゃいました……‼︎ 今の思い返しが授業後だっただけマシだった……のかも? これまで何度も愛が重たくなる自分を抑えてきたことによるものだからなのか、あの時のことを授業中にまで引き摺らなくてよかった……。そうじゃなかったら集中できなかったですし……

 

 いや、今白哉さんに声掛けられましたよね⁉︎ 全然よくなかったですよね⁉︎ ヤバい、また鮮烈に昼休みの時の事が脳内にフラッシュバックして……‼︎

 

 

「その……さっきは悪かった。事故とはいえ、お前を止めようとしただけなのに……お前に、かなり恥をかかせた上に……その……」

 

「あ、い、いえ……わ、私の方こそ、何も考えずに、あの魔法少女に飛びかかろうとしたせい、で……」

 

 

 お互いに顔を合わせられていない。やはり白哉さんも羞恥心や罪悪感を感じていたのだろう。尻目に顔を見れば白哉さんの顔が耳まで紅くなっているから、彼の脳内にも鮮烈に記憶されているはず。

 

 ここはどう言えばいいのが正解なんだろう。どう言えばこのモヤモヤがお互いに消えるんだろう……きっと彼も同じ事を考えているはず。何か言わなければ、私達の関係が崩れてしまいそうで、怖い。

 

 私の胸の感触はどうだったのか聞く? いやそれじゃあ私が痴女に聞こえるからダメ‼︎

 

 揉まれて正直嬉しかったとぶっちゃける? それも恥ずかしいし、やっぱり愛が重……いやいつもよりもさらに重い気がする‼︎

 

 冗談で『責任取ってください』と言ってドッキリ企画の終盤みたいな展開にする? でも私が言ったら冗談に聞こえないし、下手すれば皆さんから変な噂が広まる可能性がさっきの二つの案よりも高くなる‼︎

 

 『あの桃色魔法少女が体験出来ない事を見せられて結果オーライでしたね』と言って笑い話にする? あ、見せられた当の本人の反応薄いからどうかと……というか何考えてるんですか私⁉︎

 

 あぁもう‼︎ どれも解決出来ない案ばかりじゃないですか‼︎ こんなんじゃ白哉さんとの関係が悪くなって……

 

 ………………そんなの嫌だ。せっかく自分の重たい愛を抑えて、これまでの関係を保ってきたのに、それが崩れるなんて嫌だ。白哉さんが私から離れるなんてことは嫌だ。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……

 

 

「───優子」

 

「はびゃあぁ⁉︎」

 

 

 い、いけない‼︎ あまりの不安にまたおかしくなってた……‼︎

 

 ……でも、もう仕方ないですよね。これまでの事もありますし、今回の不慮の事故(このぐうぜん)を機に、私と距離を置くことで、白哉さんを縛るものが無くなるのなら……

 

 

「その……優子はあんなことになってしまって、嫌だったか? 俺の事、嫌いになったか? それと……その……大丈夫か?」

 

「えっ……」

 

 

 私がどう思ってるのか、気にしている……? それ故に、私が白哉さんを嫌ってしまったのかも気にしている……? それでも尚、私の事を心配している……?

 

 

「わ、私の事を、嫌ったりしないのですか……?」

 

「へ? なんで恥かかせた奴が嫌われるんじゃなくて嫌わなきゃならないんだ? えぇっと、俺は優子があの後どう思ったのかを聞いてるんだよ、な……?」

 

 

 素だ。今のは素で答えているのがキョトンとした顔から見てとれた。嫌う筋合いがあったのかという風に首も傾げているし、無理してるような渋い顔とかにもなっていない。……そっか。ただ純粋に、本当に私のことを心配してくれているんだ……

 

 そうだった。この人は元から優しい性格だったんだ。それは私に対してだけでなく、お母さんや良、杏里ちゃんやクラスメイト、町内の人達……皆に優しく接している。その性格故か、私があの時自分が愛が重たくなることを知っても尚縁を切ろうとはしなかった。私がまぞくになってもそれは変わりなかった。それほどの包容力があるからこそ、白哉さんは皆に親しまれている。

 

 だからこそ、私は彼のことが……

 

 

「あ、あの……優子、さん? やっぱ胸揉まれたこと怒って……」

 

「……いえ、全然怒ってません。あ、さっきの質問なんですけど、揉まれた時は困惑しちゃいましたけど、正直途中から嬉しく感じちゃいました……アハハ……。でも、杏里ちゃんや桃色魔法少女の目の前で見られたのは嫌でしたね。まぞくの尊厳が失われたというか……」

 

「そ、それはホントごめんって……」

 

 

 あっ、今顔赤くしてたじろいだ。白哉さんのそんな顔見るの新鮮で可愛いですね。なんかちょっと悪戯してみた気分で悪くないかな。

 

 

「……その、ですから……」

 

「ん……?」

 

 

 今更だけど、よく考えたら周りにクラスメイトがいるのに胸の話するのは恥ずかしい……。こういうのも恥ずかしいけど、ここから白哉さんの耳元で言っておきましょう。それぐらいなら、もし杏里ちゃん達に見られても聞こえなければ問題ない……気がする。

 

 

「た、たとえ事故でも、わ、私以外の人の胸を揉んじゃ、ダメ……ですからね」

 

 

「ッ⁉︎」

 

 

 やっぱり刺激的なお願いだったのかな。それを聞いた白哉さんは生存本能を察知したかのように思いっきり後ろに下がった。顔を耳まで林檎のように真っ赤にしているのがはっきりと見えた。それを言った私の顔もきっと真っ赤になっているはず。やっぱりこの言葉も愛が重たかったのかもしれないけど、偶には少しぐらい躊躇いもなく言っておいても良いですよね。ほんの一瞬だけなんですから……

 

 

「あっ……えっ……そ、その……お、おぉ、わかった……? そ、そいじゃあな……」

 

「あ、はい……」

 

 

 そう言って白哉さんは真っ赤にした顔を腕で隠しながらその場を去っていった。やっぱり恥ずかしかったけど、これで白哉さんとの距離が良い方向性で近づけたら、いいな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁもう‼︎ 色々な方向性になるのを覚悟して謝りにいっただけなのに、『私の胸ならまた揉んでもいいですからね』みたいな清楚っぽさのあるセクハラ発言してきやがってェェェ‼︎ あれじゃあ今でもヤンデレってるのか純情な感じに戻ってるのかも分からんし、めっちゃ脳裏に刻まれてめっちゃドキドキしちまうゥゥゥゥゥゥ‼︎ ダメダメダメダメ、優子を暴走させないためにも、こんな淫らな煩悩を消すんだ俺ェェェェェェッ‼︎ アァアァアァアァアァアァアァアッ‼︎

 

 

「うるさいッスよ平地くん。なんか午後の休憩時間になった途端すぐ喚くとか、どうしたんスか?」

 

「年頃の男の子の葛藤ってものよ全臓くん。そっとしてあげよう?」

 

「……小倉さん。一応言っておくッスけど、俺らも年頃の高校生ッスよ?」

 

「なんか言ってみたくなった」

 

「そっスか……」

 

 




オリ主、ラッキースケベ発動によりシャミ子への好感度アップ‼︎ そして密かに桃への理不尽な敵対心が強くなった……のか?

そして本文の最後の最後にオリ主の次にメインになる予定のオリ男をセリフだけ登場させておきました。口調が『〜ッス』のキャラ、なんか喋ると結構目立ちそうじゃない?

それでは最後にはりねず男子メーカーで作ったオリ主・平地 白哉の画像載せて今回の話を終わりにしたいと思います。感想・評価のほどよろしくお願いいたします。

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まぞくのトレーニングに付き合うことに……待って優子じゃなくて俺の方が色んな意味でヤバい。

前回で主人公がラッキースケベを起こしちゃったので初投稿です。

今回は原作三話をお送りしますが、『あ、これ以上文字数増やしても皆さんが読みにくいんじゃ⁉︎』というわけで、原作三話を勝手に前半後半に分けることにしました。オリジナルの場面を入れると結構長くなるものやんね……


 

 原作介入したら事故で優子の胸をうっかり揉んじゃいました。軽い気持ちで行動するからそうなるのだよ、ここテストに出るから。まぁ半分焦りを覚えて冷静さに欠けてしまったからというのもあるけど。ハハ、嗤えよこの野郎……

 

 けどまぁ、色々あって優子のヤンデレを引き出さずに解決しましたけどね。……いや、今のあいつの事だから心の中ではヤンデレってるのでは? 分からんけど。

 

 許してくれたとはいえ、あの事故はお互い鮮明に覚えていたため、その日はぱんだ荘で夕飯のお裾分けしに行った時やお風呂を貸す時間になった時は目を合わせられませんでしたわ……。そりゃあラッキースケベは誰だって羞恥心を覚えたりドキドキしちゃったりするもんね、仕方ないね。

 

 で、気まずい感じなのが抜けないまま朝になったわけだけど、やっぱり俺の脳内からあの時のラッキースケベが離れられない……

 

 と、とにかく過ぎたことは仕方ない。いい加減平常心を取り戻すんだ平常心を。まずはいつもの待ち合わせ場所で優子と合流だ。はよせんと遅刻する。

 

 

「……あっ。お、おはよう優子……」

 

「あっ。お、おはようございます」

 

 

 よ、よし。とりあえず少しは冷静さを見せれたかな? うっかり目が合っちゃったけど、優子も平常心を取り戻せたのか、きちんと目を合わせてくれたし……。いや、ちょっと待って。今ちょっと目を逸らしたよね? 絶対今日の事思い出して恥ずかしくなってるよな?

 

 

「………………今日はなんだかいつもよりもカッコ良く見えます……」

 

 

 あ、別にそういうわけではないのかも。いつも通りの俺のことが好きであることをアピールしてる感じのヤツだ。それなら大丈夫……なのか? とりあえず、優子はもう昨日のことを気にしてないらしいし、俺もいつも通りに……

 

 

「おはよー二人とも!! 昨日は色んな意味で災難だったねー!!」

 

「「ぶふぉふぇえ⁉」」

 

 

 おま、思わず変な声出ちゃった……。つーか杏里? お前、なんつーこと言いながら挨拶してんだテメー。結局優子も無理強いしてたことがバレたじゃねーかどうしてくれる。

 

 

「杏里ちゃん……貴様にはデリカシーってものがないのか……!!」

 

「あっ。いやその、放課後になってからは恥ずかしがってるような雰囲気出してなかったから、もう大丈夫かなって……ごめん」

 

「たった半日で羞恥心が消えるわけないじゃないですか!! もう許してあげたとはいえ、帰ってからも白哉さんと会う度にお互い意識しちゃって気まずくなっていたんですからね!!」

 

「……人は誰もがポジティブになれるわけじゃないんだよ。そこら辺わかってくれ……」

 

「ホ、ホントごめん……だから威嚇したり遠目になったりしないでくれる……?」

 

 

 ……気まずそうな顔してるけど、それ本当に罪悪感のある顔だろうな? 昨日原作通りに優子を裏切ったんだから、Toら○るな事件でも何か裏切りを見せるような真似は許さんからな? 色んな意味で俺死ぬからな?

 

 チクショー、杏里のせいでまたしばらくこの罪悪感とドキドキが消えねーじゃねーか……。ヤンデレ以前の問題やでどーしてくれる……

 

 

【やんでれとやらに向かい合う覚悟があるくらいなら、もう付き合っちゃっても良くないか?】

 

 

 なんか幻聴が聴こえてきた⁉︎ 誰⁉︎ このだらけきった声誰⁉︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日の件での動揺が一旦落ち着き、俺達は学校にて優子の打倒千代田桃に関する今後の目標とかを聞くことにした。

 

 

「昨日はそ、その、色々とトラブルがあったので撤収しましたが 「やめてもうこれ以上掘り返さないでくれ」 あっ、すみません……。冷静に考えたら、何の準備も修行もせずにまぞくレベル1がレベル99魔法少女に挑むなんて無謀でした‼︎」

 

 

 うん、まぁ半分は杏里が勝手に一騎討ちさせようとしたせいなんだけどね。もしも千代田桃が過激派の魔法少女だったら優子即死だよ。それで優子が本当に死んだら……なんか、やだな……

 

 って、いやいやこれは日常コメディの世界のはずだから‼︎ 優子に死なれてたまるかっての‼︎ 何脳内で勝手に主要人物殺してんの俺‼︎

 

 

「一旦あの桃色魔法少女を倒すために特訓したり、もっと弱い魔法少女を倒したりします‼︎」

 

「おーその意気だ優子ー(棒) 俺も特訓に付き合ってやるからな」

 

「ふえっ⁉︎ そ、それって二人きりで……って、いやいやなんでもない‼︎ 今のは聞かなかったことに‼︎」

 

 

 お、おう……。一瞬ヤンデレモードの顔になりそうだったけど、すぐ正気に戻ってくれて助かった……

 

 

「ちょっといいかな? 私、魔法少女としては弱い方だよ」

 

「そうなんですか……ん? ………………ぎゃあああああああ⁉︎ 桃色魔法少女がでたああ‼︎」

 

「結構前から居たんだけど……」

 

「いや、俺もお前がいつの間にか優子の後ろに立ってたからビックリしたんだけど……。消したよな? 絶対気配消したよな? 」

 

 

 まぁこういう話してたから絶対来るだろうとは大抵予想できたけどさ? 実際にどのタイミングで話しかけてくるのか正直分からんかったぞ? 本来なら優子の話に区切りがついたところで話しかけてくるはずなのに後ろにいなかったろお前? 何を狙って話しかけるタイミングずらしたのさ? まぁ来てくれたのなら別にいいけど。

 

 で、何故俺達とは違うクラスの千代田桃がこのクラスの教室に入ってきたのかというと、突然闇に目覚めた者は稀に闇に呑まれて凄いことになるらしいので優子の様子を見に来たらしい。闇に呑まれると凄いことに……なんかミュータントみたいに人の原型留めず人を喰らう奴になるのか? ウッ、寒気がッ……

 

 ちなみに千代田桃が世界を救ったというのは、同僚が強かったから、とのこと。いやそいつの方がめちゃくちゃ強そうじゃん。その魔法少女が世界を救ったってことは、そいつア○ンジャー○にでも入ってたのか? それか転生した神様か何か? それとも原作世界の転生者? もうそいつ英雄と呼ばれて称え崇められても良くね?

 

 

「で君はシャミ子ちゃんだっけ」

 

「違いますー‼︎ 吉田優子改めシャミ……シャドウミストレス優子です‼︎」

 

 

 お? これって……

 

 

「おい、今シャミ……って言いかけなかったか?」

 

「い、言いかけてません‼︎ うっかり敵の言葉巧みに嵌っただけです‼︎」

 

「……クスッ。やっぱりシャミ子なのかな」

 

「わ、笑うなぁぁぁ‼︎」

 

 

 あぁやっぱりだ。この場面から優子が皆から『シャミ子』と呼ばれるようになるんだな。正直一体いつから『シャミ子』と呼ばれるのかが分からなかったから、実際にその場面に入ったとなるとなんかホッとするし嬉しく思える。

 

 この後優子は杏里にもシャミーと呼ばれたり、桃にシャミりんと呼ばれてものすごい剣幕な目でギロリと睨んだりしてました。ここも原作通りだな。

 

 俺? 俺は優子と呼ぶよ。いつも呼んでる名前の方が落ち着くし、俺が混乱せずに済む。

 

 そしてこれ以上自分の変な噂が流れて学校に着づらくなる前にと、優子は千代田桃に宣戦布告。一週間後に学校裏の河川敷にて生き血を頂くと告げた。

 

 ん? 何故今日闘わないのかって? バカヤローお前、優子だけでなく人は誰しも半日で体が仕上がるはずがねーんだよ。察しろガキィ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。千代田桃との決闘のために己の体を鍛えることにした優子の修行に付き合うために、俺達は今学校のトレーニングルーム前にいる。杏里も付き添いで来てくれた。お前も優子の修行に付き合ってくれるなんて、さすがは親友。良い子だなー。

 

 

「ぐぬぬ……図らずも修行期限が週末になってしまいました……おのれーおのれー」

 

「まぁそう焦らないで。一週間だけでも充分に体を鍛えられるぞ。で、ダンベルは1()k()g()、と……。一応2()k()g()3()k()g()のヤツも用意しとくぞ。いい感じになったら重さ変えてくから」

 

「すみません、付き合っていただいて……」

 

「小学生の頃からの仲だ、気にすんな」

 

 

 この時原作では優子は500gのダンベルを使おうとしているけど、訳あって俺はそれよりも二倍重い方を使わせることにした。彼女も原作よりも重いダンベルを使うことに戸惑いも躊躇いもないのも、それに関与している。

 

 実は中学生の頃、体が弱いままの優子が俺が筋トレしてるのを見て『自分も少しは体を鍛えたい』と言ってきたことがあったんだ。その時から体が弱かった彼女の身を案じて一度は断ったけど、優子の担当をした医者から『走るのはダメだけど重量感の少ない器具を使うぐらいならば問題ない』と聞いたため、渋々了承したんだ。

 

 あの時は本当にOKしてよかったのか迷ったよ。走ることが難しい程体が弱かった優子に、それほど重くないとはいえダンベルを使わせて体を壊してしまったらどうしようとか、これが原作に悪影響でも起こしたらどうしようとかってね。

 

 けど、ちょっとしたトレーニングを俺と一緒にできることに喜んだ彼女の満面の笑みに押され負けしました……。可愛い子の笑顔には勝てなかったよ……

 

 それからはちょっとずつ優子にダンベルトレーニングをさせることにした俺。最初は300gのダンベルを使わせて、徐々に彼女に合わせて重たくさせていったら……優子の体は1kgのダンベルを使わせても問題ない程に鍛えられ、500m以下、だっけ? それぐらいランニングしても大丈夫だという診断が出たとの情報を得た。

 

 本当にやらせてあげてよかったのかと思ったけど、本人の嬉々とした笑顔には勝てませんでした……

 

 

「ところでさ、白哉もトレーニングルーム使うの? シャミ子の修行に付き合うってことは」

 

「いきなり優子の呼び名定着してんな。で俺? そうだな……。せっかくだし、バーベルを使うとしようかな。普通サイズだけど」

 

「普通サイズでも私達の歳だと結構重たいけど、大丈夫なの……?」

 

「少しぐらいチャレンジしたっていいだろ?」

 

 

 そう言って俺はトレーニングルームに入る前に軽くストレッチした。トレーニングを少しだけやるとはいえ、いざという時に体を壊しちまったら元も子もないんでね。

 

 無論、優子にもストレッチをさせます。彼女の体の方が一番心配なのでね、万が一ダンベルトレーニング中に骨折とかされたら困るし。

 

 

「フゥ……よしっ! ストレッチ終わり! 先生にもその他のトレーニングマシンの使用許可とったし、今日は色々とトレーニングだー‼︎ やりますよー‼︎」

 

「ちょっと待ってダンベル以外も使うの? 俺聞いてない」

 

 

 何勝手に他のマシンの使用許可とってんの? 原作よりもトレーニング熱心になるのはいいけど、マジで体壊さないで頼むから。ってめっちゃやる気満々な顔してるよ。目がハートならぬ目が炎になってるよ。

 

 ハァ、これは止め辛い感じだな。これほどやる気を出してる奴の機嫌を損ねるわけにはいかないし、とことん付き合ってやるしか……

 

 

 

 

「あ……」

 

 と思ったけど、俺が使う予定の普通のバーベルよりも二倍前後重そうなマイダンベルでトレーニングしてる千代田桃を見て、俺達二人は硬直してしまった。

 

 

 

 

「その後二人とも結構な速さで逃げたよね……」

 

「……家でやるか町のフィットネスジムを使うかにしようか、優子……」

 

「そ、そうですね。何もトレーニングできる場所が一つとは限りませんし……」

 

 この時、俺はあそこで千代田桃が原作でもあんな感じにダンベルトレーニングしていたのを思い出しました。なんであの部分だけさっきまで忘れていたんだお……

 

 

 

 

 

 

 千代田桃と出くわすことを避けるため、町にある無料の公営のフィットジムを使うことにした俺達。そこでも出くわしそうなんだけど、家でやるにしてもトレーニングマシンは今の俺は持ってないし、学校でトレーニングしてる方が敵に監視されやすそうじゃね? みたいな感じで妥協した結果がこれです。

 

 早速着いた俺達はそれぞれ動きやすい服(俺はトレーニングウェア、優子は普通に体操服)に着替えて早速中に入ると、優子がたくさんあるトレーニングマシンを見て呆気に取られた顔になりました。うん、そうなるとは思ってたけど。

 

 

「ほ、ほわわわわ……。な、何ですかここは……カラクリ部屋のような、拷問部屋のような……」

 

「あ、そうか。優子はフィットネスジム来るの初めてだったな。ここは足腰や腹筋などを鍛えられるトレーニングマシンがたくさん取り揃えられているんだ。自分の体のレベルに合わせて色んなのが使えるぞ」

 

 

 にしてもこれほどあるトレーニングマシンをタダで使い放題だなんて、多摩町のフィットネスジムはあまりにもサービス良すぎないか? 念のため聞くけど、ここ一応市街地だよな?

 

 

「普通なら料金かかるけど、ここは何故かどれを何時間使ってもタダだぞ」

 

「──────」

 

 

 あ、ヤバッ。優子、自分のキャパを超える出来事に遭遇すると『宇宙のめくれ』が発生するとか言って漠然としちゃうんだった。おーい、目ェ覚ませー。銀河圏に直面すんなー。

 

 

「ハッ⁉︎ す、すみません……。それにしても杏里ちゃんは来なくてよかったんでしょうか? 今日は家の手伝いとかないはずなのに……」

 

「さぁな……何処かで俺達に対して余計なお世話でもかけてんじゃね?」

 

「どういう意味ですかそれ……?」

 

「……気にすんな。それよりも早速トレーニングするぞー。まずはダンベルトレーニングからだな」

 

「は、はい……」

 

 

 杏里の奴、俺達を二人きりにする機会を作るためにわざと同行しなかったな……。まぁでも、正直二人きりの方が色々と安心するな。トラブルとかで杏里と何かあって優子のヤンデレモードが発動するなんてことはないし、寧ろ優子も俺と一緒にいた方が心とかが安定するし……な。

 

 しばらくランニングマシンを使って走りながら優子に1〜3kgのダンベルを使ってのトレーニングをさせた後、少し休憩してから早速トレーニングマシンを使ってもらうことにした。とりあえずパンチの威力を上げるのに必要そうな筋力アップのために、試しこいつを使わせるか。

 

 

「んじゃ、次はこのアブドミナルマシンを使ってみようか」

 

「えっと……。この三角のヤツは寝そべるだけで体鍛えられます?」

 

「んなわけあるかい‼︎ 寝るだけで鍛えられるなら誰も苦労しねーわ‼︎」

 

 

 ……まぁ、寝そべる必要があるのはあながち間違ってはないけど。

 

 

「これは頭を下側にして取っ手に足を引っかけ、その状態で腹筋するヤツだよ。こいつを使ってゆっくりでいいから腹筋十回するぞ。頭が斜め下になるから気をつけるように」

 

「斜めに寝そべっての腹筋って、初日からいきなりハードルが高いような⁉︎」

 

 

 そういうとは思ったけど、ランニングマシンは自分か誰かにスイッチ止めてもらうまでずっと可動するから優子自身のペースに合わせることが難しそうだし、チェストプレスマシンなんかは腹筋だけじゃなく上半身全体や両腕の体力も使うから、個人的には初日で使っていいのか判断しづらいんだよな……。他の皆はどう考えるんだろう……?

 

 とりあえずアブドミナルマシンを使う理由を説明したら何故か納得してくれた優子。早速俺が取っ手に引っ掛けた足を抑える形で腹筋を開始した。にしてもトレーニング後の優子の足か……。期限が一週間とはいえ、どれぐらい変わるんだろうな。って、何考えてんだ俺。集中集中……

 

 

「ふぐぅ……い、いぃち……」

 

 

 ポヨンッ

 

 

「んぎぎっ……に、にぃい……」

 

 

 ポヨンッ

 

 

「………………」

 

 

 優子の胸、揺れとる。腹筋で体起こす度に、ボールが弾むかの如く揺れとる。エロい。

 

 って何考えてんだ俺ェェェェェェッ‼︎ 優子がヤンデレ起こしちゃダメなように、俺も優子をいやらしい目で見ちゃダメだろォォォォォォッ‼︎ 思春期は前世で終わってるはずなんだよしっかりしやがれェェェェェェッ‼︎

 

 

「ど、どうしたん、ですか白哉さん……? きゅ、急に険しい、顔してぇ……。ご、ごぉお……」

 

 

 ポヨンッ

 

 

「あぁいや、気にしないでくれ。ただ俺の脳内がすっとこどっこいになってるだけだから」

 

「す、すっとこ……?」

 

 

 ウゥ、優子のポカンとした表情からの眼差しが個人的にすごく痛い……。バレてないよな? たゆんたゆんと動いた胸を見てしまったのバレてないよな? クッソ、さっさと煩悩無くなれチクショー‼︎ 優子のトレーニングに集中できねーよこれじゃあ‼︎

 

 それからは千代田桃との決戦の日まで、使用するトレーニングマシンを変えたり使う数を2個に増やしたりしていき、それらで優子が動ける範囲の回数の腹筋やスクワットをさせていった。勿論エナジードリンクを毎日奢ってあげてる。両親がお小遣いや生活費を余分に仕送りしてくるから、毎日買ってあげても別に生活が少しも苦になるなんてことはなかった。

 

 トレーニング終了後、優子がたくさん掻いた汗で透け透けになった肌やブラを見てしまったことで毎日煩悩が溜まり、その度に心の中でめっちゃ葛藤する羽目になったのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……も、もう動けない……。白哉さんが毎日やってるトレーニングってこんなにキツいものだったとは……」

 

 

 白哉さんの指導の元でトレーニングを終えた私は、ベンチで横になりながら休憩することにしています。でもこうして横になると、初日からのマシンでの腹筋をした時の事を思い出し、余分に腹筋しそうになりました……。これ以上鍛えようとすると死んじゃう……

 

 よく考えてみれば、自分がここまで体を鍛えられるだなんて思ってもみなかった。まぞくに目覚める前の私は体が弱かったものだから、小学生の頃は長い間院内学級だった。学校に来れるようになってからも早退が多く、まともな学校生活が送れなかったなぁ……

 

 でも中学生の頃、偶々白哉さんが自分の部屋で筋トレしているのを目撃した。それを見た途端、私の脳内にある考えが過ぎってきた。私も少しは筋トレ出来れば、白哉さん達みたいにまともに学校に通えるのではないか、と。

 

 それから私はチャンスが来れば、よく白哉さんに一緒に筋トレさせてほしいと頼み込んだ。最初は断られたのだけど、私の根強い想いに押されたのか白哉さんは軽くダンベルトレーニングするくらいからなら良いという許可を下ろしてくれた。そして白哉さんが筋トレする日に合わせて、私もダンベルトレーニングをする日々を送った。無論毎日ではないけど……

 

 あ、きっとその時からかもしれない。私の白哉さんへの愛が重たくなったのは。彼とトレーニングする時はいつも二人きりだったし、その間は何故だか皆と和気藹々となっている時よりも楽しく感じてきて、『もっと二人でやれたらな』と思うようになって……

 

 でも、あのトレーニングのおかげで私の早退する日は少なくなり、私自身の白哉さんに対する想いというものに気付けたのだから、別に後悔はしていない。愛が重い(あたらしい)自分や白哉さんが好きな(ほんとうの)自分というものも見出せたのだから。

 

 ……いや、愛が重たくなるのはよくないことは分かっている。下手をすれば周りを傷つけてしまい、自分を苦しめることだって。それでも彼への想いを無下にしたくない。今でも私は矛盾した想いを抱えている。この想いをどうすればいいのか、分からずじまいでいる……

 

 けど、白哉さんはそんな私をいつまでも見放そうとはしなかった。トレーニングに付き合ってくれたのがその証拠だ。けど何を思って見放そうとしなかったのかは、私には分からない。

 

 怖いけど、いつかは白哉さんの本音を知りたい。そして向き合い、受け止めたい。そうすることが出来ることを信じて……

 

 

「なぁ……何俺の事をじっと見つめてんだ? 今の俺、汗臭かったか?」

 

「いえ、相変わらず白哉さんは鍛えられてるなー……って思っただけですよ?」

 

「そ、そうか? ならいいけど……」

 

 

 とにかく、今は打倒桃色魔法少女・千代田桃に向けてのトレーニングです‼︎ バンバントレーニングして強くなって、生き血を手に入れてやりますよー‼︎ 覚悟しろ魔法少女ー‼︎

 

 




前回同様におっぱいに不本意ながらも触れちゃったオリ主。にしてもシャミ子、立派なものお持ちなのに何故自他共にそこに触れなかったんや……可笑しくね?

次回で原作三話後半に入りますよー。


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今日は優子が宿敵に挑む日……って千代田桃⁉︎ お前優子に何吹き込んどるんじゃー⁉︎

夜に投稿するといいらしいので初投稿です。

ちゃんとしたストックをまだ用意してないけど、原作三話を一週間置きに区切って投稿してもなんか後味が悪い気がして、早まってしまいました。めんご☆


 

 多磨町を照らす眩き太陽が真上に昇っている日曜日。この日はついに、原作でも行われる優子と千代田桃の決闘の日(?)だ。この後の展開や結末を既に知っている俺ではあるが、宿敵相手に必死に頑張る優子の勇姿を見届けたくて、この日は日曜日なのに六時半に起きた。どんだけ原作イベント見たかったんだ俺。今でもワクワクが止まらないんだけど。

 

 しかし、期待と同時に不安も募っている。優子は俺が中学生の時から筋トレ指導したことにより、原作よりは体力がそこそこついているはず。原作では何故か千代田桃と一緒に勝負前のウォームアップとかでランニング四キロ走ってバーンアウトしたけど、俺によって鍛えられた場合、そこそこの体力を残して勝負することになるのではないか。そして敗北してまたプライドズタボロになるのではないか。それが不安で仕方なかった。

 

 まぁ要するにアレだ。俺が二人の勝負を見届けることにしたもう一つの理由が、俺が犯したちょっとした(?)原作改変で、原作とは異なる展開が起きた時の対策をその場で執り行えるようにするための応急処置をするためでもあるってことだ。漫画家の担当かよ俺は。

 

 とりあえず早めに起きちゃったので、朝飯食った後に軽めに腕立てと腹筋をして……と思ったけど腹筋は五回目辺りでやめました。優子の修行期間中に腹筋中の彼女の胸がたゆんたゆんと動いていたことを思い出してしまったからです。あぁもうチクショー。胸揉んでしまった時の事と言い、優子が腹筋してた時の事と言い……俺ってばおっぱい星人なのか? 最低だ、俺って……

 

 だぁぁぁもうっ‼︎ 邪な事思い返すのはやめいっ‼︎ 軽い筋トレ終わったし、さっさと優子と合流しよう‼︎ そうしよう‼︎ そう言い聞かせながらぱんだ荘を出れば、既に優子が体操服姿で外に出ていた。ってかポニテ髪可愛い。

 

 

「おはようございます白哉さん‼︎ 今日はすみません、せっかくの日曜日なのに勝負の見届け人になっていただいて……」

 

「……気にするな。俺が自分から同行したいと言ったんだし、何よりやること一切なかったしな」

 

「やることないはないでそれはどうかと……」

 

 

 黙らっしゃい。大抵の一般の学生はバイトがない限りは暇になるものなんだよ。ウチなんかお小遣いとか生活費とかは仕送りで来て問題ないからバイト要らずなんだよ。なんで俺の両親優しすぎんだよ? かえって怖いわ。つーかよく甘やかしてくれるな高校生の息子に対して。

 

 

「とにかく行こうぜ。あの魔法少女が待ってるんだろ?」

 

「そ、そうですね……。あっ、その前に‼︎」

 

「ん?」

 

 

 河川敷に行こうとしたところを呼び止められた俺。ふと後ろを振り向けば、優子が顔を真っ赤にして目を背けながら右手を差し伸べていた。えっ、ちょっ、これって……

 

 

「そ、その……手、繋いでいただけますか……? その、なんだか、急に不安になってきて……」

 

「ヒョッ」

 

 

 思わず変な声が出ちゃったよ……。だってあんな可愛げな照れ顔されたら思わずドキッとしちゃうだろ? 男はね、可愛い女の子にはコロッといっちゃうものなのよ。そしてそういった子に騙されやすいから用心する必要があるものなのよ。チョロいのよ。

 

 ん? 手を繋いだら優子がヤンデレモードにならないか、だって? 今回のは多分大丈夫そうだよ。だってあの照れ顔は緊張しているのか少しだけ震えてもいるのだから、その緊張を和らげるためには邪心とか考えている暇なんてないと思うし。つまりは曇ってないってことや。だから大丈夫……だと思う。

 

 ま、まぁ、俺も思わずドキドキして緊張しちゃうけどな……

 

 

「お、おう。じゃ、じゃあ繋ぐか……」

 

「は、はい……」

 

 

 こうして俺は優子の手を優しく取り、河川敷に近づく辺りまでそのままその集合場所へと向かっていった。何故近くなったら離すのかって? 手を繋いでいるところを千代田桃に見られたらまた揶揄われる可能性があるからな、それは防がないといけない。これ以上優子のプライドズタボロにするわけにはいかねーよ。ついでに俺の平常心もな。

 

 

 

 

 

 

 あぅ……思わず手を繋がせてしまいました……。さっきまで『打倒桃色魔法少女ー‼︎』と言って張り切っていたのに、改めて『町内レベルのまぞくが世界レベルの魔法少女に勝てるのか』と思うと急に不安になってきて、この緊張を消したくてつい……。びゃ、白哉さんも私の頼み事を聞いて顔を真っ赤にしてましたね……

 

 でも、そんな普通に聞けば愛が重いのでは? と思われても仕方のないお願いをされたのに、それを聞き入れてくれるだなんて……。私なんかのために無理強いはしないでほしいけど、心情がどうであれ受け止めてくれるのはすごく嬉しい。

 

 そうやって優しくしてくれるから、私は白哉さんに愛されたいと思ってしまう。そして、何処か安心できる気が……

 

 ハッ⁉︎ い、いやいや、今は惚気になってはいけません‼︎ 本当はもっと白哉さんと手を繋いだままでいたいけど、今は桃色魔法少女との待ち合わせ場所に行かなければ……‼︎

 

 ……白哉さんの手、細いのによく鍛えられてるなぁ。相変わらず思ったよりも硬いけど、優しく包み込んでくれるかのようで、温かい……。ずっと繋いでいたい。ニギニギしていたい。寧ろこの手を独占して……

 

 アァアァアァアァアァアァアッ‼︎ また白哉さんへの愛が重たくなってきたァアァアァアァッ‼︎ しっかりしなさいシャドウミストレス優子‼︎ これから桃色魔法少女との決闘だぞォォォッ‼︎ というかいい加減危なげな妄想するのやめろォォォォォォッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

「怖気づかず来たようですね‼︎ 桃色魔法少女‼︎」

 

「お待たせ、魔法少女・千代田桃」

 

「桃でいいよ」

 

 

 手を繋いでいる間に優子の視線や周囲から見られてないかという不安を持ちながらも、何事もなく河川敷に着いた俺と優子。しばらく手を繋いだせいか河川敷が近づいた時に手を離してもお互いドキドキしたままだったけど、お互い落ち着いたおかげなのか、千代田桃に俺達が手を繋いだ状態でここまで来たってことはバレてない……と思う。

 

 つーか千代田桃の肌色、変わってね?(すっとぼけ)

 

 

「ってあれ⁉︎ そんな色黒でしたっけ⁉︎」

 

「……週末って約束だったけど、土曜か日曜かわからなかったから土曜も待ってた」

 

夏の河川敷で⁉︎ ………………それは……申し訳ありません」

 

「なんか、俺も悪かったな……」

 

「私も金曜日になって気づいたから気にしないで」

 

 

 いや、さすがに俺もそういうところは、優子の宣戦布告した時に勝負の日は日曜だと伝えるべきだったな。少しでも原作通りになれるようにする場面を間違えたのかな。先にこっそり河川敷に行って、千代田桃に日にち間違えてることを伝えるべきだったな。こういう時間帯を守らなきゃいけない場面は守らせないと……

 

 ってか千代田桃? お前土曜日の間ずっと待ってたってことはさ? 待ってる間何してたの? 飯とかどうしたの? ってかせめて夜には家に帰って風呂入れよ。

 

 この後また今回みたいに集合時間や場所を間違えると困るからとのことで、お互いに電話番号を交換・流出してしまいました。千代田桃、お前生き血狙われてるのにそれを摂ろうとしてる敵に連絡先教えて大丈夫なの? つーか優子も教えてよかったのか? もし相手が過激派だったら詐欺みたいな感じで殺されるかもしれないからな? 相手が優しい奴だからいいけど次からはもうちょっと考えてやれよ? あ、交換終わった。

 

 

「さておき! 貴様と闘う日を待ち侘びていました‼︎ この日のために私は白哉さん……今私の隣にいる幼馴染の指導の元、自宅や公営のジムでトレーニングを重ねて来たんです」

 

「見ればわかるよ。四キロくらい絞れてるし、上半身を中心に筋肉量が結構増えてるのが触ってなくとも感じ取れる」

 

「……あ、そうなんですか」

 

 

 おま、なんつー分析能力を持ってんねん。原作のように実際に優子の体に触れてなんかないのに、見ただけで他人の筋肉量や減量した体重とかが分かるって、重度の筋肉フェチでも得られない能力だぞ? お前見た目も頭脳もムキムキじゃないよね? ねぇ?

 

 

「それと白哉くん、だっけ? 君も結構筋肉付けてるんだね」

 

「へ?」

 

「初めて会った時も私に飛びつこうとしたシャミ子を一瞬で取り押さえるほどの瞬発力を見せていたし、掴む時の力加減も出来て 「「待てそれは俺/私達にとっては黒歴史だから思い返させるな」」 あ、それはごめん」

 

 

 俺が優子を止めようとしたときの事を話すなバカ。その時俺が優子の胸揉んでしまったの見てただろ? それを無意識に掘り返すんじゃねーよ息合ったツッコミしちゃったじゃねーかよオイ。

 

 つーか何さらっと俺の体付きまで分析しようとしてんねん。俺今回は優子の勇姿を見届けに来ただけだよ? 俺は闘う気ないよ?

 

 

「シャミ子のトレーニングに付き合ってた間にも鍛えてたみたいだね。二キロ程絞れてるし、前会った時よりもウエストが5cmくらい減ってたし、骨格のラインが少しだけど分かりやすくなったし……」

 

「待て、待て、ウェイトウェイト。俺の体まで分析すんのやめて。そこまでいくとお前の特性に引くから」

 

「う、うわぁ……」

 

 

 何なのこいつ。知り合った奴の体つきの変化に気づけばすぐ指摘しないといけない性分なの? その変化を隅々まで分析しとかないと気が済まない性格なの? そしてなんで目をめっちゃキラキラさせながら話すの? どんだけ筋肉フェチなの? やめてまた優子がドン引きしてるから。

 

 

「スリムな体つきなのに筋肉量結構あるよね。特にこの腹直筋あたりが引き締まって……」

 

 

 

 

 刹那。頬を平手打ちしたかのような渇いた音が、河川敷に流れる川を揺らすかの如く響いた。

 

 

 

 

 響き渡ったその音が鳴り終わり、俺は我に返った。何を感じたのかは自分でも分からなかったが、右手を見れば小刻みに震えており、ふと千代田桃の方を見れば彼女は右手首を少々痛そうに抑えていた。

 

 この時、俺が先程何をしたのかを理解した。どうやら俺は、何故か千代田桃の手を叩いてしまったようだ。

 

 それを知ったのと同時に、理解する事が出来なかったところもあった。それは何故俺が千代田桃の手を叩いてしまったのかについてだ。彼女が俺に対して何かしてきたというわけではないはずだと言うのに、俺は気づかぬ内に攻撃していた。その事実を知っただけでも冷や汗が止まらない。

 

 ヤベェ……なんで暴力に走ったんだ俺は。と、とにかく早く彼女に謝らないと……‼︎

 

 

「す、すまん千代田桃‼︎ いや、これはその、俺はそんなつもりじゃ……」

 

「えっ。あぁ、桃でいいよ。こっちこそ勝手に体触ってきてごめん。知人の仕上がっている筋肉を触っちゃう癖が出てたものだから……」

 

 

 えっ……? あっ、今何故俺が千代田桃の手を叩いたのかが分かったわ。反射神経による正当防衛だこれ。俺が他の女に触られたとなると、それによって付着した匂いによって優子が嫉妬などの念を抱いちゃって、ヤンデレモードが発動してしまうのを無意識に恐れたからだ。

 

 ヤ、ヤベェ……危うく優子が暴走するところだった……。彼女も後ろで複雑な感情のオーラを必死に抑えているようだし、怖いから千代田桃の動きには用心しておかないと……

 

 というか千代田桃、お前何本人の許可なく勝手に人の筋肉触ろうとしてんだよ。デリカシーってものがあるの考えろや。下手したらお前優子に絞められてたと思うぞ、多分。

 

 ……アレ? そういや俺、千代田桃の手を払い除ける前に何か言ってたような気がしたけど……気のせいか?

 

 

 

「ごめんねシャミ子、─────────」

 

 

 

 ん? ……って。

 

 

「優子に何吹き込んでんだお前ェェェェェェェェェッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 宿敵とはいえ、桃色魔法少女……桃には勝負前にいきなり申し訳ないことをしました。本当は勝負する日は今日のつもりだったのに、こちら側が具体的な集合時間を言わなかったせいで桃を昨日まで待たせ、日焼け状態にさせてしまったので……

 

 おかげでそういう困った時のためと言われて、敵に家の電話番号を送る羽目になりました。この後桃も携帯番号教えてくれましたが。彼女には『個人情報を流出した事による危険性』というものがないのかな……? いや、それを言うなら私もだけど。

 

 そしていつの間にか桃の肌は元の白い肌に戻っていた。え、なんで? 肌色戻るの早くないですか? 何が起こったのですか? ……あ、でも魔法少女なら肌を治す能力とか容易に使えそうな気がする。なら納得がいくかも。というかよく思えば、日焼け向けの魔法とかは使わなかったのですか?

 

 その後私がこの決戦のために白哉さんと二人でトレーニングしたことを伝えたら、今度は私の体の変化について語り出してきました。一目見ただけで四キロ減量されてるって何? 上半身中心に鍛えられてるって何? 特に上腕に筋肉量がついてるって何? なんでそこまで私の体の変化が分かるんですか? 実際に私に触れてませんよね? いやキラキラした目で腕触らないで語るのも後にして⁉︎

 

 しかも今度は白哉さんの体の変化まで指摘してきたんですが。私のトレーニングに付き合ってくれただけで何キロ絞れてるとか、服越しなのに骨格が見えやすくなったとか、何故異性の体の変化にまで異常な程に気づけるんですか。

 

 ……でも、私でさえ気付けなかった白哉さんの変化を具体的に把握できるだなんて、正直嫉妬します。私は白哉さんの幼馴染なのに。私は白哉さんといつもいる事が多いのに。私は白哉さんの事が……

 

 

 

 

「さ、触るな‼︎」

 

「うおっ」

 

「はべぇ⁉︎」

 

 

 

 

 ビッ、ビックリして思わず変な声が出てしまった……。というか白哉さん、突然叫んで何があったのですか⁉︎ なんか『触るな』って必死に何かを訴えているかのような大きな声だったような……

 

 ふと視線を向ければ、白哉さんの右手を見れば小刻みに震えながら斜め右下に下ろしており、桃の方も見ると彼女は右手首をちょっと痛そうに抑えていた。

 

 え、ホントに何事? 白哉さん一体何をやらかしたんですか? いや私は何もしてませんよね? ただちょっと考え事しただけですよね? というか桃は何故手を抑えてるんです?

 

 

「す、すまん千代田桃‼︎ いや、これはその、俺はそんなつもりじゃ……」

 

「えっ。あぁ、桃でいいよ。こっちこそ勝手に体触ってきてごめん。知人の仕上がっている筋肉を触っちゃう癖が出てたものだから……」

 

 

 ………………えっ?

 

 桃が勝手に、白哉さんの体を触った……?

 

 ………………ちょっと、それはどういうことですか。何勝手に白哉さんに触れたんですか。

 

 私なんて暴走しちゃうのを恐れて触りたいという欲を抑えているというのに、何貴様は躊躇いもなく触ったんだ。

 

 親友の杏里ちゃんだったら百歩譲って許せますが、出会って間もない人や嫌味のある人が白哉に触らないでください。

 

 白哉さんは私の……

 

 ……私の………………えっと、その……

 

 

「あ、あうぅぅぅ……」

 

 

 ダ、ダメ……やっぱり言えない……。やっぱり人前で『白哉さんは私の何なのか』だなんて、口が裂けても言えない。すごく恥ずかしいです……。杏里ちゃんや小倉さんには何故かバレてるから百歩譲って話せるけど、他の人に私の白哉さんへの想いを明かすのは、その……抵抗があると言いますか……

 

 って、いやいやいやいや‼︎ 冷静に考えてシャドウミストレス優子‼︎ 『白哉さんが好き』だなんて言えないけども、いきなり人の体に許可なく触れてはいけない事ぐらいは伝えられるでしょう⁉︎ 何まだ伝えられない事と一緒に言う必要があるか‼︎ さっさと『白哉さんは私の何なのか』だなんていう話は置いといて……

 

 

 

 

「ごめんねシャミ子、シャミ子の好きな男の子の体を勝手に触ってるの見て嫌だったでしょ?」

 

「んがっ……⁉︎」

 

 

 

 

 えっ? 今、なんて……。シャミ子って私ですよね……? んで、桃は何を言って……? 私の、好きな……? えっ……?

 

 バレてる⁉︎ 私が今さっき考えていた事が桃にバレてる⁉︎ というか寧ろ私の恋心までもがバレてる⁉︎ なんで⁉︎ ずっと他の人には言ってないはずなのに、杏里ちゃんや小倉さんには『誰にも言わないで』と厳しく口止めしてるのに、なんで⁉

 

 

「シャミ子、さっきすごい剣幕して顔赤くして私のこと睨んでいたから、もしかしたらと思ったんだけど……違った?」

 

「……え?」

 

 

 嘘……? 私、今の感情を表に出してました……? 今まで誰にもバレないように隠してたのに、それが抑えきれなかった……? 私、桃が白哉さんの体に触ったことがそれほど妬ましかった……? えっ……えっ?

 

 えっ、ちょっと……桃、突然何かを期待してるかの如く無言でグイグイと顔を近づけてくるんですか……⁉︎ ま、まさか、私の白哉さんに対する想いの事で、何やら良からぬことを企んでいる……⁉︎

 

 

「……あああああああ‼︎ ち、ちちちち、違いますぅ‼︎ こ、こここれはそそ、その……アレです‼︎ こ、これから勝負するのだというのに、きき、貴様が馴れ馴れしく私達に絡んでくるし、そ、その時間も長いから、『早くしろ』みたいな感じで……」

 

 

 ご、誤魔化せェェェッ‼︎ とにかく誤魔化せェェェッ‼︎ こんなところで弱味を掴まれたら白哉さんにも迷惑かかるし、最悪臓器もぎ取られるゥゥゥゥゥゥッ‼︎ 何より怖い‼︎ キラキラした目しながらの無言の圧力が怖い‼︎ だ、誰か、誰か助けてほしいです‼︎ 誰かァァァァァァッ‼︎

 

 

「優子に何吹き込んでんだお前ェェェェェェェェェッ‼︎」

 

「ぐえっ」

 

 

 す、救いの手だ‼︎ 白哉さんが桃の襟元引っ張って救いの手を差し伸べてくれました‼︎ た、助かった‼︎ これで弱味を握られずに済んだ‼︎……多分。

 

 この後白哉さんが桃に何やら『そういうのにはデリケートなんだからやめろ』とか叫びながら説教をしてるのを見てなんだかモヤモヤしそうなんですけど、無言の圧力に比べればどうってことないですね‼︎

 

 さぁ説教が終わったら改めて勝負を申し入れましょう‼︎ 先程の揶揄いと無言の圧力をかけられた屈辱、晴らさせてもらうぞ‼︎

 

 ……本当にバレてないですよね? 私の恋心……

 

 

 

 

 

 

 桃への説教を終え、ようやく優子と千代田桃の勝負にまでありつけれた俺氏……ん? 説教はどんな感じだったのか、だって? ただただ『人の恋路には無闇に触れるものではない』とか『思った事は何でも口にすればいいってものじゃない』とかまぁ、そんな感じのものだよ。それを千代田桃は反論すらせず相槌も適当な感じにはやってないから、これでもう優子を俺に関することで揶揄わない……はず。きっと。

 

 区切りがついたから早速勝負を始めようと告げる優子だったが、千代田桃に準備運動としてストレッチだけでもせがまれることに。ここでも目を輝かせるとかどれだけトレーニングバカなんだよお前は。そりゃ優子が千代田桃に対して魔法少女じゃなくて物理少女なのでは? と思うわけだわ。

 

 さらにはウォームアップした方がいいとのことでランニングすることに……いやいくら何でもマイペースすぎない? 俺はこうなること分かってたけどさ、約束の日に変な予定を勝手に組み込むとかどういうことなの? しかも三キロ以上走るとか……

 

 あ、千代田桃走り始めたぞ。しかも優子が『逃げる気か』と聞けば肯定するし……。もしや自分の好きな事したい程に勝負したくない系か? 何となくそんな気がする。

 

 

「あー……優子、無理に追いかけようとしなくていいぞ? 体の問題とかあるし……」

 

「ぐぬぬ……けど、あれで逃げられたら魔法少女の生き血が手に入りませんし、もう決闘を申し込む機会もこれっきしになりそうですし……」

 

 

 決闘する機会が最後になる、か。あり得るかもな。千代田桃、魔法少女はもうやりたくないとか言ってたし。原作でも対決になりそうな機会が今回を含め二・三回ほどあったけど、結局どの場面でも闘えなかったし。

 

 今の優子にとって千代田桃と闘う機会を作ることはとても貴重な経験に繋がると思うから、やっぱり優子の好きなようにやらせておくべきか……。俺の指導の元で少しは鍛えられてると思うし、それに今回の場合は初のランナーズハイの良さが分かる絶好の機会になるし。

 

 

「ハァ………………本気で無理そうだと分かったら無理矢理にでも止めるからな?」

 

「貴方に結構鍛えられたので心配無用です!! 待てぇ桃色魔ほ……桃ぉー!!」

 

「おいランニングフォーム。体の軸は真っ直ぐ、軽く前傾姿勢で視線も真っ直ぐに見ろ」

 

「あ、忘れてました……」

 

 

 腕を左右に振る女の子走りをしようとした優子を止め、基本のランニングフォームで走るようにと注意した。あの走りは可愛いけど余計な体力使うだろうし、多少はだけど遅くなるし、これはネットで得た知識だけど、腕の振りで得たエネルギーを下半身に伝えられず遅くなってしまうし……。可愛い走りだけど。

 

 

「あ、二人とも来るんだ」

 

「しょ、勝負の前に逃げる奴がいたらそりゃ追いかけますよ……」

 

「つーか来て悪いのかよ」

 

「いや、走り仲間が増えて嬉しいなってだけ」

 

「か、勝手に仲間にしないでください‼︎ 生き血狙ってる相手だぞ⁉︎」

 

 

 何? なんか千代田桃がまたパァッて顔が明るくなってたぞ? まさか嵌めたのか? 初めてor久しぶりに誰かと一緒にランニング出来そうでラッキーと感じたから俺達を嵌めたってか? 俺は日時ちょっとトレーニングしてるから百歩譲っていいとして、振り回された宿敵の身にもなれよ……。あっ。後ろの車橋、昇り始めた夕日と重なって綺麗だ。

 

 ………………ん? アレ? 原作では二人は車橋を追い越したところまで走ってなかったよね? そもそも車橋近くまで行ってないような……

 

 そんなことを考えていたらランニングは終了。優子は原作通りバーンアウトしたけど、本人曰く自分の可能性を見つけたとか言ってました。

 

 ん? 俺の方はどうだって? まぁ優子とは違って疲労感は少ないだろうし立ってはいられるけど、それでもゼェゼェと息を整えてる感じです。俺、四キロ走っただけでも疲れがちょっと出ちゃう体だっけ……?

 

 

「……じゃあ二人とも、このまま海まで走ろうか」

 

「ここ結構山寄りですけど⁉︎」

 

「ってか何俺にもそこまで走れる程の体力ありそうな前提で言ってるのかそれ? なんかの一族の末裔とかじゃないから無理ですそこまで走らせないで」

 

 

 優子より中々の体力があるからと、千代田桃に近い体力の持ち主だと思われてんの俺? まぁ俺は転生者だけど、だからといってめっちゃ体力持ってるってわけじゃないです勘弁して。あ、俺が転生者である事誰も知らないし言ってないけどね。

 

 この後改めて優子と桃の勝負……と言いたいところだけど、やっぱり優子がバーンアウト済なので勝負はまた別の機会にしようという感じに収まりました。うん、知ってた。けど優子も体がちょっと弱い中よく頑張って走れたよ。お疲れ様。あ、俺にも優子と同じ三倍に薄めたスポドリくれるんスか。なんか悪いな千代田桃。

 

 

「なんだかんだで八キロ(・・・)走っちゃったし……頑張ったねシャミ子、白哉くん」

 

「八キロも走ってたんですね⁉︎ そんなの初めてです……‼︎」

 

「あぁ。俺も久々に誰かと一緒に走れたし、いい経験を思い出せてよかった……」

 

 

 

「「………………ん? 八キロ?」」

 

 

 

 ………………えっ。ちょっと待って。八キロって、おま、原作の二倍の長さやん。十キロマラソンに近い距離走ってたの俺達? なのに俺は足ガクガクしてないの? そして優子は屍状態にならず原作で四キロ走った後のバーンアウト状態で済んだの? ウソーン……

 

 ……あの時、優子の『一緒にトレーニングしたい』というお願い聞いといてよかった……

 

 

「……俺ら、時間や本来感じるべき疲労感も忘れてここまで走ってたんだな……」

 

「じ、自分の可能性が怖くなりました……」

 

「走ってると考えていた事も忘れてしまうからね、仕方ないよ」

 

「「八キロも走ってたのを仕方ない程度で済ませられるか‼︎」」

 

 

 千代田桃テメーこんにゃろー……‼︎ 俺はなんとか大丈夫とはいえ、まだ明かしてないけど優子は生まれつき体弱いんだぞ⁉︎ 俺が鍛えてやって少しはマシにはなったけど、いざという時に優子の身に何かあったらお前責任取れるか⁉︎

 

 俺? 取れるか取れないかじゃない、取る以外の選択肢などない‼︎ というかそれしか選べん‼︎ なんとかして責任取る‼︎ 大雑把だけど‼︎

 

 ……まぁ過ぎた失敗は変えられないけど、とりあえず今は出来ることをやっておくか。えぇっと、確か原作では優子は千代田桃に電車賃五百円借りてたな……。けどここからの距離だと五百円じゃ足りないはず。となるとここは、俺も優子も羞恥心が強くなるか、俺だけ羞恥心を持って優子のヤンデレ度が上がるかになるけど……

 

 

「……優子、帰りは俺が担いでやろうか?」

 

「………………へ?」

 

「いや、俺も担ぐのめっちゃ恥ずかしいけどさ、そうした方が電車賃払わなくて済むし、俺はゆっくり歩けばお前を担ぎながら歩ける程の体力が残ってるし……」

 

「えっ、あっ、びゃ、白哉さん? そ、それは、わ、私を引き摺るとか、そんな感じで……?」

 

「雑には扱わんわ‼︎ お前俺を何だと思ってんだ‼︎ ッ………………お、おんぶとか、お……お姫様抱っことか、そんな感じでだよ……」

 

「 」

 

 

 あー恥ずい。めっちゃ恥ずい。いくら優子がここから徒歩では絶対帰れないとはいえ、女の子を担いで帰るとか何処ぞのリア充か友人からの罰ゲームを受けた可哀想な彼氏か何かかよ。しかも優子の顔が耳まで真っ赤だし、なんかそこから湯気みたいなのが湧き上がって出てるの見えちゃってるし、どんな羞恥プレイしてんだよ俺はよォ。

 

 

「………………えっと、あの、その………………一生お姫様抱っこしてもらいたい程嬉しいんですが、他の人に見られるとなると、やっぱり恥ずかしいです……。後、宿敵の前でそんな事言わないで……」

 

「あ、すみませんでした」

 

「……新婚の夫婦漫才なのかな?」

 

 

 この後俺が二人分の切符を払う形で、俺と優子は電車で帰ることになりました。当然距離が長かったので、原作よりも150円かかりました。二人分買ったから300円かな? 念のため余分に金持ってきてよかった……

 

 そして俺も思わず優子と一緒に寝落ちして、一度うっかり『おくおくたま駅』まで行っちゃいました。

 

 

「なんで白哉さんまで起きなかったんですかー⁉︎」

 

「スマン、いつもよりも疲れたものだから……」

 

 




ちょっとはよりシャミ子のヤンデレらしさが出せたかな……? あっ、白哉が桃に体を触られた辺りの話ね。

にしても、まさかシャミ子が少し鍛えられただけでランニングの距離が二倍に増えるとは……やったね白哉くん‼︎ 君のトレーニングのおかげでまた一つ、原作が崩壊したよ‼︎(よくねーよ)

何はともあれ今回はここまで!! 感想・評価の程よろしくお願いします!!


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五人で仲良くショッピングセンターへ。その内二人は俺とオリ男忍者……忍者? ♦

前回感想をいただけなくて悲しかったので初投稿です。

前回は何がいけなかったから感想をもらえなかったのかな……


 

 どうも、平地白哉です。おくおくたま駅から帰って来て参りました。簡潔に言うと、あの森は夜だからかマジで怖かったし、マジで疲れた……。本当はあそこまで電車で行かず優子を起こして多摩川駅で降りるはずだったのに、俺まで寝落ち原作沿い落ちになるとは……俺も走り疲れたのかな?

 

 あ、昨日は優子と彼女に勝負を挑まれたはずの千代田桃の三人で河川敷で八キロも走りました。原作では二人は四キロまでしか走らなかったはずなんだけど、俺が介入したことで何故か二倍になりました。やっぱり俺が優子を鍛えたことに原因があるのかな……? ってかもしそうだとしたら、千代田桃は俺達がどれだけ走れるのか体を見ただけで判断したってことになるのか? うーむ、この原作改変は真実が分からんな……

 

 一応俺は日頃のトレーニングのおかげでなんとか筋肉痛にならずに済みました。十キロマラソンに近い距離走ったってのに。けど優子はどうなんだ? 原作では四キロ走った後でも筋肉痛にならずピンピンしてたけど、俺に鍛えられたとはいえさすがに八キロは……

 

 とりあえず、そろそろ学校に行かなきゃだから朝飯の片付けしてさっさと出るか。にしてもレーズンバターロール美味かったな。いっけね、スマホ置いてくとこだった。

 

 ……今の描写、いる?

 

 外を出れば、優子が顔をパァッと明るくして待っていた。軽やかにこちらに向かってきたため、どうやら筋肉痛にはならなかったらしい。先祖返りと俺に鍛えてもらったおかげだな、これは。

 

 彼女の表情をよく見れば、いつもよりもニコニコとした顔をしている。ここで普通、彼女に何があったのかと思うだろうが、原作の俺は何故優子があれだけ笑顔なのか理由は知っている。

 

 

「おはようございます白哉さん‼︎ ほら、見てください‼︎ 今月から私のお小遣いが百二十円からぴかぴかの五百いぇんにアップしましたよ‼︎」

 

「おぉ、ようやくか。吉田家の貧困さが和らいだのか?」

 

「いいえ、そうであってほしかったけどそうじゃないです! 打倒魔法少女の予算として増えただけです‼︎」

 

「あ、そうなんだ(すっとぼけ)」

 

「なんか反応薄いような⁉︎」

 

 

 はい皆様、今『そんな事で喜ぶの?』と思った人はいますか? オメーらさては貧乏になった事ねーな? 優子の家族は『魔法少女の封印』のせいで家族四人で月々四万円のギリギリな生活を送ってんだぞ? 局地的な呪いだけど貧乏人には結構キツイぞ? 察しろや三下ァ。「吼えてんじゃねぇぞ三s」

 

 

「けどさ、五百円でも打倒魔法少女はキツくね? 貧困者には難しいだろうけど貯めといたら?」

 

「……言われてみると確かに」

 

 

 あ、思わず本音言っちまった。本音っつーか正論言っちまったよ。原作だと優子は五百円貰ったその日にあの運命を辿るのに……まぁ大袈裟な運命じゃないけど。つーか俺、別に悪い事は言ってねーよな? 金銭的とか買う物の範囲や使い道とか考えての発言したし、優子も納得してくれたし……

 

 

「……ハッ⁉︎ 輪ゴムや割り箸ならたくさん買えるから、わりばしでっぽうをたくさん作って……」

 

「内面マッスルでマジカルパワー持ちのあの魔法少女に、わりばしでっぽうが勝てるとでも? せめてもう少し可能性のある夢見ようぜ」

 

「………………ハイ」

 

 

 優子、お前目の前のものをすぐ使って何かしら対策を練る派なのか?さっき俺が貯めとけとか別の方法考えろと言ったばかりなのに、何故すぐ五百円使って魔法少女倒す準備を急ぐのかね? けど言い過ぎた、ごめん。

 

 この後優子は学校で杏里に『駄菓子買い放題だよ』と唆され、駄菓子を食べた後のゴミで魔法少女倒そうかと考えだしました。ゴミで人倒せるなら凶器扱いされてゴミの危険視と徹底的排除が求められるわ。つーか優子の意思、弱くね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 校舎に入ればロッカールームにてすぐさま千代田桃に遭遇した俺達。そこで俺と優子は彼女から貰ったスポドリのボトルを返却することにした。借りたものはちゃんと返す、これ常識ね。

 

 

「え……ありがとう。別によかったのに、すぐ返さなくても」

 

「そういうわけにはいきません! 魔法少女からほいほい借り物をしているようでは、立派な魔族にはなれませんのでね!」

 

「俺はそもそも渡されるとは思わなかったし、受け取るはずのないものを借りたままにしておくのはちょっと気が引けると思ったからな」

 

 

 あの時は優子が原作以上の疲労していた時のために用意しておいたスポドリがあって、ランニング後にそれを飲もうとしたんだよ俺。けど先に千代田桃が自作のヤツを渡してきて、つい貰っちまったよ。他人からの施しに弱いのかな、俺……?

 

 

「えらいね、シャミ子も白哉くんも。あっ、じゃあシャミ子。昨日白哉くんから借りた電車代は返したの? 六百五十円」

 

「………………五百円なら今返せそうです」

 

「あっ、余計な事聞いちゃった⁉︎ ……ごめんね」

 

 

 そう来たか。原作とは違って俺が電車代出したから貸してないと来たら俺に電車代返してあげてと言ってきたか。『借りパクまぞく』はダメだよと言いたいのかお前は。確かに借りたままってのは良くないけど、言い方。あ、『借りパクまぞく』ってのは俺が今付けた名前か。

 

 

「……いや俺、別に返して貰う気なんて一切ないから。優子は気にせんといて」

 

「む、無理するなー‼︎ 使うはずのないとこでお金使うのは不本意でしょう‼︎ 後で百五十円も返します‼︎ 大人しくまずはこの五百円をお納めやがれです‼︎」

 

「無理してんのお前だから。それにアレは使い道のない分の金だから。だからいらないって。大丈夫だって」

 

 

 千代田桃の悪戯心のある煽りのせいとはいえ、優子の奴、無理して返そうとしてんな。借りたものは必ず返そうとするのは良い事だけど、無理してやるものでもないぞ。

 

 ホラ、めっちゃ涙出とるやん。後悔しさのあまりなのか震えとるし。だから無理すんなって。いらんってマジで。はよ五百円とそれを入れたポリ袋財布しまえや、今すぐに。渡されるこちらも気が気じゃないんだよ。

 

 ……こんなに無理してまで優しさ貫こうとしてるのに、ホントに自覚系ヤンデレ化してしまった主人公なの?

 

 

「ちよももさん。この子の家、色々あってぼんびーなんです。だから目汁まみれなんす」

 

「……じゃあせめて十回払いにしたら? 月々六十五円で」

 

「そこは債務者である優子が決めることだぞ……いや、ここは払わさせられることになったこちらが決めとく」

 

 

 いい加減次の原作イベントに向かわないとなんか困るし、俺に金返そうとして優子が悩むのも癪に障りそうで嫌だ。ただでさえ優子は自分のヤンデレな性格に悩んでるってのに、これ以上悩まれて精神病んでもらっちゃこの後が困る。だからはっきり言っておかないと。

 

 

「いいか優子、よく聞け」

 

「は、はい?」

 

「あの電車代、アレは()()()()()()()()()()()()()()()()。それにあの時も『電車代は俺が出しとく』と言っただけで、『貸してやる』とは一言も言ってない。だからあの件で俺が金を返してもらう必要もないし、お前が俺に返すべきものは一つもない。だから気にすんな」

 

 

 よし、これなら優子も俺に借りパクしたなんて思わずに済むはず。元から彼女の電車代払うつもりで事前に用意したものだし、別に間違ったことは言ってないしそんな行動もしてないはずだ、うん。

 

 

「えっ……で、でも 「了承せずこれ以上この話題を長引かせる気なら、月五百円のお小遣いを毎月要求するからな」 えっ……ラ、ラジャー‼︎ お気遣い感謝します‼︎」

 

 

 結局脅迫する形で納得させちまった……。貧困者に金の脅迫は弱い、はっきりわかんだね。でもこれだと完全に納得してくれた、とは言えないな。どうしたら優子も納得してくれるか。うーん、困った……

 

 お、そうだ。

 

 

「その代わりと言っちゃなんだが、今月のお小遣いを使って何かしらのアイデアを探ってみたらどうだ? 闘いのための」

 

 

 とりま変わった展開で原作イベントへの並行をさせてもらうとしますか。

 

 

「へ? でも白哉さん、登校の時は『貯めといた方がいい』と仰ってたんじゃ……」

 

「初アップとなる初月ぐらい使ってもいいだろ? それに何事も経験だって言うし」

 

 

 確かに俺も最初は金を貯めるべきだとは言った。けどやっぱ原作でもあったイベントを見たいってのもあるし、最も優子には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは、原作知識を持ってしても今まで成し遂げてあげられなかった、俺の本心なんだ。

 

 ん? 俺に鍛えてもらったから少しはその体験が出来たのでは、だって? いや吉田家の金銭の問題もあったから中々、ね?

 

 ちなみに中学の修学旅行は楽しんでもらってましたよ? 運良く体調が悪くなったりもせずに。

 

 

「白哉の言う通り、いい経験になるんじゃない? 五百円だけでも使い方次第ではちよももの強さに一歩近づけるよ」

 

「使い方次第で……なるほど‼︎」

 

「そういう事。というわけで放課後、一緒にショッピングセンター行って早速五百円で打倒魔法少女になりそうなもの探そうぜ」

 

「そうですね! 早速放課後実行に移しましょう‼︎」

 

 

 ヨシッ‼︎(現場猫風) 杏里の意見のおかげもあってか、優子もようやく納得してくれた。これで放課後に五百円使う機会が作れたぞ。優子もいい経験ができる。原作通り(計画通り風)

 

 

 

 

「アイデア探しッスか……何時に集まるッスか? 俺も同行するッス」

 

 

 

 

 ん? この口調が『ッス』の男の声……アイツか。

 

 

「花○い……じゃねーや、全臓」

 

「誰ッスか花○院って」

 

 

 声がする方向を見れば、そこには黒縁のスクエア型の眼鏡を掛けた、襟足をゴムで纏めている紫色の髪の青年が。

 

 こいつは伊賀山 全臓。俺達のクラスメイト男子で……訳あってこの町にいるならば原作でも出れば目立つはずの男だ。

 

 

「……誰?」

 

「あ、ちよももは初対面だっけ。彼は伊賀山 全臓。簡潔に言えば……重度の我流忍法? を使う忍者オタク……というよりは忍法オタクだよ」

 

「オタクとは何スか。せめて愛好家と呼んでほしいッスよ」

 

 

 そう、この男は忍者にではなく、忍者が昔使用していた忍法に対する愛がすごいのだ。アニメや漫画に出た忍者の使う忍法に飽き足らず、歴史の資料から変化の術や火遁の術などについて調べたこともあるのだとか。

 

 ちなみに中学の自由研究でも、忍法に関することを纏めたら皆から注目を浴びたそうです。まぁみんな実際に忍法とか見たことがないし、大抵はアニメやゲームぐらいでしか忍法を知らなかったみたいだから、仕方ないと言っちゃ仕方ないと仕方ないけど。

 

 

「えっ? 忍法使えるの? 本当に? 他の魔法少女の魔法なら見たことあるけど、忍法は見たことないかも。一つ見せてくれないかな?」

 

 

 お? 千代田桃が忍法に喰いついた。魔法ならともかく忍法なんて絶対見れない代物だから、実際に使える奴がいたら注目しちゃうよね、わかる。

 

 いや、魔法も普通実際に見れるものじゃないけど。つーか俺はまだ魔法すらも見てないけど。

 

 

「……言っておくッスが、俺は必要のない時に忍法はあまり使わないつもりでいるッス。だから今は俺が忍法を使えるどうかは、信じようが信じなかろうが個人の判断で──」

 

「あっ。全臓くん、足元にゴ……」

 

 

 

 

「ギャアアアアアアアアア忍法・害虫駆除向け捕獲畳ィィィィィィィィィッ‼︎」

 

 

 

 

 なんか全臓が忍法を無闇に見せないとか言いながら、優子の言葉で何かに反応、素早く両手で何かしらの形を数回作ってから右手を床に叩きつけた。

 

 するとどうだろうか。全臓の前方左右から木製の床なのに小さな畳が浮いて出てきて、間に小さい何かを勢いよく挟んだではないか。

 

 これが全臓の使える忍法・害虫駆除向け捕獲畳だ。たとえ畳でなかろうが、地面さえあればそこからどういう原理かは知らんけど畳を呼び出し、その間にある虫などの小さな物体を挟み込むことが出来るのだ。

 

 ちなみに捕獲量は様々な物体の大きさに合わせた種類のものがあるらしく、全臓はそれらを全て覚えているとか……

 

 あ、ついでに言っておくが、全臓が今この忍法で潰したのは……ただの丸められた紙だった。どうやらコイツは足元にゴキ……じゃなくて害虫Gがいると思って忍法を使ったんだろう。それをただの紙だと知って羞恥心で顔赤くなってる。

 

 

「……シャミ子ちゃん。主語……ゴミという言葉を先に言ってほしかったッス。おかげで無闇に見せないと言いながら見せてしまったッスよ、忍法の一つを……」

 

「あっ、それは……ごめんなさいでした」

 

「……俺が新しい忍法習得の応用になりそうと思ったものを一つ、誰かが奢ってくれたら、皆許してあげるッス」

 

「アレ? これ私達も連帯責任負わされてる? 忍法の事、聞かなきゃ良かった?」

 

 

 あーもう完全に警戒してる猫みたいな眼光してるよこいつ。完全にお怒りだよ。昔忍者が使用ものではないとはいえ、忍法は戦国時代ら辺から使われていたものだからか、それを日常的に使いたくない性分してるからな、怒るのも無理ないな。

 

 まぁそういうわけで、このオリジナル忍法大好きなオリ男の全臓もこの後ショッピングセンターに同行する事になりましたー。途中から説明とか色々放棄してしまった。すまぬ。

 

 

「……って、今更気づいたけど忍法って何⁉︎ 全臓くん、今までそんなもの披露してませんでしたし、その話もしてませんでしたよね⁉︎ い、いつの間にか私のクラスメイトにも魔法少女と同格の者が……。私の魔族としての立ち位置が……」

 

 

 ……優子、強く生きろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、ショッピングセンターマルマ。ここで優子の武器になりそうなものを探すことに。本人はここを宝船か何かかと言うが、まぁ金欠な人ならそういう反応するわな。

 

 ちなみに何か奢ってもらう事になった全臓はともかく、何故桃まで同行してるのかと言うと、優子が若干思考がズレてるため予算をフルに使ってビックリする程の失敗作を作りそうで心配だから……だそうだ。優しいのか失礼な事考えてるのか分からんな。

 

 とりあえず武器になりそうなものは色々探してみることにした。けど釣竿とか金属製の野球バットとか相変わらず五百円では買えない代物ばかりが目に入ってしまい、中々どれを買えばいいのかという判断が出来ない。

 

 いや、これは優子視点だけじゃなくて俺視点でもあるからな? いやマジで。武器となると思わず実践的なヤツとかそういうのをつい見ちゃって……

 

 ………………つーか……

 

 

「全臓、お前奢ってもらうヤツがアイスでホントによかったのか? ○ーゲン○ッツの期間限定のヤツとはいえ、もっと他に奢ってもらうべきものあるんじゃ……」

 

「今ここで手に入れないと中々食べられないッスよ、ティラミス味の○ーゲン○ッツ。それに、忍法のアイデアとなるものは見ただけで得られたので、買う必要なんてなかったッス。というか今までのアイデア探しでも参考になるものを実際に買った覚えがなかったッス」

 

「なんじゃそりゃ……」

 

 

 アイデアとなるものは何か見て考察するだけじゃなくて、実用性に適応出来るように調整するために練習に使うべきだよな? それをやらずに今まで忍法習得に繋いだってことは、結構時間かかったんじゃ? いや、どうやって忍法を習得するのかなんて知らんけど。

 

 何はともあれ、全臓がショッピングセンターの中でとても高額なヤツを要求しなくて安堵してしまった自分がいるため、何に安心してんだって言い聞かせなきゃ。

 

 ……あ、フードコートにニューオープンしたうどん屋が。

 

 

 

 

 

 

 むぅ、武器たちがこれ程高いものたちばかりだったとは……。千円、二千円、三千円……何故武器となるものはどれも富豪者しか買えそうにない値段ばかりなのですか⁉︎ 五百円しか持てない貧乏人の武器はわりばしでっぽうしか持てないと言うのかー‼︎

 

 貧富差別か⁉︎ 貧富差別か何か……いや、それはないですね。多分。現地で持ってくる金額の差とかですねこれは。流石に五百円で良さげな武器を買えるなんて難しいですよね普通は。

 

 というか全臓くん、新しい忍法習得のアイデアになりそうなものを誰か奢れとか言いながら、結局アイスを白哉さんに買ってもらってますが……アイデアは? ○ーゲン○ッツめっちゃ美味しそうなんですけど。

 

 ……アレ? なんだろう……何故か全臓くんにも嫉妬しそうな自分がいる。さっき○ーゲン○ッツ食べているところを見た時よりも、忍法が使える事を知った時よりも、胸がチクチクするしすごく締め付けられている気分……

 

 この痛み、よく感じていたものと一緒だ。白哉さんが他の女の子に絡まれたのを見た時と同じです。全臓くんは男なのに、ただただくだらない話を白哉さんと肩を並べて話してるだけなのに、なんでこんな感情を……

 

 いや考えすぎだシャドウミストレス優子‼︎ 白哉さんも全臓くんも悪意があって仲良く話し合ってるわけじゃないし、第一男同士‼︎ いくらなんでも白哉さんの男友達に対しても恋愛的嫉妬を抱くなんてどうかしてる‼︎ 今は武器探しに集中……集中……

 

 

「……いっぱい歩いたり考えたりしてたらお腹が空きました」

 

 

 あ、思わず空腹である事を口にしてしまいました……

 

 あっ、向こうの食べ物がいっぱい並んでるところからすごいダシの匂いが。

 

 

「シャミ子、フードコートリニューアルだって」

 

「やめてください……‼︎」

 

「最近のセルフうどんは美味しい」

 

「やめて‼︎」

 

 

 何この地獄の挟み撃ちは⁉︎ 杏里ちゃん(しんゆう)からも魔法少女(しゅくてき)からも悪魔の囁きをかけてくるんですが⁉︎ 天使は⁉︎ 天使の囁きはないのですか⁉︎

 

 

「おいお前ら、あんまり優子を煽るんじゃ……」

 

「平地くん。このうどん屋さん、月見うどんも売ってるらしいッスよ」

 

「えっ、マジで? めっさ食いてぇ……あっ」

 

「今この場に天使はいなかった‼︎」

 

 

 幼馴染も無自覚悪魔だった‼︎ まぞくよりもタチが悪い気がする‼︎ こ、心の風が私の踏ん張りを妨害する……‼︎

 

 

「行きませんよフードコートなんて‼︎ 無暗にオシャレでアイスとかうどんとか美味しい割にお腹に溜まらないものばかりなんでしょ‼︎ 絶対行きたい‼︎ あっ間違った‼︎ 絶対行きません‼︎ 心の風が‼︎ 白哉さん‼︎ 杏里ちゃん‼︎ 全臓くん‼︎ 桃‼︎ 私を止めてください‼︎」

 

 

 あぁヤバいヤバいヤバいヤバい、あまりのダシの匂いの良さに私の心が歪む‼︎ 全臓くんに向けるべきじゃなかった嫉妬のオーラが出て行ったとはいえ、今度は欲望のスイッチが起動しかけてる‼︎ 武器を買わないといけないのに、こんなところで出費をかけるわけには……‼︎

 

 

「………………アイデア出すのには頭を使うだろ? 空腹だと腹を膨らます事も考えちゃって、頭が正常に働かないぞ」

 

「えっ……あっ、なるほど!」

 

「行動のための糧食(レーション)は経費で落とせるのでは?」

 

「なるほど!」

 

「天ぷらやおにぎりは自分で取ってくんだよ!」

 

「なるほど‼︎」

 

「天かすとネギはどれだけ入れてもタダッスよ」

 

「なるほど‼︎………………って、アレ?」

 

 

 ……あっ、結局うどんとちくわ天と鮭おにぎりで三百八十円も使ってしまった……結局桃だけでなく皆に唆された……さては貴様ら桃の刺客か⁉︎

 

 ぐぬ……何故こんなことに──ハッ‼︎ もしやこれも魔法少女の陰謀か⁉︎ 私をフードコート中毒にして、経済力という牙を抜こうとしているのか⁉︎ その手には乗りません‼︎

 

 

「シャミ子もかしわ天食べる? 美味しいよ」

 

「……ちくわと交換で良ければ」

 

 

 企みとかそういった事を考えてないような微笑みを向けていた……。桃の真意が分からない……

 

 アレ? さっきまでちくわ天を取り出して何も乗らなくなった皿に、何故かえび天が……

 

 

「優子、それやるよ」

 

「えっ、これ白哉さんが置いたものですか⁉︎ なんで⁉︎」

 

「ほら、お前本当は武器を買うつもりだったんだけど、俺達に合わせてこうやって一緒にうどん食べてくれてるだろ? その頑張りを讃えて細やかな……的な?」

 

 

 『言葉の歯車に乗せられた』の間違いですよ……そして貴方もその戦犯の一人に入って……

 

 

「打倒魔法少女対策の武器探しもいい。けど、偶にはこうやって友達と和気藹々するのもいいだろ? 先祖返り前は、こんなことあまり出来なかったじゃないか」

 

「あっ……」

 

 

 そうだった……私、貧乏で体が弱かったから、皆でフードコートでご飯食べたりなんてしてなかった……。もしかして皆、私にこの状況を楽しんでもらうために……?

 

 いや、桃は多分違う事を考えてやってると思う。私の家庭の事とか今日まで知らなかったし、私が体弱いって事もまだ知らないし。

 

 

「だからさ、今この時だけでも体験しておこうぜ? これまで出来なかった学生同士による青春ってヤツをさ」

 

「……そうですね、この時ぐらいはやれなかった事をやってもバチは当たりませんよね」

 

 

 何はともあれ、せっかくの機会だ。私もこの時ぐらいは色々忘れて楽しまないと。そう思いながらうどんを食べていると、何故か白哉さん達が楽しく談義してる小人さんに見えてきた。何このメルヘンチックは?

 

 

 

 

 

 

 あの後うどんはつゆまで飲み干して完食しました。うどん、とても美味しかったです。天かすもたくさん入れれたし。ネギもいっぱい入れるべきだったのかな?

 

 でも…… 今月はもう割り箸鉄砲すら作れません。うどんとちくわ天と鮭おにぎりであっという間に百二十円になってしまいました。むぅ、やはりフードコートの魔と悪魔の囁きが無ければ、こんな事には……

 

 さらに追い討ちを掛けようかの如く、不意に私の目にいった全品百二十円自動販売機を見た桃が『つゆいっぱい飲んだから喉乾かない?』と言って私にジュースの購入を薦めてきた。いや馬鹿にしてるのか貴様は‼︎ もうその手には乗りませんよ‼︎ そして白哉さんと全臓くんまでさらっとブドウジュースや伊○衛門買うな‼︎ もう促されたりもしませんよ‼︎

 

 

「……でも、ちょっと安心したな」

 

 

 えっ? 杏里ちゃん、急にどうしたんですか……?

 

 

「シャミ子ってお金なさそうだし、いつも一人か白哉と二人でトコトコ帰ってたから、美味しそうに食べてるのを見て私も楽しかったよ。でも無理させてごめんね」

 

「杏里ちゃん……」

 

 

 ──そういえば、杏里ちゃんは部活で忙しいのに、帰宅部で早退も多い私に、角が生える前から何かと話しかけてくれました。もしかして気を使ってくれていたのでしょうか?

 

 よくよく考えたら私、杏里ちゃんには嫉妬の念とかを向けてなかった気がする。

 

 私が白哉さんに対する想いや私自身の愛の重さに悩んでいた時、杏里ちゃんはよく相談に乗ってくれていました。私の心境を知りながらも、排他的感情を持たないようにするにはどうすれば良いのか、白哉さんを傷つけないようにするにはどうしたら良いのか、よくアドバイスを送ってくれました。私と白哉さんの気持ちに寄り添うかのように。

 

 何故私が白哉さんに恋してるのを知っているのか、何故彼への愛が重くなりヤバくなる時がある私を気遣うのか、そう聞いてみた時も……

 

 

『よく一緒にいた仲だからなー、何となく優子が恋に溺れてるんだって顔で分かっちゃうよ』

 

『ヤバくなってるところは見たことないし噂で聞いたこともないなー……ってか優子ヤバくなる時あるの? 怖っ』

 

『でも、そうやって友人が困ってる時は、そいつに手を差し伸べたくなるじゃん。ホントにヤバくなりそうだったらいつでも言ってよ、少しは力になってあげるから』

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()。そう言う彼女の顔は、何の偽りもないとても良い笑顔を浮かべていた。企みも無理強いしてる感じもなかった。

 

 ただ真面目に、ただ純粋に、私や白哉さんの事を思ってくれていた。その純粋な優しさにも助けられたからこそ、私は杏里ちゃんに嫉妬や勘違いをしなくて済んだんだ。

 

 だったら………………よし。

 

 おりゃー‼︎ コーラ購入‼︎ からの一気飲み〜〜〜‼︎……ゲホッ……ゴホッゲホッゲホホッ‼︎ ゲ~ップ……

 

 

「はっきり言って、私も楽しかったです……ケプッ! 杏里ちゃんの頼みならば、ケプッ。来月も行っちゃいますケプッ‼︎」

 

「ホント⁉︎ ありがとー……でも色々無理すんな‼︎」

 

「……優子、やっぱりお前は俺以外にも優しいな。安心したよ、ホント」

 

 

 ……なんか、私の事を色々と心配してくれてる白哉さんの為にもやっているような感じになって恥ずかしかったのですが、違いますからね? これは自分の意思でやったんですからね? ホントですよ?

 

 結局今月の所持金はゼロになってしまいましたけど、正直喉が乾いたから別にいいですよね。寧ろ私、白哉さんだけじゃなく杏里ちゃんにも気を使わせまくってたことに気付きましたし。

 

 ──よし、決めた。これからはもっと色々気付ける魔族になります。こういった集団行動が後々私の戦いの糧に……今後の私の未来への架け橋になっていくんです。多分。

 

 様々な経験をしていけば、こんなにも体や心が弱くただ愛が重いだけの私だって、世界を大きく回す程に成長していけるはず……

 

 

「……あっ」

 

 

 ん? 桃が何かに気づいたみたいですね。一体どうしたと……

 

 

 

 あ、無料水飲み場………………

 

 

 

「……これで勝ったと思うなよー‼︎

 

「えっ、私?」

 

 

 さすがに今回は魔法少女にとばっちりを与えてしまいました……。けど次からは……‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるでチェス盤のような白黒の市松模様の床が広がり、壁も天井も無いように見える薄暗い空間。ベッド、タンス、本棚などといった最低限の家具が備わっている、部屋のデザインを除けば一般家庭の自室と変わりない部屋だ。

 

 だが一般家庭の部屋とは異なる部分が、デザインの他にもう一つある。それは、家具の大きさだ。ベッドの横幅は()()()()()もあり、タンスも縦幅が同じ()()()()()。本棚に至っては少し長い()()()()()もあり、そこに収納されている本も()()()()()はある。テレビに至っては縦幅()()()()()で横幅は()()()()()、正に映画館にいるかのようだ。どれだけ長くて文章も挿絵も多そうな本なんだか。

 

 そんな家具が何もかも巨大な部屋の中、映画館スクリーン並のそのテレビに映し出されている映像を見つめている者がいた。

 

 しかもその映像は、なんと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

【ふーん……。ここまで彼の様子を見てきたけど、今のところは修羅場とかはないらしいな。きちんと回避出来てる】

 

 

 どこかだらけている様な、気の抜けた男の声が聞こえてくる。どうやらその声の持ち主が今の白哉達の様子を、テレビ越しに見つめているらしい。

 

 ここで疑問点が浮かぶ。白哉達のこの行動をテレビ越しで見ているとなると、事前に彼等に尾行してビデオ盗撮するというストーカーを行為をしているに違いない。目的は分からないが、先程の考察だと犯罪の匂いが強くて仕方がない。その事実を白哉達が知ってしまえばどんな反応を見せるのか、想像がつかないわけではない。

 

 しかし、だ。盗撮したにしては違和感が強すぎる。白哉やシャミ子のみが映し出された場面もあれば、上から映されている場面もあり、偶に現実にはないキラキラと輝く演出までされている場面もある。そしてそれらの場面がアニメやドラマの様に綺麗に切り替わっているのだ。

 

 

【あらら、この魔族さん飲み物代無駄にしたことを魔法少女のせいにしちゃってる。あ、映像終わった】

 

 

 そんな違和感などお構いなしに、男は映し出された映像の最後の感想を呟き、映像が停止した事を確認すれば、()()()()()もあるリモコンの電源ボタンを押した。

 

 

【……よし、これで平地白哉とやらが今日まで何してたのか把握完了。後は会って話をするだけだな。いやぁ、会うのが楽しみになってきた。そんじゃ、おやすみー】

 

 

 男はそう言って何かに期待を膨らませ、クスクスと小さな笑い声を上げた。そして……

 

 

 

 ()()()()()()()()()()一つ欠伸をし、ベッドの上に乗れば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのまま眠りについたのだった。

 

 




はい、というわけで二人目のオリ男・忍法が使えるという、なんちゃって忍者の伊賀山全臓くんの初登場回でしたー‼︎ さすがにオリ男が白哉くんだけってのは、なんか後味が悪いもので……

というか最後に出てきた奴、一体何の龍なんだ……(すっとぼけ) とりあえず最後のオリキャラは次回白哉くんと邂逅する形で判明されますので、どうぞお楽しみに‼︎

おまけ:めるめーかーで作った伊賀山全蔵くん
【挿絵表示】


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▼神様から転生特典が送られてきた‼︎ ……いや、今更かよ? 唐突な二度目の転生かと思ったぞ

※投稿する時間や皆様の都合を考慮して再投稿したものです。ご了承ください。

編集ペースが遅くなって不安になってきたので初投稿です。

寝落ちとか別名でのYoutube動画投稿とかもあるので、中々ペースが……

とりあえず週一投稿で何とか最新話のストックを溜めていく予定なのであしからず。

大抵のストーリー案もたくさん浮かんでいるので、ネタにも困ることはない……と思う。

そして今回、白哉君がついに……⁉︎ サブタイトル見れば彼の身に何が起こるのか分かると思いますが、最後まで見てってね。


 

【───い。───ろーい。起きろーい。グッモーニーング? いや、ここはアレかな? 目覚めよ、選ばれし者よー】

 

 

 ん……? なんだ? このだらけきった声は? 誰が発しているんだ? というかふざけてる感じがして起こそうとしてるのか分からんのだけど。なんか喧しいな、静かにしてくれないかな……。こっちまだ眠いんですけど。

 

 

【おー、意識の方はちゃんと目覚めてるな。おーい、聞こえるかー? こっちはお前の心の声が聞こえるぞー】

 

 

 そうですか、俺の心の声が聞こえるんですか。だったらもうちょっと静かにしていただけません? 俺まだ眠いんで……

 

 ………………ん? 俺の心の声が、聞こえる? えっ、ウソ? マジで? ……いや、気のせいだな。これきっと幻聴……

 

 

【ウソじゃないぞー。マジで聞こえるぞー。これも幻聴じゃないぞー。ちゃんと自分の口からお前に聞こえるように発してるぞー】

 

 

 そっかー。ちゃんと俺の耳に響いてるんだー。そっかー。そうなのかー。

 

 ………………………………

 

 えっ? 聞こえる? 他人の声が? しかも俺の脳内を聞ける?

 

 ………………………………

 

 

「マジでェェェェェェェェェッ⁉︎」

 

【お、やっと起きたか。おはよー】

 

「えっ、あっ。お、おはようございます……?」

 

 

 あー……。心の声読まれてるってのに気づいて思わず起き上がったけど、なんだ夢か。そりゃそうだよな、心の声なんてそう簡単に他人に読まれるわけないもんな。あーよかった……

 

 ん? ちょっと待って。起きたのに知らない男の声がまだ聞こえてくるんだけど。思わず返事しちゃったんだけど。今どうなってんの俺の部屋。鍵はきちんと掛けたはずなのに、なんで知らない男が入ってきて……

 

 アレ? 俺の部屋の壁、こんなに黒かったっけ? にしてはそれ以外は結構明るい……

 

 そしてなんか、二足歩行っぽくて鱗がめっちゃ体中にある白い体のドラゴンがいる………………

 

 えっ? ドラゴン……?

 

 ………………………………

 

 

「えぇぇぇぇぇ⁉ ここどこぉ!? つーかなんで目の前にドラゴンンンンンンンンン⁉」

 

【あらら、予想通りの反応してくれちゃってまぁ】

 

 

 つーかさっきの声、ドラゴンが喋ってたの⁉︎ つーか喋れたの⁉︎ しかもよく聞いたら、一週間程前に何処かから聞こえてただらけきった声と同じじゃん⁉︎ 何これ、正夢⁉︎

 

 もしやここ、転生モノ小説がアニメした時によくある『貴方はここで死んでしまいました』みたいな場面とかで使われるところォ⁉︎

 

 えっちょっと待って、俺一回転生したんですけど。まちカドの世界に転生したんですけど。突然二度目の転生だなんて聞いてないんですけどォォォッ⁉︎

 

 

【落ち着けって、お前はまだ死んでないから。まちカドの世界でちゃんとピンピンしてるから。ここ夢の世界だから】

 

 

 ……あっ、俺まだ死んでないんですね。よかったぁ〜……。もし本当に死んでたら、優子達がどう思うのか……

 

 ちょっと待って。じゃあなんで俺はこんなところで寝てるんだ? 俺、ちゃんと自分の部屋で寝てるよな?

 

 

【とりあえず自己紹介させてもらうわー。俺は白龍。お前を転生させたじーさん神様に頼まれて、お前の魂の中に入らせてもらってる】

 

 

 ちゃんとドラゴンの姿らしく、名前に『龍』と書いてありますね。わかりやすいですありがとうございます。ってか話しかけてるのに猫みたいに後ろ足で顔掻かないでくれません?

 

 ………………ん? ちょいと待ち? 今、なんか聞き捨てならない事聞いたような……

 

 

「すみません、今『俺を転生させた』と言いましたか?」

 

【おう、言ったぞ】

 

「じゃ、じゃあなんで俺が転生したって分かるんですか……? というか『じーさん神様』というワードも聞こえたんですが……」

 

【なんで分かるんだって………………

 

 

 

 俺がじーさん神様によってお前に与えられた転生特典の()()だからに決まってるっしょ】

 

 

 

「………………はあああああああああっ⁉︎」

 

【うっ○ぇうっ○ぇうっ○ぇわ♪】

 

「いや俺の叫びから歌に繋げないでくれます⁉︎ つーかマイペースだなオイ⁉︎」

 

 

 というかマジ⁉︎ 転生して何年か経ってやっと転生特典が送られるってマジ⁉︎ 今更すぎない⁉︎ 普通転生させる前に与えるものじゃないの転生特典って⁉︎ 何年か掛けてやっと送られるって、もし俺が死亡フラグの多い世界に転生して、転生特典をもらう前に死んでたら元も子もないじゃん⁉︎ どうしてくれんの⁉︎

 

 

【いや、これにはワケがあってだな? とりあえず落ち着いて聞いてくれ】バリボリ

 

 

 落ち着けと言いながらポテチ食べないでくれません? 腹立つんですけど。というかポテチの袋の長さ三メートルもあるじゃん。何処で売ってんのそれ?

 

 ……いや、けどドラゴン──白龍さん? 白龍様? の言う通り、確かに今は冷静になるべきだ。焦ったりムカついたりしても話が進まないだけだ。深呼吸……深呼吸……スゥ……フゥ……よし、落ち着いた。

 

 

「すみません、どうぞ詳しく教えてください。えっと……白龍様?」

 

【おう。とりあえずまずは、何故俺という転生特典が今になって送られてきたのかについてだな……ポテチ食うか?】

 

 

 いやポテチ一枚の直径長くね? 三十センチの定規程デカいじゃん。首振って遠慮しとこ。

 

 

【何故俺という転生特典が今になって送られたのか……単刀直入に言えば、じーさん神様のミスだな】

 

「ミス? どういう事ですか? 本当は転生特典を俺に送る予定ではなかった、と?」

 

【そういう事じゃなくて、じーさん神様が俺をお前の魂に入れる前に、誤ってお前を特典付与せずにそのままこの世界に転生させちゃったってワケ】

 

 

 あ、あぁ……所謂ケアレスミスってヤツか。というかじーさん神様が俺を転生させたって事は、俺はその神様に出会う事なく勝手(?)に転生させられたって事か。

 

 

「けどちょっと待ってください? さっきも思ったんですけど、転生特典って普通転生される前にもらうものだったと思います。どうやって転生された後の者に転生特典を与えるのですか?」

 

【前世での死因が不遇ならば、転生先でも転生者が想像以上の危険な目に遭っていると判断されれば、転生特典の付与・追加を神様の魔法が自動的に与えてくれるシステムとなっているんだ。まぁお前の場合、じーさん神様が転倒した弾みでお前を転生させてしまったせいで、どこに転生したのか探すのに結構苦労したらしい。この世界が命の危機に遭う可能性が少ない世界だったのが不幸中の幸いだったが、もしも逆だったとしたらと……と、じーさん神様は今となってもゾッとした寒気に襲われてガクガク震えてるそうだ】

 

「それは……ご愁傷様です……」

 

 

 転生特典を渡す経緯、条件さえ満たせば容易なものだったんだな……

 

 つーか神様、よっぽど自分のミスで転生者っつーか俺がまた死んでしまうのを恐れてたんだな……。けど、俺みたいな一個人の事を心配してくれるなんて……嬉しいけど、なんか複雑だな。

 

 

【怒らないんだな、お前の転生をミスった神様に】

 

「正直、俺は神様によって転生されてたんだっていう実感が湧かなくて……というよりは何年も経ったことで、自分が転生したからどうとかってのはもう吹っ切れました」

 

【そっか……】

 

 

 だって俺、転生する前に神様に会ってないんだもん。仕事帰りに事故に遭って、いきなり小学生の頃の白哉(かれ)に魂が移ったんだもん。本当に唐突な転生だったんだもん。

 

 けどその転生先がこの俺の知ってる原作の世界だったから、色々な不安が一旦全部飛んでったのよ。だからなんか『大丈夫だな』って思えてきたんだよ。

 

 まぁ、その後にかなりの不安要素を自分で作ってしまったんだけれども。今はほんの少しだけ安定したけども。

 

 

「ところで、貴方が俺の転生特典だとか言っているんですが、貴方が俺の魂に入ると俺の身にどんな事が起きるんですか?」

 

 

 何はともあれ、今は白龍様が俺の魂の中に入った事によるメリットとデメリットについて聞かないとな。これから先、夢の世界でのバトルとか現実世界でのファンタジーな事件との絡みが生じるのだから、そこで上手く生き延びてやりたいんだよ俺は。だから白龍様の事とか今の俺が得た能力とか、色々と把握しておきたい。

 

 

【そうだな………………召喚師になれて、俺や様々な能力を持った架空の動物を召喚できるぞ】

 

 

 様々な能力を持った動物の召喚……? 何その妖○ウォッ○の要素とかドラ○エの要素とかなどが混ざったような夢の能力は⁉︎ 異世界からモンスターが呼べるってか⁉︎ しかも白龍も呼べる⁉︎ いきなりチート系なのが手に入ったんだが⁉︎ これってアレ⁉︎ 強くてニューゲームってヤツか⁉︎ いや、強くてニューゲームの意味は知らんけど……

 

 

【召喚師のなり方は後々教えるけど、俺の場合はでふぉるめな感じの姿ならば召喚師にならずとも『白龍、でふぉるめ召喚』みたいな軽い感じで呼べる】

 

 

 あ、負担がめっちゃ少ない召喚術もあるんだ。これはまた優しい。

 

 

【後、自分の意志で俺に体を貸したり無理矢理返してもらったりする事ができるぞ。何かしら誤魔化したり強者の雰囲気を少しでも出したいって時などには、一時的に俺に体を貸して、一通り済んだら返してもらうって事も可能だ。ちなみに俺が無理矢理お前の体を奪い取る事は無理だけどな】

 

「な、なんてホワイトな人格を入れ替える能力……」

 

 

 嘘だろ、俺の意志で白龍様と体や魂を共有できるだって……⁉︎ 優子とそのご先祖様も体の貸し借りができるけど、条件付きだしご先祖様の意志でないと優子は体を返してもらえないってのに……

 

 なんか、優子がこの事実を知ったら複雑な思いを持ってしまうだろうな……

 

 

【さらにもう一つの能力があるんだが……()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ? そ、それはどういう……」

 

【分からん。一応今のお前さんが使える能力等のデータが見れるタスクバーを調べてみたんだが、三つ目の転生特典のスロットが黒く塗り潰されてるんだよ。そのせいなのか、俺もそれがどんな能力なのかという知識を吹っ飛ばされた】

 

 

 えぇ、それはどういうことですか……? 何故か使えない状態だから白龍様の記憶からもその特典の記憶を消されるとか……。気になる……三つ目の特典がどんなものなのか知りたかった……。とりあえず俺がゲームのレベルアップみたいに成長すれば、それはお披露目になるのか?

 

 つーかレベルアップってどうやるっての? 意味がわかんねー……

 

 というかタスクバーって……ゲームか何かですかタスクバーって。

 

 

「うーん……とりあえずその三つ目は、神様から与えられた何かしらの試練を得て手に入れられるって解釈で捉えますね。現段階でなら、能力は二つだけでも大丈夫だと思うので」

 

【ん? そっか】

 

 

 別に三つ目の能力を使えるようになりたいとか、そんな欲がないわけではない。けど、召喚術が使えてその動物達のサポートを受けられるとか、任意で白龍様に俺が黙ってたいことを誤魔化してくれるとか、そういったことが出来るだけでもこの後の物語でそれほど苦にはならないはずだ。きっと。

 

 

【ま、お前が転生特典の事でこれ以上何も言わないなら、俺もそこまで言及しないよ】

 

「わかりました」

 

【んじゃ……最後に聞かせてもらおうかな】

 

「? 何でしょうか?」

 

 

 聞きたい事? それは一体? この世界に転生して何があったのかとか、そんな事を聞きたいのかな? まぁ今日か昨日俺の魂に憑依したようなものだし、聞いてくるのも無理はないけど……

 

 

【お前、正直に言ってあのまぞくの事を……イタッ】

 

「えっ?」

 

 

 ちょ、何? 上には何もないのになんか白龍様が叩かれたかのように頭を下げたんだけど。しかも叩かれた後のように後頭部擦ってんだけど。一体何があったというんですか? というかまぞくがどうこうって言いそうになってるの、気になるんですけど。

 

 

【ちょ、オイオイ、今質問してるところだろうが。やめろって、夢の世界の外からバシバシ叩くなって。えっ、何? もう今日ここで話せる時間が残り少ない? オイオイマジかよ、次こうやって話せるの遅くても二・三週間かかるかもしれないってのに……】

 

 

 あ、ここやっぱり夢の世界なんだ。それもリリスさんみたいに好きな時間滞在できるわけじゃないんだ。

 

 というか俺が寝てる間、誰が外の現実世界からどうやって白龍様の頭を叩いてるんだ? 俺、一応部屋の鍵掛けてるよな? 吉田家に誰一人合鍵渡してないよな? うぅ〜ん……どんな絡繰?

 

 

「あの……その聞きたい事って、今聞かないとダメなヤツだったりします?」

 

【あっ……いや、別に……大したことじゃないよ? 悪いね、この話はまた今度でも大丈夫かい?】

 

「えっ。あっ、まぁそちら側の都合とかもありますものね……。わかりました、また話せる機会があれば是非お願いします」

 

 

 本当はなんて言おうとしたのか結構気になるけど、白龍様にも白龍様の都合とか色々あるからな……。神様との関わりとかもあるだろうし、この続きはまた今度聞くとしよう。これ以上追求とかしてもタブーだし。

 

 ……ん? ちょっと待てよ?

 

 

「今気づいたんですけど、俺はあなたも召喚できるんでしたよね? なら現実世界でも話せるんじゃ……」

 

【現実では人間の言葉は話せないのよ俺。誰かがお前の体と相性が良い魔力とかを分け与えてくれれば、上手く人間の言葉に訳せられるんだけどな】

 

 

 あぁ……こうやって話せるのは夢の世界だからこそで、優子のご先祖様みたいに何かしらの条件がないと現界しても喋れない設定なのか。転生特典だからデメリットがないわけではないってことか……。現実世界でも白龍様と喋れたらお互い楽なんだけど、今は我慢するしかないか……

 

 

「でしたら、次話せる時が来るまで大人しく待っておきますね」

 

【そう言ってくれると助かるよ。……あ、そうだ。召喚術の仕方は先にこちらで召喚させてもらった奴が、そのやり方が書いてある紙を渡してくれるから、それに書いてある通りにやっておいてくれ。まぁ後は練習次第だけど、すぐにマスターできるぜ。そんじゃ、そろそろ起こすぞ】

 

「あっ、はい。ありがとうございます………………って眩しっ⁉︎」

 

 

 そう返事した途端、白龍様の体の鱗を中心に光り出し、一瞬にして俺の視界は白く塗り潰された。いやめっちゃ眩しすぎる⁉︎ これで失明とかしてしまったらどうするつもり………………

 

 

 

 

 

 

「───ハッ⁉︎」

 

 

 気がつけば俺は、いつの間にか横たわってた上半身を起こした。辺りをキョロキョロと見回せば、そこは質素の強い部屋──俺の部屋だった。しかも俺はパジャマを着てるし、布団も掛けている。どうやらアレは本当に夢だったらしい。

 

 

「夢、か……。そっか、夢かぁ……」

 

 

 いや、夢だからこそ先程言われたこと……白龍様が自力で召喚させた動物が俺の部屋にいるというのが本当なのか調べなければならない。この部屋は狭いのだから、動物らしきものがいればすぐに分かるはず……

 

 

【メェ〜】

 

「ん? 『メェー』?」

 

 

 なんか羊みたいな声がしたのでその声がする枕元に視線を向けた。するとそこには……

 

 黒い体の上にふわふわモフモフとしてそうな毛を纏っている全長二十センチの羊が、四本足をぐいっーと伸ばしながら、くりっとした目を輝かせてこちらを見つめていた。

 

 えっ、何この子。めっちゃ可愛いんですけど。宝庫レベルの可愛さやん。うわ、この子の毛めっちゃ柔らかそう。どうしよう、今すぐにでもモフモフしてみたい。許可取ろう、いきなりモフモフして嫌がられる前に……

 

 ん? なんか足元に白い紙を持ってる……これも夢の中で言われてたヤツだ。

 

 ってか、俺が起きるまでよく食べなかったなその紙……あ、そっか。紙食べるのは山羊の方だから、羊は紙食べないんだった。多分。あっ、山羊は確か穀物類、パン類、芋類、豆類が好物だったっけ。

 

 まぁいいや、今はまずこの羊が持ってる紙に何が書いてあるのかを見てみないと。俺の記憶力が正しければ、確か召喚術のやり方について書いてあるはず。

 

 

「ねぇ君。ちょっとそれ、貸してくれるかな?」

 

【メェ〜】スッ

 

 

 名前分からないから『君』呼びでお願いしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。えっ、嘘⁉︎ 立ち上がれるの!? やだ……この羊可愛すぎる上に賢いし神経良すぎるし凄すぎる……!!

 

 っていけないけない。せっかく渡そうとしてくれているんだから、早くそれを受け取らないと。羊にこれ以上二足歩行で立たせるのもなんか可哀想だし。

 

 で、何が書いてあるのやら……

 

 

《今あの羊からこの紙をもらったな? これでお前とも縁が出来た‼︎》

 

 

 何処ぞの縁結び妖怪ですか。何で一行目が俺が元いた世界でのネタのヤツ……

 

 

《その羊の名前はメェール。人の疲労を癒やしてくれる回復専門の召喚獣だ。ゲームでいう初級の奴だから回復量はチートじゃないし乏しいが、これから先、こいつを中心にお前を様々な方面で全力でサポートするからよろしくな》

 

 

 あ、この子メェールって言うんだ。鳴き声から名付けたのだろうけど、安直だな……。でも見た目も名前も可愛いからヨシ‼︎(現場猫風)

 

 で、回復がちょっと得意で他方面でも何かしらのサポートはしてくれると……。なるほど、冒険の序盤で仲間にするのに必須な存在ってことか。まぁ特典を手に入れたばかりの頃なら、こういった初心者向けに扱いやすい子がいると安心するし、何よりやっぱり可愛い。現実でもペットにしたくなりそう。

 

 お、次の行では召喚術の仕方や召喚師のなり方が書いてあるようだ。どれどれ……

 

 

《そして召喚の仕方だが……両手を前に翳し、『(召喚獣の名前)、召喚』と言うだけでお前の目の前にそいつが現れるよー》

 

《召喚師のなり方は……『我が名は召喚師、白哉』と言うだけでいいから。そうすれば召喚師としての魔力が増幅できるぜ》

 

《召喚出来る召喚獣達のリストはこの紙の裏面にあるからよく見てくれ。注意すべきなのは、召喚師になった時となってない時で出せる召喚獣のれぱーとりーの数だけだからな》

 

 

 ………………えっ、どっちもやり方簡単すぎね? 魔力とか召喚師の自分の姿とか、召喚獣とかをイメージしたりしなくていいの? 長い詠唱どころか詠唱そのものをしなくていいの? 白龍様も簡単に呼びやすくしていいの?『俺TUEEEE』な感じにしていいの?

 

 これも不遇な死を遂げた転生者への配偶ってヤツ? 嘘……俺今になって恵まれすぎ……‼︎

 

 いや、けど簡単に召喚や変身が出来る代わりに召喚出来るヤツのレパートリーは少ないはず。一個人にそれほど優遇が効くわけがないだろ。効いたとしても他にもいるかもしれない転生者がある意味可哀想だ。うん、出せる召喚獣は多くて十種類ぐらいのはず。

 

 さて、早速裏面見て召喚獣のリストを確認、と……

 

 

召喚獣リスト

 

メェール:初歩的な回復が得意なお世話好きの羊

ボーフ:突進攻撃が得意な熱血系の牛

ハリー:威嚇と針での防御が得意な物静かなハリネズミ

コウラン:甲羅で仲間を守るのんびり系の亀

ピッピ:スパイの訓練を積み重ねたクール系雛鳥

ピョピョン:並のビルならひとっ飛びのナルシスト系ウサギ

ハムイン・ボルタ:すばしっこく走る悪戯っ子ハムスター

ヒヒン:蹴りがめっちゃ強い兄貴格の馬

シバタ:吠えない代わりに鋭い目付きで威嚇する温厚系芝犬

クリッタ:研究好きのマイペース系パンダ

白龍:鱗がめっちゃ眩しいだらけてるドラゴン(但しデフォルメ姿で出る)

 

 

召喚師になった時にさらに呼び出せる召喚獣リスト

 

白龍:通常の姿で出る

猛虎:物体ならほぼ何でも壊せるポジティブ系メス虎

朝焼(あさやけ):仲間に飛行能力を付与出来る無口な孔雀

餓狼:本格的格ゲーみたいな攻撃をするネガティブな狼

襟奈:巨大な襟巻きで一瞬の完全防衛が可能な姉貴分エリマキトカゲ

海王:海水を生成して操る器の大きい鯨

(ひじり):氷の力を自在に操るツンデレ麒麟(♂)

凌牙:動き回って風と水の力を同時に操るちょい頑固なサメ

剛鬼:仲間を傷つけられると鬼の様に色々と強くなる心配性ゴリラ

曙:回復や状態異常の毒を使うドSっぽい蠍

 

 

 最大二十種類も出せるわ。予想よりも二倍の種類だわ。つーか白龍様の紹介文が雑。鱗が眩しいのは分かるけど、能力を教えてよ能力を。

 

 でも、この召喚獣リストは助かるな。名前は漢字の奴とそうじゃないのとで分けて、誰が召喚師にならないと呼べないのか分かりやすくしてる。しかもどの名前も独特。そしてその召喚獣達それぞれの性格や能力も簡潔に書いてある。

 

 どの召喚獣も中々面白そうなのばっかりだ。ピッピがクール系雛鳥ってのが気になるし、ハムイン・ボルタも名前だけで『何か狙ってんのか?』って思える。それと剛鬼が心配性ゴリラってのも気になる。ただ、曙という蠍がドSってのがなぁ……

 

 何はともあれ、唐突な出会いから手に入った転生特典なんだ。この力で呼び出せる仲間達と共に、この世界の物語を更なるハッピーエンドに出来るように努力の限りを尽くそう。後、彼等の誰かが優子のヤンデレが暴走しそうな時に力になってくれれば……

 

 

 

【いやマスターがその子を暴走させないようにすることが大事だメェ〜】

 

 

 

「………………いや、お前喋れたの⁉︎ しかも白龍様みたいに心読めるの⁉︎」

 

 

 たった今、メェール君のもう一つの特徴について知る事ができました。さてはこの羊、おしゃべり悟り妖怪ならぬおしゃべり悟り羊か⁉︎ キュートなのにとんでもねー羊だ……‼︎

 

 




はいというわけで、白哉君は今更ながら神様からの転生特典を受け取りましたー。召喚術……魔法少女っぽい力でまぞくに近い感じの奴を召喚できる……まちカドまぞくの二次小説と相性良くね?

ってか召喚できる動物が二十種類って、結構多くね? 全員が出るの結構時間がかかるやんこれ……

ちなみにいつか現実世界でも人間語を話したいと言う白龍様は、ワン○ースの青キ○ことク○ンに似た性格を意識してるつもりです。だらけきってるけど、どこか芯を通そうというね、そんな感じなのを出したいな考えてこのキャラに至ったってわけです。

メェール君は当小説のマスコットにしたいです‼︎ 頑張って出番が来る場面作りたい……

感想・評価の程よろしくお願いします!!

そして不死蓬莱さん、誤字報告ありがとうございます‼︎


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いい頃合いになるまでは転生特典の事は隠して……と思ったけどほぼ何もしてないのにバレました。

前回出した羊のメェール君が個人的に可愛かったのに前回感想もらえなかったので初投稿です。

絵が上手ければ、メェール君のイラストを出せたのに……‼︎

後、評価バーが橙色から赤色に戻りました。高評価して下さった方々、誠にありがとうございます‼︎


 

 どうも皆さん、おはようございます。白哉です。

 

 昨日は転生特典として来てくれた白龍様によって召喚術を使えるようになりました。いや突然の事だったからね、特典をもらったんだっていう事実が未だに信じられないでおります。本当に言われた通りの力が手に入ったのかとか、実際のやり方で色んな動物を召喚できるのかとか、色々ね。

 

 呼び出す事ができるらしい動物はなんと二十種類。性格もそれぞれ個性豊かで、俺が召喚師の姿にならずとも召喚できるのはなんとほぼ半数、しかもアニメやゲームみたいに様々な能力を持つという。これなら俺、この世界でバトル展開になっても生き残れやすいな。

 

 あ、食事とか必要なのかな……? そこは書かれてなかったわ。

 

 ちなみに今、召喚術によってというか白龍様や神様の何かしらの力によって既にこの世界に現界している動物が一体だけいます。それがくりくりとした目の小さい羊・メェール君です。二足歩行できるし物を持つのも器用だし……何より喋れる。それらが無くとも容姿だけで可愛く思える。良き。あんな子、一家に一頭はほしい……

 

 ん? 何か上手に焼けた卵の匂いがちょうど良い強さで鼻を通ってきた。アレ? 俺、まだ起きたばかりでまだ朝飯作ってないんだけど……?

 

 ………………えっ⁉︎ もしや、まさか⁉︎ いや、いくらなんでも……。

 

 というような葛藤をしながらも、急いで制服姿になった俺はダイニング(のつもりでもある居間)に向かうと、ダイニング(のつもりでもあるry)にあるテーブルに、よく焼けた食パンにハムサラダ、先程感じた匂いの正体であるスクランブルエッグにコーンスープが、いつの間にか並んでいた。

 

 俺、朝食はあまり作り溜めしない派だし、どれも夕飯には作らないはず……。まさか、本当に⁉︎

 

 

 

【メェ〜。おはようメェ〜、今日の朝ご飯は僕が作ってみたメェ〜】

 

 

 

 や っ ば り き み か い な 。

 

 嘘でしょ、メェール君って人間みたいに料理作れるの? いくら二足歩行も出来て器用だからって、これ人間じゃない奴がしたら器用すぎるにも程があるだろ……

 

 いや、流石に味までは上手くないかもしれないな。人と動物で味覚が違うだろうから、人間である俺の口に召喚獣に合う料理が合わないって可能性もあるはず。まぁ、メェール君を傷つけないような感想はするつもりではいるけども……

 

 

「……とりあえず、食べていいんだよな?」

 

【勿論だメェ〜】

 

「………………いただきます」

 

 

 とりあえず、今は食べてみないと何も始まらないな。まずは最初に匂いを嗅いだスクランブルエッグから一口……

 

 

「美味っ⁉︎」

 

 

 お、思わず声に出てしまったよ……。な、何だこのスクランブルエッグは……⁉︎ カフェやホテルの朝食に出てくるような、ふわふわでとろとろ食感が完全再現されてるやん……‼︎

 

 前世の社員旅行で泊まった高級ホテルでも、こんなにも風味のある味のスクランブルエッグが出てたな……今でもあの味は覚えてる。そ、それを再現しとる……

 

 

「………………メェール君。君の料理の腕前は、早くも星三つ以上だよ……」

 

【お口に合ったのなら嬉しいメェ〜。これからは料理だけじゃなくて、掃除などの家事も徹底的にやらせてもらうことにするメェ〜】

 

 

 えっ、嘘⁉︎ そこまでしてくれるの⁉︎ 俺が頼んだわけじゃないのに、自分から家政婦みたいなことしてくれるの⁉︎ やだ……この子働き盛りなのかもしれないけど、とにかく優しくてしっかり者じゃん……

 

 

【他にもゴミ出しとか……】

 

「あ、ちょっと待って。ゴミ出しとかの外で出てやることはさすがに俺にやらせて。今は優子たち吉田家中心に、お前や俺が手に入れた能力の事はまだ隠しておきたいから……」

 

【あ、そうだったメェ〜。まだ僕、外に出れないんだったメェ〜。じゃあしばらくそうさせてもらうメェ〜】

 

 

 『一昨日まで普通の人間だった俺が昨日新しい力に目覚めた』だなんて、普通なら絶対信じてくれない事をいきなり言うなんて俺には出来ねーよ……何処ぞの頭のやべー奴だよ俺は。

 

 変な奴だらけの多摩町とはいえ、俺がチートっぽい召喚師になったってのを他の魔法少女に知られたら、問答無用なタイプだったら襲い掛かってくる可能性が高いからな。まぞくじゃないけど。自分の身を守るためにも、ネタバラシするタイミングやそれを伝える人は選ばないと……

 

 ん? 優子に言わない理由は何、だって? 一昨日にて全臓が忍法使える事を知って、まぞくとしてのプライドが危ういって時に俺の能力の事を言ってみろ? 彼女のプライドがさらにズタズタになるぞ? だからネタバラシするタイミングはこちらで考えさせてもらうからな。

 

 ……ん? ちょっと待てよ?

 

 

「ここまでの俺達の会話、吉田家に筒抜けになってない? このぱんだ荘、壁薄いんだけど……」

 

【あ、そこは僕らの魔力によって声の筒抜け対策されてるから大丈夫だメェ〜】

 

「そ、そっか……」

 

 

 やっぱメェール君マジ有能すぎて怖すぎる。召喚獣達の機嫌を損ねて敵に回したら俺絶対無事では済まないな……。召喚獣達の機嫌を損ねないでおこう……

 

 

 

 

 

 

「時代は飛び道具です‼︎」

 

「どうしたの急に」

 

「おはよー。優子、何か気づいた事でもあるのか?」

 

 

 教室に入れば、気がつけば先に登校していた優子の何か閃いた時の声が真っ先に俺の耳に入った。

 

 ちなみに今の優子の制服は何故か丈などのサイズが合っていなく、ぶかぶかだ。一昨日制服に付いたコーラのシミ取りに失敗して今まで着ていた制服がめっちゃ縮んでしまい、桃が持っていた予備の制服を借りることになったんだとか。

 

 話を戻そう。優子は妹の良ちゃん曰く『できるだけ体力に頼らない戦法を取る方がいい思う。弓・鉄砲・大筒・ロケット弾とか色々あるけどお姉に合った武器を使うといい。時代は飛び道具だよ』と言われたらしい。……良ちゃん、頭が良さそうなのはいいことだけど、なんか小学校低学年らしからぬ発言してない? 何処ぞの転生した軍師さんですか。

 

 ついでに優子は『桃に近寄られるとなあなあにされて丸め込まれ、ちょっとほっこりして終わり、その時点で負けてしまう』という理論を得たそうだ。うん、たしかに千代田桃は勝負とかさせずに優子との絡み合いを終わらせるからね、分からなくもない。

 

 けどその事を説明しながらも桃のマイペース結界に取り込まれてるぞ。お前が彼女から借りてる制服を好き勝手されてるぞ。スカートも捲られ……いや、何でもないです。

 

 

「何してるです⁉︎」

 

「制服の丈が気になるから詰めようかなって」

 

「だからって流れるように人のスカート捲らないでください‼︎ 男子もいるんですよ⁉︎」

 

 

 うん、他人から卑しい目で見られたくないもんね。勝手に人前でスカートを捲らない、当たり前だよなぁ? パンツ見えるの俺だって恥ずかしいし、何より見てしまった時の言い訳や優子にどう言われるのかってのが分からないし。

 

 この後、千代田桃は優子の制服を修繕しながら、彼女の飛び道具の監修をすると言ってきた。完成品の被害者が自分という予定ならば、意見する権利はある。寧ろその被害者が監修してこそいい飛び道具になると思う……という意見を言ってまた優子を丸め込んだようだ。いやそのりくつはおかしい。

 

 せっかくの原作場面だし、俺も見届け人として優子の飛び道具の特訓を見てもいいかと問いかけ……ようとしたら千代田桃の方から一緒に来てと言われた。えっ、なんで? 俺、召喚師になったばかりのこと隠してるから、特訓に強制参加させられる被害なんて出ないと思ったけど、どういう風の吹き回し? 大丈夫だよね? 俺、召喚師としての魔力漏らしてないよね? ねぇ?

 

 ってか女子から誘われたら優子のヤンデレモードが発動するんじゃね? と思ったけど、優子も何故俺が呼ばれることになったのかという疑問を持ったのか、頭にクエスチョンマークを浮かべながら首を傾げていた。うん、優子が別の意味で敏感じゃなくてよかった。

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。俺と優子は千代田桃に連れられ、彼女が昔吹き飛ばしちゃって買い取ったという廃工場に来た。ここが何の工場なのかは、前世で途中までの原作知識持ちの俺なら知ってるけど、今度また来るため敢えてここではみんなには説明しないでいよう。

 

 何故倉庫が壁の一部しかないこんなところに来たのかというと、桃曰く『ここなら何を飛ばしても誰にも何処にも迷惑がかからないから』とのことらしい。いや迷惑はかからないけど、かつての建物が吹き飛ばされたというところで修行するにしても、何が起こるのか分からないから怖い……。優子もそれを気にして嫌がる気持ちはわかるな、うん。

 

 ってかちょっと待って? 今気づいたけど、千代田桃って廃工場買える程の金があるのマジ? どんだけ金持ってたの?

 

 何はともあれ、早速この場所で優子の飛び道具修行が始まるわけだ。始まる……のだが。

 

 

 

「じゃ、白哉くんも出して。持っているでしょ? 光の一族ではないけど、貴方も魔力に似た何かをを」

 

「どうしてそうなる⁉︎」

 

 

 

 なんで俺まで修行する羽目になるの⁉︎ なんで俺にも魔力みたいなの出させようとしてんの⁉︎

 

 俺、召喚師であること隠してるよね? 体の中に流れてる魔力っぽい変なオーラみたいなのを外に出ないようになんとか色々と意識してるんだけど、なんとか色々と意識してるってだけじゃ魔法少女に隠せなかった? 漏れてたの? ねぇ?

 

 

「魔力を持ち始めたばかりの頃の魔法少女は、自分では気付けないけど外部から隠すことの出来ない魔力のお溢れが出ちゃって、それを他の魔法少女が察知してしまう時があるの。白哉くんの体にも、一昨日までには持ってなかった魔力に似た何かが少し漏れ出てたんだよ」

 

「あ、そうなんすか……」

 

 

 やっぱり隠し切れなかったのね、魔力を抑え込むのって難しい……

 

 

「えぇ……? まさかの白哉さんもファンタジーよろしくな力を持つようになるなんて、私聞いてないですよ……」

 

「……すまん。まぞくの尊厳の為とか色々な理由でしばらく内緒にしとくつもりだったんだが……」

 

「あ、手にしたという自覚はあったんだ。何故その力を持つようになったのか、心当たりはある?」

 

 

 これはもう白状しないと後先が大変になりそうだな……。仕方ない、洗いざらい話すとしようかな。

 

 

「………………昨日、夢の中で会ったドラゴンから神様経由で召喚術を使えるようになったんだよ。色んな能力を持つ動物達を呼び出せるんだ」

 

「「えっ」」

 

「神様と関わりのあるファンタジーな奴が突然夢の中に現れて、いきなり力を渡してくれるだなんて、そんな子供向けのバトルアニメ展開みたいな話、さすがに多摩町の皆も信じられないだろ? 俺だって神様には会ってないし……」

 

 

 うん。普通に考えても、夢の中で冒険RPGよろしくな生物に出会っただけで俺TUEEEEな力が手に入るわけないもんね。魔法少女だって成り立ての頃から強い魔法の力を操れるわけないし、普通の魔族も同等な感じだし……

 

 

「………………あ、でも何故か納得しちゃいますね。私もツノや尻尾が生える前にごせんぞ様に声を掛けられる夢を見ましたので」

 

「あっ、そっか……優子の先祖返りもそんな感じだったんだもんな……」

 

 

 そうだったよ。昨日優子もご先祖様であるリリスさんに再開してたやん。そして彼女からダメ出しを喰らい、ごせん像に食べ物とかお供えしてほしいとか言われてたやん。なんで一瞬忘れてしまったんだよ俺。しっかりしろよ。

 

 

「でも、本当に召喚術?とやらを使えるのですか? いくら桃が魔力と似た何かを察知できるらしいとはいえ、本当にそんなものが使えるのかどうか信じられないのですが……」

 

「うん、それは私も同じ気持ちだよ。だから一体ぐらいは召喚してほしいなーって」

 

「あ、それ今私も同じ事思ってました」

 

「まぁ、そう思われるわな……。ってか急に意見合ってきたなお前ら」

 

 

 実際に見せてない力なんて、『手に入れた』だなんて言われようが自分と似た経緯で力を手に入れたからと言って言葉だけで信用を得ようが、実際にその能力を見せないと完全なる信用は得られないんだよな……

 

 仕方ない、一体ぐらい出しとくか。

 

 

「わかった、一体だけな。けど正直召喚術(これ)使うの初めてだから期待するなよ? ……クリッタ、召喚‼︎」

 

 

 精神を統一させている自分を想像しながら、地面に両手を翳して召喚獣の一体の名前を叫んだ。さて、どんな感じに召喚されるのか………………ってうおっ⁉︎

 

 光った⁉︎ 俺の手がめっちゃ赤く光ったんだけど⁉︎ そして地面には複雑な模様をした魔法陣が出てきた⁉︎ あ、二次創作の魔法陣ってどれもそんな感じか。そしてその魔法陣が出現して僅か二秒。一瞬赤い光の柱が魔法陣の中心から突き出て周囲を包み込み、すぐに収まった。

 

 するとかつて魔法陣があったところに、一頭の動物がぺたんと座り込んでいた。白衣を着たぬいぐるみサイズのパンダで、右手に試験管、左手にフラスコを持っていた。

 

 

「「おぉ……」」

 

「出来た……。この子が研究好きのマイペース系パンダ・クリッタか……ぬいぐるみサイズのパンダとか、メェール君と同じく可愛い……‼︎ 癒し系がもう一匹いるとか良き……‼︎」

 

「た、確かに可愛いですけど、あの子なんか危なっかしそうなことしようとしてません……?」

 

「えっ?」

 

 

 危なっかしいこと? それは一体……

 

 あっ(察し)。

 

 実験器具持ってた時点で気付けるとこだったじゃん今の。そして研究好きだってさっき俺も言ってたじゃん。

 

 優子の言葉で色々気づき、クリッタに『ちょっと待って』と言おうとしたが既に遅し。クリッタが試験管の中に入ってた黄色の液体を、黄緑色の液体が入っているフラスコに移し入れていた。ちょっ、それで爆発とか起きたらヤバい……‼︎

 

 

「あ、フラスコから綺麗な向日葵が咲いた」

 

「「いやなんで⁉︎」」

 

 

 え、液体を混ざり合わせて花を咲かせるとか、どんな実験なんだよ……。あっぶね、爆発実験じゃなくて助かった……。下手したら俺達三人ともおじゃんな可能性もあったなホント……

 

 ってか何故向日葵を咲かせる実験を今この場でやろうと思ったねん。意味分からんのだけど。それに夏はまだ先だろ……

 

 いやニコッとしないで? 下手したら原作崩壊というか理不尽なバッドエンドになりかねないからね? でも笑顔は可愛い。パンダの笑顔も癒されるものなのか……しかもデフォルメみたいな感じだからさらに良き……

 

 

「すごいね、本当に動物を召喚できるなんて。しかも理科の実験が好きなあのパンダがほんの一部か……。なんかちょっと羨まし……いや、今のは引っ掛からなくていい。忘れて」

 

「も、桃が白哉さんを羨ましく見てる……⁉︎」

 

 

 ア、アレ? なんか千代田桃、俺に……というか俺の能力によって召喚された動物達に興味を示してる……? もしや、猫の召喚獣まで呼べると思って期待してる? 確か、千代田桃は猫が好きなんだっけ? 原作でそんな感じのを知ったと思うんだけど……

 

 

「……こ、コンニャロ─‼︎ 貴様は私に何かを出してもらうためにここに連れてきたんでしょうがー‼︎ 今更目的変更とかしようったってそうはいきませんよ‼︎ も、もう白哉さんのすごい力の一つは見れたでしょ⁉︎ 早く修行の説明の続きをしろー‼︎」

 

「あ、そうだった。ごめん」

 

 

 あっ、優子がぷんぷん丸みたいに怒って千代田桃に注意を促した。だよな? そうだよな? 今は優子の飛び道具の修行だよな? おいおい千代田桃、本題から目的逸れてたぞ……

 

 って、アレ? 優子、原作では廃工場の事とか飛び道具を出せる出せないとかで乗り気じゃなかったよね? そのはずなのに、なんで気合い入ってるの? もしかして俺のせい? 俺が転生特典を手に入れたせいなのか? やっぱり悪いことしてしまったな……

 

 ん? そういや今気づいたことだけど、千代田桃が俺の能力に興味を示してたから、優子が少しは勘違いしてヤンデレモードの発動の予兆ぐらいはするはずなんだけど、そう言った雰囲気は見えなかった気がする……。正直助かったけどさ、なんで?

 

 この後、優子の気合いに応えるかのように原作通りに修行がスタートしたのだけど、世界に対するコメントがないかのところでなんか桃が優子にヒソヒソ話をしてる場面が見られた。何話してんの? なんか怖いんですけど。

 

 後、千代田桃がもしかすると他の魔法少女がまぞくに問答無用に襲い掛かるかもしれないとか言うので、優子の不安を和らげるべく、俺がもしその場にいた時の対処法ぐらいは言うことにした。いや別に言う必要はないとは思うけど、無意識のうちになんか言っちゃったみたい……

 

 それと、しばらくして優子が今日一番デカい声発した時に急にめっちゃ恥ずかしくなった。けどその時優子がなんて言ったのかは、それを聞いた時の羞恥心が強かったせいか忘れてしまった。なんて言われて、恥ずかしく思えてしまったんだ……? 思い出せないけど、聞いてめっちゃ恥ずかった事はわかるけども……

 

 その後、桃の何気ない一言で優子が何て言ったのかを察し、あまりの恥ずかしさと受け止めきれない『情』に耐え切れず悶絶してしまう俺氏だった。

 

 

 

 

 

 

 私は今まで感じたことがなかった嫉妬感を初めて覚えた。白哉さんに絡んできた人達に対する大半の勘違いによるものではなく、白哉さん本人に対して。

 

 『何故白哉さんに嫉妬するか』? だって悔しかったんですよ‼︎ 私がまぞくになったのと似た経緯で、白哉さんが昨日召喚師になったというのに‼︎ ツノと尻尾が生えてけんこう魔族になっただけの私と違い、白哉さんは色んな能力を持った動物達を呼べるんですよ⁉︎

 

 生まれ変わった経緯は一緒なのにこの差は何⁉︎ さすがの白哉さん相手でもこれは嫉妬します‼︎ 私も先祖返りで色んな力とか手に入れて魔法少女を圧倒したかったー‼︎

 

 いや、これ以上嫉妬しても意味ないですね。愛が重いというわけではないですけど、嫉妬なんかしてもただ虚しいだけな気がします。

 

 って桃? 何白哉さんの召喚術に興味を示してるんですか? 貴方私を鍛えるためにここに無理矢理連れ込んだのでは? 自分がやろうとしてること変えようとしてません? なんか腹立つんですけど。

 

 えぇい、白哉さんに遅れをとってたまるものかー‼︎ もう修行場所が廃工場という怖さとか目汁しか体から出せないとか、そんなことはもう構うもんかー‼︎ こうなればヤケです‼︎ さっさと修行始めて魔力かなんかを出せるようにして、白哉さんに追いついてみせるぞー‼︎

 

 というわけで桃、早速修行始めてください‼︎ 実力でも白哉さんと肩を並べられるようになるためなら、どんな過酷な修行だろうと乗り越えて……

 

 ………………前言撤回。ごせん像を魔力の形を作るための的にしないでください。ごせん像が可哀想です‼︎

 

 

「集中もまだ足りないかな。棒っぽいものが必要かも」

 

 

 像は可哀想だと思わないのですか⁉︎

 

 って、えっ? 今、桃の右手が光った気がするんですが。そしてなんか出たのですが。えっ、何そのハート型の水晶が付いたステッキ……

 

 

「一旦この棒使ってくれる?」

 

「うわ出た、魔法少女特有な感じの杖が」

 

「これは私が持ってはいけない類の棒な気がします‼︎ 私まぞくなんでこういうのは……あっ持っちゃいました。ほんのり温いです」

 

「警戒するのは悪くないけど、途中でうっかり解いちゃうのはちょっとどうかと思うぞ」

 

 

 思わず渡されたのを持っちゃったので、とりあえずこのステッキから魔力みたいなのが出るのをイメージしながら、何かしらの念を込めてみることに。炎とか風とか、何故か虹色のレーザー「恋符『マスタースp」とかも出せるかどうかイメージしてみたけど、額から変な汁しか出ない……

 

 

「何か叫んだ方が出るかも。何か世界に対してコメントとかある? 『何もかも壊したい‼︎』とか『こんな世界闇に飲まれてしまえ‼︎』とか」

 

「そ、そんな事思ってません‼︎ ……白哉さんに絡んだ人達に対して似た感じの事を思ってしまった時が偶にありますが、みんな優しいですし……」

 

「そうなの?」

 

 

 思わず小声で他の人の前で言ってはいけない事を呟いてしまったけど、聞かれてないですよね……? 本音というか本性バレてないですよね……? というか私また一瞬だけ愛が重くなった気が……

 

 そんな事を思っていると、突然桃が私の耳元に顔を寄せてきた。な、なんですか。白哉さんには聞こえないように詰め寄ってきて……

 

 

 

「じゃあさ……『白哉くんを独り占めしたい』とか『白哉くんが自分にだけ目を向けてくれるようにしたい』とか、後は『白哉くんを婚約者にしたい』とか、そう言った恋愛に関する願望とか叫んでみたら?」

 

 

 

どしぇ⁉︎

 

 

 な、なななななな……貴様また白哉さんの事でおちょくり始めたな⁉︎ し、しかもどれも愛の重さがわかる程のヤバめなセリフばっかりじゃないですか⁉︎ さては貴様、やっぱり私の白哉さんに対する想いを知っていたな⁉︎ ど、ど、どこで知った⁉︎ いつ、どこで、どうやって知った⁉︎ 知った上で私を揶揄ってるのか⁉︎ 下手すれば自殺行為ですよ⁉︎

 

 ………………でも、その欲望は正直叶えてみたい気がする。白哉さんとの二人きりの時間を作りたいし、白哉さんには私の事を好きになってもらいたいという気持ちもなくはない。あわよくば結婚だってしたいし、彼との子供だって何人かは……

 

 って‼︎ ダメだぞシャドウミストレス優子‼︎ これまでの想ってしまった妄想や欲望よりもかなり酷いものだったぞ⁉︎ これ想ってしまった自分でもかなりのドン引きものだったぞ⁉︎

 

 

「やっ……やっぱりそんなこと言いたくないです‼︎ 相手や周りの人達を無視して自分の願望だけ押しつけても、それで相手が悲しむのなら意味がないです‼︎」

 

「そっか……確かにそれもそうだね、ごめん。じゃあシンプルに『白哉くんの事が好きだ』とかは? それぐらいなら問題ないと思うけど」

 

「………………シンプルにそれも恥ずかしいです。口が裂けても言える自信ないです」

 

「真っ赤な顔で硬直して変な間が出来たよ?」

 

 

 喧しい。どうせ少なくとも恋愛感情を抱いていないであろう貴様にだけは言われたくないですよーだ。……いや、恋愛することになったとしても、私みたいに愛が重くなる可能性があるわけではないですけど。

 

 この後『何でもいいから心に浮かんだ願望を叫んでみて』と言われたので『今夜はがっつりしたものが食べたい‼︎』と言ったけど、思ったのと違ったらしくて別の意味で顔を真っ赤にしてしまった気がした。

 

 いや、白哉さん? 何一人でにお裾分け用の晩御飯のレシピ考え始めてるんですか。確かにがっつりしたの食べたいですけど本気にならないで。あくまで魔力さんを出すために言っただけですからやめて。

 

 

「何でもいいって言った私が悪かった。その子の生まれ持っての心の素質が強まった時に、自然と出てくる魔力解放のキーワードがあるの。私で言うなら……フレッシュピーチハートシャワー‼︎……とか」

 

「ブフォッ」

 

「ふれっしゅ………………え? 何て?」

 

「……そこは引っ掛からなくていい。忘れて。後白哉くん、とりあえず後でギルティね」

 

「ゲッ、笑ってたの聞こえてたのか……」

 

 

 何故か白哉さんがギルティとか言われましたけど、半分彼の自業自得なので仕方ないですかね。なんか桃の目を見るに、本当にギルティする気がないようにも見えますし。勘違いしなくてよかった……

 

 それよりも、ちゃんと記憶することが出来ました! 桃がさっき言ってた必殺技の名前『フレッシュピーチハートシャワー』‼︎ 一体どんな可愛げかつ強そうな技なんだろう? 一度ステッキ返すので見せて……あ、断られてしまいました。むぅ、残念……

 

 この後桃から今の自分の願望を技名っぽく叫んでと言われたので、とりあえず願望のままに思いついたのを……あ、ダメだ。ファミレスの名前連発したけど何も出ない。

 

 そしたら桃に『おばか‼︎』とか『やる気あるの⁉︎』とか言われました。やる気あるのにそこまで怒られるの私⁉︎ ……ところで今おばかって言いませんでした⁉︎

 

 

「魔法少女って私みたいになあなあにするタイプだけじゃないんだよ‼︎ もっと容赦ない人がいるの‼︎ そういう人に遭遇したら、一瞬でじっくりぐつぐつ煮込まれるよ‼︎」

 

「煮込まれる⁉︎」

 

 

 ファ、ファンタジーで可愛げなお仲間の中には、腹黒すぎる感じの魔法少女もたくさんいるってこと⁉︎ 何そのチンピラがいっぱい生息してるよみたいな情報⁉︎

 

 

「───それはつまり、昔みたいに光の一族と闇の一族が闘った時の片鱗を再現してるって捉えていいか?」

 

 

 え? びゃ、白哉さん? 突然何意見を言ってくるんですか……? えっと……白哉さんは多分どの方面の一族でも無さそうですし……

 

 

「えっ? ま、まぁ多分そんな感じ……」

 

「……だったら、俺も頑張って強くなるしかないな」

 

「え? なんで?」

 

「ホラ、まぞくの友達はまぞくの仲間と捉えられる可能性があるだろ? もしそうだったら、まぞくと過激派な魔法少女の闘いに巻き込まれる可能性だってあるし、その時にたとえ優子が強くなったとしても、護衛を勤まることになった俺たちが弱くて足手纏いになったら優子の闘いの枷になる可能性がある……。だったらその護衛となる奴も強くなれば、いざという時に優子を守ることだってできるはずだろ?」

 

「あぁ……確かにそれならシャミ子の強さに関係なく助かるかも」

 

 

 じ、自分が巻き込まれる可能性や、そうなった時の事を想定するとは……‼︎ なんか私が強くなれないことを前提されてることには不服さを感じますが、何だろう……そう言われると安心するというか、すごく嬉しいというか……

 

 でも……

 

 

「……でも、やっぱり私も強くなりたいです。そうやっていつまでもよわよわ魔族どころか守られ魔族のままじゃ、滅茶苦茶カッコ悪い気がします。そんな問答無用な魔法少女が来ても返り討ちにできる程に強くなって、いつか無双魔族になれる気でいたいです!!」

 

「「優子/シャミ子……」」

 

 

 ……いやちょっと、何呆気にとられたような顔してるんですか。こっちは真剣に考えているのに、まるで『お前はそんなこと言う魔族じゃなくない?』みたいに思わないでくれます⁉ 結構傷つきますけど⁉

 

 

「……無双魔族になるまでの道のりは険しい上に程遠くね?」

 

「うん、無理があるというか……」

 

「ホントに傷つくんですけど⁉」

 

 

 ふ、二人して私の決意を否定するような心元ないことを……特に白哉さんにはこの決意を否定されたくなかったのですがそれは……。私のこの決意を考えてた時間を返してくださいよ……

 

 

「けど、シャミ子がそこまで言える程やる気になってくれたのは嬉しいよ。やっぱり特訓に誘ってよかった」

 

「だな。俺も優子にやりたいことができたのなら、俺もやれる限り全力でサポートしたいよ。あ、さっき否定するようなこと言ってごめんな? 本気で否定する気なんてないから」

 

「桃、白哉さん……」

 

 

 なんだ、二人とも本気で否定してるわけじゃなかったんだ……。何だろう、一瞬でも裏切られから少し見損なったと思った自分がバカでした。もう少しぐらい二人を信じるべきでしたね……反省します。

 

 

「それなら早くシャミ子を強くしておかないとね。シャミ子、特訓の続きしようか。今度こそなんか出そう」

 

「がってん!! ……って、もう再開するんですか⁉」

 

 

 アレ? そういえばさっき桃に他の魔法少女のことを聞かされて、何か引っ掛かるようなのを思ってたのだけど……何でしたっけ? ま、まぁいい……かな? 早くなんか魔力さん出しておかないと……!!

 

 と、とりあえず、頭に浮かんだ文言を全部言っておこう! そうすればどこかで魔力さんが出てくるはず……‼︎

 

 

「熱海に行きたい‼︎ 猫に包まれたい‼︎ 部屋の電波が弱い‼︎ ブロッコリーうまい‼︎ 納豆卵ご飯‼︎ えっとえっと……」

 

 

 

「……白哉くんの事は好き?」

 

 

 

二人きりになりたいどころか結婚してほしいぐらい大好きです‼︎………………ってほぎゃああああああ⁉︎」

 

「………………は? 優子、今、なんて……?」

 

 

 桃に釣られてとんでもないカミングアウトがァァァァァァァァァッ‼︎ しかも白哉さんの顔が耳まで真っ赤ァァァァァァァァァァァァッ‼︎ 聞かれた‼︎ 絶対聞かれた‼︎ 私の本音をガッツリ聞かれた‼︎ 本格的に『やべー女』と思われました‼︎ あ、穴があったら入りたい……

 

 

「す、す、すみません‼︎ 今のは聞かなかったことに………………わっ⁉︎」

 

 

 な、なんか出た‼︎ 白哉さんにさっき叫んだことの代弁をしようとしたら、ステッキからなんかデカい光が出ました‼︎ それもバランスボールの大きさのピンク色の球が‼︎ アレ? でもなんかすごいスピードでおっこちてるような……

 

 

「ぶべふっ⁉︎」

 

「ちょっ、優子ォ⁉︎」

 

 

 お、思いっきり地面に押し潰された……。す、すぐに消えてくれたから助かりましたけど。一瞬車に撥ねられたような痛みが……。いや、実際に撥ねられたことはないですけどね。

 

 

「す、すごいの出たのに、なんでこんな自滅するような目に……」

 

「……正直そこまでの大きさの魔力が出るとは思わなかった。あ、今のは多分その魔力の推力が足りなくてシャミ子の体に戻ったんだよ」

 

 

 ま、まだ魔力さんを出すの初めてだから、上手くコントロール出来ず一旦持ち主の中に戻るって感じですか……。けどその持ち主を潰すですか。めっちゃ痛かったのですが。

 

 

 

「それにしてもあそこまでデカい魔力を出せるなんて、シャミ子の白哉くんに対する愛はそれほど恐ろしいものだったんだね」

 

 

 

「ちょわァァァァァァァァァァァァッ⁉︎」

 

 

 び、びっくりしました……。い、今のは私の悲鳴じゃないですよ? こ、これは白哉さんが珍しく発した悶絶時の叫び声なんです。真っ赤にした顔を隠して転がっているということは……

 

 絶対聞こえてた‼︎ あれだけ大きな声でカミングアウトしてしまったんだもの、聞こえないはずがない‼︎ ホント最悪です‼︎

 

 というかおのれ魔法少女、幼馴染の白哉さんにまで恥を見せるような真似をするとは……‼︎ いつか絶対生き血取ってやりますよ……‼︎

 

 ………………とりあえず、今は……

 

 

「びゃ、白哉さん……。そ、その、これは、誤解……。いや、嘘ではないことぐらい前から分かってるとは思いますけど、その……何というか……」

 

「……いや、うん。ダイレクトな事を言ってお前の気分が晴れたのなら、愛が重すぎる言葉でない限りは結果オーライとする。ただ、ダイレクトすぎるのは慣れてないので、せめて次からは状況考えてください……」

 

「えっ。あ、はい……」

 

 

 えっ、偶になら叫んでもいいと? 私のこの想いを偶にならぶっちゃけていいと? ……何だろう。嬉しいような、複雑なような……

 

 あの告白もどきな感じの叫びを白哉さんがどう思っているのかは分からない。けどせめて今は、私のこの想いのせいで白哉さんが色々な意味で潰れないことを祈ります……

 

 但し桃、貴様にはいつかこの屈辱を晴らさせてもらいますからね。乙女と私が片想い(?)してる人に恥をかかせた罪は重いですからね……‼︎

 

 

「ご、ごめん。さすがに揶揄いの度が過ぎたよ。だからそんな怖い顔しないでくれるかな……?」

 

 

 あ、感情が表に出てたのですか。しかもその私の顔を見て桃もなんか罰の悪そうな顔をしてる……

 

 むぅ……今回は誠に勝手ながら引き分けにさせていただきますからね! 唆された私も唆した桃も悪い、これでイーブンです‼︎

 

 この後、先程のデカい魔力さんを出したのを一旦なかった事にして『みんなが仲良くなれますように』と叫んだら、ゆっくりで小さいけど可愛い魔力さんを出せました。けど戻ってくるその魔力さんから逃げ切れず、筋肉注射を打ったような痛みに襲われました……

 

 

 

 

 

 

 ち、千代田桃に嵌められたとはいえ、優子からのダイレクト告白は結構効いた……ヤベェ、心臓がドクドクのバクバクでドキドキしてきてしまったよ……

 

 いやさ、優子が今まで抑えてきていた恋愛感情がアレで爆発して、少しでも彼女の気が楽になれればいいかなとは思ったけど、いざ聞けば逆にこっちの理性とかが危うい気がしてきた……やっぱりダイレクトなのは結構堪えるわ……

 

 いや、俺もどうしようってなってきたわ。誤って優子を色んな意味で襲ってしまわないだろうな? そしてそれで優子のヤンデレ度が高くなったりしないだろうな? ………………俺も自制出来る様に奮闘するか。で、どうやればいいんだよ……

 

 




結局白哉君、転生特典の力を主役二人に見せちゃいましたね……

改めてシャミ子の本心も聞けたし、色々と頑張れ‼︎(何をだよ)


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知り合いが今まで出さなかった別の人格を突然出すと違和感を感じる……。優子inリリスさんも該当。

感想厨になってしまったので初投稿です。最新話出す毎に批判含めた感想が来ないと落ち着かないなんて、こりゃかなりの重症ですね、自分。

ちなみに今回はあのごせんぞー‼︎が登場します。オリ主とどんな風に関わるのでしょうね? 私、(作者だけど)気になります‼︎
?「ワイ○もそう思います」


 最近優子の強そうなヤンデレモードを実際に見てない気がする白哉です。昨日で俺が召喚術を貰ったことが、優子と千代田桃にバレました。転生者であることはバレてませんが。

 

 でもその代わりというものなのか、魔力を出そうと原作よりもやる気満々で奮闘してた優子が桃に唆される感じで俺への愛の告白を叫んでしまったのをちゃんと記憶に刻み込んでしまいました……聞いたこっちも叫んでしまった優子もめっちゃ恥ずかしい思いをしてしまいました……

 

 まぁでも、それで優子がこれまで溜まってた俺への重い愛の一部を吐き出して、少しは気が楽になったというのなら、俺がとやかく考える必要はないかな。結構効くからしばらくはダイレクトな告白みたいなのは言ってくることがないことを祈るしかないけども。

 

 そういえば、優子からの告白みたいなのを聞いたのは初めてじゃなかったな。中三の時も一度そんな感じなのを言われたけど、アレは『偶にヤンデレになってしまう自分を止めてほしい』というメッセージも含まれてたから、正直アレを告白と捉えていいのか分からなかったけども。

 

 ………………にしても、優子からの告白か……。よく考えてみたら、本来なら男から女へ告白するというのが主流だよな。それをいつまでも優子と一緒にいた俺からしないってのはある意味不思議な気がする。いや、仮に想ったとしても原作の物語維持の為に『逃げ』で黙ってると思うけども。

 

 というかさらによく考えてみたら、俺それで優子に酷いことしてることになってね? だって告白みたいなことを聞いといてというか言わせといて、それ相応な感じの返答しないってのはどうかしてるな……。中三では優子が自分から告白?しといて逃げていったけども。その後にお互い距離をそんなに置いていないけども。

 

 ………………アレ? 俺、なんで優子の告白もどきの事でここまで深く考え込んでしまっているんだ? 優子の心を安定させる方法か、ヤンデレモードの回避方法を探す為の考察をしようと思っての事か? 自分で自分の考えている事が分からないなんて、俺もどうかしてるな……

 

 というか、俺は優子の事をどう想っているんだ? 誰に対しても優しいまぞく? ただの仲の良い幼馴染? それとも……

 

 

【マスター、どうしたんだメェ〜? あんまりボォッーとしてると、シャミ子ちゃん諸共遅刻しちゃうメェ〜】

 

 

 ハッ⁉︎ い、いけないいけない。深く考え過ぎてしまった。優子を待たせているし、この話題はしばらく保留‼︎ さっさと次の原作イベントを見に行くために学校に行かなければ‼︎

 

 

「それじゃ、行ってきます‼︎」

 

【いってらっしゃいメェ〜】

 

 

 

【………………なんでこんな簡単なことに気づかないんだメェ〜。マスターって、思ったよりも意外と鈍感なのかメェ〜?】

 

 

 

 

 

 

「はい優子、今日のご先祖様へのお供え物」

 

「ありがとうございます白哉さん! ……けど、なんでジャン○を一ヶ月分纏めて? 雑誌だから多分大丈夫でしょうけど……」

 

「ご先祖様からの要望があれば一週間ごとに一冊ずつとかに変えるけど、どうせならなるべく纏めて渡した方が、来月までに展開の予想とかをする機会が多く取れるんじゃないかなーってな」

 

 

 俺は今、学校にて封印されし闇の一族のご先祖様──リリスさんの魂が入っている像にお供え物をして合掌していた。そのお供え物が週刊少年ジャン○という、あからさまにお供え物ではないものだけれども。

 

 優子曰く、リリスさんからおいしいものや雑誌をお供えしろと言われている模様。確か、こうすればリリスさんが封印されている状態ながらもそこそこの力を取り戻せるとかどうかだったと思う……。まぁ、力を取り戻せたとしてもその量はセミの寿命分だった気がするけども。

 

 この後千代田桃がご先祖像に興味を示したり、杏里や小倉さんに全臓もそれぞれお供え物を持ってきてくれたりと、ほぼ原作通りに事が進んでいる。

 

 ってか杏里? DVDをお供えするなら一巻止まりはやめた方がいいぞ? 念のために、だけどね。

 

 全臓があげたお供え物は……酢昆布? なんで酢昆布? いくらなんでもチョイスが渋すぎじゃね? 駄菓子をお供えするなら他にも色々あるんじゃ……

 

 いや、三人の中で一番まともなお供え物を持ってるのが、なんでヨーグルトを持ってきてくれた小倉さんなんだよ? 彼女、何かしらの変な薬とかを作るマッドサイエンティストやぞ? 他の二人よりもまともなのをお供えしてくれるのは、それはそれで怖いんですけど。

 

 

「ん? シャミ子、これ何?」

 

「スイッチ? なんで?」

 

 

 あ、ここで優子と千代田桃がご先祖像の底に元から(?)付いてたスイッチに気づいた。確か、そこそこの電波らしきものといいお天気、そして十分なお供え物を得たことによって手に入れたエネルギー(もといお供えカロリー)、これらの条件を満たすと……

 

 

 ポチッ

 

「あっ」

 

「迷わずオンですか⁉」

 

 

 おま、よく怖気ずにそのスイッチ押したな千代田桃。下手したら爆発とか像が変形して目覚めさせたらヤバい奴に変わったりするだろうに……

 

 彼女曰く、クラスに今ちょうど俺達以外の人がいない時間かつ変なギミックに対して自分が対処できる場所にいるため、そういった大きな被害が出そうにない状況でなら押してもらった方が効率が良いとのことらしい。

 

 いや俺は召喚術で、全臓は忍法で対処出来るかもしれないから兎も角、ご先祖像のギミックをまだ知らない優子に一般人の杏里、マッドサイエンティストだけどインドア派な小倉さんなんかはもしもの時に対処出来へんかもしれねーぞ? お前三人にも被害とか与えずに災害の対処出来んのか? そこ不安なんですけど。

 

 っておい、そこの忍法オタ……愛好家と一般人にマッドサイエンティスト。お前ら何いち早く机の後ろに隠れてんだ。しかも友である俺や優子を置いてけぼりにして。お前らそれでも友達か? 友達置き去りとかふざけんでくれる?

 

 

「なんか出たら跡形もなく消そう。そして忘れよう」

 

「ざっくり⁉︎ 私の秘密兵器かもしれない……の……に……

 

「危なっ⁉︎ 大丈夫か優子⁉︎」

 

 

 優子が突然気絶して倒れそうになったので、俺が咄嗟に彼女の体を受け止めた。ここは千代田桃が受け止めるところなんだけど、心配性になってしまったのか俺が無意識に受け止める役に回りました。いや、幼馴染だからこんなことしても当然かなとは思うけど……

 

 

「ナ、ナイスキャッチ白哉くん……。にしても、何故シャミ子は急に倒れて……? まさか……ついに拾い食いを……⁉︎」

 

「俺が作った飯のお裾分けもあるから、多分それは絶対にないかと思うぞ……」

 

 

 急に優子が気絶したのにはちゃんと理由(ワケ)がある。それを、原作を読んだ俺が今この場で唯一知っている。まぁそれを言って色々と混乱させるわけにもいかないけども。

 

 とにかく俺は優子を安静にすべく、ゆっくりと彼女を椅子に座らせてあげることに。それから何分かはずっとこのままである。

 

 

「スゲェ、半目で気絶してる」

 

「魂抜けた系の感じだけど、大丈夫かな〜?」

 

「なんだか心配ッスね……って小倉さん? 何小さく光ってる何かをシャミ子ちゃんに近づけようとしてんスか。今のアンタが一番怖いッス」

 

 

 うん、確かに小倉さんの行動が一番不安要素マシマシなんだけど。ホント何しようとしてんの。

 

 刹那。優子の体から禍々しくて強いオーラが溢れ始めてきた。魔力とかそんなものの実感が湧かない俺でも目視できる程の強いオーラって、どういうことなの……

 

 

「みんな下がって‼︎ このオーラ……シャミ子じゃない……‼︎」

 

 

 俺達を庇うように素早く前に立つ千代田桃。なんだよ……結構カッコいいじゃねェか……

 

 そう思っていたら、ふと優子が目を覚まし、只ならぬ雰囲気を出すかのようにゆっくりと立ち上がり、腕を組みながら仁王立ちしてきた。

 

 ……ついに出たか。

 

 

 

「いかにも! 余は永劫の闇を司る魔女・リリス‼︎ 子孫の体を憑代(よりしろ)に魔法少女を屠りに来た……シャミっ、シャドウミストレス優子の偉大なる魂の祖先である‼︎」

 

 

 

 優子の先祖である魔族・リリスさんの一時的な目覚めだ。声質の違いと暴君らしき態度から、優子と魂を一時期入れ替わっているのが分かる。

 

 ってか、貴方まで噛んでたんですけど。優子っつーか子孫のまぞくとしての活動名をスラスラと言えないんかい。

 

 

「シャミ子の祖先………………ハッ! しゃみ先……‼︎」

 

「なんばゆうとっとやコラ‼︎」

 

 

 つーか千代田桃、知人が赤の他人というか知らない人に体を乗っ取られてるというのになんでマイペース? そこは『なんで優子の体を乗っ取った⁉︎』とか『何が目的だ⁉︎』とか聞くところでしょうがよ。

 

 

「さて、ここでまず千代田桃とかいう魔法少女に言いたいことを言うところなのだが……うん、やっぱりまずはあの件からだな。優先順位が変わった」

 

 

 へ? リリスさんが千代田桃に対する敵対心よりも先に言いたいことが他にあったの? 原作ではそんなものなく『よくも子孫をいじめてくれたな』とか言うのに……(まぁ半分勘違いのようなものだけど)

 

 そんな事を考えていると、俺達を見下ろさんと上履き脱いで机の上に立ったリリスさんが、ビシッと俺に向けて指を差した。えっ、何故?

 

 

「───おい、そこの銀髪の少年。確か平地白哉、だったな?」

 

「……え? 俺ですか?」

 

「うん、そうだ。逆に今この場にいる銀髪が他にいると?」

 

 

 はいそうですね。今現在教室には不思議な程誰も入って来てないし、そもそも俺以外の銀髪はウチのクラスに今現在見当たらないし、クラスの大半が来たとしても俺が呼ばれてもおかしくないね。

 

 というか、リリスさんは俺に何を伝えようとしてるんだ? 厄介ごととかでなければいいのだが……

 

 ハッ⁉︎ ま、まさか俺が優子を微ヤンデレにしてしまった事で、優子のまぞくとしての活動に支障が出ると判断して怒ってる⁉︎ それともアレか⁉︎ 俺が不慮な事故で優子の胸を揉んだから⁉︎ はたまた俺が昨日まで黙って使わずにいた召喚術を優子に披露したことによる何かしらの嫉妬や怒り⁉︎

 

 な、何に対して怒っているんだ……? と、とりあえず……

 

 

「リ、リリスさん……じゃなくて、リリス様の気に触れるような真似と、シャドウミストレス優子のまぞくとしての尊厳を破壊してしまわれたのでしたら、心の底から謝罪を申し入れます……。た、大変なご無礼を……」

 

「えっ。いや、ちょっと待て。なんで謝ろうとしてるのだ? 余から説教を受ける前提で土下座するのやめてくれない? 大丈夫だから。怒ってるわけじゃないから。貴様に関する大まかな事は大抵シャミっ、シャドウミストレスの口から聞いて把握してるから。頭を上げよ頼むから」

 

 

 あ、怒ってるわけじゃなかったんだ。よかった、ちょっと安心した。……ん? じゃあ俺に対する要件は一体なんなんだ?

 

 

「平地白哉。貴様の事は先程もちょっと挙げたようにシャミっ、シャドウミストレスから聞いているぞ。どうやら貴様は……」

 

「……あの、話の途中ですみません。無理に優子の事をシャドウミストレス優子と呼ばなくても良いのではないのでしょうか……? 一応、ここにいる人達からはシャミ子と呼ばれてますし……」

 

「き、気遣いのつもりか⁉ 悪いが余計なお世話だ! た、偶々言う度に運悪くしゃっくりが出ただけだ‼︎ い、いつもはそんなことはないのだが……」

 

 

 うん、絶対しゃっくりしたから言い直したわけじゃないな。一瞬だけ虫が悪いような顔してましたよ? 後今の顔引き攣ってる。

 

 

クスッ。やっぱり言いにくいですよね。シャドウミストレス」

 

「ち、千代田桃!! 貴様はちょっと黙ってろ!!」

 

 

 ……千代田桃。お前のフォローは時に人、というかまぞくを傷つけることになるんだぞ。もうちょっと言葉は選んだほうがいいぞ? 後、鼻で笑うな見てるだけのこっちもなんか腹立つ。

 

 

「コホンッ……話を戻す。平地白哉よ、どうやら貴様はシャミっ、シャミ子の小学校からの幼馴染のようだな」

 

「あ、はい。そうです」

 

 

 あ、結局シャミ子呼びにするんだ。っていけないいけない、話はちゃんと聞こう。

 

 

「貴様は入院して我が子孫を見かけて以来、随分と彼女に優しく接していたらしいではないか。そういった対応を今でも変わらず続けており、中学からは偶に軽いトレーニングもさせてあげてたらしいな。多少の暴走を起こしそうだったらしいが、おかげさまでシャミ子本人が心身共に成長したと言っているようだ。我が子孫の心の支えになってくれていること、ここに礼を言おう」

 

 

 えっ………………あ、感謝の言葉でしたか。どうやらリリスさんは俺が優子と仲良く接したことを嬉しく思っているようだ。まぁ苦しい顔とかよりも笑顔になっている時の子孫の顔を見てる方が、『あ、この子は上手くやってるな』と少しくらいは思ってもらえるから、そう思ってくれてこっちも嬉しいな。

 

 

「えっと……お褒めいただけるとは勿体なきお言葉です」

 

「ふふん、そうかそうか! どうやら貴様は余に対する礼儀をそれなりに持っているようだな! ではその礼儀良さとこれまでのシャミ子に対する恩義に答え、これから余が魔法少女を圧倒するところを見るが良い‼︎ まぁ奴にはシャミ子をダンプから守ってくれた恩義があるから、大怪我だけで済ませて……」

 

 

 あの、すみませんリリスさん。ご機嫌になってるところ申し訳ないのですが、その魔法少女、貴方の背後に迫ってきてますよ。

 

 

「なんばしょっと⁉︎」

 

「転落しそうで心配です。気にせず続けて」

 

「いやいや余計なお世話ですけど⁉︎ っていうかナチュラルに間合いに入るな‼︎」

 

「えっ⁉︎ こんなに隙だらけなのに⁉︎ すみません気遣えなくて‼︎」

 

「よーし分かったぞ‼︎ 予定変更‼︎ やっぱりすり潰す‼︎ 戦争だ‼︎」

 

 

 あーあ、また出たよ千代田桃のフォローになってない無自覚な言葉のナイフが。こいつはどうして人の傷つくことばっかり口に出すのかねぇ……。結局リリスさんキレちゃってるし。

 

 というか今頃気づいたんだけど、こうしてる間に優子はごせん像の封印空間の中にいるんだよな? そこにいる事になった時はリリスさんになんか言われていた気がするけど、大丈夫なのか……? 心細くなったりしてない、よな……?

 

 

 

 

 

 

「あ、地上波全部映るんだ。でも今はあんまり面白いのやってないなー」

 

 その頃、封印空間ではシャミ子こと優子は炬燵に入りながらテレビを見ていました。結構くつろいでいる模様です。

 

 

 

 

 

 

 この後リリスさんは封印が解けたらローカル路線バスで地方の温泉を巡り癒され、その後は状況に応じて適当に世界征服すると宣言してきた。いや後半ざっくりだな。状況に応じて適当にって、具体的にどのようにして世界征服するおつもりですか? 暴力で? はたまた財力で? あ、後者は難しいか。

 

 そこを千代田桃に指摘されついに痺れを切らしたのか、ついにリリスさんは机を投げ飛ばして戦闘開始……

 

 しようとしたが、上手く持ち上げられずその場で転倒してしまう。俺が床に打ちそうな頭を受け止めてあげました。ナイスタイミング二回目。

 

 俺が鍛えてあげたことで原作よりは強くなったと思う今の優子の体でも、机を投げ飛ばす程の筋力までにはいかなかったかー。なんか上手く鍛えてあげられなかったなと思えて悔しい気がする。

 

 

【これ、僕が呼ばれる必要なくな〜い?】

 

「うん、そう思える光景だね。けど念のためだから、もうしばらくここに現界しとって」

 

 

 俺は今、水色の身体に橙色の甲羅を持つウミガメ・コウランを召喚術で呼び出し、俺の防衛に専念させています。彼の能力は人一人分の甲羅型エネルギーを作り、それで自身と人一人分を様々な攻撃から守ってくれる能力があります。俺が優子を鍛えたことでリリスさんが原作よりも強くなってるかもしれないことを考慮して、ね?

 

 そこ、コウランをカラーリングを見てポ○モンのゼ○ガメと思った奴いたら表に出ろ。白龍様が八つ裂きにしてくれるぞ。【おい、他人任せはやめてくれないか?】

 

 ちなみに杏里・小倉さん・全臓の三人は、全臓の忍法・鋼鉄の筒による生成された筒状の鉄の壁に囲まれながら千代田桃とリリスさんの闘いを透明になってる部分から眺めてます。しかも俺が召喚術使う前に。なんで今日俺をハブってばっかなの君達? 俺、君達に何か悪いことでもしたの?

 

 

「な…何だこの体⁉︎ ちょっと動いただけで重心がグラグラする……ちょっと息も上がる……力はちょっと入れづらいし、首と肩も凝ってるし、ついでにうっすら目が悪い……‼︎」

 

 

 あ、なんか原作よりは酷くは無さそう。俺が優子を鍛えてあげたおかげなのか、リリスさんへの評価が少しはマシになったってことか?

 

 千代田桃曰く、自分が頭の中で想像している動きに優子の肉体がついていけてないとのことらしい。そこでリリスさんが今の自分がポンコツであるのかと指摘すると、運動神経に到底無視できない大変な課題を抱えているだけとか言ってフォロー出来ずにいた千代田桃であった。

 

 

 

 

 

 

「これはすごいことです。うちにあるゲームで遊べる」

 

 その頃の封印空間の中のシャミ子。ちゃんと空間の中のゴミとかを片付けている上、ここにあるものを色々使って堪能しているようだ。

 

 いやシャミ子よ、外の世界に行った先祖や白哉の事を心配しなくていいのか? 一応原作主人公かつ本作の微ヤンデレ(のつもりの)ヒロインだぞ?

 

 

 

 

 

 

 物理攻撃(暴力)をしようしても無意味というか無理だと判断したのか、リリスさんは溜めて放つ系の魔力で対抗することに。昨日優子が一度だけバランスボールサイズを出したので、周囲を巻き込みそうな程のデカい魔力を出しそう……。こっちは召喚できる奴にコウランともう一体、全臓が複数の対象を守る忍法を持っていてよかった……のか?

 

 だが案の定というべきか、リリスさんが放てた魔力は原作通りのゴムボールサイズ。しかもUターンしてリリスさんの体にチクッ。筋肉注射レベルの痛さが魔族の先祖を襲う‼︎

 

 

「あ痛あああああああああん⁉︎」

 

【ブハァッ。クスクス……】

 

「おいそこの亀! 今笑ったな⁉︎」

 

【いや、これ、ただの咳……ブハハハッ】

 

「絶対笑ってる‼︎ ちゃんと『ブハハハッ』って笑ってたの聞こえてたぞ‼︎」

 

 

 うん、俺は内心堪えてるとは思うけど、これは思わず笑うしかないわ。だって魔力受けたリリスさんの悲鳴が……

 

 ってか千代田桃まで笑い堪えるの珍しいな。

 

 後、小倉さんは何を思ってメモってんの? 何の研究するつもりなの?

 

 そして全臓、冷たい眼差しをリリスさんに向けるのやめなさい。相手は魔族の先祖だぞ?

 

 

「これ以上あなたにシャミ子を操作させると、シャミ子が痛んでしまいます」

 

 

 おい、人を生モノみたいに言うな魔法少女。

 

 

「ち、近寄るな‼︎ 一旦どこかで潜んで態勢を……」

 

 

 やっと身の危険の重大さを感じたのか、リリスさんはご先祖像を持ってこの場を離れようとするが、その肝心のご先祖像がないことに気づく。うん、これはないというか()()()()()()()()()と思う。だって……

 

 

「やっぱりこれがないと遠くに行けない感じですか?」

 

「一般人何を突き立ててる⁉︎ 返せ‼︎」

 

 

 研究好きマッドサイエンティストの小倉さんが、既にごせん像にパイルドライバー刺してるもん。ごせん像解体しようとしてるもん。中の優子が危険だからやめなされ。

 

 

「いやーすみません。でもいつものシャミ子の方が好きっす」

 

「ってなわけで、そろそろそちらの子孫に体返してあげてもらってもいいッスか?」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 あらら、今この場にリリスさんの味方はいないようだ。まぁ体貸してもらって現界したばかりだから、仕方ないのかもだけど。

 

 

「ひ、平地白哉‼︎ 貴様、シャミ子の幼馴染なのだろう⁉︎ なら余が使ってるこの体を傷つかせるわけにもいかないのだろう⁉︎ だから助けて……」

 

 

 あ、今度は俺に助けを求めようとしてるな。優子と仲がとても良い俺ならば、彼女と縁のある者にも手を差し伸べるだろうと思っての判断だな。けど、すみませんリリスさん。俺は……

 

 

「お言葉ですが拒否します。やっぱ俺も優子の体から別人格が出るの、なんか違和感あって耐えられそうにないです。なので降参してください」

 

「はぁ⁉︎ 『味方になった覚えはない』ということか⁉︎ この薄情者ー‼︎」

 

「そんなんじゃないですけど、俺もいつもの優子の方が良いってことです。あ、でも千代田桃は貴方を消すつもりはないですよ。ちゃんと生かしてくれますから……多分。優子に体を返してくだされば、の話ですが」

 

「………………あぁ……余、終わったわこれ」

 

 

 俺にまで突き放されたと思ったのか、千代田桃に腕掴まれて何かされそうになるって事になる前に、リリスさんは潔く白旗降参しました。本来なら諦めたらそこで試合終了だが、状況整理して答えを出すのも良いことだ。たとえそれが本人の不本意であっても、な。

 

 この後、リリスさんの最後の望みとして多摩健康ランドで温泉に浸かることにした。全臓と小倉さんは部活動での急用があるとか言って来れないらしいけど。

 

 というわけで放課後にて四人で健康ランドに向かって歩いていると、リリスさんが俺に声を掛けてきた。もしや金借りる気?

 

 

「平地白哉、貴様に一つ頼みたいことがあるのだが……」

 

「すみません、二人分の銭湯の代金は持ち合わせてないです」

 

「貸してはほしいけどそういうことではない‼︎」

 

 

 えっ、そうなんですか? この後の原作通りの展開のしやすさを考えて心を鬼にするつもりだったのだけど、言いたいことはそこじゃなかったんですか? まぁ本音を言うと、マジで今リリスさんの分の健康ランド代がないんスけども。余分な金はウチの金庫に入れてるですよ。

 

 けど金が本題じゃないのなら、一体何を……

 

 

「温泉浸かった後すぐにシャミ子に体返すかもしれんから、その前に先に言わせてもらう………………シャミ子の事、これまでよりももっと大切にしてやるんだぞ」

 

「へ? は、はぁ……」

 

 

 え? 『これまでよりももっと大切にしてやれ』? それは一体どういう……? いや、優子を悪いようにはしてないとは思うし、あいつの想いには頑張って向き合っているのだけど……うぅむ、何故かリリスさんの言ってる言葉の意味が分からん……

 

 そうこう考えてる内に気がつけばお風呂祭りを満喫していました。そして体を返してもらった優子が無理に動かされた全身の痛みを受けたり、健康ランド代をツケられてショックを受けたりしてるのを見て、俺は只々申し訳ないと思いながら苦笑するのだった。

 

 

 

 

 

 

「ぬぬぅ、まさかボロ負けになるとは……」

 

 

 その頃、ご先祖像内の封印空間。お風呂祭りを堪能したリリスは帰宅してすぐに炬燵に顔を伏せていた。桃に成す術なく……というよりは優子の体の配慮に至らなかった事による敗北を受け、魔族の祖先のメンタルを崩されたからだ。

 

 ただ、最後にはお風呂祭りによるリラックスを得たことで、なんとかメンタルの完全崩壊は免れたのだが。

 

 

「それにしても、シャミ子には申し訳ないことをしてしまったな。結構体に堪えてしまっているだろうし、今の吉田家の財政のせいで、余が残していったツケも痛手になっただろうな……あ、フルーツ牛乳美味っ」

 

 

 今頃明かされる衝撃の真実によって嘆いているだろう子孫を思い描きながらも、彼女が飲んだことで記憶(ビジョン)に反映されたフルーツ牛乳を堪能している。少しでも心を安らいでおかなければこの先やっていけないというのは、仕事終わりのサラリーマンと同じようなものだろう。

 

 

「とにかく、今回は余にも至らぬ点が多かったことがよくわかった。これからはいくつか改善点を考えなければな……」

 

 

 自身のシャミ子と周囲に関する情報の捉え方。自身とシャミ子の体の相性の悪さ。千代田桃の強さ……は全く見せてくることはなかったが。様々な方面での誤解や計算ミスが重なったこの苦い思い出は、リリス自身にとっても課題となり、トラウマにもなった。

 

 それでも尚、そこからどのようにしてシャミ子にアドバイスを送れば良いのかを考察するようにもなったわけなのだが。

 

 

「………………それにしても、平地白哉、か……」

 

 

 フルーツ牛乳を飲み干し、ふと白哉の名前を呟くリリス。彼女は実際に白哉と出会った時の事を振り返り、彼の事についても考え始めた。

 

 夢の世界に引っ張り出したシャミ子と話し合う機会を得た時に、不意にリリスは情報共有という名目で奴の事を聞いてみたことがあるらしい。子孫と関わりのある者についての情報を得ることは良いことなのだが……結果的にリリスが精神的疲労を受けただけだった。

 

 シャミ子は他の者達に話さなかったのが嘘かのように、白哉の性格の良さや自分に対して行ってくれた接し方など、彼の良い点を数えきれない程に語りまくっていた。

 

 彼が自分に対して見せてくれた笑顔や、自分の体を気遣っての対応、シャミ子自身が本性を打ち明けても変わらず優しく接してくれている器の広さなど、これまでにあった出来事を含めて彼女は白哉に好意を示していたようだ。

 

 おかげさまでリリスは、シャミ子が夢の世界から帰っていくのを見送った後、その場で脱力して泡を吹かしながら倒れ込んだそうな。

 

 それ以来、リリスは白哉の事をシャミ子にとってどのような存在であるのかと考察し始めた。それによるものからか、シャミ子に寄り添ったり彼女を鍛えてあげたという恩義もあるが、それ故に複雑な感情を持ち始めた。彼は子孫にとっての支柱なのか、または味方という心の猛毒なのか、結論に辿り着けじまいとなった。

 

 しかし、その考察は実際に白哉と出会ったことで変わりだす。

 

 

「出会ったばかりだというのに、奴からは不思議なものを感じる……。召喚術を使えるようになったというのもそうだが、何故だろうな……奴から何か()()()()()()()()()()。何と言えば良いのだろうな……まるでシャミ子や千代田桃だけでなく、その周りの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()辿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かのようだ……」

 

 

 シャミ子にとって何なのかという云々ではなく、彼自身が何者なのか……という捉え方をするようになった。リリス本人でも分からない『何か』を、白哉を見て不意に感じ取ったのだ。何故そう言う考察が出たのか、何故白哉を見てその『何か』を捉えられたのか、それはそう思ったリリス本人すら疑問に思う程に。

 

 

「……いや、当の本人は自分が今していることに一切気付いていないし、今はそこまで深く追及する必要はないのかもしれんな……。とりあえず、今は白哉がシャミ子にとっての何なのかを見定め続ける程度にしておこう。うん、そうしよう」

 

 

 最終的に思考したが。いや何故だ。もう少し頑張れ魔族の先祖よ。

 

 




リリスさん、なんか白哉君の事を雑に捉えてないかな……? 設定とか作ったの俺だけど。

そろそろ次回以降のストックがヤバそうなので、週一よりも早い投稿はやめとこうかな……?


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原作初登場の回よりも先に未登場キャラに出会うのって色んな意味でハラハラする

唯一の不安要素となるオリジナル回なので初投稿です。

優子のアルバイト回に白哉君をどう導入すればいいのか分からなかったものだから……


 

 多摩町に設立されている、とある公園。滑り台やジャングルジムなどは鮮やかな色をしていた。しかし、生えている木々は皆幹が太く、長い間そこで子供たちを見守っていたことが窺える。

 

 それだけでなく、アスレチックを売りにしているだけあってか、一般的な公園でイメージする遊具以外も数多くあるようだ。入口に案内板があるだけでもかなり大きく、種類が多そうだということがわかる。

 

 そしてこの日は休日。家族連れの子供達が走り回ったり、親や友達と一緒にアスレチックや遊具などを使ってはしゃいだりと、元気溢れる子供達が公園内のあちらこちらで遊び回るのが、休日の多摩町の日常風景と化しているのが常識。

 

 しかし、この日だけは違った。アスレチックや遊具で遊ぶ子達が多い中、公園のとある隅でいつもは見かけることがない人だかりが出来ていた。それは子供だけでなく、大人までもが子連れもそうでない者までもが集まっていた。

 

 人々が向けている視線の先には、ステージと思われる広々としたステージが。そしてそこには二人の人物が立っており、まるで特撮番組やバトルアニメの如く、静寂な空間の中で対峙していた。そして不意に吹いてきた微風がさらにピリピリとした雰囲気を曝け出していた。

 

 対峙している一方は、姿は正に忍者。全身に黒い忍装束を纏い、口元も黒い布で覆われている。ここまでは普通の忍者と同じ恰好だが、この忍者には一般のとは異なる容姿をしていた。

 

 その忍者の忍装束には白い縦縞模様が描かれており、その上に様々な色を持った複数の手裏剣らしき装飾が付いていた。そして目元は忍の刀に似た白いサングラスのようなものを掛けているように見え、特撮番組に出演するかのような姿となっている。

 

 

「後は貴様だけだ、妖獣使いワイト‼︎ 夜な夜な町に現れ、使役する妖獣に人々を襲わせ、食べ物や金目の物を奪い取る貴様の悪行……許しはせん‼︎ いざ、成敗‼︎」

 

 

 そう高々と宣戦布告を告げる忍者の視線の先には、一人の骸骨の姿が。骨だけであろう体躯は赤と黒の線で描かれたバツ模様の目立つ青いローブによって覆い尽くされており、右手には紺色の水晶が嵌め込まれている杖が握りしめられていた。

 

 

『カッカッカッカッカッ、よくぞ我の元まで来れたな……未来忍者・黒虹(くろにじ)よ‼︎ だが、我の操る妖獣を全て倒したところでいい気になるなよ。貴様はこの我自らの手で葬ってやろう‼︎』

 

 

 不気味な笑い声を上げる骸骨──妖獣使いワイト。水晶の輝く杖をブンブンと振り回しては、水晶を忍者──未来忍者・黒虹に向け、死刑宣告を告げる。その言葉が紡がれた後、ここまでの一連を見た周囲──主に子供達が騒ぎ出す。

 

 

「頑張れー黒虹ー‼︎」

 

「ワイトに負けるなー‼︎」

 

「黒虹ーカッコいいー‼︎」

 

「ワイトも負けるなー‼︎」

 

「どっちも頑張れー‼︎」

 

 

 ヒーロー枠とも言える黒虹を応援するものが多数、優しい情を持つ者もいるのか怪人・敵枠のワイトを応援してくれる者も少なからずとも存在していた。

 

 

「いくぞ‼︎ 我が剣技、受けてみよ‼︎」

 

『来い‼︎ 我が闇の力で返り討ちにしてくれるわ‼︎』

 

 

 敵役味方役関係なく応援してくれている優しい人衆に見届けられながらも、互いが互いの役割を果たすため、武器──刀と杖をぶつけ合う二人。テレビのようなCG等の演出はないものの、ヒーローショーでありながらテレビ放送さながらの白熱なぶつかり合いを予兆させていた。

 

 そんな中、ワイトは一人でに思い悩んでいた。

 

 

 

 ホントもう、なんで着ぐるみの中こんなにもクソ暑いの⁉︎ 早く終わってくれ‼︎

 

 と。なんとまぁくだらない悩みだこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、皆さんどうもこんにちは。平地白哉です。最近召喚獣は各々が飯を確保してるためこちらが餌あげる必要がないって事を、昨日の夜に知りました。

 

 ちなみにこの前はリリスさんの一時的なプチ現界?イベントを終わらせて参りましたー。

 

 まぁあのイベントは一言でまとめれば、その……アレだ。リリスさん、ご愁傷様でした……

 

 ただ原作と異なるところと言えば、俺が優子を鍛えてあげたのにリリスさんの息切れが半減しただけという、乏しい変化が出ただけだったな。

 

 いくら想像した動きに優子の肉体がついていけないとはいえ、原作から改善された点が一つだけかつ微量って……原作知ってる者ならば同情せざるを得ないよな、うん……

 

 あっ。そういえば俺、リリスさんにこんなこと言われてたな。確か『優子の事をこれまでよりももっと大切にしてやれ』だったっけか? それを言われて以来、何故か頭の中でずっと引っ掛かってんだよなぁ……

 

 あの言葉、もっと優子に寄り添えって意味なのか? 俺はこれまでに悩み相談に乗ったり、テスト勉強に付き合ったり、誕生日プレゼントを渡したりと、彼女のために出来ることはなんだってやってきたはずなんだが、まだ何か足りないってことなのか? うーん……これは難題だな……

 

 

「おーい、平地くーん‼︎」

 

 

 そんな事を休日の多摩川公園のベンチに座りながら考えていると、忍法愛好家の全臓がなんか息を切らしながら走ってこちらに来た。えっ、なんでゼェゼェ言ってんの? お前結構体力ある方じゃなかったっけ?

 

 

「どうした? そんなに息切らして」

 

「ゼェ……ゼェ……す、すいません平地くん。休日に申し訳ないけど、お願いがあるッス……」

 

「お願い? お前が頼み事をしてくるなんて珍しいな……もしや忍法絡みの頼み事か?」

 

 

 全蔵は中間テストではベスト10に入る程に頭が良く、忍法を覚えるだけあって運動神経もかなり良い、その上に校則も守るし学校の行事にも積極的に参加してるため、授業関連のことでは悩みを抱えてそうにはない。

 

 だから誰かに悩み相談するのは、自分が覚える忍法に関することしかないらしい。忍法として覚えるための何かしらのアイデアや、その忍法をうまく使うためにどうすればいいのかなどといった、新しい忍法に対するアドバイスしかあまり欲しがらないようだが、今回はどんな感じのを忍法として覚えたいと言うんだ?

 

 

「いや、忍法のことではないッス。一言で言えば、緊急事態なんス」

 

「緊急事態? いったいどうしたと言うんだ?」

 

 

 忍法の事じゃなかったんだな。じゃあ何事だと俺が問いかけたら、全臓は申し訳ないと思っているかのように苦い顔を浮かべてきた。何よ、躊躇ってないで早く言わんかい。言い淀んでると逆にめっちゃ気になってくるだろうが。

 

 

 

「お願いするッス‼︎ ヒーローショーのバイト、手伝ってほしいッス‼︎」

 

 

 

「………………へ?」

 

 

 えっ、バイトの手伝い? しかもヒーローショーの? 一体どういうことだってばよ? ってかお前バイトしてたんだな。

 

 全臓の話によれば、今日はこの公園で現代ファンタジー風のヒーロー番組『未来忍者・黒虹』のヒーローショーがあるらしい。全臓はその未来忍者─黒虹の着ぐるみ役でバイトすることになったそうな。

 

 その主人公が、うっかり崖から滑り落ちた先で行われた敵組織の怪人──妖獣化の儀式に巻き込まれたことで、何故か怪人化せず忍者の力を獲得。その力で組織を倒すという、子供にも大人にも人気の特撮番組らしい……なんじゃそのヒーローへの成り行きは。

 

 で、そのヒーローショーの悪役を演じる人が急に熱を出して出られなくなったんだとか。それで代わりとなる配役を何時間も掛けて走って探し回っていたってわけか……

 

 

「それで代わりの人を探していく内に時間が迫ってきてるから、一か八か俺に頼むことにしたってことか?」

 

「はい、そういうわけッス……すいません……」

 

 

 うわぁ、めっちゃ顔に影落としてるじゃん。何としてもヒーローショーを開きたいという焦りと、休日に急な頼み事をして申し訳ないという罪悪感を表に出してるよ。これ、お願い引き受けないと全臓が危なくないか? 色んな意味で。

 

 

「……まぁいいよ、手伝ってやる」

 

「えっ⁉︎ い、いいんスか⁉︎」

 

「ちょうどこの日は優子が杏里の親の店での初バイトの日だし、せっかくだから俺も(この世界での)初バイトをしようかなって。あ、バイト代を分けるかどうかなんてのは別にいいぜ。どうせ親が勝手に金を仕入れてくるから」

 

「お、おぉ……‼︎ かたじけないッス……‼︎」

 

 

 おいおい、気持ちは分かるけど涙を流すのやめてくれよ。なんか俺がパシリとかして泣かしてるように思えて、こっちにまで罪悪感が……

 

 しかし、この時俺はまだ知らなかった。着ぐるみを着ての仕事というものは、短時間の中でも地獄なのだということに。

 

 

 

 

 

 

 で、早速妖獣使いの骸骨・ワイトの着ぐるみを着ることになった俺なんですが……

 

 なんか視界、少し狭まってね? そして着ぐるみの中、まだ誰一人着てないのに蒸れてない⁉︎ なんで中にファンクーラーが入ってないの⁉︎ 意外と俺の体型とピッタリなせいなのか余計に暑く感じるし‼︎ そして胴体ら辺が思ったよりも重い‼︎何なのこの着ぐるみ⁉︎

 

 ヤバい。俺、早くもヒーローショーのバイト甘く見てたのかもしれない……

 

 

「妖獣使いワイトは、妖獣と呼ばれる怪人枠を操って人々に襲わせ、組織の発展のために食べ物や金目の物を奪い取るという悪行を行なっているッス。とは言っても、物陰とかでスタッフがカンペなどで動きの指示を出したり、アナウンスがワイトのセリフを勝手に喋ったりしてくれるので、平地くんはただカンペの指示に合うように適当に動くだけッス。だから先程のワイトの説明は気にしないでほしいッス」

 

 

 じゃあなんで説明したし。そう説明してる間にも俺、着ぐるみの暑さに体力蝕まれてるんだけど。せめてまだ着ぐるみ着てない時に俺はどうすれば良いのかを説明してくれない?

 

 しかも主役の黒虹の着ぐるみ着た状態でそれやるのやめてくれる? この暑い状態で後に必要ないと言う説明をしてもらわれると、なんか主人公に煽られてる気がして腹立つ。

 

 

「……にしても平地くん、着ぐるみ着てから一言も喋ってないッスね。もしかして、ワイトの役作りのために集中してるッスか? それは邪魔して悪かったッス。やり方を紙に書いて見せるだけでよかったッス」

 

 

 違うわ‼︎ ただ単にめっちゃ暑いからぺちゃくちゃ喋る暇ねーんだよ‼︎ 思ったよりも上手く『休憩させて』とかの意見が言えねーんだよ‼︎ 勝手な誤解生むな‼︎ そして察しろガキィ‼︎

 

 そんな言葉に出せない怒りを着ぐるみ越しから目で伝えていたら、黒虹ヒーローショー開始のアナウンスが聞こえた。えっ、もう始まるの⁉︎

 

 

「それじゃあ出番ッスよ平地くん。妖獣役の皆さんの後に出て来てほしいッス」

 

 

 クッ、もう引き受けてしまったのなら仕方ない。こうなったらさっさとワイト役としての登場場面を全部終わらせて、無事このヒーローショーが終わることを祈ろう。

 

 ……熱中症で倒れるなよ、俺。

 

 

 

 

 

 

 まずは先程全臓に指示されたように、妖獣役の皆さんの後から登場し、『人類の食糧と財産を我が組織のものにしてやる』 アピールするかのように適当に動き、黒虹役の全臓が出て妖獣の何体かが吹っ飛ばされた後に『一旦退いてやる』とか言って一回退場。

 

 この時の休憩時間がたったの二分。けどこの時間だけでペットボトルの水丸々一本飲み干しました。だってめっちゃ暑いもん。あっ、ここで着ぐるみの事で文句言えばよかったじゃん。やらかした。

 

 次は黒虹が敵の居場所を探すとかなんとか色々言ってから退場した後に登場。何故かクイズを出す妖獣とその問題に答える子供を見守る感じ。俺が昔前世で見たヒーローショーでも、怪人が子供達に何かしらクイズを出して景品を渡したっけか……

 

 また退場して今度の休憩時間は五分。今度は二本も水を飲み干したよマジで……。めっちゃ喉カラカラ。ここでも文句言うの忘れてたわ。『早く終わらせてこのショーを成功してさせてやる』とだけしか考えてなかった。

 

 しばらくしたらまた黒虹が登場し、妖獣が不意打ちするも全滅。というところで俺が三度登場し、一騎討ちに。激闘の末に黒虹が勝利。ここでとうとう俺の出番は終わった。

 

 後は黒虹との握手会だが、もう俺には関係ない。さっさと着替えてしばらく休憩して帰ろう。バイト代いらないとも言ったから疲れ取ってからさっさと帰ろう。そうしよう。

 

 

 

 

 

 

「ハァ、もうめっちゃ疲れた……」

 

 

 結局押し付けられる形でバイト代を貰い、そのまま帰路へと向かおうとする俺氏。だって言葉の通りめっちゃ疲れたんだよ? ファンクーラー未搭載の体フィットした着ぐるみを長時間着てヒーローショーの仕事とか、地獄かよ……

 

 何だろう、優子はウインナーの試食販売してるから体の負担は一切ないのに、こっちは少しずつ暑くなっていく季節の中で、ファンクーラー無しのフィット着ぐるみを着てヒーローショーで動きまくりって……この差は一体何なんだよ……

 

 

「おっ、柱が少し錆びてる吊り橋が上空に。懐かしいなぁ」

 

 

 ふと、俺は誰も渡ってないジャングルジムの吊り橋が真上にあることに気づき、そんな言葉を呟きながら見上げた。前世では小学校にあったジャングルジムにも付いてたから、よく渡っていたものだ。こういう懐かしいという思いに浸れるから、正直この公園に来てよかった……

 

 ……ん? なんかギシギシって音が、何やらロープのところから……

 

 あっ、ロープ千切れた……って。

 

 

「ギャアアアアアアッ‼︎ た、大木が落ちてくるゥゥゥゥゥゥゥゥゥ⁉︎」

 

 

 嘘だろオイィィィ⁉︎ そんなになるまで古くから使われてたよあの吊り橋ィィィ⁉︎ 幸い周りには俺以外人がいないとはいえ、アレに押しつぶされたら元も子もねェェェッ‼︎ ヤバい、急いでコウラン呼んで守ってもらわないと……

 

 

 

「危ない‼︎」

 

 

 

 刹那。他に人がいるはずがないのに誰かに左腕を思いっきり引っ張られた気がして、『下がろう』という気になれてなかったのに強制的に素早く後方に下げられた途端に、()()()()()が俺のところに落ちるはずの大木を貫き粉々に砕いた。

 

 た、助かった……なんかよく分からんが助かった……誰かが助けてくれたおかげで死なずに済んだ……。召喚とコウランへの指示が追いつくか正直めっちゃ不安だったから、()()()()()が大木破壊してくれてよかった……

 

 ……ん? ()()()()()? ちょっと待って、本当にその矢って蜜柑色なの? もしそれが本当だとしたら……いやいや、さすがにこの場面では……

 

 あっ、左腕掴んでた手を離してくれた。にしても中々の腕力だったな……。魔力で筋力を補ってるだろうとはいえ、千代田桃とはいい勝負になりそうだ(何のだよ)。

 

 

「よかった……。助けが少し遅れてたら一時はどうなるかと思ったわ。あ、大丈夫でしたか?」

 

「えっ。あ、はい。おかげで命拾いしました。本当にありが……」

 

 

 刹那二回目。つーか寧ろ戦慄が走った気がする。何故なら、俺を助けてくれた人の姿を見て思わず硬直したからだ。何故なら、俺はその人を()()()()()()()()()()()()()

 

 肩近くまでの長さで蜜柑色の髪。お団子ヘアの部分には蜜柑の葉に似た髪留め。そしてオレンジ色を基調とした華やかな魔法少女の服装……

 

 うん、オレンジ色めっちゃ多いからこれは確信でき……いや、まだ本人かどうか分からんし、これは、うん。一応聞いてみた方がいいな。

 

 

「………………あの、すみません。どちら様ですか……?」

 

「え? んー、そうですね……。強いて言うなら……」

 

 

 頼む。彼女はただのコスプレイヤーであって、さっきの矢はせめて他の魔法少女が遠くから使用した能力であってくれ。彼女が使った能力であらんでくれ……‼︎

 

 

 

「通りすがりの魔法少女、ってところかしら」

 

 

 はい確定。俺、原作での初登場回よりも先に、陽夏木ミカンと出会っちまったよ。

 

 

 

 マジかよ。なんでこんな公園に陽夏木ミカンがいるんだよ。そしてなんで俺が優子達よりも先に彼女に会うことになるんだよ。いや、変な真似しなければ後の原作に影響しないだろうけどさ、そうならないか不安だ……

 

 と、とりあえずなんで彼女がこんなところにいるのか聞いてみるとしよう……

 

 

「あの、何故魔法少女がこの公園に? 何か異変とかでも?」

 

「ん? あぁ、ただの観光ですよ。今日はやる事がなかったものだから、この町を巡っておこうかなって」

 

 

 あ、原作初登場の時とは逆の目的で来たのか。やる事がないって、原作でも転校するまでの間も暇だとか言ってたよな? 随分先の話だけど。

 

 

「にしてもよかったわぁ、この町を巡ろうと決めておいて。もし私がここら辺に来てなかったら、きっと貴方は大変なことになってたかも……」

 

「あ、多分『かも』じゃないですね。タイミング云々が違ってたらマジ大変なことになってたと思います俺」

 

「あー……ですよね」

 

 

 なんか陽夏木ミカンがここに来てなかったら助かる可能性が低かったかもとか言ってきたので、とりあえず俺は『アンタが来なけりゃ絶対酷い目に遭ってた』と言うことに。別にとやかく言う必要はないんだけれども、『お前が来てくれたおかげで助かったんだ』ってのを伝えたくて……

 

 正直めっちゃ危なかったもん。急に降ってくる大木への対策を思いつけても、それを行う前に間に合わなかったら元も子もなかったもん。下手したら死んじゃうかもしれないし……もう正直陽夏木ミカンには感謝したい気分だよ。

 

 

「それでも助けに来れてよかったと思ってます。()()()()になったばかりなのに大怪我なんてしたら困りますものね」

 

「えぇ、全くもってその通りで……ん? ()()()()?」

 

 

 は? オイ、ちょっと待て。なんで俺のことを新社会人だと思い込んでんだよ。俺まだ義務教育完了してまだ二ヶ月しか経ってないんだぞ? まだ会社とかで働ける感じじゃないんだぞ? 何勘違いして……

 

 あ、よく考えたら俺達まだ出会ってばっかだし、身長もなんか普通の社会人っぽい高さになってる気がする……個人的に。

 

 

「ア、アラ? 間違えてました? えぇっと、どっかの会社二年目以降か、大学生の方ですか……?」

 

 

 とりあえず、この子は俺を年上だと思い込んでるな。さっきからずっと敬語使ってきてるし。俺も今敬語だけど。さっさと誤解を解くか。お互いに敬語を使うのもアレだし。

 

 

「言っとくけど俺……高一だぞ。だからお互い敬語使うのやめね?」

 

「………………えっ⁉︎ 同級生⁉︎」

 

 

 オイ、瞳孔開いてたぞ。そんなに驚きだったの? 千代田桃より四・五センチくらいデカいだけなのに、それだけで年上扱いするってどういう見聞してんの君?

 

 

「そ、そうだったのね……。出掛けてる時とかでよく貴方ぐらいの身長の会社員や店員を見かけてたから、勝手に貴方も二十歳超えかと……。後、顔がなんか普通の高校生よりも大人びてた気がしたのもあって……」

 

 

 あぁ……確かに百七十センチ前後の大人ってよく見かける気がする。それと顔か。なんか顔見て『大人びてる』とか言われるの久しぶりだな。時が経つにつれてもう言われることはないとは思ってたけどなー。

 

 

「顔の事ならもう慣れたよ。それに見た目等での他人の捉え方は人それぞれだし。ただ、それだけで『この人はこんなんだから危ない』という考えはやめてほしいなってのが個人的意見かな。悪い例が最近の魔法少女による魔族の捉え方だな」

 

「あぁ……それは同意見ね。けど私ももうそんな失敗しないようにするわ」

 

「おう。ま、俺がどう思われたのであれ、アンタに助けられたことに変わりない。だから改めて礼を言わせてくれ、ありがとう」

 

「いや、そんな大したことしてないのだけど……そう言ってくれるのなら私も嬉しいわ。こちらこそありがとう」

 

 

 よし。なんか助けてくれた人の前で偉そうな感じになっちゃった気がするけど、とりあえずお礼は言えた。俺の年齢等による誤解は解けた。これで一件落着、かな?

 

 

「それじゃ、俺そろそろ帰るわ。バイトの手伝いでマジ疲れたから、さっさとシャワー浴びてとっとと昼寝したい」

 

「そ、そう……それじゃあお大事に……」

 

 

 こうして俺はミカンと別れを告げ、そのまま帰路へと全速前進することに。「全速前進DA☆」バイトの手伝いで無茶クソ暑い思いするわ、落ちてくる大木に巻き込まれそうになるわで、どっと疲れたもん。早くシャワー浴びて……

 

 ん? ちょっと待てよ? なんか俺の左腕、柑橘類のめっちゃいい匂いが染みついている気がするのだけど。あ、これきっと陽夏木ミカンが柑橘類の香水とかボディソープとか使ってたのかも。

 

 ………………………………

 

 

 

 コレ、優子ニバレタラ『コノ浮気者ガ』トイウ誤解デナイフデ刺サレルパターン?

 

 

 

 ああああああああああああ‼︎ ヤバいってこれェ‼︎ この匂いが俺の肌に染み付く前にささっと帰って、入念にゴシゴシと俺が使うミントの香りのボディソープに上乗せせねばァァァァァァッ‼︎ でないと優子が勘違いして完全なるヤンデレモードとなって止まらず暴走案件になるゥゥゥゥゥゥッ‼︎

 

 急げェェェェェェッ‼︎ 早く家に帰るんだァァァァァァッ‼︎ そしてこの匂いを俺が使うボディソープの香りにチェンジせよォォォォォォッ‼︎

 

 こうして俺は五百メートル離れたぱんだ荘まで全力ダッシュし、僅か一・二分で到着。そしてすぐさまシャワーで全力で柑橘類の香りを落としていく。そしてその時のとバイトの疲れが重なり、そのまま居間に転がり寝落ちしました。

 

 ちなみに家政婦枠のメェール君は自分のいた世界で休暇中です。もうさすがにね、毎日現界させるわけにはいかないもの……

 

 

 

 

 

 

「ハァ、結局お土産のウインナーもらえなかった……。代わりにもらったヨーグルトも美味しかったですけど」

 

 

 私シャドウミストレス優子は今、杏里ちゃんの実家の精肉店でのバイトから帰ってきたところです。何故バイトをすることになったのかと言うと、この前の制服一式に続いて先日の健康ランド代で桃への借りがまた増えたので、それを返すために杏里ちゃんからの誘いに乗ったのです。

 

 それで週末に一日だけバイトするという事をおかーさんに伝えたら、呪いのせいで稼ぎすぎたマネーは運命レベルで逃げるから気をつけてと言われました。大半はおかーさんのドジで逃げてたみたいですけど。

 

 そんなわけで、稼ぎすぎと給料袋を取る鳥には気をつけながらバイトすることに。白哉さんと接せる時間が減るのは正直惜しかったけど、今日頑張ったらウインナー一袋待って帰っていいと言われた上、とても良い経験になれたので結果オーライと思うようになりました。

 

 前途でも一つ述べたように、いい事ばかりでもありませんでした。まさかの買い物に来てた桃と鉢合わせ。バイトする理由を言ったら『正規ルートで借金を返そうとするなんて偉い』と言われてなんかスケールの小さい魔族だと思われた気がする。

 

 しかも私がうっかり落としそうになったたこさん(ウインナー)全てを爪楊枝で刺して新しい皿に回収するという、繊細かつ素早い動きで現役時代に見えてこなかったゾーンとやらが見えて強くなれたと言う桃。これで前より更に倒しづらくなった……

 

 この後桃は大量にウインナーを買ってくれたおかげで、売れ行きが良かったと褒められたのですが、さっきも言った通り、そのせいでウインナー無くなってもらえませんでした……

 

 ウインナーもらったらそれを使った料理を作って、白哉さんにも振る舞いたいと思ってたのですが、それも叶わず……。せっかく磨きを掛けた料理の腕前を白哉さんに披露するチャンスがー‼︎ これで勝ったと思うなよー‼︎

 

 ……いや、もう過ぎたことをぐちぐち言わないでおこう。バイト代もらって桃への借りを返す時が来たのだし、それこそ結果オーライとしましょう。とりあえず、今日は早めにお風呂に入って疲れを癒さないと……

 

 

「白哉さん、お風呂借りに来ましたー。……アレ、返事がない? 寝てるのかな……あっ、鍵開いてる。入りますね」

 

 

 玄関のドアを開錠させるなんて不用心すぎません? まぁこの時間帯なら、私がお風呂を借りに来るだろうと考えてあらかじめ開けているのでしょうけど。

 

 とりあえず部屋に入ってみれば、居間で寝転がっている白哉さんの姿が。スゥスゥと寝息を立てている。やっぱり寝ているんだ。

 

 それにしても……

 

 

「……フフッ。寝顔、初めて見ました。可愛いですね」

 

 

 いつもは大人びて何処かの美少年アイドルみたいなイケメン顔をした白哉さんだけど、寝顔となるとこんなにも可愛さを出すなんて、なんだか他の人に見せるのが勿体無いですね。もし私が携帯持ってたら、連写しまくって印刷しまくって、部屋中に飾ってみたい……

 

 って、ダメダメダメダメダメダメダメダメ‼︎ また愛が重くなってる‼︎ 部屋の周りに好きな人の写真を飾りまくるとか、どんなヤベー奴なんですかホント‼︎ いくら白哉さんの事が好きだからって、そんなことしちゃダメだぞシャドウミストレス……

 

 

 

 アレ? なんか、白哉さんから香水の匂いが……

 

 

 

 え? 白哉さん、香水なんて付ける人じゃないですよね? 女の子じゃあるまいし、そんなことしなくてもいい匂い出してくれそうですし……

 

 けど、この鼻に透き通って香る良い匂いは明らかに香水だ。しかも蜜柑なのかレモンなのか分からないけどスッキリとした匂いだ。ここまでの強い匂いは、桃が白哉さんの腕に一瞬触った時でも付かなかったのに……

 

 まさか、今日で白哉さんにすごく絡んできた女の人の匂いが……⁉︎

 

 ………………違う、そんなはずがない。白哉さんを狙っている人なんていないはず。寧ろいてほしくない。そんなはずはない。嘘だと言ってほしい。

 

 嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って嘘だと言って……

 

 って、アレ? とりあえず落ち着けシャドウミストレス優子。もう一度白哉さんに付いてる匂いをよく嗅いでみて。

 

 香水の匂い、ほんのちょっとしかしてない。これって、偶々香水の匂いが強い人とぶつかって、その時に偶々付いた匂い、なのでしょうか……?

 

 しかももっと嗅いでみたら白哉さんが入浴時によく使ってたというミントのボディソープの香りの方が多い気がする……

 

 これってもしや、私の早とちり? 先程白哉さんが自身に付いた香水の匂いを洗い落とすのに必死だったことに気づかず、残ってしまった微量で被害妄想を強くしてしまったに過ぎなかった……?

 

 ………………今日はもう厄日です。お土産のウインナーもらえなかったし、微量の香水の匂いで大きな勘違いをするし、もう穴があったら入りたい……

 

 でも、こんな私が暴走しないようにと、白哉さんは私に気を遣って香水の匂いを落とそうとしていた。私を暴走させまいと一人で頑張っていた。頑張る方向性がおかしいですけども。

 

 嗚呼、こんなにも私なんかのために無茶をしてくれるなんて、白哉さんはどこまでお人好しな人なんでしょうか。けど、そんな彼だからこそ、私は彼の事を……

 

 

「白哉さん………………んむっ……んむっ?」

 

 

 この時、私は自分が今何をしていたのか、自分の顔に伝わる感覚を通して気づいた。

 

 

 

 無意識に、自分の唇と白哉さんの唇を重ね合わせていた。しかも寝ているがために無防備となっている彼に対して。

 

 

 

 ………………………………って。

 

 

「めぴゃああああああああああああ⁉︎」

 

 

 わ、わ、わわわわわわわわわわわわ、わ、私ってば、ね、寝込み中の人に対してなんてことをォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ⁉ あぁいや、キ、キ、キ、キスができそうなくらい、びゃ、白哉さんは隙だらけになってるなーとは思ってはいたけど、ほ、本気でする気はなかったんですよォッ!!

 

 あーもう最悪!! ライバル強くしてしまうし、ウインナーもらえなかったし、大いなる勘違いするし、無意識に寝込み襲ってキスしちゃうし、今日の私は本当にどうかしてるゥ!!

 

 

「あだっ⁉︎ タ、タンスに膝ぶつけた……」

 

 

 気がつけば私はその場で横になって、タンスの角に膝をぶつけて悶絶していた。どうやら私は自分がした事に対する羞恥心で堪えたのか、赤面してた顔を押さえながらその場でゴロゴロと転がりまくっていたようです。ぶ、ぶつけたところが足の指じゃなくてよかったけど、結構痛い……

 

 でも、どうしましょう……。白哉さんが私のキ、キスで起きてる可能性があるとは思えないけど、どちらにせよ、この後どんな顔で白哉さんを見ればいいというのですか……

 

 だって、びゃ、白哉さんは寝込み中の時にキスされたのですよ? 寝てる時の感覚さえ覚えていたら、私に何をされていたのかを覚えていてくれるでしょうけど、そうでもない場合は『気がつけば無意識中の私に純潔を奪われた』という事実を知らぬままになるんですよ? この事を言っても信じてもらえるか、信じてもらっても幻滅したりしたりしてしまわないかとか、そんな恐怖をも感じてしまいます……

 

 どうしよう……私、取り返しのつかない上にかなり恥ずかしいことをしてしまいました……愛が重いってレベルじゃないですよこれ……

 

 

「んっ……? ゆ、優子? どうしたそんなところで蹲って?」

 

「ぬぴょォォォォォォッ⁉︎」

 

 

 お、思わず可笑しな叫び声を出してしまった……

 

 びゃ、白哉さんが起きてしまった……‼︎ 私が大きい声出したりその場で転がりまくったりしてしまったから、それらの音がうるさくて起きてしまったんだ……‼︎

 

 け、けど、まだ私が彼にキスしてしまったこと、バレてない……ですよね? 白哉さんもキョトンとした顔をしてるってことは、きっとそういうことですよね⁉︎

 

 

「ど、どうした? 何かあったのか?」

 

「べ、べ、別に、大したことじゃないですよ⁉︎ そ、それじゃあ私、お、お風呂借りておきますね‼︎」

 

「お、おう……?」

 

 

 や、やっぱり変な反応しちゃったから怪しまれてる……で、でもキスした事がバレてないからまだよし……ですよね?

 

 と、とにかく‼︎ 白哉さんにこの事を詮索される前にさっさとお風呂に入って、今の出来事は忘れておきましょう‼︎ うん、そうした方がいい‼︎ そうと決まれば早くバスルームに向かわないと‼︎

 

 

 

 結局寝るまでに至っても忘れることは出来ませんでした。キスしてる瞬間が鮮明に記憶されているせいで、他の事をして紛らわそうとしても無意味でした……

 

 あうぅ……。明日は白哉さんの顔、ちゃんと見れるかな……

 

 

 

 

 

 

 昼寝していたから気付かなかったけど、優子いつの間にか部屋に入ってきてたんだな。つーか優子達がお風呂借りに来るのって大体夜八時以降だから、俺三時間程寝てたんだな。俺、今日そんなに疲れてたのか……

 

 で、起きた時には優子が何故かタンスの横で蹲ってたんだけど、一体どうしたというんだ? 陽夏木ミカンが使ってた香水やシャンプーの香りがまだ俺の体に付いていたから、という反応ではなさそうだから、誤解はしてない……よな?

 

 優子がどう思っているのかの真相は明らかにはなってないけど、とりあえずヤベー様子にはなって無さそうだから良しとしよう。これ以上深く考えても地雷を踏みそうだしな。

 

 ………………ん? なんか、唇に甘いものを食べたような感覚がしたけど、俺、今日スイーツとか食べてない……よな? 着ぐるみ着た影響でも無さそうだけど、何なんだ……?

 

 




気づけ白哉君! 君は今、魔族の明るい未来を担う責任を持たされてるぞ!(ナレーション風)

で、ミカンm……ゲフンゲフンッ、ミカンさんを何故原作初登場回よりも先に出したのかというと、単なる思い付きです。白哉君を無理にシャミ子のアルバイト回に入れるのもなぁと思い、急遽作ったオリジナル回でどうせ原作キャラ出すなら彼女出そう。ちょうどそれで繋がりそうな原作回もあるし!! ってことで入れました。いい加減やったなオイ(自分で言うなし)。

ちなみに身長について触れられたところがありますが、白哉君の身長は170cmです。危機管理フォーム改・マーク2・セカンド・弐號機でも、同じ身長になるかギリギリ届かないかって感じです。シャミ子の身長140〜145cmに+25cmのヒール履いてますもの、ギリギリラインなのも仕方ないね。


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なんか幼馴染に避けられてる中、その妹に『二人一緒に撮らせて』と言われた。なんか気まずくね?

前回ヒロインが無自覚ながらもヤベーことをやらかしたので初投稿です。

なのにそれに関することの感想どころか、感想自体が1つしか来ない……注目すべき回なので何個か感想来ると思ったんですけどね……

前回シャミ子が白哉君にこっそりキスしてたのに……

前回シャミ子が白哉君にこっそりキスしてたのに‼︎


 

 どうも、昨日クラスメイトのバイトの助っ人を頑張った白哉です。同日にまだ原作初登場回に出てない原作キャラ──陽夏木ミカン──に優子よりも先に出会ってしまいました。しかも初登場時の目的とは逆に、魔法少女として役割を果たすためではなく観光で来たとのこと。つまりはオフの日の彼女に出会ったってわけだ。

 

 けど彼女に出会ったおかげで、俺は降り注いできた大木の下敷きになる可能性を回避することができた。彼女が来てくれなかったらどうなっていたのやら……ヤベッ、背筋が凍ってきた。もうネガティブなもしもを考えるのやめよ。

 

 その後何故か俺の事を社会人か大学生だと勘違いしてたらしいため、同級生であることを伝えたら驚かれたんだけど。いや、俺身長は特段高いってわけじゃないと思うし、顔が大人っぽいと言われてもそれだけだし、勘違いされる要素少なくね?

 

 まぁ誤解はちゃんと解けたので、とりあえずこの件は良しとしよう。問題となったのは、俺の腕に陽夏木ミカンが使ってた香水の匂いが付いてしまったことだ。下手すればその匂いに気付いた優子が勘違いを起こし、浮気者と勘違いされてヤンデレモードと化しそうだったから。ヤンデレモードになったら監禁・脅迫とかされそうだったから。優しい性格の彼女にそんな事してほしくないんだよな……

 

 上述でもあった通り、優子が香水の香りを嗅いだことによる勘違いをすることは俺を死の世界へと誘うのと同じことだ。だって俺、彼女に嫌な程愛されてるもん。彼女が自制してるだけで愛の重さは表に出てないだけだもん。俺が気づけてないところもあるけども。

 

 なので真っ直ぐ帰ってすぐさまシャワー浴びてミントの香りのボディソープをめっちゃ使ったなー。どうしても香水の匂い消して誤解を生まれないようにしたかったから……。いや、それはそれで別の誤解が生まれるんじゃね? 違う方向性で疑われるんじゃね? 翌日になって気づいたことだけど。

 

 まぁとにかく、一日過ぎてしまったものは仕方ない。とりあえず飯食い終わったから学校行く準備して、先に外に出て待ってくれてる優子と合流して、色々と誤解したままなら何とかしてその誤解を解かないとな。上手くそれができるのか分からんけども。

 

 

【マスター、出る前に一言だけ言われてもらってもいいかメェ〜?】

 

「ん?」

 

 

 忘れ物ないか確認したので出ようとしたら、掃除機で玄関を掃除してるメェール君に呼び止められたんだけど。何だろう? 昨日の誤解されるかどうかの事で話があるのか?

 

 けど昨日お休みもらって自分のいた世界に帰ったんじゃね? そしてその事を朝飯食ってる時に話したばっかだよね? だとしたら一体何の用……

 

 

 

【いつかは自分の本当の本心をシャミ子ちゃんに伝えた方がいいメェ〜。それか気づくべきだメェ〜】

 

 

 

 ………………えっ?

 

 えっ? 今、なんて? 俺の本当の本心? どゆこと? それ、どういう意味?

 

 

【……いや、今のは僕の独り言だメェ〜。やっぱり別に気にしなくてもいいメェ〜。それか忘れてもいいメェ〜。呼び止めてごめんだメェ〜】

 

「えっ? お、おう……。とりあえず、行ってくるわ……」

 

 

 えっと……一体何だったんだ? 『本当の本心に気づけ』とか言ってきた癖に『気にしなくてもいい』? 「忘れてもいい』? じゃあなんで言ってきたんだ?

 

 うーん……『忘れて』とか言われてもやっぱり気になっちまうんだよなぁ……。とりあえず、偶に今言われたことを思い出して、自分が本当は何をどう思ってるのか考えてみるか。それで何かに気付ければ良いのだけど……

 

 何はともあれ、今はさっさと優子のところへと行くか。いてきまー。

 

 

【………………昨日結界を通してマスターの一日を覗き見して、シャミ子ちゃんが昼寝中のマスターにキスしたところを見てしまったから、変な事言ってしまったメェ〜。ま、気にしてくれなかっただけよかったのかもしれないメェ〜……】

 

 

 ん……? なんかメェール君がぶつぶつと呟いてたけど、なんて言ってたんだ? いや、ああいうのはプライバシーに関わることだから聞かない方がメェール君の為かもな。それよりも優子と合流合流、と。

 

 お、いたいた。ちゃんといた。モヤモヤとした感じとかも出してないな。平常心を保ってる……いや、それは表面下だけの可能性もある。ここはいつも通りの挨拶で確認してみるか。

 

 

「おはよう優子」

 

「あぴぇ⁉︎ あ、お、おはようございます……」

 

 

 えっ……? な、何故急に顔を真っ赤にしてんだ? 昨日の匂いが付いたことでは、優子が恥ずかしい思いをするような事にはならないはずなんだけどな……

 

 まさか俺、自分では気付いてないけど『ヤベー』と思われるような真似をしてしまったのか? それに対して優子が羞恥心を覚えて……みたいな?

 

 

「どうした顔真っ赤にして……? お、俺なんかやらかしたの……? もしそうだとしたら、正直に話してくれるか……?」

 

「へっ⁉︎ あ、い、いえ⁉︎ びゃ、白哉さんは何もしてない……何もしてないですよ⁉︎ と、というか⁉︎ 別に白哉さんが悪いことをするはずがないですよ⁉︎ びゃ、白哉さんは、ね⁉︎」

 

「俺、は……? やっぱり何かやらかしちまった……?」

 

 

 つーかさぁ……さっきからその反応は何なんだ? なんで怒られたくないが為に、いい加減な嘘による弁解で怖い大人による説教から逃げようとする馬鹿みたいにしどろもどろになるんだ? かえって気になるんだけど。俺が何をやらかしたのか鮮明に教えてくれよ……

 

 

「だ、だからそんなことは……む、寧ろやらかしたのは私の方で……」

 

「は?」

 

「あっ⁉︎ と、とにかく⁉︎ 早く学校行きましょうか⁉︎ そ、そろそろ行かないと遅刻しそうですし……」

 

「お、おう……?」

 

 

 そう言うと、優子は何故慌てふためいたのかの理由とか教えることもなく、その場から逃げるように通学路を走って行ってしまった。とりあえず、俺も追求させずに追いかけるか……

 

 うーん……。不思議な程に全く掴み所がない感じだな。優子は別に嘘をついてるわけじゃなさそうだけど、じゃあなんであんな挙動不審になるんだ……? 女性というのは分からんところが多い……

 

 ってか、さっき『やらかしたのは私の方だ』とか言ってたんだけど、優子が一体土日で何をやらかしたと言うんだ? むぅ……気になってしょうがないのだが……

 

 

 

 

 

 

「……で、なんで俺は昼休みに小倉さんに引き摺られてるんでしょうね? しかもなんで捕獲用ネットに捕まってしまったんだよチクショー」

 

「ごめんねー。召喚獣を捕まえようと設置していたんだけど、まさか主である平地くんを捕まえちゃうなんて思ってもみなかったからさー」

 

「謝りながらどっかへと連れて行かないで? つーかウチの召喚獣で何しようとしてたのかね君?」

 

 

 昼休みにて、俺はこのように何故か小倉さんに連行……というよりは完全に捕獲されています。購買のパンを買いに校庭通ろうとしたらね? いつの間にか小倉さんがウチの召喚獣を捕まえるために用意していた、落とし穴仕掛けの捕獲用ネットによって捕まったわけですよ。

 

 ってか、俺の友達なのか仲間なのかどう解釈すればいいのか分からないけど、それでも大切な存在であることに間違いないあの子達を捕まえるとかどういう了見だ。ふざけんな。……召喚獣の皆、いい加減な判断してごめん。

 

 というかこの日は確か、優子が千代田桃に借りた分の金を返そうとしたら、なんやかんやで千代田桃に家族がいない事を知ってまた決闘を先延ばしすることになったってイベントだよな? チクショーが、せっかく介入しても大丈夫そうな原作回を間近で見る機会がパーじゃねーか。どうしてくれる。

 

 あ、でも放課後に優子が妹の良子ちゃんに何か買ってあげるっていう原作イベントが残ってるんだった。……しゃーない、そのイベントの為にも小倉さんが行おうとしそうな何かから無事に生きて帰らねーとな。

 

 ってか小倉さん、そんなに筋力なかったよね? なんで俺を捕まえたネットを両手で引っ張る程の力を出せるの? 研究したがると馬鹿力でも出せるのかね?

 

 

「……で、何が目的だ? 危なっかしいことなら全力で抵抗してでも断らせてもらうからな」

 

「え〜? 別に大したことじゃないよー。だからそんな怖い顔で睨みつけないでくれる? 私、修羅場は避けたいから」

 

「じゃあはよ俺をこのネットから解放させろ。めっちゃネットの中狭いし、手足とか色々と網に引っ掛かる。内容次第なら協力するから、はよ」

 

「あ、ごめんね。今解くね」

 

 

 あー、やっと解放してくれた。その後すぐに俺が逃げ出すかもしれないってのに、よく解放させてくれたな。丸まった感じになってたから背中いてー……

 

 

「で? ウチの召喚獣を使って何をする気だったんだ?」

 

「ん? ただのデータ収集だよ? 平地くん、たくさんの召喚獣を持っているらしいでしょ? 千代田さんから聞いたの」

 

「あの振り回し魔法少女が……」

 

 

 千代田桃め、何勝手に俺の転生特典のことをバラしてんだよチクショー。おかげでウワサが広まり変な注目を浴びる羽目になるだろうが……

 

 あっ。それならあの魔族と魔法少女の共同特訓の時に『誰にも言わないで』と千代田桃に釘刺すべきだった。言い忘れてたわ。

 

 むぅ……何はともあれ、捕まってしまった上に一回協力するみたいなこと言ってしまったし、仕方ない。こうなってしまった以上、条件付きで乗ってやるか。

 

 

「……わかった。許可を出してくれた奴だけならいいぞ」

 

「やったー。平地くんってなんだかんだ言ってやっぱり優しいね。シャミ子ちゃんだけに飽き足らず誰に対しても」

 

 

 うるせェやいコンニャロー。優子になるべく優しく接してるからっていつも優しいとは思わないことだな。優しく接するのは時と場合によるぞ? さっきのデータ収集を頼んできた時だって、取り方次第では心を鬼にしてでも取らせないつもりでいるからな? どうやるのかは分からんけど。

 

 まぁともなくだ。協力を承諾してしまったのだから、メェール君から教わった召喚獣達との連絡を取る手段を使って、小倉さんによるデータ収集に協力してくれる奴がいないか聞いてみないと……

 

 と思った矢先。昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。あ、色んな意味で助かったかも。でもパンは買えなかった……

 

 

「えっ⁉︎ もうそんな時間⁉︎ あーあ……仕方ないや。ごめんね平地くん、データ収集はまた今度やらせてね」

 

「おう、わかった。もう二度と頼み込まないでもらいたいけどな」

 

 

 心底安堵していた感情を抑え、俺は小倉さんの言葉に対してそう言いながらさっさと教室へ戻ることにしました。もうしばらくはマッドサイエンティストに絡むのはごめんだね。

 

 ちなみに優子は千代田桃への一括返済を原作通り認めて貰えず、千代田桃に『返済は毎月五十円ずつで余ったお小遣いは家族や自分に使って』と言われたそうです。ウインナー挟んだ八つ切りパンで買収されそうになるが、彼女に家族がいないという話を聞いて承諾したらしい。うん、家族がいない者の寂しさを考慮してあげたんだな。やっぱり優子は優しい。

 

 ちなみに二回目。この話は優子の口からではなく杏里の口から聞きました。遠目で見てくれててよかったよ。優子から聞こうとしたら何故か朝の時と同じ様に顔真っ赤にして言い淀んでいたから、なんだか聞くに聞けなくて……

 

 

 

 

 

 

 昼寝していた白哉さんにうっかりキスしてしまったことで彼に対する罪悪感を持ちながらも、なんとか平常心を取り戻そうとしている私です。朝白哉さんと会ってすぐしどろもどろになってしまいましたが。

 

 今のところ安心できるのは、白哉さんがキスされた事を覚えていないのが不幸中の幸いだってところでしょうか。その時の白哉さんは寝ていたので、もし起きていて覚えていたのなら今までのやらかしよりも気まずくなりますよね、絶対。それこそ白哉さんに『愛が重いってレベルじゃないだろ』とか思われてより一層警戒されますし……

 

 それでも白哉さんと顔を合わせられず上手く話し合えない中、私はそれを誤魔化そうと本日の目的の一つである桃への健康ランド代の返済を試みることに。ってか弁当箱が私のバイト先で大量に買ったウインナー一色って、食のバランス考えてます⁉︎

 

 で、早速返済して闘いを申し込もうとしましたが、『バイト代の大半を全部巻き上げたくないからもっと自分のために使ったら?』と言われました。けど断らせていただこう! なるはやで借りを返し封印を解いてこそまぞくの一歩を歩めるのです‼︎ 後、武器を買おうとした日の時の戦犯の一人であること、私は忘れてませんからね‼︎

 

 大体借りを返してもお小遣いがちょっとだけ余ります。今日は放課後、妹の良に何かプレゼントを買ってあげるんです。……って、アレ? なんか変な間が出来た後に一括返済を断ってきた⁉︎ しかも返していいのは月五十円だけって、めっちゃ少なっ⁉︎ ある意味鬼畜過ぎません⁉︎しかも 八つ切りパンで打って出てきた⁉︎ 薄っ⁉︎ だから断らせていただくと……

 

 えっ? 気になってこちらから聞いてみたんですけど、そのざっくり弁当、自分で用意した? しかも家族がいない? ……何だろう、なんだか悲しそうな顔してるから、嘘をついてるようには見えない……

 

 えぇい! 薄いパン採用! やっぱり今月は五十円だけ返す‼︎ 後、今日だけなんでも言う事聞いちゃります‼︎ 今度からは四つ切りじゃないと言うことは聞きませんからね‼︎

 

 

 

 

 

 

 放課後。俺は原作通りに良子へのプレゼントを買おうとする優子と千代田桃に同行して商店街に……

 

 ということはせず、敢えて多摩町にある図書館に行き、門のところでスマホを弄ってます。とは言っても別に調べたい流行り言葉とかはそんなの別にないので、この図書館の事に関する口コミを調べてるだけだけどね。オイ誰だ今つまらなさそうなことしてんなと言ってる奴は。

 

 なんで優子と千代田桃に同行しないのかって? なんでだろうな……。何故かこの日は、俺が近づく度に優子が顔真っ赤にしてアワアワしてばっかりだったから、少しでも俺から離れる時間を作って落ち着かせようと思ってね。まぁ彼女の心を安定させる為のほんの僅かな処置ってワケだ。

 

 まぁでも、本当は原作イベントを間近で見たいという欲があるわけで、後から俺もあそこに行くのであまり意味はないでしょうけど。原作突入前まではイベントに介入する事を避けようとした人の考えじゃねーなこれ。

 

 なんで後から行こうとするのか、だって? なんでかというとね……

 

 

「あれ、白兄(びゃくにい)?」

 

「こんにちは、良子ちゃん」

 

 

 図書館で宿題を終わらせて出てきた、優子の妹・良子ちゃんと待ち合わせするためである。いやこっちが勝手にここに来ただけだし、不審者感が出てしまってるけど。

 

 ちなみに前にもちょっと言ってたと思うけど、良子ちゃんとは生まれてきた時から仲良くしている。初めて顔を見た時はやっぱり赤ちゃんだったからなのか、可愛すぎてめっちゃ頭撫でたり頬っぺたぷにぷにしてたな。けどその時の良子ちゃんの赤ちゃんとは思えない程の呆然とした顔は、なんていうか……その……しばらくトラウマになりました。溺愛しすぎたわ。

 

 あ、ちなみに良子ちゃんには俺が召喚師になったってことは伝えておりません。良子ちゃんは勘がいいから勝手にバレるだろうなとは思うけど、もしバレたら『なんで今までその力を使って助けなかったの?』みたいな感じに疑われて信用されなくなってしまう。仮に仮定を含めて話したとしても信じてくれなさそうだし……

 

 

「白兄、今日はお姉と一緒じゃなかったの?」

 

「んー? 今日は商店街に行くんだろ? だから良子ちゃんを無事にそこまで連れて行く為のエスコートをしようと思ってな。ホラ、小さい子を誘拐して身代金を要求するクソな大人……不審者とかもいるし」

 

 

 別に嘘は言ってない。前世でもそうやって子供を利用して金を取ろうとするクズがいたものだ。だから魔族とか魔法少女とかがいるこの世界でも、そうやって身代金目的での誘拐やコンビニ強盗がいてもおかしくない。それが現実というものだ。

 

 

「良はそんな大人がいそうな狭い道とかは通らないし、出会ったとしても言葉巧みには乗らないよ?」

 

「あー、うん……。良子ちゃんは他の子と比べて賢いからそういう風に対処できるだろうけど、念のために……ね?」

 

「……何だろう。白兄はいつも優しいけど、今日は怪しさも出てる気がする。言動だけだとその不審者ってのと似てるみたい」

 

「ごもっともです、はい……」

 

 

 うん、自分でもこの行動は怪しいと思っているよ? 幼女を待ってる十代後半以上の男性って、一般からすればロリコンとか色々な方面で悪く思われるやん。なんで待つことにしたんだろうね俺って。

 

 

「とりあえず行こう? お姉が待ってるから」

 

「……はい」

 

 

 けど良子ちゃんは小学生だからなのか、自分が来るのを待つ以外の方法はないのかとか、こんな事して恥ずかしくないのとか、そんな事を言ったり聞いたりしてくることはなかった。うーん、何だろう……。深く追求してくれなかったことは助かるけど、変なことをしてしまった自分からしたら、なんだか複雑なんだけど……

 

 で、やって来ました原作開始から二回目のショッピングセンター・マルマ。優子と千代田桃は三回目ですけど。うーん、なんだろうな? 物語という認識と現実という認識がごっちゃになってるから、もう一度来てもそれほど喜べない感じが……

 

 

「びゃ、びゃ、白哉さん……⁉︎ ア、アレ……? 先に帰ってったのでは……? どうして良と一緒に……?」

 

 

 そうこう考えていたら、良子ちゃんを待っていた優子と千代田桃と再会していました。で、優子はまたもや俺を見て顔真っ赤にしてたけど、今度は『なんで来たの?』みたいな戸惑いによるものもあるからか、すぐに落ち着いてくれました。

 

 うーん……そこまで落ち着けられたのなら、なんで昼休みまではアワアワしてたんだ? むぅ、最近のこの世界の女の子の心情というものは分からんな……

 

 

「良が図書館から出た時に偶々白兄と会ったから、せっかくだしついて来てもらった」

 

「あー……そういう事。迷惑だったか?」

 

「あっ、いえ全然‼︎ 寧ろ良に付き合ってくれてありがとうございます‼︎」

 

 

 よかった、優子も俺が来たワケを理解してくれたし、ようやくいつも通りの彼女らしさを取り戻してくれそうだ。ひとまずは色々と安心したよ。

 

 

 

 

 

 

 放課後、商店街。白哉さんには先に帰ってもらい、私は言質を取って同行してきた桃と二人で良を待つことにしました。ちなみにここまではなんとか桃に私が白哉さんにキスしてしまったことはバレてません。後は良の欲しい物を買ってあげて帰れば今日はもう大丈夫……と思ったのですが。

 

 何故⁉︎ 何故白哉さんまで良と一緒に来たのですか⁉︎ 白哉さんの気が変わったにしても、良と一緒にだなんてどんな偶然なんですか⁉︎その時また白哉さんの顔を見てテンパっちゃいましたが、今度はなんとか早くも落ち着きを取り戻せました。時間が経てば人は自然と本調子を取り戻せるものなんですね……

 

 二人の話によれば、良が図書館で宿題を終わらせて出た時に偶々白哉さんと遭遇し、良が商店街に行くことを知った白哉さんが保護者みたいな感じに同行することにしたらしい。過保護なのか、それとも……むぅ、なんだか複雑です……

 

 

「ところでお姉、その人は?」

 

 

 あっ、そういえば良は桃の事を知らないんでした。良には桃と熾烈な戦いをしてるって言っちゃいましたし、桃の正体は隠しておかないと……‼︎

 

 

「こちらは親友の桃ちゃんです‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

「ありゃまぁ……」

 

 

 ちょっと桃? 何かつてない顔してるんですか? 何目を見開いてるんですか? そして照れるな‼︎ うっかり言ってしまった私のちょっとした本心を聞いた白哉さんじゃないんですから‼︎ 話合わせて‼︎

 

 そして白哉さん? 何『こいつ隠し事したいからとはいえマジか』みたいな反応してるんですか? そういう反応されるとなんか傷つくのでやめてもらえませんか⁉︎ 良に今桃が魔法少女であることがバレたらどうなるのか分かってるのですか⁉︎

 

 あっ。よく考えたら私、アワアワせずに白哉さんと話せた。よかった、やっといつものように落ち着けて白哉さんと話せる。……やっぱり、キ、キスしてしまった事は忘れられないけれど。

 

 まぁ何はともあれ、早速良のために何かプレゼントでも……えっ? 自分は何もいらないから、大事な闘いに備えて私のためになるものを買って欲しい? そんな事言わないでください‼︎ 闘いよりも家族や大切な人達の方が大事なんです‼︎ 何でも選んで‼︎

 

 いや包帯と家庭の医学の本って、衛生兵にならないで⁉︎ 怪我なんてしませんから‼︎ 大丈夫だから‼︎

 

 ん? 兵法書? いやおねーちゃん今のところ軍は率いないから⁉︎ というか読めるんですかそれ⁉︎

 

 今度はお徳用ひじき……いや戦争から離れてはいるけど、ご家庭の栄養に気遣わなくていいから‼︎ ……まぁでも、余ったお金で検討してみましょうかね? お得だし。

 

 むぅ、良は自分のやりたいこととか欲しいものとかで探そうとしないですね。逆に私の魔法少女との闘いの力になりたいと何らかの兵士になろうとしてるし……良は本当に小学生ですか?

 

 

「優子、ちょっといいか?」

 

 

 あ、白哉さんが手招いている。良へのプレゼント選びに悩んでたから存在を一瞬忘れてました、すみません……。けど、さっきよりも落ち着いて顔を見れるようになった……かな?

 

 で、一体何事ですか?

 

 

「ほら、あれ見てみろよ。良子ちゃん、カメラ屋の方をじっと見てるぞ。きっとあの店の中のヤツだ」

 

「白哉くんも気づいていたんだね。良ちゃん、ここに来た時からあっちをちょいちょい見てる」

 

 

 え? もしかして二人とも、良が本当は何が欲しいのか分かるのですか?

 

 

「ちっちゃいカメラ……といかめら? 良、これが欲しいんですか?」

 

「えっ⁉︎ いや……見てただけ‼︎ ちっちゃくてかわいいカメラだなーっておもっただけ‼︎ 図書館でカメラの雑誌とかずっと見てたから‼︎ じゃっかん目に入っただけ‼︎」

 

 

 すごくすごい欲しいんですね‼︎めっちゃ焦ってる‼︎ 私の事を色々と気遣って遠慮しようとしてる‼︎ 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。えぇっと、値段は二千円強……よし、買える‼︎

 

 

「こんなの全然安いもんです! 買っちゃいましょう‼︎ それでお姉ちゃんの雄姿を撮ってください‼︎」

 

 

 フフンッ。闘いに関われそうな意見も言ったし、これで良へのプレゼントは決まりに……え、ちょっと待って。何故ありがとうと言いながら泣くのだ⁉︎ おねーちゃん何かやらかしてた⁉︎

 

 

「だってお姉、最近無理してる時尻尾がしなしなになるから分かりやすい……」

 

「えっ⁉︎ そうなんですか⁉︎」

 

「気づいてなかったんだ」

 

「まぁ大まかな尻尾の動きなら俺でもどんな感情を出してるのかわかるけどな」

 

 

 は? ちょっ、ちょっと待ってください? なんで白哉さんも桃も私の感情を尻尾で見てわかるのですか? こっちは上手く感情を仕舞い込んでるはずなのに、尻尾の動きで察知されるとは……いや、そんなはずは……

 

 念のため、私の尻尾がどんな動きをしてると私がどんな感情を出してるのか、二人に聞いてみました。悩み事の時は自分の体の周りをグルグルさせる、気が乗らない時は地面にペタン、緊張してる時は凹凸に曲がる、わくわくの時はフリフリと動かす……

 

 あ、これら全部当てはまってる。私でもそれら感情になるとそういった動きをしちゃうんだった。でもなんで二人ともそこまで私のこと理解してるの? すごく怖いんですけど。

 

 

「で、今の尻尾は『なんで二人ともそこまで私のこと理解してるの? すごく怖いんですけど』かな」

 

「何故そこまでわかる⁉︎」

 

「おー、千代田桃お前すごいな。そこまで具体的な感情までわかるのか。俺なんか『どれだけ観察されてるの私? ちょっと怖い』って感じにしか把握出来なかったってのに」

 

「それだけでもわかる白哉さんも怖いです‼︎」

 

 

 ぐぬぬ……これはさすがに危険ですかね。まだバレてないかもしれないとはいえ、このままだと白哉さんに対する感情も尻尾を通してバレるのも時間の問題なのでは……。自分の尻尾の動きには十分注意しなくては……

 

 けど、よかったって思うところも見つけられたので悪い気はしませんでした。私、学校でなるはやで桃に借りを返すって言ったけど、良のあの顔を見られて、今日何かしてあげられてよかった。

 

 だから借りは時間かけて絶対に返すことにします。じゃないと桃と闘えないからな‼︎ 魔法少女よ、血糖値高めにして待ってるがいいですよ‼︎ フハハハハ……ウヘッウヘッ‼︎ む、咽せた……

 

 

 

「あの……記念すべき最初の写真は、お姉と白兄を撮りたい」

 

 

 

「「ファッ⁉︎」」

 

 

 ちょっ、今、聞き捨てならない言葉が聞こえてきた⁉︎ き、昨日のキスよりかはマシかもだけど、その時の事も考えたら、白哉さんに近づくにしてはかなりの勇気がいりますじゃんこれ⁉︎ 私の寿命、縮んでしまうのでは⁉︎

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか本調子を取り戻してた優子を見ながら、俺は彼女の良子ちゃんへのプレゼント探しを見守ることにした。けど良子ちゃんは魔法少女と闘っているという誤解らしきものを把握していたのか、中々自分が本当に欲しいものを選ぼうとしない。子供にはめっちゃ難しい本を二冊も選んでるし、小学生がそんなものを読むには早すぎます。

 

 ん? よく見たら千代田桃、優子達に気づかれないようになんか料理に関する本を読んどる。あ、そういや優子の魔力の特訓の時、100%牛肉のワイン仕込みハンバーグ、だっけ? それを作ってあげるって約束をしてたんだった。それで料理を頑張ろうと……うん、難しいことに挑戦するのは良いことだ。優子には黙っておいてあげるから、頑張れ。

 

 あ、良子ちゃんがトイカメラの方にチラチラと視線を向けてる。ふむ、やはり原作通り彼女はカメラが気になってしょうがないのか。よし、ここで俺が千代田桃よりも先に動いて、優子にトイカメラを買ってあげるように促そう。

 

 で、俺に呼ばれた彼女の反応は……よし、平常心を保ててる。もうしどろもどろにならなさそうだ。で、俺に続いて千代田桃も良子ちゃんがトイカメラの方に目が向いてる事を促してる。そして優子は原作通り良子ちゃんにトイカメラに買ってあげるようになった。やったぜ、原作通りになった。

 

 で、この後優子の尻尾による感情の話題が出たけど、俺も簡単な感情を理解できるからであってか、原作とは違う細かい部分の変化まではさすがに気付けなかったぜ。……何だろう。会って二・三週間しかない人が俺よりも幼馴染の感情を理解してるって現実を知ったとなると、なんか複雑になる……

 

 しばらくしてトイカメラの説明書を一通り把握した良子ちゃんが、そのカメラを持って俺達のところに来た。よし、次は原作通りの優子と彼女の親友という設定にされてる千代田桃のツーショットが……

 

 

 

「あの……記念すべき最初の写真は、お姉と白兄を撮りたい」

 

 

 

「「ファッ⁉︎」」

 

 

 いや俺とかよ⁉︎ 俺と優子のツーショットかよ⁉︎ そこは撮られる側も考慮して、同性かつ親友(という設定)同士という組み合わせで優子と桃を撮ればいいでしょ⁉︎ なんで俺と優子の異性同士でなんて……

 

 あ、いやよく考えたら、こっちの方が妥当だな。良子ちゃんからしたら三人の中から誰と仲が良いのか、そして自分のしたい事に一番協力してくれそうな人達は誰なのか、などと考えていけば、姉である優子やその幼馴染で良子ちゃんに優しく接してた俺にお願いするのが先決だな。

 

 

「いやいやいやいや、それは……白哉さんの許可もないと……」

 

「何を今更。妹のレアなお願い、聞いてやろうぜ。良子ちゃんだってそれほど我が儘は言ってないはずだろ?」

 

「うぐっ……は、はい……」

 

 

 うん、恥ずかしいという気持ちは分かるよ? お前の俺に対する想いは別に分からなくもないし、それ以前に異性同士が近づくというのも抵抗しちゃうよね? けど、これは妹の心の底からの願いなんだ。聞いてやらないと姉の尊厳とその親友の良心が、な?

 

 優子も渋々了承してくれたことで、二人肩を並べて撮ってもらう事に。優子の方は羞恥心を噛み殺してるためか硬直してたのに対して、俺は今の彼女の肩に手を置いて肩組む感じにしていいのかどうか迷ってたら、『はいチーズ』という合図が聞こえてきたので思わず手を振る感じのポーズにしてしまいました……いきなり異性の肩に手を置くのは色々考慮しちゃう、はっきりわかんだね。

 

 その後は原作通りに優子と千代田桃のツーショットが行われ、良子ちゃんがどうやって写真を印刷するのかどうかで悩んでいたところに、千代田桃が自持ちのパソコンとプリンターで印刷すると言ってくれた。

 

 後はなんか優子にとっては知らない写真の印刷に関する用語が千代田桃の口から出て、良子ちゃんからも千代田桃への敬意の光が出ていた……アレ? これは俺が見えてる幻覚じゃね?

 

 そしていつも通りの優子の『これで勝ったと思うなよ』からの後で教えてという正直な願いが。うん、意地を張っても結局分からない事は素直に聞きたくなっちゃうよね。それが人間の本当の正しさというものだよ。

 

 にしても、何だろうな……俺と優子のツーショットはどんな感じになったんだろうな? なんか、すごく気になってきたんだけど、なんでなんだ……?

 

 




はい、いつの間にかシャミ子はなんとか羞恥心を冷ましていつも通りに戻りましたー。けどいつかはあの時のキスを思い出して、また悶絶してもらいたいですね〜(黒笑)

では、感想お気に入り高評価ここすき登録よろしくお願いします(それ色んな意味でOUT)


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スカしキャラだって良い奴は絶対いる……いや、こいつはスカしキャラじゃなくてただの過保護。 ♦︎

不安要素となるオリジナル回だけど今後に繋がるらしいので初投稿です。

後書きにて宜しければ是非やってほしいというものがあるので、最後まで読んでくださいね。


 

 いつになったら白龍様や色んな召喚獣達を呼ぼうかなと迷っている白哉です。

 

 昨日は何故か優子に会話するのを避けられました。土日の間に俺何かやらかしたのかなーとは警戒してましたが、優子は何故俺を避けてしまうのかをしどろもどろな感じで中々教えてもらえませんでした。いや、よく考えたら避けられてる時点で答えてくれるのは無理に等しかったな、失態。でもなんか『自分のせいだ』とかは言ってたみたいだけど、何だったんだ……?

 

 けど時間が経つに連れて優子は段々といつも通りに話してくれるようになりました。『普通ならそうなるのに何日かかかるかもしれないのになー』みたいなことは思いましたが、なんか半日で終わったそうです。結局なんでまともに会話してくれなかったんだ? むぅ、どうしても気になってしまう……

 

 そんなこんながありながらも、小倉さんの実験台にされてしまう事を避けたり、優子の妹の良子ちゃんのためのプレゼントを探したりと、色々と大変でした。ま、一昨日のヒーローショーのバイトよりかはマシかな? 着ぐるみの中めちゃんこ暑かった。ファンクーラーでも入れとけっての。

 

 閑話休題。これ一度言ってみたかったんだよなー。

 

 今日は確か優子の運命がさらに動く日、だったはず。優子が良子ちゃんの撮った写真の印刷のために千代田桃が渡したパソコンを持って帰ることになった時、小倉さんが無理矢理飲ませてきた薬によって、まぞくの力が覚醒して危機管理フォームに変身できるようになるイベント……だったよな? この後の展開で超重要になると……

 

 けど……その……あの衣装、正直エロすぎんだよな……。ネタバレになるけど、あの衣装は着る本人である優子自身も恥ずべき衣装だと言う。上はビキニで臍出てる=胸元見えて腹周りが寒い、脇も見える、セクシーなパンツ丸見え……

 

 うーん……やっぱりエッチだよな、アレ。それをこれからはよく拝見することになってしまうだろうな。漫画とかでも二巻と五巻ではよく出てたし(六巻以降は買ってないから知らん)、優子自身も段々日常で使うようになってしまうし……

 

 うん、これ俺自身がヤバくなるかもしんない。あんなエッチな衣装を何度も見てしまうと、俺いつかは狼(意味深)になって優子を襲ってしまいそう(意味深)……

 

 だからといって、慣れて性欲が微塵も出なくなるというのも考えると、それはそれでなんかものすごく虚しく感じる……

 

 というか、なんで俺は学校でこんな事考えてるんでしょうね? 何? 俺ってかなりの変態なのかな?

 

 

「なーに一人で悩み事をしてるんだい? びゃーくやくーん」

 

 

 うげっ、この爽やかさのある美青年な声は……

 

 ふと俺が後ろを振り向けば、そこにいたのは細身かつ顔立ちがめっちゃいいイケメン男子が。薄紫色の瞳に、肘に近い程の長さがある青い髪、額のちょっと上ら辺の左右には黒くて細いメッシュが見える。

 

 彼の名前は仙寿(せんじゅ) 拓海(たくみ)。俺が今まで会って来た男子の中で、原作に出てもおかしくない気がする性格の持ち主だ。何故原作に出るかもしれないのか、だって? 何故かと言うと……

 

 

「ハハハッ、まるで恋路に悩む王子様じゃないか! 恋をしたいけどどうすれば告白が上手くいくのだろうという試行錯誤を繰り返している……ま、『なんか大人びてる顔してる』と噂されてるキミなら彼女どころかハーレムの一つや二つは作れそうだけど!」

 

「あーはいはい、お世辞どうも」

 

 

 ハッキリ言って、ウザい。この言葉巧みだけれども人が良いのか悪いのか分からんし、思ってる事をペラペラを喋り出してる……ウザい。

 

 あっ、けどこのウザさは偶に、たまーにしか出ない。多くても週に二回か三回は、フォローしてんのか貶してんのか分からないけどなんかムカつきそうな感じの言葉を話すぐらいから、これだけでは別に嫌と言う程の脅威ではない。

 

 ウザいと思える理由は……別にある。

 

 

「………………ところで白哉、キミ昨日は小倉君の仕掛けた罠に嵌められたんだって?」

 

「……まぁ、そうだけど?」

 

「そうか……」

 

 

 オイ、昨日小倉さんに絡まれた事を肯定した瞬間に何突然真剣な顔してんだ。まさか、お前……()()()

 

 

 

「大丈夫だったか⁉︎ 怪我してなかったかい⁉︎ 病院行かなくて大丈夫なのか⁉︎ 今からでも医療セット使おうか⁉︎ 何なら医療費払おうか⁉︎ 親父やお袋に頼めばすぐに出してくれるはずだ‼︎ ところで何故キミは小倉君に捕まった⁉︎ キミ小倉君に何かしてしまったのかい⁉︎ それとも小倉君がお前の事で何か良からぬ事でも企んでたのか⁉︎ キミに何か心当たりがあるのならすぐに思い返そう‼︎ 悪い事だったら小倉君に謝ろう‼︎ そうじゃないのならこれは完全なる横暴の可能性が高いぞ‼︎ 一か八か先生というか校長先生に相談しよう‼︎ そして小倉君に落とし穴などのトラップを仕掛けてもらわないようにしよう‼︎ そういやキミがあのトラップを受けたのは昨日の昼頃だったよな⁉︎ 購買に行く途中だったよな⁉︎ ということは昨日昼飯食べれなかったのか⁉︎だったら今日は俺が購買に行って何か買ってきてやるよ‼︎ 何が食べたい⁉︎ 焼きそばパン⁉︎ メンチカツパン⁉︎ それとも期間限定のパンかい⁉︎ あ、話は変わるけど今日の宿題はやって来たのか⁉︎ 出来てないところや分からないところはあるかい⁉︎ あったら教えるし、何なら答え見てもそれがバレない解き方をネットで調べるからそれを一緒に取り組まないか⁉︎」

 

 

 

 こ の 過 保 護 さ よ。

 

 実際に怪我しようが怪我しなかろうが、知人がほんの少し……ほんの少しでも酷い目に遭えば過剰な手当しようとしたり医療費を出そうとしたり、酷い目に遭った原因を探って二度とそれを起こさないようにと怪我防止グッズなどの何かしらの対策を押し付けてくるしで、うるさい上にしつこい。

 

 

「それとキミの幼馴染の吉田君……じゃなくてシャミ子君もいたよな⁉︎ 彼女ちゃんと栄養摂ってるか⁉︎ 後で購買とかで何か買ってあげた方がいいかい⁉︎ 家族にも何か食材とかたくさんあげても大丈夫か⁉︎ それか飯作ってあげた方がいいかい⁉︎ 彼女そんなに金銭良くないと聞いたぞ⁉︎ もしや借金取りにでも追われてるのか⁉︎ 親父やお袋に頼んで借金取り消してあげようかい⁉︎ 金なら心配いらないぞ⁉︎ ウチは結構金稼いでるから、返してもらえなくても十分な生活ができるぞ⁉︎」

 

 

 異性に対してもこのように、理由もなしに過保護になる。邪な気持ちや下心といったものなど彼にはない。見た目や普段の言動から勘違いされそうな気がするが、結構人が良い。逆に人が良すぎてウザいと思える程だ。

 

 一言で言えば別に悪い奴ではない。悪い奴ではない……のだが。

 

 

「……拓海。まず一言いいか?」

 

「俺にできることならなんでも……ん? なんだ?」

 

とりあえず落ち着け。静かにしろ。いくらなんでもペラペラ喋りすぎだ

 

「あ、すいませんでした……」

 

 

 もうホント、どんだけ喋るねんこいつ。どんだけ他人に対して心配性になるねん。一方的に喋りすぎて中々俺が喋るタイミングが掴めんのだけど。もうマジで鬱陶しいんだけど。

 

 

「で、何しに来たんだお前? まさか昨日の事で俺の事を心配してるだけなのか?」

 

「ん? 仲の良い奴が大変な目に遭った時は救いの手を差し伸べるのは当然じゃないかい?」

 

「じゃあお前も俺に助けを求めるって事になるよな? お前が心配事を先に口にしないで話しかけてるってことは、お前も何かしらの悩み事があるってことだろ?」

 

「ッ……‼︎」

 

 

 図星か。こいつ他人に対しての癪に触るけど和ませようとする事や心配事をペラペラ喋る癖に、自分に対する事は隠すか遠回しにする癖があるんだよな。困ってる事があるなら素直に言えって話だよまったく。

 

 

「ぬぅ……。まさかお見通しされるとはな……」

 

「ナルシストと見せかけてガチの心配性というキャラは強すぎるからな、自然とお前の癖の一つぐらいは分かってしまうんだよ」

 

「そういうものなのか……」

 

「うん、そういうもの。で、何の用なんだ?」

 

「………………」

 

 

 オイオイ、急にだんまりになるなよ。人は助け合いなんだからさ、悩み事ならさっさと吐いてしまえよ。

 

 

「……先に一つ聞かせてくれないか? キミ……召喚獣という精霊っぽい動物を出せるというのは本当かい?」

 

「………………は?」

 

 

 オイ、ちょっと待てや。俺は召喚術が使える事をこれ以上広めないようにしてるんだぞ? 千代田桃にも口止めしてるんだぞ? なんで知ってんだよ?

 

 

「あー……違ったのかい? なんか佐田君が『なんかすごい力を持った動物を召喚できるらしいよ‼︎ 私と小倉ちゃんはまだ一体しか見てないけど』って言ってたから……」

 

「ア ゙ッ⁉︎ 刺客いたの忘れてた⁉︎ 杏里アンニャロウ‼︎」

 

 

 ヤベェ、盲点だった……。そういえば杏里の奴、優子の体質の事や家族にかけられた呪いとかを洗いざらいにカミングアウトしてしまう情報流出魔?だったわ。俺がリリスさんの一時期復活の時にコウランを召喚してたから、他人にバラしてたな……‼︎ あの野郎、後で覚えとけよ……‼︎

 

 

「なぁ、その反応からして……」

 

「……あぁそうだよ、本当だよ。で? その召喚術が使えるこの俺に何の用だよ?」

 

「………………」

 

 

 ア、アレ? 急にだんまりになったぞ? 本当はこんな事頼みたくないのだけど、みたいな感じか? まぁ過剰なまでの心配性になる奴だからな、頼み事をするのも気が引けるのだろうな。

 

 うーん、まだるっこしい。ここはガツンと言ってやるか。

 

 

「他人の心配をする時はベラベラ喋る癖に、自分の事となると何も言えないのか? お前ってそんな臆病な奴だっけか?」

 

「むっ……」

 

 

 おっ、喰いついてきた。やっぱり馬鹿にされるとイラッとくるよね。誰だって喧嘩腰にされると結構頭にくるよね。わかる。

 

 

「……なら言うだけ言おう。本当は俺の正体をバラしたくはなかったのだけど……」

 

「……ん? 『正体』?」

 

 

 は? こいつ何言ってんだ? 今、俺の正体とか言わなかったか? 何その厨二病なことを……いや、色んな奴が住んでる多摩町の住人ならあり得るかもしれない。魔法少女と同じ立場の奴か、それとも魔族か……

 

 

 

「実は俺……陰陽師なんだ」

 

 

 

 俺や原作の知らない第三勢力だった。あ、忍法が使える全臓も忍者っぽいから、第四勢力? いや、原作でも第三勢力がいたような、いなかったような……

 

 

 

 

 

 

 結局本当に拓海が陰陽師なのか気になったので放課後、先に優子に『用事あるから』と言って別れて拓海と待ち合わせ。そして彼の家へと赴くことになった。ん? パソコン運びの回? どうせパソコンは無事に優子の手で傷とかなく吉田家に運ばれるので気にしない。

 

 危機管理フォームは……今はまだ見ない。見る方もめっちゃ恥ずかしい衣装だもんな、アレ。アレ見たら俺はどんな顔するのか、獣となって襲いかかってしまわないか、色々と気にしちゃうから……。少しは初見する日が遠のいたか……?

 

 おっと、今は原作の事は考えないでおこう。どうせ何事もなく原作(シナリオ)通りに進むのだから。

 

 つーわけで、閑話休題。

 

 さっきも言ったけど、俺は今、拓海に案内される形で彼の家に向かっている。で、今は多摩町の何処かにある林の中にいます。森にしては木々は思ったよりも少なかったから、林とさせていただきます。

 

 で、その林の奥には普通のよりはちょっと小さい神社があった。思ったよりも建築に使われていると思われる木材はヒビやコゲなどといった古さがある感じのものではなかった。建てられたばかりのものか、はたまた修繕で建て替えられたのか……

 

 

「ここが俺の実家である仙寿神社だ。彷徨う幽霊などを除霊したり、住処を探してあげたりするのがウチの主な仕事なんだ」

 

「ん? 『住処を探してあげたり』?」

 

「実は幽霊の中にはこのまま現世に留まって、時代の変わっていく多摩町などを見ていたいなどと言って、成仏したくないとか言うのもいるんだ。けど長く現世をうろちょろしてたら、情のない他の陰陽師や魔法少女に問答無用に襲われる危険性も孕んでいるから、あらかじめ悪意の部分だけ除霊しておいて、そこから幽霊が見えるものにバレない住処を探して与えるんだ」

 

「へ、へぇ……」

 

 

 いやちょっと待って。陰陽師なんて実際に会ったことないから分からんのだけど、最近の陰陽師って只々除霊するわけじゃないの? 幽霊の気持ちに寄り添って除霊するかしないかを決めるの? そして幽霊は悪い事さえ企まなければ自分の意思を陰陽師に対して貫いてもいいの?

 

 へぇ、この世界の陰陽師も穏健派魔法少女みたいに敵対する者への情をかけてくれるのか……。やだ、なんで原作は陰陽師を出してくれなかったのさ。幽霊の意思に寄り添えるんだぜ? 漫画タイムきららだから男キャラが出しづらい? 知ったことか、こんなにもキャラが濃くて優しい陰陽師なんだから出してあげろや。

 

 

「……で、ここに俺を呼んだってことは、俺にも召喚術の力を使っての除霊か住処探しを手伝えってことか? 後者なら召喚獣がいなくても出来そうだけど……」

 

「いや、除霊の手伝いではあるけど、俺たち陰陽師みたいなことをする必要はないよ」

 

「えっ? どういうことだよ?」

 

「入ってみればわかる」

 

 

 陰陽師みたいなことしなくていいと言われて疑問に思いながらも、とりあえず拓海に誘われるが如く神社に入ることにした俺氏。ちなみに両親は別の除霊案件があってなのか出掛けている。俺の手伝いを借りる必要のある幽霊を息子任せにするとか、拓海の両親はどういう了見してんの?

 

 その奥にある畳の多い広々とした部屋に行くと、そこには全身真っ黒な人……というよりは全身が影に覆われた全長五メートルの巨人?がいた。もしや、あれが幽霊? こいつ相手に、俺は何をしろと……?

 

 

『バトルゥ……モンスターとバトルゥ……』

 

「ス○ブラかド○クエオンラインみたいなバトルをしないと成仏しないんだ、この幽霊」

 

「はい、お疲れ様でしたー。お邪魔しましたー」

 

「ちょっと待てェェェェェェッ⁉︎」

 

 

 なんだよス○ブラかド○クエオンラインみたいなバトルをしないと成仏しないって。なんか個人的に馬鹿馬鹿しく感じたから、即Uターンして帰ろう……

 

 と思ったけど、突如として青いオーラらしきものを放つお札が数枚ほど浮遊してきて、俺の進路を塞ぐ。ふと後ろを見れば、拓海が浮遊してるのと同じ青いオーラらしきものを放つお札を持った手を俺に向けていた。あ、本当に陰陽師だったのですね。

 

 

「キミは召喚師だろう⁉︎ わかる! なんでそんなことするんだろうと思う気持ちはわかる! けどそうでもしないと成仏しないんだよ‼︎ お願いやって! お願いだからやって‼︎」

 

「うるせーよ。ゲームみたいなバトルしたいなら、友達とやる感覚でテレビゲームすればいいだろ」

 

「リアルファイトみたいな感じじゃないとダメだって言うんだよ‼︎ 陰陽師と闘おうにしても『面倒臭がられて途中で無理矢理除霊されそうだからヤダ』って言うんだよ‼︎」

 

 

 なんて我が儘な幽霊だこと。けど陰陽師の前だと未練残したまま除霊なんてのは嫌だよね、それは分かる。それでも成仏する条件が馬鹿馬鹿しく思えるから早く帰りたい。

 

 

「闘いが終わってあの幽霊が成仏してくれたら、ちゃんと召喚獣の手当をしてあげるから‼︎ 何なら飯でも奢るから‼︎ 後でお礼金でもあげるから‼︎ だから手伝ってくれ‼︎ ホントお願いだから‼︎」

 

「ちょっ、せがむなせがむな‼︎ あぁちょっと⁉︎ 今詰め寄ってきたら俺、浮いてるお札にぶつかっちゃうって⁉︎ 分かった‼︎ 分かったからはよ離れろ‼︎」

 

 

 ヤベッ、反動的に承諾しちゃったよ……。あーもうクソッ、爽やかイケメンフェイスが情けなくせがんでくるんじゃねーよ……

 

 

「よし、頼むよ‼︎ 獣でもスト○ートファイ○ーみたいな闘いが出来るようにしてくれたまえ‼︎」

 

「ス○ブラかド○クエオンラインみたいなバトルをしないといけないんじゃなかったっけ? つーか今、上から目線になってなかった?」

 

『はよ、モンスター出せぇ……』

 

「お前は胡座かきながら要求してくるな‼︎ お前それで悪霊だったらなんか性格悪く思えて腹立つ‼︎」

 

 

 この野郎、なんでこんな悪霊かどうかも分からない滅茶苦茶な除霊の条件を出してくる幽霊を相手にせにゃならんのだ……‼︎ いや、拓海に迫られて強制的に闘う羽目になったのだけど。

 

 えぇい、闘うことになってしまったのなら仕方ない。こいつを倒すのに適してる奴を出してさっさと勝たせてもらわないと……‼︎

 

 で、誰を呼び出す?

 

 突進攻撃が得意な熱血系の牛・ポーフ? あんな巨体相手に全長二メートルの奴が勝てるとは思えない。ボツ。

 

 スパイの訓練を積み重ねたクール系雛鳥・ピッピ? 運動神経とか抜群だって言うし、ワンチャン……いや、身長差がありすぎるし雛鳥だから飛べないんだった。ボツ。

 

 蹴りがめっちゃ強い兄貴格の馬・ヒヒン? いや同じく身長差に問題があるし、なんかポーフよりもワンパターンな攻撃しそうだから、彼もボツ。

 

 ……よし、ここはあの姿になって、召喚できる奴のレパートリーを増やすとしよう。あの姿までになれば、増えた魔力でのサポートも出来るだろうし、何より身長差が少ないor他の能力で身長差を埋めれる奴を呼び出せる。

 

 決めた、今こそ力を解放する時‼︎

 

 

 

「………………我が名は召喚師・白哉───‼︎」

 

 

 

 刹那、俺の全身が真っ白な光に包まれ、一瞬にして制服とはまったく異なる衣装が変わっていく。この間わずか一秒ッ‼︎ いやいくらなんでも変身完了時間が短くね? そんなもんなの?

 

 

「おっ……おぉっ……? びゃ、白哉君の姿が、変わった……?」

 

 

 光が収まり、俺の服装は銀色の線が入ったフード付きの白のノースリーブで青い襟に白い線が入っているジャケットへと変わっていた。右の二の腕には二足歩行で翼付きの龍を模したアームアクセサリーが付いていた。

 

 ……アレ? この衣装、ほぼ色が違うけど、どっかのネットで見たキャラの服そっくりじゃね? 確か、ディ○ニー関連のイケメン勢揃いのゲームの情報のヤツだったような……

 

 まぁ、いいか。とりあえずこの姿になったことで魔力っぽい何かが増え、アイツを呼べる。なんか格ゲーみたいなことをしたいあの幽霊相手にはピッタリな召喚獣だ。

 

 

「餓狼、召喚‼︎」

 

 

 両手を翳した先の畳に浮かぶ魔法陣。そこから一瞬にして放たれた光の柱は、召喚師にならずにクラックを呼び出した時よりも大きかった。その柱を突き破り現れたのは、全身灰色の毛に黒い爪、紅い瞳を持つシンプルな姿の狼──餓狼だった。

 

 

「よし、餓狼!! 初対面でいきなり悪いけど、あいつ闘いたいと言って成仏しないんだ。だから一回相手してやってくれないか? 多分、物理攻撃があの幽霊でも通じるようになると思うから」

 

 

 いきなりの押し付けですまん……と思いながらも状況の説明を餓狼にしてあげる俺氏。すると全てを理解したのか、餓狼は……

 

 

【え……なんでさ。なんであの幽霊の対戦相手に俺を呼んだのさ。俺、一応狼だけど格闘できるけどさ、人間みたいに闘えるとは限らないよ? どうせ格ゲーのを真似ただけなんだからさ……。だからさ、リアルの格ゲーしたいなら人間の格闘家を呼べば良いじゃん。どうせ俺なんか……】

 

「えっ、マジで狼なのにネガティブなのかよ……」

 

 

 いや、召喚獣リストに書いてあった通りの性格やな。本当にネガティブの一言が表されてるよ。自分を卑下してるよこの狼。狙った獲物に喰らいつく自然界のハンターのはずなのに、そんな内気じゃダメやん。

 

 

『さぁ、勝負しろー……』

 

「そしてこの幽霊はお構いなしに闘いたがるな。幽霊って何だっけ?」

 

 

 なんか気怠くシャドーボクシングしながら表舞台に出ろと急かしてくるんだけどこいつ。けどまぁ、さすがに長時間も友人の家にあんな巨人?が居座っても気味が悪いから、こちらとしても餓狼にはあちつと闘ってもらいたいな……

 

 

「……餓狼、お前の好きなものって?」

 

【……格ゲーソフト……】

 

「おっ、ちょうどいい。以前スーパーの抽選会で新発売の餓○伝説の最新作を引き当てたから、アイツと闘ってくれたらあげるよ」

 

【やります】

 

 

 おま、いきなりハッキリとした声でOKの返事出してきたな。さてはこいつ、ネガティブな癖に格ゲーの事になるとなんか前向きな性格に変わるのか? 後でメモっておこう。なんか格ゲーで釣ってカモにしそうだけど、頼み事する時の最後の手段として格ゲー絡みの褒美を出すようにしようか。

 

 すると餓狼は視線を幽霊に向け、尻尾を立てて警戒する姿勢を取り、鼻面に皺を寄せ、牙を剥き始めた。おぉ、これぞ狩りをするかボスの座を巡る闘いをする狼って感じだ。

 

 けど、あれで格ゲーみたいな闘いが出来るって召喚獣リストにも書いてあったけど、どうやるんだ……?

 

 

『ウオオオオオオ‼︎』

 

 

 って、そうこうしてたら幽霊がダンッダンッと足踏みしながら餓狼に向かって走ってった⁉︎ ちょっ、ここ神社内……。ってか、幽霊なのに足が床に触れた瞬間に揺れとか音とか発生したんだけど、肉質持てるの?

 

 あ、続けて餓狼も走り出した。しかもさすがは狼と言ったところか、素早く巨人の左側──死角に回った。スゲェ……

 

 

【まずはこの神社から追い出そうかな……庭園の方に吹っ飛ぶように昇龍拳

 

 

 いやちょっと待て。

 

 ハァ? 昇龍拳やて? それスト○ートファイ○ーの主人公とかが使うアッパー技やんけ。なんでそれを右前足を上に上げただけで出来るの? しかも幽霊がなんか思いっきりぶっ飛んだ。

 

 

パワーゲイザー

 

 

 今度はス○ブラにも参戦した餓○伝説のアメリカンファイターが使う、地面に拳を叩きつける技やん。それで幽霊に腹パンすな。

 

 

バーンナックル

 

 

 叩きつけられた反動で浮いた幽霊に、今度は両手を広げるポーズを取ったあと、気を纏った拳を突き出しつつ突進する。これもアメリカンファイター使用の技やん。さっきからどれも現実世界では絶対覚えられない格闘の技を使っとるやんけ。子供達の憧れとも言える必殺技を狼が簡単に使えるとか羨ましすぎる。

 

 

【最後にシメの真空・波動拳ー】

 

 

 最後にスト○ートファイ○ーの技。か○は○波みたいな感じに気弾をぶっ放すヤツじゃん。しかも真空というからめっちゃ強い方じゃん。実際にドデカい気弾出てるやん。幽霊に直撃して爆破したじゃん。

 

 ………………もうやりたい放題やん。

 

 というか幽霊にも攻撃とかさせてあげなよ。一方的にボコボコにされるとか、幽霊が不遇すぎる。結構可哀想すぎる。

 

 そう思いながらめっちゃ攻撃喰らって横たわっている幽霊を労り合唱していると、その幽霊がふと何か喋り始めた。ん? 餓狼の一方的な攻撃に対する文句か? そうに決まってるだろうな……

 

 

『グフッ……フフフッ……我が生涯に、一片の、悔い、なし……』

 

「いやアンタはそれでいいの⁉︎ 一方的にやられたのにそれで満足なの⁉︎」

 

『結果がどうであれ、リアル格ゲー出来たの、は、嬉しい……』

 

 

 え、ちょっ、なんか淡い光に包まれて消えていったんだけど。成仏した? 満足して成仏していったって言うの? アンタ何も攻撃どころか防御すら出来なかったよね? 攻撃喰らっただけで満足するとか、貴方はマゾですか?

 

 

「……こいつもホントに何なの」

 

【早く終わらせようとしたの、よくなかったのかな……。どうせ俺なんか……】

 

「お前はすぐネガティブに戻るなよ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 ゲームみたいなバトルをリアルでやりたい幽霊を満足?させ成仏に成功した俺は、餓狼が突如再び現れた魔法陣を通して帰還するのを見送った後、夕日が昇り始めていることに気づき帰ることにした。

 

 帰ろうとは、しているのだが……

 

 

「そのまま帰るのか⁉︎ 本当に大丈夫なのかい⁉︎ 召喚師とやらには初めて変身したんだろ⁉︎ 初めてだから結構疲れるはずだろう⁉︎ だったらもう少しここで休んでた方がいいぞ⁉︎ お茶もお菓子も出す‼︎ わらび餅とかあるし、アイスとかもある‼︎ それとも何か⁉︎ ケーキでも食べたいのかい⁉︎ 何なら作ってあげようか⁉︎ あ、スマホの充電はするか⁉︎ 充電器の予備あるぞ⁉︎ 夜までいてもいいぞ⁉︎ 帰りたいなら両親に頼んで車で家まで送るぞ⁉︎ いざとなれば泊まってここで宿題やっててもいい‼︎ 分からない問題とかあれば教えるぞ⁉︎ 夕飯は何が食べたい⁉︎ キミの好きなものでも構わない‼︎ 俺料理も出来るからなんでも作ってあげれるぞ‼︎ ちなみに一番得意なのは親子丼だ‼︎」

 

ご心配‼︎ どうも‼︎ 大丈夫です‼︎

 

 

 過保護が自分家で休ませようとしてくる。何なら泊まれとせがむ。ウザい上にしつこいよ、この過保護陰陽師。なんかさらっと料理自慢もしてる気がする。

 

 早く離れろ‼︎ 俺ァ早く家に帰りたいんだよ‼︎ そうしてる間に夜になりそうだよ‼︎ 迷惑なんだよ‼︎ 後確かに召喚師には初めて変身したけど、体に影響とかは全然出てないから‼︎ 大丈夫だから‼︎ いやマジで‼︎

 

 あーもう‼︎ なんでこんなにも過保護すぎる陰陽師が、原作まちカドの漫画に出なかったのでしょうなぁ⁉︎ いや出たとしてもウザったらしいったらありゃあしないけれどもね‼︎ つーかおま、腕掴む力強めるなHA☆NA☆SE‼︎

 

 

「もし俺の身に何かあったら電話するから‼︎ それくらいはするから‼︎ 電話来なかったら大丈夫だと思え‼︎ 頼むから‼︎ はよ帰してくれ‼︎ ホント頼むから‼︎」

 

「ぬぬぅ………………分かった。止めようとして悪かった」

 

 

 おい、了承するまでの間が長すぎるだろうが。どんだけ友達というか知人の事が心配なんだよ。返って相手に迷惑がかかるって事に気づけよ。ホント何なのこいつ。

 

 

「除霊の手伝いをしてくれて本当に助かったよ。じゃあね、身体には本当に気をつけて」

 

「わかってるって」

 

 

 ふぅ、やっと手を離してくれた……。あぁよかった、やっと帰れるゥ……

 

 

 

 

 

 

 過保護という名の束縛から解放されたことによる溜息をつきながら帰路を辿る白哉を見送りながら、拓海は何やら不安気な表情を浮かべていた。その表情を作っていた彼の脳裏には、疑惑の花が咲いていた。

 

 

「あの白哉君までもが普通の人には絶対にない力を持っていたなんてな……。ずっと他の人に隠してたんだな、自分の力を」

 

 

 これまで拓海は、自分が陰陽師である事をクラスメイトに知られることを恐れていた。もしも自分が陰陽師である事がバレてしまえば、クラスメイトは自分に対して余所余所しくなるのではないか。遠慮したり特別視したりするのでないか。拓海はその思考から学生生活に支障が出る事を恐れ、小学生の頃からずっと自分が陰陽師である事を隠し通してきていた。

 

 しかし今日、彼は初めて他人に自分が陰陽師である事を明かした。それも、両親の身内ではない者に。

 

 本来なら誰にも明かそうとはしなかった一家の官職。白哉にその官職での悩みがあるのではないかと勘付かれるまでは、誰にも明かす気など彼にはなかった。しかし、その気が一転したのはある出来事があったからだ。

 

 事の発端は一週間前、ふと白哉から妖気に似たものを感じ取った時だ。

 

 彼が召喚師である事を知るまでは、拓海は彼をいつもと変わらず明るく他人と接し、シャミ子とは仲良さげなラブコメよろしくな一面を見せる、そんな只々普通の健全な男子として見ていた。

 

 そんな彼から妖気に似たものが感じ取られるわけがない、気のせいだ。その日はそう言い聞かせて白哉を放置していた。

 

 しかし、拓海が感じたその妖気は、土日の休みが過ぎても消える事はなかった。増大しているわけでも悪化しているわけでもないが、知り合いから突然感じられるその『何か』が、拓海は気が気ではなかったようだ。

 

 そこで昨日、杏里に白哉の変化について問いかけたことで、白哉が召喚師である事を知った。そして察した。彼も自分と同じく、普通の人が持たない力を持っていることをずっと隠していたのだということを。

 

 だが、実際の予想とは違ったところもあった。それは二つ。

 

 一つは、彼には姿を変えて自身が持つ妖気に似た何かを増大させる能力もあったということ。その気になればその妖気を用い、呼び出した獣の強化だって出来るかもしれない。

 

 だが重要なのは二つ目。それは、白哉が召喚師になれたのは、昔からではなく約一ヶ月前だったということだ。その事実は白哉の口からは発してはいない。だが、白哉の自身の姿が変わった時の反応、そして餓狼との会話から、召喚師になれたのは最近ではないかと断言したのだ。

 

 その真実を知ったのと同時に、拓海の脳裏に新たな疑問の花も咲く。何故白哉は突然召喚師になれたのか。何故手に入れたばかりかつ使用するのが初めてとなるその力を難なく使いこなしているのか。そして……

 

 

「白哉君……キミは一体、何者なんだ……?」

 

 

 魔族の先祖リリスの脳裏にも過ぎっていたこの疑問は、問われようとしている白哉本人にしか知らない……

 

 




うーん……自分で言うのも何だが、なんだこのおかしな文才は。

召喚師となって魔力も召喚できる召喚獣のレパートリーも増えた白哉君の衣装は、ツイス○のスカ○ビア寮生の寮服からアレンジして作りました。
キッズ向けカードバトルゲーム「オ○カバ○ル」に出てくる召喚師キャラの衣装が第一に思い浮かんだ時、そこからカッコ良さも考えたら、この衣装の方がその召喚師キャラの衣装と似てるんじゃね? とふと思い、あぁなったってわけです。

そしてお前書きでも先に言ってますが、知らせです。この回を投稿する一日前にて、この小説に関する質問を承るコーナーを設置しました。この部分がわからないなどと言った、こちらが付け損ねた補足に関するものなどに答えていきたいので、よろしくお願いします。https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=289431&uid=379192

では今回はここまで。感想お気に入り高評価ここすき登録よろしくお願いします(またそれか)

追記

3人目のオリキャラ・仙寿拓海くんの挿絵を貼り忘れてたので載せときます。
【挿絵表示】


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看病のためな上に優子の許可もあるとはいえ、一人暮らしJKの家に本当にお邪魔しても良いのかね?

そろそろ原作一巻までの物語が終わりそうなので初投稿です。

今回、シャミ子の運命が大きく変わり始める……⁉︎


 

 おはようございます、白哉です。

 

 昨日は優子の初めての危機管理フォームイベントを避け、二人目のオリ男である拓海の陰陽師の仕事を手伝いました。とは言っても、その時の仕事の内容の問題で拓海はほぼ全く陰陽師の力を見せてくれなかったし、俺も召喚師の衣装に初変身したとはいえその姿の時に出せるヤツを召喚しただけだけどね。

 

 にしても、まさかあの拓海までもが魔族や魔法少女に引けを取らない能力をお持ちになるとはね……。いつもは誰に対しても過保護なったり時々スカしキャラっぽいところも見せたりと、原作に出てもおかしくない濃いめのキャラを出してくれてた彼が、ねぇ……。原作の作者さん、やっぱり男キャラもたくさん出した方がいいッス。きらら作品の定義とかは無視だ無視。

 

 で、初めて召喚師覚醒フォーム……あ、衣装変わってパワーアップした時の姿をそう呼ぶことにしました。あの姿になった時の感想ですが、アレ別作品のキャラの衣装をパクってね……? 何処ぞの宴好き褐色王子様の色違い版ですか。まちカドまぞくに初期からノースリーブ衣装に変身する奴なんていないとはいえ、さすがに別作品のキャラの衣装は……

 

 後、その時に呼べる召喚獣が強すぎました。まだあの姿になったの昨日が初めてなので一体しか呼べませんでしたが、その時に呼んだ餓狼がそりゃあもうすごくて。四足歩行なのになんで有名な格ゲーキャラの技使えんの? そして幽霊に動く余地も与えず一方的だったのですが? 訳がわからないよ。

 

 うーむ、なんか釈然としなかったな。召喚師覚醒フォームに初変身したって感じがしないし、拓海の陰陽師としての力は変なオーラを持ったお札を浮遊させるところしか見れなかったし、帰る時にも拓海が過保護になってくるし……何だったんだ昨日は。

 

 いや、過ぎた日の事はあまり深入りしないでおこう。昨日は拓海が陰陽師一家の息子だと知った。俺も初めて召喚師覚醒フォームになった。この二つの情報を得ただけで充分だ。この話はもうおしまいや。

 

 というわけで、いつも通りメェール君が作ってくれた朝食を済ませたから、さっさと学校に行く準備をせねば。

 

 ……その前に、一つ気になることがあるので一言だけ言わせてほしい。

 

 

 

「なんか勝手に出てきた召喚獣、メェール君の他にも出てきたんだけど」

 

 

 

 そう呟きながら振り返ってみると、フローリングワイパーとかハンディモップとか持ってる、雛鳥とかハムスターとか柴犬とかがいた。一つの部屋にたくさん動物入らないでほしいけど? 大体ここ、アパートぞ? 激安だからなのか大家さんらしき人見当たらないけども。

 

 

【うおおおおおお‼︎ マスターの部屋の清掃もやってやるぜぇえええ‼︎ この世界に来たの初めてだけど、やってやるぜ‼︎ 熱血だああああああ‼︎】

 

【暑苦しい上に牛の癖に、足踏みなどをせず埃を散らかさないとは……丁寧系熱血漢というものもいるのだな。変わってる】

 

【うるせーよスバメなのかキジなのか分からない雛鳥が。足のめっちゃ早い上に体に星マークある俺よりも地味な癖に】

 

【口悪いな可愛いハムスターなのに】

 

【ちょっ、タンスの隙間から怒りの睨みきかさないでお願いだから】

 

【シバタはゴミ出しに行って来てくれ‼︎ 俺は食器洗いと風呂掃除をやっておこう‼︎】

 

【うん、吉田家の皆さんや他のゴミ出しに来た人達に見つからないようにするよ】

 

【おう‼︎ もしもの事があればテレパシーで伝えてくれ‼︎ すぐに対処しよう‼︎】

 

 

 めっちゃ騒がしいやん。召喚獣達の作った結界のおかげで苦情は出なさそうだけどさ。

 

 結界があるからかデカい声で叫びながら、掃除機咥えて走ってゴミ吸い取ってるのは、金色の二本角に赤い体を持つ、熱血漢ならぬ熱血牛のポーフ。

 

 ハンディモップ持ちながらタンスなどの隙間に入って埃を取っているのは、体毛が薄い鼠色となっている、スパイ活動らしきことが出来る雛鳥のピッピ。

 

 フローリングワイパーの上に乗ってスケート感覚でフローリングしながら、ピッピを煽るも睨まれてすぐ弱気になったのは、黒い毛での星型のマークが作られていた、超速スピードを持つハムスターのハムイン・ボルタ。

 

 雑巾掛けを終えて食器洗い用のスポンジを咥えているのは、茶色い身体のシンプルなスタイルに加えてロングヘアみたいに長い黒の鬣を持つ、兄貴格な馬のヒヒン。

 

 前足で持ってるトイレブラシでのトイレ掃除を終え、ゴミ袋を出すように頼まれて了承したのは、甘栗色の体毛を持つシンプルな姿の、吠えない代わりに鋭い目付きで威嚇すると言われている温厚系芝犬のシバタ。

 

 以上の五体を含め、玄関で俺を見送りしようとするメェール君を含めた六体が今、俺の部屋に(勝手に)召喚されて掃除しています。

 

 いや出過ぎじゃね? 俺の部屋を掃除してくれるのは嬉しいけどさ、出てきてくれるのは二・三体だけで充分でしょ? たくさん出ると全体の負担は減るだろうけどさ、数多くね?

 

 

【あぁ、彼らの事は気にしなくていいメェ〜。どいつもこいつも、ただ出番が欲しくて勝手に出てるだけメェ〜から】

 

「で、出番って……? まぁこんな平和な世界だから、しばらくは彼らが出る機会はないだろうけど……」

 

【あ、『出番』って言葉は……というか小説のワードはメタ発言だから、この世界では禁句だったメェ〜。ごめんマスター、今のは聞かなかったことにしてメェ〜。いや本当に】

 

「えっ? お、おう……?」

 

 

 出番? 小説? メタ発言? 急になんでそれらのワードが出てきたのさ。俺が知ったらいけない領域なの? それら。

 

 まぁその、アレだ。召喚獣達しか知ってはいけなさそうなことはプライバシーの問題とかあるから、ここは聞かないでおいてあげた方が彼らのため俺のためか。

 

 

「まぁいいけど、俺が出掛けてる間は部屋荒らしたり喧嘩したりしないでくれよ? じゃ、行ってくる」

 

【【【【【【いってらっしゃーい(メェ〜)(‼︎)】】】】】】

 

 

 うおっ、うるさっ⁉︎ 一斉に返事しなくていいんだぞ⁉︎ 鼓膜っ、鼓膜が痛い‼︎ マジで痛い‼︎

 

 そんなこんながありながらも、ようやく部屋から出た俺氏。今日もさっさと優子と合流して、一緒に登校するぞー。よし、今日もちゃんと集合場所に優子が先にいる。俺も早めに出てるつもりだけど、なんで毎回彼女が先に着くのかな……

 

 と思っていると、ふと優子の顔がなんか強張っていることに気づく。これは多分、アレかな……あの原作イベントをやってきたんだな。

 

 ……うん、これは指摘したら優子へのプレッシャーが()()()()()し、何より俺が転生関連の事で疑われるし、ここは敢えて知らんフリでもするか。

 

 

「おはよう優子」

 

「あ……お、おはようございます、白哉さん……」

 

「今日はなんか顔が引き締まってる感じがするな。ちょっとした勝負でも申し込むのか?」

 

「え。あっ……ま、まあ出来ればそうでもしたいなーと……。と、特に内容は、考えてませんが……」

 

「……そうか」

 

 

 うーむ、罪悪感と恐怖が混ざり合って不安のオーラが募ってるって感じだな。うん、ヤンデレになりそうな事とは全く関係ないな。やっぱりあの原作イベント関連だな。自分のした事が災いしないかどうかで怯えているようにも見えるし。

 

 ってことは、ついに魔族と魔法少女の関係性も変わっていくのか。そこから俺がどう関わっていけばいいのかも、考えられそうだな……

 

 

 

 

 

 

 それは昨夜、私が封印空間にてご先祖と再会した時でした。何やら半日位前から私の魔力が絶好調とのことだったので、ご先祖が寝ている桃の潜在意識に入り込んで、私に血液を渡すように仕向ける──洗脳しろと提案してきました。

 

 寝てる間は理性のガードが弱いから桃もグズグズになると仰っていましたけど、桃はどうコケてもそんなことにはならないと思うし、何より洗脳は気が進まなかったですね。けど桃に余計なケガをさせずに済む上に、封印が解ければ借りも返せる……直接対決を避けれるとのことで実行することにしました。

 

 早速ご先祖が私の魔力で具現化した夢見鏡(ゆめみきょう)を通じて桃の夢の中を探そうとしましたが、中々見つからず……。と思った矢先、いつの間にか私はヘドロまみれのところにいて、そこで小さい桃──子桃──と出会いました。なんだかよくわかんないけど、どうやら桃の夢の中に入ることに成功しました。にしても子桃可愛い。

 

 何はともあれ、早速生き血を分けてもらうように暗示をかけようとしました。けど子桃曰く、単純な血液譲渡じゃないとこの町の平穏を守るための魔力が大幅に減り、弱くなってしまうと聞かされました。魔法少女の血って、そこまで重要だったのですね……

 

 『でも何も出来なかった』。そう言った子桃が泣いた途端、ヘドロが増量してかなり焦りましたね。もしあのヘドロで二人とも溺れ、夢の中で溺れたらどうなるのかと考えると、かなりの危機を感じました。

 

 ここは溺れたくない‼︎ なんとかしないと‼︎ そんな一心で、私は昼にできるようになった危機管理フォームの変身による風圧で周りのヘドロを吹っ飛ばした‼︎ これで楽になったので、子桃と協力してヘドロを強制スッキリ心の大掃除をする事に。でも『なんで服を脱ぐのか』と勘違いされたくなかったですね‼︎ 色々なところが露出してるだけなので‼︎ 自分でもめっちゃ恥ずかしかったし‼︎

 

 大分片付いてちょっと殺風景になったけど、ちょっと景色をよくする事に成功しました。けど改めて暗示しようとしたら、惜しくも時間切れ。でも目覚めた後も夢の中ははっきりと覚えていました。もし桃もこの事を覚えていたらとなると、結構不安になってきました……

 

 そんな不安を抱えながら、私はいつものように白哉さんと一緒に登校することにしました。けど、学校に向かってる途中で、白哉さんに……

 

 

「今日はなんか顔が引き締まってる感じがするな。ちょっとした勝負でも申し込むのか?」

 

 

 昨日何があったのかと勘付かれました。さすがは私の好きな人、というべきでしょうか……偶に重たくなる感情をも受け止めてくれるからなのか、私の考えてることはなんでもお見通しな感じですね……

 

 

「え。あっ……ま、まあ出来ればそうでもしたいなーと……。と、特に内容は、考えてませんが……」

 

「……そうか」

 

 

 いや分かっていながらなんで嘘ついたの私。白哉さんの勘は鋭いんだから、勘づかれたらもう隠し事は無意味だってのにいい加減気付いて。

 

 ……ここまで来たら、もう仕方ないですね。昨日夢の中でしたことを全部話して、この後どうすればいいのか相談しましょう。白哉さんなら、何か良いアドバイスをくれるかも……

 

 

「……白哉さん。実は──」

 

「おはよう、二人とも」

 

「ごめんなさいでしたあああ!!」

 

「うおっビックリした⁉」

 

 

 さ、最悪だぁああああああ!! よりによってなんでこのタイミングで桃が来るのですかぁあああ⁉ どうしよう、白哉さんに言う前に桃の口から私のしてきたことが出てきて……

 

 

「さっ、さばかれる……サバのように……」

 

「……何の話?」

 

「あっ……覚えてない?」

 

「なんかよくわかんねーけど、とりあえず怖がるのやめろよ。千代田桃に何かを疑われるぞ」

 

「……桃でいいよ。今気づいたけど、まだフルネームで呼ばれてたんだね、私……」

 

「あ、そうだった。名前で呼んでもOKなの忘れてたわ、ごめん」

 

 

 よ、よかった……とりあえず桃は夢の事を覚えてないようですね。ま、まぁ普通は夢なんて覚えられるわけないですもんね……

 

 って、アレ? なんか桃、いつもと様子が違うような……

 

 

「というかちよ……桃。お前、すごく顔色が悪いし髪ボサボサだけど、大丈夫か?」

 

「そうかな。そういえば昨日くらいから風邪っぽいかも。それに、よく分かんないけどびっくりするくらいコーラが飲みたくなって……」

 

 

 あ、よく見たらリットルサイズのコーラを持ってる。よくよく考えたら私、夢の中で子桃に渡してたような……

 

 これってまさか、夢の中での出来事が少しばかり影響してる……⁉

 

 

「あと……少し、調子悪い……」

 

「桃⁉」

 

 

 危なっ!? 桃が急に倒れこんだ⁉ キャ、キャッチしてそのまま潰されなくてよかった……私が。

 

 

「……ちょっと、これはやべーな。俺達がいなかったら倒れ込んだ時どうなってたか……。優子、俺がスマホで先生にこの事を連絡するから、お前は水買ってきて桃に飲ませてやってくれるか?」

 

「あ、はい!! 買ってきます‼︎」

 

 

 白哉さんの冷静な判断に任せて、とりあえず私達は近くの公園のベンチに座らせてからお互いすべき処置を行うことに。あ、公園のとこに公衆電話が。あれならもし白哉さんがいなくても、なんとか連絡手段も取れるかも。

 

 にしてもあの桃が体調を崩すなんて……。もしかして……潜在意識の大掃除が、良くない影響を及ぼした?

 

 

「変な夢を見たんだ……」

 

「!!」

 

「夢? どんなのだ?」

 

「あまり覚えてないけど、嫌な夢……。でも……最後は安心する感じ……の……。あと、露出魔が出てきた気がする……

 

「………………一応聞くけど、それって変態のおっさんか?」

 

「なんか、女の人だった気がする…‥」

 

「……変わった夢だな」

 

 

 やっぱりあんまり夢の事は覚えてないようですね。それに最後は安心する、か……。多分、そこまで悪い影響は出てないようですね。

 

 あと、その夢に出てきた人、私です……。そして露出魔じゃないです、戦闘フォームです……。やっぱりあの露出度の高い服は、絶対ご先祖にリテイクしてもらいたいですね。人前、特に白哉さんには恥ずかし過ぎて見せられない……

 

 この後は私が荷物を持ち、白哉さんが肩を担ぐ形で桃を家にまで送ることに。この時桃が半分寝てる感じで隙だらけだったので、この隙に生き血を取ろうかと思ったのですが、桃がまさかの『ごめん』と言ってきたので、悔しくも生き血はまた別の機会にしちゃいました。あの桃が弱気な感じに謝ったのですよ? 調子が狂っちゃいますよアレは‼︎

 

 で、しばらくして桃の家に到着。一瞬公民館に住んでるのかと思っちゃうくらい立派な感じでした。貴様ローン云々は大丈夫なのか? よく高校生一人でこんな立派な家に住めましたね⁉︎

 

 ん? ここまで来れば後は何とかなる? 何言ってるんですか桃! そんなフラフラだと荷物持てないし途中で倒れ込みますよ‼︎ 心配……じゃなかった。ここまで来たからには、多少の情報を盗んで帰るのが礼儀‼︎ 特別にこの宿敵が看病しちゃりますよー‼︎

 

 

「……よし、ここまで来れば優子一人でも大丈夫だな。んじゃ、悪いけど先学校に行って……」

 

「えっ。ちょっ、ちょっと待て‼︎ 貴様ここまで来て何故病人を他人に任せてどっかへ行こうとする⁉︎」

 

「いや俺も出来れば最後まで看病してやりたいけどさ、その……なんつーか……お前の嫉妬を買ってしまいそうで……」

 

「あっ……」

 

 

 そ、そうでした。私、白哉さんが他の女の子と絡んでるのを見ると、嫉妬したりマイナス方面での勘違いをしてしまうのを忘れていました……というか、なんで自分の性格とか癖を忘れるんでしょうね⁉︎

 

 ってかそんなこと言ってる場合じゃない‼︎

 

 

「た、たしかに白哉さんが他の女の子の家にお邪魔するのが……その、癪になってしまうのは否定しませんが……今は四の五の言ってる場合じゃありません‼︎ 今優先すべきなのは、桃を安静にさせることとその為の安全確保‼︎ 人の善処を放置なんてしたら色々と気まずくなったりしますよ‼︎ 色々と‼︎ だから手伝って‼︎」

 

「お、おう、そうだったな……悪かった」

 

「い、いえ。今までの私にも非はありますが……と、とにかく‼︎ は、早く入らないと桃が苦しくなるままですよ‼︎」

 

 

 な、なんだか恥ずかしさが湧き立ってくる気がしたので、早くお邪魔しなければ‼︎ さっさと桃の家に入りたい‼︎ そして桃を看病することだけを考えたい‼︎

 

 

「……今のイチャイチャしてるのを見てたら、少しは楽になったかも」

 

「「べ、別にイチャイチャしてるわけじゃないです/ねーよ‼︎」」

 

 

 

 

 

 

 桃が露出魔コス……じゃねーや、危機管理フォームになった優子に会った気がするという夢を見た事を知ったところで、優子と一緒に桃を家まで連れて行くことに。原作を知った自分からすると、露出魔の優子ってエロいけど狂ってそうでなんか嫌な感じがするんだよな……

 

 そんなくだらない事を考えながらも、公民館らしさマシマシな桃の家に到着。後は優子一人でも桃の看病が出来そうなので、ス○ードワ○ンの如くクールに去ろう……としたけど優子に止められました。

 

 えっ? いや看病手伝えってお前、自分がヤンデレなの忘れてね? お前が嫉妬とかして変なところで暴走したら俺と桃が困る……えっ? そんなこと言ってる場合じゃない? 病人を安静にさせるのが最優先? あー……うん、正論ですねすみませんでした……

 

 って桃、おま、今俺らがイチャイチャしてると思ってるのか⁉︎ ち、違うから‼︎ イチャイチャしてねーから‼︎ ほら、優子も息ぴったりに否定してくれてるから‼︎ 大体人前でイチャイチャみたいな空気読まないことしねーから‼︎ 勝手な解釈はやめて‼︎ マジで恥ずい‼︎

 

 まぁそんなこんなで、やっと桃の家のドア前まで来ました。なんか優子がオートロックの暗唱番号を間違えるとザリガニまみれの水槽に落とされ、鼻の壁を挟まれるのではと呟いていた。発想がバラエティ番組じゃねーか。出○さんに仕向けるドッキリとかじゃねーんだから。もし本当ならロックした本人も間違えたらヤバいって。

 

 

「暗証番号は、ごろごろにゃーちゃん」

 

「うん? はい?」

 

「間違えた。56562」

 

56562(ごろごろにゃーちゃん)、覚えました!」

 

 

 やむを得ない状況とはいえ、ナンバーロックの暗唱番号教えてくれてあざす。にしても可愛いナンバーだな。

 

 はい、お邪魔しまーす。早速リビングに入ってすぐ桃をソファに寝かせつけ、俺は薬箱を、優子は体温計を探すことに。けどそれを持ってる桃本人はそれらが何処にあるのかを忘れてしまってるようだ。おま、自分の物は自分でちゃんと管理しないとダメでしょうが。不安なら紙にでも何処に何があるのか書いておきなさいな。

 

 あ、いきなり優子がパソコンデスクにてハートフルピーチモーフィングステッキを発見した。あ、桃もハートフルピーチモーフィングステッキと言った。一文字も間違えなかったぜ俺☆ よくこんな難しい言葉を覚えられたもんだなー。

 

 ふと、俺の足をスリスリするものが。おぉ、魔法少女のナビゲーター・メタ子ではないか。一発芸感覚で神託をくれる良き猫さんじゃないですか。あ、優子の尻尾気に入ってガジガジしてる。やっぱり魔族の尻尾は猫じゃらしなのかね?

 

 桃曰く、昔は結構喋ったらしいが、彼女が魔法少女としてのやる気をなくした上に結構年をいったため、もう九割七分普通の猫になってるらしい……『時は来た』と喋れる時点で九割七分じゃねーよ、五割普通じゃねーよ。

 

 でも、なんだろう。失礼だけど白龍様もこの世界に転生した俺の為に特典の事を教えてくれたから、実質俺のナビゲーターじゃね? そしてなんかメタ子と意気投合して仲良くなるんじゃね? やべぇ、急に試したくなってきた。

 

 

「せっかくだし、メタ子の遊び相手を呼んであげようか? ウチの召喚獣、メタ子と息が合いそうだし」

 

「おぉ、なんか私も見てみたいです。ペッ……動物達のじゃれ合う姿が見られそうというか……」

 

「そうだね、私もペット同士の戯れってのを見てみたいかも」

 

「言おうとしたけど気が引けた『ペット』って言葉をサラッと言った‼︎ ナビゲーターですよねメタ子って⁉︎」

 

「俺の召喚獣もペットと捉えるなよ……まぁいいや。白龍様、召喚」

 

 

 召喚獣をペット扱いされた事に不満を感じながらも、俺は白龍様を呼び出した。うん、俺が召喚師の姿になってないためか、初対面した時よりもめっちゃ小さい五十センチサイズとなって出てきた。そして全体がデフォルメとなっていて可愛い。

 

 というか、すみません白龍様。メタ子の遊び相手になってもらうために貴方の初召喚をしてしまって……。しかもよりによってまだ喋れない状態だと言うのに……

 

 って、白龍様? なんでスケッチブックと黒ペンを持ってるんですか? そしてなんで呼ばれたとわかってすぐメタ子と顔合わせてるんですか? えっ? どゆこと?

 

 

【はじめまして。いつも白哉が魔法少女に世話になってるよ】

 

『時は来た』

 

【いやいや、今の俺はただの使い魔的存在だから大した奴じゃないよ?】

 

『時は来た』

 

【あーわかるわかる。お互い言うべき事を言わないところとか、なんで気づかないんだってところとかがよくあるよな】

 

『時は来た』

 

【だよなぁ、そうしてもらった方が楽だもんなー】

 

『時来てるぞ』

 

【確かに、俺ら早くも仲良くなれそうだ】

 

『時だぞ』

 

【おう、これから仲良くしていくとしますか】

 

『まだその時ではない』

 

【オッケー】

 

 

 ……なんか、白龍様がスケッチブックに文字書いてメタ子と会話してるみたいだが。そして白龍様の文字を書くスピードが思ったよりも早いんだが。けどメタ子が『時は来た』としか言っていないせいで、会話の内容が理解できないんスけど。逆になんで白龍様はメタ子の言葉がわかるんですか。なんか羨ま。

 

 

「……二人は白龍様とメタ子が何を話してるか、わかるか?」

 

「えっ⁉︎ い、いえまったく……」

 

「私もこれっぽっちも……。いつも何も考えずに『時は来た』と言ってるものだから」

 

「……さいですか」

 

 

 つーかそもそも、桃は兎も角なんで俺は優子にまでメタ子の言葉を訳してもらおうとするのかな? ここは白龍様になんて言ってるのか問いかけておくべきでしょうが。なんか実際に話通じ合っているんだし。

 

 

「白龍様、メタ子と何を話してたのですか?」

 

 

 今の俺の言葉に反応したのか、白龍様はまた素早くスケッチブックに文字書き始めた。よし、これでメタ子が何を話してたのかがわか……

 

 

【メタ子曰く、トップシークレットだそうだ。プライバシーの侵害だぞ】

 

「口止めされてるんスねチクショー‼︎ なんだよプライバシーの侵害って‼︎」

 

「あはは……私も聞いてみたかったです」

 

 

 おのれメタ子ォォォ‼︎ お前なんでさっきの会話を訳させようとはしてくれねーんだよ‼︎ 翻訳の許可がないとお前の心情とかがわかんねーだろ‼︎ そうすれば桃もメタ子への対応を変えてくれるってのにー‼︎

 

 ……まぁそんなくだらない嘆きはここまでにしまして、さっさと薬を探さないと。おーい桃、薬箱とかのある場所マジで忘れてんのかー? え? あんまり病気になった事がない? なったとしても薬を使う程の重いものじゃなかった? 結構健康管理守ってんだな……

 

 

「そうだね、十年くらい前に薬箱を使ったような……」

 

「ちょっ⁉︎ それはもう見つけない方がいいやつです‼︎」

 

『時は来た』

 

【千代田家の飲み薬終了のお知らせ】

 

「です! 薬にも賞味期限があるんです‼︎」

 

「早くも仲良いね」

 

「いやちょっと待って? 白龍様は何を狙ってその言葉にしたんですか? そしていつの間に優子と仲良く? 俺聞いてないんですが」

 

 

 なんか優子の頭の上にちょこんと乗ってるし、優子にナデナデされてるし。別に羨ましいってわけじゃないけど、メタ子同様仲良くなるの早すぎませんかね?

 

 

「……まぁいいや。俺、ちょっと薬局行って風邪薬と新しい薬箱を買いに行ってくるから、優子は白龍様と一緒に桃の看病しに行っておいてくれ」

 

「あ、はい。そうしていただけると助かります。じゃあ私はせめて桃の頭を冷やしておきますね」

 

「おう」

 

 

 まぁ別に俺がここに残って桃の看病を一緒に続けるのもいいけど、変な真似をして()()()()()()()()()()()()()()()を逃したりしたら困るからな、一度この場から離れさせてもらうとするよ。……半分は嘘ついてるわけじゃないからな? 悪く思わないでくれ。

 

 ……白龍様も大事なイベントを良心で妨害しちゃったりしないだろうな? まぁ彼も原作を知ってそうな感じを見せてくれてはいたから、多分大丈夫だとは思うけど……

 

 

「えっ? ちょっと待って。別に薬箱まで買わなくてもいいんじゃ……」

 

「飲み薬でないにしろ、十年も使ってないのがあったら湿ったりして効果が薄まるものだってあるかもしれないだろ? 消毒液とか絆創膏とか。長く放置した医療用品を使って万が一な事が起こるリスクよりも、新しいものを使った方が後々効率良いって」

 

「そ、そっか……じゃあお願いしようかな」

 

「うい」

 

「あ、なんか面白い返事ですね」

 

 

 ここは別に嘘をついてるわけじゃないよな? 箱の中をずっと開けずにいたら自然に湿気とかが増えるはずだし、それによって絆創膏とかが痛む可能性だってあるし、湿気によってダメになるものだってあるはずだし、半分は騙してない……よな?

 

 後優子、今俺の返事を面白いと言ったね? 正解。俺が前世いた世界でもそういったノリの軽い挨拶が一時流行ってた時期があったんだよ。だからそこははっきり言って正解だったぜ。

 

 まぁ何はともあれ、薬箱を買うためにさっさとクールに一度家から去るとしますか。二人は()()()()()()()()()()()()()()()をやっていってくれ。

 

 

「桃、氷はどの扉に入って……ん? なんだろ、これ?」

 

「あっ‼︎ やっぱ冷蔵庫ダメ‼︎ シャミ子、冷蔵庫は開けないで……うっ‼︎」

 

「桃⁉︎」

 

 

 あ、家を出ようとした時にはもう始めてましたか。それじゃあ蛇足になりそうな自分は気づかないフリしてさっさと出ますか。

 

 

 

 

 

 

 白哉さんが桃の家を出たのとほぼ同時に、私が冷蔵庫で何かを見つけたら、何故か無理して立とうとした桃が思わず転倒してました。ドジっぽい様子を見せる桃もなんかレアかも。

 

 というか、なんで無理して立とうと……えっ? 冷蔵庫にある皿を見てほしくなかった? 一体何を盛りつけていると……何これ? なんか結構ドロドロしてる感じが……まさか、魔族をちねって作ったモニュメント……⁉︎

 

 

「それは……失敗したハンバーグ」

 

「えっ⁉︎ ……この黒さ、禍々しさ……捌いた魔族の純度高い怨念をふんだんに使用した……」

 

「普通の牛のハンバーグ‼︎」

 

 

 な、なんだ……私ってばてっきり、魔法少女はぶちころがした魔族を食糧にして食べる時があるのかと思ってました……。一瞬だけ魔法少女に対してピュアとは結構かけ離れたイメージを持ってしまってすみませんでした……

 

 でも、なんだろう……桃のこの料理を見てると、何故か私もこれと似たものを作りそうな気がします……

 

 なんというか……白哉さんの事を想いすぎて変なものを入れて、その料理が失敗したしてないに関係なくヤバいのにも関わらず、白哉さんに無理矢理食べさせてしまいそうな自分をイメージしそう……

 

 桃には申し訳ないけど、この料理を見ておいてよかった気がする。料理する時は変なものは入れないようにしようという意識がより一層強くなりそうなので……ホント気をつけないと白哉さんも私も危ないですね、ホントに。

 

 ところで何故ハンバーグを作ってたのかと問いかけてみたら、魔力修行の時に、私が強い魔力を頑張って出した記念として作ってあげようとしたそうです。いやアレは貴様に唆されて白哉さんへの想いをカミングアウトしてしまったことによるおかげであって……

 

 でも料理はいつも出来合いで、何度やってもおいしくできなかったらしい。捨てるのもよくないから消費してたけど、毎食ひと口で心がいっぱいになってたとか……。いや、失敗したのを一口ずつ長い時間かけて食べてたら病気になりますって。寧ろそれが今回の病気の原因では?

 

 私のために作ったのならば、これはいただきますね。なんか桃が止めようとした感じですが、気にせず口に運んじゃいました。ところで味は……あっ。

 

 

「見た目で焦ったけど、全然まずくないじゃないですか。外はゴリゴリ、中はドロドロで、ちゃんと生の玉ねぎと塩の味がします」

 

「それは果たして大丈夫なの……?」

 

「大丈夫。本当にダメな食材は、口に入れると痺れるか喉が本能的に餌付くので、それ以外のものは食べられるものです」

 

「食のストライクゾーン広いんだね……」

 

 

 なんか引かれてる気がするけど、とりあえずこのハンバーグは完食させていただきました。味は大丈夫でしたよ、いやホントに。

 

 ん? 恥ずかしいところを見せちゃった? 別に今の桃をダメな奴とは思ってませんよ? それに、自分のダメなところが人にバレるのを怖がっていたら、いつまでたっても前に進めません。私もうっかりを起こしたりドジを踏んだりと色々やっていますが、ちょっとずつでも前に進んでいるつもりです。

 

 白哉さんに対しての愛が重くなってしまうところだって、いつまでも抑えてばかりでいる気はありません。あくまでこっそりではありますが、ある程度暴走しないようには曝け出して良い感じにアプローチしていこうと思っています。

 

 まぁ、まだそれを行動に起こせていないんですけどね……

 

 だから桃もそのダメな事を恥ずかしい事の一言で片付けないでください。寧ろそれをバネにして成長していってください。……倒しづらくなるので複雑ですが。

 

 

「シャミ子は強いんだね。……じゃあまた作って味見してもらおうかな」

 

「是非に‼︎ 今度は肉の味が分かるくらい塩の量を減らすといいと思います。せっかくの牛なのに塩と玉ねぎと炭しか分からなかったので」

 

「………………やっぱり最低限うまくなってから持ってくる」

 

「なんで⁉︎」

 

 

 なんか変な間が出来た⁉︎ そして前言撤回された⁉︎ 次ハンバーグ作る時に上手になるアドバイスを出しただけなのに⁉︎

 

 なんか引っかかりはありますが、この後いくら一人暮らしだからってこんなんじゃ桃の体が壊れそうってことで、今度ウチにご飯食べに来るように誘うことに。おかーさんに作り方教えてもらえば桃でもハンバーグ作るの上手くなると思うし、白哉さんも事情を分かってくれれば、簡単なものなら教えてくれると……

 

 あ、しまった。また白哉さんが他の女の子と絡むことを考えてモヤモヤしてしまった。ホントこういうのは直していきたい……

 

 とりあえず、桃は寝てください。その間に濡れタオルを用意しておでこにぺたっとさせてあげますから。早く病人から魔法少女に戻ってくれないとやりづらいのだー!

 

 で、桃にはまた寝てもらったけど熱はあるけど呼吸は落ち着いたかな……寝顔は強そうには見えませんね。

 

 とか見てる場合じゃない‼︎ これで勝ったと思うなよ‼︎……小声で言うと物足りない‼︎

 

 あ、そうだ。ウチならうどんの買い置きがあるかも。家から持ってこようかな……あっ、その間に白哉さんが帰って来そうだし、二人宛として書き置きはしておかないと。

 

 あっ、白哉さんの場合はメタ子の話し相手になってる白龍様を通して伝えておけばいいですね。って、いつの間にか寝てた。むぅ、仕方ない。やっぱり桃と同じく書き置きで……ん?

 

 あ、桃の左手に傷口が! さっき転んだ時に出来たんだ。血も出てるし、ハンカチで拭いておかないと。にしても、桃が怪我するところも初めて見ますね……も〜〜〜っ今日の桃はホント調子が狂う〜‼︎

 

 よし、止血もしたし、絆創膏を貼って、メモも残しておいて……ふぅ、そろそろうどんを取りに行きましょうか。氷枕は冷やしてあるかな〜。

 

 

 

 この時、私はまだ気づいていなかった。ここまでの私の行動で今、色々と大切なものを手に入れたことに───

 

 




薬買いに行った白哉君を余所に流れる原作……まぁ『止まれ』と言って止まらないのが物語という名の現実ですからね、仕方ないね♂ それに今は知人の安静が第一ですし。

本編に関する質問を受け付けてますので、疑問に思うことがあれば是非こちらに↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=289431&uid=379192


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優子は町を守るまぞくにもなった。けど何故俺も? 仕方ないので優子がヤンデらない程度に頑張る。

原作一巻でのお話が終わるので初投稿です。

ついにシャミ子が原作通りにある役割を一緒に担わされることに……‼︎ そして白哉も……? 詳しくは本編にて‼︎


 

 うーむ、桃って今熱とか出てるっけか? 熱が出てるのならロキ○ニンSかな。いや、パ○ロン○ースもあるな。イ○Aも効果良さそうだし、新ル○Aとかもあるし、あとはジキ○ンとかも……

 

 魔法少女が飲んだらヤバい薬ってどれだ? それだけは選ばないでおこう。

 

 ……ん? あ、どうも皆さんおはようございます。白哉です。

 

 俺は今、風邪を引いてる桃の為に、看病を優子に任せて風邪薬を買いに薬局にいます。優子が桃の小さい頃の時っぽい夢に介入したせいだからなのか、起きてから調子が悪いそうです。

 

 で、桃を運ぶ上に安静にさせるために優子と二人で桃を彼女の家に連れていき、そこで桃の看病することに。オートロックの暗唱番号が可愛かったな。56562(ごろごろにゃーちゃん)って……あいつホントに猫好きなんだな(それを原作で知るのは後になるけど)。

 

 そして優子がハートフルピーチ……何だっけ? あっ、モーフィングステッキ。ハートフルピーチモーフィングステッキを見つけたり、メタ子の生『時は来た』を聞けたりする場面を見ることができました。正直桃がハートフルピーチマフィ……じゃねーや、モーフィングステッキとスラッと言った時は内心で爆笑したっけ。

 

 後、俺に神様との繋がりがある、転生特典の事を教えてくれた白龍様の貴重なのかもしれない……つーか貴重な初召喚を、メタ子の遊び相手になってもらうために使ってしまいました。うん、ホントすいません白龍様。もうちょっとバトル展開の場面とかで出すべきだったと思いました。それなのにただ知人のペットの遊び相手のためにって……

 

 そしてこの後は原作にとって大事なメインイベントに繋がるサブ?イベントがあったので、俺が介入して変な展開にならないようにと、桃の家に無理矢理置かせるための薬箱を買いに行って今に至ります。桃曰く薬を使ったの十年前らしく期限や効能などが切れてたから、桃に対する予測できない事態に対応するための処置ってヤツだな。

 

 で、結局風邪薬はどれにするべきかなー……。よし、やっぱり前世同様にネットでのアクセス数の一番多いロキ○ニンSにしとくか。風邪以外に対する効果・効能、副作用の軽さを考えれば最適かもな。よし、薬箱と一緒に購入してさっさと帰るか。そろそろ原作のサブ?イベント終わったところだろうし、帰ろう。そうしよう。

 

 

 

 

 

 

 さて、ロキ○ニンSと薬箱を買って桃の家に帰って来たぜ。サブ?イベントが終わった後は、うどんを取りに行くために一旦家に帰っていった優子とメタ子の『時は来た』によって大事な事に気づいて優子を追いかける事になった桃、この二人が優子の家に向かうことになるのだが、敢えて俺はそこに向かわない。

 

 だって俺、買った薬を持ってるままだぞ? その状態で優子の家に向かっていったら、二人に『桃の家に戻っていったのでは?』などと疑われて、俺が転生者である事がバレる可能性だってあるんだぜ? 最低限の最悪の事態をも回避しないと、原作に影響が及ぶ可能性だってある。だから最善で安全な事はしておくべきってわけだ。

 

 えっと、暗証番号は……56562(ごろごろにゃーちゃん)、と……よし、開いた。早速知らんぷりして帰ってきたよコールでもするか。

 

 

「ただいまー。優子ー、桃ー、風邪薬と薬箱を買って戻ってきたぞー」

 

 

 ……うん。我ながら白々しい感じがして、なんか罪悪感が……

 

 で、予想が的中したのか優子や桃の返事は来ない。反応もしてくれない。うん、これはアレだ。原作通り二人とも外に出てるな。ちゃんと原作(シナリオ)通りに物語が進んでるな。

 

 

『時は来た』

 

「おっ、ただいまメタ子……【白哉、遅いぞー】うおっ⁉︎ ビックリしたっ⁉︎」

 

 

 おま、白龍様⁉︎ 気配を消して俺の顔近くにまで来ないでもらえないですかね⁉︎ ヌウッて貞子か何かみたいに出てこないでくれませんかね⁉︎ 俺ホラー嫌いなんですよ‼︎

 

 

【いやー、俺は誰かを驚かせるのも好きなんだよな。まぁそれよりもだな】

 

「ん? 何ですか?」

 

『時は来た。時だぞ』

 

「メタ子まで結構焦って……どうしたというのさ?」

 

【シャミ子がご飯取りに出掛けて、桃もなんか生き血が取られたとか言って後を追いかけて行ったぞ】

 

「………………えっ?」

 

 

 おい、なんでわざと『何……だと……⁉︎』みたいな雰囲気出してるの俺。白龍様だってこの世界がどんな世界なのか、この世界で行われる物語がどんなものなのかを知ってるんだからさ、そんな大袈裟なことしなくてもよかったじゃん……

 

 あっ。いや、よく考えたら近くにメタ子いたやん。もしメタ子に俺が転生者である事を勘付かれたら原作に影響が出るかもしれないじゃん。前言撤回、やっぱりここは無知なフリしとこ。

 

 

【一応ここに桃が念のためにと置いといたメモもあるぞ。《シャミ子が忘れ物していたから彼女の家に向かうね。そしたらそこで少し休んでから戻ってくる》ってな】

 

 

 そう言って白龍様は一枚のメモ帳を俺に渡してきた。これもメタ子の目の前で演技をさせるために、実際に桃が書き置きしたヤツを渡したのだろうな。ここも知らんぷりしてよく見ておくか。うん、今さっき白龍様が言ってたのと同じ内容が書かれてあったわ。忘れ物を届けるって、桃も嘘ついてるけどあながち間違ってはない……のかな。

 

 

【思ったよりも驚いてないなー(棒)】

 

「なんで(棒)って書くんですか……。というか、白龍様は止めなかったんですか?」

 

【この姿の俺はパタパタ飛んで鱗をキラキラさせるだけの無害モードだからな。止めようとしても力で呆気なくやられるから無意味なんだよ】

 

 

 え ゙っ。デフォルメ姿だとただ飛ぶことしか出来ないってこと……? ヤダ……俺が召喚師覚醒フォームになるかならないかで白龍様も本領発揮できないってこと……?

