ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい (えにぃ)
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(閲覧自由) 【DQⅧ未プレイ者向け】設定資料集

アンケートを拝見していると意外と原作を知らない方もこの小説を閲覧してくださっていることが分かって驚きました。私自身、転生二次小説は原作との乖離を楽しむのも一つの醍醐味かと思っていますので、ここにドラクエⅧの世界観とストーリー概要、キャラクターの説明を少しずつ書いていこうと思っています。閲覧必須というわけではないので気楽にどうぞ。本作キャラとの違いも書いたり書かなかったりしようと思います。


説明の際、「原作」がドラゴンクエストⅧ、「本作」がこの小説の世界だと思っていただければ大丈夫です。本作のネタバレはできるだけ控えますが、原作のネタバレはしまくるのでご注意ください。


随時更新予定です。更新後は最新話の前書きでその都度お知らせします。

町や城・ダンジョン、キャラクター像を更新しました。2022/09/30
町とキャラクター像を更新しました。2022/10/04
町・ダンジョン、キャラクター像を更新しました。2022/10/19
町や城・ダンジョン、キャラクター像を更新しました。2023/03/14
町や城・ダンジョンを更新しました。2023/11/19
町や城・ダンジョン、キャラクター像を更新しました。2024/04/24








ドラゴンクエストⅧ

 

キャッチコピー

「見渡す限りの世界がある。(PS2)」「声をあげて、冒険が生まれ変わる。(3DS)」

 

ストーリー概要

世界に三つある王国のうちの一つ、トロデーン王国に主人公は兵士として働いていた。しかしある日城にドルマゲスという道化師が現れ、城に封印されていた絶大な魔力を持つ秘宝の杖を盗み出してしまう。ドルマゲスは手始めに杖の魔力でトロデーン城をイバラで覆い、国民を全てイバラに変え、姿を消す。一命を取り留めたのは呪いを弱める結界の中にいた王と姫、そしてなぜか呪いが効かなかった主人公のみであった。王は魔物の姿に、姫も馬の姿に変えられたため、呪いを解くために憎きドルマゲスを追跡することになる。だが、実はドルマゲスは杖に触れた時点で正気を失い、杖に操られるままに全国を回り特定の人物を殺害していた。杖の正体ははるか昔に七人の賢者によって封印された闇の世界の神ラプソーンであり、杖の持ち主を魔力で操って賢者の末裔を殺させて賢者の血を絶やし、封印を解除して完全復活を遂げることを目論んでいたのだ。全ての元凶であるドルマゲスを闇の遺跡にて撃破し、暗黒神の野望が明らかになったのち、主人公一行は暗黒神の復活を阻止すべく奔走する。

 

 

重要設定

 

・ドルマゲス(原作)

全ての元凶。幼少から他人に笑いものにされながら育ち、自分を笑ってきた者たちを見返すために高名な魔法使いであるマスターライラスに数年間師事するも、魔法を学ぶことは成らず、トロデーン城に封印されている杖のことを知って強く惹かれ、杖を盗み出して国全体を呪いに閉じ込めるという凶行を犯す。(皮肉にもその時は笑いものの象徴である道化師の姿で城に潜入した。)その後は師であるマスターライラスを殺害して家を焼いたことを皮切りに、ゼシカの兄であるサーベルト、ククールの育ての親であるオディロ院長、カジノのオーナーであるギャリングなどの賢者の末裔たちを次々と殺害していく。(この仇討ちのためゼシカとククールは主人公たちと行動を共にするようになる)最期は暗黒神復活のために建造された闇の遺跡で主人公たちと対峙して敗北、石化して砕け散る。魔法の才は最後まで全く開花しなかったが、肉体や頭脳のスペックは非常に高い。口癖は「悲しいなあ…」

 

・ドルマゲス(本作)

ドラクエⅧをプレイしたことのある青年がマスターライラスに師事し始めた頃のドルマゲスに憑依して生まれたこの世界の異分子。ドルマゲス自身の記憶は無いため自分を笑ってきた人々を見返すような野望は無い。転生してからしばらくして初めて命の危機に遭遇し、以降甘えた心を消し去って生存のための鍛錬に余念がない。彼にとって魔法は強くなる手段のための一つに過ぎず、原作ドルマゲスの様に魔法が使えない現状に絶望するようなことはない。恵まれた頭脳と肉体を駆使してこの世界で楽しく生きるために頑張っている。手品や料理が得意で、道化師という言葉を気に入っている。楽しい毎日を終わらせようとする原作開始イベントからは逃れられないと悟り、立ち向かうさなかで魔法の才を開花させ、魔法使いとなった。原作開始後は、ラプソーン撃破のためのヒントを得るために各地の賢者の末裔たちを訪ねる旅に出る。魔法と呪術を操って相手を翻弄する戦術が得意。

 

・七賢者

はるか昔、闇の世界の勢力から光の世界を守るため暗黒神ラプソーンに立ち向かった七人の人間。戦いの末に暗黒神を滅ぼすことは叶わなかったが、魂を神鳥の杖に、肉体を大岩に封印することに成功する。杖は三つの王国のうち最も平和なトロデーン城の宝物庫に封印し、岩は人々が邪険に扱うことが無いように女神像に形を変えて聖地ゴルドに安置した。そして賢者の血が絶え杖の封印が解き放たれてしまうことを防ぐため、七賢者は子孫に対し、血を絶やすことの無いように強く訴えかけた。(が、ほとんどの賢者が子孫を残そうとしていない)

 

 

町や城・ダンジョン

 

 

【北の大陸】

 

─トラペッタ地方─

 

・トラペッタの町

周囲を大きな外壁で囲われており、広場エリアと住宅地エリアに分かれているDQⅧの世界では比較的大きな町。主人公たちが最初に訪れる町でもある。トロデーン国領に分類されるはずだが、トロデーン城の事を知らない町民がいたりするので、もしかしたらトラペッタという自治市なのかもしれない。魔物に対する偏見があり、外壁は魔物を確実に侵入させないために作られたと考えられる。

 

・滝の洞窟

トラペッタの町からまっすぐ行ったところにあるやたら広い洞窟で、DQⅧ最初のダンジョン。洞窟の中には人間の商人や、ヘタレの「おおきづち」、人間の言葉を話す「スライム」がいる。本作ドルマゲスさんはおおきづちとスライムどちらに師事するか迷ったが、おおきづちはヘタレで尊大だったためスライムに決めたという。ボスはザバン。

 

─リーザス地方─

 

・リーザスの村

リーザス地方にある小さな村で、勇者たちの仲間である魔法使いゼシカの故郷。リーザス地方の領主であるアローザ・アルバートが住む大きな邸宅があり、この村の歴史は100年ほどという比較的若い村。主人公が二番目に訪れる村で、レベル上げのためにお世話になることが多い。ポルクとマルクという二人のやんちゃな少年がいる。

 

・リーザス像の塔

リーザスの村から進んだ先にある大きな古代建造物でDQⅧ2つ目のダンジョン。リーザスの村民のみが塔への入り方を知っており、年に一度の「聖なる日」に村民全員でお祭りを行う宗教行事が行われる。塔には「じんめんガエル」など凶悪な魔物が住んでいるが、「聖なる日」には魔物がいなくなるらしい。主人公が挑む二番目のダンジョンで、回転扉やカギのかかった扉など複雑なギミックがある。原作ではこの塔に三回も登ることになる。ボスはいない。

 

・ポルトリンク

リーザスの村の南西にある港町。アルバート家の命で定期船を出している。しかし海の魔物などの影響によって欠便になることもしばしば。色んな野草をランダムに売ってくれるお姉さんや、何故かやたらスキルに詳しいお姉さんがいる。

 

─トロデーン国領─

 

・トロデーン王国

トロデが治めていた国で、三大国の一つ。勇者はここで生活しており、トロデの娘ミーティアとは幼少期からの仲だった。平和で美しい国だったのだが、魔性の道化師ドルマゲス…ひいては復活を目論む暗黒神ラプソーンの手によってイバラに包まれ亡国と成り果てる。たくさんの情報を手に入れることができ、勇者たちは「船」の情報を求めてこの城へ舞い戻ってくる。DQⅧ6つ目のダンジョンで、「はぐれメタル」が登場するためここに籠ったプレーヤーは数知れず。

 

 

【南の大陸】

 

─マイエラ地方─

 

・船着き場

ポルトリンクから出る定期便が発着する波止場。ただの荷上場だが様々な店や宿屋があるなど活気があり、色々な種類の人間がいる。正直後述するドニの町よりも発展しているので地名をつけて港町にしても良いと思う。勇者たちが錬金釜を手に入れるイベントがあり、意外と記憶に残る場所でもある。屋上には四六時中マイエラ修道院を監視しているお姉さん(ストーカーともいう)がいる。

 

・ドニの町

マイエラ地方にある小さな宿場町。勇者たちの仲間である僧侶ククールの生家があった場所。建造物が酒場・宿屋・教会の三つしかないめちゃくちゃ辺鄙な場所だが、酒場が有名な影響なのかなかなか活気はある。ククールと初めて出会うイベントが発生するのがここ。

 

・マイエラ修道院

船着き場とドニの町の中間地点を流れる川の中州という変な場所に建っている修道院で、ククールの育った場所。聖地ゴルド、サヴェッラ大聖堂と並ぶ三大聖地の一角であり、毎日多くの参拝客が訪れる。修道士たちの学屋であると同時に聖堂騎士団の本拠地でもあり、周辺の警護を行っている。院長のオディロが聖人だからギリギリ存在を保てているほど内部は腐っている。聖堂騎士団の項を参照されたし。

 

・旧修道院跡地

とある伝染病の蔓延により放棄されたかつてのマイエラ修道院の廃墟でDQⅧ3つ目のダンジョン。修道院なのに何故か地下に施設がある。マイエラ修道院は変な立地に建設する縛りでもあるのだろうか?中世の墓地宗教施設(カタコンベ)を意識しているのかもしれない。現在も病原菌が生きているのかは不明だが、取り壊されることなく現在までその凄惨な状況を保っている。内部はゾンビ系の魔物や「ハエ男」が、さらに毒や屍が多く配置されており酷く不潔な雰囲気となっている。ボスは「なげきの亡霊」。

 

─アスカンタ国領─

 

・アスカンタ城

アスカンタ王国を治めるパヴァン王とシセル王妃が住まう城。トロデーン、サザンビークと並ぶ三大国の一つではあるが、他の二国に比べて規模は小さく、トロデにも弱小国扱いされている。しかし王城周囲を断崖絶壁で囲まれているため、国防の観点から見ると立地は良好と言えよう。王室小間使いのキラを始め、アスカンタ国民は原作において二年間も喪に服して政治を放棄した王のパヴァンに対し不満の一つも漏らさず心配し続ける聖人の集まりであり、民ガチャランクSSSの王国でもある。

 

・願いの丘

アスカンタ地方に伝わるおとぎ話の舞台として存在する丘陵地であり、DQⅧ4つ目のダンジョン。アスカンタ王国の喪を明けさせるために訪れる。道のりは大して長くはなく、ボスもいないが若干敵がめんどくさい。あと入り口が見つけにくい。頂上で夜が更けるのを待っていると、一度だけとあるイベントが発生する。

 

・モグラのアジト

アスカンタ城の北部に広がる『モグラの生活地域』にある、DQⅧ6つ目のダンジョン。来るのは「願いの丘」をクリアしてからもう少し後。その名の通りドン・モグーラ率いるモグラの盗賊団が根城にしている領域で、人語を解する賢い魔物も多い。主に「いたずらもぐら」「キラースコップ」が生息し、番犬用の「マッドドッグ」も多い。モグラがスコップ一本で掘り進めて作ったダンジョンのため、複雑な作りはしていないが非常に広い。アスカンタでのイベント終了後に行くと「おおめだま」が移住を考えているものの、彼曰く「いい物件だが、家賃が高い」という。何でもないイベントのように見えるが、魔物の中でも貨幣が流通しており、魔物を倒すとゴールドを獲得できることの理由づけに繋がる重要な会話である。

 

─パルミド地方─

 

・パルミド

世捨て人や荒くれ者などならず者たちが集う悪徳の町。交通の便が悪く、大国アスカンタからも離れているため一般人が近寄ることはまずないが、逆に他の町を追い出された悪人や居場所のない貧乏人にとっては格好のたまり場である。勇者の仲間ヤンガスはこの町の出身で、闇商人や情報屋など色々と顔が利く。東側の通りは「物乞い通り」と呼ばれる街道で、その名の通り住居を持たない人間たちや、通行人からゴールドをたかろうとする人間がいる。また、町全体が異常に汗臭いらしく、同じく勇者の仲間ククールは元貴族とあってかこの町の汚さに対して嫌悪感を示している。一方で勇者の仲間ゼシカは現貴族だが、特にパルミドについてそこまで毛嫌いしている様子はない。

 

・女盗賊のアジト

ヤンガスの昔馴染みである女盗賊ゲルダの拠点。アジトと銘打ってはいるがゲルダの実家がどこにあるのかは誰も知らない。建物自体はオシャレなログハウスであるが、中には鉄格子付きの宝物庫があるなど盗賊のアジトらしい部分もある。ちなみにこの宝物庫は『さいごのカギ』というアイテムでのみ開けられるので再訪するのはかなり後になる。イベントも多い割には何故か『ルーラ』の行き先には追加されない。

 

・剣士像の洞窟

パルミド西にある入り組んだ遺跡で、DQⅧ5つ目のダンジョン。「洞窟」とあるが、宝物を守るために古代の金持ちが作った人工の迷宮である。ゾンビ系、エレメント系の魔物が多く登場する。内部はトラップや先に進むための仕掛けも多く、大量に発生する「マミー」などの魔物も含めて生半可な覚悟では攻略できない。最奥には「トラップボックス」というこれまた硬くて痛い強敵がいるが、見事打倒することができれば世界三大宝石の一つ「ビーナスの涙」を手に入れることができる。前述のとおり、ボスは「トラップボックス」。

 

 

【西の大陸】

 

─ベルガラック地方─

 

・ベルガラック

七賢者の一人ギャリングが町長を務める、大きな銀行や酒場でのバニーショー、そして世界一大きなカジノで有名な美しい歓楽街。西の大陸に上陸した勇者たちが最初に訪れる町だが、初回はとある事情によってカジノが閉鎖している。ギャンブルの町であるためサザンビーク王国のチャゴス王子がお忍びで遊びに来ていることがよくあり、そのせいで同国のクラビウス王からは嫌われている。

 

・ラパンハウス

巨大な「キラーパンサー」の形をした建造物。檻には何匹ものキラーパンサーが飼育されており、職員のカラッチとオーナーのラパンが管理している。「キラーパンサー友の会」という組織の本部でもあり(支部はない模様)、その会長でもあるラパンは毎日忙しそうにしている。

 

─サザンビーク国領─

 

・隠者の家

街道から外れ、道なき道を進んだ先にひっそりと建っている一軒家。サザンビーク王国でかつて宮廷魔導士として仕えていた老人があまのじゃくな「スライム」、しょうもないカウントダウンをする「どろにんぎょう」、真面目で素直な「ドラキー」という友好的な魔物たちと共に住んでいる。すぐ近くにはどんな呪いも解く「ふしぎな泉」が湧出しているため、ミーティア推しはよく訪れる場所となるだろう。

 

・サザンビーク城

賢王クラビウス・クランザスが治め、ダメ王子チャゴス・クランザスが次期国王として控えている、という将来が非常に心配な王国。三大国の一つであるが、実質サザンビークが世界最大の王国である。異常に広い王城では、なんとただの城なのにダンジョンマップが表示される。宝箱も30個以上あり、さらに王家の山イベントクリア後に開かれるバザーでは非常に強力な武具道具が取り揃えられる。最低でも①初回②王家の山クリア後③闇の遺跡到着後④闇の遺跡クリア後⑤エンディング後の5回は訪れる必要のある因縁深い場所。主人公の実家なので仕方ない。

 

・王家の山

サザンビーク国領東に位置する、DQⅧ7つ目のダンジョン。入口には無料の回復施設がある。加えて完全露天型ダンジョンなので道に迷うことはそうそうない。イベントはチャゴス王子と同行している状態で進行し、プレイヤーを大変不愉快にさせてくれる。この山に生息する「アルゴリザード」に危害を加えて宝石を略奪するという野蛮極まりない儀式を行い、王位継承権を証明する。ボスは「アルゴングレート」。

 

 

キャラクター像

 

・マスター・ライラス

トラペッタの町に住んでいた七賢者の一人『大魔法使い』マスター・コゾの子孫。原作ではオープニング後には既にドルマゲスによって殺されているため非常に影が薄い。町の人も言うように非常に不器用な人間であり、弟子であるドルマゲスとのすれ違いが彼を凶行に走らせてしまった。魔法薬の研究を行っているので魔法に対する学術的知識は非常に高いと思われる。本作ではめちゃくちゃに出番が増え、見事準レギュラーとなった。マスターは称号ではなく、ファミリーネームだと思われる。

 

・ルイネロ

トラペッタの町に住む元・高名な大占い師。自分の占いのせいでユリマの両親が失踪したことで自暴自棄になり水晶玉を捨ててしまう。原作ではユリマと和解した後は占い師としての自信を取り戻し、主人公が次に向かう場所を教えてくれるようになる。本作ではより親バカのイメージが強くなり、ユリマがドルマゲスに近寄るたびにドルマゲスをボコボコにする。

 

・ユリマ

ルイネロの娘。血は繋がっていないがルイネロを父と認め慕っている。予知夢を見ることがあり、その精度は父親の占いにも引けを取らない。本作でもっとも出番が増えたキャラクターの一人。ドルマゲスの事を自分や父親を救い、町を明るくしてくれた英雄のように想っている。父親が自信を取り戻してからは少し感情が重くなった。ドルマゲスがトラペッタから去ったことで感情がついに暴走してしまい、トラペッタから失踪してしまう。

 

・サーベルト・アルバート

リーザスの村に住んでいた、七賢者の一人『魔法剣士』シャマル・クランバートルの子孫で魔法使いゼシカの兄。彼も原作では勇者一行がリーザスの村に到着する前にドルマゲスによって殺されているので影が薄い。領主の息子という肩書だが、村人曰く人のいい優しい青年で、自主的に村の警護などを買って出たという。辺境の村出身のくせにやたら装備が強く、「はがねのつるぎ」「てつかぶと」はともかく、「サーベルトのよろい」と「力の盾」はこの時点ではありえないほど強い。本作では初めはドルマゲスを疑っていたものの、監視と銘打って共に旅をするうちに彼に惹かれて親友となる。

 

・オディロ院長

マイエラ修道院の院長を務めている老人で、七賢者の一人「神の子」エジェウスの子孫。親が死んで孤児となったマルチェロとククールを保護した人物であり、二人は院長に多大な恩を感じている。ドラクエⅧの腐りきった教会上層部の数少ない聖人であり、争いを好まず、どんな悪にも屈することはない強い精神を持っている。責任感はあるが同時におちゃめな面もあり、ギャグとダジャレの事を毎日考えている。

 

・聖堂騎士団

マイエラ修道院に拠点を構え、各地で警護を行う教会組織下の傭兵集団。団員は例外なくプライドが高く傲慢であり、マイエラ修道院の修道士たちや貧乏人、よそ者を酷く軽蔑している。さらに金や女に弱く、欲しいものは実力で手に入れるという騎士道精神のカケラもない人間の集まりである。構成員は殆どが貴族の家の出身で鍛えられながら育っているので一般の町人よりは強いが、勇者たちからすれば大したことはない。

 

・マルチェロ

聖堂騎士団団長でありククールの腹違いの兄。聖堂騎士団に「実力主義」を掲げさせた張本人であり、同騎士団で最も強く、最も狡猾で残忍な男。平民の出ながら類まれなるハングリー精神とカリスマで聖堂騎士団の団長の座まで上り詰め、ゆくゆくは教会の頂点に立って旧体制を崩壊させようと目論んでいる。

 

・パヴァン王

アスカンタ王国の国王。聡明で非常に心優しい王だが、為政者としては心配になるほどに優柔不断で、かつメンタルが弱い面もある。常軌を逸した愛妻家で、原作で妻シセルに先立たれた際には二年間も政治を放棄して喪に服するほどであった。しかしアスカンタ王国の項でも記した通り、アスカンタ国民からは非常に慕われていたため革命が起こることもなくなんとか国家としては存続していた。国民に感謝しろよな!

 

・キラ

アスカンタ王国の王室直属の小間使い。おそらく18歳か、それにも満たないと思われるまだ幼い少女。しかし数年間を王族に捧げた経験上、炊事洗濯には一通りの経験があり、なにより給仕は王国の中でもトップクラスの技術を持つ。昼間には王の身の回りの世話をし、夜中には王のために教会で祈りをささげるなど、原作では失意の真っ只中に落ち込んだままの王を陰に日向に支えている。しかしながら「頑張りすぎてしまう」のが悪い癖でありろくに休みもとらずに働き詰めているため、彼女の身を案じる者も多い。アスカンタ国領の辺境に実家があり、祖母と祖父が暮らしているが、忙しさからもう数年間帰っていない。本作では諸国を漫遊するドルマゲスに憧れを抱き、パヴァンとシセルの導きによってパーティに加わる。

 

・ゲルダ

パルミドの西にアジトを持つ女盗賊で、ヤンガスの昔馴染み。大胆でお転婆、そしてツンデレ。見た目に反して年齢はヤンガスと同じ32歳と勇者たちより年上だが、美人だとパルミドの住民の中でも噂になっている。原作では馬車含むミーティアをまるごと闇商人から買い上げ、それを返してもらうために来た勇者たちと対面し、ミーティア返却を考えるかわりに「剣士像の洞窟」にある宝石「ビーナスの涙」を取ってきてくれと取引を持ち掛ける。「ビーナスの涙」を渡すと一度ミーティアを返さないそぶりを見せるが、本当は最初から返すつもりだったということが分かる。ツンデレおばさ(死)

 

・ギャリング

ベルガラックの町長で、七賢者『無敵の男』ギャリングの子孫(同姓同名)。カジノのオーナーで素手でクマを倒すほどの怪力らしいが、原作では夜中に押し入ってきたドルマゲスにより殺害されてしまう。カジノの元締めらしくかなり強面だが、フォーグとユッケという二人の養子との仲が良好なことから、面倒見は良かったものと思われる。

 

・フォーグ&ユッケ

ギャリングの養子。フォーグが兄でユッケが妹(本当はどっちが年上なのかは拾い子の為不明)紳士的でキザな兄と跳ねっかえり娘の妹は何かとつけてよく衝突するが、心の奥底では互いを大事に思っている。原作では育て親であるギャリングの殺害をめげずに二人協力して秘匿し、犯人であるドルマゲスに刺客を送りつける。しかしドルマゲスが消滅してからは兄妹でカジノの継承権を求めて争うことになる。本作ではドルマゲスの導きによって一足早く仲直りを遂げた。




これを機にドラクエⅧの世界に興味を持っていただければ幸いです!本編もどうぞお楽しみください!


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ACT1:原作開始前
第一章 道化師転生と生き抜く決意


初投稿でございます。
先日風呂に入っていると、『ドルマゲスを主人公にした転生小説を書け』と啓示が下りてきたので書きました。自分自身ドラクエⅧは好きなゲームですが、やっていたのは6年以上前なので記憶と事実に齟齬が出ることは必至です。解釈違い、設定無視、お許しください。誤字脱字は温かく指摘していただければ幸いです。
設定は今のところ3DS版準拠で行こうかな、と。















 

 

 

俺は平凡な高校生として生きてきた。彼女こそいなかったが本心を語りあえる友達は居たし、金銭にも余裕があったので趣味に時間を費やすことができた。苦心して勉強した甲斐もあり、目当ての大学にも合格できた。そして来月から始まる大学生活に胸を高鳴らせ───。

 

横から突撃してくる車に気付くことができなかった。

 

 

痛くは…ない。体中がじんじんと熱いだけだ。腕はある。脚もある。意識もある。ああよかった、俺は生きている。宙を舞いながら緩やかに流れる時間の中で俺は根拠もなく胸を撫で下ろしていた。

 

 

そして跳ね飛ばされた俺の身体はしばらく空を舞い、滑らかな縁石に衝突してその頭は西瓜のごとく弾け飛び、白昼の穏やかな住宅街をスプラッターに彩ったという。

 

 

 

 

あぁ、悲しいなぁ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────

 

 

───

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、見覚えのない木の天井が目に入った。慌てて飛び起きると天井同様、やはり見覚えのないものばかり目に飛び込んでくる。本棚、タンス、壺…壺?何故(なにゆえ)に?

 

部屋は全面が暗いクリーム色の木材の壁で出来ている。こんな病室は…自分の知る限りは無い。さっきまで感じていた身体の痛みも無い。

 

寝起きの頭も次第にはっきりしてきた。ひとまず手触りの悪いぺったんこの毛布を退けて、簡素なベッドから立ち上がる。

 

「!?」

 

と強い違和感を感じ再びベッドに座りなおした。ギギィ、と不安になる音を立ててベッドが軋むが、俺はそれどころではなかった。

 

「なん……だ?」

 

…身長が違う。十余年慣れ親しんだ自分の身体ではないとはっきり分かった。

 

焦る心と裏腹に穏やかな朝日の差し込む部屋の中、一人俺はゆっくり、落ち着いて考えを巡らせた。

 

車に撥ねられた記憶、知らない場所、自分のものではない身体…

 

「…ああ、死んだのか、俺」

 

「……死んだのか」

 

「……」

 

やっとのことで理解はできたが、ショックを受けないわけではない。昔は「転生して異世界で無双したいな」だのよく夢想したものだが、もう二度と親に、友人に、みんなに会えないと思うとやはり心に来る。来るモノが大きすぎる。

 

「……うぅ…」

 

頭が痛い。フラフラする。

 

「おいっ!()()()()()!!何時だと思っとる!はよ起きぬかっっ!!…っ!?どうした…?調子でも悪いのか??おいっ!大丈夫か!?ドルマゲス!ド──…ス───…!…!?」

 

途中でいきなり部屋に入ってきたおっさんにも気付かず、俺は心労でその場にぶっ倒れた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

翌日の太陽が昇る半刻ほど前(らしい)。

 

「夢じゃ…ない…よなやっぱり…」

 

俺は再び目覚めて左手を握ったり開いたりした後、ベッドの中に潜り、しばらくこれまでとこれからについて考えていた。自分でも少々意外なのだが、結構踏ん切りはついた。もちろん未練などいくらでもある。しかしそれは絶望し続ける理由にはならないことに気付いたのだ。こうなればこの世界で頑張って生きてみよう。なぁに、一度ならず何度も夢見た異世界転生じゃないか。…いや、この身体は十分成熟した身体らしいので正確には憑依転生か?しかしこの身体の持ち主の記憶や精神はどこにもなさそうだ。数時間ほど悶々と考えていただろうか、昨日部屋に入ってきてなにやら叫んでいたおっさんがまた部屋に入ってきた。

 

「おい、お前…昨日は一日中寝込んで(うな)されていたんだぞ。どこか悪いのか?今は顔色も悪くは無さそうだが…」

 

どうやらこのおっさんはこの家の家主で、俺の看病をしてくれていたらしい。もしかしてこの身体の親か親族だろうか?…しかしここで転生なりなんなりを話すのは悪手だ。大丈夫、ちゃんとプランは練ってある。

 

「…すみません、俺、記憶を…失ってしまったみたいで…失礼ですが、ここはどこで、あなたは誰か、教えて頂いてもよろしいでしょうか…」

 

まあ何一つ嘘はついていない。現にこの身体の記憶は無いし。

眼前のおっさんはしばらく呆気に取られていたが、しばらくすると元のむすっとした顔に戻った。

 

「…何も覚えていないのか?親も故郷も、自分の名前も?」

 

「…はい」

 

「…うーむ……仕方あるまい、できるだけ早く記憶が戻ることを祈ろう。後で医者にも連れてってやる。では伝えるぞ。お前の名は『ドルマゲス』。わしはライラス。ここはわしの住んでいる町『トラペッタ』だ。聖地ゴルドから見て北東の大陸にあるトロデーン領の小さな町だ。お前はひと月前に魔法が使えるようになりたいとわしに弟子入りしてきた男だ。どうだ?何か思い出したか?」

 

「…!…いえ」

 

「そうか…」

 

そうため息をつくとライラスさんは黙ってしまったが、俺は平静を保つのに必死で思わず下を向いてしまった。図らずともライラスさんから見れば記憶を失って落胆しているようにも見えるかもしれない。

 

「(知ってる…!ここ、ドラクエⅧの世界…!しかも俺、ドルマゲス…!?)」

 

ドルマゲスと言えばゲーム「ドラゴンクエストⅧ」の全ての元凶。トロデーン城をイバラに包み王と姫に呪いをかけ、世界中で賢者の末裔殺害ツアーを行った狂気の道化師だ…ったはず!

 

「(ああクソ!こんなことならもっとやりこんでおくんだった!)」

 

俺にとって「DQⅧ」は「やったことのあるゲーム」の一つでしかない。良ゲーであったことは記憶しているが、人物やストーリーを細部まで覚えているかと言われるとそうでもない。俺はゲームは好きだが…いかんせんライト層なのだ。

 

では諦めるのか?何を?諦めてどうなるのか。やるしかあるまい。絶望するなとついさっき決めたばかりなのだから。俺はこれからドルマゲスとして生き…いき……

 

「…」

 

ん?別にこれ原作ドルマゲスとして生きる必要なくないか?

 

「少し厳しくしすぎたか…?」とボソボソつぶやきながら朝食を取るライラスさんを横目に俺は思考を加速させる。

 

まだライラスさんが生きてるってことはトロデーンの城もおそらく元のまま…あの城の「神鳥の杖」──ドルマゲスが賢者殺害を始めるきっかけであるアイテム──に触れさえしなければ…俺が暗黒神ラプソーンに操られることもなく、平和は保たれるんじゃないか…?わざわざ修羅の道を歩む必要もない…?平和な異世界ライフが…!?

 

「…よし!!」

 

「…っ!…っ!」

 

俺が突然立ち上がったのでライラスさんはパンをのどに詰まらせてしまったようだ。申し訳ない。

 

「ゴホ…なんだ、どうしたいきなり!」

 

「ライ…師匠!俺に魔法を教えてください!!」

 

ライラスさんは俺の剣幕に少し圧倒されていたようだったが、すぐに唇を結んだ。

 

「だめだ。お前には早すぎる。あと、お前の一人称は『私』だった。人格が乖離(かいり)する前に直しておけ」

 

「は、はい…(幸先悪いな…)」

 

 

 

 

 

 

こうして、俺のドルマゲスとしての第二の人生の幕は、今上がったのだった。

 

 

 

 

 

 




一生懸命頑張りますので、これからよろしくお願いします!


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第二章 賢者の修行(雑用)と自己鍛錬

モチベが続く間にどんどん書いていこうと思ってます。
今の私はスーパーハイテンションなので。








ハロー、すっぴんで服装も地味な道化師ドルマゲスです。

こっちの世界にもだんだん順応してきました。この前お使いついでに道具屋で薬草を買ってかじってみたんですけどクソ不味いですね、アレ。主人公一行はあんなものをモグモグ食べて旅してるのか…

 

…もしかして塗り薬だったりするの?これ…

 

 

 

俺がドラクエⅧの世界に転生してから1年が経った。トラペッタにも知り合いは出来たし、生活には不自由していない。しかし────。

 

「師匠!今日こそ魔法を…」

 

「お前に魔法なんぞまだ早いわ!ドルマゲス、玄関の掃除は終わったのか?」

 

「い、いえまだ…です…すぐに…」

 

この賢者(おっさん)マジで魔法教えてくれねぇ…!家事を全部俺に押し付けて自分は一日中魔法薬の研究ばっかりしている。

 

流石に「メラゾーマ」だとか「ベホマズン」とかを教えろとか高望みはしないよ?でも魔法を習いたくて弟子入りしたのに、半年経っても同じ雑用をやらされるのは正直焦る。…実際、板前などでも「弟子入り後10年は見稽古」なんてのもあるみたいだし、「まずは掃除」みたいなのも頑固で古風なライラスさんらしいっちゃらしいが…見稽古もくそも、魔法を見せてもらったことすらただの一度もない。仕事場に入ると怒られるし。原作ドルマゲスはこんな雑用に何年も耐えてたんだよな…それは確かに大きな魔力を内に秘めた「神鳥の杖」に強く惹かれるのも頷けるかもしれない。手軽に得られる大きな力というものは魅力的に映るものだ。

 

しかし俺は知識として知っている。大魔法使いマスター・ライラスが完成させようと苦心している魔法薬は実はドルマゲスの奥底に眠る魔法の才能を引き出すためのものだと。それを早く作るために俺に炊事洗濯を押しつけているのだと(それは正直どうかと思うが)。全く不器用な人だよな!

 

俺は軒先の砂を箒で掃きながらそんなことを考えながらニヤニヤと笑っていた。その様子がまあまあ気味悪かったようで、その後近隣では『マスター・ライラスのとこの一番弟子がついに狂った』などと噂されていたらしい。しかし俺が奴隷のようにこき使われていることはトラペッタの町人なら大体知っているので、怒られるのはいつもライラスさんだ。その時は少しだけざまーみろと思ってしまう。

 

とはいえ、町の人に叱られたからといってライラスさんが俺に魔法を教えてくれるようなことはない。本当に頑固である。

 

分かってはいる。実際ドルマゲスには魔法の才が無かったようだし、同じ肉体を持つ俺ももちろん無い。仮に魔力が精神によって左右されるものであったとしてもどちらにせよ魔法は使えまい。俺は魔法のない世界からやってきたのだから。

 

要するに、ゲーム的に言えばMPの最大値が極端に少ないということだ。MPの無いものが無理に魔法を使うことはこの世界では非常に危険なこととされている。実際に大賢者テラは無理に『メテオ』を唱えたことで…おっと、これは違うな。…まあ危険であることに変わりはない。

 

しかし、いくらこの世界で平和に生きると決めたとはいえ、護身の術の一つも持たないのは危ない。この地方は比較的脆弱で温厚なモンスターしか現れないが、他の地方や大陸では並の人間など一撃で消し炭にしてしまう魔物がうようよしているのだ。しかし呪文は使えない…うーん…

 

「…。」

 

いや物理攻撃すればいいか!

 

それはそうだ。毎日魔法使いの家で呪文の本ばかり読んでいるせいで呪文の事しか考えられなくなっていたが、剣や斧や弓やムチ、なんだったら素手でも鍛えさえすればこの世界でも十分通用するじゃんか。

 

そうと決まれば早速鍛錬がしたくなってきた。早急に掃除を終わらせることとしよう。

 

箒を玄関に片付けるとドアを半開きにしてコッソリ家の中を覗いた。ライラスさんは今昼寝の時間だ。俺は自分の財布を持って家を後にした。

 

 

鍛錬と言っても、準備を怠るのは厳禁だ。ここはゲームの世界だが、同時に俺にとっては現実世界だ。俺がもし死んだらその時点で何もかもおしまいかもしれない。流石に町中の壺を割って回ったりするのはモラルがやばいので今まで少しずつ貯めてきたお駄賃をここで使うことにする。400Gも無いが、物価の安いこの町では問題ない。

 

「ハロー!防具屋のお兄さん」

 

「おお!ドルマゲスだったか?お前がこの店に来るのは初めてだな、どうした?」

 

町の防具屋に入るとドラクエプレイヤーならすっかり見慣れた、筋骨隆々、角のついたフェイスマスクを被った上裸の荒くれ男が出迎えてくれた。酒場で何度か話した程度の間柄だが、気のいい男だ。

 

「少し遠くにお使いに行くことになりましてね。皮の鎧と皮の帽子を売ってくれませんかね?」

 

「そうかい。よし来た、二つ合わせて230Gにしてやるよ!」

 

「うーんもうひと声!」

 

「なら215Gだ!」 「190G!ほら、近所のよしみじゃないですか!」 「200G!これ以上は下げられねぇな!」 「よし買った!」

 

値切ったはいいがこれはどうなのだろうか。武器防具の相場も調べておけばよかったな。

 

後は盾だ。これはわざわざ買う必要はない。俺は宿屋の裏手へとまわり、周囲に誰もいないことを確認して井戸に飛び込んだ。俺は知っている、井戸の中にある宝箱には「皮の盾」が入っていることを。勇者には悪いが早い者勝ちだ。

 

 

装備を整えて町の外へ出た。何気にトラペッタから出るのは初めてだ。ドルマゲスはどこか違うところからここへ弟子入りしに来たはずなので外の景色は見ているだろうが、俺はこちらに来て初めて目覚めたのがライラスさんの家だったので、この広大な自然とどこまでも青く澄み渡った空を目にするのは初めてなのだ。こんな景色は前世でもお目にかかれないだろう。

 

空と海と大地と呪われし姫君(いない)に見とれるのもほどほどに俺は草原を進んだ。

 

歩いていると、突然草むらから「スライム」が現れた。何百、何千回と見たあのフォルム、あの顔だ。俺はまた感動してしまった。スライムはそんな俺を見て無い首を傾げると、来ないならこちらから行くぞと言わんばかりに体当たりをかましてきた。

 

()ッ!?」

 

割と痛い。水風船が身体に直撃して破裂しなかったときの衝撃に似ている。これがリアルな戦闘…!俺は浮かれていた頭を冷やしてスライムに対峙した。スライムはもう一度体当たりをかましてきたので、俺はタイミングよく盾で弾いて「ひのきの棒」で殴りつけた。スライムは目を回して倒れ、融けて消えてしまった。

 

「ふう…」

 

まだ心臓はドキドキしている。こんなものはお遊びの延長線でしかないが、今まさに命と命のやり取りを終えたのだ。恐怖と高揚で動悸はしばらく収まらなかった。

 

結局その日はスライムを一匹ずつ、7匹ほど狩って帰ってきた。特にアイテムドロップなどは無かったが、まあまあ満足はしたので良しとする。帰ってきてもライラスさんはまだ寝ていた。まあ時間にして1時間も出ていないので怪しまれることはないだろう。ライラスさんが起きた時に怪しまれないよう、俺はまた掃除を再開した。

 

「明日は海の方にでも行ってみますかね…」

 

 

 

 

 

 

 

その時の俺はすっかり失念していた。トラペッタ周辺には一匹、とんでもなく場違いな怪物がいることを…

 

 

 

 

 

 




ちなみにプロットなどないので今後の展開などマジで決まってません。自由に、自由に。


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第三章 斧蜥蜴の強襲と住民の強襲

ドランゴってなんであんな凶悪な場所に配置されてるんですかね…








ハロー、徒手空拳の道化師、ドルマゲスです。

トラペッタの住民として暮らせば暮らすほど不法侵入・器物破損を各地で行う勇者が末恐ろしい存在に思えます。彼ら、世界を救うという名目が無ければ普通に悪党だと思うんですけど…いや、名目あっても犯罪は犯罪か。

 

 

 

 

「ドルマゲスよ、掃除はつつがなく進んでおるか?」

 

「ええ!先日もユリマさんに毎日偉いね、と褒めて頂きましたよ」

 

「ユリマ…というとあの似非(えせ)占い師の一人娘か」

 

「似非占い師て…ルイネロさんは最近調子が悪いだけで前までは高名な大占い師として世界に名を轟かせていたんでしょう?」

 

「昔の話だ」

 

俺とライラスさんは朝食を取りながらたわいもない会話をしている。朝食を作るのも片付けも俺の仕事だ。おかげで料理もすっかり板についてきてしまった。それどころか趣味の一つにさえなってしまって今ではこの世界にない前世のメニューに挑戦するまでに至っている。先日も酒場でガーリックチキンを振舞ったところ、絶大な評価を得ることができた。魔法は教えてもらってないが、怪我の功名というやつだ。また、原作ドルマゲスに倣って手品の練習もしている。トラペッタの街娘、ユリマちゃん(12)に見せると手を叩いて喜んでくれるので大変気分がいい。もちろん酒場の余興としても盛り上がる。

 

「なんでもいいが、ドルマゲス。迂闊に外を出歩くんじゃないぞ」

 

俺はサラダが喉に詰まりそうになったが、それをライラスさんに悟られる前にミルクで流し込んだ。

 

「(マジか。バレてる?いや、カマをかけているだけの可能性もあるな…)」

 

よおし、ここはしらを切ろう!

 

「ええ、分かっていますよ。外は危険、ですもんね?」

 

「…分かっているならいい」

 

…よかったぁ。なんとか切り抜けられたようだ。ライラスさんが昼寝をしている短い時間しか外に出て無い上に、外に出る時に身に付けている装備一式は道具屋に預かってもらっているのに…やはり流石は七賢者が一人『大魔法使い』マスター・コゾの子孫、その観察眼は健在か。そんなライラスさんは朝食を終えると、食器もそのままにまたすぐ自室に籠ろうとする。

 

「あっ!師匠!本を貸してもらってもいいですか?」

 

「…なんだ、魔導書なら貸さんぞ」

 

「いえ、料理本とか裁縫の本でいいんですけど…」

 

「そんなもんあるか!」

 

えー。ライラスさんも研究の合間にやってみればいいのに、裁縫。料理でもいいけど。

 

 

ライラスさんには釘を刺されたが俺はプチ冒険を辞めるつもりはない。憧れは誰にも止められねぇんだ、と深淵の探窟家が言うように、今の俺の冒険への憧れは誰にも止められまい。今日もいいところで掃除を切り上げて町を出た。

 

最近は少し遠出するようになって、トラペッタの町の南側、「滝の洞窟」の方まで散歩するようになった。トラペッタ地方の魔物にも大分慣れてきたように感じる。生理的嫌悪を感じる「リップス」や一度眠らされかなりの痛手を負ったことのある「プークプック」などは避けるようにしているが、「しましまキャット」や「くしざしツインズ」が相手ならそう怖くはない。ただし対多数の経験はまだあまりないのが今の懸念点だ。背後を取られると思わぬ一撃を食らうことがある。一人旅は不安だなぁ…DQⅠの主人公を尊敬するばかりだ。

 

先日、散歩ついでに滝の上の一軒家におじゃまし、チーズおじさんと仲良くなった。最初は不愛想だったが、フライドチキンを差し入れするとお気に召してくれたようでたくさんチーズをくれ、さらにゲームにはなかった様々なライフハックを教えてもらった。

俺が今行っている「いっかくウサギ」の剥ぎ取りもその一つだ。いっかくウサギも魔獣の端くれなので、その皮は「まじゅうの皮」として売ることができる。もちろん最初は剥ぎ取りの方法なんて全く知らなかったが、チーズおじさんが懇切丁寧に教えてくれたので人並みにはできるようになった。ライラスさんもこれくらい熱心に教えてくれたらいいのに。

 

「さて、今日はここまでにしておきますかね…と」

 

俺がいっかくウサギの皮を仕舞ってトラペッタへの帰路へとついていたところ、太陽の光を反射してキラキラと輝く海が俺の視界に入った。

 

「ああ、そういえば海の方には結局行ってませんでしたね…」

 

俺はひとしきり美しい大海原を見渡し、小波(さざなみ)の音で心を洗い流した後、道端で「命のきのみ」の入った宝箱を見つけて今度こそ帰ろうとした。

と、その瞬間強烈な悪寒を感じてその場に屈んだ。その直後ブォンと何かが通り過ぎた音がし、俺は慌てて前方に回避して音の正体を確かめる。

 

「バトル…レックス…!?」

 

そこには巨大な戦斧(ハルバード)を両手に構えたオオトカゲ、「バトルレックス」がこちらを見下ろしていた。

 

「(なんでこんな辺境に…いや…「ドランゴ」か…!?)」

 

ドランゴ。モンスターの中でも人間に寄り添える可能性を持った「スカウトモンスター」の一種である。物語後半まで前線で活躍できる戦闘力を持ちながら、最序盤の町であるトラペッタの横に住んでいるという迷惑極まりないモンスター…ここは彼の縄張りだったのか。思い出した。

 

ドランゴは斧を構えなおし、再度斬りかかってきた。とっさに俺はひのきの棒を捨て、盾を以て両手で斧を受け止めたが、構えた皮の盾はその負荷に耐え切れず悲鳴を上げる。ドランゴはその体勢のまま口から炎を吐き出した。

 

「づっ!」

 

何とか直撃は免れたが生身の部分に酷い火傷を負ってしまった。

 

「(早く、逃げないと…っ!)」

 

間違いなく勝てないが、かといって背中を見せれば一巻の終わりだということはすぐに理解できた。ドランゴはまたとびかかって斬りつけてくる。しかし今度の一撃は軽かった。ここがチャンスだとばかりに身を翻そうとした瞬間、俺の目に映ったのは眼前に映る斧だった。

 

「(しまった…!はやぶさ斬…り…)」

 

俺は巨大なオノによって袈裟切りにされ、その場に倒れた。

 

 

すぐに首を落とされるかと思ったが、ドランゴは「弱っちいやつだな」とでも言いたげに鼻を鳴らした後自分の巣へ帰ってしまった。しかしどのみちこのままでは出血多量で死んでしまうだろう。身体が冷たくなっていくが、もう叫ぶ気力もない。

 

…結局こっちの世界に来ても何も成し遂げられなかった。ライラスさんの言いつけを守って雑用をこなしていれば良かったのだろうか。いや…もう遅い。ここは最早ゲームの世界ではない、分かっていたはずなのに……

 

「………ああ、悲…しい…な」

 

視界はぼやけて色を失い、俺がついに意識を手放してしまいそうな時…

 

「ドルマゲス!!しっかりしろドルマゲス!!!!死ぬな!!『ベホマ』!!」

 

「し…師匠…!」

 

現れた「俺の師匠」によって俺の命は救われた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「この阿呆が!!なぜわしの言いつけを守らなんだ!!」

 

「申し訳ありません…」

 

「理由を聞いているのが分からんのか!!!」

 

「外の世界に憧れて、見てみたいと思い…」

 

「言い訳など聞きたくないわ!!!!!」

 

「申し訳ありません…(めちゃくちゃだ…)」

 

家の前まで来たところで俺は土下座してライラスさんの説教を受けている。怒髪天を衝いたライラスさんの怒号は昼下がりのトラペッタ全域に響いた。

 

「わしがお前の不在に気付いて飛び出してなかったらお前は死んでいたのだぞ!!!」

 

「返す言葉もございません…」

 

異変に気付いた住民たちが集まってくるがライラスさんが自重することはなく、むしろさらにヒートアップしていく。

 

「最近従順になったと思ったらわしに知らせずに外で遊び歩きおって!!言いつけも守れん弟子を住まわせてやるくらいなら『犬でも飼っていた方がましだ!!』」

 

「!…」

 

これか。このセリフを聞いて原作ドルマゲスは師匠に失望してこの町を飛び出すんだよな。確かにきつい台詞ではあるけども…今回に限っては悪いのが完全にこっちで、ライラスさんは俺の命の恩人だ。ここは素直に受け入れ…

 

「やめてよ!ドルマゲスさんをいじめないで!!」

 

「!」

 

「ゆ、ユリマさん…」

 

「…ルイネロの娘よ、わしはこやつを虐めているわけではない。わしの気も知らず遊び歩いていたこやつに灸を据えてやっているだけだ」

 

「うそよ!ドルマゲスさんは毎日傷だらけで帰ってきているの!私が心配しても笑って大丈夫って言うけど、目は真剣だったもん!遊びに行ってるわけないわ!!」

 

「…」

 

俺の前に占い師ルイネロの一人娘、ユリマちゃんが立ちふさがった。毎日負っている傷も実際は傷も「やくそう」で全快する程度なので見かけほど深くないし、冒険もほとんど散歩なので、遊び半分なところはあった。目が笑っていないのは単純にこの顔の目つきが悪いのと笑顔が下手なだけなのだが、それを訂正するような空気ではないので事の成り行きを見守る。

 

ユリマちゃんの勇気ある行動に触発されたのか、近所のおばさんや道具屋のおじさんや防具屋の店主、酒場のマスターやバニーまでライラスさんに文句を言い始めた。

 

「ライラスさんあんた言い過ぎじゃないかい?日頃からあんなにこき使っておいて反抗するなという方が異常だよ」

 

「ドルマゲスはうちの店に装備を預けていくんだよ。あんたに見つかったらどやされるってね。町の外に出るのも許さないなんて、あんたにとってドルマゲスは囚人か何かなのかい?」

 

「ドルマゲスは、師匠が魔法を教えてくれないと良く愚痴ってたぞ!あんたにも責任はあるんじゃないのか!?それを頭ごなしに怒鳴りつけるなんてあんまりだろ!」

 

「この子がお使いと銘打ってこっそり冒険していたのはこの町の人間はみんな知ってるよ。知らなかったのはあんただけだ、マスター・ライラス。相手の気も知らずに過ごしてたのはどっちだろうね」

 

「そーよそーよ!ドルマゲスちゃんはね!スゴイ…手品とか使えるんだから!その…スゴイのよ!!」

 

「むむ…そ、それは…」

 

「みなさん…!」

 

みんなが俺の味方になってくれて嬉しい…が、バレてたのか。全員に。結構隠せてたと思ってたのになぁ…そしてライラスさんは普通に知らなかったんだなぁ…ショックっちゃショックだね

 

流石のライラスさんも町全体が相手では多勢に無勢で強く出られない。さっきまでは「悪いのはこっちで…」とか思っていたがみんなが作ってくれたこの機会を無駄にはするまい!よし、今だ!

 

「師匠…!」

 

「…な、なんだ、ドルマゲス」

 

「今日のことは本当にありがとうございました…!このご恩は一生忘れません!!そしてこれまで言いつけを破ってきたことは本当に申し訳ありませんでした…!もう“二度と”町の外には出ないし、“朝から晩まで”師匠のために働かせていただきます!!なので、私を師匠の下においてください!!!」

 

ゴツンッ

 

「ドルマゲス!?」

 

いっでぇ!!…ここで強く頭を地面に打ち付け、誠意を見せる!痛みで涙も流せて一石二鳥!!この惨めな姿で同情を誘い、住民全てのヘイトをライラスさんに向ける!!ごめんなさい!ライラスさん!!

 

住民全ての怒りの目線がライラスさんに向けられる。ユリマちゃんも睨んでいるようだが、拗ねてむくれているようにしか見えなくて可愛い。

 

「…」

 

「…」

 

「…ハァ…参った、降参だ。ドルマゲス、お前に魔法を教えてやる。わしも自分のことは自分でやるし、無意味な仕事は任せん。その代わり、次は助けてやらんからな」

 

「…!あ、ありがとうございます!!!」

 

一本取られたという顔でライラスさんは首を横に振って俺に魔法の勉強を許可してくれた。後ろで「「何よその態度は!!」」と住民たちの声が聞こえたが、俺は嬉しさでそれどころではなかった。

 

「よかったね!ドルマゲスさん!」

 

「ユリマさん…!ありがとうございます!全部あなたのおかげですよ!!」

 

俺は嬉しさのあまりユリマちゃんの手を取って踊り、挙句の果てにはユリマちゃんを抱き上げて高い高いをしていた。完全にテンションが100を超えている。ユリマちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしがっていたが、俺があんまりだらしない顔で笑うので最後はにっこりと笑ってくれた。とてもいい子だ。

 

 

その後酒場に行ってみんなに感謝して回ったのだが、帰りにルイネロさんに呼び出されて何故かボコボコに殴られた。家に帰ると、同じく住民のみなさんにボコボコにされて顔を腫らしたライラスさんが茶を飲んでいた。

 

お互いの情けない顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。

 

この日から俺は師匠(ライラスさん)の認識を「部屋を貸してくれる人使いの荒いおっさん」から「部屋を貸してくれる不器用な恩人で師匠」に改めた。

 

 

 

 

 

 




せっかくなのでドルマゲスのプロフィールをば…

ドルマゲス(男・22歳)
身長:190㎝
体重:70㎏
趣味:料理、鍛錬
性格:慇懃だが陽気でユーモアもある
レベル:9
職業:住み込みバイト
魔法:なし
特技:なし


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第四章 魔法研鑽と呪術独学

この話らへんから「独自解釈」や「独自設定」タグが仕事を始めます。目に余るようであれば控えるようにしますので遠慮なく報告ください。








ハロー、魔法使いの弟子、ドルマゲスです。

最近は少し遠出して「南の関所」付近で鍛錬を行っており、敵も少し手ごわくなってきたので本格的に肉体改造を始めました。目指すは細マッチョ魔法剣士道化師です。

 

 

 

 

「違う、もっと全身から魔力をかき集めるイメージを持て!」

 

「ええと、こうでしょうか?『メラ』!」

 

「違う…!まったく、どうすれば伝わるんだ…」

 

師匠に魔法を習い始めて数日。俺と師匠は早速挫折しかけていた。俺が驚くほどに魔法を使うことができなかったからだ。師匠も、俺がいくら体質的に魔法が苦手とはいえど、まさか初級の攻撃魔法すら唱えられないとは思わなかったらしい。俺だってバカではないつもりだ。ドラクエ世界の魔法理論は大体理解したつもりである。

 

この世界の魔法は所謂「精霊魔法」という種類に属する魔法で、呪印の施されたゲート─呪文を唱えるときに体の周りに出現する円環のこと─に自分の魔力を通し、呪文を詠唱することで魔力が実体化、属性が付与されて様々な効果を与えるというものだ。通過させる魔力量を増加させることで『メラ』が『メラゾーマ』になったりする…というわけだ。分かっているのだ。しかし…

 

「なら…こうでしょう!『メラ』!」

 

「ちがーう!馬鹿者!!やはりお前には魔法は早すぎるわ!もう知らん!わしは寝るぞ!」

 

 

ついに諦めて師匠は部屋に籠ってしまったが、カチャカチャとフラスコの音がするあたり、おそらく俺の魔法薬のための研究を続けているのだろう。全く師匠には足を向けて寝られない。

 

「…うーん」

 

しかし分からない。ゲートまではなんとか出せるようになったのだが、効果が現れない。ということは考えられる問題は一つだろう。深刻なMP(まりょく)不足。やはりレベル上げ…レベル上げは全てを解決する…!

 

早速鍛錬に向かおうとしたところで俺は足を止めた。

 

「(待てよ…今の俺はドルマゲスだ。勇者じゃない。原作のドルマゲスはどうやって戦っていた…?)」

 

通常攻撃と呪文だけだったか…?否。念力を使ったり、分身をしたりしていた。そもそもだ。この世界の不思議な術は何も魔法だけではない。「なぞの神官」の光攻撃や、「じんめんじゅ」「どろにんぎょう」などの使う『ふしぎなおどり』、「レッドテイル」の呪いの玉、最近実際に食らった技でいうと「プークプック」の『ひつじ数え歌』など、明らかに魔法でないものがある。「プークプック」の場合は種族特有の行動なのかもしれないが、「じんめんじゅ」、「どろにんぎょう」はそれぞれ自然系、物質系の系統も異なる魔物のはずだ。しかし「ふしぎなおどり」は使用者に相違なく効果を及ぼすので、そこに共通のプロセスが存在するのは確かだ。これらは勇者たち人間が使う『特技』とは明らかに一線を画している。なんならMPが0のモンスターでもこういった技を為すことがあるのだ。もしかすると、俺にも使えるようなものがあるかもしれない。

 

俺は魔法と区別するために、これら呪文を用いない不思議の術を「呪術」と仮称することにした。名称は運命を操るほどの強力な技を使った七賢者が一人、『大呪術師』クーパスから拝借した。橋の街「リブルアーチ」で主人から虐められているチェルスくんのご先祖様だ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

それはそれとして、だ。鍛錬を欠くわけにはいかない。健全な精神は健全な肉体に宿るのだ。

 

「南の関所」付近はリーザス地方の魔物が紛れ込むことがあるのでなかなか手ごたえがある。最近は同時に4匹の魔物を相手取ることができるようになった。先の戦いでドランゴに殺されかけた経験から背後の殺気も敏感に感知でき、対処できるようになったのだ。俺は「リリパット」の放つ弓矢の軌道を冷静に見切り、抜かりなく盾で全て叩き落としてから距離を詰めて「こんぼう」で殴りつけた。

 

「ふう…やはり呪文はあまり使ってくれませんね…」

 

素人が呪文を覚えるためには、その呪文を魔導書などから情報として理解するか、実際に目で見て技術を盗むしかない。レベルが上がるだけで神から啓示が下りてくる勇者パーティーとは違って一般魔導士は苦労するのだ。リリパットは『スクルト』をまれに使うのでぜひ見たかったが…まあ機会はいくらでもある。そう思いなおして腰を上げると、遠くに見慣れた少女の姿が見えた。

 

「ユリマさん!?危ないですよ、一人でこんなところまで来ては…」

 

「ご、ごめんなさい…あの、ドルマゲスさんに相談したいことがあって…」

 

「私に相談?(俺がわざわざ出かけてから来たことを考えると、町中ではしにくい相談なのか?)…いいですよ、お力になれるかは分かりませんが…是非聞かせてください」

 

俺はユリマちゃんを自分の隣の切り株に座らせ話を促した。

 

「あの…その…」

 

ユリマちゃんは言い出しにくそうにしている。少し空気が堅いかな。俺は精一杯の笑顔で黙って見守ることにした。

 

「え、ドルマゲスさんどこか痛いんですか?顔がこわばってますよ…?」

 

…。逆効果だった。俺は少ししょげながら自然体に戻った。

 

「い、いえ、私は大丈夫ですよ。それより相談というのは…」

 

「あ、相談は…ですね…えと、……私のお父さんは、本当のお父さんじゃないかもしれないんです…」

 

「なんと…!?」

 

そんな吉良〇影みたいな…と思ったがそうだった。ユリマちゃんとルイネロさんは実の親子ではないのだった。

 

「それでね、本当のお母さんとお父さんは多分もう…いないと思うんです。お父さんの占いはよく当たるから、それに目を付けた悪い人が本当のお父さんとお母さんを狙って…」

 

「なるほど…」

 

「うん…」

 

大方酔ったルイネロさんがうっかり漏らしてしまったとか、そんなところだろう。そしてルイネロさんは言ってしまったことを全く覚えていないのだろう。酷い親父である。しかもそんな衝撃の事実を十二歳の少女一人に背負わせるとは…あ、まずい、なんて声をかければ…

 

「こんなことお父さんには言えないし、町の人にも心配かけたくなくて…あ!ドルマゲスさんには迷惑かけていいとかそういうのじゃなくて…えっと!とにかくお父さんはきっとそれが原因で占いが当たらなくなっちゃったんです!」

 

「占いの力で驕って…得意になっていた自分がイヤになって水晶玉を『滝の洞窟』に捨ててしまったということですね?」

 

「!なんでわかったんですか!スゴイ!!」

 

目をキラキラさせる少女に対して流石にただの原作知識だ…とは言えない。ゴメンよ。

 

「ふふん、手品です。驚いたでしょう?」

 

「スゴイ!やっぱりドルマゲスさんはすごい魔法使いさんなんですね!」

 

うーん、魔法(マジック)は使えないんだよな…手品師(マジシャン)ではあるけども。

 

「ありがとうございます…わかりました。私が責任をもって取ってきましょう。でもここにいたら危ないので先に町に一緒に帰りましょうね」

 

「はい!お願いします!!」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

──滝の洞窟──

 

一度トラペッタに帰った後俺は準備を整え滝の洞窟までやってきた。滝の洞窟にはおそらくそこまで恐い敵はいないはずなのでさっさと進んでしまおう。おっと、途中で「どうのつるぎ」を拾うのも忘れずに。十分にレベルは上がっているので洞窟内では「メラゴースト」の『メラ』を観察したり、倒した「メタッピー」の構造を解析したりして有意義に過ごすことができた。途中に自称力自慢の「おおきづち」がいたのでニコリと笑いかけると無言で道を開けてくれた。なんだったのか。

 

そして最深部。おそらくここに水晶玉と、水晶玉をぶつけられた被害者がいるはずなので一応「やくそう」を飲み込んでいく。あぁ…苦い。早く『ホイミ』覚えたいなぁ…

 

「すいませーん!誰かいらっしゃいませんかーぁ!」

 

とりあえず大声で叫んでみると水辺からマーマン…もとい滝の主ザバンさんが現れた。

 

「うるさいのぅ、おちおち昼寝もできんわ!なんじゃお主は!何の用じゃ!」

 

「すみません、このあたりに大きな水晶玉は落ちていませんでしたか?」

 

「…!お主…!まさかとは思うが水晶玉の持ち主ではあるまいな…?」

 

「いいえ違います、私は旅の道化師でして…まさにその持ち主から水晶玉を取ってこいとの命を受けて馳せ参じた次第でございます」

 

「道化師ィ…?それにしちゃあ地味じゃな…どれ、一つ芸を見せてみろ、そうしたら信用してやるわい」

 

おお、これは戦わずに済むのではないか?よし、道化師の実力見せてやるぜ!

俺は手品と魔法(のような何か)を織り交ぜたマジックを披露した。

 

「ほォ…これは面妖な…なるほどこれは興味深いわ、お主は確かにあのアンポンタン占い師ではなさそうじゃな。よし水晶玉はくれてやる、元より邪魔だったしな。あと持ち主に『何でもかんでも滝壺に捨てるな』と伝えておいてくれ」

 

よし、戦闘回避!!痛いのは嫌だもんね!助かった!

 

「ありがとうございます…そして伝言確かに承りました」

 

「ではな」

 

はい、と言おうとして思い出した。確かこの人(?)も呪いの霧という技を使っていたはずだ。彼には話も通じそうなので、少し聞いてみることにする。

 

「ああ、お待ちください。少し聞きたいことがあるのですが…立ち話もなんですし少しお茶でもいかがです?」

 

「…ふむ、わしも他にやることも無いしの、付き合ってやるわい。その代わり茶ではなく肉をくれい」

 

 

水棲人(サハギン)の口に人間の食べ物が合うのか心配だったが、ザバンさんはこんなにうまいものは知らないと料理を平らげてくれた。料理人冥利に尽きる。

 

「ふぅ…満腹じゃ。さて若いの、何でも聞くといいぞ」

 

「はい、では────」

 

ザバンさんの話は興味深かった。俺の仮説は大体正しく、『ひつじ数え歌』などの種族の特徴を生かした行動は『特技』と呼ばれるが、ザバンさんの呪いの霧などは別の系統らしい。ちなみに「ふしぎなおどり」や「さそうおどり」は『踊り』と呼ばれる一つの体系の中の一種なのだとか。

 

「私はこれら魔法以外の不思議の術を『呪術』と呼んでいます。私にも呪術は使えるでしょうか?」

 

「うむ、お主が呪術と呼ぶものは誰にでも扱うことができる。それには魔法のような破壊力こそないが、応用力は魔法のそれを超えるぞ。呪術、か。悪くない響きじゃな。…呪術を使うためには「霊力」という力が必要じゃ。といっても霊力は魔力の様に増えたり減ったりはしない。使えるか使えないかのみじゃ。霊力を行使するため必要なことはたった一つ。『自分には霊力がある』と信じて疑わないことじゃ。」

 

「なに、そんなことで可能になるのですか…!?」

 

「そうじゃな。何故呪術を扱える人間が滅多にいないのかというと、『あれは魔物の技で人間には使えないものだ』と強く思い込んでしまうからじゃ。呪術には魔法のような華やかさがないどころかむしろ悍ましいものじゃからな、それも拍車をかけておるのじゃろう」

 

「ざ、ザバンさんはすごく色々なことを知っておられるのですね…」

 

「ここには情報が水にのって流れてくるからの。水のうわさというやつじゃ」

 

「は、はぁ…(どゆこと?)」

 

確かに俺も自分が原作ドルマゲスを知っていて、かつ自分が今現在ドルマゲスでなければ一介の人間が海を渡ったり「いてつくはどう」を使ったりできると思ってはいないだろう。とにかく、これは呪術研究において大いなる一歩に違いない!

 

「本日は色々ありがとうございました。これはお礼と詫びの品です。」

 

「わしも久々に楽しかったわい!また来るのじゃぞ!」

 

ザバンさんに予め用意しておいた痛み止めの軟膏を渡すと、俺は帰ったら行うであろう呪術の研究にワクワクしながら滝の洞窟を後にした。

 

 

「ああ、そうじゃ!水のうわさで数年後にトロデーン城で…と、もう聞こえんか」

 

ザバンは誰もいなくなった最深部で一人頭をさすった。

 

 

 

 

 

 




今回登場した「霊力」なる独自設定は、呪術の設定付だけのために登場したものであり、原作がドラクエという現状を鑑みて今後はあまり登場させることはないと思います。一方「呪術」というワードの方は魔法以外の術をカテゴライズするために便利なため、これからも使用させていただくことを事前にお詫び申し上げておきます。

ザバンは水晶玉が捨てられてから原作ほど時間が経過していないのでまだ相手の話に耳を傾ける余裕があった、ということにしています。


ドルマゲス(男・22歳)
趣味:鍛錬、研究、料理
レベル:11
職業:魔法使いの弟子
魔法:光源として微小な魔力を浮かすことはできる
呪術:霊力の存在を知った
特技:冷たい笑み
好きなもの:新しい手品を考えること
嫌いなもの:ドランゴ


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第五章 原作開始危機とランデブー

アンケートの結果を省みて、ドラクエⅧのストーリー概要とドルマゲスがどんな人物なのかなどを書き記した設定資料集を作りました。キャラが増える度に更新する予定なのでよければご覧ください。








ハロー、呪術と魔法の両刀使い(どっちも使えない)道化師となったドルマゲスです。

あの後ルイネロさんとユリマちゃんは無事に和解したそうです。と言っても帰ったユリマちゃんが二日酔いで寝起きのルイネロさんに水晶玉を渡し、自分の過去を知っていることの旨を全て話したうえでルイネロさんを一方的に許すというめちゃくちゃな荒業だったようですが。勇者一行のお使いイベントを一つ消しちゃいましたね…まあいっか、どうせ私が動かなければ物語は始まらないわけですし。

 

 

 

 

「あー!ドルマゲスさん!おはようございます!!」

 

「ユリマさん、おはようございます」

 

「滝の洞窟」に水晶玉を取りに行って数日。ユリマちゃんは胸に抱えるものが無くなって前までよりも活発になっていた。しかもたまに俺の家(マスターライラスの家)に来るようになった。あんまり長居させると親父が殴り込みに来そうだったので、いつもよきところで帰らせているが。そういえば、まだあれからルイネロさんには会ってなかったな。お礼の品とかくれたり…しないだろうなあ。でも一応顔を見せにはいこうかな。

俺は滝の洞窟から持ち帰ってきた「メタッピー」の残骸を物置に押し込んで家を出た。

 

 

「こんにちは…」

 

「うん?ああ、ドルマゲスか。」

 

「はい、ルイネロさんは最近息災ですか?」

 

「まあな。それより何の用だ?俺は忙しいのであまり時間は取れんぞ。」

 

「あー…えーっとですね…」

 

うーん、流石に師匠と並んで気難しい人間だ。お礼をねだることは難しそうだ…少しだけ話してからお暇しようかな。

 

「お父さん!お父さんが占い師をできるようになったのはドルマゲスさんのおかげなのに、そんな言い方ないと思うわ!」

 

そこへユリマちゃんが二階から駆け下りてきた。ぷんすか怒りながら当然のように俺の横に腰掛ける。ルイネロさんの視線が痛い。

 

「ユリマ……ハァ、そうだな、今の俺が占いの道をもう一度歩むことができたのはお前のおかげだ。感謝している。」

 

ルイネロさんは頭を下げた。なんとなく俺もつられて頭を下げてしまう。

 

「いいえ、私はユリマさんのお願いを聞いただけに過ぎませんので…」

 

「それでもだ。俺と娘が真の意味で親子になれたのはお前があの洞窟から水晶玉を取ってきたからだ。これは疑いようもない。礼と言っては何だが、一つ占ってやろう。なあにタダでいい。」

 

お?これは願っても無い展開だ。占えないものは無いとまで言われた世界一の占い師ルイネロにタダで占ってもらうことができるとは!何を占ってもらおうか…

 

「よろしいのですか?では…そうですねぇ……私、マスターライラスのもとで魔法の修練を行っているのですが、実は未だに魔法の一つも使えていないのです。その原因を探っていただきたいのですが、占えそうですか?」

 

レベルも順当に上がっていってるというのに未だに『メラ』も使えないのは流石におかしい、と思い始めたのは昨日の話だ。どう考えても他に要因があるとしか思えない。

 

「容易いことだ。ではゆくぞ…」

 

「お願いします」

 

ルイネロさんが水晶玉を覗き込むと玉は眩く輝き始めた。

 

「むっ、むむむっ!これは…」

 

「何か見えましたか?」

 

「うむ、お前の体の中に黒い靄が所狭しと見える。これが原因だろう。」

 

「靄、ですか…?すみませんが原因についてもう少し詳しく」

 

「この靄…は触れる魔力を吸い取っているようだ。なのでその部分に魔力は蓄積しない。例えるならただのバケツと中にたくさん石を入れたバケツ、水が溜まりやすいのはただのバケツだな?この水を魔力と考えろ。石を入れたバケツがお前の身体だ。なのでいくら魔力の最大値に空きがあっても魔力が溜まらないのでは、魔法を使えないのも無理はないな。」

 

「そんな…ではその靄はどうすれば取り除けるのでしょうか…」

 

「すまんがそこまでは分からんな。この靄が何なのかもわからん。俺に見えるのはそこまでだ。」

 

「そうですか…分かりました、ありがとうございます。」

 

「ああ、またいつでも来い。おっと、次回からは財布を忘れるなよ。」

 

 

ルイネロさんの家を後にし、俺は途方に暮れ…ることはなかった。

魔法は今は使えないが、師匠が薬を完成させてくれたならばきっとこの靄も晴れるはずだ。そして俺には呪術研究という目下の課題がある。何も落ち込むことはない!

 

肩を落として出ていったドルマゲスを見て慰めの言葉を色々考えていたユリマだったが、町の石段の下でドルマゲスが生き生きしているのを見て踵を返した。その表情は安堵半分、残念半分といったところである。

 

「私も…ドルマゲスさんの役に立ちたいなあ…」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

翌日、外での鍛錬を終えた俺は呪術の練習を続けていた。

 

「うーん…『信じること』と言ってもどうすればいいのか…ああダメダメ、こういった思考が霊力の行使を妨げるんですよね…」

 

全くコツがつかめず頭を抱えていると、そこへ師匠が部屋に入ってきた。

 

「これ、何をしとるのだドルマゲス」

 

「はい師匠。魔法のイメージトレーニングです」

 

師匠には呪術のことは言ってない。そんなものの話をすると「魔法以外のことに現をぬかしおって…」と怒られそうな気がしたからだ。

 

「そうか、それは感心。ところでわしがここに来たのは話があってだ。来週トロデーン王国のミーティア姫が12歳になられるので、一つの区切りとして大々的に生誕祭を開くらしいのだ。そこでトロデーン領であるこの町からも代表者が何か余興を献上するようにと通達が来てな。わしはお前が適任だと思うのだが…どうだ?他の住民も異論はないそうだが…」

 

「と、トロデーンですか…」

 

「なんだ?なにか嫌なのか?」

 

トロデーンが嫌というか、トロデーンに行くことに嫌な予感がする。明らかに原作のミーティア姫は12歳より上に見えるし、原作開始の詳しい時期など分からないので何とも言えないが、なんとなく俺がトロデーンに行くのはまずい気がする。いや絶対にまずい。ここはなんとか切り抜けたいが…

 

「嫌というよりですね、なんだか引け目を感じてしまいます。私は師匠に行ってもらいたいですね。魔法も使えないピエロよりも高名な魔法使いが来た方が姫と王も喜ばれると思うのですが。」

 

「うーむ、しかし余興という意味ではお前のその妙な手品の方が良いと思うが。」

 

まずい、師匠も『行きたくないモード』だ…。年寄りの駄々っ子ほど厄介なものは無い。なにか師匠が行きたくなる理由を…そうだ!

 

「それに、トロデーン城には大陸最大の蔵書数を誇る大図書館があると聞きます。日頃師匠が没頭なされている研究に役立つ文書もあるかもしれませんよ。」

 

「う、むむむ…確かに…そうか、そうかもしれん…」

 

「他ならぬ私が師匠にぜひトロデーンに向かってほしいと言えば町の皆さんもきっと納得してくれるはずです!」

 

「…よし、わかった。わしがトロデーンに向かうことにしよう」

 

俺の最後の一押しでついに師匠は首を縦に振った。よっしゃ!世界は救われた!!

 

「…ところで、さんざんトロデーン行きを渋るお前は、来週何か用事があるのか?」

 

あからさまに安堵した俺のにやけ面が気に障ったのだろうか、師匠は怖い顔で詰め寄って来る。

 

「ええ?えっと…ですね、はい!用事…があります!」

 

「何のだ」

 

「は…はひ…えっと…滝の洞窟で珍しい鉱石を見つけまして…」

 

「嘘をつくな、あそこから鉱石は取れんわ」

 

「は…あの…その…ユ…ユリマさんと…おデートを…」

 

その時部屋の入り口でガササッと何かが落ちる音がした。俺と師匠が振り向くと、顔を真っ赤にして驚いているユリマちゃんがいた。野菜か何かを差し入れしに来てくれたのだろう。これは好都合だ。

 

「…………………へ………?」

 

「ルイネロの娘よ、お前は来週ドルマゲスとどこかに出かけるのか?」

 

俺は後ろからユリマちゃんに目配せをしまくった。頼む!世界の命運が懸かっているんだ!

 

「………は、はい…………」

 

「(…確かに、師に色事の話を馬鹿正直に話す弟子もいないか…)……ふん、知らぬ間に色付きおってからに。わしの留守中も修行を欠かすんじゃないぞ!」

 

「はい!それでは遠征よろしくお願いします!」

 

俺がそう返事をすると師匠はまた自分の部屋に戻った。

 

「ふう…」

 

なんとか俺のトロデーン行きはなくなったが、世界線は収束するとよく聞く。いつか来るかもしれない日に備えて着々と強くなる準備をしておこう。

 

「あ…あの…」

 

ああ、本日のMVPユリマちゃんを忘れていた。この子には惜しみない感謝を送りたい。ええと、先に誤解を解いて…

 

「ああ、ユリマさん。さっきはいきなり失礼しました。実は…」

 

「ら、来週はぴ、ピクニックに行きたいです…!」

 

「…。」

 

本人が行きたいと言うならもう嘘でしたとは言えまい。全くこの子はなんていい子なのか。当日は最高の料理を作って持っていくっきゃない。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

結局最後までその場しのぎの出まかせでしたとは言えず、俺はトロデーン行きの馬車に乗り込んだ師匠を見送った後、お弁当を拵えてユリマちゃんを迎えに行った。ユリマちゃんはいつもの町娘っぽい服装ではなく、西の「サザンビーク王国」や橋の町「リブルアーチ」にいる上品なお嬢さんのような服を着ていた。なんでも昔にルイネロさんからプレゼントされた一品らしい。主張の激しすぎない桃色と橙色の色合いが良く似合っていた。

 

「ドルマゲスさんは本当にお料理が上手ですね!私も料理は作るけど、こんなおいしい料理を食べてると自信が無くなっちゃいます。」

 

「なに、私の料理は趣味のそれですから。作れる料理はほんの一握りだけですよ。」

 

周囲の魔物をあらかた片付け、「せいすい」をまいて魔物避けをしてから俺たちは弁当を食べ始めた。

 

「私……ドルマゲスさんがトラペッタに来てくれて本当に良かったと思ってます。お父さんも元気を取り戻すことができたし、町の人もドルマゲスさんの話を良くするようになってなんだか楽しそうに見えます」

 

「そういってもらえると嬉しいです。私もこの町に来た頃は右も左も分からないような状態でしたからね。」

 

実際には右も左もどころか、名前も故郷も経歴も目的も分からなかったんだけどね。

 

「でも町の皆さんが良くしてくださっているおかげで今は毎日楽しく過ごすことが出来ています。ユリマさんにも本当に感謝しているのですよ?あの日貴方が庇ってくれなければ、私は今でも師匠の雑用係だったかもしれません。」

 

「そんなっ…えへへ……あっあの、ドルマゲスさんは…これからもずっとこの町に居てくれるんですよね?」

 

「…」

 

うーん、この町は本当に心から愛しているけど、正直ここに骨を埋める覚悟があるかと問われるとない。世界は広く、俺はもっとこの世界を見て回りたいのだ。

 

「…いつかは、ここを出ていきます。ここを出て、私は世界中を旅したいと考えていましてね。」

 

「…!!!そう、なんですか…」

 

「でも心配しなくとも、まだまだこの町にはいますよ」

 

「じゃ、じゃあもし旅に出るときは!私も連れてってください!」

 

…困った。トラペッタのような平和な土地の女の子を連れて歩くにはこの世界は少々過酷すぎる。気持ちは嬉しいが…俺一人で守り切れる自信がない。情けない話だ。しかしだからといってこの懸命な子どもを正面から拒絶する勇気もない。本当に情けない。ああ、悲しいったら悲しいなあ。

 

「ふむ…では、もし私が旅に出るときにユリマさんが立派な冒険者になっていたら連れて行ってあげますよ。むしろ私と一緒に魔物と戦ってください。」

 

「分かりました!私、頑張りますね!」

 

最終的に逃げに走った俺になんといい返事。ルイネロさんも本当にいい娘さんを持ったねぇ。

 

その後もたわいもない会話を繰り返し、夕方になる前に俺たちは帰った。とても有意義な時間だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

その3日後、師匠が帰ってきた。

 

「今帰った」

 

「お帰りなさいませ、師匠。姫はどのようなご様子でしたか?」

 

「うむ、麗しい王女に育っておったわ。わしの魔法にも親子ともども満足いただけたようで何よりじゃ。それより、ほら」

 

「これは…?」

 

俺は師匠に一冊の分厚い本を手渡された。かなり大きくて重い本で、表紙には古い文字で『幻魔怪奇・魔術ノ理論ト実践』と書いてある。

 

「ふん、お前が毎日やっているしょうもない研究を終わらせられるかと思ってな。無理を言って借りてきたので、ありがたく読むように。そしてさっさと魔法を使えるように努力しろ。」

 

「これは…まさかこれを私のために…?あ、ありがとうございます!」

 

師匠は俺が呪術の研究を行っていることを知っていたのだ。俺が冒険に行っていたことは知らなかったのに…いや、逆か。あの一件があったからこそ俺のことを見てくれるようになったのかもしれない。やはり俺の師匠には頭が上がらないな。

 

「さて、わしも色々な本を借りてきたところだ。早速実験を始めるので部屋に入らないように。今夜は豪勢な食事を頼むぞ、ドルマゲス!」

 

「承りました!」

 

俺は『幻魔怪奇・魔術ノ理論ト実践』という呪術のバイブルを授かり、より一層研究に励むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呪術の鍛錬、戦闘の訓練、科学の研究…そして六年が経過した。

 

 

 

 

 

 




第五章終了時プロフィール(魔術書入手直後)

ドルマゲス(男・22歳)
趣味:料理、鍛錬(体力・魔法)、研究(呪術・工学)
レベル:12
魔法:自分の魔法が使えない原因は分かった
呪術:バイブルを読んだことで霊力を掴んだ
科学:メタッピーを分解して再度組み立てることはできるようになった
好きなもの:トラペッタの町
恐いもの:世界線の収束


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第六章 道化師の成長と因縁の城

(ドルマゲスくんの健闘むなしく)舞台は整いました。








ハロー、お久しぶりです。六年の時を経てついに初級呪文を使えるようになった魔導士道化師のドルマゲスです。呪術の方の成長はさらに凄まじいものになっておりますので呪術師道化師のドルマゲスでもあります。長らくこの町に住んでいますがトラペッタは変わり映えのない町ですねぇ。それが良いところでもあるんですけど。

 

 

 

 

俺が呪術を習得してから6年が経った。この六年の内に色々なことを経験した…というのも原作ドルマゲスが港町ポルトリンクからマイエラ地方に渡った時のような海の上を歩く術(理論的には、念力で自身を持ち上げて移動させている)を身に付けてからは度々小旅行に出かけていたので、各地の情報が耳に入ってくるのだ。訪れた場所を列挙するとリーザスの村、ドニの町、アスカンタ王国、願いの丘、メダル王女の島、ベルガラック、ラパンハウス、サザンビーク王国などだ。余所者を異常に排撃するマイエラ修道院や、治安が最悪なパルミド、魔物のレベルアベレージが高いリブルアーチ以北の町、まあまあ遠い上に物資を補給するところのない聖地ゴルドやサヴェッラ大聖堂には行っていない。当たり前だがトロデーンには行っていない。アスカンタやサザンビークなどでトロデーン行きを進められたが、全て丁重に断った。

 

現在のレベルは教会の神父さんに聞いたところ28だと言われた。六年も費やした割にレベルが低い?主人公はひと月もかからずに暗黒神を倒した?そんなものは知らん!大体俺の一日のスケジュールはかなり厳しい。朝のうちに家事を終わらせ魔法の修練。昼前に昼食と夕食の準備。昼から呪術の修行と筋トレ。夜に言語の勉強と科学研究。魔物と戦ってレベルを上げようと思ったら夕方くらいしか時間がない。旅行中にレベルを上げようにも、こちとら呪文は初級のものしか使えないもんで。マヒや眠りにしてくる敵とは絶対に戦えないし。遊び人(ピエロ)の一人旅なめんなよ!アスカンタ地方の魔物くらいとは何とか戦えるが、サザンビーク地方では基本的に逃げてばっかりだった。

 

装備については盤石だ。海渡りを覚えてしばらくしたころに「人跡未踏の森」に海側から入ったことがある。森に入った直後は軽い気持ちだったが、生息する魔物の凶悪な強さに何度も死を覚悟した。奇跡的に集落である「三角谷」には命からがら到着したが、もう二度と行くまい。そこで「ふぶきのつるぎ」を購入したのでしばらくは買い替える心配はないはずだ。また、6年間各地でこつこつと集めてきた「ちいさなメダル」をメダル王女に見せることで、王女から「道化の衣装」を下賜された。道化師たるもの、形から入らねばな。うんうん。

 

あとは、武者修行を兼ねて旧修道院跡地に赴いて伝染病の残滓に苦しみ襲い来る亡霊たちを全滅させたり、6年前に大道芸人としてリーザス村へ行って赤ん坊のポルクとマルクを笑わせたり少女ゼシカを手品で楽しませたり、2年前には危うく崖下へ滑落しそうになっていたアスカンタ王国の王妃シセルを助けたり、最近はドニの町でククールとポーカーで勝負したり…とにかく色んな事をやった。ククールがイカサマをすることは分かっていたので、こっちも呪術でズルをしてやった。勝負後も憤ったりせずに「やれやれ、一本取られたね」とすました顔でいうあたり、なんとも見上げた伊達男だと感心したのも記憶に新しい。

 

今から俺は戦闘の訓練だ。俺はレベルこそ低いが戦闘のスキルは悪くない。なにしろ良い修行相手が現れてくれたからな。

 

「さて、ドランゴ。始めましょうか?」

 

そう、俺はついに宿敵ドランゴに打ち勝ったのだ。打ち勝ったといっても搦手を使いまくって粘り勝っただけなのだが、勝ちは勝ちだ。バトルロード闘技場には寄っていないのでモンスターを連れていくことは叶わないが、ドランゴは俺を認め、修行に付き合ってくれることになった。

 

修行の時は万一のことを考えてドランゴには木刀を持たせてある。木刀と言ってもサザンビーク王国のバザーで仕入れた一級品だ。当初ドランゴは自身の半身ともいえるハルバード以外の武器を使うのを躊躇っていたが、俺がこの木刀を入手するのにどれだけ苦労したかを説き伏せるとドランゴはしぶしぶ応じてくれた。

 

そう、説き伏せた。俺はなんと魔物と対話できるようになったのだ!

 

きっかけは研究の一環で魔物を観察している時だ。モンスターの群れを遠くから見ていると、時折魔物同士で向き合い、鼻を掻いたり、首を斜めに動かしたりと特徴的な仕草をすることがあった。俺はそれをコミュニケーションの一種と仮定し、「滝の洞窟」から人語を解するスライムを引っ張り出してきて、毎回料理を御馳走するという条件付きで魔物のコミュニケーションについてレクチャーを受けることになった。多言語を解する魔物は(自称)めちゃくちゃ賢い魔物らしく、俺はスライム先生の自慢を適度に聞き流しながら魔物のコミュニケーションについて勉強した。

 

何百種といるモンスター全部の言語を覚えるのは無理だろうなあと思っていたのだが、スライム先生曰く同系統の魔物は同じ言語が通用するらしい。つまり、スライム系の魔物は全てスライム語が通じるということだ。また意思の疎通が不可能な魔物が多いゾンビ系とマシン系の魔物の言葉は難解な上、覚えても大した強みにはならないという。よって俺はスライム語・自然語・魔獣語・ドラゴン語の四つの言語に絞って少しずつ勉強することにした。悪魔語と物質語はめちゃくちゃ賢いスライム先生でも知らないらしいので仕方ない。エレメント語も覚えても良かったのだが、一気に色々覚えても逆に効率が悪そうだったので今回は断念した。

 

スライム先生はドラゴン語も知っていると豪語していたくせに、では教えてくださいと言うと途端に焦り始めたので、おそらくほんの少ししか分からないのだろう。俺としてもドランゴとの対話はぜひできるようになりたかったので、トロデーン近郊にある荒野の山小屋に行き、井戸の中に詰まっていたスライムたちを救出して話を聞いた。トロデーン近郊には「デンデン竜」がいるので、あるいはと思ったのだが、見事そのスライムたちはドラゴン語を習得していたので、了承を得てスライムを一匹連れ帰りドラゴン語を教えてもらうことにした。『スライム先生』だとどっちか分からなくなるので、滝にいた方を『先生』、荒野にいた方を『教授』と呼ぶことにした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「だーかーらっ!その体の振り方じゃ『このアホウ』って意味になっちゃうよ!『ありがとうございます』はこう!わかる?」

 

「は、はい・・・」

 

夕食が済んだので今日も町の外で授業を受けているのだが、正直スライム語が一番難しい。スライムたちは体どころか手足も鼻も耳も無いので、身振りだけで全ての言葉を伝えるのだ。些細な違いが大きな誤解を招きかねない。先生たちも初めは他人行儀だったのだが、5年も言語を教えていると慣れたものでかなり砕けた口調になっていた。

 

「そう!今のが『ありがとうございます』だよっ!よーし今日はここまで!また明日!明日の料理はお菓子がいいな!」

 

「先生、ありがとうございました」

 

「うん!じゃあね!ドルマゲスくん!」

 

そういうと先生は教授と共にぴょいぴょいと滝の洞窟へ帰っていった。先生は教授よりも感覚派の講師なのでなかなか理解できないことを言う時も多いが、めちゃくちゃ賢い魔物というのもあながち誇張でもないらしく、俺は簡単な会話程度なら4つの言語全てで出来るようになった。これもそれぞれの言語がかなり単純なことと、この肉体の高い頭脳スペックのおかげである。俺は体をくねくねと振って反復練習しながら家に帰った。その姿は町の人からはたいそう奇妙に映っただろうが、道化師が奇妙な動きをするのは当然っちゃ当然のことなので誰もたいして気にしてはいないだろう。

 

 

「おお帰ったかドルマゲス」

 

「はい師匠、ただいま帰りました」

 

「早速だがな、ついさっき良いニュースと悪くはないニュースができた。悪くはないニュースから教える」

 

何故か師匠のテンションが高い。何か良いことがあったのだろうか。

 

「なるほど、ではお願いします」

 

「うむ、実はついにわしの研究が完成の一歩手前まで来たのだ!」

 

「おお!というと例の魔法薬のことですね?」

 

「そうだ!わしはこの薬を『大魔聖水』と名付けた。魔法を使えない者の才能を強引に引き出す秘薬だ。」

 

師匠はアメジスト色に淡く輝く液体の入った一本の試験官を自慢げに取り出した。おお、ついに完成したのか!苦節数年、魔法の使えない俺のために研究を続けてくれた師匠に惜しみない感謝の念を送りたい!しかしここで『師匠、私のために…』など言うと師匠が照れ隠しをしてややこしいことになりそうだったので少し言葉を変える。

 

「それはそれはおめでとうございます!……!もしや、その薬には私の魔法問題を解決する可能性もあるのでしょうか!」

 

「…うむ、その通りだ。ぜひお前にはこの大魔聖水の実用試験の実験台になってもらおうと思ってな。」

 

「それはありがたい!了解しました。では早速…」「こら待たんか!」

 

俺は師匠から大魔聖水を受け取ろうとしたのだが、その手をぴしゃりと叩かれてしまった。

 

「最後まで話を聞け!この薬はな、希少鉱物である魔力の結晶体『マデュライト鉱石』の原石をふんだんに使用した魔力の塊だ。一度飲むと体内で魔力の奔流が巻き起こり、体内の魔力生成、蓄積、放出を阻害するあらゆる障害を無理やり洗い流す非常に強い力を持つ。もしこの薬を飲むときは体内の魔力を空にしてから使うことだ、さもなければ…」

 

「さ、さもなければ…?」

 

「最悪の場合爆発四散して肉片の一つも残らない」

 

怖すぎる。そんなもん秘薬というより劇薬じゃないか…しかし用法・用量を守れば世界をひっくり返す大発明であることには変わりないだろう。やはりこの世で使えない魔法は無いとまで言われた賢者マスター・コゾの子孫なだけある。ただの頑固おやじではなかったのだ。いやそんなふうに思ったことないけども。

 

「そ、それは怖い。では師匠が持っていてください。然るべき時に頂きますので…ところで、では良いニュースというのは?」

 

「うむそうだな、そうしておくことにする。それで良いニュースはだな…」

 

「はい…」

 

「来週ミーティア姫の18歳の生誕祭が開かれることになった。本当は先月の予定だったのだが、急遽トロデ王が成人となる娘を盛大に祝いたいとのことで準備のため今月に持ち越されたのだ。その規模は6年前の生誕祭をも超えるらしい。」

 

あ。またか。また嫌な予感がする。

 

「なるほど、それは喜ばしいことですねぇ。して、今回も師匠が向かわれるのですか?」

 

「それがな、今回王はお前をご指名された。なんでもアスカンタのパヴァン王から熱烈な推薦を受けたらしく、それで国内の各地でお前について調べさせたところ、お前はたいそう優秀な道化師らしい、ということが分かり今回のトラペッタ代表をお前に決められたのだそうだ。王に直接指名されるとは…こんなに名誉なことはないぞ。師であるわしも鼻が高いわ。」

 

うーわ…余計なことしちゃったかな…なるほど、トロデーン国領の町には全て道化師の遊行として訪れた。行ってないのはトロデーン城だけだ。どこの町でも滞在していた時間は一日もなかったはずだが(リーザス村には何度も行った)、何人かの物好きは俺の名を覚えていた、というわけだ。この指名を断るわけにはいかない。トロデ王は良識ある人物なので断ったところで即座に俺を投獄したりするようなことはないだろうが、王の厚意を無下にしたとしてトロデーン王国内での俺の評判はガタ落ちするだろう。最悪トラペッタの町にもいられなくなるかもしれない。

 

「(仕方ない、心底気は進まないが…)それはなんとも光栄なことです。ぜひ行かせていただきましょう。」

 

「それから、わしも同行する。6年前に姫の誕生日を祝った身だ、今回もぜひご尊顔を拝みたい。」

 

「おお、それは心強いです!出発はいつになりそうですかね?」

 

「明後日だ。明後日の夜明けに迎えの馬車が到着することになっている。準備は早めに終わらせておくのだぞ」

 

「はい!!(急すぎんだろ!)」

 

さてはこのジジイ、自分の研究の完成と合わせたくてずっとこの話を伏せてたな?…俺は嫌々な気分を押し殺し、死んだ目でクッソ良い返事をした。本音と建前が逆になるというベタなボケをかます気力すらなかった。

 

 

 

 

 

 




作中ではシセル王妃の死因は明かされなかったので(国民や王のセリフから、おそらく他殺や自殺ではなく、病死か事故死と考えられる)、今作では事故死であるとします。

少し6年間の中身が分かり辛かったので時系列をはっきりさせ、語られなかった出来事も少し書いておきます。


6年前
(第五章終了時)魔術書を受け取る

呪術の才能が開花、海渡りを習得、リーザス村に初めて遊びに行く

マイエラ地方でレベル上げ、旧修道院跡地に籠る

レベルが上がってMPが微増し、なんとか初級呪文を使えるようになる

アスカンタ地方でレベル上げ(かなり危険だった)、願いの丘を観光する

5年前
軽い気持ちで人跡未踏の森に侵入し、地獄を見るもなんとか三角谷に到着、そこで魔物の意思疎通について疑問を持つ

トラペッタ地方の魔物を観察し、魔物同士で会話する方法があると仮説を立てる

スライム先生に教えを乞う、荒野の山小屋でスライム教授を連れてくる

「ぶきみなひかり」や「あやしいひとみ」「呪いのきり」など搦手を駆使してドランゴを打倒する

4年前
ドラゴン語をあらかた習得し、改めてドランゴに会いに行き修行をつけてくれるように頼みこむ

師匠に頼んで大図書館の魔導書とマスター・コゾの手記を読ませてもらい、この世界では珍しい魔法も習得する

サザンビーク地方に遊びに行く(戦闘からは逃げ回る)

サザンビーク王国のバザーに参加する

ラパンハウスに行くもキラーパンサーには懐かれなかったので帰る

ベルガラックでカジノをするも大負けして帰る

3年前
制御ノードと工具さえあればガラクタから自律機構を持ったマシンを作れるようになる

アスカンタ地方でレベル上げをしながらフィールドの宝箱を回収して回る

マイエラ地方とリーザス地方でも宝箱を回収する

集めた「ちからのたね」などの種を培養しようと試みるが断念する

2年前
生前少しかじっていた現世の魔術を少しだけ呪術で再現できるようになる

自然語と魔獣語は大体扱えるようになる

アスカンタで遊行中、川沿いの教会近くを散歩中に崖下に落ちかけたシセル王妃を救出する

去年
ドラゴン語を習得する。スライム語だけはなかなか覚えられない。

ドニの町でククールとポーカーで勝負して勝つ。イカサマVS呪術。

メダル王女の城へ行き道化の衣装を貰う

第六章開始



ドルマゲス(男・28歳)
趣味:鍛錬・研究・勉強・料理
レベル:28(一人だとサザンビーク地方でも苦戦するレベル)
魔法:初級攻撃・妨害呪文+初級回復・補助呪文+この世界では珍しい魔法(ザバ、ジバリア、ベタン、インパス、トラマナ、アバカムなど)
呪術:まあまあ色んなことができる
言語:魔獣語・自然語・ドラゴン語は日常会話なら問題ないレベル。スライム語はまだちょっと怪しい
科学:まあまあ色んなものを作れる
好きなもの:旅
嫌いなもの:チャゴス王子


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第七章 確定した未来と長い長い旅路の始まり

実際、原作ドルマゲスって表向きは何の用でトロデーン城に来たんですかね…大した用もなく城に入って来れてるならトロデーン城のセキュリティがポンコツ過ぎることになるんですけど…








ハロー、人生で一番ワクワクしない旅行準備中の道化師、ドルマゲスです。まだ町も出てないのにもう帰りたいです。いやいや、トロデーン城まで行っても謁見の間だけ行って手品を披露して生誕祭が終わればさっさと帰ればいいだけだし…元気出していこう!

 

 

 

 

「…よし、ではそろそろ町から出て迎えを待つか」

 

「はい師匠、私はいつでも出発できますよ」

 

「ふむ…では行くとするか」

 

俺と師匠はまだ太陽が顔を出し始めたばかりの早朝に家を出た。ああ嫌だなぁ。清々しすぎる朝日も今は恨めしい。町を出ようとしたところでいつの間にかいたユリマちゃんに呼び止められた。

 

「ドルマゲスさんとライラスさん、もう出発なされるんですね…今回は帰りはいつになりそうですか?」

 

「ううーん、心配しなくともおそらく再来週までには帰ってきているはずですよ。今までの小旅行よりは長いかもしれませんが。」

 

何事も無ければね。それより今年で18歳になり雰囲気も少し落ち着いた淑女となったユリマちゃんだが、なんだか不安そうな表情をしている。

 

「そう…です…か…あ、あの…」

 

「どうかしたのか?ユリマよ」

 

ここ数年ですっかり年頃の女性に成長したユリマちゃん。彼女は家に遊びに来ることがあったらしいが、俺に会うというより師匠に会っていたようだ。まあ俺はよく家を留守にしていたからな。ユリマちゃんに聞くと師匠に魔法を教えてもらっているという。年を重ねて大人びていてもやはり年相応の少女だ。分かるよ~魔法に憧れるその気持ち。だが一度、魔法関係の話で隣の村に住むゼシカの話題を出すとものすごく機嫌が悪くなって大変だった。それからはリーザスの村の話は自重している。

 

「私…その…二人に行ってほしく、ないです。トロデーンに…」

 

「…何かあったのですか?」

 

俺と師匠は顔を見合わせたが、黙ってユリマちゃんの次の言葉を待った。

 

「私…見たんです。夢で二人が何か大きな事件に巻き込まれてしまうところを…それで二人は、もうこの町に帰ってこなくなる…トラペッタがまた昔の静かな町に戻ってしまう…そんな夢を見たんです…」

 

「そ、それは…」

 

師匠は胸を撫で下ろし心配のし過ぎだとユリマちゃんをなだめているが、俺の顔つきは険しくなった。占い師ルイネロの娘ユリマには予知夢を見る力がある。血は繋がっていないが、似た者親子というわけだ。原作ではその力で主人公一行の到着を予知したり、主人公の正体に朧気ながら感づいたり、水晶玉の場所を言い当てたりしていた。

俺はこのトロデーン行きの旅で何かが起こることを確信した。

 

「ユリマさん」

 

「ドルマゲスさん…」

 

「我々の事を心配してくださるのはとてもありがたいです。しかし怯えることはありません。ここには貴方の信じる道化師とその師匠がいるのです!どんな厄災だって払いのけてみせましょうとも!ええ!なので…」

 

俺は空中からマーブル模様の入った桃色のバラを8本ほど、手品のように取り出してみせた。また指を鳴らしてそれを花束の形にラッピングし、ユリマちゃんに持たせる。ここ数年で上達した呪術の応用だが、中々様になっているのでは?

 

「それを私と師匠だと思って大事にしてくださいね」

 

『我々が帰ってくるまで』とは言えない。言ってしまえば、彼女はその言葉に囚われて雁字搦めにされてしまうかもしれない。ならばせめて精一杯の笑顔で。今まで怖い怖いと言われ時々笑顔の作り方を研究してきたのだ。素敵な笑顔に見えている──と思いたい。

 

「これは…」

 

「バラです。…ここらではあまり見ない花かもしれないですね。綺麗でしょう?知っていますか?8本のバラには『あなたの思いやりに感謝します』という意味があるんですよ」

 

「へえ…!」

 

「ユリマよ、ドルマゲスの言う通りだ。この半人前の魔法使いは頼りないが、賢者の子孫であるわしがついている。滅多なことではやられんわい」

 

「…分かりました。もう、止めません。でも、帰ってきてくださいね!絶対に!私、待ってますから!二人のお帰りを!」

 

俺は右手を上げて返事をした。言葉では…返せなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

門も閉じられ、二人の姿が見えなくなっても、ユリマはしばらく門を見つめていた。その眼に涙を湛えて。

 

「(きっと、ドルマゲスさんは知っているんだ…何かが起こるって…もう帰って来れないかもって…それでも行くって決めたんだ…)」

 

ユリマは道化師に貰った8本のバラを見つめた。それを見ていよいよユリマの涙は溢れ出した。

 

「……言って、おけばよかったなぁ……私の気持ち…」

 

ユリマはその場に座り込んで声を上げ泣き始めた。その慟哭は何事かと飛び起きた道具屋の店主によって自宅に送り届けられるまで続いた。

 

 

8本のバラの花言葉は、「あなたの思いやりに感謝します」桃色のバラの花言葉は「可愛い人」、そして斑模様(マーブル)のバラの花言葉は…

 

 

「……私だって、ひと時も忘れてあげませんよ。貴方みたいな素敵なピエロさんのこと…」

 

 

 

『君を忘れない』

 

 

 

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「…来ないですね、馬車」

 

「…そうだな」

 

威勢よく町を出た俺と師匠だが、門の外で早速待ちぼうけを食らっていた。幸先悪すぎない?

 

「も、もしかして生誕祭は来月だったんじゃないでしょうか?」

 

「そんなわけあるか。わしは確かに今日迎えが来ることを確認したぞ」

 

「…師匠」

 

「なんだ」

 

「一回家に戻ってもいいですか?」

 

「なんだと!?ドルマゲスお前さっきのユリマの言葉で怖気づいたのではあるまいな!?」

 

「い、いえ違いますよ!だからこそです!用心に用心を重ねて何が悪いんですか!師匠も歯ブラシとかちゃんと持ってきてるんですか?」

 

「むむ……確かに、未来に何が起きるかは誰にも分からん事だからな…」

 

俺の場合は逆である。遠くない未来に何かが起きると確信しているからこそ、あの家のものの俺の私物はほとんど持っていく必要があるのだ。

 

「しかし…先ほどあんな啖呵を切っておいてどの面下げて町へ戻るというのだ!戻りたいならお前が取ってこい、お前なら気付かれずに取って来れるだろう!あと…歯ブラシ取ってきてくれ。」

 

「はぁ…承りましたよ。では…『賢人の見る夢(イデア)』」

 

俺は空間に穴をあけると座標を自宅に繋げて転移した。この技は現世の魔術を呪術で疑似的に再現したものである。実に6年の歳月をかけて完成させた俺の最高傑作だ。他にも分身ができる『悪魔の見る夢(アストラル)』、精神体として幽体離脱できる『胎児の見る夢(エーテル)』も習得している。

 

 

「…この家ともおさらばかぁ。」

 

俺は部屋のものをまとめて亜空間にぶち込みながら感傷に浸った。思えばこっちの世界に来てから8年近くが経っている。見慣れた家を去るのは悲しいが、今は前に進まなければならない。俺は思い出したように先生と教授に手紙を書くため筆を執った。手紙には今までの感謝と、これからしばらくいなくなること、料理をたくさん作ってドランゴに預けているのでお腹がすいたらドランゴを訪ねることなどをしたためて封をし、師匠の歯ブラシを取ってまた『イデア』で外に出た。

 

「ただいま戻りました。師匠、迎えは来ましたか?」

 

「いいや、来ておらん。おかしい、もうすっかり朝だぞ…」

 

「何かあったのかもしれませんね、此方から迎えに行きましょう」

 

「…うむ、そうするか」

 

俺と師匠は歩いてトラペッタの町を出発した。道中でドランゴに手紙とありったけの料理を渡し、手紙を先生たちに届けてくれるように頼んで別れを告げた。ドランゴは俺が普通に帰ってくると思っているようで、特に気に留めていなかった。師匠はドランゴを見て立派なバトルレックスだと褒めていた。俺、そいつに殺されかけたんだけどね。

 

迎えの馬車は南の関所ですぐに見つかった。何を積んでいたのか、尋常じゃない数の「かぶとこぞう」にたかられている。衛兵もかぶとこぞうを蹴散らそうと頑張っているが、多勢に無勢だ。これは確かに動けまい。

 

(失せろ)

 

俺は自然語…「自然系」に分類される魔物の共通言語でかぶとこぞうの群れに呼びかけて威圧した。この周辺のかぶとこぞうは俺が数年前にレベル上げのためにここらで大暴れしたことを覚えているはずなので、俺の声に気付いたかぶとこぞうたちは俺の顔を見て慌てて逃げていった。

 

「いやはや…助かりました…」

 

木の陰に隠れていたらしい御者が現れた。

 

「すごい数のかぶとこぞうでしたが、何か積んでいたのですか?」

 

「恥ずかしながら、道中に食べようと思っていた蜂蜜をぶちまけてしまいまして…誠に申し訳ありませんでした。」

 

「(何やってんだか…)まあ、無事で何よりですよ。物資は大丈夫ですか?」

 

「それがさっき食糧も食べられてしまいまして…」

 

「…ふむ…ならば、リーザスの村で補給を行うか。ドルマゲス、お前はリーザスの村民にも顔が利くのだろう?」

 

「ええ、まあ多少は」

 

「なんと!それはありがたい申し出です!では早速向かいましょう。ささ、お二人ともお乗りください。」

 

俺たちは馬車に乗り込み、リーザスの村に寄ることにした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ああっドルマゲスさんが来たぞ!」

 

「本当?待ってよポルク~」

 

リーザスの村に入ると村のやんちゃな坊主であるポルクとマルクがやってきた。

 

「おやおや、二人ともお久しぶりです。お元気でしたか?」

 

「俺もマルクも元気だぜ!ドルマゲスさんは今日も手品を見せてくれるのか?」

 

「いえ、今日はトロデーン城に行くのですよ。そのついでにちょっと寄り道をしに来ましてね。アローザ様を呼んできてもらってもよいですか?」

 

「アイアイサー!よし、行くぞマルク!」「おー!」

 

俺は走って屋敷に向かう二人を見送った。まだまだ生意気盛りだが、赤ん坊のころからたびたび顔を見ている身としては成長が感じられてなんだか温かい気持ちになる。すると入れ替わるようにして現れたのはアルバート家のお嬢様、ゼシカと…

 

「これはこれはお初にお目にかかります、サーベルト様、ですね?」

 

「…ああ、初めまして、俺はサーベルト・アルバート。貴方がドルマゲスさんですね、妹から貴方の話を耳にしたことがあります」

 

サーベルト・アルバート、その真名はサーベルト・クランバートル。七賢者の一人、『魔法剣士』シャマル・クランバートルの子孫…つまり賢者の末裔である。俺は何度もリーザス村に赴いているが、その度にサーベルトは不在だった。村の用心棒も請け負っているというので、おそらくいつもパトロールか何かに出かけているのだろう。なので俺とサーベルトは初対面なわけだが、俺が顔を上げるとあからさまに彼は俺のことを警戒していた。なんでだろう。顔が怖いからかな。

 

「(…!リーザス像のお告げにあった、"邪悪なる道化師の男により王国は滅び、世界は闇に覆われる"という言葉…まさか彼がそうなのか…?)…失礼、この村へはどのようなご用件で?」

 

「それはですね…」「私が代わってお伝えします!」「…えー、ではお願いします」

 

トロデーンの御者が説明をしてくれるというので、ここは素直にお譲りしよう。

 

 

「…というわけでこの村で物資の補給をしたいというお願いをしに来たのです!」

 

「そうですか…(やはり、これから王城に行くとは…『邪悪なる道化師の男』は彼で間違いなさそうだ…)」

 

「何事ですか」

 

御者がちょうどサーベルトに説明をし終えたタイミングでアローザが現れた。アローザ・アルバート。サーベルトとゼシカの母で、リーザス村周辺の辺境伯にして家訓を重んじる厳格な貴族だ。御者は全く同じ説明をアローザにもする羽目になった。

 

「ドルマゲスさん、少しいいでしょうか?」

 

俺がポルクとマルク、ゼシカや村の子どもたちに新作の手品を披露して楽しませていると、思いつめた顔でサーベルトが近づいてきた。二人で話がしたいというので村の外まで行くことにした。リーザス村の象徴である二つの風車がガラガラと寂しい音を立てて回っている。

 

「はい、それで…ご用件はなんでしょうか?」

 

「…俺も貴方たちについていってもいいでしょうか。アルバート家の嫡男である私なら王も駄目だとは仰られないでしょう。はっきり申し上げておきます。突飛な話で恐縮ですが、俺は貴方を疑っています。俺が授かったリーザス様のお告げの中に出てくる世界を滅ぼす男に貴方が該当するのではないかと考えているのです。」

 

おお…なんと歯に衣着せぬ物言い…こういうところも村人から信頼される要因なのだろうなあ。そしてはい、合ってます。正解ですリーザス様。

 

「…私は何もする気はありませんよ。疑われるのは心外ですが…生憎私には己の無実を証明する手立てはありません。それに、貴方についてきてもらえるととても心強い、願っても無い話です。こちらからもぜひお願いしますよ。」

 

「…そう、ですか。ご理解いただき感謝します。」

 

俺たちが村に戻ると、無事に話はまとまっていたようで御者が荷物をせっせと馬車に積んでいた。よく働くなあ。

 

俺が御者の仕事ぶりに感心していると、サーベルトはアローザのもとへ歩いていった。

 

「母さん、俺もこの人たちについていってもいいですか」

 

「…サーベルト、いきなり何を言い出すのですか。そんなことは許可しません」

 

するとサーベルトはアローザに耳打ちをした。おそらくお告げの事を話しているのだろう。アローザは少しだけ困ったような顔をした。

 

「…あなたの言いたいことは分かりました。しかし村の警護はどうするのですか?」

 

「それは…」

 

サーベルトは言葉に詰まってしまった。それを見てゼシカたちもおろおろしている。俺としてもサーベルトが戦力に加わってくれると何かあったときに助かる。なにせ彼は最強クラスの鎧(なんとあの「はぐれメタルよろい」と性能が大差ない)を持っている上に七賢者シャマルの剣の才能も受け継いでいるのだ。原作で彼が死んでしまったのは原作ドルマゲスに動きを止められてしまったからである。うーむ、何たる卑劣漢か!許すまじドルマゲス!…よし、ここは俺が一肌脱ごう。俺は小声で師匠を呼んだ。

 

「師匠」

 

「なんだ」

 

「"これ"を師匠からアローザさんたちに紹介して渡してください。これがだめなら"これ"を。もしこれがだめでも村人たちが何とかしてくれるはずです。私が渡すと信頼度が薄れますので…頼んでもいいですか?」

 

「これは…ふん、何を狙っているのか知らんがお前が言うなら間違いはあるまい。仕方ないな…」

 

俺が師匠に大きな袋と小さな袋を渡すと、師匠は一歩前に出た。

 

「失礼、私はトラペッタの魔法使いマスター・ライラスです。村の警護のことでしたら、丁度良いものがあるのでよければ提供しましょう。」

 

そういって師匠は大きな袋から「メタッピー」を取り出した。それを見てポルクが叫ぶ。

 

「わあ!!魔物だぁあ!!」

 

それを聞いて村人は怯え、サーベルトは腰の剣に手をかけるが、師匠は落ち着き払ってメタッピーを地面に置いた。

 

「おほん、これは私(の弟子)が作った、せきゅりてぃさぁびす…村を守るマシンです。魔物の形をしていますが、この通り、人間の力によって完全に制御できます。」

 

師匠が手にしたリモコンを操作すると、メタッピーは羽ばたき始め、空に浮かび上がった。そのまま8の字に飛んだり、空中で1回転してみせたりした。これは俺がメタッピーの機構から着想を得て、アスカンタから持って帰ってきた「ガチャコッコ」の残骸と組み合わせて作り上げた、人造モンスターだ。「ピーチクver.2.0」と名付けた。ガチャコッコの部品を使っているので、このあたりの魔物では太刀打ちできないだろう。巡回モードに設定しておけば、村の周辺をグルグル回り村の害となる魔物に遭遇するとアラームを鳴らした上で戦闘を開始してくれる。村人に遭遇するとピィピィとさえずったり愛らしい仕草をするプログラムも入力しておいた。現にトラペッタでは何匹かこのマシンの試作品を飛ばして安全性も確認している。町の人にも好評だ。ゆくゆくはリブルアーチの周辺にいる「アイアンクック」の部品も使ってもっと高性能なセキュリティサービスを作りたいと考えている。

 

「緊急時には、この赤いボタンを押すと全ての機能を停止します。なのでこのマシンによって村が脅威にさらされることはありません。」

 

ポルクとマルク始め子どもたちは目を輝かせているが、アローザやサーベルトはまだ悩んでいるようだ。それもそうだ、自分たちが怪しんでいる相手の仲間がこんなものをくれると言ったって、簡単にはいそうですかと受け取ることはできない。しかしまだ策はある。師匠は場の雰囲気を察するとすぐに第二の作戦に移った。

 

「そしてもう一つ、これも私(の弟子)が発明した、『魔法玉』です。これは魔法を特殊なガラスに閉じ込めた玉で、誰にでも扱うことができます。使い方は簡単、魔物に向かって投げるだけです。こんなふうっに!」

 

師匠が小さな袋からピンポン玉ほどの大きさのガラス玉を取り出すと、村の入り口近くをうろうろしていた「サーベルきつね」にぶつけて爆発させた。爆発呪文『イオ』である。哀れサーベルきつね。そんなところにいたお前が悪い。

 

これも俺が「ばくだんいわのカケラ」などから着想を得て作ったものだ。魔物の敵意に反応して炸裂するので誤爆する心配はない。メラ玉、ヒャド玉など色々な種類があるので、インテリアとして飾っておいても綺麗だ(どうでもいい)。

 

今まさに村に入り込もうとした魔物を退治したことで、村人から歓声が上がった。師匠は早速村人たちに魔法玉を配布し始めた。ポルクなどはもう熱心に「ピーチクver2.0」の取扱説明書を読んでいる。仕事が早い…

なおも渋るサーベルトの肩にゼシカが手を置いた。

 

「大丈夫よ、兄さん。ドルマゲスさんはそんな悪いピエロの人じゃないわ。それにいざとなったら私が魔物やあのマシンを倒しちゃうから心配ないわよ。ね、母さんもお願い。」

 

「ゼシカ……よし、母さん。村の警護はあのマシンに任せようと思う。」

 

「何を…!貴方は彼らを怪しんでいるのではなかったのですか?」

 

「そうです。…しかし、この村には村人たちもいるし、何より一人前の魔法使いであるゼシカがいる。この村はきっと大丈夫です!」

 

「………そこまで言うなら私から言うことは何もありません。気を付けて行ってきなさい、サーベルト。」

 

そういうとアローザは屋敷へと帰っていった。

 

「さて、そういうわけでトロデーン城まで同行させていただきます。よろしくお願いします。マスター・ライラスさん、色々ありがとうございました。」

 

自分の発明ではないものを自分の功績かの様に持て囃されているのが気に食わないのだろう、師匠はむず痒そうにしている。律儀な人だ。…プライドが高いとも言う。

 

「兄さん!気をつけてね!ドルマゲスさんも!また来てね!」

 

ゼシカがニコニコしながら手を振った。

 

「ゼシカもあまり母さんを困らせるんじゃないぞー!」

 

「ゼシカさん、サーベルト様を説得していただき、ありがとうございました。これは餞別です、どうぞ使ってください。きっとよくお似合いですよ。」

 

「ありがとうドルマゲスさん!綺麗なブレスレットね!嬉しい…」

 

サーベルトは馬車に乗り込みながら大きく手を振り返し、俺はゼシカに小さな箱で簡素にラッピングした「金のブレスレット」をプレゼントした。身に付けると守備力が上がるアイテムである。海を歩いている時にケンカを売ってきたイカをボコボコにした際イカから献上された貰い物だが、まあちゃんと洗ったし無いよりましだろう。俺も馬車に乗り込み、馬車は出発した。

 

 

目的地はトロデーン城。「ドラゴンクエストⅧ」の始まりの地だ。

 

 

 

 

 

 




サーベルトのお告げ云々は創作です。でも不思議な力を持つリーザス像ならこれくらいやりそう。

ドルマゲスが覚えた3つの現世魔術についての解説

『賢人の見る夢(イデア)』は「呪われしゼシカ」が空間を切り裂いて「シャドー」たちを呼び出す技に近いです。ドルマゲスくんは専らどこでもドア兼四次元ポケットとして使っています。名前の元ネタは近世ヨーロッパの一部で研究されていた「プラトン的魔術」の重要な要素となる、不可視の理想郷であるイデアから拝借しています。
『悪魔の見る夢(アストラル)』はそのまま原作ドルマゲス第一形態の分身技に名前を付けたものです。分身体にも意識があるので、性能としてはNARUTOの影分身の術が近いです。名前の元ネタは西洋魔術などで使用される、幻惑の世界であるアストラル界から拝借しています。
『胎児の見る夢(エーテル)』にドラクエ8における元ネタはありません。しかし、実際の西洋魔術理論ではアストラル界とエーテル界は切り離せないもの…とされているので入れさせていただきました。幽体離脱を行うことは、西洋魔法世界では「エーテル旅行」と呼ばれます。


発明品とかを紹介するときが一番書いてて楽しいですね…


ドルマゲス(男・28歳)
好きなもの:トラペッタの町
嫌いなもの:暗黒神ラプソーン


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第八章 収束と暗黒 ①

主人公視点難しそうだなぁ…書けるかなぁ…


(閲覧自由)設定資料集を更新しました。2022/9/30
序盤の町やダンジョンの説明、トラペッタの町のキャラクターの説明を追加しました。
良ければどうぞご覧ください。

あと改めて世界地図を確認したところ自分のイメージと少し異なっていたので第六章を一部修正しました。ストーリーに影響は与えませんので見直さなくとも問題はないです。








ハロー、リーザスの村を出てからは驚くほどに何もなくてかなり暇な道化師、ドルマゲスです。日頃めちゃくちゃ忙しくしているので、何もせずに馬車に座っていると逆にそわそわしてしまいます。通行用に開拓された道を通っているので魔物もあまり出ないですし。仕方ないので体内に流れる気を素早く循環させて体内の魔力と霊力を分離させる練習をしています。動かなくてもできますしね。

 

 

 

 

馬車での旅は問題なく進んでいる。あったことはと言えば、途中で休憩のため降りた浜辺で襲ってきた「エビラ」を一匹捕まえて大きなガーリックシュリンプを作り、みんなで食べたことくらいだ。サーベルトは俺のことを怪しみながらも最終的にはおいしいおいしいと喜んで食べてくれた。御者などは言葉も忘れてエビラにむしゃぶりついているので、みんな少し引いていた。御者とは、意外に稼げない仕事なのだろうか?そうこうしているうちにポルトリンクの近くまで来た。遠くに既に出航した船が小さく見える。

 

「本当はですねぇ、このまま真っ直ぐ進めば近道なんですけど、生憎つい先月大きな崖崩れがあってですね…ほら、この通りですよ」

 

俺たちが馬車から出ると、大きな岩が荒野に続く道を塞いでいるのが見えた。どうやっても馬車では越えられそうにない。

 

「なるほどなるほど…確かにこれは遠回りする必要がありそうですねぇ…」

 

「でしょう?先の一件でかなり時間を食ってしまったのでかなり急がないと…ああっ!」

 

突然御者が素っ頓狂な声を出すので、俺は面食らって幌の柱に頭をぶつけてしまった。一方師匠は落ち着いたもので、お前は何をやっているんだという目で俺を見てから御者に質問する。

 

「どうしたのですかな?」

 

「ふ、船の事を完全に失念していました…本日は海流変動の関係で便が減り、我々が乗るはずだった便が最終便だったのです…!」

 

「そういえばそうでしたね…すみません、ポルトリンクに船を出すよう命じているアルバート家の者でありながら、俺もすっかり忘れていました…」

 

「つまり、姫様の生誕祭には間に合わないということですか?」

 

「そ、そういうこと…です…ど、どうしよう…」

 

顔を青くして焦る御者、困惑するサーベルト、やれやれと呆れる師匠。三者三様のリアクションを見せる中、俺はというとこれでトロデーン行きが取り消しになるなら願ったり叶ったりだと内心小踊りしていた。暢気なものだ。もっとも周囲から見ればたいそう邪悪な笑みに見えたことだろうが。しかし、その目論見は轟音と共にかき消された。

 

「な、何事です!?」

 

「お、大岩が…!」

 

突然大岩が崩れ、()()()()()()()()馬車ならばギリギリ通れそうな隙間が現れた。

 

「おお…少々危険そうですが、あれならなんとか通り抜けて、荒野から王城に向けて進むことができるのではないでしょうか?」

 

「ああ、なんてことだ…神様は本当にいたんだ!これでクビにされなくて済む…!」

 

「ふん、わしは城に着くならなんでもいい」

 

「…」

 

「では道がまた塞がってしまう前に行きましょう!」

 

先程までとは全く反対で安堵する三人とは裏腹に、俺は心の中で盛大に舌打ちをした。

 

「(クソ、ラプソーンめ…俺を何としてもトロデーン城へ到着させるつもりだな…)」

 

実際、魔力を抑制する結界の中に封印されている状態のラプソーンにこんな芸当ができるかは不明だが、偶然というには明らかに出来すぎている。もしこの手引きをしているのがラプソーンでないのなら、このドラゴンクエストⅧの世界そのものが相手ということだろうか。世界が俺に対し「早く物語を始めろ」と急かしているかのように思えて仕方ない。…いや、それは流石に考えすぎか。ともかく、俺たちは荒野を通過してトロデーン城まで向かうことになった。

 

「すごい…俺は初めて荒野に来ましたが、荒野には船が置いてあるのですね…いったい誰がどうやって…」

 

「この辺りは遠い昔は海だったのだ。あれはその当時に乗り捨てられた船、ということだろう。もっとも、船と言ってもただの船ではなく古代の超技術で作られた魔道船のようだがな。」

 

「なるほど…マスター・ライラスさんは何でも知っておられるのですね。」

 

「最近読んだ本にそう書いてあったのをたまたま覚えていただけだ。」

 

師匠とサーベルトにつられて俺も幌から顔を出す。大きな船だ。この荒野はトロデーン国領なので、もう少し王室お抱えの研究者などが色々調べても良さそうなのだが、原作では図書館の隅っこに一冊の書物として情報が残っているだけで後は放置されていた。トロデ以前のトロデーン王のことは知らないが、トロデは考古学分野の話には微塵も興味がないのは確かだろう。

 

船のイベント繋がりで思い出したが、俺は結局この数年間では月の民イシュマウリに会うことができなかった。「旧き世界」の時代からこの世を生きているイシュマウリに話を聞けば、色々有益な情報を得ることができると思っていたのだが、願いの丘の頂上で待てど暮らせど「月影の窓」が現れることはなかった。単純に俺の知らない条件があるだけなのか、月の世界側が俺を拒否しているか、今は会うときではないかのどれかだろう。イシュマウリ本人も「人の子に月影の窓が開かれるのは一度きり」と言っていたので、本当に必要な時にしかこの世界と月の世界は接続されないのかもしれない。

 

俺は「ばくだんいわ」や「イーブルアイズ」との戦闘後に「おおさそり」の群れを見かけた。うーん?奴らはこの辺りには生息していなかった気がするのだが。サーベルトにそれとなく聞いてみると、同種との縄張り争いに敗れた魔物が、ごくたまにこうして自分の生息域外へ移住することがあるのだと言う。俺の原作知識もだんだんあてにならなくなってきたな。サーベルトは生態系が荒れる原因にもなるから、生息域から離れたモンスターは狩っておいた方が良いと言うので、俺はサクッとおおさそりを絞めてモツを抜いたり甲殻を剥くなど軽く加工して、空間魔術『賢人の見る夢(イデア)』の亜空間に放り込んだ。亜空間内はまあまあ気温が高く乾燥しており、空気も薄いしおまけに若干時間の流れも違うという精神と〇の部屋のような環境なので、おおさそりはきっといい保存食になるだろう。俺も小旅行中にマイエラ地方でおおさそりを食べたことがあるが、少し臭いくらいで悪い食感や味ではなかった。

御者とサーベルトはギョッとしている。師匠は魔法薬の関係でこういったゲテモノには慣れているのか興味もなさそうだ。

 

「た、食べるおつもりなのですか…?」

 

「?ええ、まあそのつもりですがどうしました?欲しいのなら喜んで譲りますが…」

 

「い、いえいえ!結構でございます…!」

 

なんだなんだお前ら!エビラは喜んで食うのにおおさそりは食わず嫌いか!?そーいうの差別だぞモンスター差別!差別反対!!