 

 

「……えっと、それって、俺が召喚師覚醒フォーム……あ、今言ったのは本来の姿の白龍様を呼べる時の姿の事です。それになってないから本来の力が解放されなくて、桃を止める手段がない……と? ……それはなんか、すみませんでした……」

 

【いや、教えるのを忘れた俺にも非がある。気にしないでくれ】

 

 

 いやいや、白龍様が力を発揮できるところとかを初対面の時に聞かなかった俺にも非が……

 

 って、そんなこと言ってる場合じゃねーな。そろそろ優子と桃のところに行かなければ。ちょうど桃が優子の家に着いた時間帯になった気がするし。……いや、分からんけど。

 

 えっ? なんで二人の元に行く必要があるかって? いや、その……俺のせいでヤンデレってしまった優子が、今後何かしらのヘマをして原作崩壊しそうな時のための、念入りの協力をするために……? 嘘です原作イベントを間近で見たいだけです。

 

 

「……白龍様。俺、急いで優子と桃のところに行ってきます。優子がご飯を取りに行ったからきっと彼女の家にいるでしょうし、何より桃の体調が心配なので」

 

【おう、それもそうだな 嘘ついてるの俺だけは丸わかりだけど、もちろんちゃんと黙っておくからな

 

 

 あの、白龍様? 了承してくれるのはありがたいですけど……いや小文字とはいえ、そして動物キャラとはいえ、原作キャラがいる前でそんなこと書いたらバレなくても察されて怪しまれますよ……

 

 

【よし、なら早く召喚師覚醒フォームとかいうヤツになれ。そうすりゃ俺が覚醒して、お前を乗せて超スピードで魔族の自宅に着くから】

 

「えっ? いやでも、急がなかくても多分問題が無さそうだと思いますよ? それに、現世で初めて本来の姿になる貴重な機会を闘い以外で使うのも──」

 

【早くならないと勝手に出された件はちょっとだけだけど許さんぞー。お前が○○者であること本気でバラすぞー】

 

「おま、それちょっとってレベルじゃないですよね⁉︎ 本気で怒ってますよね⁉︎ やめて⁉︎ 俺の正体バラそうとしないで⁉︎」

 

 

 ってかやっぱり許してないじゃん⁉︎ 勝手に呼ばれた上に役割がペットのお守りなの不服に思ってるじゃん⁉︎ 冗談じゃなくても困るから‼︎ 俺を転生者扱いするのマジでやめて⁉︎

 

 ぬうっ……もし白龍様のこの頼みを断ったら、次原作キャラ達の目の前で白龍様が呼ばれた時、すぐさま俺が転生者であることをバラされちゃうな……

 

 けど、ここはあくまでも住宅地だぞ? 魔族や魔法少女も住まうとはいえ、そんな場所に一軒家並のデカさを誇る生物がいきなりドーンと出てみろ? さすがに騒動が起こり得るぞ? それもドラゴンのような創作物なら尚更騒動がデカくなるぞ? あまりにも軍事沙汰になり得る……

 

 

【どうせこの世界はご都合展開でなんとかなるものだから、細かいことを気にしたら負けだぞー】

 

「そうですけど身も蓋もないことですよそれ⁉︎ 言わないでもらえます⁉︎」

 

『時は来た』

 

「いいからはよ行けってか⁉︎ 飼い主とその友達が心配だからはよ行けってか⁉︎ はよ白龍様に乗って行けってか⁉︎ メタ子、君も大概だぞそれは⁉︎」

 

 

 白龍様の頼み事……というよりは命令をなんとか断ろうと思ったけど、メタ子が早くしろと言ってるかのようにバシバシと俺の左足を肉球でポカポカと殴ってきた。最初は柔らかいのだけど、さすがに同じところを何度も叩かれてはそこがムズムズしたり痛くなったりして、正直耐えるに耐えられません……(汗)

 

 ぬぅっ……。白龍様の脅しとメタ子の意外とある圧が、今にも俺の胃を押し潰してきそうだ……。ヤバイ、耐えられねぇ……

 

 

「……分かりました。本当にいいんですね? 現世で初めて本来の姿になる貴重な機会を、今日起こるバトルじゃない方のイベントのために使って」

 

【いいから早くしなさいな】

 

「軽いな……」

 

 

 なんなんだ、このマイペースなドラゴン様は……怒ってないよと言ったり、本当は怒ってるんだよねーと言って脅したり、大袈裟な感じになったり、面倒臭がったりとで、コロコロと変わってなんか気が狂いそうだな……

 

 って、そんなこんな言ってる間に原作イベント結構進んでそうだし、そろそろ出る準備でもするか。これ以上長引けば白龍様の機嫌を取れ損ねなさそう……下手すると殺されるよ、俺……

 

 

「はぁ……分かりました。早速召喚師覚醒フォームになっておきますのでよろしくお願いしますね」

 

【おけまる】

 

 

 どこで覚えたんですかそんな言葉。

 

 

「それじゃあ行ってくるね、メタ子」

 

『時は来た』

 

「……その『時は来た』は、どんな意味で言ってるんだ……?」

 

 

 今なんか気掛かりなことがあったんだけど、いい加減優子と桃のところに行かないといけないから一旦保留ってことにしておこう。

 

 メタ子にさよならを言って白龍様と一緒に桃の家を出た俺氏。で、後は召喚師覚醒フォームになって俺の体内の魔力を増幅し、白龍様を本来の姿に変える……のだが、その前に念のため周りに人がいないか左右を確認する。

 

 召喚師覚醒フォームの時の姿は、別に優子の危機管理フォームみたいに肌を色々曝け出してるわけではない。露出してるのは腕だけ……なんだが、人前で突然コスプレよろしくな姿を見せてみろ? 場合云々によっては危機管理フォーム同様に不審者扱いされて回覧板デビューだぞ? 優子もそれで危機管理フォームを嫌がってるように、俺も人がいる前では絶対に変身しないようにしたい。念のためだぞ? 念のため。

 

 今のところ、人はいないし来る気配もないな……よし。さっさとなるか。今白龍様出てる中でなってもその場で本来の姿になるのかどうか分からんけど、やってみるか。

 

 

「我が名は召喚師・白哉───‼︎」

 

 

 その言葉と共に俺の体は白い光に包まれ、一瞬にしてディ○ニー関連のイケメン勢揃いのゲームよろしくなインド民族っぽい衣装の色違いっぽいヤツ──召喚師覚醒フォーム──になった。

 

 うーん……やっぱりオリジナリティのあるヤツにしてもらわないと、なんか俺が他のキャラの衣装のパクリをしてるようで気が進まないような……

 

 まぁいいや、衣装に関するクレームは後にしないとな。

 

 

「白龍様、準備出来まし……た……」

 

 

 白龍様の方に視線を向けた瞬間、俺は言葉を失った。何故って? いつの間にか白龍様は全長は六メートル、顔や体躯などが本格派ファンタジーゲームのドラゴンらしいカッコいい姿へと変わっていたからだ。

 

 へ、へぇ……。既に召喚されたままでも、俺が召喚師覚醒フォームになれば本来の姿に自動的に変化するのか。けど自動的にってことは、白龍様に絶対小さいままでいてほしいって時には、俺はこの姿になってはいけないってことか。状況次第では不便な性能だな、自動的な姿の変化ってのは。

 

 

【よし、準備出来たぞ。乗れ】

 

 

 あ、けどやっぱり喋れずスケッチブック頼りか。

 

 ってかスケッチブックもペンもデカくなってね⁉︎ もしかして、白龍様が何かを持ったまま本来の姿に戻ると、その白龍様が持ってるものまでもが一緒にデカくなるってのか⁉︎ どーゆーシステム⁉︎

 

 ……いや、今はそこは知らぬがかな。とりま乗りますか。うおっ⁉︎ 肌はサラサラで鱗のある部分はゴツゴツって、二つの触り心地が色々と複雑な感じにするんですがこれは……

 

 

【全速前進DA☆】

 

「えっそれどっかのカードゲームアニメで聞いたことあ──ギャアアアアアアッ⁉︎」

 

 

 この後僅か五秒……? 十秒……? 途中から記憶飛んだから数えてないけど、光速の速さでぱんだ荘に到着致しました。アレ? 光速の速さってことは、肉眼では走行中の白龍様を見れないってこと? 一部の心配して損した……?

 

 ま、まあいいや。とりあえず降りて召喚師覚醒フォームを解除しよう。優子や桃、それと住民の方々にバレないためにも。

 

 で、『解除』と言ったら俺の服装は制服に戻り、白龍様もデフォルメの姿に戻りました。とりあえず、インターホンを押して部屋の中にいる優子に鍵を開けてもらうように言って……

 

 

「あっー⁉︎」

 

 

 ふぉぉぉ⁉︎ イテッ‼︎ ビ、ビックリして右膝をドアにぶつけた……めっちゃ痛ぇ……

 

 

 

 

 

 

 迂闊というか、まさかほんのちょっとした出来事によって、私の運命が大きく変わるとは思ってもみませんでした。

 

 それは私が桃の看病のためにとうどんを取りに家に戻ってきた時の事でした。昼間だから誰もいないなと呟いていたら、何か悲しくも情けないオーラが漂ってるのを感じ、そこでご先祖が捨てるチラシの上でいい塩梅で重しになってるところを見つけました。

 

 まぞくの先祖様なのに像となってからはすっかり玄関小物として馴染んでしまわれて……私が忘れ物として置いていってしまったせいで、ご先祖にはこんな惨めな思いを味わせてしまって大変申し訳なかったです……。やっぱり明日からは学校に連れて行くようにしなければ。

 

 と思いながらご先祖像を鞄の中に入れておいて、うどんと氷枕を探そうとしていたら、突然鞄が……というかご先祖像が一瞬だけだけど光りました。一瞬だけだったけど結構眩しかった。えっ、何事? って思いましたねホント。

 

 まさかアレだけで色々なものが変わっていくなんて、その時の私はまだ知りもしませんでした。

 

 光が収まった時には、寝てたはずの桃がいつの間にか来ていました。何故ここに? 薬買いに行って戻ってきた白哉さんに看病されてるはずでは? 戻ってくる前に家を出た? まだフラフラしてるのになんでそんな無茶を? しかも結界があったけどようやく私の家を補足できたって、それは一体どういう……

 

 ん? 結界? そんなもの私の家にありましたっけ?

 

 えっと、何? 桃が結界を突破するには私の許可が必要? 別に遊びに来るぐらいなら許可なんてそれほど難しいものでは……えっ? 私のドアに貼られているもの? デザイナーズドアでは? あっ、よく見たら破られてる感じが。

 

 桃が何やら結界についてを語り始めたんですけど、その場に立って大丈夫なんですか? ……やっぱりダメじゃないですか。やっぱりまだ熱があります。というか上がってる気がします。せめて座って話をしましょう‼︎ うどん用意するので座っていてください‼︎

 

 とりあえず冷たいうどんかあったかいうどんのどっちがいいのかを聞き、選ばれた冷やうどんを作った食べさせてあげることに。とは言っても、冷凍うどんをゆでて生姜とめんつゆをかけただけですけど……

 

 えっ……めんつゆを知らないんですか? めんつゆはしょうゆと出汁と甘みなんかを入れた……って、出汁も知らない⁉︎ そこもつまづきますか⁉︎ 何その冷凍食品を普通に加熱することすらも難しいと言っているかのような反応は⁉︎

 

 そして料理『は』できるんだねって何ですか⁉︎ また馬鹿にしたな⁉︎ けんこう魔族になってからは積極的に料理が出来るようになろうと頑張っているんです‼︎ それを馬鹿に……えっ? 何故健康になってから上手くなろうとしているのか、ですか? ……それは、その、聞かないでください。恥ずかしいので……

 

 で、桃がうどんを食べ終わったことで早速本題に戻ることになった。ところでさっき何の話をしてましたっけ? えっと、確か光の一族との関わりを避けるための保険結界がどうのこうのって言ってましたけど……

 

 

「さっき……封印解いたよね?」

 

「へ?」

 

「ん? ……あれ? 寝てる時、生き血取ったよね?」

 

 

 えっ? 私桃の生き血取ってました? いや取った覚えなんてないと思いますよ? 白哉さんと一緒に桃の看病をしてましたから、生き血どころではありませんでしたし……

 

 あっ。血といえばうどんを取りに行く前、桃の左手の傷口から血が出てたのに気づいて、それをハンカチで止血して拭き取ってましたね。そこは覚えて……

 

 ん? 止血して拭き取って……? ん……?

 

 ………………あっ。

 

 

 

「あっー⁉︎」

 

 

 

「ふぉぉぉ⁉ ……イテッ⁉︎」

 

「今気づいたの⁉︎ ……って、ん? 今玄関ら辺から変な声しなかった?」

 

「へっ? ……あっ、白哉さんの声だ」

 

 

 いつの間にか大義みたいなことを成し遂げてたことに驚いた私の叫びに反応したのか、何故か白哉さんの声が玄関ら辺で聞こえてきました。まさか白哉さん、戻ってきた時に桃があの家からいなくなった事を心配して……?

 

 桃に『ここで待ってて』と伝え、即座に玄関のドアを開けに行った私。そしたらドアの前にて白哉さんが……何故か右膝を押さえ悶えながらゴロゴロと右往左往していました。ついでにそんな白哉さんを白龍様がフヨフヨ飛びながら見下ろしてました。えっ、何事?

 

 

「膝が……痛ぇ……‼︎」

 

「びゃ、白哉さん? 一体どうかしました……? 後、何故ここに……?」

 

「へっ? あっ、べ、別に大したことないぜ? つーかそんなことよりも、ここに桃来てなかったか? 薬買ってきたから桃の家に戻ったら、いつの間にかいなくなってたから……」

 

「は、はぁ……。桃なら来てましたよ。その……なんか私がいつの間にか、桃の生き血を取って何かしらの封印を解いてしまったみたいなので、それを伝えに来たみたいです……」

 

「は? お前が? 魔法少女の血を?」

 

 

 いやそんなポカーンとした顔しなくても……。私だってね、自分でも気づかなかったんですよ? 採取するのが困難とも言える血を、ほんのちょっととはいえあっさりと手に入れていたんだなんて、未だに信じられないでいるんですから。

 

 

「……とりあえず、中に入れてくれね? そこで桃の話も聞きたいからさ」

 

「えっ……あ、はい。そうですね。私も桃に色々と聞きたいと思ってたところですから」

 

 

 何はともあれ白哉さんも部屋に入れ、改めて桃と話し合うことに。その前になんか白哉さんが桃に『勝手にどっか行くな。ただでさえ病気になってるってのに』と叱り、桃も調子が悪いからかバツが悪いように『ごめん』と何回か言ってましたけど。この光景、なんだか珍しいかも。

 

 そこで桃が、何故か知らないはずの、私達の一族が長い歴史の中で色んな力を封印されたことを口にしてました。なんでウチの事を知ってるのか問いかけたら、杏里ちゃんが教えてくれたとのこと……いや杏里ちゃん⁉︎ 何勝手に親友のプライバシーをバラした⁉︎ さては魔法少女の刺客だったのか⁉︎

 

 

「あちゃあ、やっぱりアイツが勝手にカミングアウトしてたのかー。俺も自分が召喚師である事を、とあるクラスメイトにバラされたんだよなー最近」

 

「白哉さんも杏里ちゃんの情報拡散の被害に⁉︎ やはりあいつ刺客だったのか⁉︎」

 

「あぁ……二人揃ってご愁傷様」

 

 

 貴様は同情するのやめろ⁉︎ 逆に傷つく‼︎

 

 

「とにかく、どういう風に力が戻ったか調べた方がいいかもね」

 

【ワイトもそう思います】

 

『余もそう思うぞ』

 

「「「⁉︎」」」

 

 

 えっ⁉︎ 今、どっかで聞き覚えのある声が近くで聞こえてきたような……

 

 

「今何か聞こえた?」

 

「聞こえました」

 

「俺の耳にもちゃんと響いたけど」

 

【ワイトも聞こえました】

 

 

 桃や白哉さんもちゃんと聞き取れてる……一体どこから……? というか白龍様、今ネタっぽいのを使い回してませんでした?

 

 

 

『………………ククク……でかしたぞシャドウミストレス‼︎ 魔法少女の凝縮された甘美な魔力とすりきれたタオルの味、しかと受け取った‼︎』

 

「ご先祖⁉︎」

 

 

 

 えっ⁉︎ ご先祖、夢の中じゃないのにごせん像のままで喋れるように⁉︎ どうして急にそんなことが出来るように⁉︎

 

 

『手始めに……世界が逆さまだと酔いそうになるので、正しい向きで置いてほしいな……』

 

「あっすみません」

 

 

 しまった、ごせん像を逆さにして鞄に入れてたんだった。早く取り出して負担を減らしてあげないと。

 

 ご先祖の話によれば、魔法少女の生き血にある魔力によって現世に口を出せるようになったらしい。さっきからすごい頑張ってたけど、手と足は出せず口しか出せなかったそう。

 

 ん? えっ? 桃の大量の魔力を吸ってそれだけ? えっと……得られた結果が意外すぎる……

 

 いや桃、ショックとドン引きのダブル重ねしてるような顔しないでくれます? ご先祖に失礼だと思いますよ?

 

 

「おかげで私の魔力はガッポリ減った………………シャミ子、私の血液……魔力を借りた分だけ町を守るのを手伝って。白哉くんも悪いけど、シャミ子のサポートをお願いしたい」

 

 

 えっ⁉︎ 桃って町を守ってたんですか⁉︎ 私達の知らないところでそんな責任重大なことを……。ワールドワイド程ではないけど、結構すごいことしてたんですね……

 

 というか、それをまぞくが手伝うっておかしくないですか⁉︎ あ、いや、確かにまぞくがうどんを振る舞うよりはおかしくないですけど……

 

 でもっ……魔力を借りたっていっても、アレは本来桃に勝負を挑んで勝ち取ることで得られるもので……

 

 えっ? 借りのある病人の寝込みを襲うのは卑怯? ずるまぞく? いやそれは……わざとじゃ無くて手当のつもりで……まあ確かに減るものは減ってしまいましたが……

 

 んぐっ……さらに追撃するかのように制服やパソコンを借りてたことも追求してくるとは……‼︎ ず、ずるい‼︎ やはり桃色魔法少女ずるい‼︎

 

 

「………………ん? いやちょっと待て。今頃気づいたけど桃、お前今さらっと俺にも町を守る優子の手伝いをしろと言ってきたよな? なんで? 俺は別に優子に魔力奪い取れとかの指示は出してなかったよな? な?」

 

 

 えっ? 白哉さんも頼まれたんでしたっけ? ……あっ、そういや言われてた。桃が私に手伝ってと言ってきた時に続けて白哉さんにもそう言ってきたんだっけ? ぬぅ、白哉さんが他の女の子に頼まれごとされるのはやっぱり妬みますけど……何故?

 

 

「白哉くん、シャミ子の魔力修行の時に言ってたよね? まぞくの友達も、まぞくと過激派な魔法少女の闘いに巻き込まれる可能性があるって。だから自分も強くなって、シャミ子を守れる程に強くなるって」

 

「……あっ、言ってたわ」

 

 

 あぁ、そういえばあの時白哉さんはそんなことを言ってましたっけ。その時は私も守られるばかりではない無双魔族になるって宣言してましたね。

 

 

「私がシャミ子に町を守る手伝いをするように頼んだことで、シャミ子はまた一段と鍛え強くならないといけなくなった。そして結界も消えて、魔法少女と対峙する可能性も増えた……これがどういう意味を指すかわかる?」

 

「優子の負担が増えることは、彼女を守ることになってる俺にも負担がまた一段とかかる……ってことか?」

 

「そ。白哉くんもシャミ子が魔法少女に狩られていなくなるなんて嫌でしょ? だからこそ、いざという時にシャミ子守れるようになるために、白哉くんも強くなってシャミ子と一緒に闘えるようにならないと」

 

「……まぁ、一理あるな。優子にはいつまでもこの世界に……つーか、この町にいてほしいし」

 

 

 わ、私の事を想って白哉さんにも手伝ってもらおうということですか……。そして白哉さん本人も私がいなくなるのを嫌がってる……なんか、こそばゆいけど嬉しいです。

 

 まぞくである私が町を守るというのにはまだ戸惑いがありますが、それによって白哉さんも私と一緒に強くなって、肩を並べてくれて、そしていずれは……

 

 ハッ⁉︎ な、何飛躍した事を考えているのですか私⁉︎ そしていずれはって何⁉︎ 白哉さんと一緒に町を守るその先に何があるというの⁉︎

 

 

「それに……シャミ子の純潔の一部を奪ってしまった責任はまだまだ取っていかないといけないよ?」

 

「「はがっ⁉︎」」

 

 

 ま、ま、ま、まだ……白哉さんが、私のむ、胸を揉んでしまった、時のことを、お、覚えていたのですか……⁉︎ そ、その話題で逃げ道を作らせなくするなんて……これだから桃色魔法少女は……‼︎

 

 

「というわけで、三人一緒に町を守っていきながら、イチャイチャしてるところを私に見せてね?」

 

「「貴様/テメーそれが本音か⁉︎」」

 

 

 やっぱりまだ人の恋路で遊ぼうとしていた‼︎ イ、イチャイチャって……ま、まだ付き合っていないんですから、余計なこと言わないでくださいよ‼︎ あーもうすごく恥ずかしい‼︎ 白哉さんも真っ赤な顔にしてるのを見たらさらに恥ずかしく思えちゃう‼︎

 

 

「……それに、町を守るっていうのは、シャミ子と白哉くんにとっても悪い話じゃないよ」

 

 

 突然、桃がこの町を守ることに対する話をしてきた。

 

 なんでも元々この町は微妙なバランスで平和を保っており、血液一滴でもかなりの量の魔力が変換されるから、私の気配が揺らいだことは町の外にも伝わってるとのこと。

 

 そしてゆらぎを察知してこの町に変な人が来て、最悪私や白哉さん、私の家族……この町のまぞくが狩られる可能性があるため自衛してほしいとのこと。

 

 ってえっ⁉︎ 私や白哉さんに飽き足らず、家族にまで被害が及ぶ⁉︎ そんなのは絶対に嫌です‼︎ 私鍛えます‼︎ なんでもします‼︎ 鉄のバットも振ります‼︎ ゴロゴロしたものも引っ張ります‼︎ ……えっ? 修行のイメージが古い? じゃあどんな修行をすれば良いと……

 

 桃の話が続くには、最近はまぞくも魔法少女も穏やかな人が多いので、滅多に騒動的なことは起こらないらしいですが……

 

 けど、何故か桃はこの町だけは守りたいとも呟きました。この町に、何か思い当たることとかあるのかな……?

 

 

『ところで桃よ。お主は体調不良なのか? そんな時に魔力にデカいダメージを受けて大丈夫なのか?』

 

【そんな中でも立っていられるってことは、問題ないんだな? スゲー】

 

「………………はっきり言って大丈夫じゃない」

 

「いやじゃあ寝とけよ⁉︎ 体からスゲェ蒸気が湧き出てるんだけど⁉︎」

 

 

 も、桃ー‼︎ 顔がドドメ色です‼︎ 健康ランドの熱めのお湯のコーナーより熱くなってる‼︎ それに斜め四十五度ピッタリに体が傾いてる‼︎ ちょっ、これはガチの緊急事態です‼︎ 早く桃の家で寝かせてあげないと‼︎

 

 この後私達は桃を彼女の家まで運び、布団とかベッドとかがなかったのでソファに寝かしつけてから、メタ子にご飯をあげたり家の掃除をしてあげたりしました。しばらく掃除出来なさそうですから、これくらいはしてあげないと。

 

 そういえば掃除してる時、桃が何か呟いていたような気がしたけど、なんて言っていたのかな……? 掃除機かけてたからその音で聞こえなかったような気が……

 

 そして桃は一週間くらい学校を休むことになりました。

 

 

 

 

 

 

 ほとんどが原作通り……と言ってもいいのだろうか? 桃色生き血というか大量の魔力のおかげでリリスさんがごせん像を通して喋れるようになったし、優子も多摩町を守る役目を担うようになったし……

 

 けど、転生者である俺も介入したからなのか、追加された要素(?)もあった。それは俺までもが多摩町を守るという役目を担わされたことだ。正確に言えば、その責務を担うことになった優子を全力でサポートしろという意味だけれども。

 

 何故俺も優子と一緒に多摩町を守ることになったのか? それは俺が優子の魔力修行の時に口にした言葉のせいだ。もしも原作とは違った展開で優子が魔法少女と闘う羽目になったら、彼女を守らないといけない。そういった事態を予想しての発言なのだが……

 

 半分はアレ、軽はずみで言っただけなんです。優子のやる気をなるべく上げるために軽はずみで言おうと思ったんです。俺も強くならないといけないとも言ったけど、そういった展開とかにはならないんじゃね? と思いながら言ったものなので、本気で俺がそう思っていたのかと捉えてほしくなかったんです。

 

 だがそれは結果論として、桃に有言実行するようにと言われました。しかも……しかもだぞ⁉︎ 初対面の時にトラブルで出来てしまった優子の乳揉みラッキースケベイベントの事をダシに使って、俺の拒否権をダストシュートしやがったんだぞ⁉︎ やっとのことで気にしなくなったあの罪悪感を思い出させやがって……‼︎

 

 そしてこの話の最後には本音を吐きやがったんだぞ⁉︎ 俺と優子を本人達の許可無くイチャイチャさせたいとかほざきやがったんだぞ⁉︎ ヤンデレ相手に人前でイチャイチャとかどんな公開処刑だよ⁉︎ この揶揄い上手な頭も桃色な魔法少女が……後で覚えてろよ……‼︎

 

 と思ったけど、この後の原作通りとなる、桃の町を一緒に守ってほしいという理由や彼女自身の覚悟を感じさせる一言で、彼女へのくだらない憎しみは萎えた。

 

 原作を知っている俺からしたら、桃のその覚悟は誇らしくも、切実で何処か悲しげな思いを感じさせられてしまうようなものだったから……。桃の頼み事、少しぐらいは本気で考えないといけないかもな……

 

 って、そんな事思ってたらもう桃のライフがゼロになってきた⁉︎ おでこからめっちゃ蒸気出てるんだけど⁉︎ おま、そろそろ彼女の家に行って寝かしつけとかないとアカンやん⁉︎ 優子、ちょっと桃の肩を片方担いで⁉︎

 

 

 

 

 

 

 桃を彼女の家まで優子と二人で連れて行き、部屋の掃除をしてあげた帰り道。すっかり授業時間も終わって夕方になってしまったので、結局そのまま帰宅することになって現在に至るってわけです。

 

 

「これから私の周辺、色々変わっていくのかな……。白哉さん、ご先祖、どうすればいいんでしょう?」

 

 

 ここで優子が不安の声も漏らしてきたか。ま、無理もないよな。突然ヤンデレってしまった事に気づいた時と言い、唐突な先祖返りと言い、いつも通りの日常とはかけ離れた事が起きると誰だって先の未来に不安を抱くよな。

 

 俺だってそうだ。前世でいつの間にか轢かれて死んだ事や、突然転生した事、あとは優子がヤンデレってしまったのを知った時とか、遅れて転生特典が送られてきた時とかも、俺はこの先どんな日々を送ることになるんだっていう不安を抱いていたからな。

 

 

『……シャミ子のやり方で焦らず詰めていけばいい。今、余が喋れるのは結構な快挙だ……礼を言う』

 

「………………リリスさんの言う通りだ。優子、お前はお前の思った通りに、自分がこうしておくべきだってことをやっていけ。そうしておけばきっと、お前が思う明るい未来だって生まれてくるさ」

 

『……何故良い事をシャミ子に伝えながら余を睨むのだ?』

 

 

 睨んでる件はすみませんリリスさん。貴方のセリフ、本当は俺が先に言おうとしていたんです。俺が先に言っておいた方が、優子の不安をリリスさんが言う時よりも減るんじゃないかなーって思っちゃって……謂わばただの逆恨みです、すみません。

 

 まぁ結果論として、ふと思いついたそこそこ良い言葉を掛けれましたけども。

 

 

「白哉さん……ご先祖……はい。私がやれること、考えてみます。とりあえず……封印のことをおかーさんと良に報告しないと‼︎」

 

 

 ……フッ。優子、良い笑顔になってきたな。

 

 

「うん、それでいいんだよ優子は」

 

『気長に成長していくのだ、シャミ子よ』

 

「……ところで、私のあだ名ってシャミ子で決定なんですか?」

 

『何か合ってる気がするぞ? そうだ、この際白哉もシャミ子呼びを始めたらどうだ?』

 

 

 なんかいきなりリリスさんにシャミ子呼びを勧められたんですが。まぁあだ名呼びってのは仲の良さを表しているのだろうけど……

 

 

「あぁ……俺、やっぱりいつも通り優子と呼ばせていただきます」

 

「………………えっ」

 

『なんだ……結構仲が良いし、せっかくシャミ子のまぞく活動が本格的になりそうな機会だというのに、勿体ないではないか?』

 

 

 もったいない……のか? 後、なんで優子ガッカリした表情してんの? もしかして期待してたの?

 

 

「小学生の頃からのいつもの呼び名が定着してるからってのもあるんですけど、仲が良いからこそなんですよ。まぞく活動が本格的に進み始めるのに続いて、いつかは家族以外が誰も優子の事を名前で呼んでくれる人がいなくなるかもしれない。友人もきっと一人残らず……。だからこそ、俺は優子の事をこれからも変わらず優子と呼んであげて、優子にとっての足りない何かを補える特別な存在になりたいんです。……なんか、自分で言っておいて恥ずかしいんですけどね」

 

 

 ………………うん、恥ずい。今恥ずかしい言葉を出してしまった。優子にとっての特別な存在って何よ? まるで優子を占領してるようなものでしょ。今の俺の言葉も、優子に負けじと愛が重たいやんけ……。穴があったら入ってもいいですか?

 

 

『……なんか後半、プロポーズっぽくなっておらんか?』

 

「そんな気ないんですけど、自分でもそう思ってます……」

 

 

 つーかリリスさん、せめて気づいてないフリしていただけると幸いなんですが。優子の方は……ダメだ、やっぱり顔赤くしとる。またヤンデレ度が高くなりそうだよマジで……

 

 

「いや、あの……本気、ではないからな? 変な期待とかしないでお願いします……」

 

「えっ。あ、は、はい。わかってます……わかってますよ? 白哉さんの考えてることは、その、な、なんとなくはわかりますから……」

 

 

 本当だよな? 本当に俺がプロポーズで言ってるわけじゃないってのわかってるよな? 本当にわかっててくれ。でないと俺、色んな方向性でヤバいことになるから……

 

 

 

「………………唐突にその気にさせそうなことを言って、やっぱり白哉さんもずるいです。これで勝ったと思うなよ……いざという時は責任取ってください……

 

『……平地白哉よ、強く生きろ』

 

 




はい、今回で原作一巻までのお話は終了となります‼︎ まさかシャミ子だけじゃなくて白哉くんまで町を守る手伝いをする羽目になるとは……シャミ子のヤンデレ回避ルートも練るに練らないといけないのに、白哉くんの胃は果たして大丈夫なのか⁉︎

次回は原作二巻編に突入します‼︎ 果たして白哉くんは、これから先の展開でも無事にシャミ子のヤンデレを加速しないようにすることは出来るのか⁉︎ ってかヤンデレってどうすれば良いのさ⁉︎(知らんわ)

あ、何か本編で質問したいことあれば気軽にこちらまで。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=289431&uid=379192


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ここまでの登場人物紹介(8/26:イメージ声優追記)

とりまどんなキャラが出てどんな事をしてたのかを知らせたかったので初投稿です。

8/26:オリキャラに声を付けるとしたら誰にするかを追記しました。
ICV=イメージキャラクターボイス


♢平地 白哉(びゃくや) 15歳 ♂ 9月11日生まれ ICV:浦和希

 

 本作の主人公。

 普通のサラリーマンであった者が、雨の日の仕事帰りにて水溜まりでタイヤがスリップしたトラックに轢かれ、『まちカドまぞく』の世界に住む交通事故に遭った小学生に憑依?転生した。原作知識は漫画五巻までとアニメ二期で得た知識のみとなる。

 憑依前の白哉の性格は明るくもなければ暗くもない普通の男の子だが、憑依した後は年相応の元気さと大人びた雰囲気をかけ合わせる健全な男子になる。自分の意思を貫く姿勢を持ちながらも、相手の様子を伺い配慮する一面も見せる。

 小学生の頃の入院先の病院でシャミ子と出会い、会話する内に友達となり、彼女の家族とも仲良くなる。その日からはほぼ毎日の様に、シャミ子のところに来ては何気ない会話で親睦を深めていっていた。しかしそれが幸福をもたらしたのか災いしたのか、中学三年生の時にシャミ子からの愛の重たさを察知してしまう。

 シャミ子の自分に対する愛が偶に重くなることを知りながらも、彼女の人格を壊さないために、彼女からの愛を否定せずなるべく受け止めることを誓う。しかし本人でさえも気づいていない自身の心境があるためか、少々空回りな思想を持つこともしばしばある。

 

 

・召喚術

 転生してから十年後、とある事情により転生の神から精神世界に住まうことになった白龍から受け取った能力。これにより、様々な能力を持つ動物──召喚獣──を召喚できるようになる。その数は白龍を含め二十種類に及ぶとのこと。召喚術の方法はただ地面に両手を翳し『○○、召喚‼︎』と叫ぶだけの簡易的なものとなる。

 

 

・召喚師覚醒フォーム

 より強力な召喚獣を呼び出せる程の魔力を得ることが出来る姿。本人曰く、とあるゲームの衣装を色違いでパクっているのではないかとのこと。この姿になっても後天的に疲労感が出るなどと言ったデメリットは起きないらしい。

 

 

 

♢白龍 ♂ ICV:神奈延年

 

 主人公の相棒的存在。

 白哉が転生してから十年後、とある事情により転生の神から精神世界に送り込まれた、白銀の鱗が輝く龍。どこかだらけきった声と口調で話すマイペースな性格。

 白哉が召喚師覚醒フォームになってない場合は五十センチサイズのデフォルメ姿として現実世界に召喚される。しかし白哉の体に彼と相性が良い魔力が注がれていなければ人間の言葉を話せないため、スケッチブックに話したいことを書いて相手に見せることでしか会話に参加できない。

 白哉の意志で自分に体を貸したり無理矢理返してもらったりする事ができるらしいが、未だに貸されてはいないため実際の詳しいところは不明。

 

 

 

♢メェール君 ♂ ICV:大久保瑠美

 

 白哉の家政婦的存在。

 二足歩行ができ、人間のように繊細な動きも可能で人間の言葉を話せる山羊。いつも白哉の事を気にかけ、時々アドバイスらしき言葉を送っている。

 回復魔法を使えるらしいが、その量は少ないとのこと。しかしその代わり家事のスキルは非常に高く、彼が作る料理は三ツ星ホテルレベルとのこと。

 

 

 

♢その他の召喚獣

 

 

・クラック ♀ ICV:平川大輔

 研究好きのマイペース系パンダ。他の召喚獣とは違い人間の言葉は話せない。思いついた実験があれば、どこであろうともお構いなしにその実験を行いたがる性格の持ち主。

 

 

・コウラン ♂ ICV:遠藤綾

 甲羅で仲間を守るのんびり系の亀。リリスの放つ魔力による被害を防ぐために召喚されたが、実際に使用されることはなかったため実際にどのようにして周囲を守るのかは不明。

 

 

・牙狼 ♂ ICV:宮野真守

 白哉が召喚師覚醒フォームになった時のみ召喚される、本格的格ゲーみたいな攻撃をするネガティブな狼。技は全て我々の世界の格闘ゲームに出ているものばかり。消極的な性格だが、大好きな格闘ゲームのためならばどんな頼まれごとでも必ず引き受ける性格の持ち主でもある。

 

 

・ボーフ ♂ ICV:宮野真守

 突進攻撃が得意な熱血系の牛。白哉の部屋を掃除するために自主的に出現した。

 

 

・ピッピ ♀ ICV:冨永みーな

 スパイの訓練を積み重ねたクール系雛鳥。白哉の部屋を掃除するために自主的に出現した。ハムイン・ボルタによく喧嘩を売られて呆れている様子を見せる。

 

 

・ハムイン・ボルタ ♂ ICV:佐藤はな

 すばしっこく走る悪戯っ子ハムスター。白哉の部屋を掃除するために自主的に出現した。何故かピッピによく売ってくるが、話術だけであっさりと敗北してしまう。

 

 

・ヒヒン ♂ ICV:日野聡

 蹴りがめっちゃ強い兄貴格の馬。白哉の部屋を掃除するために自主的に出現した。

 

 

・シバタ ♂ ICV:河西健吾

 吠えない代わりに鋭い目付きで威嚇する温厚系芝犬。白哉の部屋を掃除するために自主的に出現した。

 

 

 

♢吉田 優子/シャミ子 15歳 ♀ 9月28日生まれ

 

 原作の主人公で、本作のヒロイン。

 魔族としての活動名は『シャドウミストレス優子』。白哉からは魔族になってからも『優子』と呼ばれている。夢の中で魔族の先祖リリスと出会い、ツノと尻尾の生えた魔族に覚醒した。その際、清子から闇の一族の封印を解くため光の一族の巫女である魔法少女を倒す使命を与えられるが、その宿敵である桃に対しても何かと気遣う一面を見せる。

 性格は原作同様ではあるが、白哉に対して強い好意を抱いており、彼が他の女の子と関わっているのを見て嫉妬したり勘違いや被害妄想をしてしまうこともしばしばあり、その性格に本人も苦戦している。

 原作同様に体は弱いが、中学生の頃にて白哉に『自分を鍛えてほしい』と懇願したことにより、先祖返り前でも五百メートルまでなら普通に走っても問題ない体となっている。ちなみに料理は白哉に褒められたいがために、原作前から清子に料理を教えてもらっている。

 小学生の頃に入院先の病院で白哉と仲良くなり、そこから好意へと発展していった。そして中学三年生の時に自分の白哉に対する愛が重いことを伝え、いざという時は自分を止めてほしいと懇願する。それ以降も白哉との関係性は保っており、心に余裕があれば白哉にはなるべくアプローチをかけるようにしている。

 

 

 

♢シャミ子の家族・血縁者

 

・リリス 年齢不詳 ♀ 生年月日不詳

 シャミ子の先祖に当たる魔族の女性。古代から小さな像(通称ごせん像)に封印されていたが、現代になり子孫のシャミ子が魔族として先祖帰り的に覚醒したのをきっかけに活動を活性化させた。

 性格や能力等は原作通り。だがシャミ子が白哉に鍛えてもらったこともあってか、シャミ子と肉体と意識を交換した事による互いの負担は少し軽くなっている。

 白哉に対して何かしらの疑問点を抱いてはいるが、シャミ子と十年前から仲良く接している彼に対する感謝の意は込められているためか、深く追及することを留めている。

 

・吉田 清子 年齢不詳 ♀ 生年月日不詳

 シャミ子の母。光の一族の呪いによるがっかり微調整に耐えながら、貧乏生活の吉田家を女手一つで切り盛りしている。

 他の原作キャラに比べて、ここまでの話の中で出番は一番少ない。だが次章ではきちんとした出番が出るので安心してほしい。

 

・吉田 良子 9歳 ♀ 1月7日生まれ

 シャミ子の妹。年齢の割にかなり大人びた思考と冷静な頭脳、理知的な性格の持ち主で、大好きな姉の力になりたいと日々様々なことを学び活かそうとしている。

 白哉とは赤子の頃からの知り合いで、白哉曰く『可愛すぎてめっちゃ頭撫でたり頬っぺたぷにぷにし過ぎたせいで赤ちゃんらしからぬ唖然ときた顔をさせてしまったのはトラウマだった』とのこと。それでも今では姉と同じく仲良く接している。

 

 

 

♢千代田 桃 15歳 ♀ 3月25日生まれ

 

 原作のもう一人の主人公的存在。

 魔法少女としての活動名は『魔法少女フレッシュピーチ』。魔法少女としての活動歴は十二年。六年位前に世界を救ったらしい。が、本人曰く『同僚がいたから魔法少女の中では弱い方』との事。 十五歳となった現在では魔法少女としてのやる気を無くしており、変身は極力控えていた。

 性格や運動神経の良さは原作と変わりない。しかし白哉が優子に対して起こしてしまったラッキースケベを目撃して以来、隙を見て白哉やシャミ子に二人の関係性を聞いて揶揄ったり、シャミ子に白哉に対する本心をカミングアウトするように促したりするという、謂わば恋愛お節介女子と化した。

 

 

 

♢佐田 杏里 16歳 ♀ 5月1日生まれ

 白哉やシャミ子と仲の良い親友。

 性格等は原作通り。ノリは適当だけど面倒見は良いタイプ。原作と違うところと言えば、シャミ子と知り合い友達になった時期が中学生の頃からという設定のみである。

 シャミ子とは彼女が先祖返りする前からよく気遣っており、シャミ子が白哉に対して愛が重くなってしまってからも何かと心配してくれている。その人の良さもあってか、唯一シャミ子に何一つの嫉妬を抱かれていないある意味優遇な存在にある。

 

 

 

♢伊賀山 全臓 16歳 ♂ 4月24日生まれ ICV:下野紘

 

 本作のオリジナルキャラの一人。

 忍法をこよなく愛している男子。アニメや漫画に出た忍者の使う忍法に飽き足らず、歴史の資料から変化の術や火遁の術などについて調べたこともあるのだとか。中学の自由研究でも、忍法に関することを纏めたら皆から注目を浴びていた。

 忍法・害虫駆除向け捕獲畳などといった、現代も生きる忍者が使いそうな忍法を、様々なアイデアを通して習得している。しかし必要のない時に忍法はあまり使わないつもりでいるため、この事実を知っているものは家族と僅かなクラスメイトのみとなっている。

 苦手なものはゴキブリ。『足元』と頭文字を聞いただけで発狂し、その場で忍法を使ってしまう程に困惑してしまう。理由は不明。

 

 

 

♢小倉 しおん 15歳 ♀ 12月14日生まれ

 

 白哉とシャミ子の同級生。

 邪神像のスイッチを押されて気絶しているシャミ子に『小さく光った何か』を当てようとしたり、邪神像にドライバーを突きつけたり、罠を仕掛けて捕らえた召喚獣からデータを採取しようとしたりと、マッドサイエンティスト並の行動を地道に執り行っていた。

 白哉から『召喚獣の各々の中から協力してくれる奴らのデータだけなら取らせてやる』と約束しているため、彼女もシャミ子と同様に白哉と大きく関わる可能性は充分にある。

 

 

 

陽夏木(ひなつき) ミカン 15歳 ♀ 11月3日生まれ

 

 桃の知り合いの魔法少女の中では穏健派。

 原作初登場回よりも先行で登場し、ヒーローショーのバイト終わりの白哉を落下してくる大木から救った。初対面の彼を何故か身長から新社会人だと勘違いしてしまう。今後白哉達と深く関わっていくため、さらに目立った行動が取れることが期待される。

 

 

 

仙寿(せんじゅ) 拓海(たくみ) 15歳 ♂ 1月23日生まれ ICV:矢野奨吾

 

 白哉とシャミ子のクラスメイト。

 爽やかなルックスに反して、誰に対しても過保護になり心配事を淡々と並べて話す癖がある。本気で医療費を払おうとしたり本人の許可なくご飯を奢ろうとしたりと、誰彼構わず困っている人を助けようとする。

 週にニ・三回は相手に喧嘩を売るような発言をしてしまうことがあるが、上記の性格の印象が強すぎるためか、自分の言動で揉め事が起きるということはないらしい。

 実は仙寿神社の陰陽師を務めている。幽霊の除霊や住処の提供といった、魔法少女とは違った善意を積極的に執り行っている。時代の変わっていく多摩町などを見ていたいなどと言って、成仏したくない幽霊がいる場合は、騒動を避けるため悪質な心のみを成仏させることも可能。

 白哉が召喚術を使用できる事を知って以来、彼の身に何が起きたのかなどの疑問を抱き、それなりの警戒もするようになる。

 




各キャラに対する不足点とかがあれば、遠慮なく教えていただけると幸いです。

後、しばらくは毎週土曜日のみ投稿を心掛けてみようと思います。下書きのストックが減って色々と追いつかない可能性が……


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原作二巻編 町を守る仕事が追加されました‼︎ ……ヤンデレ回避するだけでも忙しいのに……
桃による俺と優子の強化修行……おい桃、余計な本音までダダ漏れだぞ。筋肉について語る程度にしろ


原作二巻の物語に突入したので初投稿です。


 

 ──よぉ。はじめまして、と言ったところか。どうだ? アンタはこの世界には結構慣れているか?

 

 ──ん? 一体どこから話しかけているのか、だって? どこって、アンタの夢の中だぞ? それも白龍様とかいう偉い人がいる場所とは別の。

 

 ──お、また質問か。何なに? お前は一体誰なんだ、だって? あぁ……スマン、そこはまだプライバシーの問題とかあって言えないんだ。けどずっと言わないつもりでいるわけではないから、まぁ気長に待っておいてくれよ。

 

 ──っておいおい、また質問か? さすがに三回目は予想出来なかった……ん? 急に話しかけて来て何が目的だ、だって? おぉ、三回目の質問がそっちか。ま、それが目的でアンタに話しかけてきたと言っても過言ではないんだよな。いいぜ、もちろん教えてやるよ。

 

 ──何が目的で話しかけてきたか? ……それはまぁ、そのアレだ。目的っつーか理由は三つある。まぁどれも大した理由じゃないんだけどな。とにかく聞いてくれると助かる。

 

 ──まず一つ目。俺とアンタとこういった状況でも話し合えるかどうかを、マイクテストみたいな感覚で試したかったから。またいつかこうやって話し合いたいから、アンタが寝てる時にちゃんと通話……というよりは念話、テレパシーかな? それが出来るかどうかお試しでやってみたんだ。初めてだけど成功してよかったぜ。

 

 ──今はこうやってテレパシーで会話出来るけど、聞こうにしてもザザザッーていう雑音とかが流れてきたら困るからな、今日はそういった事が起きないかどうかの確認ってわけだ。けどそういったのはないみたいだから、これからはこちらの機会を伺ってまたいつか声掛けてくるよ。アンタが寝てる間に。

 

 ──は? また寝てる時にアポ無しで話しかけてきたら迷惑? 仕方ないだろ、アンタが起きてる間はこちらからテレパシーを送ることなんて出来ないんだからさ。こっちだって毎日話しかけられるわけじゃないんだから、間隔が空くだけでもよかったと思ってくれよ。頼むから。

 

 ──とにかく二つ目いくぞ二つ目。二つ目は……まぁ、これも一つ目に似てるかな。アンタがこの世界に転生して、自身の身体とかに異常がないのかどうかを聞きたかったんだ。どうやら今アンタがいる世界は、本来『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』のヤツらしいから、もしその世界での流れがアンタの知識に入ってるのと違っていたら、それを耳にしようと思ってな……

 

 ──それらを耳にしてお前はどうするのか、だって? アンタの知識通りに世界を変えるのは非常に無理だけど、どうすれば良いのかの話し合いなら出来るぞ? ……役に立たないかもしれないとか言うなよ。俺だってそういった状況の時にどうすれば良いのか皆目検討もつかないんだからさ。そんなことが出来るのは神様系だけだっての。

 

 ──つーかよく考えたら、俺はアンタのいう『物語』がどんなものなのか知らないんだった。聞いたとしても的確なアドバイスとか送れそうにないや。やらかしたぜ……

 

 ──まぁいいや。そろそろテレパシーの終わる時間だから、二つ目はまた今度聞くとして、さっさと三つ目を言うよ。三つ目はアンタにどうしても伝えたいメッセージがあるから、だ。これはアンタにとって重要なメッセージだからちゃんと聞けよ?

 

 ──吉田優子……シャミ子の事を──────

 

 

 

『あぁっ⁉︎ テレパシーが切れた⁉︎ ここ結構大事なところだったのに‼︎ もうちょっとその前の言葉を減らせばよかったか⁉︎』

 

 

 

 

 

 

 ………………んあっ? なんだ、夢か……。う〜ん、何だったんだ今の夢は? なんか小学生ぐらいの男の子っぽい声が一方的に聞こえてた気がするけど、何だろう……何て言ってたのかは全然覚えてない……

 

 あっ、どうも皆さんおはようございます。平地白哉です。優子と一緒に桃の看病をしてから一週間が経ちました。あいつ元気になったのかなー。

 

 にしても先週はとんでもないことになってしまったなー。優子が止血のためにハンカチに染み込ませた桃の生き血で魔族の呪いの一部が解除。リリスさんを喋らせるようになったし、桃と一緒に多摩町を守ることになったしで、徐々に原作が本格的に進んでいったというか……

 

 あっ。呪いと言えば、翌日には優子ら吉田家の『月四万円生活』の呪いが解けました。ここは原作通り……というよりは解除される日数的にはアニメ沿いかな? これで優子はスタミナつくものを食べやすくなったと……よかったね。

 

 その記念として行われる、鉄板囲んでお好み焼き食べる回には……参加しませんでした。ああいう場面は家族水入らずで楽しんでもらいたいし、何より吉田家の者じゃない奴は幼馴染だろうと部外者扱い……だと思う。

 

 ってなわけで、その日はメェール君達召喚獣の皆さんと一緒にオードブル注文しました。ちょっと豪勢……いや、買った量を考えたらちょっとどころじゃねェな。

 

 なんかメェール君が『僕達もお金を出すから五十五個は買っておこう』と言ってきた時は結構驚いたなー。召喚獣は白龍様を除いても十九体はいるし、体型がデカいもいるから無理もないけど、五十って……どんだけ食うんだよ。金もほとんどが召喚獣が何故かどっかで稼いでものばっかだし。

 

 中でもすごい食欲っぷりを見せてくれたのは、無口な孔雀の朝焼(あさやけ)だったな。召喚師覚醒フォームで呼べる奴の中で一番細いのにめっちゃ食ってたな。中には鶏肉もあって食いづらいものもあるだろうに……(汗)

 

 そうやってワイワイガヤガヤ騒がしてたら、優子が作った飯のお裾分けをしに来てくれました。何だろう。照れながら渡しに来てたから、誤解を招いてしまいそうで恥ずかしかったな……

 

 あっ、騒がしいのはメェール君達が貼った結界で防音対策されてるから、俺が女の子を招き入れてるとかという誤解はされてない……と思う。絶対されてない、はず。なんか不安になってきた。

 

 まぁそんなこんなで、原作通りorアニメ沿いに進む現実世界(ものがたり)。けど、予想外な展開になった事も一つだけあった。それは、俺も優子のサポートをするという形で共に町を守る使命を果たすことになったことだ。それを理解した時は内心結構驚いたよ。いや、マジで。

 

 まぁそういう責務を任された原因は、俺が優子の魔力修行の時に『優子を守れる時に守れる程に強くならないといけない』と宣言したことによるものだけれども。

 

 謂わば自業自得、または口は災いの元ってヤツだ。言ってしまったものを覚えられてしまったものはしょうがないということで、この使命を果たすことにしたわけで。ま、半ば強制だけど。

 

 そんなわけで、新しく変わっていくかもしれない俺の人生の門出を祈願するべく、今日もメェール君の作る美味い朝ご飯を食べるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 で、放課後。元気になって学校に来ていた桃に呼び出された俺と優子は、そのまま流されるかのように各々ロープで腹周りを結ばれ、タイヤを引っ張る修行をする羽目に。

 

 どうしてそうなったか? 朝にも言ったように(俺自身も誰に向かって言ってるのかわからないけど)、桃は優子に大量の魔力を持っていかれたのは知ってるよな? だから桃はこの町を守るのを手伝ってもらうために、優子に強くなってもらいたいとのこと。その修行内容が内容だが。

 

 で、なんで俺まで? と普通は思うところなのだが、優子の役割のサポートをすることになった身だと考えると、これは避けて通れない道なのだ。俺もいざという時に優子を助けられるようになりたいし、別に嫌とは思わないけどね。

 

 で、優子は鉱山とかで重いものを運ぶ働く類の車のドデカいタイヤを走って引っ張ることに。俺もそのタイヤを引っ張る……引っ張るの、だが……

 

 

「なんか俺の方のタイヤ、縦幅高くね?」

 

「白哉くんのはタイヤを二つにしているから」

 

「なんで⁉︎ というか何これ⁉︎ スパルタ⁉︎ スパルタの類に入るのかこのトレーニングは⁉︎」

 

 

 俺が引っ張るタイヤは、何故か二つもあって縦に重ねられていた。

 

 いやなんでやねん。修行のハードルの差が優子と比べてデカすぎじゃね? 性別の問題とか、俺と優子の体力や筋力の差の問題とかで内容が異なってしまうのはわかるけど、数じゃなくてせめて大きさを変えるとかしろよ⁉︎

 

 俺のはこのタイヤを一個にして、優子は原作通りにじゃなくてせめてトラックタイヤのサイズにまで小さくするとかさ⁉︎ 他になんかマシなのあんだろ⁉︎

 

 こんにゃろ、今すぐタイヤの数減らして……って、マジかよ。普通の結びに見えて意外と結構強く縛られてた……

 

 

 ▼平地白哉 は 逃げられない!

 

 

 誰だ今ゲーム画面みたい台詞を出した奴は。

 

 

「……これ、せめて横に並べた方が白哉さんも修行しやすいのでは?」

 

「学校でだと中々並べられるスペースが無くて」

 

「じゃあもっと広い場所で準備しとけよ⁉︎」

 

「前持って学校で準備しておかないと、二人とも見逃して家に帰ってっちゃいそうだったから」

 

「「……否定はしねぇ/しません……」」

 

 

 なるほど。つまりはすぐにも俺達に修行してもらいたくて、学校周辺の面積を測り損ねて俺の修行用のタイヤを重ねている、と……

 

 いやそれなら事前に河川敷とかに置いて、そこに見つけて縄とかで捉えた俺達を連れて行けば良いのでは? あっ、荒い誘拐みたいに見えるから、犯罪扱いにされるのを避けたかったのか……

 

 

「それはそうとして、話を変えるよ。なぜ私がダンプを止められるほどの力持ちか、分かる?」

 

「気合と筋肉がすごいから? それとも『○滅の○』の炭治○さんみたいに、鬼○辻無○レベルの敵を倒したいから稽古か何かをしてたのですか?」

 

「……山に籠って修行してたってのもあるだろ」

 

「どれも違います! 特に後者の二つは正解から色んな意味で大きくかけ離れてる! 別に家族を殺された挙句に妹を怪物にされたからとか、『グラッ○ラー刃○』に出てくる夜叉○みたいに倒したい敵がいるからとかじゃないから‼︎」

 

 

 うん、優子が週刊少年ジャン○をいつ読んだのかっていうのもツッコみたいけど、桃までジャン○だけじゃなくて昔の週刊少年チャン○オンの漫画を読んでたことに驚いて、思わずポカンとしてツッコめませんでした。どの漫画もちょっとは詳しそうなんだけどこの子。

 

 ってかよく考えたら、俺の世界で連載していた漫画が二つともこの世界でも丸々連載してたんだな……結構意外だった。

 

 この後桃は自分がダンプを余裕で止められる理由を説明してくれた。魔法少女は光の一族と契約した時点で、ほぼ肉体を再構築して高密度のエーテル体みたいな存在になるらしい。

 

 なんだその『一度妖精さんに生まれ変わってくださーい』と言われていたような説明は。キュゥ○えと契約する時みたいに代償を払う必要はないのかもしれないけど……

 

 

「……でも、今の桃は魔力が減っているのでは?」

 

「そうだな。だったら今みたいにタイヤを三つ同時に軽々しく持てるわけがねェ」

 

「……今は多少、気合と筋肉で補ってる」

 

「じゃあ優子の前者の答えも正解だったじゃねーか。無理強いして不正解にするから恥ずかしくなるんだろうが」

 

「………………」

 

 

 あ、ヤベッ。思わず正論をぶつけちゃったから、桃が俺のことを剣幕してるような目で睨んできた。おぉう……クール系を怒らすとここまで怖くなるのか……

 

 

「……ここまでは出来ないにしても、シャミ子も魔族のはしくれで、白哉くんも召喚師……二人とも似たようなことは出来るはず。だから私は二人の魔力を上げたい。魔力は肉体・精神・人生経験……いろんな要素で上がるから。まずは手っ取り早く筋肉をつけよう。そしてその修行でシャミ子と白哉くんには、スポーツ漫画みたいな手汗握る熱い友情や、ラブコメみたいなドキドキするイチャラブフラグ展開といった、しょっぱかったり甘酸っぱかったりする青春の一ページを刻もう」

 

「ヒッ⁉︎ ってか、なんか後半筋肉関係なくないこと言ってません⁉︎ きっ……聞いてるこっちが恥ずかしい欲望がダダ漏れしてるじゃないですか⁉︎ イ、イ、イチャラブフラグ展開って……

 

「つーか恐怖と羞恥心が混ざり合って、複雑なマイナスの感情が俺らに襲い掛かってくるんだけど⁉︎ って、ヤメロ-⁉︎ 俺達の側に近づくなー⁉︎ 今のお前マジ怖い怖い怖い怖い‼︎」

 

 

 怖い怖い怖い怖い(二回目)!! こいつ本心を全然隠そうとしなくなってきたんだけど⁉︎ 誰かを筋トレで筋肉つけさせたいという意欲と、俺と優子に対して何か仕掛けて揶揄いたいという意欲が合わさって危険度MAXなんだけど⁉︎

 

 つーかなんか流れてくる⁉︎ 突然俺の脳内で○ーミネー○ーのBGMが流れてくる⁉︎ このBGMがより一層恐怖を引き立たせてくるんだけど⁉︎

 

 

「さらに筋肉をつけて、イチャイチャして、ついでに筋肉をつけよう。続けてイチャイチャしよう。そして筋肉をつけよう。その次にイチャイチャしよう。あと言い忘れてたけど筋肉をつけて、私のいないところでもイチャイチャしよう」

 

「すんません、言い忘れてないというか鬱陶しいほど言ってますよアンタ……特にイチャイチャイチャイチャうるせーよ……」

 

イチャ、イチャ……さ、さては自分がしたいことや私達にしてもらいたい欲を、ありのままに曝け出したいだけなんじゃないですか……?」

 

「違うよ、仕方ないんだよ」

 

「「目をキラキラと輝かせてる時点でバレバレなんですけど⁉︎」」

 

 

 つーか俺と優子を……というよりは他人同士をイチャイチャさせようとするのは、さすがに仕方なくでやるわけないだろ⁉︎ 絶対何か目的とか本筋とかがあって、それらを事前に計画させてから実行するようなものだろ⁉︎ それを仕方なくでやるなんて……あぁもう‼︎ なんだか頭がゴッチャになってきたんだけど⁉︎

 

 あっ。なんとかマイペース桃による被害を避けたいがためか、優子が魔力の減った桃でも強いのではと指摘してきた。話を変えてきたな、良いぞ。

 

 で、何なに? 大技は出せない? 魔力修行の時に呟いたフレッシュピーチ……何だっけ? あれは中技だから出せるのか。

 

 って、おっとぉ〜? 大技の概念があることを聞いてからグイグイ行き始めた優子が、桃に中技を披露してと要求してきた。

 

 さらにぃ〜? それで桃もなんで名前完璧に覚えているのかと戸惑ったり、要求されるも恥ずかしいから断ろうとしてるぞぉ〜?

 

 いいぞ優子、もっとやれ。そして弄ばれた鬱憤をここで晴らせー‼︎

 

 

「あれ? 三人とも何してるの?」

 

 

 ここで杏里の登場。ここまでの展開で何れ出てくるとは思ってたけど、なんでよりによって……

 

 チッ、さすがに今回ばかりは感謝できねーな。せっかく優子が追い詰めていって、桃がだんだん押し負ける展開になりそうだったってのに……

 

 まあ来てしまったものは仕方ないので、とりあえず現状について説明することに。とは言っても、共闘をすることになったことやリリスさんが喋れるようになったことなど、一週間の間に起きた出来事とは言ってもそれほどスケールはデカくはない……のかな?

 

 ってか杏里、お前はリリスさんの事をシャミ先と呼ぶんだな。知ってたけど。桃だけじゃなくて、魔族の先祖に対してもあだ名呼びとは……人が良いのか失礼なのか……

 

 まあそんなこんなで、杏里が今度は今の俺達が何をしているのかを問いかけてきたので、正直にドデカサイズのタイヤを引っ張れという修行を無理矢理させられているのだと言っておきました。

 

 頼む杏里。原作には存在しないはずのものである俺までこんな無茶苦茶な特訓をさせられているんだ、なんとかしてくれ……‼︎

 

 

「なるほどねー。魔力修行のための筋トレかぁ……。でもさぁちよもも。人類は基本、鉱山車両のタイヤは引っ張れないと思う」

 

「そっか……確かに。あんまり重いものが持てないシャミ子と、シャミ子を担げてもそれより重いのを担げるかどうか分からない白哉くん、二人の特性を深く理解していなかった……」

 

「うんうん。二人各々の特性じゃなくて、人類の特性だけどね!!」

 

 

 人間が持てるタイヤは本来、トラックサイズのを両手で抱えるのが限界。当たり前だよなぁ? 自分の主観で他人と見比べたりするんじゃなくて、一般人からの主観を予想して人の限界とかを分析しなさいな。

 

 この後杏里は、優子には気が弱い一面をよく見せるので精神面を強くするといいというアドバイスを桃に送りました。だがオススメの修行内容が論外レベルだ。バンジージャンプとか滝行とかって、週一でも実行するのが難しいというかハードルが高いやろ。あと曰く付きの旅館に泊まらせるって何? そんな怪奇事件が起きそうなところは既に潰れてるだろ絶対。

 

 

「で、白哉の方はどこを鍛えるべきかなんだけど」

 

 

 おっ、次は俺か。俺の欠点とかは自分でも分からないのだから、他人主観で教えてくれるのはある意味助かる……

 

 

「……うん、恋愛方面かな」

 

「「……………… はい?」」

 

「クソ雑魚ってレベルな程は酷くないけど、ここぞという時にシャミ子の本心に気付けてない一面がよく見られるんだよねー。そこさえなんとかなれば後は大丈夫なのかもしれないんだけど」

 

「なるほど。確かに白哉くんは大事な場面で鈍感になる時がありそうだったから、読唇術を理解する必要があるってことだね」

 

「そゆこと。だから恋愛に関する本などの資料を送ったり、デートスポットにシャミ子と二人きりにさせたり……」

 

「待て‼︎ 待て‼︎ プリーズウェイティング(待ってくださいお願いします)‼︎ そ、それはさすがに強くなることに関係ないと思うんだけどなー⁉︎ つ、つーかなんで優子の名前まで出てきた⁉︎ お前まで何を狙ってんの⁉︎」

 

 

 チクショー、うっかり忘れていた……‼︎ 今ここに俺と優子を無理矢理にでもイチャイチャさせたい奴がもう一人いたのを、なんで忘れてしまったのかな……‼︎

 

 

「デ、デ、デート、スポッ……二人、きり……えっ? 私と、白哉、さんを、二人……えっ?」

 

「ほら、優子も混乱して赤面目ん玉ぐるぐる状態だぞ‼︎ この状態の奴が吹っ切れたら取り返しのつかないことになるぞ‼︎ そして俺が色々と終わる‼︎ だから鍛えるべきところを変えろ‼︎ 恋愛方面は強くなるのに関係あるか⁉︎」

 

「あ、ああ……正直なこと言っちゃった。白哉もシャミ子もごめんね?」

 

「あっ。い、いえ、私は、私は大丈夫なので……多分……」

 

 

 いや何が⁉︎ その混乱状態のどこが大丈夫なんだよ⁉︎ やめろ杏里の話をまともに考えるな‼︎ 聞いた俺だって恥ずかしく思えてるんだから、意識するのはやめろ‼︎

 

 

「………………ラブホテルに二人で泊まらせるのもアリかも──」

 

「「テメー/貴様は懲りないというか度を超えすぎだ‼︎」」

 

 

 おい誰かこの頭も桃色な魔法少女もなんとかしろ‼︎

 

 この後色々と落ち着いた感じになり(?)、杏里はこれから部活だと言って、今後出来ることがあれば物資のためにバイト先の紹介とかするよと言ってそのまま去ることに。ったく、本当に思わぬ刺客が出てきて結構焦ったりしたぜ……

 

 って、は? 桃お前今なんて? 俺達の一番怖いものが何か、だって? いやこの流れで教えてもらえるわけねーだろアホか。俺も教えねーよ絶対に。

 

 

「大体……町を守りたいというのなら、桃も早く魔力が戻るように頑張るべきじゃないですか‼︎ 私も頑張るから、桃の怖いものを教えなさい‼︎ 魔力をもらった以上不本意だけど、いちれんたくしょうなんです‼︎」

 

「一蓮托生……その発想はなかった………………そっか、そうかも」

 

 

 おう、その通りだよく言った優子‼︎ 元々町を守る役目は桃が握ってたしな‼︎ そんな奴がいざという時に怖いもの……弱点となるものに出会ってしまったらどうなるのかわからないしな‼︎

 

 

「……そうだな。ほら、共闘してくれている宿敵もそう言ってるんだし、桃も怖いものをちゃんと教えろよ。俺も怖いものとかがあった時に乗り越えられる程に強くなっから」

 

「……私の怖いもの……薄皮大福が怖い」

 

「……はい?」

 

「ただの薄皮大福じゃないよ。たまさくら商店街に一軒だけある和菓子屋さんの……『薄皮いちご大福』が怖い」

 

 

 なるほど、まんじゅうメソッドってヤツか……

 

 いや原作読んだから分かってたけど嘘つくなよ。大福が怖いってなんだよ、あんなに美味い大福が怖いとか、もし本当なら人生の何割か損してるぞ。しかも美味しそうな説明しやがって、優子のようなチョロい子じゃなかったら少なくとも疑問に思われるわ。

 

 

「じゃあそれを克服しましょう‼︎ 恐怖にふるえるがいい魔法少女‼︎ クククのク……」

 

「夕方からの販売分がすぐ売り切れちゃうから走って‼︎」

 

「らじゃー‼︎」

 

「出来れば三つ買ってきてね」

 

 

 あーあ、いつの間にか優子が桃に財布渡されて買い出しに行っちまったよ。おーい、大福がそう簡単に怖がられるわけないぞ戻ってこーい。チクショー、俺を縛る縄も解いてくれれば止めれたのになー(棒)

 

 

「……さて、シャミ子が大福を買いに行ってきたところで……白哉くん、ちょっと聞きたいことがあるけどいいかな?」

 

「なんだ? だから俺には怖いものなんてないってさっき……」

 

「それとは別の方。個人的に疑問に思ってたことがあるの」

 

「ん?」

 

 

 何なんだ? 桃は一体何を思って俺に質問しようとしてるんだ? 変な質問じゃなきゃいいんだけど……

 

 

「白哉くん、シャミ子が君の事を好きなの知ってるよね?」

 

「ッ⁉︎ な、なんだよいきなり……あっ、いや、知ってるけど……」

 

 

 なんで優子の好意の事を指摘するんだよ……

 

 まぁ、本当は『知らない』って言おうかとは思ってたよ? けど、魔力修行の時に優子が桃に唆される形で本心を大声でカミングアウトして、それを俺が聞いちゃったって反応しちゃったから、嘘ついてもバレバレになるから正直に答えたわけで……

 

 

「それを白哉くんは蔑ろにはしないけど、聞いたとしてもシャミ子に何か特別な反応とかをしてるわけじゃないよね?」

 

「……さっきから何が言いたいんだよ?」

 

 

 なんだってんだよ、さっきから急に真剣な顔で俺を見つめながら優子の話をしてきて……俺が優子に何かやらかしてしまったとでも言うのか?

 

 

 

「───白哉くんはシャミ子の事、好きなの? 嫌いなの? どう思ってる?」

 

 

 

「………………は?」

 

 

 えっ……はっ……えっ……? 俺が? 優子の事を? ………………えっ?

 

 

「………………あっ、いや、そ、その……べ、 別に嫌いじゃないぞ? というか嫌いにはならないし、仮に嫌いになろうとしても出来ない、的な? で、な、何? す、好き、だって? いや、まぁ、好きだぞ? お、幼馴染として、な? よく一緒にいるし、そりゃあ、な……?」

 

「結構動揺してるね……図星かな」

 

 

 いや誰のせいでそうなったと思ってんだよ。白々しいにも程があるだろうがこのおちょくり魔法少女が………………けど、動揺しているのは否定出来ないな……

 

 俺はずっと優子に寄り添ってきたはずだし、彼女がヤンデレになってしまったって伝えてきても嫌がらなかったし、寧ろ気にかけたりしてるというか……。なるべく優子の本心を尊重させながらも、それで彼女が暴走しないように立ち回ってるつもり、なんだけど……

 

 

「じゃあ恋人としてはアリって捉えれば……いや、この場合は白哉くん自身もシャミ子の事をどう想ってるのか分からない、と捉えておけばいいのかな?」

 

「えっ、えっと……いや、その……も、もう、そう捉えてもらえれば、いいです……。悪い意味では捉えてなければ、いい……かな……?」

 

 

 俺が、優子の事をどう想ってる、か……何ひとつ考えたこともなかったな……

 

 そういえば、俺はなんで、前までは原作キャラと深く関わらないでおこうと考えてたのに、あの日から優子に積極的に関わっていったんだ? なんでヤンデレってしまったのに、彼女を避けようとは考えなかったんだ? なんで彼女に寄り添っているんだ?

 

 俺は、優子の事をどう想って……? 好き? 嫌い? それとも……?

 

 

「ハァ、ハァ、た、ただいま戻りましたー‼︎ ……って、アレ? 白哉さん? どうしたんですかそんな難しい顔して……?」

 

「あ、おかえりシャミ子」

 

 

 悩みに悩んでいたところに、優子が薄皮大福を買って戻って来てくれていた。ってか俺、疑われるような表情していたんだな。

 

 ……優子に変な誤解をされる前に、いつも通りを装うか。この話題はまた今度……というかじっくり考えておくとしよう。うん、そうしよう。

 

 

「お、おかえり優子。い、いやぁどうしたらこのロープを解けるのかなーって考えてたところでさぁー……」

 

「あ、ごめん。すぐ解いておくね」

 

「……?」

 

 

 結局頭にクエスチョンマークを浮かべながら怪しませてしまったよ……

 

 

 

 

 

 

 フッ、フフッ……大分走ったし結構並んだけど、桃が怖いという薄皮いちご大福を三つも買うことが出来ました……‼︎

 

 本人曰く、不自然なくらい巨大なイチゴが入っていて、薄い皮から覗くと中のあんこが見える様がたまらなく不気味、そして上質の生クリームまで入っていて退廃的だと言われているこの大福……

 

 こんなにも結構美味しそうな大福を恐れているとは、桃にも意外と恐れているものがあったのですね。というかもったいない……

 

 ですが! 恐れているからこそ食べて克服して、これまでこの大福で損していた分を無理矢理にでも取り戻させるとしましょう‼︎ そうと決まればささっと二人のところに走って戻りに行きましょう‼︎ 猪突猛進……あっ、なんか意味が違うかも。爆裂猛進……でもなくて、全速前進です‼︎ 「全速前進DA☆」

 

 

「ハァ、ハァ、た、ただいま戻りましたー‼︎ ……って、アレ? 白哉さん? どうしたんですかそんな難しい顔して……?」

 

「あ、おかえりシャミ子」

 

「………………」

 

 

 わ、私が来たことに桃が先に反応したのに、白哉さんの方は頬を赤らめている顔を俯かせて、何やらブツブツと呟いているためか、桃の声にも反応を示してない……?

 

 なんだろう……普通ならこの状況でだと、桃が何かして白哉さんを惚れさせるという泥棒みたいなことをしてるのではないかと思い、桃を嫉みそうになりますね……

 

 でも、白哉さんの顔をよく見たら、何やら難しい顔をしている上に影を落としていたので、桃に何かされたわけではないというのは理解しました。じゃあ何を思ってそんな顔を……?

 

 

「お、おかえり優子。い、いやぁどうしたらこのロープを解けるのかなーって考えてたところでさぁー……」

 

「あ、ごめん。すぐ解いておくね」

 

「……?」

 

 

 白哉さんの言ってることは、今回ばかりはどう見ても嘘に聞こえますね。でも、なんでだろう……今何故そんなをしてるのだと聞いたらダメだと思う気がするのですが……

 

 いや、ここは本能に従って聞かないようにしておきましょう。私だって色々と隠し事をしているのですし、白哉さんにだって言いたくないことはあるはずです。

 

 だったら今は聞かないようにしましょう。白哉さんが言いたい時が来るまで、この件には一切触れないように……

 

 よし、そうと決まれば早速本題です。さぁ、この薄皮大福による恐怖におののくがいい魔法少女‼︎ カッカッカッカッカッカッ……アレ? 怖がってる様子がない? 何やら苦い顔はしているけど……

 

 ほへっ……? 何故か大福を私と白哉さんにも一個ずつ渡してきたんですけど? えっ? 運動後は糖分取ると美味しい? 大福は出来立てが一番?

 

 ……さては騙したな⁉︎ 私を走らせて体力つけさせるために嘘をついたな⁉︎ そしておつかいのついでに餌付けするためだったな⁉︎ あっさりと引っ掛かってしまったー‼︎

 

 だ、騙された……。これで勝ったと……あっ、超おいしい‼︎ おいしい……おいしい……。さっきまで暗く難しい顔をしていた白哉の表情もいつも通りのに戻ったし、今回はまあいい……のかな?

 

 

「ここの大福が苦手なのは嘘じゃないよ」

 

 

 えっ? 桃、急に何を言って……?

 

 

「昔を思い出すから何年も食べてなかった……ここのお菓子は姉が好きだったんだ」

 

「……姉妹の思い出、というものなのか? その大福は」

 

「うん。血は繋がってなかったけど、姉と過ごしてきたのはどれもいい思い出だった……」

 

「そっか……苦い事聞いてごめんな」

 

「ううん、大丈夫」

 

 

 えっ……。あっ、そういえば桃は今は一人暮らしだと聞きましたが、おねーさんが居……るんでしたか。血は繋がってなかったみたいですけど……

 

 あっ、そしたら桃が苦手なものをほんの少しだけ教えてくれた。昔の自分、ですか……。今は一人暮らしの身になってしまっているみたいだから、家族……というよりはおねーさんとの間に何かあったのでしょうか。それでもその過去と向き合おうとしている。私が頑張っているように、彼女も……

 

 ん? 無理矢理手伝わせてごめん? 何故突然謝る‼︎ ……わるいなーと思ってるなら、今度は本当に怖いものを教えるがいい。その苦手だという貴様の過去も、いつかは絶対教えてくださいよ。でないと困るのは私なんですからね。

 

 ……私も今の白哉さんに対する自分を恐れていますが、なんとか克服できるように今でも頑張っていますから、桃も何かしらの努力はしててくださいよ。ぼぉっーとしてたら、いつかは色々な方面で私に追い抜かれますからね。どうなっても知りませんよ?

 

 

「……ま、これからはお互いの課題に挑んでいこうという形にしておこうか。んじゃ、今日はここまでにしとこうぜ」

 

「そうですね。それじゃあそろそろ解散としましょうか」

 

 

 結構綺麗な夕日が降りていって辺りが暗くなりそうですし、そろそろ帰ることに……

 

 

 

「ん? 何言ってるの二人とも? むしろこれからじゃないの?」

 

 

 

「へっ?」「は?」

 

「シャミ子のうちって門限ある? 白哉くんは一人暮らしだからないよね? まずはストレッチとスクワットからやろうか」

 

「ッ⁉︎ 一旦筋トレは保留になったのでは⁉︎」

 

「おま、ふざけんじゃねぇドデカタイヤ二個同時引き摺りはやんねぇぞ俺は逃げ……ぐげふっ⁉︎ ちょっ、腕強く掴むな引き寄せんな‼︎ ヤメロー‼︎ シニタクナーイ‼︎」

 

 

 ああヤバいヤバいヤバいヤバい‼︎ 私達、尻尾や右腕強く掴まれて逃げられなくなってきてる‼︎ 逃げ道を事前に潰された‼︎

 

 と、というか、白哉さん……今、無自覚にわ、私のて、手繋いで引っ張ろうとして……⁉ ってドキドキしてる場合じゃない!!

 

 

「精神面も筋肉面も同時に鍛えないと効率悪くない? 世の中には道具を用いずペットにも頼らず筋肉を鍛える方法がたくさんあるんだよ……」

 

「顔!! 顔!! キラキラとした目で近づかないで来ないでくださいよ怖い怖い怖い怖い!!」

 

「つーかペットってなんだペットって⁉ それって俺の召喚獣のことを言ってのか⁉ペット扱いしやがってふざけんないつかぶっ飛ばすぞテメー⁉」

 

 

 ちょっとー!! 誰か助けて―!! 自重トレーニングをやらせようとするハラスメントな魔法少女に拉致されてますー!! いや、もう助からないかも……

 

 

「……白哉さん、叫んでもいいですか?」

 

「……奇遇だな、俺も同じこと考えてた」

 

「「桃こわいー/こえー!!」」

 

 

 この後、私達は夜になるまで桃のトレーニングに付き合わされる羽目になりました……。いやホントに、トレーニング云々関係なく桃が怖いです私……白哉さんも同じこと思ってるでしょうね……

 

 そしてトレーニング終了後、白哉さんが召喚獣に手伝ってもらえればトレーニング地獄を脱せられたのではないかと嘆いたのはまた別の話……

 

 




はい、白哉くんがシャミ子の事をどう思っているのかというところにも触れられたかもしれない回でした‼︎
クソボケ白哉くんはシャミ子に対する自分の想いに気づけるか……?
気づかなかったら皆さんはそんな白哉くんに対してどんな反応をしてあげます?



おまけ:台本形式のほそく話

本編前日の闇の一族禁断の儀式(鉄板パーティ)にて
シャミ子「おかーさん手伝います。私もっと料理が上手くなりたいんです」
清子「……フフッ、そんなに積極的になってまで白哉くんに料理してあげたいのですか。おかーさん安心した」
シャミ子「ほげっ⁉︎ な、何故白哉さんの名前が出るんです⁉︎ あっ、い、いや、確かに白哉さんにも振る舞いたいとは思ってはいますが……というか安心したって何⁉︎」
清子「一年前まで優子は自分の事を後回しにして家族に気を回していたものだから、自分のやりたいことや本心を後押しにしているのを見ると、どこか心苦しく見えて……。けど、白哉くんと親しくしている内にそういうのを少しずつ出していっていたから、母親として嬉しく思えるんです」
シャミ子「おかーさん……」
清子「いつしか、白哉くんにお嫁さんとしてもらってくれるといいですね」
シャミ子「はがあっ⁉︎ そ、そ、そういう話はしないでください‼︎ 正直もらってくれたら嬉しいですけども!! ……ただでさえその事で魔法少女に揶揄われてるというのに、その魔法少女が最近栄養バランスに問題を抱えているというのに……」
清子「あら、それはごめんなさい。………………ん? んん⁉ まさか魔法少女にも作ってあげようとしてます⁉︎」
シャミ子「このままだと私が倒す前に倒れそうなんです‼︎」

END

 


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なんでこの喫茶店の料理は美味いのに、食べた人ほぼ全員が変な状態になるんだよ……?

2022年のにしては古い方のネタ風のタイトルにしたので初投稿です。

今回はオリジナル兼原作キャラの先行登場回となります。そしていつもよりも文字数は少しだけ少なめです。けどちょっとやってみたかったことがあったので書いて載せときました。


平均評価
2022年12月10日(前回投稿前):7.91

2022年12月10日(前回投稿後):8.08
ヤッター♪───O(≧∇≦)O────♪


2022年年12月11日:6.71
???????????????

なんで僅か1日でここまで評価が下がるの……?
ちなみに2022年年12月15日には6.32に下がりました。もっとこの自己満小説でもみんなから良い評価を得られるように努力したい……


 

 ………………

 

 あっ……。どうも皆さんこんにちは、平地白哉です。今日は日曜日、優子が杏里に頼まれて、ショッピングセンターのゆるキャラの着ぐるみの『中の人』役のバイトをすることになった日です……

 

 俺が先週着たワイト……ヒーローショーの悪役のとは違う種類の着ぐるみだけど、優子は着てちゃんと役割を果たせるか? 原作で読んでるから展開的に大丈夫だろうけど、不安だな……

 

 ちなみに俺は今、何もやることないので、気晴らしも兼ねて、多摩町をただただ、ぶらりと散歩しています……

 

 えっ……? 今日はいつもよりもローテンションだな、だって……? いや、その、だな……

 

 ……実はだな、一昨日桃に優子と一緒に連行されて、筋肉強化の特訓を受ける羽目になった時の話なんだけどな? その時は無理矢理縛られたロープと繋がっている鉱山車両のタイヤを引っ張れと言われたり(しかも俺は二個も同時に)、桃だけでなく杏里に俺と優子のイチャラブが見たいと言ってるような意見を聞かされたり、特訓を辺りが暗くなるまでやらされたり、といった事があってな……

 

 まあ、これら前者二つの件は他にも似たような場面に遭遇したり巻き込まれたりしてるから、別に気にすることではないんだけどな。本題はもう一つの方にある。

 

 桃に聞かれたんだ……俺は優子の事をどう思っているんだってな……

 

 優子は俺の事が好きだ。その好きという感情が強くなっていきすぎて、他の女の子に嫉妬してしまったりいき過ぎた妄想をしてしまったりといった事……つまりは皆も知ってる通り、自覚するくらいのヤンデレになってしまった程だ。その事を『好き』の対象に取っている本人である俺に、仮の告白と一緒にカミングアウトする程に、彼女は俺に惚れていたんだ。……自分で言っておいて恥ずかしいな。

 

 けど、その一方で俺が優子の事をどう思っているのか……自分でも分からずじまいでいる。前にも優子の告白の件で、俺は告白の返事に答えるべきどうかで悩んでいた事はあったけど、今度のは優子の事が好きなのか、好きだとしてどっちの方面でなのかという話だった。それに俺はどう答えればいいのか、分からないでいた。

 

 優子のためならば出来る限りの事はしてきたはずだ。だけど、彼女が俺に対してヤンデレになってしまったというのを知ってしまったのに、何故俺は見放しもせずに彼女に寄り添っていったのか。そもそも何故ヤンデレになる前の彼女にも積極的に仲良くなろうとしていたのか。自分自身のこれまでの行動に疑問を抱くようになってしまった。

 

 ……ダメだ、いけないなこれは。深く考えると俺と優子の身に何が起きてしまうのか分からないから、しばらく保留にしておこう……とか決めておきながら、また深く考え始めてしまった。

 

 クソッ……こんな状態じゃ、いつか優子じゃなくて俺の方が壊れてしまう。今度こそ保留にするんだ保留……

 

 

「ん? あっ、白哉君じゃないか‼︎ こんなところで会うなんて奇遇じゃないか‼︎」

 

「ん?」

 

 

 なんか聞き覚えのある爽やかな声が右側から聞こえてきたんだけど、一体誰……あっ。あの青い髪がめっちゃ長くて俺よりも身長が高い奴は……

 

 

「……拓海か。こんにちは」

 

「こんにちは! ハハハ! 一人で町を静かに歩くローンウルフとはカッコいいじゃないか‼︎」

 

「お世辞どうも……言っとくけど俺はひとりぼっちじゃねェからな? その証拠にコミュ障じゃないしギター持ってないし陽キャラ相手に変なテンションにならないし」

 

「……何の話だい? まあ面白いからいいけど」

 

 

 過保護時々揶揄をよく見せる陰陽師クラスメイト・仙寿拓海との遭遇です。チクショー、せめて出会うのは学校にいる時にしてほしかったぜ……。こいつが過保護モードになると面倒臭いしウザったらしいったらありゃしない……‼︎

 

 いや、逆に休日にこいつに会うのは結構珍しいな。拓海は陰陽師の仕事があって忙しいのかもしれないってのに、この貴重な休日に俺を見かけては話しかけてきたものだから、こんな珍しい機会を面倒臭いからと言って押し除けるわけにはいかん。ちょっとばかし話すとするか。

 

 

「お前、今日は陰陽師の仕事はないのか?」

 

「あぁ‼︎ 大抵は親父かお袋の手伝いをすることが多いけど、今日は完ッ全ッにオフだ‼︎ ウチにというか、そもそも陰陽師に依頼をする人や幽霊なんてそんなにはいないからね。こういう日は町をぶらりとするのが丁度いい」

 

「そっか……もしかして、お前も特にやることなくて暇ってこと?」

 

「……そこは引っ掛からなくていい」

 

 

 別にいつも忙しいってわけじゃなかった。そんなに依頼とか来ないんかい。生活費とかどうしてんの? つーかその台詞、どっかで聞いたようなある気がするのだけど……

 

 で、いきなりこんな休日に話しかけて一体何の用なんだよ?

 

 

「白哉君、今日はまだ昼を済ませてないのかい? 昼食代は持っているか? それとも弁当でも作って来ていたのかい? あ、それか……」

 

お前の話長くなりそうだからストップ‼︎ ……昼飯ならまだ食べてないし、弁当も持ってきてないぞ。けど昼はどっかの店で食べる予定ではある」

 

「そ、そっか……」

 

 

 よーし、これで一時は過保護ペラペラモードは起きずに済んだ……。こいつが過保護になるとペラペラと喋って中々歯止めが効かないから、早めにやめるように言っておいて正解だったぜ……

 

 

「なら俺に奢らせてくれないかい? 行きつけの店を紹介しようと思うんだ」

 

 

 えっ、何故急に?

 

 

「白哉君には二週間前、陰陽師の仕事の手伝いをしてもらったことがあるだろう? リアル格ゲーがやりたいと言っていた幽霊の除霊。あの時は白哉君、お礼はいらないとか言っていたけど、下校後の貴重な時間を割いてしまった上に疲労させてしまったんだ。そう考えるとやっぱり何かしらは……って思ってたんだけど、ダメかい?」

 

 

 あぁ、あの時の……。いやあの時は別に俺は疲れを感じなかったし、どっちかというと頑張ってたのは牙狼の方だから……

 

 でもよく考えたら、素人に除霊の手伝いを任せるのはたしかにアレだったな。下手な真似したら俺の身に何が起きてしまうのか分からない場面だったから、さすがにこの過保護さは納得がいくかもしれん。つーかここも遠慮してしまうと、後々さらに面倒臭いことになりそうだな……

 

 うーん……なんだろう、優子の時々見せるヤンデレとは違うヤバさが彼には感じ取れる……。言っとくが俺、同性愛はNGだぞ?

 

 仕方ない。ここは彼の言葉に甘んじて、何か奢ってもらうとするか。

 

 

「わかった。その行きつけの店に案内してくれるか?」

 

「えっ、いいのかい⁉︎ 今回も遠慮するとか言われるかと思ったが、そう言ってくれると嬉しいよ‼︎ いいだろう、案内してあげよう‼︎」

 

 

 遠慮されるかもしれないという自覚あったんかい。そして喜んでいる時がなんでナルシストみたいな感じになってんだよ。稀に見せる過保護とは別のウザさってか? そう考えると、一日に二度見れるのはラッキーかも。

 

 キラキラエフェクトの幻覚が出てるのを感じ取りながら、行きつけの店へと案内してくれる拓海の後をついて行く俺。俺が彼と出会ったアクセサリー店からおよそ四分くらいで着いた、その店とは……

 

 

「着いたぞ。ここが俺の行きつけの店の……

 

 

 

 喫茶店『あすら』だ‼︎」

 

 

 

 あっ、色んな方面でやばたにえん。

 

 

 

 

 

 

「ここでは従業員は二人だけしかいないけど、色んな意味で二人とも結構見た目のパンチが強くて、それでいて出される料理はどれもみんながハマってしまう程の人気なんだ」

 

 喫茶店『あすら』。原作では夏休みにて優子が訳あって訪れる店だ。たまさくら商店街に存在する喫茶店で、白澤という人がオーナー、リコと呼ばれる人が料理人を勤めている。『腰掛ける場所のない人に居場所を提供したい』という白澤さんの思想で、今から十年前のクリスマスにオープンされたのだが……

 

 簡潔に言えば、ここの純喫茶風の店の料理は、別の意味でヤバい。別にここの料理が『まずい』のではない。寧ろその逆、なんだけど……

 

 

「ん? どうしたんだい? こういうところに入るのは初めてなのかい?」

 

「あ、いや……入っていいのかどうかわからないというか、入ってはいけないのではないかというか、入ることは問題ないけどここで食べても本当に良いのだろうかみたいな……」

 

「何をそんなに警戒を……。もしもという時は病院に連れて行くし医療費も出す。けどここの料理は曰く付きだから、衛生面では問題ないよ」

 

 

 最後の言い方は問題大アリだわ。俺がここの料理で通院してしまう可能性も考慮して何かしらの備えをしようとするんじゃねェ、不謹慎だ。

 

 っつーかもし本当に俺がこの『あすら』での問題で病院送りにされたら、優子のここに対する評価がかなり不評になったり、最悪優子が無理矢理潰してしまう可能性だってあるんだぞ? ヤンデレ舐めんなよ。

 

 ……なんでこんなこと考えてんだろ俺。大体この先俺しか知らない原作(みらい)の物語を拓海が知るわけないじゃん。

 

 まあ充分な警戒や配慮をしておけば問題ないだろうし、つーかここまで来たら逃げられないし……

 

 

「……本当に奢るんだよな? というかそれなりの配慮もするんだよな?」

 

「俺をなんだと思っているんだい……? ま、まあとにかく入ろう、もちろん奢るからさ」

 

 

 そう言って颯爽と店に入っていく拓海を見て、俺も後の不安に注意を促しながら入店することに。絶対に無事に生きて帰ろう、色んな意味で。

 

 変な言い聞かせをしながら入っていけば、ワオ。結構席が埋まっているな。奇跡的に二つ席が空いているくらいの人気っぷりや。

 

 

「いらっしゃいませ〜……あっ、拓海はんやん。来てくれとったんやな」

 

「どうもリコ先輩、ご無沙汰してます」

 

 

 客用のお冷を注ぎながら拓海に声を掛けてきたのは、銀髪を後ろに束ねた……『狐の耳と尻尾が生えている』女性。

 

 彼女がリコさん。狐と人間のハーフ……ではなくて優子と同じ魔族である。種族は違うけど。

 

 ……ん? 今、拓海の奴リコさんのことを『先輩』と呼ばなかった? 気のせいだった? ねぇ?

 

 

「おおっ拓海君、来てくれてたのか‼︎ また会えて嬉しいよ」

 

 

 料理やお冷の配膳を終えてから続けて声を掛けてきたのは……なんと眼鏡を掛けた()()()()()()

 

 この喋れて二足歩行もできるバグがこの喫茶店のオーナー・白澤さん……らしい。人間の容姿が欠片一つも見つからない、純粋な動物の姿の魔族ってどういうことよ……

 

 

「マスターもお元気そうで何より……で、客が多いようですが接客とかは大丈夫ですか?」

 

「いや、正直難しい傾向だ……リコ君に頼もうにしても、ね……」

 

「あぁ、まだ空気読めないの治らないのですか……。料理以外にも積極的になってもらいたいものですね……」

 

 

 ん? なんか拓海がこの店の経営状況について白澤さんと話し合っているんだけど。リコさんがどうのこうのってのも聞こえてきたんだけど。

 

 ま、まさか……

 

 

「白哉君、先に席に座って注文して食べていてくれ。俺は急な用事を思い出して……」

 

「手伝うってか⁉︎ 一日の臨時バイトでこの店の手伝いをするってか⁉︎ お人好しっつーか過保護なのもいい加減にしろ‼︎ というかここの手伝いをするのは色んな意味で危ねぇ気がする‼︎」

 

 

 こんなにも客がたくさんいる中での配膳したり注文聞いたりはまだ大丈夫な方なのかもしれないけど、リコさんがバイトの人に出してくれる賄い料理が……

 

 

「けどこの店は空前の人材不足で……」

 

「周り見たらそうだけどもッ‼︎ 先に従業員の人数聞いたから分かってるけどもッ‼︎ というかよく考えたら、お前俺達の知らない間に俺達の会ったことのない魔族二人と知り合いになってたの⁉︎ そんなの聞いてねぇよ⁉︎」

 

「えっ? あぁうん、言わなかったというかなんか言いづらかったんだ。この学校に魔法少女の千代田君がいるし、念のため」

 

「あぁ……分からなくもない。けどあいつは穏健派だから、二人を封印したりとかはしないぞ?」

 

「あ、そうなのか……」

 

「まぁ、なんだ。俺もそこは伝えなくて悪かった」

 

 

 あのお人好しがすぎる拓海でさえも、知人を警戒してしまうことってあるんだな。しかも幽霊じゃない者の身も案じるとは……やっぱり他人に対して過保護が強すぎない?

 

 つーか働くことに関する事がどうのこうのの話から、拓海の知り合いに魔族がいるのどうのこうのに変わっきちまったよ……。ヤベェ、話逸らしちまった。ここはまかないは遠慮した方がいいと言って……

 

 あっ。どっちみちこいつは働かなくてもここで昼飯食うし、つーか俺もここで食うから、注意してもあんまり意味がない気がする……

 

 

「まぁ、うん……とりあえず、無茶はするなよ。特にリコさんの賄い料理を食べる時は。なんか嫌な予感がする」

 

「……? なんかよく分からないけど了解した。それじゃあ行ってくる」

 

 

 うん、やっぱり俺の忠告が何を意味してるのか理解できてないみたいだな。分かってはいたけども。

 

 まあそんなこんなで『あすら』の制服に着替えようと厨房の奥へと向かう拓海を尻目に、俺はメニューを確認することに。どれどれ、どんなものが出ているのやら……

 

 

 

・桃の闇色 浮かれフルーツポンチ

 

・国産和牛厚切りタン 十種のかんきつソース

 

・必要以上におしゃれなカフェめし

 

・桜のジェラート~思い出をそえて

 

 ect.〜

 

 

 

 ……なぁにこれぇ?(AIBO風)

 

 なんか独特なネーミングセンスのヤツまであるんだけど。しかもどれもこの先の原作イベントとの関わりがありそうな名前なんだけど。『あすら』って無自覚に未来予知することができる店だったっけ?

 

 普通の名前のメニュー? もちろんちゃんとあったぞ? カレーとかオムライスとかスパゲッティとかメロンソーダとか。……けど、なんで四品だけ、独特なネーミングセンスのヤツがあるんだよ……?

 

 というか『必要以上におしゃれなカフェめし』って何だよ? どんな材料を使ってんだよ? 調味料は何だよ? そもそもそれはご飯ものの単品? 定食みたいな感じ? どんなんだよ?

 

 ……まあ、いいや。とりあえず何か頼んで、注意しながら食って、ささっとこの店から出よう。俺まで人手不足の臨時バイトを頼まれる前に。出来れば拓海も連れて帰ろう。あいつがもしものことが遭ったらいけない。何故なら……

 

 

「カレー……カレー……あすらのカレー……かれぇうまっ……」

 

「パフェパフェパフェパフェ……」

 

 

 拓海もこのリコさんから出された賄い料理で、他の客みたいにヤバいリアクションでおかしくなる可能性があるからだッ‼︎

 

 原作知識を持つ俺は、この店の客がおかしくなっている理由を知っている。リコさんの作る料理は『ある種の中毒性さえある』程に美味であり、そのためこのように店は繁盛しているのだ。

 

 さらには彼女の気持ちも込められているため正に『心を癒す料理』であり、日々の疲れとプレッシャーをひと時忘れさせる効果がある……のだが、適量の十倍食べるとハイになり、一日だけ健忘の症状が出るらしい。

 

 お分かりいただけただろうか? つまりは拓海もリコさんの賄い料理を食べ過ぎると、一日だけとはいえめっちゃヤバいことになり得るのだ。「ヤバいわよ‼︎」「ヤバいですね☆」

 

 ……拓海の奴、まさか賄い料理をおかわりしすぎたり持ち帰ったりしてないだろうな? 賄い料理は食べ放題だと原作知識で知ったし、拓海もそれを食べ過ぎている可能性は充分にある。

 

 ここでタイミング良く白澤さんがお冷とおしぼりを渡して来てくれたから、ちょっと聞いてみるか。

 

 

「白さ……マスター」

 

「あっ。君はさっき拓海君といた……。何だい?」

 

 

 ヤッベ、危うく白澤さんの名前を言ってしまうところだった。俺まだ白澤さんの名前を実際に本人や他人の口から聞いてないから、もし言ってしまったら怪しまれ……

 

 あっ。店に入る前に拓海が白澤さんの名前を口にしてたんだった。だったら名前を言っても問題はな……いやでも、白澤さん本人の口からは聞いてないから、敢えてマスター呼びでいこう。

 

 

「ウチのクラスメイト……拓海はいつからここで臨時のバイトを? それもどのくらいの頻度で、ここにバイトをしているのですか? それとリコさんの賄い料理とかってどのくらい食べたり持ち帰ったりしてます?」

 

「ん? リコ君の作る料理に興味があるのかね? 確かに彼女の料理には一種の中毒性はあるが……」

 

「あぁ……すみませんが、まずは拓海がここに手伝いに来ている理由とかを」

 

「あ、うん……。そうだね、拓海君がここに働き始めたのは、今年の五月のGW終わりからだ。彼がウチの料理を食べたいという幽霊の依頼に答えていたところに出会ってね、そこでここが人手不足であることを知って、『食べに来る時にしか出来ないけど手伝わせてほしい』と彼の口から頼んできたんだ。それからは最低でも二週間に一回ぐらいは顔を出して、よく店の手伝いをしてくれているよ」

 

 

 なるほど、幽霊の成仏をする依頼の最中に出会い、一ヶ月に二回ぐらい手伝いに行っている、と……

 

 ってかやっぱり自主的に『働きたい』と言ってたんかい。やっぱり過保護にも程があるだろあのナルシストにはなれてない陰陽師が。陰陽師の仕事を優先しろ陰陽師の仕事を。

 

 ってそんな事考えてる場合じゃない。一番の問題は賄いの方だ。拓海の奴、お人好しが災いしてたくさん食って変な様子になったりしないだろうな?

 

 

「リコ君の賄い料理は……そうだね、たまに一回はおかわりする程度かな。一盛りだけでも結構な量があるからね」

 

「あ、なんだ。それならちょっと安心しました」

 

「えっ、安心? なんで?」

 

「……こっちの話です」

 

 

 よかったー……。拓海の奴、お人好しが出て食べ過ぎてしまっているわけではないみたいだな。まあ長くても二週間のインターバルがあるし、仮にお持ち帰りしてもその量次第では食べておかしな事にならずに済むな。ホントに安心する。

 

 さて、疑問が解決したところで早速注文するとするか。ちなみに俺が頼んだのは、シンプルにカレーライスだ。初めて来るところは最初はこういうシンプルなのを頼むのに限る。個人的に。

 

 

「お待たせしました、カレーライスです。ごゆっくりどうぞ」

 

「めっちゃウェイトレスモードに入ってるやんお前。お前本当に本職は陰陽師なの?」

 

 

 しばらく待っていたら、『あすら』のウェイトレスの制服を着た拓海が、過保護モードや陰陽師らしい雰囲気とは別の感じで俺のところまで来て、右手で支えているトレイに乗せてたカレーを運んでくれた。

 

 思ったよりも結構『理想のウェイトレス像』を曝け出していたことにツッコミながらも、俺は恐る恐るカレーを一口運んだ……って、美味っ⁉ 辛過ぎぎず、甘過ぎず、具材も丁度良く煮込まれてやがる……!!

 

 

「うめぇ……うめぇ……なんだこのカレー……めっちゃうめぇ……あすらのカレー、絶品………………ハッ⁉︎ お、俺は一体何を……⁉︎」

 

 

 あまりにもバランスの取れた絶品の美味さに、他の客みたいに変な中毒性に架かりかけた……‼︎ しっかりしろ平地白哉‼︎ 注意を払え注意を‼︎ そして慎重に食え‼︎

 

 

 

 

 

 

 ふぅー、美味かった。結局デザートにいちごアイスも頼んじまったけど、なんとか変な状態にはならずに済んだ。程よい冷たさと甘さが各々の食材の味を引き立たせていた絶品アイスだったぜ。

 

 さてと……拓海が『今日はしばらくこの店を手伝ってるから、また今度な‼︎』って言われたし、とっとと店を出るか。

 

 本当は拓海の奴が賄いで変な気分になりそうなのに備えて待とうかなと思ったけど、白澤さんの話を聞いて問題無さそうだとわかったし、何よりもう食べ終わったのにここに居すぎると俺が強制臨時バイトさせられる可能性が出そうで怖い。

 

 だから俺は逃げるッ‼︎ 逃げるぞッ‼︎

 

 

「ご馳走様でした、美味かったです」

 

「また来いや〜」

 

 

 会計を済ませて出ようとしたところで、厨房からリコさんの声が聞こえてきた。また来て、か……。すいません、しばらく出る必要がある時まで来ません(キリッ)。

 

 にしても今日はいつもよりも結構な心配事を抱え込んだ気がする。しかも俺が心配しているその相手が優子じゃないってね……

 

 俺、色々とストレスを抱えているのかな……? 強化修行の時に桃に優子の事をどう思っているのかと聞かれてたし、きっとそう……

 

 いやちょっと、それじゃあまるで優子の事でストレスを持つようになったと言ってるようなものやん。今まで彼女のヤンデレ疑惑を感じても苛立ちとかを感じなかったんだからそういうことにすんなやいい加減にしろ俺。

 

 ……うん、今日の外での気分転換はここまでにしよう。帰って召喚獣達のテレビゲームの対戦に付き合って寝よう。そうしよう。

 

 ……なんか、昨日の事で悩んでたことがあったような気がしたけど、何だったっけ? ……まあいいか、かーえろっ。

 

 そう思いながら帰路を歩いている間に、視線の隅で優子が何か見るに堪えない服でオレンジ色の魔法少女から羽織るものを施されていたが、それに俺が気づくことはなかった。

 

 けど何故か白龍様はその光景を見ていたって話を、家で家事してたはずのメェール君から聞いた。えっ、なんで? もしかして白龍様、今のリリスさんみたいに外の世界を覗けるの……? そしてその事を遠隔で召喚獣達に伝えられるの……? どういうことなの……

 

 

 

 

 

 

 白哉が店を出てから数時間後。『あすら』の閉店時間が迫っていることを機に、拓海も給料袋を白澤から受け取って店を後にしようとしていた。

 

 

「はい、これが今回の給料だよ拓海君。毎回助かってるよ」

 

「いえいえ、俺が望んで助っ人をやってるだけなので別にいいですよ。それに今日も陰陽師の仕事なくて暇でしたし」

 

「お世辞でもホンマ助かったわぁ〜。拓海はん、次もまたお願いな」

 

 

 爽やかながらも何処か抜けているような笑顔を見せるリコに、拓海は何故か苦い顔でそちらの方を向いた。

 

 

「……すみませんが、リコ先輩は次俺が来るまでに空気読まないのなんとかしていただけますか?」

 

「えっ? それってどういう意味なんや? ウチ料理失敗してたとこあったん?」

 

「素で言われてる意味が分からないって……はぁ、この先の店の経営が不安だ……

 

 

 何故自分が忠告した意味を微塵も理解できないのだろうか。拓海はそう呆れるほどリコの性格に苦手意識を持っていた。

 

 リコは結構な毒舌かつ、良くも悪くも自分の気持ちや欲望に素直。基本的に彼女の行動は『善意』に基づいた物であるが、空気の読めなさとマイペースでフリーダムな性格のせいで、人の神経を逆撫ですることもしばしばある。

 

 その性格故、拓海はリコの事が気が気でなかった。当然下心とか恋心とかは関係なく、ただ純粋に人の良さとして。彼女の性格が災いして、いつか料理の美味さではフォローできないような状況に遭えば、白澤諸共どうなるのか……。臨時でバイトに来る度に必ずそう考えてしまっているらしい。

 

 本業である陰陽師の仕事もある。それでも『あすら』にはそこそこの繋がりがある。だからこそ、自分もこの店が崩壊しないようリコと白澤をバックアップ出来れば……

 

 

「……拓海はん? ウチをじっと見つめてどないしたん?」

 

「あぁいえ、なんでもないです。それじゃあ俺はここで。お疲れ様でした」

 

「うん、お疲れ様」

 

 

 この先の自分の本心を察しされるわけにはいかない。拓海はそんな一心でそそくさと店を出ていくことにした。その不穏な動きに二人が首を傾げていることになど気にせず、真っ直ぐ帰路を歩いて。

 

 

「なんか今の拓海はん、様子が変やな?」

 

「仕事している時は疲れてる様子や無理してる様子もなかったのだけど、なんだったんだろうね?」

 

 

 先程の拓海の様子に疑問を抱きながらも、店の片付けを始めることにした二人。

 

 するとふと、リコが徐に呟き始めた。

 

 

「そういえば、拓海はんの友人もちょっと気になってたなぁ」

 

「ん? あぁ、あの白哉君って子かい? その子がどうかしたのかな?」

 

「うぅ〜ん、ウチもよく分からんのやけど……その白哉はんって子の背後に、なんか白哉はんそっくりの幽霊みたいなのを感じたんやよなぁ……」

 

 

 生き霊。リコの口から聞こえたその言葉に白澤は激しく動揺し、シンクに運んでいた食器を落としそうになった。いや落とさなかったんかい。

 

 

「ド、ドッペルゲンガーってこと⁉︎ な、なんてことを言い出すんだいリコ君⁉︎ ……それ、悪霊とかじゃないよね? 拓海君の力を借りる必要があるのかね?」

 

 

 もしその白哉の背後に潜んでいるという背後霊がドッペルゲンガー──悪霊のような恐ろしいものだとすれば、それこそ拓海に陰陽師として除霊の仕事の方を頼むしかない。白澤はそんな最悪なケースを予想し、リコに生き霊がどのようなものなのかを恐る恐る問いかける。

 

 その質問を聞いたリコは右手でテーブルを拭きながらもう片方の手を頰に当てながら考え込む。少し時間が経ったところで、彼女は再び口を開く。

 

 

「───分からんのよなぁ……悪霊って感じやないんやけど」

 

「……えっ? 悪霊じゃないけど分かんない? それはどういう……」

 

「何か白哉はんの事をじっと見つめておった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)んやけど、それが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。ウチは幽霊に関することは全然分からへんから、これはパッと見での偏見なんやけど」

 

「……何それ。やはり拓海君に確かめてもらう必要があるかな……?」

 

 

 白哉の事を見つめているらしいが、どういった感情を持ってなのかまでは把握出来なかったという。

 

 その背後霊が何を思って白哉を見つめていたのか。はたまたその正体が何なのか。それは白哉本人ですら知らない……

 

 




オリジナル回のネタは思いつくまではいいが、いざ書くとなると文字数が足りなくなる時ってあるのね……
というか最後なんか恐ろしい感じなのを出して終わらせちゃったけど、これあくまでコメディ中心……だと思う。



おまけ:台本形式のほそく話その2

桃「(フフッ……今日もたまさくらちゃんのレアグッズを手に入れることができた)」
「(商店街でみんなにバク転を魅せるたまさくらちゃんのポスターに、たまさくらちゃんの焼肉屋店員コスプレのぬいぐるみ……他にも様々な限定商品があって全種類買っちゃった)」
「(けど、ポスターはどこに貼っておこうかな? 貼りすぎたからリビングの壁紙として貼るには流石に場所がないけど……)」
「(ん? 今、白哉くんが少しやつれてるような顔をして横を通った気がするんだけど……気のせいだったかな?)」
「(あっ、あそこにいるのは……ミカン? この町に来て──)」
ミカン「何がなんだかよく分からないけど……なんか……街中でごめん」
シャミ子「……しっ、しばかないんですか?」
ミカン「こんな弱そうな子しばかないわよ‼︎」
桃「(………………えっ? シャミ子まで一緒にいるのは分かったけど……なんで路地裏に? しかもシャミ子のあの格好は? ……ミカン、何かやらかした? まぞくに恥ずかしい格好を無理矢理させるタイプだっけ?)」
「(……一応通報する準備でもしておいた方がいいのかな? それと念のため白哉くんも呼ぶ? いや彼は今どこで何してるのか分からないし……とりあえず声掛けよ)」
そして原作のとある回へと繋がるのだった……

END

 


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ささやかな困難が降りかかる呪い? 俺は優子のヤンデレオーラという呪いに耐えてるぜ?

NovelAIやってみたいけど日本円でいくらなのかわからないし支払い方法も分からないので初投稿です。

最新話のストックを溜めすぎてしまったので、葛藤しながらもその一つを土曜日じゃないけど消化しようと決めた結果、結局一週間経たずに最新話投稿しちゃったぜ‼︎ 反省はしてるが後悔はしてないぜ‼︎(おい


 

 ハハッ、見ろ! 校庭の木の葉がゴミのようだ‼︎ いや箒で集めて袋に入れて捨てるから確かにゴミだけれども。

 

 そんなくだらないことを考えている白哉でーす。

 

 俺は今、優子と杏里と珍しくその場にいた拓海の四人で校庭の掃除をしてます。拓海が先に校庭の掃除をしていたところに俺達が偶々居合わせって感じなんですよね。

 

 原作では拓海は登場する描写を一切書かれてないから、ここで優子と杏里に遭遇することないのに……俺という転生者が介入されたことで、原作で登場する予定のないキャラの運命とかが微調整されてる?

 

 ちなみに拓海とは一昨日にて喫茶店に連れてってもらいました。それも『あすら』に、原作キャラっつーか優子よりも先に。しかも拓海は二週間に一度は手伝いに行っているとのこと。

 

 実家の陰陽師の仕事の手伝いもあるだろうに、リコさんの賄い料理の事もあるから大丈夫だろうかと心配にはなっていたけど、あいつの食べる量的には問題なかったため、俺は何かしらの助力をしないでいることにしました。改めて考えたらよかったな拓海、お前の様子がおかしくならずに済んで。

 

 そんなこんな今日も正常な拓海と、優子と杏里の四人での校庭の清掃をしてるわけですが、思ったよりも意外と木の葉とかポイ捨てとかが結構あるな。ポイ捨てしてる奴も意外と多くね? 衛生面とか考えやがれや。

 

 まあ大抵は拓海がシュバババッと集めてくれたわけなんですけどね。それも超スピードで、草むらとかに隠れているゴミも見逃さずに。いやこいつ几帳面な部分もあるのかよ。過保護几帳面時々ナルシストってどんだけキャラが濃いねん。

 

 と、そんなこと考えている間に体育祭実行委員会を呼びかけるアナウンスが流れてきた。

 

 

「あ、私行かなくちゃ。ごめんだけど三人ともゴミお願い」

 

 

 杏里はそう言って小グラウンドへと離脱していった。確か体育祭は秋頃に行われるはずだけど、もうその準備に取り掛かるのか……いや、別にそうではないのかも。

 

 

「杏里ちゃんはいつも忙しいですね」

 

「まあ心配事言いながら勝手に色々やってくれる、何処かの誰かさんとは違ってまだマシだけどな」

 

「ん? 誰だいその人は?」

 

 

 いやお前だよお前。お前じゃい。たった今細かいところ隅々までゴミ拾いしてたお前だよこの過保護几帳面時々ナルシスト。自分がどれだけ勝手に他人のために最善を尽くしていたのか自覚しろよ。

 

 って、拓海の奴いつの間にかさらにゴミがないか探しにどっか行っちまった。拓海の奴、どんだけ繊細だったんだよ……

 

 

「……あっ‼︎ ちょうどいい所にいたわ‼︎」

 

 

 おや? この聞き覚えのある女の子の声は……

 

 声がする方向に振り向けば、そこにいたのは、ウチらが着てる桜ヶ丘高等学校のではない制服──淡黄色のブレザー──を着ている蜜柑色の髪の少女・陽夏木ミカンだ。俺と優子は二回目の再会だ。

 

 

「そのツノ……貴方、優子よね?」

 

「ゆう……こ……? えっ?」

 

「……何よそのきょとんフェイスは」

 

「……あっ‼︎ 私の名前ですよね⁉︎ すみません、最近名前で呼んでくれる人、白哉さんとおかーさんくらいで……あっ、白哉さんというのは今私の隣にいる銀髪の人で、私の幼馴染です」

 

 

 おい優子。お前幼馴染の俺がいつも『優子』と呼んでるのに、なんで俺と清子さん以外に名前呼ばわりされると自分の名前がパッと来なくなるんだよ。両親に付けてもらった大切な名前だろうが。

 

 あっ。周りから『シャミ子』とよく呼ばれるようになって、それが自分の中でも定着してしまったから無理もない……のか?

 

 

「あぁ、貴方が白哉っていうの……って、あら? 貴方、どこかで会ったような……」

 

「おう、久しぶり。公園の時は助けてくれてありがとな」

 

「……あぁ‼︎ あの時落ちてきた大木に埋もれそうになっていた人‼︎ 名前聞いてなかったから思い出せなかったわ、ごめんなさい……」

 

「えっ……? 白哉さん、いつの間にミカンさんと会ってたんですか? しかも今の会話からして、白哉さんもミカンさんに助けられて……?」

 

「ん? まぁな」

 

 

 ミカンが俺を助けてくれた時の事を思い出したところで、優子が俺達の会った経緯について聞いてきたので、素直にその日に何があったのかを教えてあげることにした。

 

 その日俺は全臓のヒーローショーのバイトの助っ人をしていたこと、その帰りに降ってきた大木に押しつぶされそうになったところに陽夏木ミカンが放った柑橘色の矢で救われたことを教えてあげたら、勘違いされることなく優子は納得してくれたよ。

 

 その後ミカンがさっきまで桃と一緒にいたけど気がついたらはぐれてしまったことを教えてきた。そのため優子がゴミを捨ててからでよかったら一緒に捜すと言ったあげていたので、俺も『一緒に協力する』と一言だけ言ってあげました。

 

 そしたら『親切にしてくれても別にいいことない』とか『ゴミ運ぶくらいなら手伝ってあげてもいい』とかという、ツンデレなのかただの優しい子なのかちょっと分からない反応をしてきたミカン氏。まあ良いことを喜んでくれるのは嬉しいけどな。

 

 ……ってちょっと待て。何ゴミ袋じゃなくてごせん像を選んでんだ? ゴミってか? 空のペットボトルが入ってるペットボトルクーラーだと思ってんのかね? それ、というかその人は優子ら魔族の先祖やで? 封印が解かれればもしかすると無双キャラになるかもしれへんぞ? 言葉を慎めよ……‼︎

 

 

『お主よ、その町の魔法少女か? 穏健派のようだが何故ここに?』

 

「転校のための書類をもらいに来たのよ」

 

『そうなのか……って、転校⁉︎」

 

「声デケーですよリリスさん。耳イテェ……

 

 

 まあ驚くのも無理もないかな。魔族というか闇の一族が敵対している光の一族というか魔法少女が、突然その敵のいる学校に転校するだなんて予想だにしないものな。

 

 はいこらリリスさん。何『燃えるゴミ風の像と愉快な一族のために転校という一大事をするのか』と言うんですか。アンタ自虐しながらミカンにゴミと間違われることを根に持たないでいただけます? 当の本人も悪気はなかったしわざとじゃないって言うので許してあげなさい。

 

 ん? 何? ミカンは桃よりもまともなのかもしれないけど、隠れ筋トレ好きなのかもしれない、だって? いや、優子? お前は桃の魔法少女像を通して他の魔法少女までもが筋トレ好きだと思うんじゃねーよいい加減にしろ。

 

 ほら、ダンベルかお花のどっちが好きなのかという質問でも、ミカンはお花と選択したぞ? これがよく見る魔法少女のイメージやから、桃を通してイメージするのやめなさいな。

 

 おい、泣くなよ……『普通の女の子な魔法少女だ』とか呟きながら泣くな。これが本来の魔法少女像だっつってんでしょうが泣き止みなさい。

 

 

「私……桃が『魔法少女はまともな子が少ない』……みたいに言ってたから、少し不安だったんです。でも……ミカンさんがとてもいい人で、ホッとしました」

 

「優子……お前それ『ミカンを先程まではヤベー奴だとちょっとディスってたんだ』と言ってるようなものだぞ? それはそれで失礼じゃね? 今そう例えた俺も失礼だけど」

 

 

 つーか今よく考えたら、それを口に出してしまう俺の方が一番失礼なんだけどな……

 

 

「ハッ⁉︎ よ、よく考えてみたら確かに……すみませんでしたミカンさん‼︎」

 

「えっ……いや、別に褒められたって何も出ないし、ディスられても気にはしないわよ。……私、貴方達が思ってるほどまともではないわ。桃だって今頃……私の力のせいでピンチになってるかもしれないの」

 

「桃が、ピンチに⁉︎」

 

「ええ……最悪、街中で職務質問不可避な格好で困ってるかもしれない。だから早く見つけてあげないと‼︎」

 

「ミカンさんの力って一体⁉︎」

 

 

 うわー、他人を警察にお世話になってしまう恰好にさせてしまう力とは、一体どんな力なんだー(棒)。

 

 今の俺はミカンのこの話を聞いても『どうでもいい』と思っている態度になってはいるけど、それは原作で得た知識からミカンの力を理解しているからであって、こう見えてその力による暴走を警戒しています。どんな力なのか、だって? それは……

 

 って、そんな独り語りしてる間にいつの間にか先生や小倉さんから捨てるゴミ袋の追加を頼まれることになっていた。

 

 先生にプリントのシュレッダーゴミを捨てるのを頼まれたのはまだいい。だが小倉さん、にわとりの羽などの部活で使ったゴミの元は一体どこから調達したと言うのだ。あ、待て。逃げるな質問に答えやがれェ‼︎

 

 

「あ、あれ? さっきまでピカピカだった場所が……急にゴミまつりです」

 

「……まるでゴミ増量のバーゲンセールだな」

 

 

 我ながらなんだよゴミ増量のバーゲンセールって。何処ぞのプライドの高いツンデレ王子のモノマネなんてする必要ないやろうがい。

 

 

「やっぱり……今も呪いが抑えられてないみたい」

 

「呪い……⁉︎」

 

「ちょっと知らない場所で緊張してたのかしら……あ、やばっ、心拍数上がってきた……‼︎」

 

 

 それは……ちょっとまずいな。原作の物語には存在しないはずの俺がこの場に介入しているだけでも、ちょっとしたズレでミカンの呪いが強くなる可能性だってあり得るしな。

 

 

「二人とも……急いで‼︎ 私の力が暴発する前に、私から逃げて‼︎」

 

「えっ⁉︎」

 

 

 ヤベッ⁉︎ 優子が持ってるゴミ袋が光り出したぞ⁉︎ まずい、ゴミ袋が爆発しても周りに被害とかが起きないように、物の周りにシールドみたいなものを貼れる能力を持ってる召喚獣を出して……

 

 あっ、そういった能力を持った召喚獣はいないんだった。どうしろというんだよこれ、原作よりも被害が酷くならないことを祈るしかないってのか……?

 

 

 

「変幻術・祝福玉‼︎」

 

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

 刹那。突然ゴミ袋が青い球体に包まれだした。そして中で爆発音が鳴ったけど、周囲にゴミとかヤバい何かとかが散乱することはなかった。これには思わず俺も二人と一緒に呆けた声を発してしまう。

 

 えっ……正直助かったけど、何これ?

 

 俺まだ召喚獣を出してないんだけど。そいつに助けてもらったわけじゃないんだけど。優子の魔力の量と質でこんなことできるかというと難しいし、大体こんな唐突な事態にすぐ対処出来るわけないよな普通誰でも。ミカンかやっと来たかもしれない桃でも青色の魔法も出せるとは限らんし……

 

 じゃあ一体、誰がこんな大助かりな魔法みたいなものを……?

 

 

「よかった……間に合ったみたいだ」

 

 

 ふと聞き覚えのある……というかミカンに会うまで聞いていた声が再び聞こえてきたので、俺はその声がする方向へ顔を左向け左した。

 

 そこには、青いオーラらしきものを放つお札を持った右手をこちらに向けている拓海が、向こう側の掃除を終えてきたのかこちらに来ていた。

 

 

「二人とも、大丈夫だったかい? そこのオレンジ髪の人も」

 

「えっ、た、拓海くん……? あっ。は、はい。なんとか……」

 

「だ、大丈夫だけど……えっ? 何そのお札……?」

 

「拓海か……悪い、助かった」

 

「いやちょっと⁉︎ なんで貴方だけそんなに驚いてないのよ⁉︎ なんか魔法みたいなの使って私達を助けてくれたんだけど、誰なのこの人⁉︎」

 

 

 まあ二人は今の拓海を見たらそんな反応するだろうな。どっかの一族でもないかもしれない存在の奴が、いきなり魔力に似た何かを用いた術みたいなもので俺達を助けてくれたら、流石にビックリするわな。

 

 ちょうどいいや。拓海も隠し事をする状態や余裕はないみたいだし、これを機に二人に話すか、拓海が仙寿神社の陰陽師の一人であることを。

 

 

「ああ実はだな、こいつ、仙寿拓海は……」

 

「すまない、ちょっと離れててくれ。この霊術……変幻術は数秒後に爆散するくす玉というかクラッカーみたいに紙テープが飛び散ってしまうから」

 

「「えっ」」

 

「……は?」

 

 

 今、なんて言った? クラッカーみたいに、紙テープが……? は?

 

 

「ヤバい被害が出ないとはいえ、結局ゴミが散らかるだけじゃねェかその術はテメーコンニャロォォォォォォォォォッ‼︎」

 

 

 発狂するかの如くそう叫んだ瞬間、俺達四人は爆発による青い光に包まれた。そして、誰もいなくなった……嘘、みんな無事だわ。勝手に殺すなって話だよな。

 

 

 

 

 

 

 突然ですが、私シャドウミストレス優子は、桃と同じ魔法少女である陽夏木ミカンさんと出会った経緯についてお話しします。

 

 ミカンさんと出会ったのは日曜日の事。杏里ちゃんに商店街イチオシのゆるキャラ『たまさくらちゃん』の着ぐるみの中の人を任された時の事でした。

 

 その日は着ぐるみが結構重いし暑くて、チラシやアメ配って混乱してましたね。あと、子供達に人気なのはちょっと楽しいけど、たまさくらちゃんの設定公募がカオスってどういうこと⁉︎

 

 で、途中で足つまづいて倒れそうになった時に、ミカンさんに助けられました。その時はぶつかりたくない存在にぶつかってどうしようと思いました……

 

 なんでもミカンさんは桃から私との抗争によるざっくりとした誤報を聞いたらしく、それらしい魔族を見かけたら挨拶代わりに数発しばいて様子見しようと……

 

 この着ぐるみ脱いだら私の人生終わりそうなので、帰れるに帰れませんでした。結局余計な心配受ける感じで無理矢理脱がされて、思わず危機管理フォームになっちゃって……。その時は何故か、これまで白哉さんと一緒にいた時の事が走馬灯のように流れてきて、思わず『白哉さんさようなら』と諦めてしまいました……白哉さんともう会えなくなるの、正直嫌でしたけど。

 

 そしたらなんか謝られて、羽織るもの施されて、弱そうな子はしばかないと言ってきて……後は危機管理フォームからの戻り方を教えてもらいました。

 

 けどその時はたまたま桃と居合わせてくれたおかげで、誤解とかは色々と解かれた上にミカンさんが桃に助っ人を頼まれた魔法少女だと知ることができました。あと、ミカンさん結構いい人でしたね。

 

 

 

 

 

 

 で、今日に戻る。まさか別の町の魔法少女であるミカンさんと、たった二日でこの桜ヶ丘高校で再会するとは思ってもいませんでした。なんでも桃に案内してもらう形で、私の護衛のために転校することになって、そのための書類をもらいに来たのだとか。

 

 で、何故か白哉さんまでミカンさんと再会した時の軽いノリを見せてきたのですが……白哉さん、いつの間にミカンさんに会ったのですか? しかも私の知らない間に。

 

 ……なんだろう、まるで浮気されている妻の気分になっているような気がして、なんだか心苦しいし苛立ちを感じる……って⁉︎ な、な、何勝手に妻になっているんですか私⁉︎ 白哉さんと付き合っているわけでもないのに、何段階踏み倒してるんですか⁉︎ 妄想するにも程があるでしょ⁉︎

 

 えっ? 先週の日曜日に公園で落ちてきた大木から助けてくれた? あぁ、偶然出会った感じですか。よかった、私の変な誤解が当たらなくてよかった……

 

 ん? 先週の日曜日? 何かが引っ掛かる気が……その日は確か、私の初バイトの日で、白哉さんからお風呂借りようとしたら彼は既に寝ていて……

 

 あっ(察し)。そういえばその時、白哉さんから蜜柑かレモンの香水の匂いが少しだけしてたような………………あの、二人とも本当にすみませんでした。その日も白哉さんが浮気してるかもしれないと、そしてミカンさんも白哉さんに対して逆ナンパみたいなしているのではと、勝手に思い込んでしまって……

 

 ……いや、その日の事はもう忘れましょう。その……私がその日、そういった誤解をしてしまったせいで、寝ている白哉さんにしてしまったことを思い出してしまって、かなり恥ずかしくなってきたので……

 

 ミカンさんの言動や白哉さんも助けた経緯があった話からして、彼女は桃よりもまともなのかもしれないと思ったのですが、同時に本当は隠れ筋トレ好きなのかもしれないとも思って……えっ? ダンベルかお花かと言ったらお花? ………………普通の女の子だ。とてもいい人だ……

 

 けど、本人は私達が思ってるほどまともじゃないと仰ってきました。何故かミカンさんの力で桃が職質不可避な恰好になってるかもしれないとか言っているのですが、どんな力を使ったら桃がそうなるのですか⁉︎

 

 って、あれ? 気がついたら先生や小倉さんにもシュレッダーゴミやニワトリの羽とかのゴミを捨てるように頼まれて、ピカピカな場所がゴミまつりに……えっ? これもミカンさんの力と関係している?

 

 わわっ⁉︎ 突然私の持ってるゴミ袋がピンク色の光を放ち出した⁉︎ そしてビリビリと破れ始めている⁉︎ えっ、ちょっ、何これ何これ何これ何これ⁉︎ なんかヤバい予感が……

 

 って、あれ? 今度は青い光に覆われて収まりだしてる? えっ? ミカンさんの力ってそんなこともできるんで……いや、これはミカンさんの魔法にしては色が合わないし、白哉さんが魔法を使ったとも思えない。もしかして桃が駆けつけて……? いや、彼女も青色の魔法を使えるわけがないし……

 

 あ、そんなことを考えてたら、細かなゴミ拾いをしていた拓海くんが戻ってきて……えっ? 何ですかそのすごそうなオーラを放ってるお札は? どっかの魔法少女からもらったマジックアイテム? それを容易に使いこなしている感じですか? どういうことですか……?

 

 まあとにかく、何やら変な事態にはならずに済んだのでよかった……えっ? 数秒後にクラッカーみたいに紙テープが飛び散る? ……結局爆発するじゃないですかヤダー‼︎

 

 この後すぐ白哉さんがなんか発狂して、それと同時に青い光が爆発して私を包み込み……

 

 

 

 

 

 

 で、現在に至ります。飛び散った紙テープが結構私達に貼り付いて、何かの大型ドッキリ企画に巻き込まれた感じが……

 

 

「…… 何か起きた後だったか……」

 

 

 あっ。このタイミングで桃が来た……いや、何ですかその恰好は? なんかさっきまでパーティーに参加してたと言ってるような感じになってるし、なんか喋る小鳥が入ってる鳥カゴ持ってるし……確かにこれは職質不可避案件ですね。

 

 

「これは何が起こったのかな?」

 

「急にゴミ袋が限界になって……ヤバそうになったところになんか拓海くんが魔法みたいなもので助けてくれたんですけど、その魔法で何故か紙テープが散らかりました」

 

「……何その経緯」

 

 

 私だって聞きたいですよ。なんで魔族よりも強くて魔法少女に似たことができる人がまた発見されるんですか。しかもよりによってクラスメイトにまたいるって。白哉さんと言い、全臓くんと言い……

 

 

「突然すぎたから私達も何がなんだか……。それとごめんなさい桃……私、呪いを克服できてなかったみたい……」

 

「………………とりあえずさ、より一層散らかる前に片付けようぜ。話はそれをしながらでもできるからよ」

 

「あぁ……うん、そうだね。俺の霊術の選択ミスでこうなってしまってごめん……」

 

「いや、お前のおかげで被害が最小限に収まったんだ。気にしないでくれ」

 

 

 このちょっと重たい空気をなんとかしようとしてくれているのか、白哉さんが一言そう言ったおかげでみんな気持ちを切り替えることができました。さすがは白哉さん、いざという時の対処をしてくれて本当に助かります‼︎

 

 散らかっている紙テープを箒で集めながら、私達五人は状況を整理することにしました。

 

 まず最初に聞いたのは拓海くんの正体と、拓海くんが使った能力について。

 

 拓海くんは代々伝わる仙寿神社の陰陽師の次世代候補。彷徨う幽霊さん達を除霊したり、現世に留まって謳歌という幽霊さん達の住処を探してあげたりするのを主に仕事にしているらしいです。

 

 魔法少女の魔族に対する処置とは違って、相手側の事も考えて対応する……心配性な拓海くんに合ってる仕事なのかも。

 

 次に拓海くんの能力について。どうやら彼は先程使っていた青色のお札を使い、そこに体内の魔力……陰陽師では霊力と呼ばれてるでしたっけ。を通して、闘う手段や除霊などに用いる能力……霊術というものを使用しているらしい。なんか、覚えるのが難しいような……

 

 

「仙寿家はこれを陰陽札と言ってね、謂わば陰陽師が霊術を使うためのパスポートってヤツさ。これを使い始める頃は、霊力を自由自在に操ったり制御したりすることなどに慣れるために、日常でも欠かさず使うことを薦められるんだ。例えばご飯を食べる時の箸代わりとか、トイレットペーパーの代わりとか……」

 

「いや慣れるための使い道が変でしょ⁉︎ トイレットペーパーの代わりにって……そもそも物じゃないもので身体に付いたものって取れるものなの⁉︎」

 

「それが意外にもトイレットペーパーを使った時よりも結構綺麗にね。霊力は消せば自動的に付着した汚れも消えるし、結構使いやすいんだよ。……トイレットペーパー代わりはさすがに衛生面的に使うのはどうかと思うけど」

 

「ですよね‼︎」

 

「魔力に似たもので排生物を拭き取る……私でも嫌かな」

 

 

 あー……日常生活での使い道は魔法少女でも不評なものがあるんですね。確かに衛生面的に魔力や霊力とやらを使うのはさすがに……

 

 って桃? 今ナチュラルに女の子が言うのを躊躇う言葉を言い換えて発してませんでした? 貴様も女の子としてそれは少しどうかと思うぞ……

 

 

「にしてもその霊術っての、さっきみたいに対象の物を何かに変えるだけじゃなくて、浮かせたりもできるんだよな? 他にはどういったことができるんだ?」

 

「そうだね………………脇をくすぐるどころか近づかずに人をこちょこちょしたり、遠くからテレビのリモコンを取るのに使ったり、広範囲高威力の爆発を起こして悪霊を退治したり」

 

「地味‼︎ どれも使い道が地味‼︎ と思ったけど三つ目聞いてめっちゃすごいこともできる術もあって草生えた‼︎」

 

 

 例えのチョイスがおかしくないですか……? ほんのちょっとした悪戯のためだけに使ったり、普通なら面倒くさいと思う行動一つのためだけに使ったりって……。まあ最後の例はなんかゲームとかでいう魔法のブッパも出来るって感じで羨ましいのですけどね。

 

 

「さて、俺の話はもういいでしょ。次はそこの魔法少女……陽夏木さんの呪いについてだよね? 俺はそっちの方が気になってて仕方がない」

 

「また『俺がなんとかする』とか色々と言う気だろお前。これだから度の過ぎた過保護は……。まあ、呪いって言葉を聞かされたらどうしても聞かざるを得なくなるけどな」

 

「……ミカン」

 

「そ、そうね。私もどうしても話さないといけないとは思っているわ。みんなに迷惑かけたくないし……」

 

 

 ここで話題はミカンさんの呪いについてに変わりました。彼女は昔巻き込まれた事件の後遺症で、動揺……浮かれたり焦ったりすると『関わった人にささやかな困難が降り注ぐ呪い』が発動しちゃうらしい。大事ではないけど、結構ヤバめな呪いなのでは……?

 

 その証明となるのが、今の桃の恰好とここに来るまでに起こった経緯。早朝から生コンに埋まったり、老いた富豪から愛情を託されたり……はぐれてからも割と色々とあったみたいです。

 

 って生コンに埋まるってヤバすぎません⁉︎ よく桃大怪我とかせずに済みましたね⁉︎

 

 いや、呪いに巻き込まれた桃本人は『合流できたから問題ない』とか言ってますけど、受けた時点で大丈夫じゃないですよね⁉︎ どよーんとしてるじゃないですか‼︎

 

 ミカンさんも基本は大丈夫だとか、お守りとか落ち着くCDとか持って対処してるみたいですけど……。『落ち着いていけばいろいろうまくいくかも』というタイトルの本とか、木魚の音が流れるCDとかって……いくらなんでもラインナップのチョイスが独特すぎませんか? もうちょっとこう……他に何かあるのでは?

 

 

「でも……呪いが出てない時のミカンはとても頼れるから、期待してる」

 

「なっ……‼︎」

 

「いやそれだと呪い出てる時は良くないと思ってるんじゃ 「急にいい笑顔向けられても何も出ないわよ‼︎」 ちょっ⁉︎ 前が見えねぇ⁉︎」

 

「急な突風が‼︎ 集めたゴミが‼︎ 白哉さんの顔にたくさんの紙テープが‼︎」

 

 

 というかちょっとォ⁉︎ 桃貴様ミカンさんの呪いの事をよく知っているのだろう⁉︎ そうやって褒めたら呪いが出てしまうことぐらい桃なら分かるでしょうが‼︎

 

 あっ。よく見たら突風が起きてる中で拓海くんが、冷静に吹き飛んだごせんぞをキャッチしてくれました。ごせんぞ無事で良かった……

 

 にしても呪い、ですか…… 私と少し境遇が似ています。こっちは一つ呪いは解かれてますけど、自分の事で苦しんでいるところはまだ解決してないので同じですね。

 

 自分自身を制御しないと周りを巻き込み、傷つけてしまう。私の場合は白哉さんに関することでそうなるだけだし、なんとか抑えるようにはしてますけど、ミカンさんは擬似的に自分の意思とか関係なく呪いのせいでそうはならない……

 

 この違いを見てみると、拓海くん程ではないかもしれないけど、私もどうしてもミカンさんに手を差し伸べたくなりますね。なんとか呪いが発動しない程度にフォローしないと。

 

 

「えと……あの…… わっ、忘れがちだが私は魔法少女を狙うまぞくだから……未熟な魔法少女が身近にいるのは逆に好都合だ‼︎ 隙を見ていつか魔力を奪ってやるから、血液デトックスして待ってるがいい」

 

「なっ……」

 

 

 どうだ、この手助けしようとしてるのか貶しているのかわからない予告宣言は。これなら少なくともギリギリ呪いが発動されることは……

 

 

「不器用なフォローされても何も出ないわよ‼︎」

 

 

 結局発動してここら辺にだけ大雨が⁉︎ 難しい‼︎

 

 

 

 

 

 

 案の定と言ったところか、ミカンの呪いは原作通り本日だけで三回も発動してしまった。これだけ呪いが出てしまうと流石に彼女も辛いだろうな。

 

 もしもこの呪いがささやかなってレベルでは済まされなくなったら、ミカンは自分を責めてしまう。それはミカン自身の居場所が失われるのと同じようなものだ。それでさらに彼女の心境が酷くなってしまえば、それでこそ取り返しがつかなくなってしまう。

 

 そうならないようにするために、俺はどうやって立ち回りすれば良いのやら……

 

 優子とは違う苦しみを受けている彼女に、どう対応すべきか……

 

 

「……これは、放ってはおけないな。それもこれまで以上の難題だ」

 

 

 ファッ? 拓海、お前急にどうし……あぁ、また過保護モードに入ったか。

 

 ん? あれ? けどなんかいつもよりも雰囲気が違うというか、まだ口うるさい感じになってないというか……いやこれは多分、ミカンの呪いのことを考えて控えめにしてるだろうけど……

 

 いやホントお前、急にどうした? 一体何に目覚めたというんだよ?

 

 

「陽夏木さん。君は数年もの間、その呪いを抑えることは出来ても解かれることはなかったんだよね? その上、呪いのせいで周囲を傷つけまいと他者が近づくのを拒んできた……そうでしょ?」

 

「ッ……え、えぇ。万が一私の身に何かあってもいけないから、誰にも迷惑をかけたくなくて……」

 

 

 おっ? 拓海のやつ、どうやらミカンの図星を突いてきてるな。こいつ過保護すぎるが故にか、勘が鋭い時が多いもんな。ミカンの今の心境を悟ってやがる。

 

 ……俺今、拓海のことがさらに苦手になってきたかもしれない……

 

 

「俺達は少なくとも、千代田君みたいに君のことは知らないし、今まで呪いによってどれだけ苦しい思いをしてきたのかはわからない。まだ赤の他人視点でのレベル……今日見たものでしか呪いを見ていない。だからどう応えるのが正しいのかも分からない……けど」

 

 

 ここで言葉を区切る拓海。そして彼が次に取った行動が、俺達を動揺させた。何をしたかって? それは……

 

 ミカンの両手を掴み、包み込むように優しく握りしめたのだ。……ってオイ⁉︎ ちょっと待てや⁉︎ そんなこと急にしたらミカンがすごく動揺するでしょうが⁉︎

 

 

「えっ、ちょっ……ええっ⁉︎」

 

「それでも、やっぱりそんな君を放っておけない。俺は昔からこんな性分だから、余計なお世話だと思われるかもしれないってことくらい自分でも分かっている。けど……だからこそ、少なくとも俺はできるだけ君の力になりたい。それで災難が起きるってなら喜んで迎え撃ってみせる。どうか、俺達にもできることがあったら遠慮なく言ってくれ。頼む」

 

 

 おいコラお構いなしかよ⁉︎ そうやってミカンの両手を握るのやめろよ⁉︎ 夜ドラのラブコメみたいな感じに彼女の両手握るんじゃねーよ⁉︎ 顔真っ赤にされてんぞ⁉︎ ミカンの呪い出る‼︎ 絶対強い呪い出るって……

 

 

「そ、その……き、気持ちはありがたいのだけど、は、離れて……」

 

 

 ………………ん? んんん? アレ?

 

 

「ミカンの奴が恥ずかしがってるのに、呪いが発動しないだと……?」

 

「嘘……? 少しばかりの動揺なら発動しないのは分かってたけど、あそこまでされても発動しないなんて、私も初めて見た……」

 

「えっ……えっ? 何が一体どうなっているんですか……?」

 

 

 どういうことだ……? 何故呪いが発動してないんだ……?

 

 ミカンは急に拓海に手を握られて、その上に何処か告白みたいなことを言われたってのに、それらによって顔が真っ赤になってるって言うのに……

 

 

「へっ? これ陽夏木さんが動揺してるのか? すまない、今この手を離すね」

 

 

 って、当の本人はしらばっくれてるじゃねェか。テメーそんな恥ずかしいことを平然とやって何とも思わないってどういう神経して……

 

 あっ、わかった。これはあれだ。朴念仁ってヤツだ。相手があんなにも羞恥心まっしぐらだってのになんでこんなことになっているのか、自分がした行動で何故そうなっているのかすら理解していないヤツだ。

 

 こいつ……過保護すぎるのになんで相手が恥ずかしい思いをしてるってことに気づかないんだよ……。お前恋愛について一から学んでこいよ。

 

 

「………………あ、あ、あれ? なんで何も起きてないの……? わ、私、こんなにも恥ずかしい思いしているってのに……? な、なんでなのかしら……? えっ……?」

 

「ちょっ、発動してる‼︎ 今発動してる‼︎ 俺達三人の周りに木の葉が吹き荒れてるって‼︎」

 

「ミカンさん、今は落ち着いて⁉︎」

 

 

 あっ。これ突風や大雨と同じくらいのやばさだから、これは思ったよりも呪いが強く出てないってことか。時間差とか二回分の呪いが一度に発動したってわけじゃないけど、なんでミカンが拓海によって羞恥心を受けた時は呪いが発動しなかったんだ……?

 

 

「ああ、えっと……みんな、なんかごめん。特に陽夏木さんには余計なことをしてしまったみたいだ」

 

「えっ……あっ、い、いえ。別に今のは拓海が悪いわけじゃないわよ。それに、さっき拓海に『力になりたい』って言われた時は、本当はお言葉に甘えていいのかわからなかったけど……正直嬉しかったわ」

 

 

 おっ? 今回の拓海の過保護さは効果覿面してる? ミカンの表情がちょっと緩くなってるけど、大きな動揺とかじゃないから呪いが発動してない。ちょうど良く感情が安定している状態ってことか?

 

 なんだ、こいつの過保護さは偶には結構役に立つじゃん。

 

 

「今日は強めに呪いが出ているけど、これからは心拍数上げないように頑張るわ‼︎ それも徹底的に‼︎」

 

「そ、そっか……よかった」

 

 

 ミカンの決心を聞いた拓海も安堵した様子を見せてるな。よかった、二人に変な心の溝ができるってことはないみたいだ。

 

 

「…… 慣れない場所で不安定になってるんだと思うし、ミカンが落ち着くまではなるべく私もサポートする」

 

「ああ……えっと、何ができるか正直よく分かんないけど、俺もできるだけミカンが動揺しないように考慮するか」

 

 

 うん、桃に続いてミカンのためにできることを宣言しようと思ったけど、具体的なことが思いつかなかった……でも、呪いのせいで困ってるのなら放っておけないって気持ちは、拓海ほど酷くはないけど同じだ。

 

 今はどうしていけばいいのか分からなくても、分からないことなりに全力で困ってる奴のことのためにできることをしてみせる。これは優子のためを想ってしてきたことと同じだ。ミカンの場合はそれができるかはわからないけど、俺だって……

 

 

 

「……でもミカンさん転校してくるんですよね?」

 

 

 

 あっ……

 

 

「挨拶の時とか緊張しませんか? 大丈夫ですか? 何組になるのかなー」

 

 

 素で忘れてた。そういえばミカンこの学校に転校するんだった。それを指摘した優子によって桃が長考に入るんだった。

 

 つーか優子? お前何これからのミカンに関する課題増やしてきてんの? 空気読んで?

 

 おい拓海。桃がどんな反応するのか分からなくて困りそうだから、お前がなんか意見を……

 

 あっ、目ェ逸らしやがったよチクショー……。わりぃ、俺もここフォローできねェ。

 

 

「ちょっ、ちょっと⁉︎ みんなして無言はやめてください‼︎」

 

 

 誰のせいでこうなったと思ってんだ。俺達は無言。無言でやり切らせてもらうからな。

 

 ちなみにこの後の原作でのゴミ袋からごせん像を探す場面ですが、拓海が必死にごせん像が飛ばないようにキープしてくれたので回避されましたとさ。

 

 




まさかのミカンが拓海君のヒロインとなるのか⁉︎
とりあえず白哉君のヒロインの一人になってシャミ子と修羅場になることは回避されたのでヨシ‼︎(現場猫風)

感想気軽によろしくお願いしまーす。



おまけ:台本形式のほそく話その3
桃「今日はシャミ子達に会えてよかったねミカン。シャミ子も白哉くんも、拓海くんも味方になってくれたし、これなら転校する時の心配もないんじゃないかな?」
ミカン「そうね。でもその事を優子が指摘した時に誰もフォローしてくれなかったのは、ちょっとアレだったけど……」
桃「あっ……それは本当にごめん。どう声を掛ければいいのか分からなかったから……」
ミカン「別に平気よ。私も緊張した時どうしようかと考えるの忘れていたし、どっちもどっちでしょ?」
桃「それもそうだね。今はそうなった時のために備えて、お互いに出来る事が何なのかを考えておこう」
ミカン「えぇ、そうね。……にしてもあの拓海って人、ウザいと思われる程の過保護キャラだったなんてビックリだわ。魔法少女じゃないのにあんなにヤバめの性格を持ってる人がいるだなんて……」
桃「私も会うのは今日が初めてだけど、彼の性格にはホント驚かされたよ。私達が呪いを受けた時に誰よりも先に心配事をペラペラと口にしてくるものだから、思わず混乱しちゃった」
ミカン「………………(けど、私のために何かしたいと言ってきた時のあの目と手を握る仕草は反則よ……)」
桃「ミカン? 顔が赤くなってるけど、大丈夫?」
ミカン「えっ⁉︎ あ、いや、な、なんでもないわよ⁉︎ なんでもない‼︎ ほ、ほら! 今呪いが出てないってことは、問題ないのと一緒でしょ⁉︎」
桃「まぁ、それはそうだけど……」
ミカン「(ア、アレ? 私、なんでこんなにもドキドキしてるの……? そしてなんで呪いが出てないの……?)」
桃「(……アレ? シャミ子といいミカンといい、なんか私アウェーにされてる気が……)」

END
 


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危機管理フォームになれ? いやちょっと待ってください心の準備をさせてください‼︎ by.シャミ子

メリークリスマスイブ‼︎ ってことで初投稿です。
だが内容は特別編とかではなく、いつも通り原作を進めてるだけなので悪しからず。特別編みたいなものはある程度本編を進めて、人気度がさらに高ければやろうと思ってます。

前回投稿した日は平日投稿の効果が今ひとつなのだと知り、ショックを受けました。夜に投稿したのにその日はお気に入りする人すら増えないどころか、投稿初日に一人減るってどういうことなの……(泣) 今は少しだけ増えましたが。

今回はシャミ子視点多めというか、ほぼシャミ子視点となります。偶には白哉くんにばかり語らせなくてもいいかなーって思ったし、今回はそうした方がちょうど良いかもと思ったので。

よく考えたら、最近シャミ子のヤンデレ描写書いてない気がする……


 

 どうもみなさんこんにちは、最近優子のヤンデレ疑惑な場面に遭遇してない気がする……ってことに今頃気づいた白哉です。いやでもそれってさ? 優子の心が安定しているってことじゃないかな? ハッハッハ……(s○amu風)

 

 けど、逆に別の不安が募ってきたのは俺の気のせい? 気のせいじゃないよね? 何かに期待してるわけじゃないよね? 知らんけど。

 

 まあそんなことは置いときましょう。優子がヤンデレってないのなら深く追求する必要などナッシングだからな。寧ろ心の余裕を持てるようになった彼女を応援するべきだ。優子、頑張れ。

 

 まぁそれはさておき、昨日何があったのかをおさらいさせて。

 

 昨日はこんな感じに、簡潔にまとめるとこうなる。

 

 

・優子と拓海と杏里の四人で校庭の掃除

 

 

・杏里が体育祭実行委員会の呼び出しで離脱

 

 

・拓海もさらなるゴミ集めのために離脱

 

 

・そこに別の学校の生徒のはずのミカンと再会

 

 

・転校の書類をもらうために桃に案内してもらいながら来たとのこと

 

 

・優子がミカンが普通の魔法少女かどうかをチェック、問題なし

 

 

・いつの間にかゴミ祭り

 

 

・優子の持つゴミ袋が爆発寸前

 

 

・拓海が霊術で爆発を防ぐ

 

 

・と思いきやクラッカーのように結局爆発

 

 

・ここで職質不可避な格好をした桃が合流

 

 

・拓海の陰陽師の力とミカンの呪いの事についての情報交換

 

 

・桃のうっかり褒め称えと優子の不器用なフォローで呪いが連続で再発

 

 

・拓海がミカンの手を握りながら告白に近いお助け宣言

 

 

・しかしこのタイミングでは呪いは発動しなかった

 

 

・この事実にミカンが動揺したことで結局発動

 

 

・何はともあれそれぞれがミカンの呪いに向き合うことに

 

 

 ………………長めの説明、失礼しました。簡潔とは。

 

 まあ要するに、だ。拓海の正体が陰陽師であることが、優子・桃・ミカンの三人に知れ渡ることとなり、俺達はミカンの呪いに巻き込まれてしまったってことだ。それでもお互い普段通りと変わらず接しているだなんて予想だにしなかった。

 

 けどそれよりももっとビックリしたことが。それはその日の拓海の行動が、ミカンの呪いを一時的に発動させなかったことだ。その後ミカンがこの事実に気づいた時は結構動揺して、結局呪いが発動しちゃったのだけども。

 

 なんで拓海がラブコメよろしくな行動……朴念仁による両手のラブ握りと告白もどきをしても、それでミカンの顔が真っ赤になっても、強い呪いどころか弱い呪いすらも出ていないんだ……? 感情によっては出しても大丈夫なヤツとか、そういったものもあるというのか……?

 

 ……いや、これ以上深く考えない方がいいかもな。多分アレだ、紛れで呪いの発動するタイミングが運良く外れてもらったとか、何かしらのインターバルが偶々発生したそんな感じだろ。つまりは運だろ。そうだろ。

 

 んなことよりも、今日も桃による強化特訓があるからやっておかないと。桃の熱が治ってからは放課後毎日のようにあるからなこれが。というか、やらないという選択肢は出してくれない感じなんだ。いつも俺と優子は校門とかで待ち伏せされてるから。

 

 しかも運が悪いことに、今日に限っては放課後に拓海の奴が俺と優子に『今日も修行があるよ』と伝えてきたり同行したりしているんだよなぁこれが。なんでも陰陽師の力でも何か俺達を強くする術があるのではないかと考えて、一緒にやることにしたんだとか……

 

 いや、よく考えたら拓海がそんなこと考えてるとは思えない。他人の怪我とか調子とかをしつこく心配する奴が、スパルタの域を遥かに超える時がある修行に賛同するはずが……

 

 さては桃に何かで買収されたのか⁉︎ グルになったのか⁉︎ 杏里みたいに刺客になったとでもいうのか⁉︎ もしそうだとしたらゆ ゙る ゙さ ゙ん ゙‼︎

 

 けど、どのみち今日は修行することは避けられないんだ。とりあえず今から優子と一緒に桃に河川敷へと連行されるとこなので、そのまま修行へ逝テキマ-ス‼︎(遠目)

 

 ………………わりぃ、(多分)俺と優子死んだ。

 

 

 

 

 

 

 誰に向けて喋ってるのか自分でもわかりませんが、とりあえずみなさんこんにちは。シャミっ、シャドウミストレス優子です。いい加減この活動名をスラスラと言えるようになりたい……

 

 最近放課後は白哉さんと一緒に桃に拉致されて……じゃない、呼び出されて修行しています。いくら私達を強くさせるためとはいえ、校門前やロッカールームで待ち伏せしたり、拓海くんにお願いして修行しろと伝えてもらったりするのやめてくれません? なんでそう徹底してまで私達を鍛えさせたがるんですか……

 

 あと、修行の監視みたいなポジションで同行してきた拓海くんは兎も角、何故ミカンさんまで一緒に……? 無理に同行していただく必要なんてないと思いますが……

 

 って、拓海くんは一体何してるんですか。私達がストレッチとかで体動かしてる時に、何故一人だけ座禅? いや、これは瞑想というべきかな? これもトレーニングになり……なるんだった。イメージトレーニングってヤツだ。

 

 あっ、桃がなんか発光する特製プロテインを渡してきてくれた。これ栄養って感じの味がするので全然いけます飲めます。ありがとうございます。

 

 このドリンクはこの前白哉さんも一度飲んでみたらしいのですが、その時は何故か数分の間だけ口の周りも発光してました。いやどういう仕組みになっているですかあのドリンクは? 味は案外良い味してたとは言ってましたけど。

 

 あと、桃が何故か白哉さんに飲んだ後の記憶とか大丈夫なのかとしつこく質問してたけど、何を心配していたんだろう……?

 

 

「そういえばシャミ子、この前の変わった格好の件なんだけど」

 

「この前? あぁ、たまさくらちゃんのことですか」

 

「違う第一たまさくらちゃんは変わってなどいない寧ろゆるキャラとしては正統派な格好をしている───」

 

「ああいいです‼︎ すみません‼︎ 落ち着いてください‼︎ っていうかたまさくらちゃんに対するその熱は何なんですか⁉︎」

 

 

 ちょっと⁉︎ なんで桃はそんなにたまさくらちゃんを推してくるんですか⁉︎ しかもけっこう早口‼︎ あとたまさくらちゃんの話してる時の目が怖い⁉︎ どんだけ好きなんですか⁉︎

 

 さては貴様隠れオタクか⁉︎ ゆるキャラオタクなのか⁉︎ 手に入れてよかったのかわからなかった情報だったぞ⁉︎

 

 

「おいおい、話を脱線させるなよ。で、変わった格好って一体なんの話だ?」

 

 

 あっ、白哉さんが本題に戻してくれた。やっぱり常識人でいてくれて本当に嬉しいです。助かりました。

 

 

「……そういえば白哉くんや拓海くんはあの場にいなかったね。シャミ子とミカンが初めて会った時……シャミ子がショッピングセンターで全裸になってた」

 

「なんだその表現は‼︎ 全裸じゃないです半裸です‼︎」

 

 

 男子の前で堂々として誤解を招くような発言するのはやめてください‼︎ 状況の把握ができる白哉さんと人の良い拓海くんだったらまだマシかもしれないとはいえ、もしこの説明を聞いた男子の中に下心の強い人がいたらどう責任取るというのですか‼︎

 

 いや、よく考えたら白哉さんでも拓海くんでもダメじゃないですか⁉︎ 拓海くんなんかこの世で一番信じられないものを目の当たりにしたかのように目を見開いていたし、白哉さんは拓海くんよりは驚いてはいませんでしたけど想像してしまったのか耳まで真っ赤になっている顔を背けているし‼︎ 何これ⁉︎ 何の羞恥プレイ⁉︎

 

 は? そこはどっちでもいい? どっちでもよくあるかー‼︎ 全裸と半裸は全然別物です‼︎ どっちも破廉恥な格好でかなり恥ずかしいものですけど、露出度はかなり違っているんですよ‼︎ ……ってなんの話してるの私⁉︎

 

 ただ、その半裸になった時の私の格好──危機管理フォーム──については私もよく分からないので、ごせんぞに説明していただくことに。

 

 あの格好はごせんぞがプロデュースした、一族の力を強くするために最適のフォームらしいです。強さは普段よりは若干強い程度で、私に集中力がつけば昼も夜も授業中も四六時中変身状態だそうで……

 

 って、何その『どこにでもいる町の変質者と化した女子高生』みたいな感じは⁉︎ 不審者として回覧板デビューされちゃうのでやめて‼︎ 桃もごせんぞに怖い相談しないでください‼︎

 

 

「すみませんリリス様。シャミ子君の半裸の姿がどんなのかは分かりませんけど、子孫も結構嫌がっているらしいので変更させた方が良いのでは? 例えば異世界漫画とかで出てくる魔王の格好とか……」

 

 

 お、おぉ……‼︎ ここで意外(?)な方面から救いの手が‼︎ 拓海くんのがリテイク案件を出してくれました‼︎ 私の肌の露出具合を気にしてくれていたのですね‼︎

 

 ……この意見を出してくれる人が白哉さんの方がよかった、と言ったら我が儘になりますけど。

 

 

『……何故だ』

 

 

 えっ、なんでごせんぞそんなに戸惑っているんですか。衣装変更の何が不満なんですか。思ったよりも傷つくんですけど。

 

 

「逆に何故理解できない顔をしてるんですか。頭沸いているんですか」

 

「少なくとも過保護キャラのお前の口から出していい言葉じゃねーだろそれ⁉︎ つーか思ってても言うな‼︎ 古代からの種族の先祖様だぞ⁉︎」

 

『……余たちは種族の問題で肌を出しまくった方が戦闘力が上がるのだ』

 

「………………他に戦闘力を上げる方法とか思いつかなかったんですか」

 

 

 いやちょっと待ってください? さっき失礼なこと言うなと言ったばかりの白哉さんも、ごせんぞに対して何かを諦めたかのような顔を見せているじゃないですか。人の事を言えないじゃないですか。いくら白哉さんでもごせんぞに失望するような感じを見せるのはどうかと……

 

 

「何はともあれ、変身したらシャミ子がどれくらい強くなれるのかは気になるね。じゃあシャミ子、その『危機管理フォーム』の性能テストしたいから今変身してみて」

 

「こんな往来で⁉︎ 嫌です恥ずかしい‼︎」

 

「……でも町やシャミ子に危機が来たら、往来だろうとなんだろうとバリバリ変身しなくちゃいけないんだよ」

 

 

 そ、それはそうですけど……。今この場には少なくとも二人の男子がいるんですよ⁉︎ しかもその内一人は幼馴染の白哉さんですよ⁉︎ そんな状況の中でやるような格好じゃありませんよ‼︎

 

 というか、仮に白哉さんや他の男子がいなくても、あのフォームはただでさえ露出が多いからいきなり人が通りやすい場所ではやりたくないです‼︎ せめて最初は私達しかいない場所でやらせるとか、初歩的なことも考えてくださいよ‼︎

 

 って、ちょっと? 何こちらの耳元にまで寄ってきてくるんですか? 無言で近づかれると怖いのですが。

 

 ……あれ? なんか前にも似たような境遇を受けていたような……。こういう時の桃は私にだけ聞こえるような状況を作って、私をおちょくってたような……

 

 

 

「あと、これは私事でもあるんだけど……そのフォームを白哉くんに披露することで、大好きアピールを演じれる絶好のチャンスでもあるんだよ?」

 

 

 

「ぶえっ」

 

 

 は、はがっ……。お、思わず女の子が出してもいいものではない声を出してしまいました……

 

 そ、そうだった。前にも魔力修行の時にヒソヒソ話で『白哉さんに大好きアピールしたら?』とか言われてたんだった……

 

 こ、こちらにも心の準備があるし、そ、そんなことしたら白哉さんがどう思うのかも分からないというのに、だ、大好きアピールを他の人の前でするなんて、痛々しい人がするようなものじゃないですか……‼︎

 

 し、しかも今度は危機管理フォームになって⁉︎ ど、どうやって危機管理してから大好きアピールするのか分かりませんけど、嫌な予感しかしません‼︎

 

 あの露出の高さを利用して、何かしらのアピールをさせられるかもしれない‼︎ どんな感じにさせられるのかは想像出来ないけど、絶対私も白哉さんも恥ずかしい思いをするに決まってる‼︎ 絶対なってたまるかー‼︎

 

 ………………いや、前言撤回。これは結構チャンスなのかもしれない。

 

 これまで私は愛が重たくなる自分を恐れて、白哉さんに猛烈なアピールをしていない。そんなことをして、もし白哉さんからの好感度が高くなってしまったらどうしようとか、それでさらに私の愛の重さが大きくなったりするのではないかとか、そういった不安も感じているのだから。

 

 でも……危機管理フォームを白哉さんに見せる程度なら、そんなに酷い進展はないと思う。私の格好を見て恥ずかしくなるのか、『エロい』とかのちょっと恥ずかしい言葉をかけてくれるのかのどちらかにはなるのかもしれない。そうなるくらいかなと考えたら、変身しても……

 

 あっすみません、やっぱりまた前言撤回します。やっぱりあんな格好を白哉さんに見せるのは恥ずかしい‼︎ そして大好きアピールをしてミカンさんと拓海くんにも見せつけてしまうってのも考えると、さらに恥ずかしくなる‼︎ 羞恥死してしまいます‼︎ そんなのは絶対に嫌だ‼︎

 

 あと、もしかすると白哉さんがいろんな意味で獣になってしまうのかも……。そんな白哉さんも見てみたいけど、こっちはその先の事を考えると心の準備ができません‼︎

 

 しかも往来の場でやったら通報案件どころか警察沙汰ですし‼︎ そうならなかったとしても史上最大の羞恥心によって私達は壊れてしまいそうですし‼︎ 特に獣になってしまった白哉さんが‼︎

 

 や、やっぱりダメだ……‼︎ ど、どうにかして強制変身ルートを回避しないと……‼︎

 

 

「じゃ、じゃじゃじゃ、じゃあ……桃が変身してくれたら私も変身します。イヤだろうククク───」

 

(りょ)

 

「………………」

 

 

 た、躊躇いもなく例のプ○キュアよろしくなフリル付き派手ピンクの魔法少女衣装に変身した……

 

 頑なにフラッシュピーチハートシャワーを出すのを躊躇っていたのに、ハートフルモーフィングステッキをただの棒だとか否定していたのに、何故変身する方は躊躇なしにしてくれるんですか……

 

 って、よく考えたら桃は大事な場面とか緊急事態の時とかは往来の場でも変身するんだった。そういうタイプだった……

 

 結局、白哉さんの目の前で危機管理しないといけないんですね……。白哉さんが獣になったり、何かしらのトラブルで私から重い愛が出ないことを祈るしか……

 

 

「桃の戦闘フォーム久々に見たわ‼︎ やっぱきゃわわ系よね〜……でも小学校の頃やってたあれは、もうやめちゃったの? 変身の時にクルクル回ったりしてたわよね? あっちの方が良くない?」

 

回る

 

「回る?」

 

「回る」

 

「回る……」

 

「……一人ずつ言わなくていい」

 

 

 おぉ……⁉︎ 私だけじゃなく、白哉さんも拓海くんも思わず続けて言ってしまう程の、今の桃とのギャップの違いの情報源がここに……‼︎ 白哉さんに危機管理フォームを見せることについてはどうするか? そんなのは後回しです‼︎ ミカンさんその件について詳しく‼︎

 

 何なに……? 昔の桃は変身の時クルっと回ったり、ウインクしたり超可愛かった? えっ、何それ。何そのいつもクールぶっていた桃の貴重なわんぱくでキュートな一面があるよー、みたいな説明は。見たい‼︎ すごく見たい‼︎ 結構気になる‼︎

 

 

「でもそれをいじり散らかしてたら、ものすごいスピードで変身するようになって」

 

「え〜‼︎ もったいない‼︎」

 

「もったいないわよね。変身中はこんなはじける笑顔も見せてくれるのよ」

 

「いやどっから出したんだよその写真。つーか変身中のところをよく撮れたなそれ」

 

 

 おお、今気にするべきツッコミを白哉さんがしてくれたように聞こえましたが、それよりもミカンさんが出してくれた桃の笑顔の写真、中々良いじゃないですか‼︎ こんなにもプ○キュアオファーが出そうなニコッとした笑顔はそう見られな……

 

 うわっ、はじけた⁉︎ ホントにはじけた⁉︎ 笑顔じゃなくて写真が‼︎

 

 い、今のは桃がやったのですか⁉︎ もしかして、今のがフレッシュピーチハートシャワー……えっ? ただの物理攻撃? パンチで風圧出しただけ? ……身○手の極○に目覚め始めているんですか……?

 

 

「ミカン……今日の夕飯は買い弁じゃなくて私が作るね」

 

 ごはん兵器製造工場

 

「あっ、話しちゃダメだったかしら⁉︎」

 

「ああ……欠点を脅迫の武器に変えてまでして守りたいプライバシーってヤツかな? これ以上この話題は広げないでおこうか」

 

 

 というか今、変なテロップが出た幻覚でも見えませんでした? ……とにかく、今日のところは子桃の事とかを聞けるような状況じゃないですね……

 

 

「……そいえば、何故ミカンさんもトレーニングを?」

 

「別にいいでしょ。転校するまで暇なのよ」

 

「他にも暇つぶしになることとかあるんじゃないのかい? 買い物とか色々……」

 

『いや、言ってやるな拓海よ……分かるぞミカンよ。忘れられて部屋にぽつねんと一人は寂しかったんだろう……? 居ても立っても居られなかったんだろう……? わかるぞわかるぞ』

 

「なっ……ぜんっぜん寂しくないですけど‼︎」

 

 

 あっ……(察し) ごせんぞよく忘れてしまって学校に連れて行かなくてすみませんでした……

 

 って⁉︎ ごせんぞが通りすがりの大蛇に巻きつけられた⁉︎ これってもしやミカンさんの呪いが……いやよく考えたら河川敷に大蛇ってあり得なくないですか⁉︎ こんなのが動物園やジャングル以外のところにいたら今のところ大騒動ですよ⁉︎

 

 えっ? 桃がまた砂漠縦断マラソンすることになったら悪いから落ち着かないと……? 桃は砂漠を縦断してから来たんですか⁉︎ ってかどんな呪いが出たら砂漠にまで飛ばされるように⁉︎ ……まさか鳥取砂丘にまで飛ばされたわけじゃないですよね……?

 

 

「ミカン大丈夫、落ち着いて……私に迷惑かけることについては気にしなくていい。その分ミカンは強いから、最大限力になってくれるって信じてる」

 

「桃……………… 別にそんなこと言われてもキュンキュンしませんけど‼︎」

 

「おいコラうっかり魔法少女‼︎ それ以上ミカンの心を刺激すんな‼︎ たった今リリスさん大蛇に咥えられてんだぞ‼︎」

 

「ごせんぞー‼︎」

 

 

 ああもう‼︎ 大蛇ごせんぞから離れてー‼︎ あ、すぐ離してすぐ帰ってくれた……

 

 にしてもミカンさんの呪いの対処も大変ですね。変に心を刺激させたら発動してしまうし、かといって何かしらの対策とかしないのもアレだし、どうしたらいいのか……

 

 

「えっ……? ちょっ、ちょっと拓海……?」

 

 

 って、あれ? なんか、拓海くんがミカンさんの背中撫でてませんか? それでミカンさんがビックリしちゃって、また呪い出たりしたら大変なことになるんじゃ……

 

 

「ああごめん。どうしても陽夏木さんのことが心配で背中撫でちゃったけど、迷惑だったかい?」

 

「えっ。あっ、い、いえ、す、少しだけ、落ち着いたのだけど……ちょっと、もうやめて……」

 

 

 あ、あれ? ミカンさん顔真っ赤になってあわあわしてるのに、呪いが発動しない……? あっ、昨日もこんな感じに拓海くんの無自覚な行為でミカンさんが顔真っ赤にしてたんだっけ。その時も呪いは出なかったんでした。

 

 でも、今日と言い昨日と言い、なんで拓海くんがミカンさんを恥ずかしくさせたら呪いが発動せずに済むんだろう……?

 

 

「ああ……なんだ、昨日の拓海くんのミカンに対する行動は紛れじゃないんだね。なんで昨日や今日みたいにそうなるのかは分からないけど、拓海くんはミカンの心を安定してくれる存在なのかな?」

 

「思ったとしても口にしていい考察やタイミングもありますよ……」

 

 

 というか、その事を指摘したら……

 

 

「えっ……? 嘘、た、拓海に知らぬ間にせ、背中撫でられたのに、何も起きて、ない……? ど、どういうこと……? これ、私がおかしくなったの……?」

 

「いやまずは落ち着け⁉︎ 俺のところにすごい勢いでチラシや新聞紙が飛んできたんだけど⁉︎ ヘブッ」

 

 

 うわっ⁉︎ 急な突風で飛んできたたくさんの紙が白哉さんの顔に⁉︎ しかもそれより下には当たってないって、どんなピンポイントな呪いが出てるんですか⁉︎ あっ、二十枚目が出たところで治った。

 

 

「……とにかく約束でしょ、変身変身。頑張ろう」

 

 

 うげっ⁉︎ 桃の変身の話やミカンさんの呪い、それに対する拓海くんの行動の三つの唐突なイベントで忘れてくれると思ったのだけど、そうはならなかった……

 

 ううっ、結局男子二人もいる中で変身しないといけないのですか……。なんか今日の桃強引です……

 

 

「……白哉さん。拓海くん。私の変わった姿を見て、失望したりとかそういう変な顔しないでくれませんか……?」

 

「何言ってんだよ優子。いつもよく一緒にいた幼馴染を失望なんてしねぇよ。……上手くフォローとかできるかは不安だけど、お前を傷つけないようにすることは約束する。な? 拓海」

 

「えっ? あ、ああうん。もちろんそのつもりだけど。あと、いざという時は念のため目を閉じておくから」

 

「そ、そうですか……。ま、まぁそれなら、私も腹を括りますね……」

 

 

 ウゥッ、正直二人には『見ない』という選択肢を選んでほしかったですけど、二人は私の危機管理フォームを見てないし、桃やミカンさんに特徴を伝えられてないのですからね。あのフォームがどれだけ恥ずかしいものなのか、まだわかるはずもない……

 

 えぇいままよ‼︎ どっちみち変身しないと最悪帰れないんだ!! そんなに『なれ』と言うのならなってやりますよ!!

 

 

 

「危機管理ー‼︎」

 

 

 

 ………………

 

 

「何にも起きないけど?」

 

「……イントネーションを間違えたんじゃね?」

 

 

 ア、アレ? 何の変化もなし? い、いや、そんなはずは……

 

 

「危機管理ー‼︎ 危機管理ー‼︎ 危機管理ー……? きかっ、ききかんりー‼︎」

 

 

 な、何度叫んでも私の服装は体操着のまま……なんで⁉

 

 

「……ごめんね」

 

「謝られるのが一番キツいんですよ‼︎」

 

 

 ど、どうして何度叫んでも変身できないんだろう……? ごせんぞ、これは一体どういうことなんでしょうか?

 

 えっ? あれは私がマジの危機感を感じてないから? ビックリした時の強烈な魔力の流れで変身するのが危機管理フォームの特徴? ……肌を露出しすぎてる上にお腹が守れていないという危機管理感がない格好なのに、なんで危機を感じてる時が変身できるタイミングなんですか……

 

 って、ちょっと桃⁉︎ 急に私の尻尾を掴んで何するつもりですか⁉︎ 『多魔川』の文字が書かれた看板に結び付けないで⁉︎ そしてステッキ構えないで⁉︎ フレッシュピーチハートシャワーをブッパしないでくださいよ⁉︎ 助けてー‼︎ 助けてー‼︎

 

 

「……なぁ桃。優子が危機管理フォームになれるためにすべきことをしてくれるのは否定できないけどさ? 本人がめっちゃビビってるから───」

 

「当てないようにすればいいんでしょ? 大丈夫、フレッシュピーチハートシャワーは寸止めにも対応しているから」

 

「当たらないようにするのはいいことだけどそうじゃねェよ⁉︎ 最初はそれほど痛くないものかビビりやすさが薄そうなものとかにしろって言ってんだよ‼︎」

 

 

 びゃ、白哉さんが庇おうとしてくれてるけど、あまり意味無さそう⁉︎ だって桃がフレッシュピーチハートシャワーをやめてくれる気配がないんだもの‼︎ 全力で放つ気満々だもの‼︎ ぶっ放し系の技名に聞こえるから寸止め出来なさそう‼︎

 

 

「じゃあいくよ。せーの」

 

「だからまずは優しいものとかで───」

 

「ひいいい‼︎ でもちょっとワクワクする‼︎」

 

「せっかく助けようとしたのに裏切られたから離れまーす」

 

「ああごめんなさい⁉︎ 白哉さんごめんなさい‼︎ うらぎりまぞくになってごめんなさい‼︎ だからそこから離れないで‼︎ そして幻滅しないで‼︎」

 

「幻滅とか嫌いになったりとかはしてないから歯ァ食いしばっとけ」

 

「怒ってはいるじゃないですか⁉︎ 本当にごめんなさいィィィ‼︎」

 

 

 ………………ん? アレ? 桃が『せーの』と言ってから、魔力さんらしきものすら出してくる気配が一切ないのですが……

 

 まさか、今の私と白哉さんの会話を、め、夫婦漫才か何かと思って一旦停止してた……⁉︎ いや考えすぎだってのは分かってますけど、正直夫婦にはなりたいんですけど……なんか弄ばれてる気がして腹立つわー‼︎

 

 えぇい、放つならさっさと放ってくださいフレッシュピーチハートシャワーを‼︎ アレどんなものなのか正直結構気になっているんですし……

 

 

「ダメだ、連日の疲れが……」

 

 

 って桃⁉︎ どうしたんですか突然膝ついて⁉︎ 一体何が起きて……?

 

 この後桃は数分寝ることにしたようですが、一体何故……?

 

 

 

 

 

 

 夕日が立ち昇り始め、カラスの鳴き声を響かせながら河川敷を照らす中、私達はベンチで寝ている桃を見つめていた。最近の桃は以前にも増してグイグイ系に見えるとか、思ったより消費が激しくて焦っているのではないかとか、そんなことを話し合いながら。

 

 桃、結構な負担を抱えているのかな。私がうっかり生き血を取った時とかは私と白哉さんにも自分と同じ使命を担わせるようにグイグイ来ていたし、『この町を守りたい』とかも呟いていたし……

 

 私達の知らないところで、桃は一体どんな運命を背負っているんだろう……

 

 

「このままだとちょっとまずいかしら」

 

「まずい? どうしてだい?」

 

「魔法少女って魔力を使いすぎると消滅しちゃう場合があるでしょ。しばらく無理させない方がいいわ」

 

「うわっ、それは魔法少女にとってはかなりの大事じゃねェか。俺達も何かしら慎重に対処出来ればいいんだけどな……」

 

「そうですね……」

 

 

 ……ん? 今、なんか聞き捨てにならない言葉がミカンさんの口から聞こえたような……白哉さんもかなり苦い顔して反応していたような……

 

 

「……って……今なんて⁉︎ 消滅⁉︎」

 

「どういうことだ⁉︎ そんなの聞いていないのだけど⁉︎ 何故白哉君はそれ聞いても仰天してないんだ⁉︎」

 

「えっ知らなかったの⁉︎」

 

「バカッあんまそんな反応すると……」

 

 

 おわっ⁉︎ 突然私の頭に鳥の巣が作られ始めてる⁉︎ 拓海くんの足元にもモグラが寄って集って来てる⁉︎ しまった、ミカンさんの呪いの事を忘れてた‼︎ 白哉さんはこれを考慮して自身の動揺を抑えていたんだ⁉︎ とりあえずミカンさん一旦落ち着いて‼︎

 

 なんとか落ち着いてくれたミカンさんは、魔法少女の事について教えてくれた。

 

 桃も言っていた、魔法少女は体のほとんどがエーテル体に置き換わってる存在だと言う事。魔力がなくなると体を固めてるつなぎがなくなって、形が保てなくなると言う事。死ぬわけじゃないけど、空気中に魂が拡散しちゃうから自力での復帰は難しいと言う事……どれもかなりの大事だった。

 

 ……私が生き血を取った時も、僅かとはいえ量によっては危なかったらしい。それは取られた対象がミカンさんであっても……

 

 

「そっか……親父やお袋から齧り程度に話を聞いたことあるけど、魔法少女──光の一族にとって魔力や血は本当に大事なんだね」

 

「えぇ。散り散りの魂になったらどうなるのかは、私や桃だけじゃない……他の魔法少女達でも分からないもの。だから魔力を奪われることは極力避けてるの」

 

『知らなかったぞ……今時の光の巫女はそうなのか……』

 

「優子達はともかくご先祖様も知らなかったの⁉︎」

 

 

 えぇ……なんでごせんぞもこの事は初耳なんですか。しかもジェネレーションギャップを感じてるのかすごいショック受けてるし……

 

 そういえばごせんぞが復活するには魔法少女の生き血が必要でしたっけ。それが魔法少女の生命線となると、易々と奪い取ることができないのでは……

 

 ………………でも、どうして桃はそんな大切なことを教えてくれなかったんだろう……

 

 もっと先に言ってしまえば、私もごせんぞも生き血を取ろうとするのを少なくとも躊躇えるはずなのに。下手をすれば命の危険性だって孕んでしまうのに……

 

 

 

「───人が良すぎるが上に、かもな」

 

 

 

 えっ? 白哉さん、何を言って……?

 

 

「こいつはまぞくである優子を、初対面からボコボコにしたり最悪殺したりとかいう過激な上に醜いことなどは一切しようとしなかった。それどころか手を差し伸べようとしたり、俺達のためにすべきことを優先したりとしている……誰かのために自分を積極的に後回しにするなんて滅多にできないことだと思う」

 

 

 あっ……そうだった。桃は最近よく私と白哉さんを特訓に付き合わせるし、魔力の事とかをなるべく分かりやすく教えてくれるしで、何かと私達が強くなれるように考えてくれていた。

 

 それに私が借りたお金を返そうとした時も『それは家族のために使って』と言ってきたりして、生活のこととかも……

 

 桃はいつもそんな感じだった。私達のためを思って何かしらしてくれているのに、自分の事は気にしてない感じだった。私との決闘を避けていたのも、私達の事を何かと優先して……?

 

 

「けど……だからこそ俺達を頼ってほしいって思うのが、俺個人の本音かな」

 

「えっ……?」

 

「ただでさえ魔力がかなり減っている状態の中で俺達を必死に強くさせようとしても、自分の身を休まず削らせて、また倒れてしまったとしたら元も子もないだろ? それなら桃が無理してまで身を削るようなことをしないようにするために、俺達が信頼してもらえるほどの認められる存在になるべきだと俺は思うな。どんな奴としてかは、俺自身はまだ分からんけどな」

 

 

 信頼して、もらえるほどの、認められる、存在……

 

 そうだ、私はまだ桃に認められていない。町を守る役目を担ってほしいと言われた今でも、それは変わっていない。

 

 心配だから? 巻き込みたくないから? そんなのは関係ない。白哉さんがこんな私の事を想ってくれているように、桃にも私を認めてもらいたい。町を守れる戦力として、一人前のまぞくとして、そして……

 

 そんなことを考えていたら、桃が目を覚ました。……よし、決めた。

 

 

「……桃っ、私もう少し頑張ります‼︎」

 

「どうしたの急に」

 

「どうしてでもです‼︎ 今日は変身するまで帰りません‼︎ とりあえず、私を死ぬほどびっくりさせる方法を一緒に考えろ。変身しなくていいから‼︎」

 

「……本当にどうしたの?」

 

 

 ……はっきり言うんだ。ワールドワイドで今まで頑張ってきた桃のためにも、ここで‼︎

 

 

「私はっ……桃に……認められたいです。……いや、敵として! 敵としてだぞ‼︎」

 

 

 どんなことがあったとしても、私のやりたいことは変わらない。桃との勝負に勝って、家族の差し押さえられたものを全て解放できるようにして、みんなを傷つけず、そして……白哉さんと繋がれるようになりたい。

 

 だからこそ、少しでもそれらが成し遂げられるようにするためにも、まずは千代田桃という一人の魔法少女……いや人間に、私がその覚悟を持った強い魔族……人間であることを理解してもらいたい。

 

 まだ私達の関係は浅い。時間が掛かってしまうってことぐらい分かっている。けどそれでも良い‼︎ 千代田桃よ、宿敵として貴様が自ら苦しみを受けるなんてことはさせないぞ‼︎ これまでにしてきた私への評価が浅はかだったことをいつか後悔させてみせる‼︎

 

 そのためにはまず危機管理フォームになれるための修行です‼︎ さぁどんな方法で私をビックリさせる⁉︎ どんな手段でもどんと来い‼︎

 

 

「……分かった。気が進まないけどシャミ子がそう言うなら」

 

 

 さぁ、一体どんな手段を取って……ん? 何故白哉さんをじっと見ながら顎に手をつけているんですか? 変身するのに白哉さんは別に関わる必要ないと思うのですが……

 

 

 

「人は拘束されてる中で何かに迫られると、何かしらの動揺を起こすのは知ってるよね? だから私がシャミ子を押さえている間に、白哉くんがキスのできる位置にまで近づく……ってのはどうかな? それなりの恐怖心も覚えるだろうし、危機管理するには最適な案だけど」

 

 

 

「………………はい?」

 

「……ここに来て安定の俺と優子を揶揄うのやめろよ」

 

「いや本気で考えた変身方法なんだけど」

 

 

 ちょっ、は……? えっ? 今なんて? 白哉さんを、私と……キス、できるまで近づけ……えっ?

 

 くぁせdrftgyふじこlp!? キ、キ、キ、キ、キキキキキキ、キスゥッ⁉︎ おま、は、はぁあああ⁉︎ な、ななな、なんで変身できるようにするために、びゃ、白哉さんとキスしないといけないのですかァァァ⁉︎

 

 いやほら、キスというのは本来お互いが本気で『好き』という感情をぶつけ合える中でやるようなものですので、第三者達に無理矢理やらされるのは邪道というもの……

 

 ああああああ‼︎ そういえば私も邪道なキスをしてたんだった‼︎ 寝込み中の白哉さんに無自覚でキスしていたんだった‼︎ 人の事をとやかく言える立場じゃないんだった‼︎ ああああああの時封印していた羞恥な思い出を掘り起こしてしまったあああ‼︎

 

 

「それがダメなら正拳突きとアンクルロックと一本背負い……別の手段が三つもあるけど、どうする?」

 

 

 あ、それらもダメなヤツばっかじゃないですかヤダー‼︎ キス以外の方法がどれも物理的な方で痛いヤツしかないじゃないですかー‼︎

 

 もう手のひら返し不可避です‼︎ 今日のところはさっさとこの場から離れないと‼︎

 

 

「やっぱり桃も疲れてるので明日にしましょう。お疲れ様でした──ホゲェ⁉︎」

 

「もう肉体操作くらいはできるから大丈夫」

 

 

 つ、捕まった‼︎ 尻尾掴まれたせいで逃げられなくなった‼︎ ガッチリと両腕をホールドされた‼︎ ま、ま、まだ心の準備が一切できてません‼︎ 引き寄せないで‼︎ 助けてー‼︎

 

 

「えっと……あっ、そういや今日は俺が飯当番だったわー。メェール君達腹空かせてるだろうし、俺も帰───」

 

「あ、嘘ついて逃げるのもダメだよ。拓海くん、例のアレをお願い」

 

「あっ、イエッサー」

 

「なんかヤベッ⁉︎ すまん優子、俺は逃げ───」

 

 

 ちょっと白哉さん⁉︎ 何適当なこと言って帰ろうとしてるんですか⁉︎ キ、キ、キスルートの回避をしてくれるのはちょっとだけ安心しますけど助けて‼︎

 

 って、拓海くん? 陰陽札を二十枚も取り出して一体何を……? あ、白哉さんに翳すようにその腕を伸ばした。

 

 

「おわっ⁉︎ な、なんだ⁉︎ 体が勝手に……⁉︎」

 

 

 えっ⁉︎ 白哉さんの体が突然青い光の膜に覆われて、錆びたロボットのようにギシギシと動き始めたんですけど⁉︎ ま、まさか今のって、拓海くんが人の体を操る霊術なのでは……⁉︎ なんでそんな恐ろしい術まで覚えているんですか⁉︎

 

 ってか、この人も私と白哉さんをキスさせる気満々だー⁉︎ 正直ドキドキするけど心臓に悪すぎるー⁉︎

 

 

「あ、あ、あわわわわわわわわわ……‼︎ ま、ま、ま、ま、待ってください、まだ、心の準備が……いや本当に……」

 

「ち、チクショー‼︎ 我が名は召喚師・白哉───‼︎」

 

 

 うわっ、眩しっ⁉︎ 急に白哉さんの体が白く発光して……⁉︎ って、あれ? なんか白哉さんの衣装がインドの貴族っぽく変わった? それってもしや、白哉さんが召喚師として覚醒した姿では……?

 

 って、姿変わってもギシギシ無理矢理体を動かされていることに変わりないじゃないですかヤダー⁉︎ 今の意味なかったじゃないですか⁉︎

 

 

「な、なんで⁉︎ なんで変身して魔力を増やしたのに変わりねぇんだよ⁉︎ なんで術解除されねぇんだよ⁉︎」

 

「普通の人を操るなら五枚で十分だけど、召喚師覚醒フォームになれる君のこともあるからね、枚数を四倍に増やして保険をかけていたのさ」

 

 

 あっ。いくら姿を変えても、陰陽札の束の力に勝てなかったのですね……

 

 

「ま、待て待て待て待て待て待て待て待て‼︎ その……アレだ! 優子が俺とキスするのめっちゃ否定してたぞ⁉︎ やらされる側の気持ちとかを考えて───」

 

「あぁ大丈夫、今シャミ子は期待しているかのような反応にもコロコロと変わったりしてるから」

 

「ちょっ、桃ォ⁉︎ 余計なこと言わないでくれません⁉︎」

 

 

 というか何私の顔覗いているんですかこの頭も桃色な魔法少女がー‼︎ ってか私期待するような顔もしていたんですか⁉︎ あっ、いや、違っ、別にそんなわけじゃ……

 

 

「えっと……あっ! そ、そうだ‼︎ ほ、ほら! 他の人がキスするところをミカンに見せてみろ⁉︎ めっちゃ心臓に響いて呪いが出たらどうす───」

 

「えっ。あ、いえ……あらかじめ何をするのかを教えてくれるのなら、なんとか私も落ち着いて見れるわ」

 

「そこは落ち着いてほしくなかったと思ってる人がここにいまーす‼︎ それが俺でーすコンチクショー‼︎」

 

 

 ミカンさんの事を言って乗り切ろうとするのも意味なかった⁉︎ もう打つ手がなくなってきてるじゃないですか⁉︎

 

 って、はぴやああああああ⁉︎ ち、近づいてきてる‼︎ 無理矢理体を操られてる白哉さんの顔が、私の顔へとォォォ‼︎

 

 

「ほら、頑張ってもっと本能のままに怖がってシャミ子。変身出来ればキスを回避できるから。そのままキスまでいってほしいけど

 

「今小声で本音ダダ漏れしてませんでした⁉︎ って近い近い近い近いィィィ⁉︎」

 

「待て待て待て待て待て待て待て待てやばいやばいやばいやばい」

 

 

 キ、キスされる‼︎ お互い不本意なのに無理矢理キスされる‼︎ どうしよう⁉︎ このままだと心臓が持たない……‼︎

 

 

「ヒ、ヒイイイイイイッ‼︎」

 

 

 

 刹那。私の体が一瞬だけ光に包まれたのを感じた。

 

 

 

「あ、変身できたね。よかった」

 

 

 その声が桃の口から聞こえたのを機に、私はホールドされていた両腕を離してもらえた。白哉さんもちょっと離れた位置にまで移動されたところで霊術を解除してもらったようだ。

 

 よ、よかった……ちょっと残念な気もするのですが、お互い無理矢理キスさせられずに済ん───ん? 今、変身できたねって言葉が聞こえていたような……

 

 あっ(察し)。

 

 全てを察した瞬間、私の顔がやかんのように熱くなっていたのを感じた。そして私はその顔を逸らし、咄嗟に胸のところを両腕で抑えた。今の私の格好はごせんぞに似たビキニアーマー風で露出が多いもので、それを白哉さんに近距離で見られたものだから……

 

 びゃ、白哉さん……今の格好を見て、失望したりとかしてないのかな……? そんな恐怖も覚えたため、恐る恐るチラリと白哉さんの方に目を向けた。

 

 って、アレ? 白哉さんも顔を背けている? しかも何故か顔を右手で抑えていて、なんか赤い液体がポタポタと落ちていたような……

 

 

「えっ、えっと……白哉、さん?」

 

「……待って、見ないでくれ。今の俺は見てしまった者からの信用を失くしてしまう顔になってるから……いやホント、見ないでくださいお願いします見られたくない……」

 

 

 ………………

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜⁉︎」

 

 

 この時、私は声にならない悲鳴を上げ、顔はさらに熱くなっていったのを感じた。

 

 し、しかと目に焼き付けられた……‼︎ 私の恥ずかしい格好が、白哉さんの脳内に……‼︎ い、異性として改めて認識してくれたのは正直かなり嬉しかったけど、キスとどっちがマシなのかも分からなくなってきた……‼︎

 

 こんなことって……こんなことって……‼︎

 

 

「……すんません、先帰ります……」

 

「あ、ちょっ……」

 

 

 そう言って白哉さんが猛ダッシュで私達の前から走り去り、もう見えなくなっていったのを皮切りに……

 

 

「おっ……覚えてろ〜〜〜‼︎」

 

 

 私も何故か呆気に取られていた桃に向けて捨て台詞を吐きながらその場を走り去っていきました。

 

 す、少なくとも今日は白哉さんと顔を合わせられないかもしれない……‼︎ 無自覚に寝込み中にキスした時よりは少しだけマシになるのかもしれないけど、今度は絶対お互いに意識してしまう……‼︎

 

 その日の夜、夜ご飯のお裾分けを受け取る時や風呂を借りにお邪魔しに来た時に鼻にティッシュを詰めた白哉さんに顔を背けられたが、ちゃんとお察ししてるので指摘とかはしませんでした。一方の私は思ったよりもなんとか平静を保てていました。なんか、複雑です……

 

 




頑張れ白哉君‼︎ シャミ子の半r……危機管理フォームを間近で見てしまった責任を果たせる程の勇敢な男になるんだ‼︎(ナレーター風)

早く白哉君とシャミ子をくっつかせたいけど、まだその時ではない……なんとか気長に待つしかないな。

宜しければ気軽に感想よろしくお願いします。



おまけ:台本形式のほそく話その4
桃「………………」
ミカン「ど、どうしたのよ桃。そんなに呆気に取られた顔して……」
桃「いや、自分の恋愛感情に対して鈍ちんすぎるとか朴念仁だとかクソボケだとか言われていた白哉くんでも、シャミ子の危機管理フォームは年相応な反応するほど結構効くんだなって……」
ミカン「そこまで言う……? けどあそこまで露出度の高い格好を見たら誰でも恥ずかしくなるでしょ? それに彼の場合は間近でだし……」
桃「でも鼻血を出すまでにはならない。絶対ならないと思う」
ミカン「どこからそんな自信が出るのよ……。ちょっと、拓海も何か意見を……拓海?」
拓海「………………あっ、終わったのかい? あの格好は見て一秒も耐えられないから、シャミ子君が元の格好に戻るまでずっと反対側向いてたけど……あれ? 白哉君とシャミ子君は?」
ミカン「……帰ってったわ」
拓海「そっか……って陽夏木さん? 何をそんな不満そうな顔して……」
ミカン「別に、なんでもないわ(なんで今の拓海を見てモヤモヤしちゃうのかしら……)」
桃「(……こっちもこっちで疎くない? 後、なんか疎外感を感じる……)」

END

 


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そろそろ期末テストか……アレ? なんか二人の勝負する科目が五教科に増えてね?

テスト自分も大嫌いなので初投稿です。

そしてこれが2022年最後の投稿です‼︎ 本来なら土曜日投稿予定だったのですが、大晦日に普通の回を出すのはどうかと思うし、年末のネタも思いつかないので、この水曜日に投稿しちゃえって結論に至りました。

それでは2022年最後の回も是非楽しんでいってね‼︎

前回のシャミ子の危機管理フォームを見て年相応の反応をしてしまった白哉くんに対する感想はないってどういうことなの……


 

 優子の生の危機管理フォームを脳内に焼き付けてしまった白哉です。

 

 昨日はさっきも言ってた優子の危機管理フォームの変身の特訓をしました、というか間近で見届けることになりました。いつかはその目で見なければならないってことは分かってはいたけど、いざ見るとなると思うとこっちも恥ずかしく感じたな……

 

 もちろん優子は変身を拒否しようとしており、変身させられるのを回避するために桃に『そこまで言うなら先に変身しろ』と言っても本人は即答で了承、そして即変身。それで優子も変身せざるを得なくなったとさ。めでたしめでたし……じゃねェよ全然めでたくねぇよ。

 

 桃の変身後はミカンが昔やってた変身中の回ったりウインクしたりはしないのかと指摘したり、リリスさんに一人で待ってられずに一緒にトレーニングしたいと思ってるのだろと指摘されたことで呪いが発生したり、それらで動揺してたミカンを拓海が背中撫でても呪いが再発しなかったりと……

 

 なんかミカンを皮切りに様々なサブイベントが起きてたな。ミカンも注目され始めてない?(何にだよ)

 

 そして桃に強引を受けるように優子も危機管理フォームになろうとする……が、原作通りマジの危険に遭ってないためすぐには変身できず、優子は桃に動きを封じられる形で寸止めのフレッシュピーチハートシャワーを受ける羽目に。

 

 正直可哀想だったので俺がまずは優しい方法で優子を驚かせて変身の練習させるのはどうかと指摘するが、桃は止まる気配一切なし。そして優子がちょっとドキドキすると言ってたので、庇おうとしたのが馬鹿馬鹿しくなり裏切ることに。

 

 しかし、そこで桃は激しい魔力の消耗による連日の疲れでダウン。数分眠りにつくこととなった。

 

 彼女が寝ている間、ミカンが魔法少女は魔力が尽きると魂が拡散して消えてしまうのだということを説明してくれた。優子と拓海がめっちゃ驚く中、原作読んで既に把握していた俺は思わず薄い反応をしてしまい、何故そこまで驚かなかったのだと拓海に指摘されました。原作を知ってると変なボロが出る、はっきりわかんだね。

 

 そんな大切なことを桃は黙っていた。その事実に優子も不服に思えたのだろう。俺もずっと隠されたのは不服だったから分からなくもない。

 

 だから俺は言ってやった。桃は人が良すぎる。優子だけじゃなくて、俺やみんなを、大切なことを話せるほどに認められる存在として見るべきだと。

 

 そしたら優子も、原作通りに……いや、それよりももっと桃に宿敵として認められたいと思うようになってきたように見えた。真剣な表情がそれを物語っていたな。結構強い意思が見えた。

 

 その意思に少しは押されたのか、桃もあまり乗り気ではないとはいえ優子が危機管理フォームになれるようになるための方法を考えてくれた。

 

 その方法が──俺にキスを迫られることでの危機感での変身であった。

 

 いやなんでだよ。どうしてその方法に至った。もちろん羞恥心もあったため、せめて俺だけでも一旦この場を離れようかとも考えた。けど無意味だった。優子は桃に両腕絞められるわ、俺なんか拓海の霊術で無理矢理体を操られるわで散々なことも多かった。

 

 俺が召喚師覚醒フォームに変身して霊術を解除し、今度こそ逃げようとも思った時も結局無駄でしたよ……

 

 だが結果として優子は危機管理フォームに変身することに成功。その時の感覚も覚えるようになった……と思う。

 

 けど、思ったよりも生の危機管理フォームは少なくとも俺にとっては効き目が良すぎた。ボインと胸の谷間が見えるし、毛なしの綺麗な脇も見えるし、臍は出てるし、セクシーなパンツに至っては丸見えだし……

 

 そのせいで鼻血出してしまったよ……(キモッ) さらには優子に向けて必死にこっち見んなコールしたし、思わず全力でその場から走りちゃったし、その日中ずっと生危機管理フォームの事で頭いっぱいになりかけてたし……

 

 ……悪い、喋りすぎた。まあ終始気まずくはありましたけど、翌日になったらもう危機管理フォームの事はお互い気にしなくなった……と思う。

 

 だって翌朝こんな会話をしてたから。

 

 

「あぁ、その……す、すまん優子。お前の変身を変な目線で見ちゃって。鼻血出してしまった俺の顔を見て、変態だと思っただろ……?」

 

「あっ。い、いえ……もう大丈夫、だと思います。元はといえば桃に変身する手段を無理矢理やらされてた感じでしたし、それを白哉さんは拒もうとしてましたし、大体あのフォームはごせんぞの種族の問題でああなったらしいですし……これを機に欲情してほしかったなと後で気づいた自分もいましたし……

 

「えっと……つまり?」

 

「わ、私は白哉さんの事を変態だとは思っていません‼︎ は、鼻血を出させてしまったのは、危機管理フォームの刺激が強すぎただけですので‼︎ 私だってあんな格好は超不本意です‼︎ だから今度ごせんぞにもう一度リテイクを希望してみます‼︎ 昨日みたいにお互いまた恥ずかしい思いをしないようにするために‼︎」

 

「そ、そっか……とりあえず、昨日の件は許してくれるってことでいいんだな?」

 

「もちろん‼︎ というか許すも何も、アレはお互い不本意なものでしたから‼︎」

 

「……分かった、ならそういうことにさせてもらうよ。……ところで、アレでも一回リテイクされたものなのか?」

 

「………………私が『腹が冷える』と言っていたから、へそまわりと太ももを暖かい布で覆ってもらっただけなんです。しかもその範囲はほんの僅かだけなんです。そしてすぐ戻されました」

 

「あ、さいですか……」

 

 

 とまあ、こんな感じに許してくれました。普通女の子は恥ずかしいところを男子に見られたらそいつへの好感度を下げてしまうのに、優子の場合はそうならなかったようだ。いや、ヤンデレな部分があるから『それで彼にアピールが出来たのでは?』みたいなことを思っているのかもしれないけども。

 

 あと、最初は俺に危機管理フォームを見られたことに対してすごい羞恥心を感じたみたいだけど、時間が経つに連れて自然と平静さを取り戻すことができたらしい。何故そうなれたのかは本人ですら不思議に思ってるとか……今日謝るまでに引き摺ってしまっていた俺とは偉い違いだな。

 

 まあ何はともあれ、もう危機管理フォームの件は引き摺らなくても良いってことで、この話は終わり‼︎ 今日も今日とて最近発生していない気がする優子のヤンデレモードにいつも通り警戒しながら一日を過ごしていくぜー‼︎

 

 

 

 

 

 

 で、放課後。俺ん家にて。

 

 

「白哉さん! 私に勉強を教えてください‼︎ それもこれまで以上に‼︎」

 

「これまで以上に、か……手厳しいこと言うなお前」

 

 

 俺は今、優子に勉強を教えてと頼まれています。何故こうなったのか、それも原作読んで知ったので理由は知っている。知らなくても優子がちゃんと経緯教えてくれたためなんとなく理解はできる……と思う。

 

 優子は桃に戦力として認められる方法を考えていたところ、桃は力というか体力のない自分のことを侮っているのではないかという考察に至ったらしい。どうすればいいのやらと悩んでいたところに、杏里が頭脳派まぞくを目指せば良いのではないかと案を出してくれたそうだ。

 

 早速優子は桃に期末テストの点数で勝負しろと申し込んだ……のだが、その時桃が中間テストで理系を中心に八十点以上を取っていたのだということを知って、ショックほどではないけど呆気に取られたらしい。

 

 それまでは優子は桃の頭までもが筋トレ脳筋レベルだと思い込んでいたらしいけど……うーん……なんだろう、俺も筋トレ好きのキャラはテストの点数は高くないだろと正直思ってたんだよなぁ。アニメキャラは筋トレと勉強の両立が難しいという偏見的思考があったから……

 

 で、優子の方はというと……まぁ平凡より少し高めな感じかな。原作では文系はすごく頑張って七十点前後で理系は壊滅、って感じで平凡以下なんです。

 

 けど、俺がこの世界に介入されたことでマシになったらしい。中学の時にテスト勉強で唸っていた優子のために、就職のための筆記試験で覚えた知識や学校で得た曖昧な知識でなんとか勉強を教えてみたんだ。

 

 そしたら優子は少なくとも理系はどの教科も平均点は取れるようになり、文系も全部必ず七十点以上取れるようにまで成長……

 

 なんで曖昧な知識を頼りにして教えたら、ここまで点数が良くさせることができたのだろうか? 優子の頭が良くなったことはいいことなんだけどね……

 

 話が少しズレた。優子が桃にテストで勝負と言ってどうなったのかを話すところなのに、なんで本筋が斜めっちゃうのかな。

 

 原作では二人は世界史の教科の点数だけで勝負することになったのだけど、優子が俺のおかげで頭が良くなった結果……

 

 

「五教科で勝負することになりました。しかも合計点で計算して、負け点×二十回ダンベルトレーニングです……」

 

「………………マジか」

 

 

 まさかの勝負する課題が増加されました。国語、数学、英語、化学基礎の四教科です。それも平均点でじゃなくて合計点で競うと。

 

 いや五教科って。ハードルめっちゃ高くなってるじゃねェか。一教科だけでも単語とか覚えるの大変だと言うのに、五教科は教える側のハードルも急上昇するわ。

 

 

「あの、白哉さん……? 目が結構死んでいるように見えますけど……やっぱり五教科も教えていただけるの難しいですか?」

 

 

 えっ? あ、俺そんな目してたの? まぁ確かに勉強を教える事自体が大変ってのもあるけど、何というかな……だからと言って、優子が何かに真剣に向き合うことを卑下にしたくないんだよな……

 

 なんて言えば優子にこれ以上不安そうな目を向けられずに済むのだろうか。どう言えば優子の緊張感もなくなるんだろうか。それでテストに悪影響を及ぼしたりしたら嫌だし……

 

 ……ん? ちょっと待てよ? そういえば最近、原作の物語が進む毎に優子の心境も変化していっている気がするんだけど……それに俺もなんか安心していって……

 

 よし、これならいける。

 

 

「……難しくないと言ったら嘘になるけど、出来る限りのことはしていくつもりだ。それに……」

 

「それに?」

 

「なんか、ホッとしてきたんだよ。最近俺の事を考えていることが多く、俺の事で愛が重くなってしまうとか言って悩んでいたお前が、宿敵の事も想っての行動をしようとしているのが。わかるぞ。あいつはお前の事をよく揶揄うし、何故か俺にも揶揄ってくるけど、なんやかんやで助けてくれているもんな。町を守ってと言ってくる程の信頼感も持っているみたいだし」

 

「なっ……⁉︎」

 

 

 別に嘘は何一つ言っていないはずだ。桃はよく優子や俺をおちょくってるし、無意識に優子を馬鹿にしたりしてることもあった。けどどれもこれも俺達の事を心配しての行動ばかりだったんだ。だがその分、自分の事を後回しにしているようで……

 

 だからこそ、優子も桃のためを想っての事がしたいんだと思う。戦力として認められたいってのも、友愛という感情があるからこそ……そうだよな?

 

 

「そ、そんなわけあるかー‼︎ 宿敵に恋愛に近い感情など持つかー‼︎ 大体性別一緒だぞおらー‼︎」

 

「いや誰もそこまでは言ってない……え、何? 俺、百合に挟まれる男だと思われて貶されているの? 禁断の恋愛を邪魔してる感じなの? 別に二人をそんな目で見てないのに、そんなつもりないのに……」

 

「えっ……あ、いや、そういう意味では言ってないですよ? ただ、恋愛なら白哉さんとしたいってだけで……ああああああすみません‼︎ 今のは聞かなかったことに‼︎」

 

 

 あ、やべっ。また愛を重くさせちまっとる。いや、これはどっちかと言うとただ単に優子が本音をポロリと言ってしまっただけか? 目のハイライトが落ちてないし、きっとそうだ。うん、そうに違いない。

 

 

「まぁとにかくだ。中学の頃みたいにうまくいくかはわからんけど、俺も頑張って教えられるとこまで教えてやるよ。目指せ魔法少女超えの頭脳持ちまぞくってな」

 

「魔法少女、超えの、頭脳持ちまぞく……⁉︎」

 

 

 ……ん? なんか優子の奴、結構目を見開いているんだけど……アレ? 即興で考えたこのあだ名、おかしかった? 嫌だった? まあ半分は頭脳派まぞくをできるだけさらにカッコよくアレンジしてみようと思って思いついたものなんだけども……

 

 

「あっ、悪い。いいあだ名を考えたんだけど……変だったか?」

 

「いえ‼︎ 変とかそういうのはどうでもいいです‼︎ 魔法少女超えの頭脳……つまりは今回のテストの点数で桃を越えれば、頭脳では魔法少女に負けないということが証明されるってことですよね⁉︎」

 

「えっ? まあ、多分そうなるかとは思う」

 

「なら尚更今回の勝負には勝たないといけませんね‼︎ 改めて勉強の指導の程、よろしくお願いします‼︎」

 

「お、おう……? 指導……?

 

 

 なんであだ名かどうかも分からないことを言っただけなのに、優子のやる気がフンスフンスと言うほど湧き出ているんだ……? 後々考えて良い判断とは思えなくなったことが良い意味で裏目に出るって、なんか違和感が……

 

 まあ何はともあれ、優子のテスト勉強する意欲……というよりは前向きに桃に勝てる前提を考える意欲が強くなったのは良い事だ。彼女のこの勇気に応えるためにも、俺も勉強を頑張って教えるとしよう。指導していく内に俺もそれなりの知識を手に入れられるだろうし。

 

 

「んじゃあ勉強捗らせるために音楽でも流しておくか。優子、何が聞きたい? リリスさんも知ってる音楽のジャンル──種類とかあれば是非。希望に添えるか分かりませんが」

 

「あ、ごせんぞがどんなジャンルを聴いてるのか私も気になります」

 

『む? 余がリクエストしても良いのか? ならばテレビで気になっていたミッ○スナッ○が聴きたいのだが……流せるか?』

 

「「まさかの最新のアニソン⁉︎」」

 

 

 

 

 

 

 そんなこんながありながらも、テスト勉強は思ったよりもお互い結構捗っていた。

 

 文系の教科は文章とかをよく読めば特に問題はなかった。英語なんかもスペルとの違いとかを気をつければ……あっ、ここ俺にとっては苦手なところだ。ここが全教科の中では一番不安かな。

 

 それに優子にとって不安な理系の教科も、記号や計算を何かしらの語呂に変えて覚えることで、意外と記憶と残り覚えやすくなった。ふとそれを思いついた俺の発想力も案外すごかったような……なのに英語は個人的に不安って。

 

 で、本日最後に俺が教えるのは世界史のテスト内容。ここは優子も原作で必死に覚えようとしていたから、俺も頑張って教えておかないと。

 

 

「優子、世界史はどの範囲が出るんだ?」

 

「えっと、期末の世界史の範囲は……古代エジプト……メソポタミア……ギリシア……」

 

 

 うわ、その範囲は誰でも面倒臭がるやんけ。俺も前世では把握するのに結構頭を悩ませてたなー……

 

 

『メソポタミアとな⁉︎ エジプトやメソポタミアは余の庭だぞ‼︎』

 

 

 おっ? ここで原作通りにリリスさんが反応した。ってか国を自分の庭だと思うとか、もし本当に支配していたのならマジスゲーと思うけど、実際にはそうじゃなかったとしたら色んな意味でマジやべー人ですよそれ言う奴は。

 

 リリスさんの話によれば、メソポタミアがあった時代は彼女の絶頂期らしく、封印されたてほやほやで負け癖があまりついてない頃だそう……それ本当に絶頂期?

 

 さらには封印されてからは色々な者達の手に渡り、オリエントを転々としていたらしい。力が弱まり寝ていた時期も多かったけど、結構顔が広いようだ。

 

 けど、置物にされてた時期もあったそう……えっと……ドンマイです。

 

 

 

 

 

 

 気がつけば期末テストまでもう明日になっていた。時というものは歳を取る度に短く感じるものなのかな……なんかワクワクするものとかがないとそう感じるんだってテレビでも言っていたし。

 

 で、優子の勉強の成果はどうなったのかの話なのだが……まあ、案外物分かりは良かったのだけど、桃に勝てる程の効率は得られていない模様です。

 

 いやまあ、俺も正直前世の期末テストでは普通の点数しか取れなかったから、中々、ねぇ……?

 

 うーむ……今頃優子は原作通りリリスさんにテスト会場に像を持ち込んで、自分とのテレパシーを通してリリスさんも答えを考えるという『ご先祖‼︎ 知恵袋大作戦』──謂わばカンニングを薦められるだろうなぁ……しかもリリスさんに悪魔の囁きをされる形で。

 

 

【マスター、カップケーキを作ってきたメェ〜。疲れた時は甘いものを食べてストレス解消だメェ〜】

 

「ありがとうメェール君、君の作る飯はいつも美味いから助かるよ」

 

【褒めても何も出ないメェ〜よ。そうやって他愛もなく誰かを褒めてたら、そりゃあシャミ子ちゃんも勘違いしちゃうメェ〜

 

 

 おうおうメェール君、相変わらず気が効くし家事力も高い上に自分を棚に上げない程に謙虚だねー。カップケーキも美味いし、ワンポイントアドバイスもしてくれるし、本当に良い子だよマジで。

 

 ……ん? 今さっき、小声でなんか言ってたような気がしたけど……気のせいか?

 

 

【……明日から三日間の期末テスト、不安しかないメェ〜……】

 

「なんで急にそんなこと言うんだよ?」

 

【だって、原作でもシャミ子ちゃんがリリスさんにカンニングを唆されるメェ〜よね? 実際にはそんなことはないメェ〜けど、この世界での彼女は君に愛されたいという想いが強いから、きっと……】

 

 

 あぁ、そうか。メェール君はそこを心配していたのか。確かに優子の俺への想いは痛い程感じている。それが原作に大きく影響して、彼女が本来行いたくないというズル──悪行を犯してしまう可能性を危惧しているんだな。それが災いして更なる物語の崩壊も恐れて……

 

 確かにそれは起きる可能性があるかもしれない。けど。

 

 

「それでも思い留めてくれるって、俺は信じたい」

 

【……それもそうメェ〜ね。ここまで原作に悪影響を及ぼしてるわけじゃないし、今回もそう簡単には───】

 

「それも多少あるっちゃある。桃の『優子を侮ってるわけではない。宿敵として負けるわけにはいかない』という意志もあるからな。けど、俺はそう意味で言ってるわけじゃないぜ?」

 

【え? じゃあどうして絶対カンニングしないって言い切れるんだメェ〜?】

 

 

 なんで優子はカンニングを絶対しないと言い切れるのか、だって? そんなの決まってるだろ。

 

 

「あいつは元から優しい性格をしてるんだ。宿敵であるはずの魔法少女の健康を心配したり、いつでも生き血を取れそうな状況なのに必死に看病してあげたりしてたぐらいなんだし。俺の事が好きなんだってことに気づいてからも、俺に近寄ってきたり仲良くしようとしたりしている女子に嫉妬はしても排除するみたいなことはしたくないと言うし……ここはあいつ無理しているだろうけど」

 

【……すごい『シャミ子ちゃんの事なんでも知ってます』みたいな発言してないのかメェ〜?】

 

「あいつの事なら色々と知ってるに決まってるだろ?」

 

 

 だって俺は……

 

 

 

「俺は優子の幼馴染だし、そうでなくても原作でのファンみたいなものだからな。だからあいつはズルとかが出来ないんだってのが、嫌でもわかるんだよ」

 

 

 

 ずっと隣で見てきた。ずっと隣に寄り添ってあげた。前世でも漫画やアニメを通して彼女に共感しようとしてた。だからハッキリそう答えられるんだ。

 

 シャミ子もといシャドウミストレス優子こと吉田優子は……包容力で世界を救えるかもしれない可能性を持っている、いつかワールドワイドな魔族になれる存在なんだってな。

 

 

「………………なんか、優子の事を知ったかぶりで言ってるような気がする……めっちゃ恥ずい」

 

 

 冷静に考えたら何言ってんの俺……まるで本当は優子の事を前世から狙ってました、みたいなことを言ってるじゃねェか。満更でもないしゃんって言われるじゃねェか。『じゃあなんで今まで優子に告白しなかったんだ』って言われても仕方ない感じになってんじゃねェか。

 

 ……穴があったら入っていいですか。

 

 

【……そこまで言われたら、シャミ子ちゃんが原作通りカンニングを絶対しないって思い込んでしまうメェ〜な。マスターのシャミ子ちゃんを信じるその想い、買ったメェ〜。これからは僕らも改めてシャミ子の良心を信じてあげるメェ〜】

 

「そっか、ありがとう……ん? えっ、何? 今まで優子の事をなんだと思ってたの?」

 

【いつかストレス爆発させてヤンデレが暴走してしまう危険な魔族】

 

「辛辣⁉︎ いくらなんでもそのあだ名は酷くね⁉︎」

 

【実はほとんどの召喚獣がそう警戒しているんだメェ〜】

 

「優子ただ今召喚獣に嫌われている説⁉︎ 可哀想すぎるわ‼︎」

 

 

 召喚獣達からの評判がかなり低いってどういうことなんだよ……

 

 優子、強く生きろよマジで……

 

 

【にしてもマスター、鈍いのかそうでもないのかいよいよ分からなくなってきたメェ〜なぁ……】

 

 

 

 

 

 

 一学期の期末テストが終わって数日後。全教科のテストの返却がとうとう完了した。それはつまり、優子と桃のテスト勝負の勝敗が決まるということだ。

 

 原作通りに世界史だけでの勝負ならともかく、五教科での勝負となると結果ぎどうなるのかは俺にも分からないから、こっちも結構緊張しちゃってる。

 

 ちなみに俺の五教科の得点は、一教科八十点前後。残りの教科──美術・音楽・家庭総合・保健体育など──はどれも六十点から七十点前後だった。想ったよりも普通よりも少し良いって感じ、かな? とりあえず赤点にはならなくて済んだぜ……

 

 さて、問題は優子だな。あいつ、世界史以外でも良い点数は取れたのだろうか……

 

 

「優子、テストの結果はどうだったんだ?」

 

「……とりあえず、赤点は一つもありませんでした」

 

 

 えっ。ちょっ……えっ? なんか落ち込んでね? 暗い表情してね? 嘘……想ったよりも良い点数取れなかった……?

 

 

「ああ……一応聞いておく。何点取れた?」

 

 

 思わず躊躇いがちに聞いてみたら、優子は机の中にある五枚の紙を机の上に出し、顔をあげて……

 

 

 

「フハハハハハ‼︎ これだけ取れればあの魔法少女も悔しがるだろう‼︎ やってやりましたよー‼︎」

 

 

 

 国語九十点。数学八十四点。理科八十四点。原作で優子の補修科目となっていた英語は八十一点。そして一番注目すべき世界史は九十三点。そして合計点は……四百三十二点。

 

 嘘……魔族の成長あまりにも凄すぎ……⁉︎ 一番高くて七十点前後しか取れなかった優子が、五教科も勉強するとなって原作以上に苦労した優子が、ここまでの高得点を叩き出した……⁉︎ これはさすがの俺も予想外すぎてめっちゃ驚いた……‼︎

 

 ってか、教える側が教えられる側に点数差で負けるって……なんか、複雑なんですが。

 

 

「躊躇ってごめんなさい。ちょっとばかしハラハラさせた後に胸を張れるように報告しておけば、思いっきり喜んでもらえるかもと思って、つい意地悪を……って、白哉さん? どうかしました?」

 

「負けた……シャドウミストレス優子に負けた……勉強教えてあげた側なのに……」

 

「えっ⁉︎ な、なんで白哉さんがショックを受けるんですか⁉︎ 別に貴方と勝負してるわけでは……というか今、活動名の方を言わなかったですか⁉︎ なんかズルい‼︎」

 

 

 いやよく考えたらガチでショックだったんですよこれが。教える側が教えられる側に負けるって、異世界漫画とかバトル漫画とかでいう、師匠が成長した弟子に越されるというものよりもすごい敗北感が……

 

 

「まあ何はともあれ、これは桃に自慢できるかもな。よく頑張ったな、優子」

 

 

 そう言って俺は優子の頭を優しく撫でた。これでまた優子のヤンデレ度が高くなるかもだけど、ここまで頑張ってた奴を褒めないのはさすがにどうかしてる。だからここは素直に褒めるべき。そうするべきだ。

 

 

「えっ、あっ、そ、そのっ……あ、ありがとう、ございます……」

 

 

 うわっ、顔が熟成された林檎のように赤くなり始めた。これ以上やるとヤバめな感じになりそうだから、ここら辺でやめておくとしますか。

 

 いやちょっと? 何『あっ……』って言ってるような残念な顔してんの? 言っとくけどこれお前の心身のために止めてるんだからね? これ以上長くナデナデしてあげられると思わないでね? 暴走するのお前も嫌だろ?

 

 この後優子は桃にテストの結果を聞きに行くと言っていたので、五教科のテスト用紙を持ってブンブンと尻尾を振り回す彼女の後をついて行くことに。……やっぱ可愛いな、嬉しそうに尻尾を振り回す子は。

 

 ……にしても、優子がリリスさんの悪魔の囁きに負けないでくれて本当によかった……『信じる』とかほざいていた俺も、実は少しだけ優子が本気で囁きに負けたのではないかと思ってしまったものだから。

 

 最後の最後まで優子の良心を信じてあげられないなんて、俺もまだまだだな……もっと彼女を信じてあげられるように精進しないと。

 

 

 

 

 

 

 この一・二週間のテスト勉強、白哉さんの指導の元、頑張って五教科の範囲を覚えようと必死に努力してきました。

 

 弁当を食べている時も、下校中も、寝る間を惜しんで徹夜もして(途中で寝落ちしたけど)と、自主勉強も欠かさず行なってきました。

 

 けど中々テスト範囲を覚えられないでいました。やっぱりテスト勉強って辛い……

 

 そんな中、ごせんぞに『ご先祖‼︎ 知恵袋大作戦』──テレパシーを通してのカンニングを薦められてきた時は結構焦りました。そんな事してはいけないのに、カンニングは悪いことなのに……一度その誘惑に負けてしまいました。

 

 この作戦は桃を圧倒し、揺さぶり、心の隙を狙って夢の世界での暗示を掛けやすくするためにあるものだと。未来の大勝利一族の復興、家族の幸せ、そして……未来の私の幸せに繋げるための立派な作戦だと、そう言い聞かせられました。

 

 私だって、良に豊かな生活を送ってもらいたい。家にクーラーを付けてあげたい。おかーさんの生活の負担を減らしてあげたい。そして何より……白哉さんと結ばれる人生のゴールインを果たしたい。そんな誘惑に負けてしまい、私は流される形でごせんぞの作戦に乗ってしまった。

 

 けど、本当にそんな事して良いのかと悩んでいました。もしもごせんぞの言う通りに作戦を実行してしまい、それを桃や家族、そして白哉さんにバレてしまったとしたら……想像するだけでも恐ろしい事が起きて、私は信用を失ってしまうのではないかと、かなり震えてました。

 

 でも……最終的に私は正々堂々と戦う道を選びました。そうするようになった理由は二つある。

 

 一つは、こんな私のために自主勉強の時間を割いてくれた、白哉さんの期待を裏切りたくなかったから。

 

 彼はテスト前、いつも私のためにと分かりやすくテスト範囲を教えてくれた。彼自身もテスト勉強しないといけないのに、それを後回しにしてまで私のために……

 

 だから、そんな彼の期待に応えたかった。それもごせんぞの力を借りずに、自分の力で。その想いがあったからこそ、私は本気でごせんぞの作戦に乗らなかったのだと思う。躊躇うことができたのだ思う。それ想いだけで高得点取れるのか不安だったけど。

 

 そしてもう一つは……桃も本気で私とのテスト勝負に挑もうとしていたことを知ったから。

 

 期末テスト一日目にて、桃がこのテストのために徹夜してきたのだということを知りました。それを寝不足な彼女の顔と、大事に握りしめていた筆記用具とノートを持つ手を見て。

 

 そして彼女はこう言ってきた。私はシャミ子を侮ってはいない。負けるのも好きじゃない、と。その時は気づいた。桃は本気で私を見てきたのだと。それも繋がりの低い感じではなく、本気で宿敵として見てくれていたのだと。

 

 盲点だった。私は何を勘違いしていたのだろうか。私は体力は普通の人と同じかそれ以下だと言うのに、魔力だって白哉さんよりも低いというのに、それでも本気で私の事を宿敵として見てくれていた。私自身が、桃の信頼に値していない存在だと思い込んでいた中で。

 

 だから、私はそれに本気で応えたかった。正々堂々と戦って、正々堂々と桃に勝ちたい、と。

 

 そしてテスト開始前、私は先生に文鎮と見せかけようとしたごせんぞを『私の大切なごせんぞ様──貴重品なので預かってください』と言って預かってもらいました。それに驚いたごせんぞには申し訳ありませんでしたが。

 

 そしてテスト返却日。私のこの想いが生じ、功を成したのか、全教科八十点以上を取ることが出来ました‼︎ こんな点数を取れたのは初めてでした‼︎ それを知った白哉さんに頭を撫でてもらった時はかなり照れましたけど、彼に褒めてもらえてすごく嬉しくもありました。白哉さんの手、相変わらず暖かかった……

 

 ここまで良い点数を取れれば、さすがの桃にも勝てたに違いない。私はそう信じて桃にもテストの結果を聞きに行きました。聞いたの、ですが……

 

 

 

 国語九十三点。理科九十四点。英語九十二点。そして苦手だと言っていた世界史は九十五点。数学はまさかの百点。

 

 そして合計点は……四百七十四点。点差、四十二点……‼︎

 

 惨敗……‼︎ 惨敗……‼︎ 惨敗……‼︎

 

 

 

「負けた……ダンベル八百四十回……」

 

「……思ったよりも多くね?」

 

「別に無理しなくていいよ……法外なレートだし」

 

「舐めるなー‼︎ でも数日に分割させてください‼︎」

 

 

 たくさん頑張ったのに……勝負しない科目も出来るだけやってる中で頑張ったのに……頭脳派魔族になれなかった……

 

 この後、ごせんぞが先生からの勧めによって口述で全教科テストを受けたことで(封印空間で資料を盗み見しながらってことはせず)、成績上位者一覧に三位で入ったことを知り、桃がかなりショックを受けました。いやショックを受けてほしいところはそこじゃないのですが……

 

 後、いつの間にかごせんぞと一緒に先生のところで私達のテストが終わるのを待機していた白龍様もテストを受けていて、しかも四位に入ったそうです。白哉さんも『いつの間に自分からこの世界に来てたの⁉︎』みたいな反応をしていました。さらに桃もこの件でまたもやショックを受けて……

 

 いや私にテストで負けて悔しがってほしかった……ごせんぞも白龍様もすごかったのですが……これで勝ったと思うなよー‼︎

 

 




シャミ子が白哉君のおかげで一学期末テストの成績が優秀になったのに合わせるかのように、桃も点数が大幅アップ……‼︎ けど実はこれでも成績上位者一覧にベスト10には入ってないです。勝負科目以外の点数が普通だったからなんです。もちろんシャミ子も白哉君もです‼︎ 本当なんです‼︎ 信じてください‼︎(なんで必死なんだよ)

2023年も『偶に愛が重くなるまぞくと、愛されている男のまちカドまぞく』をよろしくお願いします。



おまけ:台本形式のほそく話その5
桃「シャミ先に飽き足らず、白龍さんにも負けた……」
シャミ子「そんなにショックですか?」
白哉「俺もいつの間にか白龍様が精神世界から出てリリスさんと一緒に出れるとは思わなくて呆気に取られてるぜ……」
白龍のスケッチブック(以下白龍ブック)【まあ俺も他の召喚獣達も召喚術で呼ばれずにこっちの世界に来れることはあるけど、それだと中途半端に力の半分を向こうの世界に置いていってしまうというデメリットがあるからなぁ。迂闊に勝手に出ることは出来んのよ】
リリス『では何故余と一緒にテスト受けるために、わざわざ自ら出てきたのだ?』
白龍ブック【暇だったから】
桃「ひ、暇だからという理由で受けた人に負けた……」
シャミ子「桃がさらにショックを受けて膝ついた⁉︎」
桃「ハッ……‼︎ そうだ。リリスさんはシャミ子のカバンにくっついてるから、教科書やプリントがお供えされ放題……。白龍さんも精神世界から目を通して見た現実世界の教科書やプリントを、自分の意思で精神世界に具現化させることが出来るはず……」
白哉「うわっ、リリスさんはともかく白龍様の力を深読みしすぎてね? まあ精神世界の白龍様ならできるかもしれないけど……」
桃「リリスさんは封印空間で資料を盗み見しながら、白龍様は一瞬精神だけ元の世界に戻して資料を盗み見して現実世界に戻るという形で、それぞれテストを受けたんだ‼︎ 違いますか、二人とも‼︎」
白龍ブック【いやいやいやいや、精神だけの蜻蛉返りなんてできるわけねぇだろ。記憶力を頼りにしているんだっちゅーの】
リリス『……というかその発想はマジで無かった。腹黒だなおぬし……』
桃「くっ……‼︎」
白哉「二人の地位の高い者へのイカサマ疑惑が空振りしてるやん」
シャミ子「なんかその……ドンマイです、桃」
白哉「それが一番傷つく反応だぞ優子」

END

 


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バレてほしくないのに両親にまで転生特典の事がバレた⁉︎ どうするよ俺⁉︎

遅れましてあけおめ‼︎ ってなワケで新年一発目の初投稿です。

マンネリ等に負けずに今年も小説投稿頑張るぜ‼︎

ちなみに今回は白哉くんのご両親が初登場です。


 

 どうも皆さんこんにちは、ただいま試験休み中の白哉です。無事に赤点取らず補修を受けることもなく、部屋の中で『○滅の○』の単行本を読んでいます。

 

 期末テストは結構大変だったぜ……。優子に世界史だけでなく、国語・数学・理科・英語のテスト範囲までも教えながら、俺自身のテスト勉強もしないといけなかったから、脳だけじゃなくて心身ともに疲れたよマジで。

 

 けどその分中学よりも頭が良くなった気がして、俺は五教科を八十点前後、優子はなんと八十点()()も獲得したんだって。原作では補修を受ける羽目になる程に低い点数だった英語も、やで?

 

 魔族は勉強の仕方次第でここまで頭の回転が良くなるものなのか……そういやリリスさんが優子に『頭のシワも微妙に増えるから頑張り次第でテストも良くなる』と言っていたから、その微妙に嬉しい特性が付与される魔族が羨ま……

 

 あっ、その特性は危機管理フォームの時でないと付与されないんだった。ってことは結局優子が努力した結果ってことか。やっぱスゲェよ優子は……

 

 けど桃には勝てなかったようだ。どの教科も九十点以上取る上に数学はまさかの百点。なのに成績上位者一覧には入っていないってどういうことなの……

 

 もしや五教科のテスト勉強に集中していて、他の教科はそれほど高く取れなかったのか? 可能性とすればそんな感じか? だとしたら他の教科でもそこそこ高い点数を取れた優子より順位が下だと思うのだが……

 

 いや、この話はもうおしまいにしよう。みんな試験休みでリフレッシュしてるだろうし、優子もミカンの自身の呪いが出ないようにする特訓の付き合いとして一緒に映画観に行ってるだろうし、桃もたまさくらちゃんのサンバイザー欲しさにゆるキャラ映画観に行ってるだろうから……

 

 ん? 何故俺は自分の部屋で漫画読んでるんだ、だって? せめてどっかに出掛けに行けばいいだろ、だって? いや俺も出来ればそうしたいのですけどね……訳あってここで人を待っているんですよ。それも原作キャラじゃない方々。

 

 何故そんなことをしてるのかって? それは試験休みになる前の日にまで遡ります。悪いけど聞いてってくれ。

 

 

 

 

 

 

 試験休み前、学校終わりに優子と一緒に桃に半ば連行される形で修行し終え、帰宅してすぐのことだった。突然スマホから着信音が鳴ってきたから、俺は不思議そうに掛けてみたんだ。

 

 

「はいもしもし、平地白哉です」

 

『もしもーし! (びゃく)ちゃん元気にしてたー⁉︎』

 

「うげっ⁉︎ か、母さん⁉︎」

 

『ちょっとー? 何が《うげっ》、なのよー。お母さん産みの親にそんなこと言わせるために産んだわけじゃないぞー』

 

 

 若々しく大人びてはいるも、何処か愉快な少女らしさもあるこの声の持ち主は、この世界の俺の母親・平地朱音である。

 

 『いつまでも少年少女の心を忘れずに過ごすのが長生きのコツ』、その言葉をモットーにして生きてきたためか、このように今時の中学生並のテンションで話しかけている。その明るさを実家の近所の人達も羨ましがっているとか。……痛々しい人とかじゃねーぞウチの母親は。

 

 

「で……一体何の用なんだ?」

 

『一体何の用なんだ、じゃないわよ! 貴方ここに引っ越しさせてあげてから最近連絡を寄越さなかったじゃない‼︎ さすがに不満でもなんでも思ってること一つは伝達してくれないと、お母さんもお父さんも寂しいし、何より心配しちゃうじゃないの‼︎』

 

 

 どうやらこちらが連絡して来なかったのを心配して電話を掛けてきたらしい。確かに俺は原作が始まって以来、実家に電話しなかったものだから、あちら側から電話してくるのも無理はないか。

 

 

「あ、あぁ……それその、色々立て込んでたからすっかり忘れてたよ。ごめん、連絡不通になって」

 

『まったくもう……素直に謝ってくれたから今回は良し‼︎ これからは偶にでいいから連絡してよね‼︎ 遅くても二週間に一回は必ず‼︎ 分かった?』

 

「はい、肝に銘じておきます……」

 

 

 うん、普通に考えて連絡を一つも寄越さないで家族を放置するなんてどうかしてるよな……

 

 けどこの際心の中でだけど、理由を言わせてほしい。優子のヤンデレモードの発動を回避するために色々と考察しすぎてしまったし、原作の物語が開始してからは本来の物語から設定とか色々とかけ離れたりしまわないように警戒したりしていたんです。

 

 つまりは優子とこの世界の運命の破滅を回避することに専念してしまって、家族との連絡を完全に忘れてしまったってわけなんです。ホントすみませんでした。いやマジで。

 

 

『あ、そうだ。白ちゃん、明日って暇かしら?』

 

「ん? まぁ予定はないけど」

 

『そう……』

 

 

 ん……? 母さん、一体何の用があって明日の俺の予定を聞いてきたんだ? 明日に何があるってんだ?

 

 って思いながら首を傾げていたら、今に至る状況を作らないといけないようになってしまった。その理由は、母さんが伝えてきた次の言葉にある。

 

 

 

『だったら私とお父さん、明日貴方のところに行くからね☆』

 

 

 

「……えっ」

 

 

 まさかの息子の住んでいる荘の家庭訪問宣言。これを聞いた時、俺は呆気に取られたってわけだ。なんで来るの? 連絡寄越さなかったからって仕返しするにしての急すぎるだろ。事前に予告すりゃいいってもんじゃねーぞ、って思ったわ。けど実際は違った。

 

 

『吉田家……清子さんに白ちゃんをそこに引っ越させることに喜んで承諾してくれたお礼がしたかったし、白ちゃんと仲良くしてくれている優子ちゃんや良子ちゃんの顔が見たかったし……何より白ちゃんが今そこでどんな生活してるのか気になっていたから☆』

 

 

 ただ純粋に、俺や吉田家の事を想ってのことだった。

 

 俺の両親と清子さんは、俺が優子と仲良くなってから病院やスーパーなどといったところでよく話し合っていた。俺と優子の将来の事とか今の家庭はどうなのかとか、そんな些細な事をよく話し合っていたらしい。それほど気が合ったってことなのだと思う。

 

 まあ一番気にしているのはやっぱり一人息子がちゃんと一人暮らししているかどうかってことなんだよな。けどそれぐらいなら直接言えばいいだろうとはその時考えてたけど、吉田家にも直接挨拶するとなるとほぼ意味ないじゃないかって事にも気づいたから思い留まってたな。

 

 で、やっぱり親には逆らえないってわけなので。

 

 

「そ、そっか……わ、わかった。じゃあ朝来てくれるか? それなら急な用事が出来た時には話とかはすぐ終わりそうだから……」

 

『ふぅん、念のために早めに来てってことね……分かったわ。それじゃあ久しぶりに会うの楽しみにしてるわ〜。じゃ☆』

 

 

 なんか電話中にウインクしてるような感じを出してきてから通話が切れた。『通話終了』の画面を見た俺は突然の親の家庭訪問に不安を感じ、メェール君が台所で夕飯の準備をし始めてる中リビングで静かに溜め息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 で、今に至るってわけ。いやもうホント、どうしてこうなったんだよ。

 

 俺、一人暮らししてる間に突然転生特典として召喚術を使えるようになってしまったんだぞ? 実質一人暮らしじゃなくなっているんだぞ? その事をどう説明しろと?

 

 むぅ……とりあえずは召喚獣のみんなは両親が帰って行くまでは自分達の世界で大人しくしていると言ってこの場にはいないから、後は俺がうっかり発言で召喚師になってしまったことがバレないようにするだけなんだけど……不安しかねぇ……

 

 そんな事を考えている間に、インターホンの鳴る音が聞こえてきた。ということは……ついに来たか。溜め息をつきながら漫画をしまい、玄関のドアを開けると、そこにいたのは……

 

 

「はぁーい! 白ちゃん久しぶり〜‼︎」

 

「よぉ我が子よ、元気にしてたか?」

 

「……久しぶり。父さん、母さん」

 

 

 はい、両親登場です。母親・朱音と父親・黒瀬です。父の名前はなんか無駄(?)にカッケーなおい。

 

 母親・天音は二十代前半みたいな可愛く美しい顔立ちをしている、夕日のように明るい赤色で艶やかなロングヘアーを持つ美女といった容姿をしている。これでも五十歳なんですって。めっちゃ若い。スーパーのパートをやっていて、人相の良さから常連客との仲が良いらしい。

 

 父親・黒瀬は三十代前半のキリッとしながらも逞しさのある顔立ちで、小さなツンツンがたくさんある黒髪の中に濃い紫色のメッシュがある勇ましさの強い男性となっている。彼もこれで五十三歳なんだって。仕事は人気食品メーカーの部長。メーカーの名前は何故か教えてくれないけど。

 

 にしてもなんで二人とも相変わらずこんなにも若いんだよ。どういう事だよ。魔性の夫婦って実際にいるのかよ。あっ、清子さんも高校生の娘持ちなのに若いんだった。いやでも、だからと言ってウチの両親とは何の関係もないでしょうけどね。

 

 

「とりあえず上がってってくれ。今お茶とか出すから」

 

「別に大丈夫だ。もう飲んできたからな(・・・・・・・・・・)

 

「えっ。……あぁ、来る途中で買ってたんだな。けど喉乾いたらすぐに言えよ、客相手に何も出さないのは後味が悪いから」

 

「あらあら、そっけないのに相変わらず優しいのね」

 

 

 喧しい。そっけないところを指摘すんじゃねェ。完全なる反抗期じゃないだけでもありがたく思いなさい。

 

 とりあえず二人をリビングまで連れて行き、念のため薄皮いちご大福を出してあげた。お菓子ぐらいは出してあげないと後味悪いし。お、二人ともこの大福を『美味い』って言ってくれた。そりゃあ多摩町の商店街に一軒だけある駄菓子屋の大福だからな、美味くなきゃ意味がない。

 

 

「さてと……そろそろ本題に入るとしようか。どうだ、最近の学校での生活は?」

 

「まあ結構楽しくやっているよ。友達もたくさんできたし」

 

「一人暮らしは慣れたかしら?」

 

「そりゃあもう当然。そうじゃなかったら連絡してた」

 

 

 この後も結構質問のラッシュを受けたな。主に学校の事とか一人暮らしの事とかしかなかったけど。まあ一人暮らしの高校生なんて滅多にいないし、生活費は二人が付与してくれているから問題なかったけど使い道とかがね、心配になっちゃうよね。無理もない。

 

 

「おお、そうだった。これもきちんと聞かなければな」

 

「ん?」

 

 

 なんだ? 父さんなんか思い出したかのように呟いたんだけど。一体何を思い出したってんだ?

 

 

 

「我が子よ……魔族や魔法少女に負けない力を手に入れていたってのは本当なのか? 気になるから見せてほしいのだが」

 

 

 

「ブフォッ⁉︎」

 

 

 はっ……ちょっ……は? ちょっと待てなんでそれ知ってんの? 俺が転生特典として手に入れたその能力の事、同級生のほんの僅かしか知られてないはずだし、学校以外では決して噂されないようにしてるし、唯一学校以外で知らされてるのは清子さんだけのはずだし、良子ちゃんには念のため知られないようにしてと優子にお願いしたし……

 

 なんで⁉︎ ホントなんで⁉︎ なんでこの二人が召喚術の事を知ってんの⁉︎ 何故⁉︎ 俺は一体どこでヘマして……

 

 ハッ⁉︎ さては杏里の仕業か⁉︎ 偶々俺の両親と出逢わせて、偶々その二人が俺の両親だと知って、俺の召喚術の事を伝え──

 

 

「お前のところに来る前、隣の部屋の吉田家……清子さんのところに挨拶に行ってたんだ。そこで彼女の娘さんの優子君……今はシャミ子君だったな。彼女が我が子のことをよく話していたらしく、そこでお前が召喚術を覚えるようになったと知ったんだ。良子君は何故かこの事を知らないらしいがな」

 

「思わぬ伏兵が別のところにいたぁ⁉︎ なんで教えちゃうんですか清子さぁん⁉︎」

 

 

 う、迂闊だった⁉︎ 優子には清子さんにも口止めしてもらうよう頼み込めばよかった……‼︎ 意外な方面から家族にバラされるとは予想外や……‼︎

 

 というかいつの間に吉田家にご挨拶してたの⁉︎ 普通は俺のところに来た後にそっちに行くところだよな⁉︎ 優先順位って知ってる⁉︎

 

 つーかどうしよう、俺が普通の人じゃなくなってきたことが両親にバレちゃったよ……。これ、どう説明すれば良いんだよ……。このままだと俺が転生者であることもバレるのでは……?

 

 

「えっと……あの……これは……その……」

 

「何も言わなくていい。分かってるぞ、お前がその力の事を、俺達にずっと言えなかったことを」

 

 

 へ……?

 

 

「人は誰しも、他人に言えない事情ってものがある。それを知られてしまったらどうなってしまうのか想像もできず、一人で苦しんでしまうほどの、な。だからどこでそれを覚えたのか、それを覚えて何が起こったのかなどを俺達は深く追求する気はない……が、次からはお前の身に何かあった時は迷わず俺や母さんに相談してくれ。いざという時は少しでも力になりたいからな」

 

「と、父さん……」

 

 

 な、なんか急に自分が恥ずかしくなってきた。自分が転生者であることを言い訳して、召喚術にしろそうでないにしろ、自分の事を家族に伝えないなんて誰も信用しないのと同じものだと身を持って知ってしまったのだから……

 

 あぁそうか。俺はいつの間にか決めつけていたんだな。前世で別世界の記憶を持った自分は実質孤立しているようなものだって。転生したどうなったとかを隠して言ってもそれで何かが解決できるとは限らない、結局は転生したことで生まれた問題は自分自身の力のみで解決しないとならない、そう自分に言いつけていたんだなって。

 

 ……いつか、俺の前世の事をこの二人や優子達に話してみようかな。さすがに転生したって事をそのまま言うまでの決心はつかないけど、何かしらの形で前世での出来事を明かしてみたい。そうすればきっと、何かが変わる気がするから。

 

 とりあえず今は……

 

 

「……分かった。だったらその術を教えてくれた人と今から会わせたいけど、いいかな?」

 

「む? それは恩師ってことか? なら是非会わせてもらいたいものだ。朱音、いいかね?」

 

「えぇ、私も構わないわよ。是非会ってみたいものね。白ちゃん、早速お願いできるかしら?」

 

「おうよ。じゃあ早速……我が名は召喚師・白哉───‼︎」

 

 

 というわけで家族に初お披露目となる召喚師覚醒フォーム。本当はデフォルメの方の白龍様を召喚するつもりなんだけど、せっかくだから『俺はこういうのにもなれるから何かしらの闘いに巻き込まれても大丈夫だよ』アピールをするためにも、念のために、ね?

 

 ……うん。相変わらず色変えただけのツイス○キャラの衣装パクリ乙な格好やなこれ。俺も優子がリリスさんに危機管理フォームのリテイクを頼んでいるみたいに、白龍様にこの格好のリテイクをお願いしようかな……

 

 

「おお! 中々カッコいいじゃないか‼︎ それが召喚術とやらの魔法を本格的に使えるフォームなのか⁉︎」

 

「結構良い姿になってるじゃない‼︎ 白ちゃんこっち向いて‼︎ 写メ撮りたい写メ‼︎」

 

「それは恥ずいからやめれ」

 

 

 何なのこの二人。俺が変身した瞬間に結構食いついてくるんだけど。どんだけこの召喚師覚醒フォームに興味が湧いてきてんだよ。母さんスマホ片手に高速連写やめて。つーか父さんはどこから一眼レフカメラ出してんだよ。しかもそのカメラめっちゃ高価に見えるんだけど。

 

 あーもうめんどくせぇ。これ以上このフォームについて追求される前にさっさと白龍様出しておこう、そうしよう。

 

 

「デフォルメサイズの白龍様、召喚」

 

 

 魔法陣カモーン。そしてそこから白龍様が出たぁ‼︎ そしてちっちゃい‼︎ けどこのぱんだ荘を壊したくない‼︎ だから白龍様、今はデカさによる威厳を抑えて‼︎

 

 

「「おおおおおお……? 思ったよりもちっちゃい……?」」

 

 

 喧しい。白龍様に失礼やろ。このサイズで呼び出したの俺だけれども。

 

 言っておくけど、召喚師覚醒フォームの姿で白龍様を呼ぶ場合は『デフォルメサイズ』と付け足さないと、本来のサイズ──全長六メートルの方で登場してしまい、このぱんだ荘の天井を突きつけてしまうので気をつけましょう。後めっちゃ目立って後がもう滅茶苦茶大変だしめんどくせぇ。

 

 ……あっ。事前にテレパシーみたいなヤツで白龍様コールをするの忘れてたわ。ヤベッ、白龍様突然の召喚に絶対呆然としてるだろ。すみません白龍様、これにはワケが……

 

 

【あ、どうも。お初にお目にかかります。俺が白龍です】

 

 

 ………………ん? あれ?

 

 

「あら、ご丁寧にどうも。白ちゃん……白哉の母の朱音です」

 

「いつも息子がお世話になっております。父の黒瀬です」

 

【いえいえ、こちらこそいつも白哉がお世話になっております。何卒よろしくお願いします】

 

 

 ……あれ? 白龍様、突然のウチの両親とのご対面したとなっても冷静に対応しているんだけど。これアレか? 一々変な反応しても面倒くさいから何も考えずにとりま挨拶しとけってヤツか? その精神は逆にすげぇなオイ。

 

 

【せっかくですし、お話しましょうか? 白哉がここに一人暮らししてから何があったのかを】

 

「おや、教えていただけるのですか? それはありがたいですね。我が子よ、彼からお前がここで生活し始めて何があったのかを聞いていいか?」

 

「あ、うん。どうぞ」

 

「それじゃあお聞かせいただこうかしら。白龍様、よろしくお願いしますね」

 

(りょ)

 

 

 ヤベッ、素で思わず俺が今日までに遭遇した出来事の事を聞いてOKのサインを出しちまった。いや聞いてほしくない内容もあるんだけどマジで。と、とりあえず……

 

 

「(白龍様……俺が犯してしまった優子へのラッキースケベとか、俺が誰かに聞かれたら不味いことは絶対に喋らないでくださいよ? プライバシーってものがあるんですから)」

 

【(おけまる)】

 

 

 その返答されるとなんか不安なんですけど。

 

 

 

 

 

 

 この後は俺の両親と白龍様のトークタイムが始まった。俺がまぞくになった優子にしてきた対応の仕方や、桃に優子諸共揶揄われたこと、メェール君に対する高評価をした事などと、とりまバラされて恥ずかしくなるような事は両親に報告されることはなかった。

 

 もちろん俺が起こしてしまったラッキースケベとか、優子の危機管理フォームの事とか報告されなかったよ。報告されたらされたで俺は羞恥心で死んじゃいそうだし、報告されたことを知った優子も恥ずかしさのあまり昇天しちゃいそうだし。

 

 そしてある程度のトークタイムが終わった後、両親は満足したのか家に帰ることになった。これ以上長居しても迷惑だろうから、とのことだ。まあ正直久しぶりに会ったんだからもう少しぐらい居てもいいと思ったんだけども。

 

 

「それじゃあ私達は帰るわね。生活スタイルには気をつけて……って、そこは大丈夫そうね。とにかく偶には連絡を寄越しなさいよ?」

 

「ああ、分かってるよ。父さんも母さんも体には気をつけて」

 

「もちろんそのつもりだ。では白龍様、俺達はここで」

 

「次来る時はお土産を持ってきますね」

 

【いえいえ、お構いなく〜】

 

 

 なんかこの三人……というか二人と一匹、この短時間で結構仲良くなってないか? 遠慮なしにお互い握手を交わしてるし、なんだかな……

 

 そして両親が玄関から出て行くのを見送った俺は、緊張がほぐれたのか背伸びをしてから一つ深呼吸をした。いやぁ久々に再会した家族と話すのはめっちゃ体力使うなー。心労とかしちゃうし、もうヤダわホント、しばらくはまた直接対面するのは勘弁かな。

 

 

【お疲れー】

 

「白龍様もお疲れ様でした。そういや俺の両親に対してよく敬語で話しましたね。立場的に別に敬語は必要ないと思いますが」

 

【いやいや、そういうわけにはいかないよ。お前の身内の前ではそれなりの礼儀は守っておかないと後先が面倒だからな。なんだあの偉そうな態度は、とかいう陰口なんか叩かれたくないもんね俺】

 

「あ、さいですか……」

 

 

 なるほど、白龍様にも白龍様なりの人の接し方があるってことか。普段からマイペースな方だなとは思ったけど自己中とかではないことは改めて理解できたよ。失礼なこと考えてすみませんでした。

 

 

【それじゃ、疲れた俺そろそろ精神世界に帰るわ。お疲れー】

 

「はい、それではまた── 『プルルルルルッ』 ん? 電話だ」

 

 

 白龍様が帰ろうとしたところに突然の電話が。こんな時間に誰……って、ミカン? なんで俺の電話番号知って……あっ。そういやもしもの時のためにと優子達と連絡先交換してたんだっけ。すっかり忘れてた。

 

 

「もしもし、白哉です」(もしもしドナル○です風)

 

『あっ、白哉⁉︎ 悪いけど時間あったらすぐ桃の家に来て‼︎』

 

「あぁん? なんで? まさかこんな休日に優子が連行されてトレーニングを受けて気絶でもしてんのか? もしそうだとしたら桃色魔法少女マジ許さん」

 

『いや流石の桃も休日の邪魔はしない派なんだけど……とにかく時間があるなら来て‼︎ 私とシャミ子じゃ対応出来ないことが起きたから‼︎』

 

「わかったわかった、すぐ向かうから」

 

 

 今桃の家で何が起こってるのかは、原作読んだから分かりきってるんだけどね……悪いなミカン、ちょっとだけ意地悪してしまった。さてと、早速桃の家に向かうとするか。

 

 ハァ……にしても両親の家宅訪問で疲れたこのタイミングで呼び出し喰らうとか、今日はいつもよりも厄日だよ……ホントめんどくせぇ。

 

 

【乗せるから俺を元のサイズに戻せー。メタ子とまた話したい】

 

「はいはい」

 

 

 あっ。今気づいたけどミカンも優子の事を『シャミ子』と呼んであげたんだな。ってことは優子はミカンとも仲良くなれたってことか。よかったよかった。

 

 

 

 

 

 

「───で、なんで拓海まで桃の家に?」

 

「いや、俺が聞きたいくらいだよ……」

 

「えっと……私が説明しますね」

 

 

 数分後。桃の家に到着した時には、優子・桃・ミカンの三人だけではなく、何故か拓海までもが鍋を囲んでいた。拓海本人も何故自分がここにいるのかと困惑しているようだが。

 

 優子の話によれば、ミカンが桃の心身の消耗を心配して今日の修行を休みにする事を提案し、優子にはミカン自身は呪いの制御の為にホラー映画を一緒に観てほしいとお願いしたらしい。つまりは桃の為に心の修行をすることになったミカンの付き添いを頼まれたってことか。

 

 優子は最初は乗り気じゃなかったみたいだけど、映画でのゾンビ達の圧倒的ヒーローに果敢に挑むその勇敢さに感動したとか……。いや、別にどの登場人物に感情移入しても咎めはしないけどさ……モブ敵に感情移入できるのはショッ○ー戦闘員ぐらいだとは個人的に思う。

 

 つーかゾンビ映画ってことは、ゾンビの体から臓器とかが飛び出てたんだよ? そんなスプラッターで感動して泣くとかどういう感性してるんだお前は。見ると貧血気味になる癖に。あ、ちなみに俺もスプラッターは苦手です。あんなR-15Gな要素はトラウマものだわ。

 

 視聴後、ミカンは呟いた。ここに来てから知り合いもいないし呪いが暴走しがちで不安だったけど、優子のおかげで今日は安定できたと。ミカンの呪いの鎮静化は進みそうだな。

 

 しかしそこでまさかの桃との遭遇。たまさくらちゃんの目が光るサンバイザーを手に入れようとゆるキャラ映画を観に来ていたらしい。だが二人の姿を見た彼女の目のハイライトは現在のように消えていた。

 

 一緒に帰りながら優子とミカンはなんとか桃を宥めようとしたが効果なし。そこに偶々近くを散歩していた拓海とばったり遭遇。ミカンは申し訳ないと思いながらも彼に即座に助け船を求めるも、過保護による言葉巧みでも桃の目の曇りをほんの少しだけ薄めただけに過ぎなかった……

 

 うん、拓海の過保護でも無理なら俺が介入しても無理に決まってる。いくら俺が原作を知ってるとはいえ、それはあくまで物語の本筋を見ているだけであって細かい部分の対処の仕方はわからねーよ。原作でも桃の目のハイライトが戻るまでの描写がなかったんだし、無理だわこりゃ。

 

 とりあえずなんか一言かけるか。

 

 

「あのなぁ桃……ミカンはお前にこれ以上魔力とかを消耗させたくないがために呪いを抑える修行として映画を観ることにしただけであって、別に修行をサボりたいとかそんな事は考えてないはずだぜ?」

 

「別に怒ってないよ。シャミ子やミカンにもリフレッシュが必要だし、あと何より私もサンバイザーが欲しかったから」

 

「どの目して言ってんだテメーはコラ。あっ優子、悪いけどネギと肉団子入れて。俺も食うから」

 

「あ、はい。よそっておきますね」

 

「お願いだから説教するなら真面目にして⁉︎ 急に呼び出したことなら私が悪かったから‼︎」

 

「拓海の過保護でもダメな時点で俺が来ても意味ないと思うで?」

 

 

 うーむ、いつもならどうにかしてこういった修羅場もどきとかを回避する方法を探すんだけど、別に今後の原作に影響を及ぼすわけじゃないからもう関わらなくてもいいと思うんだけどなぁ。

 

 ……おい、拓海。何無言でこっち見つめてくるんだ。助けてってか? そこをなんとかしてくれってか? おいおいおいおい、いつも勝手に人助けしてやるとかしつこく言ってくるお前がまさかの無言で頼み事を要求するのか? 珍しいなオイ。

 

 いや、流石に拓海に無言のお願いをされてもな……どうしたものか。

 

 ん? ちょっと待てよ? 桃があんな目になったのは、もしかすると……

 

 

「……ミカン、ちょっといいか? 桃がこうなってしまったのは、修行を休みにした理由……呪いの克服の為にホラー映画を観ても落ちつけるようになりたいからって素直に言わなかったからだろ? 隠し事でもしてたらそりゃ桃も『騙されたのではないか』と偏見的な結論を考え込んちまうわけだ」

 

「ウグッ⁉︎ た、確かにそう聞くと騙してるように思われてるかも……」

 

 

 図星か。やっぱり言い方が悪かったのかって顔してるな。ここでさらに個人的意見をぶつけてみるか。

 

 

「正直な事を言えば、桃もそれに合わせて彼女なりの呪いを克服する方法を考えてたりしてくれるはずだ。桃も本当の事を言ってくれれば納得がいくし、不満な思いをしなくて済むだろ?」

 

「……まあ、そこまで言われると確かに白哉くんの言う通りかな」

 

「そういうこと。だからミカンも、次からは自分が何をしたいのか正直に言いなさい。呪いの克服したいならしたいと言う。分かったか?」

 

「は、はい……」

 

 

 うん。別に説教してるわけではないけど、ミカンも反省してるような様子を見せてくれてるな。隣見たら桃の目のハイライトも戻り始めて……

 

 ………………ん?

 

 

「………………桃、お前わざと死んだ目を演出してたな?」

 

「「「えっ?」」」

 

「………………」

 

 

 ふと気づいたことを口にしたら、優子達三人は拍子抜けな声を出し、桃はやらかしたと言ってるかのような顔で目を逸らした。うん……ここも図星か。

 

 

「な、何のことかな? というか私の目死んでた?」

 

「死んでなかったらミカン達がしつこく心配するわけねーだろうが……。本題に戻るぞ。今のお前は目の輝きを取り戻している。だがそのスピードがあまりにも早すぎる。しかも俺がミカンに提案して彼女が納得した瞬間にシュンッとな。俺だってさっきの考察とミカンに提案したことだけで、桃の目のハイライトが戻るとは思っていなかった。こんな複雑な条件ばかりの中で目の色が完全かつスピーディーに戻れるわけない。桃だってそれほどポジティブな性格の持ち主じゃないはずだ」

 

「ええっと……つまり桃は本当に怒ってたり寂しそうにしてたりしてたわけじゃないってことなの?」

 

「桃、それは本当なのですか?」

 

「何故俺達を心配させるようなことをするんだい?」

 

「いや……えっと……その……」

 

 

 俺達が本気で心配してたのに、俺がみんなを騙したのかと感じたこの感情のまま色々と言ったせいなのか、それとも優子達にまで問い詰められたからなのか、桃も言い逃れ出来ないことを悟って冷や汗を掻き始めた。

 

 言い過ぎたことは否めないし正直悪かったかなとは思っているけど、死んだ目をしてるフリして優子達を騙してた桃も悪いからな? さっさと正直な事言えやコノヤロー。

 

 

「………………うん、ごめん。わざと目の色殺したらミカン達がどんな反応するのかなって思ったら、やってみたくなった上に楽しくなっちゃって……。シャミ子とミカンが二人で映画を観に行ってたこと、本当に不快に思ってないから。ごめん……」

 

 

 やっぱりおちょくってたのか。ひでーことするなオイ。

 

 

「……よ、よかった〜。私達を騙してたのはアレだったけど、本当に何も思ってなかったのね。結構ヒヤッとしたわ……」

 

「でもタチが悪いですよ桃。私達本気で心配してたんですから」

 

「焦ってた俺達の気持ちも考えてくれ」

 

「本当にごめん……」

 

 

 おっ。桃も罰が悪かったのかちゃんと頭を下げて謝ったな。悪戯心があっても罪悪感がないわけではない、はっきりわかんだね。

 

 

「はい、みんなが納得したならこの話はこれでおしまいな。豆腐も煮えてきたし、そろそろ鍋を再開しようぜ。何食べたい? 俺がよそうぜ。白龍様もリリスさんも食べたいのがあれば」

 

「あ、じゃあキャベツをお願いします」

 

「豆腐で」

 

「私はネギでお願いね」

 

「それじゃあ肉」

 

『余にはポン酢をお供えしておくれ』

 

【うどん食いたい】

 

「それはシメですしそもそもうどんがシメになるとは限りませんよ」

 

 

 この後先程までプチ修羅場だったのが嘘だったかのように、楽しく鍋パーティをした俺達だった。

 

 ん? 出来れば修羅場になってほしかった? 面白そうだったから? ふざけんな修羅場とか絶対やだわ。はっ倒すぞ。

 

 




子供が気付かぬ内に普通じゃなくなっても、いつも通りに接してくれる親……実に見てみたくね?

宜しければ気軽に感想送ってください。よろしくお願いします。

あ、ちなみに今回のおまけの台本形式のほそく話はおやすみです。


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マッドサイエンティストとは空気を読まないクソ迷惑な実験大好き野郎の事も指す

ドSは怖いので初投稿です。

前回のを投稿してから今回の話に至るまでで、お気に入り登録者数が増えないどころか寧ろ一人減りましたー‼︎………………泣いていい?


 

 イェーイ‼︎ もうすぐ夏休みだぜー‼︎ 桃に半ば無理矢理修行させられた分リフレッシュしてやるぜー‼︎ って気分な白哉です。

 

 いきなりこのテンションになってごめんな? けど前世でも学生時代はこんな感じに夏休みを楽しみにしていたから許してくれ。

 

 あっ。最近ウチの両親が家宅訪問してきました。なんでも一人暮らししてる俺の事が心配だったからだとかどうとかで、直接会って話がしたかったらしくて……

 

 それと、その前に清子さんに挨拶に行った時に、俺が召喚術を使えることを知り見たくなったとのこと。俺は最初呼ぶのを躊躇ったのだけど、隠し事はしなくて良いと言われて折れちゃったよ。

 

 で、召喚師覚醒フォームをお披露目してから白龍様をデフォルメサイズで召喚。そこからは白龍様とウチの両親のトークタイムが行われました。とりあえず三人だけの空間にしたかったので、俺はわざと蚊帳の外になってトークタイムが終わるのを待機しました。大人達の野暮に無闇に突っ込んではいけない、ここメモしてね。

 

 白龍様が俺がここに一人暮らししてから何があったのかを両親に話してあげた後、満足したのか両親はまた連絡してねと言って帰っていった。まるで台風……というか嵐の夫婦だったなマジで。

 

 で、ちょっと心身が疲れたので精神世界に帰ろうとしていた白龍様を帰そうとしたところに鳴るスマホ。電話に出たらミカンにいきなり『暇なら桃の家に来て』と必死にお願いされました。なんだよ人が両親とのドキドキハラハラとした会話を終えたこのタイミングで、って思ったなこの時は。

 

 でも白龍様がまたメタ子に会いたいとか言ってきたので、仕方なく俺は元のサイズに戻った白龍様に乗っていざ桃宅へ。到着した時には優子達だけでなく、巻き込まれる形で同行していた拓海までもが昼飯の鍋を囲んでいた。

 

 ってかもうすぐ夏なのに何故鍋? しかも昼に鍋って時間帯的にも早いよ? 昼に鍋食べるのはちゃんこ鍋を食べる力士ぐらいしかいねーよ。

 

 ちなみにこの時桃の目は死んでました。ハイライトも消灯モードでした。ミカンが呪いを制御するためにホラー映画の鑑賞でビックリなどに慣れようとして、優子にも同行を頼んだら、鑑賞後にたまさくらちゃんのサンバイザーをゲットするためにゆるキャラ映画を観に来ていた桃とばったり遭遇してこうなったってわけ。

 

 ミカンがちゃんと説明しても桃は『別に怒ってるわけでも嫉妬してるわけでもない』だの『サンバイザーが欲しかった』だの『修行ばかりじゃなくて偶にはリフレッシュも大事なのはわかってる』だの……これらばっかだ。

 

 あの過保護な拓海の言葉巧みでも桃の目は死んだままとなっているため、なんとかするように頼まれた俺も一度諦めました。まだ大したことは何もやってないのに。

 

 とりあえずなんとかしようかと考えていたら、桃の目が死んだ理由を察し、あの時こうした方がよかったのではないかとミカンに問いかけてみた。そしたら彼女も全てを把握したか罰が悪いような顔して改めて謝罪した。別に俺説教してるわけじゃないけどね。

 

 で、いつの間にか桃の目も色を取り戻した……のだけど。俺はこの時ふと思ったんだ。俺の完全に理解してくれるかどうか分からない言葉巧みだけで、目の色が完全かつスピーディーに戻れるのだろうか、と。

 

 その事を桃に指摘してみたら、どうやら彼女は優子達を揶揄いたいがためにわざと目が死んでいる演出を見せていたらしい。それを知った時の俺は『ブラックジョークじゃ済まされなかったぞ』的な感じになったけど、優子達はそれほど怒っていなかったため揉め事にならずに済みました。お前ら人が良すぎない? 俺も俺だけど。

 

 まぁそんな感じでプチ修羅場は終わり、翌日以降は放課後にいつも通り俺と優子が桃の修行に付き合わされ、拓海とミカンがそれに付き添うといういつも通りの日常に戻りました。いやこれ日常、か……?(混乱)

 

 

 

 

 

 

 で、それから数日後。

 

 

「あっ平地くん久しぶり〜。この前いつか召喚獣のみんなのデータ取らせてって約束したの覚えてる? 覚えてるよね? ちょうどシャミ子ちゃんに強大な力をあげようと部室に案内してるところだから、平地くんも一緒について来てくれる? 大丈夫? 大丈夫だよね? よし、それじゃあついて来て‼︎」

 

「落ち着け‼︎ そして喋る権利与えろ‼︎ まだオッケーとか言ってねェんだよこっちは‼︎」

 

 

 桜ヶ丘高校のマッドサイエンティスト・小倉さんに強制的に連行されることになりました。しかも既に原作通りに優子も連行され、桃も優子が心配だからと同行することになってた。なんでも優子にとてつもない能力を渡したいとかどうとからしい。

 

 ん? 何者なんだこいつは、だって? 小倉さんは悪魔とか魔術とかに興味津々の変わり者で、いつも学校の部屋や機材を勝手に借りて怪しい研究をしているらしい。いやそれで今後の授業に影響を与えたらどう責任取るというんだよあの馬鹿は。桃以上の天然かつマッドサイエンティストって、俺の苦手な人間の類やなマジで。

 

 まあそんな奇行が多い彼女なんだけど、成績が滅茶苦茶いいため先生も黙認してるらしく、期末テストでも白龍様だけに飽き足らずリリスさんをも差し置いて学年トップ。しかも倫理以外はまさかの全教科百点満点だという。

 

 うーん、なんだろう……低いってわけじゃないだろうけど、倫理がテストの中で一番人は中々信用できないというか、なんというか……

 

 そんな不安要素のデカい彼女に連れ去られている(感じな)俺達なワケなのですが、正直彼女の頭脳の良さには色々と期待している。優子が彼女が作った薬を飲まされたことで危機管理フォームに変身できるようになったのだから、俺……というか召喚獣達の強化も取り返しのつく範囲内でしてくれるのではないかとも期待してしまう。

 

 

「私、シャミ子ちゃんや平地くんとずっと仲良くなりたかったの。シャミ子ちゃんはまぞくだし、白哉くんも色んな動物を呼べるでしょ? 二人とも私の研究テーマと相性がいいと思うんだ。二人と親しいお友達になって、もっと気軽に色んな実験がしたいなぁぁ……」

 

 

 こんなヤベーイ性分してるけども。

 

 

「私の知ってる友達関係と違う……。白哉さん、これいざという時は逃げた方がいいのでしょうか……?」

 

「……出来ていたらもうとっくに逃げてるよ。けどこいつの研究したいという欲を考えると逃げられないかもしれないから、害を与えない程度にしてもらうように頼むしかねぇぞ……」

 

「し、死んでる……白哉さんの目がこれまで以上に死んでる……」

 

 

 やめて、見ないで。俺の目というか顔を見ないで。今色々と諦めてる顔してるから。本当は巻き込まれたくないと思ってるから嫌な顔してるの。だからせめてそこに気づかないで。俺の今の心情を知った小倉さんが何をしてくるのか分からないから。

 

 と、そんな事を考えていたら小倉さんの部室……じゃなくて研究室(ラボ)に到着しました。ヤベッ、もしウチの召喚獣達が解剖されたりしたらどうしようかと考えたら、急に背筋が凍り始めたよ。笑い事じゃねェよマジで。

 

 とりあえず桃が『いざとなったら技術だけ頂いて小倉さんの記憶を封印して逃げよう』と言ってたので、改めて気を引き締めることに……

 

 いやちょっと待て。桃、お前今魔法少女がしてはいけない手段の案を出してるじゃねェか。それが世界を救った者の取る正義の仕方か? 何リアリストな意見出してんの? 今後『ワールドワイドホラ吹き恋愛お節介ネキ』と呼ばれてーのかテメーはよぉ。

 

 

「そんなわけで……私のラボ──黒魔術研究部へようこそ‼︎」

 

 

 う わ お カ オ ス 。

 

 小倉さんが襟の立っている伯爵っぽいマントを羽織るのはまだいい。ただ部室があまりにもヤバさMAXの領域展開やぞ。壁には何か紫色の血が流れてるような貼り紙があるし……。屏風の絵の仮面っぽいヤツは何? 中から長い黒髪みたいなのが出てる箱も何? なんでアリス人形みたいなのが入ってる箱に『封』の札が貼られてるの?

 

 後、なんかドラ○ンボー○の四○球みたいなのまであるし。くしゃみしたら大魔王というか魔人が出てきそうな壺も見えてるし。そしてドラク○みたいな箱には何が入ってるの? 危なっかしいものは中に入ってないよね? ミミッ○じゃないよね? ねぇ?

 

 オカルト部よりも数段ヤバいってレベルじゃねェぞこれは……

 

 ってコラコラ物理魔法少女、そのハートフルモーフィンステッキをしまいなさい。いくらなんでも決断するにはまだ早すぎる。

 

 

「私は二人に実験してデータを取りたい。シャミ子ちゃんはまぞくとして強くなりたい。平地くんは承諾を得た子なら今度データを取らせてあげるという約束をした。これって利害の一致だよね‼︎ 素晴らしいよね‼︎ 一緒に深淵覗こっ‼︎」

 

「俺の場合はただ普通の約束事をしただけで、素晴らしいと思われますかね?」

 

 

 つーか漆黒のオーラ出しながら花を咲かせないでくれます? 無闇に色々な方面に突っ込もうとするのやめてくれます? やっぱこいつヤバヤバのヤバな人やんけ。割と有能とはいえ倫理観の欠けてる人と協力するのはやっぱり……

 

 

「小倉さん……さっきからグイグイ進めてるけど一旦落ち着いて。二人とも怖がってるから」

 

 

 おっと、ここで助け舟が出てきた。いつもは俺と優子を揶揄う桃が今回はグイグイ攻めよる小倉さんを止めに入った。とりま助かった……

 

 

「シャミ子は今私と共闘中で、白哉くんにはシャミ子の護衛を任しているんだ。変なことされて二人に悪影響があると困る」

 

「桃……」

 

「お前、なんだかんだ言ってやっぱり優し───」

 

「二人とも今私がプロデュース中だから。二人をいじりたいなら一旦私に企画を通して。あっ、でもカップルとしてくっつけたいのなら本格的に検討してあげる。二人ともお互いの好意をバラしてるくせに全然してないから、結ばれてくれないと私も尊いを一つ失って色々と困る」

 

「「俺/私達はテメー/貴様にラブコメドラマを見せるための演者ではない」」

 

 

 前言撤回、やっぱりちょっかい掛ける程度ならなんでも良い感じじゃねーか。しかも本人達の前でなんてことをカミングアウトしてんだふざけんな。

 

 

「え? 二人とも所々で周りにお構いなくラブコメシーンを見せてるんじゃないの? 『いい加減付き合えよ』と思わせる程に。二人ともお互いの好意を知ってるんだし、いい加減付き合いなよ」

 

「「もう黙れ。こちらの事情や気持ちを考えろ」」

 

 

 なんで俺らがKYリア充だと思われなきゃならねぇんだ。優子はヤンデレとはいえちゃんと恥ずかしいという感情を表に出してるし、俺だって周りそっちのけな事はしねぇと思うぞコラ。

 

 

「………………というか私達、気づかない内に周りから空気読まない感じの奴らだと思われてるのですか? 大体二人きりの時でもそんな注目されるようなことしてませんよね……?」

 

「へ? ま、まあ別にリアルが充実してるってわけでもないし、な……?」

 

 

 ……アレ? 俺達って本当は周りなんて気にせず無自覚にイチャイチャするタイプだっけ? いや俺ら付き合ってないぞ? まだ優子が逆告白みたいな事を言っただけだぞ? だからカップルに思われるようなことは……

 

 

「もちろんシャミ子ちゃんと平地くんが結ばれるような企画だって考えてあるよ‼︎ 例えば戦闘ロボットの集団に囲まれたシャミ子ちゃんを平地くんが助け──」

 

「なんかいろんな意味でダメ」

 

 

 ちょぅと、なんか小倉さんがラブコメ展開に興味示して変な企画出し始めてるんですけど。

 

 

「『この闘いが終わったら結婚しよう』みたいなイベントの擬似体験とか──」

 

「死亡フラグが高いから却下」

 

「じゃあ媚薬──」

 

「違法かつ論外。というか全部倫理的にアウト。スリーアウトだからこの話はやめにしようか」

 

「話題持ち出した本人が何言ってんだ。恋愛関連の企画なら喜んで聞いてやるとも言ったのはどこの誰だったのか、忘れたとは言わせんぞコラ……おい目ェ逸らすなや」

 

 

 お前だって杏里に俺を恋愛方面でも強くした方がいい(?)と言われた時なんて、俺と優子をラブホテルに泊めようかと考察しようとしてたよな? 俺ァその時のことを忘れてなんかいないからなマジで。

 

 この後小倉さんは本題として俺と優子を強くさせるための案を出してきたわけなのだけど……それらの方が倫理的にダメだったわ。

 

 電流を流して魔力の質のデータを取るって何? 採血とかも怖えし。最終的にはコウモリの羽を移植するとか言い出したし……俺らの事を吸血鬼にでも変える気ですかねアンタは?

 

 あっ、よく考えたら電流を流すのは別に悪くないかもしれない。平成最初の仮○ライ○ーであるクウ○なんて由緒正しいパワーアップ法とされて……

 

 いや彼は特殊すぎるだけだわ。やっぱり電流も論外だわ。

 

 

【コウモリの羽生やしたびゃくシャミ……見てみてぇなぁ。特にまぞくのシャミ子なら似合いそうだし】

 

『角と尻尾みたいに自由に出し入れできないのではないか? まぁ余もそんな二人が見てみたいのだがな……』

 

 

 はいそこのお二人方、何こそこそと話し合っているんですか。気配消しているとはいえお二人方の隣にいる俺と優子には筒抜けなんですよアンタらの会話。

 

 ってか白龍様、アンタまた勝手に出てきやがりましたね? しかもこのヤバいことに巻き込まれそうな場面で。召喚術のオート召喚みたいな機能をオフにする方法、夢の中で会った時にお願いしますよ?

 

 後、何さらっとびゃくシャミという新しいワード作ってるんですか。それ見たり聞いたりしたこっちが恥ずかしいんですけど。

 

 

「‼︎ 噂のしゃべれるようになったご先祖様と、スケッチブックでお話できるドラゴンの白龍様‼︎」

 

 

 あっ。

 

 

「千代田さん、これらを魔改造してもいい⁉︎」

 

「取り返しがつく範囲なら……」

 

『しまった! 見つからぬように空気に徹していたのに喋ってしまった‼︎』

 

【うわー出てしまったー。捕まったー。白哉助けてー】

 

 

 その文字の汚さからして、アンタわざと見つけてもらうように立ち回ってたな? アホか。下手したら死ぬぞ? アンタ、人間様の技術の個人差を甘く見てたら死ぬってマジで。

 

 で、優子がリリスさんと白龍様を弄らないようにと小倉さんに懇願したら、リリスさんは抵抗できず虐げられる今の状況を打破し、子孫の未来に繋げるために自ら被検体になると決意を見せた。可愛い子孫のためにその体を捧げようとするとは、なんて覚悟だ……

 

 っておいこらマッドサイエンティスト。何が『取り返しのつかない実験はしないから大丈夫』じゃボケが。電動ドリル持ってきてる時点でもう色々と怪しいし危険度が高いし、何より万が一その像が壊れたりしたらどうなるのかわかんねーんだぞ。警戒心持てやガキィ。

 

 

「……で、白龍様は被検体にされたいのですか? されたくないのですか? どっちなんですか?」

 

【なんか面白そうだからなってみたーい】

 

「そんな軽い気持ちで被検体にさせるわけにはいきません。早く精神世界にお帰りください」

 

【辛辣ー】

 

 

 うるせぇ。何が辛辣じゃコラ。危機感を感じない人を送ってもし死人が出てしまったとしたらもう何もかもがヤバいことになるわ。察して。

 

 

「大丈夫、白龍様にも取り返しのつかない実験はしないから!」

 

「いやその怪しい機械はなんだよ⁉︎」

 

「ああこれ? ひし形イナズマモーター君って言って、これを嵌めればものすごい電気の力を得られ──」

 

「おっかねぇ気がするからしまえ‼︎ 今すぐ‼︎ つーかロボットじゃない奴に付けても意味ないだろうが‼︎ 多分‼︎ とにかく白龍様の魔改造はダメ‼︎ 絶対‼︎」

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでリリスさんの魔改造の準備が進んでいく中、俺と白龍様は別室で待機することになりました。何故かって? 前に小倉さんと約束してしまった、召喚獣達のデータ分析をなるべく広い所でやりたいからとのことらしい。

 

 うーん……別に学校のものに被害を与えない範囲でなら、外でやっても問題ないんじゃないかな? そっちの方が結構広いし、装置とか無くても俺の口述とか手書きレポートとかでデータを取れば良さそうだし。

 

 いや、そんな細かいことは敢えて考えない方が身の為やな。とりま召喚獣達を呼び出すとしますか。もちろん事前にデータ採取されても大丈夫だよと言ってくれた子達だけな。

 

 というわけで早速召喚師覚醒フォームにフォルムチェンジ致しまして……やっぱりパクリの恰好はどうかと思うな。また夢の中で白龍様と直接会話できる機会があったらリテイクを頼もう。そうしよう。

 

 

「よし、それじゃあ早速……クラック、ハリー、襟奈、曙、召喚」

 

 

 はい、今回召喚するのは召喚師にならずに召喚できる子二匹と、召喚師覚醒フォームにならないと召喚出来ないデカい魔力を持つ子二匹となります。

 

 

「それじゃあみんな、悪いけど今日は小倉さんの希望に答えてやってくれな」

 

【(コクリ)】

 

 

 一匹目はパンダのクラック。俺が優子と桃に初めて召喚術を披露することになった時に呼ばせてもらった、実験好きのぬいぐるみサイズのパンダちゃんです。今回小倉さんのお願いに承諾してくれた理由は『同じ実験好きの者同士仲良くなりたいから(白龍様翻訳)』だそうだ。

 

 

【……奴を満足させてやる】

 

 

 二匹目はハリネズミのハリー。全身を青色の針で覆っているハリネズミだ。その針とそこから潜む目つきによる威嚇で己の身を守ることが得意で、物静かな性格をしている。彼は暇だからという理由で協力してくれました。

 

 

【危なっかしいことだったら皆あたしが守ってやるからな‼︎ お安い御用さ‼︎】

 

 

 三匹目はエリマキトカゲの襟奈。黄色い体躯と体よりも明るい黄色の襟巻きを持つ、身長三メートル・縦幅一メートルのエリマキトカゲだ。巨大な襟巻きを開くことで、一瞬だけとはいえ攻撃を完全に遮断することが可能らしいが……ダメージ百パーセントカットはさすがに信用できるかな……? 承諾理由はその防御面の良さを証明させるためだそうです。

 

 

【逆に彼女の実験する手段を利用するって手もあるしね……クククッ】

 

 

 そして四匹目は蠍の曙。全身真っ黒という召喚獣の中でもシンプルすぎるデザインだが、全長は三メートルもある。シンプルでもデカすぎるのはさすがにめっちゃ怖っ。尻尾の針には回復させる毒や状態異常を起こす毒などといったものを、血液を循環させることで入れ替えることができる……らしい。ちなみに承諾理由は教えてくれなかった。何故?

 

 

「おまたせー」

 

 

 おっと、そんなことを考えてたら小倉さんが部屋に入ってきた。

 

 

「小倉さん、リリスさんの魔改造はもういいのか?」

 

「丁度良い頃合いだったから後は二人に任せることにしたの。ご先祖様の新しい依代を作って動かすって実験で、やり方や注意事項は教えてあけたから、後は感想を聞くだけ」

 

「そっか」

 

 

 まあリリスさんの依代作りなら、小倉さんの助力がなくとも優子と桃の二人だけでも問題はないかな。ホムンクルスの素材粘土に魔力を込めて手足やら体やらを作るだけだと思うから。

 

 いやよく考えたらホムンクルスって何だよ。小倉さんは何の実験でなんつーものを作ろうとしてたんだよ。

 

 おっといけない、さっさと小倉さんの召喚獣のデータ分析の手伝いを終わらせないと。今この部屋にいる人間は俺と小倉さんだけだから、優子にいらぬ誤解を与えてしまう可能性が生じてヤンデレモードが発動してしまう恐れだってあるからな。

 

 

「それじゃあちゃちゃっとデータ分析を終わらせておくぞ。こっちはちょっと待たされてたしな」

 

「うん、そうだね。ここに人である私達二人が長く居たらシャミ子ちゃんにあらぬ誤解を生ませそうだし」

 

「なんで俺と考えてることが似てるの?」

 

「意気投合できそうだね、私達」

 

「俺はアンタと意気投合するのが怖くて仕方がねぇよ」

 

 

 っていうかそろそろ始めておかないとな。クラックがまだかまだかと目をキラキラと輝かせてこちらを見てるし、なんか怪しい赤色の液体が入っているフラスコと青色の液体の入っているビーカーを持ってるし。

 

 クラックよ、君は一体何の実験をする気なのだ? どっちかと言うと君は実験台にされる側やぞ?

 

 

「おお! このパンダちゃん、白衣着てるしフラスコとビーカーを持ってる‼︎ 私と気が合うのかも‼︎」

 

「さいですか……」

 

 

 うーん……気が合うのか? さすがのクラックでも小倉さんみたいに呪術とか悪魔とかの研究をしないと思うから、ドン引きする部分とかあるでしょ絶対。

 

 

「じゃあ早速データを取らせてもらうね‼︎ あ、データと言っても各々の得意なこととかどんな能力を持ってるのかとか見せてもらってレポートに書くだけだから、解析不可能な数式が出るのかもしれない点は考えなくていいからね」

 

「あっ、ラジャー……クラックもそれでいいか?」

 

 

 あらま、頷いてくれた。改めて承諾してくれたって感じか。

 

 そしたらクラックはビーカーの中の液体をフラスコの中に移し始めた。一体何をする気……

 

 あっ。ポンッとフラスコ口からブドウが飛び出てきた……いやなんでだよ。なんで液体を混ぜ合わせるだけでブドウが出てくるんだよ。赤色と青色が混ざったら紫色になるのは確かなんだけどよぉ……

 

 今度はどんな原理なのか、いつの間にかビーカーには黄色い液体が、フラスコには緑色の液体が入っていた。えっ、何? 念を込めればビーカーやフラスコに液体を自動で投入できるの?

 

 で、ブドウを生成した時と同じ事をしたら今度はブドウじゃなくてメロンが出来た。いやなんでまた果物ができるんだよ。黄色と緑色を混ぜたら黄緑色になる、メロンも黄緑色、なんだけどね……

 

 ちなみになんか人数分に分けて渡してくれたので恐る恐る食べてみたら……本物のブドウとメロンの味がしました。実物そのものを完全再現できるとは、クラックの生成実験恐るべし……

 

 

「すごい‼︎ クラックちゃんって子はいつでも理科の実験みたいに物を作ることができるんだね‼︎ 未来の科学力によるものなのか魔法の力なのかは分からないけど、一匹目から実に興味深いデータが取れたよ‼︎」

 

「あ、そう……ええっと、クラックお疲れ様……」

 

 

 いやちょっと? いきなりドヤ顔見せてこないで? 可愛いけど。

 

 と、そんなことを考えていると次はハリーが前に出て丸まった状態となってその場に留まりだした。次俺のデータ取れってか?

 

 しかもいつの間にか周りにはカボチャとかレンガとかが置かれてるけど、もしや投げてきたものを全て自慢の針で防ぐってか? 用意周到いいなオイ。

 

 

【次、俺。なんか投げてみろ。自慢の針で防いでやる】

 

「どんなものでも? 投げつけられたものをどんなものだろうと針で刺して止めれるってこと?」

 

【そう。中身が飛び出るものダメ。実戦でないとNG。例えばシュークリームとか爆薬とか】

 

「食べ物を粗末にしたり爆発物を使われたりはさせねーよ、俺が」

 

 

 なんつーものを使って自慢の針の硬度を証明しようとしてんだお前は。

 

 と思ったその時、小倉さんが突然どこからか持ってきたボウリングに使うボールをハリー目掛けて思いっきり放り投げてきた。それをハリーは丸まって剥き出しにしてた針で見事に貫通・制止させることに成功した。

 

 えっ? ボウリングのボールって主に硬質ラバーを素材にしていて、しかも重さも四ポンドもあるんだよね? それを易々とブッ刺して止めるとか……ハリーの針一本一本の硬度と貫通力、マジヤバくね?

 

 

【投げる前に合図出せ。びっくりした。下手したら失敗した】

 

「あ、ごめんね? どうしてもその針の性能を見たかったし、何よりボールが重すぎて長く持てそうになかったから……」

 

 

 あっ、そういえば小倉さんは運動神経が良くないんだったっけ。体力もそんなにないみたいだし、下手したら優子よりもめっちゃ弱いとか。

 

 

「とにかく、これだけでも充分な性能があることが分かったよ! ありがとうねハリーくん‼︎ もう大丈夫だよ‼︎」

 

【えっ、もう終わり?】

 

 

 あまりにも実験する時間が短かったのか、ハリーは呆気に取られた顔を浮かべていた。本当はもっとやりたかったんだな。その……ドンマイ。

 

 

【次はあたしのデータを測るのだろう? あたしは襟を開いた瞬間ならどんなものでも痛みとかを完全に遮断できるぞ‼︎】

 

【俺の上位互換】

 

【多分違うと思うが……さぁ、どんとこい‼︎】

 

 

 次に襟奈が前に立ち、ヘイカモンと言っているかのように仁王立ちしてきた。四足歩行の動物の仁王立ち……シュールやんけ。

 

 

「えっ、どんなものでも防げるの? だったら……」

 

 

 そう言うと小倉さんは押し入れの奥から何かを取り出してきた。押して動かす系のヤツみたいだから、バレーボールの練習でよく使われるあの機械か……?

 

 と思った瞬間が俺にはありました。小倉さんが出してきたのは、まさかの大砲。しかも言葉では表してはいけない卑猥な形状の、だ。

 

 

「ロケットランチャーサイズのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲、発射ァ‼︎」

 

「せめて伏せ字使ってェェェェェェッ‼︎ ってかそんなツッコミしてる場合じゃなかっ──」

 

 

 触れてはいけない禁忌に触れた気がしながらのツッコミを入れてる間に、卑猥で名前の長い大砲から砲弾みたいなものが放たれ、襟奈に向かって電光石火する何かのように素早くぶつかり、爆発する。

 

 爆発によってたちまち広がる煙。それが晴れた時には……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「おお‼︎ そこら中ノーダメージじゃん‼︎ 攻撃を完全遮断できるってのは本当だったんだね‼︎」

 

【襟を開く間だけにしか適用されないけどな。それよりももっと打ち込んでもらいたいものだな‼︎ もっと戦車三台分用意するとかさぁ‼︎】

 

「……マジでケロッとしてやがる……」

 

 

 こいつの襟の硬度、どうなってるの……?

 

 

【最後は俺ね。はいブスリ】

 

「はぐあぁっ⁉︎」

 

 

 な、何かに右腕を刺されて、し、痺れれれれれれ……‼︎

 

 気がつけば俺はその場で横たわっており、しかも痙攣を起こしていた、し、死ぬぅ……マジで動けんのだけど……

 

 

【俺はこうやって相手を状態異常にする毒を、尻尾を対象物に刺すことで発揮させることができるんだ。さらには──】

 

「へぷほっ⁉︎」

 

 

 ま、また刺しやがった‼︎ や、ヤベェ、マジで死ぬかも……

 

 ………………ん? アレ? 急に痺れも痛みも完全に引いてきた。しかも体を動かした時の感覚とかがあるから、死んでない……いやマジで死んでたまるかってんだよ。

 

 

【このように俺の身体の中の血液を循環させることで尻尾の中身を入れ替え、対象物の身体を治すことも可能なんだ】

 

「攻撃も治癒もできるんだね‼︎ すごいよ君の能力も‼︎」

 

【マスターが召喚師覚醒フォームになることで呼ばれる存在だからね、これくらい当然だよ】

 

 

 そのマスターである俺に毒ブッ刺してくる奴があるかコラ。マジで死にそうだったぞコノヤローが。

 

 

【何ならこの力をもう一回披露して──】

 

「今度召喚獣のみんなに飯出す時、お前呼んであげねぇからな」

 

【ごめん、やっぱりやめておく】

 

 

 まったく……何の前触れや理由もなく主人に攻撃するとかどんな性根を持ってるって言うんだよお前は。とりあえずやめないとお仕置きだぞ宣告したら素直に謝ってくれたから、今回ばかりは許してやるとするけどさ……

 

 

 

 

 

 

 この後はリリスさんの依代制作を終えた優子と桃と合流。俺のところで何があったろのかを説明したら、優子は俺を結果的に傷つけた曙に対して強い憎悪を覚えた感じになってたけど、暴走はしないでくれよ頼むから……

 

 あっ、ちなみにリリスさんの依代となる人形の服、あれ実は呪われそうな人形から躊躇いなく服を剥ぎ取ったとか……けど剥ぎ取られた人形の方は全く動じなかったらしい。

 

 後、桃の魔力によって彼女にコントロールされた依代リリスさんのダンス動画が俺のところに送られてきて、それを観たハリーと曙が大笑いしました。

 

 いや体の自由権を奪われその光景を撮影された人を笑うとか、アンタらデリカシーってものがないんか?

 

 ……まぁ、ああなったのはリリスさんの自業自得によるものだけどね。

 

 後、実はこんな会話もしてました。

 

 

「えっ⁉︎ 白哉さん、自分が出した召喚獣さんに毒を刺されたのですか⁉︎」

 

 

 そう……正に今、曙にいきなりブッ刺された時の愚痴を二人に聞いてもらっているところです。

 

 

「おう。ただ体を痺れさせるだけだったからまだ良かったものの、とんだ災難だったぜ……まあすぐに回復させてくれたのだけど」

 

「主人を殺しちゃったら自分達も消えちゃうかもしれないって分かっているから、殺されずに済んだのかもしれないね。にしてもその曙って蠍、主人に悪意のない悪意で攻撃するとかタチ悪くない?」

 

「あいつドSな性格らしくてさ……だからなのか、主人である俺に躊躇いもなくブッ刺してきたのかもな……」

 

 

 事が全て終わったからなのか、この時の俺は曙に対する怒りはとうに鎮まっていました。あいつも主人が死んだらとかを考えてきちんと手加減はしてくれたのだろうなって考えもあったから、なんというか、なぁ……って感じ。

 

 ただ、その事をとてもよく思っていなかったらしい者が一人。

 

 

「………………」

 

「? シャミ子?」

 

「優子、どうしたんだ急に俯いて?」

 

「……なんで白哉さんを平気で傷つけれるんですか」

 

「「え?」」

 

 

 偶に見せるヤンデレ気質持ちの優子です。でも、なんかいつもよりも濃い負のオーラが見えているような……?

 

 

「白哉さんは彼の主人ですよね? 自身を呼んでくれる存在ですよね? そんな存在の人である白哉さんを攻撃するとかどんな身分ですか? 力加減とか白哉さんの体質とかは考えていないのですか? もし白哉さんが死んだら自分達までどうなるのかとかも考えていないのですか? もしどうなるのかと解っているのなら、何故?」

 

「ゆ、優子? 優子さん? ちょっ、大丈──」

 

「許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない──」

 

「ちよっ、優子落ち着け‼︎ 一旦落ち着け‼︎」

 

「なんか出てる‼︎ 私でもビックリな程ヤバいオーラが出てるからしまって‼︎」

 

「──はっ⁉︎ わ、私ってば一体何を言って⁉︎」

 

 

 自分がヤバいってことになってたのは、どうやら無自覚だったようだ。しかも俺と桃に呼ばれてハッと我に返ってくれたのだから、異常なまでに酷くはなってない……の、か?

 

 なんだろう……久しぶりな気がする優子のヤンデレモードだったからなのか、これまでのヤンデレモードよりもかなり酷いものだったような……

 

 俺が傷つくと、優子のヤンデレモードというか怒りが急上昇してしまうのか? めっちゃ怖っ。

 

 ………………そろそろ、俺の胃もかなりヤバいか?

 

 

 

「今の嫉妬による不思議なオーラ……もしアレがシャミ子ちゃんのパワーに変わる可能性があると考えれば……お楽しみがまた一つ増えちゃった‼︎」

 

 

 

 ところで、優子に向けられているのであろう謎の視線は一体何なんだ……?

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その6
小倉「クラックちゃんが作ったマスクメロン美味しかった〜……あっ、シャミ子ちゃんの分と千代田さんの分も作ってもらえるよう頼むの忘れてた」
「んー……仕方ない。また今度平地くんにデータ分析の手伝いしてもらう時に、クラックちゃんに頼んでまた作ってもらおうかな」
「そういえば平地くんは召喚獣を魔力の応用なしに呼び出したのだけど、もし魔力も活用するとなるとどうなるのかな? また今度聞いてみよっと」

END

白龍【いやいくらネタ切れだからって短すぎない?】

 


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小さい子の夢とか希望とかを壊したくないので、彼女の誤解を肯定してしまいました……恥ずい

嘘つきは泥棒の始まりってことで初投稿です。

だんだん原作二巻の物語が終盤に近づきそうだが、下書きのストックが追いつかん……

どこかで一週間よりも遅い時期での投稿になりそうな気がする……


 

【曙……君マスターになんてことをしてくれたんだメェ〜‼︎ もしも君の毒でマスターが死んだら僕達も消えてしまうかもしれないメェ〜よ⁉︎ 万が一の時のことも考えろメェ〜‼︎ 次またマスターの承諾なく勝手に毒刺したりでもしたら、すぐに白龍様や神様を通して君にそれ相応の罰を与えてやるからメェ〜な‼︎】

 

【えぇ〜? マスター無事だったんだから別にい──】

 

【地獄とかに放り込むメェ〜よ? そして無限地獄を体験させてもらえるように頼み込むメェ〜からね?】

 

【……はい、すみません】

 

 

 うわぁ、メェール君の顔が言葉でも表現しちゃダメな程の怖い感じになってる。大抵の人なら誰でも恐怖で泣き崩れるぐらいに怖い顔だよマジで。

 

 あ、どうも。自分の召喚獣に痺れ毒の尻尾を刺された白哉です。

 

 俺は今、その尻尾を刺しやがった本人である蠍・曙がメェール君に説教されているのを眺めています。正直主人である俺に毒を刺してきたことに対しては結構怒りを覚えてはいたけど、メェール君に説教されて項垂れている彼を見てそんな怒りも冷めたって感じですかね。

 

 にしても、ドSが純粋な可愛い子(♂)に説教されるとかなんかシュールだな……。いや変な例えはしてへんよ? 『真○の○の○夢っぽくね?』とか言わないで? 頼むから。

 

 ん? なんで召使いポジの一匹に命を取られそうな感じになったのか、だって? まぁ特に他意はないって感じですかね。なんで俺が襲われなきゃならんのかという理由も分からんっつーか、曙自身も俺を恨んでいたりとかしてねーらしくって……

 

 つまりはアレやで。悪意のない悪意という、理由のない理由(?)で俺に痺れ毒を盛りやがったってわけや。あいつドSな性格してるから、誰彼構わず苦しんでいる顔を見たかったからああしたと思うんやけどな……

 

 おっと、思わず関西弁のまま喋ってしまった。変に口調変えないように気をつけないと。

 

 とにかく、今はその……アレだ。今はまだ曙が説教されている場面を見てるだけで、それ以外やることなくて、暇ヒマしてます。さすがにこのまま退屈な思いするわけにはいかないし、どうすっかなぁ……

 

 ……そういえば、最近優子と一緒に出掛けたりする機会が全然取れていなかったな。優子が先祖返りしてからずっとそんな感じだった気がする。まあ中には優子が一日バイトをすることになった日とかもあったし、そういった日は魔族として云々で大事イベントだから、そこはそこで仕方ないけどさ。

 

 よし、決めた。今日は久しぶりに優子と一緒にどっか近くのところまで出掛けるとしよう、そうしよう。幸いこの日は休日だからそういった機会を作れそうだし、何より優子が喜びそうな顔が目に浮かぶしね。それも危なっかしくない方の。

 

 

「ちょっと俺出掛けてくる。帰る時間になったら連絡するからな」

 

【あっ、いってらっしゃいメェ〜。……このお出掛けを機にシャミ子ちゃんといい雰囲気になるメェ〜よ

 

「オイそれはどういう意味だコラ」

 

【アレ? 小声で言ったのに聞こえてたのかメェ〜?】

 

「なんつーかとうとう『隠しきらなくてもよくね?』みたいな感じなのを出してたし、マイペースなクラックやドSな曙といった色んな奴の性格とかもあるからな……なんか諦めたわ」

 

【いや何をだメェ〜】

 

 

 そこは察しないでくれお願いします。心の中でそう念じながらも俺は軽く財布の入ったカバンを背負い、ついでに市街戦と熱中症防止のために帽子を被ってから外に出ることに。

 

 ん? 『防止』と『帽子』、ギャグで言ってるのかだって? そんなわけないですいい加減なこと言わないで。

 

 

「それじゃあ行ってくる」

 

【イッてらっしゃいメェ〜】

 

「今『いってらっしゃい』を変な感じに言わなかったか?」

 

【………………】

 

 

 目ェ逸らすなコラァ。まあこれ以上追求するのもよくないし、さっさと出るか。さっきの『いってらっしゃい』だって別に何かを思って可笑しな音程で言ってるわけじゃなさそうだし、深く追求するのもメェール君に色々と悪いし、何より『なんでこんなくだらないことを深く追求する必要があるんだよ』って話だし。

 

 そんな事を思いながらも外に出たその直後……ほぼ同じタイミングで隣の玄関から出てきた優子とバッタリ出会いました。しかもパソコンが入ってる鞄を大事そうに抱えており、その後ろには良子ちゃんがいた。

 

 これは……例のあの原作イベントだな。この時期の中で一番重要なイベントへと繋がる前置き(?)みたいなものの、な。

 

 

「えっ。びゃ、白哉さん……?」

 

「あっ、白兄」

 

「……こんにちは。優子、良子ちゃん」

 

「お、おでかけですか? で、出掛ける時間が被るなんて奇遇ですね……」

 

 

 必然的であってたまるかって話だよ。もし優子が暴走したらそうなる可能性はあるけども……っていやいや、何彼女のヤンデレモードのレベルを勝手に上げてるの俺。被害妄想も腹立たしいよなこれ。

 

 

「まあ出掛けると言っても特に何の予定もないけどな。まあ久しぶりに優子も誘って一緒に何処かしら回ろうか誘おうとは思ってるけど……そっちはなんか予定とかあるのか?」

 

い、一緒に……えっ? あ、はい。良が桃から借りたパソコンの調子が悪いと言うので、桃に謝ってそれを診てもらおうってことに……」

 

「……尻尾、異常なまでにブルブル震えてるぞ。桃に対するきょ──いや、なんでもない」

 

「あの、別に今言いたいこと隠さなくていいですよ? もうこの尻尾の動きで大抵良にバレてるので……」

 

「あ、そう……」

 

 

 はい、今日はパソコン修復と重大イベントに繋がるメインサブイベント回となります。というからしいです。

 

 ……いやちょっと待て。メインサブイベント回って何だよ、我ながら変なワード作っちまったよ。白龍様が『びゃくシャミ』とか言うふざけた恥ずかしいワード作ってたことに指摘した癖に人の事言えてないじゃん俺も。

 

 

「だったら俺も一緒についてこうか?」

 

「え ゙っ ゙?」

 

「いやそんなに驚くほどか? 何の予定もないからってのもあるけど、もしパソコンが本当に壊れてたとしたらって時のために、桃の宥め役にもなる必要があると思ってだな……」

 

 

 呆気に取られた顔をするのはわかるけど、一瞬女の子が出してはいけない変な声が出なかったか? なんかどっかのきらら漫画の特殊なバンドアニメでも聞いたことあるような、ないような……そのアニメの記憶は曖昧だけど。

 

 

「良はいいけど……白兄は本当にいいの? 貴重な休日に良やお姉の付き添いをして……」

 

「いいんだよ、どうせやることないんだから。で、優子の方はどうなんだ?」

 

「あっ。え、えっと……よ、よろしくお願いします……」

 

 

 ん? あれ? なんか今の優子、例のアニメの陰キャぼっちギタリストになってね? 顔に影落としながら俯いてね? 一時的にコミュ障になってね? 俺、また勘違いさせるようなこと言った……?

 

 

 

 

 

 

 お、思わずドキドキしてしまいました。しかもこんな大したことのないことで、心臓の鼓動がうるさくなっちゃいました。

 

 ただ私が良が借りたパソコンを持ち主である桃に壊れてないか見てもらう、それだけのことをしようとしてる私達のために、白哉さんが同行すると言ってくれただけのことなのに。今でも心臓があちこちローリングスピンしていきそうです。

 

 うわぁ……今日の私なんかチョロすぎ……? いつもならこんな些細なことでドキドキしてもせいぜいトクントクンッといった音が体中に響く程度で、それも一分で治まるのに、なんでこんなにもドキドキが止まらないの……?

 

 あっ、これは多分アレですね。最近白哉さんとお出掛けするケースがなく、私の方に一日バイトがあったりテスト週間があったりで、休日らしい休日なんてあまりしてない気がする。試験休みに初めての映画には行ったけど、あの時はミカンさんの呪い制御の付き添いの上に白哉さんが一緒じゃなかったし……

 

 つまりアレだ。白哉さんと一緒にゆっくりできる機会がなかった寂しさが募ってきて、それが一部暴発して今のドキドキに繋がっていると……

 

 ああ、私は今改めて感じました。私の白哉さんへの愛の重さが、募る寂しさによって些細なことで爆発して、下手すれば普通程度のことで暴走する恐れがあるんだなって。またヤバい状況になっているんだなって。

 

 なんか最近白哉さんへの重たい愛を向けてない気がするなと思ったら、そんな機会を作る余裕なんて作れなくなっていて(作れたら作れたでどうかと思いますが)、その分寂しいという想いを無自覚に抱え込んでいたんですね私。

 

 うぅ……何はともあれ、ドキドキして黙り込んでしまった程度で済んでよかったのかもしれませんね。だってすぐ後ろに良がいるから、醜い自分の背中を見せて良の中の理想の姉を壊してしまうだなんて嫌ですもん。改めて自分の心の緩さとかには気をつけておかないと……

 

 

「……お姉、無理に白兄への想いを隠さなくても大丈夫だと思うのだけど、やっぱり本心を出すの難しいのかな……?」

 

 

 ん? 良、なんか小声で呟いていたけど、何を言っていたんですかね……? 気のせい、なのかな? なんか私に向けて言ってたような気がする……

 

 

 

 

 

 

 そんなこんながありながらも、桃の家に着いた私達三人。良はこの家を見て城塞だと思い込みました。私は初見で公民館に住んでるのではないかとは感じてましたけど、良の発想はそれよりも大きく出てビックリです……

 

 まあいいかな。一旦良には門前で待ってもらい、二人で桃の家にお邪魔することに。相変わらずオートロックの暗唱番号は56562(ごろごろにゃーん)のままですね……

 

 宿敵に暗唱番号教えてしまったのだから、勝手に入り込まれないように変更した方が良いのでは? いやインターホン押し忘れて勝手にロックを解除した私達も私達ですが。

 

 とりあえずお邪魔します。あ、桃いた。ちゃんといた……って、ポテチ食べてる⁉︎ 貴様またジャンクなお昼を過ごしてるな⁉︎ 油断も隙もない‼︎ お昼だからって適当なもの食べていいわけないだろうが‼︎ しかもポテチだけって‼︎

 

 

「桃……お前いつもジャンクものばっかり食べてる癖に、よくハードなトレーニングで体壊さず上手く鍛え上げられてるな……お前の体作りホントどうなってんの?」

 

「あっ。確かにそこは疑問点ですね……」

 

「まぁそこそこなところは魔力で補いながらトレーニングし体作りしてるから、食生活は大抵気にしなくても問題ないよ。でもシャミ子や白哉くんが何か作ってくれるなら食べる」

 

「私達は飯炊き係ではなーい‼︎ 何系が食べたいですか‼︎」

 

 

 あっ、思わず承諾しちゃいました……いや、このまま放置してると私が桃に初勝利する前に栄養失調で倒れそうだから、しょうがないと言ったらしょうがないと思った方がいいの、かな?

 

 

「いや承諾するんかい」

 

 

 いやツッコまないで白哉さん。自分でも甘かったなって思ってますから……

 

 

「……ってか桃、お前なんで俺が作ったものまで食いたいとか言うんだ?」

 

 

 えっ、そこ聞き逃してたんですが。

 

 何故? 何故桃は白哉さんの作る料理まで食べたがるんですか? ……まさか、桃も白哉さんの事を……?

 

 あっ、ズキッという音が私の心の中で聞こえた気がする。この感じも久しぶりだ。嘘、ですよね? 桃まで白哉さんの事を好きになったりとか、しませんよね? もしそうなったとしたら、一か八か……

 

 ハッ⁉︎ いやダメダメダメダメ‼︎ そんな事考えちゃダメだし、行動に移すのもダメ‼︎ そんなことしたら桃を、彼女の事を心配していた自分自身までも否定してしまいます‼︎ 今は冷静に、冷静に──

 

 

「昨日小倉さんの実験に付き合わされた後、白龍さんが何故か『白哉くんは料理が上手いんだ』って教えてくれたから気になって。あっ、別に深い意味とかはないから。白哉くんにはシャミ子がいるし

 

「びゅえ ゙ぇっっっ⁉︎」

 

「は、はぁ⁉︎ おま、今最後に何言ってんだ⁉︎ ってか白龍様も何故俺の事を桃に伝えたし……」

 

 

 へっ……は……えっ……? も、桃、今、なんて言ってました……? びゃ、白哉さんには、私がいる……? って貴様、また私達を揶揄ってるってことか⁉︎ ホントふざけるのも大概にしろー‼︎

 

 でも、なんだろう……『白哉さんには私がいる』と考えると、まるで周りもそう捉えているかのように思えてしまって、つい認めてしまいそうで……。こういったこと、前にあったような気がしますけど。

 

 白哉さんには私がいる……つまりは白哉さんは私がいないと何もできないってわけじゃないけど、私がいれば色々な事ができるのかもしれないと? そして私も白哉さんがいると色々な事ができると? それってつまり、け、結婚すると……

 

 っていやいやいや⁉︎ 何考えているの私⁉︎ つ、付き合ってすらいないのに何を踏み越えようとしているのですか⁉︎

 

 しかも『白哉さんは私がいなと何もできない』って何⁉︎ 『私も白哉さんがいると色々な事ができる』って何⁉︎ これじゃあ依存症の人じゃないですか‼︎ 頭のおかしい思考を持ったヤバい人じゃないですか‼︎ もう一度正気に戻れ私‼︎

 

 

「優子、急にどうしたんだ? 思いっきり顔を横にブンブンと振り回してるけど……」

 

「ハッ⁉︎ い、いえなんでもない……なんでもないですよ⁉︎ なんか急に暑くなってきたなーって思っただけです、はい‼︎」

 

「顔が余計に暑くならないか、それ……?」

 

 

 お、思わず思ってたことが表に出ていました……さ、察してないですよね? 二人とも私の考えていること、察してないですよね⁉︎ あんなヤバめな思考してたことに気づかないでー‼︎

 

 

「……いい加減素直になればいいのだけど、恋って難しいものなのかな?」

 

 

 

 

 

 

 俺には優子がいるって……桃の奴、それどういう意味で言ってんだよ? これまでの経緯とかを考えると勝手に俺達を恋人設定にしてるのだろうけど、違うからね? 俺達付き合ってはいないからね? 勝手な解釈とかしないでね?

 

 つーか仮に恋人にしようにしても勇気がねーんだよ‼︎ ヤンデレ気質を持って、しかもその自身の性格に悩まされている子を恋人にする勇気が‼︎ そんな情緒不安定な子に告白するかされるかで付き合うことになったら、その子が暴走してお互いの人生が終わっちまうわ‼︎ 色んな意味で‼︎

 

 それに……俺はまだ、優子に対する本心というものが分からずじまいなんだ。俺は優子の事をどう思っているのだろうか。今も変わらず仲の良い幼馴染としてか、彼女のヤンデレ気質のせいで毛嫌いしてるのか、それとも……未だ答えを見つけられずにいる。

 

 つーかよく考えてみたら、最近そのことをほぼ全くと言っていいほど考えていなかったわ⁉︎ 桃に優子の事どう思ってるのかと聞かれて以来、ずっと保留のままにしてたわ⁉︎ もしかして優子の性格が不安定なの、この俺の優柔不断な性格のせいでもあるってこと⁉︎

 

 ぬぅ……そう考えてみると、俺ってある意味男として色々と情けないってことなのか? いい加減優子の事をどう想っているのかを自覚しないとな……

 

 とにかく、情けないけどこの話題はまた保留にして桃の飯作りに専念しよう。今してることとは別の事を考えていると、その事を指摘されたり疑われたりして色々と面倒臭いことになりかねないからな。

 

 ってなわけで、とっとと昼飯作りでも始めますか。優子がすき焼きうどん(肉の代わりにツナ使用)を作っているから、俺はたこと夏野菜のマリネを作ることにした。いや我ながらお洒落なの作ろうとしてんなオイ。でも甘辛い味付けのすき焼きにはさっぱりとした副菜がより良い箸休めになるから、チョイスとしては良くね?

 

 

「桃。勝手なお願いなのですが……桃の正体が魔法少女であることは良に内緒にして欲しいんです」

 

 

 おっ? マリネ作ってる間に優子が桃に『正体隠して』頼んでいる会話が聞こえてきた。なんでも良子ちゃんには自分がカッコいいだと思われているため、良子ちゃんの理想の姉の背中を見せるべく弱みを握られていることを隠したいとのこと。

 

 それが思ったよりも効いたのか、桃氏は良子ちゃんが見つけたハートフルモーフィンステッキを調理用の棒だと言い訳した。流石に黒歴史となるものも隠しておきたいよね、わかる。

 

 いやちょっと待て⁉︎ ステッキ使用後のフライパンが破断してるってどういうことだよ⁉︎ 別に魔法とか使ってな……あっ、テフロン加工ってヤツか。一人暮らし始めた頃不意にフライパンの使い方を調べて時に覚えたんだよなぁこれが。

 

 

「シャミ子が私の正体を良ちゃんに隠してほしい理由はわかった。……ところで、もしかして白哉くんも良ちゃんに自分が召喚師になったことを隠してるの? なんとなく気になっていたんだけど」

 

「えっ、俺?」

 

 

 ってかここで俺に振るんじゃねぇよコラ。しかもなんで予想的中してんだよ。まあ答えるけど。

 

 

「俺はもちろん内緒にしてるぜ。俺にまで特別な力を宿されているのかと知って、目を輝かせる良子ちゃんの顔が気になるってのはある。けど同時に不安もあるんだ。『その力があるのならどうしてもっと早く使わないでお姉を色々と手助けしなかったんだ』と思ってしまうのだろうかってな。良子ちゃんは賢いからそう思うとは限らないけど、『前からその能力を持ってるのではないか』と勘違いされるわけではないとも限らないしな」

 

 

 変な指摘されて俺に対する疑心が生まれてしまえば、俺が介入したことによる悪影響が大きくなる可能性だってあるしな。まあ転生者である俺がそんなこと言ってしまえばさらなる疑心だって生まれるだろうけど。

 

 つまりはアレだ。良子ちゃんの純粋なビジョンを崩さないためと、今後の優子達の未来のためにも、今まで俺が召喚師になったことを隠していたってわけ。

 

 まぁ、でも……

 

 

「だからと言って、いつまでも黙っているつもりはないけどな」

 

「えっ? 何故なんですか?」

 

「正論であろうとなかろうと、仲の良い人達に隠し事をしてたらその人達の事を信頼してないのと同じことになるし、隠し事をされていたってことを知った人達もしてきた人に対する信用を失ってしまうからな。俺はそうやって信頼関係を壊してしまうのを恐れていたんだ、自分でも気づいていない部分も含めてな」

 

「信頼、関係……」

 

「だから俺はいつまでも隠し事をし続けないようにしようと決めた。いつ言おうかはまだ決めてないけど、いつかは必ず俺自身の事を全て話してみるさ。大切な人達との信頼関係を保つためにも、な」

 

 

 これは今不意に思いついた言葉ではない。数日前に家族に再会し話し合いしていた時に、両親に『偶には自分達を頼ってほしい』と言われて気付かされたことをそのまま言っただけだ。

 

 俺は今まで、自分は転生者だから自分の事をこの世界の人達に言っても何の意味もないと勝手に決めつけていた。けどそれは間違いだったことに気付かされた。

 

 どこに転生・転移されようと実質的に孤立になることはない、味方になってくれる人・隠し事などしなくても受け入れてくれる人は必ずどこかにいる、俺のこの世界の両親はそんな当たり前なことを思い出させてくれたんだ。

 

 誰にでも味方はいる。自分自身も誰かの味方になって側に寄り添える。それをいつかは優子にも分かってもらいたい。これは俺のほんの少しの切実な願いでもある。

 

 そして、お前も俺にいつかは言ってほしい。今まで溜まっていた悩みや鬱憤などを、全て。

 

 

「だから優子も良子ちゃんに本当の事を言えるように──」

 

「お姉。この猫ちゃん鳴き声が変だし、光ってる……後、何故かちっちゃなドラゴンさんまでいる……眩しい」

 

【悪い、こっそりしていたのがバレたわ】

 

「説明必須不可避となりました。頑張ってお伝えしましょう」

 

「急に手のひら返しされましても⁉︎」

 

 

 結局一部は原作通りに良子ちゃんに明かさないといけなくなったけどね……

 

 つーか白龍様、アンタ勝手に俺の合図なしに出てくるなと言ったでしょうがいつの間に出てきてんだ。

 

 

 

 

 

 

 良にメタ子と白龍様の事がバレてしまったため、結局桃が魔法少女であることを伝えることになりました。猫が喋る時点で主に桃が怪しまれることは明白だし、何より白哉さんの言う通り隠し事をし続けても後先後悔してしまう恐れがあるのだから。

 

 まあ真実を伝えることで良の私へのイメージが崩れてしまいますけど、そうも言ってられません。本当に大切なことを守るためにも、腹を括らないと……

 

 

「実は桃は魔法少女で、白哉さんは色んな動物達を呼べる力を持てるようになったんです。今まで黙っててごめんなさい。今は私と桃は共闘中で──」

 

「知ってた。桃さんの事も、白兄の事も」

 

「───えっ……」

 

 

 知ってた? えっ、何を? 桃が魔法少女であることを? 白哉さんが召喚師であることを? えっ? 二人とも良にその事をバラしていないはずですよね? 白哉さんは兎も角、桃はまだ良に一回しか会っていませんよね……?

 

 

「お姉が私に気を遣って嘘をついているのも分かってた。桃さんの身のこなしが完全に武将のそれだし、白兄の方はなんとなくだけど軍師みたいなオーラを感じるし……」

 

「えっ? 俺そう思われてるの? というか軍師みたいなオーラって何?」

 

 

 白哉さんのことをどう見てるのかは兎も角、私が嘘ついていたのバレバレでした? まさか私、無理していた事が表情に出て……あっ、尻尾の動きで大抵の気持ちが良にバレてしまっていたんだった。もしかして嘘をついている時にも尻尾は特有の動きをしていた、と……?

 

 でも、どうしよう。良に嘘ついていることも、桃の正体も、そして白哉さんの変化の事もバレた。良、私達に失望してしまったのでしょうか──

 

 

 

「やっぱり……やっぱり桃さんはお姉の軍勢の魔法少女で、白兄もお姉の軍師兼伴侶になっていたんだね‼︎」

 

 

 

「「「………………あれっ?」」」

 

 

 えっ? はっ……えっ? 良、今なんて言いました? 何やら盛大な勘違いしてるし、後半は聞いて恥ずかしい言葉が聞こえてきた気がするし……

 

 

「子供にはとても言えない手段で、桃さんを調略して篭絡し、白兄にはとっておきの秘術みたいなもので凄い力を譲渡しながら魅了させていっていたから、どれも説明しづらかっただよね⁉︎ 本で見た‼︎ 良、そういうの本でいっぱい見た‼︎」

 

「良ちゃん?」

 

「良子ちゃん……一体どんな本読んでたのさ? 少なくとも小学生が読んじゃまだダメな本読んでるよね絶対? どこで読んでたのさ?」

 

 

 しょ、小学生が覚えられるとは思えない言葉を連発してる……。良は一体図書館でどんな本を読んでたのですか……

 

 って⁉︎ よく考えたらさっき『魅了』って言葉まで出ませんでしたか⁉︎ しかも白哉さんの事を言ってる時に⁉︎ なんで⁉︎ 私が白哉さんに力を渡してるという誤解の方もそうですけど、なんで私が白哉さんを魅了させてると思っているのですか⁉︎ もしかして私の白哉さんへの想いもバレていた⁉︎

 

 そんなことを考えていたら、良はどんどんと誤解のというか美化の領域を自分から広げてきている……桃を私の配下だと思い込んでいるし、彼女のこの家を城だとも思い込んでいる上にここで作戦会議しているとも……

 

 

「………………うんそうだね。そのとおりです」

 

「桃⁉︎」

 

 

 押し負けた⁉︎ 桃が何も言い返せず、良の疑いのない純粋でキラキラとした眼差しに負けた⁉︎

 

 その上に私に寝込みを襲われたり冷蔵庫を作り置きまみれにされたりとか言って嘘を積み重ねているし、更なる誤解まで増やしてどうするんですか‼︎

 

 

「ああ……良子ちゃん? 桃が優子の軍勢に入ってるのかもしれないと思うのは分からなくもないんだけどさ……」

 

「分かろうとしないで⁉︎」

 

「俺の場合はなんで? 色んな奴を呼べる力を手に入れたのだから、俺も桃と同じく優子の軍勢に入ってるのではないかと思うのも分かる。けど一番の問題は俺が優子の伴侶になったってところだ。なんで伴侶になったって思ったんだ? というか伴侶の意味知ってる?」

 

「知ってる‼︎ その意味の一つが長い一生を共に生きるパートナーなんでしょ⁉︎」

 

「「なんでそっちの方を出すのかな⁉︎」」

 

 

 本当にどんな本を読んだら伴侶の意味も覚えちゃうのですか⁉︎ というか今までの私達をどう見たら白哉さんは私の伴侶なのだと思えるの⁉︎

 

 ま、 まぞくになる前から白哉さんの事は好きになってはいるけど、それを悟られぬようには配慮しているはずですよ⁉︎ なのになんで……まさかまた私の尻尾の動きとかで──

 

 

「お姉の白兄を見る目がいつもと違ってキラキラと輝いているところがあるし、喋っている時のトーンも正に乙女って感じが出ていた‼︎ それに白兄もお姉の事が好きなのかもしれないってところをよく見せていた‼︎」

 

「「………………えっ?」」

 

「白兄はお裾分けしに来てくれた時も真っ先にお姉と仲良く会話していたし、お姉との待ち合わせに来た時もよく微笑んでいたのを私は見逃さなかった‼︎ それに修行がある日と言っていた日はいつも一緒に付き合ってくれたってお姉が言っていたし、それを聞いた時の白兄は肯定しながらお姉のその時の良いところを嬉々として話していたのも覚えている‼︎ いつも率先してお姉の側に寄り添ったり、強くなろうと頑張っているお姉に付き合ったりしているってことは、白兄も脈ありってことだよね⁉︎」

 

「「えっ……えっと……」」

 

 

 な、長い……白哉さんが私の事を好きなのかもしれないと思っている理由、私が白哉さんの事を好きなのかもしれない理由よりも長い……というかそんなに白哉さんの事まで観察していたんですか良は。なんか、嫉妬してしまいそうでも妹の観察力の凄さに驚きすぎて嫉妬できそうにない……

 

 にしても、白哉さんの行動をそこまで読んでいるってことは、もしかして良も白哉さんの事が……いやいや、もしそうだとしたら白哉さんを私の伴侶だと捉えることなんて……って⁉︎ べ、別に私は白哉さんの事を伴侶だと思っているわけでは……‼︎

 

 ……もし、良の言っていることが本当だとしたら、白哉さんも心の中のどこかでは私の事が……いや、ないないないない‼︎ 嘘をつきにくい小さな子の意見とはいえ、さすがに白哉さんが私のことを好きになるわけが……

 

 ……あれ? 何だろう……否定しようとした途端、何故か急に心が締め付けられる程に痛くなった気がする。今までこんな感情を持たなかったのに……あれ?