 

とは言わない。基本的に体内に魔力を蓄える魔物は食用には適さないというのが一般常識だからだ。食べられないわけではないが大味だし(それは調理せずに焼いて食っているからだが)、命を賭けるリスクの方が大きい。今回は毒袋を既に摘出しているが、本来おおさそりは毒もあるしな。まあサーベルトは貴族だしこういうものとは無縁だっただろうから仕方あるまい。

 

その後荒野地帯を抜け、荒野の山小屋で教授の仲間のスライムたちに挨拶をしたり、御者から『魔法玉』の交易を打診されたりした。俺はもちろん断った。魔法玉一個作るのにもまあまあMPが必要なのだ。一日に一個か二個作るのが限界な俺に国単位の交易は荷が重い。そんなこんなで俺たちはトロデーン西の教会にたどり着いて一泊し、明日の旅に、そして明後日の生誕祭に備えた。御者の話では明日の昼前にはトロデーン城に着く予定だと言う。いよいよか。俺はまとわりつく不安を拭い去るように布団をかぶって寝た。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

俺は夢を見た。ラプソーンの魂が封じられた神鳥の杖を手にして正気を失った俺がトロデーンを滅ぼし、師匠を殺し、サーベルトを殺し、そしてけたたましく狂った笑い声を上げながらまだ見ぬ賢者の末裔を殺しに行く…

 

「い、嫌だ!!!!」

 

俺は自分の叫び声で目が覚めた。師匠たちはびっくりして俺の方を見た。もう俺以外は全員起きていたらしく、窓の外も明るくなっていた。

 

「どうしたドルマゲス、悪い夢でも見たのか」

 

「え、ええ…ハハ…これはお恥ずかしい…(夢か…)」

 

「全く…こちらの神父様が朝食を用意してくださっている。さっさと食べて出発するぞ」

 

師匠と御者は呆れたように笑い、教会の神父さんとシスターもニコニコとしている。俺は苦笑しながらも、一人だけ真剣な顔で俺を見ているサーベルトの視線は見逃さなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「皆さん、ついにトロデーン城まで到着です!お疲れさまでした!」

 

「ほほう…これがトロデーン城ですか…」

 

「わしは6年ぶりだな」

 

「俺もまだ小さい頃に一度来たきりです。懐かしいな…」

 

俺たちはトロデーン城の正門まできたところで馬車を降りた。威厳のある城だ。大きさはサザンビークの城には及ばないが、DQⅠの竜王の城みたいないかつい立地をしているので重厚感がある。御者に旅の礼を言って別れ、入城手続きや明日の式典の予定の確認などを終わらせ、俺たちは夜に宿屋で落ち合うことに決めて別々に城下町の観光へ繰り出した。と言っても最早時間のない俺が向かうのはトロデーン城内の大図書館だ。時間の許される限りここで魔法や科学などの情報を仕入れたい。

 

俺はできるだけ宝物庫から遠い裏門から城内に入ったが、そこで強い強迫観念にとらわれた。『宝物庫に侵入し、杖を手に入れて大きな力を手に入れたい』という強い欲求が心の中に現れたのだ。続いて脳内に声が響く。『己を嗤った者を見返すための力を欲する道化よ、宝物庫に侵入し我を解放せよ。さすれば望む力は与えられん。』『己を嗤った者を見返すための力を欲する道化よ、宝物庫に侵入し我を解放せよ。さすれば望む力は与えられん。』同じ言葉が何度も頭に反響する。反響する。反響する。うるせぇな!

 

くそ、頭がおかしくなりそうだ。ラプソーンは城内の人間にずっとこんな念波を送っているのか?…いや、『道化』の言葉通り、奴が指しているのは俺の事だろう。いつからラプソーンが俺に目をつけていたのかは知らないが、お生憎さまだ。確かに原作ドルマゲスは嘲笑されバカにされながら黒い感情を蓄えて来ていただろうが、今のこの身体の主人は俺だ。そして俺はバカにされてきたことなど覚えていない。だれが杖なんて解放してやるかよ。

 

俺は心の中でラプソーンにあっかんべーをすると手ごろな本を何冊か亜空間に放り込んで、逃げるように城を出た。見た目は明らかに王城から書物を盗んだ犯罪者(実際そう)だが、今は世界の危機なので見逃してほしい。俺は一足先に集合場所の宿屋へ行って本を読むことにした。

 

その数時間後、夜になって師匠とサーベルトが帰ってきた。二人とも満足のいく観光ができたようだ。

 

「なんじゃ、ドルマゲス。随分と早いな。」

 

「ええ、気になる本を見つけると読まずにはいられない性分でしてね。」

 

「相変わらず道化師のくせに辛気臭いやつよの…どうでもいいが、その本はちゃんと貸し出し手続きを行ったのだろうな?」

 

「も、もちろんでございますとも!当り前じゃないですか!いやですね、人を盗人みたいに!」

 

もうほんとごめん、あとでちゃんと返すからさ…

 

「ということはドルマゲスさん、町の飾りはまだご覧になってないのでは?」

 

「はて?飾り、ですか?」

 

「そうです。明日がトロデーン王国のミーティア姫のめでたい生誕祭なので、町中をきらびやかに装飾しているようです。なんとも幻想的ですよ。」

 

俺が宿の窓を開けると、そこには何とも美しい光景が広がっていた。赤青緑、色とりどりの飾りが篝火の揺らめく光に反射してキラキラと輝いている。その光と夜の闇との対比が、より深い美しさを引き出していた。

 

「おお…これは…」

 

なんと美しいのだろう。道行く人みんなが笑顔だ。なんと素晴らしい国だろう。

 

…こんな美しい景色を奪うわけにはいかない。俺は、絶対にこの生誕祭を乗り切ってみせる。

原作を知るものとして、ではなく一人の道化師として、だ。この国の笑顔を一つたりとも奪わせない、奪わせてたまるか。

 

俺は決意を新たに、生誕祭の前夜祭に賑わう城内をひたすら眺めた。

師匠とサーベルトは、そんな俺をじっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 




これから少し投稿頻度が下がります。(三日に一話くらい?)しかしまだまだやる気はございますので、引き続きよろしくお願いしますね。


御者「ああ、なんてことだ…神様は本当にいたんだ!」

ドルマゲス「(神と言ってもラプソーンだぞ…)」


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第九章 収束と暗黒 ②

感想で質問を送ってくれた方がいましたので本作での設定をお伝えしておきます。

Q.ウィッチレディやノックヒップなどの人間に近い姿を持つモンスターは何語で話すのか?

A.悪魔系は基本的に賢さが高いので、大体は人語と悪魔語のバイリンガルであるとします。なので、人間には人語を使うこともあり、仲間内では悪魔語で会話しているのだと思います。悪魔系モンスターは基本的に人間を下等種族だと見下しているので、逆に人間に悪魔語で話しかけられるとめちゃめちゃビックリすると思います。バッタとかカエルが突然人語で話しかけてくるような感覚です。

普通王女の生誕祭ともなれば、他国の要人も招待するのが当たり前ですが、今回は、トロデが自国民と自分の呼び寄せた者たちのみで姫を喜ばせて、姫から尊敬されたい…という野望を抱いていることにし、トロデーン王国内のみで行われる祭典だということにしています。(ご都合主義発動)








夜も更け、町が静まり返っても俺は眠れなかった。

 

目を閉じると城内での記憶が蘇る。あの瞬間、確かに俺は自分が杖を魅力的な存在で、奪うに値するものだと感じた。…城から離れた今はそんなことはないが。同様にラプソーンの声も今は聞こえないものの、あの声はそうそう忘れられるものではない。その次に思い浮かぶのはこれまでのこと。なぜか偶然開かれたポルトリンクからの道、ユリマちゃんの予知夢…。思い返せば全てが怪しい。俺がトロデーンに行かなければならない理由は王に指名されたからで、王に指名されたのは俺が巷で噂の道化師だったから…いや、前にも言ったかもしれないが、俺がトロデーン国領で道化師興行をしたのはほんの数日間だ。そんな一瞬の評判が王の耳に届くものか?いや、俺を指名した決め手はパヴァン王が俺を推薦したからかもしれない。パヴァンが俺を指名するわけは俺がシセルを救出した恩人だからだ。いや、それすらも世界に仕組まれたものだったとしたら?俺の目の前で偶然王妃が足を滑らせる、なんてことはありえるのか…?

 

…だめだ、考えれば考えるほど深みに嵌る気がする…と、その時後ろから声がした。

 

「眠れないのですか」

 

「サーベルト様…」

 

「…ドルマゲスさん、貴方はきっと何かを悩んでおられるのでしょう。」

 

「いえ、そんなことは…」

 

「分かります。私は貴方を疑って馬車に同行した身、この二日間貴方を見てきました。…ゼシカの言った通り、貴方は変わり者だが、真っ直ぐな人だ。…とても何か大きな悪事をしでかすような人ではない、と俺は結論付けました。まずは貴方を疑ってしまっていたことを謝罪させてほしい。本当に申し訳ありませんでした。」

 

サーベルトは頭を深く下げた。アローザはゼシカもサーベルトも自由奔放で行動力のあるところが父親そっくりだ、とよく嘆いていたが、こういう真面目で誠実なところはきっと母親似なのだろうと思う。

 

「そんな…頭を上げてくださいサーベルト様。貴方は当然のことをしただけです、何も謝罪することなどございません…」

 

そんな俺の言葉を聞いてか聞かずか、サーベルトは頭を上げて続けた。

 

「なので、分かります。ドルマゲスさんは何か悩んでおられますね?それも、かなり大きな…()()()()()()()()()()お悩みを」

 

俺は思わず顔を上げ、サーベルトと目が合った。まずい、これではその通りだと白状した様なものではないか。

 

「…これは驚きました。アルバート家のご嫡男は何とも聡明なお方だ。なるほどなるほど、確かに私はとても大きなことについて考えております。…しかしこれは私の問題だ。貴方には関係のないことです。ご厚意には感謝しておりますが、どうかお引き下がり願いたく。」

 

俺は強い口調で言い放った。サーベルトが俺の悩みを見抜いたことには驚いたし、その上で俺の事を認めてくれたのは嬉しい。だが原作知識の共有というものは非常に危険なものだ。未来を知った人間は、それからどう動くかが分からない。それはいずれバタフライエフェクトを起こして、思わぬところで手痛いしっぺ返しを食らうかもしれない。

 

しかしサーベルトは引き下がらず、俺は彼が誰の血を引いているのかを再確認させられることになった。

 

「いいえ、教えてもらうまで俺は動きません。困った人には寄り添うのがアルバート家の()()です。」

 

「(…ゼシカもそうだけどそういう強情なところもアローザそっくりだよな…)」

 

「もういいだろう、話せドルマゲス」

 

「し、師匠…!?しかし…」

 

いつの間にか起きていた師匠が後ろから俺に声をかけた。いや、もしかしたら師匠も最初から寝ていなかったのかもしれない。

 

「マスター・ライラスさんはドルマゲスさんの悩みについて何かご存じなのですか?」

 

「いや、知らん。だがわしはこいつが何かを抱えておることには、トラペッタの町を出る前から感付いておった。何故かと?…愚問だな、わしが一体誰の師だと思っているのか?」

 

「さあ話せドルマゲス。お前の悩みを。」

 

「俺たちは貴方のために動く覚悟ができています。」

 

「…」

 

俺は迷っていた。彼らにこれから起こることを話すべきか否か。しかし彼らの俺に対する信頼を俺は見誤っていたようだ。彼らはここまで俺を信頼してくれているのだ。ここで真実をはぐらかすときっと大切なものを失ってしまう気がする…えーい、ままよ!!

 

「…二人とも、ありがとうございます。ではお言葉に甘えて相談させていただきます。話す前に断っておきますと、今から私が述べる内容は非常に非現実的なものとなるでしょう。しかし、そこには一点の嘘偽りも無いことを私は天に誓います。道化師ドルマゲスではなく、ただのドルマゲスとして、あなた方の信用に応える所存でございます。もちろんこれから話すことは他言無用でお願いしますよ。では…」

 

俺は二人に俺が転生者であることなどは伏せ、これから起こるであろう未来の事を話した。トロデーン城の宝物庫にある杖には暗黒神の魂が封じられていること。その杖の封印を解くためには七人の賢者の末裔を殺す必要があること、杖を手にした生物は暗黒神に操られてしまうこと。おそらくこのままでは自分がラプソーンの端末となる対象になり、トロデーン城を呪いで包んでしまうであろうことなどを話した。

 

俺は「何を世迷い事を…」と言われるのを覚悟していたのだが、二人とも驚きこそすれ、俺をたしなめたり疑うようなことはせず、神妙な顔で話を最後まで聞いてくれた。

 

「なるほど…何か打つ手はないのでしょうか?」

 

「…私が言うのもなんですが、信用していただけるのですか…?」

 

「確かににわかには信じがたい話ですが、貴方がこんな場面で嘘をつく理由の方が見当たらない。より信憑性の高い方を選んだまでですよ。」

 

「ふん、わしは7年前に酒場の店主に言われてからお前のことをずっと見てきた。わしの知る魔法使いの弟子ドルマゲスは、このような下手な嘘は絶対につかん」

 

…なんという聖人たちであろうか。俺は目頭が熱くなるのを感じた。

 

「…二人には感謝してもしきれません。この恩はいつか必ず…」

 

「顔を上げてください、俺たちは何も貴方に感謝されたくて話を聞いたのではないですから。」

 

「…失敬、そうですよね。では続いて対策を考えていきます。まず一つ目は力技です。私が我慢すること。ラプソーンの今回の狙いは間違いなく私です。他の誰かを端末にする可能性も考えられますが、メインは私です。よって私がラプソーンの思念に耐え切ればひとまずの危機は去るはずです。しかし私が欲求に打ち勝てず杖を解放してしまった時が二つ目。私を取り押さえて杖を取り上げてください。この作戦のデメリットは杖を取り上げた人物が次の端末と化す可能性です。しかし賢者の血を引くお二人ならば暗黒神の思念にも対抗することができるでしょう。そして三つ目、杖の魔力によって強化された私が想像よりも強く、杖を取り上げることができなかった場合ですが…」

 

「よい、それ以上言うな。ドルマゲス、お前は師に弟子を殺せと命じるのか?」

 

「あなたのような人間がこんなところで死んでしまうのは世界の損失です。そんなことはアルバートの名に誓い、絶対にさせません。」

 

俺は再び熱くなる目頭を押さえて話を続ける。いや、もしかしたら泣いていたかもしれない。こんなに温かい空間は初めてだ。俺はずっとこの時間が続けばいいのに、とさえ思った。

 

「…では三つ目を飛ばして四つ目を。これは苦肉の策です、できれば二つ目までで終わらせたいのですが…四つ目は私を放置し、二人はトロデーンを脱出することです。当然城は呪いに覆われるでしょう。しかし呪われた人々は命を落としたわけではありません。ラプソーンの目的は自身の魂と肉体の封印を解くことによる完全なる復活。…となれば自由な肉体を手に入れた後はお二人を始めとした賢者の末裔たちの下へ向かうはずです。私が向かうまでにお二人で戦力を揃え、改めて私から杖を取り上げ、どこか深い海の底などに沈めてください。おそらくラプソーンは海の魔物を使役して地上へ帰って来るでしょうが、賢者の血が薄まっていなければ、我々でも十分相手取ることができるはずです。しかしこの最大のデメリットは、ラプソーンを滅ぼす以外に呪いを解く方法が未だ見つかっていない、ということです…」

 

「ふむ、となるとやはり最善手は一つ目だが、お前は甲斐性がないからな、それを鑑みて、最善手は二つ目だ。」

 

「では、我々はいつでも戦闘に入れる準備をしておけばよい、ということでいいでしょうか。」

 

「ええ、その認識で問題ないです。私も明日がどうなるか分からない以上、策を巡らせすぎるのはかえって自分を縛ることにも繋がります。」

 

一見何の解決にもなっていないように見えるが、これから戦闘が始まると知っているのといないのとでは初動に劇的な違いがある。そして初動はそのまま決定打に繋がることもあるのだ。そしてその後も細かい打ち合わせをした後、床についた。師匠とサーベルトは何か話していたようだったが、俺は肩の重荷が降りたような気がしたからなのか、安堵で緊張の糸が切れて眠ってしまった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

翌日、姫の生誕祭は予定通り行われた。まず、俺たちは広場に集まり、トロデ王のありがたい演説(9割強が娘自慢だった)を聞き、その後にミーティア姫の演説。それから国民は姫の成人を祝う祭りに繰り出し、俺たち招待客は城内の謁見の間で姫に余興を披露する、という手筈だ。

 

トロデ王の演説はともかく、ミーティア姫の演説は良かった。王に溺愛されているせいでまだ少し甘えが抜けていない姫だが、一国の王女として国民の上に立つ重要性をしっかり弁えている。西方のアホ王子にもぜひ見習ってもらいたい。…あ、奴はミーティア姫の許嫁だったか…かわいそうなミーティア姫…

 

そして俺たちは城内に招かれた。早速昨日と同じ言葉が脳内に響く。しかも今回は正門から入ったのでより宝物庫に近い。故にその波動は凄まじいものだった。思わず眩暈がするも、何とか耐え忍ぶ。サーベルトが後ろから俺を心配しているが、俺は問題ない、と手でサインを出した。そして玉座のある謁見の間で俺たちは余興を披露することになった。まずは何とかの吟遊詩人、そしてなんとかの音楽家…正直それどころではなく記憶に残らない。そして俺の番になった。

 

いくら目的が別のところにあると言ったとしても自国の王と王女の前で、それよりも自分の道化師としてのプライドが俺に手を抜くことを許させなかった。俺は強迫観念と念波を振り払い、今までで最高のパフォーマンスを披露した。出し、消し、煽り、惹きつけ、騙し、移動させ、光り、消し、また出す。

人類の知恵の結晶・手品。夢を現実にする力・魔法。そして俺だけが見せられる個性・呪術。この三つを組み合わせた我流演舞を、俺は一切のミスなく完璧に魅せきった。

 

 

 

「…す、素晴らしすぎて言葉も出んわ…そなたがドルマゲスだな?噂に違わぬ名士!天晴れじゃ!褒めて遣わすぞ!!」

 

「私も、こんな素敵で素晴らしい演目は初めて拝見いたしました…まるで夢を見ているようでしたわ…!」

 

「トロデ王、そしてミーティア姫。お楽しみいただけたようで…何よりです。この道化師ドルマゲス、この…この身に余る光栄を受けて恐悦至極に存じます。」

 

俺は恭しく頭を下げ、引き下がった。脳をイバラに巻き付かれるような強烈な頭痛に必死で耐えながら。

 

「(これで…後は帰るだけ…何事もなく…帰る…だけ…)」

 

「ドルマゲスよ!そなたに見せたいものがある!マスター・ライラスとアルバートの世継ぎも共に来るがよい!あとのものは下がってよいぞ!褒美は大臣から受け取るがよい!大儀であった!」

 

俺は正直もう何も聞こえていなかった。耳から入る音は全てホワンホワンとした実体のない音に書き換えられ、師匠とサーベルトに連れられるままにトロデに着いていった。

 

「王様、このドルマゲスは先ほどの演舞で大変疲労しております!どうか休ませてはいただけないでしょうか!」

 

サーベルトが何か言ってくれている。おそらく俺を心配して何かを王に進言してくれているのだろう。

 

「心配するな!これを見れば驚きでどんな疲労も吹っ飛ぶわ!」

 

「しかし…」

 

「さあ、着いたぞ!これ、そこの門番よ…と、今日の担当はエイトじゃったか。客人が通る。()()()のカギを開けてくれい」

 

「了解しました、王様」

 

「!ここが…!い、いけません!!王よ!!!!中に入っては…」

 

師匠も何か言っている・・・のか・・・・・・?わからない・・・ただ・・・そこに、すぐそこにとてもとてもすばらしいものがある・・・

 

ドルマゲスを引き戻そうとするライラスにも気付かず、トロデは宝物を親に見せる時の子どもの様に軽い足取りで階段を上っていく。その姿を追ったドルマゲスの目に、トロデーンの魔法の杖、またの名を暗黒神を封印した呪いの秘宝、神鳥の杖が映った。

 

 

 

 

 

 

ああ。もうだめだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドルマゲスは突如人形(マリオネット)のようにふらりと立ち上がると、ライラスの腕を離れサーベルトが止める暇もなく階段を上り始めトロデ王を突き飛ばしミーティア姫を押しのけ………杖をその手に掴み、鎖を引きちぎった。それと同時に一気に表情が険しくなったサーベルトが剣を抜き、ライラスは杖を構える。

 

 

杖を手にした瞬間、俺は意識を取り戻した。しかし同時に異常な嫌悪感が体中を目まぐるしく駆け巡るのを感じる。とても嫌な気分だ。

その感覚がなんだか異常(おか)しくて、おかしくて、可笑しくて。何だかとても笑いたい気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きひゃっ! くははっ!! あはははははははははははははっ!! ひゃーはっはっはっはぁ!!」

 

 

 

 

 

 














































王様が一番戦犯じゃないか…


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第十章 収束と暗黒 ③

申し訳ありません、いよいよ忙しくなり始め、感想の返信が滞っております。もちろん全て拝読させていただいておりますので、どうかご容赦ください…


Q.トラペッタには代表者が式典に招待されるのに、リーザスの代表者は式典に参列しなくても良いのか?

A.招待されていますが、アローザが丁重に断っています。何故参列しないのかは不明ですが、原作でもエンディングの姫の結婚式に参列していないので、何かしらの家訓を守っているのだと思われます。王の招待を断っても村人の信用を失わないのは、リーザスがムラ社会である影響で、単にリーザスの村民がトロデよりもアローザの方を信頼しているからです。








 

 

 

 

 

 

 

「…なんと邪悪な気だ…」

 

「事前に聞いていたとはいえ、こんな悪魔の杖が城に本当に封印されていたとは…!」

 

城の宝物庫はあふれ出る魔力の奔流で小刻みに震えている。サーベルトとライラスは流れる汗をぬぐうことすらせず一心にドルマゲスを凝視している。トロデ王とミーティア姫はおろおろするばかりだ。

 

「こうなったからには仕方あるまい…サーベルトよ、示し合わせた通りだ。ドルマゲスがわし等に向かって何か言おうとしたなら『待て』、それ以外の行動をする素振りを見せたら即座に攻撃だ。手は抜くなよ。なに、あいつは滅多なことではくたばらん」

 

「…分かりました」

 

「…」

 

ドルマゲスは何かを確かめるように手を握って開いてしている。そしてこちらを見て狂暴な笑みを浮かべた…かと思うと突然魔力を解き放った。彼を中心に紫の波動が膨張する。

 

「不味いサーベルト!来い!」

 

サーベルトが後ろに大きく跳んでライラスに寄ると、ライラスは『シャナク』の呪文を唱え、薄い浅葱色の光の膜で二人を包んだ。

 

「これは…?」

 

「呪術などというものにうつつを抜かすあのアホ弟子のためにわしが編み出した呪文だ。これで呪いの直撃は防げたはずだが…っ!」

 

「なん…だと…」

 

紫の光が収まり二人が見た景色は、宝物庫内の壁から伸びるイバラ、魔物になった王、馬になった姫、

…そして三人になったドルマゲスだった。

 

「「…は?」」

 

三人のうち二人のドルマゲスがライラスとサーベルトに歩み寄り、口を開いた。

 

 

 

「一気に攻めます!二人とも戦えますか?」

 

 

 

 

 

俺が杖を手にした瞬間、気分が悪くなり、なんだかおかしくなってしまった。途端に狂った笑い声があたりに響く。誰が笑っているのかと怪訝な顔であたりを見回しても、怯える王と姫、そして苦い表情のサーベルトと師匠だけしかいない。

 

「(そうか…俺か)」

 

杖の魔力で身体が侵食され、操られているのだ。つまり今笑ったのは端末を手に入れ狂喜しているラプソーンだ。俺がそう認識したのも束の間、脳内にラプソーンの思考が流れ込んできた。

 

『ようやく復活への足掛かりが掴めた…!フフフ…哀れな道化、ドルマゲスよ…貴様の身体はなかなか上質ではないか…やはり、「暗黒」をその身に大量に宿した肉体のなんと洗脳し易いことか…』

 

『お前がラプソーンか…!!俺の身体を返せ!!』

 

『むん?怒りと憎しみにのまれ意識を失っていたと思っていたが…我の事を知っているとは感心な奴だ。どれ…月の民、古代船…なかなか面白いことを知っているではないか…ほう、一介の人間風情が霊力の存在を認知しているとはな…』

 

まずい、記憶を読まれている!ラプソーンに原作の展開を知られてしまうと本当に何が起こってしまうか分からない。俺は『胎児の見る夢(エーテル)』を応用して魂魄を隔離し、自分の記憶からラプソーンをシャットアウトした。詠唱するために口を動かす必要のある魔法とは違い、呪術は己の意識さえあればノータイムで発動できるのが強みだ。

 

『小癪な…まあ良い、この肉体はもう我のものだ、お前にはどうすることもできまい…手始めにこの城を滅ぼし、目の前の憎き賢者の子孫二匹を惨たらしく殺して、暗黒神復活のプレリュードとしてくれるわ!』

 

ラプソーンは俺の身体で魔力を増幅させ始めた。信じられない量の魔力だ。神鳥の杖という魔力の外部電源を得て俺の体内に際限なく魔力が満ちていく。ラプソーンは魔力を一気に解放させて原作ドルマゲスがやったようにこの城を呪いで覆うつもりのようだ。まずい…いや、前向きに考えろ。この状態からこの城を守るのは絶望的だ。…魔力とは精神力。ラプソーンが魔力を消費すれば、杖から魔力が充填されるまでは精神汚染も弱くなる。ならば、ラプソーンが魔力を解き放った瞬間であれば隙ができるはずだ。一矢報いてやる。

 

ラプソーンが魔力を解き放ち、闇の波動を球状に拡散させた瞬間俺は『悪魔の見る夢(アストラル)』を使って三人に分裂した。流石のラプソーンも意識を分けて憑依することはできなかったようで、三人のうち二人の俺がラプソーンの支配から逃れた。だが、魂魄が薄まった影響か、俺本体の意識は途切れてしまった。続けて俺Aと俺Bが俺(ラプソーン)に『ヒャド』を唱え同時に前線から離脱した。

 

「ぬっ・・・!?」

 

『メラ』も『ギラ』も『ヒャド』もダメージ量的には初級呪文だけあって大差ない。しかしそれはゲームの話で、実際に使用した時、優秀なのはその追加効果である。例えば『メラ』は相手に火傷を負わせられる。『デイン』なら相手を気絶させることもできるし、『バギ』は切り傷を与えるには最も適している。『ヒャド』は氷のつぶてをぶつける攻撃呪文だが、その真髄は凍傷による行動阻害だ。ラプソーンが本来の姿ならまるで効果は無かっただろうが、今は人間の身体を依り代にしているので『ヒャド』の凍結効果が通ったようだ。

 

俺Aはサーベルトと師匠に近寄って助力を要請した。

 

 

「一気に攻めます!二人とも戦えますか?」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「…?俺たちは無傷です…その、ドルマゲスさんは一体…?」

 

「分身しました。私たちは大丈夫です。しかし…私本体の肉体が依然ラプソーンと共にあります。あの私を鎮圧し、杖を取り上げればひとまずこの場は乗り切れるはずです。…今より我々は相手の妨害に専念します。サーベルト様は前線で出来るだけ攻撃を食い止め続け、師匠は火力の高い呪文をひたすら打ち込んでください。」

 

「相分かった。ではお互い健闘を祈るぞ」

 

「さ、流石は国一番の道化師だ。…分かりました、行きます!」

 

そういうや否やサーベルトは飛び出し、師匠は呪文の詠唱を始めた。俺たちは左右に分かれて『やみのはもん』『ぎゃくふう』『早滅の刻』『ジバリア』などで徹底的にラプソーンの行動を抑制しにかかった。思わず動きの鈍ったラプソーンにサーベルトの大上段斬りがヒットする。直後に師匠の『メラゾーマ』が直撃した。忌々しそうにラプソーンが振るう腕から繰り出される連撃は俺Aが『体技よそく』で受け流し、続けて師匠に向けて発射された高速のガレキは俺Bが『ベタン』で軌道を逸らせた。その隙を縫うようにサーベルトが一文字にラプソーンを薙ぎ払い、返す刃で上半身を斬り上げた。サーベルトがバックステップを取った瞬間を見計らうかのように氷塊が降り注ぎラプソーンを地面に縫い付ける。師匠の『マヒャド』だ。そのまま俺Aが『黒い霧』を発生させ、俺Bが空に紋章を描き、未だ氷塊に閉ざされているラプソーンに滅光をぶつけた。

 

「ぬぅ…」

 

行ける…!俺だけでなく、この場にいる全員が確かな手応えを感じていた。

 

「行ける、行けますよ!油断さえしなければ…油断…さえ…っ…て…え…?」

 

冷静になるために一度瞬きをした俺が次に見た光景は、ラプソーンがサーベルトを杖で串刺しにしている光景だった。

 

「が…はッ…」

 

「な…」

 

俺たちも、師匠さえ言葉を失っていた。一体何が…

 

「…悲しい、悲しいなぁ…その程度の実力で本当に我に勝てる気でいたとは…」

 

杖を引き抜いたラプソーンがこちらをみてニヤリと笑みを浮かべる。サーベルトはわなわなと震え、そのまま地に伏した。

 

「『油断さえしなければ勝てる』、という言葉が既に油断なのだ…!ククク…全く、こんな愉快で滑稽なことがあるか?」

 

「さ、サーベルト様…!!!この…っ!」

 

「よせ!ドルマゲス!」

 

「小賢しいッ!!」

 

後ろから飛び掛かった俺Bがラプソーンの腕の一振りで粉微塵になった。そのままの勢いでラプソーンは、俺を気遣って意識が逸れた師匠に向かって杖を投げつけた。

 

「師匠危ない!!」

 

師匠を突き飛ばした俺Aも、杖に貫かれ粉となって消えた。しかしそれをきっかけに魂魄を取り戻したラプソーンの中の俺が目覚め、再度俺の身体はラプソーンの意識と俺の意識が混在する状況になった。

 

『ラプソーン…!お前の好きにはさせない…』

 

『ふん、目覚めたか…だが今更どうする。我の目の前にいるのは最早老いぼれの魔法使いただ一人だ…そしてその命も、今潰える…ククク』

 

『(そんなこと…させるか…!)』

 

俺は持てる力を振り絞って体の制御を奪い返した。が、完全でなく、口しか動かすことができない。

 

「し、しょ…う…!」

 

「ど、ドルマゲスなのか!?大丈夫か!!」

 

「師匠…()()を…私に…飲ませてください…」

 

「アレ…?……!まさか!」

 

「私…なら…だい…じょ…頼…み…す…」

 

「…!」

 

師匠は深く頷いた。それを見て俺は最後の準備に取り掛かる。

 

「っはあ!!…人間風情が手間取らせおって…」

 

「…わしはただでは死なんぞ…弟子の身体、返してもらう!!」

 

師匠は『ピオラ』を重ねて詠唱した。そしてひたすらラプソーンの打撃を避け続ける。老体らしからぬ俊敏な動きにラプソーンも初めは余裕の表情だったが、次第に苛立ちが見えるようになった。

 

「…ぬうぅ!!小癪な!!!」

 

「まるで当たらんな。欠伸(あくび)が出るわ」

 

その瞬間『黒い霧』が晴れ、それを合図に師匠は再度『ピオラ』を使う。ラプソーンも好機とばかりに杖を振り上げた。

 

「貴様は肉片の一つも残さず灰にしてくれるわ!!!!『メラガイアー』!!!」

 

怒りのラプソーンから放たれた地より呼び出されし煉獄の火炎を、師匠は紙一重で避けた。

 

「ドルマゲスッ!!今だ!!」

 

「何ッ!?」

 

ラプソーンが大量に魔力を消費した瞬間(いま)なら動ける!俺は『ぶきみな光』で自身の耐性を最低まで下げ、『呪いのきり』で自分を呪って動けなくした。

 

「なっ!何を…」

 

「飲め!ドルマゲス!わしはお前を信じているぞっっ!!!」

 

「させるかああぁ!!!」

 

俺に向かって飛び込みながら容器を投げつける師匠、呪いを払わんとする勢いで杖を突き出すラプソーン、そして俺は、確かに師匠の投げた容器…俺と師匠を繋ぐ魔法の薬、『大魔聖水』を口で受け取り中身を飲み込んだ。

 

 

魔力の奔流が俺の身体の中を暴力的なまでに駆け巡っていく。俺の霊力を隅に追いやり、ラプソーンの言う暗黒…『黒い靄』を洗い流し、身体を爆裂させんとばかりに暴れまわる。俺は失いそうになる意識を強く保ち、精神を集中させた。精神力とは、魔力だ。この溢れんばかりの魔力の渦を全て制御できれば…!俺は霊力と魔力を回転させて分離させる修行を思い出しながら、体内の魔力を全身余すところなく満たすイメージを想起した。身体の全てを俺の魔力で完全に満たせば……暗黒神の魔力をも弾き出すことができるはず…!

 

『おぉ…おぉお…!!!なんだと…!?そんな…!!貴様は我が復活の仮の宿となり新しき手足となるはずなのだ…!!!』

 

俺はついに魔力を完全に制御し、ラプソーンを神鳥の杖に追い返すことに成功した。

 

「…暗黒神ごときの手伝いに汗を流す仕事なんて、死んでもゴメンだね。」

 

 

「…やったな、ドルマゲス。」

 

俺は師匠の下へ駆け寄った。師匠なくして間違いなく今回の勝利は有り得無かっただろう。倒れた師匠に手を貸そうとして…俺は瞠目した。

 

「し…師匠…?どうしたんです、その夥しい血の量は…」

 

師匠の腹に大きな貫通痕があり、血がどくどくと流れ出している。

 

「なんじゃ…うるさいな…これくらい唾をつけておけば治るわ…」

 

「そ、そんなわけ…『ベホマ』!」

 

俺の呪文により傷は全て塞がったはずなのだが、腕の中の師匠の顔はどんどん青くなっていく。

 

「師匠!?しっかりしてください!!師匠!」

 

「ドルマゲスよ…」

 

「は、はいっ!なんでしょうか!」

 

「わしは…お前にとってあまりいい師匠ではなかったかもしれんな…」

 

「何をおっしゃいます!私は貴方以上に信頼に足る人を知りません!!」

 

 

 

どうして…今そんなことを言うのだ。まるで二度と会えなくなるかのような…

 

 

 

「ドルマゲスよ…お前が来てからの数年間は…わしにとって、とてもとても実りあるものであった…願わくば…お前がわしに代わる大魔法使いに…」

 

師匠の伸ばした腕が力なく垂れさがると、その体がずっしりと重みを増した。

 

「師匠?師匠!師匠………」

 

俺は頭が真っ白になった。俺は何をしていたのか。こんな式典、普通に断ればよかったじゃないか。こんな城、来なければ師匠は死ぬことも無かったじゃないか。俺は…一体何のために…

 

「…」

 

「うう…」

 

何も考えられなくなり立ち尽くしていた俺は、その呻き声で我に返った。

 

「さ、サーベルト様!?ご無事で!?」

 

「ど、ドルマゲスさん…」

 

「急ぎ治療を!!『ベホマ』!」

 

寸前で急所を外させていたらしいサーベルトの治療は、間一髪で間に合った。

 

「…そう、ですか…ライラスさんが…」

 

「私は…これからどう生きれば…」

 

「…」

 

「…」

 

「……『お前の生きたいように生きろ』」

 

「…え?」

 

「俺とライラスさんは、互いに遺言を預かっていたのです。もしもの時に備えて…」

 

「…そうなのですか…」

 

「ライラスさんはたいそうあなたの事を信頼しておられました。貴方が何を考えているかは終ぞ分からなかったが、結果として貴方が間違っていたことは一度も無かった、と…」

 

「…」

 

「ゆえにライラスさんは貴方の思うままに生きてほしいと願ったのです。」

 

「…」

 

「ドルマゲスさん。貴方はこれから何を為しますか。」

 

「…私の目的は今も昔も『楽しく生きる』ことです。しかしその楽しい毎日には師匠が必要で、暗黒神は邪魔です。私は…俺は」

 

「師匠を取り戻し、必ず暗黒神を滅ぼします!」

 

俺は立ち上がり師匠の亡骸を持ち上げると、棺桶を創造しそこに師匠を寝かせた。傷ひとつない綺麗な寝顔だ。棺桶の蓋を閉めて、『かがやく風』で冷凍すると、『賢人の見る夢(イデア)』で繋げた亜空間の中に収めた。身体はここにある。無いのは魂だけだ。いつか必ず魂を黄泉から呼び戻す術を身に付けてみせる…!この瞬間には俺は完全に立ち直っていた。

 

「サーベルト様、貴方はこれからどうなさるのです?」

 

「サーベルト…。」

 

「…?」

 

「サーベルトでいい。ここで俺たち二人が生き残ったのも何かの縁、俺もこれからは友として君をドルマゲスと呼ぼう。…そうだな、俺は君に着いていこうと思っている。」

 

「なんと!それは一体どういうことですか?」

 

「ドルマゲス。君はおそらく他にも知っていることがあるのだろう?次に誰が狙われるのか…だとか」

 

「…最早隠す必要もないですね。そうです。私はこの先の未来も少しだけ知っています。」

 

ラプソーンが肉体の制御権を失った影響で大きく展開が変わった以上、どうなるかわからないが。

 

「俺も今回の一件で賢者の末裔の一人としての責務を感じた。俺も世界を救うためにできることをやりたいと思っているんだ。だから、暗黒神を滅ぼす君に着いていきたい。」

 

「しかし、リーザスの村は…」

 

「君の発明品と、村人たちがきっとあの村を守ってくれるさ。本当は君なんだろう?鳥のマシンや魔法玉を作ったのは。」

 

「…はは、全くシャマル様の末裔は聡明な方だ。」

 

「それと、俺はここで死んだことにしてほしい。俺が生きていると知られたままだと、いつかリーザスの村が俺をおびき寄せるための餌にされてしまうかもしれないから…。」

 

本当に村思いの青年だ。こういうところはどちらの親に似たのだろうか。

 

「では、行きましょうか」

 

俺は気絶しているトロデ王、サーベルトはミーティア姫を担ぎ上げ、宝物庫を出た。宝物庫の外はイバラで覆われ、美しかった城は見る影もない。俺はラプソーン打倒を改めて決心すると、横で倒れている青年に気付いた。

 

「(?彼は呪いを受けていないようだが…)」

 

すると青年の甲冑の下から小さなネズミが現れ、俺はその瞬間全てを悟った。

 

「(そうか…彼が勇者…)」俺は神鳥の杖を背中に差し、青年を王と反対の脇に抱えると、丁重に馬姫を運ぶサーベルトを追った。

 

 

「こんなところに寝かせてしまって大丈夫なのか?」

 

馬姫を干し草の上に優しく置いたサーベルトが俺に確認する。まあ王族を草の上に置くなど非常識も良いところだからな。

 

「ええ、ここはまだ城内です。呪いのイバラもまだ生えたばかりなので暗黒神の魔力におびき寄せられた魔物が住み着くようになるのもまだ先の話でしょう。それに王と姫はもうすぐお目覚めになってしまいます。姿を見られると我々も色々と不都合でしょう?」

 

「そうだな、少し心配だが。では、これで…」

 

「ええ、行きましょうか。トロデーン城が陥落したことはいずれトラペッタやリーザスに伝わるはずです。まずはマイエラ修道院を目指しましょう。」

 

「ああ、その前に、リーザスの村へ寄ってもいいか?最後に村を見たいのと、ゼシカのために一芝居打っておきたい。」

 

「もちろん構いませんよ。ではリーザスまで行くとしましょうか。」

 

俺は紙とペンを取り出し、『秘宝の杖を奪いトロデーン王国を滅ぼした道化師ドルマゲスは、師匠であるマスター・ライラスとアルバート家の嫡男サーベルト・アルバートを殺し、ポルトリンクからマイエラ地方へ渡った』と書いてトロデの前に置いた。

 

「…共にラプソーンを倒しましょう」

 

俺は勇者にそう言い放つとサーベルトと共にリーザスの村へ向かった。

 

 

 

 

 

 




ドルマゲス(男・28歳)
職業:大魔法使いの弟子
レベル:32
魔法:DQⅧにおけるほぼ全ての呪文+α
呪術:想像力の限り何でもできる
科学:発明のひらめきが止まらない
好きなもの:暖かな記憶



戦士(サーベルト)・魔法使い(ライラス)・遊び人(ドルマゲスA)・遊び人(ドルマゲスB)
なんだこの地雷パーティーは…


「暗黒」について
独自設定です。ルイネロが『黒い靄』と称したものは、人間誰しもが持つ黒い感情のことです。黒い感情はストレスとなり身体に巣食う。本作では精神力≒魔力という設定があるので、ストレスの塊は精神力を蝕み、魔力を制限する、ということにしています。幼少から馬鹿にされ続けてきた原作ドルマゲスは凄まじいストレスを抱えてきたので暗黒が多いのでしょう。ラプソーンがドルマゲスに目をつけたのは、暗黒の多い人間はその分心の闇に意識を介入させ易いからです。




いつも誤字報告・感想・評価・お気に入りなどありがとうございます!
次回から原作開始です!稚拙な文ですが、これからもどうぞよろしくお願いします!


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ACT2:オープニング~勇者集結
Chapter1 空と海と大地と呪われし姫君


とうとう原作が始まりました…!
ドルマゲスはもっと報われてもいいな、という軽い気持ちで始めたのですが、想像を超える数の方々から反応を頂いて嬉しい限りです。

これからどうなるかは私にも全く想像がつきませんが、この駄文にもう少しお付き合いいただけると幸いです。


設定資料集を更新しました。原作をご存じの方もご存じない方も是非ご覧ください。





説明するのもヤボかもしれませんが、勇者エイトサイドが「Chapter〇」、道化師ドルマゲスサイドが「第〇章」というタイトルになっております。

「主人公」というとどっちを指すのが正解なんでしょうかね…








 

 

 

トロデーン王国の王女、ミーティア姫の18歳の生誕祭に客人として招かれた魔性の道化師、ドルマゲス。彼は国の秘宝である「神鳥の杖」を奪い、杖の力でトロデーン城全体を呪いで覆った上、人徳ある王を醜い魔物に、美しき姫を馬に、善良な国民を物言わぬイバラの姿に変えて滅ぼした。目を覚ました王と姫は、ただ一人呪いを免れた近衛兵と共に呪いを解く旅に出る。

 

 

DRAGON QUEST Ⅷ

 

 

 

「見えました王様、あれがトラペッタ地方に続く吊り橋ですね?」

 

「おお!そうじゃ!…ふぅ、やれやれ、最近ずっと城から出て無かったせいか、大分体がなまっとるのぉ…座って手綱を持っているだけで一苦労じゃわい」

 

馬車を引いて旅をする二人の男。馬はその美しい毛並みから相当高貴な血を引く馬であることが窺い知れる。しかしその後ろをよく見ると御者の方はなんと魔物である。このなんとも奇妙な一団こそが、亡国トロデーン唯一の生き残り、国王トロデと王女ミーティア、そして馬と化した姫君につかず離れずの位置で歩いている男が近衛兵エイトである。彼らは姫と王と国民にかけられた呪いを解くために、魔性の道化師ドルマゲスを追っているのだった。

 

「あはは…王様は旅をすることなんて初めてですもんね」

 

「それもこれも全てあの憎き道化師ドルマゲスのせいじゃ!!…と言いたいところじゃが。」

 

トロデは突然しょぼくれて項垂れてしまった。

 

「わしが一番許せんのは…わし自身じゃ。あれは防げた事件じゃった。わしがドルマゲスを宝物庫に連れて行かなければ…」

 

「…どうして宝物庫に連れて行ったんです?ドルマゲスのお連れの方々もあまり気乗りしていなかったように見えたのですが」

 

「…分からん。あの時は強烈に『この旅芸人に秘宝の杖を見せればきっと喜ぶ』と思い込んでいたのじゃ。今思えばなんと浅はかな考えか…代々秘宝を守ってきたトロデーン王家の者としてご先祖様に顔向けできんわ…」

 

「そう気を落とさないでください…僕は気を失ってしまっていたので知りませんが、ドルマゲスは杖の力で国全体を呪ったのでしょう?まさかあの杖にあんな強力な力があるなんて…」

 

「とにかくだ!エイト、わしらはなんとしてもドルマゲスを見つけ出し、姫や国の民たちの呪いを解いてもらわねばならん!そのためにはこの頭を地に擦り付けることも、わしのこの命すら厭うまい…それでも奴が話に応じなければ…頼むぞ、エイトよ!」

 

一行が吊り橋に差し掛かったところで、エイトは橋の中央に立ちはだかる人影を見つけた。大柄な体、ダボっとした小汚いズボン、毛皮で作った簡素なベスト、そして背中に背負った大きなオノ…どうやら追剥ぎか、山賊か。男は背中のオノを両手に握って振り回し、エイトたちを威嚇した。

 

「止まれぃ!!やいやい!お前ら、一体誰の許しを得てこの橋を渡ろうとしてるんだ!」

 

「許しもへったくれもあるか!この辺りはまだ我がトロデーン王国の領地じゃわい!」

 

「ああーん?…おいおいおっさん!気色悪い顔して王様気取りかよ!笑わせるぜ!」

 

「うむむ…ぬううぅ!痛いところを突きおって…!そういうお前は何者じゃ!」

 

「オレか?聞かれて名乗るもおこがましいが、オレの名を聞いて震えるなよ!天下に轟く大山賊、ヤンガス様とはオレの事でぇ!!」

 

ヤンガスと名乗る山賊はエイトとトロデに大見得を切ったが、大層怯え震えるだろうと考えていた彼の思惑に反し、二人の反応は寂しいものだった。

 

「…?」

 

「や、ヤンガス…じゃと…?」

 

「王様、ご存じなのですか?」

 

「いや、まったく知らん。聞いたことも無いわいそんな名前。…ヤンガスと言ったか?覚えたぞお前の名前!かっこつけのアホウの名だとな!!わっはっはっはっは!!」

 

「やれやれ…」

 

「ぐぬぬぬ…バカにしやがってぇ!こうなりゃ実力行使だ!オレの怖さを思い知れ!!」

 

そう言い放つとヤンガスは飛び上がってオノを振り下ろしてきた。エイトがその突撃をさらりと避けるとヤンガスはそのまま橋に激突し、橋が大きく損傷した。

 

「うおおっ!?」

 

「よし、今のうちじゃ!渡るぞ!」

 

エイトたちが渡り切ったところで、損傷し自重を支えきれなくなった橋は崩れてしまった。エイトが崖下を覗き込むと、ヤンガスが縄にしがみついて宙ぶらりんになっているのが見える。それでも斧はしっかり握っているところを見ると、ヤンガスにも山賊なりのプライドがあるのだろうか。

 

「自業自得じゃな。世の中に悪は栄えんとは、昔の人もよくいったものじゃわい。さ、行くぞエイトよ。おうおうミーティアや、怖い思いをさせてすまなかったね…」

 

「…」

 

さっさと先へ進むトロデだが、エイトとしては、このまま先に進むのはヤンガスを見殺しにするようでどうも後味が悪い。

 

「どうした?エイトよ」

 

「…王様、先に進んでいてください。僕はこの人を引き上げてすぐに追いつきます。」

 

「な、何を言うか!そやつはわしらを襲ってきた相手じゃぞ!?そんな奴放っておけばいいものを…!」

 

「うーん!重い…まあまあ、良いじゃないですか!情けは人の為ならず、も昔の人の言葉でしょう…うーん」

 

なんとかヤンガスを引き上げたエイト。その姿に呆れるトロデとは対照的に、ヤンガスは自分を襲ってきた相手の命を助けたエイトの行動に感激していた。

 

「え、エイトさん、いや、エイトの兄貴!アッシは兄貴の寛大な心に心底感服いたしやしたでげす!!アッシを兄貴の子分にして下せぇ!」

 

「えっ!?えっ!?」

 

突然すぎるヤンガスの申し出にエイトは目を丸くすることしかできない。

 

「な、何を虫のいい話を…そもそもエイトはわしの家臣じゃぞ!わしらの子分になりたいならまずわしに頼まんかい!!」

 

「うるせぇぞおっさん!あんたには頼んでねぇよ!オレはエイトの兄貴の子分になるんでぇ!」

 

「な、なんじゃとぉ~?お前だっておっさんじゃろうが!お前には言われたくないわい!」

 

そのまま口論を始めた二人を見て、これは長くなりそうだな…と肩をすくめたエイト。その肩にエイトのポケットから這い出してきたネズミがちょこんと座った。彼はトーポ。エイトの幼い頃からの相棒だ。チーズをあげると喜んで頬張るトーポを微笑ましく眺めながら、エイトは話がひと段落するまでミーティアのブラッシングをして過ごすのだった。

 

 

 

 

「でやぁっ!」

 

突っ込んできたスライムを切り伏せたエイトに、結局ついてくることになったヤンガスが尋ねる。

 

「兄貴たちが旅をしている理由はわかったでがすよ。でもいったいこれからどこへ向かうおつもりで?」

 

「えーと、このままトラペッタの町に行って物資を補給して、そこからポルトリンクへ向かう予定かな。」

 

続けてトロデがヤンガスに手紙を見せた。

 

「わしらが中庭で目覚めたとき、この手紙が添えてあったのじゃ。一体誰が書いたのか見当もつかんし、信用できるのかどうかも全く分からんが…今のわしらにはこの手紙を信じて進む他に道は無い、ということじゃな。」

 

「ほーん。まあおっさんのことはどうでもいいでげすが、アッシは兄貴が行くところなら、海でも空でもお供するでげすよ。」

 

「お、お前は…!もっとわしに敬意を払わんかい!!」

 

また口論が始まりそうになったので、慌ててエイトが間に入る。

 

「あっ!ほら町!町が見えますよ王様!あれがトラペッタですね!!」

 

「お、おう…そうじゃな…ドルマゲスの生まれは不明だが、奴はあの町で長い時間を過ごしたという。何か情報が掴めるやもしれぬな。」

 

「腹が減ったでげす…さっさと酒場に行きましょうぜ!兄貴!」

 

そして魔物と馬と兵士、それに山賊を加えたパーティーは夕焼けに照らされながら"道化師"ドルマゲス生まれの地、トラペッタへ歩を進めるのであった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「あれ?おっさんは町に入らないんでげすか?」

 

「わしは少し積み荷の整理をしてから行く!お主はエイトと共に町に入っておれ!」

 

「…そうでげすか。じゃあお先に」

 

町の門の前まで来たところで馬車の中へ入っていったトロデを見て、ヤンガスはエイトに小声で話しかけた。

 

「兄貴、あのおっさんってほんとに王様なんでげすか…?それにしては随分働き者でげすね…」

 

「…まあ確かにね。それも王様の良いところだよ。」

 

「そんなもんなんでげすかね。」

 

エイトとヤンガスが門を開いて町に入ると、開いた門を見たのか、少女が期待に満ちた顔でこちらに走ってきた。こちらを待ち人か何かと勘違いしていたのだろうか。少女はエイトとヤンガスの姿を認めると、あからさまに失望し、その笑顔に影を落とした。

 

「…ええと、ごめんなさい、旅人の方ですよね。ここはトラペッタです。ところどころで機械の魔物を見かけるかもしれませんが、害はないので安心してくださいね…」

 

それだけ言うと少女は肩を落とし、とぼとぼと石段を登って行った。

 

「元気よく走ってきたと思ったら、アッシらの顔を見て元気をなくしたり、忙しい娘っ子でげすね。そうだ兄貴、向こうに酒場があるみたいでげすよ!あとで行きましょうや!」

 

「はいはい。その前に旅の準備と宿の手配はしておかないとね。」

 

それから二人は道具屋に寄ったり、武器を新調したり、あちこちで壺やタルを破壊したりして回った。途中でトロデと合流したが、「わしはまだこの町を観光していない」と言われ、エイトはヤンガスと情報収集のために二人で酒場に行くことになった。

 

酒場に着くと早速荒くれと飲み比べを始めたヤンガスを横目に、エイトは酒場の店主に話しかけた。

 

「もし、少し話を聞きたいのですが…」

 

「…なにか頼んでくれるかい。うちはボランティアじゃないんでね。」

 

「す、すみません。えぇと、じゃあ僕はあまり強くないので甘いものを…」

 

「了解。まあ座りなよ。」

 

店主はエイトをカウンター席に座らせると、ドリンクの準備を始めた。

 

「それで?あんたの聞きたいことってのは何かな。」

 

「そうですね…この町に()()ドルマゲス、という道化師を知っていますか?」

 

その時、一瞬だけ店主の動きが止まったが、非常に微細な動作だったため、エイトは気付かなかった。

 

「ああ、確かに()()よ。ドルマゲスっていう名前のピエロがね。あいつはこのトラペッタの町民さ。なんだい、ドルマゲスがどうかしたのかい。」

 

妙に刺々しい話し方をする店主をエイトは若干不信がったが、話を続けた。

 

「この話はあまり外には広げないでほしいのですが…」

 

店主がコトリ、と置いた弱いカクテルを少し飲み、エイトが続きを話そうとした瞬間、後ろで怒声が響いた。見ると、男がヤンガスの胸倉を掴んで凄んでいる。その剣幕にバニーや他の客も驚いていた。

 

「こっこのやろう!ヒック、てき、てきとうなことをぬかすんじゃあねぇぞ!!!」

 

「お、落ち着けよ(あん)ちゃん!オレは人から聞いたことをそのまま話しただけだぜ…!」

 

「あーあー完全に出来上がっちゃってるね…悪いねお客さん、少し止めてくるよ」

 

店主が今にもヤンガスに飛びつかんとする荒くれを諫めに行ったので、エイトはカクテルをもう一口飲んだ。かすかに香る柑橘の淡い口当たりが心地良い。普段酒は飲まないエイトだが、こういうのも悪くないな、とも思った。

 

 

「どうしたんだい、珍しいね。あんたがここまでベロベロになるなんて…旅の方、こいつに一体何を言ったんだい?」

 

「ご、誤解してもらっちゃあ困るぜマスター。オレはただ、『トロデーン城を滅ぼしてマスター・ライラスって魔法使いとリーザスの村のなんとかっていう兄ちゃんを殺したドルマゲスっていう道化師を知らねぇか?』って言っただけだ…」

 

その瞬間、店の中にいる全ての人間が息を呑む音が聞こえた。というよりも、そんな音が聞こえるほどに店が静まり返ったのだ。さっきまで冷静な姿勢を崩していなかった店主ですら驚きで固まってしまっている。

 

「ほ、ほらこいつ!!ヒック、このとおりだ!こいつ、こいつドルマゲスをっ」

 

「……旅の方たち、その話、詳しく聞かせてくれるかい。なあ、あんたらも聞きたいだろう?」

 

「お、おい!こんなやつさっさとおいだそうぜ!」

 

店主は黙って酔っぱらった荒くれに冷水を浴びせると、またこちらに向き直った。周りの人間もこちらに集まってくる。10人ほどだろうか。何故かヤンガスも混ざってこっちを見ているので、エイトは仕方なく、自分が見たこととトロデに聞かせてもらったことを語った。

 

 

「「…」」

 

「僕が知っているのはこれで全部です」

 

「「…」」

 

「…みんな、この話はくれぐれも内密にしてくれるかい?」

 

店主の呼びかけに、他の客たちも神妙な顔で頷いた。エイトとヤンガスだけがこの空気についていけていない。彼らはただの人探しをするような気楽な気持ちで話をしただけなのだ。

 

「…本当にあんたの言うとおりだったよ。大占い師の名は伊達じゃないね、ルイネロさん。」

 

エイトが店主の向いた方向に目をやると、カウンター席の奥に一人の男がいた。

 

「…ふん、今回ほど占いが外れてほしいと願ったことはないわ。」

 

男は表情一つ変えず、グラスに残された氷をただ見つめていた。

 

「…さて、旅の方。ドルマゲスは私たちの大事な友人なんだ。そんな友人を侮辱するような話を信じたくはない。が、あんたたちは嘘をついているようには見えない。だから忠告をしておくよ。この町で、もうその話はしないほうがいい。そんな話をしたってお互い何の得も無いからね。さあ、分かったら宿に泊まって、明日旅立ちな。酒代はサービスしてあげるからさ。」

 

「…よくわかりやせんが、行きましょうか、兄貴」

 

「うん、そうだね…ごちそうさま」

 

すっかり空気の冷え切ってしまった酒場を後にして、二人はトラペッタの観光をしているはずのトロデを探しに行った。

 

 

 

 

 




原作との相違点

・勇者エイトが喋る。

勇者が喋らないのはプレイヤーが勇者に感情移入しやすい様にという使用上の配慮だが、本作はゲームではないのでじゃんじゃん喋る。性格としては純朴な青年というイメージ。

・トロデが己の非を正しく反省し、後悔している。

原作ではドルマゲスへの非難が止まらない(実際全面的にドルマゲスが悪いので責められない)が、今回は自分にも非があると理解しているので、原作よりも横暴な物言いは鳴りを潜めている。

・ヤンガスが斧を手放さなかったため、「さんぞくのオノ」を装備している。(あまり深い意味はない)

本当は「鉄のオノ」らしいが、山賊が持っているので別に「さんぞくのオノ」でもいいじゃんということで装備している。「さんぞくのオノ」自体は中盤の武器なので序盤は無双できる。

・町民がトロデを見ても怖がらない。

原作では魔物は撃退するべし、という考えが一般的にどの拠点にも存在するが、この街にはドルマゲスの放ったリーザスの村で披露したような人造モンスター「セキュリティサービス」が何匹もトラペッタには徘徊しているので、魔物の姿程度では驚かない。

・トラペッタの町でエイトたちがめちゃくちゃアウェー。

ドルマゲスはトラペッタの町人なら誰でも知っているレベルの有名人で人気者なので、そんな人物の悪評を広めようものなら顰蹙を買うのは道理である。

・占い師ルイネロが既に復帰している。

既に親子の確執も解消され、水晶玉も手元に戻ってきているので、占い師ルイネロはまだまだ現役。原作であったお使いイベントが消滅し、勇者たちはルイネロに恩を売ることができなくなった。




補足
・主人公って近衛兵のくせに結構トロデにフランクな口調じゃない?
→主人公は8歳の時にミーティア姫に発見されてから姫の遊び相手として王室で面倒を見て貰っていたので、トロデに対しては主君と親が混じりあったような敬意を持っていた、とします。なのでこのような少しフランクな態度となっているのです。


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Chapter2 トラペッタ地方 ①

さんぞくのオノって見た目は明らかに鉄のオノと大差ないのにバトルアックスとかより攻撃力高いってどうなってるんですかね?それはもうただ使っている山賊が強いだけの鉄のオノでは…?










山賊ヤンガスを仲間に加えてトラペッタの町に到着した一行。トロデと別行動をする中エイトとヤンガスは酒場で、この町ではドルマゲスの話をしない方がいいと忠告を受ける。想像していたものと異なる町民の態度に困惑するエイトとヤンガスであったが、とりあえず夜をしのぐために宿屋へ向かおう、と別行動中のトロデを探すのだった。

 

 

 

 

「ったく…どこをほっつき歩いてるんでげすかね、あのおっさんは」

 

「うーん…流石にこの町からは出ていないだろうし…先に宿屋に行っておこうか?王様もそのうち帰ってくると思うし。」

 

「そうしやしょう!アッシ、今日は疲れたんで早く横になりたいんでげすよ。」

 

「じゃあ、そうしようか。」

 

トロデを探してあっちへこっちへまわっていた二人は、踵を返して宿屋の方向へ向かった。

 

「…それより兄貴、さっきの酒場のことでげすけど…」

 

「…うん」

 

「あの後もそれとなく何人かに話を聞いてみたわけなんでげすが、どうもアッシたちと町の人間との間でドルマゲスのイメージに違いがあるようでがす。この町の人間はどうもドルマゲスを良き隣人と捉えているみたいでげすね。」

 

「そうだね、しかもみんな本心からドルマゲスの事を信用しているみたいだ。」

 

「兄貴が嘘をつくわけがないとしたって、町の人間が総がかりで嘘をつくとも思えないでげす…ここから分かることは…」

 

「ん?ちょっと待ってヤンガス、何だか騒がしいな…」

 

見ると、すっかり夜も更けたにも関わらず、何人か人が集まっている。エイトは人ごみに近寄り、近くにいた婦人に事情を尋ねた。

 

「失礼、何かあったのですか?」

 

「いえね、ドルマゲスさんのせきゅりてぃさーびすが反応し始めたものだから、悪い魔物が入ってきたのかと思ってみんなで見に来たわけなのよ。でも、あの魔物はそんなに怖くはなさそうね。」

 

「(せきゅりてぃさーびす…?)そうですか、ありがとうございます。」

 

そのままエイトが人ごみを進んでいくと、だんだん視界が開けてきた。そこでエイトが目にしたものは、いっかくウサギ…らしきものに追い回されるトロデだった。

 

「お、王様!?今行きます!」

 

エイトは剣を抜いていっかくウサギに叩きつけ、吹き飛ばす。しかしその感触は魔獣のそれというより…

 

「(鉄…!?しかもかなり高純度の…)」

 

痺れる手を抑えてトロデを守るような形で立ちはだかったエイトだが、いっかくウサギはエイトの姿を見つけると、その場で宙返りをした後ドヤ顔をし、また町の巡回に戻っていった。

 

「?な、なんだったんだ…?」

 

「お、おおエイトか!助かったぞ…!」

 

「ご無事で何よりです。それより、何があったんです?」

 

「そ、そうじゃ!わしはこの男にドルマゲスの話を聞いたのじゃが、この男、なんと自分はドルマゲスの仲間だと言いおった!わしはそれを聞いてこの男につかみかかったところでさっきの魔物に見つかって、しばらく追い回されていた、というわけなのじゃ…」

 

トロデが指をさした方を見ると、道具屋の店主が困った顔でこちらを見ていた。

 

「別に私だけじゃなく、この町のみんながドルマゲスの仲間で、友人だよ。それなのにいきなり飛び掛かって来るなんて…」

 

「な、なにを!?奴はこの町の大魔法使い、マスター・ライラスを殺したのじゃぞ!!」

 

「はぁ?あんた…!何言ってんだよ!ドルマゲスがそんなことするわけないだろ!いくら魔物だからって、言っていいことと悪いことがあるぞ!!!」

 

「お、王様落ち着いて…」

 

「落ち着いていられるか!奴は我が国を滅ぼし、わしとミーティアと国民に呪いをかけたのじゃ!!そんな外道を何故かばう!!」

 

「外道!?誰が外道だって!!俺たちの友人を…これ以上バカにしやがったらただじゃおかねぇ!お前みたいな魔物はこの町から出ていけ!!」

 

周りの民衆もそうだそうだ、と囃し立てる。これ以上続けると、暴動に発展しかねない。エイトはヤンガスと共に、未だいきり立つトロデを連れて一旦町の外へ出た。

 

「王様…」

 

「くそぅ…トラペッタの住民め…わしが王の姿に戻った暁には増税してくれるわ…」

 

「王様…?」

 

「お、オホン!よい、エイトよ。わしは大丈夫じゃ。ミーティアよ、随分とわしの見苦しい姿を見せてしまって悪かったの…」

 

「おっさん、さっきのは仕方ねぇでげす。アッシもさっき同じような言い方をして酒場でつかみかかられたんでげすよ。」

 

「一体…どうなっておるのじゃ。この町でのドルマゲスの評判は…」

 

「…!そういえばヤンガス、さっきの話は途中だったよね。聞かせてくれるかな?」

 

「そういやそうでやしたね。おっさんにも分かるようにもう一回整理するでげす。ドルマゲスの野郎はトロデーン城を滅ぼした。これは兄貴とおっさんを信用するなら間違いないでげす。しかしそのドルマゲスが住んでいたこの町ではドルマゲスは誰もが認める善人という扱いを受けているでげす。ここから何通りかのパターンが予測できるでがす。

一つ、『ドルマゲスは善人で、秘宝を奪って国を亡ぼすやむを得ない理由があった。』二つ、『この町そのものがドルマゲスによって洗脳され、奴の都合のいいことしか話さないように仕向けられている。』三つ、『ドルマゲスは善人の仮面を被って町民に愛想を振りまき、凶悪な本性を隠していた。』アッシに考えられるのはこのあたりですかね。」

 

「…」

 

「…」

 

「ん?二人ともどうしたでがすか?」

 

ヤンガスが自分の見解を述べたところで二人の顔を見ると、エイトもトロデもぽかんと口を開けていた。

 

「お、お主…見かけによらずものを考えられるのじゃな…」

 

「そうだね…(盗賊の勘ってやつかな…)すごいよヤンガス。」

 

「お、おお?それは嬉しいでげす。兄貴はどう思いますか?」

 

「こら!わしにも見解を聞かんかい!」

 

「うーん…ドルマゲスの素性や実力が全く分からない以上、どれもありえそうに思えるけど…一つ目はなさそうに見えるかな。国ひとつを滅ぼしてまで杖を奪う理由が僕にはどうしても考えつかない。トロデーンはアスカンタやサザンビークとも友好条約を結んでいるから他国の回し者でもないと思う…王様はどう思いますか?」

 

「うむ、流石はエイトじゃ。わしとしては二つ目もなさそうに見える…というより三つ目が有力に思えるの。奴は道化師を生業としている。道化師はいくつもの顔を持ち自分の言動や行動で人の喜怒哀楽を引き出して飯を食っていく職業じゃ。おそらく奴はこの町で長く暮らす中で表向きは良き隣人、裏の顔で大悪党を演じ分けていたのじゃろう。」

 

「ふむ、おっさんの言うことも一理あるでがすね。仮に三つ目だとして、アッシたちみたいな自分の追手が来た時のために、今みてぇな町人に妨害をさせることまで野郎の目論見の内だったとすると、ドルマゲスってのは相当狡猾な奴でげす。」

 

「うぅむ、今ここで考えても答えは出なさそうじゃな。とりあえず物資の補給も済んだことだし、ポルトリンクに向かいたいところじゃが、もう夜中じゃ。明日の朝になったらここを発つことにしようぞ。エイトとヤンガスは戻って宿に泊まるとよい。」

 

「おっさんは泊まらないんでげすか?」

 

「お主はアホか!追い出されたわしがあの町に入れるわけなかろう!!わしはミーティアと共に馬車で寝るわ!ふん!馬車を一人で独占できるのに比べればこんな町の安い宿屋なんか屁でもないわい!」

 

「ヤンガス、ここは王様の厚意に甘えて…」

 

「そうでげすね。じゃっ!兄貴行きますかい!」

 

エイトとヤンガスが町に戻ると町民は誰一人おらず、広場は静まり返っていた。おそらく皆家に帰って寝たのだろう。二人が宿屋に向かっていると、エイトは住宅地エリアの端にある一軒の家を見つけた。特に珍しい作りの家ではなかったが、妙に心が惹かれたので少し中を覗くことにした。

中はリビングと個室が二つだけの簡素な作りで、一つの部屋は大量の本や良く分からない薬が並んでいたが、もう一つの部屋はだだっ広い部屋にベッドが一つだけの伽藍堂だった。エイトは一度中に入ったものの、家に誰もいないことを認めて外に出ようとしたところでリビングのテーブルの上に置いてあるメモが目についた。

 

「ん…『困ったら占いの力を信じろ。この町の占い師は世界一だ。』だって…?」

 

「兄貴~!空き巣なんてみっともないでがすよ~」

 

「ああごめん、すぐ行くよ!」

 

エイトはメモをもとあった場所に直し、宿屋に向かうヤンガスについていった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「…うーん、結構寝られたな…」

 

「ぐがー、ぐがー。」

 

「…」

 

翌日の昼前ほどにエイトは目覚めた。昨日は色々なことがありすぎて布団に入ると泥の様に眠ってしまったようだ。大きないびきをかきながらまだ眠るヤンガスを起こして、エイトはテキパキと旅立ちの準備をまとめて宿を後にした。

もう昼前だというのに散歩をしている人が何人かいるくらいで、広場は閑散としている。

 

「ふわぁ…まだ眠いでがす…それにしてもここは辛気臭い町でげしたね。家の外にいるのは魔物の方が多いんじゃないでげすか?」

 

ヤンガスは住宅地をるんるんとスキップする「くしざしツインズ」を遠い目で見ながら零した。

 

「結局よくわからない町だったけど、準備は整ったし次の町へ行こう。ちょっと寝坊したから王様もお怒りかもしれないし。」

 

「そうでがすね。おっさんにいくら怒られても怖かねぇでげすが、ぐちぐち文句を言われるのも面倒でげす。さっさと行きますかぃ。」

 

エイトたちが宿を出ると、昨日と変わらぬところに馬車は佇んでいた。ミーティアはすでに起き上がって草を食んでいたが、トロデの姿は無い。幌を覗き込むとトロデは大の字で寝転がり、いびきをかいていた。

 

「…こういうところはアッシのイメージする王様っぽくて安心するでがすね。」

 

「…うん、お疲れのようだし起こさないであげようか。王様が起きるまで僕が手綱を取るよ。ヤンガスは魔物退治をお願いするね。」

 

「了解しやした!」

 

風そよぐ平原の中、エイトたちはポルトリンクを目指す。ミーティアはトロデを起こさないようゆっくりと歩を進め、エイトはそんな健気な王女を微笑ましく眺めるのだった。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・トラペッタの町民が想像以上にドルマゲスを信頼している。(もちろんドルマゲスが意図したことではない)

刺激の少ないトラペッタにとってドルマゲスという道化師は相当鮮烈に映ったのであろうことが分かる。加えてドルマゲス本人も人懐っこく、努力家で敵を作るような性格ではなかったのでトラペッタの町からは概ね好印象だった。

・道具屋の店主につかみかかったトロデを、セキュリティサービスが「町に害をなす魔物」と判断して排除しにかかった。

害意のある魔物とそうでないものをセキュリティサービスは判断して適切な対処を行うことができるので、町民は毎日安心して生活できている。

・トロデが町から追い出された理由が「魔物だから」ではなく「友人を酷く侮辱した魔物だから」に変わった。

魔物が町に侵入してくること自体はさほど珍しい事でもないので、原作よりも安全が保障されている今ではそこまで魔物を危険視していない。

・ドルマゲスについて考察した。結局よく分からなかった。

残念!

・滝の洞窟に挑まなかった。

初ダンジョンをスキップ。とはいってもチュートリアル的立ち位置のダンジョンなので行っても行かなくてもそう変わりはない。


エイト(勇者)
レベル:6

ヤンガス(戦士)
レベル:7






セキュリティサービスは人間を見るとそれが魔物を庇った人間であろうと問答無用で愛想を振りまくようにプログラムされているので、人間によって町が攻め込まれた際は全くの無力のポンコツです。もっともドルマゲスはセキュリティサービスが兵器転用されないためにこの仕様にしたわけですが…






せっかくなので、第十章でドルマゲスが使った技について簡単な説明を置いておきます。

・「ぎゃくふう」 相手がブレス系の技を使ってきた際にその効果を反射する技。ドルマゲス(ラプソーン)の「はげしいほのお」や「おたけび」を警戒した。

・「やみのはもん」 相手のちから、かしこさ、みのまもり、すばやさを下げる技。

・「早滅の刻」 敵味方全員のすばやさを激減させる技。これが結果的にライラスの回避耐久に役立った。

・「ジバリア」 地系の初級呪文。ドルマゲスは相手の足場を崩すために使用した。

・「体技よそく」 相手の体技を跳ね返す技であるが、捌くだけで限界だった。

・「ベタン」 重力系の初級呪文。本来は相手の現在HPの16分の1を削る呪文だが、ドルマゲスはこれを回避に転用した。

・「黒い霧」 敵味方全体の攻撃呪文が使えなくなる技。効果はしばらくの間持続する。

・「ぶきみな光」 相手の状態異常に対する耐性を下げる技。

・「呪いのきり」 ドルマゲスが最初に覚えた技。怨念の籠った霧をまきあげ、相手を動けなくする。


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第十一章 半帰郷と優しい嘘

みなさん随分さんぞくのオノに深い思い入れがあるみたいですね…
私は当時打撃武器という大地雷武器で攻略していたのでオノのことはほとんど知らないと言っても過言じゃないです。というか当時は、
勇者(ブーメラン)
ヤンガス(打撃)
ゼシカ(短剣)
ククール(弓)
というククール以外地獄の育成をしていたので…








ハロー、久しぶりの道化師、ドルマゲスです。

ついに原作が始まり、追われる立場になってしまいました。今頃主人公一行がトラペッタに到着し、私の蛮行を町民に伝えている頃でしょうか。みなさん失望なされたでしょうね…愛する町に恨まれるというのはなんとも悲しいなぁ…でも、全ての誤解が解けたらまた町に戻ろうと思ってます。その時に温かく迎え入れてくれることを祈っておきましょう。

 

 

 

 

勇者エイトやトロデ王が未だトロデーンで目覚めぬ頃、俺とサーベルトはトロデーンとトラペッタを繋ぐ吊り橋を渡っていた。

 

「ドルマゲス…何をしているんだ?」

 

「ああ、ちょっと待ってくださいね。……っと、はい。手紙を書いているんですよ。私は国を落とした大悪党。もちろん人里に入ることができないのです。なので後から来る彼らにヒントでもあげようと思いましてね。」

 

俺はさらさらともう一枚便箋に文字をしたためると、封をして仕舞った。杖を左手に持っているのでまあまあ書きづらかったが読めはするだろう。…それよりも問題はこの杖である。暗黒神の魔力を杖に追い返したはいいものの、放っておくとまたラプソーンがいつ寝首を掻いてくるか分からない。

 

俺は現在、杖に自分の魔力を流し続けることによって、疑似的にトロデーン城宝物庫の結界を再現してラプソーンを抑え込んでいる。さらにラプソーンの嫌う、聖属性の魔力(回復魔法を唱える際に必要になる属性)を絶えず流しているので思念を送り込んでくるようなことも無い。ラプソーンも今は相当キツイ状態なのだろう、今は神鳥の杖もただの棒だ。俺自身の魔力については問題ない。「暗黒」が消え去ってMPの最大量・回復量が激増した上に、体内に吸収された『大魔聖水』のマデュライト鉱石が魔力を生み出し続けているので、杖に大きな魔力を流し続けても体内魔力の均衡はギリギリ保たれている。まあ一瞬も魔力を抜けない今の状況はまあまあなストレスなのでいずれなんとかしたいな~とは思っている。

 

俺たちがわき道を歩いていると縄張りの巡回をしていたドランゴに会った。サーベルトはとっさに刀を抜いたが俺はそれを右手で制止する。俺はもう会えなくなる前提で別れを告げたのでドランゴに会えて嬉しかったが、彼からすると俺は普通に予定通り帰ってきただけなので困惑するばかりだった。俺はドランゴに今度こそしばらく他の大陸に行くので会えなくなることを伝えると、「(お前がいない間に俺はお前よりも強くなってやるから首を洗って待っていろ)」と返された。彼なりの激励のつもりなのかもしれない。先生たちはどうしているかと尋ねようとすると、丁度洞窟側から先生と教授がぴょんぴょんとやって来るのが見えた。

 

俺が先生と教授にもドランゴと同じことを伝えると、二匹は涙を流して泣き始めた。教授曰く手紙を読んだ時もひとしきり泣いて涙は枯れたと思っていたのだが、改めて口頭で言われてまた涙が込み上げてきたという。俺は急な旅立ちを二匹に平謝りし、時々顔を見せに来ることを条件に解放された。まだグズる先生を宥めながら、教授とドランゴは俺たちの旅立ちを見送ってくれた。

 

 

 

 

「さて、トラペッタですね。」

 

「しかし…先ほど町には入れないと言っていたのに、どうするつもりなんだ?」

 

「まだ噂は広まってないはずなので普通に入れはするんですけど…まあ新技の試運転も兼ねてこっそり手紙を置いてくることにしましょう。…いいですかサーベルト、私をよーく見ておいてくださいね…『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』」

 

俺を凝視していたサーベルトの顔が驚きに染まる。

 

「え!?ど、ドルマゲス!?どこへ行った!?」

 

俺はサーベルトの耳元でここですよー、と囁くがサーベルトはわたわたと慌てていて聞こえていない。その様子がおかしくて少し笑ってしまった。俺はきょろきょろしているサーベルトの背後に回って『ラグランジュ』を解除した。

 

「後ろですよサーベルト。どうでしたか?」

 

「おわぁ!ど、ドルマゲスいったい今までどこに…」

 

「ずっとここにいましたよ。フフフ、この技も完成したと言っても良さそうですね…」

 

「目に見えないどころか、存在そのものが感知できなかった…流石はドルマゲスだな!」

 

「(この人ことあるごとに褒めてくれるな…)ありがとうございます。では、さっさと町で用事を済ませてこようと思いますのでサーベルトはここで待っていてください。」

 

「了解だ。」

 

俺はもう一度『ラグランジュ』を使い、空からトラペッタに忍び込んだ。

 

 

 

 

「ドルマゲスは本当に魔物と対話ができたんだな…まるで魔法使いだ」

 

「まあ実際魔法使いなんですけどね…しかしまだ言語のわからない魔物などもいるので、全てと対話できるわけではありませんよ」

 

南の関所へ向かいながら俺たちは魔物の言語について話していたのだが、サーベルトの顔が少し曇った。

 

「すると…君は言葉の分かる魔物とも命の奪い合いをしていることになるな…大丈夫か?君が気にするなら戦闘は俺一人でなんとかするが…」

 

ふむ、まあ当然の疑問だな。しかし俺はその点で深く考えたことはない。モンスターをこよなく愛するモリーですらいざとなればモンスターをぶん殴ることもできるのだ。それくらいの切り替えは必要だろうと割り切っている。

 

「心配には及びませんよ。私は確かに対峙する魔物が何を言っているかは分かりますが、私と対峙するのはあくまでも我々に襲い掛かって来る魔物です。命を奪われる覚悟のある者しか命を奪いには来ないということですね。だとすれば、同じく命を賭して相手をするのが私の流儀だと思っています。」

 

前世ではメタル狩りなど当たり前の作業だったが、今は必要な労力と対価、そして倫理観の問題から控えている。レベルなど強さを測る一つの指標でしかないしな!!

 

そういうものか…とサーベルトは納得してくれたようだ。そういえば、これからリーザスの村に立ち寄るが、サーベルトはこの村で何をするつもりなのだろうか。

 

「ところでサーベルト、『一芝居打つ』とおっしゃっていましたが何をするつもりです?」

 

「ああ、そのことか。俺が突然失踪すると村のみんなもきっと心配してくれるだろう。しかし心配をかけたまま旅をするのはどうも心苦しいので、俺が瀕死で村にたどり着きそこで息絶える、という芝居を打つことを考えたんだ。そこでだ。ドルマゲス、俺に協力してくれないか?」

 

「ははあ、なるほどなるほど…ってそれ私の全面的な協力が必要ですよね!?どうすればいいんですか?」

 

「俺を瀕死に見えるようにして、かつ俺を生きたまま死体にして、焼かれる前に偽物とすり替えてくれ!君の不思議な力があれば楽勝だろう?」

 

「…」

 

サーベルトは子どもの様に目をキラキラさせて俺を見る。めちゃくちゃな要求だ。俺がラプソーンと戦った際に切った張ったの大立ち回りをしたのが印象的だったのだろうか。いくら魔法と呪術で何でもできると言ったって、本当に楽々できるわけではない。魔物の特技を流用する場合はゲームや実物を見ているので、イメージが掴みやすく楽に行使できるが、こういった戦闘に使わない系統の呪術の場合は、術式や霊力の実体化プロセスを一から考えねばならない。俺が『賢人の見る夢(イデア)』を始めとした自己流呪術を少数しか持ってないのはこういった厄介な工程があるからだ。正直言って非常に面倒くさい。…しかし、彼のこの目を見るとやりたくないとは言えない…。

 

「分かりました。やるだけやってみましょう…」

 

俺はそれから色々試行錯誤をした。作った機械人形をサーベルトっぽくしてみたり、サーベルトと死体を模した物体の座標を瞬時に入れ替えられないか試したり…しかしどうにもぎこちない行動になったり、壁に埋まったりしてしまって実用的でなかったので、俺は泥人形でサーベルトを作ることにした。魔物の「どろにんぎょう」ではなく普通に泥の人形である。『ジバリア』で掘り起こした地面を『ヒャド』と『メラ』で作った水で泥にしていく。それをこね上げて人の形に整えて…うん、こんなもんかね。そして仕上げに…

 

「『モシャス』!」 「…」 「あれ?」

 

「何も起こらないようだが…?」

 

うーん、泥人形を変化させてサーベルトにしようと思ったのだが…泥の人形は『モシャス』の対象外なのだろうか。もしかして生命体にしか効かないとか?俺は試しにさっきの機械人形にも『モシャス』を使ってみたのだが同じく反応は無かった。やはり命あるものにしか効果は無いのだろうか。最後の手段も頓挫してしまったので俺はサーベルトの方を見たが、全然諦めていない顔だ。うーんどうしよう…。『モシャス』詠唱時のゲートに魔力じゃなくて霊力を通してみようかな。泥人形の方も水じゃなくて『ザバ』で生成した魔力水で作ってみよう…

 

そうこうしてるうちになんとか泥人形をサーベルトに変化させることができた。うん、いいなこれ。変装の手段として有効に使えそうだ。俺はこの霊力を使って変身する変化の呪術を『妖精の見る夢(コティングリー)』と名付けた。

 

「おお…鏡を見ているみたいだ…」

 

「さあサーベルト、この人形に貴方が村で伝えたいことを教えてあげてください。そうすればこの子が貴方の声で、貴方の姿で村人たちに言葉を伝えてくれることでしょう。」

 

「この人形の前で言いたいことを伝えればいいんだな?よし…」

 

サーベルトは熱心に自分の人形に演技指導をした。そして瀕死に見えるよう俺がメイクした人形をリーザスの村入り口近くに設置してスタンバイOK。俺たちも姿を消して見ることにした。魔力を感知できるゼシカがいるので一応魔力も抑えておこう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

リーザスの村の村民は今日も変わり映えのない、のどかな一日を過ごしていた。畑を耕したり、店を営んだり。しかしその日常は二つの絶叫によってかき消された。

 

「「う、うわあああああああああぁぁぁぁぁ!!!」」

 

「どうしたんだいポルク、マルク…!!!さ、サーベルトお坊ちゃん!?」

 

突然叫び声をあげたポルクとマルクを心配してやってきた夫人が見たものは傷だらけで息も絶え絶えなサーベルトの姿だった。

 

「う…ポ…ルク…マルク…母さんと、ゼシカを…」

 

「ああ…あぁあ…」

 

「まっ、マルク!早く、早く行かないとっ…!!!」

 

皆が待ち望んだ領主の息子、サーベルトの帰還。しかしそれは最悪の形で実現した。村の入り口でサーベルトはばったりと倒れて動かなくなり、村民の間を戦慄と悲鳴が駆け抜ける。サーベルトはあちこちに大きな火傷を、さらに肩から腰にかけて大きく袈裟切りにされたあとがあり、その断面はまるで泥の様に固まっていて、血すらも流れ出していないことが、その深刻さを物語っている。ほどなくしてゼシカとアローザが走ってきた。遅れて屋敷の召使いや侍女もやって来る…その全員が顔を青くしながら。そうして村の全員がサーベルトの周りに集まった。既に道具屋の店主などが「やくそう」を磨り潰して飲ませようとしているがサーベルトは一向に回復しない。とりあえずサーベルトを木陰に移動させて楽な姿勢をさせてやることくらいしかできなかった。

 

「「サーベルト!」兄さん!」

 

「う…母さん…ゼシカ…」

 

「に、兄さん!誰にやられたの!?傷の容体は!?兄さん!しっかりして!!」

 

「ぜ、ゼシカ!!けが人を刺激してはいけません!!サーベルト!貴方は喋らずに安静にしていなさい!!」

 

「いいんだ…母さん…今、話しておかないと…!み、みんな…トロデーンは滅ぼされた…杖の秘宝を盗んだ邪悪な者によって…リーザス様の予言は…正しかったんだ…俺も立ち向かったが…まるで歯が立たなかった…」

 

「そんなっ…兄さんが負けるなんて…!だ、誰なの!その邪悪な者って!」

 

ゼシカの問いかけに村人たちはみな、アローザでさえもが固唾を飲んで見守っていた。

 

「ド…、…道化師の姿をした男だ…」

 

その瞬間村人の間に大きなどよめきが起こった。道化師。まさか…いや、お坊ちゃんはドルマゲスとは言っていないしまだ…でも…。苦虫を嚙み潰したような顔をするアローザとは正反対に、ゼシカは今にも泣きそうな顔をしている。

 

「みんな…ゼシカ…母さん…俺の命はもうじき潰える…お別れだ…」

 

「…!」

 

「みんな…」

 

ポルクやマルクを始めとした村人たちは一心にサーベルトを見つめた。

 

「これからは村の全員でこの村を…守るんだ…!安心してくれ、機械の魔物をくれたマスター・ライラスは信用できる人物だ…」

 

「そっそうだ!俺たちで村を守るんだ!!なあっマルク!」 「うっうん!!」

 

「母さん…」

 

「…なんです、言ってみなさい。サーベルト・アルバート。」

 

「家訓が大事なことは重々承知しています…でも…どうか…ゼシカのわがままを怒らないでやって下さい…それが俺の最初で最後のわがままです…今まで、ありがとう…」

 

「…最後のわがままなんて、聞き入れたくありませんが…。…サーベルト。貴方はアルバート家の嫡男としてその勤めを立派に果たしてきました。貴方は…私の自慢の息子です。」

 

そう言うと、アローザはサーベルトと視線が合わないように目を伏せた。

 

「ゼシカ…今まで俺を慕ってくれてありがとう…」

 

「いやぁっ!どうすればいいの!?お願い…いかないでよ、兄さん…。」

 

「ゼシカ…これだけは…伝えたかった…」

 

「…?」

 

「この先も母さんはお前に手を焼くことだろう…だが、それでいい…」

 

「…」

 

「お前は、自分の信じた道を進め……さよならだ…ゼシカ……。いつか、また会えるよ…。」

 

「兄…さん…」

 

そう言うとサーベルトは目を瞑り、まるで人形のように動かなくなった。医者がサーベルトをいくら診ても、止まった呼吸、動かない心臓、反応しない瞳孔など、サーベルトがもう生者ではなくなった証拠しか見つけることはできなかった。

 

村中にゼシカの慟哭が響き渡る。村人もみな涙を流して嗚咽し、ポルクとマルクは声だけは上げないように必死で堪えていた。そんな空気を一番に破ったのはリーザス村の領主アローザだった。

 

「皆、いつもの業務に戻りなさい。サーベルトの葬式は明日、執り行います。」

 

その瞬間全員がアローザに向かってなんと浅薄な人間だと文句を言おうとし、その全員がその文句を心の奥にしまった。アローザの頬には、今まで誰も見たことのない涙が流れていた。そうして皆が失意に暮れた自分に鞭打つように元の生活へと戻り、亡骸の前には嘆き悲しむゼシカだけが残ったのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

一部始終を見届けた俺とサーベルトはポルトリンクへと向かっていた。

 

「いや…素晴らしい一幕でしたよ。私もつられて泣いてしまいそうでした。」

 

「しかし…村人たちを心配させないためとはいえ、騙すのは申し訳ない気持ちになるな…。帰ったらちゃんとおわびをして、村のためにしっかり働いて贖罪としよう。ゼシカは多分許してくれるだろうが、母さんはすごく怒るだろうなぁ…」

 

サーベルト人形の演技は迫真だった。魔力が籠っているだけで意識や自我などは無い泥人形なので、土葬されて術が解ければ文字通り土に還るわけなのだが、演技が迫真過ぎて少し罪悪感が芽生えたほどだ。これでリーザスの村人たちもサーベルトは死んだものと心に刻んだだろう。

 

「ところでサーベルト、なぜ私の名前を出さなかったのです?」

 

「それは…なんだ、ドルマゲスを悪者に仕立て上げるのは悪いな…ととっさに思ってあんな不自然な感じに…」

 

うーん純朴すぎる。この調子ではサーベルト本人が村で演技をした場合、罪悪感に耐え切れず途中で全て暴露してしまっていたかもしれない。人形に代行させて良かった。

 

「まあ…これで俺も晴れて死人だな。これからは世を忍ぶ仮の名前で生きていきたいが…何かいい名前はないか?」

 

「ふむ…では、『アインス』という名前は如何でしょうか?」

 

「『アインス』…悪くないな!よし、俺はこれから流浪の傭兵『アインス』だ!」

 

俺はサーベルトと同じアルバートを家名に持つ現世の偉人からとった名前を提案した。気に入ってくれたようで何よりだ。

 

「ドルマゲスは道化師を辞めて別の名前にしないのか?」

 

「え、うぅん、私が道化師を辞めたらアイデンティティーが…それに名前も…」

 

「よくわからんが、それなら愛称でどうだろう?俺は君を『ドリィ』と呼ぶ。君は俺を『アインス』と呼ぶ。なんだか、素敵だとは思わないか?」

 

道化のドリィ…なんだか将来的に大出世しそうな名前だしいっか。

その後も二人で談笑しながら俺たちは港町へと向かった。

 

 

 

 

 




サーベルト・アルバート(男・26歳)
レベル:25
職業:戦士
趣味:村周辺のパトロール
好きなもの:リーザスの村
嫌いなもの:悪





ドルマゲス全肯定botがまた増えた…

ライラス「ドルマゲスの言うことなら間違いはないだろう」
ユリマ「流石ドルマゲスさん!スゴイです!」
New!→サーベルト「流石はドルマゲスだな!」





ドルマゲスが覚えた新しい魔術について解説

・『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』…ドルマゲスが『しのびばしり』や『レオムル』、『ステルス』から着想を得、前世で読んでいた某少年漫画の『神の不在証明(パーフェクトプラン)』をイメージして作った魔術。
霊力を行使して『波長』を操作することで、第一段階で姿を消し(光波の調節)、第二段階で音を消し(音波の調節)、第三段階でその気配をも消してしまう(生体の持つ固有波動の調節)。しかし、現代の科学でも正体が良く分かっていない「匂い」や波の形ではない「魔力」はこの術の管轄ではない。特に魔力が戦闘に大きく関わるこの世界では無敵の能力とはならない。
「ラグランジュ点」とは天体力学における円制限三体問題の五つの平衡解、「天体と天体の重力が釣り合う、宇宙で安定したポイント」である。かつてL3という名のラグランジュ点に存在すると言われる『カウンターアース』『パンデモニックプラネット』『アンティクトン』と呼ばれた観測不可能な惑星の存在が囁かれたことがある。
天文学の歴史を辿れば古代の占星術に行きつく。占星術とは星の動きから未来を予測しようとする術で、錬金術と並行して中世以降のヨーロッパで研究された、紛れもない魔法の原型である。

・『妖精の見る夢(コティングリー)』…ドルマゲスが『モシャス』を独自にアレンジして作った魔術。
『モシャス』は生物学的な意味での生命にしか効果がない。そしてそれはこの術も生命にしか効果がないという点では同じだが、「生命」を再解釈することで機械や人形にも効果を及ぼすことができるようになった上、魔法とは異なるプロセスで変化しているため、『いてつくはどう』や『ラーの鏡』でも正体を暴かれることがない盤石な変装術となった。
「生命とは何か?」と考えた時、『モシャス』は「生命活動を行うものが生命」と定義するが、この術は「生命のように見えるもの全てが生命」と定義している。なのでこの理論を適用すれば、ロボットも人形も「生命」なのだ。
「コティングリー」はかつて20世紀初頭に世界を騒がせたイギリスの妖精事件に由来している。最終的にその妖精は実在しないと結論付けられたが、事件の当事者たちは最後まで妖精の存在を主張していた。今やその真実は誰にも見えない闇の中にある。


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第十二章 たのしい船旅とたのしくない修道院

聖堂騎士団の方々って世界救った後もなぜか主人公の事目の敵にしてますよね。本当に救えない人々だ…

質問に来ていたので答えますが、ドルマゲスの髪は基本的に長髪で黒髪です。しかし一時的にラプソーンに体を乗っ取られていた影響で、毛先の方にかけて徐々に銀色になっています。健康な生活をしているので、顔もシュッとしている程度で痩せこけているわけではなく目のクマもありません。道化師興行もしていない今はそこまで奇抜な化粧はしておらずナチュラルメイクに留まっているので、結構整った顔とは言えます。しかし本人は手品と料理以外では特に褒められたことがないので、特に意識はしてません。今は隣にサーベルトというS級イケメンがいますしね。








ハロー、久々に船で海を渡るドルマゲスです。私は海を歩けるので金銭的な理由から船での移動は避けてたんですけども、いざ船に乗ってみると頬を撫でて吹き抜ける風、波蠢く大海原、船を襲おうとやってくる海産物の方々…楽しいことがいっぱいありますね…!

 

 

 

 

ポルトリンクに到着した俺たちは特に大きな出来事も無くマイエラ行きの船に乗ることになった。あったことと言えば野草売りだとかいう女性が「やくそう」を割高で売りつけようとしてきたことくらいだ。あと波止場の受付がサーベルトの顔を見て何か思い出しそうだったので、俺が慌てて『マヌーサ』を受付にかけて有耶無耶にした。そしてそのまま予定通り出航し、今に至る。

 

「…なあドリィ、俺は変装した方がいいか?」

 

「いやいや、うっかりしていたのは私です。ポルトリンクはアルバート御用達の港町なので、そりゃ港の人間はアインスの事を覚えてても不思議じゃないですよね。アインスはトロデーンから出たことはありますか?ないならば変装はしなくても大丈夫ですが。」

 

「いや、無いな。それよりドリィ。その…二人の時はサーベルトと呼んでくれて構わないぞ。」

 

「(えっめんどくさ…)わ、分かりました。じゃあ人前に出る時がアインスということで…」

 

サーベルトの好感度が日に日に上がっているような気がするが、何が原因なのかさっぱり分からない。俺は鈍感かそうでないかと問われるとギリ鈍感だし、忘れっぽい性格だとは思う(なので丸腰で人跡未踏の森に入るなど何度もへまをやらかしている)が、いくら思い返してもサーベルトが俺に懐く理由が出てこない。…人間とは不思議なものだ。

俺は船のデッキに出て風にあたろうとへりに寄り掛かった。遠くに小さな城が見える。船から見るのは初めてだが、おそらくあれは『メダル王国』の城だろう。…とその前に見覚えのある紫の頭が見えた。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「いえね、向こうに少し知り合いがいたもので。ちょっと行ってきますね。すぐ戻ってきます。」

 

「そうか、分かった。」

 

サーベルトは船内に誰か知り合いがいるのかと思っているようだが、生憎俺に人間の知り合いはほとんどいないのだ。俺は船から飛び降りてこちらを窺っている「オセアーノン」のところまで歩いて行った。

 

「やあ、これはこれは。いつぞやのイカさんじゃないですか?」

 

「ヒッ…そ、その節はどうも…」

 

「今日はあの船を襲おうと思っていたのですか??歓迎しますよ。丁度私もお腹がすいてきたのでね。前回の様に脚を十本ほどわけていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「いっいやいや!!滅相も無いですっ!船を襲うつもりなんてこれっぽっちも!」

 

「…」

 

…まあ嘘はついてなさそうだ。このイカは喧嘩っ早いが、好き好んで人間を襲うような外道でもない。原作で主人公たちが乗る船を襲ったのは神鳥の杖に操られたドルマゲスの強力な憎しみの魔力にあてられたからだ。人語も理解しているし、魔物の中では比較的善良な部類と言ってもいいだろう。案外こういうやつが海の魔物から港を守っているのかもしれない。

 

「ああ、そうだ。イカさん。『海竜』という魔物をご存じですか?」

 

「へっ?海竜ですか?…あのアホならよく迷子になってここらへんに流れてくるので追い払っていますが…」

 

「それは重畳です。でしたらあの船がマイエラ地方の船着き場に到着するころに近くに海竜を誘導しておいてもらってもいいですか?」

 

「えっでも…」

 

「お願いしますね!いやあ助かった!!もしイカさんが了承してくださらなかったらどうしようかと思ってましたよ!!……まあその場合は船の食事が少し豪勢なものになるだけの話ですが。

 

「!!!喜んで!!喜んで海竜のアホを連れていかせていただきます!」

 

俺が半ば強迫する形でオセアーノンに頼みごとをするとオセアーノンは急いで海に潜った。そうだ、今度から海を渡るときは彼に乗せてもらって船の代わりにしようか。結構早いし楽そうだ。でも乗り心地は悪そうだな…

 

「海竜」というモンスターはこの世界では珍しい『ジゴフラッシュ』という光属性の呪文を使う。強い閃光を放ち相手の目をくらませる、天〇飯の「太陽拳」のような魔法だ。あれを覚えて会敵と同時に使っていけば道中の戦闘がかなり楽になるだろう。俺はオセアーノンが完全に見えなくなるのを見届けると船に戻った。

 

船に戻るとサーベルトが魔物と戦っていた。と言っても昼の海は弱い魔物ばかりなので一方的な戦いだ。戦闘が終わると船員たちから歓声が上がった。一般人の戦闘力が著しく低いこの世界では、魔物というだけで脅威なのだ。正直「プチアーノン」や「わかめ王子」がいくら出てきたところで航行に支障は出ないと思うのだが…まあいい。こいつらを料理してパーティーでも開くとしよう。

 

俺の作ったいかめしと中華スープは大評判になり、船のコックに是非レシピを教えてほしいとせがまれた。その後も歌ったり踊ったりして船着き場に到着するまでパーティーは続いた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ふう…やっと到着か」

 

「お疲れ様です。」

 

俺たちはマイエラ地方の船着き場で船を降りた。うーんいい天気だ。別れを惜しむ船員たちに手を振って俺たちは出発した。

 

この場所は「船着き場」。ポルトリンクから出る定期船が停泊するマイエラ地方側の港で、ただの荷上場なのだが、店や宿屋、教会まであり、正直ここから行った先にある「ドニの町」よりも大きい市場である。

 

「さて、マイエラ地方に着いたわけだが、これからどうするつもりだ?」

 

「そうですね。まずは他の賢者の子孫たちに会って話を聞いてみましょうか。賢者の末裔の誰かがラプソーンを滅ぼす手段であったり、魂を呼び戻す方法を知っているかもしれません。」

 

「なるほど…そして次の賢者の末裔がここマイエラ地方にいるというわけだな。」

 

「ええ、まずはマイエラ修道院です。」

 

マイエラ修道院は世界三大聖地のひとつに数えられるありがたい場所で、川の中州という変な場所に建っている、ククールが在籍している男子修道院だ。しかし世界三大聖地と言っても、高い参拝料のせいで貧乏人は参拝できず、救われるのは金持ちだけという腐った聖地である。同じ三大聖地の「聖地ゴルド」もまた金の亡者の化身のような場所で、宿屋は高いのに客を床に寝かせるなどめちゃくちゃなことをする聖地である。そのようなことも合わせてこの世界の教会は全く堕落しているのだ。昔はどうだったのかは知らんが、現在のマイエラ修道院は唯一の聖人であり修道院の院長であるオディロがいるから存続できていると言っても過言ではない。プライドが高く傲慢なマイエラ修道院の聖堂騎士団もオディロ院長だけは本心から尊敬しているように見えるのだ。そしてそのオディロ院長こそが七賢者のリーダー、神の子エジェウスの子孫である。原作では自身の命が危機にさらされながらもドルマゲスと対話し、和解を試みたドラクエⅧの数少ない真の聖人なのだ。…当たり前だが俺は院長を殺したりなんてしない。

 

「おっとその前に…」

 

俺は船着き場の離れでオセアーノンが海竜を連れてくるのを待った。あれで結構ちゃんとした性格をしているので、一度約束したら逃げたりはしない。と俺は勝手に思っている。

程なくしてオセアーノンが海竜ともみくちゃになりながらやってきた。ステータス上は海竜の方が数段上のはずだが、オセアーノンもボスモンスターの意地を見せたのだろう。互角の戦いを繰り広げながら、俺の前に来る頃には二匹とも疲れ切っていた。

 

「はあ…はあ…つ、連れてきましたぁ…」

 

「ありがとうございます。いやぁ本当に助かりました。」

 

「では私はこれで…」

 

オセアーノンがポルトリンクに戻ろうとしたので俺は『ベホマ』をかけて彼を呼び止めた。

 

「あれ、体が…」

 

「イカさん、何か欲しいものなどありますか?」

 

「え?ええと……すみません、今は腹がペコペコなので食い物以外のことは考えられないですね…」

 

「ふむ、じゃあ何か料理でも振舞いましょうか。」

 

俺はオセアーノンが何を主食にしているのか知らないのでとりあえずかつてトロデーン城へ向かう途中で獲った「エビラ」の残りを全部使ってパエリアっぽいものを作った。米などは船着き場で調達したものを使った。明らかに人間の味覚に合わせた料理だが、オセアーノンは魔物だし食っても死なんだろ。多分。

 

「こ、これは…?」

 

「私の故郷に伝わる(大嘘)パエリアという料理です。欲しいものがないと言うので、せめてものお礼です。どうぞお食べください。」

 

オセアーノンは一瞬躊躇したが、ここで食べないとどんな目に遭うかを想像したのだろう。意を決してその触腕を器用に使ってパエリアを口へ運んだ。…いや流石に料理食わんかったからといって怒ったりせんが。しかし一口食べたら意外とおいしかったようで沢山ある足をほとんど使ってパエリアを口へ運んだ。人間ならば二十人前はありそうなパエリア(半分以上エビ)だが、ものの数分で完食されてしまった。

 

「なんつー旨さだ…ドルマゲスさん、感動しました!毒が入ってないか警戒してすみませんでした!このご恩は忘れません!」

 

「く、口に合ったようで良かったです。あと私が恩を返した側なので全部チャラでいいですよ。」

 

オセアーノンのノリがちょっと鬱陶しくなってきたので俺はさっさとオセアーノンをポルトリンクへ帰らせた。

 

疲れて眠っていた海竜を『ザメハ』で起こすと、ドラゴン語で「おいウナギ野郎、『海竜』っていう種族は噛みつくことしかできない弱小種族らしいな!」みたいな感じで煽った。すると、意味が通じたようで海竜は見事にブチギレて『ジゴフラッシュ』を使ってきた。

 

「サーベルト!後ろを向いて目を瞑ってください!!」

 

「え!?あ、ああ!!」

 

サーベルトは言われたとおりに守りの形に入ったが、俺は『ジゴフラッシュ』の魔法プロセスを直接観測する必要がある。海竜の口から放たれる太陽の輝きの数倍以上の閃光を俺はありのまま受け入れた。

 

 

 

 

「どうだドリィ…?」

 

「うーん…まだよく見えませんねぇ…」

 

結局『ジゴフラッシュ』を習得することはできたのだが、マジで眩しかった。サーベルトが海竜を追い払ってしばらくしてもまだ目がくらくらしている。これは想像以上の収穫になりそうだ…。

しばらく俺たちは休憩し、視力が戻ったところで今度こそマイエラ修道院に向かった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ここがマイエラ修道院か…でかいな…!」

 

「…」

 

マイエラ修道院に到着したサーベルトが修道院の立派さ、荘厳さに感嘆する。確かにリーザスの村にある教会より何十倍も大きいからな。しかし、ここの聖堂騎士団はその態度もリーザスの神父の何十倍ものでかさがあるのだ。加えて基本的に参拝客以外には横暴で、相手が反抗すれば命を奪うこともやむを得まいとするほど暴力的な思考を持つ集団なので、俺もここにはあまり来たくなかったのだ。…しかしサーベルトはホイホイ中へと入ってしまったので俺は急いで追いかけた。

 

 

 

 

「もし汝らが己の犯した罪に悩み苦しむのなら懺悔の証にこの修道院に寄付をするがよい。さすればいかなる罪をも許すありがたい免罪符をお分けして差し上げますぞ。」

 

「…なんですって?修道士様、それは神の名を騙ってお金を…モゴゴ」

 

「はーいアインス君口を慎みましょうね~!!し、失礼しました~」

 

俺は早速問題を起こそうとするサーベルトを引っ張ってその場を離れた。むむむ、正義感の強いサーベルトをここに連れてくるのは間違っていただろうか…。修道士が売っているのは免罪符だ。要するに教会に金を支払えば神様は何でも許してくれるぞ、という明らかに神を利用した教会の金稼ぎである。ここに来る金持ちの参拝者たちは(どんな宗派かは知らないが)神を篤く信仰しているのでこういった免罪符にゴールドを支払ってしまうのかもしれないが、サーベルトは民族宗教が根強く残るリーザスの村の青年である。故に神様を信仰しておらず、これが良くないものであることなど正常に判断できてしまうのだ。

 

「ど、どうして止める?あんな言葉に救いを夢見る人間が何人騙されてきたか…」

 

「…サーベルト、あれは教会の問題なのです。部外者の我々が何を言っても決して聞き入れてはくれないでしょう。それどころか追い出されて出禁になる可能性もあります。」

 

「し、しかし…」

 

「大丈夫です。その直談判も含めてオディロ院長に会いに行きましょう。」

 

「そういうことだったんだな…!流石はドリィだ!」

 

サーベルトをうまく丸め込んだ俺はそのまま奥の部屋に進んだ。…しかし、肝心な院長の部屋へ続く扉に二人の聖堂騎士団員がいて門番をしている。…嫌だなぁ。通してくれそうにないなぁ…。どう切り抜けようか…その時俺はオディロ院長が大のダジャレ好きであることを思い出した。そうだ、俺が院長に招かれた旅芸人だという設定にすれば…!よし、これで行こう。

 

俺はサーベルトに何があっても問題を起こさず、我慢するように頼み、門番の前に躍り出た。

 

「む?なんだお前らは!怪しい奴め!」

 

「この奥に何の用だ?部外者はさっさと立ち去れ!」

 

「これはこれは誇り高き聖堂騎士団の皆様!私はマスター・ドリィと言います。こちらは助手のアインス。本日はマイエラ修道院のオディロ様にお招きいただき、旅芸人として参った次第でございます…。差し支えなければ、院長室まで案内していただいてもよろしいでしょうか?」

 

「オディロ様が招いた旅芸人だと…?どうも怪しいな…」

 

「余所者が修道院の地を踏むと神聖な修道院に泥が付く!田舎の旅芸人は貧乏人に貧相な芸でも披露していろ!」

 

わお。多少は怪しまれるだろうとは思っていたが、怪しまれるどころか痛烈に罵倒された。俺はとりあえず手品を披露して団員を驚かせたが、全然通してくれない。いつもオディロ院長が旅芸人を招くときはどうしてるんだろうか…。

 

「奇妙な術を使う魔導士め!!オディロ様には一歩たりとも近づけさせんぞ!!」

 

「命が惜しくば俺たちの剣の錆になる前にここから消えるんだな!!」

 

逆効果だった。サーベルトも黙ってはいるが額に青筋が浮き出ている。金を積めば通してくれそうな気がするのだが、サーベルトが後で何をしでかすか分からない。もうダメだ。

 

俺がそう思っていったん帰ろうとした時、上の窓が開いた。もしかして、オディロ院長!?

 

「入れるな、とは言ったが手荒な真似をしろ、とは言っていない。我が聖堂騎士団の評判を落とすな。」

 

「こ、これはマルチェロ様!?申し訳ございません!」

 

おまえか~い!!これもう絶対ダメじゃないか…

 

「私の部下が乱暴な真似をしたようで済まない…と言いたいところだが。貴様、院長に招かれた旅芸人だと宣ったな?院長の予定は聖堂騎士団長である私もすべて把握している。今日は院長にそのような予定はない。さあ、何をしに来たか吐いてもらおうか!この下賤な賊め!!」

 

あ。駄目だこれ。マルチェロは大胆にも窓から飛び降りて剣を抜く。他にも四方から聖堂騎士団が現れた。…早速出番がやって来るとは。俺はサーベルトにハンドサインを送った。サーベルトは理解したようで顔を抑えてうずくまる。

 

「ふん、降参するとは殊勝な心掛けだ。しかしそれくらいで許され…」

 

「『ジゴフラッシュ』!!」

 

瞬間、修道院が真夏の昼の様に明るくなり、騎士たちは全員視力を奪われてパニックになった。マルチェロも流石に閃光を直視しては動けないようで、剣を振り回している。それ他の人に当たったらどうするんだよ…俺は『賢人の見る夢(イデア)』で空間を割き、サーベルトを担いで中に避難した。

 

院長に会おう作戦はひとまず失敗に終わった。

 

 

 

 

 

 




リーザスの村の宗教について

リーザスの村には教会がありますが、あれはあくまで村に立ち寄る旅人たちのために作られたものであり、村人たちはその宗教を信仰しているわけではないのではないかと私は思っています。日本で言えば、町の中にあるイスラム教徒のためのモスク(礼拝所)のようなものではないでしょうか。村民たちは年に一度リーザスの塔で祭りを開くなど独自の宗教を持ち、「リーザス様」を信仰しています。なのでおそらく外来の宗教には疎いのではないか、と考察しました。


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Chapter3 トラペッタ地方 ②

ちなみにドルマゲスは現在も三角谷で手に入れた「ふぶきのつるぎ」をメインウェポンにしているので、右手に剣、左手に杖という某〇チェロのような戦闘スタイルで戦っています。







住む者が口をそろえて道化師ドルマゲスは私の友人だ、と主張する奇妙な町、トラペッタ。極悪非道な道化師ドルマゲスの正体について一行は考察するも、町民の逆鱗に触れてひと悶着を起こしたトロデを筆頭にトラペッタの町を半ば追い出されるようにして出発することになってしまう。これ以上有力な情報は得られない、と判断した一行は次の町へ向けて歩を進めるのであった。

 

 

 

 

一行は『滝の洞窟』がある山を登っていた。なにかドルマゲスの手掛かりはないかと情報を欲したトロデが山の上に一軒家を見つけ、渋るヤンガスを引きずって一軒家を目指したのだ。

 

「へ、平坦な道に比べて山はやっぱり疲れるでがす…」

 

「もう少しの辛抱…ほら!家が見えてきた!」

 

エイトが指さした先をヤンガスが見ると古いあばら家がひっそりと建っていた。家の前まで来た一行は息を整えて休憩してから、山小屋の戸をノックした。

 

「ごめんくださーい…」

 

家の中では大柄な老人が一人で食卓に着いてくつろいでいた。

 

「ん?こんなところに客人が来るのは久しぶりだな。まあいい、せっかく来たことだ。大したもてなしはできねぇが、ゆっくりしていけや。」

 

「んじゃ、お言葉に甘えるとするでげすよ。」

 

そういうとヤンガスはどかっと床に座り込み、エイトも勧められて椅子に腰かける。

 

「それで、兄ちゃん達はこんなところに何の用なんだ?」

 

「お主…ドルマゲス…という名に聞き覚えはないかの?」

 

「おっさん!いつの間に!?」

 

ヤンガスが独特なポーズで驚きを表現するも、トロデは無視して老人の返答を待つ。

 

「…そいつがどうかしたのか?」

 

「奴はトロデーン王国を滅ぼし、トラペッタの高名な魔法使いとリーザスの村の嫡男を殺したはずなのじゃ。しかし、トラペッタの町では奴はまるで英雄か何かの様に持て囃されていた。もしやドルマゲスは町全体に何か魔法をかけたのやもしれんと思い、町から離れたところに家を構えるお主を見つけて尋ねに来たというわけじゃ。」

 

「(…。)…いんや、悪いがそんな男は知らねぇな。なにしろ、こんな辺境の家には噂も流れてこねぇもんでよ。」

 

「…そうか。時間を取って悪かったの。…エイト、ヤンガス。休んだら先へ進むぞ。」

 

知らないのなら仕方あるまいという風に肩を竦めて家を出ようとするトロデの姿、そしてエイトの姿、服の中のトーポを見て、老人は口を開いた。

 

「…その、ドルマゲスって道化師は知らねぇが、あんたたちも訳あって旅をしてるみてぇだな。これを持ってけよ。」

 

老人は一行に服や食料、毛布に薬など色々なものをくれた。あとチーズもくれた。

 

「(?ドルマゲスが道化師ってことは言っていないような…?)あっ、ありがとうございます!」

 

「いいんでげすかい??こんなにたくさんのもの…」

 

「気にすんじゃねぇよ。こちとら老人の一人暮らし、処分に困ってたところだ。逆に引き取ってくれて助かったぜ。」

 

「うむ、感謝するぞ。さあ二人とも出発じゃ!」

 

三人は老人に礼を言って家を後にし、山を下って行った。再び静かになった部屋の中で老人は椅子を軋ませ、チーズを食みながら独りごちる。

 

「すまんな、グルーノ老。どちらかだなんて、俺には選べねぇよ…」

 

 

 

 

 

「でぇやっ!!」

 

「どらぁ!!」

 

「はあ…はあ…兄貴、ここいらの魔物はいやに速いでがすね…」

 

「うん…かなり長い戦いになりそうだ…」

 

エイトとヤンガスが対峙している魔物は2匹。数は同じだがこれまでの魔物とは一味違う。「サーベルきつね」は手に持つレイピアで連撃を繰り出してくるが、彼に気を取られすぎると「おおきづち」の狙いすました木づちの一撃が致命打を誘う。さらに、この場にはいないがこちらの素早さを下げてくる「スキッパー」や守備力を上げて持久戦を狙ってくる「リリパット」も厄介だ。ヤンガスのオノが強力なので当たれば一撃なのだが、当たらなければ意味がない。

 

「はっ!」

 

エイトがおおきづちの木づちを踏んづけて動けなくした隙に、ヤンガスがオノでおおきづちを屠る。残ったサーベルきつねは挟み撃ちにしてなんとか姿を捉えた。

 

「うーん、疲れた…」

 

「お疲れ様でげす、兄貴…」

 

「どうやら、このあたりからはリーザス地方になるようじゃな。魔物の生態系も変わって、今までとは一味違う戦闘になりそうじゃ。二人とも、気を抜くんじゃないぞ!」

 

「そんなことわかってるでがす。…おっさんも馬車から降りて戦ってみたらどうでげすか?」

 

「ば、ばかもの!わしは王様じゃぞ!なぜわしが魔物と戦わねばならんのじゃ!!」

 

「へーへー。悪かったでげすよ。それより兄貴は大丈夫でげすか?」

 

トロデの説教を聞き流し、ヤンガスは何かを悩んでいるエイトに声をかけた。

 

「ケガはないんだけど…ちょっと僕の火力不足で、ヤンガスの足を引っ張っちゃってるかもな…って。」

 

「そんなことないでがすよ。兄貴のサポートなしじゃ、アッシはいつまで経っても魔物と追いかけっこでげす。」

 

「うむ、エイトが足手まといなわけがない。」

 

「足手まといと言うとおっさんのほうでがす。」

 

「なっ!!何を…!!」

 

エイトを慰めようとフォローしたのは良かったが、ヤンガスが余計なことを言うのでいい雰囲気も台無しになってしまった。また口論を始める二人をよそにエイトは一人佇む。エイトの武器は未だ「兵士の剣」。レベルも低く、リーザスの魔物たち相手では少し攻撃力が頼りない。

 

落ち込むエイトを見かねたのか、ミーティアが頬ずりをしに来た。

 

「姫…そうですね。いつまでも落ち込んでないで、僕も頑張ります!」

 

姫の激励(?)で元気を取り戻したエイトは、ヤンガスとトロデをたしなめて冒険を続けるのであった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

時は少し遡り、トラペッタの町。天気は良いが、町民たちの顔は晴れやかではない。その理由は明白で、昨日町にやってきた、ドルマゲスがトロデーン城を滅ぼし、マスター・ライラスを殺した大悪党である、と根も葉もない噂を流した旅人たちのせいである。ほとんどの者はたかが噂、とそこまで気にはせず笑い飛ばしていたのだが、笑えない者たちもいた。占い師ルイネロとあの日酒場にいた十数人の町民である。

 

エイト一行がトラペッタを訪れる前日、ルイネロは何かを不安がっているユリマにせがまれてドルマゲスの現在を占った。後にルイネロはユリマの前でドルマゲスを占ってしまったことを後悔することになる。水晶玉に映ったのはイバラに包まれたトロデーン城、物言わぬ植物となった国民、腹部に貫通穴が空き倒れている青年、そして暗黒のオーラを身に纏う道化師とそれに立ち向かうトラペッタの大魔法使いの姿だった。

 

「こ、これは…」

 

「…!!ド…」

 

ライラスが何かを投げ、ドルマゲスがライラスを杖で貫いたところで水晶玉に映る映像はブツンと途切れた。杖が人体を貫通するところを直視してしまったユリマはショックで気を失ってしまう。ルイネロはユリマを寝室に運んでから、リビングに座ってずっと悩んでいた。今のルイネロは占い師としての自信を取り戻し、先程の占いにも手を抜いたつもりは無かった。故にアレが真実だと分かってしまうのだ。しかし一人で抱え込むにはあまりにも大きすぎる真実だ。

 

ルイネロは悩みに悩んだ末、今日の夜、酒場にいる仲間たちにだけこの占いを打ち明けることにした。

 

 

 

 

「なんだいルイネロさん。改まっちゃって。」

 

突然ルイネロに今から大事な話をするので十数分ほど窓や鍵を閉めてくれと頼まれた酒場の店主が言われたとおりにしながらも訝しむ。

 

「ルイネロちゃん、何か嫌なことでもあったの?」

 

バニーや他の面々も少し心配そうにルイネロを見ている。

 

「…ああ、とても嫌なことだ。お前たち、俺は今日ある占いを行った。今日はその内容をお前たちだけに伝えたくてわざわざ戸締りをしてもらった。先に行っておくが俺が今から話すことは到底信じがたい話になる。しかし俺はこの占いに絶対の自信を持っている。だからこれらは真実だと思って聞いてほしい。」

 

いつにないルイネロの真剣な顔に客も従業員も黙って頷いた。

 

「ドルマゲス…数日前に姫の生誕祭に招かれてこの町を出た道化師ドルマゲスだ…。あいつがトロデーン城を魔法で滅ぼし、マスター・ライラスをその手で殺害した映像を俺とユリマは見た。」

 

「!!??」

 

「俺も目を疑ったが間違いない。あの奇抜な服、高い背丈、そして顔。どれをとってもドルマゲス本人だった。マスター・ライラスも後ろ姿のみだったが、あれはライラス本人で間違いない。 …俺がドルマゲスのことが気に入らないからこんな世迷いごとを言ってるわけではない。むしろ奴は俺の恩人だ。恩を仇で返すほど俺は落ちぶれてはいない。勘違いしてくれるなよ。これは……真実だ。」

 

「…」

 

誰も何も言わない。それもそのはず、ここにいる全員が一度や二度ルイネロの占いの世話になったことがあり、その占いの腕は信用に足るものだと思っている。そしてルイネロはその気難しい性格から、決してこのような場面で冗談を言うような男ではないことも分かっていた。

故に話の衝撃を受け止めきれず、誰もがショックを受けているのだ。

 

「…ユリマちゃんは、知っているのかい?」

 

「ああ、ユリマは昼間にこの占いを見てショックで寝込み、今もベッドの中だ。起きたらどうなるか分からん。」

 

「そんな…ドルマゲスが…」

 

「この話は内密にしてもらいたい。今のトラペッタにドルマゲスは欠かせない存在なのだ。」

 

これまた全員が頷く。話さない、話せるわけがない。第一そんなことを言ってもドルマゲスを知るものからすれば狂人だなんだと思われるに決まっているのだ。

 

「…ここからは俺の個人的な見解だが、奴には何か思惑があってあんなことをしたのだと思う。」

 

「誰か悪い奴に操られちゃってたとか~?」

 

「その線も十分にあり得る。俺たちがまだ奴を信じることは可能なんだ。奴が善人の皮を被った悪党だと決まったわけではない。」

 

「そうだな。今俺たちにできることはドルマゲスを信じて待つだけだ。あいつが帰ってきたときに全て話したくなるような雰囲気を作ってな。ルイネロよ、よく俺たちに話してくれた。」

 

結局ドルマゲスを信じて待とう、という結論になり、皆は酔いが醒めたと言ってまた飲みなおすのだった。

 

そして次の日の夜、トロデーンから来たと言う若者が現れ、事の顛末をその日酒場にいた人間に話して聞かせた。

 

ルイネロの話を聞いていた面々が抱いた感情は衝撃と納得が半々といったところだろうか。旅人はドルマゲスを完全な悪とみなして話をしていたが、やはりドルマゲスは何か理由があって城を滅ぼしたに違いない、という気持ちが揺らぐことはなかった。

 

そして現在。グラスを磨いている酒場の店主の前にルイネロが現れた。

 

「…今は開店準備中なんだけどな。」

 

「…俺も客じゃないから心配するな。」

 

「はあ…とりあえず、水しか出せないけど。…ユリマちゃんはどうだい。」

 

「あれ以来すっかり元気がなくなってしまってな。町の正門が開くたびに顔を輝かせて飛び出して、しばらくしたらしょげて帰って来るのがお決まりだ。俺にはどうすることもできん。唯一ユリマをなんとかできる人間がいるとしたら…世界でドルマゲスただ一人だろう…」

 

「…」

 

出された水に口もつけず俯いてしまうルイネロに、今まで何人もの悩みを聞いてきた店主もかける言葉に迷い、ただ黙ってグラスの水気を拭き取ることしかできなかった。

 

 

 

 

 




原作との相違点

・チーズおじさんがドルマゲスの事を知っており、かつエイトたちに情報を提供しなかった。
おじさんにとっては、この世界で生きていく術など色々なことを教えたドルマゲスも、昔から見守ってきた同族のエイトもどちらも大切な仲間なのでどちらかを選ぶことはできなかった。なのでドルマゲスの情報は秘匿し、代わりにエイトの旅の援助をした。

・トロデも普通に民家に入って来る。
まだ「魔物だから」という理由で拒絶されていないので町にも家にも入る。チーズおじさんもまた人間ではないので、トロデに対し特に動じてはいない。

・レベルが低いのでリーザス地方の魔物に苦戦している。
滝の洞窟を攻略していないのでレベルも低く、「どうのつるぎ」も拾っていない。エイトは現在ヤンガスに戦闘を任せている状態。

・トラペッタに若干活気がない。
ルイネロの話を聞いた人間は秘密をしっかり守っているのだが、少し町が静かになったような気がする。


エイト
職業:勇者
レベル:7

ヤンガス
職業:戦士
レベル:7


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第 話 『ユリマ』

兵士の剣がどうのつるぎより弱いのわけわかんないんですよね。これはもうトロデが軍事費をケチりにケチって、ひのきのぼうに銀メッキを貼ったものを兵士の標準装備として支給していたとかくらいしか考えられないですよねぇ…。まあそれがまかり通るくらい外交的に平和な国だということでもありますが。しかしあの装備でトロデーン城付近の魔物と戦おうと思ったら、一師団くらい率いて突撃しないと勝てないと思うんですけど…









 

 

 

 

 

 

 

 

ああ 神様 私の人生は"孤独"です

 

 

 

 

 

私は夢を見た。舞台はトラペッタ。主人公は私。何の変哲もない一日を過ごすの。お父さんがいて、町の人がいて。

 

 

でも何か足りない。大切なものが足りない。思い出せそうで、思い出せない。太陽が落ちる頃になると私はいつの間にか自分のベッドの中にいて、また太陽は上り始めるの。

 

 

足りないのは何だろう?私は町を歩いた。自分の家、武器屋さん、道具屋さん、防具屋さん。まだ入ったことのないお酒屋さん。うーん違う。

 

 

石段を下りて広場に出る。町の外れにある一軒家が目についた。あれ…?あの家は誰の家だっけ。思い出せない。

 

 

あ…もう夜だ。私はまたベッドから目覚め、先ほど沈んだ太陽が反対側からまた顔を出す。

 

 

お父さんも町の人も、私が話しかけても何も言わない。ただニコニコと私を見つめるだけ。私は町の外に出た。いい天気。私は少し散歩することにした。

 

 

少し歩いたところで見覚えのある場所に着いた。懐かしい!昔ここでピクニックをしたなぁ。お弁当が美味しくてついつい食べすぎちゃったんだっけ。あれ?誰と?

 

 

あ…もう夜だ。私はまたベッドから目覚め、先ほど沈んだ太陽が反対側からまた顔を出す。

 

 

広場に出ると角の生えたウサギや大きな口のコウモリがいた。わ!魔物…!いや、違う、違う。あれは大丈夫な魔物。この町を守ってくれる機械の…そう、せきゅりてぃさーびす、だっけ。えーと、いつからいたんだっけ?

 

 

あ…もう夜だ。私はまたベッドから目覚め、先ほど沈んだ太陽が反対側からまた顔を出す。

 

 

何が足りないのか、どうしても気になる私は自分の家を探すことにした。まずはタンス。わあ、この服。お父さんにねだって買ってもらったんだよね。こんなところにあったんだ。まだ着られるかな?少しきついかな。ん?いつ着たんだっけ。

 

 

あ…もう夜だ。私はまたベッドから目覚め、先ほど沈んだ太陽が反対側からまた顔を出す。

 

 

リビングも探してみよう。あ、私の杖がこんなところに。ちゃんとしまっておかないとな。でも、魔法の勉強は疲れるから帰ってきたらすぐに寝ちゃうもん…魔法?誰に教わってるの?私。

 

 

あ…もう夜だ。私はまたベッドから目覚め、先ほど沈んだ太陽が反対側からまた顔を出す。

 

 

これはお父さんの水晶玉?確か滝壺に捨ててきたって…ああ、あの人に取ってきてもらったんだよね。私が頼んだんだった。思い出した。

 

 

思い出した…?何を?私は急いで窓の外を見た。太陽はもう地平線へ沈もうとしている。いや!もう少しで何か掴めるのに…!何か、何かないの?

私は自分の部屋へ駆け込んだ。いつもベッドから出るとすぐに外へ出ちゃうから、自分の部屋はちゃんと探してなかったかも。

私の本。私の服。私のカバン。私の机。…の上にある花瓶。…に活けてある8本の花。

あれ…。この花、確か名前はバラ。斑模様の綺麗な植物。花言葉は、『貴方の思いやりに感謝します』『可愛い人』それと────。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ど、ドルマゲスさん!!!!」

 

 

私は自分の声で目が覚めた。そうだ。全部思い出した。私のピエロさん。私の恩人さん。私の、大切な人。

あの人はライラスさんと一緒にトロデーンに旅立って、それで…

 

 

「ゔっ」

 

 

私はお父さんの占いで見た光景を思い出し、胃の内容物が込み上げてくるのを必死で抑えた。違うよね。ドルマゲスさんはあんなことしないよね。ライラスさんは厳しいけど優しい人だもん。

 

 

でもお父さんの占いが外れたことはないし、私がこの前見た夢も…

 

 

いやいや。私は悪い考えを振り払うようにベッドから出て着替え、リビングに向かった。階段を下りるとちょうどお父さんが家に帰ってきた。

 

 

「ユリマ…!もう、大丈夫なのか?」

 

 

「うん、いっぱい寝ちゃったみたい。でもおかげで元気!心配かけてごめんなさい。」

 

 

「いい。俺もお前への配慮が足らず、悪かった。」

 

 

その時、遠くでギイィ…という音が聞こえた。門が開く音!二人が帰ってきたんだ!!

私は家を飛び出した。

 

 

「ユリマ!?」

 

 

「お父さーん!ドルマゲスさんたちが帰ってきたのよ!私、迎えに行ってくるー!」

 

 

「ユリマっ…」

 

 

私が門に到着した時には二人はいなかった。代わりに道具屋のおじさんがいる。

 

 

「おじさん、ドルマゲスさんはいませんでしたか?」

 

 

「ドルマゲス?さぁ…でもそろそろ帰って来るだろ。」

 

 

そうだよね。少しがっかりしたけど、ちょっと寄り道してるだけかも。だって、ドルマゲスさんは旅行が大好きだし。ライラスさんもなんだかんだ言って、最後にはドルマゲスさんについて行っちゃうんだから素直じゃないよね。

 

 

私が家に帰ると、ちょうどまた門が開く音がした。あっ!今度はドルマゲスさんたちだ!

 

 

でも行ってみると誰もいなかった。武器屋のおじさんが外に届いた物資を取りに行ったんだって。あれぇ…?

 

 

それから何度も門を見に行ったけど、二人は帰ってこなかった。体調が悪くてどこかで休んでいるのかも。私は心配になった。

 

 

「お父さん!私、ドルマゲスさんを探しに行ってくるわ!」

 

 

「ユリマ…!?もう夜だぞ…それにドルマゲスは…!……いや、なんでもない」

 

 

「でも、ドルマゲスさんたちはどこかケガをしてトラペッタに帰ってこられないのかもしれないわ!私が見つけてあげないと…」

 

 

「ユリマ」

 

 

お父さんが私の目を見つめて強い調子で言うからびっくりした。

 

 

「ドルマゲスの場所は…俺が今夜酒場の仲間たちに相談してやる。だからお前はもう寝なさい。健全な魔力は健全な肉体に宿ると、…ライラスも言っていただろう。」

 

 

「…うん」

 

 

私は二人を探しに行きたかったけど、やっぱり一人で夜の草原を歩くのは少し怖い。ごめんなさい…。

私はベッドに入り目を閉じた。明日にはきっと二人は帰って来るよね…

 

 

 

 

私は夢を見た。目の前には会いたかったドルマゲスさん!…と知らない人。ドルマゲスさんの知り合い?

やっと会えたのに、ドルマゲスさんは悲しそうな顔をしている。何か、嫌なことあったのかな…私に何かできることはないのかな…

 

 

「ふわぁ…おはよ…お父さん…って寝てるよね。」

 

 

今度の夢はすぐに覚めた。朝ご飯を作って食べて、お昼まで魔法の勉強。継続は力なり、って魔法に伸び悩む私にドルマゲスさんが言ってくれたの。すごくいい言葉だよね。なによりドルマゲスさんが一番頑張ってるから、私も頑張ろうって思えるの。

 

 

私が勉強していると、やっとお父さんが起きてきた!

 

 

「お父さん!おはよう!」

 

 

「…おはよう」

 

 

「ねえねえ!昨日はどうだった?ドルマゲスさんがどこにいるか分かった??」

 

 

「ゆ、ユリマ…」

 

 

「あー!また誤魔化して!また私に隠し事??もしかしてドルマゲスさんは私が寝てるうちに帰ってきてたのかな!ね!そうなんでしょう?」

 

 

「ユリマ。その、だな。」

 

 

「うふふ、大丈夫よお父さん!私怒ったりしてないから!」

 

 

私は家を飛び出して町を探し回った。民家の周り、広場、井戸の中まで。お酒屋さんの店主さんにも聞いたけど、見て無いね。だって。あれぇ…

 

 

 

ドルマゲスさんはなんでいないの??

 

 

 

そんな時、門の開く音がした。あ…今度こそ…

 

 

私は最後の望みをかけて入口へと向かった。でも、そこにいたのはドルマゲスさんじゃなくて知らない旅人だった。私は深く絶望した。

 

 

「…ええと、ごめんなさい、旅人の方ですよね。ここはトラペッタです。ところどころで機械の魔物を見かけるかもしれませんが、害はないので安心してくださいね…」

 

 

私が家に帰るともうすぐ夕暮れ時だった。ああ、今日の夕飯は何にしよう。なにも食べたい気分じゃないな…。

 

 

次の日も。その次の日も。その次の日も。ドルマゲスさんは帰ってこなかった。嫌な予感が少しずつ、少しずつ私の背を這い上がる。

 

 

ほんとはドルマゲスは悪い人で、ライラスさんを殺して逃げたんだよーって。そんなわけない。

 

 

この町を捨てたんだよーって。そんなわけがない!

 

 

ずっと、私を騙してたんだよーって。そんな…。

 

 

私の見る世界はだんだんと色を失っていった。食べ物の味も感じなくなっていた。お父さんの呼びかけに空元気で返事をするのだけが上手くなっていった。

 

 

私は夕暮れも来ないうちにベッドに入った。お腹もすかない、食べ物もおいしくない。起きてても仕方ないよね。

 

 

私が本当に寝ようと思い、カーテンを閉めようとベッドから立ち上がった瞬間、目に鮮やかな『色』が飛び込んできた。これは…?

 

 

「…バラ……!ううっ…」

 

 

セピア色の世界で唯一色彩を放つバラを見て、私の涙腺がついに決壊した。

 

 

「う…うえぇ……ど、るまげす、さん、どこにいるのぉ…うっうっ…えぇ…」

 

 

幼児のように泣きじゃくる私が花瓶からバラを一輪抜き取ろうとした時、花瓶の下に何かがあることに気が付いた。

 

 

「…?」

 

 

それは手紙だった。宛名は…私。この字は…!この字は!この字は!!

 

 

私は封を破り捨て、中身を一心不乱に読んだ。

 

 

『ハロー、お元気ですか?ユリマさん。私は元気です。ですが…わけあってしばらくトラペッタには戻ることができません。赤いバンダナの青年と山賊の風貌をした男の二人組は町に来訪しましたか?今ごろ逆賊として私の名は町中に広まり、皆が私を恐れ憎んでいるかもしれませんね。しかし、それで構いません。実際に私はトロデーンを滅ぼし、師匠を…この手で殺してしまったのですから。でも、それは私が望んでやったことではないです。こんなことを言っても信じられないかもしれませんが、私は貴方だけには伝えておきたかった。これから私は師匠を取り戻し、諸悪の根源を討つために長い長い旅に出ます。必ずいつかトラペッタには帰ることをここに誓いましょう。その時にはみんなに謝って、どんな罵倒も受け入れるつもりです。そしてもう一度みんなで暮らしましょう。私の毎日には師匠やユリマさん、町の人たちが必要なのです。この手紙のことは他の人には言っても言わなくても大丈夫。ではユリマさん、また逢う日まで。

 

素敵な道化師 ドルマゲスより』

 

 

「…」

 

 

私はカバンに手紙を入れ、服やお財布や、色々なものを詰め込んだ。そして紙とペンを取り出し、お父さんに手紙を書く。それを机に置いて。ああ、杖を忘れるところだった。持つものを全部持った私はこっそり家を出た。お父さんはいなかった。

 

 

「…」

 

 

私はライラスさんの家に忍び込み、部屋を漁った。ドルマゲスさんの部屋は空っぽだったけど、ライラスさんの部屋には色々なものがある。私はライラスさんの魔導書を入るだけ入れて風呂敷に包み、背負った。大丈夫、ちゃんと返すから…。私は自分にそう言い聞かせて罪悪感を払う。そしてライラスさんの机に近寄った。机の上にあるのはたくさんの薬品。緑のは回復薬で、黄色いのは…ええと。青いのは…うん、覚えてないや。私の目当ては紫色に輝く薬。私がライラスさんに魔法を教わりに行くたび、これだけは触れるなと口を酸っぱく言われたもの。

 

 

「…」

 

 

窓もドアも締め切って暗い家の中で、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。…私がドルマゲスさんを助けなきゃ。ライラスさんをその手で殺しちゃって一人ぼっちのドルマゲスさんを。私が助けるんだ。私でもドルマゲスさんの役に立てるんだ。私にしか、できないんだ。

 

 

「私が…」

 

 

私は禁じられた秘薬、『大魔聖水』を一口で飲み込んだ。

 

 

「ドルマゲスさん、私が、ユリマが、いま行きます…。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

この日、ルイネロの娘、ユリマはトラペッタの町から忽然と姿を消した。慌てたルイネロが居場所を占うも、水晶玉は沈黙したままだった。その夜にルイネロがユリマの部屋で見つけた手紙には、

「おとうさん私は大丈夫ドルマゲスさんを助けなきゃ行ってきます」

とだけ乱雑な文字で書かれていた。まるで神隠しにでも遭ったかのように消えてしまったユリマの足取りは未だ掴めていない。

 

 

 

 

 

 




































…ちょっと誰よユリマさんの感情にベタランブル(究極重力呪文)かけた奴~!


説明は不要の事と思いますが一応。

ユリマは自分の予知夢で極度の不安と緊張状態に陥っており、ルイネロの占いで自分の悪夢が正夢になったことと、齢18にして人体を杖が貫通する光景を見た究極のストレスで失神し、ついに気が触れてしまいます。ルイネロの声も届かず、少しずつおかしくなっていく中でドルマゲスの置手紙(ユリマがドルマゲスを探しに出ている間にドルマゲスがこっそり置いた)を読んで良くない側に決心が傾き、ライラスが決して触れるなと命じていた試作品の大魔聖水を口にしてしまった上で失踪してしまうのでした。


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第十三章 修道院襲撃と院長密会 ①

お客様ー!?お客様の中にヤンデレユリマのイラストを描いてくれる方はいらっしゃいませんかー!?







皆様の考察を参考にして、この小説でのトロデーン王国の軍事事情を決定しました。

・トロデーンの一般兵士は普通に強い装備を持っていた。(トロデーン近辺の魔物に対処するため)

・しかしトロデーン王族の近衛兵であるエイトに対して、そのトロデーンの外交的・内政的平和さから、帯刀した近衛兵を設置することこそ逆に危険ではないか(エイトは拾われた子どもでトロデーン国民ではなく、忠誠心に乏しく謀反の恐れがあると疑われたため)とトロデーン貴族から懸念の声が上がる。

・エイトを近衛兵から解任させたくないミーティアがトロデに懇願し、トロデは苦肉の策としてエイトに刃を潰した、一般兵士が持つ剣のレプリカのようなものを下賜し、(これがエイトの持つ『兵士の剣』)近衛兵の任は解かなかった。

・トロデ王が割と武闘派であることを知っているトロデーン貴族は、いくらなんでもあの剣では王や姫の命には届くまいと渋々納得した(トロデーン貴族もエイトの善良性についてはよく知っているのでこれ以上の対処は求めなかった)。

・トロデーン滅亡後にエイトが目覚めた時、周囲には城の異変を感じ取ったベホマスライムやじごくのよろい等が姿を見せ始め、ドルマゲス(ラプソーン)の魔力で生命を吹き込まれた「いばらドラゴン」の幼体もいた。エイトたちがいた外庭から武器庫までの道は遠く、崩落や茨により武器庫への通路の安全も怪しかったので武器は取りに戻らずそのまま旅に出た。

ということにしておきます。これ以上に辻褄の合う設定がありましたらぜひ教えてください。
トロデーン貴族がエイトの善良性を知っていることについては、城にある貴族の日記に書かれていた「まさか素性も分からぬよそものが近衛兵に取り立てられるとは思わなかった。しかしこの人事はきっとうまくいくだろう。」という文から読み取れます。








ハロー、聖堂騎士団に歯向かってお尋ね者の道化師、ドルマゲスです。…いや、国を一つ滅ぼしてるので今更ですかね。てか歴史上類を見ない大悪人ですよね…。この世界の情報伝達手段が手紙か噂話くらいしかないのでトロデーン陥落の報せは全然この辺りには広まってないみたいですけど。トロデーンの国民がほとんど全滅しているのもこれに拍車をかけているのかもしれませんね…。とりあえずこの騒ぎを収めるところから始めましょうか。

 

 

 

 

オディロ院長に会いに行こうとするも、マルチェロを筆頭とする聖堂騎士団に捉えられそうになった俺たちは、やむを得ず『ジゴフラッシュ』で騎士団員たちを牽制し『賢人の見る夢(イデア)』を使って何とか修道院の外まで逃げおおせてきた。

 

「ふぅ…修道院の外までくれば一旦は大丈夫ですかね…」

 

「しかし、どういうことだ!聖堂騎士団とは神に仕える聖職者で構成されているんじゃないのか!?なんだあの横柄な態度は!」

 

「さ、サーベルト落ち着いて…」

 

サーベルトは随分ご立腹のようだ。確かに、宗派こそ違うが彼も敬虔な教徒である。特にサーベルトは村の用心棒を自ら買って出るなどしており、本来は聖堂騎士団も弱きを助け強きを挫く秩序維持のための集団のはずなのだから似た者同士のはずである。しかしその腐り具合と言ったら…今更説明するまでもないだろう。

 

「(聖堂騎士団を廃止してサーベルトを一人配置した方がこの地域も安全なのでは…)ふむ、しかし面倒なことになりましたね。これでは私たちは絶対オディロ院長に面会することができないですし、なんなら修道院に侵入した瞬間捕らえられるでしょうねぇ。」

 

「誰かに対してこんなに腹が立ったのは初めてだ!!俺が全員叩きのめして説教してやる!!」

 

「サーベルト…」

 

どうやらサーベルトは俺が思っていたより苛立っているようだ。こりゃここを後回しにするのは悪手かもしれないな。サーベルトはその真っ直ぐな性格故、他の事に気を取られると戦闘の勘などが鈍るのだ。特に一度の死が全ての終わりになってしまう我々にとっては文字通り死活問題である。『ザオリク』や「せかいじゅのは」、教会など蘇生する術を多く持つ主人公たちとは違う。

 

「サーベルト」

 

「な、なんだ?」

 

「先ほども言いましたが、聖堂騎士団は教会の管轄下です。私たちがそこにとやかく言うことはあまり効果的ではありません。現に今私たちが不当な扱いを受けたという事実があったとしても、です。後ろ盾が何もない私たちと違って、彼らのバックには教会という世界一大きな組織が付いています。勝ち目はないでしょう。だからこそ院長に会いに行くのです。院長は教会の頂点である法王とも友人関係にある、と言われています。」

 

「…そうか。ドリィはしっかり先のことも考えているんだな…俺も見習わないといけないな。それで、当てはあるのか?」「ないです。」

 

「随分食い気味だな…」

 

「…しかし、強引に突破することならば可能です。まずは夜になるまで待ちましょう。少し行ったところに『ドニ』という小さな町があるので、そこで作戦について話しましょうか。…と、そろそろ騎士たちが外に出てくる頃ですかね…サーベルト、そこの木陰に潜んでいてください。彼らを欺きます。」

 

俺は『妖精の見る夢(コティングリー)』でドラクエ世界によくいる白髭の老人に変身した。程なくして入り口からわらわらと騎士団員たちが現れる。マルチェロに叱られたのか、全員かなり慌てているようだ。その中で俺と目が合った一人の男が近づいてきた。

 

「おいっ、じいさん!ここらで旅芸人のような男と若い男の二人組を見なかったか?」

 

「旅芸人と男? えぇ、えぇ、見ましたとも。この修道院から出てきたあと、血相を変えて向こうの方へ走っていきましたわい。なにかあったのですかな?」

 

「向こう…船着き場の方向か…いや、何でもない。世話をかけたな!」

 

男は騎士団員たちの輪に戻って何かを話したかと思うと、まさかの全員で船着き場に向かって走り出した。

 

…アホじゃないのか?いくら何でも手分けして探すとかするだろ…見ず知らずの老人の言葉を鵜呑みにして全員で一方向に進むとは、どれだけ考えなしなのだろうか。こちらは助かるが。やはりマルチェロがいないと聖堂騎士団はただプライドが高いだけのごろつき集団でしかないのだろうか…

 

「さあ、サーベルト。行きましょうか?」

 

「あ、ああ…」

 

サーベルトも聖堂騎士団のアホっぷりに呆気に取られているようだ。俺は一応サーベルトもどこにでもいそうな青年に変身させてからドニの町に向かった。

 

 

 

 

ドニは小さな町だが、酒が有名で朝から晩まで酒場がにぎわっている。さらに立地が良く、マイエラ修道院に巡礼に来た金持ち、アスカンタ国領へ向かう行商人などの宿場町としても人気である。俺が前回ここに来た時にはククールがいたのだが、今日はいなかった。まあククールもいつもドニの町か修道院にいるというわけでもないのだろう。俺たちはしばらく町を歩き、その後酒場の二階で作戦会議を始めた。

 

「さてドリィ。どうやってオディロ院長に会おうか?」

 

「…マイエラ修道院宿舎の奥に院長の棟があり、夜になると院長はそこで就寝します。流石に就寝中は付き人などもいないでしょうし、楽に面会できるでしょう。」

 

「ほうほう。では院長棟への行き方は?」

 

「『旧修道院跡地』という使われなくなった修道院から院長棟まで続く通路がありますが、あそこは臭いし汚いし、別にそんな面倒なことをする必要はないので水の上を渡っていき、侵入します。」

 

「なるほどな。粗方は理解したぞ。しかし夜とは言っても聖堂騎士団が全員寝静まることはないだろう?騎士が来たらどうするんだ?」

 

ああ、ここで「じゃあなんで最初からそうしないんだよ!」と言わないところがサーベルトの誠実で良いところだ。確かに最初からこの方法を使えば成功していたであろう。しかし、入れるなら正面から入りたかったのだ。いくらこちらで8年近く過ごしたとはいえ、俺にとってはまだまだ現世で暮らしていた時間の方が長い。友達に会いに行きたくて家まで来たけど番犬が怖くて入れない…よし、じゃあベランダから入ろう!という思考にはどうしてもなれないのだ。他に方法がない今となっては詭弁でしかないのだが。

 

「騎士たちには私たちを捕まえてもらいます。もちろんこの私たちではなく、ね?」

 

「…!村で作った泥人形か!」

 

「ご明察です。人形たちには修道院の近辺をうろついてもらい、騎士たちの気を引きます。警備が手薄になったその内に院長棟に侵入して面会、という算段になっています。」

 

「なるほど。俺からは特に言うことはないな。今のうちに院長殿に何を伝えるか考えておくか…」

 

「よし、ではそろそろ参りましょうかね…」

 

俺たちはその後少し休憩をしてから、食事の勘定をしてドニの町を発った。

 

 

 

 

聖堂騎士団たちはすっかりやつれて宿舎で休んでいた。結局船着き場の人間も、それらしき二人は見たがどこに行ったかは知らないの一点張りで何も情報を得ることができず数時間の探索は徒労に終わり、成果を上げずに帰ってきたことで団長のマルチェロにもこっぴどく叱られたのだ。今日のことはもう忘れて、もう寝よう…そう誰もが思った瞬間、なにやら表が騒がしくなってきた。廊下を走っていた修道士を一人捕まえて話を聞くと、昼間の旅芸人と傭兵がまた姿を現したらしい。既に何人かの騎士は確保に向かっているが、殊の外腕が立つようでなかなか苦戦しているようだ。それを聞いて、これは汚名を返上するチャンスだと騎士たちは我先にと不審人物の確保に乗り出すのだった。

 

 

俺たちは現在元の姿に戻り、川岸から修道院の様子をうかがっている。少し騒がしくなってきたところを見ると泥人形たちはうまく囮の役目を全うしてくれているようだ。

俺たちが修道院を観察していると、ロンリージョーこと「さまようよろい」が近づいてきたが、俺たちに戦意がないということを身振り手振りでアピールすると、なんとなく通じたのか周りの魔物を追い払ってから帰ってくれた。聖堂騎士団よりよっぽど彼の方が高尚な騎士道精神を持っている。いつか物質語を習得したら、改めて会いに行こう。

 

「けっこう減りましたかね…行きましょうか。サーベルト、私につかまっていてくださいね。…『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』」

 

俺はサーベルトをおぶるような形で持ち上げて姿を消すと、水面を歩いて院長棟のある小島へ到達した。ところどころに毒が浮いているが、こんなんで大丈夫なのかマイエラ修道院…

 

『ラグランジュ』は体から出る「波」を振動によって調節する術なので、体の一定の面積さえ触れあっていれば共振現象が起きて同行者も姿を消すことができるのだ。俺は門番を『ラリホー』で眠らせると扉を開けて中に入った。

 

「げ…」

 

院長棟の一階部分にも何人か騎士がいた。しかもその中にはマルチェロの姿もある。マルチェロはマイエラ最大の不穏分子なので、できれば確実に行動不能にしておきたい…。俺は騎士たちがひとりでに開いた扉に驚いているうちに全員に『ラリホー』を、呪文の効きにくいマルチェロには「甘い息」を使って眠らせた。さらに扉も閉めて甘い息を充満させておいたのでこのままだと朝まで起きることはないだろう。振り向くとサーベルトも寝てしまっていたので『ザメハ』で起こして二階へ向かった。

 

俺がサーベルトを下ろして姿を現し、階段を上っていると、持っている神鳥の杖が小刻みに震え始めた。オディロが近くにいるからだろうか。お前の思い通りにはさせん、と俺はひときわ強く魔力を流してやると杖はまた沈黙した。ふん。

 

あと数段で登りきる、というところで「マルチェロではないな、誰じゃ?」と上階から声がした。…俺は少し考えた末に「怪しいものです」と答える。サーベルトは変な顔で俺を見ていたが、院長のお眼鏡にはかなったようで、ひとしきり笑い声がした後「とにかく上ってきなさい」と言ってもらえた。

 

「夜分遅くに失礼をば…お初にお目にかかります、オディロ様。私の名前はマスター・ドリィ。旅芸人でございます。こちらは私の護衛を務めてくださっている傭兵のアインス君でございます。」

 

「初めまして、アインスです。」

 

寝間着姿でベッドに腰かけている院長と対面し、とりあえず自己紹介をしたのだが、オディロはこちらを見つめて何かを考えているようだ。

 

「…ふむ、ドリィとやら、私を欺こうとしておるな?正直に話しなさい。そしてアインス君、私の勘違いでなければ、君はもしや賢者の末裔ではないかね?」

 

俺とサーベルトは顔を見合わせた。なるほど、流石に三大聖地の長で神の子エジェウスの子孫、伊達な経験と血統ではない。嘘をついても効果はなさそうだ。

 

「…大変失礼いたしました。こちらにも偽名を使わなければならない理由がありまして…。しかし、貴方様ならば信用に値しますので偽名を使う必要もありますまい。改めまして私はドルマゲス。この『神鳥の杖』に魅入られトロデーン王国を滅ぼした者です。くれぐれも今日の密会のことはご口外されませぬよう…」

 

「私の名はサーベルト・アルバートです。ここから北の海を渡った先のトロデーン国領リーザス地方の領主の息子であり、かつ七賢者の子孫でもあります。」

 

「なんと…それはまことか?」

 

どうやら流石のオディロ院長も俺がトロデーンを滅ぼしたとカミングアウトすると驚いたようだ。まあそりゃそうか。俺はトラペッタ出発から現在に至るまでの話をかいつまんで院長に説明した。少し話してみたがオディロは非常に穏やかな雰囲気を作るのが上手で、どんな人間でもつい信頼してみようかなという気持ちにさせる人物だった。

俺の話がひと段落すると、今度はサーベルトが免罪符の販売や騎士団の態度などの苦情を伝えた。俺がラプソーンと賢者の関係について話した時も苦い顔をしていたが、聖堂騎士団の話の方がさらに苦い顔をしていた。きっとオディロなりに思うところがあるのだろう。

 

「ほう…ではその杖の中に悪しき暗黒神の魂が封じ込められておるのか…」

 

「ええ、今も院長様を刺し殺そうとうずうずしているのを必死で止めている次第でございます。」

 

「…話は分かった。それで、私はどうすればよいのかな?」

 

「それは、悪党を名乗り護衛を無力化して院長棟に侵入してきた我々の言葉を信じるということですか?」

 

元々オディロは原作ドルマゲスと対立した時も、話し合えばわかりあえると信じていた人物だ。確実に信用してくれると思ったからこそこうして色々話したわけだが…まあ形式として聞いておく。

 

「ほっほっほ、君たちのような澄んだ目をした人間がこんな場面で適当なことを言うものか。嘘をついているかどうかは目を見れば分かるわい。確かに大きな話ではあるがの…」

 

「すみません、正直俺は、逆に貴方の事を疑っていました。こんな修道院の長なのだからさぞあくどい人間なのだろう、と。しかし院長殿はとても話の分かる方でした。無礼な態度を取って申し訳ありませんでした。」

 

頭を下げるサーベルトをオディロが優しく諫める。その尊さを俺は直視できなかった。まわりにこうも聖人が多いとこっちまで心が洗われそうだ。

 

「さてオディロ様、具体的な話と参りましょう。まず私からの要求は二つです。一つは聖堂騎士団員ククールをこの修道院から追放すること。もう一つは聖堂騎士団長マルチェロを中央に推薦することです。」

 

「…説明を求めてもよろしいですかな。それは二つ返事で了承できそうにはない。」

 

「もちろんでございます。…まずククールの追放についてですが、彼はこの先において大きな役割を担い、暗黒神ラプソーンを撃破するであろう勇者の一人だと私は考えております。しかし彼の旅立ちの動機を作り出すことができるのはオディロ様ただ一人なのでございます。…なのでオディロ様自身の口からククールに、この修道院から出て世界を救う旅に出るように伝えてください。『追放』という言葉を使ったのは他の騎士団員やマルチェロへの体裁保持のためです。…そしてマルチェロのことですが…彼は少し聖堂騎士団を私兵化し始めているきらいがあります。一度『聖地ゴルド』や『サヴェッラ大聖堂』に送って色々な聖職者と関わることで聖堂騎士としての初心を取り戻させたほうが良いかと考えました。」

 

マルチェロの方は今適当に考えた理由である。正直修道院に居てくれても構わないのだが、俺が個人的に彼と馬が合わないので、俺がほとんど足を運ばないであろうゴルドかサヴェッラにいてくれると不意に顔を合わせなくて済むのでついでに進言しておいた。

 

「ふむ…マルチェロのことはもとよりどうしようか決めあぐねていたところだったのじゃ。君たちの言うとおりにしよう。しかし、ククールのことは…少し考えさせてほしい。親のいないあの子とマルチェロは、私の子どものようなものなのでな…」

 

「…ご傾聴いただき、感謝します。それでは続いてサーベルト君の要求です。」

 

「はい。私からの要求は──」

 

このあとオディロ院長は東の空が白むまで延々とサーベルトの説教を聞かされるのだった。

 

 

 

 

 

 




ドルマゲスは別にマルチェロが嫌いなわけではありません。実際ドラクエⅧの中ではかなり好きなキャラの部類に入りますが、ではいざ面と向かって関わろうと思うと、どうしても苦手意識が芽生えてしまうのです。


物語の性質上、原作でほとんどセリフがない人にたくさん喋らせるので口調がめちゃくちゃですね…口調に解釈違いがあってもご容赦を願います。


ドルマゲスがオディロに話したことは神鳥の杖の秘密とトロデーン滅亡の話、既に賢者の末裔マスター・ライラスが死亡したこと、後に自分を追ってここに現れるであろうトロデーンの生き残りの一行が世界を救う鍵になるであろうことなどです。反対にオディロからは死者と魂の関係などをありがたい教えと共に教授してもらいました。


一見無敵に思える『ラグランジュ』ですが、魔力や匂いは消せないこと(魔力を抑えることはできる)の他にも、日中なら影だけが見えてしまうなどの弱点もあります。


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第十四章 修道院襲撃と院長密会 ②

どうも前回の終わりが中途半端だったので、短めですが続けてドルマゲスサイドを書きます。
次回はエイト視点です。

ああ…ネタ切れだ…次はどうしようか…








夜が明けるか明けないかの時刻になったところでやっとサーベルトの説教は終わった。オディロは目に見えてしょげかえっており、最初は俺も相槌を打ったりしていたが途中から別のことをして時間を潰していた。

 

「それではぜひ!!よろしくお願いしますね!貧しい人、恵まれない人こそ救われるべきなのです!教会とはそうあるべきなのです!」

 

「うむ…うむ…善処しよう…。」

 

「(うわ。両方ともキャラがおかしなことに…)サーベルト、そろそろお暇しましょう。ね?」

 

「ドリィ…ああ、そうしよう。俺も少し眠くなってきた…」

 

「ではオディロ様。私たちはこれにて失礼します。」

 

俺がそろそろ帰ることを伝えると、疲れ切っていたように見えたオディロはしゃんと背筋を伸ばして佇まいを整えた。寝間着のはずのその姿からは威厳すら感じられ、改めて目の前の人物がどれだけ偉大な人物なのかを俺は分からされた。

 

「…此度はわざわざ済まなかったの。私はこの命を神にささげた身、共に世界を救う旅にでることはできないが、せめて君たちの旅の無事を祈らせてくれ。…おお神よ!この者たちにあなたさまのご加護のあらんことを!」

 

オディロは十字を切って天に俺たちの無事を祈ってくれた。

 

「ありがとうございます。では、後のことはよろしく頼みますね!」

 

「うむ、承知した。時々話を聞かせてほしい…と言いたいのじゃが、君たちは随分騎士団に目をつけられているようだから難しいかの…」

 

「…ああ、もし私と話がしたいとオディロ様が仰るのならばいいものを差し上げましょう。」

 

俺は手のひらサイズの石板をオディロに手渡した。

 

「これは?」

 

「それは『携帯念話(フォン)』というアイテムで、世界のどこからでも私と会話することができるという優れた魔道具です。」

 

「な、なんとも珍しい…こんなものを一体どこで?」

 

「さっき作りました。」

 

「流石はドリィだ!」

 

この『フォン』はサーベルトがオディロに延々と説教している間、暇つぶしがてら石板を作って弄っていたら偶然完成したものだ。『胎児の見る夢(エーテル)』で色々やった末に残った自分の魂魄の残滓を大理石の石板に込めてみたらなんかできた。…申し訳ないが俺にも何が何やらなのでこれ以上の説明は出来そうにない。しかしその使い道はまんま携帯電話と同じであり(俺としか会話できないが)、せっかくなのでオディロに渡すことにした。

 

「さっきとな…!ほ、やはりドルマゲス、君はただの人間じゃないようじゃのぉ…」

 

「無論です。私はただの()()()なのですから…」

 

「ほっほっほ、やはり君たちは面白い子たちじゃ。くれぐれも無理をすることのないようにな。」

 

「ご厚意、感謝します。ではごきげんよう!」

 

「院長殿!どうか息災で!」

 

俺は窓を開けると、サーベルトを連れて飛び立った。ふう…これで俺のマイエラ地方での仕事は終わりかな。俺は聖堂騎士団を引き付けている泥人形にかけた呪術を解いた。これで泥人形はまた土に戻るだろう。いい仕事をしてくれた。

 

今日オディロ院長と会話する中で、少しだがラプソーンや師匠についての対策の道が見えてきたような気がする。次は誰のところに行こうか…。

 

「っと。ドリィに抱えられるのは少し恥ずかしいが、空からの景色というものは素晴らしいな!いつか俺も自分の力で空を飛べるようになれば良いのだが…」

 

「心配しなくてもサーベルトがご所望ならいつでも空中散歩に付き合ってあげますよ。」

 

「いやその、俺は…ま、いいか。それで、次はどこへ向かうんだ?」

 

「…このまま流浪の旅を続けるのも悪くないですが、少々物資が心もとないですねぇ…アスカンタの方に少しアテがあります。アスカンタで拠点を構えてから次の賢者の元へ向かいましょう。」

 

俺たちは川岸に降り立ち、さっそうとその場を後に…したかったが、徹夜していたことを思い出し、急にどっと疲れが出たので、また変装してドニの町で宿を取るのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「…」

 

「…」

 

「団長様直々の招集だって言うから来てやったのに…なんだお前ら、いつにも増してしけた面なんかしやがって?」

 

「…」

 

「な、何だってんだよ…お、おいマルチェロ…」

 

「…ククール、少し黙っていろ」

 

「何なんだ…?」

 

次の日の昼、修道院の雰囲気は最悪だった。昨日の夜、宿舎にいた聖堂騎士団は熟睡していたククールを除き全員が不審人物確保に乗り出し、該当人物を発見することはできたもののその強さは一般人の範疇を出ない聖堂騎士団では太刀打ちできず、ついに諦めて逃げ出してきたのだ。本来は不審な人物を発見した時点で団長に報告し指示を仰がなければならないのだが、団員たちは名声欲しさにその手順を無視し、独断で行動して、しかも失敗したのだ。彼らの顔は真っ青だった。さらに人間二人を前に大勢の騎士が逃げ出すなど、プライドの高い騎士たちにとっては大恥ものであり、今回の醜態はマイエラ修道院の過去にも類を見ない。騎士団は揃って俯き暗いオーラを漂わせていた。

ではそんな騎士たちに「聖堂騎士団の名に泥を塗る気か!!」と叱責するはずのマルチェロはと言うと、朝からずっと気まずそうな顔をしている。その落ち込みようは嫌味のあまりのキレの悪さにククールが困惑するほどだ。昨夜院長棟にいたマルチェロたち院長の護衛部隊は、先の騒動に全く気付くことすらなく朝まで眠りこけていたというのだ。しかも頼りない騎士たちに代わって昨夜は院長が夜の間ずっと寝ずの番をしていたらしく、院長は昼食刻を過ぎた今もぐっすり眠っている。これまたマルチェロにとっては耐え難い屈辱だった。事情を知らない神父や修道士も下手なことを言うと騎士に殴り飛ばされる恐れがあるので、隅でおろおろしているだけだ。誰も何も喋らず、空気が泥のように重いので息苦しい。

 

そんな中、マルチェロの側近が勇気を出して口を開いた。

 

「…」

 

「…ま、マルチェロ様、招集をかけたということは皆に何か伝えたいことがあったのでは…」

 

マルチェロはそんなことは分かっているとでも言いたげに顔を上げると、ゆっくりと口を開いた。

 

「…ああ…本当なら私がここで貴様らに説教をするつもりだったのだが…私の自分に対する怒りの方が大きくて今はどうにもそんな気分にはなれない…おい貴様ら!!」

 

『は、はいっ!』

 

「…今日は安息日とする。各々瞑想の時間を取り、昨日の自分自身を省みるがいい。私も今から自室に籠る。…今の私は非常に気が立っているので用事は後にしてくれ…だが、次に怪しい人物を見かけたらくれぐれも勝手に行動することなく私に伝えること…!以上だ…。」

 

それだけ言うとマルチェロは奥の部屋へ消えた。

 

「…」

 

「???」

 

一人、また一人と中庭から騎士たちがとぼとぼと重い足取りで自室に戻っていく中、唯一事態を把握できていないククールだけは特に何も瞑想して考えることもなく、普通に昼寝の時間を取るのであった。

 

 

 

 

 

 




聖堂騎士団に一泡吹かせられたので満足です。


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Chapter4 リーザス地方 ①

ドルマゲスとサーベルトを模した泥人形の強さですが、マイエラ地方を警護する聖堂騎士団が集団でも太刀打ちできない程度なので、恐らくベルガラック地方の魔物くらいの強さはあるんじゃないかと思います。

2022/10/21設定資料集を更新しました。ぜひご一読を。








山の上の一軒家に住む老人との面会を終えた後トラペッタ地方を発ち、関所を通ってリーザス地方にやってきた勇者一行。リーザス地方の魔物に苦戦するも、エイトとヤンガスは力を合わせてなんとか魔物たちに対処しながら旅を続けるのだった。

 

 

 

 

「ああっ!兄貴!メタルスライムでげすよ!!」

 

「(や、ヤンガス!駄目だよ大声出したら!静かに…そーっと…)」

 

「(すっすみません兄貴…)」

 

「…」「…」

 

「おおーい二人とも!そこでこそこそとやっておるんじゃ?」

 

▼メタルスライム は にげだした!

 

「「ああ~~~!」」

 

「な、なんじゃ藪から棒に…」

 

「おっさん!何するでげすか!!」

 

「王様…!」

 

「な、何なんじゃ…!?わしは王様だぞ…!み、ミーティア~!」

 

怖い顔をするヤンガスとエイトに詰め寄られてトロデは馬車に逃げ込んでしまった。まだヤンガスは悔しそうにしているが、エイトはため息をついて切り替えるとまた進み始めた。魔物相手に一喜一憂していたら旅なんてできない。きっとさっきのメタルスライムも悔しがっているヤンガスを見て草葉の陰からほくそ笑んでいることだろう。

 

「あっ、村が見えてきましたよ!王様」

 

「なに?…ふんふん、ではあれがリーザスの村じゃろうて。立ち寄りたいのか?エイトよ。」

 

「…もしかしたら僕でも使えるいい武器があるかもしれないので、せっかくだから立ち寄ってみてもいいでしょうか?」

 

「いいじゃろう。…ここはサーベルト・アルバートの出身と思われる村じゃ。ドルマゲスの手掛かりについて聞き込みを行うとするか。」

 

「アッシは兄貴が行くところについていくだけでがすよ。」

 

「よし、決まりですね!では姫、行きましょうか?」

 

ミーティアは一声嘶くとリーザスの村の方向へ脚を向けた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

リーザスの村に入ると、突然鳥型の魔物が現れた。

 

「わっ!びっくりした…」

 

「兄貴、コイツトラペッタの町にもいたやつでがすよ!」

 

魔物はエイトたち…特にトロデを一瞥すると、エイトたちと入れ違いになる形で村の外へ出ていった。続いて村の奥から二人の少年が駆けてくる。

 

「おいっ!なんだお前ら!」

 

「ヨソモノだ!怪しいぞ!」

 

「え、えーっと…」

 

「なんじゃ、この小僧たちは?」

 

「わっ!喋るおっさんの魔物だぞ!おいマルク!こいつらを追い出そう!」

 

「え~でもピーチクが反応しなかったし悪い魔物じゃないんじゃないかなぁ?」

 

「誰がおっさんの魔物じゃ!!!おいエイト!この無礼な小僧たちをつまみだせ!」

 

「えぇ…そうはいってもここは彼らの村ですし…」

 

「兄貴、ここはアッシに任せてくだせぇ。…おい坊主たち、俺たちは旅の途中でこの村に立ち寄っただけだ。それをいきなり追い出そうってのは少々乱暴じゃあねぇのか?」

 

「「うっ…」」

 

「こ、これ!お前たち!ちょっと待たんかい!」

 

「!」

 

「よく見んかいこの早とちりめが!この方たちは旅のお方じゃろが!」

 

ヤンガスに怖い顔で凄まれすっかり気勢を削がれてしまった二人のところに、村人の老婆が現れて二人の少年─ポルクとマルクの頭をゲンコツでぶった。泣きっ面に蜂とはこのことである。

 

「いってぇ!」「ぎゃっ!」

 

「お前たち、ゼシカお嬢様から頼まれごとをしとったんじゃろう。全くフラフラしおってからに。」

 

「あ、いっけね。そうだった。」

 

「ほれほれ、ゼシカお嬢様からおしかりを受ける前にさっさと行かんか!」

 

「「ふわぁーい…」」

 

ポルクとマルクはぶたれた頭をさすりさすり、また屋敷の方に向かって駆けだした。エイトたちが口をぽかんと開けてそれを目で追っていると、先ほどの老婆が話しかけてきた。

 

「すみませんねぇ旅の方。あの子たちも悪い子たちじゃないんだけど…最近村に不幸があったもんで…おっと。まあ詳しい話は村の者にでも聞くといいじゃろう。この村はいい村じゃよ。どうぞゆっくりしていってくだされ。」

 

「(エイトよ)」

 

「(何でしょう王様?)」

 

「(おそらくこの村の『不幸』というのがサーベルトの事じゃろう。村人の忌諱に触れぬように気を配りながら情報を集めるぞ)」

 

「(承知しました)」

 

老婆が村に戻った後、エイトとトロデは小声でコンタクトを取ると各々村を回り始めた。

 

 

 

 

「おお…これがどうのつるぎか…」

 

「旅の方、よく似合ってるよ!」

 

「兄貴、カッコいいでがす!」

 

「よーし、これ一つください!」

 

「毎度あり!」

 

エイトが「どうのつるぎ」やよろいなどを買ってほくほくしていると、トロデがやってきた。

 

「エイトよ…おぬし今の今までずっと武器屋におったのか…?」

 

「すっ、すみません…ちょっと楽しくなっちゃって…」

 

「はぁ…わしがあちこち歩きまわっておる間に…まあよい、ここらの村人によればじゃな、まず『不幸』というのはわしらの予想通りリーザス地方の領主アルバート家の息子、サーベルト・アルバートの死のことで間違いなさそうじゃ。しかし彼はトロデーン城ではなくこの村で息絶えたという。わしらが持つ手紙の内容とはちと異なるが…まあなんとか瀕死の状態で辿り着いたのやもしれぬな。サーベルトは死に際に『道化師』に襲われたと言っていたという。その道化師がドルマゲスであるとみて間違いなさそうじゃ。」

 

「なるほど…一応アルバート家の屋敷にも行ってみますか?…喪に服している家を訪ねるのは少々気が引けますが…」

 

「うむ…いや、人の喪中に首を突っ込むほどわしもヤボではない。この手紙を信じるのなら道化師ドルマゲスはマイエラ地方にむかったようじゃ。今日はここで宿を取り、明日ポルトリンクへ向かうとしようぞ。」

 

トロデの意見にエイトも同意し、農家のおばさんと話しているヤンガスの所に向かおうとした瞬間、後ろから声がした。

 

「…待ちなさい、貴方たち今『道化師』と言ったわね?」

 

「あわわ…ゼシカ姉ちゃん待ってよ~」

 

エイトが振り返った先にいたのは、腕を組んで仁王立ちしているアルバート家の令嬢、ゼシカ・アルバートだった。

 

「失礼、貴方は?」

 

「私はゼシカ。今は亡きサーベルト兄さんの妹よ。それより貴方たち、兄さんのことを知っているみたいね。…リーザスの村民ではない貴方たちがなぜ兄さんについて話しているのかしら?」

 

「(ポルク、ゼシカ姉ちゃんすっごく顔恐いよ…)」

 

「(や、やっぱりあいつら怪しい奴だったんじゃないのか!?)」

 

「…話せば少し長くなりますが。」

 

「…構わない。だったら私の屋敷に来ればいいわ。来てくれるわよね?」

 

「それならば喜んで話しましょう。…王様もそれで大丈夫ですか?」

 

「ゼシカが構わないというのなら、わしからは特に言うことはない。わしは先に行っておくから、エイトもヤンガスを連れて後でくるのじゃぞ。」

 

そう言ってゼシカの後をついていくトロデを見て、エイトは急いでヤンガスの所へ向かった。

 

トロデを止めようとする衛兵をゼシカが説得する一幕などもあったが、その後は特に問題なくゼシカの部屋までたどり着き、そこでエイトたちはゼシカに旅の目的など知っていることを話した。

 

「…と、そういうわけで僕たちはトロデーン城を滅ぼし、王様と姫に呪いをかけた道化師ドルマゲスを追っているのです。」

 

「しかし、野郎が住んでいたトラペッタの町で、ドルマゲスは友人のような扱いを受けていたでがす。それがどうも腑に落ちなくてがしてね…」

 

「とりあえずはわしの手元に残されたこの手紙を頼りに、マイエラ地方へ行って情報を集めるつもりで旅をしているのじゃ。」

 

「…」

 

「ゼシカさん?」

 

「…本当にドルマゲスさん…いや、ドルマゲスが兄さんを殺したの…?」

 

「…保証はしかねる。じゃが、この手紙、そして村人たちの言うサーベルトの遺言を信じるのならば、第一容疑者として浮かび上がってくるのはドルマゲスであろうことは言うまでもあるまいて。」

 

「…」

 

ゼシカは俯いて震えている。彼女が何を考えているかはエイトたちには知る由もない。ただ途方もなく重い空気が部屋を満たしているだけだ。

 

「そう…そうなのね…!…あの男、あんな飄々とした態度でよくもこの村に…!許せない…」

 

怒りで震えるゼシカから魔力が噴出し始める。ここのような狭い部屋に居たら魔力酔いしてしまいそうだ。エイトは魔力にあてられて疲労してしまったポルクとマルクを連れて部屋から出た。

 

「…ゼシカよ。お主の心中、察するに余りある。必ずわしらが真実を白日の下に曝け出して見せよう。」

 

ゼシカは無言で机に向かうと、引き出しから小さな箱を取り出した。

 

「それは?」

 

「これはブレスレットよ…ドルマゲスから渡された、ね…」

 

エイトがまた部屋に入って来るのに合わせてゼシカは語り始めた。ドルマゲスは自分が子どもの頃からしばしばこの村に来て色々な芸を披露していたこと。トロデーンに向かう途中にもこの村に立ち寄ったこと。そこでサーベルトがドルマゲスを怪しみ旅に同行したこと。しかしサーベルトは瀕死の重傷を負わされ、村までたどり着いたところで事切れたこと。まくし立てるように話すゼシカの目には徐々に涙が浮かび、最後には涙を流しながら怒っていた。

 

「兄さんはね!こんなところで死んじゃっていい人じゃなかったの!私は兄さんにありがとうも言えていないのよ!私はお母さんともぶつかってばっかりだし、お屋敷の人ともうまくやっていけないし…私には兄さんしかいなかったの!」

 

「ぜ、ゼシカ…」

 

「だから、兄さんを奪ったドルマゲスは絶対に許せないのよ!!…今までは誰が兄さんを殺したのか分からなかったから、ずっと部屋に籠って燻っていた。でも今あんたたちが来て、話して分かった!兄さんを殺したのはドルマゲスなんだって!!…こんなもの…!」

 

ゼシカは金のブレスレットを床に叩きつけようとした。エイトたちはそれを見ていたが、その行為を止められるような度胸も資格も自分たちにはないと思い、黙っていた。

 

「こんなもの…こんな…」

 

しかし、ゼシカはブレスレットを叩きつける直前でぴたりと止まってしまった。しばらくそのまま動かなくなったと思うと、ゆっくりとした手つきでまたブレスレットを箱に戻し、その場に泣き崩れた。

 

「………できないわ…私には………。」

 

「…」

 

「…うむ、どうやらゼシカにも何か訳があるようじゃ。お前たち、引き上げるぞ。」

 

「…そうでげすね、これ以上の質問は酷でがす。兄貴、宿に行きましょうや。」

 

「うん。ゼシカさん、今日はお辛いでしょうに、話してくれてありがとうございました。僕たちが必ずサーベルトさんの敵を討ってみせます。」

 

「…」

 

エイトたちがゼシカを残して部屋を出ると、ポルクとマルク、あとついでにゼシカのフィアンセであるラグサットが心配して様子を見に来た。

 

「どうしたのさ。さっき部屋からゼシカの大声が聞こえてきた気がしたんだが…。」

 

「お前たち、ゼシカ姉ちゃんを泣かせたのか!?」

 

「失礼な奴らよの…ゼシカには気持ちの整理をする時間が必要だと、ただそれだけのことじゃ。」

 

「なにぃ!?緑のおっさんのくせに生意気だぞ!」

 

「なんじゃと!?言わせておけば…!」

 

「おいおい、二人ともやめないか!ここはゼシカの部屋の前だぞ?喧嘩なら外でやればどうなんだい?」

 

ふざけた格好の割にはまともなことを言うラグサットに同意し、エイトたちは掴みあうトロデとポルクを屋敷から連れ出し、宿で朝が来るまで休むことにしたのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

夜。ゼシカは夕食も食べずに自室の床に座り込んでいた。

 

「ドルマゲス…あんたが兄さんを殺したの…?」

 

月明りで白く輝くブレスレットにゼシカは問うが、もちろん答えは返ってこない。

 

「兄さん…私どうすればいいのかな…?」

 

今度は窓の外の夜空に聞いてみるが、星は静かに瞬くだけだった。

 

今日はもう寝ようかとゼシカがベッドの方へ向かった時、ノックの音がした。

 

「はい。誰?」

 

「アローザです。」

 

「…お母さん…。」

 

「ゼシカ、夕食が冷めてしまいます。降りてきて早く食べてしまいなさい。」

 

「…いい。今日はお腹すいてないから。」

 

「…ハァ…。食事をあまりとらなくなった貴方は知らないでしょうが、サーベルトが亡くなってからすっかりやつれてしまった貴方のために、コックは毎食貴方の好物を作って待っているのです。召使いたちもなんとか貴方の力になりたいと色々考えているのですよ。」

 

「!」

 

「ゼシカ、貴方はサーベルトの幻影に縋るばかりで、自分の周りには誰もいないとでも思っているのではないですか?」

 

アローザの表情は分からない。しかしアローザの言葉はドアを通り越して確かにゼシカの心に刺さった。

 

「…そう、だったんだ…」

 

「ゼシカ。言いたいことがあるのなら直接言いなさい。私に言いたくないのなら誰でも構いません。…サーベルトは貴方のたった一人の兄ですが、私からすればサーベルトも貴方も私のたった二人の子どもです。そしてこの家の者は全員貴方の味方なのです。」

 

「…お母さん…」

 

「では、夕食の件、確かに伝えました。」

 

そういうとアローザは居間に戻っていったのか、気品ある靴音が少しずつ遠ざかっていった。ゼシカはその後もしばらく暗い部屋で座っていたが、やがて前を向き立ち上がった。

 

「…好物だなんて言われたら、お腹もすいてきちゃうじゃない…。」

 

 

 

 

次の日の朝、ゼシカは召使いたちを集め、ここ最近の非礼を詫び、これまでの感謝を述べていた。

 

「コックさん!今まで用意してくれたご飯、食べられなくてごめんなさい!いつもありがとうね!」

 

「うんっ!ゼシカお嬢様が元気になったとわかりゃ、おれも満足だ!」

 

「メイドのみんな!今まで冷たくしちゃってごめんなさい。ほんとはもっと話したかったんだけど、私、昔から周りに自分の年と近い人がいなかったからどうしたらいいのか分からなくて…」

 

「お、お嬢様!?頭を上げてください!…私たちはお嬢様の笑顔が見られればそれだけで十分なのですよ…!」

 

「衛兵さん!私がいない間、この屋敷を頼んだわよ!」

 

「はい!!…え?」

 

そこへ、屋敷中の召使いが一箇所に集まっていることに気付いたアローザも階段を下りてきた。

 

「何事ですか?」

 

「お母さん!」

 

「ゼシカ。今日はやけに元気ですね。何か良いことでも…」

 

「私旅に出るわ!!今までありがとう!!!」

 

「…!?」

 

ゼシカがあまりにいい顔でとんでもないことを口に出すので、冷静沈着なアローザも流石に言葉を失ってしまった。見ると、服も普段着ではない冒険用の一張羅になっているし、荷物もまとめて持っている。適当なことを言っているわけではないようだ。

 

「私、昨日の旅人達についていくわ。サーベルト兄さんの死の真相を知りたいの。」

 

「…全く、元気になったと思ったら何を言い出すのです。…平時ならともかく、今は喪中です。喪中の外出は家訓を破ることになります。認めるわけにはいきません。…貴方にはサーベルトの気持ちを悼む気持ちはないのですか?」

 

「…お母さんがそんなことないって一番分かってるくせに。」

 

「…。」

 

「私は兄さんの死を誰よりも悲しんでいる自信があるわ。でもそれは家訓を守ることでは満たされない。私とお母さんでは気持ちの整理の付け方が違うの。」

 

「…では、死の真相が知りたいとはどういう意味です?サーベルトはトロデーンを滅ぼした賊に襲われたのではないのですか?」

 

「分からない。兄さんを殺した人がどんな人なのかきっとその裏に何かがある。そう感じて仕方ないの。…私はそれを確かめに行きたい。」

 

「!…ゼシカ!バカを言うのもいい加減にしなさい!貴方は女でしょう!外がどんなに危険か…!サーベルトもそんなことは望んでいないはずよ!今は先祖の教えに従って兄の死を悼みなさい!」

 

「…っ!」

 

召使いたちがアローザの剣幕に息を呑む。ゼシカも奥歯を噛みしめ、拳を固く握った…。しかし、それと同時にアローザはふうとため息をついた。

 

「…と言いたいところですが。ゼシカ。今回だけは貴方の旅立ちを許可しましょう。」

 

「…へ?ど、どうして…」

 

予想外の展開に、ゼシカはつい気の抜けた声を出してしまった。他の者たちも目を丸くしている。

 

「本当はなんとしても村にとどめておきたかったのですが…。貴方のわがままを一度だけ聞いてあげることが、サーベルトのわがままだからです。子ども二人のわがままを同時に聞くのがこんなに疲れるものだとは…。息子の遺言は、どんな家訓にも優先されます。もう一度言いましょう。ゼシカ、貴方の旅立ちを私は容認します。サーベルトの死の真相を突き止め次第私に報告しなさい。」

 

「お母さん…!」

 

「それと、私、もといアルバート家、さらにリーザスの村は貴方をいつでも歓迎する、ということも伝えておきます。旅に疲れたり、村が恋しくなったときはすぐに戻ってくるように。」

 

「そうですよ。奥様の言う通り、私たちはいつだってお嬢様の帰りをお待ちしております。」

 

「お嬢様が帰ってきた日には腕によりをかけて料理を作りますんで、楽しみにしていてください!」

 

「…みんな、ありがとう。私、自分の信じた道を進むわ!」

 

感極まっているゼシカの元へ、ポルクとマルクが近寄ってきた。

 

「ゼシカ姉ちゃん…ほんとに村を出ていっちゃうの?」

 

「…うん。だからこれからはあんたたち二人がこの村を守るのよ。サーベルト兄さんがよく言ってたわ。ポルクとマルクは将来村を守る立派な戦士になるだろうって。」

 

「…」

 

「…うぅ~…」

 

「ほらほら、泣かないの。さ、これからの村を頼んだわよ。」

 

「が、がってんだ!俺とマルクとピーチクがいればこの村は最強だ!そうだろ、マルク!」

 

「う、うん…!」

 

「それじゃあ…みんな!今までお世話になりました!私、行ってくるね!」

 

「「いってらっしゃいませ。」」

 

「ゼシカお姉ちゃん、元気でね!」

 

「ゼシカ。…体には気をつけるのよ。」

 

皆に見送られながら、ゼシカはサーベルトが死んでぽっかり穴が空いていた心が、少しずつ満たされていくのを感じながら屋敷を後にするのだった。

 

 

 

「えぇ~!?もう行っちゃったのォ!?」

 

その後、村人からトロデたちがとっくにリーザスの村を出発したことを知らされたゼシカは全速力で港町ポルトリンクへ走っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 




アローザ「おいゼシカ、カゼひくなよ」

ゼシカ「長い間!クソお世話になりました!!!」







ラグサット「僕は?」




原作との相違点

・メタルスライムがいた。(特に深い意味はない)
ドルマゲスが旧修道院跡地を浄化してしまったので、住処を追われたメタルスライムたちが他の地方にも現れるようになった。

・トロデが村に入る。
村人たちにかなり怪しまれていたが、特に害はないと分かると顔色の悪いおっさんぐらいの印象しか持たれなくなった。これも村人のピーチクに対する信頼から来ている。

・ポルクとマルクと戦闘状態に入らない。
二人ともサーベルトの死に目に会っているので、誰彼構わず仇討ちを吹っ掛けたりしない。(尤もエイトがピエロの格好をしていればすぐに殴りかかってきていただろうが。)

・ゼシカが普通に村にいる。
今回サーベルトが死んだのは村の中なのでリーザス像の塔は全く関係ない。

・ゼシカがドルマゲスと因縁を持っている。
ゼシカにとってドルマゲスは「憧れの人」であった。時々村に来ては村人たちを手品で楽しませていたドルマゲスはリーザスの村では人気者であり、農家や商売人がほとんどの閉鎖社会であるリーザスの村では、『道化師・大道芸人』という職業は、ゼシカの目にひときわ眩しく映っていた。誰か他人を楽しませることができるドルマゲスの才能をゼシカは強く尊敬していたのだ。それゆえに彼から貰ったブレスレットを捨てることができなかった。

・ゼシカが屋敷のみんなに見送られて旅立った。
原作ではメイドに嫌われ、母親であるアローザに勘当されて出ていくなど散々な門出だったが、今回はアローザがサーベルト(泥人形)の遺言を聞いていたため、ゼシカの旅立ちに際し柔軟な対応を取った。また、ゼシカが心を開いたことで使用人たちもゼシカを見直した。

エイト
レベル:11

ヤンガス
レベル:11


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Chapter5 マイエラ地方 ①

ゼシカの許嫁であるラグサットに転生する小説が面白かったので、そのまま他のドラクエ小説を探していると、なんとドルマゲスに転生する小説を書いていた先駆者様を発見しました。
神様に誓ってパクったわけではないとこの場を借りて弁明しておきますが…。
なんだか申し訳ない気持ちになりました…。これからの展開が被らないことを祈るばかりです…。



勇者エイトサイドの話のタイトルを「Chapter〇」に統一しました。2022/10/24

感想100件、ありがとうございます!感想がそのまま私のモチベになっておりますので、これからもドシドシお願いします!










リーザスの村を出発し、港町ポルトリンクへ向かう一行。トラペッタの町ではドルマゲスは友人という扱いを受けていたが、リーザスの村民はどうもサーベルト殺害の犯人としてドルマゲスを疑っている者も多いようで、ドルマゲスの評判はあまり良くなかった。これを受けてエイトたちは、やはり異常なのはトラペッタの町であり、町民はなんらかの洗脳をドルマゲスによって受けているのではないか、という結論に落ち着いた。

 

 

 

 

「いてて…海を見ようと浜に降りたらこの始末だよ…。」

 

「う~ん、しばらく浜には近寄りたくないでげす…」

 

リーザス地方臨海部で「エビラ」をはじめ魔物の洗礼に遭ったエイトたちは傷を癒しながら歩いていた。

 

「ん?エイトよ、何か聞こえんか?」

 

「え?……。いや、何も聞こえませんが…」

 

「おっさんもついに耳がいかれちまったんでげすよ」

 

「うるさいわい!ほれ聞こえるじゃろう!女の呼びかけるような声が…」

 

「うーん…?あ、本当だ。何だろうこの声?」

 

「聞こえるようになったと思ったら、だんだん大きくなってきてるでがすね」

 

エイトたちが耳を澄ませていると、謎の声は次第にはっきりと聞き取れるようになった。

 

「…~い…!…って…よ…おーい!!待って!待ってよ~!」

 

「あっ!兄貴!後ろを見てくだせぇ!」

 

エイトが後ろを振り返ると、先日村で話をしたリーザスの令嬢ゼシカが髪を振り乱してこちらに突っ走ってきていた。

 

「ゼシカさん!?ど、どうしたんですか!?」

 

「はあ…はあ…や…やっと…追いついた…わ…!」

 

ぜえぜえと息を切らすゼシカはエイトたちの馬車まで追いつくと馬車に突っ伏してしまった。

 

「誰かと思えばゼシカではないか。そんなに急いでどうかしたのか?…わしらが村に忘れ物でもしたか?」

 

「はあ…はあ…ちょっと…タンマ…」

 

「…」

 

トロデはゼシカの息が整うのを待ってからもう一度同じ質問をした。

 

「ううん違うの。…改めて、私はゼシカ。ゼシカ・アルバートよ。昨日ははしたないところを見せちゃってごめんね。今日は一つお願いがあってきたの…私をあなたたちの仲間にしてくれない?」

 

「ええ!?いや、一体どういうことですか?ゼシカさん」

 

「私も…ドルマゲスの真相を知りたいの。ドルマゲスにはいったいどんな目的があるのか。兄さんを殺したのは本当にドルマゲスなのか…世界の果てまでだって追い詰めて聞き出さないと。」

 

ゼシカのその言葉を聞き、トロデが目を光らせた。

 

「それを疑うということは他に真犯人の心当たりがある、ということか?」

 

「いえ全然?」

 

「な、なんじゃそりゃ。」

 

「でも、どうもこの件には何か裏がありそうな気配がするわ。…そう、もしかしたらトロデーンだけの話には留まらなくなるかもしれないような大事になりそうな、そんな胸騒ぎがするのよね…だからドルマゲスを追うって目的が一緒のあなたたちについていけばいつかドルマゲスに会えるかな、なんて思って。」

 

「うーん、アッシは兄貴との男二人旅が気に入っていたんでげすがねぇ。」

 

「こら!わしとミーティアもおるじゃろうが!!」

 

「そんなこと言わないで…私、こう見えても魔法使いのタマゴなの。きっと役に立つわ。だからお願い!」

 

「…王様はどうですか?僕は歓迎してあげたいですが…」

 

「うむ、まあいいじゃろう。ミーティアも周りが男ばかりではうんざりしておるはずじゃ。目的も同じことじゃし、わしと姫の護衛は多いほど良いからの。」

 

「アッシはおっさんのボディガードじゃないでげす!」

 

「というわけで、僕たちはあなたを歓迎しますよ。これからよろしくお願いします!ゼシカさん。」

 

後ろでまたギャイギャイ言い始めたトロデとヤンガスをほっといて、エイトがパーティを代表してゼシカを歓迎した。

 

「ゼシカでいいわよ。…ありがとう。これからよろしく!きっといい旅になるわね!…メンバーもユニークで楽しそうだわ。」

 

ゼシカはトロデとヤンガスを遠い目で見た。

 

「あ、あはは…じゃあ僕らも自己紹介しましょうか。まず僕はエイト。トロデーン城で兵士をしていましたが今は旅人です。そしてこっちがヤンガス。」

 

「アッシがエイトの兄貴の子分のヤンガスでげす。実はアッシも兄貴たちと旅をし始めたのはつい最近の話なんでげすよ。」

 

「エイトにヤンガスね!」

 

「そしてこちらはトロデーンの王であらせられるトロデ王と、同じく正当なトロデーン次期王位継承者であらせられるミーティア姫です。」

 

「え…」

 

「いかにも。わしがトロデーンの王、トロデじゃ。お主の母親の遠い上司にあたるのかの…。今はわけあって…というより、ドルマゲスに呪いをかけられてこんな醜い姿をしておるが、元はれっきとした人間じゃ。もちろんミーティアももとは麗しい姫君だったのじゃぞ。」

 

「うそ…ほんとに王様だったの!?私、てっきり王様ごっこを部下に強いてるイタい魔物かと…」

 

「エイト、こやつを引っぱたいてよいぞ。わしが許可する。」

 

「王様…。」

 

「なんでもいいでげすけど、さっさと先に進みましょうや。こんなところにいたらまたさっきのエビやクラゲが寄ってくるでがす。」

 

「そうね。よし!じゃあポルトリンクに向けて、しゅっぱーつ!」

 

「なんでゼシカが音頭を取るんでげすか!?」

 

「(これからもこうやって仕切ってくれたら楽なのになぁ)」

 

 

その後もゼシカはヤンガスにエイトとのなれそめを聞いたりしながら、順調にパーティーに馴染んでいった。

 

▼ ゼシカが 仲間に 加わった!

 

 

 

 

─ポルトリンク─

 

「えぇーっと、今日の便は…あー、もう終わっちゃってるわね…ここで今日は足止めかぁ…」

 

「繁忙期でもない今は船の便も少ないんでげすね。波も穏やかで航行日和なんでげすが…」

 

「ううーむ、しかし次の便まで丸一日あるとは…どうやって時間を潰そうかの…」

 

エイトたちが港のロビーで立ち往生していると、定期船のクルーがやってきた。

 

「ゼシカお嬢様ですね。マイエラ地方に向かわれるご予定ですか?」

 

「…そうなんだけど、次の便は明日でしょう?だから今日はここに泊まるわ…。」

 

「いえ、お嬢様がご所望であればすぐに船を出せますよ。」

 

「えっ!?」

 

「どうしてです?」

 

「おや、アローザ様から伝えられていないですか?少し前にリーザスから書状が届きまして、もしゼシカが港にやってきた場合は臨時の便を出すようにと仰せつかっていたのです。てっきりご存じのことかと思われましたが…」

 

「(お母さん…ほんとは私が旅に出ることも分かってたのね…)そうなのね。じゃあお言葉に甘えて船を出してもらおうかしら。」

 

「こちらはお嬢様のお連れの方々で?」

 

「ええ、私の仲間よ!」

 

「かしこまりました。ではお連れ様も1時間後までに3番乗り場までお越しください。」

 

「何だか知らんが、これでマイエラまで行けそうじゃな。わしは馬車でやることを思い出したので、出航の準備ができたら呼んでくれ。」

 

そういうとトロデは馬車に入り、何やら金属音を響かせ始めた。何か作っているのだろうか。少し気になるが、エイトたちも珍しいものを求めて各々行きたい場所へ向かった。

 

 

「ヤリと剣、どっちがいいかな?」

 

「兄貴は剣の印象が強いでがすね。」

 

「それに、剣の方がかっこいいわよ。」

 

「じゃあ剣のままでいいか…」

 

意外に武器にうるさいエイトはまた武器屋の前にいた。先ほどそこにヤンガスとゼシカも偶然はちあわせたので、今は三人で武器屋を物色している。

 

「ヤンガスは鎌を見なくてもいいの?」

 

「アッシにはこのオノがあるんで心配は無用でげす。」

 

「へぇ。確かに立派なオノね…」

 

「ゼシカもなかなかお目が高いでげすね。これは…おっと、そろそろ定刻でがすな。3番乗り場ってとこに向かいましょうぜ!」

 

「ああ、本当だ。僕は王様を迎えに行ってくるから、二人は先に行っておいてくれる?」

 

「わかったわ。じゃあ後で!」

 

そう言うとゼシカとヤンガスは波止場の方へ歩いて行った。エイトが馬車の所へ行くと、やけに静かである。不思議に思ってエイトが馬車を覗き込もうとした瞬間、勢いよくトロデが飛び出してきた。

 

「直った、直ったぞーーーっ!!!」

 

「うわあっ!!」

 

「おおう、エイトか。船の準備は終わったのか?」

 

「(危うく激突するところだった…)はい。なのでお迎えに上がりました。ところで、手に持っているそれは何ですか?」

 

「ふふん、よくぞ聞いてくれた。じゃじゃ~ん!この釜、一見すると普通の釜のようじゃが、なんと伝説の錬金釜なのじゃぞ!」

 

「錬金釜…というとあのトロデーンの国宝の一つであるあの錬金釜ですか!?」

 

「流石に物知りじゃの。そう、わしらが旅立つ前になんとかイバラの中から見つけてきたのじゃ。あちこちガタがきていたのでわし自ら夜な夜な修理しとったんじゃぞ。感謝するがよい。」

 

トロデから釜を手渡されたエイトは錬金釜なる物体をしげしげと眺めた。

 

「本当に錬金釜だ…王様、ありがとうございます!」

 

「ふふん、一仕事終えた後は気分がいいのう。さっエイトよ、船へ向かうぞ!」

 

「はい!」

 

こうしてエイトは錬金釜を手に入れたのだった。

 

 

船の旅はおおむね快適だった。特に最近ポルトリンクの名物にもなっているという「イカメシ」と「チュウカスープ」なる料理は今まで食べたことのない味わいで絶品だったようで、ヤンガスやエイトはもちろん、食にうるさいトロデや、貴族のゼシカも屋敷のコックといい勝負ができると舌鼓を打っていた。その後、トロデが船長室を占領したり、遠くに大きなイカの魔物を見つけるなどした場面もあったが、船長はそこまで気にしていないようであったし、魔物は特にこちらを気にする様子もなくどこかへ向かっていったので大事には至らなかった。

 

「「船着き場へとうちゃーく!」」

 

「おお、着いたようじゃな。もうあたりも暗いし、ここで宿を取ることにしよう。」

 

「私、実は他の大陸に来たのは初めてなのよね…ちょっとドキドキするわ…。」

 

「アッシの故郷とも呼ぶべき町がこの大陸にはあるんでげすよ。いつか立ち寄ることがあったらアッシが歩き方を教えるでがす。」

 

一行もどこか期待と興奮が抑えられないようだ。しかしトロデの言う通り夜中に外を出歩くのは危険なので、大人しく今日は眠りにつくことにした。

 

 

翌日。船着き場を一通り視察したあと、早速錬金釜を使って「とうぞくのカギ」を作り、宝箱の扱いに困っていた男性を助けたエイトたちは、これからどうするか相談していた。

 

「手紙によればドルマゲスはこのマイエラ地方に来たようじゃが…そこからどう動いたのかてんで予想もつかんの…」

 

「人に聞いてもうんざりした顔で『だから知らないって!』の一点張りでしたもんね。そもそも、マイエラ地方には何があるんですか?」

 

「マイエラと言えば、マイエラ修道院じゃない?ほら、さっき屋上にいた女の子が言っていた『聖堂騎士団』ってのがいるとかいう。」

 

「ゲッ…あそこに行くんでげすか…?」

 

「なにかあるの?ヤンガス。」

 

「いやぁ、アッシ山賊なもんで、大聖堂だとか、聖地だとか、修道院だとかに行くとなると、なんだか身体がむず痒くなってくるんでがすよね…。」

 

「…しかし、他に行く当てもない。とりあえずこの先の宿場町ドニに向かうついでに修道院にも寄ってみるといいじゃろう。もしかしたらドルマゲスを見た人間がおらんとも限らんからな。」

 

「確かにね。ドルマゲスを追う旅はまだ始まったばかりなんだから、くじけずゆっくり行きましょ。ゆっくりといっても、グズグズはしていられないけどね。」

 

「まあ、そういうことじゃ。ではゆくぞ!」

 

「だって。ゴメンねヤンガス。後でかゆみ止め買ってあげるからさ。」

 

「…もしかしてエイトってちょっと天然だったりする…?」

 

「?」

 

「まあ…そこも兄貴の良いところでがす…」

 

その後船着き場を出て、マイエラの地に力強い一歩を踏み出した一行だったが、早速「デスファレーナ」の大群にボコボコにされるのだった。

 

 

 

 

 

 




ゼシカ「こんなもの…!」ブレスレットガシャーン

ユリマ「は?」

ゼシカ「え、じゃあ…」ブレスレットソウビ

ユリマ「は?」

ゼシカ「こんなとき、どうすればいいか分からないの。」

ドルマゲス「謝ればいいと思うよ。」

ゼシカ「すんませんしたーっ」




原作との相違点

・リーザス像の塔に挑まなかった。
じんめんガエルの脅威には晒されなかった。しかしいずれ登る機会はあるだろう。ある…はずだ。

・ゼシカが早めに仲間になった。
原作準拠ならこのあと大いに助かるのだが…。

・オセアーノンと戦闘にならなかった。
なのでゼシカが早めに仲間になっても大して変わりはなかった。オセアーノンについては、以前ドルマゲスにしばかれてからは船に近づくことすら避けているようなのでエイトたちの元へは現れなかった。

・ポルトリンクに名物ができた。(ものすごくどうでもいい)
ドルマゲスがコックにレシピを教えてからは、コックがいかめしと中華スープを作っている。船乗りたちも積極的にプチアーノンやわかめ王子を狩るようになったので「人間は魔物を好んで食うらしい」という噂が流れ始め、海の魔物が船着き場やポルトリンクにちょっかいを出すことはほぼなくなった。

エイト
レベル:11

ヤンガス
レベル:11

ゼシカ
レベル:9


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Chapter6 マイエラ地方 ②

休日より平日の方が時間があるので、意外といいアイデアが思いつくことが多いです。

どうでもいいことですが、私はドルマゲス視点の話を書くときは色々設定を考えながら文字を綴っていますが、エイト視点の話を書く時はあえて何も考えずに本文を書いています。わざわざそんなことをする理由は、こうすれば冒険譚特有のライブ感が出せるかな、と思ったからであり、決して設定を考えるのが面倒だとかそういうわけではありません。断じて。…うん。








ゼシカを仲間に加えた一行は、マイエラ地方に無事到着するも、トロデの持っていた手紙にはそこから先のことは書かれていなかったため次の行き先に困っていた。そこでゼシカがとりあえずマイエラ修道院に行くことを提案し、宿場町ドニに向かおうと考えていたトロデもそれに同意する。そして船着き場から旅立った一行だが、マイエラ地方の魔物に大苦戦していた。

 

 

 

 

「これは…やばいかも?」

 

「ぼ、冒険ってこんなに過酷なものなのね…私、もうへとへとだわ…」

 

「スキを見せたら一網打尽でがすよ!構えるでがす!」

 

背中を合わせて死角を消したエイトたちを取り囲むのは、投げ縄のように首輪を振り回す「ワンダーフール」、体色を真っ赤に変えて激怒している「おおめだま」、けたたましい音色を出す「リンリン」、その音色で呼ばれてやってきた「デンデン竜」などのマイエラ地方の魔物たちである。先ほど「あばれうしどり」を一匹仕留めたが、相手から一撃か二撃貰うと瀕死になりかねないのでどうしても防戦一方になってしまう。

 

「一匹ずつ片付けていこう!まずは目の魔物から!」

 

「よしきたでがす!おらぁっ!」

 

ヤンガスのオノの一振りでおおめだまは吹き飛び、直線上にいたリンリンも巻き込んだ。

 

「よし次!ゼシカ!僕に合わせて!」

 

「わかったわ!」

 

エイトは灼熱の呪文を、ゼシカは火炎の呪文を詠唱する。

 

「「『メラ』『ギラ』!!」」

 

熱の奔流に巻き込まれたワンダーフールはあえなく炭化した。

 

「みんなっ!『砂』よ!!目を閉じて!!」

 

ゼシカの呼び声と同時にエイトとヤンガスも目を閉じてデンデン竜の巻き起こす砂煙を回避し、背後に回って斬りつけ、動作直後で動けないデンデン竜を一気に畳みかけてなんとか倒した。

 

「ふぅっ…」

 

「全くひやひやさせるわい、戦いというやつは…皆の者、大儀であったな!」

 

「あ~しんどいでがす…兄貴、さっさと修道院に行ってドニで休みましょうや。」

 

「私も。今に魔力切れで動けなくなっちゃうわ…」

 

ゼシカはポーチから出した「まほうのせいすい」を一口二口飲むと大きく伸びをした。

 

「そうだね。できるだけ道から外れないように歩いて戦闘を避けながら進むことにしようか。」

 

 

一行が道沿いにしばらく歩いていると、川の中州に建つ大きな建物が見えてきた。

 

「あれがマイエラ修道院かな?」

 

「はえー。なんであんな変な所に建ってるんでげすかね?」

 

「うーん、火事になったときにすぐ消せるように…とかかな?」

 

「どうかしらね。もしかしたらわたしたちの知らない宗教的な理由があるのかも?」

 

「宗教施設というからにはかなりの人間が集まっているはずじゃ。兎にも角にもまず聞き込み。とりあえず、中に入ってみることにしようかの。」

 

エイトたちが修道院の中に入ると、商人や老人など、裕福そうな人間たちがお祈りをしていた。しかし裕福な人間だけ、というわけではなく平民のような格好の人もちらほら見られる。

 

「すんません。アッシたち人を探してるんでがすが…」

 

「や、ヤンガス!お祈りの邪魔しちゃダメよ!」

 

「ふーむ、礼拝堂の人間はみなお祈りの最中らしいの。奥へ行ってみるか。」

 

しばらく進んでいると、通りすがる神父や修道士が明らかにこちらを見て何か噂をしている。エイトが不思議に思いながらも歩いていると、聖堂騎士団たちの宿舎に繋がる扉の前で騎士の格好をした男たちに囲まれた。

 

「な、何の御用でしょう…」

 

「貴様らだな!魔物を連れた怪しい集団というのは!礼拝もせずに我々の宿舎を目指してやって来るとは…どういうつもりだ!」

 

「魔物とはわしのことか!?」

 

「す、すみません!立ち入りが禁止されているとは知らず、失礼しました…!ですがこれには訳があって…」

 

「魔物使いの言い訳を聞くなど言語道断!マルチェロ様から怪しいものは必ず排除するようにと命令を受けているのだ!俺の刃にかかって命を落としたくなければさっさと失せろ!」

 

聖堂騎士団は釈明をしようとしたエイトを突き飛ばし、剣を抜いた。

 

「おい兄ちゃん、兄貴や俺たちに手ぇ出そうってんなら、聖職者様だろうが何だろうが相手になるぜ…」

 

ヤンガスがエイトたちの前に立ってオノを構える。そのまま一触即発の雰囲気が続くと思われたが、突然、上部の窓が開いた。

 

「修道院の治安を守れとは言ったが…果たして私は怪しいものを殺せとまで命じたかのう?神の剣たる聖堂騎士団とは、そんな野蛮な組織であったか?」

 

「こ、これはオディロ様…!申し訳ありません!」

 

オディロ様と呼ばれた白髭の老人は上階から見定めるような視線でエイトたちを見つめた。

 

「む…旅の方、名はなんというのですか?」

 

「私の名はエイトです。本日はお騒がせして申し訳ありませんでした。私たちはただ、人を探していて情報を集めようとこの修道院に立ち寄っただけなのです。すぐにこの場から去りますので、どうかご容赦を…」

 

「(ふむ…では彼らがドルマゲスの言う…)いいのですよ。こちらこそ手荒な真似をして申し訳ありませんでした。なにせ最近私を狙った賊が入り込んだところでして…ところで、旅の方はこれからすぐに出発ですかな?」

 

「いいえ、なにぶん行き先が無いものでして…」

 

「それは丁度いい。明日の朝、もう一度修道院にいらしてくだされ。私は今からミサの予定がありましてね。すみませんがお話を聞けそうにない…。しかし明日の朝ならば予定は空いておりますので、是非話を聞かせていただきたい。」

 

「し、しかしオディロ様、こいつらは魔物を連れている危険人物です…院長の身に何かあればそれこそ聖堂騎士団の名折れ、留守にしておられるマルチェロ様もたいそう失望なされるかと…」

 

「ほっほっほ、問題あるまい。このような澄んだ目をした方々が悪人なものか。なに、たとえ相手がどんな悪人だろうと、魔物だろうと心に寄り添うのが母なる神の代行者たる聖職者、我々の使命なのじゃよ。」

 

「…申し訳ありませんでした。」

 

「あ、ありがとうございます…!」

 

エイトが謝辞を述べると院長はにこやかに部屋の奥へ消えていった。そしてその場にはばつの悪そうな騎士たちが残る。

 

「ちぃ、お前たちのせいで院長に叱られちまったじゃねぇか!さっさと帰れ帰れ!」

 

「だいたい魔物なんか連れて歩いてる人間が怪しくないわけないだろ!ったく余計な仕事を増やしやがって…」

 

「金も落とさねえ旅人なんざお呼びじゃねえんだぞ!オディロ様の慈悲に感謝するんだな!」

 

「誰が魔物じゃと!?わしは王じゃぞ!無礼者め!!」

 

「王様、今は戻りましょう…!や、ヤンガス、王様止めるの手伝って…」

 

「そっちから勝手に突っかかってきやがって今度は帰れだと!?兄貴、アッシこいつらに一発食らわせてやらないと気が収まらないでがす!」

 

「ヤンガスも…!?ど、どうしようゼシカ」

 

「せーどーきしだん様ってのは随分と偉い方々なのね!そんなに腕に自信があるならかかってきなさいよ!」

 

「…」

 

結局エイトは一人で三人を修道院の外まで引きずっていくことになり、外まで来た時にはすっかり疲れきっていた。

 

「はあ…はあ…ひ、姫…ドニの町へ…お願いします…」

 

よほど疲れたのかエイトは馬車の中で眠ってしまい、ヤンガスとゼシカは短絡的だった自らを反省しながら、たった二人で魔物たちと激戦を繰り広げるのだった。

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、エイトたちが修道院を訪れる数日前──、聖堂騎士団が怒涛の醜態をさらした夜、通称『愚の夜(クローヴ・ナハト)』から一週間経った朝のこと。

 

「マルチェロ様、オディロ様がお呼びです…」

 

「…わかった。すぐに向かう。」

 

聖堂騎士団長マルチェロは院長オディロに呼び出された。聖堂騎士団の権威どころかマイエラ修道院の名にも泥を塗ってしまったマルチェロの心境は穏やかではない。

 

「(クソッ…私もヤキが回ってきたか…!院長は温厚で慈悲深い方だから、いきなり私を追放したりすることはないだろうが、教会本部が何を言うかわからん。せいぜい叱責だけで済めばいいが、聖堂騎士団長の位を剥奪されることも視野に入れなければならないか…?)」

 

マルチェロは右の拳を強く机を叩きつけた。

 

「(クソッ!ここまで来るのにどれほど時間をかけたと…!)」

 

「ひぃっ!」

 

「ご苦労…下がれ」

 

「し、失礼しましたぁっ!」

 

そそくさと立ち去る側近の背中を睨みつけた後、マルチェロは重い腰を上げた。

 

「平民の出である私がどれだけ苦労して今の地位まで上り詰めてきたと思っているのだ…絶対に許さんぞ旅芸人ドリィ…」

 

しかしそんなマルチェロの期待は、良い方向に裏切られた。

 

 

「マルチェロよ。」

 

「はっ、ここに。オディロ院長、本日はどんなご用命あってのお呼び出しでしょうか。」

 

「うむ、マルチェロ、単刀直入に言おう。おぬしにはサヴェッラ大聖堂に行ってもらおうと思っている。」

 

「は…え…サヴェッラ大聖堂…ですか…?」

 

「ほほ、珍しく動揺しておるな?…してマルチェロ、近頃の聖堂騎士団の堕落っぷりは目に余る。そうじゃろう?」

 

「…返す言葉もございません。」

 

「それは上に立つ者の責任、つまりおぬしと、私の責任ということじゃ。」

 

「…そんな、院長に責任があるようには…」

 

「いいんじゃよ。思えば私も随分と良くないことから目を背け続けすぎた。ここらでお互い初心に帰る必要があると、そうは思わんか?」

 

「…はっ、仰る通りでございます。」

 

「…これからマルチェロには教会中央に赴いてもらい、法皇様や大司教様の下で護衛として働きに出てもらう。もちろん謹慎も兼ねておるので給金などは出んぞ。住み込みじゃ。せいぜい自分を見つめなおして心を入れ替えてくるのじゃな。」

 

「…では、マイエラの聖堂騎士団は…」

 

「団長の席は空席とし、代わりに私が指揮を執ろう。院内の堕落も私が改善できるよう努める。ギャグやダジャレを考える日々とはしばらくおさらばじゃ。」

 

「…」

 

「マルチェロや、私はおぬしに期待しておるのだ。おぬしが院長の座を、大司教の座を、そして法王の座をも狙っていることなど…とうに感付いておるよ。その上でじゃ。おぬしのその上に登ろうという野心、教会をより良くするために燃やす気はないかの?」

 

「…!」

 

「…まあ、返事はしなくともよい。出発は明後日の朝じゃ。船は北部の船着き場に手配しておいたので、その船でサヴェッラ地方まで向かうように。…私の話はこれで終わりじゃよ。」

 

「…失礼します。」

 

院長棟から足早に去ったマルチェロは期待と不安が混じりあった複雑な表情をしていた。

 

「(…教会中央と繋がりが構築できるのは大きい。しかし…。…院長も伊達に私の育ての親をしていたわけではなかった、というわけか…)」

 

その二日後、マルチェロは修道院を発った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─ドニの町─

 

「ふーん、小さいけど素敵な街じゃない。」

 

「ここが宿場町ドニ…」

 

「あ、兄貴起きたでがすね。」

 

「改めてすまんかったの皆、わしが醜い姿をしておるせいで…」

 

「ううん、気にしないで。どうせあいつら、トロデさんがいなくたって私たちに因縁つけてきたに違いないわ。」

 

「そうですよ王様。現に院長のオディロさんは分かってくれたじゃないですか。」

 

「そ、そうじゃな…よし、今日はわしの奢りじゃ!好きなだけ飲むがよいぞ!」

 

たまには王様らしい太っ腹な所を仲間に見せようとしたトロデだったが…

 

「おっさんの奢りったって、結局はアッシらが戦って稼いだ金じゃないでげすか。」

 

「私お酒はあんまり…」

 

「僕もさっき起きたばかりなので…」

 

「ノリが悪いの~…」

 

仲間の冷ややかな反応に肩を落としながら酒場へと向かった。

 

酒場にはたくさんの人間がいたので、ここで夕食がてら聞き込みをしようと思い、エイトが初老の紳士に声をかけようとした時、カウンターの反対側から怒号が聞こえた。

 

「真剣勝負だとぉ~~!?このクサレ僧侶!てめえイカサマやりやがったな!!」

 

見るとカードをやっていたらしい大柄な男が相手の細身の男性に今にも掴みかからんとしていた。しかし男性は飄々としていて男の怒鳴り声もどこ吹く風だ。見かねたヤンガスが男を諫める。

 

「まあまああんたもそう興奮すんなよ。負けて悔しいのはわかるけどよ。」

 

「なんだとぉ…そうかわかったぞ。てめえらコイツの仲間だな!?」

 

いきりたった男がヤンガスをぶっ飛ばし、テーブルがひっくり返った。

 

「(どうも嫌な予感がするなぁ…)」

 

エイトは水の入ったバケツを持ってもう待機しているゼシカの所まで行って制止した。

 

「エイト…でもこの単細胞、頭冷やさないと止まらないわよ?」

 

「(単細胞ってのはこの男かヤンガスのことかどっちなんだろう…どっちもかな?)いや、ああなったヤンガスは水をかけたって止まらないよ。それにゼシカまで喧嘩に巻き込まれちゃったら大変だしね。」

 

「あら…優しいのね。じゃあ、外で待っておきましょうか?」

 

そんなことを言っている間にも喧嘩はヒートアップしており、男とその子分二人をヤンガスが一人で相手取っていた。それを見てトロデ含む他の客もやんややんやと騒ぎ立て、店の者はまた喧嘩かとため息をついている。

いよいよ騒ぎが大きくなり始めたところで、エイトとゼシカの元へ、さきほどまで男の相手をしていた細身の男性がやってきてエイトの肩を押し、ゼシカの手を引いて裏口から酒場の外へ出た。

 

外に出てもなお男性に掴まれたままの手をゼシカは強引に振り払う。男性は肩を竦め、エイトに質問した。

 

「あんたらなんなんだ?ここらへんじゃ見かけない顔だが…ま、いいや。とりあえずイカサマがバレずに済んだ。一応礼を言っておくか。」

 

そういって男性はエイトと握手をすると手の中からカードがパラパラと落ちてきた。エイトのビックリしている顔を見て男性をニヤリと笑う。

 

「あんまりいいカモだったからついやりすぎちまった。…おっと、グズグズしてたらあいつらに見つかっちまう。」

 

そう言う男性だがさっきからずっとゼシカを舐めるような視線で見つめている。ゼシカはその不躾な視線に明らかに苛立っているようだ。

 

「…何か?」

 

「いや、オレのせいで怪我をさせてないか心配でね。大丈夫かい?」

 

「…あいにく平気よ。それよりじろじろ見ないでくれる?」

 

初対面の相手にここまで嫌悪感を露わにできるとは。エイトは逆にゼシカに感心してしまった。しかし男性は特に気にしてはいないようで、涼しい顔をしたまま、助けてもらったお礼と今日出会えた記念に、と手袋を脱いで指輪を外し、ゼシカの左の薬指にはめた。ゼシカはものすごく嫌そうな顔をしている。

 

「オレの名前はククール。こっから行った先のマイエラ修道院に住んでる。その指輪を見せれば俺に会える。…会いに来てくれるよな?じゃ、そっちのお兄さんもまた。マイエラ修道院のククールだ。忘れないでくれよ!」

 

それだけ言い残してククールは颯爽と駆けていった。ゼシカは排水溝の髪の毛でも触るかのような顔で指輪を外してエイトに渡した。そしてヤンガスとトロデも合流する。

 

「いーい?エイト、そんな指輪受け取っちゃダメ。明日マイエラ修道院に行ったときにあのケーハク男に叩き返してやりましょ!」

 

「う、うん…ゼシカって結構硬派なんだね…。」

 

「あら、意外だった?…硬派な人がってより、あーいう軟派なオトコが嫌いなだけよ。」

 

「おぉーい、兄貴!探したでげすよ!へへへ、さっきの奴らコテンパンにとっちめてやりましたよ。」

 

「うむ、さっきのはなかなか痛快だったわい。今夜はよく眠れそうじゃ。」

 

その後、エイトたちは軽く夕食を取って明日のために早めに眠った。…壊れた備品の修理費はヤンガスの小遣いから天引きした。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・修道院内の腐敗がほんの少しだけ解消されている。
礼拝に寄付金を強制したり、免罪符を売りつけたりすることがなくなった。

・マルチェロがいない。
マルチェロがいたら多分あの場で斬られていたと思う。

・ゼシカが水をかける前にエイトが止めた。(どうでもいい)
せっかく喋れるようになったエイトがあの場で傍観者になるとカッコ悪すぎるのでなんとか見せ場を作ろうと紳士なところを見せました。




ドルマゲスの理想
エイト「敵が強いからじっくりレベルを上げて行こう!」

現実
エイト「敵が強いからできるだけ戦闘を避けて行こう!」





時間に流れについて補足していなかったので説明します。

ドラクエはゲームなのでテンポ的にサクサク次の町に進めますが、この世界も地球によく似た惑星である以上、かなり広大なはず。なので今回この世界は大体町から町まで数日かかるくらいの大きさだとします。そしてエイトとドルマゲスの時間的な差ですが、ドルマゲスがマイエラ修道院を訪れてからエイトたちがマイエラ修道院を訪れるまで大体2週間程度差があると思ってくれたら大丈夫です。



くそぅ…終わらん…ドルマゲス書きたいのにエイトたちの話が終わらん…


エイト
レベル:12

ヤンガス
レベル:12

ゼシカ
レベル:11


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第十五章 謁見と進言

昔は「設定考えたら勝手に文書いてくれる機械とかないかな~」とか思ってたんですけど、実際にAIのべりすとくんが登場した今は機械には頼りたくないなとか思ってます。


むむむ…エイトサイドを書かなければ物語が何のゲームか分からなくなるけど、あっちは薄っぺらくなったストーリーをなぞるだけなのでどうもドリィサイドが持つようなインパクトに欠ける…せや!一気に二つ投稿したろ!(アホ)








ハロー、こちら流浪の道化師ドルマゲスでございます。さてマイエラ地方を抜けてアスカンタ国領にやってきたわけですが、そろそろホームシックな気分です…。町の人やユリマさん、ルイネロさんはお元気でしょうか?姿を消せばこっそりトラペッタに帰ってもバレないでしょうかね…?いやいや、それはまた今度にしましょうか。

 

 

 

 

ドニの町からアスカンタ国領までの道のりの長いことといったら!今はサーベルトという話し相手がいるからいいものの、数年前にここを一人で歩いていた時は疲労と寂しさが半端じゃなかった。長旅だともちろんHPやMPも消費する。特にMPを回復する手段は希少なので「まほうのせいすい」にはなかなか手が伸びない。世に言うエリクサー症候群というやつだ。なので「やくそう」を甘いお菓子に料理して食べるなど工夫して回復していたのだが、ついにそれも底をついてしまった。途中の森で俺たちは休憩することにし、どうしたものかと考えていると、目の前に「じんめんじゅ」が現れ、襲い掛かってきた。おっと、これはいいな。

 

「御免っ!」

 

俺はじんめんじゅを呪って動きを止め、葉っぱという葉っぱを全て摘み取った。何枚かはただの葉っぱだったが、やくそうが大体250枚は取れたと思う。これでしばらくは安泰だな。葉っぱを全て取られてハゲの木になってしまったじんめんじゅはシクシク泣きながら森へ逃げ帰っていった。

 

「ドリィ…なかなか酷いことをするな…」

 

「いやいや、これも生きるための術、ライフハックというやつですよ。」

 

「??よくわからんが、まあやくそうが補充できたなら良しとするか…」

 

「日も暮れてきたことですし、今日はここらで野営を張ることにしましょうか。」

 

俺とサーベルトは野営の準備を始める。野営にもすっかり慣れたもので、サーベルトはテキパキと松明を立てたりたき火の木を組んだりしている。俺はそこらの木材や手持ちのコットン草から物質変換と加工でベッドを作り出して設置した。このベッドは市販のものと性能も遜色ない上に、出発するときにはまた分解してしまっておけばいいのでとても便利である。何度か使えば木は霊力に耐えられず崩壊してしまうが、そのときはさっきのように森から拾ってくればいいのだ。ん?待てよ普通の木がダメなら…

 

俺が何かを閃きそうになった瞬間、ガササッ!と音がしてあたりからじんめんじゅたちの気配が完全に消えた。なんだったんだ…?

 

そうそう、杖のことだがついにめどが立った。三角谷で購入しておいた「ミラーシールド」を加工して細長い箱の形にし、杖を入れて聖魔法『ベホマズン』を3度ほど唱えて閉じる。これだけで杖の影響をほとんど抑えられることが分かったのだ。箱の中ではベホマズンが絶えず反射して杖を包んでいる状態である。本来ミラーシールドは反射率が20%となかなかしょっぱい防具なのだが、硝子部分と銀部分を『マホカンタ』で精錬しながら加工したので確定で反射してくれるようになった。これで常に魔力を杖に流す必要がなくなり、晴れて俺はストレスから解放されたのだ。とてもいい気分だ。

 

 

「夕食だな!楽しみだ!!俺は何か獲ってきた方がいいか?」

 

「うーん、おゆはんは何にしましょうかね…じゃあ先にしもふりにくを焼いておくので、寄ってきた魔物を適当に倒していってください。」

 

しもふりにくが魔物の好物である、というのはDQMシリーズからの知識である。普通に町などで売っているので買っておいたのだ。こうして焼いておけば食材の方から寄ってきてくれるし、最後は美味しく食べればいいので後始末にも困らない便利な食材である。俺たちが野営の際に「せいすい」を撒かないのはそういった理由だ。もちろん寝る前にはちゃんと撒くが。

 

 

うん、ゲテモノ過ぎる「ハエ男」などは論外だが、「マタンゴ」や「おおさそり」は食材としても優秀だ。ここらで一番美味いのは「いっかくウサギ」の変異種である「アルミラージ」だが、今日は現れなかった。仕方ないのでマタンゴを絞めて切り分け、「おいしいミルク」から作ったバターでホイル焼きにしよう。…あまりに無骨なのでちょっとオシャレに彩りたいところだが、生憎ここらに「パプリカン」は現れないので断念した。いつも通りおおさそりは保存食にして『賢人が見る夢(イデア)』に放り込んだ。てかおおさそりって森にも棲んでるんだな。

 

「そろそろかな…うん、できました。召し上がれ。」

 

「いただきます。…うん、今日も美味いぞ!」

 

「あはは…ありがとうございます。」

 

ニッコニコでサーベルトはマタンゴを頬張る。彼も随分と魔物料理に慣れたものだ。きっと今なら一人でも生きていけるだろう。…料理の腕を褒めてくれるのは嬉しいのだが、サーベルトは何を作っても美味い!しか言わないので自分の料理がどんなもんなのか少し心配になってくる。そろそろ仲間も増やしたいなぁ。

 

食材にならない魔物も、鍛錬がてら全員返り討ちにする。そして綺麗な形で残っている魔物は凍らせて『イデア』にポイだ。野生の魔物ほどいい研究サンプルはないからな。

 

俺がウェルダンまでじっくり焼いたしもふりにくを食べようとすると、一匹の「スライムベス」がこちらを見ているのに気が付いた。というか肉を見ている。スライムも肉を食べるのだろうか。いや、そもそも肉を食べるスライムがスライムベスと呼ばれているのだったか?スライムのメスだっけ?…まあどうでもいいか。夜間はスライム族は眠っているはずなのだが、この個体は夜更かしでもしているのだろうか。俺は応戦しようとするサーベルトを制止した。せっかくだ。今こそ先生の教えを実践するとき!

 

(こんばんわ)

 

「ぷるぷる(!?)」

 

(わたしわ、にんげんのどるまげすです)

 

「ぷるぷる(すごいわ、ニンゲンなのにアタイたちスライムの言葉が分かるのね!)」

 

(このにくほしいですか)

 

「ぷるぷる(くれるの!?)」

 

(どうぞ)

 

俺が肉を差し出すとスライムベスは肉を咥えて身体をふりふり、去っていった。

 

「(このアホウって言われた…!?)」

 

「ど、ドリィ…なんださっきのは…ふしぎなおどりか?」

 

「いえね、さっきのスライムと会話していたのですよ。」

 

「スライムの言語を人間が表現しようとするとあんな悍ましい動きになるのか…俺はまるで全ての魔力が吸い取られるかのような錯覚すらしたぞ…」

 

お、悍ましい…?せいぜい「変な動き」くらいだと思っていたのだが…少しショックだ。

 

「わ、私もまだまだということですね…さあ腹も材料も膨れたので今日はもう寝るとしましょうか。」

 

「そうだな。じゃあ片付けは任せてくれ。」

 

火をそのままにしておくと「デスファレーナ」が寄って来るのでしっかりと残り火まで消し、俺たちは眠りについた。明日にはアスカンタ王国に到着するはずだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ここがアスカンタ城…まるで塔みたいだな。」

 

「ええ、実際に要塞として城が作られた際の塔を流用しているとかいないとか。」

 

翌日の昼、俺たちはアスカンタ城に到着し、早速入城した。町は活気にあふれていて皆が笑顔である。トロデーンの生誕前夜祭を思い出してちょっとだけセンチメンタルになりかけたが、すぐに振り払った。いい国だなあここは。

 

「それで、アスカンタのアテというのは…?」

 

「この国の王、パヴァン王のことです。」

 

「何!?王様と繋がりがあるのか…!本当にいったい何者なんだ君は…」

 

「だからただのしがない道化師ですってば。さ、行きましょう。」

 

サーベルトはリアクションが豊かなので話しているだけでも楽しい。俺たちは適当に買い物を済ませてから城へ向かった。衛兵に「王に謁見したい」と伝えると、こちらが明らかに派手な服装をしているので案の定怪しまれ、一人が上へ確認を取りに行き、俺たちは足止めされた。

 

「君たち、何者で何用なのかね。」

 

「私はドリィです。旅芸人をしております。本日は王に面会したく…はいっ、どうぞ。」

 

俺はダリアやアラマンダ、カモミールなど夏の花を適当に見繕った花束を作り衛兵に渡した。

 

「いや…仕事中なのでこんなの渡されても…」

 

あれ。食べ物とかを差し入れた方がよかったかな。俺が頭を掻いていると、先ほど確認を取りに行った衛兵が慌てて戻ってきた。

 

「おっおい!その方たちをお通ししろ!王直接のご命令だ!」

 

「えっ!?王が直々に…!こ、これは失礼いたしました。どうぞお通りください。」

 

「ありがとうございます。お仕事頑張ってくださいね。」

 

俺は手をひらひらさせながら城の中に入っていった。そして城の者に案内されるままに上階に上がると、途中で王の小間使いであるキラちゃんと出会った。どうやら今は昼休憩らしい。キラちゃんは俺の顔を見ると思わず二度見していた。

 

「あっ!!もしや、ドルマゲス様ではないですか!?私です!キラです!覚えておいでですか?」

 

「ええもちろん。キラさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」

 

「はいっ!…こんなところでまたドルマゲス様にお会いできるなんて…!あ、あのもしよろしければ前回お聞かせいただいた冒険譚の続きを…」

 

「ごめんなさい、私は今日王に会いに来まして…また今度、お話しましょう?」

 

「すみません!出過ぎた真似を…!で、では私はこれで…あ、あの!」

 

「はい?」

 

「ドルマゲス様のお話…楽しみにしております…えへへ」

 

「フフ…、乞うご期待、ですよ。」

 

キラちゃんは俺が昔この城にいた時に初めて会い、仲良くなったアスカンタ城の使用人だ。おしとやかな性格だが冒険には憧れているらしく、俺が世界中を遊行していた話をすると目を輝かせて聞いてくれていた。炊事洗濯、身の回りのあれこれをやらせれば超一流だが、そういうところは年相応だ。俺はキラちゃんに手を振るとさらに上階へ上がった。

 

 

玉座の間にはパヴァン王とシセル王妃が鎮座していた。王は俺を見ると走ってきて俺の手を取り、ぶんぶん振り回された。

 

「ドルマゲス!随分久しいじゃないか!息災か??」

 

「おおおうおかげさまで…」

 

「おや、そちらの方は?」

 

パヴァンの態度に面食らっていたサーベルトであったが、関心を向けられると流れるような動作で跪いた。

 

「アスカンタの王よ、お初にお目にかかります。私の名はアインス。流れの傭兵であり、今はこのドリィ…ドルマゲスの護衛を任としております。」

 

サーベルトは俺がパヴァンに「ドルマゲス」と呼ばれたので自分も本名を名乗るか一瞬迷ったようだが、どうやらアインスの方で通すことにしたようだ。俺はというと、別にどっちでもいいのでサーベルトに合わせることにする。

 

「そうかそうか。ドルマゲスの護衛だったか。結構。改めて…ようこそ我がアスカンタ王国へ。君たちならいつだって歓迎するよ。」

 

「ドルマゲスさん、お久しゅうございますわ。」

 

「パヴァン王、そしてシセル王妃。久方ぶりでございます。まずは突然の訪問、大変失礼しました。」

 

俺はパヴァン王とシセル王妃から英雄的な扱いを受けている。理由は単純なもので、2年前に俺が崖から足を踏み外し転落しそうになっていた王妃を発見し、地面に激突する前に間一髪で救出したからだ。命を助けられた王妃はもちろん、王妃を異様なまでに溺愛する王も涙を流しながら俺に感謝していた。それから一週間ほど食客として城で過ごさせてもらっていたのだが、元々小旅行の予定だったのでその時は礼を言ってトラペッタに戻ったのだ。あれから2年経った今でもこうやって歓待してくれるのだからすごい。

 

「とんでもない!君はシセルと僕の命の恩人だ。喜びこそすれ、失礼だなどと思ったことはないさ。」

 

「ドルマゲスさん、本日はどのようなご用事で?」

 

「…少し、王に進言がしたく、本日は謁見させていただきました。お時間はございますでしょうか?」

 

「シセル、いいね?」

 

「ええ、あなた。」

 

「よし、ではドルマゲス。進言したいこととは何か?」

 

俺がこの世界で持つコネクションの中で最も大きいのはここ、アスカンタ王家との繋がりだ。アスカンタ地方には賢者の末裔もいないので、ラプソーンが万一復活してもすぐには被害は出まい。であれば、パヴァンの善意を利用するようで本当に申し訳ないが、そのコネを最大限に活かして俺たちの拠点を建設させてもらおう。しかし、いきなり「拠点を作りたい」だなどと言い出すのは流石に図々しすぎるので、進言という形で謙虚に行く。原作通りならそろそろ()()が来ているはずだ。

 

「…ここから北に魔物たちのアジトがありますね?…私は一部の魔物の言葉を解することができるのですが、最近ここ近辺を旅している時に妙な噂を聞きまして。どうやらそこの魔物の一団が近々宝物庫を襲撃するとか何とか…私はそれを聞いて本日アスカンタに立ち寄ったわけでございます。…心当たりはありますでしょうか?」

 

俺の話を聞きながら神妙な面持ちで考え込んでいたパヴァン王だが、突然思い立ったかのように目を見開いた。

 

「…まさか!」

 

「あなた、行きましょう。ドルマゲスさんたちもついてきてください。」

 

「はっ。」

 

俺たちはパヴァンについてアスカンタ地下に隠された宝物庫へ向かった。しかし時既に遅し、宝物庫はたった今魔物たちによって宝物が根こそぎ奪われたところだった。入口の反対側の壁には大きな穴がぽっかり空いており、その先は暗闇で見えない。ショックを隠し切れないパヴァンとシセル。サーベルトもびっくりしているので、一応俺も(遅かったか…)みたいな顔をする。うー、知ってた展開だけになんとなく見殺しにした感じで心苦しい。悲しいなぁ…。

 

「国宝が…!」

 

「なんてひどい…」

 

「宝物だけを奪い去っていくとは卑劣な魔物め…!」

 

「…すまないドルマゲス。せっかく君が教えてくれたのに、宝物を守ることができなかった…」

 

「…王よ。これもまた縁です。私たちが魔物のアジトへ赴いて国宝を取り戻して御覧に入れましょう。」

 

「いや、これは我が国の問題だ。客である君たちを巻き込むわけにはいかない!!」

 

パヴァンは思いやりがあってとても優しい王様ではあるのだが、それゆえに優柔不断な男でもあるのだ。原作でも討伐隊を出すと言いながらいつまで経っても隊を編成する素振りすら見られなかった。おそらくこのままでは埒が明かないので、ここは正直に言おう。

 

「王よ、何も私は善意のみでこのようなことを言っているわけではないのです。俗な言い方をすれば『取引』がしたいのです。我々が国宝を取り戻す代わりにお願いしたいことが。」

 

一国の王に取引を持ち掛けるなど不敬も良いところだが、今が緊急事態であることと、パヴァンの温厚さに懸けるしかない。

 

「何?…いや、今はいい。では…ドルマゲス。そしてアインス。緊急時により口頭での勅令とする。このアスカンタ王パヴァンの名において、魔物によって奪われた国宝を奪還してみせよ!」

 

よし。勅令を頂いた。いつもは穏やかな顔が引き締まり、王の顔を見せたパヴァンに、シセルも惚れ惚れしている。跪いたまま横をちらりとみるとサーベルトも気合十分そうだ。瞳の奥に正義の炎が燃え上がっているのが分かる。

 

「仰せのままに。…行きますか、アインス?」

 

「ああ、今すぐ行こう!」

 

ずかずかと穴へ歩き始めたサーベルトを追う形で俺も穴──“モグラのアジト”へ向かった。

よぅし、久々に大暴れしてやりますか…!