 

 

「みゃ、脈ありって言葉まで知って……いや、俺は別に優子の事が……」

 

 

 ハッ⁉︎ いけないいけない、この痛いモヤモヤの正体が何なのかを考えるのは後です‼︎ 今は良の誤解を解くのが先決で──

 

 って、また良の目が疑心なしのキラキラでピュアッピュアな感じになってる……。その目を見た白哉さんも桃みたいにかなり押され気味な感じになっている……

 

 あっ、なんか嫌な予感がしてきた……

 

 

「………………はい、そうです。脈ありかなしかと言ったら、ありです。はい」

 

「白哉さん⁉︎」

 

「他のクラスメイトともだけどショッピングセンターに連れてって一緒にご飯を食べたり、同級生の看病を一緒にしてあげたりしてました。はい……」

 

 

 やっぱり⁉︎ やっぱり白哉さんも押し負けてしまっている⁉︎ 桃とは違って本当の事を言ってはいるけど、それはそれで、その……つ、付き合ってると勘違いされてそうで、かなり恥ずかしくなってきた……

 

 も、もう良にそう認識されてしまっているし、いっそのこと白哉さんに告白してしまおうかな……

 

 っていやいやいやいや⁉︎ そんなことしてしまえば、それでこそ白哉さんへの愛が今までよりも重くなるし、取り返しのつかないことをしてしまう可能性だって高くなっちゃう‼︎ みんなの為にも抑えて私‼︎

 

 というか……

 

 

「どうしてくれるんですか二人とも‼︎ 誤解を解くどころか深まってきたじゃないですか‼︎」

 

「私もそんなつもりはなかったんだけど、壊しちゃいけない笑顔がそこにあったから……」

 

「その……俺の場合は大半本当の事を言っていたと思うから、別に良くね……? 子供の希望や夢を守ることも大事だし……」

 

「二人揃ってブレるなァァァァァァッ‼︎」

 

 

 何『守りたい、この笑顔』理論を唱えようとしているかのように諦めた顔してるんですか‼︎ せめてどちらか一人だけでもいいからこの誤解をなんとかする意志を続けろー‼︎

 

 

「……それに、俺が優子の事を──」

 

「ただいまー。アイス買ってきたわよ〜……あら? その子はどなた?」

 

「まずい、状況を知らない系女子が‼︎」

 

「……ヤッパリナンデモナイデス」

 

 

 ミ、ミカンさんが帰ってきた……しかも白哉さんが何かを言おうとした時にまさかの最悪のタイミングで……何を言おうとしたのかは気になるけど、この状況どうしよう……

 

 この後桃が呪いを受ける覚悟での無言の圧力でミカンさんにアイスを突っ込ませ(どこになのかは分かりませんが)、彼女も私の配下にさせることで無理矢理解決に繋げました。

 

 ミカンさん……後で謝ります‼︎

 

 

 

 

 

 

 ま、まさか俺が優子の……は、伴侶であると捉えられていたとは……しかもよく俺の事を観察していた……

 

 良子ちゃん、君本当は俺と同じ前世の記憶を持った転生者なのでは? 原作通り本で得た難しい知識もちゃんとあるとはいえ、観察力が強いとそう思ってしまうじゃねェか……

 

 いや、多分あり得ないだろうな。一つの世界に複数の転生者がいたら現実(ものがたり)が混乱するだろうし、何より今までほとんど原作通りに物語が進んできているんだ。他の転生者が介入されてたら絶対どこかで物語が崩壊してたはずだ。うん、絶対そう。

 

 しかし、どうしたらいいものか……ん? 何がだ、だって?

 

 良子ちゃんに俺が優子の伴侶であることを肯定してしまった件についてだ‼︎

 

 だって俺ら付き合ってすらいないんだよ⁉︎ 告白もどきなのは受けたけど保留にしっぱなしなんだよ⁉︎ それなのに付き合ってるどころか結婚を前提にしてますみたいな感じなのを認めちゃったんだよ⁉︎

 

 俺だってね、嘘をついちゃダメなのはきちんと理解しているんだよ⁉︎ 小さい子の前で真実を伝えたかったんだよ⁉︎ それも傷つけないように‼︎ けど疑いのないピュアピュアとしたキラッキラな目を向けられたら、思わず否定する意志が引っ込んじまうんだよ‼︎ 壊したくない、あの笑顔‼︎

 

 ……まあでも、あの誤解のおかげで俺は少しでも自分の優子への想いに気付かされたのではないかなって思えたんだけどな。

 

 長い一生を共に生きるパートナー……控えめに言えば『一緒にいると落ち着く人』とも言えるのではないかなって思えてきたからだ。実際そうだったしな。優子と一緒にいるといつもの日常が楽しく感じるようになっていたから。彼女が自分はヤンデレである事を明かした後も、この感情は不思議と変わらなかったのだから。

 

 まあその事を本人に明かそうとしたタイミングでミカンが帰って来ちゃったから、思わず聞かなかったことにしてくれと頼んでしまったし……

 

 ハァ、本当に俺って優柔不断な性格なんだな……いや、これは奥手……とでも言うべき──って⁉︎ 何言ってんだ俺⁉︎ まだ自分の本心に気づいてすらいないのに何すっ飛んだ思考取ってんだよ俺ェ⁉︎

 

 ……最近疲れてるのかもしれない。優子のヤンデレに対応してる時が実はそれほど苦じゃないってか? 俺の感覚、おかしくなってるのかもな……

 

 うん、寝よう。今日は早めに寝よう。そうしよう。

 

 あ、ちなみに借り物のパソコンは熱暴走のため特に問題はなかったらしいです。うん、やっぱりここは原作通りだ。あ、桃が優子の配下扱いであることに飲み込めていない点も原作通りです。この二つはおまけみたいなもんなんで気にせんくてえぇ。

 

 さてと、勝手に精神世界から出てきた白龍様とはみっちりお話しないとな……

 

 

【な、なんか寒気がする……】

 

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その7

白哉「あー疲れた……にしてもどうしよう。根負けして優子の伴侶だよ宣言を、良子ちゃんや優子の前で言ってしまったんだけど……言質取らせちゃったんだけど……どうしようマジで……」
メェール【いや付き合っちゃえば即時解決だメェ〜。シャミ子ちゃんだって本当はそれを望んでいたの、本当は分かっているはずだメェ〜】
白哉「うるせーよ。そう割り切れてたらこんな苦労しねーよ。大体俺まだ自分の気持ちを理解できてないんだぞ?」
メェール【そう言っておきながら絶対どこかで気づいているはずなのに……マスターって鈍感なのかメェ〜?】
白哉「え? なんて?」
メェール【……なんでもないメェ〜………………ん? マスター、その右手に持ってる封筒はなんだメェ〜?】
白哉「ああこれ? 何故か桃が渡してきたんだけど、これ何が入ってるのか全然分かんないんだよな」
メェール【中身出して見たらどうメェ〜?】
白哉「それもそうだな。どれどれ、中身は………………」

封筒の中身:シャミ子が危機管理フォームの姿で、赤面しながら胸を強調させる前屈み腕組みポーズしている写真・手紙

白哉「───」
メェール【あっ、マスター刺激強過ぎたのか言葉を失ってるメェ〜。どれどれ、同封されてる手紙は……】

『白哉くんへ
 いつも頑張ってる白哉くんのために、シャミ子に協力してもらって元気の出そうな写真を送りました。
 落ち込んでいる時などにこれを見て元気になってください
 桃より』

メェール【……絶対シャミ子ちゃん無理矢理付き合わされてるメェ〜な。あ、マスター元気出たメェ〜? 特にs】
白哉・???「「おのれ魔法少女、戦じゃー‼︎」」
メェール【あ、このタイミングでシャミ子ちゃんの原作通りの叫びと一致した。やっぱりお似合いだメェ〜】

END



はい、白哉くんの未来の想像不可避ですね、はい(笑) まあその未来を作るこそがこの小説の目的ですからね、仕方ないね♂

批判でもなんでもいいので遠慮なく思ったことは感想欄に書いてってくださいね。

 


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ついに明かされる吉田家の、そして本来関わることのない平地家の真実……って、えっ?

原作二巻の物語も終わりに近づいてきたってことで初投稿です。

ついにあのシリアス回に突入……果たして白哉はどのように関わっていくのか?


 

 まるでチェス盤のような白黒の市松模様の床が広がり、壁も天井も無いように見える薄暗い空間。ベッド、タンス、本棚などといった最低限の家具が備わっている、部屋のデザインを除けば一般家庭の自室と変わりない部屋だ。

 

 だが一般家庭の部屋とは異なる部分が、デザインの他にもう一つある。それは、家具の大きさだ。ベッドの横幅は七メートルもあり、タンスも縦幅が同じ七メートル。本棚に至っては少し長い八メートルもあり、そこに収納されている本も二メートルはある。テレビに至っては縦幅五メートルで横幅は七メートル、正に映画館にいるかのようだ。どれだけ長くて文章も挿絵も多そうな本なのだろうか。

 

 ………………いやちょっと待て。なんで俺こんなところにいるんだ? 俺、さっきまでずっと自分の部屋でぐっすりと寝ていたよね? 昨日の良子ちゃんから優子の伴侶だという誤解を受けていた心労を癒すために早めに寝てたよね? なのになんでこんなこのす○感の漂うところに……

 

 ん? いや落ち着け平地白哉。よく考えたらここ、前にも来たというか連れて来られたことあったぞ。そう、あれは確か……えっと、いつだったっけ?

 

 

【約一ヶ月前。お前がシャミ子達とショッピングセンターのフードコートで飯食ってた日の夜だ】

 

「……この声は」

 

 

 どこかだらけきってはいるものの、威厳さを感じ取れる響きの良い男性の声。その声が聞こえてきたためすぐさま起き上がり、そしてその声がする方向に振り向いた。

 

 振り向いた先にいたのは、銀色の鱗が輝く白龍様だった。だがしかし、その姿はいつも現実世界で見せていた人形サイズのデフォルメ姿ではなく、全長六メートルのゲームやアニメなどでよく見る超カッコいい方の姿をしていた。爪とか翼とかデカいし、目つきが怖いけどそこもカッコいい。

 

 

【この世界とこの姿で、お前と話せるのも随分と久しぶりだな】

 

「……えぇそうですね、白龍様」

 

 

 この世界だと白龍様はスケッチブックではなく、ちゃんと白龍様自身の口から声を出して話せるようになるんだったな。いつものスケッチブックでの会話が身に染みてきたのか、実際に口から声を出してくると、なんか違和感が……

 

 ん? ちょい待ち。

 

 

「というか、貴方とこの世界できちんと話し合いができるのは、遅くても二・三週間も間を空ける必要があると仰いましたよね?」

 

【おう、言ったわ】

 

「で、またこうやって話し合いができる機会が作れたのは約一ヶ月後と」

 

【意外と間が長かったな】

 

「……いや空けすぎでは? 白龍様だって自分の口から会話したいのでは?」

 

【インターバルが終わった時はお前の期末テストがあったからな。それが終わるまで待ってたら素で忘れて今に至るってわけだ】

 

「……そうですか」

 

 

 そういえば……あの会話が終わってから二週間経った時はテスト勉強があって、翌週には期末テストの真っ最中だったな。白龍様はそれらが終わるのを待っていたんだけど、待ち過ぎて忘れてしまい、今日までに至ったってわけか。

 

 まあテストが終わった後も桃による強化トレーニングに優子共々付き合わされてたりもしたから、俺自身も精神世界で白龍様と直接話す機会を逃してたわ。どっちもどっちってことか。

 

 ……ん? ちょっと待てよ? 白龍様は最悪デフォルメの姿で現界できるんだったよな? ならこの世界でなくても話し合える機会はたくさんあるよな? 多分。

 

 

【話し合いしたいのなら現実世界でやればいいだろって思うだろうけど、そこで話し合いしようにしても、俺の場合はまだ時間制限があるんだよ】

 

「えっ? どういうことですか?」

 

【召喚獣達はお前の詠唱での合図なしに勝手に現界すると、魔力の何割かを精神世界に置いてきてしまうってのは、テスト回のおまけパートでも似た内容で話しただろう?】

 

「ああ、そういう話は聞いたような……って、ちょっと待ってください。おまけパートって何ですか」

 

【あっ、そこは気にしなくていいぞ。……実は自身の魔力が低ければ高いほど現界できる時間が高いけど、自由に精神世界と現実世界の行き来はできても現界できる時間に限りがあるってわけだ。だからお前と会話ができる時間が今まで上手に取ることができなかったんだ】

 

「そ、そうですか……」

 

 

 しょ、召喚獣達が現界するのにそんな制約があるんだな。というかそんな制約があるのなら、それを初対面の時に口述で教えるかか召喚術の事が書いてある紙に追加で記載するかとかしてくださいよ……

 

 

【伝えたり紙に記入するの忘れてたわ。後面倒だったってのもある】

 

「殴っていいですか?」

 

【マジですまん】

 

 

 何めんどくさがってたねん。それでも神様の指示で俺の援護とかをするために来てくれた方なの?

 

 

「……で、俺をまたここに呼び出したってことは、まだ説明していないところがあるとか、そういうヤツですか?」

 

【あぁ、そうだった。うっかり忘れるところだったぜ。実は……その……だな】

 

「何突然躊躇ってるんですか。早く教えてくださいよ」

 

 

 

【神様曰く、お前の心の中にもう一人の僕ポジションみたいな何かが生まれたのではないか、とのことだ】

 

 

 

「………………は?」

 

 

 何ですかそのにわかな言い方は……じゃなくて⁉︎ もう一人の僕ポジションって何⁉︎ なんかどっかのジャンプ漫画のカードゲームの主人公が連想されるんですが⁉︎ えっ⁉︎ 俺、いつの間に二重人格になってしまってたの⁉︎

 

 

【神様は転生者の奥底に秘めた力や変化の簡易的なものを探ることができてな、気軽にお前の様子を天界から探っていたら不意に見つけたらしい。まだ根本的なものは発見されてはいないらしいが、最近のお前の体に魂のようなものがもう一つ見つかったという事実は確かなようだぜ】

 

「それってつまり、場合によっては俺はその魂に乗っ取られるのかもしれないってことですか?」

 

【いや、その可能性はないだろうな。一つの体に魂が複数存在する人間は、ほとんどが精神の強いものが主導権を握れやすい体質となっている。無論その体の所有であるお前の魂は精神がとても強いから可能性はないとは言い難いが、高いというわけでもない。まあ今は心身ともに細心の注意を払うだけにした方が良さそうだぜ。あまり深く考えすぎると心の隙を見られて、体の主導権をあっさりと奪われてしまう可能性だってあるからな】

 

 

 うわ、メンタル精神が豆腐のように崩れやすい気弱な人にとっては厳しいヤツかもな。せっかく転生したのに、別の魂が入り込んでしまうか元あった魂が転生者の魂を掻き消す感じになってしまい、実質また死んでしまったような感じになってしまうのかもしれないからな。

 

 

「とにかく今は精神を鍛えて、どこの馬の骨なのかも分からない魂に体を乗っ取られないようにする……これが先決ですかね?」

 

【まあ今はそれが最適だな──あぼぉう⁉︎】

 

 

 何その変な悲鳴。……ん? なんかこのパターン、前にもあったような……

 

 あぁ、そういえば俺と白龍様が初めて会った時も、ああやって外からメェール君が白龍様をバシバシ叩いて時間であることを伝えてたな。ん? にしては今日は前よりもタイムリミットが短くなってないか? 日にち毎に精神世界で白龍様と話し合える時間が違ってくるのか?

 

 

【いってぇなぁ……おいメェール君、今俺は夢の中で白哉と話してるんだから起こさないでやって──ん? えっ? マジで?】

 

「白龍様、いかがなさいました?」

 

 

 

【何やら玄関前でシャミ子が危機管理フォームになって、桃と何やら一触即発してるらしい。それが心配で召喚獣の何匹かが勝手に出てドア越しに様子を見てるらしいが……原作に二人がいがみ合う場面なんてあったか?】

 

 

 

 ……あぁ、ついにあの回か。優子と桃……魔族と魔法少女の運命を決める、この時期にとっては最重要となる回だ。このイベントで何かしらのズレが生じれば、二人を中心に大きな悪影響を及ぼしかねない。本来部外者というかモブである俺が二人と関わっているのなら尚更その可能性は高くなっていることだろう。

 

 ……そう考えると、優子の事が心配になってきた。様子見ぐらいはしなければ。そしてもしもとんでもない改変でもあれば無理矢理にでも会話に介入し、そのズレを修正しないと。

 

 

「───白龍様。申し訳ありませんが」

 

【おう、分かってる。心配なんだろ? シャミ子の事が。こうやってのおしゃべりができる機会ならまたいつでも作れるから、早く行ってこい】

 

「ありがとうございます──って眩しっ⁉︎」

 

 

 うわなっつ。全身から辺り一面包み込める程に発光する白龍様とかなっつ。こんなに全身光らせて、よく俺を失明させたりとかしな───

 

 

 

 

 

 

「───ハッ⁉︎」

 

 

 気がつけば俺は布団の中で目を覚ましていた。やっぱり今回も夢の中で白龍様と話し合っていたんだな……。でも、会話時間は短いのに起きた時はもう朝になるって、夢の世界と現実世界の並行時間のスピードってどうなってんの?

 

 って、そんなこと言ってる場合じゃねェ。とりあえず玄関のドアにまで行って、今二人がどういった状況に至っているのか確認しなければ。さて、今頃二人はどんな会話しているのやら……

 

 

「念のため、召喚師覚醒フォームになるか」

 

 

 そう言って俺はいつものお手軽詠唱で召喚師覚醒フォームへと変身。もうその時の自分の恰好がパクリではないかとかはツッコまないからな。もう慣れた……

 

 あっ、夢の中でこのフォームのリテイク依頼するの忘れてた。タイミングの問題もあるとはいえ、何やってんだよ俺は。やらかした……

 

 いやそんなこと考えてる場合じゃねェな。早く向かわないと───

 

 

【メェール達よォ‼︎ 今シャミ子と桃はどんな状況なのだー⁉︎ このポーフも駆けつけ───】ナァァァァァァカァァァァァァァァァァァァ〜♪

 

「へぶぅ⁉︎」ドーン♪

 

【えっ?】

 

 

 何かに思いっきりぶつかり右方向へと飛ばされてしまった俺。そのままドアのある方向で何やらめっちゃ硬いものにもぶつかった途端、俺はその場で倒れ込み周りは何故か砂煙で埋め尽くされた。どうしてこうなった。 ラッキーデウメツクシテ〜♪

 

 

「いててて……くっそお、一体何がどうなって───」

 

 

 

 ムニッ

 

「んあんっ⁉︎」

 

 

 

「………………はへ?」

 

 

 えっ? ちょっ、何? どこか体の支えになるものがないかどうか探ってただけなのに、なんか聞き覚えのある音しなかった? なんかどっかで感じたことのある感触が手の中で伝わってきてない? というか聞き覚えのある声まで………………

 

 あっ、デジャヴ(察し)

 

 そのデジャヴを察した途端に煙が晴れ、俺はその煙で隠れてた自分の伸ばしてた右腕に目を向ける。その腕の先にあったのは───

 

 

 

 危機管理フォームの恰好をし、顔が林檎のように真っ赤になっている優子と、彼女の左側のデカいアレを掴んでいる自分の右手だった。しかも優子の後ろには今の光景を見たのか唖然とした顔で突っ立っている桃の姿が。

 

 

 

「えっ……えっと……あの、びゃ、白哉さん……」

 

「………………あの、すみません。今回のも不慮な事故なんです。狙ってたのではないのかとか思わないでくださいお願いします。いやマジで」

 

 

 顔が熱くなったのを感じながらも、すぐにアレを掴んでた手を離しながらそう説明する。大丈夫だよな? ちゃんと話聞いてくれてるよな? いや、反応からして難しいだろうけど。

 

 と、とにかく今は情報整理することが大事かもな。いやそれ自体もこの状況下で難しいだろうけどさ……

 

 

「え、えっと……なんで桃がここにいるんだ? そして何故か優子は危機管理フォームに? お前変身する度にいつも恥ずかしがってたよな?」

 

「も、揉まれた……ひ、久しぶりに揉まれた……」

 

「白哉くん、意外と結構大胆なこともできるんだね……」

 

「誰でもいいから質問に答えて。頼むから。そして先程の俺の失態は忘れてください。ホント申し訳なかったと思ってますので。マジでお願いします」

 

 

 とんでもないラッキースケベの光景の方に目がいってる二人に懇願し、話題を本題に変えてもらいました。しかも俺というイレギュラーによる突然の乱入によるものが要因となったのか、二人とも冷静な感じに説明してくれました。

 

 つーか優子の方はよく冷静に説明してくれたな。俺のせいで二度目の乳揉みラッキースケベを受けたってのに、そうなる前だって錯乱していたってのに。……とりあえず後で何か詫びよう。

 

 二人がぱんだ荘にて対峙することになった事の発端は、優子が桃の秘密を知るために彼女の夢の中に侵入したことからだ。その時の桃は自分が夢見ていることを自覚してるため、優子の刷り込みは失敗し桃の説教を受ける羽目に。

 

 話し合いをしているうちに、桃が優子の両親……特に母・清子さんの事で何かしら疑問に感じたのか、意識が現実世界に戻る寸前、優子に清子さんときっちり『たいじ』した方がいいと伝えたらしい。

 

 が! 夢の内容とは中々覚えられないもの‼︎ その夢の記憶がうろ覚えになってた優子は、桃が清子さんをやっつけると思い込んでいたようだ‼︎ つまり優子は勘違いを引き起こし、危機管理フォームになり、家族を守るために桃と闘う覚悟を決めていたのだ‼︎

 

 ……うん、原作通りの内容だな。とりあえず、まずは優子が勘違いを引き起こしてたから、誤解を解いてあげないと。

 

 

「……優子、お前は桃が言っていた『たいじ』の意味をなんだと思っていたんだ?」

 

「さ、さっきも言っていた通り『やっつける』って意味で……あ、あれ? 私意味を間違えてました?」

 

 

 ふむ、優子の方は『退治』と捉えていたな。

 

 

「別に間違ってはないけど、『たいじ』には漢字が違うだけで他にも意味があるんだよ……桃、お前が言っていた『たいじ』ってのはどういう意味で言っていた?」

 

「えっ? ふ、普通に『話し合う』って感じに……」

 

 

 で、桃は『対峙』の方だと。うむ、ここも予想通り。

 

 

「まあアレだ。桃は普通に『対峙』を『話し合い』と言い変えれば多分問題ないのに、うろ覚えな優子は話し合いの『対峙』をやっつける方の『退治』と勘違いするようになった。この二つのせいで勘違いを引き起こし、一触即発してしまいそうな状況下になってしまったってわけだ。ま、これはどっちもどっちだな」

 

「「ウッ……‼︎」」

 

 

 うわお、これ正論になってた? 優子と桃、二人とも図星を突かれたのかメンヘル漫画のショック顔になってるかの様に見えるで。

 

 

「わ、私の知識不足が、自らとんでもない引き金を引きかける羽目になろうとは……『たいじ』の意味の選択肢を間違えて焦ってた時の自分に言い聞かせたい気分です……」

 

「私ももうちょっと意味の分かりやすい言葉を選んだ方がよかったのか……シャミ子、勘違いさせてごめんね?」

 

「いえ、私の方こそ……」

 

 

 よし。何はともあれ、これでお互いの誤解は解けたようだな。

 

 けど、まだ根本的な課題は残っている。それは優子の……吉田家の謎だ。清子さんが優子にしている隠し事や、出稼ぎ中の優子の父親の行方……この二つの謎から真実を解き明かさないと、桃が今感じている疑問は晴れないだろうな。

 

 だから……

 

 

「優子の家族の事、清子さんに色々と聞いた方がいいな。優子も立ち会えばそれなりに答えてくれるだろうし。まずはそれからだ」

 

「家族の事を……はい‼︎そうですね‼︎ 私も白哉さんを、おかーさんを、良を、おとーさんが帰ってくるこの家を守るために、家族の事を色々と知りたいです‼︎」

 

 

 お、おお……? 今日の優子からはいつになくすごい気迫を感じる。これってあれか? うろ覚えの誤解による決意が影響して、誤解が解けた今でもそれが長引いているってことか?

 

 でも、そんな優子の顔を見てるとこっちも安心する。優子の身にもしもの事が起きても大丈夫、そんな不思議とした安心感が出るというか……

 

 

『しかし平地白哉よ、それは中々難しいのかもしれんぞ? 余がそれらの事でシャミ子に聞こうにしてもセイコにガードされていたし───』

 

「あっ……せいっ‼︎

 

「ごっせんぞぉぉぉぉぉぉ⁉︎」

 

 

 おぉっとぉー⁉︎ リリスさんが俺に何か言おうとした途端、恐怖を感じた表情をした桃によって天空に向けてスパーキング‼︎ 超・エキサイティング‼︎ ……なんか変なのが俺の脳内で二つ連想されて合体したんだけど。

 

 

「ハッ……⁉︎ 体がリリスさんを勝手に投げた……」

 

「……優子、お前夢の中で何をしてたんだ?」

 

「……夢の中でムキムキのメタ子から逃れるために、ニューごせん像を創造してました」

 

「ムキムキ⁉︎ どうなってるの私の夢の中のメタ子は⁉︎」

 

 

 うわっビックリした。桃、お前何ずっと信じてきたものに裏切られたって感じに驚いた顔で迫ってきてんだよ……って、そっか。今まで桃は現実の方で普通の猫の方のメタ子を見てきたから、夢の中で優子が見た方のメタ子にショックを受けたんだな。そう考えるとその反応は分かるな。

 

 まあその話は置いといて……そろそろ本題に移すか。

 

 

「───扉越しに聞いてますよね? 清子さん。吉田家の真実、俺達に教えてください」

 

「───バレていましたか」

 

 

 そう言いながら俺が視線を向けている吉田家のドアから、優子の母親・清子さんが顔を出してきた。右手に麦茶の入ったポットを持ってるってことは、優子に桃がここに来ることを知らされているんだな。しかも客だと思って。まあ実質そうなんだけどね。

 

 

「話は全部お聞きしました。皆さん、続きは家の中でしましょう」

 

「「は、はい」」

 

「ご協力感謝します、清子さん」

 

 

 そうして俺達は清子さんに流されるまま吉田家に入ることになった。そして出された氷多めの麦茶を飲み、改めて落ち着くことに。

 

 ん? 投げ飛ばされたリリスさんはどうするんだ、だって? リリスさん探索はウチの召喚獣の何匹かに任せてます。問題ありません。

 

 

「優子は私が思っているより強い子でした。ちゃんと話さないといけませんね。言いづらいこともたくさんあるけれど……まずは優子。……あの格好は、お外ではあまりしない方がよろしいかと」

 

「おお⁉︎ 清子さんも分かってくれてますか⁉︎ ですよね⁉︎ いくら戦闘フォームとはいえ、自分の娘があんな本人も望んでない露出度高めの恰好をするのは嫌ですよね⁉︎ 幼馴染である俺も恥ずかしくて結構目ェ逸らしてて───」

 

「冷えますよ」

 

「いやそっちかい」

 

「さっきまでペラペラと喋ってた時との落差が激しすぎません⁉︎ 後おかーさん、そのクレームはごせんぞにお願いします‼︎」

 

 

 なんで自分の娘のあの格好を見て、不審者に目をつけられないかどうかの心配をしないんだよ……親心はどうなってんだ親心は‼︎

 

 

「それと白哉くんにも言うべき事ですが……たとえ互いの了承を得たとしても、エッチな行為も外ですべきでは───」

 

「「アレは‼︎ どう見ても‼︎ 不慮な事故です‼︎」」

 

 

 ってかあの光景まで目に焼き付けないでくれませんかねェ⁉︎

 

 

 

 

 

 

 再び落ち着きを取り戻したところで、清子さんは語るべき事を話してくれた。

 

 今から十年前、せいいき桜ヶ丘は今よりも殺伐とした状況下に遭っていた。そんな中、桃の義理の姉・千代田桜が作った結界によって町は守られ、光の一族と闇の一族が共存できる町へと変わったのだ。

 

 ところが、突如として桜さんは失踪。その前に別の町で預けられた桃は桜さんの手がかりを探そうとするが、戻って来た時には関係者がほとんど見つからなくなっていたとのこと。

 

 ……いや、おかしくないか? 十年前まで活躍していたすごい人を知る人がいなくなるって……ワールドワイドな魔法少女の姉だぞ? 町の歴史に大きく刻まれるはずの存在と関わる人は、最低一人か二人はいるはず……

 

 だが、いくつかの疑問があろうがなかろうが、今は桜さんに関わる存在が桃の目の前にいることに変わりはない。それが優子とその家族だ。

 

 

「清子さん……過去に何があったか教えてください。シャミ子とそのご家族は、私の唯一の手がかりなんです」

 

「……私が知っていることを、順を追って説明します」

 

 

 清子さんの話によると、優子は強めに魔族の血を受け継いだ分の呪いが強く出てしまったのか、病弱な彼女を何とかするため清子さんの旦那さんであり、優子のお父さんでもある人──ヨシュアさん(漫画と違ってまだ名前を清子さんは出していない)が桜さんに相談した結果、ギリギリ生きていける程度に運命のリソースをいじりあの一か月4万円生活の呪いにした、とのことだ。

 

 なんで現代のレートに干渉しただけで優子が後に先祖返りで元気になれるんだ? もうちょっとこう……なんかあっただろ?

 

 ってかその後も入院続きだった彼女を、先祖返りしてない中学生時代の時に彼女の願望に答えてなるべく体力をつけさせてあげた俺もすごくね? ……いや自慢じゃねェから。自分でも彼女の魔族の呪いに微量ながら抗えてたなんて思わなかったから……

 

 しかし、古代の封印に抗ったその代償はあまりにも大きかった。いじる側の魔力も著しく消耗することらしく、そのせいで魔力の減った桜さんは町を守ることが難しくなってしまい、ヨシュアさんとの取り引きにより彼と共に町を守ることになった、とのことだ。

 

 もしかしてそれが、ヨシュアさんが帰れなくなった要因ではないかと、ここらで思うこの世界の観測者達もいるだろう。けど、俺は知っている。ヨシュアさんが帰れずにいる本当の理由を。

 

 

「あの……シャミ子のお父さんが出稼ぎに行っているというのは……」

 

「そうですね、優子には本当のことを伝える頃合いかもしれません。優子が生きていける目途が立った後……夫は桜さんに封印されました」

 

「それも優子の一族の呪いに干渉したのと関わりがあるのですか?」

 

「そこまではさすがに私でも分かりません。ですが、確信されていることはただ一つ………………お父さんは、このミカン箱に封印されています」

 

「「………………え」」

 

 

 聞き捨てならない言葉を聞いたためか、優子と桃が咄嗟にミカン箱の方に視線を落とす。まあ当然の反応だな。

 

 

「お父さんはこのミカン箱に封印されています」

 

「「………………」」

 

 

 

「お父さんはこのミカン箱に封印されています‼︎」

 

 

 

「「ええええええええええええ⁉︎」」

 

 

 うおっビックリした⁉︎ 予想はしてたけど二人ともめっちゃ驚いているじゃん。まあ無理もないけどな。特に優子は行方知らずの血縁者とも言える父親が、なんの変哲もないダンボール箱に、しかも今までずっとテーブル代わりに使っていたものに封印されていたって知ったのだから尚更な。

 

 

「あら? 白哉くんはそんなに驚かないのですね」

 

 

 あ、ヤベッ。怪しまれとるやんけ。なんとか誤魔化さないと。

 

 

「これでも内心ではビックリしてますよ。様々な可能性は予想してましたが、優子のお父さんがずっとこのダンボールに封印されたってのは予想外でしたので(嘘)、無理に冷静になろうとしてたって感じっすね……」

 

「そ、そうですか……けど無理そうでしたら遠慮せず言ってくださいね? 私も言葉を選びますので」

 

「あ、お気遣いどうもです……」

 

 

 何故か気を遣わされてしまったよ……余計な心配をかけちゃったか?

 

 

「と、とりあえず白哉さんの反応が薄いのは分かりましたけど……問題はおとーさんの件です‼︎ なんで⁉︎ どうして⁉︎ どうやってダンボールに封印されたんですか⁉︎」

 

「私も病院に入っていたので、詳しく何があったかあまり分からないんです。落ち着いた優子と良子を連れてこの家に帰ってきたら、玄関にこの箱と書き置きがありました」

 

 

 うん、ここまでも原作通りだな。そしてその書き置きの送り主は桜さんしかいない、彼女しかいない、それしかない。

 

 そしてその書き置きには『町を守る際にヨシュアさんを封印してしまいました』としか書いてないはずだ。もしそこも原作通りならなんて説明不足な……

 

 

「ちなみにその書き置きにはこんなことが書いてありましたが、その前に……白哉くん」

 

「ん? はい?」

 

「ここからは白哉くんの家族も関わることなので、本当に無理そうなら言ってくださいね?」

 

「………………えっ? あ、は、はい……」

 

 

 あ、あれ? なんか原作と違くない? 俺が転生憑依したせいなのか、なんかヨシュアさんが封印されたことがウチの家族とも関係ある感じにされたんだけど。まさか……?

 

 

 

「書き置きにはこう書いてありました……『町を守る際、平地黒瀬さんを苦しめる怨霊を除霊するために、ヨシュアさんまで封印してしまいました』と」

 

 

 

「………………You What⁉︎」

 

「あまりの衝撃の真実に白哉さんが英語口調になった⁉︎」

 

 

 アイエエエエ⁉︎ トーサン!? トーサンナンデ!? ウチの父までなんで十年前の殺伐とした時代に巻き込まれてたの⁉︎ 父さんは魔族じゃないよね⁉︎ 魔族特有の人間が持たない体の一部とかないよね⁉︎ 光の一族なら多分尚更だよね⁉︎

 

 

「びゃ、白哉さん……大丈夫ですか……?」

 

「えっ。あっ、すまん優子、大丈夫だ。予想外の方向から衝撃の真実が出てきてめっちゃビックリしたけど、ただそれだけのことだから……すいません清子さん、続きお願いします」

 

「……わかりました」

 

 

 優子が不安そうに俺を見つめてきたので、俺自身は大丈夫だよと伝えたけど、問題は父さんの件だな。父さん、十年前に一体何があったんだ……?

 

 

「黒瀬さんから聞いた話によれば、十年前突然入ってきたライオンみたいな黒い何かにぶつかった瞬間に結構苦しめられていたらしく、それを夫が無理矢理取り押さえ、そこに桜さんが夫共々封印してから浄化させたらしいです」

 

 

 えっ……? 浄化……? ちょっと待てよ? まさか、ヨシュアさんまで一緒に浄化させたんじゃないよな……? もしそうなら原作崩壊する可能性が高くなるって……

 

 

「浄化の際、夫の魔力と黒い何かの魔力を見分けていた為、夫までもが浄化されることはありませんでした。そしてあの後、黒瀬さんは桜さんの協力の元、周囲に飛び散っていた夫の魔力を用いて朱音さんと二人で彼の眷属になり、いつか彼が解放される日をずっと待ち続けることにしたとのことです。あの人は若作りが得意で、私を含め眷属になった者の老けを止めれますから」

 

「な、なるほど……どおりで二人とも若いわけですね。というかよく欠片程度の魔力見つけて、それを応用して封印されてる魔族の眷属になれたな二人とも……マジすげぇ……」

 

 

 つーか父さん、いくらヨシュアさんに会いたいからって本人の許可なく眷属になるのはどうかと思うぞ……後、なんで母さんまで一緒に眷属になったというのさ……

 

 

「過程はどうあれ……うちの姉は、巻き込まれた白哉くんのお父さんを助けるために、この家のお父さんを十年も奪っていたんですね……。そして私は……それにずっと気付けなかった……」

 

 

 そう言う桃の表情は、自責の念に満ちたような悲しき感情を浮かべていた。自身は間接的に関わっていないとはいえ、身内によって他人の人生を奪ってしまい、自分は何も最善の事をしてやれなかった。その事実だけでも自己嫌悪してしまうのも、無理はない。

 

 

「いえ……桜さんは縁もない私達一家や平地家の皆さんのために協力してくれて───」

 

 

 フォローしようとした清子さんの言葉を遮るかのように、桃は静かに麦茶の入ったコップを置き、立ち上がった。

 

 

「ちょっと整理する時間をください……」

 

「桃、まさかお前……」

 

 

 

「私……ずっとシャミ子の、そして白哉くんの敵でもあったんだね」

 

 

 

「ッ……」

 

 

 掛ける言葉が見つからなかった。優子がこれまで背負っていた感情よりも重い自責の念に押され、俺は言い淀む自分に落胆してしまった。

 

 語られた真実が思ってたより重い上に、優子だけに飽き足らず俺の家族までも知らず知らずのうちに不幸にしたと思ってしまった桃のその背中は、酷く重く、どこか歪さを感じた。

 

 そして俺は、これまで俺に対する愛情に苦悩していた優子へしてきたようなことすらもしてやれず、ただただ外へ出ていく桃の背中を、見届けることしかできなくなった───

 

 

 

 

 

 ───やれやれ、ここに来て困難にぶち当たったか。さぁ、この後アンタはどうするんだ?

 

 ───このままこの世界の本来の流れに任せてみるか? それとも……

 

 ───いや、これ以上促すのはやめとくか。最終的に、この先の行方を決めるのはアンタ次第だからな。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その8

白哉達が吉田家で話し合いをしている中、平地家の玄関前にて

ポーフ【なんということだ……あまりにも慌てていたものだから、うっかりマスターにぶつかってしまった……】
シバタ【しかも勢いよくぶっ飛んでいったね。ドアをも破壊してしまうほどに】
ポーフ【ああ、俺はなんということを……マスタァァァァァァッ‼︎】
メェール君【いやマスターを殺すなメェ〜。ちゃんとピンピンしてるメェ〜】
ポーフ【何⁉︎ 生きてるのか⁉︎ それは真か⁉︎】
メェール君【うん。そして奇遇にもシャミ子ちゃんのおっぱいをうっかり揉んでだメェ〜】
シバタ【gj】
メェール君【そして気づいた時はシャミ子ちゃんと桃ちゃんによる誤解は解かれ、そのまま三人で清子さんから吉田家の秘密を聞くことになってたメェ〜】
ポーフ【なるほど……つまりは、ラッキースケベはトラブルを解消するって事か‼︎】
シバタ【いや、どっちかというとトラブルを起こす側が多いよラッキースケベは】
ピッピ【君達、ドアは直さなくていいのか?】
三匹【あっ】

END



次回、原作二巻までの物語が完結します‼︎ 来週の水曜日か土曜日に投稿されるのでお楽しみに‼︎

ん? 本編での展開が原作となんだかおかしい? なんか中途半端な気がする?

あぁ、自分は漫画だけに飽き足らずアニメの知識もそれなりには入れているので、偶にアニメ沿いになる時があるんですよねー……実際にも他の回でもアニメ沿いの展開にしてるとこありますよ? 例えばリリスさんと白哉くん達の初邂逅の回とか……

 


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そして魔族は勧誘し、魔法少女は手を差し伸べられ、転生者はそんな二人を支える柱となる。

長い気がする原作二巻編が終わるので初投稿です。


 

 ───よぉ、久しぶり。アンタとこうやって意思疎通で話し合えるのはこれで二回目、そして二週間ぶりだな。

 

 ───ん? 寝ているわけじゃないのにどうやって話しかけてきてるんだ、だって? ……そっか、やっぱりアンタは覚えてないっつーか、あまりのショックとかで記憶が飛んでたんだな。

 

 ───アンタは魔法少女……千代田桃に掛ける言葉が見つからないまま彼女を見送った後、二人に『気持ちの整理をしたい』とかいってその場で眠り始めてたんだよ。んで、千代田桃に対して何もできなかった自分にショックを受けて記憶が飛んでたらしいってわけだ。

 

 ───あっ、ちなみに今の二人はシャミ子の父……ヨシュアさんの事で話し合っているところだぜ? んで、身長までもが父親に遺伝されていたことを知ったシャミ子が動揺中だ。その時のアイツの顔スゲー面白かったなー。

 

 ───コホンッ……で、アンタはどうする?

 

 ───何が、だって? 千代田桃が自分の姉にアンタの父親やヨシュアさんとの関わりがあることを知って、姉のせいで父親をバケモノから救うためにヨシュアさんが封印されてしまったことで悩みだしたんだろ? そんな彼女に声を掛けるのかどうかって話だよ。

 

 ───ヨシュアさんが封印された真相が原作通り謎のままだったら、原作通りにシャミ子一人に任せるだけで即時解決だけど、この世界ではアンタの父親を助けるという目的もあってヨシュアさんが桜さんによって封印された……つまりアンタやアンタの父親に対する罪悪感まで生まれ、奴の悩みが二倍にかさ増しされているんだ。

 

 ───そんな状況下の中、アンタは一体どうする? 原作通りのシャミ子任せに賭けるか? それともどうにかしてアンタも関わって、なんとか千代田桃が余計に抱えている悩みの解決を試みるか?

 

 ───不安か? 本来家族すらも原作に関わるはずがないのにいつの間にか介入されただけでも不安だってのに、どうやってそれによって生ませてしまった余計な悩みを消せばいいのか分からなくてさらに不安が募ってきたのか?

 

 ───……ハァ、仕方ない。俺、本当はずっと傍観者のままでアンタの行く末を見届けたいんだけど、そこまで悩んでいるのなればちょっとだけアドバイスしないといけねぇなァ……

 

 ───アンタ、これまでずっとシャミ子が自分の歪んだ性格に悩まされていた時、いつも見切り発車な感じになんとかしようとしていたんだろ? あの頃を思い出しながらどういう風に話せばいいのだろうかって考えれば、自然と千代田桃へ掛ける言葉が思い浮かぶはずだ。

 

 ───分かってるさ、シャミ子の時と条件が色々違うことぐらい。桃が悩んでいるのは自分の事でもアンタに対することでもない、姉とアンタの父親の事で、だ。それに千代田桃はアンタやシャミ子の幼馴染ではない、前までずっと他人の関係だっただろ?

 

 ───けどよ、条件が違うからって彼女の為にしてやれることはないと言い切れるか? 掛ける言葉が思い浮かばないから放置するしかないのか? 違うだろ? アンタはシャミ子がヤンデレみたいな感じになりそうな自分に悩んでいた時だって、どんなに難しい条件下だろうと必死にフォローしてただろ?

 

 ───そんなこれまでの自分の努力を否定するな。これまで上手くいってたことが別の機会では無理だった……そうなった時に初めて一度否定してみて、別の手段で最善の結果を残せ。それが今アンタにできる仕事だ。

 

 ───どうだ? 少しは決心がついたか? ……そっか。なら、アンタがすべきことはもう決まってるな。行ってこい。

 

 

 

『……ハァ。これ以上促すのはやめとくか、とか言いながら結局促してんじゃん俺。ま、何も思いつかないまま悩ませてしまうよりはマシか』

 

 

 

 

 

 

「んあっ……? ここは……」

 

「あっ、白哉さん‼︎ 目を覚ましたんですね‼︎」

 

 

 ここは……優子の家……? あぁそうか、俺は確か桃がここを出て行くのを何も出来ずに見届けてしまった後、こっちも気持ちの整理をしたいとか言ってその場で寝ていたんだっけ。で、なんか小学生ぐらいの男の子っぽい声が夢の中で一方的に聞こえてた気がする。それも、まるで俺にアドバイスを送るかのように……

 

 いやちょっと待てよ。なんで俺は優子の家で寝ていたんだ? そして単に優子の家から出て行こうとしただけの桃に何かをしようとしていたんだ? それ以前の記憶が何故か飛んでしまっているんだが……

 

 

「白哉くん、大丈夫ですか? もしや黒瀬さんの事で相当なショックを……」

 

「えっ? あの、清子さん? どうして父さんの名前が出て………………あっ」

 

 

 そうか、そうだったのか……全部思い出した。俺は、桃に対して何もしてやれなかったショックからその場で眠りに、というか気絶してしまって、それが原因で記憶が飛んでしまったんだな。

 

 ……今頃、桃はあの事で思い悩んでいるのだろうな。

 

 俺が介入したことで、父さんが桃の姉・桜さんや優子の父・ヨシュアさんと関わることになって、原作でもずっと謎になっていたヨシュアさんが封印された理由が父さんを助ける為になった。そのせいで桃は優子だけじゃなく俺の敵でもあったと思い込んで、俺達から距離を置いていってしまった。

 

 その時の俺は優子同様に何の掛ける言葉も見当たらず、その場を去っていく桃の重たい背中を見据えるしかできなかった。原作とは違い俺の家族が関わったことで、他人事なりのフォローぐらいはできるのではないかという甘い考えすらも出なくなり、自分の無力さを感じてしまった。

 

 ……でも、今は違う。夢の中で白龍様ではない誰かに掛けられた言葉を覚えている今だからこそ、俺が今すべき答えは、もう自然と出ている。

 

 もう、先程まで声すら掛けられなかった、無力な自分とは違う……‼︎

 

 

「……すみません清子さん、今全部思い出しました。ありがとうございます、もう大丈夫です」

 

 

 俺はそう言ってゆっくりと立ち上がり、ズボンについて汚れを静かに払った。

 

 

「そうですか……今まで隠していてごめんなさい。優子に夫の事を隠していたこともそうでしたが、貴方にもお父さん……黒瀬さんの事を隠してしまって。貴方達に色々負わせると、歪な頑張り方をしてもたないと思って───」

 

「それならもう大丈夫ですよ。個人的解釈もありますけど」

 

「えっ?」

 

 

 清子さんが父さんの事で俺に謝ろうとしていたから、俺は咄嗟に『心配しなくていい』と伝えた。反射的にそう答えてしまったってのもあるが、実際俺と優子はもう既に、様々な方向の様々な事実を知ってしまって精神が強くなった(というか強くさせられた)のだから、別に嘘はついていないはずだ。

 

 

「正直、父さんまでヨシュアさんが桜さんに封印された事に関与してるだなんて予想してませんでした。本来なら俺達平地家も、吉田家や千代田家に関わることがないんじゃないかって、ずっと思ってましたから……」

 

 

 けど、だからといって……

 

 

「だからといって、その事実から逃げるつもりはありません。逃げたら逃げたでそれこそ色々と後悔し、余計に周りを傷つけかねないから。それを……優子と一緒にいたことで、自然と気付かされました」

 

「……えっ? ……えっ⁉︎ 私、知らないところで白哉さんに対して何かやらかしてました⁉︎」

 

「いやマイナスな方向では言ってねーから。どうしてそうなる」

 

 

 えーコホンッ。ちょっと話がズレかけそうだったんだけど、気を取り直しまして……

 

 

「清子さん……優子は心身共に強くなりましたよ。魔族になる前だって、支障が出ない程度に体を鍛えたりテスト勉強に必死に励んだりしてましたし。まあそこは俺が関わってたからってのもありますが。魔族になってからだって、桃に一族に関する一部分を教えてもらったり、俺と一緒に鍛えてもらったり、町の事を明かしてもらったりと、色々な事を経験してしましたから」

 

 

 まあ、そのせいでロクな目には遭ってないんだけどね、俺達……

 

 というか俺達、現代世界ではあり得ない事を体験しすぎて、絶対どこかで感覚麻痺してるよね? 絶対。……アレ? 心配しないでいいだなんてこと、言わなきゃよかった? 俺今、手のひら返ししてね?

 

 ま、まあそれはそれとして……

 

 

「だから俺も、少しずつでもいいから優子みたいに成長したいです。自分でも気づいていない本心に気づいたりとか、そういった精神的な方面で。とりあえずまずは桃を元気づけることからやって、その後に父さんにヨシュアさんや桜さんの事について聞いてみたいと思ってます。父さんが今まで何を思っているのかは分かりませんが、もし落ち込んでいたりとかしてたらこう言ってやりますよ」

 

 

 

 ───色んな人達の想いをみんなで背負って、前を向いて生きてやろうよって。

 

 

 

「………………貴方達は、私の知らないところでたくさん成長していたんですね。嘘をついていた私や黒瀬さんを許そうとして、優子もこんな私のために何かしたいと言ってくれて……私は二人のことを信じ切れていなかったみたいですね」

 

「子の心親知らずってヤツですよ。……アレ? なんか違うような……」

 

 

 なんか勝手に新しいことわざを作ってね? みたいな事を考えてた中、優子が俺の隣に、そして清子さんが自分を真っ直ぐ見れるように立った。

 

 

「おかーさん……私、おとーさんの事で正直死ぬほど驚いていますが、私ももう大丈夫です‼︎」

 

 

 そう言う優子の目は、いつになく真剣で真っ直ぐとしていた。まるでこれまで体験してきた事全てを、一欠片も逃さず見据えているかの如く。彼女がこれほど真っ直ぐな目をしているのは、桃による魔力の特訓以来……いや、その時よりもさらに彼女の想いが強く出ていた。

 

 

「実は私、魔族になる前からもヤバい想いを抱えていました。それも自分でもドン引きしてしまいそうな感情で……」

 

 

 えっ、それヤンデレってた時の事を指してる? それ実の親の前で暴露して大丈夫なの? そんな不安が過ってきた俺を他所に、優子は言葉を繋げていく。

 

 

「けど、それも白哉さんに支えてもらったおかげで大変な事態を犯さないでこれました。こんな私の事を知っても見捨てようとしなかった人がいた……そのおかげで、私は何が起きても前に進んでいこうって思えるようになったんです」

 

「優子……」

 

「角が生えてからなんか色々なことがあったけど、どんどん前に進んでいけるようになって……最近私、サプライズに慣れてきた……どんとこーい」

 

「いやちょっと待て。俺のおかげで非常識を必要以上に求めるようになった……とかはないよな⁉︎」

 

 

 なんか安堵していた自分が馬鹿に思えてきたんだけど⁉︎ 優子を原作以上に苦しませて、原作以上の鋼メンタルを持たせて、原作以上に非常識に慣れるようになるって……それ色々な意味でヤバい奴になりかけてね⁉︎ 色々と感覚ズレて変な路線とか行くなよ頼むから⁉︎

 

 

「それに……おとーさんは死んじゃったわけじゃない。そして私は白哉さんの力だけじゃなく、色んな人の力もあって、今元気に動けて、心身共に強くなれて………………私……私自身の戦う理由をやっと見つけられた気がします。私、桃を追いかけます」

 

 

 この時、俺は改めて優子の強さを実感した。どんなに自分の知らぬ内に生まれた感情に苦しみながらも、そんな中でどんな非常識な出来事に見舞われても、彼女は挫けずに前を向いて生きているのだと。ずっと隣で見てきた俺でも予想できない程に、誰よりも強くなっているのだと。

 

 

「……桃はいつも私や白哉さんを揶揄っていました。けどそれは私や白哉さんの為を思ってしてきた事なのだと今知りました。そんな遠回しもあったからこそ、私は改めて自分の想いと向き合おうとしているのだと思います」

 

 

 そっか、優子は理解したんだな。桃がこれまでしてきた俺達二人へのお節介は、優子の本心に気づいたからこその最善の行為だったんだな。優子はそれに気づいて、桃を助けようとする意志が強くなって……

 

 いやよく考えたら、あいつのお節介は度を超えてないか? いくら優子の恋心に気づいたからって段階を越えようとさせてなかったか? やっぱりあのお節介は私欲も含まれていたんじゃ……

 

 

「なのに彼女は……桃は自分自身の事になると誰かに助けを求めず一人で無理をしている。そして今も一人で悩んでいる。他人の為に積極的な癖に自分自身に対しては何もしようとせず、無理そうだったらすぐに諦めるだなんて……そんなの、私が許しません。桃は初めて会った時から私の宿敵です。私が勝つその日まで地の果てまで追いかけてやる」

 

 

 優子、宿敵相手にそんな友情に近い感情を……原作読んだから知ってるからとはいえ、ここまで成長してる彼女を見ると、とても逞しく思えて───

 

 

 

「私にうっかり体力をつけちまったこと、そして私の乙女心を弄んだことを後悔するがいい‼︎ タイヤとか促し告白を白哉さんの目の前でさせたこととかの恨み、今こそ晴らしてくれるわー‼︎」

 

 

 

「………………ちょっと待て今お前自身がバラされたくない事を母親の目の前でバラしてないか⁉︎」

 

「えっ? ………………あっ」

 

 

 おい、何とんでもないカミングアウトしてんだよお前は。せっかくのカッコ良さが台無しだろうが。自爆してめっちゃ恥ずかしがって蹲ってるじゃん。

 

 

「……あの、清子さん。今の優子が言ったことは聞かなかった事にしてもらった方が彼女の為かと───」

 

「フフッ、大丈夫ですよ。優子が白哉くんに恋してる事を知ってますし、貴方もきちんと気づいてますよね?」

 

「ウッ‼︎ …………そ、それはまあ、そうなんすけど……」

 

 

 実質的に俺まで恥ずかしい想いを持つようになってしまったよコンチクショーが……優子、さすがに今回はお前の事を呪いそうだぞ……

 

 ってか知ってたの⁉︎ 優子が俺の事好きなの知ってたの⁉︎ 親の勘って鋭いものなのだな……

 

 

「と、とにかく‼︎ 私は桃を探しに行きます‼︎ おかーさん、後でおとーさんの話いっぱい聞かせてください。いってきます‼︎」

 

 

 優子はそう言って、羞恥心と真っ赤になってる自分の顔を隠そうとするかのようにそそくさと桃を探しに出て行った。うん、これ以上羞恥を晒してしまった自分の顔を見られたくないよね。仕方ないよね。無理もない。

 

 優子も桃の側に寄り添える存在になろうとしてるんだ。俺だって……

 

 

「それじゃあ清子さん、俺も桃を探しに行きますね」

 

「……白哉くんもですか」

 

「ええ。桃の奴、父さんの事でも一人で抱え込んでしまっているし、そんなあいつの辛そうな顔見てたらほっとけないし」

 

 

 そして何より……

 

 

「何より、無理矢理優子共々修行させられた借りとかもありますからね。その分の鬱憤も晴らしたいんで」

 

「……後半私怨が入ってませんか?」

 

「……そこは引っ掛からなくていいです」

 

 

 こちとら色々と事情とかってもんがあるんです。指摘とかしないでくださいお願いします。しかし清子さんは何かを察してくれたのか、安堵しているかのように息を一つ吐き、俺にこう伝えた。

 

 

「何はともあれ頑張ってくださいね、白哉くん。それともう一つ、お伝えしなければならないことが……」

 

「ん? なんですか?」

 

 

 伝えないといけないこと? 父さんがヨシュアさんや桜さんと関わってたこと以外に、まだ何か俺の家族の事で秘密があったりしてる……とかじゃないだろうな?

 

 

 

「いざという時は、優子の事をよろしくお願いしますね」

 

 

 

「………………それ、どういう意味で言ってるんですか。念のため言っておきますけど、嫁の貰い手としてという意味でなら自信ないですよ。まだ優子の事をどう見てるのかの答えも出てませんし……」

 

「フフッ、冗談がお上手ですね。良き理解者として支えてほしいって意味で言ってるので、他意はないですよ。それにその答えならとっくに出てると思いますよ?

 

 

 いやこれ冗談じゃないっす。優子のあの想いを知っていた貴方だからこそ他意があるではないかと思ってしまうんすよ、全くもう……

 

 というか、なんか小声で何か呟いていたような気がしたけど、気のせいか……?

 

 

「それじゃ、あいつの父さんとの間に作った溝、父さんには内緒で勝手に埋めておきます。いってきます」

 

「いってらっしゃい」

 

 

 清子さんに見送られながら、俺は吉田家を後にし、すぐさま桃を探すことにした。

 

 彼女の場所が分からないのにどうやって探すんだって? ご心配なく。俺には原作知識があるし、何より多摩町移住歴も長い。地図もよく見ている。だから桃を探すのは楽勝なんですよ。どれも欠けてたら素早く見つけるのは困難だけども。

 

 まずは……原作知識によれば、優子が例の提案を桃にするんだけど、その前に桃のイレギュラーな悩み……父さんがヨシュアさんと桜さんに関与したことの悩みを解決しないと。あれのせいで優子の提案に支障を出すわけにもいかないからな。

 

 そうと決まれば、優子よりも先に桃を見つけて励まさないとな‼︎

 

 あっ、そうだ。あいつを探してる間に……

 

 

 

 

 

 

「───見つけた。白龍様、降ろしてください」

 

【あいよ、料金はゼロ円です】

 

「タクシーですか。というか金は取らんのかい」

 

 

 桃を探し始めてたったの五分後。俺が召喚師覚醒フォームになったことで元の姿に戻れた白龍様に乗せてもらいながら、街を一望できる桜の木の下──桃と桜さんの思い出の場所で、桃がいるのを発見した。

 

 よし、原作通りここで落ち込みながら町を眺めてるな。さっさと降りて余計な悩みを吹っ飛ばさせてもらうぜ。

 

 はいシュタッと到着………………って、よく考えたら数十・数百メートルもある位置から降りてよく骨折しなかったな俺。召喚師覚醒フォームになった時の自分のタフさが怖い……というか考えなしに降下するなって話だけども。ってかなんで飛び降りたんだろ、俺……

 

 

「……白哉くん、よくここが分かったね」

 

「ただ無我夢中に空を飛び回っただけだよ(嘘)。……それよりも、お前に言いたいことがある」

 

 

 俺はそう言うと立ち上がって真っ直ぐ桃を見つめ、大きく息を吸い込み、そして叫んだ。

 

 

 

「俺の父さんは心の狭い人間じゃねェ‼︎」

 

 

 

「⁉︎」

 

 

 ……フゥッー、まだ解決してないのにスッとしたぜー。突然の叫びに桃はキョトンとした表情を浮かべているけど、そんなことはどうでもいいさ。続けさせてもらうぜ。

 

 

「分からなくもないよ⁉︎ 本来なら殺伐とした環境に無関係だったはずの父さんを、桜さんが巻き込ませてしまったことに対する罪悪感を持ってしまうことを‼︎ そう思い込んでしまうのも無理はない。父さんはあの事件の完全なる被害者だったから……だからといって‼︎ 父さんが桜さんやヨシュアさんを恨んでると勝手に決めつけるんじゃねェ‼︎ あんなのは事故なんだよ事故‼︎ たとえワールドワイドなお前の姉が優秀すぎるとしても、そんな彼女だって様々な事件をいっぺんに解決できるとは限らねえだろうが‼︎ それに父さんだってなぁ、二人が好きで自分を巻き込みたくなかったんだってことぐらい分かってくれてんだよ‼︎ 一人で色々と、他人が巻き込まれた事件の事を結論づけんな‼︎ 自己完結なんてしてんじゃねェ‼︎」

 

 

 ゼェ……ゼェ……た、たくさん言いたい事喋りすぎたのか、逆になんて言ったのかを一瞬で忘れてしまったぜ……。あ、頭に熱が上がると喋ってた時の記憶も曖昧になるんだな……マジ疲れる。

 

 

「………………びゃ、白哉くん……結構思ったことをバンバン喋ることもできたんだね……」

 

「おい、もしかしてめっちゃ喋ってる俺を見て話聞いてないってのか? ふざけんな俺がここまで頑張って喋った時間返せ」

 

「ご、ごめん……でも、本当なの? お父さん──黒瀬さんが、お姉ちゃんやヨシュアさんを恨んでないのを……」

 

「証拠になり得そうなものならちゃんとあるぜ」

 

 

 そう言って俺はスマホを取り出し、ポチポチと画面を動かしてから、とある画面を桃に見せつけた。そしてそのスマホから流れてきたのは……

 

 

『もしもし、父さん?』

 

『おお我が子よ、父さんに電話を掛けてくれるのは随分と久しぶりだな。一体どうしたんだ?』

 

『いきなりで悪いけど、単刀直入に聞かせてくれ………………十年前、父さんが桜さんやヨシュアさんに助けてもらったっていう件についてなんだけど』

 

『なっ……⁉︎』

 

 

 俺が父さんと電話していた時の会話だった。スマホの最新通信アプリによる録音機能で俺と父さんの話し合いを録音してたんだよなぁこれが。

 

 いつ録音したんだって? 白龍様に乗せてもらいながら電話してたんだよなぁこれが。ん? 通信環境? 高気圧な場所を飛びながら電話は無理? 白龍様が魔力を使ってどうにかしてくれたんだよなぁこれが。

 

 

『何故それを……』

 

『ちょっと色々と訳があってね、清子さんに教えてもらったんだ。それで父さんを怨霊らしきものから浄化して助ける為に、苦渋の決断としてヨシュアさんが怨霊の動きを封じ、そこに桜さんがダンボールにヨシュアさん共々封印したって。そしてヨシュアさんの方はダンボールから封印が解かれることなくそのまま……』

 

『……そうか……』

 

『父さんはさ、正直あの時どう思ったのさ? あの時ヨシュアさんの為に封印をしてもらうのを止めればよかったと思ってるの? それとも……自分を巻き込ませた桜さんとヨシュアさんを恨んでる?』

 

 

 その後に流れる沈黙。その間桃がスマホの画面から目を逸らそうとするが、それを俺が首を横に振るだけで思いとどまらせた。そして……

 

 

 

『恨んでもないし、止めようとしてもヨシュアさんは言うこと聞かなかったと思うさ』

 

 

 

 父さんが、本心を告白した。桃は父さんの声を聞いたことないから、今言ったことが本当なのかは信じ難いのだろうけど、これが真実だ。

 

 

『桜さんは魔法少女としてはかなり優秀だと聞いたが、そんな彼女でも完璧ではないのかもしれないとはきちんと理解しているからな。それにあの災厄だって、魔族でもなんでもない俺達家族が巻き込まれないとは限らないことぐらい百も承知で、それが終わるのを待っていた。事故からいつ目覚めるかも分からない息子と二度と会えないという恐怖に怯えながらも、な』

 

『……今となっちゃ、縁起が悪すぎるだろ』

 

『それはすまん。それに、仮に巻き込まれたとして助けを求めるわけにはいかなかった。二人に余計に魔力を消耗させたくなかったからな』

 

 

 そしてまた流れる沈黙。けど、今度はさっきよりも短かった。

 

 

『けど、ヨシュアさんはどうにかして俺を助けようとした。あの人は魔族にしてはかなり真面目でどんな人にも優しい人だと聞いたからな。だからなのか、俺を怨霊から助ける為に自らが封印されることも厭わなかった。最終的に桜さんが渋々と彼の手段を受け入れることになって、あの時の俺は酷く罪悪感に溺れた。その時、ヨシュアさんはこう言ってくれたんだ』

 

 

 

 ───どんなに苦しいことがあっても、前を向いて生きてくださいってな。

 

 

 

『………………それ、俺がその件の事で苦しんでるかもしれない父さんに掛けようとした言葉と少し似てるんだけど』

 

『む? そうか? ハハハッ、という事はお前は俺ではなくヨシュアさん譲りなのかもな』

 

『血の繋がってない人の遺伝が親の遺伝より強いって、なんか嫌なんだけど……』

 

『まあ何はともあれ、ヨシュアさんの言葉のおかげで俺は前を向いて生きていけてる。お前をここまで成長させている。ヨシュアさんには感謝しかないよ。その感謝を伝えたくて、ヨシュアさんが封印された際に飛び散っていた魔力の残りカスや桜さんの協力の元、母さんと一緒に勝手に彼の眷属にもなったのだ』

 

『債務者の許可なく勝手に眷属になるなよ……』

 

『その件はヨシュアさんが解放された時に即座に謝るさ』

 

『……まあいいか。とりあえず、父さんは桜さんやヨシュアさんを恨んでいない。寧ろ助けてくれたことに感謝している。そう捉えていいんだな?』

 

『ああ、分かってくれると助かる』

 

『………………父さんが寛大な人でよかったよ。電話に出てくれてありがとう。それじゃ』

 

『ああ……ん? ちょっと待てそれはどうい───』

 

 

 父さんが何故『寛大』という言葉が出てくるのだと指摘しようとしたところで通話録音が切れる。

 

 まあこんなところかな。これで少しは父さんが桜さんやヨシュアさんの事をどう思っているのか分かるはずだ。さて、ここまでの通訳を聞いた桃の反応は……おっ? 自責の念を表してるかの如く酷く落ち込んでいた顔の影が、少しばかりか薄れている。効果はそれなりにあったようだな。

 

 

「なっ? どうだ? これで父さんが桜さんを恨んでないってのが分かったか? 寧ろ頼んだわけでもないのに助けてもらったことに感謝してるぐらいらしいぜ?」

 

「………………そっか、そうだったんだね。黒瀬さんに会ったことすらないのに、私は勝手にその人がどう思ってるのかを決めつけていたんだね……」

 

「そういうこと。だから心情を知りたい人とかいたら、決めつけとかしないでその人の知り合いにでも聞いてみなよ。そうすりゃ気まずいことが起きても、父さんみたいに許してくれるかもしれないし、蟠りも消えるかもしれないぜ?」

 

「うん、そうだね……」

 

 

 おっ、一瞬だけど桃が微笑みを取り戻したぞ。ということは父さんの件はこれで解決したかもな。仮に謝りたいとか言ってきても、時をかけて偶々会った時にしても寛大な父さんなら許してくれるさって言えば問題無さそうだしな。

 

 

「………………でも、シャミ子の場合はそうはならないかもしれない」

 

「は?」

 

「シャミ子のお父さんは私のお姉ちゃんによって封印された。そして十年間、その事実をシャミ子と良ちゃんは二人のお母さんに隠されていた。そしてその原因を作ったのは、紛れもなくお姉ちゃんだった。だからもう、仮に許してもらったとしても、私はシャミ子と仲良くなる資格なんて……」

 

 

 おっといけない、まだ本題が残っているんだった。まあここら辺は原作通り優子に任せておけば解決できるだろうけど、まだ優子はここに来てないし……仕方ない、もう少しだけまた喝を入れてやるか。

 

 

「お前、優子の事を甘く見過ぎだ」

 

「えっ……?」

 

「優子がお前と仲良くなることなんてない? ふざけてんのか。優子もな、そんなに心が狭い人間……みみっちいまぞくじゃねェんだぞ。もし仮にそうだったとしたら、優子はヨシュアさんの事を知る前から既にどこかでお前との距離を置いてるはずだぜ? 過激派か否かに関係なく、いつ封印されるのだろうってガタガタ怯えていたのかもしれないさ。本人には失礼だけど」

 

「あっ……そ、そうかも……」

 

「けど、実際不服ながらもお前の修行について行っている。お前と同盟を組むことにも最終的に協力的になっている。そして何より……お前の事を大切な宿敵だと想っているさ」

 

 

 おっ? 『つまりはどういう事?』みたいな顔を浮かべてるな? ちょうど頃合いみたいだし、そろそろ……

 

 

「ま、後は本人から自分はどうしたいのかを聞くことだな」

 

 

 そう言って俺は桃に背を向けて歩き出した。何故桃の説得をほっぽり出す真似をするのかだって? 何故かって?

 

 

「優子、悪いけど桃の説得を頼……ハビュエッ」

 

「はい、任せてくださ……って、あ、あの……無理に胸揉みそうになったり、鼻血なったりしそうになったのを、無理に隠さなくていいですよ……」

 

 

 シャドウミストレス優子が来た‼︎ しかも危機管理フォームの姿で‼︎ ……別に何かしらの覚悟を持ってなったわけではなく、桃に桜さんの事を隠されて動揺したミカンから出た呪いのシャワーを受け、服がびしょ濡れになったため仕方なく……だそうだ。

 

 ん? なんでさっき変な声出したんだ、だって?

 

 ……危機管理フォームが相変わらず刺激強すぎて鼻の血流を必死に押さえていたからなのと、バトンタッチの合図としてハイタッチの準備しようとしたら手の位置が優子の胸に当たりそうになったからなんです。

 

 それを察してしまった優子の顔を真っ赤にしてしまいました。これ以上変態疑惑をかけられるような真似はしたくない……

 

 

「それじゃ、俺は桜の木に隠れて黙って見ているから、後は頑張ってくれ……お前なら桃を救えるって、信じてるからな」

 

「はい、ありがとうございます………………ただ、嘘でも私の事をみみっちいまぞくと呼ぶのはやめてください。ちょっと傷つきます……」

 

「あっ、それはマジでごめん……」

 

 

 少なくとも、俺が桃に説得するところから聞いていたのね……それとも女の子の地獄耳ってヤツ? だとしたら怖っ。

 

 まあとにかく、俺は宣言通り桜の木の陰から二人の様子を見守るとしましょうか。桃の俺の父さんに関する悩みが消えた後は、多分原作通りの消化試合となるからね。

 

 

 ………………頑張れ優子。一人で無理をしている桃に、手を差し伸べてやるんだ。

 

 

 

「桃……魔法少女やめちゃいませんか? 私と契約して、私の眷属になってください」

 

 

 

 

 

 

 優子が桃の為にと考えた計画『魔法少女・千代田桃ドキドキ闇堕ちプロジェクト』……おい、誰だ今優子のこのプランネームをクソダサいと思ったヤツは。きらら漫画なんだし大目に見てやれ。俺は中々面白そうなネーミングだなって思っとるんやぞ。

 

 コホンッ……話を戻す。優子が言うにはこうだ。

 

 魔法少女は桜さんを探そうにも、彼女達を阻む結界により行動が制限されているのが現状。しかし魔族と契約する事で魔力を光から闇へと変換し、魔法少女から闇の眷属へと変化することが可能らしい。まあ簡潔に言えば、桃が眷属になれば優子が心置きなく側に寄り添ってあげられるってわけだ。

 

 ……なんか、自分達が生きる為に、願いと代償に少女を騙して永遠に魔女と闘わせる魔法少女にさせる外道地球外生物とは逆な感じになってない? わけがわからないよ。

 

 そんな素敵な案を出してくれても、桃は桜さんが家族を引き裂いてしまったことに対して罪悪感を感じていて、取引を躊躇っていた。それでも引かないのが優子だ。

 

 封印の解除もする。ヨシュアさんを解放する。桃と一緒にこの町にいる。この町の魔族も見つける。それを手掛かりに恩人である桜さんを探す。もっと強くなる。全部ほしいものを取り戻すだけ取り戻す。───魔族らしく、欲張りに生きる。

 

 次々と紡がれる、優子が戦う目的。それを果たす為にも、同じ目的を持つ桃にも一緒に戦ってほしいとのこと。……この光景を見ていると、優子の熱い想いがこちらにもジワジワと伝わってきてる……

 

 本当にヤンデレ成分まで入ってしまった原作キャラか? 愛したい人以外の奴にここまで手を差し伸べられるか普通?

 

 ………………

 

 

「ああもう‼︎ こんな心にグッとくることを聞いて、黙ってられずにいられるかー‼︎」

 

「わひゃあ⁉︎ ちょっ、白哉さん……?」

 

 

 悪い優子! さっき黙って見ているとか言ってたけど我慢ならねぇ‼︎ 俺も色々言わせてもらうぜ‼︎

 

 

「どうだ魔法少女・千代田桃‼︎ これまで一人で戦ってきたお前が、ほんの偶然で出会った魔族にここまで寄り添ってもらっているんだぞ‼︎ これほど優しくも熱い勧誘されていては、もう一人で解決しようだなんて思えなくなるだろう‼︎ 彼女・シャドウミストレス優子は、自分自身がどんなに辛く苦しい想いを持ったとしても、それをバネにして周りを救う救世主になる‼︎ そんな彼女の救いの手を、遠慮せず取れ‼︎ そして自分の弱さを明かしてやれ‼︎ シャドウミストレス優子は、どんな事があろうともきっと力になってくれるだろう‼︎」

 

 

 なんか思ったよりも結構ぺちゃくちゃ喋っちゃって、二人ともポカンとしてるな……けど、どうしても優子の真似をしたくなってしまったんだ。これくらいの我儘は許してやってくれ。

 

 おっと、そろそろ締めの言葉を言わないとな。これ以上熱く語ってドン引きなんていう本末転倒はごめんだからな。

 

 さて、なんて言えばいいのだろうか……優子の想いは間違いではないってのを簡潔に伝えるにはどうすれば……

 

 あっ‼︎ なんだ簡単じゃん‼︎ こう言えば桃も優子の良さを改めて理解してくれるはず‼︎

 

 『彼女の幼馴染である俺が言うんだ‼︎ 間違いない‼︎』……よし、これだ‼︎ せーの……

 

 

 

「彼女の『伴侶』である俺が言うんだ‼︎ 間違いない‼︎」

 

 

 

 ………………あ、あれ? なんか、思いついたのと違う、ような……?

 

 あ、あれ……? なんで優子、顔から湯気出しながら林檎みたいに顔真っ赤にしてんの……? 本日で三回目だよねそれ……? 俺、お前を恥ずかしらせるような事を今したの……?

 

 

「びゃ、白哉さん……今、『伴侶』って……? えっ……?」

 

「白哉くん、まだ良ちゃんに言ってた嘘を引き摺って……?」

 

 

 ……えっ? 俺、『幼馴染』のところを『伴侶』って言ってたの……? なんで……? えっ……?

 

 ………………まあとりあえず、いますべき対処法はただ一つだ……

 

 

「イキってすいませんでしたァァァァァァッ‼︎」

 

 

 無自覚に言葉を間違えたことに対する、誠意を込めたDO☆GE☆ZAだ‼︎

 

 いやなんで俺言う言葉を間違えるのかな⁉︎ しかもよりによってなんで『伴侶』⁉︎ この場に良子ちゃんはいないんだからさぁ、偽って言う必要なくね⁉︎ ウソッ○ゥゥゥゥゥゥッ‼︎ 何やってんだ俺ェ‼︎

 

 

「………………フフッ」

 

 

 おい‼︎ 何こんな時に笑ってんだ桃‼︎ これわざとじゃねェから‼︎ 隙を狙って優子に告白しようとか思ってねェから‼︎ 変な誤解とか想像すんな‼︎

 

 

「こういう状況を見ていると、もう仲良くなる必要なんてないと言った自分がバカバカしく思えてきたよ。こういった日常ができなくなるのは、やっぱり辛いや」

 

「えっ。あっ……も、桃がこれを見てそう思えるのでしたら、まあいいですけど……」

 

「優子と一緒に恥をかく羽目になった俺にとっては、良くないことだと思いますけどね……」

 

 

 いや修行の時によくこういった感じに、桃に優子と一緒に恋愛方面で揶揄われるのって公開処刑みたいなもんだよ……

 

 ん? ちょっと待てよ? この流れは……桃の奴、これまでと変わらず俺達と仲良く接してくれるってことになるのか? よっしゃ、これで原作通り(なのかはわからなくなってきたけど)ハッピーエンドや‼︎

 

 

「二人の目の前から立ち去るだなんてこと、やっぱり私にはできないよ……シャミ子も白哉くんも、急にいなくならない?」

 

「……はい」

 

「当たり前だろ。どんだけお前に振り回されたと思ってんだ」

 

「私がこれから何をしても、今まで何をしていても、変わらずにいてくれる?」

 

「おとーさんに誓って約束します‼︎」

 

「寧ろ悪い方に変わりそうになったら、お互い止める覚悟でいるぜ」

 

 

 そう言って、俺は桃の肩に優しく手を置き、優子も桃の手を優しく握った。よし、これで俺達三人の蟠りは消えて……

 

 

「……いや待てよ? なんかおかしい。私にこんなハッピーが降りかかるはずが無い!」

 

 

 いや唐突なルート変更やめてくれます? ここも原作通りだけどさぁ……

 

 

 

 

 

 

 はい、『魔法少女・千代田桃ドキドキ闇堕ちプロジェクト』の結果ですが……保留とされたようです。

 

 えっ? なんで? と思う方々もいるでしょうが、これには訳があります。闇墜ちしたらエーテル体のリンク先が優子に移り変わるらしく、その場合は魔力の要素も優子主体な感じになって、桃が当面弱くなるそうです。それを見抜かれたリリスさん、天空に向けて二回目のスパーキングされました。敢えて言わせてもらいます……哀れ。

 

 で、よく考えたら桃が闇墜ちせずとも、優子や俺が代理でこの町の魔族を探してくれればよくないかってことになってしまった。まぁ俺も優子の護衛みたいなものだから、巻き込まれるのも無理はないけどさ。

 

 そもそも優子につられて桃も弱くなったら、何もかもがもう色々成立しなくなるのでは? ってなわけで、先程言ったように保留になったってわけ。まぁさすがに魔法少女の弱体化は色々とアレなとこもあるし、ね……

 

 まぁ、分かりきっていたのは申し訳ないけど……ドンマイ優子。一人でやろうと考えるのとか逃げるのとかはやらないって桃も言ってるんだし、今はそれで結果オーライといこうや。

 

 にしても、優子は自分がすべき事をまた見つけられたな……俺も自分自身への答えを見つけられるよう、頑張らなければ。

 

 

 

 

 

 

 そして桃と別れた帰り道。俺は一度変身を解除してシャツを優子に被せ、また変身してからリリスさんを回収。そして二人で一緒に帰宅することになった。

 

 なんでそんな面倒くさい事までしてんだ、だって? ただでさえ優子の着てる服が濡れてる中で、彼女にあんな露出狂扱いされるような格好のまま歩かせるなんて、洒落にならない罰ゲームじゃねーか。桃はともかく俺はそんなの見てらんねーよ。

 

 ん? わざわざ一度変身を解かなくてもそのまま服一枚だけ脱げばいいだろ、だって? まあ召喚師覚醒フォームはジャケット衣装なんだけど……実はその下は着てないらしくって、ジャケット脱いだら上半身裸になってしまって、危機管理フォーム以上に職質されやすくなってしまうんだよな……

 

 な? これで俺が召喚師覚醒フォームのリテイクをいつか白龍様にしたいもう一つの理由もわかっただろ? 魔族でもないのに肌面識を減らす必要なんてありますかねぇ? ないよね?

 

 まあどちらにしろ、好きで着てるわけじゃない恥ずかしい格好をした年頃の女の子に自分の服を被せるのは……その……結構こそばゆいな。優しい彼氏ヅラしてる感じがして、自分で自分にキモいって感じてしまう。後、お互い恥ずかしく思えてしまう。

 

 

「やっぱお互い戦闘フォームのリテイク希望は続けて申し込んでいかないとな……変身解除できない時にいろいろと危なっかしいったらありゃしない。俺の場合は特にこの時期は暑い」

 

「私の場合は一族の問題とかでもう無理そうですけどね……」

 

「リリスさんマジでギルティだな。何が肌を露出すればするほど強くなるだよ、痴女かよって思うわ。効果も思ったよりも薄いし、ホラ吹きまぞくか?」

 

『……平地白哉、何やらお主の余に対するヘイト感が強くなってないか……?』

 

 

 あっ、これは失礼。別に本気で言っているわけではないので気にしないでいただけると……寧ろ指摘しないでお願いします。自分でも失礼だなって思っていますから。

 

 まあ正直に言って、優子にはあまり町中で危機管理フォームになってほしくはないってのはある。職質の可能性もそうだけど、変態に目をつけられたらたまったもんじゃない。後、こっちが見るのに慣れたら慣れたでなんか虚しいというか……

 

 

「……で、優子は本当にこれで良かったのか?」

 

「へっ? な、何がですか?」

 

「桃に眷属になるのを保留にされた件だよ。魔力の弱体化が伴う可能性があるかもしれないとはいえ、本当は一日でも早く桃を桜さんに会わせたいんだろ? 保留にされたことで桃に魔法少女を阻む結界の回避をさせることができなくなって、手掛かりを見つける手間を省けてあげられなくて悔しいとかはないのか?」

 

 

 せっかく優子が自分の意思を持って伝えた案を、桃は蔑ろにはしなかったとはいえ一旦不採用にしてしまったってのは、原作通りとはいえなんだか勿体ない気がするんだよな……十年も会えていない姉に会えるまでの時間が遠のいても良かったのかって思えるから……

 

 

「そこ正直悔しかったですよ。桃が眷属になったらどうなるんだろうなって想像していたこともありますから」

 

「私欲もあったんかい」

 

「でも……今の私の力では、桃を眷属にしても守れる自信がありません。だから強くなって、いつか桃との決闘に勝って、私は桃を眷属にしても問題ないんだってことを証明してやります。クククのク……そうなった時の桃がどんな顔をするのか見ものである」

 

 

 なんかめっちゃ悪巧みしてる感がすごい表情してなかったか? しかも最後には口調が変になった気もするし。

 

 でもまぁ……それこそ優子って感じかな。どんなに目標が遠くても諦めず、その目標が達成できる時が来るまでその足を止めない……そういった志を持った人なんて相当いない。

 

 そんな彼女だから、俺は……

 

 

「好きになったのかもしれない……」

 

「………………へっ? えっ?」

 

 

 ……ん? アレ? ちょっと優子さん? 何急に顔真っ赤にしてんの? 俺なんか変なことしてた? なんか変なこと言ってた? 今特に何もしてないと思うんだけど……

 

 

「えっと……どうした優子? 大丈夫か?」

 

「はへっ⁉︎ な、なんでもない……なんでもないですよ⁉︎ ただ最近暑くなってきたかなーって感じただけですので……」

 

「そ、そっか……?」

 

 

 うーん……。なんか誤魔化してる感が出てるけど、深追いするのは野暮だからやめておくか。やっぱり幼馴染の心境を理解できないってのは悔しい気がする。

 

 

 

 

 

 

 『魔法少女・千代田桃ドキドキ闇堕ちプロジェクト』を提供して保留にされた帰り道、私シャドウミストレス優子は、白哉さんの口から素直に受け止めていいのかわからない言質を取ってしまいました。

 

 『私の事が好き』……それは小声で言っていたからなのか、無自覚で言っている可能性が高い。だとしても、その言葉がどうにも私の頭から離れなくなりました。うわ……やっぱり私チョロい……どうしても意識してしまう……

 

 白哉さんはどんな想いを持って『好き』だと呟いたのかな……? ただの幼馴染として? 魔族として? それとも……恋愛感情を持ってして?

 

 ……だああああああ‼︎ 実際どう思ってるのかわからないというのに、どうしても白哉さんの『好き』を意識してしまうー‼︎ どうすれば桃を眷属にしても問題ない感じになるのかというのも考えないといけないというのに、白哉さんの事も考えると頭が上手く回らないー‼︎

 

 ああもう‼︎ 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き‼︎ 大好き‼︎ 大好き‼︎ 愛してる‼︎ 白哉さんの無自覚かつ意図の読めない『好き』発言のせいで、また私はおかしくなり始めてるゥゥゥゥゥゥッ‼︎

 

 まぞくらしく欲張りに生きるって桃に宣言しちゃったけど、白哉さんへのこの感情を強くしすぎたらどうしてもそっちを優先してしまいそうで、そんな自分が怖いィィィィィィッ‼︎ また暴走しかけてるゥゥゥゥゥゥッ‼︎ 無理無理無理無理ィ‼︎

 

 白哉さんはやっぱりズルいです‼︎ 無自覚であんなこと言うなんてズルすぎます‼︎ 私の心をこんなにも無茶苦茶にして‼︎ もうさっきから『好き』という感情がたくさん出ちゃってるじゃないですか‼︎ どうしてくれるんですか‼︎ これで勝ったと思うなよー‼︎

 

 

『ああ……うん。平地白哉よ、いい加減腹を括った方がいいぞ……』

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その9

ごせん像発見後

桃「リリスさんも見つかったところだし、お腹空いたから何か買ってこうか」
シャミ子「え ゙っ。わ、私、この格好なので町中を歩くことすらままならないのですが……」
白哉「俺も……」
桃「シャミ子はともかく白哉くんのフォームは『ただのコスプレ』として見られるだけだからまだマシじゃないかな?」
白哉「コスプレで堂々としていられるのはハロウィンイベントかコミケぐらいだろうが‼︎ 大体この格好、優子よりは肌面積多いけどそれなり肌露出してんだぞ‼︎ しかも充分痛々しいんだぞ‼︎ だから桃、お前がなんか買って───」
シャミ子「あれ? 白哉さん、私みたいに普段着びしょびしょになってたりしてたんですか?」
白哉「あっ………………ヤベェ、いつの間にか服の事で感覚麻痺し始めた。最近召喚師覚醒フォームになる事がよくあったから、つい……」
桃「……まぁいいか。今のシャミ子を一人にしたら色々危ないだろうから、白哉くんはここにいて。それじゃあ私、何か買ってくるね」
白哉「お、おう………………俺、文句言ってる割にこの格好を受け入れていってるのか……?」
シャミ子「あ、あの……私は、白哉さんのその格好、結構好きですよ? RPGに出てくるパーティー仲間が一人は着てそうな感じでカッコいいですし……そ、その……白哉さんも、元々……」
白哉「えっ?」
シャミ子「あっ、い、いえなんでも……‼︎ と、とにかく‼︎ その格好は私のよりは恥ずかしくないとは思いますので、もう少し自信を持ってください‼︎ はい‼︎」
白哉「……何に自信持てと?」
シャミ子「………………それ着ているとさらに格好よくなれるって事実にですよ。というかどうしましょう、私また暴走しかけてた……白哉さんに対する想いを語り尽くそうとしていた……
白哉「(なんかぶつぶつと呟き始めたんだけど、なんて言ってるのか聞くのが怖え……)」

END



終わった‼︎ 原作二巻の物語編、完‼︎ このまま白哉はこの先の原作の物語を維持できるか⁉︎ 原作三巻編、乞うご期待‼︎

 


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ここまでの登場人物紹介2(8/31:イメージ声優追記)

一区切りつけたいので初投稿です。

前回のシリアス回後編を投稿してから、お気に入り登録者数が三・四人に増えただけ……? 感想をもらいたがる作者の作品は人気が出ないのだろうか……?(悟り)

8/31:オリキャラに声を付けるとしたら誰にするかを追記しました。
ICV=イメージキャラクターボイス


♢平地 白哉(びゃくや)

 

 いい加減シャミ子とくっつけと周りに言われがちな主人公。

 シャミ子の好意に気づいている癖に告白も拒絶もしない曖昧な対応を続けている、そこら辺は訳の分からないダメ男な奴。強化特訓している時に桃にシャミ子の事をどう想っているのかと問いただされてからは、その事を時々深く考えるようになる。

 シャミ子の危機管理フォームを実際に見た時は刺激が強すぎたのか、思わず鼻血を出してしまい即座に顔を背いてしまった。シャミ子のあの格好はどう見ても深夜番組向けのアレだからね、仕方ないね。それと良子が自分のことを『お姉の伴侶』だと勘違いしていることを知った時は、純粋な眼差しに逆らえず肯定してしまう。まだ好きなのかもはっきりしていないのに、だ。

 両親が白哉の家に訪れた時は、両親が清子から聞いた話によって召喚術に興味を示し、それについて問いかけられた事に迷いを見せる。しかしすぐに父・黒瀬に『隠し事は迷わず伝えた方がいい』と教えられたが為に、召喚術の事を両親に肯定し、他の人にも自分が召喚術を持っていることをいつか伝えることを誓う(良子には勘で特別な力を持っているという解釈でバレていた)。

 黒瀬が桃の姉との関わりがある事を知った時は、その責任を負った桃に掛ける言葉が見つからず見据えるだけしかできなかった。しかしその場で眠りについた時に声を掛けてきた謎の声に説得されたことで自分が今何をすべきなのかに気付き、電話での父の証言も借りて桃の罪悪感を軽くすることに成功、シャミ子が彼女と同盟を結ぶ架け橋にもなった。

 

 

 

♢白龍

 

 召喚術による呼出の必要なく精神世界とまちカドの世界を行き来できる能力を最近明かしたマイペースドラゴン。その場合は自分の持つ能力の力量を精神世界に保管しなければならないとのこと。どのように保管するのかは不明。最近ではそういった往来方法を主人でもある白哉の許可なく行っているため、白哉からの信頼度は微妙に低くなっている。

 ちなみに頭はとても良く、一学期の期末試験でもリリスに続いて成績上位者である。

 ところで白哉の意思で彼の体を借りれるという設定は、原作三巻編では回収できるのだろうか?

 

 

 

♢メェール君

 

 相も変わらず白哉の家政婦的存在として常時現界されている可愛い羊。最近ではヤンデレになってしまったシャミ子の行動に不安を感じたり、偶に白哉とシャミ子の関係をぼやいたりしている。

 ちなみに回復魔法は初登場の時から未だに発動していない。使える機会をいい加減作らないとな……

 

 

 

♢その他の召喚獣

 

 

・クラック

 二巻の章では小倉の研究の手伝いをする為に白哉によって召喚された。フラスコやビーカーの中に入っている液体を混ぜ合わせることで、それによって出来る色に合った物を生成できる。

 

・ハリー ♂ ICV:内山昂輝

 全身を青色の針で覆っているハリネズミ。その針とそこから潜む目つきによる威嚇で己の身を守ることが得意で、物静かな性格をしている。投げつけられたものをどんなものだろうと針で刺して止めることができるが、シュークリームや爆薬などといった中身が飛び出るものは実戦でないならNGだと言う。

 

・襟奈 ♀ ICV:井上麻里奈

 白哉が召喚師覚醒フォームになった時のみ召喚される、黄色い体躯と体よりも明るい黄色の襟巻きを持つ、身長三メートル・縦幅一メートルのエリマキトカゲ。巨大な襟巻きを開くことで、一瞬だけとはいえ攻撃を完全に遮断することが可能。仲間を守るためならば自分が犠牲になることも厭わないらしいが、後々心配されることだろう。

 

・曙 ♂ ICV:小野賢章

 白哉が召喚師覚醒フォームになった時のみ召喚される、召喚獣の中でも全身真っ黒なだけというシンプルすぎる容姿を持つが、全長は三メートルもあるサソリ。尻尾の針には回復させる毒や状態異常を起こす毒などといったものを、血液を循環させることで入れ替えることができる。主人である白哉にも突き刺してしまうが、彼が死ぬと自分を含めた他の召喚獣も消えてしまう為、即座に回復の毒を突き刺して何もなかったことにさせる。が、その後は他の召喚獣仲間に怒られるので、余程の事がない限り白哉に攻撃はしないようになった。

 

・ポーフ

 シャミ子と桃が一触即発している様子を見ようと駆けつけていたところ、偶々白哉とぶつかり吹っ飛ばしてしまい、彼にシャミ子へのラッキースケベをさせる羽目になった。

 

・シバタ

 おまけコーナーにて白哉がシャミ子にラッキースケベしてしまった事に大してグッジョブと言った。

 

・ピッピ

 おまけコーナーにてメェール達にドアを直さないのかと指摘する。

 

 

 

♢白哉の両親

 

 

・平地 黒瀬 53歳 ♂ 生年月日不詳 ICV:子安武人

 白哉の父親。五十代ながらも、三十代前半のキリッとしながらも逞しさのある顔立ちを持つ。シャミ子の父・ヨシュアの眷属になった影響らしい(訳あってヨシュア本人の承諾なしに)。

 白哉が召喚術を手にした事を知ってからも何かと息子の事を心配しており、どんな事があろうとも彼を支えようとする寛大な心の持ち主である。

 十年前、突然平地家に入ってきた黒いライオンらしきものによる呪いによって絶命しそうになった時に、ヨシュアと桜によって救われた。その時にヨシュアが掛けた言葉を受け止めてからは、彼が封印された後も罪悪感に負けず前向きに生きていこうと誓うようになった。

 

・平地 朱音 50歳 ♀ 生年月日不詳 ICV:沢城みゆき

 白哉の母親。二十代前半みたいな可愛く美しい顔立ちをしている。人相の良さから常連客との仲が良いらしい。

 『いつまでも少年少女の心を忘れずに過ごすのが長生きのコツ』をモットーにしており、今時の中学生並のテンションで見せる。その明るさを彼女の近所の人達も羨ましがっているらしい。

 白哉の事はかなり溺愛しており、一人暮らししている彼に毎月バイトしなくてもいいくらいに多額の現金を仕送りしている程。白哉が召喚術を手に入れた後も彼を気遣っている。

 

 

 

♢吉田 優子/シャミ子

 

 白哉といつか結婚したいのに本心を中々ぶつけられずにいる微ヤンデレまぞく。

 相変わらず白哉LOVEなのに中々勇気が出ない微ヤンデレっ娘なのだが、愛が重くなっている場面が原作一巻編よりも少なくなっている気がする。これではタイトル・タグ詐欺になってしまわないか心配。

 魔法少女の生命線についてを知って以来、桃に頼れる宿敵として信頼してもらおうと努力することを誓う。その精神と白哉の支えもあってか、テスト勝負をすることになった時は原作よりもテストの点数がかなり伸びた。世界史では九十三点、原作では赤点だった英語はまさかの八十一点を獲得した。

 桃の秘密を知るために彼女の夢の中に侵入したことがきっかけで、父・ヨシュアの行方がどうなったのかを知ってしまう。が、サプライズに慣れてきたのかショックは受けていない模様。そして桃の義姉の行方を見つけるため、自分が闘う目的を果たすため、桃と協力関係──同盟──を結び、さらには彼女を眷属にすることを誓う。

 

 

 

♢シャミ子の家族・血縁者

 

・リリス

 期末試験で小細工要らずで学年三位に入る程の頭脳を持つ。最近では依代を手に入れたり桃に投げ飛ばされたりと様々な経験を得ている。

 

・吉田 清子

 原作二巻のシリアス回で正式な登場を果たす。

 白哉達に十年前のせいいき桜ヶ丘で何が起きていたのかを明かし、白哉とシャミ子の成長を改めて知ることになる。

 シャミ子の白哉に対する恋心には既に気づいており、おまけコーナーにてシャミ子が料理の手伝いをすると言ってきた時には『白哉のお嫁さんになれるといいね』みたいな感じにシャミ子を揶揄った。謂わば恋愛お節介女子二号である……女子ではなく女性では?

 

・吉田 良子

 大人びた思考と知識力を持っても心はピュアな小学生。桃をシャミ子の軍勢の魔法少女、白哉をシャミ子の伴侶だと思い込んでいる(両者とも誤解を解くことができず肯定してしまう)。

 

・ヨシュア

 シャミ子と良子の父で、清子の夫。戸籍上の名前は吉田 太郎。まぞくとして角と尻尾が生えているほか、エルフ耳となっている。

 謎の獣によって死の淵に陥っていた黒瀬を救う為、千代田桜によって獣ごとダンボール箱に封印されている。ちなみに本編では明かされていないが、このダンボール箱は魔法のコーティングによって、熱にも衝撃にも油にも強い頑丈なものになっている。また、どんな汚れも三分で浄化される。

 真相が判明した後は、封印されたダンボールのことをお父さんボックスと呼ぶようになった。

 

 

 

 

♢千代田 桃

 

 白哉とシャミ子をくっつかせたがる筋力タンクな桃色魔法少女。

 シャミ子に事故で血を取られた為、彼女とその補佐にした白哉を積極的に鍛えようとしている。連日の疲れのせいか、一度シャミ子の変身トレーニング中に倒れてしまった。

 十年間も義姉・桜の行方を追っていたが、そこで彼女とヨシュア、黒瀬との関わりを知った瞬間、その事での罪悪感に襲われてしまった。しかし、白哉の説得とシャミ子の勧誘により立ち直り、桜の行方を捜す二人のサポートをすることを誓う。

 

 

 

♢佐田 杏里

 

 原作二巻編では白哉とシャミ子の強化特訓回にしか登場出来なかった。桃に二人を修行させる際のアドバイスを伝授させたが、それらは全て簡単に言えば『ヤバい』系のものばかりだった。

 

 

 

♢ 伊賀山 全臓

 

 本作最初のオリジナルキャラなのに全く出番がなかった。かなしいなぁ。原作三巻編は出番あるといいね。

 

 

 

♢小倉 しおん

 

 白哉との『召喚獣の各々の中から協力してくれる子達のみのデータを取る』という約束を果たしてもらえたマッドサイエンティスト。成績優秀で奇行しても学校側の許しをもらっているらしく、期末試験では学年トップなのだが、倫理だけは満点を取れなかったという。

 

 

 

陽夏木(ひなつき) ミカン

 

 シャミ子の護衛の為に桜ヶ丘高等学校への転入の手続き中な魔法少女。

 穏健派であるためか、魔法少女とは敵対関係にあるはずの魔族であるシャミ子やリリスなどともすぐに打ち解け、意気投合している。魔法少女としても、桃が信頼を寄せるほどの実力を有しており、桃からは何度もその背中を預けられていたらしい。

 『動揺すると関わった相手にささやかな困難が降りかかる』というある種の呪いを抱えており、緊張や動揺などをきっかけに笑える程度のトラブルを引き起こしてしまう状況に陥っていた。その事を拓海に心配され、ラブコメ展開よろしくな対応をされた時は、動揺しているはずなのに呪いが発生することはなかった(この後はその事実に戸惑い呪いを発動させてしまったが)。

 

 

 

仙寿(せんじゅ) 拓海(たくみ)

 

 過保護陰陽師。実は几帳面な一面もあり、ゴミ掃除の時は隅々まで綺麗になるまで掃除を続けてしまう派。

 とある依頼で『あすら』に訪れて以来、最低でも二週間に一回ぐらいはその店に顔を出してよく手伝いをしている。リコの賄い料理はたまに一回はおかわりする程度。

 ミカンが自身の呪いを抱えていることを知った時は、どうにかして彼女の力になりたいと決意する。何かしらのアクションを起こしてミカンを動揺させても呪いが発動しないという抗力も持っている。

 

 

 

♢リコ 年齢不詳 ♀ 生年月日不詳

 

 多魔市にある喫茶店『あすら』で働いている狐狸精のまぞく。

 『~するの』のような口調が少し混じった、はんなりした京都なまりの関西弁で喋るが、結構な毒舌かつ良くも悪くも自分の気持ちや欲望に素直。基本的に彼女の行動は『善意』に基づいた物であるが、空気の読めなさとマイペースでフリーダムな性格のせいで、人の神経を逆撫ですることもしばしばある。

 作る料理は『ある種の中毒性さえある』程に美味であり、そのため店は繁盛しているのだ。さらには彼女の気持ちも込められているため正に『心を癒す料理』であり、日々の疲れとプレッシャーをひと時忘れさせる効果があるのだが、適量の十倍食べるとハイになり、一日だけ健忘の症状が出るらしい。

 白哉の背後に潜む謎の存在を察知しているが、果たしてその正体は……?

 

 

 

白澤(しらざわ) 年齢不詳 ♂ 生年月日不詳

 

 喫茶店『あすら』のオーナーを務める動物系まぞく。原作で唯一の男性レギュラー(六巻現在)。『はくたく』ではなく『しろさわ』である。

 本来は四足歩行の種族であるが、人間社会で目立たず生きるために無理やり二足歩行で生活している。

 拓海にはよく店の手伝いをしてもらっている為、いつも彼に感謝の意を示している。

 

 

 

♢??? ICV:小林裕介

 

 白哉の夢の中で話しかけてくる謎の存在。

 白龍の居る精神世界とは別の場所に佇んでいるらしいが、その正体はいかに……?

 

 




次回から原作三巻編の物語に突入します。そしてこのシーズンで、ついに白哉とシャミ子が……⁉︎(ネタバレ)


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原作三巻編 謎探しに原作未登場の魔族探し、そして……
なんか原作にいない魔法少女に出会ったんだけど、結構優しい方だったので仲良くなった ♦


原作三巻の物語に入るよーってことで初投稿です。

ずっと『ばんだ荘』を『ぱんだ荘』と勘違いして書いていました……今回からは『ぱんだ荘』を『ばんだ荘』と書いてお送りいたします。ややこしいなオイ。


 

 ───よぉ、昼寝中失礼するぜ。アンタとこうやって話すのは一週間ぶりか? 今回はインターバルが短かったな。

 

 ───今回は何の用だ、だって? 別に、大した事じゃないぞ。ただ話し合いたかっただけ。他意はない。いやマジで。最初に話し合うことになった時もそんな感じだったから文句言うな。

 

 ───とにかく、言いたいこと言わせてもらうぜ。一週間前のアンタの行動を黙って見ていたんだけど、まあ中々良い行動だったぞ。千代田桃の不安要素を一つ丸々減らしたのは良かった。

 

 ───で、突然シャミ子に対する桃の悩みをほっぽりだそうとしたことには怒りを覚えたんだが、あれはシャミ子自身の口から自分がどうしたいのかを言ってほしかったんだな。それに関しては勘違いして悪かった。

 

 ───ん? 別に気にしてない? 寧ろ勘違いさせてしまったのならこちらにも責任がある? お前……中々寛大なんだな。正直『俺が良かれと思ってやったことを否定されると傷つく』とか言うと思ってた。

 

 ───えっ? 『それこそムカつく』? 『なんかさっきまで自分の事を心のない何かだと思われてる気がする』? あぁ、それは悪かった。そんな風に思わせてしまったのなら、俺の方こそ人の心がなかったりしてな、ハハハ。

 

 ───まあ何はともあれ、アンタが起こした千代田桃の些細な心境の変化が、シャミ子の彼女を救いたいという想いをより心に響かせたんだ。改めてアンタを評価させてもらう……アンタはカッコいいヒーローだよ。

 

 ───んで、後はアンタが腹を括ってシャミ子にアレを伝えればさらに高評価できるだけどな。ん? アレってなんだ、だって? そりゃアンタこn ───

 

 

 

『ゲッ、また途切れた⁉︎ あぁもう! おしゃべりできる時間が分かるタイマー代わりなものがないから、どこまで喋りかけていいのか分からんのだよねーこれがー‼︎』

 

 

 

 

 

 

「んあっ……? ふわぁ……またあの夢か。なんだったんだあの声は?」

 

 

 あっ。どうもみなさんこんにちは、先程まで自宅でお昼寝してた白哉です。よく寝ました。

 

 桃の俺の父さんに関する罪悪感を消させてあげて、優子が彼女の姉・桜さんを探す為に桃と協力関係になった日から一週間が経ちました。

 

 今日で一学期が無事に終わりました。そして夏休みの始まりだぜぇ‼︎ イェーイ‼︎ ハッピーサマーバケーショーン‼︎

 

 で、同日にて優子が桃を眷属にするため彼女に果たし状を送り決闘を申し込んだので、そこに入る隙間がないなと感じた俺は、自宅で優子に決闘した結果の報告が来るまで待機することになってるって感じです。

 

 あっ、そうそう。それを聞いた時の会話はこんな感じとなります。一旦区切りますね……って何をだよ。

 

 

 

 

 

 

『白哉さん! 私今日十五時から河川敷にて桃と勝負を挑むことになりました‼︎ 後で結果を報告しますね‼︎』

 

『おぉ、そうか。頑張って成果を上げてこいよ‼︎ ……ん? ちょっと待って。これ俺ナチュラルに同行NGなヤツ? なんで?』

 

『あっ。え、えっと……それはその、白哉さんには申し訳ないのですが、貴方がいることで卑怯な手を使って勝つ気なのかなと思われる可能性を減らすためでして……それと桃の事なので、白哉さんと一緒にいることでまた二人して何か揶揄われると思ったので……』

 

『俺の為を思っての事でもあるってわけか……確かにあいつのおちょくりには色々と気を狂わされたからな、正直助かる』

 

『あ、あの……どさくさかつナチュラルに頭撫でないでください。恥ずかしいですから……フヘヘッ

 

『満更でもない危なっかしそうな顔しながら言われましてもねぇ……』

 

『まぁでも、もちろん不安はあります』

 

『力の差のことか? けど別にそれを考えずに挑んでも意味はない気がするけどな。桃の事もあるし』

 

『……力の問題じゃなくて、果たし状の件です。果たし状が果たしてません。ただの女友達同士の遊びに誘う手紙と化してる気がします……』

 

『あぁ、決闘は法律でアウトだからな。どうにかして砕いた文で伝えないといけないから難しいよな、うん』

 

『ですが‼︎ 私がどうしたいのかという気持ちは伝わったのだと思います‼︎ だから桃も私が勝負を挑んできたのだと分かってくれるはずです‼︎』

 

『確かに文章だけでも伝わる想いってあるからな』

 

『クックック……今日が奴の闇堕ち記念日となるだろう。必ず魔法少女を私の眷属にしてくれよう……』

 

『その台詞が立派な魔族っぽいな……なんだろう、桃よりも先に俺を一人目の眷属にしそうだなと思ったのは俺の勘違い?

 

『えっ……』

 

『……ん? えっ、ちょっ、どうした顔真っ赤にして? ひょっとして俺、また変なこと言ったりしてたりした?』

 

『あ、い、いえ‼︎ 全然そんななかったですよ⁉︎ あぁ、にしても今日も暑いですねー……』

 

『お、おう。そう、だな……(絶対なんかあって顔真っ赤にしちまってるだろ……)』

 

『無自覚かつ小声で勘違いさせるようなこと言わないでくださいよ……まあ、できるなら白哉さんも眷属、というかお婿さんにしたいですけど……って、またヤバいこと言っちゃってるじゃないですか私⁉︎』

 

 

 

 

 

 

 以上、長々と台本形式の過去回想をお送りしました……自分で語っといてなんだけど、なんか言ったり聞いたりしてない台詞まであったのは気のせいですかね?

 

 まあ簡潔にまとめれば、俺は桃による誤解や揶揄の回避をするために同行することなく留守番。優子は果たし状を法律上などの問題で可愛いお手紙に変身させざるを得なくなったって感じかな。まあそんな感じ。

 

 けどまあ……優子には悪いけど、桃との決闘することは無理だな。少なくともこの日は闘うことはないだろうな、うん。原作知識を持ってる我にはわかるぞ、うむ……ってこの喋り何様よ。

 

 何故決闘することはないと言い切れるのか、だって? そりゃお前、あのただの遊びに誘う手紙と化した果たし状の事なんだ。桃はそれを果たし状ではなく『修行を休んで遊びに行こう』と勘違いしてしまうわけでして。

 

 けどまあ……本当に決闘はできないだろうけど、多分大丈夫だろう。その内原作でも互いの誤解は解けて、桜さんの手掛かりが意外なところで見つかるかもしれないとのことで、優子が偶には一緒に町に出掛けようとか言うかもな。そうに決まってる。

 

 ん? 俺が介入したこの世界ではそういった展開にはならない可能性もあるのでは、だって? 俺と無関係なイベントなら大丈夫だろ(小並感)。喧嘩みたいなこととか起きない。絶対起きない(謎の信頼感)。たとえヤンデレ成分ができてしまったとしても、少しは原作キャラ……いや、仲の良い幼馴染を信じろって話だ。

 

 ってなわけで……先程まで昼寝するまでしかやることのない俺はこの後どうしようか。ところで今何時だ? うーん、十六時半か……よし、スーパーの半額セールに行くか。清子さんもこの前特売に行って来たばかりだと言うし、鉢合わせの件は大丈夫だろ。

 

 

 

 

 

 

 というわけで、ショッピングセンターマルマにあるスーパーに来ましたー。うわっ広いっ(小並感)。ん? スーパーの名前は何、だって? 別にいいだろ原作でもアニメでも建物の名前が明かされてないところもあるし。多分。念のため言っておくが、清子さんがいつも行ってるところじゃないからな?

 

 まあとにかく、今日ここのスーパーの半額セールで狙ってるヤツを教えるぜ。発酵食品であるドライソーセージと生ハム、鮪の刺身、そしてバナナだ‼︎

 

 何故これらを選ぶのか、だって? 俺や召喚獣達の好物に当てはまるものばかりだし、何より買ったその日に食べるものと言ったらこれらが良いと思ったからだ。後、それ以外だとうっかり『明日食べても大丈夫だろ』と思い込んでしまいやすいから。

 

 あ、それと卵もあれば買っておくか。加熱するのであれば賞味期限を大幅に過ぎていても問題ないし。明日はオムライスでも作ろうかなー。卵が半額ならの話だけど。

 

 ……なんか俺、さっきから主婦みたいな思考回路を持ってね? 前世では特に栄養とかは気にしてなかった気がするんだけど。

 

 

『申し上げます‼︎ 本日のトト○マスーパーの半額セール、第一陣である魚コーナーの半額セールががスタートいたしましたァ‼︎』

 

 

 ダニィ⁉︎ もう始まってるのか⁉︎ こうしちゃおれん、早速魚売り場にて半額になった刺身を調達しに出掛ける‼︎ 後に続け……いや誰も後に続く奴なんていないけどな。

 

 って、うおっ⁉︎ もう既に魚コーナーに人が集って来とる⁉︎

 

 

「アレは俺のもんだー‼︎」

 

「商品を手に入れるのはこのフ○○○様だ‼︎」

 

「さぁ、始めようか!!」

 

「お前達が半額商品を取る意思を見せなければ、俺は全部買いつくすだけだぁ!!」

 

「ぶるあぁあぁあぁあぁあぁあッ!!」

 

「取っちゃお♪ 取っちゃお♪」

 

「商品の前に割引あり」

 

「仕事(買取)の時間だ」

 

「愚かな素人よ……ベテランに逆らうか……」

 

「うぉあぁあぁあぁあぁあぁあ!!」

 

「やらないか」

 

「アッー♂」

 

 

 あ ら や だ な に こ の カ オ ス 。

 

 セール商品の奪い合いという名の戦争の舞台にて、参加者が発している台詞がどいつもこいつもカオスなものばかりでした。ほとんどが鳥○先生もビックリするのかもしれない、ド○ゴン○ールに出てきそうな台詞のラッシュ。

 

 しかも最後の二人に至っては……いやマジで何してんの気持ち悪っ。と、とりあえずあのせめて人のいないところでやれよなホモ組は無視しときましょうか。

 

 それよりもセール対象の刺身の確保だ確保‼︎ これ以上放置すると先に戦場に来ていた猛者っぽい人達に刺身パックを全部取られちまう‼︎ 一個だけ……一個だけでいいんだ……俺に刺身パックを寄越せェェェェェェッ‼︎

 

 

「邪魔するなァァァァァァッ‼︎」

 

「グホッ⁉︎」

 

「後ろ‼︎」

 

「ベフッ⁉︎」

 

「死ねェェェェェェッ‼︎」

 

「ちょっ待っ……ウボワァァァッ⁉︎」

 

 

 い や い く ら な ん で も ひ ど く な い ?

 

 ……その、あのさ……この人達半額セールとなるとどんだけ戦闘狂になるの? 対象商品取ろうとしただけで、ここまで他の参加者をボコボコにしてきますかね? めっちゃ痛いんですけど。後『死ね』って言った奴口悪すぎだろ。

 

 つーかこの世界が死亡フラグの多いバトルストーリーの世界だったら、参加者の皆さんの変貌した性格次第ではこの星が物理的に崩壊しかねないぞ? いやいくらなんでも考えすぎだけど……

 

 それよりもどうしよう。このままだと刺身パックが手に入らないんすが……。それどころか他のセール商品すらも手に入るかどうか……

 

 

 

「みんな落ち着いて‼︎」

 

 

 

 刹那、バナナのような甘い香りがする突風が戦場に吹き荒れ始めた。

 

 えっ? は? 何事? 建物の中なのになんで外にでもいるかの如く風が吹いてるの? そしてなんでバナナの香り? 色々とおかしすぎて、戦争の参加者の皆様もその場で立ち尽くし始めたんだけど。

 

 風が吹き止んでいくのと同時に、自分の持っている買い物カゴが重たくなったのを感じた。ふと買い物カゴに視線を落として見れば、そのカゴには俺が狙っていた、半額セール対象のシールが貼られている鮪の刺身のパックが一つ丸々入っていた。おぉ、超ラッキー。

 

 ……って、えっ? なんで? ただいま戦争に惨敗中なのに? 対象商品に手が届いてすらいないのに?

 

 も、もしやあの風か⁉︎ 突然吹いてきたけど俺に味方してくれたあのバナナの香りがする風のおかげか⁉︎ あれは俺のために吹いてくれた神風なのか⁉︎ どこからどう吹いてきたのかは知らんけどマジ嬉しい‼︎

 

 ……ん? 周りをよく見たら、俺と似た反応をしてる人達がちらほらといるな? しかも俺と同じくカゴに半額セールのシールが貼ってるものが一つずつ……

 

 

「ふぅ……これでよし。まずは一回目の鎮静完了っと。いや、これは鎮圧と言うべきかな……あっ君、大丈夫だった?」

 

「へっ? あぁすみません、大丈夫です。助かりました」

 

 

 女性の声が聞こえ、バナナ模様が描かれた黄色い手袋を嵌めている手を差し伸べられたので、俺は反射的にその手を掴んで引っ張ってもらってしまった。ヤベェ、これは優子のヤンデレ暴走回避の為の説明案件の可能性大だな。だってその人の手の匂いが俺の手について、それを優子が嗅いでしまうのかもしれんから。

 

 ……ん? 手袋? 今夏だからそれ付けるには暑いんじゃ? もしや……

 

 何かを察したのか不意に顔を上げてみた途端、俺は思わず言葉を失った。何故ならその女性は……

 

 

 

 桃やミカンみたいに、明らかに魔法少女ですよと言ってるような格好をしていた。

 

 

 

 頭頂部にアホ毛がありカチューシャを付けている金色……というよりは黄色い髪をしたツインテールで、服装は黄色一色。袖の長い上の服も黄色。胸元のリボンも黄色。丈が長く前脚が開いているスカートも黄色。とにかくマジで黄色一色。

 

 ……えっ? 魔法少女? もしやあの神風って、この人が起こしたとでもいうの?

 

 というかマジか。原作にはいなかった(原作五巻までしか読んでないからその時点ではまだ未登場なのかもしれない)魔法少女と、こんな所で出会うだなんて、誰が予想したと言うねん……

 

 

「……あの、すみません。貴方もしや魔法少女ですか?」

 

「うん、そうだよ?」

 

 

 思わず分かりきった質問しちまったんですが。即答されたんすが。彼女も思わずキョトンとした顔してるんだけど。『えっ、何を言ってるのこいつ?』みたいな事考えないでくださいお願いします。

 

 

「……っていけない‼︎ 次の半額商品が出そうだからすぐに鎮静準備をしないと‼︎ 特にバナナは私も欲しいから完全必須‼︎ あっ、なんか質問したそうみたいだから、後で話を聞く時間を設けてあげる‼︎」

 

「あ、ちょ待っ……」

 

 

 どう説明したらいいのだろうかと考えていたら、その魔法少女は次の半額セール(という名の戦場)へと向かって走っていってしまった。

 

 ってか、話し合いの時間を作るってことは、俺を拘束するおつもりですか。確かに質問したいことはあるけど、拘束はマジで勘弁してください。ヤンデレっ娘みたいじゃないですか。初対面ですよね?

 

 うぅ……本当は逃げたい気分だけど、欲しい商品とかあるし、実はそれらを食べたがっていたメェール君達召喚獣に必ず手に入れてくると約束してしまったし、どっちみち拘束回避不可? つらたん。

 

 結局この後は肉コーナーと果物コーナー、ついでに卵の半額セールにも参加することになり、どの場面でも他の参加者の皆さんによって吹っ飛ばされ、先程の魔法少女が起こしたとされる神風によって狙った物全てを獲得しました。ドライソーセージと生ハム、バナナに卵……後は別に狙ってない豚肉と納豆まで入ってました。

 

 魔法少女の力を半額セールに、しかもセール参加者全員に一品はいくように配慮しながら使うとか、なんか違和感アリアリやな……

 

 

 

 

 

 

 目当ての商品があるセールを全部終え会計を済ませた俺は、ほぼ同じタイミングで会計を済ませた魔法少女の人と偶然合流し話し合いをすることになった。

 

 本当は絡みたくないからそそくさと帰りたかったんだけど、もし彼女が過激派だったら、後々魔族じゃない俺に対しても何かしらヤバい仕打ちとかして来そうで怖い。可能性としてはあり得そうだから逃げるに逃げれないんだよな……

 

 仕方なく話し合いを早く終わらせる為に、魔法少女の方からの質問にさっさと答えて、さっさと帰るようにしよう。そうしよう。

 

 ってなわけで、早速魔法少女から『なんで今ボロボロなのか』と問いかけられたのでそうなった経緯について説明した。いや最初の戦場に居合わせたから知ってるはずなのでは? っていう疑問はなんか怖いのでぶつけられないけど。

 

 

「半額セールに参加した人達の勢いや迫力に負けて、結構ボロボロになったんだ……まぁ主婦だけに飽き足らず、何度もセールに参加した人達はもはや武人のような感じに進化するんだから、素人や初心者には不利になるのも無理はないよ。あ、コーヒー飲める?」

 

「武人って何すか。いや、俺もセールを戦場と例えてましたけど……あ、コーヒーミルクなら飲めます」

 

「じゃそれを買ってあげるね。これも何かの縁だし」

 

 

 ワオ、初対面の人にコーヒー奢るとか優しくね? セールの時に参加者全員にセール対象商品が必ず一個渡るように、そのために魔法少女の力を躊躇いなく使う時点でも優しいけど。

 

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとうございます……うわっ、この苦みと甘みがブレンドされたのやっぱり好きだわ」

 

「それはよかった。あ、そうだ………………遠慮しなくていいんだよ?」

 

 

 その言葉を聞いて俺は思わず首を傾げた。遠慮しなくていいって、何の話? まさかいやらしいことに関してじゃないよね? それが思い浮かぶ俺もどうかしてるぞ。大体そんなことしたら俺も貴方も優子に殺されますよ、マジで。

 

 

「あ、今のはどんな質問ても投げかけていいよって意味だけど……変な意味で捉えてた? それとも警戒してた?」

 

 

 あ、そういう意味でしたのね。変なこと考えてすいませんでした。

 

 

「あぁ、いやまぁ……すいません、正直警戒はしてました。最近の魔法少女は穏健派よりも過激派が多いと噂で聞きましたので……」

 

「ふーん……ま、そう思われるのも無理ないか。この町とその周辺に住んでいる魔法少女が優しいだけであって、みんながそうとは限らないからね。中には極悪非道な魔族に家族を殺されたっていう重い過去を持った子もいるらしいし。まぁその魔族は既に封印されたけど」

 

「あ、さいですか……」

 

 

 極悪非道な魔族……そんなのが数年前にはいたんだな。その魔族に身内を殺された魔法少女は過激派になったと……その魔族と優子とリコさん、同じ魔族を比較すると極悪非道の方は全く想像が出来ねえ。優子とリコさんは優しいから……

 

 

「えっと……ちなみに貴方はどっち派なので───」

 

「馬場 奈々」

 

「へっ?」

 

「私のフルネーム。奈々って呼んで。教えるの忘れててごめんね」

 

 

 あ、名前を教えてくれてたんですか。すみませんわざわざ……。馬場 奈々さん、か……さては名字も使ってバナナを名前の由来にしてるな? 桃やミカンは名前だけで果物をモチーフにしてるのに、奈々さんのは変わってるな。

 

 

「で、私が過激派か穏健派かどっちなのかって質問をしてるんだよね? もちろん答えは『穏健派』だよ。そうじゃないとこの町に住むどころか訪れることなんてできないし、私も話し合いで解決しない争いが大嫌いなんだし」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 まぁ穏健派にしろそうでないにしろ、魔法少女の力を半額セールで参加者全員にも対象商品を一つでも獲得できるように上手く使うことなんてしないと思いますがね。けどその行動が争いを嫌う証言となってるけどね。

 

 

「で、質問はそれで終わり? それだったら大事な時間取ってごめんね?」

 

「えっ? あぁ、はい。一応それだけですが、何か……?」

 

「そっか……じゃあ最後に、私の方から一つだけ質問させてくれる?」

 

「……一つだけでしたら」

 

 

 奈々さんが穏健派で安心したせいか、一つだけ答えるとはいえ自分から拘束される時間を延長させちまったよ……というか、彼女の方から質問って一体?

 

 

 

「どうして魔法少女が穏健派と過激派に分かれてる事を知ってるの? 君、別に魔族でも何でもないよね?」

 

 

 あっ。

 

 ヤベェ、うっかりしていた。桃やミカンと何事もなく仲良くしていたからか、知り合いでもない魔法少女の前で魔法少女の事を喋ってしまった。慣れが別のところでポロリと出るのは怖いものなのだな……

 

 ……仕方ない。ここはもうバラしておくか、俺が魔法少女や魔族との関わりがあることを。穏健派だという奈々さんなら優子を退治したりしないはずだしな、多分。

 

 

「……実は、ウチのクラスメイトとその友人の中に魔法少女がそれぞれおりまして。その二人に魔法少女や魔族、魔力について教えてもらったんです。しかも二人とも穏健派で、俺の幼馴染である魔族の事を何かと気にかけてくれていて……」

 

「えっ⁉︎ 幼馴染に魔族が⁉︎ しかも二人の魔法少女に優しくされてる⁉︎ へぇ、その魔族の子って良い子なんだね。恵まれてる」

 

 

 『恵まれてる』? それは一体どういう……

 

 

「あっ、もうこんな時間。早く帰って兄さんにご飯作ってあげないと。貴重な時間を作ってくれてありがとね‼︎ それじゃ‼︎」

 

「あっちょっ……」

 

 

 引っかかる言葉があったのでそれについて問いかけようとしたものの、奈々さんは『もう帰る』と言ってその場から嵐のように走り去っていった。ま、まあ優子……というか魔族に対して敵意を見せてくれなかっただけよかった……のか?

 

 というかお兄さんがいらっしゃいましたのね。その人も魔法少女みたいに戦えたりすることができるの? 気になる。

 

 

 

 

 

 

 半額セールという名の戦場から帰ってきたところ、ばんだ荘にて偶然にも桃との決闘(?)から帰って来た優子と遭遇。せっかくだし夕飯作る前に話でもしようかってことで、彼女を家に招き入れました。いつも風呂を貸してあげるためによく家に入れてるけどね、それとこれとは別というか。

 

 で、優子に桃との決闘はどうなったかと聞いたら……案の定だった。あの手紙を見た桃は『遊びに行く』のだと勘違いしており、勘違いとはいえ優子も桃のその気持ちを台無しにしていたことを申し訳なく思っていたそうで。

 

 で、仕切り直しってことで二人はショッピングセンターで遊ぶことに。さらには偶に一緒に町に出掛けることを約束。優子はお詫びと約束の印として桃に黒紫色の髪留めをプレゼントしたらしい。正に女友達の付き合いってヤツだな。微笑ましい。

 

 

 ズキッ

 

 

 ………………えっ? あれ? なんか、俺の体の中で変な音が聞こえてきたような……気のせいか? ちょっとだけ心臓が痛く感じたんだけど、戦場でボコボコにされた影響が遅れて出た、のか?

 

 

「あの、白哉さん? どっか痛みますか?」

 

「えっ? あぁいや、大丈夫。気のせいだったみたいだからな」

 

「そうですか……あっ。そういえば白哉さんは初めて行くスーパーの半額セールに行ったらしいですよね? なんかすごい収穫とかありましたか?」

 

「あったあった。ボカスカされたけど目当ての物は全部手に入れたから、メェール君達も喜ぶことだろうよ。……それと、何故か奈々さんという魔法少女の人にも会った。それも桃やミカンよりも年上な感じで、穏健派」

 

「………………へっ?」

 

 

 うん、だよね。 そりゃあ驚くよね。偶々行ったスーパーで、偶々魔法少女に遭遇したんだもん。優子もビックリだよね。でもちゃんと穏健派だったって言ったから警戒とかはしないでね? お願いだから。

 

 

「あ、あぁ……桃やミカンさんよりも年上ですか。しかも穏健派……きっと普通の女性の方でしょうね‼︎」

 

「どう考えたらそう思える。……確かにあの人は普通の女性っぽい優しい性格してるけどさ。というか優しすぎる、みたいな? 魔法少女の力をセール商品を平等に分けるために使ってたし」

 

「平和主義者、ですかね?」

 

「ま、あの人が何を考えているのかはまだ分からずじまいってヤツだな。いくら話し合いの時間をわざわざ作ってくれる程の優しさも兼ね備えているとはいえ、初対面だし」

 

 

 つーか、それよりも……

 

 

「それよりも、もっと平和な買い物をしたかったって思えた気がする……なんでスーパーの戦場に行ったんだろう……奈々さんのおかげで目当ての物を全部買えたとはいえ、興味本位で戦場に行った自分が情けない……今日の優子達が羨ましく感じる」

 

「えっ」

 

 

 だってそうじゃん? 優子と桃が女友達同士による楽しくワイワイと遊んでいるのに対して、俺は天下分け目の関ヶ原の戦いに歩兵として初めての合戦に参加してめちゃくちゃ酷い目に遭ったって感じだよ。

 

 軽い気持ちで主婦中心の修羅場になんて参加すべきではなかったよ……不幸というよりは、迂闊だった……

 

 

「………………あ、あの……それ、でしたら」

 

「……ん? 何?」

 

「それでしたら、こ、今度三人で行くか、ひ、久しぶりに二人でどこか行きませんか? ほ、ほら、三人なら桃に揶揄われやすい代わりに二人で行くよりも楽しく感じられますし。わ、私と白哉さんだけでなら久しぶりに公園を歩いたり出来ますし……」

 

 

 突然の優子からのお出掛けの勧誘。それを聞いた瞬間、顔が不思議と熱くなってきたのと同時に『嬉しい』という感情が込み上がってきたのを感じた。いや嬉しいと思えるのは当たり前……

 

 あ、あれ……おかしいな。普通ならただ遊びに誘っているなと思うだけで済むはずなのに、何故かこの誘いだけで心臓がバクバクしている自分がいる。な、なんか今日の俺、変だな……? へ、変な表情とかが表面に出てないよな? 大丈夫、だよな?

 

 

「あ、あの……白哉さん?」

 

「へっ⁉︎ あ、あぁいや、いいなそれ‼︎ さ、最近は優子が魔族になってからは二人きりどころか、大した目的なしでのお出掛けなんてしてなかったもんな‼︎ そ、そういった機会があればまた行きたいなー‼︎ ハッハッハ……」

 

 

 お、思わず動揺してしまった……本当は別動揺する必要なんかないってのに、なんでこうも焦ってしまったんだよ俺……自分で自分の反応に疑問を抱いちまうよ、マジで……

 

 

「そ、そうですか……そう思っていただけると、私も嬉しいです」

 

「そ、そっかそっか‼︎ い、行きたい日とかあったら言ってくれよ‼︎ 予定空けとくからな‼︎ さ、さぁてと飯でも作るか‼︎ 今日もお裾分け用のヤツ作っとくから、よかったらここにある漫画読んだりとかして待っててくれ‼︎」

 

「えっ? は、はい……」

 

 

 あぁもう‼︎ なんか今日は調子狂う‼︎ いつもとは違うスーパーでボロボロになるわ、そこで偶々原作キャラじゃない魔法少女に出会って擬似的な拉致されるわ、原作でもあると知っていた優子と桃のお出掛けイベントを聞いて何故か心臓が痛くなるわ、優子に遊びに誘われるだけで心臓バクバクするわで、俺の脳内がストライクショット状態だわ‼︎

 

 もう今日は一度何もかも全部忘れよう‼︎ 飯作って忘れよう‼︎ 今日はメェール君に飯作りを休ませてあげよう‼︎ そうしよう‼︎ うん‼︎

 

 

「……白哉さん、顔を赤くしていたけど、もしかして私の事を………………ハッ⁉︎ い、いやいやいやいや‼︎ 流石に考えすぎです私‼︎ 期待しすぎると絶対また暴走しかける‼︎」

 

 

 

 

 

 

 多摩町の何処かに存在する、とある建物のとある一部屋。その部屋は広場レベルに近い程とてつもなく広く、無数に並ぶ本棚が並んでおり、その全てに本がギッシリ詰まっていた。所々に照明が設置されており、広々とし過ぎているこの部屋を照らしている。二階建てになっているようで、中央の広めの通路からは二階の様子が吹き抜けで見えている。

 

 ここは正に、大魔法図書館。とはいえ、魔法書の代わりに普通の本や漫画が置かれている上、この部屋基建物にはきちんとした名前がある為、とある紫もやしな魔法使いは存在しない。多摩町の事だから存在してもおかしくはないが。

 

 

「ってなわけで、私と同じ穏健派魔法少女の知り合いで魔族の幼馴染である男子と仲良くなったの‼︎ 彼の方はどう思ってるのかは分からないけど……って、兄さん聞いてる?」

 

 

 その部屋の受付カウンターらしきところで、回転式の椅子に座って背を向けている人物に話しかけている女性が一人。金髪に近い黄色い髪をしたアホ毛とカチューシャ付き魔法少女・馬場奈々である。どうやら彼女はこの部屋のある建物にて、『兄さん』と呼んでいるただいま椅子に乗ってる背中お見せ中の人物に、白哉に出会った事について話していたらしい。

 

 

「兄さーん? いつもならこういう非常識系な話に興味向けてくれるのに、今日は乗り気じゃないの? もしもーし?」

 

「……む? あぁすまん、小説を読んでいたものだから聞いていなかった。で、その魔法少女の知り合いで魔族の幼馴染だと言う少年はどんな感じであったか?」

 

「聞いてるじゃない……」

 

 

 そこそこの反応で興味を示してはいるものの、話かられている男性は椅子を奈々と向かい合うように回さず、後ろを向いたまま会話に参加するだけ。

 

 そのような反応を見せる男性に不服に感じたのか不貞腐れたかのように頬を膨らませる奈々。そして何かを思いついたのかニヤリと小悪魔並みの笑顔を浮かべ、再び口を開いた。

 

 

「で、どんな感じかって? うーん……見た目な中性的なイケメン美少年で高身長って感じ、だけど(・・・)……」

 

だけど(・・・)?」

 

「彼は普通の人間のはずなのに、何故か魔法少女に引けを取らない程の強い魔力を感じるんだよね。それも数種類も持ってる感じ、みたいな?」

 

「……‼︎ ほう……」

 

 

 ここで男性が白哉に多大な興味を示した反応を見せ、奈々の方に体ごと向けた。魔族でも魔法少女でもないのに魔力を兼ね備えている。しかも数種類もあるという可能性がある。何処ぞの一族の末裔でもない存在である白哉に興味を持ち始めたようだ。

 

 男性が白哉に対する興味を持ち始めたのは、普通の人間ではないという事実を聞いたからだけではない。似たような理由ではあるのだが、そのもう一つの理由となるのが……

 

 

「一族の末裔でもなんでもない者が、非科学的な力を持っている。それも本来持つべき存在と同じ量の魔力の持ち主……それはとても興味深いぞ‼︎ 是非次の小説のテーマにせねば‼︎」

 

「だと思った。まったく、兄さんは非日常的な噂を聞くとすぐそれに合った小説を書きたがるんだから……」

 

 

 これである。

 

 分かりやすく言えば、男性は小説家である。それも一般のではなく、日常では体験できない出来事に遭遇したりその話を耳にしたりした事を小説の内容にするというものだ。一般人である白哉が魔力を持っているという話も、小説の参考にするつもりらしい。

 

 

「今作の小説が出来たら是非彼にも読ませたいものだ‼︎ で、その少年の名前は何というのだ?」

 

「えっ? ……あっ、聞くの忘れてた。でも、目は金色で髪は濃い紫色のメッシュが付いた銀髪だったよ。見かければ一瞬で分かるかも」

 

「ふむ、それだけでも有益な情報だ。感謝するぞ我が妹よ。ふふ……完成して彼に見せるのが楽しみになってきたものだ」

 

「その笑い方、悪役っぽいんだけど……」

 

 

 今後の御楽が増えたことによる喜びを隠しきれないのか、ニヒルな笑みを浮かべた男性。その彼の口元には……

 

 吸血鬼のような、長い牙がこっそりと見えていた。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その10

決闘ではなくお出掛けになったシャミ子と桃、アクセサリー店にて
桃「(シャミ子がわざわざ自腹で買った髪留めをもらっちゃった……)」
「(白哉くんにはちょっと申し訳ないけど、大事に使おうかな。シャミ子に何かを買ってもらうなんて滅多にないし)」
「(ん……?)」
シャミ子「むぅ……白哉さんにはどの髪留めを買ってあげるべきでしょうか? 男のカッコ良さ重視で雷マークも良いけど、髑髏マークも捨て難い……」
桃「……白哉くんならシャミ子から貰ったものならなんでも喜ぶと思うよ」
シャミ子「わひゃあ⁉︎ も、桃⁉︎ あっいえ、これはその……」
桃「あ、ごめん。私が口出すのは野暮だったかな? 気にせずプレゼント選び続けていいよ」
シャミ子「プ、プレッ……⁉︎ い、いやいやいやいや! と、特別な日でもないのに送るなんてそれは……‼︎」
「そ、それに今の私、もう一個買う持ち金なんてありませんし……」
桃「なら私が代わりに買ってあげるね。この髪留めをくれたお礼に」
シャミ子「か、借りを作ってチャラにされてたまるかー‼︎ と、とにかく今日はもう何も買う気ないですから‼︎ いえ本当に‼︎」
桃「……それはそれで白哉くんが可哀想だと思うけど?」
シャミ子「ウッ……‼︎ で、でも再来月は白哉さんの誕生日ですから、その日までには……」
桃「そっか、それは良い事聞いちゃった」
シャミ子「そ、それはどういう意味ですか‼︎ ハッ⁉︎ さては桃、白哉さんを狙って……」
桃「そんな事全然ないから」
シャミ子「……それはそれでなんか複雑です……」
桃「(白哉くんの事で焦るシャミ子、やっぱり可愛い)」

END



はい、今回はオリキャラ四人目かつ初の女性オリキャラの初登場回でした‼︎ 原作でも今のところバナナって名前の魔法少女は出てないみたいだし、ギリギリセーフ……かな? もしバナナ系統の魔法少女出たらどないしよう……



おまけ:今回登場した魔法少女・馬場 奈々の画像(魔法少女メーカー使用)

【挿絵表示】


 


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引っ越しと言ったら普通は引っ越しそばだが、この日は引っ越しすき焼きだ‼︎

安値かつ住み心地の良い物件欲しいので初投稿です。

なんか今回は原作の一話が短かったから二話分繋げたら、結構長くしちゃいました……てへぺろ☆(きめぇ)

前話投稿から今回投稿するまでのお気に入り登録者数
157件→159件
少なっ⁉︎ 一週間経ってそりゃないでしょうよ⁉︎


 

 はいどうも皆さんこんにちは、昨日スーパーの戦場に挑んでいった白哉です。ボロボロにされましたが、原作未登場or原作には存在しない魔法少女・奈々さんに助けられたこともあって目当ての物を全部買えましたー。

 

 よくよく考えたら、奈々さん結構身長が高かったなー。魔法少女の中では桃よりも高かった気がする。桃と同い年か、はたまた年上なのか、そして魔法少女歴は桃より長いのか……うーむ、原作にいないキャラと出会ったとなると、ついついこんな事考えてしまうな。色々な事を知りたくてしょうがない。

 

 っておっと、いけないいけない。初対面かつ会った時間が短い人の事を深く考える必要はないやろ。うん、その通りだ。また奈々さんと会ったら会ったでその後の事を考えればいい。うん、それがいい。

 

 あっ。ちなみに俺は今、優子と二人で学校からリリスさんを回収して帰宅なうしてます。何故学校にリリスさんが? なんかリリスさんが邪な事を考えていたところを先生が察し、優子から預からせてもらい面談していたんだと。で、桃との決闘……ではなくお出掛けしてた優子はリリスさんの事を忘れていたわけで。そのため二人で今日先生から返してもらったってわけです。

 

 まぁぶっちゃけ、こうなったのは全部リリスさんのせいだけどな。桃が眷属になった後にあんな事やこんな事をさせるつもりだったらしく、それを考えていた時の顔がごせん像にも出てしまった上にテレパシーで優子にもダダ漏れになったわけで……

 

 リリスさん、敢えて心の中で言わせてもらいます。恥を知れ‼︎

 

 

『……余、何やら白哉に心の声で罵倒されてる気がするのだが……』

 

「気のせいじゃないですか? 仮にも貴方は遥か昔に存在していた魔族の先祖でしょう? そんな貴方に多大な無礼を起こしてしまえばどうなるのか分かったものじゃないですから」

 

 

 心の中で『恥を知れ‼︎』と言った時点でアウトだと思うけどな。

 

 

『桃に投げ飛ばされたのに、その後余は何もしなかったのだぞ。というかしようにも出来ぬのだが……』

 

「あっ、それはすみませんでした」

 

「ごせんぞ……落ち込まないでください。私はごせんぞの事を尊敬してますから」

 

『ウゥッ……真意がどうであれ、その言葉を聞くだけで少しは心を安らげるぞシャミ子よ……』

 

 

 うーん、なんだろう。子孫である優子に慰められて嬉し泣きするリリスさんを見ると、なんだかバブみを覚えたダメ大人に見えてしまう。いやこれも失礼か。

 

 

 チクッ

 

 

 ……えっ? また心臓に痛みが……? 昨日のよりはそんなに痛くないけど、何故……?

 

 と、そんな事を思っていたら前方──ばんだ荘前──にて一人の女性が立っていることに気づいた。ミカンだ。陽夏木ミカンがいる。何やらキャリーバッグっぽいのを持って地図らしきものを見てるな。

 

 あっ、そっか。また原作イベントが発生してるな。相変わらず何の異常もなく不定期に発生するなホント。

 

 

「ミカンさん、どうしたんですか?」

 

「ミカンおっはー」

 

「シャミ子に白哉! ちょうどよかったわ。この近くにあるアパートを探してるの」

 

「アパート? あぁ、この『ばんだ荘』の事か?」

 

 

 陽夏木ミカンのばんだ荘へお引越しイベント、ただいま発生中です。そのアパートを探しているらしいので俺が指を指して教えたら、ミカンは『えっ、ここ? 嘘でしょ?』みたいな表情を見せてきました。おい、俺と優子達吉田家が住んでるところを廃墟だと思ってたのか? はっ倒すぞコラ。

 

 

「えっ……あっ、ここだったの? ずっと探してたアパートって、意外とこんな近くにあったのね……」

 

「あの……もしかしてばんだ荘のことを廃墟だと勘違いしてましたか……?」

 

「自分で自分の住まいを廃墟と言うな。同じく住んでるこっちまで虚しく思うから……」

 

「ちょっ、違っ……‼︎ 現代ではなかなか遭遇できない風情のある建物だと思うわ‼︎」

 

 

 この野郎、反応を見るからにやっぱりばんだ荘を廃墟だと思い込んでやがったな……‼︎ まぁでも、見つからないのも無理はないか。何せばんだ荘は優子のような魔族を守るための視認障害結界が働いてるから、魔法少女──光の一族──は見つけられず、住居として認識することが出来ないからね。仕方ないね。

 

 ちなみにこの物件は光や闇の一族絡みの人はあまり難しいことしなくても住める特別物件らしい。しかも光闇割という謎の学割みたいなものもあるらしいため、ミカンはそれで即決してここに引っ越す事に決めたらしい。

 

 しかも家賃は百二十円。俺達のよりめっちゃ安い……いや安いってレベルじゃねェだろそれェ⁉︎ もしかしてあの桃の立派な家も家賃が百単位なのか⁉︎ なんだよその羨ま割引、ヤバすぎだろ……

 

 

「そういえば──シャミ子、先日は桜さんのことで取り乱してごめんなさい。あの時は私の呪いのせいで服をダメにしちゃったわね」

 

「あぁ……そんなこともありました」

 

「それで桃を眷属に勧誘する時の格好が危機管理フォームになってたってわけだな。あの時は『同性相手にセクシーアピールとか正気か?』って思ったな」

 

「なっ⁉︎ そんなことする気は毛頭ないですよ‼︎ そもそも相手は宿敵だぞおらー‼︎ セ、セクシーアピールなら白哉さんにしたいですけど……

 

 

 ごめんなさい、冗談です。だからそんな可愛いおこプンプン丸はやめてください。可愛い。そして出来れば途中で小声になるのやめてくれませんか? 何言ってるのか気になっちゃうから。

 

 

「あぁ……シャミ子も色々と大変ね……で、そのお詫びと言っちゃなんだけど、私の服でよければいるかしら? 引っ越しついでに整理しようと思ってたの」

 

「いいんですか⁉︎」

 

「なら優子、試着してみて欲しいのを選んでった方がいいぜ。俺玄関で待機してるから」

 

 

 にしてもミカンの奴、お詫びとしてそれ相応のものをあげようとするとはやるな。服をダメにしてしまったから服の代わりになるものをプレゼントするとは、相変わらず人が良すぎますなぁ。

 

 と、そんなことを考えながら優子が着替え終わるのを待つことにした俺氏。女の子の着替えが完了するのをその場で待つとか、ガン見する変態と同じでしょうが。女の子に対するデリカシーってものを考えなければアカンで。

 

 とは言ってもまぁ、優子は結局ミカンからもらった服を着て俺に見せるなんてことはしないだろうけどな。原作を知ってる俺だから分かる……ミカンの服は『出る』系のものばかりだ。原作やアニメでは優子は肩が出るヤツ一着しか着なかったとはいえ、体の一部分が露出したのも充分恥じらってしまうもんね。仕方ないね。

 

 

「あ、あの、びゃ、白哉さん……も、もういいですよ……」

 

 

 おっと、そんな事考えてたらもう試着を終えたのか。しかも恥じらいのある感じの喋りだったってことは、やはり『ごめんなさい、やっぱり見せられません』的な感じなんだな──

 

 

「───エッッッッッッ?」

 

 

 やばい、変な反応してしまった。

 

 部屋に戻った俺が目にしたのは、意外にもミカンからもらった服を着ていた優子だった。しかも原作通り着てみた肩が出る方の服ではなく、胸の谷間が強く強調された薄紫色のブラウスである。

 

 ……いや、なんで? なんで見せてくれるの? 顔めっちゃ赤くなってるじゃん。恥ずかしがってるじゃん。無理に俺に着たヤツを見せる必要無くない? しかもそれ、肩が出る方のヤツよりも露出度が高いし。よく見たらそこそこは背中も出てるし。なんか、その……どこがとは言わないけどずり落ちそうだし……

 

 これ、上の部分だけ見たら危機管理フォームよりも服の安定感がヤバい感じじゃね? いや全体的にだろうが上の部分だけだろうが、肌の露出度なら危機管理フォームの方が勝ってるけどさ……いや何言ってるの俺。その発言は正に変態が言いそうなヤツじゃんか。

 

 

「あ、あうぅぅぅ……そ、その、すみません。ミカンさんの服、出る系のばっかりだったんですが……えっと、い、一応、似合ってるか、どうかを……」

 

「シャ、シャミ子……無理しない方がいいわよ。他の人が着たらそんなに恥ずかしがるものだったとは思わなかった私が悪かったから、それに白哉も固まってるから……」

 

 

 ハッ⁉︎ 俺、優子の今の格好を見て思わず固まってたんだな。いけないいけない、正気に戻らないとな。

 

 

「……あ、あぁなんだ、ミカンが無理矢理『見せてあげなさいよ』みたいな感じにさせたわけじゃないんだな。危うくお前を軽蔑するところだったわ」

 

「ちょっ……⁉︎ ち、違うから‼︎ 私無理矢理着せたり白哉に見せることを促したりとかはしてないから‼︎ シャミ子もどれ着ても恥ずかしがってたのにあげたのちゃんと全部着てくれたし、貴方に見せようというのもシャミ子自身が決めてたから‼︎ こうなったのは私のせいじゃないわよ‼︎ ……半分は」

 

 

 『半分は』って何だよ『半分は』って。『これ本当は私のせいじゃね?』みたいな自信のない反応するのやめろよ。優子自身の意思で見せてきたのかお前が促したのか、どっちを信じればいいのか分かんなくなるでしょうが。

 

 ……とにかく、今は絶賛羞恥心真っ最中の優子の対応だな。これ以上彼女に恥ずかしい思いをさせるわけにはいかないし、ここは……

 

 

「あぁ……優子。そ、その、結構似合ってるぞ。なんというか、魅力的だなっていうか、新鮮だなっていうか……」

 

「にあっ⁉︎ みりょっ⁉︎」

 

 

 正直な感想を言ったらこれだよ。謎の奇声を上げてめっちゃビックリしてるよこの子。えっと、これ対応を誤ったのか? なんか女の子にとっては下心に聞こえる言葉とかあったのか……?

 

 

「………………そ、そうですか。似合っていますか……う、嬉しいです。ありがとうございます……えへへっ」

 

「えっ。あぁうん、そっか……」

 

 

 よ、よかった。別に間違ってるわけじゃなかったんだな。なるべく傷つけないように言葉を選んだからってのもあるから、変な空気にならずに済んだぜ。あっぶねぇ〜……

 

 

「えっと……すごくいい雰囲気だけど、私お邪魔だったかしら……?」

 

 

 黙れこの件の元凶候補。余計なこと言わんくていい。

 

 

「あの、お二人とも……そろそろ限界になってきたので、着替えてもいいですか……?」

 

「「あっ、ごめんなさい。どうぞ」」

 

 

 や、やっと着替えてくれるのか。ならさっさともう一度玄関へと待機しないとな。もう、危機管理フォーム程ではないけどさすがに目のやり場に困るわこれ……

 

 

『まぁその……アレだ。少しは一歩を踏み出せたな、シャミ子よ』

 

「なっ、ななな、何の一歩ですか⁉︎ こ、これはその、さすがに着替え終わるのを待ってくれてる白哉さんをガッカリさせたくなかったからというか、もったいなかったからというか……」

 

「えっと……だったら他の服でもよかったじゃないのかしら? どれもさっきの服よりもそんなに出てないと思うし……」

 

「ねぢゃ⁉︎ そ、それは、その……」

 

『というかミカンよ、お主は何故この服を買ったのだ……』

 

「えっ。け、結構可愛かったから……」

 

『可愛ければ露出具合は考えない派なのか……?』

 

「……多分、そう」

 

 

 

 

 

 

 優子がいつもの服に着替え終わったところで、ミカンに何故ばんだ荘の部屋を借りることになったのかの経緯について聞くことに。その経緯は二つ。桃が早朝から中国人みたいな謎修行で騒々しく活動時間帯が合わないからなのと、一人で考える時間が欲しいからだそうだ。うん、夜型と朝型が一緒に暮らしてたらそらそうなるわな。

 

 ついでに桃や桜さんとの関係を教えてくれた。どうやら二人はミカンにとって恩人らしい。ミカンの呪いは小さい頃は今よりももっと深刻だったが、桜さんがそれに干渉して魔力で抑え込み、人付き合いできるくらいにしてくれたようだ。

 

 ふむ……つまりはその恩を返すため、何か桃に出来ることがないかを考えるために一人で考える余裕を作りたかったんだな。なるほど、それなら引っ越す理由も納得がいく。

 

 

「とにかく……格安でいい感じの物件も見つけたことだし、それなりに頑張るわよ。多少古いのが気になるけど、壁紙を補修して……」

 

「あっ、その壁紙が捲られて──ヒエッ」

 

 

 お、お札……大量のお札……壁紙の裏にお札……実際に見たらめっちゃ恐ろしすぎる……思わずビビった声を出しちまったよ……俺が引っ越してきた時は既に補修されてたから見てなかったけど、これはトラウマものだわマジで……

 

 あっヤベッ⁉︎ ミカンが怖がって呪いが発動して紫色の蛇が何処からか出てきおった⁉︎ あっちいけ、しっしっ‼︎ よし、帰ってったな。なんだったんだあの蛇は。

 

 

「……あの、ミカンさん。私ミカンさんの呪いを解く方法も調べてみます。ご近所さんになった記念で! それで、ミカンさんも私の目的を手伝ってくれませんか? ご近所さん記念で!」

 

「目的?」

 

「はい。私の目的は──」

 

 

 ここで優子が達成したい目的の説明タイム。が、その目的が多くてミカンの脳内はガチめのサン○ウィッ○マン状態に。色々とやりたい事を詰め込みすぎだぞ優子。まず最優先にすべきことを考えた方が良くね?

 

 

『その状況だと、最優先すべきは千代田桜の手がかりを探すことだと思うぞ』

 

 

 ここでリリスさんの意見タイム入りましたー。

 

 リリスさん曰く、桜さんはこの町の特殊な環境を守っていた実力者であるため、戻ってきてもらえば町の安全とやらもより強固なものになるだろう、とのこと。

 

 また、戦力がアップする上に、結界や呪いに干渉することに長けている彼女ならば呪いの改善のヒントも貰え、さらにはヨシュアさんが俺の父さんを助ける為に封印されるまでの状況も獲得できる可能性が高い……と、この様に一気にいろんなことが前進するだろうとのことだ。

 

 おぉ、すごい分析力と判断力だな。絶対その説明に裏があるだろうとは思うけど、そこには触れないでおこう。そこを除くとリリスさんマジで優秀だから。マジで。

 

 

「ごせんぞ凄いです‼︎」

 

「すごいわご先祖様‼︎ とってもわかりやすい‼︎」

 

『お、おう……⁉︎』

 

 

 ほら、いっぱい喋って悪い顔もしてないのに酷い目に遭ってない。ららさんだって良いこと言えばこういう風にお供えしてくれて(お茶とみかん饅頭しかないけど)、褒められて、それで自分は役に立っているんだって気付かされるんですよ。よかったですねリリスさん。あっ、俺もココア飴しかないけどお供えしとこ。

 

 

「桃にもちゃんとミカンさんの率直な気持ちを話しましょう」

 

「そうね。大した相談もせずに出てきちゃったからちゃんと話さないと」

 

「まったくもってその通りだな。隠し事せず話し合ってこそ真の友情とも言うしな」

 

 

 それにしても今日のリリスさん凄いな。提案一つ出しただけでミカンの心の凹みを治してくださるとは。そのおかげなのか優子と一緒に一人暮らしを始めたら何しようかと和気藹々に話してる。うん、仲が良い人達を見るのは性別関係なく微笑ましい。優子もミカンもいい笑顔してるし。

 

 

 ズキッ

 

 

 ……ん? アレ? えっ……? 今、また一瞬だけ心臓が痛くなった気がする。しかも昨日のよりも少しだけ痛いし、音も少しだけ大きい気がする。

 

 ……おかしい。最近の俺はなんだか様子が変だ……

 

 

「白哉くん、急に落ち込んでいるような顔になってるけど、大丈夫?」

 

「へっ? あ、あぁ。どうやら気のせいだったみたいだ。心配かけて悪かっ──」

 

 

 ん? アレ? なんで俺の耳の近くから声が? 俺今この場に召喚獣出してないよ? 優子とミカンは俺の目の前にいるよ? なのになんで俺の右側に声が……

 

 あっ、右向けば桃がいた。こんにちはー……って。

 

 

「くぁせdrftgyふじこlp!?」

 

 

 アイエエエエ⁉︎ マホウショウジョ⁉︎ マホウショウジョナンデ⁉︎

 

 なんでこのタイミングでお前来てんねん⁉︎ そして今の俺の表情を盗み見すんなよ⁉︎ それと魔法少女が出してはいけないドス黒オーラ出すなよ怖いから‼︎

 

 

「桃⁉︎ 貴様何故ここに⁉︎」

 

「シャミ子に相談があって……先日シャミ子のお母さんに挨拶もせずに失礼しちゃったから、菓子折りとか持って挨拶しようと思ったんだけど。……でも、お父さんが箱になってるのに箱状のものを渡すのは不謹慎な気がして。何を渡せばいいと思う……?」

 

「そこら辺は気にしなくていいと思います‼︎」

 

 

 えっ、まさかその事を相談する為にわざわざこっちまで来たの? そしてここに来るまでその事でずっと悩んでたの? だから悶々状態? なんじゃそりゃ……いやそんなわけないとは思うけど、うん。

 

 

「気にしなくていいけど頂けるならお米券がいいです‼︎」

 

「おかーさん何故ここに⁉︎」

 

【どうも〜。シャミ子ちゃんに魔法少女のお二人さんはじめまして、メェールだメェ〜。今度僕らの所に来るなら野菜の種でお願いメェ〜】

 

「いや清子さんに紛れてさらっと『はじめまして』の挨拶済ませた上にせびらないでくれる?」

 

 

 ここで清子さんが乱入。そしてどさくさに紛れてメェール君も続けて登場。そしてこれが優子・桃・ミカンとの初対面だという。現界できるようになってから初対面までの時間、長くないですかね?

 

 

「あっ、羊……? もしかして、貴方が白哉さんの言っていたメェール君ですか……?」

 

「本当に羊だ……」

 

【あっ、初対面の挨拶は後にして話続けて続けて。じゃ、お邪魔しましたメェ〜】

 

 

 そう言ってメェール君は、残って話を聞いてくれるらしい清子さんを他所に一匹だけ俺の部屋に戻っていった。いや何しに来たのさ君?

 

 

「ミカンも急に部屋借りるって言うから心配してたんだけど……元気そうで安心したよ」

 

「安心したならいじけた目で言うな」

 

 

 やっぱりさっきのモヤモヤは菓子折りについて悩んでたからじゃないんだな、驚かしやがって……

 

 

『おっ桃よ、もしや寂しいのか? 寂しいのかぁぁん⁉︎ ミカンとシャミ子が急接近でモヤッとしているのだろう⁉︎ それとも何か⁉︎ シャミ子とくっつかせようとかしておいて結局は白哉の事が気になるのかぁぁぁ⁉︎』

 

 

 あら、半分鋭いっすねリリスさん。けど桃が俺の事を気にしてるってことはないと思いますよ。もしそうだとしたら既に俺に対して何かしらのアピールをしでかすはずなので、桃なので。

 

 つーか煽るな。盲点見つけた途端に調子乗って桃を煽るな。貴方無力な状態でしょうが。しかも『フーハハハ』っていう笑い声がうるさいんですが。……しゃーない。

 

 

「白龍様、召喚──お願いします」

 

【OK牧場】

 

 

 古っ。呼ばれてすぐその返事って。

 

 精神世界を通して俺達の会話の一部始終をちゃんと見ていたのか、俺の一言だけで何をすべきなのかを理解していた白龍様は即座に右手でリリスさんの後頭部を掴み、そして───

 

 

【煽る限度ってものを考えなさい】

 

『グゲハッ⁉︎』

 

「ごせんぞぉぉぉぉ‼︎」

 

 

 思いっきり床に顔を叩きつけた‼︎ 効果 は バツグンだ‼︎

 

 いくらデフォルメサイズで無力化中の白龍様でも物を叩きつける程の力ぐらいはありますよ? リリスさん、白龍様を舐めないでくださいね?

 

 この後は桃が優子や俺との連絡を取りやすくする為に夏休み中は俺の隣の部屋に泊まることになった。左から桃・俺・優子・ミカンといった感じに、俺と優子の部屋が二人の魔法少女によってオセロ挟みにされたか……

 

 思ったよりもキツいと感じたのは気のせいか?

 

 

 

 

 

 

 後日。魔法少女の二人がついにばんだ荘に引っ越してきました。

 

 最初に訪れて来たのはミカン。原作では桃が先だけど、ここら辺はアニメ寄りだったらしく、先にミカンが来たってわけだ。

 

 彼女の実家が柑橘類の加工食品を作っているらしく、ウチや吉田家に渡してくれた挨拶の品がゆずドレッシングにみかんサブレとすだちジュース……ホントに柑橘類ばっかりやん。ウチも最近柑橘類系の食べてないから別にいいけどさ。

 

 次に訪れて来たのは桃。挨拶の品として牛肉を渡してくれた。本当はお米券にしようとしたが、たまたま通った杏里の実家の精肉店にて、杏里に『優子に筋肉付けるなら米より肉が効率良い』とか言われたらしい。やっぱりお前筋肉少女やんけ。『筋肉』というワードに弱えなオイ。

 

 しかしここで桃の予想を反した反応が。清子さんがその牛肉を『くれる』のではなく『見せてくれる』と勘違いしたらしく、優子と良子ちゃんを呼んで一緒に拝みだした。そこに桃が『普通に食べてほしくて持ってきた』と言ったら一家揃って『えっ、そうなの?』みたいな反応するという。

 

 そういや俺も最初は飯のお裾分けを『見せてくれるもの』と捉えられてたっけ。懐かしいなー。

 

 そしてここが俺個人の不安点。牛肉が渡されたことで、牛の召喚獣であるポーフがこれを見たらどうしよう……って思ったんだけど。

 

 

【同胞よ、死後も活用させてくれたのだな……生前はよく頑張ったな、お疲れ様……‼︎】

 

 

 あ、あれ? 嫌悪感とか哀愁感とかは一切出してない……? いや同じ(?)牛仲間が肉にされてるんだぞ? 牛肉見て普通堪えられるはずないと思うんだけど……

 

 あっ、そういやオードブル注文した時も朝焼が鳥なのに鶏肉を何の躊躇いもなく食ってたっけ。……召喚獣って、共食いも躊躇いなくやる感じなの? うぅん、分からんし複雑……

 

 

【マスター‼︎ 今日は隣人歓迎会としてこの牛肉を使って何か豪勢なものを作ってくれ‼︎ 同胞へのせめてもの手向けだ‼︎】

 

「その同胞は料理されることを望んでないと思うけどな……」

 

 

 ってなわけで、ポーフの発案により吉田家にて皆で一緒にすき焼きパーティーを開くことになりました。パチパチパチパチー。

 

 すき焼きか……一人暮らしする前は家族で三ヶ月に一度は必ず食ってたって感じだったな。一人暮らししてからは作る余裕とか無さそうだったから全然……だから四・五ヶ月ぶりに食えることになってワクワクしちゃう。

 

 あっ、ヤベッ。清子さんがヨシュアさんが封印されてるダンボールことお父さんBOXでネギを切ろうとしてる。頑丈かつ自動洗浄されるとはいえやめてあげて。中にお父さんがいるものを雑に扱わないで……桃の折り畳み机を使って……

 

 

【マスター。僕達召喚獣一同はすき焼きをより美味しく食べられるように、マスターの部屋の台所で副菜とかを作っておくメェ〜】

 

【この前マスターが作ったマリネもね〜】

 

「あっ、おう。何かあったら俺に知らせといてくれ。せっかくパーティーやるんだから問題を起こさないようにしたいから」

 

【【はーい】】

 

 

 召喚獣組は副菜を中心としたのを作るのか。まあご飯以外も用意した方がパーティーらしくなるし、見映えも良くなるからええな。

 

 

「ではこちらもすき焼きの用意をしましょうか」

 

「準備手伝います」

 

「あっ、私も……」

 

「俺もやりますね。役割あるかな……」

 

 

 早速俺達も俺達ですき焼きの準備することに。清子さんがネギ切ってくれて、優子は人参の皮剥き、桃は卵を割る役割になったから、俺はしめじと椎茸を拵えておくか。よかった、ちゃんと役割あって……

 

 

 デュモーン!!

 

 

 ファッ⁉︎ なんだ今の実際に出ることのない効果音は⁉︎

 

 

「シャミ子……白哉くん……卵割るの失敗した……」

 

「どういう理屈でそうなる⁉︎ 桃動揺してますか⁉︎」

 

「えっと……料理作ることに気合い入れすぎて、魔力が卵に入って逆に魔界とかにいそうな生命体でも生み出してしまったのか?」

 

「多分、そんな感じ……」

 

 

 あぁ……これはアレだな。何としてもすき焼き作りの手伝いを成功させようとしてSAN値が下がってしまったって感じだな。流石にこのまま続けさせるわけにもいかんし、ちょうど下準備ができたところだから三人揃って一度リビングに退却とさせていただきますか。

 

 と、ここで桃がスマホを通して今からミカンがここに来るよとお知らせ。さらにはミカンにも料理をさせる場合も注意してと頼み込んできた。彼女は古今東西全ての料理を柑橘類で酸っぱくしてしまう癖があるから、だそうだ。

 

 いやちょっと待て。料理全てに柑橘類投下って……塩ラーメンにレモンなら合いそうだけどな。魔法少女って、みんな料理スキルヤバイのか? 原作未登場の奈々さんは大丈夫、なのか……?

 

 しばらくしてミカンが登場。早速牛肉にレモンをかけようとしたので桃が制止。良子ちゃんと一緒に買い物に行かせました。ぶっちゃけすき焼きにレモンって合わなくね……? しかも生肉にかけていいものなのか……?

 

 

「優子、三人で食材を盛り付けてください」

 

「はいっ」

 

 

 またしばらくして盛りつけの時間になりました。これぐらいなら手順さえ間違えなければ何の問題もな───

 

 

「盛り付け……盛り付け……」

 

「なんでお前は戦闘しない場面でよく変身するんだよ⁉︎」

 

 

 そうなるとは分かってたけど、シュール過ぎて思わずツッコんじまったよ……

 

 

「卵は変な感じになったけど……盛り付けでは失礼したくないから……‼︎ どんな手を使ってもやり遂げる……‼︎」

 

「桃、落ち着いて‼︎ 食材が光ってる‼︎」

 

「一回置け‼︎ 椎茸がいかにも伝説の超椎茸になりかけてるぞ‼︎」

 

「伝説の超椎茸って何ですか⁉︎」

 

 

 今の輝きを見て即座に連想しました。

 

 で、どうしても良いすき焼きにしたくて緊張気味な桃に対し、ここで優子が肉の御礼にってなわけで桃の弱点を本人に伝えることに。

 

 桃の弱点、それは何でもかんでも一人でいい結果を残そうと頑張りすぎてるところ。根本的なところでもう少し人を信じなければ、いつしか悪知恵の働く悪人に付け入れられる……宿敵だからこそ、宿敵を重んじての忠告って感じか。

 

 しかし優子が見つけた宿敵の弱点を本人に教えてまでして気遣うだなんて……成長したな。こっちはホッとするよ。

 

 

 ズキッ

 

 

 ……またか。またこの痛みか。なんで優子が桃やミカンと仲良く絡んでただけで、俺の心臓ら辺が一瞬だけ痛くなるんだ? 微笑ましいところだってのに、なんで……?

 

 

「白兄? ボォッーと突っ立ってどうしたの?」

 

「ハッ⁉︎ ……いや、なんでもない。気のせいだったよ。心配かけてごめんね」

 

 

 いけないいけない、買い物から帰ってきた良子ちゃんに心配かけさせてしまった。このモヤモヤの事を考えるのはまた今度! 今は楽しいパーティーの準備中なんだ、水を差すような考え事はやめだ‼︎ さーて、次の作業に取り掛かるぞー‼︎

 

 

「……無自覚ってヤツかな? 本で読んだことある」

 

 

 

 

 

 

 そして夜。何事も無くすき焼きパーティーの準備は整った。召喚獣達が作った副菜であるたこと夏野菜のマリネにイカゲソのバター炒め、ゆで卵とブロッコリーとベーコンのガーリックマヨサラダ、鶏ごぼう炊き込みご飯なども揃えて華やかになっ……

 

 いや料理多くね? ぶっちゃけて言うと最悪すき焼きだけでよかったんだけどね? メェール君達、どんだけ張り切って作ったのさ?

 

 何はともあれ、準備できたので皆で乾杯。今日は無礼講で楽しむぞー‼︎ 俺、目上じゃないけど‼︎ すき焼きは……うん、美味い。めっちゃ美味い。父さんと母さんには申し訳ないけど、複数人で食べるすき焼きの方が一段と美味い。だってたくさん会話しながら食えるもん。楽しい。

 

 で……優子は案の定、すき焼きの一口目食った途端に頭の中がキャパオーバー。宇宙のめくれが発生。数秒硬直しました。俺が一人暮らしですき焼き作る余裕もなく、お裾分け出来なかったってのもあるからね。仕方ないね。

 

 もちろんメェール君達が作った料理の数々も皆に大好評。すき焼きに手を付けるスピードもさらに上昇していった。メェール君達、さてはすき焼きに合う料理をあらかじめ調べてたな? 用意周到良いってか?

 

 ハァッー、めっちゃ食った食った。どれぐらいの量を食ったのか全然数えてねーや。こんなに飯食ったのは初めてなのかもな。箸が止まらんかった。

 

 いっぱい食ったので、優子と桃と一緒に夜景を眺めて腹の中を落ち着かせる事に。なんだか、今日の夜景は一段と綺麗に感じる。

 

 

「まさか宿敵とも乾杯する日が来るとは……変な感じです」

 

「私も少し不思議な感じ」

 

「まあ二人とも同盟組んでるし、優子の頑張り次第で何れ桃は眷属になるから気にしなくていいと思うぞ」

 

「頑張り次第で何れって……その言い方だといくら時間が掛かってもなってくれなさそうに聞こえます……」

 

 

 うん、自分でも言っておいて思ったんだよ。他にも言葉があるじゃないのかって……マジゴメン。

 

 

「けどさ、逆にこう考えれば良いんじゃねぇか? 力になりたい人やなってあげたい人、そしてなってもらいたい人が近くにいるってことは、もしどちらかに悩み事ができたらすぐに話し合いできて解決に繋げやすいってさ。宿敵とか関係なくいい事だと思うぞ」

 

 

 物理的に距離が近いだけでも、相談からの解決に繋がりやすいとも個人的に思うんだよな。実際優子と桃が部屋の前で硬直してた時も俺の(半ば吹っ飛んで巻き込まれた形での)乱入でその硬直を解いたわけだし……な?

 

 

「力に……なってあげたい人……」

 

 

 ……えっ? ちょっ、えっ? 優子、なんで俺の方を見て顔を赤くしながら一部分だけ復唱してんの? あの、俺、別にお前を勘違いさせるような事を言ってなんかない……言ってなんかないよね?(不安)

 

 

「で、でしたらそ、その……白哉さんも私の隣の部屋にいるので、わ、私が白哉さんに……い、いろんなことを相談しに来てもいいってこと……ですか……?」

 

「えっ……」

 

 

 いや、ちょっと……えっ? いやあの、俺はただ桃が一人で悩み事を抱える必要が無くなったんだよって事を説明しただけなんだけど、なんで優子が俺に何か相談事があったらって前提なの? 俺、言葉が足りてなかったの?

 

 ……っていうか、おかしいな? なんというか、その……今ので何故か結構ドキドキしてしまうんだけど……それほど大したことないことを優子に言われただけなのに。あっ、上目遣い。きっとこれでドキドキしるんだと思う。多分。

 

 ってかヤバい。今の優子の上目遣いが可愛すぎてヤバい。目ェ合わせられねぇ……。と、とにかく先程の質問に答えよう。そうでもしないと優子はいつまでもじぃっと見つめてきそうだもん。可愛すぎて耐えられん……‼︎

 

 

「あ、あぁ。もちろんオッケーだぞ……あっ。ほ、ほらっ。本当は桃、お前にも言っているんだからな。お、お前も誰かに相談する癖を付けとけよ」

 

「えっ。あぁ、うん。なるべくそうしておくよ……というか二人とも、結局またイチャイチャな場面を私にを見せてくれるんだね」

 

「「違っ……話を逸らすな‼︎」」

 

 

 す、好きで見せてるわけじゃねーし‼︎ べ、別にイチャイチャするつもりなんてなかったし‼︎ ってかお前俺の言っていたこと分かってんのか⁉︎

 

 

「桃、貴方ってホント二人を弄るの好きよね……あっ、これ食べる? 余った牛肉で作った塩レモン焼き」

 

「……いただきます」

 

 

 ここでミカンが助け舟となって来てくれた。これでもう桃に優子と一緒に弄られなくて済むぜ、助かった……あっ、この塩レモン焼き美味い。俺が成人だったらチューハイ飲みながら食いたい気分だぜ。

 

 この後は桃が桜さんの事で謝罪したのをミカンはあっさりと許したり、三人で桃にもうちょっと分かりやすく自分を出してと言ったりして楽しいトークタイムを過ごしました。

 

 

【この状況、正に白哉ハーレムじゃね?(笑)】

 

『セイコよ、若者の会話はこそばゆいの……』

 

「私、ご先祖様や白龍様に比べたらまだまだ若手のつもりです」

 

【千歳越えと比較して自我を保つとか草www】

 

 

 この後、白龍様は清子さんによって梅酒風呂に浸かる羽目になったとは言うまでもない……これは煽った白龍様が悪い。哀れ。

 

 

 

 

 

 

 さてと、哀れと思ってしまったことを心の中でちゃんと謝ったところで、ヨシュアさんにもすき焼きや色んな料理をお供えしておくとしますか。けどさすがに多すぎるからすき焼き以外は全部小鉢サイズにして、と……

 

 

「……あら?」

 

「どうしたんですかミカンさん?」

 

「その箱……うちの実家の工場で使ってる箱とお揃いだわ」

 

 

 あっ、マジっすか(すっとぼけ)。ここに来て案の定の重要な原作設定回収が来ましたー。まぁ俺が原作知らなくても、ミカンが渡してきた挨拶の品とダンボールに書いてあるのを見たら、その言葉を聞いて大体察せるけど……

 

 

「今も私の部屋にいくつかあるわよ。引っ越しする時に持ってきたから。ほら」

 

「おとーさんがいっぱいだーーー‼︎」

 

 

 大量のお父さんBOXじゃない方のみかん箱ダンボールの登場。これよく考えてみたら、まるでヨシュアさんが分身されたみたいで怖く感じる……ん?

 

 

「ってかいつの間に全部ここに持ってきたのかよ⁉︎」

 

「なんか私の部屋にお邪魔しに来たメェール君達がここまで持ってきてたのよ」

 

 

 おま、メェール君いつの間に……というか勝手に人の者を他の人の部屋に持っていかないでくれませんかねぇ? めっちゃビックリしたんですが。

 

 

【だってヨシュアさんを封印したものがまさかの流通用のダンボールメェ〜よ? そんなシュールなものが二つ以上あったら触れたくなるメェ〜】

 

「どんな理由で持ってきたの……そもそもなんで姉はヨシュアさんをダンボールに封印したの……? 意味が分からない……」

 

 

 あ、そこはわかる。他に耐久性の強いヤツとかあると思うのに、何故よりによってダンボールに封印したのやら……よく分からん。

 

 

「まあまあ、今は楽しい歓迎会の場です。あとで考えましょ」

 

【お父さんBOXじゃない方の耐久性を試してもいいか⁉︎ 普通のダンボールよりも硬いか確かめたい‼︎】

 

「お母さんは落ち着きすぎです‼︎ 後ポーフ、だっけ⁉︎ 君まで何しようと考えてるの⁉︎」

 

【じゃあどっちがお父さんBOXかシャッフルクイズしてみたいメェ〜】

 

「ダメ‼︎ 間違えたら色々と大変なことになるから‼︎」

 

「え~。でも私、自信アリアリですよ~」

 

「だとしてもやめましょうお母さん‼︎」

 

 

 そして気がついた時には清子さんだけに飽き足らず、メェール君やポーフまでもがマイペースな感じに下手したら取り返しのつかないことをしようとして、それを桃が止めるという状況下が出来上がっていた。桃……ファイト。

 

 

「シャミ子も白哉くんも見てないでお母さんとメェール君達を止めて‼︎」

 

「「あっはい」」

 

 

 




おまけ:台本形式のほそく話

……は、今回はない‼︎ 今回のネタが思いつかなかった‼︎ そんな自分が許せるッ‼︎(ダーマ風)



白哉君、無自覚にもシャミ子と関わっている桃とミカンに嫉妬してるって部分が多々見えましたね。自分の気持ちにいい加減気づけ白哉君‼︎

今回の話で気になることとかあれば、感想のページにて気軽にコメントしていってください。小説執筆の励みになりますので!!

 


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えっ? 破壊されてた工場から謎のマジックアイテムがもう一つ出たんだけど?

白哉くんのとある設定を回収する回でもあるので初投稿です。

ん? バレンタイン特別編みたいなのは出さなかったのかって? ネタが思いつかなかったのと、まだその時ではないと判断した為でして……けど次のイベントっぽい日には何か挙げてく予定なので許して()

ちなみに今回の話はめっちゃ長めです‼︎ ご了承を‼︎


 

 どうもおはようございます、平地白哉です。昨日はこのばんだ荘に魔法少女が二人……桃とミカンが引っ越してきたってことでね、すき焼きパーティーをやってきました。すき焼き美味かったし、メェール君達召喚獣一同が作ってくれた御菜も美味かったし、優子が宇宙のめくれを見てる場面をまた見れたし(笑)

 

 で、パーティーが落ち着いた時にヨシュアさんことお父さんBOXにお供えしてたら、衝撃の事実が。なんとそのお父さんBOX、ミカンの実家の流通用のダンボールと同じであることが判明‼︎ つまりヨシュアさんはそのダンボールに封印されたってわけだ‼︎ まるで意味が分からんぞ‼︎

 

 で、メェール君がシャッフルクイズでお父さんBOXを当てれるかチャレンジしようとして───

 

 

【今度こそ第一回お父さんBOXシャッフルクイズ大会を始めるメ──】

 

「やらせねェよ‼︎ それやった後捨てる時に間違ってヨシュアさんを捨ててしまったら元も子もねェから‼︎」

 

【マスターはケチだメェ〜】

 

「ケチじゃねェよ‼︎」

 

 

 今日こそはとお父さんBOXを大量のダンボールの中に混ぜようとしました。昨日は桃に頼まれた感じに優子と一緒に『どうどう』と止める程度だったけど、今日はさすがに全力で阻止しなければいけなくなった。何故かって?

 

 

【というかマスター、昨日とは違って必死に止めてくるメェ〜な?】

 

「ダンボールを余計に十個も増やしてきたらそりゃ焦るわ‼︎ どっから仕入れてきた⁉︎」

 

 

 この野郎、ミカンが引っ越しの為に使ったヤツよりも数を増やしやがったんだよ‼︎ 絶対どこかでお父さんBOXと普通のダンボールを間違えてしまうわこんなん‼︎

 

 

【近所の人達からもらってきたメェ〜。どうしてもシャッフルクイズしたかったから】

 

「いつの間に⁉︎ ってかクイズするのにこんなにいらなくね⁉︎ せめて二・三個に増やす程度にして⁉︎」

 

 

 あぁもう‼︎ どうしてメェール君はお父さんBOXとダンボールでシャッフルクイズしたがるのかな⁉︎ もういっそのこと、お父さんBOX以外のダンボールを全て分解して……

 

 いや、まだそう結論づけるにはまだ早いな。だってミカンの実家のものだし、本人が目の前にいるし、なんか気が引ける。……ってか。

 

 

「三人とも見てねェで助けろよ‼︎ 今の俺、昨日の桃みたいになってるんだぞ⁉︎」

 

「えっ? あっ、いえ、私達も最初はそうしようと思ってましたけど……」

 

「元は白哉くんが召喚した子達だから、白哉くんの意思で精神世界に戻してあげることもできるんじゃないかなって」

 

「それを召喚師である貴方なら気づいてやるのかと思ったのだけど……今無理そうかしら?」

 

「………………あっ」

 

 

 そうだった。元は俺の転生特典によって自由に呼んだり帰してあげたりできるんだった。しかも持ってる魔力の量とか関係なく。なんでこうも大事なことを忘れてしまうんかねェ?

 

 後、この召喚術には現代みたいに精神世界と現実世界を繋ぐゲートみたいなものを塞ぐ術もあるんだった。えっ? そんなのあるだなんて聞いてないって? HAHAHA、それもそうだな。俺もそれがあることを忘れてたからな。

 

 

「それができるんだったら最初からやるんだった、失敗失敗。じゃあ早速戻してあげて、大量のダンボールの処置が終わるまでしばらくゲートを塞──」

 

【調子に乗ってごめんなさいメェ〜……】

 

 

 即土下座。だが可愛い。土下座のポーズが可愛い。二頭身かつ短い手足で土下座だなんて、プリケツを上にしながら普通に四つん這いしてるようなものじゃん。可愛い。

 

 よし、許そう‼︎(オイ)

 

 

「よし、許そう」

 

「なんか如何にも言ってる事と心の声が一致してるような顔を浮かべてるわね……」

 

「いや俺どんな顔してたのさ?」

 

「しかも無自覚という」

 

 

 ちょっと待って。なんかこの魔法少女達、俺を変な方面で叩き潰そうとしてませんかね? 今の俺が一体何をしていたというのさ?

 

 

「えっと……白哉さんって、召喚獣の子達には甘い感じなんですね……ちょっと羨ましいというか妬ましいです

 

「優子は一体どんなフォローの仕方してくれてるの?」

 

 

 

 

 

 

 何やら変な疑問を感じながらも、本題のダンボールの件についてミカンに聞くことに。

 

 どうやらこのダンボールはこの町の外れのミカンの旧実家の廃工場のものとして使われているらしい。それにヨシュアさんが封印されているため、その時の状況──父さんを苦しませたという怨霊と共に封印された時の状況のヒントが廃工場にあるのではないか……そう捉えられ、現場に行って調べることに。

 

 その廃工場は桜さんが大破させてしまい、ミカンの両親から買い取り所有物にしたものだという。その鍵を桃が持っているため、桃はそれを取りに行き、残った俺達三人はその廃工場に向かうことに。

 

 そこはなんと、俺と優子が桃の修行に初めて付き合わされていた時に来たところだった‼︎ 優子はそこをトラウマ製造工場と捉えていたが、実際は素敵なお菓子をいっぱい作ってたところだったらしい。……素敵なお菓子と言っても、どうせ柑橘系ばかりじゃね?

 

 待ってる間はミカンに何故旧実家の工場が破壊されたのかを問いかけることにした。

 

 ミカンの話によると、昔この工場の経営が傾き追い詰められており、それを何とかしようとしてミカンの父親が手を出してはいけない悪魔召喚の儀式に手を出したらしい。

 

 あっ。ちなみにここら辺で優子がワクワクする単語が出たとかどうかで結構ミカンにグイグイと話を進めようとしてます。まあ最近非日常的なことが起きてるので、それがまた起きるのを期待してしまうようになったっぽいなこれ。

 

 ……でも、何だろうな。ただただ優子がミカンに昔工場で何があったのかを聞き詰めてるだけなのに、心がモヤッとしてしまうんだが……今までは似た光景を見てもそんな事思わなかったってのに……

 

 あっ、気がついたら話が続いていってる。

 

 ミカンの父親の望みは工場と家族を守ること。見よう見まねの作法と裏道の触媒で悪魔を呼び出したのだが、近道で叶う望みなど所詮紛い物。悪魔は大きな望みを楽して叶えようとしていたところに漬け込み超解釈して、一人っ子のミカンを困らせたものを無制限に破壊する呪いを掛けてしまった……いや聞き入れた言葉の意味をもっと理解する意欲を持てや悪魔さんよォ‼︎

 

 さらに悪魔はミカンの心に勝手に間借りし、壊したもののエネルギーを吸いながら成長していった。そのせいもあってミカンは自分の母親をも自身の意思に関係なく傷つけてしまい、引き篭もってしまったとか……それでミカンの両親は桜さんに相談し、それによってミカンはその時初めて桃に会ったようだ。

 

 

「小さかった頃の桃って、どんな感じだったんですか?」

 

「一言で言うならあの頃の桃は大天使

 

「天使の桃‼︎」

 

 

 うおっ⁉︎ ビックリした‼︎ 声がめっちゃデカいから結構耳に響くなオイ‼︎ なんかやまびこみたいな感じだったんだけど、東○プロ○○クトの響○かよ……

 

 

「優子、お前さらにめっちゃ食い付いていくな……ん? 魔法少女なのに天使? 桃って天使の魔族から魔法少女に一度転生したのか?」

 

「ただの言葉の綾だから。そもそも天使の魔族とか魔法少女になった魔族とかって聞いたことないわよ……」

 

 

 あっ、さいですか……

 

 

「で、聞きたい? 聞きたい?」

 

「ちょー聞きたいです‼︎ 鬼桃が来る前に早く話して‼︎」

 

「そうよね、私も話したい‼︎」

 

 

 あーらら。本人が自分の事を語らないせいもあってか、優子とミカンが桃の話のするとなってめっちゃ喜んでいるな。キャッキャウフフウフキャッウフっていう実際に言いそうにない言葉を実際に言う程だし──

 

 

 ズキズキズキッ

 

 

 痛っ⁉︎ めっちゃ心臓が痛ぇ⁉︎ 最近心臓が一瞬だけ痛くなる瞬間がよくあるんだけど、この瞬間が一番強すぎるだろ⁉︎ な、なんでだ? なんで最近、優子が桃やミカンと仲良く関わる光景を見たり話を聞いたりするだけで心臓が痛くなるんだ……? うーん、分からん……

 

 

「あ、あの……? 白哉さん、急に苦しそうな笑顔になってますけど、大丈夫ですか……?」

 

「……へっ? 俺、そんな顔してたか?」

 

 

 っていうか俺、なんでそんな無理強いしてるような表情を表に出してんだ? 自分でもどんな感じなのか分からない感情を持つようになると無自覚にも心配されるような顔になってしうんだ? 俺、一体どうしたってんだ?

 

 ……いや、今はそんなことを考えるはよそう。今回も一瞬だったからもう心臓の痛いのは治ったし、何より幼少期の頃の桃とミカンの出会いを聞き終わる前に桃が来ちまうし。

 

 

「別に大したこと考えてないから、気にしないでくれ……。それとミカン、あのプライバシー硬めの魔法少女が来る前に早く過去エピソードを聞かせてくれ」

 

「えっ? あ、あぁそうね。あれは十年前──」

 

 

 

 

 

 

 初めて見ました、白哉さんが無理強いして笑っているような顔をしたのは。それも私とミカンさんが小さい頃の桃の事についてお話しようって時に、突然。それも無自覚な感じに。白哉さん、どうしてそんな顔をするんですか……?

 

 あっ。よく考えてみたら、白哉さんが無理強いしてるような笑顔をしたのは今回が初めてじゃないんだった。

 

 思い返してみれば、一昨昨日に私が桃と決闘ではなく商店街を回ることになったって話をした時も。一昨日に私とミカンさんがお隣さんになった事ではしゃいでいた時もチラリと。そして昨日だって、私と桃が隣同士ですき焼きを盛り付けしてる時もチラリと。

 

 ……ん? アレ? なんだかおかしい。白哉さんが無理強いしてるような笑顔になった瞬間って、どれも私が桃やミカン絡みになった時だ。それも仲良さげな感じになっていた……いや、桃絡みの時の私は仲良さげな感じになってました? 桃の前で意地を張っていたり、桃の話をしてる時には愚痴を零したりとかしてる感じだと思いますが……

 

 私が桃と絡んだり、ミカンさんと和気藹々していたりしていた時に、白哉さんがあの表情。もしかして、白哉さん……

 

 "嫉妬"……しているんですか? 桃とミカンさんに。

 

 よくよく考えていたら、白哉さんがあの無理強いな笑顔してる時、何やら私の顔を見て寂しげな感じの眼差しを向けてた気がする。それと私がミカンさんと話していた時だって、何かを願っているか、羨ましく見てるのような眼差しも向けていた感じがしたから……

 

 寂しげに私を見てる……桃とミカンさんには羨望の眼差しを向けてる……

 

 ………………白哉さん、もしかして私の事が……

 

 ハッ⁉︎ い、いやいやいやいやいやいや‼︎ そ、そんなことはないですよね⁉︎ びゃ、白哉さんが最近見せてる表情や目が私的に偶々そう見えてるだけですよね⁉︎ 白哉さんだって無自覚にその表情を出してるわけですし⁉︎ い、いくら好きになってほしいからって変な期待はダメですよね⁉︎ ねっ⁉︎

 

 ………………でも、もしも私の考えている事が無自覚にも本当だったとしたら?

 

 もし白哉さんが無自覚にも私に好意を持っていたとしたら、数年間も持っていた彼への好意が完全に報われるってことですかね……?

 

 もしそうならば、私は白哉さんに対する想いを遠慮しなくていいってことですよね? 躊躇いのない手繋ぎとか、ハグとかキスとか、最終的には……

 

 ってあああああああああっ‼︎ 白哉さんの想いに対する予想が確定したわけじゃないってのに、またまた愛が重くなってしまったァァァッ‼︎ なんか久しぶりにそうなったって気がするけど、そんなことは別に関係ない‼︎ 予想が確定したとしても私自身がヤバくなってしまったら元も子もないじゃないですか‼︎ やっぱり今は色々とダメじゃないですかしっかりしろ私ィィィッ‼︎

 

 ……ハァ、ハァ……と、とりあえず落ち着きましょう私。今はミカンさんに桃との出会いについて聞く必要があるのですから、そっちの方に集中せねば……‼︎

 

 ……でも、私のこの予想は当たってるといいな……

 

 って⁉ あ、危ない。ま、また愛が重くなるところでした。この感情になるのは久しぶりだったから、歯止めが効かなくならないように用心しなければ……‼

 

 

 

 

 

 

 ミカンの話を聞くに、彼女が桃──というか優子曰く子桃と初めて出会ったのは十年前の事。

 

 幼少期のミカン──子ミカンはその時呪いで他人を巻き込まないようにと引き篭もる為に入った倉庫に鍵を掛けたのだが、桜さんによって派遣されて来た子桃がそれを力技で破壊して入ってきたのが初邂逅となったらしい。

 

 いや力技使って施錠を壊すなよ、施錠の意味が無くなっちまう。アバカムを物理的に用いたのか? 力技は魔法じゃないけどさ……ってか小一・小二の年齢で施錠壊せるとかどんだけェ……筋肉幼女ってレベルじゃねェぞ……

 

 何の恐れもなく寄り添おうとしてくる子桃に対し、子ミカンは巻き込みたくない一心で近寄らないでと必死になったものの、それが災いし病院送りレベルのエグい呪いを子桃にぶつけてしまう。それも今のレベルの呪いとは比べ物にならない程の。

 

 が、やはり魔法少女でもあってか子桃は実質ノーダメ。子ミカンの呪いにも動じなかったそう。

 

 そして子桃は子ミカンに『呪いを受けても倒れないから大丈夫』と言い、さらにはこの言葉も掛けてあげた。

 

 

 

 ───泣いてもいいから、独りぼっちにならないで。

 

 

 

 ……原作でも知ってたとはいえ、改めて聞いたらなんだこれ。大天使を通り越して聖母神か何かですか? 子桃ってエグいレベルの呪いに耐えられて、しかもイケメンレベルの救済発言で子ミカンを元気づけるとか、やっぱり神やん。めっちゃ良い神やん。性別逆転してたら惚れた気がするわ。

 

 

「桜さんの尽力で私の中の悪魔は『沈静化された』。その代わり工場は壊れちゃって、この町から引っ越したの。でも……桃があの時言ってくれたことは、ずっと忘れない」

 

「そんなことがあったんですね。すっごく素敵な思い出です……‼︎」

 

「だな。桃は昔から他人に寄り添おうとする精神を持っていたなんて、普通の人ならそんなものを持てる余裕なんてないはずなのに……今でもそうだけど、やっぱりスゲェなあいつは。改めて賞賛しちゃうぜ」

 

 

 俺なんか数年前までは優子とは友達感覚で軽く関わってきたのに、彼女がヤンデレだと知った時には前よりは遠慮がちになってしまったんだ。それに比べて桃は『誰かの為に何かしてあげる』という意思を変えずに今まで生きてきたって感じを出してた。それを改めて知ると、正直羨ましくなるよホントに。

 

 

「他に桃の天使エピソードはありますか⁉︎」

 

「そうね〜……」

 

 

 ……念のため周囲を見渡してみたけど、今のところ桃はまだここに来てないな。これはアレか? ほんのちょっとした原作改変によって、桃が鍵取りに行って戻ってくるまでの時間が掛かるようになったのか? これは子桃の変身時の話が聞けたりして?

 

 

 

「……あっ。そういえば桃、今でもそうだけど実はあの頃から恋する乙女だったわね」

 

 

 

「「………………えっ?」」

 

 

 はっ? 今なんて? 桃が子桃の頃から恋する乙女? どういう事? 初耳なんだけど。原作ではそんな設定なかったよね? まさか俺が介入したせいで桃をそういう設定にしたオリ男まで生まれたというの? 可能性からしたらそれはあり得るかもしれないけどさ……

 

 まぁよく考えてみれば、もし桃が本当に恋する乙女だとしたら、今まで俺や優子に恋愛関連で弄ってきたのも分からなくもないかもしれないけどな。

 

 

「それを私が知ったのも十年前に引っ越す前の時で、その事を聞かれた時の桃の顔が結構乙女な顔を見せてくれていたのよ。その時のアワアワとしていた桃の照れ顔が頭から離れられなくて……」

 

「恋する子桃のアワアワとした照れ顔……見てみたかったです‼︎ その頃の桃は一体誰に恋してたんですか⁉︎」

 

「俺もめっちゃ気になる。桃が恋してる相手の名前を聞けばまたその顔をするのではないかと思うと、どうしても知りたくなる。だから教えてくれ」

 

 

 それにその事について桃に話題を吹っかけて困らせておけば、彼女のお節介などに対する鬱憤が晴らせるしな。だからほら、早く名前教えてカモンカモン。

 

 

「そうね……桃が惚れてる相手の名前ってのは、確か──ガフッ」

 

「そこまで」

 

「鬼桃が来た‼︎」

 

 

 うおわおっ、ここで桃のお帰りかよ。なんていうタイミングで戻ってきてしまったんですかねアンタは。しかもいかにもこれ以上は喋らせんと言ってる感じにミカンの口を押さえながらヘッドロックみたいなのをかまして……相手がミカンみたいな魔法少女じゃなかったら最悪気絶しかねんかったぞ? それ。

 

 ……ん? アレ? なんか桃の顔、真っ赤になってない?

 

 あっ(察し)。……ははぁ〜ん? さてはお前、自分の恋愛談を俺と優子に聞かれたくなかったのかなぁ〜? 俺と優子を恋愛方面でおちょくってた癖に、自分にはその抗力がないってのかぁ?

 

 いや、心の中でとはいえこれ以上煽るのはよそう。俺も優子も恋愛の事を聞かれて動揺したりしてたし、人の事言える義理じゃねェよな。マジで。

 

 ……とりあえず、俺達が桃が実は恋愛しているorした経験があるってのを聞いてしまったのは事実だから、何かしらのフォローはしておいた方がいいな。

 

 

「な、何……? 私が恋してるのがそんなに珍しいの?」

 

「あー、別にそういうわけじゃないんだけどな……桃。そうやって誰かに言ってほしくないって気持ち、俺にも分かるぞ。人は誰しも恋愛の事について聞かれたり、『自分は恋してるんだ』だなんて知ってしまったら、どんな反応をすればいいのかとか分からなくなるもんな。俺も優子も、実際お前にその事で弄られて困惑してたもんだし」

 

「ウッ………………本当は一ミリも私の恋愛模様とか知られたくなかったんだけど……」

 

「けど優子が言ってただろ? 『困ってる事とかあれば一人で悩むな』みたいなことを。お前が惚れた男ってのは一体どんな奴なのか、そいつが桃に何をしてくれたのかなどは知らん。けど、その事でもいいからいつでも俺達に恋の相談しなよ。まだ想いを寄せてるってんなら進展するように俺達もフォローするし、上手くいったら素直に喜べるようにも善処するし、もしもダメだったらダメだったなりに吹っ切れるようになる感じも作りたいからさ」

 

「………………う、うん。善処する」

 

 

 遠慮してる感は出てるけど、『結構です』みたいな感じではないようだな。まぁ優子の事をどう思ってるのかまだ分かってないヘンテコ野郎な俺が、あんなこと言うのはどうなんだとは自分でも思ってるけど、少しは桃も心がさらに開いたんじゃないかな?

 

 

「……恋の相談、か……なら私も、桃……は気が引けるからミカンさんに……」

 

「ん? 優子、今なんか言ったか?」

 

「えっ⁉︎ あっ、いえ……なんでもないです‼︎ 特に大したことじゃないので‼︎」

 

「そ、そうか……?」

 

 

 な、なんだってんだ? 何やら意を決したような表情が一瞬見えてたし、俺が問いかけた途端に目が泳いでいたし……優子の奴、何か隠してるのか? 気になって仕方ないんだけど……

 

 いつ地雷を仕掛けるのかも分からない子だからな。これ以上問いかけて刺激するのはよくないから、ここら辺でもう質問しないでおこう。質問攻めしちゃうと、なんか聞いたらお互いに後悔してしまう可能性があるから……

 

 

「………………白哉さんに罪悪感なく振り向いてもらえるよう、私もミカンさんに相談受けてもらいながらも頑張らなければ……‼︎」

 

 

 

 

 

 

 桃が昔惚れてたという男が誰なのか、そしてそいつは桃とどういった関わりを持っているのか……などといった話は置いといて。桃が倉庫の鍵を持ってきてくれたので、そいつで倉庫の鍵を開けてもらうことになった。

 

 そういえば修行をやらされる羽目になってここに来た時も鍵を使ってたな。しかも自宅に持っていって、鞄に鍵をしまっていた感じか。確かそんな感じに俺と優子を倉庫の外側に入れてくれたっけ。そんな感じだったと思う。

 

 

「あの倉庫は私にとって思い出の場所なのよ。つらかったことも嬉しかったことも、あの倉庫に詰まってる。懐かしいわ………………って」

 

「どうしたミカン? 倉庫がめっちゃ錆びて外見がガラリと変わってしまったか?」

 

「………………か、変わったどころか……壊れてる〜〜〜⁉︎」

 

 

 そう、言葉通り倉庫は壊れてます。それも建てられてた時の土地の凹みを残し、ほぼというか全壊レベルで。俺と優子が修行で連れてかれた時もそんな感じでした。本当です‼︎ 信じてください‼︎

 

 ってアーララ、旧実家の崩壊にミカンが冷静でいられるはずもなく、呪いが発動して桃のところにゲリラ雨だったり背中に鳥が垂直に刺さったりと散々じゃんけ。

 

 

「なんで私の思い出が消し飛んでるのよ‼︎」

 

「……姉がミカンの悪魔を抑える時に工場を壊したって聞いたよ」

 

「私の事件で壊れたのは工場の機関部とインフラ‼︎ この倉庫は大して壊れてなかった‼︎ 引っ越す前に目に焼き付けたんだから‼︎ 私そこは忘れないわよ‼︎」

 

 

 おいおい、桃とミカンの証言が矛盾してるじゃねェか。二人とも嘘を言ってるような顔や目をしてないから、もし俺が原作を知ってなかったらどっちが本当の事を言ってるんだって分からなくなって迷ってたわこりゃ。

 

 

「じゃあなんで戻ってきた時にはこの始末☆な感じになるんだよ? お前引っ越す前か後になんかおかしな事されたって覚えあるか?」

 

「この始末って言う時のトーンおかしくないかしら? ……ってか、その言い方だと私、記憶を改竄された可能性があるってこと? ん……? 私、引っ越しの時に何かされたのかしら……?」

 

「……あっ。ピンク飯を食べた影響で記憶が改竄されたのではないでしょうか?」

 

「そこで私のご飯の話はやめて?」

 

 

 いや言わせてやれやい。アンタ自分の料理にどんな怪奇現象を起こしてきたのか分かってんのか? その絡繰を自分でも理解できん奴がその事で噂されても文句言うな。

 

 ん……? いや待てよ?

 

 

「話変わるけどさ、見た目はそのままに味だけ上達できたとしたら、どっかのカフェとかでピンク飯のコラボとかやったらSNSでバズったりとかするんじゃないか?」

 

「あっ、見た目のギャップで人気を上げる算段ですか‼︎ そういうのやってみたいですね‼︎」

 

「何れは『場内全てがピンク! ピンク飯フェス』みたいなあっても面白そうね‼︎」

 

「やりません。というかそれナチュラルに私の料理をディスってることにならない? 話を工場の件に戻して」

 

 

 えっ? ディスってる? 桃の料理の腕前が上達した前提で言ってるのに? 別に俺達悪意があってこんな話題出してるわけじゃないんだけどな……偏見的に聞かれたらそう思われるのか。気をつけよ。

 

 つーかはよ情報の整理を始めんとあかんわ。これ以上倉庫の件と関係ないことで話をして時間かけるわけにはいかない。のんびりしてたら気がついた時に夕日が落ちて情報収集する時間が削がれてしまうもん。

 

 と、ここで優子が倉庫の壁だったものが桜の花びら状にくり抜かれていることに気が付いた。桜の花びら状……もしや。

 

 

「あっ。この痕跡は……桜さんの大技、サクラメントキャノン……‼︎」

 

「ワクワクする単語出てきた‼︎」

 

 

 やっぱりな♂ 桜さんの名前からしてあのくり抜かれた形で大抵予想ついてたもん。そうだとは思ってた。

 

 サクラメントキャノンは桜の花びら状のプリズムが散る時の花びらと同じようにと舞い、その後景色がピンクになって極太レーザーが放たれる……らしい。

 

 なるほど、分からん。エフェクトを口頭で言われましてもねェ……

 

 

「この工場は姉によって二度壊された……一度目はミカンを助ける時。二度目は多分……失踪直前にヨシュアさんと共闘した時」

 

「つまり……これは桜さんの失踪直前の痕跡……」

 

「……ここら辺で何か手掛かりとなるものを探してみようぜ。意外なもの・意外なところからすっごい情報とか得られそうだからな」

 

 

 俺がそう勝手に仕切り始めちゃったところで、早速倉庫周辺の調査開始。瓦礫や岩の裏とかを探りながら、桜さんのコアがどこにあるのかを探し当てるってイベントに突入したってわけだ。

 

 ………………まぁ、原作を知っている俺はそのコアがどこにあるのかをきちんと把握してはいるが、今この場で言うことはできない。その証拠となるものがないし、何より……

 

 いや、この話題はよそう。今は桜さんとヨシュアさんが共闘中に何をしていたのかをできる限り調べることに優先だ。それが今すべきことだからな。

 

 

【マスター。白龍様が話したいことがあるって言ってたメェ〜】

 

 

 ファッ⁉︎ 家で家事やってたはずのメェール君の声が、直接脳内に……⁉︎

 

 あっ、そっか。召喚獣達にはテレパシー能力があって、通話器具なしに俺の脳内に声を届けられるんだっけ。すっかり忘れてたわ。思い出すのも、誰に説明してるのかも分からない人達に教えるのも。

 

 で、白龍様は今はまだ俺の夢の中でしか声を発せないんだったっけ。なんでそんな設定なんだという疑問はさておき、なんと面倒臭い状況に至ってるのやら。

 

 

 

【マスター。どうやらマスターがいる場所には、シャミ子ちゃんが見つけるであろうあのマジックアイテムの他に、もう一つそれと同格みたいなものが埋まってるって情報が入ったメェ〜】

 

 

 

 ………………えっ? マジックアイテムがもう一個? 嘘でしょ? 物語の重要なカギとなるあの強力な武器と同格のヤツが、もう一個ある? 何それ、俺聞いてないんだけど……

 

 

【白龍様ならその魔力の発源地を調べることができるけど、デフォルメの姿だと穴掘りは難しそうな手と体力だし、本来の姿だと余計なものまで掘り起こしたり目当てのものを壊しかねそう、らしいメェ〜】

 

 

 穴掘りで発掘する前提かよ。モグラかアンタは。でも、それで探すしかないとなると確かにデフォルメでも本来の姿でも難しいだろうけどさ。

 

 それに、もう一つのマジックアイテムってのがどんなものなのか気になるし、それが優子達の役に立ってくれるってんならまた嬉しいし。

 

 

【だから──】

 

「……わかった。変なことをしそうになったらすぐに元に戻すからな。それと、その間に俺が白龍様の様子を伺える環境も作ってほしい。白龍様がそれでもいいってんなら、いいぞ」

 

【だそうですけど、白龍様は───了解だメェ〜。マスター、了承してくれたメェ〜よ】

 

「よし、それじゃあ……

 

 

 

 ()お貸しします(・・・・・・)

 

 

 

 白龍様の了承を承ったことを確認し、そう呟いた瞬間……

 

 

 

***********************

 

 

 気づいた時には、俺は何故か先程までいた破壊された工場が映し出されていた映画スクリーンみたいなものの前で、ソファに座っていた。

 

 えっ、何これ? ここどこ? なんで俺、席がソファとなってる映画館みたいなところにいるんだ? いやホント、マジでここがどこなのか分からんか怖いんですけど……そんな事を考えながら、ふとスクリーンを観ると……

 

 

 

 そこに映っていたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()。だが今この場にいる俺と違うところは、銀髪の部分がいつもよりもギンギラとした輝き(目に優しくはあるけど)を放っており、瞳の色もよく見ればエメラルドグリーンの如く輝いていた。

 

 

 

 あぁ……なるほど。つまりここで()が物語の支障になり得ることをしないかどうか監視しろってことか。

 

 ん? 急に冷静になったけどどうした、だって? 俺が何故ここにいるのか、何故スクリーンに髪の輝きと瞳の色が変わった俺が廃工場にいる場面が映ってるのか、それらを既に把握したからだ。

 

 実はこんな状況になった理由が、全て俺が神様から授けられたもう一つの転生特典を使用したことによるからだ。

 

 

 

 俺が神様から授けられた転生特典─それは『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という、俺が完全に主導権となる二重人格的な能力だ。

 

 

 

 一度白龍様からの説明を聞いたものではあるけど、何かしら誤魔化したり強者の雰囲気を少しでも出したいって時などに使えるらしい。一時的に白龍様に体を貸して、一通り済んだら返してもらうって事も安易に可能となる。

 

 ちなみに白龍様が無理矢理俺の体の所有権を奪い取る事は不可能とのこと。けど本当はいつ取られてもおかしくはないのでは? と今感じたのは俺の気のせい? 怖っ……

 

 というか……桃がドデカサイズ込みの瓦礫を退かし、優子とミカンがそれを見て引いてるって時に、それらを無視して白龍様は俺の身体を使って何してるんだ? 邪魔にならないようにしてることは確かなんだけどさ……

 

 ん? なんか穴を掘り始めた……ファッ⁉︎ なっ、なんじゃこりゃあ⁉︎

 

 

 

 なんか某ロン○ミアン○みたいに金や青の縁で覆われた銀色の円錐状の槍が、倉庫の近くの土から掘り起こされたぞ⁉︎ いやマジで何これ⁉︎

 

 つーか白龍様、発見した瞬間に写真をパシャリするのやめてくれません? まだ本物のマジックアイテムなのかも分からないのに何呑気に写真撮ってんですか。緊張感とかないのかアンタは。

 

 

 

 ……って、アレ? 白龍様が手に取った瞬間、槍が突然キーホルダーに早変わりしたんだけど……? 『あのアイテム』と同じように、魔力が足りないからとかそういった理由で、本来の姿からかけ離れた感じになるのか? うーむ……分からん。

 

 

【おーい。白哉ー。聞こえるかー?】

 

 

 こ、このだらけきった声は白龍様⁉︎ こいつ……直接脳内に⁉︎ あ、ヤベッ。前世で覚えたミームネタが頭の中に思い浮かんできたからつい……白龍様に『こいつ』はないやろ身分的に。

 

 

【別にタメ口でも問題ないぞー】

 

 

 あっ。そういや白龍様はリリスさんが優子の脳内を読み取れるように、彼も俺の脳内を読み取れるんだった。脳内で何か考える時も言葉を慎んだりしておかないとな……

 

 

【そんなことよりも報告だ報告。お前のスクリーン越しで見てるだろうけど、戦闘の時のみ本来の姿を取り戻す系の槍を拾ってきたぞー】

 

 

 あっ、あの槍ってそういう系の武器なんだ……『あのアイテム』みたいに持ち主の魔力に比例して形状が変わるとか、そういった系ではなかったのね……

 

 っていうか、どうしてそんなものが工場の土の中に? そもそも誰が埋めたんだろう? コメディとミステリアスが混ざったまちカドの世界だからか、どうしても気になってしまうんですけど……

 

 

【そこは知らん。お前から得た知識しか原作の事を知ってないのだから、イレギュラーの事なんて分かるわけないだろ】

 

 

 えっ。じゃあなんでその槍が戦闘時に本来の力を取り戻すヤツだって分かったんですか?

 

 

【そういう系の武器は内臓されてる魔力が複雑な脈絡となってるからな、その脈絡がどんな感じになってるのかを察知すれば、どういう風に物が変化するのかとかが分かるものが多いんだ。この槍はそれに値してる】

 

 

 ………………あぁそういうことね、完全に理解した(わかってない)。

 

 というか魔力の脈絡って何? 種類みたいなものがあるの魔力って? つーか脈絡ってどうやって察知や判断するのさ? 更なる謎を作るのやめてくれませんかね?

 

 

【まぁ脈絡を持ってるものなんて滅多にない感じだからあまり気にするな。んじゃ、俺は精神世界に戻ってこの槍の事を調べておくからお前はシャミ子達のところに戻ってくれ。ちょうどシャミ子が武器を見つけたから】

 

「えっ、ちょっと待ってくだ───」

 

 

 

***********************

 

 

 ───ハッ⁉︎ こ、ここは……⁉︎ いつの間に白龍様が立っていたところに、俺が立っているんだ……⁉︎

 

 ……あぁなるほど、白龍様が俺に身体を返すのは白龍様の意思でも可能ってわけか。けどなぁ、いきなり返してもらうってのは状況次第では不便な設定になりかねないぞマジで……

 

 

「……にしても、まさか俺が武器を持つことになるなんてな」

 

 

 そう言って俺は右手に握られていた、白龍様が掘り起こした槍から変化したキーホルダーを見つめた。それは青と金色の縁からキラキラと輝く光沢を放っており、このサイズでも周囲を明るく照らしてくれるのではないかと考えてしまう。

 

 まぁ、白龍様が持つ前はちゃんとした(?)サイズの槍だったんだし? めっちゃカッコよかったんだし? シンプルにめっちゃ強そうなデザインしてたし? 絶対戦う時にめっちゃすごい力を発揮してくれるよね? そんな機会はしばらく来ないかもしれないけど。

 

 ……けど、戦闘時じゃない時はこのようにキーホルダーになるんだな。つーか戦闘時になったって時はどうやって元のサイズに戻せばいいのさ? あと、戦闘が終わったらどうやってまたキーホルダーに戻せばいいのさ? そのやり方がまだ分からないのは不便じゃね? マジで。

 

 

「白哉くん、そろそろ帰るよ。シャミ子がなんかのステッキを見つけたみたいだから」

 

「信じてないような感じに言うなー‼︎ 本当にさっきまでは普通にキュートな形状のだったんです‼︎」

 

「今行く……ってか桃、俺の母親みたいに呼びかけるのやめろ。それと優子も落ち着け」

 

 

 桃に呼び出されたことだし、槍の件は後で考えることにしようか。ちょうど優子が例のステッキを見つけたから、そこにみんなを集中させたいし。

 

 ……にしても、なんでこの工場に例のステッキみたいに、非戦闘時にキーホルダーになる槍が埋められてたんだ? 普通に見つからなかっただけなのかもしれないとはいえ、原作ではそんなものなかったのに……うぅむ、さらに謎が謎を呼んでしまってるな。勘弁してくれよ……

 

 

 

 

 

 

 ばんだ荘に戻った俺達は優子が掘り起こしたというステッキ──だったというフォークについて話し合うことに。それも吉田家にて。町の移住歴の長い清子さんならそのフォークを知っているのかもしれない、という桃の推理によるものらしい。

 

 無論というべきなのか、清子さんはそのフォークの正体をは知っていた。原作知識持ちの俺は絶対そうだろうなとは思ってたけど。

 

 

「それは恐らくお父さんの持ち物。由緒正しきメイドインメソポタミアの………………えーっと、なんとかの杖

 

「おかーさんど忘れですか⁉︎」

 

 

 えぇ……? 杖のデザインがどんな感じだったのかとか、どこ製のものなのかとかは分かるのに、何故名前の方は全く覚えてないんですか。吉田家の家宝でもあるでしょうが……

 

 清子さんがヨシュアさんから聞いた話によると、一族の魔力を掛け算的に増幅し、棒状の物なら自由に変形できるすっごく便利な杖だそう。だが名前は印象の薄い横文字ネームだった為、リリスさんでも『ア』から始まるってことしか覚えてない模様。

 

 ちなみに優子が握って変形したのは、その杖が周辺の価値観の影響を受けやすく、魔族が握って久々に活性化された時に優子の武器観の一番上の引き出しであるフォークに変形したようだ。映像とかを観た知識を記憶して武器観を鍛えれば変形できるのだが……

 

 うーん、俺は正直フォークのままでいいのかもしれん。武器観が変わって常時危なっかしいものを持つことになるのではと考えると警察沙汰になる可能性があるからな。何時でも自由に変形できるようになるまでは非戦闘時はフォークのままでいさせて。マジ怖い。

 

 あっ、そう考えると俺が今持ってる槍だったものから変わったキーホルダーも値するのかもしれない。槍に戻ってキーホルダーに変形させることが出来なくなったら後がもう大変なことになりかねないからな。自由に変形できる手段を覚えるまで、このキーホルダーもこのままいいかな。

 

 そしてこの名称ど忘れだけど吉田の大切な家宝であるなんとかの杖は優子が持つことになった。色々な場所で棒状のものに自由に変形できるこれは、ヨシュアさんみたいな直系の魔族でないと使えないみたいなので、自分と大切なものを守るために使ってほしいという清子さんの願いから決定したのだ。

 

 まぁ、後は優子の使い道や武器観の向上次第だな。強い武器をイメージして気合い入れて変形させるまではいいけど、重いから上手く持てなかったら本末転倒だし、おいおい使い道を考えてもらいたいものだ。

 

 ……けど、非戦闘以外で使わざるを得ない状況って現実世界では起きるのか? 今のところほのぼの感みたいなのしか遭遇してないからわかんね……

 

 あっ、そうだ(唐突)。

 

 

「清子さん。ちょっと気になることがあるのですが、これを見ていただけませんか?」

 

 

 そう言って俺は槍だったものであるキーホルダーをポケットから取り出し、清子さんに見せてみた。そしたら優子も桃も、無論良子ちゃんも集まって興味津々にそれを見に来た。

 

 

「これは、西洋の槍……っぽいキーホルダーですね」

 

「実はこれ、同日に白龍様がなんとかの杖があった土地を掘り起こしたら出てきたものなんです。その時は本物っぽいサイズの槍だったんですけど、持った途端こんなになっちゃって……」

 

「……私が言うのもあれですけど、白哉さんの武器観ってキーホルダーのコレクションから……?」

 

「マニアみたいにそんなに持ってないからキーホルダーは。というか武器観がキーホルダーって何? もし本当なら俺の武器観というか価値観が乏しく思えてくるんですけど」

 

「で、ですよね……アハハ……」

 

 

 うん、どこかお前を傷つけてるのかもしれないことを言っちゃったのは悪かったって思ってるけどさ。男の武器観がキーホルダーって何よ? 俺の頭どうなってんだって話になるでしょうよ。

 

 

「……で、清子さん。これに何か見覚えとかってありますか? 吉田家の家宝ってわけじゃなさそうなので、淡い希望ではありますが……」

 

 

 頼む……‼︎ せめて名前、名前っぽいのだけでも有益な情報を覚えていてくれ……‼︎

 

 

「………………ん? セ……」

 

「ん? 『セ』? 何か思い出したんですか?」

 

「……ごめんなさい。こういうデザインのはなんかの紙で見たことがある気がするんですが、いつどこで見たのか思い出せなくて……一応『セ』から始まる名前であることだけは思い出せましたが」

 

「そうですか……それだけでも充分です、ありがとうございます」

 

 

 やっぱりこの槍については清子さんも知らないのか。何故名前の頭文字とデザインの二つだけは覚えているんだ? なんとかの杖なんて思い出せてなかった癖に。けどまぁ、何の情報もないよりは有益なのが唯一の救いだったけどな。欲張りはいけない。

 

 ……それにしてもこの槍、一体何なのだろうか……? 誰のものだったんだ? 何故埋められてた? 謎は深まるばかりだぜ。

 

 

「………………白哉さん……」

 

 

 

 

 

 

 皆で武器の事について話し終わった後、吉田家の部屋にてパソコンを使ってなんとかの杖から変形出来そうな武器案を探している桃と良子ちゃんを他所に、俺は部屋の隅にて座り込みながら槍のキーホルダーを見つめていた。

 

 なんで自分の部屋に戻らないのかって? そりゃあこの後の優子が起こす原作のサブイベントを見る為だよ。まぁこのイベントで優子はとある失敗して恥をかいてしまうけど、そんな惨めな姿を見て嘲笑う気とかは微塵もないぞ? 桃の為になんとか頑張ろうとする彼女の勇姿(?)を見届けたいだけなんだよ。いやマジで。

 

 ところで何故槍のキーホルダーを見つめているのかというと、無論この槍についての考察をしてるからだ。だって原作には出なかった強力な武器(だったのかもしれないもの)が掘り出されたんだぞ? それも誰のものなのかも分からないものだぞ? これが何なのかとか元に戻したりするにはどうすればいいのかとかを考えてしまうに決まってるでしょうが。

 

 それに、自由に使えるようになったとしたらどのように使おうかとかも考えたくなるものでもあるんだ。戦闘イベントはまだあまり起きないだろうけど、ゲームの武器は主に男のロマンやろ? イメージしてしまうのもしゃあないでしょうが。

 

 これ考えていいのか分からないけど、戦闘じゃない場面で使うとしたらどういった場面がいいのかな? デッカい障害物を破壊する為に、とかなら戦闘じゃない場面でもカッコよく使えそうだけど……

 

 

「あ、あの、白哉さん……」

 

「ん? なんだ優子?」

 

 

 色々と考えてたら優子に話しかけられたんだけど。ってアレ? 桃に対してイベント起こすの後回しにして大丈夫なのか? まぁ問題無さそうだけどさ──

 

 

 

「だ、大丈夫ですか? ……お、おおお、おっぱい……揉みますか……?」

 

 

 

「………………はひゃへっ⁉︎」

 

 

 あ、危ねェ……咄嗟に声小さくしたおかげで、桃と良子ちゃんに気づかれずに済んだ……じゃなくてさぁ⁉︎

 

 優子、今なんて言ったんだ⁉ お、おっぱ……じゃなくて、む、胸揉むか、だって⁉ なんで⁉ 突然何⁉ 前『自分以外のは揉むな』って言ってきたのは覚えているけどさぁ、急に揉むかって言われましてもねェ⁉

 

 

「きゅ、きゅきゅきゅ……急にどうした優子? 俺お前になんかやらかしてたか?」

 

「あうぅ……そ、その……白哉さん、そのキーホルダーの件をおかーさんに聞いてから浮かない顔をしていたもので、どうしても心配になってきて……」

 

 

 えっ? 俺、また無自覚にも心配されるような顔してたの? まぁこの槍の事で何かしら考えていたのは事実なんだけどさ……

 

 

「そ、それで、ごせんぞにどうしたら白哉さんが元気づくのか相談したら……か、身体に触れさせることによる快感が有効打になるって聞きまして……」

 

「やっぱり優子自身の発案じゃなかったか。というかリリスさん後でシバいてやろうかな……」

 

「だ、大丈夫です‼︎わ……私はどこを触られても構いません‼︎びゃ、 白哉さんを元気にしてあげられるのならば、胸だろうと女の子の大事なところだろうと触らせてあげますから‼︎ そ、それと、白哉さんにだったら、頼まれたらさせてあげられるように、頑張りますから……そ、その……性処───」

 

「ストップストップ‼︎ そこまで‼︎ き、気持ちだけで充分だから‼︎ 桃や良子ちゃんに聞こえないようにしてるのはいいけど、聞こえてるこっちからしたらめっちゃ恥ずかしいから‼︎ やめれ‼︎」

 

 

 や、ヤベェ……優子が今まで以上に暴走してR-18作品確定な展開に持ち越そうとしてたから、思わず大きな声を出しそうになったわ……特に最後に言おうとした言葉は絶対良子ちゃんの耳には入って欲しくない……未成年どころか小学生が知ってはいけない言葉だからな、マジで。

 

 というかマジで正気に戻れ‼︎ 止まらないと後先後悔するレベルのヤンデレモードと化してるよ‼︎ どうにかして対象を自分のものにしようとしてる感が強くてマジヤバいから‼︎ やめろ優子‼︎ 落ち着けェ‼︎(ピロロロロロ…)

 

 

「ハッ⁉︎ ……す、すみません。色々な本心が混ざって自分でも恥ずかしい事を淡々と言ってしまいました……」

 

「淡々と、か……? ま、まぁとにかく正気に戻ってくれたのはよかったけどさ」

 

 

 よ、よかった……いつも通りの暴走してもすぐに正気に戻ってくれる感じで助かった……。もしもあのまま暴走させてR-18作品にありがちな言葉を許したら、もう言ったことをその場で実際にやりそうで怖いもん。

 

 俺は童貞だから本当はそれらを実際にやってほしいってのはあるけど、俺の事になるとヤンデレモードになって暴走した彼女がどのようにしでかすのか分からないから……

 

 

「………………私、桃を笑わせたいと思っています」

 

「へっ? お、おう」

 

「困った顔で笑うことはあるけど、満面の笑みは出そうとしない。そんな苦しげな眷属を重荷無しに笑顔にさせることも魔族の仕事なのかもしれない、そう感じています」

 

「おう」

 

 

 まだ桃は眷属になってくれてはいないけどな。それでも仲の良い人の為に何かしようというその心意気は大切だ。古事記にも書かれている……といいな。

 

 

「でも……魔族である以前に、幼馴染にも笑ってほしいとも思っているんです」

 

「おう………………えっ? 俺も?」

 

「はい。先程までの白哉さんだって、そのキーホルダーの件からずっと笑ってなかったですよね? それに、ミカンさんから小さい頃の桃の話を聞こうとしてた時も苦しそうな笑顔を浮かべて……。どれも無自覚とはいえ、いつもこんな私に気遣ってくれている幼馴染のそんな顔を見ていたら、放っておけなくて……」

 

 

 ………………あぁ、そうか。優子はこんな俺の事が心配で仕方なかったんだな。何故出す気のなかった表情を浮かべてしまったのか、前から感じていた胸の痛みの正体が何なのか、そんな自分の心情に気づけずにいる俺の事を想ってくれていたんだな。

 

 情けないな、俺は。幼馴染に心配かけるような真似をして迷惑をかけて、それでも尚『頑張って手を差し伸べたい』って思わせておいて心配させたりもして……

 

 今まで気づかされていなかったんだな。一番無理している惨めな人生を送っていたのを、助けてくれていたのは───

 

 そんな事を考えていたら、俺はそっと優子の頭を撫でていた。それも無自覚にだが、行動に出す前に撫でてやりたいと思っていたから特に問題はないはずだ。これやって優子が顔を真っ赤にしてしまうこと以外は。

 

 

「えっ、あっ……」

 

「ありがとうな、こんな俺の事を心配してくれて。俺は今のところ大丈夫だ。けど……もし本当にダメそうって思ったら、遠慮せず俺に手を差し伸べてくれ。そしたら安心すると思うから」

 

「は、はい……」

 

 

 んあっー(語彙力低下)、優子が両手で顔を隠しとる。照れ隠しとか可愛く見えてしまうー。優子に優しくされたと思ったら『可愛い』って感情が強く出てしまってる。これ、ある意味ヤバいなマジで。

 

 あっ。ヤ、ヤバい……いつものナデナデ時には感じてなかったドキドキが止まらないんだが……今の優子が可愛すぎるって思えてきたら、結構……

 

 

「は、はいナデナデ終わり‼︎ ほ、ほら! 桃を笑顔にする仕事があるんだろ⁉︎ そっちに集中してってくれ‼︎ そ、それじゃあお疲れ様でした‼︎」

 

「お、お疲れ様でした……?」

 

 

 なんだか自分が今した事に対して羞恥心を感じてしまったので、俺はそそくさとその場を後にした。なんで恥ずかしいと思ったのか自分でも分からない。けど無自覚で表情が出てしまう癖を想定して優子から離れたのは正解……だと思う。

 

 ……にしても、なんで俺はあんなにもドキドキしているんだ? いくらさっきの優子が可愛かったからと言って、そそくさと逃げるような対応をするなんてどうかしてる。

 

 ……アレ? ちょっと待てよ……? まさかとは思うけど……

 

 もしかして、俺も、本気で優子の事が───

 

 

「まぞくの一発芸………………『虫歯菌』

 

「……えっ? ごめん、声が小さくて聞こえなかった。何?」

 

 

 ………………うん、この感情について考えるのはまた今度にしよう‼︎(白目)

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その11

メェール【第一回・マスターの武器またはシャミ子ちゃんの武器の名前を当てようのコーナー‼︎】
召喚獣一同【イェーイ‼︎】
白哉「……え、何これ?」
メェール【マスターとシャミ子ちゃん、結局各々が手に入れた武器の名前を思い出すどころか、本当の名称を思い出すまでの仮の名称を思い出すことすら出来なかったじゃないかメェ〜? だから僕達が代わりに思い出させてあげたりとかしようと思って、この企画を発案したんだメェ〜】
白哉「は、はぁ、なるほど……?」
メェール【というわけで、早速決めておくメェ〜。思いついた人から前もって配られた紙にその名前を書いて、早い者順に僕に提出しておくメェ〜。ちなみにマスターの武器の頭文字は『セ』、シャミ子ちゃんの武器の頭文字は『ア』だから忘れないようにするメェ〜】
召喚獣一同【はーい‼︎】
白哉「……何故だろう、嫌な予感がする」

数分後

メェール【それじゃあ募集したものの中から、あり得そうだなと思うものだけを発表するメェ〜】
召喚獣一同【イェーイ‼︎】
白哉「(大丈夫だろうか……)」
メェール【まずはシャミ子ちゃんの武器からだメェ〜。候補して挙げられるのは……アスタロトの杖、アレクサンドルの杖、アリアナの杖、アヴァロンの杖……】
白哉「おっ、結構良いネーミングセンスだな」
メェール【アホォの杖、あばばばばばの杖、アヒージョの杖、アントニオの杖、アブラカタブラすっぽんぽんの杖……だメェ〜な】
白哉「……後半で台無しだよ。しかも最後のは何?」
ピッピ【私が発案したものだ】
白哉「クールキャラがすっぽんぽんなんて言葉を用いちゃいけません」
メェール【次はマスターの武器だメェ〜。候補は……セバスチャンランス、セレスティーナの槍、セルランス、セコムの槍……】
白哉「前半から酷いの多くね?」
メェール【あっ、これなんか結構良いと思うメェ〜。セック───】
【あっ⁉︎ マスター何ビリビリに破ってんだメェ〜⁉︎】
白哉「今メェール君が言いそうになった卑猥なネーミング書いた奴、正直に手ェ挙げて」(ガチギレ)
白龍【俺だけど】
白哉「今日の白龍様の飯は納豆ご飯だけです」
白龍【なっ⁉︎ せめてレトルトカレーかレトルトの丼物にして⁉︎】




前半あたりは桃が恋する乙女であることがちょっとだけ判明、中盤あたりは白哉くんのマジックアイテムの獲得、後半は白哉くんとシャミ子の進展(?)……情報量、多くしてしまったよ……

つーかさすがに文字数多くしすぎたから、次回は一週間空けて投稿すべきか……? もしそうなった場合は活動報告にて報告致します。

くどいですが、自分は感想がもらえないと不安になる亡者なので、感想を気軽に書いていただけると小説執筆の励みになります。どうか……どうかお恵みを……‼︎ もらえなくてマジ不安……‼︎

 


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お互い前進する為にも、白哉さんの夢の中に……アレ? 私、潜入する夢を間違えました? by.シャミ子

永遠の専門学校一年生になりたかったってことで初投稿です。

今回はシャミ子視点によるオリジナル回です。皆さんが感じているだろう、この作品のシャミ子ならやりがちだろ的なのをやらせてみた感じのやっつけ回なのでご了承を。


『───子。───ミ子。───シャミ子よ、起きるのです』

 

 

 うーん……何ですかごせんぞ? 今私は眠くて中々起き上がれないんですが……

 

 

『こんな時間帯にお主が起きれないのはいつもの事であろう?』

 

 

 ウグッ……バッサリとした事実を言わないでいただきたいです。そもそも深夜に一度起きて二度寝する人なんてそうそういないと思うのですが……

 

 ……って、アレ? なんで私、今寝ている状態なんだって頭の中では分かっているのに、脳内でごせんぞと会話しているんだろう? というかこういった状況、前にあったような……

 

 あっ(察し)。

 

 

「今私がいるところ脳内空間でしたお久しぶりですおはようございます‼︎」

 

「起床する時のセリフがおかしくないか……?」

 

 

 状況を理解した時には、私は宇宙空間にでもいるような、キラキラとした小粒の光や装飾がたくさんある薄暗い場所で起き上がっていました。どこかのアパートのようにブラウン管テレビとコタツもある……ということは。

 

 いた。やっぱりごせんぞがコタツに入っていました。それもごせん像の方ではなく、私みたいに実体があるかのような全体像で、私よりも先端が二つ連なっている尻尾と片方が折れているツノまであって、しかも褐色肌となっている。やっぱりここはごせんぞの封印空間──私の脳内空間だ。

 

 こうやってこの空間でごせんぞと話す機会が来るなんて久しぶりな気がします。確か前にごせんぞと対面したのは六月の終わり頃でしたね。その時はごせんぞに『桃を洗脳して血液を献上させろ』と促されたんでしたっけ。あの時から私の日常はさらに変わったんだった。懐かしいなー。

 

 

「あの……ところでごせんぞは今日、何のご用があって私をここに呼んだのですか?」

 

「あぁそうだったな。……お主が外の世界で起きるまでの時間が限られてるし、まずは単刀直入に聞かせてもらうぞ」

 

 

 えっ? えっと……なんかごせんぞ、いつになく真剣な眼差しでこっちを見てくるのですが、一体どんな事を聞いてくるんですか? なんだか怖いけど、ちょっと気になっちゃう……

 

 

 

「シャミ子よ、そろそろ白哉との関係性を進展させたいとは思わないのか?」

 

 

 

「………………はへっ?」

 

 

 えっと……あ、あの……ごせんぞ? 今、なんと仰いました? えっ? びゃ、白哉さんとの、関係性を、進展……? えっ……?

 

 ウェェェェェェッ⁉︎ そ、それって、『いい加減告白するなり大胆なアプローチするなりして早くくっつけ』って言ってるようなものですか⁉︎ あっ、いや……正直、白哉さんとは恋人同士にはなりたいですけど、今の私の性格じゃ下手したら彼を傷つけてしまうかもしれない。だからまだ……あっ、ヤバいどうしましょう。顔が熱くなってきた……

 

 

「シャミ子よ。お主が白哉に対する想いを偶に強くし過ぎて、周りどころか白哉の事をきちんと見れなくなってしまうのも分からなくもない。その分歯止めを効かせることはできるみたいだが、そのせいで白哉も中々お主の想いに応えられずにいる……それはお主も勘付いてはいるはずだ」

 

「ウッ……」

 

 

 それは……ごもっともです。

 

 私は白哉さんに重たい愛を偶にぶつけようとしていた癖に、中途半端に後ろめたくなってしまう。そのせいもあって白哉さんを困らせて、彼の本心を引き出してあげることが出来ずにいる。それが今の現状となっている。

 

 本当はもっと白哉さんに想いを伝えたいのに。白哉さんに私の想いが伝わってほしい。けど……その想いを強くしてしまえばいつか二人とも壊れてしまいそうで、そのせいで今までの関係性が崩れ落ちてしまいそうで、怖いんです。

 

 私が壊れてしまうという本心を白哉さんに伝えた時には『いざとなったら止めてほしい』とは言ってましたけど、それもいつか壊れてしまいそうで、その事もあって中々───

 

 

「あぁ……シャミ子? すまぬがテレパシーでお主のネガティブ思考がダダ漏れだぞ? 気持ちはわかるが、とりあえず落ち着け」

 

「……ハッ⁉︎ す、すみません。深く考えすぎてました……」

 

 

 い、いけないいけない。危うく私が人格的な意味で終わってしまうところでした……。もしそうなってしまったら白哉さんが自分を責めてしまいそうで、偽りの本心で私に合わせようとしそうで……

 

 って、またネガティブな感じになってるじゃないですか私⁉︎ 今日の私、なんか調子がおかしくないですかね⁉︎ どうしてこんなにもネガティブになれるんですか⁉︎ 自分でもわけわかんないですよー‼︎ ワケワカンナイヨー‼︎

 

 

「確かに今の状況では、お主が本気で白哉に想いを伝えようとすれば真っ先にお主が壊れ、それに伴い白哉も傷つけかねん。だがそれは、白哉にそんなお主を優しく受け止める度量と、お主の事を想う気持ちが足りないからにすぎん。それらを鍛えさせる為にも、お主にはあの能力があるのだろう?」

 

「あの能力……?」

 

 

 あの能力って、一体何の事ですか? 私、まだ強い魔力さんを持っていませんし、なんとかの杖さんも上手く扱えていないので、どれも期待していいものでは……というかそれらが白哉さんの鍛えさせるところと何の関係があると?

 

 

 

「他人の潜在意識の世界に潜る力とそこでの言葉巧みによる洗脳だ。これらを用いて、白哉の度量とメンタル精神を鍛えさせてやり、お主に対する意識を良い方向へと強くさせるのだ」

 

 

 

「………………あっ、なるほど」

 

「いやちょっと待て。その反応からして、もしやその能力の事をど忘れしてたのか……?」

 

 

 別に忘れてたわけじゃないです。その手段で白哉さんに何かしらのアクションを起こせる可能性があるんだってことが単純に思いつかなかったってだけなんです。まだこの力の事を上手く理解出来てないというか、何というか……

 

 つまりは寝ている白哉さんの夢の中に潜り込んで、そこで私自身が暴走しないように白哉さんに何かしらの暗示をかけ、彼に私に対する意識を強くするってことですか。そっか……その手がありましたか……

 

 って⁉︎ それって結局洗脳するってことじゃないですか⁉︎ 形がどうであれ、やっぱり洗脳はよくないと思います‼︎ 桃の場合は殴り合いよりも理が適うからという理由で賛同しましたけど、白哉さんとは全くといっていい程に敵対してないので、無闇に洗脳しようとするのは……

 

 

「よく考えるのだシャミ子よ。これまでに自分の気持ちを暴走しない程度にアプローチなどをかけているのかすら怪しいが、お主はそれをやって白哉に振り向いてもらえてるような反応を見せてもらっているのか?」

 

「そ、それは……」

 

 

 い、痛いところを突かれた……周囲からは分かりにくいと思うけど、私だって暴走しないように頑張って白哉さんにアプローチをかけてるはずなんですけど、案の定外面を見たらなんの成果も得られませんでしたし…… 「なんの成果も‼︎ 得られませんでした‼︎」

 

 

「言っておくが、別に何も洗脳は悪いことばかりではないぞ。洗脳の仕方は本来、何度も同じことを繰り返したり、厳しく意見をしながらも褒めたり、優しくしたりといったメリハリを持って接すること、そしてそれを長期的に続けることが基本だ。つまりはやり方次第では洗脳をするにも罪悪感なく成功させることも可能だ」

 

「やり方次第で、ですか……」

 

「ちなみに白哉に飽き足らず、誰かを彼氏にしたいのならば自分本位の考え方を相手に押し付けないことが大事だぞ。例えるなら……そうだな」

 

 

 押し付けをしないって、ごせんぞは私に『桃に血を献上させるようにしろ』と言い聞かせるように薦めたことを押し付けの類には入れないのですか……?

 

 っていけないいけない、今ごせんぞがどのように罪悪感のない洗脳をすればいいのかを教えてくれているのだから、ちゃんと聞かないと───

 

 

 

あなたのためなら子供を産んでも良い(・・・・・・・・・・・・・・・・・)()()()()()()()()()()()()()()()()、という気持ちを伝えてみろ。そうすることで、自分中心ではなく彼氏中心に物事を考えている、ということをアピールできるぞ」

 

 

 

 な、なるほど……そういう言葉巧みなら、もしかすると白哉さんだって少しは私の考えている事を理解してくれて、より良い方向性を持って受け止めてくれるのかもしれな───

 

 ………………ん?

 

 あなたのためなら子供を産んでも良い(・・・・・・・・・・・・・・・・・)?

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()?

 

 ………………………………

 

 

「それってこちらが結婚前提に申し込んでいるってことになりますよね⁉︎ 結局愛が重たすぎる発言になるじゃないですかヤダー‼︎」

 

「アレ⁉︎ これもお主にとってダメな類なのか⁉︎」

 

 

 お、思わず心の底から叫んでしまいました……。だ、だって、まだ付き合ってもいない人に『あなたの子供を産みたい』だなんて、普通に段階踏み越えてるじゃないですか‼︎

 

 そ、それに言葉の捉え方次第だと遠回しに『厭らしい事もしたいのか?』と思い込ませてるみたいで、その……変態なのかとお互い思ってしまいそうですもん……あうぅ、一気に顔が熱くなってきました……

 

 

「ハァ……仕方あるまい。ハッキリ言わせてもらうぞシャミ子よ。そんなことでは、いつまで経っても白哉もお主の想いに応えてはくれぬぞ?」

 

「ッ……」

 

「白哉の事を想うと歯止めが効かなくなってしまう、それを恐れてその想いを抑えようとするその気持ちは分からなくもない。白哉を恋愛方面で見ているお主の心の裏はあまりにもヤバい。その事を自覚し、自分に『ダメだ』と言い聞かせることができるだけまだマシだがな。だが、すっとそのままで良いのか? そうやって中途半端な愛情表現をし続けていれば、お主の事を考えてくれている白哉もいつかはお主に愛想尽かし、他の女に目移りし、その者との恋愛を発展させてしまうかもしれん。それこそお主の暴走の引き金となり、元も子もなくなってしまうぞ」

 

「………………」

 

 

 白哉さんが、私以外の人に目移りを……考えたことはないわけではない。

 

 愛の重たい女を受け止められる程の度量がある人なんてそうそういないものだし、白哉さんみたいに見捨てようとしなくてもいつかは我慢の限界を超えて離れてしまう可能性がある。もしそうなってしまえば、白哉さんは私を遠ざけるかもしれない。

 

 そうなってしまう事はあらかじめ覚悟はしている。けど、もしもそれが現実になってしまうと思うと……やっぱり、怖くて堪らないです。

 

 

「だからこそ、白哉の夢の中で洗脳をかける必要があるのだ。シャドウ……いや、『吉田優子は平地白哉の事を本気で愛している』『平地白哉は吉田優子のその想いに応えようとしている』と。奴自身がお主を心配して無理強いし、立ち回ってきたその努力を無下にもしてしまわない為にも、お主の彼に対する想いそのものをぶつけるのだ。今こそお互いに変わる時だぞ、シャドウミストレス優子よ」

 

 

 ………………そうだ、これ以上躊躇う必要なんてないんだシャドウミストレス優子。少しでも、いや思いっきり前へと進むべきだ。私自身が望んでいる未来の為にも、そして白哉さんの為にも。

 

 

「やります‼︎ 互いの進展の為の洗脳を‼︎ ぶっちゃけ白哉さんとようやく恋仲になれることに越したことはありません‼︎」

 

「……フッ、それでこそシャミ子だ。よし、ではここで久しぶりに夢見鏡を使うぞ。今度はちゃんとスペアも何枚か用意できたぞ」

 

 

 白哉さんを洗脳することに賛同したのを察知してくれたのか、ごせんぞはお父さんBOXと同じデザインのダンボール箱に入っているしゃもじ型の大きな手鏡を取り出した。初めて桃の夢の中に潜入するのにも使いましたねそれ。

 

 

「最初に渡した時にも思ったのだが、何故それをしゃもじと思えるのだ?」

 

「どっかのバラエティ番組で観たことがあるので……」

 

「えっ。……いや、よく考えたら確かにこんな大きさとかのヤツ、どっかで見たことあるな……」

 

 

 なんとなくは自覚してたんですね……なんか、すみませんでした。

 

 しかし、またこれを使って白哉さんの見てる夢がどれなのかを探らなければいけないのか……。一度入った夢じゃないから仕方ないとはいえ、数秒で百人は流れてくるし、古いテレビによくある砂嵐みたいな灰色の残像しか見えない……

 

 

「むう、白哉との周波数が合ってないようだな。やはり白哉への心の闇を募らせるしかなさそうだが……お主の性格と白哉との関係性からして、それも難しそうだな。白哉との信頼度が高い証拠とも言える」

 

「えっ。い、いやぁそれほどでもないですよぉ……えへへっ」

 

「今それを褒められてると捉えて良いのかお主は……?」

 

 

 ……はい、今は喜んでいる場合じゃありませんでした。すみませんでした。

 

 それにしても、白哉さんに対する心の闇、か……ハッキリ言って桃の時よりも上手く思いつきません!! 自慢じゃないけど本当にないんです!! 彼への不満とかが全くないんです!!

 

 だって白哉さん、私が愛の重たい人間(今は魔族)だとカミングアウトしても距離を置こうとしない程の度量の持ち主なんですよ⁉︎ 正に聖母ならぬ聖父的存在なんですよ⁉︎ そんな彼に対しての不満なんて……

 

 

 

 ………………いや、ちょっと待てよ。おかしい。いくらなんでもおかしい気がする。

 

 

 

 確かに白哉さんはこんな私にも優しく接してくれている。それは私が人間から魔族に先祖返りした今でも変わらない。

 

 けど、だからこそよく考えてみたらおかしいと思えてきた。なんで白哉さんはこんな私から距離を置こうとはしなかったんだろう。私の自分の性格が偶に酷くなることぐらい自覚してるし、取り返しのつかないことはしないどころかやってしまう勇気すらないのに。

 

 本当は私に不満をぶつけてもよかったのに。『お前は怖い』とか、そんな文句とかをぶつけてくれてもよかったのに。無理して私に合わせたりしなくてもよかったのに。何故? 何故今も変わらず私に優しくしてくれるんですか? 何故……

 

 

「だぁーもうっ‼︎ 今考えてみたらモヤモヤしてきた‼︎ なんで本心を明かしてくれないんですか‼︎ なんで今も変わらず寄り添ってくれるんですか‼︎ 本当に訳がわかんないですよ白哉さんの考えている事が‼︎」

 

「お、おい? シャミ───」

 

 

 

「けどそんな白哉さんが大好きすぎて辛すぎるー‼︎」

 

 

 

 バリンッ

 

 一心不乱に叫んでいたら、何やらガラスが盛大に割れた音が聞こえた気がした。そして全てを理解した時には、私は夢見鏡の中へと吸い込まれていき───

 

 

 

 

 

 

「あいたたた……こ、ここは……?」

 

 

 気がついた時には、私はどこかの施設の階段前で寝転がっていました。いや寝転がっていたというよりも着地失敗して転んだだけに見えますけどね。

 

 それにしても、ここは一体どこなのでしょうか? 桃の夢に入った時みたいに背景が真っ暗ってわけじゃないみたいですが……もしかして、間違えて別の人の夢の中に入ってしまったのでは⁉︎

 

 よく考えてみたら、白哉さんは桃よりは至って健康っぽいですし、何より明るく前向きな性格でもあるはず‼︎ だから悔しいけど彼の夢の中へと直通は出来ないはず‼︎ うん、悔しいけどきっとそうに違いない‼︎

 

 ん? なんか青いコンクリートの壁に何かの紙が貼ってありますね。それも文字が書かれている感じが。とりあえずはこれを見て、ここがどこなのかをはっきりさせておかないと……‼︎

 

 

 

「えっと………………『■■■高等学校 文化祭実行委員会 ミーティングのお知らせ』……?」

 

 

 

 あ、あれ? どうやらここは何処かの学校らしいですけど、肝心の学校名のところが黒く塗り潰されている……? 壁の色からして桜ヶ丘高等学校ではないことは確かだけど……

 

 

『───シャミ子よ、聞こえるか⁉︎』

 

「あっ、ごせんぞ‼︎ すみません、白哉さんの夢の中に入るのに失敗して───」

 

 

 

『お主が入っている夢の主の魔力をなんとか探ってみたら、どうやらそこが白哉が見てる夢の中に運良く直通出来たらしいぞ‼︎ よくやった‼︎ 潜入成功だ‼︎』

 

 

 

「………………えっ?」

 

 

 嘘……ここが白哉さんの夢の中? 潜入成功? えっ……? 白哉さん、なんで他の学校の中にいる夢とか見ているんですか? いや普通は見る夢を思った通りにすることはできないとはいえ、どういうことですか……?

 

 しかも桃の夢にもう一度突入しようとした時みたいに離されるみたいなことはなく、夢の中へと直通出来たって、いくらなんでも思い通りになることってありますか? 調子の悪い桃じゃないのに……

 

 

「本当に、ここが白哉さんの見てる夢の中ですか……?」

 

『どうにかして魔力の質を探ったら、光の一族とは違う聖なる素質があることが発覚したのだ‼︎ 魔力があり、光の一族との魔力の質が違うのならば、そこは絶対に白哉の夢の中だ‼︎ 間違いない‼︎』

 

「聖なる素質ってなんですか……?」

 

 

 えっと……何はともあれ、一応白哉さんの見てる夢の中に潜入できたって捉えておけばいいのでしょうか? 成功したってことになってるのは嬉しいですけど、なんだか複雑ですね……

 

 

「とにかくだ。今はこの夢の中を探り、白哉本人か白哉と雰囲気や持ってる魔力が同じ奴を探しておけ。そして二人きりになれる機会を見つけたら、即座に会って……えっと、何をシャミ子に言わせるのだっけか……? あ、そうだ。『あなたのためなら子供を産んでも良い』、『好きな人のためなら子供を産みたい』だったな。それらを何かしらの前置きを言ってからぶっちゃけるのだ‼︎」

 

「順番を飛躍させないでください‼︎」

 

 

 ま、まだ結婚を前提にしてるような話をする時ではないと思いますよ⁉︎ まずは互いが互いにどう思っているのかというのを明かすような感じの事を言うべきだと思います‼︎

 

 あくまでもこの夢の中の白哉さんと私は初対面になると思うので、いきなり『子供を産んであげたい』宣言なんてしたら逆効果です‼︎ 『えっ、初対面の人に何言ってるのこいつ……怖っ……』みたいなイメージを持たれたらそれこそ現実で白哉さんに引かれてしまいますから‼︎

 

 

『そ、そうか? すまぬが気まぐれで愛を重くしてしまうお主の事だからな、きっと色々すっ飛ばしてそんなことを言うのかと……』

 

「また心を読まれた‼︎ っていうかごせんぞは私の事を何だと思ってるんですか⁉︎ ……否定できませんが」

 

『いやそこは否定すべきとこだと思うぞ……』

 

 

 それは無理です。自分の性格の悪さはそう簡単に変えられないものなので……いや辛いから変えたいですけど。

 

 

「と、とにかく‼︎ 今は白哉さんになんとなく似ている感じの人を探してみますから、ごせんぞは私の魔力節約の為になんとかそちらの声が聞こえないようにしていただけますか⁉︎ 状況整理もしたいので‼︎」

 

『う、うむ。そうだな……とりあえず魔力をミュート機能にしておきながら様子見させてもらうぞ。何かヤバいと感じたらオフにしておく』

 

 

 魔力にもミュート機能とかあるんですね……携帯電話か何かですか?

 

 とりあえず、誰かが私の事を見つけたら騒ぎになるかもだし、身を隠しながら早くこの夢の中の白哉さんがどこにいるのか探しておかないと。

 

 でも、この夢の中の白哉さんって一体どんな姿をしているのでしょうか? 学校が舞台だけど桜ヶ丘高等学校じゃないってことは、教師となっているのでしょうか? 教師の姿をした白哉さん……きっとカッコ良いでしょうね。ど、どんな恰好してもカッコ良いと思いますが……

 

 けど、もし白哉さんが教師になったとしたら、色んな女子生徒からモテモテなんでしょうね。顔立ちも良いし、私に勉強を教えるの得意なものですから。

 

 ……生徒に囲まれるハーレム白哉さんなんて、私には耐えられそうにないです。生徒と教師、どうせ成熟しない恋だというのに。それなら同い年かつ幼馴染の私の方が余程……

 

 って⁉︎ 何一人で勝手にムキになってるんですか私は⁉︎ しかも何故勝手に白哉さんハーレムとかいう自滅してるみたいな妄想してるんですか⁉︎ ダメだ、いつもの愛が重たくなる癖が……

 

 

「よぉ○○、おはよう‼︎」

 

 

 ん? あれ? 声は違うけどなんか喋りが白哉さんに似た……というか全くと言っていい程同じ感じのする男性の声が聞こえたような……?

 

 ふと後ろを振り返ってみれば、そこには会話している二人の男子高校生が。桜ヶ丘高等学校の男子制服はネクタイ式だけど、この学校では学ランなんですね。

 

 いやそんなことよりも、白哉さんと同じ喋りをしている人は一体誰なのでしょうか? 後ろ近くから聞こえたものだから、この二人の内の誰かですね、絶対に。

 

 一人は何の変哲もない髪型をした黒髪で顔も普通。もう一人も同じ黒髪だけど後ろ髪を綺麗に結っていて顔立ちはまあまあですね。で、どっちが白哉さんと同じ喋りをした人……?

 

 

「お前、この間貸した千円返せよな」

 

「あぁごめんごめん、今返すよ」

 

「おう。次からは自分のお金使えよ」

 

 

 ……見た目が普通の人の方のようです。この人が白哉さんと同じ喋りをした人……多分、この夢の中の白哉さんですね。見た目とは裏腹に男気のある喋りですね。これはこれでカッコ良いかも。

 

 っていやいやいやいや、早とちりするなシャドウミストレス優子。彼が夢の中の白哉さんなのかどうか確定しているわけじゃないから、カッコ良いと思うタイミングはそこじゃない気がします。うん。

 

 あっそうだ。白哉さんの特徴といえば、なんやかんやで誰にでも優しくなれる性格でした。本性を告白した私に対してもそんな性格ですし、もしかすると……

 

 とりあえず、このまま誰にもバレないように様子見して、本当に彼が夢の中の白哉さんか確かめないと。

 

 

 

 

 

 

「先生、そのプリントの山重くないですか? 俺半分持ちますよ」

 

「ん? 教科書? お前なんで忘れて来たんだよ? はいどうぞ、後でちゃんと返せよ」

 

「○○、お前この前のテスト赤点だったって? ちょっとノート貸せ。テストに出た範囲教えてやるから」

 

「はぁ? 委員会の仕事ォ? それお前の仕事じゃ……わ、分かった分かった。手伝ってやるからそんなうるうるとした目で見るなよ」

 

 

 ………………うん、絶対夢の中の白哉さんだ。偶に文句言ってる時あったみたいだけど、それでも誰にでも優しく接していましたし、何よりやっぱり喋りが一緒だったから、絶対白哉さんだ。

 

 はぁ……それにしても白哉さん、姿が違うのにいつも通りあれだけテキパキとやれてる感が出ててますね。あぁもう、普通の顔立ちの白哉さんも好きなのかも。でも、やっぱりいつも見てる顔立ちの白哉さんの方が一層カッコ良いに決まって……

 

 ……また愛が重くなってる感じがしますね、私。しかもいつもの白哉さんとこの夢の中の白哉さんを比較するって……どっちの白哉さんに対しても失礼ですよねこれ。なんだか、申し訳ないです……

 

 

 

「ところで■■君ってさぁ、何か趣味みたいなのはない?」

 

 

 

 ………………えっ? 今、クラスメイトの人が白哉さんに向かって話しかけてたのが見えましたけど……えっ? なんか変なノイズっぽいのが聞こえてきて、白哉さんの名前が聞き取れなくなってるんですが?

 

 いや、気のせいですよね? 他にも白哉さんの周りにも各々おしゃべりしてる人達だっていますし、きっとそれらの声が重なって偶々白哉さんの名前が聞こえなくなっただけ───

 

 

「んー? 特にないかなー。気になるものならいくつかあるんだけどな。例えばトレンド入りしたアレとか……」

 

「そう言いながら熱中してる感が出てないよねー。嫌がってるってわけじゃないみたいだけど、■■君は中々興味を示さなかった感じじゃん」

 

「そうか?」

 

 

 えっ嘘? また? なんで白哉さんの名前を呼んであげてるところだけ、変なノイズが流れてくるんですか? 別にあの人が本当の白哉さんってわけじゃないのはなんとなくわかりますけど……

 

 ま、まさか彼は、夢の中の白哉さんではないかもしれないってこと? いや、その可能性は低くないのも事実なんですけど、それはそれでなんか複雑というか、色々推理してた自分が恥ずかしくなります……

 

 いいえ、ここは冷静になれシャドウミストレス優子‼︎ 変なノイズのせいで名前が聞こえないのは何かの間違いです‼︎ 周りの声を聞かずに夢の中の白哉さん……なのかもしれない人との会話だけを聞き取れれば、ノイズの中に隠れている名前だって簡単に───

 

 

「じゃあさ■■、俺と子供の頃に戻ったかのようにイ○ズマ○レブンごっこでもしようぜ‼︎」

 

「子供か君は。そんなことよりも■■、僕と期末テストの点数で勝負してみないか? 君は勝負事にそれほど真剣になったことがないだろう?」

 

「勉強よりも私達と一緒にカフェ巡りしましょうよ■■君‼︎ そっちの方が数倍楽しいよ‼︎」

 

「■■‼︎」

 

「■■君‼︎」

 

「■■さん‼︎」

 

「■■‼︎」

 

「待て待て待て待て一斉に畳み掛けてくんなやめろ‼︎」

 

 

 あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙あ ゙⁉︎

 

 ノ、ノイズがァ⁉︎ 変なノイズが次々と流れてきてるゥゥゥゥゥゥッ⁉︎ 上手く聞き取れないし、頭がめっちゃジンジンと痛くなるゥゥゥッ⁉︎ の、脳がッ‼︎ 脳が今にもバグりそうですゥゥゥゥゥゥッ⁉︎

 

 なんでこのタイミングで夢の中の白哉さん(?)が、色んなクラスメイトの人達に話しかけられるんですか⁉︎ これじゃあノイズに隠れた名前を聞き取ることに慣れることが出来ないじゃないですか⁉︎

 

 あぁ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い‼︎ なんでノイズをたくさん聞いただけでこんなにも頭が割れそうになるんですかァァァァァァッ⁉︎

 

 あっ、ヤバい……意識が、途切れ───

 

 

 

『あーあ、倒れちゃったか。ま、聞き取られる前に止めようとしたからタイミングは悪くなかったけどさ。脳に支障とか出ないだろうな? 確認しておくか』

 

 

 

 

 

 

「シャミ子⁉︎ 一体どうしたというのだシャミ子⁉︎ 返事をするのだシャミ子‼︎ シャミ子‼︎」

 

 

 一方、シャミ子の脳内空間ではリリスが突如気絶したシャミ子に声を掛け続けていた。どうやらシャミ子の意識が途切れたことで、リリスが魔力で流れるテレビ越しでシャミ子の視線と共有して見ていた映像が途切れてしまったらしい。

 

 今シャミ子がいるのは他人の夢の中。しかも彼女は何故か気絶してしまっている。そしてよりにもよってまぞくである彼女以外の夢の中にいる者は全員普通の人間。これら状況下でシャミ子はこの後どうなってしまうのだろうか……リリスはそれによる悪寒で焦燥感に駆られていた。

 

 

「クッ! 今の余の力ではシャミ子みたいに介入することが出来ん……どうすれば……‼︎」

 

 

 邪神像に封印されたままで未だに子孫に自らの力を貸したことがない……否、力を貸すことが出来る程の状態ではない。彼女は今いるこの場所であるもので何かしらの行動するか子孫の脳内空間で会話をする、または体の入れ替えが出来る環境を作るぐらいしか出来ない。つまりはこの状況で彼女が出来ることは無に等しいのだ。

 

 もしもシャミ子の身に何か起きれば、夢の世界であるため死に至らないとはいえ現実世界でも何かしらの悪い影響が起きてしまう。しかもその影響がどういうものとなるのかも不明。だからこそ彼女に不安が過ぎるのだ。

 

 

「何か……何か余に出来ることはないのか……⁉︎ シャミ子を助けることすらも出来ないとでもいうのか……⁉︎」

 

 

 拳をコタツに叩きつけ、今の自分の愚かさを嘆くリリス。

 

 そして悟った。もしもシャミ子に白哉の夢の中へ潜入させる前に前もって準備させておけば、彼女が気絶しない可能性はできたのではないか。そもそも白哉の夢の中へ行かせたのが間違いだったのではないか、と。

 

 自らの判断の過ちに責任を感じ、さらに冷静さを失ってしまうリリス。どうすれば良かったのだと葛藤し始めた……その時だった。

 

 

 

「安心しろ、こいつは無事だ。しばらく眠っている」

 

 

 

 今、この空間にはリリスただ一人しかいない。それなのに聞こえてきた、小学生ぐらいの男の子のような高い男性の声。その声が聞こえてきたのは、テレビからの音声でも念話でもなく、リリスの背後から。

 

 生存本能による咄嗟の対応ですぐに距離を取るリリス。すぐさま振り返ってみた時には、彼女がコタツに入っていたところに一人の人物が立っていた。しかし全身が羽織っている白いローブで覆われており、性別の区別が見た目ではつかなくなっている。

 

 だが一番に驚くべきところはこのローブの人物だけではない。彼(もしくは彼女)が右肩に担いでいる、一人の人物を見てリリスは驚愕した。その担がれている者こそ、彼女の信頼すべき子孫・シャミ子であったのだ。

 

 

「ッ⁉︎ シャミ子‼︎」

 

「おっ、どいたのか? ちょうどいいや。んじゃあここにこいつを寝かせてもらうぜ。魔力を通して確認してみたら脳とかにも損傷はないみたいだから、しばらくしたら起きるだろうよ」

 

 

 ローブの人物はそう呟くと、すぐさまシャミ子をその場に横になるように優しく降ろし、即座にジャンプして後方へと下がった。攻撃される可能性を読んでの行動だろう。そしてリリスが封印空間に飾っている装飾の紐の長さぐらいのジャンプ力。それらだけでリリスは警戒した。こいつは只者ではない、と。

 

 

「いやぁ、にしてもすごい睨んでくるなーアンタ。ま、突然来ちゃったもんだから、怪しまれるのも仕方ないか」

 

「貴様……一体何者だ?」

 

「悪いけど、名前はまだ教えられないんだよな。ま、こうしてアンタの身内をここまで運んできてやったんだ。少しぐらいは感謝して……難しそうか。ま、こちらも色々質問されても期待出来る程の回答も出す気がないし、どっちもどっちだな」

 

 

 シャミ子への危機から彼女を守らんとするリリスのその睨みを効かせた瞳を見て、やれやれと言ったポーズを取りながら溜め息をつくローブの人物。気怠さを見せるその態度から敵意は低いだろうが、真意も正体も不明な人物である為か、リリスは警戒を緩めることはなかった。

 

 

「……貴様がどうやってシャミ子のいる場所に来たのか、どうやって余がいるこの場所に来れたのかも分からん。それに答える気も無さそうだな。だが、せめてこの問いには答えてもらおう……何故、シャミ子を助けてくれたのだ?」

 

 

 一先ずシャミ子のところまで駆けつけ、彼女の前に立つようにしてからローブの人物にそう問いかけるリリス。それを聞いた彼(もしくは彼女)はキョトンとした様子を見せ、なんだその事かと言うように再び溜め息をつき、口を開く。

 

 

 

「俺がこうやってそいつ……シャミ子やアンタのところに来れるようになったのは、そいつがやらかしたせいだからな。そいつの身に何かあったらこっちも色々と困るから助けた、それだけだ」

 

 

 

「やらかした……?」

 

 

 リリスは困惑した。子孫が自分の知らない内に一体何をしたというのか、それを問いかけようとした途端、突然ローブの人物の背後に黒い渦らしきものが出現した。ブラックホールの類ではないようだが、リリスは思わず身構えた。

 

 

「んじゃ、俺はそろそろお暇させてもらうとするぜ。あ、そうそう。そいつがもし気絶する前の記憶が飛んでたら適当に『何もなかった』って嘘ついといてくれ。そうした方が今のそいつの身にもなるからな。そいじゃ」

 

「お、おい待て‼︎ 貴様にはまだ聞きたいことが……‼︎」

 

 

 リリスの呼び止めも叶わず、ローブの人物が渦の中に飛び込んだ途端にそれは縮んで消えてしまった。

 

 そして今この場にいるのは、リリスと気絶したままのシャミ子のみとなり、空間は静寂に包まれた───

 

 

 

 

 

 

「………………ん。んん……? アレ。私、一体何を……?」

 

 

 気がついた時には、私は布団の中から目を覚ましていた。周囲を見ても特に変化はなく、ただ蝉の鳴き声が聞こえてくるだけ。時刻は……六時か。早起きしても問題ない時間帯ですかね。

 

 うーん……それにしても、昨日見た夢は一体何だったんでしょうか? ごせんぞと何か話してた感じのと、何やら知らない人達(私と同い年の高校生の皆さん)が会話してる夢を見たような……うっすらとしか覚えてないですね。内容が全く思い出せません。

 

 

『シャミ子よ、今日はいつもよりも早起きだな』

 

 

 あっ、ごせんぞも丁度良いタイミングで起きてくれたのでしょうか? ちょうど良かった、私が寝てる間に何かあったのかごせんぞに聞いてみましょうか。

 

 

「ごせんぞ……私、寝てる間に何をしていましたか? なんだか記憶が飛んでる感じがしてほとんど覚えてないのですが……」

 

『………………』

 

 

 あ、あれ? ごせんぞが急に黙り込んだのですが……もしかして私、聞いてはいけない事を言ってしまった⁉︎

 

 

『……シャミ子、どうやらちょっと寝ぼけてたようだな。特に何もしてなかったぞ? そもそも今日は余のところには来なかったではないか』

 

 

 あれ? そうだったっけ……? いくら私が覚えてないとはいえ、ごせんぞのところに来てないわけが……いや、ごせんぞの言う通り寝ぼけてる可能性もあるし、今はそういう事にした方がいいかな……?

 

 

「……そうでしたか。分かりました、教えていただきありがとうございます。……よし! せっかく早起きしたんだから、今日は私が朝ご飯を作ってみます‼︎ この前おかーさんに味噌汁の作り方を教わったので挑戦したいと思ってましたから‼︎」

 

『おお、シャミ子の作る味噌汁か! 余も是非飲んでみたいものだ‼︎』

 

 

 ふふん。いつか来る時の為に練習していたんですよ。美味しい味噌汁が出来たらいつか白哉さんにも食べさせてあげて、『俺の為に毎日味噌汁作ってくれ』って言ってくれるように……

 

 ハッ⁉︎ わ、私は何を言って⁉︎ あ、危ない危ない。また愛が重くなる考えをしてしまった……‼︎ と、とにかく変な思考するのはやめやめ‼︎ さ、さっさと朝ご飯作りに専念して忘れましょう‼︎ そうしましょう‼︎

 

 ……ん? あれ? なんか似たようなことをさっきも考えてたような、そうでもないような……気のせいですかね?

 

 

 

『………………すまぬシャミ子。今の余には、お主に昨夜の事を思い出させてやる勇気が出ぬ……』

 

 

 この時、ごせんぞが何やら徐に呟いた気がしたけど、私はそれに気づくことはなかった───

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その12

シャミ子が桃に『つぶやいたー』IDを教えてもらおうとするも失敗した後のこと

シャミ子「(うぅ、結局桃はIDを教えてくれませんでした……『何処ぞの怪しいアカウントかどうかの区別をつけれるから大丈夫だよ』ってはっきりと断られた……)」
「(ま、まあ桃の事だから確かに怪しい勧誘とかには騙されないとは思うんですけど……)」
「(……ハァ。仕方ない、今回は諦めましょう。別の手段で桃の笑顔が見れる方法を探し───)」
白哉「どうした優子? そんな浮かない顔して」
シャミ子「ひゃわへっ⁉︎ びゃ、白哉さん⁉︎ す、すみません。いたことに気づかなくて……」
白哉「いや今来たばっかなんだけどさ……どした?」
シャミ子「(そ、そうだ‼︎ せっかく『つぶやいたー』に登録したから、この際白哉さんにもIDを教えてもらいましょう‼︎ スマホを持ってる白哉さんのことだから、絶対『つぶやいたー』をやっているはず‼︎ よ、よし……‼︎)」
「あ、あの‼︎ びゃ、びゃ、白哉さん……‼︎」
白哉「………………? は、はい……?」
シャミ子「えっと……そ、その……」
「(し、しまったー‼︎ 聞くのにも心の準備とかいるんだったー‼︎ う、迂闊でした私……‼︎)」
「(あっ⁉︎ こ、こんな時こそ、桃の時もやったように、口では言えないことをおとーさんの力を借りて……‼︎)」
「(ん? ちょっと待って? それってお願い事をそのまま文字にして白哉さんに見せるってことですよね? それって……)」
白哉「………………あの、優子s」
シャミ子「すみませんやっぱりなんでもないです引き留めてすみませんでしたァァァァァァッ‼︎」
白哉「えっちょっ、優子⁉︎ ………………帰ってった。何だったんだ?」
シャミ子「(あ、当てずっぽうに伝えるべきではなかったですね。あ、明日までに心の準備を済ませてから、また改めてお願いしましょう……‼︎)」

次回の本編のネタバレ:シャミ子、白哉の『つぶやいたー』IDをゲットする

END



終盤に出てきたローブの人物……一体何者なんだ……

たくさんの感想をお待ちしております。たくさん送って作者の執筆のモチベーションを上げよう‼︎

 


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ぐっすり眠れるいい機会なので、今日一日だけ白龍様に体を貸してあげることにしました

リラックスも大事だよってことで初投稿です。

前回投稿から一日経った時はいつもみたいにお気に入り登録者が減りましたが、翌日には元に戻りました。どゆこと? どうしても毎回お気に入り登録者数とか気にしちゃう性分であるけどさ……


 Nice to meet you or good morning or hello or good evening.

 

 ……あっ、今のは『はじめまして。おはようございます。こんにちは。こんばんは』って意味で言ってます。なんで英語で挨拶したのか自分でもわかんねーよ。ってか誰に挨拶してんだよ。

 

 ん? 『ブラウザバックしまーす』? ちょっ、待て待て待て待て‼︎ 何ネットでつまらないサイト・イラストまたは小説見つけた後みたいな反応してるのさ⁉︎ 虚しいからそんな事言わないで‼︎ お願いだから‼︎

 

 まあともかくどうも、白哉です。突然ですが、今俺は近くのスーパーにて食べ物(特に菓子類)を買って帰って来たところです。とはいっても、飯作る時の食料が足りなくなったからとかじゃないんだ。だってそれにしては菓子類をたくさん買って来たんだぜ? 菓子類ばっかり食って三食済ますなんて身体に悪いったらありゃしない。それに食料ならちゃんと確保してあるしよ。

 

 じゃあなんで買い物に行ったのかって? なんで菓子類ばっか買ったのかって? 何故なのかというと……

 

 

『なんだこれは……どういう風の吹き回しだ……』

 

「賄賂……じゃなかった。お供え物です」

 

「桃、お前今賄賂と言いかけただろ」

 

 

 このように、俺・優子・桃の三人でリリスさんにお供えするためです。別にお供えの量は一定ので構わないとリリスさんは言っていたけど、この日はどうしても気になることがあったからたくさんお供えしようということで、リリスさんをお供え物で埋め尽くしてるってわけです。

 

 つまり、この大量の菓子類はリリスさんに聞きたい事を洗いざらい聞くための情報料となるわけだ。いやこれは俺の発案じゃないぞ? 原作通り桃が発案したんだ、唐突にな。

 

 あ、ちなみに菓子類以外もお供えしてるけど、中にはガチャポンでダブった物までお供えされてるよ。ダブり物をお供えって……それお供えじゃないよな? ただの押し付けだよな?

 

 

「今日はリリスさんに聞きたいことがあるんです。シャミ子のお母さんの話から考えて……過去、あなたはヨシュアさんに持ち運ばれていたようです。その時に私の姉──千代田桜を見た記憶はありますか」

 

『フフフ、聞いて驚け……さっぱりわからぬ』

 

 

 うん、分からないんすね。知 っ て た 。

 

 

【ヘッドロックのお供えしてもいいかー?】

 

「ヒビが出ない程度にお願いシャーッス白龍様」

 

『ちょ、待て待て待て待て待て待て待て待て⁉︎ それお供えじゃないよな⁉︎ 技を掛けるだけだよな⁉︎ 像である余にヘッドロックってどうやるというのだ⁉︎ 待て‼︎ ホント待て‼︎ 何故知らないのかはちゃんとした理由があるから‼︎ だからやめてくれ頼む‼︎』

 

 

 そもそも五十センチ──二頭身サイズの奴が行うヘッドロックって、なんかやる方も辛そうに感じるんだけど。体格的に。お腹がグエッて感じになったりとかしないのか? 想像してたら怖くなったんだけど……

 

 あっ、リリスさんが桜さんに関する情報が皆無だという理由を話し始めた。しっかりと聞かないと。

 

 リリスさんは太古の昔に封印されて以来弱体化の一途を辿っていたらしい。特に封印された二千年もの間は魔力が弱まっており、封印空間の外を観測できずにいたらしく、意識がはっきりして外の世界が見えるようになったのも十年前……つまりは封印されてから約千九百九十年間もの間の記憶は曖昧だったとのことだ。調子がいい時も、縁の近い者の夢に干渉することぐらいだそうだ。

 

 ………………なんだろう。実際に本人の口から聞いて改めて知ると、リリスさんは割と悲惨な運命に遭っていたんだな。二千年間も一人で封印空間に閉じ込められて、外の世界に干渉することも出来ず、出来るのは封印空間の中で只一人何かしらの暇を潰すだけ……

 

 リリスさん本人はそれほど大したことない感じでいる上に、優子が自分の声に気づくようになって退屈しなくなったとはいえ、一般の人ならば絶対精神が病んでいるところだな、絶対。二千年間もそんな環境下だったらそうなるに違いないよ。それでも平然としていられるリリスさんの精神にあっぱれとしか言いようがないな……

 

 

『……なんだその顔は! 若造の同情なぞ要らぬ! 無言でお供えは怖いからやめよ‼︎ 白哉と白龍は撫でるな‼︎ シャミ子は泣くな‼︎』

 

「いやそうも言ってらんないです。リリスさん達古代の魔族にとって二千年間が短いかもしれなくとも、俺達人間としては長いどころか百年先まで生きてられるのか分からないものなので。そう考えると二千年間も封印空間で生き続けてきたリリスさんがどうも心配で心配で……」

 

『いや実際人間と魔族の寿命はそんなものだろうが……だからといって、急に慈愛をかけられてもこっちが困惑するだけだぞ⁉︎ 一旦それやめよ‼︎ 頼むから‼︎』

 

 

 だが断る(キリッ)。この平地白哉が最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに『NO』と断ってやる事だ……

 

 いや違うからね。ネタとして言ってみただけだからね。本気で俺よりも強い相手に『NO』と言ってやれるのかわかんないからね。

 

 うーん、それにしてもリリスさんの記憶とかからして桜さんの事は聞けなかったのは残念だったな……まあわかりきっていたことだから仕方ないけど。

 

 

『にしても危なかった……昨夜のシャミ子の事に対する拷問かと思ったぞ……』

 

「ん? ごせんぞ、今何か言いましたか?」

 

『……いや、なんでもない』

 

 

 

 

 

 

 あの会話の後どうなったのかと言うと……優子の提案で明日一日中彼女の身体をリリスさんに貸すことになり、リリスさんが優子に乗り移る機能を封印したエポキシ接着剤を桃が物理的にひっぺがしました。魔法でならより繊細に取れるのでは? って思ったけどもしもの事を考えて敢えて言わないでおいたけどね。

 

 んで、その手術(?)が終わり、リリスさんはただ今気絶中です。その……ご愁傷様です。

 

 で、俺は今何をしているのかというと……

 

 

「あ、あああああ、あの、びゃ、びゃびゃびゃ、白哉さん……‼︎」

 

「は、はい……何でございましょう……?」

 

「そ、その……えっと……何というか……」

 

 

 優子が何やら続けて言おうとしてるので待機をしております。どうやら彼女にとっては緊張する事なので許してあげてね。というか優子の奴、桃が帰ってった時に何を言おうとしてるんだ? なんかこっちまで緊張しちゃうんだけど……

 

 あっ、なんとかの杖を取り出した。そして変形させた。どれ、一体何に変形させたんだ? というか、何かを伝えるのになんとかの杖を使うって、一体どんな状況下なんだと……

 

 

《白哉さんの『つぶやいたー』のエロを教えてください》

 

 

 ………………………………

 

 

「嗚呼、俺の力不足だったか……お前を暴走させんと頑張ってきたのに、遠回しな下心をぶつけてくるぐらい手遅れになるなんて……というか『つぶやいたー』のエロって何……?」

 

「ちっ……違います‼︎ これはエッ、エロじゃなくてIDって書いてあるんです‼︎ し、下心があってそう見えるように書いたとかではなく‼︎」

 

「わ、悪い。ちょっと意地悪してみただけなんだよ。ホント悪かったって」

 

「むぅ……」

 

 

 あの、『こっちはおとーさんの力を借りてまで言いづらいことを伝えて真剣にお願いしているのにふざけないで』と言ってるような膨れっ面で怒らないでいただけますかね? 冗談だから。冗談でやってるだけだから。ホントごめんて。可愛い。

 

 というか、そっか……ついに優子もこの世界のTwi○○er、『つぶやいたー』にアカウント登録したんだな。

 

 そういえば原作イベントのインターネット回でも優子が桃のIDを獲得し、自分の知らない桃の秘密情報を手に入れようという算段をしてた感じだっけ。その時に登録した上に桃にダイレクトメッセージでフォローさせてもらったんだっけか。

 

 ……ん? まだフォローさせてもらってない感じなのかな? ちょっと遠回しに聞いてみるか。

 

 

「優子、お前『つぶやいたー』始めてたんだな。ちっとも気づかなかった」

 

「あっ、はい。桃から借りたパソコンを使って、昨日登録したんです。まだ桃以外誰にも教えていませんし、桃に言われた通り鍵も掛けておいてます」

 

 

 あっ、登録したの昨日なんだ。ってことはまだミカンにもアカウントを教えてない感じか。

 

 ん? ってことは……ここで俺が優子にアカウントを教えてフォローしてあげたりしてもらったりすれば、実質俺が二人目の優子のアカウントフォロー者&フォロワー者になれるってことか……?

 

 ヤベッ、なんかめっちゃ嬉しいんですけど。

 

 

「あ、あの、白哉さん……? なんか変な顔になってますけど大丈夫ですか……?」

 

「えっ? 俺そんな顔してたか? そ、それは悪かった……」

 

 

 俺、もしかしてニヤけてたのか? もしそうだとしたらめっちゃ恥ずかしいんだけど。女の子の前でよくそんな顔が出来たな俺。もうちょい隠す努力しろよ俺。我ながら見損なった気がする。

 

 

「えっと……ところで、念のため聞くけどなんで俺のIDを知りたがるんだ? 俺としてはフォローしてくれるってんなら嬉しいけどさ」

 

「う、嬉しい……ハッ⁉︎ あっ。い、いえ……じ、実は昨日、桃にもIDを教えてもらったので……せ、せっかくなので、一応私のサポートをする役割を持っている白哉さんにも、桃が私以外の変なまぞくにつけ込まれないよう、桃を監視してもらいたいなと……」

 

 

 あぁ、そういうことね。一人でも桃をツイート越しに様子見できる人を増やしたいとかそういう感じね(どういう感じだよ)。……ふむ。俺も桃がどんなツイートしてるのか気になってきたし、ここはやはり相互フォローして損はないな。というか得しか作れないかもだけども。

 

 

「分かった、教えるぜ」

 

「で、ですよね。い、いきなり頼まれて即OKなんてしてくれませんよね。すみませんでし──って、えぇっ⁉︎ い、いいんですか⁉︎」

 

「幼馴染かつ異性の貴重な口実によるフォローリクエストなんだ。承諾して別に損はないだろ」

 

 

 いや我ながら何だよ『幼馴染かつ異性の貴重な口実によるフォローリクエスト』って。幼馴染からのフォロー申請に嬉しく思ったのか異性からのフォロー申請に嬉しく思ったのかどっちなんだよ。

 

 あっ、優子の顔が赤くなってる。やっぱり今の言葉に違和感とかあったんだな。そして羞恥心を感じたんだな。まあ女性は男性に対して交流することによる口実をするのに勇気がいる人が多いしな、多分だが。

 

 あっ、そうだ(唐突)。

 

 

「え、えっと……あ、ありがとう、ございます……」

 

「けど、その代わり頼みたい事があるんだ」

 

「えっ? た、頼みたい事……?」

 

 

 

「俺もゆっくり休みたいから、身体を貸してあげてやってもいいか?」

 

 

 

 

 

 

「───で、白哉くんの身体も違う人に貸してあげてるってこと?」

 

「ま、まさか余の他にも身体の入れ替えができる能力を持っていた奴がいたとは……」

 

 

 リリスをシャミ子の身体を貸すことで一日自由にしてあげるデー当日(メェール君命名)。

 

 上記の通りリリスがシャミ子の身体の所有権を借り、外見だけでも威厳を保つ為にと通販で買ったゴスロリ系ファッションで桃の前に颯爽と登場した中……彼女は現在、続けて集合場所に来た白哉を見て、桃同様に呆気に取られていた。

 

 何故なら白哉は今、先程の二人の会話の通りまさかのリリス同様に他人に身体の所有権を渡しているのだ。ちなみに、その白哉の身体の所有権を受け取っているのが誰なのかというと……

 

 

 

「今日は白哉に代わってこの俺、白龍がお前達と一緒に同行していくことになったからな。よろしこー」

 

 

 

 白哉の相棒枠でデフォルメサイズの龍の姿で定着されている感のある龍・白龍である。白哉の武器となった槍を掘り起こす為に身体を借りて僅か二日、再び白哉の身体を使う権利を得たのだ。

 

 そして声と性格・尻尾の形が変わっただけのシャミ子となったリリスとは違い、白哉の身体を得た白龍の姿は一目で分かるものとなっていた。

 

 銀髪の部分が白哉のよりも目に優しい程度により一層輝きを纏っており、瞳の色もエメラルドグリーンに変わっていた。そして傍観していた時の白哉本人は気づいていないが、首筋には白龍の翼のタトゥーが描かれていた。それも輪郭が濃いものとなっている。

 

 ちなみに服装もいつもの白哉が着ないものとなっている。袖を引き千切って無理矢理半袖にしたかのような灰色のジャケットに紺色のサルエルパンツ、首に巻かれたシルバー調の龍の羽のペンダントといった、何処ぞのライブを行うバンドマンだ、みたいな痛い衣装をしていた。

 

 今の彼を見て、桃とリリスは二人してこう思った……。普段通りの頃からは想像出来ない程の高校デビューを果たした元陰キャ男子か何かですか⁉︎ と。

 

 

「ちなみに白哉は今、入れ替わったことで俺の身体で精神世界に入ってぐっすり眠ってるぞ。ゆっくり寝る機会がなかったみたいだから、今日はリリス殿みたいに一日中同伴者の身体借りさせてもらってるぜ」

 

「そ、そうか……しかしいつもの白哉と比べると、気怠な癖に友好的な感じのする性格のお主が表に出ると違和感がすごいな……」

 

「アンタに言われたくない」

 

 

 リリスが白龍を警戒してしまうのも無理はない。

 

 普段の白哉は年相応の反応を見せる反面、どこか大人びた雰囲気を曝け出している。そんな彼が突然気怠になったり、いつもよりも友好的……というよりもおちょくりやすい性格になってしまっては、さすがの周囲も彼の行動に疑問を感じたり警戒したりするだろう。

 

 しかし、そんな彼の身体を借りている白龍にとってはそんな疑問などなんのそのといった様子だ。身体の持ち主である白哉にとって予期せぬ事をしない限り、問題事は起きない……はず。

 

 

「まあこうして、同伴者の身体を貸し借りできる者同士が交流し合える絶好の機会だ。お互いこの日は桃と三人で仲良くやろうぜ」

 

「一応これ、余がエスコートしてもらう日なのだが……ま、まあ貴様と直接交流するなんて滅多にないだろうしな。そこのところよろしく頼むぞ」

 

 

 白哉の身体で躊躇いなくシャミ子の身体を肩を組んできた白龍。そのマイペースさに引き気味なリリス。しかしお互い嫌悪感があるわけではなかったため、ギスギスとした雰囲気にはならずに済むだろう。

 

 しかし、別の問題事が発生するのも事実だ。

 

 

「……えっ、ちょっと待って。もしかして私、シャミ子や白哉くんの身体を借りた別人二人に挟まれてる? というか私、この二人に振り回されるんじゃ……」

 

 

 桃の不安要素が二つに増えたことだ。南無。

 

 この後桃は三人並んで歩く時、白龍とリリスのファッションセンスが痛々しく感じたのか終始二人から目を逸らすことになったとか。彼女のファッションセンスも絶望的ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 リリスの話によれば、シャミ子の魔力的に体を借りられるのは二・三時間が限界とのこと。そのため二人にローカル路線バスで別府温泉に急ごうと誘導させようとするが、バスを待機している間に時間切れになるとのことで却下されてしまう。

 

 下呂温泉や登別も提案するが、どれも地方から外れているため却下。それでも温泉好きのリリスは温泉に行くことを拒まなかったとのことで、桃は仕方なく『たま健康ランド』で妥協することにした。

 

 

「ここ~この前も来た~。二回目~〜。桃~ここ二回目~っ。いいけど~っ」

 

「おいおいリリスさんよォ、温泉というものは二回も三回も来ていいものなんだぜ? 来る毎に楽しみ方を変えれば飽きずに済むし、何度も来れば常連客にだってなれるぞ?」

 

「常連かぁ〜。どうせなら別府か下呂での常連がいいな〜〜っ。ここの常連もさぁ〜いいけど〜っ」

 

「まあそれなぁ〜。わかる〜っ」

 

「(うわ、いきなりなんか意気投合してるよこの二人。シャミ子と白哉くんの身体なのにウザく感じてしまうのが否めない……帰りたい……)」

 

 

 唐突に意気投合して、今時のチャラい高校生カップルっぽい何かのようになっている白龍とリリス。そんな二人を見て苛立ちを感じさせる桃だったが、今の二人が白哉とシャミ子の身体の所有権を持っていると思い返した途端に複雑な感情を持ち始める。彼女の胃が悪くならないか不安だ。

 

 何はともあれ、券売機にて入館料を払うことに。白龍は事前に白哉から自由に使ってもいいようにと持ち金を渡されたため問題ないが、一方のリリスは……

 

 

「リリスさん、入館料千二百円」

 

「余の慰労会ではなかったのか⁉︎」

 

「親睦会です。若造に奢られて悔しくないんですか?」

 

「……余の財布にはお金が入ってないのだ」

 

「シャ・ミ・子・の財布です‼︎」

 

 

 ただいま全財産十一円まぞく中である。とはいってもシャミ子の所持金ではあるが。自分のではなく子孫の所持金を使う先祖は格好がつかないものである。

 

 すると突然、白龍が何かを企んだのかニヒルな笑みを浮かべ、近くに設置されてある卓球台のラケットに手を取り、それをリリスに向けて指した。

 

 

「だったら俺と卓球で勝負しないか?」

 

「………………? どうしたのだ突然?」

 

「俺と卓球で勝負して、ラリーしたり点を入れたりする毎につき入館料代を増やせるというシステムだ。払える金がないのなら身体で払えってことだ。ちなみにこれは健全的意味でだぞ?」

 

 

 健全的意味でも言葉の時点で健全的に捉えられないでしょ。そもそも何を勝手にルール決めてるの。桃は頭の中で白龍に向けてそうツッコミを入れているが、口にするのも癪だと思ったのか頭の中で言うだけに留めた。

 

 

「いや、しかしな……余の目的は温泉であって、併設されたものには微塵の興味も───」

 

「えっ何? 怖いのか? 戦える力がない状態でも自由に動くことはできるちっちゃい動物に負けるのが怖いのか? 古代の魔族が聞いて呆れるなー。ざーこざーこ☆ 喋ることしか出来ずぶん投げられるだけの弱小魔族☆」

 

「むっ……‼︎」

 

 

 メスガキならぬオスガキのような煽りをしてくる白龍。リリスはそんな彼の態度に苛立ちを覚えたのか、すぐさま卓球台の向かい側にあるラケットとピンポン玉を手に取り、サービスショットをする構えをとった。

 

 

「怖くなどないわァ‼︎ 自力では喋る事が出来ない貴様など赤子を捻るように圧倒できんこともない‼︎ 代金分……いや、一ゲーム分だけでも貴様との差をはっきりさせてやるァ‼︎」

 

 

 乗った。闇を司る魔女は、転生者の介入によってポッと出した龍の挑発に乗ったのだ。この状況に白龍は再びニヒルな笑みを浮かべ、してやったりとした表情となった。

 

 

「そう来なくっちゃな。おい桃、審判よろしく」

 

「えっ。ちょっ、何を勝手に───」

 

「では行くぞ‼︎ ぬうおりゃあ‼︎」

 

「ッサーッ‼︎」

 

 

 桃の静止を無視し、即座に試合を開始させた白龍とリリス。開始早々に白熱なラリーを展開させ、桃の静止の入る余裕は与えられることはなかった。

 

 

「(は、始めちゃった……まあ対等であるためにお金がもらえるシステムを投入したのはいいことだから、いいか)」

 

 

 この後桃はこの試合が終わるまで、考えるのをやめた。

 

 ちなみにゲームの結果は十一対〇、リリスの惨敗という形で終わったのだった。南無三。

 

 

 

 

 

 

 卓球の試合が終わり、シャミ子の魔力が残り少ないことを悟ったリリス。これ以上現界できる時間を割くわけにはいかないとのことで、桃と白龍に浴場に急ぐことを促した。

 

 

「いや俺は男だから女湯には入れないぞ。ってかヤダ」

 

「そういう意味で言っとらんわ‼︎ お主も余と桃が女湯入ってる間に男湯に入れば………………いや、この場合は性別が違うものが時間差で入っても問題ない、のか?」

 

「急に謎の不安感持つのやめて?」

 

 

 リリスの謎の自信の無さに白龍がツッコミを入れる中、桃は何やら気まずそうな表情を浮かべていた。

 

 

「…… 私、外で待っているのでリリスさんと白龍さんだけで行ってもらえます?」

 

「何故だ⁉︎ 一通りのぼせて正気度が下がれば、汗と共に互いのわだかまりも流れよう‼︎」

 

 

 何故かリリスとの入浴……というよりも入浴自体を拒む桃。そこを強く指摘するリリス。そんな二人をよそに、白龍は何故か三度ニヒルな笑みを浮かべ出した。

 

 

「じゃあ俺は二人が上がるまで待って、一通り卓球の件で煽ってから入るとしようかな」

 

「どういう思考に至るのだ貴様は⁉︎ 腹黒か⁉︎ さては今腹黒系になってるな‼︎」

 

「いや元からだから安心しろ」

 

「元から腹黒だと言う時点で何を安心すれば良いというのだ⁉︎ というか自分で『自分は腹黒だ』と言う奴なんて滅多にいな───」

 

 

 刹那。リリスのツッコミを遮るかの如く悪天候による雷のため館内のブレーカーが切れ、停電が発生した。しかし幸いにも停電であることを伝える館内放送が流れる程度のダメージであったためか、それほどまでの損傷はないようだ。

 

 

「なんだ停電か……。ちょうどいいので、一旦ロビーに出て待ちましょう」

 

「ほへぇ〜、何かしらのドッキリ企画でもやってるのかと思ったぜ。ちょっとビックリしたな〜リリス殿……リリス殿?」

 

 

 桃と白龍は館内が停電している中でも冷静でいられている中で……リリスはただ一人、恐怖によるものなのか体を震わせており、顔も絶望的状況に陥っているかのような表情となっていた。そして……

 

 

「もっ……………… ももももも~‼︎ これは何だ⁉︎ この世の終わりか⁉︎」

 

「なんだこの威厳破壊卓球ボロ負けクソ弱ポンコツ古代魔族は」

 

 

 盛大なる泣き虫っ面で桃に抱きつくリリスを見て躊躇のない悪口を繋げて完成されし即興のあだ名。これは色んな意味で酷すぎる。

 

 

「言いたいこと言い過ぎだし呼称があまりにも酷すぎる……それよりもリリスさん、どうしました?」

 

「余は……余は……完全なる暗闇はダメなのだー‼︎ 全力で余を担いで逃げよ‼︎ 余は暗闇が怖いのだー‼︎」

 

「「……永劫の闇を司る魔女なのに?」」

 

 

 ごもっともである。

 

 闇の力の中には暗闇に関する能力というものも多大に存在する。そんな所有するのにピッタリな能力の要素の一つに対する恐怖心を持つなんてそうそういないであろう。そもそも魔族自体に出会うこと自体難しいとは思うが。

 

 すると白龍は突然、何処から持ってきたのか不明な、赤ちゃんをあやす為に使う振って音を出すおもちゃ──ガラガラを取り出し、それをリリスに振って見せた。

 

 

「ホラホラー、リリスちゃん落ち着いて―。パパがいるから安心でちゅよー」

 

「う、うわぁ……それリリスさんみたいなポジションにいる魔族に対する熱い風評被害になるんじゃ……」

 

 

 白龍の予想外かつあまりの対応に完全に引き気味となる桃。だが煽られているリリスの方はというと、赤子扱いしてくる白龍に対して怒りを露わにしないどころか……

 

 

「うぅ、パパァ……」

 

「恐怖に震えているせいか幼児退行し始めた⁉ リリスさんしっかり!! 貴方は永劫の闇を司る魔女でしょ⁉」

 

 

 その煽りによるあやかしをまともに受けてしまった。そうなってしまう程に真っ暗闇が怖いとでもいうのかこの魔族は。

 

 桃が宥めた事により冷静さを取り戻したリリスは、何故自分が完全な暗闇にトラウマを感じているのかを二人に明かした。彼女は封印された頃は魔力が多少未熟となっており、魔力をコントロールできるようになるまで封印空間は真っ暗で、外の世界も見られなかったとのこと。

 

 

「それが何年も続いてたら、そりゃトラウマにもなるわな」

 

「うむ……さすがの余もこの自分の愚かさを否定することは出来ん……威厳破壊卓球ボロ負けクソ弱ポンコツ古代魔族と呼ばれてしまっても無理もないな……ハハッ……」

 

「アレ一文字も忘れずに覚えてたのか……本気では言ってないから忘れて? 俺気まずいから」

 

 

 トラウマによる鬱なテンションにより自己嫌悪に陥っているリリスを宥める白龍。軽い気持ちで呼称をつけたとはいえ冗談では済まされない発言であったことを後悔しているようだ。

 

 そんな二人を見て気まずさを感じていた桃は、この澱んでいる空気を変えようとスマホを取り出して電源を入れ、照明代わりにして暗闇を紛らわせた。

 

 

「と、とりあえず復旧するまでは………………これなら怖くないですか?」

 

「スマホというやつか⁉︎ う、うむ! これなら生きていけるぞ!」

 

「あっ、それなら気分を良くしそうな動画があるの知ってるぞ。ちょいと貸して」

 

「あれ? 白龍さんには白哉くんのスマホがあるんじゃ……あっ、パスワードを白哉くんに教えてもらえなかったんですね。どうぞ」

 

 

 何故白龍が白哉のスマホを使用せず桃のスマホを借りようとしたのかを察し、彼にスマホを渡した桃。それ受け取った白龍がとある動画サイトを開いた途端、それは突然流れ出した。

 

 

『○京○成大学‼︎ 帝○平○大学を知ってるか⁉︎ 帝○○成大学のここがスゴイ(帝○魂)‼︎ ○京平○大学‼︎ 健康・医療・スポーツ・経営学など 幅広い学問を学べるんだぞ(○京魂)‼︎』

 

 

 意味不明な音楽……というよりは笑いを取りにきた音MADそのものである。しかも何処ぞのトナカイ船医の声で歌われていた。

 

 

「………………えっ、何これ」

 

「何って、ノリノリ帝京平成大学っていう音MADだけど?」

 

「そ、そっかぁ。世の中にはこんな音楽もあるのだなー……いやホントになんだこれ」

 

 

 この動画は桃とリリスにとっては理解し難いものであったようだ。しかし他に視聴するものがなかったためか、復旧して温泉に入るまでは白龍が流している音MADとそれの類似動画を観るしかなかった……

 

 とはいったものの、類似動画を観ていく内に二人とも笑いを必死に堪える時が多々あったようだが。

 

 

 

 

 

 

 烏の美しい鳴き声が響きながら美しく町を夕陽が照らす夕方。この俺、平地白哉は白龍様に身体の所有権を返していただきました。

 

 白龍様が『銭湯から出たらリリスさんが優子に身体を返したからこっちもそろそろ返すな』って言ってきたからそうなった。『片方が身体を持ち主に返したのに自分はまだ返さないのは不公平な気がする』とのことらしいけど、悪ささえしなければばんだ荘に帰るまでの間は貸してあげるのにな。

 

 ってか、何今の俺の格好。

 

 

「なんか、何処ぞの満足同盟の服そっくりなのを着させられたんだけど。どうなってんだよ白龍様のファッションセンス」

 

 

 ファッションは全体的にバンドマンっぽくてカッコ良いけどさ、外出でこれはなんか召喚師覚醒フォームのとは違う意味で恥ずかしいんだけど。しかもこのジャケット、袖を無理矢理引き千切った? なんか世紀末な世界線で荒くれ者とかが着てそうなヤツみたいで、なんか……

 

 

「あはは……お互いごせんぞや白龍様の趣味に合ったものを着させられましたね……白哉さんの方はその、独特さがあると言いますか……」

 

「……優子の方が余程マシだと思うぞ。変なアレンジはされてないし、危機管理フォームよりも露出度が低いから外出するのに悪くはないし、闇の一族っぽさもあるし………………いつもよりもスタイル良く見えるし」

 

「ふぇふぃっ⁉︎ あっ。そ、そうですか……あはは、大袈裟に驚いちゃいました。すみません……ふにゃあ……

 

 

 こっちもすまん。最後に思った事を口にしてしまった。あぁクソ、さらっと発言は意識したら恥ずかしくなっちまうわやっぱり。優子の顔ぎ真っ赤になってるし、こっちも顔が熱くなってる気がするし……

 

 

「……で、白龍様はどうでしたか? 桃やリリスさんと直接話し合って仲良くなれましたか?」

 

【おかげさまでな。けど現実世界で口から声出した時はなんか違和感を感じたな。『アレ? 喉って喋るために動かしたらこんな感じになるのか?』みたいな】

 

「あぁ……精神世界ではテレパシーみたいに言葉を伝えていましたからね」

 

 

 それがいつもは喉を使って直接口から声を発さないものの感想なのか? うーむ、それはさすがに理解に苦しむなマジで。俺達人間はいつも喉と口などを使って喋るから……

 

 

「ところで、白龍様はいいんですか?」

 

【ん? 何がだ?】

 

「桃とリリスさんの会話に参加しないのかって話です。何やら二人でコソコソと会話していますよ。しかも仲良くしてる感じに。なのに入らなくていいんですか?」

 

 

 そう言うの俺の視線の先では、桃がごせん像のリリスさんと何やら話し合っているのが見て取れている。

 

 ちなみにアレは桃が録画したリリスさんの真っ暗闇が怖いカミングアウトを本人の耳元で聞かせ、『この音源を穏便に処理してほしいなら諸々の問題が解決するまで仲良くしていこうね』という脅迫です。白龍様もあの場にいたはずだから、今の会話の輪に入っても問題ない……はず。

 

 

【いや、俺はいいよ。アレは二人だけの空間みたいなもんだから、そこに俺が入るだなんて野暮ってもんじゃん。それにめんどくさいし】

 

「そうですか……」

 

 

 これはまあ、白龍なりの配慮ってヤツだな。ならあの輪に入らせる必要はないか。無理矢理なのも三人に対する嫌味とかになるし、これはしゃあないかも。最後の理由は良くないけどね。

 

 

【まあとにかくだ。俺は現実世界の銭湯に行けて満足した。お前はぐっすり寝て少しはリフレッシュできた。お互いWin-Winしたってことで明日からも来るべき日に備えてゆるーく頑張っていこうぜ】

 

「緩くって……まあそうですね。今後も頑張っていきます」

 

 

 確かに今回の件でお互いリフレッシュすることは出来た。俺も久しぶりにゆっくり寝ることが出来た。これで次の原作イベントに気合いを入れて臨むことができるはずだ。

 

 よし、明日からも一日頑張るぞい‼︎

 

 

 

 

 

 後日、俺は下半身辺りの筋肉痛に遭いました。どうしてこうなった。

 

 

【ヤッベ、卓球に張り切りすぎたわ】

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その13

リリスさんとのお出掛け前日

白龍【俺が着る人間のファッションってさ、どんなのがいいと思うんだ?】
メェール【……? 急にどうしたんですメェ〜?】
白龍【実は昨日、白哉に一日だけ体を貸してあげるって言われたんだよ。なんでもシャミ子がリリス殿に体を貸してあげることになったのに合わせたいからなのと、白哉自身が少しでもゆっくりできる時間を増やしたいからだからなんだと】
【で、俺も白哉の体を借りることになったってわけだけどさ、俺なりのファッションってものを着て、その服を明日の俺が白哉じゃなくて白龍である証拠にしたいって思うようになって……】
メェール【なるほど。確かに白龍様がマスターの体を借りてる感を出した方がよろしいですメェ〜。白龍様が着そうで、マスターが着そうにない服……】
コウラン【それだったらなるべく派手な格好にしたらどうかな〜?】
白龍・メェール【派手?】
コウラン【白龍様の体はギンギラギンに輝いているから、それに伴う感じに派手なのを着れば白龍様らしさを出せると思うよ〜。それにマスターの服装はいつも普通って感じのものばっかりしか着ないから、より一層マスターらしくない感も出せれると思うな〜】
白龍【派手、か……よし、適当にそういったのをネットでググってみるか】
メェール【適当って、それは大丈夫メェ〜かな……】

数分後……

白龍【なんかインパクトはありそうなのは見つけたぞ】
メェール【どんな服ですかメェ〜?】
白龍【反○のルルー○ュの主人公が着るこのマントなんだが──】
メェール・コウラン【それ着て外出はやめてくださいメェ〜(ほしいなぁ〜)】
白龍【なんで?】

この後二匹が色々妥協もしてバンド系のファッションにしてあげた。

END



そういえば白龍様って面倒臭がりな設定にしてたんだよな……? そんなに面倒臭がってた……?(混乱)

 


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俺氏、原作に登場しない魔族を発見したり。しかも魔法少女の兄……えっ? どゆこと? ♦︎

自分は小説よりも漫画派なので初投稿です。

寝落ちやTwitter漁りとかが多くてストック切れそう……休み入れるために原作三巻編が終わったらしばらく投稿休もうかな……?


 どうも皆さんこんにちは、白哉です。突然ですが俺は今、訳あってとある本屋さんに来ています。

 

 とはいっても、別に欲しい本があるからとかそういう理由で来たわけじゃなくて、本とは関係ないけどそれでもちゃんとした理由があって……

 

 まあそれは後々説明させていただきます。とりあえず状況報告しておかないと。俺は今───

 

 

「それでは早速聞かせてもらおうではないか‼︎ この我が我が妹と運命の出会いを果たした時の経緯を‼︎ そして我が妹が我に心を開いてからどのように変わっていったのかを‼︎ それらの‼︎ 大まかなのを‼︎ 全て‼︎」

 

 

 なんか店長さんが自身と血縁者ではないけど我が妹だという女性との出会いについて聞いてもらおうとしてきて、俺はそんな彼に迫られています。しかも俺の周りには何故か小さい蝙蝠の大群が囲んでいます。

 

 はっきり言うぜ………………どうしてこうなったというんだ⁉︎ いやマジで‼︎ 俺は一応人(?)捜しをしていたはずだぞ⁉︎ なんで蝙蝠の大群に囲まれながら問い詰められなきゃならねェんだよ⁉︎

 

 

「相変わらず色んな種類の本があるッスねェ〜。何度来ても飽きないッス」

 

 

 全臓ォォォォォォッ‼︎ 何自分は無関係ですよ感を出してこの状況をスルーしてんだよ⁉︎ はよこの状況をなんとかしてくれェェェェェェッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 時は数分前に遡る。事の発端はこうだ。

 

 まず、今朝にて桃が町に出て優子の他に潜む魔族を探そうと提案した。それに関する約束を忘れてはいないけど色々な事が起こりすぎて長い時間が経った気がすると感じていた優子が早速魔族探しに乗り出した。

 

 その魔族探しに俺も同行するかどうか悩んだけど、ここで俺は優子とは違うルート等で原作に出なかったorまだ出ていない魔族を探せばこの後の展開が色々と捗るのでは、的な事を思いついたので別行動することになった。

 

 ちなみに桃とミカンは同行不可となっている。なんでかって? これには原作の設定通りの深いワケがある。この町で桜さんと付き合いのあった昔からいる魔族は結界で保護されているため、魔法少女が同行すると同行している人も近づけないようになっているらしい。過激派魔法少女対策ってことだな。他の町の魔法少女相手なら尚更だ。

 

 あっ。そういえば俺が優子に同行しない事にした件について桃に深く問いかけられるのだろうかと不安に感じたけど、優子の事を信頼していたからか指摘されることはなかったな。あの時の優子の勧誘という名の説得が効いてきたみたいで何よりだ。

 

 で、優子に『お互い頑張りましょう‼︎』と元気に声を掛けられ別行動。とりあえずは優子が行く予定である喫茶店『あすら』以外のところに魔族はいるかという情報を聞き出すことに。

 

 というわけで聞き込み調査しに行ったんだけど、手掛かりは全くと言っていい程ゼロ。条件を『あすら以外の場所』と絞っただけでこんなに困難を極めてしまうとは正直思わなかった。一体どうしようかと悩んでいたところに……

 

 

「アレ? 平地くんお久しぶりッス。一体どうしたんスか? そんなところで頭なんか抱えて」

 

「……‼︎ 全臓‼︎」

 

 

 ってなわけで、路頭に迷った感じになってるところに忍法オタクこと全臓と偶々鉢合わせしたぜ‼︎ 色々な方面から忍法を新しく覚えることのできるアイデアを次々と見つけるのが得意な彼ならば、もしかすると……

 

 

「………………? どうしたんスか? 突然何か期待しているようなつぶらな瞳をした可愛い系のオスのワンちゃんみたいな顔して」

 

「別にワンちゃんの性別は関係ねェと思うんだけど……まあいいや。実はな、ちょっと聞きたいことがあるんだよ」

 

「へっ? 何スか?」

 

 

 ここで俺は自分が今何をしているのかを全臓に話した。優子と一緒に桃の姉である桜さんの行方を探していること、桜さんの手掛かりを知っているのかもしれない魔族のいる場所を探していること、全て。

 

 それらを話し終えた途端、全臓は突然ブワッと滝のように涙を流し始めた……えっ、アニメの世界とはいえ現実世界でも涙を滝のように涙を流せる奴がいるんだな……というか流せること自体がスゲェけどな。

 

 

「ウッ……ウゥッ……そ、そうだったんスね。千代田さんには生き別れの姉がいただなんて……」

 

「生き別れって……まぁ死んではいないことは確かだと思うけどさ」

 

「そんな彼女に手を差し伸べるお二人……普通に感動するッス……」

 

 

 それはわかる。一人で大切な人を探していて挫折した者が救われるってのは中々いいストーリーが出来上がるってもんだ。そこに情がないって言う奴がいたら嘲笑いたくなるぜ。いや嘲笑いたくなるというよりも『人の心ってもんがないのか』って怒りたくなるな、うん。

 

 っていうかそんな事考えてる場合じゃねーな。本題本題。本題聞かないとアカンやん。俺だけ何の成果も得られなかったっていう結果で終わらせたくないし。 ナンノセイカモ‼︎ エラレマセンデシタ‼︎

 

 

「ところで全臓、この町で魔族に会えそうなところってどこかわかるか? お前なら町の色んなところを知ってそうな気がするんだけど」

 

「えっ、魔族に会えそうなところッスか? 魔族……? うーん、まあ多摩町ならシャミ子ちゃん以外の魔族もいてもおかしくないんスけどね……」

 

 

 まあ、そういう反応してもおかしくはないけどさ。とりあえず思いついたとしても喫茶店『あすら』だけってのはやめてくれよ? そこは優子が行くことになってるし、何より俺は一度拓海に連れて来られた形で来たんだからさ。

 

 けど流石の色々な場面等から忍法のアイデアを見つけ出せる全臓でも、魔族のいる場所は知らない感じなのか? 不安だ……

 

 

「………………あっ‼︎ 思い出したッス‼︎ そういえば最近行った本屋さんに魔族かもしれない人が働いているみたいッスよ‼︎」

 

 

 ……マジ? 淡い希望が通じた? 原作では見つかることのなかった新たな魔族の居場所が分かったの? 嘘でしょ? よっしゃラッキー?

 

 

「んで……その魔族がいる本屋って一体何処なんだ?」

 

「じゃあついて来てほしいッス。俺が案内するッスから」

 

「おう、じゃあ頼む」

 

 

 俺はそれだけ言って全臓の後をついて行く。確か俺達がばったり会ったところはショッピングセンターマルマの近くだったな。で、そこから南側に歩いて徒歩……七分ぐらいか。近いのかちょっと遠いのか微妙なラインじゃねーか。

 

 で、全臓が立ち止まったところに俺も立ってみたら……

 

 そこには明治時代にありそうな西洋風の朱色の建物があった。それも一軒家よりも高めな感じの。壁とかをよく見たら魔法少女除けの結界の紙が貼られているから、きっとそうに違いない。

 

 

「ここは本屋『本の祭典 スカーレット』っていうッス。新しく出版された本や古本、中には当店オリジナルの小説の本などがたくさん置かれているところから本の祭典って呼ばれるようになったらしいッス」

 

 

 へぇ、自作の小説まで並べているのか。しかも古本まで置いているってことは、精○館や三○堂みたいな本屋とブック○フが合体した上にオリジナリティさも混ぜたようなものなのか? ブックオ○みたいに本以外も並んでいるかどうかは分からないけど。

 

 

「ちなみに本の種類は三千種類を超えるかどうとかって呟いている人達もいるらしいッスよ」

 

「千種類もかぁ。結構並べているんだなここの本屋って……………… って、ハァッ⁉︎ 三千種類ィ⁉︎

 

 

 アイエエエエ⁉︎ サンゼンシュルイ⁉︎ サンゼンシュルイナンデ⁉︎

 

 お、おまっ、本屋って普通は少なく見積もっても数百種類は本を置いてるよな⁉︎ ブックオフでも千種類はあるのに……なのにここの本屋はそれを遥かに超えるってか⁉︎ どれだけ品揃えいいんだよ⁉︎

 

 ってかよく集められたな⁉︎ よく出版してもらったな⁉︎ よく並べられたな⁉︎ ここの本屋ってマジ色々とすごすぎるやないかい‼︎

 

 

「そ、それほどすごい本屋で働いている魔族って、一体どんな人なんだよ……本屋の事もめっちゃ気になるけどさ、その魔族がここで働いているかもしれないって考えると、そっちの方も色々と気になって仕方ないんだけど……」

 

 

「そう思う気持ちはわかるッス」

 

 

 むむむ……なんだかスケールのデカい光景を目撃しそうでなんだか気が引けるな。入るのを躊躇ってしまうぜ。三千種類以上もの本を並べている本屋で働く魔族、一体何者なんだというのだ……

 

 

「入るのにそう畏まらなくてもいいッスよ。その魔族さんはフレンドリーな方ッスから。先に入るッスね」

 

「えっ。ちょ、ちょっと待って……」

 

 

 そうだった。全臓は少なくとも一度は訪れた経験があるから、ここの魔族に会うのも慣れっこだったんだ。いや一度来て会っただけですぐ慣れるわけがないとは思うけども。

 

 そんな彼に釣られて後を追う形で入店した俺氏。本屋に入るとそこには……

 

 まぁ、何という事でしょう。入った途端に無数に並ぶ本棚が並んでお出迎えしとるやないかい。しかもその全てに本がギッシリ詰まっているじゃねェか。それらが並んでいるこの部屋は広場レベルに近い程とてつもなく広いなオイ。

 

 それに所々に照明が設置されているから、広々とし過ぎているこの部屋を照らしてくれてる。明るさもきちんと考慮している広場レベルの本屋は優しい。本の種類が異常すぎるけども。

 

 あっ、二階建てになっているんだ。しかも中央の広めの通路からは二階の様子が吹き抜けで見えているんだな。へー……

 

 うーむ……これってまさか東○でいう大魔法図書館とかじゃないだろうな? よくよく考えたら本屋が古本を含めてるとはいえ千種類以上の本を取り揃えるわけがない。普通に考えてあり得ない。絶対ない。

 

 待て。いや待て。いや普通に大魔法図書館の方があり得ないな。まあ変な奴が多いこの多摩町ならそういう摩訶不思議な店とかがあってもおかしくはないだろうけど、本物の魔法の書物とか誰が買うんだよ。そもそも買った人は覚えられるのか? 魔法少女は多分契約してから魔法を覚えるから買ってくれるかは微妙ってラインだし……

 

 とりあえず、遠くからどんな本が本棚に並べられているのか確認を───

 

 

『○ティ○ンター』

 

『金○のガッ○ュベ○』

 

『ト○ジャー○イスト』

 

『マジ○ンク』

 

『豊○玉日記』

 

 

 ……前言撤回。ここ多分、本当に三千種類以上の本がありそうな本屋さんだわ。

 

 だって数十年前の漫画とか昭和の漫画とかが並んであるし、何より『トレ○ャーガイス○』とか『マジ○ンク』とかは十年以上前のコロコ○コミックで連載しているヤツだし、『マジ○ンク』は一巻しかない打ち切り漫画だし、『○漫玉日記』は普通に知らないし。

 

 なんだろう……ここの本屋さんはめっちゃすごいところなのかもしれん。魔族も働いているとなるとさらにすごい。結界が貼られている時点で確定なんだけどさ……

 

 

「いらっしゃい。本の祭典と呼ばれるようにもなったスカーレットへようこそ。何かお探しかね?」

 

 

 なんか今にも『フハハハハ』と高笑いしてそうな慢心王みたいな男性の声が聞こえてきたため、その声がする方向を確認する。レジのところだな。

 

 そのレジのところで座っているのは、頭頂部ら辺が長く逆立っている濃い赤色の髪の、三十代なのかもしれないけどかなりの成人イケメンフェイスな男性だった。

 

 白いワイシャツと黒いスーツっぽいズボンを綺麗に履いてるってところを見るとなんだか服装にもこだわりを入れている上にしっかりしているって感じがする。個人的意見だけど。

 

 ………………というか、あんな雰囲気と態度の店員さんっていたんだ。足を組んで頬杖してペロペロキャンディを口に含みながら接客とかしないでくれませんかね? カッコ良いけどさ、店員らしい態度ってものがなってないような……

 

 

「店長、お久しぶりッス」

 

「む? おぉ、君は確か忍法をこよなく愛しているが故に我流のを習得した全臓ではないか。ここに来てくれるのは半年ぶりか?」

 

 

 えっ。全臓、お前彼とは知り合いなの? しかもこの人半年前から働いていたの? あんな態度での接客で? というか『忍法をこよなく愛しているが故に我流のを習得した全臓』って何? どんなあだ名(?)で覚えてもらってんのお前?

 

 

「今日も忍法を覚えるための本を探しているのか? ほしい本があるならば言ってみてくれたまえ。ちなみに我が今日個人的におすすめするのは───」

 

「あぁすいません、今日は本を買うために来たわけじゃないッス。実は今日は俺の友達──俺の隣にいる平地白哉くんって子が用があるので」

 

「ほう? なんだ? 申してみろ」

 

 

 ………………ウッッッッッッザ。なんだこの人の神経を逆巻いているかのようなウザい態度は。『申してみろ』ってなんだよ何様だよアンタこの人が暴漢とかだったら思いっきりぶん殴りたいよマジで。進路に影響が出るから抑えるけどさ。

 

 

「ほら平地くん、要件要件」

 

「お、おう……」

 

 

 えぇい、あんな奴に構っている暇なんてねーんだ。俺はこの本屋さんで働いている魔族を探しているんだ。その人を出せその人を。

 

 

「あー実はですね、ここで働いているとウワサの魔族を探しておりまして。店員さんは何かご存じで───」

 

「あぁ、それは我のことか?」

 

「………………えっ?」

 

「言っておくが、ここで働いている魔族は我一人だけだぞ」

 

「えっ?」

 

「それと、こう見えて我は店員ではなく『店長』なのだ」

 

「えっ? えっ? ………………えっ?」

 

 

 

「我がこの『本の祭典 スカーレット』の主任であり、誇り高き吸血鬼の魔族である、ブラム・スカーレットである‼︎ この名を覚えて帰ると良いぞ‼︎」

 

 

 

「なんか色々すみませんでしたァ‼︎」

 

 

 ▼平地白哉 は 即刻 土下座した!

 

 魔族だよ‼︎ 魔族が目の前にいたよ‼︎ お目当てとなる人が目の前にいたよ‼︎ その魔族の目の前で『ウッッッッッッザ』とか『思いっきりぶん殴りたいよマジで』とか思ってしまったよ‼︎ 口にはしてないから本人の耳に届いてないとはいえ、いくらなんでも失礼だったよ‼︎ もう謝罪するしかねェよ‼︎

 

 というか店長だったんですね‼︎ ここを三千種類もの本を並べながら切り盛りしてたんですね‼︎ ご立派ァです‼︎ 当店オリジナルの小説買わせてください‼︎

 

 ………………ん? ところで今、吸血鬼の魔族って言ってたみたいだけど、ここをこんなに明るくして大丈夫なんですか? 吸血鬼って太陽が苦手だからそれなりに明るくさせるのもダメなのでは? 体が砂になるのでは? なんでそうならないの?

 

 

「ふむ。何か考え事をしているようだが、まずは顔を上げよ。何故君は突然朴を垂れて這いつくばっているのだ? 我は鬼○辻無○のようなクズではないぞ?」

 

「えっ? あっ、すいません」

 

 

 俺、土下座したまま考え事してたんだな。いや魔族さん……ブラムさん……いや、ブラム様? 貴方の指示がないから無闇に勝手に顔を上げるなんてことは出来ないんですよ。察して。それよりも……

 

 

「申し訳ありませんが、貴方は本当に魔族、なんですか? しかも吸血鬼って……こんなに明るいところにいる吸血鬼なんて創作でもあまりいない気がするんですが……」

 

「む? 君も我が魔族なのか怪しんでいるようだな。ではその証拠をご覧いただこう。まずは我の口元を見よ」

 

 

 口元? ……あぁ、牙か。吸血鬼って基本的には鋭く長い牙が特徴となっているんだったっけか。まずは牙を証拠にしたいってことか。もしかして……

 

 鋭っ。牙が鋭っ。しかも付け歯かと思ったら付け歯らしい不釣り合いなどの違和感が一切ないとか。いやでも、それだけ見るとただ付け歯の付け方が上手すぎるだけとしか思えないけどさ……もうちょっとこう、貴方が吸血鬼か魔族であることを確信できるものとかをさ……

 

 

「むむ……これだけだと信じてもらえぬようだな。ではこれならどうだろうか。来るが良い、我が使い魔よ」

 

 

 ブラム様はそう言うと右手を天井に掲げ、指をパチンとカッコ良さげに鳴らした。何やら合図みたいなことをしているのは確からしいけど、一体何が起きていると……

 

 

『『『キキッ』』』

 

『『『『キキキッ』』』』

 

『『『『『キキキキッ』』』』』

 

 

 うおっ⁉︎ ビックリした‼︎ めっちゃビックリした‼︎ なんかシルエットっぽく全身が赤色となっている蝙蝠が数十匹ほどバサバサとこっち来たんだけど⁉︎ どんだけこの本屋に住んでんだよ⁉︎ ブラム様の部屋にてどんな風に住んでるんだよ⁉︎

 

 って⁉︎ 一階の本題の奥の方をよく見たら、なんかデカくて赤い魔法陣みたいなのが浮き出ていて、そこから蝙蝠が次々と出て来ているんだけど⁉︎ もしかしてブラム様、俺の召喚術の上位互換みたいな感じに蝙蝠をたくさん呼べるってのか⁉︎ 一度に数十匹呼べるとか羨ましいんだけど……‼︎ なんだか妬ましいんですけど……‼︎

 

 

『『『キキッー♪』』』

 

『『『『キキキッー♪』』』』

 

『『『『『キキキキッー♪』』』』』

 

「おぉよしよし、そう一斉に戯れるでない。後で皆遊んでやるから、我の部屋で待機してるが良い」

 

《キッキキキッー‼︎》

 

 

 しかもめっちゃ蝙蝠達に好かれてるやん。懐かれてるやん。こんなにもたくさんの蝙蝠に好かれるだなんて飼っている人間でも難しいと思うぞ。この人、本当に吸血鬼の魔族なのか……?

 

 

「ふむ、どうやら後一押しのようだな。では、これでシメといこうではないか」

 

 

 えっ、今度は一体何をするというんだ───

 

 うおっ⁉︎ 滅茶苦茶ビックリした⁉︎ ブ、ブラム様の背中に、デカい翼が……⁉︎ それもちゃんと先程の蝙蝠達と同じ赤い翼をして、ちゃんとバッサバッサと動いているし……しかもきちんと手入れしているからなのか、ゴミとかついてない上に抜け毛とかない感じでめっちゃ綺麗やないか⁉︎

 

 おぉっ……ここまでやってきたらもう信じるしかないじゃないですか……背中から翼生えてくる時点で完全に人間離れしてますって。蝙蝠を召喚するのも普通の人間では出来ないことだけども。

 

 

「どうだ? これで信じることができるであろう?」

 

「はい、もう完ッ全に貴方が魔族であることを信じます。けど、吸血鬼なのにこんなにここら一帯を明るくして大丈夫なんですか?」

 

「その件については心配いらぬ。我が妹のおかげで日光の弱点は既に克服済みである‼︎」

 

「妹?」

 

 

 えっ? 妹さんいたんですか? けど魔族は貴方一人だけだと仰いましたよね? もしや優子と良子ちゃんみたいに、後者の方は先祖返りみたいなことが起きてないとでも……?