 

俺は過去に例を見ないほど極悪な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 





ドルマゲス(男・28)
レベル:35
職業:大魔法使い
趣味:研究(魔法・呪術・料理・科学〔機械工学・遺伝子工学・化学〕)
好きなもの:研究
嫌いなもの:完璧  ドルマゲス「私は“完璧”を嫌悪する」

サーベルト(男・22)
レベル:31
職業:戦士
趣味:鍛錬、食事
好きなもの:ドルマゲスとの野営
嫌いなもの:吐き気を催す邪悪  サーベルト「なにも知らぬ無知なる者を利用することだ…ッ!」



キラがパヴァンに想いを寄せているという考察や妄想がしばしばなされますが、そんなの誰も幸せにならないので(過激派)、本作ではキラのパヴァンに対する感情はただの敬愛すべき主君であり、それ以上でもそれ以下でもないとします。


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Chapter7 マイエラ地方 ③

書けるうちに書いとかないといつスランプになるやら…

読者の皆様、いつもこの駄文にお付き合いいただきありがとうございます。
思い付きで小説を書くとこのようにどこかの設定に綻びが生じるので、ちゃんと設定は固めなければならないんですけど…恥ずかしながら無学なもので、科学的な矛盾が現れることは必至でございますし、「多角的な視点で見る」ということは練習中なのでなかなか皆様の疑問が尽きることは無いかと思います。
指摘された設定はできるだけ盛り込みたいと思っていますが、あまりに深刻なミスが発生し修正が不可能な場合には、申し訳ありませんが「こういうもの」「ご都合主義」と甘んじて受け入れてくれれば幸いです。読者の皆様、感想を下さる皆様には重ねてお詫びと感謝を申し上げます。








マイエラ修道院の院長オディロから明日の朝なら話を聞いてくれると言われたため、宿を求めてドニの町にやってきた一行。そこでククールを名乗る聖堂騎士団員に指輪を手渡されたゼシカ。恋の始まりか…と思われたがそんなことはなく、ゼシカはゴミでも触るように指輪を外してエイトに渡した。あんなケーハク男は許せないと憤る彼女を諫めつつ、一行は明日に備えて早めに眠ることにしたのだった。

 

 

 

 

「ふわ…う~ん…」

 

「おお、エイト、起きたか。」

 

「…おはようございます王様…」

 

空はまだ薄暗かったが、トロデは元気いっぱいで体操などしている。年寄りの朝は早い、という言葉がぴったりなのだがエイトはその言葉を口にするのはやめておいた。見回すと、ヤンガスもゼシカもまだ寝ている。もう少ししたら起きよう、と思いつつまたエイトは微睡に堕ちていくのだった。

 

 

 

 

「エイト!起きなさーい!」

 

「兄貴~出発するでげすよ~」

 

「う、う~ん…?うわっ、もうこんな時間!」

 

エイトが再び目覚めると既に全員準備が終わっていた。エイトも急いで寝間着から着替え、宿の朝食をかきこみ、トーポにチーズをあげて外へ出た。今日は院長と面会をする日だ。

 

「もう!エイトったら全然起きないんだもん!」

 

「ご、ごめん…」

 

「エイトよ、二度寝するのは構わんが、それで遅刻するとはどういう了見じゃ!」

 

「申し訳ありません…」

 

「まあまあ、兄貴もお疲れだったんでげすよ。ほら、修道院が見えてきたでがす!」

 

散々待たされてふくれっ面のゼシカとトロデは文句たらたらだ。ヤンガスがフォローしてくれなければエイトはもう少し説教を食らっていただろう。エイトは後でヤンガスにお酒を奢ることに決めた。

 

修道院は昨日と変わりない様子で、たくさんの参拝者が礼拝堂でお祈りしていた。連日修道院に押しかけて礼拝の一つも行わないのは少し無礼が過ぎるかな、と思ったエイトたちも一応お祈りをして、奥へと進んだ。院長棟へ続く扉がある修道士宿舎の門の前には今日も聖堂騎士団の門番がいたが、今日は院長から指示が来ているので団員もしぶしぶ扉を開けた。ぶつぶつと文句を言いながら。

 

「ちっ。なんだってオディロ様はこんな魔物使いと面会なされるのだ…」

 

「わしは魔物ではないわい!!仮に魔物だとしてもこやつらはわしの臣下じゃ!言うなれば『魔物使い』でなく『魔物使われ』じゃわい!」

 

「王様、変なところで張り合わないで下さい…」

 

エイトはトロデを抑えて先へ進んだ。ヤンガスとゼシカも騎士を睨みつけながらエイトについていく。宿舎に入ったところでいざ院長の所へ、と思っても場所が分からないので、宿舎内で掃除をしていたトンスラ頭の修道士の子どもに道を尋ねると、院長棟まで案内してくれるという。

 

「(この子、不思議な髪型だけどいい子ね。マイエラ修道院も捨てたものじゃないのかもしれないわ。)」

 

「(そうでがすね。というより問題なのは修道院と言うより聖堂騎士団の方だと思うでげす。)」

 

ヤンガスとゼシカ、トロデは昨日からずっと聖堂騎士団の文句ばかり言っている。俗世に触れてこなかったヤンガス、貴族や王家であるゼシカとトロデは民を守るべき騎士に邪険に扱われたことが無かったのだろう。エイトにとっては近衛として勤務していた時から、よそ者ということで同僚の騎士からこのような仕打ちをよく受けてきたので、大して癪に触ったりはしない。慣れっこなのだ。

 

院長棟は宿舎から橋を渡った先にある大きな建物だった。院長棟の門番にも話を通し、修道士の子どもに礼を言って中に入った。一階は書斎のような場所で、膨大な量の書物が置いてある。エイトが何気なく一冊手に取ってみると、ダジャレがびっしりと手書きで書かれていた。ペラペラとページをめくったエイトは生温かい気持ちになり、本を閉じた。見ると、古そうに見える本の中に何冊かツヤツヤ新品の本がある。

 

「『善い上司になるには』『人は話し方が9割』『組織改革虎の巻』…院長ってどんな人なんでしょう…」

 

「そもそも、院長はどこかしら。一階にはいないみたいだけど…」

 

「うん?何やら上の階から声が聞こえるな。院長は二階にいるようじゃ。」

 

エイトたちが階段を上っていると確かに誰かの話す声が聞こえる。誰かと会話しているようだ。

 

「…うむ、…うむ、そう今からじゃよ。」

 

『──。』

 

「え?真実を隠せと?何故そんな…うむ、…都合がいい…か…うーむ、私は嘘はつきたくないのじゃが…」

 

『──。』

 

「合理的虚偽??…分からんことを…はあ、わかった。それが世界を救うためというのなら…」

 

『──。』

 

「うむ、また何かあったら連絡しよう。それではな。」

 

エイトたちが二階に上ったとき、院長が石板のようなものを懐にしまおうとしていた。そして院長とエイトの目がバッチリ合い、院長はあからさまに動揺した。

 

「な、ななな…君たち、いつからここに!?」

 

「今さっきですけど…院長様は今しがた誰かと会話しておられたのでは?お相手の姿が見えませんが…」

 

「(宿舎の門番に昨日の旅人が来たら伝えるように言っておいたのに…ここまで報告や連絡が滞っとるとは…)」

 

院長は苦い顔をして何かをつぶやいている。

 

「院長様?」

 

「おっと、失礼しました。…先ほどまで本日の修道院集会の演説の練習を行っておったのです。あなた方がいらしていたことに気付かず申し訳ありません。それで、先日聞きたいことがあると仰っていましたね。ぜひ聞かせてください。」

 

院長は佇まいをぱっぱと直すと、エイトたちに椅子を勧めた。促されるがままエイトたちは椅子に座り、早速トロデが口を開いた。

 

「では…」

 

「お待ちください王様、まずは自己紹介を。僕はエイト、こっちはヤンガス。彼女がゼシカで、この方がトロデ王であらせられます。トロデ王は呪いをかけられて今はこのような姿をしておりますが、元はれっきとした人間です。」

 

エイトがトロデーンの現状と旅の経緯を簡潔に説明すると、オディロは目を見開いて驚いた。その様子が少し大げさに見えたのをエイトは不思議に思ったが、先にトロデが質問したので有耶無耶になった。

 

「そういうことじゃ。して、オディロ院長。そなたも色々と忙しいようなので早速本題に入るが、『ドルマゲス』という名に聞き覚えはないかの?」

 

オディロは少し黙り込んだ。何かを葛藤しているようにも見えたが、エイトたちからはただ何かを考えこんでいるようにしか見えない。しばらくしてオディロは話し始めた。

 

「…少し前にですね、この修道院は謎の二人組に襲撃を受けたのです。聖堂騎士団も蹴散らされ、私の命も狙われました。その者たちは私が何とか追い返したので修道院は無事でしたが、その男の内の一人が自らの名を『ドリィ』と名乗っておりました。もしかすると何か関係があるやもしれません。」

 

「その男はどのような格好をしていたのですか?」

 

「派手な服に身を包んでおり、まるで道化のようでした。左手にはなんとも禍々しい杖を持っていましたよ。あれはまさかとは思いますがトロデーン城の秘宝である『神鳥の杖』ではないですか?」

 

「な…!」

 

エイトとトロデは驚きで固まった。なぜこの男は秘宝のことを知っているのか。いや、それよりも重要なことは…

 

「…間違いない、ドルマゲスはここに来ていた。そして同時に現在秘宝の杖を所持しているのもドルマゲスで間違いなさそうじゃ。そ、そいつらがどこに向かったか分かるか!?」

 

「そうですね…去り際に彼らは南東の方角へ行くと言っていましたが…申し訳ありません、具体的な場所までは…」

 

トロデとオディロ院長が話している間、ゼシカは少し悲しそうな顔をした。

 

「そっか…(ううん、でもまだ兄さんを殺したのがドルマゲスって決まったわけじゃないよね…)」

 

「じゃあその、ドルマゲスと一緒にいたっていう男は何者なんでげすか?」

 

「彼の素性も良く分かっていませんが…彼は自分のことを『流浪の傭兵アインス』と名乗っておりましたな。」

 

「ドルマゲスには仲間がいるようじゃな…しかし奴も人の子、騎士団は打倒できても、院長に追い返されるようではお里が知れるわい。エイトたちなら軽く捻れそうじゃな。」

 

その言葉を聞いて、何故かオディロ院長が焦った。

 

「と、とんでもない!私が追い返したというのは…その、ほとんど奇跡に近いようなものです。あなた方がドルマゲスがトロデーンを滅ぼした、と自分たちで言ったことをもう一度思い出してください。彼を追いかけるのならばしっかりと経験を積みながら進むことをお勧めしますよ。」

 

「む、それも一理あるが…せっかく掴んだ足取り、ここで見失うわけには…」

 

その言葉を聞いて待っていましたとばかりにオディロは微笑んだ。

 

「では私のところから一人、旅のお供を手配しましょう。…ククール!上がってきなさい。」

 

院長が窓から棟の外に向かって呼びかけると、しばらくして外で待っていたらしいククールが入ってきた。オディロは先ほどエイトたちから聞いた話をほとんどそのまま話して聞かせた。

 

「…やれやれ、院長から『重要な話がある』って直々に呼び出されたってんだから何事かと思ったら……ほんとにとんでもない話を聞かされたもんだな。」

 

「アンタ!ドニのケーハク男じゃない!?」

 

「こんにちは、素敵なマドモアゼル。一日ぶりだね、きっとまた会えると思っていたよ。」

 

「おや、既にお知り合いでしたかな?このククールはマイエラ修道院の聖堂騎士団の一人でして、少し気が多いところもありますが、腕は立ちます。この先の旅路を阻害する魔物が現れても必ずや活躍してくれることでしょう。」

 

「ふむ、ヤンガスのようなむさい山賊より、こやつのような騎士が護衛についてくれたらわしの威厳も保たれるというものじゃわい。」

 

「私はイヤよ!」

 

「戦力が増えるなら僕は良いと思いますけど…」

 

「おい、おいおい…!なんであんたら当事者のオレを差し置いて連れていくいかないの話をしてんだ?…院長、オレにも分かるように説明してくれよ。」

 

ククールとしては院長に突然呼び出されたかと思えば、いきなりよく知らないパーティーの旅に同行させられようとしているのだ。少し声を荒げた形になってしまうが仕方のないことではある。

 

「…私の命が狙われた以上、このマイエラ修道院もドルマゲスを無視することができない。しかし戦力となる聖堂騎士団には色々と不都合があるのじゃ。その点ククール、おぬしは身軽じゃろう?」

 

「……つまり院長は、オレのことを役立たずだと、そう言いたいわけだ。」

 

ククールは明らかに苛立っていた。ククールの如何については修道院の問題なのでエイトたちは口をつぐんだ。一拍おいて、院長がしっかりとククールと目を合わせ、口を開く。

 

「そうは言っておらん。ククールよ、これはおぬしにしか頼めないのじゃ。聖堂騎士団はおぬしやこちらの御仁たちも知っておる通り、血の気が多く傲慢で、石頭のアホウどもじゃ。しかしおぬしには彼らを嗤う“良識”がある。わしが『身軽』という言葉を使ったのはおぬしには家柄や妙なプライドなどというしがらみがない、という意味でじゃ。他の騎士たちは殆どが名門の出じゃが、おぬしとマルチェロの家は…ここ、マイエラ修道院なのじゃからな。マルチェロがいない今、この地を代表する騎士はおぬししかおらんじゃろうて。」

 

「…」

 

「…のうククール、ここは一つ、頼まれてくれんか?」

 

「…仕方ない、院長にそこまで言わせておきながら旅に出たくないってのも駄々っ子みたいで情けないよな。…わかった。オレはこいつらと旅に出るぜ。」

 

「ククール…!」

 

オディロ院長の顔がパァッと明るくなり、ククールは少し照れ臭そうにそっぽを向いて頬を掻いた。どうやら話もひと段落ついたようでエイトたちも胸を撫で下ろす。

 

「…ハァ、なんかいい話の雰囲気にされちゃったから毒気も抜かれちゃったわ。…せっかくついてくるんだったらちゃんと働きなさいよね。」

 

「…ゼシカから聞いていた通り、最初はキザでイヤミな奴だと思ってたでがすが…この兄ちゃんにも色々ありそうでげすね。来るもの拒まず、アッシも賛成でげす。」

 

「よし、ではククール!これからわしの護衛としてよろしく頼むぞ!」

 

「はあ?オレは別にアンタみたいな化け物ジジイの護衛になったつもりじゃないぜ?オレはこちらのレディがケガをしないように四六時中エスコートすることに決めただけだ。」

 

「…エイト、ククールの指輪。」

 

「はい」

 

「それは…!オレはぜひキミの左薬指につけて…あでっ」

 

ゼシカは美しいフォームで振りかぶり、ククールの額に指輪を投げつけた。

 

「いらないわよそんなの!あんまりしつこく私に言い寄ってくるようなら木に括り付けて火あぶりにしてやるんだから!」

 

「…やれやれ。俺は苛烈な女も嫌いじゃないぜ?…じゃあ改めて。オレはククール。クサレ僧侶なんて呼ばれているが、文字通り『腐っても僧侶』だ。回復魔法なら任せてくれ。」

 

「アッシはヤンガスでげす。こっちのエイトの兄貴の子分でさぁ。これからよろしく頼むでげす。」

 

「…魔法使いゼシカよ」

 

「エイトにヤンガス、ゼシカ。それとこのおっさんがトロデだな。よろしく頼む。それじゃあ、行こうか?」

 

「ククール!おぬしはもうちょっと敬意をじゃな…!」

 

「まあまあ王様、ククールは王様のことを知らないのです。これからゆっくり王様の威厳を示していけばいいじゃないですか。」

 

「…ふむ、確かにいちいち腹を立てていては寿命が縮みそうじゃ。仕方ないか…。」

 

紆余曲折合ったもののようやく全員が納得し、僧侶ククールは晴れてエイトたちの仲間となったのだった。和やかなムードの中唯一オディロ院長だけが冷や汗をぬぐっていたが、誰にも気付かれはしなかった。

 

▼ククールが 仲間に 加わった!

 

「(ふぃ、何とかなりそうじゃ…。話を誤魔化して誘導するというのは私には向いてないの…)ほっほ、うまく話もまとまったようじゃな。ククール、後の修道院のことは任せなさい。そしてエイトさん、これを。」

 

オディロ院長は世界地図をエイトに渡した。

 

「ドルマゲスは世界中のどこにいるか分かりません。ぜひその地図を有効に活用してください。」

 

「色々とありがとうございます!必ずドルマゲスの真相を暴いてみせます!」

 

オディロ院長は何も言わず微笑みで返した。

 

 

その後エイトたちを修道院の入り口まで見送ったオディロ院長は院長棟に戻り、門番を小突いて説教をした後自室の机に座って本を読みながら、ぼそりと呟いた。

 

「ほっほっほ…ククール、そして勇者たちよ、力いっぱい突き進みなさい。…私の友人ドルマゲスは手強いですよ…」

 

おっと、と思い出したかのようにオディロ院長は懐から石板のようなものを取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・旧修道院跡地に行かなかった。
特に急用ではなかったのでそんな抜け道は使う必要がなくなった。ちなみに中の魔物はドルマゲスが一掃してしまったため、行ったとしてもただの汚い道である。

・オディロ院長が生きている。
今更ではあるがオディロはドルマゲスに殺されなかったので生きている。しかしドルマゲスに洗脳(笑)されているので完全な味方であるとは言い難い。オディロはサーベルトの説教によって組織改革の必要性を痛感し、自分は今までそれを見ないふりをしていただけだということを自覚し、本格的なマネジメント術を学び始めた。聖堂騎士団が更生するかどうかは保証できないが。

・ククールが割と穏便に修道院を出た。
原作マルチェロも本作オディロもククールを旅に出す理由はククールが『身軽』だからであるが、言い方と発言者が全然違うのでククールも気持ちよく修道院を出発できた。

・オディロ院長が裏で誰かと連絡を取っている。
一体誰マゲスなんだ…


トンスラとは:俗世と決別した聖職者のアイデンティティーの一部として普及した、頭頂部から側頭部、後頭部にかけて髪の毛を剃って整えた髪型。ドラクエⅧの修道士は大体がこの髪型である。ちなみに現実では宣教師フランシスコ・ザビエルが日本では最も有名なトンスラ頭の偉人だが、この髪型を特徴とするのはキリスト教カトリックだけで、キリスト正教会はむしろ髪を伸ばすことが多い。


エイト
レベル:12

ヤンガス
レベル:12

ゼシカ
レベル:11

ククール
レベル:12






パーティーメンバーが揃ったのに未だにダンジョンにも行かず、ボスとも一度も戦っていない勇者がいるってマジ!?


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幕間:(閲覧自由) 美食道化師の諸国たべある記

むかしむかしに遊んだピクミン2から発想を得て考えてみました。
よい子もわるい子もどうでもいい子も真似しないでね!

…真似できないね!!





⚠残酷な描写がありますので想像力のある方は閲覧注意です!!⚠
本編とは関係ありませんので、苦手な方は読み飛ばしていただいても問題ありません。














それでは食の新境地へどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本棚から一冊の本を手に取ったあなたは内容を読んでみた…

 

 

 

 

この手記を読んでいる人へ。初めまして、私はしがない道化師です。いきなりですが、みなさんは食事についてどうお考えですか?「生命活動」「娯楽」「楽しみ」色々人それぞれですよね。私は食事とは「冒険」だと考えています。与えられるものをただ無批判に食べる人生でいいのか!?私はその風潮に断固反対する!世はグルメ時代!未知なる味を探究する時代なのです!!!…オホン、熱くなってしまいました。これから私が導き出した『魔物』のおいし~い食べ方をここに記していきますので、気になった方はぜひ食の新たな扉を開いてみてくださいね…

 

 

 

 

トラペッタ地方

 

・スライム

ゼリー状の身体には意外と弾力がある。生きたまま食べた際はグミのような感触。味はライム系のさわやかな果実のもの。絶命すると解けるように体が融けるので、サイダーに注ぐなどするとすっきりした夏のカクテルドリンクにもなる。

 

・しましまキャット

日頃のんびりとしていて動かないので脂肪分が多く、少し脂っぽい。その割に肉は堅いのであまり食用には適さない。どうしても食べなければならない場合は肉を叩いてハンバーグにすること。

 

・リップス

おすすめはしない。全体的に臭みが強く、何度塩もみしても臭いは取れない。しかも塩もみすると可食部が一気に減る上、その可食部には全身の雑菌が濃縮されているので間違いなく腹を壊す。食べるとすれば唇部分くらいだが、醤油や麺つゆに数日漬けておかないとまともな味にならない。

 

・ドラキー

毛を焼いてローストし、カレー粉などをまぶして骨付き肉として食べると良い。ココナッツミルクやハーブ等で風味を変えることもできる。感染症には気を付けること。しっかり焼こう。

 

・プークプック

【削除済み】

 

・くしざしツインズ

貴重なビタミン源。ビタミンCやビタミンA、βカロテンなどを含み、疲労回復や感染症予防などに効果的。そのまま食べると青臭いので、炒めると良い。特に油との相性が良く、「しましまキャット」のハンバーグを肉詰めにすると多くの栄養価が取れる。

 

・いっかくウサギ

煮ても焼いても揚げても美味しい上質なジビエ肉。肉は淡白だがコクがあり、ごま油との相性が良い。調味料や材料が揃っているのならパエリアやソテーにすると店でも出せるレベルの料理を誰でも作ることができる。皮は「まじゅうの皮」として、これまた良い値段で売ることができる。

 

・メラゴースト

熱いし食えない。せいぜい火を起こせない時にコンロとして代用できるくらい。

 

・メタッピー

×

 

・バブルスライム

味が悪い、食感が悪い、においが悪い、見た目が悪い、体にも悪いと五つ揃った酷い食材。どれだけ飢えて死にそうな状態でも食べるのはやめましょう。

 

・びっくりサタン

【削除済み】

 

 

リーザス地方

 

・リリパット

【削除済み】

 

・タホドラキー

色は悪いが普通に美味。少し赤身魚と味が似ている部分もあり、鉄分が高いなど栄養も豊富。調理の仕方は「ドラキー」と一緒。スープにしてもいいが、通常種よりも若干肉が堅いか?

 

・かぶとこぞう

外骨格は堅いが、味は悪くない。加熱処理をした後乾燥させて脆くし、塩を振っておくと良い。甲殻の棘や角を取り除きフライや天ぷらにするとボリボリとそのまま食べられる。が、かなり大きいので調理する際はあらかじめ小分けにしておくこと。甲殻類アレルギーを持っている方は食べないようにしましょう。

 

・おばけきのこ

「ビッグホーン」も好んで食べる森の肉。ソテーや炭火で焼いても良いし、ホイル焼きにすると旨味が閉じ込められる。焼くと身が小さくなるので大きめにブロック分けしておいても意外と食べきれる。美味だが少量の毒があるので一人で一匹以上食べない事。あと食べ過ぎると息が『甘く』なります。

 

・サーベルきつね

魔界から来た貴族のキツネなので、キツネにしては肉もそこまで臭くはない。おそらくこの種は菜食主義者だと思われる。しっかりと熱を通して鍋で煮続けると、醤油を焦がしたような香ばしい匂いのする飴色の出汁になる。旨味はあまりないので、食べる際は砂糖や醤油で味付けすること。

 

・おおきづち

あまり思い出したくない。一つ言えるのは後悔する、ということ。

 

・プリズニャン

「しましまキャット」と調理法は同じだが、こちらの方が少し身が締まっていていて美味しい。でもやっぱりそこまで食用には向いていない。食べるならハンバーグが安定。

 

・じんめんガエル

ゲテモノだが、身は美味しい。きちんと絞めた後、脚の部分を食べる。から揚げや照り焼きにするとカエル肉本来の旨味が引き出される。皮は食感が悪く触るとかぶれるので、適切な手順ではぎ取ること。カエル肉は高タンパク低脂肪なので、ダイエット中のご婦人や剣士や武道家の方にもおすすめです。調理中に後ろの顔が火を吹いてくることもあるので気を抜かないで。

 

・アルミラージ

ここら一帯では文句なしに最上級の食材。「いっかくウサギ」の肉をそのままランクアップさせたような品質で、肉はさらに柔らかく、赤身が美しい桃色になっている。野兎症には注意。いっかくウサギにも言え、ほとんどの魔物はそうだが、きちんと火を通すこと。病気もそうだが調理することで魔力を抜かないと、食後にどんな効果が現れるか分からない。私は病気や呪いに耐性があるので問題はないが、これを読んでいるあなたは十分注意してください。

 

・しびれくらげ

肉体の90%以上を水分が占めているので、調理するとかさと触手しか残らず、無味無臭。サラダなどに和えてコリコリとした食感を楽しもう。なお、触手部分の麻痺毒は調理しても消えないので、食べるならかさの部分を。

 

・エビラ

浜辺ではトップクラスの食材。甲殻を剥げば身はとても柔らかく、どう料理しても食べられる。少量なら刺身にしても絶品。おすすめは一匹まるごとニンニクソースに漬け込んでガーリックシュリンプに。味が濃いので付け合わせか水分をしっかりと用意しておくと良い。

 

・シーメーダ

目玉が珍味として巷では注目されているようですが、大味すぎて私にはよさがあまり分かりませんでした。色鮮やかな見た目に反してシーメーダの触手に毒はないので、食べるならば「しびれくらげ」と同じように調理しましょう。目玉はくり抜いて乾燥させればまあまあの値段で売れます。

 

マイエラ地方

 

・スライムベス

こちらも特徴は「スライム」と同じ。スライムベスはオレンジのような匂いがする。サイダーで割るとオシャレなカクテルに。ぜひお試しあれ。

 

・げんじゅつし

【削除済み】

 

・おおめだま

身が小さいので可食部はほとんどない。目玉も大きすぎる上に堅くて見栄えも悪いのでおすすめはしません。怒って全身が赤くなった時だけ頭部の触角が食べられるようになるが、コスパはよくない。

 

・ワンダーフール

筋肉質でものすごく身が堅く、食用には適していない。かつ武装しておりまあまあ強力なので、どうしても何かを食べなければいけない状況なら別の魔物を探した方が良い。

 

・デスファレーナ

鱗粉が粉っぽく、煮ても焼いても苦くてまずい。しかも毒を持ち、魔力もあるので、食べるならデスファレーナの幼虫を狙うこと。しかし幼虫も土っぽくて美味くはない。

 

・リンリン

×

 

・デンデン竜

マイエラ地方では最も美味とされる食材。肥満体型に見えるがそのほとんどが筋肉で、可食部が多い。肉は叩けば叩くほど柔らかくなり、肉汁もたっぷりなので、骨付き肉を丸焼きにして、塩を振るだけのワイルドな料理でも十分美味い。さらにわさびなど薬味を足すと同じ肉でも違う料理かのように新たな一面を見せてくれる。野菜などと一緒に煮込んでシチューにすれば栄養価を余すところなく摂取することができ、体も温まるのでオススメ。

 

・あばれうしどり

「デンデン竜」の次に美味で、どんな調理を施しても必ず美味くなる優秀な食材。牛のきめ細やかで上品なコクと、鶏の淡白だが深い旨味の両方の良いところを取っており、鉄分が豊富で元気が出る。一日中眠っている個体が多いので先手も取りやすく、サバイバルをするならばまずあばれうしどりだろう、というのがサバイバーたちの通説。ただ、新鮮なものでも生で食べるのはやめること。未確認の寄生虫が存在します。私は大丈夫でしたが、私の同行者がひどい目に遭いました。

 

・おおさそり

乾燥させると長持ちする保存食になる。その場で調理して食えないことも無いが、味、食感ともに「エビラ」の下位互換であるため、エビラを食べたことがある人には少し物足りないかも。甲殻を剥いて胡椒を振って乾燥させるだけで何故か香ばしく美味しくなる。ビーフジャーキーのような堅さと旨味が特徴。毒袋と尻尾、鋏は予め取り除いてから調理すること。

 

・マタンゴ

「おばけきのこ」と似ているが、こちらはいつも何かしらの粉まみれなので食べる際は水で入念に洗い流さないと呼吸器に異常をきたすことがある。それ以外はおおよそおばけきのこと同じで、バターを入れてホイル焼きにすると美味。食べ過ぎて中毒を起こさないように。

 

・ブラウニー

×

 

・ヘルホーネット

成虫は堅すぎる外骨格と神経毒のせいで食材としてはあまり好まれない(食べられないことも無いが)。反面幼虫と蛹に関しては珍味「ハチノコ」として美味であり、淡白な卵焼きか、もしくは白子のような味がする。砂糖醤油で煮付けて甘露煮にするとゲテモノっぽさも軽減されるかもしれない。しかしヘルホーネットの巣に近づくときは相応の準備をしていかないと、逆にこちらが肉団子にされるので注意。

 

・じんめんじゅ

葉っぱはやくそうになるが別に美味しいわけではない。やくそうが不足した際はありがたく拝借すること。

 

・ドラキーマ

ドラキーたちと同じ調理法が通用する。少し優しい味。捕獲の際に超音波を浴びないように注意すること。

 

・わらいぶくろ

×

 

・がいこつ

×

 

・ハエ男

どうしても生理的嫌悪が勝って味を試すことができなかった。においは肥溜めが一番近い。

 

・ミイラ男

病原菌が凄そうに見えるが、ミイラなので実際には病原菌すら死滅している。ただ土の中から現れる関係上、やはり菌が付着していることには変わりない。美味しくないのでお勧めしない。

 

・くさった死体

食えるか。「バブルスライム」に次ぐゲテモノ。

 

 

 

以降、詳しい調理の手順などが記載されている…あなたは気分が悪くなり本を閉じた。

 

 

 

 

 

 




同じ魔物でも、倒すのと食べるのとではまるで意味合いが違いますね…

直接的表現は避け、マイルドな感じにするように気を付けたのですが…思ったよりグロテスクなものになってしまいました。気分を害した方はまことに申し訳ございませんでした。


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幕間:(閲覧自由) ドラクエ新作をみんなで一緒に実況するスレpart1

掲示板形式に憧れていたので挑戦します!

「ドルマゲスくんが活躍するこのドラゴンクエストⅧが実際にドラクエ新作として発売されたら…」という妄想世界で建てられたスレッド。アニメなどではないので全員で同時にゲームを実況するとかいうかなり無理のある設定ですが…どうぞ温かい目で見守ってください。

ちなみに掲示板のノリは当時の物、昨今の物、ごちゃまぜです。ぜひ掲示板特有のわちゃわちゃした感じを感じてほしいです。

大体30人くらいでプレイしてる想定です。


閲覧自由です。作品の世界観を著しく損なう可能性があるため、メタフィクション的世界観が苦手な方は読み飛ばしていただいても大丈夫です。








 

 

 

1:名無しクエストⅧ(主)

ドラゴンクエストシリーズ完全新作「ドラゴンクエストⅧ」が11月27日の今日ついに発売!お前らもちろんもう買ってるよな?買ってない奴は今から買ってこい!

昨日スレ立てした通り、今から30分後の12時ちょうどからみんなで一緒にゲーム実況するぞ!

 

2:名無しクエストⅧ

おお 昨日のイッチか待ってました

 

3:名無しクエストⅧ

買ってきたぞー

待ちきれんから始めてええかー?

 

4:名無しクエストⅧ

>>3

楽しみなのはわかるがもうちょい待てステイステイ落ち着け落ち着け

イィィヤッフウウウウゥゥゥゥ!!!!

 

5:名無しクエストⅧ

wktkが止まらんぜよ

 

6:名無しクエストⅧ

なんだこのスレ

 

7:名無しクエストⅧ

PS2持ってねぇんだ…転売ヤー許すまじ

ソフトは買ってる

 

8:名無しクエストⅧ

パッケージのツインテの子が超かわいい件

俺もこんな幼馴染が欲しい人生でした

 

9:名無しクエストⅧ

>>8

性格キツそうだけど

 

今回の主人公、格好が勇者ってよりは冒険者って感じなんよな。まあドラクエの「旅」感が好きだから全然オッケーだけどさ。

 

10:名無しクエストⅧ

全然知らんけどどうせこの主人公も出生に秘密があるんじゃないの?どっかの王族ですーとか、人間じゃないですー、みたいな感じの。

 

11:名無しクエストⅧ

>>10

あってもせめてどっちかだろうな。王族と異種族のハーフとか血統ガチャSSすぎるだろ

 

12:名無しクエストⅧ

>>11

怪物過ぎて草

なろう系主人公かな?

 

13:名無しクエストⅧ

>>12

主人公「黙れ」机ドン!!周りビクッ!←これやろ

 

14:名無しクエストⅧ

そういえば主人公ネズミ連れてるよね。ペットかな?

 

15:名無しクエストⅧ

よし、主人公のニックネームは「黙れハム太郎」で決まり!

 

16:名無しクエストⅧ

 

17:名無しクエストⅧ

黙れハム太郎ワロタ

 

18:名無しクエストⅧ(主)

結構集まってきたな!よし、じゃあ定刻通りに始めるぞ!

実況開始!!

 

19:名無しクエストⅧ

待ちきれないよ!早く(合図)出してくれ!

 

20:名無しクエストⅧ

おk

 

21:名無しクエストⅧ

よしゃ

 

22:名無しクエストⅧ

PS2修理中ワイ、咽び泣く

 

23:名無しクエストⅧ

おk

 

24:名無しクエストⅧ

グラええなこれ

ええ仕事しとるやん

 

25:名無しクエストⅧ

この序曲すこ

 

26:名無しクエストⅧ

序曲良いね

 

27:名無しクエストⅧ

名前何にしよっかな

ゲレゲレにしよ

 

28:名無しクエストⅧ

主人公ゲレゲレは草

 

29:名無しクエストⅧ

スライムだぁかわいいなぁ

戦闘中も敵が動いてて臨場感あるね

 

30:名無しクエストⅧ

うーん。確かにグラフィックは綺麗だけど、町が立体的に入り組んでてちょっと酔う。こりゃ続けるのは無理そうかな。主人公も地味だし、メンツがチビの魔物と太ったおっさんって華が無さすぎでしょ。つまんな、売るわ。

 

31:名無しクエストⅧ

緑のおっさんが黒幕だと予想。

 

32:名無しクエストⅧ

俺は慣れたぞ

てか今作主人公…あ、黙れハム太郎めっちゃ喋るじゃん。RPGとは一体…

 

33:名無しクエストⅧ

ちょwwww町から出たらいきなりバトルレックスとエンカしたんだがwwwwww俺氏無事全滅wwww

 

34:名無しクエストⅧ

>>33

マ?バランス崩壊しとるやんけ…どこやそれ

 

35:名無しクエストⅧ

どうやってキャラうごかすの

 

36:名無しクエストⅧ

ドルマゲス?ってのがラスボス、もしくはラスト前ボスかね?どっちにしろキーパーソンではありそうだけど。城滅ぼした張本人らしいし。町民からヒント聞けなさ過ぎて分からなくなるが、今はコイツを追ってるんだよな?

 

37:名無しクエストⅧ

ヤンガスは最初から仲間なのね。人相悪いから最初お邪魔キャラみたいな感じで後々仲間になるタイプかと思ってたわ。スマソ

 

38:名無しクエストⅧ

トラペッタの町って最初の町なのに活気なさすぎないか?町民も元気ないしさ。なんか裏があったりするんだろうか。それともこのゲームのNPC全員こんな感じ?暗い作風的な。

 

39:名無しクエストⅧ

コミュ障ワイ、町の入り口でこっちの顔見てあからさまに失望した女の子と、小学時代に席替えで俺の隣になった時の女子の顔が重なり無事死亡

 

40:名無しクエストⅧ

入口の所で見た女の子、絶対イベントあると思うんだけどなー全然どこにいるかわからん。そういや町の端っこの空き家でメモ見つけたんやがお前ら知ってたか?

 

41:名無しクエストⅧ

>>40

見落としてたサンキュー

 

42:名無しクエストⅧ

>>40

井戸の前の家だけ入れなくなってるからそこが多分女の子の家。これって今じゃなくて後で来るタイプのイベントじゃないかなーおそらく。勝手な予想だけど。

 

43:名無しクエストⅧ

はえーこのゲーム昼夜システムなんやね。魔物の強さとか種類も変わったりするんやろか。ちょっと出てみるか。

 

44:名無しクエストⅧ

夜の酒場に行ったらイベント始まったな。

なーんかこの町きな臭いぞ…ワンチャンドルマゲスに洗脳されてる?

 

45:名無しクエストⅧ

町中に魔物おるんやがこれは放置しといてええのんか?

 

46:名無しクエストⅧ

>>45

ええんやで

というか話しかけても何も起こらん

 

47:名無しクエストⅧ

普通に次の町行くことになったんやが…え?この町これで終わり?絶対なんかあるやろ?

 

48:名無しクエストⅧ

イベント薄すぎて草

幸先悪いな

ちなワイどうしてもバトルレックス倒した過ぎてレベラゲ中

 

49:名無しクエストⅧ

お前ら、なんか滝の下にダンジョンぽいの有るぞ!気づいてたか?

 

50:名無しクエストⅧ

>>49

うわ、マジやんw

 

51:名無しクエストⅧ

ダンジョン入るかどうかはプレイヤーの自由ってこと?…まあ確かに自由度は高いし斬新なアイデアではあるか…

 

52:名無しクエストⅧ

ふぁっ!?ダンジョンなんかあるん?俺もう次の村行ってもたんやけど…

 

53:名無しクエストⅧ

どうやってキャラうごかすの

 

54:名無しクエストⅧ

滝の下もそうだし、滝の上にも家があるよ。ガタイのいいおっさんがなんか色んなアイテムくれた。

 

55:名無しクエストⅧ

ドラクエって最初のレベラゲと金貯めて新しい武器買う瞬間が一番楽しいよなぁw

 

56:名無しクエストⅧ

あ、そういえばマスター・ライラスって奴もトラペッタ出身なんだっけ。ドルマゲスが殺したらしいけど。あとサーベルトって奴。なんか町民にそれ言っても怒られるだけなんだよなぁ…

 

57:名無しクエストⅧ

ルイネロか何だかの占い師、探しても町のどこにもいないから多分鍵のかかった民家にいるんだと思う。

あーめんどくせ普通鍵開けとくだろ。

 

58:名無しクエストⅧ

>>57

不法侵入してタンスあさったり壺壊したりする不審者が出てるんやから

住民が自宅の鍵閉めてても別に責められる筋合いはないやろ

 

59:名無しクエストⅧ

フィールド探索できるのはいいね。ところどころで宝箱あるし。

ほとんど開けられてるけど。

 

60:名無しクエストⅧ

お前ら重要情報や

滝の洞窟の最深部におるマーマンに話聞いたらドルマゲスの話聞けるで

 

61:名無しクエストⅧ

>>60

詳細キボンヌ

 

62:名無しクエストⅧ

>>61

料理が上手いとかそういうのはどうでもよさそうやけど、ドルマゲスは人間でありながら魔物の技を使えるし、なんなら実力もめちゃくちゃ高いらしい。意訳やけど、このままサクサク進んでいったら間違いなく全滅するとか何とか

要はレベル上げ必須ってことかね

 

63:名無しクエストⅧ

フリーダンジョンの奥にいる魔物にそんなこと言わせるとかこのゲームも大概不親切だな。まあRTA勢ははかどりそうだが。

 

64:名無しクエストⅧ

ゼシカきちゃああああああ

かわいいねぇ

 

65:名無しクエストⅧ

おやおやおやおや…ゼシカは可愛いですね

 

なんだぁ…てめェ…?

随分とイライラさせるオスガキだな(豹変)

 

66:名無しクエストⅧ

リーザスの村に入村するときメタッピーとすれ違ったんだけどこの世界のモンスターの扱いってどうなってんの?

モンスターと共存できるなら別にパトロールとか必要なくない?

 

67:名無しクエストⅧ

いやフィールドのモンスターは普通に襲ってくるだろ

飼いならしたんじゃね?

 

68:名無しクエストⅧ

>>68

マシン系のモンスターをか…?

 

69:名無しクエストⅧ(主)

あれっ、ゼシカ仲間にならんまま村のイベント終わっちゃったけど。

ところでドルマゲスが殺したサーベルトってゼシカの兄ちゃんだったんだな。

 

70:名無しクエストⅧ

これゼシカも若干洗脳入ってる?ドルマゲスはリーザスの村にも来たらしいし。

洗脳されたけど兄の死で解けかかってるとか。

 

71:名無しクエストⅧ

トラペッタから真っ直ぐリーザスの村に来たんだが敵強くないか?夜出歩いてたらかぶとこぞうめっちゃ出てきてハメ殺されたんだが…

 

72:名無しクエストⅧ

テンパった屋敷の衛兵に殴られるトロデで草

こいつほんとに王様なのか?魔物の国とかあるのかな。でも家臣の主人公は明らかに人間だしな…

 

73:名無しクエストⅧ

どうやってキャラうごかすの

 

74:名無しクエストⅧ(主)

おお、ゼシカが仲間になった。同時に屋敷の回想シーンも流れてるな、うんうん良い話だ。

 

75:名無しクエストⅧ

東に塔があるけど、今は入れない感じかな。鍵がかかってるわけじゃないみたいだけど押しても引いても扉がびくともしないわ。もしかしてこのゲームって周回必須な感じ?

 

76:名無しクエストⅧ

浜辺の魔物強すぎだろ!

なんで浜辺に魔物がいんだよ教えはどうなってんだ教えは

お前ら禁じられた攻撃(麻痺付与)を平気で使ってんじゃねえかわかってんのか!?

 

77:名無しクエストⅧ

>>76

だって便利だし

これがしびれくらげの本質だ

 

78:名無しクエストⅧ

おー流石にポルトリンクには強い武器が揃ってますなー

スキルポイント制ってのも新しいシステムだし、何に振るのがいいんだろうか?

みんなは黙ハムにどんな装備させた―?

 

79:名無しクエストⅧ

ブーメラン最強!ブーメラン最強!

 

80:名無しクエストⅧ

>>79

黙ハムとかいうニックネームに草

最強なのは槍に決まってんだよなぁ…

 

81:名無しクエストⅧ

>>80

剣に決まってんだろ常考

 

82:名無しクエストⅧ(主)

よーし、船着き場まで来たら今日は一旦休もうぜ!明日も休みだし、ちょっと寝たらまたみんなで再開しよう!

明日はまた別の奴がスレ立てしてくれてもいいぞ!抜け駆けは自由だが、ネタバレは禁止な!!じゃあまた明日!

残りは考察の時間にでもしようぜ!

 

83:名無しクエストⅧ

>>81

初見で格闘に振るのは無いとして、黙ハムのゆうきスキルってなんなん?

 

84:名無しクエストⅧ

おつー

 

85:名無しクエストⅧ

おつデスラー総統!楽しかったー

 

86:名無しクエストⅧ

おつ!いやあ今までにないタイプのドラクエでしたなー

グラフィックもいいし、一発目からフリーダンジョンだし。主人公ペラペラだし。

 

87:名無しクエストⅧ

ゼシカかわいい(小並感)

 

88:名無しクエストⅧ

ヤンガスの喋り方もなんかクセになるよね。トロデとの掛け合いもいい感じだと思う。

ミーティア姫ってのがよく分からんよな。本当にトロデが王なら馬とトロデは親子なんだろうけど。

 

89:名無しクエストⅧ

>>88

イベント飛ばしてんのか??トロデとミーティアは王国がドルマゲスに襲撃された際に呪われてあんな姿になってるだけで普通に元は人間やぞ

 

90:名無しクエストⅧ

どうやってキャラうごかすの

 

91:名無しクエストⅧ

くそう…このスレ追ってるだけの自分がほんとに情けない…ちょっと高額だけどネットで買うかPS2…

 

92:名無しクエストⅧ

>>91

転売ヤーの思うつぼで草

 

93:名無しクエストⅧ

ここまでちょっと考察してみたんだが、聞いてくれるか?

もしかしたら、主人公とは別で勇者的な人物がいたのかもしれないと俺は予想してる。それなら道中の宝箱が開けられてたり、ダンジョンに行くフラグが建たないのも納得がいくし。トラペッタの町民は話しかけてもドルマゲスのことしか言わないが、それは勇者についての描写をドルマゲスが洗脳で上書きしているんじゃないかな。ドルマゲスは進んでるんじゃなく逃げてて、勇者がそれを追いながら行く先々でイベントを解消してるとかどうだろう。主人公と別に勇者がいるなら、主人公の服装が戦士じゃなく旅人っぽいのも、主人公が珍しく饒舌なのもキャラ被り防止って点で筋道は通ってると思うんだが。

 

94:名無しクエストⅧ

>>93

もうこれじゃん

 

95:名無しクエストⅧ

ねえ>>93、ネタバレやめなよ

 

96:名無しクエストⅧ(主)

ちょっと証拠に欠けるが十分有力な説だよな。となると町(洗脳)や村(ゼシカ引きこもり)とかの問題が解消されてないまま勇者が去ったのはドルマゲスを急いで追いかけているからってことか。人間と共存してる魔物についてとかまだまだ不明な点も多いけどな。

 

97:名無しクエストⅧ

うう…もっと先に進めたいが、お前らと一緒に楽しみたいから俺も今日はここまでにしとくかァ~~~!!

 

98:名無しクエストⅧ

ザバンとかいうマーマンがドルマゲスについて話をしとったけどさ、俺は地味に「料理が上手い」描写も重要じゃねぇのって思うわ。ドルマゲスは人間と魔物のハーフとかじゃないの?だから魔物の技も使える。でも人間としての誇りも失わないために食事はちゃんと料理してる。どうよ?

 

99:名無しクエストⅧ

半魔の人間とかこの世界じゃ嫌われるだろうなぁ。

いや、でもこいつら魔物と共存してるよな。なんかわからんくなってきた

 

100:名無しクエストⅧ

とりま明日のスレを待つってことでおk?やっぱ久々のゲームはワクワクするな!イッチ、明日もスレ立て期待しとるで!!

 

 







難しい…でも楽しいですね!掲示板!
明らかに2007年発売当時にないネットスラングが溢れてますが気にしないでください。

続きは次の幕間で書くかもしれません。書かなくても怒らないでね。書くつもりだけど。


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ACT3:アスカンタ国領~パルミド地方
第十六章 新兵器と音痴土竜


飽き症の私ですが、なんとかこれまで小説を書き続けることができています。これも反応を下さる皆様のおかげです。いつもありがとうございます。








ハロー、いつも元気な道化師ドルマゲスです。いやあ、久々に大暴れできる機会が頂けて腕が鳴りますね…しかも今回はトロデーンのように切迫した状態でなく、アスカンタ王から大義名分を頂いている、というこの上ない条件です。色々試しちゃいましょうかねぇ!ドリィ、モグラ殲滅するます!ドリィワクワク!!

 

 

 

 

─アスカンタ城地下─

 

俺とサーベルトは暗い洞窟を『レミーラ』の呪文で照らしながら進んでいった。余談であるが、『レミーラ』はどうやら『ジゴフラッシュ』と同系統の呪文らしく、俺が『ジゴフラッシュ』を覚えると『レミーラ』も唱えられるようになった。同時に『レミラーマ』も覚えたが、特にこれといった使い道が思い浮かばないので今は置いておく。…別に光が無くても進めないわけではないが、あった方が足元が安心だ。それに…

 

「サーベルト!あれです!」「よし来た!」

 

光で照らしてやると「おどる宝石」が反射でキラキラ光るので簡単に位置を特定できる。おどる宝石はそこまで多くのゴールドを落とすわけではないが、それは本体を倒してしまっているからだ。宝石部分だけを奪って浄化して魔力を抜き、市場で換金すれば素晴らしい大金になる。俺たちは三匹ほどの「おどる宝石」を「おちこむ巾着袋」に変えてやった。よ~し、また大金集めて戻っておいで。

 

しばらく進むと外が明るくなってきて、地上に出た。ここはアスカンタ城の北部だ。ここからさらに北上すれば今回の事件の犯人が生息する「モグラのアジト」がある。

 

「あれ…地上に出てしまったようだが…?」

 

「ご心配なく。ここから北に進めば犯人たちの棲む洞窟があるのです。」

 

「なるほど。…人の大切な宝物を盗んでいく卑劣漢め、俺が叩きのめしてやる…!」

 

俺たちは途中の魔物を適当にあしらいながら洞窟へと歩を進めた。仲間を呼ぶ「マドハンド」など厄介な魔物もいるにはいるが、ブレス系の攻撃で一網打尽にすれば問題はない。俺は再度『レミーラ』を唱え、今度こそモグラのアジトへと侵入した。

 

 

 

─モグラのアジト─

 

中はまるで迷路のようだ。ほとんど一本道だった「滝の洞窟」や「旧修道院跡地」と違い、分かれ道も多い上、似たような景色がグネグネと曲がりくねりとても迷いやすい。これがゲームならマップが重宝されるのだが、生憎そんなものは無い。俺は一度通った道を忘れないよう10mほどの間隔で『レミーラ』を設置していった。サーベルトはというと、襲ってくる「マッドドッグ」や「キラースコップ」を俺が手を貸すまでもなくボコボコにしており、それを見た他の魔物は若干引いているようだ。

 

「サーベルト、ほどほどにしておいてくださいよ…」

 

魔物たちの顔が少し安心した顔になった。

 

「…私の分も残しておいてくださいね…!」

 

俺がそう言いながら魔物たちの方を振り返ると、そこにいた数匹の魔物たちはショックで気を失ったり、死んだふりをしたりした。俺は生憎、嗜虐心なるものは持ち合わせていないがこういうのはちょっと面白い。高校の文化祭でお化け屋敷の運営側に立っているような気分だ。

 

地下二階に到着すると、いよいよモグラたちの本拠地ということもあって、魔物たちの勢いが強くなっていった。

 

「くっ…囲まれたか!」

 

気が付くと俺たちは20を超える数の魔物に包囲されていた。俺は別にここらのベルガラック地方の魔物かそれ以下の強さしか持たない魔物に負けるつもりはないが、油断してやるほど甘くもない。

 

「…サーベルト、それではここで私の新発明を披露いたしましょう。仮想自律戦闘人形(プロトオートマター)『バイラリン』です!ハイ拍手!」

 

俺がちょっと恥ずかしいのを誤魔化すようにサーベルトに拍手を促すと、サーベルトは怪訝な顔一つせず拍手してくれた。お前のそういうところ好きだぜ。俺は腕を大きく振って『賢人の見る夢(イデア)』でひときわ大きな空間を開くと、中に入り馬車二つ分ほどの大きな物体を起動させた。これだけ数の差があれば大丈夫だろうと余裕の表情をしていた魔物たちも一変、不安の感情が伝播し始める。物体は低い駆動音を唸らせながら内蔵された4本の剣を展開し、魔物に標的を定めて4本の脚を動かし攻撃を開始した。

 

「これは…魔物か…?」

 

「いいえ、魔物の細胞や人工筋肉を使用していますが、大部分は金属でできた機械兵器です。今回はお披露目、この子が主役なので我々は少しここで休みましょう。紅茶でも淹れましょうか。」

 

俺は椅子を出し、唖然としているサーベルトを座らせた。ふふん、驚いたか。これぞ俺の試作兵器『バイラリン』だ。ベースは精錬を繰り返した高純度の鋼、形状モデルは「バベルボブル」。バランスの悪さを多脚化することでカバー。「バベルボブル」特有の無駄行動も機械なのでもちろん無し。その脚はほとんど「スキッパー」の細胞を使っており、戦闘中は自律的に相手に『ボミオス』をかけ続けるデバッファーの役を担う。『ボミオス』をそんなに連打する必要があるのかという話だが、『バイラリン』は俺たちの苦手な対多数戦を想定しているので、新手が登場した時に即座に先制を取れるようにしているのだ。4本の可変性六軸アームソードも「サーベルきつね」「さまようよろい」「くびかりぞく」「ぼうれい剣士」という全く異なるスタイルの剣技をラーニングさせてあり、それら全てをランダムにスイッチしながら繰り出すのでさばききることはほとんど不可能のはずだ。また「エビルスピリッツ」など一個体に複数の意識を持つ魔物の細胞を核にしたパラレルリンク機構を上部と下部に一つずつ設置することでより自然な動き、かつ頭部の制御ノードの負荷軽減も担っている。

内界センサはあるがフィードバックがうまく機能していない事や、外界センサがサーモグラフィセンサと超音波距離センサしか搭載していないので、輪郭があやふやで、体温を持たない「あやしいかげ」など一部の魔物には全く太刀打ちできない事など改善点も多い、がこのダンジョンでは大いに暴れてくれるだろう。ゲーム的に言えば「毎ターンボミオスを4回唱えてきて、攻撃が必ず当たる4回行動のすごく守備力とHPの高い敵」だ。俺だったら絶対相手にしたくない。

 

『バイラリン』はアームソードを振り回し、的確に魔物を戦闘不能にしながら進撃していく。魔物たちも応戦するが、せいぜい外殻に傷をつけるくらいしかできない。こいつをぶっ壊したかったら原作ドルマゲスかマルチェロでも持ってきやがれ!

大勢いた魔物のほとんどを蹴散らし、俺が心の中で勝ち誇った瞬間、『バイラリン』は沈黙してしまった。

 

「おいドリィ…動かなくなったが。」

 

「そんな、まさか魔力切れ!?最大まで充電していたはずなのに!」

 

こんなに消費魔力が多いと思わなかった。やはり実践段階に入ると研究段階では見えないものが見えてくるな。…仕方ない。周囲の安全を確認して俺は『バイラリン』を収納すると、端っこで縮こまっている「いたずらもぐら」を尋ねた。

 

(あなたたちの親玉はどこですか)

 

「あ、あんた、ボスの命を狙っているのか!?く、口が裂けても言うもんか!」

 

このいたずらもぐらは人語が通じるタイプだったか。少し勘違いしているようなので訂正しておく。

 

「私たちはこのアジトの魔物を掃討しに来たわけではないです。貴方たち、もしくはここのボスはつい最近、南のアスカンタ王国の宝物庫に侵入し、物品を盗み出したでしょう?私たちはそれを取り返しに来ただけです。」

 

「…くそ、アスカンタの追手がこんなに早く、しかもこんな化け物が来るなんて聞いてないぜ…!本当にボスや俺たちを殺さねぇって約束できるならついてきな!」

 

「ええ、約束します。ね、サーベルト?」

 

「ああ、俺たちは別に戦意のない魔物まで殺めるつもりはない。悪事を犯した以上反省はしてもらうがな。」

 

俺たちはいたずらもぐらに着いていき先に進んだ。やはりダンジョンは内部構造を知る者に案内してもらうのが一番手っ取り早くて安心だ。アジト最奥に到着すると、途端に酷い歌声が響き渡り、俺は思わず耳を塞いでしまった。

 

「なん…これは酷い…頭が割れそうだ…!」

 

「あ…あの歌声の主が…貴方たちの親玉…ですね…?」

 

「そう…だ…」

 

歌声は歪なハープの音色と負のハーモニーを奏で、天井にぶつかって洞窟中に反響する。全く酷い。あたりを見回すと、子分のモグラたちも立ったまま気絶していたり、目を回してぶっ倒れていたりと酷い有様だ。サーベルトも俺もこのままでは近づくことすらできない。俺は『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』の応用で鼓膜に入って来る音を消した。手を繋いでサーベルトの音も消す。…かわいそうなのでいたずらもぐらの手も取って音を消してやった。

 

「流石はドリィだな!」

 

「なんだ…?音が…これ、あんたの仕業か?」

 

何を言っているのか聞こえんがまあいい。俺たちはそのまま騒音の元凶─『ドン・モグーラ』の前まで来て波長を元に戻した。う、うるせぇ…ドン・モグーラは俺たちが来たことにも気付かず楽しげに歌い続けている。反面、周りにいる側近のモグラたちはすっかり生気を失ってうんざりした顔だ。

 

「よお…どうしたお前…ニンゲンなんて連れて来てさ…」

 

「ああ…こいつらどうもアスカンタの追手らしくてさ。盗んだものを返せって言ってやがんの。」

 

「ええ…なんでそんな奴をここに連れてくるんだよ…」

 

「それがよぉ…こいつらバカみてぇに強いんだ。だから余計な被害が出る前にボスの所へ連れてきたってわけ。」

 

「そうか…なあアンタ、俺たちのボスは人の物をすぐ盗みたがるクセと下手の横好きの歌さえなけりゃあ部下想いの優しいボスなんだよ…アンタがほんとに強いってんならボスを止めてあのハープを取り上げてくれ…」

 

本来テンションを上げて攻撃してくるはずのいたずらもぐらたちのテンションがあまりに低いのでなんだかこっちまでしんどくなる。

 

「え、えぇ。もちろんです。任せてください。」

 

俺が側近のモグラに向かって胸を叩いたところでようやくドン・モグーラがこちらに気付いた。

 

「いいっ!ものすごくいいモグッ!ワシの芸術性をこのハープがさらに高めているモグッ!!……んん?おお!そこのお前ら、見かけない顔モグがワシの歌を聞きに来たモグか?」

 

このドン・モグーラ、歌っている時は本当に楽しそうなので、趣味の邪魔をすることに一抹の罪悪感もないではないが…そもそもあの「月影のハープ」はアスカンタ王国のものだし、これ以上あの歌を聞くと体調が悪くなりそうなのでキッパリ言うことにする。

 

「いいえ、モグラの親玉さん。我々はアスカンタ王の勅令で奪われた国宝を取り戻しに来ました。あなたの歌を邪魔する気はありませんが、そのハープはアスカンタの国宝なのでお返し願いたく。」

 

俺はできるだけ恭しく振舞って穏便に済ませようとしたが…。

 

「何!?ワシの芸術の友、『月影のハープ』を奪いに来たモグか!?モグググググ…ゆるさーん!」

 

…まあ、こうなるよね。

 

「サーベルト!来ますよ!これを装着してください!」「おうっ!」

 

俺はサーベルトに混乱を防ぐ「理性のリング」を渡し、続いて『バイキルト』をかけた。ドン・モグーラが初手で繰り出してくる『芸術スペシャル』は敵味方全体に混乱を引き起こす厄介な技だが、混乱さえしなければそこまで恐くない。俺は耳を塞いで襲い来る()()()()()をやり過ごすと、『バギクロス』を唱えた。大気を圧縮し真空の刃で敵を斬りつけるバギ系の呪文を洞窟など閉鎖された空間で使うと、少し空気が薄くなる。気圧と大気密度が下がるので音は小さくなるのだ。これで次の『芸術スペシャル』は軽減できるだろう。俺は後方援護なのでそこまで支障はないが、多くの酸素を必要とする剣士のサーベルトには頑張ってもらいたい(他人事)。

 

「なんか…ッ苦しくないか…ッ!?」

 

「き、気のせいデスヨー…!あ、あっそーれ!ハッスルハッスル~!」

 

サーベルトが何度も相手を斬ったり薙ぎ払っている間、俺は『ハッスルダンス』を踊って誤魔化した。

 

「ハァ…ハァ…モググググ…!小癪な…!」

 

ドン・モグーラは自慢の歌が空気の薄さと風の音でかき消されるのが気に入らないようだ。…しかし子分たちが心なしかホッとしているように見えるのは俺だけだろうか。とりあえずこのまま一気に畳みかける。サーベルトに再度『バイキルト』そして『ピオラ』をかけ、『守滅の刻』で敵味方の守備力を大幅に下げた。

 

「サーベルト!」

 

「でやあああぁぁ!!」

 

高く飛び上がったサーベルトの大上段切りが会心の一撃となりドン・モグーラはついに倒れた。結構タフだった。

 

「…もぐふっ…」

 

「ああっ!ボス!」

 

子分たちが倒れたドン・モグーラの元へ駆け寄る。彼らの高い忠誠心の出どころは社会を形成するモグラモンスターに属しているから、という見方もできるだろうがやはりドン・モグーラが社会のボスとして優秀だったからには違いない。殺すには惜しい男だ…いや元からそんなつもりないけど。

 

「さあ!お前たちの親玉は敗れた!宝物を返してもらおう!」

 

「…仕方な」「いやいや、サーベルト。ここからですよ。」

 

俺はボロボロのドン・モグーラに『ベホマ』をかけた。サーベルトはもちろん、モグラたちも驚いている。

 

「も、モグッ…!?」

 

「ど、ドリィ!いったい何を…!?」

 

「まあまあ、悪いようにはしないので…さて、モグラの頭領ドン・モグーラ。…まず宝物は返してもらいますがよろしいですね?」

 

「…負けは負けモグ。奪ったものは返すモグ…。」

 

ドン・モグーラはしょんぼりとして言った。

 

「よろしい。これでアスカンタの使者としての私の任務はほぼ完了です。……ではここからは対等な存在として、『私個人』と取引しましょうか。」

 

「…!」

 

「おいっ!お前!それはどういうことだ!!」

 

「…いいモグ。おい、お前の名前は何と言うモグ?」

 

「私の名はドルマゲス。…以後お見知りおきを。」

 

 

 

ラプソーン、見てるか?聞いているか?お前が杖の中で燻っている間に、俺はどんどん止められなくなるぞ。最初の端末に俺を選んだことをせいぜい今のうちに後悔しておくんだな。必ず…お前の魂を引きずり出して消し去ってやる。

 

 

 

 

 

 








ロボット工学にも疎いので指摘が入る未来が見える見える…だって、ロボットってかっこいいじゃん!憧れは誰にも止められねぇんだ!(ナナチ)



『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』を応用し、身体から逆相位の音波を発することで逆に外界の音を遮断する、いわゆる“ノイズキャンセリング”を再現する呪術。また自分の音だけを消すこともできる。他にも姿だけを消したり、気配だけを消したりすることも理論上は可能である(が、使い勝手はよくないので登場させるかは未定)。



『バイラリン』について
ドルマゲスがその肉体の優秀な頭脳スペックをフルに行使して夜な夜な開発を進めていた仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)の対多数用新型戦闘マシーン。あくまで「防衛」が目的のセキュリティサービスとは違い、バイラリンは「殲滅」を目的としている。ドルマゲスの綿密な実験と調整の下、どんな状況でも決して人間を襲うようなことは無いが、それ以外の誤動作はまだまだ多い試作品。ラスダンの魔物に紛れても見劣りはしない性能を持つが、めちゃくちゃ燃費が悪い。


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第十七章 夢のマイ拠点と小間使いの夢

幕間を二つ、挿入投稿しました 2022/11/03
どちらも閲覧は自由ですが、趣味全開で書いたグルメレポートの方はともかく…掲示板の方はほんの少しだけ本編の補完が入っているので閲覧していただければと思います。

ちょっと長くなっちゃった。







ハロー、お気に入りの『道化の衣装』が土で汚れてしまったのでちょっとブルーな道化師ドルマゲスです。先の戦闘、本当はもう少し早く終わるはずだったんです。こちらは二人ですが、レベルは大きく離れているので。しかしどうも火力が足りません。ええ、私のです。サーベルトはうまくやってくれているので…はてどうしたものか…。

 

 

 

 

「ドルマゲスか…ではドルマゲス、条件を言うモグ。お前はワシに何を求め、何を差し出してくれるモグ?」

 

俺たちとモグラの戦いは第二ラウンド…「話し合い」に突入した。子分のモグラたちはボスを止めようにも止められずモジモジしている。サーベルトも話し合いとなると自分の出る幕はないと察したのか体育座りをしている…なんか申し訳ないな!俺はとりあえずその場にいる全員分の椅子を用意した。サーベルト、俺も鎧を装備してたから分かるんだが、鎧を装着したまま体育座りをするのは本当に腰に悪いので辞めときなね。腰痛は冒険者の天敵よ。

 

「私の要求は二つ。一つはこの『モグラのアジト』のあなたたち魔物の居住区を除く全ての領地を私に譲渡すること。もう一つは私にあなたたちの労働力を提供すること。以上です。」

 

「…は?なんだよそれ…ッ!お前、俺たちを馬鹿にしてんのか!?」

 

「落ち着けモグ。まだ交換条件を聞いていないモグ。」

 

「そういうことです。その見返りは、あなたたちに私の領土に進入し、その各種施設を無償で利用できる権利の付与。…私はここを研究所兼拠点兼避難所兼工場兼……とりあえず超大型の複合施設に作り替えたいのです。あなたたちは私の下でパーク建設の手伝いをしてもらいますが、その代わり完成したら自由に施設を利用してもらって結構です。」

 

「……」

 

「…ワシらが利用できる予定の施設にはどんなものがあるモグ?」

 

「そうですねぇ…」

 

俺は前々から考えていたこの計画の企画書を異空間から引っ張り出してきてペラペラめくった。洞窟の中には俺がページをめくる音と松明がパチパチと弾ける音しかしない。さきほどまでの騒音が嘘のようだ。

奥からモグラたちがアスカンタの宝物を持ってきてサーベルトに渡している。なんか面白そうなものばかりだけどまあ後でいいや。

 

「…ええとですね、あなたたちが興味を引きそうなもので言うとまずコンサートホール。」

 

ドン・モグーラの身体がピクッと動いた。

 

「そして大衆食堂。仮眠室休憩室娯楽室、マッサージルーム。」

 

子分たちの身体もピクッと動いた。

 

「後これはきちんと代金を支払ってもらわねばなりませんが、服飾雑貨や武器防具、道具屋銀行宿屋に酒場、古今東西何でもござれです。無い店はぱふぱふ屋くらいですかね。ああ、それとこれは餞別です。何なりとお使いください。」

 

相手に反論の暇を与えず俺は懐から特製のハープを取り出し、ドン・モグーラに手渡した。

 

「おお!これは!!」

 

「月影のハープは返していただきますが、あなたの趣味を奪ったお詫びです。ぜひこの場で一曲聞かせていただけますか?」

 

その言葉に子分の顔から血の気が引いていく。サーベルトなんかはもう耳栓をして兜をかぶり椅子の下に避難している。準備良すぎだろ。

 

「そうか?そんなに聴きたいモグか??仕方ないモグ!それでは一曲…」

 

行けるか…?俺は内心冷や汗をかきながら腕を組みその場に仁王立ちをした。ドン・モグーラが口を開いた瞬間絶望的な音が…と思ったが、…うるさい。いや確かにうるさいことはうるさいのだが、実際はそこまで耳障りな音ではなかった。よし、うまく行っているようだな。

 

「あ、あれ…そこまで…酷くない?」

 

「…声は相変わらずバカでかいが頭が割れるような痛みはないな。耳は痛いが。ドリィ、どういうことだ?」

 

「音痴と歌上手は紙一重、というやつですね。あれは私が細工をし、受けた音波に対してそれに対応する和音が強制的に発生する呪いをかけたハープです。ハープ自体はアスカンタで購入しました。どんなに破壊的な歌下手でもあのハープを持っていればハープの音色が(ある程度は)オブラートに包んでくれます。」

 

「おおっ!よく分からんが…これなら辛うじて聴ける!これでボスの歌に怯えなくて済むぞ!!」

 

「「うおおー!!」」

 

ワッとモグラたちが沸く。気が付くとモグラたち、というかモグラのアジトの魔物たちが続々と集まってきていた。いつの間に…戦意はないようなので特にどうするわけでもないが。特にモグラの子分たちは涙を流して喜んでいる。そんなにか!…いや、まあそうなのか…?あの様子じゃ、アスカンタからハープを盗む以前から定期的にジャイ〇ンリサイタルは開かれていたと見える。心中お察しします。

 

そんな言葉は聞こえていないドン・モグーラは、単純にギャラリーが増えたと喜んでいた。とりあえず一曲…一曲終わったよな?魔物の歌の区切りはよく分からん。…が終わったところで俺はすかさず話を進めた。

 

「さて!(大声)ドン・モグーラ、この取引、受けていただけるでしょうか。」

 

「おお…ふむ、お前を疑うわけではないが、再度確認しておくモグ。ワシらがのむ条件は①アジトのほぼ全域をお前に譲渡すること。②ワシらを労働力としてお前の拠点建設に貢ぐこと。で、お前がのむ条件は①拠点建設後、ワシらに拠点内施設を自由に利用できる権利を付与すること。②このスーパーでスペシャルなハープをワシに完全譲渡すること、で間違いないモグ?これ以外の条件があるなら今明らかにするモグ。後出しは許さんモグ。」

 

…やはり切れ者だ、ドン・モグーラ。彼はアホだがバカではない。それは人語を解し、使いこなすほどの頭脳もそうだが、組織のトップとしての自覚・風格・実力は持っているし、加えてこの威圧感。さっきボコボコにされた相手にこれほどまでの威圧感を与えられるものなのか…?

 

「…いいえ、基本的な条件はそれだけです。副次的な『ルール』はありますが、『条件』に優先されるようなものはありません。拠点建設開始後、別途指示します。(別にハープはいいんだけどな…まあいっか)…ではその条件で契約をしましょう。この契約書にサインを。」

 

「…それだけ分かればワシから言うことは無いモグ。…よし!ではその条件でワシ、ドン・モグーラはドルマゲスと契約を結ぶモグ!」

 

部下に確認とか取らなくていいのか…?そう思ったがモグラたちは特に抗議するような動きを見せない。信頼の表れだろうか。俺が紙とペンを渡すと、ドン・モグーラは意外と器用に署名した。へー、人語の文字なんていつ覚えたんだか。

 

取引成立(ディール)!ありがとうございました。」

 

「ようし、せっかくいいハープを貰ったからには頑張って働くモグ!お前たちもしっかり汗を流すモグよ~!」

 

「「おお~~~!!!」」

 

俺は一旦アスカンタへと帰ろうと思ったが、せっかくテンションが上がっている彼らを放置して冷めさせるのももったいない。俺は『悪魔の見る夢(アストラル)』で二人に分裂し、俺Aは現場監督としてアジトに残り早速指揮を執ることにした。

 

「さあ、宝物も取り返したことですし、パヴァン王に報告しに行きましょう!」「ああ!」

 

俺は『リレミト』『ルーラ』を使いサーベルト共々アスカンタへと舞い戻った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─アスカンタ城─

 

キラは事の顛末を王から聞き、居ても立ってもいられず王の間をずっとうろうろしていた。その様子が特段目に付いた、というわけではなかったが、見かねたシセル王妃がキラを咎めた。

 

「キラ…そんなに心配しなくてもドルマゲスは大丈夫よ。」

 

「じ、女王様…しかし、北の魔物たちは強力な者たちばかりなのでしょう…?我がアスカンタの軍も北側の魔物には手を焼いていると耳にします…。もしドルマゲス様たちに何かあれば…と思うと気が気ではなくて…」

 

目線を下げ、両掌をあわせてキラは不安そうにその小柄な身体をモジモジさせる。パヴァン王はそんなキラを見て何かを考えているようだ。

 

「大丈夫。逆に考えてみて、キラ。私の身体が地に打ち付けられる直前に助けてくれたドルマゲス。あなたがお休みをもらって里帰りする際に、襲ってきた魔物を颯爽と撃退したドルマゲス。そしてさっき自信満々といった風に魔物のアジトへ踏み込んでいったドルマゲス。ドルマゲスが負けるところなんて想像できる?」

 

「!」

 

「…」

 

「…いいえ、できません。申し訳ありませんでした女王様。…私たちが今できることはドルマゲス様の無事を信じて待つことのみですよね。」

 

「うふふ、分かればいいのよ。」

 

シセルは満足そうに微笑んでキラの頭を上げさせた。代わりにパヴァンが口を開く───と同時に大臣が王の間へ駆け込んできた。

 

「王!ドルマゲス達が帰還いたしましたぞ!!」

 

「なに!それは本当か!シセル、行こう!」「ええ、行きましょう!」

 

「ドルマゲス様がお帰りに…!わ、私も…!」

 

 

俺たちは正門の衛兵にせめて靴の泥くらいは落としてくれと叱られた後、アスカンタ城に入って王の間へ向かっていると、二階でアスカンタ両陛下と丁度鉢合わせた。王と王妃自らお出迎えとはまるで国賓扱いだ。少しむず痒がっているとパヴァンはもう一度王の間へ戻ろうと言った。なんかごめんなさいね。

 

「二人とも、本当によくやってくれた。そんなにボロボロになってまで…」

 

いいえ、これはただの泥です。と言いたいが、せっかくなら労ってもらいたいので黙っておこう。

 

「いいえ、これはただの泥です。」

 

いや言うんかーい!…まあサーベルトはその素直で純朴なところがいいよね本当に。モテるんだろうなぁ。パヴァンは目を丸くした後、笑い始めた。どうやらサーベルトの正直な物言いがお気に召したようだ。

 

「あっはっは!そうか泥か!つまり苦戦せずに任務をやり遂げたということだね?流石はドルマゲスの護衛。侮っていたわけではないが…見事な腕前だね。」

 

「…身に余る光栄でございます。」

 

騎士として完全になりきっているサーベルト。今度礼儀作法とかちゃんと教えてもらおうかな。こっちにきてからほとんどの時間トラペッタにいたから正しい礼儀作法とか知らないし。パヴァンは優しいからちぐはぐな礼儀作法でも許してくれるが、高慢ちきで短気なチャゴスとかなら少しでも無礼な態度を取れば処刑だなんだと騒ぎだすだろう。サザンビーク王であるクラビウスがしっかりしている人物なので処刑はされないだろうが、絡まれるだけで面倒だ。

 

「して、宝物は…」

 

「すべてこちらに。」

 

俺とサーベルトは、ハダカでは悪いだろうと宝箱(からばこ)に入れておいた国宝の数々を取り出して献上した。原作では明らかにハープしか取り返してなかった(しかもそのままイシュマウリに渡した)が、宝物庫を見る限り国宝は複数あったとみて間違いはないはずなので、とりあえずモグラが持っていたものは全部持ってきた。

 

「ふむ。うんうん。なるほど。…うん。全部戻ってきたようだな。」

 

「本当にありがとうございます。謹んでお礼申し上げますわ。」

 

「いえいえ、こちらこそアスカンタの宝物が無事でなによりです。」

 

俺が両陛下に恭しくお辞儀をすると、王妃の後ろから姿を現したキラちゃんがおずおずと近づいてきた。

 

「おや、キラさん。さっきぶりですね?」

 

「ど、ドルマゲス様…!お怪我はありませんか?どこか痛いところは…」

 

「全くありません。このようにほら、五体満足、元気一杯です!」

 

俺はその場でギリギリさそわれないくらいの「さそうおどり」を踊った。

 

「よかった…。やはり、ドルマゲス様はお強いのですね…」

 

「あはは、それはこのアインスがいたからに決まっています。私はそこまで強くありません。」

 

「そっそうでございましたか!申し訳ありませんでした…」

 

「いや、ドルマゲス…俺は…」

 

あれー。なんか変な雰囲気になっちゃったな…どうしよう。キラちゃんはなんかモジモジしてるし、サーベルトは目を伏せて俯いている。妙な空気を察したか、パヴァンが助け船を出してくれた。

 

「…本題に入ろうかドルマゲス。取引の件だが…君の要求は何かな。」

 

今度は王との取引だ。一日に二回も大きな取引をするとは、今日は運がいいのかついてないのか…。まあどっちもこちらから取り付けた取引なんだけどね。…さあここが正念場だ。これがだめならちょっと面倒なことになるからな。

 

「…私の要求は一つ。王国が領有する、アスカンタ城以北の土地の領主に私を任命してほしいのです。」

 

「そんなことなら容易い。今すぐにでも土地の権利書を発行させよう。」

 

大丈夫。理由根拠言い訳はすでに考えてある。加えてこちらには3つのカードが…って。

 

「ええっ!?良いのですか!?」

 

「良いのですかって、君が望んだんじゃないのか?」

 

いや、そうだが。…そうなのだが!自国民でもない人間から「土地ください」と言われて二つ返事で了承する王なんて存在するのか?存在していていいのか!?…ハッ!これはまさか試されているのでは…ここで素直に喜んだら「適性なし」って言われたり?

 

「もともと北部は我が国の領地ではあるが誰のものでもなかったんだ。向こうの魔物は城周辺の魔物よりも数段強いので、貴族たちの中にも治めたがる者がいなくてね。それに君はアスカンタの人間ではないが国の英雄だ。これくらいなら貴族たちも受け入れてくれるだろう。僕はてっきり次期アスカンタ王の座に据えろとでも言い出すのかと…」

 

言うかそんなこと!…まあ試されているようではないらしい。流石に甘すぎじゃないかと思うが、助かった。ともかくこれで俺がドリィアウトレットパーク(仮称)を堂々と建てても文句は言われないわけだ。よしよし。これでオールオッケー。俺は深く頭を下げてパヴァンからは見えないように口角を吊り上げた。……なんかヤダ!この構図完全に秘密裏に計画進めてる悪役の顔じゃないか!

 

「そういうことならば、改めてお願いします。」

 

「あら?あなた、もともとドルマゲスにはあの地を割譲するつもりじゃなかったかしら?」

 

「うーん、そうなんだ…実を言うと僕も二年前からドルマゲスに北の土地を治めてもらおうかと考えていた。なので少し見返りとしては弱いか…よし、少し色も付けてあげよう。そうだね、国宝をいくつかあげようか。」

 

えっ。えっ二年前。えっ。国宝。しかも複数。えっ。

ほんとになんなんだこの国…俺がおかしいのか?いや、大臣も困惑してる!よかった、俺がおかしいんじゃなかったんだ!

 

「お、王よ。流石にそれは…」

 

「ドルマゲスにはまだシセルを助けてもらった恩を返しきれていないだろう!それに奪われた国宝をも取り返してもらい、譲渡するのは魔物はびこる荒れた土地のみ。恩人にこんな仕打ちをしては王の名折れだとは思わないか?」

 

「…一理ありますな。」

 

大臣も納得しちゃったよ!…まあいいや。こうなったら貰えるものは貰ってしまおう。パヴァンは本当にシセルが絡むと盲目になるな…

 

「では…これと…おや、これは何でしょうか…?」

 

俺は並べられた12の国宝の中から古くて分厚い本と、「てつかぶと」ほどの大きさの真っ白な立方体を手に取った。パヴァンが説明しようとすると食い気味でキラちゃんが割り込んできた。…この子も大概だよな。仕えているのがパヴァンでなくチャなんとか王子なら、こんな扱いされたら激昂してると思うんだけど。

 

「か、代わってお答えいたします!ドルマゲス様が左手にお持ちなのは、別の世界の出来事を記したとされる神話、もしくは古文書です。アスカンタという国が興る以前から存在していた数百年物の書物と言われており、文化的価値が高く国宝に指定されていました。それとそちらの立方体は…」

 

キラちゃんとパヴァンの声が重なった。

 

「「錬金釜」」

 

「!!!」

 

「キラ、今は僕が話しているから…」

 

「も、申し訳ございません!!!王様、とんだご無礼をっ!」

 

キラちゃんも結構年相応におてんばなところがあるんだな。原作ではどこか大人びた雰囲気があったが、それは国全体が2年間の喪中で国民がすっかり陽の部分を失ってしまっていたからかもしれない。でも好きなものを語る時に早口になってしまうのはよく分かるよ。それよりも重要なのは…

 

「錬金釜…というとあの?」

 

「ほう、知っていたのか。ドルマゲスは博識だな。そうこれは錬金釜。到底釜の形には見えないが、内側には古代文字が刻印されていて、適切な素材を入れると合成して新たなアイテムを生み出してくれる魔道具だ。」

 

俺は王から再度手渡されたそれをしげしげと眺めた。ふむ、錬金釜、この国にもあったのか。トロデーンの錬金釜との違いは形以外よく分からないが、文字が刻印…ということはこの箱そのものが立体魔法陣、もしくは魔術的な『場』の役割を果たすということか。しかもパヴァンが言うにはおそらく外付けの魔力供給も必要がない。完全にこの箱の中で魔術的儀式が完結しているのだ。魔力的第二種永久機関か、それに準ずるものが内蔵されている。もしくは別次元に魔力源があるか、ロスエネルギーが0に限りなく近く魔力を自給自足できる。あるいは素材から取り出した微細な魔力を増幅するオーパーツ的機構…考えられることはたくさんある。しかしそんなことは今はどうでもいい。

 

「なんと…本物をこの目で見られようとは…」

 

「あいにく、この国には錬金術に精通する人間が少なくてね。仕方なく地下に保管していたんだ。文字通り宝の持ち腐れだったわけさ。…ではその二つをあげよう。大切に使うこと。未来に役立てることが条件だ。」

 

これ以上「本当にいいのですか?」などいうと流石にくどいしパヴァンも気が変わってしまうかもしれない。ここは潔く、ありがたく貰っておこう。

 

「必ずこの国のために役立ててみせましょう。国宝を私に預けていただけること、この上ない喜びでございます。」

 

じゃあそろそろ失礼します、と言おうとするとシセルが口を開いた。

 

「ドルマゲス。あなた、これから旅に出るのでしょう。領土を欲したあなたですが、私にはなんとなく分かります。あなたたちは何か大いなる目的があって、旅をしているのではないですか?」

 

…聡いな。普通は領土を貰ったらそこに住み着くと思うだろうに。そう、あれは単なる拠点にすぎないのでこれからも旅は続ける。次の賢者の所にも行かないといけないからな。

 

「…シセル王妃にはまるで敵いません。その通り、我々はこれからも旅を続ける所存です。もちろん、頂いた土地は直ちに平定しこの国のために役立てることを誓います。誤解させるような真似をしてしまいまことに…」

 

「いいのよ、ドルマゲス。それならあなたにもう一つお願いがあるの。ね、あなた?」

 

「ああ。…ドルマゲス、君の旅にこのキラを連れて行ってはくれないか?」

 

ふたたび俺の頭はフリーズした。はて、この方たちは何を???

見ると、キラちゃんも目が点になっている。

 

「なっ!?ななな、王様、それは一体どういう…!?」

 

「君がドルマゲスと出会った二年前、君はドルマゲスから楽しいお話を聞かせてもらったと嬉しそうに話していたね。ドルマゲスが去った際はそれからしばらく本当に残念そうにしていた。そしてドルマゲスが魔物退治に向かったさっきはまるで落ち着きがなかった。不安だった、というのももちろんあるだろうが、あれは…。キラ、君は…ドルマゲスに、そして冒険に憧れている。違うかい?」

 

「!!!」

 

「…」

 

うーむ。パヴァンはシセル以外の人間に対しても見るところは見ているんだな。なるほど、それならやたらキラちゃんが冒険譚を聞きたがるのも、俺がアスカンタを去る時に寂しがったのも納得できる。彼女もおそらく冒険に出たかったのだろう。しかし小間使いとしての彼女の立場がそれを許さなかったわけだ。

 

「おっ、王様…!!ドルマゲス様がいらっしゃる目の前でそんなこと…言わないでくださいよぅ…」

 

キラちゃんは顔を真っ赤にして消え入りそうな声を絞り出した。何故俺の前で言ってはいけないのか分からん。冒険に憧れる、冒険者に憧れる、冒険に出たい、という気持ちは特段恥ずかしいことではない。むしろ健全な少年少女ならそういった夢を見て当然だ。転生直後の俺も冒険に出たくてしょうがなかった。調子に乗ってドランゴに半殺しにされたのだって今では美しい思い出だ。…いや、流石に死にかけたのは美化できないか。

 

「アインス?あなたはどうですか?」

 

「俺は…ドルマゲスとの旅も気に入っていたが、新しい仲間ができるというのなら喜んで歓迎しよう。」

 

「私も異論はありません。…しかし冒険は危険を伴います。我々は全力であなたをお守りしますが…絶対安全とは言い切れません。キラさん、あなたには命を賭して冒険をする覚悟がありますか?」

 

ここから俺たちはどんどん先へ進んでいくので、終盤のダンジョンなどで守り切れるかどうかは正直定かではない。キラちゃんには死んでほしくないので本当はアスカンタに残っていてほしいが…ラプソーンが復活したらここらへんにも「アークデーモン」や「ボストロール」が現れるようになるので、まあどこも危険といえば危険なのだ。なら全ての決定権をキラちゃんに委ねよう。自分の運命を決めるのはいつだって自分であるべきなのだ。俺のようにはなってほしくない。

 

「…わ、私には、小間使いのお仕事が…」

 

「キラ、いいのよ。あなたは今まで十分私たちのために尽くしてくれたじゃない。次は私たちにあなたを応援させて頂戴。」

 

「王妃様…」

 

「さあ行きなさいキラ。あなたの望みのままに。」

 

「…」

 

「…」

 

「…ありがとうございます。パヴァン様、シセル様。私キラはしばらくお暇を頂きます。いつか世界を回って知見を身に付けて戻った際にはこの国のために一生懸命尽くしますので、私の勝手をどうかお許しください。」

 

「…あまり無茶を言ってドルマゲスを困らせないように。僕からはそれだけだ、気を付けて行くんだよ。…ドルマゲス。行きずりになる形で本当に済まないが、どうかこの子を連れて行ってやってくれ。王室の小間使いを完璧にやり切った彼女なら、きっと冒険にも役立つはずだ。」

 

「…王様のご用命とあらば。このドルマゲス、命の限り彼女を守ってみせましょう。」

 

「よし!それでは旅の無事を祈る!」

 

「また遊びに来てくださいね。」

 

パヴァンとシセルに見送られ、俺たちは王の間を後にした。ちなみに国宝はまた地下にしまうというので、キラちゃんが旅の準備をしに行っている間に「月影のハープ」だけはアイテムの効果がー、とか風水的にー、とかなんとかゴリ押して城内においてもらうことになった。心配はないだろうが、もしもまたモグラがいらんことをして勇者たちがアジトまでやってきたら面倒なことになるからな。

 

うーん。しかし本当にキラちゃんを連れていくことになるとは。第三者の目から見ると、結構強引に追い出されたようにも見えたのだが、大丈夫なのだろうか?そう思い、俺が後ろを振り向くと、キラちゃんはその薄桃色のウェイトレスドレスと同じ色に頬を染めて呆けていた。

 

「私が…冒険の旅に…えへへ」

 

この様子じゃ問題はなさそうだな。俺はサーベルトと目を合わせて肩を竦め、アスカンタの門を目指した。

 

門に着いたところで、王城の方角から立派な馬車が登場した。なんでも、パヴァンが王国の中でもエリートの馬を俺たちに無期限で貸し付けてくれるらしい。…嬉しいし助かるが、ちょっと怖い。あとで土地やら国宝やら馬車やらの件でめちゃくちゃゴールド請求とかされたらどうしよう…。

 

俺たちがありがたく馬車を借り受け、乗り込んだところでキラちゃんがようやくほんわか頭から現実世界に戻ってきた。

 

「あ、改めましてドルマゲス様!そしてアインス様!私の名前はキラです。え、えと、王様たちに流されて同行することになってしまったことは否めないですが、精一杯頑張らせていただきます!私、昔から冒険に憧れていて…今、とても幸せです!足を引っ張ってしまうかもしれませんが、命だって賭ける覚悟があります!な、なので…不束者ですが私をパーティーに置いてくださいませんかっ」

 

キラちゃんは馬車の中で土下座した。てか、流された感じは本人もあったのね。昔から冒険に憧れていた、というのはおそらくキラのおばあちゃんの影響だろう。彼女のおばあちゃんは色々な話を知っているので今度話を聞きに行ってもいいかもな。

 

「顔を上げてください。私たちはもう仲間です、そんなに気負う必要はないですよ。これから時に楽しく、時に険しい旅路を一緒に分かち合っていきましょう!」

 

「は、ひゃい!!」

 

「いいじゃないか、気楽にいこう!…改めて、俺の本当の名はサーベルト。アルバート・サーベルトだ。わけあって名は隠してきたが仲間になった今は無礼講だ。キラ、これからよろしく頼む。」

 

「よし!それでは馬車のことですが…」

 

「サーベルト様、でよろしいのですか?これからよろしくお願いします!…しかしいったい何故名を隠してドルマゲス様と旅を…?」

 

「あの…馬車…」

 

「よくぞ聞いてくれた!では俺たちの旅の理由を話して聞かせよう!長くなるぞ!まずは俺の親友、ドルマゲスがいかにすごい奴かを…」

 

「…」

 

サーベルトの話をキラちゃんも興味津々で聞いており、誰も俺の話を聞いてくれない。いくら馬車と言ったって、御者がいなくちゃ動きはしない。だから誰が御者をやるか決めようと思ったのに…ふーんだ。じゃあ俺が御者やるもんねー。

 

分かっていたことだが、三人パーティーで旅をすると、絶対誰かがハブられるのが世の常だ。そして俺はいつもこんな役だ。現在も生前も変わらない。

 

…だからって、いきなり二人だけで仲良く話をして完全に無視されるとは…悲しいなぁ…。

 

俺は泣きそうになるのを堪えながら御者台に座り手綱を取った。太陽は真上にあるが、何だか俺には夕焼けのように感じて寂しかった。

 

 

 

 

 

 




ユリマ「…なんかイライラするなあ。なんでだろう?」


ドルマゲス
レベル:40
職業:大魔法使い・道化師・ロボットエンジニア
備考:アスカンタ国宝の古文書と錬金釜、あと土地も貰えて嬉しい

サーベルト
レベル:39
職業:戦士
備考:妹ぐらいの年頃の同志(ドルマゲスファン)が仲間になって嬉しい

キラ←New!
レベル:4
職業:メイド(仕える主君から離れたので小間使いではなくなった)
備考:ドルマゲス(とサーベルト)の冒険に参加できて幸せ




もちろんアスカンタ王国にも錬金釜があるなどの情報はありません。私お得意の捏造でございます。トロデーンにあるんだからアスカンタにあってもおかしくないよな…と思って登場させてみました。




キラからみたドルマゲスとは、まさに彼の話す冒険譚の主人公、言わば神話の登場人物、スーパースターです。そんなスーパースターからパーティーに歓迎されて自分も神話の一部分になれるとあっては嬉しくなるのも無理はないですね。


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第十八章 寄り道と反則

前話、メインはドン・モグーラとキラだったのにコメントは半分以上ユリマのことについて書かれてて笑っちゃうんすよね。念押しですがユリマは失踪してるし、生死も不明なんですからね!?私の書く後書きは落書き帳みたいな場所なので…







Hello! I am Dhoulmagus! I'm just a clown, …only use magic and curses.

新しい仲間も増えて心機一転、早速次の目的地をみんなで相談しています。といっても私は手綱を握っているのでみなさんと直接顔を合わせて話すことができません。…もどかしいなぁ。そうそう、俺Aからの伝達ですが、モグラたちは想定よりもずっといい働きをしてくれているとのこと。これは楽しみです。

 

 

 

 

馬車での旅はそれはもう歩きよりは何倍も快適なのだが、俺が次に向かおうと思っている賭け事の街ベルガラックは遠い海の向こうなのだ。なので正直馬車の出番は向こうに着いてからが本番になると思っていたのだが…。

 

「ドリィ、俺は南側に寄り道したいのだがいいだろうか。」

 

「おや、サーベルトがそんなことを言うなんて珍しいですね。南に何かあるのですか?」

 

「え…と、そうだ。剣士像の洞窟というダンジョンがあるだろう。その名を聞いた時から剣士を志すものとして一度は訪れてみたいと思っていてな!それに…ほら!キラは戦闘に参加しないにしても俺やハイレベルなドルマゲスの戦闘を見て慣れておかないとダメだろう!」

 

「…」

 

サーベルトは目線が左上に行ってしまっている。…どんなに鈍感な人間でもわかる、後ろめたいことがある人間の特徴がまるだしだ。しかし嘘…というほどの深刻さでもない。おそらくは何かを誤魔化しているのだろうか。基本的に素直なサーベルトがわざわざ主張するくらいのことなので何か思惑があるのだろう。今はそこまで急ぎの旅でもないし、ちょっとくらいならいいか。

 

「そうですね!わ、私もドルマゲス様、とサーベルト様の戦いをぜひ拝見したいです!」

 

キラちゃんも乗り気だ。確かにさっきから全然魔物もやってこない。どういうことかと思い、岩陰からこちらを窺っていた「アローインプ」を一匹ひっとらえて話を聞いてみると、魔物の間ではピエロと剣士の二人組を見かけたらすぐにその場から離れろ、奴らは人間の皮を被った悪魔だ、悪魔系の魔物より悪魔だ、といった噂…というか警告がアスカンタ国領中に広まっているらしい。じゃあお前はなぜ来たのかと問うと馬車だったから誰が乗っているのか分からなかったんだと。バカだなぁ…

 

(ちなみにそんな噂を流したのはどこの誰ですか?)

 

(おっおおお俺じゃねぇ!!!森に棲んでいるハゲのじんめんじゅだ!!だから食べないでくれ!!助けて!!)

 

ああ…あいつか。おそらく俺たちがやくそうを補充する餌食になった個体だろう。俺がアローインプを放してやると、鬼!悪魔!魔物殺しぃ~~!!と叫びながら逃げていった。全く。俺が魔物を食べる時は苦しまないようきちんと絞めてから食ってるのに。そんな鬼とか悪魔とか言われたら泣いちゃうぜ。

 

「?(食べないでくれ…っていうのはどういうことなんでしょうか…)」

 

「いいでしょう。サーベルト、これよりパルミド方面に向かいます。剣士像の洞窟に寄りますが、あまりに長すぎる滞在はダメですよ?」

 

「ありがとう、ドリィ。恩に着る。」

 

「…そういうわけです。キラさんもそれでいいですか?」

 

「はっはい!私もパルミドに行ってみたいです!!」

 

うーん。正直パルミドには行きたくはない。世捨て人の終着点のような集落、悪徳の町であるパルミドは、めちゃくちゃに治安が悪く、全ての住民が他人の財布と食べ物を狙っている。その上衛生観念も悪く、近寄るとろくなことがない。勇者たちのようにヤンガスというパルミド出身の同行者がいるならばまだしも、土地勘が全くない俺たちは物乞いや破落戸(ごろつき)たちにとっては格好の餌食だ。今更俺やサーベルトが生身の人間に後れを取るようなことは無いが、キラちゃんが人攫いに遭ったり人質に取られたりした場合は具合が悪い。んー。

 

「パルミドは…また後で考えましょうか。」

 

俺は手綱を引いてとりあえずパルミド方面に…

 

「ああっ!ごめんなさい!止まってもらってもよろしいですか!?」

 

「!?ど、どうかしましたか?」

 

突然キラちゃんが素っ頓狂な声を上げるので俺とサーベルトはびっくりしてしまった。

 

「あの…その…おばあちゃんの家に寄りたいんです…けど…」

 

キラちゃんは心底申し訳なさそうにしている。まあ城から直接出発したわけだからな。実家にも色々必要なものを置いてきているのを思い出したのだろう。実家と川を挟んだ向こう側にある『川沿いの教会』までは『ルーラ』ですぐに戻れるので特に問題はない。

 

「分かりました。ならキラさんの実家に行ってから改めて剣士像の洞窟へ向かいましょう。」

 

「い…いいんですか…?」

 

「何も気にすることは無いぞ。キラも俺たちの旅の一員なんだから、好きに口を出していいんだ。」

 

まったくもってサーベルトの言う通りである。キラちゃんは周りにいるのが俺とサーベルトという一回りも二回りも年上の男なので、自分が発言して行き先を変更することに委縮してしまっているのかもしれないが、今は神鳥の杖も安定しているし、勇者たちに追いつかれさえしなければどこに向かおうと特に問題はない。

 

「ありがとうございますっ!」

 

俺たちは一度川沿いの教会まで戻り、『川沿いの民家』へと向かった。

 

 

「「お邪魔します。」」

 

「どうぞ!何もないところですが…」

 

俺たちはキラちゃんの家にお邪魔させてもらうことになった。彼女にも色々準備があるだろうし、何より家族団欒の場に帯刀した見知らぬ剣士と変なピエロが入ってきたら彼女の家族も気が気でないだろうと思い、初めは外で待っていようと思っていたのだ。しかし、ただでさえ寄り道させてもらっているのにその上国の英雄を家の外で待たせるなど恥ずかしくて王様に顔向けできない、とのことで家に上げてもらったのだ。

 

「おやキラ。久々に帰ったと思ったら、わたしにお婿さんでも紹介しにでも来てくれたのかい。」

 

キラちゃんのおばあさんはサーベルトとキラちゃんとを交互に見てサーベルトに微笑みかけた。サーベルトもにこやかに微笑みを返した。サーベルトって年下からも慕われるし、年上の人にも人気があるよな。体中から滲み出る善人のオーラはとても俺に真似できるようなものではない。

 

「あはは、いやだわおばあちゃん。この方は私の仲間のサーベルト様よ。」

 

「ほっほっほ。そうかいそうかい。じゃあそちらの道化師のお兄さんがあなたの本命かね?」

 

「あ、あはは、は!お、おばあちゃん!!そんなことはどうでもいいの!!」

 

「ほっほっほ…からかって悪かったねぇ。それでキラ、今日はどうしたんだい?」

 

「う、うん…あのね…おばあちゃん、おじいちゃん。私、アスカンタ王国の小間使いをしばらく休んで世界中を冒険することにしたの。だからしばらく帰って来れないってことを伝えようと思って。」

 

「あらまあ。そういうことだったのかい。」

 

「キラや、おぬし旅に出るのか。若いってええのう。」

 

キラちゃんの祖父母は彼女が旅に出ると言ってもそんなに驚きはしていないようだ。まあ元から王宮に住み込みで働きに出ていて、二年間実家に帰らないということもザラにあるようなので、期間的にはそこまで大きな違いではないのかもしれない。

 

「そうかいそうかい。ではそちらのお兄さん方がキラを連れて行ってくれるというわけですねぇ。」

 

「俺はアインスといいます。キラはおばあさまから聞いて話で冒険に憧れていたらしく、その覚悟は本物です。ぜひこころよく彼女を送り出してやってはいただけないでしょうか。」

 

「私はドリィと申します。旅の道化師をしております。こちらのアインス共々、まだまだ未熟ですがキラさんを守る盾にはなりましょう。彼女のことは私たちにお任せください。」

 

俺は鉢植えのネモフィラを出してキラちゃんのおばあさんに渡した。ネモフィラは別名赤ちゃんの青瞳(ベビーブルーアイズ)とも呼ばれるハゼリソウ科の一年草で、青と白の花を咲かせる美しい花だ。涼しく日当たりのいい気候を好むので、川沿いの一軒家であるこの家ならさぞ元気な様子を見せてくれることだろう。

 

「まあ、これはご丁寧にどうも。綺麗な花ですねぇ。」

 

「今、何もないところから花が出てきたように見えたのだが…」

 

「ふふん、これぞ魔法。種も仕掛けもある手品ですよ。」

 

俺はキラちゃんの祖父に向かって得意げにウインクをした。やはり俺の天職は道化師だ。人の驚いたり喜んだりする顔を見るとこっちも嬉しくなる。

 

「ドリィ様、アインス様。うちのキラは真面目で勤勉な子です。ご迷惑をおかけするでしょうが、きっとこの子なりに頑張っているので、どうか面倒を見てやってください。」

 

「ええ、もちろんです。キラさんには期待しているんですよ。任せてください。」

 

実際俺は彼女に可能性を感じている。戦闘には不向きかもしれないが、逆に言えばそれ以外のことは大抵できる。彼女を助手にすれば、もしかしたら俺の料理や研究をさらに素晴らしいものにしてくれるかもしれない。なんなら料理の腕前は彼女の方が上だろう。明日にでも料理勝負を吹っ掛けてやろうかな。

 

「じゃあ、我々は外で…」

 

「お待ちなされ、直に日が落ちる。今日はここへ泊まっていきなさい。」

 

「ええと、しかし…」

 

「いいんですよ。私たちも久しぶりに帰ったキラとお話がしたくてねぇ。」

 

…そうか、そうだよな。俺は自分たちの都合ばかり考えてキラちゃんたち家族のことがすっかり抜け落ちていた。家族団欒は大事だ。家族のいない俺と違い、キラちゃんやサーベルトには家族がいるのだ。その時間を奪うなど言語道断である。反省反省。

 

「そういうことならば…」

 

「ああ。ドリィ。ここはお言葉に甘えるとしよう。」

 

その後サーベルトは食卓でキラちゃんのおじいさんと世間話をし、俺はおばあさんから色々な興味深い昔話を聞いた。キラちゃんが用意してくれたシチューをみんなで食べた後はアスカンタの古文書を読んだり、真っ白キューブな錬金釜を分解しようとしてみたりし、夜を過ごした。

 

「おや、寝床はどうしようかねぇ。すみませんねぇ。ベッドが三つしかないもので。私たちはベッドがないと眠れませんので、申し訳ないですが、キラのベッドに三人で寝て貰ってもいいでしょうかねぇ。」

 

「えぇ…?」

 

いや狭いだろ。明らかにシングルサイズのベッドじゃないか…おばあさんは俺たちを見てニコニコしている。見た目によらず割とユーモアのある人だ。俺はおちゃめな老人は嫌いではない。…頑固ジジイな師匠が嫌いというわけではないが。やはりさっきのは冗談だったようで、俺たちにベッドを明け渡してくれると言ったが、床に転ぶ老人二人を横目にベッドで眠るというのも夢見が悪い。

 

「いえ、私とサーベルトは馬車で寝ますよ。ああ、安心してください。馬車にも寝台のようなものがあって、なかなか快適ですので。」

 

「あらあら、そうですか。申し訳ありませんねぇ。」

 

「お気になさらず。サーベルト、行きますよ。それでは皆様、ごきげんよう。」

 

「ど、ドルマゲス様!サーベルト様!お、お休みなさいませ!」

 

「はい、良い夢を。」

 

「おやすみ!キラ!」

 

翌日、俺たちは祖父母に見送られながら川沿いの民家を出発し、パルミド方面へと向かった。目指すは剣士像の洞窟である。

 

 

パルミド地方に到着すると、魔物たちも俺たちを襲ってくるようになった。大勢でお出迎え、ありがたい話だ。

…キラちゃんへお送りするショーのボランティアとしては十分。

 

「キラさんは馬車の中から見学しておいてくださいね!私たちの戦いを!」

 

「は、はい!!」

 

「行きますよサーベルト!」

 

俺は開幕「キメラ」の群れの真ん中に『マヒャド』を打ち込み翼を封じる。「ノックヒップ」たちの相手はサーベルトに任せ、『はげしいほのお』で「コングヘッド」のグループをけん制。「パプリカン」は大事なビタミン源なので『やけつくいき』でマヒさせておく。ついでに塩も振って下ごしらえをしておこう。「ごろつき」「くびかりぞく」などの相手は昨日メンテナンスを済ませた兵器『踊り子(バイラリン)』が行う。相変わらず燃費は悪いが、10匹にも満たない相手なら何とかなるだろう。「ミニデーモン」は『バギクロス』で一掃。「ガチャコッコ」は馬鹿みたいに殴らなくても内部の配線を切れば動きは止まる。魔力を帯びた金属は俺にも作り出せないのでコイツのボディは貴重な素体だ。残った「コングヘッド」たちは…ああ、サーベルトが倒してくれたな。流石だ。

 

「ふう…こんな感じです。お疲れ様でしたサーベルト。」

 

「ああ…」

 

「スゴイ…!これがドルマゲス様たちの戦い…!私、感動しました…!」

 

キラちゃんの目はキラキラだ。…うむ、満足満足。数日ぶりに戦闘したので腹が減ってきたなぁ。

 

「それはこちらも嬉しいです。では、ここらで昼食にしましょうか。」

 

「はい!ええと、食材は…」

 

キラちゃんが馬車をゴソゴソし始めたので止める。もったいない…せっかくここに新鮮な食材があるのに。

 

「キラさん、大丈夫ですよ。食材はもう揃っています。」

 

「?」

 

キラちゃんはにっこりした顔のまま首を傾げる。小動物みたいな愛らしさがあってかわいいなぁ。俺がそんなことを思っていると、何に感付いたのか、サーベルトが慌てて忠告しに向かう。

 

「ええと、キラ。最初はびっくりするだろうがドリィの料理は本当に美味しいから…」

 

「???」

 

サーベルトが忠告しているのを横目に俺は早速「パプリカン」を絞めて軽く火で炙り、齧った。美味い。

 

「うーん。美味しい。やっぱり旅をしていると野菜が不足しますねぇ。このシャキシャキ感は肉には出せない食感ですよ。ねぇサーベルト?」

 

…ひとつだけ不味かったことと言えば、キラちゃんは生まれてこの方ずっと王宮で食事を作っていた年端もいかない箱入りのお嬢さんだった、ということをすっかり忘れていたことだ。サーベルトを見ると額に手を当ててやれやれと言った表情をしている。

 

「??????????????????????」

 

キラちゃんは目をグルグル回したかと思うとうしろ向きにパタリと倒れてしまった。

 

「ドリィ。君はもう少し年頃の女の子に対する配慮をだな…」

 

俺はこってり叱られてしまったのだった。

 

 

「うぅ…ほ、本当に食べるんですかぁ…?」

 

「キラ、さっきも言ったが、味は保証するから…ほら、美味しいぞ!」

 

憂鬱そうな顔をしているキラちゃんの目の前でサーベルトはステーキをぱくりと頬張った。

 

「ど、ドルマゲスさまぁ…」

 

涙目で訴えかけてくるキラちゃん。正直馬車の食材から料理を作ってあげてもいいが…(さっきの所業は棚に上げ)俺たちのパーティーで一緒にやっていくためにはいつかは魔物も食べなければならない時が来るだろう。ここは心を鬼にするしかあるまい。

 

「ダメです。一流の冒険者たるもの、魔物の一匹や二匹食べられないでどうしますか。しっかり食べて供養してあげるのも生き物への礼儀です。もし嫌だというのなら…貴方をアスカンタの実家に帰しちゃいますよ?」

 

「!!!」

 

まあこれは冗談だが。さらに一流冒険者が魔物を食うのかどうかも知らんが。

 

「そ…それはイヤ…です…!」

 

キラちゃんはフォークを手に取ると、ステーキ(何の肉かは忘れた)に突き刺し、一気に口へと運んだ。おおっワイルド!!そのまま彼女は親の仇でも見るような顔で虚空を見つめながらもむもむと口を動かす。しばらくして彼女はびっくりしたように目を見開いた。

 

「……!…わ…お、おい、しい…!?」

 

わお!それって魔物料理が気に入った…ってコト?!

 

「だろう!ふふん、ドリィは料理の腕もすごいんだ!」

 

何故かサーベルトが得意げになっているが、こちらとしても褒められて悪い気はしない。

 

「いかがですか?」

 

「あの…おいしい、です…!」

 

「それはよかった!!まだまだおかわりもありますよ!!」

 

俺は他の肉やキモやらを進めたが、もういいです、と丁重に断られたのでしぶしぶ普通の野菜でサラダを作って出してあげた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─剣士像の洞窟─

 

俺たちは毒の沼地を抜けて地下にある迷宮にやってきた。正面にはわざとらしく大きくて煌びやかな宝箱が置いてある。あの中には魔物と宝石「ビーナスの涙」が入っているのだ。ビーナスの涙は正直どうでもいいが、それを守っている「トラップボックス」の方には興味がある。奴は物質系モンスターでありながらゾンビ系の特徴も持つ珍しい魔物なのだ。現在アスカンタで研究を進めている俺の分身のためにぜひ捕獲したい。

 

「サーベルトはここにどんな用事があったのですか?」

 

「え、ええと…聖地巡礼というか…まあちょっと腕試しというか?俺としてはここの魔物と戦えれば満足なんだ…です。」

 

どうも歯切れが悪いな…何を隠しているのは分からないが悪巧みではないだろう。とりあえずこのダンジョンを真っ当に攻略したいとかではないならいいか。俺は二人を抱きかかえてぴょいと跳んだ。

 

「ちょいと失礼しますよ…!」

 

「ひゃあっ!?」

 

「わっ!!」

 

俺は中央にしてこのダンジョンの最終到達点まで一歩で辿り着いた。改めて考えるとこのダンジョン、欠陥が凄いよな…俺があたりを見回すと夥しい数の串刺しになった遺体があった。なるほど。生半可な身体能力ではここまで跳んで来られないということね。それでも一部の人間には飛び越えられるよな…ああ!そのためのトラップボックスか!俺は一人で勝手に納得して二人を地面に下ろした。

 

「ええと…ドリィ、この進み方は正攻法なのか?」

 

「まさか。反則の反則ですよ。しかしあの宝箱には番人がいます。サーベルトの腕試しにはピッタリかと。」

 

「…そうか。キラはここで待っていてくれ。俺たちで守り人を倒してくる。」

 

「分かりました…ご武運を!」

 

俺は石碑に書いてある文字を読んだ。なになに?剣士像の謎を解きし知恵ある者よ、次は汝のチカラを試す時。…スマン、俺剣士像の謎解いてねんだわ。まあいいか。宝は置いていきますので…。

俺はサーベルトと共に階段を上って宝箱に手をかける…と、宝箱は魔物に姿を変え襲い掛かってきた。

その瞬間、俺は懐に違和感を感じたのでポーチをまさぐってみると、石板が淡く発光し震えている。これは…

 

「行くぞ!ドリィ!!」

 

「ちょっとタンマ!後は頼みます!!」「はぁあ!?」

 

「ちょ、ドリィどこへ…うおっ!」

 

トラップボックスの相手をサーベルト一人に丸投げして、くるりと身を翻し俺が携帯念話(フォン)に魔力を流すと、オディロの声が明瞭に聞こえてきた。

 

『おーい。聞こえておるかのう?』

 

「聞こえていますよ。オディロ院長、お久しぶりです。何か御用でしょうか?」

 

『うむ。それがじゃな。やってきたのだよ。』

 

「やってきた、と言うと…まさか!勇者ですか?」

 

『そう。赤いバンダナにずんぐりとした山賊、ナイスバディな姉さんと緑の魔物…君が言っているのは彼らのことじゃろう?』

 

「その通りでございます。それで、もう彼らとは話を?それともまだ会ってはいないのでしょうか?」

 

『うむ、そう今からじゃよ。』

 

これは好都合だ。オディロが事前に連絡を入れてくれて助かった。

 

「では、勇者たちには私が悪人ではない、という事実を伏せて彼らの話に合わせてください。彼らには私を宿敵だと思っていただいた方が色々と都合がいいので。」

 

『真実を隠せと?何故そんな…うむ、都合がいい…か…うーむ、私は嘘はつきたくないのじゃが…』

 

「まあそこらへんはケースバイケース、合理的虚偽というやつですよ。それが最善の道になるのです、頼みますよ。」

 

『合理的虚偽??…分からんことを…はあ、わかった。それが世界を守るためというのなら…』

 

「ありがとうございます。では勇者との面会が終わったら、後で色々報告していただいてもよろしいですか?」

 

『うむ、また何かあったら連絡しよう。それではな。』

 

オディロの声が途切れると、俺は石板をしまった。よしよし、原作はちゃんと進んでいるようだ。ゼシカもちゃんと仲間になっている。ククールもオディロが上手く取り付けてくれることだろう。勇者には勇者の。オディロにはオディロの。そして俺には俺の役目があるというわけだ。しっかり頑張ろう。

俺が改めてドラゴンクエストⅧの流れを噛みしめて体感していると、悲痛な叫びが響いた。

 

「ど、ドルマゲス様…サーベルト様が…」

 

「ど、ドリィ~~~!!」

 

「すみませんサーベルト!今行きます!!」

 

俺は急いでボロボロのサーベルトを連れて降りてきたのだった。

 

 

 

 

 

 








ドルマゲスは分身しているので実力は25%ほど低下しています。パルミド地方ではそんなの誤差ですが。

レベルが40近くあるサーベルトがトラップボックスごときに苦戦するのかということですが、おそらく彼は状態異常耐性がないので、ラリホーやメダパニからの痛恨の一撃でハメられたのだと思います。



キメラ「ワイがキメラやぞ!!どうやビビったか!」

バイラリン「ふーん、で?」

キメラ「ワイはハゲタカとヘビの合成獣やからキメラって名前なんやぞ!」

バイラリン「俺はお前含む30種以上の魔物の合成獣で機械とも融合してるんだけど?」

キメラ「すみませんでした」


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Chapter8 パルミド地方 ①

遅れて申し訳ありません。
私病弱なものでして…
そして時間が空いたことにより陥るスランプ…ああ、悲しいなぁ…








オディロ院長との面談の末、クサレ僧侶こと聖堂騎士ククールを仲間に引き入れた一行は、マイエラ修道院を出発して東へと旅を進めていた。仲間が一人増えたものの魔物も強力になってきており、道中の戦闘は極めて厳しいものになっていた。しかしドルマゲスの恐ろしさをオディロから改めて警告された一行は経験を積むために戦いに身を投じ、回復しては先を進むことを繰り返しているのだった。

 

 

 

 

「わあ、このお花キレイね!なんていう花なのかしら?」

 

ゼシカは川沿いの教会の反対側に建っている家の花壇に咲いている花が気に入ったようで、しゃがんで青と白の小さな花を眺めている。

 

「初めて見る花だね。僕は知らないなぁ。」

 

「レディを相手取る手前、オレも花には知悉していると思っていたが…確かに見たことのない花だな。」

 

「おーい!なんじゃ花などに足を止めよって!ここにどんな花よりも美しい姫がいるというのに!お~よしよしミーティアや、気を落とすでないぞ。あやつらは物珍しい花を見てはしゃいでおるだけじゃ。」

 

また始まった、とトロデの娘溺愛タイムを見てヤンガスが肩を竦める。

 

「それより兄貴、あっちの教会で少し休みやせんか?アッシ、今日は連戦に次ぐ連戦でもうへとへとでがす…」

 

ヤンガスがそう言うと、一気にパーティーの間にだれた空気が流れ始めた。ゼシカもククールも魔力はもうからっきしで、エイトもそこまで体力に余裕がある方ではない。さっき花を見て喜んでいたのだって一種の現実逃避に過ぎないのだ。…空はまだ青く、太陽はまだまだ降りる気がないようだが。

 

「良いアイデアだヤンガス。さっ、そうと決まれば早く行こうぜ?」

 

「…うーん、そうだね。まだお昼だけど、少し休ませてもらおう。」

 

先を急ぐエイトとしても、今現在何を優先すべきかくらいは分かっている。命あっての物種、ここで魔力と体力を養ってから進んだ方が安全で効率がいいだろうと考え、神父とシスターに無理を言って宿泊させてもらうことにするのだった。

 

 

その日の深夜。昼間にぐっすり眠ってしまったトロデは、何となく寝付けず少し夜風に当たることにした。なので扉を開けて外へ出たのだが、教会の庭には既に先客がいた。

 

「…ククール」

 

「ん…ああ、じいさんか。」

 

彼もまた眠れずに外へ出て来たのだろうかとトロデは思ったが、顔を見るとどうも神妙な顔で夜空を見つめている。トロデもまた一国の民を束ねる王、この表情は見知ったものであった。

 

「…ククールよ、お前何やら事情がありそうじゃな。」

 

「……」

 

ククールはトロデを一瞥した後、また黙って上を向いた。

 

「話せば気が楽になることもあるやもしれんぞ? まあ、無理にとは言わんが…」

 

「…」

 

二人の間に何とも言えない時間が流れる。その沈黙を破り先に言葉を発したのは元から湿っぽい空気のキライなククールだった。

 

「…オレにはさ、マルチェロっつー…その、兄貴がいるんだ。アンタらが来た時にはもう修道院にはいなかったがな…少し、アイツのことを考えてた。」

 

「ほう、兄弟がいたのか。」

 

「兄弟、つっても繋がってる血は半分だけだ。オレとあいつの関係は兄弟の二文字では語れない。じいさん、長くなるぜ?」

 

「…構わん。話すがよい。」

 

 

それからククールは自身の過去を自嘲気味に語り始めた。両親が死んで独り身になり、修道院に転がり込んだこと。そこでマルチェロと出会い、彼との因縁を知ったこと。そしてククールが修道院で暮らし始めてからずっとマルチェロはククールを恨み続けていること…。それらの話を、トロデはただ黙って聞いていた。

 

 

「…」

 

「…でも、まあ、ね。クソ親父はしたい放題やってさっさと死んじまった。アイツには憎める相手はオレしか残ってないんだ、わからないでもないんだよ。…結局マルチェロがどこに行ったのか、何をしに行ったのか、ついにアイツはオレに教えてはくれなかった。もしかしたらアイツは一刻も早くオレから離れたくて旅に出たのかもしれないな。」

 

「ククール、お前…」

 

「…まあでもさ?もしかしたらオレみたいにオディロ院長に厄介払いされてたりしてな!…そう考えるとなんだか笑えてくるぜ。血は争えない、ってな。不思議と悪い気分じゃねぇ。」

 

そう言うとククールは少し少年っぽさが残る顔でクククと小さく笑った。

 

「ふん…(児子の頃から強い憎悪を受け続けたにも拘らずその対象を“兄弟”とまで呼び慕うとは…大した奴じゃわい。…チャラチャラした遊び好きの僧侶だと思っていたワシの認識も改めなければならぬようじゃな…。)」

 

「おっと、もうお月様があんなところに。…オレはもうひと眠りするかね。じいさん、わざわざありがとな。」

 

「…まあワシの暇つぶしくらいにはなったわい。ゆっくり休むんじゃぞ。」

 

ククールはキザにポーズを決めて教会に向かおうとしたが、またすぐにトロデの下へ戻ってきた。

 

「?」

 

「そうそう、あんたに言わなきゃと思ってたことを思い出したんだ。」

 

「おお、そうか。なんじゃ?」

 

「オレ、昔ドニの町でドルマゲスって奴に会ったぜ。じゃあな、おやすみ!」

 

「……………は?」

 

ククールは颯爽と身を翻し、自分の寝床へ戻っていった。

 

「…は?え!?お、おい待たんかい!!!そっちの話を先にせんか!!!」

 

ククールから投下された突然の爆弾発言にトロデは夜中にも関わらずつい大声を出してしまい、寝間着のシスターによってキレ気味に注意され、馬車でふて寝するのだった。

 

 

翌朝、エイトたちは川沿いの教会を出発し、次なる目的地を目指して旅を続けていた。

 

「へ~。でもまさかククールが昔ドルマゲスと出会ってたなんて…」

 

「アンタね!どうしてそういうことは先に言わないのよ!!」

 

「はは…悪い悪い。今の今まで忘れてたんだよ。奴と会ったのは一年以上前、しかもたった数時間だけだったからな。」

 

「それで、何か会話はしたんでげすか?」

 

「会話というか…まあカードさ。あとはわかるだろ?オレはいつも通りイカサマをしたんだ。でも奴には一度も勝てなかった。…引きも悪くなかった、イカサマもした、なのに勝てなかった。後にも先にもこんなことは初めてだった。…オレは奴も何かしらのイカサマをしていたってことまでは見抜いたんだが、その正体まではついぞ掴めなかった。ありゃ天性の道化(ピエロ)だな。」

 

「それで、奴はどんな格好をしていたのじゃ!?」

 

「うーん…背は高かったな。多分オレと同じかそれ以上だろう。格好はまんまピエロって感じの派手な服装だった。…まあ奴自身遊行のついでに酒場に寄っただけとは言っていたから、いつもあの服装なのかまでは悪いが知らないぜ。あとアインスだかなんだかの同行者の姿はなかったな。」

 

「…なによ、ほとんど何も分からないじゃないの。」

 

「悪かったな。次会ったらよく見ておくさ。」

 

ゼシカはまだククールのことをそこまで良くは思っていないらしく、ついつい言葉が刺々しくなってしまう。しかし別にククールの方は気にしていないようでゼシカの口撃もさらりと受け流している。

 

「でも、どんな情報も役に立つ時がいつか来るよ。それに、ククールはドルマゲスを見ているからもしあった時に一目でわかるのは大きい。」

 

「おっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないかエイト。その通り、顔くらいは覚えてるから見かけたら教えてやるぜ?」

 

「やれやれ、どうだか。それより兄貴、今はどこへ向かってるでげすか?」

 

「うーん、そうだね。今はパルミドってところに向かおうと思ってるよ。」

 

「おっ!パルミドでげすか?船着き場でアッシが言っていた町ってのはパルミドのことでがす。町の案内はアッシに任せてくだせぇ!」

 

「げ、ヤンガスお前パルミドの人間だったのかよ…いや、それを聞いて逆に納得か。」

 

「そういえばヤンガスは私たちの大陸の出身じゃなかったわよね。パルミドには何かあるの?」

 

「パルミドは臭くて汚くて危険なところでがすが、故にどんな人間も受け入れる度量の有る町でげす。パルミドにはカジノもあるし、錬金に詳しい闇商人もいるでげす。そして何より、そこを根城にする優秀な情報屋がアッシの顔見知りなんでげす。きっと情報屋のダンナならドルマゲスの情報も掴んでいるに違いないでげすよ。」

 

「臭くて汚いのはイヤだけど、ドルマゲスの足取りが掴めるのなら仕方ないわね。」

 

「ふーん、カジノねぇ…」

 

パルミドに行くと聞くと露骨に嫌な顔をしていたククールだが、カジノの話を耳にしてからは割と楽しみにしているようにも見える。元からパルミドを目指していたエイトや、ドルマゲスの情報が欲しいトロデとゼシカも特に反対する理由はないのでそのままパルミドに向かうことが決定した。

 

 

 

…のだが。

 

「うーん、迷った…?」

 

「おいおい、ちゃんと地図を見て進もうぜ?」

 

「う、うん…あれー…?」

 

世界地図にあまり慣れていないエイトは宝箱を追いかけて道を外れていくうちに森の中に入り、自分が今どこにいるか分からなくなってしまったのだった。

 

「やれやれ。エイト、ワシに地図を貸してみろ。…ふんふん、こりゃ完全に迷っとるな。ここがどこかもわからんわい。とりあえず現在地がどこかを知らぬことには始まらん。なにか、近くに目印になりそうなものはないか?」

 

「まったくしょーがないわねぇ。じゃあわたし、ちょっと向こうの方を見てくるわね!」

 

「ならアッシは向こうに。」

 

「オレはあっち側を見てくるかな。魔物が出たら戻って来るぜ。」

 

「みんなありがとう!王様、僕たちはまっすぐ行きましょうか。」

 

仕方ないので手分けして目印を探しにいくことになり、エイトは森を進んでいた。少し開けた場所に着くと、何かの建物が見える。人がいるかもしれないと考えたエイトは、扉を開けようと試みるが、生憎扉には鍵がかかっていた。諦めて戻ろうとしたエイトの頬を一陣の風がすり抜ける。エイトが振り返るように見上げた建物の屋上には、赤と緑の奇抜な服に身を包んだ男が佇んでいた。

 

 

「(よかった、人がいた…!)すみませ~ん!」

 

「………………。」

 

「?すみませーん!」

 

「………………。」

 

「すみません!!!旅のものですけども!」

 

「………………。」

 

「???(変な人だな…これ以上は無駄そうだ…)」

 

「おおっ、せっかく話しかけてくれたのに無視してすまなかったな。おぬしの話にも耳を傾けようではないか。わしの名はモリー。今はここで風の話を聞いていた。」

 

「(やっぱり変な人だ…)僕の名前はエイトです。ええとすみません、少し聞きたいことが…」

 

「風がわしにこう言うのだ。まもなくここに素晴らしい才能の持ち主がやって来るだろうと。ボーイ!おぬしは旅人だな?」

 

「え、あ、は、はい…」

 

「ならばボーイに頼みたいことがある。まずはこれを受け取ってくれ。」

 

エイトはモリーから(一方的に)3枚のメモを手渡された。エイトは完全にモリーのペースに乗せられ、何も言えないでいる。主君であるトロデもよく人の話を聞かないことがあるが、ここまで酷いことは無い。エイトはおっとりしている性格なのでそこまで長話が嫌いなわけではないが、今は遭難中という緊急事態なので、うんざりし始めていた。

 

「(どこかのタイミングで割って入らなきゃ…)」

 

「わしとの話が終わったら、そのメモをつぶさに見るといい。そのメモには…」

 

「…」

 

結局、エイトはモリーの魔物に力を示してここまで導いてほしいという話を最後まで聞いてしまったので、エイトはモリーの話が終わったであろう瞬間を見計らって質問する。

 

「はい!モリーさん、その三匹の魔物に会いに行くためにも、まずは僕たちパルミドに行かなくてはならないんです!パルミドにはここからどうやって行けばいいですか?」

 

「おお??そ、そうだな…モンスターバトルロード格闘場が地図のここなので…」

 

ようやくモリーから道を教えてもらったエイトは、彼に礼を言って別れ、皆の所へ戻った。

馬車の周りには、既に他の三人も戻ってきていたが、顔を見るに成果なしと言った感じだ。エイトはモリーという男性に出会い、お使いを頼まれたことを含め、パルミドへの道筋を伝えた。

 

「エイトはお人よしねぇ。急いでるんだから断っても良かったのに。」

 

「いやいや、アッシは兄貴のこういう困っている人を放っておけないところが好きなんでげすよ。」

 

「それもそうよね。私も偉いなとは思うわ。」

 

「(断れる雰囲気じゃなかっただけだけど…ま、いっか)」

 

「よし、ではパルミド目指して出発じゃ!」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「あれ、あそこにいるのは人じゃないですか?」

 

「ん?おお、本当じゃな。こんな夜の草原を一人で旅とは危なっかしい奴じゃ。おいエイト、迷い人かもしれん、様子を見て来てくれんか?」

 

「了解しました。」

 

パルミドへの道半ば、エイトが遠くに見つけたのは人影だった。トロデの言ったとおりにエイトが迎えに行くと、最初は長身の男性に見えていたのだが、実際は少年だということが分かった。エイトはとりあえず少年に挨拶をして敵意が無いことを伝える。

 

「こんばんは。僕は旅人のエイトといいます。君の名前は?」

 

「こ、こんばんは。わ、僕の名前は…ディムです。ええと…こう見えても冒険者です。」

 

「そうなんだ!僕も冒険者で、今はパルミドに向けて旅をしているんだ。…ねぇ、夜の草原は危ないよ。もしディム君がよければ今晩は僕らと一緒に過ごさない?ちょうど今からキャンプをしようと思ってるんだ。」

 

明らかにまだ14やそこらの少年に見える相手が冒険者であることに少し驚いたが、相手が一般人だろうとそうでなかろうと夜の草原は危険なので、エイトは共に夜が過ぎるのを待つことを提案した。

 

「え…いいのですか?」

 

「大丈夫!僕の仲間たちはみんな優しいから、きっとディム君のことも喜んで迎え入れてくれるよ!」

 

「そうですか!ではお言葉に甘えて…」

 

 

「─というわけで、今晩一緒に過ごしてもよいでしょうか?」

 

「うむ、あんなところで何をしておったか知らんが、夜は危険じゃ。ディムとやら、今日はしっかり休息をとるんじゃな。」

 

「ありがとうございます。僕もどこか安全なところで休みたいと思っていたところなのでとても助かりました。」

 

「んん?兄貴、その子は何でげすか?」

 

トロデへの挨拶を済ませたところで、キャンプの火おこしをしていたヤンガスや、他の仲間たちがこちらに気付いてやってきた。

 

「僕、冒険者のディムといいます。こちらのエイトさんのご厚意で今晩ここで過ごさせていただけることになりました。よろしくお願いします。」

 

「あら!小さいのに随分礼儀正しいわね…!私はゼシカ、よろしくね!」

 

「ん?お前…いや気のせいだな。オレはククール。よろしく。」

 

「アッシはヤンガス。こんななりでげすがアンタを取って食ったりはしないでがすよ。」

 

「よろしくお願いします。…ああそうだ、せっかく安全な場所を提供していただけるのですから、何か僕にも手伝わせてください!料理とか、得意ですよ!」

 

「へぇ、そりゃいいや。じゃあディム、料理を作ってくれ。今日はほんとはオレが料理当番なんだがどうも思いつかなくてな。頼むよ。」

 

「ふっふっふ、お任せあれ。」

 

正直、エイトたちは期待していなかった。…というと語弊があるが、少年ディムの作る料理はまあ人並みのものだろうと思っていたのだ。しかし蓋を開けてみるとどうだろう。並んでいたのはどれをとっても美味しそうな料理の数々、見たことのないものも多く、しかもそれら全てがまたハズレなしの美味しさだった。エイトたちは食事に大満足し、ディムを口々に褒め称えた。

 

その後もディムはエイトとは武器の話を、ヤンガスとは人情の物語を、ゼシカとは魔法理論について、ククールとは遊びの話を、トロデとは錬金釜の機構について語り合って大いに盛り上がり、その日は今までで一番短い夜となった。ちなみにミーティアも丁寧なブラッシングとマッサージをしてもらってたいそうご満悦だったという。

 

 

「では、僕はこれくらいで失礼しますね。みなさん、昨夜は本当にありがとうございました!僕自身も学びが多く得られて、とても楽しかったです!」

 

「ディムの兄ちゃんが作った料理は冗談抜きに今まで食った中で一番美味かったでげすよ。今度会った時はアッシにもできる料理を教えてほしいでげす。」

 

「こんなに誰かと魔法について語り合えたのは久しぶり、なんだか懐かしい気分になったわ!本当にありがとう!」

 

「…なぁお前、オレたちと一緒に旅しないか?お前とならまだまだ話せることが多そうだ。」

 

「いやはや、こんなところで錬金術に精通している者に出会えるとは思っていなかったわい。これから早速試させてもらうぞ。色々世話になったの。」

 

「ディム、君を昨日誘って本当に良かったよ。ククールが言ったように、僕も君が一緒に旅をしてくれたら嬉しいんだけど…?」

 

エイトの控えめな勧誘を、ディムはやんわりと断った。

 

「…僕も、すごく楽しい時間を過ごさせていただきました。きっとあなたたちとなら楽しい旅ができると思います。でも、僕には為さなければならないことがあって…今はそのために旅をしているので、ごめんなさい。」

 

「そっか…。うん、気にしないで!じゃあまたいつか!!」

 

お元気でー!と手を振るディムをみんなで見送りながら馬車はディムと反対方向へ進み始めた。

 

 

 

ディムと名乗る不思議な少年。初対面にも関わらず、まるで()()()()()()()()()()かのように友好的な雰囲気を醸し出すことに長けており、エイトたちは余所者を自分たちのパーティーに臨時で加入させているにすぎないはずなのに、誰もそれに違和感を抱かずただ彼を受け入れていた。もしもこのパーティーにマルチェロのような疑り深く聡い人間がいれば「違和感を抱かないという違和感」に感付いたかもしれないが、エイトたちはただ彼との対話を楽しむこと以外のことは考えていなかった。

 

パルミドはもう目と鼻の先である。

 

 

 

 

 





原作との相違点

・まさかのアスカンタ編全カット。
オディロ院長の「南東」発言を実直に守った結果、そもそもアスカンタに寄ることがなくなった。寄ったとしてもイチャイチャしている国王夫妻しかいないので何のイベントも起きないが、もし王の前で「ドルマゲス」とでも口に出そうものなら彼に関する膨大な量の情報が得られたことだろう。

・ククールとトロデの会話内容が少し変わった。
マルチェロの不在やオディロ生存により一部の内容が変更された。オディロが生きているのでククールはちょっと性格が丸くなっている。

・ククールがドルマゲスと会ったことがある。
ククールとドルマゲスが以前会ったことがあるというのは第六章で少しだけお伝えしました。

・変な新キャラが出てきて出ていった。
作者はオリキャラを出す気はない!と豪語しているが、原作にこんなキャラは存在しない。つまり、どういうこと??



エイト
レベル:15

ヤンガス
レベル:15

ゼシカ
レベル:14

ククール
レベル:14


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第十九章 激励と潜入

祝!10万UVです!!

皆様いつもありがとうございます。小説を書き始めて一月と半月、ついに本小説の総UV数が10万の大台を突破しました!これらはひとえに読者の皆様のご協力があってこそです。次は20万、そして30万、ゆくゆくはハーフミリオン到達の野望を抱いております…。

これからも読みやすく、そして続きが読みたくなるような文を書くことができるよう精進しますので、ぜひお付き合いいただけたらと思います。



あれぇ?みんななんでディム君の正体分かっちゃってるの?








Ciao, sono Dolmaguez. Sono solo un pagliaccio... Posso usare solo la magia e una maledizione.

やはり電話が使えると便利ですねぇ。文明の利器は有効に活用してこそです。この世界は中世モチーフなだけあって先進的な文明どころか機械自体が珍しいですから。…もしかして現代知識を活かして世界征服とかもできちゃうんですかね?……うぅん、考えただけで恐ろしい。悪とは遅かれ早かれ滅びるものなのです、魔王とかね。

 

 

 

 

「…」

 

「トラップボックス」にハメられてタコ殴りにされたサーベルトは俺に回復され、キラちゃんの手当てを受けながらも俯いたままだ。俺が戦闘の直前に電話で離れたことを怒っているのだろうか?いや、サーベルトは怒る時は口数が多くなるタイプだ。もっとも、本気で怒ったときは黙るのかもしれないが、サーベルトはその自己犠牲・利他的な性格上、仲間の命や弱く矮小な善人が危機にさらされたとき以外はそこまで怒ることは無い、と俺は予測している。だから俺は安心して(正直トラップボックスくらいなら余裕だと思っていたが、サーベルトの眠り耐性が脆弱であることをすっかり忘れていた)彼に戦闘を任せたのだが…。

 

「サーベルト?さっきのことは本当に申し訳ありませんでした…私には人として重要なピースが欠けていたみたいです…。顔を上げてくれませんか?」

 

「さ、サーベルト様!ほら!手当ても終わりましたよ…!」

 

「………ぃ」

 

「え?」

 

「俺は…弱い…!」

 

サーベルトがいきなり大きな声を出すんじゃないかと思って心の準備をしていたのだが、そこまで声はでかくなかった。ドン・モグーラのせいであれから少し音に敏感になってしまう。いかんいかん。それよりも…だ。今、聞き捨てならない言葉が聞こえた。

 

「弱い?サーベルト、貴方がですか?」

 

「…俺は生まれてから剣の神童と持て囃され、それに慢心することなく剣の鍛錬を続けてきた…つもりだった。しかし現実はどうだ、俺はいつだって誰かの足手まとい。モグラの親玉と対決した時も、草原で魔物に囲まれたときも、…トロデーンでドルマゲスと対峙した時も…」

 

「…」

 

「だから強さを求めて、自分のこの二十余年が無駄でなかったという証明が欲しくて、難攻不落と名高いこのダンジョンに挑んで……そして無様に敗北して逃げ帰ってきた。こんな惨めなことは無い。…やはり俺は海を知らないただの蛙だったんだ。」

 

俺はサーベルトを小突いてお前は何を言っているんだと言ってやりたかった。サーベルトが足手まといなわけがない。もし前衛かつメインアタッカーの彼がいなければ妨害特化の俺の戦闘はジリ貧になることは目に見えている。…確かに『マヒャド』『バギクロス』などの大魔法は範囲も広く派手で目を引くかもしれない。しかし魔導士の特徴としてその貧弱さが挙げられる。一応俺も魔法剣士として鍛錬は欠かしていないが、やはり本職の剣士とは体力や守備力でどうしても差がでてしまう。前線でサーベルトが魔物の敵愾心(ヘイト)を一心に集めてくれるからこそ俺も気持ちよく魔法や呪術をぶっ放すことができるのだ。ここまでは戦士の有用性についての評価だが、サーベルト自身についても、俺は彼を弱いなどと思ったことは無い。装備の強さはもちろん、トロデーンで見せた師匠との連携。周りを見る冷静さ、合わせる協調性は前衛職ではなかなか養いづらい特性である。七賢者シャマルの才を受け継いだと言われても納得できる一流の剣士に相違はあるまい。

 

「…そんなことを言わないでください。私が戦闘に集中することができているのは、サーベルトが剣士として巧く立ち回ってくれているおかげです。貴方がいなければ私は魔物に追い回されて戦闘どころではないのですよ。」

 

「…俺にはドリィのような派手な特技がない。だから、自分が何か戦いに貢献できているのかすらわからないんだ。時々なんでもできるドリィの技を見て羨ましくなってしまう。ドリィは俺の親友だというのに…ああ、最低だ。俺って…」

 

サーベルトが眩しすぎて直視できない。…俺なんていつも誰かを羨みながら毎日を生きている。この精悍な若い剣士は、誰かを羨むことすらも卑しいことだと思って悩んでいるのだ。しかもその口ぶりからはかなり前から悩んでいたであろうことが窺い知れる。一人で悶々と悩みながら、俺たちに迷惑をかけないように気丈に振舞おうとしていたのだ。なんと健気な年下だろうか!これは何とかしてあげなければ。

 

「…サーベルト。私はいつだって誰かのことを羨んで生きています。貴方のことも、ゼシカさんのことも、師匠のことも、キラさんのことも、パヴァン王のことも、ドン・モグーラのことだって羨ましく思います。人が他の誰かを見て羨ましく思うことは人として至極普通のことですよ。」

 

「えっ!?えっ!?」

 

サーベルトが顔を上げてこちらを見る。何故かキラちゃんの方が動揺しているが、今はサーベルトだ。もう一押し。人を羨むことが悪いことではないと説いた。あとは…

 

「私にはサーベルトが必要です。初めは貴方が頼み込む形で私たちはパーティーになりましたが、今は違う。何度でも言いましょう。私の旅には貴方が必要不可欠です。どうか、自分を卑下しないでください。貴方は…私の大事な相棒です。」

 

「ど、ドリィ…!」

 

「…では、私が一つ、剣の奥義をお教えしましょう。」

 

「…!」

 

サーベルトが生唾を呑む音が聞こえてきそうだ。

…この技は俺のこの肉体でも再現することはできなかったが、理論的には不可能ではないということは最近の研究で分かった。

剣士として幼少期から剣と触れ合い育ってきた彼ならば完成させることができるかもしれない。…可愛い親友のためだ、原作崩壊もクロスオーバーも今の俺にはどうだっていい。

 

「まず初めに、この奥義は()()()使()()()()()。しかし私はサーベルトなら完成させられると信じています。」

 

「そ、んな…俺は…」

 

「つまりサーベルト、この奥義は私が理論立てて、貴方が完成させる言わば二人の合体技です。どうですか?」

 

「俺とドリィ、二人の…技…!」

 

「…」

 

「ドリィ…俺は、やる。必ず俺が君の技を完成させてみせる!」

 

よし。サーベルトの目が光を取り戻した。こうなったサーベルトはきっともう止まらない。元気を取り戻したサーベルトを見てキラちゃんも胸を撫で下ろした。

 

 

 

「いい返事です!では早速伝授しましょう。その奥義の名は…『天照神楽(ヒノカミカグラ)』」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

あれから一日が経ち、俺は一人で剣士像の洞窟を出た。サーベルトは今は元気に練習がてらダンジョンの魔物たちを蹴散らしていることだろう。俺も一緒に見ていても良かったが、勇者たちがマイエラ修道院を発った以上、俺もパルミドでやることを終わらせておかねばなるまい。すなわち「モンスターバトルロード」である。目立つので格闘場に参加する気はないが、モンスターに詳しいモリーと話し込めば得られることは多いはずだ。キラちゃんはどうするか聞くと、悩んだ末に洞窟に残ることを選んだ。俺もそれが良いと思う。今のサーベルトの近くほど安全なところは無いし、サーベルト自身も心配だ。キラちゃんには俺たちが略奪したありったけのやくそうと何本かのまほうのせいすい、即席で作った携帯念話弐號(フォンⅡ)を渡した。洞窟最深部にいれば石碑を調べていつでも回復できるのだが、まあ念には念を、だ。

 

そういえば俺は物質語とゾンビ語をさわりだけだが習得した。どうやら俺Aが向こうで頑張っているようで、魂魄が同期している俺本体にも、俺Aが習得した知識や記憶がフィードバックして理解することができた。…なるほど、先生がゾンビ語を教えたがらなかった理由が何となくわかる気がする。こんな音や身振りを生身の人間が出していたら間違いなく深刻な精神疾患を疑われるだろう。

 

そんなことを考えながら、俺は啄もうとしてきた「キメラ」たちの首根っこをむんずと掴んで頭を地面に埋め、動けないようにすると、羽毛を800本ほど拝借した。キメラは胴体がヘビなので羽毛を狩るには向いていないな。かといって欲張って一気に羽を毟ると羽が翼になって、どこへ行くやらわかったもんじゃない。羽の質自体は悪くないのだが…ああ、柔らかくてもこもこの「わたぼう」みたいな魔物はこの世界にいないのだろうか。一応申し訳ないことをしたという自覚はあるので丸坊主になって寒そうなキメラたちをガマの穂で包んであげた。…どこの日本神話だ。キメラたちは心底迷惑そうにしていた。

 

日が落ちてきたのでこの羽毛で布団を作ろうと思っていたのだが、こんな量では足りない。せいぜい小さめのクッション程度だ。うーん。俺は真っ白キューブの錬金釜を取り出し、キメラの羽毛と布を入れてみた…だが、何も起こらない。やはり錬金釜は決められたレシピ通りに物体を投入した時しか術式が発動しないらしいな。なかなか融通の利かない魔道具だ。

 

仕方ないのでいつものベッドを組み立ててさっさと寝る準備をする。ちょうど最近、考案しつつも仲間たちのいる手前、実行できなかった就寝時の安全確保法があったので試してみる。といっても非常に単純で、『ギガデイン』で地面にバリアを張って『トラマナ』を自分とベッドに唱えて運び、バリアの上で寝るだけだ。これでほとんどの魔物は近づいてこない。空から襲ってくる敵用に「アローインプ」のセキュリティサービスを2体ほど配置しておけばもう無敵だ。ふふん、どうだ。

 

……うん、素直にせいすいを振りかけた方が楽だな!!!

 

 

寄り道に寄り道を重ねて数日後、ようやく目的地近くまで来た。

 

「…ふう、明日にはバトルロード格闘場に着きそうですねぇ。」

 

今日もここらで休もう…と思った矢先、俺はとんでもないものを見つけてしまった。

 

「!!!」

 

宵闇の中でも分かりやすいあの赤いバンダナ、そして見覚えのある馬車…まさか。まさか!

 

「おーい、誰かそこにいるの?」

 

「(勇者じゃないか…ッ!!)」

 

なんでここにいるんだよ。マイエラ修道院を出たなら次はアスカンタ王国に行くだろ…!

とにかく、こんなところで見つかるのはマズすぎる!

 

「こ、『妖精の見る夢(コティングリー)』!!!」

 

俺は咄嗟に少年の姿に変身した。蝶々の見る夢(ラグランジュ)とどちらを使うか一瞬迷ったが、誰かしらがここにいることは既にバレているので、どうせなら形を偽ってでも姿を現した方が良いだろう。

 

「お、いたいた。大人の人かと思ってたけど、子どもだったんだね。」

 

「…」

 

俺は黙って勇者エイトの次の言葉を待つ。子どもに変身したのはまずかったか。こんな夜に子供が一人でいたら明らかに怪しい。とにかく警戒されないようにしよう。

 

「こんばんは。僕は旅人のエイトといいます。君の名前は?」

 

「こ、こんばんは。わ、僕の名前は…ディムです。ええと…こう見えても冒険者です。」

 

あぶねー。少年が「私」とか言ったらちょっと不自然だよな。名前は適当だ。どうせその場限りのものだし。勇者エイトは俺が冒険者と自称したことに少し驚いていたようだが、すぐに笑顔になった。

 

「そうなんだ!僕も冒険者で、今はパルミドに向けて旅をしているんだ。」

 

パルミド!?じゃあこれから本格的に南下してくるじゃないか。用事が終わったらさっさとみんなの所へ戻ってこの大陸から撤収した方が良いな。

 

「…ねぇ、夜の草原は危ないよ。もしディム君がよければ今晩は僕らと一緒に過ごさない?ちょうど今からキャンプをしようと思ってるんだ。」

 

「え…いいのですか?」

 

うー。あんまり一緒にいて何かに感付かれたら嫌だけど、ここで断ればきっと勇者エイトはこちらを心配してどうにかしようとするだろう。それでイレギュラーが発生するくらいならば初めから素直についていった方が身のためかもしれない。ドラクエプレイヤーの一人として、勇者たちと共にキャンプをするなんて夢のイベントだしな。

 

「大丈夫!僕の仲間たちはみんな優しいから、きっとディム君のことも喜んで迎え入れてくれるよ!」

 

勇者エイトの笑顔も眩しい。…なるほど、これはゼシカがサーベルトの姿と彼の姿を重ねるわけだ。似ているのは何も顔立ちだけではない。素直なところ、優しいところ、何かと二人には似通ったところがある。いかにもといった感じの好青年だ。はたしてこの男はトロデーンの姫君とアルバートのお嬢様、どちらを選ぶのだろうか?

 

 

勇者エイトの導きによって俺は勇者パーティーとの邂逅を果たした。あ、ククール。おっすおっす、元気?わー、ゼシカ!こうやって話すのは久しぶりだねぇ!ヤンガスは初めましてだな。改めまして、トロデ王、ミーティア姫、お久しぶりです。よくも俺を宝物庫に連れて行ってくれやがりましたね。など俺は心の中であいさつを交わしながらこの後どうするか考えていた。全く働かずにただ時間が流れるのを待つというのも性に合わない。

 

「よろしくお願いします。…ああそうだ、せっかく安全な場所を提供していただけるのですから、何か僕にも手伝わせてください!料理とか、得意ですよ!」

 

それを聞いたククールがうまい具合に自分の仕事を押し付けてきた。…ほんとに要領のいい男だよなぁまったく。しかし料理なら俺の独壇場だ。俺はククールから貰った具材に加え、()()()()()も周りの目を盗んで異空間から取り出して使った。見つかれば一気に怪しまれるが、料理に妥協することは俺自身が許さない。

…え?自前の材料が何かって?さあねぇ。でも美味しくなるのは間違いないよ。

 

「完成です!どうぞ召し上がれ!」

 

「おお…なんと…これは…!」

 

「…ダメ…よだれがでちゃう…!」

 

「旨そうな匂い…これ本当に全部アッシたちで食べていいんでげすか!?」

 

「はいどうぞ!召し上がってください!」

 

「「いただきます!!!」」

 

俺特製の料理を前に我慢の限界だったのか、全員が同時に食器を手に取って食べ始めた。最初はフォークとナイフを器用に操っていたククールも、スプーンで大皿のエビラピラフをモリモリ食べている。ヤンガスは言わずもがなの食欲で料理を次々に平らげ、キラちゃん直伝のクリームシチューを大鍋から直接飲む暴挙に出たので流石にそれは止めた。ゼシカも黙々とサラダとステーキを交互に口に運んでいる。エイトは小食なのかあまり食べずに(人並みには食べているが)ミーティアにサラダを献上している。トロデも王族の気品はどこへやら、ガツガツムシャムシャと()()を頬張っている。

 

「う、うまい…!おぬし、何者じゃ…!?」

 

「いやいや、ただのど、冒険者ですよ。」

 

「(なんか明らかにオレが渡した材料より料理の方が多くないか?…まあ些事か。…こんなうまい料理は食ったことがないな…。)」

 

ああ、いい食べっぷりだ。これだけで今日ここに来た甲斐があったかもしれない。大勢に料理を振舞って無言で食事に集中してもらっている時が一番料理人冥利に尽きるな。うちのサーベルトも食べっぷりはいいが、一口ごとに感想を述べてくれるし、キラちゃんは未だに一回の食事で一口ずつしか料理を口に運んでくれない。それに比べて彼らはまるでお手本のような黙食だ。ほら見なさいキラちゃん!一流冒険者はちゃんと魔物も食べるんだよ!!

 

料理を片付けた後も俺は勇者たちと色々話をした。こちらから話を合わせにいった、という側面もあるがそれでも色んな話ができて面白かった。特に興味深かったのはゼシカとトロデの話だ。ゼシカの魔法理論を聞いて新しいインスピレーションが浮かんできたし、食事をして気が良くなったトロデに無理を言って錬金釜を見せてもらいながら語り合い、何となくだが改善点が見えてきた。帰ったら実に面白い実験ができそうだ。そうして有益な時間を過ごしながら夜は明けた。

 

 

別れ際、みんなから餞別の言葉を頂戴した後、エイトからパーティーに勧誘されたが、俺はもちろん断った。君たち同様、俺にもやらねばならないことがあるのでね。…最終目的は同じだけども。俺は出発する馬車に手を振って、見えなくなるほど遠くなったのを認めると、呪術を解いた。…ああ眠い。精神に由来する霊力を行使する呪術は、眠ってしまうと解けてしまうことがたまにある。故に昨日は一睡もできなかったのだ。後でもう一回ちゃんと寝よう。俺はガンガン痛む頭を『キアリー』で誤魔化しながら森に入った。

 

 

 

 

 

 




ドルマゲスくんよ。君、相手が男だったらどんなクサい台詞吐いてもいいと思ってない?

それにしてもなんで料理描写だけ毎回長文になっちゃうんでしょうか。自分でもよく分かりません。まあニコニコしながらステーキを頬張るゼシカや両手に違う料理を持って交互に食べるヤンガス、あまりの美味しさについ素が出てしまうククールなど、料理によってのみ引き出されるキャラクター像を想像するとなんだか微笑ましい気持ちになるので、これはこれで乙なものかもしれませんね。あ、また長くなっちゃった。


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番外編 WORKING!

今回はちょっとした舞台裏の話です。








「ふうっ……」

 

俺は地面に腰を下ろし、自作の栄養剤を一気に呷った。汚れなど気にはしない。今の俺は地味な作業着姿なのだから。まずいな。まだ働き始めてから4時間しか経っていないのにもう眠くなってきた。昨日夜更かししすぎたかな。…よし、今日はもう休もう!効率大事!俺がそう思って立ち上がったところ、遠くから一匹のモグラが走って来るのが見える。…まさか、もう終わったのか。

 

「総監督ー!ドルマゲス総監督ー!指示されていたアジト領域の70%拡張、及びアジト内のガレキと岩石の撤去、それからアジト内の地ならしが期日より4日前倒しで完了したっす!次の指示をくださいっす!」

 

「ず、随分と早いですね…早めに終わったのなら今日はもう上がってもらっても大丈夫ですよ。」

 

早すぎる。このモグラのアジトの面積は小さく見積もってもアスカンタ王国と同じか、それ以上に大きいはずだ。それに掘削、運搬、地ならし。全てハードな肉体労働である。ちょっと厳しいかなー、とか思いながら期間を一週間に設定したのに、2日と半日で終わらせてしまうとは…。魔物の体力を侮っていたかもしれない。

 

「いやいや!俺たちまだまだ働けますよ!あいつらも久々の大仕事だー!ってすっかり張り切って毎日働いてます!」

 

「マジですか…」

 

訂正しよう。俺は魔物の体力を侮っていた。

 

俺…いや、正確には俺Aは厄介な仕事を押し付けた俺本体を恨めしく思いながら、一週間かけて練ろうと思っていたプランを急造すべくモグラ現場監督に昼休憩を言い渡すのだった。

 

「休憩入りますっす!!!」

 

 

"ユナイテッド・サービシーズ・オブ・アスカンタ"、略して"U.S.A."。これが俺が建設しようとしている複合施設の名称である。元は研究所と工場を建てたらあとは適当に地下ショッピングモールでも作っときゃいいかと考えていたのだが、検地して計算したところ、完成しても微妙に土地が余ってしまうことが分かったので、いっそ地下を拡張して巨大な工場と研究所を建て、地上にショッピングモールとその他娯楽施設、ついでに遊園地なども作ることにした。アスカンタ王国も資金援助をしてくれることにはなったし、魔物たちは殆ど無償で働いてくれる(モグラ曰く作業している方が楽しいらしい)のだが、それでも全然足りないので「おどる宝石」たちの中身は漏れなく譲っていただけることになった。

 

え?どんな酷い手を使ったのかって?なに、平和的に会話で解決しましたよ。左手に麻袋、右手に裁ちばさみを持って地下をうろつき、「おどる宝石」と目が合った時にこれ見よがしに麻袋を切り裂いてやれば、そこからの交渉は非常にスムーズでした。

 

一時間後には粗方プランもなんとかまとめた俺は、モグラ現場監督を呼び出した。

 

「これからあなたたちには地下の地縄張りと遣り方、地上の地ならしを並行してやってもらいます。私はその他の準備をしておきますので、地下のグループが遣り方まで終えたら設計担当グループをターミナル入口予定地に集めてもう一度私まで知らせてください。ええと、もちろん施主とビルドメーカーの担当は私が兼任します。」

 

「了解っす!では!」

 

地縄張りと遣り方はどこの世界でも建築の基本の基本らしい。アスカンタの書物に同じようなことが書かれていたので間違いはないだろう。…正直地鎮祭の方はやってもやらなくてもいいと思うが、神様や精霊が実在するこの世界では地鎮祭を行っておいても損はないはずだ。

 

「精が出とるモグな、ドルマゲス工場長?いや、ここでは総監督モグか。」

 

「おや、ドン・モグーラリーダー。調子はどうですか?」

 

「ワシの喉か?今日はなかなかいいコンディションをしておるモグ。なんならここで一曲…」

 

「いや喉じゃなくて!何回やるんですかねこのやり取り…」

 

「悪い悪いモグ。冗談はさておき、お前が言っていた“三種の神器”とやらの内、『ヒンヤーリ』と『グルピカ』はなんとかなりそうモグ。逆に『シロクロ』の開発には行き詰まっているようモグな。ワシも設計図は覚えたが、ありゃ随分と厄介な回路をしているモグ。」

 

「そうですか。では『シロクロ』の開発はそのまま続行でお願いします。『グルピカ』は完成したら一旦置いておいて、『ヒンヤーリ』の低廉化に人員を回しておいてください。」

 

「分かったモグ。」

 

「あ、そうそうコンサートホール建設ですが、何人かのモグラが建設反対のストライキを起こしているみたいです。あとでぜひ声をかけてやってください。」

 

「なぬ!ワシの歌を聞きたがっている子分たちがたくさんいるというのになんと酷いことを…工場長、感謝するモグ。今から喝を入れてくるモグ!!」

 

ドン・モグーラはズデデデデと地響きを起こしながら地上へと向かった。ドン・モグーラはああ見えてハープを操るほど手先が器用なので、臨時工場の開発部門のリーダーをやらせている。成果は上々のようだ。カリスマの有るドン・モグーラはもちろん、かしこさの高い「ホークマン」は開発や研究においてはとても優秀な人材だということも分かった。そんなことを言っている間に当のホークマンもやってきた。

…俺はいつになったら休めるんだ?

 

「す、すみません、今お時間大丈夫ですか、ドルマゲス所長?」

 

「はい…ええと、貴方は…ホークマンの…3、いや2番目…」

 

「グ、遺伝子工学部門長(グリーン・チーフ)のホーク1です!今日は定例報告をしに参りました…ッ」

 

「ああ、ごめんなさい。ではホーク1さん、報告をお願いします。」

 

魔物は全部顔も姿も同じなので判別がつかないんだよ。こんどドン・モグーラに言って何個か名札を作ってもらおう。

 

「ごほん、仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)試作二号機ですが、思考テスト・運動テストともにクリアしました。しかしその過程でテスター2と4が破損してしまい、ただいまテスターを新調中のため実験は中止しております。一方セキュリティサービスシリーズ21~40は完成しました。すぐに持っていきますか?」

 

「そうですね。貰っておきましょう。あとで私の仮設住宅に運んでおいてください。セキュリティサービスは慎重に運んでくださいね。タイプによっては落とすだけで壊れちゃうんですから。もし壊したら私は間違って貴方をサンプルにしてしまうかもしれませんし。」

 

「ヒッ…え、えっと!グリーンチームからは以上です。そしてこれが量子物理学部門(ブルーチーム)考古錬金学部門(レッドチーム)、それと形而上学部門(パープルチーム)の報告書です!どうぞご覧ください…」

 

ただの冗談だったのに。すっかりホーク1は委縮してしまっている。俺は報告書に目を通した。…うん、俺が今すぐ行かなければならないような用事はなさそうだ。

 

「ご苦労様でした。もうじき定時なのである程度で切り上げて貰って構いませんよ。…ところでホーク2さんとホーク3さんとホーク4さんはどうしたんです?」

 

「えっ、いや…なんか腹痛だとか知恵熱が出たとかで…(クソ、あいつら…今日はドルマゲスが2徹目で機嫌が悪いから報告したくないとかでオレに押し付けやがって…オレだってこえーよ…)」

 

「…そうですか。では御三方に伝えておいてください。『話があるので仮病が治ったら所長室まで来い』と。」

 

心から安堵した表情で帰っていくホーク1を見送って、やっと俺にも休みの時間がやってきた。眠い、眠すぎる。今ごろ俺の本体はキラちゃんの家でゆっくり過ごしていることだろう。ふん、俺も爆睡してやるもんね。俺は帰って着替えてシャワーを浴び、仮設住宅の自分のベッドにダイブした。このベッドはアスカンタで購入した最高級の逸品だ。間接照明を灯し、アロマも焚く。俺は快眠のための投資は惜しみなく行う派である。ああ、幸せ…

 

俺が眠りについてから一時間と数分。モグラ現場監督が勢いよくドアを開け、終わりましたっす!!!と大声で叫ぶまでは、確かに俺は天国にいた。

俺は無言で立ち上がると、現場監督をグーで殴りもう一回ベッドに潜った。

 

「い゛っ!?ひ、酷いっすよ~総監督~」

 

ごめんね、報告しろって言ったの俺だよね。でもね、普通あの規模の地縄張りと遣り方って一日かかる作業なのよ。そんなに早く終わると思うわけないじゃん。ねえ、寝かせてよ…。

 

「…ごめん、もう無理…今日は終わり。…おやすみ。」

 

俺の声に殺意が込められているのを感じたのか、現場監督はすごすごと引き下がった。せっかく設計担当グループも集まってくれただろうに、本当に申し訳ない。やっぱり俺は人を動かす立場には向いていないな…

 

そんな自責の念もどこへやら、俺の意識はもう一度天国へ堕ちていった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

俺はここで働く魔物たちに対して労働を強制しているわけではない。食事は配給制で振舞っているが別にお給金も出していないし。一日の内7時間働いてくれたら御の字である。24時間働いているモグラたちのようなワーカーホリックもいるにはいるが、その他の魔物たちはグループを組み、7時間ごとにシフトを交代する21時間体制を採っているようだ。…別に反抗する奴や働かない奴が出ても問題はない。嫌ならばどこへなりとも行けばいいし、働かないなら実験サンプルが増えるだけだ。去る者は追わないが、働かないものには食わせない、というか逆に食う。それだけである。

 

…それで残りの三時間はどうしているのかというと、言語の勉強である。円滑なコミュニケーションを達成するため、人語を公用語にして魔物たちに人語を学習させているのだ。人語の講師はドン・モグーラと人語を解するエリートモグラたち、そして…

 

「おはよう!ドルマゲスくん!今日も頑張るね!」

 

「おはようドルマゲスくん。今日も頑張るよ。」

 

「おはようございます、先生、教授。今日もよろしくお願いしますね。」

 

自称賢い魔物にして俺の恩師でもあるスライムの先生と教授だ。少し前に思い立った俺が『ルーラ』で滝の洞窟に戻って感動の再会を果たした後、一緒に連れてきたのだ。感覚派の先生と理論派の教授二人の講義は分かりやすいと魔物たちの間でも評判である。その間に俺はゾンビ語と物質語の勉強をしている。

 

モグラのアジトやアスカンタ城地下に生息している「マドハンド」だが、これがなかなか有能で、一応は物質系モンスターに分類されるはずなのだが、自然系とゾンビ系の魔物でもあるらしい。この前ダメ元で自然語で話しかけてみたところ何かしらの反応を示したので、木の棒を渡すと地面に文字を書き始めた。しかし何が書いてあるか分からないのでうんうん唸っていると、また次の指示を乞いに来ていたモグラ現場監督が自然語の文字だと教えてくれたのだ。

 

一度興味を持ったらズブズブはまるのが俺の性分である。近くでサボっていた「マッドドッグ」を捕まえて音声と文字を照合し、ノートにメモしてマドハンドとの筆談を試みた。筆談は成功し、以来俺はマドハンドからゾンビ語と物質語の通信教育を受けているというわけだ。分からないところがあればマドハンドは仲間を呼んで集団で講義してくれるほど熱心に教えてくれるので俺の語学力はメキメキ上達している。

 

 

俺本体が勇者と遭遇した様だ。まったく何やってんだか。しかし、もし勇者たちがアスカンタに立ち寄っていたらパヴァンが俺のことを色々話していたかもしれないな。おそらく勇者たちは「月影のハープ」を譲ってもらうためにこの国に寄るはずなので、パヴァンたちにネタバラシしないように言っておこう。それが終わったら、遺伝子工学部門(グリーンチーム)に試作二号機の改良案を伝えて、そのあと量子物理学部門(ブルーチーム)形而上学部門(パープルチーム)の合同呪術討論に参加して、…ああ建築のプランも考えないと。モグラたちはどんな無理難題を突き付けても絶対期日より早く終わらせる上に休みたがらないので、指示を出す側が逆に苦労する。次はコンクリート打設まで…いや、念のため壁配筋まで指示しておこう…。福祉委員会が料理をしてくれるようになったのはだいぶ助かるな。そのあとでアスカンタ国領…の魔物は俺の顔を覚えてるんだったな。仕方ない。それから…はあ。俺はいつ休めるのかなぁ。

 

ベッドで休むことだけを楽しみに俺Aは今日も頭をフル回転させるのだった。





社内アンケート

あなたが置かれている労働環境にランクをつけてください。

★★★★★
働くのって楽しい!!(キラースコップ)

★★★
今はしんどいけど、完成して無料で遊べるならまあ…(ホークマン)


ブラックすぎるゴミ職場。特に代表がカス。人間のくせして俺たち魔物に指示するのが鼻持ちならない。こんなところさっさとうわまてなにをする(ここでアンケートは途切れている。)







今回は個人的に書きたかったものをひたすら書いただけです。別に読まなくても大丈夫ですです。(遅い)

…え、これって何の二次創作だっけ??



ドルマゲス(男・28)
職業:大魔法使い・道化師・マゲス研究所所長・アスカンタ建築総監督・ドリーム重化学工場長・U.S.A.ホールディングス代表取締役社長
今欲しいもの:休息





興味はないと思いますが自分用に一応…

U.S.A.ホールディングス内の部門

総監督、所長、工場長、代表取締役社長(全部ドルマゲスAが兼任)

現場監督(モグラの子分)、研究部門長(ホークマン)、グループリーダー(ドン・モグーラ)

情報委員会、安全委員会、福祉委員会、懲戒委員会(アジト内の秩序を保つ役割を担う)

先生・教授等の客員講師、その他の膨大な魔物の共同体

一般魔物


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第二十章 奇人変人とリベンジマッチ

そろそろ書く、かァ~








Gutentag! Ich bin Dolmaguez. Ich bin nur ein Clown...Ich können nur Magie und Flüche benutzen.

やれやれ、勇者一行と接触するのはまあまあ危険な賭けでしたが結構楽しかったですね。それに怪我の功名とでも言いましょうか、謎だらけだった錬金釜の構造がトロデ王からの情報によってかなり解明しました。得た知識を基に、今はアスカンタにいる私の分身が考古錬金学部門(レッドチーム)と共に錬金釜に改造を施してくれているでしょう。

 

 

 

 

やっとのことで俺はバトルロード格闘場まで辿り着いた。…パルミドの魔物はかなりうざったかった。最初こそまともに相手をしていたが、後半はもう心身ともにへとへとになり、貴重なビタミン源となる「パプリカン」と羽毛が欲しい「キメラ」と戦うとき以外は『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』でやり過ごしながら進んだ。たまに俺の影に感付いて襲ってくる魔物もいるが、こちらも眠いし疲れているのでそういう時は容赦なくボコボコにした。

 

ここがバトルロード格闘場…赤と緑の扉が特徴的な小さな石造りの建物だ。もっとも小さく見えるのは地上部分だけで、その地下には巨大なコロッセオが広がっているのだからオドロキだ。俺は屋上にモリーが佇んでいるのを認めると屋根まで登った。

 

「もし…今お時間よろしいですか?」

 

「……………。」

 

「…」

 

「……………。」

 

「じゃあさよなら。」

 

「おお、待て待て。せっかく話しかけてくれたのに無視してすまなかったな。おぬしの話にも耳を傾けようではないか。わしの名はモリー。今はここで風の話を聞いていた。」

 

まあ分かっていたが変な人だ。…主に服装が。風の話を聞くという変人ムーブもかましているが、これはどうだろう。旧き世界の民イシュマウリは、世の中の全てのものには意識と記憶が存在すると言っていた。結局最後まで彼の正体は分からなかったが、彼の言うことを信じるのならばきっと風や雨のような自然現象にも意識と記憶があるのだろうか。だとしたらモリーの言うことも全くの妄言ではないのかもしれない。

 

「…聞こえているぞジェントル。キミの服装も大概奇抜ではないか。」

 

あっやべ。最初の方の声が漏れていたらしい。しかし失礼な!「道化の衣装」は道化師のマストアイテムだぞ!変人のアンタとは違うの!

 

「…あはは、わ、私は仕事だからいいのですよ。それより…」

 

「…さきほど風がわしにこう言った。まもなくここに素晴らしい才能の持ち主がやって来るだろうと。そして来た!エイトと名乗るボーイが!アレはまさしく才能の塊だった!わしは後世に名を遺すであろう魔物使いのタマゴと出会えた感動を、ここで風と分かち合っていたのだ。」

 

全然俺の話に耳を傾けようとしてくれない。熱血おじさんなモリーのことはキャラクターとしては好きなのだが、どうも話が先に進まないのでマルチェロとは違う意味で苦手である。それよりエイトたちはバトルロード格闘場からパルミドへ向かっていたのか。どうりであんなところで鉢合わせたわけだ。アスカンタも無視するし、パルミドより先にこっちに来るし、もしかして勇者ってかなりの効率厨?まさか転生者じゃないだろうな?…なんにせよ急がないと。

 

「…なるほど。それで本日はですね…」

 

「ジェントル!おぬしも旅人だな?」

 

「…ええ、まあ、はい。」

 

「おぬしもあのボーイほどではないが光るものを感じる。どうだね?魔物と心を通わせ共に並び立つ世界に足を踏み入れる気はないか?」

 

「…」

 

「お、おいジェントル!どこへ行く!」

 

こっちの話を全く聞いてくれないし眠いししんどいしで段々苛立ってきた。…モリーは俺のことを素人だと思っているので勘違いは正してやらねば。俺は無言で屋上から飛び降り、森の中へ入って手ごろな魔物を探した。

 

(なんだァ、テメェ…?)

 

(ああ、丁度いい。一緒に来てもらっていいですか?)

 

(人間風情が魔物様にものを頼むときはさァ~それ相応の態度ってモンがあんだろうがよォ~~~~!!!)

 

 

数分後。

 

「おおっ、どこに行っていたんだジェントル。…いかん!後ろにキメラが!危ないぞジェントル!」

 

「いきなり飛び出して行ってしまい、申し訳ありませんでした。でもモリー様に是非これを見ていただきたく。」

 

俺は頭に3個ほどの立派なたんこぶができたキメラに指示を出した。存分に驚くがいい。

 

(高く飛んで宙返りをしてください)

 

「クエーッ!」

 

「な、なんと!!」

 

(8の字に飛行しながらゆっくり降りて来てください)

 

「クエーッ!」

 

「そんな!まさか!」

 

(一気に高度を上げてから急降下して着地し、ポーズを決めてください)

 

「く、クエェーッ!」

 

キメラは身をよじってポーズのようなものを決めた。アドリブにしては頑張ってくれた方だと思うよ、うん。

 

「…これは、驚いた…!ジェントル、キミは何者なのだ…」

 

「ただの旅芸人ですよ。しかし私とこのキメラはお互いをわかりあっているのです(わからせたとも言う)。」

 

「!!!」

 

「…」

 

「…今日は本当になんと素晴らしい日だ…こんな逸材に一日で二度も出会えるとは…!」

 

モリーは感極まって涙を流している。俺がキメラにありがとうございましたと言うと、キメラは逃げるように森へと帰っていった。また会おうな。

 

ともかく、これで魔物使いとしての俺の適性は分かってくれただろうか。俺は勇者エイトやⅤ主人公のように魔物と心を通わせることはできないが、言葉は交わせるのだ。…暴論にはなるが、どんな形であれ魔物を使役することができれば魔物使いには分類されるはずである。俺がここに来た理由は魔物についての理解を深めるためだ。ここには魔物使いの第一人者であるモリーがいるので、彼ならば何か知っているかもしれないと思い、サーベルトの修行の時間つぶしに立ち寄った次第だ。なので…

 

「ジェェントル!キミには間違いなくモンスターバトルロードの素質がある!!どうだ、富と名声求めてモンスターたちと共に頂点を目指さないか?」

 

「いえ大丈夫です、お断りさせていただきます。」

 

バトルロードにはさほど興味がない。

 

「なぬっ!?モンスターバトルロードに興味が無いとでもいうのか!?」

 

「はい。興味ないです。」

 

だって目立つじゃん。職業柄目立つのが嫌いなわけではないけども、ここ勇者も来るんよね。うっかり鉢合わせたらコロッセオがそのまま決戦の舞台になってしまう。またディム君に変身して参加してもいいが、そこまでするほどでもな…って感じだ。

モリーはここまで言って断られたのは初めてだったのか、ものすごいショックを受けている。

 

「そ、そんなことを言わないでくれ!キミならますますこの格闘場を盛り上げることができるはずだ!!…ハッ!そうか、入会金20万ゴールドのことを気にしているのだな?心配することは無い!わしが代わりに出してやろう!」

 

そういえばそんな設定あったな。格闘場に富豪しかいない理由。うーん、20万ゴールドか。"U.S.A.(あっち)"の資金を集めれば払えないことも無いのでそこまで高い障害でもない。てかそんなの忘れてた。

 

「いえ大丈夫です、お断りさせていただきます。」

 

「ジェントル~~頼む!この通りだ!」

 

モリーはその禿げ上がった頭頂部が膝につくかと言わんばかりに深く深く頭を下げた。身体柔らかっ。

…しかし困った。俺は押しの強いオジサンに弱いのだ。それなのに自分より年上の中年にここまでされては断れるものも断れない。

 

「えぇ…でも今すぐは無理ですよ…?」

 

モリーはバッと顔を上げた。その顔はまるで小遣いをもらった少年のように輝いている。…マリー始めモリーのアシスタントをしている『マミムメリー』たちが何故モリーにあんなにも惹かれるのか、何となくわかった気がする。少年の心を忘れないオジサンというものはいつだって魅力的に映るものだ。

 

「本当か!引き受けてくれるか!ありがとう!ジェントルは必ずモンスターバトルロードの未来を担う男になるだろう!」

 

…まあいつやるとは言ってないし。世界が平和になった後にでも行けばいいでしょう。

 

結局その後やっとこさ会話のターンが俺に回ってきたので良い魔物使いになるためという名目で魔物の生態について聞いてみたのだが、残念ながらほとんど俺の知っていることしか教えてくれなかった。なんなら魔物を食べると言うとドン引きされた。その後ほとんど一方的にバトルロード格闘場のカギと『チーム呼び』の方法を押し付けられて俺は解放された。…一応の体裁は保っておきたいし今度ドランゴでもスカウトしにいっとくか…。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

『ヒノカミ神楽』。かつて現世の日本で一世を風靡した漫画の中の架空の剣技であり、元は新年の始まりに一年間の無病息災を祈る厄払いの神楽である。特殊な呼吸法と体捌き、歩法で舞うように相手を切り裂くのが特徴だ。

円舞(えんぶ)碧羅の天(へきらのてん)烈日紅鏡(れつじつこうきょう)灼骨炎陽(しゃっこつえんよう)陽華突(ようかとつ)日暈の龍・頭舞い(にちうんのりゅう・かぶりまい)斜陽転身(しゃようてんしん)飛輪陽炎(ひりんかげろう)輝輝恩光(ききおんこう)火車(かしゃ)幻日虹(げんにちこう)炎舞(えんぶ)の十二の型から成る剣の奥義である。

無論俺は知識としてのみ知っているし、なんなら習得を夢見て研究もしたが、ついに会得は叶わなかった。わかることとできることは必ずしもイコールではないのである。…そもそもあの「ゴオオオ」と音がする呼吸から全く原理が分からないし。しかしこの世界には、呼吸がなくとも魔法がある。俺がそこに一抹の望みをかけて完成させたのが『疑似ヒノカミ神楽』である『仮称天照神楽(ヒノカミカグラ)』だ。しかしそこまで妥協しても長身の俺にはどうしても扱えなかったので天才剣士のサーベルトに俺の夢を託したというわけだ。

 

 

「ただいま帰りました。」

 

「ああっ、ドルマゲス様!お帰りなさいませ!」

 

バトルロード格闘場から『ルーラ』で剣士像の洞窟まで帰ってきた俺はまた最深部まで飛んでいき、椅子に座って実家から持ってきたであろう本を読んでいたキラちゃんと再会した。

 

「数日ぶりですねぇキラさん。体調はお変わりないですか?連絡が無いものですから心配していましたよ。ここは日光も届かない鬱屈とした場所ですからね…ところでサーベルトはどちらへ?」

 

「あっ…はい!元気です!ご、ご心配をおかけして申し訳ありません…(うぅ、連絡しよう、連絡しようってずっと思ってたのに…私のバカバカ!)サーベルト様なら今朝からずっと下の部屋に籠っておられます。なんでも『掴んだ』のだとか…私にはよく分かりませんが…」

 

「!そうですか。分かりましたありがとうございます。私は少し様子を見てきますね。…あぁと、在庫管理をしたいので、私がいない間に消費した食糧や消耗品などを紙に書き出していただいてもよろしいでしょうか?」

 

「え、えとそれでしたら既に完了しております。それとドルマゲス様が再三申しておりました馬車の後右輪の調整と外れた鍋の取っ手も修繕も行っておきました。それ以外のこともまとめて紙に逐一書いて保管しておりました。」

 

「…」

 

「あっ!ご、ご迷惑でしたでしょうか…」

 

キラちゃんはどんどん縮こまっていく。…本当に優秀な子だ。もう雑務は俺がやるより彼女に一任した方が素早く美しく片付くかもしれないな。

 

「いえ、あまりにも貴方が優秀でしたので少々言葉を失っていただけです。ありがとうございました、助かりました。」

 

「ひっ!いや、そんな…メイドとして当然のことを…ごにょにょ」

 

うーん。一般的なメイドは道化師がサンプルを収納しやすいように魔物の死体を乾燥させて日付ごとに並べたりしないと思うんだけどなぁ。彼女もこの数日間で精神的に成長したということだろう、感心感心。俺は在庫管理の紙と報告書を受け取ると、穴から階下へ飛び降りた。

 

 

下の部屋の中央でサーベルトは瞑想していた。…暑い!…おそらく上の部屋とは10℃前後は異なっていると思われる。その原因はサーベルトが発している尋常じゃない闘気の影響だろう。よほど集中しているのか、サーベルトは俺が降りてきたことにも気付いていない。

 

「サーベルト!」

 

「…ドリィか。」

 

サーベルトが俺に気付くと、部屋中に張り巡らされていた闘気がフッと消えた。

 

「調子はどうですか?私と貴方、二人の奥義は。」

 

サーベルトはゆっくりと立ち上がってこちらを振り返ると、ニヤリと笑った。

 

「…たった今完成した。…行こう。リベンジだ!」

 

サーベルトの獰猛にも見える笑みに、俺もまた悪い笑顔で返す。

 

「…そうですか。とても楽しみです…。」

 

俺たちが最奥部に戻ると、サーベルトは階段を上り始めた。

 

「ドリィとキラはそこで見ていてくれ。」

 

「サーベルト?鎧も盾も装備していない状態で大丈夫なのですか?」

 

「…ああ、大丈夫だ。問題ない。」

 

かっくいー。そのセリフはちょっと心配になる死亡フラグだが、彼ならやってくれるという予感がする。

サーベルトの言う通りに俺とキラちゃんは階段の下で待つことにする。サーベルトは宝箱の留め金を外すと、剣を上段に構えた。剣の道でも割とスタンダードな『霞の構え』、狙いすました攻撃を打ち出すための構えだ。宝箱が開けられたことを感知した「トラップボックス」は再度その真の姿を現した。

 

「サーベルト、見せてもらいますよ…!」

 

「サーベルト様、ご武運を!」

 

サーベルトは大きく息を吸って集中した。その体にトラップボックスが容赦なく噛みつくが、サーベルトは歯牙にもかけない。思わずたじろいだトラップボックスがサーベルトから離れたその刹那、一閃。大きく円を描くように振り下ろされた剣がトラップボックスを捉えた。そして一閃。返す刃でまた円を描く。さらに一閃。いや二閃。目にもとまらぬ早業が左右対称の攻撃となって襲い掛かる。一歩踏み出して一閃。ふわりと跳んで一閃。羽のように音もなく着地して一閃。その足をばねの様に使って前へ躍り出て一閃。トラップボックスに攻撃の暇も与えぬその動きは正しく『演舞』、俺の思い描いた神楽そのものだった。

 

「素敵…」

 

「ええ、本当に…素晴らしいですよサーベルト…!」

 

サーベルトの終わらない攻撃についにトラップボックスは沈んだ。サーベルトは油断せずに残心をとり、相手が完全に沈黙したのを認めると、大きく息を吐き階段を降りてきた。随分呼吸が荒く苦しそうに見えるが、その顔は憑き物が落ちたように晴れやかだった。

 

「サーベルト…、とても素晴らしかったです。私が想像していたよりもずっと強く美しい技でした。」

 

「…ありがとうドリィ。それもこれも君が俺のために色々考えてくれた結果がでただけさ。」

 

「…サーベルト、今の戦いを経てまだ自分を弱い人間だと卑下できますか?」

 

「…いや、ドリィに言われてから色々なことを考えた。…俺は自分が弱いと割り切ることで現実から逃げていたように思う。でも今は違う。俺はもう自分を弱者だと言って戦いから逃げたりはしない。俺は未熟者であっても弱くはない。守りたいものを守れるような男になるために俺はもっと強くなる!」

 

俺は大きく頷いた。やはりサーベルトは元気でいるのが一番だ。俺もこの数日間一人で過ごして分かったが、サーベルトのいない旅はどうも味気がない。サーベルトが俺に救われたように、俺もサーベルトに元気を貰っていたのだ。

 

「…私には世界を救って楽しく暮らすために」

 

「俺には今ある平和を守り抜くために」

 

「貴方が「君が『必要だ。』」」

 

「ふふ…」「ははっ」

 

「これからもよろしくな、親友!」

 

「こちらこそよろしくお願いします。これからの活躍も期待していますよ?」

 

キラちゃんのニコニコ笑顔に見守られながら、俺とサーベルトはハイタッチをした。

 

 

「そろそろ出るか?」

 

「そうですね、もうここには用はないですし。」

 

サーベルトとキラちゃんは最奥部に広げた拠点の片づけ、俺はサンプルとトラップボックスの回収とそれぞれ作業をしていたが、ひと段落したところでサーベルトが提言した。

 

「わ…!も、もしかして、ドルマゲス様が持っていらっしゃるのは世界三大宝石の一つ、『ビーナスの涙』ではございませんか?」

 

キラちゃんは俺が持っていた涙滴型の石──大人の握りこぶし二つ分はあろうかという大きさの宝石を指さした。

 

「ああ、これですか?そうですね。さっきの魔物が守っていたこの洞窟のお宝です。欲しいですか?」

 

「本物をこの目でお目にかかれるとは…!い、いえ!滅相も無いです!私は何もしていませんので…」

 

「じゃあ討伐したサーベルトに。」

 

「俺も別に必要はないな。ドリィの好きにしていいぞ。」

 

「そうですか…じゃ、戻しておきますかね。」

 

『ビーナスの涙』は勇者たちにとっても重要となるアイテムだ。だとすればこのまま変に動かしたりせずに保管しておいた方がよいだろう。しかし宝を守る番人がいなくなってしまったので、代わりに最近開発のめどが立った仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)二号機の試作品を宝石と一緒に宝箱に入れておく。こっちは初号機(バイラリン)と違って火力こそ低いし小さいが、魔力効率はかなりいい。数か月は継続して活動できるはずだ。トラップボックスよりは若干強いかもしれないが、万一勇者以外の挑戦者が現れて番人不在の宝箱から宝石を取られてしまった時の対応の方が面倒なので、勇者たちには是非とも経験を積んでもらおうと思う。

 

俺たちは荷物をまとめて洞窟を出ると、今後の方針について話した。

 

「勇者たち…サーベルトの妹君を含むグループがいよいよ近づいています。なので予定を切り上げて次の町へ向かうことにしましょう。」

 

「…!ゼシカ…」

 

「へえ、サーベルト様の妹様が…えぇと、じゃあパルミドには…」

 

「ごめんなさい、パルミドには寄れなさそうです…。」

 

「そ、そうですか…いえっ、大丈夫です…」

 

「今度ゆっくり旅行に行きましょう。」

 

俺は心の中で少し安心した。悪徳の町(あんなところ)にキラちゃんやユリマちゃんのようなうら若き少女を連れて行ったら何が起こるか分からない。現に原作ではうら若き少女(ウマ)であるミーティアは攫われているわけだし。

俺たちはバトルロード格闘場まで『ルーラ』で飛び、東の海岸へ向かって歩き出した。目指すは賢者の末裔によって運営されている世界一のギャンブルタウン、ベルガラックである。

 

 

 

 

 




賛否両論あることは重々承知ですが、どうしてもサーベルトさんには劣等感を持ってほしくなくてこんなことになりました。申し訳ございません。



『仮称天照神楽(ヒノカミカグラ)』について

消費HP:--  消費MP:84
説明:まりょくとたいりょくを代償に目にも止まらぬ炎のれんげきをくりだす剣の奥義。


解説:某人気少年漫画をまるまるオマージュしたドルマゲスによって編み出された剣技。最大HPの半分と多くのMPを消費して繰り出す技で、技完了までに2ターンを要し、1ターン目に深く集中し、2ターン目で攻撃する。1ターン目で自身に『ピオラ』『スカラ』『バイキルト』がかかった状態になったのち状態異常に完全耐性ができ、2ターン目で『かえんぎり』に相当する単体攻撃が12連続で発生する。さらにこの攻撃はヒットするたびに威力が上昇し、12撃目には初撃の3倍ものダメージを与えるようになる。攻撃後は全ての効果が消え、次ターンは行動不能になる。

呼吸の仕組みはついに解明できなかったので、攻撃前に自身にバフをかけて疑似的に呼吸による身体強化を再現している。






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第 話 『ユリマ』 ②

満を持します。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ぃ…

 

 

痛い…

 

 

苦しい…

 

 

体中がちぎれそうに痛いよ…

 

 

内蔵がかき混ぜられているみたいに苦しいよ…

 

 

私このまま、死んじゃうのかな…

 

 

 

 

 

 

嫌…嫌だよ…私、まだ…

 

 

助けて、助けて…

 

 

 

ドルマゲスさん………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ 神様 私の人生はやっぱり“孤独”です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めると、そこは暗い砂浜だった。ここ、どこだろう。

 

 

…そもそも私はなんでこんなところにいるの?

 

 

頭が痛い。身体の節々も…

 

 

夜の闇に目が慣れてきた私は辺りを見回した。私の服、靴、荷物、砂、海、イカ。…イカ?

 

 

「おっ、生きてたか。」

 

 

私の目の前には大きな赤いイカの魔物がいた。

 

 

「ひっ…ま、魔物…!」

 

 

私はびっくりして、怖くて、思わず飛び退いたけど、魔物は私を襲うつもりはないみたい。

 

 

「まあそう怯えないでくれよ。俺はもう船や人を襲うような真似はしねぇさ。」

 

 

この魔物、人語を話せるの…?

私は警戒は続けながらも、とりあえず杖を握りしめる手の力は緩めた。

 

 

「…イカさん、ここはどこですか」

 

 

「い、イカさん…ここは南の大陸だな。人間の決めた区分に従うならマイエラ地方ってところだ。」

 

 

魔物は微妙な顔をしながら、ここがマイエラ地方だと教えてくれた。マイエラ地方ってトラペッタの町からかなり離れた…海を越えた先にある土地だったような…?

 

 

「それより質問をしたいのはこっちだ。嬢ちゃん、あんた海の真ん中でしかも血塗れで何やってたんだ?…身投げだったならよそでやってくれ。」

 

 

私が海に…?もしかしたら、この魔物は海を漂っていた私をここまで連れて来てくれたのかな?

確かに、私がライラスの薬を飲んでからは記憶がない。覚えているのは痛かったこと、苦しかったこと…。

薬を飲んだ理由は…

 

 

「…ドルマゲスさんを…助けるためです…!」

 

 

私がドルマゲスさんの名前を出したその瞬間、魔物の態度が明らかに変化した。

 

 

「ど…!?嬢ちゃん、あんた何者…」

 

 

「!!!イカさん…」

 

 

「ドルマゲスさんをご存じなんですか…!?」

 

 

「それはだな…」

 

 

「ドルマゲスさんは今どこにいるんですか!?ドルマゲスさんは無事なんですか!?ドルマゲスさんは一人で泣いてはいませんでしたか!?ドルマゲスさんはやつれてはいませんでしたか!?ドルマゲスさんは栄養のある食事はちゃんととっていましたか!?ドルマゲスさんは魔物に襲われてケガなどはしていなかったですか!?ドルマゲスさんは睡眠をちゃんととれていましたか!?ドルマゲスさんは私の名前を呼んではいませんでしたか!?ドルマゲスさんは…」

 

 

「!?お、落ち着けって!」

 

 

私がいくつか質問しただけなのに、魔物は恐ろしいものを見るような目で私を見ている。

…怪しい。あの目は後ろめたいことがある時の目に似てる。いや、きっとそう、そうに違いない。この魔物はドルマゲスさんの何かを知っていて、私に隠している。

 

 

「ドルマゲスさんはどこにいますか。」

 

 

私は魔物を見つめたまま一歩踏み出した。魔物はそれに合わせて少し後ずさった。

 

 

「し、知らねぇよ。ドルマゲスさんと最後に会ったのはしばらく前だ!船着き場から南に進んだことしか知らない。」

 

 

「嘘。あなたまだ何か隠してるんでしょう。」

 

 

私は魔物の方へ更に一歩近づいた。

 

 

「ま、待て、知らないって言ってるだろ!?俺は…俺はただ…!」

 

 

「…な、なあ!!お前は何なんだ!?杖を下ろせ!危ないだろ!」

 

 

「…」

 

 

「ドルマゲスさんの知り合いなら俺は敵じゃねえ!本当なんだ!だ、だからその目をやめてくれ!」

 

 

「…でもドルマゲスさんの居場所は知らないんですよね。」

 

 

「うっ…それは…」

 

 

私はまた魔物に近づいて、右足が海に浸かった。

知らないわけがない。知らないはずがない。だってドルマゲスさんが何の打算も無しに魔物に取り入ったりするわけないもん。怪しい、怪しい、怪しい。

私はまた魔物に近づいて、両足を小波に委ねた。

 

 

「イカさん、はいかいいえで答えてください。あなたはドルマゲスさんに危害を加えましたか?」

 

 

「い、いや、それは…昔のこと…で…今は違う!」

 

 

魔物は目を泳がせた。

 

 

 

 

 

 

…証拠なんてこれくらいで十分だよね。

 

 

「わかりました。変なことをたくさん聞いちゃってごめんなさい。」

 

 

「…わ、分かったならいいんだ。俺はそろそろ帰らせてもら…」

 

 

には何を聞いたって無駄ですよね。」

 

 

「…は?」

 

 

「ドルマゲスさんに危害を加えたことのあるあなたはドルマゲスさんの、ひいては私のです。命を助けてくれたことには感謝していますけど、あなたを生かして見逃す理由にはならないんですよ。…本当に有難く思ってるんです。私をここまで連れて来てくれて、目覚めるまで私を守ってくれて。だから…」

 

 

「え?は、お、おい待て!よ、寄るな!来るな!」

 

 

「できるだけ楽に、死んでくれませんか。」

 

 

「う、うわあああぁぁぁ!?」

 

 

怯えた魔物は口から燃え盛る火炎を吹き出して、私はその火炎を至近距離で受けた。服が燃えて、皮膚が爛れる。熱い…痛い…っ!

…でも、ドルマゲスさんの役に立つつもりなら、これくらいでへこたれてちゃダメだよね。負けるな私。

 

 

「…『ベタランブル』!」

 

 

「…ッ!?!?!?」

 

 

魔物の中心に紫電が迸ったかと思うと、次の瞬間には私の足元に、べちゃ、と不快な音を立てて肉塊が落ち、血の雨が降り注いだ。…初めて使った呪文で、ドルマゲスさんを脅かす魔物を私が退治したんだ!私は役に立ったんだ!

 

…でも。この呪文はドルマゲスさんが考えたもの。私の技じゃないんだよね。

 

 

「やっぱりドルマゲスさんはすごいなぁ…。」

 

 

私は月も星も出ていない宵闇の空を見上げ、カラカラと嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

 

またいつの間にか寝ちゃってたみたい。すっかり朝だ。私は砂浜から身を起こすと、服についた砂を払った。昨日血を浴びたままなので全身が気持ち悪い。海の方を見ると、魔物から出た夥しい量の血が流れ出して海の一部が朱く染まっているのが見えた。

 

 

…あれ、右目が…?

 

 

昨日は真っ暗だったから気付かなかったけど、私の右目はほとんど見えなくなっていた。爛れてグズグズになった皮膚は『ベホイミ』で治ったけど、この右目は治らないみたい。

 

 

…まあいっか。左目さえ見えるならドルマゲスさんを探すことはできるもん。私は杖を突いてフラフラと立ち上がると、砂浜から立ち去った。あの魔物の言ったことが真実でここが本当にマイエラ地方なら、町か修道院があるはず…。人を見つけたら、まずは水浴びをさせてもらおうかなぁ。それからご飯を食べて…もう一度寝よう…。

 

 

ドルマゲスさんの夢が見られたらいいなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、魔物…?いや、人間なのか…!?す、すまない、他を当たってくれ…」

 

 

「ママ、あの人なんであんなにちまみれなの?」「シッ、目を合わせちゃダメよ…」

 

 

「悪いが君のような半魔をウチの宿に泊めるわけにはいかないんだ。…お引き取り願いたい。」

 

 

半魔?私が?…よく分からない。そんなに私の格好、酷いかな?確かに服は焼けて黒くなってるし、髪は砂だらけでボサボサだし…いやだ、私こんな格好でドルマゲスさんに会おうとしてたってこと?

さ、流石にそれは恥ずかしいかも…!

 

 

「そ、そうですよね…あはは、すいません私こんな格好で…」

 

 

「え?いや…その…」

 

 

「ところでここにドルマゲスさんという名の素敵なピエロさんが来ていませんでしたか?」

 

 

「いや、知らないが…本当に済まない、他の客が怖がってしまうので出て行ってくれないか。」

 

 

「…」

 

 

あーあ、成果なしか…水浴びも着替えもできなかったし…誰も見て無かったら川のほとりで水浴びしちゃおうかな?こんなのお父さんが聞いたらはしたない!って怒られちゃうかも?ふふ…

 

私がドニと呼ばれる町を後にしようとすると、知らないおばさんに呼び止められた。

 

 

「もし、そこのお嬢さん…」

 

 

「はい?」

 

 

「失礼ながら、先ほどの話聞かせてもらいました。お嬢さんが何者かは問いませんが、扱いがあまりに不憫だったものでついここまで追いかけてきたのです。その、『ドルマゲスさん』という人物はここには来ていませんが、その人物を探している一行ならこの間ここへやってきていました。…!?」

 

 

「!?本当ですか!?」

 

 

びっくり。まさか私以外にもドルマゲスさんを助けようとしている人がいるなんて。

 

 

でも私が一番ドルマゲスさんのことを想ってるから他の人には助けてもらいたくないなぁ。ちょっと妬けちゃうかも。…私って嫌な女だよね…。ドルマゲスさんはこんな嫌な子嫌いかなぁ。

 

 

「は、はい、彼らはこの大陸の東の方へ向かうと言っていました。…東と言えばアスカンタ王国です。お嬢さんの探し人も、きっとそこにいらっしゃるのではないでしょうか?」

 

 

「あ、ありがとうございます!!行ってみます!」

 

 

「い、いえいえ…こちらこそ、何もしてやれずにごめんなさいね…(何なんだいこの寒気は…今はまだ昼なのに…?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから道なりに東進していた私にもやっと腰を下ろせる場所が見つかった。

 

 

川の近くに建ってた一軒家にとても綺麗な花が咲いてて、それを見ると何故か涙が出て。それを見たその家の人が私を家に泊めて、ご飯もくれて、水浴びもさせてくれた。その人はドルマゲスさんを知ってるんだって!しかも、この家に泊まったって!?…も、もしかしてこのベッドにドルマゲスさんが…!?

 

……違う。他の女の匂いがする。

 

 

「はあ。ドリィ様は本名をドルマゲス様と言うんですねぇ。」

 

 

「ドルマゲスさんとはどういった関係なんですか?健康そうにしていましたか?ちゃんと寝てるんでしょうか?ケガや病気はしていませんでしたか?」

 

 

「ドルマゲス様は旅の途中でこの家へ訪れて、一泊していったんですよ。一泊と言ってもあの人は馬車で寝ていましたけどねぇ。元気そうでしたよ。」

 

 

その後もおばあさんは何か話していたが私の耳には入らなかった。ドルマゲスさんは一人でも元気らしい。それが本当ならいいこと、喜ばしいこと。…でも。あの人はすぐに自分の気持ちを隠してしまう。もしかしたら他人の前では空元気を出して、本当は一人で寂しい思いをしているのかもしれない。トラペッタを出た時みたいに…。そうかもしれない、きっとそう。絶対にそう。

やっぱり私が直接会いに行かないと。行って本当に大丈夫かどうか確認しないと。確認してそれで…一緒に旅ができたらいいな。

 

 

「…のことを、私の孫のキラはたいそう慕っているみたいでねぇ。からかうと可愛い反応を…」

 

 

「おばあさん、私そろそろ出発しますね。色々ありがとうございました。」

 

 

「おや、もう行くんですか。」

 

 

私は昨日ゴシゴシ洗って何とか血の匂いだけは落ちたカバンから財布を取り出して、一泊分の料金を払おうとしたけど、おばあさんはそれをやんわりと制止した。

 

 

「いや、お金はいりませんよ。私たちもあなたと話せて楽しかったですし。孫のキラくらいしか若い子とは話せないもんでねぇ。またいつでも来てくださいね。」

 

 

「こちらこそ!有益な情報をありがとうございました!」

 

 

私は洗ってサラサラになった髪をひと撫でして一軒家を出た。優しい人たちだったなぁ。孫は私くらいの年齢なんだって。もし出会ったら友達になれるかもしれない。とにかく、ドルマゲスさんが向かったのはパルミドって町らしい。

早く会いたい。ドルマゲスさんがライラスを殺したのかどうか、なんで旅に出て、何を目指しているのか、なんて私にはどうでもいい。今はただ、あの人に会いたい。会って声を聞きたい。たわいも無いことで楽しく話したい。昔みたいに私に触れてほしい。私からもあの人に触れたい。そしてその時には…

 

 

「うふふ」

 

 

だめだめ、しゃんとしないと…!こんなだらしない顔でドルマゲスさんには会えないよね。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ばあさんや、平気だったのか?」

 

「?…何がです?」

 

「さっきまでいたあのお嬢さんじゃ。わしはあの子が家にいるだけで寒気がして、昨日の夜なんて一睡もできんかったわい。…あの子は本当に人間なのかのう?」

 

「…。どちらにせよあんなにボロボロで、今にも倒れそうな女の子を見捨てるわけにはいかないですしねぇ。…それにおじいさん、安心してください。一睡もできなかったのは私もですからね。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

そして数日後。

 

 

「っひぃ!?ドルマゲスという道化師なら東の海がッ!?」

 

 

「ドルマゲス『さん』ね。…あの人と仲良くも無い、なんなら嗅ぎまわってるようなあなたにドルマゲスさんが呼び捨てにされてるのを聞くと虫唾が走るんです…。…まあ、そのおかげであの人がどこにいるか掴めそうなので感謝はしますけどね…」

 

 

パルミドを探し回ってもドルマゲスさんの痕跡すら見つけられなかった私は物乞い通りで途方に暮れていた。しかしその数日後に『情報屋』っていう人が帰ってきたって噂を聞いたから、会いに行ってみたら、

「ドルマゲス…あのトロデーンを滅ぼして、マイエラ修道院の襲撃事件とも関係があるというふざけた姿の男ですか…」だって。何なのその態度…。思わず私は激昂して情報屋を突き飛ばしてしまった。

 

 

「…で、もう一回聞きますね。ドルマゲスさんはどこに向かったんですか?」

 

 

私は腰を抜かしてしまった情報屋の肩を足で踏みつけて床に押し倒す。これで両目が見えたら思いっきりこの人を睨んでやるんだけどなぁ。片目だから焦点が合わないや。

 

 

「ゔっ…ドルマゲス…さんは…東の海岸から西の大陸へ…海を渡ったとか…おそらく行き先は…ベ、ベルガラック…」

 

 

「ふーん、そうなんですか。ありがとうございます。情報料、これくらいあったら足りますか?」

 

 

私は足をどけて、財布ごと残り全てのゴールドを情報屋に投げ渡した。ちょっともったいない気もするけど、これでドルマゲスさんの情報がもらえるなら全然いい買い物だと思うな。

 

 

「は、はい…」

 

 

「あっそれと。あなた、もうドルマゲスさんのこと忘れていいですよ。そして金輪際彼のことを調べようとしないでください。お願い、しますね?」

 

 

私はそれだけ言うと情報屋の隠れ家から退出した。もうこの臭い町にも用事はない。早速ここを出て海を渡る方法を探さないと…

 

 

「お、おいアレ…『物乞い通りの魔王』じゃねぇか…?」

 

 

「おっ!おいバカ、指をさすな!!」

 

 

「いつの間にか物乞い通りの奥に現れて、以来ずっと鎮座してるっていう…」

 

 

「ああ、美人のねーちゃんが無防備でいるってんで、あいつを狙って襲おうとした男どもが何人も失踪したっていう噂だ。しかしあいつが物乞い通りから出てくるなんて珍しいな…」

 

 

「で、でも本当に可愛いな…男が何人も失踪したなんて噂も眉唾だろ?オレ、ちょっと声かけてみようかな…?」

 

 

「…俺は忠告したからな…。」

 

 

はぁ。また男たちが私を舐めまわすような視線でジロジロ見て不愉快な会話をしている。…この町は下品な人が多くて嫌になっちゃうな。でも今日でこんな町とはおさらばだし、ドルマゲスさんの向かう場所も分かったし、今の私は気分がいい。

 

 

「聞こえてますよ」

 

 

「ぎゃっ!も、『物乞い通りの魔王』…」

 

 

そこからまず失礼なんだよね。私もこの場所が『物乞い通り』なんて呼ばれてるの知らなかったし、第一、物乞いなんて一回もしてないもん。

 

 

「失礼な言動行動、やめていただけますか?とっても不愉快です。」

 

 

「す、すみませんでした!!!」

 

 

男たちは尻尾を撒いて逃げ出した。ドルマゲスさんなら、こうやって凄んでも一言二言何か言い返してくれるのに、情けない人たち。

私は男たちが消えて、周りに誰もいないことを確認すると、こっそり小声で付け加えた。

 

 

「…それに、私はもう『予約済み』ですからっ…うふふ!」

 

 

われながらよくもこんなに恥ずかしいセリフを言えたもんだなぁ…。私は熱くなったほっぺたに手を当てながら、暁が照らす高原へと繰り出した。

 

 

 

 

 

近づいたと思ったら離れていく。乙女の心をこんな風に弄んで、ほんとに罪な人ですね。でも大丈夫、もうすぐあなたに会えそうです。…………待っててね、ドルマゲスさん!






























魔法の素養は一般人レベルにも関わらず『大魔聖水』を飲んだことで魔力の奔流で体中がズタズタになってしまい、海に落ちて気を失ってしまったユリマ。魔力の暴走で身体が断裂してはその魔力で身体を再生するという環を繰り返すことで、常に全身から鮮血を流し続けるようになっていた。(キラのおばあちゃん宅に到着するころには流血は収まっていた)さらに魔力過多の影響で右目が完全に失明し、虹彩が白く濁っているなど以前のユリマとは大分変わってしまっている。全身から強力な魔素を発散しているので彼女の近くにいる人は寒気を感じ、直接相対する人は強烈なプレッシャーを感じる。その影響で野性の魔物はまず彼女には寄り付かない。さらにそれでも害意を持って近づいてくる相手には容赦なく『ベタランブル』を放っている。その重い想いは一体どこへ向かうのか…。






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Chapter9 パルミド地方 ②

みなさんユリマのことが大好きみたいで嬉しいです。私もユリマ大好きです。でもキラのことも…うわまてなにをするやめ






ということがありまして。久しぶりの投稿となります…。








ディムと名乗る不思議な少年と出会い、料理やら魔法やら武器やら色々な体験をさせてもらった勇者一行。パルミド地方に入り激化する魔物との闘いを何とか切り抜けながら、数日後には目的地である悪徳の町、パルミドに到着した。

 

 

 

 

「ここがパルミド…」

 

「相変わらずむさっくるしい町でげすなぁ。でもそれが逆に安心するでがすよ。」

 

「ふーん。臭くて汚いけど思っていたよりはマシね。なんか気持ち悪いけど。」

 

「げ、マジかよゼシカ…俺は用事を済ませたらさっさとこんなばっちぃ町からはおさらばしたいんだが…」

 

「ほほう!この町は誰もわしの姿に気を留めんわい!これは気に入った!いつもは町の中で肩身の狭い思いをしていたが、ここでは存分に羽を伸ばせそうじゃ!早速酒を飲みに行ってくるわい!!」

 

「(今までも十分町の中でリラックスしてたような…?)」

 

「お前たちも情報屋とやらを探し出してから来るがよい。酒場で待っておるぞ!」

 

この町の雰囲気がよっぽどお気に召したのだろう。トロデは上機嫌に鼻歌など歌いながら酒場の方へ向かっていった。

 

「全く、あのじいさんは自由奔放だな。」

 

「まあいいじゃない。お年寄りは元気で居てくれるのが一番よ。」

 

「…それは違いねぇ。」

 

「あー、アッシも早く酒を飲みたいでげすよ。じゃ、おっさんはほっといて、アッシらはさっさと情報屋の旦那の所へ行きますかい!」

 

ヤンガスを先頭に一行はパルミドを奥へ奥へ進み始めた。途中武器屋の前で足を止めたエイトをゼシカが引っ張り、踊り子を口説き始めたククールをエイトが引っ張り、財布をスろうとした悪党を全員で袋叩きにし、通行料をせしめようとするセコい荒くれをゼシカがとっちめようとするのをヤンガスが止め…

小さなトラブルに巻き込まれながらも、エイトたちは情報屋の隠れ家までの道がある『物乞い通り』までやってきた。

 

「んん?」

 

「どうしたヤンガス?」

 

「いや、昔より物乞い通りに人が少ないと思って…なあ、そこの兄ちゃん」

 

ヤンガスは宿屋の前で寝転んでいる荒くれに声をかけた。

 

「んあ?なんだ?」

 

「この物乞い通りって昔からこんなに殺風景だったか?…オレが昔住んでた頃はもっと物乞いたちで良くも悪くも賑わってたはずなんだが…」

 

「ああ…そのことか。」

 

荒くれは起き上がって敷いてある茣蓙に座り込むと、気まずそうに口をつぐんだ。

 

「どうした?何かあったのかい?」

 

「いや…まああんたらに話してどうってことはないんだが…。『物乞い通りの魔王』って呼ばれる女がいるんだ。今はいねぇみたいだが…そいつが物乞い通りを根城にしてからめっきり人が減っちまってな。今ではこの通り、伽藍堂ってわけだ。」

 

「物乞い通りの魔王…。そいつが物乞いたちを追っ払っちまったのか?」

 

「いや、あの女に関しては噂が独り歩きしちまってて情報もどこまでが本当かわからんが、噂では通りの住民を追い払ったとも殺したとも消し去ったとも…そもそもあいつが人間かどうかすら定かじゃねえって話だ。ま、物乞いたちをバカにしながら生きてるオレにとっては、バカにする相手がいなくなるのは残念だが、触らぬ神に祟りなしってな。俺の知ってるのはこんくらいだ。」

 

「そうか。時間を取って悪かったな。…兄貴!悪いでげすが、せっかく情報をくれたこの男に何か食べ物を恵んでやってほしいでげすよ。」

 

「お、山賊の兄ちゃん、中々話の分かる奴じゃねェか。」

 

「うん、いいよ。こんなのでよければ…」

 

エイトは日夜錬金を繰り返してできたチーズの山を詰め込んだ袋から2、3個取り出して男に手渡した。

 

「どれどれ…!こりゃ美味い!ありがとよバンダナの兄ちゃん。これで今日も過ごせそうだぜ。」

 

 

「しかし…『物乞い通りの魔王』か。随分物騒な名前だが、噂では年端もいかない女性だそうじゃないか。オレがその子を手玉にとってやりゃ全部解決するんじゃないか?」

 

民家の屋根へと続く階段を上りながら、ククールが零した。

 

「どうだろうね…なんでも平和に済めばいいんだけど。ククールは女性経験も豊富だろうし、もしその人に遭遇したらなんとか頼むよ」

 

「おう、任せておきな。どんな気の強いオンナでも落としてみせるさ。」

 

「なかなか気になる話でがしたね。ココの住人は少なくとも若い娘っ子一人に負けるような野郎は中々いないはずなんでげすが…」

 

「ま、なんにせよ今はいないんでしょ?私たちがさっさとここから立ち去れば厄介ごとには巻き込まれないわよ。」

 

「そうでがすね…っと。ここの階段を降りた先が情報屋のダンナの部屋でげす。」

 

一行が屋上から階段を降り、情報屋の部屋の戸をヤンガスがノックした。

 

「ダンナー?アッシです。ヤンガスでげす。」

 

「…」

 

「ダンナ?」

 

しびれを切らしたヤンガスが戸を開けようとすると、中から男の声がした。

 

「あ、ああヤンガス君ですか。久しいですね…」

 

「ああ、ダンナ。入るでげすよ。全く、もう少し早く…って!?だ…ダンナ!?どうしちまってんでい!?そんなにやつれて…しかもこの部屋は!?」

 

「ああ、この部屋のことですか。そうですね…私は…もう情報屋を辞めます。辞めてどこか平穏な街でひっそりと過ごそうと思ってるんですよ。」

 

だだっ広い部屋の中には一つの机、そして荷物カバンが一つと大量のごみ袋があり、その傍らに立つ学者風の男は酷く顔色が悪かった。

 

「え!?や、辞めるってダンナ…」

 

「人の情報を嗅ぎまわって良い事など一つもないということがようやく分かったのですよ。今まで危険に曝されたことは何度もありますが、あそこまで『死』を明確に感じたのはアレが初めてです…」

 

「何の話を…じゃなくて!ダンナ!ならせめて最後にアッシたちの話を聞いてくれやせんか?」

 

情報屋の話も気になるところだが、最も大事なのは仲間たちの目的であるドルマゲスの足取りを掴むことに他ならない。

 

「…まあいいでしょう。ここで会ったのも縁です。何でも聞いてください。」

 

「…恩に着るでげす。アッシらが知りたいのはドルマゲ「!!!しっ、知らないっ!!」」

 

突如情報屋は頭を抱えてうずくまり、ガタガタと震えだした。

 

「だっダンナ!?大丈夫でげすか!?」

 

「っと。ヤンガス一人で大丈夫みたいだな。…どうやらあの情報屋にも何か裏があるみたいだぜ?」

 

「ドルマゲスに何か酷い目に遭わされた…とかかな?それがトラウマになって情報屋を辞めることになった…とか。」

 

「その線も十分あり得るとオレは思ってる。」

 

「ドルマゲス…」

 

ヤンガスが情報屋を介抱している間に、エイトたちは自分たちの見解を述べた。

 

「ダンナ…ドルマゲスに何かされたんでげすかい…?」

 

「いっ、いや…ッ知らない…。私は…彼のことなど何も…ッ忘れ、忘れなければ…」

 

錯乱した情報屋が両手で自分の頭を殴り始めたので慌ててエイトとヤンガスがそれを止め、ククールが諫めた。

 

「お、おいおっさん。落ち着けって。な?ここには誰もアンタの敵はいないさ。」

 

「あ、ああ…すみません取り乱しました…。と、とにかくヤンガス君たちの知りたいことがそのナントカという道化師のことならば私は御力になれなさそうです…申し訳ありませんね…」

 

「いや、こっちこそ地雷を踏んじまったみたいで悪かったでげす。…じゃ、ダンナも体には気を付けて元気で!アッシたちはここいらでお暇するでがす。」

 

「とりあえずおっさんがいる酒場に戻りやしょう、兄貴。」

 

「うん、そうしようか。すみません、お邪魔しました──」

 

「ま、待ってください。私は情報屋を引退する身。見たところ、貴方はただの旅人ではないのでしょう?餞別にこれを渡しておきます。」

 

そう言うと情報屋はゴミ袋の中から本を3冊ほど取り出し、エイトに手渡した。

 

「これは?」

 

「私が世界中から見聞きした錬金のレシピ集です。錬金には錬金釜と呼ばれる魔道具が必要ですが、貴方ならこの本を有効に使えるはずです。」

 

エイトが言われるままにペラペラと中身を見るとなるほど、見たことも無い物品の記述がたくさん、それとそれに必要な材料が理路整然とまとめられている。ヤンガスも信用する男の著書だ、おそらく内容も適当なものではないはずである。

 

「…!あ、ありがとうございます!大事に活用します!」

 

「そうだ…ヤンガス君」

 

「なんでげすか?」

 

「その…ま、『魔王』はまだこの物乞い通りに居ますか?」

 

「魔王…?ああ、『物乞い通りの魔王』なら今はいないとそこらの男が言ってやしたよ。」

 

「そ、それはよかった。では私はこれで…。旅の無事をお祈りしています。」

 

そういうや否や情報屋は荷物を持つと、エイトたちの横をすり抜けてそのまま逃げるように走り去っていった。

 

「わ…!びっくりしたわね…」

 

「…」

 

「…どうもきな臭いな。」

 

「ダンナは信用できる人物だと思ってるんでがすがね…」

 

「いや、情報屋のことじゃなくこの町を根城にしてるっていう魔王とドルマゲスのことだ。その二つを結びつけるのはあまりにも早計だとわかってはいるが、オレの勘がこの町には何かがあるとビンビン示してる。もう少しこの町を詳しく調べれば何かわかりそうな気もするが、一刻も早くここを離れた方が良いような気もまたする。…とにかく酒場にいるトロデのじいさんに合流するのが先だとオレも思うぜ。」

 

「私も。この町に来た時からなーんか嫌な胸騒ぎがするのよね…」

 

「よし、分かった。一旦王様と合流しよう。みんな、一応警戒を怠らないで。スリもそうだけど、他の脅威もあるかもしれない。」

 

エイトはパーティーの意向に従って、周囲を警戒しながら酒場へと向かった。

 

 

「…姫?」

 

酒場の外ではミーティアが繋がれていた。心なしかミーティアは何かに怯えているように見える。エイトたちがやって来ると、ヒヒンと小さく嘶いて頬を擦り寄せてきた。

 

「姫様もこの町に嫌気がさしてるんじゃないのか?早いとこじいさんを連れ出そうぜ。」

 

「そうだね。すみません姫、すぐに戻ってきますので…」

 

しかし、エイトは後になぜこの時一緒にいてやらなかったのかと後悔することになる。

 

「う~い、おぬしら、やっときおったか~」

 

「おっさん…完全に出来上がってるでがすね…。」

 

一行が酒場に入ると、安酒をがぶ飲みしてすっかり酔っぱらっているトロデがカウンターを占領していた。トロデはこちらの姿を認めるとブツブツと自分の姿に対する文句を垂れ流し始めた。

 

「全く…酒場で酒を飲むのにどうしてこんなに苦労せにゃならんのか…これも全て憎きドルマゲスのせいじゃ!奴がわしらに呪いをかけたせいで…ミーティアは婚約も決まっていたというのに…!」

 

「…ん?でも宝物庫に連れて行ったのはアンタじゃなかったか?」

 

「ククール!何故そのことをっ!」

 

「アンタこの前自分で言ってただろ…」

 

「う、うるさ~い!!そんなことくらいわしも分かっとるわい!人間は誰かのせいにしながらでないと生きていけんのじゃ…!」

 

「おっさんは魔物でがすけどね。」

 

「なにを!?よーしヤンガス、表へ出ぃ!わしが直々に引導を渡してやるぞ!」

 

「い!?おっさん、落ち着くでがす!アッシが悪かったでげすよ!それより大事な話が…」

 

「問答無用!いつも王たるわしを笑い者にしおって~!」

 

いきり立つトロデをエイトが抑えていた時、外で馬の嘶く声が聞こえた。

 

「「!!!」」

 

「今の声…!お姫様の!?」

 

「何事じゃ!?今のは姫の声のようじゃったが…。」

 

「姫様に何かあったかもしれない!いくぞエイト!」

 

「うん!」

 

エイトたちが外へ出ると、繋がれていたはずのミーティアの姿が忽然と消えていた。その様子を見てヤンガスがしまったという顔をする。

 

「た、大変じゃ!姫の姿がどこにも見当たらんぞっ!」

 

「…こいつはいけねぇ!アッシとしたことがウッカリしてたでげす。この町の住人は人の過去や事情には無関心でも、人の持ち物には興味ありまくりでげすよ。」

 

「それはつまり、姫がこの町の住人にかどわかされたということなのか!!」

 

怒髪天を衝く勢いのトロデをヤンガスが焦りつつ宥める。

 

「ま、まあまあおっさん落ち着けよ、きっとまだ遠くには行ってないはずでげす。まだ遠くには…この町の中にきっと馬姫様はいるはずでげすよ。」

 

「お、おお。…そうじゃな。今は姫を見つけることが何よりじゃ。エイトよ!聞いての通りじゃ!一刻も早く攫われた姫を探し出して犯人の魔の手から救うのじゃっ!」

 

「はいっ!王様!行ってきます!!」

 

エイトは一人で飛び出して行ってしまった。

 

「私たちも手分けして探しましょ!」

 

「よし来た!」「分かったでがす!」

 

十数分後、エイトたちの必死の捜索により馬泥棒である酔いどれキントを物置小屋の奥に追い詰めた。

 

「うわあっ、だ、誰だお前たち!あっ!まさかあの馬の持ち主っ!?」

 

「貴様かっ!わしのかわいい姫をかどわかしたのは貴様なんじゃなっ!」

 

「ひぃっ!何で魔物が!?アレは魔物の姫だったってのか!?あわわわ…許してくれぇ…あの馬が魔物の姫だなんて知らなかったんだぁ…!ほ、ほら金なら返すから、命ばかりは…!」

 

「誰が魔物じゃ!ええいかまわん!エイト!こやつを斬り捨ててしまえい!」

 

姫を売られたと知り、さらに怒りでヒートアップするトロデをヤンガスが両手で持ち上げた。

 

「わわっ!何をするヤンガス!」

 

「まあ落ち着けよおっさん。こんなチンピラ斬ったって、兄貴の名が汚れるだけだぜ?…おいお前!馬姫様を売ったってのは『闇商人』の店か?」

 

「へ、へぇ…、よくご存じで…。」

 

「なら馬姫様を売った金をよこしな!言っとくが誤魔化したりしちゃあただじゃ置かねぇからな!」

 

「ひいい!どうぞ、1000ゴールドです!本当にこの金額で売ったんです!!」

 

「ふん、二度と俺たちに近づくなよ!」

 

「ぐえっ!」

 

「最低。あんたに姫様はもったいなすぎるわ。身の程を知りなさい。」

 

「ぎゃっ!」

 

「スマートじゃない盗みなんて一銭の価値にもならないってよく覚えときな。」

 

「二度と僕たちに近づかないでください。不快です。」

 

「貴様…次わしらの視界に入ってみろ、指の骨一本残ると思うなよ…!」

 

「ぎえぇっ!」

 

全員から手痛い一撃を貰ったキントは気絶して床に伸びてしまった。

 

「ふん、クズが…わしの姫に手を出すからこうなるんじゃ…」

 

「ヤンガス、闇商人って言うのは?」

 

「そっ、そうじゃ!姫はどこにいるんじゃ!?」

 

「それなら安心でがす。闇商人ってのはアッシの古い知り合いでしてね。アッシがこの金を返して頼めばきっと馬姫様も…」

 

 

「確かにキントから馬を買い取ったよ。…だが、悪いな。…言いにくいんだが、もう売っちまったんだ。」

 

意気揚々と闇商人の店にやってきたヤンガスたちを、荒くれ姿の闇商人はバッサリと切り捨てた。

 

「あ、あんだってぇ~!?そ…それでどこの誰に売ったんだ!?すぐ取り返しに行かないと…!」

 

「そうじゃ!姫はどこに連れていかれたんじゃ!」

 

「…それがなぁ。さらに言いにくいんだが、買ってったのはゲルダなんだよ。」

 

その名を聞いた瞬間ヤンガスの顔が青ざめた。

 

「げげっ!」

 

「?ヤンガス、知り合い?」

 

「ゲルダってあの女盗賊のゲルダかよ…!?冗談キツイぜぇ…」

 

「ゲルダ…ああ!そう言えば町の奴が噂をしてたのを聞いたな。なんでもゲルダっていう凄腕の女盗賊がこの近くにアジトを構えてるんだと。」

 

「なるほど!そのゲルダって人はヤンガスの盗賊時代の知り合いなのね!だったら話は早いじゃない!ヤンガスがそのゲルダって人に話を通せば…」

 

「……いや。アイツは随分頑固な性格でしてね。これは骨が折れそうでげすよ…」

 

「すまねぇなぁ。こればっかりは俺にはどうすることもできねぇや。悪いがあとはお前自身で何とかしてくれよ。」

 

当事者である闇商人も頭を掻きながらゲルダのことをヤンガスに丸投げし、ククールとゼシカもヤンガスの方をじっと見ている。ヤンガスの気は重くなるばかりだ。

 

「よしっ!ヤンガス、ここが正念場じゃ!そのゲルダとかいう女盗賊から姫を取り返すのじゃっ!」

 

「うう…兄貴ぃ…」

 

ヤンガスが心底気が進まない、といった目をエイトに向けると、エイトは無言でガッツポーズをとった。

 

「兄貴まで…くそぅ…仕方ねぇ!ホントは行きたくねえけど…ここいらで過去の貸し借りも一緒に清算してやるでげす!そうと決まったら早速ゲルダの奴の住処に行って、馬姫様を助け出すでがすよ!」

 

自棄になったヤンガスについていく形で、エイトたちはパルミドの町を出発した。

 

 

 

 

 




原作との相違点

・物乞い通りに人気が無い。
なんでも『魔王』なる人物が居座っている影響らしい。

・情報屋からドルマゲスに関する情報を引き出せなかった。
ドルマゲスに何か酷いことをされたのかも。うーんこれは魔性の道化師。

・錬金レシピを貰った。
ほぼ全ての錬金ができるようになった。もともとエイトたちは無断で家宅捜索などをしない善人なのでこうでもしないと店の装備で延々と戦うことになる。

・酔いどれキントがボコられた。
一国の王女(馬)を誘拐するなど国家反逆罪で極刑もやむなしのはずなのにも関わらず、原作ではお咎めなしだったのはあまりにも寛大すぎる処置だと思ったので、とりあえず一発ずつ殴らせておいた。ゼシカちゃんに殴られるのはご褒美です、という方にはヤンガス君が代わって二発殴ってくれるので安心して申し出てください。


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第二十一章 新天地と歓楽街

お久しぶりです。スランプをぶち抜いてなんとか筆を執りました。
これからも読んでくれる方のために気長に書いていこうと思いますので温かい目で見守っていただけると幸いです。








ハロー、お久しぶりです、海を征く道化師ドルマゲスです。原作ドルマゲスは何故かパルミド西の海岸から海を渡ったそうですが、地理的には東の海岸から渡った方が早くベルガラックには着くんですよね。何故なんでしょうか?…もしかしたら原作ドルマゲスも西の大陸を見に行きたかったのかもしれませんね。まあ、彼は海岸線をずっと走っていたらしいですが…

 

 

 

「ハァ…ハァ…つ、着きましたよ…」

 

「お疲れ様!ありがとうドルマゲス!」

 

「お、お疲れさまでした…あ、あの、私、重くなかったですか…?」

 

俺は砂浜に降り立ち、ゆっくりサーベルトとキラちゃんを降ろした。その後、思わずどっとその場にへたり込む。つ、疲れた…!東の大陸から西の大陸というのは生半可な距離ではなかった。ゲーム感覚で行ったのがそもそもの間違いだと改めて思い知らされた感じだ。その上サーベルトとキラちゃん二人の人間を持ち上げて海を渡るのだ。念力で持ち上げているのでいくらか負荷はマシになるが、重いものは重い。途中で俺の様子を見かねたサーベルトが『賢人の見る夢(イデア)』に二人を入れて俺が一人で海を渡ることを提案してくれたが、『イデア』内は暑いし乾燥しているしでおおよそ長時間の滞在には適していない。こんなことなら素直に定期船を使えば良かったと思いながら最後の数キロを猛スピードで移動し、何とか夜が来る前に海辺の教会に到達することができた。

 

「い、いえ…!全然…!」

 

「きゃっ!ど、ドルマゲス様!」

 

「おい!大丈夫かドリィ?ドリィ!?」

 

そこまで言ったところで俺は意識を手放してしまったらしい。どうやら体力と精神力の限界だったようだ。次に目覚めたのは質素なベッドの上だった。おそらく教会の神父さんが貸し出してくれたのだろう。俺が目を開けると、正に今俺の氷嚢を交換しようとしてくれていたキラちゃんとバッチリ目が合った。

 

「おわっ!」

 

「きゃあっ!わ、わ…」

 

『ガチ恋距離』という言葉はあるが、あまりにも近すぎるとドキッとするより先にビクッとするもんだ。あーびっくりした…おかげですっかり目は覚めたが。

 

「…おはようございます?」

 

「あっ、あの、その、お、おはようございます…!」

 

キラちゃんはえらく焦っている。悪いことをしたとは思っていないが…一応申し訳ありませんでした。

 

 

「本当にありがとうございました。」

 

「いいえ。迷える人や困った人を助けるのが私たち教会に与えられた使命ですから。」

 

うーん。神父さんもシスターさんも本当に高潔な精神を持っているなぁ。トロデーン西の教会、川沿いの教会、そしてここ、海辺の教会。こういう末端の教会の人たちは本当に美しい心を持っているのに、中央はなぜあんなに腐っているのだろうか。ああ神様(暗黒神は除く)、願わくばこの人たちが人間の悪意に曝されませんように。

 

俺はお布施とお礼を兼ねて礼拝堂の会衆席(ベンチ)や寝具などを新調して寄贈した。

 

 

「さあ!次の町へ行こうかドリィ。」

 

「ええ…あれ?…馬車ってこんなのでしたっけ…?」

 

俺が見た馬車はこんなのじゃなかったような…そもそも馬車って『イデア』から取り出してたっけ?

 

「ああ、そのことだが、一昨日ドリィの分身と名乗る男が現れて馬車を取り出してくれてな。さらに設計図も渡してくれたから、俺とキラが時間つぶしと周囲の斥候を兼ねて材料を集め、馬車を改造したんだ。なかなか良いと思わないか?」

 

なるほど。俺Aが来てくれたのか。どちらかが寝ている間は記憶も同期されないので全く知らなかった。まあもとよりこういった俺本体に何かあった時のためのバックアップ要員でもあるからな…ん?

 

「ドルマゲス様!この馬車、すごいんですよ!荷台に乗っても御者台に乗っても全然ガタガタしないんです!しかも御者台には背もたれが付いていて!これでおしりが痛くなることもなくなりますよ!」

 

キラちゃんは珍しくはしゃいでいる。まあ自分で作ったものを誰かに見せる時って確かにワクワクするよね。見ると、馬車の駆動輪部はゴムで覆われており、各接合部にはサスペンションがついている。御者台にはまるでチャイルドシートのような衝撃に強い椅子がくっついていた。なるほど、これはこの時代の馬車にしては革命的な機能の備わっている代物なのだろう。…ところで。

 

「ええ、とても素晴らしいです!二人とも、苦労をおかけしました。……えーと、ところでサーベルト?さっき一昨日と言いました?私は何日眠っていたのですか?」

 

「3日だな」

 

寝すぎだろ!しかもまだ超眠いし…いやまあ確かにここ数日は色々なことがあったが…やはり休憩はこまめにとらないといけないな。

急ぎではない旅とはいえ、あまり長い時間休むと体が鈍ってしまうので良いことは無い。

 

「サーベルト、私はリハビリを兼ねて食料を調達してきます。貴方もどうです?」

 

「ああ、そういうことならば同行しよう。」

 

「キラさんはここで在庫の管理を…」

 

「終わってますよ?」

 

「じゃあ備品の補充…」

 

「終わってます。」

 

「…」

 

「衣服の修繕も鍋のへこみの修理も馬車と教会の掃除も終わらせました。ドルマゲス様がお眠りになっていた期間にサーベルト様が仕留めた魔物はあちらの砂浜で干していますよ。」

 

「…え、偉いですね…!」

 

「そ、そんな…もったいないお言葉です…!」

 

流石は王直属の小間使い、キラ。ニコニコしてはいるが、やはりなんて恐ろしい子…。本当に仕事がないので結局キラちゃんには仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)達の手入れをしてもらうことにした。

 

 

一時間ほど戦って勘を取り戻したので、早速昼食にする。ここらではやっぱり「オーク」、次いで「バードファイター」が優秀な食材か。特に豚肉は非常に応用が利く。「オーク」は戦士なので肉が堅い個体もいるが、それなら柔らかくなるまで煮込めばいい。しかし相変わらずキラちゃんは魔物飯には消極的だ。

 

「キラさんも大分魔物の扱いには慣れてきたと思うんですけども、魔物の料理はまだ苦手ですか?」

 

「え…えと、魔物の死体を片付けたりするのは掃除の延長線だと思うとなんとかなるんですけど、いざ食べるとなると…ちょっとまた魔物という実感が戻ってきて…申し訳ありません。せ、せっかく作っていただいているのに…」

 

「ふーん、そういうものなのか。…うん、『ポイズンキラー』も甘辛く煮れば結構いけるな。おかわりはあるか?」

 

「はいはーい。そこの瓶に詰めているので取っていっていいですよー。」

 

「…サーベルト様は凄いですね…。」

 

「ああ!魔物を食べられるようになるのも冒険者の嗜みだからな!」

 

「…あれ、でもサーベルト貴方最初私が『おおさそり』食べるのを見て引いてましたよね?」

 

「えっ、えっ?そうなのですか?」

 

「あー…。あはは、まあ、そうだ。でも少しずつ慣れていったさ。だってドリィの料理は最高だろう?」

 

「それは、もちろんです!!」

 

「だからキラもいつかは食べられるようになるさ。」

 

上手いことまとめたなぁ。…まあその通りだ。別に無理強いをする気はないが、こんなに美味いものを食わず嫌いしながら生きていくのももったいない気がするし。少しずつでも慣れていってもらえると料理を拵えた側としても嬉しい。

 

 

ベルガラックはたくさんの人々で賑わっていた。町の住民に聞いてみたが特に何かイベントごとがあるというわけではないらしい。この町の特徴と言えば何といってもこの世界一のカジノで、連日金持ちや一獲千金を狙う若者や余生を過ごす老人が足を運んでいるようだ。俺も数年前に一度訪れたことがあるが、当時から客足は変わってなさそうに見える。いつの時代も人を沸かすのは娯楽なんだなぁ。俺が何の気なしに後ろを振り返ると二人はキラキラ目を輝かせてあたりを見回していた。

 

「ど、ドリィ!看板が光っているぞ!それにすごい!町の中に運河が!」

 

「わっ…あ、あの人、町中であんな格好を…!あっ、あっちにも…!」

 

ふむ。方や貴族とはいえ辺境の村出身の青年、方や田舎で生まれて以来ずっと王室で給仕してきた少女。ベルガラックのような俗っぽい町に来るのは初めてなのかもしれないな。…まったく弛んどる!

 

「二人とも!浮かれすぎですよ!」

 

「あっ…」「ああ…わ、悪い…」

 

「節度を守って楽しくいこうじゃないですか!それでは今から各自観光の時間とします!!!日が落ちたら宿屋で落ち合いましょう!おこづかいは一人10000ゴールドまでですよ!…はいどうぞ!」

 

「「!!!」」

 

…浮かれていたのは俺もだった。

 

「解散!」

 

「「わーい!」」

 

俺たちはウキウキしながらベルガラックを観光しまくった。石造りの街並みを歩いたり、各商店を覗いたり。もちろんカジノにも行った。ここのカジノには景品として「はやぶさの剣」やあの「グリンガムのムチ」が棚に陳列されている。正直喉から手が出るほど欲しいし、呪術を使ってズルしようと思えばすぐにコインは集まるだろうが…。まあそんな方法で手に入れた剣をサーベルトは受け取らないだろう。キラちゃんを前線に出すつもりもないのでムチも無用の長物となりそうだしな。

 

なのであくまで遊びとしてルーレットに興じていたのだが、意外と熱中してしまい夕暮れ時にはまあまあな額のコインが残ってしまった。せっかくなので「スパンコールドレス」と交換しておくことにする。

 

宿屋につくと、まだ日は出ているのにサーベルトはもう到着していた。相変わらずマジメだなぁ。

 

「久しぶりに羽を伸ばすことはできましたか?」

 

「ああ!こんなにぎやかな街に来たのは初めてだ。とても楽しかったし、戦利品もあるぞ!」

 

「戦利品?」

 

俺がそう言うと、サーベルトはニヤリと笑って懐から「はやぶさの剣」を取り出した。

 

「おお、それは『はやぶさの剣』ではないですか?すごいですねサーベルト!(いやお前が取るんかーい!)…しかしサーベルトがカジノに熱中するとはその…少々意外ですね。」

 

サーベルトの人柄的にもアルバート家の家訓的にも、こういう労働を伴わない金稼ぎは厳しく禁止してそうだと思っていたんだが。

 

「母さんならこういうところには絶対に来ないだろうな。でも俺は…昔から本の中だけの存在だった『カジノ』にひそかに憧れていたんだ。屋敷にはそんな(もの)は置いていないから、村に降りていって道具屋のおじさんの家でこっそり読ませてもらってたっけな。」

 

サーベルトは困ったように笑って今しがた沈み切った太陽の残滓を見上げた。…サーベルトもホームシックの時期かな?ここまで来て村に帰すわけにもいかないけども。

 

「あ、でも母さんはマネーゲームは上流階級の人間として知識をつけておきなさいと言っていたな。ならカジノも許されるんじゃないか?もしかしたら母さんも昔はカジノに行っていたのかもな…」

 

「いや…」

 

俺は思わずずっこけた。多分マネーゲームって微妙にそういう意味じゃないと思う…そもそもこの世界にマネーゲームなんて言葉があったんだな。投資家なども存在するのだろう。

 

微妙な勘違いと共に郷愁に浸るサーベルトを遠い目で見ていると、遅れてキラちゃんが帰ってきた。キラちゃんは頬が紅潮して、少しぐったりしているように見える。人酔いしてしまったのだろうか?

 

「キラさん、大丈夫ですか?」

 

「どるまれすさまぁ~キラは、キラがぁいまかえりましたぁ~」

 

!?い、嫌な予感が…

 

「さ、サーベルトは先にチェックインを済ませて部屋へ向かっていてください。私はキラさんの介抱をします…」

 

「了解だ!」

 

「どるまれすさま~どうしたんですかぁ~」

 

「ちょ、ちょっとキラさん?はい、まずはお水をどうぞ。そ、それと、今から外の空気を吸いに行きましょうか。」

 

「かしこまり~☆」

 

俺は頭を抱えた。ベルガラックのバーにはパルミドやドニに負けず劣らずの呑兵衛がたくさんいる。しかもこの町のバーの客の厄介なところは金持ちが多いということだ。おそらくキラちゃんは迷い込んだバーで気前のいいおじさんたちによって酒を勧められたのだろう。押しに弱いキラちゃんのことだから勧められるままに飲んでこうなってしまったに違いない。俺はキラちゃんを連れて町の外れまで連れていき、そこで腰を下ろした。夜風の中で冷えた俺の手に収まったキラちゃんの手は温かい。

 

「どるまれすさまはぁ~すごいです!つよいし、おもしろいし、かっこいいしぃ」

 

出来上がりすぎだろ…世界観時代背景とゲーム内描写を鑑みるにキラちゃんくらいの年齢で飲酒をするのは悪いことではなさそうだが、人には向き不向きがある。キラちゃんはお酒が強くないのだろう。俺も酒は得意ではない。

 

「…どるまれすさまはぁ、すきなひととかぁいらっしゃるんですか~?」

 

「ふーむ、好きな人、ですか…」

 

言われて初めて考えてみたが特にはいない。そもそも女性の知り合いが少ないことが原因なのだが、俺がユリマちゃんやキラちゃんに手を出せば犯罪臭がするし(法については国や自治体によって変わるのでよく分かっていない)、ゼシカとは敵対状態だし、ミーティア姫にはチャなんとかが(可哀想だけど)いるし。

教会のシスターさんなど慈悲深過ぎてたまに惚れそうになるが、戒禁的な問題があるかもしれない。そもそもこんな奇抜で俗な道化師が関わって良い人じゃない。そして他の女性たちとはほとんど関わったことがないのが現状だ。

 

「いや、いませんね。強いて言うなら私は旅芸人。旅が恋人です。」

 

キラちゃんはあまり俺の答えがお気に召さなかったようだ。脚をぱたぱたさせ、両手で俺の腕を掴んで揺すってくる。

 

「ええ~つまらな~い!」

 

「そ、そうですか…?」

 

「キラは~おうさまもおうひさまも、おばあちゃんもおじいちゃんもだいすきで~す!」

 

あ、そういう話ね。じゃあ俺もみんな好き。

 

「でもどるまれすさまもすき!だいすき!」

 

キラちゃんはおもむろに抱き着いてきた。うーん、男女の逢瀬と思われるのは構わないが、犯罪者だと思われてこの町から追い出されると賢者ギャリングと話ができない可能性があるなぁ。昔からユリマちゃんにはよく抱き着かれていた(年々締める力が強くなっていて怖かった)ので今更恥ずかしがることなどない(動揺はしている)が、旅に支障をきたすわけにはいかない。俺が優しくキラちゃんを引きはがすと、今度はしょんぼりしてしまった。

 

「ありがとうございます。嬉しいですよ。」

 

「…どるまげすさまはキラのこと…きらいですか…?」

 

「そんなことはないです。出会えてよかったと思ってますし、仲間になってくれて嬉しいですよ。」

 

俺がそう即答すると、キラちゃんはトロンとした笑みを浮かべ、両腕を広げた。え、何それは…

 

「ん!」

 

「えーと?」

 

「きらいじゃないならだきしめてくださ~い」

 

…そろそろ厄介になってきたかも…。酔いは自然に醒ますのが一番いいと思うが、状況が状況なので仕方あるまい。酔いの原因であるアセトアルデヒドは有害物質、つまり『毒』だから…

 

「はやく~ほら!はずかしがらないでいいですよ~」

 

「『キアリー』」

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

「………」

 

「…じっかに」

 

「?」

 

「…じ、実家に帰らせて…いただきます…!」

 

突然素面に引き戻されたキラちゃんは、それだけ言うとはぐれメタルも驚くようなスピードでどこかに行ってしまった。…こうなるから気が進まなかったんだよなぁ…でもここで追いかけるのも正解じゃない気がする。俺は『イデア』から新作を含むセキュリティサービス達と完成したばかりの仮想自律戦闘人形三号機「ソルプレッサ」を放ち、遠くから彼女を護衛させることにした。明日にはきっと頭を冷やして帰ってきてくれるだろう。

 

 

 

 

戻ってサーベルトにも事情を説明し、いつキラちゃんが帰ってきてもいいように起きていたのだが、まだ疲れが残っていたのか、俺はいつの間にか眠ってしまった。

 

 

 

 

そして次の日。無事に帰ってきていたキラちゃんと仲直りし、さっそくギャリングのところへ行こうとした矢先、ベッドの枕の下に羊皮紙が置いてあるのに気が付いた。

 

 

それは手紙だった。

 

 

その内容に目を通した俺は、自分の顔がみるみる青ざめていくのを感じた。

 

 

「ドリィ?その手紙は…一体どうした!?」

 

 

俺はサーベルトの問いに答えるより早く『イデア』に飛び込み、目的のものを探した。おかしい。確かにこの位置に置いておいたはずなのに…!!!俺は真っ青な顔のまま『イデア』から出てきた。

 

 

「杖が…」

 

 

 

 

 

 

「暗黒神を封じた『神鳥の杖』が無くなりました…」

 

 

 

 

 

 

 




次はどっちの話にしようかなぁ。


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Chapter10 パルミド地方 ③

寒くなってきましたねぇ。ドラクエⅧの世界に季節は存在するのでしょうか。何度太陽が昇ってもオークニスでは雪が降っているし、リブルアーチの樹木は紅葉しているし、トラペッタでは青々とした草原が広がってます。まあ雪山地方に訪れても全然厚着しようともしないゼシカやヤンガスを見るとこの世界の人々は季節にあまり頓着がないのかもしれないですね。








悪徳の町、パルミドに到着した一行。かつて自分が住んでいた時代の町の記憶との乖離にヤンガスは困惑する。探していた情報屋はひどくやつれており、ドルマゲスの情報を得ることは叶わなかった。そして「悪徳の町」の例に漏れず、一行が酒場にいる間にミーティアが誘拐されてしまう。誘拐犯はとっちめたものの、ミーティアは既にパルミドから去っており、ミーティアを取り戻すために一行はヤンガスの古なじみである女盗賊ゲルダのアジトへ向かうのだった。

 

 

 

「ねぇ、ゲルダさんってどんな人なの?」

 

「…ゲルダはアッシの少年時代からの戦友でがしてね。お互い盗賊としての腕を磨きあいながら切磋琢磨していたでげすよ。もっとも、アッシが山賊業を始めた十数年前からはほとんど顔を合わせることは無くなったでがすがね…」

 

「なんだよ、女の幼馴染か?オレにはそういうのはいなかったから羨ましいぜ。」

 

「…昔は友好的で可愛いところもあったんでげすけどねぇ。年取ってからは言動も刺々しくなって可愛げもなくなっちまったでげす。若い頃はアイツに色々世話になったもんで今は頭が上がらず…できればこんな形で会いに行きたくはなかったでがす。」

 

「ぜぇ…ぜぇ…ヤンガスの気持ちも分かる…と言いたいところじゃが、今はそれどころではない!早いとこミーティアの無事を確認しなければわしは気がおかしくなりそうじゃ!ホレ!もっと早く歩けんのか!」

 

「王様、そうは言ってもこれ以上足を速めると王様の体力が…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…ええい、わしのことはよい!おぬしたちだけでもミーティアを迎えに行くのじゃ!」

 

「(仕方ないなぁ…)ヤンガス、王様を頼める?」

 

「兄貴の頼みなら仕方ないでがすね。おっさん、ちょいと失礼するでがすよ。」

 

ヤンガスはトロデをつまみ上げるとその大きな背に負ぶった。

 

「よし、じゃあもっとスピードをあげるよ!」

 

背中に見慣れぬ魔物を乗せた大柄な男、ネズミをポケットに入れた赤いバンダナの青年、派手な赤い礼服に身を包んだ騎士、「おどりこの服」を着たまま走る少女。この奇抜なメンバーが一列になってランニングする姿はさながら何かの見世物(サーカス)のようで、道化師(クラウン)の姿をした男がリーダーを務める魔物狩りの一団に気をつけろと森の「キメラ」から警告を受けていた道中の魔物たちは、「アレが噂の…」と怯えて勇者たちには手を出さなかったという。

 

 

「…」

 

「ここがゲルダのアジト、で…がすが…」

 

「…なんか静かだね。…アジトってこんなものなのかな?」

 

「ここ、なんかヘンよ。嫌な感じがする…」

 

「…」

 

女盗賊(ゲルダ)のアジトの静まりようは異様だった。風は凪ぎ、動物たちの気配もしない。見てくれは普通の民家にしか見えないのが余計に不気味さを際立てていた。

 

「ほ、本当にここにミーティアがいるのじゃろうな…?」

 

「お、おいあれ!誰か倒れてるぞ!おい!大丈夫か!」

 

アジトの正門まで来たところで、ククールが玄関の前で倒れている大男に気づいた。

 

「う…」

 

「お、お前は…ゲルダの手下の…どうした!ここで何があった!」

 

「お、まえは…ヤンガス…」

 

「まずい!先に回復を!『ベホイミ』!」

 

「くっ、ふぅ…ハァ…ハァ…た、助かった…ウッ…」

 

「動かないでください!内臓も損傷している可能性があります!ヤンガス、この人を…」

 

「俺のことはいい!ヤンガス!ゲルダ様が…!」

 

「…ッ!!!」

 

「わしがこの男の処置をする!おぬしらは中へ!」

 

トロデに男の応急手当てを任せ、ヤンガスに続く形でエイトたちはアジトのドアを開けて中に突撃した。

アジト内も静かで特に争った形跡もない。ヤンガスは土足で上がり込んでゲルダを捜索している。

 

「ゲルダッ!ゲルダどこにいる!」

 

「誰かいませんかー!!」

 

「…」

 

「おいエイト」

 

「…うん、みんな戦闘の準備を。何が起こるか分からない…!」

 

「そうね、嫌な予感がどんどん強くなってきたわ…」

 

ヤンガスは暖炉のある居間でロッキング・チェアに揺られる人影を発見した。

 

「…な、なんでぇ。ゲルダここにいたのか…」

 

「…」

 

「どうした?ゲル…ダ!?!?」

 

安堵して下に向けたヤンガスの目線の先にあったものは、『床に這いつくばるゲルダの姿』だった。

 

「げ…ゲルダッ!大丈夫か!?」

 

「う…や、ヤンガス…?」

 

「お、お前がこんなボロボロになるなんて…ククール!頼んだでがす!」

 

「ああ!『ベホイミ』!」

 

「…なんだか、騒がしくなってきちゃいましたね。」

 

そうポツリと零すと、揺り椅子(ロッキング・チェア)から『ゲルダではない誰か』はゆっくり立ち上がった。

 

「アンタ…誰だ…?何が目的でコイツを襲った…?返答によっちゃ、ちょいと手荒な手段も取らせてもらうぜ…」

 

「貴方…どこかでお会いしたような…?ああ、『あの人』じゃなかった旅人さんですね!後ろの人たちは仲間でしょうか?」

 

「『あの人』…?一体何の話だ!!!さっさと答えな!アンタは誰だ!」

 

いきり立つヤンガスは背中のオノに手をかけ、エイトとゼシカも相手がどう動いても対応できるように準備は整えていた。ククールもゲルダを癒しながら相手を見据えている。声色からどうやら相手が女性であることは間違いなさそうだが、ちょうど暖炉の影になり相手の顔は見えない。

 

「ゲルダさんのお友達ですか?ごめんなさいお邪魔して…でももう用件は済みました。私はここから去りますから、ごゆっくりどうぞ。」

 

「お、おい待て!話はまだ終わっちゃいねぇぜ…!」

 

ヤンガスは自分の横を通り過ぎようとする少女の肩を掴んだ…その瞬間、『空気が凍てついた』

 

「…!!」

 

「…!?」

 

「…!!」

 

「…ぁ…!」

 

………気安く触らないでもらえます??…不愉快です。非常に。

 

「…ぅ…」

 

少女はぺしっと軽い音を立ててヤンガスの手を払いのけると、フンッと鼻を鳴らして玄関へ向かった。誰も横切る少女を止めなかった。いや、止められなかったという方が正しい。

 

「じゃあゲルダさん、ちゃんと返しにきますから、安心してくださいね!それではみなさん、ごきげんよう!」

 

少女は玄関から外へ出ていった。ドアが閉まる音と同時にエイトたちはその場に倒れこんだ。

 

「…ッはぁ!…はぁ…はぁ…」

 

「い…今のは…」

 

「動けなかった…いや、動いたら死んでいた…そんな気さえしたぜ…な、何者だあの女…」

 

「…!…!」

 

ゼシカはまだ上手く口を動かすことすらできていない。その額には大粒の冷や汗が流れていた。

 

「そ、それよりゲルダだ!ククール、ゲルダは無事でがすか!?」

 

キィィ…

 

「「!!!」」

 

その瞬間、ドアの開く音がし、全員が反射的に玄関の方を向いた。しかし入ってきたのはトロデとゲルダの手下であり、エイトたちは胸を撫で下ろした。

 

「おぬしら無事か!?さっき中から出てきた娘が血まみれでなんとも恍惚とした表情を浮かべておったので、もしやおぬしらに何かあったのかと…!」

 

「ゲルダ様!ご無事ですか…!げほっげほっ」

 

「王様、ご心配をおかけしました。僕たちはこの通り、無事です。」

 

「…や、ヤンガス…」

 

ゲルダが目を覚まし、ククールに支えられて上体を起こした。

 

「ゲルダ無事か!さ、さっきのアレは…何者だ…?」

 

「…」

 

「アレが…『魔王』…だよ」

 

「『魔王』…!もしかして『物乞い通りの魔王』のこと…ですか?」

 

ゲルダは床に座り込むと黙って頷いた。

 

「アイツは…アタシが買った馬車の中に忍び込んでいたのさ。」

 

「馬車って…もしかして!」

 

「エイト、とりあえずゲルダさんの話を聞いてからにしましょ。」

 

思わず立ち上がったエイトを、ようやく平静を取り戻したゼシカが窘めた。

 

「アタシがここに着いた瞬間、音もなく馬車から出てきたアイツが『頼みたいことがあるんですけど』なんて言ってくるもんだからアタシたちは動揺してね。先にアタシの下僕…そこのそいつがアイツに殴りかかったところで杖でボコボコにされて、その間に背後を取ったはずのアタシも鳩尾を杖で一突き。次の瞬間には地面に伏してた。そのまま見えない力に引っ張られてアジトの中まで引きずられた…って情けないスンポーさ。笑えるだろう?」

 

「…いや、現にさっきオレたちも何もできなかった。ありゃ生物としての格が違う。まず人間とは思えねぇ。」

 

「ゲルダさん…さっきの人、『返す』って言ってましたよね。何かをあの人に貸し出したんですか?」

 

エイトがそう尋ねると、ゲルダはあからさまに落ち込んだ様子を見せた。

 

「貸し出しだって…?あれは強奪さ。アタシの命の次に大切な…アイツはアタシの命の次に大切な船、『うるわしの貴婦人号』を貸せと言ってきたのさ。なんでも早急にベルガラックに向かいたいだとか何とか…どこでアタシが船を持っていることを知ったんだか。…大方あの『情報屋』だろうけどね…。」

 

「ゲルダはそれで船を貸しちまったのか?」

 

「まさか。あたしだって寝そべったままの無様な格好ながら、誰がお前みたいなやつに貸すかって啖呵を切ってやったよ。そしたらアイツ、凄まじい殺気、全てを凍らせる威圧感を…アンタらも今体験しただろう?あれを放ってきやがった。『それが命の次に大事なモノというのなら…私が貴方を殺すと言えば、貴方は船を貸してくれるんですか?』って、わざわざ這いつくばってるアタシに目線を合わせて言ってきやがった…」

 

「…!」

 

ゲルダはそこまで言うとガタガタと震え始めた。それを見て一番衝撃を受けたのは、これまでずっと彼女の気丈で気の強い一面ばかりを見てきたヤンガスだった。

 

「ア…アイツの目…片方が白く濁ってたんだ。それもただの白じゃない、どこまで言っても何もないような虚無を孕んだ暗い白…それに全身から皮膚が裂けて血が噴き出す聞くに堪えない音が続いて、真っ赤な血が床に滴って…それに怖くなったアタシは…お、教えちまったんだ…船の隠してある場所を…」

 

その場面を想像したエイトたちは身の毛がよだつような恐怖を感じた。ましてその場面を実際に体験したゲルダ自身の恐怖は如何ほどか。むしろそんな中で言葉を発せただけゲルダは十分に強い胆力を持っていると言えよう。ゼシカはゲルダという女性を心から尊敬した。

 

「ゲルダ…!」

 

「くっ…うっ…」

 

ゲルダは嗚咽して涙を流し始めた。

 

「ヤンガス…悔しい…アタシは悔しいよ…!今まで何度も死地はくぐってきたつもりだった…!でも!今日この瞬間…アタシは恐怖に負けて一番の宝を渡しちまったんだ!そんな自分の弱さが…許せない…!」

 

「ゲルダ…お前は」

 

「アタシは…盗賊失格だね…。」

 

「そんなことはない。ゲルダ、そんなことはないぜ。『命あっての物種』。お前が好きな言葉だったじゃねぇか。お前はその瞬間に、盗賊としてもっとも正しい選択をしたんだ。だから…だからそこまで気に病まないでくれよ。オレは…今のお前のそんな顔を直視できる自信がねぇ。」

 

「ヤンガス…」

 

「……」

 

全員の間にしばらくの沈黙が流れたあと、ゲルダは立ち上がり、誰にも見えないように涙を拭った。

 

「ヤンガス、アンタの言う通りだよ。アタシはこのとおり生きている。生きてりゃまた何度でも盗みが働けるってもんだ。奪われた?上等、盗み返してやればいいのさ!」

 

「…!おう!その意気だぜ!」

 

「ゲルダ様!流石の立ち直りです!…げほっげほっ」

 

「ヤンガス、アタシもアンタらと一緒にあの女を…がはっ」

 

「ゲルダ!?」

 

ゲルダはうずくまったが、駆け付けたヤンガスを手で制した。

 

「アタシは…大丈夫」

 

「…ばかもの、大丈夫なわけがあるか。こやつも、こやつの部下も、『魔王』によって内臓を傷つけられているようじゃ。わしは医学が専門ではないから詳しいことまでは分からんがな。『魔王』は意図的に内臓を傷つけるような攻撃を行っておったのかもしれん。」

 

「な!なんて卑劣な…」

 

「確証はない。逆に奴が刃物を使わず鈍器で応戦したから再起不能のケガにならずに済んだ、と考えることもできる。…話が逸れたが、ゲルダと言ったか、それとそこの大男はしばらく安静にしておくべきじゃ。このまま激しい動きをすれば、傷が裂けて今度こそおぬしの盗賊人生は終わるかもしれんぞ。」

 

「…ッ」

 

「…ゲルダ、ここはオレたちに任せちゃくれねぇか。悔しいって気持ちはよく分かる。…でもお前だって盗賊を続けられなくなるのはイヤだろ?オレたちがお前の船を取り返してみせる。」

 

「…フン、言うようになったね。いいよ、やってみなヤンガス。報酬は前払いだ。…おい、コイツらにあの馬を返してやんな。」

 

「ヘイ!」

 

ゲルダについていく形で一行が外に出ると、厩にいたゲルダの部下の一人が傷ひとつないミーティアを連れてきた。

 

「ミーティア!!おお、怖い思いをさせてすまなかったね…!これからはもうお前を置いて酒を飲みに行ったりしないよ…!」

 

「姫…無事でよかったです…!」

 

ミーティアはトロデとエイトに抱き着かれて恥ずかしそうな仕草をしている。

 

「アンタ…この馬がオレたちのものだって知ってたのか!?」

 

「ああ。アンタらがこの馬車と一緒にいるところをパルミドで見かけたからねぇ。…こんないい馬をなんで闇商人の店なんかに売ったんだい?」

 

「酔いどれキントって人に馬車ごと盗まれちゃったのよ。それでそのまま売り飛ばされちゃったの。」

 

「はぁ…ヤンガスほどの男が付いていながら…情けないねぇ。」

 

「そればっかりは兄貴たちの手前、返す言葉もないでがすね…」

 

 

トロデは御者台に乗り、エイトが荷物の点検を完了させて出発することになった。

 

「じゃあなゲルダ。次は『うるわしの貴婦人号』に乗って帰って来るぜ。」

 

「アンタらがアタシの船を持って帰って来るのを期待しないで、アタシは悠々自適に療養しておくとするよ。いいかい、大事なのは『命あっての物種』だ。深追いはするんじゃないよ!」

 

「気を悪くしないでくだせぇ兄貴。アレはゲルダなりの激励と心配のつもりなんでがすよ。」

 

「うん。大丈夫、分かってるよ。」

 

エイトたちは手を振って応え、女盗賊のアジトを後にした。

 

 

「…さて、旅の目的が増えちまったでげすな。すまないことをしたでがす。」

 

「…ミーティアを助け出すことは最優先事項じゃ。それに付随してやることが増えることくらいはわしは気にせん。」

 

「オレも回り道をしたとは思っていないぜ。…オレの予想では『魔王』にはドルマゲスに繋がるなんらかの手掛かりがあると見た。つまり『魔王』を追うことがドルマゲスの足取りを掴むことに繋がるかもしれないってことだ。『魔王』の姿形を覚えた今はむしろプラスなんじゃないか?」

 

「…私たち…もっと強くならなくちゃいけないと思うの。みんなも感じたでしょう?『魔王』やドルマゲスと相対するならもっと経験を積まなきゃ到底敵いっこないわ。」

 

「ゲルダさんはベルガラックって言ってたよね。ベルガラックはサザンビーク国領の大きな町だ。西の大陸の魔物は狂暴だと聞くし、経験を積むにはいいかもしれない。ひとまずベルガラック行きの船に乗ってから後のことを考えよう。」

 

パーティーの意向が大体定まったところで、一行はエイトの『ルーラ』で船着き場まで戻り、ベルガラック行きの定期船に乗り込むのだった。

 

 

 

 

 







原作との相違点

・女盗賊のアジトが襲撃された。
きょう未明、アジトに住む盗賊のゲルダさん(32歳)が押し入ってきた女性に胸など数か所を殴打され、内臓に軽いけがを負いました。現在犯人の女性は船に乗って逃走中とのことです。

・剣士像の洞窟に挑まなかった。
『うるわしの貴婦人号』を取り返す報酬の前払いとしてミーティアが帰ってきたので、ビーナスの涙云々の話はそもそも出てこなかった。なのでドルマゲスがせっかく仕掛けた宝の番人の出番も消えた。

・船着き場からベルガラック行きの定期船が出ている。
海を渡って移動しているドルマゲスだが『神鳥の杖』を弱体化しているので海の魔物は比較的安定している。そのため安全が保障された海の流通は原作よりも活発。一応原作でも情報屋から船着き場ーベルガラック間で定期船が出ていたことは示唆されている。


エイト
レベル:18

ヤンガス
レベル:18

ゼシカ
レベル:17

ククール
レベル:18


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番外編 ”聖夜の道化(サンタ・クロース)”

めりーくりすます!
先日カップルで溢れる繁華街を一人で散策しまして。
身体も心も冷え切った帰りの電車でこの話を思い付き、日付が変わったところで筆を執った次第です。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

今話は番外編です。前回、次回との繋がりはありません。







「『くりすます』…??」

 

やっぱりないのか…俺はまた一つ現世との風習の違いを思い知らされた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

きっかけは珍しく冷え込んだある朝のことだった。俺は小旅行から帰り、しばらく休暇もとったところで何か町を挙げた催しごとをしたいと突然思い立ったのだ。要は新しく覚えた手品を仰々しく披露する会である。しかし思い立ったはいいものの、それらしいきっかけはなかなか見つからない。町の創立記念日はまだまだ先だし、交通事故ゼロ〇〇日達成記念云々は堅すぎてパーティーにはおおよそ似つかわしくない。どうしようかと悩む俺の横を冷たい風が通り抜けて身震いを一つした際、天啓が舞い降りた。そうだ、この季節には世界中で聖人の降誕を祝う大きな祭があるではないか。…とはいえここは現実世界ではないのでそのようなものがあるのか聞いてみようと思い、早速家に遊びに来ていたユリマちゃんに聞いてみたのだが…

 

「そうですか…」

 

「ねぇドルマゲスさん!『くりすます』ってなんなんですか?」

 

うーん、どう説明したものか。幸いこちらにも酷似した宗教が世界中で信仰されているのでそれで説明させてもらおう。

 

「私の故郷では神様がこの世界に降誕された日を定め、年に一度祝祭として大きなパーティーを行う風習がありましてね。私たちはその日を『聖人のミサ(クリスマス)』と呼んでいたのです。この町ではそのような類のお祭りは無いのですか?」

 

「なるほど…うーん…このトラペッタでは無いですね…でもパーティーなんて楽しそう!わたし、『くりすます』体験してみたいです!」

 

やっぱりなかった。俺もこのトラペッタで数年過ごしていたから分かっていたことではあったが。その後教会の神父さんにも聞いたが、そのような儀式は行っていないとのこと。…しかし神父さんは俺のクリスマスの話に興味を惹かれたらしく、相談に前向きに乗ってくれた。

 

「でも、神様が降誕なされた日を私たちが勝手に決めて良いものなのでしょうか?」

 

「いいえ、ドルマゲスさん。確かにそれは畏れ多い事かもしれません。しかし単に主の降誕を祝うための祭りならばいかがでしょう。我々では主の降誕なされた日を定めるような力はありませんが、降誕を祝うだけならば父なる主は快く受け容れてくださるのではないでしょうか?」

 

「ふむ、なるほど、それは筋が通っていますね。」

 

その理論でいけば一年中いつでも騒げることになってしまうが…あくまでもメインは感謝であるということを忘れなければそれで良いのだろうか。ともかく、意外にノリノリな神父さんという協力者を得てから話は早かった。礼拝に来る町人たちには神父さんにクリスマスを布教してもらい、俺はラッパを吹きならしながらあちこちでクリスマスの概要、サンタクロース(ミラ・ニコラウス)の伝承などを簡単に話して聞かせた。住民たちはなかなか興味があるようで、そこからは人から人へとクリスマスは伝播していき、なんと俺が発案してから数時間もかからずにトラペッタの町全体にクリスマスの話は広まった。

 

ラッパを吹いて演説してを繰り返して喉が渇いた俺は酒場に立ち寄った。

 

「いらっしゃい、ドルマゲス。今日は何にするんだい。」

 

「マスター、喉に優しいものをお願いします。」

 

「了解。…ところで、あんたの故郷で催されてるって祭典。クリスマスだっけ。なかなか面白そうだね。なんでもサンタっていう老人が魔獣が引く魔道具に乗って空を移動して、子どもたちに贈り物をするそうじゃないか。なかなか不思議な伝承だね。」

 

なんか変な表現で広まってるけど大方間違ってないしいいか。

 

「そうでしょう?でも伝承は伝承。しかもいきなりこんな催し物を始めたような町にサンタは来ないので実際のところ子供たちへの贈り物は親がコッソリと枕元に置いていくのですよ。」

 

「…知ってるけど、なんと夢のない…でもそういうものかね。伝説なんてものは。信じてくれる誰かがいなければどんな伝説も空想どまりさ。あんたの言うサンタだって信じてくれる子供がいるからその存在を保つことができてるわけで。」

 

「そうですねぇ…」

 

「おいドルマゲス」

 

俺がホットトディをくいっと呷り、鼻に抜ける柑橘の風味を愉しんでいると、不愛想な声が俺を呼んだ。そういえば会うのは1年ぶりくらいになるかな。

 

「お久しぶりです、ルイネロさん」

 

「元気そうで何よりだ。隣は空いているか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

占い師ルイネロは今日はオフなのか、ゆったりとした部屋着で酒場に来ていた。

 

「お前の言うクリスマスとやらはどうやら明日か明後日かに開催されるようだな。」

 

「そうですね。まさか私もこんなに早く事が進むとは思っていませんでしたよ。みなさん乗り気なのは嬉しい限りですけどねぇ。」

 

「おれも祭は嫌いではない。…ハレとケの繰り返しで人生を紡ぐ人間にとっては、時にこうやって意図的にハレを作り出すことも生活にメリハリをつけるために必要だからな。…しかしおれが相談したいのはそんなことではなくてな…」

 

「というと?」

 

「贈り物だ。贈り物の風習について相談したい」

 

ああ、ユリマちゃんに何を送るのか悩んでいるんだな。

 

「ユリマさんへの贈り物ですか?」

 

「そうだ。何を送ればいいのかてんで見当がつかなくてな。本人に聞いてもうまくはぐらかされて教えてくれんのだ。」

 

「ルイネロさんお得意の占いで『観て』みたらどうです?」

 

「お前に言われんでも試している。しかしなんだか暗くてよく見えんし、ようやく見えたと思ったら水晶玉には絶対にお前が映るのだ。何度やってもだ。なのでお前に相談しろというお告げとおれは占いを解釈し、こうしてお前に話しに来たわけだ。…お前はユリマへのプレゼントは何が良いと思う?」

 

「ウーム…」

 

えー。そんなこといきなり言われても…。そうだなあ、ユリマちゃんは魔法の勉強を熱心にしているので現実的には新しい魔術書とかそんなところが妥当なのだろうが、それをあまり好ましく思っていないルイネロにいうとまた言いがかりをつけられて説教されそうな気がする。他に彼女が欲しそうなものは…あっ。

 

「服なんてどうです?昔ルイネロさんが買ってあげたという服をユリマさんはたいそう大事にしていましたし、贈り物の格としても内容としてもなかなかいいのではないでしょうか?」

 

「ふむ…」

 

しばらく顎に手を当て考えるそぶりを見せた後、ルイネロの険しい顔は少し柔らかくなった。どうやら得心がいったようだ。

 

「どうです?」

 

「なるほど。それは良さそうだ。…やはり占いはお前に相談することを指していたようだな。…ついでと言ってはなんだが、お告げの範囲がどこまでなのか分からないので、贈る服もお前が選んでくれないか。その代わりにこの酒の席の代金は俺に持たせてもらおう。」

 

お、ラッキー。どうせ暇だしついていって選んであげようじゃないか。全く、お告げだなんだと言いながら、本当は選んだ服が娘に喜んでもらえるかどうか自分一人じゃ心底不安なのだろう。まったく不器用な父親だなぁ。

 

「…しかしお前、そんな温かい酒なんて飲んで、体調でも悪いのか?」

 

「養命酒代わりじゃないですよ!!!」

 

 

男二人の服選びも恙なく終わり、俺は家に帰った。

 

「ただいま帰りましたー。」

 

「おう。」

 

師匠は食卓でパサパサのパンを食べていた。あれ俺が作っておいた朝食じゃない?もう夕方なんですけど…師匠は一回研究に集中したらこうなるから困る。

 

「あ、そうだ。師匠にはまだクリスマスの話してませんでしたよね?」

 

「それくらい知っておるわ。またお前の始めた妙な試みだろう?」

 

「むっ、それだと私がいつも妙な試みばかりしてるみたいじゃないですか!」

 

「実際しておるだろうが。魔物と対話を試みたり、妙なカラクリ人形を町中に放ったり、次元に穴をあけたり、分身したり…」

 

「ああ…」

 

やってたわ。いっぱい。…妙な試み。

 

「…まあ師であるわしとお前自身以外に迷惑をかけないようなことなら基本的に容認しているがな…今回のことも眉を顰めはすれ、別に邪魔をしようとも思っとらん。せいぜい好きにやれ。わしは今から寝るので起こさないように。」

 

牛乳でパンを流し込んだ師匠は食器もそのままに部屋へと戻っていってしまった。…師匠はああ言ってはいるが、なんだかんだでクリスマスのいい意味での非日常性は認めてくれているのだろう。俺も明日に決まったクリスマスの準備のために自室へ戻った。

 

 

そしてトラペッタのクリスマス(のようなもの)当日。町は誰もが心なしかそわそわしていた。町人のほとんど全員がクリスマスに意欲的だったおかげで、俺がクリスマスを広めてから一日半しか経っていないにも関わらず、町は「それらしく」なっていた。玄関にはリース(のようなもの)が飾られ、どこの家の前にもリボンとベルだけをつけた簡素な低木の植木が置いてある。道具屋などは装飾品を木につるしているのでそれっぽいが。街灯から街灯へは俺の作った電飾が掛けられていた。そんなに寒くないのがなんだかクリスマスらしくないが、季節が存在しないトラペッタでは仕方のない事だ。だからこそ俺の新しい呪術が映える。

食料品売り場では朝からチキンとケーキを売り出すのに大忙しだったようで、ようやく完売して疲れが押し寄せてきたのか、売り子も店員も眠ってしまっていた。俺がそんな様子を見ながら広場に向かって歩いていると、意外な人物が目に映った。

 

「あっ!ドルマゲスさんじゃない!」

 

「え?ゼシカさん??ポルクとマルクも…」

 

どうしてトラペッタに?ゼシカは俺を見つけると手を振って駆け寄ってきた。ポルクとマルクは初めて来たトラペッタの人の多さに圧倒されているのか、はたまたクリスマスに圧倒されているのか、二人ともゼシカの後ろで縮こまって周りの様子を窺っていた。

 

「昨日リーザスに来たトラペッタの商人が『ドルマゲスが何か面白そうな催しを明日するらしい』なんて言うもんだから気になって!それで母さんに許可を取ってトラペッタまでやって来たのよ!それにしてもスゴイわね!わたし、こんなにワクワクした気持ちになるの初めて!」

 

「なるほど、そうだったんですか!それは企画した側としても嬉しい限りです。でも本番はこれからですよ?先に広場に行っておいてください。」

 

「?わかったわ!さ!二人とも行きましょ!」

 

「「う、うん…!」」

 

せっかく来てくれたんだしゼシカたちにも楽しんでもらおう。俺はまたラッパを吹きながら今からすごいことをするから気になる人は広場に集まってくださいと呼びかけた。

 

 

「なにがあるんだろう?」

 

「ドルマゲスのことだからきっとすごいことをするに違いない。」

 

「このお祭りだけでも楽しかったのにこれ以上何を見せてくれるというんだ??」

 

「お集りの皆様、大変お待たせいたしました。本日は我が故郷に伝わる聖祭を楽しんでいただけているようで私ドルマゲス、恐悦至極に存じます。しかしこの聖祭、実は一つ決定的に足りないものがあるのです!」

 

広場はざわついた。よしよし、掴みは好調だな。

 

「クリスマスを彩るのに最も必要なものはそう!『雪』です!」

 

「「雪…?」」

 

雪。それはクリスマスのイメージとは切り離せない冬の風物詩である。クリスマスも冬も無いここではあまり頓着の無い者も多いだろう。それどころか雪を知らない人だっているはずだ。ならば見せてあげようではないか!