 

 

「ただいまー」

 

「おっ、噂をすれば帰ってきたようだな」

 

 

 あ、本当だ。入り口のウェルカムベルがチリンチリンと鳴ってる。しかも可愛い女の子の声が聞こえるし、そこにブラム様が反応してるとなると、妹じゃないにしてもきっとブラム様の知り合いであるに違いな───

 

 アレ? なんかこの声、何処かで聞いた覚えがあるような……

 

 

「兄さん、今日もタイムセール行ってきたよー。しかもいつも通り大量の戦利品が得られ……アレ?」

 

 

 聞き覚えのある声を発しながら俺達のところに来たのは、頭頂部にアホ毛がありカチューシャを付けている黄色い髪をしたツインテールの女性。魔法少女・馬場奈々さんである。

 

 

「君は確か、この前のショッピングセンターのタイムセールで出会った………………えっと、名前なんだったっけ……?」

 

「あ、そういえば名前言ってませんでしたね。平地白哉って言います。この前は助かりました。改めて礼を言わせてください。ありがとうございます」

 

「えっ。いやそんな、私は別に……」

 

 

 タイムセールという名の戦場で助けてもらったお礼の言葉、きちんと言ってなかったからな。ちゃんと感謝の気持ちを伝えることは当たり前だよなぁ? だからちゃんと頭を下げてお礼を伝えないと。これ常識。

 

 

「へぇ。平地くんって奈々さん……魔法少女の方とはお知り合いだったんスか?」

 

「ん? あぁちょっとな」

 

 

 全臓が俺が奈々さんと出会った経緯があることに驚いているようなので、俺はその経緯について説明した。その前にタイムセールという名の戦場に参加した人達にボコボコにされたことも、悔しくも説明したよ。隠し事をしても後でバレたらそれでこそ恥ずかしいから……

 

 ん? 『隠し事しても恥ずかしい思いをしてしまうって考えているのなら、俺が転生者であることも隠さず説明しろ』だって? ………………いや、その、それとこれとは別というか、何というか……

 

 

「へ、へぇ。そうだったんスか。まさか男子高校生が参加しそうにないタイムセールに参加してたなんて……」

 

「驚くとこそこかよ」

 

 

 まあ確かに男子高校生が参加するイベントではないけども。

 

 

「……にしても驚いたな。まさか我が妹が言っていた、穏健派魔法少女の知り合いで魔族の幼馴染の男子である本人が今、我の目の前にいるとは思ってもいなかったぞ。我が妹が気づくまでいつもの客みたいに接していたぞ」

 

「あ、奈々さんにそういう捉え方されてるんだ俺って」

 

 

 まあ別に俺が妹さんとの邂逅があったから特別扱いされたいって欲はないからいいですけども。

 

 

 

 ……ん? ちょっと待てよ? 今、なんか引っかかるところがあるぞ。それもいくつか。

 

 

 

 えぇっと……ブラム様は吸血鬼の魔族──闇の一族の一人──で、奈々さんは魔法少女──光の一族──なんだよな? ……一族が違う二人が兄妹になるってどういうことだよ(汗)。

 

 それにこの店、魔法少女除けの結界が貼られているんだよな? だったら妹(?)である奈々さんはこの店に来れるわけないよな? なんで結界をすり抜ける感じにナチュラルにこの店に入って来られるの?

 

 ……これ聞いてもいいのか? もしかすると複雑な事情があるかもだし、聞くに聞けない……

 

 

「……むむ? 何か言いたげのようだが、気まずくて言えぬ感じか? 心配することはない。我は普通の者よりは心が広いのでな、どんな質問にも真摯に受け止めようぞ!! で、何が言いたいのだ?」

 

 

 バレた。俺が言いたげになってるのバレた。何『お前の考えていることは全てお見通しだ』って言ってるような誇らしげな顔をしてるんですか。やめてくださいムカつくんで。

 

 まあ、言うのを留めていたことがバレてしまったのなら仕方ない。はっきりと質問するとしようか。まだ口で言ってるだけだけど、なんだかこの人に悪気はないって感じの雰囲気が出されているし、大丈夫だと祈ろう。

 

 

「えっと……魔族と魔法少女が兄妹になるなんて滅多にないパターンですね。失礼ですが、お二人は血縁者同士……ですか?」

 

 

 あっ、ブラム様も奈々さんも目を丸くした。あぁ……やっぱり聞いちゃいけない内容だったか? 禁忌だったか?

 

 

「………………プッ」

 

 

 へっ? 奈々さんなんで笑うんスか⁉︎ 俺今なんか変顔みたいなのしてました⁉︎

 

 

「あぁごめんね? 魔族や魔法少女のことを知っている君ならそういう考えをするんだなって思ったら、つい……。勘違いさせて申し訳ないけど、私と兄さんの血は繋がってないよ。そもそも魔族と魔法少女が血縁者同士となっているところがあるって話は聞いてないしね」

 

 

 えっ。あ、あぁそうですか。血縁者ではなかったんですね。それに魔族と魔法少女が血縁者同士なんてパターンは今までなかった、か……いや魔力の性質的に考えたら出来そうにないことは確かだろうけどさ。

 

 じゃあなんでこの二人はお互い『我が妹』『兄さん』って呼ぶんだろう? そういうあだ名なのか?

 

 というかさっきも同じこと思ってたんだけど、そもそも結界が貼られているせいで、魔族と魔法少女は同じ立場にはいられないはずじゃ……?

 

 

「───白哉、といったな? 君は我と我が妹の関係性をもっと知りたいようだな? 顔に出ているぞ」

 

「えっ? 俺また考えていることが顔に出てました?」

 

 

 最近の俺って考えていることを隠すことが出来なくなっているの? 感情を隠すの苦手になってきたの? えぇ……? どうしてそうなってきてんの……?

 

 

《キキキキッー♪》

 

 

 うぉっ⁉︎ ビックリした⁉︎ ブラム様の部屋で待機しに行ってたはずの蝙蝠達がたくさん飛んで来たんだけど⁉︎ しかも俺達を囲みブラム様の方をじっと見つめ始めたんだけど⁉︎ ……あっ、ナチュラルに全臓はこの包囲網に入ってない。ハブられてる感があって可哀想。

 

 

「ほう……どうやらこの子らもこの話を聞きたいようだ。この子らは我の話を聞くのがらしいからな、いても立っていられなくなったようだ。……せっかくだ、君にも聞いていってもらおう」

 

「へっ?」

 

 

 な、なんか、ブラム様の目がキラリンッと一瞬輝いていたかのように見えたんだけど……アレ? これってまさか……

 

 

「それでは早速聞いてもらおうではないか‼︎ この我が我が妹と運命の出会いを果たした時の経緯を‼︎ そして我が妹が我に心を開いてからどのように変わっていったのかを‼︎ それらの‼︎ 大まかなのを‼︎ 全て‼︎」

 

 

 なんか話がめっちゃ長くなりそうなんですけど⁉︎ ブラム様の変なスイッチが入っちゃってますけどォォォォォォッ‼︎

 

 

「兄さん……別に私との馴れ初めを他の人に話さなくてもいいのに……まあ白哉君の場合はどうしても気になっていたことだから仕方ないのかもしれないけどさ……」

 

 

 

 

 

 ブラム様の奈々さんの馴れ初めについてに入りますが、今回は白哉くんにダイジェスト風に簡潔に説明していただきます。具体的な内容については次回の幕間に持ち越しさせてください。誠に申し訳ありません by.作者

 

 

 

 

 

 ………………アレ? 大事そうな場面がなんか台無しにされてる気がするんだけど……

 

 

 

 

 

 

 な、長かった……ブラム様の話、結構長かった……しかも奈々さんとの馴れ初めについて教えようとしていたはずなのに、最初は一族の事を話し始めいきなり話が脱線してきたんだけど。それでも最初のその奈々さん無関係の話でも驚いたけどな。

 

 まさか吸血鬼に魔族である奴と魔族じゃないのとで分かれていて、魔族の方は太陽の光を浴びたいがために人間のものを使ったりした実験を繰り返して克服しようとしていたなんて……それも二千年間も諦めずに、だぜ? すごい執念を持った魔族達だな。

 

 ってか魔族の方の吸血鬼と魔族じゃない吸血鬼って何? 違いはどこにあるの? なんか新たな疑問点が生まれてきたんだけど。それをブラム様が説明しなかったってことは、魔族じゃない方は滅んだから説明するがないってことか? 分からん。

 

 けど、話が進んでいく内に有益な情報も得られることができた。それは、ブラム様が桃の姉である桜さんと関わりを持っていたって件だ。偶然出会ってからお互いの持つ夢や目標に興味を示し、ブラム様がこの多摩町で本屋を経営するに至っていたなんて……桜さんは多摩町より外にいる魔族の力にもなろうとしていたのか。マジ優しい人だな。

 

 で、しばらくして桜さんが小さい頃の奈々さんを引き連れ、突然彼女を匿うようにと押し付けてきて、それっきりだったと……

 

 ここでブラム様と奈々さんの馴れ初めがさらっと行われたってわけか。本当マジでさらっとやな。

 

 匿ってもらうことになった当初の奈々さんは何故か感情を失っており、ブラム様が何か話題を持ち掛けても表情による反応は一切なかったという。感情を失った奈々さん……というか感情のない魔法少女って、何処か鬱アニメな魔法少女と似てる気がする。

 

 けどある日、ブラム様が作ったビーフシチューを口にした途端、奈々さんは『懐かしい』とか言って涙を流したらしい。その時の奈々さんって訳あって昔の記憶も感情と一緒に消されたのか? 新たな謎がまた一つ生まれちまったんだけど……

 

 それ以来、奈々さんは徐々に感情を取り戻していき、現在のように普通の女子高生か女子大生と同じ感情を持つようになったらしい……いや女子高生か女子大生と同じ感情どんな感情だよ。例え方が分かりづらいんですけど。

 

 そして奈々さんはそのお礼として、ブラム様の太陽の克服に協力することになり、編み出した魔法で常時ブラム様が太陽の光を浴びても正常でいられるようになったという。念願の夢が叶ったみたいだ。そこはとても喜ばしいことだな。

 

 

「つまりは、ブラム様は奈々さんの為に最善を尽くしたことで念願の太陽の下でも歩けるようになる夢が叶い、奈々さんは失ってしまった記憶と感情をブラム様の尽力により取り戻したと……。お互いがお互いを助け合ったことでWin-Winの関係になり、魔族と魔法少女……お互い血は繋がっていないけど兄妹になれたってことですか」

 

 

 一方はなんとかしたいという一心で相手の失ってしまった大切なものを取り戻してあげて、もう一方はその恩恵を返す為に自らの持つ力で恩人の数千年間求めていた太陽に対する抗体力を授ける……うん。もうホント、いい話だったよマジで。

 

 

「うむ‼︎ 桜殿が会わせてくれなければ、我々義兄妹は失ったものや欲していたものを手に入れることは出来なかった。お互いに、そして桜殿に感謝をせざる得ない程に喜ばしいことであった‼︎ だがそのせいで実質共依存となったがな!!」

 

「そういうこと言わないの。けど……そうだね。私も兄さんと桜さんのおかげで失った感情を取り戻すことができたから、二人には感謝したい気分だよ」

 

 

 あらま。ブラム様はなんか過去のことを誇りに思っており、奈々さんは満更でもない様子だな。そりゃお互い必要となるものを与えられ合ったんだからな、否定するようなことは言えんというか言わないだろうな。

 

 

「そうですか。何はともあれ、お二人とも今の自分を手に入れることが出来てよかったですね。貴重なお話を聞かせていただきありがとうございます」

 

 

 さてと……良い話をしてくれて申し訳ないけど、そろそろ俺はお暇させてもらおうかな。本当は桜さんとの関わりなどの事でもっと聞きたいことがあるんだけど、感動する話を聞いてお腹いっぱいというか……

 

 

「それじゃあ、俺はここで───」

 

「待ってくれぬか」

 

「へっ?」

 

 

 なんか突然呼び止められたんだけど。俺今なんか失礼なことでもして───

 

 

 

「後から条件を要求しているようですまないが、我と我が妹の事を話したのだ。今度はそちらと魔族や魔法少女との関係性云々を教えてくれぬだろうか」

 

 

 

「………………あの、なんで目をキラキラさせながら言うんですか?」

 

 

 いや、こちらが相手の事を聞くだけってのは不公平なのだと思うけどさ。なんでそんな期待に胸を膨らませているような顔をしてるんですか? 無表情で圧をかける時よりも怖く感じるんだけど……

 

 

「あはは……ごめんね。兄さんは小説を自作するのが趣味で、特に非日常的な噂を聞くとすぐそれに合った小説を書きたがる癖があるの。私が君の事をちょっと教えたらすぐに『早く会いたいものだ』とご機嫌になるほどで……」

 

「……さいですか」

 

 

 忘れてた。そういえばこの人はこの店でオリジナル小説を執筆して出版してるんだった。で、奈々さんが俺の事を話したらブラム様からの株が上がったってことか……

 

 あっ、ブラム様がシャーペンとメモ帳を取り出した。俺の事聞く気満々じゃん……

 

 

「さぁ‼︎ 詳しく聞かせてくれ‼︎ 出会いから全て‼︎ 洗いざらいに‼︎」

 

 

 ………………えっ? 出会いから全て?

 

 あっ、これ長時間話さないといけないパターンだ。俺死んだ☆(色んな意味で)

 

 

 

 

 

 

「───で、長時間シャミ子や私達との出会い・出会ったことで起きたら出来事などを全て話し続けたことで、疲れて放心中ってこと?」

 

「まあ顔はそう見えるだけで、頭の中ではそれなりに何か考えてるかと思うッスけどね」

 

「と、とりあえずソファに座らせておきましょうか。なんだか白哉が気の毒すぎて見てられないわ……」

 

 

 ……ん? あっ。俺、ブラム様に優子や桃にミカンの話をし終わったところなのか。必死に話してたからなのか、どうやら前後の記憶が飛んでしまったみたいだ。で、話し終わった時に全蔵に肩を担がれて桃の部屋まで運ばれたってわけか? なんか負担かけてしまって申し訳ないな……

 

 あっ、ソファに座らせてくれた。あー体が楽になるー。ソファ相変わらず柔らけー。しばらく横になっとこー。別に寝寝たいってわけじゃないけどなんとなく横にはなりたーい。ぼすんっ。

 

 

「あー……平地くん寝そうッスね。長話させられたからしょうがないッスよね。それじゃあ自分は睡眠の邪魔にならない内に帰るッス。また今度」

 

「うん、全蔵くんありがとうね」

 

「もうすぐ夜になりそうだから気をつけてね」

 

「はーい」

 

 

 あっ、横になった瞬間に全蔵が帰ろうとしてる。せっかくだし『さようなら』ぐらいは言ってやりた───スヤァッ……

 

 

 

 

 

 

 ───ハッ⁉︎

 

 ね、寝てたのか俺⁉︎ 寝る気になれないなと思ってたのに眠れた⁉︎ あー、思ったよりもブラム様に長話させた後って結構疲れるんだな精神的にも体力的にも。

 

 ってか、今何時だ? 寝る前にチラッと時計見た時は五時半ぐらいだったと思うけど……あっ、六時三十四分か。なんか中途半端な睡眠時間をとったな俺。

 

 

「あっ、白哉さん‼︎ 結構疲れていたって聞きましたけど大丈夫でしたか⁉︎」

 

 

 んん? あぁ、優子帰って来てたのか。やっぱり俺結構寝て───

 

 って、近い近い‼︎ 顔近い‼︎ 鼻と鼻がくっつきそうな程近づいてなかったかね君ィ⁉︎ くりっとしたキュートな目も至近距離、そして唇も一歩距離感を間違えれば……じゃなくてェ⁉︎

 

 

「ゆ、優子……ちょっと、その、一回離れてくれるか……?」

 

「えっ? ………………あっ⁉︎ あば、ば、あばばばばば……‼︎ ご、ごめんなさい‼︎ わ、私ってば、つい……‼︎」

 

 

 よ、良かった。事の重大さに気づいてすぐに離れてくれた。顔が至近距離だったのは結構驚かされたぜ。………………ヤバい。めっっっっっっちゃ可愛かった。心臓のドキドキが止まらへんのだけど。あんなに顔近づけられたらそりゃあそうなるわな……

 

 っておっと、いけないいけない。とりあえずまずは落ち着け平地白哉。今は優子の魔族探しの成果を聞いてあげないといけないんだ。心臓ドキドキさせとる場合じゃねェよな。

 

 ……今俺達は桃の部屋にいるんだし、ここは桃に優子がどのように報告したのかを聞こう。そうしよう。

 

 

「桃、優子はどんな有益な情報をゲットしたんだ?」

 

「……何故かそれを忘れてバイト先を手に入れてた」

 

「………………ちょっと何言ってるかわかんないですね」

 

「なんでわかんないのよ……って、あら? これってサン○ウィッ○マンのネタ?」

 

 

 その通りです、正解です。……じゃねーよ、やっぱり忘れて来たのか。まあ原作知識を持ってるためその理由を知ってた俺だから問い詰める気にはならないけどな。

 

 とりあえずいつも通り頭を撫でて何かしらのフォローをかけておくか。なんかこの頭ナデナデは定番か何かにしてる気がするんだけど、まあこれやって優子のヤンデレ暴走がする可能性が薄れるかもしれないからいいと思うけど。

 

 

「優子……明日には出会った魔族と交渉して、桜さんを探す協力を申し込め。まずはそこからだ。とにかく頑張れ」

 

「えっ。あっ……は、はい……」

 

 

 あぁもう‼︎ 優子の照れ顔が可愛すぎて直視できねェ……‼︎ こんなん絶対惚れてまうやろ……‼︎

 

 ん? あれ? なんかおかしくないか? 俺、今まで優子の照れ顔を見て目を逸らすなんてことはしてなかったよな? なのになんで惚れてまうとか言ってふざけたんだ俺……? そしてなんでまだ……というよりはまたドキドキしてるんだ……? アレ……?

 

 ってかちょっと待て。何か大事なことを桃達に報告する必要があるんだったけど……なんだったっけ?

 

 

「(あっ。この反応、白哉くんがやっと気づくのも遅くはないかも)」

 

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その14

ブラム「ふむふむ……最終的に魔族と魔法少女は同盟を結んだと……これはかなり良きストーリーだ‼︎ 是非小説の参考にしたいもの……むむ?」
白哉「ボケー……」
奈々「目が真っ白になってる……魔族や魔法少女と関わった話を全部言わされたらそりゃあそうなるよね……」
「というか兄さんも兄さんだよ‼︎ 『もっと』『もっと』って白哉君に話を執拗に要求してくるのは良くないよ‼︎」
ブラム「あぁ……す、すまぬ。結構暑くなってしまった」
全蔵「平地くんもよく全部話そうと思ったッスね。放心状態になりかけていたら無理せず止めておけばよかったのに」
奈々「確かにそこはすごい精神だったけど……」
ブラム「むぅ……次から話を要求する時は『今日はここまで』みたいな区切りをつけてあげた方が良いのかもしれぬ……」
奈々「………………えっ⁉︎ これ以上にまだ聞きたいことあるの⁉︎」
ブラム「うむ‼︎ 白哉自身やシャミ子という魔族、桃やミカンといった魔法少女の性格や能力なども聞きたくなってな‼︎」
奈々「えぇ……。ハァ、兄さんのこの小説のネタを広げたい衝動はなんとかならないのかな……」
全蔵「その分オリジナル小説は人気で経営の役に立ってるから、大目に見てあげた方が良いとは個人的に思うッスけどね……」
奈々「……ま、それもそっか。兄さんがそう考えるなら私も暴走させない程度にフォローすればいいし」
全蔵「それじゃあ俺は平地くんを家まで送るんで、この辺で失礼するッス」
ブラム「そうさせた方が良いな。気をつけて帰るが良い」
全蔵「ラジャー。今度はお客として来るッスねー」
奈々「ありがとうございましたー。……今日はいつもよりも一日が長く感じたね」
ブラム「次は白哉の知り合いにあった時の質問を考えねば───」
奈々「これ以上兄さんのせいでしばらく壊れてしまう子を増やされるのだけはダメ、絶対」
ブラム「むぅ……」

END



今回のお話は五人目のオリキャラ登場、それも初めての魔族となりました‼︎ 以下の画像みたいにしれっとレロレロキャンディーを舐めてる場面がありましたけど皆さんは気付きましたかね? これからも彼が出てきた時は小説のネタを手に入れようとする執念さを出せたらなと思っております‼︎ 甘党小説家イケメン吸血鬼魔族の出番を増やせるように頑張るぞ‼︎ ついでに全蔵君の出番も増やしたい‼︎

↓どっかのメーカーかは忘れたけど作ったブラム・スカーレットの画像


【挿絵表示】



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幕間:吸血鬼の魔族、南国の果実香りし幼き魔法少女を匿い、念願の太陽の光を手にする

初めての幕間回なので初投稿です。

前回書かれなかった、吸血鬼の魔族・ブラムが魔法少女・馬場奈々の兄になるまでのお話です‼︎ 前回既読推奨です‼︎


 我は誇り高き一族──吸血鬼の魔族の一人である。

 

 我が一族は常に孤独であった。人類に忌み嫌われており対立しているからだとか、光の一族や魔族などといった吸血鬼でない者達との関わりを持ちたくなかったとか、そういった人間性に関わる理由があるからではない。

 

 光。人類や他の魔族などに与えられ、我が一族が手にするのに限りがあるものだ。

 

 我が一族は必要以上の輝きを放つ光を浴びてしまえば、その間のみとはいえ魔力が低下したり、身体の調子が悪くなり活発に動くことが出来なかったり、最悪消滅してしまう恐れがあるのだ。浴びても正常でいられるのは、月夜の光や蝋燭の灯火と同格の明るさのみ。

 

 しかし、それでも我が一族は光を欲しがっていた。特に欲していたのは……太陽

 

 月に代わり大空に昇り、月とは異なる彩色で美しく輝き、周りの空を青色に染めて晴天にし、周りに漂う白い雲をくっきりと見せ、海や大地を照らし、人類に活力を与える源となりし優しい光。

 

 あの全てを包み込むような光を、我が一族はなんとしても浴びたかった。何としてでも、人類と同じ時間帯に立ちたかった。あの光を浴び、我が一族にもさらなる生力を与えてもらいたかった。

 

 特に先祖はそれを望んでいた。世間の情報を手に入れるべく人類の夜の街に潜伏していた時、太陽の話題を持ち掛け話し合っていた人類の言葉に耳を傾けたのだ。『やっぱり太陽の光は俺達を元気にしてくれるな』と。

 

 あの話題を耳にしてから、先祖は太陽を欲するようになった。その話を聞いた同族も共感し、同じ感性を持つようになった。

 

 それ以来、我が一族は太陽の光を浴びても正常でいられる方法を探し続けた。人類の農産物の摂取、一族の血液と他種の血液の配合、様々な実験方法を提案し、様々なモルモットに協力を受けてもらいながら、我が一族は太陽の光が得られることを祈り続けた。たとえそれが、魔族ではない吸血鬼仲間達から孤立してしまう羽目になったとしても。

 

 だが、それは一向に敵うことはなかった。

 

 実験のために必要な材料を収集したりしようにしても、人類が起こしてしまう戦争に巻き込まれてしまうリスクがあったり、我が一族が活動できる時間帯に限りがあったりと、実験を進めるのに十分な時間を得ることは出来なかったのだ。

 

 それでも我が一族は、太陽の光に関わることならば執念深くなる性分となっていた。たとえ何百年、何千年、何万年と掛かろうとも、太陽の光を得ることを諦めなかった。人類に生きる力を与えるその光を得て、一族の無限の道標を作る。それが、亡くなってしまった先祖の無念が晴れると信じて……

 

 

 

 

 

 

 先祖のあの誓いから二千年は経っただろうか。吸血鬼の魔族の末裔の一人となった我もまた、太陽の光を浴びれるようになる手段を探していた。

 

 そのために我は夜の人類の街に赴き、一族の目的の役に立つ手段を探していた。人類が作った料理を平らげたり、人類が作った銭湯に入ったりして、それらを続けて数日経った頃には体当たりで太陽の光を浴びてみた。

 

 しかし、毎回の如く息が苦しくなり始め退散する、息が苦しくなり始め退散する、息が苦しくなり始め退散するを繰り返してしまう一方だった。

 

 それでも我は諦めなかった。何としてでも太陽の光を浴びても丈夫な身体となり、成功した経緯を同族に報告し、我が一族の執念を果たし先祖の願いが叶うことを信じて。

 

 

 

 

 

 

 手段を探し続けていく内に、我は個人の趣味をも見つけることができた。それは我がとある本屋に、資料となり得る本を探すために訪れた時のことだった。

 

 その本屋は各ジャンルの本の品揃えが豊富に取り揃えており、小説や漫画の内容も思わず興味を示してしまうものばかりであった。実際に太陽の光を克服しやすくなる手段とはならない内容ばかりであったが、その全てに我は虜となったのだ。

 

 それから我は目的と同行して本を集めることに没頭した。様々なジャンルの本を買ってはインターネットでその本の感想を述べ、それをインターネット越しに人類と共有し続けていった。

 

 そして我は思った。彼等にも我が手にした本を同じく手に取り、さらなる共感を得てもらいたい、と、我の目標が新たに生まれた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 一族共通の夢を叶えるための努力と同時進行で、我個人の目標達成の努力を続けていたある日のこと。我は一人の人間との、最初の運命的な出会いを果たす。

 

 その人間の名は千代田桜。高校生ぐらいの年齢でありながら、多摩町を支える存在となっている魔法少女であった。話によれば、彼女は多摩町を魔族と魔法少女が仲良く手を取り合う町にしようと奮闘していたのだ。

 

 桜殿は我に興味を示していた。後輩の魔法少女から我を見かけたとの情報を聞き、我の行動を調べていた時のこと。そこで太陽の光を浴びたいという我の意志と、手にした様々な本を人類の手にも渡らせ共感させたいという我のもう一つの願いに面白味を感じ、我を多摩町に招き入れようとしていたらしい。

 

 我もそんな桜殿に興味を持った。光の一族と闇の一族。今でいう魔法少女と魔族。本来ならば敵対関係にあるはずの存在をも受け入れ、自分達と同じ立場に立たせようという意志と優しさに、我は圧倒されたのだ。

 

 それから我は多摩町で暮らすことを決意した。そして桜殿の提案で種類豊富な本屋を独自で設立する決意をも固め、様々な本の会社に懇願して数年前もの多数の本を提供したりして開店の準備を進めていった。

 

 そして数日後に店を無事開くことに成功。古い本や新刊、様々なジャンルの本を他の本屋よりもより多く取り揃えているという口コミにより店は繁盛。我は達成感に浸っていた。

 

 しかし、同時に虚しさも感じていた。自身の趣味による目標は達成できたとしても、未だに一族の夢を叶えることは出来ずにいる。その事実に目を瞑ることはなかったものの、その事による悔しさは今でも忘れられずにいた。

 

 だが、同時に理解もしていた。遠き理想郷というものは実現出来ないものが多い。仮に実現出来る可能性があったとしてもそれは低いに等しい。だから可能性が完全に潰れてしまうことも別に恐れてなどいない。希望が完全に崩れてしまうことも覚悟していた。

 

 あの時までは、そういう風に諦めかけていた……

 

 

 

 

 

 

 あれからどれくらいの時間が経ったのかは分からぬが、今から十年前であることは確かだったな。その日は『本の祭典 スカーレット』のクリスマスセール期間中であったため、我は張り切ってこの日のセールの準備に勤しんでいたのだ。

 

 その開店準備中、あの桜殿が我の店に来てくれた。この時の我は何か気になる本でも見つけたのだろうかという期待と、桜殿と再会したことによる喜びに胸を膨らませていた。

 

 だがこの時、我はまだ知らなかった。この再会から我の運命が変わっていくことに。

 

 

「やっほー! 『すぎこしの結界』バージョンアップしたよ‼︎ それとこれ、効果は違うけど予備の結界の紙もあげるね‼︎」

 

「おぉ。すまぬな桜殿、何から何まで───」

 

「今から天災みたいなのが来るから二・三日戸締りをしておいて! 外出もしないで!」

 

「……む?」

 

 

 いつも通りのテンション高めな様子を見せていたが、ここで我は二つの気掛かりさを感じた。

 

 一つ目は桜殿の喋るスピードがいつもよりも早いこと。これは何やら急な用事があるにも関わらず、置き手紙ではなくわざわざ我に直接口実で伝えたいことがあったからではないのか。そんな疑問が我の脳内に浮かんでいた。

 

 二つ目は『天災』という言葉が出たこと。天災とは果たしてどのような災害なのだというのだ。非日常的な出来事を好む我でも『期待』よりも『不安』が過ぎってきた。これまで多摩町は平和で災害などが出てなかった町だと聞いたのだから、『天災』が来るという言葉にはかなり警戒してしまう。

 

 『天災』とは一体どのようなものなのだろうか、そう問いかけようとしたのだが……それは遮られた。

 

 

 

 彼女と運命の出会いを果たすことになるのと同時に。

 

 

 

「あっ。あとね、この子をしばらく預かってて‼︎ 訳あって無表情だけど無愛想ってわけじゃないよ‼︎ 気に入ったりこの子がここにいたいって言えばそのまま住ませてもいいから‼︎」

 

 

 そう言われて押し付けられたのが、後に我の妹となる奈々だった。しかしこの時の彼女は目のハイライトが失われており、無表情であった。彼女の身に何があったというのか。不思議と『天災』よりも聞くことを優先すべき点が出てきた。

 

 

「……桜殿、何故この娘は───」

 

「ごめーん、今急いでいるから。また今度」

 

「お、おい……」

 

 

 質問させてくれる余裕など与えてもらえず、桜殿とはそれっきり会うことはなかった。何故我に奈々を匿わせようとしたのか理解できなかったが、少なからず我を頼ってきたことは確か。愚痴など言わずに奈々を預かることにした。

 

 この時、我はまだ気づいてなかった。この選択が我と奈々、お互いの運命を大きく変えることに───

 

 

 

 

 

 

「……君、名前は何というのだ?」

 

「……馬場奈々です」

 

「……ここに来るまではどこに住んでいたのだ?」

 

「……すみません。実はここに来るまでの記憶が全部抜けてて、分かっているのは名前と、バナナが好きであることだけ……」

 

「えっ。……い、いや自分の好きなものを覚えているだけでも良いことだと思うぞ? それが記憶を思い出す起点となると思───」

 

「何本も食べたのですが、それでも不思議な程に一ミリも思い出せないのですが……」

 

「そ、それは……すまなかった……」

 

 

 桜殿に奈々の世話を頼まれたため、彼女が失ってしまった感情を取り戻してもらうために次々と質問を投げかけることにした。どの質問にも何かと答えてはくれたり何かしらの反応はしてくれるのだが、どの問いかけに対しても無表情でしか答えてくれなかった。

 

 その後も試行錯誤を繰り返した。おすすめの小説や漫画を薦めたり、どこか連れて行ってあげたり、プレゼントとしてぬいぐるみなどを渡したりするも……

 

 

「……ふふ、ここのパート面白いですね。メスガキが分からされた後に主人公も別の意味で分からされるってのが……」

 

「……なんでプリクラで世紀末風の写真ができるんですか? ある意味凄すぎて呆然しますが……」

 

「……たまさくらちゃんのぬいぐるみ……たま……? 猫のキャラで『たま』っていう言葉を聞くことが多いのはなんででしょうか……?」

 

 

 このように心の底から『面白い』と言っているかのような反応を見せてくれるが、どの言葉を伝えてくれようと、失った感情を取り戻し表に出すことはなかった。

 

 それが何日も続いていたが、それでも我は諦めなかった。あの時の彼女を見ていると、自身と一族の目標を諦めたかもしれないもしもの自分を連想してしまう。そんな彼女を救うことを諦めてしまうことは、太陽の光を克服しようと頑張ってきている自分を否定してしまうことと同じ事だ。

 

 だから我は諦めず奈々と接し続けた。たとえいつしか我と関わることを拒絶されようとも、彼女が笑顔を取り戻すまで続けていく、そう誓った。

 

 

 

 

 

 

 匿い始めてから何日経ったのか、それとも何ヶ月か経ったのか、気がつけばそんな事を数えるのを忘れてしまっていた。それほど彼女の失った感情を取り戻そうと必死になっていたということらしい。時間を忘れるとは我としたことがうっかりだったな。

 

 そんなある日のこと、我が夕飯としてビーフシチューを作った時の事だった。いつもなら好き嫌いはあまりせず、出されたらすぐに口に運び、ゆっくりながらも全部平らげてくれる奈々であったが、この日は何故か出されてもすぐに手をつけることはなく、そのビーフシチューをまじまじと見つめていた。

 

 

「……どうした? これは嫌いな食べ物だったか? 無理して食べなくてもいいのだぞ?」

 

「………………えっ? あ、いえ別にそういうわけじゃないんです。ただ……このビーフシチューを見てると、何か忘れていた大切なことを思い出しそうな気がして……」

 

「大切なこと……?」

 

「……多分、気のせいだったと思います。すみません、いただきます」

 

 

 何やら引っ掛かりを感じたが、そんな我の考えなど気にせずそう言って彼女はビーフシチューを一口運んだ。途端、彼女の手は突然止まり……

 

 

 

 この数ヶ月間、流すことのなかった涙を、数滴も雨垂れのように瞳から溢し始めた。

 

 

 

「ど、どうした⁉︎ やはり口に合わなかったか⁉︎」

 

 

 この時の我は焦りを見せた。何かしらのアレルギーでも起こしてしまったのではないのかという焦燥感を感じたからだ。しかし奈々はそれを否定するようにゆっくりと首を横に振り、腕で涙を拭いながら答える。

 

 

「いや、違う……違うんです……‼︎ なんでこう思えてきたのか、よく分かっていないんですが……

 

 

 

 この味、なんだか懐かしいと思えてきて……」

 

 

 

 そう彼女の表情には、満面に近い程の『嬉しい』という感情の込められた笑みが浮かばれていた。どうやら我が作ったビーフシチューが失われた記憶と関与していたらしく、その時に鮮烈に感じた味によって、失われた笑顔を引き出されたようだ。

 

 これには我もさすがに歓喜するしかなかった。この数ヶ月間取り戻してあげることの出来なかった彼女の感情の一つを、この場で呼び戻すことができたのだから。

 

 

 

 

 

 

 あれからさらに数日が過ぎていった。失われた感情の一つを取り戻したことが大きな要因となったのか、奈々──我が妹は表情をいくつか取り戻していった。それと同時に余所余所しさも消え、会話する時も砕けた感じになり、何故か『兄さん』と呼んでくれるようにもなった。

 

 我が何かやらかせば怒り、我が何か行動すれば何故か呆れられたり、面白いものを見かけたら笑ったりとしていき、今では普通の女子高生か女子大生と同じ感情を持つようになった。失った感情が戻ることはとても喜ばしいことだ。

 

 我が妹がそこまで感情を取り戻してしばらくした頃、彼女は我にこう問いかけた。

 

 

「兄さん、太陽の光を克服したくない?」

 

「したいぞ」

 

 

 この言葉に我は思いっきり耳を傾けながら即答した。まさか徐に呟いた目標の事を覚えているとは思ってもみなかった上に、『自分なら克服させることができる』と言ってるような発言に思わず期待してしまったからだ。

 

 我が反応したことに気づいたのか、我が妹は何処からか某プ○キュアな可愛いデザインをしたステッキを取り出しては光らせた途端……今では見慣れた魔法少女の姿へと変わっていった。

 

 

「ごめんね兄さん。ずっと黙っていたけど……実は私は魔法少女で、兄さんが何かしらの魔族であることは桜さんから聞いてるの。けど私は恩を仇で返したくないし、争い事はしたくないの。そこのところ分かってくれる?」

 

「……あぁ、分かってる。君が我に対して敵対する気がない事は知っている。だから君が魔法少女であってもこれまでの関係を変えるつもりはない。安心するが良い」

 

「そう、よかった………………って、ちょっと待って。その反応からして、もしかしてずっと気づいてたの⁉︎ 私が魔法少女だってことに⁉︎」

 

 

 桜殿に連れて来られたのだから、その日からきっとそうだろうとは思っていたのだ。半分は勘だがな。……と言ったら我が妹は何故かショックを受けたようだ。魔族である我の事を心配してずっと黙っていたようだが、意味がなかった事を知って……でそうなったのだ。あの時は少し申し訳なかったな。

 

 

「……で。もしかしてだが、君の魔法は我に太陽の光を克服させることのできる能力があるというのかね?」

 

「えっ? あぁ、うん。私の魔法は天候に関する力を操る能力で、一部の場所に雨を降らせたり地帯に雪を積もらせたりできるの。で、その力を活かして兄さんの体に影響が出ないように、体内に太陽の光の物質を取り入れる特訓を影ながらしていたの。……兄さんの使い魔さん達に手伝ってもらいながら」

 

 

 太陽の光の物質を体内に直接取り入れ、我に太陽への抗体力を持たせる、ということらしい。悪くない作戦だったな。

 

 それにしてもまさか我の使い魔にも協力してもらっているとは……どおりで最近使い魔達がいつもよりも疲れている様子が窺えるわけだ。

 

 

「で、ようやく使い魔さん達に二十四時間もの間太陽の光を克服させる魔法をかけることに成功したんだけど……で、出来れば、兄さんも受けて……みる? 私の新しい魔法」

 

 

 どうやら失敗してしまう可能性も考慮して、我に新しく開発した魔法の実験をしてもらっていいのかの許可を取ろうとしていだようだ。太陽を克服する魔法……こんなの……

 

 

「受けないわけにはいかぬだろう? それに失敗したりしたらまた改良させておけば良いのだ。喜んで協力するぞ、我が妹よ」

 

「兄さん……‼︎ ありがとう‼︎ 私、この魔法で兄さんの目標を果たせることができるよう頑張るね‼︎ 出来れば一発成功する気で‼︎」

 

 

 我が協力してくれるってことを理解してか、素直に喜んでいる様子を見せる我が妹。前まで顔にまで出せていなかった嬉々とした表情を見ていると、それを思い出した今でも正しい選択をしてよかったって思えたな。あそこまで眩しい笑顔を見せてくれたのだからな。

 

 そして……

 

 

「サンライトエンデュランス‼︎」

 

 

 我に向けて両手を翳し、橙色の光を放つ我が妹。この光に包まれた我の体内は外部も含めて全体を優しく温め、太陽の光に対する免疫力を急上昇させることが可能……らしい。この魔法で我は太陽の光を浴びても具合が悪くなったりもしなくなるとの事だ。

 

 

「……終わったよ、兄さん。試しに太陽の当たるところに出てみて、ヤバそうだったらすぐに茂みの中に入ってね」

 

「うむ。では……突撃‼︎」

 

 

 我が妹の魔法・サンライトエンデュランスが成功することを信じ、我は身を挺して太陽の光が直撃する位置に飛び出した。何の躊躇いもなく。上手く適応されないと判断すればすぐさま日陰に戻れば良いだけの話であるし、そもそも我が妹の魔法が適応されないはずがない。そう確信していたからだ。確信は考えすぎだったのだろうか?

 

 青空を見上げて直視した太陽の日差しは、想像を超える程に輝いていた。我の視界に入った途端にその視界を白く塗られるほどに、その光は綺麗であった。

 

 ここで我はとある点に気づいた。その光を直視しても、即座に眩しさに慣れたその眼が焼かれなかったことである。それは我が妹の魔法を受けると太陽の光による悪影響が一つ減ったという利点を知れたということでもある。これには我も喜ばしいことであった。

 

 だが同時に不安要素を一つ思い出すこととなった。不安要素となる唯一の難関が、その太陽の光の強さとその暑さによる我が体への影響である。何事も無く見れることが出来ても、直接当たって体が溶ける前兆でも起きてしまっては見る時間が短くなりあまり意味がないのだ。

 

 しかし、不思議なことに我の体に悪影響というものは及んではいなかった。体が温かくはあるがそれも悪影響には含まれず、寧ろ当たるだけで体が活性化されているかのように感じた。

 

 ふと我が体の方へと見下ろした視線の先には、太陽に照らされた自らの腕が映っている。我等吸血鬼の身を黒く灼き骨まで焦がし尽くすはずの太陽の光は、一切の影響を我に与える事はなかった。

 

 そう、これはつまり……

 

 

「………………成功、だな」

 

 

 徐にそう呟いた途端、我の視界は何かによって光を遮りだした。この時の我は自らの状態に気が回らなくなるほどに歓喜していたため、遮られた最初の間はそれに気づいてはいなかったが。

 

 

「に、兄さん大丈夫⁉︎ まさかサンライトエンデュランスに何か不都合でも起きたの⁉︎」

 

 

 我が妹に声を掛けられ、我は正気を取り戻した。彼女の声に焦燥感が出ていたためか、どうやら先程まで彼女の呼び掛けを聞き取れていなかったようだ。我としたことが馬の耳に念仏状態だったとは……

 

 しかし、そうなってしまったのも無理もないはずだ。先祖の代から長年もの間目標にしてきた、叶うことのない期間が続いても諦めることのなかった太陽克服の夢を、この時を持って達成させることが出来たのだから。

 

 

「ありがとう、我が妹よ。我等一族の夢を叶えさせてくれたことを誇りに思うぞ。愛してる」

 

「ッ⁉︎」

 

 

 思い返してみれば、さすがに『愛してる』までは言い過ぎたかもしれぬな。いくら長年の夢を叶えさせてくれたとはいえ、だからといって勘違いされそうな言葉を使うのは良くないな。うむ。

 

 

 

「………………愛してるって言ってくれた。こそばゆいけど結構嬉しいかも……えへへっ」

 

 

 

 後日。我の太陽克服の話を聞いた同族達も我が妹にサンライトエンデュランスを付与してほしいと色々な手段(力づくは除く)で頼んで来たが、我が妹は我との恩恵があるからなどといって快く引き受けたようだ。我が妹よ、なんと優しい性分なのか……

 

 

 

 

 

 

 ……という話を白哉にした後、彼にも魔族や魔法少女との関わりのある話をさせたせいで放心状態にさせてしまった。いくら我が長話したからとはいえ、求めるべき等価と求めるべきではない等価というものがあるのだなということを改めて知った経験だったな。

 

 

「いやなんて話を原稿用紙に書いてるの。もしかしてこの経験を参考にした小説を書くつもりなの?」

 

「否、ここから色々絞り出して書くことはできぬから悔しくもお蔵入りとなったのだ」

 

「じゃあ書く意味ないじゃん。参考になるとか言ってたあの時の兄さんはどこへ行ったの」

 

 

 ぬぅ、書く意味ないとは失礼な。小説の参考には出来ずともきちんと意味ならあるわ。

 

 

「この日に聞かされた話は白哉君の為になることを考えやすくなるぞ。今後の魔族や魔法少女と関わる時の事とか色々と。それにこういった経験は書き留めておくべきである」

 

「……原稿用紙を日記代わりにしてるってこと? それ、別に白紙に書けばいいんじゃ……」

 

 

 分かっておらぬな我が妹よ。原稿用紙を日記代わりにするということは、物語のプロットを作りながら記憶に入れるのと同じこと。つまりは頭の中にきちんと記憶させたいことは原稿用紙に書くのが一番、それが我の記憶術なのだよ‼︎

 

 ………………しかし……

 

 

「よく考えてみれば、我と我が妹の馴れ初めを話すことも、誰かの長話を率先して聞くことも初めてであったな」

 

「えっ? そうだったっけ?」

 

 

 うむ、そこは確信できるぞ。常連客でもただ本を買いに来るだけか軽くお話しする程度しか絡む機会はなかったからな。それも全て、人気による客の混雑だったり相手側の時間が限られているという偶然もあったりしてな。だから我の過去を話す機会もなかった……

 

 だが、この日は違った。我の店の本を買う以外の目的で来た者、魔族を探すという目的で来た彼──白哉からは不思議な何かを感じた。

 

 彼は一族の末裔でもなんでもないというのに、普通の者とは違う何かを感じる。我等兄妹の話を聞かせておけば今後何かしら面白い反応を見せてくれるだろう、彼の話を聞けば我自身も何かが変わるのかもしれん。そんなもしもが不思議と次々に浮かんでくる。

 

 本当に、不思議な男だ。我にここまで興味を持たせるとはな。どうにもまた関わりたいと思ってしまう。

 

 

「………………そういえば彼、ばんだ荘というところで暮らしてるらしいな。そこで長話させてしまったお詫びの品を渡しに行くとするか」

 

「そうだね。桜さんの作ってくれた結界はあの人との絡みのある穏健派魔法少女と関われるから行けるし、後日行ってみましょうか」

 

「うむ。また会えるのが楽しみである」

 

 

 白哉よ。君という存在がどれほど周りを楽しませてくれるのか、期待させてもらうぞ。

 

 




ん……? あれ……? なんか、奈々さんがブラムさんに対してどっかで書いた覚えのある感情を出してるような……それもシャミ子の白哉君に対する反応と似てるような……アレ……?

まあとにかく、前回の話の補完となる初めての番外編はこれまで‼︎ 土曜日からまたいつもの原作回に戻りますよー‼︎


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シャドウミストレス優子救出大作戦‼︎ ……いや別に優子が囚われたとかそんなんじゃないけどね

高価なもの食いたいので初投稿です。

実を言うと二話先の展開をどうしようか悩んでいます……


「白哉さん‼︎ 宜しければこれをどうぞ‼︎」

 

「………………? えっと……優子、これは一体……?」

 

「今日はバイト先でランチプレートの綺麗な盛りつけ方を教わったんです‼︎ ついでに余り物もいただいたので早速実践しました‼︎」

 

「そ、そうなんだな……」

 

「そ、それで、どうですか? いい感じに映えてますか……?」

 

「えっ⁉︎ えっと……お、俺が盛りつける時のイメージよりも結構良く出来ていて、その……美味そうだな……」

 

「そ、そうですか。そう言ってくれると嬉しいです‼︎ …………………えへへっ

 

 

 ………………………………

 

 

 

 あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ‼︎

 

 この俺・平地白哉は、お裾分けする料理は何がいいのかと優子に聞こうとしたら、オシャレなカフェのランチプレートみたいにソーセージやらエビフライやらが大皿に盛りつけられたなんかの料理を、優子に逆にお裾分けされていた……

 

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何を渡されているのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……

 

 一般の手作りお弁当とか、タッパーに詰められた余り物の料理とか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

 

 

 優子が魔族探しを始めて二日目となった。初日にて早速二人の魔族──喫茶店『あすら』の店長兼マスターの白澤さんとリコさんを見つけたらしいけど、それ以降は桜さんの行方の調査どころか魔族探しすら完全に忘れてしまうという現象が起きているようだ。まだ二日目だけどね。

 

 その代わりと言ってはなんだとは思うが、このようになんか『あすら』の余り物で豪勢なもの作って、家族だけでなく俺や桃達に献上しています。いつも夕飯のお裾分けしてた俺が今度は優子にお裾分けされるとは……なんか複雑だな。優子が作ったものってわけじゃないとは思うけども。

 

 

「………………ちょっとこの場で味見させてもらってもいいか?」

 

「えっ? あっ……は、はい。どうぞ」

 

 

 リコさんが作ったものだったとしたら、食べた瞬間に変な感じになる可能性も危惧できなからな。この場で一回味見して、ヤバそうって感じだったら優子には悪いけどこれは返品させとかないと。

 

 というわけでソーセージを食うことにします。一口丸ごとサイズのヤツもあったからまずはそれから。普通にパクってする程度だとどのように体の変化が起きるのかっていうのが分かりづらいと思うから、こういうのが妥協……なのか?

 

 パリッ。モグモクモグモク……

 

 

「……美味い。一度調理されてしばらく経ったはずなのに、皮はパリッパリで中はジューシー。肉汁も結構溢れてくるな」

 

 

 そしてソーセージ一本だけ食べても変な気分にはならない。このプレート分だけなら食べても問題ないだろうな。

 

 

「お、美味しかったですか⁉︎ そ、そうですか……‼︎ そ、その、自分が作ったわけじゃないのに、こんなに嬉しいと思ったことはないと思います……」

 

 

 あ、これリコさんが作った方のヤツか。まあそうかもしれないとは思っていたけどさ。

 

 

「それって自分の料理を卑下してるってことにならないか? そういうのはよくないぞ。優子の作る飯だって充分美味いぞ。お世辞とかじゃなくて」

 

「えっ……あっ。そ、そうですか……そ、そっか……私のも美味しいんですね……ニェヘヘ……

 

 

 ゲッ。ヤベッ、口が滑った。安易に変な褒め方したら優子が一時的にヤンデレモードになるの忘れてた。けど人の良さを褒めるのは癖となってるし、本当はいい事なのだからやめようにもやめれないんだよな……

 

 ……とりあえず、指摘ぐらいはするか。このまま放っておけば優子が色んな意味で危なくなりそうだし。

 

 

「優子、顔。顔。ヤバい事考えてそうな顔になってるぞ」

 

「ハッ⁉︎ わ、私ってばまた……‼︎ す、すみません。ありがとうございます……」

 

 

 やっぱり今回のも自分がヤンデレったってことに気づいてたのね。ヤバい状態にならずに済んだぜ。助かった……

 

 

「で、でしたら……偶には私が作ったのもお裾分けしますので、そ、その……その時は、期待してもらってもいいですか……?」

 

「えっ。………………お、おう。その時を楽しみにしておくよ」

 

 

 う、上目遣い……‼︎ 照れ顔からの上目遣い……‼︎ や、やめろ……俺をこれ以上ドキドキさせんどいてくれ……‼︎

 

 この後ランチプレートみたいなものを受け取った俺は、それを優子が作る飯も色々と想像しながら食べた。そのおかげなのか食っても変な気分とかにならずに済んだようだ。というか前も『あすら』の飯食ったことあるとはいえ、よく躊躇なくこれ食えたな俺……

 

 

 

 

「……どう思う、二人とも」

 

 

 優子が桜さんの行方調査と新たな魔族探しをしてから四日目が経った。優子を何故かまた置いて行かれたリリスさん含め四人で見送った後、桃は俺達に優子の様子について問いかけた。……ついに怪しむようになったか。まあ原作読んだ俺はここら辺でそう言うとは察してたけど。

 

 

「明らかに変ね。シャミ子がこんなシャレオツなカフェご飯を覚えるなんて……六畳間で食べると違和感が───」

 

「そこも気になるけど違う」

 

「俺にそれをお裾分けしに来た時、何故か知らんが毎回何かしらのアプローチを掛けて来てる気が───」

 

「それは色々な方面で期待に胸を膨らませられるんだけど、それも違う」

 

「おいちょっと待て。期待に胸を膨らませられるってなんだ。どういう意味で言ってんだコラ」

 

 

 引っかかる言葉に対するこの問いかけは無視されました。まあからかい上手の千代田さんみたいなキャラの桃だから、俺と優子の関係に関する質問は都合の良い時だけ無視するだろうなとは思ってるけどさ……やっぱり腹立つ。

 

 そんなことは置いといて、みたいな感じに本題に戻されました。解せぬ。

 

 優子が調査をド忘れし続けてるのはこれで四日目。桃的には二日目までは彼女ならギリありえると思っていたらしいが(優子に失礼だなオイ)、二日間大事なことを忘れ続けるのは不自然すぎると感じているようだ。確かに連日で重要なところを忘れるってのは不信感を抱いてしまうな。

 

 ミカンも最近の優子の様子が心配のようで、家でも元気に見えるのに言ってることが要領を得ず、昨日なんて店員さんスイッチが入りっぱなしで、気づけば小一時間も二人でカフェセレブごっこを楽しんでいたと語る……

 

 待てや。なんでそれを小一時間もやれる。つーか乗っかる方もどうかしてるぞ。そもそもカフェセレブごっこってなんだ。ツッコミどころ満載やろがい。

 

 リリスさんも疑問に感じたのか優子の意識に入ってみようとしたが、優子の脳内空間がボケボケになっていて入り口が見当たらなかったらしい。眠りが浅くなっているか、あるいは出先で術または暗示か何かかけられている可能性があると憶測もしているようだ。

 

 

【このままだとまずいかもしれないメェ〜】

 

「うおっビックリした⁉︎ メェール君いつの間に⁉︎」

 

 

 おま、メェール君いきなりひょこっと顔を出さないでくれませんかね⁉︎ しかも気配を隠さないでいいから‼︎ っていうか魔法少女二人に察知されることなく割り込めるとかすごくね⁉︎ というか。

 

 

「まずいかもしれないって、どういうことだ?」

 

【マスター、よく考えてほしいメェ〜。シャミ子ちゃんが自分自身の成すべき事を連日忘れてしまう。家でも小一時間もセレブカフェ店員モードになる───】

 

「セレブカフェ店員って何だよ」

 

【……話を遮らないでほしいメェ〜】

 

 

 それはマジでごめん。変なワードが出たものだから、ついツッコミを入れちまった。

 

 

【さっき供述した二つを含め、ましてや容態を確認しようにも脳内空間が正常ではない……これはシャミ子ちゃんに対して何かしらの悪影響を及ばしているってことになるメェ〜。もしこのままシャミ子ちゃんを放置すれば……】

 

「……洗脳みたいな仕打ちを受け続けている優子が、本来の優子じゃなくなる……そんな感じか?」

 

【平たく言えばその通りだメェ〜】

 

 

 本来の優子じゃなくなる、か……それは何というか、優子そのものがどこかに消えてしまったみたいで、なんだか心がすごく痛く感じてしまうな……

 

 いや俺が転生して関わった時点で、優子がヤンデレになって何割かは原作通りの性格にはならなかったと思うけども。人の事を言えないなオイ。

 

 

【ここでマスターに質問するメェ〜。もしもシャミ子ちゃんがバイト先で、あんなことやこんなことをされていたらどうす───】

 

「優子に限らず仲の良い人がそうなったら、そのようにした馬鹿どもを捕らえて禁縛・尋問する。そして奴らが洗脳した人達全員を元に戻すよう脅迫する。流石の俺も心を鬼にするわ」

 

「「『それは心を鬼にするってレベルじゃないよ(わよ)(ぞ)⁉︎ もはや修羅の領域に達しそうな程の怖い顔になってるから‼︎」」』

 

 

 息合ってんじゃん。三人揃って息もセリフもぴったしになることってある?

 

 えっ、修羅みたいな顔? ……俺、そんなになる程にまで怒ってたの⁉︎ えぇっ、我ながら怖っ……

 

 

「と、とにかく……喫茶店『あすら』に魔族がいることは分かった。準備も終わったし、結界を強行突破しよう」

 

 

 お、ついに原作での重大イベントに繋がるサブイベントの発生だな。ここで今、俺がやるべきことはただ一つ……

 

 

「始めよう……シャミ子の就職断固拒───

 

 

 

「シャドウミストレス優子救出大作戦、開始だッ‼︎」

 

 

 

 これから行う作戦名を無理矢理改名させることだッ‼︎

 

 

「………………えっ?」

 

「えっ? じゃねーよ。なんだその反応は」

 

 

 俺のカッコ良いキメ台詞を台無しにするような反応しやがって。その時の時間を返せコラ。

 

 

「あの……一応私が言おうとした作戦、白哉くんにも教えたはずなんだけど……」

 

 

 うん、聞いたよ? 昨日ちゃんと聞いたよ? 作戦の内容はまあ中々良いとは思うよ。けど、それとこれとは違うところがある、

 

 

「賛同したのは作戦の内容だけだよ。問題はその作戦名だ。お前が言おうとした作戦名は『シャミ子の就職断固拒否作戦』だろ? それだと『優子をニートにしよう』という過保護すぎる親みたいな思考をしてるように思えてきて、優子が大人になってもマジで就職しなくなって、ダメ人間ならぬダメ魔族フラグまっしぐらになりそうで仕方ないんだよ。だから作戦名は優子を調査ド忘れループから逃れさせるために『シャドウミストレス優子救出大作戦』にする。異論は認めん」

 

「いやなんか後先のことを考えすぎていないかしら⁉︎ ……ま、まあ『救出大作戦』の方が『就職断固拒否作戦』よりも結構前向きに聞こえるから余程マシではあるけど……」

 

「ほーら、常識人な魔法少女からもそれなりの評価だぞー。参ったかー」

 

「ッ……負けた」

 

『いや何の勝負をしているのだお主ら二人は……』

 

「ホントにね」

 

 

 黙らしゃい。今後の優子の将来に関わるのかもしれない大事なところでもあるんだよ今回やる作戦の名前ってのは。優子を勝手にニートになどさせてたまるかってんだ。俺ァ優子をヤンデレニートにさせるのはごめんだ。

 

 まあとにかく、俺達は作戦実行のために桜ヶ丘公園にレッツラゴー。何故そこへ向かうのかって? そこから結界を狙撃するためです。

 

 魔法少女は結界に干渉できないため、人形に魂を移したリリスさんにハートフルモーフィンステッキを持たせ、それに秘められた魔力を使って結界を書き換えてしまおうという算段である。ちなみに狙撃担当はミカン。本人曰く、近くだと緊張して全然当たらないが、超遠くからだと結構当てられるとのこと。普通、逆じゃね?

 

 まあ何はともあれだ。俺はミカン達の発射用意を見守りながら、何かしらの不祥事とかが起きないのかどうかを確かめるために傍観させていただくとしますわ。わあ、発射されようとする矢がめっちゃ光るー。

 

 

 

 

 

 

 陰陽師の高校生・仙寿拓海はご機嫌だった。その理由は、夏休みが来たことで大量に来た陰陽師への依頼を終わらせたからでも、夏休みの宿題を日記以外全て終わらせたからでもない。それらによって、久しぶりに喫茶店『あすら』に顔を出せるからである。

 

 彼は『あすら』には最低でも二週間に一回ぐらいは顔を出し、よく店の手伝いをしていたが、上記の二つの出来事……主に多く蔓延ってきた陰陽師への仕事の依頼が多忙となっていたため、『あすら』を訪れる機会が取れずにいたようだ。

 

 その間は店の経営等のことをとても心配しており、陰陽師の仕事中に『胃薬を飲んでいそうなマスターの身に比べたらアンタの恨みは弱いんだよ‼︎』と怨霊に八つ当たりする程だとか。怨霊、哀れ。

 

 だがその仕事も一昨日にて終わり、そんな多忙な中でも夏休みの宿題を日記以外全て終わらせ、拓海はついに自由時間を長く作れるチャンスを得た。そして、その一部を『あすら』の助っ人に行くという行動に使ったのだ。それが今日である。

 

 ご機嫌にスキップしていた拓海は『あすら』の看板を目にした途端、そこの扉の前まで大きなスキップをし、その場で着地した。好きなものが目に入った時の小学生か、みたいなツッコミが起きそうなのを気にせず、拓海はその扉を思いっきり開いた。

 

 

「こんにちはー‼︎ マスターにリコさん、陰陽師の仕事に区切りがついたので久しぶりに店の手伝いに来ま……し、た……?」

 

 

 が、開けた瞬間に見えた光景に呆気を取られて固まってしまう。彼の視線の先にいたのは、『あすら』での実質先輩に当たるリコとマスターこと白澤、そしてクラスメイトでもある魔族のシャミ子だった。

 

 しかしシャミ子の方はリコと同じ『あすら』の制服を着ている。何故? 夏休み期間中の長期間バイトでも体験するつもりだろうか? 拓海は思わず動揺してしまい始める。

 

 

「あ、拓海君。久しぶりだね。突然だけど紹介するね。この子は四日前から働いてくれてる───」

 

「シャミ子君、ですよね? ウチのクラスメイトなので知ってます。というかここに働き始めたんだ……」

 

「なんや、優子はんにはシャミ子ってあだ名があったんやな。それに拓海はんのクラスメイトだったんやな〜」

 

 

 リコがシャミ子の事で何かしら呟いていることに耳を傾けてはいるものの、シャミ子がこの店でバイトし始めていることが未だに信じられないと感じており、さらには今の彼女の様子に疑問を抱いていた。

 

 

「あー……シャミ子君、大丈夫かい?」

 

「───ハッ⁉︎ すみません、ボーッとしてました……ってあれ? 拓海くん? 来てくれたんですか?」

 

「この店の助っ人として久しぶりにね………………なんかいつもと調子が良くないと思うけど、大丈夫?」

 

 

 この時の拓海は静かに警戒態勢に入っていた。いつもなら負けず嫌いな精神を見せたり揶揄われたら根性で押し返そうとする強い意志を見せたりする彼女が、今は目のハイライトを失い虚ろとなっている。彼女がこのような状態になるのは何やらおかしい……拓海はそう危惧しているのだ。

 

 何故彼女が虚ろ状態になっているのか。働き始めたことによる環境に耐えられていないからなのか。はたまたリコや白澤との事で何かしらの問題があるのか。拓海の疑問は広がっていくばかりだ。

 

 

「む? お疲れなのだろうか……? 優子君、しばらく拓海君に任せてもらうから休憩に入ってくれたまえ。奥でまかないでも食べてて」

 

「……マスターが何かをやらかしたわけではない、か」

 

「えっそれどういう意味? 僕何かやってはいけないことでもしてたの?」

 

 

 拓海の徐に呟いた言葉が白澤に刺さり焦らせ、とばっちりという形を作って受けてしまう。理不尽である。白澤、哀れ。

 

 

「なー優子はん。もしかしてなんやけど……」

 

 

 刹那。リコが何やらシャミ子に問いかけようとしたのを遮るかの如く窓の割れる音が響いた。シャミ子以外がその音がする方向に振り向くと、床には一本の矢とそこに結び付けられた一枚の紙──矢文──が突き刺さっていた。

 

 黄緑色に光るその矢は物質的なものではなく、完全なる光の結晶で作られしものだった。数秒にしてその矢は自然と消え、そこに残ってたのは一枚の矢文だけだった。それを拓海が恐る恐る手に取り、開く。

 

 

 

『逃げたら撃ちます

 穏便にお願いします

 ごめんなさいね

 

 ひなつき』

 

 

 

「………………ひな、つき……?」

 

 

 リコと白澤が矢文の内容の事で何やら揉め事になっている中、拓海は一人矢文の書き手の苗字に目を当てていた。『ひなつき』。その苗字を持つ知り合いで、非論理的な造りとなっていた矢を放てる存在は一人しかいない。

 

 

「……陽夏木さん、一体何を考えているんだ……」

 

 

 拓海の警戒心がより一層高まりだした。魔族に対しても無闇に攻撃するなんて事は考えないはずのミカンが、穏健派な魔法少女が、人一倍に優しい性格の彼女が魔族を攻撃するだなんてあり得ない。そう確信してきたからだ。

 

 しかし今はどうであろうか。魔族側が穏やかにならなければならない前提でとはいえ、魔族の命を狙おうとしているではないか。何故そのような真似をするというのだ。拓海の疑問は増していくばかりだ。

 

 

「……急にすみません。二名と使い魔二匹です。入っていいですか」

 

 

 扉の開く音とウェルカムベルの鳴る音。拓海はその音に反応し振り返ると、そこには召喚師覚醒フォームの姿の白哉と魔法少女の姿の桃が(それぞれの肩に乗っている羊っぽい何かとシャミ子と似た顔をした何かも)。

 

 

「……‼︎ 白哉君、桃君……‼︎」

 

「あれ、拓海くん? なんでこんなところに───」

 

 

 いち早く拓海の存在に気づいた桃の言葉を遮るが如く、拓海はすぐさま懐から陰陽札を取り出し、それを見せつけながら臨戦態勢に入った。それを見た二人は思わず目を見開く。

 

 

「は? ちょっ、拓海?」

 

「………………二人とも、ここに何しに来たんだ。マスターとリコ先輩の命を狙うというのなら、こっちも容赦はしない……‼︎」

 

「「えっ? どういうこと?」」

 

 

 何故拓海が突然敵対する前提の宣戦布告みたいなことを言うのか、そう思い込んでいるかのような呆けた表情を見せる白哉と桃。そんな二人を気にせず、拓海は睨みつけながら、陰陽肌から青白い灯火のような物質を滾らせる。この灯火は妖術の発動に必要となる霊力と呼ばれるものであり、いつでも霊術を発動できる状態になっているというわけだ。

 

 

「とぼけないでくれ。君達はいつでも戦えるようにと姿を変えてるじゃないか。それに先程だって陽夏木さんが光の矢を放っていた。それはつまりここに魔族がいるという情報を君達は既に掴んでいるという証拠。二人に一センチでも触れてみろ。その時は───」

 

 

 刹那。拓海の右腕にしがみつくものが。白澤である。短い手で必死に拓海の腕を抑えており、表情からも慌てている様子が目に見えている。

 

 

「拓海君落ち着いて‼︎ ちゃんと矢文を見て矢文を‼︎ 『穏便に』‼︎ 『穏便に』って書いてあるから‼︎ 無闇に刺激させないで‼︎」

 

「えっ……? えっと……」

 

「にしてもお二方共えらい凝った格好ですなあ。今日はぶぶ漬けしかないんやけど大丈夫?」

 

「リコ君も煽らないで⁉︎ ホント二人ともやめて⁉︎ お願いだから‼︎」

 

 

 必死に臨戦態勢を解くように懇願する白澤に、いつも通りほんわかしながらもこちら側から喧嘩を売る雰囲気を出しているリコ。そんな二人を見て呆然としたのか、拍子抜けな感じとなった拓海は思わず陰陽札に滾らせていた霊力を解き、臨戦態勢も解いてしまった。

 

 

「あー、その……とりあえず、話を聞いてもらってくれるか? お前の誤解を解きたいし、そもそも俺達は優子に用があるからさ」

 

「えっ。あ、あぁ……うん」

 

 

 拓海が冷静になったと判断したのか、二人での話し合いを申し込んだ白哉。一方の拓海も拍子抜けが収まってないからか二つ返事で了承することに。

 

 その間、桃・白澤・リコの三人はシャミ子の元へ行き、そこでシャミ子に関わる話し合いをすることに。彼等がどのように話し合ったのかは……原作『まちカドまぞく』三巻またはアニメ二期四話(十六話)をご覧ください。以上、宣伝パートでした。

 

 

 

 

 

 

 ハ、ハラハラしたぁ……まさか今日に限って拓海が『あすら』の助っ人に来ていたなんてな……しかもミカンの書いた矢文を見て俺達が『あすら』の魔族──白澤さんとリコさんの命を狙っているのだと勘違いしてしまうとは……いや『逃げたら撃ちます』って書いたらそりゃそう勘違いしやすいけども。

 

 一時は戦闘フラグになりそうでどうなるのかと思ったけど、白澤さんが拓海を止めてくれたおかげでそうなることはなかった。とはいえ、マジで戦闘フラグにならなくて済んだぜ……友情崩壊フラグして原作に大きな影響を与えそうで怖かったから……

 

 と、とりあえず拓海が落ち着いてくれたおかげで話し合いを作る機会を作れたし、誤解を解きやすくなったし、よかったと思う。

 

 ってなわけで、優子の事は桃に任せてもらい、俺は拓海の誤解を解くことを試みることにした。優子が桜さんの行方を探してること、そのために魔族を探すことになってること、最近『あすら』に行ってる優子がその目的を忘れてること、なども全て。

 

 

「───ってなわけなんだけど、どうだ? 俺達が白さ……マスター達の命を狙ってないってことが分かったか? 分かってくれるとありがたいのだけど……」

 

「………………うーん、ここに来た理由は理解したけど……」

 

 

 あれ? 一押しが足りない? まだ誤解が解けてない感じ? 嘘をついてないだろうなと思っている感じではあるみたいだけど……

 

 

「白哉君、一度ここに来たよね? ここにマスター達魔族がいることを陽夏木さん達に話してないかい?」

 

 

 あっ。そういえば俺、確かに一度ここに来てたな。それも拓海に連れて行ってもらって奢ってもらったんだっけ。で、そこで白澤さんとリコさんという魔族がいたことも知った……あっ、ここは原作を知ってたから会うから知ってたけども。

 

 

【マスターはこの事を誰にも教えてはないメェ〜。そもそも『あすら』に行ったことどころか、君に奢ってもらったってことすらも話してないらしいメェ〜。誰にも。素で忘れてたってのもあるかもしれないけどメェ〜】

 

 

 オイ、本当の事を言うな。

 

 

「そ、そうなのか。ならマスター達の命を狙うとは思えないし、こっちも安心するよ……というか君、喋れたんだ。餓狼って狼もそうだったけど」

 

【一匹を除いて僕らマスターの召喚獣はみんな喋れるメェ〜。あ、僕が言うマスターはこの店のマスターじゃないメェ〜よ】

 

 

 そんぐらい拓海も分かっとるわ。説明しなくてもいい……いやマスターと呼ばれている奴が二人いて紛らわしいから説明は必須か。

 

 とりあえず、メェール君の説明で完全に誤解は解けたようだ。俺が白澤さんとリコさんの事を桃とミカンに教えなかったことが誤解を解くことに最適となったようだ。よかったよかった。

 

 ……って、うおっ⁉︎ 両手をテーブルに思いっきり叩きつけて朴を勢いよく垂れてきた⁉︎ い、一体何を……

 

 

「本当に申し訳ない‼︎ 君達がマスターとリコ先輩の命を狙う輩になったのではと勘違いしてしまって‼︎」

 

「えっ。あ、いや別に……こっちも勘違いさせてしまったわけだし、やり方がやり方だったから……」

 

 

 あ、盛大なる謝罪ってわけですか。勢い良くバンッてやるな紛らわしい。というか大袈裟な感じが強くない? 気のせい? 俺の気のせいなの?

 

 

「白哉くん、拓海くんとの話し合いは終わった? 今日のところは撤収するよ。シャミ子を寝かせたいから」

 

「おっ、中々良いタイミングで。少なくとも区切りがつけるぞ。ってか終わった終わった、誤解解けた」

 

 

 どうやら桃の方も優子の回収に成功した感じかな。優子を担いで左手だけで支えているようだ……左手だけで? 普通片手だけで人を支えられるわけないよね? どんだけ腕力高いねん。

 

 ま、とにかくこれで『シャドウミストレス優子救出大作戦』はこれで完了したな。さっさとずらか……帰るとするか。

 

 

「それじゃあ俺達はこの辺で。あ、マスター。すみませんが優子のバイト代は本来のシフトの時間通りでお願いします。俺達が勝手に連れて帰ってアレなんですが。それでチャラで」

 

「どんなチャラのさせ方なんだい……?」

 

 

 喧しい。後々面倒な事を増やすわけにはいかんのよ。だから余計に話を広げようとはしないでくれ。はよ帰らせてくれ。頼むから。

 

 

 

 

 

 

 夕日をバックに歩く帰り道。俺が優子を背負い、桃がミカンに撤収の電話を掛けた後に頭の上で足パタパタさせてるリリスさんを握りしめている。リリスさん可哀想。

 

 つーか俺、優子を背負う役をやるとか言わない方が良かったか……? だって、胸……胸が俺の背中に当たってるからさ、理性の問題がちょっと……

 

 あっ、優子が調査をド忘れした原因はやっぱりリコさんの料理のせいでありました。というか食べた量の問題だけど。

 

 リコさんの料理は心を癒す料理だが、食べ過ぎると最高に……ってはならないと思うけどハイッ‼︎ってなって健忘が出てしまうらしい。そして、貧相暮らしだった優子はもったいない精神のせいで破棄寸前の料理を持ち帰ってめっちゃ食べたそうだ。一日普通のもの食ってゆっくり寝れば忘れた用事も含め元通りだとか。

 

 うーん……これ、俺が原作の知識を持ってなかったらどうなってたんだ? 疑心暗鬼になったりして頭がおかしくなったりしちゃわないか? なんか、もしもの自分を考えたら怖くなってきたな……

 

 

「………………ごめん、白哉くん」

 

 

 は? 何急に俺に対して謝ってきてんだこの桃色魔法少女は? お前俺に何か悪いことでもしたのか?

 

 

「私がシャミ子の様子がおかしくなってしまったことに気づいていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない……そう思っていたら、なんだか心苦しくなって……」

 

「……それはお互い様だ。俺も微塵でも気づいた事を言わなかったら、桃もミカンも一日早く行動に移さなかったと思うから。どっちもどっちだろ」

 

 

 ま、原作通りに事を運びたかったから黙ってたってのもあるけどな。我ながらひでーなオイ。

 

 

「けど、白哉くんの幼馴染をこんなになるまで放っておいてしまったから───」

 

「このアホ」

 

「痛っ⁉︎」

 

 

 また一人で思い悩もうとしていたので、ゲンコツ一発かましてやりました。あの筋力バカスゲー魔法少女にだぜ? 『痛っ』って言わせてやったぜ? それって日頃の揶揄われた恨みを晴らせたってことになるよな?

 

 や っ た ぜ 。

 

 ……というか。

 

 

「この程度の攻撃でも『痛い』とか言うんだなお前も」

 

「……私、痛覚の失った何かだと思われてるの?」

 

 

 おっ、なんか呆然とした顔になったな。これは俺の話を聞き入らせるチャンスだ、とことん言わせてもらうで。

 

 

「そうやって一人で悩み込むのやめろよな。優子があそこへ向かう要因である『桜さんを探すために魔族も探す』ってのもこいつが自分から決めて宣言したことだし、俺もお前もそれが上手くいくと信じて受け入れたんだろ? その事でウジウジと一人だけ引き摺るとかカッコ悪いっての」

 

 

 ここで桃が何かに気づいたかのような表情になる。あの時の公園のところで俺や優子に言われたことを思い出したようだな。よし、後もう一押しさせてもらうとするか。

 

 

「悩み事が出来たらちゃんと誰かに相談しろ。手を差し伸べてもらえ。『一人はみんなのために』『みんなは一人のために』。その精神を持った方が、お前だけじゃなくみんなを強くするんだよ」

 

 

 一人でなんとかしよう、なんて考えは孤独な闘いを続けることと同じこと。孤独な闘いを続けることは自ら破滅の道を辿るのと同じことだ。その道を一人で回避することができるのはあくまで創作の世界でだけだ。そのように上手く事が運ぶわけがない。

 

 

「だから……誰かを助けたいなら、誰かに救われたいという意思を持て。願え。それが、今お前がすべきことだ」

 

 

 ここで敢えて桃と視線を合わせずそう告げる俺。こうすれば俺の今の顔を見た桃もきっと心境を変えられていき、自分が本当にすべき事やしてもらうべき事を理解してくれるはずだ。そして孤独の道から外れてくれると信じたい。ってかそうであってくれないと優子達も悲しむ。

 

 

「救われたいと願うこそが、私のすべきこと……」

 

「───ん……? あれ……?」

 

「あっ。悪い優子、起こしちまったか」

 

 

 どうやら俺達の会話によって優子が起きてしまったようだ。しかも案の定うつらうつらな状態のままだ。無理に起きないで欲しかったんだがな。

 

 

「私の、すべきこと……何かあったような気が……私の今の最重要事項……えーっと……」

 

 

 どうやら俺が伝えた最後の言葉か桃の呟きを聞き取っていたらしく、健忘状態ながらも無理にその事を思い出そうとしているようだ。本来なら優子が今すべきなのは桜さんの行方を探すことだが……原作知識を持つ俺は彼女がこの後言うセリフを知っている。

 

 

 

「……そうだ‼︎ 私の使命は……桃をニコニコ笑顔にすること……‼︎」

 

 

 

 これである。そしてこれを言った後優子はすぐにまた眠りについた。まるで寝言でも言ったかのようだ。

 

 

「………………?? ………………違うっ‼︎ ぜんっぜん違う‼︎」

 

「いや、今後のお前のためのことも考えるとそれと同時進行で進めないとアカンやろ」

 

「どういう意味⁉︎ 後なんで関西弁⁉︎」

 

 

 おっ、どうやら桃の調子が戻ってる感じだぞ。先程までの自己嫌悪感がなくなって来とる。優子、ナイス。

 

 

「とりま今はお前は心の底から笑顔になれるようにしろ。桜さん探しはそれからだ」

 

「あれっ⁉︎ なんか私の最重要事項を無理矢理変えられた⁉︎」

 

 

 いいからお前は言われた通りの事ができるようにしやがれ。それが今の優子の為ってもんだ。とりあえず、今日はさっさと帰って優子を寝かしておこう。そうしよう。うん。

 

 

 

「………………シャミ子が白哉くんを好きになる理由、分かったかも。私もこんな感じに、あの人の事を好きになっちゃったから………………ハッ⁉︎ な、何呟いてるのかな私⁉︎ こんな事、シャミ子や白哉くん達に聞かれたら恥ずか死してしまう……‼︎」

 

 

 

 ……ん? なんか桃がぶつぶつ言ってたけど、何言ったんだ? 聞こえへん。……ま、いっか。なんか聞かれたくない感を出してる感じだし、無難に聞かない方が互いの身のためだな。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その15

拓海「お疲れ様でしたー。……ふぅ、今日は災難だったな。突然陽夏木さんの矢が店に放たれたり白哉君と桃君が入り込んできたり、これらを魔族狩りの象徴みたいなものかと勘違いしたりして……いや状況が状況とはいえ、一歩間違えたらどうなることかと───」
?「あっ……た、拓海……?」
拓海「ん? ……あぁ陽夏木さん? どうしたのこんなところにまで来て」
ミカン「……桃から電話で聞いたわ。あの時、貴方も『あすら』に助っ人で来てたのね」
拓海「まぁね。陰陽師のもう一つの仕事、みたいな感じに偶に働いてるよ。それで、一体何しに───」
ミカン「その……ごめんなさい」
拓海「へっ? いや、急に頭下げられても……」
ミカン「あの時は知らなかったとはいえ、拓海の仕事仲間の人達の命を狙ってるみたいな勘違いをさせてしまったわ」
「結界のせいで私達魔法少女はあそこに行けない上に方法が方法だったとはいえ、もっと最適な方法があったのかもしれないって思えてきたの」
「そうでなきゃ、もしもあの時店長さん達に何かあったら……本当にごめんなさい」
拓海「陽夏木さん……」
「(そっか。陽夏木さん達も本当は無理矢理な作戦を望んでやってるわけではなかったんだな。『あすら』に貼られている結界のせいでもあるとはいえ、力づくな真似よりも最善な方法があったのではないかとも思って……)」
「(なのに俺は、あの時彼女達の行動を悪事なものと見なして、マスターに止められるまで白哉君と桃君を敵視して……)」
ミカン「お詫びなら今度できる限りするわ。だから、せめて桃と白哉は許してあげて───」
拓海「顔を上げて、陽夏木さん。俺はもう君達の事を怒ってないよ」
ミカン「えっ……」
拓海「元はといえばこちら側の不注意から発展したものだし、そちら側の事情ってものがあることも分かっているから。こちらこそごめんね」
「だからもう気に病まないで。これからもいつもみたいに仲良くしてもらえると俺も嬉しいよ」
ミカン「た、拓海………………そう。そう言ってくれるなら、私も安心できるわ。ありがとう、許してくれて」
拓海「別にいいよ。その代わり、何か困ってることがあったら俺にも相談してくれると嬉しいよ。俺も何かしら力になってあげたいからさ」
ミカン「えぇ、そうするわ。それじゃあまた」
拓海「うん、また」
「(………………ん? あれ? なんか陽夏木さんの顔色が変わった気がするけど、気のせいかな? 体調は悪く無さそうだけど……)」
ミカン「(あ、危なかった……‼︎ あとちょっとで呪いが発動するところだったわ……‼︎ あんな爽やかな笑顔で『力になるよ』って言われたら、結構ドキドキしてしまうじゃないの……‼︎)」

END



はい、今回は別の意味での初(?)の修羅場回となりました。そりゃああんな方法で結界貼ったら誤解されるわな……行動を移す時は相手側の気持ちを前提に行おう‼︎

 


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ジャンジャジャーン‼︎ 今明かされる衝撃の真実ゥ‼︎ ……このセリフ言うの自分でも痛いと思ってる

最近絵師に推しを描いてもらうことに喜びを感じているので初投稿です。

それによってかTwitterをよく漁るようになり、編集頻度が……

ん? 今日はちよももの誕生日? ………………ガチで忘れてたわ。


 

 ………………ん? アレ? 知らない天井ですね。あと、ぼやけて見えないけど人影が見えますね。その奥には古風のある天井に、古い照明……

 

 あっ、これ私の部屋だ。

 

 ええっと……そもそもなんで私、こんなところで寝ているんでしょうか? 私って確か、『あすら』のバイトに行って時間の余裕を作れたら桜さんの行方を聞こうとしたけど、その機会が中々見つからないから仕方なく接客の仕事を続けてて、それから……

 

 ………………アレ? ところでこの人影って、一体……? なんか細くも逞しさもある身体作りをされているけど、これどこかで……

 

 

「───おっ、起きたのか優子。おはよう」

 

「あっ白哉さん、おはようございます………………ん?」

 

 

 えっ……アレ……? 私、白哉さんの夢の中に入っているのですか? それとも私の部屋に白哉さんがいる……? アレ……?

 

 ………………あっ(察し)。あぁ、そうか。そういうことなんですね。私はバイト中に突然倒れてしまって、白哉さんにここまで運ばれてもらった……って感じですかね……?

 

 ん? あれ? ちょっと待って? 今、私はバイトに行ってきたはず。なのに気がついたら自分の部屋で寝ていた。そしてその隣には白哉さんがいる。とりあえず現時点では……

 

 私は白哉さんに寝顔を見られた可能性がある。そして今でも寝ているところを見られているってことが分かりましたね。

 

 ………………………………

 

 って。

 

 

「くぁせdrftgyふじこlp!?」

 

 

 あびゃ、あびゃ、あびゃびゃぁぁぁぁぁぁッ⁉︎ えっちょっ、おま、えぇぇぇぇぇぇえっ⁉︎ な、なんでェェェェェェッ⁉︎ なんで白哉さんが私の部屋に入って私の寝顔を見ているんですかァァァァァァッ⁉︎

 

 私の寝顔、可愛くなっていましたか⁉︎ 白哉さんもドキドキするような可愛い顔してましたか⁉︎ 桃やミカンさんに負けないぐらいの⁉︎ み、見てくれて嬉しい……白哉さんの為ならもうちょっと見せてあげたかった……じゃなくてェッ⁉︎

 

 と、と、と、と、とにかく‼︎ 今最も最優先して聞くべきことはただ一つ‼︎

 

 

「なんでここにいるんだってビックリしたろ? 実はお前はバイト先で───」

 

「びゃ、びゃびゃびゃびゃびゃ、白哉さん‼︎」

 

「ん? な、なんだ?」

 

「そ、そ、そ、その………………私、寝顔はちゃんと可愛い感じになってましたか⁉︎」

 

 

 あああああああああっ⁉︎ いやいやいやいや⁉ ち、違う‼︎ 最優先にすべきところが違うゥゥゥゥゥゥッ‼︎ 正直私の寝顔が可愛い感じであってほしかったけど‼︎ 変顔レベルでヤバかったって感じにならないでほしいとお祈りしたんですけどォ‼︎

 

 

「えっ……? もっと優先すべき質問あったはずなのに、一番に聞きたいのがそれェ? えっと……ま、まあその、アレだ……結構可愛い寝顔してたぞ?」

 

「可愛っ⁉︎ えっ。あっ、そ、そうでしたか……」

 

 

 か、かわっ……かわっ、かわっ、かわっ、可愛いって……そ、そうなんだ……変な顔にはなってませんでしたね……そ、それを知っただけでも嬉しいというか、なんというか……

 

 あっ。ど、どうしましょう……私今、可愛いって言われて絶対ニヤけてますよね? そうですよね? これまでとは違って表情筋が変わったってのが自分でも分かってしまう程ですもん、絶対ニヤけてるに違いない……‼︎ 抑えろ、抑えるのだシャドウミストレス優子……‼︎

 

 ……そういえば、白哉さんに私の寝顔を見られるのって何かとこれが始めてなのかもしれない。それって所謂白哉さんに今までお見せしなかったところを見せられて、それを白哉さんに覚えてもらうことができるってことになりますよね?

 

 それに、白哉さんに私の寝顔を『可愛い』と言ってくれるということは、何かと好意を持ってくれているってことですよね? 少しは意識を持ってくれているってことにもなりますよね? そうですよね? だったら……見せてあげたい。もっと私の可愛い寝顔を見せてあげたい。白哉さんには私の寝顔を独占してもらいたい。そんでもって……

 

 

「……シャミ子、一応私もいるんだけど」

 

 

 ハッ⁉︎ ま、また白哉さんへの愛が重たくなっていた……も、桃に呼びかけられてよかったです。なんだかこのままいくと行動に移しそうだったから……って、ん?

 

 

「ほりゃべっ⁉︎ も、桃ォ⁉︎ き、きさまいつの間にィ⁉︎」

 

「ずっと白哉くんの向かい側でシャミ子を見ていたんだけど……」

 

 

 き、気づかなかった……ちっとも気づかなかった……‼︎ 途中まで気配を消しながら監視とはきさま卑怯だぞ‼︎

 

 あっ、いや私が単に気づかなかったというか、白哉さんがいたことにしか目がいってなかったというか……結局ここも私のせいじゃないですかヤダー‼︎

 

 ……というか‼︎

 

 

「き、きさま無防備な宿敵の姿を見下すなんて人が悪いですよ‼︎ デリカシーさとか正々堂々さが足りないというか………………あっ。いや、白哉さんが見つめてくることには何の不満もないので、私も人の事を言えないですけど……」

 

「一人で勝手に手のひら返ししても……後、私はそんな悪い性格をしてないと思うんだけど」

 

 

 えっ……? 自分の行動に対する良さと悪さの区別がつけない感じなんですか? いくらなんでも桃はそんな性格ではないとは思うのですが……いや本当に。

 

 

「……シャミ子って、何か欲しいものとかある?」

 

「えっ……? どうしたんですか突然」

 

「バイト先の事で寝不足になったお前の事が心配で仕方がなかったんだよ。俺も実際そうだったし」

 

 

 あ、あぁそういうことでしたか。でも別に病んではないので、何かを買ってくれるどころか見守らなくても大丈夫なんですけど。………………別の意味では、病んでますが。そこは我ながらなんとかしたいものです。

 

 

「ちょっ白哉くん、本当の事を言わないで……と、とにかくシャミ子! 何でも言ってみて」

 

 

 そんなこと急に言われましても……まあせっかく桃が珍しく私に要求させてきたことですし、とりあえず……

 

 

「じゃあ……アイスもなか」

 

 

 夏で暑くなってアイスが食べたい気分なので、偶には我儘を言っておきましょうか。

 

 

「………………そういう、食べたら消えるものじゃなく」

 

「何でもって言ったのに⁉︎」

 

 

 僅か三秒で手のひら返されて拒否された⁉︎ 桃、今のきさまは矛盾行為をしてるぞ⁉︎ えっ何⁉︎ 消えないもの系のリクエストを所望⁉︎ え、えっと、食べ物で消えないものなんてないから、食べ物以外で……いや思いつかない⁉︎

 

 

「ッ……『何をお願いすれば良いのかわからない』って顔をしている……シャミ子って意外と欲望低めまぞくだったとでもいうの……⁉︎」

 

 

 なんか変なあだ名を付けるのやめてくれませんか? 別にそんなに欲しいものとかないので、そう言われるのは否定しませんが……

 

 

「落ち着けよ桃。今の優子は寝不足で長時間寝たばかりなんだから、何をお願いすればいいのかを考えられず、上手く頭が回らない状態なんだ。欲求を聞くのは本調子になった時にしてあげようぜ。焦りは禁物だ」

 

「………………うん、そうだね。シャミ子、ごめんね」

 

「えっ? あぁいえ、別に気にしなくて大丈夫ですよ」

 

 

 うーん……それにしても桃が私の欲しいものを聞こうとするのって、なんだか新鮮さを感じますね。今まではそういった見返りに答えるようなことをしようとしてなかったような感じがしたので、なんだか……

 

 それにしても欲しいもの、か………………なんか今、こういった物が欲しいっていうのが突然思い浮かんできそうな気がするのですが……確か、白哉さんの事に関する……

 

 あっ、これは忘れておこう。白哉さん絡みのものとなると色んな意味で危なっかしいものをお願いしそうで、そのせいで白哉さんを傷つけそうな気がして……いや人を傷つけるものを欲しがるとか酷くないですか? それを考えようとする私も一時ヤバくなってるじゃないですか……

 

 ん? 今、何やらインターホンが鳴らされたような気がするのですが。一体誰なんでしょうか?

 

 

「客か? 俺が出るよ。優子はそこで寝てて、桃は優子の隣にいてやってくれ」

 

「うん、わかった」

 

「……すみません白哉さん、お願いします」

 

 

 なんだろう……ここは白哉さんの部屋じゃないのに、何故かこの瞬間に、今の白哉さんの対応の仕方を見ただけで、その……私と白哉さんが……ど、ど、同棲……してるって妄想が……

 

 な、なんでこんなこと考えるんでしょうね私⁉︎ つ、つ、付き合ってもないのに同棲してる妄想をするとか、何段飛び出してんだって話になりますよね⁉︎ あー恥ずかしい恥ずかしい‼︎ 痛い妄想はやめた方がいいですね‼︎ うん‼︎

 

 しばらくしてたら、『あすら』の店長とリコさんが謝罪するためと私が聞きたいことがあるとのことで来たことを知りました。何故か廊下で軽くフライアウェイしたことで怪我を負ったみたいですが。

 

 あと、白哉さんが前に出会った魔法少女・奈々さんと魔族・ブラムさんの兄妹のお二人が白哉さんに長話をさせてしまったお詫びの品を持って来てくれて、私達の話を聞いてくれるそうです……

 

 あれ? ちょっと待って。魔族が兄で魔法少女が妹ってどんな関係性なんですか。しかも血縁者じゃないらしいので、どうやったら兄妹関係になったのか余程気になるんですが。そもそも魔族と魔法少女が家族関係って……

 

 

 

 

 

 

 突然インターホンが鳴ったので出てあげたら、原作よりも早めに白澤さんとリコさんが登場。しかも白澤さんがフライングアウェーイ‼︎した後だった。……すいません、フライングアウェイの『ウェイ』のところを変な感じに言ってしまいました。だって名前に『ウェイ』って書いてあったもん。昔からオンドゥル語が流行っているせいで思わず連想してしまうもん。許して。ウソダドンドコド-ン‼︎

 

 話を戻そう。何故白澤さんとリコさんが原作よりも早く登場したのかというと(原作では優子に希望を言ってもらったアイスもなかを買ってあげた後の桃と遭遇した後にお邪魔してた)、ブラムさんと訳あって魔法少女の姿となった奈々さんと出会ってなんか色々あったから……だそうだ。いや、その二人と出会ったことで何があったのか詳しく教えてほしいのですが。

 

 ちなみに何故ブラムさんと奈々さんがこのばんだ荘に来たのかというと、俺に長話をさせて疲労させてしまったお詫びとして何かしらのものを直接渡しに来たからとのことだ。あー……確かに俺、ブラムさんと初めて会った時に優子や桃とミカンと関わった時の事を全部話されてたな。あれは正直キツかった。

 

 あっ。ブラムさんを『様』付けするの、本人が『付けなくていい』と言ってきたのでお言葉に甘えて付けないことにしました。変に壁は作っちゃいけないんだなってのを改めて知れてよかったな。うん。

 

 で、色々あって白澤さんがバクなのに雑食派であることとリコさんがどこに行ってもマイペースであることを知った後、ようやく本題……桜さんの行方についての話に入ることに。

 

 良子ちゃんも自由研究で家と町のことを調べてるからとのことで聞かせてあげることに……なんでパソコンのスライド? なんで本格的な感じにまとめようとするの? 小学生はもうちょっと簡単なものを作っていいんだよ?

 

 白澤さんとブラムさんの話によれば、二人とも十年前のクリスマスの時、それぞれが突然訪れてきた桜さんに『天災』が来ることと二・三日間戸締りして外出しないことを伝えられ、それぞれがリコさんと奈々さんを押し付けられたとのこと。そしてそれが桜さんと最後に出会った場面とされたようだ。

 

 

「しかし驚かされたぞ。まさか白澤殿も我と似た形で桜殿と会うのがそれっきりになるとはな。似た経験をした者同士が出会うというこの偶然、滅多に起きることではない……また新たな小説のネタを手に入れられて我は嬉しいぞ‼︎」

 

「偶然、と言えるべきですかね? それぞれがリコ君・奈々君を桜殿に押し付けられるなんて何か意図があるのではないかと……ん? 嬉しい? 小説のネタ? どういうこと?」

 

「気にしないでください、兄さんは非常識な出来事を小説の執筆に取り入れようとする性分なので」

 

「ブラムはんは小説を書くのが趣味なんやな。ウチは料理に関する小説を書いてほしいんやけどえぇかな?」

 

「リコ君、いきなりリクエストを押し付けないで───」

 

「構わぬ。我の小説執筆欲が増すだけである」

 

「欲が増えるの⁉︎」

 

 

 おいおい、似た経験をした者同士がいきなり仲良くなり始めたぞ。先程まで玄関で騒いでたってのが嘘に思えてきますなぁ。ってかリコさんがナチュラルに次の小説の案を出してきたのに、その要望に真摯に応えようとしてくれるブラムさんって聖人か何か?

 

 

「……にしても桜はん、どこにおるんやろ。コアは動いて逃げるから捜すのも難儀やなぁ」

 

「えっ……動く? コアを見たことがあるんですか?」

 

 

 コアの件で桃からの指摘が入る。どうやら彼女が以前見た方のコアは水晶体で動かなかったらしい。一体どんな経験があってコアを見る機会があったのだろうか?

 

 ちなみにリコさんが見たコア──彼女の出身地では魂魄──は子猿とチョウチョだったらしく、どっちも味方の巫女はんに抱えられて逃げていったと……いや待てや。白澤さんとこに来る前に一体どんな争論に発展したというんや。リコさんアンタ魔法少女に襲われるようなことでもしたんか?

 

 

「実は私も見たことがあるんだよね。リコさんの場合は襲いかかってきた魔法少女を返り討ちにした後に実際に見たって感じだけど、私の場合はちょっと違う感じかな。県外に用事があって来た兄さんを陰から攻撃しようとしてた過激派魔法少女二人を見つけて、その場でボコボコにしたって感じにコアを見たよ。その時は鶏とイルカだった」

 

 

 ………………ん? んんん? 奈々さん、貴方今なんと? 魔法少女をボコボコ? 過激派とはいえ同じ魔法少女だよね? 向こうから陰から攻撃しようとしてきたとはいえボコボコはその、穏健派である貴方としてはそれはどうかと思うんですが……

 

 

「あ、ちなみにコアになった彼女達には『次兄さんや他の魔族に問答無用に攻撃しようものならコアそのものを跡形もなく消し飛ばすから』って言って脅したから。これで復活したとしても無闇に魔族を襲うことはないでしょうね。特に兄さんに攻撃だなんて許さないんだから」

 

「……我が妹よ、我の知らぬ間にそんなことをしていたのか? 怖っ……」

 

「えっちょっ……兄さん構えながら引かないで? お願いだから」

 

 

 ブラムさん、義妹さんのその容赦無さと意外な恐ろしさを知ってドン引きしました。今でも良い子で穏健派の魔法少女としてやっている義妹さんが、自分の命を狙う過激派に対して過激派になっていたってことを知ったその衝撃はデカいよね。地雷系に見える女子が実はドが付くほどの聖人だったってことぐらいの衝撃だったよね。どんな女子なのかは知らんけど。

 

 

「けど、桃ちゃんが見たのは動かない水晶体だったなんてね。嘘は言っていないのは顔で明らかだけど、なんだか辻褄が合わない気がする」

 

 

 それはごもっともですね。というか何事もなかったかのように自分のヤバさを置いておかないでくれます? ブラムさん絡みの貴方は怖かったですよ。

 

 

『まとめるとこういう感じだな。桃はコアを《動かないもの》として探していた。そこの女狐と黄色魔法少女は《コアは動いて逃げる動物系》……探し方を変えて聞き込めば、新しい情報が出るかもしれんぞ』

 

「確かに起点を変えるのは新たな発見となって良いですね。やっぱり頼りになるわリリスさんの偶に出してくれるめっちゃタメになる意見」

 

『アレ⁉︎ それだといつもの余は頼りにならないってことにならぬか⁉︎』

 

 

 いやそんなことはないですよ? いつもリリスさんには助けてもらってますし……いやいつも、なのか? なんか不安になってきたんだけど……

 

 で、この後白澤さんが寝不足の優子を寝かせる為にお暇しようとするが、その前に優子に遠慮がちにまた『あすら』で働いてくれるかと問いかけてきた。

 

 それに対して優子は知り合い増やして手掛かりを見つけられるかもとのことで躊躇いもなくOK。その反応に驚いた桃は就労やめてオーラを放ってます。気持ちは分からなくもないが落ち着け、殺意と勘違いされるぞ。

 

 

「ねぇ、シャミ子ちゃん……いや、この場合は優子ちゃんで良かった?」

 

「どっちでも構いませんが、出来ればシャミ子で呼んでほしいです。活動名ですけど」

 

「そ、そっか……シャミ子ちゃん。そこの魔法少女……桃ちゃんがいかにも反対の意見を出しそうな感じに露骨にイライラしてるみたいだけど、引き受けちゃって大丈夫なの?」

 

 

 あっ、プレッシャーを受けて震えている白澤さんに代わって代弁してくれてるよ奈々さん。下手すれば汚れ役を買うことになるかもしれない事を魔族の代わりにやってくれるとは、マジモンの聖人かこの人?

 

 

「気にしないでください。私と桃は共闘してるけど宿敵なんです。多分、最近私が色んな手掛かりを見つけてくるから……主導権を握られそうで嫌なんです」

 

「優子……そう強気に言ってる割に尻尾震えてるが大丈───」

 

違ーうッ‼︎ なんでいつもいつもいつもいっつもねじれた解釈をするのかな⁉︎ バイトNG‼︎ 就労ダメ絶対‼︎」

 

「あれっ⁉︎」

 

 

 オイ、何俺の意見を遮ってくれてんだこの筋トレ馬鹿脳筋魔法少女が。遮られて俺の心はボロボロなのだが? そしてその台詞はニートにさせたい疑惑が出るから慎みなさい。

 

 

「というかよく考えたら白哉くんも白哉くんだよね⁉︎ なんでシャミ子に働いてもらうか否かの件に対して何も言おうとしないの⁉︎ 不慮や事故とかシャミ子の性分のこともあるとはいえ、バイト先でシャミ子が変な目に遭わされたんだよ⁉︎ 幼馴染なのになんで止めようとしないの⁉︎」

 

「えっ? ………………ああっ……」

 

 

 あぁそっか。桃は優子にはもう変な目に遭ってほしくないんだな。だからそんな過保護な母親みたいになってしまっているんだな。確かに優子は実際に数日間健忘になってしまったからな、無理もない。

 

 変な目に遭ってほしくないのは俺も同じ気持ちだ。幼馴染だからこそ心配にもなる。けど、幼馴染だからこそ……

 

 

「確かに結果論として優子はそういう目に遭ってしまったんだけどさ……それは店側の不本意ってのもあったし、大体最終的に決めるのは優子自身だからな。優子がそうしたいと言うのなら、最後までといかなくても、出来るだけ信じてあげた方が彼女の身の為にもなるとは思うんだよな。俺的には」

 

「あっ……」

 

 

 今明らかに『そういえば今の私はシャミ子の事を信じてあげれてない気がする』って顔したな。心配することはいいことだけど、だからって大事なことを避けさせようとするのはそいつのことを信じないことと同じだからな。無闇な信頼度ゼロはダメ、絶対。

 

 

「ま、もしそれで優子の様子がおかしいなと感じたら、取り返しがつかなくなる前にその日から俺達が何かしらの対策をしておけばいい。俺もしばらく様子を見て、昨日みたいにタイミングを逃さずその芽を摘んでやるさ。幼馴染を救うのは当然だろ。その代わりお前も少しは優子を信じてやってあげて、優子がおかしくなってると思ったらその芽を詰んでやってくれ」

 

「……う、うん。わかった。そこまで言うなら最初はシャミ子の判断に任せる。それ以降の事はシャミ子の様子を見て決めるよ」

 

「おう、それがいい」

 

 

 納得……してくれたのかどうかまでは分からんが、とりあえずは優子の判断と変わり様で後先の事を考えてくれるようだ。ということは忘れていた優子への信頼も取り戻しているらしい。よかった、宿敵が宿敵を信じないのはどうかと思うからとりあえずは安心したぜ。

 

 

「………………えっ? あれ? ちょっと待ってください? 二人とも私の様子を見るってことは……私が何か行動したら二人に監視されるってことになりますよね⁉︎ それって結局私は未だに信頼されていないってことになりませんか⁉︎」

 

 

 あー、そう捉えちゃうか。まあ幼馴染と宿敵、両サイドから見られることになっているんだよね。監視されてると思ってしまっても仕方ないよね。うん。

 

 

「信頼しているからこそ、お前が無事であってほしいんだ。これは俺達なりに優子の為を想って決めたことなんだ、大目に見させてやってくれ」

 

「……まあ、白哉さんがそう言うのでしたら」

 

 

 ちょっと膨れっ面になってたから納得はしてないみたいだけど、とりあえずはそれで妥協してくれるって感じか。なんかすまんな、優子。後その膨れっ面可愛い。

 

 この後は白澤さんが優子に『たまさくらまんじゅう』を渡したことで、優子の話で桃がたまさくらちゃん好きであることが改めて判明。実はあのキャラは白澤さんが生みの親であることも判明された。

 

 で、白澤さんは桃と仲良くなりたいとのことで今度桃に限定グッズをたくさんあげることを伝える。桃はたまさくらちゃん好きであることが恥ずかしかったのか、好きじゃないと嘘言って断ろうとしたけど、最終的には直筆サイン&チェキ券付きテレホンカードを追加されて折れたそうな。

 

 ……チェキ券はともかく、テレホンカードは今の時代、使い道ないよな? 近くにある公園の公衆電話でしか使えんよな……?

 

 

「でもどうしてそんなにたまさくらちゃんが好きなんですか?」

 

「それは……たまさくらちゃんが………………お姉ちゃんに似てたから……」

 

「桜さんに?」

 

 

 やはりそうだったか。俺の場合は原作を知らなくてもなんとなくそうだろうなとは思うけども。だってたまさくらちゃんの名前に『さくら』って書いてあったもん。桜さんの名前も『さくら』だもん。偶々とは一致していると言っても過言じゃねェはずだ。

 

 桃が白澤さんにたまさくらちゃんは桜さんがモデルだったりするのかと問いかけたが、実際は違ったようだ。白澤さんは桜さんの魔法少女の姿を見てないと言うし。

 

 実際にはショッピングセンターマルマでの夜間の買い出しの時に、たまさくらちゃんと同じく紅白の変わった首輪をした、神秘的な雰囲気の猫が走って行ったのを目撃したそう。

 

 しかもその猫は普通の猫とは明らかに違うところがいくつかあったらしい。雪なのに足跡はなく歩いた道に花びらが散っていて、白澤さんを見た時に一礼して、隣の建物の壁に溶けるように消えていったそうだ。

 

 雪に足跡を作らない上に建物の壁を物理的ではなく非常識的な何かで方法で通り抜け、しかも初対面のはずの白澤さんに一礼する。改めて聞くと、普通の猫では絶対あり得ないことをする猫なんてどうもおかしい気がするな。いや壁を通り抜けること自体、他の動物でも絶対あり得ないけどね。

 

 あの猫を見た後『あすら』は大繁盛したという。白澤さんはあの猫を見た人を幸せにする妖精さんだと思っており、その姿をゆるキャラ募集のモチーフにしたそうだ。

 

 

「ほう、白澤殿も中々不思議な猫に会ったようだな。実は我もその猫に会ったことがあったぞ。チラリと見えただけではあるが」

 

「えっ? ブラム殿もですか?」

 

 

 おっとー? ここでまさかの新事実が発覚したぞー? どうやらブラムさんもその摩訶不思議な猫を見たという情報が発覚したぞー? 偶々見かけたって程度のレベルらしいが。

 

 

「我がその猫を見たのは病院でだったな。その時の我は常連客が交通事故で足を骨折したと聞いてな、店を閉めた後にまだ感情を取り戻してない頃の我が妹を連れてお見舞いに来てたのだ。そこで例の猫が他の者達の死角を、それも足音を立てず足跡も残さず通っていったのを見かけたのだ。そしてその猫は我等に気づいた時、白澤殿と同じように一礼してそのまま走り去っていったのだ。一応看護師を呼んで探し回ったが、もう既に外に出て行ったのか見つからなかったがな」

 

 

 はえっー、まさかの病院内で見つけただなんてな。しかも人の死角を通りながら、ブラムさん兄妹以外の人誰にも気づかれずに……頭良いなその猫。そんな猫を偶然見つけたブラムさん達もすごいと思うけどさ。

 

 いやこれは猫とは関係ないけどさ、客の為ならば怪我した時に見舞いに行くという優しい対応までするとかめっちゃ優しくね? 絶対お客さんは大事にするタイプだよねこの寛大魔族さんは。

 

 

「後日我の店もいつも以上に繁盛してな、数万冊は売れていたのだ。その時は年末セール初日であったとはいえ、白澤殿の話を聞くにあれは例の猫からの贈り物なのかもしれぬ」

 

 

 うっかり吸血鬼の翼を出してパタパタさせる程に嬉しかったんですか。その翼、リコさんに弄られ始めてますよ。

 

 ちゃっかりと『あすら』と同じ処遇を得てたとは……さすがは桜さんによって多摩町に引っ越してきた魔族、偶然にも受けた幸福まで似たものとは。更なる桜さんからの処遇とかが今後見つかるのかもしれんな。

 

 

「まさかここにも紅白首輪の猫に幸運を受け取った者がいたとは……。そんな僕達は今この場で遭遇した……これは何たる偶然でしょうか」

 

「否、これは偶然ではなく必然と言えよう。幸せの白猫とも呼ぶべきであろうあの猫を見つけた者同士、これまた何かの縁であろ───」

 

「バクさん吸血鬼さんもう一回‼︎ 今の話もう一回して‼︎」

 

「ピィィィィィィエッ‼︎」「グギャヘッ⁉︎ 翼ハンドルはやめぬか痛いッ⁉︎」

 

「良⁉︎」

 

 

 ここで良子ちゃんがこの話に食いついてきた。ブラムさんの話もあったからか思ったよりも遅いタイミングだったけども。というか鼻ハンドルと翼ハンドルを受けてる白澤さんとブラムさん、めっちゃ痛そう……あのまま抉り取られるのかと思ったぞ……

 

 良子ちゃんがここまでの話をまとめると以下の通りだ。

 

 白澤さんとブラムさんが猫と出会ったのは十年前の十二月二十八日(今さっき聞いた)。そして二人とも桜さんに最後に会ったのが十二月二十五日。猫さんを見るまで三日しか間がない。リコさんと奈々さん曰くコアは動物の形で動く。そして普通の猫は壁に溶けず、足跡は残すが花びらは出さない。

 

 以上のことを踏まえるに辺り……良子ちゃんはその猫が、桜さんのコアではないかと捉えたのだ。

 

 ………………いや情報処理早くね? 鋭くね? 君はいつから吉田家のブレインになったの? 良子ちゃん……本当に小学生?

 

 あっ、自由研究に使うとされる町の地図を出した。

 

 

「バクさん、猫さんはどこを通ってどこの壁に消えたの?」

 

「ええと……『ショッピングセンターマルマ』前の噴水広場を通って……向かいの建物……」

 

「吸血鬼さんはどの病院で猫さんを見かけた?」

 

「そういえばあの時どの病院にいたのかを言ってなかったな。その病院の名は……せいいき記念病院であるな」

 

 

 やはりそこの病院で見かけたのか。せいいき記念病院はマルマの向かいの建物である。これは利害が一致したな。ブラムさんがそこの病院で猫を見つけたっていう話も本当になる。

 

 ………………しかし、せいいき記念病院か。懐かしいな……

 

 

「……そこの病院、俺と優子が初めて会ったところだよな。俺は事故で一時期、優子は病弱だったから長期間入院してたっけか」

 

「───はい、覚えてます。今となってはいい思い出です」

 

 

 俺が徐に懐かしむような言葉を呟いたら、優子も頬を赤くしふにゃりとした笑顔を見せながらそう呟いた……いや今の笑顔は何。めっちゃ可愛かったんだけど。惚れてまう。

 

 

「シャミ子‼︎ 今にも聞きたいその時の思い出を懐かしんでいるところ悪いけど、十年前猫を見た記憶は⁉︎」

 

 

 聞きたいんかい。

 

 

「すみません、そこはほぼぜんっぜん覚えてないです! 夢の中で見た気はしたんですが!」

 

「うん……大分前だしね……」

 

 

 あれ。一応夢の中で見た気はしてたんか。でもその台詞は原作では言わなかったはずだよな? 俺と出会ったことで入院してた頃の記憶が鮮明に覚えているのか? けどその記憶と猫の夢は関係ないから覚えられないような気が……

 

 

「…… 優子は猫を見ているはずです。私……病院で優子が猫さんの話をしていたのを覚えています」

 

 

 清子さんや‼︎ おいなりさんを持ってきた清子さんがとっておきの情報を教えながら来てくれた‼︎ みんな清子さんの方に目がいったぞ‼︎ 有益な情報、発見や‼︎

 

 

「お母様にお茶を‼︎」

 

「座布団も出します」

 

「膝掛けも用意しとくぞ」

 

「おいなりさん一緒に食べる?」

 

「白哉君へのお詫びの品のバナナ羊羹しかないですが宜しければ‼︎」

 

「この家、私がホストなのでお構いなく……」

 

 

 厚い待遇に清子さん引き気味となりました。けど有益な情報を持ってきてくれた人に何もしないのも癪なのでそこのところ許してください。

 

 清子さん曰く、あの頃治療を頑張っていた優子がある日──俺が彼女のところに見舞いに来るようになって三日後──目を覚まし、部屋に来た白猫とお話したと言っていたらしい。

 

 当時の優子は呼吸器に問題があったため、野良猫が入り込んだら事であるとのことで看護師さんと病院中を探したものの、猫の痕跡はどこにも見つからなかったという。ブラムさんも看護師と一緒に探してた翌日以降の話だったから、見つからないのも当然だろうな。

 

 そして時期は良子ちゃんの臨月……十年前の年末。白澤さんとブラムさんが猫を目撃した情報の直後。それが優子の夢じゃなければ……十年前、優子は桜さんのコアと思われるその猫と接触し、何らかの話をしていた可能性がある。

 

 ここに来てようやく最重要課題──原作でも注目すべきイベントの一つ──に突入してきたな。いよいよ、か……優子の運命が決まる可能性のある最重要課題……果たして何事もなく達成できるのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 とりあえず一時解散、桜さんの情報の共有についてはまた今度ということで、『あすら』組と『スカーレット』組は帰ることに。あっ、『スカーレット』組ってのは『本の祭典 スカーレット』で働くブラム兄妹のことを意味してます。……普通にブラム兄妹でもよかったか?

 

 で、そのブラム兄妹を俺がばんだ荘まで見送ってたところで、ブラムさんが俺に話しかけてきた。

 

 

「そういえばきちんと謝っておくことを忘れていたな。……この前は無理に長話させてすまなかった。そのせいでしばらくの間は君を放心状態にさせてしまった」

 

「えっ? あぁ大丈夫ですよ。その日の内に正気になりましたし、俺があぁなってしまったのも結果論みたいなものですから」

 

「……そうか。それならば安心した」

 

 

 忘れてた。ナチュラルに忘れてた。桜さんの話をしてたからあの日の経験を一瞬忘れてたわ。その謝罪の為に来てくれたんだったこの兄妹は。なんで忘れたんだよ俺。

 

 

「……ところでだが、話は変わるが一つ聞いても良いかね?」

 

「? はい、俺が答えられる範囲ならなんでも」

 

 

 ブラムさんが俺に質問? もしかして俺が手に入れた召喚術のことか? それとも優子や桃、ミカンの事? 一体何について───

 

 

 

「白哉君、君はあの魔族……シャミ子の事が好きなのかね?」

 

 

 

「ブハブヘッ……あだっ⁉ ひ、膝ぶつけた……痛い……」

 

「ちょっ、大丈夫……?」

 

 

 たぶん大丈夫じゃないです。ブラムさんが前桃にも聞かれた優子の事をどう思ってるのか発言してきたからか、思わず吹いて転がってしまった……

 

 って、ちょい待ち⁉ ブラムさんの場合だと直接『好きか嫌いか』どうかを聞かされるの俺⁉ 桃でもそういう恋愛感情がどうこうのを遠回しに質問してたのにこっちはダイレクトクエスチョンですか⁉ 躊躇う気ねーなこの人!!

 

 ってか……

 

 

「な、なんでそう思えるんですか……?」

 

「いやなに、君があの子の事を信じたいとか救いたいとかそんなことを言って余程信頼していたものだからな。それに病院の話となった時にはシャミ子と会った時の事を笑顔で懐かしんでいた上、彼女も頬を赤くして緩んだ表情を浮かべていた……これは脈ありなのかもしれぬと思ったのだ」

 

「そ、そっすか……」

 

 

 こ、細かいところを見たり聞いたりしてますねアンタは……確かに俺も優子に信頼を寄せてはいるし、昔の思い出を懐かしんでましたよ? それに優子が緩んだ顔をしてるのも可愛いと思ってましたし……けどそれだけでは俺が優子の事好きなのか疑惑を掛けられるわけが……

 

 

「後、シャミ子が桃とかいう魔法少女に揺さぶられた後は毎度のこと誰よりも率先して彼女に寄り添い、落ち着くまで側を離れなかったではないか。あんな対応、余程の感情がないとできぬとは我は思うがな」

 

 

 ………………そういえばそうだった。優子が角ハンドルされながら質問されてた後はそんな感じに俺が誰よりも先に彼女の隣に来て、彼女の気が安定するまでずっと側にいてあげてたんだった。そういうところも見てたんですね……

 

 

「それと、その時にシャミ子が頬を赤くして照れ笑いしたのを見て目を逸らしたであろう? そこも見てたぞ」

 

「ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ッ ゙‼」

 

「白哉君が壊れちゃった⁉︎」

 

 

 み、見られたァァァッ‼︎ 優子の目線合わせながらの笑顔が可愛いすぎてつい逸らしちゃったところも見られたァァァァァァァァァッ‼︎ しかも誰に対して伝えているのかわからない描写でも言わなかったところォォォォォォッ‼︎

 

 こ、これはもうダメだ‼︎ 『何の話ですか』みたいな感じに適当に流して切り上げさせる作戦を実行できねェ‼︎ 答えるまで帰ってくれないパターンだこれはァァァッ‼︎

 

 奈々さん止めて……助けて……いや期待の眼差し向けながら聞こうとしないで。貴方はそっち側に立たないで。頼むから。

 

 ………………こうなってしまっては仕方ない。今はどう思っているのかぐらいは話しておかないと。

 

 

「……正直、まだわかんないんです」

 

「……まだ、とな?」

 

 

 ……あの、その疑いぶるように睨みつけないでくれませんかね? 俺、別に嘘をついていませんので……

 

 

「優子からは一度告白みたいなものは受けました。それと同時に俺の事になるとヤバくなる……歯止めが効かなくなる場合があるということも言われました。それでも俺は彼女を拒絶せず、彼女の情緒を安定させる為にいつも通り仲良く接してきました」

 

「……好きになったのかもしれないとか、そういうのに似た感じなものは感じてないのか?」

 

「………………優子の仕草でドキドキしたりすることはあります。けど、それが恋へと繋がっているのかどうかはわかりません。いつも彼女から逃げずに接しているというのに、別に自分が鈍感ってわけではないのに、お恥ずかしながら俺自身の本音がどうなのか……」

 

 

 それに、そもそも何故俺は優子から逃げようとは考えなかったのかすら、今でも分かっていない。優子本人は『逃がさない』みたいなことは言っていない。ヤンデレ相手に逃げたら後先取り返しのつかないこと可能性だってあるだろう。けどそれが逃げないという理由にはなってないことは確かだ。

 

 俺自身が優子の事をどう想っているのか、そして何故俺はその感情を抱いているのか、そもそも何故その感情に未だに気づけていないのか、その理由が一年過ぎても気づくことが出来ずにいる。そんな中で、優子の事が本当に好きなのかなんて……

 

 

「───分からないのならば、機会がある時に昔を振り返ってみれば良い」

 

「……昔を?」

 

「うむ。昔の事を上手く思い返してみれば、何故そういう風に彼女と接していこうかなどといった大切なことに気づくことが出来るはずだ。……ま、機会があればでいい。無理に気負わずゆっくり振り返っていくのだ」

 

 

 そう言ってブラムさんは気落ち止めの為か俺の頭を優しく叩き、そのまま奈々さんと共に帰っていった。

 

 昔を振り返る、か……そういえば最近そういったことをしてなかった気がする。改めて振り返ってみれば、優子がヤンデレってしまった本当の理由とか、俺が優子の事を本当はどう想っているのかとか、そういった意外な真実を知ることができるのかもしれない。

 

 よし、今度余裕があれば昔優子と仲良くしていた時の事を思い返してみるか。前はどんなことを話したのかとか、色々と懐かしむ良い機会だなー。

 

 ………………それと、念のため前世の事も思い返してみるとしようか。なんか、前世の事が急に引っ掛かり始めたから……転生前と後、何故か何かとの関連性がありそうな気がする……

 

 

 

『───そろそろだな。さあ、この後立ちはだかる壁にアンタはどう向き合っていく?』

 

 

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その16

シャミ子が起床したばかりの頃、ばんだ荘玄関前

ブラム「先程は危なかったな。まさか我々の頭上に工事に使う鉄骨が落ちてくるとは……」
奈々「即座に魔法少女になってよかったぁ……危うく兄さんにも当たるだったよ」
ブラム「それもそうであるな。……ところでだが我が妹よ、何故魔法少女の姿のままになっているのだ?」
奈々「ん? あぁこれ? また鉄骨落下みたいな突然の出来事があったら困るからね、緊急処置のため」
ブラム「ふむ、いざという時にすぐに人助けできるようにするために……良き心掛けだ!! さすがは我が妹!!」
奈々「お、大袈裟だよもう。えへへっ……あっ、着いたよ。ここが白哉君や魔族の子、後輩魔法少女達が住んでるばんだ荘みたい」
ブラム「ふむ、中々風情があるアパートであるな!! 長年そのままの情景でいさせたいという思いを感じるぞ」
奈々「えっ。そ、そうかな……? リフォームはしてほしいとは思うのだけど……あれ? 人影が……」
?1「履歴書の住所ではここのはずなんだけど……」
?2「マスター完全に不審者やわぁ」
奈々「すみません、そこで何をしているんですか?」
白澤「ん……? げぇっ⁉ 魔法少女⁉ 何故ここに⁉」
奈々「ここに住んでいる知り合いに用があって来ただけですが……」
ブラム「ほほぅ、まさかこんなところで我と同じ魔族に会おうとは何たる偶然による幸運だろうか……」
白澤「こ、こんなところに魔法少女が来るなんて予想外だった!! あとなんで同じ魔族の方が当たり前のような感じに隣に⁉ き、昨日の件もあるからなんかヤバい!! 逃げるぞリコ君!!」
リコ「ウチ逃げるって言葉嫌やわぁ」
白澤「ならば回れ右前進だ!!」
奈々「あの、とりあえず落ち着いて───」
ブラム「クックックッ……逃げられると思っているのか? 吸血鬼の魔族である我と、我を従えている最強の魔法少女に……」
奈々「ちょっ⁉ 兄さんこんな時に悪ノリはやめて⁉ あとすみません、右側行くと地面にダイブすることに───」
白澤「続けぇー!!」
奈々「行ったー⁉」
リコ「いややー」
奈々「見送ってる場合ですかー⁉」
ブラム「逃がさぬぞハッハッハッー!!」
奈々「だから悪ノリしないでー⁉」

END



いやーついに原作三巻編も終わりに近づきそうですねー。実はオリジナル回も何話かやる予定なので、すぐには終わりそうにないッスけどね。

 


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優子を信じて待とう……ア、アレ……? なんか、意識が、途切れそう……

三巻編の終わりが近づきそうなので初投稿です。

今回はついに、あの原作キャラが登場……‼︎

って、おや?白哉君の様子が……?ってこれはヤバいヤツじゃん⁉︎


 

 どうも皆さんおはようございます。平地白哉です。昨日は驚くべき光景に遭いました。どんな光景かって?

 

 俺や優子のところに謝罪しに来た人達が、魔族三人と魔法少女一人……善良(一人は微妙な)魔族に囲まれる善良魔法少女という光景である‼︎ 何それ? 逆人外ハーレムか何か? その魔族の内一人は女性だけど。

 

 ……えっ? 何故そんなくだらないことを連想してるのか、だって?

 

 だってよく考えてみろよ。本来なら敵同士の関係にある光の一族と闇の一族──魔法少女と魔族──だよ? 別に優子と桃みたいに共闘してる関係になったわけではない上に、二人一組で出会ったとはいえお互い初対面だよ? なのに会った日から争ったりせず一緒にいるって感じになってんだよ? なんか、レアじゃね?

 

 まあそんなことは置いといて。自分からレアだとか言っておきながらこの有様はないけど。

 

 そんなわざわざ謝罪をしに来てくれた、白澤さんとブラムさんからは桜さんの事で分かっている情報(俺の場合はブラムさんの話をもう一度聞く形で)、リコさんと奈々さんからは魔法少女のコアの特徴の話をそれぞれ聞かせていただきました。ついでに奈々さんはブラムさんの命を狙う者には容赦しない性格であることも知れました。過激派ブラコン魔法少女ってマ?

 

 それと、重要となる情報も獲得。訳あって聞くことになった、たまさくらちゃん誕生秘話(その話に出たモデルとなる白猫にブラムさんが出会った話もついでに)にて良子ちゃんがある接点に気づく。

 

 白澤さんとブラムさんが白猫と出会ったのは十年前の十二月二十八日。そして二人とも桜さんに最後に会ったのが十二月二十五日。その猫を見るまで三日しか間がない。リコさんと奈々さん曰くコアは動物の形で動く。そして普通の猫とは違い壁に溶け、足跡は残さず花びらを出している。

 

 これがどういう意味をしているのか。良子ちゃん曰く、その猫が桜さんのコアである可能性があるということだ。普通の猫ではあり得ないことをいくつも見せたらそりゃそう思われるのも無理もないよな。

 

 そして白澤さんとブラムさんによる目撃情報の順番を辿ると、その猫はせいいき記念病院──俺が事故で一時期、優子が病弱だったため長期間入院してた病院──を通っていったことが判明した。

 

 さらに有益な情報として、清子さんの供述から優子が一度その猫に会っているということも判明された(ただし十年前の出来事だからなのか、優子本人はその事を覚えていない模様)。

 

 優子がその猫に会ったという事実を言ったのは十年前の年末。それも白澤さんとブラムさんが猫を目撃した情報の直後。それが優子の夢じゃなければ……十年前、優子は桜さんのコアと思われるその猫と接触し、何らかの話をしていた可能性があるとのこと。原作の物語でも注目すべき最重要課題がここで出てきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 一度情報の整理とかする為に解散し、翌朝となって俺は吉田家にて優子・桃・ミカン・そして白澤さんから桜さんに関する話を聞いて駆けつけて来てくれた拓海の四人で集まることに。

 

 しかし、一日経っても優子は猫に会ったという記憶を思い出せていない模様。十年前の体調が悪かった頃の記憶だもんね、思い出せないのも無理はない。

 

 いや、ミカン? 酸味のある果物を食べさせれば思い出すかもしれないという心理に至るのはどうかと思うぞ? 優子もそういったのぐらい前から偶には食べてるし、その時に既に記憶を思い出してるのかもしれんぞ? だからその可能性は一旦置いといてくれね?

 

 あと拓海。お前は何唐辛子とかハバネロとかいった辛いものをたくさん持ってきてんねん。ここは辛いもの大好きクラブorパーティー会場じゃねーんだぞ。えっ? 身体に刺激を与えるものを必要以上に摂れば、辛味による刺激によって欠片ぐらいは思い出すのではないかという算段らしい……

 

 すまん拓海、そのりくつはおかし……ではなくてその理屈はさすがに通らないぞ。ミカンが優子に酸っぱいものを食べさせてる時のように、辛味の強いものをたくさん食べさせても記憶は思い出せることはないぞ。手段を考えてくれるというか手伝ってくれるのは嬉しいけど、本当にごめんな。今回はその手段は通らんわ。

 

 

『……仕方がない。こうなったら説明せざるを得ないであろう』

 

「説明? リリスさん、一体何に対しての説明をしてくれるのですか?」

 

『シャミ子の力についてだ‼︎ これ魔族的には部外秘だから、桃とミカン、あと念のため拓海の前では説明したくなかったのだが……よりしろチケットのおかわりを前にして背に腹は変えられないからな。皆の者にも教えるぞ』

 

 

 あっ、やっぱり桃に賄賂を渡されたんすね。本来なら敵対関係にある人達の前で説明なんてしたら、対策をされたり逆にその力を利用されてしまう可能性だってあるからな。説明したくないって思うのも無理はないな。

 

 ……でも、賄賂を渡されて即落ち二コマみたいに『やっぱり教えちゃる‼︎』な感じに切り替えないで欲しかったですね。優子じゃなかったら子孫に失望されかねないですよその判断は。

 

 

『………………今、賄賂を渡されて即落ち二コマみたいに《やっぱり教えちゃる‼︎》な感じに切り替えないで欲しかった、って思われているような気がするのだが……気のせいか?』

 

「……すみません、そう思ってました。ってかほとんど鮮明に読まれるとかなんか複雑……。俺、思ってたことを顔に出してましたか?」

 

『いや、ただの勘で言ってみたのだが……まさかそこまで当たるとは思わなかった……』

 

 

 勘かよ。勘で俺の考えてたことを当てたのかよ。それはそれでめっちゃすごいことですよリリスさん。勘だけで思考を大幅当てるなんて……

 

 さて、本題に戻していただきました(唐突な話の切り替え)。

 

 優子の力は夢に潜る力だと言っていたリリスさん。あれは実は優子向けにすごく噛み砕いた説明だったらしい。それを正確に表現すると、人・動物・無生物……あらゆる有情非情の無意識に侵入する能力らしい。

 

 無意識というのは、人間でいう個々の心の中の深淵にあるところで、記憶や先天性知識などが蓄積されている場所のこと。リリスさんの一族はその場所に入り込んで、勝手に覗き見したり改竄したりすることが可能なようだ。夢はリリスさんの一族無意識領域の入り口みたいなものであるため、彼女達のことを夢魔と呼ぶ者達もいるそう。

 

 つまり簡潔に結論を出すとこうだ。優子の力を彼女自身に使えば、十年前の記憶を見ることができるかもしれない、ということだ。……この説明だけ言えば何をすれば良いのか概ね分かるやん。わざわざ何処かの知らない人達の為にとはいえ、こうも長々と説明する必要なかったやん。

 

 ちなみに俺達が優子と一緒に夢の中に入ることは出来ないらしい。返って弾かれるのがオチだそうだ。リリスさんが優子の夢に易々と入れることができるのは、リリスさんが優子の魂の身内であるからだそうだ。

 

 しかし、色々な事を知りたいという大事な場面で、俺達が優子と同行できないってのが悔しいところだな。彼女の身に何かあった時に何もできないってのが、なぁ……

 

 

「白哉さん……桃……私、一人でもやってみたいです。私、不思議と白哉さんと話したこと以外、小さい頃の記憶があまりないので見てみたいです」

 

 

 うおっ。優子、いつに無く強気だな。そりゃあ完全に失いかけている幼い記憶というものがどうなのかってのは、誰もが気になりそうなものだしな。そう思うのも無理はない。

 

 ……ってかなんで俺と話したことしか覚えてないの? なんで他の記憶は忘れているの? ヤンデレ特権ってか? そこは逆にすごくね?

 

 

「……わかった」

 

 

 おっと、ここで桃がすぐさま了承したな。自分は何も出来ないからとはいえ、宿敵……仲の良い人のことは信じてあげたいものな。その精神を持ってくれるのは優子の幼馴染でもある俺も嬉しい限りだ。

 

 ……だったら、俺も優子を信じよう。この前まで完全には信じることが出来てなかった宿敵でも信じるようになったんだ。原作で無事に帰って来てくれるとはいえ、幼馴染が信じてあげられなくてどうする。

 

 

「優子、頑張って帰って来てくれよ。無事でいてくれることを信じてるからな」

 

「びゃ、白哉さん……」

 

 

 ……えっ? なんで信頼してる言葉をちょっと掛けただけで頬を赤くしてくるの? 別にこれ、キュンってなるセリフではないかとは思うんだけど……

 

 

「あ、あの、白哉さん……その……も、もし私がいい情報を持って帰って来れたら……その……えっと……な、中々申し上げにくいの、ですが……」

 

 

 って、なんか突然何かをお願いしてくるような雰囲気を見せてくるんだけど。な、何を要求する気なんだ……? ま、まさか俺の童貞を自分の処女でもらうとか、じゃないよな……? いや桃の前というか人前でそんなこと言うことのできる根性を優子が持っているはずが……って、ど、どどど童貞ちゃうわ(自分で言ってるけども)‼︎

 

 

「キ、キ、キ………………ギュッて、してもいいですか? そ、その……も、もしかすると私、結構ショック気味な経験を十年前にして忘れてしまったって可能性があるので……」

 

 

 えっ……? あっ、あぁ……そ、そういうことね。記憶探りしてる時のことを考慮して、終わった後のアフターケアみたいなことをしてもらいたいってことね。確かに脳裏にトラウマ的なものを再び植え付けてしまったりとかしたら、中々立ち直れそうにないかもしれないからな。仕方ないよね。

 

 ………………なんだろう。ちょっと何かを期待しすぎた自分がいた気がするんだけど、気のせいかな? 優子の事だから行き過ぎたことを考えてしまうのではないかとは考えてしまうけどな。本人に失礼だけど。

 

 アレ? というか『ギュッてして』って言う前になんか『キ』って言葉を連発していたような……気のせいか? ってか仮に本当に連発したとして、『キ』から始まるもので優子がしてほしいことってあるのか?

 

 キ……キ……キ……

 

 キス、か……?

 

 ……ハッ⁉︎ い、いやいやいやいやいやいやいやいや‼︎ ない‼︎ さすがにない‼︎ そんなこと言ってくるはずがない‼︎ 絶対ない……とは言い難いな‼︎ 俺に対してはヤンデレっ娘になりかけてしまうんだって分かりきっている時点で‼︎ 仮に思ったとしても優子が桃の前でそんな事を言う勇気なんてないはずだ‼︎ 絶対そうに決まってる‼︎

 

 と、とにかく‼︎ さっさと優子には寝て記憶を辿ってもらおう‼︎ そうしよう‼︎ ってかそうしないと俺が余計な事を考えそうで、こっちの身が持ちそうにないもん‼︎

 

 

「お、おう……ハ、ハグならいくらでもしてやるから、その……早く準備してくれないか……?」

 

「あ、は、はい……」

 

 

 ひ、人前でこんなリア充に近いやりとりすんのめっちゃ恥ずかしいな……リア充はよくこんなイチャイチャという恥ずかしいやりとりを躊躇いもなくやれるな……

 

 と、とりあえず桃を睨んでおくか。この事で揶揄ったりしてきたらただじゃおかないってな。

 

 

「えっ……? なんで私睨まれたの?」

 

「……揶揄い過ぎたツケが少しだけど出たのよ。察しなさい」

 

「自業自得だね」

 

「えっ……えっ?」

 

 

 悪い事したって自覚がないんだけど、みたいな反応するのやめろよ。お前、今までどれだけ俺と優子を恋愛関連で揶揄ってきたのか分かってんのか。ミカンと拓海にも指摘されてんだからいい加減気づけよ。

 

 

『……ま、まあとにかくやってみる価値はあるな。夢魔は習うより慣れろ! シャミ子よ、お主の記憶からコアの情報をサルベージしてみせよ‼︎』

 

「ハッ⁉︎ あっ。は、はい! 頑張ります‼︎ そこで私の勇姿を見ているがいい‼︎ おやすみなさーい‼︎」

 

 

 あっ。リリスさんから使命を受けた優子が恥ずかしさを紛らわすために、すぐさまソファに掛け布団敷いてお昼寝タイムに入った。スヤッ…とした感じが可愛いな。というか寝るまでのスピードがのび○並ってどういうことなの……

 

 とりあえず、優子が寝てからしばらくは俺達の動く幕は無さそうだな。この後緊急事態が起きるけど、原作通りに進めば優子は無事に起きてくれるから問題はないな。後はそのイベントで俺も関わるべきかどうかだけ………………ど………………

 

 

 

 刹那。俺が今見ている景色は唐突に様変わりし始めた。

 

 

 

 あ、あれ………………? な、なんだ……? 急に、視界がぼやけ始めたんだけど……? それも、歪んだ幻覚みたいにぐにゃぐにゃってなって、色とかも疎になって……

 

 

 えっ……寝不足……? いや、寝不足だとしてもこんなにも視界が二次創作のホラーシーンみたいに気持ち悪くぼやけるはずがないんだけど……というか、なんか頭がボォッーとして来た気がするんだけど……

 

 あっちょっ……なんか、倒れそ───

 

 

 

 半刻後。俺は何故か優子の部屋ではなく、刺々しい檻の鳥籠の中に閉じ込められていた。なんで?

 

 

 

 

 

 

「びゃ、白哉くん⁉︎」

 

「きゅ、急にどうしたのよ白哉⁉︎」

 

「だ、大丈夫か⁉︎ 気をしっかりするんだ‼︎ 白哉君‼︎」

 

 

 シャミ子が寝始め、自身の記憶の世界へと行き始めしばらく経った頃だった。先程まで元気にシャミ子の目覚めを待機することにしたはずの白哉が突然、意識が朦朧とした状態となりそのまま倒れ込んでしまったのだ。

 

 そのまま地面に衝突しそうな白哉を桃が受け止め、ミカンや拓海と共に声を掛ける。しかし彼は一向に目覚める気配はない。寝息も立てていない。かといって脈や心臓の鼓動が止まっているわけでもない。ただ本当に気絶しただけである。

 

 

「ど、どういうこと……? シャミ子が寝た途端、白哉くんが急に倒れるなんて……」

 

 

 先程まで健康な状態であり、魔力の乱用なども一切していないはずの白哉。そんな彼が何故、突然気絶してしまったのか……そんな疑問が過ぎる中、リリスはある点に気づいた。

 

 

『もしやこれは……不完全な契りによる影響が出始めたせいか……⁉︎』

 

「不完全な、契り……?」

 

 

 これまで得たものの中になかった魔族に関する情報に困惑する桃。やはりかと悟ったかのように苦虫を噛み潰した顔をしたリリスは、桃達の方を振り向き口を開く。

 

 

『余達の一族はある行為によって、悠久を共にするパートナー……眷属の上位互換的存在を作る契りがあるのだ。その契りを交わした者は、相互の人間関係での相性が良ければ、一族と同じ夢魔の力を得ることができる。しかし、その者が一族との契りを途中でやめてしまったりしてしまうと、その一族が夢魔の力を使用し始めたのと同時に意識を奪われ、奪われた側の夢魔の力が自動的に一族の見ている夢の世界に入り込んでしまう可能性があるのだ』

 

 

 どうやら魔族には眷属の他にも仕える存在……否、魔族と共に支え合う存在がいたようだ。その存在──パートナーになるにはそれに沿った行為による契り──契約の手順が必要となる。

 

 だが、その契りが何かしらの影響で中断され最後まで行わなかった場合、両者の夢魔の力が不調ながらも自動的に共和され、パートナーとなるはずの者の夢魔の力が魔族の元へ赴き、牙を向く可能性がある。リリスはそう捉えているようだ。

 

 

「じゃ、じゃあ……その契りを中途半端にしたせいで、シャミ子君が夢魔の力を使ったのと同時に白哉君が無自覚にも手に入れた夢魔の力が自動的に発動して、その力がシャミ子君が今いる世界に入り込んでしまった……ってことなのかい?」

 

『……うむ。その可能性は大いにある』

 

「それじゃあ白哉だけじゃなくてシャミ子も危険じゃない‼︎ なんとかして二人とも起こしてあげないと‼︎」

 

「刺激で起きるほど浅い眠りじゃないぞ‼︎ 夢の中が酸っぱくなるだけだ‼︎」

 

 

 不完全な契りによって、白哉とシャミ子は互いに苦しめられている。その事実を把握し肯定された拓海は言葉を失い、ミカンはどうにかして二人をレモンの酸味で起こそうとする。そんな中……

 

 

「……その契りとは、一体どういうものなのですか? それと二人が契りとやらをすることになった要因と、それが中断された原因……リリスさんは何か分かりますか?」

 

 

 桃だけが、冷静に事の原因を把握しようとリリスに問いかける。

 

 本来ならば、宿敵とその幼馴染が危険な目に遭っており、それによって一番困惑することになるのは桃自身であるはず。だが、彼女はそんな二人に一度手を差し伸べられた事があった。だからこそ、二人を救いたい。その意思が彼女の冷静さを保たさせているのだ。

 

 桃のその予想外の反応に呆気に取られたのか、動揺していた一同は静まり返り、思わず呆けた表情を見せる。しかし、リリスさんは今すべきことが何なのかを把握し、我に返って口を開く。

 

 

『……シャミ子がこの事を耳に入れてしまえば卒倒するだろうから、今まで黙ってきたのだが……お主達に早急に理解してもらうためだ、やむを得ん。白状せねばならん』

 

 

 腹を括ったかのように真剣な顔となり、顔を引き締めるリリス。そして桃と顔を見合わせ、口を開く。

 

『余達の一族の契りとは……

 

 

 

 愛撫。簡潔に言えば愛のある性行為と同じものだ』

 

 

 

「「「………………は?」」」

 

 

 予想外の解答に、思わず呆けた声と拍子抜けした表情で目を丸くする桃達。魔族の契りとは、呪文などによって悪魔の紋章を付けるものなどといった、魔術的な何かなのかと思い込んでいたなのだろう。

 

 そんな拍子抜けな表情となっている三人を他所に、リリスは説明を続ける。

 

 

『悠久を共にするパートナーというのは、余達一同では人間達で言う夫婦と同じ存在である。その存在であることを証明させる為には、それ相応の行為をする必要がある……それが愛のある性行為だ。無論、その行為の一つとして前座である接吻──キスも必須行為となっている』

 

「………………キス? キス⁉︎」

 

 

 接吻──キス。その言葉に何か引っ掛かりを感じたのか、桃は察した表情に変わり、リリスに問いかける……というよりも、問い詰めているかの如く目を輝かせながらリリスとの距離を詰めてきた。

 

 

「それって、シャミ子と白哉くんがいつの間にかTo LOVE○みたいなハプニングキスをしていたってこと⁉︎」

 

『うおっビックリした⁉︎ いきなりズイッと距離を詰めてくるな‼︎ そして何故そんなに嬉しそうなのだ⁉︎』

 

 

 突然の桃のテンションの変わり様に引き気味となるリリス。先程まで自分がシリアス……厳粛な雰囲気を出してきたのに、それを自らぶち壊してきたことに対して、リリスは呆気に取られていた。

 

 恋愛お節介女子と化してしまった桃をミカンと拓海が宥めたところで、リリスは苦い顔を浮かべながらも説明を続けた。

 

 

『ま、まあ……桃の質問は半分は正解ではあるな。シャミ子と白哉は確かにキスをしていた。だがそれはシャミ子が、一・二ヶ月程前にて昼寝中の白哉にうっかり……それも無意識にな。まあシャミ子には一族の契りを教えなかったのだし、白哉への愛の執着感が曖昧な部分もあるのだから、それ以降の契りの手順は行わなかったのだがな』

 

 

 シャミ子、いつの間に意外と結構大胆なことをしていたんだ……。桃達三人のシャミ子に対するイメージが多少卑下されていたのか、リリスから明かされた衝撃の真実に呆気に取られたような表情を見せる。

 

 これまでシャミ子は白哉に対する好意があるというのに、それを周囲に透かされているというのに、その好意を本気で白哉にぶつけてこなかった。その為か、桃達はシャミ子を恋しているのに奥手な魔族だと思い込んでいたのだ。

 

 だが別に進展できるようなことを一切していないわけではなかった。無自覚にとはいえ、それ以上の行為は自粛していたとはいえ、白哉にファーストキスという名の純潔を与え奪い取っていた。そんな大胆な行為をしていたシャミ子に対し、桃達は思わず息を飲んだのだ。

 

 

「そ、そうなんだ……シャミ子ってば、私達の知らないところで……見てみたかった……」

 

『いや人のキスってのはそう易々と見せてくれるものではないと思うのだが……』

 

 

 未だに白哉とシャミ子のイチャイチャを楽しみにしている様子の桃に呆れるリリス。しかしすぐさま表情を戻し、言葉を締める。

 

 

『とにかく……白哉が目を覚ますには、シャミ子が目覚めるのを待つか、白哉自身がとある条件を満たすか、そのどちらかしかない。今は二人を信じて待つしかないぞ』

 

「そんな……」

 

「ッ……」

 

 

 自分達が今出来ることは、二人が無事であることを祈るしかない。その事実を突きつけられたミカンと拓海はそれ以上の言葉を失い、俯くしかなかった。

 

 

 

 ───しかし、やはり彼女だけは違った。

 

 

 

「………………二人が助かる方法なら、まだ何かあるのかもしれない」

 

「桃……?」

 

「たとえそれがどんなに厳しい条件であっても、効率が悪くて根拠が希薄だとしても………………私はあの二人を断固助けに行きたい‼︎ あの時手を差し伸べて助けようとした二人を、今度は私が手を差し伸べて助けたい‼︎ ……だから、どんな手段でもいい。なんとかして、リリスさん」

 

 

 このとある魔法少女の決意が、一度路頭に迷い込んだ魔法少女の決意が、幽閉された二人への想いが……運命の歯車を、今ここで動かすこととなる───

 

 

 

 

 

 

 私が昔体験した記憶。白哉さんと話した時しかくり抜かれていて、それ以外は全て忘却の記憶として奥底に閉じ込められていた。私はその記憶がどの様なものなのかを知りたくて、白哉さんや桃に『一人でやってみたい』と宣言した。

 

 そしたら桃は合意してくれて、白哉さんからは無事に帰って来てほしいという言葉を掛けてくれた。桃から信頼されている部分があるんだってことに気付けたのも嬉しかったけど、それ以上に白哉さんから私の事を大切に想ってくれているんだってことを知れて、とても嬉しかった。

 

 あっ。けどその時のセリフに、白哉さんが故意とかを持ってるわけじゃないのは分かってます。いやホントに分かってます……分かってますよ? 元から誰にでも優しい白哉さんが私を揶揄うかのような事を言うはずがないですし、まだ好意とかも向けてくれるはずもない……あれ、なんか泣けてきそう。

 

 けど、それと同時に不思議と不安も過ぎってきた。もしも夢魔の力の使い方を誤ったらどうなるのだろうと考えたら、なんだか白哉さんと離れ離れになる可能性も考慮してしまって……胸が痛い。

 

 だって忘れてしまっていた幼い頃の自分の記憶に潜るんですよ? 何が起きるのか不思議ったらありゃしないじゃないですか。もしかすると記憶が飛ぶ程に嫌だった経験をしたりしていた可能性もありますし、ホントに背筋が凍りそうですよ。

 

 だから私は、白哉さんにお願いしたんです。無事に帰って来れたら私のわがままを聞いてほしいって。そういったお願い事をするのは結構久しぶりで……アレ? 初めてでしたっけ? 自分の事でわがまま言うことなんて。なんか自分の記憶が曖昧になってるんですが……

 

 最初は、その……キ、キスをお願いしようとしたんです。けど、それを頼むなんて愛が重いなって感じましたし、この前無自覚にも寝ていた白哉さんに対してそれをしてしまったっていう記憶がまた蘇ってきて……何より桃達が目の前にいる時に頼むのも恥ずかしかったので、断念しました。

 

 いや、でもハグもハグで大概でしたね。ギュッてしてたら白哉さんへの依存度が高くなりそうな気がしますし、白哉さんの匂いを嗅いで狂いそうな気もしてきて……やっぱりあの頼み事も我ながら恥ずかしかったです。

 

 それでも、白哉さんは終わったらハグしてくれることを約束してくれました。無論白哉さんも恥ずかしいと感じていた為、それを表してる表情を見せていましたが。こんな私の、あんな恥ずかしい頼み事を了承してくれるなんて……白哉さんは相変わらず私を無意識に虜にしてきますねホントに。こんな考え事をする自分は痛いですが。

 

 けど、そのおかげで私は元気を出せた気がする。絶対に夢魔の力に慣れて、自分の記憶を通してとっておきの情報を手に入れてみせる。そんな誓いを心の中で立てることができた気がしたんです。

 

 その想いを胸に、私は眠りについた。そして……私の十年前の記憶の扉に入ることができました。

 

 その世界はずっと病院であろう廊下で、まるでダンジョンでした。幼い頃の記憶は入り組んでることが多いとごせんぞが言っていましたが、個室ばっかりですね。しかもなんか暗い感じだからホラーものだと捉えられてるのかな?

 

 とりあえず私の記憶の扉に入ることに成功したので、早速この記憶の中を巡り回ることに……なったのですが、初心者が深部から帰るのは大変であるため、ごせんぞが見失わないようなるべくゆっくり行動することに。万が一見失ったら私は気合いと根性……つまりは自力で帰らないとならないようなので。岡本真夜か何かですか?

 

 歩き回っていたら、なんかでっかい注射器やら点滴やらといった医療器具がウキウキとしている感じに動いているのを見つけました。コアかと思ったのですが、どうやら私の嫌な思い出が変質したものらしいです。私の心にそんなものがいるとは思ってもみませんでした。ご飯も毎日おいしいのに……

 

 ごせんぞ曰く、嫌な思い出は誰にでもあり、寧ろああいうのをちゃんと埋め立てて笑顔で過ごせているのは、私と周辺の心が健やかな証だとのこと。嫌なことによる感情は嬉しいことや楽しいことで抑えればいいってことでしょうか? その考えでなら納得がいきますね。

 

 とりあえず、あの医療器具に接触するとノイズが出そうとのことでなんとかやり過ごすことに。危機管理フォームで身体能力を上昇させ、夢魔の力で取り出したダンボールに隠れながら移動。これぞ必殺『まぞくステルス』です‼︎ ……ごせんぞからのネーミングセンスの評価は良くなかったですが。

 

 けど思ったよりも数が多くてバレてしまいました‼︎ しかも逃げてる途中でごせんぞとの通信が切れて逸れちゃいました……。どうやって探索しよう……いや、寧ろどうやって帰ろう……

 

 あの医療器具のオバケに捕まっても死ぬことはないそうだけど、数日悪夢にうなされて寝込むことになるので体に悪いとのこと。どっちにしろ危険であることは確かなので必死に逃げました。というか逃げることしか出来ない‼︎ 今まさに大ピンチです‼︎

 

 

 

 刹那。オバケ達は一斉に巨大な何かによって押し潰された。まるで倒壊したビルに巻き込まれてしまった人達のように。

 

 

 

 えっ? 何事? 一応、私とオバケ以外は誰もいないはずなのですが……

 

 誰かが助けに来てくれた? 桃? ミカンさん? 拓海くん? それとも白哉さん? でもみんな夢の世界に入ろうとすると弾かれるはずじゃ……

 

 あっ、巨大な何かが動き出した。と、とりあえず助けてくれたお礼を言っておかないと………………えっ?

 

 

 

 なんか、筋肉モリモリマッチョマンな牛さんが、デッカい棍棒を持って二本足で立っているんですが……しかも腹周り以外は軽装な感じの金メッキで赤黒い甲冑を付けているし……

 

 

 

 な、なんですかあの牛さん? 遊○王のミ○タウロ○を連想するような怖い感じなのを出しているし……

 

 というか、よく見たら何頭もの同じ姿をしたのがたくさん出て来ているじゃないですか。さっきのオバケ達よりも怖さが倍増しているのですが……

 

 って……あ、あれ? なんか皆さん、一斉にこちらの方を向いているのですが……しかも赤い目を光らせて、思いっきりデカい鼻息を出してきているし……あの鼻息当たったら寒っ⁉︎

 

 えっと……なんか、嫌な予感がしますが……

 

 

【グモオォォォォォォッ‼︎】

 

「やっぱり追いかけてきたァァァァァァッ⁉︎」

 

 

 結局より厄介なのに追いかけられる羽目になったじゃないですかヤダー⁉︎

 

 ちょっ、ホントになんなんですかあの牛さんは⁉︎ 突然私の記憶の中に出て来るし‼︎ 助けてくれたのかと思ったら今度はオバケ達の代わりに集団で私を追いかけてくるし‼︎ なんで私を追いかけてくるんですか⁉︎ そもそも私、小さい頃牛さんに関するトラウマでも植え付けられていたんですか⁉︎ 何があったの小さい頃の私⁉︎

 

 ごせんぞいない‼︎ 当たり前だけど白哉さんもいない‼︎ 帰れない‼︎ オバケもまだいるかもしれない‼︎ あと牛さん達は天井の高さぐらいデカい‼︎ どどどどどどうしよう⁉︎ どうすれば⁉︎

 

 

 

《落ち着いて落ち着いて》

 

 

 

 ………………へっ? 今、なんか直接脳内に声を掛けられた気がする……。しかもなんだかすごく優しい感じがして、なんだか励まされている感じもしてきているような……

 

 

《君、いい武器を持ってるよね? おとーさんの杖》

 

 

 えっ? なんでおとーさんの杖の事を知って……? と、とりあえず出した方がいいのかな……?

 

 

「こ、これ?」

 

《そうそう。ここは君のフィールドだし、いい感じに変形できると思うよ。ずるい武器に変えてあいつらをやっつけちゃおうよ》

 

 

 そ、そっか‼︎ ここは夢の世界だから私は実質やりたい放題なことができるんだった‼︎ 他にこの状況を打開出来そうな手段はないかもだし、やるだけやってみないと……‼︎

 

 

「わ、わかりました。ずっ……ズルイブキー‼︎」

 

『ブモッ⁉︎』

 

『『『ブモモッ⁉︎』』』

 

 

 

 なんとかの杖を巨大化させた途端、それを見た牛さん達は一同に止まり戸惑いを見せてきた。変形させたこの武器って殺傷能力が高いから、牛さん達もそれを見た途端に恐怖を感じたのでしょうか……?

 

 って、お、重い……‼︎ そういえば私も一度武器をデカくして持ったら潰されてしまったんだった……。こ、このまま押し潰されたら元も子もない……‼︎ と、とりあえずやぶれかぶれに振り回して……‼︎

 

 

「と、とりゃあー‼︎」

 

【ブモォッー⁉︎】

 

 

 それはほんの一瞬だった。私がズルい武器を振り下ろしただけで、牛さん達全員の上半身が跡形もなく削り取られていた。きっと振り下ろした時に発生した衝撃波らしきものによるものだろう。そして残った下半身も光の粒子となって私の目の前で消えていき、私を追いかけていた牛さんの姿は、もうどこにも見当たらなくなった。

 

 ………………いや、その……使った自分がなんですけど、あっさりすぎませんか? たった一回の攻撃で、数十体もの人間みたいに体を動かせるデカい動物を一斉に倒せるとかどんだけ強力なんですか? さっきまで逃げていた自分が嘘のように感じるのですが……

 

 あっ、また何かが出て来た。今度は桜色のなんかモヤっとしたものみたいだけど……先程の牛さんやオバケみたいに敵意は無さそうかな?

 

 

《……やればできるじゃん‼︎》

 

「ありがとうございます。貴方は……えっと………………さては……通りすがりの、メレンゲの思い出ですね‼︎」

 

《違う違う! 思い出じゃないよ(・・・・・・・・)‼︎ あとメレンゲでもない‼︎》

 

 

 ……えっ? 思い出じゃない(・・・・・・・)? どういうこと? じゃあなんでこの記憶の世界に一度も覚えたことのないものが出てくるのですか? 牛さんの記憶も覚えた覚えがないのですが……

 

 この後のメレンゲさん曰く、私と会うのはこれで二回目らしいのですが、なんかしっくりと来ないというか何というか……本当は来られないそうですが、今は私の記憶を媒介に無理矢理浮上しているとのこと。意識のある記憶ってことですかね? 予想がつきにくいのですが……

 

 で、本来の見た目でお話したいとのことで、杖を構えて集中してと頼まれました。何かをイメージする必要は……ないのでしょうか? とりあえず、いけると思い込みながら集中……集中……‼︎

 

 ふんぬらば〜〜~‼︎

 

 

「よーし形成OK‼︎ ご協力ありがと〜〜〜‼︎」

 

 

 その言葉で気づいた時には、メレンゲさんの姿は大きく変わっていった。黒い長髪、桜色のノースリーブっぽい服の上に白衣、右肩に掛けているピンク色のマント、ピンクと白のフリフリスカートといった、正に正統派な魔法少女の衣装の女性だ。

 

 

 

「あなたの町のかけつけ一本おまもり桜‼︎ 魔法少女★千代田桜━━━━ただいま見参ッ‼︎」

 

 

 

 ………………えっ……?

 

 今、この人自分のことをなんて……? 千代田……桜……?

 

 ええええええええええええっ⁉︎ えっちょっ、ええええええっ⁉︎ も、も、桃のお姉さんの桜さんんんんんんっ⁉︎ 一番大事な人の手がかりを探す筈が、まさかの本人降臨⁉︎ しかもこんなぬるっとした感じに⁉︎

 

 ………………封印されしお父さんへ───なんか……とっても大事な人に助けて頂きました……

 

 

 

 この時、私はまだ知らなかった。この千代田桜さんが十年前に何をしていたのか。それが私の……そして白哉さんの運命に大きく関わっていたことに。

 

 こんな事をしてる間にも、白哉さんが今、自分の事で苦しめられていることに。

 

 そして……この出会いの後に、私と白哉さんの運命の歯車が大きく動くことになったことに。

 

 

 

 




ん? 今回のおまけはどうした、だって? ないよ‼︎
シリアス回に突入したってのに無暗にギャグでお茶を濁せないもの……


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気がついたら精神世界にて檻の中に閉じ込められていた件……ハァッ⁉︎ 俺、優子にキスされてたの⁉︎

試行錯誤しながらの初投稿です。

現状毎週土曜日投稿確定なのに、色々な意味でやっちまった……


 

 一体何故こうなってしまったんだ。

 

 俺は確か、優子が夢魔の力を使って自身の記憶の世界で桜さんの手掛かりを探し終えるのを待っていたはず。その時は優子は寝ていて、俺・桃・ミカン・拓海の四人で彼女の寝顔を見ながら待機していたはず。

 

 なのに……これは一体どういうことなんだ。

 

 いつの間にか俺の意識は朦朧として途切れてしまい、目が覚めた時には、俺は何故か優子の部屋ではなく、刺々しい檻の鳥籠の中に閉じ込められていた。

 

 何故こんなことになってしまったのかは全く皆目検討がつかない。そもそも何故優子が寝たのとほぼ同じタイミングで、俺が気を失ってしまったというんだ? タイミング的にもおかしい気がするが……

 

 いや、今はとにかくこの状況をなんとかしなければいけないよな……こんなところで愚痴を言っている場合じゃねぇ。

 

 仮にこの世界が夢の世界とかじゃなかったら、桃達は俺が消えたことでドタバタしてるだろうし……いや夢の世界であってくれ頼む。そっちの方が不安要素が少なくて済む……のか?

 

 っていうか……こんな住所とかも不明な場所で不気味な檻の中に閉じ込められているというのに、よくそんなに動揺とかしてないな俺。『なんで?』とか『ここどこ?』みたいなことは思ってはいるけど、それでも薄いよなこの反応は……

 

 これって所謂、優子みたいにサプライズに慣れたってヤツか? ……いや、これはサプライズとは違うと思う。つーか慣れていいものじゃないだろこんなサプライズは。慣れてしまったら危機感とかが薄れてしまって、もしもの緊急事態とかの時に対処出来なくなる可能性だってあるし……

 

 

「って、そんなことを考えてる場合じゃないな。早くここから出ないと。我が名は召喚師・白哉───‼︎」

 

 

 そうして俺はいつもの召喚師覚醒フォームに変身した。体内から感じている魔力の質や量の違和感は……うん、ないな。感覚が変わったりとか、込み上げてくる魔力が少なかったりとか、なんか気持ち悪いとか、そういった違和感はないな。問題ない。

 

 とりあえず、魔力を上昇・増幅させたことで力も強くなったはず。この姿での助走を掛けて飛び蹴りをすれば、檻の棘によるダメージを少なくしながらのこじ開けができるはず……‼︎

 

 後ろの鉄格子ギリギリまでバックしてから……全速力ダッシュ‼︎ そしてその勢いを加えながらジャンプ・両足伸ばしてキィーーーック‼︎ ぶっ壊れろォッ‼︎

 

 

 ガンッ

 

「………………〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

 

 い、痛ってェェェェェェッ⁉︎ この檻めっちゃ硬い‼︎ まるで超硬いダイヤモンドにパンチして骨が折れたような硬さじゃねェか⁉︎ 骨折はしなかったし棘の部分は思ったよりも全然痛くなかったとはいえ、この硬さは想定外だった……‼︎ 鉄格子は細い癖に……‼︎

 

 ……いや、ちょっと待てよ。別にこんなことしなくても力の強い召喚獣に力を貸してもらって、そいつに檻をこじ開けてもらえば良かったじゃん。そうした方が手っ取り早いし負担も減るんじゃね? 何やってたんだ、俺は……

 

 まあとにかく、誰かを呼んでもらって助けてもらうとしよう。情け無いけど。誰を召喚すべきか……

 

 そうだ、剛鬼にしよう。仲間を傷つけられると鬼の様に色々と強くなる心配性ゴリラらしいから、俺が閉じ込められているって知ったらガチおこで思いっきりこの檻を破壊してくれるし……いや彼の力や性格を利用してるようで最低じゃん、俺。けどここから脱出する為だし……

 

 

「背に腹は変えられないか……剛鬼、召喚‼︎」

 

 

 さぁ剛鬼よ、いきなりで悪いけどお前の力を貸してくれ‼︎ お前の力で俺をこの檻から出してくれ‼︎

 

 ………………アレ? で、出て来てくれない……? そ、そんなはずは……ネガティブ思考で『戦いたくない』って面倒臭がる餓狼だってすぐに出てくれたのに、剛鬼はネガティブな性格じゃないはずなのに……

 

 と、とにかく剛鬼は今は呼び出しに応じれないってことが分かった。ならば他の召喚獣を呼び出すしかないな、うん。今はそれしかない。とはいえ、次は誰を出せばいいんだ? この檻を破壊するのに適してそうなのは……

 

 あっ、餓狼。さっき名前出してたじゃん。彼の格ゲー戦法なら檻をバッキバキに破壊できるかもしれない。彼に賭けるか。

 

 

「今度は成功してくれよ……餓狼、召喚!!」

 

 

 さぁ餓狼、最新の格ゲームソフト買ってやるから助けてくれ……!!

 

 ………………えっと……か、彼も出てきてくれないんだけど……

 

 あ、あれぇ? なんで二匹連続で召喚に応じてくれないのさ? 一体どういう理屈や原理なのだというの……? いくらなんでもこれはおかしすぎると思うんだけど……

 

 えぇい!! こうなったら出せる奴ならなんでもいい!! とにかく召喚術を連発しよう!! そうしよう!!

 

 

「頼む、誰か出てきてくれよ……!! 海王、召喚!!」

 

 

 海水を生成して操る器の大きい鯨を呼び出す───応じてくれず。

 

 

「聖、召喚!!」

 

 

 氷の力を自在に操るツンデレ麒麟を呼び出す───応じてくれず。

 

 

「凌牙、召喚!!」

 

 

 動き回って風と水の力を同時に操るちょい頑固なサメを呼び出す───応じてくれず。

 

 

「朝焼、召喚!!」

 

 

 仲間に飛行能力を付与出来る無口な孔雀を呼び出す───応じてくれず。

 

 

「猛虎、召喚!!」

 

 

 必死になりすぎて先に出そうとすることを忘れてたけど、物体ならほぼ何でも壊せるポジティブ系メス虎呼び出す───応じてくれず。

 

 

「クソッ……!! 曙、召喚!! 襟奈、召喚!! メェール、ボーフ、ハリー、コウラン、ピッピ、ピョピョン、ハムイン・ボルタ、ヒヒン、シバタ、クリッタ、召喚!!」

 

 

 やけくそになって他の召喚獣を呼び出せるか試してみた。けど、誰も応じてくれなかった。あのメェール君でさえも来てくれなかった。……いや、違う!! そんなはずはない!! これは何かの間違いだ!!

 

 

「こうなったら彼だ……‼︎ 白龍様、召喚!!」

 

 

 さすがの白龍様なら俺の呼び掛けに応じてくれるに違いない!! 俺に特典のことを教えてくれたし、なんやかんやで全力で俺のサポートをしてくれた方なんだ!! 絶対助けてくれる!!

 

 ───けど、その希望も敢え無く潰えた。あの白龍様も、俺の呼び掛けに応じてくれなかったのだ。

 

 

「ッ……‼︎ クソッ、クソッ‼︎」

 

 

 な、なんでなんだ……⁉ なんで誰も来てくれなかったんだ……⁉ なんで先程まで俺がいたところに桃達と一緒にいた白龍様も、みんなが俺が急に倒れたことで慌ててるはずなのに何もしてくれないというんだ……⁉

 

 お、俺、みんなの期待を裏切るようなことを無意志でやってしまっていたのか……⁉ みんなを失望させるような真似をしてしまったのか……⁉︎ じ、実際どうなんだ……⁉

 

 誰か……‼︎ 誰でもいいから、教えてくれよ……!! 心が、虚しくなってしまう……‼︎

 

 

 

「───一先ずは安心しな。アンタはみんな裏切るようなことはしてないし、失望させるようなこともしてないぞ」

 

 

 

 声が聞こえてきた。小学生ぐらいの男の子のような、声質の高い男性の声。それも聞き覚えのある気がする声だ。

 

 俺以外にも人がいた。そこは正直喜んでいたが、一体どこから声が聞こえてきたのかは分からなかった。俺と同じくこの檻の中にいる……ってわけではないだろうけど。

 

 どこから声が聞こえてきたのか探る為とりあえず顔を上げてみた……ら、すぐにどこから声が聞こえてきたのかが分かるようになった。ってか、その声の持ち主が目の前にいたのだ。

 

 檻の前に立っていたのは、俺と身長が同じであろう一人の人物。しかし全身が羽織っている白いローブで覆われており、性別の区別が見た目ではつかなくなっている。

 

 というか……誰なんだ? こいつは。いや初対面の人にいきなり『こいつ』呼びは正直可笑しいけども。一体いつからここに来てたんだ? まさか刑務所とかでいう門番……じゃないだろうな? この檻からしてその可能性はあるだろうけどさ……

 

 

「はじめまして……と言いたいところだろうけど、こっちからしたら『()()()()なんだよな。時々こちら側から一方的に話しかけてきたようなものだし」

 

 

 は? 『久しぶり』? 『こちら側から一方的に話しかけてきたようなもの』? ちょっと待て。いきなり何を言ってやがるんだこいつは。まるで『お前本当は俺とどっかで会ったことあるんだろ』って言ってきてるようなものじゃねェか。俺、お前に話しかけられた覚えなんて……

 

 ん? ちょっと待てよ。話しかけられた覚えがないんだったら俺、さっき『聞き覚えのある気がする声だ』って思うはずないよな? 俺、どこで初対面であるはずのこいつの声を聞いたというんだ? うぅむ……

 

 

「やっぱり覚えてない感じか? まあ話しかけてたってのは夢の中(・・・)での話だし、仕方ないけどさ」

 

 

 えっ? 夢の中で話しかけてた、だって? いや俺、寝てた時の事はそう簡単には覚えて……

 

 

 ──よぉ。はじめまして、と言ったところか。どうだ? アンタはこの世界には結構慣れているか?

 

 ──ん? 一体どこから話しかけているのか、だって? どこって、アンタの夢の中だぞ? それも白龍様とかいう偉い人がいる場所とは別の。

 

 

 ………………ん? あ、あれ? 何かが脳内に流れ込んできてるような……。しかもこれらのセリフ、どっかで聞いたことがあるような気がするけど……

 

 

 ───やれやれ、ここに来て困難にぶち当たったか。さぁ、この後アンタはどうするんだ?

 

 ───このままこの世界の本来の流れに任せてみるか? それとも……

 

 ───アンタ、これまでずっとシャミ子が自分の歪んだ性格に悩まされていた時、いつも見切り発車な感じになんとかしようとしていたんだろ? あの頃を思い出しながらどういう風に話せばいいのだろうかって考えれば、自然と千代田桃へ掛ける言葉が思い浮かぶはずだ。

 

 ───どうだ? 少しは決心がついたか? ……そっか。なら、アンタがすべきことはもう決まってるな。行ってこい。

 

 

 ……そうか、そういうことか。思い出したぞ。全部。

 

 

「お前……夢の中でごくたまに話しかけてきて、桃の説得を促してもくれたんだったな」

 

「おっ? なーんだ、思い出してくれたのか。そいつはよかった……あと、話しかけてくれて嬉しいぜ‼︎ やっとこうやってアンタと話せる時が来るなんてな‼︎ かぁっー、長年待っても報われる時があるってのは本当なんだなー‼︎」

 

 

 なんだこいつ。フレンドリーさと面倒臭さがベストマッチしたかのような、ウザい度合いの高い性格の持ち主だったのかよ。

 

 うーん、なんだろうなこいつ。まるで慎重に原作崩壊を回避しようとしてる俺とは違って、なんでもかんでも大雑把にやりそうな気がするのだが……なんだか、俺と性格が正反対な気が……

 

 ん?

 

 

 

 “神様曰く、お前の心の中にもう一人の僕ポジションみたいな何かが生まれたのではないか、とのことだ”

 

 

 

 まさか、あの時白龍様が言っていた、『お前の心の中にもう一人の僕ポジションみたいな何か』ってのは……

 

 

「お前……まさか別の人格の俺、なのか?」

 

 

 ふと俺がそうフードの人に問いかけた途端、そいつから何やら俺に睨みついているかのような殺意を感じた。えっ!? まさか俺、選択肢を誤ったのか……⁉︎

 

 

「……ハァ、なんで勘がいいんだよアンタは。()()正解だな」

 

 

 へっ? えっ、あっ。そ、そうなんだ……ビ、ビックリした~。結構ハラハラしたぞコノヤローが。なんで殺意放ってたのさ。警戒してしまったぞオイ。もしかして今の無意識だったってか? よりタチ悪い気がする。

 

 というか、なんで()()正解なんだ? 本当は答えが間違ってたってのか? アンタ、本当は何者……

 

 

「おっと、悪いが今はこの状況をどうにかしたいんだろ? それに関係ない質問とかは後にしてくれ」

 

「へっ? ………………あっ、そうだった」

 

「……なんで今ヤバい状況になっているんだってことを忘れるんだよ」

 

 

 いや、それはスマン。けど、さっきの突然の檻の外からの登場は色々と警戒したりしてしまうし、何なら殺してくるのではないかってのも恐れていたからな? 見知らぬ場所で檻の中に入れられて、そして突然の見知らぬ人の登場だぞ? だからそいつのことを優先して警戒しちまうんだよ。場所の環境が環境ってのもあるけどさ。

 

 ……で。

 

 

「ここは一体どこなんだ? そしてこの檻はなんだ?」

 

 

 俺が周りをキョロキョロと見回しながらそう問いかけると、フードの人は苛立ちを見せるかのような態度で溜息をついた。いや、この状況を理解してないってわけじゃないんだよ? ホントごめんて……

 

 

「………………一応、アンタが今いる部屋はアンタ自身の精神世界になってるぞ」

 

「は? こんな檻に閉じ込められてるのに、俺自身の精神世界……白龍様と夢の中で話してた時と同じ場所にいるってか? 何を根拠に───」

 

「床、見ろよ」

 

 

 えっ、床? そういえばそこは全く見てなかった気が……

 

 あっ、チェス盤のような白黒の市松模様だ。そういや俺はこういった場所の夢の世界で白龍様と直接話し合っていたっけ。上を見たら天井が無くて宇宙空間って感じだし、向こうに見える家具とかもメートル単位のデカさだし。

 

 ………………はっ? 嘘? ここって本当に俺の精神世界なの? 自分の世界で訳もわからず閉じ込められてたの? マジで?

 

 

「そしてこの檻はクローズハート・プリズン。別名『心閉ざしの牢獄』。入れられた者の大まかな力を無力化させる幽閉型魔法だ。アンタはこの檻によって変身はいつも通り可能のようだとはいえ、召喚術を一切使えなくなり、条件下以外の方法では脱出や破壊ができないようになっているんだ」

 

「無力化の、幽閉型魔法……」

 

 

 条件に合わせた方法でしか解くことが出来ず、閉じ込めた者の力を封じる魔法……だから思いっきり飛び蹴りしてもビクともせず、白龍様達も呼ばなくなったのか……

 

 しかし、一体誰がこんな魔法を掛けたというんだ? ……ハッ⁉︎ まさか……俺の他にも転生者がいて、そいつが己の欲望の為に邪魔な俺を閉じ込めようと……⁉︎

 

 ……いや、それはないだろうな。そんな自己中心すぎる奴がいたら転生専門?の神様が黙っているわけないだろうし、そもそもそんな奴を転生させてくれるわけがない。大体転生させて好き放題させたら、転生元の世界が崩壊する可能性もあるしな……

 

 

「そしてこの魔法の発生元なのだが………………魔族との不完全な契りにより、魔族の夢魔の力の発動と同時に生まれたんだ」

 

 

 ………………ん? んんん? 今、なんて? 魔族との? 不完全な? 契り?

 

 

「なんだ? その魔族との不完全な契りっていうのは。なんか、その言葉に引っ掛かりを感じるんだけど……」

 

「……そうだな、教えないとどのみちアンタはここから出られないからな。教えるよ、外の世界でリリスさんとやらが他の奴らにも説明した、その不完全な契りとはどういうものなのかをな」

 

 

 そう言ってフードの人は、魔族との不完全な契りについて説明し始めた。

 

 優子の一族はある行為によって、悠久を共にするパートナー……眷属の上位互換的存在を作る契りがあるらしい。その契りを交わした者は、相互の人間関係での相性が良ければ、一族と同じ夢魔の力を得ることができるとのこと。力の共有……みたいなものかな。

 

 しかし、その者が一族との契りを途中でやめてしまったりしてしまうと、その一族が夢魔の力を使用し始めたのと同時に意識を奪われ、奪われた側の夢魔の力が自動的に一族の見ている夢の世界に入り込んでしまう可能性があるそうだ。

 

 そしてその行為というのが……愛撫らしい。

 

 ………………って、は? 愛撫? それ、控えめに言って変態どもが好きなあの行為じゃねェか。危機管理フォームといい、強化する為の手段の一つに肌面積が関係してるといい、サキュバスか? やっぱりリリスさんの一族は皆サキュバスってか? 優子は純情なキャラだってのに……

 

 ……アレ? ちょっと待てよ?

 

 

「この檻がその不完全な契りと魔族……優子が夢魔の力を使ったことによって出来ていたってのはわかった。けど、気になった点がいくつかある。その不完全な契り……優子はいつ、誰に対してやってたというんだ? お前は何か知ってるのか?」

 

 

 今のはフードの人が俺みたいに優子の事をよく見てるとは思えないから問いかけたってのもある。けどそれ以上に、不安と恐怖というものを感じた。

 

 優子は俺に好意を持っている。それも偶に重たくなる愛だ。そんな愛を持った彼女が他の男と契約とか関係なく卑猥な行為をするはずがない。したらしたらで、何というか……

 

 

 ズキッズキッズキッ

 

 

 そういったのを考えるだけで、なんかこう、心臓がすごくズキズキとして痛くなるんだ。優子が知らない男と契りをするなんて、なんだか考えられないって思えてきて……すごく嫌になる。なんでこんな思いを持つようになるんだ? 自分でもそれは分からない。

 

 

「………………ハァ、呆れた。ここまで説明させておいて、アンタがその説明通りの出来事によってそうなったにも関わらず、まだ気づかないってのかよ」

 

「は?」

 

 

 気づかないって、何にだよ……?

 

 

「シャミ子が不完全な契りを交わしたのは、知らない男とかでもなく、ましてや全臓や拓海といったアンタの知り合いとかでもない……

 

 

 

 平地白哉、アンタと交わしたんだよ。それも無意識に」

 

 

 

 ………………………………

 

 えっ?

 

 俺と? 交わしてた? 中途半端にとはいえ、契りを?

 

 えっ? えっ?

 

 ………………………………

 

 

 

「りぁjfうるぇvcにrmじcおびKhxぢゅgぜいぬmzxjなるとhdにゅfgkmびゅgんcvc」

 

 

 

「気持ちはわかるけど何言ってんのかは分らんから落ち着け」

 

「落ち着けるわけねぇだろはっ倒すぞコラァこのボケナスビがァッ!!」

 

「急に口悪くなったな……」

 

 

 いやそりゃあ口も悪くなっちまうでしょうが!?

 

 だってさ、ほら……お、俺と優子が、その……キ、キスをしてたってさ……信じられないでしょうが⁉︎ それ、本当なのかって思うわ‼︎ キスした記憶もされた覚えもないんやでこっちは‼︎ いやマジで‼︎

 

 い、いつ⁉︎ ど、どこで⁉︎ ど、どんな感じにキスしてたのさ俺達二人は⁉︎ 状況とか色々と気になっちゃうでしょうが‼︎

 

 

「そりゃあそんな反応するわな……仕方ない、俺が精神世界を通して見た実際の光景を見せてやるからよく見とけよ?」

 

 

 そう言うとフードの人はどこからか出てきた映画のスクリーンっぽいものに向けてリモコンの電源ボタンを付け、画面に付いたメニューっぽい表示から何かの一覧をスクロール。そして何かしらの画面が出たところで『決定』ボタン。

 

 すると何ということでしょう。俺の部屋の光景が横向きながらも映っているのではありませんか。よく見ると画面の左側には二千××年六月×日十七時半……俺が着ぐるみバイト後に昼寝して起きる数分前だな。

 

 これってもしかして……このフードの人、俺が寝てる間にその時の周囲を何かしらの方法で撮影してるのか? 白龍様みたいに俺の記憶を何かしらの形で共有することができるのか? ある意味スゲェけど、なんかこう、プライバシーってものが……

 

 

『白哉さん、お風呂借りに来ましたー。……アレ、返事がない? 寝てるのかな……あっ、鍵開いてる。入りますね』

 

 

 おっ? なんか優子の声が聞こえてきた……って、この時の俺鍵かけてなかったのか⁉︎ 不用心すぎるやろこの時の俺って……まぁ訳あって急いでシャワー浴びようとしてたから、必死すぎて忘れてしまったのかな? ちゃんと戸締りしなきゃダメじゃん。

 

 

『……フフッ。寝顔、初めて見ました。可愛いですね』

 

 

 入って来た⁉︎ 寝顔見られた⁉︎ なんかすごく恥ずかしいんですが‼︎ 俺の寝顔を家族以外に見られたことないからすごく恥ずかしい‼︎ 実を言うと俺、一度も居眠りとかしたことないんだわ‼︎ いやマジで‼︎

 

 優子の表情をよく見ると、なんかアワアワした表情になってから突然顔に影を落とし、そして何か気づいたかのように目を丸くしてきた。これって、ミカンに助けられた時の彼女の香水の匂いが俺に付着してたことに気づいたものの、事故であることにもすぐに気づいたって感じか?

 

 よかった、誤解し始めたけどすぐに解けたって感じか。助かっ───

 

 

『白哉さん………………んむっ……んむっ?』

 

 

 ………………へっ? 『んむっ』? なんか優子の口から聞き捨てならないような言葉が聞こえてきたような……しかもよく見たら、とろんとした目をした優子が急速に顔を近づけてるような………………

 

 えっ? これって……

 

 ま、まさか……

 

 

 

『めぴゃああああああああああああ⁉︎』

 

「優子にキスされちゃってるじゃん俺ェェェェェェッ⁉︎」

 

 

 

 嘘ォォォォォォッ⁉︎ やっと能天気な俺でも飲み込めちゃったようだな⁉︎ 全てはフードの人の言う通りだ‼︎ 俺、優子にマジでキスされてたわ⁉︎ しかも優子も赤面発狂してるからホントに無自覚みたいだったし‼︎

 

 そ、そっか……‼︎ あの時唇が甘いと感じたのも、翌日になって午前にはなんだか優子が余所余所しかったのも、全てはあの日の優子の無自覚キスが原因だったのか……‼︎ 俺、昼寝してた時にそんな事をされてたのか……‼︎

 

 

「これで分かっただろ? この出来事によってアンタ達二人は不完全な契りをしてしまい、シャミ子が夢魔の力を発動したのと同時にアンタがここに閉じ込められてしまったってわけだよ」

 

「マ、マジかよ……俺、そんなことされてこんなことになってしまったのか……」

 

 

 よ、予想外だった……まさか二ヶ月程前に起こった優子のやらかしによるツケが、重要な場面の時に発生して俺に降りかかってくるとは……。しかもそのやらかしが、昼寝してる俺に対してのキ……キ……キスだなんてな。ってかなんで災厄みたいなものが優子じゃなくて俺に降りかかるんだよ。最悪すぎるだろオイ。

 

 

 ドキドキドキドキドキドキドキドキ

 

 

 けど……なんでだろうな。さっきから心臓の鼓動音が止まらなくなっているんだけど。しかもなんだか顔が熱くなってきている気がする。それに……『嬉しい』という感情が、強く湧き上がってきている気がする。

 

 ……けど、なんで嬉しいと思ったのだろうか? 可愛くて純粋なタイプの子とファーストキスができるのは正直嬉しいけども。

 

 

「……ここまできたら、もうそろそろわかってくるだろ?」

 

「えっ?」

 

 

 わかってくる? 一体何の話なんだ?

 

 

「実はその檻はな、お前のとある心情に関わってくるんだよ」

 

 

 俺の心情と関係してる? それはいったいどういう意味なんだよ?

 

 

「その檻はな、閉じ込めた者の本心を欲しているんだよ」

 

「俺の?」

 

「あぁ。そのクローズハート・プリズンにはもう一つの別名がある。その名は……『真意を求める空洞』。ま、これを英語訳すると意味が合ってねぇと思うけどな」

 

「真意を求める、空洞……」

 

 

 真意……誠の心、偽りなき意思ということか。つまりこの檻は、俺が心の中では本当はどう思っているのかというのを求めており、それを言わない限りはここから出してくれない……ってことなのか。

 

 

「自分自身の本性を打ち明けない限り、たとえ魔族が夢魔の力をやめたのと合わせて共に起きたとしても、感情は精神世界に置き去りにされてしまう。それも魔族との不完全な契りによって生まれたものなのだからな。これはおそらく、シャミ子の事をどう想ってるのかを明かさないと開きそうにないな」

 

 

 ………………優子への本心、か。

 

 正直に言って、それを明かすのは難しいかとは思う。

 

 これまで俺は優子のことをどう想っているのか、何故優子の重たい愛を蔑ろにしなかったのか、その答えをずっと見つけることが出来ていなかった。

 

 ましてや優子からの告白もどきに対する返事にも答えられずにいたんだ。拒絶することも、受け入れることも出来ずに。そもそもどのようにして答えるべきなのかも、あの時からずぬと決めることが出来なかった。

 

 一年間も自分の感情に未だに気づけていない。そんな情けない俺が、未だに答えの出てない優子への本心をきちんと打ち明けられるわけが……

 

 

 

「───だからこそ、あの吸血鬼の魔族に言われたことをしてみるべきじゃないのか?」

 

 

 

「………………えっ?」

 

 

 吸血鬼の魔族……ブラムさんの事か? 俺、彼に何か言われてたっけ……?

 

 

「彼からこう言われてたんだろ? 『自分の本当の気持ちが分からないのならば、機会がある時に昔を振り返ってみるといい』って。そして『昔の事を上手く思い返してみれば、何故そういう風に彼女と接していこうかなどといった大切なことに気づくことが出来るはず』だって」

 

 

 ……あぁ、確かに昨日言われてたな。ブラムさんに優子の事が好きなのかどうかを聞かされて戸惑っていた時、俺は自分の本心がどうなのかは分からないとは打ち明かしていた。その時に彼からそういう感じにアドバイスを受けた。それはとてもタメにものだったな。

 

 そしてその思い返す機会……まさかこういった場面で出来るだなんてな。いや、こういった状況では『思い返す機会』というよりも、『思い返さないといけない場面』となるけども。そこから自分の本心を見つけて打ち明かさないと、このクローズハート・プリズンとやらから出られないし……

 

 

「それに、それを言われたアンタも考えていたんだろ? 『念のため前世の事も思い返してみるとしよう』って。『転生前と後、何故か何かとの関連性がありそうな気がする』とも」

 

「……俺の心まで読めるのかよアンタ。ってか、俺が前世の記憶持ちなのも知ってしまったのかよ……」

 

 

 というか、召喚獣以外にも俺が転生者であることを知った奴がここにもいたとは予想外だった。予想外すぎてすごいリアクションとか出来なかった……

 

 

「その件は今はいいだろ。今こそ前世を念入りに思い返して……いや、寧ろ前世の記憶を中心に、何もかもを思い返してみないといけない。アンタは前世でこの世界の大抵の設定や物語についてを知ることが出来たんだろ? そこに何かヒントがあるはずだ」

 

 

 ……前世、か。

 

 よく考えてみれば、俺はこの世界で優子を中心に起こりうる出来事……原作の物語の知識を、よく前世での創作物──漫画やアニメ──を通して得ていた。全てとは言えないけども、その知識はとても役に立った。

 

 この場面ではこのように介入しておけば良いとか、この場面はこういう感じなのかとか、そういったのをあらかじめ前世で得た上で、この世界で自分がどのように関わったりしていけば良いのかを考えることが出来たのだから。

 

 けど、ここで疑問点が生まれた。なんで俺は前世で原作知識を……『まちカドまぞく』の物語を覚えようとしたんだろう。他にも好きになって知識を覚えるべき漫画やアニメだってあるはずなのに、何故あの時から『まちカドまぞく』の事を知ろうと思ったんだろう。

 

 あのおかげでこの世界で転生したとなっても、不安要素となるものが多くなくて済んだのに、この引っ掛かる気持ちはなんだ? どうしても、どうしても前世の事を思い返さないといけなくなってきた。そうでもしないと、大切な何かを忘れてしまいそうな気がする……

 

 

「どうしても気になるってんなら、それこそ思い返すべきだぜ、アンタの前世を」

 

 

 ……そうだ。こんなにも引っ掛かりを感じているんだ。ここで前世の事を振り返り、何故『まちカドまぞく』の事を理解しようとしたのかを理解するんだ。そうしないと、本当に大切な何かを忘れたままこれから起こりうる未来に立ち向かっても、何も変えることが出来ないかもしれないから。

 

 自分自身に、昔の……前世の自分に問いかけるんだ。俺自身の為にも、そして……優子の為にも。

 

 

 

「───教えてくれ、前世の俺」

 

「───どうして俺は、この世界の事を前世で知り尽くそうと思ったんだ」

 

「───そして、どうしてそこから俺が優子の側に寄り添おうと思えるようになったんだ」

 

「───俺が長年置き去りにして、答えることの出来ずにいた本心を取り戻すためにも」

 

「───どうか、どうか、教えてくれ───」

 

 

 

 過去と現在の自分にそう暗示を掛けながら、俺は静かに静寂とした夜空のような景色から瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 そして気づいた時には、クローズハート・プリズン……『心閉ざしの牢獄』『真意を求める空洞』は、求めてきた真意を受け入れたかの如く砕かれ爆散した。

 

 突如現れた金色に輝く聖なる槍が、暗闇を切り払うかのように───

 

 

 

 

 

「ここで傍観者……アンタらに告げるぜ」

 

「彼が───平地白哉が思い返した過去が何なのか」

 

「そしてそこから、彼が見出した答えが何なのか……」

 

「その真実は、今この場でお見せすることは出来ないぜ」

 

「だから、どうしても知りたいってんなら……」

 

 

 

「シャミ子が一度起きて、平地白哉の夢の世界へと行く時まで待て。話は……それからだぜ? ま、もうすぐ行く機会が来るけどな」

 

 




書きたいこと書いてたら、下書きにはなかった展開とかまで出てしまって……
長く書き過ぎた……‼︎
原作パートに触れている文を書けなかった……‼︎
ここで区切って良かったのか分からなくなった……‼︎
ここで白哉が見出した答えを書いても良かったんじゃないかと後悔し始めた……‼︎
今回はある意味問題作じゃねェか……‼︎

すいません‼︎ 白哉くんが見つけた答えが何なのかは次回以降までお待ちください‼︎

そして今回もシリアスパート維持の為におまけパートは無しです‼︎ ご了承を‼︎


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桜さんから明かされる真実。そして……えっ⁉︎ びゃ、白哉さん⁉︎ 今なんて⁉︎ by.シャミ子

完成と次の話の執筆を急ぎながらの初投稿です。

やっぱり無闇に週二するのは宜しくなかったと今回後悔しております……


 

 ついに私、シャドウミストレス優子は大義を成し遂げることが出来ました。

 

 桃のお姉さんであり、多摩町を支えてきた魔法少女──千代田桜さんを、何故か私の十年前の記憶の世界で見つけることが出来たからです。

 

 けど……早速桃に会わせる為にこの記憶の世界の出口を探そうとしたのですが、ここでとある問題点に引っ掛かってしまったみたいです。それは、桜さんが帰れない……この世界から出られないということ。

 

 どうして出られないのか、桜さんは教えてくれた。私の目の前に現れた彼女は本物ではなかった。私の記憶の中の蜃気楼みたいなものらしく、一定時間が経つと消えてしまうそうです。本人ではなかったんですね、せっかく見つけられたと思ったのにな……

 

 

 

 そして桜さんが帰れない最大の理由があった。それは……桜さんのコアは、私の中に埋め込まれてしまったということ。

 

 

 

 いや、まるで当たり前なことみたいに言っているかのように聞こえるとは思いますけどね? 私もそれを聞いた時はね、文字にするとグ○ンラ○ンとかで使われそうなフォントを使用しそうなぐらいのデカい声を出して驚いてましたよ? 天元突破してドリルブレイクしそうな程の衝撃の真実を聞いちゃいましたよ……

 

 どういうことなのか聞こうと思ったのですが、今の桜さんは私の脳を借りて喋っている為、複雑な説明ができないとのこと……なんか私ってバカだと思われてるのかって感じの言われ方でしたが、ぶっちゃけ私よりも桜さんの方が断然頭が良いので、そう言われても仕方ない……のかな?

 

 感覚で吸収した方が飲み込みが早いとのことで、私の力の練習がてら記憶探しの続行を勧められました。無論状況が追いつけてない為すぐに切り替えが出来ませんでしたが。

 

 とりあえずはなんとかの杖を構えて自分の記憶を探ることにしました。どうやらこの杖は桜さんが廃工場で埋めてたっぽい感じで、あの時聞こえていた、幻聴は奇跡的に波長が合って伝えられることが出来た桜さんの意思によるもの。つまりは桜さんが伝言できるようになったタイミングで、私は誘導されてこの杖を見つけることが出来たそうです。

 

 桜さんから教わった記憶の探り方は、目は閉じているけれど頭の中でもう一つの目を開いてる感じ。集中して束ねた意識の先端から記憶の池に水滴を落とすイメージ。

 

 そしてスッときたら、バアッといって、ガーン………………いや、分かってますよ? 自分でも何言っているんだってことぐらいは。でも、桜さんの説明は擬音語によるミ○タージャイ○ンツ方式な感覚系指導だったので、今でも何言ってんだって思ってます。桜さんの後半の説明、大雑把にも程がありますよ……

 

 桜さんの話によれば、十年前の私はおかーさんが思っているより弱っていたらしい。魂は呪いのせいで構造が弱ってスカスカで、桜さんがしてくれた処置は気休めだったそうです。

 

 つまり、あの時の私は本当に命を落とすところまで病弱だったらしい。もしも本当に死んでいたら、家族にも、桃達にも、そして……白哉さんにも会えなかったのかもしれないってことになっていたんですね。改めて考えるとゾッとしますね。

 

 コアになって猫の姿を保つ魔力もほとんどなくなった時に、私の事を思い出し、私が入院していた病院へと駆け込んで行ったそうです。その時の桜さんを、店長とブラムさんが見掛けたって感じですか……こんな偶然ってないかもしれませんね。

 

 と、この説明を受けた時に景色は一変し、かつて私が入院していた頃の病室の前までに来ました。

 

 その病室のドアを開けた先にいたのは……ベッドで寝込んでいた私と、猫のコアになっていた桜さん。この時の桜さんはこの町には当面災いは来ないだろうと予兆し、結晶のコアになって私の体内へと入り込んだ。これによって、私の命は桜さんのコアに支えられることによって繋がれた……ということらしい。

 

 その真実を知ったところから、現在に至る。私は桜さんによって助けられた。桜さんはコアとして私の中に居続けている。これで謎は解けた気がします。………………でも、こんなのって……

 

 

「私ね、後々になって思ったことなんだけど、君の中にコアを入れておいて正直正解だったって思っているよ」

 

「えっ……? なんでですか?」

 

「私の最後の踏ん張りが、いつ死んでしまうのかも分からない君を救うことが出来た。桃ちゃんやミカンちゃん……みんなに会わせることもできた。様々な経験をさせてあげることもできた。そして何より……白哉君に恋に落ちた君を、ギリギリだけど暴走させずに済ませることができたしね♪」

 

 

 た、確かに桜さんのおかげで、私は今を生きることが出来ましたし、色んな人と出会って様々な経験をすることが出来ました。コアを受け取る前からずっと生死を彷徨う状態のままだったら、こんな良い経験は出来ませんでした。でも、やっぱりそれでも……

 

 ………………ん? んんん? 今、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのですが。

 

 

「……桜さんすみません。今さっき、白哉さんの名前を出してませんでしたか?」

 

「うん? 出してたよ? シャミ子ちゃんが見ている景色とかを覗くことが出来た時期もよくあったからね、白哉君と仲良くなり始めた時の事もちゃんと把握しているよ」

 

「……私が彼に恋に落ちたってのは、いつ頃から気付いてたのですか?」

 

「君が目覚めて初めて白哉君とおしゃべりした後すぐに。その時から恋する乙女って顔してたよ」

 

「……私が暴走しそうな性格だって気づいたのは?」

 

「君が中学生だった頃。黒いモヤモヤとしたものをよく見かけたから、シャミ子ちゃんが白哉君に絡む女の子に嫉妬してるんだなって気付くことが多かったよ。大抵は君自身が感情を出し過ぎないように抑えていたから暴走せずに済んでいたけど、大きいのが出た時は流石にコアの光で落ち着かせてたね」

 

「………………」

 

 

 えっと……私が白哉さんの事を好きになったってのは、そうなった日から既に見抜かれていた。愛が重たくなったとも気づかれていた。そして本気でヤバそうになった時は桜さんが抑えてくれていた、と……

 

 ………………

 

 

 

「ゆgそだうkjgしゅvmのまldやぬgっpめcjすぉぁtぴ」

 

 

 

「勝手に覗いてたのは悪かったけど落ち着いて⁉︎ その悲鳴のせいで予定より早く消えそう‼︎」

 

「ハッ⁉︎ ……す、すみません」

 

 

 い、いけないいけない。錯乱して危うく桜さんを消してしまうところでした。まだ聞きたいことや助けてほしいことがあるのに、こんなところで消えてしまったら完全にパーです……

 

 

「……白哉君、面白い子だよね」

 

「へっ……?」

 

「見た目はクールそうな子なのに普通の男の子らしさがあって、時には情熱的になることがあって、なんやかんや言いながらもみんなと優しく接してあげていて……」

 

 

 あ、あの……何故突然白哉さんの事を語り始めてきたんですか? 私の体内に入ったコアを通してずっと彼をも見てきたのはわかりますけど、どうしていきなり……? ハッ⁉︎ さては桜さんも、実は白哉さんの事を……⁉︎

 

 

「そして何より、君が自分はヤンデレ……愛の重たくなった子であることを伝えてきても、非難したりせずに寄り添おうとしてくれている。そんな変わった子だから、シャミ子ちゃんは彼の事が好きになって、桃ちゃんも彼に救われたんだよね。……正直、彼とは直接会ってお礼を言いたかったな。シャミ子ちゃんの側に寄り添ってくれて、桃ちゃんにも手を差し伸べてくれて、ありがとうってね」

 

 

 ……あっ、なんか違うっぽい。ただ単に私と桃の事で感謝を伝えたくなったって言ってるだけでしたか。よかった……もし桜さんまで白哉さんの事を好きになってしまったら、私の心臓に悪いですよ本当に。暴走待ったなしです。

 

 それにしても、直接会ってお礼を言いたかった……ですか。それならまた夢の中に来る時に白哉さんも連れて行くので、その時に言ってもらえれば───

 

 

「………………そろそろ時間切れだ。君から日々かすめ取っていた魔力のヘソクリが切れてしまいそうだ」

 

 

 えええええええええっ⁉︎ このタイミングで⁉︎ このタイミングで消え始めちゃうんですか⁉︎ そんな殺生な⁉︎ 他にもまだ聞きたいことや助けてほしいことがあるのに、なんでこんなにもタイミングが悪いの⁉︎

 

 

「まっ……待って‼︎ ……桃に桜さんを返せないと、桃が……笑顔になれない……‼︎ 私……何のために頑張っていたのか分からなくなる‼︎ それに……白哉さんにお礼を言いたいのならば、尚更消えてほしくないです‼︎」

 

 

 桃と約束したのに……桜さんを見つけて会わせるって誓ったのに……白哉さんも喜んで手伝ってくれるって言ってくれたのに……それが叶わないだなんて、こんなの認められるわけが……

 

 

「……大丈夫! 白哉君への礼なら君が代弁してくれれば、それなりに彼も受け止めてくれるって思ってるから。それに、桃ちゃんはもう……私より、町より、自分より大切なものができたみたいだから。笑顔なんてすぐ見られるよ」

 

「……?」

 

 

 えっ……? それは一体どういう……

 

 

「……それにコアはいつか取り出せるよ。君が超強い魔族になって、呪いを克服すればいい。そしたら、私が支える必要がなくなるから」

 

 

 そ、そっか。別に取り出せる方法がないってわけじゃなかったんですね……いやよく考えたら難しくないですか⁉︎

 

 私、デカいタイヤを引けないどころか激しい運動に長く耐えられそうにない魔族ですよ⁉︎ 目安となる強さになるのに結構時間がかかるかと思います‼︎ ま、まあ低確率で意外となんとかなるかもしれないですけど……

 

 

「それから……ちょっと耳貸して。一つ……お願いがあるんだけど」

 

 

 えっ? こんなに近くにいるのに、なんでわざわざ耳元で伝えようと……って⁉︎ なんか本当に消え始めてる⁉︎ 桜さんの身体が消え始めてる⁉︎ ちょっ……桜さんの声が小さくなりそうだから、言われた通りちゃんと耳を貸してあげないと……

 

 

「桃ちゃんのことを、白哉君と二人で見ていてあげて。まさかこの町にあの子が戻ってくるなんて思わなかった。不器用だけど、とってもいい子なんだ。本当は一人、あの子の事をちゃんと見てくれる子がいるんだけど、その子は海外出張みたいな感じでしばらく戻れそうにないって聞いたから……」

 

 

 あっ。前までは桃の事を見てくれていた人がいたんだ。けど海外に行っててしばらくは桃の事を見てくれる人がいなかった、と……

 

 だったらその人が戻ってくるまで……いや、戻って来れないままでも大丈夫だと思ってくれる程になるまで、改めて私と白哉さんで桃を支えよう。また困ったことがあれば手を差し伸べてあげよう。それが、今の私達が出来る最善の手段。

 

 

「……はい、目を離しません‼︎ 宿敵ですから」

 

「よかった……これで安心して潜れる。そしたら! ついでにちょっとこの町を守ってみてよ」

 

「はい………………って、ええっ⁉︎ ついで⁉︎」

 

 

 なんでついでレベル⁉︎ 本来なら一番重要となる役割を、ついで感覚でやれってこと⁉︎ そんなんでいいんですか自分が守ってきた町の扱いは⁉︎

 

 

「君の考え方は私とちょっとだけ似ている気がするんだ。期待してるよ。……うーん、もう少しだけ話せるかな?」

 

 

 あっ……よく見たら、桜さんの身体の下半身が消えてしまっている。本当に、ここで桃と桜さんを合わせられなくなってしまうんだ……

 

 

「また魔力のヘソクリが溜まったらお話ししよう。毎日ちょっとだけ眠くなると思うけど、そこは許して。……それと、最後に一つだけ伝えたいことができた」

 

 

 ……えっ? ここにきて伝えたいことができた?一体何を伝えようと……?

 

 

「君は白哉君に対して愛が重たくなる自分が怖いんだったよね? そのせいで、いつか白哉君が自分の元からいなくなってしまうことも恐れて……」

 

「ウグッ⁉︎ ……図星をつかないでもらいたかったです」

 

「あ、それはごめん」

 

 

 やっぱり誰か白哉さんに対する感情を読まれてしまう、なんてことにはなってほしくなかったですね。その事を見透かされて引かれるのも嫌だったし、それはそれで白哉さんを傷つけてしまうかもしれないし……

 

 

「───でも、大丈夫」

 

「えっ?」

 

「彼はそんな君にも優しく接してくれる子なんでしょ? だったら君に対する答えを出してくれるのも、そう遅くはないはずだよ」

 

「そ、それは……そうかもしれませんけど……」

 

 

 白哉さんが答えを出してくれる日も近い、か……どんな答えを出してくれるのか気になるので正直聞きたいって思うけど、それは逆に怖くも感じてしまう。

 

 もしも、こんな私に対して白哉さんが出してくれた答えが、私を拒絶するようなものだったとしたら、私と白哉さんがどうなってしまうのか……

 

 

「あっ。ちなみに拒絶される、なんてことは考えなくていいよ。彼がそんなことを考えるような子とは思えないし、何より否定しようとはしない根本的な理由があるみたいだしね」

 

「えっ……?」

 

 

 根本的な、理由? それは一体どういう───

 

 

「今度こそ時間か……それじゃあね。白哉君と、お幸せに☆」

 

「ぬがっ……⁉︎」

 

 

 ひ、引っ掛かりのあることを聞こうとする前に、とんでもない捨て台詞を吐いて消えていった……⁉︎

 

 お、お幸せにって……だ、段階が早すぎるでしょうが‼︎ そのセリフはけ、け、結婚した人達に対して投げかけるものでしょうが‼︎ わ、私達は付き合ってすらいないのだから、踏み越え前提のメッセージはやめてくださいよ‼︎ 色々と気まずいでしょうが‼︎ 血は繋がってないとはいえ、やっぱり姉妹じゃないですか‼︎

 

 ってかとんでも台詞を吐いて消えるな卑怯者‼︎ 消えるなァァァッ‼︎ というか逃げるなァァァッ‼︎

 

 

 

 か、完全に消えてしまった。消えるなって言ってもやっぱり待ってくれるわけもなかったみたいですね。なんか複雑です。最後の最後で桃みたいに白哉さんの事で揶揄われたし……

 

 ………………それにしても、桃のことを見ていてあげて、か……確かにそれは重要な役割の一つとも言えるかもしれない……

 

 よし! とにかく今は帰ろう。桜さん直々の頼み事を……約束を果たす為に。

 

 まずは帰り方を探そう。嫌な思い出をちぎっては投げながらうろつけば、いつかは帰れますよね‼︎

 

 私、無事帰ったらなんとかの杖を使ってパンケーキ食べます。超強い魔族になるなら、これくらい余裕余裕………………今、とんでもない死亡フラグを立ててしまったような───

 

 

 

 刹那。私の背後の壁が爆破したかのように吹っ飛んだ音が聞こえた気がした。

 

『ギャオォォォォォォンッ‼︎』

 

 

 

 嫌な予感がしたのか後ろを振り向けば、私から見て左側の壁が崩れ落ちており、そこからモンス○ーハン○ーのリオ○ウスみたいに巨大な翼に鉤爪がある竜が出てきた。しかも十数体も。

 

 あっ……これ、フラグ回収が開始されてるパターンですね。分かります……って、宣言して僅か十秒で回収されてたまるかー‼︎ こんなどのようにして入院してた頃の私にトラウマを植え付けたのかも分からないドラゴンさん達に、すぐボコボコになんてされてたまるかー‼︎ こっちにはズルい武器があるんだ、絶対負けるわけには……

 

 

 

 数分後。

 

 

 

「嘘でした‼︎ 余裕なんてありませんでした‼︎ 牛さん相手よりもめっちゃ手強いです‼︎ 当然と言っちゃ当然だけど‼︎」

 

 

 このトラウマなのか分からないドラゴンさん相手に楽勝なわけがなかった‼︎ 皮膚が硬い上に数が牛さんよりも多いせいか、合計でなんと二十四頭もいたドラゴンさんを七頭までしか倒せなかった‼︎ なんか翼で防御とかをする程に知性も高かったみたいで、かなりハードな敵でした‼︎

 

 ぐぬぬ……なるほど。武器はあっても、持ち主に体力がないとジリ貧になる。魔族覚えた!

 

 って、しまった⁉︎ 逃げた先は壁! 行き止まり! つまりは詰み! 現実世界でこの状況だったら絶対死んでる‼︎

 

 というか今から逝ってしまいそうなタイミングなんですけど⁉ ドラゴンさんの一体がこちらに向かってデカい翼を振り下ろそうとしてる!!

 

 

「ここまでか………………これで勝ったと───」

 

 

 

 ───優子に、俺の幼馴染に触れるな‼︎ このリ○レウス擬きどもが‼︎

 

 

 

 ………………あ、あれ? 不思議ですね。ここにいるはずのない白哉さんの声が聞こえてきたような気がします。これってあれですか? 幻聴? それとも走馬灯? いや走馬灯の可能性は無いですね、だって夢の世界でボコボコにされても死にはしませんし……

 

 でも、いつの間にか白哉さんの幻みたいなのが見えてきた気がします。翼を振り下ろそうとしていたのにいつの間にか倒れ伏せているドラゴンさんの上に立っているし、なんか某ロン○ミアン○みたいに金や青の縁で覆われた銀色の円錐状の槍を持っているみたいですし……

 

 ………………ん? 『ドラゴンさんが倒れ伏せている』? その上に白哉さんが立っている? しかもロン○ミアン○みたいな槍を持って? えっと……幻だったら突然上から来ても、ドラゴンさんを踏みつけられるわけない、ですよね? こんなに時間がかかってもドラゴンさんが翼を振り下ろしてこないのはおかしい、ですよね? あれ……?

 

 まさかと思いながら、私は目をゴシゴシと念入りに擦ってみた。そして一度目を閉じ、ゆっくりと見開く。その視界の先に見えたのは───

 

 

 

 何処ぞの宴好き褐色王子様の色違い版の格好──召喚師覚醒フォーム──をした白哉さんが、私の目の前で翼を振り下ろすはずだったのに倒れ伏せていたドラゴンさんの上に立っており、他のドラゴンさんの集団を強く睨んでいた。

 

 しかも右手には某ロン○ミアン○みたいに金や青の縁で覆われた銀色の円錐状の槍を持っており、銀色の光沢が強く象徴されていた。

 

 

 

 ………………えっ……? 嘘……? いや、そんなはずは……彼が自力でここに来るとは思えないはずなのに。いや来てくれたらそれはそれで嬉しいけど……

 

 

「優子、来るのが遅くなってごめんな。後は俺に任せてくれ」

 

「びゃ……白哉、さん……? ………………‼︎ 白哉さん……!!」

 

 

 不思議と目に水みたいなのが溜まって視界が濁っている気がした。涙が出そうになった。それは一時的に助かったと思ったからではない。白哉さん本人が私の夢の世界に現れたことによる喜びからだ。

 

 何故私の夢の世界に来れたのか、どのような手段を使って潜って来れてのか、それは分からない。けど、こうして白哉さん本人が夢の世界に来て助けてくれた。その真実を知れただけでも嬉しかった。心の底から、すごく。

 

 

「さてと……とりあえずまずはあのリオレ〇ス擬き集団を片付けてもいいか? それとも倒しちゃダメな奴か?」

 

グスッ……いえ、ヤバい敵なので残り全部倒したいんですけど、正直体力が……」

 

「んじゃあ代わりにここからは俺が倒すよ。いいか?」

 

 

 白哉さんはそう聞きながら、私に向けて微笑みを見せてくれた。嗚呼、これだ。この笑顔だ。このいつも見せてくれる笑顔が、私の思考を狂わせる。そして私を安心させ、私の心を満たしてくれる。

 

 そんな彼だから、やっぱり私は……

 

 

「……はい!! お願いします!!」

 

 

 私からのドラゴンさん撃退の許可を受けた白哉さんは、また先程と同じ笑顔を私に見せ───

 

 

 

「───了解しました。我がシャドウミストレス」

 

 

 

 そう言ってくれた後、白哉さんは再びドラゴンさんの方を向いた。

 

 ………………って、えっ? 今、白哉さんは何を言っていました? シャドウ、ミストレス……我がシャドウミストレス……『我が』……

 

 ………………

 

 

「ぎんjdxみfgばぞいふyぅjけうおsぱぽcydちふぁyxしっ⁉︎」

 

 

 ろ、呂律が……!! 呂律が回らない……!! 『我が』⁉ 『我が』シャドウミストレス⁉ 今さっき、『我が』シャドウミストレスって言ってませんでした⁉

 

 気のせい⁉ 私の聞き間違い⁉ それとも白哉さんの意地悪⁉ い、いや白哉さんが意地悪なことを簡単に言うとは思えないし、私の心を弄ばすようなことも言わないはず……き、気のせいですよね!! 気のせいでしかないですよね!! 絶対そうだ!! うん!!

 

 って……あ、あれ? なんか、白哉さんの顔が赤くなっているように見えた気がしたのですが……気のせい、ですかね……?

 

 

 

 

 

 

 慣れないことはするもんじゃなかったな……なんだよ我がシャドウミストレスって。別に優子の従者になったわけじゃないのに、これじゃあ彼氏面して調子に乗ってるアイドルオタクか何かかと思われるじゃねぇか。むっちゃ恥ずかしいんだけど……

 

 この俺、平地白哉は、先程まで不完全な契りによって自分の夢の中でクローズハート・プリズン……『心閉ざしの牢獄』『真意を求める空洞』に閉じ込められていた。けど、突然俺の目の前に現れたフードの人の助言によって脱出することに成功した。

 

 そして、その助言通りのことをしたことによる影響で、先ほどまでキーホルダーになったままの槍も本来の姿を取り戻してくれて、この槍の力によって優子の夢の世界に突撃。その時の衝撃によって彼女に襲い掛かって来たであろうリオレウ〇擬きの一体を撃破した。

 

 この槍、『本当に設定どおりになってるとはいえ』、滅茶苦茶強いな……正にぼくがかんがえたさいきょうのぶきって感じだな。

 

 おっと、そんな事考えている場合じゃなかった。〇オレウス擬き集団が俺と闘うことをまだかまだかと待っていて、痺れを切らしているだろうし、そろそろ行くとするか。

 

 

「それじゃあいくか、セイクリッド・ランス」

 

 

 槍──セイクリッド・ランスを軽々しく振り回し、リオレウス擬き集団にに穂先を向けながら構えを取った。こいつを使うのは初めてだが、使い方は『アレ』を見てきちんと把握したんだ。絶対使いこなしてみせる……‼︎

 

 心の中でそう誓った途端、集団のうちの一体がこちら目掛けて突進し始めた。サイズがデカいからという理由もあってか、闘牛とは比較しても屁でもない程のスピードだ。こんな狭い場所で、俺の後ろには優子がいる。回避するタイミングなんてないし、庇おうにも普通ならば到底無理な条件だ。

 

 けど、この時の俺は違った。頭で何かを考える前に咄嗟に身体が動き、セイクリッド・ランスを突き上げただけで、穂先に触れたリオレウス擬きの顎を中心に吹っ飛ばし……所謂アッパーカットを炸裂させた。

 

 

「ウオラッ‼︎ ……って、は?」

 

 

 セイクリッド・ランスによるアッパーカットを受けたリオレウス擬きは、巨体の持ち主とは思えない程に軽々しく吹っ飛ばされて口に溜まってた濁りを吐き、重力に負けて即床に落下。その時に背中に受けた衝撃も加わって白目を剥いた。謂わば気絶ってヤツだな。

 

 

「……威力半端ねぇな」

 

 

 ……スゲェなこのセイクリッド・ランスは。振り上げて一撃を与えただけでリオレウス擬きを一発KOだぞ? 素での威力高すぎね? ふおぉぉぉっ……‼︎(歓喜)

 

 って、感性に浸ってる場合じゃねェな。呆然としていたリオレウス擬き集団が正気を取り戻しちゃって、内二体が突進を始めてきたよ。

 

 けど残念だったな。この槍は数の暴力にもそう簡単には屈しない性能を誇っているんだぜ? 例えばこのように……

 

 

「光の壁よ、俺達を守れ‼︎ シャイニング・ウォール‼︎」

 

 

 地面にセイクリッド・ランスを突きつけることで、前方から透明なガラス板みたいなキラキラに輝く障壁を生み出せるんだぜ? しかも〇ラゴン〇ールZのブ○リーのギ○ンティック・○ーティア……惑星を跡形もなく消し飛ばず技をも防ぐという『設定』持ちだそうだ。いやチートすぎね? 惑星を容易に破壊する力に耐えるとか……

 

 一言で言えば『これも強すぎる』。その証拠としてか、障壁──シャイニング・ウォールに衝突した二体のリオレウス擬きは、その衝撃による反動とそれによって発現・発光されて光のダメージを受け、その場で倒れ伏せてしまった。

 

 ……いやぶつかった奴を気絶させられるってのも強すぎね? 『相手は死ぬ』という設定よりかは余程マシだけどさ……インチキにならね? 攻撃してきた奴を気絶しやすくするって能力は。相手の意識にダメージを与えるなんて最強の攻撃手段だぞ最強の攻撃手段。

 

 ……さてと、今度はこっちから行くとするか。リオレウス擬きは残り七体もいて、倒すのに結構時間を掛けてしまいそうだからな。とっとと終わらせて優子と一緒に帰る為にも、さらに本気でいくか‼︎

 

 

「炎と氷よ、相殺されずに我が槍に纏わりつけ‼︎ フレイムフロスト‼︎」

 

 

 高らかにそう唱えた瞬間、何処からか発生した炎の渦と吹雪の渦がセイクリッド・ランスに纏わりつく。吹雪は炎によって溶けず、炎は吹雪を消した後に相殺されるように共に消えることもなく、セイクリッド・ランスは赤と青が綺麗に輝く槍と化した。

 

 さすがは正にぼくがかんがえたさいきょうのぶきって感じの武器、色々と設定が盛り付けられて属性過多だな。

 

 おっと、これを言うのはこのフレイムフロストを使っている状態のこの槍で闘ってみてからじゃないとな。この闘いがセイクリッド・ランス初使用なんだし、この槍を上手く扱えてなかったら仮に負けて文句を言ってもただの逆ギレになるしな。

 

 

「さてと……いくぜ‼︎」

 

 

 再び高らかに叫びながら飛び上がり、病院の廊下の壁を蹴って勢いをつけながらセイクリッド・ランスを突きつける‼︎ これによって炎か氷の能力が拡散するような追加技系が発生すれば、全員にダメージを与えられるし、シャイニングウォールの件もあるからもしかすると少なくとも二・三体は倒せ───

 

 穂先が中央に立っているリオレウス擬きの一体の頭部に触れた途端、炎で出来た衝撃波が右側に、氷で出来た衝撃波が左側に大きく発生。咄嗟に飛んで回避したのであろう一体を除いて全てのリオレウス擬き達を巻き込み……

 

 右側の六体は身体中焦げまみれにされて気絶。左側の六体は全身を凍りつけられて身動きが一切取れない状態となった。

 

 ………………

 

 

「いや……ちょっ、えっ? ここまでチートの域を超えそうな程に強いものなのこの槍は? えぇっ……」

 

 

 あのさ……正直ここまで強い槍だなんて思わなかったよ? 小学生が考えそうなレベルの性能を持った槍で敵をほぼ全滅とか、何処のなろう系主人公が使う武器ですか? 『チート主人公・チート武器とか物語の展開とか考えてますか?』みたいなこと言われそうなぐらいの性能とかさ、使用している我ながら引くんですけど……怖っ……

 

 おっと、そんな事を考えるのは後にしよう。何せ後一体残っているからな。その一体はきっとリーダー格で、力も知能も他よりは結構高いと思われるからな。油断は禁物だ。

 

 

『───少年。貴様に一つ問いかける』

 

「うおっ喋った⁉︎」

 

 

 えっ、嘘ッ⁉︎ リーダー格のリオレウス擬きって人の言葉を話せるの⁉︎ しかも片言じゃねェ⁉︎ ……そりゃあ飛んで回避が出来る程頭が良いわけだ……(どういう理論だよ)

 

 

『貴様、そこの魔族にも被害が出ぬようにウチの子分達と戦ってたな。それは何故だ? 何故そいつを守りながら俺達と戦っている? 周りなど気にせずに戦えばもっと効率良く俺達を早めに全滅できる戦い方が出来たはずだ。だが貴様はそれをしなかった……何故だ? そこの魔族とはどのような関係だ? 余程の事でない限りは、そいつを守りながら戦おうとは考えないはずだ』

 

 

 ……何故優子を守りながら戦うのか。優子とはどのような関係なのか、か……

 

 

「……先程までの俺だったら、そう聞かれたら悩むところだなそれは」

 

 

 俺が優子のことをどう想っているのか。桃にその事を問いかけられてからは、どうしてその答えを見つけることが出来なかったのだろうかとはずっと疑問に感じていた。

 

 本当はただの幼馴染だと割り切ればなんとかなる話だ。けど、俺は優子に好意を持たれている。それも偶に愛が重くなる微ヤンデレ気質……一歩間違えれば自制が効かなくなる可能性のある程の。

 

 それほどまでのヤバそうな好意を持たれている事を知って尚、何故俺は優子から距離を置こうとはしなかったのか。何故彼女のその心境に寄り添おうとはしなかったのか。それは自分でも分からずにいた。

 

 けど……今ならばはっきりと言える。俺の過去……前世の事を振り返ったおかげで、ようやくその答えを見出せた。

 

 その見つけた答えとは、最もシンプルなものだった。

 

 

 

「昔っから好きだったからなんだよ。シャドウミストレス優子の……吉田優子の事が」

 

 

 

「………………ん? えっ? す、すき……好き? ………………ええええええええええええっ⁉︎」

 

 

 うおっ⁉︎ ビックリした⁉︎ 急に耳元にまで届く程のサイレンみたいな驚愕した声を発するなよ優子⁉︎ いや、驚いてしまうのも無理はないけどさ⁉︎ 信じられないだろうとは思うけどさ⁉︎

 

 

「あっ……あば、あばば、あばばばばばば……」

 

 

 あー……やっぱりアワアワ反応になるよね。無理もない。俺もいざ打ち明かしてみたら結構恥ずかしいし、身体が熱くなっているのを感じているし、ね……?

 

 おっといけない。何故こんな事を言うのか、理由を言っておかなければ───

 

 

『………………フッ、そうか。それが貴様の答えか。正しく今のそこの魔族の為とも言える一言だな。それを聞いて納得がいくというものだ』

 

「へっ……? いや、あの……ちょっと待って? 今理由を言おうとしたんだけど……」

 

『俺達に対しては理由を言う必要はない。今言った貴様の本音、それは俺達がずっと待ち続けていた言葉……貴様の未来の架け橋とも言える言葉。その答えを直接聞けただけでも充分だ。おかげで、またそこの魔族のこの夢の中で暴れる必要はなくなった、というものだ』

 

 

 えっ……? それ、どういう意味? ちょっと何言ってるか分かんないですが……

 

 

『お前の本心に免じ、俺達は金輪際そこの魔族に夢の中で襲いかからないことを誓おう。ではさらばだ』

 

「ちょっ、待っ、話はまだ終わって───」

 

 

 俺の制止など聞かずに、最後のリオレウス擬きは光の粒子となって突然消え去ってしまった。すると残りの気絶……戦闘不能になっていたリオレウス擬き集団も続けて光の粒子となって次々とこの場から消え去っていった。……何だったんだあいつら。

 

 うーん……とりあえず優子に無事かどうか聞いて、さっさとこの世界から出る方法を探さないとな。俺は夢魔の力を持ってるわけじゃないから帰る方法なんて分からないけど、なんとか魔力を使って出口がどこにあるのかを探知することを試みるとしようか。

 

 優子、未だに顔を真っ赤にして硬直中だな。これは正気を取り戻させるのに時間がかかるなこりゃ……

 

 って……あ、あれ? なんか、身体がふらついちゃって脱力してるって感が出てる気がするけど……気のせい、なのか?

 

 

 

 

 

 

 助けに来てくれた白哉さんは、急にとてつもない強さを披露させていた。なんか白哉さんが首に付けてるキーホルダーの形に似た槍をぶん回して、私が七頭までしか倒せず残り十七頭もいるドラゴンさんを一体だけ残してほぼ全滅させた。その勇志はとてつもなくかっこよく、私の彼に対する好意の心に強く、より強く響かせていた。

 

 けど、白哉さんのその強さ以上に心に響いてきたものがある。いや、出来てしまったと言った方が正しいかな? それは突然喋り出した最後のドラゴンさんの『何故そこの魔族を守りながら俺達と戦っているのか』という問いかけに対する答えだ。

 

 その問いに対し、白哉さんは答えた。『昔から好きだから』と。

 

 それを聞いた私は、自分の耳と白哉さんの発した言葉と声までをも疑った。いや、だって……信じられませんもん。白哉さんがこんな私の事を好きになるだなんて……これはきっと何かの間違いだ。最初は自分自身にそう言い聞かせていましたが……

 

 

 ───昔っから好きだったからなんだよ。シャドウミストレス優子の……吉田優子の事が。

 

 

 その言葉が今でも脳内から一文字も離れてくれなくて、その時の私の頭の中はジャ○リパーク並みにドッタンバッタン大騒ぎレベルに大混乱してしまいました。

 

 白哉さんが高らかに言った私への『好き』という言葉。それは恋愛的方面で言っているのか。はたまた幼馴染としてという意味で言っているのか。私はどちらの意味で彼の『好き』を受け止めれば良いのか分からなくなってきた。

 

 本音を言えば、恋愛的方面での意味で言っているものだと思い込みたいですね。私も今までそっち方面で白哉さんに好意を寄せているのだし、私自身が暴走したり白哉さんが距離を置いたりしない程度のアプローチはかけているはずなので、それが報われたら……そう願っている。

 

 けど、同時にそれはありえないのではとも思っている。私の白哉さんに対する想いがあれだし、それを前に本人に明かしているのだから、それなりの距離は置かれているはず。だから……どちらの意味での『好き』なのかを知るのが、怖くなってきた。

 

 

「なぁ……優子」

 

「はひゃい⁉︎」

 

 

 か、考え事をしすぎたせいか、白哉さんに声を掛けられて変な声が出てしまった……‼︎ へ、変に思われてませんよね? 私、変な顔して変に思われてませんよね⁉︎

 

 

「その……なんだ。積もる話はあるだろうけどさ、聞きたいことなら後で聞くから今はここから帰る方法を探そうぜ? 桃達もいつ俺達が目覚めるかって焦っているだろうしさ。」

 

「えっ……あっ、は、はい……」

 

 

 そ、そうでしたね。今私達は寝ている状態でしたね。しかも少なくとも私はトラウマ(?)に追いかけられたから、唸って桃達を不安にさせてしまっているはず。だから早く起きて三人を安心させてあげないと。

 

 よし、そうと決まれば帰れる方法を見つけよう‼︎ 互いにチート武器を持っている私達二人ならば、少し休めばどんな敵が来ても負けな───

 

 

「あっ、ヤベッ……」

 

 プヨンッ

 

 

 ん……? 今、胸らへんに違和感が起きたような……何かが私の胸の上に乗っているような……

 

 

 

 あっ、白哉さんの顔だ。白哉さんの顔が私の胸に軽くダイブしてる。

 

 

 

 ………………って。

 

 

「めりゃあああああああああっ⁉︎ びゃ、びゃ、びゃ、白哉さん⁉︎ えっと……その……ええっと……ええっ⁉︎」

 

 

 な、なんで⁉︎ なんで急に私の胸に埋もれてくるんですか⁉︎ いやその、正直私を求めてる感が出てる気がして悪くはないんですけど……夢の中とはいえ、せめて時と場所は……じゃなくてぇ⁉︎

 

 

「いや、その……す、すまん。ど、どうやらこのセイクリッド・ランスを使うの初めてだからなのか、魔力を使い過ぎて疲れた……ってな感じなんです。セクハラする気はなかったんです。ホントすいません……」

 

「えっ……? あっ。そ、そうですか……」

 

 

 そ、そういうことだったんですね。初戦闘で力の使い方や加減を誤ったせいで疲れたから立てなくなって、その場で倒れ込んだって感じなんですね。そ、そういうことだったんですね。……ちょっと残念な気がします。

 

 って、熱っ⁉︎ 胸の部分が熱っ⁉︎ よく見たら白哉さんの顔が真っ赤になって、そこから湯気が出てきているじゃないですか⁉︎ や、やっぱり胸に埋もれるのは恥ずかしいんですね……分かってはいましたけど……

 

 と、とりあえず、なんか視線を感じるので羞恥死する前に白哉さんを退かしてあげないと───

 

 ……ん? 視線? なんで二人しかいないこの世界で視線を感じるんだろう……?

 

 あっ、前方に等身大の注射器やら点滴やらがこっちに向かってきてる。正真正銘の私の記憶のトラウマから生まれたオバケだ……って。

 

 私は今、体力が回復してない為動けない。そもそも白哉さんの顔が胸に埋もれている為、退かすのにさらに体力や時間が掛かる。白哉自身も魔力がカスカスな感じで動けずにいる。これって……

 

 

「詰んでるじゃないですかヤダー⁉︎」

 

 

 最悪だー⁉︎ なんでこのタイミングで私の記憶のトラウマオバケに遭遇してしまうんですか⁉︎

 

 体力がない‼︎ 白哉さん動けない‼︎ ごせんぞとの連絡がまだつかない‼︎ 退路が分からないというか塞がれてる‼︎ これホントどうしよう⁉︎ 打開策は……何か打開策はないのですか⁉︎

 

 

「せ、せめて……せめて俺が優子の盾になれば……優子への被害は最小限には抑えられるし、第一夢の中なら死にゃあせんしな……」

 

「ま、待ってください白哉さん‼︎ 捕まったら悪夢に魘されますよ⁉︎ 無理しないで‼︎」

 

 

 ど、どうしましょう⁉︎ 白哉さんが私の盾になるとか言ってきたんですが⁉︎ は、早く策を考えないと、白哉さんに危機が……‼︎

 

 

 

「そうはさせるかー‼︎」

 

 

 

 刹那。桃色と黒色の二色の光が、トラウマオバケを一瞬にして吹き飛ばしたかのように見えた。そして、私達の目の前には、先程吹き飛んだトラウマオバケではなく……

 

 

「迎えに来たよ、シャミ子‼︎ 白哉くん‼︎」

 

「もっ……桃……⁉︎ 何故ここに……」

 

「……来るのが遅いのやら、タイミングが良いのやら、じゃねェか……」

 

 

 私の宿敵・桃が、変身する時のいつもの魔法少女とは別の姿で、私達の前に現れたのだ。助けてくれたのは嬉しいけど、白哉さんといい、どうやってこの世界に入って来れたのでしょうか?

 

 あと……

 

 

「なんか……黒くないですか?」

 

 

 いつもの魔法少女の衣装とは違う彼女の今の姿は、魔法少女とは思えない程に黒が多いですね。

 

 手には指出しグローブを付けているし、髪型はポニーテールで黒いヘアピン2本をクロスして溜めて『まぞく羽』が生えた黒いものみたいな謎パーツも付けているし、マントを羽織っているし、何故ここまでほとんど黒ずくめになっているんですか?

 

 

 

「闇堕ちしてきた」

 

「意味が分からない⁉︎」

 

 

 

 えっ? 闇堕ち? ……えっ? いや、桃が闇堕ちするのは互いにアドバンテージがあるから嬉しいんですが……ってあれ⁉︎ 怪我してる⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎ えっ? 古傷? それならよかった……

 

 そんなことより……よく見たらすごくカッコいい‼︎ 魔法少女の衣装よりもこっちの方が断然いいです‼︎ 背が高いからシンプルな黒が似合う‼︎ あ~興奮してきた───

 

 興奮し過ぎて滑らか一本背負いされました。調子乗りました……

 

 

「詳しくはあとで。帰るよ二人とも……と思ったけど白哉くんは立てそうにない感じだから背負っておくね」

 

「あっ、すみません。お願いします」

 

「……女の子に担がれるとか、男のプライドとかが廃れる気がするんだがな……」

 

 

 それは分かります。でも今の白哉さんは魔力消費し過ぎで気力がスッカラカンじゃないですか。ここは意地を張らないで桃におぶってもらいましょうよ。えっ? 私? いや私の方が担がれようにも重いだろうし、白哉さん背負うにも力が圏外だし……

 

 むぅ……ここで胸がチクチクするしムカムカしてきた……。今はなんとかここから出ないといけないのだから、いつもの発作みたいな感じに白哉さん絡みで嫉妬している場合じゃないってのに……

 

 

ダークネスピーチよ、聞こえるか。そこを曲がったところにゲートを開いたぞ! 早急に脱出せよ‼︎』

 

「ダークネスとは」

 

 

 ごせんぞからのテレパシーが聞こえてきた‼︎ そしてめっちゃワクワクするコードネームが出てきた‼︎ ダークネスピーチって何⁉︎ なんか一瞬R-17・5なジャンプ漫画が連想されたけど、気になる気になる‼︎ 極めて些末な問題でも結構気になる‼︎ 教えて教えて‼︎

 

 あっちょっ、尻尾紐やめて……やめっ……これで勝ったと思うなよー‼︎

 

 

 

 この時、私はまだ知らなかった。この夢の世界から出た途端に、白哉さんの事に関わる出来事と遭遇し、私達の運命が変わっていくことになるなんて……

 

 

 

 




白哉君、ついにシャミ子に対する本心に気づく‼︎ そして打ち明かす‼︎ そしてシャミ子はその言質を獲得する‼︎ 何これ?

頑張れシャミ子‼︎ この出来事を機に君も本心と向き合うのだ‼︎

次回で皆さんが期待していたであろうあの展開が起きるのか⁉︎ ただ、ストックしていた下書きの数もあるので、下手すれば一週間空けてからの投稿になるかもしれない……



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とある夢の世界と、とある人物の真実……すみません、状況が追いつきませんが…… by.シャミ子

まだまだ原作三巻編が終わりそうにないので初投稿です。

但しこの後のストックが一つ、思ったよりも早く溜まりそうである。


 

 ………………

 

 あ、あれ? ここは一体、どこなのでしょうか? 私は確か……自分の夢の中で桜さんに会って、真実を伝えられて、白哉さんに助けられて、彼の本音らしきことを聞いて、桃にも助けられて、それから……

 

 ダメだ、この後のことが思い出せない。私、あの後一体どうなったんだろう。ちゃんと現実世界に帰って来れたのかな? それともまた何かしらのトラブルに巻き込まれたのかな? それとも……

 

 

「もしもーし。聞こえますかー? なーんて───」

 

「聞こえますなんか寝転んでてすみませんでしたおはようございます‼︎」

 

「……おう、律儀良くてよろしい」

 

 

 明らかに聞き覚えのない声の持ち主による呼びかけで、思わず飛び跳ねながら起きちゃいました‼︎ 小学生ぐらいの男の子のような声だったけど、一体誰……

 

 あっ、ふと後ろを見たら人がいた。でも全身が羽織っている白いローブで覆われているせいで、男の人なのか女の人なのかも分からないですね。声質のこともあるので、男か女かどっちかなのか分からせてくださいよ……

 

 

「アンタからしたらはじめまして……と言いたいところだろうけど、こっちからしたら『久しぶり』なんだよな。そん時のアンタ、気絶しちまったんだろ?」

 

 

 えっ? 私の場合ははじめまして? そっちは久しぶり? 気絶した? えっ? どういうこと? 理解できる要素が一つもない……。あと、私は貴方の事を覚えてなくて貴方は私の事を覚えてないって、どんな記憶のすれ違いが起きているんですか? よく分からない……

 

 というか、私ってここ最近気絶した場面ってありましたっけ? 桃のトレーニングに付き合わされてバーンアウトになったり、白哉さんに胸揉まれたりついさっき告白みたいなを聞いて頭が混乱してしまったりしたことならありますけど、さすがに気絶までは……

 

 

「ほら、思い出せないのか? アンタはこの前、平地白哉の夢の中に入って気絶しちまっただろ? その時は夢の概念である俺がいたから、何とかそちらのご先祖様のところまで運んであげたんだよ」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

 

 って、あれ? 私、白哉さんの夢の中に入った覚えなんてありましたっけ? 白哉さんが見てる夢がどんなのかは気になりますが、夢魔の力を使って実際に入ったなんてことは……

 

 

「ウッ……⁉︎」

 

 

 あ、あれ……⁉︎ なんだか、頭が割れるように痛い……⁉︎ な、何これ……⁉︎ 頭に何かが流れ込んで……

 

 

 

 ───シャミ子よ、そろそろ白哉との関係性を進展させたいとは思わないのか?

 

 ───他人の潜在意識の世界に潜る力とそこでの言葉巧みによる洗脳だ。これらを用いて、白哉の度量とメンタル精神を鍛えさせてやり、お主に対する意識を良い方向へと強くさせるのだ。

 

 ───それってこちらが結婚前提に申し込んでいるってことになりますよね⁉︎ 結局愛が重たすぎる発言になるじゃないですかヤダー‼︎

 

 ───やります‼︎ 互いの進展の為の洗脳を‼︎ ぶっちゃけ白哉さんとようやく恋仲になれることに越したことはありません‼︎

 

 ───けどそんな白哉さんが大好きすぎて辛すぎるー‼︎

 

 ───よぉ○○、おはよう‼︎

 

 ───ところで■■君ってさぁ、何か趣味みたいなのはない?

 

 ───■■‼︎

 

 ───■■君‼︎

 

 ───■■さん‼︎

 

 ───■■‼︎

 

 ───あーあ、倒れちゃったか。ま、聞き取られる前に止めようとしたからタイミングは悪くなかったけどさ。脳に支障とか出ないだろうな? 確認しておくか。

 

 

 

 ハァ……ハァ……の、脳が割れるかと思いました……

 

 それにしても……そっか、そうだったんですね。

 

 私がごせんぞに抜けてた記憶の事を聞いたあの日。あの日に私はごせんぞの誘導で白哉さんの夢の中に潜り込み、互いの関係性を進展できるように洗脳──という名のプロデュースをしようとしたら、白哉さん本人か別人なのか分からない人の名前に掛けられたノイズによって……

 

 それでその日の記憶が飛んでいって、その場で気絶してしまった私を、どうやってあの世界に来たのかも分からないこの人によって、ごせんぞの元まで運ばれてたんだ。そしてその本人と出会うことになった……こんな偶然あります?

 

 とりあえず、お礼は言っておかないと。

 

 

「えっと……その……あの時は助けていただき、ありがとうございました。あの時貴方に助けてもらわなかったらどうなっていたことか……」

 

「そう畏まるなよ、俺が好きで助けただけなんだからよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 な、なんだろう。なんだか白哉さんみたいに優しそうなところはありそうだけど、彼からは白哉さんの軽い性格を強く出してるような感じがして、まるで『こんなの大したことではない』と言っているような雰囲気を曝け出してるような……

 

 って、そんなこと考えている場合じゃなかった‼︎ まず気にするべきところがあるんだった‼︎ それを知ることを最優先にしないと‼︎

 

 

「あの……ここはどこですか?」

 

「ん? ここか? ここは、そうだな……精神世界の精神世界、つまりは精神世界の奥底ってところだな」

 

 

 ?????????

 

 

「要するに夢の中に入っているアンタの夢の中ってとこだな」

 

「えっ⁉︎ 夢の世界は二重奏になってたのですか⁉︎」

 

 

 何となく察した‼︎ どうやら私は自分の夢の中で白哉さんと一緒に桃に運ばれていった時に寝ていて、その時の夢の中でこのフードの人と出会ったってことですね⁉︎ 夢の中にいる時に寝たらさらなる夢の世界に行けるって、夢の世界ってどんなシステムになっているんですか⁉︎

 

 あれ? ところでこの人、白哉さんの夢の中にもいたって言っていたけど、どのようにして私の夢の夢の中に潜り込めたんだろう? しかも桜さんとは違って私や白哉さんの思い出の中の住人としてこの場にいるみたいだし、何なのこの人……?

 

 

「さてと……突然だが、アンタに聞きたいことがある」

 

「えっ? き、聞きたいこと……?」

 

 

 なんか突然質問してきたんですが……というか、何を聞こうとしているんですか? ま、まさか白哉さんの夢の世界に来た経緯とかを洗いざらいに吐かせる気なのでは⁉︎ ど、どうしよう……⁉︎ 洗脳みたいなことしてることをバラしちゃったら、何をされるのか───

 

 

 

「あの日に平地白哉の夢に出てきた奴があの先どうなったのか、見てみたくないか?」

 

 

 

「………………はい?」

 

 

 えっ? どういうこと? 白哉さんの夢の中に出てきた人? それって、夢の中の白哉さん本人なのかもしれない容姿が普通の男子高校生の人の事? その人の数年後を見て何の意味が……

 

 

「だって不思議に思うだろ? なんであの時平地白哉じゃなくて違う奴が夢の中に出てきて、まるで奴が観点として置かれているかのような夢を、平地白哉が見るようになったのか」

 

「た、たしかに気になりますけど……そもそもあの人は誰なんですか? あの時の夢の中の白哉さんなのかもしれませんが……」

 

「その正体を教える為にも、今アンタを平地白哉の夢の中へと案内しようとしてんだよ。今の彼は力を使い切ってお休み状態。そして現実世界でも数分は寝るはず……なら、この謎を解決して変なモヤモヤを消すチャンスだぜ?」

 

 

 モ、モヤモヤって……たしかに彼の正体が何者なのか気になってはきたんですけど、モヤモヤしてしまう要素にはならないかと……けど、不思議と彼の正体がどうしても知りたいとは思ってしまうんですよね……

 

 なんであの人が白哉さんの夢の中に出てきたんだろう? 彼と白哉さんとは何の関係があるんだろう? そもそも彼は一体何者なんだろう……

 

 ぶっちゃけて言うと、目の前のフードの人の正体も知りたいんですけどね。なんで白哉さんだけじゃなくて私の夢の中に入れるのかとか、そもそも何故白哉さんの夢の中にいたのかとか、色々と気になる点がありすぎるんですよこの人は……

 

 でも……白哉さんの夢の中の人は記憶が飛ぶ前から気になってたから、今は彼が最優先かな? ってかそうじゃないといけない気がしてきた。

 

 むむぅ……なんであの人が白哉さんの夢の中に出てきたのか、結構不思議に思うんですよね……白哉さんと彼はどんな関係性を持っているのか、そもそも彼が夢の中の白哉さんなのか、そうではないとしたら正体が何者なのか、めちゃくちゃ気になるんですが……

 

 

「どうだ? 気になるか? 別にそうでもないか?」

 

「……はい、今モヤモヤしてきたので彼の正体を知りたいです」

 

「だろうな。知り合いの夢の中に出てきた見知らぬ奴が観点となるなんておかしいし、そもそも誰なんだって思うだろうしな」

 

 

 全く持ってその通りです。なんでここまで下手すれば赤の他人なのかもしれない人の事を気にしちゃうのか、自分でも分からないです。はい。

 

 

「そうと決まれば善は急げ。早速出発するとするか」

 

 

 えっ? 出発? 一体それはどういう……ん? あれ? なんかフードの人がチェス柄の床に右手を翳してきたんですけど? 一体何をする気なんでしょうか───

 

 ファッ⁉︎ えっちょっ、ええええええっ⁉︎ なんでェ⁉︎ なんで私とフードの人の間の足元になんか遊○王の《○撃の○力化》みたいなブラックホールっぽい渦が出てきた⁉︎ ちょっ、吸い込まれ……あれ? 吸い込まれない? な、なんだ……別に強引に引き寄せる力はないんですね。た、助かった……

 

 

「俺の能力は宿り主……おっと、平地白哉がこれまで見てきた夢の中をコピーや媒介し、その世界に行き来できる能力なんだ。ま、彼が寝てる時にしか使えないし、今のところ他の奴らの夢の中には潜ることが出来ないから限定的な能力だがな」

 

「いやそれでも魔族の能力の一つを使えるとかすごくないですか?」

 

 

 人の夢の世界に潜れる……夢魔の力を持った人が現状では私だけだと思っていたのに、まさかそれを知った日にこの場で下位互換の能力を持った人と出会うとか、運が良いと思うべきなのか悪いと思うべきなのか……

 

 

「さてと、平地白哉がいつ起きるのか分からないからさっさと行こうぜ……と言いたいところなんだが」

 

 

 えっ? さっさと行きたいとか言ってたのにどうして躊躇うようなことを言うんですか? 時間がないのなら早く行くべきなのでは……

 

 

「……今から行く平地白哉の夢の世界にいる、あの時の男の事なんだがな……あいつ、実は平地白哉と大きな関係性があるんだよ。つーか似ているというか同一人物……で、中身は一緒なんだけど今と前ではもう外側が違う、的な?」

 

「……ん?」

 

 

 えっ? はい? あの、すみません。今なんて? 同一人物で中身は一緒なんだけど、今と前ではもう外側が違う? それってどういう意味なんですか? 同一人物なの? それとも違うの? どっちなんですか? なんか設定が色々とごっちゃになってませんか?

 

 えーと……なんか中身は一緒だけど外側が違うというのは何となく想像がつきますが……だってあの時白哉さんの夢の世界に入ったら本人がいなくて別人が観点となっていたので、中身は白哉さんである可能性は高いとは思いますが……まぁ本当に中身が一緒なら、なんで普通の男子高校生の姿になってるのとか、どうして別の高校に通ってる夢を見てるのかとか、色々な疑問が生まれますけどね。

 

 

「まぁこんな説明だとわからんよな。要するに、奴の正体が平地白哉の正体と関係している……といったところだ」

 

「………………えっ? 彼の正体が、白哉さんの正体……? えっ?」

 

 

 ちょっと……えっ? 何ですかそのこの後『今明かされる衝撃の真実ゥ!!』と言われそうな発言は? いいとこベ〇ター? 白哉さんって本当はバリ〇ン七皇? なんか今にも切り札を七皇特融の力で引き出すために利用して、後に己の野望のために利用しそうな感じは? なんかそれはそれですごく気になるんですが。

 

 

「さらに簡単に言えば、もしかするとアンタがこれまで見てきた平地白哉のイメージが、これから俺達が見る夢の世界で崩れるかもしれないってこと」

 

「白哉さんのイメージが、あの後のあの人を見て崩れる……?」

 

 

 白哉さんがどういう人なのかという見分けの付け方が変わる、ということ……? そうなるかもしれない程に、あの人と白哉さんは何か深い関係が……?

 

 なんだか不安になるけど、何故だろう……見ないといけないと思ってしまう。それが今後の白哉さんとの付き合いを考えるとなると、ここで見ようとしないと後先後悔してしまうのかもしれない。

 

 だったら……

 

 

「それでも、私は見てみたいです。あの時見た白哉さんの夢の続きを」

 

「……覚悟はとうに決まったってことか。いいぜ、ついて来な。但し……」

 

 

 えっ? まだ何か───

 

 

「そのフォーム解いて普段着に戻れ。もしも俺とアンタとの間に何かあって俺が平地白哉に殺されてしまうってことになったら後々めんどくせぇから」

 

 

 ………………あっ。今の私、危機管理フォームのままだったんだ。そういえば彼、フード越しでは分からなかったけど私に声を掛けてきてから何やらずっと目を背けてたような……

 

 ………………〜〜〜〜〜〜⁉︎

 

 

「そ、そういうのは先に教えてくださいよ変態‼︎ びゃ、白哉さんが相手なら許してしまうけど、それ以外の人相手には絶対見られたくない‼︎」

 

「平地白哉に対する本性出てんぞー。後、俺は最初の一瞬だけしか見てねぇぞ」

 

「見た時間とかは関係ないです‼︎ 後、本性の件は言わないで‼︎」

 

 

 

 

 

 

 ちょっと揉め事を起こしてしまいましたが、とりあえずはフードの人の案内で白哉さんの夢の世界へ。

 

 ここは……壁とか机とかが白や鼠色で多いですね。しかもパソコンやコピー機がたくさん置かれている。そして人は全員がスーツを着ている。ここってもしや……何かの会社のビルの中ってことですかね? きっとそうだ。

 

 にしても人……というか社員が多すぎないですかね? 一応私達が探してる人は、何の変哲もない髪型をした黒髪で顔も普通の見た目をしてる人……なんですけど、みんな顔とか似てる人ばっかりで中々見分けがつきにくいです……誰が誰? みたいな感じです……

 

 

「とりあえず物陰に隠れながら探すぞ。見つかったら面倒だからな」

 

「あ、はい……」

 

 

 そうだった。いくらコピーされた(?)夢の世界とはいえ、この世界の人に私達の存在がバレたら白哉さんの記憶に支障が出るかもしれない。だから隠れながら夢の世界を歩き回らないと。

 

 と、とりあえずコピー機とかデカい植木鉢とかに隠れながら移動しないと。んで、肝心の白哉さんかもしれないあの人は一体どこに……?

 

 

「……おっ、いたいた。ほらあそこ。平地白哉と同じ目つきしてるだろ?」

 

「えっ? ど、どこですか?」

 

「よく見ろよ。あそこあそこ。部長の机の前の机から三番目のところだぜ」

 

「……あっ、ホントだ」

 

 

 フードの人が見つけたというところに視線を向ければ、そこには何の変哲もない髪型をした黒髪で顔も普通の見た目だけど、目つきだけは白哉さんと同じ人がいますね。目つきを見れば確かに白哉さんそっくりで、この人だってのが分かりますね。

 

 ……ん? あれ? なんだろう。目つきも雰囲気も白哉さんと似てるというのに、私の知ってる白哉さんとは何か違うところがある……というよりは、白哉さんにはあって彼にはないものがあるような……うーん、何なんだろ……

 

 

 

「やぁ。随分と捗っているようだね□□君」

 

 

 

 ……ん? んん? 今、部長らしき人が夢の中の白哉さんを呼んでましたよね? ちゃんと彼との目線が合うように話しかけてましたよね? そしてしっかりとした感じに名前で呼んでましたよね?

 

 それなのに……なんでだろう。前来た時みたいに名前のところにノイズが入ってないような気がする。聞き取れなくなっていることに変わりはないけど……

 

 

「あっ部長、お疲れ様です。こちら先日言われた資料、先程出来上がりました」

 

「おぉ、もうかい? 流石は□□君だ、仕事が良く出来ている」

 

「ありがとうございます」

 

 

 へぇ……夢の中の白哉さんって仕事がテキパキと出来る人なんですね。まぁ夢の中だからああいう人にみんななりたいって思いますよね。これこそ理想の社会人、的なのがより出ていて……

 

 って、あれ? なんか部長さんがどこか淋しげな表情をしているような……あれ?

 

 

「……? 部長、どうかしましたか?」

 

「あぁ……□□君、ちょっとこれは聞いていいのかどうか分からないのだが……」

 

 

 部長さんがそれだけ言うと、突然黙り込み始めた。えっ? 一体何を考えて……?

 

 

「えっと……何か不適切な点とかありましたか? そこをなんとか訂正しますので、教えていただけますか?」

 

「いや、仕事の方は何の問題もないんだ。仕事の方は、だがな……」

 

「部長……?」

 

 

 あっ、またシンッとした感じになった。な、何この沈黙の間は……見てるこっちも気の毒になるんですが……

 

 

 

「君、何かに熱中できる程の趣味はないのかね?」

 

 

 

 ………………えっ? あれ? 部長さん今、前にも夢の中の白哉さんが言われたことと同じことを彼に聞いてきたような……。あの時の彼の高校時代の夢の中でも、クラスメイトに同じことを聞かされていたような……

 

 

「えっ、趣味……ですか?」

 

「あぁ。最近耳にするんだ。『□□君は仕事は出来るが人間としては普通すぎる』『面白味もないしつまらないと思われる部分すらもない』『仕事と休日の両立が出来ていないのでは』と。そこが私はどうも心配でな……」

 

「そ、そんなダイレクトに言わなくても……確かに何かに熱中してる、みたいなことがないのは否定出来ませんが……」

 

 

 否定しないんですね……でも、趣味を持てずに仕事と休みを区別できるメリハリが持てないのはさすがにどうかと思いますね。仕事にばかり集中していると自分を失ってしまうし、いつかは倒れてしまう可能性だって……

 

 

「仕事を難なくこなすのは大事だ。だがそれをしようとして根詰まりしたりしないようにする為に、休日に何かを楽しむことも大事なんだ。仕事と趣味の両立、それこそが真の社会人としての在り方だと私個人は思うんだがな……」

 

「……そう、ですね……」

 

 

 部長さんの言葉に対して言い返しの言葉が見つからなかったのか、この夢の中の白哉さんは再びしばらくの沈黙を貫くようになってしまった。

 

 

 

 

 

 

「───って、あれ? 場所が変わって……?」

 

 

 気がつけば私は、会社のビル内ではなく何処ぞのカードゲームや家電なども売買してそうな品揃えのしている、青・橙・白のカラーリングをした壁のある古本屋の店内にいました。

 

 い、いきなり場所が変わったというか、アニメやドラマみたいに時間が飛んでるのかなこれ? 一応夢の中の白哉さん視点でこの世界は動いているのだし、その可能性はある……のかな?

 

 ところで夢の中の白哉さんはここにいるの……あっ、いた。青白チェック柄のYシャツと赤黒模様をしたズボンの姿をしてますね。一体何をしにこの本屋さんに……

 

 

「シャミ子、よく見とけよ。この本屋での出来事が、アンタ達や平地白哉との大きな関わりを生むことになっているのだからな」

 

「へっ?」

 

 

 この本屋での出来事が、私達や白哉さんとの大きな関わりを生むことになる? それは一体どういうことなのですか? 私達がこの本屋に来てる可能性もあるわけではないとは思いますし、そもそもあの人が白哉さんと関係あるのかどうかも、正直怪しいですし……

 

 うーん……とりあえず今予想できるところを挙げるとしたら、この世界の白哉さんは今、趣味探しの為に古本屋で興味の持てそうな本を探している……ってところかな?

 

 でも、ここでそう簡単に趣味を示してくれる本なんて出てくれるのかな? 本で趣味を見つける手段といったら、裁縫とか料理などの専門の本を読んで探すのが向いているとは思いますが……

 

 あっ。それらがありそうなコーナー行った。数冊読んだ。……ダメみたいでしたね。いや様々な専門の本があったのになんで? 男のロマンそうなバイクとかプラモデルとかの本もあったのに、ピンと来なかったんですか? えぇ……

 

 

「……漫画のところ行ってみるか」

 

 

 夢の世界の白哉さんはそう言って漫画コーナーに向かった。まぁ『○滅の○』や『○職転○』などといった現実の私達の世界みたいにトレンド入りされた漫画に興味を示してくれればいいんですけどね……

 

 

「ん? なんだこれ」

 

 

 漫画コーナーに入って僅か五秒。その僅か五秒で気になるようなタイトルの本を見つけたみたいですね。一体どんな本を彼は見つけたのでしょうか? そう思いながら、彼が本棚から取り出した本の表紙を見つめる。そこに描かれていたのは……

 

 

 

 『まちカドまぞく』というタイトルらしきものと、私・シャドウミストレス優子がごせん像を抱えている姿と、その後ろで私に背中を見せている魔法少女姿の桃だった。

 

 

 

 ………………って、えっ?

 

 えっ……? えっ……? 私と、桃が、本の表紙に……? えっ? 私、取材とかは受けた覚えありませんが……えっ? しかも『まちカドまぞく』って、まるで私のような魔族が多摩町で体験した出来事が描かれているかのような……

 

 

「なっ? おかしいだろ? アンタは俺の目の前にいるのに、奴の持ってる本にもアンタとその宿敵さんが描かれている。普通ならこんなことありえないはずだ」

 

「た、確かに……少なくとも私は本に載るような凄いことをした覚えなんて……」

 

「だが、この可能性も考えてみろ。もしもアンタ達がこれまで体験してきた事や過去談が、別世界では妄想によって生まれた創作物として書物などで執筆されていたとしたら……?」

 

「別、世界……? まぁそれなら、イメージとかで物語が創られたものが私達の体験談と似てる部分とかがあったらすごいと思い……ん?」

 

 

 あれ? ちょっと待って? 私達の体験談が、別世界では妄想によって生まれた創作物として書物などで執筆? それって……?

 

 あっ。いつの間にかあの人、一巻を読み終えていた。というか、五巻まであるんですね私達の事が描かれてあるあの漫画って。

 

 

 

「……フフッ。このシャミ子って子、面白いな」

 

 

 

 ………………えっ?

 

 あの人、今、私の名前を出して……えっ?

 

 

「先祖返りしたのに力が一般女性以下だとか、宿敵の桃に振り回されたりとか、戦闘フォームが痴女な恰好だとか、結構不幸な人生を送ってるなこの子。なんだか気の毒……」

 

 

 ぬがっ⁉︎ じ、事実を……私が実際に体験した事実までも書き記してるのかあの漫画は⁉︎ ひ、否定できないけどその事を聞くとなんだか腹立つ……‼︎ というかあの人もあの人で正直に思ったことを口にするなんて、さらに腹立つ……‼︎

 

 

「でも……なんだか応援したくなっちゃうな」

 

 

 ……へっ?

 

 

「特に桃に振り回されながらも、めげずに頑張ろうとする姿……俺だったら傷ついたり中々立ち直れなくなったりしてかもしれない。なのに彼女はなんとか頑張ろうとするなんてな……こんなが実際にいたら、好きになってしまうかもな。……なーんてな」

 

 

 そう呟きながらクスクスと笑うあの人の顔。その微笑みはまるで……

 

 

 

 私がこれまで見てきた白哉さんの微笑みと、一致しているかのように見えた。

 

 

 

 あ……あれ? お、おかしいですね。相手は白哉さんじゃないのに、なんで彼を見て、ドキドキが……? も、もしかして私、彼の事が……?

 

 って、違う違う‼︎ そんなはずがない‼︎ 私は愛が重くなってしまうほど白哉さん一筋になっているんですよ⁉︎ なのに他の人に鞍替えするなんて、そんな薄情なこと……‼︎

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、場面はトントン拍子のようにコロコロと変わり始めていった。

 

 ある時は家で漫画五巻全てをわざとゆっくりと読む彼。

 

 ある時はスマホで漫画の物語と同じ内容のアニメをクスリと笑いながら観る彼。

 

 ある時は私達のグッズを見つけて買ったのを部屋に飾っている彼。

 

 ある時はグッズをいつの間にか買い過ぎたのか自分は痛い奴みたいだと悟り嘆いている彼。

 

 ある時は会社やオンラインでその漫画の事を知っている仕事仲間と楽しく話し合っている彼。

 

 いや私達の事……というか『まちカドまぞく』関連のことで何かやっている彼しか見てないじゃないですか私? こそばゆいってのはありますけど、もうちょっと私達関連から外れた場面を見せてもらっても……

 

 

「おい、また場面が変わったぞ。今度は雨の街中での帰り道シーンだ」

 

「あれ、いつの間に⁉︎」

 

 

 よく見たら本屋でも会社でもあの人の家でないところにいるんですが⁉︎ 急になんかホントにトントン拍子で場面が変わっていって、もう追いつけない感じがするのですが⁉︎

 

 ってか、今雨が降ってるの⁉︎ 外⁉︎ と、とりあえずなんとかの杖を傘に変えないと……‼︎ 棒の部分があるし、傘に変わりますよね……? あっ、よかった。傘になった。

 

 えっと、あの人は……いた。ちゃんと傘差して歩いてる。歩きスマホとかもしてないですね。アレ危なっかしい。

 

 って、あ、あれ? なんか、向かい側のトラックのタイヤがツルッて……あっ⁉︎ み、水溜りでタイヤが言うことを聞かなくなったってこと⁉︎ これ、なんかヤバいのでは……

 

 ああっ⁉︎ あ、あの人のところにぶつかろうとしてる⁉︎ あ、あのままだと……‼︎

 

 

 

「───白哉さん、逃げて‼︎」

 

 

 

 ………………えっ? あれ? 今、私は何を言って……? 彼が本当に夢の中の白哉さんかどうかも、分からないのに……

 

 ふと疑問が過ぎってきた中、あの後起きる悲惨な結末を遮るように、またまた風景が変わりだした───

 

 

 

 

 

 

「ハッ⁉︎ こ、ここは……?」

 

「……いいタイミングで変わってきたな。ここが、今アンタが抱えている疑問を全て解決してくれるだろう、この夢の最後のシーンだ」

 

 

 最後の、シーン……ここまで見てきた展開での謎が、この病室関連して……

 

 ……ん? あれ? ちょっと待って? この病室、どっか違和感を感じるような……

 

 私はそう不思議に思いながら咄嗟に病室の扉を開いてみた。そこに広がる廊下は、何処か見たことあるような雰囲気が……というよりも『この壁さっき見た』って感じに見覚えのある壁の模様が見えた。

 

 えっ? ちょっと待って、ホントに待って? これってもしや……。とある点に察した私はそっと扉を閉め、フードの人の方に顔を向けて問いかける。

 

 

「あの、ここってもしや……

 

 

 

 幼い頃の私や白哉さんが入院してた、せいいき記念病院……じゃないですか?」

 

 

 

 そうですよね? 絶対そうですよね? 特にこの病室、私が桜さんに真実を伝えられる時にも一度見ましたもん。幼い頃の私が寝てた病室と同じ壁画模様が書いてありましたもん。それ以外なわけが……

 

 

「あぁ、正解だ。アンタがさっき行ってたアンタ自身の夢の中の舞台でもあるところだ」

 

 

 やっぱり……というかなんで先程まで私が夢魔の力を使っていたこと。知っているんですか貴方は。さとり妖怪ですか。何処にサードアイを隠しているんですか。

 

 でも、なんで私達の体験談が創作物として描かれている漫画にハマった夢の中の白哉さんの世界から、突然私達の世界での夢の世界に変わったのでしょうか? 不思議すぎて頭がパニックになりそう……

 

 というか、今病室のベットで寝ているのは誰なんでしょうか? これまで見てきた夢の中の流れからすると、夢の中の白哉さんである可能性は高いはず───

 

 

 

 あっ、幼い頃の白哉さんだ。寝ているってことは、入院したての頃なのかな?

 

 

 

 ………………って。

 

 アイエエエエ⁉︎ ビャクヤサン⁉︎ ビャクヤサンナンデ⁉︎

 

 えっ⁉︎ なんで⁉︎ なんで夢の中の白哉さん視点で続いていた夢の中の物語が、どうして突然幼い頃の白哉さん視点に変わるんですか⁉︎ ちょっと、わけがわかりませんよ⁉︎ ホントにどういうこと⁉︎

 

 

「えっと……ええっと……これは一体どういう展開………………ハッ⁉︎ ま、まさか⁉︎」

 

「ん? おっ? なんだなんだ? まさか察しがついたのか?」

 

 

 こ、これって、もしかすると……もしかすると……⁉︎

 

 

 

「白哉さんの前世は、あの見た目が普通な男性で、私達の体験談を創作物として描いた漫画のファンだった───という何かしらのロマンを感じさせる夢の世界ってことですかここは⁉︎」

 

 

 

 もしかして白哉さん、自分は私達の運命を変える為に、前世の記憶を犠牲に異世界から来た男なのかもしれない……そんな最近流行ってるとかどうとかのロマン思考を持っている、ってことですか⁉︎ そういうことなんですか⁉︎

 

 

「………………ハァ」

 

 

 えっ? なんでフードの人、溜息を? あっ、『そうはならんやろ』的なことを考えている感じですか。そ、そうですか。我ながら変な結論でしたよね。変なこと言ってすみませ───

 

 

「なんでこのタイミングで勘が良くなるんだよ……半分だけど、正解だ」

 

 

 そ、そうでしたか。半分正解でしたか。やっぱりこの結論はおかしかったてすね………………えっ?

 

 

「正解? 半分だけど正解? えっ? ……あの、今のは私の聞き間違い、ですか?」

 

「いや、聞き間違いじゃないぞ。半分正解だ。ま、とりあえず最後まで見ておくべきだ。……丁度いい時間だ。隠れるぞ」

 

「えっ。ちょ、ちょっと待って……」

 

 

 い、いきなり隠れるぞって言われましても……あっ⁉︎ ロッカーの中に隠れた⁉︎ えっと、えっと……そ、そうだ‼︎ ベッドの下‼︎ ベッドの下に隠れましょう‼︎ そうしましょう‼︎ うん‼︎

 

 で、しばらくベッドの下に隠れて数分が経ちました。せ、狭くて動けない……けど、無闇に動いたら寝てる小さい白哉さん──子白哉さんを起こしてしまいそうだし、我慢我慢……

 

 

「……ん? あれ? ここは……?」

 

 

 あっ。前に聞いたことのある男子小学生な声が、ベッドの上から聞こえてくる。これは間違いない、子白哉さんの声だ。私が入院していた頃はよく彼の声を聞いていたものだから、これは分かりますね。

 

 そういえばこの頃の白哉さん、確か交通事故に遭ってここに入院したって言ってましたね。そうなる前は確か、楽しいのか楽しくないのか分からない雰囲気を出していましたっけ。で、打ちどころが悪かったのか、入院してた頃の私と話してた時から今のように明るくなってたって感じですかね。

 

 うーん、なんだろう。今の性格へと変わった白哉さんが目覚めてどんな反応するのか、ちょっと気になる……

 

 

 

「ここ……何処だ? 俺は確か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……けどなんで思ったよりも痛くないんだ……? つーか、なんか()()()()()()()()()()()……」

 

 

 

 ………………あれっ?

 

 えっ、嘘? 白哉さん、本当にあのサラリーマンから転生していた? しかもまさかの前世の記憶持ち? いやだって、白哉さんが入院した理由は自動車との衝突事故が原因だと、私にはそう言ってましたから……

 

 ここであのサラリーマンが先程受けた出来事を呟くはずがないですよね? 前世の記憶の事を今世にまで持ち込めませんよね? 普通。でも身長の事も呟いてましたし……まさか、本当に……?

 

 

「い……おい……おいシャミ子」

 

 

 あっ。色々と考えてたらフードの人に声を掛けられました。というか貴方もいきなりベッドの下に入ってこないで? めっちゃビックリする上に状況的に何故か成人向け漫画を連想してしまいそうですし。私の純潔は白哉さんに捧げて……ハッ⁉︎ い、いけないいけない‼︎ どさくさに紛れる感じにまた白哉さんへの愛が重くなって……

 

 

「平地白哉の両親が入ってきて彼に抱きついてるぞ。俺達の存在がバレる前に今のうちに出るぜ」

 

「えっあっ。は、はい‼︎」

 

 

 そう言って私は促されるようにフードの人の後をついて行き、病室を出ることに。その去り際にて、子白哉さんが記憶が曖昧であることと手鏡を貸してほしいと言っていたのが聞こえ、子白哉さんの両親が動揺している様子が見られました。

 

 

 

 

 

 

 誰にも存在がバレない為にと病院の屋上まで移動した私達。ここでなら私や白哉さんが起きるまでゆっくりと話せるとのことでの移動らしいです。

 

 それにしても、夢の中での設定とはいえ、まさか白哉さんが前世持ちだったとは……そして今後起きるだろう私達の悲惨な結末を回避する為に、わざわざ自分も介入する形で私達と関わって……

 

 

「───事実だぜ」

 

「へっ?」

 

「平地白哉が前世の記憶持ちだったって件のことだよ。この夢の世界はな、実際に平地白哉が記憶した出来事を、いつしか彼やアンタに見せる為にそのままに再現されたプロパガンダなんだ」

 

「えっ」

 

 

 ………………えええええええええっ⁉︎ えっちょっ、マジで前世の記憶を……⁉︎ 白哉さん、本当に前世は長年趣味を持たなかったけど、私達の体験談の創作漫画にハマったサラリーマンだったってこと⁉︎

 

 というか、なんで白哉さんの前世の世界では私達の体験談が妄想だけで漫画やアニメによって完全再現されてたんですか⁉︎ わけがわかりませんよ⁉︎

 

 ……って、あれ? ちょっと待って。あの本を読んで、前世の白哉さんは特に私に興味を示していたって感じでしたよね? それって……

 

 

「もしかして、あの時私の病室に白哉さんが来たのは……?」

 

「興味本意でアンタと話してみたかったからだそうだ」

 

「……そこから私と仲良くなったのは?」

 

「仲良くなっても今後の出来事──イベント──に支障が出ないと考えて、そこからは単に仲良くなる為に関わってきたって感じだ」

 

「……私が愛が重い女になっても距離を置かなかったのは?」

 

「アンタに何かあって、今後の出来事に支障が起きないように処置する為なのと、そんなアンタの事を心配しての配慮の為だ」

 

 

 な、なるほど。そういうことでしたか……

 

 つまり白哉さんは、私や桃達がこの後体験する出来事を前世で漫画やアニメを通して把握していた。最初はその出来事に支障が起きないように派手に動きたくなかったみたいだけど、私の性格の変わり様を見て、特に私の事を心配して積極的に関わろうと決めた、と……

 

 

「あれ? ちょっと待ってください? じゃあ前世で私の事を『好きになったのかもしれない』って言ったことは?」

 

「嘘じゃないぜ。ただそこは彼が単純に忘れてたってだけだけどな」

 

 

 ………………

 

 えっと、それってつまりは……

 

 

 

 白哉さん、本当は前から私の事が好きだったんだけど、あのトラックの事故がきっかけで、その事を忘れてしまっていたってこと……?

 

 本当は、私は、白哉さんに、前世の頃から、対象が創作漫画の方の私に対してとはいえ、好意を持たれていた、と……

 

 

 

 ………………

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜⁉︎」

 

 

 か、顔だけじゃなくて、全身まで熱くなってきた気が……‼︎

 

 嘘……ええっ⁉︎ 前世での私に対するたった僅かな愛の力が、白哉さんを転生という形で異世界の垣根を超えさせたと……⁉︎ つまり、白哉さんと私は条件さえ満たせば相思相愛の関係になるってこと⁉︎ それって……それって……‼︎

 

 

「あっ⁉︎ で、でも、今の白哉さんはその感情の事を忘れてしまったんですよね⁉︎ そ、それだと私がその事を白哉さんに聞いたりしても意味がないのでは⁉︎」

 

 

 ちょっ⁉︎ な、何遠回りしようとしているんですか私は⁉︎ せっかく愛の重い自分から解放されて白哉さんとイチャイチャできるチャンスが生まれるかもしれないってのに……いや、やっぱりダメですね‼︎ 羽目の外し過ぎは災いを起こしかねないのでは⁉︎

 

 

「いや? アンタの夢の世界に来る前に、訳あって俺がその記憶を彼に思い出してもらうよう促したぜ。だからもう掘り起こし済み。そうじゃなかったら、あの時彼はアンタの目の前で『好きだ』とか言わないじゃん?」

 

「ですよねェェェェェェッ‼︎」

 

 

 なんか嫌な予感がしたのだけど、予想通りの答えが出ましたよコノヤロー‼︎ ということは、彼はもしかすると私に対して好意を振り撒くかもしれないってこと⁉︎ どうしよう、心臓が持たないかも───

 

 

「……逃げるのか?」

 

「えっ?」

 

「彼は……平地白哉は、前世を通してアンタからの想いに対する答えを……アンタに対する本心を思い出し、見つけることができた。彼のその踏ん張りを、アンタは躊躇して踏み躙るとでもいうのか? それともこれまでアンタが注ごうとしてきた愛情は偽りで、平地白哉を惑わす為の遊びだったのか? どっちなんだ?」

 

「………………」

 

「それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』から、愛想が尽きたってか?」

 

「……‼︎」

 

 

 白哉さんへの愛が、偽り……? これまで注ごうとした愛情は、遊び……? 好きになった人の中身が違うから、愛想が尽きた……?

 

  ……違う。そんなことは、そんなことは……‼︎

 

 

 

「そんなことはないです‼︎」

 

「たとえ誰になんと言われようとも‼︎」

 

「白哉さんになんて言われようとも‼︎」

 

「白哉さんの事がどうなのかと知ってしまおうとも‼︎」

 

「私は……‼︎ 私は……‼︎」

 

「白哉さんの事が───」

 

 

 

「あぁ悪い‼︎ 悪かった‼︎ 俺が悪かった‼︎ 意地悪した俺が悪かったからそこまでにしてくれ‼︎ 頼むから‼︎」

 

「………………はい?」

 

 

 あの、ちょっと? なんでここぞというところで止めるんですか? 改めて自分の本心を言おうとしたのに……

 

 

「アンタが平地白哉の事をどう想っているのかは分かった。けど、それを伝えるのは俺にじゃなくて、彼に……だろ?」

 

「……あっ」

 

 

 そうだった……そうでしたね。伝えるべき相手を間違えるところでした。危なかった……

 

 

「……さてと、そろそろ時間だな。アンタの意識がようやく目覚めるようだ。ほら、身体が透明になり始めてるだろ?」

 

 

 えっ……? あ、ホントだ。身体が景色と一体化し始めてる。もうすぐあっち側の私が起きる頃なんですね。こうなるまでの時間が長かったな……

 

 あっ、そうだ(唐突)。起きる前にせめてこれだけは聞いておかないと。

 

 

「今日は色々とありがとうございました。その……私にこの夢の事と白哉さんの事を教えてくれるなんて、貴方は一体何者───」

 

「んじゃ、またなシャドウミストレス優子‼︎ 立派な魔族になれるよう頑張れよー‼︎」

 

 

 ああっ⁉︎ 即座にテレポートしてるかの如くすぐさま消えたよこの人⁉︎ 私の質問から逃げるな卑怯者‼︎ 逃げるなァァァァァァッ‼︎

 

 そう嘆いた途端、私の視界は真っ白に包まれていった───

 

 




次回でようやく白哉とシャミ子の関係性が大きく変わる……のか?

久々に読者の方に評価をしてくださった!! それも4ヶ月ぶりで草。そして☆10評価で感涙……!!

しかも4月10日から11日までの僅か1日でお気に入り登録者数が6人増える……実はこの現象は初めてなんです。そこそこハーメルン内でのまちカド小説としての知名度が上がった……のか?

 


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転生者・平地白哉と、彼に恋するまぞく・シャドウミストレス優子

ついに大義を成し遂げたけど早すぎね? と思いながらも初投稿です。

今回、ついに白哉君とシャミ子が……⁉︎(ネタバレ乙)


 

 ………………ん? あれ? 私、今まで何をしていて……? 私は確か、フードの人の計らいによって、白哉さんの夢の世界に行くことになって、それから……えっと……何してたっけ?

 

 ハッ⁉︎ そうだ思い出した‼︎ 私は確か、桃に白哉さんと一緒に自分の記憶から出ようとした矢先に、フードの人に夢の世界の何処かへ連れて行かれて、白哉さんの夢の中であの時出てきた人の正体を探っていたんだった‼︎

 

 そして探っていく内にあの人と白哉さんの正体を知って、彼の本心もフードの人の口から聞いて、私の本心も改めて知って……って感じのところで起きたって感じですか。

 

 うーん……なんだろう、なんかフードの人の事に関して何か聞こうとしたことがあったような、ないような……何故かここだけが思い出せない。一番最後の記憶のはずなのに。

 

 って、あれ? この部屋の不気味な雰囲気の漂う感じ、何処かで……

 

 

「おはよぉ。目、覚めた?」

 

 

 あれ? この声、聞き覚えのある───

 

 

「ほげええええええっ‼︎ トリノバケモノー‼︎」

 

 

 アイエエエエ⁉︎ トリノバケモノ⁉︎ トリノバケモノナンデ⁉︎

 

 私の夢の世界からはデカい注射器や点滴とか、牛さんやドラゴンさんが出てきて、今度は鳥ィ⁉︎ まだ私の夢の世界から抜け出せてなかった⁉︎

 

 

「ごめんごめん、コスプレしたままだった! ここは私のラボだよ〜」

 

 

 えっ? お、小倉さん? そ、そっか、鳥の正体は小倉さんでしたか。なんだ、驚かさないでくださいよ……ところで何故そんな格好を? えっ? 中世のお医者さんのコスプレ? テンション上がるから着てみた? そ、そうですか……

 

 ってあれ? ごせんぞにミカンさん、拓海くんまでどうしてここに? 私達、確か私の家にいたはず……

 

 

『おぬしと白哉を救出する為に知識と準備が必要だったのでな、小倉の力を借りたのだ』

 

「救出……? というか今、救出する人のところに白哉さんの名前も出ましたが、白哉さんの方にも何か問題が……?」

 

『えっ』

 

 

 しかも本当に白哉さんが寝転がっているじゃないですか。それも私の右横で。というかよく考えたら、白哉さんの寝顔を生で見られるの今回が二回目になって……

 

 って、ああああああっ⁉︎ カ、カッコイイ……‼︎ やっぱり寝顔を見てもカッコイイって思ってしまって、またまた変な妄想が……いやこんな時に何考えてるの私⁉︎

 

 

『……そ、それはその……びゃ、白哉が寝不足みたいらしくな。それで突然寝てしまったのを何かしらのトラブルと勘違いしてしまっただけというか、何というかだな……』

 

「は、はあ……?」

 

 

 何ですかその理由……?

 

 

『と、とりあえず夢の中で魔力切れしてたようだから二度寝しているが、今はもう余達の心配はいらないがな……』

 

「えっと……? ま、まあ白哉さんが本当に無事なら別に何とも言うつもりはありませんが……」

 

『へっ? あっ。そ、そうか……そう言うならばまあ、余もこれ以上白哉の事を説明しないが……』

 

 

 何か隠し事をしてる感じがするのですが、無事であるならこれ以上聞かない方がいいのかもしれませんね。そう思って区切りをつけておかないと、何故だか私が変な怒りを持って取り返しのつかないことをしてしまいそうな気がするので……そもそもするなって話だけど。

 

 

「……ハッ⁉︎ そうだ桃‼︎」

 

 

 忘れてた‼︎ 桃も私の左横で寝転がっているんだった‼︎ 夢の中でも何故か真っ黒な格好で来てたし、闇堕ちしたとか言っていたし、一体桃にも何が……

 

 あっそうだ。白哉さんと桃に水分を与えておかないと。白哉さんも夢の中でだけど魔力を切らしたみたいですし……あっ、既に拓海くんにポ○リ飲ませてもらってる。しかも飲みやすいようにストローで。私もミカンさんからもらったシークワーサージュースを桃に飲ませてあげないと。

 

 で、ごせんぞと小倉さんの話によると、桃は白哉さんが謎の原理で自身の夢の中から私の夢の中へと直通して来たのとは違い、私の夢に入るために精神のみを闇属性に変えることで、一時的に私の眷属となったとのこと。

 

 つまり今の桃の精神は闇属性、肉体は光属性のダブル属性持ちの魔法少女になっているとのこと……って⁉︎ ナッ……ナナナナニソレ超カッコイイ〜〜〜‼︎ 金ピカの槍を持った時の白哉さんに並ぶほど超カッコイイ〜〜〜‼︎

 

 ん? ちょっと待って? 精神のみを闇属性に変えたって、それはどういう……

 

 

『そもそも此奴は精神的に闇堕ちの準備はとっくに整っていたのだ。おぬしの手によってな。これがどういうことか分かるか?』

 

「えっ?」

 

『つ~ま~り~。おぬしが白哉に対して向けてる感情とは別物ではあるが、桃はおぬしのことがダモッ

 

「ごせんぞーーーっ⁉︎」

 

 

 ちょっ、どうして急に自分の喉に手刀を当てたんですか⁉︎ えっ? 体が勝手に? それ意味が分からない……

 

 

「……おはよう」

 

 

 えっ? あぁここで桃が起き……あっ(察し)。そういえば依代状態のごせんぞはハートフルモーフィンステッキで操作できるんだった。何か言いかけたところで桃に止められたってことですか。そうですか……アハハ……(苦笑)

 

 でも……ここからが問題らしいです。魔法少女は精神──コアが闇に呑まれると、徐々にエーテル体も闇に変換されていくとのこと。つまり桃は弱体化しているってこと?

 

 えっ? なんか桃がミカンに魔法少女の姿になってもらうように指示を出して、ミカンさんが弓矢のような武器を桃に向けて……? えっ⁉︎ 何この絵面⁉︎ 裏切り者への制裁をしようとしているようで怖い‼︎

 

 

「過去の伝承によれば、闇堕ちを止めたい時は友情パワー的なやつを一発ぶち込むのがオススメなんだって!」

 

「小倉さんそれ何処の伝承です⁉︎」

 

「魔力的なショックを与え、肉体に傷をつけずにその魔力に合わせた属性に精神を染み込ませる作戦なんだ。俺の親父が先代の魔族や魔法少女から聞いたやり方らしいけど……生憎今はこの方法でやるしかない。だからシャミ子君は桃君から下がっていてくれ」

 

「先代の魔族や魔法少女って何⁉︎」

 

 

 頭の回転が出来なくて思わず二連ツッコミしちゃったんですけど⁉︎ みんな一体どんな原理で桃を闇堕ちから戻そうとしているんですか⁉︎

 

 やっぱり絵面が怖いから、桃が弱くなる分は私がトレーニングして強くなるのでやめてと言おうとしたのですが、桃が多少無理してでも今すぐ戻った方がいいと言われたので、私もやむ無く了承しました。今の桃の方が、なんだか辛そうでしたし……

 

 

「………………やったことないから一か八かの賭けだけど……他でもない桃の頼みだもの。成功してみせるわ。……大丈夫……大丈夫………………」

 

 

 成功するか否かの不安を抱えながらも、自身の冷静さを保ちながら成功させる為の暗示をかけるミカンさん。近距離で矢を打とうとすると謎の緊張が走ると言っていたみたいだけど、桃を助けたいが故か思ったよりも冷静になっている。これならきっと……

 

 

「戻ってきなさい桃。十年前に貴方からもらった気持ち……今返すわ‼︎」

 

 

 刹那。桃の心臓部を射抜く……否、入り込むが如く魔力の矢が放たれ、桃の心臓部を中心に橙色の光が放たれる。

 

 光が収まった時には、周囲を含めても特に大きな変化は起きておらず、桃も立ったままで一応無事な様子だ。悪魔の羽となっていた髪飾りは一部は黒いままだけど、装飾部分は天使の羽の羽に戻っていた。どうやら何とかなったっぽいそうです。……っぽいで済ましていいのかなこれ……?

 

 

「ミカン……嫌な役目させてごめん」

 

「……いいってことよ! 偉大なるミカンちゃんの友情ぱわーに感謝しなさい………………

 

 

 

 それはそうと、壮絶な緊張を強いられたので、呪いがもうダメです

 

 

 

 ゑ。それヤバくないですか?

 

 

「あっ、これみんな逃がさないとダメだね。怪奇術・瞬時転移‼︎」

 

 

 拓海くんがそう高らかに叫んだ途端、私達はいつの間にか小倉さんのラボの外に出ており、ラボはミカンさんの呪いのせいだからなのか突然地面から生えてきた蔦によって崩壊しました。うわぁ、惨い……

 

 

「あああ……またやってしまったわ……」

 

「呪いが発生してしまうのを耐えただけでも陽夏木さんは頑張れてたよ。えらいえらい」

 

「うう……ありがとう、拓海……」

 

 

 そして呪いを発生させてしまったミカンさんを拓海くんが父親の如く宥めることになりました。異性が抱きついているのに動揺とかせず優しく抱擁するとか、父親の鑑ですか貴方は? ある意味すごいですね。

 

 

 

 

 

 

 事が解決(?)したので解散し、未だ寝ているままの白哉さんをメェール君達召喚獣の皆さんに任せた後、私は一人でに悩んでいた。

 

 みんなに負担をかけたのに、桜さんのコアが返せそうにない事を桃になんて言えばいいのか。そして、白哉さんの正体を知ってしまった事を本人に伝えておくべきなのか。どれも答えを見つけることが出来ずにいた。

 

 とりあえず……今は先決して相談しておくべき事から解決しておこう。白哉さんの件は本人がまだ寝ているから後回しにしておいて、なんとかコアを取り出す方法を桃と話し合おう。

 

 そうして私は桃に桜さんの事を全て話した。今までの桃の頑張りを無駄にしたくない、なんとかコアを取り出して桃に返したい、けどどうすれば良いのか、そんな自分の心境を話したら……

 

 

「姉のコアはしばらくシャミ子が預かっていて。……姉がここにいることがわかった。今はそれでいい」

 

 

 私の心臓部……桜さんのコアがあるところを軽く叩きながら、桃はそう言った。そして、いつか超強いまぞくになってコアを取り出せるまで気長に待つとも言ってきた。しかもなんとかなる定期というテキトーさ。

 

 しかも『町を守る』っていう桜さんのお願い……強くなるためにもやってみたらどうかとも提案してきた。いや繋がりの強い家族の事が絡んでいるのに何故そんな大雑把な思考なの⁉︎ 意味がわかりません⁉︎ そもそもここは桃の町だから、桃が守らないと意味ないのでは……

 

 

「……コアの……姉の居場所が分かると、私がこの町に固執する理由、あんまりなくなっちゃうんだ」

 

 

 夕日を仰ぎながら、手で四角いカメラレンズの形を作る桃。その指の間には小さな町の一角が写っており、夕日によって美しく照らされていた。その風景を収めた後、再び私の方を向いて……

 

 

「だからこれからは、シャミ子が……ううん、シャミ子だけじゃないや。白哉くんも、ミカンも、拓海くんも……私の友達みんなが笑顔になれるだけのごくごく小さな街角だけを全力で守れたら───

 

 

 

 それが私の新しい目標になる気がするんだ。だから……考えてみて」

 

 

 演技でも無理強いでも何でもない、全てを曝け出した満面の笑みを、私に見せてくれた。

 

 

 

 なんで笑ってくれたんだろう。桜さんを……桃の大切な家族を返してあげられないのに。返そうにも、今の私ではどうにとも出来ないのに。なんで……なんで……

 

 けど、不思議だった。謝罪の念よりも、自分の無力さへの嘆きよりも、『笑ってくれてよかった』という安堵と喜びが強くなった気がした。そして気がついた時には……突如溢れてきたものが、私の瞳から零れ落ちていった。

 

 桜さんからの頼まれ事がこんな私にできるのかわからない。けど、桃が笑ってくれるほどの信頼は得られた。それに桃は町を守る手伝いをするとも言ってくれた。シャドウミストレスとしての威厳もあるのだし、やれるだけやってみよう。そう心の底から誓いの言葉を立てたのだった。

 

 

 

 

 

 

 桃と共に河川敷にてぽっきんアイスの誓いとやらを立てた後、私達二人は夕日を眺めながらぽっきんアイスを食べる。これから頑張ろうという意志を立てたのはいいのだけれど、何か忘れているような……

 

 桜さんのコアの事の他にもう一つ、解決しなければならないこと……えっと……そういえば、白哉さんは起きたのかな? ……あっ。

 

 

「あーーーっ⁉︎」

 

「うわっビックリした。どうしたのシャミ子?」

 

「思い出しました‼︎ 私の……いえ、私と白哉さんにとっての大事なことを‼︎ その事での私の答えを‼︎」

 

 

 いけないいけない、そろそろ私達二人の間で終止符を打たなければいけないことを、うっかり忘れて未解決にして一日を終わらせてしまうところでした。白哉さんは既にあの時の答えを見つけたんだ、だから、私も……‼︎

 

 

「シャミ子と白哉くんにとっての大事なこと……? あぁ、告白のことだね」

 

「えぇ。ようやく答えを見つけ出すことができたので……って⁉︎ な、何私がこの後しようとしているのかをストレートに口にしてくるんですか⁉︎ やっぱり他人の口からその事を言われると恥ずかしいのですが⁉︎」

 

 

 さ、さすがは恋愛お節介桃色魔法少女。私か白哉さんのどちらかが恋愛思考になると喰いついてくるだけのことはある……‼︎

 

 

「そっか……やっと勇気を持って彼に伝える気になれたんだね。正直揶揄いすぎたから、どちらかが告白するのかはまだ先だと思っていたよ」

 

「……自覚してるのなら、どこかで揶揄うのをやめられただろきさま」

 

「それはごめん。楽しくなってきたものだから」

 

「きさま……‼︎」

 

 

 楽しくなってきたから続けることにしたって……それ、貴方自身が私達二人を期待していた展開から遠ざけさせていることになっているんですよ? それくらい察してもよかったのでは?

 

 

「でも……大丈夫だよ。どんな時でもシャミ子に寄り添ってくれている白哉くんだもの。そろそろ彼自身も答えを見つけられたはずだし、きっとシャミ子の想いは伝わるはずだよ」

 

「桃……」

 

 

 むぅ……まるでいつも二人を見ているんだよ感を出してるように見えるので、そういうのをやめていただけませんかね……? それだと私だけに飽きたらず白哉さんのマウントをも取っているようで腹立つし、妬みも感じてしまうのですが……

 

 ……いえ、それでも桃の言う通りではありますね。何時でもこんな私の事を心配してくれて、何時でもこんな私の側に寄り添ってくれている彼だからこそなのか、いつかは彼の方から先に私の想いに対するを出してくれるのではないかとは薄々感じていたし、きっと……

 

 そうと決まれば、善は急げですね。そろそろ白哉さんが起きても問題ないのかもしれないですし、何よりどうしても『本音を伝えたい』という意志が強くなって仕方なくなってきた。

 

 

「……言質、取りましたからね。後で私達にとって幸福となる報告を受けて、先を越されたことを後悔しても知りませんからね‼︎ フハハハハ、翌日に吉報が来ることを震えながら待つが良い‼︎」

 

「むっ………………いいから早く行きなよ。白哉くんを待たせているだろうしさ」

 

 

 おっ? 私に先を越されるかもしれないという事実が受け止められないからなのか、桃が頬を赤らめ眉を顰めた表情を見せてきた。ミカンさんの話によれば、桃にも好きな異性がいるとのことだけど、どうやら本当のようですね。これは……これまで揶揄われてきた分の鬱憤を晴らせるチャンスなのでは?

 

 

「おやおや〜? 桃、そんな嫉妬じみた顔してどうしたんですか〜? さては図星? 先を越されることに対しての図星ですか〜? これはマウントを一枚取れた気がす───」

 

「いいから早く行っておいでッ‼︎」

 

「ごめんなさいでした調子乗りましたー‼︎」

 

 

 怒られて思いっきり背負い投げを喰らってしまいました……受け身の練習をしておいてよかったです……

 

 

 

 

 

 

「……ん。あぁ、もうこんな時間か……」

 

 

 優子の夢の中で彼女を助けに行き、出口を探そうとしたが予想してなかった魔力切れでピンチになった時に桃に優子と一緒に助けられた俺・平地白哉。魔力切れで疲れた為桃達に二度寝の許可を得たのはいいが、まさか思ったよりも長く寝てしまったとはな……昼飯食えんかったわ。

 

 よく考えたら、さっきまで寝てたのに夢の中で意識は持てていなかったみたいだけど、特に大したことは起きてない……のか? 魔力を寝て回復する為に意識を持てないように自動的になってるのか? まぁそうでもしないと起きれないとは思うけどな……

 

 

【マスター、今は夕方だけどおはようだメェ〜。身体は大丈夫だったメェ〜?】

 

「メェール君か……あぁ、もう大丈夫だ。心配かけてごめんな」

 

【いやいや、マスターが無事なら別に気にしないメェ〜。マスターならあの展開からでも無事で帰って来られると信じてたメェ〜】

 

「そっか……嬉しいけど、謎の信頼を得られてるのはなんか複雑だな……」

 

 

 原作にはなかった展開で、俺がピンチになっても生きて帰れるだろうという信頼はさずがにどうかと思うんだよなぁ。前世で得た原作知識がほとんど役に立たずに、少なくとも酷い結末で終わりそうだから……

 

 って、あれ? そういえば俺が寝ている間に優子達は一体どうなったんだ? 原作にはなかった嫌な展開とか起こってないだろうな? 急に不安になってきた……

 

 

「なぁメェール君。俺が寝てる間に優子達に何があったのか、もし知っているのなら教えてくれないか?」

 

【ん? いいけど、まあ大抵はマスターの思った通りの展開だったメェ〜よ?】

 

 

 メェール君が優子や桃から聞いた話や、二人の会話を盗み聞きしたことによって得た情報よると以下の通りとなっていた。

 

 

・一時的な優子の眷属になる為に桃が精神を闇属性に染めた

 

・優子と桃が起きたことで、ミカンの持つ光属性の魔力によって桃の精神を光属性に変換

 

・かなりの緊張の中で抑えていたミカンの呪いが爆発

 

・拓海の霊術によって全員外へ瞬間移動された

 

・原作通り小倉さんのラボは崩壊したが、案の定小倉さんは平然としていた

 

・夕方にて優子が夢の世界で桜さんに会って話してくれたことを桃に報告

 

・桃は桜さんが優子のコアの中にいただけでもよかったと思っている

 

・優子や俺達が笑顔になれる街角だけでも守れたら……という新しい目標を語った

 

・二人が河川敷に行ってぼっきんアイスの誓いを立てる雰囲気になった

 

 

 ……うん、確かに俺が予想してた展開──原作通りの展開になってたな。何処かは変な展開とかになってたらどうしようかとは思ってはいたけど、何事もなく進んでくれてよかった。何より……優子が無事で、本当によかった。

 

 ……さて、後は俺と優子の関係だな。

 

 俺はあの夢に出てきたフードの人に促される形で前世を振り返り、優子に対する想いについて思い返すことができた。けど、問題はここからだ。

 

 俺はこの見つけた答えを優子にどう伝えるべきなのか。俺が転生者であることも同時に伝えても良いのだろうか。それとも……ぬぅ、改めて考えるとどう伝えるべきなのかが分からなくなってきたな。

 

 いやこの期に及んで何ヘタレているんだ俺は。我ながら男として恥ずかしくないのかよ、マジでさぁ。

 

 ……けど、これ以上隠し事をしても後でバレた時に信頼を失ってしまう。だからここは正直に言うべきなのかもしれない。幸いにも優子は非常識な出来事をサプライズだと思い込んでいるから、それによって俺が転生者であることを知っても何かしらの支障が少なくなることを祈るか。

 

 そう考えているところに、インターホンの鳴る音が聞こえてきた。……来たか、彼女が。

 

 

【あれ、こんな時間に誰だメェ〜? はい……あっ、シャミ子ちゃんじゃないかメェ〜。こんにちはとこんばんはの境目だメェ〜】

 

 

 やはり訪問者は優子だったか。あの時俺がリオレウ○擬きの問いかけに対して答えた言葉の意味を聞きに来たのだろうな……ってかメェール君、こんにちはとこんばんはの境目ってなんだよ。どんな挨拶の仕方してんだよ。

 

 

『あっ、メェール君ですか? あの、白哉さんは今どういった状態ですか?』

 

【マスターならさっき起きて、眠気も飛んで意識がはっきりしてるメェ〜よ】

 

『そうですか……突然ですみませんが、彼と二人きりでお話させていただけませんか?』

 

【了解したメェ〜。ちょっと待っててほしいメェ〜】

 

 

 やっぱりか。やっぱりあの事について聞きに来たって感じだな。だったらもう逃げても意味はない。ちゃんと話してやらんとな……俺が転生者であることを、そして前世で優子達の漫画を読んで優子のファンになってたことを。

 

 

【マスター、シャミ子ちゃんがマスターと二人きりで話したいそうだメェ〜】

 

「奇遇だな、俺も優子とは一度話しておきたいことがあるんだ。メェール君は他の召喚獣達と一緒に自分達の世界に帰っててくれ」

 

【わかったメェ〜。……ここまで言っておいて告白とかじゃないんだったら、そろそろガツンと言ってやるとするかメェ〜

 

 

 いや、小声で不穏な事を言いながらゲートインしないでくれませんかね? さすがに足元近くにまで来たら聞こえるからね?

 

 さてと……そろそろ玄関で待ってる優子を出迎えてあげるとするか。彼女からの積もる話もあるだろうし。

 

 

「……お待たせ優子。上がっていいぞ」

 

「……はい、お邪魔します」

 

 

 優子を部屋の中へと招き入れ、俺は思わずテーブルの前で正座した。いざ話すとなって緊張してしまった感じだなこれは……落ち着け、落ち着くんだ俺。変に強張ると優子に余計な心配をかけさせてしまうから、なるべく自然体になれるように意識しながら……

 

 ん? あっ、優子も俺の目の前で正座した。彼女もいざ話すとなると色々と余計に緊張してしまうんだな。その気持ち、俺にもわかるよ。いざ話し合うとなると緊張してしまうの、よく考えたら他の人達にも起こりうることだったな。それなら仕方ないな、うん。仕方ない。

 

 さて、ここからどうするか……優子に俺が転生者であることを話すべきか、言い換える形で大抵のことを話すべきか、それとも……

 

 

「あ、あの……びゃ、白哉さん……」

 

「へっ⁉︎ お、おう。なんだ?」

 

 

 何から言うのか考えてたら、優子の方から声を掛けられたんだけど。先に彼女からあの問いかけについて聞いてきたのか?

 

 

「そ、その……これ言っていいのかわからないのですが……」

 

 

 ん? なんか質問するって感じではないな? 優子の方から何か言いたげって感じだな。まさか普通に勇気を振り絞っての告白をするというのか……?

 

 

 

「白哉さん、前世の記憶を持っているというのは本当なのですか?」

 

 

 ………………ん?

 

 

「それも前世では白哉さんや拓海くん、全臓くんのいない世界での私達の体験談が描かれた漫画・アニメのファンになったというもの……?」

 

 

 へっ……? はっ……? ちょっ……? えっ……?

 

 ………………

 

 

 

「はああああああああああああっ⁉︎」

 

 

 

 おまっ、ちょっ、えええええええええっ⁉︎ 俺が前世の記憶を持ってるのかって、優子達が出てる漫画・アニメのファンって……えええええええええっ⁉︎

 

 なんで⁉︎ なんでそんなこと知ってるの⁉︎ 俺、前世の事を一ミリも優子達に話したことなんかねェよ⁉︎ 話したとしても召喚獣達と白龍様にしか話してねェぞ⁉︎ 一体なんでそんなことを知って……

 

 ハッ⁉︎ しまった、優子には夢魔の力があるんだった‼︎ 夢の世界でなら俺が無意識に前世での出来事を夢の世界で体験していたら、その時に優子が俺の夢の中に入り込んで、前世の事とかを色々知ってしまったというのか⁉︎ その可能性は、あり得るな……

 

 ということは、優子は昨日までの間に既に俺が前世の記憶を基にした夢を見てたところに入ってきたってこと⁉︎ そしてその事を今日になるまで黙っていた⁉︎ つまり俺は前世の事を隠す必要なんてなかったってことなのか⁉︎ そ、それは予想外だった……

 

 で、どうしよう。肯定した方がいい、のか……? いや、その前にいつ俺の夢の世界に行ってたのかを聞かないと。いつから俺の正体を知ったのかってのをあらかじめ知っておかないと……‼︎

 

 

「ゆ、優子……それ、どこから得た情報なんだ? そしてそれをいつ知ったんだ?」

 

「えっ………………。いつと言っても、目覚める前にですけど……」

 

 

 ………………は?

 

 

「桃に助けられた後、突然現れたフードの人の計らいみたいな感じによって、白哉さんが前に見た夢の世界に行くことになって……といった経緯で知りました」

 

 

 えっ? フードの人? その人が優子を俺が一度見た夢の世界に連れて行った? おいおい、俺が記憶してない夢にどうやって彼女を連れて行ったんだよあの人……

 

 ってか、これは言っておかないといけない気がする。

 

 

「そのフードの人、俺も今日にて夢の中で初めて会ったわ‼︎」

 

「えっ⁉︎ 白哉さんもですか⁉︎」

 

「あの人、他人の夢の世界を行き来できるんだったな……初めて知って恐ろしく感じる……」

 

 

 大体俺の別の人格であると言っていた癖に、どうやって他人の精神世界に入り込んだんだって話だよ。本当は神様の類の人か何か……あっ。あの時は俺も一緒に寝てたから、その時に何かしら偶然が重なって行き来できるようになったのかもしれないな。それなら納得がいくかも。

 

 いや、そこも気になるが本題はそこじゃない。

 

 

「あー、その……アレだ。俺の正体を知ったってのは、本当なんだな?」

 

「……はい」

 

「それはすまなかったな。隠してるってわけじゃないんだけど、そんな事言っても誰も信じてはくれないだろうなとは思っていたし、何よりその事を知ったお前がどう思うのかって考えてたら……話せる状況になったとしても話せそうになくってさ……すまん」

 

 

 別に嘘をついているわけではない。ただ、普通に考えて『前世を持っている人間が存在する』だなんて誰も信じてくれるわけがない。仮に信じる者がいたとしても、その人も他所から異常者だと思われる。そんな最悪な事態を避けたかったから隠す必要があったんだ。

 

 常識が通用しない現実でもすんなりと受け止められる多摩町の人達なら、俺が転生者であることを口にしても信じてくれるのかもしれない。それでも俺はそれを言うほどの勇気が出なかった。だからずっと拗らせてきて……今となっては優子に隠し事をして申し訳ないと思っている。

 

 

「いえ、別に白哉さんは悪くないです。……悪いのは、私の方なんです」

 

「……えっ? な、何言ってんだよ? 俺はお前に前世の記憶持ちだってことを、ここ数年間もずっと騙し続けたんだぞ?」

 

「……分かってます」

 

 

 あ、あれ……? なんか、思ってた反応と違う気がするんだけど……

 

 

「確かに『自分は転生者だ』と信じてくれる人はいないのが現実。だからこの事を隠さないといけない。そう思ってしまうのも無理はありません。……けど、それでも私は、白哉さんが私達の世界の人達とは違うところがあるのだとか、気づくべきところは本当はいくつかあったはずでした。それに一切気付かず、私はただ自分の愛の重たさによって白哉さんを苦しませてきた。貴方が転生する前と比べて違いに気づいてあげれば、貴方への負担は軽くなったはずだと……改めて考えてそう感じました」

 

 

 ……あぁ、そっか。そうなんだな。少しでも転生前の白哉──俺──と比べておかしいと感じたことに気づけば、何かが変わったのではないかと、そんな事を考えていたんだな。それに俺への愛し方も含めてると……

 

 過ぎたことをくよくよするのは本当はよくないけど、俺の為に何かしてあげようと想ってくれていることはすごく嬉しい。それだけでも励まされている感じがして、嬉しく思えるから。

 

 

「……ですが、今はもうそんなことはどうでもいいんです」

 

「えっ?」

 

 

 今はもうそんなことはどうでもいい? それは一体どういう───

 

 

「たとえ貴方の正体が誰であろうと、気付かぬ内に貴方の中身が変わっていようと、白哉さんは白哉さん……貴方があの時、私に声を掛けてくれた。励ましてくれた。側に寄り添ってくれた。そして……恋というものを実感させてくれた。その事実に変わりはありません」

 

 

 ……中身が変わろうとも、俺は俺、か……なんだか俺の心に響く言葉だな、それは。誰になんと言われようとも自分の信じるべき道を行け、そう背中を押してもらっている気がして、なんだか安心するな。後、ちょっと照れる。

 

 ………………優子がここまで精一杯込めた想いを言ってきたんだ。俺も、そろそろ答えないとな。

 

 

「だから……そ、その……わ、私は……‼︎ びゃ、白哉さんのことが……‼︎」

 

「───すまん、優子。ここから先は、俺の口から言わせてくれないか? でないと男が廃る」

 

「えっ……」

 

 

 今までずっと気づくことが出来ず、優子に面と向かって伝えてこなかったんだ。ようやくあの時の答えを見つけた今だからこそ、優子にはっきりと伝えるんだ。先程まで思い出すことの出来なかった、優子への想いを。

 

 

「シャドウミストレス……いや、吉田優子さん」

 

「ふぇっ⁉︎ あっ、は、はい‼︎」

 

 

 

「俺は、貴方の事が好きです。こんな俺で宜しければ、お付き合いしてください」

 

 

 

 ……やっと、言えた。今まで思い出すことも見つけることもできなかった、優子への想いを。まだ彼女からの返答がまだだというのに、ようやく伝えられたという達成感で一杯だ。

 

 もしもこの告白で優子に距離を置かれようとも、俺はそれで諦めるつもりはない。決めたんだ。何と言われようとも、どんな扱いをされようとも、俺は彼女を愛し続けようって。この想いは、絶対に変えない。

 

 優子の方はどんな反応をしているというのか……あぁ、案の定というべきなのか、顔を真っ赤にして硬直しているな。

 

 よく考えたらそれもそうだな。この数年間、ずっと告白もどきに対して答えを出さなかった奴が、突然『よろしくお願いします』とでも言っているような言葉を出してきたのだから、そんな反応をされても仕方ないな、うん。

 

 さてと、どう答えてくれるのだろうか……

 

 

「えっ……えっと……あ、あの……そ、その……ほ、本当にいいんですか? 私、貴方の事になると愛が重たくなることがあるんですよ? そんな私が今さっき貴方に告白しようとしてましたけど……」

 

 

 やっぱり信じられなかったみたいだな、俺から告白を受けられるだなんて。そのせいなのか、告白しようとしたのに弱気になってしまったんだな。

 

 だったら、本心を言ってもらえるように促してあげよう。優子にも気を楽にしてもらわないと、お互いの為にならないしな。

 

 

「お前じゃないとダメなんだよ」

 

「えっ……わ、私じゃないと、ダメ……?」

 

「優子の方はどうなんだ? こんな俺じゃダメなのか?」

 

「………………」

 

 

 ……ん? ん? んんんっ⁉︎ な、泣いてる⁉︎ 静かに泣いてやがる⁉︎ えっちょっ……俺、選択肢を間違えたのか⁉︎ 告白に対する返答に困っている子に対するテンプレはよくなかったのか⁉︎ これ、俺の本心でもあるんだけど⁉︎ や、やらかしたのか? 俺……

 

 

「………………ズルいですよ、今の貴方は。そこまで言われたら、断れませんよ」

 

 

 えっ。ってことは……

 

 

 

「このシャドウミストレス優子……いえ、吉田優子も、貴方とお付き合いしたいです。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 

 

 今世……いや、前世を含めて一番に身体が熱くなり、様々な正の感情にも包まれた瞬間だった。

 

 長年もの間考えることすらも保留にしてきた想いを伝えることができたことによる開放感。

 

 その想いを幼馴染にポジティブに受け止めてくれたことによる安心感。

 

 そして、結ばれるのだと知ったことによる幸福感。その三つの正の感情が、俺達二人を優しく包み込んでくれている……そんな気がした。

 

 気がつけば俺達は、お互い静かに密着し、それぞれ両腕を相手の背中に回していた。優しく抱きしめ合っている、というわけだ。そして優子は俺の胸の中に顔を埋め込み、徐に俺に話しかけてきた。

 

 

「……これからは、暴走しない程度に積極的に好意を寄せていこうと思います。なので、その……私から、逃げないでくださいね……? な、なんて……」

 

「いきなり重い発言で積極的になってきたな……けど安心してくれ、俺はもう逃げない。お前を、愛し続けてみせるさ」

 

「よかった………………その、白哉さん……」

 

「ん?」

 

 

 ひょこっと俺の胸から顔を出した優子は、恋の実った乙女の如く頬を赤らめて微笑み、トロンッと蕩けたような瞳で俺を見つめ……

 

 

「大好きです。愛してます。これまでも、これからも」

 

「……あぁ、俺もだ」

 

 

 お互いに顔の距離をゆっくりと縮め……ビターチョコのようにほろ苦くて甘い唇を、交わし合った───

 

 




Foooo‼︎ ついに成し遂げたぞォォォォォォッ‼︎
だが原作三巻編はまだ続く⁉︎ いつになったら終わるんだと自分でも不思議に思ってます……
白哉君とシャミ子が付き合うことになった時、周囲はどう反応するのか……ご期待を‼︎


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転生者とまぞくが結ばれた、翌日の話。その日はいつもより爽やかだった。

終局。それは始まりの後に必ず訪れる。
私たちの願いは破滅へと連なるのか。私たちの希望は死そのものなのか。
最終話『世界の中心でアイを叫んだけもの』



嘘ですッ‼︎ 最終回だなんて、全て嘘ですッ‼︎ ってことで初投稿です。

お気に入り数が三人も減った瞬間があったのですが、何故?(現在は一人戻っている模様)


 

「……朝か」

 

 

 多磨町を照らす眩き太陽が真上に昇り、小鳥と蝉の鳴き声が目覚まし時計の代わりとなって聞こえてくる朝。太陽によって反射された優しき光に当てられ、俺はゆっくりと身体を起こした。

 

 そして眠気がある程度飛んでた時には……自分が一糸纏わぬ姿──全裸──であることに気づいた。下は布団に覆われてて見えなくなっているが、そこの風当たりが良くなりすぎている為が故、この状態であると言えよう。

 

 そして俺のすぐ横には……あの幼馴染の優子が、俺と同じく一糸纏わぬ姿で可愛げな寝息を立てながら寝ていた。肩辺りの少し下ら辺の肌もチラリと布団の中で見えていた為、彼女も俺と同じ状態であることが確信できたのだ。

 

 この状況となると、昨日までの俺なら真っ先に『どうしてこうなった』って思い込むだろう。そして昨日までの出来事を振り返り、なんとか現在に至るまでの経緯を辿ろうとするだろう。とはいっても、こういった状況だと上手く整理することができないだろうが。

 

 けど、今の俺なら何故こんな状況になったのかを冷静に理解できる。

 

 実は優子が夢の中で桜さんに出会う原作の重大イベントの後、俺は夢の中でフードの人に促された形で優子に告白し、彼女も嬉し泣きしながら了承し、俺達は結ばれたんだ。

 

 告白してしばらく経った後、リリスさんと一緒に優子に教えたんだ。愛撫をすることで悠久を共にするパートナー……眷属の上位互換的存在を作る契りがあることを、そしてその一つとなるキスを俺の寝てる間にしていたことを。話終わったら優子はしばらく黙り込み、そして自爆してその場で転がりだしたんだ。まあそんな反応をするだろうなとは思ったけど。

 

 そしたら優子は乱心したのか、『それならば付き合うことになったこともあるので最後までやりましょう』と言ってきたんだ。さすがに俺も羞恥心を覚えた為、『無理にそんなことをする必要はない』と言ったんだが……

 

 優子は本当は乱心したわけじゃなかった。どうやら俺と抱き合うことを望んでいたそうだ。そして気づいたんだ。彼女はそれぐらいの俺への愛を与えようとして、ずっと我慢していたんだなって……

 

 で、その後は夜中の俺の部屋にて実際に抱き合い交わり合い、現在に至るってわけだ。

 

 ちなみにあの行為は普通、条件を満たしてしまえば優子の妊娠がまだ十八歳じゃないのに確定してしまうのだが、リリスさん曰く、未成年の魔族は自動的に生成される魔力の膜がとある細胞に完全コーティングされる為、誤った妊娠をしてしまう問題はないとのこと……らしい。魔族の魔力って意外とものスゲーのもあるんだな……

 

 ん? その行為による音は大丈夫か、だって? ばんだ荘の壁は薄いから大きな音は他の部屋に筒抜けになるだろ、だって? そこも心配はいらない。何故なら常時メェール君達に貼ってもらった音声遮断用の魔力の壁、あれ前もって二重・三重にしてもらってあるんだ。だから近所迷惑なんてことにはならないのだ。

 

 というか……改めて思い返してみたら、俺と優子は結構恥ずかしいことをしたんだな。魔族の契りの事もあるとはいえ、その時はお互い結構求め合ってしまったんだって思うと、我ながら獣になった自分達に引くわ……

 

 つーか……優子がこの事を誰かに指摘されたら、絶対赤面しながら発狂して右往左往に転がるだろうな。付き合い始めたばかりの上に契りとはいえあんなことをし始めたばかりなんだから、絶対そうなるに決まってる。ってか俺も内心発狂するな、よく考えたら。

 

 あぁヤベッ、そう考えたら顔がすごく熱くなってきた気がする。まるで四十五から五十度ぐらいの熱湯に浸かっている気分だわ。そんぐらい恥ずかしくなってきた。

 

 

「ハァ……慣れないことをした後って、こんなにも気恥ずかしくなるものなんだな……」

 

「ん……んん……?」

 

 

 徐に今の心境を呟いていたら、優子が起きてしまったようだ。ってか、ここからもヤバくなってない? 優子自身が寝ぼけてる点もあるから、状況の整理が俺以上に出来ずにその場で……

 

 

「あっ………………お、おはようございます、白哉さん」

 

「……お、おはよう……」

 

 

 ……ん? あれ? 思ったよりも状況を冷静に理解したのか顔を真っ赤にして照れてはいるけど、悶絶したりとかはしてない感じ……? えっ……?

 

 

「……えへへっ。やっぱり、あの夜の後となると恥ずかしくなりますね。一昨日までの私なら絶対卒倒しちゃいそうです」

 

「えっあっ。お、おう。そうだな。こんなこと、前までの俺達ならしそうにないことだよな……」

 

 

 あれェ? 丘ピーポー? なんでこうなるのー? なんか、思った反応と全然違うんですが……? えっ? なんで照れる程度で済まされるの? 今の状況、分かってる?

 

 こんなことを言ってはアレなんだけどさ……俺達は今、全裸だよ? そして一つの布団に入って一緒に寝ているんだよ? その前に普通のカップルでもやりづらいであろう結構恥ずかしい事をしていたんだよ? なのになんで乱心せずに冷静でいられるのさ? 恥ずかしがってはいるみたいだけどさ……

 

 ……あっ。これはアレか? 前から好きだった幼馴染とようやく結ばれたことによって生まれた余裕というものか? 優子の奴、いつの間に余裕の持てる子になったんだ? えぇっ……(困)

 

 ってか、今こんなところで駄弁っている場合じゃないな。これ以上優子を俺の部屋にいさせても清子さんに心配かけられるし、桃達にもこの事を怪しまれるし、何より今の全裸状態の優子を凝視なんてしてたら理性が保てなくなりそうだし……いやマジで。

 

 

「と、とにかく朝飯でも食おうぜ。優子は今日どうするんだったっけか?」

 

「あっ。あの……実はおかーさんには朝ご飯も出来ればここで済ませると言ってきたので、白哉さんが宜しければ……」

 

「……わかった、一緒に食うか。二人きりで食うのは初めてだから緊張しちまうけど。先に別の部屋で着替えてから作るからゆっくりしてってくれ」

 

「は、はい」

 

 

 優子から承諾を受けた為、ベランダで着替えてから朝飯を作ることに。いつもは朝飯は洋風にしてるけど、優子がいるから今日は和風にしようと思う。

 

 後、最近はいつもメェール君が作ってくれてるけど、今のところ彼等は自分達の世界で待機させてるし、今の状況の事で煽ってきそうだから、今のところ出さないことにしとこう。そうしよう。

 

 うーん……でも今の優子なら煽られても大丈夫かもしれないな。起きて現状を見ても悶絶しなかった程の余裕の心意気を見せていたし───

 

 

「ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ッ‼︎ ヤってしまった‼︎ ついにヤってしまったァァァァァァッ‼︎ 我ながらなんて恥ずかしいことをォォォォォォッ‼︎ 魔族の契りのこともあるし互いの了承もあるとはいえ、少なくとも付き合い始めることになって僅か数時間でやることではないじゃないですかこれ⁉︎ 正直嬉しかったけどやっぱりこれはない‼︎ 白哉さんの前で平常でいられたけど恥ずかしすぎて死にそうですよコレェェェェェェッ‼︎」

 

 

 ………………落ち着くまでは出来ても呼ばないでおこうかな。

 

 

 

 

 

 

 少し気まずくはなりながらも、仲良く話し合いながら朝飯を済ませた俺達。その後は吉田家にお邪魔することに。優子を帰すだけならすぐに出るだけなんだけど、この後は清子さんと話があるからな。家まで送ってさよならバイバイはどうかしてる。俺はこいつと旅に出る♪ 誰だよ。

 

 ちなみに優子は部屋の奥で頭の中で悶絶しながら横になっており、そんな彼女を良子ちゃんが宥めてます。

 

 

「昨夜はすみませんでした、優子に俺のところで泊まる許可を取らせてしまって。それも泊まる当日に」

 

「気にしてませんよ。寧ろ優子が自分から白哉くんのところに泊まりたいと言ってきた時は嬉しかったぐらいですから」

 

「何故そう思っているんですか貴方は……まさか娘の考えていることはお見通しなんですか?」

 

 

 子の心親知らず、という言葉があるのだけど清子さんにはそういうのはないというのか? 優子が俺の事を好きになっていたことも知っていたと……?

 

 

「お見通しというよりも、優子が貴方の事を話していた時の心境が顔で丸わかりでしたから。貴方と初めて話し合った後の優子の顔は惚気な笑顔でして……」

 

「ちょっ、やめてください。それ聞いた優子がまたもや悶絶確定な上に、俺も恥ずかしさのあまり川へ向かってそのままの勢いでダイビングしそうです」

 

 

 大袈裟な心境だけどさ、なんかマジでそうしそうで仕方がないんだよな。優子を初対面したばかりの頃から惚気キャラにさせてしまった、昔の自分がなんだか痛い奴だと思ってしまいそうだもん。どのタイミングで痛いことして、優子を恋する乙女に変えたんだって、あの時の自分にそう言い聞かせてみたい気分だよ。いやマジで。

 

 というか、今気にすべきことが一つ思い浮かんできたんだけど。

 

 

「俺と優子の事……ヨシュアさんにはどう言えばいいのでしょうかね?」

 

 

 そう、優子のお父さん・ヨシュアさんにこの事をどう伝えておけば良いのかということである。

 

 あの人は今、父さんに掛けられた呪いを解く為にその呪いごとダンボール──お父さんBOXに封印されている。そんな彼がもしも復活し、俺と優子が付き合っていることを知ったらとなると……どうなるのか予想がつかない。驚くことだけは確かなんだけどな……

 

 

「……夫は、寧ろ喜んで貴方達の交際を受け入れてくれますよ」

 

「………………へっ?」

 

 

 えっ? 嘘? 確信してんのですか清子さん? 何を根拠に……

 

 

「あの人が私達に姿を見せた時、こう呟いていたんですよ。それも優子の将来性を信じた、深い一言。

 

 

 

 『いつかは娘と共に感情を分かち合い、共に支え合う人がいてくれたら、それが自分達の家宝となるでしょうね』、と」

 

 

 

「………………自分達の、吉田家の、家宝……」

 

 

 そっか、そうなのか……。ヨシュアさんは自分達の子供の未来を大切にしようとしていて、その子達の恋人となった人にも共に幸福を分かち合ってほしかったんだな。つまり、娘を本気で幸せにしてくれるなら問題はない、と……

 

 ん? ちょっと待って? 吉田家の家宝が、娘と共にいてくれる人──パートナーとなる存在ってこと? えっと……つまり俺は、優子の恋人になったのだから、吉田家の家宝となって、悠久を共に過ごすことを大切にしろと……?

 

 

「俺、もしかして一家の重荷を背負わされてる感じですか? 最期まで責任取れと? 娘を不幸にするなと?」

 

「いや、彼はそこまで責任重大にさせるつもりはないみたいですよ?」

 

「家族の家宝の一つ=娘の彼氏、となっている時点でそう思うしかないじゃないですか」

 

 

 家宝の意味、分かってます? 家族の宝、そのまんまの意味ですよ? 察して?

 

 まぁ、けど……

 

 

「優子を受け入れることにした時点で、もう覚悟は決まったんですけどね」

 

「……そうですね。そろそろ聞かせていただけませんか? 白哉くん、貴方の答えを」

 

「そのつもりです」

 

 

 その答えを伝える為に、ここに来たのだからな。深呼吸をして自分を落ち着かせてから……

 

 

「……清子さん。そしてヨシュアさん」

 

「はい」

 

 

 はっきりと優子に対する自分の想いを、おふたりにも伝えるんだ……‼︎

 

 

 

「俺は、必ず優子を幸せにしてみせます。彼女の夢と未来を一緒に支えてみせます。だから……娘さんを、俺に任せてください‼︎」

 

 

 

 気迫のある声で、傲慢さはあるもののしっかりと意志を伝えることが出来たはず。さぁ、清子さんはどんな反応をするのか……不思議と大抵予想できるのだけども。えっと……一応微笑んでいるみたいだけど。

 

 

「……えぇ。絶対優子を幸せまぞくにしてやってくださいね」

 

 

 ですよねー。オッケーサイン出してくれますよねー。娘の意思肯定派な親御さんだからそういう答えを出してくれるのも仕方ないですよねー。つーかそもそも幸せまぞくって何? どんな魔族なのさ? ま、正直助かったけど。

 

 いや、助かったって思っていいものなのか? なんか告白からオッケーまでの間があっさりすぎね? 本当に承諾してよかったの? 旦那さんは優子が幸せならばオッケーです、みたいらしいけども。正直あれは詳しい条件とかも言ってない感じっぽいし、不安なんですけども……

 

 ……いや。意味とかがどうであれ、とっくに答えは心から決めたんだ。絶対に吉田家にも公開させないためにも、俺は優子を幸せにしてみせるんだ。絶対に。

 

 

「……はい、任せてください」

 

 

 力強くそう了承していたら、丁度良いタイミングで優子が良子ちゃんを連れてこっちに来たようだ。どうやら落ち着いたっぽいな。いや俺らの会話を聞いてしまったらぶっちゃけまた悶絶するだろうけどな。

 

 

「……白哉さん、おかーさんから許可をいただいたんですね」

 

「……あぁ」

 

「じゃ、じゃあその……改めてよろしくお願いしますね」

 

「任せてくれ。絶対後悔させない」

 

 

 照れながらも俺と悠久に過ごしてもらうように頼み込んできた彼女の顔は、まるで恋している先輩のいる部活に入ろうとする初々しい女子高生って感じだな。どっかの試し読みで読んだ漫画のヒロインもそんな顔してたからなんとなくわかる。今の彼女はそんな顔してる。

 

 うーん……付き合うことになってからよく見たらいつもよりもだんだん可愛く見えてきたな。ヤンデレつたことを知ってからある程度警戒しながら見ていた時とは大違いに、彼女に対する見方が変わった気がするというか、何というか……

 

 

「白兄、顔がニヤついてるよ。お姉と付き合えたのがそんなに嬉しかったの?」

 

「えっ⁉︎ 俺、顔に出してたのか⁉︎ あぁ……気が緩んでたな、お恥ずかしい限りだ」

 

 

 無意識に『優子が可愛い』と思ってるのが丸わかりな表情を出してしまったよ……恋人出来て浮かれてる奴ってみんなこんな風に気が緩んでしまうのか? 前までの俺だったら想像できねェのかもな……

 

 

「でも良としてはお姉と白兄が幸せならそれでいい」

 

「あっ、やっぱり良子ちゃんもそっち方面の思考なのね……この親いてこの子あり、というヤツか? あれ、なんか違うような……」

 

 

 って、あれ? 良子ちゃん、なんかジッと見つめてきてません? しかも何かを訴えるか如くキリッとした目になってこちらを睨まないでくれます?