 

「わたし、雪なんて本でしか読んだことない…」

 

「ここらへんじゃあ雪なんて降らないからねぇ…」

 

「そこでです。みなさんによりクリスマスを楽しんでもらうために『雪』をご用意しました。さあみなさん!空をご覧ください!」

 

「そら?…あっ!」

 

小さな牡丹雪がポルクの鼻先に着地し、消えた。ついでマルクの頭に。ゼシカの手のひらに。ユリマちゃんの肩に。そうした内に雪は勢いを増し、少しずつ足元にうっすら雪が積もり始めた。広場に来ていなかった他の住民たちも何事かと家から出てきて空を見上げている。

 

─『聖夜に見る夢(ジングル・ベル)』─

俺がまだ見ぬオークニスはじめ雪山地方に想いを馳せて作り出した呪術だ。範囲はそう広くはないが、指定した区域を『領域』とし、内部に雪を降らせることができる。魔力で出来ている雪なので、溶けても水にはならず消えるのと、あくまで発生させるのは雪雲だけなので気温もそこまで下がらないのが特徴である。

 

「これが…雪…!」

 

「あたしゃ雪なんて初めて見たよ!キレイだねぇ…」

 

「俺も初めてだ!綺麗だけど寒いな…」

 

「「冷たい!」」

 

「白くてふわふわだ!」

 

ふふふ。いい反応だ。こうやって楽しんでもらえるとこちらとしても企画した甲斐があるというもの。

しんしんと降り積もる雪の中、大人も子供も珍しい雪に大興奮のまま夜は更けていった。

 

 

「ふう。ただいま帰りましたー。」

 

「ドルマゲスか。」

 

「師匠!珍しいですねぇこんな夜中まで起きてるなんて。」

 

「まあな。…」

 

「…?何か?」

 

「いや…」

 

これ絶対何かある時の反応だ。俺も伊達にこのツンデレおじさん(マスター・ライラス)と暮らしているわけではない。こうなったらこちらからきっかけを作ってやらねばこの人は決して動かない。

 

「そうですか。私は今日一日働きづめで疲れたのでお先に失礼しますね。」

 

「ま、待て。ドルマゲス。その…なんだ。…今日突然降った雪はお前の仕業だろう。違うか?」

 

「ええ、確かに私が降らせましたが。」

 

「お前が使ったのは魔法ではなく呪術などという似非魔法だ。そんなものに頼るようではまだまだ大魔法使いには程遠いぞ。」

 

「はあ。」

 

「…といつもなら言っているが。町民たちの様子を見て気が変わった。魔法も技術もなんでも、全ては誰かを幸せにするためにという願いを込められて生まれてくるものなのだ。かの賢者マスター・コゾも、そのような願いの下で数々の魔法を生み出してきたのだと伝え聞いている。そういった点では今日のお前は及第点といったところだろう。…これはその褒美だ。」

 

師匠は俺に小箱を投げてよこした。

 

「?ありがとうございます。開けてみても?」

 

「構わん」

 

小箱の中身は「祈りの指輪」だった。おお。伝説級の装備!というわけではないが、トラペッタで調達できるような代物でもない。…まさか作ったのか!?…それにしてもいきなり何を言われるのかと思ったが、もしかしてこれはクリスマスプレゼントなのだろうか…。師匠のこういうところは本当に憎めない。

 

「ありがとうございます!大切にいたします!」

 

「ふん…」

 

コンコンコン…

 

俺が肩たたきでも提案しようかと思っていた時、扉がノックされた。出ると、数十人の大人が家の前にずらりと並んでいる。何かあったのだろうか?

 

「どうかしましたか?みなさんお揃いで…」

 

「実はね、クリスマスの夜には子供に贈り物をするんでしょう?その役目をドルマゲスさんにやってもらいたくてねぇ。」

 

「こんなに楽しいお祭りは本当に久しぶりだったさ。だからこそそのシメは立役者のあんたが適任だってみんなで相談して決めたんだ。」

 

「え、私がみなさんの代わりにサンタ役をやるということですか?」

 

もう眠いんだけど…俺が師匠に目で助けを求めると、師匠は見事に知らんぷりをした。この…!

 

「…仕方ないですね。では私が責任をもってサンタクロースの代役を務めましょう。」

 

 

俺は『モシャス』でサンタクロースの姿に変化し、子どものいる家を一軒一軒回っていった。この子にはおもちゃ、この子には人形。この子には図鑑、この子にはヘアバンド。こうやってプレゼントを配っていくと、贈り物を通して親が子を想う気持ちのようなものが伝わってくる気がする。俺子供いないけど。

 

ゼシカとポルク・マルクはアローザの知り合いの家に泊まっているらしい。俺は先ほどまでと同じように枕元にプレゼントを置いて去ろうとしたが、なぜかバッチリ起きていたゼシカと目が合ってしまった。

「(あーっ!やっと来た!あなたがサンタさんね!本当に居たんだ!)」

 

「(いや、あの、その…め、メリークリスマス!)」

 

「(サンタさんはどこに住んでるの?どうやって一瞬でこの町まで来たの?魔獣と魔道具も見せてほしいわ!聞きたいことがたくさんあるの!)」

 

こんな興奮した状況でも周りに気を使って小声で話せるゼシカは流石に貴族の令嬢だな。…とそんなことを暢気に考えている場合じゃない。流石に堂々と会話するのもまずいか?俺のような偽物が本物のサンタを騙っては罰が当たるかもしれないし。

 

「(…ほ、ほっほっほ、ではメリークリスマス!来年も良い子でな!)」

 

「(あ!逃げないでよ!)」

 

「『ラリホー』(ごめんよ!)」

 

「(あ……さんた…さ…ん…)すぅ…すぅ…」

 

「ふふ、良い夢を。」

 

倒れたゼシカをベッドへ運び、ゼシカたちの枕元にもプレゼントを置いて俺は家を出た。

 

 

最後はルイネロの家…だったのだが。

 

「せめて寝てるの確認してから俺に依頼しに来てくれよ…本人だけ寝ててどうするんだ…」

 

ユリマちゃんは普通に起きてベッドで本を読んでいた。一方依頼主のはずのルイネロは下の階で酔って寝てしまっている。うーん、どうしたもんか…またさっきみたいに眠らせてもいいが、少々強引すぎる気もする…

 

「?そこに誰かいるんですか?」

 

やば、見つかっちゃった。こうなったら開き直るしかない。

 

「ほっほっほ、メリークリスマス!サンタクロースだよ。」

 

「…ドルマゲスさん?」

 

…アレ?俺の『モシャス』は独特な赤い服、ふくよかな体、白くて長いひげで完璧なサンタを演じられているはずなんですケド…声も身長も顔も変えてるし。

 

「ドルマゲス?私はサンタクロースだよ。」

 

「…ドルマ「サンタクロースだよ。」」

 

「…」

 

「…」

 

「…!…じゃあサンタさん、私のお願いを聞いてもらってもいいですか?」

 

ユリマちゃんは本を置いてベッドに入った。寝てくれるようだ。協力的で助かるよ。

 

「私の頭を撫でてください」

 

え…。ユリマちゃんって未だに寝る時にそんなことしてもらってたのか。ちょっと意外…と思ったけど待て。この子は小さい時に両親を失って、ルイネロも数年前まですっかりダメ親父だったから…もしかしたらユリマちゃんはそういう行為に飢えているのかもしれない。

 

「きみの頭をかい?」

 

「はい。わたしはいい子でしたから…いっぱい撫でてください。そうすればよく眠れそうです。」

 

ならば仕方ない。結構恥ずかしいが、今の俺はサンタクロースであってドルマゲスではない。そう自分を納得させた俺は、床に膝をついて彼女の灰茶の髪から白い額にかけてをゆっくり撫でた。いい子いい子。

 

「…」

 

「…♪」

 

「…」

 

「…///」

 

「…」

 

「…♡」

 

「(全然寝ないな…)」

 

数十分後、やっとユリマちゃんは寝息を立て始めた。危うくこっちが先に寝るかと思った。赤ん坊や幼児を寝かしつける時がまさにこんな気分なのだろう、そう考えるとやはり子育てって大変なんだなぁと思う。俺子供いないけど。

 

 

今なお降り続ける雪。俺が眠れば降雪は止むが、雪はしばらく残るので明日には美しい銀世界が拝めることだろう。雪遊びを住民たちに教えるのも楽しいかもしれない。そんな明日を思い浮かべながら俺も眠りにつくのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ドルマゲス様??」

 

「ドリィ、どうかしたか?さっきからぼーっとしてるぞ。」

 

「ん…ああ、すいません、さっき寒い風が吹いたので、少し昔を思い出して郷愁に駆られていました。」

 

俺は椅子から立ち上がって大きく伸びをした。

 

「そうか。俺もよくリーザスの村のことを思い出すよ。賢者の末裔としての務めを果たしたあとは、しばらく故郷で何もせずゆっくりしていたいな。」

 

「私は旅に出たばかりなのでそういうのはまだ…」

 

「あ、そうだ。二人とも、『雪』は見たことありますか?」

 

「実は無いんです。アスカンタには雪は降らないので…」

 

「雪…昔ゼシカがトラペッタで雪とさんた…?なんとかを見たと興奮気味で話していたな。俺は見回りがあってトラペッタには行けなかったが。…なるほどあれはドリィの話だったのか。俺も行けばよかったな。」

 

「ふふん、私、実は雪を降らせることもできるんですよ!」

 

「ええっ!?凄いです!!…み、見たいです…!」

 

「流石はドリィだ!早速見せてくれ!」

 

「いいでしょう!見逃し厳禁ですよ…!『聖夜に見る夢(ジングル・ベル)』」

 

 

 

今はもうあの頃には戻れない。俺は大罪人で師匠もいない。でもこの美しい思い出の数々だけは褪せさせてはいけない。

雪にはしゃぐキラちゃんとサーベルトを見ながら、俺は改めてそう決意したのだった。

 

 

 

 

 




ドルマゲスはまだ『蝶々の見る夢("ラグランジュ")』や『妖精の見る夢("コティングリー")』を覚えていないので潜入や変装はまだまだです。…といっても『普通』は見抜かれることも無いんですがね。


『聖夜に見る夢("ジングル・ベル")』…雪に憧れたドルマゲスが開発した、雪を降らせる魔術。『ラナリオン』の呪文で生み出した雨雲を『芯』として、火炎呪文と氷結呪文を衝突させてできる魔力的上昇気流により雨雲を雪雲へと変異させる。火炎呪文と氷結呪文を合成すると通常『メヒャド』か『メドローア』になってしまうが、呪術で「発熱」と「吸熱」の相反する要素のみを抽出し、残りの要素は魔力に還元することで合体魔法を防いでいる。
キリスト教神学的魔術界において、魔術は主に魔術的(masical)魔術、神秘的(mystical)魔術、秘蹟的(sacramental)魔術の三つに分けられる。特にその中でも最も強い意味を持つものが秘蹟的魔術(霊的世界との関係性が明言された魔術)であり、別名を奇跡的魔術とも言う。名の通り奇跡を操る魔術であり、天候を変えるなどというものは正しく神にのみ許された奇跡である。



初めはキラちゃんやサーベルトともイチャイチャするパートやユリマとゼシカが邂逅するパートが入ってたんですけど冗長になるのでマルっと削除してブラッシュアップしました。
それではよいお年を!


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幕間:(閲覧自由) 美食道化師の諸国たべある記Ⅱ

【閲覧注意】
この話には一部グロテスクな表現が含まれます。
本編とは関連していないので読み飛ばしていただいても問題ないです。





みなさんも魔物の味に興味があるみたいで何よりです。
実際全くの夢物語というわけでもなく、現世でも毎日新たな食材や料理は誕生しています。そのためにはどこかの誰かが最初に口に含んでみる必要があるわけで。そういう人は本当に尊敬できますよね。

トマトやスイカだってその色から「呪いの植物」と呼ばれた時代がありましたし、食することで生命の危機に直結するキノコ類はもちろん、腐った大豆を食べて「納豆」を発見した人や邪神とまで呼ばれ恐れられたゲテモノ代表であるタコを最初に食べた人とか、どんな人だったんでしょうか。偶然口にしたら以外とイケたのか、向こう見ずな人間だったか、食べざるを得ない状況にある人間だったか。はたまた(後世に残した功績は偉大ではあるが)ただのアホだったのか。そんなことを考えるのも楽しいですよね。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本棚から一冊の本を手に取ったあなたは内容を読んでみた…

 

 

 

 

 

 

 

初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶり。私は食に対しあくなき探究心を持つだけのしがない道化師です。こちらは私が考案し、選択し、実践し、反省し…を繰り返してできた魔物のベストな食べ方を記載した手記です。この手記を読むだけで涎が止まらなくなるであろうことは想像に難くないので、何か拭くものを事前に用意しておいた方が良いですよ…!

…この手記が今、世界のどこにあるのかは私の存ずるところではありませんが、これを読んでいる方の明日からの献立の幅が更に広がっていくことを望むばかりです。

 

それではどうぞ。

 

 

 

 

 

 

アスカンタ国領

 

・ホイミスライム

空を飛びたいと願い続けたスライムが魔力で浮くようになったスライムの変異種。なので本体の味はスライムと同じ酸い果実の味がする。一方で触手はまるでバナナのようなコクがあり、一気に二、三本食べても胸焼けしない。一本でも触手を残しておけば回復して再生するので、一匹捕まえれば半永久的に食事が摂れる。と言ってしまえばそうなのだが、著者は生命倫理的な理由で個人的にその方法は避けている。

 

・メタルスライム

こちらもスライムの変異種ではあるのだが、体質ごと変わっているのでフルーティーな風味は損なわれている。流体金属のような堅い体が食用に適さないのはもちろん、味もあまりよろしくなく捕獲する労力には見合わない。味や匂いが良くないのも、メタルスライムなりの防衛手段なのだろう。しかし鉄分は豊富なので、鉄分不足になりがちな戦士職の人間には食用価値もあるかもしれない。食べる時は香草などと共に長めに煮込んで溶けかけの部分を掬って食べると良い。しかし時を見誤ると固すぎたり液状になってしまったりするので逐一状態を確認すること。

 

・パペットこぞう

ほとんど食べられる部分がないが、唯一「げんじゅつし」を模したパペットだけは何故か食べることができる。ブロッコリーのような食感と味で、茹でると食べやすいが、しなびて見栄えは悪くなる。「スライム」「ゴーレム」「ドラキー」を模したパペットは大味で食用に適さない。

 

・アローインプ

【削除済み】

大量の毒が詰まった矢筒は適切な処理を行って廃棄すること。

 

・ナイトウォーカー

目玉を抜き取るとその眼窩を起点にして簡単に皮がむける。茹でるとそのままかぶりつくこともできるが、生のままミンチにすると魔力が抜けないので保存がきく。その後使いたいときにハンバーグなどにするとよい。靴は本体ではないので食べないように。肉は少し酸っぱいが腐っているわけではなさそうだ。

 

・コサックシープ

【削除済み】

 

・スライムナイト

ナイト部分が魔物であるときと、スライムが人形を操っているときの二通りの種類に分けられる。人形の場合は食べることができないが、ナイトも魔物である場合はスライム共々大鍋で煮こんでやると何とも形容しがたい味のする絶品の出汁が出る。そのまま野菜や肉を投入して鍋にするとよい。

 

・ガチャコッコ

×

 

・ブチュチュンパ

手間はかかるが表面のワックス部分を落とすと食感にも違和感なく食べることができるようになる。素揚げして余分な脂を飛ばすと食べやすい。素揚げする前に塩もみしておくのがミソ。

 

・サイコロン

「1」が出た時の目玉が最もまろやか、濃厚で美味しい。他の数字の場合は一律の味だが、翼の皮をむいて茹でたものに目玉を巻いて食べるとちょっとした腹の足しにはなる。胴体は堅くて食べにくい。

 

・ジャイアントバット

翼、脚、頭をもいでよく洗い、低温の油で長時間揚げて食べるとちょっとした揚げ餅のような食感になる。内臓や筋肉も餅化して融合しているので少し臭うが、調味料を加えれば問題なく食べられるレベル。腹持ちが良い。

 

・キメラ

胴体のヘビ部分は生で齧ることができる。しかし味は良くない。キメラを食材として捉える場合は手羽先に香草を巻いて蒸すか、グリルにして食べると美味しくいただけるが、翼の取り扱いに注意。うっかりしているとどこに転移するか分からない。

 

・バル

【削除済み】

 

・ベル

【削除済み】

 

・ボル

【削除済み】

 

・ブル

【削除済み】

 

・バベルボブル

美味しかった。

 

・シャドー

× 肉体を持っていないので実食できないが、時々妙に惹かれるかぐわしい香りを出している個体もいる。

 

 

パルミド地方

 

・ナイトフォックス

「サーベルきつね」の近縁種。しかしこちらは通常のキツネと同じ雑食性なので肉は臭くてあまりおいしいとは言えない。何度も洗ってアンモニアを抜けば、出汁をとる用途には使える。どうしてもその肉を美味しく食べたい場合は、血抜きして洗浄した肉を牛乳に付け込んで臭みを取り、赤ワインと共に煮込む。人参、ジャガイモ、玉ねぎと共に軽く炒め、鍋に入れてカレーにして食べましょう。

 

・パプリカン

貴重なビタミン源。本来タンパク質で構成されているであろう部分が全てビタミンA・C・Eやβ‐カロテンに置き換わっているトンデモ生物で、旅に不足しがちな栄養素を補うことができる。味は赤、黄ともそのままフレッシュなパプリカで、刻んでサラダに入れても炒め物にしてもおいしい。「マホトーン」などを唱えて抵抗してくるが、こちらは初めから食べること以外眼中にないので問題はない。

 

・ごろつき

【削除済み】

 

・くびかりぞく

刈られる前に狩ろう。しかし食用には適さない。

 

・ミニデーモン

まだ幼い悪魔の魔物。これからの成長に必要なエネルギーを身体いっぱいに秘めており、その血肉は滋養強壮に良い。柔らかい四肢や頭、胴体全て可食部で、エネルギーを逃がさないため蒸すか燻製にして食べるのがおすすめ。大人の人間なら骨までかみ砕いて食べることもできる。「ウドラー」をチップにして燻るとスパイシーな風味が、「じんめんじゅ」をチップにすると爽やかな香りが付く。蒸す場合は仕上がりにサラダ用のドレッシングをかけると味も申し分はない。

 

・コングヘッド

筋肉繊維が強靭なため堅くて肉は食用に向いていない。しかしその脳は珍味とされており、パルミドの住民の中にはコングヘッドの脳を食べるために命を賭けた戦いに身を投じるものもいると言われている。頭蓋骨を切開して脳を取り出し、トウガラシ、または塩漬けの生姜を薬味として和え、スプーンですくって食べる。酒と混ぜ合わせると臓物としての臭みも消えるが、どんな調理をしても衝撃的なものには変わりない。中枢神経系の神経疾患になる可能性もあるので、何度も食べることはおすすめしない。

 

・ウィッチレディ

食べたというと少々意味深な表現に思えるがそういう意味ではなく

以下、第三者の手によってどす黒く塗りつぶされた跡があり読み進めることができない

 

・ノックヒップ

尻尾の棘を取り除けば一応食べることができ、味もそこまで悪いわけではないが、ゴムのような食感で舌ざわりが悪い。強火で焦げ目がつく程度に炙り、しょうゆ、みりん、砂糖をまぜたものに漬け、再度火に。二度目は弱火でじっくり焼くとゴムのような食感が大分マシになり、鶏皮のように食べられる。

 

・プチアーノン

海のおやつ。身は柔らかく、ミソは甘くコクがある。ワタを取り除き、ゲソを切って胴身に研いだもち米を詰め、しょうゆベースの出汁で炊けば世にも珍しい料理に。私はイカメシと呼んでいます。余ったゲソはワタと絡めて塩辛にして酒のつまみにしましょう。

 

・わかめ王子

海のサラダ。全身が食用の海藻で構成されておりそのままでも食べられるが、調理してぬめりを取ると良い。ドレッシングをかけただけのシンプルなサラダや酢の物、鶏ガラ、卵と共に鍋に投入してスープにしても良い。私はチュウカスープと呼んでいます。全身と言っても、王冠とマイクは食べられないので注意しましょう。

 

・マーマン

狂暴な半魚人だが、反面その肉は臭みのない白身。ワタやウロコを取り除いて切り分け、塩・コショウで味付けし小麦粉をまぶしてバターで焼けば高級なムニエルに。バルサミコやペシャメルソースをかけても良いが、「スライムベス」を煮詰めた柑橘ピューレが淡白なマーマンの身に良く合う。寄生虫などは確認されていないが、淡白すぎて味がないので刺身には向かない。

 

・ひとくいばこ

×

 

・おどる宝石

× 金策にはなる。中身の宝石はそのまま魔石として売っても良いが動き回るため取り扱いには注意すること。一般に魔力を抜いてただの宝石に変えた方が買い手はつきやすい。

 

・マミー

古代の王の遺体と共に生きたまま埋められた人々が怨念で蘇った魔物。「ミイラ男」とは違いこちらは綺麗な状態のまま防腐処理をされて地中深くに埋葬されたため、その肉は腐ることのないまま乾燥している。しかも健康を害する諸因子なども死滅しているので神経疾患に罹患することもない。ケバブのように薄く肉をスライスし、そのまま食べると良い。お好みで塩やブラックペッパーを振りかけても良し。歯ごたえのある食感、噛めば噛むほど染み出る深い味わい。それはさながらビーフジャーキーのようである。もちろん保存食としても使える。

 

・さまようよろい

× 魔力を抜けば売却することもできる。私はそのまま魔力鋼として利用しています。

 

・さまようたましい

× 「メラゴースト」と違いこちらはほとんど放熱していないため即席コンロとしても利用できない。さっさと浄化させてしまうこと。

 

・ぼうれい剣士

× 布切れと錆びた剣は大した売値にならない上にこの魔物自体がまあまあ強いので、できれば戦うのは避けたい相手。ちなみに本体は切り殺された剣士の霊が宿る剣で、マント部分は魔力の大部分を蓄える依り代となっている。戦う際は先手を取って剣を叩き折るか、マントを破壊して弱体化させてから放置し、先に他の敵の対処に当たること。

 

 

 

以降、詳しい調理の手順などが記載されている…あなたは気分が悪くなり本を閉じた。

 

 

 

 




前回の「たべある記」にもたくさんの感想を頂けて嬉しいです。私は知りませんでしたが、意外と魔物食を描写している作品も多いんですね。やはり誰しも食欲には抗えないのか…

どうにも私には本家ルーイさんのような猟奇性が出せません。これが本物との「差」か…まだまだ勉強することは多そうです。


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幕間:(閲覧自由) ドラクエ新作をみんなで一緒に実況するスレpart2 前編

新年一発目がこんなん(三連閲覧自由投稿)ですみません…
ちゃんとした挨拶は次回致しますので。

あ、あとユリマのファンアートを自前で用意しました。これも次回載せますネ。

ちょっと勇者たちが先に先に進んで長くなっちゃったので今回が前編で次が後編になります。


閲覧自由です。作品の世界観を損なう可能性があるため、メタフィクション的世界観が苦手な方はこの回を無視して同日投稿の番外編をお楽しみください。







1:名無しクエストⅧ(主)

よーっす

お前ら元気かー?あと20分くらい経つか、ある程度人が集まったら続きやっていこうと思うんだが…。

 

2:名無しクエストⅧ

おるよ

ごめんちょっとだけ進めてもたわ

ほんのちょいやから許してや

 

3:名無しクエストⅧ

はつみー

ここは何をするところですか?

 

4:名無しクエストⅧ

>>3

ドラゴンクエストⅧを遊びながら思ったことを呟くだけのスレだぜ

俺も早く始めたくてうずうずしてるぜ

 

5:名無しクエストⅧ

今北産業

 

6:名無しクエストⅧ

前は確か船着き場までだったっけ?俺は正統なプレイヤー、ちゃんとそこで止めていた

 

7:名無しクエストⅧ

>>5

者募集中

 

8:名無しクエストⅧ

実はこのドラクエⅧが初ドラクエなんだよね。面白かったら他のシリーズにも手を出してみたいなとは思ってる。おすすめある?

 

9:名無しクエストⅧ

おつ、待ってたでイッチ

もうちょっと時間ありそうやから風呂入って来るわ

 

10:名無しクエストⅧ

御託はいいからさっさとやろうぜ?(戦闘狂)

 

11:名無しクエストⅧ(主)

前のスレ見て無い人の飛び入り参戦も歓迎。一緒にドラクエやろう!でも初見プレイの人も多いから過度なネタバレはなしで頼むな!あと10分くらいしたら始めるからてきとーに雑談でもしといてくれ

 

12:名無しクエストⅧ

ゼシカかわいい(小並感)

 

13:名無しクエストⅧ

黙ハムは実際何者なんかね?生きてたとはいえ強めの呪いを受けたトロデ、ミーティアはまだしもアイツ城の中にいたのに無傷っていくらなんでもおかしくない?

 

14:名無しクエストⅧ

>>13

主人公補正って可能性もあるけど、なんか秘密があるかもしれんね。もしそうだったらそれが物語のキーになることは間違いないだろうし。

 

15:名無しクエストⅧ

気になると言えばドルマゲスじゃね?あいつが何をしたいのか今のところ全く意図が読めん。トラペッタは洗脳入っとるってのはほぼほぼ確定だとしても、リーザスの人間はなんかきな臭かったし…流石にゼシカが相手の手先の可能性はないだろうけども。

 

16:名無しクエストⅧ

小生、ついにPS2を購入いたしました!!!只今開封して設定しているところでございます!!あー楽しみ!オラワクワクすっぞぉ!

 

17:名無しクエストⅧ

>>16

前回ソフトだけ買ってた人か

結局転売ヤーから買ったんかな?どちらにしろよかったね。

 

18:名無しクエストⅧ

おいっすー

 

19:名無しクエストⅧ(主)

よーっし。じゃあそろそろやってくか!!

 

20:名無しクエストⅧ

マスターライラスってのがどんな人間なのかも気にはなるよな。トラペッタ全体も妙な雰囲気ではあったし。もしもライラスが悪人だったとしたら最初はドルマゲスは悪人だけを殺す義賊(殺人なので大っぴらにはできないがかといってドルマゲスを責めることもできない)かと思ったが、ゼシカの兄を殺してるんなら話は全然違う。ゼシカの兄は村民の誰に聞いても善人って答えてたから。やっぱりドルマゲスの動向は分からん。

 

21:名無しクエストⅧ

O.K. 早速起動するぜ

 

22:名無しクエストⅧ

情緒不安定ワイ、ゼシカが仲間にならず咽び泣く

 

23:名無しクエストⅧ

>>22

さっさとポルトリンク向かえよ

 

24:名無しクエストⅧ

ゼシカのお母さん、ゼシカが旅に出るって分かってたんだな。随分粋じゃないですかやだー

 

25:名無しクエストⅧ

ヤンガスって何が強いんだ?ポルトリンクで鎌売ってるんだけども。ちなみに今はオノ

 

26:名無しクエストⅧ

>>25

ヤンガスの持ってる初期オノ強すぎんか??買い替える必要性なさすぎるんだが…

 

27:名無しクエストⅧ

>>26

なんか棍棒とか鎌とかいろいろあるけどこのオノ一本で大抵の敵はワンパンよな。

今までと同じだとしたらオノが地雷武器になることはないと思うし、もうちょいさんぞくのオノは続投かな

 

28:名無しクエストⅧ

錬金釜だって。ドラクエⅣにでてきた錬金術みたいなもんかと思ったけど、アイテム合成アイテムの類みたい。すごいわね。

 

29:名無しクエストⅧ

トロデGJ

初めて役に立った

 

30:名無しクエストⅧ

修道院の立地どないなってんねんこれ…すぐ浸水しそう

 

31:名無しクエストⅧ

川に沿って奥の方行ったら意味ありげな石碑あるけど誰か動かせた?

 

32:名無しクエストⅧ

ゼシカかわいい(定期)

 

33:名無しクエストⅧ

!?

 

34:名無しクエストⅧ

聖堂騎士団キターーーーーー!

 

35:名無しクエストⅧ

こいつ顔長くね?

船着き場の屋上にいた女の子は騎士団はイケメンぞろいって言ってたけど。

イケメンだと思う感性が違うのか?

 

36:名無しクエストⅧ

ここまでイケメンなし

性格イケメンもなし

 

37:名無しクエストⅧ

ゼシカ仲間になった!!よっしゃ!!

 

38:名無しクエストⅧ

>>おめでとナス!

 

39:名無しクエストⅧ

マイエラ修道院の人間はドルマゲスについてどう思ってるんだろうか?修道士に話を聞く限り、ドルマゲスらしき人物とそのお供が修道院を襲撃したらしいのでドルマゲスは何かを狙ってここに来たのはまず間違いないと思うんだが、にしては被害が無いってのが気になる。ドルマゲスがどれくらいの戦闘力を持ってるのかは分からないが、少なくとも人を殺せるような力を持ってるのは間違いない。聖堂騎士団がめちゃくちゃ多くて強いので退散したって線も考えられるけど、騎士団の人間はなんか歯切れ悪い返答しか返さないし、その線も薄そう。誰かが何かを隠してるんじゃないか?俺はオディロ院長が何か隠してるような気がする。

 

40:名無しクエストⅧ

オディロ院長初登場!周りが周りだからか超いい人に見えるんだが!

 

41:名無しクエストⅧ(主)

>>39

確かに。こんだけ聖堂騎士団は傲慢なんだから、本当にドルマゲスを追い返したならもっと声高に自慢してくるはずなんだよな。

 

42:名無しクエストⅧ

ほー。ここで最後の仲間が出るか。ドニの町にいる赤い奴がパッケージにも出てるキャラよな?これで仲間が全員出揃ったことになるな。まさか一度もボス戦を経ずに勇者が集結するとは…。

 

43:名無しクエストⅧ

オマイラ修道院

 

44:名無しクエストⅧ

>>43

オマイラ修道院wwwwww俺もそれ思ったwwwwwwwwww

 

45:名無しクエストⅧ

オマイラ修道院草

 

46:名無しクエストⅧ

なん…だと…

 

47:名無しクエストⅧ

院長が名実ともに聖人だった

 

48:名無しクエストⅧ

ククール好き

ククール嫌い(アンビバレンツ)

 

49:名無しクエストⅧ

クサレ僧侶…ゼシカのこと好きなんかな?でもゼシカがククールみたいな男の手玉に取られるんはイヤやなぁ。

 

50:名無しクエストⅧ

俺もククールみたいに今日出会えた記念に。って知らん人に指輪はめてみよかな

 

51:名無しクエストⅧ(主)

>>50

※ただしイケメンに限る

 

52:名無しクエストⅧ

ファッ!?チーズってトーポに食わせられたんか…全然気づかんと生産しまくってたわ

 

53:名無しクエストⅧ

マイエラ修道院が悪いってよりは聖堂騎士団が極悪すぎるんだよね。怪しいからってだけですぐ切り捨てようとしてくるし、院長に叱られても全然反省してないし。

 

54:名無しクエストⅧ

神父も貧乏人見下したりしてたけどな

 

55:名無しクエストⅧ

あれ?院長誰かと話してたよね?今

 

56:名無しクエストⅧ

ん?なんかクサいな…院長が一番悪人って線が急に浮上してきたっすね

 

57:名無しクエストⅧ

院長…嘘だよな…?

 

58:名無しクエストⅧ

なぁちょっと待ってまだそこまで行ってねぇ!え!?院長悪いの??

 

59:名無しクエストⅧ

でも誰かと話してたってことくらいで内容までは分からなかったな。てか誰と話してた?ここの出入り口この階段しかなくない?慌てて窓から飛び降りたんか?

 

60:名無しクエストⅧ

院長が嘘ついてないとしたら院長一人でドルマゲス追い返したの強くて草

 

61:名無しクエストⅧ

『神鳥の杖』…これがトロデとエイトの国の秘宝なんやね

ドルマゲスはこの杖で王と姫を呪ったってこと?じゃあトロデは呪いの杖を秘宝として保管してたってこと?トロデが黒幕…ってコト?!

 

62:名無しクエストⅧ

院長のせいでなんかみんな疑心暗鬼になってるやんwトロデは神鳥の杖が呪いの杖やって知らんかったんやない?けっこう抜けてるとこあるやん?あの王様

 

63:名無しクエストⅧ

う…熱中しすぎて画面酔い…ちょっときゅうけいー

 

64:名無しクエストⅧ

ドランゴ…ついに倒した…!トラペッタで大分粘ったな…でも倒しても特になんもなさそうなのが残念。なんだったのかあれは…?

 

65:名無しクエストⅧ

>>64

あの場違いバトルレックス倒したんかおめ

流石に何の意味もなくあんな場所に配置するとは思わんけどな。多分後でもう一回戦うことになるんじゃない?

 

66:名無しクエストⅧ

南東の方角ねぇ。なんか急に院長怪しく見えてきたし信じていいんかね?

ククールも院長の差し金やとしたら味方とは限らんわけか

 

67:名無しクエストⅧ

なんかわからんけど院長に話しかける前に回復しとこ

 

68:名無しクエストⅧ

流浪の傭兵アインス…メモメモ

ドルマゲスの仲間?よねアインスって。ドルマゲスは最初から一人じゃなかったのかな?

 

69:名無しクエストⅧ

途中で仲間にしたって可能性もあるけど、アイツが通ってきた道トラペッタとリーザスだけやしなぁ。

一人で国滅ぼすようなバケモンの仲間になれそうなやつがおったとして、こんな辺境で燻ってちゃいかんでしょ。

 

70:名無しクエストⅧ

ほう、ここでククール加入ですか…たいしたものですね(なにがだw)

 

71:名無しクエストⅧ

>>69

むしろ危険因子だったとしたら町から連れて行ってくれて助かっただろ

 

72:名無しクエストⅧ

トロデ怖いわ

なんで自分の治めてる国滅ぼした相手にこんな貧相なパーティーで楽勝だと思えるんだよ

 

73:名無しクエストⅧ(主)

ともかく、これで四人、旅パは出揃ったわけか。普通に計算した限り、レベルカンストさせてもスキル満タンに出来なさそうだしここらで割り振るスキルと役割についてちゃんと考えた方が良いかもな。

 

勇者→ブーメランorヤリ→サブアタッカー&補助

ヤンガス→オノ→メインアタッカー(物理)

ゼシカ→ムチor杖→メインアタッカー(呪文)

ククール→剣or弓?→ヒーラー

 

みたいな?それでゆうきやらおいろけやらはぼちぼち振って、って感じで。

 

74:名無しクエストⅧ

今のところボス戦無いし黙ハムのブーメランめちゃ有能だよな

 

75:名無しクエストⅧ

黙ハムブーメラン→ヤンガス右端攻撃→ククールその左攻撃→ゼシカイオでここらの敵は1ターンで沈むよ。やってみ?

 

76:名無しクエストⅧ

イオ早くなーい??

 

77:名無しクエストⅧ

>>75

それ単に君が育成しすぎて戦闘がぬるくなってるだけでは

俺マイエラ来てからめちゃくちゃ戦い苛烈になっとるぞ

 

78:名無しクエストⅧ

>>77

分かる。戦闘して回復して…ってやってかな時期に全滅しそうでヒヤヒヤする。死んだら最寄りの教会まで戻らないとだし。

 

79:名無しクエストⅧ

院長世界地図くれたよいい人だよ(洗脳済み)

 

80:名無しクエストⅧ

有能爺さん

それはそれとして地図みても何が何だかよくわからないの巻

 

81:名無しクエストⅧ

ククール仲間にして院長から世界地図貰ったところでマイエラ地方のイベントは終わりっぽいな?

お前らこれからどうするよ。院長の言った通り南東に向かうか、東にある王国に先行くか。個人的にはもうちょいマイエラ探索するのもありかと思ってる。道端の宝箱も全部が開けられてるわけじゃなくて、何個か未開封のやつもあったし。

 

82:名無しクエストⅧ

リンリン→デンデン竜 はまだ許せるよ

リンリン→リンリン→リンリン→リンリン→デンデン竜 はダメでしょ俺の所持金半分帰せ(涙)

 

83:名無しクエストⅧ

船着き場でずっとチーズの組み合わせ探ってたらみんな進みまくってた…せっかくだから発見したの載せとく

辛口チーズ チーズとあかいカビ

冷たいチーズ チーズと水草のカビ

こおりのチーズ 冷たいチーズと水草のカビ

いやしのチーズ チーズとアモールの水

カチカチチーズ チーズと岩塩

こんなもん。また進捗あったら載せる

 

84:名無しクエストⅧ

>>81

俺はまっすぐ南東行くかな。ドラクエの性質上寄り道ってあまり意味ない事多いじゃん?イベントがいつまで経っても始まらなかったり。今回とか露骨に避けてる時点で後で行くこと確定してるから先行こうかって。

 

85:名無しクエストⅧ

いや普通道中に町や城あったら入るだろ初見でRTAやってんのか?

 

86:名無しクエストⅧ

なかまコマンドで聞いても「どこ行くかはお前に任せるぜ(ドヤ)」みたいなことしか言わんし、素直に南東目指せばいいんでね?見たとこかなり遠いでしょここから南東の町まで。気楽に行きゃいいと思いますよ僕は

 

87:名無しクエストⅧ

うん、やっぱりヒーラーが一人加入するだけで戦闘のテンポが全然違うねー。特にククールがこれまでの僧侶と違うのはアタッカーとしても普通に有用だってコト。これは快適だ~

 

88:名無しクエストⅧ

とりま東の城目指すか。このまま行ってもいいけど流石にゼシカが打たれ弱すぎるしレベル上げも兼ねて寄り道。

 

89:名無しクエストⅧ

うさみみバンドとヘビ皮のムチ?これ簡単に作れる割に強いからオススメやぞ

ちなみにどっちもゼシカ専用装備な

 

90:名無しクエストⅧ(主)

割とイベント早く終わったしもうちょい進めるか。

 

 



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幕間:(閲覧自由) ドラクエ新作をみんなで一緒に実況するスレpart2 後編

今回は前話のつづきとなっております。
それではどうぞ!








91:名無しクエストⅧ

ふらっと道から外れた先で空いてない宝箱見つけると嬉しいよね

 

92:名無しクエストⅧ

たね系アイテムって拾ったらすぐ使う派?それとも取っておいて終盤で一気に強化する派?

 

93:名無しクエストⅧ

前のスレでつまらんからもうこのゲーム売るわって言った者だけど

ごめんあの後も普通に楽しんでました面白いですこのゲームはい

 

94:名無しクエストⅧ

>>93

どうでもいい謎のカミングアウト草

 

95:名無しクエストⅧ

わ…知らない間にもう始まってた…くそ、待って今から起動するから

 

96:名無しクエストⅧ

今作負けイベとかあるんかな~。勝ちイベは開始早々あったけど。

 

97:名無しクエストⅧ

負けイベ云々より前にイベント戦闘がないんだよなぁ…

 

98:名無しクエストⅧ

おつw

 

99:名無しクエストⅧ

ん?急に過疎ってきた??お前ら生きてるか~

 

100:名無しクエストⅧ

生きとるよ

ドニから次の町までの道中がやたら長いんよ何も無いのに

 

101:名無しクエストⅧ

とりあえずメンバーのレベル20前半まで引き上げてみた。これならマイエラ地方もアスカンタ国領も、パルミド地方でもそれなりに戦える。…はず。

 

102:名無しクエストⅧ

アスカンタ王国…今まで訪れた中では一番でかいところだけど城としては小さめじゃない?

 

103:名無しクエストⅧ

塔みたいな城が象徴的だな。でも城下町も大して特殊な施設とかも無さそうだし、何も起こらないしやっぱりイベントあるまでここでやることはない感じか。

 

104:名無しクエストⅧ

うお、なかまコマンドって開く場所で反応変わんのか気付いてなかった。オモシレッ・・・オモシレッ・・・

 

105:名無しクエストⅧ

なんかこいつら豪華な暮らししてんなw

 

106:名無しクエストⅧ

確かに。現代人みたいな生活してやがる。まあ俺は?こいつらより更にいい暮らししてる上に働く必要すらないけどな!!

 

107:名無しクエストⅧ

ドラクエのNPCに生活の質でマウント取ってるニート初めて見た

 

108:名無しクエストⅧ(主)

アスカンタは流石王国なだけあって他のドニとかトラペッタよりも発展してるってわけか。にしては設備が革命的すぎる気もするけど。ここにも魔物(戦闘にはならない)いるし。

 

109:名無しクエストⅧ

み、みんなっ!変態だ!屋根の上に全身タイツの変態おじさんがいるぞっ

 

110:名無しクエストⅧ

モリモリの実の全身クリスマスカラータイツ矛盾マントスカーフハゲ髭人間

 

111:名無しクエストⅧ

おっ、これがまさかフィールドエンカモンスターの関係か!?期待

 

112:名無しクエストⅧ

モンスター仲間にできるんか。そしたら絶対お前らバトルレックス捕まえにいくやろ。ワイも行くけど。

 

113:名無しクエストⅧ

あーこのさまようよろいマイエラ修道院の近くで見たわー。ちょっくら行ってくるか

 

114:名無しクエストⅧ

えーと情報屋ってのは…どこ?そもそもここどこ?(空間図形苦手マン)

 

115:名無しクエストⅧ

通行料払わないと向こうにいけない…そう思っていた時期が私にもありました

 

116:名無しクエストⅧ

おほー。ドラクエ名物のカジノが。勝負師の腕が鳴るねぇ。

 

117:名無しクエストⅧ

(♪~)道化師が持ち出した『秘宝の杖』が引き起こしたトロデーン滅亡の惨劇から数日。

スレ民たちはアスカンタ王国、バトルロード闘技場、パルミドの三つに分かれ混沌を極めていた!

 

118:名無しクエストⅧ

 

119:名無しクエストⅧ

おっイベント。やっぱパルミドがメインストーリーだったみたいだな。

 

120:名無しクエストⅧ

え?アスカンタでもイベント始まったんだけど。こっちが先じゃなくて?

 

121:名無しクエストⅧ

は?

 

122:名無しクエストⅧ

は?

 

123:名無しクエストⅧ

は?

 

124:名無しクエストⅧ

>>121,122,123

イミテイション・ゴールド

 

125:名無しクエストⅧ

うーむ。ロンリージョーとプチノンは見つけたけどスラリンがいない。城の近くって言ってたからアスカンタ探してたけどいないから多分これ別の城のことだな。

 

126:名無しクエストⅧ

>>120

パルミドのイベントは情報屋が『物乞い通りの魔王』ってのに襲われた?もしくはドルマゲス?で特に情報が得られなくて、馬姫様が攫われた。今は町の中探してる。そっちは何があった?

 

127:名無しクエストⅧ

>>126

なんか、アスカンタの王様に会いに行こうとしたら大臣が出てきて止められて、事情を話したら呪いやらなんやら昔の伝承に詳しい老人がいるから会いに行けって言われてほいほい従ってたら成り行きで願いの丘ってダンジョンに行くことになった。

 

128:名無しクエストⅧ

>>124

この流れすき

ストーリー分岐?いや単に別々のフラグが発生してるだけか。順番はどっちでもいいんじゃないか?

 

129:名無しクエストⅧ

アスカンタもクサい。魔物と共存してるってトラペッタと同じじゃないか?(リーザスは微妙なところ)大臣が王様に会わせないのも後ろ暗い理由があったりして。あの反応、ドルマゲスの名前だした時明らかに動揺してただろ。もしかしたら王様はドルマゲスに殺された?→大臣はそれを隠してるor大臣はドルマゲスと結託してて王を殺させた…とか。ドラクエシリーズの大臣って信用できない奴が多いし。

 

130:名無しクエストⅧ

『物乞い通りの魔王』って女の子なのか。女の子で魔王ってことはよっぽどごつい見た目してるか性格がすげぇ残忍なのかって感じかな?

 

131:名無しクエストⅧ

うわでた

 

132:名無しクエストⅧ

これ魔王か

オーラエグ

 

133:名無しクエストⅧ

力の差をはっきり分からされた感じか。文字通り手も足も出ない。ゲルダって女盗賊も生きてはいるみたいだから無益な殺生はしない武人的な?

 

134:名無しクエストⅧ

>>133

いやあの風体で武人はないだろ

魔王結構かわいいじゃんとか思ってたら振り向いた瞬間右目真っ白で身体から血吹き出してて泣いちゃった

皮膚が裂ける音とかリアルで怖すぎこれほんとにCERO:Aですか??

 

135:名無しクエストⅧ

魔王好きかもかわいいヤンデレかわいい

 

136:名無しクエストⅧ

ん。これもしかして魔王もドルマゲス追ってる感じか。ドルマゲスに殺された誰か(トラペッタの人、ゼシカの兄、あるいは物語開始以前のドルマゲスによる被害者)の関係者で、「私がドルマゲスを殺す…!」みたいな復讐鬼になってて勇者と魔王とドルマゲスで三つ巴、みたいな。

 

137:名無しクエストⅧ

>>135

あいつにデレ要素あったか?ただ病んでるだけのクソつよ女だろ

 

138:名無しクエストⅧ

ちぃかわ(なんか血ぃ出てるかわいそうなやつ)

 

139:名無しクエストⅧ

トラペッタで最初に会った女の子に似てない?魔王

一瞬過ぎてあんまり記憶ないけどなんか。似てる気がする。

 

140:名無しクエストⅧ

>>139

俺もそう思ったけど、流石にモデル流用じゃないかな。脈絡なさすぎるし…多分魔王は人外で第二形態みたいなのがあるんじゃない?知らんけど。しかも今考えたらそこまで似て無かったような気もする。

 

141:名無しクエストⅧ

アスカンタ大臣、どうしてもドルマゲスの話を王の耳に入れたくないらしい。妙だな…(少年名探偵)

 

142:名無しクエストⅧ

ククールに悲しい過去…

このマルチェロって兄貴もいつか出てくんのかな?他の聖堂騎士団みたいな性格をしてないと信じたい。

 

143:名無しクエストⅧ

バトルロード格闘場の方はどう?そっちはサブイベっぽいー?

 

144:名無しクエストⅧ

>>143

なんかディムっていうソロ冒険者に会ってなんかいろいろ能力上がった。ゼシカなんか新しく魔法覚えたし。絶対これ後で関係してくる重要キャラでしょ。しかもそのまま進んでいったら剣士像の洞窟ってダンジョンも見つけた。多分滝の洞窟と同じフリーダンジョン?

 

145:名無しクエストⅧ

アスカンタ→願いの丘

バトルロード格闘場→謎の冒険者&剣士像の洞窟

パルミド→魔王邂逅&ベルガラックフラグ

うーんこの

 

146:名無しクエストⅧ

しかも恐ろしいのはアスカンタかパルミドから先に向かうとその冒険者ディムとやらと会えないこと。俺もパルミド行ってからおまえらの話聞いて闘技場行ってもそいつに会えなかった。

 

147:名無しクエストⅧ

シビア過ぎんだろ…w

途中に建物あったら誰だってそっちから行きたくなるよなぁ?

 

148:名無しクエストⅧ(主)

最初はディム=魔王かと思ってた。変装か変身してな。でもディムに会ったやつも会ってないやつもゲルダのアジトでのイベントが同じと考えると二人は別人と考えた方がよさそう。

 

149:名無しクエストⅧ

ディムの「為さなければならないこと」がドルマゲスへの復讐だったらどうしよう?だとしたら絶対勇者といつかはぶつかるし、その時に事前に会っていたかどうかで展開変わったりするんかな

 

150:名無しクエストⅧ

ボス戦を経験しないままパーティーが集結

Aルート 院長の言葉通り南東へ→パルミド→アジト(ここでベルガラック行きの定期船のフラグが建つ)

Bルート アスカンタへ寄り道→願いの丘→?(情報求む)

Cルート アスカンタは無視した上で闘技場に寄り道→ディムと邂逅→剣士像の洞窟→Aルートへ

初見でアスカンタ無視しつつ闘技場行く判断下すのきつすぎお前らよく行ったな

 

151:名無しクエストⅧ

>>150

Aルートの場合アジトへのイベントが終わった時点で船着き場へ強制ルーラだからワンチャン剣士像の洞窟に気づかない可能性があるのが卑劣

 

152:名無しクエストⅧ

ちな願いの丘か剣士像の洞窟踏破したやつおる?ワイはもうベルガラック行ってもたから有用そうなら戻るけど

 

153:名無しクエストⅧ

願いの丘登ったけどなんも無かったからさっさと降りたわ

なんやねん

 

154:名無しクエストⅧ

>>153

山頂で待っとけ言われただろw

 

155:名無しクエストⅧ

剣士像の洞窟はですね…はい。ええ。

 

156:名無しクエストⅧ

うん、ボスがヤバい。これが初ボス戦ってのもあるけど何回やっても倒せない。

 

157:名無しクエストⅧ

こまった…ちょっとかてない…(魔人ブウ)

毎回惜しいとこまで行くから楽しいんだけど…楽しいんだけど…!

 

158:名無しクエストⅧ

>>157

そう。これまで焦らされただけあってボス戦の手応えとかアイテム投入して戦略練って戦う感じが超楽しく感じるんだけど勝てない。正直ダンジョンの他のモンスターとはダンチで強いわこの「エスパーダ」ってボス。

 

159:名無しクエストⅧ

これ今来るとこじゃないわ。先ストーリー進めよっとw

 

160:名無しクエストⅧ

誰だってそうする俺もそーする

 

161:名無しクエストⅧ

剣士像の洞窟行ってたやつらが一斉にパルミドになだれ込み始めて草

 

162:名無しクエストⅧ

ゲルダとヤンガスってくっつきそうじゃない??ちょっといい雰囲気よねぇ?

 

163:名無しクエストⅧ

ヤンガスと同期ってことは…ゲルダさん30代…!?おばさn…おっと誰か来たようだ

 

164:名無しクエストⅧ(主)

この時点で目的の分からない重要キャラが

ドルマゲス→殺害する対象はなんらかの法則に従っているはずだがその法則や理由は不明

オディロ院長→誰かと会話していたが、その内容や相手は不明

アスカンタ大臣→ドルマゲスの話に動揺し、頑なに王と謁見させてくれない。何かを知っているのは確実

物乞い通りの魔王→めちゃくちゃ強い。船を使ってベルガラックに向かっている。定期船を使わない理由や目的は不明

冒険者ディム→勇者たちに友好的だが冒険の目的は不明(チャートによっては会えない場合もある)

と五人もいるんだよな。しかもトラペッタの実情もほとんど分からないまま放置されてて結構謎が謎のままストーリーは進行してる。

 

165:名無しクエストⅧ

あの、ここまで誰も触れて無くて怖いんだけど…その…敵…強すぎません?パルミド地方の夜とかヤバいんですけど…

 

166:名無しクエストⅧ

レベルを上げて物理で殴れ(至言)

 

167:名無しクエストⅧ

剣士像の洞窟は回復スポットがあってレベリングに最適でいいゾ~

…まあ最深部まで辿り着くことができたらだけどな!

 

168:名無しクエストⅧ

>>167

それができないから困ってるんだよなぁ…

 

169:名無しクエストⅧ

ゼシカ!!!!!!!おどりこの服着せたら見ため変わるじゃん!!!!!!!!!!!!かわいい!!!!!!!

 

170:名無しクエストⅧ(主)

うーん、今回は分岐してる人が多いからどこで切るべきか分からんな…

とりあえず俺はベルガラック地方の教会まで行ったところで今日はやめとくからおまえらもキリの良いところで止めておいてくれると助かるな。…それじゃまたスレ立てるからよろしく!

 

171:名無しクエストⅧ

イッチおつ!ワイも眠いからやめるわ

 

172:名無しクエストⅧ

どうしてもエスパーダ(剣士像の洞窟のボス)を倒してからやめ隊

 

173:名無しクエストⅧ

情報屋さんからめちゃくちゃ錬金の本貰ったんだが。全部のレシピ分かっちゃった。

 

174:名無しクエストⅧ

え?俺もらってないが?

 

175:名無しクエストⅧ

>>173

ダメだ、イベントが多すぎてどれがそのフラグか分からん。でも確かに全てのレシピが分かった。素材が無いだけでメタキン装備とかももう作り方わかる。

 

176:名無しクエストⅧ

これまで一本道だっただけにここにきて急に複雑になった感があるな。こっちの方が良いけど。

 

177:名無しクエストⅧ

ありがとー楽しかった

 

178:名無しクエストⅧ

また会おうずw

 

179:名無しクエストⅧ

ソフトもってないけどスレの流れが面白かったw

俺も明日ドラクエⅧ買ってくるわ

 

180:名無しクエストⅧ

さっき確認したけど、やっぱり最初の町で一瞬出てきた女の子と物乞い通りの魔王の顔のモデルは一致してるねつまり、女の子=魔王!!!

 

…あれー。みんなもうゲームやめてスレ閉じちゃったかな?せっかく調べたのに…

 

 










今年も一年頑張ります!


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ACT4:ベルガラック地方~船入手
第二十二章 失せ物と待ち人


新年あけましておめでとうございます。
この作品は果たして年内に終わるでしょうか…とりあえず今年も頑張りますのでお付き合いのほどよろしくお願いいたします。



あれ?あの幸が薄そうな顔でどす黒いオーラを纏って彷徨してる女の子はもしや魔王じゃない?

「あのぅ、もしかしてユリマさんですか?」

「…なんですかあなた、用が無いんでしたらどこかに行ってください。私は忙しいんです。」

「ああやっぱり!すみません、よかったら昔の服を着て写真に写ってくれませんか??」

「は?何言ってるんですか?写真なんて撮るわけないじゃないですか。変なこと言ってると地面に埋めちゃいますよ?」

「そうですか…ドルマゲスさんから写真撮ってほしいって頼まれてたのになぁ…」

「は?何やってるんですか?早く撮ってください。可愛く撮ってくれないと地面に埋めちゃいますよ?」

ということで粗品ですがお年玉です。
【挿絵表示】

ユリマっちの重力パワーでみなさんが今年1年「地に足のついた」生活ができることをお祈りしています。








ハロー…とか言ってる場合じゃ無さすぎる無能役立たず慢心クソゴミカス道化師のドルマゲスです…。…マズいです。ラプソーンが監視下から外れてしまったのが本当にマズい。そもそも『神鳥の杖』は「ミラーシールド」を加工して作った箱の中で聖なる魔法に曝され続けているからこそこれまで沈黙していただけであって、その内側には依然として最低最悪にして邪知暴虐、世界を混沌に陥れようと図った暗黒神の魂が封じられているのです。もしなにかの拍子に杖が誰かの手に渡ろうものなら間違いなくその生体はラプソーンの端末になってしまうでしょう。とりあえず緊急で行わなければならないのは一刻も早く杖の在処を突き止めて取り戻すこと…です…。

 

 

 

 

「な…ドリィ…今…なんと…」

 

「『神鳥の杖』がどこにも…ないんです…」

 

「え……その杖って恐ろしい神様が封じられていると以前ドルマゲス様が仰られていた代物のことですか…?」

 

「ええ…そんな…まさか、『賢人の見る夢(イデア)』の中に保管しておいたものが無くなるなんて…」

 

見誤った…っ!まさか異空間からモノを持ち出されるとは…!ラプソーンが自力で出たという可能性もないではないが、原作でも杖だけの状態ではあまり大きな距離を動くようなことはできなかったはず、まして次元に穴をあけるなどはほとんど不可能な芸当だろう。とするとやはり…

 

いや、これも慢心か…。俺だけのものと思っていた『イデア』は実際他者に干渉された。俺はこれから何を信じて何を疑えばいい?…俺は手紙を持ったまま立ち尽くした。そんな俺を見かねてか、サーベルトが俺に声をかける。

 

「その手紙は…?」

 

「…私が先刻ベッドから見つけたものです。今朝目覚めた時にはもうあったはずなので、おそらく夜中の内に何者かが入り込んで置いていったのでしょう。」

 

俺はサーベルトとキラちゃんにも内容が伝わるように手紙を読み上げた。

 

「親愛なるドルマゲス様へ。こんな形でごめんなさい。本当は直接お会いしたかったのですけど、貴方の寝顔を見ているともうそれだけで満足してしまって…起こすのも忍びなくて…。こんな不甲斐ないダメな私を許してください。この綺麗な箱は私が預かっておきます。きっと貴方の大事なモノなんでしょう?野ざらしにしてたら他の誰かに盗られちゃいますから。心配しないでください。私がちゃんと肌身離さず持っておきます。えと、泥棒じゃないです。ちゃんと返します。だから、今日の夜、また迎えに行きます。貴方はもう一人じゃないんです。これからは私がそばにいます。貴方が背負っているもの全てを捨てて、二人で旅をしましょう。」

 

「…」

 

「この後の文字は書いては消してを繰り返したような跡があり、判別できませんでした…。」

 

「…えーと」

 

「あの、それって…」

 

「ドリィ、それは…その…恋文じゃないか?」

 

「そっ…そうですよ…」

 

「ほえ?」

 

思わずバカみたいな声を出してしまった。『神鳥の杖』が無くなったことが衝撃すぎて気が回らなかったが、確かに後半はラブレターのように見える…って!

 

「自慢をするわけじゃないが、俺も村の娘から恋文をもらったことがある。(ここまで重い気持ちはこもっていなかったが)そのような文体だったのを覚えているな。」

 

「わっ、私も…その、あります…ラブレター貰ったこと…(ここまで重い気持ちはこもっていなかったけど)よく知らないような人に渡すような内容ではないと思います…あっいやっその時はちゃんと断ってっ今はその、ふ、フリーですっえーとその…ゴニョニョ…」

 

へ、へ~二人とも結構モテてんじゃん…別に!羨ましくなんかないんだからね!…って!!違う!!!

 

そんな浮つけるか!!『杖』の有無はそれこそ未来を左右する重要事項だ。「だいじなもの」のなかでももっともっと大事な最重要アイテムである。それを落とし物感覚で(しかもちゃんと仕舞ってたし)持っていかれると本当に困るし、めちゃくちゃ迷惑だ。この二人は事の重大さが分かっていな…いや、少なくともサーベルトは一回杖持った俺に殺されかけてるんだからもっと焦れよ。

 

俺は両手で机を叩いて二人の気を引いた。

 

「二人とも…そんな暢気なことは言ってられません。幸いこの手紙に書いてあることが真実なら、手紙の主は今夜私に会いに来るでしょう。相手が大人しく杖を返してくれればそこで終わりですが、私は相手の要求…全てを捨ててどこかで生きるような真似をするつもりはありません。」

 

どこかでのんびりと生きる…それ自体は俺の最終的な目的である。しかしそれは全てを捨ててではなく、全てを終わらせてからだ。逃げても逃げても運命はいつも俺を脅かす。世界の時間は収束する。逃げながら生きることは俺にはできない。そして運命(ものがたり)は始まった。賽は投げられてしまった。もう止まるわけにはいかないのだ。

 

「交渉は決裂する可能性が高いです。そうなると高確率で戦闘になるでしょう。こちらのアドバンテージ…利点は相手がこちらの陣営を私一人だと思っていることです。相手の力は未知数。私とサーベルトの全力を持って短期決戦で鎮圧します。」

 

相手が人間なら拘束して尋問、非協力的な魔物ならU.S.A.(けんきゅうじょ)に送って脳髄から杖に関する情報を取り出す。非人道的だとも吐き気を催す邪悪だともなんとでも言えばいい。こちとら既に国落としの大罪人じゃい。

 

「相手が何者か、何を考えているか、何をしてくるかは全く分かりません。二人とも、危険を感じたらすぐに退避してください。」

 

「あの…それではドルマゲス様は…」

 

キラちゃんとサーベルトが心配そうにこちらを見てくる。俺は微笑んでサムズアップした。

 

「もちろん私も逃げます。命あっての物種ですからね。」

 

まあ…嘘だ。確かに巨悪を滅ぼすという役目は俺には重すぎる。それは勇者の仕事だ。俺はあくまで自分のために、自分の大事な人たちのために動くのだ。だとしても、杖を放置したことで起こるであろう災害から目を背けるわけにはいかない。痛いのもつらいのも嫌だ。でも守れるものは守りたい。道化師は欲の権化。…俺は欲張りなのだ。

 

俺たちは来るべき夜に備えて準備を始めた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

時は少し遡り、前日の夜中。

 

「はぁ…」

 

へべれけ状態から急に素面に戻されたキラは混乱と羞恥のあまり勢いでベルガラックを飛び出してきてしまった。

 

「…」

 

なんてことを口走ってしまっていたのだろう。思い出すだけで頬が紅潮し、ボフンと頭から湯気が出る。でもどさくさに紛れてドルマゲスの手を握っていたことも思い出して、キラは変な顔になる。

 

「やっぱり、私…」

 

初めは憧れだった。実家を出てすぐ王宮に勤め、外の世界については本の知識がほとんどだった。別にパヴァンに仕えることが不満であったわけではない。しかし檻の中の動物が青空に憧れるように、キラも外の世界を冒険することに憧れていた。ある日アスカンタにやってきた、世界中を遊行しているという旅芸人。王宮の窓からちらりと見えた彼の手品にキラは釘付けになり、以来ずっと会ってみたく思っていた。件の旅芸人が滑落するシセル王妃の命を救ってからは王宮に食客として招かれるようになり、キラは二人で話すことができるようになった。ドルマゲス。ほんとはドリィの名で通したいんですけどねと苦笑した旅芸人は、キラに色々な話をしてくれた。北の大陸、南の大陸、西の大陸。さらに地図にない森や島など、ドルマゲスの冒険譚を聞かせてもらう時間は、音のない文字だけで世界を知ってきたキラにとってはあまりにも甘美な時間であった。

 

すごい。面白い。…カッコいい!

 

ドルマゲスの存在はキラの冒険に出たいという願いに火をつけるのに十分だった。

 

そして夢は現実に。こうしてキラはドルマゲスと共に世界を旅している。…魔物を食べさせられそうになった時は戦慄したものだが、今では魔物の処理だって覚えてきたし、仲間のサーベルトとも仲良くやれている。そしてドルマゲスとは…

 

自分の気持ちが、心の中のコレがもはや憧れの域を超えてしまっていることにキラは薄々気が付いていた。

 

 

その上で知らないふりをしていた。…しかしそれももう限界が来ている。

 

 

「あ…っ!そうだ、私一人でこんなところに…魔物が…!」

 

慌てて周りを確認するが、周囲に魔物の姿は見当たらない。遠くで魔物の断末魔が聞こえるのは、…つまり、そういうことだろう。

 

守られているのだ。しかし、キラに気を遣わせないよう遠くで。

 

「!…そういうところも…ですよ。」

 

まだ自分の気持ちに気づかないふりを続けるのか、諦めて向き合うのか。それを考えるのは今でなくともいい。キラはこれ以上彼に迷惑はかけられないと小走りでベルガラックへと向かった。

 

 

…が、意外に遠くまで来てしまっていたらしい。朝日は既に地平線から顔を出しており、キラは疲れて眠くてフラフラだった。しかし流石にこんなところで寝るわけには…そう思っていた矢先、草むらから「キラーパンサー」が飛び出した。

 

「!!!」

 

とっさに屈んで頭を庇ったが、音沙汰がないので恐る恐る顔を上げると、通常種より一回りも二回りも大きな豹がキラの目の前で座っていた。

 

「あ…」

 

しかしキラは知っている。豹の磨き上げられた関節部分の金属光沢を。自分が磨いたあの脚を。

 

「もしかして、仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)三号機の『ソルプレッサ』さんですか?」

 

返事をする代わりに『ソルプレッサ』は後背部のハッチを開き、キラに乗り込むように促した。どうやら、キラが帰る意思を見せた時点で迎えに来るように命令されていたようだ。

内部は暖かでふかふかの赤いクッションが敷いてあり、そのまま寝られるようになっていた。キラはドルマゲスの優しさに感謝しながら一時間にも満たない睡眠を取った。

 

目覚めたキラがそのままの足でドルマゲスの下へ向かい流れるように土下座し、サーベルトを苦笑させ、ドルマゲスを大いに困惑させたのは別の話だ。

 

 

『神鳥の杖』奪還の準備は着々と進んでいた。ドルマゲスは携帯念話(フォン)でオディロ院長に周辺を警戒するようにと呼びかけてからは、トロデとの会話によって得たヒントで改良した新しい錬金釜『おもちゃ箱(ビックリボックス)』でずっと色々な道具を作っており、サーベルトは新装備でもフルパフォーマンスが出せるように「はやぶさの剣」で鍛錬をしている。キラはと言うと、特にやることも無いのでドルマゲスがU.S.A.ホールディングスから持ってきた現在動かせる機体のメンテナンスを行っていた。

そして夜。

 

市街戦になるとベルガラック住民にも被害が出る、というサーベルトの進言に納得したドルマゲスは『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』でキラとサーベルトを認識できないようにし、町から少し離れた見晴らしのいい野原で火を焚き、相手を待ち構えた。キラをどうするかはかなり悩んでいたが、自分たちの近くにいてくれた方が安心できるという理由で連れてきた。…問題は相手が来るかどうかだが、まず間違いなく相手は自分に会いに来るだろうとドルマゲスは確信していた。二人で旅をしようと言う相手の真意は全く不明だが、杖を奪うことが目的ならわざわざ手紙を残す必要も無かったはずだ。相手の目的はあくまでドルマゲスで杖はその質、ドルマゲスはそう予測していた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「!(来た…っ!)」

 

赤黒いフードを被った人物がこちらへ向かってきているのが俺の目にもハッキリと見えた。身長はそれほど高くない。中身は見えないがその大きさからおそらく異形の類ではなく人間、もしくは人型の魔物だろう。俺は生唾を飲み込む。速くなる鼓動、浅くなる呼吸。

俺はこちらの世界に来て初めて戦闘した時のことを思い出した…いや、その時よりももっとこう…嫌な予感がする…。これはあの式典の日にラプソーンに蹂躙された時のような…ラプソーンと戦った後の()()()のような…

 

フードの人物は俺の姿を認めると走り出した。とっさに俺は身構えたが、その距離十数メートルというところで相手は足を止めて何かを探り始めた。罠を警戒している…?生憎交渉前に罠にかけるつもりはないのでそちら側に罠は設置していない。そっちには見えない聞こえない感じないキラちゃんとサーベルトがいるだけだ。俺は向こうの出方をじっと窺った。

 

フードの人物は何かをブツブツと言い始めた。なんだ…?

 

「わかりますよ?誰かそこにいるんですよね?そんなところで隠れて何してるんですか?あの人とどういう関係なんですか?ねえ?あなたそこで何をしてるんですか?ドルマゲスさんの近くで?あの人を狙ってるんですか?ねぇそうなんでしょう?答えてくださいよ。ねぇ、ねぇ?ねぇ!?」

 

 

ブツブツとした声は次第に大きく、ヒステリックになっていき、俺の耳でもはっきり捉えられるようになった。加えてこのありえないほど濃密な殺意…並の人間なら動くことすら敵わないだろう。…独り言…?俺が相手の謎の行動をそう解釈しようとしたその刹那、頭に最悪の予感が流れ込む。

 

ひとつ。相手は何をしでかすか分からない危険人物、そしてあの殺意。

ふたつ。相手は何らかの手段で俺の魔術に干渉することができる。

みっつ。そっちには見えない聞こえない感じないキラちゃんとサーベルトだけ…。

 

!!!

 

「マズい!!!サーベルト!キラさんを!!!」

 

「なんで答えないんですか?何か後ろ暗い事でもあるんですか?あるんですよね??あなたはドルマゲスさんのですよね???じゃあ私のですよね????…私がドルマゲスさんを守らないと…守らないと…だから」

 

「だから、正当防衛、ですよね?」

 

俺は袋から急いで指輪を取り出して投げ、魔力で加速させた。間に合え…ッ!

 

「結局だんまりですか…とにかく!もう私たちの邪魔をしないでくださいね。『ザキ』」

 

 

 

常人ならば聞き流してしまいそうなほど自然に唱えられた死の呪文。

 

 

俺は何も音が出ないはずのキラちゃんの身体が、力なく地面に倒れこむ音を聞いた気がした。

 

 

 

 

 

 




ちなみにキラが恥ずかしさでベルガラックを出なかった場合、その日の夜中にドルマゲスと同じ部屋で寝ているところを発見されるので確実に跡形もなく消されます。誰にとは言いませんが。


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第二十三章 収束と暗黒 ④

ファンアート、くれー!(ファンアート欲求モンスター)

性懲りもなく今までノープランでやってきたんですけど、そろそろ終盤に向けてストーリープロットをちょろっと練ってから書こうかなとか考えています。とりあえず今回は(も)ノープランです(ものぐさ)


今回の話なんですが、ぜひ「ドルマゲス~おおぞらにたたかう」をバックミュージックとして流しながら閲覧していただきたいです!自文ながらここ数話ではなかなか良い出来に仕上がった予感がするので、楽しんでいただけると幸いです。








…。

 

 

 

 

フードの人物が『ザキ』を唱えた。

確かに何かが起こった。

もしくは何も起こらなかった。

分からない。

見えないから。

分からねば。

 

そう考えた…考えるより前に俺は『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』を解除すると同時に『マヒャド』を唱え、『イオ』が封じられた魔法玉を投げつけた。相手と距離を取るためには収束と拡散により圧倒的な質量が発生するイオ系呪文が有効だ。動きを止める『マヒャド』は、確実に『イオ』を炸裂させるための布石である。しかしそれはとっさの判断が偶然功を奏したに過ぎず、俺はキラとサーベルトの安否のこと以外の全てが頭から抜けていた。見事に『イオ』は直撃し、フードの人物は夜の草原へ吹っ飛んでいく。『マヒャド』の余波で焚き火もほとんど消えてしまった。

 

「きゃっ!どっ、ドルマゲスさっ」

 

「サーベルト!キラ!返事を!!!」

 

認識阻害呪術(ラグランジュ)が解け、膝をついたサーベルトとサーベルトの後ろで倒れているキラが俺の目にも見えるようになる。やっぱり…!

 

「サーベルト!!」

 

「う…ドリィ…」

 

サーベルトに目立った外傷は無い。キラは…?まさか、間に合わなかったのか…!?

 

「キラ!起きろ!キラ!!『ザメハ』!」

 

俺は喉も裂けんとばかりに声を上げて腕の中の少女の名前を呼ぶ。

 

 

「…」

 

 

「キラ…!?起きてくれ…」

 

 

そんな。

 

 

…そんな、そんな。まさか。

 

 

「キラ…ドリィ…クソ、不甲斐ない…俺が…ッ…俺がッ!!」

 

 

サーベルトは両の目に涙を湛えながら地面を殴った。

 

 

…やめろ。謝るなサーベルト。お前が謝ると、認めてしまう。確定してしまう。

 

 

「呼吸が…心臓…も…」

 

 

俺は何をしている?確認するな。証拠を揃えるな。

 

 

「キラ…」

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

俺とサーベルトの間に絶望が横たわる。焚き火の残火が弾ける音は尚も空気を読まずに静寂を劈き続けていたが、それも次第に消えていった。

 

 

それは永遠より永く。そして須臾よりも…。

 

 

「お、驚かせてごめんなさい…」

 

「…!!!」

 

空気を読まない女声が静寂を破り、俺とサーベルトは声の主を睨みつけた。空に浮かぶ二十七日月の弱弱しい光でも、相手の姿を照らすことはできるようで、闇に目が慣れてきた俺たちは声の主の姿を視界に捉え…

 

俺は酷く動揺した。

 

「ユ…リ……マ……?」

 

「…ドリィ、知り合いか」

 

「そっ、そうですユリマです!!ドルマゲスさん!助けに来ました!」

 

?????

 

わけが…分からない…

 

「ドリィ、ドリィ!気を抜くな!しっかりしろ!」

 

サーベルトは既に剣を抜き、構えている。俺はまだ動けない。情報が…。

 

「ドルマゲスさん…?」

 

「近づくな!!貴様の目的はなんだ!!ドリィを連れて行って何をさせるつもりだ!!」

 

「…はぁ。…うるさいですね。あなたなんなんですか?さっきも女が隠れてると思ったら、あなたみたいな人まで出てくるなんて。そこまでしてわたしの邪魔をしたいんですか?…いいからそこを退いてください。」

 

「(なんという…殺気…!先刻よりも重く、濃い…!しかし、しかし…)」

 

サーベルトは先ほどのように地面とくっつきそうになる膝を全力で殴りつけ、止まらない震えを抑えて、少女の前で構えなおした。

 

「親友一人守れずして、世界など…守れるものか!!」

 

「…聞こえなかったですか?じゃあもう一回だけ…」

 

少女はサーベルトの横に一瞬で移動し、耳元で囁いた。

 

「退いてくださいよ」

 

その瞬間、サーベルトの後ろにいる俺ですら卒倒しそうなほどの重い覇気が滝のように流れ出した。辺りから生命の気配が消え、立ち込めた暗雲に月も隠される。この雰囲気…やはりどこかで…

 

気を抜けば気絶してしまいそうなほどに緊迫した空気の中、しかしサーベルトは怯まない。

 

「…いいや、退かない。俺たちは…こんなところで止まるわけにはいかない!」

 

「…そろそろか。」

 

少女がそう言うや否やサーベルトははやぶさの剣を振り上げずにそのまま突き出した。予備動作の最も少ない最速の「しっぷう突き」だ。しかし少女はその突きを手に持った杖で受け止めた。サーベルトは驚きすぐに距離を取るが、少女が反撃することはなかった。

 

杖…?あの杖は…そうだ、あの中には…そしてこの雰囲気、違和感…。

 

「!!!」

 

「ラ…プ…ソーン…!!」

 

他の何も分からないまま、しかし元凶だけは理解した俺は、即座に全力を込めた『メラゾーマ』を放った。しかし、豪火球はかき消され、同時に紫の波動がユリマを中心にして全方向に拡散する。その光は身体の制御権が完全にユリマからラプソーンに移った事を意味していた。俺は殆ど反射的にキラの亡骸を異空間に入れた。

 

「…ふむ、ようやくか。……久しいな、哀れな道化よ。」

 

ユリマ(暗黒神)は邪悪に笑った。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ラプソーン…ッ!!」

 

「ドリィ、アレは…」

 

「ええ、トロデーンの時と同様、あの少女の中にいるのは憎き暗黒神ラプソーンです。」

 

距離を取ってそのまま俺のところまで下がってきたサーベルトが相手を見据えたまま俺に尋ねてくる。

 

「外側の少女はお前の知り合いなんだな?」

 

…そうだ、あの背格好、顔、髪型…。間違いなくトラペッタに住む占い師ルイネロの娘、ユリマだ。何故ユリマちゃんがここに?なぜ杖を、どうやって?

 

…いや、まだ分からないことは多いが今はそんなことに思考を回している余裕はない。少しでも考え事をしようものなら即座に首が飛ぶかのような空気がこの空間には流れている。実際脚の震えは止まらないし、冷や汗油汗も留まるところを知らない。

 

「…ええ、ですが手心などは加えず全力で迎え撃ってください。この戦いの勝敗如何では最悪世界が滅びます。」

 

原作では本来この時点では杖はまだ俺(ドルマゲス)が持っていて、意識もラプソーンとドルマゲスのものが混在しているはずなのだ。だからこそ酷使した肉体を癒すためこの後ドルマゲスは闇の遺跡へと向かうのだが、新しい端末を手に入れたとなると話は違う。肉体を癒す必要が無いのですぐに次の賢者の元へ向かうだろう。まずギャリングを殺して、その後はチェルスの方か、あるいは戻ってオディロの方へ向かうのかは分からないが、展開がワンステージ進行するのは間違いない。

 

…そして悔しいがおそらく今の俺たちではこのラプソーンには敵わない。杖を奪い返すことはできないだろう。ユリマちゃんには申し訳ないが、こうなってしまったからにはせめてここで肉体にダメージを蓄積させ、ラプソーンに闇の遺跡に撤退せざるを得ない状況にしなければならない。

 

「…いい。素晴らしい…!この女の身体に含まれる暗黒の量は格別だ!まるで暗黒で肉体が構成されているよう…フハハハ…まるで我が真の肉体かのように動かせるぞ…!」

 

「ドリィ!頼む!」

 

「了解、合わせます!」

 

俺が『ピオラ』を唱えると同時にサーベルトは増強された脚力で地を蹴り、「はやぶさ斬り」を放った。サーベルトが攻撃態勢に入る直前に続けて俺の唱えた『バイキルト』が効き、強化された四連撃がラプソーンに襲い掛かる。

 

「むん?…ちぃ、残りカスが無粋な真似を…」

 

ラプソーンは両手に杖を持ち三つの斬撃を防いだが、最後の一撃はいなしきれず直撃した。しかしほとんどダメージは無いようだ。ラプソーンは杖を手放して右手で剣を振りぬいたままのサーベルトの右肩を掴み、サーベルトに反応する隙を与えないまま左の拳でサーベルトの顎を打ち抜いた。

 

「!!…!」

 

「サーベルト!!」

 

攻撃か、回復か…いや、ここは妨害!

 

「『ジゴフラッシュ』!」

 

暗闇の草原に眩い光が満ちる。暗黒神であるラプソーンは聖や光の攻撃に弱い。サーベルトならこの隙を突くことができるはずだ。

 

「く…虚仮(こけ)脅しが…」

 

「(よし、脳は揺れたが身体は動く、戦える…!)恩に着る!」

 

サーベルトは肩を掴むラプソーンの腕を切り裂いて脱出し、さらに連撃を加えるようだ。また一度戻って来るかと思ったが、よく考えればそれが正しい。ラプソーンは聡く、狡いので二度目の『ジゴフラッシュ』が通用する保証はできない。であれば今のうちにHPを削るのは得策だ。インファイターのサーベルトが攻撃している間に呪文を撃つのは危険が伴うので俺は今のうちにテンションを溜める。原作ドルマゲスのような無駄行動は取ってやらない。

 

「間抜けが!見えておるわ!!」

 

ラプソーンは向かってくる魔力を感知し、『メラゾーマ』を唱えて迎撃した。物質が掻き消える確かな手応えを感じ、ラプソーンはニヤリと笑う。そして俺はそんなラプソーンを見て、冷たい笑みを浮かべる。(ラプソーンのテンションが下がった!)

 

余裕の表情を見せる俺の様子にラプソーンが気付いた時にはもう遅く、背後から瞑想を終えて剣を構えたサーベルトが飛び出した。その構えは『霞の構え』。ラプソーンはなんとか無理に体をよじって振り返るも防御するのが間に合わず、強化された十二の火炎(ヒノカミカグラ)─はやぶさの剣の効果で二十四の火炎になっている─をまともにうけてぶっ飛んだ。しかし空中でブレーキをかけると、口元の血を拭った。どうやら流石のラプソーンも合体技(バランス崩壊)の前ではノーダメージとはいかないらしい。

 

「ぐ…貴様は今確かに我が消し去ったはず…!何をした…!」

 

言うかよバーカ。さっきお前が消したのはサーベルトを模した泥人形を『妖精の見る夢(コティングリー)』で作って突撃させただけだ。と言っても魔力の形は本人と相違ないので咄嗟の判断が続く戦闘中では容易に見分けることは出来まい。

 

「サーベルト!下がって!」

 

トロデーンの時のような油断はもうしない。今は俺たちが優勢に見えるが、これは()()()()攻撃が当たっていないだけだ。正直最初の一撃でサーベルトが戦闘不能にならなかったのは奇跡と言ってもいい。もちろん初撃も油断しているわけではなかったが…やはり強い…。おそらく呪われしユリマ(このラプソーン)は原作ドルマゲスどころか、呪われしゼシカも超えてマルチェロ級の強さだと思われる。

勇者たちは今ごろ順当にレベルを上げてくれているだろうが、流石にこんな化け物を今の彼らにぶつけるわけにはいかない。

 

俺はテンション20、倍率250%の『マヒャド』を打ち込み、下がってきたサーベルトに『ベホマ』をかける。ラプソーンは迫る氷塊の嵐に『メラゾーマ』で迎撃し、炎と氷は完全に相殺された。

 

「はっ、二回溜めた『マヒャド』がただの『メラゾーマ』に…やはり化け物ですね…」

 

「ふん、化け物だと…?痴れ者が、我は暗黒神、闇の世界の神なるぞ!」

 

まだ終わらないか…ならば次の手を打つまで!

 

俺は『ぶきみなひかり』で相手を照らし、ラプソーンの耐性を下げる。やはり呪文使用直後はある程度の呪術は通るようだ。俺が合図を送るとその瞬間、誰もいない方向からラプソーンに向かって『ボミエ』が重ねて掛けられる。

 

「むっ!?」

 

異変を感じたラプソーンは即座に『バギムーチョ』で一帯を更地に変える。今の攻撃で俺が隠して(消して)いた初号機『踊り子(バイラリン)』はスクラップになってしまっただろう。しかし彼の遺した効果は如実に表れていた。

 

「身体が…っこ、小癪なぁっ!!」

 

素早さ8段階減少。熟練者同士の戦いにおいてのそれは劇的な要素であり、俺たちから見たラプソーンの動きは最早止まって見える。相手もそれが分かっているので迎撃の態勢を取っているようだ。

…ここで畳みかける!

俺は深呼吸をして異次元から八卦を象った手のひらサイズの小さな炉を取り出し、『粉』が入った袋を炉心に設置して種火を灯す。結局実践では一度も使えていないこの呪術だが、準備はしておいて正解だった。

 

 

「…『偶像の見る夢(ヴェーダ)』」

 

 

俺がその呪術の名を唱えると八卦の炉が七色に光り、俺の身体中に力が漲っていくのが分かる。魔力が満ちる…のはいつものことだが、今俺の中に満ちているのは100%が聖なる魔力。心なしか神聖な気持ちにすらなる。ぶっつけ本番の呪術は成功と言っていいだろう。さあ、ここが正念場だ!

 

再び前線に舞い戻ったサーベルトに続いて俺も前に出、ラプソーンの横腹を思いきり殴りつけた。ラプソーンが苦しそうに呻き声を上げる。肉体がユリマちゃんなので心が痛む…のはある。しかし、サーベルトに手加減無用と言っておいて、自分が手加減をする道理はない。すかさず反対の手で同じ箇所を打ち抜く。そして再度…

 

「ふーっ、ふーっ、…フフ、捉えたぞ…!」

 

ラプソーンに左腕を掴まれてしまった。クソッ、二発目は誘われていたか…ッ!

 

「ドリィ!!」

 

「でやあっ!!」

 

「ぐああっ!!」

 

そのまま振り回された俺は尋常じゃない力で地に叩き伏せられ、一瞬意識が飛びかけた。左の肩が動かないのはおそらく脱臼か、骨折か…『ヴェーダ』を使っていなかったら間違いなく左腕は無くなっていた。

 

「ドリィ!!腕が!」

 

「サーベルト!ダメですこっちを見ては!!」

 

「よそ見か?悲しいなぁ…」

 

「がっ…!」

 

俺を気にかけた一瞬の隙を突かれ、ラプソーン渾身の膝蹴りが鳩尾に入り、サーベルトは膝から崩れ落ちた。

 

…一瞬、本当の一瞬の隙から戦況を一気に崩された。決して侮ってはいなかったが…これが神の実力…なら、最後だ。

 

「はあ…はあ……中々良いところまで行ったが…惜しかったな!」

 

ラプソーンは地に伏せる俺とサーベルトを見て嗤い、呪文を唱え始めた。あの大きさはおそらく『メラガイアー』。

『メラゾーマ』で事足りるところを盛大に屠ろうとするその油断…その油断がお前の首を刈る!

 

「『奇襲(ソルプレッサ)』!!!」

 

一閃。闇の中から音を超える速度で飛び出した白銀の牙がラプソーンの肩に咬みついた。

 

「ぐうぅ、まだこんな隠し玉を…!だがこれしきでは止められん!勝負あったな!」

 

ラプソーンが腕を振り払うと、三号機『ソルプレッサ』の顎は破壊され、機動を停止した。

 

「まだ終わってない!!」

 

「ほざけ!地に這いつくばったままのお前に何ができる!…何が…?まさかッ!?」

 

そう、お前が話しているのは泥人形。もう()()()()()()()()()

 

「うおおおおっ!!!!」

 

「くそおおおっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の拳が相手の眼前まで迫った時、俺は勝利を確信した。勝てなくとも、これで相手はすぐには癒せないダメージを負い撤退するだろうと。責めないでくれとは言わないが、どうか仕方なかったと分かってほしい。

 

俺の誤算は相手が卑劣な手段も厭わない暗黒神だったこと、その仮の宿が俺の大事な人(ユリマちゃん)であったことだった。

 

 

 

 

「ドルマゲス…さん…」

 

邪悪な顔から悪気が抜かれ、見慣れた少女の顔に戻る。それは俺がずっと追い求めている日常のピースで…

 

「…ッ!!」

 

「(この野郎、ギリギリで意識を切り替えやがった…ッ!!)」

 

動揺した俺は体の軸がブレ、全ての力を込めた最後の右ストレートはユリマちゃんの頬を掠めて空を切った。

 

「ドルマゲスさん…」

 

「…くそ、ここまでか…」

 

ユリマちゃんは嬉しそうな、悲しそうな、よく分からない顔で俺を見て、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

待ってます

 

 

 

 

 

 

「!!!」

 

その瞬間ユリマちゃんの顔は再び邪悪に歪み、ラプソーンが戻ってきた。サーベルトは動けない。『ヴェーダ』は解け、俺ももう動けない。

 

「フフ、ハハハハハ!!そのまま殴ればよいものを、なんとも甘ったるい男よ!残念だったな!今度こそ終わりだ!!神に逆らう愚者共が!!」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ラプソーンの誤算もまた、仮の宿が俺を大好きな人(ユリマちゃん)であったことだった。

 

 

 

「ぐふっ!お、おごっ!?ゴフッ!こ、これは…?ガハァッ!!」

 

「…」

 

ユリマちゃんはあの瞬間、自分の肉体に意識が戻った一瞬の間に迷わず貫手で自らの腹を貫き、その手の先、つまり体内から『バギクロス』を発生させた。表皮を魔力で硬化して覆っているラプソーンも体内までは防御できなかったようだ。

 

「な、何が…がっ!こ、この女ァ…!!!」

 

「…」

 

「ま、まずい、このままでは…ッ!」

 

「…」

 

「グッ…、無様な道化、それと残りカスよ!命拾いしたな!」

 

そう言い捨てるとラプソーンは『神鳥の杖』と共に消えた。同時に暗雲は晴れ、太陽も顔を出す。

 

 

 

 

「…完敗、か…」

 

「(ユリマちゃん…)」

 

 

 

 

俺が最後の最後の力で握りこぶし大の異空間を開くと、指人形サイズの俺が中から這い出てきた。0.1%の魂を『悪魔の見る夢(アストラル)』で分離した俺の最終バックアップだ。杖を奪った謎の人物と会う前に、誰と戦闘になっても良いよう、アスカンタにいる俺Aとも融合してほぼ100%の力で挑んだのだが、結局ラプソーンには敵わなかった。実際こうして事前に保険をかけておかねば本当にくたばってしまっていただろうから、99.9%の実力で挑んだことに後悔はない。しかし…

 

「二人トモ!今回復スルゾ!!」

 

「…」

 

ミニ俺に『ベホマ』をかけてもらった俺とサーベルトは座り込んだ。辺りには焼けた草、掘り返された大地、仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)の残骸…。二号機『(エスパーダ)』を連れてくれば戦況は変わっていただろうか。…いや、鈍重で搦手も使えない『エスパーダ』では的が増えるだけになっただろう。それにそのようなことは今考えても仕方のないことだ。

 

「ドリィ、俺は…」

 

「いえ、サーベルトのせいじゃないですよ。それに…本来の目的は、果たしましたから…」

 

「…」

 

「…」

 

 

「そうだ、キラさん…」

 

俺はキラちゃんの亡骸を異空間から取り出した。彼女の肌はすっかり青白く…あれ?

 

「ドリィ…、何か…妙じゃないか?」

 

キラちゃんの頬は依然として健康な肌色であり、体温も高い。心臓も呼吸も止まっているのに…

 

俺が不思議がっていると、サーベルトがキラちゃんの指にキラリと光るものを見つけた。

 

「これは…『まよけの聖印』…!?」

 

「!!!」

 

『まよけの聖印』。即死を防ぐ装飾品で、戦闘が始まる直前、嫌な予感がした俺が咄嗟にキラちゃんに装着させようとしたものだ。これが装備されているということは間に合って…?いや、実際に彼女は倒れており、息をしていない。

 

「『ザキ』とこの指輪の装着が同時だったとかか…?」

 

なるほど、その線は有りうる。そもそも『まよけの聖印』の効果は、指輪に刻まれた聖印が楔となって魂魄をその場に固定することだ。その結果、魂を強制的に肉体から引きはがして絶命させるザキ系呪文が無効になるわけだが、では『ザキ』と魂魄の固定がほぼ同時だった場合は?魂と肉体の繋がりはそのままで、しかし肉体の外に魂が…

 

「!!!サーベルト、少し離れていてください。もしこの周辺にまだキラさんの魂が存在していればキラさんは生き返ります!」

 

「本当か!?頼む!ドリィ!」

 

 

「ふう…」

 

『生き返る』には主に三つの方法がある。

一つ目は「蘇生」。魂は在るが、肉体が損傷しているため生命活動を維持できない場合の絶命から戻って来る方法だ。

二つ目は「反魂」。肉体は在るが、魂が肉体と離れてしまっている場合の絶命から戻って来る方法。

三つめは「復活」。魂と肉体が分離し、肉体も消滅してしまった場合から完全に元に戻る正に神の御業である。

 

「蘇生」「復活」これらは神の加護を受けていない俺たちには不可能だ。故に世界樹の葉も効果は出ないし、神の奇跡の一端を借り受ける教会や『ザオリク』も意味を成さない。しかし「反魂」は?俺は『胎児の見る夢(エーテル)』によって魂、精神体を移動、分離させられる。魂を分けて移した『携帯念話(フォン)』のように。これをうまく応用すれば…。

 

俺は左手をキラちゃんの丹田に、右手をキラちゃんの胸の真ん中に置いた。頼む!うまく行ってくれ!

 

「『胎児の見る夢(エーテル)』!!」

 

 

 

 

 

 

「ふぇ…?わ、私は何を…?」

 

「!!!キ…」

 

「あっ、ドルマゲス様!す、すすすすみません!こんな大事な時に私寝てしまっていて…!!!」

 

「キラ…!!うぅ、良かった…本当に…」

 

「さ、サーベルト様!?大丈夫ですか!?」

 

「キラさん…!」

 

俺はキラちゃんを優しく抱きしめた。サーベルトも続けて俺とキラちゃんを抱きしめる。

 

「ひゃっ!!な、ななな…」

 

「お帰りなさい、キラさん」

 

「あ、えっと、その…ただいま帰りました…?」

 

 

 

暗黒神と二度目の邂逅にして二度目の敗北。端末にされたユリマちゃん。再び奪われた杖。それでも今は、大事な仲間を失わなかったことを喜ぶべきだと思った。

 

 

 

 

 




『偶像の見る夢(ヴェーダ)』…ドルマゲスがアスカンタで賜った国宝の古文書を解読し、得た着想から編み出したオリジナルの呪術。八卦炉に種と木の実を粉末状にして混ぜたものを入れて燃焼させ、真言を唱えることで聖なる力を身にまとい一時的に強大な力を得る。八角形に三爻(さんこう)が刻まれた陰陽道の図形はそれだけでも呪術的に大きな力を持つ形相である。
???「(弾幕はパワーだぜ。)」
芥子(ケシ)、丸香(がんこう)、酸香(さんこう)、塗香(ずこう)、薬種(クコ)、切花(きりばな)は真言密教において祈祷や儀式にも使われる薬草、あるいは漢方、あるいは霊的な意味を持つ植物である。それらをそれぞれ、エグみのある味の「ふしぎなきのみ」、苦みがある「ちからのたね」、酸い「まもりのたね」、甘い「かしこさのたね」、辛い「すばやさのたね」、クセのある「いのちのきのみ」で代用することで、本来種と木の実が持つ身体強化効能を何十倍にも高める。「制限時間付き」という縛りを設けることでさらに効果は倍増する。
「オン・ロケイ・ジンバラ・アランジャ・キリク」という言葉は修験道の臨終作法の際に唱えられる観自在王如来真言であり、続けて智拳印(ちけんいん)、羯磨咒(かつまじゅ)、外五鈷印(そとごこいん)、五字咒(ごじしゅう)、普利衆生印(ふりしゅじょういん)、六大印明(ろくだいいんめい)を行えば、死者は必ず安らかに成仏すると言われている。ドルマゲスは『ヴェーダ』という言葉を観自在如来真言の代行とし、聖なる力の部分だけを身に宿している。
『ヴェーダ』の名は呪詛調伏の古文書「アンギラサ・ヴェーダ」から借用している。陰陽道、真言密教、修験道。この呪術は多くの宗教的要素で構成された宗派のサラダボウルである(そもそも修験道は仏教と陰陽道と自然信仰が習合して大成したものである)が、陰陽道、密教(仏教)、修験道、これら全て「冥道十二神」、「仏」、「蔵王権現」など『偶像』を信仰する、という点では似通っている。








分からなくなる人が多くなる予感がする(自分ですらよく分かっていない)ので説明します。

ドルマゲス、トラペッタを発つ

病みユリマ、トラペッタを発つ

病みユリマ、イカさんに乗って南の大陸へ移動し、マイエラから西進

病みユリマ、パルミドで情報収集(家が無いので物乞い通りで過ごし、ちょっかいをかけてくる人間を片っ端から追い払っていたら『物乞い通りの魔王』と呼ばれるようになる)

病みユリマ、勇者の馬車から何か懐かしい匂いがしたので潜っていると、その間にゲルダによって馬車が買われ連れていかれる。ちょうど船を探していたユリマはこれ幸いとばかりにゲルダを脅して船を借りる(勇者など眼中にもない)この時点で持っているのはマスター・ライラスから譲渡されたただの「まどうしの杖」

病みユリマ、ベルガラックにてついにドルマゲスに再会するも、暗黒神の手引きにより異次元に侵入して杖を奪ってその場を去る

闇ユリマ、ベルガラック地方草原でドルマゲスと対峙(この時点で意識の半分はユリマ、意識のもう半分と肉体の制御はラプソーンが行っており、ユリマ自身はラプソーンの催眠(シンクロナイズ)により自分が操られていることに気が付いていない

あと、病み→闇に変わる時点で一人称が「私」から「わたし」に変わっている

闇ユリマ、キラにザキを唱え、ドルマゲスとサーベルトの怒りを買う(本人の意思ではない)

ラプソーンに意識を乗っ取られる

闇ユリマ、ラプソーンと入れ替わった瞬間に迷わず自殺を試みる

ラプソーン、撤退



彼女の名誉のために言っておきますが、流石にユリマも人間なので見境なしに人間を死に至らしめるような真似はしません。…ですよね?


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Chapter11 ベルガラック地方 ①

ここに書くことが思いつかないので、前回の感想の返信として書いたものを書きます。(ネタ切れ)


>>ドルマゲスに迷惑かけてるって分かった後、身体の自由が一瞬戻った隙きにためらいなく自殺してやがる...愛してるからってそう簡単にできることじゃねえぞ...(敗走ですか。 氏から頂いた感想より拝借)


ユリマ「え?人(特に大事な人)に迷惑かけるのってダメなことですよね?」

病みユリマ「知ってますか?『必ず最後に愛は勝つ』んですよ!」

闇ユリマ「ドルマゲスさんの邪魔になるものはなんであれ排除しないとダメでしょ」




みなさんいつも感想ありがとうございます。毎回寄せられる感想を見て爆笑してます。
私も精神世界で繰り広げられるユリマ対ラプソーンのレスバ、見てみたいです。どちらもイカれた理論を振りかざしてさぞかし見物でしょうねぇ…
これからも感想、お待ちしております!









ミーティアを取り戻すためにゲルダのアジトに向かった一行。しかしそのアジトは何者かによって襲撃を受けていた。内部に乗り込んだ一行は謎の少女と邂逅して対峙するが、少女の放つ人間離れした能力と殺気に指一本動かすことも叶わず、戦わずして敗退する。圧倒的な力の差を感じた一行は謎の少女『魔王』の足取りを追い、経験も積むべくベルガラック地方へ向かうのだった。

 

 

 

「はっ…はっ…やば…強…!」

 

「これは…まずいな…」

 

ゼシカとククールは背中合わせになって死角を消し、不意打ちを受けないように用心しながら戦っていた。というのも二人とももうあと一撃でも食らえば一気に危険な状態になることが分かっているからだ。エイトは「かくとうパンサー」に心の臓を貫かれ、ヤンガスは「キラーパンサー」に顔面を食い破られて既に絶命していた。その二体の魔物も今はすでに事切れており、ククールはゼシカを庇いながら「バードファイター」と剣戟を繰り広げ、ゼシカは「どくやずきん」がククールに放つ毒矢を『ヒャド』で撃ち落としながら「バードファイター」の隙を窺っていた。

 

「『メラミ』!」

 

「よしっ!後はお前だけだ!!」

 

「!!!」

 

『メラミ』で焼き鳥となった「バードファイター」を踏み台にしてククールが「どくやずきん」に渾身の一撃をお見舞いし、戦闘は終了した。

 

「『ザオラル』…ダメか。参ったなこりゃ…しっかし酷い有様だぜ…」

 

「また教会に逆戻りね…この地方に来てまだ数日、わたしも何回死んだのかしら…5回から先は怖くて数えてないわ…」

 

 

 

人は死んだらそれまで。それはこれまでも、そしてこれからも変わらない道理である。冒険者たちは正に「命を賭けて」世界を旅しているのだ。しかしどういうわけか、エイトもヤンガスも、ゼシカもククールも『生き返る』ことができる。できてしまう。『生き返り』は他の追随を許さない圧倒的な奇跡、あるいは秘匿されし禁忌の術であり、一般人がおいそれと使ってよい/使えるものではない。『ザオラル』や『ザオリク』でさえ本来は祈祷に使用されるある意味で形式的な呪文なのだ。

 

初めて命を失ったのは意外にもヤンガスだった。一行が初めてマイエラ地方に到着して数刻、南の大陸の魔物たちによる洗礼を受けてヤンガスは(たお)れた。呆然と立ち尽くすエイト、ぺたんと腰が抜けてしまったゼシカ、どうしてよいか分からずおろおろするトロデ、パニックを起こして(いなな)くミーティア。パーティーは目も当てられない有様だった。

 

失意に暮れ、ヤンガスの遺体の入った棺を引いて戻った船着き場、その教会で奇跡は起こった。神父の心からの祈りが神に届き、ヤンガスは息を吹き返したのだ。その時はトロデでさえも涙し、全員でおいおいと泣きながら抱き合ったものだ。パルミド地方でククールがゼシカを庇って死んだときも、教会で復活した。エイトが死んだときはククールの『ザオラル(おいのり)』で復活した。

こういった事例を受けて一行は仲間内で会議を開き、頻発する『奇跡』について意見をぶつけ合ったが、結局結論は出ず「ラッキーが続いている」ということを共通認識に据え置くことに合意した。…いついかなる時も復活できるとは限らず、死を前提とした作戦の組み立てはあまりにもリスキーだからである。

 

しかしだからと言っても死は死。痛いし、苦しい。…はずなのだが、悲しいかな、一行(特に前線で戦う四人)は『死』に慣れ始めてしまっていた。神の加護とは良くも悪くも残酷なものである。

 

 

 

そんな彼らの進軍(ゾンビアタック)に、最初は一行を(なぶ)って(なぶ)って甚振(いたぶ)り殺していた魔物たちも徐々に余裕を失っていき、一行がベルガラック地方に到着して7日、ついに彼らは賭博の町ベルガラックに到着した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ここがベルガラック…パルミドの次に来るとどんな街でも光り輝いてみえるでげすねぇ。」

 

「いやここは普通に他と比べてもキレイな街でしょ?」

 

「ここにはパルミドをも超えるバカでかいカジノがあるんだってな?それに素敵なレディーもたくさんいるって噂だ。」

 

色男のククールはゴキゲンに口笛を吹く動作すらキザったらしいが、それも彼の個性である。

 

「これ、ククールよ。本題を忘れるでないぞ。」

 

「わかってるよ。『魔王』に盗まれた船の奪取とドルマゲスの足取りを掴むことだろ?心配しなくても忘れちゃいないさ。…でも少しくらい遊んだってバチは当たらないんじゃないか?海辺の教会からここまでの道のりを思い出せば…さ?」

 

「…それを言われると弱いのう…よし、皆の者、今日は安全なこの町で存分に英気を養うのじゃ。わしはおぬしらに加勢できずに歯がゆい思いをしとった分、おぬしらの分まで情報をかき集めてくるとしよう。」

 

「王様…よろしいのですか?」

 

「うむ。家臣あっての王じゃからな。エイトも今日一日は楽に過ごすがよいぞ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「決まりね!じゃあみんな、いきましょ!」

 

エイトたちは口々にトロデに礼を述べ人の波へと消えていく。トロデは己の威厳の復権を感じながら満足そうに頷き、遅れて街に入ろうとして…

 

「何故じゃああぁぁ!!!!」

 

「魔物だから」という(トロデからすれば)何とも理不尽な理由で立ち入ることを許されず、ただ叫ぶことしかできないのであった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「あっエイト!…アンタまた武器見てるの?…はァ、ホントに好きなのね。」

 

「ゼシカ!うん、まぁね。今まで色々な武器を目にする機会はあったけど、実際に装備することを許されたのはこの『兵士の剣』だけ、しかもそれも刃を潰されたレプリカだったから…たくさん武器を持てるのが嬉しくて、つい…アハハ…」

 

「…ふーん。ま、いいんじゃない?兄さん…サーベルト兄さんもああ見えて…えと、エイトは見たことないわよね…武器には目が無かったのよ。そう、今のエイトみたいにね。」

 

「そうなんだね…」

 

「…」

 

「ごっごめん、湿っぽい話にしたかったわけじゃないの!…わ、私行くから!」

 

「あ、うん…ゼシカはどこに?」

 

「新しい服を探そうと思って!ここはおしゃれな街だから、きっとカワイイ服がいっぱいあるはずだわ!」

 

「そっか!じゃあ僕も後で行くよ。」

 

「オーケー!それじゃあね!」

 

 

「船…?船と言えばここらじゃ見ない美しい船が北の海岸に停泊しているのを見たって奴がいたなぁ。」

 

「ほ、本当でげすかぃ!?」

 

「ま、俺が見たわけでもないがね。ところで兄ちゃん、なんでそんな話を?」

 

「いえね、アッシのツレの船が盗まれちまって…」

 

「それで聞き込みを。それはなんとも殊勝なこった、見つかるといいな。俺がその話を聞いたのは三日ほど前だ。今もまだあるかどうかは分からんが…地図はあるかい?」

 

「ああ、地図ならここに…」

 

「んー、確かここらへんだったかなぁ。見に行ってみるといいさ。探しに行くってんなら道から外れると強ぇ魔物が出るから気をつけてな。」

 

「い、色々ありがとうごぜぇやす!」

 

「いいってことよ。兄ちゃんも達者でな。」

 

 

「やあ、カワイイお姉さん。少しオレに付き合ってはくれないか?」

 

「あら、なかなか上玉なイケメン君じゃないの。でもゴメンね。アタシ今からショーの時間だから。」

 

「(ふーん。この街では夜になるとバニーガールがショーをやってるのか。見ればさっきから客が続々と入ってきやがる。)」

 

「お兄さん、ショーを見ていくつもりなら何か頼んでおくれ。」

 

「ああ、マスター。悪いね。」

 

「…」

 

「…なあ、マスター。このショーは今からいつまで続くんだ?」

 

「おや、知らないということは観光目的の旅人さんじゃないのかな?ウチのショーは一晩中!バニー担当のスタッフを入れ替えながら朝まで踊りあかすのがココの醍醐味だよ。」

 

「へぇ…そりゃあいい。楽しそうだ。」

 

「それはもう連日大盛況さ。旅人のお兄さん、素敵なショーのお供におつまみなんてどうだい?」

 

 

夜も更けて少し冷える風の中、きらびやかなネオンの眩しい街の入り口でエイトたちは落ち合った。

 

「はいこれ、頼まれてたみんなの分の装備。食料とかも買っておいたよ。」

 

エイトは一体どこに持っていたのか、両手いっぱいの武器防具と道具袋を取り出して並べて置いた。エイトの思わぬ行動にゼシカは思わず飛び退く。

 

「えっ」

 

「アッシも船に関する耳寄りな情報を手に入れたでげすよ。」

 

「えっ、えっ」

 

「オレも酒場で聞いた話からなかなか面白い考察ができたな。『魔王』のことはわからなかったが、間違いなくドルマゲスの野郎はこの町に一枚噛んでそうだ。」

 

「えーっ!みんな、そんな…あ、遊んでたの私だけ…」

 

ゼシカは顔を赤くして、両手で頬を抑えた。

 

「ご、ごめん…私何もしてなぃ…」

 

ゼシカの声はどんどんか細くなっていき、後半はほとんど声も出ていなかった。

 

「いっいや、僕は装備見るの好きだからこんなの全然苦じゃないっていうか…」

 

「アッシも散歩がてら町の人と話してただけでがすよ。」

 

「そんなにしおらしくなるなんて、ゼシカにしちゃあ珍しいな?ま、オレはそんなゼシカもキライじゃないぜ。」

 

「そうじゃぞ…わしなんて街に入れもしなかったんじゃからな…」

 

「…」

 

「おっさんいつの間に!」

 

いつの間にかパーティーに溶け込んでいたトロデに、一同は驚き、ヤンガスはお決まりのポーズをとった。

 

「お、王様、街に入れなかったというのはどういう…」

 

「そのままの意味じゃ。あやつら、魔物だからという理由でわしを追い出しおったわ。全く腹立たしい…ここはサザンビークの国領じゃったな…まさか、クラビウス王の差し金か!?魔物の姿になったわしを町から追い出す嫌がらせか!?まさかドルマゲスはクラビウスの使者で、わしを辱めるために国を襲ったのでは…」

 

トロデはあまりの退屈さと怒りでめちゃくちゃな結論に辿り着いてしまっていた。自分よりも何もしていないトロデを見て少し落ち着いたのか、ゼシカがトロデを窘める。

 

「考えすぎよ。ここらの魔物の強さは私たちも実感してるでしょ?あんなんが町の周りをうろついてるんだから魔物に対して過敏になっちゃうのは仕方ない事じゃない。」

 

「まあ…そうか…それなら仕方あるまい。して、ヤンガス、ククール。掴んだ情報とはなんじゃ?」

 

そう言われると、ヤンガスとククールは目を合わせ、ククールは仕方ないな、といった風に肩を竦めた。

 

「ならオレから言わせてもらうぜ。結論から言う。ドルマゲスはこの町にいた可能性が高い。」

 

「ほう。それはどういうことじゃ?」

 

「まずこの街の夜だ。見ろ、夜も更ければ通りに人はほとんどいやしねぇ。普通の人間はもう寝てる時間で…ならそれ以外の人間は?」

 

「…あっ!酒場!」

 

「そう、この街の酒場は地下にあり、ショーは一晩中行われる…つまり夜中、この街の通りから人は消えるのさ。ドルマゲスはそこに目をつけ、夜に活動していたようだが…」

 

「まさか!目撃者がいたというのか!?」

 

「…そのまさかさ、じいさん。酒場に来ていたオヤジから道化師の目撃情報があった。なんでも少女と一緒にいたということだが…」

 

「少女?ドルマゲスの仲間は傭兵が一人って話でげしたが…?」

 

「さあな、そこまでは分からん。だがオヤジが言っていたいくつかの証言は全てドルマゲスの情報と一致していた。俺がじいさんから聞いた話と、数年前に俺が奴に出会った時の情報どちらともだ。本人である可能性は高い。」

 

「まさか…その女の子が次の被害者に…ッ!」

 

「それは無い…とは言えないのが辛いところだな…さっき聞いた話は昨日のことらしい。つまりドルマゲスはまだここから遠く離れてはいない、俺たちが次の目的地をベルガラックにしたのは間違いじゃなかったってことだ。」

 

「それで、奴はどこへ向かったんじゃ?!」

 

「それを知ってたら世話ないぜ。」

 

「なんじゃ、期待して損したわい。」

 

「なっ…」

 

「王様、旅の行き先が間違っていなかっただけいいじゃないですか。それで、ヤンガスはどうかな?」

 

エイトのトロデを宥めつつ自然な流れで話し手をククールからヤンガスに変えるファインプレーのおかげで、トロデとククールの掴み合いは無事に避けられた。

 

「…じゃあ次はアッシが。朗報でがす。ゲルダの船『うるわしの貴婦人号』の目撃情報を得やした。それによると、ここから北側、ほら、地図でみるとここらへんに停泊してるらしいでがす。」

 

「ふむ…」

 

「…でも、ヤンガス。ということは…」

 

「あっ…」

 

全員が次に続くであろう言葉に気づき、生唾を飲み込む。

 

 

 

「そうでげす。つまりそれは『魔王がこの地方にいる、もしくはいた』ことを裏付けているってことでがすね。」

 

「「…ッ!」」

 

ゼシカは全身が粟立つのを感じた。記憶の奥底まで刻まれた圧倒的な、『死』という根源的恐怖。…正確には少し異なる。そう、彼らは『死』に順応しつつある。では何を恐れているか?

その答えはゼシカにも、もちろんエイトにもククールにもヤンガスにも分かるまい。それこそが答えなのだから。彼らが恐れている魔王は『恐怖』そのものである。

 

「…恥ずかしながら、アッシも魔王は怖いでがす。でもゲルダの奴に約束しちまったからには、行くしかない─」

 

「そうだね、ヤンガス。もしかしたら船はもぬけの殻かもしれない。もし出会ったとしても、僕たちも強くなってるから戦闘になっても無事に逃げられるかもしれない。悪い事ばかりじゃないよ。」

 

「兄貴…!」

 

なんとなく消極的な雰囲気の中、エイトは自分が船を探しに行くことを至極当然のことのように、溌溂(はつらつ)と言い放った。

 

強い。ゼシカはエイトという人間を少し頼りない人間だと思っていたが、それは間違いだった。正直、ゼシカは船を取り返すことに消極的になっていた。ドルマゲスと魔王の関係は明確でなく、もしかすると自分たちはとんでもない闇の領域に足を踏み込んでいるのかもしれないのだ。ヤンガスは大事な仲間だが血の繋がりは無い他人だし、ヤンガスの友達ならゲルダはもっと遠い他人である。

エイトもきっと恐怖しているのだ。だがそれよりもヤンガスとゲルダの間に生まれた約束の遂行を優先しようとしている。他人なのに。実兄サーベルトの死の真相を探るべく村を飛び出した自分は、果たしてこの青年のように血の繋がっていない他人のために率先して命を賭けられるだろうか?

 

ククールもまた、エイトに対する認識を改めざるを得なかった。冴えない青年。それが第一印象。パーティーとして共に戦ううちに一端の旅人とまでは認めるようになったが、きっと賭け事をしたら自分はエイトに負けないし、戦闘でも自分の方がエイトよりも貢献しているとは言えるだろう。しかし他はどうだ?…聞けばエイトが旅に出た目的は自分の上司の呪いを解くため。そもそもが他人のためなのだ。弱きを助け強きを挫く聖堂騎士団の自分は、何度他人のために命懸けで戦っただろうか?…おそらくそんなものは片手で数えられてしまう。

腐っても聖職者のククールには分かる。今目の前にいる青年と自分、どちらが高邁な精神の持ち主なのかを。

 

だからこそゼシカは己の恐怖を押し込めて彼についていくことを決めた。

 

だからこそククールは(マルチェロ)(オディロ)の前に胸を張って戻れるように彼と並び立つことを決めた。

 

ヤンガスは…言わずもがな、これからもエイトを慕い続けるだろう。

 

「こればっかりはアッシとゲルダの問題でげす。ゼシカとククール、おっさんと馬姫様はここで待っていても…」

 

「…私も行くわ。『うるわしの貴婦人号』はゲルダさんの大事な船なんでしょう?ちゃんと返してあげないと。」

 

「もちろんオレも行くぜ。ギャンブル以外で借りを作ったままにするのはどうにも寝覚めが悪くてね。」

 

「わしは…」

 

ミーティアの無事を考え少し躊躇するトロデに、ミーティアは小さく鳴いて応えた。

 

「ミーティア…お前はそういう子だったね。…よし、わしらも行くぞ。どちらにしろ街には入れんしの。」

 

「ありがたいでげす…いつまで船が停泊しているか分からないでがすし、その上本当に船があるのかも定かではないんで、すぐにでも出発したいでげすが…」

 

「みんな休息も取ったし大丈夫だよ。それにほら、もう太陽がそこまで見えてる。人目につく時間帯になる前に出発しよう。」

 

エイトの言葉に一行は頷き、街から出ようとしたその時──。

 

ドゴォォォン…

 

「「!!!」」

 

轟音と共に土煙が舞う。煙の元はこの町の領主、ギャリングの邸宅の方向…

 

「王様はここで!みんな!」

 

四人は地を蹴って飛び出し、ギャリング邸付近の物陰に身を潜めた。一番先頭にいるククールが後続の三人に「待て」のハンドサインを出している。

 

「(まだ出るな。煙の中に誰かいる…!)」

 

「(襲撃犯…!?一体誰が…まさかドルマゲスが…?)」

 

土煙は風に吹かれて徐々に晴れ、襲撃者と襲撃を受けた邸宅の全貌が明らかになっていき…

 

「「!?」」

 

ヤンガスは目を疑った。邸宅は傷ひとつついていなかった。まるで何もなかったかのように。

 

ククールは目を疑った。襲撃者は浮いている。つまり『人間ではない。』

 

ゼシカは目を疑った。襲撃者は、あの忘れるはずもない底知れぬ恐怖。『魔王』の姿をしていた。

 

エイトは目を疑った。『魔王』の持っている杖は…

 

 

トロデーン王国の秘宝、『神鳥の杖』そのものだった。

 

 

「あ…あぁ…!」

 

「ど…いうことだ…?なんで杖が…?いや…」

 

「(兄貴!ゼシカ!口を閉じるでげす!!)」

 

ヤンガスが咄嗟に口を閉じたおかげで襲撃者はこちらに気づいてはいないようだった。むしろこちらを気にすることができないほど苦しんでいるようにも見える。襲撃者は無傷のギャリング邸を見ると心底苛立ちながら叫んだ。

 

「結界…ッ!貧相なものだが今の我には手が余る…。どこまでも…どこまでも忌々しい道化めッ!!!我が魂と肉体が封印から解かれたとき…キサマは肉片のひと欠片も残してはおかん…グッ…この女もだ…『道化師ドルマゲス』め…早く『闇の遺跡』で身体を癒し、準備を…!」

 

そう言い残すや否や襲撃者の姿は消えた。後には轟音に驚いた街の人々が顔を出し、無傷の街をみて首を傾げるばかりだ。残された四人の内、最も早く混乱から立ち直ったククールが三人の頬を軽く叩いて我に帰らせた。

 

「…エイト、ヤンガス、ゼシカ。とりあえず船だ。…考察は仕切り直し、道中で話し合おう。」

 

突如として現れた来訪神。彼の襲撃と残した言葉は一行に大きなヒントを、そしてそれ以上の謎をもたらしたのだった。

 

 

 

 

 

 








原作との相違点

・賢者ギャリングが生きている。
なのでカジノも運営しているのだが、ククールしか行っていない。(しかも財布を空にして帰ってきた)

・『うるわしの貴婦人号』の場所を突き止めた。
発見者によると錨も下ろしておらず、かなり適当な状態で放置されていたらしい。可哀想なゲルダ。

・ドルマゲスの情報を得た。
奇抜な服装の成人男性が少女に声をかける事案が発生している。

・ギャリング襲撃に立ち会った。
原作ドルマゲスは普通に玄関から家に押し入ってギャリングを襲撃したが、今回の襲撃者は空中から突撃して邸宅を崩さんばかりの勢いで押し入ろうとしたようだ。なんともダイナミックな訪問である。



エイト
レベル:22

ヤンガス
レベル:20(味方を庇ってよく戦闘不能になっているため経験値があまり入らない)

ゼシカ
レベル:20(防御力が低くよく戦闘不能になっているため経験値があまり入らない)

ククール
レベル:24


・ゲームではベルガラックは夜でも普通に大通りに町人はいますが、今回は話の都合上人気が少ないことにしました。ご容赦ください。

・道化師と魔王について

ドルマゲス
エイト→会ったことある(怖くない)
ヤンガス→会ったことない
ゼシカ→会ったことある(当時は優しいいい人だった)
ククール→会ったことある(一緒にカードで遊んだことある)

とそこまで脅威に思っていないのに対し、

ユリマ
エイト→会ったことある(恐怖)
ヤンガス→会ったことある(恐怖)
ゼシカ→会ったことある(恐怖)
ククール→会ったことある(恐怖)

なので道化師を追うのには積極的なゼシカやククールも魔王を追いかけるのは少し躊躇います。


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第二十四章 修行パートと進行パート

間に合いませんでしたがハッピーバレンタイン!皆様が素敵な一日を過ごしてくださったであろうことを祈るばかりです。

クリスマスの存在は教えたドルマゲスくんですが(番外編参照)、バレンタインについてはノータッチです。
理由?もちろん、教えようものなら何を混ぜて渡してくるか分からないヒトが一人いるからですよね。








ハロー、死にかけながらもなんとか全員で生き延びることができて安心の道化師ドルマゲスです。キラさんもサーベルトも生きていてくれて本当に良かった…。次にラプソーンと相対するときは負けないように私ももっと強くならないといけないですね。しかしユリマさん…貴方は一体…?

 

 

 

 

生きている。全員死んでいない。それは素晴らしい事、喜ばしいことだ。しかし敗北。あの時ユリマちゃんが加勢してくれなければ全ては終了していた。本当に紙一重の戦いだった。

 

「ドルマゲス様…そろそろ苦しい…です…」

 

「ああ、申し訳ありません。」

 

俺はキラちゃんとサーベルトに回していた腕を解いた。改めて辺りを見渡すとそれはそれは酷い有様だった。草木は焼け焦げ大地は掘り起こされ、俺とサーベルトとユリマちゃんの血が至る所に飛び散ってこびりつき、仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)とセキュリティサービスたちの残骸が散乱している。硝煙の匂い、血肉の燃える強烈な匂いに思わず息が詰まる。燦燦と輝く太陽が圧倒的に似つかわしくないくらいに地上は地獄の様相と化していた。やはりベルガラックから離れたところで戦闘に入ったのは正解だったな。もし市街戦に突入した暁にはベルガラックが地図から消えることになっていただろう。

 

「…酷いな…」

 

「ええ…」

 

「…」

 

「これからどうする、ドリィ」

 

「…最早ラプソーンは我々だけで手に負える存在ではありません。(まあ手に負えたことなんか一回も無いんだけどね)とうとう勇者たちにも協力してもらわねばならない時が来たのでしょう。」

 

「ゼシカたちか。…猜疑ではなくただの質問なんだが、戦力にはなるのか?俺の思い出の中のゼシカは地上の魔物たちと渡り合えるような子ではなかったが…」

 

「ふむ。その点は心配ないでしょう。私が以前パルミドで出会った時、彼らはリーザス地方よりも数段強いパルミド地方の魔物と戦えていました。まだ暗黒神の首には届かずとも、戦力の一つとして数えることはできるでしょう。」

 

「なるほど、成長したゼシカに会える日がもうすぐ来るのか…!」

 

サーベルトはいいお兄ちゃんだなホント。これはゼシカがブラコン気味になるのも頷けるね。

 

「あの、杖を持っていたあの方…えと、私をこ、殺そうとした人が…ユリマ様、ですか?ユリマ様は一体どこに向かわれたのでしょう…?」

 

「ユリマさん…はきっと抗っていたはず、キラさんを殺そうとしたのはラプソーンです…。ついさっき、私がベルガラックに張った結界が攻撃を感知しました。恐らくラプソーンが賢者の子孫ギャリングを襲ったのでしょうが、阻まれて諦めたようです。私の勘が正しければ奴は北西の孤島、『闇の遺跡』へ向かったのでしょう。」

 

「ドルマゲス様は…ユリマ様のことをと、とても…気にかけてらっしゃるのですね…」

 

キラちゃんの顔が少し曇る。自分の恩人(おこがましい)が自分を殺そうとした人間を気遣うというのだから複雑な心情にもなるのだろう。まあ…ね。少し情緒がおかしいところもあったが、彼女(ユリマちゃん)は基本的に善良な人間だったのだ。意図的に人間を襲うなんて考えられない。

 

「『闇の遺跡』へ向かうのは傷ついた身体の回復のため…か?」

 

そう。聖なる魔法を嫌うラプソーンは自身を回復する術を持たない。真の魂と肉体を取り戻し、「暗黒魔城都市」を吸収した際には「めいそう」を行って回復するようになるが、他者と魂の座を共有する今の状態では精神を統一する「めいそう」の効果も望めないし、脆弱な人間の身体に依っているので自然回復も効率が悪いはずだ。ゆえに奴は悪の瘴気に満たされた闇の遺跡で直接暗闇と接続して回復を行う(のだと思われる)。

 

これらは憶測などではない。俺は携帯念話(フォン)を取り出した。

 

「ドルマゲス様、それは?」

 

俺が魔力を流し込むと、ホログラムの要領で空中に世界地図が映しだされる。我ながらスゴイ技術だ…原理は知らんが。表示された世界地図の北西、『闇の遺跡』があるところに向かって、青い丸が移動しているのが分かる。やはりな。

 

「私が最後の一撃をお見舞いしようとした時に奴に取り付けた発信機です。」

 

「発信機?つまりラプソーンの居場所が分かるということか!?」

 

ラプソーンを追尾しているのは「ハエ男」を本物のハエのように小さくして信号を出すように改造した俺なりのスパイ衛星だ。魔力信号でなく電気信号を発信しているので気づかれるまでの時間も長いと思われる。実はあの時、俺の最後の一撃がユリマちゃんの頬をかすめた時点で監視対象をラプソーンに移していたのだ。狡猾で用心深いラプソーンのことなのでいずれは気付かれて破壊されるだろうが、致命的なダメージを負っている今ではそこまで気も回らないはずだ。俺としては、ラプソーンが『闇の遺跡』に向かったということだけ確認できればそれでいい。

 

「そうです。ラプソーンは回復を行うため、しばらくはこの場所から動かないはずです。その間に私は勇者を鍛えつつ闇の遺跡へと向かうように誘導する…というのが当面の計画ですね。」

 

「流石はドリィだ。そういうことなら俺も一緒に行こう。」

 

「ああ、すみません。サーベルトには是非頼みたいことがあります。」

 

「ほう?」

 

「サーベルトにしかお願いできないことです。…頼まれてくれますか?」

 

「おお?…な、ならしょうがないな!"親友"の頼みは無下にはすまい!任せろ!!」

 

サーベルトはいいお兄ちゃんだが…やや扱い易すぎるな…調子乗ってる頃のルイネロみたいに悪い人に利用されないか心配だ。

 

「わ、私は…」

 

「キラさんは…えと…アスカンタの私のアジトで開発を手伝ってもらおうと思っています…」

 

「…はい」

 

「まずは片付けから…始めましょうか」

 

キラちゃんは正直…どうすればいいかわからない。今回の件で痛感したが、俺とサーベルトだけでは彼女を守りきることができない。これから戦闘が激化すればなおさらだ。

心無い言い方をすれば…彼女は「足を引っ張る」。もちろんキラちゃんは旅を続けていく上でいなくてはならない存在で、大事な仲間だ。しかしひとたび戦場に放り込まれれば、彼女は言わば産まれたての雛。地雷原で泣く赤子。守りながら戦うのは双方に危険が及ぶし、戦いの場から離せばあのラプソーンのことだ。きっと不意を突いてキラちゃんを人質に取ってくる。それは先の戦いでユリマちゃんを人質にしてきたことからも十分考えられることだ。

 

だから…しばらく一緒に旅はできない。

 

「…私、足手まとい…ですよね…」

 

俺はガレキを集めていたことを言い訳に、その言葉を聞こえなかったことにするしかなかった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─「王家の山」─

 

「なっ、なにもんだべ!?あんたら!!」

 

「お初にお目にかかります、私はドリィ。こちらはアインスです。本日は私めらに入山の許可を与えて頂きたく参上いたしました。」

 

「い、いきなりそっだらこと言われても…目的はなんだべ!!」

 

麓の民家は一時騒然とした。俺とサーベルトは今サザンビーク王国の直轄領「王家の山」に来ている。目的は味方戦力の底上げとその準備だ。同時にサンプル集めのためでもある。…でもそんなことを言って進入を許してくれるとは思えない。正直無断で入ってもいいのだが、そうするとどうしても人の目(あとサーベルトの目)が気になって作業に集中できないからな。屁理屈出まかせは道化師の得意分野だ。

 

「目的…ああ申し訳ありません、言葉足らずでした。…もうじきサザンビーク王国のチャゴス王子が『王者の儀式』を行うことはご存じですね?私たちはそれに先立ち山の安全調査を命じられた王国の兵士です。」

 

「ほー、そうだったんか…んでも、『王者の儀式』は王子一人でやらないと意味がないんでねがったか?」

 

「…あまり大きな声では言えないのですが、チャゴス王子のあの性格は皆様もご存じでしょう。そしてクラビウス王のご子息を想うあの慈愛の心…。」

 

「ああ…確かにクラビウス様はチャゴス王子に甘いところがあるべ。チャゴス王子も…うん」

 

…まあ分かり切っていたことではあるが、王子の信用全然無いな…。

 

「王はチャゴス王子を危険な目に合わせることを躊躇い、先立って我々に安全なルートを開拓するように命じられたのです。心配なさらずとも「アルゴリザード」と相対するのは王子本人ですし、私たちもアルゴリザードを絶やしたりするようなことはありませんよ。」

 

「…そういうことなら不満はないべ。…くんくんくん。あんたらは既に「トカゲのエキス」をかぶってるみてぇだな。よし、これならアルゴリザードたちにも余計な刺激を与えることもないはずだべ。気を付けて行ってくるだよ。」

 

「ありがとうございます。では。」

 

俺は心配そうにこちらを見ていた少年に持ってきた菓子折りといつもの手品で出した花を渡すと、民家を後にした。

 

 

「…ここまでくれば大丈夫ですかね。」

 

俺は『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』と『妖精の見る夢(コティングリー)』を解除した。俺とサーベルトの服装がサザンビークの兵装から元の服に戻り、同時に今まで認識できなかった魔物たちが大量に現れる。

 

「よっし!そろそろ始めるか?ドリィ」

 

「あのオヤジ、本当に俺たちのことが見えていなかったぜ…」

 

「なあお前、これってやっぱり総監督の能力か…?」

 

「やっぱり工場長はただもんじゃねぇな…」

 

「所長、これから何をするんですか?」

 

もちろん俺の目的は王家の山の安全航路の開拓などではない。こっちはチャゴスが儀式に成功しようと失敗しようと知ったこっちゃないのだ。

 

「君たちはこれからここで戦って強くなってもらいます。あ、あと話が通じそうな魔物がいたらこちらに勧誘してください。」

 

「え?でもここらの魔物はめっちゃ強「戦ってもらいます」」

 

「しょ、所長…オレまだ死にたくないですよ…」

 

「心配ありません、あそこに完成したての簡易『回復の泉』を設置しておくので、死にそうになったら随時浸かるなり飲むなりしてください。」

 

「で、でも社長、何のためにこんなこと…」

 

「…いずれ暗黒神が復活するときが訪れます。そうすれば各地に闇の世界の魔物やラプソーンに魅せられた凶悪な魔物が秘境から下りてくることでしょう。そうすればもちろんアスカンタも危機にさらされます。アジトも襲撃を受けて崩落するかもしれません。私が望むのはみなさんが自分たちの居城を蹂躙されるときに指をくわえて傍観するだけになってほしくない、ということ。だから強くなってもらいたいのです。ご理解いただけましたか?」

 

魔物たちは全員黙ってしまった。そう、この魔物たちは"U.S.A."にいる従業員や作業員だ。先日実施した体力・戦闘力テストで優秀だったものから研究・開発に必要な人材を覗き、上位から30匹ほど連れてきた。ついでに個別に志願してきたバトルレックス─ドランゴも加え、王家の山で強化合宿を行うことにしたのだ。

別に遊んでいるわけではない。ラプソーンが復活したら世界中に闇の世界の魔物やラプソーンを信奉する強力な魔物たちが蔓延り始める。そうなったときに町を守れる人材は多いほどいい。(比較的)人間に友好的な魔物であるU.S.A.の従業員たちならアスカンタ王国…というか自分たちのアジトの防衛戦力になるだろう。

サーベルトは教官として、殴る斬るしか知らない魔物たちに戦闘のイロハを叩きこみつつ自身も経験を積み、俺は魔物たちのサンプルを採取して、来るべき勇者たちのためにスペシャルな相手を用意する、なかなか有意義な時間じゃないか?

 

「「「(すごく嫌だ…)」」」

 

早く戦わせろと意気込むドランゴと準備体操をしているサーベルト以外はやる気がまるでない。…まあそうか。魔物は基本的に自分より弱い相手にしか挑まない。自分と同等かそれ以上の強さの相手に会敵すると後ろを向いて戦意が無いことをアピールしたり逃げ出したりする。別にそれは生物としては至極真っ当な生態なので、責めるつもりは毛頭ないが…

 

「うーん、じゃあここで一週間修行に耐えるごとにひと月休暇をあげてもいいですよ。」

 

「え!?一週間で一か月!?」

 

「おい焦るな、命の代償にしては軽いだろ…」

 

「でも回復は自由にできるみたいだぞ…!」

 

「一週間逃げ延びれば一か月は食っちゃ寝できるってことか!?」

 

労働環境下にいる社会的生命体(しゃちく)にとって休暇とは何物にも勝る報酬(※諸説あり)であり、(仕事好きなモグラたちは依然不服そうな顔をしているが)魔物たちの間にどよめきが起こる。よし、もう一押しか。

 

「ちなみに怖くて戦えない場合はあちらのサーベルト君が戦い方を優しく教えてくれます。」

 

俺が指をさした方向を皆が見ると、その先では丁度サーベルトが自身の5倍はあろうかという大岩を一太刀で両断していた。ドランゴは興味深そうにサーベルトを見ている。

 

「ん?ああ、任せてくれ!手取り足取り教えてやるぞ!」

 

「どうです?戦えますか?」

 

「「「やります」」」

 

よし。俺はそれを聞くとサーベルトに簡単なスケジュールを伝え、山道の開けた場所に回復の泉を設置しに向かった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─旧モグラのアジト・U.S.A.(ユナイテッド・サービシーズ・オブ・アスカンタ)─

 

「んん?おお、お前がドルマゲスの言っておったキラモグな。」

 

「(こ…この魔物が王城を襲った魔物たちの頭領…!)は、はい!キラです!!」

 

「……ああ、お前はアスカンタの人間だったな、その節は悪かったモグ。もう人間の住処を襲うことはしないモグよ。…改めて、ワシは『ドリーム重化学工場』開発部門グループリーダーのドン・モグーラ。ドルマゲスからお前をこの場所に匿うように指示されているモグ。」

 

「あ、ありがとうございます…(匿う…。やっぱりドルマゲス様は…)」

 

「ま、もちろんタダで住まわせてやるほどワシも優しくないモグ。しっかり働いてもらうつもりモグが…」

 

「え、えと…この場所での衣食住は保証されてますか?」

 

「お、お前、幼く見えて割と(したた)かモグな。(いきなり魔物だらけにこの場所に連れてこられて、怯えながらもここまで魔物と向き合って対話できるとは…ドルマゲス達とずっと旅をしてた影響モグか…?)…衣類はドルマゲスから預かってるモグ。食事は『福祉委員会』に行けば配給してもらえるし、当面はドルマゲスの仮設住宅で暮らせばいいモグ。…さて、お前は何ができるモグか?」

 

「(この場所に来たのは初めてだけど…魔物たちはかなり真面目に働いてた。だから肉体労働は望み薄…私にあるのは小間使いとしてのスキルと人間としての知識、あと…!)私は…家事は全般…できます。あと、機械のメンテナンスも!」

 

「ふむ…じゃあワシの下で…いや、()()()はいつも人手が足りんと言っておったモグな…」

 

「…」

 

「よし、お前は『福祉委員会』と『研究所』の「遺伝子工学部門(グリーン・チーム)」に斡旋してやるモグ。面倒な手続きはどうせホークマンたちがやってくれるモグから、お前は今日はゆっくりするモグよ。ではな!」

 

「ドン・モグーラ様、行っちゃった…」

 

「…」

 

「(ドルマゲス様、私は…。)」

 

「…」

 

「…お腹、空いたな…。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─ベルガラック地方北部─

 

「ええ~、何この船…」

 

勇者たちがベルガラックに来ていることを確認するために俺は勇者たちの古代船を探していたのだが、肝心の船は無く、見覚えのないきらびやかな船が乱暴に乗り捨ててあるのを見つけることしかできなかった。

 

「(もしかしてこの大陸に来てない…?それはちょっと面倒だな…)」

 

心当たりはある。というか心当たりだらけだ。そもそも俺はドルマゲスという重要キャラクターの肉体で勝手に行動している以上、何をしてもフラグが折れる。フラグの竹林を伐採しながら進んでいるような状況だ。オディロが死んでないからククールの動機も薄いし、『怪しい道化師を見た』という目撃情報もそこまでないかもしれない。

あっ!まさかアスカンタでパヴァンを救ってないから『月影のハープ』を貸し出してもらえてないとか!?うう、思い当たることが多すぎる…。自分のことで精一杯で、勇者たちのことはちゃんとケアしてやれてなかったなぁ…

 

俺がどうしたものかと頭を抱えていたその時、背後から4つの足音と馬車を引く音が聞こえた。

…2回目ともなればもう焦らない。ああよかった。運命の収束というものが本当にあるならば、今日ばかりはそれに感謝しよう。

 

「『妖精の見る夢(コティングリー)』」

 

「あれ?君は…」

 

オホン。前と変わらぬ声が出せるように俺は喉を整えた。

 

「あっ!エイトさん!皆さんも!」

 

「久しぶりでがすね!」

 

「久しぶりね!」

 

「久しぶりの再会だな。」

 

「ん?おお、お主は」

 

「「「ディム!」」」

 

 

 

 




言う必要はないかもしれませんが、ドルマゲスは悪魔の見る夢(アストラル)で分身してサザンビークとベルガラックに行ってます。パワーバランスは6:4ぐらいですかね。



ドルマゲス
レベル:50
一言:正直色々疲れてます。

サーベルト
レベル:45
一言:早く成長したゼシカに会いたい!

キラ
レベル:9
一言:…ちょっと考えさせてください。

ラプソーン
レベル:??
一言:ほんまなんなんコイツらマジで腹立つわ



バレンタイン…結構過ぎちゃったんですけど番外編とか要りますかね?一応1000字ちょいくらいの案はあったんですけど…


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Chapter12 ベルガラック地方 ②

ハーメルンのドラクエ二次小説はどうも過疎化している気がします。(今でも大作を綴ってらっしゃる方たちはもちろんいらっしゃいますが)まあそれも仕方ない話で、おそらく原因は「ドラゴンクエストが物語として完成しすぎている」「最新作からかなり時間が経っている」「そもそも人気漫画などと比べると知名度に差がある」などの二次小説として書き起こしづらい特徴がいくつかあるからだと思われます。それでも私はドラゴンクエストというゲームが大好きですし、この小説だって書きたいから書いてるのでいいんですけどね。

…ドラクエ12が出たらドラクエに興味がある人も増えるかな?


UA数150000、総合評価3000ptありがとうございます!この小説を評価してくれる人が一人増える度に、(ああ、この人もドラクエを知っているのかな、好きなのかな。)と少し嬉しい気持ちになります。
お気に入り、ここすき、評価、感想、いつでもお待ちしております!








歓楽街ベルガラックを探索していた一行は独自の考察を行って真相を解明しようとするもどうも決め手に欠けていた。そこで目下の目標をゲルダの船奪還に置き、街を出発しようとした矢先、町長ギャリングの邸宅が何者かに襲撃される。襲撃者は最恐の敵『魔王』であり、さらに彼女はトロデーンの秘宝の杖を持っているところまで一行は目撃し混乱するも、とりあえずは船を探しに行こうというところで合意したのだった。

 

 

 

 

ベルガラック北部。一行はヤンガスが町人から聞いたゲルダの船『うるわしの貴婦人号』があるという場所に向かっていた。

 

「…ねぇ、町長…ギャリングさんだっけ?あの人に話を聞きに行かなくてもいいの?」

 

「うーん、僕もそれを考えてたんだけど…ククール?」

 

ククールはいつもより少し足早で、エイトもゼシカもミーティアも意識して歩いていないと置いていかれそうになる。ヤンガスと道を確認していたククールだが、エイトとゼシカから質問されると振り返って答えた。

 

「まあ、それでもいい。…でも、オレが思うにギャリング町長もきっと今回の襲撃については何も分かっていないんじゃないか。そんな気がするぜ。」

 

「…と言うと?」

 

「さあな?これといった証拠もない。勝負師の勘ってやつさ。」「イカサマばかりのクサレ僧侶がよく言うでがすよ。」

 

ヤンガスのボヤキに聞こえないふりをしてククールは続ける。

 

「マスター・ライラスって奴のことはよく知らねえが、オディロ院長とギャリングに接点はない。大陸も違うしな。マイエラ修道院は地方の大型宗教施設であると共に騎士団─周辺警護が教会本部から与えられた使命だ。だから修道院の聖職者たちがマイエラから移動することはあまりない。伝道師たちはほとんど『聖地ゴルド』に常駐しているからな。そしてあんたらもドニで見た通り、教会の賭け事に対する印象は良くない。ベルガラックにも教会はあるがありゃ形式上建てざるをえなかっただけで、教会上層部は賭け事の街ベルガラックのことも蔑視している。ベルガラック側も当然そのことは分かっているはずさ。だからギャリングがわざわざマイエラ修道院まで来ることも無いだろうよ。」

 

「接点がないとなぜ襲撃を知らないことになるんじゃ?」

 

「…今まで俺は、大きな力を得たドルマゲスが自身の気に食わない奴らを襲撃していたのかと思っていた。ゼシカの兄貴も相当ドルマゲスを警戒していたと聞くぜ。」

 

「…ええ、兄さんはドルマゲスを警戒するあまり、半ば強制的にトロデーン城まで同行することを決めたのよ。」

 

「もしかしたら旅の道中にひと悶着あったのかも、オディロ院長もオレが拾われる前にドルマゲスと因縁があったのかも…そう思ってた。だがそこに…」

 

「『魔王』でがすね。」

 

「そうだ。…なあじいさん、一つ聞きたい。トロデーンの『秘宝の杖』はこの世に二本以上存在するか?」

 

「…それは有り得ん。あれはトロデーン王家が先祖代々守ってきた、世界に一つだけの代物じゃ。」

 

「…じゃあ今度はエイト。さっき魔王が持っていたアレは『秘宝の杖』か?」

 

「うん、間違いないよ。アレが放っていた魔力、見た目、大きさ、全て本物だと言い切れる。」

 

「ならば、だ。一連の事件、その首謀者がドルマゲスでなく、『杖』の意思だったとしたら…?」

 

「「!!!」」

 

「ま、突飛も無い憶測だ。魔王がドルマゲスから杖を強奪して好き放題やってるって可能性や、二人が結託してるって線も普通にあり得る。…ただこれはオレの聖職者としての勘だ。これはよく当たるぜ?勝負師の勘と違ってな。」

 

「…」

 

「ところで、なんでギャリングさんに話を聞きに行かないの?」

 

「え?そりゃ襲撃の後いきなり話を聞きに行ってもパニックだろ。落ち着いてから話を聞きに行く方が効率良いなと思っただけさ。」

 

「…」

 

どうやらククールはどさくさに紛れてただ自分の自論を語りたかっただけらしい。しかし彼の自論には考えさせられるような妙な説得感もあり、しばらく一行は頭を捻りながら歩いていくのだった。

 

 

「…ま、こんなもんでげす。」

 

「今でも殴りあったらてんで敵わないけど、なんとなくここらへんの魔物の動きは読めるようになってきたわね。」

 

「魔物の性格や動きにそこまで個体差が無いのが幸いだね。」

 

「今まで死ぬほど死んで来た甲斐があったな。」

 

「さて、地図によるとここらへんで見たらしいでげすが…」

 

一行は森を抜けて海岸に出た。森の中でのゲリラ戦闘ももう慣れたもので、傷を負いながらも死者は出さずに進むことができるようになっていた。町人の情報によると、ここで煌びやかな船を見たという。森を抜けて広がる青い空と青い海。さあどこだと見渡そうとして、エイトは人影を見つけた。しかも見覚えのあるものだ。

 

「あれ?君は…」

 

「あっ!エイトさん!皆さんも!」

 

最初は相手を窺っていた他のメンバ―も、その声を聞いて相手が誰か思い出したようだ。

 

「久しぶりでがすね!」

 

「久しぶりね!」

 

「久しぶりの再会だな。」

 

「ん?おお、お主は」

 

「「「ディム!」」」

 

「はい、みなさんお久しぶりです!」

 

ディム。彼は一行がパルミド地方で出会ったフリーの冒険者で、かつて一夜を共に語り明かした友人である。以前パーティに誘った際、やらなければならないことがあるという理由で丁重にお断りされてしまったのは記憶にも新しい。

 

「息災か?ディムよ。」

 

「はい、トロデさん、ありがとうございます。この通り元気です!」

 

ディムは得意げにポーズ(ダブルバイセプス)を決めてみせる。その仕草は少年のそれそのもので、ゼシカはポルクとマルク、エイトは数年前の生誕祭の時のミーティア、ヤンガスは昔の自分と重ね合わせ思わず微笑んでしまった。

 

「(でもコイツ、ここにいるってことはこう見えてベルガラック地方の魔物たち相手に一人で立ち回れるってことだよな。一体どんな戦い方してんだ?)」

 

ククールのみ彼に訝し気な視線を送るが、彼もディム自身のことは嫌いでない。ディムがパーティに加わりたいと一言いえばすぐに歓迎するだろう。

 

「ところで、君は何でこんなところにいるの?」

 

「え?…」

 

「?どうかした?」

 

「いえ、実はですね…」

 

「───。」

 

一行は驚いた。ディムも『闇の遺跡』を目指していたということ、しかし『闇の遺跡』には暗闇の結界が張ってあり中には入れず、ここまで戻ってきたということ。結界を打ち破るにはサザンビークの『秘宝の鏡』こと『太陽のカガミ』が必要であること。ディムの話した内容はどれも衝撃的だったからだ。

 

「ど、どうしてまた、『闇の遺跡』に…」

 

「僕の『目的』のためです…詳しくは言えません、ごめんなさい。」

 

「…これ、それは重要なことじゃぞ。お前さんのような子供がおいそれと近づいていいような場所ではないはずじゃ。」

 

「…」

 

「ま、人間誰しも聞かれたくないことの一つや二つあるでがすよ。それにおっさん、よく考えるでがす。ディムはこの地方でも一人で元気にやってる、つまりアッシらより強いか、野生で生きていく術を持ってるってことでげす。」

 

「むぅ…ヤンガスのくせにまともなことを言いよるわい。ディムよ、浅慮な質問をして悪かったの。」

 

「いいえいえ、お気になさらず…あっ、そういえば!皆さん、あそこにある船に心当たりはありますか?」

 

「?」

 

ディムが指さした通りに一行が崖下を覗き込むと、一隻の船がある。それは間違いなく奪われた『うるわしの貴婦人号』であった。

 

「「あれは!!」」

 

「え!?皆さんご存じで!?」

 

「ほんとにあった…外観は大きな破壊も無さそうね…よかった…」

 

「あれはアッシの連れの船でしてね。探してたんでげすよ。」

 

「ツレ…そっちかー。」

 

「??そっち?」

 

「いえ…みなさんはアレを自分の船にしているのですか?」

 

「いや、アレは今から持ち主のもとに返しに行くんだよ。オレたちは定期船でこの大陸までやってきたからな。」

 

ククールがそう言うとディムは何故か頭を抱えた。

 

「え、えーとですね。まず、何故かここの海域では海の魔物が狂暴化し始めています。もし船を無傷で返しに行くなら早めに行っておいた方が良いかもしれません。同様の理由で民間船で『闇の遺跡』まで向かうのは危険です。かなり大型で自由な航行ができる自前の船を用意すれば安全かと。」

 

「ほうほう。ちなみにディムはどうやって『闇の遺跡』まで行ったの?」

 

それを聞いてヤンガスたちもディムの方を見つめる。

 

「そうじゃな。わしらの志は同じ、もしお主の船があるなら共に乗せていってもらいたいのじゃが…」

 

急に注目されたディムはしどろもどろな様子だ。

 

「あー、えーと。そう、僕にはイカの下僕がいてですね。それに乗って行ったというかなんというか…」

 

「???」

 

一行とディムの間に変な空気が流れる。

 

「あー、悪いディム。オレたちは今の冗談で笑うべきだったか?」

 

「あ、あっはは!ククールさん!わざわざ言わないでくださいよう!」

 

どうやら冗談だったらしい。茶目っ気のある少年だ。

 

「「「(…で、どうやって行ったんだろう)」」」

 

「おほん。…兎にも角にも、まずはサザンビークです。僕は一足先にサザンビークへと向かうので、皆さんも船を用意してまたこの大陸に戻ってきてくださいね。」

 

「待って!もう行くの?私、キミともう少し話していたいんだけど…」

 

「アッシもまだ兄ちゃんに、前回語り切れなかった兄貴とアッシの兄弟愛物語を話していないでがすよ。」

 

「すみません、ゼシカさん。ヤンガスさん。今は一刻を争う状況なので…またサザンビークでお会いした時にぜひお話ししましょう?」

 

「ああ、そうなんだ…うん、わかった。またすぐ会いに行くわね。」

 

「次会うまでに新しいエピソードを増やしておくでがす。」

 

では、とディムが手を上げて別れようとした時、エイトが呼び止めた。

 

「そうだ、ディムはここからどうやってサザンビークまで行くの?」

 

「?普通に徒歩で行きますね。」

 

「じゃあこれ、長旅になるだろうからあげるよ。」

 

エイトはディムに袋一杯のチーズを渡した。戦闘には使えないただの食用チーズである。しかし味は間違いなく最高級のものであると王宮の飯を食べて舌を肥やしていたエイトがこっそり自負していた特製のものだ。

 

「わぁ!ありがとうございます!…えーと何かあるかな…あ、これでいいか。ちょっとお待ちを。」

 

ディムが指を鳴らすと何もないところにテーブルが現れた。そしてカバンからパンを取り出して慣れた手つきで上下に切り分け、どこから取り出したか、よく焼けた謎の合成肉をはさみ、つづいて赤い野菜、緑の野菜、そして先ほど渡されたチーズをスライスしてはさんでテーブルに人数分置いた。あまりの所業と手際の良さに、一行は目を丸くするばかりである。完成した料理を前に、ディムは両手を向けている。

 

「…今は何をしとるんじゃ?」

 

「料理を内側から温めてます。温かい方が美味しいですからね。」

 

「へぇー…」

 

「「「(凄すぎないか??)」」」

 

「はい、できました。ハンバーガーです。」

 

「はんばーがー?」

 

「はい、僕の創作料理『ハンバーガー』です。エイトさんのチーズを見て、今思いつきました。ご賞味あれ。ああ、それとエイトさん」

 

「うん?」

 

ディムはもう一つのハンバーガーをエイトに渡した。こちらには肉ははさまっておらず、しかし野菜は他のものよりも瑞々しく見える。

 

「これはそちらの馬のお嬢さんに渡してあげてくださいね。」

 

「姫に!?ありがとう!」

 

「ではみなさん!またサザンビークで会いましょう!」

 

「達者でな~!」

 

「次はオレがお前に料理を作ってやるから待ってな!」

 

ゼシカ、ヤンガス、エイトはもちろん、ククールもトロデも笑顔で手を振りディムを見送った。ミーティアも嘶いてご満悦である。

 

「…さて、このはんばーがー、温かいうちに食っちまうでげすよ。」

 

ディムが森に入って見えなくなったところで落ち着き、全員がごくりと唾をのんだ。彼を疑っているわけではないが初めて見る料理、しかも何かわからない肉を使っているとなれば少しは緊張する。しかしその肉の香りはいい具合に全員の食欲を刺激して…

 

「あいつの作る料理がマズいわけないさ」

 

意外にも最初にハンバーガーにかぶりついたのはククールだった。それを皮切りに他のメンバーも食べ始め、エイトもミーティアと共にハンバーガーを口に運んだ。

 

「うまい!」

 

「なにこれ、やっぱりおいしすぎ…」

 

「わしが元の姿に戻ったらあやつを宮廷料理人として正式に雇おうかのう…」

 

「おいしいですか?姫。」

 

ミーティアは馬なので心情は図れないが、その表情は喜んでいるように見える。

 

「まったく、何者なんだろうなぁあいつは…」

 

「もぐもぐ、またすぐに会えるわよ。そのためにも早く船を手に入れましょ。もぐもぐ」

 

しっかり食事をとって回復した一行はディムのアドバイス通りに『うるわしの貴婦人号』に乗ってパルミド地方を目指すのだった。




全然話進まなかったな?

原作との相違点

・まだ船を手に入れていない。
今までは定期船が出ていたが、魔王が杖の魔力を抑えずに飛行したため、闇の遺跡周辺の海の魔物が狂暴化しはじめた。よって普通の船では航行できない。しかし勇者たちは自前の船をまだ持っていない。

・ディムに再会した。
今回も短時間ながらふしぎな少年ムーブを見せつけた。もちろん物体生成の魔法や対象を内側から温める魔法など存在しないのだが、魔法に詳しい人物がその場にいなかったため「すげ~」で済んだ。

・闇の遺跡に行かなかった。
原作では一度闇の遺跡に向かうも結界が張ってあるため入れない、というイベントが発生するが、ディムが全て説明してしまったのでそのイベントも丸々カットされた。なお、古代船やベルガラックの親衛隊が乗ってきた魔道船のような強い作りでない『うるわしの貴婦人号』では海上の戦闘には耐えきれず壊されてしまう可能性がある。





数人の方からぜひバレンタインのお話を…という感想を頂きました。そのことについてはとても嬉しかったのですが、プロットを練っていざ書き出したはいいものの、出来上がったものを見るとどっからどう見ても面白くないものに仕上がってしまいました。この不完全な状態のままお出しするのは、「バレンタインの話を書く」という約束を反故にするよりも失礼に当たると考えた(それくらい酷い出来になってしまった)ので、非常に申し訳ないですがバレンタイン回は先に見送らせていただきます。期待してくださっていた方には本当に申し訳ありませんでした。


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Chapter13 トラペッタ地方 ③

何とか週一で投稿したいと思ってるけど、毎回ちょっと間に合わない。







旅の少年ディムと再会した一行。彼もわけあって『闇の遺跡』を目指していると言うが、現在遺跡には暗闇の結界が張ってあり侵入を阻まれている、それを打ち破るためにサザンビークの秘宝が必要であると彼は語る。さらに明かされた現状「自前の船なくして『闇の遺跡』には向かえない」という意見を受け、一行はこれからの行き先についてあれやこれやと会議を重ねるのであった。

 

 

 

 

ザザーン…ザザーン…

 

航海は概ね快調。ゲルダが自分で使うために置いていったのだろうか、『うるわしの貴婦人号』の船室内には船の操縦法や一般的な航海術が事細かに書かれたメモがあったため、全員でそれを頭に叩き込み一行はベルガラックのある西の大陸からパルミドに向けて出航したのだ。ヤンガスを含めた全員、要領は悪くないためすぐに航海のいろはを覚えられたのが大きく、魔物狂暴化の余波に飲まれる前に該当海域を抜け出すことができた。かしこさと要領の良さはイコールではないのである。

 

 

航路も定まり、しばらくは安定した海流に乗って行くことができそうなので、ひとまず一行は甲板に集まって話し合うことにした。

 

「…まいったの…あと少しでドルマゲス、魔王、そして杖の真実に近づけると思ったのじゃが、ここにきて手詰まりか…」

 

楊枝で歯の掃除をしながらトロデがぼやく。その様子を見てヤンガスはため息をついた。

 

「おっさん…そういう真剣な話題はもっと荘厳な雰囲気の中で話すべきでがす。」

 

「仕方ないじゃろ。せっかくディムが拵えてくれた料理じゃ。食後の余韻まで味わねば損じゃろうが。」

 

「(王様は意外とみみっちいところもあるんだよな…)」

 

「しかし参ってるのは事実だぜ。これからどうする?オレたちは船なんて持ってないしな。…ゼシカ、お前は自分の船とか持ってたりするか?」

 

「ええ、一応私の…えと、アルバート家の名義で所有している船はあるにはあるわ…でも…」

 

「うん、ディムが言うには民間船じゃ危ないらしいね。」

 

そう、確かにアルバート家の所有する貨物船ならどんな荒波もものともせずに闇の遺跡のある北西の孤島へとたどり着くことができるだろう。しかし現在の西の大陸~北西の孤島間に横たわる領域─北海の魔物は狂暴化しており、旅において魔物を侮ることはそのままその旅の失敗を意味する。そのためポルトリンクに置いてある船では少々強度が心もとないのだ。

 

「どうしたもんかねぇ…」

 

ククールはお手上げとばかりに体を椅子に預け、壁にかけられた黄金の鎖をこねくり回し始めた。他の面々も代案は思い浮かばない、と言った顔だ。

 

「情報屋のダンナがいればきっとこんな問題なんてちょちょいと解決しちまうんですがねぇ…」

 

「そうだ、情報屋さんから貰った本に何か…?」

 

載ってないだろうか。そう言いかけたエイトだが、ふくろから本を取り出した際にはらりと落ちた一枚のメモに気を取られた。

 

「『困ったら占いの力を信じろ。この町の占い師は世界一だ。』」

 

「うん?兄貴?そりゃ何ですかい?」

 

「これは…」

 

「占い師…そういや占い師ならパルミドにいたな。でも大丈夫なのか?初々しいが詐欺師まがいの似非占い師だぞ?」

 

「…エイト、お主その紙は何処で手に入れたものなのじゃ?」

 

「…思い出した。トラペッタで拾った紙です。でも誰が書いたのか、どこで拾ったのかまでは思い出せません…。」

 

「トラペッタ…聞いたことがあるの。確かに一昔前、一世を風靡した世界一の占い師がいるとの噂が我がトロデーン城にも入ったきたことがある。」

 

「エイト、お前たちはトラペッタには旅の途中で立ち寄ったんだろう?その世界一の占い師とやらの話は聞かなかったのか?」

 

「いや、あの町には一日も滞在してなかったから…」

 

「色々ありましたもんね、兄貴。」

 

「うん。で、どうしようかみんな。このメモを信じてトラペッタに行ってみる?」

 

「いいんじゃない?どのみち他に行く当てもないわ。」

 

「…。まあよい。わしもあの町を再訪するのは少し気が引けるが、何の情報も無い今はその紙を頼りにする他あるまい。…なんかわしら、常に手紙やらメモやらを頼りにしておる気がするの…」

 

「まあまあ、それは仕方ないでげすよ、おっさん。ドルマゲスの野郎の痕跡が無さすぎるのが悪いんでげす。」

 

「ドルマゲスねぇ…ドニの町で賭け事をしてると思ったら今度は誰にも目撃されてないなんて、目立ちたいのかそうでないのかさっぱり分からないな。」

 

「悪事を犯した人間が自分の痕跡を消しながら移動するなんて普通のことでしょ?それに…って、あ!!見て!あれって南の大陸じゃない!?」

 

「ほんとだ!結構早かったね!」

 

丁度いい海流に乗ることができたのだろう、一行は予測より早くパルミドのある南の大陸に到着したのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─女盗賊のアジト─

 

「なんだ、思ってたよりずっと早かったじゃないか。ヤンガスとヤンガスの兄貴分たち。」

 

「ゲルダ、体調はどうだ?」

 

「悪かないね。むしろここ最近動いてばっかりだったからまとまった休みが取れてあのクソアマには感謝したいくらいだよ。」

 

魔王に内臓を傷つけられ寝込んでいたゲルダもここ数日でだいぶ快復した様で、エイトたちが再度訪問した際にはお気に入りのロッキング・チェアに腰かけて本を読んでいた。ゲルダの手下たちも元気そうだ。

 

「ゲルダさん、船を返しに来ました。」

 

エイトがそう言うと、ゲルダは一瞬だけ目を見開いた。

 

「それは本当かい?あたしはてっきりアンタたちは西の大陸から逃げ帰って来たのかと…」

 

「『魔王』はあの船を乗り捨てていたの。だから船を見つけた私たちはそれに乗って帰って来たのよ。」

 

「『うるわしの貴婦人号』を乗り捨てただァ!?…いよいよ許せないねあの女…!」

 

ゲルダが突然声を張り上げたので思わずエイトは一歩後ずさってしまった。しかしその一方でヤンガスは一歩前へと踏み出した。

 

「…ゲルダ、魔王に復讐する気か?もしそうなら思いとどまってくれ。次は瀕死じゃすまないかもしれねぇ。」

 

「…!」

 

ゲルダは少し驚いたような顔をすると、今度は少し憂いを含んだように目を細めた。

 

「…ヤンガス。子供のころに比べてあんたも随分臆病になったもんさね…」

 

「…」

 

「…」

 

「ゲルダ、オレは…」

 

「ふん、ま、いいさ。どうせ今のあたしじゃ手も足も出ないのは事実だからね。ここは大人しく療養して爪を研がせてもらうとするよ。船の件、ご苦労だったね。もうあの船は帰ってこないものだとばかり思ってたんだ、本当に感謝してるよ。」

 

そう言うとゲルダは再び椅子に座って読書を再開した。しかしヤンガスはそれを遮るようにゲルダの前に立った。

 

「ゲルダ…すまなかった。それとすまない。きっとオレも年を取って考え方が変わっちまったんだ。もうお前の好きだったオレじゃなくなったかもしれない。でもオレは今でもお前のことを大事な仲間だと思ってるんだ。だから…!」

 

「すっ…!…ったく!分かってるよそんなことは!…あんたらも用は済んだだろ!さっさとどこへなりとも行っちまいな!」

 

ゲルダに蹴り出される形で一行はアジトから放り出された。マイエラ修道院、ベルガラックに続いて王族であるにも関わらず蹴り出されてしまうのが三度目になるトロデはかなりご立腹であったが、ミーティアが鳴いて諫めたのでその場はなんとか収まった。

 

「ふーん、ゲルダのあの反応…てことはだ。」

 

「ね!絶対そうよね~!」

 

「へぇ、あいつも隅におけないな。」

 

「兄貴、次はトラペッタに行くんでげすよね?」

 

「う、うん。いいの?ヤンガス。ゲルダさんに言われっぱなしのまま出てきちゃったけど。」

 

「いいんでがすよ。あいつをこれ以上興奮させて傷が開きでもしたらその方が面倒でげすからね。」

 

ゼシカとククールが何やら不躾な詮索をしているが、そういう機敏には疎いエイトがさっさと移動準備を始めたので、ゲルダの乙女心は無事に守られたのだった。

 

「行くよー。『ルーラ』」

 

 

「ゲルダ様、よかったのですか?あんな突き放すようなことを言ってしまって…」

 

「…ついクチを突いて出ちまったものは仕方ないだろ?訂正するのも格好がつかないしね。」

 

「…と言うと?」

 

「…」

 

ゲルダは少し言葉を詰まらせた。今度は慎重に言葉を選んでいるようだ。

 

「…羨ましかったのさ。ずっと変わらなかったヤンガスを一瞬で変えてみせたあいつらのことが。それでちょっとムキになったってワケ。…これで満足かい?」

 

「ゲルダ様…!それってつまりk「これ以上続けるならまずお前から殴るよ」はい…」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─トラペッタ地方─

 

「トラペッタ…私、ここの草原広くて好きだな。」

 

「滝か。今まで滝なんて見たことなかったからちょっと感動してるぜ。」

 

「おーい、たらたらしてたら置いていくでがすよー。」

 

雄大な自然の景色に圧倒され、町とは反対の方向に向かおうとするゼシカとククールをヤンガスが引き留めた。一方トロデは路肩に馬車を停めて荷台へと入っていく。

 

「わしはミーティアと共に外で待っておるからな。ミーティアが退屈せぬよう早めに事を済ませてくるのじゃぞ。」

 

「はい、王様。行って参ります!」

 

 

エイトたちが歩を進め、正門を開いて中に入ると「いっかくうさぎ」が彼らを出迎えた。

 

「!?剣を抜け!魔物だ!」

 

町の中に魔物がいるという通常ならありえない状況に面食らうも、すぐに対応してみせたククールはもう一流の冒険者と呼んでも差支えはないだろう。しかしここで剣を抜く必要はなかった。

 

「…ククール、多分大丈夫。」

 

「なんだと?」

 

「いっかくうさぎ」はこちらを一瞥すると、宙返りを決めてみせた後、住宅街へと走っていった。見ると、あちこちでモンスターが闊歩している。目の前を「スキッパー」が横切ったかと思うと、向こうでは「スライム」が階段をぴょんぴょんと登っており、空では「メタッピー」が枯れ木にとまろうとして悪戦苦闘している。そして町人もそれに対し疑問を持ったり怯えたりしている様子はない。むしろ魔物に餌をやっている町人の姿もある。

 

「こ…れは…」

 

「流石のククールも驚いてるようでがすね。ここがトラペッタ。気持ちはわかる、人と魔物が共に暮らす妙な街でがす。」

 

「あ、ああ。流石にこれは予想できなかったな。」

 

安全を確認できたのか、ククールは剣を鞘に納める。

 

…しかし、ククール以上に衝撃を受けている者がパーティーの中に一人いた。

 

「あ…あれ…!」

 

ゼシカである。

 

「?あの『メタッピー』がどうかした?」

 

「『ピーチク』と同じ…!仕草も…色も…っ!」

 

「ピーチク?」

 

「あっ、兄貴…もしかしてあの…」

 

ヤンガスは心当たりがあるようで、必死に考え込んでいる。そしてようやく合点がいったとばかりに手を打つと、感情が高まるままに町人に話しかけようとするゼシカを引いて連れ戻した。

 

「ゼシカ!」

 

「や、ヤンガス!何を…!」

 

「いい忘れてたでげす。ゼシカ、ククール。この町ではドルマゲスの話をするのは禁忌でがす。兄貴もアッシもおっさんも前回それで追い出されたんでね。」

 

「なっ、なんでよ?」

 

「この町の人間は何故かドルマゲスを良き友人として扱っているんだよ。それが本心か、洗脳か、嘘かは分からないけどね。だからドルマゲスを悪く言うと町の人からの心象は悪くなるんだ。」

 

「…なるほどな。理解したよ。今回あくまで俺たちの目的は占いだからな。この町を出禁になったら後がないから慎重に動けってことだろ?…はぁ。ならお前らなんでそんな重要なことを黙ってたんだよ…」

 

「ご、ごめん。すっかり頭から抜け落ちてて…」

 

「おいおい、しっかりしてくれよな…」

 

「アッシもついていながら申し訳ないでげす…じゃ、さっさと世界一の占い師とやらの家に行きますかい!」

 

 

占い師の家は町人にそれとなく尋ねることで比較的すぐ見つかった。町人も「ああ、ルイネロさんのお客さんね」とすぐに納得してくれたことから、ルイネロという占い師はやはり有名な人物のようだった。

 

中に入ると窓がないためか部屋は薄暗く、机の奥側でこちらを向いて一人の男が椅子に座っていた。

 

「ごめんください。」

 

「…どちらさまかな」

 

「ここが占い師ルイネロさんのお宅ですか?すみません、占ってほしいことがあるんですけど…」

 

「…いかにも。私がルイネロだ。」

 

ルイネロの家は流石に占い師とだけあってそれっぽい雰囲気が出ているが、ちらりとエイトが上階に目をやると、二階はかなり生活感が溢れている場所であることがうかがえる。しかもかなり荒れているようだ。

 

「…大丈夫ですか?」

 

「構わん。で、何を占ってほしいのか?」

 

「…僕たちは今、船を探しているんです。しかも民間船のようなものではなく、魔物の襲撃にも耐えうる強度を持った船で…」

 

「はぁ。わしの占いは願いをかなえる機械ではないのだぞ。」

 

「わ、分かってます!でもせめて手掛かりだけでも…と思って。」

 

「…ふん、まあそういうことなら占ってやろう。代金は70000Gでいい。どんな結果でも返金交渉は受け付けんからな。」

 

「な…なな…も、もう少し安くは…」

 

「ならん。これが最安値だ。文句があるなら占わんぞ。」

 

「う…」

 

「(とんだぼったくり爺でがす。)」

 

「(よせヤンガス、聞こえるぞ。)」

 

「わ…分かりました。お願いします。」

 

エイトは血の涙を流さんとばかりに感情を堪えながら代金を支払った。それもそのはず、70000Gと言えば現在の一行の全財産の8割を超える超大金だからである。あとでトロデに報告することを考えるとエイトは今から気が重くなった。麻袋にたっぷり詰められジャラジャラと鳴る金貨の音を確かめると、ルイネロは水晶玉に向かい占いを始めた。

 

「よし。では始める。」

 

「お願いします。」

 

「むむ…」

 

「…」

 

「むむむ…」

 

「…」

 

「むむむむ…」

 

「…」

 

ルイネロが占いに集中し、しかも意外と時間がかかっているのでエイトたちには手持ち無沙汰な時間が流れる。

 

「…ちょっと長くなりそうね。私たちが邪魔してもっと時間がかかっても良くないし、向こうの部屋に行きましょ。」

 

ゼシカの言葉に同意し、水晶玉とにらめっこしているルイネロを横目にエイトたちは隣の部屋へと移動した。

 

 

「なんだ?あのジジイ、足元見やがって。」

 

「ククール…ここの壁が薄くて向こうに聞こえないとも限らないでげすよ。」

 

ククールはかなりイラついているようだ。もちろんパーティ全体が貧しくなると食事や衣類など生活レベルが下がる上、個人のおこづかいも減るからである。

 

「まあ、仕方ないよ。ここを逃せば後がないってククールも言ってたでしょ?仕方ない…仕方ないんだ…」

 

「お、おいエイト…」

 

「仕方なくても財布を握ってるのは王様だから王様には報告しないといけないよね…嫌だなぁ言いたくないなぁ…」

 

「あ、兄貴はしばらくそっとしておいた方が良いでがすね。」

 

どんよりとしたムードを醸し出し、エイトはこつんこつんと壁に頭をぶつけながらつぶやき続けている。一方、前回ベルガラックで買いたいものはほとんど買いそろえたゼシカはあっけらかんとして部屋を見て回っている。

 

「なーんか懐かしいなぁ。私、昔トラペッタでお泊りしたことあるの。母さんの知り合いの家にね。トラペッタとリーザスじゃ建築様式がちょっと違うから子供の頃のことだけどよく覚えてるわ。」

 

「へぇ、そうなんだな。修道院以外でもしょっちゅう外泊してたオレには違いもよく分からないな。」

 

「あんたはそこらへんの情緒も院長さんに教えてもらうべきだったわね。あ、この写真、ルイネロさんと…隣はお子さんかしら?えーと…え」

 

台所の横の机の上に置いてあった立て写真をもっとよく見ようとして、ゼシカは突然絶句した。

 

「ちょ…みんな…」

 

「どうしたの?」

 

「こ…これ…」

 

「なっ!?」

 

「これはまさか…」

 

「おいおい…どうなってるんだ…?」

 

写真の中には、撮影に慣れていないのかぎこちない笑みのルイネロ、そしてその横で満面の笑みで写っているのはつい最近エイトたちに決して忘れられない恐怖を植え付けてきた相手。幼い姿だが面影はそのままである。さらにその横には、エイトたちがずっと追い続けている道化師、それがこちらを見つめ冷たい笑みを浮かべている姿が写っていた。

 

 

 

 




原作との相違点

・ゲルダに船を返却した。
もともとミーティアを返還することが報酬だったので特に何か貰えたりすることは無かった。魔王がめちゃくちゃ乱暴に船を扱っていたことについては黙っていてあげた。

・ゼシカがトラペッタの町に来たことがある。
しかし前回来たときは町にセキュリティサービスはいなかったため特に影響はない。

・ゼシカとヤンガスがセキュリティサービスの正体に気づいた。
しかし何か謎が解けたわけでもないので特に影響はない。

・エイトたちがやっとルイネロに占ってもらった。
いやあよかったよかった!原作通りになって!!


レベル:変化なし

次回は短くなる予定なのでなるべく早く書くようにします。


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Chapter14 トラペッタ地方 ④

感想欄で所見を述べてくれた方々、ありがとうございました。
ドラクエ好きがもっと増えてくれたら嬉しいですね!

随分前のアンケートですが、この小説を読んでくださっている方の中にもまだドラクエⅧをプレイしたことが無かったりゲームの内容を知らないという方もお見受けしました。ぜひ遊んでみて、そうでなくてもこのゲームに触れてみてください!この小説にとっつきやすくなる云々でなく、ドラクエはとっても面白くてロマン溢れるゲームだからです!!


前話が長引きすぎた残りなのでちょっと短め。

2023/03/14 設定資料集を更新しました。






「これ…」

 

「魔王…兄貴、横のコイツが…」

 

「うん、ドルマゲス…だね、間違いない。」

 

「…ドルマゲスがこの町で数年暮らしてたってのは聞いた。んで見る限り魔王はここの占い師の親族だろ。娘か孫か…」

 

「ドルマゲスに昔会った時、家族はいないって言ってたわ。…別にその言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど、この二人とドルマゲスに血は繋がってないんじゃないかしら?」

 

「…なーんかきな臭いでがすね…こりゃあのオヤジも悪人なんじゃないでげすかね…?」

 

「…ないとは言えない…かな。」

 

今までの雰囲気とは一変、エイトたちの間に緊迫した空気が流れる。もしや自分たちは誘い込まれたのではないか。誰ともなく全員が扉の方を向き、エイトは無意識に腰の剣に手をかけた。自身の心音が拍動を速めていくのが分かるほど部屋が静まりかえった時、扉が開いた。

 

「「!!」」

 

「…なんだ?あんた達。怪物でも見るような目で。占いが終わったぞ。」

 

「…」

 

エイトは右手で未だ臨戦態勢のヤンガスやククールを制し、二人はようやく武器を持つ手を離した。

 

エイトたちが最初に入った部屋へ戻ると、ルイネロは元座っていた椅子に座りなおした。

 

「…」

 

「…占いは、どうでしたか?」

 

「なにやら緊張しているようだな?…しかも殺意まで向けてきているな、そっちの男と女。」

 

「…ッ!!」

 

「…ふん、珍しいことではない。よく当たる奴、全く当たらないペテン師。占い師というのはどうあっても恨みを買う職業だ。俺は前者だがな。…本当ならユリマにも恨まれていいはずだったんだ

 

「…」

 

「俺に恨みがあるか?俺を殺したきゃまた今度にしてくれ。人を待っているんだ。しばらく帰ってきていないが、必ず帰ってくると信じてる。だからまだ殺してくれるな。」

 

「…」

 

エイトはルイネロの顔が赤みがかっているのに気が付いた。酔っている。見ると床には酒瓶が転がっている。部屋が薄暗いので気が付かなかったが、この男は仕事中にも関わらず酒を飲んでいるようだ。それともいつもこうなのだろうか?

 

「…」

 

「…占いを頼む前とは態度が大違いだな。まあいい。運のいいことにあんたたちの途方もない願いは叶いそうだ。」

 

「…確証はあるんだろうな?」

 

「俺の腕を信用していないのか?俺は世界一の占い師、占えないものもあるが、占ったものが外れたことは一度たりとも無い。その評判はかつてこの国の王にすら届いたと聞くぞ。」

 

「なるほど。では、聞かせてください。」

 

エイトたちは目の前の人物を依然疑っている。しかしかといって他に頼れるあてもない。情報を得るだけならタダだ。それが罠か否かは後で相談すればいい話。そう思ってエイトはルイネロを促した。

 

「うむ。では見えた内容をそのまま伝えよう。

港町ポルトリンクからガケづたいに西へ進むと、そこに広がる荒野に打ち捨てられた古い船がある。なぜ水のないところにそんなものがあるのかは知らん。が、もしその船を復活させることができればおそらく世界中の海を自由に渡ることができるのは間違いあるまい。そして船を復活させるためのカギは二つの大国の中心『トロデーン城』と『アスカンタ城』にある。」

 

「これが先ほどの占いで見えたものの全てだ。何か心当たりはあるか?」

 

「どう?エイト」

 

「…確かに荒野に謎の船が置いてある、というのは耳にしたことがあります。船の情報についてももしかしたらここに…という記憶が。」

 

「…ふっ、そうか。それは良かった。ではこれで占いは以上だ。代金は確かに受け取ったからな。」

 

そう言うとルイネロは立ち上がり、上階へ向かおうとした。しかしこの機を逃してはならないとククールがそれを言葉で阻む。

 

「…ちょっと待ちな。あんたの娘について話がある。」

 

「…何だと?」

 

ルイネロはこれまでになく険しい顔つきになると、一歩ずつ階段を降りてきた。占いによって一旦緩和したかに思える空気が再び緊迫し始めた。

 

「お前、俺の娘を知っているのか?」

 

「(!…カマをかけてみたがやっぱり娘で合ってたか。)ああ、あんたの娘には散々世話になったからな。あんたがあの悪女の父親だってことも知ってる。そろそろ本性を現したらどうだ?」

 

「…」

 

「…」

 

再びエイトたちはゆっくりと各々の武器に手をかける。自然な体勢にも見えるが、相手がどう動きだしても対応できるようには構えていた。

 

「…」

 

「ちょっと待て、どういうことだ?」

 

「しらばっくれても騙されないわよ!あんたがあの『魔王』の親だってことはわかってるの!!」

 

「『魔王』?なんだ、いきなり何を言う?ユリマが悪女?俺の知らないところで何が起こっているんだ??」

 

「(…ククール)」

 

「(…ああ。これは『シロ』の可能性もあるな。)…あんた、本当に何も知らないのか?」

 

「じいさん、この期に及んでシラを切るつもりならタダじゃ済まさないぜ…?オレの仲間の命と宝物が危険に曝されたんだ。」

 

ククールの尋問は語気が強まり、ヤンガスがついに両手にオノを構えてルイネロを脅してみせたが、依然ルイネロは首を横に振るのみだった。

 

「(これは…。)二人とも、もういいよ。…ルイネロさん、大変なご無礼を申し訳ありませんでした。我々はあなたが人々に仇なす悪人ではないかと疑ってかかっていたのです。どうかご容赦ください。」

 

エイトは全面的に自らの非を認め、流れるように謝罪をした。衛兵時代から難癖をつけられてばかりだった彼にとっては手慣れた行為である。

 

「…見覚えのある謝罪だ。見ているだけでむかっ腹が立つが、どこか憎めない()()()()()とそっくりだな。…まあいい。武器を降ろせ、俺はあんたらの敵ではない。あんたらのことも知らないしな。しかし無礼を働いた代償としてウチの娘の話はしてもらおうか。」

 

ククールがやれやれとため息をついて刺突剣(レイピア)から手を離すと、ヤンガスもオノを背負いなおし、ゼシカもこっそりと後ろ手に持っていた杖を離した。

 

「では代表して僕が。…僕たちの知るあなたの娘は…」

 

 

「おお、帰ったかお前たち。して、船の情報は見つかったのか?」

 

「ええ、何とかなりそうですよ、王様!」

 

トラペッタの町から出たエイトたちはほのぼのと草を食んでいたミーティア、あれこれ錬金を試していたトロデと合流した。

 

「ついでに『魔王』の話も聞けたのよ。」

 

「それはまことか!思わぬ大収穫じゃな。道中で聞かせてもらおう。ではミーティア、向かうとしようか。エイト、次はどこに向かうのじゃ?」

 

「…王様、トロデーン城です。」

 

エイトはトロデを慮っておずおずと申し上げたのだが、真剣な顔つきにはなったもののトロデはそこまで気をもんでいる様子ではなかった。

 

「…そうか、わしの城に再び戻る時が来たのじゃな。」

 

「もし体調が優れないようでしたらトロデーン西部にある最寄りの教会で待機していただいていても大丈夫ですが…」

 

「構わん。なにより自国の惨状を直視できぬ王に王たる器はないと、わしはそう思っとる。だからこそ改めてトロデーンに向かう機会を得られてよかったわい。…では行くぞ。」

 

「!…」

 

「…何じゃ?おぬしら」

 

「…いや、なんつーか…」

 

「おっさんも王様なんだなって…」

 

「ええ…こんな言い方良くないけど、見直しちゃったわ…」

 

「なにを!失礼な奴らじゃな!!」

 

「しかし王様、僕もさっきの威厳ある王様を見て自分がトロデーンの兵士であることを改めて誇らしく思いましたよ。」

 

憤慨するトロデとそれを宥めるエイト。最早見慣れたワンシーンをはさみ、一行は港町ポルトリンクへと『ルーラ』で移動したのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─トラペッタの町─

 

カランカラン…

 

来客を知らせるドアベルが鳴り、振り向いた酒場のマスターの視線の先には占い師ルイネロがいた。ルイネロは無言でカウンター席まで歩いてくると、丸椅子にどかっと座りこんだ。

 

「いらっしゃい。最近は酒瓶だけ買って帰るのに、今日は珍しいね。」

 

「…まあな。」

 

「…」

 

「…」

 

相変わらず口下手な男だ。はぁ、とマスターはため息をつき、磨いていたタンブラーを棚へと戻すと、ボトルを取り出して二杯のブランデーグラスに注いだ。

 

「はい、いつもの。私も貰うよ。」

 

「ああ。」

 

「ユリマちゃんの話だね?」

 

「…」

 

「前来ていた旅人がトラペッタにいたね?仲間が増えていたようだったけど。」

 

「あいつら、この町に来たことがあったのか?」

 

「知らなかったのかい?まあ無理もないか。トロデーンの人間らしくてね、ドルマゲスの話をしていたよ。前回追い出したのに懲りないねぇ。」

 

「…なるほどな…。」

 

「ユリマちゃんは見つかったのかい?」

 

「…ユリマは」

 

ルイネロは少し言い淀んだが、咳ばらいを一つして続けた。

 

「ユリマは西の大陸でベルガラックを襲撃したらしい。その前は南の大陸でパルミドに潜伏していたんだと。」

 

マスターは驚いたが、表情に出るほどの衝撃ではなかった。気にせず話を進める。

 

「…歓楽街に悪徳の町。えらく荒唐無稽な話だねぇ。まさかあんたはそれを真に受けて落ち込んでいるのかい?」

 

「…どうだかな」

 

「他人の空似という可能性は?」

 

「それは無いとは言えんが…あいつら、ドルマゲスとの繋がりも示唆してきやがった。」

 

マスターのグラスを運ぶ手が止まった。ドルマゲスの話まで持ち出されては最早この話を一笑に付すことはできない。

 

「ドルマゲスとユリマちゃんは一緒にいるのかい?」

 

「それは知らん。しかしユリマが『北西の孤島』という島にいることはおおよそ間違いなく、そのためにあいつらは船を探しているらしい。今日はその船の手掛かりを聞きに俺に占いを依頼しに来たというわけだ。」

 

「ふぅん、それでこの町に…」

 

「…」

 

「…ユリマちゃんのことはあんたが拾ってきた日から知ってるよ。あれは人の優しさを見抜けるいい子だ。だとすれば問題はやはりもう一方。ルイネロさん、あんたはドルマゲスのこと、どう思う?」

 

「…わからん。」

 

「…。」

 

「だが」

 

「?」

 

「ドルマゲスとユリマが共に大悪党である可能性と、悪人ドルマゲスがユリマを唆した可能性、そしてもっと後ろにいる巨悪によって二人が操られている可能性。あいつらはその三つの内のどれかが真実だと考えているらしい。俺もそれには納得した。」

 

「…なるほどね。」

 

「…」

 

「旅人は、その旅人の言うことは信用できるのかい?」

 

「…あんたの言いたいことはよく分かる。だが、俺も占い師、その気になれば相手が嘘をついているかどうかはわかる。あいつらが善人か悪人かはともかく、徹頭徹尾嘘はつかなかった。素性の知れないあいつらが全てを解決してくれると信頼はできない。しかし信用には値すると俺は判断した。」

 

「…そうかい」

 

マスターは残った酒を一気に呷った。

 

「あんたほどの人がそう言うなら、私は三つ目の可能性を信じるよ。」

 

「三つ目の可能性?」

 

「さっきの話さ。ドルマゲスとユリマちゃんが他の悪によって操られている、って説。これを信じるのが一番精神衛生上いい。」

 

「…そうだな。俺もそれがいい。少なくともドルマゲスとのこれまでが全て偽物だったとは思いたくない。」

 

「全くだね。」

 

ルイネロもグラスを空け、それからは終始二人とも無言であった。

 

 

 

 

 




トロデの呼び方

エイト→王様
ヤンガス→おっさん
ククール→じいさん
ゼシカ→???

ゼシカってトロデのことなんて呼んでるんだろう?記憶が曖昧で…誰か教えてくれませんか?
もし知らなければトロデを何と呼ぶのがゼシカのキャラに合っているか教えてほしいです。(正直ククールも曖昧)


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第二十五章 転生者と魔術師

ちょっと今は筆がノッているので書けるうちに書いちゃって即・投・稿です!
最終話の構想を考えたのでおそらくエタることはないですが、それに至るまでの話は全然考えていないので、投稿ペースは今までとさほど変わらないと思われます…。

が、必ず完結させてみせるので感想・評価など応援よろしくお願いします!







ハロ~、冒険者ディム、もとい道化師ドルマゲスです。いや…まさか勇者たちがまだ船も持っていないとは驚きました。原作とそこまで経過時間に変わりはないと思っていたんですけどねぇ。全く誰のせいなんだか!きっとラプソーンのせいです。そうに違いない!

 

 

 

 

俺は勇者たちが出発したのを気配で感じ取ると、踵を返してさっきまでいた場所に戻った。

 

「弱ったなぁ…」

 

俺はリクライニング・チェアを出すとそこに深く腰掛けた。落ち着く。アスカンタで貰った錬金釜をU.S.A.に持ち帰って改良型錬金釜"おもちゃ箱(ビックリボックス)"に改造したことで、毛布や家具など、レシピとして伝承されていないものも作ることができるようになった。この椅子もそれで作り出したものだ。前までサーベルトとのキャンプの時などで使っていた、木を呪いで固めただけの椅子はささくれが酷かったからな…。

なんてことはどうでも良くて。問題は勇者たちが船を持っていないことだ。俺はこのまま勇者たちと一緒にサザンビークへと行こうと思っていたのだが、船がないとその後の展開で困る。パルミドからベルガラックに渡った時のように海の上を歩くのはもうこりごりだ。今は海の魔物も狂暴化してるし危ないしな。だとするとやはり彼らには古代の魔道船を手に入れて海上をブイブイ言わせてもらう必要がある。…つまり予定が狂って時間に空きができる、ということだ。

 

俺は勇者からもらったチーズ、その残りを齧った。濃厚で味わい深い…。これは竜神族も満足する味だろうな。…おほん、サーベルトや魔物たち『王家の山』班は予定が長引いてもまあ問題あるまい。引き続き戦力増強に努めてもらおう。キラちゃんは上手くやっているだろうか。魔物たちにいじめられたりしていないだろうか…やはり分身を…。いや…。

 

「私、足手まといですよね…」と口から零れた時のキラちゃんの顔が忘れられない。そしてそれに対し気の利いたことも言えずただ黙殺した自分の情けなさにも失望する。

…ダメだ、今のキラちゃんと面と向かって話せる気がしない。

 

「…ん?」

 

ぶんぶんと首を振った俺が海の方を見ると、妙なものが流れてきていることに気が付いた。赤くて、紫色で、丸くて、しかしひものようなものが出ている、馬車ほどの大きさの物体が海岸に向かって少しずつ近づいてくるのだ。興味を惹かれた俺は立ち上がってその物体を見に行くことにした。

 

俺が海辺まで行くと丁度「それ」は砂浜に打ち上げられていた。恐る恐る触ると意外と弾力がありぶよぶよしている。

 

「(魔物の死体か…?しかしどんな殺され方を…)」

 

すると俺が触ったことに反応して「それ」は突然ビクッと動いた。俺もビクッとした。

 

「生き…てるのか?」

 

俺は試しに「それ」に『ベホイミ』をかけてみた。死体なら効果は無いし、生きててもベホイミ程度の回復力なら相手が襲ってきてもすぐに鎮圧できる。

 

「…うぅ…あ…あんたは…」

 

人語…!人語を解する魔物はたいがい友好的だが、そうでない場合その賢さは脅威にもなる。俺は一歩後ずさった。

 

「だ、誰だか知らないが、た…すかった…」

 

そこまで来て俺は「それ」の色合いと声に覚えがあることを思い出した。

 

「も、もしかして、オセアーノンですか?」

 

「う…あ、ああ…。」

 

嘘だろ…。俺が知ってる「オセアーノン」はもっとイカらしい形状をしていて、もう二回りはデカかったはずだ。それが今は顔がどこかも分からない球体になり、この通り小さくなってしまっている…いや、『圧縮された』のか…?ともかくオセアーノンは俺の下僕なので心配はない。俺は『ベホマ』を唱えた…のだが。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「回復しない…?いや」

 

知っている。この状態。かつてラプソーンと初めて戦った後だ。身体を貫かれた師匠(ライラス)は回復しても遂に絶命からは逃れられなかった。コイツも同じだ。

 

「(コイツは…もう、死ぬのか)」

 

「……はぁ…はぁ…」

 

「…オセアーノン、誰にやられた?」

 

「…その声、まさか…はぁ…ドルマゲスさん…?」

 

「ええ、そうです。」

 

「…」

 

「オセアーノン」

 

「…アンタの…はぁ…せいだ。」

 

「え?」

 

「アンタと出会わなければあの女に…」

 

「あの女…?」

 

「ドルマゲス…はぁ…オマエの…知り合い…はぁ…トラペッタの…女…!」

 

「…まさか!オセアーノン!」

 

「…」

 

「おい!オセアーノン!」

 

オセアーノンだったものはそれきり微動だにしなくなってしまった。南無。俺はオセアーノンを『賢人の見る夢(イデア)』に収納すると歩き出した。安心しろ。お前の屍はサンプルとして大切に利用し、決して無駄にはしない。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「地図を見るに…ここらへんかな…っとあれかあれか」

 

俺は『王家の山』まで『ルーラ』で飛んでサーベルトに計画延長の旨を伝え、その足で大陸反対側の『隠者の家』がある森までやってきた。…サーベルトにもう少し期間が延びると伝えた時、周りの魔物たちが深く絶望しているのが見えたが、サーベルトはどんな過酷な鍛錬を課しているのだろうか…?

 

それともう一つ。先刻のオセアーノンの遺言だが、アレは間違いなくユリマちゃんを指したものだろう。オセアーノンを死に追いやったのはユリマちゃんだと彼は証言したのだ。…ユリマちゃんが杖を手にしたのはベルガラックの宿屋のはずなのだが、オセアーノンが回遊しているのはトラペッタ地方のある北の大陸とマイエラ地方がある南の大陸の間の海域だ。となるとユリマちゃんは「杖を手にする前にオセアーノンに手をかけた」ことになるが…。

そもそもユリマちゃんに関しては分からないことが多すぎるので、どうやっても推測の域を出ない。とりあえずは今できることをやろう。

 

「ごめんください。」

 

俺が扉を開けると、「スライム」と「どろにんぎょう」が出迎えた。確か寝室には「ドラキー」もいたはずだ。俺はとりあえずこの家の主の所在をスライムに聞いてみることにした。

 

「うっしっし。ぼくはこの辺じゃ一番のあまのじゃくで通っているスライムだっち。キミもこの家に住んでるじいさんに会いにきたっちね?」

 

「いいえ?じいさんのことなんて知りませんよ?」

 

俺がシラを切るとスライムは苛立ち始めた。

 

「ちぇっ!なんだっち。ここに来るやつらは大抵じいさんのことを訪ねてくるっちよ。ホントはじいさんの居場所を知りたくてウズウズしてるっちね?そうだっちね?」

 

「いや全然?」

 

「ふん!そんなら嫌でも教えてやるっちよ!ぼくはあまのじゃくだっちからね!じいさんはここから西に行ったふしぎな泉のそばにいるっち。」

 

「へー。そうなんですねー。」

 

「へへん!どうだ!頭に余分な情報を入れられて困ったっちか!!」

 

なんて扱いやすいスライム!可愛い奴め。俺がスライムを撫でてやると「ぐえぇー!やめるっち!」と彼に露骨に嫌がられてしまった。あまのじゃくとはいえちょっと傷つくな…。

…それはおいといて、やっぱりこの家の主は「ふしぎな泉」にいるのか。ならちょうどいい。俺は家を後にし「ふしぎな泉」へと向かった。

 

 

─ふしぎな泉─

 

「…」

 

周囲は青々と草木が茂り、どれも瑞々しい。泉もまわりの植物の碧に負けないほど澄んだ藍、水面には虹色の光沢が輝いている。何とも幻想的な光景だ。思わず言葉を失ってしまった。感動…!

 

「おや、こんなところに人が来るとは珍しい。…どうしたのですかな?」

 

「!」

 

…幻想的すぎて全然存在に気が付かなかった。俺はこの人に会いに来たんだった。

 

「これは初めまして。私旅人のドリィと申します。」

 

「ドリィさん。こちらこそよろしく。…む?」

 

老人は握手のために出した俺の手を掴んだ時に何か異変を感じ取ったようだ。

 

「…何か?」

 

「…ドリィさん、私に何かを隠していますね?怒らないので元の姿に戻ってくれませんか?」

 

「…」

 

この老人はかつてサザンビーク王国で宮廷魔導士として活躍していた魔術師だ。盲目だが『心眼』なる技術で世界を見ているらしく、その精度はラプソーンの呪いをも貫通する。やはり彼の前で生半可な変装は通用しないな。

 

「申し訳ございません。騙すつもりはなかったのですが…」

 

俺は『妖精の見る夢(コティングリー)』を解除し、改めて握手を求めた。…がまだ彼は何かを待っている。

 

「ですから、変化を解いてください。私を欺こうなんてそうはいきませんよ?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「あの、もう変化は解いたのですが…」

 

「な、なんですと!?それはまことか!?」

 

本当本当!今は『モシャス』も『コティングリー』も使ってないよ!

 

「失礼…いや、やはり私の見えている形とは異なる…。」

 

魔術師は俺の身体に触れると、やはり釈然としないように呟いた。

 

「わ、私はもう変化などしてないですよ!?」

 

「ううむ…では私の心眼が衰えたかな…確かに君からは少年の形をした魂が見えるのだが…」

 

「少年…?」

 

少年…

 

あ。まさか。そういうことか。

今のこの肉体の、もっと深み……魂は精神。魂は記憶。彼はきっと「この世界に来る前の俺」の魂を見ているのだ。合点がいった。

 

「なるほど…申し訳ない、あなたから見て私は確かに異様に映るかもしれませんが、あなたを欺く意図はありません。本日はお願いがあってきたのです。」

 

「…君はふしぎな人間だが悪人ではないように思える。話してみなさい。」

 

 

「ふむ。暗黒神ラプソーン…昔読んだおとぎ話の存在ではなかったのか…。そして打倒暗黒神の旅に出ている君はこの泉が持つ解呪の効能の秘密を知りたいと。」

 

「はい。そういうことで泉の水を少々拝借してもよろしいでしょうか…?」

 

「構わないよ。ぜひ役立ててくれ。」

 

「ありがとうございます!」

 

老魔術師に快諾してもらい、早速俺は水筒を泉に突っ込んで水を汲んだ。そして水を泉から持ち出そうとして…

 

「あれ…?」

 

水筒の中身からは虹色の輝きが失われている。これは…?

 

「どれどれ…む。ドリィ君、この水からは既にふしぎなチカラを感じないよ。」

 

何だと!?そんな…いや、彼の言うことだ。きっとそうなのだろう。

 

「も、もしかしてこの泉から持ち出すと効能が消えるのでしょうか…?」

 

「その可能性は十分にある。試したのは初めてだが…」

 

参ったな…。呪いを解くことができる水が持ち運べればいろいろ便利だと思ったんだけど…。

途方に暮れそうになったその時、俺の脳内に電流が走り、悪魔的発想が思い浮かんだ。

 

この水を研究所に持ち帰られないのなら、

こ こ に 研 究 所 を 建 て た ら 良 く ね ?

 

「…おじいさん、失礼を承知で申し上げます。」

 

「…言ってみなさい。」

 

「この泉に私の研究所を建ててもいいですか??」

 

「…」

 

「どうかしました?」

 

「いや、想像していたよりもかなり失礼で驚いた…」

 

「お願いします!」

 

「い、いったん私の家に来なさい…。」

 

その後、説得に説得を重ね、老魔術師は渋々(本当に渋々)研究のための簡易サイトを泉周辺に建設することを容認してくれた。

 

 

「…まあドリィ君、君の気持ちも分かるよ。」

 

老魔術師は紅茶を出してくれたので、俺もお茶菓子を出す。俺の空中から物を出す仕草にも動じないあたり、もしかしてこの人も『呪術』に心得があるのだろうか?

 

「…といいますと?」

 

「『科学者』『魔導士』両者は全く正反対の存在に見える。しかし、そのどちらも『探求者』という意味では同じ存在だと私は思っているのだよ。私も現役時代はなりふり構わず研究に没頭したものだ。」

 

…なかなか深い言葉だ。俺もその通りだと思う。だからこそ俺は「研究者」で「魔法使い」で「探索者」なのだ。それら三つが相反する存在ながら両立できるのは、根っこが同じだからなんだなぁ。

 

「…しかし君のような強引なのは初めてだ。」

 

う。謹んで反省します…後悔はしてないけど。

 

「まあ、私も特に迷惑を被るわけでないしな。気兼ねなく研究しておくれ。私も君の研究に対して元宮廷魔導士としての所見を述べるくらいのことはしてあげよう。」

 

「ありがとうございます!」

 

それは本当に助かる。師匠亡き今、魔法の話ができるのはゼシカくらいしか思い当たらないからだ。俺は嬉しくなって近くにいた「どろにんぎょう」に話しかけた。

 

「君の家のおじいさんはとっても良い人ですね!」

 

「自分、馬鹿デスカラ、オッシャル意味ガ、ヨクワカリマセン…」

 

「そいつは人間の言葉がしゃべれないっち。何度話しかけても同じことしか言わないっちよ。」

 

あ、そうか。このどろにんぎょうは人間の言葉がよく分かっていないんだったな。

 

「(君の家のおじいさんはとってもいい人ですね)」

 

「(なんと!貴方は物質語をお話しになることができるのですね。わざわざ私に合わせてくださって恐縮の極みでございます…。ええ、ええ!我が家のおじい様はとてもよくできた方です。そこのスライム、二階のドラキーとこの私がかつて見世物小屋で虐められていた時、助けてくださったのがおじい様なのです。おじい様は私たちを助けてくれただけではなくそれ以来この家に住まわせてくださいました。私たちは彼に本当に感謝しているのです。)」

 

うわすごい饒舌。久々に話せたのが嬉しかったのかな?

 

「え!?え!?どろにんぎょうが喋ってるっち!?キミはどろにんぎょうの言葉がわかるっちか!?何て言ってるっち!?」

 

「教えてほしい?」

 

「教えてほし…いや、教えてほしくないっち!いや、その…」

 

「教えてほしくないの?」

 

「いや、教えて…欲しく…あ、アンタ!どっちにしろ教えない気だっち!あまのじゃくの敵だっち!!」

 

スライムは俺の膝の上でぴょんこぴょんこと飛び跳ねる。本当に可愛いスライムだな!!俺は両手でスライムを撫で回した。

 

「ひ、ひえぇ~!!やめるっち!!!」

 

スライムと戯れる俺を見て老魔術師はニコニコと笑っている。

 

「全く。本当にふしぎな人だ、ドリィ君は。」

 

俺はその後、早速泉の周りに拠点(サイト)を建てて十数種の試験管に泉水を採取し、それぞれの試験官に薬品や魔石などを入れて分離器にかけた。この泉水がいわゆる「アモールの水」や「エルフの飲み薬」などと性質が同じなら、うまく行けば解呪の成分が抽出できるはずだ。反応が出るのは恐らく数時間か数日後である。あとでU.S.A.にいる研究者の「ホークマン」を何体か寄こそう。俺は老魔術師たちに礼を言うと次の目的地へと向かった。

 

 

 

 

 




ゼシカのトロデに対する呼び方は「トロデ王」とします。助言してくださった方、ありがとうございました!


今まで連続で勇者サイドの話を書いていたので、久しぶりにドルマゲスのモノローグ書いて難しさに戸惑いました。会話相手が増えてもその老魔術師の口調が安定しないので結構書き直しました。でも書いてて楽しかったです。


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Chapter15 トロデーン国領 ①

一週間が鬼のように早い…

みなさん感想ありがとうございます。何人もの方に悼まれてオセアーノン君もさぞ嬉しい事でしょう。

今回で設定資料や閲覧自由回含め通算50話となります。そろそろ本作もターニング・ポイント、頑張って100話以内に完結させたいと思っています。ぜひ最後までお付き合いください!







世界一の占い師による占いで、目的の船はトロデーン国領の荒野にあり、それを実用化するための情報は『トロデーン城』と『アスカンタ城』にある、ということが分かった一行。占い師はゲルダを襲い、ベルガラックを襲撃した「物乞い通りの魔王」の実の父親ではあるが、信用に足る人物だと判断したエイトは、彼の占いに従いポルトリンクに移動してトロデーン城へと向かうのであった。

 

 

 

 

くしゅんっ、とゼシカは小さくくしゃみをした。どうやら吹き抜ける風に乗って小さな砂の粒が飛んでいるらしい。

 

「風邪?大丈夫?ゼシカ」

 

「ううん、平気。」

 

「確かになんだか鼻がむず痒いでがすね。」

 

「…なるほど、見ろ」

 

ククールの指さす先を見ると、そこには草木も生えない荒野が広がっていた。

 

 

「へー、この国にはこんなところがあったのね。自分の住んでる大陸なのに、私全然知らなかったわ。」

 

ザッザッと乾いた土を踏みしめながら、一行は荒野を征く。こちらに怯えているのか、周囲の魔物は様子見をするばかりで襲ってくる様子はない。

 

「ゼシカはトロデーン城には来たこと無いの?」

 

「うん。家が…というか母さんが厳格でさ…。前に言った子供の時にトラペッタに遊びに行った話だって、あの時私がゴネまくらなかったらきっと連れて行ってもらえてなかったと思うわ。」

 

「…お前らが全員こっちから来てるから自然すぎて忘れてたが、オレは北の大陸に来るのは初めてなんだ。エイト、お前が先導してくれよ。」

 

「あ、うん。(じゃあなんで前を歩いてたんだろう…?)」

 

「そういやククールは南の大陸のドニが出身でがしたね。ゼシカはリーザス、アッシはパルミドを出てからはあてもなく山賊をやってましたから…おっさんはこんなんでも王様だからトロデーンの出身で、じゃあ馬姫様の近衛兵だったっていう兄貴の出身もやっぱりトロデーンなんでがすかい?」

 

「…うーん」

 

エイトは思わず口ごもってしまう。

 

「兄貴?」

 

もしやマズいことを聞いただろうか?そうなら謝ろうとヤンガスが思った時、珍しくヤンガスの軽口に反応せずトロデが口を開いた。

 

「…それについてはわしから話そう。」

 

「王様、別に僕は…」

 

「なんだおっさんいきなり…」

 

「…エイトには、幼少時代の記憶がないのじゃ。」

 

「…」

 

「「え…」」

 

エイトは俯いた。気まずいわけでも、トロデに自身の秘密をバラされて気落ちしているわけでもない。ただどんな顔をすればいいのか分からないだけだ。

 

自身の城が近づいてくるにつれて少し郷愁に駆られたのか、少し口数の多くなったトロデは語った。十余年前、エイトがトロデーン国領の森で倒れていたところを幼いミーティア姫が発見したこと、その後エイトは無事に回復し姫の良き友人となってくれたこと、しかしエイトはトロデーン城で目覚めた日以前の記憶を全く覚えていなかったことなど、仲間たちにとっては興味深い話でもあった。自分の話をされて少し恥ずかしそうにしているエイトを除いては、そんなことはもうよく知っているという風に歩き続ける馬姫以外の全員がトロデの話に聞き入っていた。

 

「…というわけで姫の懇願とわしの王権のゴリ押しの末にエイトは近衛としてトロデーンで働いておったというわけじゃな。」

 

「「…」」

 

「エイト、お前さんも苦労してんだな。オレほどじゃないけど。」「一言余計よ!」

 

「兄貴。昔のことを思い出せなくたって、今の兄貴にはあっしらがいるから大丈夫でがすよ。」

 

「ヤンガスの言う通りよ。ねえエイト、子どもの頃のことを覚えて無くても、私たちがあなたの思い出になってあげるから…だから、元気だして?」

 

「…うん」

 

最初からそんなに気にしてないんだけどな、と言いたい気持ちを抑えてエイトは頷いた。そもそも記憶がないのだからいくら考えようと時間の無駄である、とずっと前にエイトは割り切っていたのだ。しかしトロデのドラマチックな語りによって皆が自分のために感傷的な気持ちになってくれているのに、それを白けさせるわけにはいかない。

 

「しかし、エイトは一体どこの子なのじゃろうか…」

 

「これはアレだ。こういうのは実は高貴な血筋ってのが相場なんだ。どっかの王族の隠し子だったりしてな?」

 

「わっ、わしはそんな不義理はせんぞ!?」

 

「誰もおっさんだとは思ってないから安心していいでげすよ。」

 

「もうヤンガス…あ!王様!あれじゃないですか?」

 

「うん?おお!これが…」

 

荒野の中に悠々と構えるひときわ大きな岩。確かに船の形をしている。

 

「ううむ…間違いない!これはトラペッタの占い師が見せたという船に違いない!本当にこんなものがあるとは…!」

 

「いや、なんでじいさんがこんなどでかい船の存在を知らないんだよ。自分の国の領土なんじゃないのか?」

 

ククールはぼやいたが、トロデの耳には入らなかった。

 

「この船を我が物とすれば憎きドルマゲス、そしてわしらを脅かす『物乞い通りの魔王』を世界の果てまで追うこともできようぞ!」

 

「でも、こんな大きな船をどうやって海まで運ぶの?私にはちょっと見当もつかないけど…」

 

「せめてもうちょっと海に近い場所なら考えようもあるんでげすがね。」

 

「こんな時のための占いだろ?カギはトロデーンとアスカンタにあるって話じゃないか。じいさん、あんたそんなんでもトロデーンの王様なんだろ?心当たりとかないのか?」

 

「わしの政治は国民の福祉に注力してばかりで考古学関連は専ら学者たちに任せっきりだったからの…そうじゃ!今も城が無事ならば、学者たちの残した史料がきっと図書館にあるはず。カギというのはトロデーンの図書室にある情報のことに違いない!早速行くぞ!さあっエイトよ、支度をせい!!」

 

「おっさん、張り切ってるとこ悪いでげすがもう日が暮れそうでげす。さっき見かけた山小屋で一休みしてから行きましょうや。ねっ、兄貴?」

 

「そうだね。ゼシカもククールも一日歩いて疲れたんじゃない?」

 

「まあな、ゼシカの前で情けないカッコはできねぇと思っていたが、そろそろ足が棒になりそうだ。」

 

「残念、私は弱さも見せてくれるようなヒトがタイプなの。…ありがとエイト、しょーじきすごく辛かったの。さっさと戻って休みましょ!」

 

「…なんじゃ、軟弱なやつらよの…」

 

「じゃああっしらは馬車で寝るからおっさんは先に行ってていいでげすよ。」

 

「そんなことするか!わかったわい!さっさとその山小屋とやらに戻るぞ!」

 

巨大な船を発見してテンションが上がっていたトロデは鼻っ柱を折られる形になったが一人で城まで行く気概や体力はない。トロデはしぶしぶ馬車に戻り、一行は、踵を返して山小屋で休息をとることにしたのだった。

 

 

─荒野の山小屋─

 

「んー、いい天気。これなら今日中にこの荒野も抜けてお城まで行けそうね。」

 

「ほー、こっからでも船が見えるな。しかし考えれば考えるほどなんであんなとこに船があるのか疑問だぜ。」

 

「なっ、なんだぁ!?」

 

ヤンガスの驚いた声。見ると井戸からスライムたちが何匹も飛び出てきた。しかしこちらを襲うようなことは無く、伸びをしたり走ったり身体をゆすったり各々のんびりとしているようだ。

 

「魔物じゃ!皆のもの、行け!」

 

「…王様、あのスライムに敵意はなさそうですよ。…あ、そうだ。」

 

エイトはスライムたちに近づいて、体を伸び縮みさせていた個体に声をかけてみた。

 

「ぷるぷる。人間さん、何か用があるの?」

 

「こんにちは、君たちの中に『エース・スライム』って子はいるかな?」

 

そう、エイトは「三匹の魔物と戦って実力を示し、自分のもとへ送る」というモリーとの約束を着実に進めていた。『エース・スライム』はその三匹の魔物の中の一匹である。そして知ったのだ。魔物の全てが人間と敵対しているわけではなく、このスライムたちの様に人間に友好的な魔物、スカウトモンスターのように独自の信念と仁義を持つ魔物、そしてトラペッタやリーザスのように人間を守る魔物もいるということに。ちなみに残る二匹である「さまようよろい」の『ジョー』と「プチアーノン」の『プチノン』はモリーのもとへ送還済みである。

 

スライムたちは集まって相談しているようだ。しかしエイトたちには聞こえないので、しばらく寛ぎながらスライムたちの会議を眺めて待つことにした。

 

「『エース・スライム』?誰のことだろ?」

 

「ぷるぷる。この群れのリーダーは僕だから僕が『エース・スライム』だ!」

 

「「それはないよ。」」

 

「あ!多分『きょーじゅ』のことじゃない?」

 

「でも『きょーじゅ』はドルマゲスくんが『とらぺった』ってとこに連れて行っちゃったでしょ。」

 

「違うよ、そのあと『あすかんた』に連れて行ったから今はそこにいるんだよ。」

 

「そうだねぇ。」

 

「そうだっけ?」

 

「ぷるぷる…あっ!もしかして、『スラリン』のことじゃないかな?」

 

「「それだ!!」」

 

話がまとまったようだ。最初に話しかけたスライムがエイトの近くにやってきた。

 

「ぷるぷる。人間さん、きっとキミたちが探しているのは『スラリン』だよ。」

 

「ありがとう。その『スラリン』はどこにいるのかな?」

 

「ぷるぷる。『スラリン』は変わったスライムで、今はむしゃしゅぎょーの旅をしてるんだ。多分山の向こうの大きなお城の前でしゅぎょーしてるんじゃないかな?」

 

武者修行の旅。おそらくその個体がスカウトモンスターに間違いないだろう。エイトは礼を言い、仲間たちと改めて荒野へと繰り出した。

 

 

「ねっねっ、エイト。今朝のスライム!スライムってああやって見ると結構カワイイのね!私、思わず見とれちゃったわ。」

 

「うん。いつもの魔物はこっちの命を狙ってくるものばっかりだもんね。」

 

「思い出すでげすなぁ。あっしと兄貴が出会って、その後初めて戦った魔物がスライムでがしたねぇ。」

 

「懐かしいなあ。ヤンガスはあの時からずっと頼りにしてるよ。」

 

風抜けるトンネル。一行は現在荒野の先のトンネルを抜け、いよいよ城へと進んでいた。道中には「バベルボブル」などここらではかなりの強敵として知られる魔物と相まみえることもあったが、ベルガラックの魔物たちと血みどろの戦いを繰り広げた彼らにとっては相手にもならなかった。

 

「おお。これがトロデーン城か…。でもなんか…」

 

「なんて大きいの…でも…」

 

「「(禍々しい…。)」」

 

「…美しかった我が城の何て荒れ果ててしまったことか。今やトロデーン城は魔物の巣窟となってしまっているのじゃ。…早く図書室へ行くぞ。エイト。…エイト?」

 

エイトは目的の『スラリン』に勝ち、モリーのもとへ行くよう促していた。これでモリーのおつかいは終わりだ。エイトは肩の荷が下りる思いがした。

 

「はぁ。全く暢気なもんじゃ。おーい!エイトよ!行くぞ!」

 

「あ、はい!王様!じゃあまたねスラリン!」

 

どこかマイペースなエイトにいい意味で毒気を抜かれたのか、トロデもさっきまでの悲痛な表情も幾分か柔らかくなったように思える。

 

入り口を覆っていたイバラをゼシカが焼き払い、入城するなりヤンガス、ゼシカ、ククールは息を呑んだ。眼前に広がるのはイバラによって無残に破壊された城。手入れの行き届いていたであろう庭園、大きな噴水、笑顔溢れる国民。最早見る影もなく…

 

「人…人なの…?」

 

「こりゃあ酷い…」

 

ゼシカは破壊された故郷を、ククールとヤンガスはイバラに変えられてしまった大切な人を想像して寒気がした。

 

「(もしリーザスの村がこんなにされていたら、私はトロデ王やエイトみたいに冷静で気丈に振舞えるのかな…)」

 

「お城ごと…たくさんの人をこんな目に遭わせるなんて…」

 

「…アイツ、ドルマゲスを早いとこ捕まえないとな。こんな光景を見ちまったらしばらくは安心して眠れねぇ。」

 

「やっぱり、マイエラ修道院でオディロのじいさんが言ってたことは正しかったでがす。あっしらは今までどこかこの旅を楽観的に見ていたところがあったでがすよ。」

 

「そうじゃな。城ごと滅ぼす…改めて城の惨状を見ると生半可な力でなせることではないわい。…トロデーンでは当時、姫の十八の生誕祭が行われておったのじゃ。トロデーンの国民の多くもこの日は城に集っておった…。そんなときにわしは何ということを…」

 

「…。…一応祈っておいた。これでこの城の人たちが救われるってわけじゃないが…まあオレと、じいさんへの気休めさ。」

 

「…ククールよ、感謝する。」

 

「(ドルマゲス…もし兄さんを殺したのも、このお城を滅ぼしたのも、あなたの意思でやったことだとしたら、私はあなたを絶対に許さない…!)」

 

ゼシカはポケットに入っている『金のブレスレット』を握った。あの日、ドルマゲスから贈られて以来着けることも捨てることもできていない、微かに磯の香りのするブレスレット。ゼシカは未だに彼を心から憎むことはできていなかった。

 

「僕も…色々思うところはあるよ。でも今は図書室へ行かなきゃ。」

 

「…エイトの言う通りじゃ。進もう。わしもここに長居したいわけではない。姫もいるしの…」

 

その後、一行は荒廃したトロデーン城を探索し、道中姫が以前よく弾いていたというピアノや全てが始まった封印の間でトロデが想いを馳せ、図書室までやってきた。

 

「図書室も随分荒れ果ててしまったのう…たくさんあった蔵書も少し少なくなっておる…」

 

「誰もいない町は盗賊にとって格好の獲物でがすからね…もちろんあっしはやってないでげすよ。」

 

「こんなにたくさんの本の中から船の史料なんて見つかるのかな…?」

 

「こりゃ、ここで一夜を過ごすって可能性もありそうだ。骨が折れるな…」

 

ククールたちはこれから始まるであろう大作業に覚悟していたところ、明るい声が響いた。見ると、エイトが窓際の本棚から一冊の本を持ってきている。

 

「あっ!これじゃないかな?『荒野に忘れられた船』。」

 

「「早っ!?」」

 

「お、おお…確かにこの絵はあの船に相違ない…でかしたぞ、エイト!」

 

「さっすがはエイトの兄貴!」

 

「え、エイトって探し物が上手なのね…!」

 

「ううん、端から探そうと思ってたらあそこの本棚は本が一冊しかなくて、その中央にこれ見よがしにとこの本が置いてあったから…」

 

「ふぅん、オレたちの他にも誰かが船の情報を探しに来たのかもな?とにかく早く読んでみようぜ。」

 

 

エイトたちは目的の本を読みふけった。細かい注釈など細部まで含めて読むとかなり時間がかかる読み応えのある書物ではあったが…

 

「…む、いつの間にか日は落ちていたようじゃな。」

 

「もうそんなに経つのか。ここは一日中黒い靄に覆われているから全然気が付かなかったな。」

 

「しかしこれだけ読んでもわかったことは結局、あの船のあった荒野のあたりが大昔は海であったことくらいか…これではどうしようもないな。今現在もあそこが海だったのなら何も苦労はないのじゃが…」

 

「『カギ』は図書館じゃなかったのかも?」

 

「いんやゼシカ、やっぱりあの占い師がデタラメ言ってたのかもしれねぇぜ。」

 

『物乞い通りの魔王』に傷つけられたゲルダと一番近しい人間であるヤンガスは、魔王の親である占い師ルイネロをやはり信じきれてはいないようだ。

 

「まあ落ち着けよヤンガス。」

 

「考えたらだんだん頭に来たでがす!あの占い師、絶対あっしらにテキトーなことを教え込んだに違いないでがすよ!今からトラペッタにいって一発殴って…」

 

「ヤンガス落ち着いて…」

 

「止めないでくだせぇ兄貴!」

 

図書室を飛び出そうとするヤンガスをエイトが引き留める。

 

その時、雲の隙間から満月が顔を出し、月の光が部屋に満ちた。

 

「月…?」

 

「なっ何じゃあれは!?」

 

「イバラの影が…」

 

図書室を覆っていたイバラに満ち満ちる月光が当たり、その影がまるで「窓」のような形になって壁に現れた。

 

「っ!この気配…魔法だわ…!このイバラ、そして満月。何かとても強い魔法のチカラを感じる…!」

 

「ああ。だが、悪いものじゃないな。…一体なんだ?」

 

「兄貴、あの壁、影がまるで窓みたいな形になってるでげすよ!?」

 

エイトはごくりと唾を呑んだ。

 

「ちょ、ちょっと近づいてみようか…?」

 

その言葉に頷いた仲間たち。安全のため端へと非難させたトロデ以外の四人は壁の前に立った。

 

「おかしい…月の光は当たってるのに、オレたちの影は壁には映らない…。」

 

「…」

 

怪しいが、神秘的。そう思ったエイトが右手で壁に触れると、()()()()()

 

「わっ!」

 

 

「?ここは…」

 

「月の世界へようこそ、お客人。」









エイトたちはちゃんとトロデが食事をしていたり寝ている時に『ルーラ』で該当地域まで飛んでスカウトモンスターと勝負し、終わるとすぐに帰っているのでトロデから特にお咎めはありません。


原作との相違点

・荒野の山小屋でスライムたちの合体が既に解けている。
彼らを助けると貰える「スライムのかんむり」は貴重なアイテムなので、プレイヤーにとっては結構痛い変更かもしれない。

・初ダンジョン。
攻略済みの「滝の洞窟」、行く必要のない「リーザスの塔」、魔物のいない「旧修道院跡地」、そもそも存在を認知していない「剣士像の洞窟」を全て無視して、ついに初めてのダンジョンに挑んだ。ちなみにトロデーン城にボスはいないのでボス戦はまだ先の話。初ボスはいつになるのだろうか。

・図書室の蔵書が少ない。(どうでもいい)
持って行ったのはもちろん知識を欲したドルマゲス(第八章参照)。なんなら城が滅ぶ前に盗んでいた。(本人は借りているだけのつもり)船の本を分かりやすいところに置く心遣いをしたのも彼である。

・初「月の世界」。
だってアスカンタにも行ったことないもん。そういえば彼ら「願いの丘」のダンジョンも無視してますね。


エイト
レベル:24

ヤンガス
レベル:22

ゼシカ
レベル:22

ククール
レベル:25

トロデーン城内で「はぐれメタル」を討伐したため上がった。


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第二十六章 転生者とメダル王国

今回は短めです。







ハロー、道化師ドルマゲスです。勇者たちが船を手に入れるまでの時間つぶしとして暗黒神復活阻止のための下準備を整えているわけなんですが、よく考えたらいつ勇者たちが船を手に入れたって分からないですよね。どうしましょう…なんてね。ちゃんと『サテライトハエ男』、ラプソーンを追尾させているものと同じ型の監視機をトロデ王につけてます。ふふん。

 

 

 

 

俺が次に向かったのは『メダル王国』。北の大陸と南の大陸の間に位置する小さな島国の国家だ。かつて俺が『ポルトリンク』からマイエラ地方へ渡る定期船からもその王城は見えた。本来ここに来る予定は無かったのだが、勇者たちがまだ船を持っていないと聞いて来ることにした。船が無いなら王城で鉢合わせる危険性も無いからな。普通はいつも通り変身していればいいのだが、痛いことに俺は初めて訪れた時にこのドルマゲスとしての姿で来訪してしまっているので、変身したままではせっかく集めた「ちいさなメダル」のカウントがリセットされてしまう。しかも四六時中の変身は体に毒だ。『モシャス』ならMPを、『妖精の見る夢(コティングリー)』なら集中力を大きく消費する。その意味でも安全にメダル王国を訪れられるのは今しかなかったわけだ。

 

「ふう、着いた。」

 

ギイィ…

 

俺が扉を開けて中へ入ると、早速メダル王女と大臣が出迎えてくれた。

 

「あら?…まあ!ドルマゲス様じゃないですか?お久しゅうございますわ!」

 

「ええ、ご無沙汰しております。メダル王女。メダル王はご健勝にてお過ごしでしょうか?」

 

「ええ、元気ですわよ。でもまだベッドからは出られなくて…ドルマゲス様の顔を見られないことをさぞ残念がられるでしょうね。」

 

「ドルマゲス殿、実に数年ぶりでございますな。今日もちいさなメダルを持ってきてくださったのでしょうか?」

 

「もちろんです大臣。それと今日は大事なお願いがありまして。」

 

「ほう、お願いですと?」

 

「なんでしょうか?ドルマゲス様の頼みとあらばわたくし、一肌脱いでみせますわ。ドルマゲス様はわたくしが王家の使命を果たした最初のお客様…お客様?お客様は少し違いますわね…」

 

「王女、王女。そういうことは何でもよいのですぞ。」

 

メダル王女は頑張り屋だがまだまだ若い少女だ。加えてこの城が小さな島国なのでどこか世間とズレているところもある。しかし王や大臣も含め悪い人ではない。

 

「それではまずメダルを…」

 

俺が王女と大臣のコントを遮るように囁くと、王女はハッとしたように玉座に座りなおして襟を正し、大臣は元居た場所へ戻る。しかし閑散としてるなぁ。王女も大臣も普段は何してるんだ?

 

「おほん、では改めて…よく来てくださいました。わたくしはメダル王女。世界中に散らばる『ちいさなメダル』を集めております。わたくしのもとへちいさなメダルを持ってきてくだされば様々な褒美と交換いたしましょう。」

 

「王女よ、これが私の集めてきたちいさなメダルです。お納めください。」

 

俺はメダルの入った革袋を王女に献上した。

 

「まあっ、なんと美しい…!えぇとひぃ、ふぅ、みぃ……27枚ですね。それでは前回のものと合わせて82枚です。褒美として『きせきのつるぎ』を差し上げます。」

 

おおっ、きせきのつるぎか。サーベルトにあげようかな?

 

「これが83枚になったら『オリハルコン』を差し上げます。どうかがんばってくださいましね。」

 

…。

 

…は???おいおいおいおいちょっと待ってくれ。

 

「お、王女様。あと一枚であの『オリハルコン』を賜ってくださるのですか?」

 

「ええ。ですからがんばって集めて来てくださいね。」

 

待った。この機を逃すと次はいつここに来られるか分からん。超硬度と魔力を持つ希少な鉱物「オリハルコン」、どうしても欲しい。喉から手が出るほど欲しい。うむむ…

 

「…王女様、失礼を承知で申し上げます。」

 

「なんでしょう?」

 

「き、きせきのつるぎはお返ししますので、それをちいさなメダルの代わりとしていただくことは…か、可能でしょうか…?」

 

「「へ?」」

 

王女と大臣はポカンと口を開けた。何を言っているのか理解できないという顔だ。うん、ですよね。

 

「え…えええっ!?」

 

「な、何をおっしゃいますかドルマゲス殿!そのようなことは認められておりませんぞ!?」

 

「お願いします!!どうしてもオリハルコンが欲しいのですっ!」

 

「えっ、えっ、ええっ!?だっダメですよ!そんなことは!」

 

「お願いします!お願いします!!この通りです!!」

 

俺はトラペッタで師匠に土下座した時よりも深く頭を擦り付けて土下座した。頭を下げて研究ができるなら、こんな頭いくらでも下げてやるさ。てかオリハルコンホントに欲しい。ホントに欲しいオリハルコン。もう今からオリハルコンでどんな実験や開発ができるかで頭がいっぱいになりそうだ。おおオリハルコンよ。しんでしまうとはなさけない!

 

「ええええっ!!どっ!ドルマゲス様!!頭を上げてください!!」

 

「ドルマゲス殿!?そ、そんなことをしてもダメなものはダメなのですぞ!?早く頭を上げてくだされ!」

 

「じゃあ今度いっぱいメダル集めてきますから!なんなら利子も付けます!!」

 

「じゃ、じゃあいいのかしら…?」

 

「おっ、王女!?なりませんぞ!?メダルを受け取って褒美を与えるという儀式を行うことは、メダル王家に代々伝わる使命。王女の裁量でおいそれと捻じ曲げてよいものではないのです!!」

 

「うう…」

 

「だ、ダメでしょうか…?」

 

散々ごねたが、無理を言っているのも分かっている。…王族に対してかなり不敬であったことも。国によっては普通に捕まるだろう。仕方ない、またお忍びで来るか…俺は肩を落とした。

 

「お待ちになってくださいましドルマゲス様!だっ大臣!

 

「なんですかな?」

 

「これでもしドルマゲス様のちいさなメダルを集める気が失せてしまいましたらどうしましょう…!」

 

「なっ!?そ、それは…」

 

「今現在メダルを集めてくれていらっしゃる方は世界でドルマゲス様のみ…そのドルマゲス様がメダルを集めてくれなくなると…」

 

「し、使命の遂行不能…王家の断絶…ヒッ…」

 

「大臣、わたくしたちのプライドと王家の存続を天秤にかけてくださいまし!」

 

王女と大臣は何やら小声で相談している。お?この流れは…もしや…?

 

「し、しかし王女…たかが一枚、されど一枚ですぞ…!」

 

「大臣?あなたも初めてドルマゲス様がいらっしゃったとき、嬉しさのあまり『道化の衣装』を無償で譲渡したでしょう?あれも本来は褒美のひとつなのを分かっていまして?」

 

「グッ…それは…その…一時の気の迷い…と言いますか…」

 

「あら?でしたらわたくしが一時の気の迷いでメダルを数え間違えたとしましても、文句は言えませんですわよね?」

 

「!…はい…」

 

なにやら話はまとまったようだ。メダル王女はニッコニコでこちらへ歩み寄ってきた。

 

「ドルマゲス様?申し訳ありません、わたくし、メダルの数を数え間違っていたようですわ!」

 

「あ、あはは、王女はおっちょこちょいですなー…」

 

「???と、言いますと?」

 

どういうことだろうか。きせきのつるぎは没収?それとも…!

 

「お恥ずかしい限りですわ…正しくは83枚。…大臣?」

 

「はい、王女様」

 

大臣は一旦奥に戻ると、大きな箱を抱えて戻ってきた。

 

「褒美として『オリハルコン』を差し上げましょう。」

 

「え!?いいのですか!?」

 

「も、もちろんメダルは83枚あるのですから…!ね?大臣!」

 

「そ、そうですとも!!」

 

やったーー!!!!マジで嬉しい。何事も言ってみるもんだな!!ふふふ。

 

「では、ありがたく頂戴します。」

 

俺は王女から下賜された『オリハルコン』の入った箱を受け取った。

 

「ドルマゲス様、く・れ・ぐ・れ・も!今後もメダル集めをがんばってくださいましね!!」

 

「お、おお?もちろんでございます。」

 

俺は王女に手を取られぶんぶんと振り回された。凄い気迫だ…!