 

 

「……白兄、お姉を泣かせちゃダメだよ?」

 

 

 ………………なんだろう。今日一番でグッとくるシンプルなセリフだ。尊敬している姉には幸せになってもらいたい、という強い意思を感じられるぜオイ。良子ちゃんにその言葉を聞かされたら、より一層優子を幸せにしてやらないといけないな。

 

 

「もちろん。君のお姉ちゃんは俺が必ず幸せにしてみせるよ」

 

「……それならよかった」

 

 

 期待していた言葉が出たのか、良子ちゃんは笑ってくれた。よかった、今の判断は間違ってなかったか。それなら俺も安心できる───

 

 

「さて……白哉くん、そろそろ行った方がいいみたいですよ。優子と付き合うことになったのを伝えるべき人達はまだいるのですから」

 

「えっ? ……あぁ、そういやそうでしたね」

 

 

 そうだった。吉田家以外にも俺と優子のことを伝えなきゃいけない人はまだたくさんいたな。さっさとその人達にも報告して安心させとかないと。特にあいつには言ってやらんといつもと変わらず揶揄われかねん。

 

 

「……優子」

 

「は、はい。やっぱり恥ずかしいですけど、そろそろ行きましょうか」

 

 

 また誰かに報告しなければならないのかって感じに照れながらも、俺が何をしたいのかを理解した優子。そして俺の隣にひょこっと立ち、俺の左手を右手でギュッと握った。何今の仕草、それも可愛く見えてきた。

 

 

「それじゃあ、お邪魔しました」

 

「おかーさん、良、行ってきますね」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

「気を付けて」

 

 

 二人に笑顔で送ってもらいながら、俺は優子と手を繋いだまま玄関のドアを開け───

 

 

 

「おめでとー!!」

 

 

 

「「………………は?」」

 

「あらあら、これは」

 

「すごい、もうみんなここに集まってる」

 

 

 いきなり祝福の洗礼を受けました。それも吉田家の玄関にて待機していた桃達によって。なんでさ。

 

 

 

 

 

 

 あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ‼︎

 

 この俺・平地白哉は、優子と付き合うことになった事を桃達に報告しようとしたら、彼女達はいつの間にか吉田家の玄関にて待機しており、しかも既に俺が報告しようとしていた情報を把握していたよアピールをしてきた……

 

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされているのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……

 

 ドッキリだとか、サプライズだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

 

 

「……白哉さん。この状況、一体どうしましょう……」

 

「だな……ってか、なんでこうなった」

 

 

 いや、ホントなんで⁉ なんでいつの間にみんなスタンバってんの⁉ ばんだ荘に住んでる桃とミカン、ミステリアスなため何をしでかすのかわからない小倉さんならまだわからなくもない……けどなんで杏里、拓海、全蔵に飽き足らず、リコさんに白澤さん、ブラムさんに奈々さんまでここにいるんですかね⁉ 玄関前が大渋滞になっているのですが⁉

 

 ってかおかしくね⁉ なんでもう俺と優子が付き合っていることがこいつらにバレてるの!? 俺、まだ清子さんと良子ちゃんにしか伝えてないのだけど⁉

 

 ……あっ。小倉さんが何かしていたからかもしれない。優子を危機管理フォームに変身できるようにさせたのも、桃に闇堕ちフォームことダークネスピーチに返信できるようにさせたのも彼女だったし、何故か光の一族と闇の一族───魔族と魔法少女の特徴を何故か知っていたし、俺と優子の知らぬ間に俺達の関係性の変化に一早く気づき、この短時間で桃達に情報を拡散したに違いない。絶対そうだ。そうじゃないとおかしい。

 

 ……とりあえず、真の情報源はどかなのかを聞かないとな。情報の整理はそこからだ。

 

 

「……一体誰が俺と優子が付き合うことになったことを知って、誰が情報拡散したんだ?」

 

『メェール君』

 

「思わぬ伏兵がいた⁉ あいつ主人を裏切ったな⁉︎」

 

 

 あいつ、勝手にこっちの世界に戻ってきて、この短時間で桃達に俺と優子の事をバラしたのかよ⁉ ってか、一体どうやって……

 

 あっ。精神世界と現実世界を繋ぐゲート、塞ぐの忘れてた……盲点だった……

 

 まぁメェール君は後で勝手に現実世界に来たことに対して説教するとして、今はこの状況をなんとか打破しないと……

 

 

「お前らさぁ……一斉に集まってきたら色々と収集がつかなくなるんだよ。だから自分達の家で待機しててくれよ……必ずみんなのところに来て改めて俺と優子の口で伝えるからさ……」

 

「そうは言ってもさ……特にアタシやちよももはなんか長い期間待たされた感じがするから、多分何人かはいてもたってもいられなくなるかもしれないんだよ? それも情報を先行入手してきた人からの報告を受けたら尚更、ね?」

 

「その節は大変ご迷惑をおかけいたしましたがねッ‼︎」

 

 

 そうだった‼︎ 杏里は中学の頃から俺と優子の事を応援してた感じだったし、桃もまだ付き合わんのか的な感じにグイグイ詰め寄りまくってたんだった‼︎ 少なくともこの二人は報告聞いたら同時に来てもおかしくないな‼︎ うん‼︎ 謎の納得感と罪悪感が混ざって複雑な気分だぜ……

 

 

「───けどまぁ、二人が付き合うことになったことでアタシ達も色々と安心できるんだけどね」

 

「えっ? 色々と安心……? 杏里ちゃん、それは一体どういう意味ですか?」

 

 

 なんだろう、俺達が付き合うまでは何やら大変な状況になってた、みたいな言い方をしてるように聞こえるのだが……なんで色々と安心できるんだ?

 

 

「シャミ子と白哉くん、無理をしている様子をよく見せていたから」

 

 

 俺達の事を本気で心配していたかのように、桃が苦笑いしながらそう呟く。って、えっ? 無理をしている様子をよく見せていた? 俺達ってそんなに分かりやすい顔を今までしてたのか?

 

 

「二人とも……というより特にシャミ子がそんな感じだったよ。白哉くんの話題が出ると、シャミ子はよく白哉くんの事で何かしら妄想してるようなニヤケ顔を浮かべるけど、すぐに自分自身に何かを訴えかけているようなことを行動で出していたから」

 

「えっ⁉︎ 私ってそんな分かりやすい顔を浮かべてました⁉︎」

 

「まぁ優子ならそう思われても仕方ないけどな」

 

「白哉さんまで⁉︎ ……いや、自分でも無理してきたなとは思ってましたけど、まさか桃にそれを勘付かれていたとは……」

 

 

 いや自覚するのかよ……確かにヤンデレってきた様子とか、それを自覚してなんとか抑えようと首を振ったりしてたこととか、そういった感じは俺もよく見かけるんだけどさ……

 

 

「そういった様子を見かけた時は、みんな不安になっていたのよ? 『この日のシャミ子はどうしたのだろう』とか『いつか壊れてしまわないのか』とか、結構心配だったわ」

 

「……自分でもどうしようとか壊れそうだとか、色々な不安を抱え込んでいたので否定はしません。というかしようにも出来ませんし……」

 

 

 あぁ……うん、それも俺のせいで優子がそうなったというね? 無自覚が結果論として招いたとはいえ、やっぱり浅はかな行為だったな……

 

 いやちょっと待て。ミカン? それにみんな? それだけ優子の事が心配なら遠慮なく聞いてみてもいいんじゃないか? 特に『優子が壊れそう』だと感じていたのなら相談に乗るとかさ、他にも優子の為にできることがあるでしょうが。いや、まぁそれは俺にも言えることだけどさ。

 

 

「……今、白哉に切実に何かを訴えかけられてる気がするのだけど……」

 

「気のせいだろ」

 

 

 いや本当は実際訴えかけてます。少なくともお前らは優子の相談に乗ってあげられたでしょ、前までの俺とは違って。貴方達には協調性とかが足りないのではないですかねェ? ねェ?(ブーメラン発言)

 

 

「まあまあ……最終的に二人は結ばれたんだし、終わり良ければ全て良し。今は改めて個人個人で祝福してあげようよ。……ちなみに別に○ヴァの例のシーンみたいなことしなくてもいいからね?」

 

 

 待て杏里よ。○ヴァのヤツはな、事前に打ち合わせでもしておかないとリズムやタイミングを間違えてしまうのだぞ? 打ち合わせしてないのならやらせることを勧められんぞ。っていうか何故○ヴァのヤツが思い浮かぶ?

 

 

「何はともあれ……シャミ子、白哉。おめでとう」

 

「……確かに、これ以上言う必要ないね。二人とも、おめでとう」

 

「改めて見てもお似合いよ、二人とも。おめでとう」

 

「もっと早く気づきたかったッスけど、幸せなら問題ないッスね。おめでとうッス」

 

 

 ………………ん? あれ? この流れって……

 

 

「二人の恋のその先、俺達もサポートしていくよ。にしてもめでたいなぁ」

 

「今度ウチの祝いの料理を振る舞うわぁ。おめでとさん」

 

「こういうのは僕達にとっても嬉しい限りだよ。おめでとう」

 

【グワッグワッ。……なんてメェ〜

 

 

 おい一匹元凶が混ざってんぞ。

 

 

「祝福せずしてこの先の物語は語れぬ‼︎ おめでとう‼︎」

 

「そのセリフは大袈裟だよ兄さん。とにかくおめでとう」

 

「ここは私も流れに乗りましょうか。おめでとう」

 

「……面白そうだから良も。おめでとう」

 

 

 えっと……あの……みなさん……

 

 

『………………これ、明らかに皆して○ヴァを狙ってきてぬか?』

 

【ここまで来たら最後は俺達だな】

 

『えっ⁉︎ やらぬといかんのか⁉︎ ぬ、ぬぅ……』

 

【おめでとう】

『おめでとう……』

 

 

 白龍様にリリスさんまで……しかもリリスさんは無理矢理付き合わされた感じに……

 

 

「……えっと……これ、私達もあのセリフを呟いた方がいいですかね?」

 

「あぁ……うん、そうしないといけないのかもしれない」

 

「そ、それじゃあせーのでいきましょうか……?」

 

「おう………………せーの───」

 

 

 

「「ありがとう」」

 

 

 

 ───今世に、ありがとう。

 

 ───前世に、さようなら。

 

 ───そして、全ての結ばれし者達に

 

 

 

 

 

 ───おめでとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやこれ最終回じゃねーだろ。ってかなんで突然アニメみたいにテロップが出てきたんだよ』

 

 

 ピッ

 

 

 チェス盤のような白黒の市松模様の床が広がる、とある一室。先程まで映像が映し出された巨大スクリーンの電源を切り、一つ溜息をつきながらソファにだらしなく転がる一人の人物がいた。

 

 その者は全身が黒いローブで覆われており、素顔どころか体躯すら見せられないようになっていた。彼こそが夢の精神世界を行き交い、白哉とシャミ子に答えへと導かせた者だ。

 

 彼は白龍曰く、白哉の心の中に眠る別の人格とも言える存在らしいが、真の正体がどういうものなのかは誰も知らない。実際に彼と出会ったシャミ子やリリス、ましてや白哉ですらもだ。

 

 そんな彼が今何をしていたのかというと、精神世界を通して白哉が現実世界で見てきた光景を、魔力を用いて精神世界のスクリーンに繋げて見ていたのだ。それも偶に白哉の視界に入っていない、周囲の光景をも含めてだ。

 

 白哉の目線の先に写っていないシャミ子の涙目かつ赤面状態の様子や、桃達に祝福されている二人を後ろから微笑ましく見ている清子や良子の様子も、このスクリーンには映し出されていたのだ。

 

 

『このスクリーンもおふざけが過ぎるだろ……いや、アニメを観てる時みたいに様々な情景やエフェクトを入れながら観てもらいたいという、神様の観点もあるんだけどさ……』

 

 

 フードの人物はそう呟きながら、ストローを刺した紙コップの中に入っているメロンソーダを飲む。ストローから口を離した時には『ぷはあっ』とビールを飲み干したサラリーマンみたいになる程の背徳感も感じているようだ。

 

 だらしないこの様子を見ていると、まるで某ハンバーガー店のデリバリーをした休日のダメ大人に見えるのだが、彼は他人に見られてもお構いなしだと言っているかの如くメロンソーダを飲み続ける。本人がそもそもここには誰も来ないだろうと確信していることもあるが。

 

 

『……ま、平地白哉がシャミ子と結ばれたのなら良しとするか』

 

 

 メロンソーダを飲み干して空になった紙コップをテーブルの上に置き、真っ暗な天井を見上げたフードの人物は……

 

 

『いや、寧ろそうでないと困るんだよな。俺が』

 

 

 そう言葉を繋げ、額に右腕を置いた。まるでそこに昇っていたかもしれない太陽から視界を防ぐかのように。

 

 

『……せっかくその身体を譲り受けたんだ。シャミ子と一緒に幸せな人生を送らないと許さないからな』

 

 

 現実世界にいる白哉が近くにいるかのように見立て、まるで彼の近くで忠告をするかの如く、重い音程でそう呟き……

 

 

『ま、これからも頑張っとけよ。平地白哉……いや、■■■■───』

 

 

 彼の身を案じてもいるかの如く、そう言葉を再び繋いだ。白哉のみしか知ってはならない言葉を、わざと擬音が混じっているかのような声で呟きながら……

 

 

『にしてもこのハンバーガーは美味ェな。平地白哉は前世では一体何処のハンバーガー店に行ったんだ?』

 

 

 が、自分で作ったシリアスソロムードを自ら破壊しにいった‼︎ いや正体を含め、マジでなんなんだこいつは。誰か早くこのフードの人物の正体を教えてくれ。

 

 




勝ったッ‼︎ 原作三巻編、完ッ‼︎
……半分嘘です。ここまでの登場人物紹介を投稿したら今度こそ終わりです。
そしたらしばらく休憩or投稿ペースダウンしようかなとは思っております。
長くても次のシャミ子生誕祭……投稿し始めてから一年が経った時に最新話を投稿するって感じかな?
それまでは偶に番外編として『もしもこの小説のキャラ達が○○の世界にいたら?』を投稿したり、R-18作品としてこの小説のR-18パート短編を投稿したりしようかなとは考えております。
また次回改めてお伝えしますのでとりあえずご了承を。



リクエスト募集用の活動報告、再掲しました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=291009&uid=379192


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ここまでの登場人物紹介3(8/31:イメージ声優追記)

しばらくペースダウンするよってことで初投稿です。

原作三巻編で登場したキャラの紹介をするだけです。

そして後書きにてお知らせがございますので最後までご覧ください。

8/31:オリキャラに声を付けるとしたら誰にするかを追記しました。
ICV=イメージキャラクターボイス


 

♢平地 白哉(びゃくや)

 

 シャミ子に対する心境が変化し始めた主人公。

 最近ではシャミ子が他の誰かと仲良くしていたりその時の話をしていたりすると、無自覚ながらも嫉妬の念を抱くようになった。さらにはシャミ子に対する心境を零してしまう癖も出てしまっている。

 シャミ子に限らず仲の良い人が良からぬ事をされた場合、そのようにした者を捕らえて禁縛・尋問し、洗脳した人達がいた場合は全員を元に戻すよう脅迫すると語る。

 ブラムからはシャミ子達との関係性を興味津々に聞かされたり、一度だけとはいえシャミ子との今後の関わりに対するアドバイスを受けたりと、二回出会っただけで中々の信頼を受けられている。

 魔族の不完全な契りによって一度気絶し、心閉ざしの牢獄(クローズハート・プリズン)に幽閉されてしまうものの、フードの人物に促されたことによって前世の自分と向き合い、その時に漫画『まちカドまぞく』を読んだことによるシャミ子に対する想いに改めて気づくことになる。

 シャミ子の夢の世界でセイクリッド・ランスを用いて自身の夢魔の力によって誕生した竜相手に無双。そのリーダーの『シャミ子とはどういう関係なのか』と問いかけられた時は、『昔から好きな人だ』と答える。

 夢の世界からの帰還後にてシャミ子に自分が転生者であることを知ってしまったと言われるも、勇気を振り絞って彼女に告白。魔族の契りを交わして悠久なる眷属になったのと同時に、彼女と恋人同士になる。

 

 

□セイクリッド・ランス

 ミカンの旧実家の廃工場を調査しに行ったところ、魔力に気づいた白龍が白哉の身体を借りて発見した槍。手にした当初はストラップに変形して元の状態に戻すことが出来ずにいたが、シャミ子を夢の世界から救出しようとした時に自由に変形させることに成功した。

 突き上げただけで穂先に触れた敵はたとえ巨体だろうと軽々しく吹っ飛ばす程の威力を持つ。

 他にも惑星を跡形もなく消し飛ばず技をも防ぐ『シャイニング・ウォール』や炎の渦と吹雪の渦を同時に纏わせる『フレイムフロスト』などといった強力な技及び魔法が使用できる。

 

 

 

♢白龍

 

 白哉の身体を本人の意思で貸し借りできるという設定を回収できたマイペースドラゴン。何かしら誤魔化したり強者の雰囲気を少しでも出したいって時などにこの能力は使えるらしい。一時的に白龍様に体を貸して、一通り済んだら返してもらうって事も安易に可能となる。白龍自身が無理矢理白哉の体の所有権を奪い取る事は不可能とのこと。

 余談だが、白哉の身体を借りた時は自身の声を発することが可能となり、身体能力もある程度は上昇するとのこと。但し動きすぎるとその分筋肉痛になりやすくなる。

 

 

 

♢メェール君

 

 結局原作三巻編での回復魔法を使わせてもらえなかったどころか、本編では原作二巻編よりも少なくなった気がする。(一応)マスコットキャラなのに不遇である。

 しかし白哉とシャミ子が交際することになった当日、たったの短時間でこの事を桃達に伝達し続けたという快挙を成し遂げた。白哉にとっては快挙ではないが。

 

 

 

♢その他の召喚獣

 

・ポーフ

 すき焼きでの交流会にて桃が持ってきた牛肉を見ても嫌悪感や哀愁感を見せなかった。お父さんBOXの硬度を試そうとして桃に止められる。

 

・コウラン

 すき焼きでの交流会にてメェール君と一緒に前菜を作った。おまけコーナーでは白哉の身体を借りることになった白龍の着るファッションについての話し合いに参加した。

 

・ピッピ

 シャミ子のなんとかの杖の命名会議にて『アブラカタブラすっぽんぽんの杖』という卑猥な提案を出してきた。

 

 

 

♢白哉の両親

 

 今回は二人とも出番なし。ひどすぎない?

 

 

 

♢吉田 優子/シャミ子

 

 告白されるまでは原作二巻編よりも積極的になった微ヤンデレまぞく。

 白哉が桃やミカンと仲良くしている自分を見て無自覚に嫉妬していることに気づいた時は、少なからずとも彼も自分に好意があるのではないかと考え込む。そしてすぐに段階を踏み越えた妄想をしてしまうものの、案の定すぐに正気に戻る。

 魔族探しをしていた時に訳あって喫茶店『あすら』で働くことになった時、もったいない精神によってリコの破棄寸前のまかない料理をたくさん食べたことで健忘になり、魔族探しを三日連続で忘れてしまった。

 桃の姉・千代田桜の行方が自身の十年前の記憶に関与しているとのことで、夢魔の力を使いその時の記憶の世界を辿ることに。その時に桜と出会うものの、彼女はかつて病弱だった自分を助けるためにコアを預けて出られないと告げられる。その代わりとして白哉と共に桃の事を見てあげてほしいと頼まれ別れを告げた。

 白哉と桃に夢の世界で助けられた後、突如現れたフードの人物の誘導により白哉の夢の世界へと赴き、そこで彼が転生者であることを知る。

 現実世界で桃とのぽっきんアイスの誓いを立てた後、白哉に彼が転生者であることを知ったことを明かす。だが白哉が何者だろうと彼を愛し続けることに変わりはないことも明かしたことで、白哉の方から告白を受け、晴れて交際に至るようになった。そして魔族の契りの関係上で処○も捧げることに成功した。

 

 

 

♢ シャミ子の家族・血縁者

 

・リリス

 実は過去が重たかった魔族(本人はそうは思っていない模様)。太古の昔に封印されて以来弱体化の一途を辿っていたらしい。特に封印された二千年もの間は魔力が弱まっており、封印空間の外を観測できずにいたらしく、意識がはっきりして外の世界が見えるようになったのも十年前──封印されてから約千九百九十年間もの間──で、記憶は曖昧だったとのこと。調子がいい時も、縁の近い者の夢に干渉することぐらいしか出来なかったらしい。

 上記の出来事を白哉達に話したことで、桃達の計らいによりもう一度だけシャミ子の身体を借りることになった。その時の親睦会にて完全なる暗闇がトラウマであることを明かす。封印された頃は魔力が多少未熟となっており、魔力をコントロールできるようになるまで封印空間は真っ暗で、外の世界も見られなかったそうだ。

 

・吉田 清子

 地雷を踏んできた白龍を梅酒風呂に浸からせたスゲーお人。

 実は白哉やシャミ子の気づかぬ内に外堀を埋めている。

 白哉達が白澤やブラムと共に桜の情報を共有していた時に、良子が見つけた有益な情報からシャミ子は十年前に桜のコアかもしれない猫に会っていたという事実を伝えた。

 

・吉田 良子

 白哉とシャミ子の外堀を埋めてくる人二号。まったく、この小学生は規格外なことをするぜ‼︎

 自由研究で家と町のことを調べてまとめる時はパソコンのスライドを使った模様。本当に小学生なのだろうか。

 白澤とブラムが十年前の年末に白い猫に出会った事を話した時は、その猫が桜のコアではないかと勘付いた。

 

・ヨシュア/吉田 太郎

 ただ今お父さんBOXとしてダンボール箱に封印中。そのダンボール箱はミカンの旧実家の廃工場のものであることが判明された。

 実はシャミ子や良子と助け合うパートナーがいてくれると嬉しいと言っていた。つまり白哉は彼からも外堀を埋められていたというわけだ。吉田一家揃っての公認シャミ子の旦那様だって‼︎ やったね白哉君‼︎

 

 

 

♢千代田 桃

 

 相変わらずびゃくシャミに対してはよくっつけと言ってくる物理系桃色魔法少女。ばんだ荘に引っ越して来た。

 ミカン曰く、実は十年前からずっと好意を寄せている男性がいるらしく、その事を聞かれた時の桃の顔が結構乙女な顔を見せてくれたとのこと。海外出張するまでの間にいつも彼女の事を見てくれていた人がいると、桜が夢の世界でシャミ子に語っていたが、その人と同一人物なのかは現状不明である。

 白哉とシャミ子が魔族の不完全な契りによって精神世界にてピンチになった時、誰よりも冷静に状況の判断をし、どうにかして二人を助けようと試みる。そして精神だけ闇堕ちし、ダークネスピーチとなって二人を救出することに成功する。

 シャミ子に姉の桜のコアが彼女の中にいることを聞いた時は、そこに姉がいるだけでも安心したと言い、コアを預かってほしいと要求する。そして『私の友達みんなが笑顔になれるだけのごくごく小さな街角だけを全力で守る』という自分の新たな目標を掲げる。

 

 

 

♢佐田 杏里

 

 実は原作二巻編では白哉とシャミ子がミカンと二度目の再開を果たす回でもちょこっと出ていた。

 メェール君の伝言で桃達と一緒に白哉とシャミ子の祝福をしに来た時は、安堵の言葉と心配していたことを明かした。そして某おめでとうシーンを周囲に促した。

 

 

 

♢伊賀山 全臓

 

 原作一巻編以来の登場を果たした我流忍術好き野郎。桃に行方不明の姉がいた話を聞いて号泣した。『本の祭典 スカーレット』にて魔族のブラムと出会ったらしく、魔族探し中の白哉にその本屋の情報を提供した。

 

 

 

♢小倉 しおん

 

 高校生にしてはかなりの高頭脳だけどマッドサイエンティスト。白哉とシャミ子を夢の世界から救出することにした桃に怪しい薬を提供・弱った魔力の補強を補助した。

 

 

 

陽夏木(ひなつき) ミカン

 

 恋愛に興味津々だが、相変わらず拓海の無自覚行為には初心(ウブ)になってしまう魔法少女。光闇割(家賃百二十円)という言葉に惹かれてばんだ荘に引っ越して来た。

 趣味なのが人と変わっているらしい。私服は肌を出す系が多く、古今東西全ての料理を柑橘類で酸っぱくしてしまう癖がある。

 十年前までは多魔市に住んでおり、陽夏木家が経営している『ひなつき食品』の工場も町外れにあった。が、呪いにまつわる事件によって工場は破壊され、陽夏木家および工場関係者は岡山県辺りに引っ越していった。工場跡地は桜が買い取っており、現在は桃が管理している。

 呪いを受けた直後に母親を呪いのせいで傷つけてしまった事から、工場内の倉庫に引きこもってしまった事があった。しかし桜の使いで来た桃の言葉によって励まされ救われる。以後、桜と桃の尽力で呪いは沈静化され、ある程度の普通の生活を送れるようになった。

 

 

 

仙寿(せんじゅ) 拓海(たくみ)

 

 鈍感or朴念仁な陰陽師。ミカンが彼の事で顔を真っ赤にしても、何故そうなったのかを察することが出来ずにいる。

 白哉達がシャドウミストレス優子救出大作戦を実行していた日、『あすら』で助っ人に来た時に『あすら』に送られたミカン執筆の手紙と戦闘時の衣装となった白哉と桃を見て、彼等がリコと白澤を封印する気ではないかと勘違い・警戒してしまう。白澤の制止によって騒動にならずに済んだものの、勘違いしてしまったことに罪悪感を抱いた。

 

 

 

♢リコ

 

 マイペースでフリーダムな料理好き狐狸精のまぞく。

 『あすら』で働くことになったシャミ子にまかない料理を出していたが、彼女がその『心を癒す料理』を食べ過ぎたせいで彼女を健忘化させ彼女自身の目標を一時忘れさせてしまった。

 ちなみにリコ本人が作る『心を癒す料理』の性能については、白哉達がシャドウミストレス優子救出大作戦を決行させるまでは白澤にすら教えていなかったそう。

 

 

 

白澤(しらざわ)

 

 二本足で歩き人間みたいに喋ることを当たり前にしている動物系まぞく。

 拓海が勘違いによって白哉と桃に警戒心を高めていたところに割って入って制止した。

 

 

 

♢ブラム・スカーレット ♂ 年齢不詳(というよりは年齢を数えなくなって忘れたとのこと) 7月21日生まれ ICV:関智一

 

 多摩町にある本屋『本の祭典 スカーレット』という、新本や古本、中には当店オリジナルの小説の本などが三千種類以上も置かれていることから本の祭典って呼ばれるようになった店の店長を務めている、吸血鬼の魔族の末裔の一人。

 口調はフランクだが、根本的に非常に聡明。普段はカウンターレジにて静かに本を読んでいる。

 様々なジャンルの小説を書くことを生業としており、ネタになりそうな話を聞いたり出来事に遭遇したりした途端にすぐ小説用のメモを取る癖が出る。

 白哉のシャミ子や桃達と出会った経緯やそれによって体験してきた事にはとても興味津々であり、それについてを長時間語らせてしまったことがある。日を改めてその事を謝罪し、白哉にシャミ子に対する想いにどう気づいてもらうのかのアドバイスをした。

 彼の一族は先代から太陽を克服できる手段を探していた。そうしている内に目的と同時進行して本を集める趣味に没頭し、それらに共感した桜と知り合い、彼女の薦めによって多摩町に本屋を開くようになった。

 今から十年前の頃にて桜に奈々を居候させてもらうように頼まれて以降、桜と出会うことはなくなった。その代わり、数ヶ月後に奈々の太陽を克服するための魔法を掛けられたことにより、念願の太陽の下での生活ができる事に大いに喜んだ。

 

 

 

♢馬場 奈々 ♀ 18歳 2月25日生まれ ICV:釘宮理恵

 

 ブラムの義妹である黄色魔法少女。

 しっかり者かつ素直で真面目な性格で、おかしいと思ったことには必ず指摘する謂わばツッコミ役。初めて見るものや出来事で仰天すると思ったものには必ず何かしらの反応を見せる。

 本編では番外編でしか語られてはいないが、実は重度のバナナ好き。必ず1日4本食べる程らしい。

 話し合いで解決しない争いを嫌っている穏健派だが、ブラムや魔族を襲う過激派魔法少女には容赦がない性格も併せ持つ。

 魔法は天候に関する力を操る能力で、一部の場所に雨を降らせたり地帯に雪を積もらせたりできる。

 十年前に桜によってブラムに預けられることになった。その時の彼女は目のハイライトが失われており、無表情。月日が経つ内に心の底から『面白い』と言っているかのような反応は見せてくれるが、失った感情を取り戻し表に出すことは出来ずにいた。

 ブラムが夕食として作ったビーフシチューを食べた時、『懐かしい』と感じたのか不意にも涙を流した。それによって数日の間に普通の女子高生か女子大生と同じ感情を持つようになった。それと同時にブラムに対する余所余所しさも消え、ブラムと会話する時も砕けた感じになり、何故か『兄さん』と呼ぶようになった。そして彼に恋心を抱くようにもなった。

 

 

♢千代田 桜 ♀

 

 桃の義理の姉で、桃と同じ魔法少女でもある。

 十年前の年末から九年前の年始の時期に行方不明となり、桃は現在彼女の行方を捜している。

 光と闇の中立地帯となっているせいいき桜ケ丘の守護者であり、魔法少女として戦っていた。

 魔力操作に著しく長けており、闇の一族にかけた呪いの影響で吉田家を貧乏生活に陥れた張本人だが、これは元々シャミ子の呪いが生死を左右するほど重篤だったものを、桜が失踪の直前に吉田家の金運と引き換えに軽減した為である。よってシャミ子にとっては自分の家の呪いの元凶にして自分の命の恩人という事となる。

 さらにシャミ子の父であるヨシュアと共に町を守っていたと同時に、ヨシュアを封印した張本人でもある。

 桃の師匠でもあるだけあって魔法少女としてもかなり強いほうで、桜の花弁状の極太レーザーを放つ『サクラメントキャノン』という必殺技が使えるらしく、陽夏木ミカンの旧家の工場に桜の花弁状の痕跡を残している。

 夢の世界でピンチになったシャミ子の前に登場。自身が行方不明になった理由は、ヨシュアとの共闘の後コアである紅白首輪のネコの姿になったのち、そのコアを、呪いによって危篤状態にあったシャミ子の命を支える為に同化していたからであったことを明かす。

 真実を告げたその後、魔力のへそくりがなくなったため、桃の事をシャミ子とこの場にいない白哉に託し、ついでに町を守ることも任せて姿を消した。

 

 

 

♢???

 

 白哉の精神世界に佇み、彼の夢の中で話しかけてくる謎の存在。人の夢の世界を行き来できる能力を持っている。

 心閉ざしの牢獄(クローズハート・プリズン)に閉じ込められた白哉に牢獄からの開放とシャミ子への想いと向き合わせることを促したり、シャミ子に白哉が見た前世の夢を見せて答えを問いかけたりと、二人の心の成長を催促させた。

 しかし正体は何者なのかは未だに分からずじまい。果たして彼の正体が分かる日はいつなのだろうか……

 

 




これで今度こそ原作三巻編は終了です。

そして長くても9月28日……シャミ子の誕生日かつこの小説を投稿してから一年が経つまでの間は投稿ペースを下げます。週一投稿はせず、それ故に執筆スピードも遅くします。

その代わりと言ってはなんですが、いつかは番外編として活動報告から寄せられてきたリクエストになるべく承ったり、もしも白哉やシャミ子達が別アニメの世界にいたら?みたいな回はやろうと思っておりますので、そこのところご期待ください。



リクエスト募集用の活動報告、再掲しました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=291009&uid=379192


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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番外編 小話だったりif世界線だったり、偶に本編との関わりがあったり……まぁそんな感じ。
白哉さんの人形ですか? 本人にそっくりで……ええっ⁉︎ 本人そのもの⁉︎ どういうこと⁉︎ by.シャミ子


リクエストが来てたよってことで初投稿です。

本編での更新までに3ヶ月以上も掛けちまった……

編集ペース落とし過ぎた上にR-18パートを思った以上に長く書く羽目になったからそうなったんスよ……


 

「ごめんねシャミ子ちゃん、妹さんとの時間に水を刺しちゃって」

 

「いえ、良も小倉さんの事を思って私に優先させてくれたので大丈夫だと思います。ところで、何故私を白哉さんのところへ?」

 

「すぐにわかるよ〜」

 

 

 それは昼ご飯を済まして良と二人でゲームをしていた時のこと。私は突然ウチに来た小倉さんに呼ばれて、何故か白哉さんの部屋に来ました。

 

 どうして呼ばれて白哉さんのところへ連れて来られたのかは着くまでは教えてくれませんでしたが、とりあえず色々と察しはついてはいました。多分今現在、白哉さんの部屋は小倉さんのラボ代わりにさせられているかもしれないな、と。

 

 突然自分の部屋を実験に使われたのだろう白哉さんに心の中で合掌しながらも、とりあえず白哉さんの部屋にお邪魔することに。

 

 すると私はリビングのテーブルの上に、白哉さんにそっくりな人形がいたことを確認しました。サイズは依代人形状態のごせんぞとほぼ同じサイズ……いや、こっちの方が少しだけ大きいのかな? 可愛い。

 

 

「な、なんだろう……この人形、すごく凝ってる感じがします。だってほら、特にこのキリッとした目つき。人形のはずなのに本人とほぼそっくり……というよりは完全一致してる感が強いですよ? 小倉さん、裁縫も上手なんですね───」

 

「あっ、もうそれに気づいちゃった? ……それ、本人だよ」

 

 

 ………………へっ? 今、何やら聞き捨てならない単語が出てきたような……

 

 

「あの、小倉さん……? 今なんて……」

 

「そのぬいぐるみ、人形になってしまった平地くんそのものなんだよ」

 

 

 は、はい? 白哉さんが、人形そのものになってしまった……? ちょっと待ってください、意味が分からな───

 

 

 

『───小倉さんの言う通りだよ』

 

 

 

「………………ん? えっ? あれ……?」

 

 

 あれれ……? 今、白哉さんの声が聞こえてきた気がしたのですが……? あれぇ、おっかしいですね……? 白哉さんは今この場にはいないし、似たような人がいたとしても、今この場には白哉さんそっくりの人形しかいませんし……

 

 ん? そういえば白哉さんの声、人形の近くら辺から聞こえていたような……しかもその時に人形からブルッとした振動を感じたような……

 

 ……ん? んんんっ? ………………えっ? ま、まさか……⁉︎

 

 何やら嫌な予感を察知した気がした。そして私はふと、もう一度白哉さんそっくりの人形と目線を合わせて見ることにした。それもまじまじと。違和感を感じそうな瞬間を逃さないように。

 

 

『………………いや、あの……そんなに顔を近づけ近づかなくてもいいんじゃないか……?』

 

「えっ? ……あっ⁉︎ す、すみません‼︎ さ、さすがに距離がおかしかったですね‼︎ はい‼︎ ………………って、えっ?」

 

 

 お、思わず返事しながら手を離してしまったけど………………嘘ォッ⁉︎ 目がクリクリ動いてた⁉︎ 顔も私から目を背けようと動いてた⁉︎ しかもよく見たら口が微妙に小波みたいに動いているように見えた気がするし……

 

 嘘……⁉︎ 本当に……⁉︎

 

 

 

「白哉さんが、本当に人形になってしまっている……⁉︎ 一体なんで……⁉︎」

 

 

 

『んなの俺が聞きてぇよ……』

 

 

 

 

 

 

 時は数分前。白哉さんがメェール君の作った昼ご飯を食べていた時のことらしいです。ご飯の匂いを嗅ぎつけたのか、小倉さんが突然天井裏から彼の部屋に侵入して来たそうです。

 

 ……って、いつの間に天井裏と白哉さんの部屋の天井を繋げたんですか彼女は。それも白哉さん本人の許可なしに。しかも白哉さん達の昼ご飯をせびって来たと? 私も休日に一緒にご飯を食べたかっ……コホンッ、清々しすぎるのは良くないですよ? うん。

 

 で、小倉さんがご飯を分けてくれたお礼として、以前開発した『日夜明けるまで人形の姿になる薬』を白哉さんに見せようとしたら、転倒してそれを白哉さんにぶち撒けてしまって……

 

 

『そして、こうなったってわけなんよ』

 

「いやぁ本当にごめんね〜? 私だって平地くんに薬をかけるつもりはなかったんだけど〜」

 

「そ、それは……ご愁傷様です、白哉さん」

 

 

 えっと……つまり白哉さんが人形になってしまったのは、小倉さんの転倒による事故だったと……

 

 続けて聞いた話によれば、小倉さんは白哉さんやメェール君達召喚獣を実験台にするつもりは鼻からなく、天井裏にいたゴキブリに薬を使おうとしていたとのことだそう。ゴキブリの人形って、どんな需要があると……

 

 あれ? ちょっと待って? 確か薬の名前は『日夜明けるまで人形の姿になる薬』って名前でしたよね? 『日夜明けるまで』ってことは……

 

 

「もしかして白哉さん、今日はずっとその姿のままになるんですか……?」

 

『……認めたくねェけど、そうなるらしい』

 

 

 白哉さんはそう言いながら溜息をついたかのような声を出す。口は開いてもいないし口角が一つも動いてはいないのを見ると、本当に人形になっているんだなって思っちゃいますね。小波みたいな感じに動いてはいるけど。

 

 ……人形にしては、腕や足は動かせるみたいですけど。まるでよりしろ状態になったごせんぞみたい。

 

 

『このように関節などを動かせるし、口が開いていないように見えているだけで喋れたり食べ物を食えたりもできるぞ』

 

「代わりにお着替えすることもお風呂に入ることもできないけどね。服は脱がせられない仕様になっているから。まぁその分にトイレに行く必要もないけど」

 

 

 あっ。人間とあまり変わりないところもあれば、今の状態じゃできないこともあるんですね。人間から人形に変わるという非常識が起きたのだし、当たり前と言っちゃあ当たり前だけど。いや人形になることを当たり前にしちゃダメですけどね、普通。

 

 ……ん? ちょっと待って? もしかして、私がここに呼ばれたのって……

 

 

 

「で、お願いがあるんだけど……今日一日中、平地くんをそっちに預けてくれないかな?」

 

 

 

 あー……やっぱり世話みたいなことを頼んでくるんですね。しかも白哉さん本人からじゃなくて小倉さんの方から……

 

 けど、私は乗り気にはなれませんね。だって、白哉さんが意外なところで意地を張ることがありますし……

 

 

『ちょっ、おい、何を勝手に……』

 

 

 ホラ、今。まさに今。何かと私に迷惑をかけたくない感じに咎めようとしてますし。小さい姿で世話をされるのに違和感を感じるでしょうね。

 

 ………………でも、なんでだろう……

 

 

「………………今の白哉さんを抱っこしたら、本人を抱きしめているのに『白哉さんに会えない時にこの人形を抱けば悲しみを埋められる』気分になれるのかも……」

 

 

 そう考えると、なんだか悪い気がしませんね。

 

 

「本音ダダ漏れだね」

 

「ハッ⁉︎ わ、私今やばい事を言ってましたか⁉︎」

 

『別に不吉な事とかは言ってなかったぞ。ただ、その……今のままお前に抱きしめられることには抵抗を覚えるけどな……』

 

 

 えっ。抵抗あるんですか……? なんだかちょっと残念な気がします。人生に一度きりの非常識の一つを体験できるチャンスが……別の機会で白哉さんを独り占めできる時間が……

 

 っていやいやいやいや、おかーさんや良もいるのになんで独り占めしようとしてるのですか私は。そもそも独り占めなんて良くないですし……

 

 ん? あれ? そういえば……

 

 

「今気づいたんですけど、不便なところはメェール君達召喚獣の皆さんに手伝ってもらったら良いのでは?」

 

『……そいつらを出せれたら苦労はしねぇよ』

 

「この姿の白平地くんの魔力はコップのお水一杯分であることが分かったの。メェール君達が勝手にこっちの世界に来ることもテレパシーみたいなので平地くんと会話することも出来ない量なんだって」

 

 

 あぁ、魔力の量と大きさが比例してしまっているんだ。しかも遠く離れたところからの会話すら出来ないなんて……不便すぎません?

 

 で、今メェール君達を呼べないとなると、頼れる人が限られてくる、と。白哉さんのご両親に助けを求めるって手もあるけど、それをしていないってことは、生活費の過大な援助とかを受けているから遠慮しているのかも。

 

 つまり、それこそ私を頼ることにした、と。

 

 あ、ヤバい。なんだろう、心底嬉しい。私が頼られている、しかも大好きな幼馴染に……あっ、今はもう彼氏なんだった。そんな彼に頼ってもらえているって思うと心底嬉しいですねホント。

 

 

『……顔にまた出てるぞ、本音が』

 

「えへへぇっ………………ハッ⁉︎ す、すみません‼︎ 気が緩んでました‼︎」

 

 

 ウゥッ……いつもならヤバい事思っても指摘されずに済んだのに、白哉さんと付き合ってからは隠し通せなくなっている気がします……

 

 

『まぁ、この姿になるのが一日だけとはいえ、父さんにも母さんにも迷惑かけたくないしな。つーかぶっちゃけあの二人なら何やら余計な事しそうだし。小倉さんは色々と危なっかしいし、杏里は揶揄いそうだし、全蔵は意外と頼りにならない部分もあるし、ミカンは今の俺を見て困惑して呪い起こしそうだし、拓海は過保護の度合いが非常に高くなりそうだし、桃は……まぁ桃だし』

 

 

 ちょっと、最後。『桃だし』ってどんな理由ですか。桃を頼れない理由だけ分からないのですが……あっ、そういえば桃は私達のことをよく揶揄ってましたね。それを考えると納得。

 

 

『ってなわけで、半分不本意だが小倉さんの言う通り、お前に頼らなきゃいけなくなった。悪いけど今日はお前んちにお邪魔させてくれ』

 

「あ、はい‼︎ もちろんいいですよ‼︎」

 

「うわお即答」

 

 

 ちょっと小倉さん、それ言った後に『ヒューヒュー』って言ってくるのやめてくれませんか? 煽ってきてるようでなんか嫌なんですけど。大体こんな経験は二度と出来ないのだから受けないと損じゃないです。

 

 まぁとにかく、せっかく白哉さんに頼られたんだ。なんとか白哉さんが今日の生活に支障とかを出さないように、私がしっかりしないと。

 

 

 

 

 

 

 白哉さんを連れて帰ったら案の定おかーさんと良は驚いた様子を見せてくれました。良は今の白哉さんを見て『新しい姿になれる能力を得たんだね‼︎』と目を輝かせ、おかーさんはおとーさんみたいに封印されたとかじゃないと確信したのかホッと息を吐いてすぐ落ち着いたみたいですが。

 

 で、ごせんぞはどんな反応をしたのかと言うと……

 

 

『よ、依代の時の余と似た姿になってる……。ぬがー‼︎ 今の白哉が羨ましいぞ‼︎ 何故この時に限って桃は出掛けているのだー‼︎』

 

 

 白哉さんに嫉妬してます。今のごせんぞはいつもの邪神像姿だからね、仕方ないです。

 

 依代を持っている桃は『偶には自室や野原とかじゃなくてジムで鍛えたい』と言って一日中町のジムにお邪魔しています。私や白哉さんも誘ってくるのかなとは警戒してましたが……何故かそんなことはなかったようで。

 

 ちなみにミカンさんは転校するためのちょっとした手続きをすると言って桜ヶ丘高等学校に行ってました。そろそろ帰って来た頃のはずだけど、今は白哉さんの事はバレないようにしておこう。今の白哉さんの状況を知られて呪いを発動させてしまったら困りますし。

 

 そんなこんなを考えている内に夕食の時間。タイムセールで買えた焼きそばが一玉入った野菜炒めです。白哉さんの分はとりあえず小皿分用意してみたけど、食べきれないのかな……?

 

 

『……カットされた野菜が……つーか食材全部がいつもよりも五倍はデカく見えるなこれ』

 

 

 あっ、やっぱり食べきれそうにない感じですね。無理して全部食べようとしなくても大丈夫ですから───

 

 

『ごちそうさまでした。ちょうど食える量でよかったー』

 

 

 そうでもなかった。人形の腹八分目にはいける程の量だったんだ。よかったー、配分を間違えなくてホントによかった……。そういえば、そもそも人形に胃袋ってどこにあります? なんだか無さそうな感じが……

 

 あっ、トコトコ歩いてる。からくり人形みたいにちょっとギクシャクとした歩き方をしてる。可愛い。まるでト○・ストー○ーに登場するおもちゃのキャラクター達みたい。

 

 あっ、バッグの中の漫画を取り出そうとしている。暇な時は私の家のゲーム機を使っていいとは言ってあげたけど、小さな体じゃ操作できないとのことで白哉さんの家からあの漫画たちを持って来てあげたんだったっけ。

 

 それにしても、よく考えてみれば白哉さんは結構漫画を持ってましたね。私もよく白哉さんから漫画を借りてたなー。『○ラゴン○ール超』とか『○ードアー○・オン○イン』とか。後者は原作が小説だけど。

 

 ん? あれ? 白哉さん、漫画を取り出そうとしてその場で止まった? 小さな手で掴むのは難しかったのかな?

 

 

『………………優子、悪いけど俺が今掴んでる漫画を取ってくれ。持ち上げようとしたら漫画の下敷きになる自分が想像できちまう』

 

「あ、はい……」

 

 

 あぁ、物を持つ力と大きさの差の問題かー……。私も重たいもので持てるものが限られているから、分からなくもないですね、うん。

 

 この後白哉さんのペースに合わせて漫画のページを捲ってあげました。まるで小さい子に読み聞かせさせてあげているみたいで、なんだか悪い気がしませんね………………子供……白哉さんとの、子供……出来たらどれだけ幸せになるんだろうなぁ……フヘヘェ……

 

 

『ちょっ、優子……お前急にどうした? なんか陽キャに褒められてニヤニヤしながら身体を溶かし始めている陰キャ女子ギタリストみたいな顔になってんぞ……?』

 

「あ、どうせなら流行的に○しの子の子供に転生したアイドルみたいって言われたいで……ハッ⁉︎ わ、私……また本音を隠し切れてませんでした⁉︎」

 

『お、おう。思ってることが顔に出てる気がしたぞ』

 

 

 そ、そっか……また隠し切れなかったかぁ……これは直しておかないと、絶対周りから色々と心配されますね……ハァ。

 

 何冊か漫画を読んだ後はテレビを見ることに。私の家のはブラウン管の古いテレビですが……

 

 

『お、おぉ……‼︎ いくら古いとはいえ、このサイズで見るとまるで映画館にでも行ってるように感じる……‼︎』

 

 

 今の白哉さんにとっては好評ものになってますね。小さい姿で普通サイズのテレビを見てたら、そりゃあその感想が出そうですけど。元の大きさに戻ったらそんな感想は出ないですけど……アレ、なんか泣けてきた……

 

 

『えっ。えっと……だ、大丈夫か優子? なんか悲しいことでもあったか?』

 

「あっ……だ、大丈夫です……」

 

 

 虚しくて泣けてきそうなのもバレてしまってる……白哉さんと付き合ってから、私の表情筋、緩くなってきているのでしょうか……それはそれでダメじゃないですか、うん。

 

 あぁ、これアレだ。白哉さんと付き合えるようになったことで『もう白哉さんの目の前で恋愛感情を隠さなくていいんだ』って思ってたら、全体的に表情筋を抑えられなくなったんだ。きっとそうに違いない。気をつけないと……

 

 で、夕食を食べる前か終わった後に入るお風呂の時間。週に3・4日は白哉さんのを借りているのですが、今日は白哉さんがアレなのでウチのを使うことにしてます。

 

 ……ん? ちょっと待って? よく考えたらこれはチャンスなのでは? 今の白哉さんは自慰したくてもできない状態。私が入浴しているところを覗いてもらえば、自慰できない中で性欲が向上して、明日元に戻ったらその溜まった分を私にぶつけてくれるのでは? もう付き合っているのだし、遠慮なくそうしてくれるはず……

 

 

「……あの、白哉さん」

 

「ん?」

 

 

 バスルームに向かうタイミングで、白哉さんの方を振り向いて……はい、ここっ‼︎

 

 

「………………入れないからと言って、覗いちゃ……だめ、ですから、ね?」

 

 

 よしッ‼︎ 『本当は来てほしい』という気持ちを込めれた‼︎ 誘導してあげた‼︎ これでこの後勝つる───

 

 

 

『いや、覗かないからな? ってか風呂貸してあげてる時はいつも覗いてないからな? 良子ちゃんの時も清子さんの時も。そもそも二人とも家にいるから覗こうにも覗けないだろ?』

 

 

 

「………………そうでした」

 

 

 正論を言われた。そしていつもの白哉さんの行動がどうなのかも言われた。計画、破綻しました……

 

 

 

 

 

 

『……清子さん、何持って来たんスか』

 

「使わなくなった衣服で作った猫じゃらしですよ。人形ならこういったものに興味を示すのかなと作ってみたんです。ホラホラ〜」

 

『人形は猫じゃないです。あと俺、中身は人間です』

 

 

 覗き見されないことに落ち込んでいたのから調子を取り戻し、風呂から上がった私が見た光景。それはおかーさんが猫じゃらしみたいなもので白哉さんと遊ぼうとしている光景でした。

 

 ……いや、ホント何してるんですかおかーさん。なんで生きた人形を犬や猫と勘違いしてるんですか? しかも棒をフリフリして先端の布を左右に動かして……完全に猫扱いしてるじゃないですか。これにはさすがの白哉さんも怒って……ん? なんか、白哉さんの目が猫じゃらしを追いかけているようなそうでもないような……

 

 あっ、手が動いてる。猫じゃらしをタイミングよく捕まえようとプルプルと手を出そうとしている。そしてハッと我に返った様子を見せて手を引っ込めた。

 

 ………………ん? えっ? 嘘でしょ? 白哉さん、猫じゃらしに目がいってる? 『自分は猫じゃない人間だ』と言ってたのに、猫じゃらしが気になってる? いや、素早く動くものには思わず目がいきそいなのは分かりますけど、ねぇ……?

 

 

『ッ……‼︎ 俺は人間……俺は人間……元々は人形じゃないし、猫ですらないんだ……‼︎』

 

「白兄すごい葛藤してる。面白い……‼︎」

 

「遠慮せず飛びついていいんですよ? ホラホラ」

 

 

 暗示をかけているみたいだけど、それでも猫じゃらしから目が離れてないみたいですね。人形になると、どうしても猫さんみたいにあぁなっちゃうのですかね……?

 

 

『ぬぅっ……ぬぬぬっ………………ホアァッー‼︎』

 

 

 あっ、飛びついた。ちゃんと猫じゃらしを掴んだ。なんか、意識のある人形=猫さんであることが証明された瞬間を目撃しちゃったのですが……

 

 

『………………あっ』

 

「あっ」

 

 

 気づかれた。一部始終を見てしまったことがバレた。白哉さんの目が点になってる。ど、どうしよう……気まずい。

 

 どう言い訳しようかと考えていると、白哉さんが光速とも言える速さで部屋の隅まで移動し、蹲った。あぁ……私に見られたことが余程効いたのでしょうね。

 

 

『何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺何やってんだ俺……』

 

「うわ自暴自棄になってる⁉︎」

 

 

 ヤ、ヤバい⁉︎ 思ったよりもこれは効いたみたいだ⁉︎ 負のオーラがダダ漏れしてる⁉︎

 

 

「おかーさん、正直白兄で遊びすぎ」

 

「そ、そうみたいですね。まさか本当に猫同様の反応をしてくれるとは思ってませんでした……」

 

 

 ど、どうしよう⁉︎ どのようにフォローしておけば⁉︎ 『何も見てませんでしたよ』は見てることがバレバレだからノーチョイスだし、『風呂場の窓を閉め忘れたから戻ろ』もフォローになってないですし……‼︎ えっと……えっと……‼︎

 

 

「あ、あの、白哉さん‼︎ わ、私だって似たようなことをしたことがありますよ⁉︎ あの……ほらっ‼︎ 先祖返りしたばかりの頃‼︎ あ、あの頃は我ながら恥ずかしかったですねー‼︎ たまたま自分の目の前に尻尾をプランプランってさせてた時、思わず目がいって猫パンチみたいにポカポカしてましたから‼︎」

 

「えっ……? お姉、そんなことしてたんだ……?」

 

 

 そんな光景あったっけ?みたいな顔をしないでください良‼︎ ないです‼︎ 本当はそういった事をした覚えは一切ないんです‼︎ でも白哉さんをフォローする手段が今はこれしかないんですぅ‼︎ お願いだから察して、いやホントに。

 

 

『……本当に』

 

「うへっ?」

 

『本当に、そんなこと、してたのか……?』

 

 

 あ、あんな恥ずかしい思いをしたのは自分だけじゃなかったと思ってくれたのか、白哉さんが私の話を信じてくれた……‼︎ う、嘘を言ってしまったけど、これは白哉さんのメンタルリセットの兆しが見えたのでは……⁉︎

 

 よし、ここは嘘を貫き通そう‼︎

 

 

「は、はいっ‼︎ あの時はホント恥ずかしかったです‼︎ 穴があったら入りたいほど‼︎ だから一人だけあんな思いをしてしまったとか思わないでください‼︎」

 

『………………そう、だな。そう思うとなんだかホッとしたよ。ありがとうな優子、おかげで元気が出た』

 

 

 そう言って振り返った白哉さんの瞳は、輝きを取り戻していた。よ、よかった……択が上手くいった……

 

 

 

 

 

 

 この後は何事もなく白哉さんと四人での楽しい時間を過ごし、気がつけばあっという間に就寝時間に。

 

 白哉さんの寝床はどうしようか。普通にサイズを合わせてハンカチを敷いて布団代わりにしてもいいのだろうか。そんなこんなを考えていたら……

 

 

「そんなの簡単ですよ。優子が別の部屋で、白哉くんと一緒に寝ればいいのです」

 

「あっ、なるほど。その手がありましたか──って、ええっ⁉︎」

 

 

 添い寝⁉︎ まさかの添い寝ルート⁉︎ なんで⁉︎ なんでそういう発想に至るのですか⁉︎ い、いや、私達はもう付き合っているのだから一緒に寝ても問題ないんですけど……

 

 

「理由は色々ありますが、もしもその状態の白哉くんの身に何かあっては困るでしょう? そうなった時にすぐ近くに誰かが対処出来なければ意味がありません。なので、白哉くんと仲がとても良く信頼関係のある幼馴染である優子、あなたが一緒に寝ればいざという時に白哉くんの力になれますよ」

 

「あっ、そういう……」

 

 

 な、なんだ……いざという時のために力になれる人を隣に配置するって寸法なんですね。別に下心とかあるわけではないと。よかった……。いや最初に『理由は色々ある』と言っていたから怪しいですけど。

 

 

『あ、あの……色々と俺の身の安全を思ってのことでしょうけど、俺としては色々と気まずいというか……。いや優子とは付き合っているとはいえ、それが関係しない程に、その……抵抗というものが、ねェ……?』

 

 

 えっ? それはどういう……

 

 

『その……優子、意味を分かってなさそうだから説明するけど、あれだぞ? もしも抱かれながら寝たら、その……抱かれた時の俺の位置次第では、な?』

 

「あっ……」

 

 

 そ、そうだった……腕を組む位置とかを考えてみたら、白哉さんが恥ずかしい思いをするし、こっちも恥ずかしくなる……。だってほら、腕を組んだらそれが……その……む、胸の近くか胸と同じ位置に固定されるから……

 

 

「えっ? もう優子と付き合っているし、抱きしめられる形でその位置を占領出来れば、それはそれで白哉くんも本望なのでは?」

 

『人によるであります。俺の場合は羞恥心ですぐに逃げたい気分でござんすよ。抵抗心は色々な方面を考えると無くしてはいけないものどす』

 

「びゃ、白哉さん……? 口調が変わってる上に全部合ってませんよ……?」

 

 

 過ちを犯したくないのか、必死すぎて変な口調で言い訳をする白哉さん。別に私と一緒なのが嫌ってわけでは無さそうだけど、そんなに今一緒に寝たら困るのかな……

 

 

「別に我が家の一族の呪いが完全に解けたとは限らないので、白哉くんの身に何も起こらないとも限りませんよ? だからこそ、優子と一緒に寝かせてもらってください」

 

『ウッ……』

 

 

 おかーさんが初めて一族の呪いマウントを取ってきた⁉︎ そして白哉さんもこれには断りづらい感じになってる⁉︎ 眉毛が困っている時の形になってる⁉︎ の、呪いマウントというのはこんなにも人を悩ませるのでしょうか……

 

 

『………………じゃ、じゃあ……優子、悪いけど今日はよろしく頼む……』

 

「えっ。あ、はい……」

 

 

 結局、私と一緒に寝ることに決めたんですね。呪いマウント、恐るべし……

 

 

 

 

 

 

 まぁそういうわけで、白哉さんは私と一緒の布団で寝ることになりました。先程の会話の通り、おかーさんと良とは別の部屋で。

 

 ちなみに白哉さんにどのようにして一緒に寝るかと問いかけてみたところ、私の枕の隣で寝ると言っていました。まぁ私はツノのせいで顔を横にしながら寝れないので、寝ている時に私の顔に潰れるってことは無さそうですけどね。……白哉さん、それを計算して枕の隣で寝ることにしたのでしょうか?

 

 

『さてと……寝るか』

 

 

 あ、おかーさんの手作りであろう人形サイズの枕だ。それと人形サイズの掛け布団だ。今白哉さんの分の枕はどうしようかと考えてたら、いつの間にか作ってもらってたんだ。おかーさん、裁縫も得意でしたから……

 

 あっ。裁縫で思い出したけど、私おかーさんに裁縫の仕方を教えてもらって、白哉さんの誕生日に凝りに凝ったハンカチをプレゼントしてあげたのでしたっけ。懐かしいなー。今度の白哉さんの誕生日も裁縫で何か作ろうかな───

 

 ん ゙ん ゙ん ゙ん ゙ん ゙ん ゙っ(悶絶)

 

 かっ、可愛いッ‼︎ テコテコと歩く姿、せっせと枕をポンッと置く姿、んしょっんしょっと言いながら掛け布団を敷く姿……どれも可愛いッ‼︎ かなりの愛嬌が沸いてくる‼︎

 

 

『………………優子』

 

「えっ? あっ、はい。何でしょうか?」

 

『ずっとそこに座ってるまんまだけどさ……寝ないのか?』

 

「あっ、そうでしたね。寝ます。一緒に寝ます」

 

 

 い、いけないいけない。白哉さんの一つ一つの行動に見惚れていました……‼︎ い、いつもはカッコいい場面を見てキュンキュンしたりしてたけど、可愛い仕草でもそうなってしまうのも悪くはないですね。可愛い白哉さんも新しくていい……

 

 へ、平常心を……平常心を保つために早く私も布団に入らないと……‼︎ あっ、今日も布団が気持ちいい。夜なのにふわふわぁ……

 

 そういえば先週も白哉さんと一緒の布団で寝ていたんでしたっけ。まぁ、あの時はその……魔族との契りの問題で、あんな事やこんな事をした後に……って感じでしたけど。お互い望んでやったことなので、羞恥心は前よりも少ないし後悔もありませんが‼︎(キリッ)

 

 

『それじゃあ……寝るか、優子』

 

 

 ン ゙ッ コテンッと顔をこちらに向けてきたッ……‼︎ その仕草も可愛いッ……‼︎ 結局可愛いが正義なんだッ……‼︎

 

 こ、これ以上心臓が持たなくなる前に、早く寝ないと……‼︎ あっ、でもその前に……

 

 

「あ、あの……」

 

『ん? どうした優子?』

 

「その……ね、寝る前にアレ……お願いできますか?」

 

 

 そう言って私は自分の唇のところに人差し指を当てた。恋人に対してのこのジェスチャー……そう、私はキスを要求したのだ。せっかく久しぶりに二人一緒に寝られるわけですし、この機会も今のところ滅多にないですし、人形にキス自体やってないのでせっかくだからというのもありますし……ね?

 

 あっ。白哉さんの部屋にお泊りしていいかどうかを聞くことぐらいならできるじゃないですか。なんで今までそれに気づかなかったんだろう……

 

 でも寝る時以外のキスならよくやりましたよ? 部屋に戻る時に。後、前にデートした時はキスだけに飽き足らず……って⁉︎ わ、私は一体、誰に向かって何をカミングアウトしようとしたんでしょうかね⁉︎ い、いやぁ恥ずかしい恥ずかしい……

 

 そんな事を考えていたら、白哉さんのクスリとした乾きのある笑い声が聞こえた。……これ微笑? 微笑ってヤツですか? なんだか馬鹿にされてる感があって、無性に腹が立つような……

 

 

『今の俺は人形だから、今やっても布の感触しか伝わらんぞ?』

 

 

 むっ。まるで私がちゃんとしたキスをしてないから『この後のキスで後悔しそうだなこの子』って思ってないでしょうね? それぐらい分かってますから。私もそこまで馬鹿じゃないですから。

 

 

「まぁ……その、あれです。ものは試しってヤツですよ」

 

『そ、そうか……わかった』

 

 

 白哉さんはそう言って少し戸惑いながらも了承してくれた。なんか『こいつ正気か?』みたいな表情も見せていたけど、正気です。みんなが思うほど頻繁にはできないキス、それも白哉さんが人形の状態で行う……こんな二度とできない機会を逃すわけにはいきませんもの‼︎

 

 

『それじゃあ……するか。おやすみ、優子』

 

「はい。おやすみなさい、白哉さん」

 

 

 そうして私達は瞳を閉じ、ゆっくりと顔を近づけ……唇と唇の位置であろう人形の口元部分を交わした。人形の唇はサラサラとザラザラが混じっていながらも、優しく、本物のとは違った温かみのある感触が───

 

 ん? あれ? なんだろう。突然本物の唇みたいな……というか、唇そのものの感触が伝わってきている気が……

 

 

 

「ん? あっ戻った」

 

 

 

 あっ。白哉さんの身体が元に戻った。人形の姿じゃなくて、れっきとした人間の姿………………

 

 って、えっ? 白哉さんが、私とのキスで、元に戻った? えっ? なんでそんな白雪姫みたいな感じに早く戻って……というか私今、白哉さんの腕の中に入って彼にホールドされている状態になって……

 

 ア ゙ッ こ、これダメッ……先程まで可愛くなってた人が突然カッコいい方に戻って、こんな状態になってしまったら、色んな意味でかなり効く……

 

 

「ボハァッ‼︎ きゅうッ……」

 

「お、おい優子⁉︎ 大丈夫か⁉︎ ………………あぁっ、なんか刺激が強かったんだな……」

 

 

 どうやらここで私は気絶してしまったのだということを、翌朝白哉さんが教えてくれました。と、とりあえずキスですぐに元に戻れるってことは小倉さんには言わないでおこう……。なんか、あの人ならよからぬことを考えそうなので……

 

 




久しぶりの投稿だし、ペース落とし過ぎたというか休み過ぎたから、どんな感じに執筆すればいいのか分からなくなった気がする……

なんか、シャミ誕後の週一投稿復帰も危ういな……

感覚とか色々と取り戻しておかないと……


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IF:一年M組銀八先生(1) 意味の分からないクロスオーバーは小さい頃によく妄想するものだ

他作品とのクロスするよってことで初投稿です。

ちなみにどんな作品とクロスするのかは……タイトルを見て察してください。


 

 多摩町に建設されている、東京都立桜ヶ丘高等学校。何で高校の名前が桜ヶ丘なんだ、と言われたら、窓の景色から山の山頂にある桜が見えるからだヨ。というコメントしか不思議と来ない学校である。いや意味がわかんねーよ。

 

 実はこの高校、通ってる生徒も働いてる教師もみんな変わり者ばかりなのだ。桜ヶ丘高校の生徒と名乗るだけで、周囲の普通の人間ならば十メートルほど彼らから距離を置くだろう。あくまで彼らの人間性を理解できるまでは、の話だが。

 

 桜ヶ丘高校の人間性を知ってしまえば最後、その高校への入学を試みる者達が殺到してくる。そのため桜ヶ丘高校はとんでもないマンモス高となっている。毎年多数の入学希望者が出る一つの理由としては、その話題性だろう。

 

 本来の世界ならば(・・・・・・・・)、東京都桜ヶ丘高等学校は普通の学校ではあるが。

 

 ん? それはどういう意味なのか、だって? その理由は三つ存在する。

 

 一つ。桜ヶ丘高等学校は現実世界にも存在するから。

 

 二つ。そもそもこの高校は本来マンモス校ではないから。

 

 三つ。とあるいくつかのアニメにも登場するが、大抵平和的なアニメにばかりしか出ないから。

 

 なのに……なのに……なのに、なのにだ(四回も言ってすまん)。この世界の桜ヶ丘高等学校は、みんなの知ってたり想像したりしている普通の学校とは違うところが、先程供述したのと他にも存在しているのだ。

 

 それは一体どういうことなのかは後で話そう。とりあえず今は……

 

 

「びゃ、白哉さーん。起きてくださーい」

 

 

 俺の幼馴染である、羊の角と悪魔っぽい尻尾を生やしている子・優子が、ちょっと自棄って跨っているので、そろそろ起きないとアカン。マジで。でないとナニかを絞り取られそうな気がする。いや、誰にでも優しい性格のコイツにしてはやるとは思えないが……

 

 

「わかったわかった。起きるからやめ───」

 

 

 ん? ちょっと待てや。俺、両親に(向こう側から勝手に)大量の金を仕送りされながらも一人暮らしをしている身だぞ? とある件以来から付き合っているとはいえ、合鍵とかは渡してなんか……ってか鍵屋に作ってもらってもないし……

 

 ……とりあえず聞いてみるか。

 

 

「……どうやって入って来たんだ?」

 

「へっ? あっ………………い、いえ、こっそり合鍵を作ってもらったとか、なんとかの杖を変形させて窓の鍵を開けたとか、そんな犯罪的なことはしていませんよ? た、ただ……私が起きた時に、メェール君が白哉さんの部屋の鍵を開けたまま、私の事を呼んできたので……」

 

「元凶あいつかよこんちくしょーめが」

 

 

 メェール君、というのは俺の能力──小説とかでよくある転生特典の魔法・召喚術によって召喚できる動物の一体だ。二足歩行が出来て喋れる一頭身の羊で、家事全般を家政婦並にこなすという出来過ぎないい子ちゃん……なのだが。

 

 メェール君は意外と意地悪な子……というよりも人の恋にお節介な子なのだ。特に俺が優子絡みの事に介入する時にそうなる。俺が優子に思わぬラッキースケベを起こしてしまった時とか、優子の親友かつ宿敵の桃が優子の恥ずかしい姿や恰好の写真を送ってきた時とか……まぁそういった時に揶揄ってくるんだ。

 

 今では俺と優子は付き合うことになったのだから、メェール君のお節介は来ないだろうと信じ難い、が……この状況をどこかで見られたらまた揶揄ってきそうだし、早く起きて飯食うか。

 

 

「……着替えて飯食って準備するからさ、自分の部屋か外で待っててくれ」

 

「あっ。は、はい。じゃあ私、先に出ますね」

 

 

 ふぅ、やっと解放された……さて、二学期初日から遅刻したくないし、さっさと準備しよう。

 

 優子も青と白の定番セーラー服(・・・・・・・・・・・)を着ているし、俺も学ラン(・・・)着たりしておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 ここは『まちカドまぞく』の世界。突然魔族になった吉田優子──通称シャミ子が魔族の宿敵・魔法少女の千代田桃や色んな人達と関わっていき、魔族や魔法少女の謎について追ったり何故か町を守ることになったので奮闘したりする、シリアス要素もある『まんがタイムきらら』のハートフルコメディである。

 

 が、この世界は本来の世界とは異なる点が存在する。そのうちの二つは既に供述している。一つはこの世界の桜ヶ丘高等学校が普通校ではなくマンモス校であること。もう一つは制服が本来の藍色と白のブレザー・セーラー服ではなく学ラン・青と白のセーラー服であること。

 

 で、まだ供述してないので本来の『まちカドまぞく』の世界と異なるは……まぁ教室に入れば分かるだろ。

 

 

「おはようございま──あだっ⁉︎」

 

「あ、ごめんシャミ子。そしておはよう」

 

 

 あ、優子がおそらく一回教室から出て何かするはずだろう、親友かつ宿敵の千代田桃とぶつかった。

 

 そう、本来優子とは別クラスであるはずのこの桃が、優子と同じクラスであることだ。

 

 ちなみにこいつは優子が先祖返りで魔族になるまでは目立った行動は一切してないため、それまでは優子は桃との面識がなかったし彼女が魔法少女であることも知ることができなかったらしい。まぁぶっちゃけ、実は俺も何故か桃がクラスメイトになっていたことに気づけなかったけど……

 

 

「ぐぬぬ、教室入って早々にぶつかって来るとはいい度胸……じゃないですよね。よく考えたらお互いの偶然と不注意が重なっただけですよね。すみません……」

 

「ううん、いいよ。私もまさかこのタイミングでシャミ子と白哉くんが来るとは思わなかったから」

 

 

 偶々出入り口でぶつかったことによる誤解が生まれかけたけど、即座に解けた、と。まぁいつもの仲良く言い争いする場面(というかいつも桃が揶揄うようにあしらう感じになる)が見れていつも通り、と……

 

 

 

 刹那。この場に似つかわしくない大きな音が、俺達の鼓膜に響いてきた。

 

 その音の正体は、まさかの爆発音。それも火薬たっぷりの、だ。

 

 

 

「どぅうえぇっ⁉︎ な、ななななな、何事ォッ⁉︎」

 

「う、うわぁ……またアイツかよ……」

 

「あぁ……相変わらずだね」

 

 

 優子が大袈裟だけど正しくもある反応で驚き、俺が全てを察して呆れた感じになり、桃が苦笑いを浮かべる。そんな各々の反応をしている俺らが、教室のとある位置に視線を向けると、そこには……

 

 

 

 栗毛の涼やかな甘いベビーフェイスをした少年が、何故かバズーカを肩に背負いながら、短めに切った無造作な髪型でV字の形をした黒い髪の毛に瞳孔が開いた目の男性を見下ろしていた。

 

 

 

「おはようございまーす。土方さん、また今のを躱したんですかい? 毎回毎回避けてないで、一回ぐらいは空気読んで当たってくだせェよ」

 

「そっ……総悟テメェ‼︎ 入室して即座にバズーカブッパしてくんじゃねェ‼︎ 他の奴らが巻き込まれたらどうするつもりだァッ⁉︎ つーか前々から思ってたけどどこで手に入れたんだよそのバズーカ⁉︎ 拳銃とかがある裏ルートでも手に入らねぇだろそれェ⁉︎」

 

「フッ……男にゃ一つや二つ、隠し通したいものがあるんでさァ」

 

「危なっかしすぎるもの携えながらカッコ良く言っても許されねェだろこのヤロー‼︎」

 

 

 バズーカを持っている少年・沖田総悟が何やら不吉なことを呟き、V字髪の男性・土方十四郎が焦り怒鳴りながら、銃刀法違反のこととバズーカの入手ルートについて指摘を入れている。

 

 沖田がバズーカをぶっ放し、それを土方が避ける。バズーカの火力は半端ないのに周囲はまさかの無傷。実はこの超非日常な出来事……信じたくはないが、よくある事らしい。

 

 しかも沖田と土方は中学でも同期で、沖田が悪戯というレベルではない事をして土方に遊びで害を与えているらしく、それでいて毎回周囲には一切の害を与えていないという。まぁ、バズーカレベルのは普通に迷惑なんだけど。

 

 と、そんなことを考えていると。

 

 

「クォラこの超サドヤ人がァァァァァァッ‼︎」

 

「えっ、ちょっ待っフゴッ⁉︎」

 

 

 一人の女子が何処ぞの戦闘民族の名称みたいなのを叫びながら、沖田の後頭部に目掛けて飛び蹴りをしに来た。が、それは沖田に流れるように躱され、そのまま土方の顔面に直撃する形となった。土方、哀れ。

 

 

「お前なんてことしてくれるアルか‼︎ お前がバズーカぶっ放してきたせいで、私のタコ様ウインナーが焦げ焦げの丸焦げになっちまったじゃねーかヨこんちくしょー‼︎」

 

 

 中国からの留学生──神楽。透けるような白い肌に、オレンジの髪を頭の両サイドで三つ編みにしてぼんぼりで纏めて団子状にした少女。異国情緒ある容姿の美少女……なのだが、その可愛い顔は怨念により歪んでいた。

 

 理由は明確。彼女のタコさんウインナーが沖田のバズーカによって真っ黒焦げになったからである。ってかよく塵にならずに済んだなタコさんウインナー。

 

 実は彼女はドがつく程の食欲旺盛で、先程まで早弁用の弁当を食べていたようだ。今回はどうやらその時に沖田のバズーカの爆破に巻き込まれ、自分は無事だがタコさんウインナーは……って感じだ。

 

 

「あーそれ? 安心しろチャイナ娘。お前が毎回毎回同じタコさ……タコ様ウインナーで飽きが来ないようにと、俺がアレンジを加えてやっただけでさァ。ブラックタコ様ウインナーでもいけるぜ? 大人の苦味も味わえる、的な」

 

 

 何そのブラックコーヒー路線な言い訳。そもそもブラックタコ様ウインナーって何だよ。

 

 

「ブラックにさせ過ぎだろーがァッ‼︎ いやこれもうブラックの域を超えてるネ‼︎ お前のドS成分まで調合されてダークマターになってるネ‼︎ こんな危険物質はタコ様じゃないアル‼︎ 今すぐテメーの顔をタコ殴りにしてタコ顔にしてやろうかァッ⁉︎」

 

 

 お前もタコ殴りするとか危なっかしい言葉を使うんじゃない。指導室沙汰になるぞ。

 

 

「お、俺はお前の蹴りのせいで顔がタコ様になって動けねェんだけど……」

 

 

 ドンマイ、土方。それしか言う言葉が見当たらない。

 

 と、そんなことを考えていたら。

 

 

「まったく、トシも総悟も相変わらず騒がしくやってんな。ついでにあのチャイナ娘さんも。騒ぐにしても、もう少し俺達みたいに問題事を起こさないように配慮するべきだと思うがな。ですよね、お妙さん‼︎」

 

「本当ですよね。近藤さんみたいに私の机の下に忍者みたいに隠れて警察沙汰ならぬ奉行所沙汰な事もしないでほしいですし……ってなわけでそこから飛び出せアホゴリラァァァァァァッ‼︎」

 

「あっいやこれはお妙さんを盗撮から守るための──ギャハァンッ⁉︎」

 

 

 黒い髪をアップバンプスタイルのように立ち上げた濃い顔立ちがゴリラに見える男性──近藤勲が、茶色の瞳に茶色のセミロングの髪をポニーテールにしている女性──志村妙に蹴り飛ばされる、という瞬間を目撃した。

 

 近藤はとある理由で妙に一目惚れベタ惚れで、よく妙に対してストーカー行為を働き、いつも妙に制裁を受けている。よく彼女に通報されなかったな今まで。

 

 で、その隣。

 

 

「はぁ……やっぱり夜以外でも高収入が期待できるバイトはそんなにないかー……」

 

「む? バイトで困り事か長谷川さん。なら俺が見つけたとっておきのバイト先を紹介しよう。ちなみに手順は簡単、綺麗な女性や可愛い女性に『ここで働くと快感を求められると同時に一番になれる』と──」

 

「それ風○嬢に勧誘させてる詐欺師みたいおじさんじゃねェかァァァァァァッ‼︎ それやると勧誘された側の人生終わらせちゃうから‼︎ 勧誘した側も警察の世話になっちゃうから‼︎ ヅラっち真面目にバイト先紹介して‼︎ 力になってくれるのは嬉しいけどさァッ‼︎」

 

「ヅラじゃない、桂だ」

 

 

 ストレートの長い黒髪が特徴の中性的な容貌の顔立ちをしている男性──ヅラこと桂小太郎が「ヅラじゃない、桂だ」、いつもアルバイト探しをしている苦学生でオジサンみたいな老け顔をしているサングラスの男性──長谷川泰造に何やら別の意味での危なっかしいバイトに誘おうとしていた。

 

 その前の席……は、特に問題ないな。見た目以外は何の問題もないし。見た目以外は。

 

 

「ふんふふん、ふんふ〜ん♪」

 

 

 長谷川さんの前の席に座っているのは、屁怒絽。放屁の屁に、怒りの怒、ロビンマスクの絽と書いて屁怒絽。性格は礼儀正しく穏やかであり、マナーやルールを重んじ、命を大切にする心優しい人物。今みたいに編み物を編んでいるほどの……なのだが、なのだが。

 

 顔には傷、頭には二本の角、長い黒髪と髭、口には鋭い2本の牙、肌の色は緑、瞳の色は赤、という人外要素丸出しな恐ろしい風貌で、頭の二本の角の間からは花が生えている。

 

 この見た目だ。彼はこの見た目のせいで周囲からは『花屋のフリをして地球を侵略しようとしている凶悪な怪人』と誤解されている。またマナーやルールを守らない者や、虫や花などを踏みつぶそうとした者に対しては力任せで容赦ない制裁を加えるため、誤解に拍車をかけてしまっている。ただ、本人はその事に全く気づいていない。全くだ。

 

 明らかに優子よりも魔族らしさが非常に強く出ているが、本当に魔族なのかは意外なことに不明。不明である。何故なら中には彼の事を宇宙人か異世界からの人物か何かかと警戒する者がたくさんいるからだ。真相が明らかではない今、屁怒絽を魔族認定するのは留めている。聞くにしてもなんか怖いし……

 

 ちなみに彼の実家が花屋であってか、親の手伝い……なのかもだけど、ほとんど屁怒絽が仕事をほぼ全部やってる感じに、経営の手伝いをしているようだ。そしてその家族もほぼ全員屁怒絽みたいな怖い姿だけど、全員優しかったぞマジで。

 

 何故俺が屁怒絽の事を知ってるかって? 行ったことがあるからだ。とは言っても優子と一緒にお出掛けしてたら偶々見かけたって感じだったけどな。けど優子が自分と同じ魔族の可能性が高いだろうと思って意を決して話しかけていったら……屁怒絽が先程の供述通りの性格のため、俺達は仲良くなれたんだ。魔族かどうかを聞き忘れたけど。

 

 ……って、屁怒絽の事で話し過ぎたわ。なんで屁怒絽の事で長く一人語りしてんだよ俺。

 

 

「あー今日もみんなはっちゃけすぎてるよね」

 

「はっちゃけてるってレベルじゃ済まされないでしょこれ……。でも誰も周りに迷惑がかからないようにしてくれているのが、助かると言っちゃあ助かるけど」

 

 

 と、屁怒絽の事で長語りしていることに気づいたところで、二人の少女が入室してそう呟きながら俺達のところに寄って来た。

 

 

「あっ。杏里ちゃんおはようございます」

 

「ミカンもおはよう」

 

「おはよう、二人とも」

 

「「おはよう」」

 

 

 俺と優子の中学生からの友達──佐田杏里と、桃の知り合いである魔法少女──陽夏木ミカンの登場。数少ない常識人の枠の子達だ。

 

 ミカンは桃曰く物騒な人ばかりだという魔法少女の中でも穏健派なイマドキ女子で、杏里はこの学校の一年生で最も異常だと言われているクラスで一番のまともな存在だと言われている。俺達三人にとっては、おそらくこのクラスの中で助け舟を求められる頼れる子達だ。面構えが違う。

 

 ちなみにミカンは本来ならこの学校には二学期初日に転校して来るのだが、どうやらこの世界では最初からこの学校に入学していたようだ。優子と桃が学校で改めて邂逅した時から出会ったのだが、案の定優しい性格のためすぐに仲良くなれた。

 

 実は彼女にはとある小さな呪いを持っているのだが……それについては訳あって解決しているのでまた別の機会に話そう。

 

 

「……ってか、さっきの話を聞いてからするに、お前らこのカオスな光景を見てよく平気でいられるな。普通、こういう光景を見たら慌てたり怖がったり誰かと一緒に止めたりするだろ」

 

「ん? まぁこの学校に入ってからこういう事は起きるだろうなぁとは薄々感じてたからね。多摩町の人達は変な人ばっかりだし」

 

「私もさすがに怪我人が出てしまったり大事になりそうになったら全力で止めに行くけど、皆たとえ暴れても周りに被害が出ないように配慮をしているみたいだから、大丈夫かも思い込んじゃって……」

 

「さすがにミカンはあれを見て諦めるのはやめてくれないかな? いざという時に私一人で対処できるとは限らないし……」

 

「……その反応からするに、私がまぞくになってもすんなりと受け入れてくれた理由、分かってきた気がします……」

 

「……だな。ってか、あいつらなんであそこまで騒げるんだ? 長谷川さんや屁怒絽達を見習えっての……」

 

 

 ヤベッ、四人との会話の中で私怨を入れちまったよ……。まぁあんなに騒がれたらいずれそう思い込んでしまうだろうな、とは薄々勘づいてはいたけどさ。せめて表向きに出したくはなかったな。マジで。

 

 と、そんな事を心の中で考えていたら。

 

 

「おはようございまーす。あれ? 平地さん達なんで一箇所に集まって………………あぁ、また姉上や神楽ちゃん達が暴れてるのか……」

 

 

 このクラスの常識人の一人、志村新八の入室である。これといった特徴のない黒髪と顔立ちの眼鏡の少年。剣道部でとあるアイドルのファンであること以外、他の奴らと比べて至って普通、なのだが……

 

 

「あぁ……今日も来てくれたのか、俺らの癒し担当……」

 

 

 普通だからこそ、いてくれるだけで俺らに心の安らぎを与えてくれるんだ……

 

 

「はぁ? 急に何を言ってくるんですか? 大体癒し担当って、意味が分からな───」

 

「いや、白哉さんの言ってることは分かります。新八くんがこの場にいると、あれほど騒がれてもなんだか安心できますし……」

 

「わかる。来てくれるだけで安全地帯を作ってくれているって感じがして、存在するだけでありがたみを感じる……」

 

「いざという時は私達が思ってでもツッコめない場面にツッコミを入れてくれるし、色々と感謝してるというか……」

 

「寧ろ何もしてない時でも労いたいって思えるほどよ……いや、フリとかそんなんじゃないわよ?」

 

「えっちょっ、ちょっとォォォォォォォォォッ⁉︎ 何これ⁉︎ なんで僕何もしてないのにいつの間にか感謝される存在になってるの⁉︎ 確かにツッコミはよくやってるけど、それ以外は無自覚系主人公並に記憶にないんですけど⁉︎ 何⁉︎ 僕何かやってはいけないことでもしましたか⁉︎ 今すぐ謝った方がいい⁉︎」

 

 

 突然かつまさかの優子達まちカド女性陣(ってかきらら漫画だからメインキャラ女性しかいない)による感謝の言葉ラッシュに思わず動転する新八。いや俺もこれにはビックリだよ? まさか優子含め四人全員も新八の存在にありがたみを感じていたとは思わなかったからさ。

 

 

「ありゃー。新八くんこれはモテ期でも到来したのかな? 一人は彼氏持ちだけど」

 

「揶揄わないであげてくださいッスよ小倉さん。新八くん意外なとこでムッツリになっちゃうんスから」

 

「けど実質両手に花なんだ。今まで彼が苦労した分、こういったおいしい瞬間は味合わせてあげないと釣り合わないじゃないか」

 

「あ、なんバランス良くディスられた気がする」

 

 

 ここで悪意のない野次馬が新八を襲った──‼︎

 

 『まちカドまぞく』のヤベー枠であるマッドサイエンティストの小倉しおんさん(本来なら別のクラスの子)、忍法に憧れ独自の忍法を編み出したオリキャラの平賀全蔵、二割ウザキャラ八割過保護キャラの陰陽師オリキャラの仙寿拓海の登場だ。内二人は先程の会話の通り常識人である。

 

 実はこの三人も、存在してくれるだけで感謝される新八ほどではないが俺達の救いの手を差し伸べてくれるいい人達だ。

 

 小倉さんは『実験したいから手伝って』と声を掛けるだけで騒ぐ奴らを静まらせ抑制し(だがほぼ毎回巻き込まれるサイドの土方もよく実験の被害に遭う)、全蔵はこっそり忍法を撃って突然の出来事にみんなを唖然とさせ、拓海は異常なほどの過保護さを曝け出してドン引きとかさせる。つまり一時行動するだけで周囲を抑制してくれるのだ。

 

 ま、それでも俺達の心の安らぎを与えてくれることも考えると新八にはかなわないけどな。三人には申し訳ないが。

 

 

「……あの、白哉さん? 無言で僕の肩に手を置くのやめてくれませんか? ってか突然どうしたんですか? 今のといい癒し担当と言ってきたのといい……」

 

「あっ、すまん。お前に憐みをかけるつもりとかバカにするつもりとかは決してないんだ、決して。許してくれ」

 

「嘘を言っていない気がするのが逆に怪しい……」

 

 

 うるせぇよ、ほっといてくれ。怪しまないでくれよ三百円あげるから。

 

 と、そんなことを考えていたら(何回このパターンやるんだろ)。教室の引き戸がガラガラと開いた。

 

 

「ギャーギャーうるさいんですよ、発情期ですかこのヤロー」

 

 

 教室の前方から登場したのは、水色がかった銀髪の天然パーマに死んだ魚のような目をした男性教師。くたびれた白衣、そして口元に咥えている煙草。といった奇妙な出で立ちをしている。

 

 外見からして無気力・脱力感が感じられ、見た目からして教師の常識から逸脱しているのが、このクラスの担任・坂田銀時。通称・銀八先生である。何故このやる気の微塵も感じられない人が教師をやっているのだろうか……俺を含めた(?)常識人だけでなく、多くの生徒もそう思っていることだろう。

 

 が、やる気の微塵も感じられない声で注意を促した途端、先程までのバカ騒ぎが嘘のように静まり返った。そして騒いでない俺ら常識人達と一緒にスムーズに席に座り始めた。どうやらこの先生、見た目や性格に反して教師の威厳はきちんと携えているようだ。いや寧ろそうでないと教師は務まらんだろこの先生は。

 

 けど……と不服に思ったのか、席に着いた俺は思い切って挙手して銀八先生に呼びかける。

 

 

「先生、煙草を吸いながら教室に入らないでください」

 

「あぁ? 前にも言ったけどよォ、こいつは煙草じゃなくてレロレロキャンディーだ。っつっても俺、『他の銀魂』キャラと一緒でこの小説では初登場だけどな」

 

 

 いやどっちにしろ学校にそんなもの口に咥えるな。煙たくて授業に集中出来んし、学校の物に引火したら洒落にならんやろがい。

 

 

「キャンディー舐めても煙は出ませんよ。まさか煙が出る繋がりで、ドライアイスとかを口に突っ込んでるんじゃないでしょうね……?」

 

「ちげーよ。物凄くレロレロしてるから出るだけなんだよ」ヌパッ

 

「うわぁっ……」

 

 

 思わずドン引きしてしまった。だって銀八先生が口から取り出したのが、煙草じゃなくてマジモンの渦巻き状の七色のレロレロキャンディー、しかも大きく頬張らないと口に入らないほどの大きさだったから……

 

 いや、よく考えたらスゲー顎の筋肉を使ったなこの人。そしてよくそれ咥えながら喋れたな。もっと咥えやすく食べやすいレロレロキャンディーがあるだろうがい。ってかどうレロレロ舐めたらレロレロキャンディーから煙が出るんだよ。訳が分かんねーよ。

 

 

「質問とかはもういいだろ。んじゃ日直、号令たのまー」

 

 

 あっ、そういえば今日の日直は俺だったわ。

 

 

「きり───」

 

「あーちょっと待て白哉。二学期が始まったばかりだからな、今日から号令を『起立』『礼』『まちカド‼︎』にする」

 

「完璧に思いつき百パーセントの提案じゃないですか」

 

 

 完璧に思いつき百パーセントの提案じゃねーか。大事なことなので心の中でかつ片言でもう一回言いました。やっぱり適当にやる人は教師に向いてねーな。

 

 と、そんな事を(ry、桃が挙手しながら銀八先生に呼びかける。

 

 

「すみません先生、号令を『着席』から『まちカド』にする理由がわかりません。意図を教えてください」

 

「意図だァ? 意図なら生徒手帳の隠しページに書いてあるから読んどけ。そもそも二次創作の世界だってそんな細かい設定はすっ飛ばしてんだから気にすんな」

 

 

 思いつきのヤツに意図なんかねーだろ。ってか生徒手帳の隠しページて……あと今とんでもねー事を言わなかったかこの人は?

 

 と、今度は優子が挙手してきた。

 

 

「先生。何ですか生徒手帳の隠しページって。そんなのどこめくっても見つからないのですが。何ページ目ですか?」

 

「何ページ目って……そりゃアレだよ。お前達の心の中の生徒手帳の十八ページ目に書いてあるんだよ。いつの間にか記憶にインプットされてるもんだよ」

 

「いやそれ単に適当に言っただけェェェェェェッ‼︎ 隠しページがあるとか言うから『えっ、そんなの見つからないんだけど。私の生徒手帳だけ印刷だったことに今まで気づかなかった?』って思ったましたよ正直‼︎」

 

 

 うわおすごいキレのあるツッコミ。優子じゃなかったら誰もしてくれないね。素直に本心を吐くことはいいことだ。

 

 そんな馬鹿なことを考えながらも、そろそろ頃合いかなと感じた俺は改めて号令をかけることに。

 

 

「起りーつ、礼、まちカド‼︎」

 

 

 全員が立ち、一礼し、そして『まちカド』の合図とともに席につく。それを見ていた銀八先生は……

 

 

「うん、面白くねェな。やっぱ元に戻そう」

 

 

 いやもう戻すんかいッ‼︎ という怒りが沸騰したけど、心の中で留めることにした。だって口に出したら後が面倒臭くなりそうなんだもん。

 

 えー……銀八先生の登場でみんな気づいてはいるとは思うが、実はこの世界は、『まちカドまぞく』の世界と『銀魂』の世界が混合しているのだ。

 

 『銀魂』はアメリカ人の代わりに宇宙人みたいな奴らが日本を勝手に現代並の文化を発展させたことで侍を衰退させた江戸が舞台となる世界。そんな世界で、攘夷戦争で猛威に暴れたかつての白夜叉・坂田銀時が己の道を突き進む……みたいな感じのコメディ・シリアスのバランスが取れたジャンプ漫画だ。

 

 そんな世界をモチーフにした感じのスピンオフ作品『3年G組銀八先生』の生徒や教師が、銀魂高校の代わりにこの桜ヶ丘高等学校にいるってわけ。なんでこんな世界に俺は転生してしまったんだろう。ってかどんな混合世界なんだよ。まぁ今では結構楽しく過ごせているので疑いはしないけど。

 

 

「じゃあ、今日のHRの議題に入る」

 

 

 突然そう言ってきた銀八先生は黒板に体を向けチョークで字を書いていく。

 

 

 

 そこには『休み明けテスト』と書かれていた。

 

 

 

 銀八先生は再び俺達に体を向けて言う。

 

 

「が、ある。来週からな。お前ら一科目でもいいから八十点以上とれよー。じゃねェと再来週以降俺の授業マラソンにするから」

 

 

 あぁ、ここでテストがあるのか。普通、夏休みが明けて二学期の始業式を終えた次の日ぐらいにテストがあるものだと思い込んでいたから、ここであるのだという実感がないのだが……

 

 ………………ん? ちょっと待って? なんか先生がとんでもねー課題を押し付けてきた気がするが?

 

 

「以上」

 

 

 と言って、銀八先生はそのまま教室を出ていこうとする。いやちょっと待って? とんでもねー事を言ってはい退散とかやめて? マジで。

 

 

「いや、先生‼︎」

 

 

 と、ここで新八が何の説明もなしに去ろうとする先生を呼び止めた。新八、ナイス‼︎

 

 

「どういうことすか‼︎ 八十点以上⁉︎」

 

「そーだよ。取れなかったらお前らランナーズハイな」

 

「なんでだよ‼︎ アンタ国語教師だろーが‼︎ なんで自分の授業をマラソンにするんすか⁉︎」

 

「じゃあ走りながら『万葉集』でも詠んでもらおうかな」

 

「難度アップしてるじゃねーかァァァッ‼︎ 無理矢理国語に繋げてんじゃねーよ‼︎」

 

 

 スゲー鋭いツッコミのラッシュ。俺みたいな奴じゃなきゃ見逃してたかもな。

 

 

「先生〜。長時間走るの過ぎるので取りやめてくださ〜い。それかせめて『古今和歌集』にしてください。そっちの方がマラソンしている時に言いやすい」

 

「小倉さん、貴方は一体何を所望してるのよ……」

 

 

 なんか変な事言ってきた小倉さんにミカンが呆れながらツッコミを入れていると、また優子が意見を出してきた。

 

 

「それよりも先生‼︎ ちゃんと事情を説明してください‼︎ そうでないと私達も納得できませんよ‼︎」

 

「そうですよ先生‼︎ どうして『○しの子』はメインキャラを闇堕ちさせたがるんですか‼︎」

 

「桂、お前は何を言っているんだ」

 

 

 思わずテストとは関係のない話題の矛が先生に向けられてたから、思わず桂のボケにツッコんじまったよ……いやなんでこのタイミングで今年流行りのアニメの話するねん。

 

 

「あー実はな。今朝校長室に呼ばれたんだけどよ………………」

 

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………あれ? 先生、何故話を途中で止めて───

 

 

「話すのがかったりーから、次のifの回に話回すわ」

 

 

 いやだいぶ間を空けてやっと口にした一文がそれかいィィィィィィィィィッ‼︎

 

 




はい、というわけで十五年ほど連載した大人気ジャンプ漫画『銀魂』とのクロス回でした。銀魂、大好きッ‼︎

ちなみにネタの内容が思いつかない場面に直面したので、以下の内容をどのように書くのかを、以下のURLにて教えてくださると助かります。

・白哉とシャミ子のデート
・桃が想いを寄せているオリ男との電話
・藤原書記の真似をするシャミ子と禰豆子の真似をする桃
・R-18パートの最新話

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=291009&uid=379192


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IF:一年M組銀八先生(2) テスト勉強漬けになって頑張っても根詰まるから気分転換もしとけ

結局他作品クロスの続きを書くのかってことで初投稿です。

実は不思議なことに、この続きが思い浮かばないんです……


 

「───まぁ要するに、バカ校ちょ……じゃねーや。ハタ校長が今朝、『一年M組の実力・中間・期末テストの各総合点数が非常に悪かった上に学年最下位だったぞ』って言ってきたんだ。『一年生からそれはさすがまずいだろ』ってことで、『全員が休み明けテストで一科目でいいから八十点以上を取らないと毎日補習にし、さらに教師の給料を二十パーセントカットにする』ってことも言ってきたんだ。しかも決定事項だ。ってことでテメーら、絶対どっかの教科で八十点以上とれよー。俺に給料カットされた恨みを買いたくなかったらな」

 

 

 平然と、長々と、死んだ魚の目をしながら俺達にそう説明した銀八先生は、咥えていたレロレロキャンディーの飴の部分が無くなったことに気づき、新しいのを取り出してそれを大きく頬張った。

 

 ………………いや、ちょっと待て。

 

 

「先生。なんか説明がざっくりとしてませんか? まるで『既にモノローグは流されてましたよ』みたいな感じに説明をされましても、俺らはどうもしっくりとこないというか……?」

 

「いーんだよ説明はこんな感じで。どーせ今回のモノローグなんて『3年G組銀八先生』の第一話での校長先生との会話の回想とほぼ同じようなもんなんだから。んなもんここで話しても『原作の大幅なコピー』扱いされて作者がこの小説諸共BANされちまうんだから。気にしたらお前らもハーメルン運営から消されるぞー」

 

「すみません、何の話ですか」

 

 

 銀魂特有のメタ発言はともかく、作者だとか小説だとか運営だとか……まるで俺が介入したこの世界の物語が現実世界で公式になった、みたいな発言はやめてくれませんか? そんなこと二次創作してくれる人が作らない限りあり得ないですよ。そもそも俺が介入した時の物語なんて現実世界の方では誰も知らないし。

 

 

「ま、つーわけだ。以上」

 

 

 オイコラ待てや。勝手に話を終わらせて出ていこうとするな。

 

 ムッとした感情を抱いた中、新八が呼び止めながら叫んだ。

 

 

「ちょっと待ってください‼︎ 以上、じゃないですよ‼︎ 何勝手な約束交わしてんですか‼︎ いくらなんでもいきなりすぎるでしょ‼︎」

 

「んなこと言ったって校長の考えなんだから仕方がねーだろうが。諦めよーフィリップ君。大体お前なら地球の本棚に検索すりゃあ余裕で満点だろ」

 

「いやそれ実写版の俳優が同じなだけェェェッ‼︎ あの人イケメンだし僕よりもフィリップ演じてる方が美男さ出てるから、そっち方面でわざと間違われるとこっちは虚しくなるんですよチクショー‼︎ ってゆーか‼︎」

 

 

 新八は教壇に立つ銀八先生の隣で苦笑いしている、赤髪で左髪のもみあげ部分をピンで留めている女性に顔を向け、彼女にも叫びながら問いかける。

 

 

「浅瀬先生もこんなの納得できるんですか‼︎ いつも通りの笑顔でいるみたいですけど‼︎」

 

 

 怒り気味の声の新八から問いを受けるのは、本来なら優子のクラスの担任であるはずの、ややおっとりした性格の浅瀬先生。

 

 彼女は原作でもこの世界でも優子が桃への果たし状を書いている時に、その文章や言葉遣いなどを色々と添削してくれた良い人だ。けどその結果、現代に合わせすぎたため内容が分かりにくくなってしまい、優子は『果たし状を果たせているのか』と疑問を覚えてしまったけど。

 

 そんな浅瀬先生はその苦笑いを崩さず、新八の問いに答える。

 

 

「正直私も困ってるのよ? 私も坂田先生と同じで給料カットされるみたいだし」

 

「じゃあなんとか校長先生に抗議してくださいよ‼︎」

 

「そうしたいのは山々なんだけど、そんなこと出来る勇気がなくって……ごめんね? ペラップ君」

 

「それアニポケ不思議のダンジョンの奴ゥゥゥゥゥゥッ‼︎ つーか中の人繋がりでも分かる人いるわけねーだろそれェッ‼︎」

 

 

 結構渋い方面から突いてきたなこの先生は。ってかそのポケ○ンのゲーム、アニメになったことあんの? 初耳なんだけど。

 

 と、ここで新八のツッコミを筆頭に他の生徒達からも非難の声が次々に上がる。

 

 

 ───ふざけんなよ‼︎ そうだそうだ‼︎ 話にならん‼︎ なんてことしてくれたのよ‼︎ どうしろというんですか‼︎ うわめんどくさ。冗談じゃないよ‼︎ 色々とおかしいッス‼︎ キツ過ぎるだろう‼︎ 『ぼっち・ざ・ろっく!』の二期はよ‼︎ 鬼滅がアニメでも終わりそうなのマジで悲しい‼︎ お金持ちのニートになりたいって作者が言ってた‼︎

 

 

 なんか一人だけローテンションなんだけど、これは桃かな。あいつ中間テストで理系を中心に八十点以上を取っていたし、期末テストだって五教科のうち四教科は九十点台で一教科はなんと百点もとったんだし。

 

 ってか、テストに関係ない悪口を言ってる奴も三人ぐらいいなかった? しかもその内二人はアニメ関連というね。

 

 

「大体補習を毎日、それも土日祝や冬休みなどを削るって……横暴ってレベルじゃないッスよ‼︎ 警察や県庁への報告ものでニュースに取り上げられちゃうッスよ‼︎」

 

「その通りアル‼︎ そもそも私の国には、『平日の補習なんてノンノンノン。嫌いな色は黄緑です』という格言があるネ‼︎」

 

「平日の放課後を潰されたら、エリザベスの散歩に行けなくなってしまいます‼︎」

 

「つーか、んなことしてたらバイト入れらんねェよ‼︎ その補習って時給出るんですか⁉︎」

 

「俺も陰陽師の仕事が出来なくなってしまいます‼︎ 陰陽師が幽霊関連の仕事を優先させなかったら誰が代わりに町を守るというのですか⁉︎」

 

「そもそも部活に入っている人達に対する実質的な退部にもなるんじゃないですか⁉︎ 私テニス部で先輩達に結構期待されてるのにー‼︎」

 

「私は倫理以外学年トップの成績なので、特例で補習せずに部活で実験しててもいいですか〜?」

 

 

 約一名が自身の学力の事を話して一人だけ逃げようとしている。オイ小倉さん、危なっかしい実験するよりも補習で身につけた知識で安全な実験がいつでもできるように準備した方がいいぞ。

 

 胸に抱えていた不安は抑えきれず、皆の文句はどんどんエスカレートしていく。

 

 

 ───ふざけるなよ‼︎ 校長に抗議しろ‼︎ っていうかこんな約束反故にしろ‼︎ この天パが‼︎ 死んだ魚の目‼︎ 浅瀬先生可愛い‼︎ 百合なんてあり得ないだろ‼︎ これに抗議する奴は極刑‼︎

 

 

 いつ果てるとも知れぬブーイングの嵐。中にはブーイングじゃないのがあったり百合に対する冒涜の発言が出たり(ちなみに俺はNL派)と、不満を爆発させすぎてまたテストとは関係のない不満までぶつけ始めた。ホントなんでやねん。

 

 一方、ブーイングしていない優子・桃・ミカンのまちカドメイントリオの方はというと……今のブーイングの嵐に引き気味になりながらも警戒の意思を示していた。

 

 

「ちょっと……これヤバくないかしら? いくら校長先生が決めたこととはいえ、このまま批判の意見を出させ続けたらクラスの皆が暴徒化しちゃうでしょ……。ね、白哉?」

 

「このままじゃダメだ。魔法でぶん殴って静かにさせるべきかも……。だよね、白哉くん?」

 

「いや暴力で解決しようとしないでもらえます⁉︎ いくら多摩町の人達が奇天烈な人ばかりだからって『やはり暴力……‼ 暴力は全てを解決する……‼』なんて路線が許されるのは江戸時代までですよ‼︎ ですよね、白哉さん⁉︎」

 

「いやその時代には警察の代わりに奉行所がいるから、江戸時代でもダメじゃね? ってかお前らなんで俺に振るの? 解決策とか持ってないから俺に期待すんのやめてくんない?」

 

 

 思わず正論みたいなツッコミを入れちまったよ……。普通に考えてどの時代でも暴力はダメだし、縄文時代以降にも警察みたいな組織はいるでしょうが。そしてなんで三人とも俺に振ってくるのかが分からん。俺なんかに助け舟求めんな。

 

 にしても、これはどうしたらいいものか。銀魂キャラは基本はまちカドまぞくキャラ以上にコメディかつマイペースで動いているし、自由過ぎてついていけないんだよな……。だから俺が指摘しようとしても無意味なんだろうし。

 

 けど、いやホントマジで、この状況をどうするべきか───

 

 

 

「っせーんだよテメーら」

 

 

 

 刹那の瞬間だった。甘い煙混じりの溜息をつき、まるで田舎のヤンキーの様に首を曲げ凄みながらそう呟いた、銀八先生の怒声混じりのだらけた声に、俺の背筋は一瞬で凍っていた。まるで百発百中の狩人に狙われている獲物になったかような殺意に見舞われていた。

 

 そして先生の声と言葉に反応してか、先程までブーイングしていた生徒も全員までもが黙り込んでしまっていた。今の先生の声がかなり響いてきたのだろうな。

 

 そして銀八先生は教卓に両手をつき、再び煙まじりの溜め息をついてから口を開いた。

 

 

「いいかテメーら。胸に手を当てて考えろよ。特に女子な」

 

『先生ぶち殺しますよ』

 

 

 と一部の女子達、というか貧乳気味の女子達が殺意まじりの抗議をする。中には普段あまり怒らなさそうな桃や杏里まで今のセリフを吐いていたみたいだ。お前らも気にしてたんだな……。ちなみに小倉さんは今の抗議には参加しなかったようだ。こいつは自分の胸の事とか気にしない派か。

 

 

「とにかくだ」

 

 

 銀八先生は顔を引き攣らせながら続けた。

 

 

「こうなったのはテメーらのオツムが悪いのが原因だろうが。俺や浅瀬の方こそとばっちりなんだよ、給料カットとかされてよー」

 

 

 いや、まぁそうなんだけど。ほとんど銀魂キャラがそうしたことだけども。

 

 

「あ、あの……それでも、ですよ? もうちょっとハードル下げてもらうとか、そういったのを校長先生に掛け合うことは出来ませんか……?」

 

「情けねーこと言ってんじゃねぇよアホウミストレス」

 

「シャドウミストレスです‼︎ って誰がアホウだこのヤロウ⁉︎ 思いっきり生徒に対して暴言を吐いてるじゃないですか‼︎」

 

 

 銀八先生のごもっともな意見とそれに釣り合うかのような圧に押されながらも、控えめに自らの意見を述べた優子。それも虚しくピシャリとした感じに返され、魔族としての活動名を良くない方向で間違われてお怒りだが。

 

 

「いいかテメーら。別に全教科八十点以上とんなくていいんだよ、一科目でいいんだ。ここは全員で八十点以上とって、校長の鼻を明かしたらどうだ?」

 

 

 刹那、クラスの皆が彼の鼓舞に対して強く反応した。ニヤリと笑いながら言った銀八先生の言葉が各々の心に突き刺さったらしく、熱い闘志を燃やし始めたのか、決心の篭った声が飛び交う。

 

 

 ───おぉ、やってやろうじゃねーか‼︎ 校長め、今に見てろ‼︎ よっしゃー気合い入れていくかー‼︎ これは頑張らないとね‼︎ 私の場合は余裕だけど頑張るぞー。八十点なんてあれだ……えーと、その……ちょちょいのちょいだ‼︎

 

 

 アンニュイで気怠げな銀八先生の口から発されたとは思えない程の、真面目で真摯感の強い言葉が、みんなの心を大きく動かしてくれた。いつもの彼とは違った何かが、どこか感じ取れた。

 

 ひとつ頷き、銀八先生は続ける。

 

 

 

「いいか。テメーらは腐ったミカンなんだ‼︎ あっ、間違えた。腐ったミカンなんかじゃないんだ‼︎」

 

 

 

 ………………

 

 ちょっと待て。今、何処かで聞いたことのある有名な台詞諸共台無しにされた気がするのだけど。先程までやる気満々な皆が上げていた声が一瞬にして聞こえなくなった程の呆然さなんだけど。

 

 

 ───いやそこ間違うのかよ‼︎ 一番間違っちゃいかん台詞だろ‼︎ 謝れ‼︎武田鉄矢に謝れ‼︎

 

 

 うわ、また不満の声が爆発してきた。別方面でだけど。今朝一番のボルテージでツッコミが炸裂し、鞄や教科書や筆記用具やゴミを先生目掛けて投げ飛ばしていく。

 

 

「あー‼︎ うるせーうるせーうるせー‼︎ とにかく‼︎ 六時間目のホームルームで緊急対策会議やるからな‼︎ 以上‼︎」

 

 

 飛んでくる物を週刊少年ジャンプを盾にして弾きながら、今度こそ銀八先生は教室から出て行ったのだった。いや教師が小・中学で確実に校則違反になる物を持ってくんなよ。

 

 ほとんどのクラスメイトが武田鉄矢の台詞を台無しにされたことで不満を持ったり苛立ちを抱えている中、ふと優子の方を見やる。目をぐるぐるとしながら顔を真っ青にしていた。

 

 

「いっ、一教科だけとはいえ、必ず八十点以上……き、期末テスト以上に緊張と不安が一気に押し寄せてくる……‼︎ ぜ、全部七十九点以下になりそうで怖い……」

 

 

 なんか陰キャみたいな考えしてるんだけどこの子。期末テストでは桃との勝負があるからってことで五教科八十点以上とったのだけど、今回は勝負じゃなくて共闘みたいなものだからな。桃と競争できないことで優子のモチベーション、下がらないだろうな……?

 

 

 

 ってか、物が投げられた時に何やら機械がバコンッと壊れたような音がしたけど、学校の物が壊れたとかないよな……?

 

 

 

 

 

 

 何の変哲もないとある職員専用の部屋。その部屋のデスクに置かれたノートパソコン。その画面に映し出されたM組の様子を眺めながら、この桜ヶ丘高等学校の校長であるハタはかなりの冷や汗を掻いていた。

 

 この校長、デップりとした横長の体型であることは普通だが、血色の悪い紫色の顔に額の上から触覚を生やしていると完全に人間の要素ゼロである。が、シャミ子のような魔族や屁怒絽のような魔族かも分からない奴もいるので、そこは気にしないでの一点張りである。

 

 ちなみに校長と同じ部屋──校長室にいる教頭も、同じく額から触覚を生やした人外教師だ。体型はガリガリだが。

 

 

「う~む……これはまずい‼︎ 非常にまずい‼︎」

 

「あ? 何が?」

 

 

 叫びながら困惑している校長の声に反応したのか、ソファーに座り電撃魔王の雑誌を読んでいる教頭が反応の意を見せる。

 

 

「おいコラ。わし、お前の上司だぞ。つーか学校に漫画持ってくんな。とにかくこっち来い」

 

 

 教頭は渋々雑誌を閉じるとデスクの前に立ちパソコンを覗きこむ。

 

 

「監視カメラの映像ですか? 途中で止まっているように見えますが」

 

「そうじゃ。M組の教室になんかこう、上手い具合に仕掛けたやつの映像をなんやかんやしてわしのパソコンに転送し、再生させておるのじゃ」

 

「アバウトだな説明が」

 

「いいんじゃよ映れば。ただ……」

 

「ただ?」

 

 

 校長は落ち込んでいるのか一つ低い声での溜息をつき、パソコンの画面の表示を変えた。そこにはアナログテレビの如くザサザッと砂嵐のように荒れている映像が映し出されていた。

 

 

「実は先程、坂田先生が武田鉄矢の台詞を台無しにしたことに怒った生徒達の投げた物の一つが、偶々ぶつかったみたいでの。そのせいでこれ以上奴らの様子を見ることが出来なくなったのじゃ」

 

「女子が着替えている時にバレて懲戒処分されるよりはマシではありませんか。それよりもA○ビデオを買って観た方がよっぽど良いでしょう」

 

「んな目的で付けたわけじゃねーよクソジジイ‼︎ 校長に対する名誉毀損だぞコラ‼︎」

 

 

 どうやらこの校長、今朝方銀八先生に告げた休み明けテストの事でM組がどのような反応をするのかを確認するべく、事前に教室にいる者にバレない位置に監視カメラを取り付けていたようだ。

 

 テストの点数の事で戸惑うM組を見て笑ったり、あわよくば……などといった良からぬ目的も企んでいるようだが。ただし卑猥な目的は決してない。そう、決して。

 

 

「まぁこれは数日かかるけど自費とかでなんとかするとして……それよりもまずいぞ。生徒達が一致団結しおった……‼︎」

 

「それの何がいけないのですか?」

 

 

 教頭の意見はごもっともである。生徒達が一致団結することは彼らの勉学や行事のモチベーションの向上にもなる上、他のクラスや職員達の評価にも繋がる。逆に一致団結してもよろしくない点などないのだ。

 

 しかし、今回の件に関しては校長はそれをよろしくないと見ていた。それは何故か。校長は不機嫌そうな顔をして答えた。

 

 

「このままじゃ、わしの計画が台無しになるだろうが」

 

 

 校長の計画。それは『銀八先生の人気を落としちゃえ、イェーイ‼︎』といったものだ。いや計画の名前もアバウトだなオイ。

 

 銀髪で天然パーマ、死んだ魚の様な目とおよそ人気要素ゼロの銀八先生こと坂田銀時。しかし、彼は何故だか生徒達はおろか、同僚である教師達からも大分人気が高く、そこそこの支持を得ていた。

 

 銀八先生がボケれば生徒がツッコミを入れ、逆に生徒がボケれば銀時がツッコんだりと、その呼吸を見る限り『M組ってまあまあ結束力高くね?』という評価が上がっているようだ。それも入学式が始まってたったの半月。その半月で新入生からの人気や支持を得たのだ。

 

 しかも校長曰く、一年生に飽き足らず、ごく一部の女子の間では『銀八先生ってワルっぽいとこらがイカすよね』とか『銀八先生とだったら結婚してもいいかも』などとラブコール炸裂の発言がなされているのだ。

 

 その多大な人気と支持を得た最大の理由が、銀八先生の裏の人柄の良さだ。やる時はやる男で、結構仲間思い。悩み事を抱えている生徒がいれば、ボケをかます時はあっても必ず解決へと導こうとする、なんやかんやお人好しな男なのだ。それ故に情が厚く、決める時はバッチリ決める為、皆からは何だかんだで信頼されているのだ。

 

 だからこそ、校長は銀八先生を危惧していた。もしも彼がこのまま人気や支持を獲得していたら、何れ下剋上みたいな感じに校長の座をいつの間にか手に入れてしまうのではないか、と。

 

 そこで校長は今回の計画を立てた。これで絶対痛い目遭わせてやる。ついでに銀八先生に怨みの矛先が向くだろうから株価を下げてやる。そんな邪念を持ちながら。

 

 

「なのに、なんか結束し始めおって……。フンッ、まぁ良い。ここは様子を見て必ず陥れてやる。『青春って感じやん』みたいな事には絶対させんからな……クククッ」

 

「悪役みたいな表情してんぞ、お前」

 

「お前は校長というか上司が近くにいる時に、堂々と○スターデュ○ルするのやめてくんない? しかもそれ、わしのスマホ」

 

 

 堂々と上司の隣で、しかもその上司のスマホを勝手に使いスマホアプリゲームをしている教頭に青筋を立てながらツッコミを入れる校長。しかしすぐにパソコンの方に顔を向け、笑みを浮かべた。まるで銀八先生を嘲笑うかのように。

 

 

「フッフッフ……新しいカメラを付けてM組の様子を見て、全員が目標点を取れないようにして罰ゲームが確定すれば、奴の株価はそれで───」

 

 

 

【へぇ〜。なんか怪しいなと思ったら、アンタら裏でそんな良からぬ事を企んでたんだ】

 

 

 

「ん?」

 

 

 校長の声を遮って聞こえてくる、校長が発したものでも教頭が発したものでもない、まるでイケメンアイドルが発したかのような声。それは果たしてどこから聞こえてきたのかと、校長は辺りをキョロキョロと見渡した。

 

 

「………………誰も来てない……?」

 

 

 しかし、どこを見渡してもこの場にいるのは校長と教頭の二人だけ。第三者は見当たらなかった。先程までの光景から変わっているところは、教頭が勝手に○スターデュ○ル内で課金をしていることだけである。

 

 

「教頭、ちょっと声変えたのか?」

 

「急になんですか校長先生。私はいつもこんな声で喋ってますし、声を変える時はアンタを騙す時に変えますよ」

 

「うむ、そうか……オイちょっと待て。騙すってどういうことだコラ。よくそんな事を本人の目の前で堂々と言えるなオイ」

 

 

 教頭が悪戯で声を変えて喋りかけているわけではないと理解するも、警戒の姿勢を変えない校長。もしこの校長室の何処かで計画の事などを聞かれたらたまったものではないと確信しているからだ。

 

 念入りに、もう一度辺りを見渡す。だがただ席に座ったままでの部屋の周りの確認を連続で行っても、いつもの見る風景とは異なる部分が見つかるとは限らない。渋々立ち上がろうとした───

 

 

 

 刹那、校長の背筋が凍りつく。彼の後頭部の近くに、巨大で真っ黒な蠍の尾のようなものが──否、巨大で真っ黒な蠍の尾そのものがぶら下がっていた。

 

 

 

「えっちょっ、何……? わし、ほんの短時間で坂田先生が派遣した暗殺者に狙われとる……? い、いや、いくらテストでとるべき点数が高すぎるからってさ、暗殺者を頼んでまでして給料カットされるのそんなに嫌なの……?」

 

「ジャックちゃんに解体されるよりマシじゃん。ランサー相手なら一突きで苦痛とかも一瞬でしょ」

 

「強制的に聖杯戦争に参加させられてるの? ってか写メ撮ってないで助けてくんない⁉︎」

 

 

 顔を真っ青にして涙目を流しながら、どうにかして今いるこの状況から現実逃避しようとするも、蠍の尾は引っ込められることも幻覚のように消えることも一切なかった。このままではわし、命取られるんじゃね? そんな絶望感で校長は漫画でよくある川のように涙を流し───

 

 

 

【ちなみに針はスナイパーみたいに飛ばせることができるよ】

 

 

 

「「ファッ⁉︎」」

 

 

 突然蠍の尾が喋り出したため、それによる仰天を教頭と共にしたことで涙も引っ込み出した。

 

 瞬時に二人が驚きのあまりそそくさと後ろに下がったことを見計らってか、先程までハタが座っていた位置にその蠍の尾の持ち主はゆっくりと降り立った。その正体は全身真っ黒というシンプルすぎるデザイン──容姿だが、全長は三メートルもある。なんの変哲もないシンプルな蠍の姿だろうと、その大きさと体色の異常な黒さが二人への恐怖を引き立たせていく。

 

 

【はじめまして、ハタ校長となんか校長を馬鹿にしすぎたせいでクビにされそうな教頭】

 

「私の名前を覚えようとする気ない感半端ねぇなオイ⁉︎」

 

【僕は黒蠍の曙。一年M組のとある生徒の部下さ】

 

 

 何れ因果応報で呼ばれそうなあだ名に不服気味な教頭を無視し、巨大な蠍──曙は一礼しているかの如く頭を垂れ下げた。

 

 

「せ、生徒の、部下……⁉︎ なんじゃその危なっかしそうな貴族みたいな設定は……⁉︎」

 

【まぁ立ち位置的にこっちが勝手にそう解釈してるってだけの感じだけどね】

 

 

 曙はそう答えながら、自分が降り立った時に散らかったのであろう大量の資料用紙をまとめ始めた。律儀か。

 

 

「と、というか、いつからここにいたのだ貴様は……⁉︎」

 

【う〜む、と言いながら監視カメラから転送されたという映像を観ていたところから】

 

「バレてはいけないところから身を潜められていた⁉︎」

 

 

 まさかの視点変更の時点から、曙はどういう方法かで校長室に入っていたのであった(本小説談)。つまりはハタ校長の計画の一部始終、そして盗撮していたことが、全て曙の脳内にそのまま叩き込まれてしまったようだ。予想外な方向での因果応報か。

 

 

【別にね、妬みを持つなとかは言うつもりはないよ? 勝ちたい相手とかがいることは自分自身の成長にも繋がるから。けどね……】

 

 

 そこまで言うと、曙は一瞬にして自身の尾の先端を校長の額近くにまで近づけた。正しく言えば向けた、である。

 

 

「ヒィッ⁉︎」

 

【目標点数が取れなかった罰が毎日補習はさすがにやり過ぎている。マスター達の貴重な休みが潰れるわ、部活に行けなくなって実質的な退学になりかねんわで、どう転んでも県庁に告発されて裁判沙汰だよ。マスター達の休みを潰すようなこと、僕は許さないからね。絶対、ね……?】

 

 

 声質を低くし、真っ黒な身体から紅い瞳を覗かせるかの如く校長に圧をかけていく曙。己の主の人生を不幸なものにしようものならば、殺人を犯してでも阻止する。言葉と行動からして脅迫に見えるため、その形はかなり歪ながらも、主を魔の手から守らんとする強固な意志の表れである。

 

 尾を下げて天井を指し、ブンブンと左右に揺らしながら曙は言葉を続ける。

 

 

【ま、補習の取り消しをしてくれるって言うのなら、それをテストの結果が返ってくるまでの間内緒にするって条件で許してあげる。ただし、また黒板にこっそり付けたのみたいにまた監視カメラを付けたり、マスター達が八十点以上とれないように小細工などしたり、さっき言った取り消しの件を受け取らなかったり、この事をバラそうとしたりした事が判明したら、その時は……】

 

 

 蚊が近くで飛び回る音が聞こえてきたのと同時に、尾がカーペットへと叩きつけられる。尾の穂先は数ミリだけカーペットに突き刺さったものの、代わりにその周りには、状況には似つかわない程の巨大なクレーターが生まれていた。

 

 円形に窪んだ地形の大きさ、それは曙の怒り度合いが表されているものであった。

 

 

【すぐさま君のところにやって来て、殺すからね? 毒で】

 

「どう見ても力づくで殺す気だよね、それ⁉︎」

 

 

 突き刺さった穂先辺り、それは微量ながらも赤いカーペットのその部分をを紫一色で塗り潰していた。力押しと猛毒、この二つを持ってして主に害を成すものを完全に消すつもりのようだ。

 

 

【その代わり、マスター達のクラスには罰ゲーム取り消しのことは言わないよ。敢えて言わない方が他の人達の勉強に対する注意力を増してくれるだろうし、何より楽しくなりそうだからね】

 

「えっ? あっ、そうなの……?」

 

【うん】

 

 

 一応、サディストな性格を持ち合わせているようだが。

 

 

【それじゃ、僕はこの辺で失礼するね。死にたくなかったら約束、忘れないでよね】

 

「い、いや、そちらが一方的に押し付けてきたことじゃ───」

 

【あっ、もうどうでもよくなりたいんだね?】

 

「イエッサー‼︎ 神に誓ってでもこの約束事は必ず守り通します‼︎」

 

【よろしい】

 

 

 校長が罰則無効を約束した事を機に、曙は律儀に校長室のドアを開けてその場から去っていった。

 

 今校長室にいるのは、再び校長と教頭だけであった。終始曙に脅迫された校長はその場で座り込み、青褪めた表情で徐に呟いた。

 

 

「……わし、とんでもない奴を部下にしていたクラスメイトのいるクラスに、喧嘩を売っていたのか……」

 

「哀れだな、マジで」

 

「な、何おう⁉︎ そういうお前だってガタガタ震えて何も言葉を発していなかったではないか⁉︎」

 

 

 この二人が終始羞恥を晒してしまったことを、一年M組は知る由もなかった───

 

 




仲間を窮地に晒された人が怒ると恐ろしい、はっきりわかんだね。

次いつ銀八先生回をやるのかは未定です。突然ネタが切れたので……


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IF:数年後の転生者と魔族 そして、魔族の生誕日にて……

NLは百合よりも強し。異論は断じて認めん。ってことで初投稿です。

白哉とシャミ子が何事も無く結婚までいけそうになった世界線での、大人になった二人の話です。本編でも原作キャラ生存&桜・ヨシュア復活ENDって感じに進められるといいな……

それと、シャミ子誕生日おめでとう‼︎ これからもお前を愛してるぜ‼︎ NL方面のみで‼︎
 


 

 蒸し暑かった夏も終わり、コオロギの鳴く声が秋を知らせる時期が訪れ、落ち葉が紅葉に染まり始めていくこの季節。

 

 付き合っていく内に二十代になっていた俺と優子は、同居しているマンションの一室に住んでいる。俺は企業会社の正社員として超安定した生活を送り、優子もパート業で同居している俺の生活のサポートをしてくれている傍ら、多摩町を守る魔族の女帝として、まちづくりに色々と貢献している。

 

 そして数年が経つにつれて、とある二つの課題を解決することができるようになった。

 

 一つ、千代田桜さんを解放することに成功したこと。

 

 桜さんはとある事件によって魔力がスカスカになり、コアになって猫の姿を保つ魔力もほとんどなくなった時に優子の体に入り、彼女の病弱な体を支える形で消滅を免れたとのこと。

 

 けど、それは優子の魔力がまだ弱かった頃の話。様々な経験を積んだ優子は膨大な魔力を手に入れ、超強い魔族になることに成功した。そして呪いを克服したことにより、桜さんは優子を支える必要がなくなり解放され、現世に復活することができたのだ。

 

 アレは結構思い深い出来事だったな。姉と再会した桃がその場で彼女に抱きつき、タガが外れたのか如く泣いていたから、俺も思わずもらい泣きしたよ。感動の再会、イイ……

 

 二つ、ヨシュアさんの封印を解くことにも成功したこと。

 

 ヨシュアさんは俺の父さんを助けるために、桜さんの力で父さんを襲った黒き獣諸共封印されたという。そして命を救われた父さんはヨシュアさんが復活することを願って、母さんと二人で彼の飛び散った魔力を用いて眷属になった。

 

 その二人の魔力と、膨大に手にした俺と優子の魔力、そして『ヨシュアさんを解放させたい』という強い念があれば、他の人達の協力の元ヨシュアさんの封印を解けるのではないか、とリリスさんがある日思いついたんだ。

 

 で、実際に色々試した結果、ヨシュアさんの封印を解くのにも成功。清子さんが涙を流しながらヨシュアさんに抱きついたり、優子がヨシュアさんに頭を撫でられ前にもしてもらった事を思い出してか泣きじゃくったりと、ここでも俺はもらい泣きしました。俺の涙腺、緩かったんだな……

 

 だがしかし、その時の涙はヨシュアさんの『娘との子ができることを期待してますよ』の一言でシュッといき、逆に背筋が凍った。そして優子は爆発したのかの如く瞬時に顔を紅潮させたんだ。そういや優子との交際はこの人も公認しているだった、と。この時から俺、ヨシュアさんの事が苦手になったんだよな……うん。

 

 んで、これら二つの課題が解決した後の二人はどうなったのかと言うと……

 

 桜さんはコアでの生活での年齢停止の問題もあり(ヨシュアさんも年齢停止してるけど)、蕾という名前を表向きで使ってもらいながらのコンビニバイトをしており、学歴問わずの会社に就職する予定らしい。

 

 ヨシュアさんはまぁ、特に大したことないってことで名前をそのままに俺と同じ会社で働いている。ちなみにすごい出世力でもう部長になってます。というか復帰? な感じかな。分からんけど。

 

 そして月日が流れ、九月二十八日……

 

 

「今年もスゲェ量もらったな……」

 

「はい……もうどっさりです」

 

 

 俺達の部屋の一室は、大量の様々なものがそれぞれプレゼント用のリボン結びされた箱に入っているヤツ──率直に言う、プレゼントで埋まりそうになっていた。

 

 九月二十八日。シャドウミストレス優子こと吉田優子の誕生日だ。本来なら彼女と深く関わってきた俺や優子の家族、桃やミカン達などといった、魔族や魔法少女絡みで仲良くなった人達ぐらいなら必ずもらえると踏み込みながら、この日を楽しみにしていた優子だったが……

 

 誰からももらえなかったとか、そんな悲しい結末が訪れたわけではない。寧ろ逆だ。別に深く関わってきたわけでもないのに、彼女の誕生日を知ってプレゼントを送ってきた人達が外部からもわんさか出てきたようだ。それもトラックで運ばれるレベルだ。やばたにえん。

 

 その要因となるのが、先程供述した優子の今の生活の仕方……というべきかな?

 

 パート業をしている内に顔見知りがたくさん出来ただけでなく、多摩町のまちづくりの貢献のためにしてきたことが、本人にとってもかなり予想外なことに、たくさんの人達からの感謝とか支持とかを色々と受け、挙げ句の果てには町外の魔族や魔法少女からの厚い人望までをも受けていたらしい。

 

 いや、優子……お前どんな貢献をしていたら大量プレゼント獲得の恩恵を受けられるんだよ……俺、聞いてないんですけど。しかも本人も『何故こうなったのか自分でもわからない』とか言うし……お前、いつの間に勘違いなろう系主人公になっていたの?

 

 ちなみにプレゼントを送ってくれた人達の中には、俺にとっては大物とも言える人からの贈り物もあった。ぶっちゃけて言えば、本来登場するはずのない別のアニメのキャラからだ。

 

 ある時はバンドでも徐々に技術力と人気を伸ばしている凄腕ギター配信者から、ある時は嘘吐きは上手だけど嘘じゃない愛も出せる子持ちアイドルから、ある時はお気楽な最強の呪術師教師から……

 

 いや、優子? お前、俺の知らないところでどれだけすごい人達と顔見知りになったってんだよ? しかも最後に思い浮かんだ人とは何やら過酷な環境で会ってるような気がするし……。まさかお前、また世界を救っちゃったみたいなノリの体験をしたんじゃないだろうな……?

 

 んで、今年はざっと二百人以上からもらったようだ。しかもそれら全部トラックで運ばれてくるという。まぁ先程供述したすごい人達と関われたらそりゃあ、ねぇ……?

 

 

「あはは……私、どんな事をしてたらこんなにも誕生日プレゼントをたくさんもらえるんでしょうね……?」

 

「ホントなんでだよ、だよな。ってか、これらの中にまたヤバいものとかも入ってないだろうな……?」

 

 

 これだけ大量のプレゼントが来てしまったら、なんだかヤンデレみたいにヤバそうなものとかを入れてる奴がいそうで怖いんだよな……。自分の髪の毛などを入れた料理とか、送り主が付けた下着とか、どっちかというと直接渡して来そうな首輪とか、諸々……

 

 あっ、ちなみに同じヤンデレである優子は自重してくれていますよ? 髪の毛などの身体の一部を料理に入れるのは衛生的に良くないと言うし、下着は純粋に恥ずかしいと言うし、首輪は論外らしい。前から思ってたけど、ホントにヤンデレなのこの子?

 

 けど彼女がヤンデレになったことを知ったその年には、手作りなどでなるべく高価に見える感じのを渡してきたことがあるので、十分に愛が重い。マジ重い。ってかよくそんなの作れたなオイ。

 

 ま、優子からのプレゼントは今は考える必要はない。問題はこの多々あるプレゼントの中身だ。どれが安全なのか、どれが危険なものなのか、それらを確証するために……

 

 

「ピッピ、今年も頼むわ」

 

【任せろ。私のスパイ訓練で鍛えた洞察力で安全なものと危なっかしいものを分けてやるぞ】

 

 

 俺が出せる召喚獣の中で最も物の見分けや洞察力が上手なピッピに、危なっかしいプレゼントがないかどうかを判別してもらうことにしたぜ。

 

 ピッピの洞察力はまるで透視能力でも手に入れたかのような……ってか透視能力を持っている。以前バニラビーンズと見せかけた一ミリの髪の毛がたくさん入っているスイーツが、箱に入っている状態で発見した程だ。その時はなんつーもん作ったんだって思う程の恐怖に恐れ慄いてしまっていたので、ピッピの洞察力の凄さに気づけなかったけど。

 

 さて、今回は危なっかしいプレゼントが出てしまい、それらを箱を開けずにお見通しできるのだろうか……

 

 

【ふむ……ふんふん……ふぅむ………………あぁ、なるほどね】

 

「ど、どうでしたか? 何かヤバいものでも見つかりましたか?」

 

【ちょっと待ってくれたまえ。………………あっ、もしもし? 私ピッピだが。実はかくかくしかじかで……後で持ってこようと思う。……あぁ、頼む】

 

 

 ……? 突然誰かに電話してるんだが、一体どうしたんだ? あっ、プレゼント一つ持ち始めた。もしかしてこれにヤバいヤツが入っている……とか? と、とりあえず何が入っているのか聞いてみるか。

 

 

「な、なぁピッピ? そ、それには一体何が入って───」

 

マスターも奥様も、何も聞くな。その方がお二人の身のためだ

 

「「アッハイ」」

 

 

 な、なんかすごい圧をかけてきたんだが……それほどヤバいものが入ってたのか? しかも誰かに電話して相談する程のか……?

 

 

 

【(エナジードリンクを装ったフルニトラゼ○ム入りの水とかふざけてるのか? わざわざ郵送してきたということは、遠隔で奥様を言いなりにすることができるとでも? とにかく奴とこれを作った奴も危険だ。飲ませて元凶全て吐かせて、召喚獣皆で37564にしてやる……!!)】

 

 

 

 ………………なんか、すんごい殺意がピッピの背中から感じ取れるんだけど……気のせい、だよな? そうであってほしい。

 

 

 

 

 

 

 数分後。プレゼントの仕分けは終わらせることができたようだ。

 

 送られてきたプレゼントの中には、先程も供述したヤンデレから送られてきたものも含み、花束やポーチ、優子の勇志を想像して描いたというイラストやアクリルスタンド、優子と俺のぬいぐるみなどといったものがあった。感謝の意でのものや本格的なものまで……すごいなマジで。

 

 ちなみに今年のヤバくて受け取り拒否した個数は、たったの一割程度で済まされたようだ。去年までなんかは二・三割ほどで、最悪の場合は半数ある程だ。それほどヤバいものが送られてきたってわけだ……ゾッとするからもう思い出したくない。

 

 

「有名な人達からは良いものがもらえてよかったな。もしあの人達の中の誰かがヤバいもの送ってきたら、その人の将来的にもヤバいからな」

 

「そうですね。自重してくれているのか、それともただただ善意で送ってくれたものなのかはわかりませんけどね、これは……」

 

「そういえば優子、桃や杏里達と誕生日パーティーをやったんだっけか? 彼女達からのプレゼントももらったのか?」

 

「あっはい‼︎ それはその場でもうたくさん‼︎ ……けど、去年みたいに白哉さんも一緒って感じにならなかったのが、ちょっと残念でしたね……」

 

 

 ………………そう。実は俺、今日は昨日からの出張で帰って来たばかりなんだ。突然俺が作った商品がとても良かったから是非ウチに来てほしいという、大企業からの熱烈なるオファーによる急用が出来てしまって、それで今年の優子の誕生日パーティーには行けなかったんだよ……

 

 熱烈なるオファーはいいけど、急に『来て』と言われても困るんだよな……知らないとはいえ、恋人の誕生日パーティーには出たかったのよ。だから向こうから来てほしかった……

 

 

「あぁ……それはホントに悪かった。仕事の方を優先してしまって……」

 

「いえ、急用での出張で昨日から福岡へ行ってましたよね? しかも大企業からのだったら断れませんよね‼︎ 私も同じ立場ならそうしてました‼︎ それに会社側は休暇の埋め合わせをしてくれたのですから、寛大なまぞくである私は許します‼︎ ふんすっ‼︎」

 

「そっか……ありがとう、優子」

 

 

 どうやら優子は会社員の多忙さと自分目線での憶測を理解したことで、俺が急用での出張で誕生日パーティーに参加できなかったことを許してくれたようだ。さすがは魔族、度量の大きさもとても良きだな。

 

 

「ちなみにだが、パーティーではどんなものをみんなからもらったんだ?」

 

「あっ、そうですね……。ミカンさんからは柑橘類の香りがする化粧水を、杏里ちゃんからはビュッフェ食べ放題の割引券を、しおんちゃんからはなんかすごく発光しながら小さいお星様とかス○ルスロッ○とかを飛ばせるパールのペンダントを───」

 

「ストップ、ストップストップ。お前しおんさんから何怪しそうなもんをもらってんだよ」

 

 

 発光ならともかく、小さい星と尖った岩を飛ばせるペンダントって何だよ。自己防衛のために渡してくれたのだと思うのだけど、危なっかしいし持ち回りにくそうだし……そもそも危害を与えることのできるペンダントって何だよ。

 

 

「えっ。で、でもヤバいものだったらとっくにピッピちゃんに取り上げられていましたよ? さすがのしおんちゃんでも何かと自重してくれるじゃないですか」

 

「……それは、そうだけどな……」

 

 

 ピッピ達が取り上げるほどのレベルの危険度ではないのか……ま、さすがのしおんさんでも、人の命を奪いそうなものを作ったり実験をしたりはしないだろうけどさ。

 

 まぁ、いいか。ウチの召喚獣達が危険物と見做していないものならば、優子が喜んで受け取ってもこちらは文句言えないし。しおんさんからのプレゼントに対する言及はやめておこう。

 

 あっ。ちなみにしおんさんの呼び方だけど、最初は俺も優子も『小倉さん』って呼んでたけど、訳あって今では名前の方で呼んでいる。色々あって結構仲良くなったんだよ、色々あってね。

 

 

「ちなみにだが……桃からはどんなのをもらったんだ? さすがに筋トレ関連ではないことは確かなはずだけど」

 

「あっ、桃からですか? 桃からはですね……」

 

 

 そう言って優子が桃色の袋から取り出したのは、キャップ式の携帯用小ぶりタイプの容器だった。あっ、これって……

 

 

「ハンドクリーム……か?」

 

「はい‼︎ しかも大人気ブランドのピーチの香りらしいです‼︎ 肌荒れまぞくにならないように、と私の身を案じてくれたみたいです。ちょっと気に障りましたが、それ以上に私の事を気遣ってくれたのは正直嬉しかったです‼︎」

 

「………………そっか」

 

 

 桃のヤツ、今度はハンドクリームを優子にあげたんだな。毎回毎回彼女のプレゼントのバリエーションの数を心配していたし、本人も毎年悩んでいたみたいだけど、今年もいいのを選んだみたいだな。

 

 ………………

 

 優子。桃の方は分かって送ったのかどうかはわからないけど、ハンドクリームをプレゼントすることには意味が込められているんだぜ。意味はな……『あなたを大切に思っている』だ。宿敵としても、親友としても、お前の事を大切に思って送ったのかもしれないぜ。恋愛方面では……俺がいるからないだろうけどな。うん。

 

 だからさ、優子。桃との強い繋がりも、これからも続けていってくれよ。そうした方が桃も俺も嬉しいからさ。

 

 

「……? どうしたんですか白哉さん? そんな慈愛の眼で見るような顔をして」

 

「いや、なんでもねェよ」

 

 

 むむっ、またか。最近俺の考えていることが簡易的に読まれているな。一応仕事に不満とかがないから不満気にはなってないけど、こういう表情の緩みはなんとかしておかないと余計な勘違いとか起きるから気をつけなければ。

 

 ………………さてと、俺もそろそろ、だな。

 

 

「優子、ちょっといいか?」

 

「……? は、はい。なんでしょうか?」

 

「………………あ、あの、実は、さ……」

 

 

 いや、待て。ちょっと待て。なんで俺がこんなにも緊張しないといけないんだよ。おかしい。既に意を決したはずなのに今更躊躇うのはおかしい。

 

 だって、ほら。今から俺も優子にプレゼントを届けるんだぞ? いつも通りの感覚で渡せばいいだけだろ? 何をそんな当たり前なことを躊躇わなきゃ……

 

 ………………あぁ、そうか。あげるプレゼントの中身が中身だもんな。意味も見た目そのままって感じだもんな。それにこれを優子に渡して彼女が受け取ったら、今後俺と優子がどうなるのかも分かっていることだしな……

 

 いや、こんな時に限って臆するな平地白哉。今日で俺はこれをプレゼントとして渡して、あの言葉を掛けてやるって決めたんだ。ここで先延ばししたら、次のタイミングを逃してしまう。そしてそういったのを繰り返してしまうのかもしれない。

 

 だから逃げるな。優子だってこういうことをしてくれるのを望んでいるはずだ。優子のためにも、そして俺のためにも、絶対成功させるんだ。

 

 

「……これを、お前に渡したいんだ」

 

 

 そう言って俺は、ズボンのポケットに優しく入れていたものを取り出した。それはリングケースと呼ばれる、とある物を入れたパカっと開閉できる格調高い木製ケースだ。

 

 

「えっ………………⁉︎ こ、これってもしかして……⁉︎」

 

「……あぁ、お前の思っているものかもしれないヤツだ」

 

 

 ケースを見て全てを察したのか優子の顔がひどく真っ赤になり始めた。やっぱりいつかこの時がくることを期待していたのだろうか。いや、この際別に関係ないよな。俺が口からちゃんと伝えながらこの中のヤツを渡す、それだけだ。それだけのことなんだ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、俺は左膝を床に付けながらしゃがみ込み、ケースをゆっくりと開いた。開いたそのケースの中に入っていたのは……

 

 

 

 赤みがかった紫色に優しく輝いている、ダイヤモンドの指輪だった。

 

 

 

 そのダイヤモンドがキラリと光沢を放った途端、優子は理解と確信をしたのか涙を流し始めた。この後の言葉で彼女がなんと言うのかを察したとしても、だからといって俺は『じゃあわざわざ言わなくてもいいな』っていい加減にするつもりはない。俺の口からきちんと言って、その確信が合っていることを伝えるんだ。

 

 

「優子……俺は今まで、悠久を共にするパートナーの眷属として、彼氏として、お前の隣に立ってきた。けど……俺は今よりも上の位置にいたい。お前を本当の意味で支えられる……最高の存在で在りたいんだ」

 

 

 ここで俺は一旦言葉の区切りをつけるように深呼吸。改めて気持ちを整え……告げた。

 

 

「吉田優子さん」

 

「は、はいッ‼︎………………えっ? さん付け? 何故───」

 

 

 

「改めて言います。俺は貴方のことが好きです。愛しています。俺と……結婚してくれますか?」

 

 

 

「………………‼︎」

 

 

 ……フゥ。言った。ついに言ったぞ。優子へのプロポーズを。

 

 こういったのは事前にサプライズとかをしてから渡すものなんだけど、その計画を立てている時に突然の出張が来てしまい、さらには専門店にオーダーメイドで作ってもらったこの指輪も、誕生日ギリギリにやっと完成したのだし……予定が狂い過ぎた。

 

 けど……できる限り準備しようと頑張ってたし、第一万が一の為の替えのプレゼントを買う時間もなかったのだから、こんな日に何もできないのは癪だったんだ。だから、この場で勢いでプロポーズすることにした。後悔はない。寧ろあのまま逃げてた方が後悔していたさ。

 

 さて、優子はどんな反応を……

 

 

「………………グスッ。ウゥッ……」

 

 

 ん? ん? んんんっ⁉︎ な、泣いてる⁉︎ 静かに泣いてやがる⁉︎ えっちょっ、俺何か間違えて……

 

 って、あれ? この展開でこの反応、前にもあったような……

 

 

「……もうっ、相変わらず白哉さんはズルいです」

 

 

 へっ?

 

 

「私が望んでいたことを突然してきて、私をビックリさせて……どれだけ私の心をトキメかせるんですか、貴方は。やっぱり断れませんよ、白哉さんからそんなこと言われたら……」

 

 

 ええっと……なんかその台詞もどっかで聞いたことあるような、ないような……

 

 けど、これでこの後優子がどんな返事をしてくれるのか、今の反応を見てそれを確信にすることができる。彼女は俺のことを想って抑えているだけで、気持ちは同じのはずだからな。

 

 

 

「不束者まぞくですが、よろしくお願いします。旦那様……‼︎」

 

 

 

 ……ありがとう優子。俺のこんなサプライズ要素の低いプロポーズを、涙ぐんで受け入れてくれて。

 

 そして俺は指輪を取り出し、そっと優子の左手の薬指に嵌めた。その指輪は夕日に照らされ反射したのか、淡い橙色と赤みがかった紫色、二つの光沢を程良く輝かせていた。

 

 

「……綺麗ですね、この指輪」

 

「お前が付けたから、だろうな」

 

 

 そう返答したら、優子は突然首を振った。えっ、それはどういう意味での首振りなんだ? そうは思ってないのか? 嘘をついているわけじゃないんだけどな……

 

 

「私が付けただけではこんなに輝けるとは思いません。だって……」

 

 

 ここで優子は言葉を区切り、俺に嵌めてもらった指輪を見せながら再び口を開く。

 

 

「白哉さんが、私の為に精一杯用意してくれたものだから、私の事を想って選んでくれたものだから、それがこれに通じて輝かせてくれたんです。これは誠意を込めて選んだり作られたりされたもの……そう考えると、この指輪は『私が付けたから』という理由でよりも輝けるじゃないですか」

 

 

 えっ……それって……

 

 

「白哉さんのおかげで、この指輪はこんなにも綺麗で美しく光って、私はそれを受け取ることができたんです。白哉さん、本当にありがとうございます」

 

「ッ……」

 

 

 ちょっ……オイオイ、なんだよそれ。お前をキュンッてさせるために本音を吐いたはずなのに、カウンターを仕掛けて俺を恥ずかしがらせるなんて……

 

 

「ズルいのは、どっちなんだよ……」

 

「えっ? 今何か言いましたか?」

 

 

 熱って真っ赤になっているだろう顔を腕で覆って隠しながら、徐に呟いたことをなかったことにすることにした俺。だってあんな事を言われたら恥ずかしくなるでしょうが。平常心が保てなくなるわい。

 

 が、隠していた表情は無理矢理見られることになる。何故なら、優子が俺の顔を隠している腕をそっと下ろし、俺の顔を見つめ始めたからだ。一体何故こんなことをするのだと思いながらも、この腕を掴んでいる手を離すよう説得しようとした途端───

 

 

「その顔を隠さないでください。逆にこっちが色々思い込んで恥ずかしくなります」

 

 

 同じく顔を真っ赤にしている優子が、照れながらの微笑みを俺に見せてきた。その全てを包み込みそうな優し気な笑みに、思わず心が弾んだ気がした。

 

 

「白哉さん……私達はもう夫婦になったのですから、今更恥ずかしがってる顔を隠さないでください。貴方はもう、女帝と言われるようになった私の旦那様なんです。そしてお嫁さんである私は貴方の全てを受け止めたいんです。だからもう、私への想いを一欠片も隠さないでください」

 

「ゆ、優子……」

 

 

 そっか……どんな自分でも受け止めてくれるのか。魔族である以前に夫婦になったからこそ、お互いの気持ちを分かち合いたい。そう思ってそんな事を言って───

 

 ん……? ん? んんん? 今、優子の目にハートマークが浮かび上がったように見えるのだが……幻覚か?

 

 あっ、これ幻覚じゃないわ。いつもの突然起こりうる発作のヤツだわ。

 

 

「そしてあわよくば、私はその全てを自分のものにしたいです。そしてそれらを、私と貴方の子供以外に渡らないように管理したいです。そう、貴方は私のもの。そして私の全ても貴方のもの───」

 

「重い重い。その想いはさすがに重いって」

 

 

 『おもい』だけに……ってやかましいわ(セルフツッコミ)。

 

 

「……ハッ⁉︎ す、すみません。私ってばまた……」

 

「大丈夫。もう慣れてることだから」

 

 

 優子が本人でも気づかないタイミングでこういう感じになるの、なんか恒例になっている気がするんだよな。遠慮がいらなくなったって判断したから、なんだろうなぁ……

 

 優子は俺絡みの話で長くなったりすると、俺に対する愛の重さがはっきりとされる言葉や独占欲の強さというものを思いっきり曝け出し始めちゃうんだよな……。しかも無意識でだし、付き合ってからはそれがよく見られるようになったような気もするんだよな……

 

 ま、本人もなんとか自覚を持っていつもみたいに自制し、周りに危害を与えないようにしているからいいんだけどね。そしてそんな場面での優子も可愛い。

 

 色々な方面で危なっかしいけど、誰にでも優しく、俺に対しては一途な魔族・シャドウミストレス優子。そんな彼女との新婚生活……想像できないけど、期待に胸が膨らんできて待ち遠しくなるな。

 

 

「………………あ、あの、白哉さん……」

 

「ん? なんだ?」

 

「せ、せっかく結婚することになったのですし、わ、私の誕生日はまだ時間があるので……そ、その……」

 

 

 何やら優子がもじもじと人差し指をくっつけて絡めてを繰り返し、それに合わせるかのように身体をゆっくり左右小刻みに揺らしながら、上目遣いでこちらを見つめ始める。いや、あの……何を考えているのか知らないけど、突然そんな可愛い仕草をするのやめてください思いっきり抱きしめたくなりま───

 

 

 

「も、もう一つ……プレゼントをお願いしたいです。こ、今夜、その……わ、私のことを、は、激しく、抱いてくれませんか……?」

 

 

 

「 」

 

 

 自制心のタガが外れた、そんな予感のする音がどこかで聞こえたような気がした。そして気がつけば、俺は即座に優子をお姫様抱っこで抱え、歩き始めていた。

 

 

「きゃっ⁉︎ ……あ、あの、白哉さん……? も、もしかして……」

 

 

 既に真っ赤にしていた顔をさらに赤らめさせた優子が、俺の心境を察したのか再びこちらを見つめる。察しを突かれた俺は思わず顔を背け、彼女の問いに気恥ずかしくなりながらも答えた。

 

 

「……悪い、実はしばらく溜まっていたものだから………………今夜はお前を寝かせられないというか、お互い明日休みなのが幸いだけど、朝になっても治らないかもしれない」

 

 

 いやこれ、マジで溜まってるから。先週なんか他社へのプレゼンツで皆忙しかったし、先々週なんて訳あって優子が嘘吐きは上手だけど嘘じゃな──例えで名前隠すのめんどくせぇ。星野○イの息子さんを役者にするために色々頑張ってたみたいだし、中々抱ける余裕がなかったんだよ……

 

 そんな言い訳を心の中でしていると、優子がその場で上半身だけ起こし、唇と唇を交わした。

 

 

「寧ろそこまで求めてくれるのは嬉しいです。お互い満足するまで愛し合いましょう……?」

 

 

 その言葉にさらなるタガが外れ、歩くスピードが早くなる。そして寝室へと着いてすぐさま優子をベッドに寝転ばせ、俺がその上に覆い被さった。

 

 

「その言葉、後悔するなよ? 今から全力でお前を求めてやるからな?」

 

「はい、よろしくお願いします……♡」

 

 

 この後、飯やシャワーなどを挟みながら翌日の深夜まで求め合い、終わった後お互いあまりの賢者タイムが出て恥ずかし死してしまったのだった。タガが外れるって、怖いね……

 

 




この回のR-18パートを作るかは未定ですが、作れたら初回の時よりもイチャラブ感とエロさを引き出させていただきます。

それもそうだが、今日から毎週土曜日投稿復活やー‼︎
長過ぎて色々とスマホ生活の色々なバランスが元のに戻せそうにない……
とりあえず今後もよろしくお願いします‼︎


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原作四巻編 俺と優子の交際が決定‼︎ だからといって優子の病みがなくなったわけではない。
夏といえば夏祭りだ‼︎ えっ? 優子と一緒に行かないのかって? 後で合流する予定です。


大人の夏休みが数日しかないって酷くね? ってことで初投稿です。

いよいよ本編再開です‼︎ 長く休み過ぎた……


 

 優子の夢の中を通しての桜さんの行方探しと、魔族の不完全な契りによる事件から丸二日が終わった。一昨日の夕方にて俺が優子に告白して恋人同士になり、昨日の朝にて桃達にエヴァのおめでとうパロを優子共々に喰らった翌日のことだ。

 

 一昨日の深夜にて行った契り(意味深)の事を優子が日記に描いてしまってないか心配だったんだけどそんな事はなく、一昨日のところには原作通り他の絵と比べて闇堕ち姿の桃が高クオリティな絵で描かれており、昨日のところには普通に『俺と付き合うことになった』って書いてあったことを知ったこの日。

 

 この日は登校日だったので学校に行き、それが終わった昼頃……

 

 

「何故だ⁉︎ 何故なのだ白哉⁉︎ 何故シャミ子とデートをしないのだ⁉︎」

 

「いえ、これには訳がありまして……」

 

「マリアナ海溝並の深さでないと我は納得せぬからな‼︎」

 

「ハードル上げてくるのやめてくれませんか?」

 

「とりあえず兄さん落ち着いて?」

 

 

 俺は今『本の祭典 スカーレット』にて、暇だったからなんか本を買いに来たところ、ブラムさんに迫真の表情で迫られております。それを奈々さんが宥めております。にしても高貴さのある人でも迫真になるほどに怒ることってあるんだな……いや、怒りたい時に思いっきり怒りたくなるのは誰でも一緒か。

 

 ところで何故ブラムさんに怒られる羽目になっているんだって思う輩もいるだろうから、ここまでの経緯について説明しておこう。

 

 

 

 

 

 

 まず、先程ブラムさんの言っていた通り、何故優子とデートしていないのかって話だが……理由は二つ存在する。

 

 一つ目の理由、それはぶっちゃけ付き合うことになって即座にデートってのはさすが無理があるから。

 

 デートってのは本来事前に行く場所とか時間帯を考慮し、計画してから執り行うものだ。何も考えなしにやろうとしても色々と破綻する可能性がある。付き合う側の都合とかもあるしね。だから即座のデートなんてしない、絶対に。

 

 二つ目の理由、それは優子に一日魔族としての務めとか色々休ませるため。

 

 優子の日記を読んだ杏里曰く、普通の女子高生は夏休みに父の武器を受け継いだりしないし、優子が『あすら』で記憶が飛んでいる上に二回も寝込んでいるため責任を感じているとのこと。そのため一日は英気を養うために色々と休んで夏休みらしい夏休み、エンジョイサマーバケーションしろとのこと……

 

 夏休みらしい夏休みって何だよ。夏休みそのものじゃねェか。もうちょっと分かりやい言い方があったでしょうが。あっ、よく考えたら俺も優子ほどではないけど普通の夏休みって感じなことしてなかったわ。非常識なイベントにたくさん出会してたわ。感覚麻痺してるかも、気をつけよ。

 

 ちなみに桃とミカンはなんかの会議の後、でかいダンベルやらゴムチューブやらを満載して桃の魔力リハビリのため出掛けているとか言ってた……いや猛暑の中ハードなトレーニングとかマジヤバくね? しかも外でとか。熱中症対策とか考えたことある? お前らさぁ……ホント何してんの?

 

 まぁそういうわけで、優子が普通の夏休みを送れるようにするために、俺も付き合おうとしたわけだけど……

 

 

『すみません白哉さん……付き合おうとしてくれるのは嬉しいですが、今回は一人でやらせてください』

 

『えっ? 一人で一日夏休みを満喫してみるってことか? いや別にいいし咎めるつもりもないけどさ、本当にいいのか? ぶっちゃけ俺と二人で何かしてみたいのかなって思ってたけどさ』

 

『あ、あの……本当は白哉さんとのデートも考えていたんです。それができるなら本望ですし……。けど、無計画や中途半端な計画を立ててやって、別れる羽目になるのは絶対に嫌だなと思ったので、名残惜しいですがやめることにしたんです……』

 

『名残惜しいと言うほどか……? 大体なんで別れなきゃあかんのよ』

 

『こ、言葉の綾ですよ⁉︎ せっかく付き合えるようになったので別れる気なんてありません‼︎ 絶対別れませんから‼︎ ………………それに』

 

『それに?』

 

『最近思ったんです。一から自分で考えて行動したことがないなって。桃を眷属に誘おうとしたり、色々あってお出掛けになった決闘を申し込んだりはしたんですが、それ以外は一から自分で考えて行動……なんてことをしていないなって気づいたんです』

 

『あぁ、そういえば確かに……ん? ってことは、一人で考える機会を作ってみたいから、今回は渋々俺の力を一切借りないようにしたいってわけか?』

 

『は、はい。そういうことなんです。すみません、力になろうとしてくれたのに断って……しかも恋人になってくれたばかりなのに……』

 

『気にすんなよ。さっきも言っただろ、別にいいし咎めるつもりもないって。寧ろ喜ばしいって思ってるんだぜ? お前が桃絡みじゃない事でも一から考えて行動する……いつか何かしらのトップに立つための事をしようって考えてくれるようになってくれて。立派な魔族になろうと必死になっていることを知って、眷属でもある俺も誇りに思えるよ』

 

『そ、そうですか……?』

 

『お世辞じゃねェよ。だから優子も安心して、リラックスしながら一人でも一日夏休みを楽しめるようにしとけよ』

 

『は、はい! 私がんばります‼︎』

 

『あっ。けどその代わり』

 

『その代わり?』

 

『その、だ……またいつか、一日夏休みができる機会をこちらも作っておくからな。それも、二人きりでのな』

 

『………………ふぇっ⁉︎ そ、そそそそ、それって……デ、デ、デ……デート、してくれるって、こと、ですか……⁉︎』

 

『……おう、そだよ』

 

『でしたら楽しみにしてます‼︎ とりあえず今は一人でも夏休みできるようにしていきます‼︎ えへへ……白哉さんとのデート……♡ 二人きりのお出掛け……楽しみだなぁ……♡』

 

『いやいきなり今日の事じゃなくて先の事の方を優先すんなよ』

 

 

 とまぁ、こんな感じに断られたけど優子の気持ちを尊重してあげて、その代わりとしてデートする約束をしたってわけです。超長々とした回想ですみませんでした。まる。

 

 

 

 

 

 

 ってことをこの後ブラムさんに説明したら……

 

 

「ふむ、そうか……それならば仕方あるまいな。シャミ子にはシャミ子の思考というものがあるのだからな」

 

「理解してくださって助かります」

 

 

 思ったよりも早く納得してくれた。同じ魔族だからこそ、優子に何かしら思うことがあったのか……? とりあえず説明しても理解してくれなかった、なんて結果にはならずに済んだんからよかったんだけど。

 

 

「まぁよい。今日の『本の祭典 スカーレット』はサマーセール中なのでな、どの本もお得価格にしているが、君相手ならさらにサービスするぞ。好きなのを買うといい」

 

「身内贔屓は色々と気まずいのでちょっと……ん?」

 

 

 ふと何かに気づいた俺は、チラリとブラムさんと奈々さんの衣装を見やる。よく見ればブラムさんは赤と黒のチェック柄の、奈々さんは黄色い縁にバナナの柄が描かれている白い浴衣を綺麗に着こなしていた。

 

 

「そういえばブラムさんと奈々さん、今日は浴衣姿なんですね」

 

「む、これか? 今日の夜に商店街の納涼祭があるのでな、それに合わせて我も我が妹も浴衣を着ることにしたのだ。ちなみに祭りの時間となったら一旦店を閉め、一部の本を商品として並べながら的当ての屋台を建てることにしておるぞ」

 

「……一時移転での営業はともかく、何故的当てもやることに?」

 

「的当ては我にとってロマンも感じられるのだからな。当たっても落ちるか分からない大きさの箱が落ちるか落ちないかという緊張感……堪らないではないか‼︎」

 

「確率的に赤字になるかもしれないってのに、ですか?」

 

「何を言うか‼︎ 赤字になるかならぬかなど関係ない‼︎ 我は祭りならではの緊迫感を的当てで楽しみたいのだ‼︎ スリル等を味合わずして何が的当て……そして祭りだとでもいうのか‼︎」

 

「的当てに対する熱心さがスゲー……」

 

 

 ってか、おかしいな? 俺はただ二人の浴衣の事を聞いていたはずなのに、話題が的当てに変わってしまっているんだけど。夏祭り関連とはいえ、急に話題転換させるのやめてくれます? この人、自分の好きな事が頭の中に過ぎるとそっちに話題転換しちゃう系なのか? 俺もそこに触れてたけども。

 

 

「兄さんは毎年的当ての営業をしたいがために納涼祭を楽しみにしてたの。だから的当て熱が強いのは許してあげて?」

 

「まあ別にいいですけど……それよりもお二人とも、浴衣姿とても似合ってますよ」

 

 

 そろそろ浴衣の話に戻すことにしたところで、『似合ってる』という言葉にピンと来たのか、奈々さんが突然目を輝かせた。えっ? その浴衣お気に入りだったんですか?

 

 

「分かる⁉︎ この浴衣、兄さんが私の好みに合うようにかつ似合うようにと選んでくれたの‼︎ けど私からしたら、私の浴衣よりも兄さんの浴衣が一番似合ってると思っているの‼︎ シンプルな二色カラーの浴衣を綺麗かつカッコ良く着こなす兄さんはとても絵になってもう素敵‼︎ あの格好のまま本を読んでいる時だって風情を出してくれているし、佇まうだけでもクールさが際立っててもう完璧‼︎ 的当て勧誘を必死にしたりやり方云々を熱心に教えたりする時もとても様になっているというか、なんというか……もう言葉がいくらあっても足りないし、寧ろどうまとめればいいのか思いつかない‼︎ もう色々と良すぎてあぁもう……‼︎」

 

 

 ………………すぅごい饒舌にブラムさん語りしてますやん。どんだけブラコンさが強いというんですかアンタは。そりゃあブラムさんを狙う魔法少女仲間を容赦なくボコしますわねこりゃ。

 

 ……ん? ちょい待ち。そういえば奈々さん、ブラムさんとは兄妹とはいえ魔族と魔法少女……その上血縁者同士ではないんだよな? しかもブラコンというにはあまりにも熱烈すぎるのになんだか違和感を感じるんだが……

 

 いや、まさかとは思わないけど……試しに聞いてみるか。

 

 

「あの、奈々さん? つかぬ事をお聞きしますが」

 

「ん? 何?」

 

「俺の気のせいなのかもしれませんけど……

 

 

 

 奈々さん、もしかしてブラムさんの事が、恋愛方面で好きだったりします?」

 

 

 

「………………えっ?」

 

 

 あぁ……うん、大抵予想してた。『こいつ何言ってんだ』みたいな顔をしてるもん。拍子抜けな顔してるもん。こりゃあ奈々さん、ブラムさんに恋愛感情持ってないわ。普通に兄妹として接してた───

 

 ん? アレ? なんか彼女の顔、みるみる赤くなってない? しかも目がめっちゃ泳いでない? アレェ?

 

 

「なっ………………なななななななな、なんで、知って……?」

 

「……以前ブラムさんを狙っていた魔法少女をボコしたって話を聞いてから、なんとなく」

 

「あ、あうぅっ……」

 

 

 ま さ か の 濃 厚 で し た 。

 

 そっかぁ……やけにブラムさんの事を熱く語るなと思ったら、そういう方向性かぁ……俺の勘、当たっちまったよ……

 

 

「お、お願い‼︎ この事は兄さんには内緒にしておいて‼︎ 今兄さんへの告白のための言葉とか恋文とかを色々と考えていて、まだ心の準備が出来てないの‼︎ けど自分一人の力で成功させたいの‼︎ だから今兄さんに私の恋心がバレるわけには……‼︎」

 

「ハ、ハァ……分かりました」

 

 

 な、なるほど。奈々さんはブラムさんに告白する気ではあるけど、それで人の力を借りるのは甘えだとかなんか違うのだと思い、自分の力だけでブラムさんを振り向かせられるように努力することにしているのか? 一人で悩みすぎて壊れなきゃいいんだけどな……

 

 

「む? 我が妹に白哉よ、二人だけで一体何を話しているのだ? 我、仲間外れされてる気がして寂しいぞー」

 

「「ハッ⁉︎」」

 

「で、実際どうなのだ?」

 

「ち、違うから‼︎ 仲間外れにする気なんてないから‼︎ 大したことのない会話をしてるだけだから‼︎」

 

 

 ヤベェな、怪しまれとる。奈々さんも必死に隠そうとしている。

 

 うーん……反射的に大袈裟に驚いてしまったけど、よく考えたらこの事は別にブラムさんに伝えてもいいんじゃないかな? 彼も彼で奈々さんを愛しているっぽいし、好意があるって程度なら伝えても問題な───

 

 あっ、肩掴んで首をゆっくりと横に振ってる。絶対に今バレたくないって意思を示してる。今バレるのは良くないと思ってるのか。うーん……なんだろう、バラしたらボコボコにされそうだな。相手穏健派だけど。

 

 ヒエッ⁉︎ なんかすごい形相で睨みつけてきた⁉︎ それも文字ですら表現してはいけないほどの怖さ……⁉︎

 

 

「……あっ‼︎ 屋台の準備の手伝いでもしましょうか⁉︎ 暇だし‼︎」

 

「む、いいのか? ならば的当てに出す景品のチェックを頼もうか」

 

「はーい‼︎ かしこまりましたー‼︎」

 

 

 反射的にこちらも隠すことになっちまった……あそこまで怖い顔ができる人をこれ以上怒らせたら俺の命も危ういからね、仕方ないね(焦)

 

 

「……今見せた顔、すごく怖かったのかな……? いくら隠し事をしてもらいたいからって、脅迫するような感じにするのはよくない……よね? うん」

 

 

 

 

 

 

 夕日が沈み、星の輝く夜となっていく時間となった。そろそろ納涼祭が始まる時間帯にもなった。ってことで指定された屋台の建てる場所に的当ての屋台を建てる手伝いを行った。後は本職の本屋らしく本を並べて完了……いや、今のは本だけにっていうダジャレとして言ってるわけじゃないからな? マジで。

 

 で、屋台を建てたところでブラムさんが一言。

 

 

「せっかくだ白哉、君も浴衣を着て屋台を回って行くと良い。替えとして何着か持っておるぞ」

 

「えっ? いえ俺は別に───」

 

「浴衣を着ずして何が祭りだ‼︎ 楽しみたいのであれば、浴衣を着て外も中身も祭り気分にすべしだ‼︎ うむ‼︎」

 

「兄さん、強要するのやめて?」

 

 

 貴方のその浴衣に対する情熱は何なんですか。ってかこの人そんなに祭りが好きなのか? 他人に自分なりの祭りの楽しみ方をやらせようとするほどに?

 

 ……けどまぁ、よく考えてみたら前世では浴衣を着たことはなかったな。面倒臭かったってわけじゃなくて、単純に浴衣を持ってなかったのと、『そもそも浴衣がなくても祭りを楽しめるんじゃね?』みたいな考えを持ってたからなー。

 

 ……よし。

 

 

「せっかくなので着替えさせていただきます。で、その浴衣はどこにありますか?」

 

「案ずるな、すぐに用意してやろう。……で、だ。君は質素なのと派手なの、どちらが良い?」

 

「えっ? 変なのでなければ、どっちでも……」

 

「良いだろう」

 

 

 浴衣は大抵どんなものでも良いと言った途端、ブラムさんは突然指をパチンッと鳴らした。そしたら急に蝙蝠達が屋台の裏側から出てきた……

 

 ヘアッ⁉︎ ちょっ、なんでみんなこっちに向かって来てんの⁉︎ 何⁉︎ 俺の血でも吸おうとしてんの⁉︎ やめてください死んでしまいま───

 

 気がついた時には、蝙蝠達は俺の視界を遮りながらその場を通り過ぎていった。……な、なんだったんだ? なんで通り過ぎてったんだ? 何はともあれ助かった───

 

 

「おぉ、すごく着こなしているな。髪の色に合わせているかの如く藍色と灰色の配色がマッチしているぞ」

 

「うん、そうだね。すごく似合ってる」

 

「………………へっ? あ、あの……二人とも突然なんですか? 俺、まだ浴衣に着替えていないんですが………………んっ?」

 

 

 ふと、俺の肩周りに伝わってくる湿り気のある布の感触と全体にまでも伝わってくる涼しさ、二つの違和感を感じ取れたことに気づく。そしてチラリと服装を見れば……

 

 まだ着替える素振りすらしてないのに、藍色と灰色の縞模様の浴衣を変わっていた。しかもよく見れば靴も草履になっており、靴下も履いてない状態になっている……えっ?

 

 

「えっ? い、いつの間に着替えさせられてたの? 俺」

 

 

 ねえ、ちょっと? ちょっと待ってくれへん? あの蝙蝠達、人の服装を一瞬で無理矢理替えることができるの? しかも通り過ぎただけであまり違和感を感じさせずに? 色々とヤバいな……

 

 ってか、それだと俺の服を奪われたってことになるんじゃね? そこも考えると迷惑にもなるんじゃ───あっ、よく見たら着替えはいつの間にか奈々さんが持ってる。そこら辺も考慮してくれたんだな。よかったぁ……

 

 

「どうだ白哉? 我は君の好みに合う良い浴衣を選出できたか?」

 

「好みってわけじゃないですけど、すごくカッコいいです。ありがとうございます」

 

「よかった〜。兄さんがいきなり白哉君の服を無断で替えるから、白哉君激おこなのかと思っ……怒ってる? 怒ってない? どっち?」

 

 

 いや急に不安にならないでくれます? 分からなくもないけど。

 

 

「怒ってませんよ。俺の服を貴方が預けてくれてますし、そのまま服が消えるよりマシですよ」

 

「そ、そっか……それでも兄さんがごめんね?」

 

「いえいえ」

 

 

 にしてもこの浴衣、本当にいいよな。和って感じが強く出ているけど、清潔感とか風貌とかが出ていいな。二次創作でも祭りとかで女性キャラを浴衣にするのも分かる気がする。

 

 ところで気になったんだけど、この浴衣、一体どこで買ったんだろう? 普通の浴衣にしては生地が良すぎる気がするし、なんかこの世界の浴衣はなんだか嫌な予感がするんだけど……

 

 

「ブラムさん、この浴衣って一体どこの店で買ったんですか?」

 

「む? これか? いつもは着物専門店で買っているのだが……」

 

 

 ん? 『いつもは』? もしかして今回は専門店には行ってないのか、それとも去年まで買ったヤツで大丈夫だと思ってるのか、それとも……?

 

 

 

「リコ殿がくれたものだ」

 

 

 

 あっ。この浴衣、リコさんの妖術で葉っぱから変化したヤベーものだ。

 

 

 

 これ、大丈夫? 着ている途中で術が解けて全裸になってしまわないだろうな? 原作ではそんなことはないけど、俺の場合は解けないとは限らないし……

 

 

「やっぱり着替えてきま───」

 

「………………何故だ?」

 

「いや顔立ちに似合わないつぶらな瞳で見つめてくるのやめてくれませんか?」

 

 

 結局術が途中で解けないことを祈ることにしました。トホホ……

 

 

 

 

 

 

 私、シャドウミストレス優子は憮然さを感じていた。簡単にいえば、何かが物足りない。

 

 色々あったけど、念願である白哉さんとの恋人同士になることができ、これから闇の支配者らしく人を集めようと思っていた矢先。

 

 杏里ちゃんが私の日記を見て、父の武器を受け継いだり本当に記憶が飛ぶような出来事を明らかに普通のJKは体験しないのだと言ってきたんです。よく考えてみれば、今年の私の夏休みはきちんと休めているようなものではなかったですね。なんで今まで気づかなかったんだろう……

 

 それを日記を通して見かねた杏里ちゃんに『一日くらい夏休みは夏休みらしく楽しく過ごすべきだ』とも言われ、流されるままに今日の午後をオフにしてしまった私。とりあえずワゴンセールで売られていたゲームを買って家でプレイすることに。

 

 ちなみに白哉さんとのデートも考えてはいたけれど、魔族であることも休んでの休みに白哉さんの力を借りるのも申し訳なく思い、苦しくも彼の同行を断ることに。桃もミカンさん付き添いで魔力リハビリしているため、最近活用していない一から自分で考えて行動する判断力を養おう……と思ったのですが。

 

 ゲームして過ごすこと以外何も思いつかない。ゲームしてもなんかしっくりこない。ごせんぞの意見も警察沙汰のだったし……これでは夏休みらしい夏休みっぽさを感じ取れないと思い、とりあえず『あすら』に行くことに。

 

 店長に夏休みらしさを聞いてみたところ、学生の夏休みといえばひと夏の労働で流す美しい汗だと言っていたけど……絶対違う。ノリで弁当販売を手伝ったけど絶対違う。

 

 聞けばあの弁当、商店街の納涼祭のために特別販売していた模様。飲食業のお盆は戦争だとか、休みという概念は時空の彼方に消し飛ぶのだとか、そう言ったネガティブさを続けて呟いていた店長の顔は……あまりにも気の毒でした。はい。

 

 で、リコさんにせっかくだから浴衣着て遊んでいっておいでと言われたので、浴衣を借りて屋台を回っていくことに。今日の私は石油王並みの資産家‼︎ 弁当販売を手伝ったバイト代で豪遊しちゃります‼︎ ってな感じで行って、しばらく楽しめたはず……だったのだけど、まだしっくりこない……尻尾に力が入らない……

 

 なんでだろう……いっぱい買って、いっぱい遊んで、夏っぽいアイテムでいっぱい武装してるのに……何かが虚しい……。何故だ⁉︎ 闇の一族は夏と相性が悪いのか⁉︎ なんか……一人だとピンとこない……なんでだろう……昔はこんな気分になったことないのに。

 

 ………………もしかして、今白哉さんが隣にいないから? こういったお祭りにはよく同行してくれるし、如何なる時でもエスコートとかしてくれていたから。それは私が愛の重い女の子だと明かした去年でも、それは変わらなかった。そんな大切な存在が隣にいないから、私は……

 

 いや、不思議とそうじゃないと思える。白哉さんを理由にしてもまだ物足りない気がする。何だろう……一体何が物足りないんだろう。それが何なのかのかも分からないのもなんでだろう。

 

 ……一旦帰ろうかな。

 

 

「おーい優子」

 

「あっ……」

 

 

 タイミングが良いのか悪いのか分からないけど、ここで白哉さんが来た。しかも、まさかの浴衣姿で。

 

 あっヤバい、カッコいい。年に一度くらいしか見られないその姿、首・手首・足首の三首を見せながら清潔感を出すその姿……もう、私のハートにド直球すぎて眩しすぎる気がして直視できないッ……‼︎

 

 

「その様子だと、どうやらお前も祭りを楽しんでいってるんだな」

 

「えっ………………えっとまぁ、はい……」

 

 

 あっ。お、思わず肯定してしまった……しっくりきてなくて楽しんでってないのに、頭の整理ができなかったから楽しんでるって嘘をついてしまった……もう、私のバカ‼︎ まるで私がいじっぱりしてるようなものじゃないですかもう‼︎

 

 

「それと、だな……」

 

「は、はい?」

 

「お前の浴衣姿、結構似合ってるぞ。ポニーテールとマッチしててすごく可愛いしな」

 

「え ゙っ」

 

 

 顔が火照ってきたように感じた。私の事を褒めてくれるのは前から変わらないけど、直球で褒めてくれるのは初めてな気がする。しかも『すごく』って言葉を使いながらの過剰ながらもすごく嬉しい褒め言葉。もう、別の意味で死んでしまいそう……‼︎

 

 

「えっと……その……ありがとう、ございます……」

 

「おう、結婚したいって思うくら──あっ」

 

「けっ⁉︎ けけけけけ、結婚ッ⁉︎」

 

 

 結婚……結婚⁉︎ 今白哉さん、結婚したいって言いました⁉︎ いやそれは本望だし、付き合っているし永久を共にする眷属になっているから可能性はあるとはいえ、そこまで直球で言われるなんて思わないじゃないですかヤダー⁉︎ したい‼︎ 今すぐにでも結婚したいです‼︎ はい‼︎

 

 と、ここで無理矢理話題を変えようとしているのか白哉さんは一つ咳払いした。いや、そんなことしても私の記憶容量から『結婚したい』と言ってしまった事実は消えませんよ? 忘れてやりませんから。下手したら上手い具合に歌詞にしますから。バンドの人達に歌ってもらうようお願いしますから。

 

 

「………………」

 

 

 でも、思っていた通りまだしっくりこない。来てくれたばかりだからというのもあるけど、白哉さんが来てくれても、自分でも分からない心の溝が少ししか塞がれていない。なんだろう、こう……なんというか……カップルで回るお祭りも楽しいけど、それ以上にお祭りを楽しむための何かが足りないような、そんな気が……

 

 

「……優子」

 

「は、はい? なんでしょうか?」

 

 

 

「もしかして、祭りを楽しもうとしているのに楽しめていない感じか?」

 

 

 

「えっ……」

 

 

 う、嘘……? 私の本心、バレてる……? えっ? 私、そう思われてるような顔してた? 本心を隠せてない? 表に出てた? そんな、心配かけさせたくないから隠そうとしているのに……

 

 

「お前のことを呼ぶ時、なんだか悲しそうな顔をしていたものだからな」

 

「や、やっぱり顔に出てましたか……」

 

 

 ですよね。そうじゃなかったら楽しくないのかどうかなんて聞かれませんものね。……仕方ない、本音を言っていつも通り相談に乗ってもらおう。

 

 

「はい、そうなんです。こんなにも夏っぽい武装をしてるのに、ですよ? 自分でもなんでだろうっても思っていますし……」

 

 

 バレてしまったことに思わずガッカリしながらそう答えたら、白哉さんは顎に手を当てて何やら考える素振りを見せてから口を開いてきた。

 

 

「なぁ優子、もしかして───」

 

『続いては迷子のお知らせです』

 

 

 刹那、彼の言葉を遮るようにアナウンスが流れてきた。

 

 

 

『多魔市からお越しのシャドウミストレス優子ちゃん十五歳。特徴は小柄で天パな巻き角の女の子──配下の二人がお探しです。お心当たりの方は至急本部までご連絡ください』

 

 

 

 なんだ今の放送は⁉︎

 

 

 

 誰だ私のことを子供扱い迷子扱いする奴はー⁉︎ 予想つきそうだけど‼︎ なんとなく予想つきそうだけど‼︎

 

 

「あぁ……これはアレだな。あいつが探してる気がするな」

 

「ですよね‼︎ 私も同じこと考えてました‼︎」

 

 

 やっぱり白哉さんも誰が私を呼んでいるのか察してますか‼︎ なら話が早いですねとっとと本部に行って文句を言ってやりましょう‼︎ おのれ犯人こんちくしょー‼︎

 

 

 

 

 

 

「著しく配慮に欠けた放送をしてる奴は誰だー‼︎」

 

「シャミ子。探したよ」

 

「やっぱり貴様か魔法少女‼︎」

 

「うん、俺は知ってた。優子相手に喧嘩売るようなことをするのは桃ぐらいしかいないから知ってた」

 

 

 隣の優子のぷんかぶんかな怒声を聞きながら、納涼祭本部にまで来て桃とミカンの魔法少女コンビに出会した俺達。その二人もどうやら浴衣姿になっている。へぇ、分かってはいたけど二人とも浴衣も似合ってるんだな。ま、優子には敵わないけどな(嫁バカ)。

 

 ってか怒っていることを表すようにブンブンと振ってるそのビニールでできたぼこぼこ刀、光るんだな。ビームサーベルかよ。ス○ーウォー○に出る気か?

 

 続けて優子は迷子の子供じゃないし今後小柄をNGワードにすると怒る。まぁ仕方ないわな、高校生が小学校低学年扱いされるのは辛いわな、うん。

 

 で、それを伝えた後に桃とミカンまで浴衣姿になっていることに気づく優子。どうやら二人は優子を探しに『あすら』に来たらリコさんに着崩れ断固阻止の術で浴衣を着せられたらしい。いや元々葉っぱ一枚だったのを他人に無理矢理着させたのかあの人。深夜に解けるとはいえ色々とアウトだからマジでやめてほしい。

 

 

「シャミ子が息抜きしたいってのは聞いてたんだけど、今日は暑いし白哉も帰りが遅かったからちょっと心配だったの」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「あ、一応俺の事も心配してくれたんだな。……じゃあなんでアナウンスでは俺を呼ばなかったんだ? 別にいいけど」

 

「いや、その……桃があのアナウンスをすれば『俺の恋人に対してなんつー扱いしてんだ』みたいな感じに来るのかもって言っていたものだから……」

 

「今の俺の事をなんだと思っているんだ」

 

 

 んだよ。なんだってんだよ。人を恋人を馬鹿にした奴を精神共にボコボコにする系のヤンデレかと思ってんのか。もし本当にそう思っているのだとしたら、さっきのアナウンスはかなり挑戦的なものになってたぞ。下手したらボコボコにされてたと思うぞお前ら。

 

 

「あっ。そ、そうだ。せっかくですし、この後は───」

 

「デートみたいな雰囲気の時に邪魔してごめんなさいね」

 

「後は二人で水入らず楽しんでおいで。帰ろうミカン、この格好恥ずかしい」

 

「えっ……待て」

 

 

 偶然鉢合わせした俺達がデートしているのだと勘違いしてか帰ろうとする二人を、優子が渾身の握力で肩を掴んで制止させる。ってか制止させるために挙げた声もデカッ。

 

 

「きさまら夏から逃げる気か。光属性のくせに」

 

「光属性だからって皆が異常なまでの陽キャとは限らんだろ」

 

「いやそもそも夏から逃げるって何……?」

 

「ミカーン」

 

 

 おいそこの柑橘類大好き魔法少女。ミカーンってなんだミカーンって。ポカーンとした感情をあぽーんみたいに言うなや。

 

 

「というか、シャミ子はいいの? せっかくの白哉くんとのデートができる機会が───」

 

「いいから‼︎ 一旦ある程度夏を消化してから帰れ‼︎ あとデートなら白哉さんの方からちゃんとした計画を立ててから誘ってくれるから大丈夫です‼︎ 行くぞ! ほら行くぞ‼︎」

 

 

 夏祭りを楽しめと必死になる優子に戸惑う二人、なんかレア。特に桃が優子に流されるままになる場面なんて滅多に見られないかもしれへん。

 

 ってそんなこと言ってる場合じゃないな。俺が介入したことで二人はさらに遠慮しがちなりそうだから、俺の方からなんか言っておかないと。

 

 

「まあまあ、俺もさっき会うまでは優子に『一人で夏休みを楽しんでみたい』って同行を拒否られたんだし、今度デートに誘うと言ったのも本当なんだし、別にデートがどうのこうのなんて気にしてねぇよ。ここは優子の気持ちを尊重してあげて、一緒に祭ろうや」

 

「あぁ……そ、そうだね。そこまで言うのならお言葉に甘えようかな」

 

「そうね……いやちょっと待って、祭ろうの意味わかって使ってる?」

 

「……わかってるからボケたんだよ」

 

 

 でもなんで俺祭ろうなんて言ったんだろうな。ってか一体何の祭りを祭るつもりだよ。祭りだけに。……そのまんまっぽいダジャレだな。

 

 

 

 

 

 

 帰ろうとする魔法少女二人を半ば強引に連れて行きながら、四人で色々な屋台を回ることになった私達。

 

 的当てしたりかき氷を食べたり、あと金魚すくいで桃が一回金魚を強く掬い上げただけで他の金魚が反重力で自動的に器に入っていくのを見てビックリしたり……

 

 あぁ……なんか、ここにきてやっとしっくりきました。

 

 私という小規模事業まぞくに、夏を一人で喰らい尽くす無理だったようです。夏はエネルギーを分かち合うもの。魔族の夏は配下と分け合うとしっくりくる‼︎

 

 というわけで既に買ったたこ焼きも皆に分け合おう‼︎ くらえまぞくたこ焼──あっすみませんミカンさん、隙あらばレモンかけるのやめてください。白哉さん酸っぱいの苦手なんです。

 

 アレ? そういえば白哉さんは一体どこへ? 私達が金魚すくいを始めようとした時『ちょっと急に寄りたいところができた』と言ってどっか行っちゃいましたけど……

 

 

「すまん、お待たせ」

 

「あっ白哉さん。今まで何をし、て……?」

 

 

 な、なんか大きなピ○チュウのぬいぐるみとNintendo Switchを持っているんですが……えっ? いつの間に? いつ? どこで見つけたんですかそれ? 少なくとも的当ての景品ではなかったような……

 

 

「えっ? いつの間にそんなものを手に入れてたの?」

 

「あぁ、ちょうど射的で良いのを見つけたからちょっとな」

 

「そういえばチラチラと見てたわね、射的のところ」

 

 

 えっ? あ、そっか。白哉さん、金魚すくいの屋台近くにまで来た時にどっかチラチラと見ていたような気がしたけど、射的の屋台がチラリと見えたのかな? それにしてもあんな大きなものを二つも撃ち落とせるなんて、白哉さんすごすぎません? というか射的してる白哉さん見たかった。

 

 

「すごいですよかったですね。大きいぬいぐるみだけじゃなくてゲーム機まで獲得するなんて───」

 

「はい、優子。これ全部やるよ」

 

 

 ………………ん? んんん? あれ? 気のせい? 気のせいかな? 気のせいじゃなかったら、白哉さんがぬいぐるみとNintendo Switch、二つとも渡してきているように見えるのですが……

 

 

「えっと……白哉さん? これって『はいあーげた』と言ってフェイントで渡すフリする感じですか?」

 

「んなクズなことしねーよ。そもそも恋人にそんな事する奴はフラれて別れる羽目になるわ」

 

「で、ですよね……」

 

 

 すみません、本当は知ってました。白哉さんが意地悪するような人じゃないことぐらい知ってました。けど、まさかぬいぐるみだけじゃなくてゲーム機(しかも新世代モデルのヤツ)も一緒に渡してくれるとは思っていなかったもので、信じられないと言いますか……

 

 

「え、えっと……俺、渡すプレゼントがいけなかったのか? それとも対応の仕方を間違えたか?」

 

「あっ。い、いえ……そ、その……あの、嫌じゃないです。それよりも、なんていうか……」

 

 

 なんか白哉さんが自分の行いを間違えたのかと勘違いしているみたいだし、もうぶっちゃけた方がいいですね。すみません、本音を言わせていただきます‼︎

 

 

「本当に、いいんですか? 超超ちょーお値打ちに的な感じに手に入れたそんなすごいものを、二つとも私にあげてしまって……」

 

「あげないのだったら差し出そうとしてないし、何なら射的にすら行かなかったはずだからな。彼氏としてカッコよく渡させてくれよ」

 

「………………」

 

 

 あぁ、そうか。白哉さんは元からそういう人だったんだ。何かと私の事を心配したり、私が愛の重たい女になっても変わらず優しくしたりしてくれる、そんな人だったんだ。

 

 彼氏だから射的で手に入れた景品を私にあげるというのも、そういう前置き関係なしに、私の娯楽を増やしたいという優しい名目でやっているのだろうし……

 

 

「じゃ、じゃあ……お言葉に甘えさせていただきますね」

 

「あぁ、大切に使ってくれよ」

 

 

 結局もらっちゃった……もらえるものはもらっておくべきとか言うけど、本当にもらっちゃった……

 

 でも、○カチュウのぬいぐるみは思わず抱きしめたくなるほどの可愛さだし、Nintendo Switchはソフトがなくても無料ダウンロードソフトがあるから、本当にもらっておいて損はな───

 

 じゃなくて。白哉さんからの夏の貰い物、か……

 

 

「えへへ……♡」

 

 

 大切にしないと……♡

 

 

「あー……結構アツアツね。今年の夏ってこんなに暑かったのかしら……」

 

「確かに暑いね………………二人の濃厚なイチャイチャを見せられたら」

 

「思っても言わなかったことをぶっちゃける貴方も貴方よ桃……」

 

 

 この後、ごせんぞが桃のことを呼んでいるかのようなアナウンスが聞こえ、桃が他人のフリをしようとしたのは別の話である。

 

 

 

 

 

 数日後。リコさんに返した浴衣が葉っぱ一枚に幻術を掛けたものだと知って背筋が凍り、さらには白哉さんがブラムさんから借りたという形で着ていたことを知り、ヤバい妄想をしてしまい……

 

 

「優子が真っ赤な顔で鼻血を思いっきり出して倒れたと聞きましたが大丈夫ですか⁉︎」

 

「白哉はん来てくれるの早いわ〜。ご覧の有様なんよ」

 

 

 気づいた時にはリコさんとそんな話をしていた白哉さんがいたことに気づき、またその妄想をして……

 

 

「ギャーッ⁉︎ 優子がスゲー勢いでまた鼻血出したー⁉︎ なんで⁉︎ 優子しっかりしろー‼︎」

 

 

 みたいに心配をかけられたのですが、それもまた別の話……

 

 




投稿再開したばかりなのでおまけ要素はなしです。

次からはおまけ要素も再開させますよー。


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あともうちょっとで夏休みの宿題が終わる……っておい桃コラ。お前なんで一ミリも進めてねーんだよ

デート回にしようかと思ったけど、二人には先に宿題を終わらせてあげた方がいいな。ってことで初投稿です。

寝落ちしたせいでもうちょっと早く投稿することができなくてすいませんでした……

ちなみにデート回はまだ先にしておきます。急に他に書きたいことができたので。


 

 優子達との納涼祭を楽しんだ、翌日の夕方。俺は優子と二人きりになっている自分の部屋にて、折り畳み式テーブルを机にして座りながらとある事をしている。

 

 

「すみません白哉さん、貴方の部屋で一緒に宿題をする事になって……」

 

「いや、気にすんな。ミカンの実家の工場の調査とかなんとかの杖の事とか、あと桜さんに関する情報収集や魔族との契りの事などで色々と大変で、あんまり進んでなかったんだろ? 恥ずかしい限り俺も似た状況だったし、一人でやるよりも二人でやった方が捗りやすいってもんだろ?」

 

「そ、そうですね。それにこうしていると、まるでお部屋デートしているみたいで……えへへ」

 

 

 そう、学生の大抵の人が苦手としている、夏休みの宿題だ。だって多いもん。読書感想文もあるもん。それがなくても作文があるもん。自由研究もあるもん。全部終わらすの大変だもん。それに俺達の場合は光や闇の一族関連のことでいろいろと大変で中々手を付けられなかったんだよ。いやマジだよマジで。

 

 それで俺も優子も苦戦を強いられているのだが……苦戦と言っても、それは量の話だ。内容の方は一学期に勉強した記憶と前世で学んだ学力でどうにかなるため、カンニングなしで宿題を素早く終わらすことができる。

 

 優子も原作では実力の問題で真摯にやっても苦戦していた数学ドリルを、狼狽えたりせずに難なくとこなしている。彼女に勉強教えといてよかった……(ホロリ)

 

 

「それにしても、確かにみんなで宿題を進めるのはいいことですね。分からない問題があったら聞き合ったりすることができるし、お互いの勉強の仕方を見ておくことで改善点を見出せるかもしれないし……一人でやるよりも数段いいですね」

 

「だな。こんな機会はテスト勉強以外他にないのだろうし、やっておいて損はないな」

 

 

 今、複数人で勉強する機会に対する偏見がすぎる発言をしちゃったけど、大丈夫か……?(多分大丈夫じゃないだろうけど)

 

 そんな事を考えて苦笑いしていると、優子が何やら頬を赤らめ両膝を合わせてすりすりとしながらこちらを見ていることに気づく。えっ、何? 俺、優子を恥ずかしがらせるようなことしてた?

 

 

「あ、あの、白哉さん……先程今日のノルマはこのページまで、と言いましたよね?」

 

 

 謎の恐怖に少し身体を震わせていると、優子が数学ドリルのページにトントンと指を差した。

 

 

「ん? あぁ、言ったな」

 

 

 もしかして、ここまでやるのは難しいとか言うのか? まあ個人差とかあるから分からなくもないけどさ、もうちょっと頑張って───

 

 そしたら優子はペラペラと四ページ先を捲った。アレ? 減らすように頼むなら前のページを開くべきじゃ?

 

 

「えつと……こ、ここのページまでやれたら……その……」

 

「その……?」

 

 

 

「ご、ご褒美として、私を抱いてくれませんか……?」

 

 

 

 真っ赤な顔の優子。そんな彼女の口から発せられた、『ご褒美』と『抱いて』という二つの言葉。その二つの言葉が何の意味を成しているのかわからないわけでもない。それを要求するために、敢えて終わらせる量を増やしたのだろう。

 

 その言葉を理解した俺は顔が火照るのを感じながらも一つ咳払いをし、ドリルに答案を書く手を再び動かしながら口を開いた。

 

 

「……解き終わった後は寝かせないからな。夜になったら覚悟しとけよ」

 

「は、はい……」

 

 

 この後気まずい雰囲気の中で宿題を続けることになりました。あー恥ずい恥ずい……

 

 そしてこの日の夜、メェール君達の音声遮断用の魔力の壁のお世話になりました。何のお世話なのかは察しろバカ。

 

 

 

 

 

 

 ゆうべの宿題処理と夜のお楽しみの後。俺は優子の部屋で彼女と一緒にもう一度夏休みの宿題を終わらせることにした。あともう少しだ……あともう少しで夏休みの宿題が終わり、残りの夏休みは自由な時間を作ることができるぜ。

 

 ちなみに部屋の隅で桃がポテチを食べながら観戦中です。なんで来たの? いや普通に遊びに来たのだろうけど……

 

 

「うぅ〜ん……」

 

「お腹空いたの?」

 

「今の状況を見てもそうしか思えないのか?」

 

 

 俺達が今何をしているのか、少しはこれ見ても俺達が宿題してると思わないのか? 筆記具とかドリルとかを手に持ってるだろ俺ら。それ見えるだろ。お前の目は節穴か?

 

 

「見ればわかるでしょう? 夏休みの課題です。色々あってあんまり進んでないんです。だから昨日からこのように白哉さんと一緒に終わらせようとしてるんですよ」

 

「シャミ子は宿題系をちゃんとやるまぞくなんだ……白哉くんもだけどえらい。私、一ミリも進めてないや」

 

「ふっふ~。まあごりっぱまぞくですからね! ………………え⁉︎ ダメだろうそれは‼︎ まぞくとか以前に‼︎ 人として‼︎」

 

 

 ……魔族よりも魔法少女の方がダメダメな性分とか、立場的にどうかと思うのだが。

 

 

「……魔族よりも魔法少女の方がダメダメな性分とか、立場的にどうかと思うのだが」

 

「……なんか、本音と建前をわざわざ一緒に言っているように聞こえるのですが」

 

 

 なんで分かったんだよ。いやこんなのは別にいいけどさ別に。

 

 

「ってかそんなことよりも‼︎ 桃、宿題進めてないの⁉︎ 頭良いのに⁉︎」

 

「進めてないっていうか……期末にもらった課題内容のプリントを、机の中に置いてきちゃうじゃん?」

 

「そうはならねーよ個人差はあるけども」

 

 

 つーか課題内容を忘れたらテストに取り組むための力を養え足りなくなるだろうが。大体それは提出課題でもあるし。控えめに言ってバカなの?

 

 

「そのまま『ま、いっか……』みたいなキモチに」

 

「だからならねーよアホ」

 

「口悪っ⁉︎ アホとは思ってませんがその通りですよ‼︎ ぜんっぜんいくないです‼︎ 魔法少女なのに提出物を出さないんですか⁉︎」

 

「……魔法少女だけど一回闇堕ちしたから良くないかな」

 

「ダメですその方向性は‼︎」

 

 

 闇堕ちを言い訳にするんじゃねェよ。そもそもそれはお前自身が望んで自ら一時なったんだろうが。やっぱりアホでバカだこの脳筋魔法少女が。この馬鹿野郎。ここまで辛辣にさせやがってこの野郎が。もっとしっかりせんかい。

 

 だがそれでも桃はおいおい進行させると言って、優子の『おいおいはダメだ』という説得をも聞こうとしない。この日まで一ミリも進めてないヤツがおいおいでも進められるはずないでしようがはっ倒すぞ。

 

 ってかよく考えたらなんでこいつは変なところでズボラになっちまうんだよ。鍛えることとか魔族や魔法少女に関すること、他人に対する想いではきちんとしてるのに、ホントなんでこういう常識的なところで……

 

 

「変なところでズボラはいけません‼︎ 桃! 宿題をやりましょう。きちんと課題をこなして予習復習をすれば、学期明けのテストで苦しまなくて済むんです」

 

「やるタイミングによる場合もあるけど、早めにやっておいて損はないぜ? 休みの時に学力をつけるチャンスは滅多にないぞ」

 

「うーん……そういうのは一理あるけどさ」

 

 

 おっ? 煽りで反論しないぞこの桃色魔法少女(天然によるものだけど)。原作では優子に『真面目に課題をやってもテストで苦しむよね?』って天然レベルMAXで煽ってたけど、俺が勉強を教えて学力を伸ばしてあげたからなのか、煽ってくることはなかったようだ。別にここはあろうがなかろうが原作に影響しないだろうけど。

 

 

「夏『休み』なのに課題を出すっておかしくない?」

 

「え? だって学校は勉強するところで……」

 

「でも私、授業はきちんと集中して時間内で覚えてる。休みと称しながら持ち帰りでノルマを課すというのは、これはもう違法なサービス勉強なのではなかろうか?」

 

「サービス勉強って何⁉︎」

 

 

 おいブラック企業でよくある仕事の持ち帰りみたいに言うな。それだと学校そのものがブラック企業だと言ってるようなものだぞ。しゃーない、ここは一言物申しておくか。

 

 

「言っておくがな桃、サービス勉強は今後の勉学に役立つんだぜ」

 

「ん? そうなの?」

 

「授業の中でとれるものならとれるけどさ、普通は学習内容が多すぎて終わらせるだけで精一杯なものなんだぜ? たとえきちんと受けていたとしても、意外と自分でも気づかない内に頭に入れることができなかったものもあるのかもしれない。それを補足し、反復学習で定着させて身につけ直す時間を作るためにあるのが宿題だ」

 

「なんか科学分野で宿題の必要性を出してきた⁉︎」

 

 

 気持ちはわかるがやかましい。偶々見つけたそういう記事を参照にしてるんだから。その言葉で参照してることがバレたら桃がどんな反応をするのかわからないから黙ってなさい。

 

 

「さらに宿題は自立して学習や仕事に取り組める態度・習慣・スキルなどの自己学習力が育つ機会となり得るんだ。今の優子とお前の関係性で例えると、そうだな……優子が自分で色々と考える力を身につけることによって、決闘や桃を眷属にするための手段に、お前は押されて敗北するかもしれないぜ?」

 

「えっ?」

 

 

 おっ? ここで桃が『そうなの?』と言ってるような反応を見せてるぞ。これはおいおいやる派で宿題は不要派のこいつに効いたのでは?

 

 

「そ、そうですよ桃‼︎ 気がついたら私に促されて決闘に敗けたりうっかり眷属になったりしちゃったっていうオチが嫌ならば、宿題はちゃんとやるべきですよ‼︎ いや、寧ろやっておくといい‼︎ うむ‼︎」

 

「……そうやって促したら、自分から目標達成のチャンスを潰す羽目にならなくない?」

 

「うぐぅっ⁉︎」

 

 

 うわ、痛いとこ突かれたなこいつ。

 

 

「そっ……そうならないように、私も宿題などで学力と自己判断力を身につけておくから良いのだー‼︎ というかきさま相変わらず宿敵力が高いな‼︎」

 

 

 いや宿敵力ってなんだよ。何のパラメータとかを表してるのそれ?

 

 

「まあ、そこまで言うならやってみるけど……どうして二人ともそんなに私に宿題をやらせたいの」

 

「魔法少女が宿題を終盤まで溜め込むバカだというイメージはなんか嫌だからだよ、単純に」

 

「わ、私は……桜さんに桃を見ていてって頼まれたからですっ。私は桜さんのコアをレンタル中なので。……なんなら私を姉代わりと思ってくれてもかまわないぞ! 眷属(仮)ですしね!」

 

 

 そう言ってドヤる優子、可愛い。しかも胸を張って威張っている時に自然と強調される身体の一部がまた良──すみません、なんでもないです。だから優子、照れながらこちらをチラチラと見ないで? いやマジで頼むから。

 

 

「姉? うーん………………サイズ感が足りない」

 

「なんだきさま‼︎ 河川敷に行くか⁉︎ 決闘だ‼︎ 宿敵の存在感見せつけちゃるぞ‼︎」ポガッー‼︎

 

 

 桃、お前は無自覚になんか言って優子を煽らないと落ち着かんのか。自分の発言に自覚を持ちなさいアホ。

 

 そんな事を考えていたら、桃がそもそも姉──桜さんも宿題はぎりぎりまでやらない派であること、自分は孤児であった事を話す。いや、何サラッとギャグっぽいのの後にシリアス感のある話をしようとしてくるの? やめなさい心臓に悪い。

 

 話の続きによれば、桃は幼い頃の記憶が曖昧であったものの、魔法少女の素質を見込まれて桜さんに引き取られたとのこと。最初は結構人見知りしていたためか、桜さんは気遣いとして様々な場所に連れて行ってくれたとのこと。

 

 

「で、課題山積みで締め切り前日にわたわたしてた」

 

「なんで計画的にやらないんだ桜さんも。行き当たりばったりなタイプとかどんだけダメな魔法少女の先輩なんだよ」

 

「えっと……桃の事を気遣いすぎて目の前の事にしか目にいってなかったのでしょうか……?」

 

「まあそれもあり得るだろうけどな……なぁんだかなー……」

 

 

 俺、原作知識で桜さんの事を知っていたとはいえ、それでも実際に夢の中ですら会っていないとなると、どうにもダメ人間のイメージが染み付いちゃってその払拭をしてあげられないというかなぁ……

 

 まあそんな事は置いといて、みたいな感じに優子が桃を無理矢理座らせる。宿題は先生との約束。約束を守るのは大事な事、というわけで桃が宿題を進めるところを監視するぞと宣言する。

 

 

「今夜は寝かさないぞ‼︎ タイヤに縛り付けられた恨み今こそ晴らしてくれるわ‼︎」

 

「おい言葉のチョイス。『今夜は寝かさないぞ』は本来の使い方ではヤバい意味で使われてるから安易に使うもんじゃないぞ」

 

「えっ? ………………あっ」

 

 

 いや今気づいたのかよ。使った時にはもう遅いんだよ誤った言葉ってのはよォ。とんでもないことをしたのだと自覚した優子は顔を真っ赤にし、慌てたかのようにわたわたとした様子を見せる。ってか慌ててる。

 

 

「ち、違います‼︎ こ、これは健全な意味で言ってますので‼︎ なので真摯に受け止めないでください‼︎ 浮気なんてするつもり一切ないですし、そもそも桃は女の子だし……

 

「お前が桃に対して恋愛感情がないってのは分かりきってることだから。だから落ち着け」

 

「は、はい……」

 

 

 というか、付き合うまでの間も散々重たい愛をぶつけてきた癖に、誰かに鞍替えするなんて絶対許さないからな? 責任もってその重い愛を俺にぶつけてこい。受け止めてやるから。

 

 

「……役得な私だからよかったのだけれど、そのイチャイチャを見せつけられる他の人達のことも考えてやってね?」

 

 

 それに関しては誠に申し訳ございませんでした。

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやあったけど、とりあえず桃に自身が残したままにしてる宿題をやらせることにした俺達。教科のドリルは問題を解くだけだから後回しにし、自分で一から考えなきゃいけなさそうなものから取り組ませることにした。

 

 

「まずは作文! 『私の将来の夢』‼︎」

 

「作文系ほんとダルいんだよね……自分の気持ちを先生に出すのって嫌じゃない?」

 

 

 あー……わかる。作文に限らず、特に思春期なんかは本心を伝えることに躊躇いを感じるものだからな。だがな桃、一言物申させていただくぜ。

 

 

「作文はな、いかに文字を埋めるかを考える方が一番ダルいんだぞ。そういった奴の方が多いんだよ」

 

「……白哉くん、目が死んでない?」

 

「あぁー……そういえば白哉さん、読書感想文で文字数が足りなくて困っていた時ありましたっけ。で、今年はこのお題で『立派な私の眷属になる』ってのをどういった感じに書くか書かないのかで悩んでいるとか……」

 

 

 仕方ないだろ。普通に考えて厨二病が書くような内容だぞこれは。思い出すだけで恥ずかしくなる可能性が生じるわ。黒歴史案件だわ。それをどのようにしてなるべく厨二病っぽさを出さないように書くべきなのか、そもそも書かない方が身のためなのか、そういったことを考えないといけねーんだよこんちくしょー。

 

 この後、俺の作文に関しては置いといてって形で桃の作文を進ませることに。『特にないです。』で済まそうとしてるので優子が『立派に闇に飲まれた魔法少女になること』って書かせようとしたが、それも黒歴史案件ってことで桃は断固拒否した。黒歴史は残しちゃいけない、当たり前だよなぁ?(最低二敗)

 

 

「作文は保留! ……次は日記‼︎」

 

「日記はやりたい人だけやるやつでしょ?」

 

「私はやったので印象的な日だけ埋めましょう」

 

 

 ………………ん? なんか嫌な予感が。

 

 原作読んで展開を察した俺の予想は当たり、優子が桃にとある日に描いてほしいことを期待してか、飼い主にその場でかまってちゃんアピールをするワンちゃんのように目を輝かせ、尻尾もうきうきと動かしている。

 

 が、ここでも黒歴史を残したくないのが桃だ。その日の欄にはこう記入していた。

 

 

『起きてご飯食べて運動して寝ました。他は特になにもありませんでした』

 

「なぁぁぁぁぁん‼︎ 嘘をつくなー‼︎ この日は闇に落ちてたっ‼︎ 白哉さんと一緒に迎えに来てくれたっ‼︎ 八月×日は闇堕ち記念日ー‼︎」

 

「今日のシャミ子超めんどくさい‼︎」

 

 

 記念日を大切にするタイプのまぞくなのか、単純に今はめんどくさい彼女モードなのかって感じかな。記念日を大切にすることはとても良いことだからいいとして、めんどくさい彼女である優子を受け入れられるのは俺ぐらい───

 

 ん? ちょっと待て? その日の絵のところ、桃と並び立っている白のノースリーブの男……ま、まさか……?

 

 

「この、桃の隣の奴……俺?」

 

「はい、そうですが?」

 

 

 何か? みたいな反応するのやめてくれませんか? いやだってさ……

 

 

「この……バトル漫画要素と少女漫画要素が混ざり合ったかのような、どう表現すれば良いのかガチでわからん高クオリティの美形男子って感じに見えるのだけれど……?」

 

「……私から見た白哉さんの勇姿を、そのまま模写したもの……です。ポッ

 

「いやポッじゃねーよ‼︎ 感情を擬音として口から出す奴初めて見たんだけど⁉︎ っていうか、お前俺の事をどんだけ過剰評価しながら見てたんだよ⁉︎ 自分で言ってて辛いけど、俺そんな少年達から人気がもらえそうなイケメンでも女の子をときめかせるイケメンでもねェよ‼︎」

 

「白哉さんや他の皆さんがそう思っていたとしても、私にとって白哉さんは外見も中身も含めてこんなにもカッコいいって思ってるので問題ありません‼︎」

 

 

 問題あるわコラァッ‼︎ ってかなんだよその理論は⁉︎

 

 

「とにかくその絵を変えろ‼︎ そして文も変えろ‼︎ 絵なら白紙に別の絵を描いて日記の絵の上に貼れば多分モーマンダイだわ‼︎」

 

「嫌です‼︎ クラスの皆さんにも白哉さんの良さを伝えたいんです‼︎ だから変更しません‼︎」

 

「ふざけんな‼︎ いくら恋人でも許されないものがあるわ‼︎」

 

「でしたらすごーく恥ずかしいですが、代わりに契りを交わしていた時の行為を描きます‼︎」

 

「もっとダメだろ‼︎ ってか自滅じみた事するとかどんな脅しだよ⁉︎」

 

「お互いしれっと日記の取り合いで戦闘フォームになるのやめない⁉︎」

 

 

 桃が俺らが日記の取り合いを始めた時になんか叫んでたけど、今はそんな事どうでもいい‼︎ 優子が危機管理フォームになって、ちょっと身体能力を上げてまでして取られたくない意志を見せつけてきやがったから、こちらも召喚師覚醒フォームで対抗してその日記取り上げさせてもらうぞコラァッ‼︎

 

 この野郎、さっきも言ったが恋人でも許されないことがあんだよ‼︎ だからその見る側の俺の黒歴史になりそうなそれの修正をさせ───

 

 

「大暴れするならお外で──あっ」

 

 ブルンッ

「ひゅえっ⁉︎」

 

「ゑ」

 

 

 

 足を滑らしてしまった途端、偶々優子のビキニ部分の前の紐部分に手が引っ掛かり、そのままの勢いで倒れた時にずり落ちて、その瞬間を騒ぎすぎた俺達に注意しに来た清子さんに見られて……

 

 

 

 わりぃ。俺、死んだ(虚)

 

 

「あっ、い、いや、その、これは、事故、ですので……」

 

「は、はうぅっ……」

 

 

 優子が顔を真っ赤にして腕で胸を隠している中、なんとか言い訳して最悪な状況を回避しようとしたが、清子さんは何故か桃の方に視線を向けた。えっ、何故桃を見たんですか?

 

 

「……なるほど、訳ありのお楽しみってことですか」

 

 

 は?

 

 

「それじゃあ優子に白哉くん、桃さんに将来の為の行為を実践して教授するのはいいのですが、なるべく大きな音は控えるようにしてくださいね? それじゃあ───」

 

「いや一体何を理解したというんですか貴方はァァァッ⁉︎」

 

「おおおおおおかーさん‼︎ これは誤解‼︎ 誤解です‼︎ これはマジもんの事故ですからァッ‼︎」

 

 

 俺らの叫声による呼び止めも虚しく、清子さんはそのまま台所へと戻っていった。お願いですから誤解したままにしないでくださいホント頼みますゥゥゥゥゥゥッ‼︎

 

 

「しょ、将来のための、行為……」

 

 

 

 

 

 

 四回目のラッキースケベを起こしてしまった熱は冷めたものの、桃の宿題に取り組むモチベーションが上がることはなく、完全にスマホいじいじダメダメオタク状態となった。まあ作文の内容に関することのカンニングみたいなことはするつもりらしいが。だがテーマは学校指定のとは別のにする気だ。それダメじゃね?

 

 そんな事を思っていたら優子が白澤さんからもらったたまさくらちゃんまんじゅうの存在を思い出す。たまさくらちゃん好きの桃ならば快く食べてくれるだろうと察した優子は、これを食べてもらって頭に糖分をつけ、やる気を上げようという算段に乗り出す。

 

 と、その時。ふとまんじゅうの箱の上から落ちた一枚の封筒に気づき……

 

 

「桃〜‼︎ もし宿題を一週間でこなせたら、これを差し上げます‼︎」

 

「動物園のチケット?」

 

「はい! しかも人数限定のVIPチケットです。マスターのお土産の中に入ってたんです。有効期限はあと七日」

 

 

 動物園かぁ。そういえば前世では気分転換に最低半年に一回は行ってたっけ。なんとか趣味にしようっていう感じで行ってたんだけど、中々良かったなぁ。パンダとか可愛かったし、叫ぶオランウータンに笑った時もあったっけ。

 

 

「そういや偶々チラッと見たツイートでは、VIPだとトラの赤ちゃんとふれあえるんだっけか。写真で見ただけでも結構可愛かったなー」

 

「期限は一週間だっけ」

 

「あっ座り直した‼︎ さてはきさま猫科が弱点だな‼︎」

 

 

 ちょっっっっっっろっ。トラだろうと猫科の動物と触れ合えるのなら家事の馬鹿力でも引き起こす派かお前は。ちょっっっっっっろっ。チョロすぎてポ○モン界の猫科の一匹であるチョロネ○でも連れて行きたいよマジで。マイナーのポケ○ンだけど。

 

 

「………………ねぇ、シャミ子。作文さ……将来やりたい大層なことは特に思いつかないけど、直近でやりたいこととして……シャミ子が本気で作ったお弁当を食べてみたい。外で」

 

「……‼︎」

 

 

 ふと優子の尻尾がピンッと立っていることに気づいた。これは一言簡潔に言えば『嬉しい』という感情が表されている証拠だ。宿敵として必要とされているのか、親友として必要とされているのかは定かではない。だが桃が自分から何をしたいのかを伝えてくれた。その事実が冥利についたのだろう。

 

 優子……よかったな。ほんの少しとはいえまた一つ、桃の本心を聞くことができて。

 

 

「あっ。今のは告白とかそんなんじゃなくて、一人の親友としての欲を出しただけだから。だから白哉くん、私がシャミ子を寝○る気かとかって考えないで」

 

「黙っておけばほんわかな雰囲気が保たれてたのにこの野郎……。っていうか、お前は今の俺の事をめんどくさい男だと思ってるのか?」

 

「一応」

 

「その反応は怒るに怒れねェよ……」

 

「ま、まぁまぁ……」

 

 

 煽ってるのか単純に申し訳なく思って謝ってくれたのか、もう分からなくなってきた。複雑な気持ちになって思わず落ち込んだ、そんな俺を優子が宥めてくれた。ありがとう、お前は恋人でなかったとしても、いつまでも俺の味方でいようとしてくれて嬉しいよ。

 

 

「とりあえず、桃は私の本気のお弁当が食べたいんでしたよね? 了解です‼︎ 食べきれないくらい作ってやるから覚悟しとけ‼︎ 私も宿題終わらせるから、みんなで行きましょう! 動物園‼︎」

 

 

 優子結構浮かれてるな。よく見たら桃も微笑んでる。でも、それもそうか。お互い目標の一つを達成できることに、そしてお互い楽しみを分かち合うことができることに、喜びを感じることができるのだから。そうなるのも分からなくもないな。

 

 

「もちろん白哉くんも、でしょ?」

 

「えぇ、白哉さんの存在も欠かせません‼︎」

 

「へっ?」

 

 

 何故そこで俺の名前が? しかも欠かせないとか大袈裟すぎない?

 

 

「白哉さんはこれまでに私達を支えようとしてくれましたからね‼︎ 白哉さんが私達と一緒にいるのは当たり前です‼︎ 蚊帳の外みたいな扱いにはさせませんよ‼︎ 特に私は恋人ですし、それ以前に幼馴染なので‼︎」

 

「そもそも私個人、白哉くんの存在なくしてシャミ子の存在もないと思っているからね。どちらも欠かさせはしないからね」

 

「桃のその言い方の方が重たさを感じるんだけど。自分が俺に与えようとしてるわけじゃないのに」

 

 

 にしても、俺が優子達を支えようとしていた、か……。俺はちょっと個人的な意見を出したぐらいしかやってないはずなんだけど、優子達にはそう捉えられているのか。

 

 ……なんか、悪い気がしないな。俺の行動が本当に優子達を支えられているんだって考えると嬉しく思える。勝手に一人で仲間外れ扱いしようとした自分が恥ずかしいぜ。

 

 優子も桃も、みんなも俺の存在を求めてくれているんだ。改めてみんなと楽しめることは楽しんでいかないと逆に罰が当たるってもんだな。……よし。

 

 

「だったら俺も宿題終わらせて、みんなでみんなで動物園に行けるようにしないとな。ぶっちゃけ動物の赤ちゃんと戯れたいし」

 

「えぇ、是非そうしていきましょう‼︎ 一緒に何かを楽しむ人が多いほどさらに楽しさが広がりますよ‼︎」

 

「そうだね。ま、今回は先にトラの赤ちゃんとふれあうのは私だけど」

 

「何のマウントとる気なんだよ」

 

 

 でもまぁ、自分でも気づかなかった一抹の不安を消せたのはよかったかな。勝手に自分を蚊帳の外にして、こいつらに不安を持たせるだなんていうひでえことを無自覚にしてしまうところで危なかったし。

 

 

「……もうちょっと自分のかんがえていることにも注意が必要、かもな」

 

「ん? 白哉さん、今何か言いましたか?」

 

「いや、ただの独り言だ……って」

 

 

 ふと、宿題に取り組んでいる桃の姿に変化が起きていたことに気づいた。パーカーを脱いで可愛い猫のイラストが描かれた白い半袖シャツの上に、何故か魔法少女時の装飾が付いていた。しかも髪型も魔法少女の時のだ。

 

 

「なんだその中途半端な形で変身に失敗したような格好は」

 

「ホントなんですかそれは。プチ変身?」

 

「集中力が上がるから……」

 

 

 だからってそんな中途半端な変身して、魔力の消費が変な感じになったらどうすんだよ……まあ魔法少女歴が高いこいつだから、そこのところの配慮はしているだろうけどさ……

 

 あっそうだ(唐突)

 

 

「……ところで優子?」

 

「はい?」

 

「その動物園のチケット、何人まで使えるんだ? ふと気になったんだけど」

 

 

 原作ではその動物園のVIPチケットは五人までだった気がしたんだけど、もし人数が増えることになったら何人かはVIP対応してもらえず可哀想に思えてしまうからな。あらかじめ確認しておかないと……

 

 

「えっと……五人までのと三人までのがあるので、八人までですね」

 

 

 マジか。俺が介入されたことでの調整のおかげなのか、枚数増えていっぱい人呼べるやんけ。や っ た ぜ 。

 

 

「じゃあ何人か誘えるな。せっかくだしクラスメイトの何人か誘って一緒に行こうぜ」

 

「いいですね‼︎ じゃあ私はミカンさんと杏里ちゃんを誘って……あっ、そういえば杏里ちゃんは来週両親の実家に行くって言っていたから無理だった……」

 

「じゃあ杏里は無理で誘えるとしたら拓海や全蔵辺りだな。小倉さんは……インドア派な人だから難しいか」

 

 

 まあ何はともあれ、来週が待ち遠しくなってきたぜ。みんなで動物園でワイワイと楽しもうぜー。

 

 

 

 それから俺と優子は四日、桃は三日で宿題を終わらせることができた。ただし桃はどうやら徹夜込みでの完遂らしい。身体壊すかもしれないから程々にしなさい。

 

 ちなみに良子ちゃんは七月中に日記以外を全部終わらせたらしい。小学生に宿題終わらすスピードで負けるとか、なんだか情けねえ……

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その17

白哉がシャミ子と共に夏休みの宿題を取り組んでいる中の、白龍の精神世界にて

メェール【ただいまメェ〜】
白龍【おかえりー。最近この時間帯にこっちに来るの早くないか?】
ポーフ【そういう白龍様もこの時間帯によく帰っていらっしゃるではないか‼︎】
襟奈【君達二人はマスターに気に入られているし、いつでも向こうの世界に行けるんじゃないのかい? なんでその時間をわざわざ潰すような真似を……】
メェール【でもぉ……最近のマスター、シャミ子ちゃんとラブラブメェ〜よ? そんな貴重な時間を僕らお邪魔虫が居座って割いていいのかメェ〜?】
襟奈【あっ……】
メェール【それにマスターも僕らの事を蔑ろにするつもりはないメェ〜よ? ほら、証拠としてこんなにも僕ら宛ての手紙を書いてくれたメェ〜】
白龍【そういやほとんどの召喚獣は白哉を助けたりしていたんだっけか? そういった奴らの手紙、封を開けずに見ても少し厚く見えるな】
ポーフ【ふむ。シャミ子との愛の時間を大切にするが、それと同等に我々には感謝の意を示していると……ならば蔑ろにされる心配はないな‼︎】
襟奈【余計な心配だったみたいだねェ……だったらそんな事考えずに、これからもマスターの第二の人生を華々しくするべく頑張らないとね‼︎】
メェール【その通りだメェ〜‼︎ ……あっ、そういえばマスターから曙に伝えたいことがあるらしいメェ〜。今この場に曙はいないメェ〜けど】
白龍【曙に伝えたいこと?】
メェール【この前いきなり毒針を刺してきたことでシャミ子が病むほどの怒りを見せてたからそろそろ謝った方がいい、って】
白龍・ポーフ・襟奈【………………(蔑ろにされそうな召喚獣、一名発覚)】



みんなも今回を機に、長期休みの宿題は早めに終わらせようね‼︎ 作者との約束だよ‼︎

 


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クラスメイトを動物園に誘おうとしていただけで、桃色魔法少女の幼馴染に出会えたというね。

久々の投稿以来のオリキャラ追加だよってことで初投稿です。

今回登場するオリキャラはなんと、桃との繋がりがあるようで……⁉︎


 

 雲一つなく快晴となっている青空に、一つの航空機がとある空港にゆっくりと滑降した。その航空機から次々と乗客が降りていく中、最後に降り立った一人の青年が、航空機の梯子を降りたその場で立ち止まり空を見上げた。

 

 

「……日本の青空、懐かしい」

 

『そうでごわすな。遠くから見れる東京タワーも懐かしいでごわす』

 

 

 その青年、背丈がバスケ選手並みにとても高い。顔立ちはそれだけで容姿端麗と言っていい程に整っているが、前髪で右目が隠れており、首は一般の人よりも少々長く見える。その首には金色のネックレスを掛けており、それには何やら小さい写真を入れているかのような装飾が付いていた。服装は藍色の襟無しのシャツに太く黒い縁のある群青色のパーカー、深緑色の長ズボンと濃いめの配色となっていた。

 

 そんな青年の左肩の上に乗ってそこからの景色を眺めているのはいるのは、一匹の小熊。全身が深緑色の毛で覆われている何の変哲もない姿ではあるが、普通の熊と異なる点は額に十字傷がついているということだ。

 

 

『にしても、日本は相変わらず平和な雰囲気が良く出てるでごわす。留学中はイスラム教のテロリストの完全鎮圧とか、ウクライナ侵攻を軍にさせていたロシア政府の粛清とか、色々と物騒で大変だったでごわすからな』

 

「……ラグー。僕がそういった人助けをやってたってことは、内緒にしたいからどこにも口外しないで。特に彼女からは結構な説教を喰らってしまう」

 

『言われなくてもそうするでごわす。騒動は避けたいでごわすからね』

 

 

 何やら人助けしたというには規模が大きすぎるという、耳にした者がどうにも聞き逃してはいけないと思いそうな、とんでもない事を口にした青年と小熊──ラグー。そんな常識外な発言をしたにも関わらず、何事もなかったかのように受付まで赴き上陸の手続きの書類を済ませていく。

 

 

『ところで主人よ……帰国したら何がしたいのでごわすか? 十年ぶりの日本の観光でごわすか?』

 

「……それもいいけど、まずはあそこへ向かう」

 

『あそこ? ………………あぁ、主人のあの思い出の場所でごわすな。同志、日本に着くまでによくそこのことやあの女の子のこととかを口にしていたごわすからね』

 

「……うん。あそこでの思い出は、いつまで経っても忘れられない」

 

 

 上陸後の行き先をその場でのラグーとの話し合いで決め、書類を済ませた青年。ゴンドラによって運ばれてきた荷物を受け取り空港を出た彼は、再び青空を見上げて徐に呟いた。

 

 

「……それじゃあ行こう。桃が桜さんの代わりに守っている、多摩町へ」

 

 

 

 

 

 

 オッス、白哉だ。ちょっと困ったことが起きてお悩み中なんだ。

 

 ホラ、この前優子が桃にみんなで動物園に行こうって約束したじゃん? それに使うVIPチケットが原作よりも三人多い八人まで使えるとのことで、俺もクラスメイトの一人や二人を誘うことにしたんだけどさ……

 

 全滅。今のところ全滅中です。偶然見かけたクラスメイトや同級生数名に声を掛けたんだけど、みんな行く日に用事があったり『めんどくさい』と言ったりして断られ続けているんだ……マジで泣きそう。

 

 ちなみに結構縁が良い全蔵にも声を掛けようとしたが……今日から自転車一人旅で色んなところを周っているらしく、少なくとも動物園当日の夕方には帰ってくるとのことだ。日本一周じゃないとはいえ、なんて挑戦的かつ贅沢な……‼︎

 

 いや、他人の夏休みの過ごし方を妬むのはよそう。人にはそれぞれの夏休みってものがあるんだ。大人になって夏休みが数日になる前に、たくさん夏休みを満喫しておけばいいんだよみんな。

 

 さてと……誰かを誘う件はどうしよう。もう俺の知ってるほとんどの同級生は誘ったんだけど、現時点で全滅状態だよマジで。でも、よく考えたら近日の用事なんてみんな大抵決まっているようなものだから、こっちの用事と合う確率なんて低いもんな……

 

 ……あっ。そういえば一人声を掛けてない奴がいた。拓海だ。拓海がいたな。彼は陰陽師の仕事とバイトの他にやることがないとかって、どっかで呟いていたような気がするんだよな。それが本当だとしたら誘えるかもしれない。運はまだ俺を見放してはいないかもしれない。

 

 よし、早速仙寿神社に行って拓海を動物園に誘いに出掛ける‼︎ 後に続け……いや誰も後に続く奴なんていないけどな。ってか、このやりとり前にもやったような気がする。

 

 

 

 

 

 

 んで、仙寿神社。何かしらの依頼を終わらせて帰ってきた拓海を見かけたってことで、今大丈夫か聞いて許可をとってから誘っているところである。

 

 

「動物園?」

 

「そ。優子が白澤さんからもらったVIP待遇のチケットを十人分もらったからってことで、何人か誘って日曜日に行こうかと思ってな。桃とミカンはもう誘ったし、お前も一緒にどうだ? 予定がなければで良いんだけどよ」

 

 

 そしたら拓海は顎に手を当てて何かを考えているかのような様子を見せる。もしかして何か依頼か予定とかあるとか?

 

 

「………………VIPってどんなことができるんだい?」

 

「えっ? そうだな……今の時期ならトラの赤ちゃんとふれあえるけど───」

 

「じゃあ絶対行く。動物の赤ちゃんは大好きなんだ」

 

「即答かよ⁉︎」

 

 

 えっ。あっ、そうなんだ……お前も動物の赤ちゃん好きだったんだな。ってか赤ちゃんとふれあえると聞いた瞬間に『じゃあ絶対行く』ってなんだよ。どういう判断基準で参加しようって決めてんだよ。

 

 

「本当にいいのか? さっきの様子からして、何か予定があるように見えたんだけどよ……」

 

「ん? あぁ確かに先程までは予定あったよ。とはいってもデパートで色々買い物しようかな程度だったから、別の日に行けば問題ないと思って」

 

 

 女子かよ。

 

 

「あっそう……それならいいんだけどよ……」

 

 

 ってか今気づいたんだけど、それって赤ちゃんとふれあえないのならば断るつもりだったってことになるんじゃないのか? そうだとしたらそれはそれで悲しくなるんだが? 泣きそう……

 

 まあ何はともあれ、これで一緒に動物園を回ってくれる人を一人確保することができた。後一人、誰かを誘えればいいんだけどな……

 

 

「……こんなところに神社なんてあったんだ。この辺はあまり来てないから知らなかった」

 

『思い出のある町でも、同志が行ってない場所もあるのでごわすか』

 

「……どうやらそうみたい。あっ、人見えたから口閉じて。怪しまれる」

 

『了解でごわす』

 

 

 ん? なんか階段下から声が聞こえてきたな? 低音からして男性二人か? しかもそのうち一人は『ごわす』という古い鹿児島弁を使っているんだけど。珍しいじゃねーかオイ。

 

 とりあえず参拝客なら通行の邪魔にならないように道を開けておかないとな。おっ、来た来た……

 

 

 

 うわお背が俺よりも高い男性が一人。しかもメカクレ。肩の小熊が可愛い。

 

 

 

 ………………ん? 小熊? なんで小熊がいるの? しかも律儀な感じに肩に乗ってるし。可愛い。

 

 というか……この男性の隣に人がいないんだけど? 階段下を見ても他の人が近くに立っていたりもしてないっつーか、いないんだけど? アレェ……?

 

 

「……君、さっきから落ち着きがないよ。大丈夫?」

 

「えっ? あっ、すみません。ちょっと気になることがあったもので、つい……」

 

「……ん?」

 

 

 いけないいけない、挙動不審な動きをしちゃったから怪しまれてしまったよ。いくら状況がおかしいと思ったからといって、初対面の人や変な方向をチラチラと見るのはアカンな。そっちの方がおかしく思われちまうよ、マジで。

 

 ……というか、なんかこの人も俺の顔をジィーッと見つめてきているんですけど……。俺、今なんか怪しまれるような事をしてしまってたのか? ってかこの人の顔スッゲーイケメンなんですけど。

 

 えっと……とりあえず何故見てくるのかを問いかけようか。

 

 

「な、なんでしょうか……?」

 

「……君の顔、どっかで見たような顔をしてるね。そっちはそうでもなさそうだけど」

 

「へっ? あ、あの……本当に何なんですか貴方は……?」

 

「……隣の君も、なんとなくそんな感じが……」

 

 

 ちょっと、拓海の方も見始めたぞこの人。やめてください腐女子が勘違いしそうなんで。俺は優子と付き合っているんで。そもそもNL派ですから。拓海はただ平等で過保護になるタイプだけなんです。変な扉開かせないでくださいお願いします。

 

 

「えっと……俺達と会った記憶が思い出せない感じですか? 俺も貴方と会った記憶がないのですが、記憶探しならある程度は手伝えま───」

 

「おいコラ、まともに受け止めんな」

 

 

 嘘をついているのかもしれない初対面の人の言葉を、すぐ信じて捏造しようとすな。お前……もしかしてオレオレ詐欺に遭うタイプなのか? それはアカンて。騙され続けて人生転落するって。過保護も大概にしなさいよ。

 

 

「………………あっ」

 

 

 おや? この男性が何かを思い出したかのような様子を見せてきたんだけど、やっぱり気のせいだったとか? 俺ら初対面のはずだから、普通に考えて出会った記憶なんてあるはずないよな……?

 

 

 

「……君達、確か召喚師の平地白哉と陰陽師の仙寿拓海、だったよね?」

 

「へっ? あっはい」

 

「そうです。よくご存知で……」

 

「「………………えっ?」」

 

 

 

 えっ? えっ………………えっ?

 

 この人、今なんて言った? 『召喚師の平地白哉と、陰陽師の仙寿拓海』?

 

 いや待て。ちょっと待て。ホント待て。なんでこの人、俺達の名前だけじゃなくて、俺が召喚師であること、拓海が陰陽師であることも知ってるんだよ? この事はほぼ一部にしか知られてないはず……あっ、拓海はそうでもないか。霊に関する依頼を色々と受けてきたんだし。

 

 問題は俺の方よ俺。なんで俺の方までバレているんだ? 最後に両親にバレた時から無関係な人達にバレないようにとメェール君達に苦言していたというのに……

 

 ん? この人何故かスマホを取り出していじり始めたんだが? 名前と職業(?)知ってるアピールしておいて何してんだこの人……

 

 

「……はいこれ。君達の事を思い出した証拠」

 

 

 あれ? なんか画面を見せてきたんだけど。これはTwi……じゃなかった、『つぶやいたー』のダイレクトメールか? しかも過去のメッセージをよく見たら、俺の召喚師覚醒フォーム時の写真とか拓海が陰陽師である事が書いてある文とかがある。ってか俺、いつの間に撮られてた……? 盗撮とか犯罪だろこんなもん。

 

 ハッ⁉︎ もしやこのメールでやりとりしている相手が、何かしらの目的で俺達のことを調べてそれを拡散してるとかじゃないだろうな⁉︎ もしそうだとしたら、それは立派なプライバシー侵害───

 

 

 

 ………………ん? @FreshP_0325? アカウント名は『桃色』?

 

 

 

 ………………えっ?

 

 

「も、桃……か……?」

 

 

 は? えっ? ちょっと待って? なんで桃とダイレクトメールでやりとりしてんの? あいつ誰にもアカウント教えないはずだよな? 俺と拓海とは初対面なはずだよな?(関係ないだろうけど) なんでこの人、本当に桃のアカウントを───

 

 

《そういえば桃、今でもそうだけど実はあの頃から恋する乙女だったわね》

 

《それを私が知ったのも十年前に引っ越す前の時で、その事を聞かれた時の桃の顔が結構乙女な顔を見せてくれていたのよ。その時のアワアワとしていた桃の照れ顔が頭から離れられなくて……》

 

 

 ふと、廃工場調査の時にミカンが話していた、十年前の桃についての事が頭に過ぎった。その時に知ったな、桃にも本気で恋愛路線で惚れる男がいたのかって。

 

 ………………まさか、な……?

 

 

「あの、すみません……」

 

「……何」

 

「つかぬ事をお聞きしますが……このアカウントって、千代田桃のだったりしますか……?」

 

「……うん、そうだよ」

 

 

 間を空けての即答かよ(それは即答と言えるのだろうか)。とりあえずこのアカウントが桃本人のであることは確定した。そしてこの人が桃との繋がりのある人である可能性も出てきた。あとはもう一つの可能性、この人が桃を恋する乙女にした初恋の人なのかどうかだが……

 

 

「……そういえば、自己紹介がまだだった。

 

 

 

 はじめまして。僕は(いしずえ) 柘榴(ざくろ)。千代田桃の幼馴染で、大学を卒業したばかりの……光の一族の一人だよ。よろしく」

 

 

 

 ………………は? この人、今、なんて言ったの? お、幼馴染……? しかも光の一族、だって……? 光の一族は巫女(今でいう魔法少女)だというにわか情報で男はいないと思っていたけど、ここにきて男の光の一族ってマ? めっちゃレアな人に会ってしまったんだけど。

 

 というか、桃の初恋の人の可能性、増してきた? しかもその初恋の人に桃は今でも惚れているんだったよな?

 

 ………………

 

 

 

 俺、とんでもない人と出会ってしまったんだけど、どうすればいい?

 

 

 

「……そういえば、流れるように桃の幼馴染だって教えてたけど、君は本当に桃と会ったんだ」

 

「あっはい。そうなんです」

 

「……彼女と話すことも多々あった?」

 

「はい。というか訳あって俺の幼馴染と一緒によく会います。というかなんか気づいたら縁を結ばれてた、みたいな……?」

 

「……友達になってくれた?」

 

「えっ? 友、達……? なろうとかはお互い言ってないんですけど、お互いなったのかなって感じですかね」

 

「……そっか」

 

「す、すごい……白哉君、突然の連続の質問にほとんど淡々と答えていっている……」

 

 

 淡々と、と言えるかこれが……?

 

 って、さっきから何してんの俺は。何流されるかの如くこの人……礎さんの質問に答えていってんの。もうちょっとさぁ、状況の整理する時間とかあっただろうがよ……

 

 

「……よかった」

 

 

 えっ? 何が?

 

 

「……僕、十年ぐらい前に訳あって海外に行ってそのまま留学していたんだ。桜さん……先輩魔法少女の代わりに町を守ると決めた桃に協力したい一心を抑えて」

 

 

 えっと……なんか過去談を話してきたんだけど。突然すぎて何故だか虚無感が……

 

 

「……ここに帰ってくるちょっと前までは、桃を日本に残すのは不安だった。彼女はみんなが思ってる以上に頑張り屋で、どこか強がりな一面もあったから。そんな彼女を一人にするのは、なんだか心細かった。いつか壊れてしまうんじゃないかって思ってた」

 

 

 あ、あぁそうなんだ……礎さんも桃の事が心配で仕方がなかったのか。訳ありで海外に行かなきゃならない事情をすっ飛ばしてまで、桃の事を見ていたかったんだな。それほどまでに昔の桃はいじっぱりだったと……なんかさらっと桃の過去の一つが聞けたんだけど、話してよかったんですか?

 

 

「……でも、君達やその友達との話をメールを通して聞いてから安心したよ」

 

 

 えっ? 安心? 何故そう思えるんです?

 

 

「……桃は先程まで人と関わるのを避けてたみたいだけど、君やシャミ子っていう魔族と出会ったことを話してからは、少しずつ彼女の曇りが消えていっているように感じたんだ。それも『明日どのようにしてシャミ子と白哉くんをくっつかせようか』っていう変な相談もするぐらいに」

 

 

 あっそうなんだ。桃の奴、俺達と出会った時の事とかも礎さんに話したんだな。桃が信用できる人だから、心配してくれている人だからと安心して話したんだな。俺達に黙ってそんなことをしていたのは癪だけどな。

 

 というか。

 

 

「そうやって揶揄われた本人の一人、俺です」

 

「……ウチの幼馴染がごめん」

 

「いえ、もう慣れたことなので」

 

 

 慣れたといっても耐性がついたとは限りませんけどね。まあ、そのシャミ子……優子と付き合うことになったから多少は耐性ついたとは思うけど。

 

 

「……というか、本当にごめん。こちらが一方的に喋っちゃった」

 

「大丈夫です。桃の意外な素顔の一つを聞けたので」

 

「───あっ。そういえば礎さん」

 

「……柘榴でいいよ」

 

「ざ、柘榴さん。柘榴さんはここへ何をしに?」

 

 

 話の区切りがつけると思ったのか、途中から黙り込んでいた拓海が礎さ……柘榴さんにそう問いかけた。喋りづらくて大変だったろう? ごめんな気を遣わせてしまって。

 

 

「……この辺に来るのは初めてだったから、あちこち歩き回っていたら偶々ここに着いた」

 

「あ、あぁ……偶然で来たんですか」

 

 

 そういやさっき『こんなところに神社なんてあったんだ』っていう言葉が出ていたような気がする。十年ぶりの多磨町の観光に来たってことなのか? まあ十年も来なかったら、そりゃあ町の様子がどうなっていたのかわからないから気になるだろうけどさ。

 

 

「……でもせっかく来たから、お参りさせて」

 

「あっはい。お賽銭箱はあそこです」

 

「……うん」

 

 

 流されるように賽銭箱へと誘導する拓海、なんかいつもの彼じゃない感が出てるな。口うるさい感じもウザキャラオーラも出てないし、これって完全に柘榴さんのペースに流されてる感じか? 誰かのペースに流される拓海、初めて見た気がする……

 

 あっ、礼儀よく二礼二拍手一礼してる。もうお参りを終えた感じか。早いな。

 

 

「一体何をお願いしたんですか?」

 

「……世界平和。それと千代田桃の幸せ。ちなみにどの桃の名前を持つ人の事を言っているのかを分かりやすくするために、さっきみたいにフルネームにしてる」

 

「いや何故桃をフルネームにしたのか、なんて聞いてないですが……」

 

 

 まあ、願い事に限らず伝えたい内容を具体的にするという考えは間違ってはいないのだけど……というか、この人は願い事をする時も桃の事を考えているんだな。

 

 ん? ちょっと待てよ? ということは、この人も桃の事が………………いや、そうとは限らないな。うん。この人の場合はなんというか、お兄さんポジションみたいな感じに桃の事を想っているだけだろうから……恋してることを匂わせてすらいない感じだったし。

 

 断言しよう。桃よ、もし柘榴さんに惚れているとしたら積極的にアプローチをかけろ。そうでないと彼は気づいてくれないぞ、うん。俺は優子の好意に気づいても決断を後回しにしてきたけど(汗)

 

 おっそうだ(唐突)

 

 

「柘榴さん……の方がいいんでしたっけ? 先程までの桃を想う発言からするに、貴方、桃に会いたいんですか?」

 

「……うん。やっと大学卒業できたし、帰って来れたのだから。彼女の元気な姿が見たい」

 

「いつ会いたいんですか?」

 

「……見つけられたらって感じかな。会えたら嬉しいけど」

 

 

 ふむ、すぐに会いたいっていうほどの重症ではないのか(初対面の人を重症扱いするのは失礼だけど)。会いたいけどできれば感覚で会えたらなって感じか。なるほどな……

 

 よし、それならばいけるな。

 

 

「でしたら会ってくれませんか? それもサプライズな感じに」

 

「……えっ?」

 

「白哉君、それは一体どういう意味なんだい……?」

 

 

 言葉の意味を理解できなかったのか、拓海が柘榴さんの代わりもしながら問いかけてきた。ふふふ、お前は突然の桃との繋がりのある人登場に驚きすぎたのか、俺がここに来た目的の事を忘れたのか? なら俺がその事を含めて、柘榴さんに何をしてほしいのかを伝えるからよく聞けよ?

 

 

「実は俺達、日曜日に動物園に行くことになっているんです。そのVIP待遇のチケットが八人分あって、後四人ほど誘えるんですけど、友達は全員予定があって……」

 

「……そうなんだ」

 

「で、今思いついたって感じなんですが、柘榴さんも一緒にどうかなって感じなんです。実はその日、桃も一緒に来るんですよ」

 

「……えっ」

 

 

 おっ? ここで驚いた様子を見せてるな。それがどういった感情なのかは分からないが。

 

 

「……ちなみにVIPは何ができるの?」

 

 

 アレ? なんかデジャヴを感じる……

 

 

「えっと……この時期ならトラの赤ちゃんとふれあえま───」

 

「トラめっちゃ好き。ホントに一緒に来ていいの?」

 

「すんげえ食いついて来た⁉︎ い、いいですけど……」

 

「……よし」

 

 

 ビックリしたぁ……ここまでの中で一番のクソデカい声でトラ好きを主張してきたよこの人。しかも謎の間を空けずに。いやそれとも桃と同じくネコ科好き? だとしたらやっぱりお似合いなんじゃ……

 

 おっといけない、本題の続き続き。

 

 

「ただし、条件を加えさせてください」

 

「……条件?」

 

「貴方が俺達と一緒に行くってこと、桃や彼女と縁のある人には内緒にしておいてください。何人か誘えたってことだけは伝えますけど、当日になって彼女とかなり縁のある貴方が一緒に来るとなったことを知った桃が、どんな反応を見せてくれるのか気になるので」

 

「……つまり、ドッキリを仕掛ける形で会ってほしいってこと?」

 

「そういうことです」

 

 

 それにもし桃が本当に柘榴さんに好意を示しているとしたら、彼の名前を伏せておいた方が、彼女がどんな面白そうな反応を見せてくれるのかの期待もできるしな。

 

 

「……確かに桃が突然僕が来た時にどんな反応をするのか、僕も気になってきた。その提案、乗ったよ」

 

「えっ? いいんですか?」

 

「……うん。サプライズで桃と久しぶりに会うという企画、なんか面白そうだし」

 

 

 あの、すみません…… 一般人でもドッキリ番組の仕掛け人になれる感じなのかって思い込んでます? 自分、カメラを仕込んでいるどころか用意すらしていませんよ? そもそもテレビ会社の都合上ほぼ無理だし。

 

 

「じゃ、じゃあ是非お願いします……。あっ、場所は○○公園で○時集合となっていますけど、念のため俺達は多摩駅でお会いしましょう」

 

「……うん、わかった。良い機会をありがとう。日曜日、楽しみにしてるよ。それじゃ」

 

 

 そう言って柘榴さんは手を振りながら神社を後にしていった。降りている時に吠えているように見えた肩に乗ってる小熊の頭を撫でながら。

 

 

「しかし……本当にいいのかい白哉君?」

 

「何がだ?」

 

「柘榴さんも動物園に誘ったことだよ。いくら優しいとはいえ初対面だし、本当に千代田君の幼馴染なのかどうかも確信してないし……」

 

「さっきの『つぶやいたー』のDM見ただろ。桃はアカウントをそう簡単に他人に教えない主義なんだ。なのに柘榴さんはあいつのアカウントとメッセージを交わし合った。これは紛れもなく桃の幼馴染である証拠だ」

 

「は、はぁ……あっ、そういえば陽夏木さんもシャミ子君がフォローするまでは探してフォローすることもできなかったって言っていたような……それなら分からなくもないか」

 

 

 そうだよ。ミカンも優子がフォローするまで桃のアカウントを見つけることすらできなかったんだよ。そういうわけだから───

 

 いや待て。おま、いつの間にミカンとSNSでのやりとりをしていたんだよ。初耳なんだけど。ミカンもミカンでなんでそのことを今まで教えてくれなかったんだよ。なんか傷つくんですけど。

 

 

 

 

 

 

『なんで彼らが桃殿の知り合いだとわかっていながら、おいどんを喋らせてくれなかったのでごわすか?』

 

「……後でバレるからいいやと思って」

 

『ひどいでごわすよその判断は⁉︎ 普通バレてはいけないことがバレたらよくないでごわすよ⁉︎』

 

 

 

 

 

 

『拓海ともう一人誘えた。もう一人が誰なのかは当日になってからのお楽しみにさせて。「今日は事前バレは気分じゃない」って本人に言われたから』

 

「ってのが三日前に送られてきた」

 

「何よそのメッセージ……」

 

 

 日曜日、動物園の日当日の、ネコにたくさん会えるとある公園。ミカンは桃が自身宛てに送られてきた、白哉からのつぶやいたーのメッセージを見て呆気に取られた様子を見せていた。

 

 白哉が自分達と一緒に動物園に来てくれる人が二人増え、その内の一人が拓海であるということは理解した。しかしミカンが問題としているのは、白哉が誘うことのできた人物が友人なのかすら教えてくれず謎じまいになっていることである。白哉が何故もう一人の名前を伏せたのか、そうする動向は何なのか、ミカンはそれが気になって仕方がない様子だ。

 

 しかし、そのメッセージを送信された本人である桃は動揺すらも見せていない様子だ。メッセージが来てから三日も経っているとはいえ、普通なら名前を伏せられた者が何者なのかが気になって仕方がないはず。なのに何故冷静でいられるのか、ミカンは疑問を抱いた。

 

 

「貴方よく落ち着けるわね。白哉と一緒に来てくれるその人が何者なのか警戒するかと思ったのだけど」

 

「……予感がするんだ」

 

「予感?」

 

「うん。もしかすると私と仲の深い人が来るかもしれない、勘だけどそう感じたんだ」

 

 

 そう呟く桃の表情は、何かに期待しているかのような笑顔だった。それも長年待ちかねていたものが来たことを知った時のように。今まで自分達の目の前でそのような笑顔を見せなかった桃を見て、ミカンは徐に呟いた。

 

 

「……私達とは他の、桃と仲の良い人、ねェ……一体誰なのかしら───あっ」

 

 

 この時、ミカンの脳裏にとある記憶が蘇った。

 

 十年前、徐に桃に問いかけた恋バナの記憶。その頃の桃がしどろもどろになるという、滅多に見られない光景の記憶。そして恥ずかしがりながらも恋している男性の事を語ってきた時の記憶。それらが導き出される可能性とは……

 

 

「………………まさか、ね」

 

「ん? ミカン、何か言った?」

 

「いや、なんでもないわ」

 

 

 笑顔でそっぽを向きながら、徐に呟いていたことを敢えて否定したミカン。予想している桃と仲の良い人が誰なのかを察したことを隠すための反応だろうか。

 

 と、隠し通せるタイミングが良かったのか。

 

 

「桃‼︎ ミカンさん! おはようございます‼︎」

 

「! シャミ子……」

 

 

 シャミ子とリコと白澤の三人が集合場所に来た……

 

 ん? リコと白澤?(ナレーターが頭にクエスチョンマーク浮かべんな)

 

 

「桃はんお疲れさ〜ん」

 

「………………あ、お疲れ様です。……え?」

 

「重いです……」

 

 

 桃、予想外の同行人の登場により豆鉄砲を喰らったかのような曇りのある表情になる。人数的な点と白哉と一緒ではないという点で白哉が誘えたという人物の正体ではないものの、何故あすら組の二人が来たのか……桃は頭の整理と理解に苦しみだした。

 

 余談だが、到着するまで何故かリコはシャミ子におんぶしてもらっていた。何故なのかは不明である。

 

 

「申し訳ない……リコ君を止められず申し訳ない……」

 

「動物園初めて行くわぁ、楽しみやなぁ。今日はよろしゅーな~」

 

 

 リコの制止が叶わなかった事に謝罪する白澤を余所に、当の本人はそんな事お構いなしのマイペース。店の接客で客を怒らせてしまう理由が分かる光景である。

 

 

「あら〜。桃はんエラいかわいらし〜格好してはる! なんで? なんでなん?」

 

「あっはい。でも着替えま───」

 

 

 今の浮かれ気味な自分をリコの目の前で晒すのに抵抗を感じたのか、桃が曇り気味な表情のまま一度この場から離れようとした──刹那。

 

 

「悪い、お待たせ。ちょっと訳あって少し遅くなったわ」

 

「(ウッ、このタイミングで……‼︎)」

 

 

 運が悪かったのか、その場を離れようとしたタイミングで白哉がこの公園に来たことに気づく。しかも白哉の言う通り誘われた拓海ともう一人の人物の姿も。

 

 

「(困った……白哉くんがこのタイミングで来てしまったら、魔法でできるとはいえ着替えようとしたら何故そうするのかと責めてくるかもしれないし、どうしたらいいものか……)」

 

 

 最悪ともなりうる可能性の出たこの状況を、どう打破しようかと葛藤する桃。自身が苦手意識を持っているマイペースなリコと、彼女も来ている事実を知らない白哉(転生者である彼はリコが来た理由を知っているが)。この二人に対してどのような対応をすれば良いのか悩み───

 

 

「………………えっ」

 

 

 その思考を、不用意にも停止させた。何故ならば、白哉と拓海の後ろからついて来た、一人の男性の方に視線がいったからだ。

 

 最初に手を差し伸べられた鮮烈な記憶から、自分を恋の沼に落とした人物。姉・桜と共に自分の塗り潰された景色を彩らせてくれた彼。十年前に海外留学することになっても、メールなどを通じてでも心の支えになろうとしてくれた、五歳年上の男性……

 

 

 

「ざっ………………柘榴……?」

 

 

 

「……久しぶり、桃」

 

 

 千代田桃の幼馴染──礎柘榴が、自身の目の前で再び姿を現したのだ。

 

 彼とは本来、この場でこういった機会での再会どころか、再会することすらないと確信していた──というよりはこの町に戻ってくることすらないだろうと思い込んでいた桃。しかし、その考えはまさかの空振り。みんなと一緒に動物園に行くという時に姿を現したのだ。

 

 それでも桃は、内心柘榴と再会できたことは喜ぶべきであることは頭の中では理解していた。だが突然過ぎるため素直に喜べない。そんな葛藤を表すが如く、柘榴の隣に立っていた白哉を睨みつけた。

 

 

「(ちょっと……どういうことなの白哉くん。彼、私の幼馴染なんだけど。しかも十年前から留学していたはず……どういうことなの)」

 

「(今年でもう卒業して、帰って来てブラブラしてたという状態の彼とタイミング良く出会っちまったんだよ。で、お前の幼馴染だという証拠を出されたから誘ってみたら……って感じだよ)」

 

「(何その少々フワッとしたような説明は……‼︎)」

 

 

 桃へのサプライズという名目でのドッキリとして、今まで柘榴が今日この場に来ることを隠していた白哉。少々適当さのある返答に怒りを覚え睨みつけている桃に対し、彼は日頃の恨みを一つ晴らさせてもらうと言っているのか目を逸らした。それが適切な対応かどうかは不明だが。

 

 

「う、嘘……白哉が呼んだもう一人って、あの柘榴さんの事だったの……?」

 

「ミカンさん? 桃も何やら驚いているみたいですが、知り合いですか?」

 

「「………………?」」

 

 

 ミカンも桃ほどではないものの、柘榴を見かけて驚いた様子を見せていた。一方のシャミ子は柘榴の事を知らないため頭にクエスチョンマークを浮かべており、リコと白澤に至ってはそれに加えてポカンとした様子である。

 

 

「……礎柘榴さん。前に話した桃が今でも恋している人、らしいわよ。しかも今年で海外の大学を卒業したみたい」

 

「えっ⁉︎ こ、この人が、あの時ミカンさんが言おうとしていた、桃を恋する乙女にした人だったのですか⁉︎」

 

「ちょっ、バラさないで……」

 

「……桃」

 

「ユエェッ」

 

 

 シャミ子に初恋の相手を完全にバラしていき始めたように見えたのか、ミカンを制止しようとする桃だったが、柘榴に呼びかけられただけで言葉になっていない声を出してしまい、ついでに顔を真っ赤にしてしまう。恋心を隠しきれなかったようだ。

 

 

「あっ……えっと……ひ、久しぶり……」

 

「……久しぶり。元気にしてた?」

 

「う、うん……シャミ子達と仲良くできたから、おかげさまで」

 

 

 後ろに手を組んだ腕を背中につけ、すりすりと動かして緊張を和らげようとする桃。明らかに惚れてしまった男性の前で耐性を持てないまま会話をする乙女の図に見えなくない。シャミ子達の前では見せなかった光景である。

 

 これでも平然とどうにか装うとしているが、いつもの彼女との違いに気付かなかったのか、柘榴はお構いなしに……

 

 

 

「……その服、似合ってる。清楚さもあって結構可愛いし、いつもと雰囲気が違って見えてすごくいい」

 

 

 

「ん ゙ん ゙ん ゙っ‼︎」

 

 

 今の彼女のファッションを褒め称え、恋する乙女の大袈裟な胸キュン表現を曝け出させてしまう。というか何だこの恋愛クソ弱魔法少女は。

 

 桃はそのまま照れ照れとなってしまい、表情筋を戻すことが出来なくなってしまっている顔を袖で隠す羽目に。

 

 

「う、うん……そ、その……あ、ありがとう……」

 

「……悪い気してないのならよかった」

 

 

 それでも精一杯の感謝の意を示し、柘榴にあらぬ誤解を与えてしまう可能性の阻止に成功する。そして、好きな人に褒められたという事実が頭から離れられなかったのか……

 

 

「………………やっぱり着替えるのやめる」

 

 

 三分前の浮かれ気味モードを解除しようとした自分を、否定してしまった。

 

 

「こ、これが恋する乙女状態の桃……」

 

 

 そしてシャミ子、宿敵の意外な素顔を見て唖然とする。

 

 

「………………やっぱりこういうサプライズは良くなかったんだな……」

 

 

 ついでに白哉、ドッキリ企画を考えたことを少しだけ後悔した。

 

 何これ。

 

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その18

白哉がシャミ子達と一緒に動物園に行くことになった日

メェール【なんで僕らはついて来ちゃダメなんだメェ〜?】
白哉「いや動物園でお前らが登場してみろ? 喋る動物だとか人離れしてる動物だとかで人だかりが来て、園の動物達が見向きもしてくれなくなるぞ?」
「それに園から逃げ込んだ奴だとも勘違いされる可能性だってあるし、その動物達に紛れ込んでしまったら怪しまれるしで、もうめちゃくちゃパニックになるぞ?」
メェール【あっ……】
白哉「一部は見た目や種族的にそうならないかもしれないけど、万が一のこともある。だから悪いけどみんなには留守番だ」
メェール【……それなら仕方ないメェ〜。写真撮りたがってる子達もいるけど、なんとか説得してみせるメェ〜】
白哉「えっ待って? もしかして動物園の動物達を撮る気なのか? お前達の方がよっぽど珍しいのに……」
メェール【思い出はちゃんと記録に残しておきたいんだメェ〜】
白哉「ハ、ハァ……そうなのね……」
メェール【ちなみにマスターとシャミ子ちゃんの夜迦はどれも記録してないメェ〜。コンプライアンスってヤツだメェ〜】
白哉「それは言わなくて結構ですッ‼︎」

END



突然の桃の幼馴染かつ想い人、登場⁉︎ これはまたラブコメ展開始動の予感……‼︎

ちなみにラグーは『調和と公正の天使』を意味するラグエルを参考に名付けました。メタ子もミカンのナビゲーターであるミカエルちゃんも天使の名前が由来だし、光の一族という設定をつけられた柘榴にもナビゲーターは付けたいし、そのナビゲーターの名前も天使を由来しないと無作法というものだから……ね?


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動物園に来たけど、桃が突然の幼馴染との再会でそれどころじゃない事態になりませんように…… ♦︎

サブタイトルで元凶がなんか言ってるなってことで初投稿です。

さて、前回で桃の幼馴染が出て来ましたがどうなりますことやら……

 


 

 ハロージャパン‼︎ グッドモーニングタマチョウ‼︎ カムトゥーザタマアニマルパーク‼︎

 

 ………………いや、待って。ちょっと待てって。これ英語じゃないから。フルイングリッシュで喋るのここまでにするから。だから遠く離れてからの冷ややかな目で見るのやめて。お願いだから。

 

 えー……今日は待ちに待ったみんなとの楽しい動物園……なるはずだったんですけどね、俺が余計なことをしたせいか雲行きが怪しくなりました。何故かって?

 

 昨日海外から帰ってきたばかりの、桃の幼馴染である柘榴さんをね、動物園に誘ったらね、彼に惚れてるという桃がね、恋愛クソザコ魔法少女と化してガチガチ状態となりました。

 

 いやね、久々の再会をサプライズ感覚でさせた俺のせいでもあるけどねこうなったのは。突然の再会をした桃がどんな反応をするのか気になっちゃって、つい思いついちゃって……迂闊にサプライズ企画を立てるものではなかったのかもしれない、はっきりわかったよ。

 

 ま、日頃の揶揄いに対するお返しってことにしとくか(我ながら酷い)。

 

 

「……いつも桃と仲良くしてくれてありがとう。僕は礎柘榴。桃の幼馴染だよ。これ、つまらないものだけど」

 

「あ、ご丁寧にどうもありがとうございます」

 

「……どう? 桃とは仲良くしてる?」

 

「はい! 宿敵としての良好を得ています‼︎」

 

「……そっか、仲良くしてくれているのなら嬉しい。あの子一人で無理するところあるから、よく見ていて」

 

「分かっています! いつでも目を光らせているので‼︎」

 

「……ならよし」

 

 

 おいおい……優子の奴、いつの間にか柘榴さんと仲良くなり始めているんだけど。桃の事で意気投合してる感じだし。なんかお土産もらってるし。しかも『たまさくらちゃん厳選フルーツゼリー』。ネットなどでたまさくらちゃんグッズの中で高級品だと言われている代物じゃん。スゲェ。いいなぁ。

 

 

「……あぁ、忘れてた。ミカンちゃんも久しぶり。呪いの方は大丈夫?」

 

「まだ克服できてなくて……けど桃のおかげで少しずつだけど抑えられていってるわ。あとは柘榴さんが声を掛けてくれたおかげでもあるけど」

 

「……僕は出来る範囲をやっただけ。それ以外の対処はしてやれなかった」

 

「日が日だったってだけだから。声掛けだけでも充分助けられたわ。ありがとう」

 

「……うん」

 

 

 あっ、やっぱりミカンとも会ったことある感じか。まあ桃の幼馴染だから何かしら『おひさー‼︎』な会話があるだろうなとは思ってはいたけどよ。

 

 

「………………ねぇ、柘榴……?」

 

「……ん?」

 

「ま、まさか本当について来る気なの……? ほ、ほら、白哉くんから今さっき聞いた話によるとブラブラと一人旅をしていたとかって……」

 

「……そんなに予定がないからブラブラと歩くことにしたってだけ。それに……」

 

「フェッ⁉︎」

 

 

 なんか桃が柘榴さんにブラブラするのはいいのかと聞いたら、柘榴さんが突然桃の顔をまっすぐと見つめ始めたんだけど。それも俺や優子達が近くにいるのにお構いなしに。突然すぎるから桃も変な声を出して顔を真っ赤にしてしまっているんだけど。

 

 

「……久しぶりに君に会えたし、君と仲良くしてくれている子達とも会えたんだ。どうせならみんなで楽しくいきたい。君と久しぶりに直で話し合いたいし……ね?」

 

「〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」

 

 

 桃の事を優先する宣言してからの、はにかんだ微笑み。これは桃にとってはかなり効いたのか、真っ赤な顔がさらに紅潮し、漫画やアニメでやかんのお湯が沸いた時に出てくる湯気が顔から出たような幻覚を見せてきた。何このレアな光景。

 

 

「あらぁ、桃はんって好きな男の前だとそんな弱々になるんやなぁ。面白そうやから撮ってもえぇ?」

 

「ダメだよリコ君、あぁいう反応をしている子は繊細なんだから刺激しちゃ──【ゴキッ】ハァンッ⁉︎」

 

 

 あっ、ヤベッ。ここで白澤さんの治りかけの腰がゴキッと鳴ったわ。

 

 本来ならリコさんが桃の『なんで来たのか手短に』って問いに答え、それが本来の目的と違うことを白澤さんがリコさんに指摘しようとしたところで……ってタイミングで腰が折れるんだが、俺が柘榴さんを連れて来たことで違うタイミングであぁなってしまった。マジすいません。

 

 いやちょっと待て。何リコさんは白澤さんが腰折れてしまったってのに笑って見ていられるんですか。サイコパスかアンタは。

 

 

「脆弱ですまない……僕を捨てて動物園を楽しんできたまえ……」

 

「そ、そうですね。このままリコさんに連れて帰っていただいて」

 

 

 このタイミングでちょっと平静さを取り戻したとはいえ、その反応は冷たさを感じるぞ桃よ……

 

 

「そんなことできません‼︎」

 

「私荷物持つわ‼︎」

 

「どこか横になれるところへ移動しましょう店長‼︎」

 

「俺が運んであげますね」

 

「えっ。続けるの?」

 

 

 バッキャロウお前、せっかく同行して来てくれている人をさっさと帰らせるとか失礼だろ。そういう対応は悪質なことをしようとしている人限定にしてくれ頼む(聖人の心などない)。

 

 

「……多くの人と行くの楽しいから、穏便にしてね」

 

「だ、だよね。わかった……」

 

 

 おうおう、結局柘榴さんの前ではタジタジになるんかいな。別に分からなくもないけどさぁ……日頃の揶揄いの事を考えたらちょっと精々するわ。ざまぁ。

 

 この後、白澤さんの腰痛が治まったのを確認してから動物園へ滅茶苦茶レッツラゴーした。……我ながら滅茶苦茶レッツラゴーしたって何だよ。

 

 で、途中から喋ったり二本足で立ったりするバクがいるという噂によってギャラリーに巻き込まれる白澤さんを救出したら、桃と柘榴さんと逸れてしまいました。桃と逸れるのは原作通りのことなんだけどよ、柘榴さんともまで逸れてしまったのは予想外だったぜ……

 

 

 

 

 

 

 先程までシャミ子や白哉達と一緒に動物園に行けることに喜びを噛み締めていた桃。だがしかし、その感情は短時間で二度も変えざるを得なくなってしまった。シャミ子や白哉の三人だけで行けないことの悔しさによるものは微塵もない。別の理由によるものだ。

 

 一度目、何故かリコと白澤が来たからである。

 

 リコは食べ過ぎると健忘になるまかないをシャミ子にたくさん食べさせ(シャミ子にもったいない精神があるからという理由もある)、白澤はその効果を教えてもらわなかったとはいえそんな二人に気づかなかった。

 

 この上記の件により、シャミ子の様子がおかしいと思い二人が働く『あすら』に半ば襲撃する形で来てしまったことに対する罪悪感があるため、桃は二人(特にリコ)に苦手意識を持ったらしい。そのため二人が来るまでに出していた笑顔を引っ込ませてしまったのだ。

 

 二人は苦手意識を持たれたことに関しては特に気にしていなかったものの、リコとは解釈の違いで分かり合える仲にはなれなかったが。

 

 二度目、幼馴染である柘榴が突然来たからである。

 

 柘榴は留学するまで、毎回と言っていいほどに桃の隣に立ち、いつも桃のことを気に掛け気遣い、様々な言葉を掛けていた。いつでも桃の事を想っている彼の行動が心を引き寄せ、彼女は次第に柘榴の色に染まっていた。

 

 十年前に彼が留学していった時はしばらく寂しい感情を持って過ごしていたが、『逆に次彼と合うまでの気持ちの整理ができる時間が作れた』という前向きな思考を持つようになり、いなくなった義姉の代わりに町を守りながら待とう、そう胸に誓うようになり……

 

 今日この日のまさかの再会で、その誓いは無意味となってしまった☆ みんなで動物園に行くことになった時に突然帰ってきて同行するとか言ってきたのだからね、仕方ないね♂

 

 この後彼とどう話そうかと考えるも、その思考は園の動物達を見ていく内に心の余裕が出来た代わりに保留にしてしまう。

 

 その結果、ゆっくりと見ている内に柘榴と二人きりになってしまっていた(無論白哉達がそうなるように仕向けているわけでは断じてない)。

 

 

「……逸れてしまったね」

 

「そ、そうだね……(こ、この状況一体どうすればいいの……)」

 

 

 迂闊だった。さすがに楽しむ方向性だけを考え過ぎた。柘榴と久しぶりに話す時の内容を考えていなかった。様々な後悔によって桃が頭を抱える中、柘榴が手を振っているニホンザルに手を振り返しながら呟いた。

 

 

「……あの件は、もういいの?」

 

「えっ? な、何が?」

 

「……桜さんを探すって話。シャミ子ちゃんが訳あって桜さんのコアを所持することになったって、この前君からのメールで聞いたんだけど」

 

「あっ……」

 

 

 この時、桃は思い出した。柘榴も自分と同じく親のいなく帰る場所もない中で、桜によって救われた者の一人であったことを。彼も桜の行方や彼女の身を案じていたことを。そして、一人町に残って桜を探すことにした自分の身も案じていたことを。

 

 しかし、柘榴の供述通り、桜はコアとなってシャミ子の身体を支えることになっている。その件をメールを通して聞いた柘榴は、桃が桜に会えなくなったことで悲しい思いをしているのではないか、そんな不安を感じているようだ。

 

 

「それなら大丈夫」

 

「……えっ?」

 

 

 そんな彼の気遣いを思ってか、桃は微笑みを浮かべながら答える。

 

 

「実際に会うことが今はできない。けどコアとなってシャミ子の中にいる。いなくなってはいないってことがわかった……その事実がわかっただけでもよかったって思っている」

 

「……桃」

 

「そして決めたんだ。姉の守っていた町に固執せず、私の友達みんなが笑顔になれるだけの、ごくごく小さな町角だけを全力で守ろうって。そんな新しい目標を持って生きていこうって」

 

 

 そう言って桃が柘榴に見せたのは、シャミ子にも見せた、演技でも無理強いでも何でもない、全てを曝け出した満面の笑みだった。

 

 その笑みを見て、柘榴は気づいた。桃に縛られていた、様々な心境の呪いの鎖が外されていたのだということに。そして、釣られて微笑んだ。

 

 

「……そっか。それが今の君の答えなんだ」

 

「うん。この目標こそが、お姉ちゃんも望んでいるはずだから」

 

「……わかった。だったら、僕もその目標を完遂できるように一生全力で支えるよ」

 

「ありがとう………………ん? 『一生』? ……えっ?」

 

 

 柘榴が自分に合わせるように新たに立てた目標に紛れた、桃にとって聞き捨てにならない言葉、『一生』。その言葉を耳にし、それが成す意味に気づいた途端に顔をまた真っ赤にし、さらに目をぐるぐるさせながら混乱してしまう。

 

 

「はっ? ちょっ……えっ? 『一生』?」

 

「……うん、『一生』全力で支える」

 

 

 聞き間違いなのかと思い込んでいたもののそうではなかった。その事実に心臓が持たないと感じたのか、さらに紅潮した顔を腕で隠しながら彼に背を向けた。

 

 

「そ、その……『一生』なんて言葉、色々と勘違いされてしまうから、軽く使わないでほしいかなって……」

 

「……そう? わかった、善処する」

 

 

 羞恥心を持ちながらも精一杯の懇願を申し入れた桃。そんな彼女の想いが通じたのか、柘榴はあっさりと了承する。しかし何を思ったのか、オランウータンのいるエリアの方に顔を向けながら少し表情を顰め……

 

 

「……別に勘違いされてもいい気がするけど」

 

「えっ……? い、今なんて言ったの……?」

 

「……なんでもない」

 

 

 桃に聞き取られない小声を呟いた。羞恥心で正常に聞く状態でなかった桃は当然聞き取れることができなかったが。桃がもう一度問いかけようとしたところで。

 

 

「桃!! 柘榴さん!!」

 

「……シャミ子ちゃんか」

 

 

 タイミングがよかったのか悪かったのか、二人を探しに来たのであろうシャミ子がこの場へとやって来た。

 

 

「探しましたよ……あれ? 桃、どうして顔真っ赤なのですか?」

 

「あっ。い、いや別に……それよりごめん、ゆっくりしていたら遅れちゃった」

 

「……みんなを待たせちゃったね。今そっち行くよ」

 

「あっ。それが……皆さんそれぞれ急に帰ることになっちゃって」

 

「「へっ?」」

 

 

 ここでまさかの事実。実はシャミ子以外が突然の急用ができたということで帰ってしまったのだ。しかもあのシャミ子といつもいる感じを出している白哉までもだ。しかも全員の急用というのが、どれもそれは本当に急用と言っていいのか判断不明で疑問のあるものであった。

 

 

「まさか……気を使われた……?」

 

 

 急用ができた者が一人か二人ならともかく、何故皆が一斉に……そう疑問に感じた桃が辿り着いた予想がこれである。先程ミカンにシャミ子と白哉の三人でいられなくて不満だったことを聞かれて無理をしていると勘違いされたのではないか、そんな結論が頭に浮かび、罪悪感を覚えるようになった。

 

 

「ごめんなさい、なんかえらいガチャガチャしちゃって」

 

「え? いや……ほんとはちょっと騒がしくて楽しかったよ」

 

「……騒がしくて楽しかったといえば桃、桜さんと色々なところ周っていた時──ムグッ」

 

「やめて柘榴。私の恥ずかしい記憶を掘り下げないで。ステイ」

 

「……フォフェンヌァハイ(ごめんなさい)

 

 

 柘榴が何やら桃の昔の体験談を話そうとした瞬間、桃が真っ赤な顔で素早く柘榴の口を必死に防いだ。赤裸々な記憶の漏出、回避成功。

 

 

「プハァッ……あれ。皆が帰ってったってことは、これって僕も帰った方がいい?」

 

「い、いえ。別にそないことはないです。寧ろいてくれたら色々助かると言いますか……」

 

「……あ、そう」

 

 

 途端、柘榴の目つきが鋭くなり、何かを見据えているかのような眼差しを見せる。何事なのかと桃が少し動揺するが、彼が向いた方向には丸くなって寝転がっているライオンがいるだけなため、安堵の息を吐いて胸を撫で下ろした。

 

 

「とにかく、迷惑でなかったのならよかった。ちょうどいい時間なのでお弁当に───」

 

 

 

「……ところでシャミ子ちゃん、今『そないな』って言いかけてなかったかな?」

 

 

 

「………………えっ」

 

「ざ、柘榴……?」

 

 

 背筋が凍えるかのような、冷酷な眼差しがシャミ子を見据える。その眼差しの持ち主は、桃の最初の予想通り柘榴によるものだった。如何にも裁きを下さんとする創作物の厳つい閻魔大王の如くシャミ子を睨む柘榴を呼び掛ける桃だったが、彼はそれを無視して殺意混じりに続ける。

 

 

「……それにその前は『えらいガチャガチャ』という言葉を使ってたよね? どれも標準語じゃないし、イマドキの若者でも使わない。どちらかと言えば、京ことばに聞こえる」

 

「え、えっと……そ、それは噛んじゃっただけで───」

 

「……そして声質。先程まで聞いた本人の声質はほんわかとしていたけど、君の声質は訛り混じりでなんとか似せようとしている感が出ている。おまけに喉の動きも微妙に異なっているように見えた」

 

「あっ………………っと……」

 

 

 次々と繋げていく、聞き取った言葉の怪しい点と先程まで鼓膜に染み込ませたという本来のシャミ子との違いの供述。何処か探偵ミステリードラマを彷彿とさせるかのような言葉遣いだが、それら全てが図星かと言うかの如く、その圧力がシャミ子に襲いかかっていく。

 

 そして、トドメだと言わんばかりに深く息を吸い、怒声混じりに吐き……

 

 

 

君は一体何者だ。答えろ

 

 

 

 ドスの効いた声を、叩きつけた。

 

 それと同時に、シャミ子の身体がドロンッと突然出てきた煙幕に包まれた。そしてその煙幕が晴れた時には……

 

 

「す、すみまへん……まさか柘榴はんがここまでブチギレるとは思わんかったわ……」

 

 

 そこにはシャミ子ではなく、猛獣に睨まれている生まれたての子鹿の如く、涙目になりながら恐怖心によってガクガクと震えているリコの姿があった。

 

 

「……あっ、リコさんだったんだ。てっきり部外者がシャミ子ちゃんに化けたのかと……怖がらせてごめん」

 

「え、えぇよえぇよ。ウチにも非があるのやから……」

 

 

 殺意のある声質と目つきをやめ平常時に戻った柘榴。しかし彼のその表情と声があまりにも恐怖心を燻らせてしまったのか、リコは震え怯えてしまった。あのマイペースでのほほんとした性格である彼女が、だ。

 

 

「な、何かシャミ子にしては色々と違和感があるなとは思っていたけど……柘榴、いくら正体が誰か知りたいからってあんな対応はどうかと思うよ? シャミ子本人かもしれなかったら、今みたいにリコさんが怯えるほどのトラウマをシャミ子にも植え付けてしまうし……」

 

「……うん、そうだね。やっぱりやりすぎた。善処する」

 

 

 柘榴の化けの皮の剥がし方のことを指摘した桃だったが、彼女も柘榴の対応を恐れたのか青ざめた表情を浮かべていた。ローテンション──消極的で物静かな雰囲気を出していた彼からは予想だにしなかった怒りによるものだったのか、冷や汗も垂れていた。このような性格のものを怒らせてはいけない、はっきりわかった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

「………………何があったし」

 

「聞かないであげて……」

 

 

 桃と柘榴さん、ついでにいつの間にか勝手にいなくなっていたリコさんを探して回っていたら、広場ではなくサル科の動物がいるエリアで三人揃って発見……したのはいいけど、どうしてそうなったというような状況になっていて思わず呟きました。そして桃にこの問いかけを拒否られました。

 

 優子に化けて桃にお弁当に化けた薬膳を食べさせようとしていたはずのリコさんが、キツネの姿になって桃の腕の中で泣きながらガタガタと震えていたからね。ついでに桃も青ざめた上のバツの悪そうな顔で目を逸らしているし、柘榴さんも何やら申し訳ないと言っているかのような表情をしていたし……いやホント、何があったんだよマジで。

 

 

「リ、リコ君……一体なんでそんなに怯えているんだい……?」

 

「て、店長ぉ~……ウチ、とんでもない地雷を踏んでしもうたわぁ……」

 

「「「「地雷……?」」」」

 

「………………あぁ……ね」

 

 

 なんとなく察したわ。リコさん、柘榴さんを怒らせてしまったんだな。先程までポーカーフェイスながらも内心による感情が豊かな青年である彼が、先程まで一度も怒りを見せていなかった彼が、一度怒ればどんな奴相手でもビビらせてしまう程のすごい人だったってわけか。なるほど、勉強になった。

 

 

「……シャミ子ちゃんに化けていたとはいえ、警戒心や敵対の意思……それらを強く見せ過ぎて、リコさんを泣かせちゃった。ごめんなさい」

 

 

 ほら、予想的中した。警戒と一時的な敵対をリコさんに向けてしていたってことは、彼女が優子に化けて桃の隙をつこうとしていたってことになるじゃん。つまりリコさんは因果応報を受けたってことになるじゃん。少なくとも半分はリコさんの自業自得ってことだ。

 

 でも、マイペースなリコさんがガタガタと震えながら泣いているということは、かなりのトラウマを植え付ける程の怒りを買ったってことか。……どんな感じに柘榴さんが怒ったのか想像できないから、やっぱり同情するわ。リコさん、ご愁傷様でした。

 

 で、数分経ってからリコさんが落ち着きを取り戻せたと思ったら……案の定というべきか、白澤さんが桃と柘榴さんの目の前でスライディング土下座しました。うわおめっちゃ顔面めり込んでる。

 

 

「ちょっと目を離した隙に……リコ君が申し訳ない……反省しているみたいとはいえ、これは本当に……」

 

「あ、頭を上げて……小さいお子さんも見てるので……」

 

「……僕も悪いことしちゃったから、多分おあいこになってると思う……」

 

 

 リコさんに悪気がないことはなんとなく察しているためか、二人とも白澤の謝罪を受け入れてくれたようだ。柘榴さんも敵意を剥き出しにしてしまったこと罪悪感を覚えたらしいし、多少はね……?

 

 うーん……柘榴さんの供述によれば、リコさんが変化を解かざるを得なくなったタイミングが、リコさんが弁当を食べようと言った辺りだから……ここは問いかけるか、リコさんの行動について。

 

 

「ところで……リコさんは何故、優子に化けてまでして桃に接近しようとしたんですか?」

 

 

 と聞いてみた途端、突然リコさんはビクッと身体を震わせながら、ホラー映画でも観ていたかのような怯えた表情を露わにしてきた。ホワイ?

 

 

「ヒィッ⁉︎ ……い、一秒でウチが優子はんに化けたことに気づきそうなバカップル白哉はんにも逆らえそうにあらへんから、しょ、正直に話すわぁ……」

 

「余計な一言が多いですよ。あと俺に対しても怖がらないで? バカップルって言わないで? あなた俺の事をなんだと思ってるんですか?」

 

 

 それってアレですか? 俺が優子と付き合ってるからという理由で、優子に化けたリコさんとの違いの多くに気づけると思っているんですか? ぶっちゃけ実際になってくれないと違いがわからないのですが。

 

 

「バ、バカップル……恥ずかしいですけど、嬉しいという何というか……」

 

「シャミ子……貴方最近白哉に関する本心が顔でも隠しきれてないわよ?」

 

 

 後、なんか優子がなんか呟きながらニヤけ顔になってるんだけど。それも何処ぞのチートっぽいヤンデレヒロインみたいな顔なんだけど。その顔やめてくださいいろんな意味でしんでしまいます(俺が)。

 

 この後また落ち着きを取り戻してくれたリコさんの話によると、優子に化けた理由は桃に薬膳を食べさせようと思ったからだそう。うん、やっぱり原作通りだ。あ、ちなみに薬膳は葉っぱそのものだったようだ。公園に落ちてるような形の葉っぱでも食える葉っぱってあるのか?

 

 何故薬膳を食べさせようとしたのかと問うと、そこは白澤さんが答えてくれた。桃が闇堕ちする時に変なもの(闇の魔力を増強させる怪しい薬)を食べたり無理やり属性を戻したりしたことが、リコさん……というかリコさんと白澤さんが桃に薬膳を飲んでもらおうとすることにした理由に値するそうだ。なんでも魔力の気の歪みを放置すると心や体に悪影響を及ぼすのだとか……

 

 

「それで、私に薬を飲ませたくて化かしてたってことですか?」

 

「リコ君は基本善意で動く子なんだ……」

 

 

 つまりリコさんの行動は善意という名の悪意なしの悪意をしていたってことだな。善意持ちのサイコパスって、恐ろしいな……

 

 ん? なんかまたリコさんが罰の悪そうな表情をしたぞ? 何故? ってか前から思ったけど、リコさんそんな表情をするキャラじゃないよな? なぁ? ……誰に向けて言ってるんだろう。

 

 

「あー……これも言わんとあかんのかなぁ……言わない方が殺されやすいんかなぁ……」

 

「何故殺されるかもしれないと思っているんですか? ってか誰に?」

 

「………………」

 

 

 いやなんで俺の方を見てから目を逸らすんですか。俺にか? 俺に殺されるかもしれないってか? 俺そんな非道な奴じゃないんですけど。ホント俺の事をなんだと思っているんですか。

 

 

「誰も殺さないと思うんで話してください」

 

「あぁ、うん……実は、な? 巫女はんが化かされて草を食むとこ見て、笑いたい気持ちも……まあまああったよ? ……さよなら店長、愛しとるで……」

 

「余計なこと言った後に死を覚悟してる⁉︎ リコ君それは不吉すぎるからやめたまえ⁉︎」

 

 

 だからなんで死ぬ覚悟を決めるのやめてくれません? というか貴方死を受け入れる性格でしたっけ? 違うはずだったと思いますが。というかなんかリコさんの背後に草が生えた後に大量の髑髏マークが出るという幻覚が見えたような……

 

 ん? なんか後ろで柘榴さんが何かして……えっ? 自分で自分に手錠付けているんですが……

 

 

「いやなんで柘榴は手錠つけてるの⁉︎ というか何処で手に入れたのそれ⁉︎」

 

「……殺さないよアピール」

 

「何それ⁉︎ しかもそのアピールの仕方なんかおかしくないかな⁉︎」

 

 

 これには桃もガチのドン引きしながらのシャウト。本物かどうかは知らんけど手錠を取り出して自分自身につけるとか、どんな思考をお持ちですか貴方は。

 

 手錠を外しながら何やら考えている素振りを見せる柘榴さん。そして外れた時には何か閃いたか『あっ』と呟き、リコさんの元へと近寄っていった。えっ、何をするつもりなんですか?

 

 

「ヒョエッ⁉︎ か、か、覚悟ならできて───」

 

「……リコさん、これ見て」

 

「へっ?」

 

 

 なんだ? 何やらスマホの画面を弄ってからそれをリコさんに見せ始めたんだが……

 

 ん? えっ? リコさんが笑い始めた? で、なんか二人だけでぺちゃくちゃ喋ってるんだけど? しかも俺達には聞こえないように、小声で。

 

 あっ、なんか二人して深呼吸してる。一体何をやって───

 

 

「柘榴はん、結構面白い人やなぁ。思ったよりも仲良くなれそうやわ」

 

「……そう言ってくれると、安心する」

 

 

 そう言って、二人は何やら友情の印を示すかのように強く握手を交わした……

 

 いや何これ? 何を見せたらリコさんと和解できたの? えぇ……

 

 

「えっと……これは一件落着ってことでいいのかい? 柘榴さんがリコ先輩に何をしたのかはわからないけど」

 

「………………そういうことにして、何をしたのかは知らない方がいい」

 

「なんで桃がそんなこと言うんだよ」

 

 

 おいなんだってんだよ。桃、まさかお前今の光景を見て、自分の恥ずかしい瞬間を柘榴さんに撮られていて、それをリコさんに見せられてたってか? もしそう思っていたとしても、リコさんがそんなんでトラウマを植え付けてしまった柘榴さんと和解するとは……

 

 でも、その瞬間の写真、あったとしたら見てみたいかも(オイ)

 

 

「……と、とりあえずみんなでお弁当を食べて仲直りしましょ‼︎」

 

「沢山作ってきたので……」

 

 

 ここで気まずそうな雰囲気を砕かんと、優子とミカンが切り替えを促した。正直ナイス。これで余計なことを考えなくて済むな。やっとみんなで弁当が食える。ぶっちゃけもう腹減りなんだよ……

 

 ………………怪しまれないように、柘榴さんに耳打ちしとこ。

 

 

「柘榴さん、ちょっといいですか?」

 

「……何」

 

「リコさんに見せたヤツ……あれ何だったんですか? 教えてくださ───」

 

ごめん、それ以上聞こうとしたら一旦〆る羽目になりそうだから聞かないで

 

「アッハイ」

 

 

 も、モノスゲーイ殺意だった……一瞬とはいえヤバすぎる殺意が出ていた……この事を調べようとするのは野暮だったのか……。というか、本当に怒っている柘榴さん怖すぎる……

 

 

「……すまない、俺もこの件は聞かないようにするよ」

 

「盗み聞きかよ拓海このヤロウ」

 

 

 地獄耳はよくないぞお前。まあ、事前にこの件のことを聞いていいのかどうかを知れたのはよかったな。俺みたいに近くで怒り心頭に発した柘榴さんに睨まなくて済んだからな。

 

 

 

「そういえば桃……もう一つの目的は大丈夫ですか? VIPチケットの特典のトラの赤ちゃん抱っこ……」

 

 

 

「あっ……」

 

「……こっちも忘れてた」

 

 

 あぁ……そういや桃も柘榴さんもそれを主な目的として来たんだっけ。あと拓海も。えっと……VIP動物ふれあいコーナーは十四時までで、今は十四時十分……

 

 あぁ、マジで終わったな。

 

 ちなみに柘榴さんはふれあいコーナーが終了してもショックを受けなかったし、桃もこの後狐に戻ったリコさんをモフってなんとか精神を安定させました。……意外とトラよりモフモフしてたな、リコさん。毛並みも綺麗だったし。

 

 ……あぁ、なんか無性にメェール君をモフりたくなってきたな。後でモフらせてもらおっと。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、桃の部屋にて。

 

 

「……ありがとう桃、わざわざ泊めてくれて」

 

「気にしないで。その代わりとしてご飯を作ってくれたのは嬉しかったし、私も久しぶりに柘榴と話す機会を作りたかったから」

 

 

 宿泊先を白哉達に教えず何処かへ行こうとした柘榴を、桃が無駄に気を張りしながらも自身の部屋に泊めさせていた。その誘いに柘榴は喜んで受け入れ、その礼として夕食を作ってあげることに。ちなみに特大カツ丼、意外とかなりガッツリとしたものだった。

 

 

「いや……そうじゃないにしても、私は柘榴を泊まらせてたけど」

 

「……? なんで?」

 

「なんでって……仕方ないでしょ⁉︎」

 

 

 突然の桃のシャウトに柘榴は仰天の目を見開く。そして桃はわなわなと体を震わせ……

 

 

 

「私が泊めさせなきゃ、昨日に続いて昔みたいに野宿する気だったんでしょ⁉︎ しかもテントを張らずに‼︎」

 

 

 

「……バレてた」

 

 

 察しなければとんでもないことが起きるかもしれなかったという、とんでもない発言をした桃。そして自分がしようとしていたことに図星を突かれたのか、柘榴は思わず苦笑いを浮かべる羽目に。

 

 

「どこで野宿しているのかは知らないけど、泊まるところがないからって何も考えずにテントも張らずに野宿するなんて野暮ってものだよ‼︎」

 

「……でも、宿泊代を払わずに済む」

 

「身の安全も考えてよ⁉︎」

 

 

 この時、桃の脳裏には以下の考えが過ぎってきた。もしや日本を離れた十年間の間にも野宿をしていたのではないのだろうか、と。いつか野宿する内に柘榴の身に危険が訪れるのではないのか、と。

 

 

「柘榴……泊まるところがないのなら、私が前に使ってた自分用の家を使っていいから。だからもうテント無しに野宿するのはやめて」

 

「……あ、うん。わかった」

 

 

 まるで剣幕しているような目つきで睨みつける桃を見て、柘榴は思わずまた苦笑いし、流されるように了承してしまった。しかし、それと同時にこう推測した。身の安全の事を考慮すると桃の指摘は正しいものであると。

 

 と、ふと野宿の件とは別のことを思い出したのか、柘榴は突然クスクスと笑い始めた。

 

 

「な、何……?」

 

「……桃、僕が留学に行く前よりも感情豊かになったね」

 

「えっ……?」

 

 

 彼の言葉に桃は豆鉄砲を食らったかのように茫然とした。

 

 姉を探していく内に感情を露わにする機会はなかったはずの桃。そのはずなのに、柘榴からは『そうなる前よりも、姉から色々教わって感情を出しやすくなった時よりも、今の方が感情豊かになった』という激励の言葉が出てきた。

 

 シャミ子や白哉と出会ってからまた感情を出しやすくなったとはいえ、姉が行方不明になる前よりもはさすがに……桃は彼の言葉と自分の変わり様を疑った。

 

 

「……リコさんが食前に薬膳を八百枚食べるように促した時も『嫌』といった感情を顔にも言葉にも出していたし、なによりみんなと一緒に動物園を周っていた時も心の底から楽しんでいっていた……あそこまで感情豊かになった桃、初めて見れて嬉しかった」

 

「えっ……。そ、そうだったんだ……自分でも気づかなかった……」

 

 

 というかよく見ていたなこの人。ある程度冷静になった桃はそう思い、自分の恥ずかしい一面を柘榴に見せてしまったと後悔し、真っ赤になった顔を左腕で隠した。そんな彼女の様子を見て、柘榴は微笑みを浮かべた。

 

 

「……やっぱり、そうやって自分を表に出す桃は可愛い。好き」

 

「可愛っ⁉ すっ!? ……本当にそう思っているのかはともかく、安易にそんな言葉使わないで」

 

「……うん、善処する」

 

「……その微笑みからして、する気ないでしょ……」

 

 

 よくシャミ子と白哉を揶揄い、恋愛お節介女子のような立ち位置にいた桃。自分が好意を抱いている幼馴染の帰国により、今度は自分が揶揄われる立場に立ってしまう。そうなる日は、近いのだろう。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その19

動物園から帰って来て夕食を食べ終わった白哉

白哉「はぁ〜〜〜メェール君モフモフ〜」
メェール【マスターくすぐったいメェ〜】
白哉「いやぁ身近にモフモフがあるのって良いことだなぁ。すぐに心が癒されるというか、何というか……」
メェール【動物園でならふれあいの機会があると思うメェ〜が……マスター、もしかしてそういった機会には立ち会えなかったのかメェ〜?】
白哉「おう、VIPのヤツぐらいしか見つからんかったわ。実際にモフれたの狐に戻ったリコさんぐらいだし」
メェール【逆にリコさんのモフモフ度合いがどれくらいなのか気になるメェ〜】
白哉「毛並みめっちゃツヤツヤだったぞ」
メェール【モフモフじゃないんかいメェ〜‼︎】
【……まぁそれはいいとして、マスター】
白哉「ん? なんだ?」
メェール【僕をモフるのは良いメェ〜けど、シャミ子ちゃんをモフる(意味深)のも忘れちゃダメメェ〜よ? あの子、ただでさえ嫉妬しやすいメェ〜から】
白哉「………………おう」

END



本作で一番怒らせたらいけない人、柘榴さんになりそう……

おまけ:今回登場した桃の幼馴染・礎 柘榴の画像(どの画像メーカーで作ったかは忘れた)

【挿絵表示】


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桃が自動的に闇堕ち⁉︎ ▼柘榴さんの甘やかし‼︎ ▼桃の抵抗心ががくくーんっと下がった‼︎

本来の闇堕ちはヤバいよってことで初投稿です。

四巻編が始まってから導入するのを忘れていた、シャミ子の微ヤンデレ状態の様子を導入します‼︎


 

 チウッ レロッ レロッ レロッ レロッ……

 

 

 ……ん? なんだこれ? 舌が何かを舐め回している……? 飴玉でも入ってたのか?

 

 

 チュパッ レロッ ムチュッ ジュルルッ……

 

 

 いや、舐め回しているというよりも、舐め回されている……? しかも口の中に入っているの、飴玉にしてはちょっと大きくてこつこつしていながらも平べったくて、吸盤のように吸い付いているかのような……

 

 

 チュウウウッ チュルジュルッ レロォッ……

 

 

 ………………

 

 

 

 あっ、ヤバい。色々な意味で非常にヤバい。

 

 

 

「プハァッ朝から積極的だな優子おはよう‼︎」

 

「プフェッ⁉︎ あっ、お、おはようございますッ……」

 

 

 思い出した。寝込みにベロチューで襲われたから思い出した。みんなで動物園に行った後、俺は泊まりに来た優子と一つの布団で○ッたんだったわ。○リすぎて記憶が飛んだんだな、きっと‼︎ ○き合いすぎたわ‼︎ だって既にお互い全○状態だし。

 

 あっぶねぇ……‼︎ もしあのままベロチューを許してたら朝○メ確定になってまた○リすぎて、お互い腰とかがヤバくなるかもしれなかったぜ……‼︎ というか……

 

 

「優子……いきなりどうしたんだ? こういった朝は何もせず笑顔で見つめてばっかりだったのに、今日に至ってはすごい積極的すぎるんだが……しかも寝込み襲って舌を入れてくるって……」

 

 

 もう突然すぎたから恐る恐るな感じに聞いてみた。そしたら優子は真っ赤な顔で膨れっ面になり、こう答えた。

 

 

「………………なんだか、羨ましかったんです」

 

 

 へっ?

 

 

「桃の幼馴染の柘榴さんの話です。桃を恋愛方面で見てやっていたのかどうかはわかりませんが、私達がいる状況なのにもお構いなしに桃の顔をまっすぐ見つめるし、桃に会えたことやもっとおしゃべりしたいとかの本心をぶつけるし、桃の服をダイレクトに褒めるしで……思っていたことを堂々とやれる彼とそれを受けている桃が羨ましかったんです」

 

 

 あぁそういう事……。確かに柘榴さんそんな事を桃にやってたな。しかもポーカーフェイスでもわかるほど裏表なしに、本心そのままって感じに。

 

 

「だから……ね? こうやって私も本心を露わにして白哉さんにぶつければ、白哉さんは私のもの、私は白哉さんのものという意思表示が強くなって、誰も私達に近寄らなくなると思います。フフフッ……今日から私はそれを周囲に見せつけてやりま───」

 

「それって恋愛方面じゃない場合も含めて言ってるのか? それだと下手すると誰か傷つけそうになって、何れお前の『みんなと仲良くなりたい』っていう想いが矛盾することになるが……」

 

「………………やっぱり自制します」

 

「それで良し」

 

 

 なんか『未○日記』の超絶ヤバいチートヤンデレヒロインの恍惚ヤンデレポーズをとってきて、なんか後々『ビャクヤサンヲコロスモノハァァァ!!! スベテシネバインダー!!!┗(゚Д゚╬)┓三三三 』とか言って危険地帯お構いなしに何処かへと走って行きそうだったから、優子の本来の性格に合わせた説得したら自覚を取り戻してくれた。危なかったァ……

 

 ってか優子がヤンデレになる場面、久しぶりなのかもしれない。今日まで発動させずにいたの、俺が積極的に優子に関わっていったおかげだからかな? 多分。

 

 

 

 

 

 

 また○起する前に起きて着替えた俺と優子。朝飯を済ませて皿洗いをしながらこの後何をしようかと話し合っていたところ……

 

 聞き取ることのできないデカい音とめっちゃ眩しい桃色と黒の混じった光が、こちらの部屋にまで伝わってきた。

 

 

「ふぉぉぉっ⁉︎」

 

「ひょわぁぁぁっ⁉︎ な、何事⁉︎」

 

 

 お、思わず伝説の戦闘民族によって岩盤に叩きつけられる寸前の声を出してしまった……というか、一体マジで何事? 桃の部屋の方向から光と音が伝わってきたんだが……

 

 あっ(察し)。そういえば今日はあの原作イベントがあるんだったわ。動物園の後にはそれがあるんだってこと、なんで思い出さないのかな俺……

 

 

「桃の部屋からだな、見に行くぞ‼︎」

 

「あっ、はい‼︎」

 

 

 緊急訪問の時間だ、オラァッ‼︎ ってか鍵掛けろよ千代田さんよォ‼︎

 

 

「も、桃、大丈夫ですか⁉︎ なんか凄い音と光が白哉さ……あっ私の部屋まで来たんですが……」

 

「めっちゃ眩しかったぞオイ‼︎ 一体何があった⁉︎(実際に原作通り優子の部屋にまで来たかは知らんけど)」

 

 

 我ながら白々しい演技してるなぁーって思ったんだが、そんな事はどうでもいいと思いながら桃の部屋に入ってったら……

 

 

「………………シャミ子……白哉くん……

 

 

 

 ……なんか、闇堕ちしちゃったっぽい」

 

 

 

「………………………………………………なんで」

 

 

 優子、一瞬宇宙猫と化した。朝っぱらから突然の闇堕ちだもんね、仕方ないね♂

 

 

「あぁ……どうしてそうなった」

 

「分からない。ついでに元の姿に戻れない」

 

「えっ……えっ……ええええええ〜⁉︎ パニックなんですけど⁉︎ いったんお腹をさわってもいいですか⁉︎」

 

「あとにしてもらえるかな‼︎」

 

「つーか優子、お前パニックしてる中でも自身の欲望に忠実になろうとすんなよ」

 

 

 ………………ん? ちょっと待てよ? そういえばこの部屋、確か何かしらの訳があって誰かがお泊まりすることになったとかどうとかって……

 

 

「……むにゃあ……よく寝た」

 

「「「あっ」」」

 

 

 そ、そうだった。野宿はいけないとかなんとかという理由で、桃が柘榴さんをここに泊めさせたんだった……というか今ヤバくね? もし桃の事を大切に想っている(どっち方面でかは分からないけど)彼が、今の闇堕ち状態の桃を見たらどんな反応をするのか……

 

 

「……あっ、おはよう桃……」

 

「お、おはよう……」

 

「……ん?」

 

 

 はい隠そうにも隠せませんねこれは。もうバッチリ見ちゃってるよ桃の闇堕ち姿。ダークネスピーチ。ヤバいよヤバいよ、この人も桃と同じで光の一族なんだよな? だったらこの闇堕ち姿を見て何とも思わないわけないよな? これ柘榴さんはどういった反応をするのか……

 

 

「……カッコいい」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 は? カッコいい? 今この人、闇堕ち姿の桃の事をカッコいいと言ったか? えっ? 確かにカッコいいけどさ……

 

 

「……随分と斬新な衣装だね。黒を基調とした魔法少女の服なんて全然見かけないし、何よりマントを着けるという発想も魔法少女にしてはまた斬新。そこまですごく大きく出たイメチェンは見たことない。結構いいよ、桃」

 

 

 お、おぉう……今の桃を見ても全肯定するのかこの人。闇堕ちしていることを知らないかもしれないとはいえ、心が広くない?

 

 

「えっ……あっ、いや、これはイメチェンじゃなくて……」

 

「……そうなの? 仮に昨日ちょっと聞いた闇堕ちに関係しているものとはいえ、これは僕の本心だけど」

 

 

 闇堕ちしていたこと知ってたのかよ。あっ、そういえばリコさんと白澤さんが桃の闇堕ちの事を柘榴さんの前でも話してたな。それを記憶していた上でその時の格好をさっきのように褒め称えていた、と。

 

 

「ッ……‼︎ そ、そうなんだ……あ、ありがとう……」

 

 

 そしてこいつはこいつでチョロくね? どんだけ柘榴さんの事が好きなんだよお前は。ってか恥ずかしがってる場合じゃないやろ。まずは闇堕ち解除の事を考えなさいよ。

 

 

「あ、あの……桃は今この闇堕ちフォームを解除したくても何故かできない状態になっているんですが……」

 

「……あぁ、困っているってことだね。わかった、僕もできる限りの事をする」

 

 

 おっ、説明ナイス優子。これで早速桃の闇堕ち解除に専念できるぜ。

 

 

「え、えっと……ざ、柘榴が喜んでくれるなら、このままでもいいのかな……」

 

「いやよくないだろ、お前にとっても柘榴さんにとっても」

 

 

 何もうどうでもいいやみたいな思考になりかけてんねん。しっかりしろ千代田桜さんの妹さんよォ。今のお前、なんか何処ぞの承認欲求陰キャぼっちギタリストに見えるぞその喋りと髪の色的に。

 

 

 

 

 

 

 桃の話によれば、闇堕ちの姿になっても別に身体に悪影響があるわけではないとのこと。ただし体を操作する魔力の調整が利かなくなっており、魔力の蛇口が全開となっている。そのため軽く持ったコップも本意に関係なく割ってしまう始末。

 

 しかもとんでもないことに、このまま魔力を放出したままにするとすぐに魔力を使い果たし、コア状態になってしまうとのこと。コア状態になると、なってしまった本人ですらどうなってしまうのかわからない気がするから、なんとかしないといけないって状況だ。

 

 

「……そういえば聞いた話によると、前なった時は、ミカンちゃんが誠意を込めてぶつけた魔力で元に戻ったんだっけ」

 

「うん。だから今回もミカンに一発ぶつけてもらえば治ると思う」

 

 

 まぁ、今はそうするしか他に闇堕ちを解除する方法がないとは思うけどさ……その、何というか……本当にそんなんでいいのかって思うんだよな……

 

 

「……白哉君、何か不満なことでもある? 僕は桃が元に戻れるのなら文句は言わない」

 

「あ、いえ……桃は元に戻るためとはいえ、友達に力をぶつけてもらうことに躊躇いがないのかというか、人の心がないのかというか……あっ、ヤベッ」

 

 

 思わず思ったことを口にしてしまった……桃に聞かれなかったことを機につい……本人が目の前にいるというのに……

 

 

「あのさ、白哉くん……? 私の事を異常なドM魔法少女か何かだと思ってる?」

 

「そんな事は思ってないです申し訳ありませんでした許してください」

 

 

 いやマジでドMかとかは思ってないです。だから睨まないでくださいマジでお願いします。

 

 

「………………」

 

「……シャミ子も、何か気にしてる?」

 

「え……あ……はい。昨日店長に話を聞いた時もなんですけど。桃、やっぱり闇堕ちした時無茶してたんだなって……」

 

 

 あぁ、そうだったな。桃が闇堕ちした理由、それは夢の世界に閉じ込められた感じの状態になった優子と俺を助けるためだったもんな。その事を考えたら責任を感じてきた、優子はそう思っていたんだな……

 

 けど。

 

 

「あそこであぁしなかったら、今みたいに楽な気持ちになってなかった……私はあの選択を後悔していない。だから気にしないでほしい」

 

「……分かりました」

 

 

 桃は自分が選んだ選択を正しいと思っているようだ。まぁ、原作知識を持ってなくても俺はそんな答えを出してくるとは思っていたけどな。桃は自分の事は大切にしない癖に他人に対しては無茶も承知でなんでもする系だし。

 

 

「……フフフッ。魔族なのに魔法少女の心配をしてくれるなんて、優しい」

 

「えっ……。しゅ、宿敵が私と闘う前から弱っていたりしたら張り合いがないですからね‼︎ 当然の事をしてるまでですよ‼︎」

 

「……それでも優しくしてくれていることは確かだ。ありがとう」

 

「い、いえいえ……」

 

 

 宿敵の幼馴染に褒められたり感謝されたりしてむず痒かったのか、柘榴さんの率直な感謝に照れる優子。俺以外の男の前で見せていいのかとはぶっちゃけ思ってはいたが、ああいう照れ顔は俺の前ではよく見せているしモーマンダイってわけで……

 

 

「………………………………………………むぅ」

 

 

 あ、あの、千代田さん……? 何嫉妬深い表情で優子を睨みつけているんですかね? そんな顔してると嫉妬の念で魔力がさらに消費されるのではないのかね……? ねぇ……?

 

 

「あのさ、二人とも……そういう何気ない会話はいつでもできるから後にして。特にシャミ子はその顔を白哉くん以外の男の人の前でやっちゃダメ」

 

「あっ。す、すみません……」

 

「……ごめん」

 

「ってか優子の表情の件、お前が言うのかよ」

 

 

 ………………アレ。なんか優子の視線が、桃のスカートの方に向いている気がするのだが……

 

 あっ(察し)。

 

 

「ちょっと失礼します‼︎」

 

「⁉︎ シャミ子⁉︎」

 

 

 全てを察した時にはもう時既に遅しでお寿司。優子が桃のスカートのちょい上にあるヒモを引っ張ろうとして……

 

 

「何か知らんが落ち着け」

 

「ごめんなさいでしたッ‼︎」

 

 

 取り押さえられました。気になった事を即実行した結果がこれってわけだ。南無。……ってか。

 

 

「なんで叩きつけた上に押さえ込んでんだよ桃⁉︎ お前力加減ができない状態なんだろ⁉︎ そんなことして優子が骨折とかしたらどうすんだよ⁉︎」

 

「あっ………………」

 

 

 思わず荒げた俺の言葉を聞いて全て察したのか、青ざめながら即座に優子から離れた桃。自分が何をしてしまったのかを嫌というほど理解したようだ。一般女子より力や運動神経の弱い優子に加減のできない力をぶつけた最悪の結果が見え見えだもんな……

 

 ってか、優子は本当に無事なんだろうな……?

 

 

「ご、ごめんシャミ子……反射的だったとはいえ、やりすぎた……」

 

「あっ、いえ……元はといえば私が悪かったですし、幸いどこも怪我してないので大丈夫です……」

 

 

 よ、よかった……今のところ何ともなかったようだ。正直ヒヤッとしたぜ……

 

 

「……無事ならよかった。とりあえず入るよ。シャミ子ちゃんが何かしようとする前からずっと、ミカンちゃんの部屋のドア開けてドアノブ握って待ってるんだけど」

 

「それは大変失礼しました……」

 

 

 すいません、ずっとその状態で待ってたんですね。少しとはいえ右手に負担かけてすいませんでした……いやちょっと待て、ミカンの奴も鍵掛けろよ。それとも単純にうっかり閉め忘れただけか? まあ原作通り力加減のできない桃にドア壊されなかっただけマシだろうけど。

 

 まあ何はともあれミカン宅にお邪魔しまーす……

 

 

「早朝寝起きドッキリの時間だァ、オラァッ」

 

「おはようミカン‼︎」

 

「むにゃ⁉︎」

 

 

 うわっ、蜜柑柄の布団にみかん宣伝のポスター、彼女の実家のキャラクター『みかんちゃん』のぬいぐるみ……柑橘類だらけの部屋じゃねーかオイ。俺もみかん好きだけどね。

 

 ……いや待て。ちょっと待て。マジで待て。柘榴さん、今どっかのネットミームが使いそうなセリフを言いながら、リビングのドア蹴っ飛ばさなかったか? 幸い壊れなかったとはいえ、それはさすがにどうかしてるぞ? やりたかったってか? これがやりたかったってか?

 

 そんな事を考えていたら、俺達はいつの間にかミカンを外へと連れ出し、桃が死なない程度にコアをぶち抜いてと頼み込む。いやなんだこれ。寝起きドッキリにしてはかなり悪質すぎないか? 無理矢理起こさせてコアをぶち抜いてって……寝起きで頼むことじゃねェぞそれは。

 

 で、結果は……

 

 

「ダメだ、戻らない……」

 

「……寝起きだと心の整理がしにくいから、失敗したのだと思う」

 

 

 案の定といった感じに失敗したようだ。

 

 

「誠心誠意心を込めてぶっぱしたつもりだったけど………………っていうか、寝起きから! 友達に矢を撃ち込む! 女子の気持ちを! 考えなさいよ‼︎ 目覚め最悪よ‼︎」

 

「そこはほんとごめん……」

 

「よくってよ‼︎」

 

 

 寝起きでキレ気味なミカンの蹴りを次々と回避していく桃を見ながら、呪いによる突風で飛びそうだったリリスさんに付いている落ち葉を取る俺氏。ってかミカンの奴、よくハイキックしてもスカート落とさずに済ませてるな。後、『よくってよ』を日常的に使う女子高生とは一体……

 

 

「……ミカンちゃんの呪い、相変わらず被害がささやかレベルで面白い」

 

「の割には頭に木の枝がえらいほどの数刺さりまくってません⁉︎ というか呪いを面白がるとかどんな精神の持ち主なんですか⁉︎」

 

「よく見たら鳩さんが頭の上でくつろいでいる⁉︎ ごせんぞが受けたのよりひどくなってませんか⁉︎」

 

「……鳩って巣を作る習性あったっけ?」

 

「「そこは知りませんがまずこの状況をどうにかしましょう⁉︎」」

 

 

 

 

 

 

 ミカンの友情パワー直撃は意味なかったので(ミカンが寝起きだったってのもあるが)、『あすら』に連絡することにした我々であったが、リコさん手作り(?)の薬膳は飲み始めてから効果が出るまで少々かかるとのこと。飲めば気は落ち着けるとはいえあくまで事故らないための予防のため、異常が出てからでは効果は薄いらしいし。

 

 で、小倉さんなら何かしら良い案を出してくれるだろうとのことで、連絡先をもらっていた桃がスマホで連絡しようとしたが……朝アラームが鳴った時にスマホがバッキバキになってしまってムザーーーンになってもうてるッ‼︎ 報告、我々は頼みの綱をも失ってしまったッ‼︎

 

 

「も、桃⁉︎ 何かスケルトンカラーになってませんか⁉︎」

 

「……クリアでもシースルーでもなくスケルトンか。うーん世代」

 

「いや貴方も世代……いや呑気になってる場合じゃないでしょ⁉︎ 貴方の幼馴染が消えそうなってるんすよ⁉︎」

 

「……まずい、魔力が残り少ない」

 

 

 正直柘榴さんの反応のせいで焦っちゃったけど、よく考えてみれば原作知識でこの後の展開を知らなくっても大丈夫だったわ。

 

 何故かって? 召喚獣確保からのデータ搾取しようとした小倉さんに確保された時、その別れ際にLINE垢を教えてもらったんだよな。この事を優子には内緒にしていたから後でお仕置きされるかもしれないけど、四の五の言ってる場合じゃねェよな。

 

 

「待ってくれ、俺がスマホで小倉さんを呼んでくるから───」

 

「呼んだ? 欲されたみたいだから来ちゃったぁ……」

 

 

 うん、そうなるとは知ってたけどな。

 

 

「あ、どうもぉ。お兄さんはじめまして、千代田さんの知り合いの小倉しおんでぇす」

 

「……ご丁寧にどうも。礎柘榴、よろしく」

 

 

 いや初対面だからって呑気に挨拶すんのかい。

 

 

「お、小倉さん⁉︎ ……どうしてここに?」

 

「邪神像に仕込んだ小型マイクで聞いてたの。あとたまたまシャミ子ちゃんの近所を週五で巡回していて……」

 

 

 ………………は? 原作通りのセリフだから素通りしようとしてたけど、やっぱりとんでもないこと言ってなかったかこのマッドサイエンティスト。

 

 

「オイ、何がたまたま週五で巡回しただァ? それは完全にストーカーだろうが。ヤンデレ気味な優子でもそんな事してなかったって言ってたのに、何お前はそんな滅茶苦茶犯罪的でヤベー事を容赦なくやれるんだコラ」

 

「いや本当にたまたまだよぉ? 実験のために材料を買いに行ってたりしていたらね?」

 

「本当かァ……?」

 

「………………だとしてもありがとうございます‼︎」

 

「あ、うん。今はその反応が正しかったかもな」

 

 

 マジで細かい疑問点を感謝の心が上回ったよ優子の顔を見て。緊急事態により犯罪がスルーされたよオイ。……まあ、ぶっちゃけこいつの奇行のおかげでどうしようもできない状況を打破できそうだったから、小倉さんの犯罪的行動に助けられたのは否めないけどさ……

 

 この後の小倉さんの説明によると、桃が意思に関係なくダークネスピーチになった原因は彼女の負の感情──嫉妬・猜疑・強欲といったマイナス方面の感情がトリガーになったことによるものだと憶測しているらしい。古来光の一族の関係者が負の感情に飲み込まれた時、一人でに闇堕ちしたって伝承がたくさんあるのだとか。

 

 簡単に言えば、精神が暗黒化してるから闇堕ちしてるということだ。本来そう簡単に起きる現象ではないが、桃が一度闇堕ちしたことで光と闇の狭間に移動したコアが、今のように闇属性に滑り落ちて光の一族とのリンクが途切れた状態となっているようだ。それを手の込んだ図で教えてくれました。めっちゃ分かりやすかった。まる。

 

 直近に感じた負の感情を清算して本人の機嫌が良くなれば、光の一族との繋がりを戻すことができてこの場を凌げるようになる。そう、つまりこの闇堕ち状態を桃が回避するには……

 

 

「『千代田さんが最近すげえ嫌だったこと』を、ここで洗いざらい吐き出しちゃって‼︎」

 

 

 これである。後先を楽にするには実に簡単なことではあるが……

 

 

「そういう感じなら戻んなくていいっす」

 

「おいコラこのまま消えちまってもいいのか」

 

 

 思わず指摘しちまったけど、人前で簡単に嫌だった出来事を吐き出すのは気が引けるのが普通。この反応は仕方ないね♂ だが言わんとアカン状況なのが現実である。

 

 

「桃! 最近ご機嫌が斜めったことを教えてください‼︎」

 

 

 オイしれっとお腹撫で回しながら言うな。その手どかしてあげなさい。

 

 

「心当たりはあるけど…………この場で言うのはヤダ」

 

 

 うん、まあやっぱりそんな反応だよな。拒否りたいよな。でもこの後の優子達の催促ラッシュがお前を襲って本心を───

 

 

「……桃」

 

「うえっ? な、何? 柘榴……?」

 

 

 んんんっ? なんか、このタイミングで柘榴さんが桃の事を見つめ始めたんだけど───

 

 

 

「……せっかく会えたのに、この後永遠に会えなくなるの、僕ヤダよ」

 

「ん ゙ん ゙ん ゙ん ゙ん ゙ん ゙っ‼︎ シャミ子のお弁当を落ち着いて食べられなかったことと柘榴と突然再会した記憶が鮮明に刻まれた上にドキドキしたことで結構モヤモヤしてましたッ‼︎」

 

 

 

「異様な程のスピードで本心を打ち明かした⁉︎」

 

 

 きゃるるん顔でアンタが催促するんかい。というか桃はこのタイミングでカミングアウトするんかい。こいつホント柘榴さんにチョロい……いやチョロすぎじゃね?

 

 ってか、よく聞いたら原作にはなかったモヤモヤ要素が増えてるんですけど。突然の再会をさせてしまった節は誠に申し訳ございませんでした……

 

 

『……幼馴染との再会でモヤモヤするのはまあ、分からなくもないが……弁当を食えなかったのもだがそんなことで闇堕ちするか普通?』

 

私は器の小さいつまんない人間です。可及的速やかにこの世から消えたい

 

 

 うわ、ヤバッ。桃色魔法少女のメンタルが筋肉よりも柔らかくなってるぞ絶対。これは優子の弁当を食わせないとな。俺も昨日ゆっくり食えなかったから、気持ちは分からなくもないぜ。

 

 とりあえず原作通り、優子がお弁当を作ることでなんとかすることにしたが……ぶっちゃけこのままだとまずいな。

 

 桃は原作では優子達に迫られたことで渋々ご機嫌斜めだった事をカミングアウトしたけど、ここでは柘榴さん悲しげな表情にキュンってしたのかその弾みで……って感じだったからな。余程恥ずかしくて『はよ消えたい』って思ってるだろうな。

 

 つまり何が言いたいのかというと、桃が精神的疲労を増したせいで、このままだと魔力を尽きて消えてしまうスピードが早くなる可能性が出てきてしまったのだ。どのようにしてフォローすれば魔力消費を遅くできるのだろうか……そう考えていたら。

 

 

「……桃。何かしたいこととか、してほしいこととかって、ある?」

 

 

 柘榴さんだ。また柘榴さんが何かするつもりだ。あの、すみません。失礼ですが貴方が何かしたら逆効果の可能性が生じるかと……

 

 

「えっ……? きゅ、急に何……?」

 

 

 ほら、桃の奴も困惑してるし。

 

 

「……その姿から元に戻るには、他にも自分の思い通りにできることをするのもいいかと思って。あと、無理矢理嫌な事を吐かせてしまったから、そのお詫びも兼ねて」

 

 

 あっ、そういう……彼にも彼なりの闇堕ち解除の手段を考えていたってわけね。さっきのきゃるるん顔も善意でのみたいでしたもんね、悪意がないだけであって。

 

 けど、それで桃は自分のしたいこととかを明かしてくれるのか? 想い人の柘榴さんの前で何をしたいのかって、普通想い人の前で本心は躊躇いがちになるのでは……実際に桃も言うべきかどうかと真っ赤な顔で目を泳がせているし。

 

 

「………………えっと……なんでも?」

 

「……なんでも」

 

「な、なんでも……そんな言葉、容易に使っちゃいけないと思う……」

 

 

 ほーら、桃も遠慮気味になってんじゃないですか。桃の事を想ってくれるのはいいことなんですけどね、彼女の気持ちも考えてください。

 

 

「……さっきシャミ子ちゃんの弁当が食べれなくてモヤモヤしていたことを明かしてくれたのは、それほどまでに自分がしたかったことを表に出せたから……ってことだよね」

 

「そ、それは……」

 

「……桃は一人で色々と抱え込みすぎ。自分を曝けなさすぎ。そんなんじゃ、自分でも気づかない内に自分自身を壊してしまう。寧ろいっぱい求めていいんだ。求めてくれたら僕もそれに応えるようにするから」

 

「ウッ……」

 

 

 ……あれ、なんだろう。なんかカッコ良くね? 桃に我儘を言わせてあげようとしているんだけどこの人。『全て受け止めるから本心を隠し通さず明かして』みたいなことを言っているんだけどこの人。桃の何もかもを抱擁しようとしているんだけどこの人。ねえ、この二人まだ付き合ってないよね? ねえ?

 

 

「………………じゃ、じゃあ……」

 

「……うん」

 

「こ、今度、二人きりでデ……お出掛け、とかどうかな……? 十年間ずっと平和な多磨町を、二人で回りたい……なんて」

 

 

 おい、デートって言いかけた? 今デートって言いかけなかったか? もうビシッとそう言ってやった方がいいって。そのお願い事自体がもうデートのお誘いみたいなもんだから。女子の方から誘うのは珍しいかもだけどよォ。

 

 

「……いいね。帰って来たばかりの時はちゃんと回れなかったし、今度行こうか」

 

「う、うん……」

 

 

 あっ、微笑んだ。照れながら微笑んだ。二人きりになる機会ができて微笑んだ。こいつホントに柘榴さんの事が大好きなんだな。ってかこんなに照れ照れな桃、初めて見たかも。可愛い。優子に弱み握らせるために写真撮っておけば良かったのかもしれない。こんな時に限ってスマホ自室に置いてきちまったことに気づくとは、迂闊やったわ……

 

 

「つーかさ……今のこの二人のやりとりを見てたら、なんか余計に暑く感じね? 付き合ってるわけじゃないよなあの二人?」

 

「あなたとシャミ子のイチャイチャを見ている時と比べたら、桃と柘榴さんのやりとりの方がまだ良いわよ……暑くなるのはわかるけど」

 

 

 それはごもっともです。いちゃつきすぎてすいません。反省はしても改善はできませんがね。

 

 

「今後はこの二人がくっつけるようなものでも作ろうかなぁ……♪」

 

 

 おいマッドサイエンティスト。お前はヤバいから黙ってろ。何とんでもないことをぼやいてるんだよ聞こえてんぞ。

 

 

「も、桃。お待たせしました。この前作った試作品のヤツですが……って、アレ? 桃、そんなニマニマ顔してどうしたんですか?」

 

「ッ⁉︎ な、なんでもない……」

 

 

 おおっ、ここで優子が弁当持って戻って来た。しかも原作よりも早めに料理を習い始めたにも関わらず原作通りの枯れ葉色の弁当だ。で、桃の表情の事を指摘して彼女を焦らしたと。これまた面白く見させてくれちゃってェ、これはこれでナイスだったぜ優子。

 

 

「………………ところで白哉さん」

 

「ん?」

 

 

 な、何だ? 突然俺にだけ聞こえるように意識しているかのような声量で話しかけてきたんだが……

 

 

「今さっき桃の事を可愛いと思っていた件、アレでちょっとOHANASHIさせてもらってもいいですか?」

 

「………………すいませんでした」

 

 

 ……察しがついていたのか、膨れっ面でこっち見てるんだが。そして他の奴らにバレないように、何事もなかったのような素振りを見せているんだが。こ、こいつ、いつの間にそんな魔性のヤンデレになったのか……?

 

 いや、今のはヤンデレったのかこいつ? あっ、照れていた桃の事を『可愛い』と言っていたことを指摘していたし、ヤンデレっていたか。

 

 

「シャミ子らしくていいお弁当だと思う」

 

「なんだその評価は! 黙って食べるがいい‼︎」

 

「ダメだ……お箸が折れちゃう」

 

「あぁぁぁもぉぉぉっ口を開けろ〜‼︎」

 

 

 おい、何事もなかったかのように原作通りの流れに進み始めてんぞ。やっぱり魔性の女になってきてんな優子の奴。

 

 

「あっ……ごめんシャミ子」

 

「へっ? な、なんで突然止めるんですか?」

 

 

 んんっ?

 

 

「そ、その……白哉くんの目の前で食べさせてもらうのは気が引けるから、ここは、その……柘榴に食べさせてもらいたいなって……」

 

「えっ? 柘榴さんに、ですか? なんで……あぁ」

 

 

 おや、ここでまた我儘を言うことにしたのか。柘榴さんの言葉がそこまで強く影響したのか。なんでそこまで桃に影響を与えてくれている人が、原作世界には出てこなかったんだよ……あっ、俺が介入したからか。

 

 

「じゃ、じゃあ……柘榴さん、お願いできますか?」

 

「……任せて。お安い御用」

 

 

 そう言って、ポーカーフェイスのままグッと親指を真っ直ぐ立てた柘榴さん……シュール。クールそうに見えてホントに感情豊かやなこの人。どんだけ面白くさせてくれるってのよ。

 

 

「……はい。僕が作ったものじゃないけど、あーん」

 

「あの、一言余計です……」

 

「あ、あーん……」

 

 

 微笑みながら箸で持った卵焼きを桃の前に差し出す柘榴さん、なんだかイケメン主夫に見えるんですが。そしてそのキラキライケメンフェイスを見て、顔真っ赤にしながらもあーんしてもらう桃可愛……じゃなくて面白い(これも本心)。

 

 あっ。優子、また桃の事を可愛いと思いかけてごめん。一番はお前だから。マジでお前だから。唯一愛せる女はお前だけだから。だから膨れっ面しながら病み顔になりかけないで、お願いだから。

 

 あっ。そんな念を優子に送っていたら、桃の闇堕ちが弁当の抱擁力で解除された。俺達の前で柘榴さんにあーんしてもらうことになったことによる羞恥心によって、解除が遅れるか効果が薄いかってなるのかもとは思ってはいたけど、どうやら問題はないようだ。

 

 

「戻った……みんなありがとう。迷惑かけてごめん」

 

「今後はカオスな感情は早めに整理するといいかもねぇ」

 

「えっ」

 

「多分闇堕ちしやすい体質は当分戻らないよ。もし再び闇堕ちしちゃったら……またデータを取らせてねぇ」

 

「………………えっ、この体質続くの⁉︎」

 

 

 うん、まぁね。原作知識が無くてもそうくるだろうなとは思うよ、多分。だって突然の出来事ってのは一回解決しただけで済まされるものではないと思うからね、仕方ないね♂

 

 

「……じゃあ、落ち着くまでしばらく僕が介抱する」

 

「それはやめてまた闇堕ちするかもしれないどころか色んな意味で死ぬ」

 

 

 両手合わせての深々としたお辞儀による、桃の必死の懇願。人前でそれ見せるほど柘榴さんに甘やかされるのが恥ずかしいってか? お前も思春期やな……

 

 

 

 

 

 

「無事に桃の闇堕ちが解除されてよかったですね、白哉さん‼︎」

 

「だな。後は少しずつ柘榴さんに我儘をぶつけてくれれば、多少はなんとかなるかもしれないし………………で、優子?」

 

「はい、何ですか?」

 

「なんとかの杖を鎖付きの手錠に変えて俺に付けたのって……まさか、例のOHANASHIに関係したりします……?ってか棒の要素、どこ……?

 

「………………こうする事以外では、ちゃんと優しくしますから……ね♡」

 

「アッハイ」

 

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その20

柘榴「……闇堕ち、治ってよかったね」
桃「う、うん……けど、闇堕ちするかもしれないって小倉さんが言っていたから、しばらくは大人しくしておくよ」
柘榴「……それがいい。桃はよく無茶な事をするから、少しは安静にした方がいい」
桃「………………そう言う柘榴だって、大きな事件に一人で解決しようとした癖に」
「実際に一人で解決したとはいえ、人の事を言えてないよ」
柘榴「……耳が痛い。僕達、どうやら似た者同士みたいだね」
桃「まぁ、そうだね。一人でなんとかしようと思ってしまう癖が出てしまっている」
「シャミ子や白哉くんに気づかされていなかったら、私は今頃どうなってたのかな……」
柘榴「……過ぎたことを考えても仕方ないよ。もしもあの時こうなっていたら状況が悪くなっていたかもしれない、なんて思ってしまうのなら尚更」
「……だから、今はこの先の未来を想って生きていこう。それだけだよ」
桃「そう……だね。……ん? 未来? 未来……」
柘榴「……顔、急に赤くなったね。大丈夫?」
桃「ッ⁉︎ だ、大丈夫大丈夫‼︎ た、大したことないから‼︎」
「(な、なんで柘榴と結婚した事を考えてしまうのかな私⁉︎ す、すごく恥ずかしいんだけど……)」



いつになったら本編で回収出来てない、登場人物紹介などで説明した設定を回収できるんだろう……まぁこちらの物語設計次第ではありますが。

 


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秘境の地にて傭兵みたいなのが『野郎オブクラッシャー‼︎』って言いながら襲いかかって来たんだけど

吹き替えの空耳って面白いよねってことで初投稿です。

今回の白哉君、何気に夢の世界以外のところでの戦闘は初めてになるんですよね。どんな戦績を飾るのか期待しましょう‼︎


 

 桃が自動的に闇堕ちしてしまった日から丸一日が過ぎた。もしもの時の為にも連日で桃の部屋に泊まることになった柘榴さんがいるとはいえ、不安に感じた俺と優子は桃のところへと訪れることに。

 

 部屋に入ればそこには、夏バテならぬ魔力バテしてソファに寝転がっている桃の姿が。そして今の彼女の姿をその目で捉えたのと同時に柘榴さんがリビング側から現れた。なんかお盆の上にどんぶりを乗っけてる……夏バテ対策に良いうどんでも作ったのか? うーん……主夫。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「これ見て大丈夫だと思えるわけないだろ」

 

「コアがへたってる……」

 

「……突然の不本意な闇堕ちでだいぶ消耗していたから仕方ない。とりあえず今は安静にしてもらうことにしてるから」

 

 

 そう言いながら柘榴さんはうどんを箸で掬い、フーフーして熱を冷ましてからそれを桃の顔近くまで持っていく。アレ? この光景、昨日もやってたくね?

 

 

「……はい、あーん」

 

「ニュエェッ⁉︎ ちょっ……ちょっと待って‼︎ ホントに待って柘榴‼︎ じ、自分で食べれる‼︎ 自分で食べれるから‼︎」

 

 

 昨日みたいに耐えながらあーんさせてもらうのはさすがに恥ずかしかったのか、桃は顔を火照らせ咄嗟に起き上がる。昨日のはやむを得ない中で促進される形での我儘だったからね、仕方ないね♂ ……なんか最近『仕方ないね♂』って使うこと多い気がする。

 

 あっ、断られて柘榴さんが少々ムスッとした顔になった。ポーカーフェイスなのに本当に感情豊かだなこの人。

 

 

「……昨日いっぱい求めていいって言った側から遠慮するなんて……今度二人きりでお出掛けしたいという我儘言ってた癖に……」

 

 

 いや、あの……すみません。最初の言葉だけだと女性が意味深に言っているように聞こえるんですがそれは。

 

 

「そ、それは本心ではあるけど、あれは流された形で言えただけだから……本来なら早めに実行できるわけないから……」

 

「……それもそうか。だったら仕方ない、またいつか我儘言ってよね」

 

 

 あ、納得するんだ。

 

 

「あの……我儘の件はまあいいとは思いますが、桃がもしこのまま回復しなかったらどうしますか……?」

 

 

 あ、ヤベッ。本題の事を一瞬だけど忘れていたわ。まあ展開的に大丈夫だろうけどさ。

 

 

「治せるよ……。千代田さんが元気になる場所があるよ……あるよ……」

 

「小倉さん⁉︎」

 

「うわでた」

 

 

 何勝手に桃の……というよりはばんた荘の天井の中に入っているんだよこのマッドサイエンティストは。

 

 

「その名も『千代田桜の隠し泉』‼︎ 魔法少女を回復させる秘密の泉だよ‼︎」

 

「お前が天井裏にいるせいで驚くにも驚けねぇんだけど」

 

 

 とりあえず正論をブッパした後、後先考えるのを忘れて降りられないネコ状態になってしまった小倉さんを降ろしてあげた俺達。次からは降りられるようにと梯子を準備するとか言っていたけど、そもそも天井裏に入ること自体やめておけよ……

 

 大体その行動はどう見てもストーカーにしか見えんぞ。通報したろうかな。でも泉についての説明を聞きたいから、通報はまた今度にしておくか(この後の展開の問題で通報するタイミングを何度も流しちゃうけど)

 

 

「多魔の山地の奥の奥にある、強~い魔力が含まれた霊水の泉だよ。もともとは人知れぬ洞窟の奥に湧き出た清廉な水たまりだったそうな。その洞の天井にたまたま穴が開いて───」

 

「月の光ピッカァァ‼︎」

 

「水に魔力ドパァァァ‼︎」

 

「ひっ」

 

「マイナスイオンプッシャァァァ‼︎」

 

「天然の霊水の泉ドォォォォン‼︎」

 

「……うわお」

 

「まさに‼︎ 偶然が生んだ奇跡‼︎ 大自然の神秘‼︎」

 

「情緒……情緒が……」

 

「お、落ち着け小倉さん‼︎」

 

 

「まぁそんな感じ」

 

 

「「うわぁ⁉︎ 急に落ち着くなァ(落ち着かないでください)⁉︎」」

 

 

 一瞬何処ぞの名前を書かれた奴に死が訪れるノートが出てきそうな漫画のネットネタみたいな流れを作っちゃったけど、仕方ないじゃん。荒ぶるポーズをしながらのIQ低すぎて語彙力足りてなさそうな説明をあんなテンションでされてたら……ねぇ?

 

 で、急に落ち着いた小倉さんの説明の続きでは、その泉に傷ついた魔法少女が浸かると、その魔法少女の身体と魔力の核──エーテル体が回復するとの事。そしてその泉は、桃でも判読不能だった桜さんの残した文書やメモを預けた時に頑張って解読したら発覚したとのこと。

 

 いやちょっと待てよ? 判読不能のメモって……桜さんは一体どんな文字で書いていたんだよ? 字、下手くそなのか? そしてその文章を解読できた小倉さんもスゲェな。マジでこいつ何者なの?

 

 

「回復の泉って、ゲームみたいでワクワクします……行ってみたい‼︎」

 

「うんうん。千代田さん、だいぶ黒澄んでるし漬け込んできなよ。捗るよ」

 

「人を白物衣料みたいに言うのやめて」

 

「白物衣料だろ、恋に弱い癖に人を恋愛方面で揶揄う性分という汚れに対するのな」

 

「それ、どういう意味」

 

 

 あっ、ごめん。悪意があるような言い方だったんだな。悪気はなかったんだから睨まないでくださいお願いします。

 

 

「……あっ。そういえば、僕も一度行ったことがあるんだった」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 ざ、柘榴さん? 今なんて? 一度? 行ったことが? あるんだった? なんで突然思い出したみたいなことを言ってんの?

 

 

「……昔、理性のない魔族を阻止した帰り道、道に迷っていたらたまたま見つけた。それでその泉に入って休んでいたら、戦った時の傷が全回復していた。不思議に思ったんだけど、まぁいいやって思って帰ってったよ」

 

「えっ。理性のない魔族を阻止したって、それはどういう………………あっ。そういえば柘榴さん、男性の光の一族でしたっけ。魔法少女みたいに戦えるとかどうとか……白哉さん、言ってましたよね?」

 

「ん? あぁ、光の一族であることだけは言ってたけどな」

 

 

 そういえばコソッと言ってたなそんなこと。巫女──魔法少女ばかりだという光の一族の中で男性の光の一族だなんて信じられないけどさ。

 

 

「もしかして、柘榴さんって戦う時は……」

 

「魔法少女みたいなのになるかもしれないのだろうかって話だろ? 一時的な女体化とかならまだ可能性はありそうだけど、女装はさすがにな……」

 

 

 女装とかないよな……ないよね? せめて魔法少女みたいなのになる時に女体化するだけだよな? 女装は目に毒だよな?

 

 

「……ひそひそ話の音量、考えて」

 

「「すみません(ごめんなさい)でした」」

 

 

 ヤベッ、丸聞こえだったわ。いや最初に話しかけてきた優子の声がデカかったから、これは半分優子が悪いんだけどなぶっちゃけ。

 

 

「なんかすごい正論を心の中で言われたような気がしますが……」

 

 

 すごい正論か? 半分優子のせいで話を柘榴さんに聞かれたことがか?

 

 この後小倉さんに俺達のスマホ(優子はスマホ持ってない)の地図アプリに泉の場所のデータを送信してもらい、『錬金術の貴重な材料だから私の分の霊水を汲んできて』というお願い事を受けた。いやぶっちゃけついて来いよ、俺達が守ってやるからさ。夏という猛暑の中で天井裏にいたままだと絶対熱中症とかで倒れるだろ。

 

 ちなみにミカンも誘ったが、この日は転校のための面接があるとの事で行けないらしい。すっぽかせば転校できなくなって学生の肩書きを失い、なんかいつも昼から公園にいる人になってしまうだとか……無職orホームレス?

 

 

 

 

 

 

 小倉さんが送ってくれたデータによれば、どうやら奥々多魔駅の山中にあるらしい。そういえば優子と桃の初決闘の帰り、乗り過ごしてここまで来たんだっけ。思い返すと相変わらず苦い思い出だよな……

 

 で、到着したのはいいが……いいのだが。

 

 

【うおぉぉぉっ‼︎ 山ッ‼︎ 森ッ‼︎ 自然ッ‼︎】

 

『ぬおおおっ‼︎ 空気が美味いでごわす‼︎』

 

【フフンッ……この山の自然は全て‼︎ このボクの毛並みの良さを引き立たせてくれていることだろう‼︎】

 

「喧しいわお前ら。なんで出て来たんだよ」

 

 

 ポーフとナルシスト系ウサギだというピョピョンに自分達を召喚してとせがまれ、放出しております。そして柘榴さんのナビゲーターである熊さん・ラグーも一緒にはしゃいでます。ピョピョンは何気に日常以外で召喚するの初めてだな。ってうるせーなこいつら。どんだけはしゃいでんだよ。

 

 

【俺は昔は山育ちなんだ‼︎ 山にいる時はこうやってはしゃぎ、そのまま走り回ってよく大岩に頭ぶつけて壊したものだ‼︎】

 

 

 それで突進攻撃が得意になったと。というかそんな事して親とかに怒られなかったか?

 

 

『初めて白哉殿に会ってからは、何故か主らの前では喋らせてくれなかった上、一昨日に至っては留守番であったでごわすからな‼︎ 久々の外は解放感があるでごわす‼︎』

 

 

 そういえばお前、一一昨日で柘榴さんの肩に乗ってはいたけど喋らなかったな。で、一昨日は留守番だったと。そりゃ外の空気が吸いたくなるわ。ってか口調が語尾に『ごわす』って付ける感じなのね。

 

 

【フフフッ……感じる、感じるよ‼︎ このそよ風が全てを物語っている‼︎ 木が‼︎ 土が‼︎ 木の葉が‼︎ この山のもの全てが‼︎ 全てこのボクの魅了をより際立たせてくれている‼︎ 今日のボクはまた一段と輝いているぞ‼︎】

 

 

 うわぁ痛い痛い痛い。偶にウザいのを見せる程度の拓海よりもウザくて痛い性格してるよこいつ。全てが自分の為にあると思い込んでいるよこいつ。これが本当のナルシストなのか? 痛すぎる。

 

 

「……フフッ。ラグーも面白い性格してるけど、君の呼び出す召喚獣、だっけ? 彼等も個性豊かで面白いね」

 

「そうなんですよ‼︎ 白哉さんが呼び出せる召喚獣はみんなそれぞれの性格があって、しかもみんな様々な能力を持っているんです‼︎ そしてみんな白哉さんが頼りにしているんですよ‼︎」

 

「全部で二十匹もいるみたいだから、一から紹介するのは大変だろうけど」

 

「……二十も。すごい……今度全員紹介してほしい」

 

「後で召喚獣に関する簡易的な資料を送りますんで、それで勘弁してもらっていいですか? 全員を口とかで紹介するのは結構しんどいです」

 

 

 というかなんだろう、変な期待をするのやめてもらっていいですか?

 

 そんなやりとりをしながらも山道を道なりで歩いていくことに。ちなみにこの山は桜さんが保護してる私有地らしい……いやどうやったらこの山を私有地にすることが出来たの? 金はどれくらいかかった? 権力使えた? 訳分からん。

 

 その時にポーフ達が先走って見えなくなるところまで走って行きそうだったので、そいつらには柘榴さんに許可をもらって、優子になんとかの杖を鎖付きの首輪に変えてもらって、それらを三匹ともに付けることに……しようとしたら大人しく俺達の後ろに下がりました。大人しくしてくれるのはいいけど、なんだかなぁ……

 

 と、そんな事を考えていたらなんか看板を発見。その看板を読んでみることに。どれどれ……

 

 

 

 

警告

 

ここからは私の私有地です。

貴重な資源が眠っているため

盗難防止や単なる趣味で

大量の罠を仕掛けています。

 

……ですが

 

どうしても進みたいなら

進んで宝を掴みとるがいい‼︎

どうせここに来る奴なんて

身内くらいしかいないしね!

 

 

 

 

「何言ってるのこの人」

 

「何言っているんでしょう……」

 

「ホント何言ってんだよこの人」

 

「……前来た時も見たけど、相変わらずって感じがする」

 

 

 いやホント、マジで何言ってんだこのフリーダム魔法少女は。本当に十年前までこの町を守ってきた人なのか疑問に思えるんだが。身内しか来ないだろうと思って大量の罠を仕掛けるとか鬼畜か? しかも罠を仕掛けた癖にまるで『いってこい』と言っている文章じゃん。矛盾してるじゃん。何してるんだこの人。

 

 ん? ちょっと待て? なんかポーフとピョピョンがフェンスを飛び越えて行っているんだが? 何また勝手なことを……あっ、ラグーは乗り越えずに柘榴さんの肩に乗ったままだ。あの二匹よりは冷静?だな。

 

 

「お、おい、魔力を用いたトラップや使い魔が待ち構えてたりしたらどうするんだよ……?」

 

【そう警戒する必要はないぞ‼︎ どうせフリーダム魔法少女のことだ、彼女の性格上死なない程度に面白くボコられるくらいで済むことだろう‼︎】

 

【大体罠がなんだというんだい? ボクらはマスターに魔法で呼び出された魔獣的存在なのだ、臆するなんて召喚獣の……そしてボクのプライドが廃る‼︎】

 

 

 う、うーん……怖いもの知らずなのか、それともそれ以外の何かなのか……後、お前ら別に条件次第なら俺の許可無くこの世界に現界できるぞ? だから魔法で呼ばれる呼ばれないは多分関係ないと思うが……

 

 

【では早速行こうかポーフさん‼︎】

 

【うむ、我々で先陣を切───】

 

【【グヤッ】】

 

「「早速引っ掛かったー⁉︎」」

 

 

 何即刻落とし穴に引っ掛かってんだァッ⁉︎ あ、でも中には衝撃吸収クッションが。しかも脱出する為の安全梯子もあるし、怪我などをしてしまった時の為の非常用ボタンもあるな。……もしかして、万が一の事を考えての色々な対策をしてコンプライアンス対策することで、作ってもOKが出るようにしてる?

 

 

「どシンプルな落とし穴……‼︎」

 

「魔力じゃないんだ……」

 

 

 うん、だよね。そうだよね。魔力とは全くの無関係な罠であることに驚きを隠せないよね。何なのさこの悪戯心丸出しな罠は。でもちょっと面白そう。

 

 

【【恥ずかしかったんで、やっぱり帰ってもいいですか】】

 

「アッハイ」

 

 

 思ったのと違う罠だったのか、それともカッコ悪い一面を俺達に晒してしまったことが恥ずかしかったのか、ポーフとピョピョンは臆病風に吹かれて自分達のいた世界にバックオーライすることに。まぁその……うん、ドンマイ。

 

 ってよく考えたら、あの落とし穴はこの後どうなるんだ? このまま? それとも誰かが修繕するのか? うーん気になる。

 

 あっ、桃がその落とし穴がある位置をフェンスのところから飛び越えて行ったぞ。相変わらず運動神経いいな。

 

 

「とにかく……今の落とし穴みたいな地面での仕掛けは、少なくともしばらくないと思う。そう考えると、警戒すべきところはしばらく地面以外となるかもしれない。ここからはみんなで周囲を見渡しながら行こうっ!!?」

 

「ファッ⁉︎」

 

「桃ぉ──────!!?」

 

 

 うおっマジでかっ⁉︎ 落とし穴から出た先にまた落とし穴がっ⁉︎ 原作にはなかった光景が今ここに⁉︎

 

 

「もうないだろうと思わせての……‼︎」

 

「……まぁ、桜さんの事だからそうしてくるだろうとは思った」

 

「二重のパターンもあるんかいっ‼︎」

 

 

 あーあ、恥を晒してしまったからか影を落とした真っ赤な顔で叫んでるよこの筋トレバカ魔法少女。連続で落とし穴があるだなんて想像できないもんな、こりゃ一本取られたな。

 

 

「進もう……これは姉からの挑戦状。この先にある秘宝を掴みたい……」

 

「なんか変なスイッチ入ってませんか?」

 

「若干腹は立つよね」

 

 

 うん、わかる。お遊びで作った罠に嵌められる人達の気持ちを考えてほしいものだよあの人は。

 

 ……あっ、そういえば。

 

 

「そういえば柘榴さんも、道に迷っていた時にここに来たんですよね? その時はどんな罠に遭いましたか?」

 

「……遭ったことがない」

 

「はい?」

 

「……渡ってきた道のりが複雑だったからか、罠みたいなのには遭ってない。寧ろ罠があると知ったのはこういった看板を見つけた時」

 

「えぇっ……」

 

 

 つ、つまりは運良く罠に一度も引っ掛からずにここまで来れた……ってこと? どんだけ運が良いんですかアンタは。桜さんの単なる趣味で作られたのだから一つや二つは引っ掛かるとは思うんですが……

 

 とまぁそんな疑問を持ちながらも、桃が優子に引っ張ってもらって脱出できたので改めて目的地に向かうことに。

 

 

「シャミ子か白哉くん、前に出て」

 

「俺達でガードベントすな」

 

「きさまずるいぞ‼︎」

 

「違うよ、落とし穴の機会均等だよ。これも修行、これもけいけんにゃっ!!!」

 

「もももぉ──────!!!」

 

 

 あーあ、人を盾にしたから罰が当たったよ。一歩退がった途端にネットに捕まってぶら下げられてらァ。お見通しされてらァ。

 

 

「……『んにゃっ』って言うのが可愛かったです」

 

「後続に来るパターンもあるんかいっ‼︎」

 

「近くにいたお前が悪い」

 

「……それ言いそうなポジションになっていた人が酷い目に遭うって、斬新」

 

 

 そうッスね、逆張りしてるッスね。だけど面白いのでいいんじゃないですかね。というか柘榴さん、このネタの意味とか理解してるんですか? 理解してその反応ですか?

 

 

「……とりあえず、今は桃を助けないとるうぇどふらっしゅっ!!?」

 

『ごわしゃあっ⁉︎』

 

「わぁ──────!!?」

 

 

 今度は柘榴さんとラグーが引っ掛かったんだが⁉︎ 彼が踏んだ小石が突然ロープになって一瞬にしてぐるぐる巻きにされたんだが⁉︎ 小石がロープに変わるとかどんなトリック⁉︎

 

 

「あぁ、その……柘榴さん、断末魔が特殊だったッスね」

 

「なんか必殺技を叫んでるみたいでした」

 

「ご、ごめん柘榴。思わず笑いそうになった……」

 

「………………………………初めて桜さんを憎んだ」

 

『た、助けてほしいでごわす……』

 

 

 ですよね。こんなおふざけトラップに引っ掛かったらそりゃ腹立ちますよね。ドンマイです。あーちょっと待ってくださいよ、今ほどきますんで……

 

 ………………ん? 今、なんかガサッという音がしたような……

 

 

シンニュ……シンニュ……侵入、シャ……シシシシ侵入……オヒキトリ……オヒキトリ……オヒオヒオヒオヒ

 

 

 ……なんか、濃い紫色のぬりかべみたいなのが出てきたぞ。しかも何故かピンク色の勾玉をぶら下げてるんだけど。

 

 

「あっ、ちゃんとしたの出てきた」

 

「アレ、ちゃんとしたのか……?」

 

「なんですかアレ。ようかんの怨念?」

 

「……思い出した。アレは自動で動く使い魔。こちら側の持つ魔力に合わせた強さの奴が出てくる。ちなみにあのレベルのが出てきたら……」

 

 

 柘榴さんはそう言うと優子の方に視線を向けて……

 

 

「……シャミ子ちゃん、君だけを狙ってくる」

 

「私、『だけ』をですか⁉︎」

 

『戦闘経験のない者の相手になるってことでごわすね。しかも時間制限とか無しに追いかけてくるので、とんだ災難でごわすな……』

 

 

 使い魔が狙うターゲットが彼女であることを示した。あ、これはもしや……

 

 

「頑張れ、シャドウミストレスさん‼︎」

 

「……ファイトー」

 

「むぁぁぁぁぁぁ‼︎ 急にゴリゴリのバトル展開ー‼︎ 危機管理ー‼︎」

 

 

 おわっ眩しっ⁉︎ 優子が危機管理フォームになって使い魔から逃げるパターン……これはあれか、原作で優子が現実世界での初戦闘をするシーンか。あぁなるほど、この場面で現実世界初戦闘となるのか。

 

 って、優子ちょっと待て⁉︎ 今そっち振り向いたら……

 

 

 ポヨンッ

「ぐえっ‼︎」

「んひゃあっ⁉︎」

 

「あっ、お約束になった気がする展開」

 

 

 ホッ……ホラァッ……こういう風にお前のデカメロンを俺の顔に埋めてしまう羽目に───

 

 

 ブルンッ

「ひょえぇっ!?」

 

「……は?」

 

 

 えっ、ちょっ……えっ? 何? 今の不穏な予感のする、このデカメロンの弾んだ音は……? というか、なんか一瞬右手で何か布生地と金属を掴んだかのような感触があったような……

 

 

「………………~~~!!」

 

 

 ア、アレ? なんか優子が顔を真っ赤にして腕で胸を隠しているんだが……

 

 あっ(察し)。またビキニ部分をずり下ろさせてしまったのか……ヤ、ヤベェ……なんつー時に優子に恥をかかせてんだよ俺は……

 

 

「ぶ、ぶつかってすみませんでしたそこから離れてくださいあの使い魔に白哉さんも攻撃されてしまいますから‼︎」

 

「アッハイ」

 

 

 羞恥心によるものなのか早口で道を開けるよう促す優子。俺も流れるように返事して端っこに移動したけど、ビキニ直さず胸を腕で隠したまま走っていってるぞあの子。使い魔の方はノロノロと歩いているから着直す余裕はあるんじゃね?

 

 

『ウゥッ……メソメソ……』

 

「へっ? ちょっ……な、なんだ……? 何の声……?」

 

 

 な、なんか茂みから何かが泣きじゃくっている声が聞こえてきたような気がするんだけど……マジで何なんだ? リス? 猪? 狸? 二次創作の世界のことだからそういった前世では見かけそうにない動物が正体だとは思うけど……

 

 とりあえず、なんとか泣き止んでもらうとするか。未確認生物みたいな見た目をしているあの使い魔、怖いもんな。ただ、野生の動物に人間の言葉が通じるのかどうか分からないのだが……

 

 

「あー……大丈夫だからな? あの怖ーいオバケみたいなのはすぐにやっつけてあげるから。だから怖がらないで? な?」

 

 

 うーん……なんか人間の子供をあやしているかのような感じになっているな、今の呼び掛け。俺は保育士か何かですかってんだよ。

 

 あっ、でも泣きじゃくっていた声が止まった。どうやら人間の言葉でも通じたみたいだ。よかった、これで安心だぜ───

 

 

『ダレガテメーナンカ……‼︎ テメーナンカ怖クネェ‼︎』

 

 

 ……ん? んんん? なんか、どっかで聞いたことあるようなセリフが聞こえてね? しかも俺の事が怖いのかと勘違いしているかのような発言が……と、不思議に思っていたら、茂みからひょこっと……じゃなくてバッと飛び出してきたのは……

 

 

 

野郎ぶっころしてやらぁ(ヤローオブクラッシャー)!!!』

 

 

 

 何やらパワーボンテージみたいなのを着ている……付けているロボット感丸出しな顔構成となっている中年男性みたいな何かだった。

 

 ……えっ、なにこれ。

 

 

『あっ、ヤバいでごわす。白哉殿の持っている魔力に合わせた強い使い魔でごわす』

 

「えっ!? これも使い魔なのか⁉ さ、桜さんが機械を作る技術で作った罠用のおふざけロボットかとてっきり……」

 

「……僕みたいな魔法少女役やこの多磨町みたいな異種でも受け入れてくれる町もあるんだ。非常識なものが出てもとんでもないものなら多少驚かない」

 

「いやこんなのが出た時点でみんな驚きますよ普通!?」

 

 

 というか、あれで俺みたいな奴が持つ大きさの魔力で出てくる使い魔って……まるで『これの元ネタは個人で調べてみてね☆』って言っているようなものじゃん‼︎ 後で笑わせようとしてるじゃん‼︎ マジでおふざけが過ぎるでしょ……

 

 

「……とりあえず、僕とラグーは今動けない。だから君一人でなんとか倒して」

 

『すまないでごわす……』

 

「クソッ、こうなっちまうのかよ……我が名は召喚師・白哉───‼︎」

 

『テメーヲ殺シテヤル‼︎』

 

「ぬおっ⁉︎ 解放せよ、セイクリッド・ランス‼︎」

 

 

 突然ロボット……使い魔が懐から取り出したナイフで襲いかかってきたものだから、召喚師覚醒フォームになってからセイクリッド・ランスを元のサイズに戻し、ナイフの一突きを防いだ。ってかこいつの使う武器がナイフって……元ネタの元ネタらしさを再現しなくてえぇやろ……絶対狙ってるだろ桜さんは。

 

 

「というかお前、俺が変身中の時に襲いかかって来ただろ───」

 

『ソラッ‼︎ ソラッ‼︎ ソラッ‼︎ ソラッ‼︎』

 

「人の話を聞けッ‼︎ ってかこいつ、俺に隙を与える気ねぇのかッ‼︎」

 

 

 豪快な割にナイフを振るうスピードが速く、上げ下げを繰り返して俺に反撃の余地を与えんとしている。下に振り下ろしたらそのまま上に振り上げ、そして左右の向きを変えて、下に振り下ろしたらまたそのまま上に振り上げる、というのを連続でやっている。

 

 こいつ、ガチで俺を殺そうとしてない? 優子の使い魔とはえらい違いなんだけど。……クソッ、とりあえずまずは怯ませないと。

 

 

「阻む者に好機を与えるな‼︎ エドヒセブ・エレキック‼︎」

 

『アッー⁉︎』

 

 

 エドヒセブ・エレキック。粘着する電撃という意味……らしい。電撃を纏わせた槍に触れたナイフを通し、使い魔の身体に電撃が感電したのだ。そしてその電撃はまるで粘着テープのように長時間纏わりつくため、相手に反撃の余地を与えずこのまま動きを強制的に止める。これがロボットのような奴にも通じてよかったぜ……

 

 おっと。成功したといってもすぐに痺れが治るだろうから、早くこっちも反撃に出ないとな。

 

 

「悪の急所を射抜け‼︎ ダイレクトスナイプ‼︎」

 

 

 セイクリッド・ランスの穂先を使い魔に向けた途端、ライフルで標準を合わせる為の標準となる何かがデカデカと表示された。そしてそれは穂先に集中するように光の球体となって凝縮され、瞬きしてでも捉えられない程の速さで放たれた。

 

 

『グオオオウッ⁉︎』

 

 

 それは気づいた時には、使い魔の背後に回り込み背中を射抜いた。パリンッという音と共に背中からピンク色の何かがバラバラになって使い魔の周りの地面に散らばったことから、どうやら奴の弱点は背中にある、核代わりとなるピンクの何かだったようだ。

 

 使い魔の大まかな弱点がわかった時には、奴は小さな爆発を起こして四散、涙を流した髑髏の狼煙を上げて再起不能になった。ってことは、これで俺の初めての現実世界でのバトルは初勝利になったってわけか? ぶっちゃけ嬉しい。

 

 

「ふぃー……とりあえず勝ててよかったぜ」

 

「……今の技、確定急所?」

 

「ん? あぁダイレクトスナイプのことですか? そうですね、確実に相手の弱点となる場所や急所に当てられる技ですね。威力はそこそこあるかないかって感じですが」

 

『威力に関する主観は曖昧なんでごわすか……』

 

「……スピードスターの効果とトリックフラワーの効果を掛け合わせたようなもの?」

 

 

 いや、柘榴さん? なんでダイレクトスナイプをポケ○ンの技に例えたんですか? 確定で当てられて確定急所ってどんなチート技? 絶対伝説級・幻級が使う専用技じゃないですか。それを覚える奴ゲームに出てこないかな……じゃなくて。

 

 

「まぁ、そんな感じです」

 

「……なるほど、参考になった」

 

 

 何にですか。何の参考になったんですか。念のため言っておきますけど、ゲームではアニメみたいにポケモンの技を一度に組み合わせるとかは出来ませんよ? インターバルみたいなのとかがかかっていて……

 

 

「あっ白哉さん‼︎」

 

 

 と、そんな事を考えていたら優子がこちらに向かって走って来た。あぁそっか、そっちも原作通り使い魔を倒したんだな───

 

 

「何やらそっちの方でもバトル展開みたいな音が聞こえたのですが、大丈───」

 

 

 ウェッ。ちょっ、待っ、胸が……まだビキニ部分が着崩れたままの胸が……走る度にピンク色の残像を出しながら揺れて……

 

 

「ふ、服ッ‼︎ 服を今すぐ直してくれッ‼︎」

 

「へっ、服? ……あっ………………あっ? あれっ? えっ? ……あぁッ〜〜〜〜〜〜⁉︎」

 

 

 俺に言われてようやく気づいたのか、優子は自分の曝け出された胸を見て顔全体を紅潮させ、その場で膝をつきながらその胸を両腕で隠した。って、ア、アレ? なんか、急ブレーキをかけている車のように止まろうとしているのに、なんかスピードがそんなに落ちてないような……

 

 

「グハッ⁉︎」

「キャンッ⁉︎」

 

 

 気がついた時にはもう遅し。止まり損ねた優子にぶつかった俺は仰向けになって倒れてしまった。こ、股間にぶつからなくてよかった……

 

 

 ムニュッ

「ムグッ⁉︎」

「あっ……⁉︎」

 

 

 か、顔……‼︎ 顔に胸……‼︎ 続け様に倒れてしまった優子の胸が俺の顔に……‼︎ ちょっおまっ……こ、この状況はヤバいって……‼︎ 桃と柘榴さんの前でこんなR-17.9なラッキースケベはヤバいって……‼︎

 

 

「みゅ、みゅうこ……ふぁ、ふぁなふぇて……」

 

「ご、ごごごごごご、ごめんなさい……‼︎」

 

 

 無論こんな状況に優子も耐えられるわけもなく、俺が離れてと言ったのと同時にすぐさま起き上がり、着崩れた服をすぐさま直した。

 

 あー……今日は厄日だ。ラッキースケベに二回連続で遭うわネタにされた傭兵みたいな奴に襲われるわで、なんでこんな酷い目に遭わないといけないんだよ俺ァ……いや、優子もラッキースケベを受けてしまったから厄日なのは彼女もか。うん。

 

 ………………ってか待てよ? さっきのラッキースケベの瞬間、絶対桃と柘榴さんに見られたよな? これ絶対桃にはネタにされ、柘榴さんにはさっきの瞬間をオカズにしてしまう可能性が……(彼がそんな事をするのかは知らんけど)

 

 

「……着直した? シャミ子ちゃんが走って来始めたところからずっと土が唇についてるから早く寝返りたいんだけど。というかこの縄解いて」

 

『んー⁉︎ んー⁉︎』

 

 

 あっ、既に着崩し状態の優子を見てしまわないようにしてたんですね。とりあえずラグーを解放してあげて? 足で特に顔を抑えられて苦しそうなんですけど。というか、ずっと土が唇についてるってそれは完全にキs

 

 

「あっ……い、いや、ヤバいところは見てないから。シャミ子と白哉くんがぶつかった瞬間に後ろ向いてたから……予想できてたから……」

 

 

 一瞬桃と目が合った途端、明後日の方向を向いて何もいじらないどころか見てないよアピールをしてきた。苦い顔して笑ってはいないからマジなのか……? というかこうなってしまうことを察してたのかよこなくそ……‼︎

 

 

「あ、あの……びゃ、白哉さん……」

 

「えっ? な、なんだ……?」

 

「そ、その、すみませんが……こ、興奮してしまったので、今夜は、よろしくお願いします……ね?」

 

 

 いやあの状況からお前の方が興奮するんかいッ⁉︎ けどぶっちゃけその発言のおかげで、こっちの今してはいけない興奮が治まったわありがとうッ‼︎

 

 この後、気がつけば優子が倒した使い魔の弱点である翡翠とこの地の土を持ち帰る準備をしていたので、その間に俺は柘榴さんをぐるぐる巻きにしていたロープを解くことに。あっ、せっかくだし俺が倒した使い魔の粉々になった勾玉を持って帰るか。ちなみに土は持って帰らんで。

 

 

「今の姿を撮ったらグラビアかAVの写真っぽいね」

 

「え、AVとか言わないでくださいッ‼︎ 白哉さん一筋の私がなんか寝取られているかのように聞こえるのでッ‼︎」

 

 

 なんか不謹慎な会話が聞こえた気がしたけど、気のせいだよな。うん。

 

 

 

 

 

 

 この後何事もなく桜さんの隠し泉に到着した俺達………………なんだけど……なんだかな……思ったよりも滝。普通の見た目の滝だった。魔力みたいな何かが実際に見えるわけでもない。別に普通の水では絶対出さない光沢すらない。

 

 ふ つ う の た き で あ る 。

 

 これには俺だけでなく優子も桃も困惑する始末。まぁでも、柘榴さんが実際に浸かって傷を治したというし、入って確かめる価値はありそうだけどな。

 

 

「脱ぐんですか? 水着ですか? それとも白装束とかふんどしですか?」

 

「おバカなのかな⁉︎ 普通にそのまま入るよっ」

 

 

 何興奮してんだこのいやらしまぞくが。これから興奮しがちまぞくって呼んでやろうかな(七割冗談)。

 

 ん? ちょっと待てよ?

 

 

 

「帰りどうすんだ? ってか、そのまま浸かって透けた下着を柘榴さんに見せる羽目にならなくないか?」

 

 

 

 と言った途端、桃がハートフルピーチモーフィングステッキを使って魔法の力で衣装チェンジした。しかも桃色縁の白い競泳っぽい水着。察したんだな、うん。

 

 

「えっ。そのまま入るんじゃなかったんですか……?」

 

「………………水着と長時間透けて見える下着、シャミ子はどっちを見せる方が恥ずかしいと思う?」

 

「あっ……ごめんなさいでした……」

 

 

 察するのがおせーよホセ。

 

 

「……自然に時間経てば乾くんじゃないの?」

 

 

 いやなんで気づかないんですかアンタは。

 

 とりあえず桃はその水着のまま滝に打たれることに。そんな彼女を見て優子が面白がって尻尾を騒がしく動かしたり実際に笑ったりしたり、それにキレた桃が優子に水かけたりとしていくという、原作通りの事をしている内に……

 

 

「……桃、体光ってる」

 

「えっ? あっ、ホントだ。心なしか元気だし、効果はほんとにあるんだね」

 

 

 おぉっ、ここも原作通り。これで闇堕ち後のケアはバッチリと言ったところか。まぁ、この後の『業者呼んでタンク車とかで根こそぎいただけば家でも入れるのでは』という、明らかに邪念が残ってるどころか丸出しで光の一族がすべきではないことを暴露するだろうけど───

 

 

 

「……うん、綺麗になった。純白な肌と競泳水着が健康的でよく似合う」

 

 

 

「カハッ‼︎」

 

「桃が真っ赤な顔で桃色の水滴みたいなのを吐き出したー⁉︎」

 

 

 いやここで柘榴さんの不意打ちが来るのかよ。この人一日に何回かは桃を褒め称えて尊死されなければ気が済まない性分なのか? どんだけ桃の事が好きやねん。これで恋愛感情がないかもしれないってマジ?

 

 

 

 

 

 この後帰って来たら桃の台所が一時小倉さんが勝手にラボにしたり、優子が戦利品として宝物にしていたピンク翡翠を貴重なスーパーウルトラパワーストーンだとか言われて小倉さんに取られた挙句(ヤク)の素材としてゴリゴリされたりと……最後の最後で小倉さんのサイコペースに振り回されました。

 

 あっちなみに俺が拾った勾玉は見せてないので取られずに済んでます。思い出の品を全部実験に使われてたまるかってんだ。……ただ、宝物を粉々にされた優子の為に何かしらを作る材料になればいいんだけどな……

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その21

……とはいえ、今回はハロウィンが近いので、本編に関係のない話になります。


シャミ子「………………や、やってしまった……やってしまいましたッ……‼︎」
桃「えっ。ま、まさかシャミ子、ついに白哉くんに関わった人を殺めて……⁉︎」
シャミ子「ちがぁーう‼︎ これをどう見たら殺人現場になるんですか‼︎」
「そうじゃなくて仮装ですよ、ハロウィンの仮装‼︎ わ、私が今着ている悪魔の衣装の話ですッ‼︎」
桃「あぁ……でも、いつも夜に危機管理フォームで白哉くんを誘惑してるでしょ?」
「毎回それで彼を興奮させてるし、今更じゃない?」
シャミ子「デ、デリカシーがないけど正論だからその件についてはどう言い返せば……」
「け、けど今日は違うじゃないですか時間も状況も‼︎ 夕方からハロウィンパーティーがあるし、皆さん集まるし……‼︎」
桃「シャミ子が白哉くん関連で暴走さえしなければ、悪魔の衣装をするくらい問題ないよね?」
「まぞくにピッタリの仮装だし、翼の装飾もあるし、悪魔の角のカチューシャも属性過多って感じがする程度だし」
シャミ子「これの何処がァッ⁉︎ じ、自分から着ておいてアレだけど、下手すれば危機管理フォームよりも恥ずかしいですよ⁉︎」
「ビキニの上部分の面積も危機管理フォームよりも少ないですし、下部分もマントで隠れてないから後ろも丸見えですし‼︎」
桃「……じゃあなんでそんなの着たの?」
シャミ子「………………興味本意があったのと、魔が刺したってのがありまして……」
桃「あ、変態まぞくか」
シャミ子「ぬがっ⁉︎ そ、それを言う桃こそ、なんでミイラ男の仮装をしているんですか‼︎」
「その身体の包帯は着ぐるみですか⁉︎ 肌が出過ぎているのもそういう風に見える着ぐるみだから⁉︎」
桃「ウッ⁉︎ ………………じ、自分で巻いた……」
シャミ子「人の事言えてないじゃないかきさまも‼︎ そ、そういう誘いは夜にやってくださいよ‼︎」
「私これは夜白哉さんを誘うのに改めて着ることにして、別のを着ますから‼︎」
桃「なっ⁉︎ わ、私は今のシャミ子と違ってそんな勇気はない……‼︎ わ、私も別のに……‼︎」

柘榴「……ハロウィンの仮装を考えるの、大変」
白哉「いや、大変で済まされるものじゃないですよアレは……」

結局シャミ子はドラク○11の主人公の、桃はジャッ○ー・チェ○の仮装をすることにしました。ただし、シャミ子の場合は夜に悪魔の仮装を着て白哉を誘惑したそうな。


少し早いけど、ハッピーハロウィーーーン‼︎

 


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えっ? 黒光りで増殖するあの虫? 俺も嫌いだよ、突然隅っこからカサカサと不気味に出てくるから。

逆にゴキブリがいないと困る状況ってある? ってことで初投稿です。

僕はゴキブリ嫌いなので、見つけ次第新聞紙ですぐさま叩き潰しますね。


 

 おう、みんなおはよう。白哉だぜ。この前は桜さん秘密の泉の霊水を取りに奥々多魔駅の山中に行きましたー。桜さんが設置した罠が魔法じゃなくて古典的なヤツだったり、空耳が面白い傭兵みたいな使い魔と戦ったりと、もう色々と大変だったぜ。

 

 とりあえず無事に帰ってこれてから時はちょいと過ぎ、今日はいつも通りの日常を送ることにします。いつも通り優子とのセッッッ後の寝落ちから起床して……いや、すいません。今のは毎日やってるわけじゃないので○リ○ンだとか思わないでくださいお願いします。

 

 で、朝飯食って玄関前のところを優子と一緒に箒で掃除することに。今日は週一のそういう日だからね、日課だからね。で、今掃除中なんだけど……

 

 

【おいピッピ‼︎ そこら辺のゴミは俺が取るんだ、そこをどけ‼︎】

 

【何故そんなキレ気味なのだ? 別に掃除をする場所はどこでもいいのではないか?】

 

 

 ウチの召喚獣であるハムイン・ボルタとピッピが、優子の部屋の隣のドアの前にて喧嘩しております。

 

 元々この二人は仲が悪いみたいだし、まぁ口喧嘩になるのは珍しくもないんだけどな。特にハムイン・ボルタの方がピッピに対する敵対心が強いみたいだけど、ぶっちゃけ仲が良くなってほしいんだけどな……ピッピは仲が悪いままになりたくないみたいだし。

 

 

【お前はいつもいっつも俺より行動が早すぎるんだよ‼︎ 足の速さなら俺が上なのに、お前みたいな奴にしれっとした感じに早い判断と早い行動をする奴が嫌いなんだよ‼︎ そういう奴は偉そうなのばっかりなんだから‼︎】

 

【ウザい系の○滝左○次か何かなのか?】

 

「あぁ……あの子達、いつになったら仲良くなってくれるのでしょうか……?」

 

「………………さぁな?」

 

「何故不穏な間が……」

 

 

 うーん……よく考えたら少しは進展してほしいとは思えるんだよなぁ……俺が召喚術を覚えるようになってから約二・三ヶ月経ったわけだし、時々直接召喚獣との縁を深める為にと召喚獣同士を仲良くさせる為に召喚させていたんだし……

 

 ん? そういえばこの二匹が前に立っているドアって……

 

 

【とにかくどけ‼︎ お前は別のところを掃除すりゃいいだろ‼︎】

 

【だから何故そう譲れないのだ貴様は───】

 

 バンッ

【【グヘッ⁉︎】】

 

「シャミ子ォォォ‼︎ 白哉ァァァ‼︎」

 

 

 あっ(モノマネボーちゃん風)。ミカンがドアを勢いよく開けた途端に二匹ともドアに潰された。ハムイン・ボルタはともかくピッピはあまりにも理不尽な目に……

 

 

「おはようございます、ミカンさん」

 

「ごきげんよー‼︎ ついに出ました‼︎ 出ちゃったのー‼︎ あのっ、例のっ、黒くて速くてスベスベしている───」

 

「あぁ〜、ゴキブリ?」

 

「なんじゃそのスベッスベの反応は‼︎」

 

「無意識にスベスベとスベッスベでダジャレっぽいの作んな」

 

 

 くだらない事を言った後に気づいたけど、オブラートな感じに何が出たのかを言おうとしていたミカンの顔が面白かったな。マジでガチモンのギャグ漫画みたいな顔だったわ。ジャンプ漫画のってわけではない気がするけど、いやホント……

 

 

「アレのことはも〜少しかわいくGちゃんとお呼び……って、シャミ子……貴方、虫平気なの?」

 

「この家、隙間多いので小さな生き物は慣れちゃうんです。ゴキブリは攻撃力がないので怖くない‼︎ 何なら桃の方が怖い‼︎」

 

「貴方のセーフ判定、時々歪よね……」

 

「それほど桃が強すぎたってわけだ。察してやれ」

 

 

 でもまぁ、お前がそんな反応をするのもわかるぞミカン。俺だってここに引っ越して来たばかりの頃にゴキブリが出てきた時、優子の薄かった反応に思わず『えっ?』って思ってしまったのだからな。

 

 ミカン、お前のゴキブリに対する反応は本来正しいものだ。普通なんだ。だから間違えても『自分の反応はおかしかった』とは思わんでくれ。

 

 

 

「あっ。ゴキブリというか小さな生き物が怖いといえば、白哉さんも意外にもゴキブリとハチが苦手なんですよ」

 

 

 

 オイこら優子待てオイ。

 

 

「えっ……? そうなの……?」

 

 

 ミカン、お前も意外だったって言ってるような反応するな。そして目を見開きながらこっち見んな。その反応は結構傷つくから。

 

 

「はい、今でもゴキブリがカサカサと動いて出てきたのを見てビクッで怯えるところが可愛かったんですよ。ハチの時はスズメバチかどうかの判断が上手くできない程にビクビクしてなんとか避けようとしているところが───」

 

「それ以上言うとしばらく夜のお楽しみをお預けにするぞ」

 

「ウグッ……⁉︎ ご、ごめんなさいでした……」

 

「シャミ子……新しく弱みを握られているわね……」

 

 

 はい、大半手遅れだけど俺の黒歴史がさらにバレることは無くなった。やっぱり今の優子にとって俺との夜迦が出来なくなるのは辛たんなんだな、マジで弱み握れたわw

 

 

「はいどうぞ、ゴキブリをつまんで外に逃がすためのティッシュ」

 

「つまむ⁉︎ ザ・異文化‼︎」

 

「言うほど異文化か?」

 

「でもゴキブリは噛みませんよ?アブとハチとカミキリムシはつまんじゃダメで、特にカミキリムシはサイズ感に比べて噛む力がものすごく強くて想像の五十倍くらい痛いんです。だからカミキリムシよりゴキブリは優しい────」

 

「そういう問題じゃないのよ‼︎」

 

「ですね〜」

 

「そりゃあそうだ」

 

 

 デカくて家庭に被害を与える虫なんて、衛生面で考えるも大抵気持ち悪いと思えるし、そもそも見た目もマジで可愛いとは絶対思えないし。実際に触ったとしても……ね?

 

 とりあえず怖いから部屋の整頓を手伝ってほしいというミカンのお願いを聞いたものの、俺と同じく聞き入れた優子はどうしてもゴキブリをつまむことしか考えていない模様。つーかそもそも足の速いゴキブリを手で捕まえること自体難しいだろ普通。

 

 

「Gちゃんは結構ばっちいのよ。触らない方がいいわよ。次出てきたらほら、これ」

 

 

 そう言ってミカンは魔法の力で柑橘色の矢を生成した。魔法少女にならなくても魔力を使うことができるんだな魔法少女って。だがこれは言わせてほしい、矢で射る方がグロいことになるぞ。寧ろ下手したらトラウマレベルだわ。

 

 

「やっつけちゃうんですか……? 生まれただけで、出てきただけで、叩かれるなんて……まぞくみたいでかわいそう……」

 

「あーミカン泣かしたー‼︎ 優子を泣かしたー‼︎ まぞく泣かしたー‼︎ 地雷踏んだー‼︎ いーけないんだ生花だー‼︎」

 

「えっ⁉︎ これ私が悪かったの⁉︎ しかも悪口が独特なんですけどっ⁉︎ もぉぉぉ分かったわよ‼︎ つままず逃がす方法を考えるっ‼︎」

 

 

 すまん、さすがに調子乗ったわ。頭にフッとそういう流れのネタが浮かんできたものだから、つい……

 

 ………………というか、俺も地雷踏んでるよな? ゴキブリホイホイならぬ害虫ホイホイを自分の部屋に設置していたわけだし。その事を優子が知ったらどう思うのだろうな……『ホイホイに誘われて動けなくなってそのまま生涯を終えるとかすごく可哀想』みたいな……生活する為の必要経費とはいえ、バレたら素直に謝っておくか。

 

 まぁとにかく、今はGちゃんを見つけるところから始めておかないと先が進まん。とっととミカンの部屋に入っておくか……あっ。

 

 

「ん? 何かがドアの裏にいたような………………ギャーッ⁉︎」

 

 

 忘れてたと気づいた時にはもう時既に遅しお寿司。口論中にミカンの開いたドアによって潰されたハムイン・ボルタとピッピが、その開いたままのドアの裏の壁にめり込んでいるのをミカンが発見してしまった。

 

 それによるビックリ仰天での動転に反応してか、些細な呪いとして何処からか飛んできた網が俺の頭や右腕に引っかかってしまった。解せぬ。

 

 

「う、嘘ッ⁉︎ この子達いつの間にそこにめり込んでたの⁉︎ こ、これ私のせい⁉︎ 気づかずに勢いよくドアを開けた私のせいなの⁉︎ と、とにかくごめんなさいッ‼︎」

 

「あぁ……大半ミカンのせいじゃないぞ。元はと言えばそいつらがドアの前で立ち止まって口論していたせいだからな」

 

「びゃ、白哉……貴方それはさすがにこの子達にとっては辛辣じゃないかしら……?」

 

「場所が場所であることに気づかなかった奴らが悪い。特に自分から喧嘩しにいったボルタがな」

 

 

 はい論破。ドア前に立ち止まり続けるのは良くない。喧嘩はもっと良くないからな。マジで反省しておけよ二匹とも。特にボルタ……あっ、別にピッピは悪いことしてなかったな……すまん。二匹とも壁から出してあげて寝かしておくか。そうした方が二人とも楽になるし。

 

 あっ、各々の世界に帰してあげればいいだけか。よく召喚獣各々が自力で帰っていってるから、俺が帰すって発想はなかったわ。てへっ。

 

 

「とっ……とりあえず今はこの部屋を片付けておきましょう。少しずつ片づけてけば逃げたGちゃんも見つかりそうです」

 

「そ、それもそうね。ごめんなさいね、散らかっていて……」

 

「別に大したことねェよ。それに一人暮らしを始めてそんなに長くはないだろ? まだ慣れてないってところもあるのだろうし、気にすんな。俺も始めたてはこんなんだったしな」

 

 

 そういえばこの前、ゴミは何曜日にどの種類のゴミを出すのかとかが分からなくて、部屋がゴミ袋まみれで色々と大変だったなー。優子がゴミの分別について教えてくれなかったら今頃俺の部屋もゴミ屋敷だったのかもな。ま、メェール君達を召喚できるようになってからはそんなこともなくなっていただろうけど。

 

 

「この辺のゴミからまとめていきましょう。えっと……これはみかん類ので、これもみかん類の……これもみかん、これもみかん。みかんかんみかんかんみかんかんみかん。みかんかんみかんみかんかんみかんかん……」

 

「リズムゲームか何かか? つーかみかん関連の食品しか食ってねェのかこいつは」

 

「あんまり人のゴミを確認しないで‼︎ まだゴミの出し方が分からなくて……てへぷり」

 

 

 いやなんだよてへぷりって。どんな擬音だよ。ってか擬音を口にするなよ。……優子もやってみたら可愛いかも。

 

 この後優子はミカンが自分のために桃に頼まれて一人でこの町に来た事や無茶振りをされている事を心配するようなことを言ったものの、当の本人は一人暮らしも一度やってみたかったから心配いらないとか、桃とは知り合ってお互い無茶し合って十年は伊達じゃないとか言ってくれたため、悪い気はしていないことは理解できた……

 

 が、優子が桃とミカンが長い付き合いであることを嫉妬するのはなんだか気に入らないな。お前も俺と知り合って十一年くらいは経つだろ(仲良くなったのは十年くらいだけど)。だから長い付き合いに関する嫉妬はやめろ、俺まで嫉妬してしまうから。

 

 ……まぁ、桃とミカンの方は非常識な体験もしてるから、そこも比較すると嫉妬してしまうのも無理はないけど。

 

 にしても、桃とミカンが知り合って十年も経って、俺と優子が桃と知り合って三ヶ月ぐらいか……俺がこの世界に転生した影響なのか、俺達の知らない桃の物語の中には、柘榴さんとの出会いと恋の馴れ初めがあるんだったよな。そういう点も考えると、桃の奴がここまで一体どんな人生を送っているのか、正直気になってきたな……

 

 ………………あっ、そういうのは柘榴さんに聞いてみるべきじゃないのか? そうすれば大抵の事なら知れるんじゃ……

 

 

「ダメダメダメダメ‼︎ おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃ~‼︎」

 

「ゴミ捨てにえらい気合いを入れるのね⁉︎」

 

「心のゴミを捨ててます‼︎ おりゃおりゃおりゃおりゃ~‼︎」

 

 

 ハッ⁉︎ ゆ、優子の叫びで我に戻れた……彼女も夢魔の力で桃の昔の記憶を探ろうかと考えて、我に返ってクソデカ感情を捨てようとしているんだな。

 

 なら、俺も……

 

 

「そぉい‼︎」

 

「いや白哉も⁉︎」

 

「人のプライバシーに関わることを考えていけないからな、それを忘れるためだよ‼︎ そぉい‼︎ そぉい‼︎ そぉい‼︎」

 

「私にもそれを忘れさせてください‼︎ おりゃそぉいおりゃそぉいおりゃそぉいおりゃそぉいおりゃそぉぉぉい‼︎」

 

「………………勢いあまりすぎて、ゴミ袋の一つが俺の顔に被ってしまったんだが」

 

「うわぁ……」

 

「ホワァッ⁉︎ ご、ごごごごごごごごご、ごめんなさいィィィィィィッ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 はい、さすがにお互い気合い入れすぎました。ゴミ捨てでそんなに叫ぶとかおかしい人と思われるよな。少しは抑えるか時と場所を考えないとな、うん。

 

 さてと……ミカンの部屋も少しのゴミ捨てだけで広くなったな。とはいってもまだまだあるみたいだし、けど捨てるだけはなんか地味な気がする。だから有効活用しておかないと。

 

 

「あっ。チラシ頂いてもいいですか?」

 

「? よくってよ。何に使うの?」

 

「……あぁ、シンク用の三角コーナー代わりのゴミ箱作りか」

 

 

 先越されて原作通りのルートやられたわチクショー……‼︎

 

 

「お母さんから教わったんです。料理中に出たゴミをそのまま捨てられるのですごく便利です‼︎」

 

「なるほど! みかんやデコポンやいよかんを連続で食べてもその都度ゴミを捨てに行かなくていいのね‼︎ 天才ね‼︎」

 

「でしょう‼︎ そうでしょう‼︎」

 

「オイ想定用途がおかしいだろ。柑橘系に偏りすぎているから離れろや」

 

 

 まぁそれはともかく……チラシの有効活用か。そういえば、清子さんはチラシを使ってアートレベルのヤツを作って俺達に見せてくれたんだっけ。アレを『俺の彼女の義母さん、チラシでこんなもの作った』ってつぶやいたーに挙げたらスゲー評判が良かったんだよな。懐かしー。

 

 

「あとは手裏剣とか、紙鉄砲なんかがオススメです‼︎」

 

「ごめんなさい、それはちょっと使い道が分からないわ……」

 

「紙鉄砲はストレス発散をするのにいいぞ。パァンッてやってる時の快感がやみつきだぜ……ホワァッ⁉︎」

 

 

 ヤベッ、ビックリしたァッ‼︎ 突然物陰から出て来るなよゴキブリ……じゃなかった、ゴキブリって呼び名はミカンにとってはNGだった。

 

 

「お二人方、隅っこからコード:Gが‼︎」

 

「コ、コード:G? ………………あっ、なぁん⁉︎ もしかしてGちゃんのこと⁉︎」

 

「大変です‼︎ 急いでつまみ出しましょう」

 

「だぁらつまむのは止めぇ言うとろーが‼︎」

 

「お前は口調を一定させろや」

 

 

 というか、ツッコミ入れようとした途端に紙鉄砲を早速活用しとるやんけ。正しい使い方、見つけちゃったね。

 

 

「お二人方、コード:Gがまた物陰に‼︎」

 

「さっきからその呼び方気に入ってるの⁉︎ ……まあいいか、カッコいいから」

 

 

 いいのかよ。

 

 

「そ、それよりもシャミ子、Gちゃんの夢に潜って暗示をかけて動かせないの⁉︎」

 

「一旦熟睡しないと無理です」

 

「今すぐそこで横になれぃ‼︎」

 

「そもそもゴキ助の方も寝ないといけないから、少なくとも今この状況で寝ても意味ないと思うぞ」

 

「さらっと呼び方変えてないかしら?」

 

 

 ってか、はよ寝ろとかどんなハラスメントだよ。社員の睡眠時間を考えないブラック企業と比べたら数段マシかもだけど。

 

 あっ、ちなみに俺は前世ではブラック企業には働いてないぞ。ブラック企業なんて警察とかにバレて潰れてしまえばいいんだよ……いや、今はブラック企業は全くの無関係だったな、すまん。

 

 

……ねぇ

 

 

 ん? ………………あっ。

 

 

さっきからず~〜〜っっっとミカンの呪いが発動してるんだけど……

 

「桃⁉︎」

 

 

 いっけね、ぶっちゃけ忘れていたわ。俺達がこんな事してる間に呪いが発動してたんだったわ。しかも一回を除いて俺と優子にはかかってなかったから、ちぃーっともその事での違和感を感じてなかったわ。

 

 桃……マジで気づかなくてごめん。

 

 

「水道管は破裂するし、ドブ板に穴開くし、柘榴が炊いた私の米が炊飯器開いたのと同時に飛び出してくるし、おかしいと思ったんだ」

 

「貴方、柘榴さんに米を炊かせてるの?」

 

「ぶっちゃけ優子にやってもらってるものだと思ったぞ」

 

 

 ん? もしかして柘榴さん、連日で桃の部屋に泊まりに行ったのか? それとも米を炊くためだけのために桃のところに毎日行ってるのか? 聖人か? 聖人なのかあの人?

 

 

「その件について深く追求すると闇堕ちするからやめて」

 

「あっズルい‼︎ この子ズルいわ‼︎」

 

 

 うわ、自分の心境の変化に似たことを盾・人質にした奴は初めてだな……まぁ実際に人を盾にされるよりはマシなんだけどね。

 

 ちなみに桃も虫は苦手だとか言ってきた。足がある系がちょっと苦手らしく、その虫を見ると胸がザワついてフレッシュピーチハートシャワーしそうになるとか……

 

 あぁそっか。優子が桃の夢の中でムキムキのメタ子から逃れるために、ゴキブリみたいな体勢になる腕・脚のごせん像のリリスさんを創造したんだっけか。その時の記憶がまだ残っていたのか……

 

 

「この廃虚風の小粋なアパートに住んでる以上、虫は避けられない」

 

「あぁ?」

 

「廃墟?」

 

 

 今、聞き捨てならないこと言ったな? 言ったなテメェ? 廃墟? 廃墟だと? ここを舐めとんのか?

 

 

「このアパートの事を廃墟と言いやがって……そんなに気に入らないのならここから出て行けやこの野郎‼︎」

 

「えっ。あっ……ご、ごめん。別にここを貶そうとするために言ったわけじゃないから……言葉を間違えただけだから……本当にごめん……」

 

「白哉さん……怒る気持ちは分からなくもないですけど、その反応はさすがに怖いですよ……?」

 

「な、なんか白哉が怖い大家みたいになった気がするのだけど……」

 

 

 あっ、ヤベッ。本心混じりになったせいでさすがに怒り過ぎたな……ちょっと申し訳ないなこの反応するのは。

 

 

「いや、その……正直すまんかった」

 

「う、うん。私も次から言い方には気をつけるよ」

 

 

 ホッ。なんとか許してくれたみたいだ。よかった……堪忍袋の緒が切れるのはよくないことだからな、また大袈裟にキレないようにしておこう。

 

 

「は、話を戻すけど……このままだとよろしくないから『虫除けの結界』を作ろう。シャミ子の家に貼ってある『魔法少女除けの結界』。あれの簡易版」

 

「なんか、魔法少女を虫扱いしているようでヤダな……」

 

「……姉がそう名付けただけだから。これは私は悪くない」

 

 

 いや、別にお前の事を悪く言ってるわけじゃないんだけどな……

 

 

「複雑で頑丈な結界は、センスと努力がないと作れないけど……簡単なのなら姉から教わってるから」

 

「まぁ、あの時まで優子の部屋のドアに貼られていた結界が簡単に出来ていたら、魔族が魔法少女に襲われるというリスクがなかったのかもしれないけどな」

 

 

 それをこの町の魔族の為に、たくさん努力してたくさん作ってくれた桜さんには感謝しかねェよ。ホント、マジでありがとう桜さん。

 

 

「ミカン、いらないチラシとかある?」

 

「あったけど、全部ちっさい箱になってるわ」

 

「え、なんで?」

 

「みかんやデコポンやいよかんやポンダリンやバンペイユを連続で食べても、その都度ゴミを捨てに行かなくていいのよ」

 

「………………ミカン。お前、柑橘類込みのしか食べられない呪いも受けてんのか? お前の中にいる悪魔ってえらい偏食さんだな」

 

「えっ⁉︎ そんなんじゃないわよ‼︎ ただ私が柑橘類好きなだけ‼︎」

 

 

 好きというには、毎日柑橘類を食すのはさすがに異常だぞ。ニコチン中毒ならぬ柑橘中毒か? ってか、よく考えたらポンダリンとバンペイユって何? 知らない柑橘類ですね。

 

 まあそれは置いといて。

 

 ゴキ右衛門をミカンの部屋から追い払うための結界作り、ようやく開始だ。とはいっても、製図みたいにルールに則って正しい作図をする……つまり結界は漫画を描くみたいに構図しろってことらしい、ってなわけ。ゴム掛けとかベタ塗りとか、漫画家による専門用語を俺や優子に言ってきたしな。

 

 で、なんやかんや準備とかして三時間後。思ったよりも結構時間がかかるんだな結界作りって。しかも簡易版で三時間経過やぞ? やばたにえん。

 

 ………………んー……真ん中に『G』って文字が書かれている魔法陣みたいな模様、か……なんか、魔法陣にしては地味な気がする。簡易版のってこんなに地味なもんなのか?

 

 

「シャミ子、完成した図面に魔力を吹き込んで」

 

「えっ、私が⁉︎」

 

「武器で触れながら何となく念じてくれればいいから」

 

 

 指示が曖昧だなオイ。そんなんじゃちょっとした意外なミスで、失敗どころか取り返しのつかないことが起きるかもしれないんだぞ? もうちょっと説明を取り入れてくれないと困るんだよ俺達も。

 

 まぁそんな曖昧な説明を気にする者は俺以外に誰もおらず、優子が渋々となんとかの杖に魔力を込め、結界を一突き‼︎

 

 するとまぁ、なんということでしょう。描かれた魔法陣が淡い色の光を放っているではありませんか。こんだけで虫除け結界が完成して起動するとか……いや起動の仕方があっさりすぎじゃね? 簡易版だからかもしれないとはいえ、漫画みたいに描いた苦労はなんだったんだよ。

 

 何はともあれ、その完成したのを玄関に貼ればしばらくの間虫が来なくなるとの事なので、早速ミカンの玄関のドアに貼って終了・解散って感じになった。結界を作ってる間、ゴッキブーリの事をナチュラルに忘れてしまったから、こんなあっさりした流れで良かったのか……? わからん。

 

 

「そういえば……『しばらくの間』ってことは、あの結界はいつか効き目が消えちゃうんですか?」

 

「効果時間は吹き込んだ魔力の質に比例する」

 

「魔力の、質」

 

 

 よくなかったわ。念じる魔力にも問題があったわ。いや、別に優子の事を批判してるわけじゃないからな? 桃がどうして優子に魔力を注がせたんだって思っていただけだからな? なっ?

 

 

「いにゃあああああああああまた出たーーーーーー‼︎」

 

 

 あっ(察し)。

 

 

「半日も持たないか……」

 

「魔力の質……」

 

「あー……これさ、たくさんの魔力を入れればもっと長持ち出来たんじゃね? それか二人以上の魔力を念じるとか」

 

「結界にも魔力を蓄える量が限られているから、一定の量しか入らない」

 

「量じゃなくて質の方が重要な理由がわかった気がするわ」

 

「量じゃなくて質……」

 

 

 

 

 

 

 ってなわけで、新しく作った(というかコピー印刷した)結界に俺が魔力を注入し、それをミカンの部屋に貼り付けたわけなのだが……

 

 

「だりゃー‼︎」

 

「はい次の紙」

 

「とりゃー‼︎」

 

「はい次の紙」

 

「おりゃー‼︎」

 

「はい次」

 

「へにゃー‼︎」

 

「はい次」

 

 

 優子が額に湿布を貼りながら、桃に渡された結界の紙に連続で魔力を吹き込んでいた。何これ?(ゴロ○風)

 

 

「新しい結界あと十枚」

 

「わんこそばか‼︎ 謎の疲労がすごいです‼︎」

 

「わんこそばというか、締め切りに追われる漫画家かコミケ前の人か何かかよ」

 

 

 コミケレポートの漫画でもそういった場面あったな。実際こんな感じになってたんかみんな?

 

 

「……っていうかなんで私だけ⁉︎ 先程一枚だけ自主的にやってくれた白哉さんならまだしも、桃もミカンさんも手伝えばよろしかろう‼︎」

 

「私も手伝いたいんだけど……」

 

「魔力出せば出すほど慣れてくるから、シャミ子にはいい修行なんだよ」

 

 

 まぁ、確かにいざという時に魔力を使うことに慣れれば困り事は少なくなるけども。だけどさぁ……

 

 

「それ、俺にも当て嵌まるくね? 俺も魔力を使えるようになってから浅いから、修行を受けないわけにもいかないし……」

 

「白哉くんの場合は様々な種類の魔力がお互いを複雑ながらも共有し合っていて、質の高い魔力を作るのも容易い体質みたいだからなんの問題もないよ。その証拠として、泉の時にセイクリッド・ランスとやらを難なく使いこなせていたじゃん」

 

「いや、アレはほとんど脳死で槍振るって技名叫んでいただけのようなものだから……」

 

「私よりも魔力の扱いに慣れている白哉さん……カッコいいけど嫉妬しちゃいます……」

 

「人の話聞けよ」

 

 

 ぶっちゃけ魔力なんて神様から受け取ったもので、それを俺の体内にいる誰かに操作してもらっているのを俺が感覚で補助してるようなものだから、いざという時のために自力で使いたいんだよなぁ。だからこういうのもしたいんだけど……

 

 

「……やらせてあげたら? 白哉もそんな目をしているみたいだし、彼自身もやっておいて損はないと思うわ。それにもしも白哉の魔力がこれまで通りに扱えなくなった時のこともあるし……」

 

 

 ふぉぉぉっ⁉︎ さ、察してくれた‼︎ ミカンの奴が俺の気持ちを察してくれた‼︎ そして代わりに代弁してくれた‼︎ 言うべきかどうかを何故か迷っちまったから助かったー‼︎

 

 

「そ、そっか……わかった。じゃあ白哉くんには、試しにシャミ子の二倍もある枚数の結界に魔力を吹き込んでもらおうかな。で、余裕がありそうなら倍率を増やしていくから」

 

「おっしゃあ‼︎ これで魔力の扱いを上達させてやるァッ‼︎ どんとこいやぁ‼︎」

 

「うわっ、すごい気合い入ってる」

 

 

 オイ、なんでちょっと引き気味な顔になってんだよ。しばくぞコラ。

 

 

「………………よし決めたッ‼︎ こうなったら私もやってやりますよー‼︎ 闇の女帝として、白哉さんの恋人として恥ずかしくないまぞくになるためにも、こんなところで根を上げるわけにはいきません‼︎ やれるところまでやってやりゃー‼︎」

 

「あっ、なんかすまん。空元気で取り組むのはやめてくれんか? 無茶すんなよ? 倒れたら困るから。いやマジで」

 

 

 なんか俺に感化したからなのか、無理に優子のやる気をアップさせてしまったけど……いいのか? これ。

 

 この後、八百五十八枚以上(ここから数えるのをやめてた)もの結界に魔力を吹き込み終えた時には、優子が二百何枚以上の結界に魔力を吹き込み終えて寝落ちしていました。ほら、言わんこっちゃない……

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その22

白哉「───ってなことがあったわけ」
全蔵「平地くん……何故それを俺に話したッスか? さすがの俺でも売られた喧嘩は買うッスよ?」
白哉「いや、すまん。お前がゴキブリ嫌いなのは分かってるから……」
全蔵「分かった上でッスか……?」
白哉「嫌味とかじゃねェからッ‼︎ 話を最後まで聞いてくれッ‼︎」
「まぁ、俺達はさっき言った通りの対策でゴキブリを追い出すことにしたわけだが……全蔵はゴキブリ対策とかしてるかな? なんて……」
全蔵「あぁ、そういう……俺はゴキブリホイホイを色んな場所に設置してるッスよ。それも計十個以上」
白哉「十個以上⁉︎ ゴキブリ絶対逃がさない主婦かよ……」
全蔵「それとゴキブリ用の罠ッスね。ギロチンとか仕掛けのクナイとか、色々なのを家の中のあちこちに……」
白哉「えぇ………………重度のゴキブリ嫌いってことか……」
「というかクナイって本物のヤツ? そもそも買えたのか……?」
全蔵「ぶっちゃけゴキブリに対して本気になりすぎたかなって思ったッスけど、おかげで大量のゴキブリの駆除に成功したので結果オーライだったッス」
「あとその罠のおかげなのか、スズメバチの大群までも大量に駆除できたッス」
白哉「一体どんな罠を仕掛けたんだよお前⁉︎」


僕の一番嫌いな虫は蜂ですね。スズメバチのせいでそうじゃない蜂も怖くなっちゃって……


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夢の中でとはいえ、男の魔法少女(?)との模擬戦勃発……ん? なんで柘榴さん仮面着けてんの?

男の魔法少女はただの男の魔法使いであるかもしれないってことで初投稿です。

今回はあのキャラが力を振いますよ〜。


 

 ミカンの部屋に侵入してきたゴキ松ブリ之助……あっ、今近くにミカンがいないからもうゴキブリの呼び名を変えなくてもいっか。あの家庭の昆虫除けの為の結界を作った翌日のことだ。

 

 俺は昨日は優子との夜のお楽しみをしていないから一人で寝ていて、目覚まし時計の鳴る音……ではなく、メェール君が作った朝飯のいい匂い……でもなく、外から漂うポカポカお日様の匂いで目を覚ました。

 

 ポカポカと心までも温かくしてくれているこの匂いの正体は一体何なのだろうかと、着替えもせずそのまま俺は玄関のドアを開いた。と同時に桃も玄関のドアを開けて出て来た。どうやら外で誰が何をしているのかが気になっていたようだ。

 

 で、ふと左方面をチラリと見ると、そこには三枚の布団が竹の竿によって並んで干されていた。誰か竹の竿なんて持っていたっけ? って一瞬思ってたけど、よく見たら並んで干されている布団を見て幸せを噛み締めているかのような微笑みを浮かべている吉田一家の姿が。

 

 どうやらあの竹の竿の正体、あれ優子のなんとかの杖を変形させたもののようだ。あれのおかげで、これまで一気に家族全員分干すのが難しかった布団を簡単に干せるようになったってわけらしい。

 

 生活が楽になることは喜ばしいことだ。喜ばしいこと……なんだがなぁ……

 

 

「あっ、白哉さん‼︎ 桃‼︎ おはようございます‼︎ 白哉さん、今日は起きるのが遅かったみたいですね」

 

「あぁ、まぁな。それよりもお前、なんとかの杖を日常でも使っていくのか……」

 

「これまで出来なかったことができる上に、なんとかの杖を色々と活用させていくことができますからね‼︎ 一石二鳥ですよ‼︎ えっへん‼︎ あっ、二人のタオルケットも干すのでよろしければ」

 

「もっとまともな杖の使い道を考えて」

 

 

 奇遇だな(んなわけないけど)、俺も同じ事を考えてたぜ。なんとかの杖は本来魔族に代々受け継がれし武器なんだから、もっと変形させるべきものとかあるじゃんかよ。なんでよりによって竹の竿なんだよ……便利だけどね。

 

 まぁなんだかんだ結局タオルケットを出すことにした俺達。なんとかの杖だから長さを変えられるの便利だよな……使い方が使い方だが。

 

 

「桃っていい香りがしますよね、フルーツの桃の香りが」

 

「本人の前で嗅ぐなお前」

 

「それは私のエーテル体の波動をシャミ子がそう認識───じゃない‼︎ 今そこはいいから‼︎」

 

「あっ、白哉さんのも結構いい香りが………………スゥーハァースゥーハァースゥーハァースゥーハァー……」

 

「嗅ぎすぎ嗅ぎすぎッ‼︎ 興奮のしすぎで荒い呼吸を白哉くんのタオルケットに当て過ぎてるよッ⁉︎」

 

 

 こ、こいつ……すぐ近くに人というかそのシーツの持ち主がいるというのに、遠慮とか見境とか、そんな細かいことを考えずにそんな高度なプレイを……‼︎

 

 で、桃に焦りのある指摘(というかツッコミ)で自分が今していたことに気づいた優子は顔を真っ赤にし、シーツの中に顔を埋めた。何どさくさに紛れてまた高度なプレイしてんねん。

 

 

「す、すみません……これの下で抱き合ったことを思い出していたら、つい……」

 

「それを本人どころか人前で堂々と言えるのもある意味スゲェことなんだけど……」

 

 

 ってか、まだ荒い興奮の呼吸をしてるんだけどこの子。どんだけ俺とセッッッした時の記憶を鮮烈に刻み込ませていたんだよ。めっちゃ恥ずかしいんだけどこっちも。

 

 

「ハァ……話は変わるけど、その杖はシャミ子を守る大事なものなんだよ。もう少し運用方法を考えて」

 

「運用……」

 

 

 桃のアドバイスを聞いて何を思ったのか、優子は竹の竿になっていたなんとかの杖を別のものに変形させた。そして変形先は……『桃ちゃん やみおちして』と書かれてある黒いうちわだった。

 

 

「何それ」

 

「アイドルうちわ……」

 

「直ちに元に戻して……っていうかうちわは棒じゃない‼︎」

 

「なんとなく棒じゃないですか⁉︎」

 

「まぁ、前に泉にて変形させたというボウガンよりかは棒に近いんじゃないのか?」

 

 

 だってほら、ボウガンなんて棒の部分が中にある棒状の槍か何かなだけであって、実際にそのまま見えるものじゃないから……

 

 ん? よく見たそのうちわ、裏側にも何か書いてあるように見えるんだが……。ま、どうせそっちにも『桃ちゃんやみおちして』って書いてあるだろうけど───

 

 

 

『白哉さん♡♡ 私と○○○して♡♡♡』

 

 

 

 ゑ?

 

 

「なんつーことをそれの裏に書いてんだよ⁉︎ 今すぐ元のなんとかの杖に戻せ‼︎」

 

「ぴゅありぃえぇっ⁉︎」

 

 

 なんか今、なんかのカードゲームのカテゴリーテーマの一つみたいな悲鳴が聞こえたような気が……

 

 

「………………み、見せようとしなければ見られないかもと思って……つい、出来心で……」

 

「どんな出来心だよ⁉︎ 見られて恥ずかしいものは見られないだろうなとは思っても作るもんじゃねェぞ⁉︎」

 

「ご、ごめんなさい……どうしても自慢したくって、つい……あっ、でも元々私は白哉さんのもので白哉さんも私のものなので、こんなの作って見られても問題ないかと……」

 

「お前が大丈夫でも俺が困るわァッ‼︎」

 

 

 躊躇いがありそうで無さそうな一面もあるから、これも実質ヤンデレ成分を出してんのか⁉︎ とりあえずその文を何かに刻ませるの禁止‼︎ 恋人であるこの俺が許さん‼︎ 限度ってもんを考えなさい‼︎

 

 

 

 

 

 

 優子のなんとかの杖の使い方がアレだったってことで、俺の部屋にてそれに関する会議をすることに。

 

 ちなみに良子ちゃんもこの場にいます。何故かって? アイデア力で優子の力になりたいからなのと、ウチのメェール君とまた話せる機会を作りたかったからだそうだ。アイツとまともにおしゃべりし合ったの、引っ越しすき焼き以来だったしな。分からなくもない。

 

 で、本題がこれ。

 

 

「まず『棒状のものに変形』っていう機能がフワッとしすぎだよ。作れるものの範囲広くない?」

 

「範囲が広いことはいいことなんだけどなぁ。状況に応じて様々なものに変形できるし。ま、とはいっても所有者の発想力と応用力次第っていう課題があるけど」

 

「ウッ……た、たしかに上手く強い武器を作れたのはミカンさんの武器コピーモードぐらいですし、デカい武器を作っても持てなかったですし……」

 

「いや、別に優子の事を貶してるわけじゃないぞ? あくまで一例みたいなのを挙げてたってだけでな……」

 

 

 というか、なんか自虐しだしたんだけど俺の恋人。魔族になってからまだ三ヶ月だからってのもあるんだから、そう自分を卑下するのはやめてくれないもんかねぇ……

 

 ちなみにこの後良子ちゃんが辞典で調べながら棒の意味を説明したら、うちわは厳密には棒ではないことがわかった途端に元の杖に戻ってしまった。本人が疑問に思ったものには変形できないようになっているらしいため、『持つ部分が棒であるから実際棒でもあるんじゃね?』って説いたら戻ったようだ。

 

 もう棒の部分があるもの全部変形できるようにすれば最強じゃね? あとでそういったゲームとかであるものを優子に教えようかな。

 

 

【お茶とお菓子持ってきたメェ〜。……あっ、せっかくだから一つ聞いていいメェ〜か? シャミ子ちゃんは自分の夢の中で記憶を掘り起こそうとしていた時、何でも倒せる『ズルい武器』を作れていたって聞いたメェ〜。それってもしかして、現実には実在しなかったものを作れるメェ〜か? 例えばホラ、はるか昔から偽られていた架空のものとか】

 

 

 あっ、メェール君……それ、俺も似たようなことを考えてたんだけど。ってかそれって、リリスさんの台詞をパクってることになってね?

 

 

「み、見たい‼︎ 倚天剣‼︎ グングニル‼︎ 天沼矛‼︎」

 

「えっ、えっ? 何ですかそれ」

 

「すんごい食いつきしてんな。まぁ小学生ならそういったゲームに出てきそうなのに興味を持ったり憧れたりするものだから、分からなくもないけどな」

 

 

 その後すぐに良子ちゃんが自分が述べた武器がどんなものなのかを早口かつ流暢に説明してきたため、優子が思わず引き気味になってしまった。まぁ……良子ちゃんには悪いけど、俺も思わず引いてしまったよ。俺と桃の事を打ち明かした時の反応よりはマシではあると思うけど……

 

 ってか、今気づいたけど良子ちゃんってもしかしてファンタジーオタクなの? もしかしてFG○か? FG○の記事が書いてある雑誌とかでも見てたのか?

 

 まぁそんなことを原作キャラ達が触れてくれなかったわけで。

 

 んで、何を思ったのか桃が『成層圏を突破できるか確かめたいから全長三十キロメートルもの棒を作ってみて』と優子にお願いしてきた。如意棒かな? というか三十キロメートルのものを持って支えられるか? 桃でもそれは難しいとは思うぞ? 戦闘民族である悟○やベ○ータでも難しそうだし……

 

 とりあえず試しにやってみた優子であったが……変形させることすら出来なかったようだ。そもそもそんなの誰も想像しにくいと思うんだが……

 

 今度は『片割れを売ってから変身を解くとどうなるか試したいから純金の割り箸を作ってみて』というお願いが。錬金術かよ。発想がエグい。お前最早闇堕ちしてね? しかも片割れを売ってから変身を解くとどうなるか試したいって……なんとかの杖が半分になってしまうかもしれなくねそれ?

 

 とは思ったものの、そもそも優子は純金がどんなものなのかも見てすらいなかったため、普通の割り箸しか作れなかったようだ。ってかそもそも純金の割り箸ってなんだよ。純金の箸ならともかく割り箸の方は誰も見てないどころか作れなくね?

 

 

『恐らくシャミ子自身が無意識にストッパーをかけているな。無茶を現実にするための魔力も足りてない』

 

「そもそも優子にはそういった思考に至れない程の優しさがありますからね」

 

『優しさは関係あるのだろうか……? というかそれ、褒めているのか?』

 

 

 関係あるかはぶっちゃけ知りません。勘で言ってるだけですんで。それと褒めては……いないかもしれませんね文面的に。いざという時に役に立たないかも。

 

 

『まぁ良い……シャミ子よ、お主のフィールドは夢の中! 余の封印空間で練習してみてはどうだ。夢の中でイメトレして、徐々に現実世界に持ち込めば、作りづらいものもうまくできるかもしれぬ』

 

「な、なるほど!」

 

 

 おぉ、それは賢いですよマジで。なんだかんだリリスさんのアドバイスって毎回的確だよなぁ。

 

 

『黄金の割り箸は余もいい案だと思う』

 

「私それはやりませんッ‼︎」

 

「そもそもそういった路線では桃と気が合ってほしくなかったですね」

 

 

 今気づいたことなんだが、なんだかんだリリスさんと桃は似てるところがある気がするんだよな……意外と欲深いって一面とかさ、そういうとこが。

 

 

「……みんなおはよう。そこで何をしているの?」

 

 

 と、そこへあの桃を恋する乙女に変えた、外面クール内面感情豊富な大人である柘榴さんが何やらタッパーらしきもの……というよりはデカいタッパーそのものを持ってこちらにやって来た。

 

 

「あ、おはようございま……あの、柘榴さん? その大きなタッパー、一体何ですか?」

 

「……これ? 昨日の夕ご飯の残り。桃なら食べてくれるかなって先程思って、渡しに来た。ちなみにイタリア風肉巻き」

 

「あ、わざわざありがとう柘榴……」

 

「イ、イタリア風肉巻き……?」

 

 

 な、中にチーズとかトマトとか入っている感じの肉巻き……ってことなのだろうか? というか作ったものがちょいとオシャレじゃね?イタリア風って……

 

 

「……ん? その子は?」

 

「あっ、俺が紹介しますね。優子の妹の良子ちゃんです。優子はこの子の事を良って呼んでます」

 

「あっ。良、彼は礎柘榴さん。桃の五歳上の幼馴染ですよ」

 

「桃さんの歳上幼馴染……‼︎ はじめまして、良子です‼︎ お姉達がお世話になってます‼︎」

 

「……良く出来た妹さんだ。僕は礎柘榴、説明された通り桃の……君のお姉ちゃんの眷属の幼馴染だよ。よろしく」

 

「待って柘榴、なんでそんな自己紹介するの?」

 

「……僕がどれだけ桃達の事を理解しているのかアピール」

 

 

 なんすかそれ。どんなアピールなんですか。というかそのアピール、別にいらない気が……

 

 

「……で。話は変わるけど、みんな何してるの?」

 

 

 ちょっと、無理矢理話題変えないでくれません? っていう刹那の怒りを覚えたものの、聞かせておいて損はないなと思い、柘榴さんにも優子のなんとかの杖の事を説明してあげることにした。そしたら柘榴さんは顎に手を当てながら何やら考え事をしているかのような様子を見せ、わずか五秒で口を開いた。

 

 

「……事情は概ね理解した。それじゃあ、見学することってできない?」

 

『あぁ……残念だが無理だな。このメンバーの中でシャミ子の夢の中に呼び寄せられるのは良と白哉、そして白哉の召喚獣だけだからな』

 

「「……えっ?」」

 

 

 リリスさんからの衝撃の(だったらしい)一言がある意味で突き刺さったのか、桃と柘榴さんは思わず目を丸くしてしまった。まぁ、そりゃそんな反応をするでしょうな。

 

 

「えっ……? 良もお姉の夢の中に行けるの?」

 

『うむ、シャミ子の血縁なら呼び出せるはずだ。良も行ってみるか?』

 

「行く‼︎ お姉が数万の軍勢相手に伝説の武器を振り回す姿、見学する‼︎」

 

「あんまりハードル上げないで⁉︎」

 

 

 アーララ。良子ちゃん、優子の夢の中に行けると知って興奮度が上昇してんなー。そしてまた勝手に姉の株を上げようとして……ま、それが姉に対する愛なのだろうけど。

 

 

「あの……リリスさん? 柘榴がいけないのはわかるけど、私も行けないんですか? 一時的とはいえ眷属になったのに……?」

 

『血縁者ではないし、眷属といっても悠久の方でもないからな。なにしろ悠久の眷属になれるのは一人のみだ』

 

「……じゃあ桃も行けないか。残念だったね」

 

「………………よりチケ」

 

『像から手が生えるほど欲しいが物理的に無理なのだ‼︎ 闇堕ちして出直してこい‼︎』

 

 

 あぁ……行きたかったんだな。優子の夢の中に行ってみたかったんだな。優子が特訓してるとこ見たかったんだな。けど行けなくて悔しかったんだな。まぁその……ドンマイ。闇堕ちしても大丈夫な状態になれることを待とうぜ。

 

 ………………ん? アレェ? ちょっと待って?

 

 

「リリスさん、ちょっといいですか?」

 

『どうした白哉よ?』

 

「なんで優子の夢の中に俺も、そして俺の呼び出せる召喚獣達も行けるようになるんですか? 俺は優子との血縁はないですよ?」

 

『お主は白龍と夢の中で話せるだろう? どうやらその能力が余の一族の夢魔の力とリンクできるようになってな……。ま、どっちみちお主はシャミ子と悠久を共にするパートナーになるための契りを交わしたのだ、実質お主も血縁者となり、夢魔の力を手にし、良子みたいにシャミ子の夢の中へと呼んでもらえるぞ』

 

「えぇ……なんですかそのガバガバ判定は。じゃあ召喚獣達は?」

 

『なんか……夢の中でも召喚されそうな感じがしてな』

 

「フワッとしてる‼︎ 確定要素がないし根本がフワッとしてる‼︎」

 

 

 俺が婿みたいなサイドの眷属になったから、それで優子達吉田家の血縁者みたいな感じになれたってわけなのはちょっとわかったけど……召喚獣が夢の中でも呼び出せる理由がやっぱり曖昧すぎる……

 

 

【それだけじゃねーでぃ】

 

「うわあっ⁉︎ 白龍様突然出てこないでくれませんか⁉︎ ってかまた許可無しに……」

 

【いや昨日から小倉の実験に付き合わされたんだぞいっ】

 

 

 あ、そうだった。昨日突然小倉さんが白龍様の鱗がほしいとかなんとか言ってきて、白龍様に来てほしいと頼んできたんだっけ。そして白龍様はノリノリでついて行ったんだった。やべぇ、忘れていたわ……

 

 というか、なんでこの人(?)突然出て来たんだ? 最近出て来ることがあまりなかったとはいえ、いきなり出て来るとか、どういう風の吹き回しだ……?

 

 

【はい、ここで内緒にしてたことを明かしまーす】

 

 

 は?

 

 

【実は俺と白哉、精神を通して二回ぐらい白哉の夢の世界で直接話し合いをしてましたー。しかも召喚獣達も白哉の夢の中に入ることができるんだ。つ〜ま〜り〜……夢の中で意識を持てるようになった白哉なら、たとえ眷属になる前でもぉ? シャミ子の夢の世界に飽き足らず、誰かの夢の世界で俺達を呼び出すことができるってわけ】

 

「「「「『は、はぇ〜……」」」」』

 

「……ふーん」

 

 

 そ、そうだったのか……。まさか精神世界で白龍様と会話できた事が、召喚獣を夢の世界でも呼び寄せることのできる発端に繋げられるとは……恐れ入ったわ。俺、知らぬ内にそんな能力もゲットできたのか……

 

 

【あっ。けど他人を精神を通して一度白哉の夢の世界に赴かせ、そこから他人の夢の中に送ることは無理だけど。ちなみに白哉がシャミ子の眷属になるまでは誰かを白哉の夢の世界に送れること自体も無理だで】

 

 

 あっ、やっぱり限度もあるんだな。そうじゃなきゃ『白哉と白龍に頼めば毎回誰かの夢の中に侵入できる』って考えてしまう身内が出てしまうもんな。優子の夢魔の力を擬似的に使えるとみんな勘違いしそうだしな、うん。

 

 

【ま、先程供述したけど白哉の夢の世界に行くだけならOKだぞ。ま、もちろん本人と俺の許可がいるけどな】

 

 

 いや当たり前でしょ。本人の許可無しに夢の中に潜られるのは、こちらのプライバシー云々に関わることですから。

 

 

「……あっ、それなら」

 

 

 ん?

 

 

「……白哉君。もしよかったら、君の夢の世界で僕と模擬戦しない?」

 

「へっ? 模擬……戦?」

 

「……うん。泉で君が使い魔と戦ってるのを見てから気になってた。君がどれだけ強いのか、持ってる魔法はどれくらいあって、どれほど強いのかって」

 

 

 えっと……これって……もしかしてアレか? 俺の事をチートな槍使いとか何かかと思ってらっしゃる? いや……槍の使い方とかは記憶に刻まれてますけど、変な期待するはのやめてくれません?

 

 

「あぁ、確かに私も気になるかも。白龍様、私も見学できますか?」

 

【もちろんもちろんモチの論】

 

「くだらなっ」

 

 

 おい桃、お前まで何余計な期待を持ち始めてんだ。それとも何か? 久々の柘榴さんの戦闘シーンが見たいだけだってか? 俺は実験台か何かか?

 

 

【で、白哉はどうすん?】

 

 

 いやどうするって言われましてもね……。柘榴さんが言ったどんな能力を持ってるか気になりはしますけど、なんだか乗り気じゃないというか……ん?

 

 

「「ジィー〜……」」

 

「「『ジィー〜……」」』

 

【ジィーラァーチィー〜……】

 

 

 ちょっ、待っ、えぇっ……? なんでみんなして俺の事をジッと見つめてくるんだ……? しかもよく聞いたり見たりしたら優子に良子ちゃん、リリスさんまで……あと白龍様、ポケ○ンの名前を使ってのダジャレはやめてくれませんかね? 腹立つんですが。

 

 むぬぅぅぅ……まさか全員に賛成意見を期待されるとは……これは断るにも断れないじゃねェかチクショウ……

 

 

「ハァ……わかりました。柘榴さん、お手柔らかによろしくお願いしますね」

 

「……ん、よろしく。……よっしゃ」

 

 

 小さくガッツポーズしてんなこの人。お茶目な一面もあるんだなこの人。……おもしれー人。

 

 

「あっ。でもその代わり……優子、お前もきちんと良い戦績を入れておけよ」

 

「えっ。あっ、は、はい……す、すごいプレッシャーが……」

 

 

 そりゃあこちらも圧をかけられたのだからな、それ相応の事をこちらもしないとこちらも無粋ってもんだぜ……多分そう。きっとそうだ。

 

 

 

 

 

 

 なんやかんやあって、誤って俺が優子の夢の世界に入ってしまうミスを避けるべく、自分の部屋にて桃と柘榴さんと一緒にめっちゃ早い就寝に入った俺は、目が覚めた時にはチェス盤のような白黒の市松模様の場所に立っていた。こういった場所は俺の夢の中の世界となっており、ここで白龍様と直接話し合いをしている。

 

 だが、今回はいつもとは状況が違う。何故なら……

 

 

「ここが白哉くんの夢の世界? なんだか『このす○』感があるね」

 

「ぶっちゃけ俺もそう思っている」

 

「……異世界アニメの振り返り、したくなった」

 

 

 先程の白龍様の供述通りなのか、マジで桃と柘榴さんが俺の夢の世界に来れたからだ。

 

 本当に呼び出せるんだな、寝てる人の意思をここに。しかもリリスさんみたいに血縁者しか呼べないってわけでもない、と……アレ? ひょっとしてこの能力、リリスさんのよりも優秀なのでは? それに気づいたリリスさん、きっと涙目だろうな……(汗)

 

 

【おーう、全員集まったな】

 

「うおうっ⁉︎ いきなりテレポートしたみたいな感じに出て来ないでくれません⁉︎」

 

「うわっ白龍さんでかっ」

 

「……ちゃんとスケッチブック無しで喋れてる」

 

 

 お久しぶりぶりぶり大根ですね、本来のサイズの方でお会いするのは。

 

 

【お久しブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブリ大根ですわ!!!!!!】

 

「「ブフォウゥッ⁉︎」」

 

「……ウッ、ウプッ……」

 

 

 おま、心の中を読まれて実際に言ってくるかもしれないことを考えて、敢えて元ネタの方でふざけた挨拶をしたってのに、ネタを勝手に引っ張り出してきて俺達を笑わせに来やがって……‼︎ あ、いや、こんな事を考えてしまったこちらにも分はあったけどさ……

 

 

【早速だが白哉と柘榴、お前らは模擬戦をやるんだったよな? 今からそれをもう始めてもらうからな】

 

「えっ、いきなり始めさせるんですか?」

 

【おう。だっていつお前らの肉体が起きるか分からないだろ? だったら早めに始めておくに越したことないぜ?】

 

 

 まぁ、一理ありますね。肉体ってのは中々自発的に起きることができないことが多いですしね。目覚まし時計とかが必要な時が多いし……とはいっても、個人的解釈ですけどね。

 

 

「……まぁ、時間がないのかもしれないのなら仕方ない。早速準備するね」

 

 

 そう言った途端、一瞬にして柘榴さんの周りが緑色の光に包まれた。その光が収まった時には……予想していた通り、柘榴さんの姿はガラリと変わっていた。

 

 顔には白黒のドミノマスクを着けており、服装はマグル的な青色のネクタイ、灰色のロングシャツ、藍色のスラックス、シャツの上に足の甲に付きそうなほど長い黒ローブを羽織っていた。

 

 ……何これ? 素顔を隠しているハ○ー・ポッ○ーのホグ○ーツ魔法魔術学園の学生か何かなのかな? というか女装でも女体化するわけでもなく、きちんと男の魔法使いであることを主張しているかのような衣装なのか……

 

 なんだか変な印象をされないという意思が感じられて、なんだか優しく思えるな。仮面を着けているという違和感は感じるけど。いやホント、何これ?

 

 

「久しぶりだね、柘榴の変身した時の姿。シンプルに男性の魔法使いらしさが出て………………その……か、カッコいい……」

 

 

 はいはいノロケノロケ。顔を真っ赤にして外面は照れ顔演技中の金欠ベーシスト、内面は大抵のマジ照れ中の少女漫画の女性キャラモードって感じになっているじゃないですかヤダー。付き合う前の俺と優子に対して『はよ付き合え』とかお節介に煽ってた癖に、自身の恋に弱いとかどんなキャラだよホント。

 

 

「おっと、さっさと変身しないとな。我が名は召喚師・白哉───‼︎ からの解放せよ、セイクリッド・ランス‼︎」

 

 

 このまま柘榴さんを待たせても、夢の中とはいえ彼の魔力とコア的にアレだと思うので、こちらも戦闘態勢に入ることに。もちろん即座にセイクリッド・ランスを解放させて構えてます。柘榴さんがどれほど強いかわからないし、警戒とかするでしょうが。

 

 

「準備できたね。それじゃあ……」

 

 

 すると柘榴さんが右手を真っ黒な天井(?)に掲げる。そしたらその手どころか半身を完全に覆い尽くすようにまたもや光が発生する。そして、その光が収まった時には……

 

 

 

 黄緑色のちょい太めで頑丈そうな鎖が付いた、深緑色のトゲトゲ付きのドデカい鉄球──チェーンアレイの鎖が、柘榴さんの両手に握られていた。

 

 

 

 ………………いや、あのさぁ……

 

 

「始めようか」

 

「衣装に似合わない武器を出すのやめてくれません⁉︎」

 

 

 なんでだよ⁉︎ なんでハ○ー・ポッ○ー衣装になった癖に武器が魔法の杖じゃなくて、脳筋系どころか魔法関係ない方の武器なんだよ⁉︎ 貴方魔法使いの概念とかをどう捉えているんですか⁉︎

 

 ……いや、ちょっと待てよ。逆によく考えてみろ平地白哉。桃は魔法少女の癖にならなくても、異常な筋力で色々と解決してる感じがする。ハートフルモーフィングステッキを持ってるからちゃんとした魔法も使えそうな彼女みたいに二刀流な感じに戦えるかもしれない。

 

 つまりはどういうことか? 柘榴さんの武器はあのチェーンアレイだけではない可能性があるってことだ。いや寧ろそうであってほしい。そうであってくれ。そうであってくれないと、なんで柘榴さんはあの衣装になったんだって思ってしまうから……

 

 ここは敢えて本人に聞かず、桃に聞いてみるとするか。

 

 

「なぁ、桃……?」

 

「ん? 何?」

 

「柘榴さんの武器ってさ……あのチェーンアレイの他に何かあるのか? 例えば、ホラ……ファンタジーRPGや物語みたいに杖を持ったりして……みたいな?」

 

 

 さぁどうなる……どうなる……どうなる⁉︎(ここはどうなんだって言うところだったわ)

 

 

「えっ? あぁ……

 

 

 

 普通にあのチェーンアレイだけなんだ、柘榴の使う武器。ちなみに名前はギャップマジカルチェーンアレイ」

 

 

 

「俺の期待は無駄でしたッ‼︎」

 

「……危なかった」

 

 

 と、叫びながらセイクリッド・ランスを柘榴さんに突きつけ始める俺。色々と最低なの、俺だったわ……。ま、これは柘榴さんが冷静に鉄球を前方に出して、セイクリッド・ランスを弾いて防いだんですけどね。

 

 というか、ギャップマジカルチェーンアレイって何ッ⁉︎ 狙って名付けたのか⁉︎ 柘榴さんが自分の衣装に似合わない武器を敢えて選んだことをきっかけに、『これを持つとギャップを感じるよね?』と質問しているような感じか⁉︎ アァッ⁉︎ どうなんですかァッ⁉︎

 

 ん? なんか亀の甲羅の模様みたいなのが透明に浮かび上がって……

 

 

「……離れなよ、飛ぶよ」

 

 

 って聞こえたのと同時に、その模様は俺を押し返した。なんとかくるりと回って着地したのはいいが……驚いた。アレはバネみたいに敵を押し出す光の障壁だったのか。

 

 しかもチェーンアレイから出てきた感じだったということは、あの武器を中心に魔法も出せると……チクショウ、柘榴さんも桃みたいに脳筋で戦うのかと思ったぞ……

 

 

「私も力のゴリ押しで戦うわけじゃないからね」

 

 

 あっすいません、聞いていらしたのですね。お前の事も柘榴さんの事も脳筋だと思ってマジですいませんでした。

 

 

「……ほら、次いくよ」

 

「えっ?」

 

 

 あの……その場でチェーンアレイを天井に向けながらブンブンと振り回すとか何を考えているんですか? というかよく見たら周りにないはずの木の葉がたくさん集まって来ているんですが……

 

 って、うおっ⁉︎ た、竜巻が……チェーンアレイを中心に竜巻が発生しているんですがッ⁉︎ 何これ、ポケ○ンのリー○ストー○か何かなんですかッ⁉︎

 

 

「……フォレストハリケーン」

 

 

 何そのリー○ストー○の強化版みたいなネーミングは。ってそんな事考えている場合じゃないだろ俺⁉︎ なんかあの竜巻投げてきそうな感じがするし、こうなったら……‼︎

 

 

「尋常無き寒波に凍りつけ、ブリザードタイフーン‼︎」

 

 

 セイクリッド・ランスを上に掲げながらそう叫んだ途端、その槍の槍身を中心に、フォレストハリケーンと同等ぐらいのデカさを誇る竜巻が発生した。それもその周りに氷の礫が回っているため、名前通りのブリザードである。

 

 

「……3・2・1・ゴー……」

 

「シュート!!」

 

 

 ついノリに乗ってしまったけど、なんでベイブ〇ードの掛け合いと同時に竜巻投げ飛ばしているんですか? 好きなんですか? ベイ〇レード好きなんですか?

 

 そんな事を考えている間に竜巻と竜巻はぶつかり合っていくうちに互いにどんどん小さくなっていき、やがて完全に相殺されてしまった。

 

 

「……ガイアクエイク」

 

 

 柘榴さんがチェーンアレイを地面に叩きつけた途端、そこを中心に地を砕く。その砕けた地面が急に盛り上がり、だんだんと俺に向かってくるかのように迫っていく。

 

 そっちが攻撃してくるというのなら、こちらは……‼︎

 

 

「あわよくば弾き跳ね返せ、ラプターミラー・プレート‼︎」

 

 

 破裂による反射を意味しているらしいその技。セイクリッド・ランスを地面に突きつけた瞬間に盛り上がり出てきた巨大な岩石の壁が、迫ってきて衝突した地面を破裂させ、それによって出来た塊等が一斉に柘榴さんに迫っていく。

 

 

「……大地の力には大地の力、か……面白いね」

 

 

 その塊達は柘榴さんがチェーンアレイを前方に振り回したことにより、鉄球に当たった塊は全て木っ端微塵に破壊されていった。まぁ、あの程度で善戦できる相手だとは思ってないけどな。

 

 

「……今度は大技、いく」

 

 

 えっ、大技? それってアレですか? 代名詞とも言える自慢の必殺技だったりしますか? というかそれ使うの早くね? もうちょっと様子を伺ってからでもよくないですか?

 

 まぁ心の声なので当然考えを改めてくれることはなく、柘榴さんは鉄球を天に掲げ始めた。そしたらその天に、現れるはずのない黒い雲が漂ってきた。その雲が出てきたことに合わせ、柘榴さんが鉄球を振り下ろした途端……

 

 

「……トールボルテックス‼︎」

 

 

 複数もの雷撃が、雲から次々と降りかかってきた。いや、何それ⁉︎ ア○ンジャー○のトー○か何かですか⁉︎ ちょっ、危なっ⁉︎ よっと‼︎ ほっと‼︎ あらよっ‼︎ そいっ‼︎ せいっ‼︎ はいっ‼︎ ……よく綺麗に躱わせているな俺⁉︎ 普通雷の落ちる場所って素だと予測できないことだぞ⁉︎

 

 とりあえず何回も躱してみたけど、一向に雷撃が収まる気配がないな。アレが柘榴さん渾身の必殺技か。だったら……俺も渾身の必殺技で対抗してやる‼︎ 攻撃範囲が広いし、相殺するに越したことはない‼︎

 

 そう誓った俺はセイクリッド・ランスを両手で持ち、天に掲げた。そして気を集中させる為に目を閉じ、精神を研ぎ澄ませる。

 

 刹那。セイクリッド・ランスどころかその上空の部分全てを覆い尽くすかのような光の柱が、槍の形を作るように生成された。それが出来たことに気づいた俺は左手を離し、持ったままの右腕を後方へと下げ───

 

 

 

「穿て、ロンゴミアドッ‼︎」

 

 

 

 柘榴さんに──というか降り注いでくる複数の雷撃に向けて槍を突き出した途端、光の柱は奔流となってそこへ目掛けて迫り始めた。

 

 全てを覆い尽くさんとするその奔流が、一度に複数降り注いできた雷撃とぶつかり合った途端、突如発生した光が一瞬にして俺達を包み込み───

 

 

 

 

 

 

「「「ハッ⁉︎」」」

 

 

 気がついた時には俺と柘榴さん、桃の三人とも起き上がった。

 

 

「………………って、は? もう起きちまったのか俺達?」

 

「ど、どうなったの……? まだ起きてしまいそうな感覚はなかったはずなんだけど……」

 

「……いいところだったのに」

 

 

 もちろんいつの間にか三人揃って起きてしまった俺達は困惑したり不満そうになったりしており、『まるで意味が分からんぞ』状態になっているわけだ。ロンゴミアドとトールボルテックスの衝突、結局どっちが制したというんだ……?

 

 

【あー、やっぱりお前らも起きてしまったか】

 

「は、白龍様……俺達、あの瞬間どうなってましたか?」

 

 

 というかお前ら『も』ってことは、白龍様もあの激突の瞬間に起きてしまったのか。しかし何故……?

 

 

【これは……アレだな。夢の世界での限度超え、かもな】

 

「限度超え?」

 

【恐らくあのロンゴミアドとトールボルテックスとかいう技のぶつかり合い、互いのとてつもない威力の技がぶつかり合ったことによる衝撃が夢の世界で俺達を維持させる力を大きく削いでしまった……というか押し出してしまったみたいだ。別に削がれたからってもう夢の世界に赴くことが出来ないってわけじゃないが、バカデカい火力とバカデカい火力のぶつかり合いをしてしまえば強制的に現実世界へと引き戻されるという原理が働いてしまったってわけだ】

 

 

 不確定要素もあると言っているみたいだが、要するに大技と大技の衝突が、ゲームのバグみたいに予想のつかない結果を生み出してしまったってわけか……取り返しのつかない結果にならなかっただけマシ……なのか? とにかくゾッとした結果だったわ……

 

 

「……つまるところ、引き分けの可能性が高かったってことだね」

 

 

 まぁ……そうですね。突然現実世界に引きずり戻されてしまったので、勝敗がどうなったのか曖昧になってしまいましたしね。これは仕方ないのかも……

 

 ん? なんか突然手を差し伸べられたんだけど……?

 

 

「……結果がどうであれ、いい技っぷりだった。誰かと戦って心から『楽しい』と思えたのは初めてだよ。またやろうね」

 

「えっ……あっ、はい……」

 

 

 これは、一応柘榴さんに認められたって思えばいいのか? ってかまたやろうねって、いつかまた勝負を吹っ掛けるつもりですか貴方は。ま、まぁいいや。俺もセイクリッド・ランスに慣れるための経験をしてもらったし、柘榴さんが満足してくれたのならそれで良しとしとこう。

 

 

「………………ちょっと、妬けるかな」

 

 

 なんか髪の毛ピンクの呟きが聞こえた気がするけど、無視だ無視。

 

 この後なんとかの杖の使い方に慣れて起きて戻ってきた優子達と共に、リリスさんが密かに練習して封印空間内部の視覚イメージを念写したのを見ることになったものの……映った写真が心霊写真みたいな感じになってしまったため一同仰天する羽目になりました。夢に出てきそうな程の怖さだった……ホラゲーよりはマシだけど。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その23

『呪いの朱槍を所望するか? その心臓、貰い受ける‼︎ 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)‼︎』

『邪悪なる竜は失墜し、世界は今、洛陽に至る! 撃ち落とす――幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)‼︎』

『原初を語る。天地は分かれ、無は開闢を言祝(ことほ)ぎ、世界を裂くは我が乖離剣。星々を廻す臼、天上の地獄とは創世前夜の祝着(しゅうちゃく)よ! 死を以て靜まるが良い。天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)‼︎』

『束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。この灯りは星の希望、地を照らす生命の証。受けるが良い――約束された(エクス)……勝利の剣(カリバー)ァァァッ‼︎』

シャミ子「───ってな感じに夢の中で発動させたかったんですが、それだと丸パクリになるんじゃないかって思い、断念しました……」
白哉「出来たら出来たでスゴいしカッコいいし見たいけど、もしものためのプライバシー保護か……」
「いや、元ネタでも他の使い手が許可無くアレンジ使用しているし、ぶっちゃけギリギリセーフになるんじゃないのか?」
シャミ子「ど、どうでしょうかね……? で、でも正直約束された勝利の剣(エクスカリバー)は撃ちたかったです……」
白哉「わ か る」



夢の世界ってさぁ……起きたら何を体験したか忘れちゃうよね?

それはそうと、どうやらシャミ子の中の人はFateのキャラを演じてないそうです。早く誰かを演じてくれー。


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新学期+シトラスレディの転校初日+一般枠男オリキャラの今更すぎる登場……なんかすまん

突然非戦闘員オリキャラもちょいと出るよってことで初投稿です。

さすがに男モブ枠がいないのもアレなんでね……


 

 やっハロー‼︎ 俺だよ、白哉だよ‼︎ みんなは夏休みが終わってしまいそうで悲しいと思っているかー⁉︎ 二学期が始まって憂鬱になったことはあるかー⁉︎ ちなみに今の俺はそんなこと思ってないですね。濃厚かつ非常識な夏休みを体験しすぎて、気がついたらもう二学期が始まるんだなーみたいなテンションになってる。

 

 まぁ俺の場合はどうなのかってのは置いといて。二学期が始まったのと同時に、今日からミカンが転校することになったぞー。イェーイ。ドンドンドン、パフパフパフー。とはいっても、当の本人は緊張気味……というかめちゃくちゃ緊張している様子ですがね。

 

 

「私……きちんと転校の自己紹介できるかしら……呪いの体質のこと、話しても引かれないかしら……」

 

「大丈夫、皆受け入れてくれるよ」

 

「私はミカンさんが今日から同じクラスで凄く嬉しいし、楽しみです」

 

「ま、こういう風にいざとなったら俺達がいるんだ。何かあった時には助けてやるから、もっと気楽にいこうぜ」

 

 

 ……ん? アレ? なんかどっかでこういった対応をしてもアレだとか聞いた気がするけど……

 

 

「……そんなエモいこと言われても呪いしか出ないわよ‼︎」

 

 

 ぶにゃっ⁉︎ 突然飛び出してきた野良の芝犬と野良猫。そいつらは優子に飛び掛かったり肉球で俺に殴りかかってきたりしてきた。……いやお前らどっから現れた⁉︎

 

 

「そういえば嬉しすぎても呪いが出るんでしたっけ……」

 

「そういえばそうだった……そういったタイミングでの呪いの発動は最近なかったから、すっかり忘れてたぜ……」

 

 

 うーむ、今課題を思いついた。というよりは思い出したと言うべきか。これからはミカンの呪いが発動しないように、ある程度刺激を与えないように立ち回らないとな。にしても飛び掛かり肉球猫パンチは思ったよりもイテェ……

 

 と、そんな事を考えていたら。

 

 

「ふぅ〜〜〜……おはよう白哉君、シャミ子君、千代田君、陽夏木さん」

 

「おう、おはよう拓海……って、なんでイナバウアーしながら滑って登場してんだお前は」

 

 

 ウザキャラの割合1:過保護キャラの割合9の陰陽師・拓海の登場である。って、ふぅ〜〜〜ってなんだふぅ〜〜〜って。その上でのイナバウアーでの登場とかムカつくんだけど。

 

 

「あぁこれ? 俺、フィギュアスケートの番組を観て競技に影響されてしまったみたいなんだ。どうだい? 美しいフォームはできているかい?」

 

「あーうん、そうだな。かっこいい」

 

 

 だが突然の久々のナルシストモードはちょっとな……まぁいつものお前の性格に免じて許すけどさ。で、イナバウアーはすぐにやめると。ナルシストならあのままもう少し継続させるがそれをしない傾向からして、完全なるナルシストでもウザキャラでもない証拠だ。

 

 

「……ねぇ、拓海ってあんな性格になることあったのかしら?」

 

「あぁ、拓海くんがいつもと違うあの雰囲気を見せるのは稀な程度らしいですよ。クラスの皆の憶測ですけど」

 

「あぁ、なんか噂ではアレを見れたらラッキーだとか皆言っていたよ」

 

「そ、そうなの?」

 

 

 知らん……何それ……怖……

 

 なんで拓海がウザキャラになることが珍しいことになってんの? そしてそれが幸運を呼び寄せる感じになってんの? ぶっちゃけ初耳なんですけど。というか俺、そのレアな光景の状態である拓海にもよく会っているんだが……色々と分からねェよマジで。

 

 

「アレ? 陽夏木さん、その服……あっ、そういえば今日は俺達の学校に転校する日だったっけ?」

 

「えっ。そ、そうだけど……」

 

「それはよかった。それならいつでも君に何かあった時に助けられるね」

 

 

 拓海はそう言って、ミカンの両手を優しく握り始めた。何の躊躇いもなく、何の企み云々もない感じに。

 

 

「えっちょっ……」

 

「もしも困ったことがあったらいつでも相談しに来てくれ。俺もできる限り協力するよ。前にも言ったけど君の力になりたいし」

 

「あっ、うぅっ……」

 

 

 あのさぁ……他意もなくというか何も考えずにミカンにドキドキさせるような真似をするのやめてくれませんかね? ドキドキさせる事も本来なら彼女の呪いが発動するんだからさぁ……ホントにやめてくれません? このバグみたいなのがいつまでも通用できるとは限らないけどさぁ……

 

 

「……シャミ子。こういう場面を指摘したらまたミカンの呪いが発動してしまうから、今は抑えよう」

 

「人というかまぞくを短期な奴だと思わないでいただきたい‼︎ さすがに二・三回経験したのですからもうそんなヘマはしませんよ」

 

 

 なんか二人がコソコソと話してるな。どうやら今の状況でのミカンの呪いの話をしてるみたいだけど、そんなに声が小さくないからミカンに気づかれ……

 

 

「ポォッ〜〜〜……」

 

 

 てないのかもしれへん。すっかり呪いを発動させずにいる拓海に骨抜きにされてるんだけど。おかげであの状態では今の二人の話が耳に入ってないだろうし、何より呪いも発動してない……

 

 拓海、ここで勝手に礼を言わせてくれ。お前がこの世界にいて本当によかったよ……

 

 

 

 

 

 

 まぁなんだかんだあったけど、とりあえずあそこから到着するまでにまた呪いとかいった事件みたいなのはなかったわけなので問題はなしっと。安心して登校できたぜ。

 

 で、ミカンがウチの担任の浅瀬先生のところに行っている中、俺達は各々の教室へ。とはいっても俺達四人の中でクラスが違うのは桃だけなんですがね。

 

 

「よっ‼︎ おはよう白哉‼︎」

 

「うおっ、ビックリした。なんだ勝弥か、おはよう」

 

 

 席に座った俺に突然声を掛けて驚かせてきたこいつは、広瀬勝弥。少し黒がかった茶髪に薄い翡翠色の瞳をした男子だ。身長は百八十センチで、俺よりも身長が十も高い。身長デカ過ぎだろ……

 

 ちなみに杏里と同じテニス部で、実は夏のテニス大会に一年生ながらも出場し、大量得点を獲得して優勝したんだとか。お前、プロの世界に挑戦してみたら?

 

 とはいっても、今の俺や拓海・全蔵みたいに特別な力を持っているわけでも、優子や桃・ミカンみたいに何らかの一族であるわけでもない。ただ滅茶苦茶テニスが上手い、普通の人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。この世界でいう杏里ポジションやな。だからテニスも上手いのか……?

 

 

「久しぶりに会ったけど、今日はいつもと違って明るい感じが出てるな‼︎ いつに増して笑顔というか‼︎」

 

「そっか? まぁ最近色々あって、気が楽になってはいるんだけどな」

 

 

 勝弥の勘(?)の通り、優子と付き合い始めてから俺の心の中で縛り付けていたものが解き放たれた気はしていた。警戒するものが無くなったというか、寧ろ思いっきり受け止めようという思考に変わったからというか……

 

 

 

「あっ、もしかしてアレだろ⁉︎ シャミ子とマジで付き合うようになったからとかだったりして‼︎」

 

 

 

「えっ」

 

 

 は? えっ、ちょっ……えっ? な、なんで知って……? その事は登校日には一切伝えてないはず……優子だけでなく桃や杏里、全蔵や拓海にも念を入れて口止めしたんだぞ? なのにバレるはずが……

 

 

「いやぁ前から学校中で結構噂になっているんだぜ⁉︎ お前とシャミ子はせんぞがえりする前からよく一緒にいる程仲良しだったし、シャミ子が何やらお前を独占しようとしてるけど遠慮している……みたいな動作もあったし、それを気にしてないのか気付いているのかお前もお前で蔑ろにする気配を一切見せないし、その他諸々の出来事もいくつか相まって皆が皆『もうお前ら結婚しろよ』ってなってな‼︎ あっ、理事長も応援しているとかどうとか‼︎」

 

「それを当の本人の一人の前で堂々と言うか? 普通」

 

 

 っていうか、いつの間に学校全体で俺と優子はそういう認識を受けてたのか? しかも理事長まで公認みたいな感じにしてるし……怖いわこの学校。

 

 

「で、実際のところどうなんだよ?」

 

 

 ……これ、いつか絶対バレちまう噂だよな? 言い逃れができない感じだよな? ……腹を括るしかないか。幸いこいつにだけ明かして口止めさせておけば全員にバレるまでの時間を引き延ばし出来そうだし、バレた後も被害が出ると思うし……多分。

 

 

「………………そうだよ、付き合うようになってんだよ。念のため他の奴には言うなよ? 一番の被害に遭うのは優子なんだから」

 

「あーやっぱりか。となるとすぐバレるかもだけど、まぁ人の良いお前を裏切りたくないから内緒にしとくよ」

 

「本当だな? 本当に誰にも言わないんだな? 絶対に言わないんだな? バレた時に原因がお前だと分かったらその時点で絶縁するからな?」

 

「絶縁って……俺らは兄弟か何かかよ? 言わねーから落ち着けよ」

 

 

 すまん、さすがに疑心暗鬼になりすぎた。学校中に勘づかれていたものだから……気をつける。

 

 と、そんな事を考えてたら朝のホームルームが始まる時間となった。つまりどういうことか? ミカンが転校生としてここに来る瞬間である。

 

 

 

 

 

 

「陽夏木ミカンです。魔法少女です! よろしくお願いします‼︎」

 

 

 自己紹介で魔法少女を名乗ることにした世界線のほむほ……〇美ほむ〇ですか? 受け止めの度量が凄くてある意味良い人すぎる多摩町の人達の前だからいいけど、それ以外の人の前ではどう対処すると?まぁ、二次創作でお馴染みのガバガバ設定だからしゃーない部分もありそうだけどな。

 

 というか今気づいたけど、なんで小倉さんこのクラスにいるの? クラスちゃうやろ?

 

 

「───陽夏木さんは幼い頃の事故で少し変わった体質になっています。動揺すると体内の魔力的な防衛機能が勝手に発動して、周辺の人に小さな災難を与えてしまいます。呪いの発動は陽夏木さんの心拍数や怪我が引き金になっているそうです」

 

「……ちょっとあれな体質ですが、受け入れてもらえるように頑張ります‼︎」

 

「ドッキリ仕掛けようとしてる人は覚悟してくださいね」

 

 

 浅瀬先生……貴方ミカンの体質を全部ストレートにかつ割と細かく説明しますね。教師の癖に人の心とか半分しかないんですか? しかもドッキリ非推奨とはいえ止めはしないとか……面白い反応とか期待してるんですか?

 

 

「びっくりNGか〜。歓迎のクラッカーはいつ鳴らせば?」

 

「お前は何をしようとしてるんだ」

 

「杏里ちゃんノーです‼︎ しまってくださいっ‼︎」

 

「別にアポ取れば堪えてくれて呪いとか───」

 

「勝弥、ステイ」

 

「お、おう……」

 

 

 歓迎しようとしてくれているのはいいけどさ、遠慮ってものを考えなさいな。下手したらとんでもない呪いを受ける羽目になる可能性、あるぞ?

 

 

「皆さん、陽夏木さんに何か質問はありますか?」

 

「呪いのこと、魔法少女のこと、なんでも聞いてください」

 

 

 うーん……ここなら普通はその二つの事を皆一切に質問してくるところなんだけど、この世界の多磨町の人達のことだからな……

 

 

「目玉焼きに塩・醤油・ソースどれかける派ですか?」

 

「朝から揚げ物食べられる派?」

 

「体はどこから洗い始めますか?」

 

「服やアクセサリーはどのブランドをよく買ってますか?」

 

「好きな教科・または得意な教科はありますか?」

 

「美容はどの部分をよく気にしてるー?」

 

「男女ともにファンタジー要素ガン無視の質問ね……⁉︎」

 

 

 うん、そうなんです。これが多摩町民なんです。受け入れるスピードがエグいんです。ここは慣れていきましょう。というか三人目、お前の質問は犯罪臭がヤバいんだよ。しかもその質問をした奴が女子て。最後の男子の美容に関する質問の方がまだマシだぞ。最悪彼を見習いなさい。

 

 

「あの……体質のこととかもう少し聞いてくれても大丈夫です。寧ろ知っておいてもらった方が───」

 

「頭の不思議リボンの構造はどうなっているんですか〜?」

 

「これはエーテル体から生えてるもので、気分で移動もできまーす♡ ……だからそういう温度の質問じゃなくて‼︎」

 

 

 はい、ギャルっぽいノリツッコミ乙。ツンデレっぽかったりお嬢様っぽかったりもしてるけど、お前の中のキャラ渋滞してんの?

 

 

「魔法少女の先祖って誰ですか⁉︎」

 

「いやさすがにそれは知らないです⁉︎」

 

 

 勝弥、お前オチを狙ってわざとそんな質問したのか⁉︎ タチ悪ッ⁉︎

 

 

 

 

 

 

 ミカンの自己紹介が終わり、休み時間。彼女は上手く自己紹介できたかと不安だったようだが、全然問題なかったぞ。よくやったな。よく呪いを一切発動させずに済んだ。それと皆に受け入れてもらえてよかったな……いや受け入れてもらえたのはなんとなく予想していたけどな。

 

 とりあえず優子、その『かんきつ』と書いてあるうちわに変えたなんとかの杖を戻しなさい。桃に杖で遊ばないでとツッコまれとるやないかい。

 

 ちなみにこの後ミカンは杏里や勝弥とのID交換をする程に仲良くなりました。友達IDが増えるのはいいことだ。悩み相談をいつでもできる人が増えるからな。

 

 

「あのふるふるするやつ楽しそうです。私もスマホ欲しい‼︎」

 

「……私もシャミ子はスマホ持った方がいいと思う」

 

「だな。いざという時にいつでもどこでも連絡し、お金要らずで楽しめるゲームもできるから、スマホは持つべきだぜ」

 

「あっ………………うーん……」

 

 

 ん? 優子の奴、なんか悩んでいるような様子を見せているな? 値段の事なら確かに高いから悩むのも分かるけど、原作ではすぐにその事を指摘しているんだし、別に言うのを躊躇わなくてもいいんやで?

 

 

「シャミ子、なんで悩んでいるの?」

 

「いえ、その……よく考えてみたら、もし私がスマホを持ったらヤバくなってしまいそうな気がして……」

 

 

 は? ヤバくなってしまいそう? なんで?

 

 

「なんというか、その……白哉さんにしつこく連絡してしまう自分を想像してしまって……そして何かしらの問題があるかもしれないのに『なんで反応しないのか』と責めそうな気もして……」

 

「「……あぁ……」」

 

 

 なるほど、自覚あっての躊躇ってことか。うぅむ、よく考えたらヤンデレがスマホを持って好意対象の連絡先を手に入れた後って……うん、確かにヤバいな。優子がそうなった時の自分を危惧するのもわかるわ。

 

 

「……リリスさんを改造して電話機能をつければ、平地くんがスマホに触れる余裕があるのかどうか分かるし値段もタダだよ‼︎」

 

『小倉よ、イエローカードだぞ』

 

「いやレッドカードッスよそれは。あと小倉さんは人の心とかないんスか?」

 

 

 というか誰かこの倫理観ゆるキャラをなんとかしろよ。いつか絶対警察沙汰になるやろがい。

 

 話は変わり、杏里と勝弥がミカンをテニス部に誘おうとするが、本人は身体能力の高い魔法少女が普通の人達に混じってスポーツするとバランスブレイカーになってしまうため、気持ちは受け取るけど断ることにした感じになった。

 

 ここで杏里が桃とミカン、魔法少女同士がテニスバトルをするのは面白そうだし盛り上がるのではないかと推測する。それに優子がすごい食いついてきたが、桃はサーブでボールが割れてゲームが終わってしまうからやらないと言う。

 

 まぁ……桁外れの力を持った人達同士がやったらそれはもうテニスじゃなくてテニヌになっちまうからな。桃が却下するのも分からなくもない。

 

 

「スポーツと言えば……もうすぐ体育祭だよ。私と勝弥、体育祭委員もやっててさぁ。紅白に分かれて点数競うんだけど……魔法少女ズはどうしよう」

 

「そこは普通に各組一人ずつ入れればいいんじゃね? 二人は五十メートル走は何秒程だ?」

 

「六秒ね」

 

「三秒」

 

「あっ、千代田さんが思ったよりもヤベェわ」

 

 

 わかる。女子高生の五十メートル走は一番速くても六.五四秒程らしいのに、それの半分くらいのタイムで走り切るとかマジでヤバいよな。さすがは筋トレ好き魔法少女だわな。

 

 

「まぞくは八秒五です」

 

「それはそれでちょっとどうかと思うぞ。微妙だから」

 

「んなこと言うなコラ。遅すぎるってわけじゃないから文句言うな」

 

「なんで白哉が怒るんだよ」

 

 

 恋人を批判されたらそりゃ反応するわ。それに優子は俺が鍛えさせなかったら今よりももっと遅かったぞ? 俺に感謝することだな……あっ、俺の介入がどうとかを信じる奴いないか。そもそも言ってないし。

 

 

「魔法少女は点数に入れないのが無難だと思うわ」

 

「……そっかぁ。なんか……せっかく来てもらったのに交じってもらえないのはちょっと寂しいね……」

 

「だよなぁ……いくら点差を大きく開かせないためとはいえ、そいつらの頑張りが報われないのはどうかと思うよなぁ……」

 

 

 まぁ、それが力を持ってしまった者の代償というべきかもな。

 

 それだと俺や拓海・全蔵も含まれるんじゃねって思う輩もいるだろうが、俺のタイムは六秒八で、拓海のタイムは七秒程、全蔵は速いけど五秒程だからなー。他の競技でも各々が力を封じているわけで……俺は夏前に得たけど使わない方針だから。

 

 

「そこで魔法少女から力を一時的に奪う薬開発してみましょうかーっっ‼︎」

 

「小倉、累積退場だぞ〜」

 

「クラスメイトにドーピングさせるのも違反に決まってんだろ」

 

 

 ドーピング、か……? 一時弱体化の薬が……?

 

 

「ところで小倉さん、なんで俺達のクラスにいるんスか? また平地くんに召喚獣の頼み事ッスか?」

 

「あぁごめんごめん、ほんとはこれを渡しに来たんだ。千代田さんの闇堕ち安定剤」

 

「なるほど……って、闇堕ち安定剤⁉︎」

 

 

 うわおデッカい球状のヤクですなぁ。しかも真っ黒だからより禍々しいのですがそれは。というか通常サイズのボールの薬って何……?

 

 小倉さんの話によれば、これはこの前優子からもらった(本人の許可なく勝手に取った)思い出の品であるピンク翡翠で作ったモノらしい。これを飲めば闇堕ちしても魔力の減少と消費を抑えられるとのこと。つまりは桃のために作ったといっても過言ではない代物だ。

 

 

「あの思い出の石がこんないい物になって帰ってくるなんて……ありがとうございます‼︎」

 

「恩を仇で返さない……やっぱりお前は優しいな、優子」

 

「私、これ飲むの? 飲めるサイズに見えないんだけど。翡翠って石だよ? 他に何混ぜたの?」

 

 

 まぁ、桃の反応は正しいよな。なんで小倉さんはこんなもんを小さいサイズに分けて作らなかったんだよ。まさかアレか? いっぺんに口の中に入れないと効果が薄いってか? デカくて口に入れられないし、これもどっちもどっちじゃねェか。……知らんけど。

 

 と、そんな事を考えていたら委員会会議が始まるアナウンスが流れ、桃と全蔵がそれに参加するためここで退場。ちなみに拓海は美化委員で、全蔵は広報委員であるらしい……いや、待てよ? まさか俺と優子が付き合っているかもしれないという噂を流したの、広報委員である全蔵のせいじゃね……?

 

 

「せんせ〜っ。ミカンちゃんどこ行くか決まってないよ」

 

「陽夏木さんはどこにしましょうか。行きたいところはある?」

 

 

 で、今のようにミカンが転校したばかりで委員会に入っていなかったってことでどこかに入れさせてあげようと思う。この学校はどこかの委員会に所属する決まりだしな。

 

 

「ぜひとも人体標本磨き委員会に‼︎」

 

「つるむらさき栽培委員会が人手不足だよ」

 

「ゾンビ対策マニュアル作成委員会はどう?」

 

「アルバイトシフト管理委員会に協力してくれ‼︎」

 

「海水生物生態調査委員会も絶賛入会者募集だぜ?」

 

「こっちには多摩町グルメ考察委員会もあるけど」

 

「普通の委員会はないのかしら⁉︎」

 

 

 ちゃんとまともな委員会はあるけどさ、それよりも本来普通の学校には存在しない普通じゃない委員会の数の方が多いんだよなぁ……。男子もいるせいか原作よりも余計に増えているし、中には学校じゃなくてがっこうで暮らす覚悟を持っている奴がいて草だし……(オイ)

 

 

「うちの学校は生徒さんがお仕事を見つけたら委員会を作っていいの。だから少々変わった委員会も……」

 

「にしては学校に関係ないことをしているように見えて関係あることをしている委員会を出してますよね皆は。自由だなというか、これもう同窓会だろ的な」

 

「寧ろ自由すぎないかしら⁉︎」

 

 

 うん、そのツッコミも正しい。というか自由すぎるというレベルじゃないけどな。小倉さんの奇行を成績で許した件といい、この学校は本当に大丈夫だろうか?

 

 ん? 俺はどの委員会に入っているのかって? 優子と同じ保健委員だぜ。もしも俺がいない間に、優子が何か取り返しのつかないことをしそうだからってことで入ったんだよな。ま、特に入りたい委員会があるわけじゃなかったからいいけどね。

 

 で、優子がミカンを保健委員に誘おうとしたけど、ミカンが急な怪我人の時とか呪いが出そうで心配だとのことで断った。

 

 ここでミカンが浅瀬先生にみかん栽培委員会を作ってもいいかと問いかけることに……いやなんだよみかん栽培委員会って。それ学校に関係な……よく考えたらつるむらさき栽培委員会よりはマシかも。みかん売れるし。けど実ができるまで四・五年かかるとのことで却下されましたとさ。みかん食いたかった……

 

 と、みかんならいつでも食べられるだろみたいな思考をしている中。

 

 

「あの……私っ……佐田さんや広瀬君と一緒の体育祭委員会に入ってもいいかしら‼︎」

 

 

 何を思ってか、ミカンが杏里と勝弥に体育祭委員会に入ってもいいかと問いかけていた。ここも原作通りだな。

 

 

「えっ……いいの? 今は結構忙しいし大変だよ。っていうか大変だからあえて誘わなかったんだけど」

 

「それに力の問題で競技に出られないんだろ? ルールの調整でなら少しはやれるだろうけど、やっぱ……」

 

「大丈夫! イベント事は好きだし。二人とも、体育祭に参加させてあげられないことに悔やんでいたから。競技に出られなくても……裏方で頑張れたら、みんなともっと仲良くなれると思うの。もうすぐ体育祭ならやることたくさんあると思うし……一緒に何かをやりたいわ‼︎」

 

「……うん‼︎ 大歓迎だよ‼︎」

 

「あぁ‼︎ その熱意を無駄にしたくねぇ、一緒に頑張ろうな‼︎」

 

 

 ミカン……お前は本当に良い奴だよ。気遣いもできるし自分の出来る限りの事をして力になりたいという強い意志も見せられて……ホントにもう、こっちが保護者になった気分だよ……

 

 

「来たからにはもう逃がさないぜ……魔法少女の強力なパワーでガンガン設営を手伝っていただこう」

 

「そう、お前はもう窮地の領域に入ってしまったのだ……体育祭が終わるまで戦場から離脱できると思うなよ」

 

「うっ……思ったよりも大変っぽいわね……」

 

 

 まぁ、そりゃあ……学校の一大イベントの一つだからな。多大なる設営準備があるわけでして。ミカン、強く生きろよ……後お前らはプレッシャーかけるなプレッシャーを。下手したらミカンが圧に押されて呪いが発動すんぞ。

 

 

「陽夏木さん……自分なりにできる限りの事を考えているみたいでよかったよ。もしもまだ決まりそうになかったら、俺もなんとか彼女が入りそうな委員会を探そうかと思ったけど、その心配は無さそうだ」

 

 

 拓海は拓海で勝手に人の為の事をしようとしてるな。人に優しいのは良いけどさ、もうちょっとその加減ってのを……

 

 ………………ん? ちょっと待てよ? 気のせいだとは思うけど、こいつの過保護さ、なんだかミカンに対しては違うかとは思うけどな……? ちょっと耳打ちして聞いてみるか。

 

 

「なぁ拓海……ちょっといいか?」

 

「ん? なんだい?」

 

「その異様にミカンの為なことをしようとしている発言や、これまでの行動からして……お前、もしかしてミカンの事が好きなのか?」

 

 

 おっ? キョトンとした反応は見せてくれているな。さて、どうなる……?

 

 

「えっ? 友達だから好きなのは当然じゃないか」

 

 

 あっ(察し)………………ふ、ふーん……そっち路線かぁ……そっかそっかぁ……つまりはまだミカンに恋愛感情を持っていることに気づいていないのか、はたまた脈なしなのか、どっちかってことか……めんどくさっ。どっちなのかの確信がないから色々とめんどくさっ。

 

 

「………………むぅ」

 

「ど、どうしたのさミカン? 急に不貞腐れた顔して……」

 

「こっちはやっと気づけたというのに……いや、別になんでもないわ」

 

「そ、そっか……」

 

 

 こっちはどうやら脈ありになったらしいけどな……やっぱり恋愛は難しいものだな。

 

 

 

 

 

 

 放課後。先に会議が終わった俺と優子は何か困り事があった時にすぐ乱入して助けられるようにと、ミカン達が会議が終わって戻ってくるのを待つことに。待ってる間は何気ない会話をしたり優子に夜の営みは出来そうかと聞かれたりして、ね。

 

 そしたらミカン・杏里・勝弥の一年E組体育祭委員三銃士……と、美化委員として会議に参加したであろう拓海が戻ってきた。お前、どうせまたミカンに対する過保護な対応をするために……

 

 優子がミカンに何事もなかったと問いかけたが、逸れないように杏里達が気遣ってくれたらしい。拓海は絶対するとは思ったけど、彼のせいで杏里も中々に優しいことをちょっと忘れてしまったわ……杏里、すまん。

 

 ま、この後杏里の優しさについてを優子が語ってくれましたがね。原作と違って、中学一年の入学式の時に学校で迷子になってしまった優子は彼女に助けられた。しかも原作の高校でのイベントと同じくハイヤーで優子を運んで、先生に『困ったら呼んで』と注意されるという……結局中学でもそういう出会いになるのか?

 

 ま、よく思えばあの時に会ったおかげで俺の心は軽くなったってもんだ。優子のヤンデレを知ってから何かと俺達の相談に乗ってくれて、余裕が生まれたというか……あの思わずズレがあってよかったよ。

 

 そしたら何故か拓海がしんみりと涙を流して皆ビックリ仰天したわけで。そんな風になる程に涙腺が緩くなったのか? 勝弥とはこの高校で仲良くなったけど、拓海みたいに泣いたわけでもないし……もしかして拓海って、意外と涙脆いのか? わからん。

 

 そんな事を考えながら下校の準備……していた時。

 

 

「あれ? みんな帰り?」

 

「あ、桃……」

 

「いやちょっと待って? お前何してんの?」

 

 

 たくさんの猫と戯れている桃を発見し、何故か(?)一番先に勝弥がツッコミを入れました。いやツッコミを入れる奴は別に誰でもいいんだけどさ。

 

 

「委員会の業務中」

 

「「何の⁉︎」」

 

「猫に群がられ委員会」

 

「「どういう仕事⁉︎」」

 

「……それって飼育委員会じゃないのかい?」

 

「いや、猫に群がられ委員会」

 

「……ネコ科飼育委員会?」

 

「だから、猫に群がられ委員会」

 

 

 お前のその委員会(?)の名前に対する執着心は何なんだよ。それだとその委員会はどんな仕事をするのか、ちょっとだけとはいえわかりにくいでしょうが。バカなのか?

 

 

「行きたい委員会がなかったから、自分で雇用を創出した」

 

「よく創出を認めてくれたな学校側も」

 

「けどその仕事、学校に必要ないですよね?」

 

「……そんなことないよ、すごく必要な仕事だよ」

 

「だったらどんな行動が学校のためになるのかを具体的に述べな」

 

 

 オラオラァ、学校も創出を認めた委員会なんだろ? どんな事をしたら学校のためになるのか、是非聞かせてほしいものだなぁ?

 

 

「………………………………が、学校周辺に……住む猫が一匹一匹……元気なことを確認することで、町の平和……? が、間接的に分かる……?」

 

「きさま自分に嘘をついているな」

 

「はいギルティ。その委員会は廃止な」

 

「おサボりはダメよ‼︎」

 

「勝手にクラスの輪に外れないでもらいたいな‼︎」

 

「ちよもも明日から体育祭委員会入れ〜」

 

「罰としてめちゃくそ設営に手伝ってもらうぜー」

 

「ヤダ……」

 

 

 ったく、せめてもっとマシな嘘をついてもらいたいものだぜ。

 

 ……にしても猫に埋もれて幸せそうだったな、あいつ。俺も埋もれてみたかったぜ、まったく……って、何桃の味方になったかのような思考してんかな俺。分かってるからな? 桃が委員会の仕事だと言っていることはただのサボりだからな? な?

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その24

白哉「そういえば優子、夏祭りの時俺が的当てで手に入れたNintendo Switchは使っているか?」
シャミ子「あっはい! 白哉さんの言う通り無料で遊べるソフトをたくさんやり込んでます‼︎ 最近では『遊○王マス○ーデュエ○』とか……」
白哉「えっ⁉︎」
シャミ子「ど、どうしたんですか? そんなに驚いて……」
白哉「い、いやぁ、遊○王のもあったなんて初耳だったものだからつい、な……」
シャミ子「そ、そうでしたか……」
白哉「(チクショウ、こっちの世界ではSwitch版のマスターデュエルなんて来てなかったんだぞ……ッ‼︎ なのにこの世界ではダウンロードできるようになって……ッ‼︎ 羨ましい……ッ‼︎)」
シャミ子「……あの、もしかして私が先にダウンロードしてしまったから、先を越されて悔しがっているんですか……?」
白哉「へっ? い、いやそんなことないぞ? こっちはスマホでダウンロードしているから、別に何とも……」
「と、ところで優子はいつもどんなデッキを使っているんだ?」
シャミ子「えっ? そうですね……悪魔族中心のが多いですね。悪魔族はまぞくみたいなものだから親近感が湧くと言いますか……」
「で、一番気に入っているのが○ビュリン○ですね‼︎ 中心となるモンスターさんが何処となく私に似ていますし‼︎」
白哉「似ている、か……まぁ確かに何処か似ている感じはするかもな」
「(こめかみに二本の角、女性、漂うドジっ子感、とある部分の大きさ……似ている感は確かに強いな)」
シャミ子「………………今、そのモンスターの胸と私の胸を重ねてませんか?」
白哉「ッ⁉︎ い、いや別に、そんなことは……」
シャミ子「フフフッ……真意がどうであれ、私の胸の方が白哉さん好みであることを証明しちゃりますからね……♡」
白哉「お、お手柔らかに……ッ」


次回からシリアス要素ありとなります。お楽しみに。


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さらに一般枠男オリキャラが登場。そして起こってしまった、この時季最悪の展開 ♦︎

学校の祭り事は準備の方がめんどくさいよねってことで初投稿です。

今回から四巻のシリアスパートに突入‼︎ とある事件発生に、白哉達は……⁉︎


 

「これはまずいわ……」

 

「こいつぁまずいな……」

 

「こりゃまずいって……」

 

「これはまずいわ‼︎」

 

「こいつぁまずいな‼︎」

 

「こりゃまずいって‼︎」

 

【何がまずい? 言ってみろ】

 

「いともたやすくパワハラや無能殺し(物理)をするえげつないクソ上司になるのやめてください白龍様」

 

【あっ、俺の○惨のコスプレ帽子返せ〜】

 

 

 ならどさくさに紛れておふざけするのもやめてくれませんかね? というか体育祭実行委員会は絶賛根詰まり中なんですよ、空気読んでくださいな。

 

 はいども、白哉です。俺と優子は今、体育祭の準備が全然終わらなくて大苦戦中のミカン・杏里・勝弥の三人を傍観しております。そして鬼○辻○惨のコスプレをして乱入しに行った白龍を連行してるんやで。真剣に取り組んでいる人達の邪魔はアカンて。

 

 ちなみにうちの学校では、夏休みが終わってすぐに体育祭になるんですよ。一番暑い時季の真っ只中だってのに、夏休み明けすぐとか、熱中症の事とか大丈夫なのかこの学校? スケジュールの組み方、間違ってない? 二次創作の世界だから細かいところを気にしてない感じか? 何やってんの伊○いず○先生。

 

 

「夏休みは部活やら塾やらで人が集まらないし、高校生の夏休みって思ったより忙しいよね‼︎」

 

「夏休みの間にも色々とやらなくちゃいけないことが意外とわんさかあって、計画的にやらないと後で疲れるよなぁ……」

 

「分かります! 私もごせんぞを三万体倒してから疲れが抜けなくて……」

 

「特殊事例じゃねーか。夏じゃなくても普通の高校生が実際に体験できない類だぞそれは」

 

「「そもそもごせんぞ三万体って何?」」

 

 

 優子のなんとかの杖の修行で課せられた特訓だよ。というか夢の中で体験したことが実際に身体に影響することがあるんだな……俺の場合はなんともなかったってのに。途中で柘榴さんとの切り札みたいな技と技のぶつかり合いをした弾みで強制的に夢の世界から追い出されたというのに。

 

 

「これは今日から居残り作業しなくちゃな〜。とほ〜……」

 

「ホントそれでなんとかしなきゃな……陽夏木さんも千代田さんも付き合ってくれて助かるよ」

 

「よくってよ! むしろ知らない人と交流できて楽しいわ」

 

 

 やっぱり良い子じゃねェかミカンは。自分の体質のことがあるのに皆と仲良くなりたい本心を見せるし、それに伴う気遣いだって自分からやってみせているし、最早陽キャだわ。キ○ーンな子だわ。

 

 

何故ここにいるのか全然分からない帰りたい帰って猫の腹に顔を埋めたい

 

 

 桃は桃で本心……というか愚痴をぼやいてはいるが、まぁこいつは無視だな無視。今まで学校の仕事に関係ない委員会を創出してサボってたもんな。因果応報だ。

 

 

「はいはい、桃君はおサボりした分振り回されるのだろう? ここから脱したかったら文句言わずに手を動かして手を」

 

「で、なんで拓海までいるの? そっちは美化委員だし、ちよももみたいにサボってる感じじゃなかったじゃん」

 

「忙しそうな君達をほっとけなかったからなのと、美化委員の仕事が暇になってしまったから」

 

「美化委員が暇って何……?」

 

 

 知らんわそんなん。大体拓海は誰に対しても過保護になる性分なの知ってるだろうが。美化委員だろうがそうじゃなかろうが、こいつはそうして手伝ってくれるんだよ。察しろ。

 

 んー……桃もミカンも遅くなるのは原作通りだな。ついでに拓海が遅くなるのはどうでもいいとして。そうなると俺と優子は先に帰れるんだが、原作では優子も手伝うんだったっけ。けどこの世界の彼女は俺への愛が重い女だし、原作通りなのかどうか……

 

 

「むむぅ………………」

 

 

 めっちゃ悩んでるような顔してるわ。これってアレか? 俺と二人きりになる機会はできたけど、帰りが遅くなる桃とミカンを待つことを考えると複雑になってきたって感じか? まぁ優子は皆とも仲良くなりたい性分もあるからな、そりゃ複雑な感情を持ってしまうわけだ。

 

 ……よし、ならばこうしよう。

 

 

「なぁ。体育祭実行委員会じゃない拓海も手伝えるってんなら、俺も手伝ってもいいか?」

 

「「「「「えっ?」」」」」「えっ⁉︎」

 

 

 いや皆して驚くことか? 別に槍が降るって言いそうなぐらい衝撃的な発言じゃないと思うぞ? お前ら俺の事をなんだと思ってんの?

 

 

「いやなに、お前らが忙しくしている中で俺は帰るってのはさすがにどうかと思ってな。それに準備の時に気になった点や思いついたアイデアをすぐこの場で伝えられることもできるだろうし、それで準備を捗らせれば楽しい体育祭にできそうで一石二鳥になるかもな、とも思っているわけだよ」

 

 

 俺が今何をし始めたのかというと、優子の手伝おうという本心の促進である。ご覧の通り俺自身も体育祭実行委員会の皆の輪の中に入れば、俺と一緒にいたいとも考えている彼女は夜まで俺とも関わらなくなるという現実を知ったあまり、そのもう一つの本心も意図的に出せるだろうって寸法よ。これが上手くいくといいが……

 

 

「そ、そっか……そういうことか……でも、それだとシャミ子を一人で帰らせることになるんじゃ───」

 

「あ、杏里ちゃん! ぶっちゃけ手伝いたいなっーと思っていたところなので私も手伝いますっ‼︎ まぞくが我が眷属とともに夜まで付き合ってくれるわ‼︎」

 

「うおっすごい食いつき⁉︎ でもありがとーっ‼︎」

 

 

 よっしゃ、不安だったけど計画通り。優子、お前は俺への愛に依存し過ぎたのだ。それも本心だったとはいえ、恨むなら依存し過ぎた自分を恨むことだなっ……♡(暗黒微笑)

 

 

「………………白哉さん、夜は覚悟してくださいよ……?」

 

 

 あ、ヤベッ。本気にさせてしまったわ(白目)

 

 

 

 

 

 

 というわけで、放課後にて体育館集合。十数名もの男女の協力の元、まだ出来てない準備をすることに。……軽々しく十数名って言ったけど、実際の体育祭実行委員会の人数ってこんだけいるものなの? さすがに委員会の者じゃない人達もいるよな絶対? なぁ?

 

 

「よく来たねぇ〜。俺が体育祭実行委員会一年生会長の青嶋 (しゅう)だよぉ〜。よろしくぅ〜」

 

 

 そう言って挨拶して来たこの男子──青嶋 秀。ふわふわとした紺碧色の髪と物柔らかそうな瞳、そして外面から漂うほんわかさが特徴的な、一年E組の男子だ。ってか、ほんわかとしたこいつがこのまちカド世界の体育祭実行委員会ってマ? よく皆認めたなこいつを一年の会長に。

 

 

「早速だけどやる事を大まかに教えるねぇ〜。一年の担当で終わってないのは、小道具を作るのと大道具を作るのとぉ〜、競技のシミュレーション。つまりほぼ全部だよぉ〜」

 

「なるほど、何もかもですね」

 

「全然ダメじゃねーか」

 

 

 いくら夏休みだからなのと体育祭が始まるのが二学期が始まって間もない時季だからって、進捗があまりというかほとんど進んでないってどういうことよ? もうちょっと頑張れよお前ら。

 

 

「皆意外と夏休みは忙しかったみたいでねぇ〜、夏休み中に実際に話し合う機会が中々できなかったんだぁ〜。とりあえず俺はその間にスケジュールとか行う競技はどれにするかとか、色々考えたよぉ〜? でも色々な人の意見も参考にしようとしたら、安全面などの考慮をしなくちゃいけないところとか出ちゃってぇ〜、色々と噛み合わなくってねぇ〜。競技を変更したことで用意する材料とかも考え直さないといけなくなってぇ〜。遅くなっちゃったわけなんだぁ〜」

 

「あぁ……そ、そうだったのか。思ったよりも結構苦戦してたんだな……」

 

 

 どうやらちゃんとした理由があったそうです。計画の有無が問題となっていたのか……すまん、お前がめんどくさかったからとかそんな自己中な理由だと思ってた。マジですいませんでした。

 

 

「んじゃ、吉田さ……じゃなかったねぇ〜。シャドウミストレスさんはあっちで女子の皆と一緒に競技のシミレーションをしておいてぇ〜。平地君はあっちで借り物競走で出すお題の話し合いをしておいてぇ〜」

 

 

 借り物競走か。アレ意外と見つけると難しいヤツもあって、前世の学校の奴らは苦戦していたな。例えばネックレスとか……いやなんでそれをお題にしたのだろうか。

 

 

「べ、別に構いませんが、その役割は逆じゃないですか? どっちかというと白哉さんの方が競技のシミレーション役に適しているかと……」

 

シミレーション中に平地君以外の男子に近くからいやらしい目で見られたくないでしょぉぉぉ?

 

「う ゙え ゙っ ゙⁉︎ そ、そそそそそ、それは嫌ですね……ごめんなさいでした……」

 

「なんで圧をかけてくるんだ圧を。やめたげてやれ」

 

NTRは大嫌いなんだよねぇぇぇ。だからそれが起きないように徹底しないとぉぉぉ。君もシャドウミストレスさんが他の男に汚されるの良くないよねぇぇぇ?

 

「アッハイ」

 

「NTRとは……?」

 

 

 あぁ……こんな奴でも冗談じゃ済まされないことは絶対許さないタイプなのか……NTR、こいつの嫌いな言葉だったのか……これに繋がるような会話をこいつの前でしないようにしておかないとな。俺もNTR大嫌いだし。

 

 というか、俺と優子が付き合っているかもしれないという噂、マジで広まったのかもな……じゃなかったらこいつも俺達の前でNTRれるなよなんて言わないもんな……

 

 

「───よし、役割が決まったことだし……」

 

 

 そう呟いた秀は、何故か突然前髪をたくし上げ始めた。なんなんだ? ほんわかとしたこいつにもカッコつけたい時があるのか? 別に珍しくはないけど……

 

 ん? なんか目つきが変わってね? 急にキリッとした感じになってるんだけど。しかも他の髪も少し逆立っているかのようにも見えるし……

 

 

 

「野郎ォどもォッ‼︎ せっかく委員じゃない奴らも手伝ってくれているんだ‼︎ 根詰まってしまった分の遅れをグンッと取り返すぞオラァッ‼︎」

 

 

 

「「ファッ⁉︎」」

 

 

 誰ェッ⁉︎ こいつ誰ェッ⁉︎ いやこいつが秀だってことは分かっているんだけど、こいつ先程までほんわかとしたキャラだったよな⁉︎ なんで突然体育祭実行委員らしく……というより体育会系……をも超えるような熱血キャラに変わるんだよ⁉︎ 何⁉︎ 実は二重人格だったのかこいつ⁉︎

 

 

「あー……久しぶりに見たな、あの様子の秀」

 

「えっ? あ、杏里ちゃん、今の秀くんの事で何か分かるんですか……?」

 

「秀は絶対にやり遂げるんだってものがある時、気合いを入れるためにいつもあんな感じに感情を昂らせるんだってさ。あの状態になっている間はやり遂げたいことが必ず上手くいくとかなんとかって……だからいつでも長くその状態になって長く保てるように、いつもは気の抜けた性格にしているんだってさ」

 

「ハ、ハァ……考えて自分の性格を変えているんだな」

 

 

 なんであいつがあぁなったのかは分かった……が。オンとオフが切り替わった後、変わりすぎなんじゃね? 髪型と目つきは目立つ程の変わり様ではないけど、性格の変わり様が全てを持っていっているんだよなぁ……

 

 

 

 

 

 

 秀の変わり様にビックリした後、俺は彼の指示通り借り物競走で出すお題の話し合いをすることに。別に簡単なものでいいと思うけど、他の奴らがどうせなら探すのが大変そうなのを借り物にしようとか言っているから、普通の方を出すのが言い辛くなった……

 

 ちなみに優子は自分がシミレーションをすると体育祭がヌルゲーになるとのことでミカンにバトンタッチ、桃は刺繍が凝っている鬼の手捌きでリレー用のタスキ作り、拓海はまぁ……自主的に色んなところ回って色々と手伝っているからどう言えばいいのかわかんね。

 

 

「さて……皆は何かいいお題を考えたか? 探すのが難しすぎるのは却下だからな」

 

 

 そう指揮っているこの男は南雲 友香里。一年B組。女性っぽい名前だがれっきとした男性だ。額の見える薄紫ロングヘアーに薄紅色の瞳、そして四角い眼鏡が特徴的な男だ。

 

 頭は良いしテストの成績も十位圏内に入れる程に賢いから、文系・理系の委員会や部活に入っているかと思われるが、こう見えて体育祭実行委員の一人。でなきゃこの場にいて準備に赴いてないしな。そして部活も見た目に寄らず陸上部。文系・理系に見えて体育会系ってなんだよ。ギャップあるじゃねェか。

 

 

「……平地。お前今、失礼な事を考えていなかったか?」

 

「………………ナンデモナイデス。そ、それよりもお題だろ? 筆記用具……とかどうだ? 体育祭でそんなの持つ奴なんてほぼいないだろ? けど限られた場所でならあるだろ?」

 

「……そうだな。あるとしたら放送席とかになるし、別に見つけられる確率が低いわけではないな。採用」

 

 

 ふ、ふぅ……中間枠みたいなお題を出して紛らわすことに成功したぜ……こいつ文系と体育会系の狭間にいるんだよな。だから勘も鋭い……のか? それとも関係ない……のか?

 

 

「で、他の奴はどんなお題を思いついた? 最大であと五つ採用できるぞ」

 

「週刊少年ジャン○はどうだ?」

 

「SHI○EI○Oの香水も出してみようよ‼︎」

 

「Nintendo Switch版のド○ゴンボー○ザブ○イ○ーズとか」

 

「G○DI○Aのお菓子‼︎ 食いたい‼︎」

 

「キ○ンビールもいいね」

 

「マウスパッドも入れてみたいなー」

 

「オンラインイベントの方の借り物競走だと思ってんのかお前ら⁉︎」

 

 

 なんで不良とかが持ちそうなものが多い気がするのだが⁉︎ G○DI○Aという高級品をわざわざ外に持ってくるか⁉︎ 持ってくるにしてもお土産としてやろ⁉︎

 

 それとビールを学生も教師も持つわけないだろ⁉︎ 客の方でも酒持ってる奴は限られるし、仮に持ってたとしても運動会に持ってくるか普通⁉︎ しかも限定的やん⁉︎

 

 あとマウスパッドって何? そんなもの外に持ってくる奴一人もいないやろ。

 

 

「妥協案でなら採用しても良いんじゃないかな?」

 

 

 そう意見を出してきたのは、左の横髪の長い黒髪にライトブルーの瞳を持つ少年・楠木 誠司。ちなみにクラスは一年C組。

 

 

「逆によく考えてみなよ。敢えて条件を緩くしたお題を出しておけば、そのお題のを持っている人の中には意外性のあるものを持っている人もいそうじゃない? その方が『今度それについて調べてみようかな』って思う人も出そうだし、なんだか面白そうだし、僕も見てみたいんだよね」

 

 

 このように、皆が納得しそうな意見を出しては『確かに』と思わせることができる男だ。今でもやり易さを考えて、せっかく意見を出してくれた人達の気持ちを無下にしない姿勢を見せている。だからなのか、皆からは『正論の誠司』と呼ばれているらしい。……正論を言っているのかどうかは知らんが。

 

 

「ふむ、そうだな……確かにそういうのを持っている人がいたらその方向性での面白さというのもあるし、せっかくお題の案を出してくれた皆に申し訳ない気がしたな……」

 

 

 あっ納得してるよ友香里の奴。本当に誠司の意見は人を納得させてやれる程の説得力があるんだな。

 

 

「よし。雑誌または漫画、香水、ゲームソフトまたはゲーム機、お菓子、携帯やノートパソコンなどの端末関連のもの、これらで採用するとしようか」

 

『やったー‼︎』

 

 

 おぉ、本当に妥協案で採用してくれたか。誠司、お前はいい奴だよ……

 

 

「ただしビール、テメーはダメだ」

 

「そ、そんなぁ……‼︎」

 

 

 オイ何さらっとボーボ○パロしてんだ。確かに酒類をお題にするのはさすがにどうかと思うけどな……というかビールを発案したのが女子ってマ?

 

 

「さてと……お題は決まったことだし、借り物競走の件はこれで終わりでいいな───」

 

「終わったところは各自空いているところを手伝えェッ‼︎ まだまだやれるところいっぱいあるぞォッ‼︎」

 

「喧しいッ‼︎ 大きな声が苦手な奴の事も考えろ‼︎ お前の声デカすぎるんだよッ‼︎」

 

「じゃあこのくらいかァッ⁉︎」

 

「まだちょっとデカい‼︎」

 

「このくらいでどうだァッ⁉︎」

 

「……それくらいなら許せる。それで頼む」

 

「よっしゃ分かったぜェッ‼︎」

 

「戻ってるじゃねェかッ‼︎」

 

 

 ……いやさ、何だよこれ。ヤンキー同士の喧しいコントか何かかよ。というか友香里、お前もお前で最後の発言がうるさいんだけど。

 

 まぁいいや。幸いにも皆この喧しいコントの事を別に気にしていない人達が多いみたいだし、もうほっとこ。そろそろ別の役割を探してもらうとするか。

 

 

「でもシャミ子は華はなくとも白哉推しとちよもも推しだよね」

 

「なんだその表現はっ! 推しとか無いですから‼︎ でも桃だって私的には華があるし、白哉さんはもっとある‼︎ ……アレ、でも白哉さん推しではあるような気が……」

 

「恋人になった時点で自動的になったようなもんでしょ」

 

 

 ……と思ったけど、優子と杏里が何やら俺推しやら桃推しやらと話していたため、そっちの話に参加することにするか。どうせ原作通りミカンがすぐに人気者になるとかどうとかから始めた会話だろうけど。

 

 

「何の話してたんだよ」

 

「いやぁ、シャミ子が桃推しではあるけどそれ以上に白哉推しで───」

 

「わぁっー⁉︎ わぁっー⁉︎」「ムグッ」

 

 

 説明しようとした杏里の口を慌てて押さえた優子。まぁさっきの会話を聞いてしまったから、別に意味はないとは思うけどな。優子の事を想って聞かなかったフリはするけど。

 

 

「ち、違います……違いますよ⁉︎ こ、これはその……ミカンさんがすぐに人気者になるだろうなって話をしていただけです‼︎ ホントですよ⁉︎」

 

「あぁ、分かってるよ。お前らがミカンを見ながら何かしらの話をしていたから、そういうことなんだろ?」

 

「そ、そうです‼︎ そういうことなんですよ‼︎ 分かっていただけて何よりです‼︎ あっ。ずっと口塞いでごめんなさい杏里ちゃん、すぐに放してあげますね‼︎」

 

「く、苦しかった……」

 

 

 そりゃ第二者の許可無く何話そうとしていたのかをバラそうとするからそんな対応をされるんだよ。杏里、お前とりあえず反省しておけ。

 

 そんなことしていたら、ミカンが種目の一つのシミレーションを終えたので体調とか大丈夫かと問いかけることに。まぁ無論問題なかったみたいだが。後、校内でやることができてよかった上に、早めに馴染めてよかったと言ってくれた。それは───

 

 

「陽夏木さんが早く皆と馴染めてくれたみたいで何よりだ。俺、正直不安なところもあったものだから……」

 

「……なんでお前いるんだよ拓海」

 

「働きすぎだとみんなに言われて、無理矢理休まされているんだよ。もうすぐ再開していい時間になるけど」

 

「だと思ったよ」

 

「そ、そういや貴方あちこち回って皆の手伝いをしていたものね……」

 

 

 これはチラチラ見ていた程度だったんだけど、確かに拓海は色んなところを回っていたな。ある時は競技のシミレーション、ある時は客を歓迎させるための装飾作り、等々……こいつが協議の準備以外で止まっている気配なんてなかったな。

 

 

「この町、やりやすいわ。緩くて変な人が多いけど、みんな懐が深い。一人暮らしも気楽だし、来て良かった」

 

 

 ユ ル く て ヘ ン な ヒ ト が お お い 。それだと俺や優子も変な奴だと思っている気がして失礼だろ……となんて言ったら自責する感じでこいつの呪いが発動しそうだから、敢えて言わないようにしておこう。まぁ、聞き捨てならないことではあるから呪い発動させない程度に言い換えるけどな。

 

 

「それは変な奴しかいないの間違いだろ。拓海とか」

 

「えっ? 俺ってそういう見方されているのかい?」

 

「そうだよ。お前の自覚がないだけで性格が他の奴より濃いんだよ。良い悪いの割合では良い方がデカいけどな」

 

 

 なんだよ過保護キャラ時々ナルシストウザキャラって。過保護もナルシストも意味が違うだけでウザキャラであるとはいえ、二重人格じゃない上でこれとか充分濃いわ。それに加えて陰陽師ってなんだよ、異世界の準レギュラーか何かかよ。

 

 

「で、でも拓海の場合はその分皆に優しいし悪い人じゃないから問題ないわよ? 他の人達よりもそれが過ぎるけど……」

 

「えっ?」

 

 

 そしてお前はお前でなんでいつの間に惚気になったんだよ。なんで自分の恋に気づいちゃいましたー、みたいな感じになってんだよ。動物園の時はそんな様子見られなかったってのに。拓海に認識されたいと思うようになった脈絡、どこ?

 

 

「えっと……なんだか話が少し逸れているように聞こえますが、つまり……?」

 

「あぁ……別に貴方を守るためだけに転校したわけじゃないのよ、私が来たいから来たの‼︎ だからもう心配しないで頂戴っ」

 

「はっはいっ」

 

 

 あらま友情。青春。アオハルかよ。今の二人の笑顔を見てしまったらそう思ってしまうじゃないの。前世までサラリーマンだったせいでおじさんになった感に浸ってしまっているけど、若い子の友情を久々に間近に見れて良かった〜……‼︎

 

 

「……なんで白哉君、しみじみ思う人みたいに涙流しているんだい?」

 

「ズズッ……なんでもねェよ。ほら、そろそろ強制での休憩時間は終わったろ? 看板製作手伝おうぜ」

 

「あ、あぁ……」

 

 

 さて、看板の方はどんな感じに仕上がっているんだろうな……うおっ、クオリティが高い。しかも赤紫色の花と薄紫色の花とで分けられている。こりゃ下書きも結構大変だっただろうな。気がついたら凝りすぎて時間をかけ過ぎた、みたいな。これは遅れるのも納得だな。

 

 で、そのクオリティ上げ過ぎて完成が遅れているそれに、桃が万能すぎる手先で素早くペンキ塗りする。最早ペンキ塗り職人になってんじゃねェか。

 

 

「陽夏木さん、騎馬の上はどうだ?」

 

「ちょっと安定しないかもしれないわ。本番は背の高さが同じくらいの子同士で組むと安心ね」

 

 

 あっ、ミカンが勝弥の指揮の元で騎馬戦のシミレーションをしてる。なんで男子が女子のやる競技のチェックをしてるのだろうか……

 

 ……ん? ちょっと待てよ? この場面、この後がヤバいんじゃ───

 

 

「あっごめん⁉︎」

 

「きゃっ……‼︎」

 

「あっ……」

 

 

 と、そんな事を考えていた矢先。ミカンと騎馬になっている女子達が後ろでペンキを運ぼうとした女子とぶつかり、その衝撃でミカンが落下してしまい、頭を打って気絶してしまう。

 

 って、まずいッ⁉︎ この場面は確か……‼︎

 

 

「ミカン大丈夫⁉︎」

 

「あ⁉︎ 待って、近寄らないで‼︎ ミカンは気絶した時が一番……」

 

 

 暴発する。桃がそう言おうとした途端、ミカンから黒い瘴気のようなものが漏出し始めた。桃が魔法少女の姿になり、ミカンの近くにいた二人を守るために前に立った───

 

 

 

「防衛術・神威‼︎」

 

 

 

 その直後、拓海が三人の前に立ち、陰陽札を取り出し一気に放出された瘴気に向け、全てを吸い込ませようとするためなのか、札をミカンに突きつけた。

 

 

『た、拓海(くん)(さん)⁉︎』

 

 

 お、おま……何やってんだお前ェッ⁉︎ 呪い暴発中のミカンに間近に近づくとか、正気か⁉︎ 下手したら死ぬぞお前⁉︎ この世界はコメディジャンルだけどシリアスもちゃんとある世界だぞ⁉︎ だからその呪いでお前が死んでしまうぞ⁉︎

 

 

「クソッ……‼︎ 拓海そこから離れ───」

 

 

 

《───大丈夫ですよ》

 

 

 

 みんなが突然の出来事に戸惑う中で、俺がセイクリッド・ランスを解放させて召喚師覚醒フォームになろうとした途端、どこか少年のような高めの声が直接脳内に響くかのように聴こえてきた。えっ誰……?

 

 

《皆さんに被害に遭わせませんし、主人様にも被害を与えさせません。僕が主人様の霊術の補助しますので───》

 

 

 その謎の声が聞こえなくなったと思えば……気がついたら瘴気は全て無くなっており、ミカンが目を覚ましたのか呪いも落ち着き解除された。な、なんとかなったようだな。ハラハラした……

 

 

「ミカンさん、拓海くん、大丈夫ですか⁉︎」

 

「うう、私はもう大丈夫……そ、それよりも拓海の方は大丈夫なの……? な、なんか一番近くに来たみたいだけど……⁉︎ ま、まさか顔についているそれって……⁉︎」

 

「心配しなくていいよ。顔についたらしいこれは、血じゃなくてただのペンキだから。デカい怨霊を親父と一緒に相手にしていた経験が何度かあったから、こんなの大したことないよ」

 

 

 えっ。暴発したミカンの呪いよりもヤバいのをこれまでに相手していたってのか? そのヤバいのってなんだ……? 怖……

 

 

「まあ焦ってやったようなものだから、少しだけ神威で吸い込まず漏れ出てしまったけどそれは千代田君が防いでくれたから、ちょっとした被害も出ずに済んで問題なかったしね。千代田君もありがとう」

 

「あっ、うん……突然すぎたから突発的に杏里達を守っただけだけど……」

 

 

 まあ、原作みたいに看板がペンキで犠牲にならなかったのはいいことだけど、代わりに拓海に負担をかけてしまったから複雑になるのも分からなくもないな……

 

 

「ほ、本当にごめんなさい……」

 

「いいよいいよ、大した負担じゃなかったって──」

 

「いやいや一番近くで呪いを抑えてて大した負担にならなくないじゃん⁉︎ もう一回しばらく休んどけ‼︎」

 

「というか今日はもうずっと座ってろよ‼︎ 色々回って手伝い過ぎただけでも疲労感強そうだってのに、これ以上動かれるといつかお前倒れそうでこっちも困るわ‼︎」

 

「えっ。あっ……わ、分かった……」

 

 

 そりゃあなぁ……ここまでやってもらったらさすがに心配されるわな……

 

 この後みんながミカンをフォローしたり身の安全を心配したりしていたが、それでも案の定ミカンの表情は罪悪感で落ち込んでいた。あそこからどう立ち直させればいいのだか……

 

 にしても、あの時に聞こえた声は一体何だったんだ……?

 

 

 

 

 体育祭の準備にキリがついて帰ることになっても、ミカンの表情は曇ったままだった。優子がフォローの言葉を掛けたものの、みんな好きになったという本心を交えながらも『これ以上傷つけたくない』『今感情が動くとどんな呪いが飛び出るか分からないから近寄らないでほしい』という想いも呟くほどに。

 

 まぁ……ミカンのメンタルがそこまで崩れてしまうのも無理はない。幸いあの場面に桃と拓海がいたから悲劇は起きなかったのだし、寧ろ呪い暴発中の彼女に近づき呪いを止めようとした拓海が一番命の危機に陥っていたものだからな……俺でも深い責任を負ってしまう。

 

 ミカンの呪い。その呪いとなる前に生まれた使い魔は、最初は彼女を悪の心から守るために呼び出された。その使い魔は最初は少しだけミカンと会話することができたものの、召喚の仕方の失敗に応じて歪となってしまい、抑えようにも気が緩めば誤った力を引き出させてしまう……らしい。

 

 もしも十年前に桃と桜さんがミカンのところに来ていなかったら、その使い魔はさらに歪な力を振るってしまっていたことだろうな。そういったもしもの事もあるから、責任を負わずにはいられないだろうな……

 

 とりあえず、落ち着いたらまた話そうということで解散することになったわけだが……俺はあの時、本当にあのままミカンを独りにさせておいてよかったのか? ただでさえ呪いを暴発させてしまったことの自責があるってのに、それに加えて拓海に最も危険性のある被害を与えてしまう可能性もあった恐怖を持つようになってしまったってのに……

 

 ………………ハハッ、なんだか情けねぇな。展開を知った上で、イレギュラーな現象までも恐れて何もしてやらなかっただなんて……まるで俺の家族までもが桜さんとの関わりがあることを知って、桃に最初何も声を掛けてやれなかった時みたいじゃねェか。俺、こういう面はまだ成長していないかもな……

 

 

【いつまでそんな暗い顔してるメェ〜】

 

 

 メェール君のそんな呼び声が聞こえたのと同時に、俺の心に刺さっていた棘のようなものが焼き焦がれていたように感じた。ふと振り向けば、メェール君が淡い光を放ちながら、両手をこちらに向けているのが見えた。

 

 

【前に知ったメェ〜よね、マスター? 僕は少量での回復魔法を使えるって。実はこれ、身体だけに飽き足らず、物体などの生命を持たないものや曇り気味な心身……などといった様々なものを回復させてあげることができるんだメェ〜。……全部とは限らないし、連続ではできないけど】

 

「……マジで?」

 

【マジだメェ〜】

 

 

 ………………ウッソだろお前⁉︎ 回復魔法を与えることのできる対象が生物だけじゃなくて、物とか人の心とかまで含まれているのか⁉︎ 回復できる量が少ないだけで対象の範囲が広いとか、一体どんな修行したらそんな魔法が手に入るんだよ⁉︎

 

 

【……マスター。人が何かに恐れるなんてことは当たり前の事だメェ〜】

 

 

 えっ?

 

 

【人というのは、何かに恐れた後は成長していくものだメェ〜。また同じ現象が起きてしまった時の事……対処法などを考えることができるし、それが別な事に役に立つ場合だってあるんだメェ〜。……そして、今もチャンスじゃないかメェ〜?】

 

 

 チャンス? 今が?

 

 

【後悔先に立たずってことわざがあるメェ〜けど、今回に限ってはまだそういう結果にはなっていないメェ〜。だったら後悔するよりも逆に考えるんだメェ〜……させてあげることができなかった分のチャラを、これから行う自分なりの想いで上書きしてやるんだって】

 

「………………‼︎」

 

 

 ……そうだった。今ならまだチャンスがあるじゃねェか。幸いにもこの後の原作イベントなら尚更。先程差し伸べてあげられなかったこの手を差し伸べても、まだ取り返しがつく。苦しみを抱えたままの状態のミカンを放っておいて、優子と桃に任せっきり……なんてことをしてたまるか。俺は俺なりの対処法で、あいつ()を救ってみせるんだ‼︎

 

 思い立ったが吉日。そう自分に言い聞かせるかのように、机に置かれていたストラップ状態のセイクリッド・ランスを手に取り、俺は急いで玄関に行き靴を履き始める。

 

 

「ありがとうなメェール君、それじゃあ行ってくる‼︎」

 

【待つメェ〜】

 

 

 メェール君はそう言って突然俺の左肩の上に乗り始めた。何これ、サ○シのピ○チュウ? 可愛い。

 

 

【僕も行くメェ〜。僕の魔法ならミカンちゃんの心を安定させることができるし、何よりそろそろマスターの援護をしたいメェ〜】

 

「メェール君……ありがとう」

 

 

 やっと気づいたよ……優子みたいにこういう素直で優しい子ほど頼れる存在はいないんだってことに。

 

 この後俺と同じ事を考えていた優子と桃に鉢合わせし、三人揃ってミカンのいる部屋に突撃。彼女にこれから夢の世界に入って使い魔と話をつけに行くと宣言した。

 

 ………………のはいいんだが、なんで拓海までミカンの部屋にいるの?

 

 




シリアスに突入したので、しばらくほそく話はお休みです。

その代わり、今回登場したオリ男達(勝弥のみ前回から登場)の画像を出します

左上:広瀬勝弥(創作男子ごった煮メーカー)
右上:青嶋秀(香椎男子)
左下:南雲友香里(お隣男子メーカー)
右下:楠木誠司(はりねず版男子メーカー2)

【挿絵表示】


気合いを入れている時の秀

【挿絵表示】




ちなみに次回は展開の都合上、水曜日に投稿いたします。


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幕間:陰陽師の子が、気弱な性格から過保護な性格になるまで。

唐突に思いついた話ですが初投稿です。

水曜日に投稿するとか言いながら、昨日は投稿する時間帯を設定するのを忘れてそのまま居眠りし、そのまま投稿することを忘れてしまいました。大変申し訳ない……

今回はとあるオリキャラの過去をちょっと流し、前回の補足もするという感じでやらせていただきます。


 

 陰陽師・仙寿拓海。彼は仙寿家に代々伝わる陰陽師である。

 

 仙寿家陰陽師は、幽霊の除霊や住処の提供といった、魔法少女とは違った善意を積極的に執り行っている。時代の変わっていく多摩町などを見ていたいなどと言って、成仏したくない幽霊がいる場合は、騒動を避けるため悪質な心のみを成仏させることも陰陽師の仕事としている。

 

 だが、今回注目すべき点は陰陽師の仕事ではない。拓海本人に関すること──性格である。

 

 爽やかなルックスに反して、誰に対しても過保護になり心配事を淡々と並べて話す癖がある。本気で医療費を払おうとしたり本人の許可なくご飯を奢ろうとしたりと、誰彼構わず困っている人を助けようとするのだ。

 

 ちなみに週にニ・三回は相手に喧嘩を売るような発言をしてしまうことがあるが、上記の性格の印象が強すぎるためか、自分の言動で揉め事が起きるということはないらしい。

 

 しかし、拓海は最初から過保護な性格でもナルシストな性格でもない。何の脈絡もなくその性格になったわけでもない。彼が何故今のような性格になったのか、その過去についてスポットを当てていきたい。

 

 

 

 

 

 

 幼い頃の拓海は、気の弱い性格の持ち主だった。何故彼が子供の頃は今のポジティブさのある性格とは正反対だったのか、それは陰陽師の仕事が関係していた。

 

 陰陽師が相手する幽霊、その存在は実際に見れてしまえば子供にとっては恐怖の存在となり得るものだ。しかし、幼い頃の拓海は親の監督不足により陰陽札を取ってしまい、それによってまだ耐性をつけないまま幽霊をこの目で目撃してしまったのだ。

 

 そしてその初めて見た幽霊が最悪にも、簡潔に言えばホラー映画に登場するラスボス並みのトラウマとなる容姿のものだった。

 

 母親が彼を抱きしめてその幽霊をこれ以上見てしまわないよう視界を塞がせ、父親がどうにか素早く除霊したものの、子供の記憶力は高いもの。その幽霊の影響により、拓海は恐怖心に陥ってしまった。

 

 それ以来、拓海は幽霊が見えてしまい、いつ見つけてしまうかどうかもわからない幽霊の恐怖に怯えていた。それにより同級生の背後にも出てくるかもしれない、その幽霊の中にまたあの時に似たかなり怖い見た目のが出てしまうのではないか、そういった恐怖による影響で、彼は気が弱くなってしまったのだ。

 

 そして拓海は、自分を呪った。何故あの時親の許可無く陰陽札を手に取ってしまったのだろうか。何故興味津々に触れてしまったのだろうか。何故、自分が代々伝わる陰陽師の一家として生まれてきてしまったのか、と。

 

 

 

 

 

 

 気がつけばある日、拓海は実家である神社を夜中に抜け出してしまった。まだ子供である自分が家出したところで、まともな生活ができるはずがない。警察によって家に帰されるだけ。そもそも家出をしたぐらいで幽霊が見える能力がなくなるわけがないのだ。

 

 

「僕、何をやっているんだろうな……こんなことをしても意味なんてないのに………………グスッ。ヒッグッ」

 

 

 真っ暗で照明の見えない森の中、自虐気味に徐に呟いた拓海。何故自分がこんな無意味なことをしてしまったのかも分からず、その場に座り込み泣きじゃくり始めた。泣いて、泣いて、涙が枯れる程に泣き尽くした。

 

 数分後、彼は未だに流れていた涙を腕で拭った。溜め込まれた感情を吐き出せた。それだけでも充分だろう、そう自分自身に言い聞かせながら。

 

 

「……帰ろう。お父さんもお母さんも心配しているだろうし───ッ⁉︎」

 

 

 立ち上がろうとした途端、背筋が凍りつく。獲物を見据えているかのような呻き声も、ウゥーっと聞こえ始める。足音が立たずとも、大木を軋ませるかのようなざわつきを感じさせる。背後から睨みを効かされている感覚が、彼の脳内でこう解釈された。『逃げろ。あの時の恐怖が迫ってくる』と。

 

 恐る恐る、ゆっくりゆっくりと、背後の方向に首を向けていく拓海。怖い、恐ろしい、見るに堪えないかもしれない。そんな感情が脳内信号として自身に知らせてくれるも、本能がその瞳に映さんとしていた。そしてその首……顔が、背後に向けていた方向に完全に向いた時には……

 

 幽霊……否、悪霊が、そこに浮遊していた。禍々しい黒色の人魂らしきものに、それを覆い尽くすように被せられていた般若の面。正しく特大級の怨霊とも言えるそれが、ケタケタと掠れた笑い声を上げながら、面の黄色い眼光で幼い子を……拓海を見下ろしていた。

 

 

ケタケタケタケタケタケタケタケタ……小童(こわっぱ)だ、小童がおる。しかもその服、陰陽師とな? そして儂に恐れ慄いておる表情とは。これはこれは、儂の好物になり得る代物が見つかったものよのぅ。ケタケタケタケタケタケタケタケタ……

 

「───‼︎ あっ……あぁっ……ああああぁっ……‼︎」

 

 

 思い出した。忘れたくても忘れられずにいた、あの時の出来事を思い出してしまった。そして重なってしまった。あの時見てしまった、瓜二つの姿をした悪霊と。

 

 心理的外傷が蘇った拓海は、思わずその場で尻餅をついてしまった。もう見たくもなかったあの時の恐怖が、異なる形として彼に迫ってくる。しかも最悪なことに、あの時自分を助けてくれた家族は今、自分の近くにいない。庇ってくれる者は、今いない。

 

 

ケタケタケタケタケタケタケタケタ……さて、その恐怖に満ちた其方の心の味は果たしてどのようなものであろうな? なに、安心するが良い。たとえ儂が喰って死ぬ運命となろうとも、痛みは一切感じさせぬからのぅ……安心して眠れぃ。ケタケタケタケタケタケタケタケタ……

 

 

 悪霊は嘲笑う。これから感情と共に自分を喰らい付かんとするその口を大きく開け、狂気に満ちた眼光で見下ろしながら。

 

 

「いっ………………いやだっ……いやだっ……」

 

 

 早くここから逃げたい。しかし足が震え、力が抜け、動こうにも言う事を聞かない。このままでは悪霊に食らいつかれ、最悪死に至る可能性が生じる。拓海は再び、絶望に狙われてしまった。

 

 

「誰か、助けて……」

 

 

 ついには大声を出す程の勇気までも恐怖に邪魔をされ、掠れた声が木霊せず発せられた。そして気がつけば悪霊は再び口を大きく開け、拓海の小さな身体を飲み込まんと───

 

 

ではいただきパコーンッ☆マフィヤァッ!?

 

 

 されることはなかった。桜色の如く薄く淡い光の球体が、悪霊の面に直撃し、押し出したのだ。面の額にヒビが割られ、幽霊は思わず後退する。

 

 

「えっ……?」

 

グヌウゥッ……!! な、何者だ!? 儂に霊術らしきものをぶつけ、儂の仮面を穢した愚か者は!!

 

 

 拓海は今、困惑していた。自分自身がまだ生きているということに、自分と悪霊以外誰も近くにいないはずなのに。

 

 対して悪霊は怒りに震え、吠えた。久方ぶりの自分好みになるであろう獲物を見つけたのに、それを捕食することを妨害された上にお気に入りとしていた面を割られ、完全にご立腹な状態であった。

 

 一人が戸惑い、もう一人が憤怒する中、何処からともなく声が聞こえ始める。

 

 

「ふぅ……なんとか間に合ったみたいだね。さてと、なんだかんだと聞かれたので、ここで少年を助けた救いの女神の自己紹介といこうかな‼︎

 

 

 

 あなたの町のかけつけ一本おまもり桜‼︎ 魔法少女★千代田桜━━━━ただいま見参ッ‼︎」

 

 

 

 颯爽と二人の間に降り立って来たのは、一人の女性。黒い長髪、桜色のノースリーブっぽい服の上に白衣、右肩に掛けているピンク色のマント、ピンクと白のフリフリスカートといった、正に正統派な魔法少女の衣装の女性だ。

 

 

「『………………」』

 

「は?」『は?

 

 

 二人は思わず呆気に取られた声を上げる。それもそうだ。突然何処からとも無く現れた女性が、突然非科学的なものを放っては、突然この場に似つかわないコミカルな衣装で姿を現し、突然先程までの死線のあった空気を崩壊させたのだから。

 

 

魔法、少女……? な、何なのだそれは……巫女とは異なるものであるのか……?

 

 

 ついでに悪霊には、カルチャーショックの如く世代のギャップらしきものを与えている。何なのだこれは、彼と同年現界する者はそう思うことだろう。

 

 そんな彼等の反応など知ったこっちゃないといった様子で、むふんっと胸を張ってきた女性──桜は、拓海を庇うように堂々と仁王立ちし、腕組みをしながら幽霊に指を指す。

 

 

「この悪霊め‼︎ 人気のない夜の森で子供を食べようだなんて言語道断だよ‼︎ 私に目を付けられたからには、もう悪さが出来ないようにさせてあげるからね‼︎ ……アレ? この場合は追い払うよりも除霊した方が得策かな……?」

 

………………ヌガァァァァァァッ!! 貴様ァッ!! なんだそのやる気の薄さは!! 貴様のような奴に儂の食事を邪魔されたとなるらと異様に腹立たしい!! まずは貴様から喰ろうてやるわァッ!!

 

 

 悪霊は再び怒号する。何故自分はこんな緊張感の欠片もない、衣装にもおふざけ感のある者に捕食の妨害をされなければならないのか、と。気がつけば悪霊の人魂の身体はみるみると巨大化していた。桜に対する怒りが強くなったことに合わせ、自身の身体も増大していったようだ。

 

 

「ヒィッ⁉︎ お、お姉さん、早く逃げ───」

 

 

 再び悪霊に対する恐怖に怯える拓海だったが、その感情はすぐさま遮断される。不意に、桜に頭を優しく撫でられたからだ。本人の方は悪霊の方に顔を向けたままとはいえ、それはまるで自分の母親にあやされているかの如く。手の感触による温もりがそれと重なり合い、少年の心に安らぎを与えていく。

 

 

「大丈夫。私、最強だから───なんちゃって♪」

 

 

 ふと拓海の方に目線を向け、ウインクする桜。そしてこちらの方に迫って来た悪霊に向けて両手を翳した瞬間──巨大な桜の花の形をした淡い光が、咲いた。

 

 

「幼き子を喰らう悪霊よ、我が光の力を以って成仏せよ───

 

 

 

 サクラメントキャノン‼︎」

 

 

 

グヌオォォォォォォッ⁉︎ な、何なのだこの光は───

 

 

 刹那。拓海が見た景色は一瞬桜色となり、花びら状の光が散るかの如く分散されていき、桜色の巨大な光が、その全てを覆った。

 

 

「………………綺麗……」

 

 

 拓海がそう呟いた時には、その景色が終わり暗い森の世界へと戻されていた。我に返った時には、悪霊の姿が一切見当たらないことに気づく。先程の光が悪霊を飲み込み、消滅させたのだろう。

 

 一体何が起きたのだろうか。あの悪霊はどうなったのだろうか。もしや消滅したのだろうか。陰陽師による除霊が行われたわけでもないのに、一体どうやって───

 

 

「終わったよ。もう大丈夫」

 

 

 そんな思考はすぐに消えた。魔法少女と名乗る女性が手を差し伸べたことにより、先程までの恐怖はもう来ないと、確信させられたからだ。

 

 気がつけば、拓海は感性を込めて再び泣き出した。死ぬかもしれなかった恐怖から解放され、桜に安堵を与えられたからだ。泣いて、泣いて、泣き噦る。彼女の腕の中に包まれながら。

 

 落ち着きを取り戻すまで泣き続けた拓海。突然泣き出して抱きついてしまったことを桜に謝るが、本人は今の状況は仕方ないことだと許し、再び笑顔を見せた。

 

 神社にある家への帰り道、手を繋いでくれた桜に問いた。

 

 

「お姉さん……なんでお姉さんは、こんな暗い森の中で僕を見つけてくれたの? あの霊の気配に気づいてくれたの?」

 

「ん? うーん……勘、かな」

 

「………………えっ、勘?」

 

「うん、勘。なんか子供が泣いている気がしたなって思って行ってみたら、君を見つけたんだ。まぁ悪霊のヤバい気配も感じはしたけどね」

 

「勘……」

 

 

 この時、拓海は思わず戦慄した。半分いい加減な感覚で自分達の気配に気づき、先程の凶暴な悪霊をも一撃で消滅させられる程の威力を放った女性に救われた。こんな偶然があっていいものだろうかと、今の状況にいる自分に困惑してしまったようだ。

 

 そして、また徐に問いた。

 

 

「なんで、会ったこともない僕を助けてくれたの……? さっきみたいに、怖い出来事に出くわすかもしれないのに……」

 

「なんで助けたか? そんなの決まっているよ───

 

 

 

 誰かが困っている時に、たとえ自分の身に何があろうとも、見返りなど考えずすぐさま助けに行ってしまう。それが人間の在るべき姿なんだよ。私はそれを後先とか何も考えずにやってみせた、ただそれだけだよ」

 

 

 

「………………‼︎」

 

 

 拓海は圧巻した。この人はなんて度量の大きい人なのだろうか。後先など考えず、誰かの為に自ら率先して動くことはそう簡単にはできないはずなのに……と。

 

 

「………………ねぇ、お姉さん」

 

「ん? 今度は何かな?」

 

「……僕も、お姉さんみたいな心を持った人になれるかな……?」

 

 

 気がつけば、拓海はそう桜に問いかけていた。一瞬目を見開いた本人だが、すぐさま微笑み、答えた。

 

 

「なれるよ。そこに優しさがある限り」

 

 

 

 

 

 

「───何故だろう、あの時の事をふと思い出したのは」

 

 

 体育祭準備の帰り道、拓海は徐に呟いた。幼い頃の記憶の次に浮かんできたのは、その準備の時に起きたトラブルの時の記憶。

 

 クラスメイト・ミカンが気絶してしまった時に彼女の呪いが暴発した時、彼は率先して呪いの鎮静に計った。結果吸収術と桃の咄嗟の援護により被害はあまり出なかったものの、それによる自責なのかミカンの表情は曇っていた。

 

 呪いが鎮静化された後、クラスメイトは必死にミカンをフォローした。呪いを起こしてしまったのは自分達のミスだった、だからそんなに気負わないでほしい、と。

 

 それでも、ミカンの心は晴れなかった。それもそのはず。もしもあの場に拓海と桃が──対等以上な力を持つ者がいなければ、最悪死人が出てしまうかもしれない呪いが周囲に放たれてしまったことだろう。そんな自責の念が、彼女を苦しませている。

 

 

「(今、陽夏木さんのところに行っても彼女の呪いが出てしまうかもしれない。あれだけ悲痛そうな表情をしていれば、些細な反応でも出てしまうかもしれない………………でも、それでも)」

 

 

 自責の念に溢れたミカンの表情が再び脳裏に過り、そして重なった。あの時悪霊を恐れ、弱々しくなった幼き自分と。

 

 

「(だからといって、あんな顔をされて見なかったことにするわけにもいかない。一人でに潰れてしまいそうな人を放っておくなんて真似、俺は絶対にしたくない……‼︎)」

 

 

 帰路とは反対方向へと振り向き、拓海は走りだす。スマホで両親に帰りが遅くなる連絡を入れながら、脇目も振らず走る。目指す場所は……手を差し伸べたい人物のいるところだ。

 

 

 

 

 

 

 ばんだ荘にて、ミカンの部屋のインターホンが静かに鳴る。その部屋の玄関のドアにて聞こえてくるのは、一人の男性の荒い息と呼吸。その呼吸が落ち着きを取り戻し始めた時には、ドアがゆっくりと開いた。

 

 

「はい………………って、えっ?」

 

 

 活気のない返事をしながらドア越しに顔を見せるミカン。その来訪者の顔を見た途端、予想外の人物であったことに驚いたのか、思わずドアを全開にする。

 

 

「……やぁ、陽夏木さん。ごめん、急に来ちゃってビックリしたよね?」

 

 

 来訪者の正体は紛れもなく、これまでに彼女の身を一番案じてクラスメイト・拓海だった。荒い呼吸と流れ出ている汗から察するに、どうやらそれほどの長い距離からこちらへと走って来たようだ。

 

 

「あ、貴方なんで……と、とりあえず入って‼︎ 今タオルと飲み物を出すから‼︎」

 

「あ、あれ? 先程の事があったから、今は一人になりたいとかの理由で入れてくれないのかと思っていたのだけどな……」

 

「……そんなに必死になってまで来た人を追い返す程、私は人でなしじゃないわ」

 

「それは失礼したな。だからそんな悲しい顔しないで」

 

 

 影を落とし罰の悪そうな表情を浮かべるミカンを、拓海は苦笑いしながら宥める。そして悟った。今の状態の彼女に何かしてあげようとするのは無難なのだろうな、と。

 

 ミカンの部屋に案内してもらい、彼女から渡されたタオルで汗を拭きながら、同時に渡されたみかんジュースを飲み干す拓海。そしてふと見つけたみかん箱や巾着を見て、徐に呟いた。

 

 

「あのキャリーバッグみたいに積まれている荷物……もしかして、ここを出る気かい?」

 

「ち、違う‼︎ そんなんじゃないわよ‼︎ ただ……ちょっと一人で落ち着きたくて、どっか一日、出掛けようと……」

 

「……いや、無理して言わなくていいよ。本当は何する気なのかどうか、真実がどうであれ、俺はそれを深く追求する気なんてないからさ」

 

「……うん」

 

 

 この会話を皮切りに、部屋には沈黙の空気が流れ出す。ここに来る前の出来事が出来事であるが故か、互いに何を語れば良いのか、分からずじまいとなっているようだ。

 

 この沈黙を、ミカンは破ろうとした。先程の呪いの鎮静の為に身を投げようとした拓海に、改めて謝罪しよう。そう心に決めながら。

 

 

「あ、あの……拓海……そ、その───」

 

「すまなかった」

 

「……えっ?」

 

 

 その謝罪は遮られた。逆に拓海に謝罪されたことによって。

 

 

「な、なんで拓海が謝るのよ? あれは私のせい───」

 

「俺は、陽夏木さんの過去がどんなものなのか分かっていない。分かっていない自分なりにできる限りの事を尽くそうとしたけど、君がこれまでどれだけ辛い思いをしてきたのかを理解できなかったせいで、返って君を苦しませるようなことをしてしまった。もっと君の事を知る必要があったんだ。なのに……結果論とはいえ、いい加減な事をしてしまった。本当に申し訳ない」

 

「ッ……」

 

 

 そんなことはない、それは言わなかったこちらにも非があることだから仕方がないことだ。そんな長くもない言葉が、不思議とミカンの口から出なかった。今思ったことを言ってしまえば簡単だが、それを行って良い結果を出せなかった本人がいるためなのか、自分から言うことを躊躇ってしまう。

 

 再び起こる。沈黙。しかし、それを今度は拓海が早い段階で破った。

 

 

「───辛いことがあったら、躊躇わず俺にぶつけてほしい」

 

「えっ?」

 

「君の中の呪いがどういった経緯で生まれたものなのかは分からない。けど、たとえ外部によって作られたものだったとしても、それは君の心境によって応じるもの……君のもう一つの心であることに変わりない。それが君の辛さ・悲しみ・怒りとして具現化されるのだったら、俺はそれを真摯に受け止める。そしてそれを分かち合い、君の心を晴らす力になるよ。大丈夫。俺、陰陽師だから。ちょっとやそっとの呪いじゃ絶対死なないよ」

 

 

 自分がいる時に呪いが出てしまうのを恐れないでほしい。寧ろ自分にだけ全てぶつけてもいい。心境の代わりとなるだろうそれを、自分が全て受け止めてみせる。それが、今の拓海が固めた決意であった。

 

 そして、拓海はミカンの手をそっと優しく握りしめる。彼がこれまで彼女を宥めたり励ましの言葉を掛けるためにしてきた、いつもの仕草だ。

 

 

「だから陽夏木さんも、呪いやそれを受けることになる俺を恐れないでくれ。本音をぶつけてくれ。俺の事も頼ってくれ。俺も……今度こそ、陽夏木さんの本当の力になってみせるから」

 

「………………拓海……」

 

 

 いつもならば、男女問わずこのような仕草をされても、自制しない限り自動的に呪いを発動させてしまうミカン。しかし、毎度のようにその呪いが発動することはなかった。最初は単なる偶然によるものだと思い込んでいたものの、拓海に手を握られた時はいつもとは違った胸の高まりを感じていく。それはまるで、全てを包み込む母性の如く。

 

 

「(あぁ、そうだった。なんで拓海に対してこんな想いを持つようになったのか、なんでそれに気づけたのか……ようやくわかってきた)」

 

 

 一度は気恥ずかしさから顔を俯かせていたミカンだったが、己の心境に気づいたのか、頬を染めた顔を上げ拓海を見つめる。

 

 

「(彼は誰よりも他人の事を気遣い、他人の為にできる事はあるのかを真剣に考え、必死にそれをやり遂げようとしている。そしてこんな私の事を誰よりも想い、どのような形でもそのままにしようせず、手を取ってくれている。だからこそ、かしら……

 

 

 

 私が、この人の事を好きになったのは)」

 

 

 

 気がつけば、ミカンも拓海の手を優しく握り返した。そして、自分の全てを彼に許すかのように瞳を閉じ、己の純潔を彼の純潔のある場所へと近づけ……

 

 

「ミカンさん‼︎」

「ミカン‼︎」

「お邪魔ー」

 

「ひゃっ」

「ふぁっ」

 

 

 突然のさらなる来訪者──シャミ子・白哉・桃の登場により、それは妨げられた。咄嗟にお互い手を離し、ミカンは紅潮した顔で一瞬不機嫌な表情をしながらも、その手を隠すように即座に後ろ回した。

 

 

「おい桃、なんだその気の抜けた台詞は……って、は? 拓海、なんでお前ミカンの部屋にいんの?」

 

「ちょっ、ちょっと訳があってだね……いやよく考えたら、鍵は掛けたはずだよね……?」

 

「と、というか何⁉︎ レディの部屋に急に入って来ないで」

 

「拓海くんが何故いるのは後で聞くとしまして……部屋どころか! これから心の中に入らせてもらうぞ」

 

「え……」

 

 

 心の中に入らせてもらう、それはどういう意味か。ミカンがそう問いかけようとする前に、シャミ子がその疑問の答えを明かす。

 

 

 

「私が、ミカンさんの中に住んでいる悪魔と話をつけます。眷属の二人(一人は仮)も同行する‼︎」

 

 

 

「「え………………えええええっ⁉︎」」

 

 

 この時から、十数年前の呪いとの因縁の鎖が、金属の混じり合う音を立てながら揺れ始めた。

 

 




拓海のヒロインをミカンにしてしまったのでね、こういったやりとりはしないわけにはいかないのよ。ただ、分かりやすい反応をしている子に対して何も気づかないなんてこと、普通あり得ないよね? ね?(圧)


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非常識な力を持つ者ほど頼れる奴はいない、そうに決まっている。 ♦︎

非常識な力を持つ者は迫害するよりも仕事を与えるべきってことで初投稿です。

今回はとある原作キャラと邂逅するまでの戦闘回となります。

あとしれっとまたオリキャラも出ます。


 

 ミカンを呪いから解放させるRTA、はーじまーるよー(RTAをするとは言っていない)

 

 原作通りとかどうとかって勝手に言い訳しておいて先程何もしてやれなかった分、それをチャラにする勢いでミカンを救ってやるぜ‼︎ 恋人の優子を筆頭に桃と一緒になァッ‼︎

 

 ちなみに何故ミカンの部屋に拓海がいるのかを本人に問いかけたところ、たとえミカンの呪いが発動する恐れがあったとしてもそのままにする気にはなれなかったのと、自分がミカンの為にしてきたことが結果論としてあまり意味がなかったことに対する謝罪をするためだそうだ。

 

 まぁ、こいつの事だから何かしら考えているだろうなとは思っていたけど、まさか直接会いに来たとは……こいつの考えていることが俺達の斜め上に行くの何なのさ?

 

 と、そんな事を考えている間に優子が自分達が何をしようとしているのかを説明することに。

 

 ミカンの中にいる存在──使い魔は最初はお話もできたとのことなので、彼女の心の中に突撃潜入し、説得を試みるとのこと。その説得の試み方が新聞勧誘みたいなものなんだけどな……

 

 ちなみに俺と桃は優子の護衛。相手側が話し合いをする気ない場合に優子を守るための戦闘要因として働き、相手側が話し合いしてくれる状態になるまで粘ろうって寸法だ。まぁ桃は物理説得する気満々だったけどな……

 

 

「ちょっと待ってくれないか? 護衛が必要だということは、それほど危険な賭けをするということかい?」

 

『はっきり言って危ないな。ミカンの許しがあれば心の中にすんなり入れるが、ミカンについてるやつからすればこやつらは侵入者。何をされるか分からん』

 

【一応僕が精神回復の魔法を外部から掛けて心を安定させて、呪いの安定化を図るメェ〜けど、それでも羽休めになりかねないと思うメェ〜。心の中に入った人数が多い、ましてや強い魔力を持った者ほど警戒されやすい可能性も高いメェ〜からね。悪魔が魔力を察知してしまえば、の話メェ〜が】

 

 

 そう、これはかなり危険な賭けだ。現実世界で行うものではないから死にはしないとはいえ、もしも精神との繋がりのある世界で戦う羽目になってしまえば、そこで命を落とすような事態になった時に後遺症を患ってしまう可能性があるのだから。

 

 だからといって、そのリスクを恐れても全然前に進めない。だから賭けるのさ、何もかもが成功するという可能性に。

 

 

「……なら、わざわざやらなくていいわよ‼︎ 今までだってそれなりに呪いと付き合えてきたし……」

 

「ダメです‼︎ 配下の状態異常の管理も闇の女帝の仕事だ‼︎ 人が集まる魅力的な闇の組織になるために……独自の福利厚生で差をつけます‼︎」

 

「改造や洗脳に殺戮などといった人の心身を抉るようなこともせず、逆に夢の世界に赴いてのカウンセリングも万全に整えていく、ホワイトでアットホームなベンチャー企業にするつもりらしいぜ」

 

「「闇の組織とは?」」

 

 

 喧しい。フリー○軍だって上司であるフ○ーザに対するとんでもない失言や反逆さえしなければ、殺されないどころか上司が部下のミスのケアをしてくれるんだよ。そう考えれば悪の組織にもホワイト感があるでしょうが。

 

 

「シャミ子はミカンを助けたいって……私も同じ気持ち。多少危険を冒しても帰ってこれると信じてほしい」

 

「無論、俺もその気でいる。もうこれ以上、お前に苦しい思いをさせたくないからな。安心しろ、夢の世界に関するヤバい出来事は三人とも経験済みだからな。だから信じろ、お前を絶対に安心させられる結果を残して帰って来てやるからよ」

 

「………………分かったわ……でも……くれぐれも無理はしないで」

 

 

 よし、笑顔でサムズアップしたからなんとか原作通り了承を得ることができたぞ(絶対これだけのおかげではない)‼︎ よし、んじゃあ早速桃には闇堕ち安定剤を飲んで、というか食べてもらって……

 

 

「待ってくれ」

 

 

 と、ここで突然言葉通り待ったをかけてきた者が。拓海だった。いや、なんだよ突然? いくら俺らの事が心配だからって、お前まで止めに入らなくても……

 

 

「君達の言う夢の中への潜伏……それは俺にもできないのか?」

 

「「「えっ?」」」

 

 

 まさかの私も同行するな感じ? あっいや、別に一緒に来てくれる奴が多いことに越したことはないだろうけどさ……その、何というか……いつもの感じで俺達を助けようとするのはさすがに……

 

 

「……俺は、陽夏木さんだけじゃない。自分自身が後悔するような結末なんて見たくない。俺は決めたんだ、陽夏木さんのもう一つの心でもあるだろう呪いに立ち向かうんだって、その呪いと向き合ってみせるって。だから……君達が呪いに対して何かしようとしているのを黙って待つなんてこと、俺はしたくないんだ。だから、できるのならば俺も最悪シャミ子君の護衛に回らせてくれ。この通りだ」

 

「僕からもお願いします。どうか……主人様の頼みを聞いてやってください」

 

 

 そう言って深々と頭を下げる拓海達。そっか……お前もさっきの呪いの暴発の事で、というよりはミカンの事でかなり思うことがあるんだな。それでこれまでよりもちゃんとミカンの呪いと向き合おうと決めたのか。

 

 ……こいつの意志を無下にはできないし、陰陽師の力も中々の強さを持ってはいるんだろうけどなぁ……。夢の世界でなら死なないとはいえ、こいつは夢の世界で意識を持って動くのは初めてだろうし、精神に負担を受けてしまう可能性も考えると、なんだかなぁ……

 

 

「待て、拓海の隣で一緒に頭下げてる奴。誰だお前は」

 

「えっ。いつの間にそこにいたんですか?」

 

 

 なんか俺達の気づかぬ内に出てきた奴がいるんだけど。しかも良子ちゃんみたいな身長の子なんだけど。俺よりも明るみのある銀髪、右前髪に黒い髪留め、右目が赤で左目が水色のオッドアイ、そして頭頂部に小さい猫のような耳、そしてそれが見えた案の定なのか猫の尻尾がある。何この男の子なのか女の子なのかも分からない子は。

 

 

「ね、猫……? 猫だ……猫がいる……ッ。ね、ねぇ……ちょっと撫で撫でしてもいいかな……?」

 

「えっ?」

 

「桃、今は猫好きモードになるのやめてください‼︎」

 

 

 桃が顔を赤らめて両手をワキワキとし、ハアハアと息を荒げながらその子の頭を撫でようとする。その表情と息で明らかに犯罪臭がヤバすぎるし、その手の動きからしてどう見てもとある部分を揉もうとしてへん? もしもしポリスメン?

 

 

千代田君、ステイ

 

「アッウン」

 

「た、拓海……なんか顔が修羅になってないかしら……?」

 

 

 そして拓海がガチでこの子に近づくな、みたいな表情をしているんだが……しかも人が絶対にできない形相になっているんだが……この子の事がそんなに大切なのか……?

 

 

「あぁ、皆さんに僕の姿をお見せするどころか、皆さんの目の前で喋ること自体初めてでしたね。はじめまして、僕の名前は蓮子(はす)。『れんこ』という漢字で『はす』と呼ばれてます。主人様である拓海様に仕える式神で、性別は男です」

 

 

 あっ、自己紹介してくれた。『蓮子』で『はす』って言うのか……紛らわしい名前だな。しかも女の子にも見えるのに男の子って……もしやこの子は男の娘ってヤツか? そういうのって需要はあるかもしれないだろうけど、なんだかなぁ……

 

 というか。

 

 

「式神がいるとか、俺達聞いてないんだけど」

 

「そもそも主人様は自分が陰陽師であることをずっと隠して生きていましたからね。……夕日が落ちる頃合いで皆さんを庇うためにお使いしてしまったみたいですが」

 

「ウッ……」

 

蓮子(はす)。陽夏木さんはそれを気にしているんだ、言わないでやってくれ」

 

「失礼しました、決して嫌味があったわけではありません。主人様の性分の事も考えて発言しただけですので、あしからず……」

 

 

 きちんと頭を下げて謝罪をしているとはいえ、その言い方からしたら絶対何か思っているように聞こえるんだよなぁ……あの時の事、そんなに不満だったのか?

 

 ってか、なんかどっかで聞いたことのあるような声だなーって思ってたら、思い出した。この子、拓海が呪いを抑えていた時に直接脳内に響いた声とそっくり……というかあの声そのものじゃねーか⁉︎ ってなんで驚いてんの俺⁉︎ 何に対してのビックリ⁉︎(混乱中)

 

 

「……オホンッ。主人様が皆様と共に夢の世界へ赴く件についてはご安心ください。主人様が陰陽札を所持している限り、式神である僕は主人様がどの世界にいようが指示されればいつでもその世界に現界し、いつでも主人様の足りない霊術の力の補強を致します。主人様は以前霊界に赴き僕を呼び出していただいた経験がございますので、確定でいつでもどこでも主人様を援護致しますので、力の方も含めご心配なく‼︎」

 

「「「「いやそもそも霊界に赴いたって何⁉︎」」」」

 

 

 ちょっおまっ、拓海は陰陽師の仕事をしていたんだよな⁉︎ なのに一時異世界に行って来ましたって何だよ⁉︎ 謎のビックリよりもこっちの方がビックリだわ‼︎(当たり前)

 

 

「……とにかくだ。俺はここで何もしないわけにもいかないし、足手纏いにもならない。だから改めてお願いしたい。一緒に、行かせてくれ」

 

「僕からも改めてお願いします。どうか主人様の友人を救う手伝いを、我々にも……」

 

 

 そう言ってまた深々と頭を下げる拓海、と式神の蓮子(はす)。本当にこの子が式神なのか、本当に俺達みたいに拓海を強くできるのかどうかは分からないが、役に立ちたいという強い意志があるのは確かだな……よし。

 

 

「………………かなり危険だと分かった時には、すぐ現実世界へと避難させるからな。みんなもそれでいいか?」

 

「……私は賛成です‼︎ 拓海くんがミカンさんの事を想っている意志を無駄にしたくありませんし、拓海くんの陰陽師の力を改めて見たいし、蓮子くんが一体どんな力を使うのかも気になるし‼︎」

 

「半分お前が拓海達に対する興味本位があるだけじゃねーか⁉︎」

 

「わ、私の事を想ってって……」

 

 

 興味本位があるだけで同行に賛成するとかどうなのさ⁉︎ 彼の身の安全の事も考えろよ⁉︎ それとミカン、お前は何頬を赤らめてんの? 赤らめる要素、どこ?

 

 ※この時の白哉はシャミ子が言っていた『拓海がミカンの事を想っている意志を無駄にしたくない』の意味を理解する時間を、シャミ子の興味本位に対するツッコミで削ってしまいましたのでご了承ください。

 

 

「私も賛成かな。拓海くんの強さはあの時ので多少確信しているし、何かあったらすぐにこっちに返すというなら拓海のリスクは大きくないだろうしね」

 

「わ、私も……‼︎ こんな私の事をここまで心配してくれたのなら、さすがに断れきれないってのもあるけど……それ以上に拓海の意志を、私は絶対に無駄にしたくないって思えたものだから……」

 

「「……あれ?」」

 

 

 あれ? なんかおかしいぞ? 桃が賛成したのはともかく、ミカンも賛成の意見を述べていた時、拓海の方をチラチラと見ていたぞ? それも罪悪感がある方のチラチラってわけじゃないし。

 

 あれれ? もしかしてミカンの奴、拓海の事が……

 

 

「桃……もしかしてミカンさん、拓海くんの事を意識するようになっていませんか?」

 

「私もそう思った。寧ろこれは……なんだろう、柘榴といる時の私と重なってしまっているんだけど、なんで?」

 

「そこは俺達じゃなくて自分自身の胸の内に聞け。っていうか今この場でヒソヒソ話やめろ、その話してるのバレるだろ。特にミカンにバレたらヤバい」

 

「「アッハイ/アッウン」」

 

「「……?」」

 

 

 あっ。怪しまれてはいるけどバレてはいないようだ。ミカンにも、拓海にも。よかったよかった……いやよくなかったわ、怪しまれた時点で。無暗にヒソヒソ話はしてはいけない、はっきりわかんだね。

 

 

 

 

 

 

 拓海の同行も決まったってことで、早速ミカンの夢の世界へ赴く準備に取り掛かることに。とはいっても、桃が闇堕ち安定剤を飲むだけなんですけどね。小倉さんが作った噛んで服用OKなその薬は『じょりっ』という不吉な音がする上に泥とゴミを煮しめた味がするという……桃、お前泥やゴミを食ったことあるのか? どんな体験をしていたねん。

 

 その間、ミカンに憑いている悪魔についての情報を聞くことに。ミカンの家族はその悪魔の事を『ウガルル』と呼んでいるらしい。

 

 リリスさん曰く、ウガルルはメソポタの怪物で、門柱などに姿を彫り込むと家を悪から守るっていう伝承があるとのこと。神話の時代の本物ならミカンのよりもさらにパワーを持つらしいが、彼女の父親は似せた形の依代に簡単なルーチンをする使い魔をつけ、彼女の護衛にしようとしていたようだ。

 

 使い魔は基本、簡単なことしかできない上に意志も持たないらしいが、ウガルルの場合はミカンの魔力を糧にして思ったより複雑な存在になってしまい、家族でも制御不能になってしまったようだ。

 

 召喚の仕方の些細なミスがとんでもない誤算となり、返ってミカンを苦しませる羽目になったってわけか。改めて聞くと使い魔の召喚も慎重にならないとアカンのだな、俺も今後新しい召喚獣を呼び出すことになった時は気をつけないと。増えるかは知らんけど。

 

 とりあえずウガルルの特徴がなんとなく分かったということで、早速布団を敷いて五人(と式神一人)で一緒に寝ることに。そしてメェール君は寝ている俺達に向けて回復魔法を与え、精神世界でのダメージを抑えてもらうことに。ところで布団、必要か? グッスリ寝るのに必要かもしれないけど。

 

 

 

 

 

 

「………………んあっ?」

 

 

 あぁ、どうやらミカンの夢の中に入ることに成功したようだ……って、なんじゃこりゃあ⁉︎ 地面がドロッドロ模様じゃねーかっ⁉︎ うわっ⁉︎ 景色もなんかどんより感が出とる⁉︎ 優子の夢の中とは大違いすぎるやろ⁉︎

 

 と、とりあえず召喚師覚醒フォームになっていつでも臨時体制に入れるように……あっ、もうなっていたみたいだわ俺。口上無しに変身できるようになるって、これどうなんだろうなぁ……ちょっと虚しいような、何というか……

 

 ムニュッ

 

 

「え ゙っ ゙?」

 

 

 今、何やらこの場で感じるのに相応しくない感覚が左手から伝わってきたんですが……しかもなんだか馴染みのある、というか馴染みすぎている感覚が……

 

 とっ……とりあえず左手のある方向に見下ろすとするか。もしかするとこの世界の地面の感触かもしれないから、すぐさま手を引っ込ませる必要もあ───

 

 

 

 我が左手、危機管理フォーム状態の幼馴染の右胸を揉んでいたで候。

 

 

「あっ………………びゃ、白哉、さん……そ、その……お、おはようございます……ッ」

 

 

 しかも本人は既に目を覚ましており、真っ赤な顔で苦笑いしておりまする。

 

 

 

「いやっちがっこれはっそのっ気が付かなかったっというかっ不可抗力ってなだけでっ」

 

 

 すぐに手を離したものの、突然すぎたせいか上手く呂律が回らんっ……チクショウ、なんで最近優子が危機管理フォームになっている間、彼女に対するラッキースケベが起きてしまうんだ……これが彼女の悠久なる眷属になった者の代償だってのかよッ……‼︎

 

 

「………………もう少し手を離さなくてもよかったと思いますが……」

 

 

 そしてなんでお前は寂しそうになるんだよ。めっちゃ恥ずかしがっている顔してた癖に。今はこれ以上を期待すんなよこっちの心臓が持たないから。

 

 

「シャミ子! 白哉! よかった、二人ともそこにいたんだね」

 

 

 と、そんなやりとりをしていたら桃がこちらに駆け寄ってきた。案の定というべきなのかダークネスピーチの格好をしており、さらに右手には漆黒と言っていい程の黒さを持つ日本刀が。鍔が桜になった天○斬月か?

 

 

「も、桃か。お前も今のところ無事だったんだな」

 

「うん。後は拓海くんの行方がわかるといいんだけど……二人とも、あまり視界が良くないし私から離れないで……」

 

「⁉︎ なんだその武器、ばりかっこ良ッッ」

 

 

 あらま、漆黒カラーの日本刀なんて厨二病感が強すぎるんよな。そりゃあ過剰に反応して興奮するよな。そして尻尾、荒ぶりすぎ。

 

 

「……どうしてそんなに興奮しているの」

 

「まぞくの癖に刺さるからです‼︎ 見せてーっっ‼︎ 構えてみてーーーっっ‼︎」

 

「刃に寄るな危ない‼︎ 若干離れてっ‼︎」

 

「ごめんなさい調子乗りましたッ‼︎」

 

 

 興奮しすぎて桃に近寄ったら、刀振るわれて無理矢理距離を離される羽目に。いや桃? いくら離れてほしいからって刀を振るうなよ、優子に刃が当たったらどうすんだよ───

 

 

 ムニュウッ

 

「「と ゙ぅ ゙う ゙ぇ ゙っ ゙⁉︎」」

 

 

 おっ……胸が、即座に桃から離れた優子とぶつかって胸が……俺の身体にぶつかって……ッ‼︎

 

 

「あっうっごっごめんなさい……ね、狙ってこんなことをしているわけではないので……あうぅっ……」

 

「えっあっいやっそれは、分かっていることだから……お前は悪くないぞ……?」

 

 

 チクショウ、桜さん秘密の泉の時と同じく一日に二回もラッキースケベに遭ってしまうとは……ッ‼︎

 

 危機管理フォームになってない優子の隣にいた時はラッキースケベなんて桃と初めて会った時しかないのに、なんで最近危機管理フォーム状態の優子に対してラッキースケベが起きるんだよ……ッ‼︎

 

 しかもよく考えてみたら、前回のラッキースケベが一日に二回のヤツで、今回も一日に二回とか……最近厄日が続いてんのか……⁉︎

 

 

「………………計画通り」

 

 

 おいコラこの自分は恋愛クソザコのくせに他人に対しては頭ピンクになる矛盾(?)魔法少女が。お前狙ったな? 優子が回避した途端に俺にぶつかるだろうなと予測して狙っていたな? 確信犯がこの野郎……ッ‼︎

 

 

「と、とりあえずまずは拓海と蓮子を探そうぜ。夢の世界だからなのか、ここに来れたとしても桃みたいに別の位置にいるかもしれないし───」

 

「呼んだかい?」

 

「僕達はここですよ」

 

「うおっビックリしたっ⁉︎」

 

 

 優子が離れてくれた途端、ふと背後から男性の声が聞こえてきた。ビックリした反動でそっち方面に振り向けば、そこには予想した通り拓海と蓮子の姿が。

 

 って、アレ? 拓海の服装、なんか変わってね? 陰陽師特有の衣装である狩衣を着ているし。普通のと違うところは赤い部分が全て青色なのと烏帽子を被ってないところだけだし……

 

 

「た、拓海くん‼︎ 無事だったんですね、よかった……って、アレ? なんか、先程までと服装が違くないですか?」

 

「あぁ、これは───」

 

「これは主人様が陰陽師の仕事を成す為に着替えた……というよりは変化した狩衣です。陰陽札を用いて即座に変化が可能で、これも主人様の霊力の安定化・強化を図るのに必要な過程となっております」

 

 

 あぁ、なるほど。桃やミカンが変身バンクを使用して魔法少女になるのと似たような感じに、拓海も陰陽札であっという間に変身できるのか。しかも霊術を安易かつ確実的に発動しやすくする為の必須アイテムらしいな。はえー、そんなものまで持っているんだな拓海は。

 

 

「……主人の説明に割り込んで勝手に説明とかやめてくれないか?」

 

「し、失礼しました。つい……」

 

 

 あっ、蓮子が怒られた。主人が説明しようとした時に代わりに説明してしまったから怒られた。主人の為に良かれと思ってやろうとしたタイミングを間違えたんだな、ドンマイ。

 

 

「ま、まぁとにかく。拓海くんと蓮子……ちゃん?とも合流できたことだし 「まだ僕の事を女の子だと?」 とりあえず進もうか。どっちに行ったらいいのかな」「僕の質問、聞こえてます?」

 

「とりあえずミカンが何処にいるのかが分かればいいんだけどな……優子、なんとかの杖でミカンのいる場所が確定できるようなヤツに変形できるか?」

 

「なんとかやってみます! 方向決めの杖ー‼︎」

 

 

 なんとかの杖、木の枝に変身。いや木の枝て。原作でもその姿に変形したとはいえ、そんなものでミカンのいる場所が分かるわけ───

 

 

「ヘイ方向決めの杖! ミカンさんがいる場所は何処ですか⁉︎」

 

 

 なんとかの杖、アレク○の代わりにしてる?

 

 

「Si○iか何かなの……?」

 

「なんかおふざけにしか見えませんが……」

 

「……の割には聞かれた後一人でに動き始めたみたいだけどね」

 

《右方向です。その先○○○m先道なりです》

 

「しかもナビ付き」

 

 

 えっ。えっと……これは優子の発想力が原作よりは良くなった、と捉えるべきなのか……? なんかナビみたいに音声が出ているし、距離も細かい感じに教えているみたいだし……

 

 あっ。

 

 

「いや、ちょっと待ってくれ。よく考えたらそれをワープ機能のある杖に変形させればよくないか? そうすれば一瞬にしてミカンのところへ───」

 

『待て。ここだと無闇にワープすることはできぬぞ』

 

 

 うおっビックリした⁉︎ リリスさん突然直接脳内に話しかけないでくれません⁉︎

 

 

『視界が悪くなっていることは既に認知済みだろう? これは恐らくミカンのエーテル体に溶け込んだ呪いの成分のせいだろう。そんなところで勘でワープしようにも、下手をすれば入ってはいけない位置にワープしかねないぞ。ここは方向決めの杖の指示通り歩きながら、目視で問題のありそうな箇所を探すのだ』

 

「りょ、了解っす……」

 

「リリスさん、今日は一段と頭が冴えている……」

 

『いつもは頭が悪いみたいに言うな‼︎』

 

 

 リリスさんが桃にディスられたものの、俺に対して正論をブッパしてきたのは正しい。確かにこんなどのような異変が起きるのかも分からない世界で、闇雲に何かしらの行動をするのは危険だよな。もっと情報を集めてからじゃないとな……

 

 というわけで、結局方向決めの杖の指示通りに歩いていくことに。途中で優子がなんとかの杖をおやつタイムの杖に変形させて菓子を召喚したが、皆が皆気が抜けないので後で食べるとのことで拾われるだけとなった。

 

 で、しばらくしたところで、ついにミカンを見つけることができた。が、今の彼女の状態は明らかに普通ではない。柑橘色の光の球体の中で未だ眠りについている彼女を、特濃の黒い霧が覆っていた。

 

 

「もしや、あの黒い霧が陽夏木さんを……」

 

「そうだね、あれがミカンを守る力場の本丸だと思う。まずは遠くからコミュニケーション取れるか試してみて」

 

「じゃあ私がやってみます……‼︎ エクスキューズミー。あいわんびーゆあふれんど! うぃーあーざわーるど! あいはばかしおーり!」

 

 

 おい待てや。コミュニケーションを取ろうとしている方法がおかしいでしょうが。

 

 

「よく考えてみろ優子、外国由来の奴でも別に日本語でも通じるだろ。日本人に召喚されたようなもんだし」

 

「よ、よく考えてみれば確かに……」

 

「「「ツッコむところそこ(ですか)?」」」

 

 

 原作知識を知っているけど下手してそれ言って今後の事に影響する可能性もあることを考えると言えないな、と考えていたら、やっぱりかと言った出来事が起きた。黒い霧が伸びる刃の如くこちらへと迫ってきた。

 

 

「やっぱり襲ってくるか‼︎ 時間稼ぐから説得試して‼︎」

 

「なら守りも刺激しすぎないように、だな……光の壁よ、散りばめ‼︎ シャイニング・ウォール・ビット‼︎」

 

「蓮子‼︎ 君も陰陽札を操って守備態勢に‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

 

 桃が刀を振るって斬り裂き、俺が透明なガラス板みたいなキラキラに輝く結晶で全部が砕かれるまで弾きまくり、拓海と蓮子は霊力であろう青いオーラらしきものを放つ陰陽札を浮かせながら俺達の周囲に配置する。とりあえずこれで守備態勢は整った。後は優子の説得が通じれば良いのだが……

 

 しかし、説得は無意味に等しかった。今のウガルルは依代を無くして存在が溶けてしまっており、視覚も聴覚も失われてしまっている。そして認知できない魔力の気配により、その魔力を感じる方向へと反射的に襲い掛かるようになっていた。

 

 だからといって黒い霧を散らしすぎるのも良くない。使い魔として寄生されているため、霧を払う毎にミカンの魔力も削れて彼女がコア状態になる可能性が高くなってしまう。となるとここは……

 

 

「霧が抵抗出来ぬよう、俺達で全部集まる必要があるな。凌牙、召喚‼︎」

 

 

 そう叫びながら俺が呼び出したのは、全長十メートルもある水色のサメ・凌牙。牙がめっちゃ鋭いが、無闇に何もかもを噛む習性はないため普段は無害な奴です。

 

 

「凌牙、あの黒い霧を消さないように巻き上げてくれ。攻撃できない状態にして、なんとかあの霧の発動者との会話に持ち込みたい」

 

『了解、あーしに任せなさいな‼︎』

 

 

 言っておくがこのサメ、名前が凌牙と男性っぽいのに、性別はメス。れっきとしたメスである。しかし当の本人は名前に対するコンプレックスなど持っていない模様。カッコいいと思って気に入っているのか……?

 

 そんなことを考えている中、凌牙が突然尻尾をブンブンと振り回し始めた。するとこちらに襲いかかってきた霧が、次々と風を巻き上げるように尻尾の周りに絡まっていく。

 

 凌牙の能力。それは動き回ることで風と水の力を同時に操る能力である。風の力か水の力のどちらかのみを操ることも可能で、状況に合わせてどちらかか両方の力を操れるなんて賢いな。

 

 

『こんのっ……なんで全部巻き上がらないのかしらねっ⁉︎』

 

 

 ……ん? ちょっと待てよ? なんか、巻き上げきれてなくないか? 本人もそういった感覚はあるみたいだし、これはちょっとやばいか?

 

 

「白哉君にばかり負担を掛けさせない‼︎ いくぞ蓮子‼︎」

 

「了解です‼︎」

 

「「防衛術・誘導藁‼︎」」

 

 

 そこに拓海と蓮子が援護に回る。二人が陰陽札を用いて呼び出したのは、等身大の藁人形。それらは各々一人でに浮遊し、霧の周りを蚊や蠅のように素早く動き回る。

 

 その人形にも魔力を感じたためか、黒い霧は藁人形に目掛けて襲い掛かる。その内の一体を捉えた方が、その人形の心臓部とも言える身体に当たり、そのまま藁の身体を貫───かれることはなかった。霧自体に物体を貫通する力が無いのか、藁が硬すぎるのかは定かではないが、その霧は藁に弾かれるだけだった。

 

 

「……いやあの藁硬すぎませんか⁉︎ 今の絶対心臓直撃ですよ⁉︎」

 

「僕の霊力で内部をコーディングしていますからね、ちょっとやそっとじゃ割られませんよ。それに近くから魔力に近いものが近づかれたら、大抵のはそっちに集中することでしょう」

 

「見て判断ができないのなら時間稼ぎにはいいのかもしれないね。……でも」

 

 

 それでも、と呟きそうな程の苦い表情を浮かべる桃。何故彼女がそんな表情を浮かべるのか、理由はただ一つ。

 

 

「対応し辛いってわけではないけど……明らかに数、というよりは量が多すぎる……ッ‼︎ これじゃあミカンを解放してあげられるのも時間の問題だ……ッ‼︎」

 

 

 そう、黒い霧が俺達が想像している以上に厄介なものだったのだ。

 

 先程供述した通り、存在が溶けてしまったウガルルは感じ取ったことのない魔力に反応して俺達に襲いかかっている。そしてその魔力を持つ者は俺達六人もいる。そのため、俺達に抵抗しようとする意思が霧=己が魔力に比例するように増大しているということだ。

 

 このままではウガルルとの会話をすることも出来ず、只々時間が過ぎるだけだろう……このままでは、な。このジリ貧となり得る状況を打破する方法を思いついた者が、ここに一人いた。

 

 

「………………………………皆さん、もう少し時間を稼いで……溶けたものを固める、武器を作ります」

 

「「「『えっ……⁉︎」」」』

 

 

 そう、優子である。彼女の算段からするに、黒い霧を一斉にミカンの身体から引き剥がしながらかき集め、それらを結合させてウガルルの依代を復活させるつもりだ。それを可能とする武器、それを彼女は記憶から掘り起こしたようだ。

 

 

「……今ならなんとかの杖を変形させられる余裕ができるはずだ。見せてやれ優子、この状況を打破する究極の武器をな」

 

「はい………………ずるい武器。

 

 

 

 (あめの)……沼矛(ぬぼこ)〜〜〜っ‼︎」

 

 

 

 天沼矛(あめのぬぼこ)。別天津神たちに漂っていた大地を完成させることを命じられた伊邪那岐(イザナギ)伊邪那美(イザナミ)の二柱の神に与えられし、日本神話の矛。渾沌とした大地をかき混ぜ、矛から滴り落ちたものを積もらせたことで、神々が初めて作った島・淤能碁呂島を生み出したと言われている。

 

 その神秘的な槍が、優子の手によって再び生成され、一時的な復活を遂げた………………ご家庭で料理する時、何かをかき混ぜるために必要なあの形となって。

 

 

「えっ……泡立て器⁉︎」

 

「泡立て器だ⁉︎」

 

『泡立て器でしょそれ⁉︎』

 

「泡立て器だよね⁉︎」

 

「……泡立て器かよ」(棒)

 

 

 とりあえず知らないフリしてツッコミ入れとくか。怪しまれそうだし。というかみんなして同じツッコミするのね。

 

 

「混ぜものはこれが最適解‼︎ これでこの霧の存在を固めてミカンさんと分離します‼︎」

 

「大丈夫⁉︎ その見た目で本当に大丈夫⁉︎」

 

「……まぁ、なんとかの杖の性能なら無問題だろ」

 

 

 つい適当な解釈をしてしまったものの、効果は見た目に反してかなり覿面。優子が物を混ぜるように天沼矛(という名の泡立て器)を回せばアラ不思議、凌牙が尻尾を回した時よりも多い量の霧がまとまってきたではないか。しかもこれを続けていく内に段々と景色が晴れ、橙色の景色が見え始めていく。

 

 つまりこれはどういうことか? 見た目を現代に合わせているだけで、能力は本物かそれ以上であるということだ。知らんけど。

 

 

『くぬぅぅぅ……‼︎ マスターの奥様に負けてたまるものですか‼︎ フンッフンッフンッフンッフンッフンッ───』

 

「ストップ、おつかれ、もう十分頑張ってくれたぞ」

 

『えっ、そんなぁ⁉︎』

 

 

 さらに必死に頑張っている凌牙にこれ以上の努力を無駄にさせないため、俺は待ったをかけた。だってもう必要な分の霧を集めたからね、大分小さくなったからね。

 

 あと……その小さくなった霧から、一つの生命が再構成されたからね。一言で言えば、身体が獣人っぽい子供が出てきたってわけ。まだ下半身は幽霊っぽいけど。

 

 

「………………ナ……」

 

「女の子……⁉︎」

 

「おしゃべりした‼︎」

 

「うーむ……強気そうなので、僕みたいに女の子と勘違いされそうな男の子にも見えなくもないですが……」

 

「いや、声からしてそれはないと思うよ」

 

『……シバタと仲良くしてくれそうな見た目ね……』

 

 

 とりあえず、ここからが本番だな。なんとかこの子──ウガルルと上手く会話できるようにしないと。その前に魔力使い過ぎて倒れた優子を楽な態勢にして、ウガルルにお菓子をあげてみるか。

 

 ……どうでもいいだろうけど、ここで危機管理フォームが解除されてよかった。またラッキースケベ起こしそうだったから……

 

 




はい、ウガルル初登場のところで区切りがついたので、今回はここまで。次回はウガルルへの説得回です。お楽しみにー。

↓拓海の式神・蓮子の画像

【挿絵表示】


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不穏な雰囲気を感じるけど、レッツ説得ターイム‼︎ ……分かりやすく話せるかな?

鍵開いてないからって勝手に入るのは犯罪だよってことで初投稿です。

今回はウガルルちゃん説得回です。果たしてウガルルちゃんの反応は如何に⁉︎


 

「………………あった、ここだな」

 

 

 白哉とシャミ子のクラスメイトでテニス部一年生エース・勝弥は今、白哉達が住んでいるばんだ荘の前に来ていた。ここに来た理由はただ一つ。呪いを暴発してしまったミカンの事を心配し、様子を見に来たのだ。

 

 とは言うものの、彼も最初から直接様子を見に来る気でいたわけではなかった。初めは呪いを暴発させてしまった彼女の事を考え、困ったことや悩み事があればいつでも相談しに来てもいいといるメッセージを送ったものの、既読したという表示が一切付いていないことに疑問に感じ、今に至ったというわけだ。

 

 そして、ばんだ荘へと向かっていた道中にて。

 

 

「まさか俺と同じ事を考えていたとは思わなかったぜ、杏里」

 

「まぁね、私もミカンの事が心配で仕方なかったんだ。あの後も結構暗い顔していたし」

 

「あぁ……確かに明るくはなかったな、その時のアイツの表情」

 

 

 同じクラスメイトで同じテニス部の杏里と偶然にも鉢合わせした。彼女も同じく自分が送ったメッセージの既読をしていないミカンの事を心配し、直接顔を見に来たとのことらしい。

 

 

「アイツの今住んでいるところに来たのはいいものの、出てくれるのかどうか心配になってくるな」

 

「それもそうだね。あんな事が起こった後なんだし、塞ぎ込んでいなきゃいいんだけど……」

 

 

 お互いに今のミカンが何をしているのか、何を思っているのだろうかと不安な思考に至りながらも、彼女の様子を一目でも見ようと玄関前のドアへと向かっていく。そして立ち止まったところで、勝弥がある物に気づく。

 

 

「ん? このドアに付いてるこの紙はなんだ? 勝手に剥がしちゃいけないものっぽいけど……」

 

「なんだろうなぁ……? 魔法少女から連想されるに結界だとは思うけど……」

 

 

 そう、ミカンの部屋の玄関前のドアに貼られている、結界の模様である。ファンタジーに関する二次創作でありがちな魔法陣の模様が描かれていれば、誰もが注目することだろう。魔法を使う者がいるところならば尚更だ。とは言っても、効果は『虫除けの結界』であるが。

 

 

「……まぁいいや。とりあえずインターホ──って、なんかドアが半開きになってね?」

 

「えっ? このアパートって鍵掛けが無意味な程に脆かったっけ……? とりあえず鳴らして伝えるだけ伝えよっか」

 

 

 鍵が掛かっていないのだろうかと不穏に感じながらも、インターホンを鳴らしてその事をミカンに伝えることにした杏里。しかし、ここで新たな疑問が過ぎる。

 

 

「……出ないな」

 

「……出ないね」

 

 

 鳴らして数分経っても、もう一度また鳴らして数分待っても、ミカンがそのインターホンどころかドアの前まで来る気配がないのだ。たとえ塞ぎ込んでいたとしても少しは何かしらの反応をするはずなのだが……

 

 

「……なぁ、さすがに色々と怪しすぎないか? メッセージに反応しないのといい、ドアが半開きなのといい……陽夏木さん、中で何かあったりしないか?」

 

「確かに、その可能性はあり得そうだね……仕方ない、勝手に上がらせてもらおっか。おっじゃましまーす」

 

 

 無断入室は犯罪になるのではないか、という疑問を無視し、二人が部屋の中に入れば……

 

 

 

 奥の部屋にて、白哉・シャミ子・桃・ミカン・拓海・謎の銀髪で丸い猫耳の少年か少女かも分からない人物の六人が、死屍累々な状態で川の字に寝ていた。しかもシャミ子に至っては何やら白目を剥きながら。

 

 

 

「「(0M0) ウワアアアアアアアアア⁉︎」」

 

 

 これには二人とも、恐怖心によって怯えている滑舌の悪い先輩戦士のような悲鳴を上げてしまう。突然の出来事で異常な光景を見てしまったのだ、驚くのも無理はない。

 

 

「何これ⁉︎ 事件か⁉︎ 事故か⁉︎ サイコ案件か⁉︎」

 

『し〜〜〜っ‼︎ 今、夢にダイブ中‼︎』

 

【あんまり叫ばれるとみんな起きちゃうメェ〜】

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

【うるさいメェ〜、少し黙ってるメェ〜】

 

「あっすいませんでした……」

 

 

 ここで勝弥、喋る銅像であるリリスと喋る羊であるメェールを今まで見ていなかったためか、何処ぞの何故これで審査が通ったのかも分からないハッ○ョーセットの子供みたいな悲鳴を上げてしまった。すぐに抑えてくれたものの、喧しい。

 

 

 

 

 

 

 ……よし。桃がお菓子をあげたことで、なんとかミカンに取り憑いた使い魔──ウガルルに交渉の席に着いてもらうことに成功した。メソポタミアの怪物をモデルに造られた使い魔だと言われているようだが、簡単な言葉なら今の状態でも通じてくれるとは思う。

 

 原作では桃は最初会話での交渉に戸惑っていた(しかも力づくなことも考えていた)が、この世界では俺や召喚獣の凌牙、そして拓海と蓮子がいる。話し合いが桃よりは得意そうな俺達でなんとかしてみせるぜ、オーイェー。

 

 さてと、まずは……

 

 

「おかわりいるか?」

 

「んがっ」

 

「いや会話の初めがそれ⁉︎ まだ本題にはいかないの⁉︎」

 

「相手にこちらの条件に飲み込んでもらうには、相手側にも利点がつくようなことをするのがベストだと思うからな」

 

 

 突然こちら側にしか利点がないお願い事をしても、そう簡単に受け入れてもらえるはずがないからな。こうやって相手の機嫌も伺いながら、相手への利点を与えてから本題に入った方が何千倍も効率が良いんだよ、うん。

 

 

「なァ。お菓子もうまかっタガ、ニクはあるカ」

 

「肉か? ちょっと待て、出せるかやってみる。むぬぬぬぅ……」

 

 

 そう言って俺はマンガ肉をイメージし、それが実際に出てくれるよう念を込める。念入りにセイクリッド・ランスを掲げながら。優子の悠久なる眷属になれたんだ、きっと優子みたいに夢の中で何かを生成できるはずだ。むぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅ………………

 

 

「……プハァッ⁉︎ 魔族の眷属になれたからって出せるわけねェのかァ……ッ‼︎」

 

『何してるのよマスター……ねぇメェール君、そっちの意思を通して肉を出せるかしら?』

 

【試しにやってみたいメェ〜が、今突然来客への対応で忙しいメェ〜。そちらで何か別の手段を取ってほしいメェ〜】

 

『そ、そう……』

 

 

 念じてもダメ、メェール君に頼んでみても彼は今手が離せない状況。これじゃあちょっとなぁ……

 

 

「シャミ子、肉の杖とかはある?」

 

「やってみます………………すみません……今、肉は、キツイ……おかゆの杖とかなら出せそうですけど……」

 

「あ……うん……ごめん、無理しないで……」

 

 

 いやそりゃそうだろ……体力使い過ぎて倒れている奴に頼んでも、それが上手くはずないんだからさ……

 

 

「蓮子、生成術なら俺より得意だよね? 頼めるかい?」

 

「できますけど……本当にこんな事であの子は話を聞いてくれますかね?」

 

「やらないよりはマシだと思う」

 

「まぁ……そうですよね」

 

 

 おい、式神コラ。なんでお前は食べ物を献上することが無意味かもしれないと思っているんだよ。いいからはよお肉渡せや。

 

 よし、陰陽札を通してちゃんと作ったな。さっさと渡して食べてもらえ。……って、なんで俺こんなにも偉そうな態度を取ってんだよ。何様?

 

 あっ少しヤバい。ウガルルの形が崩れてきてる。どうやら優子の杖の効果は永続的じゃないようだ。

 

 おっ? それを察してか、拓海が一枚の陰陽札を浮遊させてウガルルに近づけさせた。そしたら形が崩れなくなったどころか、崩れた部分を再生させている。陰陽札とその霊力って、外部へのサポートも施されているのか? 万能じゃね?

 

 

「うまイ。……そういえバオマエラ、話ガしたイって言っていタナ。話って何ダ?」

 

 

 おっ? ここでウガルルが自分から話を聞く気になったようだな。少しは心の許しが出た。やったぜ。

 

 

「……単刀直入に言う。ミカンの心の中から退去することは可能?」

 

「オマエ、コトバ難しイ‼︎ 簡単なコトバで話セ」

 

「えっ……」

 

『まぁ、そう言われるでしょうね』

 

 

 うん、知ってた。幼い姿だからそういう反応すると思った。桃、お前もちゃんと相手を見て判断しないと……

 

 

「……ウガルルちゃん、だよね? 一回ここから離れてくれないかな? ひなっ……ミカンさん、困っているんだ」

 

 

 おおっ、拓海の方がウガルルにも理解しやすいかも。単刀直入とか、退去とか、もう少し歳を取らないと理解できない言葉を使っていない。難しくかつ長く言葉を繋げていない。お前やるやん。

 

 ……というか今、初めてミカンの事を名前で言ったな? ウガルルの前で念のためにとはいえ、名字呼びを一旦やめて名前呼びに変えたな? 言質取ったりー、後でミカンに報告しよ。

 

 

「……? オレがここにいテ困っていル? 何故ダ? オレ、ミカン守るたメにここに入っタんダゾ?」

 

「ミカンさんを守るために? どういうことか教えてくれるかい?」

 

 

 ……まぁ、そう簡単にはミカンから離れてくれないよな。俺だけわかってはいたけどさ。

 

 ウガルルの話によれば、彼は……じゃねーや、彼女は呼ばれた時、依代が形を保てなくなり壊れてしまい、現界ができない状態だった。そのためミカンの体内に入ることで、依代が無くとも彼女を守ることができるという憶測に至ったようだ。

 

 どのようにして彼女を守ったのかというと、ミカンの心が震えた瞬間に攻撃するという判断だった。体内からでは外の様子が見えないため、心の震えに合わせて行動することにしたそうだ。

 

 

「なるほど、全てはミカンさんを守るための善意でやったってことだね。彼女のために善意でやろうって思うことは偉い………………でも、ごめん。やり方は間違ってたみたいだよ」

 

「んがッ⁉︎ ダメだっタのカ⁉︎」

 

「やり方はね」

 

 

 苦笑いを浮かべた後、拓海はミカンが今どういう状況に遭っているのかを話した。ウガルルが外を見れないせいで、感情が動く度に無害な周りを攻撃してしまい、それを抑えるのに苦労していたのだと。

 

 

「んがッ……ミカン、お困りだっタ……?」

 

「かなりお困りだったね。ついでに言うと、私もだいぶお困りだった! 姉がミカンのために作った『キツめの呪いを笑える感じにする結界』のせいで、こっ恥ずなコスプレを何度もさせられて………………なので一旦被害者代表である私に謝っ───」

 

千代田君、今は私怨を言うところじゃないよ。静かにできる?

 

「アッゴメンナサイ……」

 

「主人様、顔が怖いです……」

 

『ブチギレver.のマ○マさんに見えるわね……』

 

 

 顔に影を落としながらのニッコリ笑顔はやめてくれね? ウガルルどころかみんな怖がるからさ……何処ぞのチェンソーの能力が使える主人公の上司なの?

 

 

「……そうカ……オレ、ミカン守るノ仕事……困らせル、良くなイ。オレ、じきにまた溶けルっぽイ。その前ニオレ、出て行ク……」

 

「……わかってくれてありがとう」

 

「んがっ! オレ、使い魔! アリガトウ言われるの好キ‼︎ ……初めて言われタけどナ」

 

 

 あっ、そんな会話をしていたらウガルルが自分がしてきたことや立場を理解したから、どうやらここを出て行くつもりのようだ。みんなそれでいいと思っているようだが、原作を知っている俺はこのままでいいとは思ってはいない。いや、思ってはいけないと言った方が正しいか。

 

 

「なぁウガルル、ちょっといいか? ここから出て行くと言っていたけど、それってお前がこの世界からいなくなってしまうってことになるんじゃないのか?」

 

「「「『………………えっ?」」」』

 

「んがっ。オマエ、勘ガいいナ」

 

 

 勘がいいなんて言葉、そんなに簡単な言葉じゃないのに知ってんのか。ちょっと意外だな。

 

 だが、これは原作を知っていなくても察しがつくとは思うことだ。この後のウガルルの話でも、依代を持つ使い魔がその依代と役割が無くなってしまえば、存在の根拠が失われてしまうと召喚先の世界から消えてしまうとのことだし。現界するための手段が無い者はそういう運命を受ける、そう思ってしまうことだろう。

 

 

「オレ、使い魔。心・魂持ってなイ。消えル、普通のコト───」

 

「待て待て待て‼︎ その結末はダメです‼︎」

 

 

 何事もない感じに自分が消えることを認めようとしているウガルルに対し、先程まで体力のない状態だった優子が、なんとかの杖を老人が使う杖に変えて身体を支えながら立ち上がり、待ったをかける。

 

 このままにしてもまた倒れそうなので、俺が優子に肩を貸すことに。恋人のために手を差し伸べるのは当たり前だろ?

 

 

「無茶するな優子、無理して疲労感マシマシな身体を起こしても意味ないぞ」

 

「あ、ありがとうございます……。ともかく、消えるなんて絶対ダメ‼︎ ありがとうって言われるのが好きなくせに、心がないとは何事だ‼︎」

 

「急ニ興奮しテ誰ダオマエ」

 

「さっきまでそこで寝ていた自称・闇の女帝です‼︎ 自称・この町のボスです‼︎」

 

 

 呪いの元凶に対しても消えるのは絶対に許さないと言う、器が大きく優しいまぞく。普通の奴なら消える事を良くないと思うだろうが、彼女だからこその良きところがここなんだよな……

 

 というか自分で自称とか言うタイプなのかこの子は。身の程を弁えるタイプだとか?

 

 

「……私も君が消えるのは納得できない。一旦ギリギリまで手段を考えよう」

 

「俺も同じ気持ちだよ。未練を残すことも消えるのを認めるなんてこともさせたくない」

 

『まだこの先の事が決まったわけでもないのに、模索とかせずに諦めるだなんて良くないわよ』

 

「そ、そうですよウガルルさん‼︎ 陽夏木さんも優しいですし、どうにかしてくれると思いますよ‼︎」

 

「……一人不安な奴がいるみたいだけど、俺達はお前のミスのちょっとやそっとを受けても大事には至らなかったんだ。だからお前が今後すべき事だってなんとか見つけられるし、ミカンもみんなもお前の事を受け入れてくれるはずだ。だから消えようなんて考えるな」

 

 

 自分の役割を果たすことが出来ていなかったという事実を受け入れることは辛いだろう。けど、一度大きな失敗をしてしまったから終わっただなんて思わないでほしい。だから俺達はお前を消させない。絶対に。

 

 

「……気持ちハ嬉しイ。でモ」

 

「「「「『でも……?」」」」』

 

「オレ……ミカン守るため生まれタのニ、ミカンずっト困ってタ。ミカンきっと、オレのコト許さなイ」

 

「そんなわけ───」

 

 

 ってヤベェッ⁉︎ 反論しようと思ったけど時間がねェ⁉︎ 使い魔の役割への執着が消えたからか、すごい勢いで崩れ始めた⁉︎

 

 これ、やばくねェか⁉︎ 俺や拓海に蓮子もここに来たせいなのか、原作よりも深い責任感を感じているじゃないか⁉︎ これじゃあマジで消えちまうのも時間の問題では⁉︎

 

 

「ッ⁉︎ ま、まずいです主人様‼︎ 皆さん‼︎ 陰陽札の霊力がウガルルさんの意思によって拒まれています‼︎ このままでは、霊力による加護でウガルルさんの姿が崩れるのを防ぐことができません‼︎」

 

「ハァッ⁉︎ 拒まれているゥッ⁉︎」

 

 

 えっちょっ、ハァッ⁉︎ なんだよそれ⁉︎ それってアレか⁉︎ 自分から後に消えてしまうことを認めて、それを受け入れるために気合いか何かで霊力をなんとか拒否したってか⁉︎ 何ネガティブな方面で一瞬頑張ってたねん⁉︎ 消えないという方向性で努力しろよ⁉︎

 

 

「頑張れー‼︎ めっちゃ心折れてるじゃないですか‼︎ 何が心がないだ‼︎ 消えてしまうことを勝手に受け入れるなー‼︎」

 

「そ、そうだぞ‼︎ ミカンだって話せば受け入れてくれるんだから‼︎ 冗談じゃなくてマジで優しいからアイツ‼︎ だから消えないで会って話し合おうぜ⁉︎ なっ⁉︎」

 

 

 さすがに原作知識持ちの俺でも焦るわこれ‼︎ 俺達三人というイレギュラーのせいで、ウガルル消滅という激ヤバ原作崩壊が起きるって‼︎ ダメダメダメダメダメダメダメダメ‼︎ 消えるな‼︎ 諦めるな‼︎ 強く生きろォッ‼︎

 

 と、そんな事を必死に願っていたら、ウガルルの近くに浮遊して霊力を送っている陰陽札が数枚増えていることに気づいた。

 

 

「………………消させるものか」

 

「た、拓海……?」

 

「言ったはずだ、未練を残すことも消えるのを認めるなんてこともさせたくないって。後悔させたままに、したくないって……‼︎」

 

 

 そう言う拓海の表情は険しく、瞳には涙が溜め込まれていた。余程ウガルルの消滅を受け入れたくないのだろうか。

 

 

「ウガルルちゃん……君は昔の俺にそっくりだ。自分がした事が人知れずに誰かを傷つけるような結果を残してしまい、それによる責任感と後悔を持ってしまう……その気の弱さが」

 

 

 過去の自分にそっくり……? 拓海、お前……昔そんな辛い過去を持っていたのか? そしてそんな自分を、ウガルルと重ねていたのか……?

 

 

「俺は、昔の自分みたいな思いをする人を見捨てたくない‼︎ 何がなんでも助けてやりたい‼︎ 君のこの後の事だって一緒に考えてあげたい‼︎ 救ってやりたい‼︎ だからお願いだ、消えようなんて考えないでくれ‼︎」

 

 

 過保護な陰陽師から流れてくる涙。切実なる懇願。それを見たこちらからも、何処か深く心に突き刺さるような熱い何かを感じられた。拓海……お前、そこまで言うほどウガルルに消えてほしくないのか……

 

 

「………………オマエ、優しイナ。ここニいル奴ラの中デ一番。トいうカ優しすぎル。助けテやりたイだなんテ、そう言ってくれルのハ嬉しかっタ。……でモ、いいんダ」

 

「ッ……‼︎」

 

 

 そう言って微笑んだウガルルの笑顔は、何処か哀愁感が漂っていた。彼の想いを受け入れたくも受け入れてはいけない、そんな悲しき表情だ。

 

 

「どのミチ、この体ハ溶けル……溶けル前に出て行ク。ここ、居心地よかっタ。長生きできタ。ミカンにお礼伝えテほしイ」

 

「ッ……‼︎ ダメだ、そんな事を言っては……‼︎」

 

「オレも……できれバ仕事で、ありがとうっテ、言ってもらいたかっタ───」

 

 

 

「待ちなさいっ‼︎」

 

 

 

 突然、ウガルルの消滅に待ったをかける者が。その正体は無論俺ではなく、拓海でもなく、優子でも桃でも蓮子でもなかった。

 

 

「さっきから聞いてれば……人の気持ち勝手に推し量って凹んでるんじゃないわよ‼︎」

 

「ミカンさん⁉︎」

 

「ひ、陽夏木さん⁉︎ なんで……⁉︎」

 

 

 その正体は、先程までずっと眠りについていたままのはずのミカンだった。

 

 

「貴方持ちづらいわね‼︎ 一旦溶けるのをやめなさい‼︎」

 

「んががっ⁉︎」

 

「混沌って羽交締めできるものなのか? そもそもしても大丈夫なものなのか?」

 

 

 というか、よく考えたら混沌とかいう未知の存在を羽交締めにしようとか考えたこいつもこいつでヤバいじゃねェか。よく後先考えずそんなことしようと思えるな、ある意味スゲェよオイ。

 

 何故ミカンが起きているのかとみんな困惑しているが、やっとのことで念話してきたリリスさん曰く、どうやら今のミカンは半起きの状態のようだ。外の世界に急なゲスト──杏里と勝弥が来たとのことで、ミカンを頭半分揺さぶって半分だけ起こすのに協力してもらったらしい。

 

 

「……お陰で久しぶりに貴方と話すことができるわ! ウガルル──貴方に雇い主として命じます。凹んでないで、もう一度やり直しなさい‼︎」

 

 

 そして、ミカンは命じた。罪を重んじて消えようとは考えず、失敗を糧にして生きろ、と。

 

 

「やり直ス? オレ、仕事できなかったのに? ……怒っテ無いのカ?」

 

「はっきり言って怒ってるわよ! すっごい大変だったんだから‼︎」

 

 

 まぁ、十年以上も呪いとして苦しまれてたら怒らない方がおかしいもんな。その上に桃や桜さんに助けてもらうまでは本当に人を傷つけてしまったんだし。

 

 

「……だからこそ! 一回失敗したくらいで心折れて消えるなんて、そんな楽ちんな生き方、私が許さない。それにね! 私……大失敗してもこの町の友達に受け入れてもらえたの。だから……貴方ももう一度頑張りなさい‼︎」

 

「んが……」

 

 

 こんな自分でも受け入れてくれたのだから、お前もだってその対価はあるはずだ。そう励ますようにウガルルに告げたミカンの瞳は、未来を生きるという目標のある活気と、それを分け与えようとする抱擁の意思で溢れていた。

 

 あんな目に遭ったのに許そうとした上に、みんなを信じてもう一度自分が良心を持ってやってきたことを、本当の正しいやり方で成し遂げようと言うなんて……なんて強気な性格になっただなんて、数年前とは結構良いような変わり様だな。

 

 

「分かっタ……もう一度頑張ル」

 

「その意気やよし‼︎」

 

 

 おぉ。ミカンの言葉が響いたのか、生きようという活力が芽生えてきたようだ。彼女のせいで一番苦しんだ筈の雇い主である本人が本気でウガルルの事を想ってくれたのだからな、そりゃ『自分も主みたいに頑張ろう』って思えるようになるわな。寧ろその方がいい。

 

 

「……よかった。ウガルルちゃんが、自分が消えることを最期まで受け入れようとすることがなくって」

 

 

 これには拓海も本気で安堵しているようだ。まぁ、なんか誰よりもウガルルの事を本気で心配していたみたいだし、そりゃあそんな反応はするだろうな。

 

 

「……陽夏木さんはすごいよ。自分を苦しませてきた人を許そうとするだなんて、普通ならできないことだよ」

 

「……いいえ、大したことしてないわ。励ましているようなものだから、許したのかどうかは私自身にも分からないのだけれど……ウガルルはウガルルなりに私を守ろうと必死だったもの。その努力を無駄にさせたくなかったから本心をぶつけた……それだけよ」

 

「それでも、その想いでウガルルちゃんが消えてしまうのを止めてくれた。俺が必死な想いで止めようとしてもできなかったことを、君はやってくれた」

 

 

 そう言いながら涙ぐんでいた拓海。本来ならこういう時は同時に悔しがってもいいはずなのだが、それ以上に感謝と喜びが勝っていた。そしてその感情が、拓海をミカンに抱きつかせる行為へと至らせる……いや、そのりくつはおかしい。

 

 

「えっちょっ、うえぇぇぇっ⁉︎」

 

「ありがとう。君の私事もあったとはいえ、ウガルルちゃんを止めてくれて」

 

「「「『うわお……」」」』

 

「主人様……また陽夏木さんに対してそれですか。いい加減おやめになってください。陽夏木さんの心身が持ちませんし、無意識にそれやるのはもっとタチが悪いです」

 

 

 あ、蓮子は現界されてなくても拓海が今まで何をしてきたのかを見てきたのか。そして彼のミカンに対する行動に呆れていると……まぁ、そうなるだろうな。

 

 というか、拓海の方はこんな大胆な事をして恋愛的好意がまだないってマジ? このギリ思春期みたいな歳でこの行為を、友達感覚で。しかも無自覚に。いやどんだけ自分の恋愛に鈍感なんだよこいつはよぉ。

 

 って、よく考えたらウガルルが隣にいてよかったな。もしも現実世界だったらウガルルが間違えて攻撃を起こす可能性があったからな。こういう場面では何故か攻撃しないんだけどな……

 

 

「……あァ、そうカ。今のデやっト分かっタ気がすル」

 

「んっ? 分かったって、何が?」

 

「とりあえずまずお前は一旦ミカンから離れろや」

 

「えっ? あぁごめん」

 

 

 やっぱり無自覚で抱きついていたんかい。そりゃこの後ミカンがなんでそんなことをされたのか、そしてなんでその後にミカンの呪いが発動しなかったのか戸惑い遅れて発動するわけだ。

 

 

「さっキ、拓海とカ言う奴ガミカンにしてきたのと同じダ。外見れなイ俺でモ感じ取れルようナ、心ニ伝わル温かさガあっタ」

 

「温かさ?」

 

「んがっ‼︎ その時ハ不思議ト感じルんダ‼︎ こういう時ハ攻撃しテハいけなイんだっテ‼︎ それガこんな俺でモ分かルようなコトをオマエ、ミカンにやっテみせタ‼︎ オマエ、すごイ‼︎」

 

「そ、そうかな……? 別に俺は思ったことを話している内に自覚無しにやっていただけなんだけど……」

 

 

 無自覚な奴だからだよ、お前がすごいと思われていることだからね。にしてもウガルルでも攻撃してはダメだと思えるようになるとは……ある意味すごいな。鈍感な奴の意外な良さが効く場合ってあるんだな。素直に喜ぶべきかそうでもないべきか……

 

 

「って、言っているけど……ミカン?」

 

「き、聞いているこっちが恥ずかしいから、聞かないでちょうだい……」

 

 

 あーあ。一方のミカンは案の定、顔が真っ赤になってますがな。やっぱり鈍感の胸キュン行為は効果絶大なんですなぁ……

 

 って感心している場合じゃねェ‼︎ こんな事をしている場合じゃねェ‼︎ グダグダし過ぎたらまたウガルルが溶けちまう‼︎ そろそろ本題を進めておかないと‼︎

 

 

「と、とにかく……このままにしてもまた溶けて、また同じ事の繰り返しになったら困るな。やっぱりある程度は急いでウガルル用の依代は作らないと。急ぎすぎて充分な依代が作れなくなるのもアレだけど」

 

「依代……? で、でモずっト前かラ溶けテしまっタんダゾ? そう簡単ニできルわケ……」

 

「この世界でのは、な。けど現実世界で正しい召喚法を行えば、また溶けることの無く新しいのを作れるはずだ」

 

 

 原作でもそんな感じでウガルルに新しい仕事を与えていたからな、その作戦方法をこっちも教えてあげて、ウガルルを安心させて溶かさないようにしないとな。

 

 

「……ねぇ、白哉くん」

 

「ん? どうした桃。もしかしてお前も似た案を思いついていたから、俺の意見に指摘するってのか? 別に分からなくもないけどさ……」

 

「いや確かに似た案は思いついたんだけど……白哉くん、ウガルルの依代を作る手段なんて思いついたの?」

 

 

 ………………

 

 

「……作り方・材料全て他人任せとなります。宛となりそうな奴はいますが」

 

「「「「「『半ば勢いで言った感じだった⁉︎」」」」」」』

 

「……不安しカなイ」

 

 

 すいません。半ば勢いで言ってすいませんでした……

 

 




とりあえず原作崩壊は免れたのでヨシ‼︎(現場猫風)

次回で多分、原作四巻編は終わりを迎えます‼︎ お楽しみに‼︎


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早速ウガルル現界のための依代作りをしに出掛ける‼︎ 後に続けみんな‼︎ 「白哉さん‼︎ 闇雲niハァ☆

原作四巻編が今回で終わるので初投稿です。

ウガルルちゃん復活なるか⁉︎


 

「ねむ〜〜〜い‼︎ この作業……いつまで続ければいいの? 夢の中のシャミ子達は無事なのかな〜」

 

「これ以上何もできない俺達は信じて待つしかねぇだろ。……というか、俺が今やっている事って意味あんのか?」

 

 

 ばんだ荘・ミカンの部屋にて。白哉達六人がミカンの夢の世界へと赴き使い魔・ウガルルとの邂逅をしている中、彼らのクラスメイトであるミカンと勝弥は微動だにすることも──という程ではないものの動けない状態でいた。

 

 何故動けない状態なのか、それはミカンが半起きの状態になって夢の世界でも意識が持てるようにするために、二人の助力が必要であったからだ。

 

 そのため二人はリリスの頼みにより、杏里は膝にミカンの後頭部を置き、勝弥は太腿にミカンの左手を置くことに。……勝弥の言う通り、彼がこのような行為をしても効果があるのかは不明だが。

 

 夢の世界でどのような出来事が起きているのかは、現実世界でそれを知れるのは夢魔の力を持つリリスのみ。そのため彼女が夢の世界で白哉達が何を行っているのかを把握しない限り、杏里と勝弥にもその時の白哉達の状況を提供することができないのだ。

 

 しかし、今や電波不通ならぬ夢界不通な状態となっているため(夢界不通って何だよそもそも夢界って何さ)、状況の更新の更新がない限り二人の措置が終わることはない。

 

 時刻が時刻でもあるため、二人にも睡魔が襲ってきた……その時だった。

 

 

「う………………っは‼︎」

 

「うわっ起きた‼︎ おはよーシャミ子‼︎」

 

「今は夜だけどな‼︎ 大丈夫だったか⁉︎」

 

 

 ここぞというタイミングであったのか、唐突にもシャミ子が飛び出す勢いでの起床をしたのだ。

 

 

「杏里ちゃん‼︎ 勝弥くん‼︎ 二人ともよく来てくれました‼︎ 大変ありがたい‼︎ ついでに今から新たなる命の召喚を手伝ってください‼︎」

 

「よっしゃ任せろ‼︎」

 

「頼まれたからにはやってやるぜ‼︎」

 

「「……じゃねぇよ‼︎」」

 

「意味わかんねぇし‼︎やべー事手伝わせようとしてるじゃん‼︎」

 

「そもそも新しい命の召喚って何だよ⁉︎ 頭の整理が追いつかねーから‼︎」

 

「「さすがに説明してくれよ‼︎」」

 

「あっはい、すみませんでした‼︎」

 

 

 シャミ子が起きてきた途端、彼女からのさらなる頼み事として発せられた、新しい命の召喚。それがどれほど非常識で理解不能な言葉だったのか、さすがの二人も叫ばずにはいられなかった。

 

 とはいっても、夢魔や魔法少女、召喚師といった者が存在すること自体も非常識ではあるが。

 

 

 

 

 

 

 みんなが起きたということで、俺達が寝ている時に来たゲストである杏里と勝弥を入れ、改めてウガルルの依代を作るためのプロジェクト会議をすることに。みんなで知恵を絞れー。俺は絞れそうにないが……

 

 あっ、ちなみに念のためメェール君には回復魔法をミカンにだけ掛ける形で続けてもらうことにしている。万が一の事が起きてウガルルの魔力が消滅してしまったらたまったものじゃない。もう一度夢の世界に行って再構成させるなんて手段はもうできないのかもしれないし……

 

 振り返ると、ウガルルは十年前の召喚が不十分だったため、不完全な状態で生まれて現実世界で安定して現界できなかったとのこと。魔法陣が小さく、模様も正しくなかったがためウガルルは上手く命令を聞き取れずにいた。その上に依代も使い魔に釣り合う耐性がなく溶けてしまったとのこと。

 

 そしてウガルル最大の不満要素だったというのが、お供えの唐揚げ。魔力が全く無い……のは想定内だが、味も全く良くなかったとのこと。お供えは契約の挨拶で魔力の補強にも重要なものだとウガルルは言っていたようだが、唐揚げにレモンは合わない派なため腹に力が入らなかったようだ。

 

 

『使い魔っていうのはざっくり言うと、簡単なプログラムを組んだ魔力の塊に依代を与えたものなのだ。作るにもそれなりの素養と技術が必要なのだが……ヒアリングの結果、陽夏木の家はその辺が足りなかったのだな。そして、宿主ミカンの質のいい魔力で使い魔と呼べないぐらい強力で複雑な存在になってしまった』

 

「ミカンがウガルルちゃんを育んだのか〜。それってほぼママじゃん‼︎ 面倒みてあげないと」

 

「ママ」

 

「よっ、ミカンママー」

 

「コラコラ‼︎ 未成年でママになるのはお兄ちゃん許しませんよ‼︎」

 

「ちょっとやめて。ママはやめて。後なんで勝弥は過保護な血縁ありのお兄さん気取り?」

 

 

 正直杏里の言う『ミカンがウガルルを育んだ』、これなんだか意味深な感じに聞こえたんだよなぁ……そう思いながら俺も優子達と一緒に悪ノリしたから、人の事を言えないけどね。というか勝弥の悪ノリはどっちかというと親御さんじゃね?

 

 

 

「───異議あり‼︎」

 

 

 

《えっ?》

 

 

 と、このタイミングで何故か拓海が挙手しながらそう発し、険しい表情を俺達に見せてきた。これには俺達も思わず息のあった呆けた声を発する。いや、ホントなんで? なんで突然異議を申し立ててくんの? 突然どうしたんだ?

 

 

「確かにウガルルちゃんは陽夏木さんの魔力によって生まれた。けど実際に関われたのは召喚された当初で、それも少し話すだけでしかなかった。だから陽夏木さんがママ代わりになるという結論に至るには決定的となるものが少ないはずだよ」

 

「だからママ言うのやめて⁉︎ なんで貴方までママ扱いなのよ⁉︎」

 

「ママ扱いするとは言っていない」

 

 

 ママ扱いしないんかい。でもまぁ、拓海の意見も分からなくもないかな。積極的に会話もしたかどうかで、どちらがウガルルとの深い関わりを持てたのかが決まってもおかしくはないと思うし、実際に会って本人に対して『この後どうしていくのかを一緒に考えてあげたい』とか言っていたしな……

 

 で、だからどうするってんだこいつは? もしかしてミカンの事をママと呼ぶのはやめてほしいってか? もしそうだとしたら随分と遠回しなお願いだな……

 

 

「それに比べて、俺は夢の世界でとはいえ、ウガルルちゃんと直接関われた時間が長いはず。その上にウガルルちゃんを助けると……彼女が今を生きることができるように保証すると約束した身でもある。俺はその言葉に責任を持つ必要がある」

 

「えっと……つまり?」

 

 

 

「真にウガルルちゃんの親権を持つ必要があるのは、俺だということ‼︎ そして俺がウガルルちゃんのお父さん……いや、パパになって彼女が成人になるまで親代わりになる必要があるということだ‼︎ だから、親権を陽夏木さんに独り占めさせるわけにはいかない‼︎」

 

 

 

《………………はい?》

 

 

 あっ(察し)。つまりはこういうことか。

 

 こいつ、過保護を通り越して親バカになったわ。

 

 可哀想だった、昔の自分にそっくりだった、どうにかして生きる活力を持たせてやりたい、その三つの想いが拓海を暴走させとるわ。どうしてもウガルルのために出来る限りの事をしてやりたいという欲求が出ているわ。

 

 ………………ダメだこいつ、早くなんとかしないと……

 

 

「……っは⁉︎ ちょっ、ちょっと待ってください‼︎ それはさすがにどうかと思います‼︎」

 

 

 おっ? 優子、お前がこのウガルルのパパ(超健全的意味)になる宣言に物申してくれるのか───

 

 

「パパになるならママも必要ですし、ウガルルさんの親になるならミカンさんと一緒になった方が逆に効率が良いと思います‼︎ 親同士で子育てについて意見を出し合えますし、いざという時にどちらかが上手くウガルルさんのためのことができない場合でももう片方に任せられますよ‼︎」

 

 

 いやそういくんかいっ⁉︎ 子育てに関するマジレスかいっ⁉︎ というかもう既に優子の脳内ではミカンと拓海がウガルルの親代わりだという認識になっているんかい⁉︎

 

 

「あー……つまりは夫婦ってことか‼︎ それならウガルルちゃんが安心して成長しそうだね〜」

 

「ふ、夫婦って……」

 

 

 おい杏里。ダイレクトに翻訳するんじゃねェ。ミカンが顔真っ赤だぞ。メェール君の回復魔法とウガルルの踏ん張りがなかったら呪いが発動してしまうでしょうが。

 

 

「なるほど、その方が効率良いか」

 

「待って⁉︎ 納得しないで⁉︎ というか効率良いって何ッ⁉︎」

 

 

 効率良いって……夫婦認定されてしまっている件については触れないんですかい? ウガルルの父親代わりになれるなら別に何の問題はないと? これだから鈍感は……いや、これはもう朴念仁だわ。優子に頼んで自覚できるようにさせたろか。

 

 

「でも……そうね。私はあの子を助けたいわ。私、今まであの子のことを酷い子だって思ってた。パパは間違ったものを呼んじゃったって……でも、そうじゃなかった。うちの都合で変な生まれ方をしたのに、必死で頑張ってた。私、あの子に外の世界でもう一度新しい生き甲斐をあげたいの」

 

「陽夏木さん……」

 

 

 何であれ、認識のされ方がどうであれ、ミカンもウガルルを救いたいという想いは拓海に負けてはいないようだ(競い合っているとは言っていない)。勘違いしてしまった分のお詫びというわけでもなく、ただ純粋に、ウガルルに希望を与えたいという想いの表れだな。

 

 

「……あぁ、みんなで絶対成し遂げよう。ウガルルちゃんが新しい人生を歩めるように」

 

「……えぇ、絶対成し遂げてみせる」

 

 

 いや、あの……ミカンさん? また無自覚モードな拓海に両手を握られてますけど? なんで今は大丈夫な感じなの? なんでアワアワな感じじゃないの? あの短時間で一時的な耐性でもついた?

 

 

「……確かに、ウガルルの言う通り温かく感じるわね……フフッ」

 

 

 あっ、そういうことね。ウガルルの気持ちが分かったから自分も感化されたってわけか。我が子に秘めた想いを気付かされ──すみません、なんでもないです(察せられたわけではないけど)。

 

 って、そんなことしてる場合じゃねェ。今のウガルルを正しい召喚方法で呼び出し直せば、この世に安定して存在できるようになるはずだけど、ウガルルはミカンの心の中で己の根性と外部からのメェール君の回復魔法で存在を保ってるから、もたもたしていたらウガルルが溶けちまう。早く依代作らないと。

 

 とはいっても、まずは必要なものと手順をリストアップしておかないとだけどな。だから依代作りに適してそうなアイツを呼ばないと。

 

 というわけで、みんなも○○を呼んでみよ〜う♪ せーのっ‼︎

 

 

「小倉ァッ‼︎ ……じゃなくて小倉さん、カモン」

 

「へいまいどー‼︎ 意気の良い呼出ありがとー‼︎」

 

 

 思わずネットで見たあだ名みたいな感じに呼んじまって、それがどうやら聞こえてしまったみたいだけど、どうやらそういう呼ばれ方されても問題なかったようだ。悪い気はしていないみたい……というか寧ろ良い気分でいるようだ。

 

 

「極めてクオリティーの高い等身大依代を作りたい。最高の材料を考えて」

 

「出来れば溶けること無く永続で長持ちできるヤツのな」

 

「予算青天井なの⁉︎ 億いっていい⁉︎」

 

「「ばかやろう。色々となんでだよ」」

 

「あ……すみません。なんか……慣れちゃって」

 

 

 そうだった。そういえば杏里と勝弥は突然の小倉さんの登場を見るの初めてだったな。しかも何故天井からのという〇ムとジェ〇ーなんだという疑問を持ちながらの。そういう反応をしない方がおかしいよな……

 

 

「……で、なんで全蔵まで天井の中にいるんだよ」

 

「そんなの俺が聞きたいッスよ……道端でくねくね曲がったダイヤモンドを拾っただけなのに、それを使った実験に付き合ってって言われて……」

 

 

 無理矢理連れ込まれたって感じか。しかも偶然と偶然が重なる感じに。まぁその……ドンマイ。

 

 数秒後、小倉さんがどんな感じに俺達がウガルルの依代を作りたいのかというのをまとめてくれた。それも壁紙に直接書いて。ここ、ミカンのというか、人の部屋だぞ……

 

 ちなみになんで小倉さんが計画を数秒でまとめられたのかというと、桜さんが遺したメモに大分仕上げてあったから、だそうだ。あのメモ非常に読みにくかったろ? それを翻訳できたのはすごいわ……

 

 メモに遺されていたと聞く辺り、どうやら桜さんも途中まで同じ計画を立て、ウガルルを現界させようとしたのだろう。だが溶けたウガルルを固められなくて、煮詰まって留保する形になったようだ。

 

 何故桜さんがあの時計画を途中で留保することになったのか、それは依代を作るための素材集めが非常に困難であるからだ。

 

 依代を作るために必須な素材一つ目、上質な魔力料理。契約用のお供えとして質の良い肉から作ってもてなすことで使い魔との契約の作法が完了するのだが、腕の良い調理人で魔力料理が作れる人は限られているのだ。魔力を持てる凄腕調理人なんてそう簡単に出るわけないもんな、仕方ない。

 

 二つ目、大量の幻獣の尻尾の毛。毛に魔力を含んでいるため錬金術の材料になるそうだ。通販サイトにもあるらしいが、それでも注文しても何日かかるかは不明。どれを通販で買ってもそうだが。しかも厄介なことに、幻獣と言っても人語を解する動物系まぞくの方であるため、まぞくではないウチの召喚獣に頼っても良いのか迷いどころだ。

 

 三つ目、上質な霊脈の土。依代の材料の主要と言っても差し支えないだろう。ちなみにこの前登ってた奥々多魔駅の山中の土に霊脈があるらしい。これはまぁ、桜さんでも集められたのだろうな。すぐに見つけられたヤツだから。

 

 これらを今夜中に揃えられるのは無理だと小倉さんは言った。しかし、俺らには運が味方してくれた。何故ならば───

 

 

「腕の良い魔力入り料理ならバイト先の先輩が作ってました‼︎」

 

「えっ、この町にいるの? でもこの時間に開いてる精肉店が……」

 

「杏里ちゃんの家が精肉店です」

 

「あっ、そうだね。……でもでも幻獣の尻尾の毛もたくさん……」

 

「バイト先の店長、動物系まぞくです」

 

「えっ、いるの? ……さすがに霊脈の土は……」

 

「……山の土、持ち帰ってきてます」

 

「えっ、なんで?」

 

「勝利の思い出です」

 

 

 完璧な段取りだった(アム○風)。色々な経験をしてきた優子だからこそ、ウガルル現界のための依代作りの材料を集められるピースは揃った。ぶっちゃけここまで伏線になるとは思わなかったけどな。というか、冷静に考えてみたらどんな人生送ったらこんなに特殊な材料が揃うんだよ……

 

 

「………………やっぱりシャミ子ちゃん面白いよぉぉぉ‼︎ 付きまとってよかったーーー‼︎」

 

「あっえっはい‼︎」

 

 

 付きまとっていた自覚があったのか。依代できたらもしもしポリスメンしておくべきか……いや、今後の展開のためと、依代作りのためのとっておきの情報を出してくれた恩を仇で返したくないからってことで、今回は通報しないでおこう。というかこれからも通報しないかな。悔しい……

 

 

 

 

 

 

 優子が上質な魔力料理 ──リコさんの料理と幻獣である動物系まぞくの尻尾の毛 ──白澤さんの尻尾の毛を分けてもらいに『あすら』に向かっている中、俺達はウガルルを現界させるための依代と彼女の魂を依代に移すのに必要な巨大魔法陣の製作に取り掛かることに。

 

 巨大魔法陣を作ることも考えれば、やっぱり人員は必要だな。主要体育祭実行委員会のSNSグループに入っておいてよかったぜ、早速呼び込みをするとしましょうかね〜。えぇっと、内容はこんな感じなのがいいかな。

 

 

『突然だけど、俺達は今ミカンの心の中にいる使い魔を召喚するための準備に取り掛かっているんだ。時間のある奴はばんだ荘に集合して手伝ってくれるか? 人員は多い方が心強い』

 

 

 よし、内容はこんなもんだな。送信送信っと。このグループには俺・優子・桃・ミカン・拓海・勝弥に加えて十二人もいるけど、何人か来てくれるといいが……

 

 

【ん? ……あっ。マスターマスター】

 

「どしたメェール君?」

 

 

 

【送り先、間違えているメェ〜。マスターの親御さんに送っちゃっているメェ〜】

 

 

 

 ……ゑ?

 

 あっホントだ。『平地家』の方に送ってた。

 

 ……じゃねェよ⁉︎ なんでだよ⁉︎ なんで送信先のグループを間違えちゃうんだよ俺ェ⁉︎ こんな初歩的なことを間違えちゃうとかどうかしてるでしょ⁉︎ 寝起きだったから頭が一瞬働かなかったってか⁉︎

 

 

「お、教えてくれてありがとなメェール君‼︎ 早速勘違いした事を伝えるから‼︎」

 

【おっけーメェ〜】

 

 

 と、とりあえず、気にしないでほしいっていうメッセージを送って誤魔化さないと……‼︎

 

 

『ごめん。これウチの学校の文化祭でやる予定の演技の台詞の一つなんだ。ばんだ荘って書いてあるけど、これはただの打ち間違いだから。無視してもらっていいから』

 

 

 で、送信っと‼︎ ……大丈夫か? 大丈夫だよな? 大丈夫だと言ってくれ。二人ともこれで文化祭のヤツだと察してというか勘違いしてくれ。お中元あげるから。

 

 そんな事を考えながら、正しい送信先に集合を知らせるメッセージを送り、後は待機しながらできる限りの準備を進めることに。小倉さんが増幅させた依代の材料の主要となる土をまとめて……いや増幅させたって何? 増幅させたら霊脈も増えるのか?

 

 

「おまたせぇ〜。お、やってるやってるぅ〜」

 

 

 メッセージを送ってからわずか三分。たったの三分で秀・友香里・誠司のオリ男三人衆(俺が勝手に命名)と南野・落合・永山のモブかと思ったら原作ネームドキャラだった女の子達……つまりグループメンバー全員が来てくれたのだ‼︎ やっぱりみんな優しいな……‼︎ こんなに嬉しいことはない……‼︎

 

 

「……なるほどなるほどぉ〜、そんな感じに準備しているのかぁ〜。それじゃあ南野さん・落合さん・永山さんは魔法陣制作の、南雲君・楠木君は俺と一緒に依代作りを手伝いに行ってあげてねぇ〜」

 

『はーい‼︎』「あぁ」

 

 

 状況と手順を説明してあげたら、早速秀がみんなに指示を出して各々手伝いに行くようにと促した。采配が早いな……

 

 

「悪いなみんな、こんな夜遅くに手伝ってもらって。体育祭の準備で疲れただろうに……」

 

「その後にも頑張ってたらしい平地君達に比べたら、僕達のは大したことないよ。それに困った時はお互い様、助けないわけにはいかないからね」

 

 

 出た、正論の誠司。夢の中でウガルルと邂逅していた俺達と比較しての真っ当な意見。これはちょっと反論できねェなぁ……

 

 

「おっしゃあお前らァ‼︎ 日付が変わる前に召喚完了をやり遂げるぞォッ‼︎ ワンフォーオール、オールフォーワンだァッ‼︎」

 

 

 あっ。いつもの気合い入れの状態だけど、時間を考えて声量を控えめにしてくれた。それだけでも充分うるさいけど。

 

 さてと、俺も秀達に説明をし終えたからそろそろ依代作りに戻るか。なんか小倉さんが何故か良子ちゃんにも手伝ってもらってってるみたいだし、早めに作って負担を減らさせないと。なんかさらっと父さんと母さんも参加しているし。

 

 ………………ん?

 

 え? は? ……えっ?

 

 

「父さん母さんンンンンンンッ⁉︎ マジで二人とも来ちゃったのォッ⁉︎」

 

「あっ、白ちゃん久しぶりね〜♪」

 

「我が子よ、久しぶりだな。この大仕事、結構楽しいぞ」

 

 

 久しぶり、じゃねェよ‼︎ なんで来ちゃったんだよ⁉︎ もしかしてさっきの言い訳のメッセージ、無意味だったってか⁉︎

 

 

「いやねぇ、台本次第でどのような台詞を使えばいいのかとかのアドバイスでもしてあげようかと来てみたら、まさかやるかどうかもわからない演劇のために人形に魂を宿すようなことをするなんて。いくら魔族とか魔法少女とかがいるからってはりきりすぎよ?」

 

 

 ………………はい? 今なんと?

 

 

「何故こんなことまでして演劇のために召喚とかするのかは知らんが、大人が手伝わないのは無作法というものだ。絶対に完成させるぞ、我が子よ」

 

 

 ………………ええっと……もしかしてこの二人、本当に俺達が演劇の準備をしていると思い込んでいて、ウガルルの召喚の準備もその一つだと勘違いしている……のか? そうは思わんやろ……思っとるみたいだけど。「そうはならんやろ」「なっとるやろがい‼︎」

 

 

「なんだかよくわからないけど、変な誤解のおかげで平地くんの両親にも手伝ってもらえてよかったね〜。これならさらに早く完成しそうだよ」

 

「……ウン、ソウダネ」

 

 

 なんか納得いかないけどね。

 

 

「ここはこういう感じに描いて、ここはこうやって……」

 

「朱音さん、だっけ? 魔法陣描くの上手ですね」

 

「趣味でpixi○用の漫画描いてるからね‼︎ 桃ちゃんみたいな魔法少女の子に賞賛されるのは嬉しいわ〜」

 

「ほう、霊脈とやらがある土は普通のとは触感が全く違うのか。これは勉強になるな」

 

「他にも面白いものを作ったんですけど、今度見せてあげましょうかぁ?」

 

「おぉ、小倉君がどんなものを作ったのか気になるな。期待していよう」

 

 

 なんか……段々みんなと仲良くなり始めてるんですけど。俺と良子ちゃん以外全員初対面だよね? 仲良くなるの早すぎね? 大人の余裕による社交的対応をしてるんですか?

 

 

「バイト先から料理と幻獣の毛、頂きました! 眩しいです」

 

 

 おっと、ここで優子が戻ってきたようだ──うおっまぶしっ⁉︎ 何これ⁉︎ リコさん、どの材料でどんな手順を使って魔力料理を作り上げたんだ⁉︎ なんか合体戦士が邪念の塊から誕生した怪物を浄化させるために放つ技と似た感じの輝きだぞ⁉︎

 

 

「あれ? 体育祭メンバーの人達と……朱音さんに黒瀬さん? 何故あのお二人まで?」

 

「……ちょっとした気まぐれによって手伝ってくれることになったんだよ」

 

「わざわざ来てくれたってことですか⁉︎ さすがは白哉さんのおとーさんとおかーさん、相変わらず良い人……‼︎」

 

 

 来た目的が違ったみたいですけどね。それに今でも変な勘違いをしていますけどね、うん。

 

 

「あ、シャミ子ちゃん久しぶり〜‼︎ 先月から白ちゃんと結婚することになったんだって聞いたわよー‼︎ おめでとー‼︎ 今度改めて祝わせてもらうからー‼︎」

 

「けっ、けっこっ⁉︎」

 

「いや結婚したんじゃなくて付き合うことになっただけだから。みんながいる時に別の勘違いやめてくれ母さん」

 

 

 つーかやめてくれない? 大声かつ同校同学年のみんなの前でそんなこと言うのやめてくれない? 公開処刑されてるみたいなんだけど。恥ずかしい感情と怒りの感情が同時に噴き上がってきて複雑なんだけど。

 

 数分後。魔法陣と依代の完成が完了した。しかも魔法陣の仕上げと依代の型作りから完成するまでのところは、全部ぜーんぶ桃がやってくれたとのこと。しかも依代はさっき出会ったウガルルそっくり……というかウガルルそのものなクオリティだった。すごっ。

 

 というか、ここまで一晩でやり遂げられるとはな……これまでの優子に起きた伏線とみんなの協力が、短時間でウガルル召喚の準備を整えられるとは……これはラッキーすぎる。

 

 

「魔方陣の起動はシャミ子お願い」

 

「えっ⁉︎ 私っ⁉︎」

 

「新ウガルルはまぞくだから闇属性の武器がいい。魔力は白哉くんが補って」

 

「えっ、俺? 俺よりも魔力の使い方が上手い桃の方がいいんじゃ……?」

 

「ギリギリ闇堕ち薬の効果が残ってまだ眷属である私よりも、同じ眷属でも上の立場かつ永続的になっている白哉くんの方がより安定して強い魔力でシャミ子をサポートできるからね」

 

「な、なるほど……」

 

 

 た、確かにそこまで説明されたら一理あると思えるな。もしも魔力を補っている途中で桃の闇堕ち薬の効果が切れたらたまったもんじゃないしな……

 

 だが、一応魔力増強のために召喚師覚醒フォームになったけど、それでもさすがの俺でもそこまで乗り気じゃない理由がある。何故かって? 素の優子は魔力に乏しさがある。だから……

 

 

「それだと優子はクラスメイトの前で危機管理フォームにならないといけなくないか? 男子もいるんだし」

 

「「あっ」」

 

 

 考えてなかった? その観点は全く考えてなかったのか? 変身しなきゃいけない状況のせいで、なんの躊躇いもなく変身するということに慣れてしまったのか? ふーん、(隠れ)痴女じゃん。

 

 

「ん? あぁそれなら心配いらないよぉ〜。俺達目隠しして後ろに向くから──ハグアァッ⁉︎」

 

「アベシッ⁉︎」

 

「ヒデフッ⁉︎」

 

《えっ?》

 

 

 秀が男子全員見ないようにする発言をしようとした途端、何故か彼含めたオリ男三人衆が次々と気絶してしまった。えっなんで? 男子達の記憶に危機管理フォームの姿が刻まれることがなかったのはいいことだけど、一体何故? というかなんで急にこいつら気絶したんだ……?

 

 

「い、嫌な予感を察知したからか、すぐさま前に出て助かったぞ……」

 

「危なかった……黒瀬さんの隣に立っておいてよかったわね……これぞ夫婦のコンビネーション、かしら?」

 

 

 何やら父さんと母さんが喋り出していたので、そっちの方へと振り向いてみた。そしたらそこには、父さんの前に立っている母さんが、いつの間にか召喚されていた元のサイズの方の白龍様の右手を必死に掴んでいた。

 

 ……いや、何が起きてた? まるで意味が分からんぞ⁉︎ なんでまた白龍様は勝手に出てきたの⁉︎ そして今どういう状況⁉︎ なんで母ってさんは白龍様の手を掴んでんの⁉︎

 

 

「白龍様? 黒瀬さん……私の愛する旦那様の意識を刈り取ろうとするのやめていただけませんか?」

 

『いやだって、それだとシャミ子が白哉以外の男に恥ずかしい戦闘フォームを見せる羽目になるんですよ?』

 

 

 えっ? ……まさか白龍様、優子の危機管理フォームを男子達の脳裏に焼き付かせたくないがために、勝手に出てきて背後から手刀を男子達の首に当てたと……?

 

 いや、優子の事を考えてくれるのは嬉しいですけど、突然そんな事をされても俺達が戸惑うだけなんですがそれは。

 

 

「尚更見せたいじゃないですか‼︎ 滅多に見られないだろう義娘の戦闘フォームがどれだけセクシーなのか、気になりすぎて仕方がない‼︎」

 

『じゃあアンタだけ見ればいいじゃん。義娘の恥ずかしい格好を見せられる旦那の気持ち考えてくれません?』

 

「うむ、俺も嫌ですね」

 

 

 あぁ……うん。息子の恋人に飽き足らず、他の女の子の恥ずかしい姿を見せられることになる旦那さんの事を考えなさいよ奥さん。あっ、俺の両親か。

 

 

「ま、まあとにかくだ。シャミ子君、俺は白龍様の方を見るとかして君の方を見ないようにするから、気にせず終わらせてくれ」

 

「あっ……は、はい。お気遣いありがとうございます……‼︎ 危機管理ー‼︎」

 

 

 初見の男性が父さんだけなら大丈夫だから安心だろうと思ったのか、心置きなく危機管理フォームへと変身した優子。まぁ父さんも優子の恥ずかしい格好を見る気がないから大丈夫だと思うのはいいだろうけど、本当に安心していいものなのだろうか?

 

 ま、まぁいいか。さっさとウガルル召喚を終わらせておけば、父さんの目にこれ以上危機管理フォームが焼き付かせないようにすればいい話だよな、うん。

 

 さてと……優子がなんとかの杖を巨大化させているわけだし、こっちもさっさと手伝うとするか。

 

 

「うわっ、重っ……」

 

「おっと……」

 

 

 やっぱり優子にとっては重たかったみたいなんで、俺が持つ手伝いをしてあげることに。でも本当に重すぎた。セイクリッド・ランスよりも重たいんだけど。優子、お前変形させる時に重さの事を考えたことある?

 

 

「それじゃあいくか、優子」

 

「は、はいっ……‼︎」

 

「よし、じゃあいくか。素に銀と鉄。礎に石と契約の───」

 

「ウガルルさん……かもぉ〜〜〜ん‼︎」

 

 

 あっ……

 

 

「って、へっ? 白哉さん、今なんて言おうとしてました……? すにぎ……何ですか?」

 

「……いや、なんでもない……」

 

 

 しっ……しまったぁ……ッ‼︎ なんかFa〇eの召喚方法っぽいなって思っていたから、ついふざけてしまったぁ……‼︎ 集中力を一時的にとはいえ断たせてしまったぁ……‼︎ これが今のウガルル召喚に影響しなきゃいいのだけれど……‼︎

 

 

「んが……オレ……外……体アル……」

 

「あっ、終わったよ二人とも。どうやら上手くいったみたいだよ」

 

「えっ? あ、ホントだ……成功です……‼︎」

 

「ほっ……」

 

 

 よかった、よかったよ……おふざけしてしまったせいで原作崩壊してしまう、なんてことが起きなくてよかったよ……‼︎ ヤベッ、嬉し泣きしそう……

 

 

「新しイ体、すごく馴染ム‼︎ オレ、新しイ仕事、何すれば良イ?」

 

「皆で話し合ったんだけど……貴方はもう使い魔と呼べないくらい複雑な存在になっているの。だから、この町でウガルル自身のやりたい仕事を見つけて。それが貴方の新しい仕事‼︎」

 

「少しだけ分かりやすく言えば、自分は何がしたいのかを見つけることから始めて、それを仕事をしてやっていくってことだよ。自分なりに考えて自分で探す、それが生きとし生ける全ての命が果たす役目だ」

 

 

 ミカンと拓海がウガルルに対して、まぞくになった彼女に今の自分に何をすべきなのかを教えてあげた。自分自身で色々と考えながら仕事を見つける仕事をするとか、俺が聞いてもややこしいと思うな……それでも頑張るのは人生だけどな。

 

 

「む、難しイ……でモ命令だかラ頑張ル。じゃあオレ、行ク……」

 

「えっ⁉︎ どこ行くの? 住むとこ無いでしょう」

 

「戸籍もないのに、どうやって住む場所を探すというんだい?」

 

 

 まぁ、使い魔だし。何もない感じから召喚された存在だしな。

 

 

「分からナイ。けどミカン怒ってルかラ、なるべく遠くに住むところ探ス」

 

「まぁぁだそんなこと言ってるの⁉︎」

 

「怒っているとはいっても、本気でだったら君の依代を作る気にもならなかったと思うし、激励すらもしていなかったと思うよ」

 

「なんか普段はそんな感じなんだと思われているような気がするのだけど……」

 

「えっ。な、なんかごめん……」

 

 

 確かに、なんか拓海から変わったウザさが出ているような気がするな、さっきの台詞は。無自覚で思ったよりも人を傷つけてしまう言葉を言ってしまうのは、人を惚れさせる言葉よりも酷いものだからな……

 

 

「とにかく……一旦やりたいこと見つけるまでうちにいなさい‼︎ 十年も心の中に居たんだから、あと十年・二十年居座っても誤差よ誤差‼︎ あんたは今日から私のファミリー‼︎ いい⁉︎ わかった⁉︎」

 

「お……おウ、分かっタ……」

 

「ウガルルちゃん……よかった」

 

 

 誤差の方がでかくなるスタイルなんかよ。というかその言い方だとウガルルのやりたいことが見つかっても、住ませてやると言っているようなものじゃん。やっぱりミカンママかよ。

 

 ……まぁいいや、とりあえずこれで原作通りのウガルル仲間入りルートが確定したぜ。新しい仲間ができて、さらに賑やかになること間違いなしだ。

 

 

「………………ハッ⁉︎ し、しまった⁉︎ ウガルルちゃんの住む場所くらいなら『ウチの神社になら住ませてあげるよ』とか言って用意すべきだったか⁉︎」

 

「お前はそういうところだぞ」

 

 

 まだウガルルの親権の独占を狙ってたってかお前は。いい加減にしろこの時々ウザキャラになる過保護陰陽師が。親権ぐらいミカンと一緒に担げばいいやろがい。

 

 ……とりあえず、白龍様によって気絶させられたオリ男どもを起こさないとな。お前ら、マジですまんかった……

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。昨日柘榴さんにも手伝ってもらおうかと連絡することを忘れていたとのことで、優子と桃と一緒に遊びに行くがてらウガルルの事を報告することにした。

 

 そのために玄関を出たのと同時に、ウガルルが手摺に座っているところを目撃していた。どうやらばんだ荘の門番として外を見張ることにしたのだろう。伸びていた髪もボーイッシュに整えられ、さっぱりとした感じになっていた。

 

 

「ボス! 何かやる事くレ‼︎」

 

「ボスはやめてください。あの時は勢いで……!」

 

「ミカンから聞いタ‼︎ お前、ミカンのボス。お前、人集めて俺を助けタ。お前いないとできないこと沢山あっタ。だからお前ボス‼︎ 俺、認めタ‼︎」

 

 

 ウガルルの言っていることも一理ある。最初に陽夏木家に呼び出された時は正式な召喚をされなかったし、桜さんの力でも抑制する程度でしかなかった。それを優子は、周囲を束ねるボスとしてみんなの知識や技術を応用し、今のウガルルを作った。彼女に賞賛されてもいいと言っても過言ではないのだ。

 

 

「そして隣の男……ボスの眷属! お前にモお礼が言いたイ‼︎」

 

 

 ………………ん? 隣の男? ボスの眷属? もしかして俺の事?

 

 

「俺にもお礼って……俺、お前を召喚するために仕上げを手伝ったってことぐらいしか目立ったことしていなかったぞ? お礼を言われるほどの事なんか……」

 

「お前、出会っタばかりの時かラ何かト俺の事を気にしてくれタ。俺が消えようとしていタ時モ、みんなの意見をまとめテ俺を留めよウとしてくれタ。俺の事をどうにかしよウとお前かラ案を出しテくれタ。そして集まってもらうよう沢山の人に頼んでいタ。お前、俺やボスのために色々とやってくれタ‼︎ お前もすごイ‼︎ ボスの眷属‼︎ 俺、お前の事も認めタ‼︎」

 

「ッ……‼︎ そ、その、なんだ……褒めてくれて、ありがとな……」

 

「んがっ‼︎ こちらこソ‼︎」

 

 

 そ、そんな些細なことの積み重ねなところも見て俺の事を認めたのか……俺はただ、自分に何ができるのかを俺なりにやっただけなんだけどな……それだけでもここまで素直に感謝されるなんて、なんか恥ずかしいというか、こそばゆいな……

 

 ウガルルと別れた後、俺と優子がウガルルに認められたことに照れを感じている中、桃が徐に話しかけてきた。

 

 

「二人のおかげで居場所を見つけられた子がいる。やり方は間違ってない……と思う」

 

「後から考えると行き当たりばったりすぎて、尻尾の毛がよだちます……」

 

「俺も即座の思いつきでやっているようなもんだしな……なーんか事前に予測していたことを勝手に空回りにしてしまった気も……」

 

「……いいんじゃない? 二人とも、姉のやり方とちょっと似てきたよ」

 

「それって褒めてんか? ……まぁ、それはそれでいいならいいんだけどさ」

 

 

 俺のしてきたことも桜さんと同じ、か……それは何やら後先の事を考えてない人のように感じるけど、その分誰かのために頑張れているって捉えていいってことか? なんか、そう思うと自分のしてきたことをちょっと誇れるかも。

 

 ……優子の正式な眷属になってまだ一ヶ月弱だけど、俺も俺なりに頑張れているというのなら、後悔はないな。これからもみんなの、そして優子のために、全力を尽くしていかないとな。

 

 

「いつかはこの町も、『最強の夫婦が作ったみんなが日本一住みやすい町』になったりしてね」

 

「な、ななななな、なんでそういう結論に至るんですか⁉︎ あ、いえ、私と白哉さんが夫婦だと思われるのはすごく嬉しいんですけどね……」

 

「……それはさすがに買い被りすぎだろ」

 

 

 やっぱりちょっと不安になってきたな……色んな意味で。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その25

シャミ子「拓海くんって、ウガルルさんの母親として認められる相手がいたとしたらどんな人が良いんですか?」
拓海「……何故突然そんな事を?」
シャミ子「あ、いえ。特に深い考えはないんですけど、拓海くん一人でウガルルさんを育てるのは大変だろうなと思って……」
「もしかするとウガルルのおかーさんになってもらうべきタイプの人とかいるのかなって……」
拓海「あぁ、なるほど」
シャミ子「(本当はミカンさんの事をどう思っているのかを聞きたかったけど、この話題もどうにも気になってしまって……)」
拓海「別に俺一人でもウガルルちゃんを育ててみせるけど……母親が必要だと言ったらやっぱり陽夏木さんかな」
シャミ子「えっ? で、でも頑に否定しようとして……」
拓海「俺以外にウガルルちゃんの親は別に必要ないってだけ」
シャミ子「何そのウガルルさんの親権に対するこだわり⁉︎」
拓海「けど、陽夏木さんならウガルルちゃんの母親になれる可能性はあるとは思っている」
「ウガルルちゃんの失敗を責めるようなことをせず、寧ろその失敗を含めて彼女を包もうとしていた。そして何よりみんなに優しく接する聖母な心を持っている」
「彼女だったら、いつかは俺も一緒にウガルルちゃんの成長を見届けてもいいな……ってね」
シャミ子「は、はぁ……なるほど(アレ? これってもしかしなくても……?)」

ミカン「(ぬ、盗み聞きしてしまった……この後拓海とどんな顔で会えばいいのよ……ッ)」

END



終わったッ‼︎ 原作四巻編、完ッ‼︎

……と言いたいところですが、まだオリジナル回があるのでそれが終わってから次章へと進めようと思います。ハイ。

 


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えっ? 今日は俺の誕生日だった? 今年は色々あったので全然気にしてなかった。

実は自己紹介のページで白哉君の誕生日を勝手に変えてましたってことで初投稿です。

そういえば今日はクリスマスイブ前か……しくじったな、クリスマス回ができなかった。


 

 昨夜に優子との夜のお楽しみがなかった翌日の、いつも通りの休日用の服に着替えてメェール君が作った朝飯を食って、皿洗い含めた部屋の掃除を済ませて、漫画読んで、昼飯を食ってっと……さてと、この後は何しようか。

 

 実は今日、優子だけじゃなくて桃やミカン、拓海や柘榴さんなどといったウチの知り合い達が全員用事があるという。つまりはどういうことなのか、召喚獣達と遊ぶこと以外は特にやることがないってわけだ。こんな事ってある?

 

 

【あっ、そうだマスター。実は言い忘れていたことがあったメェ〜】

 

「ん? どうしたメェール君?」

 

 

 今さっき知り合い全員に用事が出来ていたってことを考えていたんだけど、このタイミングでメェール君が何か言いたげな感じ……ま、まさか……⁉︎

 

 

【実は今日、これから僕達召喚獣はマスターを転生させた神様に呼び出されることになったんだメェ〜。何やら定期的によるマスターの現状報告をしてほしいとのことだメェ〜】

 

「………………あぁ、そう……」

 

 

 でしょうね。だと思ったわ。なんか言いたげな感じだったから、メェール君も用事があるのかと思ってたわ。けど召喚獣全員にも用事があるとは思わなかったわ。

 

 というか定期的によるマスターの現状報告って何だよ⁉︎ 俺が召喚術を覚えるようになってから、そんなことをメェール君達がしなくちゃいけないだなんて聞いてなかったんだけど⁉︎ 裏でそんな事やってたの⁉︎

 

 っていうかちょっと待って?召喚獣が必須となる状況の日にそんな事あったらどうしてくれんの? もしかして報告中に呼ばれても出ないといけない感じだった? 原作イベントみたいなとんでもない状況じゃない場合の日に報告があった時に呼んでしまったら申し訳ないんだけど……

 

 

【まぁマスターが内心焦るのも無理はないメェ〜。何せこの現状報告は先月からできたものだからメェ〜】

 

「あ、先月からのヤツなのね……」

 

 

 先月から定期として取り入れることになったってか? 今後の原作イベントまで日云々から計算してか? 俺は原作五巻までしかイベントの事は知らんけど、俺が転生したことによるオリジナルイベントの事は考慮してないのか?

 

 というか現状報告って何を報告するというの?(今更)

 

 

【ヤバッ、後ちょっとで現状報告の時間になりそうだメェ〜。マスター、暇を潰したいのなら今から渡すメモに書いてあるところに行ってほしいメェ〜】

 

「あ、俺に予定がないことを考慮しての案なのか? ぶっちゃけ助かるよ。今日に限っては優子達とも遊べないみたいだし、どうしたらいいのかわからなかったからマジで助かる」

 

 

 そう言いながら心の中で安堵し受け取ったメモ。そこに書かれていたのは……何やら地図みたいな構図のヤツだった。というか地図だ。よく見たら多摩町の建物がいっぱい書かれていて、行ったことのあるところに赤色の×マークが付いている。何これ? 宝探しかよ。

 

 

【それらを辿っていけば、最後には今年最高の思い出になるイベントが起きるかもしれないメェ〜】

 

「今年最高の思い出になるイベント? それは一体───」

 

【行ってみればわかるメェ〜。それじゃ、僕は精神世界に帰るメェ〜】

 

「あっおいっ‼︎」

 

 

 俺の呼び止めも無視し、メェール君はそのまま精神世界へのゲートを開いてインした。この野郎、人の質問に答えやがれよ……‼︎ 今すぐ召喚して……いや、よそう。もしも今年最高の思い出になるイベントとやらが起きなかったら、その時に文句を言ってやるべきではないのか? その時からでも別に問題ないと思う。

 

 

「とりあえずちゃっちゃと行くか。どうせ暇だし」

 

 

 えぇっと、×マークが書かれているところは……あっ、一番近いのがここばんだ荘じゃん。しかも丁寧に『入り口辺りに来て』って書いてある。まずはそこまで行ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 チェス盤のような白黒の市松模様の場所──白哉が眠りについた時に訪れることが可能な、とある召喚獣トップの住む精神世界。白哉は知らないというか知らされていないのだが、ここでは白哉によって召喚される召喚獣達が精神を通じて集う場ともなっていた。

 

 そんな場所にて白哉のいない今、一匹の召喚獣がまた現界する。白哉の家政婦的ポジションでもありマスコット枠でもあるメェールである。彼がこの世界に入ったところに、ふと視界に入ったもう一匹の召喚獣に声を掛ける。

 

 

【白龍様、ただいま帰りましたメェ〜】

 

【おう、おかえりぃ〜】

 

 

 銀色の鱗が輝く全長六メートルの龍、自称・白哉の相棒である召喚獣の白龍である。白哉を転生させた神に頼まれて白哉の元に来たものの、最近白哉からの多大な信頼感が薄れてしまっているようだが、それはまた別の話である。

 

 

【ちゃんと白哉に例の地図を渡したのか?】

 

【もちろんですメェ〜。マスターも暇だと言っていましたし、僕の言う通り行動してくれれば最後にマスターはハッピーになること間違い無しですメェ〜】

 

【ほほぅ、そうかそうか】

 

 

 メェールが先程白哉に伝えた神への白哉の現状報告、あれは真っ赤な嘘であった。全ては白龍達が白哉に自分達からの指示を受けてもらうための前振りであり、計画を順調に進ませるための偽造であったのだ。

 

 メェールが白哉に地図を渡したことを聞いた白龍は、口元に弧を描きながら不気味な笑みを浮かべる。

 

 

【クックック……白哉、お前が最後の最後にどんな反応をするのか、期待させてもらうからな】

 

【白龍様、今の笑顔はさすがに悪役感が強すぎるメェ〜】

 

【白哉のいないところでこういう顔をするのは好きなんだよなぁ……ニチャア】

 

【うわ、タチが悪いメェ〜……ハァ】

 

 

 白哉の知らぬところでタチの悪いマイペースさを見せる白龍に、メェールは引き気味になりながら溜息をつく。そして祈った。自分の知らないところで、白哉が悲惨な目に遭わないように、と。

 

 

 

 

 

 

「ウッ、寒気が……」

 

 

 な、なんだ? 誰かが俺の事をウワサしてんのか? しかも不思議と悪口ではないことが確かだと思えてくるんだが……まぁいいかな。

 

 

「にしてもこのアルミホイルに包まれたこれ、一体何なんだ……?」

 

 

 ばんだ荘の前に建てられているレンガの上に、何やら今俺が手に持っているアルミホイルに包まれたパズルみたいな四角いヤツ、これは本当に一体何なんだ?

 

 ん? なんでアルミホイルを取らないのかって? 一緒に置かれてあった手紙というかメモにてこんなのが書いてあったからなんだよ。

 

 

『×マーク全てに配置されてあるアルミホイルに包んだヤツを拾い、最後の建物の中に入ってから、そこでのとある者の指示に従いながらじゃないと、アルミホイルを取っちゃダメだゾ☆』

 

 

 なんか後半、おふざけ感があるんだけど? 誰だよこんなものとこんなメモを置いた奴は。何が目的なんだよ。というかよく置かせてもらったな。誰かに取られたり剥がされたりされる可能性だってあっただろうに。各所のお偉いさんに許可もらうの大変だろうに。

 

 ……まぁ、こんなものを置いた奴の正体が気になっているのだし、正体を知るためにも全ての×マークのあるところを周っていく必要があるのは確かなんだけどさ……

 

 というか、なんだろう……このメモと地図を見ていると、何か大事なことを見落としているような気がするんだけど……

 

 

「まぁいいや、とにかく今は全ての×マークのある場所に向かわないとな。四の五の考えるのはそれからだ」

 

 

 どっちみちメェール君から渡されたメモから始まったことなんだ、世界どころかこの町への危険が冒されるわけではないことは確か。だからさっさと全部周って、このアルミホイル包みと一緒に置かれた手紙を書いた奴の正体を暴かねーと。

 

 というかなんでこんな用意周到なことしてんだ犯人は? 一体何がしたいんだ? 俺に行った覚えのある場所に次々と向かわせて、一体何が目的なんだ? 理由が分からないから、わけがわからん……

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……これで×マークは後一つだな」

 

 

 とりあえず矢印の書かれたルートの通りに×マークのところに来てみたのだけど、案の定というべきなのか思いの外というべきなのか、どこもかしこも俺が行ったことのある場所だった。

 

 多摩川高校の門の前・河川敷の『多摩川』の看板前・ショッピングセンターマルマの入り口前・杏里の精肉店・たま健康ランド・仙寿神社・ミカンの旧実家の廃工場・桜ヶ丘公園の入り口前・白澤さんとリコさんのあすら・ブラムさんのスカーレット・せいいき記念病院・ネコにたくさん会える公園前・多摩動物公園前……

 

 見事にほぼ全部俺が原作やオリジナルのイベントで来たことのある場所だった。こんなにも行った覚えのある場所がピンポイントで×マークになることってある? メェール君もこの謎の計画に協力したのが原因か? 知らんけど。

 

 とりあえず、ここまで全部周って合計十四個のパズルピースみたいなものを集め、残るは最後の×マークになったわけだが……

 

 

「よりにもよって、なんで最後がここなんだよ……まさか柘榴さんがこの計画を立てた犯人、とかじゃないだろうな?」

 

 

 その場所となるのが、桃がばんだ荘に引っ越す前に住んでいて、現在では柘榴さんが海外から引っ越して使っている、公民館みたいな見た目の家だった。しかも律儀に門の前にパズルピースみたいなもの……はなくて代わりに手紙だけが置かれてあった。

 

 ここは確か、熱を出した桃を優子と一緒に運び、何やかんやあって優子が一族の封印の一部を偶然にも解いた原作イベントの発生地だったな。懐かしいなー。ここでメタ子も初めて会ったのも印象深かった。

 

 

「おっといけねぇ、思い返すのはまた今度にしよう。それよりも大事なのは手紙の内容だ内容。最後の最後で一体誰が一体どんな内容を書いたというんだ……?」

 

 

 恐る恐る手紙を取り、それをペラリと捲った俺氏。その手紙にはこんなのが書かれていた。

 

 

『フハハハハハ‼︎ よくぞここまで辿り着いたものだな‼︎』

 

 

 文面魔王かよ。

 

 

『ここまで来たということは、貴様はピース十四個を全て集め終わったということだな‼︎ ならば最後にインターホンを鳴らし、合言葉を我々に向けて伝えるといい‼︎ ちなみに合言葉はピースのアルミホイルに書かれた番号順の言葉を並べて言うのだ‼︎ ちなみに暗証番号を入れて入ろうだなんて思わない方がいいぞ‼︎ このためだけに一時期暗唱番号を書き換えたのだからな‼︎ 今日が終われば戻るけど‼︎』

 

 

 俺が早く終わらそうとするのを防ぐための、用意周到なこともしていたとは……絶対この家の主である柘榴さんも共犯してるじゃねェか。しかも我々って、他にも共犯者がいたのか? 目的次第では後で締め出そ。なんか遊ばされている気分で腹が立つから。前の家主である桃はあり得そう。

 

 ……まぁいいや、とりあえずアルミホイルに書かれた文字を番号順に見てと……ええっと、何なに……ふむふむ、ふぅむ……あ、こういう言葉になっているのか。よしっ、覚えたぞ。早速ピンポーンするか。

 

 

 ピンポーン

 

 

「白哉だ。言われた通りピース全部集めて来たぞ」

 

『……アイコトバハ?』

 

 

 なんか声が聞き覚えのないヤツなんだけど。ヘリウムガスでも使ったのか? ま、そんなことはどうでもいいさ。

 

 

「……《びゃくやさんへあいをこめて》」

 

『……ヨシ、オッケーダ』

 

『アンショウバンゴウハ《28282》、ニヤニヤニャーン』

 

 

 合言葉と言い、暗唱番号といい、お前らおふざけでこんなの作ったの? 合言葉の『びゃくやさん』って優子が考えた可能性が高くね? 俺の事をさん付けで呼ぶの彼女ぐらいだし。暗唱番号は桃が考えた可能性があるな。変更前の暗唱番号にも『ニャーン』があったし。共犯者、さらに二名が浮上したのか?

 

 

「28282……よし、開いたぞ」

 

『……ならばこのまま部屋まで進むと良い。貴様に見せたいものが──あっ』

 

「変声するの忘れないでもろて」

 

 

 ここで聞き覚えのある声が聞こえたけど、その事を指摘するだけにしてさっさと入らせてもらいますわ。そろそろこんな事をさせた目的を聞きたいんでね。

 

 とりあえずこのままお邪魔して、先に進んで……一応警戒心は強めでいこう。さっきの聞き覚えのある声が、可能性がない方が大きいけど知らん常習犯の物真似である可能性もあり得るからな。いつでも召喚師覚醒フォームになれるように、セイクリッド・ランスを解放できるように……

 

 

「ふぅ………………行くか」

 

 

 よし、準備完了‼︎ とりあえずそのリビングへのドアを開けさせてもらおう‼︎ とりゃー‼︎

 

 

 

《白哉(さん)(くん)(殿)、ハッピーバースデー‼︎》

 

 

 

 複数人による声援が響いたのと同時に、複数ものクラッカーの鳴る音が聞こえてきた。

 

 

「………………は?」

 

 

 ハッピー、バースデー……? は……?

 

 

「白哉さん、お誕生日おめでとうございます‼︎」

 

「白哉くん、おめでとう」

 

「おめでとう白哉、みんな待っていたわよ‼︎」

 

「白哉君、今日はみんなで盛大に祝福されてくれ‼︎」

 

「ホントにおめでとうね〜」

 

「おめでとうございますッス」

 

「……今日、君にはいっぱい楽しんでいってほしい」

 

「白哉君のために、みんなで結構準備させてもらったからね‼︎ 訳あって兄さんが暴走しそうになったけど」

 

「我の偉大なる祝福の準備が……」

 

「ウチも料理で祝おうと思ったけど、何故か途中で止められてもうたけどなぁ」

 

「リコ君は訳ありで控えさせてもらったから……」

 

 

 呆気に取られながらも各々の祝福の言葉を挙げられる俺氏。ふと辺りを見回せば、部屋中にはホームパーティーでありがちな装飾が一段と飾られており、あり得た可能性の低いシリアス要素は微塵も見当たらなかった。

 

 優子がこの部屋にいるだろうとは想定していた。桃もいるだろうとも想定していた。柘榴さんもいることは確信していた。ここに来るまでに来た×マークのところからして、色んな人達も共犯でここに来ているだろうとは想定していた。

 

 ただ一つ……ただ一つだけ、想定していなかったことがあった。それは……

 

 

 

「俺、今日で誕生日迎えてたの?」

 

 

 

《⁉︎》

 

 

 今日までに色々と濃厚なイベントがあったから、今日で俺が誕生日を迎えたということを忘れていたことだ。自分の誕生日を忘れるとか何やってんの俺?

 

 

「ちょ、ちょっと白哉さん⁉︎ あ、貴方今日が自分の誕生日なのを忘れていたんですか⁉︎」

 

「お、おう。お恥かしながら、今年色々あったせいで気づいてなくてな……」

 

 

 優子にすごい切羽詰まられたんだけど……素で今日が自分の誕生日であることを忘れていたのが申し訳ない……

 

 

「えっと……お、怒っていたからそんな反応を見せているってわけじゃないの……? なんかごめんね……?」

 

「いや違うから。何だろうなとは警戒していたけれど、怒っているわけじゃないから。色々あってガチで忘れてただけだから。お願い、信じてくれない?」

 

 

 というか桃、お前ガチでの申し訳無さげな感じに顔に影を落とすのやめてくれない? こっちの方が申し訳無く感じて結構傷つくんだけど。

 

 まぁ、俺も最初は仲間外れにされてるような感じがして寂しかったって思っていたけどな。っていうか今気づいたけど、もしも俺が誕生日であることを覚えていたら用事があると嘯かれた俺がどういう感情になってしまわないかとか、そういうこと考えたことあるの? そこらへんは考慮して?

 

 

「そんなことよりも、よくこんな用意周到なことをしようと思えるなお前ら。ここまでされて正直戸惑ったぞ」

 

「まーね。この日のために私達は事前に色んな人達に協力をお願いしたからね‼︎ ……即でのOKをしてくれるとは正直思ってもいなかったけど」

 

 

 それはこの町の人達が非常に優しすぎるからでは? さすがの杏里でも不安だったみたいだけど。

 

 

「実は当日も平地くんがあちこちの×マークに来るまでは大変だったッスよ。知らない人とかが誤ってピースを奪わないかを監視するために交代交代でこっそりと隠れて、平地くんがピースを取ったところを確認するまでずっと身を潜めてたッスから」

 

「それはそれで大変でございやしたね」

 

 

 っていうか俺が各×マークに来た時も陰から見られてたの? 全く気が付かなかったんだけど。確かに突然見知らぬものが置かれたらそりゃみんな警戒するだろうけどさ。後お前らよく身を潜められてたな。そしてよく素早くここに戻ってこれたな。腕の良いスパイか何かか?

 

 

「けどまぁ……こんな用意周到なことをやってまでして、俺の誕生日を祝おうとしてくれたのはすごく嬉しいよ。ありがとうなみんな、手間を掛けさせてもらって」

 

「我はもっと盛大に祝いたかったのだがな‼︎」

 

「さっきも似たことを言ったけど、兄さんの祝福はとんでもないことになるから止めておいたよ」

 

「あ、そうですか」

 

 

 とんでもないことになる祝福って何? ブラムさん、一体どんなことをして俺の誕生日を祝うつもりだったのですか? 取り返しのつかないことや大事になるようなことならやめてくれません? まぁ祝ってくれるのは嬉しいですけどね。

 

 

「ウガルルも蓮子もありがとうな。二人とも今日が俺の誕生日であることを聞いたばかりだってのに、みんなに協力してくれて」

 

「んがっ‼︎ 俺、いつかボスの眷属にお礼がしたイと思っていタ。それを今日するコトができタ。だかラ何の問題モなイ‼︎」

 

「僕は主人様が何かしらの暴走がしないか不安で、思ったよりは作業に集中できなかったですけどね……」

 

「それだけでも助かるよマジで。あいつもブラムさん並にやらかしそうな気がするから」

 

「それ、どういう意味だい?」

 

 

 お前の過保護さのあり過ぎる祝福の仕方が、ブラムさんが本来したいとか言うだろう祝福の仕方と似たような境遇の可能性があり得るからなんだよ。どっちかというとお前の方が安心感があるけどな。

 

 

「まぁとにかく、白哉が喜んでくれたのならモーマンタイ……と言った方がいいのかな?」

 

「おう、そういうことにしてくれ。寧ろそうでないと逆に強張るから」

 

「じゃあそういうことにしておくわ。ささっ、そろそろパーティーを始めましょうか」

 

「そうだな。さ、我がむ……白哉よ、そこの特等席に座ってくれ」

 

「お、おう。ありがとう……」

 

 

 また俺の事で気を重くされると困るから早く始めようかと促したら、突然背後にいたピエロのマスクに衣装という、完全にピエロのコスプレをした二人の人物に俺専用だという椅子に座るよう誘導された。この誕生日パーティーの主催者みたいなポジションの人達なのか? にしても誰がこんなコスプレを───

 

 

 

《ところでそちらのピエロのコスプレをした二人組の人達、どちら様ですか?》

 

 

 

「………………はい?」

 

 

 えっ? は……えっ? 一同戸惑っている? この二人はお呼びではない? そもそも正体が誰なのかも分からないご様子ですか? えっ、じゃあこの二人は一体何者なの? 律儀に顔を隠して分かり辛くして……怖っ……

 

 こ、これはアレだな。これこそいつでも戦闘態勢に入れるようにしないとだな。まずは相手の様子を伺って……

 

 

「待って待って、そう睨まないで。分かった、分かったから。教える、正体について教えるから。そんな目で睨まないで白ちゃん」

 

「別に睨んでなんかな───えっ?」

 

 

 今、俺の事を『白ちゃん』って呼ばなかったか? 俺の事を『白ちゃん』って呼ぶのは母さんぐらいしかいないって。ということは、このピエロコスの人達、もしや……

 

 

「母さん、父さん……二人とも何してんの?」

 

「あっ、バレた……」

 

「お前が白ちゃんと言うから確定されるに決まってるだろう」

 

 

 一人がエヘヘみたいな反応を、もう一人がその反応を見て呆れたような様子を見せる。そして正体がバレたことで諦めを覚えたのか、二人揃ってピエロのマスクをゆっくりと脱ぎ取った。一人はどこかが引っ掛かったのか手間取っているようだが。

 

 マスクを脱ぐのに手間取った方は二十代前半みたいな可愛く美しい顔立ちをしている、夕日のように明るい赤色で艶やかなロングヘアーを持つ美女。手間取ってない方は三十代前半のキリッとしながらも逞しさのある顔立ちで、小さなツンツンがたくさんある黒髪の中に濃い紫色のメッシュがある勇ましさの強い男性だった。

 

 はい出ましたこの年齢に合わず結構若い顔立ちの二人組、やっぱり俺の父さんと母さんです。やっぱりピエロの正体はこの二人だったようやな。

 

 

「えっ⁉︎ 白哉の両親の方達⁉︎」

 

「い、いつの間に俺達の輪の中に⁉︎」

 

「あ、一昨日ぶりだー。思ったよりもかなり早い再会だねー」

 

「ボスの眷属の親‼︎ また会えテ嬉しイゾ‼︎」

 

「えっと……あの時の件はお世話になりました……?」

 

 

 案の定というべきか、いつの間にか紛れていた二人の正体を知った途端のみんなの反応がちょっと面白かった。いやそこは笑うところではないとは思うけど……

 

 

「というか二人とも、みんなからの反応からしてお呼ばれされなかったみたいだけど、なんでこの場に紛れるようになったんだ?」

 

「いやぁ、最初はサプライズとしてアポ無しでプレゼントを直渡ししようと思っていたのよ? でも白ちゃんが出掛けている時に身を潜めていた良子ちゃんとしおんちゃんを見かけてね? もしかして彼女達も白ちゃんへのサプライズのために何かしてるのかなって思ってたら、つい……ね?」

 

「誰にも気づかれぬよう、後をつけてなんとかここの輪に紛れたってわけだ。俺は尾行することは乗り気ではなかったがな」

 

 

 あぁなるほど。ドッキリを仕掛けるためにプレゼントを直接渡しに来たら、ほとんど行き当たりばったりな感じで優子達と一緒に祝う方向性に変えたってわけか。よくバレずにみんなの輪の中に入り込めたな二人とも、普通どっかのタイミングで気づかれてもおかしくなかったぞ。

 

 というか、後をつけていたって……何普通に犯罪ムーヴをかましてたんだよ。父さんの方は反対の意思があったみたいだけど、大人二人が揃いも揃って女子高生と幼女の後をつけるとか、なんつーストーカー行為してんねん。バレたら通報案件不可避だったぞ。

 

 

「俺にサプライズをしようとするその精神は良い。だけどアンタらに気づかれないように後をつかれた良子ちゃんと小倉さんには謝った方がいい。特に母さんは。本来ならストーカー行為は警察沙汰だけどな」

 

「アッハイ………………良子ちゃん、怖いことしてごめんね?」

 

「小倉も、すまなかった……」

 

「あ、ううん。悪意はないみたいだし、別に気にしてないから」

 

「堂々と後をつけれるなんて尊敬しちゃうから、寧ろ無問題ですよぉ〜」

 

 

 両親に良子ちゃんと小倉さんへの謝罪を促し、二人からの許しを受けさせた俺氏、なんかこの時だけ親よりも偉くなった気分に浸れた気がする。これが将軍や皇帝になった人の気持ちなのかな、俺の個人的意見だけど。

 

 

「さてと……この話はおしまい。そろそろ始めてくれないか? パーティーを。ぶっちゃけここからが楽しみすぎて仕方がないんだよ、俺。へへへっ……」

 

「ニヘラニヘラな白哉さんの笑顔、初めて見ました……」

 

「いや、ニヘラニヘラって何だよ……」

 

 

 

 

 

 

 はっきり言って、誕生日パーティーは滅茶苦茶楽しかった。料理もどれも美味いのばっかりだったし、ゲームも結構楽しめた。召喚獣達によるコントとか、いつの間にか杏里や小倉さん・勝弥に全蔵が練習していたバンド演奏(楽器はどこでどう手に入れたんだ……?)とか、とにかく楽しい出し物を用意してくれた。

 

 プレゼントももらって嬉しいものばかりだった。男性用化粧品とかワイヤレスイヤホンとか、洋服とか筆記用具とか……どれも今後の生活で役に立つものばかりで結構嬉しい。

 

 ただ、個人的に男子があげそうなプレゼントであるプラモデルはちょっと……プレゼントとしてはどうなんだろうな……専門の用具なしでも組み立てられるタイプのものだったからまだよかったものの、素直に喜べるものではないんだよな……

 

 ゲームも色々と面白いものばかりだった。椅子取りゲーム(リコさん勝利)とか大人数でのUNO(奈々さん逆転勝利)とか、後は王様ゲームもあった。

 

 王様ゲームの方はみんな面白い命令をしていたな。相手の好きな○○を当てないとハリセン叩きだとか(勝弥に桃のを当てるように杏里が命令して失敗)、セクシーポーズ勝負をするようにとか(拓海がミカンと全蔵に命令してミカンが赤っ恥ながらも勝利)、三回クルクル華麗に回ってワンと言うとか(小倉さんがブラムさんに命令されたものの羞恥よりも息切れが勝った)……

 

 一番キツかったのが、ほっぺにチューするという命令だが、組み合わせが俺と優子の場合はベロチューとするという、おふざけが過ぎる上に俺と優子を公開処刑する気満々な限定的命令に怒りを覚えたよ。しかも命令した人が桃じゃなくて母さんだという……

 

 これにより、みんなに俺達のベロチューを見られたということで優子がしばらく羞恥で放心状態になったものの、母さんは父さんからの説教を受ける羽目に。痛い目に遭ってくれたのはある意味助かったぜ。これで少しは反省してくれ母さん。

 

 で、パーティーが終わって解散し、今は優子を自室に連れていくことになったところである。

 

 

「いやぁ色々とありすぎたけど、結構楽しかったな」

 

「私は一部記憶が飛んじゃいましたけどね……」

 

「アレは仕方ないだろ。あんな命令した母さんが悪い、間違いない。あのからかい上手の桃でもドン引きする程だったぞ」

 

 

 まぁ、王様ゲームのルールとはいえ素直にあの命令に従った俺達も俺達なんだがな……とはいっても、意を決したような表情になった優子が半ば強引にキスしてきたんだけどな。無茶するから放心状態になるに決まってるでしょうが。一方の俺はなんで放心しなかったのかは自分でも不思議に思っているんだけどさ……

 

 あっそうだ、別に伝え忘れていたわけじゃないけど伝え忘れていたことがあるんだった(哲学かよ)。

 

 

「優子、誕生日プレゼントありがとうな。これ、大事にするからな」

 

「あ、い、いえ‼︎ 喜んでくれたのなら何よりです‼︎」

 

 

 優子がくれたプレゼント、それは清子さんに編み方を教わりながら作ったのであろう、赤紫色の手編みのマフラーだ。温かくて、もふもふでめっちゃ触り心地が良い。一体どこでこんな生地を見つけたのだろうかと気になってしまう程のクオリティだ。なんとかの杖を上品な布生地を作れる杖にして生成したのか? 錬金術師か?

 

 

「そういえば……お前からの誕生日プレゼントで思い出したけど、去年はお揃いの柄のハンカチにしたんだっけか? それもそこそこ値段の高い生地を再利用してお前が作ったヤツ。あの時の貧乏だったお前にしてはよく資質の良いもん使ったもんだな」

 

「そ、その事は言わないでください……あの頃はまだ付き合ってもないのに、なんであんな愛の重たいものを作ったんだろうって今でも申し訳なく思ってますから……それに余った生地で私の分までをも作ってしまって……」

 

 

 そうは言うけど、ぶっちゃけすごいよ? そういう方向性で実行できるなんて、そう簡単にできることじゃないよ? 発想と実現する意欲が余りすぎてね? その時のお前。

 

 

「そうしてしまうほど、お前は俺の事を好きになってくれたんだろ? こんなにも可愛くて誰にでも優しい女の子の恋人になれて、俺はすごく嬉しい限りだよ」

 

「そっ、そうですか? そうなん、ですね……えへへっ。で、でしたら来年は可愛いコーデした手錠でも───」

 

「手錠なんてどうやって手に入れるんだよ。っていうか怖い怖い怖い怖い、プレゼントに手錠をあげるとか絶対良からぬこと考えてるだろ」

 

「冗談ですよ。独占できる時間がほしいのは変わりないですけど、白哉さんを苦しませるようなことはしませんから……ね♡」

 

 

 あの、すみません。わざと見せつけるかの如く目のハイライトが消えた笑顔を見せてくるのやめてくれませんか。本当は本気で無理矢理にでも独占する気満々ですと言っているようなもんだよその表情は。

 

 ……ま、そんな性格があることを知りながらも告白したのが俺なんですけどね。我ながら根性あったなー俺。

 

 

「………………あの、白哉さん」

 

「ん? なんだ?」

 

「じ、実はその……白哉さんへの誕生日プレゼント、もう一つ用意しているんです。で、でもみんなの前では見せられないので、白哉さんと二人きりになった時に用意したいのですが、いいですか……?」

 

 

 みんなの前では見せられないプレゼント……? えっ何それ。愛の重い感じのものである可能性はあるのだろうけど、それを渡すことを宣言されたら気になって仕方がないんですが……

 

 

「おう。わざわざ俺に渡すために用意してくれたんだろ? 是非見てみたいものだよ」

 

「ほ、本当ですか……‼︎ で、では早速準備してきます……‼︎ あっ隣の部屋、お借りしますね‼︎」

 

 

 そう言って優子は、いつの間にか持ってきていた紙袋を持って別室へと行ってしまった。部屋を移動してまで準備するもの……組み立てとかが必要なヤツなのか? だとしたら時間がかかりそうだな。

 

 なんかハラハラッと布の落ちる音が何回か別室から聞こえたんだけど、なんか嫌な予感がするんだが。色んな意味で。

 

 

「お、お待たせしました。こ、こちらに入って来てください……」

 

 

 あ、数分で準備が終わったのか。短くても二十分くらいかかるのかと思ってたんだが、実際にかかったのはその半分である十分くらいか。思ったよりもそんなにかからなかったんだな。それはそれでお互い助かるけどさ。

 

 

「待っててくれ、すぐそっちに行くよ」

 

 

 さてと、別室に行くためにオープン・ザ・ドアっと。優子は一体どんなものを用意してプレゼントしようと───

 

 

 

 一瞬とはいえ、思わず言葉を失ってしまった。今の優子の恰好が、一糸纏わぬ姿──全裸──の上に胸や下半身、それぞれの大事な部分を隠すように赤いリボンを巻いているという、危機管理フォームよりも露出度がかなり高い衣装となっていた。

 

 

 

「あ、改めて白哉さん……た、誕生日……お、おめでとうございます……も、もう一つのプレゼントは……わ、私、です……♡」

 

 

 刹那、己のタガが外れたかのような感覚を覚えた。気がつけば俺はその場で優子を押し倒し、彼女の唇を奪った。

 

 

「………………そのプレゼントの中身、隅々まで見させて使わせてもらうからな?」

 

「ッ………………はい♡」

 

 

 嗚呼、やばい。今日は自分から干からびにいきそうだ……

 

 




この日が白哉君の誕生日ってわけじゃないですけど、物語の流れ的にも、そして一回はやってみたいなって感じで、白哉君の誕生日回をやらせていただきました。

実はまだオリジナル回があるので、それと登場人物紹介を投稿したら原作五巻編を投稿します。お楽しみに‼︎


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寝ていたはずなのに、とんでもない存在と出会ってしまったってマ?

今年最後の投稿が急に制作することになったものなので初投稿です。

今回はなんと‼︎ 白哉君があの原作キャラと邂逅します‼︎ 今すぐ閲覧せよ‼︎


 

「───、───よ、───白哉よ、平地白哉よ、目覚めるのです」

 

 

 ……ん? んん? ……アレ? 俺、さっきまで何を……?

 

 確か俺は、優子達が仕掛けたサプライズ用の地図の通りにルートを辿って、それぞれの場所にあるピースを集めて、最後に柘榴さんの(元・桃の)家に行ってみんなに誕生日を祝われて、それから……

 

 あ、そうそう。夜になって優子に誘われてあんなことやこんなことをしたんだっけ。……ヤベッ、思い出しただけでも盛り過ぎはことを恥ずかしく思えてきたんだけど。いつもの事だとはいえ、な……

 

 いや呼びかけられてるのに何卑しい記憶を思い出してんのさ。呼んできた人に失礼じゃねェか。

 

 

「僕からしたら将来に期待できるから、別に何の問題もないよ」

 

「あ、そうですか……」

 

 

 って待って? ちょっと待って? 読めるってか⁉︎ アンタ白龍様やリリスさん、謎のフードの人みたいに夢の世界でなら人の心が読めるってか⁉︎ 一体何者なんだアンタは……って、えっ?

 

 人の心を読まれたことに驚きながら振り向いた途端、その時に見えたもの──人の姿に別の驚きを覚えた。金色の短髪に褐色肌、優子のと異なるものの角と尻尾が生えている他、エルフのような耳が見えた。身長は優子と同等のような、少年に見える低さだった。

 

 というか角・尻尾・エルフ耳って、どう考えてもこの人、魔族……だよな? しかもよく考えてみたら、角や尻尾が優子のと似てるって……ま、まさか……⁉︎

 

 

「あ、あの……す、すみません……」

 

「ん? 何かな?」

 

「あ、貴方は……一体、誰なんですか?」

 

 

 恐る恐る、少年に見えて少年では無さそうなその人に対して声を掛ける。幻覚か白龍様とかが変化の技を使ってなった者なのかは分からないが、どうにもタメ口で話してはいけない気がしたから……

 

 

「あ、そっか。自己紹介がまだだったね。清子がシャミ子のついでに見せてあげた写真でしか認識がなかったみたいだし。

 

 

 

 はじめまして。僕の名前はヨシュア。人間での活動名は吉田太郎。ご先祖様……リリス様の子孫で、吉田清子の夫で、シャミ子……吉田優子と吉田良子の父です」

 

 

 

「………………………………うえっ、あっえっ。ど、どうも。はじめまして……」

 

 

 ………………ハァァァァァァッ⁉︎

 

 アイエエエエ⁉︎ ヨシュアサン⁉︎ ヨシュアサンナンデ⁉︎ なんでヨシュアさんが俺の夢の中に、しかも意思を持って来たというのォッ⁉︎ ヨシュアさんってアレだよね⁉︎ ヤバい呪いから俺の父さんを助けるために、桜さんに自分諸共みかん箱に封印されているんだよね⁉︎ なのになんで俺の夢の世界にいるんだよ⁉︎

 

 

「あっそっか。これってマジもんの夢の中か」

 

 

 うん、そうだよ。絶対そうに決まってる。封印された存在の者が俺の精神世界に来れるはずがない。本来俺が精神ごと持って来れるはずのない方の夢の世界だ、きっと。そこに何かしらの気まぐれがあって俺の精神がこの世界と繋がっていて、来るはずのないヨシュアさんと会うという幻覚を見せられているんだ。どんな夢の中だよ後味の悪い。

 

 よし、寝よう。今すぐ寝よう。今寝てるけど寝よう。そして俺の精神を元あるべきところに戻そう。そうしよう。というわけで、はいおやすみー。

 

 

「いや寝ないでくれるか? ここ、君のいう精神世界ってところだから。ちゃんと君の精神がある世界の方で起こしたから。いや僕何言ってるんだろう?」

 

 

 あの、ちょっと。すみません、俺のほっぺ抓るのやめてもらってよろしいですか? 痛いです、いやホントに痛いですから。

 

 ……あっ。寝ているはずなのに痛みは感じられる。これ、俺の精神世界で柘榴さんと手合わせした時に何回か感じた痛みだ。……ん? ってことは、俺は今、精神世界にいて意識を持っているって状況にいるのか。で、優子みたいに夢の世界で自由に何かを作れるはずがない。

 

 と、いうことはつまり、俺の目の前に立っているこの人・ヨシュアさんは……

 

 

「………………どっしぇええええええっ⁉︎ な、ななななな、なんでェェェェェェッ⁉︎ なんで⁉︎ ちょっ……なんでェェェッ⁉︎ なんで、なんでヨシュアさんが、なんで本物として、なんで俺の夢の世界に、なんでいるんだァァァァァァッ‼︎」

 

 

 なんで⁉︎ どういう原理が起きたらなんで封印されているはずの本物のヨシュアさんが、なんで俺の夢の世界に、なんで目の前に現れて、なんで会話できる感じなんだァァァァァァッ⁉︎ り、理解が、理解ができねェェェェェェッ‼︎

 

 

「……プフッ。アハハハハハッ! あ、ごめん。明らかに過剰に驚いてくるものだから、思わず腹の底から笑っちゃったよ……‼︎ 声に出しても心の中でも何度も『なんで』って、クハハッ‼︎」

 

「えっあっ、すいません。思わず何度も『なんで』って言ってしまったこと、拗らせるのやめてもらってもよろしいでしょうか」

 

 

 ヤベェよ、今のでヨシュアさんにネットミームみたいな印象を持たせてしまったよ……いくらなんでも同じ言葉を何度も連発するもんじゃないよな、うん……

 

 

「というか……封印されたはずの貴方が、なんでここに来れたんですか?」

 

 

 よくよく考えてみたら、封印されている人が他人の夢の世界に来れるっておかしくね? ヨシュアさんが優子と同じ夢魔の魔族とはいえ、封印された人が動けるとは思えないんだが……

 

 

「えっ? なんで来れたのかって……リリス様と同じ境遇ができる機会ができたからね、それによって君の精神世界に行けることを知って、せっかくだから挨拶しようと思ってここに来たんだ」

 

 

 えっ? 封印されているのに精神世界に行けるの? まるで意味が分からんぞ?

 

 

「ほら、像の姿として封印されているままのリリス様も優子の夢の世界に行けるのはどっかで聞いたんだよね? 封印された僕の場合はどうやらランダム制な感じになら早くて年一の感覚でできるみたいなんだ」

 

「あっ、それなら納得がいくかも」

 

「リリス様で例えたら納得がいくんだ……」

 

 

 仕方ないじゃないですか、二千年も封印されたはずのリリス様でも優子の夢の世界に行けたんですよ? 『二千年』も封印されたはずのリリス様が、ですよ? あの人に例えられたら貴方がここに来れるのも多少の納得がいきますよ、はい。

 

 って、アレ? ちょっと待って?

 

 

「さっきランダム制な感じにならってことは、夢見鏡みたいな感じのもので精神だけを上手く俺の精神世界に送れたって感じですか? 優子からそうやって俺や桃の記憶の世界に行けたって聞きましたが……」

 

「ん、まぁね。それの亀裂版みたいなのが僕の目の前に現れて、夢見鏡と同じ感じにテレビの砂嵐みたいなのが見えたからね。もしかするとって思ってやってみたらできた感じなんだ」

 

 

 いやなんですかその後半のふわっとした感じの説明は。

 

 

「でも、俺の夢は一度入ったってわけじゃないですよね? しかもこれは数秒で百人は流れてくるし、古いテレビによくある砂嵐みたいな灰色の残像しか見えないはずですよね?」

 

「あー……ね?」

 

 

 俺のその博打的な状況の中でどうやったのかという問いかけに対し、ヨシュアさんは何故か頬を引き攣らせて苦笑いを浮かべてきた。えっ? 貴方、一体何をやらかしたというんですか?

 

 

「寝る前、君は優子と抱き合ったんだよね?」

 

「実の娘の名前を出しながらなんてこと言うんですか」

 

「あ、それはごめん。その時に君の優子の事を想う余韻が残っていて、それが君の夢に影響したみたいなんだ。それによって『平地白哉の夢の世界はここですよ』という主張をしている導波線が見えてね、もしかするとって思って入ってみたら、思った通りにこちらの世界に来れたってわけなんだ」

 

「………………あっ。そ、そうですか……」

 

 

 すみません、やらかしたの俺の方でした。疑り深い思考を取ってしまい大変申し訳ございませんでした、次から気をつけます。

 

 いやちょっと待って。

 

 

「というか……俺と優子がそういう関係になったことを知ったということは、ここに来たのはその事に対しての話でしょうか……?」

 

 

 清子さんは俺と優子の交際をヨシュアさんも認めてくれるとか言っていたけど、実際に本人がどう思っているのか分からないからな……最悪戦闘になることも考慮しながら、返答を聞かないと……

 

 

「ん? もしかして僕が反対するとでも思ってたのかな? ないない、そう身構えないでよ。君や優子の事はここに来るまでに君と優子の出会いからの記憶を見てきたからね」

 

「ちょっ、プライバシー侵害⁉︎」

 

「プライバシー侵害って……精神世界で無意識に流れた記憶は歯止めが効かないものだよ? 僕だって好き好んで勝手に見たわけじゃないし」

 

「そ、そっすか……」

 

 

 いやまぁ、ヨシュアさんの言ってることも一理あるよな。寝てる間に見る夢も、流れてくる夢もどんなものなのか自分でも分からないわけで、なんで自分はあんな夢を見たんだろうって不思議に思えてくるわけで……

 

 

「じゃ、じゃあ何が目的で、俺の精神世界に……?」

 

「目的っていうほどのことじゃないよ。ただ純粋に、君とお話がしたかっただけさ」

 

 

 えっ……? ヨシュアさんと……優子の父親と、俺が、お話を? ちょっと待って急だから心の準備が……

 

 

「軽くお話する感じでいくだけだからそう畏まらないでいいって。隣、座ってもいい?」

 

「えっ。あ、はい。どうぞ……」

 

 

 なんか流れるように座っちゃって、ヨシュアさんも隣に座らせてしまったんだが。なんだろう……優子と同じ血筋だからなのか? 彼相手だとあっさりと心許してしまうんだが……

 

 

「さてと……僕は君の優子との記憶を見て来たけど、それは歩きながら流れるように見ただけだし、優子以外の人達と何があったのかは見ることができなかった。だから次は君の方からそれらを詳しく教えてくれないかい?」

 

「あ、はい」

 

 

 ヨシュアさんにまた流されるように、俺はこれまでに優子達とどんな関わりをしてきたのかを話すことになった。もちろん俺が転生者であることは隠しながら。さすがに彼にそれまで話したら、色んな意味でとんでもないことになりそうな気がしたから……

 

 

「じゃ、じゃあ……まずは俺が優子と出会った時の事から話しましょうか?」

 

「全然大歓迎だよ。寧ろ今すぐ話してほしいよ」

 

 

 期待に胸を膨らまされたみたいなので、さっさと話すことに。

 

 事故に遭って病院泊まりになった時に偶々歩き回ってたら優子を見掛けたこと(本当は興味本位で)。

 

 また話そうと約束したこと。

 

 彼女の家に行って話し合ったりゲームしたりしたこと。

 

 中学で杏里に出会って優子と仲良くなったことを揶揄われたこと。

 

 中三で優子に告白されそこで彼女がヤンデレになっていたのを知ったこと。

 

 優子がヤンデレと知っても尚それに気をつけながらもいつも通り接してきたこと。

 

 優子が魔族になったのを知ったこと。

 

 彼女の宿敵となる桃となんやかんやあって少しの生き血から三人で町を守るようになったこと。

 

 桃の仲間であるミカンとも仲良くなったこと。

 

 ミカンの呪いを知ったことで陰陽師の拓海とよく関わるようになったこと。

 

 ヨシュアさんや俺の父さん絡みで桃と同盟を組み、優子が桃を眷属にすると宣言したこと。

 

 なんとかの杖やセイクリッド・ランスを手にしたこと。

 

 あすらの人達やスカーレットの人達との知り合いになったこと。

 

 夢の中で自分の本心に気づき、優子に告白して恋人同士になったこと。

 

 桃の歳上幼馴染・柘榴さんと仲良くなったこと。

 

 転校したミカンがみんなと仲良くなったこと。

 

 彼女の呪い扱いだったウガルルを色々あって外に召喚したこと───

 

 話した。いっぱい話した。初対面の人にとは思えない程全部明かした。これも優子と同じ血筋だからなのか、不思議と全部(転生の事以外)話した。思ったよりもなんだか気軽に話せたのだが……まぁ、うん。なんでだろうって自分でも思っている。この人ならほぼ全部話しても大丈夫だろうなって、そんな風に考えるようになったのは覚えているけど。

 

 

「……というわけなんです」

 

「ほへぇ~、そうなのか。思ったよりも結構濃いめな体験してきたんだな、君も優子も」

 

「えぇまぁ……思ったよりも、です」

 

 

 どうやら俺が話したことはお気に召したようだ。いや、お気に召してくれるところが一つもない方がおかしい。俺が話したことの中には優子の成長した点がいくつか挙げられているんだ。それに関心が持たない親がいないのはさすがにどうかと思う。

 

 ……まぁ、ヨシュアさん本人は微笑みを浮かべたわけだが、それでも納得がいかなくて不機嫌になってもおかしくない点もあるはずだ。その点については……実際にそうさせてしまっただろうこの俺がちゃんと謝らないといけない。謝らない方が後味悪い。

 

 

「ヨシュアさん……その、先に言わせてください。大変申し訳ございませんでした」

 

「……えっ? ちょっと待って、なんで急に謝るのさ? まるで意味が分からないのだけど」

 

 

 そういう反応をするのもおかしくない。けど、これに関してはちゃんと謝らないと俺の気が済まないし、隠し続けて後でこの事について理解したヨシュアさんの怒りを買ってしまうのもよろしくない。だから隠し通さず言わないと。

 

 

「俺は……優子を歪ませてしまいました。歪ませてしまったといっても外面ではなく内面で、ですが。俺が優子と付き合うまでの間、彼女に下手したら取り返しのつかないことをさせてしまいそうな性格にさせてしまったんです」

 

「………………」

 

 

 俺の言葉から何かを察したのか、ヨシュアさんの眉が少しシワを寄せていた。良く思っていない反応しているだろうとは予想していたので、俺は話を続ける。

 

 

「表向きにはちゃんとみんなに優しい性格をしていますし、みんなと仲良くなりたいという想いは昔も今も変わってはいません。けど……中三の時、彼女は俺に対して重い愛を持っていたことを明かしたんです。みんなとは仲良くなりたい。けど俺を自分から引き離すようなことはしないでほしい。俺と一緒になる機会をもっと作りたい。もっと俺に愛情を与えたい。そういった想いが矛盾を重ねながらも強く出ていました」

 

「あの子が、そこまで君の事を……」

 

「彼女をそんな性格にしてしまったのは、俺のせいだろうとその時に自覚しました。単なる興味本位で彼女と話し合い、そこから積極的に彼女と関わってきた。その些細なことから優子の俺への感情が溜められていて、彼女を苦しませていただなんて思ってもいませんでした」

 

「………………」

 

 

 ここでヨシュアさんが苦笑いを浮かべ、罰の悪そうな表情になる。これは優子の事で何かしらの理由があり、俺に対して申し訳ないと思ったからだろうか。どちらにせよ良い感じなことは思っていなさそうだ。

 

 だからといって、ここでこの話題は取りやめましょうなんて言わない。それこそタチが悪いってもんだからな。

 

 

「それから俺は彼女が暴走しないように警戒しながらも、いつもとあまり変わらない接し方をしてきました。最後には自分の想いを伝えて恋人同士になりました。でも……それでも明かされるまで気がつかなかったとはいえ、俺のせいで優子を歪ませてしまった事実に変わりはない。他人を変えることは罪でもあると俺は思っています」

 

「そっか……」

 

「だから、謝らせてください。俺の不注意で貴方の娘さんを……優子を苦しませるような真似をして、大変申し訳ございませんでした」

 

 

 深々と頭を下げ、自分のこの不甲斐なさと注意不足によって起きてしまったことに対する謝罪をした。

 

 別に人を変えることが全て悪いことに繋がるわけでもない。けど俺の場合は下手したら最悪の事態を招いただろうという土手の立場になりかねないことだったから。実際これまでにヤバい事態は起きなかったが、それでも……

 

 

「……だったら、一つ訂正をさせてくれるかな?」

 

「えっ……? 訂正、ですか?」

 

「確かに君は、君自身の無自覚な行いのせいで優子の性格を歪ませてしまったと言った。けど、優子はそうなるまで恋を知らず、みんなと仲良くなりたい想いを今でも変えずに生きてきた。だから恋を知って、そこからおかしくなってしまうのも否めないと僕は思っている」

 

 

 ……なるほど。博愛の人が独占したくなる程の恋を知った時、どのような判断をすればいいのか分からないと迷いだす……そういった感じのと同じようなものか。突然芽生えてきた感情が矛盾を生み出し、優子はそれに苦戦していったんだな……

 

 

「それでも、優子はそんないつか壊れてしまいそうな自分と闘ってきたのだろう? それもまぞくである前から、ずっと。それに負けじと立ち向かい、寄り添い、どうすれば君との関係を崩さず発展させていくのか……それをいつまでも続けていた。いつか感情を壊してしまいそうな自分を抑えてここまで生きてこれた……それだけでも優子は充分成長したなと共感できる。僕としても喜ばしいことだよ」

 

 

 あぁ、そうか。この人は優子が不幸な人生を送らなければ問題ない人のようだな。寧ろ優子がどんな奴になろうとも、彼女を陰から支え応援しようという、広い器での強い意思を感じる。優子……お前はこんな父親の元で生まれたんだな。本当によかったよ……いやホント、色んな意味でね。

 

 

「……さて。突然だが、ここで君に質問させてもらうよ」

 

「えっ? 質問……ですか?」

 

「君が言っていた、無自覚による優子の性格を歪ませるという善意。もしもそれが何かしらの能力云々とかで事前に知らされたとする。そしてその行為が絶対必須だとか強制的なものではないとする。その場合、君は優子の身を案じて行わないことにするか? それとも本能に従って君の事を想わせるようにするか? はたまた別の行動をするか?」

 

「………………」

 

 

 真剣な眼差しでそう問いかけてくるヨシュアさんに対して、俺は何も答えられずにいた。もしもあの時から未来予知ができるようになったら、それは想定していなかった。過ぎたことに関する『もしも』は意味ないとは思うが、もしかしたら……と考えてしまう。

 

 様々な思考が過った後、俺はやっとの事で思いついた答えを、彼に告げる。

 

 

「………………正直、分かんないです」

 

「分からない……それが答えかい?」

 

「はい。正直に言って、それが優子との恋人同士になるための前進とするのなら喜んで動いていた可能性もあります。けど、逆に最悪の事態が起きてしまうことを恐れて身を引く可能性も……今後の未来の事や現実を考慮することも想定すると……と考えていってたら、最終的にどうすれば良いのか分からなくなって、パニックになってしまいそうです」

 

 

 『今』の俺なら本能に従うことにしていたのだろうけど、『昔』の俺ならそういう選択肢を即座に選ばない可能性だってある。選択肢を間違えてしまえば、あの時以上に優子という人物を壊してしまう可能性だって……

 

 だが、俺が想定している未来が確定するわけではない。だからといって外れる可能性もあるわけでもない。本当はどうなってしまうのかと考えてしまうのと同時に、そういった不確定性に左右され、先程のように『分からない』という曖昧な答えを出してしまった。

 

 ヨシュアさんは何かを思ってそう質問してくれたのに、俺はそれにうまく答えられなかった。いい答えを待ってくれていただろうに、裏切ってしまったな……

 

 

「───いいんだよ、それで」

 

「………………………………はい?」

 

 

 えっ? 今、なんて? 『いいんだよ、それで』? それは一体どういう意味なんですか? 『分からない』と言ってちゃんと答えてあげられなかったのに……?

 

 

「たとえ未来予知ができたとしても、本当にその通りなことが起きるのか、その予知通りの事をすれば助かるのか、避けたらもっと酷い結果にならないか……色んなことを考えてしまう。結果が分かっても色々と悩み、そこから答えを探す。それが人のあるべき姿だと僕は思っている」

 

「えっと……つまり?」

 

「どんなに未来が予知されたとしても、未来を決めるのは君の気持ちと行動次第ってことさ。分からないなら分からないなりに動いて、そこから自分が思い描く未来の通りに軌道を変えれるよう努力する。それが人生ってものじゃないか。現に、君への想いが強すぎた優子と交際することにしたじゃないか。それと同じさ」

 

「………………‼︎」

 

 

 ……そっか。そういうことだったのか。たとえ事前に知らされた未来があったとしても、その通りにいくのかそうでもないのかは、最終的にはそれを見せられた者の行動次第になるってことか。

 

 人生は何が起きるのか分からない。だからこそ分からないなりに動いて、そこから自分が本当はどんな未来にしたいのかを想像し、その未来図を作れるよう軌道を変えながら努力していく。そういった事を後悔の無きよう、今後していってほしい……ヨシュアさんはそう言いたかったんだな。

 

 

「だから、これからは君がこうすべきだと思ったことは積極的にやっていけるようにしてほしい。それが君にとって……そして優子にとって最善策だと思って」

 

「……はい、がんばります‼︎」

 

 

 ヨシュアさんの激励に、俺はそうはっきりと答えた。俺はヨシュアさんに優子の……そして今後の未来を任されたんだという期待を知ったこの時、不思議と責任に押し潰された感覚はなく、寧ろその期待に答えようという前向きな気質になったと思う。俺の後ろには召喚獣や白龍様だけでなく、ヨシュアさんも支えてくれている。そんな気がしたから。

 

 

「……おっと、そろそろ時間みたいだ」

 

 

 そう呟いたヨシュアさんの周りに、突如として煙のような黒いモヤが浮き出ていた。それらはヨシュアさんを包むように、隠すかのように徐々に広がり始めた。

 

 

「……って、ちょっ待っ、えぇ⁉︎ ヨ、ヨシュアさん、なんかこれヤバく───」

 

「心配しないで、ただの夢魔の力に時間切れが出たってだけだから。もうすぐ僕の精神はお父さんBOXと呼ばれているあのダンボール箱に戻される。僕の道連れによって一緒に封印されたあの影みたいな猛獣は既に浄化されていなくなったから、内部で箱が暴れて壊れされることはないから、安心して帰れるよ」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 触れるの忘れていた点である猛獣の事もついでにそう教えられた俺は、彼がこの後も無事であることを知れて安堵した。それもそうか。夢魔の力であればあの一か八かみたいなことしても帰れるよな。知らんけど。

 

 

「それじゃあ、僕はここで失礼するよ。……あぁそうそう、最後に一言言わせてくれ」

 

 

 ここを去ることを表すかのように一度背を向けたヨシュアさんだったが、突然すぐさまに振り返ってサムズアップし、満面の笑みを見せながら俺に告げた。

 

 

 

「頑張れ白哉君。これからも明るい未来のために、シャミ子と共に己が道を駆け抜けていくのだ‼︎」

 

 

 

「………………‼︎」

 

 

 ホロリ。一瞬視界が歪んだのと同時に瞳から水滴が一つ流れた。ここまでの会話の中で一番温まりのあるその言葉が、まるで俺の神髄隅々にまで脳があったのかの如く記憶に刻まれた気がしたからだ。

 

 気づいた時にはモヤは蒸散され、同時にヨシュアさんの姿も見えなくなっていた。今からこの言葉を呟いてもヨシュアさんの耳には届かないのだろう。けど、それでも言いたい。あの人が俺に掛けてくれたあの言葉に、精一杯答えるように。

 

 

「俺、頑張ります‼︎ 輝かしい未来への道を、必ず作っていきます‼︎ だからそこから見守っていてください‼︎ 俺の……いや、俺達の勇姿を‼︎」

 

 

 

 

 

 

「………………んあっ?」

 

 

 気がついた時には、俺は布団の中で目を覚ましていた。輝かしい朝日がこの部屋を優しく照らし、小鳥の囀りが気持ちの良い目覚めにしてくれた。ふと隣に視線を向ければ、この布団の中で俺と一緒に寝ていた、一糸纏わぬ格好の優子の姿が。

 

 

「……あぁ、やっぱりアレは夢だったんだな」

 

 

 優子を起こさぬよう優しく彼女の頭を撫でながら、俺はそう徐に呟いた。ヨシュアさんの夢魔の力による俺との邂逅は、やっぱりこっちの世界には何の影響も出ていなさそうだ。封印されているはずの人が何かしらのどえらい行動をしたことだから、何かしらの出来事が起きると思っていたのだが……

 

 

「ま、そんな事は別にどうなったっていいか。いやよくないかもだけど」

 

 

 なんていう独り言を呟きながら、俺は優子の額にそっとキスをした。夢の中でヨシュアさんと結んだ約束を果たすための結びの一つとして、改めて優子を守るんだという意思表示を見せるためのものとして。

 

 本当は唇にキスした方が後々優子も喜ぶし、ぶっちゃけ俺もそこにキスしたかった。けど今はもうちょっと優子を寝かしたかったからね。我慢我慢。

 

 ……これから先、彼女とのこういった生活がしにくい……それどころかできない事件とかが起きるかもしれない。けど、それでも俺は負けない。ヨシュアさんとの誓いを果たすまで、そう易々と死ねない。みんなも死なせない。

 

 

「みんなの明るい未来は、俺が必ず守ってみせる」

 

 

 だからヨシュアさん、いつまでも俺達を見守ってください──改めて俺は、遠くから見届けているであろう彼にそう伝えたのだった。

 

 

 

「………………な、何を思っているのかは分からないけど、色々と反則的な事を言ったのは確かですね……こ、これで勝ったと思うなよぉ……」

 

 




まさか封印されたはずのヨシュアさんと出会うなんてね……転生者の人生何が起きるのか分からないものですな(誰だって人生何が起きるのか分からないだろ)。

ちなみにヨシュアさんの性格は原作六巻とナレーションから独自解釈した感じにしてますので、今後の原作の展開で出るだろう彼の性格とは異なるかも……?

それはそうと、2023年もありがとうございました‼︎ 2024年もよろしくお願いします‼︎



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ここまでの登場人物紹介4

やっと区切りがつけれるので初投稿です。

というか新年初投稿が登場人物紹介ってマ? しかもいつもの週一投稿でやるゥ?


 

♢平地 白哉(びゃくや)

 

 シャミ子と交際する事になった勝ち組主人公。ちなみに保健委員に入っている。

 現在ではシャミ子に対する恋愛感情を出すようになり、その愛情はヤンデレ状態のシャミ子に負けない程となっていた。シャミ子が欲しがりそうだと感じた的当ての景品をゲットしてそれを彼女にあげたり、夜這いの誘いに快く受け入れたりと、シャミ子の好意に合わせた行動をする。しかしシャミ子がヤンデレ状態になった時に困り気味になるのは変わりない。

 最近では危機管理フォームになったシャミ子の近くにいると、彼女に対するラッキースケベを起こしてしまう羽目となることが多くなってしまった。しかしシャミ子本人は満更でもないどころか、寧ろまたいつどのタイミングで起きるのかと期待しているとのことらしい。

 シャミ子と悠久を共にするパートナーになるための契りを交わしたことにより、夢魔の力を手に入れ、シャミ子に彼女の夢の世界へと連れてもらえるようになったり、彼女のように他人を自分の夢の世界へと連れて行けるようになった。

 

 

□セイクリッド・ランス

 白哉が使えるようになったチート武器。奥々多魔駅での使い魔との対決や夢の世界での柘榴との対決によって、セイクリッド・ランスの使い方に慣れていくようになった。

 

- エドヒセブ・エレキック

 電撃を纏わせた槍に触れた者の身体に神髄まで感電させる。

 

- ダイレクトスナイプ

 穂先に集中するように凝縮された光の球体をライフルの如く瞬きしてでも捉えられない程の速さで放つ。

 

- ブリザードタイフーン

 槍身を中心に氷の礫と共に竜巻を巻き起こす。

 

- ラプターミラー・プレート

 地面に突きつけた瞬間に盛り上がり出てきた巨大な岩石の壁で攻撃を防ぐ。

 

- シャイニング・ウォール・ビット

 透明なガラス板みたいなキラキラに輝く複数の結晶に分離したシャイニング・ウォール

 

- ロンゴミアド

 全てを覆い尽くさんとする光の柱を突き出すことによって生まれる奔流。セイクリッド・ランスを使用する中で一番の必殺技とされているが、夢の世界で使用したため、現実世界で使用した時のデメリットがあるのかは不明である。

 

 

 

♢白龍

 

 前章よりも出番が少なかった自由奔放ドラゴン。しかしそれは、白哉とシャミ子が二人きりになれる時間を作れるようにと配慮したものであるらしい。

 白哉が夢魔のように夢の世界を行き来できるようになることを明かした。

 

 

 

♢メェール君

 

 ようやく設定回収できたマスコット枠。

 自分とは違い動物園に行ける白哉達に嫉妬したり、動物園から帰ってきた白哉にモフモフされたりと、マスコットらしさがより出ているかと思われる。

 自身が使用する回復魔法は、身体だけに飽き足らず、物体などの生命を持たないものや曇り気味な心身などといった様々なものを回復させることが可能となっている。言うならば精神や機体の回復も可能という万能すぎる魔法の使い手である。

 

 

 

♢その他の召喚獣

 

・襟奈

 白龍とメェールが現実世界に赴く機会が少ないことを懸念していたが心配無用であることを伝えられ、白哉も自分達召喚獣には感謝していることも伝えられ、勇気づけられることに。

 

・ポーフ

 奥々多魔駅の山中にてはしゃぎまくった。山にいる時ははしゃいでそのまま走り回ってよく大岩に頭ぶつけて壊したとのこと。

 

・ピョピョン ICV:高山みなみ

 並のビルならひとっ飛びのナルシスト系ウサギ。自然の全てが自分の為にあるものだと思い込んでいる程の、思考が自己中心な性格をしている。しかし自分の不都合な事が起きた場合、冷静にその場で判断する反射能力を持っている。

 

・ハムイン・ボルタ

 ピッピにどちらが掃除するかで喧嘩を吹っかけたものの、ミカンの部屋のドアの前に立っていたので、その時偶然開かれたドアに潰される形で喧嘩両成敗された。

 

・ピッピ

 ハムイン・ボルタに喧嘩を吹っかけられ、偶然開かれたドアに潰される形で喧嘩両成敗された。というかただの被害者である。

 

・凌牙 ♀ ICV:春花らん

 動き回って風と水の力を同時に操るちょい頑固なサメ。男性に付けられそうな名前だが、これでもれっきとした女性。負けず嫌いな性格。

 

 

 

♢白哉の両親

 

 終盤ら辺でようやく再登場した。

 白哉が自分の誤送信による誤解を解くために送ったメールをまともに信じ、白哉達の体育祭の手伝いをしに来たという勘違いと共に、ウガルルの依代作りの手伝いをした。

 白哉の誕生日の時は、アポ無しで誕生日プレゼントを直渡ししに来たところに大型サプライズをしようとしていたシャミ子達を見かけ、ピエロのコスプレを着て彼女達の輪の中に入り、一緒に白哉の誕生日を祝った。

 

 

 

♢吉田 優子/シャミ子

 

 白哉と念願の交際をするようになった勝ち組微ヤンデレまぞく。

 晴れて白哉と恋人になってからは、ほぼ毎日だという程に彼と性的な恋愛感情を求め合っている。アプローチも積極的になり、隙あらばここからは自分が白哉を独占する時間だというかのように鎖で両手を縛りつけたこともあった。ヤンデレ度合いが高くなってきたというわけだ。

 危機管理フォームになっている状態の時のみではあるが、白哉のラッキースケベに遭うことも多くなった。というかウガルルを召喚する際以外で毎回。しかしシャミ子本人は満更でもない上にそうしてくることを望んでおり、ラッキースケベに遭えば逆に自身が興奮してしまう程。正にいやらしまぞくである。

 

 

 

♢ シャミ子の家族・血縁者

 

・リリス

 シャミ子になんとかの杖の使い方を伝授させたごせんぞ。だがその原作シーンを本編ではカットされてしまう。哀れ。

 

・吉田 清子

 白哉とシャミ子の交際を祝った人の一人。

 白哉とシャミ子が何かしらの絡みをしていれば、それを意味深な相思相愛の行動と勝手に解釈する。

 

・吉田 良子

 上に同じく。

 夢の世界でのシャミ子の特訓を見学したり、ウガルルの依代作りを手伝ったりと、貴重すぎる経験をすることができた。

 

・ヨシュア/吉田 太郎

 お父さんBOXとしての目立った出番がなかった人。

 白哉の誕生日の夜、彼の夢の中に現れる形で実際に登場した。彼とシャミ子の交際を快く思っており、娘がヤンデレになってしまっても幸せならば問題無いとのこと。

 年に一度だけ夢見鏡と同等の力を使うことができるが、特定の人物の夢の中に入るということはできないらしい。

 

 

 

♢千代田 桃

 

 闇堕ち経験者。新たな目標を持って多摩町の一角を守ることを決意した。白哉とシャミ子が付き合うことになっても相変わらずちょっかいをかける。ちなみに宿題はぎりぎりまでやらない派。

 自分の事を誰よりも気に掛けている柘榴の対応には弱く、彼が何かしらのアクションをしてきたら最後、恋する乙女の如くしどろもどろな様子を出してしまう。他人の恋愛(白哉とシャミ子)には首を突っ込む癖に自身の恋愛には耐性が全くないのはどうかと思われる。

 一度闇堕ちした影響で体を操作する魔力の調整が利かなくなり、一時的にダークネスピーチになってしまった。解除することに成功した後、心身の安定のためにと毎朝柘榴に米を炊いてもらっている。ちなみに柘榴本人が自ら進んで行っていることなので、桃に悪意はない。

 

 

 

♢佐田 杏里

 

 呪い体質のミカンを快く受け入れた者の一人。度量が大きいだけ(?)の普通の高校生。体育祭委員。

 体育祭準備の事件の後、ミカンの事を心配して勝弥と共にばんだ荘に訪れた時、戸惑いがありながらもウガルルを外の世界に再召喚する手伝いをした。

 

 

 

♢伊賀山 全臓

 

 夏休みに日本一周のサイクリングに行った忍術オタク。広報委員。

 道端でくねくね曲がったダイヤモンドを拾ったところ、小倉にそれを使った実験に付き合ってほしいと連行される。そして同日にてウガルルの依代作りに貢献した。

 

 

 

♢小倉 しおん

 

 仲の良い人の力になりたい性分だがマッドサイエンティスト。桃の闇堕ちに関する助力やウガルルの依代作りのプランを立てたりと、飛び級してもおかしくないその頭脳で白哉達の手助けをした。

 

 

 

陽夏木(ひなつき) ミカン

 

 桜ヶ丘高等学校に転校してきた魔法少女。

 呪いのせいでクラスメイトになる子達に引かれないか不安に感じていたようだが、多摩町の事なので全員に早くも受けいられてもらった。杏里や勝弥ともID交換をしたり同じ体育祭委員になったりする程に仲良くなった模様。

 体育祭準備で気絶してしまった時に呪いを暴発させてしまい、被害がほぼ出なかったものの自責の念に落ちてしまう。しかし拓海の激励と白哉達の救いの手により曇りが晴れ、夢の世界でウガルルを励まし外の世界でもう一度やり直そうと励ました。

 

 

 

♢ウガルル ♀ 年齢不詳

 

 メソポタミアに伝わる怪物の名を冠したまぞく。

 ミカンの持つ呪いの正体であり、ミカンが幼い頃、彼女の父親が経営していた工場が傾いたとき、追い詰められた父親が見よう見まねの作法と裏道の触媒で召喚された存在。

 一人称は『オレ』で、半人半獣の少女の姿をしている。

 使い魔として呼ばれたものの召喚の仕方が正しくなかった結果、父親の望みである『工場と家族を守る』という願いを超解釈し、『ミカンを困らせたものを無制限に破壊する呪い』をかけ、さらに魔法少女としての素質のあったミカンの魔力を糧とし、使い魔を超えた存在になってしまった。

 しかしその実態は、魔法陣が小さくぐちゃぐちゃで命令がうまく伝わらず、依代やお供えにも馴染めず外の世界も見えないまま、ミカンを守るために必死で頑張っていただけであった。

 シャミ子の力によってミカンの心の中に入り、そのことを知ったシャミ子達は、自身がミカンを困らせていることを知り絶望して存在が消えかかっている彼女を救うため、みんなの力を借りて新たな依代を作り、彼女を外の世界に再召喚した。

 そこでミカンから『自分自身のやりたい仕事を見つける』という新たな仕事を受け、せいいき桜ケ丘の新しい仲間として暮らすことになった。

 

 

 

仙寿(せんじゅ) 拓海(たくみ)

 

 一巻編・二巻編の異常な過保護さは何処いった感じの陰陽師。美化委員。

 十年前の彼は気の弱い性格だった。その上に幽霊に対する耐性を持っていない中で親の監督不足により陰陽札を取ってしまい、それによって幽霊を目撃してしまい、それがトラウマとなってしまった。しかしある日、桜に悪霊から助けられたことでトラウマがなくなり現在の過保護な性格になった。

 ウガルルの話を聞いて彼女を昔の自分と連想したのか、自分が彼女の親代わりになると誓い、その立場に一番近いミカンを勝手にライバル扱いすることに。

 

 

□狩衣

 拓海達陰陽師が仕事を成す為に必要な衣装。陰陽師の霊力の安定化・強化を図るのに必要な過程となっている。

 

 

 

蓮子(はす) ♂ 年齢不詳 ICV:小平有希

 

 拓海の式神。

 普段は姿を透明化させ、自身が持つ霊力で陰陽師の責務を果たそうとする拓海のサポートをしている。そのため普段から身を隠しながら彼や白哉達をすぐ近くで見守っている。

 擬人化した猫の姿をしているため、今後は猫好きの桃に狙われるかもしれない。

 拓海のミカンに対する鈍感っぷりには頭を抱えている。あれだけミカンのためにと思って行動しているのに、何故好意に気づくことも自覚することもないのか……と呆れるほどである。

 

 

 

♢リコ

 

 基本善意で動いている魔族。

 シャミ子やスカーレット兄妹に浴衣(に化かした葉っぱ)を貸したり、闇堕ちしてしまった桃に電話でフォローの言葉(のつもりだが選んだ言葉が逆効果なもの)を掛けたり、ウガルル再召喚のお供えとして魔力の込めた唐揚げを作ったりと、本編ではほぼ描写されてはいないものの彼女なりの悪意なしの善意を働いている。

 動物園でシャミ子に化けて桃に弁当に化けた薬膳を食べさせようと画策するも、なりきれていないところ柘榴に見透かされ、問い詰められた事による恐怖から彼に対する苦手意識が芽生える。この後何故か仲直りしたが。

 

 

 

白澤(しらざわ)

 

 実は結構長く生きていそうな魔族。脆弱。

 バグなのに喋ったり二本足で立ったりするため、動物園では噂を聞きつけたギャラリーに巻き込まれる始末。目立たずに人間界に馴染むために二足歩行するようになったようだが、本来ならバグが人間の中に紛れたら目立ってもおかしくない。

 

 

 

♢ブラム・スカーレット

 

 気がついたら読書・本屋の営業以外の趣味を持っていた魔族。

 多摩町の納涼祭では、一部の店の本を商品として並べながら的当ての屋台を開いている。的当ての屋台を出すことにこだわりやロマンを求めているらしく、そのために毎年の納涼祭を楽しみにしているのだとか。ちなみに毎年着物専門店で買った着物を着込んでいる。

 

 

 

♢馬場 奈々

 

 本編でまだバナナ好きさが出ていない魔法少女。

 ブラムの事を賞賛すればその口が止まらない程のブラコンではあるが、血縁がないためいつかは自分一人で考えた言葉で彼に告白するつもりのようだ。

 

 

 

(いしずえ) 柘榴(ざくろ) 22歳 ♂ 6月18日生まれ ICV:内田雄馬

 

 桃の幼馴染。

 十年前から留学していたらしいが帰国した。留学中は各世界で起きた戦争を完全鎮圧させたというとんでもない経歴を残した。

 桃の事を何かと気に掛けており、彼女に対して思うことがあれば本人に伝えたり、ズボラな食生活を送っていた桃のために料理を振る舞ったり、自動的な闇堕ち再発防止のために米を炊くだけの目的で桃の部屋に訪れたりと、彼女のために出来ることは何でも行動に移している。

 男性なのに魔法少女(それはもうただの魔法使い)。魔法魔術学園の学生の制服のような姿で戦う割には、使用する武器が硬派には程遠いチェーンアレイ・ギャップマジカルチェーンアレイ。自然系の能力を用いながらチェーンアレイを振るう。

 

 

 

♢ラグー ♂ ICV:大林洋平

 

 柘榴の使い魔。柘榴のことを『主人』と呼び、語尾に『ごわす』と付ける。出番が少なかったためか、特徴的な描写は見られなかった。次章でその描写が出ることを期待しよう。

『え?』

 

 

 

♢浅瀬先生 ♀ 年齢不詳

 

 白哉とシャミ子のクラス・一年D組担任の女性教師。ややおっとりした性格。名前の方はまだ明かされていない。これまで名前の方でしか出ていなかったが、番外編や本章で出番があったためここに記載する。

 ミカンの紹介で彼女に些細な呪いがあることを教え、クラスメイトにドッキリを仕掛けるなら覚悟するようにと伝えた。

 

 

 

♢広瀬 勝弥 16歳 ♂ 5月14日生まれ ICV:古島清孝

 

 白哉達のクラスメイト。体育祭委員。

 勘が良く、白哉の顔を見ただけで彼がシャミ子と恋人同士になったことを見抜いてしまう。拓海ほど狂ってはいないが、困っている人を見過ごせない性分の持ち主。体育祭準備の事件後のミカンを励まそうとばんだ荘まで赴く程である。

 白哉を抜くほどの高身長。杏里と同じテニス部で、夏のテニス大会に一年生ながらも出場し、大量得点を獲得して優勝した程の実力者。

 体育祭準備の後、その時に起きたとある事件で落ち込んでいたミカンの様子を伺うべくばんだ荘に向かった時、偶々出会った杏里と共にウガルル再召喚の手伝いをした。

 

 

 

♢青嶋 (しゅう) 16歳 ♂ 8月10日生まれ ICV:鈴村健一

 

 白哉達の同級生。一年E組。体育祭委員長。

 外面から漂うほんわかさとは裏腹に、冗談じゃ済まされないことは絶対許さない性分。人の恋愛を崩壊させることも一切許容しないとのこと。

 絶対にやり遂げなければならないものがある時、気合いを入れるために声の大きい熱血漢な性格になり、声量も大きくなる。その状態になっている間はやり遂げたいことが必ず上手くいくとのこと。いつでも長くその状態になって長く保てるように、いつもは気の抜けた性格で接している。

 

 

 

♢南雲 友香里 15歳 10月26日生まれ ICV:神谷浩史

 

 白哉達の同級生。一年B組。体育祭委員。女性っぽい名前だがれっきとした男性。

 期末テストにて十位圏内に入れる程に賢い頭脳を持つが、これでも体育会系な性分。陸上部に所属しており、毎日のトレーニングは欠かさないとのこと。熱血漢な性格時の秀に注意するために強く出ることもしばしばである。

 

 

 

♢楠木 誠司 15歳 ♂ 12月16日生まれ ICV:立花慎之介

 

 白哉達の同級生。一年C組。

 皆が納得しそうな意見を出しては『確かに』と思わせることができる程の言葉巧みが上手く、彼の意見は人を納得させてやれる程の説得力がある。意見を出してくれた人達の気持ちを無下にしない姿勢も見せることから『正論の誠司』と呼ばれている。

 

 

 

♢千代田 桜

 

 シャミ子の心の中で生きている超凄い魔法少女(物理的みたいな感じのため死んでない)。

 実は妹の桃と同じく宿題はぎりぎりまでやらない派であった。実際は結構人見知りしていた桃のために様々な場所に連れて行く内に、課題山積みで締め切り前日にわたわたしていたとのこと。その時に『いざとなれば期日を伸ばせる理論』を出してしまい、それが桃に影響を及ぼしてしまった。

 幼い頃の拓海を悪霊から救い、彼のトラウマをも祓い気弱な性格を変えた恩人でもあることが明かされた。

 

 

 

♢???

 

 謎多き人物なのにこの四巻編では出番が全くなかった。

???『これってマ?』

 

 




はい、次からはちゃんと本編を進めていきます。
来週までしばらくお待ちを‼︎


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原作五巻編 目指せ最高のまちづくり‼︎ そして予想だにしない展開も……?
さらに暴走しそうな自分が怖いけど、それでもスまぞくになってみせる‼︎ by.シャミ子


ヤンデレがメッセージを送る時ってどんな感じだろうなって初投稿です。

原作五巻編、スタートです‼︎ ここからシリアス要素が濃くなっていくかも……?

みなさんは分かっているとは思いますが、今回からはまだアニメに出てない回ではなので、アニメオリジナル要素はないのでご了承ください。

というか、シャミ子のモノローグで進めるの超久しぶりだな……



 

 恋というものを知り、自分の隠された本性に気づき、そんな自分と闘ってきた私、吉田優子。

 

 シャドウミストレス優子としてまぞくに目覚め、宿敵である魔法少女との繋がりを持つようになり……愛する人とも結ばれた。

 

 そして……新しい命、一つの小さな成功───まぞくとしてもう一歩踏み出す時が来たのかもしれない。

 

 様々な小さな成功を積み重ねてきた今だからこそ、少しは大きな成長を遂げていいはず。そう、今こそ契約の時。契約した後の自分がどうなってしまうのかは、想像はできても実際にどうなってしまうのかはわからない。けど、少しでも自分をさらに変えるなら今が好機。

 

 

 

 そう、私は今日……スマートホンと契約します‼︎ スマホを持ってスマートになる‼︎ 時代に即して生きていくのだ‼︎

 

 

 

「シャミ子……失礼だけど、多分スマホの概念を理解していないんじゃないの?」

 

 

 ちょっ、ちょっと桃⁉︎ 何私の独白の中に入ってきてるんですか⁉︎ モノローグって本来誰にも聞かれないはずでは⁉︎ もしかして私、無自覚にも声に出していた⁉︎ 最初のところから⁉︎

 

 

「最初に何を言っていたのかは知らないけど、無自覚というかはっきりと声に出していたよ? スマホを持つことにしたってところだけは」

 

「えっ。あ、そうでしたか⁉︎ 聞こえてたのそこだけでしたか⁉︎ そ、それならよかったです……?」

 

「内心のつもりなのを聞かれてもよかったのかな……?」

 

 

 いいや、その……前半の独白の内容がちょっとアレだったので、それが聞かれなかっただけでまだマシだと思います……

 

 えっ? この前まで白哉さんにしつこくメッセージ送りそうだから保留にしていた癖に、何故今になってスマホを持とうと思ったんだ、ですか? 先日のミカンさんとウガルルさんの一件で、人繋がる事の大切さを思い知ったからなんです。

 

 白哉さんがみんなにウガルルさんの依代作りに協力してほしいと伝えてくれたからこそ、みんながそれに快く協力してくれたからこそ、ウガルルさんを呼び出すことができた。私がこれまで体験してきたことによる素早い素材集めだけでもあれほど早く依代は作れなかったと思う。

 

 だから私は思ったんです。私も人との連絡をスマートにして、あの時の白哉さんみたいに問題事をスマートに解決したい……スまぞくになりたいんです‼︎

 

 ん? スマホってなんだか分かるのか? うすいでんわ全般では?

 

 えっと、あの、桃……? 急に肩を組んでどうしたんです? 『教えたいことがあるから部屋に来て』……? えっ⁉︎ 嫌です‼︎ なんか上からの圧を感じる‼︎ ちょっ待っ……白哉さん助けてー‼︎ なんでこんな時に限って生活品の買い物に行ってるんですかー⁉︎

 

 

 

 

 

 結局桃の部屋へと連行されてしまいました……ミカンさんと遊びに来た柘榴さんもお邪魔しているけど、話の介入をしないようにと敢えて知らんぷりしているみたいだし、これは逃れられない……

 

 一応私が携帯を持つことは桃も賛成みたいですけど、連絡取りたいだけならスマホに拘らなくてもいい、頑丈で単純なわっかりやすい機種した方がいいと言われた。せっかくスマホを持とうと決心したのに……解せぬ。

 

 

「きさま、私がスマホを壊すと思っているのか⁉︎」

 

「寧ろスマートホンをスマートに扱うシャミ子が想像できない」

 

「失敬な‼︎ でも分かる‼︎」

 

「……人に流されるように自分のマイナスイメージを想像してしまったら、色々とアウトだよ、シャミ子ちゃん」

 

 

 ハッ⁉︎ た、確かに流されるように肯定してしまったのかも……おのれ魔法少女、私にスマホを持たせんとするために巧みな口述を狙うつもりだとでもいうのか……‼︎ さすがはこの町の魔法少女汚い‼︎

 

 

「……仮にシャミ子ちゃんがスマホを壊しやすい体質だったとしても、桃だってこの前スマホを無惨レベルで壊してしまったから、同類」

 

「ッ……‼︎」

 

「……はい、動揺してる動揺してる。今、動画撮影してるから証拠も捉えてる」

 

「桃も人の事言えないじゃないですか……えっ、これ動画撮影しているんですか? いつの間に?」

 

 

 介入しないと思った柘榴さんに痛いところを突かれる桃の顔、ちょっと面白かった。正に図星、的な顔してましたね。私がやったことではないけど、ざまあみろ‼︎

 

 この後桃は何を思ってか、携帯が壊れるのは『戦う者あるある』だと言うけど、ミカンさんも柘榴さんも壊したこと無いとのこと。これは鼻で笑えますね、フハッ☆

 

 なんか負けじとみたいな感じに今度は中古で頑丈系の機種を勧めてきた。エベレストでも使えて急な爆撃でも壊れないとのことで、サバイバル向けな迷彩柄でかっこいいけど好みじゃない‼︎ そもそもエベレストとか爆撃とかで使う機会どころか遭遇する機会ってあります⁉︎ 何なら桃もその機種にして……あっ話を戻した‼︎ ずるい‼︎

 

 

「桃が持ってるヤツが……薄くて便利そうでいいんですけど……」

 

「でも緊急時の連絡用だよね? ほんとに誰かの助けが必要な時に、電池切れたり壊れてたら───」

 

「……最新の携帯バッテリーとスマホカバーで補えばいいでしょ」

 

 

 あっまた助かる介入‼︎ さすがは桃を堕とした最強の男(私の独断による公認)、恋愛方面以外でも桃に優勢を取らせんとしている‼︎ 正直助かり───

 

 

 

「……っていうか、シャミ子はなんだかんだでスマホで遊びたいんじゃないのかしら」

 

 

 

「えっ? そうなの?」

 

「ちっ……違……‼︎」

 

「ついでに白哉とお揃いにしたいのよね?」

 

「あっそれなら仕方ないかも」

 

「そうだけどそうじゃないですー‼︎」

 

 

 ちょっと、何私の本音に気づいてしまうんですかミカンさん⁉︎ た、確かにスマホならアプリのダウンロードができて結構色々と遊べますけど、だからってそれに察しないでいただきたい‼︎ 手軽に人と連絡し合えるようになりたいのだという捉え方にしてほしいです‼︎

 

 というか桃、『それなら仕方ないかも』って何ですか⁉︎ どういう意味で言ってますか⁉︎ 白哉さん関連の事なら咎めないと⁉︎ 白哉さんと繋がりのあることなら文句は一切ないと⁉︎ そういう捉え方はそういう捉え方でなんか腹立つし、何より恥ずかしい‼︎

 

 

「そっか……遊びたかったのか、それならスマホでいいと思う。押し付けてごめん」

 

「違うと言っているだろう‼︎」

 

「……『チュートリアルストーリークリアでSSR魔王○○○が貰える‼︎』」

 

「⁉︎」

 

 

 ざ、柘榴さん……なんでその事を……

 

 

「……シャミ子ちゃんが好きだというゲーム『ダーククエスト』の最新作がスマホで出た」

 

「あぁ、それ昔の大人気ゲームの続編だからよくキャンペーンの広告が出ていたわね。白哉もそのゲームをやるとか言っていたし。もしかしてシャミ子ってむぎゅ

 

「……つぶやいたーを含めたSNSでも結構話題になっていたし、目を付けるのも無理もなぎゅぴぃ

 

 

 よ、ヨシ‼︎(現場猫風) 物理的な口封じに成功した‼︎ これ以上私の本心に気づかれて暴露されるわけにはいかない‼︎ なんかあらゆる方向性を想定できるまぞくという威厳さが失われそうだから‼︎

 

 

「私がスマホを求めるのは立派なまぞくになるためです‼︎ 恋人とのおそろはスマホじゃなくてもできるしっ‼︎ 好きなゲームの激推しキャラの特典も欲しくなーい‼︎」

 

「激推しキャラの特典が欲しいわけでは無いの?」

 

「くどいっ‼︎」

 

 

 一々無自覚に私の本心を弄らないと気が済まないのかきさまは‼︎ 欲しいのはぶっちゃけ否定しないけど‼︎ と、とりあえずスマホは折りたたみ式と比べて地図とチャットが使えるからと言い訳して、スマホを持ちたい理由をそっちに寄せて……

 

 へっ? ゲームしないなら格安しむがいい? CPUとめもりが少ないからゲームできないけど維持費が安い……めもりって何? 定規がついてるスマホってこと? っていうかゲームできないスマホもあるんですか? あ、いえ、地図とチャットが使えればいいとは言いましたけど………………でも……

 

 

「格安SIMなら店頭じゃなくてネットで契約できるから、今から買おうか」

 

「えっ、えっ? 今からですか?」

 

 

 今から買うのを促すとか正気ですか? 正気のようですけど、まだこっちの心の整理が……

 

 

「設定が初心者には分かりづらいから、私がやるよ」

 

「えっ……あの……薄いやつがいいんですけど……」

 

「格安SIMも薄いよ」

 

「あっ……それだと桃達が言う白哉さんとお揃いには……」

 

「機種のお揃いはできないけど、カラーリングなら一緒になれるかもしれないよ」

 

「でも機能が……」

 

「でも月額二千円だよ」

 

 

 ……一々私の意見を否定するかのようなことを言ってきて………………もう、我慢ならない……

 

 

 

「お高くて最新のゲームができる最新のスマホが欲しいし‼︎ 機種もカラーリングも白哉さんのとお揃いにしたいし‼︎ 今しか貰えない推しキャラの特典が超欲しい‼︎」

 

 

 

 あれだけさっきからず──────っとロマンの無い選択肢を指示されれば、本心を魂の叫びの如く暴露しないわけにもいかないでしょ‼︎ 女の子のロマンの一つとも言える魔法少女になれる存在に、ロマンから遠ざけられるようなことをされるのはホントに我慢ならない‼︎

 

 

「確かに私はスマホを使いこなせないかもしれませんけどっ‼︎ 私も皆とキャッキャしたい‼︎ 白哉さんとスマホを通してでもイチャイチャしたい‼︎ ミカンさんと杏里ちゃんと勝弥くんのあの感じが超うらやましい‼︎ 私だって〜〜〜‼︎」

 

「シャミ子⁉︎」

 

「一人でスマホ買ってきます‼︎ ついて来るな〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

 

 もうこれ以上ここにいたら、また桃に何かしらの口述で私の望んでいるスマホゲットができないでいてしまう‼︎ さっさとこの場から離れて、手榴弾みたいなごつい電話所持を回避してやる〜〜〜‼︎

 

 

「………………??」

 

「……桃って女子力低いわよね」

 

「というか人の気持ちをもうちょっと察せれるようになった方がいい」

 

 

 

 

 

 

「───で、一人でスマホを買うことにしたのか」

 

「ハァ……ハァ……はい、そうなんです……」

 

 

 なんとか逃げ切って(追いかけられてはいないけど)息継ぎをしていたところに、買い物を終えた白哉さんと偶々遭遇しました。そして気がついたら先程までの事を話していました。

 

 本当は白哉さんにも言うつもりはなかったのだけど、あれだけ好きなようにスマホを持つことを許さんとされていたので、不満として明かさないといけなくなって……

 

 

「そっか………………じゃあ、俺もついて行くよ。優子がスマホを手に入れる瞬間が見たいし」

 

 

 うん、言うと思った。白哉さんなら絶対言うと思った。白哉さんも保護者みたいな感じで私のすることに指摘しそうだから……

 

 

「あの、すみませんが私は一人で───」

 

「あくまで同伴としてついて行くだけだから。でもお前、スマホといっても俺のとお揃いにしたいんだろ? どの機種なのか分からずに選んでしまったらお揃いになんかできないから、その時に教えてやる必要があるけども」

 

「ウッ……」

 

「それにな、ただスマホを持てばいいってわけじゃないぞ? 維持費として様々な料金プランがあるのだから、そのたくさんあるヤツをなるべく理解して、その中から丁度いいのを選ばないと脳内がバグるぞ? もしも上手く選べなかったら、使う必要のないものとかにもお金を払ってしまったらその分無駄になって本末転倒になりかねねェ。俺はそれが心配で仕方ないんだよ。恋人としても、幼馴染としても」

 

「そ、それは……」

 

 

 白哉さんの言っていることは、正直に言って全部正しい。スマホの種類にはどんなものがあるかだなんて皆無に等しいし、ネットを使うのだから普段使用しないネットサービスだってたくさんあるからどれを入れるべきか入れないべきかもわからない。それをスマホ知識のない私一人で対応するだなんて……

 

 

「ま、最初はお前一人でなんとかしてみせろ。お前も初めからそうしたいんだろ? 困った時とかやばそうだなって思った時には、俺が隣で説明とかの補助していくから。な?」

 

「……わかりました」

 

 

 ど、どうしよう……現実を突きつけられたせいか、絶対どっかの場面で白哉さんの力を借りないといけなくなりそう……というかすぐ借りる羽目になりそう……

 

 

「……それと、桃にも悪気があってお前にスマホを持たせることに賛成しなかったわけじゃないぞ?」

 

「えっ……?」

 

「スマホだけに飽き足らず、電子機能を持つヤツに当たって、嘘か真かも分からない内容が混じり合うネット環境とか使っていく内に上がるだろう維持費とか、色々とみんなが不安に思うようなことがあるからな。桃はそれも考慮して、自分なりの考えをお前に伝えてみたかったんだと思うよ。これは俺独自の思考なんだけどな」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 桃なりの考え、か……確かに彼女にも彼女の想うことがあって、あの時あんな事を言ったのだと思う。そう考えると桃の事を悪く思えなくなりますね……

 

 

「そう、ですよね……そう言われると申し訳ないことをしました。後で謝っておきます」

 

「おう、それがいいぜ。さ、そろそろ行こうぜ。念願のスマホゲットをしようぜ」

 

「……はい」

 

 

 でも、なんだろう……それでもまだ不安が無くなることがないのですが……

 

 

 

 

 

 

 とりあえずスマホの売ってある『du』という店に行くことにしたのだけれど……嫌な予感が的中したのか、すぐに白哉さんの力を借りることになってしまった。

 

 よく考えてみたらスマホにはボタンのあるヤツと無いヤツがあって、白哉さんはどっちの方を持っているのか分からなくなったからだ。確か桃やミカンさんはボタン無しの方だったけど……

 

 

「え、えっと……白哉さんのってボタンありの方でしたっけ……?」

 

「おう、使いやすいからな」

 

 

 実際に聞いてしまった……私って、ほんとバカ……

 

 

「……薄くてボタンのある機種をください」

 

「今売れているのはこのあたりのものですね」

 

 

 そう言われて店員さんに見せてもらったラインナップが……えっ何これ。写真だけだとどれも同じに見える……ど、どれが白哉さんの使っている機種なの……⁉︎

 

 

「……俺が使ってるのはiHon13sのシルバーだぞ」

 

「あっ。えーっと……あ、あった。これ……これにします」

 

「プランはいかがいたしますか?」

 

 

 あ、ここで白哉さんの言っていた脳内がバグるとかいうヤツだ。ちゃんと聞いてどれがいいのかを聞かないと───

 

 

「データはきららぴったりプラン・きららフラットプラン20と30、フラットプランだと月額動画サービスがお得なきららニコニコプランがあって、通話プランにはノーマルプラン・おしゃべりプラン・もっとおしゃべりプランがございます。オプションで呼び出し音を変えるサービスや留守───」

 

「⁉︎」

 

 

 こっ……殺されるわけじゃないけど、情報量で殴り倒される……ッ⁉︎ お、思ったよりもプランが多すぎてどれを選べば良いのか分からない……ッ‼︎

 

 

「……すみません。この子、携帯を持つこと自体初めてなんです。なので各プランについてもうちょっと分かりやすく教えていただけませんか?」

 

「えっ? あぁそうでしたか、大変失礼いたしました。ではまずきららぴったりプランはですね───」

 

 

 あ……アレ? な、なんか突然プラン一つ一つについてを、細かくも分かりやすく教え始めてくれた……? あ、いや、それはそれですごく嬉しいのだけれど、なんだか……

 

 一から分かりやすく聞いた中で、私は高くても月額五千円近くになる程のプランを選ぶことにした。白哉さん曰く、おまかせでやってもらってたら月一万円ほど払う羽目になりそうだったとのこと。あ、危なかった……ッ‼︎ 白哉さんが補足してくれなかったら、かなり高いお金を払わなくちゃいけないことになるところでした……ッ‼︎

 

 とりあえず今のところ、最悪の事態は免れた………………でも……さっきも思っていたことだけど、桃は私の事情を考慮して提案してくれたのに、勝手に見栄を張って飛び出して、自分一人の力でスマホを買うとか言った癖に白哉さんの力を借りる羽目になっちゃって……悪いことしちゃったな……

 

 

「……失礼ですが、お二人はとても仲がよろしいのですね。兄妹の方々ですか?」

 

「えっ」

 

「……いえ、こう見えてれっきとしたカップルです」

 

「……えっ?」

 

 

 この店員さん、絶対身長差で私達の事を兄妹だと思い込んでいる……でも白哉さんが睨みながら訂正してくれたから、一応問題はないかとは思われますが……この事をはっきり言うのもそれはそれで複雑な気が……

 

 

「あっ。そ、そうでしたか。それは大変失礼いたしました……で、でしたら『カップルプラン』もいかがでしょうか? カップル同士での通話が無料となりますよ」

 

「カップルプランッ」

 

 

 何それ、絶対入りたいッ‼︎ いつでもどこでも白哉さんと無料で通話ができるだなんて最高すぎるッ‼︎ 遠く離れてしまった白哉さんを感じるにもうってつけすぎるッ‼︎

 

 

「是非それも入れてくださいッ‼︎ 是非ッ‼︎」

 

「食い込みすぎるのやめろ、店員さん困ってるから」

 

「ア、アハハハ……それほどまでに恋人仲が良いのですね。それは何よりです。こちらもこのプランを薦めた甲斐がありますね……ビックリしたぁ……」

 

 

 あ、過剰に反応したせいで最後に本音を漏らさせてしまった……店員さん、大変失礼しました……

 

 

「他によく通話されるお友達はいらっしゃいますか? 『友情プラン』でさらに家族以外の知り合い一人が通話無料です」

 

「おぉ、桃とピッタリなプランだなそれ」

 

 

 えっ? ゆ、友情? しかも何故ここで白哉さんは桃の名前を? いや、桃とは宿敵関係にあるのであって、別に友情を育んでいるわけでは……

 

 

「……逆に『宿敵プラン』みたいなのはありませんか?」

 

「逆にとは?」

 

 

 ですよね、そんなものないですもんね。あっ。家族以外の知り合い一人が通話無料なら、金銭的面のことを考慮すれば桃との友情がどうのこうのって考えずにそのプランに入ることができるのでは? よ、よしっ。それなら大丈夫───

 

 

「お前の今考えていること、桃に伝えたらどんな反応をしてしまうんだろうな……」

 

 

 えっちょっ、白哉さん? なんでそんな遠目になりながらそんな事を言うのですか? な、なんか怖いし、反応に困るのですが……

 

 

 

 

 

 

 何はともあれ、ようやく念願のスマホを手に入れたぞ‼︎ 店の中で本体に私の事を色々と登録を済ましたことだし、早速ゲームのダウンロードを……ええっと……

 

 カセットを差すところは当然無い……何をどうしたら新しいゲームができるのか分からない……というかよく考えたらNintendo Switchに入れた『遊○王マス○ーデュエ○』もカセットとか無いんだった……そもそもアレどうやって入れたのか自分でも分からない……‼︎ 私、また詰んだ……⁉︎

 

 

「ゲームアプリのダウンロードはこのアプリで検索したり、アカウント登録をしておけばできるぞ」

 

「えっ。あ、ありがとうございます……」

 

 

 ハッ⁉︎ また白哉さんの力を借りてしまった‼︎ というか白哉さんの方から手助けしてきた‼︎ これじゃあいつもの流れでしかない‼︎ 正直助かったけど‼︎

 

 

「あー……俺が口出ししちゃいけなかったのか?」

 

「……そんなことはないです。ただ今回は一人で何もかもできないのが悔しくて……」

 

「わかるよ。スマホは最初みんなどう操作すればいいのか分からないからね」

 

「で、ですよね。みんな初めて使うものにはそうなりま───ぎゃああああああっ⁉︎」

 

 

 なんか突然白哉さんとは違う聞き覚えのある声が聞こえてきたなと思えば、まさかの桃が来ていたァァァッ⁉︎ きさま何故ここに⁉︎ もしかして私がスマホを買うのに苦戦したり白哉さんや店員さんに助力してもらったりしている間に来ていた⁉︎

 

 

「お前なんでこのタイミングで来たんだよ。悪いけどゲームの登録方法なら俺が既に教えたから一応手伝いに来た意味ないぞ?」

 

「そのつもりで来たってのもあるんだけど、ちょっと伝えたいこともあって……」

 

「つ、伝えたいこと……?」

 

 

 それはどういう意味なのですか。と聞こうとしたところ、桃が突然自分のスマホを取り出し、何やら画面をいじってからこちらに見せてきた。ん? 『ダーククエストアドベンチャー』……? あっ私も今さっき登録しようとしているゲームだ。

 

 

「柘榴が言っていたゲーム名から検索したら出て……さっき私も登録したから」

 

「最初スマホを持たせることを薦めなかった癖に、どういう風の吹き回しなんだ? 優子に対する何かしらの嫌味なのか?」

 

「や、やっぱり白哉くんも聞いていたんだ……それは聞かないでもらいたいな……」

 

 

 さ、さすがにこれは白哉さんに同意しきれないですね……人の不覚を抉るとか良くないことですよ?

 

 

「……私、シャミ子の趣味とかよく知らないし……共通の趣味があった方が意思疎通できるでしょ」

 

「そ……そうですか………………さっきはごめんなさい」

 

「……いや、こっちこそ」

 

 

 桃……私の事を考えて趣味を合わせてくれたんだ。趣味が増えることはいいことなんですけど、ちょっとこそばゆい感じがします。なんだか今回にしては私が好きなゲームを薦めているような気がして……うーん……

 

 あっそうだ。

 

 

「そ、そういえば! 通話が安くなるプランがあるらしくて。一応カップルプランもあって白哉さんと一緒に登録したんですけど、あれ他のプランと重ね掛けもできるみたいですよ‼︎ 私としては不本意ですけど? 作戦会議とかする上で節約したいので、仕方なく登録しませんか」

 

「えっプランの重ね掛けなんてできたんだっけか? 俺そこだけ聞いてなかったんだが……あっ。け、けど複数人でお得になるプランを多く入れられるのは便利だな‼︎ せっかくだし、桃も入ってみないか?」

 

 

 今、さらっと白哉さんが少しだけ呆けてたことを暴露していたのが聞こえたような気が……ま、まぁそんなことはどうでもいいとして、せっかくようやくのスマホをゲットしたことだし、もっとお気軽かつ手軽に使いたいから、この勧誘は決して得しないわけがない‼︎ 桃のスマホ維持費も節約できるし、これで一石二鳥───

 

 

「えっ……

 

 

 

 そんなもん気にしなくても、無料通話アプリで音声通話すれば無料だよ‼︎」

 

 

 

あ?

 

 

 ………………は? そんなもん? 今、とんでもないことを呟いていませんでした? カップルプランの方を指摘しているわけではなさそうだけど、『友情』だぞ? 友情って書いてあるんだぞ? それをそんなもんだと片付けるのかこのロマン皆無恋愛クソ雑魚脳筋桃色魔法少女は?

 

 

「きさまそういうところだぞ‼︎ これで勝ったと思うなよー‼︎」

 

「人の誘いと繋がりを拒むようなこと言いやがって……馬に蹴られて死ね」

 

「えっなんで⁉︎」

 

 

 なんで、ではないわー‼︎ 人がどんな想いをしてきさまをお得なプランに誘ったのか胸に手を当てながら考えることだこんちくしょー‼︎ 白哉さんからのドスの効いた声での罵倒という珍しい場面をも引き起こしてしまったのだから尚更だぞホントに‼︎

 

 というか白哉さん、その台詞は他人の恋路を邪魔する者に対して使われるものなのでは……?

 

 

 

 

 

 

 ───スマホは手に入れたものの、説明書を読んでも分からないことだらけで、操作していく内に変な画面が出たりして色々と苦戦を強いられております。

 

 サイトなどによる変な勧誘に関しては広告等のブロックができるアプリを白哉さんに薦められてダウンロードしているので問題ないとは思います。けど操作面ではまだまだ……

 

 うーん……思わぬ行動でスマホが使えなくなると困るし、ここは仕方ない……

 

 

「ごせんぞ、ちょっといいですか?」

 

 

 で、数分後。

 

 

「………………電話する時の操作ぐらいなら問題ないだろ。スマホの操作の仕方などについて教えてもらいたいという気持ちは分かったけどよぉ、リリスさんの念話を通して遠回しに買い物させるとかどうなんだよ……」

 

「すみません、近くだとごせんぞフォンが分かりやすくて……それと買い物を頼んだのはごせんぞの独断です。そこもすみません……」

 

「いや、いいよ。どうせ母さんが勝手に送ってきた金から買ったものだし」

 

 

 それはそれでなんか朱音さんに悪い事をした気分になります……さらっと何とも思わない感じに言わないで……勘弁して……

 

 そんなこんながありながらも、この後私は白哉さんにスマホの操作の仕方や表示される画面やそれを表示させる方法・事故みたいな感じで出してしまわないための対処法などを教えてもらいました。やっぱり実際によく使っている人からのアドバイスは助かるなー……

 

 と、色々と教えてもらったその時。

 

 

「……そうだ、優子。せっかくだしさ、カメラ機能を使って一緒に写真を撮らないか?」

 

「ええっ⁉︎」

 

 

 こ、ここで白哉さんが私のスマホでツーショットを要求……⁉︎ つ、付き合っていることだし、カップルで写真を撮るのは当たり前なことだけど……その……

 

 

「……い、いいんですか? じ、人生初のスマホでの写真撮影なので、上手く撮れるか分かりませんよ……?」

 

 

 そもそもスマホ所有歴がまだ全然浅いんですよ? なのに何の練習もなくツーショットするなんて……

 

 

「それも最初はみんな上手く撮れるとは限らないものだから、それくらい今更だろ。それに初撮影という経験だってまぞく……というか人の成長に繋がるんだから、今やっておいて損はないぞ。失敗したらまた次挑戦すればいいしな」

 

「……‼︎」

 

 

 そ、そうでした。誰もがみんな最初からなんでもできるわけがない、そんなことは当たり前なんだ。なのに私は失敗を恐れて勝手な考えをしてしまうなんて、私も色々とまだまだですね……

 

 

「……あと、それにな」

 

「それに……?」

 

「ただ純粋に、俺が優子と一緒に写真を撮りたいってのもあるからな」

 

「ッ……‼︎ そ、そうですか……ちょ、直接そんなことを言われると、なんだか照れます……」

 

 

 びゃ、白哉さんも私とのツーショットを純粋に期待していたんだ……恥ずかしいけど、すごく嬉しい……♡ うふ、うふふふ……

 

 

「あ、あの……こ、この後普通に撮ったら、貴方の好きな衣装を着てツーショットしてあげますよ……♡」

 

「………………なんか、目がハートになってんぞ。嫌な予感がするんですが……」

 

 

 

 

 

 ※この後滅茶苦茶撮影し、滅茶苦茶興奮したシャミ子によって白哉は滅茶苦茶されてこの始末☆

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その26


白哉「俺が好きな衣装を優子が着る、か……急にそんな事を言われてもな……」
シャミ子「どんな衣装を選ぶのかでお困りでしたら、白哉さんが好きなアニメキャラやゲームキャラを教えてください!! それでしたらなんとかの杖を衣装作りの杖に変形させて、そのキャラの衣装を作りますので!!」
白哉「マジで衣装作りができる杖を生成しそうで怖いんだが……」
シャミ子「なんで⁉︎」
白哉「まぁ、お前がそこまで言うのなら色々なキャラを挙げてみるか。色んなコスプレ、期待してるぜ」
シャミ子「は、はい‼︎」

『ぼっ○・ざ・ろっ○!』の後○ひと○

シャミ子「ジャ、ジャージのギタリストですか。布面積が危機管理フォームよりも多いのはいいですけど、なんか複雑……」
白哉「上がジャージで下がスカートだからな、仕方ない」

『遊○王』のアテ○こと闇○戯

シャミ子「貴方のハートをマインドクラッシュしてやります‼︎」
白哉「それ精神を砕くヤツだから。恋愛とは無縁だから」
シャミ子「えっ⁉︎」

『○滅の○』の煉○杏寿○

シャミ子「魔族が鬼を滅する感じで斬新───」
白哉「煉○さぁぁぁぁぁぁん‼︎」
シャミ子「白哉さんが映画を思い出したのか急に泣いちゃった⁉︎」

『刀○乱○』の乱○四○

シャミ子「この子の出るゲーム……全員男性のはずですよね? 初の女性キャラでしょうか───」
白哉「れっきとした男性だよ、その衣装で」
シャミ子「えっ」

『餓◯伝説』の○知火○

シャミ子「こ、こんな格好の女性が好きだったんですか……?」
白哉「……昔遊んだゲームで影響されたから、つい……」
シャミ子「た、確かにこのキャラの格好は刺激的ですもんね……あっ」
白哉「ん? どした?」
シャミ子「こ、これ……ち、(自主規制)が溢れ出ちゃいますね……♡」
白哉「ッ……」

この後本編のオチ通りになった☆


色んなキャラのコスプレをする他作品キャラ……いい……

 


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ウガルルのためにお仕事探しや‼︎ ……前世でもやった仕事探しを思い出すなァ……

なんで就職するのに書類選考と筆記試験と面接が必要あるんですか(憤怒)ってことで初投稿です。

面接で就職させる人決めれるなら頭の悪い猿でもできるわクソが。

それはそうと、今回はウガルルの仕事先を探す回です。また拓海の親バカが見られるのか……?


 

 よっす、ただいま。白哉だ。

 

 優子とミカン、あと拓海と一緒に学校から帰って来てたら(桃は柘榴さんのところに行った模様)、ウガルルがばんだ荘の前で掃き掃除をしていたのを目撃したぜ。本人曰く、これは門番をしているついでに掃除しているようだ。ただ敵が来ない上に俺達最近急ぎの用事が無いため暇な模様。

 

 いや敵は来ない方がいいぞ。来たらそいつの強さとかヤバさ次第で町に大変なことが起きるって。

 

 

「ボス! この町で新しい仕事見繕ってくレ。オレのボスならオレに合う仕事、見つけてくれるだろウ‼︎」

 

「オレのボス……‼︎ わっかりました‼︎ 貴方のボスに何でもまかせるが良い‼︎」

 

「優子……ボスと呼ばれるようになって嬉しくなるのはいいことだけどよ、あんまり調子に乗らない方がいいぞ? 悪いことしてなくても痛い目に遭うことだってあるからな」

 

 

 優子……ボスと呼ばれるようになって嬉しくなるのはいいことだけどよ、あんまり調子に乗らない方がいいぞ? 悪いことしてなくても痛い目に遭うことだってあるからな。

 

 

「……なんか、言ったことを頭の中で復唱しているかのような顔になっていたわよ?」

 

「キッショ……なんでわかるんだよ」

 

「頭にメロンパンの化け物みたいなのが寄生した呪詛師か何かかい?」

 

 

 あ、拓海は○術○戦の事を知ってるのね。メロンパンというネタの言葉が出たってことは、きっとそうなんだろ? なぁ、そうなんだろう?(圧)

 

 まぁそんなことは置いておいて。

 

 ウガルルの頼み事をえらく安請け合いした優子であったが、今回は優子にも自信がアリアリのようで。人間だろうと魔族だろうと(優子とは関わりのない魔法少女以外なら)大歓迎で人手不足な優子のバイト先……そう、喫茶あすらに連絡するとのこと。

 

 で、早速優子がスマホで連絡しようとするも……まさかの、というかこちらとしては予想的中なバッテリー切れである。

 

 

「電池なんでじゃいっ‼︎ 頑張れハイテクよ‼︎」

 

「複数のゲームアプリをたくさん起動したからだろ。アプリは偶に落とせとあれほど言ったのに、結局やらなかったのかよ……」

 

「こ、こういう場面で影響されるんですか。忠告は聞くべきでした……つらたん」

 

 

 うわお、『つらたん』なんて言葉を実際に聞くのは初めてだな。なんか少し古さを感じていたものだから、今の時代だと絶対聞かないと思ったんだが。

 

 その話題も置いておいて。代わりに俺が自分のスマホで連絡を入れてみたところ、あすらは原作通りの留守番状態となっていた。というわけで直行して行くことに。というわけで俺も同行しよう。死亡フラグじゃねェからな? 絶対に。

 

 

「俺も一緒に行くよ。ウガルルちゃんの勇姿を見届けたいからね」

 

「私もついて行くわ。私、あの子の同居人みたいなものだし」

 

「自分をウガルルの父親だと信じてやまない男と、ウガルルの実の母親のコンビか。やれやれ、頼りになるけど面倒臭そうだぜ……」

 

「実の母親って……違うから‼︎ 親になったわけじゃないから‼︎」

 

 

 そうは言うけどよぉ……ウガルルの再召喚に成功した後、彼女に仕事とかが見つかるまでここに住めとかマイファミリーだとか言っておいて、母親認識はやめてだなんてそりゃ無理なわけなんよ。自分の言葉には責任を持ちなさいな。

 

 

『魔力をもって魂的なものを育んだなら、それは魂のママだぞ。余もそうやって子孫を増やしたのだ』

 

「えっそうなんですか⁉︎」

 

「………………すんません。優子には失礼ですが、魔力というか別の手段で子孫を産んだものかと思ってます。一族の強さの問題とか格好とかで色々……」

 

『なんかよく分からんが、それシャミ子よりも余の方が一番失礼な目に遭ってないか⁉︎』

 

 

 日頃の行いを白龍様と一緒に振り返ってから出直してください。【えっ?】

 

 後、優子? 分かりきっていたことだけど顔真っ赤にするのやめてもらっていいか? そしてミカンと拓海に気づかれないように息を荒げるのやめてもらっていいか? 妄想してるよな? 絶対子孫の増やし方を理解して何かしらの妄想してるよな? その惚悦とした顔やめて? 身構えてしまうから。

 

 

『まっ……まぁとにかくだ。ミカンよ、腹を括って認知するが良い……お主はこれから十五歳ママ魔法少女として活動するのだ……』

 

「認知って言い方良くないわ‼︎」

 

 

 確かにその言い方はまずいな。認知しろって言い方がまるで無責任で女を妊娠させた糞男に言っているかのようなものだし、何より十五歳でママとか色々と闇が深く聞こえるから……

 

 

「あの……すみません、リリスさん。俺の霊力はウガルルちゃんを陽夏木さんの中である程度の原型を保たせていますし、彼女の依代を作ることに応用させるために混ぜてもあります。正直に言って俺の霊力もあってウガルルちゃんは再召喚されたのですから、俺もウガルルちゃんの十五歳パパ陰陽師ってことには……?」

 

「「「『えっ?」」」』

 

 

 おい、また変なこと言ってるぞこの自称・親バカが。どうしてもウガルルの親権を握ろうとしてるじゃん。姑息な言い訳してくるじゃん。お前さすがに引っ込めよ。

 

 

『え ゙っ。………………お、お主の霊力が魔力と似てなるものであれば、その方法でだと実質お主も産みの親になるのかもしれん気がするな……?』

 

「いや納得しないで⁉︎ そして私はこれにはどう言い返せばいいの⁉︎」

 

「笑えばいいと思うよ」

 

「シン○君か何か?」

 

 

 すまん。適当な対応してしまったわ。だから綾○レ○みたいにホントに笑うのやめてくれない? 原作○ヴァじゃなかったら罪悪感がデカいのよマジで。

 

 まぁそんなことはおいといて、拓海に一言……

 

 

「拓海……ウガルルの親になるなら色々と責任取れよ」

 

「は?」

 

「………………ッ」

 

 

 あ、すまんミカン。また顔を真っ赤にしたってことは聞こえてたってことか。さらにまた拓海の事を意識しやがって……応援してるぞ。

 

 

 

 

 

 

 で、あすらに行ってみたところ、何故かドアに『臨時休業』の看板がぶら下げられていた。なんか定休日以外では絶対休みそうにないと思うんだよなぁ個人的に。一体何があったのだろうか(我ながら白々しい)。

 

 とりあえず店の中にリコさんも白澤さんもいたので、事情を聞きたいとか言ったら、すんなりと入れてくれたわけで。で、一体何があったのですか?(だから白々しいって)?

 

 

「リコ君が料理スランプになってしまったのだ」

 

「あの料理好き過ぎなリコ先輩が、スランプに……⁉︎」

 

「おいその反応は失礼だろ」

 

 

 目を見開くな。迫真の演技すんな。後その言葉は何かしらの怒りを持っているんだろ、絶対そうだろ。

 

 

「この前ウチ、全力の唐揚げ拵えたやろ? それ以来、作る料理作る料理気合い入りすぎるようになってしもうて……何作っても食うた人がガンギマってしまうんや」

 

「ガンギマるとは……?」

 

「大麻や覚せい剤を飲んだ後みたいに、テンションとかが色々とおかしくなっちまうことを言うんだよ」

 

「それ色々な方向性でヤバいのでは⁉︎」

 

 

 ぶっちゃけヤバいけど、それは大麻や覚せい剤を飲んでしまった場合の話。リコさんの料理の場合は一時的なだけだから多分大丈夫……だと思う。じゃないと店はやっていけないでしょ。

 

 しかもその時に作って失敗した料理は全て、しまった冷蔵庫をぶち抜く程の光を放つ程のヤバさだとのこと。ちなみにリコさんは料理を粗末にしたくないとのことで冷蔵庫に入れたとのことで、後で白澤さんに食べてもらうつもりのようだ。白澤さんへの扱いは粗末にしないでくれます? 彼がガンギマったらヤバいですって。

 

 えっ? なんでここでリコさんが言った時のところを出さなかったのかって? いや、その……なんとなく俺が説明したかったってなだけなんです。ただ気分でやっただけなんです。本当に申し訳ございませんでした……

 

 おっといけない、本題の事を忘れていたわ。ほらウガルル、自分の本題は自分でお願いしといて。

 

 

「オレ、この店デ使ってくレ‼︎ なんでもやル! 二十四時間サービスで働ク! オレ、頑張ル‼︎」

 

「今時の子には珍しいスピリットだ……‼︎」

 

「……マジで二十四時間も働かせないでくださいよ? コンビニ店員でもやりませんし、ブラック企業扱いで社会的に取り締まられますよ?」

 

「いやそれくらい分かってるから⁉︎ そもそもウチの店は二十四時間営業じゃないし⁉︎」

 

 

 すみません、どんな人でもここで働かせてあげられるそのお人良さを試そうとしてました。一瞬人が悪いことをしてしまいました。ホンマにすみませんでした。次からは気をつけます(うっかりやっちゃいそうなのでやらないとは言ってない)。

 

 召喚されたばかりでまだ日も長くないのにやる気十分なウガルルの勇気を白澤さんは買うも、まずは研修からとのことだが……ウガルル、まさかのカタカナすら読めないでいた。こんなにも最先不安になることってある? 少し予想はついたけども。

 

 

「ウガルルはまだ字は勉強中で、数字も十以上は苦手なの。柑橘と蜜柑と檸檬は教えたわ。大事よ」

 

「なんて無駄なリソースを‼︎」

 

 

 うん、正論。別に柑橘類はカタカナで覚えれば充分だろ。漢字で覚える必要があるの、ネプ○ーグの時ぐらいなだけじゃね? そもそも一般人がネプリーグに出られるわけないし。

 

 

「陽夏木さん‼︎ 君は母親としての自覚が無さすぎる‼︎ もっと基礎的なものを先に教えるべきだ‼︎ 俺が父親なら当然そうしていた‼︎ それらの漢字を教えて覚えさせても、後で『なんのこっちゃ』と思われる可能性がある‼︎」

 

「そ、それはそうだけど……って母親じゃないから‼︎ とりあえず親目線になるのもやめて⁉︎」

 

 

 うわここでまた出たよ、自称・ウガルルのパパの親バカモードが。ホント何偉そうにウガルルの父親ぶってんだよお前は。まだ(?)認識されてないんだから偉そうにすんなよ。

 

 

「そしたら裏で料理を練習して貰おうか」

 

「オレ、手の毛ボーボーだゾ。厨房ニ毛まみレで入っていいのカ……?」

 

「んんん〜ッ‼︎ そこを深く考えるとこのお店の人ほぼみんなアウトだからやめようか‼︎」

 

 

 ほぼってことは拓海は含まれないようだ。そこは当然っちゃ当然だな。

 

 で、実際に厨房に立たせてあげてみたものの……ナイフの持ち方が両手持ちで危なっかしい。得意な爪で食材を切ってみたらまな板どころか台所まで切断。ついでにその時に白澤さんの右耳……じゃなくて耳毛も一緒に切断……

 

 これは大失敗とかの問題じゃねェよヤベェよ。ウガルル本人もやっちまったって顔で血の気が引いてるし。まぁ、唯一良かったのは爪で切られた食材の繊維が潰れてないってところだけど。

 

 しかし、それでも白澤さんはウガルルの事を責める気は一切なかった。それどころか。

 

 

「ウガルル君ができないことを教えるのではなく、この世界でできることを教えてあげよう。そのためにはまずたくさん失敗することだよ」

 

「おぉ……‼︎」

 

 

 思わず歓喜の声を上げてしまった俺氏。その人の長所を活かせる仕事を見つけるために、まずは失敗を恐れず何事も挑戦することが大事……そんなメッセージが込められているかのようなアドバイスを、白澤さんはウガルルに送ったからだ。

 

 ヤバい、全人類皆こんな度量の良い人であってほしい……いや、そうでないと困る。特に職場環境では絶対必須な上司だよマジで。ブラック上司は糞喰らえ。白澤さんマジ理想の上司。最悪部下を殺す事もあるフリー○様よりも理想なのかもしれねェ。

 

 ちなみに台所が破壊されてしまうことはこれが初めてではない模様。昔のリコさんが店に火を噴かせてしまったことに比べたら、ウガルルの失敗は十万倍マシだとか……店に火を噴かせたって何? 昔のリコさんは一体どんな事をしたらバカ強い火を噴き出させることができるのさ? リコさん、これまでにも何をやらかしたんです?

 

 

「あの……さっきから私……ウガルルの同居人として言いたいことが。向いてる仕事じゃなくて……ウガルル自身のやりたい仕事って何なのかしら」

 

「確かにそれは気になるね。人にはやりたい仕事とかたくさんものだし、それに見合った仕事を見つけてはすぐに挑戦する精神が長く保たれるようにしないと」

 

 

 ここでミカンと拓海がウガルルに合わせた提案を出してくれた。産まれたばかりの子の心に合わせようとしている……お前らやっぱり夫婦になった方が良くね? そして幸せになれこんちくしょーが。

 

 

「オレ、使い魔。頼まれた仕事ガやりたい仕事‼︎」

 

「もう使い魔じゃないんだって。何か貴方自身の願望を見つけて欲しいのよ」

 

「他の人の意見に振り回されず、自分はこうしたいんだっていうのを出して、取り組めるようにしないと」

 

 

 一理あるな。他人に言われるがままになって自分の本心に従わず、それで色々と挫いてしまったら元も子もない。自分がどうしたいのか、自分が本当は何がしたいのかをはっきりとさせて、それを実行していけば本当の自分も見つけられて一石二鳥だと俺は思うよ。

 

 とはいっても、一方のウガルルはまだ再召喚されて間もないから、まだ自分のしたいことが何なのかが分からないけどな。まぁ食欲があることはまだマシなもんだがな。

 

 

 

 そんな事を考えていたら、何やら不吉な衝撃音が響いてきた。どうやら謎の原理で冷蔵庫が爆発したようだが───

 

 

 

ゴ…ゴ…ゴハンヤデ…クエヤ…クエ…

 

 

 

「ギャアアアアアアアアアッ⁉︎」

 

「ヒィッ‼︎ マジで何⁉︎」

 

 

 お、思わずどえらい悲鳴を上げてしまった……だって原作知識でこうなるとは分かっていたとはいえ、突然禍々しく動いた冷蔵庫が黒いモヤを出しながら喋って動いているんだよ? 思ったよりもホラーじゃんか……

 

 

「なっ……あれは……料理の強い魔力が冷蔵庫を動かしとる……純度の高い魔力料理達が冷蔵庫の中で共食いし合った結果、強力な呪いとなって冷蔵庫を乗ったんだんや‼︎」

 

「説明されても何も入ってこない‼︎」

 

「ってか料理が共食いし合ったって何だよ⁉︎」

 

 

 今、原作読んでたけど読み逃していたところがあったみたいなワードが聞こえたんだが⁉︎ 料理……というか調理されていない動物でもないものが共食いって何だよ⁉︎ 一体どんな原理になったら料理が別の料理を食うんだよ⁉︎ 小倉さん興味津々案件じゃねェか⁉︎

 

 と、とにかくあの暴走冷蔵庫を止めないと、店どころか町が危ないってマジで……‼︎ なんか思ったよりも魔力が強いみたいだし……‼︎

 

 えっ? ご飯はなるべく粗末にしたくない? リコさんこんな時にそれ言わんといてくれます⁉︎ そんな事言っていい状況じゃないんですよ今は‼︎ 下手したらアンタの料理を作って振る舞えるこの店が壊れるんスよ‼︎

 

 

「じゃあ私が散らしますか」

 

「ミカン君お願いできるかね!」

 

「俺もやります。これ以上店が壊れたら取り返しがつかない……‼︎」

 

 

 暴走冷蔵庫を破壊すべく、ミカンと拓海が魔力の矢やら陰陽札やらを展開する。さっさと破壊した方が残るは冷蔵庫の破片と散った魔力料理となるだけだし、それほど被害は出ないとは思うが……

 

 

「アカーン‼︎ あの料理はウチの子や‼︎」

 

 

 案の定、魔力料理を作った本人がそれを許すわけも無かった。リコさんがミカンと拓海に飛びついてきて妨害に入っていく。ってかウチの子て。言い方。

 

 ……ん? アレ? なんか拓海を押してるような……しかも彼の目の前にミカンがいて……

 

 

「後生やからウチの子を殺さんといて‼︎ 生まれたての最高傑作なんや‼︎ 堪忍して〜‼︎」

 

「あっ、ちょっ、やりづらぁい‼︎」

 

「わっ、あのっリコ先輩押さないでください倒れ───」

 

 

 

 ムニュッ

「んひゃっ⁉︎」

「あっ……」

 

 

 

「「あっ……」」

 

 

 おいなんか既視感があるんだがこの流れ。押し飛ばされた拓海の顔がたまたまミカンの胸に突っ込んだんだけど。そして最終的には床ドン状態になってるんだけど。これ、俺が優子にラッキースケベの被害に遭わせてしまった時みたいになってね?

 

 

「えっちょっ……えっ⁉︎ えっ⁉︎ た、たたたた、拓海が……わ、わわ、私の……お、おぱっ、おっぱっ……ガクッ」

 

「プハァッ‼︎ だ、大丈夫だったかい陽夏木さ……陽夏木さァァァァァァんッ⁉︎」

 

 

 あーあ、案の定何かしらの反応を見せると思ったけど、まさかミカンが顔を真っ赤にして気絶するとは……いやまぁ、先程の瞬間からして恥じらうかラブコメみたいに羞恥ビンタが起きるだろうなとは思ってはいたけど、まさかの錯乱からの気絶方面になるとはな……

 

 ってんなこと考えてる場合じゃねェ⁉︎ 冷蔵庫‼︎ 暴走冷蔵庫の方をなんとかしないといけないやんけ‼︎ なんかミカンと拓海の方を見てる気がするんだけどあの暴走冷蔵庫⁉︎

 

 と、そんな事を考えていたら、透明化を解いたのであろう拓海の式神・蓮子が突然その姿を現した。しかも状況をちゃんと理解してか陰陽札を持って構えていた。

 

 

「主人様、ここは僕に任せて陽夏木さんの介抱をしていてください‼︎ 霊力に似たもののみで動いたものならば、僕みたいな式神がソロでも祓えますので───」

 

「あっそこの式神さんも堪忍して‼︎ 食わないにしてももうちょい自由にさせといて〜‼︎」

 

「グエッ⁉︎ 脚でヘッドロックしてきたよこの人ッ⁉︎」

 

 

 結局彼もリコさんのもったいない精神に適うはずもなく。いつの間にか蓮子の背後に飛びついて思いっきりプロレスみたいな技で妨害を起こした。いやどんだけ暴走冷蔵庫……というよりも自分の作った魔力料理を粗末にされたくないんだよこの人は。空気読んで?

 

 

「てんちょおおおっ‼︎」

 

「あ、ヤベッ⁉︎」

 

 

 と、そんな感じに呆れていたらいつの間にか白澤さんが暴走冷蔵庫の魔力に捕まってしまっていた。ケモノの触手シーンって誰得だよ。ヤベッ、こんな時なのに気分悪くなりそう……

 

 

【おいマスター、これは一体どんな状況なんだよ】

 

【ウワァ……バグさんが締め付けられてるよォ……】

 

 

 これは運が良いと言うべきか、二匹の動物……正しくは一匹の動物と一匹の生物がこの店に入ってきた。この声とあの見た目、俺は知っているぞ……‼︎

 

 動物の方は白い体毛、黒い筋肉、後頭部にサラサラとした黄色いロングヘヤーが靡いているゴリラ。俺が召喚師覚醒フォームになることで呼び出せる召喚獣の一体・剛鬼である。

 

 生物と解釈している方は、様々な動物を合成しているかのような存在だった。全体の色は青白く、額の一本角が鋭利かつ金色に輝いていた。顔は龍に似て、牛の尾と馬の蹄をもち、麒角、中の一角生肉。背毛は五色に彩られ、毛は黄色く、身体には鱗がある。彼こそ伝説の動物・俺が召喚師覚醒フォームで呼べる麒麟の聖である。

 

 なんで俺が召喚師覚醒フォームになってないのに、この二体が外にいるのかは分からない。けどこれは運が良い。彼等の力なら暴走冷蔵庫を止められるかも‼︎

 

 

「剛鬼‼︎ 聖‼︎ 丁度いいところに来てくれた‼︎ 今かなりヤバいから簡潔に説明するが、かくかくしかじかまるまるうまうまてめーのちのいろはなにいろだ、というワケなんだよ‼︎」

 

【なんか、北○の拳の名セリフみたいなのが紛れている気がするんだけど……】

 

【ふざけるのも大概にしろマスター】

 

「いや普通に説明していただけなんだけど⁉︎」

 

 

 なんで⁉︎ なんで簡潔に説明しただけで怒られなきゃいけないんだ⁉︎ ってか○斗の拳の名セリフなんて一言も発してないんだが⁉︎ 言いがかりはやめてくれね⁉︎

 

 

「とにかく‼︎ 今はまず白澤さん……あそこで暴走冷蔵庫に捕まってるバグさんを助けるためにも、お前達の力を貸してくれ‼︎」

 

【わかった。絶対に彼を助けるから】

 

 

 おぉ……‼︎ 剛鬼よ、お前は即答で承ってくれるのか……ッ‼︎ そういえば確か召喚獣リストには『仲間を傷つけられると鬼の様に色々と強くなる心配性』だって書かれてあったんだっけか。もしかするとそれによる影響なのか、彼自身との面識のない人でも助けてあげられる思いやりの心を持っているのか? だとしたら健気な子だ……‼︎

 

 

【くだらねェ。自分の尻も拭えねェ奴が生み出してしまったモンの処理もできねェことに、わざわざ赤の他人が足突っ込むとかふざけてんのか? そんな無償行為、俺は絶対やらねェからな】

 

 

 それに比べてこいつは全く持って協調性が無さそうだな。とはいっても協力しない理由はごもっともなんだけどな。身勝手な考えで周りに被害を与えるのはいけない、絶対。

 

 けど今はそんな事を言ってる場合じゃないんだよ。原作通りの知識なら大丈夫だろうとはいえ、あの暴走冷蔵庫を放っておいても良くないことに変わりない。最悪の事態を招かないためにも、何かしらのアクションを起こしてもらわないと……

 

 

「頼む‼︎ お前の力が必要なんだ‼︎ でないと白澤さんの命が危ないかもしれないんだ‼︎ ホント、マジで頼む‼︎ 召喚獣最強クラスのお前の力でこの状況を打破してくれ‼︎」

 

「あの、聖……さん‼︎ どうにか手伝ってもらえないでしょうか⁉︎」

 

【ッ……‼︎】

 

 

 お? 聖の心が揺らぎ始めたぞ。いくら頑固者とはいえ本気で頼まれてしまったら断れるわけもないもんな。

 

 

「ひ、聖先輩……でいいのカ? オレからもお願いダ、どうか力を貸してほしイ……‼︎」

 

【せ、先輩?】

 

 

 ……アレ? なんかウガルルの言葉に食い気味になってね?

 

 

【……し、仕方がねェな。こ、後輩ができたからにはそいつにだらしない様を見せるわけにはいかねェ。特別だ。特別に俺様の力であんな迷惑モンをぶっ飛ばしてやるよ】

 

 

 わぁ、最終的にウガルルの後輩オーラに負けて承諾したよこの子。伝説の動物の威厳さが消えてっぞ。リストに書いてあった通りホントにツンデレなんだなこいつ。男のツンデレって女のツンデレとは違う良さがあるってもんなんだなぁ……

 

 

「……アレ? でも二匹ともあのまま戦わせて大丈夫なんですか?」

 

「ん? それはどういうことだ優子?」

 

 

 あんな奴、召喚師覚醒フォームで呼び出せる方だからめちゃ強い二匹に勝てるわけがないだろ? ましてや一匹だけ相手することになっても勝てるはずがない。チート能力で呼び出された者達だからな。

 

 

「あの二匹……白哉さんに召喚されずに自分達の意思でこの世界に来てたみたいなので、それだと中途半端に力の半分を向こうの世界に置いていってしまうんですよね?

 

 

 

 二匹がかりでも、アレに勝てるんですか?」

 

 

 

「………………………………」

 

 

 優子のこの一言で嫌な予感を察した途端、何やらガシッという何かがデカいヤツを掴んだかのような軋んだ音が聞こえてきたんだけど。骨の折れたかのような音ではないみたいだけど、なんか嫌な予感が……

 

 

【ギャアアアアアアッ‼︎ 巻きついてくんな気持ち悪いイィィィィィィィィィッ‼︎】

 

【い、今のままじゃいつもの力が出ないの忘れてt くぁせdrftgyふじこlp!?】

 

「アイツ……店長を引き剥がしタ後先輩達をぐるぐる巻きにしタゾ……‼︎」

 

「なんかめっちゃすまーーーんッ‼︎」

 

 

 ウチの未熟状態の召喚獣二体、暴走冷蔵庫の触手(のような何か)に滅茶苦茶巻きつかれて身動きが取れない状態になってしまったッ‼︎ 白澤さんは解放されたけどその代償がこれって‼︎ しかも白澤さん、白目剥いちゃってるよ‼︎ 逆に状況がある意味最悪なんですけど⁉︎

 

 

「あれ……リコさんによれば呪いなんですよね。どうしたら……後なんか触手のぐるぐる巻きもそれはそれでなんか……」

 

「やめろ、その点は絶対に考えるな。こっちも変なことを考えそうで吐いちまいそうだからさ……」

 

 

 ケモノ……触手……獣か──ウッ、頭が……

 

 

「オレ……あいつノ気持ち、分かるかもしれなイ。料理として生まれテ、食べて欲しくテ、動き出しテ……でモ変な形になっテ、どうしていいか分からなイ。だからあんな事してル。だから……オレ、あいつ切って食べテ助けてやりたイ‼︎」

 

 

 お、おぉ……‼︎ 原作既読済みの俺は分かりきってはいたんだが、ウガルルの奴、アレとかつて同じ呪い扱いであった自分を重ねて、アレの望みを叶えてやりたいというのか‼︎ かつて同じ境遇であった者だからこそ、救いの手を差し伸べようと決めたのか……俺、親代わりになるつもりはないけど父親目線になった気がして感動した……ッ‼︎

 

 早速ウガルルはリコさんに暴走冷蔵庫の魔力料理を食べていいという許可をもらうことに。というかまだ蓮子に脚でのヘッドロックをキメてるよこの人。やめてくださいしんでしまいます。

 

 

「オイ! オマエ……オレの体、トクベツ! よく食べないトすぐハラペコなル。魔力料理大好物ダ! かかってこイ。残さズ……喰らウ‼︎」

 

 

 そしてウガルルと暴走冷蔵庫の戦いが始まった。自分(魔力料理)の事を食べてくれると分かっていながらも、剛鬼と聖をぐるぐる拘束したままウガルル目掛けて思いっきり突進する暴走冷蔵庫。自慢の爪でタイミング良く狙い通りの箇所を切りつけるウガルル。バトル漫画でもないというのに、思ったよりも激しい攻防が続いていく。

 

 

「けど思ったよりも結構暴れるなこいつら⁉︎ やめて物理的にこの店に爪痕残すのやめて⁉︎ そしてこれを召喚師覚醒フォームになってないのに反射的に紙一重で躱せてる俺ヤベェな⁉︎ 自分でもどうなってんのか分かんねェ⁉︎」

 

 

 俺が必死な感じに斬撃らしきものを躱しながら叫んでいる間に、剛鬼と聖は解放され、暴走冷蔵庫はバラバラに壊され魔力料理ごとウガルルの腹の中へと消化されていった。使い魔の腹の中って特殊なものなのだろうか? よく食えたな冷蔵庫なんて……

 

 とりあえず全部消化されるまで、剛鬼と聖に再召喚するべきだったことに気づかなかったことに対して謝っておくか。本人達は勝手に出てお出かけしてた感じだったけど、やっぱり気づいてあげられなかったのがなんか……ね?

 

 魔力料理を全て平らげたことにより、満足したのか魔力の渦は静まった。そして目を覚ましたミカンが拓海にここまでの状況を説明した。ちなみにあの朴念仁、ミカンを避難させる時に彼女をお姫様抱っこしたそうやで。ホント、こいつはさぁ……

 

 

「……オレ、分かっタ。オレは字ニガテ、道具もニガテだけド……爪でモノをズバズバ切れル! 少シ戦えル! だからそれ活かせる仕事探せバ、いい使い魔になれル──そういうことだナ、ボス‼︎ 店長‼︎ ───アッ……」

 

 

 ウガルルがどうやら自分のしたいことを見つけ、その答えを出した時、とんでもないことになった事に気づいたが既に遅し馬刺し(くだらね)。店内はウガルルと暴走冷蔵庫の戦いの跡でめっちゃボロボロ。あすらは当面休業になった。

 

 今気づいたけど、これ優子の貴重な出稼ぎ先が停止したんじゃね? ……来月また家族が勝手に金を仕送ってきたら、全部優子にあげるとするか。どうせ金はまだいっぱい有り余ってるし。

 

 

「あぁ……いや、お前は悪くないからな? あの暴走冷蔵庫を止めてくれなかったらこれ以上の大惨事が起こっていたからな? 快挙だから、な?」

 

「………………」

 

 

 頷いてはくれたけど、やはり罪悪感は残るようで。まぁ分かるよ? こんなつもりはなかったんだって思ってることぐらいは。でもよく頑張ったから気落ちしないで? な?

 

 

「ウガルル君、君はあの料理を助けたいと思っただろう」

 

 

 すみません、俺はアレを料理じゃなくて冷蔵庫の方で捉えてました。なんかすみません。

 

 

「それは君が自分の生き方に軸を見つけられたということだ。それに引き換えならばお店が全壊したことなんて些細な問題だ。今後もその調子で励みたまえ」

 

「ボスのボス……‼︎ ありがとウ……‼︎」

 

 

 店の全壊を些細な問題にするための対価、なんかおかしい気がするんですが。俺の気のせい?

 

 ってかアレ? ちょっと待って? 白澤さん、ウガルルの観点からして優子のボスって認識にされてない? ってことは優子の側近みたいポジションである俺も、白澤さんの事を優子のボスという認識をしないといけないの?

 

 

「………………なんか、複雑すぎてしばらく白澤さんの事をどう見ればいいのか分かんないです……」

 

「えっそれどういう意味⁉︎ 白哉君一体何を考えるようになったのかね⁉︎」

 

「これで勝ったと……いえ……勉強させていただきました……‼︎」

 

「優子君は何をだね⁉︎」

 

 

 カップル揃って白澤さんに複雑な感情を抱く羽目になりました。クソッ、なんか納得いかねェ……‼︎

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その27


ウガルル「ムムゥ……」
白哉「ど、どうしたんだウガルル? 俺の顔になんか付いてる」
ウガルル「んがっ? すまなイ。ちょっとボスの眷属の呼び名を変えようと思ってナ」
白哉「俺の呼び名?」
ウガルル「んがっ。ボス、ボスの眷属と結構仲が良かった。ミンナの中で一番デ、ボスの眷属の事となるとすごい笑顔になっていタ」
「だから、ボスの眷属として呼び続けるのもどうかと思ったんダ。ボスも、ボスの眷属の事をボスの眷属兼恋人と言っていタシ……」
白哉「……ウガルル。俺が優子の恋人になってやれたのは、俺が眷属になれるきっかけを作ったからなんだ」
ウガルル「……そうなのカ?」
白哉「おう。経緯は訳ありだからまだ教えられないけど、そのきっかけのおかげで俺と優子は成長した」
「主人と眷属の関係として、恋人として、お互いの立場を理解して分かち合うこともできたんだ」
「だからこそ、今があるからこそ、俺は優子の……ボスの眷属として頑張っていこうって思える。ってなわけで、俺は今まで通り『ボスの眷属』と呼ばれることを誇りに思えるよ」
ウガルル「……そっカ。喜んでいるのならオレも安心しタ。だったらこれからもボスの眷属として呼ばせてくレ」
白哉「おう。これからもよろしくな、ウガルル」
ウガルル「んがっ‼︎』

シャミ子「(き、聞いてしまいました……は、恥ずかしいです……これで勝ったと思うなよぉ〜……墓場まで持って行きますからねェ〜……)」


仕事って、何なんだろうね……(悟り)

 


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そろそろ優子の誕生日プレゼントを用意しておかないとヤバい。なんで用意できてないんでしょうね

しれっとオリジナル回だよってことで初投稿です。

ネタバレすると原作ではウガルルの仕事探しの回の後にシャミ子の誕生日回になるから、前から考えてた話を……ってことで。


 

 よぉみんな、白哉だ。突然だが、俺は今窮地に陥っている。何故かって? そいつはだな……

 

 

 

 再来週に迫っている優子の誕生日、その日に渡すプレゼントに未だお悩み中なのだッ‼︎

 

 

 

 今の俺の悩みを聞いた者の中には『なんだまだ二週間もあるじゃん、もう少しじっくり考えていけばいいじゃん』、なんて思う輩もいることだろう(聞けるはずもないが)。

 

 しかし、俺にとってはたった二週間。たった二週間しかないのだ、優子の誕生日プレゼント選びを間に合わせなければならない期間は。

 

 なんで誕生日プレゼント選びで苦戦を強いらなければならないのか、その理由は二つある。

 

 一つ。今年から自分の立場とそれ相応によって渡すことになるプレゼントの種類が、去年までのとは勝手が違うからだ。

 

 去年までは幼馴染・親友として彼女にプレゼントを渡してきた。彼女はこういったゲームが好きだったなとか、この香水なら優子も喜ぶだろうなとか、そういう軽い感覚でプレゼントを選んできた。

 

 だが今の関係はどうだ。俺と優子は眷属と女帝、そして恋人同士という深い関係で結ばれている。だから生半可な気持ちでプレゼントを選ぶというのは無粋であるのだ。

 

 それに、送るプレゼントにもきちんとした意味が備わっていたのだ。ネットで調べてたら出た。バッグは『もっと働きなさい』『勉強を頑張って』といった勤勉の意味合いが強く、櫛はく=『苦』・し=『死』を連想することから縁起が悪いとされている……などといった感じの意味がある。だからその意味の方にも注意する必要があるのだ。

 

 二つ。早めにプレゼントを選ばないと、既に絞られているプレゼントの選択肢をさらに絞らされてしまうから。

 

 原作知識を持っている俺はミカンや杏里、小倉さんや桃が優子に何をプレゼントするのかは知っている。ここまでならば『彼女達とは違うものを選ばなければ問題ない』程度で済むだろう。

 

 だが、問題はそこからだ。この世界には『原作とはイレギュラーな存在でこの世界にとってはレギュラーな存在』つまりはオリキャラがいる。拓海や柘榴さん、全蔵や勝弥達が選ぶプレゼントによっては、俺が意味も調べて選んだプレゼントが彼等の選んだのと被ってしまう可能性があるのだ。

 

 だからこそ、プレゼントは慎重にかつ早めに選ばないといけないのだ。優子なら何を選んでも喜んでくれるだろうけど、生半可な気持ちで選ぶのは後味が悪い。もう今からでも何をプレゼントするか考えないと……

 

 というか、あいつらは何を優子にプレゼントする予定なんだ? 聞いてみないと何も始まらないじゃん。こんな時のために俺が作った優子の誕生日の事を話すSNSグループチャットで、みんなに誕生日プレゼントは何を選んだのかを聞いてみるとするか。

 

 

白哉:あと二週間で優子の誕生日だけど、みんなは何を優子にプレゼントするんだ?

 

 

 このメッセージを送ってから僅か十五秒後、次々に返信が送られてきた。いくらなんでも早すぎじゃね?

 

 

ミカン:バスソープとキャンドルとネックレスよ

 

杏里:私とお揃いのスポーツウェア! あと焼肉券!

 

小倉:手作りのうごめく人形だよ

 

拓海:限定ゲームアプリのスマホカバーとストラップにしたよ

 

全蔵:ダーククエストの限定文房具の詰め合わせッス!

 

柘榴:道具無しで簡単に作れるダーククエストのキャラのプラモデル

 

勝弥:CDプレイヤーと彼女が好きそうな音楽のCD数枚にしたぜ!

 

白哉:男性の半分がゲーム関連のじゃねェか

 

ミカン:シャミ子はそのゲームが好きみたいだから別に問題ないでしょ

 

杏里:そうそう

 

 

 オリ男どもは勝弥以外が『ダーククエスト』関連のグッズにしたという。これだから男子は(お前も男子じゃい)……と言いたいところだが、先程のやり取りのように優子は『ダーククエスト』が好きなのでそれを考慮して選んだのだと思わせていた。あいつらも優子の趣味を知ってのプレゼント選びをしたのか……ちょっと複雑。

 

 とりあえずオリ男どもが選んだプレゼントを見るに、スマホグッズ・文房具・プラモデル・CD関連の選択肢も潰されたって認識でいいってことは分かった。さてと、ここからどういった感じにプレゼントを決めるべきか……

 

 ん? なんかまた返信が来たんだけど? 一体何があったと───

 

 

拓海:シャミ子君ならなんでも喜んでくれるとは思うけど『プレゼントは俺』理論なのは避けた方がいいよ

 

全蔵:みんなからのプレゼントとしてシャミ子にサプライズってことにしたッスからね

 

白哉:まさか俺の誕生日の夜に優子がやったアレか? 一ミリも考えてないから。お前ら俺の事をなんだと思ってんだ

 

ミカン:セッッッする程イチャラブなカップル

 

杏里:セッッッする程イチャラブなカップル

 

小倉:セッッッする程イチャラブなカップル

 

拓海:セッッッする程イチャラブなカップル

 

全蔵:セッッッする程イチャラブなカップル

 

柘榴:セッッッする程イチャラブなカップル

 

勝弥:セッッッする程イチャラブなカップル

 

白哉:優子も巻き込む形で何考えてたんだ。お前ら後で覚えとけよ

 

 

 なんだよ、人を性欲持て余す発情の獣みたいに思いやがって……‼︎ 言っとくが獣なのは優子の方だからな。魔族だけど。夢魔だけど。戦闘衣装が淫魔とはいえ実際には淫魔ではないけど。

 

 

ミカン:じゃあ結婚指輪にするってのはどうかしら? あれなら『プレゼントは俺』理論なのよりも重くはなさそうだし!

 

白哉:充分重いプレゼントになるわ。それにまだ結婚は早いんだよ

 

杏里:いや実際には結婚しているようなものじゃん

 

白哉:恋人同士になっただけだから。カップルってだけだから。まだ結婚は早いっての

 

全蔵:『悠久』を共にするパートナーになったってことは実質結婚したようなものじゃないッスか。実際に営みの行為を何回もしてたじゃないッスか

 

白哉:強調も兼ねやがってチクショウが……‼︎

 

勝弥:というわけで白哉は指輪にしろよな

 

拓海:白哉君が指輪はピッタリだね

 

柘榴:指輪にして男を見せるんだ白哉君

 

小倉:指輪の方が一番喜ぶかも

   そういえば白哉君夏休みに自分専用の武器を手に入れたんだったよね? しかも色んな必殺技を使えるとか言っていたけど。それってその槍の中がものすごい構造になってたりしないかな? ちょっと調べたいから分解してもいいかな? 先っちょだけ! 先っちょだけでもいいからさ!

 

白哉:人のものをなんだと思ってんだ。先っちょも分解させてやらんからな。持たせること自体もさせねェから。絶対に。マジで。後絶対指輪にしねェから。別のにするからな

 

桃:えっ何の話? 分解したって何を?

 

白哉:お前は今の会話について何も知らなくていいからな

 

 

 どいつもこいつも俺の誕生日プレゼントを指輪にしようとしやがって……‼︎ こっちは色々と考慮して本気で考えてるってのにふざけやがって……‼︎

 

 というかここでやっと桃が返信するのかよ。グルチャ見なさすぎだぞお前は。まぁ原作準拠のために優子の誕生日の事を話さないけどな、許せ。

 

 

「……とは言ったものの、ホントどうしよっかなァ……」

 

 

 そう呟きながら、俺はハァッと一つ溜息をついた。実際まだプレゼントは何にすれば良いのか決めてないんだし、どうにかしないといけないんだよな……何か良さげなものとかないのかな───

 

 

「ん? これは……」

 

 

 ふと俺の視界に映った一瞬の眩きが、視線を無意識にそちらへと向けさせる。その眩きが見えたのは、俺の部屋のタンスの上に置かれてあったとある物だった。

 

 タンスのところまで行き、その上に置いてあるものの一つを手に取る。ピンク色の何かしらの宝玉のようなものの破片、俺が奥々多魔駅の山中にて倒した使い魔の粉々になった勾玉だ。あの日は優子と同じく現実世界での初戦闘かつ初勝利を飾ってたな。懐かしいなー……

 

 ん? ちょっと待てよ? この勾玉の破片なら……

 

 

「アクセサリーを作れる可能性、出てくるんじゃね……?」

 

 

 うん、そうだ。きっとそうだ。この破片から出来上がるものだっていくつかあるはずなんだ。だからここからイヤリングとかブレスレットとかだって作れるはずだ。

 

 うん、決めた。今年の優子への誕生日プレゼントはこの勾玉の破片で作るアクセサリーで決まりだ。……と、言いたいところなんだが。

 

 

「ここからどんなアクセサリーを作ればいいんだ? というかそもそもアクセサリーの作り方自体がわかんねェ……」

 

 

 迂闊だった。紐を通すものを作るにしても綺麗に穴を開ける方法が分からないし、何よりこんな歪な形からどうやって綺麗な形のアクセサリーを作ればいいってんだよ……職人並のが作れないにしても、もっと色々と考慮してから作ろうって言えばよかったじゃんか……何やってんだよ俺……

 

 うーむ……職人じゃなくてもできるアクセサリーの作り方でも調べておくべきか? それと破片とかからアクセサリーを作る方法とかも念のため調べておくか? とりあえずやれるだけやってみて───

 

 

「こんな時こそ私の出番だね‼︎」

 

「小倉ァッ⁉︎」

 

「はーい小倉でーす‼︎」

 

 

 思わず奇声みたいな声を上げてしまった……まさか突然小倉さんがこのタイミングで天井から出て来たとは思わなかったじゃん。唐突に来たんだよ唐突に? せめて何か一言声を掛けてくれよ……いや、それでもビックリはするだろうな。優子達原作キャラじゃあるまいし。

 

 お前何しにここに来たんだよ。つーか……

 

 

「まさか盗み聞きしたわけじゃないだろうな? 天井から俺達の話し声を聞いてたのか?」

 

「いーや‼︎ 先程のグルチャのやり取りからもしかするとって思って‼︎ さっきまで見守るだけのつもりだったんだけど、タンスの上の破片がどう見ても気になっちゃって…… だから助けに来たんだー‼︎」

 

「それ助けに来てくれたんじゃない、勾玉の破片に興味ありげになっただけだ」

 

 

 これが勾玉だと察したかのような反応をしやがって。これだからマッドサイエンティストは……

 

 っておい、勝手に破片を触るな。指切ったらどうすんだ。後それを勝手に何かしらの材料にすんなよ、アクセサリー作りに使う予定なんだから。マジでやめろよ?

 

 

「ふーむふむ……なるほどなるほど……」

 

「何がなるほどなんだよ」

 

 

 俺がそう問いかけると、小倉さんは微笑ましいと思っているかのような笑みでこちらを見てきた。なんだよ、何か良からぬ事考えてんのか?

 

 

「さっき聞いた話によれば、これをシャミ子ちゃんの誕生日プレゼント用に作りたいんだったよね?」

 

「やっぱり盗み聞きしていたのかよ」

 

 

 うん、最近よく天井にいるからなんとなく聞こえてしまうだろうなとは思ったけど……ウチの部屋、メェール君達の作った防音の結界を張ってもらったんだぞ? それに小声で呟いていたはずだから聞き取れないはずだぞ? なのになんで聞き取れたんだよ。お前の耳って異常に聞き取りやすいのか? 結構すごい地獄耳なんじゃね?

 

 

「……で? それがどうしたってんだよ?」

 

「フフンッ。平地くんにはこれまで召喚獣の子達のデータを取らせてもらった恩があるからね、その一環として……」

 

 

 ………………? その一環として? 一体何をする気だってんのか?

 

 

 

「今回は特別にッ‼︎ 私がRPGや異世界モノでよくある魔道具のようなものを作る工程の一つで、君のシャミ子ちゃんへの誕生日プレゼントを一緒に作るのを手伝ってあげるよッ‼︎」

 

 

 

「あ、それなんか嫌な予感がするんでいいっす」

 

 

 いやホント、そんなもの教えようとしないで? 魔道具のようなものを作る工程の一つって何? アンタ俺達の知らないところで何を作ってんのさ? 現代社会とファンタジー要素が半々混じったこの世界で魔道具を作ってるとか、なんか碌でもないことが起きそうな予感がするんですけど。マジでやめて?

 

 

「えーなんでー⁉︎ プレゼント用意できるチャンスだよー⁉︎」

 

「それもそうなんだけど、アンタが常識的に絶対にあり得ないことをするとなると、どうしても警戒せざるを得ないんだよ。プレゼントの用意を一緒に考えてくれるのは嬉しいけどさ」

 

 

 実際に『日夜明けるまで人形の姿になる薬』を俺に見せようとして、事故とはいえぶちまけて俺を人形にしてしまった前科があるからな。

 

 

「大体さぁ、お前俺がアクセサリーを作ってみようかって話を盗み聞きしたんだろ? なのになんでそこから魔道具のようなものを作ろうかって話になるんだよ。とんでもない効果のものが完成して優子に何かしらの影響を与えてしまったらどう責任取ってくれるってんだ? えぇ?」

 

「危なっかしいものは絶対作らないって。そこはちゃんと保証するからさ」

 

 

 『そこは』? そこ以外はどうなんだって話になると思うが? これまでのお前の行動からして信用できるところとできないところがあって完全に信用することなんてできねェぞ?

 

 

「それでも平地くん一人でなんとかするっていうのなら、私もとやかく言うつもりはないけど……これからどうやって安全なアクセサリーを作れるというのかな? 割れた箇所の尖ったところがシャミ子ちゃんに当たったら大変じゃない? 作るのも難しいのに割れたところを削るのも大変だよ?」

 

「グッ……‼︎」

 

 

 こ、こいつ……俺がアクセサリーの作り方を全く知らないことを機に痛いところ突きやがって……ッ‼︎ 事実だけど……ッ‼︎ 素人が作れるとは思ってないんだけど……ッ‼︎ ぶっちゃけ普通のじゃないものを材料として何かを作るのは小倉さん専門だと思ってるけど……ッ‼︎

 

 チクショウ……‼︎ 言い返せない、事実すぎて言い返せない……ッ‼︎ ここで小倉さんに手伝ってもらわなければ、また優子の誕生日プレゼント作りに悩んで、悩みすぎて優子の誕生日が近づいていく可能性だってあるんだよな……

 

 クソッ、ここは素直になるしかねェ……ッ‼︎ はい土下座ァッ‼︎

 

 

「大変申し訳ありませんでした。アクセサリーの作り方を教えてください小倉サマ」

 

「もう、平地くんってばビクビクしすぎだって〜。そこまでさせるほど私も野蛮な子でも意地悪さんでもないよ〜。もちろんオッケー、一緒に頑張ろうか」

 

 

 ぐぬぬ……やっぱりこいつは苦手だ……ッ。

 

 

【マスター……そこは僕ら召喚獣にアクセサリーの作り方を聞いてみるとかしないのかメェ〜?】

 

【それもそうだな。俺がそれを今からマスターに伝えておこう‼︎ 苦手なものがある中にいさせるのもマスターの気が気でないしな‼︎】

 

【シッ‼︎ 言ってやるなヒヒン。それを聞いた白哉が罪悪感に埋もれたり発狂したりして壊れてしまって、寧ろ逆効果だぞ】

 

【白龍様はそれはそれで酷いと思われますがな‼︎】

 

【マスター……南無だメェ〜……】

 

 

 

 

 

 

 はい、事実と小倉さんの根気に押し負けたってことでね。今から彼女に勾玉の破片達からアクセサリーを作ることになったわけですがね。その……なんで言えばいいのやら……

 

 

「今の俺の台所、魔法薬の研究所か何かなのか?」

 

「今はもうそうなってるよ、雰囲気だけそうした」

 

「はっきりと言いやがって……ッ‼︎ ってか俺達、今からアクセサリーを作るんだよな? 魔法薬は作らないよな?」

 

「もちろん‼︎ 私もラボでは作りたいのはこんな感じの雰囲気でやってるよ」

 

「形からそれっぽいことをする感じか?」

 

 

 えぇ、今ウチの台所がどうなっているのかというと……キッチン全体に迷彩柄の布が敷かれており、その上に理科の実験に使われる器具やなんかカタカタと動いている人形、青色のドロッドロとした怪しげな液体の入った容器などが置かれているってわけだ。

 

 どう見ても普通のアクセサリー作りをする雰囲気じゃないんですけど。禁断の薬物でも作りそうな感じになっているんですけど。終わったら絶対元に戻せよお前。

 

 

「さてと、早速アクセサリー作りに取り掛かるよ〜……と、言いたいところだけど」

 

 

 ん? まだ何かあるってのか?

 

 

「平地くんはどんなアクセサリーを作りたいのかな? それによっては出す材料も変わってくるんだけど」

 

「どんなアクセサリーを、か……むむぅ」

 

 

 迂闊だった。アクセサリーは幾多の種類があるっていうのに、なんでどれにするのかを考えなかったんだ俺は……一応ネックレスはミカンが出すからまぁいいとして、一体何を作ってあげれば良いのやら……

 

 

「そうだな……意味的に考えるとなると、『永遠の愛を誓う』っていう意味を込めたのを作りたいなって思ってはいるんだよな……悠久を共にするパートナーになったわけだし、改めてそれに対する誓いを立てたいというか」

 

「ふむふむ、なるほどね……」

 

 

 優子ほどではないだろうとはいえ、我ながら重い想いだなとは思っている(激寒ギャグができたけど狙ってない)。

 

 

「……だったら、真珠のブレスレットを作るのが効果的かな」

 

「真珠のブレスレット?」

 

「そ。私の腕にかかれば、割れた勾玉……宝玉からでも綺麗な真珠が作れるからね。それに意味合いもぴったりだし」

 

 

 ん? 意味ってさっき俺が言った『永遠の愛を誓う』のことか? もしかして意味が同じヤツを調べてくれたってのか? いつの間に? その即座の対応がありがたくはあるけどさ……

 

 

「真珠は愛情の象徴であるから、それを使ったアクセサリーを贈る意味は『本当に愛している』ってことになっているよ。しかもブレスレットの意味は『永遠』または『束縛』。この意味……分かるよね?」

 

「………………あっ」

 

 

 それってつまり……いつもは優子に束縛されている感じなのに、真珠のアクセサリーをプレゼントしたとなると、束縛しているのは俺……ということになるのか?

 

 ………………いや、その……俺、誰かを束縛するの趣味じゃないし、そもそも動きを制限させる気なんてないし、なんというか……

 

 いや待てよ? ブレスレットのもう一つの意味は『永遠』。それを観点とすれば……

 

 

「上手くいけば『束縛』の意味を伏せることができるかもしれないから、変な目で見られる可能性は少なくなるってことか……なら遠慮なく真珠のブレスレットを作れるな」

 

「そう‼︎ いいところに目をつけたね‼︎」

 

 

 いいところ……か? プレゼントの意味を悟られないだけまだマシかもしれないとはいえ、安心できる可能性もないんだけどな……ま、そのプレゼントを渡す相手が優子だから、意味がバレない可能性の方が高いけどな。

 

 ……って、それって優子の事をバカにしてるようで逆に彼女に失礼なのでは? いけないいけない、恋人を貶すような思考までもうっかりしてしまわないようにしないと。

 

 

「とはいっても、シャミ子ちゃんの事だから『束縛』の方の意味を知ってしまっても、後々そうされるのも本望だと思うかもしれないけどね」

 

「ヤンデレの上にメンヘラになってしまう可能性もできるわ。これ以上優子が壊れるような考えはやめれ」

 

 

 ヤンデレになってるだけでも大変だってのに、そんな彼女がメンヘラにまでなってしまったら収集がつかなくなって対処が追いつかなくなるっつーの。そういうとこも考慮して?

 

 

「とにかく、作るアクセサリーの種類も決めたんだ。早く作るのを手伝ってくれ」

 

「はーい」

 

 

 やれやれ、やっとアクセサリー作りに入ることができ───

 

 おい待て。待て。ちょっと待て。やっぱり待ってくれ。

 

 

「なんでさぁ……すり鉢なんか用意してんの? 作るの練り物料理じゃないよな?」

 

「うん、そうだよ? そもそも私、基本的には料理を作らない派なんだし」

 

 

 じゃあなんでそんなものを用意して………………あっ(察し)。

 

 そういえばこいつ、優子が手に入れたピンク翡翠を(無理矢理)もらってすぐ砕こうとした時にもすり鉢出してたよな? それも闇堕ち安定剤を作ろうとして。

 

 ……俺達、今から真珠のアクセサリーを作るんだよな? 薬を作るわけじゃないんだよな?

 

 

「これに例の勾玉の破片を全部入れてっと……はい平地くん、これをこのすりこ木で砕いて粉状にすり潰しておいて。私はこれを混ぜ合わせて真珠を作るための真珠専用錬成液の調整して仕上げておくから」

 

「錬成液ってなんだよ……念のため聞いておくけど、本当にそれを使ってブレスレット用の真珠を作るんだよな? 完成するよな? 安全なものとして完成するよな?」

 

「もちろんだよ。使ってもデメリットなんて起きないし、どんなに悪意の強い敵が相手でも勝てる保証のある力を携えるし」

 

 

 絶対に防御用の魔法具を作る気満々じゃねェか。それはそれで優子を助けてくれるのなら嬉しいけどさ……

 

 

「ま、プレゼントとして渡すなら見た目と長持ち性を重視したいから、そういった力を入れるのは難しいだろうけど」

 

「そ、そっか……まぁそれが普通のアクセサリー作りだけど。職人は長持ちするかどうかも考えて作ったのかどうかは知らんが」

 

 

 優子を守れる力を入れれそうにないのは悔しいが、小倉さんの言う通り、アクセサリーをプレゼントするに見た目は重視すべきだと思うけどな……

 

 

「まぁいいや、とりあえず俺は言われた通り勾玉を砕いておくから、小倉さんも小倉さんで準備しておいてくれ」

 

「はぁ〜い」

 

 

 これ以上雑談でアクセサリー作りの時間を食うわけにもいかないし、じゃけんさっさと作りましょうねぇ〜。とりあえずこの破片達を粉状に砕いてっと……

 

 パリンッピリンップリンッペリンッポリンッパリンッピリンップリンッペリンッポリンッパリンッピリンップリンッペリンッポリンッ

 

 ………………なんか、パ行を連発しているかのような、物が軽く割れる音が聞こえたような気がするんだが……気のせいか? 元が二次創作の世界だからこそなのか? うーむ、分からん。

 

 

「平地くん、勾玉の破片は全部粉々に砕けたかな? こっちの仕上げは終わったよ」

 

「おう、そうか。こっちも準備完了したぞ」

 

 

 そう言って振り返ってみれば、小倉さんが仕上げたと言う錬成液を見せてくれた。青いのドロッドロとした液体は俺が破片を砕いている間にあら不思議、赤紫色のサラッサラとした液体になっていた。その液体、中に入っている何を溶かしたってんだ?

 

 

「あのさ、小倉さん……?」

 

「ん? 何かな?」

 

「見かけた時からずっと思っていたんだけどよ……その液体、一体何を材料として使ったんだ?」

 

 

 深く追求するのは野蛮だとは思って聞かない方がいいな、と最初はそう思っていたんだけど……さすがにね? 突然溶かしてサラサラな液状に変化させたとなるとね、一体何を思ってどんな材料を作ったんだよって思ってしまうわけよ。もういい加減、気になりすぎて聞かざるを得ないよマジで。

 

 

「んー? それはね……トップシークレット☆ 特定の条件とかがない限りは、たとえ仲の良い人達相手でもそう簡単に教えるわけにはいかないんだよねぇ」

 

 

 まぁ……ですよね。こんな貴重なものの作り方を他の人に教えてしまったら、何かしら悪用されてしまう可能性もあるもんな……悔しい。

 

 

「でも完成させるために最後に使ったものだけなら教えてあげられるよ。最後に使ったのは……温かくしたハチミツでーす☆」

 

「それだけ教えられましても」

 

 

 最後の一つだけを教えてもらっても、それは意味があんのかって思うわ。マジで。大体なんでアクセサリー作りの材料としてハチミツ? 一体何を色々と混ぜ合わせたら『あ、これハチミツいるな』って思えるんだよ。やっぱり料理でも作ってんのか?

 

 

「まぁまぁ、とにかく平地くんはこれと擦った破片達をボウルの中に入れて泡立て器で混ぜておいて。今度はブレスレット用の真珠の型と固めて真珠にするための結合液を作るから」

 

「本日二個目の聞き覚えのないワードが出てきて困惑状態なんですがそれは」

 

 

 結合液ってなんだよ、接着剤みたいに物をくっつけることができるってのか? 大体そんなもの作って真珠なんて作れるのか?小倉さんなら出来そうなのが否めないけどさ。

 

 っつーかさ、他にも気になるとこがあるんだが。真珠って型を作って特定の物質を流し込めばできるもんなの? なんかそれ聞いたら小さい丸の型でも出来そうなんだけど。何なら昔の冷蔵庫で氷を作るのと同じ手順で出来そうなんだけど。

 

 というか……そもそも真珠ってどうやって作るのかすら分からないんだけど、本当にこんなやり方で出来るの?(錯乱)

 

 

「………………いや、考えすぎだな俺は。しっかりしろ俺」

 

 

 そう言って俺は自分の両頬を強く叩いた。魔族とか魔法少女とかがいるこの『二次創作』という現実世界で、非常識ともなり得る事に対して必要以上の追求はよくないよな。考えすぎては後々辛くなって原作に影響してしまう。こういうのは『この世界にとっては常識かもしれない』と済ますべきだ。うん、そうした方がいい。

 

 

「わかった、混ぜておくよ。泡立つまで混ぜて混ぜて、立派な真珠が出来るようにしてやる」

 

「おぉ‼︎ その意気だよ平地くん‼︎ 二人で力を合わせて綺麗で立派な真珠を作って、私の分の手柄も全部平地くんのものにして、シャミ子ちゃんのハートをまた奪っちゃえ‼︎」

 

「人を手柄泥棒にすんな」

 

 

 確かに完成した真珠のブレスレットは俺が優子に渡すけどさ、いくらなんでも最初から俺一人で作ったかのような感じにしようとするのやめてもらってもよろしいのかね? 俺は嫌なんだけど、他人の手柄を横取りとか後味が悪いもんだから。

 

 

「そうは言ってもさ? 私が平地くんと一緒に用意したんだってことがシャミ子ちゃんにバレちゃったらどうなるのかな? シャミ子ちゃん、嫉妬や怒りとかで思考がごちゃごちゃになって壊れてしまうかもしれないよ?」

 

 

 あっ(察し)。よくよく考えたらヤバいじゃんこれ。俺が他の女と共同作業とか絶対優子は許してくれないじゃん。やらかしたわ、俺……

 

 

「すみませんでした……貴方の言う通り、これは全部俺一人で準備したってことにしておきます……」

 

「よろしい‼︎ これでシャミ子ちゃんの怒りを買わずに済んだ‼︎」

 

 

 絶対大丈夫とは言えないけどね、最近勘が鋭いから。

 

 それから混ぜ混ぜをして数分後。小倉さんが作り上げたブレスレット用の型(紐を通す穴ももちろん作ったらしい)に混ぜ混ぜした液体を流し込み、それを冷蔵庫に入れて冷やすことに……

 

 いや待って? やっぱりこれ料理作ってるやんけ。型に流して即冷蔵庫行きって、絶対そうやんけ。

 

 

「後はこのまま冷やして三日放置すれば完成‼︎ そのまま冷やしたまま出した後にコラーゲンジェルと一緒に入れ直して丸一日以上冷やしておけば、さらに硬度が上がって長持ちしやすくなるよ」

 

「なんでまた固めるのにコラーゲンジェルがいるんだよ」

 

 

 小倉さんがものを作る時の過程云々、全然分かんねェな……どういう想定をしたらめっちゃいい物を作り上げられるんだよ。

 

 とりあえず、これで後は上手くいけば真珠のアクセサリーは完成するってわけか……まだ作り上げたばかりだから完成すらしてないけど、これで優子の誕生日プレゼントの準備は万端……でいいのか?

 

 

「あ、そうだ。はいこれ」

 

「ん? なんだこれ?」

 

 

 なんだこのスプーンは? 優子のなんとかの杖のスプーンver.とか言うんじゃないだろうな? いくらなんでも棒となるものならなんでも変形できるアレを再現できるとは到底思えないが……

 

 

「フフフ……それは普通のスプーンに今回使った真珠の材料とその他諸々を混ぜ合わせて固めた特別なスプーン……名付けて『どこでもテレパシー』‼︎」

 

「どこでもド○のパクリじゃねェかッ‼︎」

 

 

 いくらなんでもおふざけが過ぎるだろそのネーミングは‼︎ ドラえ○んの著者に謝れ‼︎ 今すぐ‼︎

 

 

「待って待って‼︎ さすがに能力は全くの別物だから‼︎ それを使えばいつでもどこでも、話したい人に念話を送れて、その念話を通して会話をすることもできる優れものだよ‼︎」

 

「いつでもどこでも念話で話せる、だって?」

 

 

 それって、緊急事態の時にいつでもどこでもこっそりと協力要請をすることができる……ってコト⁉︎ ………………‼︎ 天才だったか‼︎

 

 

「ありがとう小倉さん‼︎ これでとんでもないことが起きた時にも色んなところからお前に聞きたいことが聞ける‼︎ 良いプレゼントをありがとうな‼︎」

 

「どういたしまして〜」

 

 

 フッフッフ……さっきまでぐちぐち文句とか不安げなことを心の中でも言っていたけど、これを渡してくれたおかげでそういったのを全て前言撤回できるぜ‼︎ ま、上手くテレパシー能力が出来なかったら今のも前言撤回するけど。

 

 この後余った液体は全て小倉さんが持って帰ることになった。実を言うとあの液体は結構匂うのだが、それでも意外と香水の香りがして悪くはな───

 

 ……アレ? ちょっと待てよ? 匂い? 香水? ………………

 

 あ、勘違いでの優子ヤンデレフラグだ。シャンプーとかで匂いの上書きしないと。早くしろー‼︎ 間に合わなくなっても知らんぞー‼︎

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その28


白哉がシャワーを終えた後の事

シャミ子「……白哉さん」
白哉「はい」
シャミ子「なんで正座してるんですか? 私、ただ白哉さんにお風呂を借りるために部屋に入っただけなんですけど……」
白哉「あぁいや、その……な? ただ瞑想をやってみたくなったから、それをやってるだけで……」
シャミ子「いや、瞑想って坐禅してやるものでは……?」
白哉「正座した方がより瞑想に集中できるかなってな……」
シャミ子「………………白哉さん、無理に嘘を隠そうとしなくていいですよ。私が来る直前に、香水に近い匂いを微量ながら落としきれなかったんですよね?」
白哉「ッ⁉︎ な、何の事───」
シャミ子「私がそれに気づいてうっかりファーストキスしてしまったこと、覚えてますよね?」(暗黒微笑)
白哉「………………はい、そうです。落としきれませんでした。すいませんでした」
シャミ子「まぁ白哉さんのことですから、浮気になるような事で付いたわけじゃないのは確かだから許します」
「ただ、素直に言ってくれればよかったことを隠そうとするのが許せないんですよね……」
白哉「はい、仰る通りです……」
シャミ子「で、ですから白哉さん……」
白哉「なんでしょうか」
シャミ子「こ、今夜……びゃ、白哉さんを私の匂いで染められるか、やってみてもよろしいでしょうか……?」ハァハァ
白哉「(えっ。マジおこじゃなくて発情パターン? なんで?)」

END


次回は原作パートのシャミ子誕生日回です。いや我ながら雑な説明だな。

 


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今の俺にできることはただ一つ、桃が原作通りのプレゼントを用意できることを祈るだけ

他人の誕生日プレゼントの用意をするの大変だよってことで初投稿です。

シャミ子の誕生日回、原作パートに入りました‼︎ この時、誰に観点がいくと思う? 万丈だ──嘘です、とある原作キャラです。


 

 みんなグッドモーニング、白哉だぜ。

 

 今日は優子の誕生日。この日のために誕生日プレゼントを準備してきたんだ、絶対に彼女に喜んでもらうぞ……‼︎ とはいっても、小倉さんに手伝ってもらったんだから自慢できる程ではないけどな。

 

 さてと……誕生日プレゼントとして渡す真珠のブレスレットがちゃんと出来上がったのか、そろそろきちんと確認しておかないとな。小倉さんて手伝ってもらって作ったものとはいえ、本当に真珠のアクセサリーになったのかどうか分からないもんな。

 

 ……本当は、一度出してもコラーゲンジェルと一緒に入れ直して丸一日以上冷やしておけばさらに硬度が高くなると言われたけど、そこは不安だったから出さなかった。ぶっつけ本番で一発完成することを祈ることにした。そのまま冷やしたままでも硬度がどんどん高くなって長持ちするらしいし、それに賭けるぜ。

 

 

【もしこれで完成しなかったら、マスターは学校休んで新しく誕生日プレゼントを用意するしかない羽目になるメェ〜】

 

【ま、小倉の事だから失敗することはないけどな。寧ろ失敗してたら奴の腕前と品性を疑わなきゃいけなくなる】

 

「メェール君は不吉なこと言わないでくれ。そして白龍様は何故小倉さんにそこまでの信頼をしてるんですか?」

 

 

 うるさい外野へのツッコミはここまでにするとして、真珠は果たして完成したのだろうか。したのだと思うけど、とりあえず冷蔵庫の扉を開けておいてっと。どれどれ、結果はどうなったことやら……それが入ってある型を取り出して、と。

 

 

「メェール君、小倉さんが用意してくれた真珠が絶対傷つかないという受け皿を持ってきてくれ」

 

【既に用意してあるメェ〜】

 

「準備早いな」

 

【どうしても早く完成した真珠を見たいメェ〜からね】

 

 

 あぁ、もう既にそっちはワクワクドキドキ状態……待ちきれないようだな。だったら早く見せてあげないとな。

 

 さてと……型の上に受け皿を乗せて、せーのっでひっくり返して、ゆっくりと型を上にあげて真珠が溢れ出ないようにしてと……

 

 はいっ‼︎ 出たッ‼︎ 赤紫色に綺麗に透けて輝く真珠(まだそれと思われるもの判定)が出たッ‼︎ しかも割れてないし、傷一つついてないし、受け皿から溢れ落ちてないッ‼︎ そしてブレスレット用としてちゃんと紐を通す用に穴が空いてあるッ‼︎

 

 後は感度を確かめるだけだ。宝石とも言えるほどの充分な硬さであれば完成となる。どれどれ、触り心地は……

 

 

「………………サラサラしてる。しかも充分に硬い。……成功だッ‼︎」

 

 

 刹那。俺の後ろで真珠の完成を見守っていたメェール君と白龍様が突然クラッカーを取り出し、すぐさまそれを鳴らしては無言の笑顔でヘッドバンしだした。いやそこまで喜ぶゥ?

 

 

【マスターおめでとうメェ〜‼︎ これでシャミ子ちゃんへの誕生日プレゼントの用意ができるメェ〜‼︎】

 

【ホントによかったな白哉‼︎ これぞ正しく小倉クオリティ……いや、白哉クオリティだな‼︎】

 

「ヘッドバンしながら祝わないで? そして小倉クオリティと白哉クオリティって何ですか?」

 

 

 まぁ、とりあえず二匹が喜んでくれたのなら何よりだ。俺もこれで優子への誕生日プレゼントの用意ができてラッキーだぜ。

 

 ………………さてと、後はあいつだけだな。優子が喜ぶプレゼント、原作通りにしろそうじゃないにしろ、ちゃんと用意してくれよ?

 

 

 

 

 

 

 厳重に保管して優子にバレないように持っていき(楽しみにする派の優子は様子を伺う真似をしてないが)、それからは放課後が終わるまでいつも通り過ごすことに。

 

 ちなみに優子の誕生日パーティーは原作とは違い、学校ではなく柘榴さん家(元・桃の家)で行うことにしたそうな。なんか柘榴さんがバースデーケーキを作ってくれるとのことなので、そういうことにしたそう。

 

 で、今優子は誕生日パーティーが待ち遠しい感じでテンション爆上げな状態で桃とミカンに挨拶してから日直の仕事をしに行ったのを目撃した。ここからの話が面白いので、なるべく自然に桃とミカンの隣に立つことに。

 

 

「……今日のシャミ子、テンションおかしくない?」

 

「そりゃそうよ。今日はシャミ子の誕生日会だし」

 

「それに俺や杏里以外の友達に祝われるのはこれが初めてなんだし、あんな反応するのは当然だろ」

 

「………………………………えっ?」

 

 

 あぁ、うん。やっぱり予想していた通りの反応だな。『何それ聞いてない』みたいな反応しやがって、情報収集が出来てないみたいだなこのヤロー。とりあえず少し聞いてみるか。

 

 

「なんだよその反応、もしかして忘れていたのか? 専用のグループチャットに入れて参加メンバーとして伝えられたはずだろ? 報連相はちゃんとしてたか?」

 

「………………初耳だよ⁉︎」

 

 

 そう……この桃色魔法少女、今日が優子の誕生日パーティーであることをすっかり忘れてしまった……というよりは上手く把握することが出来なかったのだ。報連相もズボラだってのかこの魔法少女は。今日の事を柘榴さんにも教えられたはずだろ? いや、そこは知らんけど……

 

 パーティー参加メンバーは皆が皆、桃はいつも既読無視だからいつも通り無言での承諾をしたのかと思い込んでいたらしい。が、当の本人はチャットだけでの伝達では真面目に伝わないとのことで聞けなかったという。まぁ文面だけでは……って考えは分からなくもないけどな。

 

 

「ちよももそういうとこだぞー」

 

「そういうとこなのよね」

 

「そういうとこだぞ千代田さん」

 

「ホントそういうとこだね……」

 

「今回は私が正しいと思う‼︎」

 

「別に分からなくも──おい待て。勝弥と拓海、お前らいつの間に来てたんだよ」

 

「アレ、私が来たことはスルーなの?」

 

「杏里は声を掛けてくれただけまだマシだ」

 

 

 にしてもこのオリ男二人は何故気配を消しながらこっちに来たのかね。ただ単に俺達の会話が気になってタイミング良く喋りかけてきた感じなのかもしれないだろうけど、いきなりはやめてくれビックリするからさ。

 

 

「ミカンは目に痛い絵文字の乱舞だし、杏里は意味の分からないスタンプ連打だし、拓海は一回の送信毎にメールアプリでも使っているのかってぐらいの長文だし、勝弥は行を区切る前の絵文字を連発するし、誰も招待した記憶の無い小倉がいるし‼︎」

 

「うん、そこは俺達も分からん。なんで来れたんだよあいつ。怖っ」

 

「毎朝起きたら未読四百件。めんどいって思って下までスクロールして終了……うっすいトークに重要な情報を紛れ込ませるのやめて‼︎」

 

 

 未読四百件って、朝スマホを開くまでにどんだけメッセージが出てきたねん。さすがにビックリ仰天してしまうやろがい。みんな毎日どんだけグルチャ使ってんねん、おかしいだろ。暇なんか? それともこれがグルチャを使う者達にとっての普通? うーん、分からん……

 

 

「だとしてもシャミ子の誕生日すら知らないなんて……」

 

「そういったのは白哉が教えたはずなんだけどな」

 

「会を知らなくてもプレゼントくらいは用意すべきよね」

 

「そういった点では別にグルチャは関係ないと思うよ」

 

「……っっ」

 

「そこまでにしておいてやれ。桃だってこうなってしまうとは思っていなかったんだからさ」

 

 

 そもそも優子の誕生日の事を教えた俺のメッセージだってスススッといった感じにちゃんと見られていないかもしれないし、中身が中身だからな。しゃあないってわけ。

 

 ……あっ、よく考えたら優子の誕生日はつぶやいたーのプロフィールから分かるじゃねェか。そこにも気付けないなんて桃も俺も視野が狭いのは同じだな。

 

 とはいっても、誕生日パーティーは放課後で、今は昼休み。今からなら誕生日プレゼントの準備をするのにまだ時間がある。まだチャンスはあるぞズボラ魔法少女よ。

 

 

「ちょっとお腹が痛くなってきたので早退します‼︎」

 

「仮病っ」

 

「そんなんで早退が許されるとは思えないけどな。良くても保健室行き」

 

「いや、プレッシャーで胃が痛いのはリアルで本当だから、これは罷り通るはず……迅速に胃痛の原因を解消してくる」

 

「アッハイ、どうか無理だけはしないようにな」

 

 

 あぁ、うん。演技でも出せない程に顔が青冷めているし、なんか桃の腹部からキリキリとした微音がこちらにまで聞こえてきてるし、もうそっとしておいてやるか。放課後までお大事に……

 

 

 

 

 

 

 シャミ子への誕生日プレゼントの準備を急ぐため、学校を早退しマルマデパートを訪れた桃。しかし、どれをプレゼントすれば良いのかというラインが分からないとのことで、白哉達にそれぞれ個別メッセージで何をプレゼントすることにしたのか問いかけながら決めることに。

 

 女子喜ぶ系・服・ぬいぐるみ系・スマホグッズ・文具系・プラモデル・音楽系・そして装飾品。白哉達はこれらを選択しており、桃が選ぶべきプレゼントの選択肢が狭まってしまった。その上に期限が数時間しかないため、選ぶ時間も限られている。かなりの窮地である。

 

 余談だが、白哉以外の皆が皆『シャミ子はなんでも喜ぶとは思うがダンベルは避けるべき』だと伝えてきたため、桃が『自分はそこまで筋トレ馬鹿ではない』と心の中で訴えていたのは秘密だ(秘密になってない)。

 

 改めてプレゼント選びに悩む桃。シャミ子が本当に欲しいものとは一体どのようなものなのかと試行錯誤したところ、調理用品はどうだろうかと閃く。シャミ子は料理好きで尚且つ普段使いもできて丁度良いと感じたようだ。

 

 が、桃は自覚する程の料理が壊滅的であるため。

 

 

「(何これ、握力グリップ? いやそんなわけが無い……)」

 

 

 このように、ニンニク潰し器に動揺を隠せてないご様子である。そう、調理コーナーとは料理できない者にとっては未知の領域、解読が非常に困難なエリアなのだ‼︎ 正に古代または未来の生物が集まるエリアゼ○‼︎(違う、そうじゃない)

 

 大抵の道具の使い道が見えてこず、シャミ子が持っているものと被る可能性もある。また根詰まることになった、その時だった。

 

 

「あれ、桃ちゃん? こんなところで会うなんて奇遇だね」

 

「あっ……奈々さん?」

 

 

 吸血鬼の魔族であるブラムの義妹・奈々が桃の方へと向かってきたのである。しかも何やらプレゼント用としてか赤いリボンに結ばれた紙袋を二袋持ちながら。

 

 

「まさか調理コーナーで再会できるなんて思ってもいなかったよ。何か用事でもあるの?」

 

「い、いえ。ただの野暮用なので……」

 

「あ、私はね? 今日がシャミ子ちゃんの誕生日だということでね、彼女にプレゼントを渡すために事前にこのデパートの店で頼んでおいたオーダーメイド品を取りに来たの。ちなみにプレゼントは私はハンカチ、兄さんはブックカバーだよ。まぁ兄さんは突然取引先と商談することになったから誕生日会には出られないけど」

 

「ッ……‼︎」

 

 

 聞きたいわけでもないのに、奈々にこちらが何をしているのかを言わないのは野暮だと思われたのか、彼女達兄妹もシャミ子への誕生日プレゼントに渡すものを取りに来たのだと言われ苦虫を噛み締める桃。連絡を受けていない者達ですら前準備がしていることに、さらにプレゼントの選択肢が狭まれたことに悔やんだようだ。

 

 

「ん? 私がシャミ子ちゃんの事を話してたらその反応……もしかして、桃ちゃんもシャミ子への誕生日プレゼントを探しに?」

 

「あっ⁉︎ ……い、いえ、別になんでも……」

 

「いや『あっ』って言った時点でもうバレバレだよ?」

 

「ウッ……ッ‼︎」

 

 

 一瞬の反応で全てを悟られた桃。少し察しをつかれただけで押し負けてはいけなかったと、改めて実感する。

 

 

「そう悔しそうな顔しないで、私はその事を責めるつもりなんてないから。わかるよ? 気がつけば友達の誕生日が近づいてきて、急いで準備しなければならないって焦ってしまうその気持ち」

 

「………………単に今日まで知らなかったってのもあるんですけどね」

 

「あっ。あぁ……」

 

 

 桃をこれ以上不機嫌にさせないようにとフォローを入れる奈々。が、半分空回りした部分もあったらしく、さらに顔に影を落とす桃を見て苦笑いするしかなかった。

 

 

「えっと……あっ‼︎ そ、そうだ‼︎ もしよかったら私も一緒にプレゼント探しを手伝おうか⁉︎ 一人で苦戦するよりも一緒に探した方が効率良いと思うし‼︎」

 

「一緒に……」

 

 

 またもや奈々なりのフォロー。今度は一緒にプレゼント選びに付き合うという同担申請である。これには桃も承諾するかどうか悩む様子を見せるが、このまま何もできなければシャミ子の誕生日会にプレゼントを準備できなくて本末転倒になるだけ。そんな葛藤が湧き出ていき……

 

 

「……お願いします」

 

 

 折れた。最悪な事態を招きたくないがための判断であった。

 

 

「よーし決まり‼︎ 手伝うからには貴方自身が『これをあげたい』と言えるように促しておかなくちゃ‼︎」

 

「あー……最終的には私が決める感じですか」

 

「他人に選択肢を委ねられるよりも、最後には自分の意思で決められるようにしないと気が済まないんでしょ? だから私はその意思を尊重する、それだけだよ」

 

「……私の心境を見抜きますか」

 

 

 下手しなくても一本取られるか。そう確信した桃は思わず苦笑いを浮かべる。自分よりも魔法少女としての活動歴が長いからだろうか、きっと濃い人生を歩んできたのだろうな。そんな考えが頭を過りながら。

 

 

「よーし‼︎ 思い立ったが吉日、早速この調理コーナーからプレゼントを探そうか───」

 

「あら? 桃はんに奈々はんやないの」

 

 

 早速行動に移そうとしたところに、マイペース過ぎ料理好き魔族のリコが声を掛けてきた。これには彼女に苦手意識を持つ桃も後ずさる。

 

 

「リコさん……⁉︎」

 

「あ、お久しぶりです。あの時以来ですね」

 

「二人とも調理器具探してはるの? 料理するん? 桃はんも奈々はんも料理するん? あ! 二人とも今日平日やん! サボり? サボりなん?」

 

「(うっ……めんどくさい)」

 

「(うわっ……今、人によっては触れてはいけない点に触れていなかった? リコさん空気読んで?)」

 

 

 ニコニコとした笑顔で問い詰めたりデリカシーの無い指摘をしたりとしてくるリコに、桃と奈々は若干の引き気味になる。

 

 

「私、今日大学は午前授業だったので問題ないです。桃ちゃんも訳あって……ね?」

 

「え、えぇ。まぁただの野暮用です。急いでるのでこれで───」

 

「シャミ子はんの誕プレ探してはるんやろ」

 

「っ‼︎」

 

「しかも奈々はんは付き添いでぇって感じやろ」

 

「細かいところまで即バレした⁉︎」

 

 

 偶然会ったばかりなのに何故こちらの事情が見破られるのか、そもそも何故シャミ子の誕生日プレゼントを探していることを見破ったのか、桃と奈々は思わず勘付いてきたリコを警戒する。

 

 リコ曰く、料理道具を買いに来たところに桃と奈々の姿を目撃し、桃が何やら渋い顔をしていたので気になって声を掛けることにしたとのこと。その時に今日がシャミ子の誕生日であることを知り、もしかしたらと思い問いかけたら当たったとのこと。つまりは狐の勘である。

 

 

「勘で当てたんだ……ま、まぁいいか。せっかくですし、プレゼントにピッタリな調理器具がいくつかあったら桃ちゃんに教え───」

 

「いんや、シャミ子はんに調理器具はあかんよ。あの子、便利な棒持ってはるやろ。変身するやつ。調理器具って棒状のもんばっかやから、何を買〜ても被りになってまうわ」

 

「……意外と真っ当なアドバイス……‼︎」

 

「何かしらのジョークをしようとする気配がない……‼︎」

 

 

 シャミ子の誕生日プレゼント選びの事で揶揄ってくるのだろうかと警戒していた桃と奈々だったが、リコが伝えてきたのはシャミ子のなんとかの杖を考慮した上でのプレゼント選びの真っ当なアドバイスだった。普通の反応をされたことに動揺したのか、二人は思わず豆鉄砲を撃たれたかのような表情になった。

 

 ここでリコが桃にシャミ子が喜びそうなものを教える等価交換として、七千八百円もするまな板を買ってほしいとせがむ。いつかちゃんと返すと言うが具体的な期日は教えず、人に買わせる物の値段がかなりの高価。これでも彼女に悪意は無い、本当にないのだ。これでも。

 

 結局桃はそのまな板を買ってあげたのだが。リコの案に気になったせいで根負けしたのだが。ご臨終である。

 

 

「じゃー教えたるわ。シャミ子はん、意外とストレートなもんでテンション上がるの」

 

「ストレート……?」

 

 

 リコが発した『ストレート』という言葉。それを聞いて何か引っ掛かりを感じたのか、奈々は閃いたかのような表情を浮かべる。そしてリコの元に寄り、耳打ちするように小声で話しかける。

 

 

「ストレートってどんな感じに表現するんですか? 私、気になります」

 

「そやなぁ。服装から表すとすれば……これにこう、ここはこうやってやれば……」

 

「ふむふむなるほど……あっ。これはこうして、これはこうした方がいいんじゃないですか? で、このセリフを入れて……」

 

「ほうほう、確かにこれならえぇストレート球になるわぁ。奈々はん、いい意見をありがとうなぁ」

 

「いえいえ。ふと思いついたことを言ってみただけなんで、あしからず」

 

 

 奈々が何を思ったのかは定かではないが、リコとの気が合ったことは確か。だからなのか、プレゼントの意味としてのストレートがどういうものなのかという意図が合ったからなのだろう。

 

 

「(えっ。なんでこの二人突然仲が良くなってるの? というかストレートから一体どんな発想をしたのこの二人は。色々と分かんない……)」

 

 

 無論、リコとは意見が合わない桃はただ一人置き去りにされているが。

 

 そんな中、奈々が桃を何処かへと連れ込むかの如く左肩を掴む。

 

 

「桃ちゃん、服屋行こうか。ちょっと着替えてほしいから」

 

「えっなんで?」

 

「えぇから、はよ行こかぁ」

 

 

 理由も聞かされず何故か服屋に連行される苦労人桃色魔法少女。服をプレゼントするにしても、種類に関係なく杏里と被るため意味がないのではないか。そもそも何故自分が着替える必要があるのだろうか。そんな様々な疑問が彼女の脳裏に過っていた。

 

 そういった感じに困惑している中、流されるように二人に服屋へと連行される。桃。そして流されるままに二人にとある服を渡され、流されるように着替えることに。

 

 そして桃が流されるように着替えた衣装が、まさかのタキシード姿(通常サイズのシルクハット付き)。しかも買うのを薦まされる予定のバラの一輪を持たされ、シャミ子にこう伝えてみると良いとも指示される。

 

 

「ハッピーバースデー、マイシャドウミストレス」

 

「ひゃーっ。せやせや‼︎ そんな感じで行こ‼︎」

 

「おー、彼氏さんである白哉君からシャミ子ちゃんを奪い取る気満々じゃない‼︎ ライバル誕生ー‼︎ ヒュー‼︎」

 

「……いや騙されんわっ‼︎ 勝手に恋のライバルって設定つけないで‼︎ そもそもこれはストレート球ではない‼︎」

 

「ウチ騙しとるつもりは毛頭あらへんで‼︎」

 

「あ、ストレートってこんな感じなのかなって考えてたら行動に移してた……ごめんなさい」

 

「申し訳ないけど奈々さんもちょっと天然なのが逆に腹立つ‼︎」

 

 

 やっぱり何かがおかしい。とりあえず悪ノリしてくるのは良くない。それにこのような事をやること自体に羞恥心を覚える。様々な思考がごちゃ混ぜになった桃は思わず赤面し、心の底から不満をぶちまけた。

 

 悪意がなかったとはいえ、天然なご様子(一人は度を超えるほどの)の二人に振り回されたことに嫌気……というか恥ずかしさを感じた桃。やはり自分一人でプレゼント選びを試みようかと考えるものの、悪気はなかったのだと言う二人に呼び止められる。

 

 で、リコに現金を薦められる。範囲内でならシャミ子も好きな物をいつでも買えるとはいえ、プレゼントにするには全く合わないものである。

 

 

「ウチ、誤解されやすいけどホンマに桃はんのこと思〜てアドバイスしとるの」

 

「でもお金をプレゼントにするのは不謹慎ですよ? さすがに私も乗り気にならないというか……」

 

「奈々さんは乗り気になる話題を選んでください‼︎」

 

 

 そもそも出会った当初はそんな性格を見せなかったでしょ。そう奈々に怒鳴ろうとしたものの、実際に会った経歴が浅く彼女が本来どのような人物像なのか理解できていないため、桃は心残るもその事を口に出すのをやめた。

 

 

「そうは言うてもな、少しのお金でもお腹がいっぱいになる時があるやろ? それぐらいお金でももらえるのは嬉しいもんやで。各地を放浪して痛感したこととして、財布とお腹はぽんぽんの方が幸せや」

 

「だからといって………………………………財布? ……あ。あああ‼︎ それだ‼︎」

 

「えっ……」

 

「えっ?」

 

 

 何かに引っ掛かりを感じ、閃いたかのように目を見開き指差しする桃。突然の反応に困惑したのか、奈々とリコは思わず言葉を失い呆気に取られた表情を見せる。

 

 

「えっ嘘? まさか桃ちゃん、本気で現金をプレゼントするつもりじゃ───」

 

「違ぁう‼︎ そっちじゃなくて財布‼︎ 財布の方です‼︎」

 

「財布がどうかし──ん? ……あぁね」

 

「?」

 

 

 奈々は桃が発した言葉の意味を察し、人の心を読むのが普通の人よりも苦手なリコは意味を理解出来ずキョトンとした様子を見せる。果たして桃は二人との会話から何を見出したのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 迎えた放課後。待ちに待った優子の誕生日パーティー。予定通り柘榴さんの家(元・桃の所在地)にみんな集合し、優子の誕生日を祝うことになった。原作でもみんなが用意した沢山のお菓子に加え、柘榴さんが作ったホールケーキもある。

 

 ちなみに柘榴さん手作りのこのケーキ、生地も一から作ったみたいだぜこれ? 『生地も』だぞ?(大事なことなので二回言った) マジですごくね? 後、このケーキはショートケーキじゃなくて苺付きのチョコケーキなんだよ。柘榴さん曰く『まぞくで闇の女帝の彼女にピッタリだから作った』とのことらしい。確かにチョコの色は魔族らしいな。

 

 で、しばらくしてみんなから優子へプレゼントを渡す時間となった。無論、何事も問題無くプレゼント渡しはみんな成功し、優子も喜びの表情を毎回見せてくれた。小倉さんのうごめく人形にはビビってはいたが、ただうごめくだけなので特に問題は無かった。ヤバいかもしれなかったところはそれだけである。

 

 で、昼休みが終わった後のメッセージで来ると言って来てくれた奈々さんがオーダーメイド品のハンカチを渡した後、次は問題となる桃からのプレゼントだが。

 

 

「……わぁぁ‼︎ お財布だ‼︎」

 

 

 原作通り、高価で品質の良い財布をプレゼントした。ところで一体アレ、何処のブランドのヤツなんだろうか。普通の財布でも結構な値段するのに、アレは普通のよりも質が高すぎると思うが……すっごく気になる。

 

 

「シャミ子、いつも透明な袋みたいなのにお金入れてるから……使ってくれると嬉しい」

 

「本当に嬉しいです‼︎ 大事にします‼︎ ずっとずっと大事にします‼︎」

 

「大事にするのはいいけど、実用品だから使ってやれよ。桃もそのために買ったんだからな」

 

「はい‼︎ 傷つかないよう慎重にかつ大事に使います‼︎」

 

「「財布を慎重に使うって何?」」

 

 

 なんか、原作通りしばらく飾って使わなさそうな気がするのだが……まぁ彼女が喜んでいるみたいだし、桃の件はいいか。さてと、次は……

 

 

「今度は俺が渡す番だな。優子、これを受け取って───」

 

「白哉さんからのプレゼントッ‼︎ どんなのですかっ⁉︎ 一体どんなのをプレゼントしてくれるんですかっ⁉︎ ムハームハー‼︎」

 

「いや落ち着け? 盛った獣みたいになってるから落ち着け? な?」

 

「───ハッ⁉︎ す、すみません。つい欲望が出て……」

 

 

 盛った獣扱いとか失礼だけど、実際に荒い息を出してるし、真っ赤な顔を出しているし、蕩けた目の瞳にハートが浮かんでいるし、事実だと思う。いやこれはヤバいって。俺、こんなにも発情してしまう魔族を恋人にしてたのか……

 

 ま、そんなことはどうでもいいさ。例のプレゼント──真珠のネックレスが入ってある箱を出してっと……あったあった、これだ。ちゃんと赤いリボン付きでラッピングしてあるよな。よし。

 

 

「俺からの贈り物はこれだぜ、優子」

 

「わぁ、あぁ……? な、なんか、持っただけで厳重に保管されてある感が出ている気がしますが……」

 

「気にすんな、遠慮せず開けてみろ」

 

「は、はい……」

 

 

 あぁ、保管の仕方がまずかったか。壊れないようにとしただけで優子に複雑な想いを持たせてしまうとは、なんだか申し訳ないな、うん。もうちょっと軽く渡す感じになれるように入れ方とかを工夫すべきか。

 

 

「あぁ……とうとう白哉の愛も重くなったのかよ……」

 

「付き合うことになったのにシャミ子が重くて白哉がまだ重くない方がおかしいでしょ」

 

「確かにそれは言えてるね」

 

「それもそうッスね」

 

「いや待って? 違うから。ただ単に渡すまで壊れないようにと工夫して中身を入れただけだから。深く考えるのやめて?」

 

 

 周囲からはあらぬ誤解(俺がそう思っているだけで正論かもしれないけど)を生んでしまったけど、とりあえずそこまで引き気味にはなってないだけまだマシ……か?

 

 

「ほわわぁぁぁあぁ……っ‼︎ と、とても綺麗……めちゃくちゃ綺麗です……‼︎」

 

 

 おっ、そうこうしてる間に開けて取り出してくれたようだ。さぁ受け取ってくれ優子。これがマッドサイエンティストに手伝ってもらいながらも一から作った、赤紫色の真珠のブレスレットを───

 

 

 

 って、アレ? なんかあのブレスレット……イルミネーションの豪華なライトみたいに輝いて、というか光っているように見えるんですけど? アレ?

 

 

 

「め、目に優しくもすごく輝いています……‼︎ まるで夜景でも見ているかのようです……‼︎」

 

「宝石なら色々と見てきたけど、夜景レベルの輝きなんて初めて見たわ……‼︎」

 

「白哉くん、こんなすごいものを用意できたんだね……‼︎」

 

「知らん……何その光……怖っ……」

 

 

 ねぇ、ちょっと待ってくれない? 取り出してからブレスレットとして箱にしまうまではそんなキラキラとは輝いていないはずだったんだけど? ブレスレット用の紐を真珠に通している時もその前兆みたいなものは見えなかったんだけど? どういうことなの……

 

 オイ小倉さん、これは一体……

 

 

「(ごめん、言い忘れてた。あのレシピで作られた真珠の中には、稀に今のようなすごい輝きを放つものが完成されるんだ。材料の産地次第ってのもあるんだけど、出来たら超ラッキーだよ。やったね‼︎)」

 

 

 えぇ……(引き)。何それ、初耳なんですけど……使う材料次第ではめっちゃ輝く希少価値になるって、一体どういう原理でそうなるんだよ? 謎すぎて怖いんだが……

 

 と、とりあえずここまで予想してなかった輝きが優子達を惹きつけたのなら、真珠のブレスレットに込められた意味を深く追求される心配はないってことにしておけばいい……のか? 分からん。

 

 

「びゃ、白哉さん……こ、こんな高価すぎるかもしれないものを、私が貰ってもいいんですか……?」

 

 

 遠慮がちながらも期待の眼差しを向けてきやがって……そんな瞳をされたら惚れてまうやろっ‼︎ 付き合っているからもうとっくに惚れているようなもんだけど。

 

 

「………………いいんだよ、お前の為を思って頑張って用意したんだから。その代わり、ずっと飾るとかしないでちゃんと着けてくれよ。ブレスレットはその為に作られたものなんだから」

 

「はっ……はいっ‼︎ 一生一生、大事に使わせていただきます‼︎ フヘヘェッ……♡」

 

 

 一生は大袈裟すぎるだろ、とツッコミを入れようかと思ったがやめた。俺がプロポーズをした時以降見せなかった、心の底からの満面の笑みを見せてくれたのだから。その後はめっちゃニヤケ顔になってたけど。

 

 それはそうと、分かってたことだけど一言。

 

 

「リコさんなんで連絡も無しに来てるんすか」

 

「ホントになんで居るんですか」

 

「ウチもシャミ子はんを祝いたい〜」

 

「ありがとうございます‼︎」

 

 

 やっぱり桃とばったり会って同行したんだな。まぁ、奈々さんも一緒に来たのは想定してなかったんだけどな。

 

 

「せや、ウチからもあるんよ。急やったからあんまエエもんやないけど」

 

 

 そう言ってリコさんが紙袋から取り出したのは……うん、ここも原作推奨した俺だから分かる。優子がかなり喜ぶ類の一つだ。

 

 

 

「ほげえええええ‼︎ ぷ……ぷぷぷプレイキャスト2⁉︎ いっいいいいいいいんですか⁉︎」

 

 

 

 ………………うーん、なんだろうな。分かってた反応、分かってた反応なんだけどさぁ……

 

 

「ゆーても十五年前の機種らしいで。マスターのなんやけど3買うたから、2は埃被ってるんやて。使ったげて〜」

 

「ほがぁ」

 

「これ遊び終わったソフトやて」

 

「ほげぇ‼︎ ほげぇ‼︎」

 

「あと薔薇の花〜」

 

「はぎゃああああ‼︎ 何それかっこいい〜!!! 王子ですかーっ⁉︎ ハスハスー‼︎ ハスー‼︎ ハスー‼︎」

 

 

 恋人にまだ見せてない反応をそこでされるのってさぁ、なんだか複雑すぎるんですけど……

 

 

「……桃、今お前が思ってたことを想像して一緒に言っていいか?」

 

「……奇遇だね白哉くん、私も君と同じ事を言おうかと思ってた」

 

「「これで勝ったと思うなよ……」」

 

 

 なんか腹立つから、夜のお楽しみは寝かす余裕が無いくらいに激しく抱いてやるか。容赦しねェぞこの野郎……‼︎

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その29


シャミ子の誕生日会の夜

シャミ子「あ、あのぉ……びゃ、白哉さん……?」
白哉「………………なんだよ」ムスッ
シャミ子「いや、その……リコさんからプレゼントを貰った時の事は反省してますので……」
白哉「………………貰った時の事が、なんだって?」ムスッ
シャミ子「えっ。えっと……て、手に入れたことのなかった、超レア物であるプレイキャスト2を貰えたことが、あまりにも嬉しかったものでして……」
「そ、それと薔薇の花も渡された時は、純粋にカッコよかったからつい正直な反応を……で、でもリコさんは告白してるわけではなかったですよ?」
白哉さん「それはわかる。リコさんのことだからどうせ揶揄ってたんだろ」
「けど、俺がプレゼントを渡した時よりもめちゃくちゃ喜んでいるように見えるのはよろしくねェ」ムスッ
シャミ子「そ、それは本当に申し訳───」
白哉「だから、はいこれ」
シャミ子「えっ? な、何ですかこれ? 白い花が、九本?」
白哉「胡蝶蘭っていうんだ。リコさんに負けた気がして悔しかったから、帰りにこっそり買ってやった」
「花言葉は『幸福が飛んでくる』と『純粋な愛』の二つ。んで、花束の本数にも意味はあるんだよ。九本の意味は……『いつも一緒にいてください』だ」
シャミ子「………………………………ッ」
白哉「……ヘヘッ。俺も初めて見せるお前の表情、自身で起こすアクションで見られて嬉しいぜ」
シャミ子「や、やっぱり白哉さんはズルいです。ズルすぎます……」
白哉「今夜はもっとズルくなるぜ。絶対今まで以上に寝かさんからな」
シャミ子「……寧ろバッチコイ……ですッ」
白哉「目、泳ぎすぎてるぞ」
シャミ子「誰のせいですか誰のッ‼︎ これで勝ったと思うなよー‼︎」


やっぱりシャミ子はNLに限る(キリッ)


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優子の先祖・リリスさん復活‼︎ んで訳あってキャンプすることになったのだが……

長老者だって我儘を言いたいんだってことで初投稿です。

久々に原作の話を二話くっつけました。


 

 それは、俺の部屋にこの俺白哉・優子・桃・ミカン・ウガルル・遊びに来た拓海・蓮子・いつもの桃の米炊きのついでに遊んで帰ることになった柘榴さんの計八人が集まっていた時の事だった。

 

 

『余がどうして怒ってるか分かるぅ?』

 

「えっ……?」

 

 

 リリスさん、顔が歪む程に絶賛イライラ状態真っ最中です。なしてさ?(知らないフリするのやめろ)

 

 

「……ごせんぞ怒ってるんですか?」

 

「ウチの召喚獣の何匹かがリリスさんの悪口を言ってたことにですか? その時は俺とメェール君がお灸を据えてやったので勘弁してやってください」

 

『えっ? 余、召喚獣達に陰口叩かれてたの? 初耳なのだが……いやそうじゃなくて‼︎ もっと別の方で余は最近ご機嫌斜めなの‼︎ なんでか分かるか⁉︎』

 

 

 あぁ、この後の展開を知っていることを悟られぬためにいい加減なことを言ったけど、自分の悪口の事は知らなかったみたいだな。貴方のプライドに関わることなので陰口には目を光らせてもらわないとダメですよ?

 

 

「さっぱりわかんないっす。……あ、★5演出だ」

 

「桃、お前は人が大事な話してる時にスマホ弄るな」

 

『それもガチャ引きはすごい腹立つぞ‼︎ ……まぁ良い、単刀直入に言う‼︎ 余にもおっきい依代を寄越せ‼︎』

 

「被りキャラだった……」

 

『聞けぇぇい‼︎』

 

 

 真面目に聞く気が毛頭ないらしい桃に対して迫真の怒号。一瞬ホラーな感じの表情をしていたものだから、これは相当お怒りであると見て間違いないだろうな。

 

 リリスさん曰く、ウガルル召喚の時の自分はやたら協力的であるため、然るべき褒美としてウガルルと同じ等身大かつ長持ちするボディーを所望したいとのことだ。まぁウガルルの依代を作るのに何が必要なのかとかを色々と説明してくれたのだし、やたら協力的と言ったらやたら協力的だったな。

 

 

【言っとくけどお前さん、仮に依代できたとしてもほぼ無意味と化すで?】

 

『何故だ⁉︎』

 

「ってか白龍様、いつの間に現界したんですか」

 

【今日も今日とて小倉の実験の手伝いをしてたぜ】

 

 

 突然の白龍様の登場にみんなビックリ。そりゃ先程までこの場にいなかった者が突然と現れたらみんなビックリしたり警戒したりするわ。出るタイミング諸々を考えてもろて。

 

 

【リリス殿……アンタ今のままでは現界するにも限界があるぞ】

 

『何故そこでダジャレを言う⁉︎《現界》と《限界》ってか⁉︎』

 

【いいところ見抜くなぁ〜……ってそんなことはどうでもいいとして】

 

 

 今のダジャレは偶然だったんですかい?

 

 

【アンタの魂は古代の封印の術(?)によって邪神像に固く縛り付けられているんだろ? その封印を解くかそれに抵抗できる力が無い限り、外の世界に魂を送れたとしても、封印の術による強い引力の働きによって限られた時間が過ぎた後に無理矢理引き戻されるんだよ。つまりデカい依代に憑依しても、それを維持する力が無ければ秒で魂を戻されるぞ】

 

 

 ほとんど原作で桃が説明する内容と同じではあるが、古代の封印の力に今のリリスさんが抗えないことは確か。その封印を解除する術が今の俺達にあるわけでもないし、そもそもそれに抵抗できる力とはどのようなものなのかもまだ分かっていない。だから現状、リリスさんを長時間現界させるのは非常に困難というわけだ。

 

 

【つまり膨大な魔力を取り戻さない限り、アンタの魂はずっとそのクソダサ銅像に縛られるままなんや】

 

「きさまクソダサ銅像とはなんだ」

 

【あるぇ〜? なんかシャミ子にタメ口で怒られたんだけど】

 

「先祖を馬鹿にされたらそりゃあ怒りますよ」

 

 

 優子はなんやかんやリリスさんをすごく慕っているし、そもそも人を馬鹿にしないというか馬鹿にしたくない性分であるからな。魔族のノウハウみたいなのを教えてくれたリリスさんが馬鹿にされたらキレるに決まってる。

 

 というか、スケッチブックに書いた文字の中で『クソダサ銅像』ってデカデカと強調するのやめてもらってもよろしいでしょうか? 悪意マシマシすぎるでしょ。

 

 

「ごせん像はまぬけじゃないです。ごせんぞはとってもかっこいいですよ」

 

『へったくそなフォローをするなっ‼︎ 余だってこんなダサ像とっとと捨てて自由になりたいわ‼︎』

 

「すみませんが無理なので……それにリリスさん、体を取り戻したら世界征服……とか言ってたし」

 

『そんなしょーもない夢マジで言ってるわけ無いだろう‼︎』

 

「数千年前の封印の力ってのはそう易々と解けないもんすよ。色々と封印の構造が複雑になっているのかもしれませんし」

 

『可能性はあるから‼︎ ご都合展開があるから‼︎ おぬしの召喚獣を呼び出す力ならなんとかしてくれると信じたい‼︎』

 

「それで貴方を自由に出来たら苦労はしねーよ」

 

 

 優子のフォロー、桃からの断りの言葉、俺の補足での説明、これらを持ってしてもリリスさんは等身大依代を手に入れることを諦めようとはしなかった。そもそも『諦める』という文字すら頭に浮かんでいない様子だ。

 

 俺の召喚師としての力頼りになろうとしたり、挙げ句の果てには漫画とかでありがちなご都合展開を願ったりするつもりのようだ。ぶっちゃけ召喚師の力を使う時はオート操作みたいな感じだし、ご都合展開なんてそう易々と起きるわけがない。無理が通れば道理がひっこむわ。

 

 

『ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ‼︎ 一生お利口さんするからーっ‼︎ 靴とか舐めるからー‼︎ 桃ちゃま白哉ちゃまなんとかしてーーーっ‼︎』

 

「えぇぇ……」

 

「正直に言って靴を舐められるの嫌なんですけど。人権的にも衛生的にも」

 

 

 というか五千年程前まで偉大そうな立場にいたはずの者が、駄々こねて脛かじって尊厳捨てて恥ずかしくないんですか? 永劫の闇を司る魔女でしょアンタ。

 

 

……私はほんとにかっこいいと思ってたんです……ごせんぞのこと……

 

『えっ? 何故シャミ子が泣くのだ?』

 

「貴方の事を本気で慕っているからこそですよ。これ以上、子孫の目の前で情けない姿を見せないでやってください」

 

『お、おぉう……』

 

 

 もしかしてこの人、優子にもそこまで慕われていないと思い込んでるのか? 貴方自分の子孫の事を信じなさすぎ。もうちょっと信頼感を持ってですね……

 

 とはいっても、リリスさん遥か昔に訳も分からずいつの間にか封印されて、五千年間もごせん像の真っ暗な空間で孤独な人生を送ってきたもんな。小さい依代でも味覚も触覚もほぼ無いと言うし、そりゃちゃんと外の世界の空気を吸いたくなるよな。そこは分かる。俺ならめっちゃ心折れてたと思うし。

 

 と、そんな事を考えていたら、何やら天井から人が降り立って来た。えっ何事? 天井には小倉さんが勝手に居座っているのは分かるけど、梯子は……?

 

 

「失礼。ちょっといいッスか?」

 

「って全蔵かよ。まさかまた小倉さんに絡まれたのか」

 

「これで十二回目ッス。それよりもこれ、小倉さんに渡してきてって言われたものッス」

 

 

 十二回目って、お前どんだけ小倉さんに連行されたんだよ? 忍術を実験の何かに使われてるのか? 何はともあれ、ご愁傷様だな……

 

 で、今俺が全蔵に渡されているものは、『おぐらボタン』と書かれてある赤い『押』マーク付きのボタンだ。うん、予想できる。『おぐら』って文字があるせいでどんなものなのか想像ができるよ、マジで。

 

 

「これってさぁ……今ここで押さないといけない系なのか?」

 

「そうッスね。小倉さんがこのタイミングならこれが役に立ちそうとか言ってたッス」

 

 

 あーやっぱりか。タイミングって言葉を聞いただけでこのボタンがどんなものなのかが確信つくわ。厄介なものではないけど不気味だから押したくねぇ……

 

 

「まぁでも、どうせ天井に向かって呼べば問題無いことなので、適当に捨てるなりしてほしいッス」

 

「オッケー、今からこれぶっ壊すわ」

 

「待ってっ‼︎ 壊さないでっ‼︎ みんなの為を思って作ったものだから壊しちゃヤダッ‼︎」

 

「うわでた」

 

 

 やっぱり小倉さんを呼ぶためのボタンだったか。けど勝手に出て来たからやっぱり意味ないかもしれんな。

 

 んで、何故小倉さんが登場したかというと、リリスさんの等身大依代が作れるかもしれないからそれを報告したいとのこと。ウガルルを召喚する時に精製した素材が少し余っており、薄めて使ってもかなりの濃ゆさの魔力粘土になるため、古代の封印に多少だけど抵抗できるらしい。

 

 せっかくの機会が出来たことだし、リリスさんにはこれまでに色々と手助けしてくれたお礼があるのだから、その魔力粘土を作ってそこから依代を生成することに。

 

 ちなみにあのボタンは俺達の部屋に無理矢理付けられました。しかもドリルでだぞ? 解せぬ。

 

 何はともあれ、早速リリスさんの依代作りに挑戦。本来の魂の形に近づけないと依代の寿命が減るらしいので、慎重に作らんとな……

 

 

 

 

 

 

 そして翌日。

 

 

「お待たせーーーーーー‼︎ 余、降臨だ‼︎」

 

 

 リリスさんの等身大依代完成&魂移出、成功。別に衣装は魂に寄せなくても大丈夫とのことで、二度目の優子との魂交代時に着たゴスロリ風のものにしたようだ。

 

 当然実際に見たことのない姿の依代を作るのはかなり大変だったので、完成したのが徹夜明けだったわけなので、ぶっちゃけ疲れました。もちろん桃はめっちゃ眠そうにしてます。

 

 だが俺は眠くない。メェール君の回復魔法で安眠できたので、ぜーんぜんっ眠くないもんねー‼︎ 桃には申し訳ないけど、優子を俺と一緒の部屋に居させなかった中であいつを俺の部屋に居させてメェール君の回復魔法を受けさせるわけにもいかないし……な?

 

 

「へー。リリスさんって実際に見るとスレンダーなモデル体型なんですね」

 

「なんだ褒めてるのかー? ホントはシャミ子の身体が好きな癖に余の身体の事を褒めるのかー?」

 

「いや優子の場合は身体どころか性格諸々全部含めて愛しているので、変なこと言わないでくれません?」

 

「か、身体だけじゃなくて……ッ。わ、わかりきっていたことだけど、そうなんですね……フフッ」

 

 

 ……あっ。今、すごく恥ずかしい事を言っちゃった。ヤベッ、顔が熱くなった気がする……

 

 ちなみにこの依代、七日で活動を終了するとのことらしい。これでも努力して活動寿命を延ばした方で、魔力・筋力・色んなところをコストカットしたことにより、戦闘力も昆虫レベルしかないらしい。セミとかに負ける等身大って何……?

 

 

「セミ並みの寿命、余すことなくお外を謳歌するぞ‼︎ 五千年引き篭もった鬱憤を七日で晴らすのだ‼︎ ついて来いシャミ子‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

「あ、ここからは魔族の先祖と子孫水入らずで楽しむんですね。じゃあ俺はこれで───」

 

「何を言う‼︎ 白哉も一緒に遊ぶぞ‼︎ シャミ子の悠久を共にするパートナーなのだから、おぬしが同行しても何の問題もない‼︎ というか一緒に来い‼︎」

 

 

 ぐえっ。襟を強く引っ張らないでもらえませんか。というか昆虫並みの力でも人の襟を引っ張れるくらいの腕力はあるんだ。マジもんでの昆虫パワーしか無いってわけじゃなくてよかったよ。いやマジで。

 

 

「私寝ていいですか? 依代作りで徹夜なんです」

 

「ダメ‼︎ 桃も一緒に遊ぶの‼︎」

 

「俺が同行するんで別に桃も連れ込まなくても……」

 

「いーや‼︎ せっかくの外だから桃とも一緒に楽しみたいのだ‼︎」

 

「子供ですか」

 

 

 まぁ二千数年も封印空間に閉じ込められたんだし、複数人で楽しみたいと思うのも無理もないよな。それに桃とも色々と世話になってるみたいだし、もっと仲良くなりたいと思う意思もありそうだし……桃がさらに疲れるのは申し訳ないけど、リリスさんのわがままを聞いてやるとするか。

 

 

「これからは秒単位のスケジュールだ。まずは銭湯巡りだ‼︎」

 

 

 あっ(察し)。男女混合のメンバーで秒単位での銭湯巡りはまずいのでは?

 

 

「すみません、それだと俺まで男湯に入った時に出るタイミング云々で時間の割が合わなくなるのでは? あっ、俺が外で待てば良───」

 

「クックックのク……そういうと思って、こんなこともあろうかと白哉、おぬしも余達と一緒に風呂に入れる場所のみを回ることにしたぞ」

 

「あ、そうですか。それなら時間が削られてしまう恐れもないし、よかった………………ん?」

 

 

 えっ? 俺も優子達と一緒に風呂に入れる銭湯? それってつまり……

 

 

「おぬしも察したようだな。そう、今から回る銭湯は………………

 

 

 

 全て混浴のあるところだぞ‼︎」

 

 

 

「ニュエェッ」

 

「ウェエェエェエェッ!? こ、こここここここここ、混浴……ですか⁉︎ えっ⁉︎ えぇっ⁉︎ 嘘ですよね⁉︎ ええぇっ⁉︎」

 

 

 顔辺りに何やら爆発を浴びたかのような、熱さを受けたかのような感覚を得てしまった気がする。少なくとも優子は確定しているかのような真っ赤な表情をしている。まるで実際に入ってのぼせてしまったかのような様子だ。うん、可愛い。

 

 というか銭湯にも混浴のところとかあったんだ……二次創作の世界でもそんな設定聞いたことないぞ……なのになんでこの世界にはいくつもあるんだよ、怖っ……

 

 

「なんだ? 二人とも一緒の風呂に入ってる経験をしたのではないか?」

 

「ないですね。ウチの風呂は吉田家と共同で使ってるってこともあるので」

 

「そ、そもそも考えたことすらなかったです……」

 

 

 うん、それもある。いつもの風呂で二人っきりで入るだなんてことは考えていなかった。いつもあのドエロな危機管理フォームの優子を抱けるって考えるだけで興奮して飽きない……って何考えてるの俺。おもっくそ変態発言してるやんけ。恥ずい。

 

 

「まぁよい、この混浴巡りを機に今後の性交は風呂とかでもやろうって考えてみるのも良いぞ。……どっかの銭湯でヤるというのなら、待ちながらスケジュール調整もしておくが?」

 

「「結構ですッ‼︎」」

 

 

 他の人達も使う銭湯で何ヤらせようとしてんだこの淫魔っぽい魔族がァッ‼︎ 人目や場所すら気にしない程には盛ってねェよ俺達は‼︎

 

 

「……今、何やらねむけが覚めそうで面白そうなことが聞こえたような気がする……」

 

「いや、気のせいだ。追求するな」

 

 

 この桃色魔法少女はこの桃色魔法少女で何を言ってんだよマジで。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなな会話がありながらも、リリスさんの外界謳歌のプランがスタートした。行くぞー‼︎ うおーっ‼︎ デッデーデデデデーッ

 

 まずは先程も宣告された通り銭湯巡り(混浴ありの)だ。しかも二十分で出て次の店へ、冷風呂と温風呂にそれぞれ片足ずつ入るという感じでだ。この入り方はリリスさんしかやってないが。途中でサウナにも入った。頭がパンクしそうだ……

 

 ちなみにこの銭湯巡りで、結局何軒目かの銭湯にて、何回か優子に○かせてもらう羽目になりました……

 

 混浴でタオル巻いて風呂入るなと指示してくるところばっかりで、優子の裸が何度もチラついて思わず興奮してしまったものだから、リリスさんに気づかれぬ様に優子にパ○ズ○で至らせてもらったら、そこからヒートアップして……

 

 こん時、桃が寝ていただけまだマシだったのかもしれねぇ。あぁもう、何やってしまったんだ俺……

 

 この後はリリスさんや我々の体調の事も考え、スケジュールを組み立て順番を一部変更しながら行動。ホットヨガ教室で身体をほぐし、SNS映えする仲良し写真を撮り、有名ラーメン店でニンニク野菜増し増しラーメンを食い、三本連続で映画鑑賞(内一本は3D体験型)をし、最後は家族で雑魚寝をすることに。

 

 このスケジュール、やっぱり思った通り初日からハードル過ぎね?

 

 

「ここで帰ってもいいですかって言っても、貴方はそれを許してくれないでしょうね」

 

「当たり前だ‼︎ 子孫の眷属だって我が一族の仲間……謂わば家族のようなものだぞ。そんな奴らを除け者にするなど言語両断、おぬしも家族として最後まで付き合え‼︎」

 

 

 それって、ただ俺も一時的な感じに眷属になった桃も巻き込みたかっただけなんじゃね? と思ったけど、そういうのは微塵も指摘しないでおくことにした。古代より生まれし者に家族として認識されたのが嬉しかったから……いやマジで、素直に。

 

 

「そこまで言うのでしたら、みんなで一緒に川の字で寝ましょうか。家族ですし」

 

「うむ、みんなで仲良く寝た方が楽しいぞ‼︎」

 

「か、家族……」

 

「えっもしかして私も家族扱い?」

 

 

 そりゃそうだよ。リリスさんが眷属の事を家族として認識しているのだから、そういうことになるんだよ。原作でも百合厨なネット民によって優子との百合な関係を持ってると思われているんだし、それでも家族扱いされてるようなもんだろ。俺は断然NL派だけど。

 

 

「家族……白哉さんが、私達と家族……と、ということは、いつか白哉さんと結婚して、さらに子供が何人も……えへへっ……♡」

 

 

 で、優子は優子でまた妄想を飛躍させすぎてるよ。リリスさん、とんでもない地雷発言をしやがってチクショウ……‼︎ 嬉しいことに変わりないけどさ、今となって複雑になってしまったじゃねェかよオイ……

 

 で、翌日からは俺達は学校ということで、ここからは柘榴さんがリリスさんの外界謳歌満喫プランに同行することになりました。柘榴さん、貴方も仕事があるのでは? いや就職してるのかは知らんけど。

 

 

 

 

 

 

 で、四日目となったある日のことだった。

 

 

柘榴:学校終わった?

   とんでもないことになった

   助けて(>人<;)

 

 

 という顔文字つきのメッセージを柘榴さんが送ってきた。顔文字可愛い。

 

 二日目から学校に行ってた俺達に代わってリリスさんの外界謳歌満喫プランに付き添っていた彼からのSOSのメッセージということは、他の人なら柘榴さんが体力や精神に限界が来たことで送られてきたものだという捉え方をするだろうが……

 

 

「あぁ……やっぱり『生き急いだら逆効果だよ』とか言うべきだったかもしれないな」

 

 

 原作推奨済みの俺だからこそわかる。これは多分柘榴さん自身に関するSOSではない、リリスさんに関わるSOSだ。あれだけ秒単位で現実世界を体験しようとしてるし……

 

 

シャミ子や〜……お帰り……

 

「ごせんぞぉぉぉ⁉︎ どうしたんですか⁉︎」

 

 

 あぁやっぱり。ホームレスな大人みたいになってますよリリスさん。結構心が荒んじゃってるよこの人。やっぱりスケジュールがカツカツってレベルじゃない程にヤバかったんだな。

 

 

「……なんか、リリスさんが求めてたことを片っ端からやってたら、病んじゃった」

 

「柘榴は止めなかったの……? ずっと一緒にいたんだよね……?」

 

「……古生の人がしたいことを咎めるのは、ちょっと違うかなって思ってた。けど、結果的に逆効果だった」

 

 

 あぁ、柘榴さんは数千年出来なかったことを止めるのは野暮だと思ってたんだな。他人の長い間我慢していたことは最後までやらせたい派……みたいな感じか。その結果がこれだけど。

 

 リリスさん、一時的かつ条件つきとはいえ封印から解放された喜びから色々なことをやりたいと思ってたんだろうな。それが先走りしすぎて裏目に出て……だったら尚更、このまま疲れた気持ちで封印空間に帰らせるわけにもいかないな。

 

 

「あの……ごせんぞ。残った時間で、思い切って静かなところに旅行に行きませんか? 水と森が綺麗なところを知っているんです。明日から……『おくおくたま』で大自然キャンプに行きましょう‼︎」

 

 

 おっ。そうこう考えていたら、優子が原作通りリリスさんに残りの時間を素敵な思い出で埋め尽くそうと言っているな。リリスさんに心を安らぎを与える為には、静かで自然豊かな場所でみんなとワイワイするのが一番だな。

 

 ……俺も、それを促すように自分なりの言葉をリリスさんに掛けてみるか。

 

 

「リリスさん。貴方が心を弾ませることができないのは、実質一人で限られた人生を送ろうと必死になりすぎたからなんだと思います。人も魔族も、一人で色々やってみたいと思っても、自然に寂しさを募らせて己の心を削ってしまうものです。だからこそ、その荒んでしまった心をみんなで修復していき、限られた時間を賑やかで楽しいものにしていきましょう」

 

「シャミ子……‼︎ 白哉……‼︎」

 

 

 よし、どうやらリリスさんの心に俺達の言葉は響いたようだ。これなら安心して明日からのキャンプに望めるってわけだ。後は杏里と……ついでに勝弥も呼ぶか。あいつ偶にソロキャンしてるって言うし、キャンプに必要なもんを杏里と一緒に持って来てくれるだろ。

 

 ……となると、あの原作イベントか。優子に何かあったらを想定しながら動かないとな。

 

 

 

 

 

 

 翌日。リリスさんがデカい依代ほしい宣言した時にいたメンバーに加え、家族用のキャンプセットをそれぞれ持ってきてくれた杏里と勝弥も入れて『おくおくたま』でキャンプすることになった。

 

 

「うわー‼︎ めっちゃ山‼︎」

 

「山だから山だけどすっごい森山感‼︎」

 

「やーーーーーーっほーーーーーーーーー‼︎」

 

「頂上何処だ頂上ォォォーーーォォォーーーッ‼︎」

 

「二人とも喧しいわ」

 

 

 ホントそれですね。杏里は原作読んで知ったからともかく、勝弥まで山に来て興奮するとかさ……この二人も結構お似合いなのでは? お前ら付き合っちゃったりしない?

 

 と、そんな事を考えていたら古い形の鏡が入っている祠を見つけた。昔の人間が自然を畏れて建てたものだという。古い土着の信仰が沢山あったから魔力も高く、霊水の質もかなり高いかもしれない……というのが我々の憶測だ。

 

 いや、よく考えたら霊水は桜さんの魔力の質の良さに影響されてすごい回復力になったのかもしれないな。でないとあんな回復力はあの時起きなかったかもしれないし……

 

 まぁいいや。せっかくとのことでお祈りもしたことだし、そろそろキャンプ用テントの準備でもしておくか。

 

 

ふむ……銀の輝きを持つ者の力、他の者とはかなり異質なものだな。さぞ面白かろうな……

 

 

 ん? なんか直接語りかけられた気が……?

 

 

 

 

 

 

 この後みんなでキャンプの準備をし、念願のバーベキューターイム。実は俺、優子やリリスさんと同じくキャンプどころかバーベキューなんてした事がなかったから、どんな風に楽しめるのか結構期待している。

 

 焚き火で周囲があったかくなったところで、いよいよバーベキュー開始。杏里が実家の店から持ってきたドデカい牛肉を、さらには勝弥が父親の釣ってきたエビやホタテなどの魚介類をタッチオーブンでローストしていく。

 

 というか勝弥のお父さんって漁師だったんだな。今知ったわ。なんでこのタイミングで初耳なんだよ。なんで教えてくれなかったんだよ。えっ? 聞かれなかったから? なんだその理由は、ふざけてんのか。

 

 

「……では。余命三日のシャミ先に黙祷を捧げてから、かんぱーい‼︎」

 

「オイ不謹慎だぞ。かんぱーい‼︎」

 

 

 勝弥も勝弥で乗るな、それこそ不謹慎だぞ。というかお前ら、もうすぐ封印空間に帰る魔族の長な人に対してよく黙祷とか乾杯とかできるな。どんな精神の持ち主達だよ。

 

 

「その乾杯、余はどういう顔をすればいい?」

 

「笑えばいいと思うよ」

 

「……フフッ」

 

「いや乗るんですか。ノリに乗るんですか。自分から振っておいてなんですが、よくもあんな不謹慎なのからノリに乗れますね。貴方の精神力も中々ですよ、病んでるのに」

 

 

 いっそのこと魔が刺してエ○ァを出してしまったこの俺にビンタをかましてやってもいいのに……なんであそこで笑えるん?

 

 

「いやなに、現世の宴なんて久しぶりだなって思ってたらいつの間にか笑えるようになっていてな。皆が余のために集まって、あそこまで賑やかにしてくれている……そう考えたら、心が結構軽くなってきたのだ」

 

「リリスさん……」

 

 

 そっか……そうなんだな……あいつらも悪意があって言ったんじゃないってことを理解した上で、あそこまで賑やかにしてくれた優子達への感謝の気持ちが強くなったんだな。それで不謹慎なのをあまり引っ張らなくなったと……

 

 リリスさん、それほどまでに既に心の安らぎを取り戻してくれたのか……よかった。

 

 

「……白哉よ」

 

「はい?」

 

「元々この案を出してくれたのは、余の子孫であるシャミ子だ。そしておぬしはそいつの恋人だ。だからこそ、改めておぬしに頼みたい。これからもシャミ子の為に、お互い死なない程度で良いからその身を捧げてやってくれ」

 

「……はい、俺に任せてください」

 

 

 どうやらここでリリスさんに優子の事を直々に託されたようだ。しかも突然というタイミングで。心に光を取り戻してくれた彼女だからこそ、このタイミングで俺に託したのだろうな。どうであれ、改めて優子の先祖に優子の事を託されたんだ。この約束は最後まで果たしてみせるぜ。

 

 この後リリスさんは肉や魚介類を食って目にも光を取り戻したり、ミカンの作ったホットカクテルで酔ってしまったり、それのせいか裸踊りをしようとして優子に止められたり、桃に絡み酒したり、寝ながら直接脳内に歌を流し込んできたりと……とにかく結構楽しんでもらえてよかったぜ。

 

 

「皆、余に優しすぎる。出会いと仲間に感謝……大自然に感謝……」

 

「リリスさんがいつもの調子に戻ってくれてよかったです。俺も安心しましたよ」

 

「でも、ちょっと飲み過ぎかもしれないですね。酔い醒ましに散歩させましょう」

 

「なら俺が片方の肩を持つよ」

 

 

 アレ? 二人で一人の肩を持つって、なんか戦場で負傷者を担いでいるように感じるのだけど、気のせいか?

 

 

「星が綺麗だ……」

 

 

 えっ? あっ、ホントだ。よく考えたら前世と優子がヤンデレだと知った頃からはそんなに夜空を見たことがなかったから、久々に見たら本当に結構綺麗に星が見えるな。

 

 

「おっ、流れ星がたくさん」

 

「あっホントだ。皆でお願い事をしましょうか」

 

「うむ、そうだな。封印空間に戻ってしまえば、もう流れ星にお願い事することはないだろうしな……」

 

 

 不吉な事を言うのやめてもらってもよろしいでしょうか。久々に外に出られたんですよね? 長年封印空間にいた時の感覚で言わないでもらってもよろしいでしょうか。

 

 まぁいいや、とりあえずお願い事するか。流れ星は結構早く消えるから、欲張らずに……

 

 

「皆で平和な人生、皆で平和な人生、皆で平和な人生……」

 

「最強まぞくになる、最強まぞくになる、最強まぞくになる……」

 

「封印解放、封印解放、封印解ほ──う……うっ……おえーーーーーーっ‼︎」

 

「あっぶねっ」

 

「ごせんぞぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 

 いやマジで危ねェ、咄嗟にエチケット袋を出してリリスさんが口からリバースするところに出しておいてよかったぜ……シンプルにリバースしたものを土の中に埋めるとか、自然の摂理を考えたら生理的にも嫌なんだけど。

 

 

「ここの湧き水、綺麗なんです。口を濯ぎましょうか……あっ⁉︎ カップが……‼︎」

 

 

 湧き水の勢いによって優子が落としてしまったカップを、素早く動いて回収‼︎ とはいっても、反射神経で体が勝手に動いたってだけなんだけどな。ま、ゴミとなる物をそのままにするのも環境に悪いから正しいけどな。

 

 

「す、すみません白哉さん。カップを拾ってくれてありがとうございます……というか召喚師覚醒フォームにならなくても柔軟に動けるんですね……」

 

「いや自分でもそのままでも動けるとは思わなかったけどな」

 

 

 気づかぬ内に自分の身体能力が向上していた事に、我ながら内心めっちゃビックリしていた……その時だった。

 

 

川に、ゴミを、捨てるな!!

 

「ヒィエッ⁉︎ す……すすすすす、すいませんでした‼︎ 今のは捨てたんじゃなくてちょっとしたミスなんで優子を責めないでやってもよろしいでしょうか⁉︎」

 

「ホ、ホホホホホ、ホントにすみませんでした‼︎ 今のは本当に事故だったんです‼︎ ごめんなさいでした‼︎」

 

 

 めっちゃ不気味な声が聞こえてしまったため、思わずめっちゃビビった声を出してしまった。いやね、脳内にめっちゃ響いてそうで響いてそうにない不気味な声ってのがより恐ろしさを感じさせるんだけど。怖がらない方がおかしいってこれは。

 

 いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。来てしまったのか、あの原作イベントが。このイベントは優子がとある突然のピンチに陥ってしまうものだ、充分に警戒を……

 

 

川を穢したな、小さき者に銀の輝きを持つ者よ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 ……ん? 銀の輝きを持つ者よ(・・・・・・・・・)? 原作では出なかった単語が出てきたような……もしかして俺? 俺の事か? 確かに銀髪だから銀の輝きはあるだろうけどさ……

 

 

しかし、汝らの能力は比興なり。本来ならば魂二つ纏めて我の元へと誘いたい所存だが、今の我の力では不便であるが故、一つしか連れて来れぬ出来ぬのが残念だ……

 

 

 は? 汝ら? 魂二つ纏めて? い、一体何を言って……

 

 

 

……決めた。銀の輝きを持つ者よ(・・・・・・・・・)、汝の方の異質な力が最も比興なり。魂來て我の酌をせよ

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 今、俺の事を指摘しなかったか? しかも汝の異質な力って、それは一体どういう───

 

 

 

 

 

「───って、ファッ⁉︎ ど、何処だここ⁉︎」

 

 

 な、なんだここ⁉︎ なんか迷彩柄の背景が一面に広がっているんだが⁉︎ うわっ、地面はめっちゃ紅い‼︎ けど血の色みたいな濃さはないことは確か‼︎ でも背景含め怖っ⁉︎ なんだここ⁉︎

 

 どういうことだ……⁉︎ 俺、さっきまで優子とリリスの三人で多摩川の湧き水付近にいたはず。なのになんで一瞬でこんな異質な場所に……⁉︎ 俺の精神世界ではないことは確かなんだが……優子とリリスさんは一体どこに……?

 

 

ここは、我が体内。汝の魂だけをつと引き寄せた

 

「ッ⁉︎」

 

 

 ふと俺の目の前に現れたのは、白と薄紫の鱗で覆われた巨軀の大蛇。突然現れたその存在に俺は咄嗟に後方へと飛躍し、呼称も無しに召喚師覚醒フォームになり、セイクリッド・ランスも展開して構えを取る。

 

 

そう警戒するでない。我は汝や連れの命を喰らうつもりなどない

 

「……申し訳ありません。突然俺をここに呼び寄せその姿を顕にして来たとなれば、即座に敵視せざるを得ないと判断しなければならないもので……」

 

……汝の心境も分からなくもない。我の行いが強引であったことも確か

 

 

 思わず謝ってしまったけど、ぶっちゃけこの大蛇が俺に何をしでかすつもりなのか分からないし、何よりも白龍様に負けない程の威圧感がある。下手をしでかせば魂を喰われるかもしれない。だからこの者の出方を疑わないと……

 

 

我は多摩川の遍く支流を司りし(みずち)なり。山の静寧を乱し、川を穢す罪。本来なら万死に値する。しかし汝の能力は小さき者に比例する程比興なり。余の酌をし楽しませよ

 

「………………」

 

 

 多摩川の自然の摂理を厳重に守る存在・蛟。彼に目を付けられたということは、多摩川の環境を穢した罪で抹殺されるということだ。けど俺は優子が迂闊にも落とした酒のカップを拾ったんだ。彼の怒りをあれ以上に買うようなことはした覚えが……

 

 

『ちょっとうるさいし川を汚されて怒ってるけど、それはそれとして汝の力は小さき者の力と同じくらい気になる。暇つぶしに付き合って』

 

「えっ? ………………あ、はい。そういうことですか。分かりやすい言葉で翻訳していただきありがとうございます……?」

 

 

 お、思わず気の抜けた感じにしてきた蛟さんにお礼を言ってしまった……そういえばこの大蛇、原作でも何かと優しいところがあるんだよな……つ、つい気が抜けてしまった。

 

 って、よく考えてみたら、なんで蛟さんに魂を引き寄せられてしまったの、優子じゃなくて俺なんだ? 原作では優子の方が引っ張られてしまったのに……いやぶっちゃけここでも優子が引っ張られたらめちゃくちゃ困るんだけど。

 

 というか、それってつまり……この後は優子が俺の魂を奪われたと思って、ヤンデレな感情が爆発してとんでもない暴走を起こしてしまう展開が来てしまう……ってコト⁉︎ ちょっ、ヤバいじゃんそれ早くここから出してェェェェェェェェェッ⁉︎

 

 




意外ッ‼︎ まさかのシャミ子ではなく白哉の魂が攫われてしまったッ‼︎

原作とは大きく異なる展開となってしまった今、白哉やシャミ子達はどう抗う⁉︎ 次回以降を待て‼︎



ん? ほそく話? こんなとんでも展開の中でそんなの流せられるかッ‼︎


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蛟さん、俺を元の世界に帰してください‼︎ 優子が取り返しのつかないことをする前に‼︎

この怒りは微ヤンデレじゃなくて、普通のヤンデレという域のレベルやん。ってことで初投稿です。

原作と異なる展開で大ピンチの白哉の運命は如何に⁉︎

ちなみにブックオフコラボのは時間が時間で買えず、店員さんの話から再入荷も見込みがつかなそうなのでやめました。解せぬ……


 

 生き急ぎすぎたごせんぞの荒んだ心を癒す為、皆で大自然キャンプをする事になった私達。ごせんぞが心の底から楽しんでくれて安心したものの、白哉さんと三人で夜の散歩をしていた時に……

 

 

「白哉さん⁉︎ 急にどうして倒れて……しっかりしてください、白哉さん‼︎」

 

「これは……精神が持って行かれている……⁉︎ 白哉の魂が『何者か』に攫われたのか⁉︎」

 

 

 白哉さんが、突然倒れてしまった。それも何やら不気味な声が響き終わったのと同時に。私がうっかりお酒のカップを川に落としてしまっただけで、どうしてこんなことに……そのカップは白哉さんがすぐさま拾ってくれたというのに……

 

 呼吸はしているから死んではいないとはいえ、とても嫌な予感がする。これはきっと、私が十年前に長く病院のベッドに寝ていた時と同じなのかもしれない。その実感が湧かないとはいえ、このまま白哉さんが数日も起きないとなると……

 

 ……ん? ちょっと待てよ? 今さっき、ごせんぞの口から聞き捨てにならない言葉が聞こえたような……

 

 

「ごせんぞ……今、白哉さんがどうなったって言いましたか?」

 

「えっ? せ、精神を持って行かれていると言ったが……」

 

「その後の言葉です。どうされたって言いましたか?」

 

「えっ……えっと……な、何者かに魂を奪われた、と言ったのだが……」

 

 

 なるほど。何者かが白哉さんの魂を……そっかぁ……そうだったんですね。そっかぁ、そういうことかぁ……

 

 

「でしたら……許せませんね

 

「へっ? お、おい、シャミ子……?」

 

誰が何の目的で白哉さんの魂を攫ったのかなんて分からないし、何が狙いなのかも分からない……でも、私の愛する幼馴染を、大好きな人を、彼氏を、魂を奪い取って自由すらも奪い取るだなんて、よっぽど自己中心的で人の気持ちを一切考えない酷い人なのかもしれませんね

 

「ちょ、おまっ、シャ、シャミ子……」

 

 

 そんな人に白哉さんの自由を奪う権利なんてない。やらせる権利もない。私は白哉さんに対して愛が重くなるまぞくなんですよ? そんな私から白哉さんを奪おうだなんて……

 

 

 

許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする絶対ポコポコにする───」

 

 

 

「ダ、ダメだ‼︎ やめろシャミ子‼︎ それ以上気を高めるな‼︎ やめろシャミ子!! 落ち着けェェェッ!!」ピロロロロロ……

 

「ヘアァッ!?」

 

 

 気が付いた時には、私はいつの間にかドデカい死神の鎌に変形させていたなんとかの杖におでこを強くぶつけられていた。す、すごく痛いしヒリヒリする……

 

 あれ? ちょっ、ちょっと待ってください? 私、なんでなんとかの杖をあんな人の命を根ごそぎ刈り取りそうなものに変形させたのでしょうか……? あれ……?

 

 

「あ、危なかった……ポコポコにするってレベルの怒りではなかっただろ……シャミ子よ。白哉の事が心配で仕方ないのは分かるが、周りが見えなくなってしまえば、白哉を助けられる術を自ら潰していく羽目になってしまうぞ。それにもし、おぬしが誰かを傷つけるようなことをしてしまえば、それこそ白哉が悲しむことになるぞ」

 

「えっ? ……あっ」

 

 

 そ、そっか。そうでしたか……私、白哉さんをこんな状態にした人の事が許せなくて、我を失いかけた……というか思いっきり失ってしまったんですね。いくら許せなかったとはいえ、自分を一瞬でも制御できなかったなんて情けないですね……そんなんじゃ白哉さんを助けれても、彼の心までは……

 

 

「まぁ突然の事だったから無理もない。余か白哉か桃じゃなければ止められなかったのかもしれんが……いや、そんな事はどうでもいい、とにかく今すべきことは白哉の身の安全の確保だ。一旦皆のところまで戻るぞ。積もる事は白哉を助けてからでも遅くなかろう」

 

「……はい‼︎」

 

 

 そうですね……いつまでも自分の不甲斐なさを嘆いている場合じゃない。今は白哉さんを桃達のところに連れて行って、彼がこうなってしまった経緯を皆に話さないと。

 

 白哉さん、待っていてください。必ず私達が貴方の魂を取り返してみせますからね‼︎ だからそれまで……無事でいてください。

 

 

 

 

 

 

 本当に、何故こうなってしまったんだ。どうしてこうなったんだ。思ってたんと違う。

 

 なんで優子じゃなくて俺が蛟さんに魂を奪われなければいけないんだよ。いや優子の魂も奪わないでほしいけどさ。どうしてこの人(というより大蛇)は俺の魂なんかを……

 

 ん? ちょっと待てよ? 確か原作で蛟さんが優子の魂をこの世界に引き寄せた理由が、彼女の持つ魔力に興味が湧いたから……じゃないのか? で、俺の持つ魔力も質か何かが優子以上に特殊であって、万物の心象に干渉出来て、封印されたままでもその力場を利用して魂を抜けれるから、そこに興味が湧いて……ってことになるのか? それなら納得がいくけど……

 

 とりあえず、今は彼の機嫌を損ねさせないことを最優先にしよう。でないと何をされるか分からないし、頼み事をしようにも機嫌を良くさせないと出来ないからな。

 

 まずは……彼からの説教をきちんと聞かないと。

 

 

『昼間騒いでいたのも汝の一行か。我の上で火を起こし肉や海の生き物を炊いた』

 

「あの、本当に申し訳ありませんでした……蛇は火が苦手ですし、知らなかったとはいえ生き物を焼くのは殺生みたいなものですよね……」

 

 

 嘘です、知らなかったというのは嘘です。貴方がこの山で封印されている事は原作読んで知りました。でも言ったらややこしくなるので、そこら辺は内緒にさせてくださいお願いします。

 

 

『生き物を焼くのは人間側の問題である為、それほど気にはしない。それと我は火が苦手だから怒っているわけではない、その火の熱が強すぎて中々眠れないからだ』

 

「あっ……そ、そうでしたか……」

 

 

 そういえば貴方、俺達がキャンプするまで寝てましたもんね。それなのに俺達のせいで起こしてしまって……マジですみませんでした。

 

 

『まぁ、もうそれはよい。とりあえず長き封印に倦みし我を慰めよ』

 

「あっ……はい、分かりました」

 

 

 慰める。蛟さんが言うには言葉通り慰めるのではなく、楽しませるという意味である。さっき『暇つぶしに付き合って』って言っていたから、そういうことだ。昔の言葉の意味って難問だね。

 

 

「けど俺が持ってる能力の中には、場所次第では機能しない場合があると思います。実際に起きたわけではないですけど、そこのところばご了承していただけると幸いです」

 

『そうか。限定的である可能性があるのならば、そこは我慢しよう』

 

 

 さてと……まずは召喚獣達を呼び出したり元の場所に戻せたりできないか確かめるとするか。もしかするといざという時に俺も一緒にこの世界から抜け出せるかもしれないし、やっておいて損はないはずだ。

 

 ここは白龍様を……いや、彼はやめておこう。こっそり話したい時に適しないからなあの人(龍)。だってスケッチブックを使わないと話せないし。

 

 

「猛虎、召喚‼︎」

 

 

 そう言って俺が呼び出すことに決めたのは、物体ならほぼ何でも壊せるポジティブ系メス虎・猛虎。彼女ならこんな状況で呼び出されても前向きな性格で乗り切るだろうし、その性格からこの状況を脱する手段を考えてくれそうだから、彼女を召喚することにした。そもそも召喚できるかどうか……

 

 おっ? いつも通りの感じに手を翳したところから魔法陣が出たぞ? しかも何かが出てきて……あっ、灰黄色と黒の縞模様をした虎が出て来た。猛虎だ。こんなところでも召喚できた。

 

 

『ほう、異質な力……魔力を持つ獣を呼び出せるのか。汝の能力、さらに少し興味が湧く』

 

【おっ? 何この蛇さん。もしかしてお偉いさんかな?】

 

 

 どうやら召喚術も召喚獣も蛟さんには好評のようだ。異質な力を持つ獣とか言っていたし、ここから力を見せればまた機嫌を良くしてくれそうだ。

 

 

「猛虎。こんなところに呼び出して申し訳ないけど、実はかくかくしかじかまるまるうまうまひよってるやついるいねーよな、というわけなんだよ」

 

【なるほどね……オッケー分かった‼︎ 後で『東○リ○ンジャー○』読ませてね‼︎】

 

「いや何が分かったんだ⁉︎」

 

 

 なんでそこで東リ○が出てくるんだよ⁉︎ お前話聞いてた⁉︎ って、アレ? なんかデジャヴを感じる。

 

 

「というか……召喚した上にそういう反応するだろうなとは思ってなんだけど、お前よく平然としていられるな? ここから自力で元の世界に戻れるかどうか分からないのに」

 

【んー? いきなりこんなことになったからって、鬱とかになったって仕方ないじゃん。だから今はやるべきやることやって、そこからどうするか考えるべきだよ】

 

 

 ポジティブシンキングがすごい……普段の影狼とは正反対な性格してるわこいつ……絶対キターンな陽キャだろ。召喚獣達の誰かと四匹でバンド組んで来いよ、人気になりそうだからさ。

 

 

【んじゃマスター、何か壊してもいいもの持ってる? 私の力を蛟さんに見せるから】

 

「………………急に言われましても、そんなもの持ってないから無理」

 

『その虎は破壊を得意とするのか? 我の財宝ならば壊してもいいものを出せるぞ』

 

 

 そうだった。そういえば蛟さんはゲドバビ……王の財宝みたいにたくさんの財宝を生み出す(?)ことができるんだったっけか。というか壊してもオッケーだとか、自分の財宝を何だと思っているんですか貴方は。

 

 

【えっいいの? やったー‼︎ だったら結構硬いものを出してくれる⁉︎】

 

「ちょっ、おまっ、お前は少し遠慮ってものを考えろよ。後彼相手には敬語を……」

 

『構わぬ。それよりもそこの虎……猛虎とか言ったな。汝の力を見せよ』

 

【はーい‼︎】

 

 

 ……立場とか気にせずノー敬語で話す虎に、万死に値するとか言ってたのになんだかんだ許す大蛇……意外と良いコンビになりそうなの何なの? この人達(蛇と虎)、案外マイペースで早い段階で仲良くなれるタイプなのだろうか? 白龍様に負けない程のマイペースなんだけど───

 

 

【どりゃああああああっ‼︎】

 

『ほう』

 

【でぃやぁああああああっ‼︎】

 

『おぉ』

 

【だらっしゃあぁああああああっ‼︎】

 

『なんという破壊力……‼︎ 銀の輝きを持つ者よ、汝はこんなすごい獣を何匹も携えていたのだな‼︎』

 

「えっ。まぁお褒めにいただき感謝します……けど猛虎、お前たくさん壊しすぎだ‼︎ 蛟さんの財宝を片っ端から壊して全部粉々にするつもりかっ‼︎ もうやめなさいっ‼︎」

 

 

 ちょっと、危ねェんだけど‼︎ めっちゃ危ねェんだけど‼︎ 破壊しためっちゃ硬そうな宝石みたいなものの破片がこっちに飛び散ってくるんだけど‼︎

 

 もうっ……もう引っ込めェェェッ‼︎ お前もう引っ込めェェェェェェッ‼︎ ポジティブ虎じゃなくてただの自己中心虎じゃねェか‼︎ 召喚獣の説明書に書いてある文を詐欺りやがって‼︎ いや関係ないけどそこはっ‼︎ とにかく引っ込んでくれよお前ェェェェェェッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 気絶してしまった白哉さんを桃達のところへと運んでいき、何故彼がこうなってしまったのかをごせんぞと一緒に説明した私。白哉さんの意識が何処に攫われたのか、何が目的なのかの説明を促されたものの、もちろんそんな事も分かるはずないので、それをそのまま説明するしかなかったのですが。

 

 魂を『何者か』に抜かれていることは確かで、そのせいで私やごせんぞが夢の中に潜ろうにしても潜れないし、白哉さんの召喚獣達も自力でこっちの世界に来れないらしい……いやどういう原理で? 魔力を通してなのかどうかも分からないためその原因すらも……

 

 とりあえず小倉さんに連絡を入れて、白哉さんの魂を探してもらうよう頼み込んで……圏外ッ‼︎ ここ山なの忘れてましたッ‼︎ ここぞという時に限ってどうしてこうなった……‼︎

 

 

「魂が抜けるとどうなるんだ? まさかこのままだと死んでしまう……とかじゃ───」

 

えっ死ぬ? えっ? 死ぬ? 白哉さんが、死ぬ? えっ? 死ぬ……白哉さんが…… い、嫌だ……し、死なないで……白哉さん死なないで……ハッ、ハッ、フッ、ハッ、ハッ……

 

「ギャアァアアアアアアッ!? シャ、シャミ子悪い!! 今のは綾!! 言葉の綾として言ってるだけだから!! 全然本気で言ってないから!! 俺も白哉には死んでほしくないと思ってるから!! だから過呼吸になるな‼︎ 落ち着け!!」

 

「───はっ!?」

 

 

 わ、私とんでもないショックを受けてヤバい状態になってました!? わ、我ながら一体なんでこんなことになってしまったのでしょうか……!? あ、あれ。息が苦しかったような……

 

 

「す、すごく危なっかしかったけど、シャミ子はそれほどまで白哉くんの事が好きだったんだ……良きだね」

 

「愛って行き過ぎると人を変えるのね……ある意味すごいわ、シャミ子」

 

「どこが!? どこが良いんですか⁉︎ どこがすごいんですか⁉︎ 私が暴走するとこの一体どこに良さがあるのですか!?」

 

 

 我ながら暴走した自分のことが色々な意味で罪悪感を感じるんですけど!? 私の白哉さんに対する愛が改めて酷く感じちゃうんですけど!? だから賞賛するのやめてもらってもよろしいでしょうか!?

 

 

「シャ、シャミ子が正気に戻ってくれたところで話を戻すぞ。魂が不在になると、すぐに死ぬというわけではないが、体の機能は徐々に弱まっていく。酸素欠乏症に近い状態だな」

 

「酸素、けつ……何ですかそれ?」

 

「酸素欠乏症。空気中の酸素濃度の低下により体内に酸素を十分に取り込めなくなった場合に起こる症状のこと。つまりは脳に深い精神的ダメージを受けるってわけだよ」

 

 

 あっ、なるほど。拓海くん、教えていただきありがとうございます……じゃなくて⁉︎ 脳にダメージを受けたら白哉さんが正気じゃなくなるじゃないですか⁉︎ まさか普通の人生を送れなくなるとか……⁉︎

 

 ダメダメダメダメダメダメダメダメ‼︎ そんなの絶対ダメです‼︎ 早く白哉さんの魂を取り戻さないと‼︎ どうにかして何処に魂があるのか探さないと……

 

 

「ちょっ、シャミ子⁉︎ なんとかの杖をなんか殺意の高そうな武器に変形させてない⁉︎ 気持ちは分かるけど落ち着きなさいよ‼︎」

 

「えっ? ……ハッ⁉︎」

 

 

 わ、私ってばまた何を⁉︎ な、なんでなんとかの杖を理性が無いのに強い忠誠心を持って動く凶暴戦士の持つ斧剣に変えたのでしょうか⁉︎ た、ただ白哉さんの魂を取り戻そうと決めただけなのに⁉︎ そこまでヤバい事を考えてないはずなのに⁉︎

 

 と、とりあえずなんとかの杖を元に戻さないと……‼︎

 

 

「す、すみませんでした。さすがにこれは自分でもなんでこんな事してるんだろうって思ってます……」

 

『いや何を今更』

 

「あれぇ⁉︎」

 

 

 私って『白哉さんの事になると暴走することがある』という捉え方で定着されているのですか⁉︎ 私は今、そういう方面での信頼度が無くてショックを受けてますが……

 

 

「……それほどまでに白哉君に対する愛情が歪む程凄まじいってことだよね。皆そんな君の事を悪くは思ってないよ」

 

「それはそれで嬉しくないですッ‼︎」

 

 

 柘榴さんは桃達と比べたらまだ私との面識が浅いとはいえ、そんな捉え方をされたらそうなってしまった自分が恥ずかしいししすごい罪悪感ッ‼︎ だからこんな事で褒められたくなかったですッ‼︎

 

 

「あぁ……シャミ子がショックを受けてるところ悪いが、今は白哉の魂を見つけるのが最優先だ。この山一帯のどこかに、自然に棲む人ならざるものに魂を拐かされ、囚われていると思うが……」

 

 

 申し訳なく思いながら説明しないでほしいのですが。それもそれで罪悪感が……

 

 

「なるはやで探し出さなくちゃダメか……早速山を吹き飛ばして更地にしよう」

 

 

 ファッ⁉︎ この桃色魔法少女は一体何をする気だ⁉︎ さっきの斧剣よりもドデカいサイズの丸太を持ってません⁉︎ 何処で見つけたってかいつの間に生成したのか⁉︎

 

 

「ちょっ、待って待って待って待って⁉︎ きさま即座に物理交渉に持ち込むな‼︎」

 

「いや此奴は交渉する気更々無い様子だぞ⁉︎ 脅迫して相手を黙らせる気だ!!」

 

 

 うおっ危なっ⁉︎ 思いっきり素振りしてるじゃないですか‼︎ きさまマジでこの山を更地にするつもりか⁉︎

 

 

「山を消しても白哉は戻らぬ!! まずは相手と交渉だ!! 物理とか脅迫とかではなくて口実交渉でだぞ!!」

 

「交渉了解」

 

「了解したなら素振りをやめよ!! シャミ子だって暴走しても素振りすらしなかったぞ!! だから今のおぬしの方がその時のシャミ子よりもヤバい!!」

 

「それもそれで複雑すぎるっ!!」

 

 

 もしかしてごせんぞ、それで私をフォローしているつもりですか⁉ フォローしてくれるのは嬉しいですけど、ホントどんな感情をすればいいのか分かりませんが⁉

 

 というか、愛の重すぎる私よりも力技する気マシマシの桃の方がヤバいってなんですか。怖っ……

 

 

 

 

 

 

『ほう、海の水を作り操るのか。汝の力も興味深いものだ』

 

【フォッフォッフォッ。若いもんにはまだまだ負けはしませぬぞ】

 

 

 猛虎を俺の元へと引っ込ませた後、今度は灰色のザトウクジラ──海王を召喚し、彼に今の状況を説明し、彼の持つ海水を生成し操作する能力を披露してもらうよう頼み込んだ。そしたら何の躊躇いもなく二つ返事。器が大きいとはいうが、何の躊躇いもないのは意味が違くないか?

 

 

『そこの麒麟と孔雀の能力も中々の比興なり。もっと我を楽しませよ』

 

【そ、そこまで言うのだったら、もっと俺の自慢の氷像アート達を作ってやらなくもないぜ?】

 

【………………】

 

 

 で、さらに召喚した聖と全長二・五メートルの孔雀──朝焼にも蛟さんに能力を見せてあげるよう頼んだら、朝焼は無口が故の間がありながらもはっきりと頷き、聖はなんやかんやでツンデレって了承。聖の氷の力で作った氷像を朝焼が飛行付与の能力で飛ばすというパフォーマンスをしてくれた。

 

 俺? 俺自身が能力を見せるのは、蛟さんに指示されたらにしたよ。なんか召喚獣達だけで蛟さんを喜ばせられているみたいだし、まぁ多少はね?

 

 

『このような愉快な気持ち、百五十年ぶりぞ』

 

「喜んでいただいて何よりです。俺も勇気を持って彼等を呼び出した甲斐がありました」

 

 

 よし、これで蛟さんを満足させることができた。後は俺が元の世界に帰れるよう上手く交渉出来れば良いのだけれど……

 

 

【ところで、蛇さんってマスターが昼にお祈りしていた祠に封印されているの? 今の私達、あの祠の中? だとしたら私達ってちっちゃくなってるの? それとも祠の中が意外と結構広いの?】

 

【これ猛虎よ、この方に敬語を使わぬのは失礼じゃぞ】

 

『構わぬ。……あの祠は我と俗界を繋ぐ覗き窓に過ぎぬ。この山全体が我の封印された姿よ。巨大な蛟がとぐろを巻いた状態で封じられ、木が生え山となった』

 

 

 なんか突然猛虎が蛟さんに質問していたから、原作通りに蛟さんの事に関する説明が始まったな。というか改めて聞くと、封印されて山になったってヤバくね? 山になる程に蛟さんはデカかったって事になるんじゃね? 後どういう原理で封印されたらそうなる?

 

 

『銀の輝きを持つ者よ、汝には体に刻のようなものが付けられているだろう。魂を引き込む時に闇の一族の匂いと少量の光の一族の巫女の匂いを感じたぞ。どうやら汝に刻を付けたその闇の一族は、きっと光の一族の助力を得ているのだろうな』

 

 

 えっ、俺にも魔族や魔法少女と似た境遇みたいなものを受けているってのか? 刻というのがどんなものなのかは知らないけど、それを付けた魔族が誰なのは確信がつく。優子だな、彼女が俺を悠久を共にするパートナーにしてくれたから、繋がりのようなものを俺に与えてくれたのかもしれないな。

 

 

「それさっきまで俺の隣にいた魔族……優子の事ですか? 彼女、俺の幼馴染で恋人なんです」

 

『ほう、あの小さき者と結ばれているのか。彼奴は小さき体でかなり苦労を重ねたのだろうな。憐れなことよ』

 

 

 かなりの苦労って……曖昧な感じとはいえ優子が苦労したことをすぐに察して理解してくれるとは、貴方改めて結構良い人じゃないですか。意外とかなり器のデカい……

 

 

【ねぇ、闇の一族って一体何? 魔族と同じのはずなのに魔族って呼ばないから違うの?】

 

「また急に砕いた言葉で質問していくのかよ」

 

『自然体で話して構わぬ。……闇の一族とは、光の一族の定めし世界の矩から外れた者達のこと』

 

 

 世界の矩……理や法律などといった決められたもののことのようだな。つまりは光の一族の善業などとが各々の思考等と合わず、それと異なることをして闇に堕ちた……ということなのだろうか。

 

 ……ん? んんん? ………………あっ(察し)

 

 

「あのっ……えっとぉっ……す、すいません。そのっ……ゆ、優子は、元は人間で……後に魔族、闇の一族になったって感じで……な、何といういうべきか……光の心を持った闇の一族?みたいな感じの子なんですよ……。えっと……偶に俺の事になると愛が重くなる感じになって、感情が歪む感じになってしまうんですけど……ひ、人に害を与える気は彼女にはないし、その感情を含めて俺は受け入れて恋人にしたのでっ、そのっ……最悪非常な程には世界の矩から外れてないって、認識でいてくれると助かると言いますか……」

 

『さっきから汝は一体何を説明しているのだ?』

 

 

 優子が世界の理から外れた行為をしたかもしれないことについて、アウトなのかセーフなのかを聞いているんですッ‼︎ なんで闇の一族が何者なのかを説明した後から察しないんですか貴方はッ‼︎ まぁこっちの説明不足ってのもあるかもしれないですけどッ‼︎

 

 この後蛟さんは優子のヤンデレは世界の矩に外れたわけではないと言うかの如く、闇の一族がどんな者なのかの説明を続けてくれた。いや、この場合は『ヤンデレの意味が分からんから知らん』って言ってるようなものか。その曖昧な判定だとこちらはどのように捉えればいいのか分からないのですが……

 

 闇の一族。今世で害を起こさずとも、異形の者・異能のもの・まつろわぬ者・世界の理を乱す者の四つを指す。そしてそれらのどれかに当て嵌まる者は古代の諚─命令─により誅せられる……罪を責められ殺される、とのことだ。

 

 あっ待って。ちょっと待って。それってヤンデレってしまった優子も古代で生きてたら処刑されていたってことになるんじゃないのかっ⁉︎ そう考えるとかなり背筋が凍ってしまうのだが……ッ。

 

 ここまで聞くと今の時代でも優子が殺されるかもしれないと思うだろうが、その心配はないことがこの後の説明で分かることに。

 

 古代の錠を定めた光の一族は、人に融け込み消え去ったのだ。天地開闢の荒ぶる大魔力はとうの昔に静まり全能の存在は無くなり、残ったのは蛇の抜け殻の如く薄まった世界の矩のみだそう。

 

 一応、現状では優子が殺される心配がないということは分かった。けどここまで聞いてもまだ分からない点がある。何故光の一族と闇の一族が生まれたのか、何故古代の二つの種族は相見えないのか……謎はさらに深まってきた。

 

 とはいっても、そういうのはまだ聞かされたばかりだし、何よりも状況が状況だから考える時間が今はない。だから一旦元の世界に帰って、本来原作通り一族の事を聞くべきだった優子に報告して……っていう風にできる事をやっておこう。それが得策だな。

 

 

「わざわざ貴重なお話をしていただきありがとうございました。それと今回は誠に申し訳ございませんでした。そろそろ皆と一緒にこの山から失礼させていただきます。ホラ、聖達も帰るぞ」

 

【フンッ、やっとかよ】

 

【私はもうちょっとだけ話したかったけどなぁ】

 

【そう言うでない。マスターの友人達が心配しておるからな】

 

【………………】

 

 

 なんか猛虎の方はまだここに居たいというけど、絶対そうはさせないからな。早く元の世界に帰りたいし、何より優子が暴走してしまわないか……というか暴走を続けてしまってないか不安だしな。ってなわけで元の世界に帰らせて……

 

 

『え? 帰る? なんで?』

 

「なんでって……平たく言えば俺がこの世界にいるのは全く似つかわないから……?」

 

『似つかわなくもない。汝は比興なる獣達を呼び出し、我の百十年間の寂しさを埋めてくれたのだ。よって我は汝が気に入った。ずっとここで我を慰め続けよ‼︎』

 

「しまった好感度を上げ過ぎた‼︎」

 

 

 ヤベェッ‼︎ やらかしたッ‼︎ 今気づいたッ‼︎ 原作でも優子がやり過ぎて蛟さんを喜ばせ過ぎて彼に執着させてしまったんだったッ‼︎ 原作推奨してた癖になんでそんな事に気づかないのかな俺は⁉︎ これじゃあ帰るにも帰してくれないやんッ‼︎

 

 

【えっ⁉︎ 私達召喚獣は帰れるだろうけど、マスターは帰れないの⁉︎】

 

【巫山戯るなッ‼︎ マスターはこんなところで一生を送っていいわけがないッ‼︎ アンタの独断でマスターの人生を決めつけるなッ‼︎】

 

【マスターは元の世界へと帰らなければならぬ‼︎ どうか考え直してくだされ‼︎】

 

【………………‼︎】

 

 

 これには当然召喚獣達も納得がいかない様子だ。そりゃあ自分の主人囚われることになって、反対しない方がおかしいよな……曙なら面白がるだろうけど(怒)。

 

 ッ……‼︎ テレパシー能力とかは俺は持ってないから、召喚獣達を元の世界に戻してから彼等自身の力で優子達の世界に行かせて報告させることに賭けるか……⁉︎ けど、俺の魂が抜かれた状態なのに、彼等にそんな事ができるのか……⁉︎

 

 ………………いや、ここは。

 

 

「……蛟さん。無礼承知で言わせてください。俺はここに居続けることはできません」

 

『何故だ?』

 

 

 

「優子が……俺の目覚めを待っているからです」

 

 

 

 自分の本音を思いっきり蛟さんにぶつけよう。これも一か八かの賭けになるが、想いをぶつければどうにか彼の心に変化が訪れるはず……‼︎

 

 

「先程も言った通り、俺には幼馴染で恋人でもある魔族がいます。彼女は多少歪ながらも俺の事を強く想ってくれているんです。大きな愛情を注いでくれます。そんな彼女が俺との関係に微量でも亀裂が生じてしまいそうになれば、最悪世界を崩壊しかねない行動をするかもしれません」

 

『……あの小さき者が、世界を崩壊しかねない事を……』

 

「確証があるわけではありません。普段の彼女は誰にでも優しくて皆と仲良くなりたいという想いも持っております。だから重い感情が出てしまっても、己の意思で踏み留まってくれるので……ですが、今の俺は魂がここにある状態で、向こうでは抜け殻になっているのかもしれません。だから、もしも彼女が俺の魂が誰かに攫われたという認識をしてしまえば、あの子の溜まった負の感情が強まって、もしかすると世界を……」

 

『………………』

 

「俺は、そんな優子を見たくない。皆と仲良くしていき、平和な街づくりをしていきたいという彼女の理想を……俺の事で暴走して自身の手で崩させたくないんです。だから……お願いしますッ‼︎ 俺の為としてではなく、優子の為に俺の魂を元の場所に帰してくださいッ‼︎ 俺はもう、優子を俺の事で苦しませたくないッ‼︎」

 

 

 ……言った。俺の本音を思いっきりぶつけた。後蛟さんがこの本音にどう対応してくれるのかを願うだけだ。

 

 頼む……どうか、どうか蛟さんの気が変わってくれ……ッ‼︎

 

 




ん? バレンタイン回? 今シリアス真っ只中なのにそんなの書けるかッ‼︎ タイミングがタイミングだったけどねチクショーめがッ‼︎


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囚われの白哉。精神不安定なシャミ子。そして……彼女とリリスの覚悟

まさかのシャミ子と桃の初決闘回以来の、原作一話で二話分引き延ばしだよってことで初投稿です。

果たして白哉はみんなの元に戻れるのか⁉︎ 心して見よ‼︎


 

 白哉さんが突然気絶してしまってから数分が経った。

 

 ごせんぞ曰く、白哉さんは魂を『おくおくたま』の自然に棲む人ならざる者によって攫われたと言っていたため、この山一帯から白哉さんの魂が囚われていそうな場所の辺りを見つけることに……しようとしたのはいいものの、手掛かりも無い状態で闇雲に探すのは困難な状況である。

 

 でも、このまま何もしないままでいると白哉さんの体は弱まってしまう。体内の細胞は動かなくなり、最悪死んでしまう恐れも……

 

 私は、白哉さんに死んでほしくない。何としてでも彼の魂を取り戻したい。このままでは白哉さんと会えなくなるかもしれない悲しみから、私は私でなくなってしまうかもしれない。けどどうすればいいのかわからない。一体、どうすれば……

 

 

「……子。……ミ子。シャミ子ッ‼︎」

 

「───ハッ⁉︎」

 

 

 杏里ちゃんに呼びかけられて、私は正気を取り戻した。あ、危なかった……ッ。危うくまた暴走するところでした……ッ‼︎

 

 

「大丈夫? さっきの過呼吸程ではないけど、結構苦しそうな顔をしていたよ?」

 

「す、すみません。また迷惑をかけてしまいました……」

 

「いーよ別に。シャミ子は白哉がこうなってしまった現象に遭ったのは初めてなんだよな? だったら焦るのも無理ないよ、私もこんな事初めてだし」

 

 

 何そのまるで白哉さんが一度気絶した経験があるんだよって言ってるかのような言い方……あっ。そういえば白哉さん、私が自分の夢の中から記憶を辿ることにした時にも、不十分な契約のせいで気絶してしまったんだっけ。それはもう解決したし、それがきっかけで私達は付き合うようになったけど。

 

 でも、私が実際に白哉さんが気絶してしまう出来事に遭遇してしまうのは、杏里ちゃんの言う通りこれが初めてだ。突然起きた事だし、何より今回は私が寝た時のは違って魂を奪われている。だからこそ、白哉さんが無事に起きてくれるのか不安で仕方がない。

 

 それに……

 

 

「……白哉の事が心配?」

 

「……はい。でも、心配というか……不安なのは白哉さんの事だけじゃないんです」

 

「そこまで言われたらもう分かるよ。シャミ子自身が平常心でいられるか、でしょ。シャミ子は白哉の事が好きすぎて、今にも白哉を狙ってくる奴・傷つける奴を片っ端からぶっ殺しそうだもんなー。正しくヤンデレまぞく、みたいな?」

 

 

 私そこまで殺戮衝動に駆られてないですッ‼︎ というかそうなるほどに白哉さんに執着してるわけではないですッ‼︎ 皆私の事を酷く解釈し過ぎですよホントにッ‼︎ でもヤンデレなのは否定できないッ‼︎ 以前意味を調べて色々と私の心境と合ってたからッ‼︎

 

 

「……杏里ちゃんの言うことは正しいです。すぐにではないとはいえ、もしも白哉さんがこのまま目覚めず、最悪死んでしまったとしたらって考えてしまって……ッ」

 

 

 死んでしまう可能性がないかもしれないけど、どうしてもその可能性も考えてしまう。本当は白哉さんに死んでほしくはないし、目を覚ましてほしい。でも、もしかするとって思うと……

 

 

「………………あ、あれ? な、何だろう……なんか、視界が、歪んでいるような……ッ」

 

 

 お、おかしいな。なんか、頬に何か温いのが流れてきたような……それと同時に、何か込み上げてきたものが出てきたかのような感じが……

 

 な、なんだろう……そう考えると、より白哉さんに死んでほしくないって気持ちが強くなってきた気がして……

 

 い、嫌だ……ッ。死んでほしくない……ッ。白哉さんには絶対死んでほしくない……ッ。私の想いを受け止めてくれた恋人を、恩人を、幼馴染を、絶対に失いたくない……ッ。

 

 

「あ、杏里ちゃん……私、ここまで白哉さんに執着するのはおかしいでしょうか……?」

 

 

 気がつけば私は、杏里ちゃんにそんな事を聞いていた。白哉さんの事をこんなに想ってしまうのはあまりにも異常すぎると、改めて白哉さんの存在のありがたさと、白哉さんの事を愛し過ぎている自分の醜さが憎く感じてしまった。

 

 私、このまま白哉さんの事を今まで通り好きにした方がいいのかな? それとも彼と私自身のために距離を置いた方がいいのかな? それとも……

 

 

「いや、逆によく考えてみなよ。それほどまでに好きな人を愛することは普通だって」

 

「………………えっ?」

 

 

 は? えっ? こ、これが普通? えっ? わ、私のこの感情が普通? 危なっかしい武器を持って振り回す前の状態のも、普通……? わ、私のせいで人を愛するという認識が麻痺してしまったのですか……?

 

 

「あー……なんというか、形がシャミ子とは異なるってだけで、感情は皆誰かを愛する時は一緒なんだよって感じの意味」

 

「いや、あの……結構感情も異なるかと……」

 

 

 いやホントに。誰かに取られるくらいなら、私がこの手で……でも本当は誰もこの手に掛けたくは……ってな感じなんですけど。結構歪んでいるんですけど。なのに私のこの感情は、他の人達と一緒?

 

 いや、あの……まるで意味が分からなくて結構混乱してますが……混乱まぞくですが……?

 

 

「ほら、愛や恋は人を変えるって言うじゃん。一度『恋』という感情を持ってしまえば、好きな人を独り占めしたい。他の異性と話してるだけで嫉妬して、自分だけを見てほしいと思ってしまう。けど、それが実は当たり前の事なんだよ。だって、みんな好きな人に惹かれた時は、自分の中の何かが変わっているのかもしれないって思えてくるじゃん? それほどまでにその人に影響されて、この感情を伝えたいって思えるようになる……えっと、簡単に言えばこんな感じかな。

 

 

 

 人はみんな、恋をしたら恋に溺れて、それと同時に、本当の自分を見つけられるものだってこと」

 

 

 

「………………‼︎」

 

 

 ……そっか。そういうことだったんだ。いや、そうだったと言う方が近いか。

 

 私も白哉さんに恋をしてから、彼に近づきたいがために自分を変えたいと努力をするようになった。学力も体力も向上させていってたし、何より暴走しない程度で白哉さんに私に意識してもらえるようにする方法を色々と考察するようになった。

 

 あぁ、そうだった。私は白哉さんに救われたから、白哉さんに恋というものを教えてくれたから、弱かった自分を変えていけているんだ。そしてそれは、他人によって自分を変えることができた人達と同じだったんだ。

 

 ……そっか。つまり、普段の愛の重さだったら特に大したことはない……そう捉えて良いのかもしれない。

 

 よく考えてみれば、桃やミカンさんも好きな人と関わった時には、その時だけ人が変わったかのような感じだった。いつも根は優しかったりちょっと特殊だったりとしている彼女達も、好きな人の事になるとその時は人が変わってしまうし……

 

 ……そう考えてみれば、私のこの感情も桃達と一緒だったんですね。形が違うってだけで、誰かを愛することは同じことだったと……そっか、よかった……なんだか安心した。

 

 

「杏里ちゃん、ありがとうございます。おかげでちょっと勇気が出ました。これからもいつも通りの私としてやっていきます‼︎」

 

「……うん。その曇りの無い明るい顔ができるのなら、その言葉を信じてもよさそうだね」

 

 

 そう、私は決めたのだ。もう白哉さんの事でマイナスな思考になるのはやめにしようって。私がこんなにも鬱になってしまったら、白哉さんに生きてほしくてもそれに答えてくれないと思うから……

 

 だから、私が今できることは二つだけ。白哉さんの魂の場所を探す、白哉さんが生きていることを信じる、それらだけ‼︎ 白哉さん、待っていてくださいね。絶対貴方を助けてあげますから───

 

 

 

『みんな、聞こえるか⁉︎』

 

 

 

「ファッ⁉︎」

 

 

 お、思わず変な悲鳴みたいな声を出してしまった……今のドデカい音……というよりは声のせいでウガルルさんと蓮子さんの耳がやられて気絶状態に……

 

 というか、今のこのめちゃくちゃ聞き覚えのある声って、ま、まさか……白哉さんッ⁉︎ 白哉さんですかッ⁉︎ い、生きてたッ⁉︎ 当然まだ死んでないとはいえ、生きていたんですねッ‼︎ よかった……ッ‼︎

 

 ………………あれ? でも魂を奪われたはずなのに、どうやってここまで声を……? と、とりあえず会話できるか確かめないと……

 

 

「びゃ、白哉さん……? その声は、白哉さんですか……?」

 

『おう、そうだ‼︎ どうやらお互いの声は通じるみたいだな‼︎ よかった……‼︎ 声がデカかったら悪い、テレパシーを使うの初めてだから……けどあまり時間を掛けるわけにもいかないから、単刀直入に今の状況を言わせてくれ‼︎』

 

 

 い、一応声量は最初に発した時よりは結構落としてくれたので問題ないですけど……というか、いつテレパシーを使えたのですか⁉︎ 羨ましい‼︎

 

 

『まずは朝見た祠のところまで来てくれ‼︎ 実はこの多摩川の祠に棲む大蛇……蛟さんに魂を連れ去られて絡まれてしまって、召喚術で彼の暇つぶしに付き合ったら好感度上げ過ぎちまって、帰してくれなくなってしまった‼︎ で、皆と交渉してどうするか決めることになって───』

 

 ブツンッ

 

 

 えっちょっ、白哉さん!? ここでテレパシーを途切れさせないでください!! わ、私は今もっと貴方の声を聞きたいんですが⁉ ちょっとォっ⁉ ……声ェ……。た、助けられたらたくさん聞けるから仕方ないか。白哉さんも初めてテレパシーを使ったって言ってたし……

 

 

「シャミ子……白哉くんの声を聞けたおかげなのか結構ヤバい笑顔になった気がするけど、私達はこれを見て安心した方がいいかな……?」

 

「あっ。す、すみません。今更すぎるので今言っても意味ないかと思いますが、今の私の顔について触れないでいただけないでしょうか……?」

 

 

 変な顔してたのまたバレたッ‼︎ というかまたいつの間にかそんな表情をしてしまったッ‼︎ さすがにこの癖だけはどうにかして治さないといけませんねッ‼︎ はいッ‼︎

 

 

「そんなことよりもッ‼︎ 朝に見たあの祠に何かあるみたいですね……ごせんぞ、どうしましょう?」

 

「急いでその祠に向かうぞ。白哉本体はあまり動かさない方がよいから、杏里と勝弥で白哉を温めていてくれ」

 

「おう‼︎ 任せてくれ先リリさん‼︎」

 

「先リリ……? 余に対して言ってるだろうが、何の略称だ……?」

 

 

 先リリ……あぁ、『ごせんぞ』と『リリス』を合わせて略した感じですか。勝弥くん、なんて面白くて気になるあだ名を……

 

 じゃないッ‼︎ 今はそんなことを考えている場合じゃないッ‼︎ 早く白哉さんの魂があるという祠のところへと向かわないと‼︎

 

 もちろん私はごせんぞと共に祠に向かい、桃と柘榴さんが同行してくれることに。ミカンさんと拓海くんは耳をやられたウガルルさんと蓮子さんの介抱もするために、杏里ちゃんと勝弥くんと一緒にここに残ることにしたそうです。ただ……

 

 

「白哉を攫った相手が撃てそうな子なら、ここから狙撃するわね。まっかせて♡」

 

「そこまで遠くなかったらここから術を出して、解放するまで一生麻痺らせておこうかな……♠️」

 

「出る前にもっといい丸太を探さないと……」

 

「……ウデガナルゼー」

 

「おぬしら過激派しかいないのか⁉︎ なんか段々暴走した時のシャミ子の方がマシに思えてきたぞ⁉︎」

 

「だからそう思われるのは複雑なんでやめてくださいッ‼︎」

 

 

 四名の方々が物理的に白哉さんを助けようとしてるのですがッ‼︎ 白哉さんの事で負の感情が強まった時の私よりも、遠慮というか躊躇いもなく人を物理的に傷つけそうなんですけどッ‼︎ 拓海さんに至っては一瞬ヒソ○になってませんでした⁉︎ それと柘榴さんのその台詞の元ネタは何なんですか⁉︎

 

 もしかして私も躊躇いもなく人を傷つけようと決めたら、あんな風にサイコパス要素ありの思考になるのではッ⁉︎ やっぱり自分の性格は改善しておかないと、なんか魔族以前に人でなくなってしまいそう……気をつけよ。

 

 

 

 

 

 

『汝よ、連れとの連絡はできたか?』

 

「えぇ。途中で途切れてしまいましたが、通じることはできたみたいです。後数分すれば祠まで来てくれると思います」

 

『ふむ……そうか』

 

 

 蛟さんに魂を祠に入れられ、言われるがままに召喚獣を呼び出して好感度を上げ過ぎて気に入られた俺は、優子達にテレパシーを送って祠まで来るようにと伝えた。先程俺をこの祠から解放してほしいと必死に蛟さんに頼み込んだら、優子達と話し合う……つまりは交渉して決めると言ってくれた。

 

 ただ優子達にこの事を伝えるには条件があるらしく、《汝にはまだ不思議な能力があるようだから、それで連れにここまで来るように伝えてみよ》と言ってきた。テレパシーなんてやったことないからどうしようかと思っていたところに……ふとある事を思い出したんだ。

 

 それは、優子の誕生日プレゼント作りの時、小倉さんがくれた《どこでもテレパシー》だ。これを持っていたおかげでどうにか外の世界にいる優子達にテレパシーを送ることができ、彼女達をここまで来るように伝えることができたのだ。小倉さん、ホントにありがとう……

 

 

「……本当に、交渉次第で俺をここから解放させてくれますよね?」

 

『うむ、我は嘘をつかぬ。我をあそこまで慰めてくれた汝へのせめてもの情け……というべきだろうな』

 

 

 気に入られてから外に出さない気満々な感じがするんだけど……意外と結構優しい方なんだ、嘘なんてついてないはずだ。……そうであってほしい。でないとこっちが困るから。

 

 

【祠……この鏡が結界との窓か】

 

【ここに白哉さんが……ッ‼︎】

 

 

 こ、この声は……優子とリリスさんか‼︎ ここの場所が分かったんだな‼︎

 

 

「おーい優子‼︎ リリスさん‼︎ 俺はここだぞー‼︎」

 

銀の輝きを持つ者の連れか。この力の流動からして、小さき者もいるな

 

 

 小さき者……というのは優子の事か。なんか蛟さんの口が孤を描いているように見えるけど、やっぱり優子もここに連れて来て俺と同じことをするみたいに束縛する気満々じゃん……この人(大蛇)も実はヤンデレ気質があるんじゃないだろうな……(震)

 

 ってかそんなことよりも、蛟さん声を変えた……というよりは戻してません? 雰囲気作りのために戻したんですか?

 

 

【この地の主か? 住処を汚したこと、心から謝罪する】

 

【私もゴミとなる物を不本意とはいえ落としてしまって……本当に申し訳ありませんでした】

 

我はもう怒ってはおらぬ。だがこの者は返さぬ

 

 

 ………………は? 今、蛟さんなんて言った? 《返さぬ》、だって? は?

 

 

「ちょっ話が違っ───」

 

『一旦ちょっと黙っててね。後今のはただの雰囲気作りの為の嘘だから』

 

「あっぶなっ⁉︎」

 

 

 あ、危うく尻尾で巻きつかれて発言権を潰されるところだった……セイクリッド・ランスを展開してシャイニング・ウォール・ビットを体周りに発動させておいてよかったぜ……

 

 というか、雰囲気作りの為の嘘だったんかい。焦ったぜ、いきなり嘘つかれて裏切られたのかと思ったぞ……いや今でもまだ焦るけど。

 

 

本来ならば、百五十年の長く淋しき封印生活の慰みに、この者の魂は封印解けし時まで我が貰い受ける予定だったが……銀の輝きを持つ者からの熱い懇願があったのでな、汝らとの交渉を持ち込むことにした

 

【交渉……ですか?】

 

左様。銀の輝きを持つ者に我を慰めさせる代わりとなる等価交換だ。それが可能となる適切な案を我に教えるが良い。銀の輝きを持つ者の意見無しに、だ。その者の声は既に無音にさせているためそもそも聞こえないだろうがな。中々に相応しいと思う案が思い浮かばなければ、今我が結んでいる約定……銀の輝きを持つ者の魂をこの祠に留まらせる約定を変更することは出来ぬ。そうなれば、銀の輝きを持つ者の魂は封印解けし時までこの場から離れん

 

【【なっ……】】

 

 

 ……あれ? ちょっと待って? よく考えてみたらこれ、俺が横槍入れても交渉が成立するような感じにならなければ意味がない? 俺の意見はあまり意味がない感じ? 俺の意見は聞かないとか言っちゃってるし、全ては優子達次第ってか?

 

 というか俺の声を聞こえなくさせたって何ッ⁉ あっよく考えたら俺の声、出なくなっとるッ⁉ すっごい違和感ッ⁉︎ いつの間にそんな能力をかけたんだよッ⁉

 

 ……どうしよう。ここから出たいのに出れそうにないんだけど……優子達の決心次第ではとんでもない結末になりそうなんだけど……

 

 

【……ねぇ、もし今定められている約定を変えることができなくなったら、どうする?】

 

【その時は交渉決裂。更地にするから】

 

【待てッまだ決めつけるなッ‼︎ 壊したら連絡すら取れなくなるぞ‼︎】

 

 

 なんか約二名が物騒なことを考えてるんだけどッ⁉︎ 頼むから最悪な事態を招くのはやめてくれ‼︎ 俺はそんな結末絶対嫌だから‼︎

 

 

 

 

 

 

 せっかく白哉さんの魂を見つけることができたというのに、彼の魂を匿っている蛟さんからとんでもないことを申しつけられてしまった。百五十年もの孤独を埋めれる代償を払わなければ、白哉さんの魂を解放することはない……と。

 

 蛟さんのその言葉から考えるに、白哉さんは私達がここに来るまでに彼を慰めており、その方法を気に入られて固執するようになった……というべきだろうか。経緯や真意は分からないけど、白哉さんは他の人にも気に入られる性分があるから、蛟さんに固執されてしまうのも分からなくもない。

 

 だけど、問題なのは私達の方だ。白哉さんを解放するには、彼に代わって蛟さんの百五十年もの孤独を埋める提案をしなければならない。等価となるものが見つからなければ、白哉さんの魂は一生祠の中。祠を破壊してしまえば魂は迷子になって一生現世に戻らなくなる……最悪だ。

 

 百五十年の孤独って、私が重たい愛を出している時よりも色々とヤバいものを背負っている感じがして、悲しみなどのスケールがデカ過ぎると思う……でも、何か良い案を考えないと、白哉さんが本当に死んでしまうかもしれない……一体どうすれば……

 

 いや、ちょっと待てよ? 私にはなんとかの杖がある。私の想像力次第だけど、もしかすると……

 

 

「後で元の世界に脱出できる能力が使える杖に変形させて使えば……」

 

 

 この作戦が上手くいけば、白哉さんを救えるかもしれない……‼︎

 

 

「桃! ごせんぞ! 私……白哉さんの身代わりになって彼の魂を解放します‼︎ そして色々披露したりなんとかの杖の力でなんやかんやしたりして蛟さんの心を癒したら、また杖の力を使って今度は私の魂を元の場所に戻します‼︎ 上手くいけば実質ノーコストで白哉さんの魂を取り返せることになると思います‼︎」

 

 

 それに一時的な魂の離脱ならそこまで悪影響は及ばないはず……‼︎ なんとかの杖なら心を安らげる能力を持つ杖に変形できて、それで蛟さんの百五十年の孤独をちゃんと埋められるかもしれない……‼︎ ごせんぞと夢の中で修行したあの経験がさらに活かせられる時が来たッ‼︎

 

 

「……確かにシャミ子ちゃんの力なら、この山の主を満足できるとは思うけど……」

 

「で、でもそれだと逆にシャミ子が気に入られて、今の白哉くんみたいに囚われ続けるかもしれないよ⁉︎ その脱出する手段どころか心を癒す手段が上手くいくかも分からないし……」

 

「もう一ヶ月以上前の発想力の乏しい私じゃありません‼︎ それぐらい創生してやります‼︎ それに……‼︎ 白哉さんにこれ以上の苦しみを与えることになるのは、もうごめんですから」

 

「シャ、シャミ子……」

 

 

 今言ったみたいに、白哉さんにこれ以上苦しい思いをさせるのはごめんだから……というのが本音です。これでもし私が祠から脱出できなかったとしても、哉さんはその時の悲しみを月日が経った頃には乗り越えられると思う。私とは違って。

 

 白哉さんと一緒にいられなくなることよりも、白哉さんが死んでしまう方が、私にとっては一番辛い。だから、白哉さんには生きてほしい。だからといって、この作戦で私の魂が元に戻らなくなるのもごめんですけどね。

 

 とにかく、蛟さんに私の魂を祠に入れて、白哉さんの魂を返してもらうように交渉を───

 

 

「───それでも、その作戦が上手くいくとは限らんのだろう? おぬしらへの負担を与えない手段なら、余は考えておる」

 

「へっ? ご、ごせんぞ……?」

 

 

 一体、何をする気で……?

 

 

「シャミ子。桃。柘榴。おぬしらのどちらでもよい、余の体を邪神(ダサ)像諸共消し飛ばせ」

 

「「「えっ?」」」

 

「そうすれば余は魂だけになり、この世に留まれなくなる……だが……その刹那、一瞬だけ古代の封印から解き放たれる‼︎ その刹那の間に白哉を引っ張り戻し、余が身代わりとなって祠に留まる‼︎ そうすれば白哉の精神的ダメージはシャミ子の魂が戻らなくなったと知った時よりも小さいものとなり、シャミ子が代わりに死んでしまう可能性もなくなるぞ‼︎」

 

 

 えっ? えっ………………えぇえええええええええっ⁉︎ ご、ごせんぞが身代わりに⁉︎ しかも依代どころかごせん像ごと破壊して、無理矢理封印から出て白哉さんを助ける⁉︎ そ、そんなことしたら……ッ‼︎

 

 

「ダ、ダメです‼︎ そんなことしたらダメですごせんぞ‼︎ それじゃあごせんぞが代わりに犠牲になってしまうのと同じことです‼︎ 私のさっきの作戦なら、まだ誰も犠牲にならない可能性が……‼︎」

 

「リリスさんを実質消すなんて……私もさすがにやりたくない‼︎ できないよ‼︎ リリスさんの封印を解くだけなら、私の血を……」

 

「どれもダメだ‼︎ もしもの事があればそれこそ白哉は悲しみ、より一層心に深く傷口をつけることになるのだぞ‼︎」

 

「「ッ……‼︎」」

 

 

 私達はごせんぞのその言葉に、深く心を抉られたのか、口が軋むも反論出来ずにいた。

 

 私が身代わりになったら魂を自力で戻せる保証はぶっちゃけないし、桃も生き血を使ったら弱体化どころかコアに戻ってしまう可能性がある。ごせんぞの先程の案に比べれば、こちらの方がどれもハイリスクが過ぎるもの……そういう認識を持ってしまう。

 

 でも……だからといって、ごせんぞが犠牲になることなんて……

 

 

「白哉は小馬鹿にすることはありながらも、いつでも余の味方だったのだ。こんな余のためにお供えしたりフォローの言葉を掛けたりと、シャミ子程ではないとはいえ他の者達よりも余の事を気に掛けてくれていた。そして何より……いつも余の子孫であるシャミ子の心の支えになってくれた御恩がたくさんある。……白哉を助けるためならば余は何でもする」

 

 

 ごせんぞ……そっか、そうだったんですね。恋愛感情がないだろうとはいえ、ごせんぞも私のように白哉さんに心の支えになってもらっていたんですね。そんな彼を救いたくて、自分を犠牲にしようと……

 

 でも……それでも……

 

 

「それでもダメです‼︎ ごせんぞも私と同じく白哉さんの心の支えになっている‼︎ ごせんぞの存在があってこそ、今の私も白哉さんもいるんです‼︎ そんな存在が確実に消える作戦を立てるくらいなら、そうならない可能性のある私こそが白哉さんの身代わりになるべきです‼︎」

 

 

 白哉さんの支えになってくれている人が一人でも欠けるなんてこと、私が許しません‼︎ 本気で自力でこっちにまた戻ってくるので、ごせんぞはそれを信じてください‼︎

 

 

「いいや、この山に来たのも余が我儘を言ったのが原因だ‼︎ 余にはその責任を負う必要がある‼︎」

 

「私だってその山でゴミを落としてしまって、そのせいで白哉さんが連れて行かれたんです‼︎ 私にもその責任があります‼︎」

 

「それは余がゲーを吐いたから───」

 

「「あっ」」

 

 

 し、しまった。誰が身代わりになるのかと口論していたら、ごせんぞが自ら起こしてしまった悪態を吐いてしまった。これ……桃がどのような判断をするのか大体予想がつくのですが……

 

 

「あ、リリスさんのせいなんだ。消し炭にするに一票」

 

「やっぱり桃激おこだったッ‼︎」

 

「おやっ、これ桃もシャミ子の身代わりになる方に賛成になるパターン?」

 

 

 そうなるパターンが無くとも、ブチギレることに変わりないですけど……

 

 

「……よし、僕も加勢しよう。思いっきりボコボコにしてあげるね」

 

「ブチギレてる人がこっちにもいた⁉︎ やっぱり桃に従順なんですね柘榴さんは⁉︎」

 

「その言い方やめて、私が恥ずかしいから……」

 

「とりあえず余は直ちにこの世から退散した方が良いか?」

 

 

 あっすみません、二人の怒りに負けて犠牲にならないでください。私が帰ってくることを信じてここに留まってくださいお願いします。

 

 いや、ここは今すぐ蛟さんに直接お願いした方がいいか。こんな時に口論してたらそれこそ白哉さんが危ないし。とりあえずこの鏡を持って話しかければいいのかな?

 

 

「決めました蛟さん‼︎ 私の魂と白哉さんの魂を取っ替えてください‼︎」

 

「「「あっ⁉︎」」」

 

「できるか分からないけど、自力でこっちに戻れる力があります‼ それが上手くいけば一度貴方を満足させてあげたら自力で戻り、また貴方を満足してあげることになった時にいつでもそちらに魂だけで行ったりと往復できると思います‼︎ だから私を身代わりとして白哉さんの魂を……私の恋人の魂を返してください!!」

 

 

 ってあっ!? ごせんぞに鏡を取られた!?

 

 

「い、いや待てこの地の主よ!! 余ならおぬしと永き時を過ごせるから、身代わりなら余にせよ!! おぬしが嫌と言っても無理矢理そうする力が余にはある‼ シャミ子はアホアホだが何かを持っている。白哉もどこか抜けているところがあるものの同じく何かを持っており、何よりシャミ子の恋人でもあり眷属でもある。事故云々であろうとも、どちらも閉じ込めるにはもったいない存在だ。いつかきっとおぬしの封印だって解いてみせるぞ。だから……シャミ子ではなく余を身代わりにして我慢せい!!」

 

 

 今ちょっと私と白哉さんの事を馬鹿にしませんでした⁉︎ 悪気がないとはいえ、さすがのごせんぞ相手でも許せない……ここを譲ってたまるものか‼︎

 

 

「ご、ごせんぞがこの世にいなくなってほしくないので身代わりなら私の方に!!」

 

「ダメだここは余にせよ!! 封印の解きやすさなら余を身代わりにする方がよりお得だぞ!!」

 

「いいえ私に‼︎」

 

「いいや余に‼︎」

 

「いいえ私に‼︎」

 

「いいや余に‼︎」

 

「いいえ私に‼︎」

 

「いいや余に‼︎」

 

「じゃ………………じゃあ私が‼︎」

 

「「ダ○ョウ倶楽部じゃないです(ぞ)ッ‼︎」」

 

「ご、ごめん。つい反射的に……」

 

「……何これ」

 

 

 すみません、冷静になってみたら自分達でも何をしていたんだろうって思ってます。白哉さんを助けたいからとはいえ、どうしてこんなにも張り合ってしまったのでしょうか……穴があったら入りたい。

 

 

………………汝らの想いは伝わった。よって銀の輝きを持つ者……白哉とやらの魂を解放する為の約定が決まった。小さき者の祖先よ、そのまま鏡に触れ強く祈れ

 

 

 えっ……? 蛟さんが、ごせんぞに指示をした……? ハッ⁉︎ ま、まさか鏡の力で依代とごせん像を破壊するつもり⁉︎ そ、そんな……ごせんぞが身代わりになるなんて───

 

 

「ゲフッ!!! な、なんだ……」

 

 

 ファッ⁉︎ な、なんか宝玉みたいなものが鏡の中から出てきて、ボディブローのようにごせんぞのお腹に直撃したァッ⁉︎ そしてごせんぞのお腹の中に入っていったァッ⁉︎ 何これェッ⁉︎

 

 

汝の体に約定の龍玉を埋め込んだ。汝には、未来永劫多摩川を浄めるお役目を与える。汝は明日より一日三貫のごみを欠かさず拾え。約定を破れば龍玉は直ちに汝の体を焼き尽くす!!……これが、白哉とやらの魂を返す為の等価となる約定だ

 

「えっ……ゴミ拾い? なんで?」

 

 

 本当になんでですか? それが白哉さんの魂を返す為の条件って……どういうこと?

 

 

「いやいやいや、同居の話はどうなった。余は腹を括ったのだぞ」

 

「わ、私も腹を括ってましたよ……? なのにどうして……?」

 

理由は二つある。まず一つ。小さき者……シャミ子とやらの存在だ

 

 

 えっ私?

 

 

その者は白哉とやらとの深い繋がりを持っており、我にここに留まることを考え直すよう要求してきた時もその者の事を淡々と話していた。そして自分がいなければシャミ子とやらが彼女本人では無くなるとも言って心配だと……深く想う言葉を語る程にな

 

「え ゙っ」

 

 

 わ、私の事を結構話してて……しかも深く想ってたって……な、何度も改めて聞いても慣れない……だ、だって私の恋人がそこまで話していたと知ってしまったら、悶絶しかねませんよ……ウヘェ♡

 

 

そんな深い関係を持ち、シャミ子とやらの祖先の言う特別な力を互いに持つ二人を引き離してしまうわけにはいかぬ。よってシャミ子とやらの魂を連れて行かぬし、そのまま白哉とやらの魂をこちらに居座らせるわけにもいかぬ

 

 

 すみません(?)ありがとうございますッ‼︎ 私達のことを考えてくれてありがとうございますッ‼︎ 正直嬉しすぎて心臓が色んな意味でヤバいッ‼︎

 

 あれ? じゃあごせんぞの魂を連れて行こうとしなかったのは……

 

 

理由二つ目。ぶっちゃけシャミ子とやらの祖先とは共に過ごしたくない。喋っても楽しくなさそうだし

 

「わかる」

 

「……それね」

 

「「えっ?」」

 

 

 なんか色んな方面からごせんぞがディスられませんでした? ごせんぞって他の人からはそんなに評価ない……?

 

 蛟さんの話によれば、彼は人が自分の領域に鉱山の毒を流したことに怒って暴れ、巫女さん──昔の魔法少女に封印されたという。今でも多摩川の下流はゴミで汚れるものの、信仰し続けてその汚れを浄めることで封印は解け、ただの蛇になるとのこと。

 

 その封印がいつ解けるか分からないし、毎日拾えというゴミも三貫(ごせんぞ曰く九キロ)もあるという……それと月に一度祠を掃除してお酒とお菓子をお供えしろとのこと。ごせんぞ、結構な重労働を任されてません? これを毎日とか……ゴミの量だけでもヤバいですって本当に。

 

 

これにて約定の変更は終わった。よって白哉とやらの魂は返しておく。我との約束、忘れるでないぞ

 

 

 その言葉が聞こえたのと同時に、蛟さんの言葉は聞こえなくなった。約定は変わって、もう私達と話す必要はないと判断されたようだ。でも、これで本当によかったのかな……? 釈然としないようなそうでもないような……

 

 

 

 

 

 

 気がついた時には、俺はみんなに看病されてるような感じに囲まれていた。シートとかで体を包まれていたことから、どうやら俺は魂を抜かれた間、みんなのいるところで横になっていたようだ。ちなみに杏里と勝弥に両手を、気絶して寝てしまっているウガルルと蓮子に胴体を温めてもらっている状態だ。

 

 そしてふと見上げれば、俺の頭を乗せて膝枕している優子がいた。あれから俺は魂が返ってくるまでの間、彼女に膝枕してもらって暖を取りながら体勢を楽にさせてもらったらしい。

 

 というか、何気に膝枕されたのこれが初めてなんじゃね? ……よく見たら改めてデッカく感じる。どこがとは言わないが。

 

 

「びゃ、白哉さん……目を覚ましたんですね」

 

「あ、あぁ。……すまんみんな。どうやら迷惑をかけてしまったようだ」

 

 

 そう言うとみんな一斉に首を横に振った。タイミングが全員ピッタリ……ここまでシンクロすることってある?

 

 

「そんなことないよ。突然の出来事だったんだから……」

 

「寧ろ私達にも謝らせて。貴方が気を失った後どうすればいいのか分からなくて、しばらく何もしてあげられなくてごめんない……」

 

「けど、白哉君が無事でよかったよ。俺何回闇雲に霊術を使おうとしたことか……」

 

「どんな心境⁉︎ でも本当によかったよ、白哉が無事に目を覚ましてくれて」

 

「正直言って本当に起きるのかってハラハラしたぜ……最悪な一日になるところだったぞ」

 

「……不謹慎やめて。今は白哉君を慰めよう」

 

 

 ……ハハッ。どうやら俺は愛されてるようだな(粋がるな)。こんだけみんなに心身共に助けられて、心配かけられてさ……みんな俺の事大好きだったりする?(だから粋がるな)。いやぁ照れちゃうなぁ……(いい加減にしろ)

 

 いや、なんでこんなに楽観的なのさ俺。先程まで死んでしまうかもしれなかった状況に陥ってたってのに。これが死の淵から助かって安堵した者の状況ってか? 怖っ……

 

 ………………ん? んんんっ? なんか、優子がめっちゃ泣きそうな顔してるんだけど……まぁ、そりゃそうだよな。いつ死んでしまわないかという状況で泣かない方がおかしいもんな。いやホント、特に彼女には多大な心配をかけたと……

 

 

「白哉さん……その……ごめんなさい」

 

「………………えっ?」

 

 

 はい? なんで突然お前が謝ってくるの? なんで?

 

 あっ、俺を助けるために身代わりになろうとしたこと? いや正直叫声して心臓が止まりそうな程ビックリしたぞ? 声を出させてくれなかったけど。もしもあのまま優子が封印されてしまったら、原作の物語はどうなるんだとか、俺を愛せない点はどうなんだとか……そういう事を色々と考えさせられてしまうくらい───

 

 

「私……白哉さんが封印されてすぐ、人の命を奪いそうなことをしてしまいました」

 

 

 ………………はっ?

 

 

「白哉さんが気絶してしまったことがショックで……もしかすると数日間このままになるんじゃないかって……そんな事を考えていたら、ごせんぞの口から『誰かに魂を攫われたんじゃないか』って言葉が聞こえた途端………………私は、少しの間だけとはいえ自分を見失ってしまいました」

 

「見失った……?」

 

「はい……。気がついたらなんとかの杖をドデカい死神の鎌に変形させていて……ごせんぞのおかげで我に返ったんですけど、白哉さんが死んでしまうんじゃないかって考えてたら、呼吸しづらくなったりまたヤバい武器に変形させたりとまた自分を見失いかけて……」

 

 

 あっ………………そっか、そういうことか。

 

 優子は俺が倒れてしまったという事実を受け入れられなくなって、攫われたのかもしれないって思ったその瞬間に……自分自身が今までずっと溜め込んできたものを、爆発させてしまったんだな。

 

 

「私、白哉さんの見えないところでとんでもない過ちを犯しそうになりました。白哉さんやみんなを傷つけかねない、最悪な過ちを……だから、白哉さんにはこの事を謝りたいんです。本当に、ごめんなさい……」

 

 

 そう言って深々と頭を下げる優子。そんな彼女を俺は、優しくその頭を撫でてやった。

 

 

「………………ありがとうな、優子」

 

「えっ……?」

 

「確かに過ちを犯しそうになるのは良くない。けどな……良い点だけを見ると、それはそこまでする程に俺の事を強く想ってくれているってことだろ? 個人の為にそこまで感情を昂らせたりするなんてことは、そう簡単にできるものじゃない……その観点で考えてみたら、嬉しく感じちまったんだ。だからさ、もう一度お礼を言わせてくれ。ありがとうな、優子」

 

 

 ……よく考えたら、これが初めてかもしれないな。ヤンデレの良くて鋭い点を見てやれたのは。我ながらすごい快挙なんじゃないのか? なーんてな☆

 

 って、うおっ⁉︎ 優子の涙腺かめっちゃ崩壊したァッ⁉︎ 感情が爆発してすんごい涙の数を流しとる⁉︎ 顔もすんごい泣き顔で歪んどるゥッ‼︎

 

 

「ひ ゙ゃ ゙く ゙や ゙さ ゙ん ゙あ ゙り ゙か ゙と ゙う ゙こ ゙さ ゙い ゙ま ゙す ゙ゥ ゙ウ ゙ウ ゙ウ ゙ッ ゙‼︎」

 

「お、おう……分かった、分かったからとりあえず顔拭いてくれ。なっ?」

 

 

 感情が爆発して周囲が引きそうなくらいの大泣きをしとる……何処ぞのポケ○ンの美術教師兼四天王になってんだよ……気持ちは分かるけどさ。とりあえずハンカチ渡すから顔拭いてくれ。言いたくないけどさ、ちょっと鼻水出てるぞ……

 

 というか、俺も謝らなきゃいけないことがあるじゃないか。

 

 

「リリスさん、申し訳ありませんでした。俺を助ける為とはいえ、貴方を犠牲にするような事に……」

 

「謝るでない白哉よ。おぬしがシャミ子と共に健やかに生きてくれればそれで満足だ。子孫の眷属の為に何かすることも余の役目だしな」

 

 

 おっふ……子孫だけでなく子孫の眷属の力になれるのなら己をも犠牲にするというその精神……グッときました。さすがは古代メソポタミアから生けし魔族、尊敬したくなる───

 

 

「っていうか、この体は後三日で土に戻る‼︎ 封印空間にずらかれば約定は追ってこない‼︎」

 

 

 うわずる賢い。実体が無くなる点に気づいて調子乗ってるよこの人。前言撤回していいですか?

 

 

「所詮ヘビ頭! 余の作戦勝ちよ‼︎ 短寿命ボディーで良かったー‼︎ ふはは───」

 

 

 

「……龍玉をもらった人は、寿命が伸びる」

 

 

 

「………………へっ?」

 

 

 勝利を確信していたリリスさんの昂りを破壊するように、柘榴さんが横槍を入れた。

 

 

「……蛇の魔族を倒して落ち着かせるために調べたものなんだけど、古来、蛇は龍の子供として畏怖の対象になってきた……龍に玉を授けられた人が長寿になる伝承も各地に残ってるんだって。だからその体も信仰の力とかで維持し続けると思う」

 

「………………………………マジ?」

 

「……マジの可能性高い」

 

 

 えぇ……柘榴さんそんなに詳しかったんですか? 原作では三日経った時に小倉さんがそう説明したんだけど、まさか柘榴さんも龍玉の事を知っていて、もらった当日にすぐ教えるとは……時間掛けてから教えるよりは絶望感は無さそうだけど、なんだかなぁ……

 

 

「余、ゴミ拾いから逃れられないの⁉︎ 月一で酒瓶持って登山するの⁉︎」

 

「……信じないで過ごして焼かれるよりもちゃんとやった方がいい」

 

「嫌だァァァァァァッ‼︎」

 

 

 と嘆いていたものの、後日リリスさんは毎日欠かさず律儀にゴミ拾いすることになるのはまた別の話……まだそうなる時ではないけど。

 

 とりあえず今日は寝よう。いつもよりめっちゃ疲れた……

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その30


バレンタインデー前日

桃「………………………………」
シャミ子「えっ、と……こ、焦げてるところが無くてよかったですね……」
桃「うん……またピンク色に光ってるから安全に食べれる保証がないのだけれど……」
「シャミ子、ごめん……せっかくバレンタイン用のガトーショコラを作るの手伝ってくれたのに……」
シャミ子「だ、大丈夫ですよ‼︎ わ、私だってバレンタイン用のどころか、チョコを作ること自体が初めてなものなので‼︎ それで失敗してしまったのだと思います‼︎ 多分‼︎」
「ほ、ほら‼︎ 私、まぞくになる前は貧乏だったので‼︎ 市販のチョコすら買えなくて白哉さんから一方的に貰うことしかなかったですし……」
桃「いや、この失敗にシャミ子は関係してないと思う……あとその話聞くとこっちも虚しく感じる……」
シャミ子「な、なんかそれはそれですみませんでした……」
「そ、それで……どうしましょうか? 一応私のはピンク色になっていませんし、切り分けて渡しましょうか……?」
桃「それはシャミ子が白哉くんのために作ったんだよね? なら貰えないよ」
「私は……柘榴には悪いけど、市販のを渡すよ。こんなのを渡して彼の身に何かあったら困るし……」
柘榴「……呼んだ?」
桃「ウ ゙エ ゙ェ ゙ッ ゙⁉︎ ざ、柘榴⁉︎」
シャミ子「ど、どうしてここに⁉︎ 白哉さんをゲームセンターに誘ったんじゃ⁉︎」
柘榴「……うん。遊んで満足したから、クレーンゲームで取った、たまさくらちゃんの抱き枕でも、桃にあげようかなって」
「……で、これは何? 果物の方の桃のケーキ?」
桃「く、果物の桃でもこんなにピンク色にはならないよ……そ、その……バ、バレンタインの日にあげる用のが失敗しちゃって……」
「それで、時間掛けながら一人で一口ずつ食べようかなって……」
柘榴「……ふーん」パクッ
シャミ子「えっ? ちょっと待ってください? 今、その桃が失敗したチョコを食べませんでした?」
柘榴「……食べたけど?」モグモグ
桃「へっ? ……えっ? ………………えぇええええええっ⁉︎」
「な、何やってるの柘榴⁉︎ そ、そんなの食べたらどうなるのか分かんないよ⁉︎ ペッしてっ‼︎ 早くっ‼︎」
柘榴「……もう全部、じっくり噛んで飲み込んだ」
桃「んなっ⁉︎」
シャミ子「あ、あぁ……柘榴さんも、本当にダメな食材のヤツじゃなかったら何でも食べられる系だったんですね」
柘榴「……別に、そうじゃない。桃が一生懸命作ったものを、失敗作と片付けるのが、勿体なかったから」
「……それに、失敗してもそれが無駄にはなるわけじゃない。また次頑張ればいいから」
桃「ざ、柘榴……」
柘榴「……それじゃ、抱き枕はここに置いておくから。チョコ作り、頑張ってね。また明日」
桃「………………………………」
シャミ子「も、桃……た、食べてもらえてよかったですね……」
桃「………………シャミ子」
シャミ子「は、はい?」
桃「私、もうちょっと頑張って作ってみる」
シャミ子「あ、はい。お付き合いしますよ」

白哉「で、どうでした? 頑張って作ってくれた桃のチョコの味は」
柘榴「……味の濃すぎるピーチパイを食べてる感じだった」
白哉「あ、そっすか……」


『ん? バレンタイン回? 今シリアス真っ只中なのにそんなの書けるかッ‼︎』と前回言ったな? あれは嘘(となったの)だ。

この回でちょうど白哉君が蛟さんから解放される&今日が水曜日ってことで、急遽バレンタイン回をほそく話で作りました。何故柘榴×桃なのか? そんな気分だったからだよッ‼︎(おい

 


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優子は最近危機管理フォームを俺との○○○特化のものとも捉えている模様。複雑すぎる。

ドエロい危機管理フォームを作中でさせといて、男性キャラがバクの白澤さんとほんのちょっとだけヨシュアさんしかいないとか、一部の読者にとっては生殺しになるのでは? という私怨を抱きながらの初投稿です。

百合の間に挟まれる男じゃなくていいからさ、きらら漫画にもっとメインの男性キャラを出してほしい……

今の前書きは『百合を否定するもの』では無く『男性メインキャラを増やす願望をしているもの』であるのであしからず。
 


 

 ある日の出来事。俺達一年D組が体育の授業でバレーボールをしていた時の事だった。

 

 

「狙え狙え! 広瀬か伊賀山を狙え‼︎」

 

「運動神経が抜群なこの二人を潰せば後はこちらが有利だ‼︎ 狙え‼︎」

 

「こなくそー‼︎ ならこっちは平地か仙寿を潰したる‼︎」

 

「インチキ技がもう出ないくらいに追い詰めてやるぞー‼︎」

 

「インチキしねーよッ‼︎ お前らさっきから俺達の事をなんだと思ってんだッ‼︎」

 

 

 その時の俺・拓海・勝弥・全蔵は今、体力潰しの為だとかなんとかで攻めてくる輩達の結構なスマッシュを止めていってる。

 

 なんでみんな俺達に向けてスマッシュをしてくるんだよ。鬼畜か? 普通に点数狙う形でスマッシュを敵が届きそうにないところにやれよ。これ点数を取るスポーツだぞ?

 

 

「ねぇ、なんで平地君と仙寿君は召喚術とか霊術とやらを使わないんだろ?」

 

「それを言うなら伊賀山君だって忍術使ってないけどね」

 

 

 おいふざけんな、一般人の方が多いこのメンツで一般人が絶対に使えない技を使うとか、俺達はそんな人でなしじゃねェんだよ。お前ら一般人の事も考えて行動しないと嫌われやすいし。俺も前までも一般人だけどね。

 

 うわっまた俺に向けてスマッシュしてきたッ⁉︎ あっぶねスライディングレシーブでブローーーック‼︎ この野郎が……一々俺達を狙いやがって、もう許さんッ‼︎ 本来のバレーボールとはどういうものか教えてやる……ッ‼︎

 

 

「よしっトス。誰かシュートを決めて──えっ?」

 

 

 よっしゃナイスだ拓海‼︎ このトスされたボールをそのまま……

 

 

「オラァアターーーック‼︎」

 

 

 ボールを相手コートの届かないエリアにスマァァァァァァッシュッ‼︎ そして得点ゲェェェットッ‼︎ 超! エクサイティングッ‼︎

 

 

「っしゃあ得点ゲットォッ‼︎ ざまぁみろ姑息野郎どもォッ‼︎」

 

 

 どうだァッ‼︎ スマッシュとかして点数を決めるのが本来のバレーボールってんだいっ‼︎ 覚えておけ先程まで特定の選手を潰すことしか考えなかった輩ども‼︎

 

 

「白哉君……なんか私怨が出てないかい?」

 

「気のせいだ気のせい」

 

 

 すまん、気のせいだと思ってないよな。うん、嘘。もちろん嘘。私怨ある。一々点数じゃなくて俺達の体力を狙うとか、お前ら各スポーツの狙いどころって分かってないよな? って思ってしまうんだよホントに。

 

 

「ほらほらぁっ!! 俺に返り討ちにされたくなかったら俺達の戦闘不能じゃなくて点数の方を狙いなぁっ!!」

 

「やっぱり私怨混じってるじゃないか」

 

「あっやっべぇ。つい本音が漏れて……」

 

 

 き、気が緩んで煽ってしまったわ……やらかしたわ……あまりにも狙われすぎたから、きっと不満を爆発させすぎたんだと思う。以後気をつけます。

 

 

「シャミ子はレシーブ失敗率百パーセントだ‼︎ 狙え狙え‼︎」

 

「あっ、女子の方でも特定の人物を狙った戦法してやがる。しかも優子の奴を……‼︎」

 

 

 弱い奴を狙うとか、体力削り狙い以上によっぽどタチが悪すぎるじゃねェか……‼︎ お前ら女子、人の心とかないんか? しかも狙えと叫んでる奴、杏里じゃねェか。誰かに人の心を持ってかれたんかお前?

 

 

「こなくそー‼︎ ききかんりー‼︎ ………………メコスッ」

 

「シャミ子ォォォッ‼︎ ごめーん‼︎」

 

 

 あ、変身できずにそのままボールが顔面に……うん、あれは痛い。めっちゃ痛い。得点決める系の威力のボールが顔面に当たったら誰でも絶対痛がるって。実際に受けてない俺でもどれほどの威力なのか想像がつくって。

 

 って、そんなこと考えてる場合じゃねェな。早く優子を保健室に連れてあげねェと。

 

 

「悪い、ちょっと外れる……お前ら何同じ方向向いてるの?」

 

 

 なんか拓海と全蔵以外の男性陣が優子がいる方向とは真反対の方を向いてるんだけど。なんでお前らそっち向いてるんだよマジで。怖いんだけど。電線に止まっている鳥かミーアキャット、どっちの集団だよお前ら。

 

 

『貴方様の目の前でシャミ子の危機管理フォームを見るわけにはいかないので』

 

「ハァ?」

 

 

 いや、確かにあの容姿は色々と刺激的すぎるけどさ……それを見てしまったからって俺が何かするとでもいうのか? 変な思考になるのやめろよお前ら。

 

 

「えっ。なんで平地くんそういうところは鈍いんスか? シャミ子ちゃんの彼氏なのに?」

 

「お前は何喧嘩売ってるようなセリフを吐くんだよ」

 

 

 買わないけどな、喧嘩。

 

 

 

 

 

 

 放課後。俺と優子は桃と一緒に、多摩川でゴミ拾いしていたリリスさんに優子が危機管理フォームになれないことを話した。

 

 

「……シャミ子が変身できない? 余が邪神像を離れたせいであろう」

 

 

 この後のリリスさんの説明によれば、今までの優子の変身は邪神像経由で彼女のイメージ力を補っていたらしい。依代の体ではリリスさんは優子のサポートをすることがあまりできないものの、今まで以上に気合を入れれば普通に変身できるそうだ。

 

 つまりは何かしらのバグが起きたとかそういうものではない。ただ今まで通りの手段で変身することができず、今まで以上に力を込めないとできないってだけだそう。それなら優子も安心だな。

 

 

「っていうか今までの変身が特殊だったのだ‼︎ そろそろ自立せよ‼︎ 自分の力で変身するのだ‼︎」

 

 

 強い自分の姿をイメージし、現実に持ってくる。つまり優子は変身した姿を自分で考え、その姿になることができるという感じのようだ。彼女のイメージ次第では黒の剣士とか赤髪の海賊四皇とかの衣装になることもできる……どれもカッコいいけど、俺のチョイスが優子に合うかどうか……

 

 そしてここで優子がとある点に気づく。それは、自分の望んだ姿で戦えるということは、もう戦闘時に危機管理フォームになる必要がないということ。最近恥じらいが麻痺してきてお気軽に変身してたものの、あの格好は本来人に見せられない格好だとのこと。

 

 いや、あんな露出度高めな戦闘衣装になることに対する抵抗感が無くなるのはさすがに良くなさすぎるって。胸の露出度とかパンツの正面が見えちゃう点とかさぁ……変態野郎どもに目を付けられたらどうすんだよ。特に今の俺はそんなことは絶対に許さんからな?

 

 

「これを機に町を歩ける戦闘フォームを考えます‼︎ ろしゅつまぞく脱出です‼︎」

 

「俺はそれに対する羞恥心が無くならなくてよかったって思───」

 

 

 

「これで危機管理フォームは白哉さんを誘い受けするための専用フォームになれた‼︎ これでその時に躊躇いなく変身できます‼︎」

 

 

 

「おいお前なんつー本音出してんだッ⁉︎」

 

 

 堂々と何言ってんだ⁉︎ 本当に堂々と何言ってんだよこの魔族はァッ⁉︎ 羞恥心を忘れてない癖に何どういうタイミングで変態になってしまうんだよこいつは⁉︎ もうヤンデレまぞくじゃなくてただの○○○したがりまぞくじゃねェか⁉︎ そんな彼女の恋人になったのが俺だけどねッ‼︎

 

 

「………………ウゥッ……」

 

 

 あ、やっぱり今の発言しておいて恥ずかしがらないわけではないんだよね。そうだよね、恥ずかしがらない方がおかしいもんな。もし恥ずかしがってなかったら、一か八か夢魔の力を使って羞恥心を戻さないといけないからある意味助かったぜ……

 

 

「白哉くん、ちょっといいかな?」

 

「へっ? な、なんだ?」

 

 

 と、突然桃に質問を投げつけられたかのような感じになったんだが……一体何なんでしょうか?

 

 

「白哉くんってさ、シャミ子が危機管理フォームになった時はいつも隣にいたよね? 戦闘とかの時は毎回、しかも毎回ラッキースケベを起こしてしまうし……」

 

「それを掘り起こすなそれを。優子が桃を説得する時とウガルルを召喚する時はラッキースケベは起こしてねェから。毎回の如く俺の脳内に刻まれてしまっている黒歴史を思い出させないでくれマジで、頼むからさ……」

 

「それはごめん。けどそういう時はいつも思春期の男子高校生の如く反応しちゃうよね? 戦闘の時はどう自我を保ってるの?」

 

「だから言い方ァッ!! つーかあの姿見ていやらしい事を考えてしまわない方がおかしいと思う!!」

 

「うん、そうだね。考えない方がおかしいよね。私は男子じゃないから実際には知らないけど」

 

「この野郎……ッ!!」

 

 

 他人事みたいに言いやがって……‼︎ いつか優子と一緒にこいつに恥ずかしい衣装を着させて、それを柘榴さんに見せつけてやろうか……ッ‼︎

 

 

「で、重要時に優子が危機管理フォームになった時はどうなんだ、だっけか? そんなもん気持ちの切り替えと心頭滅却の意思だよ。要するにやるべき事をやるんだっていうのを自分の頭に言い聞かせ、それが終わるまで他の事を考えないようにすることが大事なんだよ」

 

「なるほど。つまりシャミ子が危機管理してもすぐに気持ちを切り替えるよう意識している、と」

 

 

 それを実行する為に、これまでにいつも頭の中で般若心経を唱えているってわけ。邪な考えなど戦場に必要ないんでね。

 

 

「………………ただ、その分卑しい想いに耐えた分、優子を抱く事になった時にそれが爆発しちまうから……一日の終わりに残るのは罪悪感なんだよ……」

 

「あっ………………あぁ、ね。なるほど……」

 

 

 察したか。これくらい察してくれたか。そう、優子が危機管理フォームになった時点で、夜のお楽しみは大抵確定したことになるんだよ。優子があの後に発情することがあれば、俺が無意識に思いっきり溜まった欲をぶつけることもあるんだよ。世知辛いんだよホント……

 

 

「浮かんだ‼︎ 行きます‼︎ シャドウミストレス優子、裏フリースあったかジャージフォーム‼︎」

 

 

 そうこうしていたら、優子が自分のイメージした戦闘フォームを思いついた模様。そして変身。赤紫色の裏フリースと白を基調としたあったかジャージ姿、おまけとして紅色のニット帽という、寒いこの季節にピッタリな運動コーデ……なのだが。

 

 

めこっ!? 重っっ……‼︎ な……なんで⁉︎」

 

 

 優子、その場で倒れ伏せ地面に岩盤を作り上げてしまう。しかも起き上がろうにも謎の重力……否、今の戦闘フォームが超重量ものになったせいで起き上がれない状態になってしまった。

 

 リリスさん曰く、厚着は優子達の種族の魂に合わず、却って重量級のものとなり動きづらくなって弱体化する。逆に肌の露出度が高ければ高いほど戦闘力が上がるとのことだ。肌を出さないと弱くなるって、一体どんな種族なんだよ。わけわからん。

 

 

「肌を出しすぎたら戦いに勝っても恰好の羞恥心の無さでは負けてまうやんけ」

 

「全くですッ‼︎ 恥じらう他ないあの格好で敵を倒した私の姿はお笑いですよッ‼︎ あんな格好でしか上手く戦えないとは、これも夢魔のまぞくの運命だとでもいうのですかッ‼︎」

 

「何処ぞの伝説の超戦闘民族の親父のネタみたいなセリフだな」あーう☆

 

「でも……自身を強くするにはシャミ子はそれがちょうどいいと思う」

 

 

 桃が説明するに、魔力外装──危機管理フォームや魔法少女姿といった魔力が関係する衣装──は現実の衣類とは多少異なり、その外装を纏う魔力の持ち主そのものを魔力で補強する皮膜。魂に合った格好は装着者を強化してくれるとのこと。

 

 ……皮膜? 危機管理フォームが服ではなく皮膜認定? 皮膚と粘膜で出来たもの扱い? じゃあ俺はラッキースケベしてしまった時、優子の肌と一緒に服の布ではなくその皮膚と粘膜を一緒に触れてしまったってわけか? ………………めっちゃ複雑なんだけど。

 

 

「ちなみに桃はどうしてピンクのひらひらを選択したんですか?」

 

「動き易さを重視したあの服装に収まったんだろ、きっと」

 

「………………物心ついたらあの格好だったしそこそこ強かった。柘榴に『可愛い』って褒められた時は嬉しかったけど、私だって変えれるなら変えたい……」

 

「す……すみません……」

 

 

 分かった上で余計なこと言ってすまんかった……後さらっと柘榴さんに関する惚気な思い出を言わなかった?

 

 しかし、これにより優子は思い知ったことだろう。危機管理フォームは野外露出プレイをして変態認識されるための半裸コスプレ遊びのものではなく、リリスさんが優子のためにと考え抜いたれっきとした戦闘用装備であるということを。

 

 けど、リリスさんは優子が恥じらうことも考えて色んなパターンの服装を考えてほしかったな。年月や世代が経つに連れて子孫の服装への見解も変わってくるものだし……

 

 ま、とはいっても優子は夜迦の時は何か特別な服装にしない限り、必ずと言っていい程あのフォームになる上にその時だけ気に入ってる感じになるけどな。………………やっぱり複雑だ、本来の戦闘服をそっち方面で多用してるのって。正直俺も好きだけどさ。

 

 

「そもそも蛟の一件は結構危なかったのだぞ。あそこでお主が蛟と対等に渡り合える力があれば、もっと単純に事態が解決できたかも知れぬ」

 

「そうですか? 実際に蛟さんと対面したのは優子じゃなくて俺ですし、仮に出会って何かしらの方法で脱出できたとしてもまたすぐ魂を連れ去られたかもしれないですし……」

 

「実際に対面したとかの問題ではない‼︎」

 

 

 は? じゃあ一体どういう意味でそんなことを言ったんですか?

 

 

「あの時は余も素で忘れてしまったから、とやかく言える立場ではないだろうが……もしもシャミ子が祠の外から蛟の封印を解く程の力を使っていれば、白哉の魂をノーリスクで取り返すことができ、余かシャミ子が魂の交換をすることになりかけずに済む可能性もあったことだろう」

 

「あっ………………そういえばそうでしたね。蛟さんが魂を取らない以外の交渉をしなかったら、優子かリリスさんの魂が取られる可能性もあった……」

 

「うむ、そういうことだ」

 

 

 そうだった。俺達の魔力が蛟さんの力に及ばなかったせいで、最悪の展開になる可能性もあった……実際に己の力が無力である状況に陥った時ってのは、あんなにも恐怖を感じるものだったんだな。

 

 まぁぶっちゃけ、俺も自身の力を持ってしても蛟さんと対等以上になれるとは思えないし、持ってたとしてもどのようにして事態を解決することができるのかも分からんし……それも考えると、リリスさんの意見の方が正しいかもな。

 

 

「そっか……私がもっと強くなっていれば、あの時ごせんぞに負担がかかることなく白哉さんを……」

 

「改めて振り返ると、色々と考えさせられるな……」

 

「まぁそういうわけだ、色々考えるいい機会だろう。シャミ子よ、強くなれ。白哉もな」

 

「……はい」

 

 

 前から分かりきっていたとはいえ、やっぱりチート武器であるセイクリッド・ランスをそこそこ使えるようになっても力不足だと痛感してしまうのは否めない。だからこそ、俺も強くなっていかないといけないな。あの時のような出来事がまた起きた時のためにも、彼女を悲しませないためにも……な。

 

 

「肌を出せシャミ子。肌をもっと出すのだ。全裸でもいい。コスプレを……野外露出を楽しむのだ。もちろんいつも通りかたまにパターンを変えての白哉とのセッ○○の時にも出しまくるのだ」

 

「やっぱりコスプレじゃないですかっ‼︎ 後○○クスの事は言わないでください実際に言われるとかなり羞恥心がっ‼︎」

 

 

 ………………とりあえず優子に裸推ししてるリリスさんに思いっきり拳骨を入れておくか。SMなものは嫌いだから顔面や腹は殴らんでおくか。

 

 

 

 

 

 

 リリスさんに危機管理フォームの事を相談した後、俺と優子は隙間時間を縫って新しい戦闘フォームについて考案し合うことになった。それも布面積が少なくとも恥ずかしくなく可愛らしいデザインのもの……にしたいのだが。

 

 

「そもそも布面積が少ないって時点で、恥ずかしくないデザインを考えるの難しすぎるだろ……」

 

「ですよね……布面積次第では重くなるという点もあるし、それも考えると中々決まりませんね……」

 

 

 そう……優子達の種族の件などの条件も相まっているため、中々丁度良い新しい戦闘フォームが決まらないのである。

 

 布面積が少ないということは体の一部の肌を大きく曝け出さないといけない。しかし部位によっては羞恥心を生むものとなってしまう上、冬にも着ることを考慮するとあまり減らすわけにはいかない。かといってデザイン次第では布面積が多いと謎の重力が働き戦闘どころではなくなる。

 

 そう、丁度良い戦闘フォームを作るには、かなりの条件を満たした上により良いデザインを作らないといけないのだ。一言でまとめるとこうだ、めんどくさい。

 

 翌日の放課後でもその事で未だに悩んでいると、杏里が昨日のバレーボールの件で悪気が無かったとはいえ優子に謝りに来た。ついでに外でレシーブの練習に誘ってきた。んで流れで優子の新しい戦闘フォームについての話に入ってきた。なんか入り方が自然な気がする。

 

 

「……あの格好恥ずかしかったの? シャミ子、最近よく変身してたから慣れちゃった。テストとか一キロランニングとか、果てには二階以上の階段上る時とか……」

 

 

 えっ。テストの時も変身してたの? それこそ自然すぎたから全く気が付かなかった……しかも挙げ句の果てには階段を上るだけでもなってた? は?

 

 

「優子、お前……テストとランニングはともかく、階段を上る程度の時でも変身するとか、『襲ってほしい痴女』でも演じてるのか? さすがの俺でも恋人どうのこうの以前に引くわ……」

 

「そっ⁉︎ そんなんじゃないですッ‼︎ わ、私の事を襲っていいのは白哉さんだけですッ‼︎ 認めたくないけど……あの格好をすると全身の調子が良くなるんです。息切れしなくなるし、頭の血流が増える」

 

 

 便利性に負けて使いまくって、他の男子どものオカ○にされてもいいのか? 俺は許さん、出来れば変態どもに『忘れてくれないとトラウマを植え付ける程の事するぞ。さすがにトラウマといっても弱めのだけど』って忠告する。いや、これは忠告じゃなくて脅迫じゃねェか。怒りすぎて問題事を起こすのも良くないよな……どうすっかな。

 

 

「あー……でも他の男子はもうそういう目線で見られないというか、見ること自体できないけどね」

 

「えっ? どういうことだ?」

 

 

 そういう目線で見れない? 見ること自体できない? それって一体どういう意味なんだ? いや優子の危機管理フォームをいやらしい目線や思考で見ないでほしいけどさ。

 

 

「実は白哉の召喚獣達がさ、シャミ子が危機管理フォームになったのと同時に数匹出て来てね? その時のシャミ子の邪魔にならないようにシャミ子の危機管理フォームの格好に重なるように衣装を隠したり、男子達に念を押すように『今のシャミ子の衣装の記憶を完全に抹消しないと殺す』と宣告したりと───」

 

「後半めっちゃ物騒なこと言ってねェかッ⁉︎」

 

 

 召喚獣達が俺の指示云々なしに勝手にこっちに来ることはもう慣れた。ただ問題なのは、優子が危機管理フォームになった時にやってた彼らの行動だッ‼︎

 

 格好が見えないように工夫するのはいいことだけど、脅迫はさすがにやりすぎだろォッ⁉︎ しかも『殺す』って言って脅すとか、宣告じゃなくて脅迫じゃねェかッ⁉︎ さすがの俺でも恋人の恥ずかしい光景を見られたり恋人をオカズにされたりしても殺そうとはしねェよッ‼︎

 

 いや、弱めとはいえトラウマを植え付けようと考えてる俺も人の事言えないな。いくら恋人がいやらしい目に遭うかもしれないからって男どもにトラウマを与えるのも、精神的な暴力を振るうことと一緒だし……

 

 

「彼らが物騒なことをしてるのは確かだけど、その分シャミ子が酷い目に遭う心配は無さそうじゃない? エロ同人誌みたいに」

 

「そんなこと言うのやめなさいな」

 

「あ、酷い目に遭う心配はないんですね。なら安心ですね……いや単に安心していいものなのかな? 物騒なことしてるみたいだし……」

 

「うん、複雑になる気持ちは俺も同じだ。あいつら俺達の望まない殺人とか起こしそうだから、不安な感情が強くなる……」

 

 

 とりあえずニュース事になることは絶対にするなってメェール君達に釘を打っておくか。絶対この世界で死人は出してほしくないし……あと、なるべく召喚獣達を怒らせないようにしないとな。想像するだけでも寒気がするし……

 

 

「で、話を戻すが結局どうするんだ? 優子の新しい戦闘フォームの案の件」

 

「そ、そうですね……恥ずかしくないものが難しいならせめて可愛いものがいいんですけど、やっぱり布面積を頑張るとどうにも……」

 

 

 そもそも可愛いもの=恥ずかしいものという認識でデザインを考えるのも意外と難しいものなんじゃね? 知らんけど。

 

 

「可愛い子孫にその眷属彼氏よ、悩んでいるな」

 

 

 眷属彼氏って何ですか………………んっ?

 

 

「そんなわけで……皆の者、放課後シャミ子プロデュース会議だ‼︎」

 

「リリスさん来てたんですか」

 

「ごせんぞ何故学校に⁉︎」

 

 

 いつの間にかリリスさんが学校にお邪魔しており、既に桃・ミカン・小倉さん・拓海・勝弥・全蔵をこの教室に呼び出していた。はえーよホ○。

 

 何故リリスさんが学校に来れたのかというと、本人が優子の顔が見たくて先生にアポを取ったら、優子の保護者認識として何事もなく通してくれたそうな。これからは川原の側にあるこの学校でもゴミ拾いをしていくつもりらしい。んで、ついでに校長先生から生徒の籍も軽いノリでゲットしたんだとか……

 

 いや、この学校大丈夫か? いくらみんな人が良すぎるからって、何の躊躇もなく学校外の者を学校に入れたり生徒になりたいという人を新しく歓迎したりするのってどうかと思うぞ? もう少し警戒心とか学んでほしいんですけど……

 

 

「あ、そうそう。これは白哉の召喚獣達が頼み込んだものではあるが、校則として『未来の闇の女帝となるまぞくに対し、その者の恋人以外が下心を持つべからず。微塵でもその野心に気づき次第、それ相応の処罰を下す』というのを新しく取り入れるよう頼んだらそれも通してくれたぞ。これでシャミ子が白哉以外に襲われなくて済むぞ」

 

「校則の追加まで安易に許しちゃもう終わりだよこの学校ッ‼︎」

 

 

 なんで校則まで軽いノリで変更させてんの校長先生⁉︎ 自分の呼び名を『校の長』にしてたりとか軽い一面はあるとは聞いたが、そこまで軽くなる必要ないでしょ⁉︎ 学校の将来の事、考えてますか⁉︎

 

 後、召喚獣達も何やってんだよ⁉︎ 個人というか特定の人物達に関する事を校則にして抑止力を作るとか何考えてんだよマジで⁉︎ しかも『それ相応の処罰』って……最悪NTRしそうなクズを殺す気満々なんじゃないのか⁉︎ さっきの杏里の話を聞くにあいつらなら絶対やりかねん‼︎ やはり人殺しは絶対するなと忠告しておかないと……‼︎

 

 

 閑話休題。

 

 

 召喚獣達の対処については後回しにするとして、みんなで優子の新しい戦闘フォームを考案する会議が始まった。優子の心境にも合ったのが出るといいが……

 

 

「スポーツウェアっぽいフォームはどう? 肌が多くてもえっちくないし足も速くなりそう」

 

「杏里ちゃん、私のことをえっちだと思ってたんですか?」

 

「あんなフォームになっといて、いやらしく思われない方が不自然だろ」

 

「ウグッ……‼︎ で、でもやってみます‼︎ シャドウミストレス優子……山の神フォーム‼︎」

 

 

 杏里のアドバイスを基に、優子は駅伝マラソンランナーが着るスポーツウェアの姿へと変身した。肩に襷も掛かっており、布面積も相まって素早く動けそう……だが。

 

 

早すぎて無理

 

「めり込んだ‼︎」

 

 

 まぁ……新しいフォームになったばかりだから、このようにすぐに能力の調整が上手くいかず暴発してしまった。慣れないフォームの制御には時間が必要になるってわけだ。特撮番組じゃあるまいし、すぐに慣れるわけないもんな。当たり前。

 

 

「んじゃあまずは能力の出せそうにないものに変身するところからやってみたらどうだ? ワンピースならそこそこ肌が出ても清楚感があるし、ザ・シンプルって感じもあるから、初めて慣れないものに変身するには丁度いいぞ」

 

「能力が出そうにないシンプルなものから、ですか……やってみます‼︎ シャドウミストレス優子……英国の淑女フォーム‼︎」

 

 

 勝弥のアドバイスを丸々参考にし、優子は白いフリフリワンピースの姿となった。これなら何の能力も発動せず、慣れないフォームの制御をするための練習フォームにするつもり……のようだが。

 

 

「わぁ……‼︎ これは結構可愛──あばばばばばばばばばばばば目が回る目が回る目が回る目が回る

 

「めっちゃヤバいこと起きたァッ⁉︎」

 

 

 魔力を用いた感じに変身したものだから故か、優子がくるりと回った途端、めっちゃ回り始め彼女の周りに竜巻が発生してしまった。戦闘フォーム候補となるものは何かしらの能力は必ずつくものなのかァッ⁉︎

 

 この後俺達が全力で止めに行ったことにより、優子の制御不能な力は収まり、被害も最小限に済まされた。壊れた物品等は後で桃が弁償してくれました。あいつ、ホント何処から弁償代払えるだけのお金を持ってんだよ……

 

 

「どの姿になっても制御できないとなると、やはり危機管理フォームのままで良いのではないか? 構造無しからチューニングするより楽ちんだぞ」

 

「その代償として恥じらわなきゃならないのが人として終わってるんですよ。危機管理フォームの場合大抵リリスさんのせいで」

 

「責任転嫁のようでそうでもないような⁉︎」

 

 

 肌を出すどころか全裸を子孫に進めてくる先祖は嫌だからね、そりゃあ悪態をつきたくなりますって。特に俺はね。だって恋人がセクハラされてんだよ? 恋人を守るためにも怒らないわけにもいかないよねェ?

 

 この後もまんなで話し合っても中々新フォームが決まらずにいた。とはいってもみんな優子の『可愛い』ってワードを無視した案ばっかりだし、それらをリリスさんが全部合わしたせいで正気度ゼロのバケモンのイラストが出来上がったし……

 

 

「で、白哉はどんなのがシャミ子の新戦闘フォームに良いと思う?」

 

「それが浮かんでたらさっきまで優子と二人きりで話し合いしてねェよ………………あっ」

 

 

 杏里に促されたからなのか、何か閃いたように感じた俺はいつの間にか即座にいらない紙にスラスラと何かを描き始めていた。露出度はそこそこありながらも、恥ずかしくない上に可愛くて強そうなの、それらを考慮して考え抜いた結果が……

 

 

「こんなのはどうだ? 勁牙組組長・まぞくアレンジフォーム」

 

 

 パフスリーブの赤紫色・ピンク・白がかった灰色チェックの布地を三角の縫い目でつなぎ合わせたワンピース、その下にカーキ色に近い色のミニスカートといった……何処ぞの偉人が乗った黒馬から転生したヤクザな妖怪の衣装を、一部軽装化・カラーリングを優子に合わせた感じに変更し、それを優子に着させたイラストが出来上がった。

 

 

「肌の露出度はそこそこ高いし、肩部分の背中と脚は見えてしまうけど……危機管理フォームと比べれば羞恥になる部分は少ないぞ。それにヘソも出さないから、結構動きやすそうだし強そうだぜ? ダメなら他のにしても───」

 

「採用ッ‼︎ ……できるかはわかりませんが候補に入れますッ‼︎」

 

 

 ☆優子、即答した───‼︎

 

 いや、もうちょっと採用するか審議できるでしょお前。いくら俺の恋人だからって何の間もなく即答するってさ……何も考えずに採用、なんて結論に至らなかっただけマシだけどさ。

 

 

「まぁ露出度も悪くないし、柔軟性がありそうなのも確かだ。候補に入れても申し分ない」

 

「確かに。蹴りが強そうな印象もあるし」

 

 

 それはこのデザインの基を着た本人が、カウガールな感じのロングブーツを履いてる上に馬の転生者だからだよ。あんな靴履いてたらそりゃ蹴りが強そうって思えるわ。

 

 というか、『いつも通りのフォームで良くね?』派な二人が賛成する程良かったのか、俺が考えたデザインは。ふと頭に過ってきてよかったぜ……

 

 

「びゃ、白哉さんが考えてくれたフォームは後で変身して慣れて使えるかどうか判断するとして……今度はもう大分構造も出来てるパターンが二つもあるので、そちらも見てほしいです」

 

 

 そう言って優子が取り出したのは、一枚の紙に描かれた二人の人物の……というより二種類の衣装のデザインで描かれた優子のイラストだった。一つは桃の魔法少女姿の衣装、もう一つは俺が召喚師覚醒フォームになった時の姿、それぞれ危機管理フォームに近いカラーリングとなっていた。

 

 

「こういう感じ‼︎ 右は種族の出身地的にエジプトかインドのナウさがあってカッコいい軽装‼︎ 左はヒラッとして可愛くてまあまあ軽装‼︎」

 

「どれも悪くねェけど、どれもパクリになってね? 白哉の戦闘服と千代田さんの戦闘服に近いデザインだろそれ」

 

「……違います! 最適を求めたら偶然この二パターンができたんです。偶々白哉さんとお揃いになったのはすごく嬉しかったですけどね」

 

 

 ハイ嘘ー。偶々ではなく狙ってやってましたー。この子どさくさに紛れて恋人や宿題とペアコーデしようとしてまーす。恋人の方の俺は嬉しい限りですけどねぃ。俺もこの子も内心カップルコーデできることに喜んでおりまーす。

 

 

「左の方は重くて戦闘中バランス悪そう。候補に入れるなら右の方だけでいいと思う」

 

「え」

 

「後正直に言って慣れてるフォームの方が体に馴染んでいいと思うから、採用しても慣れるまでは戦闘中危機管理フォームの方がいいかな。戦闘にカッコ良さも可愛さも必要ないし」

 

おいテメェ表出ろコラ

 

 

 気がつけば俺は無意識に優子のロマンを踏み躙ってる桃にブチギレていた。召喚師覚醒フォームになってセイクリッド・ランスを構えて、いかにも戦闘態勢を取っていた。でも恋人の想いを蔑ろにされてるんだもん、ブチギレないわけないじゃないか。

 

 

「えっ? な、なんで白哉くん戦闘態勢になって……?」

 

「うるせェ、人の想いを完全無視してロマンの欠片すら砕こうとする生真面目な意見を言いやがって。人の心とかないんか? その腐った根性を叩き直してやろうか?」

 

「びゃ、白哉さん落ち着いてください‼︎」

 

 

 はいすみません、さすがに恋人かつ想いを踏み躙られた人からの必死な懇願をされては落ち着かないといけなくなっちゃいます。反射神経で……って感じだけど。

 

 

「……ホントは恋人と一緒に戦う時に良いコンビであることが証明できるフォームになりたいし、宿敵と対になった時にカッコ良く見えるフォームにもなりたいんです。おそろがいい」

 

「えっ? 白哉くんとのカップルコーデは私得でもあるから別に良いけど、私のとお揃いは建設的ではなくない?」

 

「………………………………」

 

 

 おまっ、また人の心を踏み躙った言葉を……カップルコーデは良いとは言ってたけど、自分とおそろの事は何とも思わんのか……

 

 

シャドウミストレス優子……心の壁フォーム……

 

「シャミ子ォォォォォォッ‼︎」

 

 

 気がつけば優子はデカいホタテ貝を呼び出し、その中に蹲ってしまった。そりゃ他人に自分の想いを玉砕されたら引き篭もりたくなるわな。空気読めよ鈍感。

 

 

「つーか謝ってやれやアホ」

 

「えっ。あ、うん……シャミ子、ごめん」

 

 

 あ、俺もすまん。思わず口に出してたもんで……

 

 

「シャミ子……蛟事件の時から私は心配だったんだ。もしもあの時白哉くんじゃなくてシャミ子が攫われたら、とか考えるようになって……白哉くんには色々と戦いで解決できる力や術があるから今のところ問題はないだろうけど、シャミ子にもきちんと武装して自分を守ってほしい……光闇系の人って……急に居なくなっちゃうことあるし」

 

 

 あ、そっか。桃は『もしもの出来事』を恐れていて、自分なりに優子の事を気遣っていたんだな。その『もしも』に優子が一人で遭遇してしまっても、自分の力で解決できる術を出してほしいから……だから実用性を意識してほしかったのか。ロマン性を崩すのは良くないけど、そういった考えは一理あるな、うん。

 

 

「……ごめんなさい、私もわがままでした」

 

「弛んだお腹を出すのが嫌ならまずは筋肉という鎧を スパァンッ へぶぅっ⁉︎」

 

『白哉(さん)(君)(平地くん)がウィ○・ス○スビンタしたッ⁉︎』

 

「すいません、また人の心を踏み躙ってたんでついに我慢出来なくなってしまいました。マジですんません……」

 

 

 とうとう堪忍袋の緒を切ってしまった……この後の物語の事を考えたらやりすぎたと感じたけど、桃も自身の発言に非があったとの事で許してくれた。寛大な人で助かった……ッ‼︎ いやマジで、冗談無しに。

 

 この後桃が自身のフォームを優子とお揃いにしてみるという方向性となり、優子の新戦闘フォームの考案会議はお開きになった。いや、桃の戦闘フォームを変えてみるって結論になって優子のはどうするかが決まらずに終わるってどんな結果だよ。趣旨が変わってね?

 

 

 

 

 

 

 で、放課後。

 

 

「私の新フォーム、一着目が出来ました‼︎ 危機管理フォーム改・マーク2・セカンド・弐號機です‼︎」

 

「……なんで誰もいない教室でやるんだ?」

 

 

 現状の通り、優子は俺に新しい戦闘フォームの一つをお披露目してくれている。外見は全く変わってない……ように見えて実はヒールを二十五センチ高くしただけ。

 

 そうした理由は原作推奨済みの俺にはわかることだが……何故無人の教室で見せる? 誰かに見られたくないのなら帰ってから見せてもいいのだが……

 

 

「どの観点でツッコミを? ……まあいいです。こ、このフォームになることによって……」

 

 

 ん? ちょっ、えっ? なんで急に近づいてくるの? ね、ねぇ? ちょっと? その慣れない靴で歩くと転ぶんじゃね? あの、待って? ホント待って? ラッキースケベが発生する前に変身解いて? お願いだから。ってか、アレ? なんか優子の顔の位置が俺と同じ───

 

 刹那。顔の位置が同じのまま、俺と優子の唇が触れ合っていた。

 

 

「ッ……⁉︎」

 

「こ、このように、同じ目線でのキスがしやすくなるんです……ち、ちなみに誰もいない教室で見せてキスしたのは、雰囲気作りで……です」

 

 

 あっ。な、なるほど……放課後、夕方にて誰もいない教室で二人きりでキスをする……確かに雰囲気はすごく良いよな、普通にキスをするよりもドキドキ感があるというか、誰か人が来ないだろうかハラハラするというか……

 

 

「お、同じ顔の位置でのキスも、なんか結構心臓がバクバクするな……」

 

「で、ですよね。………………あ、あの……む、胸の高まりが収まらないので……こ、このまま私を……だ、抱いてくれませんか……?」

 

「……ッ」

 

 

 また急に発情しやがったよこの子……ッ。しょ、正直に言って俺も、この状況とさっきの同位置キスで興奮しちまったけどさ……

 

 

「……だ、誰かが来たらどうすんだよ」

 

「そ、それはそれでドキドキして、興奮しちゃったりしませんか……?」

 

「………………否定しないけどさ……」

 

 

 優子の同位置での照れ笑い+上目遣い+胸を持ち上げて強調、この組み合わせは反則すぎるだろ……ッ。

 

 この後滅茶苦茶夕日に照らされながら誰もいない教室で抱きまくる羽目になりました。結局男の性には逆らえなかったぜ……ッ。

 

 

 

 その日の夜。優子がばんだ荘にて桃にも披露して宿敵を見下せることをドヤ顔で説明したら、つつかれまくって倒れちゃったという話をしてきた。バカにしたら返り討ちに遭うのは目に見えたけどな。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その31


シャミ子「布面積が少ないほど強くなるって、一体どんな能力を持ってるんですか私の一族の方々は……もうちょっとこう……魔力を強化する術は他にもあったはずじゃ……」
「あっ。そういえば最近流行りのアニメで、魔法少女に対する歪な憧れを持った主人公の戦闘フォームも、かなり露出度が高かったような……」
「………………………………」
リリス「ふぅ〜、ただいまぁ……おっ? シャミ子よ、今日のノルマは早めに終えれたぞ───」

シャミ子「シャドウミストレス優子、○ジアベー○フォーム‼︎」
リリス「えっ」

シャミ子「……や、やってしまった……やってしまいました……お、おっぱいのとこの布が、ニップレス程度しかない……」
「で、でも、これで白哉さんが喜ぶと考えたら──あっ」
リリス「………………」
シャミ子「………………」
リリス「………………フッ」(親指を立てる)
シャミ子「ア ゙ァ ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ア ゙ッ ゙‼︎」(悶絶)
リリス「ちょっ⁉︎ ま、待つのだシャミ子そのデカさの魔力はヤバウボワァッ-‼︎」

清子「……スマホがあれば白哉くんに写真を送れたのに、残念ですね」

白哉「夜中前なのになんか騒がしいな……? 後なんか寒気が……」


前回の感想が久々の0件ってマ? あのシリアスな場面の結末回だぞ? おまけとしてバレンタイン回もあるんやぞ? ……平日投稿だったからかなぁ……
 


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移住地の近くに飲食店があるっていいよね。いざとなった時にすぐそこに食いに行けるし。

『おもウマい店』って番組、思ったよりも面白いよねってことで初投稿です。

今回は『あすら』で何かあったか回となります。そして何やら不穏な感じが……もう嫌な予感を出すのは堪忍して。


 

 やっはろー。俺、白哉。今日は『本の祭典 スカーレット』に用があったので、そこにお邪魔することになったぜ。

 

 何故そこ行くことにしたかって? 面白い本が新しく並んだんじゃないかって思ってね、気分で行くことになったってわけ。後最近行ってないし。もちろん本は買うぜ。お店に来たらなんか買う、当たり前だよなぁ?

 

 というわけで、早速来たぜ。何かしらのキャンペーンやセールは……やってないな。今は通常営業なのだろうか。にしては外からでもバタバタとした音が伝わってきているような……

 

 とりあえず店の中に入ってみよう。入ってみないと中で何が起きてるのかわからないしな。

 

 

「こんにちは───」

 

「我が妹よ、そっちの方はどうなのだ⁉︎」

 

「ダメ‼︎ この区域も良い物件が無くて、空き地は一件だけあったけど土地が悪いみたい‼︎」

 

「そうか……こっちの区域は物件どころか空き地すらないのだ……我々は一体どうすれば良い……‼︎」

 

 

 ………………あ、あるえぇ? なんかかなり深刻な様子なんですけどぉ……? 何やら空き地を探してるみたいだけど、一体何事……? 俺、一旦退散した方がいい系? と、とりあえずお邪魔しました───

 

 

「ん……? ア、アレ⁉︎ びゃ、白哉君いたの⁉︎ ヤバッ、『臨時休業』のビラ貼るの忘れてた……‼︎」

 

「あっバレた。いえ、今来たばっかですが……お二人とも何をそんなに慌ててるんですか?」

 

 

 奈々さんに見つかってしまったので、恐る恐るそう問いかけてみたら、ブラムさんがクワッとした切羽詰まった表情をこちらへと向けながら叫ぶ。

 

 

「我々に何か問題があったわけではない……だが、同志『あすら』組の危機ではあるッ‼︎」

 

「……『あすら』組? あぁ、白澤さんとリコさんの事ですか。それが一体どうしたと……」

 

 

 あっ(察し)。ここでも原作知識がふと降りてきたわ。そっか……もうその時が来たのか。

 

 

「喫茶店『あすら』が……潰れたのだ」

 

 

 この後のブラムさんが言うにはこうだ。

 

 優子の誕生日会の日に奈々さんがリコさんから店の休業をすると聞き、それを教えられたブラムさんと一緒に店の再開の為の手伝いをしに行った時に……閉店の話を聞かされたらしい。

 

 先日の魔力料理の件が原因……ではなく、リコさんがこれまでに何度か店を料理したことがあり、店の修理代を払っていく内に文無しとなってしまい、累積退場をする他なくなったようだ。

 

 それを聞いたブラムさんと奈々さんは居ても立っても居られなくなり、白澤さんとリコさんの青空生活阻止の為に店を開けそうな物件や空き地を探すことに……したのだが。

 

 

「現状の通り、中々良い物件も空き地も見つからなくてな。物件の方はバク相手でも貸せるかどうか判断が難しいところだらけで……」

 

「そ、それは結構苦労しているようで……と、ところでなんで『あすら』の新しい店を建てれる場所を探そうと?」

 

 

 二人とも俺の記憶だけの見解だと『あすら』組と会ったのはかなり少なかったはずじゃ? 奈々さんはリコさんと一回多く会ったはずだけど。

 

 

「「すごい愛情が伝わったからだ(なの)ッ‼︎」」

 

「はい?」

 

「「リコ殿(さん)の料理に対するッ‼︎」」

 

「あ、なるほど」

 

 

 あ、なるほど(二回目)。俺の知らないところで『あすら』に行っていて、そこでリコさんの料理を食べておかしくならずに済んで味に感動したってわけか。

 

 

「リコさんの料理に対する想い……『お客様に美味しく食べてもらってほしい』『また食べたくなる思い出を作ってほしい』などといった想いが味として伝わってきて、思わず感情が噴き出しそうになった……ッ‼︎ 料理を愛する人が料理しなくなるなんて考えられない‼︎ だから作りたいの、『あすら』の新しい居場所をッ‼︎」

 

「我が妹よ、我の想いを丸々全部言わなくても良いではないか……ッ‼︎我のあそこに対する想いが言えなくなったではないか……ッ‼︎」

 

「この想い、誰かに語らずにはいられないじゃない……ッ‼︎ 兄さんだって同じ感情でしょ……ッ‼︎」

 

「それは否定できぬ……ッ‼︎」

 

 

 あの……分かりました、分かりました。お二人がどれほど『あすら』の事を想っているのか分かりましたから、すんごい量の涙を流すのやめてもらってよろしいでしょうか。店が濡れちゃいますよ。

 

 とにかく、二人が『あすら』をなんとかしたいという意思は伝わった。このまま俺も新しい店を建てれる土地か物件を探すところ……なのだがここでも原作知識が活かせられるところ。とっておきの情報を彼らも聞く資格がある……いやなんの資格だよ。

 

 

「あの二人が新しく店を開ける場所、その宛てがあるところを俺は知ってますよ」

 

「「それは本当か(なの)ッ⁉︎」」

 

 

 うおっすごい食いつき⁉︎ 『あすら』組の二人の居場所が見つかったことがそんなに嬉しかったのか……そこまでするほど『あすら』……というかリコさんに感化されていたのか。ホントに中毒性があったんだな、リコさんの魔力料理ってのは……

 

 ま、まぁいいや。とりあえず新店ができそうな場所を教え───

 

 

「こうしてはおられぬ!! 早速あの二人にこの事を報告せねば!! 白哉よ、着いてまいれ!! 今から『あすら』に行くぞ!!」

 

 

 ちょっ、いきなり翼広げないでもらえます⁉ 突然の行動はかなりビックリしますから……ってか。

 

 

「今から行くって……直接伝えに行くんですか⁉ 俺、まだ新しく見せ建てれる場所のことを言ってませんし、確証があるわけではないですよ⁉ それに直接だといない可能性もあるので電話での方……」

 

「休業中に彼等が電話に出てくれるわけがなかろう‼︎」

 

「あっ」

 

「そもそも口頭で言った方が嘘か誠なのかどうかが分かりやすい!! それに、確証がなくても可能性がないってわけではない事がわかるだけでも安心できるはずであろう!!」

 

 

 あ、なるほど(三回目)。要するに、四の五の考えてる暇があるならさっさと現状を報告するべきだと。けど音声通話だと本当だと受け入れてくれるからわからないから、直接会って直々に伝える必要があると。探す時間によってはそれこそさっさと報告するには合わないのでは?

 

 

「えぇい、話はもうよいだろう⁉︎ 直ちに『あすら』に向かうぞ‼︎ ついて来い‼︎」

 

「うん‼︎ 白哉君、私達先に行くからついて来て‼︎」

 

「あっ、ちょっと……」

 

 

 ば、爆走するバイクの如く走り去って行ってしまった……それほどまで『あすら』の料理に惹かれてたのか。いつか健忘状態になってしまっても知りませんよ?

 

 

 

 で、遅れながらもさっさと『あすら』に辿り着いた時には。

 

 

「「既に外に出ていた……」」

 

 

 白澤さんもリコさんも店にいなかったことに落ち込み、店の扉のに座り込んでいた。知ってた。

 

 

 

 

 

 

 落ち込んでしまった『スカーレット』組を宥めて数分後。

 

 

「ここが……『あすら』の新しい店ができるかもしれないところか?」

 

「はい。広さも申し分ないと思います」

 

 

 せめて新しく『あすら』を建てさせてあげる予定となっている場所の把握を先に済まそうとのことで、俺は二人にその場所へと案内することになった。その場所というのが……

 

 

「いや、ここ……どう見てもばんだ荘だよね? 近くに廃墟も空き地もないんだけど……」

 

「店をやれる場所ありますよ。一階の部屋全部使ってもらいます」

 

「「なんて?」」

 

 

 そう、俺や優子達が住んでいるばんだ荘の一階の部屋丸々である。幸い一階は一部屋ながら上の階の俺達の部屋を合わせた間取りとなっている。そう、一つの部屋だけでそこそこの広さを使いながら、店を開けることができるのだ。ここが無人物件だったのが不幸中の幸いだったぜ。

 

 っていうのを二人に説明したら『あぁ……』ってな感じで納得してくれた。納得してくれたってんなら無問題だぜ、やったぜ。

 

 

「なるほど、それなら臨時営業再開にはもってこいだな。ここに救いの手があったとはな……‼︎」

 

「よかったぁ〜……ここなら狐であるリコさんにもバクである白澤さんにも快く部屋を貸してくれるだろうし、何より家賃もかなり安いよね。正しく魔族の為のアパート……」

 

 

 気に入っていただけたようで何より……いやアンタらが気に入っても、最終的には契約者である『あすら』組が住むかどうかで決まるけどな。まぁ原作通りならここだって……

 

 

「アラァ? 白哉はんにブラムはん兄妹やないの」

 

「あっ……この声は‼︎」

 

 

 と、そこに俺達に声をかけながらこちらに来る人影──というか狐の影が。このはんなりとした声と喋り方は……

 

 

「リコさん!! お変わりなくてなによりです!! でも、なんでここに?」

 

「ん〜? そろそろ三人にも伝えようと思うてたところなんや。

 

 

 

 ウチら、このばんだ荘で『あすら』を再開させようと思うとるんよ」

 

 

 

「なるほど、そうでしたか………………えっ?」

 

 

 あーらま、もう既にここでお店を再開させることにしたところだったんですね。タイミングが良いのか悪いのか分からなくて複雑になるわ。いやどっちかというと悪い方かもしれん。

 

 直接伝えに行ったのに居らず、仕方なく新住居の把握から進めることにしたところで既にそこで店を開くことが決まった……こんなの複雑な感情を抱くこと待ったなしだな。

 

 

「えっ……あっ……そ、そうでしたか……そ、その……おめでとうございます……?」

 

「そう言ってくれると助かるわ〜。でもなんで顔引き攣っとるん? まぁえぇか。ほな、ちょっとお店の準備の続きしてくるな」

 

「あ、はい……ど、どうぞ……」

 

 

 いつも通りのほんわか笑顔で去っていくリコさんを見送った後、奈々さんは虚ろな感じの眼差しになりながらこちらに振り向いてきた。ちょっ、そんな目しないでくれません? ショックを受けたのは分からなくもないですけど、その目は怖すぎますよ……

 

 

「………………人って、自分がすべき事を先回れてやってもらったら謎の虚無感に駆られるんだね」

 

「そんなに深く考える程ショックだったんですか?」

 

 

 無言で頷き心境を肯定した奈々さん。自分達が恩人の力になれるチャンスが来たと思った矢先、その手段を既に相手が見つけてしまったなんて、どんな感情を持てばいいのか分かりませんよね……

 

 

「まぁそう落ち込むでないぞ、我が妹よ」

 

「兄さん……?」

 

 

 一方のブラムさんはなんとも思わない感じの笑顔になってんな。というよりは器の広さを表してる感じの笑顔だな。

 

 

「我々の目的は『掴んだ成果を路頭を迷った仲の良き知人達に報告すること』でなく『仲の良き知人達の新たな居場所を見つけてあげること』だ。彼等がどのようにしてその居場所を見つけることができたのかは定かではないが、意図がどうであれ、あのように活き活きとしてゆける居場所を彼等は掴めたのだ。誠意を持って祝福すべきであろう?」

 

 

 そう淡々と語りながら、ブラムさんは『あすら』の再開の準備を進めている白澤さんとリコさんを見つめる。その瞳は曇り一つ無く紅く透き通っており、情熱と抱擁の意を持って二人を見つめていることだろう。俺の勝手な解釈だけど。

 

 

「………………そっか、そうだよね。あぁしてまた『あすら』を味わえるようになったもんね。だったら私達が落ち込む必要ないか」

 

「うむ………………こうしてはおられぬ、早速営業再開記念となる品をいくつか用意しに行くぞ‼︎ 白哉よ、我々は一旦これにて失礼するぞ‼︎」

 

「また『あすら』で会おうね‼︎」

 

「あ、はい」

 

 

 ……ホントさぁ、この二人はどんだけ『あすら』の事が好きになったんだよ。どんだけリコさんの料理に目を惹かれたんだよ。あの人の料理の中毒性、ヤバすぎね? 人をここまで動かせることあるゥ? 意地でも新しい店舗を見つけようとする行動力に発展させたりとかさ……

 

 と、そんな事を考えていたら、優子と桃が俺に気づいたのかこちらの方へと来てくれた。

 

 

「白哉さん、ちょうどいいところに……って、そんな苦い顔してどうしたんですか?」

 

「あぁ、優子と桃か。いやなに、『あすら』の隠れファンが身近にいたんだなって思ったらちょっとな……」

 

「もしかして、白哉くんも既に知ったの? リコさん達がここに住むことを?」

 

「ん。まぁそんな感じだ」

 

 

 二人の話によれば、白澤さん達が公園の片隅で青空レストランを開こうかと考えていたところ、優子がばんだ荘の一階の部屋で開業してみてはどうだろうかと提案したらしい。桃は最初は乗り気じゃなかったらしく、優子も双方の意見の食い違いでバグってしまったとか。

 

 

「で、いざとなったら桃は柘榴さんに住ませてあげている自分用の家に帰れるとか言ってしまって、あっちの方が快適だとか言ったら虚しく感じて、それらが相間ってモヤモヤしちゃいまして……」

 

「私もどうしてそうなるんだろうとは思ってた。で、白澤さんが白哉くんとの穏やかな暮らしも大事だとか言ったら、今度は白哉くんが退去するという選択肢もあるとか言って……」

 

「も、桃ッ‼︎ それは私自身も気にしてるんですから言わないでッ‼︎」

 

「いや出て行く気なんてねェから。ホントに思考がバグったのかその時の優子は」

 

 

 えっ? 俺まで退去させられるところだったのか? 俺なら別に食べ物の香りがするのは構わないのだけど、さすがにここを退去することはできないな。何より優子が困りそうだし。色んな意味で。

 

 で、優子がパニクって俺か桃のどちらかor両者退去してもらうかの流れを、小倉さんが発案みたいな形で止めてくれたって話も聞けた。俺は優子の事を考えて、桃は食生活的にここに残るべきだという感じで。小倉さんGJ。俺の知らないところで退去の話題をされたらたまったもんじゃないからな。

 

 結果、最初ただ少しだけ意地を張っていただけで本当は大丈夫だとのことで、桃も店を作っていいとの許可を出した。桜さんの代わりに街のボスとして最善を尽くした優子の頑張りを無下にする気がない上、もうしばらくここに居たいからとのこと。この前騒がしいのも良いとか言ってたみたいだし、信じてもいいかな。

 

 

「ま、本当は柘榴さんと同じ家に居るのは心臓が持たないからとかじゃね? なんちゃって───」

 

「その事、絶対誰にも言わないでね。特に柘榴とリコさんには」

 

「アッハイ。スミマセンデシタ」

 

 

 予想的中だった。図星だった。剣幕した真っ赤な表情で迫ってきた。これは謝るしかないでしょ、だって怖いもん。肩を掴んだ手の握力がヤバいもんイタタタタタタタタタタタタッ‼︎

 

 あ、ありゃ⁉︎ 今の痛みでなんか大事なことが頭から飛んでっちゃってる気がするけど、気のせいだっけ⁉︎ 何かしらの襲撃とか起きなきゃいいのだけれど……

 

 

 

 

 

 

 二日後。『あすら』はばんだ荘店として再開することになった。廃墟をリノベーションしたコンセプト喫茶として再出発……いや、冷静に考えたらあそこを廃墟扱いは許せんな。俺も住んでるところだし。

 

 ちなみに新しい店はビラ配りだけでなくSNSでも宣伝するらしい。住んでるところがSNS映えするとか複雑なんだけど……召喚獣達の結界を張るから問題ないだろうけど、優子との夜のお楽しみは……営業時間次第ではタイミングとかを見極めないといけなくなったかもしれん。俺は我慢できるけど優子はどうなんだろうな……

 

 開業当日にはスカーレット兄妹の他に杏里や勝弥も祝いに来てくれた。そして店の入り口を見て怪しげに感じたのか入りづらいとぼやいた。古びた外見に素朴すぎる展示云々は確かに抵抗力を持たせちゃうけどさ……隠れ家感があるし中もアットホーム感があって良いから遠慮せず入ってって? お願い。

 

 で、今気づいたんだけど原作よりも一日早く桜さんの結界が移転していた。誰かが結界の事を思い出してここまで持ってきてくれたのだろうかと思い、優子や桃達に喫茶店の結界について聞いて回ってみた。そしたら……

 

 

【僕が持ってきたんだメェ〜。この街のまぞくが結界を忘れるなんてどうかしてるメェ〜】

 

 

 ってな感じでメェール君が持ってきてくれたとのこと。お前ってホントしっかり者だよな。いやホント、マジで助かったよ。ありがとう。これでイレギュラーな襲撃が起きずに済んだ……と思う。

 

 んで、今俺達は何をしているかというと。

 

 

「じゃーん‼︎ 似合うかしら‼︎」

 

「……ウェイターの制服、いいね」

 

「………………なんで私まで?

 

「開業一日目くらいは人員を多くしないと、人手が足りないとかで色々とこの店は大変なことが起きるからな」

 

 

 臨時的な従業員となり、元々従業員である優子と拓海と一緒にホールの手伝いをすることになった。初日くらいはたくさんの客が来そうだし、これくらいの人員は用意しておかないともう忙しくて忙しくて……俺は実際に飲食店では働いてないけど。

 

 しかしこの立地で客は来るのだろうか、白澤さんがそんな不安の声を挙げる。まぁ外見が不気味に見えるから仕方ないか。けどリコさんが丹精込めた料理の匂いを外に香り出させたおかげなのか、店は初日から結構繁盛した。マジでウチがSNS映えしそう。

 

 ってなわけで接客の仕事が案の定結構大変忙しいもんで。リコさんの中毒性のある料理を食ってハイッ!! な感じになってる客を見ながら接客をするとか何かの地獄なのか?

 

 というか……

 

 

「ブラムさんと奈々さんは一体そこで何をしてるんですか?」

 

 

 このスカーレット姉妹は一体何をしてるのだろうか。店の隅っこに小さな屋台を建てて……

 

 

「よくぞ聞いてくれたな白哉よ。我々は『あすら』の再開記念に白澤殿の許可をもらって食関連の本を商品として並べることにしたのだ!! より食に対する理解や共感をしてもらおうとするためにな!!」

 

「ただ開店祝いをするだけだと店の為になるのかと考えてみたんだけど、やっぱり料理店と言ったら食べ物のことを伝えるべきじゃないかなって思ったら今に至ったってわけ」

 

 

 あぁなるほどね。自分達の売ってる本で『あすら』だけじゃなくて食べ物についての理解もしていってほしいって寸法なのね。それでそのように本を並べていると……こういう促進の仕方もあるんだな。勉強になる。

 

 ただ『ト○コ』は一般の食とは大きくかけ離れてね? 寧ろどっちかというとジャンプ漫画だからバトルもの……同じジャンプ漫画である『食○のソー○』だって現実でも作れそうな料理の可能性があるというのに、なんだろうな……

 

 

「あ、ブラムはんに奈々はん。良かったら切り上げてウチのまかない料理で休憩していきな〜」

 

「む? いいのか? 我々は従業員のような働きはしてはおらんぞ」

 

「えぇよえぇよ。形がどうであれお店の手伝いをしてくれてるんやし、何よりウチが振舞ってやりたいんやし」

 

「そ、それじゃあお言葉に甘えます‼︎ まかない料理の方も食べてみたい‼︎」

 

 

 リコさんのまかない料理と聞いて奈々さんが速攻で食い込んでいった。それほどまでにリコさんの料理に中毒性を持つようになったのか? あの時の優子みたいに健忘状態にならなきゃいいんだけどな……

 

 ってそんなことを考えていたら、奈々さんはもう既にまかない料理を食いに厨房へと向かってったよ。中毒性は行動力にも影響されるんか? 怖っ……

 

 

「まったく、我が妹は本当にリコ殿の料理が好きなのだな。ま、我もそうではあるがな」

 

 

 自分の事を理解していることは良いことです。誰かと比較するにはまず自分からって言いますしね(言わないと思う)。というかブラムさん、食べられない食材とかあるんじゃないんですか? 例えばニンニクとかニンニクとかニンニクとか……ニンニクしか思いつかんのだが。他に何かないのですかね?

 

 

「兄さーん、今日のまかない料理はガーリックライスのカレーだってー」

 

 

 はい、いきなりニンニクが入ってるのが出てきたんですが。ヤバいですってブラムさん、他のまかない料理を頼んだ方がいいですよ。

 

 ……って、アレ? なんか噛むブ○スケアを口に入れてるんですか、何してるんですか?

 

 

「………………よし、準備万端である」

 

「いや、何してたんですか?」

 

「む? あぁ、ニンニク料理を食べる前によくやってることだ。事前に噛む○レスケアを食べることでニンニクを食しても全くの無問題となるぞ」

 

 

 全くの問題も無くニンニクを食べれるようになる……? 噛むブレ○ケアはニンニクなどを食べた後の口臭を消すためにあるものですよ? それを事前に食べることでニンニクへの耐性にするとか……どんな身体になってるんですかアンタは。

 

 

「では我も昼食を食べてくる。使い魔達よ、店番頼むぞ」

 

《キキキッー‼︎》

 

「一号から五号は店の物を運ぶ手伝いもしていたからな、先に我と一緒に休むか」

 

『『『『『キキッキキッー♪』』』』』

 

 

 あ、使い魔君達久しぶり。夏祭り以来だな。浴衣に着替えさせるためとはいえ連携して俺の身包みを剥がしたのは度肝を抜いたぞ。でもいきなりそんなことするのやめてくれないかな? 突然の事で警戒するしビックリもするし、後下手したら敵視されるから。

 

 ま、心の中で呟いたものだから聞いてくれるわけないか。もう既にブラムさんのところへと行っちゃってるし。というかブラムさんと奈々さん以外の言葉が伝わるのかどうかも少し怪しいし、あまり変わりない……のか?

 

 

「白哉さーん、四番テーブルお願いできますかー?」

 

「おう、すぐ行くわ」

 

 

 いけないいけない、仕事はきちんとしないと。俺も臨時とはいえ従業員だから。いらっしゃいませー。ご注文は何にいたしましょうか?

 

 

 

 

 

 

 フゥー、特に何の問題も無く一日目が終了したぜ。トラブルがあったのはガスが火を噴いたことだけだったし、焦ったけど何事も無く解決したからな。それで火事になったらそれこそ『あすら』の危機だし。

 

 それと、一番の不安要素が起きずに済んだのも運が良かったと言うべきか。それは……桜さんの結界を一日貼り忘れたせいで(原作では二日)、原作に登場しない・または未登場であって本来ならまだ登場しないだろう原作キャラが来てしまうということだ。

 

 もしもその来た奴ら中に過激派な奴がいたら大変なことになっていただろうし、この後の原作の展開にも大きな支障が出てしまうからな。登場しなくて助かったぜ。そもそも未登場キャラがどんなのかなんて知らないし。五巻までしか読んでないし。

 

 

「一日だけ結界の貼り忘れがありましたけど……大丈夫でしょうか?」

 

「結界を貼り忘れるなんてことは初めてだから、どうすりゃいいのか分からんくなるな……」

 

「二日なら結界の保護から外れても……普通は問題無い……はず。特定の魔法少女にめっちゃ恨まれててマーキングされてるまぞくなら補足される可能性あるけど」

 

「そんないけずな人おるの〜?」

 

 

 いやいやリコさん、そんないけずなまぞくは貴方ですよ貴方。この前魔法少女を返り討ちにしたとか言ってたじゃないですか。それで仲間の魔法少女に恨まれないわけがない。ま、この後の展開では別の目的で恨まれてるだろうけどね。

 

 結界が一日だけとはいえ外れてしまっては今後何が起こるのか分からない。というわけで桃が念のためしばらく白澤さんとリコさんの近くに居ることになった。万が一に備えて、だな。

 

 

「桃はん、追い焚きのあるお風呂の家行こっ。床暖房〜。今の家主の柘榴はんがどんな風に使ってるのかも気になる〜」

 

「バランス釜で満足してください。そもそも今は柘榴が使ってるので───」

 

「……いいよ、お泊まりしても」

 

 

 うおっビックリしたッ⁉︎ 柘榴さんいたの⁉︎ もしかしてずっといたのか⁉︎ 話に入ろうとしたけどそのタイミングが分からず、ずっと黙って俺達の話を聞いてたのか⁉︎

 

 

「ざ、柘榴ッ⁉︎ お泊まりしてもいいって……本気なの⁉︎」

 

「……桃の友人だし、行動が悪意なものであっても、心そのものに悪意が無ければ、問題無い」

 

「えぇの? やった〜柘榴はんありがとな♪」

 

「ちょっ、勝手に………………ヌェッ」

 

 

 急に変な声出さんといて。柘榴さんが無言かつ円らな瞳を向けてきてハートにダイレクトにきたのは分かるけどさ、そんな声を出してたらリコさんに揶揄われるネタがまた増えるぞ。

 

 

「………………分かりました。迷惑をかけない範囲でどうぞ」

 

「はぁい♪」

 

 

 あーあ、結局柘榴さんに押し負けてリコさんと三人で寝泊まりすることにしちゃったよこの人。ま、知ってたけどな。柘榴さんが絡んできたら絶対彼の意見に根負けすると思ってたけどな。ホント個人的な恋愛耐性が弱いなオイ。

 

 

「桃……いつか何もかも柘榴さんの思い通りにされそうな気がします」

 

「もうなってると思うけどな」

 

 

 オイ睨んでくるなよ桃色魔法少女。知らないから、俺知らないからな。

 

 

 

 

 

 

 夜の多磨町の、とある住宅地の街路。灯を室内から照らしている住宅が少ない中で、紅い輝きを灯されていた。

 

 

「……本当に、この町にアタシの家を……町をめちゃくちゃにした妖狐がおるんやな? ミト」

 

 

 紅い輝きを放つ、薔薇の形に似た宝石を持って先頭に立っている少女が、彼女の後ろで犬の耳のようなものを頭部でぴょこぴょこと動かしている女性──ミトに声を掛けた。

 

 

「ですわ‼︎ 僅かな時間で発された異族のまぞく匂いは、この町のから感じ取られますわ‼︎ ただ、何処の建物からなのかとまではいきませんでしたの……」

 

 

 耳と尻尾が嬉々としてピンッとして伸びたり、残念がったのかペタンッと垂れ下がったりと、表情に出さなくても分かりやすく豊かな感情を見せるミト。それによる感情の理解のしやすさに少女は思わず苦笑いを浮かべた。

 

 

「そこまでできただけでもすごいことやで……にしても、ホンマにこんな町にヤツがいるんか? アタシも十年ぶりに気配を掴めて喜んどったけど、それも一瞬だけやったしな……」

 

「ご心配いりませんわ‼︎ わたくしの嗅覚はどんな場所からどんな匂いが短時間で発されようと、その匂いを感じ取った特定の位置を把握することができますわ‼︎ ご主人様もあの魔力のある位置を感じ取ったのですから、自信を持ってあの狐を探しましょう‼︎」

 

 

 活き活きと笑顔で何かの目的を遂げることを推進させるミト。そんな彼女の笑顔に吹っ切れたのか少女も微笑み、半月の夜空に拳を突きつけた。

 

 

「……それもそうやな。妖狐め、アタシやじいちゃんの人生までもめちゃくちゃにしよった罪は重いで……首を洗って待ってな‼︎」

 

「ですわー‼︎」

 

 

 紅いと獣、この二つが多磨町に舞い降りて来たのは、悲観の嵐とでもなり得るのだろうか……

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その32


シャミ子「桃〜極上スマイル三兆個ください」
ミカン「私にもすてきスマイルちょうだいな」
柘榴「……桃色キャピキャピスマイル五分間分ほしい」
拓海「あえてブラックスマイルで」
桃「………………ははっ」
白哉「………………………………なんだこれ」
リコ「桃はんのスマイル只今爆売れ中なんや‼︎ うちで一番の人気メニューなの」
桃「とても良くないノリですね。嫌いです」
白哉「本人の許可無しで売るのは色々と法を犯してますよ。桃が闇堕ちする前に販売中止してあげてもろて」
リコ「え〜? 好評やから派生商品を増やしたいんよ〜。『桃はんがオムライスに好きなメッセージ』とか『桃はんとデュエット』とか『桃はんのラブ注入』とか」
桃「そろそろ訴訟しますよ」
白哉「ったく、勝手にメイド喫茶の奉仕みたいなことをさせられる桃が気の毒でしかならね───」
リコ「んだったら代わりに白哉はんver.も作るけど、どうや?」
白哉「桃、しばらく耐えろ」
桃「いや見捨てないで⁉︎ 一番倫理観のある白哉くんが見捨てるのやめて⁉︎」
白哉「いざとなったら通報するけど後がめんどくさいからな……それに俺が奉仕みたいなことをしたら優子がどう思うか───」
シャミ子「白哉さんの魅力を引き出すために私も派生商品をいくつかあげてもよろしいでしょうか⁉︎」
リコ「えぇけど、内容次第では大抵恋人特権として非売品になるよ〜」
シャミ子「寧ろ好都合です‼︎ 後でお話しませんか⁉︎」
白哉「えぇ……」

END


労働基準法は正しく守りましょう。
 


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封印の力を使わせないようにしたいけど、イレギュラーが邪魔してきそう。どうしよう…… ♦︎

巨乳お嬢様口調の令嬢も好きなので初投稿です。

なんでいきなりこんな事を言ったのか、それは本編を見れば分かります☆


 

 良い子の皆、よーく見てお──なんでもないです。こんにちは。白哉です。さっきの挨拶は気にしないでくださいお願いします。

 

 『あすら』がこのばんだ荘にて営業再開するようになって数日が経った。桜さんの結界も一緒に移転をさせることを一日だけ忘れてしまったというケースが起きたため、桃が『あすら』組の護衛に回るようになった。そのせいかすっかり従業員にされる始末に……

 

 ちなみに俺もここで働くことになった。それも優子と同じシフトで。もう親から勝手に仕送りされなくても済むようにするためなのと、俺と長く一緒にいたい優子のモチベーションに繋げるために働くことにしたからだ。ただ単に金が欲しいからってだけで働こうと決めたわけじゃないからな、マジで。

 

 で、優子は白澤さんと一緒にビール瓶の仕入れに行っていて、今は俺・桃・拓海・リコさん・ついでに店の手伝いをしてくれているミカンと柘榴さんで店の切り盛りをしている。といっても初日みたいな忙しさはないし、客も全蔵と小倉さんとトランシーバー役のリリスさんしかいないしね。

 

 

「サンドイッチランチセット一つと、せっかくなんで召喚師スマイルも一つお願いするッス」

 

 

 ………………はっ? 全蔵の奴、今なんて言った? 召喚師スマイル? はい?

 

 

「あの、お客様……召喚師スマイルとやらはメニューにはございませんが……」

 

「あれ? 違ったッスか? 本日のオススメってビラに書いてあったッスけど」

 

「………………少々お待ちください。あ、サンドイッチランチセットは必ずお持ちしますね」

 

 

 なるほど、大体分かった(怒)。早速厨房にいるリコさんのところに行ってくるか。マスクを付けて、と……

 

 

「リコさんッ‼︎ アンタ何してくれてんですかァッ‼︎」

 

「あらぁ白哉はん、衛生面を考えてマスクして唾飛ばさんよーにしてくれとるんか? 助かるわ〜」

 

「そんなことはどうでもいいですッ‼︎ 何本人の許可無くスマイルをメニューに入れたんですかッ‼︎」

 

 

 既に桃もこのスマイルメニュー入りの犠牲になってるだろうし、敢えて『俺の』スマイルって言わなかったのだから、『桃のスマイルも勝手に入れるな』って事が伝わると良いのだけれど……いや、伝わったとしても意味ないだろうけどさ。

 

 

「まーまー、イケメン君のスマイルだってお客さんの供養になるもんやで? ちなみにこれ、恋人のシャミ子はん公認や」

 

「ヤンデレどこいったァァァァァァッ⁉︎」

 

 

 優子っ、おまっ、俺に対する独占欲があるじゃなかったのかァッ⁉︎ 俺の笑顔を他の人達にも共有させてもいいものなのかァッ⁉︎

 

 お前の中のセーフラインは一体どんな感じなんだよ⁉︎ 俺はお前の分からないことがまだまだあって困るんだが⁉︎ いやマジで、マジのマジで、ホントマジで‼︎ 後で優子にセーフラインについて聞くとすっかな。

 

 ……とりあえず、今はリコさんに本人の許可無くスマイルとかをメニューに追加するなと注意しないと───

 

 

 

「こんにちは、二名や‼︎」

 

「失礼致しますわ〜」

 

 

 

 あ、ヤベェ。来てしまった。そういえば来るんだった、魔法少女が。

 

 反射神経で入り口方面に振り向いてみれば、そこには薔薇の装飾をした髪飾りを付けている赤いツインテールの少女がいた。脇腹部分にリボンの付いた脇と膝の出ている赤いドレスに、背には薙刀を入れているであろう手提げ袋(?)を担いでいる。

 

 原作推奨済みの俺はこの人が誰なのかを知っている。彼女の名前は朱紅玉。中国人か韓国人みたいに『しゅほんゆー』と読む。口調は関西弁なのに。そして彼女がなんでこの店に来たのかの理由も分かる。その目的に対してなんとか指摘できるといいが……

 

 彼女がここに来れた理由、それは原作では『あすら』が結界を二日移転させるのを忘れてしまい、リコさんの魔力を察知されてしまったからだ。この世界では一日だけで済んだものの、原作でも何日後にここに来てしまったのかは明白されてないから、展開の改変がどうのこうのになったのかは知らん。マジで知らん。

 

 ただ、原作と違う点が明白なのが一つある。それは、彼女の隣に一人の女性がいることだ。ペタンッと畳まれてある先端が白く茶色い犬の耳と後頭部に薄ピンクの大きなリボンが付いた、三つ編み付きの茶色い長髪。曲げられてない黄色い襟の、青がかった灰色のジャージ。そして大きな犬の手に、犬にしては猫のように長い尻尾……

 

 なるほど、あの人は犬のまぞくか。背が中々デカいな、少なくともあの魔法少女よりはな。

 

 にしても、なんでまぞくが……というか、なんであの魔法少女の人はまぞくと一緒にいるんだ? いくら俺というイレギュラーが現れた影響によるものの可能性があるとはいえ、どういう風の吹き回しで一緒にいるようになったんだ? うーむ、原作にない設定や展開はよう分からん……

 

 と、そう悩んでいる間に桃が既にあの二人から注文を聞いてオーダーを通し、できた料理を運んでいた。とりあえずあの二人を見てどう感じているのかは聞いておくか。現状の把握をしないと何も始まらん。

 

 

「(なぁ桃……あの二人、どう見る? お前の知り合い……ではなさそうだけど)」

 

「(う、うん。知り合いではない。あの人達は初めて会うよ。リコさんのご飯を無警戒で食べているし、こちらにも気付いていない。ただ、殺気や魔力は感じられない……というよりは隠していると言った方が正しいかな)」

 

「(一応自身の魔力と感情が漏れ出ないようにコントロールはしているって感じか。もしかすると、あの隣のまぞくにそのやり方を教わったのかもな。ここはただの勘だが)」

 

 

 原作とは違い、あの魔法少女は魔力と殺意は察知されないように抑えるようになったってわけだな。それもあのまぞくによって。イレギュラーの存在が原作キャラの強化に繋がる、はっきり……ではないけど分かるかもしれない場面ってあるんだね。

 

 ということは、あの魔法少女は原作よりは強いってことか。戦闘描写は皆無なレベルでほぼないけどな。そして彼女を強くしたあのまぞくはもっと強いってことだな。戦うことになったら要注意すべき相手だということは覚えておこう。

 

 とりあえず、まぞくが最後に頼んだデザートのフルーツタルトを運んでおいたのまではいいが……まだ何も行動を起こしてるわけじゃないか。いや、既に何処かに仕掛けを用意しているだろうから、まだ警戒は怠らないで……

 

 

「……あのな、店員さん達。ここだけの話なんやけど」

 

「!」

 

 

 あれ? この流れ……

 

 

「笑わんといて聞いて。ここの料理人……人やないねん、狐やねん。化け狐なんよ」

 

「………………………………」

 

「………………ははぁ、そうなんですか」

 

 

 うん、ここは一旦ノリに乗っておこう。

 

 

「そしてアタシはコスプレ女やのうて、そいつを仕留めに来た魔法少女なんや‼︎ んで、アタシの隣にいる子もコスプレ女やないで。御伴神っちゅうもんのまぞくで、アタシに魔力の扱い方を教えてくれた師匠なんや‼︎」

 

「「………………」」

 

 

 あぁ、やっぱりね。やっぱりそういうことだったのね。

 

 

「なるほど、そうでしたか………………俺達の勘、大抵当たったんですね。やっぱり魔法少女とまぞくだったのか」

 

「せやねん………………んっ? えっ? えええっ⁉︎」

 

「というか存じ上げております‼︎」

 

「なんでェェェェェェッ⁉︎」

 

「もへっ?」

 

 

 おもしれー女。やっぱり原作同様ノープランかつ杜撰な感じで来たってわけか。なんでまぞくを師匠にしてるのかは知らんけど、そのまぞくも何の考えも無しに魔法少女と一緒にここに来たってか。二人揃っておもしれー女だな。

 

 つーかまぞくの方は魔法少女との話に入ってないじゃん。マイペースにフルーツタルト食ってるじゃん。自分達の事が既にバレてることに気づいてない感じじゃん。おもしれー女。

 

 

「(チョロいねこの人)」

 

「(まぞくの方もチョロそうじゃね?)」

 

「(わかる)」

 

 

 ホントなんだろうなこの二人。いろんな反応を見させてほしくなってきたぜ。サディスト的な意味じゃなくて、バラエティ方面で。

 

 

「なんで自分らアタシが魔法少女であの子がまぞくとわかったんや‼︎」

 

「俺、似たファッションで魔力持ちの人……というか実際に魔法少女と仲良くなったので。まぞくの方は姿だけで丸分かり、的な」

 

「あとはもう筋肉とか……棒とか……なんかもう全部です。あと私も魔法少女で、化け狐の用心棒です。隣の彼も用心棒で、魔法少女やまぞくじゃないけど魔力持ちで、別のまぞくの旦那さんです」

 

「まだ彼氏だから。飛躍させんな」

 

「ムグムグ」

 

 

 こいつ、ウガルル召喚の時に言った母さんの言葉をまともに受け止めていやがったのか? というかそこはまぞくの親友って言うだけでいいだろ。下手したら言い方次第ではリコさんの旦那さんって認識を受けてしまうかもしれんだろ。そうはなりたくないけど、いろんな意味で。

 

 

「用心棒⁉︎ なんでや‼︎ あとそっちの男は魔法少女やまぞくやないけど魔力持ちってどういうことやねん⁉︎ しかもまぞくの旦那さんて⁉︎」

 

「だからまだ彼氏です。まともに受け止めないでください」

 

「程良い甘さですわ」

 

 

 この人、他の人の言葉をまともに受け止めてしまうんか? しかも初対面の人の言葉だぞ? すぐに信じるとかこの人は詐欺にあっさりと騙されるタイプだったりとか? それはそれで心配というか……

 

 

「あ……せや‼︎ 自分ら、ヤツの本性知らへんな⁉︎」

 

「本性……⁉︎」

 

「リコさんに本性が? あの人は料理に魔力を混ぜて人をハイなテンションにさせるし、人を悪意無しに煽って騙してクスクスと笑う癖のある性悪なのは分かりますけど、まだ本性が……?」

 

「全部言ったァァァァァァッ!? アタシが言おうとしたことをほぼ全部言っとるやん!? えっ、何!? 全部知っとる上でヤツの護衛しとるんか⁉」

 

「まぁ、そんな感じです」

 

「ウマウマ」

 

 

 なんか思わずピースしてしまったんだけど、これってこの魔法少女のことを煽っていることになるんじゃね? それはそれで我ながらヤベーなおい。なんでピースする必要あるんですか(自問自答)。

 

 

「えっ、じゃあなんや!? そこの魔法少女もヤツの本性全部知っときながら護衛しとると言うんか⁉」

 

「私も不本意なんですけど……」

 

 

 おうおう、めっちゃ戸惑ってる戸惑ってる。自分が危険視している存在を、その者の本性を理解した上で庇っている人がいたらそりゃ困惑しますがな。

 

 というか……

 

 

「ふぅー……ご馳走様でしたわ」

 

「貴方は何知らんぷりしながらデザート食べてるんですか。貴方とその同伴者の魔法少女の正体、バレてますよ? まぞくさん」

 

「………………はへっ⁉︎ そ、そうでしたのっ⁉︎ タルトを美味しく食べてましたので、全っ然気づきませんでしたわっ⁉︎」

 

 

 いやずっと食べることに集中してたんかこのまぞくは。人がとんでもない会話をしてたってのに。そちらにとって不都合な感じになったってのに。なんだこの優子とは違うポンコツまぞくは。

 

 

「あ、あぁ……その子は美味しいもん食べると、それだけでそっちの方に集中してまう癖があるねん。食べ続けていたまんまなの忘れとったわ……」

 

「ペットの躾はちゃんとしてくださいよ?」

 

「ペットちゃうねんっ‼︎ 家族みたいなもんやねん‼︎」

 

「ペットも家族みたいなもの、というか家族そのものですわよね?」

 

「いやそういう意味じゃあらへんがな⁉︎」

 

 

 んっ? あの魔法少女今なんて言った? このまぞくが家族? どういうこと? ブラムさんと奈々さんみたいな血の繋がってないけどそういう関係になってるってヤツ? そういう感じなのか?

 

 

「朱紅玉、十八歳。随分遠くから来てるな。……オートマ限定か……」

 

「どなた⁉︎ 自分何見とんねん‼︎ オートマでもええやん‼︎ っていうか角生えとるな‼︎」

 

「で……そっちは朱ミト、二十一歳。マニュアルと原付バイク免許付きか」

 

「バイクでドライブするのが趣味ですので」

 

 

 いっぱいツッコミ入れておりますなぁ魔法しょ……朱紅玉さんは。しかもさっきからの喋り方からして中国人の名前の癖して関西人? アンタ本当は何人? すっごく気になる。

 

 で、まぞくの人はミトっていうのか。苗字は朱ってことは本当に朱紅玉とは家族関係に当たるのか。ってか二十一歳って。柘榴さんの一個下じゃないか。身長高いから少なくとも同い年かと思ったぞ。あとバイクの免許持ってるんかい。

 

 というかリリスさん、人の免許証というか人の物を勝手に物色するのはよくないですよ。プライバシーの侵害になるからやめなさい。

 

 

「この町は先代の魔法少女が命懸けで作った、魔法少女と魔族が共生する町。不要不急のカチコミは厳禁です。お引き取りください」

 

「そういうわけです。俺達は争いなど好みません。因果のある相手がいるのでしたら、話し合いで解決することがベストとなります。力でどうのこうのとするのでしたらこちらにも考えがございますが、いかがいたしますか?」

 

 

 念のためすぐさま召喚師覚醒フォームになってセイクリッド・ランスを解放したんだけど、相手側はどう動くのやら……いや、今考えたらこんなことする自体が相手の喧嘩を売ることになるんじゃね? やらかした、か……?

 

 

「ご主人様の邪魔をするとでも、言うのですの?」

 

 

 気づいたらミトさんが俺達の事を睨みつけながら、自身の肉球な手を床に届くほど膨張させていた。この人、自分の体を大きくすることができるのか……

 

 ってかそんなことよりもッ‼︎ やっぱり喧嘩売っちゃってるやん俺。俺が変身したというか戦闘態勢を取ったせいでミトさんが怒っちゃってるじゃん。何やってんだ俺。何やってんだお前ェッ‼︎

 

 

「魔法少女と魔族が共生する町? 不要不急のカチコミ? そんなこと関係ありませんわ。ご主人様とわたくしはこの店に棲む妖狐に用がありますの。この問題に貴方達は関係ありませんわ、部外者ですの。ですので邪魔とかしないでくださいまし?」

 

 

 あ、多分違ったわこれ。桃が『帰れ』と言った場面からブチギレたんだ。桃の台詞を引用してたし、多分そうに違いない。

 

 

「ま、待てやミト。今日はあくまで様子見ってだけでいくんやなかったんか───」

 

 

 朱紅玉さんが止めに入ろうとした途端、ミトさんの背後から大量の蜜柑色の矢が降り注いできた。

 

 

「まぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶゥッ⁉︎ ななななな、何なんですのこれはァッ⁉︎」

 

 

 これアレだな。二人が来てから事前に入り口付近でスタンバってたミカンが放った魔力の矢だな。ミトさんが戦闘態勢に入るものだから、それに反応して一斉射撃したんだな。ミカン、ナイス。これで彼女を無力化できたぜ。

 

 

「ミ、ミトォッ⁉︎ ちょっ、大丈夫なん──ハッ⁉︎」

 

 

 ミトさんを助けるべく武器を取り出そうとした朱紅玉さんの背後に、ギラリと目を光らせる複数の存在が。それは……

 

 

【マスターのご友人に】

 

【何か用でもあるのか?】

 

【これはわからせないといけないメェ〜】

 

 

 突然の襲撃だからなのか、いかにも怒りを爆発させそうなメェール君達召喚獣一同だった。ん? 俺が召喚師覚醒フォームになってる状態で彼等が召喚された。本来の力を持ったまま現界でき、その力をいつでも発揮できる……ってことは。

 

 

「えっ。ちょっ、ちょっと待ってもろて───」

 

【おりゃおりゃおりゃあっ‼︎】

 

【喰らえやこの野郎がっ‼︎】

 

【テメー等この平和完全主義なこの町で喧嘩売るとはいい度胸じゃねェかコラァッ‼︎】

 

【お灸を据えないとまた来そうだからボコボコにするねェ】

 

「ちょっ、グエッ‼︎ ちょっと待っ、ヘブッ‼︎ やめっ、アダダダダダダッ‼︎」

 

 

 おまっ、それはいくらなんでもやりすぎだろお前らッ⁉︎ 袋叩きなんてモブの集団がやる低脳レベルの行動だろッ⁉︎ 俺の今の言い方もアレだったけどさッ⁉︎ 惨い‼︎ こいつら一斉に掛かると結構惨い‼︎

 

 

「お前らちょっとじっとしてろッ‼︎ バインドホール‼︎」

 

《アグリエッ⁉︎》

 

 

 セイクリッド・ランスを横なりに振るい、それによって生み出されたラーメンのナルトの形をした黄色い渦で召喚獣一同を一斉に引き寄せ束縛した。

 

 フウッ、こいつらがボカスカに集中していたおかげで全員バインドホールで吸い込めたぜ……吸引力と束縛力ヤバいな、○ービィかよ。いやそれだとあの後能力もコピーされるか。あっちの方がヤバいな、うん。

 

 

「すいません、ウチのバカどもがすいません。ここまでするつもりはありませんでした。後で叱っておきます」

 

「ううう〜……げ、解せぬ……」

 

「確かにさっきの袋叩きは解せないですけどね。さて……事情を説明していただけますか」

 

 

 桃、そこは指摘しないで。袋叩きの事指摘しないで。俺の指導不足がこうなったと思うから。だから指摘はやめてマジで。

 

 まぁいいや、とりあえず構えの態勢に戻って警戒の意は示しておかないとな。でないとまた戦闘態勢を取ってきて、そこから不意打ちとかされたらたまったもんじゃない。

 

 幸いにもミカンもこっちに来て、事態の状況に気づいた拓海もも柘榴さんも戦闘時の姿になってる。しかもミトさんは気絶してる為不意打ちは難しいと思う。襲撃者側の仲間が少ないまたは誰一人動けない状況かつ戦力となる者が数名近くにいれば、そう易々と動けるはずがない。

 

 

「なー、終わったー?」

 

「リコ‼︎」

 

 

 あ、隠れて促されたリコさんが出て来てしまった。すみません、この二人を帰らすまで中に入っててくれません?

 

 

「リコさんの知り合い?」

 

「ん……どなたやろ。なーんかどっかで会ったよーな感じがするよーなせんよーな……」

 

 

 ん? リコさんが微塵かつにわかレベルでとはいえ、朱紅玉さんの事を覚えている……? 原作では微塵すら覚えられてないのに……? もしかして原作よりも強化されたから、それの影響でリコさんの記憶にも刻まれることになったのか……?

 

 やったじゃないですか朱紅玉さん、倒すべき相手の記憶容量に入ってる可能性が出ましたよ。……いや、これはやったと言うべきなのか……?

 

 

「……覚えてへんのか? せやろな……アンタにとっちゃアタシもミトも雑魚認識みたいだったし……」

 

 

 ってヤバッ。朱紅玉さんが指に光──魔力をこっそりと溜め始めてる。早く止めないと原作通りのめんどくさいことになる。

 

 

「でもアタシは、この命を削ってでも───」

 

「はい、バインドホール・ミリ」

 

「グエェッ⁉︎ 腕めっちゃ引っ張られとるッ⁉︎ イダダダダダダッ⁉︎」

 

「あ、すいません。加減間違えました」

 

 

 ミリサイズのバインドホールを展開し、強制的にその引力で朱紅玉さんの両腕を後ろに回させた。けど込める魔力が大きすぎたのか痛くしてしまった。加減の調整はまだ出来てないようだ。反省。

 

 

「もう一度謝ります、すいません。貴方がさっきしようとしたこと──封印を許してしまえば、誤解から始まる復讐の連鎖が起こりそうなので止めました」

 

「復讐……?」

 

 

 そう呟く桃を中心に皆疑問を抱いている様子だが、無視だ無視。今は話を聞く状況を作らないと。

 

 

 

「朱紅玉さん……貴方、リコさんの悪意の無い悪意を、貴方や関わりのある人への洗脳か何かだと勘違いしてませんか? そしてそれで苦しんでませんか?」

 

 

 

「んなっ⁉︎」

 

 

 原作知識を元にしながらそう指摘してみたら、案の定当たりだった。なるべく勘で言っている感じにしてみたのだから、変な疑いを持たれなきゃいいのだけれど……

 

 

「悪意の無い、悪意……? それは一体どういう意味なんや……? しかもなんでウチがアイツの洗脳で苦しんでるって……」

 

 

 半信半疑な様子ではあるけど、俺が嘘を言ってないことはなんとなく察してくれたようだ。これなら少しはリコさんを攻撃することを考え直してくれるかもしれないな。争い事はマジ勘弁。

 

 

「実際には洗脳じゃないですけどね。信じられないかとは思われますが、実は──ウオアタタタタタタッ⁉︎」

 

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ⁉︎ な、何ッ⁉︎ なんか腕がめっちゃ後ろに引っ張られてる感じがするんだけどッ⁉︎ しかも動かそうにも動かせられないんだがッ⁉︎

 

 

【マスター⁉︎ お前、マスターに何をイダダダダダダッ⁉︎】

 

《アダダダダダダッ⁉︎》

 

 

 気がつけばメェール君達召喚獣が悲鳴を上げたため、半ば反射的にそちらの方へと振り向く。そこには腕や脚を後ろへと引っ張られ、身動きが取れない状態となっていた。しかも彼等の後ろには、()()()()()()()()()()()()()()が。

 

 あ、あれ? なんで? 俺、メェール君達が動けないのを確認してからバインドホールを解いたはずなんだけど……なんでこういう時に限って誤射が起きるの? これまでに技が誤射されることないのに……

 

 

「オ、オホホホホホ……‼︎ わたくしが動けない状態だと思って拘束しなかったのは間違いでしたわね‼︎」

 

「なっ⁉︎ この人いつの間に起きて……⁉︎」

 

 

 ゲゲッ⁉︎ このタイミングでミトさんが復活したッ⁉︎ ちょっ、ヤバいって‼︎ イレギュラーは何をしてくるのか分からないって‼︎ 誰かこの人止め───

 

 刹那。ミトさんの背後から()()()()()が複数浮かび上がり、それらが桃達に襲い掛かる。幸いにも全員後方に退がったおかげで間一髪。足元に煙が巻き起こる程度で済まされた。

 

 

「な、なんだ⁉︎」

 

「えっ⁉︎ こ、これって、私のサンライズアロー……⁉︎」

 

 

 確かに、今の色の光の矢──サンライズアローはミカンだけが使えるはずの技だ。こんな魔法、何故このまぞくが……⁉︎

 

 

「犬はメリットがあると感じた時、他の犬や人の真似をする習性がある……わたくしはその習性を基にした『相手に見せられた技を魔力で一時的にコピーすることができる能力』を使えますわよ。あ、受け取るのは真似事とは関係ないかもしれませんわね」

 

 

 見た技を一時的にコピーできる、だって⁉︎ そんな力を持った奴なんて見たことないぞ⁉︎ こ、こいつ結構強い類じゃ……⁉︎

 

 

「リ、リコさん早く逃げ───」

 

 

 って、アレ? なんでリコさん壁にもたれかかって……あっ、矢が裾に刺さってそのまま壁に釘刺しにされたのか。そういうことか……じゃねェよッ‼︎

 

 

「動けへ〜ん……誰か助けてくれへん……? あ、手はちょっと動かせられるわ」

 

「何やってんだお前ェッ‼︎」

 

「あら? 白哉はんにタメ口使われたの初めてやな?」

 

 

 そんなこと言ってる場合ですかッ⁉︎ 貴方は今動けない状態なんですよッ⁉︎ しかもミトさん、朱紅玉さんが使おうとした封印の魔法をそちらに放とうとしてますよ⁉︎ 呑気になっとる場合かァッ‼︎

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよミトさん‼︎ リコさんを封印する必要なんて……」

 

「洗脳ではないから封印しなくて良い、と? 貴方達はわたくし達がそうしなきゃいけない場面に一つも立ち会えていないのですから、そんなことが言えますのよ? あの時のご主人様はすごく辛い思いをしてました。そんな思いを持たせ、しかも他の者達をおかしくさせたこの者を、そう易々と見逃す必要があるとお思いで?」

 

 

 まずい……‼︎ この人は話を聞いてくれないタイプ……というよりは主人の事を最優先にして、それ以外の事は自分の心意含め全く考慮しようとしないタイプだ……‼︎ とりあえず今は主人の目的を早く成し遂げてあげたいから、細かいことは考えないタイプのまぞくだ……‼︎

 

 

「あ、あらぁ? ウチそんなに恨まれとるん? ずっと昔の事なら覚えとらんから困ったわ〜うん、頭に手が届きそうなくらいは動かせれるわ」

 

「貴方は何も考えないでいいですわよ? もうすぐご主人様が放とうとしたこの一発で、すぐに楽になれますからね……」

 

 

 あっ⁉︎ 封印するための光が放たれようとしてるっ⁉︎ ちょっ、まずいってっ⁉︎ 動け俺の身体‼︎ 動けってんだよっ‼︎

 

 

「ま、待てやミトッ‼︎ 一旦それ収め……」

 

「全てはご主人様のためッ‼︎ ご主人様含め幾多の人を欺いた妖狐よ、無の空間に永く眠りなさいなッ‼︎」

 

 

 ダメだ、もうすぐ光が放たれる‼︎ ま、間に合わな───

 

 

 

「り……リコくぅぅぅぅぅぅん!!!」

 

 

 刹那。突如としてこちらに駆けつけてきた白澤さんがリコさんを庇う姿が見え、同時に視界は一瞬白く染まり上がった。

 

 

 

「………………えっ? な、なんで……? なんでこの妖狐は無事なんですの……?」

 

 

 朱紅玉さんの封印魔法をコピーして放ったはずなのに、その対象となるリコさんに何一つの変化も無く拘束が解除されたことに戸惑うミトさん。しかし、あの封印魔法は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ふとあの二人の間の足元を見下ろすと、そこには()()()()()()()が転がっていた。放たれた封印魔法。その魔法が当たらず無事なリコさん。放たれる瞬間に見えた白澤さんの姿。そう、先程の魔法によって封印されたのは……

 

 

「嘘やろ……なんやあの動物……なんで割って入るん……ミトの奴が……真似したのとはいえ……十年間……溜めとった……封印の技が……なんで……こんなことになるんや……」

 

 

 朱紅玉さんは酷くショックを受けた様子だった。自身の手で封印魔法を使うことが出来なかったことにでもなく、ミトさんがリコさんを封印出来なかったことにでもない。無関係な者として解釈している人物を、間接的に封印してしまったことにだ。

 

 表情を見るからするに、どうやら彼女はリコさん以外の人には害を与える気はなかったらしい。しかし、同胞とも言える存在が無許可でコピーしたものとはいえ、自身の持つ魔法で間接的に白澤さんを封印してしまい、動揺を隠せずにいるようだ。

 

 そんな落胆状態の彼女の頭上に、突如として天使の輪っかを付けた金魚が姿を現した。しかも何やらポイントカードのようなものをぶら下げながら。

 

 

『紅ちゃん、魔族討伐ポイント二ポイント。あと十ポイントでカード満了や、おめでとうな』

 

「ジキエル! 要らんねん‼︎」

 

 

 あのポイントカードには何やら二つだけスタンプが押されてある。なるほど、排除対象はリコさんだけであるから、他のまぞくは封印しなかったのか……けどあのポイントカード、一体何なんだ……?

 

 

【君……よくもマスターの知人を封印してくれたね……ッ‼︎】

 

【許さない……絶対にッ‼︎】

 

「ッ‼︎ そっちの魔法が切れたみたいですわね……」

 

 

 ってヤバッ⁉︎ バインドホールが解除されて召喚獣達……主に襟奈と剛鬼がブチギレてるじゃねェかッ⁉︎ しかもミトさんまだ殺る気満々だッ⁉︎ ま、まずい。このままだと、とんでもない修羅場になって……

 

 

「しゃらくさいですわね……‼︎ 邪魔さえしなければご主人様の悲願が達成されるというのに……‼︎ こうなれば貴方達を先に封印して、満了したカードの力であの妖狐を───」

 

「ミト! アンタももうやめろや‼︎」

 

「はいご主人様‼︎ ………………えっ?」

 

 

 もう攻撃するな。朱紅玉さんからそんな指示がされたかのように聞こえたミトさんは、思わず呆けた声を出し戦闘態勢を解いた。もうすぐ主人の目的が達成されるといったところで、その主人に止められたものだから、戸惑ってしまうのも無理はない。

 

 

「ご、ご主人様……? 何故止めるんですの……?」

 

「……アタシ部外者に当てるつもりなんてなかったんや。なのに、こんな事になるやなんて……」

 

 

 ……これは、思ったよりもかなり重い雰囲気になってしまった。白澤さんが封印されてしまって、みんなどう反応すればいいのか分からなくなっているようだ。……俺も、今何かできる事はないのか……?

 

 

「………………アホちゃう?」

 

 

 あっ。

 

 

「マスター……なんで庇ったん? ウチ……避けれた可能性あったよ? 早とちっていらんことせんといて」

 

 

 ヤ、ヤバい……ッ‼︎ 忘れてた、素で忘れてた……ッ‼︎ 一番そのままでいてはいけない人がいることを忘れてた……ッ‼︎ そして白澤さんの事を強く想っているんだった……ッ‼︎

 

 

……しょーもな。もう……料理とか……お店とか……どうでもええわぁ……

 

《⁉︎》

 

 

 おわァァァァァァッ⁉︎ ちょっ、ヤバいってッ‼︎ リコさんめっちゃ絶望した表情をしながらドス黒いオーラを放ち出したよッ⁉︎ 周囲に巻き上がってる木の葉もデカいし真っ黒だよッ⁉︎ このオーラの強さはラスボスレベルだよッ⁉︎

 

 

「な、なんスかあれ⁉︎」

「やばば‼︎」

「まずい‼︎」

「止め……‼︎」

「……ッ‼︎」

「ギャー‼︎」

「なんですの⁉︎ なんですのォ⁉︎」

 

【マスター‼︎ このままだと危険だメェ〜‼︎】

 

「クソッ……‼︎」

 

 

 こんなにも馬鹿デカい憎悪は初めてだ……‼︎ 優子が暴走した時よりも恐ろしいものなのかもしれない……‼︎ リコさんをなんとかしないとこの店どころか、少なくとも町中に多大な被害が出てしまう……‼︎ なんとかしないと───

 

 

 

「リコさ……リコ君‼︎ 止まりたまえーーー!!!」

 

 

 

《きゅっ》

 

 

 へぎゃあああああああああっ⁉︎ こ、鼓膜がァッ‼︎ というよりは脳内がァァァッ⁉︎ めちゃくちゃデカい声というか音が脳内にめっちゃ響いてくるゥゥゥゥゥゥッ⁉︎ 頭ん中がすごくバグりそうなんだけどォォォォォォッ⁉︎

 

 って、よく見たら優子が‼︎ 優子がおる‼︎ ここまで駆けつけて来てくれたのか‼︎ なんか無線式拡声放送装置(町内放送で使うために設置されているスピーカー)に変形させたなんとかの杖を持ってる‼︎ アレでリコさんの動きを封じてるのか⁉︎

 

 助かった……と言いたいけどうるせェッ‼︎ めちゃくちゃうるさくて俺達動けねェッ‼︎ そしてうるさすぎて逆に何言ってるのかさっぱりわかんねェ‼︎

 

 

「他の皆さんも‼︎ その場で停止ーーー‼︎ ……失敬」

 

「えっ?」

 

 

 な、なんだ? うるさいのが収まりつつあって耳鳴りも収まりそうと思ったら、突然優子が心の壁フォームになってドデカ貝殻に籠ったぞ? 一体どうしたと……

 

 ん? なんか窓から何かが投げ込まれたぞ? あれは……ビーカー?

 

 ……あっ。そうだ、思い出した。ここまでの展開からするとあれ、確か小倉さんが作った魔力の流れを一時的にショートさせ、その光に当たった者を昏倒させる薬だったっけ。あれでこの事態を一時沈黙させれるんだっけ……

 

 いやちょっと待て、ホント待って。俺、今あれを瞬時に防げる手段がないんだけど───

 

 

 

 

 

「よっ、久しぶりだな白哉」

 

 

 で、今はどっかの誰かの夢の世界。そこでフードの人物に再会しました。予期せぬ再会なんですけど。

 

 




白哉の活躍で今回は変わった展開が……と思いきやオリキャラの突然の行動で最悪の事態になりかけた‼︎ マジ危ねェ……‼︎

さて、次回は気絶中の白哉が夢の世界で何をするのかにスポットを当てていきます。お楽しみに。


おまけ:かわいい女の子メーカーで作った(しゅ)ミト

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久しぶりにフードの人物と再会‼︎ ……で、今俺は何をすればいいの? わっかんないよ‼︎

今大変な状況だよってことで初投稿です。

気絶した白哉君、この時彼は何をするのか……? 今回はそんなお話です。


 

 あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ‼︎

 

 この俺・平地白哉は、訳あって魔法少女と原作未登場のまぞくの襲撃、そしてリコさんの暴走の対処を皆でしようとした。そしたらいつの間にか昏倒させられて、誰かの夢の世界にてフードの人物と再会した……

 

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされていたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……

 

 催眠術だとか、超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

 

「ちょっと何言ってるのかわかんねーんだけど」

 

「いやここに来るまでに何があったのかを、『ジョ○○の奇○な冒険』のポル○レフがDI○の能力を受けた時に何があったのかを仲間に説明した時のを真似しただけなんだよ。……ふざけてほしくなかったのなら謝る、すまん」

 

「別にふざけてもいいんだけど、そこはサン○ウィッ○マンみたいに『なんで分かんねーんだよ』とか『いや分かるだろ』ってツッコミ入れてほしかったんだよなぁ」

 

 

 そこかよ。どこに指摘を入れてんだよこいつは。いや、やっぱり『こいつ』じゃなくて『この人』って言った方がいいのか? まだこの人の正体が誰なのかも分かってないんだし、何も考えずに友達感覚に接するのはよくない気がするし。

 

 

「っていうかさ、ここに来るまでに何かあったのかをもう少し細かく教えてくれね? なんで魔法少女が来たのかとか、なんでリコって言う魔族が暴走したのかとか、それらの理由も知りたいしよ」

 

「えっ? あ、あぁ……わかった。実はな……」

 

 

 kwsk説明し直せと言われたので、俺は彼の言う通りここまでの経緯を詳しく話すことにした。

 

 魔法少女──朱紅玉さんが『あすら』に来たのはリコさんを封印するためであること。

 

 そのために魔力を扱う師でもあるミトさんを連れて来たこと。

 

 返り討ちにして朱紅玉さんにリコさんに関する誤解を解こうとしたこと。

 

 ミトさんが不意を突いたりしてリコさんを封印しようとしたこと。

 

 そんなリコさんを庇うように白澤さんが割って入って封印されてしまったこと。

 

 朱紅玉さんが巻きたくなかった部外者(扱いの白澤さん)が封印されたことにショックを受けたこと。

 

 リコさんが彼女以上に白澤さんが封印されたことに絶望し、暴走しかけたこと。

 

 そこに駆けつけた優子が割って入って一時暴走を止めたこと。

 

 その瞬間に小倉さんが魔力を一時的にショートさせる薬を放り込んだこと。

 

 これらを全部説明したところ、フードの人物は溜息をついた。なんでそんな反応するんだよ。

 

 

「ハァ……いやさ? その魔法少女が『あすら』に来たのは、リコって魔族が作る料理の健忘効果に対する誤解による復讐ってことだろ? 勘違いする方もバカバカしいけど、そんな勘違い行為をする方も大概だろって思うとさ……呆れるぜ、全く」

 

 

 いやまぁ、確かにどっちもどっちだけど。二人の食い違いがあったせいで現在に至ったんだけど。まぁ、どっちとも悪意があるわけじゃないんだよなぁ……どう決めつければいいのか分からん。

 

 

「ま、どのみち大丈夫だろ。シャミ子が夢魔の力で直接二人に仲直りを試みて、最後には解決するんだろ? 原作を読んだアンタなら、その結果は分かるだろ」

 

「……まぁな」

 

 

 そう。フードの人物の言う通り、この問題は全て原作通り優子が解決してくれることなのだ。

 

 まず朱紅玉さんの件。

 

 原作知識によれば、彼女は幼少期の頃、店で働き始めたリコさんのことをあまり良く思ってなく、彼女の料理を食べた客を見て怪しんでいた。そこに現れたジキエルに彼女は人々をたぶらかすまぞくだと唆されてしまったはず。

 

 結果、魔法少女になった朱紅玉さん。けど実力は雲泥の差であり呆気なくボロ負けし、その上に誕生日に貰った中華鍋を持っていかれてしまう。そして彼女に残されたのはリコさんがいなくなってがらがらになった店と、彼女の静止も聞かず取り憑かれたように無心で厨房に向かう祖父だけだったと……

 

 それを夢の世界で知った優子が『祖父は洗脳されたんじゃなくて大切な貴方のために台所に向かっていたのだ』と諭し、夢の中での憎しみを流してあげるんだったっけか。原作通りだとそんな感じだった気がする。

 

 で、次にリコさんの件。

 

 白澤さんが封印されてから彼女が突然暴走しそうになったのには理由があることも、俺は原作知識で理解している。それは、リコさんが白澤さんに恋愛感情を持っているからだ。彼の事をぞんざいに扱うことも多いが、同時に自分を養ってくれた大切な存在だとも思っているのだ。

 

 ……まぁ、優子や桃達と違う点は、好きであることを通り越して白澤さんを自分の彼氏だと認識していたことだ。もちろん告白とかもしていなく、独断である。

 

 で、夢の世界で訳あって優子と一緒に来た白澤さんに『住み着いた野良フェネック』という認識でいたことを明かされてしまうんだよなぁこれが。でも優子がちょっと簡潔にまとめると『人と喧嘩せず人の心に寄り添えるおリコうさん』になることを促すことで解決する……あれ解決か? 分からん……

 

 

「うーん……ただ、この世界だとそのまま放置にしていいのか分からない存在があるんだよなぁ……」

 

「……赤い魔法少女と一緒にいた、あのお嬢様口調のワンちゃん魔族か?」

 

「ワンちゃんって……まぁその人。朱紅玉さんと同じ苗字を持っていて、ミトって名前の人なんだよ」

 

 

 そう、この世界にはイレギュラーがいる。それが先程名前を口にした、朱紅玉さんの仲間というか魔力の師匠だとか言っていたまぞく・朱ミトさんの事だ。

 

 本人は朱紅玉さんの事を『ご主人様』と呼んでいる。弟子(設定)の事をご主人様と呼ぶ師匠(という扱いされている人)……どんな関係なんだよ。独特で反応に困っちまうでしょうが。

 

 それに彼女は弟子兼主人である朱紅玉さんの事を大切に想っているようだ。もちろんリコさんが白澤さんの事を想っている時とは違って、恋愛感情としてではなく主従関係としてだろうけど。

 

 それ故に後先考えずというか細かい事を考えずに、主人の目的を達成させようと先走ってたんだよな……そのせいでリコさんがマジで封印されそうになって……

 

 

「それにしても……なんであのまぞくの人、あんな早とちりなことをする程にまで朱紅玉さんの事を慕っているんだ?」

 

 

 うーん……分からん、ホントに分からん。イレギュラーがどういう存在なのか、どういう過去を持っているのかのも知らないからなぁ……どういう判断をして対応すれば良いのか分からない……

 

 

「あの状況とシャミ子の事だから、あいつは先に赤い魔法少女、その次に性悪狐の魔族の処置をするから問題無いだろうが……お前のその発言からするに、確かに問題となるのがあのワンちゃん魔族だな」

 

 

 性悪狐のまぞく? それってリコさんの事か? 事実とはいえその呼び名は辛辣じゃね? もう少しマイルドな呼び名があっただろ。

 

 いや、それよりもミトさんか。ミトさんの方をどうするかだな。それが大事なとこだな。

 

 

「あいつは赤い魔法少女の言う事をよく聞くタイプっぽいが、主人の事をよく思ってるが上に周りが見えないタイプっぽくもあるんだよな。だからあのまま放置して主人の言う通りにさせても、あいつの本心からして納得のいかない部分もあるだろうな」

 

「あぁ。やっぱりあのままにするのも良くない気がする」

 

 

 もしかすると優子が朱紅玉さんの事を自分の良い様に洗脳したと思い込んで、何も考えず怒りのままに優子に襲い掛かってくる可能性もあるんだよな……

 

 いや待てよ?

 

 

「主人想いになった時の経緯……そこに目をつければ、予想外の事態を免れるかもしれないんじゃないか?」

 

 

 うん、きっとそうだ。ミトさんがあんな行動をするのには、絶対朱紅玉さんと昔何かあったからに違いない。そうじゃないと、ミトさんは朱紅玉さんのためを思いすぎるがあまり、周りを見ずにリコさんを封印しようとしてしまう……なんてことしないはずだ。

 

 

「経緯、ねェ……確かにそれが分かれば、あの魔族の対処が分かるかもしれねェな」

 

「ただ、その経緯を知る方法と対処法がな……」

 

 

 どうやってミトさんが朱紅玉さんに忠実になった経緯を知ればいいんだ?

 

 直接話を聞くか? これは難しい……というか状況や彼女の心境次第では無理だろうな。あちらが襲撃してきたからとはいえ、召喚獣達がミトさんの主人である朱紅玉さんをボコボコのフルボッコにしてしまったんだ。そんな奴らの仲間である俺達の話なんて易々と聞いてくれるとは思えないんだよな……

 

 なら優子にお願いしてミトさんの夢の中に潜り込んでもらうか? 時間的にそれは難しそうだ。彼女は状況的に朱紅玉さん・リコさんの順に夢の世界に潜り込み、最速で最善な事態解決に取り掛かっている。そうしている間にミトさんが起きてしまう可能性があるのだから、これも安全とは言えない……

 

 

 

「じゃあさ、お前がその魔族の記憶の世界を見てくればいいじゃんか」

 

 

 

 ………………はっ? コイツ何言ってんだ? 俺が優子に変わってミトさんの夢の世界に潜れと? いや、あのさ……俺は夢魔である優子の眷属であって、夢魔そのものではないんだぞ? 優子みたいに夢に介入できたら苦労なんてしないって───

 

 

「リリスっていうシャミ子の先祖が教えてくれたんだろ? 夢魔の魔族と悠久を共にするパートナーになるための契りを交わした者は、主と同じ夢魔の力を手にすることができるって。それに精神世界で身内と話せるようになったことで、夢魔の魔族の力とリンクすることができたとかなんとか……」

 

「えっ? ………………あっ、そういえばそんな話があったな」

 

 

 思い出した。確か優子のなんとかの杖の使い方に関する話し合いがあった時、リリスさんが俺にも夢魔の力が使えるようになったとかどうとかって話してくれたんだった。あれのおかげで柘榴さんが夢の世界で俺と手合わせできたんだったっけ。あのガバガバ設定で手に入れた能力かー、懐かしいなー。

 

 

「つまり……今の俺なら、ミトさんの夢の世界に行けるってことか」

 

「そういうことだ」

 

 

 なんだ、よく考えたらそんなに難しいものじゃなかったんだな。ミトさんの夢の世界が何処にあるのかが分かれば、後はそこに行くだけ……

 

 あっ。

 

 

「でも、今の俺は気絶中なんだぞ? そんな中で夢魔の力が使えるとは到底なぁ……」

 

 

 盲点だった。気絶していたら意識がない、つまり思い通りの事が全然できないってことじゃねェか。結局俺、今は何もできな───

 

 

「夢魔の力が今使えないんだったら、こうして夢の中で話すことなんてできないだろ。気絶しようが関係ないじゃん」

 

「あっ……そういえば確かに」

 

 

 また盲点だったわ。話ができる=夢の世界でなら意識がある……ってコトになるじゃねェか。どういう原理で気絶しても夢の中で話せるのかは知らないけど。

 

 

「分かったらとっとと行くぞ───

 

 

 

 ちょうど、ミトとやらの記憶の世界への扉を守っていた、茶色いケルベロスみたいなのを寝かしつけたところだし」

 

 

 

「……アレッ⁉︎ 俺もう目的地にいたのッ⁉︎」

 

 

 うわっ⁉︎ よく見たら奥でマジでケルベロスみたいなのが項垂れながらうつ伏せておる⁉︎ 耳や手がミトさんとそっくりそのままの形なんですけどォ⁉︎

 

 嘘でしょ⁉︎ なんで気絶して他人の夢の世界にこっちの任意無しでお邪魔できたの⁉︎ フードの人物がここに来れたワケはともかく、俺はどういう原理でこうなったの⁉︎ まるで意味が分からんぞ⁉︎

 

 

「二次創作な設定の世界なら、お前にとっての現実世界になろうがどんな事が起きてもおかしくねェだろ」

 

 

 なんだその理屈は⁉︎ 今更感がある気がするけど、そんないい加減な捉え方でいいのかよ⁉︎

 

 

「ほら、いいからとっとと扉ん中入るぞ。気絶した身とはいえ、あいつもお前もいつ起きてしまうか分からんからな」

 

「あっ……ちょっ、おい‼︎ 待ってくれよ‼︎」

 

 

 あのさぁ……ミトさんの夢の世界に入る手順が少なくなって助かるんだけどさ、本当にこんなあっさりとした感じに入っていいものなのか⁉︎ なんか納得いかないんだけど⁉︎

 

 

 

 

 

 

 色々と複雑な感じがしながらも、俺はフードの人物の後を追う形でミトさんの記憶の世界へと足を踏み入れた。

 

 舞台は朱紅玉さんの故郷であることは間違いないだろうけど、彼女の方言に似ついているのか分からないぐらい中華街感が出ている。本当はここ、関西地方じゃなくて中国なんじゃね?

 

 いや、そんなことはどうでもいいか。今はミトさんが何処に居るのか探さないと。

 

 

「うぅ〜……」

 

 

 ん? 今なんか後ろから声が聞こえたような……とりあえず見つかると困るし、建物の隅に隠れてよっか……あっ⁉︎ フードの人、俺に促しも無く一人で先に隅っこに隠れてった⁉︎ ズルい‼︎ こいつズルい‼︎ 自分優先しやがって‼︎

 

 

「もう、お腹が空きすぎましたわ……お父様……お母様……」

 

 

 声がする方向を見れば、そこには飢餓状態なのが顔から分かりやすく出てる子供が。しかも犬耳に肉球・尻尾、そしてお嬢様口調……間違いない、あの子……いや、あの人は幼少期のミトさんだ。

 

 なるほどな。どうやら彼女は幼い頃から金持ちだったのかもしれないけど、家族と生き別れしたのかそもそも失ったのかのどちらかで、家も失ったんだな。なんて壮絶な人生を送ったのだろうか……?

 

 もしかすると、彼女はこの後に……

 

 

「あっ。も、もう……動けませんわ……」

 

 

 あっ、倒れた。あまりもの空腹で倒れちまった。本来なら人気のいないところで倒れた人はこのまま餓死してしまうと思うのだが……

 

 

「ちょっ、ちょっと⁉︎ アンタ大丈夫かいな⁉︎」

 

「ふえっ……?」

 

 

 ここで誰かのミトさんに声を掛ける者が。その声の正体が、幼少期の朱紅玉さんだった。そういか、この場面がミトさんと朱紅玉さんだったのか。

 

 で、この後朱紅玉さんに実家の中華店にまで運ばれてもらい、彼女の祖父や既に居候することになっていたリコさんの中華料理によって満腹状態になり、ミトさんは餓死状態になってしまうのを免れたようだ。

 

 そしてミトさんが落ち着きを取り戻したところで、しばらくの仮眠から目覚めたミトさんと朱紅玉さんが二人っきりになって対面して話し合うことに。

 

 

「先程はありがとうございましたわ。貴方様が助けてくださらなかったら、わたくしは一体どうなっていたことでしょうか……」

 

「い、いや……別に大したことはしてへんで。アタシはただここまで運んだだけで、それ以外のことなんて……」

 

 

 うおっ、ここでミトさんが頭を横にブンブンと振り回した。いやめっちゃ回すな。扇風機の羽よりも結構速く回すやん。すんごい風がそこから吹いてるなヤベェ。

 

 

「いいえ……たったそれだけのこと。たったそれだけのことで、わたくしは生死を分かれていましたわ。あんな人気のいないところでわたくしは倒れてしまっていたのですの。もしあのままになっていたら、わたくしはあのまま飢え死になっていましたわ……だから貴方様には感謝しかありませんわ!!」

 

「お、おう。そうなんか……」

 

 

 まぁ、一理あるな。時と場所によっては、ずっと見つけてもらえずにあのまま野垂れ死んでしまう可能性だってあったし。そんな死の境目な状況の中で真っ先に自分を見つけてもらい、何の躊躇いも無しに助けてくれたらそりゃ感謝の言葉が思い浮かばないわけがないって。

 

 

「なので……わたくしは決めました。今日から貴方様のことを『ご主人様』を言わせていただきますわ!!」

 

「………………ハァァァァァァッ⁉︎ ご主人様⁉︎ アタシが⁉︎」

 

 

 あっ、ここでか。この日からもう既に朱紅玉さんの事を『ご主人様』認識でいくことにしたのか。まぁ先程の出来事があったのだから無理もないだろうけどな。

 

 

「はい‼︎ このご恩を返すべく、わたくしはご主人様の為に忠実に動いてゆきますわ‼︎ お困り事があれば是非わたくしにご相談を‼︎ 解決に協力いたしますわ‼︎ 寧ろどんな命令だろうと確実にこなして参ります‼︎ 何なりと‼︎」

 

「いやいやいやいや⁉︎ 相談とか命令とか言われても、頭の整理が追いつかんのやけれどォッ⁉︎」

 

 

 そりゃそうだ。いきなりしもべになるとか言われても、どう反応すればいいのか分からなくなるのが普通だよな。突然の出来事すぎるし、まだ会って間もないじゃん二人とも。

 

 

「なんや? その子、今なんでも言うことを聞いてくれるって言ったん? ほな料理作り終わってクタクタなウチの肩揉んで〜」

 

「うわでたっ⁉︎」

 

 

 いやここでアンタが出るんですかこの時代の記憶のリコさん。数年前から変わらず空気読まないなこの人。

 

 

「……お言葉ですが、わたくしが言うことを聞くのはご主人様の言葉だけですわ。貴方の命令には必ず従うとは思わないでくださいまし」

 

 

 ん……? あ、あれ? なんか……ミトさんリコさんの事を不機嫌そうな感じに睨んでない? まるで目の敵を見るかのような眼差しなんだけど……

 

 この人、ここまでの短時間でリコさんと何があった? 料理を食べさせてもらった身だよな? なんでそんな恩を仇で返しそうな眼差しを向けてんの……?

 

 

「そもそも貴方、先程ご主人様に悪口みたいなことを言ってましたわよねッ‼︎ 『この店の娘さんとは違って美味いもん作れるんや』って何ですのッ⁉︎ 嫌味ですのッ⁉︎ 嫌味であんなこと言いましたのッ⁉︎ しかもご主人様の目の前でそんなこと言うとはデリカシーの欠片もありませんわねッ‼︎」

 

 

 あぁ……(呆)。リコさん定番の悪意の無いけど空気は読まない発言か。自分に向けられたわけではないけど主人に向けられたものだから、代わりにブチギレてる感じか。

 

 

「えっ? ウチはただ自分が思ってたことをそのまま口にしただけなんよ?」

 

「それが気に入らないと言っていますのッ‼︎ 恩人であるご主人様を馬鹿にするようなことをする者は、誰がなんであろうと許しませんわッ‼︎」

 

 

 うわっ、手をちょっとデカくしていつでも戦闘態勢が整えるようにしてるよこの人。リコさんとはこの時からずっと嫌悪してたのか? ……『あすら』に来た時は躊躇いも無く彼女の料理を完食してたのに?

 

 

「ま、待てやッ‼︎ 落ち着けや二人ともッ‼︎ その事はもうえぇからッ‼︎」

 

 

 ここで朱紅玉さんが割って入り、一触即発な雰囲気でいがみ合う二人の喧嘩を止めてきた。まだ魔法少女になる前置きな点がないからなのか、リコさんをも庇っているように見えるな?

 

 

「ウチはずっと冷静やけど? 狂犬みたいに怒っとるこの子にだけ言えばえぇんやない?」

 

「それはまぁそうやけど、アンタはちょっと黙ってなッ⁉︎ というか自分の部屋に帰れやッ‼︎」

 

「そう? わかったわぁ」

 

 

 なんかあっさりと部屋から出てったなこの人。まだなんか揶揄ったりするものかと思ったけど、よっぽどの事が無ければすんなりと頼み事を聞けるタイプなのか? まぁ、それはそれで相手側も安心するけどな……

 

 

「ご主人様‼︎ 貴方様、あの妖狐に『中華料理を作るの自分よりもヘタクソ』みたいなことを言われてましたわよ⁉︎ 言わせておいて本当に良いんですの⁉︎」

 

「………………悔しいけど、事実なんや。じーちゃんもあいつの料理が美味すぎてめっちゃ褒めとったから……あれ食べた人みんなボォーッとしてしまうし、そういうのが無くともあいつの事を怪しく思えるし、嫉妬してまうけど、今のアタシだとな……」

 

「ご主人様……」

 

 

 無理に『これでも別に気にしてない』と言っているかのような笑顔をミトさんに見せる朱紅玉さん。そんな彼女を見て苦しく悲しげな表情となるミトさん。……もしかするとミトさん、この時から朱紅玉さんの事第一に動くことを意識するようになったのだろうか……

 

 

「……話は変わるけど、その耳と手……あと尻尾は取らへんのか? 料理食ってる時もそのままなのにすっごく器用に物持っとってたけど、ずっとコスプレしたままやと不便やろ?」

 

「えっ? ……あ、あぁ……ご心配なく。コスプレではございませんわ。わたくし達の血縁ではこの手と耳と尻尾、生まれつきこんなものですし不便だと思ったことはありませんわ」

 

「えっ嘘やろっ⁉︎ リコと同じ感じなんかっ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 あれから数日間過ぎた時の、ミトさんがそれまでの頃に体験した時記憶が流れてきた。

 

 朱紅玉さんの祖父から『店の手伝いもしてくれるか』と提案されたものの『自分は料理がかなり下手なので』と断りを入れていた。しかし本当は悲しげな表情をしていた朱紅玉さんに寄り添いたいが為の断りであったらしい。

 

 その嘘を朱紅玉さんに見抜かれ、気に障ることであったからなのか『少しでもリコを見返すために料理を教えてほしい』と頼まれるようになったそうだ。最初は好きでも無いことに挑戦させてあげることに躊躇いを感じていたようだが、彼女の鬱憤を晴らさせる為にも……とのことで承ったようだ。

 

 ちなみに朱紅玉さんが祖父から誕生日に貰った中華鍋は、その特訓には使わなかったらしい。文句を言っていたのに今更使うのは気が引けるらしく、上達したと感じた時に使うことにしたとのこと。

 

 それを聞いたミトさんは彼女に内緒で祖父にその事を伝えたところ、申し訳ないと思っているかのように微笑んでいた。本当は朱紅玉さんのファッションデザイナーになる夢も尊重してあげたいから複雑だとのことらしい。

 

 それから数日後、現在に至る事件が起きた。リコさんが朱紅玉さんの鍋を無許可で使ったからだ。本人が使わなかったからとはいえ、勝手に自分のものを使われて怒る朱紅玉さんだったけど、ミトさんも彼女以上に激怒していた。出会った当初から他人の事を考えないリコさんの行動が気に食わず、それが募りに募って爆発したのだろう。

 

 それからミトさんはより一層朱紅玉さんの事を想い、リコさんには強い敵意を見せるようになった。彼女はいつか朱紅玉さんの居場所を奪うのかもしれない、そんな過剰な被害妄想もするほどに。

 

 

「……一体どうすれば、ご主人様は悲しくなくなりますの……?」

 

『アンタと同じあの魔族を倒すことやな』

 

「ん? ……えっ金魚っ⁉︎ 喋ってますし水の無いところで浮いてますわっ⁉︎」

 

 

 おっ? ここでまさかの朱紅玉さんのナビゲーターであるジキエルが出て来たぞ? 原作では朱紅玉さんの前に現れるはずだったよな? なんでこいつ、魔法少女と敵対する関係という認識されているはずの魔族に声を掛けたんだ?

 

 

『あの狐の魔族はな、料理に魔力混ぜて人を惑わしてるねん悪いやっちゃ』

 

「………………それ、ホントですの?」

 

『ホントホント。アイツ倒すとスタンプもらえてエエことあるで。自分、アイツに苦しめられた人間に仕えてるやろ? そいつ誘ってみ? 魔法少女やってみんかって』

 

「………………」

 

 

 ……なるほど、そういうことか。契約させたい人との仲が良い身内の人から魔法少女をやってみないかと勧誘させることによって、契約される側が『この人が信用した話題だし試しにやってみようか』という考えを持つようになり、契約をすることになるってわけか。まるで悪知恵の働くキュゥ○えだな、胸糞悪い。

 

 主人の事を想っているがあまり、その言葉巧みに乗らされたミトさんは朱紅玉さんに魔法少女にならないかと誘うことになった。朱紅玉さんも朱紅玉さんでミトさんへの信頼度が高かったためか、その勧誘に乗ることになったのだった。

 

 

「ご主人様‼︎ あの妖狐をより効率良く倒すには魔力の扱いに慣れることが大切ですわ‼︎ ある程度の修行は最低必須、わたくしに魔力の扱い方を伝授させてください‼︎」

 

「ま、魔法少女じゃないアンタにそれができるって、どういうことなんや……」

 

 

 そしてこれである。朱紅玉さんが原作よりも強くなったのは(メェール君達にボコボコにされたからあまり分からなかったけど)、やはりミトさんが師匠として魔力の扱い方を教えてくれたからだろう。ミトは主人を想うがあまり熱も入るタイプなのかもしれないな……

 

 そして、リコさんの目を盗みながら一週間の修行を重ねたミトさんと朱紅玉さんだったが……原作通りの流れで現在に至ったが故か、呆気なく敗北してしまった。リコさんって、どれだけ強かったんだ……?

 

 そこからも原作通り。朱紅玉さんに残されたのは、変わらず彼女の隣にいたミトさんに、リコさんがいなくなって寂しくなった店、そして彼女の静止も聞かず取り憑かれたように無心で厨房に向かう祖父だけ……その上にジキエルからいい加減なホラを吹かれることに。

 

 そして、ミトさんはというと……

 

 

「負けた……わたくしも、ご主人様も……あの妖狐、どれだけ強かったんですの……?」

 

 

 あっ、さっき俺が思ってたことと同じことを呟いたよこの人。まぁ無理もないよな。頑張って修行したのに結局なす術なくやられてしまったのだから。

 

 

「……いや、何を今更そんなことを言いますのわたくし。ご主人様はあの妖狐にリベンジすると誓いましたわ。なのに従者であるわたくしがそんなご主人様の意思を尊重しないなんて、それこそご主人様に恥をかかせるだけですわ」

 

 

 ………………あぁ、そうか。この人……主人を想うがあまり、主人の悲しき『表面』を多く見てきたがために……

 

 

「前向きになったご主人様の熱意に答えるためにも、わたくしがこんなところで落ちぶれるわけにはいきませんわね。ご主人様のためにも全力で彼女を応援して、あの妖狐にリベンジしてみせますわ!!」

 

 

 主人の奥底の闇に、気づけなかったのか。

 

 なんとしてでも主人の心を晴らしたい。そんな一心が強すぎるせいで『本当は主人にどうしてほしいのか』『自分が主人に本当にすべき最善の行為とは何なのか』を理解しようとしてこなかったのか。それであの時、先走って俺の誤解を解く説明に聞く耳を持とうとしなかったんだな。

 

 悲しみや憎しみを表すドス黒いモヤは無い。けど空気の淀みはある。純粋過ぎるが故に周りや朱紅玉さんの奥底の闇に気付けず、自ら負の感情を背負っていることに気づいていない感じか。

 

 ……だったら尚更、ミトさんをこのままにしておくわけにはいかない。彼女の為にも、朱紅玉さんの為にも……ここで留めさせないと。

 

 

「───待ってください。貴方が主人の為にすべきことは『復讐の援助』じゃない」

 

 

 気がつけば俺は、この記憶の世界のミトさんに声を掛けていた。優子もこんな風に、記憶の世界の人に話しかけてきたのだろうか。

 

 

「ふえっ? だ、誰ですの貴方は?」

 

「あっ、申し遅れました。自分、夢の世界の見習いアドバイザーみたいな存在です。貴方の夢の中で見た記憶を通じてアドバイスをしに、この記憶に介入させていただきました」

 

 

 とりあえずこういう感じで、『そんなに怪しい人じゃないよ』とアピールしてっと……断言するような言い方だとかなり怪しまれるから、断言はしないでおこう。

 

 

「貴方の記憶、見させていただきました。朱紅玉さんへの強い忠実な心、確かに感じ取らせていただきました。あれほどまでに彼女の事を想っているとみました。ですが……それ故に貴方は、『主人の為に本当は何をすべきなのか』ということに気づき損ねていた」

 

「ご主人様の為に、本当は何をすべきなのか……?」

 

 

 思わず聞き返すかのように復唱してきたミトさんに対し、俺は無言で頷いた。そしてその答えが何なのかを求めている彼女に、俺はこう答えた。

 

 

「朱紅玉さんの心を、癒すことです」

 

「ご主人様の、心を……?」

 

「はい。この時から朱紅玉さんは、悲しみに明け暮れていることでしょう。彼女のお爺さんが洗脳されたのではなく『彼女の夢を叶えるために台所へと向かっていた』ということに気付けず、『洗脳したと思わせてしまったリコさんを封印すれば幸せになるのだろうか』と思い込んでしまった……その結果、悲しみと憎しみ、そして自分が本当は何をすれば良いのかという葛藤で思考がぐちゃぐちゃになっていることでしょう」

 

「ご、ご主人様が……?」

 

 

 本当は朱紅玉さんも、自分が今どうすれば良いのか分からない状況に遭っている。それを知ったミトさんは思わず愕然とした表情を見せてきた。主人の事をずっと見てきたつもりだったのだろうが、実は盲目であったことに対してショックを受けたのだろう。

 

 だからこそ、俺は彼女に問いただしたい。彼女自身が本当にすべきなのかを。

 

 

「主人がこうなってしまったら、その時の貴方はどうしますか? ずっとお互いに勘違いをしたまま、彼女の晴れない心をそのままにして、封印するためにリコさんを長年掛けてでも探し続けるべきですか?」

 

「そ、それは……ッ」

 

 

 敢えて選択肢を言わず、俺はミトさんの答えを待つことにした。しばらく鬱として俯いていたが、顔を上げた時には……

 

 

「わたくしは……本当は、ご主人様の荒んでしまったその心に寄り添い、癒すべきでしたわ」

 

 

 その答えを、手遅れであることの後悔とともに俺に教えてくれた。今にも泣きそうな表情を、光の失った瞳で見せながら。

 

 

「ですが……わたくしとご主人様はあの妖狐に負け、ご主人様に悲しみの連鎖が起こってしまったのを見てきたため、その負の要因を消さなければという一心になっていて……だからこそなのかもしれません。わたくしはそんな悲しき人のために、今すべき当たり前の事に気づくことができませんでしたわ。いいえ、考える余裕が無かった……と言った方が良かったのかもしれませんわね」

 

 

 自らに追い討ちをかけるかのように、彼女は作り笑いの笑顔を見せる。まるで現在の自分の意思が目覚めてきたかのように、長い年月をかけてしてきたことに対する後悔の念を背負っているかのように。

 

 

「この考えが、逆にご主人様を苦しめていたのですのね。……こんなの、わたくしにとっては重罪ですわ」

 

 

 だからこそ……だからこそだ。彼女には、恩人でもある主人にしてきたことでの後悔を、一生背負わせない。彼女の想いを否定させない。俺が……この人の全てを救ってみせる。

 

 

「少しぐらい、まだ挽回できるチャンスはありますよ」

 

「えっ……?」

 

「貴方は悲しみに満ちた人に本当は何をすべきなのか、それを思い出すことができた。だからこそできるはずです。復讐とは違う、貴方の主人……朱紅玉さんが本当にすべきこと、それを全力でサポートしてあげてください。それが……今の貴方にできる役目だと、俺は思います」

 

「ご主人様が、本当にすべきこと……」

 

 

 この言葉で、彼女自身が答えを見つけたためなのか、はたまた無自覚でそれを知ったのかは分からない。だが俺の言葉が少しでも響いたからなのか、目の曇りが消え始めていた。

 

 ……なら、俺がこの後、この世界ですべきことはただ一つ。

 

 

「ではそれを果たすため、貴方の心の闇となる淀みを、晴らしてみせましょう。セイクリッド・ランス、解放」

 

 

 本来の形状に戻したセイクリッド・ランスを天に掲げ、そして叫んだ。

 

 

「心の闇を祓え、ライトニングカーテン‼︎」

 

 

 刹那。世界は光一色に染まり上がった。

 

 

 

 

 

 

「……夢を見た気がしましたわ。それも、何もかもをスッキリにさせる夢を」

 

 

 気が付いた時には、俺とずっと隠れてやがったフードの人は記憶の世界に入る扉の前にまで戻っており、目の前では現在のミトさんが丸くなって横たわっていたのが見えた。俺が記憶の世界で淀みを浄化したから、その弾みでここに現れたのか? 突然出てきた可能性としてはそれがあり得るだろうな。

 

 後、夢を見た気がすると言ってるようですが、ここも夢の世界ですからね? 気づいて? ここ夢の世界だけど目を覚まして?

 

 

「ご主人様の為にすべきことが本当は何だったのか、復讐よりもやるべきことが何だったのか……思い出してきたかのように、わたくしはそれに気づかされましたわ。……そうでした、わたくしにはもっとやるべきことがありましたわ」

 

 

 ……なんか、独り言を言っているかのように聞こえるんだけど。これ、気づいていない? 俺達が彼女を見ていることに気づいていない? そりゃあないよミトさん、早く気づいてー。いや、こっちから声を掛けてあげるべきか?

 

 

「……というわけでして」

 

 

 は?(猫ミーム風) どういうことだってばよ?

 

 

「襲い掛かってきたこちらから言うのは手前勝手であることは承知の上ですが、お願いしたいことがございますわ。どうかわたくしを、この記憶が忘れないように現実世界へと起こさせていただけないでしょうか」

 

 

 ひょいっと起き上がり、その勢いで俺達に向かってそう言って頭を下げてきたミトさん。というか気づいていたのね。俺達がいる事に気づいていたのね。でなきゃ突然こちらに向けて頭を下げたりしないよね。うん。

 

 

「……やるべきこと、見つけたんですね」

 

「えぇ‼︎ ですが、それを果たす為にまずは今の状況をなんとかせねば‼︎」

 

「そう言うと思ったぜ。んじゃ、俺達が今していることとやるべきことを話さないとな」

 

「ずっとあっちの世界で高みの見物をしてたお前が仕切るな」

 

 

 なんていう今のツッコミを無視しながら、フードの人はこれから優子達がしようとしていることを説明した。

 

 朱紅玉さんの誤解を解くこと……は、既に優子が取り組み今はちょうどそれが終わったところだろうな。後は仲直りの条件としてリコさんに謝って鍋を返してもらうこと。そして、白澤さんを封印から解放させること。俺達がすべきことはこの三つ(というより二つ)だ。

 

 ちなみに朱紅玉さんの誤解を解くのが終わったのが何故みんな分かったのかというと……

 

 

「いやぁ、この俺に『人の夢の世界を他人の夢の世界での状況を中継できる能力』が使えるようになってよかったぜ。白哉がシャミ子の眷属になったことで、俺にも夢魔の力が一部得られたのかもしれんな」

 

 

 えぇ……何それ……確かに俺は優子の眷属になって夢魔と同じ力を手に入れられたとはいえ、なんでお前にも一部がリンクしてんだよ……どういうことなの……(汗)

 

 それはともかく。やるべきことなどの説明した後、状況を把握したミトさんは真摯な表情で頷いた。

 

 

「ご主人様の方は問題無さそうなのはわかりました。けど、それでもわたくしにも何かできることがあるのかもしれませんわね……やはり早急に目覚めなければ。しかし、どうやって気絶から目覚めれば───」

 

 

 ミトさんがどうやったら気絶から起床すればいいのかを考えていたら、フードの人が翳した右手から放たれた淡い光に包まれ始めた。えっ、アンタ何してんの?

 

 

「俺のこの光を覆い浴びた奴は、この世界で体験した記憶をはっきりと覚えながらスッキリ目を覚ますことができるぞ。俺の本来の人格的ポジションである白哉は無理だけどな。これで起こしてやっから、シャミ子達の援護に向かっていってくれ」

 

 

 えぇ……何それ……(二回目) 夢の世界で一番チートなの、もしかしてアンタだったりして……? 優子が知ったら絶対嫉妬するって……

 

 

「ありがとうございます‼︎ 早速ご主人様とあの妖狐……いえ、リコとのわだかまりの解消の助力をしに行き参りますわ‼︎ 待っていてくださいねご主人様ー‼︎」

 

 

 ミトさんがそう高らかに宣言した瞬間、彼女の身体は完全に光に包まれ、収まった時には彼女の姿は見えなくなった。本当に、現実世界へと目覚めたのだろうか……

 

 って、アレ? 本人が目覚めたら、その人の夢の世界にはもう居られないはずなのに、なんで景色は全く変わってないんだ? どうして?

 

 

「あぁこれ? 先程までいた夢の世界の主が起きた時、夢魔の力によって自動的に近くのお眠り中の人の夢の世界に移動できるようになってんだ。夢魔の力ってすごいなー。本体が気絶してもこんな能力が使えるんだから」

 

「えぇ……何それ……(三回目) なんでそんな能力が使えるんだっていう展開が多くて頭が追いつかん……」

 

「ついに口に出したな本音を」

 

 

 喧しい。

 

 というか……他の夢の世界に移動したとなると、ここは一体誰の世界なんだ?

 

 

 

『───時は来た。シャドウミストレスの眷属よ、よくぞ桃の記憶の夢へと赴いた

 

「おっ、メタトロンじゃん。おひさー」

 

 

 

「アイエエエエ⁉︎」

 

 

 筋肉モリモリマッチョマンの猫ォォォォォォッ⁉︎ 何この猫、新手の猫ミームかッ⁉︎ 誰だこいつゥゥゥゥゥゥッ⁉︎

 

 




とりあえずイレギュラーによるイレギュラーな展開は阻止した……が、それとは別の問題事が発生⁉︎ 果たして白哉は無事でいられるか⁉︎
次回、『白哉死なず‼︎』……我ながら何書いてんだろ。


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転生者、桃色魔法少女の真実の過去の一部に触れる(原作六巻ネタバレ注意)

原作五巻編なのに原作六巻のネタバレしてるじゃんってことで初投稿です。

オリ主は原作六巻以降の原作知識を全く知らない設定になっています。いやマジで。


 

 あ……ありのまま、今起こったことを話すぜ‼︎

 

 この俺・平地白哉は、朱紅玉さんを『ご主人様』と呼ぶオリキャラまぞくのミトさんが抱えていた誤解を夢の世界で解いてあげ、さらには本当は何をすべきなのかを教えてあげて和解した。そしたら別の人の夢の世界へと自動的に移動することになり、そこで筋肉モリモリマッチョマンの猫ちゃんと出会うこととなった……

 

 な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされていたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……

 

 異世界転移だとか、突然の崩壊世界化だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

 

「いや前回ネタを引っ張ってくんなよ。いや、この場合なんて言えばいいんだっけか?」

 

「うるせェよっ‼︎ こんなとてつもなくヤバい見た目の猫というか人を目の前にして、何をそんなに平然としていられるんだよっ‼︎」

 

 

 しかも俺達、突然として他人の世界に勝手にお邪魔してしまったんだぞ⁉︎ その人の夢の世界を守る番人が来てもおかしくない状況なんだぞ⁉︎ 現にそういう感じの奴がいるんだしッ‼︎

 

 というか筋肉モリモリマッチョマンで身長のデカい人間の身体をした猫ってなんだよッ⁉︎ 改造ポケ○ンでいうゴ○チュウのような禁忌の生物か何かなのかッ⁉︎ 幾多の戦闘訓練を積んだ狂暴な獣か何かッ⁉︎ 勘弁してくれよ俺はまだ死にたくねェよッ‼︎ ここ夢の世界だから実際に死ぬわけじゃねェけどさッ‼︎

 

 

「そう警戒すんなって。俺とこいつはこの世界で知り合ったダチだからさ。な? メタトロン」

 

「………………えっ? 友達? こいつとお前が?」

 

 

 は? えっ? お前、俺の知らないところで他人の夢の世界にお邪魔して、いつの間にそんな交流をして来てるの? 何それ、俺聞いてない……

 

 

出会った当初は呑気かつ何食わぬ顔で訪れた者である為、未だ不信感が拭えぬ。よって友とまでは言わんが、悪気のしない親近感ならばある

 

「えーっ? なんだよその認識はー。主人の事をどう想っているのかを話し合った仲なんだからさー、ダチとして認めてくれよー」

 

まだその時ではない

 

「ブーブー」

 

 

 あっ、この猫にとってはフードの人は良い認識ができないのか。まぁ突然主人の夢の世界に他人が現れたらそりゃあかなり警戒するわな。しかも呑気にって、ダー○ライでもそんな軽い気持ちで人に悪夢を見せないってのにさ……このフード野郎は何したんだよまったく。

 

 っていうかさ……筋肉モリモリマッチョマンの猫さん? アンタ誰だよ?

 

 

そういえば、うぬには自己紹介をしていなかったな。

 

 

 

 我はメタトロンの三十六万五千の目が一。光の巫女の潔き御魂に悪い虫がつかないよう監視する、天つ使いの機構である

 

 

 

 ??????

 

 えっと……なんて?

 

 

「メタ子の分身の一体ってこと。ほら、シャミ子が桃の夢の世界に訪れた時に言ってただろ? ムキムキのメタ子って。それがこいつ」

 

その時は気がついたらおいしそうな虫を追いかけ回していた

 

「………………あっ、そっか。桃の夢の世界のメタ子か。あぁあぁ、そういえばここではそんな見た目だったな。思い出した」

 

 

 いっけね。突然出てきた時のインパクトが強すぎて、メタ子にもう一つの姿があるんだってことを忘れてたわ。というかその時にそれに関する原作知識が飛んでったんだったわ。

 

 筋肉モリモリマッチョマンは一時的に記憶障害を起こしてしまう程にインパクトが強いんだって。しかも顔は猫ってさ、ネットミームになりそうな程ヤバくね? ヤバくない?

 

 

「つーかさ? なんで本体の方で会わせてくれないんだよ? そんなに俺との壁が作りたいのか?」

 

本体は本題に本格的に入った時に、我と交代で出ることにしている。よってまだその時ではない

 

 

 本題……? 一体何を言っているんだこの人(?)は? 俺達に何か伝えようとしているのか?

 

 

シャドウミストレスの眷属よ。うぬとうぬの上司……大まぞくの子・シャドウミストレスには多大なる恩義を受けさせてもらった。よって汝にはシャドウミストレスよりも先に、とあるものを見ていただきたい

 

 

 お、恩義……? 恩義って何の事? というか誰が俺達にしてもらったのだと? さすがにメタトロン、というかメタ子には……無いよな? メタトロンの分身なんて俺は初めて会ったばかりだし……

 

 

うぬとシャドウミストレスは、心に負の感情を持った巫女に手を差し伸べ、その心を洗い流してくれた恩義がある。主である巫女が受けた恩義は案内者である我の本体の恩義でもある。よって本体にはうぬへの恩を返す必要があると考えた

 

「あっ、そういう……」

 

 

 そっか。そういうことか。そういえばそうだったな。俺も優子も、父さんやヨシュアさん、桜さんの事で一人悩みだしてしまった桃を励まそうとしたんだったな。それにメタ子も恩を感じ、それ相応のお返しをしようと考えて……ってわけか。

 

 

「なるほど、大体わかったよ。で、その恩をどうやって返すつもりなんだ? あっ、嫌味で言ってるわけじゃないぞ?」

 

……先程も言ったが、汝にこれを見せ、共有させたい

 

 

 見せて共有させたいもの? 桃にも見せていないものでは無さそうだけど……見せていないものである可能性の方が高いのは何故だろうか?

 

 

これは、ある大まぞくによって封じられた……桃の幼少期の記憶である

 

 

 メタトロンがそう言った途端、突然俺達の目の前に扉が出現した。しかも厳重に鎖が巻き付かれており、隣には『止まれ』という表示形式の看板が。えっ……何これ……怖っ……

 

 

「おうおう、なんだこれ? 滅茶苦茶ヤバいバケモンが封印されてんのか? つまるところ桃はこの中の尾獣の人柱力ってか?」

 

「んなわけないだろ」

 

その扉は、大まぞくの手によって厳重に封じられたもの。我にもうぬにも、シャドウミストレスにも桃にも開けられぬし、永久に開けなくて良いものである

 

 

 大、まぞく……? その者によって封印されたものが、夢の世界に……? まさか、その大まぞくって……

 

 

「んなもんを俺達に見せるために開けるってか? それで桃がこん中のものが何なのかを分かっちゃったら大変じゃね? 頭悪くね?」

 

「お前はちょっと黙ってろよ。見せてきたからって開けるとは限らんだろ。そもそも無理とか言うし」

 

その通り。代わりにうぬに授けるは我が本体の記憶。猫の本体が見た、桃と桜の出会いの場面である

 

 

 桃と桜さんが、初めて出会った時の記憶……? えっ何それ、超気になるんだけど。その記憶、貴重すぎるから見てみたい。

 

 

ここから先、目にしたことは桃にも、何人にも話すな。後に本体に教えられるであろうシャドウミストレスにもだ。約束できるか

 

「貴重すぎて忠告されなくても教えられないかもしんない。誰にも言わない。マジで。優子にも実際にその目で見てもらった方が良い」

 

 

 というか言ったら言ったでとんでもない事態が起きてしまう可能性があるから、それも理由に含めて誰にも教えられない……と思う。内容次第では言うべきかも悩みどころなんだよな……

 

 でも、実際に口から内緒にするとか言ったんだし、絶対に口外しないようにしとかないとな。

 

 

よし……ならば、時を戻そう

 

「えっ何? ぺこ○?」

 

「お前は最後の最後まで……‼︎」

 

 

 フードの人がボケをかましてきたことにツッコミを入れた途端、景色が一瞬にして渦巻いた───

 

 

 

 

 

 

 景色の渦巻きが収まった時には、俺達は見知らぬ場所に立っていた。

 

 木の小屋に数本もの枯れた木、辺り一面に広がる雪の野原、遠くから響く銃声のような音──いや、それにしてはあまりにも強く響きすぎている。この音が聞こえるだけでも居心地が悪いことは確かだ。

 

 

「な、なんだここは……?」

 

「うわさむっ。しかもバンバン銃声が聞こえてくるじゃん。ガチモンの戦争かよ」

 

我の記憶の中である。ついてくるが良い

 

 

 ここが、桃と桜さんが出会った場所……? なんでこんな殺風景が広がりそうで出会ったんだ……? いや、まだここで会ったとは限らないか。戦場の最中っぽいし。戦場であることは確かだけど。

 

 

「メタ子。生きてる子がいるかもしれない。通じそうな言葉で呼びかけて」

 

 

「えっ……? あれって……」

 

「おやおや、ここで千代田桜をお見えすることになるとはねェ」

 

 

 足を止めた猫の姿の──おそらく本体と人格も外見も交代させた方のメタ子は、堅苦しさを感じる防寒着を着た険しい表情の人──千代田桜さんに頭を撫でられながら指示を受けていた。

 

 いや待て。ちょっと待て。どういうことだ? 何故桜さんがまるで冬の戦場に赴いている軍人みたいな服装を着ているんだ? もしかして彼女、事態の終息の為に軍人になりすましているのか? それとももしや、戦場に狩り出された孤児とかじゃ……

 

 

 

『організація,що контролює вас впала Ви не маєте більше вчиняти самогубства』

 

 

 

「なんてッ⁉︎」

 

 

 いや待って⁉︎ ちょっと待って⁉︎ ホントに待って⁉︎ メタ子は今、何語で話してるんだ⁉︎ 英語ならなんとなく分かるんだけど、それ以外の国の言語は挨拶しか知らんぞ⁉︎

 

 

「ウクライナ語だな。『あなたを管理している組織はいない。自殺はやめろ』って言ってる……気がする。ちょっと曖昧だからわかんね」

 

「ちょっとだけでも言語が分かるのはスゲェよッ⁉︎」

 

「いや翻訳機を使った」

 

「この野郎っ‼︎」

 

 

 まるで大抵理解できるよみたいな感じにドヤ顔しやがって‼︎ でも言語が分かる手段を持っていてくれたのは素直に感謝します‼︎ ありがとう‼︎ マジ感謝‼︎

 

 

「スイカ‼︎ 後で泣け‼︎ 今は防げ‼︎」

 

 

「えっスイカ……?」

 

 

 なんだ? メタ子の他にも桜さんの味方がいるのか? あっそういえば隣に誰かが座っていたような……

 

 ふと桜の隣に視線を向けると、そこには彼女と同年齢であろう一人の女性が体操座りしながらメソメソと泣いていた。

 

 三つ編みに束ねた銀髪に黒い帽子を被っており、耳は尖っていた。メイン画像のような『黒いドレス』と、『メッシュのかかったインナーに半袖、手袋を着込んだもの』を着込んでいた。

 

 この人……耳を見るからにエルフのまぞく、か……? 果物の名前で呼ばれているから魔法少女か?

 

 

「どうしてこんなことができるんだ……かわいそうだ……あんまりだ……」

 

 

「あっこいつの事か。メソメソと泣いちゃってまぁ、えらい泣き虫だなー」

 

「オイ記憶の世界とはいえ聞かれたらどうすんだ」

 

 

 いくら記憶の世界だからといって、その世界の人達が俺達に気づかないわけがないでしょうが。もうちょっと警戒しろや。というか空気読め。

 

 

「……ん? 何かがシェルターみたいな建物から出て来たぞ」

 

「えっ? あ、ホントだ」

 

 

 フードの人に呼びかけられたため、不意に彼が向いている方向へと俺も視線を変えてみた。その先では、出入り口を塞いでいた人工物を雪ごと持ち上げて建物の外に出ようとする、一人の少女がいた。その少女は持ち上げていた人工物を地面に置き、両手を挙げて外気に晒すポーズを取った。

 

 ………………オイ待て。これは一体、どういうことだ……?

 

 

「лише я не вмер Здаюсь」

 

 

「こいつは……『私は死ねなかったので降参します』と言ってるのか? 翻訳機で翻訳してるから実際にどういう意味で言ってるのか分かんねェな。………………ん? 白哉、どしたの?」

 

 

 気候に全くもって適合していない素足と、患者か何かの実験の被験者が着ているような質素な服。これだけなら雪国に放り出された難民の子供という悲しき認識だけで済むが、問題は髪だ。

 

 見慣れた桃色の髪(・・・・)。それを留めている、見慣れたものに似たボサボサになった()()()()()()()。この子はまるで……

 

 

 

「桃、か……?」

 

 

 

 どういうことだ……? 何故桜がこんな戦場真っ只中な感じの雪国にいるんだ……? 彼女は確か施設育ちだったはずじゃ……

 

 と、そんな事を考えていたら、上空から一人の男性が桜さん達のところへと降り立ってきた。

 

 その男性は全身を羽織っているフード付きの灰色のコートで隠しており、他人視点では眼球すら全く見えない程に真っ黒なレンズを付けた灰色の縁のドミノマスクを付けていた。

 

 そして彼の右腕をよく見れば、その腕には一人の少年が抱え込まれていた。桃と同じく素足で質素な服が見えるからするに、彼もこの記憶の桃と同じ境遇を受けてしまっていたのか……? しかも、あの()()()()()()()()()()()()()は……

 

 

「向こうで座り込んでいた少年を保護してきた。今なら敵らしきものも見当たらん、何処か安全な場所に身を潜めるぞ」

 

「グッドタイミングだよドリア‼︎ ちょうどあそこにいる女の子も見つけたんだ、彼女も一緒に連れて行くよ‼︎ 今なら私達のアジトからも近いし‼︎」

 

「……彼女もか。あぁ、了解した」

 

 

 ドリア……? あぁ、ドリアンって言う果物(?)の名前が由来か。そういう名前でそう呼ばれているからに、あのドリアさんって人は柘榴さんと同じ、男性だけど魔法少女のポジションにいる人ってことか。ドミノマスクみたあな形の縁の真っ黒サングラスって可笑しなファッションだけど。

 

 それはそうと……あの男性が抱えている少年、片目が隠れているところを見るに柘榴さんにそっくりだ。いや、ここで柘榴さん似の子と桃似の子が出会うとなると、二人とも本人である可能性が高いな。もっと観察しないと。

 

 

「ドリアくぅん……!! よかったぁ……君が来てくれて本当によかったよぉ……!!」

 

「スイカ、君はいい加減感情移入するように泣いてしまう癖をやめてくれないか」

 

「そういう割にはナデナデしてるから優しいじゃん。私じゃ怪しんでやらないかな」

 

 

 ……何これ? 怖いから構ってほしい彼女と、発言は辛辣だけど行動は甘々なツンデレ彼氏のカップルなの? スイカさんって人がドリアさんに抱きついているからそう見えちゃうんだけど。ちょっと誰か砂糖の少ないのコーヒー持ってきてくれる? 今なら飲めそうな気がする。

 

 

「……Що ти збираєшся з нами робити? Ти впевнений, що нас не вб'єш?」

 

『Ми вас не вб'ємо, ми вас захистимо』

 

 

「ふむふむ……少年の方は『僕達をこれからどうするの? 殺さないの?』で、メタ子の方は『殺さない。我々は君達を保護する』って言ってるな」

 

 

 なるほど……この時からあの二人は桜さんに保護されることになったってわけか。何というか……変わった出会い(?)的な感じだな。なんで二人はこんな戦場の雪国にいて、なんで桜さん達もここに来ることになったんだ? また謎が増えたよ……

 

 

 

 

 

 

「що це?」

 

「うどん‼︎ うどん‼︎ 絶対美味しい‼︎」

 

 

 気がつけば桜さん達は自分達のアジト認識してる感じの建物の中に入っており、桜さんが着ていた上着を桃に羽織ってあげ、ドリアさんが何処からか持ってきた緑色の防寒着を柘榴さんに羽織ってあげ、二人に出来上がったばかりのホカホカなカップ麺を渡していた。

 

 この時の桃の奴、自分はなんでこんなことしてもらっているんだろうって戸惑っている様子だな。というか緊張からなのか震えてるし。まぁ無理もないか、なんかずっとこんな境遇を受けたこと無さそうだったし。でもうどんは食べてみるんだな。お腹空いてただろうし。

 

 

「……смачний」

 

「美味しい⁉︎ 美味しいって顔してる‼︎」

 

「この少年は思ったよりも迎合が早いな。私達の事を警戒している様子が見れなくなっているからに、人を見る目は良いらしい」

 

 

 あっ、柘榴さんの方は確かに震えとかはない感じにすんなりと渡されたうどんを食べている。桃との違いからするに、合流するまでにドリアさんと何かあったからだろうか。

 

 

「かわいそう、かわいそう。二人ともいっぱい食べて」

 

 

 この人……スイカさんは、一体何なんだろうか。二人の事を気遣ってくれていることは確かなんだけど、何か歪な感情を持っているようなそうでもないような……何を考えているのかよく分からないな。

 

 いや、それを言うならドリアさんもそうだな。柘榴さんを保護してくれた上に桜さんと同じ接し方で柘榴さんに優しくしてあげて、彼を桃よりも早く打ち明けやすくしてくれているのに……何故か()()()()()()()()()()()()()()()。こんな人も初めて見た。

 

 この二人……まるで()()()()()()()()()()みたいだ。一体、何者なんだ……?

 

 と、そんなことを考えていたら桜さんが別のうどんを二人にも渡してきたのが見えた。

 

 

「スイカも食べな」

 

「え⁉︎ ぼくは……」

 

「体冷え冷えでしょっ‼︎ まだ長いんだよ、ダシだけでも飲め。ほらっ、ドリアも」

 

「それは君が持ってきたものだ。私が受け取る義務なんてない」

 

「ここに入る前鼻啜ってたでしょっ‼︎ 君が今一番風邪引きそうなんだから食べとけ」

 

 

 えっ何これ? 桜さん、無理してまで働こうとするブラック気質な部下達のカウンセリングをしているホワイト上司なの? 何を考えているのか分からないこの二人の体を心配するとか……いい意味で人が良すぎるでしょ。

 

 

()()()()()‼︎ 今は私がリーダーだ。全ての業は私が背負う。食べて飲んどけい」

 

 

 ……ん? んんん? ()()()()()? 桜さん、この二人と前まではいがみ合っていたりとかちゃいます? それでも二人の事も気遣うとかどんだけ強い鋼メンタルを持っているんですか? 俺ビックリ。

 

 

「……やれやれ、結局君の言葉に甘んじてしまう」

 

「でもその分、桜ちゃんはぼくやドリア君のことをよく分かってくれてるってことだよねぇ。すごく嬉しい」

 

「いや二人とも全然わからんよ? 君達、変だもん」

 

「は? 一緒にするな」

 

「……たまぁに食べると、やっぱり美味しいんだよね」

 

「……ハァ」

 

 

 ……なんかドリアさんが一瞬一触即発しそうな雰囲気を醸し出したんだけど、スイカさんの呟きで溜息をつきながらすぐに落ち着いたんだけど。一緒にされたくないらしいけど彼女の言葉で頭を冷やせるとか、やっぱりこの人ツンデレ彼氏じゃないですかヤダー。

 

 

「かわいそうだったねぇ。これからは辛いことがないといいねぇ。ぼく、もうこれいらないからあげる」

 

「少なくとも日本なら、生き方が正しければ苦悩は無さそうだがな。……天ぷら食べるか?」

 

 

 何だろうな……この二人は桃と柘榴さんに心から優しく接しているはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なんでこんな事を思ってしまうのか、自分でも不思議だと感じるくらいに。

 

 

「……ねぇ、君達。名前は?」

 

『Як вас звати?』

 

 

 あっそれ、俺も気になっていた。桜さん達に保護される前は変更前の名前があるかもしれないから、その名前がどんなものなのか気になる。果物の名前なのも魔法少女の習わしだろうしな。

 

 

「Мене звуть Операція 27」

 

「……Операція Z」

 

『……無いそうだ』

 

 

 いや無くはないだろ……ごめん、やっぱり無いと言った方が正しいかもしれん。ウクライナ語(?)が分からない俺でも少しは聞き取れたけど、オペ……って言ってたぞ二人とも。

 

 オペレーション……って言っていたのだろうか? 二人とも被験者のような服装を着ていたし、桃に至ってはシェルターみたいな建物から出て来たわけだし……

 

 二人が『オペレーション』と名乗ったのは、この時の桃と柘榴さんは名前を付けてもらえなかったからなのか、はたまた名前を忘れさせられてしまったからなのか……これらのどちらかに当て嵌まるな。名前が無いとか悲しすぎるだろ。誰がこんなことを……この二人が何をしたって言うんだよ。

 

 そんな悲観さを感じている中、桜さんは桃の頬をプニプニと触りながら笑顔で問う。

 

 

「……じゃあ〜、君の方は『モモ』って名前で呼んでもいいかな?」

 

「Мон-мо?」

 

「ピンクできれいな花が咲くんだよ。もうすぐ咲くよ。んで、そっちは……」

 

 

 おっ、ここで桃は今の名前を手にしたのか。もしかすると、桜さんに命名されたこともあって、彼女の事を十年間も探し続けてきたのかもしれないな。親しくなる程執念さも増すってのかな?

 

 

「……決めた‼︎ 『ザクロ』って名前で呼ばせてもらうね‼︎」

 

「TheКуро?」

 

「赤い花から成長して成る果実でね。その成長の仕方も変わってるから、将来結構成長しながら大きく変化してほしいという願いで‼︎」

 

 

 あぁ……髪の色が果実のザクロとは違うかな変だなとは会った頃から密かに思ってたけど、柘榴さんがそんな名前を付けられたのにはそういう意味が込められていたのか。んで、実際に桃の事が大好きだと言わんばかりに彼女に優しく接する人に成長・変わったと……いや、それは成長と言っていいものなのか?

 

 

「……地毛の色は変わるものではないぞ」

 

「そっ⁉︎ そ、それぐらい分かってるから……ハハハ………………ね、ねぇ君達。うちの国来なよ」

 

 

 図星かよ。そこ図星かよ。これで髪の色が変わるといいなって思ってたのかよ。染めるならともかく、地毛の色をどうやって変えるんだよ。気になるんですが。で、話を逸らすとかホント何なんですか貴方は。

 

 

「あっ、桜ちゃん。解散する前に連絡先……教えて」

 

「えっごめん無理。なんか死ぬほど電話かけてきそうだから。何故か毎回律儀に出てくれるドリアじゃないから」

 

 

 オイ待て、今とんでもないことを聞いた気がするんだが。優子のヤンデレに引けを取らない……いやそれ以上のヤバさを感じたんだが。スイカさんってしつこく電話をかけてくる人なの? しつこいメール送信よりもヤバすぎるんですけど。近寄らんどこ。

 

 

「ってか今よく考えたら、あのしつこい電話毎回出るとかいうドリアもドリアでヤバいよね。頻繁ってレベルじゃない電話受信を受けて毎回出るのはキツくない?」

 

「私はただ出なかった後が面倒に思えるから出てやってるだけだ」

 

 

 下手したら重度のヤンデレになる娘の電話に毎回出てあげてるとか、普通の人なら絶対考えられないよね。かなり警戒して最悪通報案件だよね。そんな彼女の歪んだ好意を蔑ろにせず毎回接しているドリアさんマジでメンタルが強すぎる。度量が広いってレベルじゃねェぞ……

 

 

「俺も毎日夢の世界でお前の事を呼んであげようか? びゃーくやっ」

 

「なんか普通に気持ち悪いからやめてくれ」

 

 

 

 

 

 

それから桃は桜とともにこの町に来て、時が経って、経って。別れの時が来た

 

 

 気がつけば周囲の風景は曖昧なものへと再び変わり、メタ子がその中を歩いていっていた。俺はそんな彼の後ろ姿を追いかけていきながら、ある疑問点を問いかけることにした。

 

 

「あのさ、メタ子……? 桃って確か、施設で育てられた孤児だったはずだよな? なのになんで戦争真っ只中な感じの雪国にいたんだ? さっきまでの記憶が最初に聞いた話と異なっているし、明らかに接点が違いすぎる」

 

それは大まぞくに上書きされた架空の記憶だ

 

 

 上書きされた……? まぞくに上書きされるって、はるか昔に一体どんな敵と戦ってたというんだ? しかも相手が記憶を上書きすることができるとか、そのまぞくはどれほどの手練れだと……

 

 いや、待てよ? ()まぞく? 大まぞくに記憶を上書きされた? ……何故だろう、不思議なことに思い当たる節が一つだけある。相手の記憶を上書きできそうなまぞくって、もしかして……

 

 と、そんなことを考えていたらメタ子が歩を止めた。そして彼が見つめている方向を見ると、そこには寝室らしき部屋のベッドで眠りについている桃と、彼女を見守っている桜さんの姿が目撃された。これは一体、どういう状況なんだ……?

 

 ここで一つ、扉がノックされる音が鳴った。

 

 

「入ってきて、()()()()()()

 

 

「………………………………へっ?」

 

 

 はい? 今、桜さんはなんて? ヨシュアさんって……えっ?

 

 

……再び見よ。シャドウミストレスの父親、大まぞくヨシュアの姿を

 

 

 その言葉が出たの同時に扉が開き、一人の人物がこの部屋に入ってきた。金色の短髪に褐色肌、そして角と尻尾。これって……

 

 

「お邪魔します。この子が例の桃さんですか?」

 

 

「……嘘だろ。マジでヨシュアさんだ」

 

「意外と童顔なんだな。初めて見たけど、渋い声と合わねー」

 

 

 喧しい。お前は引っ込んどれぃ。合わないかはともかく、確かに渋い声に童顔はギャップがあるけども。

 

 でも……そっか、そうだったんだな。大抵予想していたとはいえ、大まぞくの正体はやはりヨシュアさんだったんだな。

 

 相手の記憶を操作できるまぞくは夢魔ぐらいしか思い当たらないし、そもそもまぞくなんて四人というか四種類くらいしか実際に目撃していないから、他にどんなまぞくがやったのかなんて皆目健闘がつかん。出会った魔法少女もそんぐらいの人数だし。

 

 そして、桃の生い立ちに関する記憶が無かったのは、ヨシュアさんが何かしらのアクションを起こしたからなのだと思う。何か理由があるからとかじゃないと、あの時会った彼は優しくなかったし、優子もその性格を遺伝できなかったし……

 

 

「この子が保護されるまでの記憶を全部消してほしい。普通の施設で育った思い出を上書きしておいて」

 

「わっかりました!! ボコボコに消しちゃります!!」

 

 

 そんなことを考えていたら答えが出た。どうやら桃の記憶がメタ子に見せられた上書きされる前のと矛盾していたのは、桜さんがヨシュアさんにそうするようにと頼んだからだそうだ。

 

 というかボコボコに消しちゃるって、言い方も優子にそっくりだな……これも遺伝してるってか?

 

 

「あと……私への過度な愛着も消しておいて」

 

「えっ?」 「えっ……?」

 

「これから大変なことになるから、この町を離れてもらいたいんだけど……話聞いてくれなくて」

 

 

 自分に対する愛情も消させる……つまりはこれまでの関係性も無かったことになるように塗り替えてほしいってことか? なんでそこまでして桃の記憶を上書きしてもらおうと……? なんかこれから大変なことになるとか言ってたけど、それが何か関係しているのか……?

 

 

「……それは、ちょっと……」

 

「あ、やっぱ嫌だった⁉︎ ごめんごめん」

 

「あ、いえ! 難しいだけです」

 

 

 嫌ではない。ただ成功する確率が高くないだけ。そう言っているように聞こえるけど、ヨシュアさんは乗り気では無さそうだ。愛着諸共記憶を無かったことにさせるなんて気が引けるのも無理はないよな。

 

 ……でも、なんだろう。先程のだんまりからするに、何か別の理由があるのかとも感じる。

 

 

「辛い記憶は結構簡単に消せます。でも……経験上、誰かを愛した記憶ってすごーく消しづらいんです。何かのきっかけで簡単に戻っちゃったりします。夢魔は真実の愛には勝てません。魂に刻まれてるんです」

 

 

 魂の存在。それは人が生きている証。その魂がある限り人は何かを学ぶし、失った記憶や感情がそこから戻ってくる可能性だって出てくる。魂の記憶は夢魔に飽き足らず、誰からも干渉することはできない……否、干渉してはいけない。魂が得た愛も無敵である。ヨシュアさんは、そう伝えたいのかもしれない。

 

 

「そっかぁ……ちょっと優しくし過ぎちゃったなぁ。でもこれからアレと戦うしなぁ……」

 

 

 ここで映像でも見ているかのように、俺達の立ち位置が桜さんの背後より離れた位置へと移動させられていた。彼女の顔を拭う仕草からして、メタ子は彼女の泣き顔を見せたくなかったのだろう。

 

 

「この子には普通の人生を生きてほしいな。整合性が取れる程度にうまく消しておいて。……ごめんねぇ、こんな事させて」

 

「いえ‼︎ こういう時のためのまぞくですから‼︎ まっかせてください‼︎」

 

 

「………………こういうところも、優子に遺伝してくれたんだな」

 

 

 ポロリ、心の中にだけ留めようとした言葉が口から漏れた。どんなに厳しい状況であろうとも、他人の為に自分ができることを尽くすあの精神は、家族に遺伝さえしない限り到底できないことだと感じたからだ。

 

 もしもあの場に優子が立っていたら、ヨシュアさんと同じことを……いや、彼以上の成果を持ってして成し遂げようとするだろう。不思議とそんな予感がした。

 

 

「桃さん……ごめんなさい。新しい町で、僕が貴方から奪う、桜さんとの思い出を塗り替えられるような……生きる理由になる、素敵な誰かに出会えますように」

 

 

 尻尾で桃を囲い、星型の結晶の杖を振るいながら言葉を紡ぎ終えた途端──俺達が見たその記憶は、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

「……桃の奴、あんな過去を持っていて、それを桜さんとヨシュアさんに上書きされていたのか」

 

 

 周囲の風景が曖昧なものへと戻った後、俺は徐にそう呟いた。

 

 あの記憶からするに、桃は柘榴さんと共に何かしらの実験に巻き込まれてたけど、その時の事を何とも思わなくなるほどに桜さんから色々なことを教わったってことなんだろうな。あの記憶の桃は今までのよりも正の感情に欠けている感じだったし、桜さんの事を思い出すのも納得がいく。

 

 そして……壮絶な想いを持った桜さんが桃の身を案じ、彼女の記憶から自分が消えるようにとヨシュアさんに頼んだけど、桃からは彼女への愛着は消えなかった。それほどまでに桜さんとの思い出が素晴らしいものだと感じたんだな。

 

 そういえば、その記憶の事を、これまで柘榴さんが話してくれたことは一度もなかったな。桃の記憶が上書きされることを事前に知らされるも了承したからなのか、はたまた察しがついたけど敢えて言わないことにしたのか……そのどちらかだろうな。

 

 

「それほどまでに、あの記憶は貴重なものだった……けど、たとえそれが消える羽目になろうとも、それを乗り越えていける程の記憶を、俺達が刻ませる必要がある……そう言いたいのか? メタ子」

 

 

 あの記憶から読み取り、可能な限り理解して至った、俺自身が想像する結論。これが正しいのかどうかをメタ子に問いかけたところ、彼は小さく首を横に振った。だが、それは否定によるものではなかった。

 

 

何が正しいのか、何を汝らにしてもらいたいのか、我にはその答えを見つけることは出来ぬ。だから……だからこそ、汝らに桃とともに見つけてほしいのだ。彼女が桜の存在とは別として見つけられる、本当の幸せを手にする為の答えを。……無理強いするつもりはないが、可能な限り頭に入れてはくれぬか?

 

 

 この先で見つけてほしい、か……メタ子が本当に伝えたいことは、俺達が桃に一緒にいてほしい……ということだろうな。

 

 無理強いをするつもりはない、か。それはやらなくてもいい、と言っているのか? なら、答えは決まっている。

 

 

「俺はもう前から、優子と一緒に桃を救おうって決めたんだ。優子の場合は俺よりも先にそう決めたんだろうけどな。だから言っておく。やるからには全力で見つけてやるよ、その桃が手にするべき【本当の幸せ】ってのをな」

 

「ヒュー。白哉カッコいいー。俺が女だったら惚れちゃうかも」

 

 

 オイ馬鹿やめろ。せっかくの約束する宣言が台無しになるだろうが。あとお前みたいな奴が女になるとか悪寒で体が震えてくるっつーの。ハァ……締まらねェ。

 

 

そうか……そう言ってくれるのならば安心できる。汝に桃の記憶を見せられてよかった

 

 

 一方のメタ子は悪い気分ではなかったみたいで。というかフード野郎のチャチャ入れを全く気にしてないようだ。桃の事を考えて言ったことが頭に入らなかった、なんてことにならなくてよかったー。

 

 

「……ん? オイ白哉、俺達の体が薄くなってるぞ。本体がそろそろ起きる」

 

「……もうそんな時間か」

 

……時が来てしまったな。大まぞくの子の眷属よ……今日は話せて楽しかった。シャドウミストレスにもあの記憶を見せた時には、メタトロンが宿る猫の体に残された時は少なくなるだろう

 

 

 メタ子がそうもの惜しく寂しそうに語る中、俺とフードの人の体は徐々に透けていく。そろそろ本体の目覚めが近くなる証拠だ。

 

 

我々案内役(ナビゲーター)は弱き人の子を正しく導くために生まれた。その理が今の時にそぐわぬ歪な古の異物であってもだ。そして、我は個人的……いや個猫的に桃の幸せを心から願っている。……桃を、頼むぞ

 

「あぁ、約束する。優子と一緒に桃をこれでもかというほどに幸せにしてやる。だから……そこからずっと見守っていてくれよ」

 

 

 改めてそう宣言した途端、俺の意識は一瞬にして一筋の光へと導かれていった。

 

 その間際にて、メタ子が徐に何かを呟いたことに気付かぬまま───

 

 

 

……汝の転生が、正道であったことを祈る

 

 




かぁーっ‼︎ とんでもないネタバレしちまったなぁーっ‼︎ これ、元は原作六巻の話なのにッ‼︎

次回で原作五巻編は終了です。どんな感じに終わるのかな……?


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白澤さんの封印を解放せよ‼︎ そして、まぞくは己の力と手段の今後に迷い始める

原作五巻編もそろそろ終わりですよーってことで初投稿です。

原作六巻の話を先にやっといて五巻の話に戻るってどういうことなの……(兄貴風)
 


 

「平地くん。平地くん」

 

 

 ………………ん……んんん……? アレ? なんだろう、誰かに呼ばれたような……というか俺、今まで何をしていたんだっけ。

 

 確か、魔法少女の朱紅玉さんとオリキャラまぞくのミトさんが襲撃してきて、それがきっかけで白澤さんが封印されて、その怒りでリコさんが暴走して、優子が小倉さんの力を借りて無理矢理俺達を気絶させて……

 

 で。夢の世界でフードの人に会って、ミトさんの記憶を見て、彼女の主人である朱紅玉さんに対する忠実心に寄り添って、説得させて……

 

 そしたら今度は桃の夢の世界でメタ子に会って、桃の本来の過去の記憶の世界に案内されて、真実を見て、桃の事を頼まれて……

 

 ……というか、なんかおでこがあったかいな。ポカポカする。……いや寧ろ……熱い? ……って。

 

 

「………………アァチャチャチャチャチャアッ⁉︎ なななな、なんじゃこりゃあっ⁉︎」

 

「まぞく起こしタオル……まぞくの眷属に使っても効果アリだったね」

 

「おでこを火傷させる気か小倉ァッ‼︎」

 

 

 熱かったぞ⁉︎ めちゃくちゃ熱かったぞこのタオル⁉︎ これ一体どんな温め方したら火傷しそうなほど熱くなるんだァッ⁉︎ 目を覚させてくれたことはちょっと嬉しいけどさ、この熱さはキツかったぞマジで‼︎

 

 というか……俺、気絶状態から目を覚ましたんだな。一度に二人の夢の世界にお邪魔していた後に目覚めたら、自分は本当さっきまで気絶していたのだろうかと思うくらいスッキリしたぜ。気持ちの良い目覚めだった。

 

 

「……で、俺達が気絶してる間にどんなことが起きてたんだ?」

 

「結論から言うとぉ、今ちょうどあんな感じ」

 

 

 そう言って小倉さんが横方向に向きながら指差しをしていたので、俺もその方向に振り向いてみた。小倉さんが指を差した方向を見ると、そこには……

 

 

「ってなわけで、鍋持ち出してごめんな‼︎ これ鍋! 利子で高級まな板もつけるの‼︎」

 

「アタシの方こそなんかぶっ放してしもてごめんな‼︎ アタシもちゃんとじーちゃんと向き合うわ〜」

 

 

「………………気絶前のヤバさが嘘のようだ」

 

 

 どうやら原作通り仲直りしているようだ。けど他のみんなが思うように、不自然に和やかになってて怖い……あっさりとした感じに仲直りしてるの怖い……十年前からの確執があったってのに、先程まで一触即発してたのに……

 

 

「あ、あの……わたくしも、皆さんに謝りたいというか謝らなければならないことが……」

 

 

 ん? ここでミトさんまで謝罪を述べようとしてる? 貴方が謝ることなんてないかと……あっ。あったわ、そういえば。あれは彼女も悪意があってやってたわけじゃないけど。

 

 

「そ、その……わたくし、貴方達の話やご主人様の命令に聞く耳を持たず、貴方達に攻撃したりこの店の店長さんを巻き込んで封印してしまったりと、普通であれば取り返しがつかない醜態を犯してしまいましたわ。こんなことするだけでは済まされないとは自分でも分かってはおりますが、謝罪をさせてください。大変申し訳ございませんでした」

 

 

 そう、ミトさんは朱紅玉さんの事を慕いすぎて早とちりをしてしまい、最悪の事態を作ってしまったのだ。

 

 ミカンの魔法をコピーしてみんなに襲い掛かってきたり、躊躇っていて止めようとした主人の制止を無視してリコさんを封印しようとしたり、その結果(牛刀を構えてたリコさんから朱紅玉さんとミトさんを)庇うように割り込んでいった白澤さんを封印してしまいリコさんを暴走させかけたり……

 

 まぁ、無理もない。朱紅玉さんに助けられた恩が本人にとってデカいものみたいだったし、過去にリコさんとも色々あったもんだしな。それまで溜め込んでいた鬱憤としたものが爆発してしまい、暴走してしまったのも無理もない。行おうとしたことがヤバかったけど。

 

 その罪悪感が、夢の世界で俺と邂逅・説得みたいなのを受けたことにより、自分が主人の為に本当にすべきことに気づいたのと同時に芽生えてきたようだ。状況が状況ってのもあり、罵倒でも受ける覚悟だったようだが。

 

 

「あ、謝らないでください‼︎ そちらにも事情があったってのは分かりましたし……」

 

「私達もそれを知らなかったので、お互い様かと……」

 

 

 優子と桃が彼女を許す言葉を掛け、他のみんなも頷いたりして同意であることを強調する。ここはまぞくだろうと魔法少女だろうと受け入れる優しすぎる町なんだ、そう簡単に許さないわけがない。寧ろその失敗から逃げず前向きに生きていてほしいくらいだ。

 

 

「あ、ありがとうございますわ……。ご主人様とリコも、多大な迷惑ととんでもない仕打ちを……」

 

 

 みんなにお礼を言ったミトさんは、今度は朱紅玉さんとリコさんにこれまでの事を含めた謝罪の言葉を述べようとする。しかし朱紅玉さんは気恥ずかしそうに頭を掻き、リコさんも笑顔で『んーんっ』と呟く。二人も彼女の事を強く責めるつもりはないようだ。

 

 

「いやまぁ……アンタをそうさせてしまったのは、アタシが色々としっかりしなかったせいでもあるからな。また一からやり直そうな」

 

「ウチの方こそごめんな? マスターやシャミ子はんから色々説得されたし、ウチも色々なことが学べるようにするから。だから気に病まんどいて」

 

「ご主人様……リコ、さん……はい」

 

 

 苦笑でありながらも、ミトさんは二人からの謝罪とお互いやり直そうよという労いの言葉を掛けられたことで安堵したようだ。これで三人との間の溝の件は解決した。残る課題は……封印された白澤さんをどのようにして戻すか、だな。

 

 とりあえずここまでに俺達に何があったのかをお互いに話し合うことになった。その経緯からの結果として、リコさんと朱紅玉さんのわだかまりが無くなったからするに、原作通りの展開でこうなったのだということぐらいは分かった。

 

 ってことはリコさんの白澤さんに対する好意も……まぁ、うん。それについてはリコさんの努力次第だな。頑張れリコさん。

 

 原作と違うところは、俺に記憶の世界で説得された後のミトさんが優子にスマホ防水カバーとスマホ耐久ケース・画面シートを渡したり、白澤さんの魂を新たな依代に宿しリコさんの夢の世界に行けるようにと自身の毛も提供したりしたことぐらいだな。

 

 何故スマホを守るグッズを渡したのか。フードの人が自分の夢の世界でケルベロスみたいなのと戦ったと聞いたから念のためだとのこと。本人の毛だけなら白澤さんの魂も引き寄せられるのではないか。魔力が多い方が魂を依代に移しやすくなるからとのことだ。

 

 つまり、ミトさんのこの行動は価値のあるものだったのだ。ま、起きた時には『またリコさんを封印しようと襲い掛かってくるのか』と優子に警戒されたらしく、なんとか自分はもうリコさんを襲わないと必死に説得したそうだが。

 

 で、後はさっきも思っていたように、白澤さんをどうやって戻すかの話なんだが……

 

 

「アタシ……いけるギリギリの量まで血ー渡すわ。そしたら少しは後が楽になるやろ」

 

「……本当にいいんですか? 流す血の量を見誤ったら、下手したら貴方……」

 

 

 そう、魔法少女にとって体内の血というのはかなり貴重なものだ。魔法少女にとって血液とは、体内の魔力を巡回させるためにあるものなのだ。その血液が少なくなってしまえば魔力を上手く維持することが出来ず、漏れ出してしまう。魔力を使いすぎると消滅してしまう場合があるのだ。

 

 つまり何が言いたいのかというと、体内の血液が少なすぎては身体を維持することが出来ず、コアになって世を彷徨うことになってしまうのだ。そうなる可能性を孕んでしまう危惧性を、彼女はジキエルに教えられてないわけがない。

 

 

「えぇんや、それで全てが丸く収まるっちゅうんなら。ほんまはリコを締めても気持ちが晴れないなんてこと……わかってた。意地張って、ミトにも付き合わせてしまって、関係ないバク巻き込んで……せやからきっちりけじめつけたい」

 

 

 朱紅玉さん……もしや貴方、このまま何もさせてやらずに終わることが、自分が消えること以上に嫌なものである。そう捉えているのですか? もしその意思が貴方を動かそうとしているというのなら……俺はもう何もとやかく言う必要はないな。

 

 

【あ、じゃあ僕が血を流させてあげるね。事前に毒は全部抜いてあるから、この尻尾でズパンッと】

 

「ちょっ何やそのドデカい尻尾はッ⁉︎ もうちょいちっさいのでやってくれへん⁉︎」

 

 

 ウチの召喚獣が一匹・曙が下手したらR-18G沙汰になるようなことを言ってきたので、拳骨で制しました。けど何やら殺気みたいなものは感じたから、サイコパスでサディストな彼でも怒りは覚えるものなんだなと心の中で萎縮してしまった。こいつもガチギレさせたらいかんな……死人が出るって絶対。

 

 

「ハァ……俺の事を含めたことで怒ってくれるのは嬉しいけど、問題事が出来てしまう行動はやめてほし───」

 

【赤い魔法少女の血をギリギリまで使うか……どれぐらい出させる? 俺も協力する】

 

「ひじり院……じゃねェやなんだよひじり院って。聖、お前も殺意出すな。ステイだステイ」

 

 

 今度は正直なことを簡単には口にしないあのツンデレ野郎の聖が、ビックリするくらいマジギレして朱紅玉さんに殺意を思いっきり向けているんですが? お前でも素直に怒りをぶつけたくなる時があるんだな……

 

 というかさ? あんなに強くぶつけないでほしいけど、怒りをぶつける対象は朱紅玉さんじゃなくてミトさんの方じゃね? 実際にお前ら召喚獣を傷つけたのはミトさんだぞ? 朱紅玉さんが実際にお前らに何かやったわけではないだろ? だから朱紅玉さんはそんなに罪は……いやお前らを攻撃したミトさんを連れてきたのは朱紅玉さんだけどさ。

 

 そんな事を考えていたら、朱紅玉さんが優子に夢の世界で説得された影響なのか景気づけにデカいペットボトルのコーラを飲み終え、封印された白澤さんに大量の血をちょっとずつ水滴でまぶしてあげていた。

 

 この間、優子が納得のいかない様子の浮かない表情を出していたのを、俺は見た。それもこの状況にではなく、まるで自分の事に対して迷いを見せているかのように。

 

 

『紅ちゃんアカンで〜、消えるで』

 

「構わへん……っ、あとちょいや‼︎」

 

「ご主人様、どうかしっかりなさいまし……っ‼︎」

 

 

 焦るジキエルに消滅してしまうことを危惧されていた朱紅玉さんだったが、それでも構わないと言いながら、朦朧としながらも頑張っている様子だ。さらにはミトさんに身を案じられながらも成功するようにと祈ってもらっている感じだ。

 

 刹那。白澤さんが封印されているバクのオブジェが発光し始めた。うおっまぶしっ。

 

 

「うおっまぶしっ」

 

「だいぶ封印が弱まっているな、後一押しだぞ。羨ましい」

 

「すいません。今、本音が漏れ出てませんでした?」

 

 

 リリスさんよぉ……いくら自分も封印から解放されたいからって本音を漏らすのはあまり良くないかと思いますぜ? そういうのは一人の時にやってくださいな。

 

 で、封印解放まで後少しだというが、実際にそうなった状況に遭ってないからなのか、この後何をすれば良いのかリリスさんでも分からないとのこと。確かに封印が解かれる現場だなんて全然遭遇しないと思うし、リリスさんが封印の解き方を知らないのも無理はないよな……

 

 しかしだ。小倉さん曰く、こちらは運がすごく良いという理由が二つあるようだ。一つ、邪神像の時のリリスさんのようにお供えを渡せること。もう一つは、『戦えるお供え』があるということだ。その『戦えるお供え』というのが……ウガルルである。

 

 

「ウガルルちゃんは魂が無い。厳密に言うと無生物……モノなんだ。だからこそ……『お供え』として封印空間に入れる……かも」

 

「んが……‼︎」

 

 

 そう、ウガルルは使い魔として呼ばれる存在。元々は魂も呼ばれるまで生成されることの無い存在だ。魂の無い存在ならば封印空間への道のようなものに阻まれること無く通過でき、白澤さんを助けに行くことができる……良い抜け道と言ったところか。

 

 

「そうカ……そういうことカ。封印空間とやらに入リ、ボスのボスを助けル……それガ今、オレにしか出来ない仕事なのカ……‼︎」

 

「いいえ、お言葉ですがもう一人いますよ。貴方と同じことができる人がここに」

 

 

 その言葉と共に、透明化してずっと拓海の隣にいたはずの式神・蓮子がその姿を現す。なんか会うのが随分久しぶりな気がするのは気のせいか?

 

 

「僕達式神も元々魂が無く、無から作られる存在ですからね。一瞬だけ魂を無に戻せば封印空間とやらに入れると思います。入れなくとも遠くから霊力でウガルルさんの魔力の補助をすることは確定でできます。僕が……全力で貴方をフォローしますよ」

 

 

 あっそうなんだ。式神って何も無い状態から色々あって魂から一から生まれるのか。それは仙寿家の式気味の召喚の仕方だけが特別であって、他の陰陽師のとは異なってるのかもしれないけどな。知らんけど。

 

 

「拓海の式神……蓮子だったカ? 手伝ってくれルんだナ? ありがトウ‼︎」

 

「い、いえ。最善の方法を思いついただけですので、あしからず……主人様やご家族以外から直接言われるのは初めてだから、なんだかこそばゆくはあるけどね……」

 

 

 あーあ、照れてやんの。蓮子って実際にお礼を言われることに慣れてないのか。家族にしか直接言われたことがないって……でもよく透明化して陰陽師の手伝いをしてるとか言ってたし、透明化を解く機会はないらしいし、仕方ないのかも。

 

 そんなことを考えていたら、ウガルルがオブジェ状態の白澤さんの所に立ち、『こうすれバいいのカ?』と呟きながら目を閉じ、両手を翳す。蓮子はその後ろに立ち、彼女の背中に両手を翳す。

 

 そしたら二人の両手が光り、その光が白澤さんのから放たれている光と重なり合う。『お供え』として適用されている……というべきか?

 

 結果どうなったのか。簡潔に言えば原作通り。白澤さんの封印は解除され、元の二足歩行ができるバクに戻ってくれた。というか元に戻ってくれないと色々と困る、色々と。

 

 

「も……戻れた……」

 

「解放されたばかりですいません、封印から解かれる寸前までどんな感じでした?」

 

「えっ? あ、えっと……ウガルル君とそこの猫耳の男の子が何故か助けに来てくれて……ウガルル君に抱えられてて、途中から猫耳の男の子に交代でお姫様抱っこされてた……」

 

「蓮子に……? そっすか」

 

「な、何故複雑そうな顔を……?」

 

 

 興味本位でこんなこと質問したけど、蓮子まで白澤さんをお姫様抱っこしたのか……男性(それもバク相手)にってのがちょっと複雑だけど、蓮子も性別に合ったカッコいいことするじゃねぇか……俺だったらやらないと思うな、無意識じゃない限りは、多分。

 

 あっ、ところで朱紅玉さんは……案の定ダメか。原作通りの状態だ。たくさん血を出してたから、そりゃ貧血状態になるわけだ。しゃあない。

 

 

「あーしんど……アタシもうよう動けんわ。リコ、しばらく泊めてくれへん? 鍋盗まれた仕仕返しや。アンタの味盗んで、じーちゃん所帰る」

 

「……ん! かまわんよ~。接客もしてってな♪」

 

 

 うん、ここも原作通りだな。祖父と向き合うとか言っていたし、そのために店を繁盛できるようにしようと決めたんだろうな。だったらリコさんの料理の味を真似できるようにしないとね。

 

 この時、ミトさんが主人の新たな目標ができたことに喜んだのか笑顔を浮かべていたが、その表情は何処か苦しいというか寂しそうな表情だった。主人が復讐よりも大事なことを知れたことを喜んでいたはずなのに、何故……?

 

 

「あと……ジキエル、ごめん。アタシ、魔法少女引退するわ」

 

「……ですわね。あの時誘ってくださったのに申し訳ありませんジキエルさん。ご主人様はもう魔法少女をやれる血液の量も体力もございませんので……」

 

『残念やけど……しゃーなしや。契約切って何日かで普通の体戻るけど、怪我とか治りにくくなるから体に気ーつけて。ほなさいなら』

 

 

 朱紅玉さんの魔法少女引退宣言をすんなりと受け入れ、あっさりとその場から消え去っていったジキエル。AIみたいな感じで若い天使っぽくてまだ情緒が薄めらしいけど、十年も契約者と一緒にいただろアイツ? それくらいの長い時期いたらさぁ、もうちょっと何か思うとこあるでしょうが……

 

 

「何はともあれ、これで一件落着ですわね。では、わたくしはこれにて……」

 

「は……? ちょ、ちょい待てや。何処へ行くんやミト?」

 

 

 全部解決したのかと思いきや、何故かミトさんがそのまま別れを告げるかのようにそそくさと去ろうとしていた。それを主人である朱紅玉さんが放っておくわけがなく、すぐさま彼女を呼び止めた。

 

 

「わたくしは……形や経緯がどうであれ、ジキエルの誘いに吊られるようにご主人様を騙し、対象がリコさんのみとはいえまぞく殺しをさせようとしていましたわ。それも勘違いによるもので……。主人を長年騙し続けることは従者としてあってはならないこと、主人の側にいてはなりませんわ。なので……」

 

 

 あっそっか。自分も誤解していたままだったとはいえ、ミトさんは主人の事を騙し続けた自分を許せなかったんだな。そしてそれが主人の事を逆らっていることと同義だと思っているようだ。確かに主人の事を騙すようなことは普通は許されないことだ。けど……

 

 

「なぁに勝手に自分はクビになると思い込んどんねん‼︎」

 

 

 長年も主人をやってきた……というより一緒にいた者は、そう簡単にその絆をあっさりと断ち切る程の薄情者ではなかった。お別れの言葉を告げてその場を立ち去ろうとするミトさんを、朱紅玉さんは肩を掴んで止めた。

 

 

「アンタを誤解させたままにさせてアタシも吊られてしまったのは、アタシが色々としっかりしなかったせいでもあるからってさっきも言ったやないか‼︎ それに間違えたことをしてしまったら一緒に一からやり直そうとも言ったやろ‼︎ アンタが何か間違いをしたらアタシも一緒にやり直せるようにフォローする‼︎ せやから少しは主人の優しさを信じろや‼︎」

 

「ご、ご主人様……」

 

 

 同じ過ちを犯してしまった者同士であるからこそ、主人であるからこそ、従者の過ちを受け止め一緒に背負おうという強い意思を感じさせてくれている。

 

 長年の因果を終わらせられた朱紅玉さんだからこそなのか、ミトさんを許せる程の度量を持てるようになったんだな。それが代償として魔法少女を引退するってことになって後悔は無さそうだ。

 

 

「それにアンタには叶えたい夢があるんやろ⁉︎ 『いつか素敵な殿方と結婚したい』って‼︎」

 

 

 ………………んっ? えっ? 今、なんて? 叶えたい夢って、ミトさんが? 殿方と結婚? えっ?

 

 

「そ、それは、そうですが……それはジキエルからポイント満了したら願いを叶えられるって話を聞いて、もし叶えられる時が来たらって呟いていただけで、叶えてもらおうとは……」

 

「叶えてもらえるもらえないは関係あらへん。アタシのために自分を削ってまでここまで頑張ってきてくれたんや。アンタのその夢を叶えてやれるまで、従者になり続けるのを諦めるなんて、主人……いや、家族であるアタシが許さん‼︎ 今度はアタシがアンタの夢を叶える番や。だからもうアタシらの家族を辞めるんやないで‼︎」

 

 

 えっと……もしかしなくないかもしれませんが、朱紅玉さんがミトさんを隣に留めさせようとしている理由って、それ……? 別に馬鹿にしてるとかそんなんじゃないですが、従者の将来の事を考えていたことはいいことなんですが、なんかこう……ね? 意外だったので何故か言葉に出来ない感情とかがあるというか何というか……(混乱中)

 

 

「ご主人様……!! ありがとうございます……!! もしわたくしに素敵な殿方ができましても、全力でご主人様にお仕えいたしますわ……!!」

 

「そ、そこまで泣かんくても……」

 

 

 …………………ま、当の本人は感涙するほど嬉しいみたいだし、良しとしとこうか(思考放棄)

 

 

「一旦解散して……回復してから片付けとかしましょうか……」

 

『賛成…………………』

 

 

 何はともあれ、優子の提案で一時解散することに。無理もない。彼女と小倉さん・ウガルル以外は体力とか精神とかにダメージを負っていることだし、一時は休ませてあげないといけないよな。でないとみんな後が辛いし。

 

 けど……この中で一番辛そうな表情をしているのは、気絶明けの俺達じゃない。優子の方だ。

 

 優子が一番辛そうな表情──死の淵にいるかのような者の顔色を浮かべるのも無理はない。彼女は先程の事態を解決すべく、朱紅玉さんやリコさんの夢の世界へと赴いたのだ。そこで行ったことに迷いを感じたのだろう。だから……恋人である以前に、放っておけない。

 

 

「優子……後で河川敷まで歩かないか? 積もる話、あるんだろ?」

 

「あっ………………は、はい……」

 

 

 やっぱり浮かない様子なのが丸分かりだな。原作通りの様子といったところだ。きちんと彼女の気持ちを聞いてあげて、それに対してどう答えていこうかとか考えてあげないとな。

 

 さてと。出掛けるために部屋に戻って着替えておかないと───

 

 

「白哉くん、ちょっといいかな?」

 

 

 あ? なんだよ桃、これから優子と二人っきりになって彼女の話を聞くための準備をしようとするところだってのに。

 

 

「白哉くん……もしかするとだけど、シャミ子の話を聞いてあげようとしてる?」

 

「………………あぁ。まぁそんなところだ」

 

 

 勘が鋭いなこいつ。俺がしようとしてる事に察しがついていやがる。まったく相変わらずだこと……

 

 

「で、なんだ? お前も俺や優子の話を聞きたいのか? 俺は別にいいけどな、他の奴が聞こうとしても」

 

「うん……ちょっと気になることがあったからね」

 

 

 やっぱりな♂ 桃が優子の様子がおかしいことに気づいてやがる。そこも原作通りだな。この後の展開に桃が優子と一緒にいることは必須なんだし、彼女にもついて来てもらうとするか。

 

 

「わかった。一緒に優子の気持ちを聞いてやろうぜ」

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

 数分後。俺達三人は河川敷まで歩いていき、看板前で止まって話し合いをすることにした。この時までも優子の表情はまだ晴れずにいた。

 

 

「………………………………」

 

「今日はごめん、一人で頑張らせて。……でも話を聞くと凄く頑張ってたと思う」

 

「俺も続けて褒めてやりたいけど……納得いかないって感じだろ? 不満とかあるから教えてくれ、ちゃんと聞いてやるからさ」

 

 

 曇りのある表情は変わらず、桃からもらったぽっきんアイスを握り締める優子。その震えているような握り方は、様々な感情が入り混じりどのような感情をまとめればいいのか分からなく困惑しているような……そんな感じただった。

 

 

「……不安なんです、あの解決の仕方で良かったのか。紅さんの悔しい思いと、リコさんの恋心につけ込んで……偽物の平穏を、作ってしまったんじゃないかって……」

 

 

 そう、優子は今回の事件の解決の仕方が正しかったのか、それに悩んでいたようだ。事態の安息を図るためとはいえ、その方法が自身が考える理論を押し付けてしまっていると思い込んでいるようだ。やり方としてはそう思うのも無理はないが……

 

 

「この力に頼ってたら、いつかとんでもないことになりそうで怖くなったんです。うまく……行き過ぎて……人の気持ちを軽率に書き換えてしまって……」

 

 

 ハァ……こりゃあ負の感情を背負い過ぎてるな。これじゃああの時までの桃にそっくりじゃねェか。……ったく、こっちまでモヤモヤしてきやがる。ここはガツンと言わないと、優子も俺達もスッキリせずに優子の心が壊れちまう。

 

 

「じゃあ聞かせてもらうけどな……優子、お前は俺を恋人にしようと色々と頑張ってきたんだろ? 全て……とは言い切れないだろうけど、それまでの行動も、俺をその気にさせるための洗脳だとでもいうのか?」

 

「ふえっ……?」

 

 

 よしっ、表情が変わった。別に曇りが晴れたとは言えないが、呆気に取られたような表情を見せたな。

 

 

「お前は人の気持ちを軽率に書き換えるのは嫌なんだろ? さっきまでの俺への好感度を上げるための行動も、無意識のうちに洗脳への一歩ってことになるんじゃないのか?」

 

「そ、それは……」

 

 

 どうのこうの言ってしまったが、こう見えて俺は別に優子に不満をぶつけるためにこんな事を言っているわけでもないし、不満自体を持っているわけではない。だから伝わるような言葉をかけてあげることにしよう。

 

 

「……っていう指摘をされたら、お前は自分が今まで善意としてきたことを後悔するのか? 洗脳していたという認識で認めるのか? それとも、違うとかどうとかで反論するのか?」

 

「えっ……」

 

 

 案の定、優子は戸惑いを見せていることが丸わかりな程、彼女の視線がぐるぐると回っていた。多分もう一押しだな。ここで優子自身の口から本音を聞き出せば……後はもう大丈夫だと思う。

 

 優子の困惑しているのが丸分かりな目の動きが収まり、胸を締め付けられているような心境を表すかのように、握った右手を胸に当て口を開いた。

 

 

「………………仮に洗脳だったとしても、認めたくないです。私がこれまで白哉さんに、私の事を好きになってもらおうと……振り向いてもらおうとしてきたことは、白哉さんの気持ちを考慮しながらやってきたものなんです。貴方の気持ちを考えずに自分の好意を一方的にぶつけるなんて私にはできませんし、やりたくなんかありません……」

 

 

 ……フッ。それが、お前の答えか。

 

 

「そうだ、優子はそれでいいんだ」

 

「えっ」

 

 

 悪意があってやってるわけじゃない、それを伝えようとしていたことが知れただけでも安心した。お前はまだ、自分自身を見失ってはいない。優しいまぞくとして在り続けている。それを理解させてやらないとな。

 

 

「優子はいつも人の気持ちを考えて行動をしているんだろ? 何も考えていないよりもよっぽどいい。つまりそれは、優子はこれまでしてきたことは、人の幸せを願ってやってきたのと同義ってことになる。それが間違いであるとは思わないし、俺達はそれを誰にも間違いだと思わせない。善意を多く持つまぞくがしてきた善意のある行動だと言ってやる。俺達はいつまでも、お前の味方なんだからな」

 

 

 優子はこれまでにも、俺や桃だけに飽き足らず、他の人達の幸せを願って生きてきた。どのようなことをすればそれに繋がる善意ができるのかも、誰よりも真剣に考えてアクションを起こしてきていた。

 

 そんな彼女が、自分の善意を過ちだと思い込んでいた。自分が今回してきたことが洗脳みたいなものだから? ふざけるな、人の幸せを真剣に考えてやったことの何が悪い。実際に悪影響を及ぼしたわけじゃないんだから、もっと自分の行いに誇りを持てよ。

 

 

「後、洗脳能力が無くても俺はお前の事を好きになってたからな。そんな優しさを持ってるお前だから……なっ」

 

「えっ………………あっ……えっ……?」

 

 

 ついでに洗脳があっても無くても変わりないものもあるんだってことを伝えてやることにした。実際これは事実だし、ね?

 

 

「ここは俺の記憶の世界を辿って知った事実だろ? 何をそんなに疑ってんだよ」

 

「きゅ、急に白哉さんからの好意がどうとかって、話題が変わってたもので……」

 

「別に変えてるわけじゃねェよ。ただそれほどまでに、お前には寄り添って共感する力が人一倍強いんだってことだよ」

 

 

 まぁ本当は不意を突いて悲しそうな顔を照れ顔に変えたかっただけだけどね。すまん、弄んでしまって。

 

 

「えっと……私からも意見言っていいかな?」

 

「おう」

 

「あっはい、どうぞ……」

 

 

 ここで桃も優子の事を肯定するようなことを言うそうだ。俺はいっぱい言ったし、後は彼女に色々と言わせておいておこう。優子はもう大丈夫そうだし。

 

 

「……これは私の想像だけど、シャミ子が助けたいって思った子達はみんな泣いていたじゃない? 白哉くんが『善意を持ってやったもの』だと肯定したように、シャミ子が心の隙間に差し出したものは、間違ってなかったと思う」

 

 

 まぁ実際、桃も桜さんが消息したことで生まれた心の隙間を優子によって埋めてくれたしな。確かに優子は誰かの心の支えになってくれたと思う。だから桃が優子に夢の世界で何かされても許されるだろうな。

 

 

「……確かにその力は使い道間違ったらヤバいけど。でも、使い方間違ったらヤバいのは、刃物も炎も筋肉も言葉も……この世全ての力がそうだから」

 

 

 一歩間違えると取り返しのつかないことになる可能性があるもの。それは洗脳だけに飽き足りるものではない。人には何かしらの事態を解決するのに必要な手段がたくさんある。その使い方を誤らない限り、誰からも間違いだと言われないのだと、桃はそう言いたかったのだろう。

 

 

「……それにね。もしシャミ子が道を間違えても、シャミ子にはもう宿敵も、恋人……というよりシャミ子と一緒に隣を歩いてくれる大切な人もいるでしょ。シャミ子が世界の敵になる前に、私達のどちらかが止めに行くから。私なら殴り倒すけどね」

 

 

 次に優子に掛けた言葉は、道を正してくれる味方が……俺と桃がいることを覚えてほしい。そう願っているかのような想いが感じられた。とはいっても、最後には物騒なことが聞こえてきたけどな。

 

 

「……安心した?」

 

……怖いです……きさまそれでも魔法少女か。……でも、安心はしました。白哉さんに今まで通りでいいって言われて、桃にも元気づけられて……」

 

 

 それを聞いて俺は安堵した。どうやら優子は原作とは違ってしっかりと『安心した』ことを伝えてくれたようだ。桃は優子の能力に関する指摘をせず、それ以外は原作通りのセリフを言ってたから……多分俺なりの励ましが影響したんだと思う。うん、優子は今まで通りの方が本来の優子らしい。

 

 そう思っていたら、優子が俺と桃の腕を掴み、そのまま引き寄せてきた。不意での行動だったから、俺達二人とも優子の腕力に負けて引き寄せられたわ。っていうか何?

 

 

「私、これからも私なりに成長していくことにします。いずれ私の掌で踊る羽目になって知らないぞ我が眷属と宿敵よ‼︎ ……なんちゃって」

 

「なんで最後に弱気になるんだよ。ま、期待はするけどさ」

 

「フフッ……そうだね。私達ならいつかシャミ子の掌で遊ばれるかも」

 

 

 お前は最初から優子に精神的に負けてるようなこと言わないでくれね? ま、俺もそうなんだろうけどさ……

 

 この後、優子が本当に落ち着いた時がくるまで、しばらく三人ともそのまま肩を寄せ合ったまま何気ない会話をして時を過ごすことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 暗くなってきたということなので、そろそろばんだ荘に戻ることになった。朱紅玉さんとミトさんが『あすら』に住むことになったことだし、明日からさらに賑やかになってくることだろうなー。

 

 ってなことを考えていたら、ばんだ荘の前で立っている良子ちゃんと柘榴さんのナビゲーターであるラグーの姿が見えた。なんか変わった組み合わせだな。

 

 

「良子ちゃんにラグーじゃないか。組み合わせ珍しいな」

 

「良‼︎ どうしたんですか? 暗くなってから外出ちゃダメですよ」

 

「なんか……ちょっとうるさくて、お散歩しようかなって」

 

『自分は訳あってこの子が外にいたことを知って、付き添いでごわす。後ホントに中は喧しいでごわす』

 

 

 訳あって良子ちゃんが外出したのを知ったって、どういうこと? まぁ、良子ちゃんの身の安全を守ってくれていることが分かったからいいけどさ。

 

 ってか喧しいって。喧しいて。いくらなんでもその言い方はどうかと思うぞ。別に賑やかな分いいと思───

 

 

「紅ちゃん洗剤で鍋洗ったん⁉︎」

「えっダメなん⁉︎」

「リコ君刃物はやめたまえ‼︎」

「なんでそんなヤベーもん手に持ってるッスか⁉︎」

「この肉喰っていいカ」

「あーっ⁉︎ わたくしの寝巻きがコットンまみれですわーっ⁉︎」

【あっゴメン、それ僕の体毛だメェ〜】

「マーマレードかけていいかしら」

「……獣臭。召喚獣達出過ぎ」

【ごめんちょ☆】

「リコさん、冷蔵庫のタルト頂きましたよ」

「ゴミ拾いノルマ手伝ってくれ死ぬ」

「こういう時の後は風呂でリラックスするに限るね」

「誰か店の片付け手伝ってくれません⁉︎ 今やってるの店長さんと僕だけなんですが⁉︎」

 

 

『………………………………』

 

 

「ボスですよーーーーーー‼︎ 皆さん二十時以降は静粛に‼︎洗脳するぞこらー‼︎」

 

「……これから毎日こんな感じになるの?」

 

「……大抵こんなもんだろ、俺達の日常ってのは」

 

 

 ……うん、賑やかにも限度があるよな。特に夜中って時はこんなんだし。それもこの世界ならではってことなんだろうけどな。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その33


白哉・シャミ子・桃の三人が河川敷に行っていた時のこと

ジキエル『ん〜これからどないしよ……金魚として天寿を全うするのが安牌やろか……ん?』
『……かしこでええ子な雰囲気を感じる。あの子か!』
『お嬢ちゃんお嬢ちゃん、自分ちょっとした魔力の素質あるで。ワテと組んで魔法少女やらん?』
良子「え。……すみません、結構です」
ジキエル『怪しい魚じゃないんよ。まー話聞いて。自分、返し薄いな。喋る金魚やで』
『ワテはより多くの人類を生かすため遣わされた光の御使いや。才能ありそな子をスカウトしてるねん』
『そこの廃墟にヤバ目のまぞくがおるの。人の心入り込んで操る力を持っとるんや』
良子「廃墟……」
ジキエル『あのタイプの魔族が曲がった正義と歪んだ希望を撒いて、沢山の人を扇動したら……大量に人死ぬで。今のうち倒しとかなアカン』
良子「………………」
ジキエル『魔族を倒すとポイントが貰える。ポイント溜まるといろんな願いが叶うんや』
良子「……そう」
ジキエル『自分返し薄いな、魔法の力やでなるだけなってみ───』
???『くぉらァァァァァァッ‼︎』
ジキエル『……ん? なんやえらいスピードでこっちに………………ゲッ⁉︎』
???『ジキエルゥゥゥゥゥゥッ‼︎ おんし何やっとるでごわすかァァァァァァッ‼︎』
ジキエル『ラ、ラグー先輩⁉︎ なんでこんなとこにおるんで──ハグエッ⁉︎』(ラリアット喰らった)
ラグー『なんか不安だったからこの辺りを探し回ってみたら、やはりそんな勧誘をしていたでごわすかッ‼︎』
『いい加減なことぬかして魔法少女なれなれと詰め寄る勧誘はやめろと、あの時忠告しておいたでごわすよ‼︎ それなのにおんしはァァァッ‼︎』
『その上あの魔族……シャミ子ちゃんの善意を悪事扱いするに飽き足らず、その妹さんに退治させようとは言語道断‼︎ 今日という今日は〆るでごわすよッ‼︎』
ジキエル『魔族、の、妹さん……? えっ、そうな──ちょっ、やめっ、やめっ……羽交締めはやめてもろて……』
良子「熊さん……もうやめてあげて。もうすぐ天井のお姉さんが来るから」
ラグー『あ、申し訳ないでごわす』
ジキエル『て、天井……?』
小倉「呼ばれて飛び出てこんにちはー‼︎」
良子「このお魚は変質者です」
小倉「了解(アイゲリット)‼︎」
ラグー『ちょうど良いでごわす。彼女の実験台になってしばらく反省するでごわすよ』
ジキエル『実験ってなんや⁉︎ ちょっ怖っ……どこ連れてくん⁉︎ どこ連れてくん⁉︎』
小倉「おともだちになろう……」
ラグー『行ったでごわすな……良子ちゃん、怖がらせて申し訳なかったでごわす』
良子「ううん、いい……あのお魚に絡まれてた間の方が怖かったから」
ラグー『ウチの後輩が申し訳なかったでごわす……いや本当に』



いやー原作五巻も終わりましたなー。一部原作六巻の話を先取りしちゃいましたが。

次回からは原作六巻編です。ここからは白哉君が記憶してない物語となるので、ちょっとした未来予知での行動は無いです。

頑張れ白哉君‼︎ 予想だにしない事態でも乗り越えていける男になるのだ‼︎
 


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ここまでの登場人物紹介5

本編だと思った? 残念、キャラ紹介回でした‼︎ ってことで初投稿です。

一昨日作るの忘れてたのに気づいて急いで書いたので、後に修正・追記するかも……


 

♢平地 白哉(びゃくや)

 

 シャミ子の彼氏感をさらに引き出してくれた嫁バカ主人公。だが彼女がスマホを購入するところに同行・スマホのプランや使い方を隣で教える、といった過保護な一面もあるので最近では母親感も出ている。

 最近では召喚師覚醒フォームにならなくても、ウガルルの斬撃の余波を避けたり反射神経で川に落とされたゴミを即座に拾ったりすることができている。お前、人間やめたの?

 蛟事件にて、原作とは異なりシャミ子に代わって魂を蛟に攫われてしまう。満足させて帰ろうと試みて使った召喚術で彼に気に入られ、逆に祠の中に永住されかけるも、シャミ子とリリスの必死な働きにより難を逃れた。

 『あすら』事件ではフードの人物に促される形でミトの記憶の世界に赴き、彼女の気持ちに寄り添いながら心の闇を浄化させた。その後はメタ子によって桃の本来の過去に触れ、改めてシャミ子と共に桃を救って見せることを約束した。

 

 

□セイクリッド・ランス

 はいはいチートチート。これ持って使える技多すぎだって。但し今回使用した新技は二つのみ。というか原作五巻編で使用した技もその二つのみという。なんか悲しい。

 

・バインドホール

 セイクリッド・ランスを横なりに振るい、それによって生み出されたラーメンのナルトの形をした黄色い渦で敵を引き寄せ拘束させる。腕などのみの動きを封じる為に用いる縮小版のバインドホール・ミリというものもある。

 

・ライトニングカーテン

 周囲を覆い尽くす程の眩い光を放つ設置系の技。主に夢の世界で心の闇を祓うのに用いる。

 

 

 

♢白龍

 

 だんだん出番を減らされていっている気がする龍。いやマジですまん(作者)。

 最近では小倉に実験の手伝いをされており、よく現実世界を頻繁に訪れている。

 リリスに等身大の依代を提供できない理由を説いた時は、ごせん像の悪口になるような言葉を言ってシャミ子に敬語なしで怒られた。

 

 

 

♢メェール君

 

 マジで可愛い。白哉がシャミ子への誕生日プレゼントを用意できた時は白龍と一緒にヘッドバンして祝った。

 

 

 

♢その他の召喚獣

 

・剛鬼 ♂ ICV:緒方恵美

 仲間を傷つけられると鬼の様に色々と強くなる心配性ゴリラ。

 秘めたるパワーを持っているらしいが、初登場ではリコ料理の魔力で動いた冷蔵庫に成す術なく敗北した。白哉が召喚師覚醒フォームにならず、自力で現実世界に来たため全力を出せなかったのが敗因ではあるが。

 

(ひじり) ♂ ICV:伊瀬茉莉也

 氷の力を自在に操るツンデレ麒麟(♂)。

 最初は召喚師の白哉からの頼み事であろうとも乗り気にはならないが、懇願される内に『仕方ない』などと言いながらも、内心信頼されていることに喜びを感じながら行動に移すツンデレ。

 

・猛虎 ♀ ICV:尾崎由香

 物体ならほぼ何でも壊せるポジティブ系メス虎。蛟に対してタメ口で話せる程の、ある意味度量のある女性。

 

・海王 ♂ ICV:斉藤次郎

 海水を生成して操る器の大きい鯨。召喚獣の中では白龍を除けば一番の長寿であるためか、老人のような口調で話す。

 

朝焼(あさやけ)

 仲間に飛行能力を付与出来る無口な孔雀。蛟に能力を披露することになった時、聖の氷の力で作った氷像を飛ばせた。

 

・曙

 封印されている白澤に血を与えることにした紅玉を大量出血させようと、ブラックジョークなノリで斬り裂こうとした。ジョークにならねーよ。

 

 

 

♢白哉の両親

 

 前回出たのに今回はどちらも出番無し。カワイソス。というか六巻編でももう出ない気がする……

 

 

 

♢吉田 優子/シャミ子

 

 最近スマホも手に入れ、誕生日も祝ってもらったまぞく。最近白哉とのS○Xをする機会が多くなった。妄想する機会も多くなった……のか?

 蛟事件の時、原作とは異なり魂を蛟によって攫われることはなかったものの、代わりに白哉の魂を攫われてしまう。それがトリガーとなり、溜まるに溜まったヤンデレ要素が爆発しかけた。無自覚ながらもなんとかの杖を殺意の高い武器に変形させたり、白哉の事が心配になりすぎて過呼吸などになったりしてしまった。しかし杏里からのアドバイスがあってか、精神に落ち着きを取り戻すことができた。

 『あすら』事件の後、自身の夢魔の力の使い道に迷いを感じるものの、白哉と桃の励ましによりその心のモヤは晴れる。そして再び一人前のまぞくになることを目指す誓いの言葉を述べた。

 

 

 

♢シャミ子の家族・血縁者

 

・リリス

 等身大の依代を手に入れたごせんぞ。但しその依代はセミ並に弱い。本来なら七日経てば依代が溶けて再び像に封印されるはずだったが、蛟に約定の龍玉を埋め込まれ、現実世界に留まることになった。その代償として蛟が再び現実世界に戻るまでセミまぞくのまま一日九キロのゴミ拾いをしなければいけなくなってしまった。

 シャミ子に自分達の一族の事や危機管理フォームについてを説明し、そのフォームがどれだけ重要なのかも説いた。そしてそのフォームをコスプレ感覚で楽しむよう促し、白哉に拳骨された。

 

・吉田 清子

 リリスが等身大依代を得たことで家族が賑やかになったことを喜んでいる。さらには『あすら』引っ越しによりリコの作り置きの料理を家族で食べられる権利を得た。

 

・吉田 良子

 ジキエルに魔法少女にならないかと勧誘されるが、ラグーの怒りの乱入と『おぐらボタン』で呼び出した小倉によって難を逃れた。

 

・ヨシュア/吉田 太郎

 白哉がメタトロンによって見せられた幼少期の桃の記憶の世界にて再登場。

 桜に桃の自分と出会った時の記憶を上書きするよう頼まれ、完全に上書きすることは難しいと忠告するも容易く引き受けた。そして新しい多摩町で、桜との思い出を塗り替えられるような"生きる理由になる素敵なだれか"に出会えるようにと願った。

 

 

 

♢千代田 桃

 

 相変わらず柘榴に対しては恋愛クソザコになってしまう桃色魔法少女。シャミ子の誕生会当日には、会があることが初耳であったため誕生日プレゼントの準備ができておらず焦っていたが、奈々とリコと偶然出会ったことでの会話から財布の準備ができて事なきを得た。

 幼少時の『施設から才能を見込まれ桜の義妹になった』などの記憶は、実は桜に依頼されたヨシュアによって改竄されたものだと判明した。

 メタ子の記憶を辿る形で白哉に見せられた、彼女の本来の過去は、どこかの雪の降る異国の地にて紛争中と思しき事態に巻き込まれ、柘榴と共に保護された生存者であったというものだった。

 

 

 

♢佐田 杏里

 

 桃にシャミ子の誕生会を知らないことに対して指摘した。

 蛟事件では勝弥と共に魂を奪われた状態の白哉を楽な姿勢で寝かしつけられるようにした。さらには白哉の事で暴走しがちかつ自暴自棄になりそうなシャミ子を励ました。

 

 

 

♢伊賀山 全蔵

 

 最近十八回も小倉の実験に付き合わされている忍術オタク。彼女に『おぐらボタン』を白哉達に渡すよう促された時は、白哉に壊しても捨ててもいいというドライな対応を試みた。

 

 

 

♢小倉 しおん

 

 マッドサイエンティスト。だがシャミ子の誕生日プレゼントに悩む白哉の手伝いをしたり、リリスの依代に関する情報を提供したり、『おぐらボタン』で呼んできた良子を助けたりと、根からの善人ぶりを見せてくれた。

 ちなみに良子を勧誘しようとしたジキエルを捕らえたらしいが、果たして彼の運命やいかに……

 

 

 

陽夏木(ひなつき) ミカン

 

 ミカンママが定着され始めている柑橘類大好き魔法少女。ウガルルが再召喚されたことにより、呪いが発動することはなくなった。

 拓海に対する恋愛感情に確証が持ててからは、彼に対する恋愛意識が少しずつ強まっていっている。

 

 

 

♢ウガルル CV:ファイルーズあい(前回はこのCVを付けるの忘れてた)

 

 元・ミカンの心の中に入って呪いとなってしまった使い魔。現実世界に召喚された後は、自身を生み出した存在であるミカンと一緒に住んでいる。

 シャミ子の事をボス、白哉の事をボスの眷属と呼んでいたが、白澤の事を『ボスのボス』と呼ぶようになり、シャミ子のボスの座を彼に奪わせてしまった。

 

 

 

仙寿(せんじゅ) 拓海(たくみ)

 

 自称・ウガルルのパパ。周囲からママと呼ばれるようになったミカンからウガルルの一番の親である権利を奪い取れないかと模索している(ミカン本人はママ呼ばわりされたくないそうだが)。

 

 

 

蓮子(はす)

 

 拓海のウガルルに対する親バカやミカンに対する鈍感さに悩まされている式神。暴走冷蔵庫を止めようとしてリコにヘッドロックされた。

 最近ではウガルルと共に封印されている白澤を封印空間から救うという偉業を成し遂げた。

 

 

 

♢リコ

 

 のほほん狐。自身の作った料理の魔力で冷蔵庫が暴走した時は、料理を粗末にしたくないからか冷蔵庫に攻撃しようとしたミカン・拓海・蓮子を力業で制止した。

 『あすら』事件でミトに封印されそうになったところを、白澤が割って入り封印されたことで、静かな憤怒で一時暴走しかけた。白哉曰く『シャミ子の高度なヤンデレよりも恐ろしいものだった』とのこと。しかしシャミ子の夢魔の力での説得のおかげで暴走することはなくなり、朱紅玉に彼女の誕生日プレゼントである中華鍋を返してあげた。

 その時に、好きであることを通り越して白澤を自分の彼氏だと認識していたことが発覚した。ただし直後に本人からは否定されてしまった。白澤曰く『住み着いた野良フェネック』という認識らしい。

 

 

 

白澤(しらさわ)

 

 二足歩行できるバク。暴走冷蔵庫の一件以降、シャミ子の提案により『あすら』をばんだ荘に移店することができた。

 引っ越しすることになった理由の一つとして、ウガルルを雇ったことで喫茶店が全壊するも『君が自分の生き方の軸を見つけられたなら些細な問題だ』と器の大きさを見せ、ウガルルからは『ボスのボス』と呼ばれることになった。

 ちなみに恋愛対象は『スレンダーなバク』『バク体型の女性』。上記の通りリコには恋愛感情はないが、それでも『愛はあるし終生養うつもり』『死ぬまで衣食住は保障する』と答えている。

 

 

 

♢ブラム・スカーレット

 

 主に本と小説作りが大好きな吸血鬼。リコのというよりは『あすら』の料理に感銘を受けたらしく、『あすら』が閉店することになったのを知った時は奈々と共に移店先を死に物狂いで探していた。

 

 

 

♢馬場 奈々

 

 義兄であるブラム好き好きな魔法少女。義兄と同じく『あすら』の料理に心を惹かれたため、『あすら』の移店先を兄妹揃って死に物狂いで探した。

 

 

 

(いしずえ) 柘榴(ざくろ)

 

 桃の事をいつも想っているが、それが恋愛感情なのかは不明。

 ほそく話のバレンタイン回では桃の失敗したチョコケーキを躊躇いなく食べ、心の底からのフォローを彼女に掛けた。

 桃の本来の過去にて、実はどこかの雪の降る異国の地にて紛争中と思しき事態に巻き込まれ、桃と共に保護された生存者であることが判明された。桃に対する想いが強いのも、謎の実験らしき出来事のたった二人の生存者であるからだと思われる。

 

 

 

♢広瀬 勝弥

 

 初登場から最近よく出るようになった一般人枠。

 杏里と同じく、桃にシャミ子の誕生会が初耳であることの指摘したり、リリスの心を癒すために共に『おくおくたま』の大自然キャンプに同行したりと、何かと杏里と一緒にいることが多い。これはもしかすると……? いや考えすぎか。

 

 

 

朱紅玉(しゅほんゆー) 18歳 ♀

 

 関西弁で喋る赤髪の魔法少女。免許はオートマ限定。

 大抵はほとんど原作通り。異なる点はミトの主人になったことと、ジキエルにリコは人々をたぶらかすまぞくだと唆されたミトの勧めによってであること。

 魔力の扱い方に慣れているミトに修行をつけてもらっており、原作よりも強化されたらしい。しかしミトと二人がかりで挑むも敗北してしまい、誕生日に貰った中華鍋を持っていかれてしまう。

 数年後にリコの魔力を感じた『あすら』にミトと共に乗り込む。しかし、そこにリコを(渋々)護衛するために待ち伏せていた桃とミカン、そして召喚獣一同の袋叩きによる返り討ちに遭い地に伏す。

 この時に白哉からリコの料理に洗脳効果はないことを知らされ、動揺を隠せずにいる中、お構いなしにリコの封印を試みようとするミトに制止の言葉を掛けようとした。

 その後、シャミ子と小倉の連携により気絶させられシャミ子が夢に潜った際、事情を汲んだシャミ子が憎しみに溺れる紅玉に『おじいさんは洗脳されたんじゃなくて大切な貴方のために台所に向かっていた』と諭し、彼女の『ドロドロの夢』を綺麗にしてあげた。その後の説得により『リコが自分に謝る』『奪った中華鍋を返す』という条件で封印を解くのを手伝うこととなる。

 リコの夢で一悶着あった後は目覚めてから互いに和解し自身の血を分けて白澤の封印を解いた。全てが済んだ後は『あすら』で住み込みバイトをすることになり、ジキエルに魔法少女の解約を告げ魔法少女を辞めたのだった。

 

 

 

(しゅ)ミト 21歳 ♀ ICV:和氣あず未

 

 犬の魔族……ではなく御伴神の魔族。

 紅玉を主人としており、彼女の事を慕っている。慕いすぎているが故か、紅玉を満足させてあげられるのならば周りがどう思おうがお構いなく行動を起こす。それが主人である彼女の制止であってもだ。

 お嬢様口調で話す。マニュアルと原付バイク免許付き。食事の時はそれだけに集中力が寄ってしまう癖がある。

 戦闘スタイルは二つ。自身の体を膨張させる能力と、相手に見せられた技を魔力で一時的にコピーすることができる能力を兼ね備えている。

 いつか素敵な殿方と結婚したいという結婚願望の夢を持っており、その夢が叶うことを夢見ている。

 十数年前に家族と生き別れしたのか失ったのかのどちらかであることが判明している。行き場を彷徨い気絶したところを助けられたことにより、彼女は紅玉の事を慕うようになった。

 リコとは出会った当初から仲が悪く、彼女が紅玉が誕生日プレゼントに貰った中華鍋を無断に使用したことからさらに嫌悪感を抱く。そこにジキエルが紅玉を魔法少女にしてみないかと勧誘してきたことを機に、自分が彼女を魔法少女にするきっかけを作ることになった。

 リコに敗北してからは、紅玉の心を晴らすためにも絶対にリコを封印するという思いを一方的に強くしていく。『本当は主人にどうしてほしいのか』『自分が主人に本当にすべき最善の行為とは何なのか』を理解しようとせずに。

 数年後に『あすら』に紅玉と共に乗り込むが、戦闘態勢に入る前にミカンの正当防衛を受けて地に伏せてしまう。周囲の隙を突いた時には、白哉の技やミカンの魔法をコピーして周囲を一時無力化。紅玉の制止を無視してリコの封印を試みようとするが、白澤が彼女を庇ったことで失敗する。

 召喚獣達を封印してポイントを即座に集め、それによって叶う願いでリコを封印すべきかと企むが、他人を巻き込みたくなかったと落胆する紅玉の制止によって止められ、シャミ子と小倉の連携により気絶させられてしまう。

 偶々彼女の夢の世界に飛ばされた白哉が事情を汲み、『主人の為に本当は何をすべきなのか』を説き、彼女の心の闇を祓った。その時に自分が主人の為にすべきことが何なのかを知り、復讐をやめそれを実行することを決意した。

 気絶状態から目覚めてからは、シャミ子にスマホ防水グッズを渡したり、白澤の魂を新たな依代に宿しリコの夢の世界に行けるようにと自身の毛も提供したりした。全員が気絶から目覚めた後は襲撃した事等で謝罪するが、事情が事情であったとのことで全員からの許しをもらった。

 白澤が復活し紅玉が魔法少女を引退した後は、自分勝手な判断でリコを封印しようとした罪を背負うべく紅玉の元から離れようとするが、彼女の必死な呼び止めにより従者を続けることになった。

 

 

 

♢ジキエル

 

 紅玉のナビゲーター。姿は金魚。ナビゲーターとしては若い部類らしく情緒が薄め。関西弁で喋る。

 紅玉と契約解除した後、魔法少女の適性がある良子を勧誘しようとしたが、先輩ナビゲーターであるラグーに袋叩きにされた挙句、防犯ベルで召喚された小倉にアブダクションされてしまう。南無三。

 

 

 

♢千代田 桜

 

 メタ子の記憶を辿る形で白哉に見せられた、桃の本来の過去の世界にて再登場。スイカとドリアと共に、幼少期の桃と柘榴を匿った。後にヨシュアの協力の元、桃の自分と出会ってからの記憶を上書きさせた。

 

 

 

♢スイカ

 

 桜と同世代と思われる、謎の多き魔法少女。

 メタ子が白哉に見せた桃の記憶の世界にて登場し、紛争中のどこかの雪の降る異国にて、戦闘中であるにも拘らず泣きながら放心してしまうほどの衝撃を受けていた。

 桜とドリアに対しては愛情が強いらしく、連絡先を手に入れたら最後、異常な回数で電話を掛けてくる程。桜曰く『何を考えているのか分からない変な人』とのこと。

 

 

 

♢ドリア

 

 桜やスイカと同世代の魔法少女と同じ立ち位置だと思われる、謎の多き男性。

 スイカの重愛なアプローチを軽くあしらってはいるものの、その時に彼女の頭を優しく撫でたり死ぬ程掛けてくる電話に毎回律儀に出たりと、嫌味を持っているにも拘らず冷たい対応をすることはないらしい。

 桜曰くスイカ同様に『何を考えているのか分からない変な人』という認識を受けている(本人としてはスイカと同じ見方をされるのは不服だそう)。

 

 

 

♢???

 

 『あすら』事件で気絶した白哉にミトの夢の世界に赴くよう促した、ご存知(?)謎のフードの人物。

 当てられた者を、夢の世界で体験した記憶をはっきりと覚えながら目覚めさせる光を放つことができる。

 メタ子とは夢の世界で出会った実績があるらしいが、仲は深いというわけではない。仲良しアピールするもメタ子にあしらわれる程だ。




誤字・脱字・抜けてる説明の部分などがあれば遠慮なく教えてください。


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原作六巻編 ここからは俺の知らない原作物語……なんかシリアスさが濃くなってる気がするのだが?
こういう時こそ柘榴さんに託すことにしたぜ……それはそうと桃とのラブコメも期待しちまう


原作六巻編、はーじまーるよー。ってことで初投稿です。

ここから白哉君は六巻以降の原作知識を持たないので勘で行動するかと思います。でも不思議と原作沿いになりそうなんだよなぁ……

で、今回はそういや桃と柘榴さんのデート回やってなかったなーってことで、そんな感じの回を原作の話中心に……

えっ? 白哉君とシャミ子のデート回も出してないだろ、だって?
………………(´・ω・`)


 

 『あすら』での事件は終わり、束の間の平和が訪れた。とはいってもいつもは平和も平和、平和な時間がめっちゃ多い。

 

 元が日常コメディ漫画なんだしね、シリアスよりも日常・ほのぼのシーンが多いのも無理はないというか当たり前。寧ろ多い方がいいし、そうじゃないと安全に過ごせないし。特に転生者である俺が。

 

 ……だが。平和な時間が再び訪れたからと言って、油断や慢心のしすぎはいけない。

 

 魔法少女を引退する前の朱紅玉さんが、ナビゲーターのジキエルに伝えられた『魔族討伐ポイント』。何故か優子の代わりに魂を持ってかれた俺が蛟さんから聞かされた『神話の時代に作られた決まりごと』……俺が得た原作知識では判明されなかった謎が、これらの他にもまだまだたくさんある。

 

 つまり何が言いたいのかと言うと、これから先に起きるのは、俺の全く知らないまちカド物語……原作六巻以降の展開である。

 

 いつ・どこで・どのような出来事が優子達に……俺達に襲いかかってくるのか分からない。それの対処をすることが出来ず、最悪の展開やエンドルートが起こってしまわないかどうか心配になってきた。そんな結末にはさせるつもりは毛頭無いけどな。

 

 というか、よく考えてみろ俺。原作知識がなんだってんだ? 女子校かどうかも分からない桜ヶ丘高等学校にキャラが濃いめな男性オリキャラがいたとか、この前朱紅玉さんが犬のまぞくであるミトさんを連れて来たとか、原作とは異なる事が起きてばっかりじゃねェか。原作知識なんてものは、場合によっては無意味になる部分だってあっただろ。

 

 要するにアレだ。原作知識のある世界に来たとしても、その知識通りの展開になることは決してない。何が起きるのかは全て運次第ってわけだ。現実世界と丸々一緒じゃねェか。そんな当たり前の事を思い出す時期になった、そう思えばいいだけの話だったな。うん。

 

 まぁとにかく、今は多分しばらく平和な時間が流れているんだ。こういう時は優子とイチャイチャしたりみんなとワイワイしたりと、いつも通りの時間を過ごそう。そうしよう。というかそうしないと色々と勿体ない───

 

 

「……いや待てよ⁉︎ こういう時はスパイから情報を調達してもらう……もとい柘榴さんに桃から深い話を聞いてもらうよう頼み込めばいいのでは⁉︎ 私がボスまぞくとして眷属へ指示する時の練習にもなりますし、桃と柘榴さんの関係も深まるかも‼︎」

 

「え〜? そういう考えになる〜? それはそれで良いとは思うけどさ、シャミ子が直接聞けば良くない?」

 

「でもそうした方が、桃が私達に言えないことを柘榴さんには話してくれるかと思います‼︎ 桃にも私達に隠したいこととかがまだありそうですし‼︎」

 

「あぁ……それはあるかも」

 

 

 おや? 何やら優子と杏里の会話が聞こえてくるな? なんだろう、めっちゃ気になる。じゃけん聞きに行きましょうねー。「おっそうだな(便乗)」

 

 

「よぉ優子に杏里。二人して何を話してたんだ?」

 

「あっ白哉さん‼︎ 実は相談したいことがありまして……」

 

 

 優子の話によれば、ここしばらく大きな事件が多く、それにより魔法少女についてなどの他にも色々と疑問が増えた。だから桃に聞こうと考えてはいるものの、深い話をして変な空気になるとやり辛くなり、今までの宿敵関係が崩れてしまうだろうと恐れてしまっているらしい。

 

 そこで杏里から提案されたのが『肉を囲えば重い話でも間が持つ作戦‼︎』……つまりは桃を焼肉に誘えというものだ。変な空気になったら網にカルビを置く……というか肉を置き、敢えて話したいことをぶらしておけば重い空気も和らぎ話がしやすくなるという算段らしい。

 

 実のところ、杏里は自分が優子におそろユニフォームと一緒に渡した焼肉券を使ってほしいとのこと。親の店のグループ店で、その券は週末で期限が切れるようだ。

 

 ちなみにその店は人気なので予約した方がいいらしい。しかも個室なので秘密のトークもできるとのこと。

 

 これならお互い話せないことも二人きりで話し合うこともできる。が、優子にとっては個室で外食するのは初めてで、しかも店の予約どころか予約自体も初めてであるため、うまくそれができるかどうか不安になってきたようだ。まぁ予約くらいなら全然問題無いだろ。それをする前の心の準備は……場合によっては必要そうだけどな。

 

 ボスまぞくが人脈拡大したら接待とかあるだろうから、今の慣れておくべきかと考えていたところ……何故かふと柘榴さんの事が頭に過り、彼なら桃が自分達には伝えられないことを、柘榴になら教えられるのではないかという考察に至ったのだ。で、現在に至ると。

 

 

「まぁ……優子のその判断は別に悪くはないな。昔の桃の事を考えると、柘榴さんの方が優子やミカンよりも一緒にいた時間が長そうだしな。というか多分長いだろ実際。その分、桃も彼となら色々と話しやすそうだ。で、その話を柘榴さんから聞かせてもらおうって算段か」

 

「は、はい。柘榴さんを利用するような感じがするので、彼には申し訳ないと思っていますが……」

 

 

 まぁ確かにそう思うけどな。桃が俺達には話してくれそうにない事を幼馴染に聞いてもらって、それを共有してもらうとかどんなインチキしようとしてるのだろうが……

 

 

「でも幼馴染相手なら、口が硬そうなちよももでもシャミ子達に話しそうにない事も話してくれそうだね……よしっ‼︎ 今回はシャミ子の意見に尊重して全てを柘榴さんに委ねようか‼︎」

 

「は、はいっ‼︎」

 

「おい言葉は選べよ」

 

 

 なんだよ委ねるって。まるで世界の運命を背負わせているかのような感じに聞こえるから、もうちょっとマイルドな言葉を選んでもろて。委ねるって。

 

 思い立ったが吉日だよとのことで、そう杏里に促された優子はすぐさま柘榴さんに連絡。『焼肉屋のチケットをあげるので桃と一緒に行ってきて』みたいな感じに言ったところ、店の名前を聞かれたらしくその名前を伝えたところ……

 

 

「ほ、報告‼︎ 『ありがとう。桃も誘ってみる』の二つ返事でオッケーが出ました……後であの券を渡さないと……」

 

「なんかそうだろうなとは思ったよ。けどもう少し考える時間を取ってもよかったと思うんだよなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、ばんだ荘のミカンの部屋にて。

 

 

「……ね、ねぇ……ざ、柘榴から焼肉に誘われたんだけど……」

 

 

 メタ子を連れて訪れて来た桃が、柘榴からSNSの個別チャットにて外で焼肉を食べに行かないかと誘われたことが分かるメッセージ画面をミカンに見せていた。

 

 

「あら、デートのお誘いみたいなものかしら? よかったじゃない」

 

「よかっただろうけど良くないよ‼︎ 色々心配なんだよ‼︎」

 

「何が心配なのよ? 柘榴さんが何かに騙されるような人じゃないから問題ないでしょ?」

 

 

 柘榴は二十二歳、大人。様々な経験を重ねてきている年齢の大人であるからこそ、どのような行動や選択をすれば良いのかの簡単な択を理解できるというもの。簡潔に言えば詐欺には遭わない男なのだ。

 

 その人の良さを誰よりも理解している桃だからこそなのか、それとも別の問題が関わってきたからなのか、彼女は不安な心を振り払えずにいた。何故なら……

 

 

「それはそうだけど……行くことになったお店を選んだの、実はシャミ子なんだよ」

 

「えっ? シャミ子が?」

 

 

 柘榴が桃を焼肉に誘うきっかけを作ったのが、シャミ子だからである。まぞくながらも純粋な、宿敵兼親友がきっかけを作ったからこそ、いくつかの不安な点が生まれてきたのだ。

 

 

「柘榴と行くことになったお店を見て」

 

 

 そう言って桃が次にスマホ画面で見せたのは、『焼肉 たま川』のホームページ。食べロム四・一点、ミショラン(この世界で言うミシュラン)一つ星の、多摩川で一番ハイランクな高級焼肉屋である。

 

 

「やだ! めっちゃいいお店‼︎」

 

「でしょ? ……でもこれ、本来ならシャミ子がこの店専用のチケットを使う予定だったみたいだよ? 不審だよ」

 

 

 そう、これが桃の不安な点の一つ。柘榴に勧めた店がシャミ子が行くにしては似つかわないような所である。

 

 本人からしては失礼ではあるが、シャミ子の家は元貧乏。その呪いが解かれたといっても確定されたというわけではない。そんな中でシャミ子が高級店に行けるとは思えない……これが桃が心配だという点なのだ。

 

 

「まぞくの引き出しからこんなおしゃれアイデアが出てくるはずがない。何か騙されてるんじゃないかな。それに柘榴、そういう詐欺などの人を不幸にする類には敏感で警戒するはずなのに……シャミ子から似つかわないおしゃれアイデアを勧められても、何も怪しく思わないのかなって……そんな感じがする」

 

 

 桃の不安な点の一つ、それは柘榴の性分に関することだ。

 

 柘榴は平和主義者で、人を不幸にしてそれを嘲笑っているかのような言動や行動を決して許さない……歪んだ正義感の持ち主である。

 

 詐欺に遭った知り合いがいれば、わざとその詐欺師に騙されたフリをし、集合場所にて警察にその場にいてもらいながら許可を取ってから犯人をタコ殴りする程だ。

 

 そんな彼が、詐欺に遭っている可能性があるだろうシャミ子の勧めに対してなんとも思っていないのだろうか……そんな不安が脳内に流れ込み、彼女を悩ませる。

 

 

「考え過ぎよ。シャミ子、普通に杏里とかからいいお店の情報を聞いたんでしょ。その柘榴さんに渡したチケットもそんな感じで貰ったものだと思うし」

 

 

 そう、これはあくまで桃の過剰な妄想にすぎない。シャミ子が詐欺に遭っている可能性が高いわけでもなければ、お互いが店の情報などを調べていないわけではない。柘榴が危険性のないものだと判断し、シャミ子の勧めに乗った可能性がある……そう考えると良いだろう。

 

 

「そうかな……? そうかも……」

 

「……それよりも。シャミ子みたいな子がこんなお店を柘榴さんに貴方と一緒に行くように勧めた意図も、柘榴さんがそれに乗った意図も、考えた方がいいんじゃないの?」

 

 

 そこまで語ったミカンの眼は鋭くなり、何かに気づきそれに接点を当てているのかの如く、柘榴の信じられないと思うはずの答えをまとめる。

 

 

「多分だけど、ガチのやつよ。柘榴さんは桃をガチのデートに誘ってるんだと思う」

 

「 」

 

 

 刹那。桃の脳内に宇宙のめくれが発生した。

 

 想いを寄せている幼馴染からのデートとのお誘い(本当彼がデートとして誘っているのかは不明だが)。その曖昧ながらも素直に喜ぶべきかどうか本人としては判断不明な事実に、桃は思わず顔を林檎のように真っ赤にしてしまう。

 

 

「………………えっ? ちょっ……えっ? ガ、ガッ……チッ……? ガチ? えっ? 柘榴が、私を、デッ……? ガチの、デート、に……? えっ?」

 

「ごめんなさい、これはあくまで私の勘だから。ニュアンスで判断して。あとメタ子を激しくナデナデしすぎると頭が取れそうよ」

 

 

 デート。それも恐らく恋人として扱う方面での。それを後日行うという事実に耐え切れずしどろもどろになってしまう頭まで桃色魔法少女(髪の毛はそうだが脳内までピンク色だとは言っていない)。あまりにも信じられない事実だったからなのか、メタ子の頭を異常なまでに素早くナデナデする程だ。

 

 余談だが、ミカンの発言からしてまるで恋人認識してない方のデートは、十年前に何回か、柘榴が帰国してからは二・三回程行っている。だがそれはあくまで友人同士で遊びに行く感じであるため、今の桃みたいに深く考える必要はない。

 

 

「えっ……と………ちなみにミカンは誰かにガチられたこと、ある? たとえば拓海にとか……」

 

「は? 彼にどころか誰かにナンパすらもされてねぇが」

 

 

 女子力の高いミカンにガチのデートの攻略法について問いかけるも、デートすらしてないらしい彼女から聞こうにも無意味でしかなかった。桃、ドンマイ。

 

 ふと、今の自分が着ている服に目を向ける桃。今着ている胴体の伸びた四匹の謎の猫のデザインの服のように、今の桃には女子がお出かけする時に着るような雰囲気の服は持ち合わせていない。それなのに今度柘榴とのデートがある。女子として絶体絶命の危機である。

 

 とはいうものの。ここだけの話、柘榴はありのままの桃のファッションでも酷評は決してしないどころか、逆にそのファッションの良さを伝えてくれるとは思うが。

 

 このままでは後日柘榴に堂々と会うことはできない。そんな嫌な予感を察した桃は……

 

 

「………………ミカン。さすがに柘榴とお出掛けする時にいつもの格好を彼に見せられない。だからミカンが持ってる中で一番ガチの服、貸して」

 

 

 目の前にいるもう一人の親友に、救いの手を求めた。

 

 

「気持ちは分かる。けど絶対いや」

 

 

 案の定、玉砕された。

 

 

「なんで⁉」

 

「女子はガチ服で焼肉は行かないのよ!! っていうかそれ以前にNGですけど⁉ クリーニングがだるい!!」

 

 

 そもそも焼肉屋に誘われたという時点でデートとは呼べない上、服が汚れやすいため焼肉屋はデートにすら向かない、というのは内緒である。それどころか柘榴本人もこれをデートだとは思っていない……とも言えるし思っていないとも言える。

 

 

「大体、貴方と私じゃパーソナルカラーが全然違うから、私のガチ服は似合わないわよ‼︎ 今から自分に合う服をお店で買ってきなさい‼︎」

 

「パーソナルって何……⁉︎」

 

「イエベ春とかブルベ夏とか、女子には色々あるのよ‼︎」

 

「イエベって何? 平安時代の一族?」

 

「めんどくさいわね⁉︎ とりあえず皆に聞いてみたら? この際男子でもいいから、ファッションセンスが良さそうな拓海とかにも聞いてみなさいよ」

 

 

 女子力が低すぎてファッションの知識が皆無な桃、ミカンにファッション雑誌を渡され(というか押し付けられた)、他の仲の良い者達からのガチ服に関する意見を聞いてみた方が良いというアドバイスも受けることに。女子力の低い女子は大変なのだ……

 

 

 

 

 

 

 そして、色々な方々から聞いてみた結果。

 

 

 

《良子》

 

「ごめんなさい。良には洋服は良く分からない……でもガチの戦に行くならば、んっと……ライオットシールドがおすすめだよ」

 

 

 

《拓海》

 

「ガチ、服……? ガチ服って何だ……? えっと……仙寿家では『狩衣には袖が必須』だって言われたけど……意味違ったかい?」

 

 

 

《リコ》

 

「え〜、桃はんに似合う服〜? ん〜〜……耳とか生やしたら喜ぶんちゃう? あっ、ウチこの服欲しいな〜。桃はん買〜て〜♪」

 

 

 

《スカーレット兄妹》

 

「似合う服だと? そうだな……焼肉屋に行くのだろ? トップスにフリルやレースのディテールがあるもの、これらに絞って選べば───「桃ちゃんって果物の桃、ピーチと同じ名前でしょ⁉︎」ちょっおまっ───「だったら本物のピーチかピーチ関連のを付けようよ‼︎」いや普通に───「もうっ兄さんったら女子のオリジナリティの事は考えないんだからー‼︎」ハァ?」

 

 

 

《朱紅玉》

 

「ガチ服⁉︎ ド派手‼︎ 柄‼︎ 相手を威嚇‼︎」

 

 

 

《ミト》

 

「ガチ服ですの? わたくしでしたらそういうのを着るならば首輪が必要ですわね‼︎ 今からでも桃さんにお似合いの───」

 

「あっごめんなさい、首輪はちょっと……」

 

「ではプロデューサー巻きをオススメしますわ。カッコいいですし」

 

「えっ?」

 

 

 

《清子》

 

「勝負の服、ですか………………えっと……大人の下着の話をしましょうか」

 

「お母さんそれ以上はいけません‼︎‼︎」

 

 

 

 全く参考にならないものばかりだった。唯一まともなことを言おうとしてくれたブラムの意見も、奈々に遮られてしまった為、不覚にも完全には信頼できない点もある。そのため彼の意見も参考しようにも出来そうにもない。

 

 結論を言えばこうだ。結局他人のアドバイスに頼らず、自分のセンスで選ぶしかないということだ。何もかも参考すれば良いというわけではないのだから。

 

 というか彼女は全部参考にして着けてしまったので、尚更そういう思考をするしかなかった。それはそうだ、そういうのは怖いものと怖いものを合わせればさらに怖くなるという理論にならないのと同じものなのだから。

 

 ちなみに桃が皆からのアドバイスを受けて全部着けている場所、実はデパートの結構オシャレな服屋である。そんな店にオシャレに似つかわないものまで取り揃えているのは、店の雰囲気としてもどうかと思う。しかもライオットシールドまで備わっており、摩訶不思議である。

 

 と、そこに予想外の助け舟が。

 

 

「あれ? 千代田さんだぁ。不思議な格好だねぇ」

 

「ど、どうしたんスかその格好? リコさんに唆されてこうなった……とかじゃないッスよね?」

 

「小倉? それに全蔵くんまで」

 

 

 偶々何か(多分何かの実験のため)の買い出しに来ていた小倉と、ウガルル再召喚以降小倉の付き添いになることが多くなったらしい全蔵と出会うことに。

 

 そして流されるようにここまでの経緯について話したところ、小倉は『洋服……』と何かを考え込むような仕草を見せ、全蔵は口を塞いで恋愛に興味津々な乙女のような反応を見せる。

 

 

「ほわぁ……‼︎ 桃さんにも想いを寄せている方がいたなんて初耳ッス……‼︎ それも幼馴染……‼︎ しかも今度デートしようみたいなお誘いを受けて……‼︎ 感激ッス……‼︎」

 

「その反応やめて、すごく恥ずかしいから。後誘われたといってもデートじゃないから。……多分」

 

 

 デートであることを念のため否定した桃であったが、それができることに喜んでいる正直者な自分がいること嫌味を感じ、真っ赤な顔を隠せずにいた。恋する乙女は誰でもその本心を隠し切れずにいるものだ。

 

 と、ここでいつの間にかいなくなっていた小倉が二人の元に戻り、同時に持ってきたマネキン(店員の許可済み)が着ている服を桃に見せつけてきた。黒いフォーマル系のドレスで、料金はなんと約一万七千円もする高級品である。

 

 

「洋服でいいお店なら、こういうフォーマル系のドレスで体格に合ってればいいんじゃないかな」

 

「そう‼︎ こういう普通のやつを求めていたんだよ‼︎」

 

「……失礼ッスけど、みんなのを全部いっぺんに採用したらそりゃ普通じゃないと思うッスよ」

 

 

 小倉のまともな意見によって救われたところで、全蔵から正論という名のダメ出しを受け萎縮した苦い顔になる桃。ファッションの知識もない中で、とりあえず全部着ければ良い感じになるという無垢にも程がある考えは通らないとは頭で理解していたのにやってしまったものだから、ダメ出しされても文句は言えない。

 

 何はともあれ、実際に小倉に勧められたドレスを着てみた桃。しかし、この場にいた者全員が察した。何か足りない気がする、と。

 

 

「あ、首元が寂しいね。パワーストーンのネックレス……作ろうか? ガチ食事がすごくうまくいくお守り……」

 

「いる」

 

「何スすぎたかその限定的すぎる効果のお守りは………………んっ?」

 

 

 この時、全蔵は察した。この流れ……この後なんか嫌な予感が起こる気がするな、と。

 

 

「自分と同じ役職(?)の歳上幼馴染と二人きりの時にどちらかが失敗した時、地雷を踏まずフォロー・挽回する言葉計四十選。無料じゃないけど」

 

「買うっ‼︎」

 

「その幼馴染がテンション上がる小手先テクニック」

 

「買う‼︎」

 

「肉が爆発しない焼き方───「待つッス。いやホントに」グエッ」

 

 

 明らかに桃に情報商材を買わせようとしている小倉の襟元を引っ張り、無理矢理制止に入った全蔵。その眼は悪人をゴミのように見ているかのように睨みを利かせており、彼をそのままにすると末恐ろしいことになるものであった。

 

 

「何情報商材を掴ませようとして、それを利用して金を取ろうとしてるんスか。どれも実際にやってみてタメになるものしかなかったから詐欺ではないことは確かッスけど、それを売り物にして騙し取るように金を払うよう要求して……さすがに限度ってものがあるッスよ。そろそろ自重するッス」

 

「ご、ごめんなさいぃぃぃ……」

 

「………………えぇっ……」

 

 

 さすがに彼をこれ以上怒らせるわけにはいかない。そう察した小倉は、彼に対する恐怖で震えながら萎縮した謝罪をした。桃はそんな弱気すぎた彼女と怒り心頭に発する全蔵を初めて見たためか、呆然とその二人の事を見つめるしかなかった。

 

 結果、桃は情報商材とネックレスは無料で提供してもらうことになった。が。ファッションの方は勧めてもらったものを本人が買うことを決めたので、自腹でアウター・靴・フォーマルバッグ・下着を買うことにした。

 

 ん? 『さすがに下着はいらないでしょ』だって? バッカやろうお前、相思相愛な感じの二人がデートした後に何をするのかの可能性があるやないか察しなさい。

 

 

「完璧だよ……‼︎ 小倉、全蔵くん、ありがとう‼︎」

 

「自分はただ情報商材で金を払わせる羽目になるのを止めただけッス……というか、そのファッションにいくら程掛けたんスか? ブランド良すぎるのばっかでお高いッスよね?」

 

「えっ……? 七万三千三百八十円だけど?」

 

「……その額を見るからに、シャミ子ちゃんよりも心配になるッス。色々と」

 

 

 いくらファッションの知識がないからって、高額なものばかり買うのはどうだろうか……そんな不安を脳内に過らせる全蔵だった。

 

 ちなみに彼がこの場にいなかったら、桃は今頃小倉にネックレス代と情報商材代で五十三万九千九百八十円も……否、それ以上の額を支払っていたことになっていたのであろう。シャミ子よりも一番詐欺に遭いそうで不安である。

 

 

 

 

 

 

 焼肉デート(とも言えるかもしれないしそうでもないようなイベント)の日、当日。桃は購入したファッショングッズを全て着け、集合場所である焼肉屋へと向かっていた。緊張によって挙動不審になりながら。それによって不審に感じた通りすがりの犬に吠えられながら。

 

 

「(ど、どうしよう……いざ行くとなった途端に緊張してきた……)」

 

 

 無論、内心も緊張によるものか正常ではなかった。これは桃の方がそう考えているだけなのだろうが、友人感覚でのデートは何回かはあるものの、本格的なデートをするというのは初めてなのだ。そのため柘榴にどのような顔をして会えば良いのか、いつも通りには接することができるのだろうか、様々な不安が彼女の脳内に過っている。

 

 

「(でも……もう既に予約されていることだし、シャミ子が何を思ってかチケットを渡して柘榴を後押し?してたみたいだし、今更後戻りなんてできない……落ち着け、落ち着くんだ私……!! あ、もう着いちゃった……)」

 

 

 心身ともに正常さを保たせようとしながらも、気が付けば目的地に到着していた桃。着いてしまったものは仕方ない、そう鈍くも決心し、前を向いたところ……

 

 いつものとは違った格好良さが際立った服装をした柘榴が、既に待ち合わせしていた。深緑色のデニムジャケットにグレー色のニットパーカー、ベージュ色のチノパン系のズボンといった、この秋にピッタリなコーデをしていた。

 

 

「ウェッ。あっ……」

 

 

 その姿は、桃のハートにどストライク……改めて柘榴に惚れさせる羽目になった。

 

 そのいつもとは違う伊達な格好の柘榴に心を奪われた桃は、思わず息が詰まりそうになり、顔を真っ赤にして思わず倒れ込みそうになる。

 

 しかし、デートを台無しにするわけにはいかないという一心でなんとか持ち堪え、何度もその場で深呼吸をして平然さを取り戻そうとした。

 

 

「フゥ………………ご、ごめん柘榴。待った……かな?」

 

「……ううん、今着いたところ。ちょっと着替えるのに手間取った」

 

 

 テンプレートな台詞を交えてそう返答した柘榴の笑み。それで桃はまた惚れ込んでしまい、倒れ込みそうになった。これだから恋愛クソ雑魚女は……

 

 

「えっと……そ、その……に、似合ってるね。その服……」

 

「……ネットで調べたら、こういう服で焼肉屋に行けばいいって知った」

 

 

 インターネットで調べて参考にしたものとはいえ、それを着こなしている柘榴はどれだけ男前なのだろうか。桃はそんな勝手な妄想をし、改めて彼のその姿に見惚れていった。

 

 

「……桃のも似合ってる。いつもとは違って大人の雰囲気がしていい。とても綺麗だ」

 

「ヒュエェッ⁉︎」

 

 

 そうしたら直球な意見が桃に向かって飛び出てきた。柘榴は桃の事に対して思うことがあれば、躊躇い無く本人に直接伝えるタイプである。その上に髪を優しく触わる仕草を見せ、意図がどうかに関係なく、桃を彼の沼に落としていく。

 

 詰まるところアレだ。柘榴は桃に対してむっつりスケベになれるということだ。そしてその行動で桃を何度も惚れ直しまくれる。シャミ子と付き合うことになった後の白哉よりも罪な男である。

 

 

「あ、ああああ……あり、がとう……」

 

「……ん。それじゃあ行こうか」

 

「う、うん。そうだね……」

 

 

 ぎこちない心境にありながらも、差し伸べられた柘榴の手を握る桃。その時に向けられた柘榴の微笑みがまたもや桃の心を狂わせ、彼女の思考を煩悩的に崩壊させていく。やはり柘榴は罪な男である。

 

 が、入店して席に座って数分後。

 

 

「………………ごめん、桃」

 

「な、何かな? 柘榴……?」

 

「……信州牛の履歴証明書を見た途端、何故かシャミ子ちゃんに対する罪悪感を感じる……ふく子ちゃん、メスって……しかも今出ているの、トリュフのテール……尻尾のスープって……」

 

「待って柘榴、深く考えないで。読み込まないで」

 

「……そもそもこのクラスの店、来たことない……高校生どころか、大学卒業したばかりの大人が、易々と来れるとは思えない……」

 

「うん、わかる……」

 

 

 柘榴すらも初めて来る高級店。その上に出されたコース最初の料理での身内との連想と勝手なる謝罪の念。初めての高級店だからこそなのか、柘榴は無表情からも焦りが見える程の青冷めていることが分かる顔色となってしまった。先程までのいつもの美男子感は何処にいったのやら。

 

 しかし、料理は最初からどれも高級だからこそ美味なものばかり。不思議とそれらの料理に関する感想で話が再び沸いていく。

 

 

「そ、それにしても……この店を選んだのって、本当にシャミ子なんだよね? しかも貰ったというチケットまで渡して……」

 

 

 お互い希少部位ミスジの握りを食べ終えたところで、桃が柘榴にこの店に誘ってきた経緯についての説明を求めることにした。何かしらの目的を持ったシャミ子が事の発端を作ったことを理解している上で、だ。

 

 

「……そうだよ。信じられないよね? 節約も得意そうな彼女が、こんなにも良すぎる店を見つけたのって」

 

「う、うん。シャミ子もよくこんなにも良すぎる店を選んで、自分は行かずに私達に勧めるなんてね……」

 

 

 頬を染め苦笑いしながらそう答える桃に対し、柘榴はスープのトリュフを平らげた柘榴は続けて彼女の問いにさらに返答する。

 

 

「……実はこの店専用のチケット、誕生日に杏里ちゃんから貰ったものらしいよ」

 

「………………えっ?」

 

「そんな貴重なものを僕達に使ってほしいと言ってきたのには、何か理由があったからじゃないのかな? 単純に、僕達にもっと仲良くなってほしいと思ってのことだろうけど」

 

「そ、そうかな……? そうかも……」

 

 

 これまで恋愛に対する悪戯されてきたことに対する仕返しとしてなのか、それとも単純に自分達の距離を縮めさせるための処置なのか、その時のシャミ子の考えは桃も柘榴も理解できない。

 

 それでもシャミ子に悪気があったとは限らない。そのためどのような反応をすればいいのかと判断できず、桃は顔を真っ赤にして頭に大きなクエスチョンマークを浮かべるしかなかった。

 

 

「……でも、シャミ子ちゃんがこういう機会を作ってくれて本当によかった」

 

「えっ?」

 

「……十年以上、僕達が二人きりになる機会はそんなになかった。いや、作れるチャンスはあったのにお互い見逃していただけなのかもしれない。それをシャミ子ちゃんが自らこの場を用意してくれた。彼女に後押ししてもらって本当によかった、僕はそう思うよ」

 

 

 柘榴の留学によって作られてしまった、十年分という二人の距離の空白。再会し、同じ町に住んでいる今でも、その空白が埋まりきっていたわけではなかった。

 

 だがそれに待ったをかけたのがシャミ子だった。彼女の気まぐれのような提案が桃と柘榴を引き寄せ、今この場面が作られた。

 

 それは柘榴にとってはシャミ子への感謝の意、そして桃に対する純粋な独占欲となっていた。先程まで耐えていただろう笑みが溢れて見えたのがその証拠だ。

 

 柘榴のその心境に気付いた桃は、思わず吊られて笑みを溢す。再会してからよく見てきたはずの彼の笑顔が、不思議と久しぶりに見ることができた。そんな気がした。

 

 

「そっ……か。そうだね。二人きりで会話できる機会なんて滅多に作れなかったもんね。こうして一緒にいられる時間が作ってもらえたのは、正直私も嬉しいよ。……シャミ子には感謝しないと」

 

「……うん」

 

 

 この出来事に感謝を示すかのように、笑顔となっているその良き顔で向き合い、お互いノンアルコールのシャンパンの入ったグラスを手に取り……

 

 

「……改めて、これからもよろしくね。桃」

 

「うん、こちらこそ」

 

 

 お互いこれからの人生に祝福を。そう願うかのようにグラスを合わせ、乾杯の音を鳴らす。

 

 そしてコース全ての料理を食べ終わるまで、桃と柘榴は飽くなき会話を止めなかった。十年前までの恥ずかしい話や、最近白哉やシャミ子達と関わってきた時の出来事などを、嬉々として話していった。

 

 

「(………………アレ? 何か大事なことをシャミ子ちゃんに任されていたような、それを忘れているような、そんな気がする……何を頼まれてたんだっけ? ……まぁいいかな)」

 

 

 途中、柘榴が一時そんな事を考えていながらも。

 

 

 

「ところでさ、柘榴? シャミ子から貰ったあのチケット、さすがに無料券だと思ってないよね……?」

 

「……うん。優待券で、二万五千円のコースが一万五千円に割引きされる」

 

「だよね……うん、分かってるよね」

 

「……まぁ、あっちは無料券だと思ってるだろうけど」

 

 

 

 

 

《とあるSNSのDMチャットにて》

 

 

シャミ子:杏里ちゃんからの連絡によると、あのチケット……無料券じゃなくて割引券でした……

     一応柘榴さんに謝罪のメッセージを送ったんですけど……けど……

 

白哉:……またお詫びの品とかを用意しとこうか

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その34


SNSでのシャミ子と柘榴のやりとり

シャミ子:今日は大変申し訳ありませんでした
     無料券だと思って渡したの
     割引券でしたよね?
柘榴:うん、その事なんだけど
   実は貰う時から知ってた
シャミ子:えっ⁉︎
     わ、分かってた上で
     アレを受け取ったのですか⁉︎
柘榴:こんなことを言うのはアレだけど
   高級なものに無料なんてものは
   存在しないと思う
   でもシャミ子ちゃんの良心を
   蔑ろにしたくないから
   貰った時ずっと黙ってた
シャミ子:え、えぇ……
柘榴:でも、とてもいい思い出を作れた
   本当にありがとうね
シャミ子:えっ。あっ。い、いえ
     お二人が楽しんでいただけたのなら……
柘榴:うん。ありがとう
   それじゃあおやすみ
シャミ子:お、おやすみなさい……

シャミ子「………………なんか釈然としない……」



いつになったら白哉君とシャミ子ちゃんのデート回を出すんだろう……分からん(自問自答)

 


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二次創作では変身する時は敵は待ってくれるけど、現実ではそうはいかないよね? ね?(圧)

デザインを一から考えるのって難しくない? ってことで初投稿です。

※今回は桃が原作よりもセクハラされてます。桃好きはご了承ください。


 

 優子のハートをエドヒセブ・エレキック‼︎ 何者なんや? 平地白哉です‼︎ おはこんハロチャオ〜‼︎

 

 はい(スンッ)、今日朝起きて即着替えて即吉田家に向かいます。これが朝起きてから身支度済ましから優子の所へ行くまでのRTAだったら新記録達成だわ。わーいわーい、初めてやってこの記録はもう抜かれないかもー。

 

 ……いや、そんなおふざけしてる場合じゃなかったわ。すまん。今日は朝起きたら早めに優子のところに行こうと思っていたんだよ。

 

 何故朝早くからそんなことをしようとしてるのかって? 昨夜優子がSNSのメッセージにて、柘榴さんに『桃と一緒に行って』と渡した焼肉屋のチケット、それを優子に誕生日プレゼントであげた杏里と同じく無料券だと勘違いしていたらしいんだ。ちなみにアレ、割引券ね。

 

 俺にその事を報告する前、優子は既に柘榴さんにメッセージで謝っていたんだけど、彼曰く『実は貰うから知ってた』『こんなことを言うのはアレだけど、高級なものに無料なんてものは存在しないと思う』『でもシャミ子ちゃんの良心を蔑ろにしたくないから黙ってた』って散々言っていたらしい。

 

 選んだ言葉も含めて悪意はなかったらしいけど、それはそれで優子に強い罪悪感が出てしまったわけらしく……うん。ドンマイだな、優子。自分の勘違いで下手したらとんでもない事態が起きたかもしれなかったもんな……例えば桃と柘榴さんがお互いあのチケットを無料券だと勘違いして、どっちもお金を払う手段がなかったとしたらって考えると……

 

 もしもの可能性の重さとか、そういう点とかを考えると、いっそ少しは怒ってほしいって思うのも無理はないだろうな。柘榴さん……すみません、優しさを出すタイミングとかを考えてほしかったです。悪気はなかったでしょうし、あの券がどんなものかもちゃんと見なかった俺も俺で悪かったです。

 

 まぁ柘榴さんがいない今、心の中でその事を謝っても意味ないけどね。それより優子だ優子。きっと昨日の事で落ち込んでるだろうし、さっさとインターホン鳴らして優子を呼んで、彼女に我儘言わせてやる気を取り戻してやらんと。

 

 で、鳴らしたら清子さんが出てきた。優子は寝てるのかガチで落ち込んでいるのか、そのどちらかだろうな……だから俺がインターホンを鳴らしても来なかったのか。

 

 

「あら白哉くん、おはようございます」

 

「おはようございます、清子さん。優子は今どうしてますか?」

 

「あの……何やら久しぶりにぐったりしてまして(・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……えっ?」

 

 

 優子が……久しぶりに、ぐったり……? ちょっと待って? 優子、最近ぐったりになることはなかったよな? なってたとしてもそれは先祖返り前によくあったってだけの話だし、中学の頃は俺が彼女に合ったトレーニングをさせてあげたことでそうなる機会は少なくなったし……

 

 なのにぐったりしてる、だって? それって……何やら嫌な予感がする。

 

 ───ハッ⁉︎ まさか、いつの間にか先祖返り前の彼女に戻ってしまったのか⁉

 

 

「すみません!! 勝手に上がらせていただきます!!」

 

「うわっすごい形相ですねっ」

 

 

 清子さんが何やらビックリしてる感じになってたけど、申し訳ないが今彼女の三に何も問題ないのだから優子優先!! 優子は今大丈夫なのか⁉

 

 

「優子!! 大丈夫か⁉」

 

「びゃ、白哉さん……?」

 

 

 部屋に入れば、彼女は布団に籠っている様子だ。しかも何やらブルブル震えている。ま、まさか本当に……⁉

 

 

「清子さんからお前がぐったりしてるとか聞いたが、何かあったのか⁉」

 

 

 俺がそう焦りながら聞いてみたら、優子は申し訳ないと思っているのか顔を赤らめながら、その顔も布団の中に蹲らせた。そしてひょこっと出し、モゴモゴとした口を開く。

 

 

「す、すみません……

 

 

 

 ぐったりしてると言っても、ただの思い出しぐったりです……本当にぐったり、というかマジの体がだるいってわけではありません……多分」

 

 

 

「………………えっ?」

 

 

 お、思い出しぐったり……? なんだよ思い出しぐったりって……? あっ。でも角も尻尾も無くなったわけではないから、まぞくから人間に逆戻りしたわけではなかったんだな。なんだ、それならよかった……

 

 というか。

 

 

「その思い出しぐったり?ってのにはなんでなったんだ?」

 

「……昨日、桃と柘榴さんに対して醜態を働いてしまったじゃないですか。無料券だと思って渡したあの優待券を……」

 

「えっ? ……あぁ、なるほど」

 

 

 そっか、それで罪悪感に苛まれてそうなってるってわけか。まるで財布を持たずに焼肉屋行って捕まってこいって言ってるようなもんだったよな、あれ。ケアレスミスのせいでそうなる可能性があったよな。そりゃ罪悪感に押し潰されるわけだ。

 

 

「今日は一日凹んで、また明日からまぞくを頑張ります……」

 

 

 だが、そんな彼女をこのまま凹ませたままにするほど俺は鬼じゃない。恋人の凹みが無くなる可能性があるものは早い内に出しておかないと、恋人として恥をかくことになるからな。

 

 

「……そんなお前に朗報だ。『インスタマグラム』見ろ、ついさっき桃からメッセージが届いたぞ」

 

「桃から……?」

 

 

 自分の部屋の玄関を出たタイミングで送られてきた桃からのメッセージ。それは優子にも届いてあるはずだからと薦めたが、果たしてどうだろうか……

 

 

桃:ちょっと前に話した『お揃い系バトルフォーム』が固まってきたから試着に付き合ってほしい

 

 

「! OSORO(おそろ)だとっ!!!」

 

 

 そう、優子の新しい戦闘フォームについての話し合いで桃が考えてみると言っていた新フォーム、それかついに完成したのだ。それは優子にとっては嬉しいニュースの他ならないもので、俺とのお揃いの次に喜ばしいものだと言っていたし、素直に喜ばずにはいられないよな。

 

 ……いや、これは素直に喜ぶべきなのか? いくら恋人との方が俺も嬉しいとはいえ、宿敵とのお揃いが二番目に嬉しいってさ……なんか気まずくね? 気まずいよな?

 

 

「まぞくの辞書に凹み無し!!! 十秒で出陣します‼︎」

 

「切り替え早っ」

 

 

 その気持ちは分からなくもないけどさ。まぁ、優子が立ち直れただけでもよしとしますか。ヨシ‼︎

 

 

 

 

 

 

 せっかくだからとのことで吉田家で朝食を済ませ(今日のウチの朝食担当のメェール君が持ってきたものも一緒に食べた)、桃に集合場所として来てほしいと言われた、あの時の廃工場に来た。

 

 魔法少女が戦闘服を変えるのは珍しいらしく、最初は不安定になる可能性があるとのことで、行き慣れた場所で試したいとのこと。優子の魔力の特訓といい、ヨシュアさんや桜さんの謎の究明といい、なんかこの廃工場にはよく来るなー。

 

 ここに集められたのは、俺と優子の他に、同じ魔法少女であるミカンと奈々さん(偶然ミカンと出会ってそのままついて来た)、もしもの時の為のストッパーを頼まれた拓海の合計五人だ。桃も入れると六人だな。

 

 ちなみに本当は柘榴さんにも来てほしかったようだが、彼は多摩川の山地の泉で霊水を取りに行っているようだ。桃の闇堕ちの解除がしにくくなった時の対策を用意しに行ったって感じか? あの人も桃の新しい戦闘フォームを見たかっただろうに……

 

 ミカンが何やらストップウォッチを準備したところで、桃が俺と優子の方へと振り向きこう告げてきた。

 

 

「シャミ子……白哉くん……今から新フォームに変身するけど、多分、初見の二人はビックリすると思う。でも……なるべくノーリアクションで接してほしい」

 

「へっ?」

 

「……? どういうことだよ」

 

 

 初見にはビックリする? なるべくノーリアクションで接してほしい? お前は何を言っているんだ? 一瞬で変身するんだから特にそんな驚きはしないと思うんだが……

 

 

「……お願い」

 

「??? は、はい」

 

「……ったく、そんなこと頼む意味が分かんねェよ。分かってるよ。ノーリアクションでいればいいんだろ、ノーリアクションでさ」

 

 

 大体変身完了するまでの間をマジマジと見れる余裕なんてお前は与えないだろ。無理そうなことをやらないでって言ってもあまり意味ないだろホントに。

 

 

「じゃあいくよ───

 

 

 

 フレッシュピーチセカンドハーヴェスト‼︎ ハ───トフルチャ──ジッ‼︎」

 

 

 

 ………………なんか、めっちゃ気合い入れて叫んでたんだけど。しかも表情がなんだか迫真すぎる。もしかしてビックリするって、コレ? 特撮番組の変身シーンでも変身者が変身する時に叫ぶことと一緒じゃん。少なくともマイナスなリアクションはしないと思───

 

 刹那。桃の身体だけではなく、周囲までもがピンク色の光に包まれているのが見えた。変身の瞬間は一瞬で終わるから、こちら側はしっかりと見れないはずなのに、だ。「何の光ィッ⁉︎」

 

 しかも。しかもだ。ここに拡声器も再生機もなく、俺含め全員のスマホの電源はオフまたはスリーブ状態にしている状態だ。なのに、この変身中にどこからともなく謎のコーラスが流れ出してきたのだ。いやホントになんだこの音楽は。

 

 その上どうでもいい話だが、何やらファンシーな雰囲気を放っている空間は原作の四コマ画だと枠をタイトル付近もぶち壊す……というかページそのものも超えそうな気がする。

 

 

 

(ハート)新たにここに見参‼︎ フレッシュピーチセカンドフォーム‼︎」

 

 デーン!!

 

 

 

 ………………………………huh?(猫ミーム風)

 

 実時間以上に体感が長く思える舞いを終え、桃は両手でハートマークを作るポーズを取ってそう叫んだ。というか、なんか変な効果音がデカい音量で鳴ったんだが。何だったんだよ今の。いや変身開始から終了まで全部が何だったんだよって話だけどさ。

 

 

「変身タイム、五,〇三秒よ」

 

「……やっぱり五秒の壁が切れないか……」

 

「でも、完全新規かつ初変身で五秒にかなり近く変身できるなんて、ベテランの魔法少女だって滅多にできないことだよ。というか多分、どの魔法少女でも成し遂げれなかった偉業だね」

 

「魔法少女の初変身か、懐かしいなー。依頼で新人魔法少女の人と一緒に除霊しに行った時も初変身は三・四回程見てきたけど、相変わらず面白い瞬間だったよ」

 

 

 同じ魔法少女であるミカンと奈々さんはともかく、拓海までもが慣れてるって反応してるけど、俺は初めて見るからそんなに気にしなくていいやってならねぇよ。ノーリアクションできないにしても、どのように良い反応すればいいのか分からねぇから……

 

 

「………………なぁ、優子。今の見てなんか分かったか?」

 

「………………い、いえ。何も分かんなかったです……何だったんでしょうか、今の間は」

 

 

 あぁ、優子もそんな反応だったのか。よく考えてみればそうか。俺も優子も一瞬で変身することはできるけど、初変身を初見で見た時にどう反応すればいいのかわからないのはお互い様だよな……

 

 

「あ、あの……なんか不思議な時間がありませんでしたか⁉︎ コーラスみたいなのが流れてたようなっ‼︎ ピンクの背景でした‼︎」

 

「……そこは引っ掛からなくていい」

 

「いーやさすがの俺でも引っ掛かるわっ‼︎ なんで変身してるところが俺にも優子にも見れたんだよっ⁉︎ なんでBGMとか効果音とかが流れていたんだよっ⁉︎ まるで意味が分からんぞ‼︎」

 

 

 どういうことだ説明しろと詰め寄っていたら、ミカンが今の桃の変身の事について教えてくれた。

 

 先程桃がやっていた不思議な間は『変身(バン)ク』と呼ばれているものらしい。光の力を体に降ろすためのものであり、魔法少女が変身するための儀式のようだ。あの時間は一種の変身中の状態であり、体が勝手に舞い散らかってしまうんだとか。

 

 ちなみに桃が『ハートフルチャージ』と言ったのは、光の力を体に降ろすための必要な口上らしい。まぁ何かしらの合図がないと気軽に変身なんて出来なさそうだし、何より今回のは初めて変身するヤツだからなぁ……あぁ叫んでしまうのも無理はないよな。

 

 今までの一瞬での変身は、完全にイメージできたらそういう事ができるっていう変身能力だからとかじゃなくて、ただ単に超高速でやってただけらしい。熟練の魔法少女は大体高速変身を身につけてられるんだとか。いつの間にかそれができるようになるとか、魔法少女はすごいんだな。

 

 

「高速変身が慣れない中で敵の目の前で変身しようものなら、その間に敵に攻撃されて最悪死んでしまうリスクがあるからね。慣れるまでは事前に変身できるように練習しないといけないんだ」

 

 

 あ、奈々さん補足ありがとうございます。なるほど、変身に慣れる前の子は咄嗟の対決とかでは圧倒的不利ってことか。つまり基本は先輩魔法少女に同伴してもらうか、前もってなるべく変身状態をキープして突然の事態に備える必要があるのだろうな。

 

 

「新人ちゃんは魔力の扱い方に慣れるのも大変なのに、変身にも慣れないと恥ずかしい結果を招いちゃうんだよねぇ……まぁそれが良いってのあるし、私も昔はそんな感じだったけどね」

 

「あーわかる〜♪ わかりますよその気持ち‼︎ 新人の子は着替えに一分かかったり、うっかり全裸になっちゃったりしてかわいいのなんのでしたよ〜♪」

 

 

 なんか魔法少女二名、後輩魔法少女が新人だった時の事の談義をし始めたんだけど。しかも変身失敗した時の彼女らの事を可愛いと言っているようだ。ここにその新人達がいなくてよかった。あの子達なら赤っ恥掻きそうだし。

 

 

「あ。ちなみに昔の桃も───[トンッ] 」

 

 

 ミカンが昔の桃の事を話そうとしていたから耳を傾けようとしたが、桃がミカンの肩にチョップして気絶させてしまった。けどそれが終わるまでの間があまりにも一瞬すぎるから、全く目で捉えられなかった……速すぎやろ。

 

 

「ミカンさんが突然気絶した⁉︎」

 

「………………めっちゃ素早い手刀での意識刈り、魔法少女だったら見逃しちゃうな」

 

「いや私も何が起きたのか全く分からなかったんだけど?」

 

 

 あっそっすか。魔法少女でも万能じゃない時とかあるんだった、そういう色んな人と同じ常識があること忘れてたわ。最近の脳内麻痺ってんなぁ俺(ばなな)。

 

 それよりも、ここまでの流れ分かったのは、桃の新しいフォームはスピードが増して相手に不意打ちをすることが出来やすくなったことだ。しかも桃は筋トレも毎日してるおかげだからなのか、魔法が撃てない状況での物理攻撃でなんとかなりそうだし、結構良いなそのフォーム。

 

 ちなみにこのようにスピード重視な感じのフォームにしたのには理由があったらしい。『あすら』事件の時、小倉が作った爆弾を回避することが間に合わず、フォーム改造中とはいえ『速度不足』がああいう結果を招いてしまったことに気付いたからだそうだ。

 

 まぁ、あの時桃が起きてたらさらに良い結果が生めただろうし、変身して優子の援護をすることができなかったのを悔やむのも、無理もないけどな。

 

 

「シャミ子は大分『戦える子』になってきた。これからの役割はシャミ子の盾であり切り込み役」

 

「桃………………」

 

「……フッ。優子にいつでも背中を預けられるようになったってことか」

 

 

 それはつまり、桃が優子の事をさらに信頼してくれているってことか。その事実になんだか眷属である俺も嬉しく思えてきた。それほどまでの信頼度を得られたぐらいに恋人が成長したことが明らかになったってのが分かったことだしな。

 

 

「……まぁそういうわけで、これが私の新フォーム。シャミ子とおそろっぽくて機動力重視。バランサーな白哉くんとは被ってないと思うし、しばらくこれで修行しようと───」

 

「まてーい‼︎ そのフォームにものもーす‼︎」

 

【やっはろー】

 

 

 なんだこの空気の読まない登場をした奴らは!?

 

 ま、冗談はさておき。まさかこのタイミングでいつの間にか後をつけてきた白龍様とリリスさんが登場するとはな。っていうかなんかデカいゴミ袋が後ろに置かれているんだが。しかも既にたくさんのゴミが入ってるみたいだし。

 

 なるへそ、これだけは分かった。リリスさん、蛟さんに課せられた今日のノルマを白龍様と一緒に達成したんだな。ってか、今まだ昼前だよな? 白龍様が前もってゴミ集めてたのか?

 

 

「ごせんぞに白龍様⁉︎ 何故ここに⁉︎」

 

「つけてきた。このような楽しい場に余を呼ばずして誰を呼ぶ」

 

【彼女は俺っちのおかげでもうノルマ達成したで。俺を褒めやがれ愚民共】

 

「じゃあグミをたくさん投げつけながらでいいのでしたら。愚民とグミをかけたダジャレだけに」

 

【ごめん、冗談だから許してちょ】

 

 

 許してほしいのでしたら、謝る時はきちんと謝ってもらわないと困りますよ。なんかスケッチブックに花とか星とかをたくさん描いて適当な背景を作ってるじゃねェか。許してもらう気ゼロか?

 

 

「シャミ子と白哉には、この戦闘フォームの問題点が分からぬか……」

 

「も、問題点……⁉︎」

 

「現状ではそういうのがはっきりとしたところは見当たらないのですが……?」

 

 

 というかまだなったばかりだし、この時点でここが問題点だと決めつけるのはどうかと思うのですが……戦闘面なら尚更まだそれほどの問題点はまだ出てなんて……

 

 

「……ミカン、拓海、そして奈々よ。おぬしらは率直に言ってこのフォーム、どう思った?」

 

「ん〜……まぁ正直……」

 

「戦闘面は問題無さそう、だけど……」

 

「うん、だよね……」

 

 

 えっ? 三人は既に桃の新フォームに不満があり気なのか? 少なくとも一名は戦闘面では問題無さそうだとは言っていたようだが、これのどこに問題点とやらが……

 

 

「クソダサきこと山の如しね」

 

「無駄な箇所が多すぎる程ダサい」

 

「ダサすぎて猛吹雪を起こしそうだね」

 

 

 あ、ファッション面での苦情ですか。でもいくらなんでも言い過ぎじゃね? ダメ出しするにしても普通に『ダサい』って言うだけでよくね? なんだその呼称らは。

 

 

「⁉︎ 確かにシンプルだけど、そこは別に……」

 

「いやいや、ダサ桃だろう」

 

【ダサダサの実の能力のダサ人間だな】

 

「どのへんが⁉︎ あとなんかその言い方だと、私ただの一生カナヅチなダサい人ってことになるじゃん⁉︎」

 

 

 なんだその悪魔の実ガチャに大負けした結果みたいな言い方は。戦闘面で強化されることの無く一生泳げないとか、最早人生終わってて最悪自殺しかねないことになるぞ……

 

 で、なんで新フォームのファッションがダサいって言うんだ? 俺は別にそのデザインも悪くはないと思うんだが……

 

 

「取っ手つけてたようなフリル、各パーツの色が微妙に噛み合ってないぞ。あと腕の丈感が今の余には理解できない」

 

「腰微妙な長さで垂れてるマントが謎かしら……?」

 

「首に忍者みたいなマフラーを付けて何の意味があるんだい?」

 

「アップリケみたいなのを腕に付けてるけど、それ必要ある?」

 

 

 うわっ、結構な低評価じゃねェか。一から真剣に考えたデザインがそこまでガタガタに言われるのかよ。どんな批判の言葉が出るんだろうなとは薄々考えてはいたけど、あそこまでは予想しなかったわ……

 

 

【あーらら、いろんな方向からダメ出し喰らってボツ案件になってんじゃんwww ハート新たに参上てwww 厨二乙wwwwww ねぇ?♪ 今どんな気持ち?♪ ねぇどんな気持ち?♪】

 

「煽りはやりすぎです」

 

『ハグエェッ⁉︎』

 

 

 あっ、現実世界では喋れない白龍様がここで初めて声を出せた。その一言がアレだったけど。なんでそんな声を出せたのかって? 俺が煽りを止めるために思いっきり踏んづけたからだよ。煽りダメ、絶対。

 

 

「……シャミ子は、どう……」

 

「えっ⁉︎ え……えっと」

 

 

 あっ。ここで優子にフォローをもらってなんとかメンタルを少しでも取り戻せれるようにする気だな。まぁ優子なら滅多に人を否定しないし、フォローは確定する───

 

 

「……ホントは………………ローラースケートが……ちょっと違うかなって………………違うのあるなら、そっちも見たいかも………………」

 

「!?」

 

「………………………………huh?」(猫ミーム風)

 

 

 いっけね、思わず猫ミームネタを口に出してしまった……で、でもこういう反応するしかねぇじゃん。だってあの滅多に人を否定しない優子がダサいと言ってるような類の感想してたんだぞ? そら驚くっての……

 

 

「ローラースケート、早く動けるよ……? 機能的でしょ」

 

「いやあれは走ってるんじゃなくて、ただただ足を滑らせて移動してるだけだぞ。ローラースケートが滑ってるだけだから。あっ、これも否定の言葉になるんだった」

 

 

 やべぇ、うっかり俺も桃の新フォームをディスってしまったよ……言葉選びは難しいぜ……ちょっと間違えるだけでマイナスなイメージの捉え方をされてしまうし、人間関係を崩しかねないからな。

 

 

「……というか、この姿は速度や機能のことを色々考えて……」

 

「機能をより上げてかっちょいいフォームに直そう。今ならまだ間に合うぞ」

 

 

 えっ? もしかしてリリスさんが桃の新しい戦闘フォームを考えるんですか? あのろしゅつまぞくな服を戦闘フォームにしている一族の貴方が? えぇ……

 

 

「………………リリスさん考案の服……かっちょいい、のか……? 拓海、お前リリスさんの考案するカッコいい服のデザインって想像できるか……?」

 

「………………………………人それぞれじゃないか」

 

「今すごい間があったのだが⁉ 何がそんなに不満なのだ⁉︎」

 

 

 色々です。貴方が考案する服がどんなのかとか、カッコ良さや肌の露出度、センシティブの事を考えているのかとか、そんな感じです。

 

 

「コホンッ……まー悪いようにはせん。危機管理フォームを発案した余を信じよ」

 

「あんなろしゅつまぞく服無理だよ!!」

 

「………………むり……あ、いや、別にどのような反応をするのは人それぞれですけど……それに私も白哉さんに求められる前はそんなに乗り気じゃなかったですし、あの場面以外では今でも恥ずかしいですし……」

 

「……あ。シャミ子は別にいいと思うよ、自分が着るにあたって……‼︎」

 

 

 あぁ……その、すまん優子。その件については俺はフォローできない。ぶっちゃけ危機管理フォームから着崩していくのが好きだったから、そんな気持ちを持った奴が一部嘘をついてまでのフォローをしたって嬉しくねェだろうよ……

 

 

「まあ真面目にだ。その魔力外装……頑張って考えたようだが、自分でも不安定さを感じているのだろう。余には分かるぞ」

 

 

 続けてリリスさんは新フォームのテスト中に魔力が暴走してしまう恐れを考慮し、周囲への被害などを防ぐ為に、敢えてこの廃工場で調整を行うことにしたのだろうという指摘を入れてきた。

 

 ……いや、マジで真面目なアドバイスを送ってるじゃんリリスさん。一族の戦闘フォームをコスプレのように楽しめと子孫に勧めた人と同一人物とは思えないな、冗談無しに。

 

 そういえばこの人、魔力外装はその人の魂に合わせたものがいいって優子にアドバイスを送ってたんだっけ。コスプレ扱いして慣れろとか言ってたけど、ああ見えてちゃんと考えて考案したんだったよな。うーん……でも色々と複雑だから素直に讃えられねェ……

 

 で、この後リリスさんは苦手分野があるのなら周りの人達にきちんと頼むようにというアドバイスをしながら、自分は魔力外装の調整は得意だから改めて任せろと言う。

 

 ……アレ? なんか嫌な予感がする。

 

 

「まずは布面積を減らそう」

 

「は?」

 

 

 ホラァ……

 

 

「いや真面目にだ。魔力放出時の排熱性能とスピードが上がる」

 

「あ……そう」

 

 

 ホントかなぁ?(ゴロリ風) ……まぁいいや、とりあえず今は。

 

 

「白龍様、俺が目を塞ぐ手に隙間ができないように、何かで俺の手を覆ってくれませんか?」

 

【えっ? ヤダ。めんどい】

 

「優子以外の女性に目移りしたくないので。そうなる可能性は低いというか、あってはならないことですけどね」

 

【あぁね……やっぱりおけまる】

 

 

 桃がローラースケートから脱がされようとしていたところから自身の目を伏せていた俺の手を、白龍様の翼が覆い隠すように被せてくれた。これでチラッと見えてしまうなんていう恐れはないはずだ。

 

 余談だが、完全に視界が塞がれる瞬間まで、優子が目を手で塞ぎつつも指の間から覗いているのが確認されたんだが。目を塞ぎもしないミカンと奈々さんよりはマシだけど。拓海は思いっきり後ろ向いてるから彼の方がマシだけど。

 

 

「よーし! ベースが出来たぞ‼︎」

 

「……ほんっとうに真面目にやってるんだよね?」

 

「大真面目だぞ‼︎」

 

 

 ……予想的中。真面目にやってるとか言いながら桃を下着姿にさせたんだけどこのろしゅつさせたがり古代まぞく。嫌な予感が的中してよかったぜ……

 

 ってか。

 

 

「なんで手を覆ってくれるのやめたんですか白龍様」

 

【いやもう桃は着替え終わってんじゃん】

 

「下着姿になったのを着替え終わったとは言わねェよ」

 

 

 チクショウこの野郎……‼︎ ろしゅつまぞく服を勧めたがる変態(?)古代まぞくのせいで、白龍様の服装セーフラインがガバガバになりやがった……‼︎ リリスさんこれはどうしてくれるんだよ。

 

 いや待って? ちょっと待って? 露出度の高い衣装(というより下着姿)状態の桃の姿を見てしまったってことは、優子からヤバい嫉妬を受けてしまうのでは……

 

 

「………………白哉さん」

 

「あっはい」

 

「あんなに肌を出した桃って、結構セクシーなんですね……筋トレを怠ってないからでしょうか……?」

 

「あっはい………………えっ?」

 

 

 あ、今は大丈夫な感じ? 桃の筋肉つきの良さに免じて大丈夫な感じ? まぁ確かに筋肉がついていることは良いことなんだけどな……

 

 

「……まぁ、優子が肌を出してもすごくセクシーだけどな」

 

「ピャワァッ⁉︎ えっ、あっ、そ、そうですか……私も、肌を出すとセクシーに……えへへっ……ジュルリッ」

 

 

 いや何言ってんの俺。なんか優子が危なっかしい顔してるし。どんなフォローしたんだよ俺。セクシーに関する話は確かにしてたけど、もっと他にフォローする言葉があるだろマジでさぁ。

 

 

「つよつよハートフルデビル桃フォーム、完成だ‼︎ よーし‼︎ テコ入れ完了‼︎」

 

「うっわえっぐ」

 

 

 なんか喋ってる間に新しいフォームができたみたいだが、一体リリスさんはどんなのを作ったというんだ? 羞恥心を考慮したものだといいが……

 

 首元にピンクのラインが入った赤紫色のリボン。マイクロビキニというか眼帯ビキニみたいな構図の服装。スリット(スカートやドレスなど衣服の裾に入れた切れ目)。ストッキング。ガーターベルト。猫耳に尻尾。へそには悪魔の羽つきのハート型のタトゥーが刻まれていた。おまけに肌色が多いし、なんかテカテカとしてる。

 

 ……いやホント、何これ。なんだこのSMクラブのキャバ嬢(?)が着そうな衣装は。鞭を持ったらホントにそう見えそう。しかも肌を隠せるところが一つもねぇ……こんなの見たら、危機管理フォームの方が数倍マシに見えてしまうのだが?

 

 

【あーダメダメこんなんじゃ】

 

 

 ん? さすがの白龍様も、今の桃のあの格好は見るに堪えなかったのか───

 

 

【さすがにガーターベルトは要らんだろ、ストッキングを下げない仕様にすれば問題ねェから。後そのビキニの生地は重そう。フレアビキニ型がいいって】

 

「フレアビキニ……? あぁ、あのフリル生地の軽そうなビキニか‼︎ それは良いアドバイスだぞ白龍よ‼︎」

 

「え ゙っ。まだ肌面積減らすの……?」

 

 

 違ったわ。桃をさらに恥ずかしい格好にしようとすることに愉しさを感じ始めてやがってただけだわ。悪知恵の働いている笑みを浮かべているし、きっとそうに違いない。

 

 ホラ、実際にフレアビキニにしたら変更前よりよ肌面積減ってるじゃん。胸部が少し見えちゃったじゃん。わざと一般のよりも面積小さくした?

 

 

「いやもっと減らせて火力を上げられそうだな。ビキニの形状を紐状にして乳首の位置だけ隠れてる感じにするか。よりパワーアップできるぞ」

 

【えぇやんそれえぇやん。ついでに背中の上下にもタトゥーを付けちまおうぜ。よりデビル感を出して魔力を溜めやすくするために】

 

「それも良いな‼︎ 余裕があれば羽も付けてみるとしよう‼︎」

 

「ちょっ待っ……」

 

 

 ……うん。さすがにね、あぁいう衣装がだんだん恥ずかしくなっていくものに無理矢理されている人を見ると、そうされている人が優子でも興奮しないな。だって着替えさせられている人が可哀想だもん、全然乗り気じゃないもん。

 

 というか、そろそろやめてもらった方が……

 

 

【もうめんどくせっ☆ 乳首だけ隠すなら紐で隠れちまうとこも出さんと。ハート型のニップレスにしちゃえニップレスに‼︎】

 

「おぉ‼︎ さらに摩擦力が減ってスピード感が増すぞ‼︎ せっかくだから遠距離武器として銃口の形がバイ───」

 

 

 

「いい加減にせんか───!!」

 

 

 

 ふぉぉぉっ⁉︎ 桃が瞬時に闇堕ちして、一秒も経たずにリリスさん踏みつけて白龍様の首をめっちゃ絞めていったァァァッ⁉︎ 色々と好き勝手に露出度高めかつ羞恥心高めな衣装を着せられた不満が完全爆発したァァァッ‼︎

 

 

「あの格好で戦うくらいなら死を選ぶ‼︎ シャミ子はへそしか見てないし‼︎ 白哉くんは腐ったゴミを見下ろしているかのような眼差しを向けてくるし‼︎ あとローラースケートが滑ってるって何⁉︎ 頑張って考えたのに‼︎」

 

 

 顔を真っ赤に染めながら、募りに募った不満を言葉でも爆発させる桃。それほど堪え難いことだったんだな……いや見てるこっちとしても堪え難い感じだったし、無理もないけどさ。

 

 というか俺、腐ったゴミを見下ろしているかのような眼差し……というか苛んでいるかのような目をしてたの? 怖っ……

 

 

【いやホントすまねぇ、調子乗ってた……】

 

「す……すまん……っていうかそこ?」

 

「いやその……二人を止めるべきだったな、ごめん……」

 

「すみません……つい……」

 

「……俺は桃君が叫ぶまでずっと後ろ向いてたから」

 

「……すらっとしててかわいかったわよ」

 

「……せめて後ろが見えないようにマント付ける?」

 

 

 とりあえず俺はなるべく桃にフォローをかけるが、案の定すぐ闇堕ちが解除されるわけがなかった。息継ぎをした後すぐにドラムの後ろに回り込み、その場で座ってしまった。

 

 

ちょうどいいので、魔力を使い果たしてこのまま消えます

 

「柘榴さんヘルーーーーーープッ‼︎」

 

 

 助けてーッ‼︎ 桃がめちゃくちゃ恥ずかしい格好をさせられたせいでマジで消えちまいそうなんですけどーッ‼︎ 柘榴さんホント早く来てーッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 ……はい、めっちゃ焦ってしまいました。五巻以降の原作のどのタイミングで桃が闇堕ちしちまうかなんて、ぜーんぜんっわかんねェんだもん。お願い、察して……

 

 柘榴さんはまだ霊水取りに行ってから帰って来てないってことで、小倉さんにどうすれば闇堕ちが解除されるのか相談することに。機嫌を直せば戻れるらしいが、優子のセカンドフォームも好きだよフォローでも直りそうにない模様……

 

 

「……というか、『闇堕ちフォーム』をそのまま使えばいいんじゃないのかなぁ。動きやすかったんだよね」

 

【バッカおめぇ、アレはダークネスピーチって言うんだぞ】

 

「別に名称はどうだっていいじゃないですか。それよりも小倉さん、闇堕ちのをそのまま使うってどういう意味だ?」

 

 

 闇堕ち桃の事をなんて言うのかの指摘を入れてきた白龍様を軽くあしらい、小倉さんに提案の事を聞いてみた。闇堕ちした時の力をそのまま使ってたら、いずれ魔力切れとかで桃が消えてしまうんじゃ……?

 

 

「魔力外装は本人の心象を武装化したもの。千代田さんのメンタリティが勝手にその形を取るなら、無理してフォーム改造しなくても、闇の魔力の術式をそのまま光属性で使えるよう調整したら……?」

 

 

 ……なるほど、属性を変換しての再利用か。その発想はなかったな。というか属性を変換すればいいのか分からなかったし、そもそも魔力の術式とかそんなの知らんから、考えもしなかったぜ……まぁそういうのは魔法少女なら知ってると思うから、後はそちらで調整してもらえれば問題ないけど。

 

 というか、小倉さんよく知ってるな。魔力外装の事とか、属性の事とか……

 

 

「……金魚さんとお友達になって、いろいろ聞いたんだぁ……」

 

「金魚? あぁ、ジキエルの事か。朱紅玉さんが魔法少女だった頃のナビゲーター………………あっ」

 

 

 そういうことね……察した。ジキエルの奴、捕まって実験の手伝いとかされてそうだなぁ……一体どんな実験の犠牲にされてきたのだろうか……

 

 まぁ原作では朱紅玉さんが引退した後、良子ちゃんを魔法少女に勧誘しようとするために『優子は悪いまぞく』といういい加減なことを言って良子ちゃんの地雷を踏んできたし、その勧誘がしつこかったし、そのせいで小倉さんを呼ばさせてあぁなったもんな。慈悲なんてもんはない。

 

 まぁそれは置いといて。結果、桃は当面ダークネスピーチの姿で行くことにした。あの格好も充分軽そうで戦いやすいし、悪くはないんじゃないかな。それはそうとして……

 

 

「……シャミ子、何してるの? その画面に映ってる二枚の写真は何?」

 

「あっ⁉︎ こ、これは………………先程の下着姿の時の桃と、つよつよハートフルデビル桃フォームの時の桃の写真……です」

 

「お願い今すぐそれらを柘榴のとこに送ろうとしないでッ!!」

 

「ごめんなさいでした送りませんし消しますので角ハンドルやめてッ!!」

 

 

 今はあの二人を落ち着かせてもらうとするか。ってか盗撮すな。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話その35


白哉とシャミ子が二人で料理していた時のこと

シャミ子「ああ──────‼︎ 私の大切なスマホが‼︎ 増えるひじきの汁の中に‼︎」
白哉「……レシピ見ながら料理するにも、スマホを置いてそれを見ながらってのもできただろ」
シャミ子「単純に気づいてませんでした……」
「電源は入ってるけど……このまま使ったら絶対壊れますよね……」
白哉「こいつはテレビで観た豆知識なんだが、まずはそっと電源切れ。そして米と一緒に一日密閉するんだ」
「そしたら米が基盤の隙間に入った水分を吸って、電池のショートが起きる可能性を無くしてくれるぞ」
シャミ子「うぅ……壊れませんように……」
白哉「壊れたらお前にとっては大破産になるからな、直ってもらわないと困る。連絡手段があるのもいいし───」
「待てや。炊き立てのはアカン。熱で逆に壊れるわ」
シャミ子「ですよね。すみません」



Q. どうして桃の新フォームお披露目回に柘榴を同行させないんですか?
A. 別方面で柘榴に見てもらいたいからです


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まちカド短編集!! リコさんの尾行だったりミカンママ案件だったり、桃と柘榴さんの……だったり。

短編集をやるのは初めてだなーってことで初投稿です。

今回は原作六巻の流れに合わせて、番外まぞくの内の三本を同時に載せておきます‼︎ 一度に三話も見れるってなんかお得な気がする(?)‼︎

びゃくシャミのイチャラブ要素がないのは許して……
 


 

 

短編集① まぞくの兄と魔法少女の妹、知り合いの妖狐が大好きなバクの尾行をしているのを目撃する

 

 

 

 それはスカーレット姉妹がデパートへと買い物に行っていた事だった。ブラムのプライベートの服が古くなってかつ少なくなってきたからなのと、奈々が大学のレポートを書くのに必要な材料を買う為だそうだ。

 

 それらを買い終え、多摩動物公園経由の道を通って『本の祭典 スカーレット』への帰路を辿っていた。その動物公園へと差し掛かったところで……

 

 

「いたいた、マスターいたわぁ」

 

「あの……さすがにコソコソしすぎて怪しまれませんこと……?」

 

「っつーか、なにも尾行せんでも……」

 

 

 渋谷ハチ公前ならぬ多摩動物公園たまさくらちゃん前にて、ケモ耳と尻尾のある女性二人と赤髪ツインテールの少女を目撃。が、その内の一人──白い狐の耳と尻尾を持つ女性は知り合いである。

 

 そんな知り合いである彼女が何故この場に……不思議に思ったブラムは。

 

 

「そこの御三方、何をしているのだ? 内二人はお初にお目にかかるな」

 

 

 小声で三人に話しかけた。何やら後をつけているかの様子であったため、こっそりと。

 

 

「ウゲッ⁉︎ い、いや、アタシら本当は怪しいことするつもりはないんやで……⁉︎」

 

「そ、そうですわよ⁉︎ 怪しむのはこのケモ耳だけにしてくださいまし───」

 

「あ、その声はブラムはんやな? 悪いんやけど今は話しかけんでくれん?」

 

「「えっ?」」

 

 

 不審者だと思われているだろうかと警戒し、必死な弁明を試みようとする犬のケモ耳の女性と赤髪ツインテールの少女。が、一方の狐の少女が向こう側を向きながらも知り合いに会ったかのようなノリで話していたため、二人は思わず呆気に取られた声を上げた。

 

 

「こんにちはだなリコ殿。で、君達は一体何をしているのだ? 話しかけるなと言われても気になるのだが」

 

「……アレや」

 

 

 そう言って白狐の女性──『あすら』の店員リコがそのまま指差した方向に、ブラムと奈々は視線を向ける。その方向には『あすら』の店長白澤の姿が。しかし、今の彼はサングラスにポーチバック、そして髪型がソフトモヒカンといった、普段のお出掛けスタイルとしては違和感のある格好をしていた。

 

 そもそもバクが動物園や森の外、ましてや二足歩行で歩いている時点で、普段もクソもないとは思うが。

 

 

「アレって白澤さん? なんであんな変な格好してるんだろう……? いやバクだから格好を変だと思ってるのかな私? ……彼、今何をやっているんですか? リコさんは何か聞きましたか?」

 

「何も……最近マスターの様子がおかしいとは思ってはいたんや。あの格好、明らかにバクの道逸れとるやろ。ウチ怖くて何も聞けへん」

 

 

 不安そうな表情でそう呟くリコ。だが彼女の言う通り、白澤は従来のバクとはかけ離れた格好をしている。二足歩行をしている時点で従来のバクとはかけ離れている点が大きいが、バクに限らずいつもの当人とは異なる格好をした者への疑心を持ってしまうのも無理はない。

 

 

「あぁ……分かります、親しみのある人の変わり様に困るその気持ちは」

 

 

 奈々もブラムの突然の変容を想像してしまったのか、リコの肩をポンッと叩き、同意の言葉を促す。彼女もまた、親しみのある者の突然の変わり様に警戒してしまう者の一人。共感せざるを得なかったのだ。

 

 

「ふむ……白澤殿にしては違和感のある姿だな。特に髪型が。君もそう思うかね?」

 

「えっ。あ、そっすね……確かにソフトモヒカンはあかん。ちょっと疑ってしまいますわ……って、一緒に尾行する気満々やんこの人⁉︎ なんか意識してグラサン掛けとる⁉︎」

 

 

 リコ達と同様に白澤を尾行することにしたのか、ブラムは既にサングラスをクイッと掛け簡素な変装をしていた。そんな彼に赤髪ツインテールの少女──朱紅玉は思わず驚きの表情となり呆気とした声を上げた。

 

 と、その時だった。何かに気づいた犬の魔族──ミトが声を掛ける。彼女の視線の先には男性飼育員と話しかけている白澤の姿が。

 

 

「……あら? よく見てくださいまし。何やらスタッフの方とお話しておりますわ。あとなんか……いつの間にか手には花束が……?」

 

「飼育員さんに告白……ではないよね絶対。相手は男性の方だし」

 

 

 何故彼が花束を持って飼育員と話をしているのか(いつ・何処から取り出したのかは別として)、五人は疑問に思いながら彼の様子を窺う。

 

 白澤はバクにしか恋愛感情を持てないらしいが、バクではない飼育員、しかも男性の前で花束を持ちながら会話をしている様子は疑問に思うことだろう。警戒せざるを得ない。

 

 

「……ちょいと待って? もしかしてマスター……」

 

 

 何やら不吉な予感を察知したリコ。実際に白澤の恋愛感情について直接本人から聞いた彼女だからこそ、彼に恋愛感情を持っていた彼女だからこそ、その予感は察知されるものだ。何故なら……

 

 

 

 白澤は持っていた花束を、園内にいたメスのバクに渡したのだ。

 

 さらにはそのバクにフレーメン反応を見せ、彼女に求愛行動を起こした。

 

 結果、成功。白澤とそのメスのバクは、お互いの持つハートに心を奪われたのだ。

 

 

 

「やっぱり……マスターは園内のバクに惚れとるんや‼︎」

 

「園内のバクって何やの」

 

 

 そしてリコはショックを受けた。南無三。

 

 

 

 

 

 

「人の大切なバクの心盗むなんて泥棒猫や‼︎」

 

「いやバクやろ」

 

「そもそもリコ殿の物では無かろう? 『あすら』の料理が好きな客は白澤殿が好きなのと同じであるからな」

 

「それもないとは思うんだけど?」

 

「ムグムグ」

 

 

 その日。スカーレット姉妹一行は現在の通り、夕方からバーにてテキーラなどの酒を自棄飲みしているリコの愚痴に付き合うことになった。ミトは食べることに集中してしまう癖で全く耳を傾けていない様子だが。

 

 昔から好意を寄せていた男性が他の女性に心を奪われた。その自分の恋心を抉られたかのような現場に居合わせてしまえば、愚痴の一つや二つは吐かずにはいられないのも事実だ。今がその状況に当たる。

 

 が、しかし。

 

 

「ブラムはんの言うことも事実やけど、ウチがマスターを先取りしたのも事実やん‼︎」

 

「違うだろう」

 

「実質ウチのやん‼︎」

 

「それはないですよ?」

 

「ウチのもん勝手に取るなんて酷ない⁉︎ 犯罪や‼︎ 窃盗や‼︎」

 

「貴方も過去に同じことしてましたわよ」

 

「せやな……ってアンタはそこだけ地獄耳立てんなや」

 

 

 その愚痴の大半がただの思い上がり。大半がブーメラン発言。白澤がリコにしてきた事を好意のあるものだと勘違いしていたらしく、その上に過去に朱紅玉の誕生日プレゼントの中華鍋を持っていってしまった窃盗行為がある。かけられる同情は少ないものであった。

 

 だが、そんなことはお構いなしに……

 

 

「けもの出身やから人の心ゼロなんや‼︎ 人でなしの擬人化や〜〜〜〜〜〜‼︎」

 

「「「………………………………」」」

 

「………………ボケとるんよな?」

 

「なんで?」

 

 

 リコ、とんでもない特大ブーメランをかます。この発言に朱紅玉が呆気に取られた顔でツッコミ、他三人はバツが悪そうな感じにそっぽを向いてしまった。

 

 同じ獣。悪意の無い悪意。心身ともに擬人化した存在。自分がどのような存在であるのかを語っておいて何処がブーメラン発言ではないのやら。

 

 と、ここでブラムが大きく溜息をつき、カクテルを少量口に流し込んでからリコの方に顔を向け、酒気の混じった吐息を出しながら口を開く。

 

 

「……あまりリコ殿を否定したくはないが、それは君の行いが悪かったからああなったのだと思うぞ。人の気持ちに気づかず……というよりは空気を読むことが出来ず、自分のやりたい事だけを押し付けてしまえば、叶えたいものも叶えられぬぞ」

 

 

 ブクッ。思い当たる節があったのか、奈々はコーラを飲んでいたストローから大きな泡を吹き出してしまった。ブラムが先程リコを説教するために使った言葉が、あまりにも彼にとってのブーメラン発言となっていたからだ。

 

 そして、徐に呟いた。

 

 

「………………兄さんもボケてない?」

 

「何故だ?」

 

 

 白哉君と初対面だった時の事を思い出してよ、奈々は心の中でそう思いとどまった。あらかじめ本人に気づいてもらうべきだと察したからだろう。

 

 

「……そやな、ブラムはんの言う通りやからああなってしまったんよな。ウチ……大切な物盗られる時の気持ち、やっとわかった。これからはマスターが求愛顔をしてくれるメスになるよう頑張るの。群れで生きる」

 

「でも白澤さんはバクしか───」

 

「やめやミト、リコの気持ちのためにもステイや」

 

「アッハイ」

 

 

 人の心を理解するという意思を示すリコ。そんな彼女に無意識な水を差す言葉を出そうとしたミトを、朱紅玉は焦った表情で待ったをかける。これ以上リコの心を抉るわけにはいかないという、彼女なりのフォローだろう。

 

 

「……ま、理解できたからと言ってすぐに改善点を実行できるものではないのも事実だからな。気長に変わってゆくしかないぞ」

 

「………………兄さんも身近な人の恋心に気付けるようになってほしいなー……なんて」

 

 

 また徐に呟いた奈々の言葉は、ブラムに当てられたものだが彼の耳には届かなかった。否、届かないようギリギリ小さくない声で呟いており、敢えて聞き取りにくいようにしていた。本音を当の本人に聞かれるということに恥じらいを感じているからだろう。

 

 この後、リコが話を聞いてくれたことに礼を言いながらマスター()カードで会計しようとして四人全員にツッコミを入れられることになるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

短編集② ミカンが周囲からウガルルのママと認識され、拓海もウガルルのパパ認識されようとしてる件

 

 

 

 それは、白哉・シャミ子・杏里の三人が買い物に出掛けてようとばんだ荘で待ち合わせした時の事だった。

 

 

「……で、いつの間にかウガルルがいなくなっていたわけか」

 

「そうなのよ。いなくなる前に何かに声を掛けていたかのように聞こえたのは確かなんだけど……」

 

 

 ばんだ荘の門番(というか周りを掃き掃除していた)ウガルルが突然いなくなってしまったらしく、それに気づいたミカンが偶然鉢合わせた三人に彼女を捜してもらうように頼み込んでいたところだ。

 

 自分の仕事をこなすまでの間やミカンの指示以外で一人でに動くことがあまりない彼女が、突然ばんだ荘からいなくなってしまったのだ。不穏な気分になるのも無理はない。

 

 もしや誘拐されてしまったのではないか。ウガルルには戦闘能力があるのだから問題の無いことだろうが、その可能性も捨てられないものだ。益々ウガルルの身が心配となる。

 

 と、その時。シャミ子の呼ぶ声が聞こえてきた。

 

 

「白哉さん〜、ミカンママ〜。ウガルルさんが土管に嵌って動けなくなってます」

 

「ママじゃねぇゆーとろーが‼︎ どうしてそうなったのよ‼︎」

 

「……ってゆーかそこにいるってことは、案外ばんだ荘から離れてなかったのか」

 

 

 シャミ子の元へと駆けつけてみたところ、ウガルルは小さな土管に顔どころか上半身すっぽりと入れていたようだ。出してあげたところ、ウガルルは雑草まみれの子猫を抱えていた。どうやら子猫を助けるために土管の中に入ったらしい。

 

 

「ミカンママ。ウガルルを風呂に入れてやれよ」

 

「ミカンママ。もっと可愛い服着せてあげたら?」

 

【ミカンママ草wwwwww】

 

 

 白哉と杏里、悪気も煽る気もない煽りでミカンにウガルルを娘のように接するべきだと促す。そして本気でミカンを煽った白龍はこの後白哉に絞められた。

 

 ※この後ウガルルが助けた子猫はばんだ荘みんなでお世話することになりました。

 

 そしてショッピングセンターにて、ミカンがウガルル用の子供服を見ていたところ。

 

 

『多摩市からお越しの陽夏木ミカンさん。陽夏木ウガルルちゃんが三階の迷子室でお待ちです』

 

「えぇ………………」

 

 

 まるで、というよりもミカンがウガルルの母親であるという認識をアナウンスにされてしまう。仕方ないとのことでそのアナウンス通りに迷子室に来たところで……

 

 

「あ、来た来た。こっちだよミカンママー」

 

「ミカンママよ、親よりも親ではない我々に先に迎えに来れないのはどうかと思うぞ」

 

「ミカンマ……陽夏木さん、ウガルルの面倒を見るならきちんと責任持って側にいないといけないよ」

 

「今、拓海もミカンママって言おうとしなかったかしら……?」

 

 

 何故か同じショッピングセンターにいて、何故かミカンよりも先にウガルルのところに来た拓海とスカーレット姉妹に、ウガルルの保護者としての自覚を持てと怒られてしまう。

 

 ちなみにウガルルが迷子になった理由としては、ショッピングセンターに初めて来たことによる緊張でうっかり逸れてしまったとのこと。初めての出来事に頭の回転や理解が追いつかないのも致し方ないものだ。

 

 余談だが、ウガルルを迎えに行った後。

 

 

「ミカンママ〜。マスターが怒っとるんやけどなんでやろ?」

 

「ミカンママ。この服の組み合わせどう思う?」

 

「貴方達のお守りはしないわよ?」

 

 

 桃とリコにも大抵悪ノリな感じでミカンママ呼びされてしまう。この後お守りしないとか言いながら、二人の面倒もある程度は見ることになったのだが。

 

 ここまでの流れからして何を伝えたかったのかというと、ミカンは既に完全に周りからウガルルの母親として認識されてしまい、ミカンはそれに困っているということだ。

 

 ウガルルが元・使い魔であるということもあって一緒に住まわせているからという理由もあるが、ミカンはウガルルに飽き足らず様々な人の面倒も見ることがよくある。そのためミカンママ呼ばわりされてしまったというわけだ。

 

 それによって生まれた彼女の悩みがもう一つ。

 

 

「えっと……なんで拓海まで私達に同行しているのかしら? 貴方、確か買い物を終わらせたんじゃなかったの……?」

 

「なんで一緒かって……決まってるじゃないか。俺も……というか俺はウガルルの親だからね。子供の身の安全を確保することが母親・父親に関係なく、親の役目であるからね」

 

 

 ミカンがママ呼ばわりされる度に、拓海がその分だけ身を張ってウガルルのパパであることを言い張ってくるのだ。その日にではなくても、翌日以降には彼は必ずそのような行動を起こしてくる。理不尽といった形でだ。

 

 最初は誰も拓海のことをウガルルの父親と認識されることはあまりなかった。だが今では……

 

 

「拓海、本当ニオレの靴下とかを買ってもらってもいいのカ?」

 

「構わないさ。子供に必要な物を買ってあげるのが親の役目であるからね。それにメインとなる服じゃなかったら、どれもお安い御用な値段だからね。それにそうじゃなくても、俺は買ってやりたいって思ったらそうしようとする性分でもだから」

 

「んがっ……!! 拓海、ありがとウ!!」

 

 

 最近では、拓海はいつもよりもよくウガルルに懐かれていることが多い。

 

 それだけに飽き足らず。

 

 

「おぉ拓海じゃねぇか……ん? ………………お前、なんか父親感が板についている気がしないか?」

 

「拓海くん、本当にウガルルさんのパパになっている気がしますね……」

 

「おー拓海パパじゃん、よっすよっすー」

 

「……フフッ、何度でもパパと呼びたまえ」

 

 

 周囲からも拓海のことをウガルルの父親であるという認識をされているらしい。無論、その事実に本人は喜びを覚えているため満更でもない……というよりも寧ろ歓喜している様子だ。

 

 一方、ミカンの方はというと。

 

 

「……嬉しいのか切ないのか、どう思えばいいのか分からないわね」

 

 

 喜ぶべきなのか、はたまた怒りに震えるべきなのか。複雑な感情で悩まされていた。

 

 ミカンは拓海がウガルルの父親という認識を否定していない上、彼に対して好意を抱いている。だがしかし。自分は実際にはウガルルの母親ではない上、拓海も実際ウガルルの父親ではない。何しろ拓海は、ウガルルの親は自分だけで充分だという、謎の譲らない姿勢を持っている。

 

 どういうことかお分かりだろうか。ミカンが拓海の事をウガルルの父親だと認めてしまえば、自分もウガルルの母親だという認識を認めなければならない。だがそれ以前に、拓海がそれを認めようとしないのだ。複雑な感情を持ってしまうのも無理はないのだ。

 

 

「(……って、いやいや。認めたからってなんだって言うのかしら。それで進展があるとは限らないんだし……というかさっきから一体何を考えてるよ私……)」

 

 

 迷走している自分に苦笑するミカン。ああいう認識があるからどうなるのか、などといった想像があったからといって大きな変化があるとは限らない。その事実を思い出しての苦笑だろう。そうする分だけ虚しく感じるようだが。

 

 だが。

 

 

「……オレ、ミカンと拓海の側安心すル。オレ、ミカンも拓海も大好きダ。ミカンと拓海、本当ニオレのママとパパかもしれない……」

 

「「………………‼︎」」

 

 

 ウガルルのこの発言により、吹っ切れた。しかも二人揃って。ミカンは照れくさそうに、拓海は悲願が叶ったことへの喜びで。

 

 

「パパ……‼︎ ウガルルちゃん、俺の事をパパと認めてくれたんだね……‼︎ パパは嬉しいよ……‼︎ 唯一の親って認識じゃないのがちょっと悔しいけど」

 

「も〜……そんなに言うなら、たまにママって呼んでもいいわよ……拓海がパパか……やっぱりいいわね……フフッ」

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の夜。ミカンはつぶやいたーにて以下のツイートを上げていた。

 

 

 

ミカン:家族ができました♡

    付き合ってすらいねえけど(笑)(笑)(笑)

    [拓海とウガルルの顔をスタンプで

     隠したスリーショット写真付き]

 

 

 

 翌日、彼女のスマホから両親や担任からの留守電が三桁もある回数発生した。

 

 さらには、拓海が自身の両親を引き連れ……

 

 

陽夏木さん……こんな下手したら炎上しかねないツイートをして、一体何が目的なんだい?

 

「す、すみませんでした……」

 

 

 影を落とし圧のかかった笑顔を浮かべ、ツイートに関することへの追求をしてきた。というよりは問い詰めてきた。かなり激怒しているらしく、ミカンは彼に対して土下座する以外の選択肢はなかった……

 

 ちなみに拓海の両親はただ拓海について来ただけであって、説教には参加せず少し離れた位置で拓海の説教を観戦していたのだった。いつミカンが拓海の妻になるのかという温かい目はしていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

短編集③ フレッシュピーチ、ついに好意を寄せている同じパワータイプの幼馴染と……?

 

 

 

「………………んんっ……? あ、あれ? 私、こんなところで何をしているんだろう……?」

 

 

 魔法少女・千代田桃は今、睡眠から目を覚ましてすぐに違和感を感じ始めた。ソファに横たわって寝ていたはずだというのに、今の自分は横たわっておらず只々その場に立っていた。寝ていた途中に目覚めた記憶もなければ、身体を起こした実感もない。なのに何故起きた時には立っている状態でいるのだろうか、そんな疑問を過っていく。

 

 刹那、桃の脳裏に新たな疑問が。

 

 

「……ちょっと待って? 私、いつから寝ていたんだっけ……? 寝るまでに何があったのかが思い出せない……」

 

 

 そもそもいつから寝始めたのか。その前に何をしていたのか。ここまでに自分が何をしていたのかすら不思議と思い出せずにいた。先程まで何をしてきたのだろうかと戸惑いを感じながらも、桃は辺りを見回してみることにした。

 

 今彼女が立っている場所は、何故か自分の部屋ではなく結婚式で使われていそうな、西風の純白とした会場だった。しかし桃は結婚式会場に来たことが無い。ならば何故この場所に立っているのだろうか。何かしらのトラブルかドッキリ企画に巻き込まれてしまったのだろうか、そう考えていると……

 

 

「………………………………えっ⁉︎ な、何この格好⁉︎」

 

 

 ふと自分の姿を見れば、衣装そのものが変化していたことに気づいた。

 

 

 

 今の桃が着ている格好は寝巻きのものではなく、純白で清廉としたウェディングドレスだった。しかも両手にはいつの間にか桃色の花束を抱えており、完全なる花嫁の衣装となっていた。

 

 

 

「(な、なんで⁉︎ なんで私こんな格好をしているの⁉︎ 私、寝始めた時の記憶すら思い出してないけどさっきまで寝ていたよね⁉︎ なのになんでこんなことになっているの⁉︎)」

 

 

 顔を真っ赤にして困惑する桃。寝る前の記憶の有無すら危ういというのに、何故自分は結婚式会場のような場所で、花嫁衣装でこの場に立っているのだというのか。状況の整理と記憶の掘り起こしを試みようとした、その時だった。

 

 

「桃、おめでとうございます‼︎」

 

「⁉︎ シャミ子……⁉︎」

 

 

 突如聞こえてきた、宿敵かつ親友であるシャミ子の声。そしてはっきりと彼女の口から聞こえた、『おめでとう』という言葉。それらが桃を驚愕させ、状況の整理をするための頭の回転を止める。

 

 不意にシャミ子の声がする方向へと振り向けば、そこにはお呼ばれドレスの格好をしたシャミ子が。そして……

 

 

「おめでとうな、桃」

 

「桃、おめでとう‼︎」

 

「ちよもも幸せになれよー」

 

「桃君おめでとう‼︎」

 

『おめでとう‼︎』

 

『おめでとう‼︎』

 

『おめでとう‼︎』

 

『おめでとう‼︎』

 

「えっ? えっ……えっ?」

 

 

 白哉やミカン、杏里や拓海といった知り合い達も集まっており、何やら桃の事を祝福しているかのような言葉を掛けてきていた。自分を祝福してきて何事なのか、そんな戸惑いを感じている中で。

 

 

「……綺麗だよ、桃」

 

「………………ッ⁉︎」

 

 

 義姉・桜の次に聞き覚えのある、よく聞いていた声。その声が近く、一番近くから聞こえてくる。もしやと思ったのか、桃が正面へと振り向けば……

 

 

 

 そこには、彼女の幼馴染でこれまでに好意を寄せてきた男性・柘榴の姿が。しかも白いタキシードを着こなしており、結婚式の新郎であるを証明しているような姿で桃と向き合っていた。

 

 

 

「えっ……⁉︎ ざ、柘榴……⁉︎ な、なんで……⁉︎」

 

「……やっと、この時が来たんだね」

 

 

 何故柘榴がタキシード姿で自分の目の前に現れたのか困惑する桃に対し、拓海はそんなことなどお構い無しにと彼女の顎を軽く持ち上げ、自分との視線を無理矢理合わせてきた。これにはさすがの桃も再び顔を真っ赤にする他なかった。

 

 

「……君はずっと、僕に想いを寄せていたんだよね? 僕はそれにずっと気づいていた。それは僕も同じ。でも、本気でその想いを伝えることは、恥ずかしかった。だから、あの時までずっと告白できなかった」

 

「えっ? えっ……えっ⁉︎」

 

 

 何故自分の好意がバレたのか。そして柘榴も本当に自分に恋愛感情を持っていたのか。桃はその様々な疑問と受け入れ難い事実にさらに困惑し、目をグルグルと回してしまう。

 

 

「……でも、もうこの想いは隠さない。君にも隠させない。お互い、愛を打ちつけあっていこう」

 

 

 そう言いながら微笑みを浮かべ、そっと自分の顔を桃に近づけ始めた。顔と顔が近づき、重なる可能性があるとすれば……この後に何が起こるのかは、ただ一つだ。

 

 

「ま、ままままま待って⁉︎ ま、ま、まだ心の準備が……⁉︎ ちょっと、待って、本当に……ッ‼︎」

 

 

 それに察することが出来ない程、桃は気の抜けるタイプの女性ではない。しどろもどろな様子で柘榴に待ったをかけるが、本人は彼女のそんな制止を無視して顔を重ねようとする。

 

 そして、唇と唇が触れようとして───

 

 

 

 

 

「待って待って待って待ってホント待ってああああああああああああっ‼︎ ………………って、あれ?」

 

 

 気が付いた時には、桃はガバッとソファから起き上がっている状態だった。場所は結婚式会場ではなく自分の部屋になっており、服装も花嫁衣装ではなく寝巻の衣装となっていた。無論、近くには柘榴もおらず、周りにシャミ子どころか他の人もいない。

 

 

「え、えっと……こ、これって、まさか……?」

 

 

 結論、桃が先程まで体験していた結婚式は……彼女が寝ている間に見てきた夢であった。

 

 

「………………~~~~~~!?」

 

 

 顔を真っ赤にし、思わず掛け布団を被り真っ赤な顔を隠す。誰も今いないことに関係なく、羞恥心を落ち着かせるために。

 

 

「ゆ、夢……⁉ さっきまでのは、全部夢……⁉」

 

 

 何故自分は柘榴と結婚する夢を見たのか、何故心の何処かで望んでいたことを夢として見てしまったのか、その理由や可能性を整理してみた結果……

 

 

 

 

 

 

「シャミ子!! あんな良かれと思って友情ごっこしてきた裏切りの皇が手を叩いて喜びそうな夢を見せつけて、一体どういうつもり⁉︎ シャミ子はよこしままぞくだったんだね!!」

 

 

 シャミ子が仕掛けたことによって見ることになった夢であるという結論に至った。シャミ子には夢魔の能力を持っているため、その可能性があると断定したようだ。

 

 が、しかし。

 

 

「え……? 昨日はミカンさんの誕生会で、徹夜でゲームしてました」

 

「みんなでピザ食べてたわよ」

 

「っていうかもう朝になってたのか。清子さんと良子ちゃんと杏里以外みんな起きてたから気が付かんかったぜ」

 

「……え? あ? そうなの? ならいい」

 

 

 予想は完全に外れてしまった。どうやらシャミ子達は朝までゲームをして起きていたらしく、夢魔の力を使用していた気配は一切なかったようだ。

 

 自分の予想が外れて呆然とし、その恥ずかしさが歪に強かったのか虚な表情を浮かべる桃。シャミ子によこしままぞくとは何か、たてじままぞくもあるかというピュアな質問をされたことでその感情はさらに増してしまった。

 

 

「……ていうかミカンの誕生会してたの? なんか昨日の記憶が曖昧だったんだけど……」

 

「無理もねぇよ、お前はジュースと間違えて柘榴さんが飲んでいたチューハイ飲んで、たったの一杯で一発K.Oしちまったんだから」

 

「あっ……そ、そうなんだ……」

 

 

 ここで記憶が飛んだことに関する真相が発覚。どうやら桃もミカンの誕生会に参加しており、その時に柘榴が飲んでいたアルコール飲料をジュースと誤って飲んでしまったようだ。そして桃はアルコールの耐性がかなり弱く、一杯飲んだだけで気絶してしまったらしい。

 

 自身のうっかりで白哉達に迷惑をかけてしまったことに自責を感じる中、桃の脳裏に新たな疑問が過る。

 

 

「………………あれ? じゃあお酒を間違えてお酒を飲んで倒れてしまった私を、部屋まで運んでくれたのは……?」

 

「柘榴さんだよ。他の参加者は彼しかいなかったしな。お前を運んだ後帰ったのは、あらぬ誤解を防ぐための措置だろうな」

 

 

 刹那、桃の思考は再び停止した。

 

 

「………………………………えっ? じゃ、じゃあ私、柘榴に寝顔を見られた……ってこと?」

 

 

 寝ていた自分が、好意を寄せていた幼馴染に運ばれた。少なくとも(ベッドは自分の部屋に無いため)ソファで寝かしつけられるまで、ずっと彼が近くにいた。これらが意味することは、そういうことだ。

 

 

「くぁせdrftgyふじこlpくぁせdrftgyふじこlpくぁせdrftgyふじこlpくぁせdrftgyふじこlpくぁせdrftgyふじこlp」

 

「ちょ、桃ォーッ⁉︎ 走りながら思いっきり色々なところにぶつかりまくってますが大丈夫ですかー⁉︎ そしてめっちゃフラフラーッ‼︎」

 

 

 再び、というよりは今日以上の濃さで顔を真っ赤にした桃は、その羞恥心で周りを見ずに走ってそのまま自分の部屋へと直帰し(シャミ子の言う通り様々な箇所に衝突しながら)、寝落ちするまでソファの上で掛け布団を羽織りながら悶絶するのだった。

 

 




おまけ:台本形式のほそく話

……は、今回はあろうはずがございません。今回のはほそく話の厳選みたいな感じだからね。


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