でもゴメン、しばらくここに戻るつもりないんだよね。

 

「(ふう…あとで王になんと弁明すればよいものか…)さて、ドルマゲス殿、お願いというのはなんですかな?あまり強引なものは引き受けかねますが。」

 

「ええ、はい。私の願いはただ一つ。この先現れるであろうメダルを集める者には私の素性を明かさないでほしいのです。」

 

「?そんなことでしたら容易いですぞ。…そもそもそんな者が現れる保証もないですし

 

「ありがとうございます。それとこれを。」

 

俺は遠隔通話のできる石板こと携帯念話参號(フォンⅢ)を大臣に手渡した。

 

「これは?」

 

「それは私の作った魔法道具でしてね。それがあれば私といつでも連絡が取れます。何かあればいつでもお申し付けください。」

 

「ほほうそれは珍しい。ではありがたく頂戴しますぞ。」

 

「それでは私はここらでお暇させていただきます。」

 

「またいらしてね、ドルマゲス様。」

 

「いつでも、お待ちしておりますぞ!」

 

俺は恭しくお辞儀をすると、オリハルコンときせきのつるぎを持ってさっさとその場から去った。

 

 

─隠者の家─

 

「ほう、オリハルコン…間違いなく本物、見るのは久しいな。」

 

「おじいさん、オリハルコンを見るのは初めてではないのですか?」

 

俺は実験の結果報告と、老魔術師に研究についての指南を仰ぐため、再びサザンビーク近くの森に舞い戻った。『ふしぎな泉』に立ち寄ったところホークマンたちは書類をまとめている最中だったので、先に老魔術師の家で待っておくことにしたのだ。俺はオリハルコンを箱から出して老魔術師に見せていた。

 

「ドリィくん、私は世界一の大国サザンビークの宮廷魔導士だったんだ。魔石オリハルコンの研究をしていたことももちろんある。」

 

盲目のはずの老魔術師は目を細めた。それは魔石の放つ水色の輝きによってか、過去を想起したことによるものか。

 

「本当ですか!?とっ、当時の資料など残っていたりは…」

 

「ああ、あるとも。見たいかい?なら持ってこようか…」

 

「おっ、お願いします!」

 

老魔術師が席を立つと、俺は小さくガッツポーズをした。彼とお近づきになっていて本当に良かった。オリハルコンについての資料がもらえるなら性質を調べる手間が省けるし、加工方法なども分かるかもしれない。

 

「はぁ…ドリィ、じいさんの研究から甘い汁を吸おうって魂胆がみえみえっち。」

 

「全く君はあまのじゃくなんですから。素直に『ドリィさんは賢い人だっち』って言えばいいものを。」

 

「さっきのは嘘偽りない本音だっち!!」

 

「(ところでドリィさん、オリハルコンの研究をして、何に使用するおつもりです?)」

 

「(うーん、それはまだこれから考えるのですよ、どろにんぎょう。むしろオリハルコンを何に使うか、それを考えること自体が目的であるとも言えるかもしれませんね。)」

 

俺がスライムの口に手製のカップケーキを突っ込んで機嫌を取っていると、老魔術師が研究室から戻ってきた。

 

「目が見えないと探し物一つにしても一苦労だな。しかし見つけた。これがオリハルコンを研究した時の資料だ。よもや私の研究が再度日の目を浴びようとはな…」

 

「ありがとうございます。早速拝読させて…」

 

「じいさん!コイツ、一回何か読みだすとてこでも動かないっち!さっさとこの家から出て行ってもらうっちよ!」

 

「ほっほっほ、つれないのうスライムよ…しかし私も今から物置を整理しようと思っていたのだ。悪いがドリィ君、少し席を外してもらおうかな。その資料は君にあげるよ。存分に役立ててくれたまえ。」

 

「はーい。」

 

俺は聞いたのか聞いていないのか分からないような空返事をすると、目線を資料から外さぬまま立ち上がって隠者の家から退出した。退出するまでに1回頭をぶつけ、3回転んだ。

 

 

─ふしぎな泉─

 

「あ、ドルマゲス所長!」

 

「…」

 

「所長?」

 

「…」

 

「わわっ!泉に落ちますよ所長!?所長ー!?」

 

「…わっ!!危なっ!?」

 

もう一歩踏み出せば泉に真逆さまというところで間一髪、ホークマンたちが助けてくれた。あぶねー…。歩きながら資料を読むのはこれからやめておこう。ホークマンたちは書類をまとめ終え、今は二つ目のサイトを建設している途中だったようだ。こちらを心配そうに見ているホークマンの肩越しに骨組みだけのテントが見えた。

 

「あ、ありがとうございます…。助かりました。」

 

「いえ。でもお気をつけて…」

 

「所長、これが研究結果報告書です。」

 

「ありがとう。ではここからは私が研究を続行します。報告書を読んで適宜指示を出しに行くので、それまでは自由にしていてもらって構わないですよ。」

 

「「承知しました。」」

 

俺がそう言うと3匹のホークマンは一礼してどこかへ飛んでいった。U.S.A.に戻ったのかな?俺はそれを見送ると、報告書に目を通した。

 

やはり。俺の目論見通りふしぎな泉の泉水は、ただの水と虹色に輝く解呪物質に分離することができたようだ。分離を成功させた実験はサンプルナンバー05…「ふしぎなきのみ」か。魔力増強のきのみなら泉水の魔力を分離させられるのも納得だ。俺が報告書から目線を上にあげると、テーブルの上には抽出された解呪物質が入っている試験管が数本置いてある。

 

物は試しとばかりに、俺は前まで使用していた椅子─木材に呪いをかけて椅子の形に縛りつけていたもの─に試験管の内容物を振りかけてみた。すると椅子は、まばゆい光を放ったかと思うと元のバラバラだった木材に戻った。

 

「おおっ…!これは興味深い…」

 

後はこれをこの泉から持ち出しても使えるようにすれば良いのだが…

うーん…とりあえずそれは後で考えよう。俺はまたオリハルコンの資料を読み始めた。

 

 

「ん、もう夜か…」

 

俺がオリハルコンの資料と実物を見比べたり、オリハルコンを使った仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)や強化セキュリティサービスの構想を練っているうちに、夜は更けてしまっていたらしい。俺は大きく伸びをした。空には大きな更待月(ふけまちづき)…4日か5日前くらいが満月だったのだろうか?

 

「…?」

 

しかし何か妙だ。この場が謎の魔力に満ちている。「ふしぎな泉」の魔力とは違う、感じ慣れないチカラだ。俺が目を凝らして見ると、ゆっくりと、しかし異常なスピードで影が伸びていくのがわかった。

 

「!…これは…まさか…」

 

骨組みのテントに当たった月光が影を作り、影はもう一つのテントの白幕へと伸びていく。虹色の泉も相まってますます幻想的な雰囲気だ。俺はオリハルコンや資料を『賢人の見る夢(イデア)』に収納し、影の行く末を見守った。

 

「(ここで来るのか…イシュマウリ…!)」

 

かつてトロデーンに出発するまでイシュマウリを探し続けた6年間ではなく、今ここに『月影の窓』が現れるのはきっとただの偶然ではないはず。…であればここで入らない選択肢は…ない!

 

俺はテントの幕に出現した影の扉を迷いなく開いて進入した。

 

「…!」

 

 

「!ここが…」

 

「月の世界へようこそ、お客人。」









全然短めになりませんでしたね。反省反省。

てかほんとにメダル王国の国民って普段何して暮らしてるんでしょうね。


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Chapter16 アスカンタ国領 ①

もう春ですねー。春ですよー。
スギ花粉とかいう生物兵器のせいで執筆に支障が出てました。失礼千万。







荒野の古代船を復活させるべく手掛かりを探す一行は、呪いで荒廃したトロデーン城を探索し、図書室で古代船について記述された本を発見するが、その内容は古代船復活に直結するものではなかった。全員が肩を落としていたところ、図書室に月光と共にふしぎな魔力が満ちて壁に扉が現れ、エイトたちは月の光に導かれるまま扉へ入っていくのだった。

 

 

 

 

「「『未来国家』アスカンタ??」」

 

「うむ。パルミドやベルガラックで聞いた、アスカンタ王国の別称じゃ。何でも、ここ最近で急激に国力を伸ばしておるらしい。わしらの想像も及ばぬような面妖な道具を大量に生産しておるのだという噂じゃ。」

 

「未来国家…なかなか大層な名前でがすね。まああっしは全然興味なんてないでげすが。」

 

「そんなこと言っちゃって。ヤンガス、歩くスピードが早くなってるわよ?」

 

「やれやれ、『未来』だなんてくだらないな。…『予定説』。先のことってのは全部神サマがお決めになってることなんだ。オレたち人間には到底どうにかできるようなもんでもない。『未来国家』なんてのはたわごとさ。」

 

「ククール、ちょっと待って…歩くの早いよ…!」

 

現在、一行はドニの町までトロデーン城から移動し、そこで準備を整えたのちアスカンタ王国を目指して歩いていた。天気は晴天、気候は温暖、ミーティアもご満悦の旅日和である。マイエラ地方の魔物は最早相手にもならないのでエイトたちも気を張らず幾分かリラックスできているようだ。

 

「しかし、『月の世界』なんてものが実在するとはな…わしの人生、決して短くはないが、まだまだ世には知らないことが多すぎるわい。」

 

「…ま、修道院も追い出されてみるもんだな。おかげで珍しいものも見れたんだ。」

 

そう、エイトたちがあの時、影の窓枠から入り込んだ先に広がっていたものは、想像だにしなかった場所『月の世界』だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─半日前 月の世界─

 

「ここ…えぇ?だってさっきまで私たち、トロデーン城に…あれ?」

 

「(瞬間移動した!?いや、そんな感覚は無かった…!)」

 

「ここがあの世ってやつですかい?もしもそうならかなり退屈そうな場所でがすね。」

 

「見ろ、向こうに小さな館がある。道はそこに続く一本しか伸びてないし…行ってみようぜ。」

 

トロデーンから月影の窓を開いたエイトたちは眩い光に包まれたかと思うと、全く見たこともない静かで幻想的な空間に立っていた。地面にあたるであろう浮遊する半球は見慣れない装飾が施されており、煌めきで囲われた見えない道は、ククールの言う通りふしぎな造形の建造物へと続いていた。

 

「ん?兄貴、後ろにある窓枠からうっすらトロデーンの図書室が見えるでがす。おそらくここを通れば元の世界に帰れると思うでげすよ。」

 

「そうなの?詳しいねヤンガス。」

 

「いやあ、知ってるってわけじゃないですがね。でも盗賊だった時の名残で勘だけは冴えてるんで、信用してもらって大丈夫でがすよ。まっ!とにかくせっかくヘンテコな世界にやって来たんですし、ククールの言う通りあの館に行ってみましょうぜ!」

 

「うん。そうだね。…トラペッタの占い師が示していたのは図書館じゃなくてこのことだったのかもしれない。」

 

しかしそうは言っても人間、未知なるものを恐れる生き物である。エイトたちは一歩一歩を緊張しながら踏み出しつつ小さな館へと進んでいった。

 

 

館の内部は更にふしぎなオブジェで溢れていた。一定のリズムで上下に動く光の玉、たくさんの楽器のようなもの、回転し続ける大きな青い球体…。しかしそれらに見惚れるより早く、エイトは部屋中央のせりあがった柱の上で佇む青髪の人物を発見した。

 

「(誰だ…?)」

 

「…ここに人間が来るのは随分久しぶりだ。月の世界へようこそ、お客人。」

 

「!?」

 

様子を窺っていた矢先、青髪の人物はこちらに背を向けたまま口を開き、そのまま振り返った。

 

「か、勝手に入ってきてしまって失礼しました。私たちは迷い込んでここに来た旅人です。…ここは月の世界と言う場所なのですか?」

 

「そうとも。ここは月の世界で、私の名前はイシュマウリ。月の光の下に生きる者。…ふふ、迷い込んだ…か。君たちは迷い込んだのではなく、『窓』に導かれたのだよ。」

 

「え…。」

 

イシュマウリと名乗る男性は、この不思議空間の例に漏れず神秘的な雰囲気を湛える人物だった。しかし悪人や魔物のような邪気は感じない。エイトが振り返ると、仲間たちも頷きを返した。とりあえず話を聞く価値はありそうだ。

 

「さて、いかなる願いが『月影の窓』を開いたのか?君たちの靴に聞いてみよう…」

 

イシュマウリは携えていた竪琴をポロンと弾き鳴らした。空気の振動は「音」となって実体化し、エイトたちの靴に吸収された。

 

「靴?ちょっと(あん)ちゃん何を…」

 

「…ふむ。荒野に忘れられたあの船を再び海の腕に抱かせたいと言うのだね。それなら容易いことだ。」

 

「「!?」」

 

まるで()()()()()()()()()()()()()()()のようにピタリと悩み事を言い当てられ、思わずエイトたちに緊張が走る。もしも彼がドルマゲスや『物乞い通りの魔王』の手先の者であるならば、ここで一戦交えるのも止む無しだ。

 

「おや、驚いた顔をしている。…ああ、説明をしていなかったね。」

 

「…」

 

「…昼の光の下生きる子よ。記憶は人の子だけのものとお思いか? その服も、家々も、家具も、この空も大地も、皆過ぎていく日々を覚えている。物言わぬ彼らは、じっと抱えた思い出を夢見ながらまどろんでいるのだ。月の光はその夢…記憶を形にすることができる。」

 

「…夢…記憶?」

 

「すこし疑わしいかな?であればもう少しやってみせよう。」

 

イシュマウリはさらに竪琴の弦をその長く美しい指で弾いた。心地良い音色がエイトたち…正しくはエイトたちと彼らの服に吸い込まれていく。

 

「…ふむ、君の名前はヤンガス、山賊だったが今は足を洗っているんだね。良いことだ。そちらのお嬢さんはゼシカ・アルバート、リーザスという村の貴族なのだね。そこの青年はククール。ククール…いや、やめておこう。君も貴族だったようだが、君の服はかつて貴族だった過去をあまり思い出したくないらしい。最後に君は…。」

 

「?」

 

「(おや、これは…。ふふ、なんとも数奇な血筋…これも星の筋書きか…)エイト。トロデーンという王国で兵士をやっていたようだね。」

 

「…!!」

 

エイトたちは驚きで開いた口がふさがらなかった。万物に命が宿る(アニミズム)。そんなものは昔からずっと語り継がれているただの御伽噺だとこの場の誰もが思っていた。ところがどうだ、目の前のこの男はそれを実際に証明してみせたのだ。

 

「ご所望なら君たちの服や靴にもう少し深い記憶を教えてもらうが…」

 

「い、いえ結構よ。ありがとう、あなたの言っていることが嘘やデタラメではないことはわかったわ。」

 

エイトは半歩下がって小声でククールに囁いた。

 

「(ククール…どう思う?この人…)」

 

「(見た目は普通だが…本当に物から記憶を見ているとしたら、どう考えても人間のなせる技じゃないな。…まあいいんじゃないか?あの手の顔は敵じゃない。本当に質の悪い奴ってのはドルマゲスおじさんやマルチェロくんみたいにユニークな顔立ちになるからな。)」

 

「理解を得られてよかった。…さて、本題に戻ろうか。打ち棄てられた船を再び大海原へと還してやりたいのだったね。」

 

「へ…ヘチマウリの兄ちゃん!そんなことができるんですかい?」

 

「イシュマウリ、だよヤンガス。…君たちも知っての通り、あの地はかつては海だった。その太古の記憶を呼び覚ませばいい。大地に眠る海の記憶を形にするのだ。ほら、このように…。」

 

そう言うと、イシュマウリは再び竪琴を弾いて音楽を奏でた。美しい音色に、思わずエイトたちも聞き入ってしまっていたのだが…

 

ブチンッ

 

「あ…弦が…!」

 

「ふむ……。やはりこの竪琴では無理だったか。これほど大きな仕事にはそれにふさわしい大いなる楽器が必要なようだ。さて、どうしたものか…。」

 

「…」

 

この部屋には竪琴がいくつも置いてあるが、やはり特別な竪琴でないと物の記憶は読めないのだろうか。イシュマウリは少し考えこんだあと、何かを思いついたように手を打った。

 

「そうだ!『月影のハープ』は確かまだ昼の世界に残っていたはず…。あれならばきっと此度の大役も立派に務めてくれるだろう。」

 

「月影のハープ?」

 

「よく聞くがいい。大いなる楽器は地上のいずこかにある。君たちからその気配を感じない…ということは君たちがまだ訪れたことのない場所…しかしそう遠くない場所でそれは役目を果たす(とき)をじっと待っているはずだ。人の子よ、船を動かしたいと望むなら月影のハープを見つけ出すといい。そうすれば今すぐにでも荒れ野の船を大海へと私が運んであげよう。」

 

「月影のハープ…聞いたことある?」

 

「…いや、知らないでげすね。申し訳ない…。あ、でもゲルダの奴は竪琴なんてものは持っていなかったはずでがすよ。」

 

「細かい話はあとにしましょ。ねぇイシュマウリさん、私たちが『月影の窓』を出ちゃうと、また次の満月を待たなくちゃいけないの?」

 

「そんなことはない。今回『窓』は君たちを選んだ。君たちが願いを叶えるまで、月の光はいつでも君たちに夢を見せるはずだよ。」

 

「…エイト、それならいったん外に出て歩きながら考えましょ?トロデ王なら何か知ってるかもしれないし。」

 

「なるほど。そうしたほうが良さそうだね。ではイシュマウリさん、僕らは『月影のハープ』を探しに行ってきます。そして見事、ハープを持ってきたあかつきには…」

 

「ああ、必ずや船に海原の夢をみせてあげよう。」

 

イシュマウリはにっこりと微笑んだ。エイトたちは手を上げてそれを見届けると、『月影の窓』をくぐりぬけて元の世界へと戻ったのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─これが半日前の話。エイトたちは事のいきさつをトロデに話し、その後冒頭に戻る。

 

「そのイシュマウリとやらが言うにはわしらが訪れたことのない、しかしそう遠くない場所に目当ての竪琴はあるんじゃろう?それならアスカンタ王国しかあるまいて。」

 

「確かに。それなら占い師が言っていた『カギ』がトロデーンとアスカンタにある、ってのも筋が通っていることになるな。」

 

「そのとおりじゃ。」

 

一行は野を越え山を越え川を越えて教会まで辿り着いた。魔物との戦闘が楽だと移動もスムーズなものだ。

 

「おお、ここは見晴らしが良いの。遠目にアスカンタ王国も見えるわい。そこの教会で少し休んでから出発することにしようぞ。」

 

「(兄貴…ドニで準備した後すぐこの教会まで飛んでくれば良かったんじゃないでがすかね…?)」

 

ヤンガスが訝し気な視線をエイトに送るとエイトは少しばつの悪そうな顔をした。どうやら川沿いの教会に『ルーラ』で移動した方が早いことに気が付いていなかったようだ。その恥ずかしさを誤魔化すかのようにエイトは以前から気になっていたことをトロデに尋ねてみる。

 

「そういえば王様、アスカンタ王国のパヴァン王は確か姫の生誕祭に際して、余興に出演する旅芸人として()()()()()()()()()()()()()()()()()()と聞きます。その理由などはご存じなんですか?」

 

「「!?」」

 

「はぁ!?え、ちょ、ちょっとなんでそんな大事な情報黙ってたの!?」

 

「おい、おっさん!これはどういう了見でげすか??」

 

「エイトもエイトだろ。最初にアスカンタ城の前を通過した時に教えてくれれば良かったじゃないか。」

 

あ、マズいこと言っちゃったな、と口を押さえるエイトだったがもう遅く、エイトとトロデはゼシカたちにじりじりと距離を詰められ始めた。トロデはため息を吐くと、悩み顔で眉間に手を当てた。

 

「…だからこそ、あの場でお前たちには言わんかったのじゃ!アスカンタ王パヴァン、彼は聡明で民想いの心優しい王だが、意志が弱く優柔不断なきらいがある。故に分からん。あの王が妻に関すること以外であそこまで真っ直ぐに、熱烈にドルマゲスを進めてくる理由がわしにはどうしても分からなかったわけじゃな。つまり…」

 

「「つまり?」」

 

「アスカンタもドルマゲスの野郎に洗脳されている可能性がある、ってことでがすね、おっさん?」

 

「「!!」」

 

「…思い描ける最悪のシナリオだった場合の話じゃ。自治都市であるトラペッタとは違い、王国であるアスカンタ、しかもその中枢たる王が洗脳されていた場合、わしらが王国に安易に侵入すると思わぬ目に遭う危険性があると判断した。あの時はオディロ院長からドルマゲスは南東に向かったとの言伝を貰っていたから、大人しくそれに従っていたに過ぎん。実際ドルマゲスはあの時アスカンタにはいなかったようじゃしな。」

 

「じゃあ今になってアスカンタ行きに文句の一つも出さずに承諾したのは…」

 

「いずれは行かねばならぬ場所。来るべき時が来たと感じたからじゃな。それに今のお前たちはベルガラックの魔物の圧倒的な暴力にも耐え忍び得る強大な力を有しておる。もし兵士に囲まれたとしても、そう簡単には遅れは取らんじゃろ。」

 

「まあ、確かに嫌と言うほど死んで戦闘力は上がった実感はあるな。体力や魔力もそうだが、なにより踏んだ戦闘の場数は一般人のそれと桁違いだって自覚はあるぜ。」

 

「なるほど…よし、ならまずはそこの教会でしっかり英気を養って、辺りを警戒しながらアスカンタ城に乗り込もうってことですね!」

 

「ああ、それなんじゃが…」

 

「?」

 

「よく考えたらわし、ずっと馬車に乗っておるから大して疲れてないわい。このままアスカンタまで行くとしようぞ。」

 

「「!?」」

 

先程までの聡明さはどこへやら、急にいつもの調子に戻ったトロデにエイトたちは盛大にずっこけた。

 

「おっさん!おっさんと違って俺たちは今日ず~~っと歩いてんだ!少しくらい休ませろい!」

 

「じじい…あんたが馬姫様の代わりに馬車を引いてみるか…?」

 

「なんじゃなんじゃ…相変わらず軟弱なやつらじゃの…わしが若い頃は朝から晩までバリバリ動いていたもんじゃが…あーあー嘆かわしいわい。」

 

「エイト~?」

 

「うん?どうしたのゼシカ?」

 

「トロデ王、一発殴ってもい~い?♡」「やめたげて」

 

額に青筋が浮き出たまま拳を振り上げ、ニッコリ微笑むゼシカを窘めている間にヤンガスとククールがトロデとケンカを始め、全てが収まるころには結局全員疲れて教会のベッドにダイブする羽目になったのだった。









本作の勇者一行で一番の苦労人はエイトだろうな~。次いでククールかヤンガス?ミーティアは責任も背負わないけど迷惑もかけないから中立だとして、一番気楽に生きてるのはトロデ…いやゼシカ!?ゼシカなの!?

次回は続きなのでさっさと書きます。

原作との相違点

・イシュマウリと初対面。
アスカンタに立ち寄っていないので月影のハープの気配が感じ取れず、ヒントが出しづらかったが、トロデの判断とトラペッタでの占いが功を奏し無事にアスカンタを目指すことができた。

・『未来国家』アスカンタ
現在、アスカンタ王国は『ある会社』と密接に提携しているため技術革新が凄まじい。

・トロデがパヴァンを疑っている。
トロデは今のエイトたちならアスカンタ王国とも戦えると思っているが、彼は未来国家アスカンタに大量のセキュリティサービスが配備されていることを知らない。


エイト
レベル:24

ヤンガス
レベル:22→23

ゼシカ
レベル:22→23

ククール
レベル:25


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Chapter17 アスカンタ国領 ②

もう花粉をモチーフにした仮想敵を作ってそいつをボコボコにする話でも書こうか知らん。


はい。続きです。今更な感じが凄い補足ですが

「一行」→エイト、ヤンガス、ゼシカ、ククール、トロデ、ミーティア
「エイトたち」→エイト、ヤンガス、ゼシカ、ククール

のつもりで書いています。今まで分かりにくかったら申し訳ない。








『窓』の導きにより異世界へいざなわれたエイトたちは、そこで月の民イシュマウリに船を動かすために『月影のハープ』という竪琴が必要だと言われる。実際にイシュマウリのふしぎな能力を目の当たりにしたエイトたちは彼ならばと一抹の思いをイシュマウリに託し元世界へと帰還、トロデの判断によって今や『未来国家』と呼ばれる大国アスカンタへ向かうのだった。

 

 

 

 

「ねぇククール、あんたのお兄さんってどんな人なの?」

 

「ん?ゼシカにその話、したことなんてあったか?」

 

「この前トロデ王が言ってたわ。」

 

「(ジジイ…いや、別に言うなとも言ってないしな…まあいいか)…オレの兄貴は『マルチェロ』ってんだ。マイエラ修道院の元聖堂騎士団長で、プライドの高いイヤミな男さ。」

 

一行は「川沿いの教会」を旅立ち現在は道なりに進んでいる。優しい朝日の気持ちいい、本日も晴天である。アスカンタ城は目と鼻の先だ。

 

「えぇ…あんたとそっくりじゃない…」

 

「何か言ったか??」

 

「いーえなにも?…でもお兄さんのこと、そんなふうに言うのは良くないと思うわ。」

 

「でもよゼシカ、あの聖堂騎士団を束ねる団長ってんだから…その性格も窺い知れるってもんじゃないでげすか?」

 

「う…」

 

ゼシカはマイエラ修道院で聖堂騎士団から受けた仕打ちを思い出して苦い顔をした。確かに、『神の剣』を自称する組織とは思えないほど傲岸不遜で暴力的な男たちをまとめているというのだから、その時点でろくな輩とは思えない。不当な扱いに怒り狂う自分とヤンガスとトロデ王を引っ張って修道院の外まで連れて行ってくれ、そこでぶっ倒れたエイトには今でも頭が上がらないのだ。

 

「でも、ゼシカの言葉も一理あるよククール。僕やヤンガスには兄弟姉妹がいないから…」

 

「…ああ、ゼシカの兄貴は…そうだったな。」

 

「…。」

 

エイトはゼシカを気遣ってククールに耳打ちしたのだが、ククールが普通に返答してしまったのでそれを耳にしたゼシカは俯いた。

 

「…」

 

「…私、サーベルト兄さんが好き。一人の人間として尊敬してるし、家族としても愛してる。アルバート家…いえ、リーザス村の誇りだった。」

 

「…ん」

 

ゼシカは顔を上げ立ち止まる。それを横目で見たトロデも気を利かせて馬車をゆっくりと停めた。

 

「聞いて。私…兄さんを殺したドルマゲスを許せないの。でも…」

 

「…」

 

「…心のどこかで彼を信じちゃってるの。本当はドルマゲスは兄さんを殺してなくて、いつか兄さんはひょっこり現れるんじゃないかって…」

 

「…ドルマゲスはゼシカが小さいころから時々リーザスの村に現れてたんだよね。」

 

「そこで情が移っていたのかもしれないでげす。」

 

「…」

 

ドルマゲスの狙いはそれ─今のゼシカのように自分を疑えなくさせるのが目的で村に訪れていたのではないか…?とゼシカ以外のメンバーは考えたが、誰も口に出して言うことはしなかった。そうすればきっとゼシカの精神はさらに不安定になってしまうだろう。

 

「それでゼシカは旅をしてるんだよな?」

 

「…そうよ。だからこそ私はこの旅でドルマゲスの正体と真実を暴くの。それが兄さんへの弔いにもなると思うから…。これが私の悲願で、母さんとの約束でもあるの。」

 

「うん、そうだね。ドルマゲスの正体を暴くのは僕たちの目的でもある。一緒に頑張ろう!」

 

「あっしは初めは兄貴の行くところならどこへでも…って思ってたでげすが、ゲルダの奴をいじめた『物乞い通りの魔王』を一発ぶん殴ってやるって目的ができたでがす。」

 

「ああ、『魔王』を追うことはおそらくドルマゲスを追うことにも通じるだろうからな。…オレはオディロ院長に命じられたからここにいるだけだが、せっかく乗り掛かった舟だ。最後まで付き合うぜ。」

 

「うむ。おぬしら気合は十分じゃな。わしも早く憎きドルマゲスを捕え、姫とわし、そしてトロデーンにかけた呪いを解かせなければならん。ここに全員の利害は一致しておるわけじゃ。改めてこれからもよろしく頼む。」

 

トロデの言葉にエイトたちは力強く頷いた。ひょんなことから始まった会話だが、最終的には仲間たちの結束を強める言葉でまとめたトロデは、やはり人の上に立つ者の器だなとエイトは心の中で思った。

 

「して、おっさん。アスカンタ城はいつ着くんでげすか?」

 

「あほう、目の前を見てみよ。…ここがアスカンタ城じゃ。」

 

ヤンガスが言われるがまま空を仰ぐと大きな城が崖に隠れるようにそびえたっていた。

 

「お、おお…こいつが…こりゃでけぇ!敷地こそトロデーンよりは狭いでげすが、あの中心の塔の高さはトロデーンのそれじゃあ到底敵わないでがすね。」

 

「ヤンガス!おぬしわしの城を侮辱するのか!」

 

「ちょ、ちょっとおっさん!感想を述べただけでげすよ!!」

 

「はぁ…お前らはすぐにそうやって(いさか)う。もうちょい慎ましく生きてみたらどうなんだ?」

 

「はいはい王様行きますよ!城内に入ったら気をつけろって言ったのは王様なんですからね!」

 

「う…ううむ、悪いな。よし行くぞエイトよ!」

 

その言葉に続いて、一行は高く広い階段を上ってアスカンタ城に入城した。

 

「~っと!待って待って!」

 

「どうかしたゼシカ?」

 

ゼシカは眉間に指を当てながらトロデに質問した。

 

「あーっと、トロデ王?今回は城に入っても大丈夫なのかしら?ほら、ベルガラックの時は…」

 

あ…!とエイトは口を押さえた。トロデはベルガラックでは魔物だからという理由で不当に町を追い出された。今回も場合によっては追い出される可能性があるのだ。しかしトロデはそんなことは承知の上とばかりに首を横に振った。

 

「心配はもっともじゃ。…しかしわしはこの国の王パヴァンの言葉をこの耳でしかと聞かねばならない。誰に言われたわけでもない、ただわしがそうするべきだと思っただけじゃ。…おぬしらに迷惑をかけるつもりはない。城内に入ってミーティアを安全なところに隠したら、わしは荷台から出て周りから見えぬよう袋に忍び込んでヤンガスに背負ってもらう算段じゃ。」

 

「へ、へぇ。そうなのね。じゃあいい…のかな?」

 

「それあっしに迷惑かかってないでげすかね…」

 

「なあエイト、このじいさんって昔からこう…アクティブなのか?」

 

「まあ、ね。」

 

謎の意気込みを見せるトロデを連れ、今度こそ一行はアスカンタに入城した。

 

 

─アスカンタ城─

 

城内はかなり…いや途轍もなく『変わって』いた。しかしこれを『異常』とは言えまい。アスカンタの国民にとってはこれが新しい「日常」なのだから。

 

「…!」

 

「…!」

 

一行の誰しも言葉が出なかった。それもそのはず、城内はまるで別世界だった。魔物は闊歩し、しかし住民はそれに怯えるような所作は見せず、なんなら「デンデン竜」や「スライムベス」、「ドラキーマ」などに餌のようなものをやっている初老の男性の姿も目に映る。…しかしここまでならばトラペッタの町でも見られた光景だ。何より目を引いたのはその街並みである。

 

「あれは…何?」

 

「鉄の魔物か…?いや違う!中から人が出てきた!乗り物じゃないか!?」

 

「兄貴!あれを見るでがす!道路が動いてる!」

 

「見たことのない建造物…どういう構造なんだ…?」

 

「地面は石ではない何か…黒っぽい物質で完璧に整備されておる。…うむ、質感は硬くて滑らか…こんなものは自然界には存在しとらん、おそらく人工物じゃろうな…。」

 

目に映る全てが『未知』。(おのの)きながらもエイトが一歩を踏み出したその時、今しがたくぐりぬけたばかりの城門の壁から声がした。聞きなれない…聞いたことのない質の声だ。

 

『ガガ…ようこそいらっしゃいました旅の方。こちらはアスカンタ治安維持局外務課、ただいまから皆様には国民安全保護のための入国審査を受けていただきます。…ご心配なく、「スキャン」を受けていただくのみ、十数秒で終了いたします…。そのまま楽な姿勢でお待ちください…。ガガガ…』

 

「おいっ!何者だ!姿を現せ!」

 

ヤンガスが壁に向かって凄むも、壁には小さな穴がいくつか空いているのみで人の気配はない。

 

「…オレたち、どこからか監視されてるみたいだな。」

 

「でもどこから…?高台の方からここは死角になっていて見えないわよね?」

 

一方で、エイトは「スキャン」という言葉になんとなく嫌な気配を感じていた。言葉の意味は全く分からないが、声の主は「国民安全保護」という言葉を使った。そして近くに衛兵らしき人間はいない。つまり「スキャン」という言葉の意味が『遠隔から入国者が危険因子か否かを判断する何らかの(すべ)』であるならば…

 

「王様、こちらへ!」

 

「うおっ!?」

 

一か八か、エイトはトロデを抱きかかえ自分のコートで覆い、服の中にトロデを隠す形で来るであろう「スキャン」を待った。

 

『…「スキャン」終了…。!?しょ、少々お待ちください…ガガ…』

 

再び壁から声がするも、やはりそこに声の主はいない。

 

「何者なんでがすかね…?この声は」

 

「もしかしてその石壁の中に人がいるんじゃ?」

 

「…そもそも入国審査ったって門以外に何も内と外を隔てるものがないだろ。こんなの審査なんて言えるのか?ほら、結果なんて待たなくたってこの通り入国…ぶっ!?

 

ククールは何もないところで顔を打ち、しりもちをついた。

 

「「!?」」

 

「ククール!?大丈夫!?」

 

「う…何だ…?これ…」

 

「…」

 

ゼシカが恐る恐る触れると、確かに何もないと思われた空間に硬い感触があった。

 

「透明の…壁…!」

 

「窓みたいなもんでげすか?あっしには全く見えないでげすが…」

 

「う…うむ、窓も、硝子(ガラス)の純度を高めれば限りなく透明に近くなるとは聞いたことがある。しかしこれは…まるで空気の如き透明度!なんという純度の硝子か…!?」

 

「なんにせよ痛ぇな…」

 

『ガガ…お待たせして申し訳ありませんでした。一つ()()()()を検知いたしましたが、確認を取ったところ問題はないことが判明したため、改めて歓迎いたします。ようこそ旅の方!アスカンタ王国へ!』

 

壁からの声がそう告げたかと思うと、駆動音と共に目の前に会った透明の壁が取り去られた。…正しくは「取り去られたような気がする」である。何せ見えないのだから。エイトは胸を撫で下ろし、トロデを服から出した。

 

「ぶはーっ!はぁ…はぁ…エイト…おぬしわしを殺す気か!!」

 

「えー!?いや、そんなつもりは…も、申し訳ありません!」

 

「全く…わしを庇ってくれたであろうことには礼を言うが、もう少し手心をじゃな…」

 

「おっさん!そんなことはどうだっていいでがすよ!それよりほら!目の前には待ちに待った『未来国家』!!くぅ~!楽しみでがす!さあっ!兄貴、行きましょう!」

 

「ほらエイト!ゼシカ、じいさんに馬姫様も!モタモタしてると置いてくぜ!」

 

「ヤンガス、待ちに待ってたんだ…しかもククールまであの調子だし…」

 

ゼシカは呆れ顔で言うが、ヤンガスとククールはさっさと城内へと飛び出して行ってしまった。

 

「はぁ…やれやれ。エイト、私たちも行きましょ?」

 

「…よし。王様、しばらく荷台から出ないでくださいね。じゃあ姫、行きましょうか。お待たせゼシカ!行こう!あっ!ヤンガス財布忘れてるよー!ククールは逆にゴールド使いすぎないでねー!!」

 

「…。」

 

「…うんっ!私ももうちょっとしっかりした方が良いわね!!」

 

遠くでヤンガスとククールの返事が聞こえる。面倒見のいいエイトはまるでこのパーティのお母さんだ。…エイトが風邪でも引いて寝込もうものならこのパーティの統率がどうなるか…ゼシカは考えるのをやめ、もしそうなっても自分が支えられるようにしよう!とだけ決心するのだった。

 

 

「『家魔量販店』…?」

 

「ククール、『家魔』って何か知ってるでげすか?」

 

「いや、知らないな。面白そうだ、見てみるか?」

 

飛び出したククールは、とりあえずどこの町でも見る武器屋防具屋道具屋を後回しにして、「家魔量販店USA」なる看板がかけられた店に入ってみた。財布を取りに帰るのを面倒くさがったヤンガスもククールについてきた。読み通り店内には見たことのない品物がズラリと並んでいる。

 

「いらっしゃい、おや、見かけない顔だね。旅人さんかい?」

 

「ああ。ところでばあさん、『家魔』ってなんだ?聞きなれない言葉だが…」

 

「ああ、『家魔(カーマ)』ってのは"家庭用魔力機械器具"のことさ。魔力を込めると動く人工物さね。別売りの『魔力玉』ってのを使えばあたしらのように魔法を使えない人間でも扱えるんだよ。」

 

「ほう?じゃあばあさん、これは何だい?」

 

「お目が高い。これは『ヒンヤーリ』と言って、食品を冷気によって長時間保存することのできる箱さ。新鮮な食材が新鮮なまま食べられるよ。」

 

「なんと!そりゃ驚いたでがす!…えーとそんじゃばあさん、こっちの中に樽が入った箱はなんでがすか?」

 

「これは『グルピカ』。手洗いじゃあ面倒な衣類をこの箱に入れて起動させれば、あとは放っておけば勝手に洗ってくれるのさ。家事の時間短縮にもなるね。」

 

「そいつはいい。なんせオレたち旅人の服はいつも汚れてて、しかも洗う暇なんてものもないからな。じゃあ端の鈍重そうな黒い箱は?」

 

「これは最近市場に出回った最新家魔『シロクロ』さね。百聞は一見に如かず。御覧あれ。」

 

「?」

 

ククールとヤンガスが『シロクロ』なるものを覗き込むと映像が流れ始めた。内容は二人の女性が料理を披露するだけの番組であったが、そんなことより、ただただ迫りくる『未来』の濁流に翻弄され、思わず二人とも座り込んでしまった。

 

「…あっはっは!どうだい旅人さん、何もかも信じられないだろう。これが『シロクロ』。今や情報は家にいたって得られるのさ。そしてこれら三つを合わせて『三種の神器』。"ゆーえすえーほーるでぃんぐす"で発明されてアスカンタ国民の生活水準を大きく上げた三つの家魔さ。」

 

「ひえぇ…と、とんでもないでがす…」

 

夢幻(ゆめまぼろし)…魔法の類じゃないってのか…?未来…なめてたな…」

 

結局ククールはどうしても気になっていた『グルピカ』だけを購入し、両腕に抱えて馬車まで戻ることにした。

 

 

一方エイトとゼシカも動く床や鉄の乗り物などに心躍らせながら王城へと向かっていた。

 

「これっ!エイト!これ動く床!楽でいいわね!」

 

「うん。そもそも地面が完璧に(なら)されてる。これならいくら歩いても疲れないだろうね。」

 

「エイト!あれ見てあれ!」

 

「ん?どれ?」

 

キャッキャと騒ぐ二人。一方で馬車の荷台に隠れているトロデは不満たらたらだった。

 

「わしが覚悟してこうやって馬車に身を隠しておるというのにおぬしらは…!」

 

「あっ……」

 

「も、申し訳ありません。少し静かに…」

 

「ちがーう!!わしにも外の景色を見せるのじゃ!」

 

「(あ、そっちなのね)」

 

「しかし王様、やはり今の…そのお姿を町や城の人に見られるのはまずいのでは?」

 

「少しくらいならいいじゃろう。きっと町の者も体調の悪い人だと見紛うに違いない。」

 

そう言うとエイトが判断を下す前にトロデは荷台からぴょいと飛び出た。

 

「ほお~これは確かに圧巻!非常に興味深いわい!どれ、向こうの方はどうなっとるのか…!」

 

「トロデ王!…もう、仕方ないわね…」

 

『未来国家』の街並みを見たトロデは本当に楽しそうであり、ゼシカとエイトは少しだけ気を抜いてしまった。

 

それが間違いだった。

 

「…」

 

「ん?」

 

「…」

 

「ま、待てわしは…」

 

ヴーッ!ヴーッ!ヴーッ!

 

老人に貰った餌を拾い集めて持っていた壺にしまっていた「デンデン竜」の視界に運悪くトロデが入り込んでしまい、デンデン竜はモンスターのものとは思えないほど機械的な鳴き声を上げてトロデを追い始めた。

 

「何!?今の音!?…って!トロデ王~!?」

 

「王様!?今向かいます!」

 

「おおお~!す、すまんかったエイト~!わしが間違っておった~助けてくれぇ~!!」

 

慌ててトロデとデンデン竜の間にエイトは立ちはだかり、振り下ろされる拳を受け止めた。

 

「やっぱり硬い…ッ!そして重いッ!」

 

常人なら受けただけで吹き飛ばされるであろう重い一撃を、しかしエイトは受け切った。これも経験のなせる"わざ"だ。

 

「こっちよドラゴン!『メラミ』!」

 

ゼシカの放った大きな火球がデンデン竜に直撃する、デンデン竜は2mほど吹き飛ぶとギロリとゼシカの方を向いた。

 

「あ、ヤバいかも…?」

 

しかしデンデン竜はゼシカには目もくれず、再びエイトの後ろのトロデを狙おうとした。

 

「まずいっ!王様逃げてっ!」

 

デンデン竜は前足でエイトを押さえつけて動けないようにし、トロデに向かって炎の息を吐き出した。

 

まずい!エイトは直感で主君の危険を感じ全力で抜け出そうとするも、信じられないパワーで前足は固定されており、動かすことができない。ゼシカも必死に攻撃を続けているが見向きもしない。エイトが己の無力さを嘆き目を閉じた瞬間、ドゴォッという音と共にヤンガスがオノでデンデン竜を殴り飛ばした。

 

「おっ王様!無事ですか!?」

 

トロデはククールに抱えられており、炎の息に掠って火傷を負うようなことも無かったようだ。エイトは心から胸を撫で下ろした。

 

「落ち着けエイト、じいさんなら無事だ。と言ってもちょっとだけ危なかったがな。」

 

「兄貴!これは一体どういう状況でがすか!?」

 

「分からない!急にそいつが僕らを襲い始めた!」

 

「なーるほど。よく分からないでげすがつまりは…」

 

「ああ、あのカエル野郎をぶっとばしゃいいわけだな!」

 

「ええと…そう!行くよみんな!」

 

エイトとククールがはやぶさの如き4つの剣戟を繰り出し、ゼシカが『ヒャダルコ』を唱えた。そして三人がバックステップで飛び退き、戦場に残ったのは氷漬けのデンデン竜とオノを大きく振りかぶったヤンガス。

 

「まじん斬り」。当たれば会心という大技…しかし今は()()当たるだろう。なんせただでさえこんなに大きな的が、さらに氷漬けで指先一つ動かせないのだから。

 

「どりゃあっ!!」

 

「ガァァァ…ガガ…」

 

大きな破砕音がし、煙が晴れた後には、無残な姿となったデンデン竜の残骸があった。

 

「ふぃ…」

 

「…一体何だったんだ…?」

 

エイトたちはデンデン竜の死体を覗き込み、見えたものに顔を強張らせた。

 

「これは…!?」

 

「!コイツ…生身()()じゃない…!?」

 

デンデン竜の残骸には赤青のコードやよく分からない複雑な基盤が肉に交じって見え隠れしている。それはつまるところ…

 

「まさか…」

 

「「人造モンスター…!?」」

 

「おいおい…こんなものが存在してていいのか…?」

 

一行の背筋に悪寒が走った。ヤンガスとエイトはトラペッタの町を、ゼシカは故郷リーザスの村を思い出した。ということはやはりドルマゲスはこの国に関わっていたのだ。疑念は確信へと変わった。

 

「…」

 

ヴーッ!ヴーッ!ヴーッ!

 

けたたましい音が再び閑静な住宅街に響く。

 

「!?増援か!?」

 

見ると、先ほどの鳴き声を聞きつけたのか、「ブチュチュンパ」「サイコロン」「コサックシープ」など何匹もの魔物がこちらに押し寄せて来ていた。

 

「これは…マズいだろ…」

 

「お…おお…」

 

「!!王様!もう一度僕の服の中へ!命に代えてもお守りします!」

 

「すまぬ…!お前たち、必ず生き延びるのじゃぞ!」

 

迫りくる魔物に対し、ヤンガスとククールが前衛、ゼシカとエイトが後方支援という陣形を取ったが、魔物たちは前衛のヤンガスやククールの攻撃など意に介さず、真っ直ぐにエイトを狙ってきた。

 

「ヤバい!エイト行った!!」

 

「兄貴!!!」

 

「!?(マズい…この数、捌ききれない…!)」

 

絶望の二文字が頭をよぎった瞬間、高らかな声が響いた。

 

「『OFF(オフ)』!!止まってくださーいっ!」

 

その声に呼応するように魔物たちはいっせいに動きを止め、まるで糸の切れたマリオネットのようにばたり、ばたりと倒れていった。

 

「…?」

 

「一体何が…?」

 

事態を飲み込めない一行の前に、追い打ちをかけるように巨大な影が音もなく舞い降りた。

 

「!?」

 

「き、『キラーパンサー』!?…いや違う、それよりずっとデカいし、脚も多いでがす!!」

 

「何よ…こいつが人造モンスターの親玉ってワケ…?う、受けて立つわ…ッ!」

 

「王様は絶対に守る…!」

 

白銀の皮膚に深緑のたてがみ、6本の脚を持った異形の「キラーパンサー」に、今まさに一行が挑まんとした時、「キラーパンサー」の()から誰かが降りてきた。

 

「おっ!お怪我はないですか!皆様!」

 

「「??」」

 

降りてきた人物は金髪の少女、背丈はゼシカより少し低いくらいだろうか?知った顔ではないが、少なくともこちらに対する敵意は感じない。

 

「…あんたはあっしらの敵でがすか?」

 

「てっ!敵だなんてとんでもない!私は治安維持局からの通報を受けてセキュリティサービスたちの暴走を止めに来たのです!皆様には本当にご迷惑をおかけして、なんと申し開きをすればよいか…!」

 

「…じゃあ助かったってことでいいのか?お嬢さん。」

 

「はい!もう大丈夫です!」

 

その言葉に一行はようやく脱力した。怪我は一つもなかったが…。頑なにトロデのみを狙う敵とは一度も戦ったことが無かった。非戦闘員だけを狙う魔物との戦いがここまで面倒なものだとは誰も考えもしていなかったのだ。

 

「…とりあえず、話をどこかで聞かせてもらおうかしら。あなたの名前は?」

 

「はっ、はい!申し遅れました!私は"U.S.A.ホールディングス"所属、アスカンタ王国専属メンテナーの『キラ』と申します!」

 

キラと名乗った少女は、心底申し訳なさそうに深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・アスカンタ城の全て
めちゃくちゃ変わった。町並みなど昔の名残はほとんどない。しかしアスカンタ城の国民は原作でも異様なほどの柔軟性と忠誠心があるため、今回の魔改造も王の判断ならばと特に反対する者はいなかった。反対していた者たちも、実際に生活の質は跳ね上がったため文句を言いづらい雰囲気になっている。なお文化継承として、アスカンタ城の奥部には昔の面影を残す住宅街がある。

・ククールが『グルピカ』を購入した(どうでもいい)
綺麗好きのククールはいい買い物をしたと喜んでいるが、ルイネロに大量のゴールドを払って財政が芳しくないところにまた数千ゴールド単位の買い物をしたので、あとでトロデにこってりと怒られることになる。

・街中でデンデン竜と戦闘
めちゃくちゃ硬くて強かった。その正体はドルマゲスの作った人造モンスターだった。

・謎の金髪少女と対面
大きなキラーパンサーのような怪物から降りてきたこの少女は一体…?


エイト
レベル:24→26

ヤンガス
レベル:23→25

ゼシカ
レベル:23→25

ククール
レベル:25→27

謎のデンデン竜を倒して大量の経験を得た。


もちろんですがセキュリティサービスの暴走なんてそうそう起こりません。今回はちょっとイレギュラーが紛れ込んでしまっただけで…


えっ!?まだ勇者終わらないの?ドルマゲスくん待ちくたびれちゃうよ…!


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Chapter18 トロデーン国領 ②

やっとこさ勇者編が一区切り終わります。なんやかんやで長引いてしまった…。








『未来国家』アスカンタに入城した一行。そこにはまるで別世界のような風景が広がっていた。動く床、鉄の乗り物、「家魔」と呼ばれる未知の技術が詰め込まれた機械。知らない世界に思わずはしゃいでしまう一行だが、異様な硬さと戦闘スタイルを持つ魔物に襲われ窮地に陥る。しかし怪物と共に現れた『キラ』と名乗る少女によって魔物たちは一匹残らず倒れ、トロデに傷を負わせる事態は回避できたのであった。

 

 

 

 

一行は少女キラについていく形でアスカンタの城下町を歩いていた。

 

「あっ、キラちゃん。さっきの警報はなんだったんだい?」

 

「セキュリティサービスの誤作動のようです。被害は出ておりませんのでご安心ください!」

 

「避難訓練は何回かやってたからすぐに隠れられたけど、『警報』がなるなんて初めてだ…まさかこの街に本物の魔物が出たとか…!?」

 

「いえ、そのような様子は確認されませんでしたよ。ご心配をおかけしました。」

 

「"がーでぃあん"だ!キラさんもいるぞ!おーい!」

 

心配そうな国民たちにテキパキと応対し、キラは大きく手を振る少年たちににこやかに手を振り返した。どうやらさきほどの魔物の鳴き声はこの街の人々にとっては『警報』で、国民たちは家の中に避難していたらしい。

 

「なぁ…キラと言ったか?その…そいつは何なんだ?"がーでぃあん"って呼ばれていた…キラーパンサー?なのか?」

 

「あ、えっと、彼の名は『ソルプレッサ』と言います。私の大事な人が作った…大事な相棒です。"ガーディアン"と言うのはアスカンタ王国がソルプレッサさんに付けた称号のようなものですね。その称号が浸透し始めたのは最近のようですが…国内で起きる犯罪事件はたいてい彼が一瞬で鎮圧できますから。"ガーディアン"とは"守護者"を意味する語だそうです。…ここで少しお話をしましょうか。」

 

キラはアスカンタ城中央塔の近くにある民家の一つの前で足を止めた。ここいらの建物は他の国でもよく見る建築様式だ。周りに出歩いている人もいなければ、店も出ていない閑静な住宅街である。

 

「あれ…?ここでいいの?(この子、アスカンタ王室の関係者かと思ってたけど…)」

 

「はい。今は空き家ですが、ここはかつて私の住んでいた寮です。今の私はアスカンタ政府の者ではないので…。」

 

「(わけありか。話を聞こうぞ、エイト。)」

 

「(わかりましたけど、王様は絶対出てこないでくださいね…!)」

 

キラは民家に入りきらないソルプレッサを家の前に待機させ、一行を招いた。

 

「おっおい!そのキラーパンサー、馬姫様…じゃないあっしらの馬車を取って食ったりしないでがすかね!?」

 

「大丈夫ですよ、彼は食べ物を必要としません。あまり外では憚られる話題ですので、どうぞ中へ…」

 

「んー…」

 

エイトは服が内側からグイグイと引っ張られる感触を感じた。まあ…トロデの言いたいことはわかる。

 

「あー、すみません。僕らの馬はさみしがり屋でして、誰かがついていなくちゃいけないんですよ。なので僕は外にいますね。」

 

「そ、そうですか。すみません、気が回らず…」

 

「兄貴が付いてるなら安心でがすね。」

 

「エイト、何かあったらすぐに呼んでね!」

 

エイトとトロデはミーティアのそばで残り、ヤンガスたちはキラに連れられて民家へと入っていった。ソルプレッサと名付けられた怪物は、エイトとミーティアを一瞥したかと思うと、ぷいと向こうを向いて寝転んだ。

 

「(…恐ろしい…!こんな魔物があんな女の子に連れられているなんて…)」

 

 

「…なるほど、あなたがたは我が国の王パヴァン様との謁見を望まれてアスカンタにいらっしゃったのですね。」

 

「そうなの。この国は本当にすごいわね。なんというか…こう、ぐわーっ!って感じで見たことないものが押し寄せてくる感じ。とても刺激的だわ。」

 

「右に同じでげす。」

 

まだ興奮を抑えきれていないゼシカとヤンガスだが、反面ククールは机に両肘をついて手を組み、真剣な表情でキラに鋭い視線を飛ばした。

 

「それで本題なんだが…アスカンタに技術提供をした"U.S.A.ホールディングス"ってのは何者なんだ?」

 

「??」

 

「…お茶でもどうぞ。この国の更に北の地で採れたダージリンです。」

 

キラはククールの質問には答えずにカップに紅茶を注いだ。夏摘み(セカンドフラッシュ)の官能的な香気が部屋にふんわりと広がる。

 

「ククール、そのゆーえす…なんとかってのはなんなの?さっきこの子も名乗ってたけど…」

 

「『家魔量販店』の店主から聞いたよ。この国の技術は全てU.S.A.って会社から流れてくるんだと。」

 

「…それはきっと今話すべきじゃないのだと思います。申し訳ありません…。」

 

「…」

 

「今の私が問いたいのは『なぜセキュリティサービスが活性状態に入ったのか』です。彼らは絶対に絶対に人を襲うことはありません。」

 

キラは客人の誰も紅茶に手を付けないので、仕方なく自分のカップにも紅茶を注いで口をつけた。これで毒や薬を混ぜていないということは相手に伝わるだろう。

 

「…」

 

「正直にお答えください。皆様は『魔物』をこの国に連れ込んだ、もしくは()()()()()()()()()()が流れている方が皆様の中にいらっしゃるのではないでしょうか…?」

 

「!?」

 

「…!」

 

「で、でもよ嬢ちゃん!もし『魔物』がいるってんなら、入口の『すきゃん』?だかなんだかで弾かれるんじゃねぇのか?アレはそういう検査じゃないってのかい?」

 

「それは…その通りでございます。『スキャン』は確かに対象者が魔物か否かを判断するシステムです。しかし稀に()()()()()()()()()()という存在がいらっしゃるため、そういう者は通す代わりに私に通報が行くようになっているのです。そして私が駆け付ければ案の定皆様はセキュリティサービスたちと戦闘になっており…」

 

「…」

 

「…ああ、確かにオレたちは『魔物』を連れ込んださ。」

 

「ちょっと!」

 

「ククール!?」

 

「ヤンガス、ゼシカ。お前らよく考えてみろ。オレたちはじいさんのことを安全なヤツだってわかってる。でもこの国の奴らにとっての魔物なんて依然として恐怖の象徴だ。外から来たオレたちが恐怖をバラまいてちゃただの侵略者、そうは思わないか?その上に嘘までついちゃ神様も救っちゃくれない。」

 

ククールの言い分はもっともだ。魔物に侵略されて地図から消えた村なんてものは少なくない。だからこそゼシカの兄は毎日村周りのパトロールを行っていたのだ。

 

「…まあ…そう、ね。」

 

「…理由をお聞かせ願います。」

 

「…。信じちゃあもらえないだろうが─」

 

ククールは先ほどは伏せていた「旅の目的」「この国に来た目的」「トロデ王の意向」を伝えた。

 

「──なるほど。理解しました。私、キラは『魔物と化した他国の王をアスカンタに連れ込んだ』皆様を信用します。」

 

「…何よ、それって随分トゲのある言い方じゃない?」

 

皮肉ともとれるキラの言葉がゼシカの癇に障ったのか、少し強い語気で抗議したが、キラは毅然とした態度で返した。

 

「…あの『デンデン竜』は『デンすけ3号』という名前でした。」

 

「え?」

 

「…武器屋の息子さんは両親が不在の間、よく『デンすけ3号』に遊んでもらっていました。道具屋の店主が積荷をひっくり返してしまった時、『デンすけ3号』は身を挺して割れ物を守り、それ以来道具屋の店主は『デンすけ3号』をペットのように可愛がっていました。」

 

「な…」

 

キラはくいっと紅茶を飲みほした。淹れたばかりのダージリンはキラの舌と喉を朱く焼いたが、キラにとっては些細なことだった。

 

「アスカンタ全域のセキュリティサービスは私の管轄下にあり、いつでもその動きを止めることができます。『デンすけ3号』の破壊を止めることのできなかったのは到着の遅れた私の責任です。世界を救おうと旅を続ける皆様にケガがなくて本当に良かった。それは本心です。」

 

「…」

 

「…私は皆様の大義を信じこの()()を秘匿しましょう。皆様は何も悪くありません。トロデ王に悪気はなかったようですし、なによりこの国のことを何も知らなかったのですから…。ですので…今の言葉は私の…大人げない、八つ当たりです。ごめんなさい。」

 

「…」

 

キラはぺこりと頭を下げた。紅茶は、もう冷めてしまっていた。

 

 

「あ、みんな、おかえり。大丈夫だった?」

 

「あぁ兄貴。大丈夫でげす。さっきの嬢ちゃんが『月影のハープ』を貸してくれるようにこの国の王様に掛け合ってくれるらしいでげすよ…。」

 

「…?」

 

民家から出てきた仲間たちはどことなくやるせない顔をしている。エイトがそれを疑問に思い何があったのか聞こうとしたが、キラが乗り込んだ怪物が大きく飛び上がった風圧で遮られた。

 

「ひゃー…。すっごい…」

 

怪物はひと跳びで中央塔の屋上まで登った。相変わらず跳躍や着地の際に音はしない。恐るべき衝撃吸収機能である。残された一行は『月影のハープ』を借りるためキラの帰りを待っていた。

 

「ああ、それでみんな、少し元気がないみたいだけど…中でどんな話をしたの?」

 

「まあ、オレたちの旅の目的だな。じいさんのことも話したぜ。」

 

「なんと!わしの話をして、あの娘は信用してくれたのか!?」

 

服の中からトロデが叫ぶ。あんまりトロデが動き回るのでエイトは思わず体勢を崩した。

 

「信用するってさ。…あのお嬢さん、まるでいつかこんなことが起こるとわかってたみたいな雰囲気だったな。なぁ?」

 

「そうでげすね。おっさんの話をしても特に驚いていなかったでがす。でもドルマゲスの野郎との繋がりはわからなかったでげすよ。何も聞いても知らないの一点張りでがした。」

 

「…それでね、エイト。私たちが倒した魔物…この国の武器屋の子どもや道具屋の店主の友達だったんだって。」

 

「えっ…?」

 

ゼシカはキラの話が少し堪えたようだ。言葉の端々にも力がない。

 

「私たち、この国の人の心の拠り所を一つ壊しちゃったのよ。」

 

「そっか…。…思えばあの魔物は最後まで一度も僕らを襲おうとはしなかったね。」

 

エイトはトロデを傷つけないため、それに続く「人間とそれ以外を区別できているんだね」という言葉を控えることにした。

 

「ま、ここの魔物にはこれから不用意に手を出さないってことでいいじゃないか。キラは今特例で魔物たちの警戒を緩和してくれるらしい。こっちからちょっかいかけない限りは問題ないだろ。な?ゼシカ」

 

「うん…」

 

ゼシカが自身の肩にさりげなく置かれたククールの手を払いのけていると、怪物(ソルプレッサ)と共に再びキラが現れた。

 

「うおっ、あの巨体で無音とは相変わらず薄気味悪い魔物でがすね。」

 

「(しっ!ヤンガス、あんたさっきの話から何も学んでないの?あの『キラーパンサー』はキラの相棒だって言ってたじゃない!人の相棒に薄気味悪いなんて本人の前で言うんじゃないわよ!)」

 

「(き、気を付けるでがす。)」

 

「…皆様、こちら『月影のハープ』でございます。」

 

今のヤンガスの言葉はキラに聞こえていたのか否か。エイトたちは後者であることを祈るばかりだ。…キラの後ろに控える怪物が自分たちでは到底敵わない相手であることは明白なのだから。キラは光にさらさずとも淡く輝く白金色の竪琴をエイトに差し出した。

 

「ほう…」

 

「キレイ…!」

 

「これが…」

 

「要求しておいてなんだけど、本当に貰っていいの?」

 

「アスカンタ王パヴァン様は大変懐の深いお方です。私が事情を申し上げますと、世界のためならと快く竪琴を賜ってくださいました。そのため返却は不要でございます。…その代わり世界を救うために必ず役立ててくださいね。」

 

「ありがとうございます。必ずや役立ててみせましょう。」

 

「…はい。それとこちらは私から。…というよりいつか来る皆様のために私の大事な人が予め用意なさっていたものです。ぜひ冒険にお役立てください。」

 

キラは自身のてのひらほどの小さなプレゼントボックスをヤンガスに渡した。受け取ったヤンガスは想像していた以上の箱の重さに少し驚く。

 

「うおっと。これは一体なんでがすか?かなりの重さでげすが…」

 

「耳にかける装飾品で、名を『しあわせの耳飾り』と言います。効果のほどは自身でお確かめください。」

 

「何から何までありがとう。それと…ごめんなさい。『デンすけ3号』さんのこと…」

 

魔物を連れ込んでいると発覚して以降ずっと険しい顔をしていたキラだったが、すっかりしおらしくなったゼシカを見て、少しだけ顔をほころばせた。ように見えた。

 

「…先ほども申し上げましたが、私は皆様の行為を赦しましょう。国民の皆様には私から説明しておきます。現在アスカンタ王国内のセキュリティサービスは皆様のため一時的に全機を待機状態にさせています。しかしこのままでは国防に支障が出てしまいますので…」

 

「そっか…早めに出て行った方が良さそうだね。」

 

キラは何も言わず右手の人差し指をぴんと立ててみせた。

 

「…一時間」

 

「「?」」

 

「武器防具や道具を揃える時間は皆様にも必要でしょう。本来ならすぐにでも退出していただきたいものですが…世界をお救いになる皆様です。一時間程度なら私とソルプレッサさんで国防は賄えるので、準備ができ次第出発なさってくださいませ。」

 

「あ…ありがとう!」

 

「では皆様…またいつか。」

 

そう言うとキラはスタスタと町の奥へと姿を消してしまった。怪物もキラに追従し完全に見えなくなったところで、トロデがエイトの服の中から飛び出し、そしてそのまま馬車の荷台へと飛び込んだ。

 

「…ふぅ…他人の服の中というのはどうにも息苦しくてかなわんわい。」

 

「王様、他に選択肢の無かった状況とはいえ、申し訳ありませんでした。」

 

「よい。さて、パヴァンの直接の言葉は聞けなんだが、わしらを応援してくれるという意向は伝わったし、現にこうして『月影のハープ』は手に入ったのじゃ。頃合いの良いことにもうじき日暮れ、準備を整えてトロデーンへ向かおうぞ。」

 

「…ちょいとおっさぁん、あっしらはほとんどおっさんのわがままのせいでキラの嬢ちゃんに目をつけられたようなもんでげすよ?そいつぁちょっと淡白すぎないでげすかね?」

 

「…すまん」

 

「?…おっさん?」

 

ヤンガスは今に飛び掛かってくるぞとトロデを待ち構えていたのだが、なじられたトロデも先ほどのゼシカ同様少し元気が無いように見えた。…そう、二人は『失う』辛さを知っているのだ。意図せずとも自分たちが『奪う』側に加担してしまっていたという事実はヤンガスたちの想像より重くのしかかったようだった。

 

「…わしは今後一切町には近寄らんことにするわい。…なに、馬車の中だってやることがないわけでもあるまいて。」

 

「おっさん…」

 

「ヤンガス。じいさんやゼシカには思うこともあるんだろうさ。時間は有限なんだ、オレたちはさっさと買い物しようぜ。…あ、でもエイトは武器屋には寄るなよ!?お前が武器屋に入ったら2時間は出てこないんだからな。」

 

「えぇ~!そんな殺生な…」

 

「殺生もコショウもねぇよ!ほら行くぞ!!」

 

ククールはヤンガスとエイトを連れてさっさと繁華街の方へ向かった。きっとゼシカやトロデに気を遣っての行為なのだろう。ゼシカは少しククールを見直した。

 

 

「…エイト!」

 

「ゼシカ」

 

食品を買い込んでいたエイトに、ゼシカが声をかけた。少し時間を置いたおかげか、ゼシカの顔にほとんど影は見られない。

 

「私…さっきまで酷いことをしちゃったなって凄く反省してた。わざとじゃないって言ったって…奪っちゃったものは事実。」

 

「うん。」

 

「でもせっかく許されたことを考えていたって仕方ないって思ったの。だから…湿っぽいのはこれでおしまい。」

 

「…ゼシカが元気になってくれて僕は嬉しいよ。」

 

「…えへ、なぁにそれ!そんなに元気のない私が珍しかった?…じゃあまた後で!ヤンガスとククールにも言って来なくっちゃ!」

 

どこまで行っても眩しいくらいにゼシカは前向き。エイトは少し彼女を羨ましく感じながら手を振った。この様子じゃあきっとトロデの調子も戻っていることだろう。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─アスカンタ城内部─

 

「…キラ、『勇者』たちはどんな人物だった?できれば僕もトロデ王と直接会って話してみたかったが…」

 

アスカンタ王城の謁見の間。アスカンタ王パヴァンと王妃シセルは目の前で傅く金髪の少女から報告を受けていた。沈みゆく夕日の光が部屋に差し込み城内は黄昏に美しく彩られる。しかし日光が王妃の顔に当たって眩そうにしていることに気が付いた大臣は、慌ててカーテンを閉じた。

 

「…おおよそドルマゲス様がかつておっしゃっていた内容と同じでしたわ。でも………私、あの人たちのこと、好きにはなれない気がします。」

 

キラは顔を上げないまま小さな声で告げた。

 

「ああ…」

 

シセルはキラの心中を察し、顔を伏せた。勇者たちはそもそも国を滅ぼされた復讐、もしくは国の奪還を目的に旅をしているので、その元凶たるドルマゲスに敵意を表すのは当然のことではある。そして襲ってくる魔物を迎撃するのも冒険者にとってはまた当然なのだが…仕方ないとはいえ、ドルマゲスに強い憧れを抱くこの少女にその敵意は少し耐え難かったのだろう。

 

「キラ、君の気持ちも分かる。僕だって目の前で恩人を酷く貶されたらどう感じるか…しかし『勇者』たちはドルマゲス曰くこの世界の命運を左右する重要な人物なんだろう?」

 

「そっ、それは王様の仰る通りでございます…申し訳ありません、私情で…」

 

「いいのよ、キラ。それよりドルマゲスに報告してあげたら?せっかくドルマゲス待望の『勇者』と接触したんだから、連絡すればいいのよ。色々積もる話もあるんじゃないかしら?」

 

シセルは縮こまっているキラを慮って話題を変えたのだが、キラは更に小さくなってしまった。

 

「その…ドルマゲス様に連絡するような…資格は私にはありません…」

 

「?」

 

「私は…まだあの方の何にもなれていません。ドルマゲス様にとっての私は…きっと…」

 

「…」

 

どうやら現在ドルマゲスとキラ、二人の間には微妙な空気が流れているらしい。まあおそらくキラの思い込み・勘違いとドルマゲスの大雑把さが悪い方向に噛み合っているだけだろうが…パヴァンとシセルはほぼ同時にため息を吐いた。

 

「…わかった。今回は僕らから報告しておく。しかし早めにドルマゲスと仲直りすること、いいね?」

 

「キラ。今日はありがとう。あなたがこの国の『めんてなー』になってから民たちの生活はより豊かで安全なものになったわ。あなたもドルマゲス同様、この国の英雄よ。私たちにできることがあったらいつでも言ってね。」

 

「た、大変もったいないお言葉…!ありがとうございます!誠心誠意努めます!で、では失礼します!」

 

キラはそそくさと退出した。おそらくU.S.A.に帰還するのだろう。キラが退出すると大臣がぼそりと零した。

 

「…ドルマゲスも大変ですな」

 

「それはキラもお互い様ですわ。ドルマゲスったら!キラを泣かせたら承知しないんですからね!」

 

「シセル、でもキラは昔の君にそっくりだよ。」

 

「あらあなた、あなたこそその大雑把さはドルマゲスとそっくりよ?」

 

「で、では二人はお似合いということですな!はは…」

 

長くなりそうな予感がした大臣がうまくまとめたのでその場は収まった。普段から仲のいい王と王妃だが、それだけに言い合いが始まるとそれもまた長い。大臣の胃はいつもピンチである。

 

シセルがカーテンを開いて空を見上げると、既に日は落ちて少し欠けた月が出ていた。その月光があんまり優しくシセルを照らすので、シセルは何故か笑ってしまった。

 

「(不思議ね…。月の光を見るとなぜあなたの顔を思い出すの?パヴァン…)」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─トロデーン城─

 

欠けた月から伸びる月光は、再び影に像を結ばせた。再度トロデーン城を訪れた一行は今度は迷いなく図書館に辿り着き、伸びる影が扉、あるいは『窓』を型取っていく様子を見つめていた。

 

「兄貴、『月影のハープ』はあるでがすね?よっし、ならもいちど月の世界へ行きますかい!」

 

「月の世界なんて本当にあったのか、今でも半信半疑だぜ。ま、それもこの『窓』を開けばわかることか。」

 

「トロデ王は行かないの?月の世界なんて多分もう二度とお目にかかれないと思うけど。」

 

「興味はあるが、やめておくわい。ミーティアを一人にさせるわけにもいかんしの。」

 

「では王様、行って参ります!皆行くよ!」

 

エイトの声に続いて、ヤンガスたちも「月影の窓」に手を伸ばし月の世界へと足を踏み入れた。

 

 

またもや幻想が支配する不思議な世界に入り込んだエイトたち。前回と訪れた時と特に変化はなく、変わらず青い世界は静寂(しじま)を奏でていた。そのまま進んで小さな館に足を踏み入れると、館の主であるイシュマウリが目を閉じて佇んでいた。

 

「…数多(あまた)の月夜を数えたが、これほど時の流れを遅く感じたことは無かった。」

 

「あの…イシュマウリさん」

 

「皆まで言わずとも、その輝く顔でわかる。見事『月影のハープ』を見つけてきた…そうだろう?」

 

「ご明察でがすね。」

 

「ああ、オレたちはアンタの言う通りハープを持って来たぜ。」

 

「さあ、見せておくれ。海の記憶を呼び覚ますにふさわしい大いなる楽器を。」

 

エイトは頷くと、月の世界に来てより一層輝きを増している『月影のハープ』を差し出した。するとまるでその時を待ちわびていたかのようにハープが光を放ち、イシュマウリの手へと吸い寄せられていく。イシュマウリは振り返ると両手で優しくハープを包んだ。

 

「……この月影のハープも随分長い旅をしてきたようだ。…そう、君たちのように。よもや再び私の手に戻る時が来るとは。……いやこれ以上はやめておこう。」

 

「これでホントに船が蘇るのか?ハープを持ってきておいてなんだが、オレはまだ半信半疑だぜ。」

 

「無論だ。さあ、荒れ野の船のもとへ。まどろむ船を起こし旅立たせるため歌を奏でよう。」

 

愛おしそうにハープを撫でるイシュマウリ。どうやらハープは元々彼の所有物だったらしい。イシュマウリがハープをひと(はじ)きすると、奏でられた音に呼応するように館中を強く、しかし柔らかな光が包み込んだ。

 

「わっ…」

 

 

「…?」

 

エイトたちが再び目を開くと、そこは月の世界でなく、打ち棄てられた船があるトロデーンの荒野だった。なんと城にいたはずのトロデとミーティアもいる。

 

「なっ、なんじゃあ!?」

 

「王様!姫!」

 

「おっさんいつの間に!」

 

「わしが言いたいわい!おぬしらいつの間に!?──って!?」

 

トロデは辺りを見渡し、ようやくここが荒れ果てた城の中ではないことに気が付いたようだ。

 

「こ、これはどういうことじゃ!?わしらはさっきまで──もがが!」

 

「おっさんちょっとやかましいでげすよ。」

 

状況についていけないのは誰しも同じ。しかしヤンガスはいち早く落ち着きを取り戻し、パニックになって騒ぐトロデの口をふさいだ。それを見たエイトは、自分よりよっぽどヤンガスの方が兄貴分にはふさわしいのにな…と思う。こればっかりはヤンガス次第なので考えても仕方のないことではあるが。

 

そんな喧騒をよそに、イシュマウリは古代の船へと近づき、その手のひらで優しく触れた。

 

「この船も月影のハープも……そして私も、みな旧き世界に属するもの…」

 

「旧き世界…?」

 

「礼を言おう。懐かしいものたちに、こうして巡り合わせてくれたことに。」

 

ゼシカが茫然と呟くが、イシュマウリは意に介すことなく白銀のハープを弾き始めた。

 

~♪~♪

 

ハープが音楽を奏でると、どこからか魚が現れた。魔物かと警戒したが、どうやら触れることはできない幻のようだ。これが、大地の記憶とやらなのだろう。

 

「さぁ、おいで。過ぎ去りし時よ、海よ。再び戻ってきておくれ」

 

淡い金色の光が溢れ、イシュマウリを中心に水の幻が現れる。水は徐々に満ち、このまま海の幻が現れる…エイトがそう思ったところで、しかしイシュマウリはハープを下した。幻は再び霧散してしまう。

 

「ありゃ?こりゃどうしたんでげすか?」

 

「なんと……月影のハープでもだめなのか……」

 

肩を落とすイシュマウリ。収まるべきところに収まって最高の状態にあるこの『月影のハープ』でもだめならば、やはりこの船を再び海原へと戻すことは…。イシュマウリがそう諦めかけたとき、静観を決めていたミーティアが突如声を上げた。

 

「姫!?」

 

「何だ?どうかしたのか?」

 

慌てて皆が近寄るが、ミーティアはイシュマウリへと近づいていった。イシュマウリもミーティアへと近づいていく。

 

「…」

 

「……そうか。気が付かなかったよ。馬の姿は見かけだけ。そなたは高貴なる姫君だったのだね?」

 

ミーティアの顔へと手を差し出し、イシュマウリは優しくその頬をなでる。

 

「言の葉は魔法の始まり。歌声は楽器の始まり。呪いに封じられし、この姫君の声。まさしく大いなる楽器にふさわしい。姫よ……どうかチカラを貸しておくれ。私と一緒に歌っておくれ」

 

「ヒヒーン…!」

 

肯定するようにミーティアが鳴く。これでもう大丈夫。そういった笑みを浮かべながらイシュマウリは再びハープを奏でた。そのメロディーに乗せて、ミーティアの声が交わっていく。

 

水が溢れだし、やがて荒野が海のように水で満たされていく。土の上にいたのに、水の中にいるような感覚だ。その水はやはり幻であるのでエイトたちは呼吸ができる。しかし浮力は働く。妙な感覚に一行は思い思いの行動で表現していた。唯一トロデだけがミーティアの歌声に聞き入っていた。勢力を増す水はさび付いた船を持ち上げ、次第に浮き上がっていった。本当に幻なのかを疑ってしまうほどの現象だ。浮上した船への道が現れ、一行は船へと乗り込んだ。

 

「…やれやれ、ここまでされちゃあ信じないわけにはいかねぇよな…」

 

「イシュマウリさん!」

 

「……さぁ、別れの時だ。旧き海より旅立つ子らに船出を祝う歌を歌おう……」

 

「ありがとうございました!」

 

手向けとばかりにハープを弾くイシュマウリ。その姿は朧になり、やがて見えなくなっていった。おそらく月の世界へと帰っていったのだろう。船は幻の潮に流され、やがて現実の海へとたどり着いた。

 

「…」

 

「何が何だか……アッシにはどうにもわからないでげすが……」

 

「寝ぼけたことをいうな! すべてわしのかわいい姫のおかげじゃわい!」

 

「ま、これでようやく奴…『物乞い通りの魔王』を追えるってことだな」

 

「あっしの勘では『魔王』と一緒にドルマゲスの野郎もいる気がするでがすよ。」

 

「…これで私たちは全ての海を渡ることができるようになったわ、エイト。まずは先んじてサザンビーク王国に潜入しているディムと合流しましょ。『闇の遺跡』に向かうのはそれからよ!…ドルマゲス…あなたを絶対に見つけ出す…!それから兄さんのこと、洗いざらい吐いてもらうわ…!」

 

ゼシカの目には闘志が燃える。文字通り世界のどこにでも届く足を手に入れたことで気が大きくなっているのだろう。興奮しているという点ではククールやヤンガスも同じだ。エイトはまた一つドルマゲスへ近づいた感覚を握りしめながら、古代船の舵を取った。

 

 

 

 

 




原作との相違点

・パヴァンと会わなかった。
ある程度の事情を知っており、自分もトロデーン滅亡と無関係とはいえないと責任を感じているパヴァンはトロデとの面会を望んだが、叶わなかった。

・キラから月影のハープを貰った。
ついでに「しあわせの耳飾り」なんてものも貰った。防衛システムは壊すわ国宝は持っていくわプレゼントまでも貰うわでとんでもない勇者である。ちなみに「人でも魔物でもない者」というセリフは本来ユリマのもので、エイトの出自に関わる伏線なのだが、今回はその役割をキラが担った。

・ようやく船を手に入れた。
ヤッター!さっそく闇の遺跡に…行けません。太陽のカガミが無いので。


レベル変化なし


キラちゃんの口調がだんだん硬くなっていってるのは彼女が静かにイラついてるからです。理由はお察しの通り。…ちなみに今回勇者たちに話を聞いたのがキラちゃんではなく「例の女」だった場合、ぺちゃんこになって勇者たちの冒険はここで終わりです。



いつも一話5000字程度を目指しているのですが、今回何と一話で10000字を超えてしまいました…。もう少し短い方が良いですかね?アンケート採ってみますね。ぜひご協力ください。


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第二十七章 転生者と月の民

公式からの情報量が圧倒的に不足しているイシュマウリさんの設定を勝手に追加しちゃおうの回。



注意!イシュマウリの設定にとんでもない量の改変が入ります!キャラは極力崩さないように頑張るのでどうかご了承ください!




ちょっと小難しい話が途中で入りますが、面倒になったら斜め読みしてもらっても大丈夫です。








ハロー、月の世界に初潜入!の道化師ドルマゲスです。勇者たち…そろそろ船は手に入れられましたかね?いやいや、なんてったって勇者ですから大丈夫でしょう!今はせっかく見つけたこのチャンスに集中します…あ、オリハルコンの新しいアイデアが…いやいや集中!…そうだふしぎな泉のサンプルを…しゅ、集中!!

 

 

 

 

「『月影の窓』…」

 

ふしぎな泉に建設した仮設テントの骨組みから伸びる影は、もう一つのテントの白幕に『月影の窓』を作った。俺が世界を遊行していた6年間、願いの丘で待てどもトロデーン城で暮らせども現れなかった窓が今目の前にある。神秘への入り口を前に、俺は飛び込まずにはいられなかったのだ。

 

「!ここが…」

 

確証が無かったわけではないが、俺は無事に別世界の地面に着地した。ゲームで見たまんまの世界だ。もちろんここ以外の場所も全てゲームで見たままの景色なのだが、なんというか、さらに現実味がないというか…そう、端的な言葉で表すならば『幻想的』。通り一遍の言葉しか扱えない自身の語彙が恨めしいが、それが一番この世界には似合っている。藍より蒼く、浅葱よりも淡い、得も言われぬ色彩で彩られた世界は見ていてため息が出るほど美しかった。

 

「月の世界へようこそ、お客人。」

 

勇者たちはきっと驚いただろう。でも俺は驚かない。ここがどこか、声の主が誰か知ってるもんね。俺は声の導きに従ってイシュマウリの館に足を踏み入れた。

 

 

「…ここに人間が来るのはつい数日ぶりだ。私にとっては数秒前の出来事にすら感じる。」

 

「…」

 

「初めまして。私は道化師の"ドルマゲス"と申します。以後お見知りおきを。」

 

原作でも最後まで謎の多い人物だったイシュマウリだが、今相対した一瞬で妙な魔力を感じた。これは『偽らない方が良い』。そう直感で判断した俺はドルマゲスと名乗った。

 

「…偽らないか。君ならきっと偽名を使うと思っていたが…」

 

「…心外ですね。私と貴方は初対面のはずですが?」

 

「ふむ、それは失礼した。私も名乗るとしようか。私の名前はイシュマウリ。月の光の下に生きる者。()()()()()()()()()()()()()

 

!!!

 

「な…」

 

この男、何を知っている…?俺は危うく張り付けた笑みを崩しそうになった。そして、イシュマウリはそんな俺の隙を見逃さず、少し微笑んだ。

 

「やはりそのようだ。未来を知っているのは君だったか。ようやく見つけられた。」

 

「…!」

 

口は(わざわい)の元。イシュマウリはまだカマをかけている可能性がある。状況を把握できるまでは俺は口を閉ざすことに決めた。

 

「…おしゃべりは嫌いかな?…だがせっかくの客人だ。今少し私のおしゃべりに付き合ってはくれないか。」

 

「…」

 

イシュマウリはゆっくりと歩みながら話し始めた。依然として表情はにこやかなままであり、敵意は感じない。しかし俺はラプソーン戦以来の最大限の警戒をしていた。

 

「君が何を考えているのか、私には分からない。しかし私は君の服や靴が何を考えているのかは手に取るようにわかる。」

 

「…」

 

「私は君のように未来に何が起こるかは知らない。ただ星の筋書きが乱れていることだけしか知らない。」

 

「…」

 

「君は外なる異分子だ。そうだろう?肉体と魂が異なる人の子よ。」

 

「…」

 

イシュマウリはハープを取り出してポロロンと弾いた。あれはアスカンタで見た『月影のハープ』か…?よかった、勇者やパヴァンは無事に任務を遂行できたようだ。…と手放しで喜べたならいいのだが。

 

しかし状況は分かった。イシュマウリはまだ俺を『疑っている』段階である。特に目的なく歩き回り、言葉と言葉の間隔も故意に空けている。俺がこの世界の本来の住人ではないことはそれなりの確信を持っているようではあるが、なかなか本題に入る様子が見られない。少し早計な気はするが…、言われっぱなしと言うのも癪だ。

 

俺は気楽に生きていたいのだから。

 

「…あえて問おう、昼の光の下生きる子よ。記憶は人の子だけのものとお思いか?」

 

「…いいや違うね。」

 

イシュマウリはようやく言葉を発した俺を見て少しだけ目を見開く。俺は師匠(ライラス)に正されて以来徹底していた「ドルマゲスとしての口調」を外した。

 

「俺の服も、あんたの服も、家々も、家具も、この空も大地も、みんな過ぎていく日々を覚えている。自然とは惑星(ほし)の化身であり、生命の持つ別の姿。風も氷も生きてるし、なんなら『光』や『音』だって生きてる。そんな単純な事実は、しかし今のこの世界ではほとんど忘れ去られている…。どうだ?」

 

「ほう…!」

 

イシュマウリは今度こそ驚きを露わにした。ふふん、一矢報いたり。

 

「…"万物には魂が宿る"。私の述べる事実を妄言と切り捨てず理解を示してくれた人の子も何人かはいた。しかしこれほど深い造詣を持つ者は『旧き世界』にも…」

 

「イシュマウリ、俺はあんたの言う通りこの世界が持つ未来を知っている。でもあんたが何を知っているかは何も知らない。教えてくれ。…ここらではっきりさせておく、俺はあんたの敵じゃない。」

 

「…」

 

俺はイシュマウリの青い瞳をじっと見つめた。イシュマウリもまた俺の目から視線を逸らさない。

 

「…」

 

「…私も、君のことをずっと観測していたわけではない。君が王女の生誕祭に呼ばれ、君がそれを拒んだ。その瞬間、星の筋書きが乱れるのを感じ私は転寝(うたたね)から目覚めたのだ。」

 

「星の筋書き…?」

 

「昼の世界、月の世界、闇の世界。全ての世界に属する全ての生命は『運命』の奴隷だ。世界には始まりと終わりがあり、星の描く筋書きに従って進む。世界が終われば、いつかどこかで新しい、しかし全く同じ世界の物語が始まる。」

 

「…」

 

「無論私もその世界に組み込まれた一部分。始まる世界も、終わる世界も認識したことはない、認識できない。……しかし『筋書きは繰り返している』と言う事実だけはこの世界の奥底…月の記憶が教えてくれるのだ。」

 

「…」

 

「少し、君には難解だったかな。」

 

イシュマウリは歩きながらまた浅く笑った。…ふんだ、ナメてくれちゃって。俺のこの高スペックな脳みそを侮るなよ?…まあ原作ドルマゲスの身体なので借りものの脳なんだけど。

 

「いや、問題ない。この世界の『運命』はあらかじめ定まっていて、物語を辿って終わり、そしてまた別の次元で全く同じ物語が展開されるってことだろ?『星の筋書き』ってのは。」

 

 

『運命』とは一種の『機構』である。と俺は考えている。(めい)(神託)を(まわ)すと言う行為はある意味で機械的、システマチックなものだ。人間が「運命の歯車が動き始めた」と表現するのはきっとこれに由来している。

『機構』の真髄は『回転』である。それは先ほどの歯車の話、それと運命の語源(命を運す)も踏まえるが、回転(ローテーション)なくして成り立つ機構はない。また回転は「推進」の意味も内包する。船のスクリューなどはまさに回転で推進力を得ている良い例だ。もしくはサイコロの様に回転を『運命』に直結させることもできる。

そして同時に『回転』は『永続性』・『輪廻』の象徴である……つまり『運命』は本来繰り返すのが道理なのだ。

 

 

「始まり、進み、終わり、廻る…。それが運命ってことじゃないか?さあ、続けてくれ。」

 

「やはり君は…いや、そうだな。続けよう。」

 

少し表情が引き締まったイシュマウリは足を止め、語り始めた。もうさっきまでの冗長な話し方ではない。

 

「君が王女の生誕祭を拒んだ時に星の筋書きが乱れるのを感じ、私は昼の世界の観測を始めた。広い昼の世界から筋書きを乱す異分子を探すのは途方もない時間が必要だった…さながら広大な砂漠で蟻の子の落とし物を探すかの如く」

 

まだ割と冗長だった……ま、まあこれも彼の個性なので否定はすまい。彼の言い分を要約すると、

・本来たどるべきストーリーがおかしくなったので、昼の世界の調査を始めた

・数年にわたる捜索の末、俺を含む何人かの怪しい候補者をつきとめた

・俺が月の世界に来たのでハープで調べてみると、案の定身体の内と外から異なる記憶が聞こえたため俺を異分子と確定した

ということらしい。最初からこれくらい短くまとめてくれよ…

 

「…」

 

イシュマウリは一通り話し終わったらしいので質問をぶつけてみる。

 

「…なぜもっと早く俺のところに『窓』をよこさなかったのか?もう少し早いタイミングで来ることもできただろうに。」

 

「『月影の窓』は本来人の子の願いから開かれるもの。こちらから昼の世界に接続することは容易ではないのだ。しかし今回は『場』が良かった。」

 

「…ふしぎな泉か」

 

俺は顎に右手を当てた。これは俺が何かを考える時の癖だ。…泉、湖は古来から妖精の住処とされ、神秘的なものであると洋の東西を問わず認識されてきたもの。泉の神秘と月の神秘が上手く迎合したのかもしれないな。

 

「じゃあ、次が本題だ。イシュマウリ、あんたは俺をどうするつもりだ?」

 

「…」

 

イシュマウリは目を閉じ、口をつぐんだ。

 

トントーン、ポロポロロン──。  静かな部屋の中でひとりでに動く楽器たちの優しい音色が響き渡る。

 

「…」

 

「…私は、星の筋書きを乱したくはない。『不変』とは『調和』だ。私はここで微睡(まどろみ)ながらゆるやかに終わっていく世界で揺蕩(たゆた)っていたかった。……運命から外れた未来へ導こうとする君を忌々しく思った私は、君を月の世界に引き込み、干渉できないよう昼の世界から隔離しよう──」

 

「…!」

 

「──そう、思っていた。しかし…」

 

イシュマウリはまた口をつぐんだ。

 

「…」

 

「実際に邂逅して、私は君に興味が湧いた。郷愁──と言うのだろうか。君のその聡明さ、知識、想像力…それら全てがかつての『旧き世界』の私の仲間たちを想起させるのだ。先の大戦が終わり、私の仲間たちと共に()()()()()()()()()()()()()()()いくつもの夜を数えたが…こんなことは初めてだ。…きっとどの『運命』の私もこんな経験をしたことは無いだろう。」

 

「それはつまり…?」

 

 

 

「……私は君の存在を()()する。『異分子』ドルマゲスよ。」

 

イシュマウリは静かに、しかし澄んだ瞳で真っ直ぐにこちらを見つめ、言い放った。無風のはずの月の世界に舞い込んだ一陣の風がイシュマウリのローブを翻す。その雰囲気はまるで…!

 

「あ、あんた、いやあなたは…?」

 

「…ふふ、私はイシュマウリ。ただ月の光の下で生きる者。…外なる人の子ドルマゲスよ。私は君の導く世界の行く末を観測させてもらうことにする。時間を取らせて悪かったね。」

 

「…こちらこそ、あなたに会えて良かった。…観測者の許しも出たことだし、これでようやっと伸び伸び活動できるな!」

 

イシュマウリから感じていたプレッシャーはいつの間にか無くなっていた。すっかり柔和な雰囲気になったイシュマウリがハープを爪弾くと、俺の服が眩く光り輝く。ふむ、この光が服の記憶というやつか。

 

「…ふむ。なるほど…」

 

「この期に及んで何か文句でも??」

 

「いや…、君を月の世界に隔離しようとしたお詫びがしたくてね。」

 

「お詫び?」

 

月にちなんだ何かをくれるのかな?

 

 

 

 

 

 

「マスター・ライラス、君の師匠──」

 

「──彼の魂はまだ、絶えてはいないよ。」

 

 

 

「…え?」

 

月の風は俺の頬も撫でてくれたような、そんな気がした。

 

 

 

 

 




過去最高に文書いてて疲れました…。難しい、イシュマウリの話し方…!できればもう二度と登場しないでほしいです。

もちろんイシュマウリの当初の目論見通りドルマゲスを隔離したとしても、ドルマゲスは物語の重要な歯車の一つなので十分星の筋書きは狂います。イシュマウリは世界が何巡もしているということのみを知っていて、これから何が起こるかなどは全く知らないので。


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第二十八章 転生者と大魔法使い

前回頂いたコメントより『もし隔離してたらユリ…魔王がブチギレるぞ』

恐ろしいですねぇ。もし世界のどこにもドルマゲスがいないことを知ったら、その時のユリマちゃんの絶望と哀しみは如何ほどでしょうか。…でも『月影の窓』は人の子の強い願いと窓枠の影と月光があれば現れる可能性があるので、もしかしたら割と早い段階で再会はできるかもしれませんね。…まあその場合イシュマウリがどうなるかは知ったこっちゃありませんがね。








「え?」

 

師匠の魂が…!?

 

「ドルマゲス、君の師匠の魂はまだ冥界には逝っていないよ。」

 

月の民イシュマウリは驚いた俺の顔を見て笑った。

 

「ふふ、どうやらこれも君の知る未来には起こり得ないことのようだね?…私は(たわむ)れで命の話をしない。マスター・ライラスの魂が在るのは事実だ。」

 

「そんな…でも師匠はトロデーンでラプソーンに…」

 

イシュマウリの言う通り、彼はこんなところで適当なことを言う男ではないはずだ。しかし師匠はラプソーンが憑依した俺によって腹を貫かれ、確かに絶命したはず。一体どういうことだ…?

俺が言葉を飲み込めずにまごついているとイシュマウリはため息を吐いた。

 

「…君は妙なところで鈍いようだ。確かにマスター・ライラスは暗黒神との激闘の末に命を散らした。しかしそれで死んだのはあくまでも肉体。そして肉体と精神を繋ぐ霊絡。その魂は霊体となり未だこの世界に留まり続けている。」

 

「な、なるほど…」

 

「君は賢いが、抜けているね。」

 

イシュマウリは肩を竦め、やれやれといったポーズをとる。…てめーが小難しい話ばっかするから「魂」も何かの隠喩かと思って素直に言葉通り受け取れなかったんだよ!と言いたかったが俺は大人なので抑えた。大人なので。

 

「それで、師匠の魂はどこに在るんだ?」

 

「どうやら彼は自分が事切れたことに気が付いていないらしい。長い夢を見ている彼の魂は冥界には逝けず、ふわりふわりと漂い続けて、『とある場所』に現在固着されている。」

 

「とある場所…」

 

「自らの死に気が付かぬ者の魂が集う場所…月の神秘とも泉の神秘とも異なるもう一つの神秘…。筋書きを知る君ならば知っているのではないかな?」

 

イシュマウリは悪戯っぽく笑った。会話を交わしてみて初めて分かったが、彼はこう見えて結構おちゃめな性格をしている。原作ではひたすら不思議で思わせぶりなことばかり言っていたものだが、なかなかどうして人間臭いところもあるみたいだ。

 

「(自分が死んだことに気がつかない者の魂が行きつく…)」

 

その時、俺の脳内に電流が走った。

 

「─もしかして!"あの場所"かっ!」

 

盲点。あそこはストーリー自体には全く関わらない場所だったので、すっかり頭から存在が抜け落ちていた…。なるほど、あそこならばイシュマウリの言葉もあながち出鱈目とは言えない。得心の行った俺の様子を見てイシュマウリは満足そうに微笑んだ。コイツいつも笑ってんな。

 

「さあ、お別れだ。外なる人の子よ。君が紡ぐ全く異質な物語、その結末を楽しみにしているよ。」

 

「ありがとう、イシュマウリ。」

 

俺はイシュマウリに向かってサムズアップすると、言葉少なに館から出て、そのまま『月影の窓』をくぐる─…前に。俺は地面を少し削って袋に入れた。月の世界なる異界の物質。こんなものを採取する機会をそうそう逃すわけにはいかないからな。請求書は俺の会社にでも送っといてくれ。…ん?月からこっちに来るのは難しいんだっけか?まあいいや。俺は改めて窓に向き合い、くぐった。

 

「やれやれ…まったく興味深い(ろくでもない)異分子だ。」

 

 

 

 

─ふしぎな泉─

 

「おーい?ドリー?いるっちかー?」

 

「根の詰め過ぎは良くないってじいさんが言ってたもんだから、し・か・た・な・く!迎えに来たっちよー?」

 

「あれ?いないっちか?てっきりまだ資料を読んでるもんだと思ってたっちが…」

 

「…」

 

「…?なんだっちか?この影…」

 

「ち、ちょっと近づいてみるっち…」

 

「…!(な、なんかドキドキするっち…)」

 

 

「ばあ」

 

 

「ひぃえええぇぇぇぇ~~~~!!!」

 

「あれ?どうしたんですか?こんなところで」

 

スライムは泡を吹いて気絶している。何か恐ろしいものでも見たのだろうか?俺は天を仰いだ。夜は更けており、東の空が白み始めるのは時間の問題だ。とりあえず俺はスライムを抱き上げて隠者の家へ向かい、暖炉の前で本を読んでいた老魔術師にオリハルコンの研究資料の件で感謝を述べてから目的地へと急いだ。

 

 

─ベルガラック南部─

 

「ふう…間に合った…」

 

少し急ぎ足だったかいもあり、なんとか夜が明ける前に到着することができた。なだらかな丘陵地にぽっかり空いた不自然な空間。…おそらくもうじきここに『樹』が現れる。

 

「…!」

 

ぼんやりとした光が現れたかと思うと次第に像を結び、萌黄(もえぎ)色の葉は夜の闇を照らす。美しい一本の樹木が、先ほどまで何もなかった場所に存在していた。

 

…『ふしぎな樹木』、または『命をつかさどる木』。一説には『世界樹』、そして『神秘の樹』。この樹は普段は世界のどこにも存在していないが、明け方──彼誰時にのみ、その姿を顕現させる幻の樹木である。明け方の『彼誰時(かはたれどき)』は夕方の『黄昏時(たそがれどき)』と共に彼岸(ひがん)此岸(しがん)の境界が曖昧になる時間帯であり、その瞬間にのみ現れる樹木の強い魔力は、まさに成仏できない魂たちの「止まり木」の役割を果たすというわけだ。

 

「はは、流石にこう連続で神秘と対面すると笑えてきますね…」

 

ふしぎな泉、月の世界、ふしぎな樹木。ドラクエⅧの三大神秘にまさか一日で全て出会うとは思わなんだ。しかしイシュマウリの言ったことが真実であるならば…!俺は青々と茂る樹木に近づいた。

 

「…む、お前は旅人か。」

 

「おや…はい。私の名はドルマゲスと申します。見ての通りの旅芸人です。」

 

「そうか。わしの名はバウムレン。主人であるラパン様の命令により使いに出たのだが、行く道が分からなくなってしまったのだ。…通りすがりの旅人に聞くのもおかしなことだが、お前は知らぬか?わしはどこへ行くはずだったのか…。」

 

木に近づく俺の背後からいきなり話しかけてきたのはバウムレンと名乗る「キラーパンサー」だった。言葉の内容からしてやはりあのバウムレンで間違いないようだ。よく見ると向こうの景色が見えており、彼が霊体であることをうかがわせる。

 

原作では、樹木に囚われ此岸を彷徨い続ける彼は『キラーパンサー友の会』会長ラパンの命を受けた勇者たちの助力によって無事に成仏していたが…。彼がここにいるということは勇者たちはまだここに来てないってことか。どこで道草食ってんだか。まあいいけど。

 

「申し訳ありませんが私には…。」

 

「そうか…分かっていたことだがな…。」

 

流暢な人間語だ。きっと生きていたころからとても賢い個体だったのだろう。それとも死んだことで言語の壁がなくなったのか?また別の機会に要検証だな。望んでいた答えを得られなかったバウムレンはがっくりと肩(?)を落とした。

 

「少し前から一人の人間がここに住み着くようになってな。彼にも尋ねてみたのだが、どうも気難しい性格をしておるようで何も答えてくれん。…旅人よ、お前も彼の話を聞いてやってはくれぬか?人間同士、何か分かり合えることなどあるやもしれぬ。」

 

バウムレンに促されるまま俺が樹木の裏側を覗くと、一人の見知った老人が樹に寄り掛かって立っていた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『師匠!?しっかりしてください!!師匠!』

 

『ドルマゲスよ…』

 

『は、はいっ!なんでしょうか!』

 

『ドルマゲスよ…お前が来てからの数年間は…わしにとって、とてもとても実りあるものであった…願わくば…お前がわしに代わる大魔法使いに…』

 

『師匠?師匠!師匠…』

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

「し…!」

 

涙が流れる。こんな感覚はなんだか久々な気がする。

 

「ん…、なんじゃ、ドルマゲスか。」

 

「師匠!!!!!」

 

 

「…ずっとどこかへ向かわねばならん気がしていた。しかしそれがどこなのかは分からず…進んでも進んでも気が付けばこの樹の前にいたのだ。そこの()が何か言っておったのは気付いていたが、生憎わしはそれどころではなかったのだ。」

 

「師匠…(変わんないですね)」

 

感動の再会(俺だけ)もひとしお、研究者気質な俺と師匠は早速現状把握と考察に入った。

 

「む?ドルマゲス…おぬし今失礼なことを考えたな?」

 

「え!?いやそんなこと…」

 

「ふん、まあいい。それよりドルマゲス、ここはどこだ?あの戦いから何があった?」

 

俺は話した。トロデーン城での戦いの結末、暗黒神の暗躍、勇者の誕生、サーベルトの活躍、ユリマちゃんの謎、キラちゃんの紹介、そして今の目的の話…

 

「ほう、そんなことが…む?」

 

「どうしました?」

 

「お前、さっきラプソーンの戦いでわしは死んだと言ったな?」

 

「ええ、はい。」

 

「わしはここにいるではないか?死んでなどおらんぞ。」

 

「え?いやだから師匠はあそこで(ラプソーン)に貫かれてですね…」

 

「んん?分からんことを言いおって!わしは今ここで生きているではないか!」

 

えぇ…死んでいる間にボケてしまったのか…?

 

「ししょー…」

 

「なんだその哀れんだ目は!?大体暗黒神が憑依していたとはいえ、わしがお前のようなひよっこに後れを取るわけがないだろう!」

 

全然聞く耳を持ってくれない。全く!自分の見たものしか信じない頑固さは死んでなお健在か!ああじれったい!!

 

「師匠!失礼します!」

 

「ぬ?うおおおおぉぉぉ!?!?」

 

俺が師匠の胸に向かって腕を差し出すと、俺の腕は師匠の身体を貫通した。当然だ。今の師匠は霊素だけから成り立つ完全霊体。長い旅路で薄れていったのか、魔力すら持っていない今の状態は「あやしいかげ」などエレメント系の魔物よりも純粋な存在である。よって物理的な干渉は完全に不可能なのだ。

 

「ほら見てください師匠。私の腕は確かに貫通しましたが、私が師匠に触れることはできていません。」

 

「ふう…ふう…な、何をするのだ、心臓に悪いわ…!」

 

「こうでもしないと信じないじゃないですか、あなた…。あと悪くなる心臓もありませんよ。」

 

「ふぅ…ふぅ……はあ…。……成程、納得はいかんが理解はした。わしは確かに死んで、ここで魂だけの存在となったというわけだな。…残念だ。暗黒神の野望を止めることは叶わなかったか…」

 

「…」

 

「魂だけとなった存在は非常に希薄。通常の場合成仏は秒読みじゃ。しかしわしは自分の死を自覚していなかったため成仏できていなかったというわけか。…ふん、それでドルマゲスよ。お前は迷えるわしに引導を渡しに来てくれたわけだな?」

 

えっ、違う。

 

「いや─」

 

「皆まで言うな。全く…弟子に殺されるなど、いくつ年を重ねても未熟者よ。…まあ、こうして最期に弟子に看取られるというならば、一人寂しく没するよりかは悪くはない。」

 

ああ、これも久々だ。「人の話を聞かないモード」の師匠。こうなったら待つしかない。

 

「まだまだ研究したい魔法は山ほどあるのが無念だが…それでもこの過酷な世界でこんな老人になるまで生きてこられたことをせめてもの僥倖と思おう。……さて、我が弟子ドルマゲスよ。別離の時間だな…。」

 

「…」

 

「『大魔法使い』マスター・ライラスの物語は今日を以て終幕。今からお前が『大魔法使い(の弟子)』を名乗るがよい。では、達者でな…!」

 

師匠は悦に入ってしまい、しかもなんか勝手に成仏しようとしている。話も聞かず勝手に逝かないで欲しいですねホント。

 

「えーと、師匠?」

 

「…なんじゃ。雰囲気が台無しだぞ。」

 

「私は…その、師匠を看取りに来たんじゃなくて、迎えに来たんですよ。」

 

「…は?」

 

ああ、もちろん死神的なお迎えではなくてね。俺は『賢人の見る夢(イデア)』から凍らせた棺桶を取り出した。思っていた形ではなかったが、師匠の魂と出会えた。肉体はここにある。そして俺は"魂を移動させられる"。

 

「ん?棺桶…ま、まさかお前…」

 

俺は棺桶を開き、師匠の肉体を取り出すとこの前勇者たちの料理を温めた時の様に、魔力で凍った肉体を温め始めた。凍った人体を常温にレンジアップするのは初めてだが…まあ何とかなるはず。

 

「ぬおっ!それは…わしか!?……お、お前は本当に人を驚かせるのが得意な奴だな。」

 

「もちろんです。道化師ですから。」

 

こんなもんかな。俺は師匠の肉体が上手く人体に適した温度になり、凍ったままの場所がないことを確認すると、どこか達観した様子の師匠(魂)に向き直った。

 

「今から師匠の魂を肉体に移します。精神、肉体共に安定しているのでほぼ確実に成功しますが…かなり長い間凍らせていたのでおそらく身体中がバキバキで関節一つ動かすのも容易ではないでしょう。なのでしばらくは私の会社で療養してもらうことになるでしょうが…構いませんか?」

 

「ふん…まあそれで再び生を受けられるというならば、文句の一つや二つは飲み込んでやる。さっさと成功させろ。」

 

このツンデレジジイ。素直じゃないんだから。さて、俺は左手で師匠の肉体の胸に手を当て、右手で魂の胸のあたりに手をかざした。さあ始めよう。師弟の再会を祝して!

 

「『胎児の見る夢(エーテル)』!!」

 

 

「…むっ!」

 

「師匠、おはようございます。10秒ぶりくらいですね。とりあえず顔の筋肉と生命維持に最低限必要な筋肉は弛緩させたので見たり話したりはできるでしょうが、立ったり歩いたりするための治療はものすごい時間がかかるので、それは後で受けてください。」

 

「…ま、お前も『大魔法使い(の弟子)』を名乗るならば蘇生くらいできて当然だな…ってイダダダダダ!!」

 

「あーあー…えっと動いたら激痛が走ります。ご注意を。」

 

「さ、先に言わんか!!!」

 

ごめんちゃい。俺は心の中で舌を出して可愛く謝った。

 

「さて、行きましょうか!」

 

「ま、待ってくれ!!」

 

「「?」」

 

突如舞い込んできた声。俺と師匠が振り返ると(師匠は首も動かせないので耳だけ傾けた)、そこにはバウムレンがいた。

 

「今までの話…そして今の()()、失礼ながら見聞きしていた!そして頼みがある…!わしを……もう一度ラパン様に会わせてはくれんか!?」

 

「…続けてください。」

 

「…ずっとおかしいとは思っていたのだ。行けども行けども同じところをグルグルと回ってばかりなのだからな。…だがお前…いや、そなたの話を聞いて合点がいった。わしは()()()のだと。いつどこで…そのようなことは最早思い出せんが…。わしは永遠に行くべき道を見失ったままであった。しかしそこにそなたが現れた。わしはもうずいぶん前に死んだ身。もう肉体は土に還り、残ってはいまい。」

 

「…」

 

「…しかし死を自覚した今、成仏は秒読み…。頼む、道化師の旅人よ。その()()の力を以てわしをラパン様に……」

 

バウムレンは項垂れた。

 

「最期にラパン様に一目だけでも会う機会を…くれないだろうか……。後生だ。」

 

バウムレンは低く低く頭を垂れた。後生って、あんたはもう死んで…なんて野暮なことを言う空気ではないので、黙って俺は話だけは聞いている師匠に目をやって判断を仰いだ。

 

「…救ってやれ、ドルマゲス。…何も全ての命を救えとは言わん。しかし救える魂を救わないというのはどうも後味が悪いだろう。こやつは少しの間だがわしと一緒にいた数奇な魔物だ。そんなものを見捨ててはこちらの夢見も悪くなる。」

 

「師匠らしい答えですね。無論、そのつもりです。……さて、バウムレンさん、あなたをあなたの古き友に会わせること…私には叶います。しかしそれだけで良いのですか?」

 

「?…それは、どういう…」

 

「今ならあなたをもう一度この大地に足をつけさせることもできます。」

 

「まさか、生き返ることができる…と言うのか…!そのようなことが…」

 

「当然、別れの時はいつか訪れます。私と師匠もいつかはお互い遠く離れた地へ行くでしょう。しかしあなたは長い間主に会えない日々を一人で耐え忍んできました。もう一度出会って、思いの丈を伝え、触れ合うことくらいは許されても良いのではないでしょうか?」

 

バウムレンは信じられないという風に大きく開いた眼でこちらを見、わなわなと身体を震えさせた。

 

「た…頼む…もしも万に一つの()()が起こるならば…どうか…どうか…!」

 

『奇跡』。『奇跡』ね。奇跡というのは──

 

「…奇跡というのは『低確率の事象を確定的に発生させること』ではない。この世には独立した確率過程など存在せん。この世界はひとつの統計的集合体に過ぎないからな。つまり今からこのひよっこが行うのは──」

 

俺と師匠の声がシンクロする。

 

「「ただの『作業』。」」

 

「…ふっ。」

 

「…流石は師匠です。…バウムレンさん、心配しないでください。あなたが孤独に過ごした長い長い時間は私が必ず報いてみせます。」

 

「おお…!おおお……!ようやく…わかった。わしが今の今まで存在しない目的地に向かってずっと彷徨っていたのは…そなたらに出会うためだったのだな…!ありがとう、ありがとう…!」

 

嬉し涙を流して泣き崩れるバウムレン。俺はそれを微笑んで見届けると、『イデア』から「キラーパンサー」タイプのセキュリティサービスを取り出した。合成筋肉と機械由来の肉体だが、普通に生きて、普通に天寿を全うする分には問題ないはずだ。命令に従うプログラムが内蔵されている制御システムなど野暮な装置は取り外しておこう。俺はバウムレンとセキュリティサービスに手を置いて『エーテル』を行使した。三度目ともなれば他者の魂を移動させる感覚にも慣れたものだ。

 

 

「本当になんと感謝を述べればよいか……!旅人たちよ、本当にありがとう。いつかまたラパンハウスに会いに来てくれ。ラパン様もきっとお喜びになるはずだ。」

 

「いえいえ。こちらこそあなたの魂を救えてよかった。さあ、ラパンさんの元へ。お元気で!」

 

無事に受肉したバウムレンは、新しい肉体にも難なく順応して俊足で駆けていった。これならしばらく経たないうちにラパンとも再会できるだろう。それにしてもラパン…こんな大事な友の弔いを通りすがりの旅人に任せるなんてどういう神経をしてるんだ…?原作ではバウムレンのために仕事をしなければならないとは言っていたが、それとこれとは全く別問題な気が…。

 

「…おい」

 

俺がバウムレンを見送って振り返った瞬間、ふしぎな樹木は姿を消した。彼誰時が終わり、朝が来たのだ。人助けと魔物助けをした後の朝日はこの上なく気持ちいい…

 

「おいっ!ドルマゲス!」

 

「あ、はい。」

 

「あ、はい。じゃない!早く療養所へ連れて行ってくれ!さっきから身体中が痛くてかなわんのだ!」

 

「あー、はいはい。分かりましたよ。じゃあ行きましょうか。」

 

俺はわざとドライに振舞ってみせた。本当は師匠と再び会えて嬉しくてたまらないのに。師匠もきっとそれには気づいているが、何も言わない。…それは俺もまた師匠が内心では生き返ることができてうれしく思っていることに気が付いているからだ。

朝日は美しく、眩しかった。

 

 

 

 

 





そろそろ忘れてくる頃なので、ここらへんでオリジナル設定ことドルマゲスの呪術についておさらい

呪術:いわゆる魔法とは異なるプロセスで行使される超自然現象。魔力でなく霊力を使って唱えられる。一般に人間が使うことは叶わず、魔物特有の技として知られていたものをドルマゲスが名付けた。

霊力:どんな生命体もそのうちに秘めているとされる形のないチカラ。これを使うことで「ぶきみなひかり」や「いてつくはどう」「しゃくねつ」などを始め、念力・呪いなど人間には使えない技が使えるようになる。『滝の洞窟』にてザバンから使い方を教わった。「霊力の存在を信じること」がカギとなる。

魔術:ドルマゲスが呪術と現世知識と想像力で作り出したオリジナルの魔法。大抵は直接的な攻撃力を持たずサポートに使われることが多い。ドルマゲスの姑息な戦闘スタイルをより幅広いものにする。

『賢人の見る夢(イデア)』:初出は第七章。ドルマゲスが最初に編み出した魔術の一つ。亜空間(あるいは異空間)につながる次元の穴を空け、自由に出入りできる。中は暑くて乾燥しているが人間でも耐えられないことは無い環境。ドルマゲスは専ら収納スペースとして利用している。

『悪魔の見る夢(アストラル)』:初出は第十章。ドルマゲスが最初に編み出した魔術の一つ。分身することができる。原作ドルマゲスの行動をモチーフにしており、分身のパワーバランスも自在に調整できる。分身が死ぬとその知識は他の分身体にフィードバックされる。意識すればリアルタイムで情報を共有することもできる。現在ドルマゲスはベルガラックに本体、サザンビークに分身体がいる。

『胎児の見る夢(エーテル)』:初出は第十章。ドルマゲスが最初に編み出した魔術の一つ。精神、もとい魂魄を自在に移動させることができる。本来の使い方は幽体離脱だが、『アストラル』があるため死に設定に。だがトロデーンではラプソーンの意識をシャットアウトするなどの活躍を見せた。現在は健全な肉体と魂が近くにあればこの魔術を使って反魂することができるようになっている。

『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』:初出は第十一章。トラペッタに侵入する際に初使用された魔術。波長を操ることで姿、音、気配を消すことができる。触れ合っていれば共振現象を起こして同行者の姿も消すことができる。「匂い」や「魔力」は消せないという欠点を持つ。

『妖精の見る夢(コティングリー)』:初出は第十一章。サーベルトの死を偽装する際に初使用された魔術。変身魔法『モシャス』を別のアプローチから行使することで完全な変装を可能にする。さらに生物ではない機械や人形にも唱えられる。魔法ではないため、「いてつくはどう」や「ラーの鏡」であっても変装を見破ることができない。

『聖夜に見る夢(ジングル・ベル)』:番外編に登場。冬を知らないトラペッタのためにドルマゲスが編み出した雪を降らせる魔術。複数の魔法と呪術が混ざって出来ている。

『偶像の見る夢(ヴェーダ)』:初出は第二十三章。ラプソーン(二戦目)で初使用された魔術。「たね」と「きのみ」を一種類ずつ消費することでそれらの持つ身体強化効能を底上げし、一時的に強大な力を得る。効果が切れた後は強い疲労感に襲われる。




原作バウムレンはもう少し救われてもいいなと思ったので復活という形で救いました。
「深き眠りのこな」についてですが、おそらく無くても成仏はできると考えられます。多分より安らかに逝くための道しるべとか、そんな感じのアイテムなんじゃないですかね?

せっかく反魂で生き返ったライラスですが、療養のためしばらくは戦線に復帰はできません。


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第二十九章 豪傑賢者と苦労人

最初の方にかなり好き勝手やって風呂敷を広げたので、あとはこれから回収しきれるかどうかですが…。やっぱり小説は思い付きで書くものじゃないですね…この小説がどう着地するかはカミサマですら存じ上げないかもしれませんが、どうかお付き合いください。今回でACT4は終わりです。

お気に入り・感想・評価いつも励みになっています。これからもどうぞよろしくお願いします。







ハロー!旅の目的の一つである『師匠の復活』を無事に遂げられて上機嫌の道化師ドルマゲスです。そして勇者一行も船を手に入れたと!ようし、場は整いましたね。残った所用を済ませたらサザンビーク王国にレッツゴーです!

 

 

 

 

─アスカンタ国領北部 U.S.A.─

 

コツ、コツと鳴る俺の靴音は魔物たちの喧騒に飲まれすぐに消える。

 

俺と師匠は秘密基地(と呼ぶにはそろそろ限界があるかも)であるU.S.A.にやってきた。もちろん身体の動かせない師匠のリハビリのためだ。…ここはモノ、カネ、チエ、ヒト(魔物)、全て揃っていて、その代表たる俺の権力を存分に行使すればきっと世界一待遇の良い療養地(クアオルト)になる。肝心の治療に関しては、もしかすれば薬草園で有名な雪国『オークニス』に行けば良い薬が見つかるかもしれないが、長い目で見れば十分ここの環境でも完治まで持っていけるはず。

 

「あっ、ドルマゲス総監督じゃないっすか!お久しぶりっす!何抱えてるんすか?」

 

「現場監督ですか?お久しぶりですね。…あー、これは私の師匠です。わけあってこうやって運んでいるんですよ。また後でドン・モグーラ"リーダー"を通して全体に通達しますね。」

 

「…おい、仮にも師匠であるわしを『これ』呼ばわりするんじゃない…」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

向こうから歩いてきた「いたずらもぐら」に話しかけられた。彼はこのアジトの建設業を取り仕切っている現場監督だ。カラッとした快活な性格で、裏表のない良い魔物である。

長時間死亡した状態のまま凍らせていた影響で身体機能が著しく衰弱している師匠をそのまま運んでしまうと、耐え難い激痛が走るので(師匠ならやせ我慢するだろうが)念力で一番安定した体勢に固定して運んでいる。その様子はさながら等身大パネルを抱えて街を闊歩するヲタク(死語)のようだ。『死後』だけに。あは。

 

「了解っす!ところで総監督が外出している間の達成報告が27件あるんっすけど…書類取って来た方が良いすか?」

 

「え!?う…ちょ、ちょっと今は急いでいるので…!」

 

相も変わらず仕事が早い。今は情報隠蔽の関係から地下の改造にしか手を入れていないが、地下街が完成して地上に進出するのも時間の問題だな。俺は『悪魔の見る夢(アストラル)』で分身を作り出し、魔物たちの経過報告を聞かせることにした。分身の俺が恨みがましい目でこちらを見てくる。ゴメン、俺。

 

「(くっそー…覚えてろよ俺…!)はぁ…はいはい、達成報告をお願いします。…ああ、すみませんそこのホークマン。ドンモグーラリーダーと研究所のチーフたちを呼んできてください。えぇと営業報告書はどこに提出するように言ってましたっけ…」

 

俺を睨んでいながらもテキパキと動く分身の俺。ここは彼に任せることにして俺は地下の奥の方へと進む。

 

 

俺は師匠を抱えて、第一層から四層まである内の最下層、U.S.A.の第四層を歩いていた。このアジトで暮らす魔物は確かに多いが、度重なる掘削工事によって拡大されたアジトの広さはそれを大きく凌駕する。外部からの宿泊施設(未稼働)や大型ショッピングモールがある第一層、従業員たちの寮がある第二層、研究所や工場のある第三層…をさらに降下すると、ただコンクリートで整備されて、何件か仮設住宅の立っているだけの階層に到着する。ここは静かで師匠の療養にはピッタリだ。

もちろん日向ぼっこをしたり散歩をしたりするために、地上に続く直通の『架空昇道(エレベイター)』をすでに作ってある。あとは最終調整を済ませれば稼働可能だ。まさかこんなに早く使うことになるとは思っていなかったが…何はともあれ間に合ってよかった。

 

「…ドルマゲス」

 

「はい?」

 

俺が視線を下へと下げると、師匠は何やら難しい顔をしていた。

 

「ここは…この施設はお前が作ったのか。」

 

「はい。私が建てたわけじゃないですけどね。」

 

「そんなことはわかっておるわ。…わしが言いたいのはこの施設建設にいたるまでのあれこれを全てお前が主導したのかということだ。」

 

「そうですね。工場の製品の原案や研究所の研究テーマはもちろん、労働システムを整備したり、アスカンタ王国から土地の権利書をいただいたり、従業員である魔物を統制しているのは基本的に私です。」

 

「…」

 

待ってましたとばかりに俺は自分の功績を列挙したのだが、師匠は何も言わない。…もしかしてあまりお気に召さなかったかな?

 

「…やるな」

 

「えっ…」

 

「わしは…わしではこのようなことは絶対に成し得ない。この何十年、ずっと魔法の研究をしてきたわしは、魔力の塊であるはずの魔物を利用することすら考えもしなかった。しかしおまえは柔軟な発想を忘れず、知識に貪欲で、どこまでも自分の可能性を疑わなかったな。結果、魔物の言語を習得しこんな巨大な施設まで作り上げた。…わしが死んでいる間に大きく"成った"ものだ。」

 

「!?」

 

し、師匠に褒められた!?!?師匠の方を向いていた俺は慌てて前を向いた。あの偏屈ジジイの研究バカが誰かを褒めるなんて…!」

 

「…途中から聞こえておるぞ…!誰が偏屈ジジイだ!!『これ』発言といい、さっきから失礼だぞお前!!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

「ふん!……まあお前のようなひよっこに、魔法の才では絶対に負けんがな!」

 

「…はい!」

 

そういうと師匠はそっぽを向いた。首を動かすのも激痛が走るだろうに…。でも、嬉しい。認められるというのはこんなにも気持ちいいのか。サーベルトやキラちゃんは俺が何かするたびに手放しで褒めてくれる。そこに世辞は無くて、目をキラキラ輝かせて称賛してくれる。それはもちろん嬉しいのだ。でも、俺を叱責し、どこまでも自分は上位者だという姿勢を崩さなかった師匠が、改めて俺を認めてくれたのは違う感覚で、嬉しかった。

俺は師匠が向こうを向いているのをいいことにニッコリと微笑んだ。…つもりなのだが、すれ違う魔物たちはみな俺の顔を見てテンションを下げていく。全く失礼なやつら!

 

 

「──では、基本的に電気治療によって硬直したままの筋肉を少しずつ弛緩させていきます。えーと大体腕が動くまでに必要な時間は3時間、脚が動くまでは10時間、指が動くまでは12時間、内臓機能の完治までは──」

 

「分かった分かった。詳細は全てそこの紙に書いてるのだろう?腕が動くようになったら手前で勝手に読んでおく。」

 

俺は仮設住宅の内の一つを借り受けた。そこのベッドに師匠を横たえ、電針を師匠の身体に接続する。

 

「承知しました。何かあったらそこらで歩いている従業員を呼んでくださいね。ここで作業する従業員は後で全員人語を解する者を割り当てておきますので。私の分身はサザンビークの『太陽のカガミ』によって『闇の遺跡』の封印が解けるまではしばらくアジトに常駐する予定ですから、車いすで地上に出たくなったり、寂しくなったらいつでも呼んでください。」

 

師匠にジロリと睨まれた。ただのジョークなのに…

 

「サザンビークへ行くのか?」

 

「先にベルガラックに立ち寄ってから行きますよ。ラプソーンがあれから動きを見せないので安心してすっかり忘れてしまっていましたが、目的は賢者に話を聞くことですから。」

 

「そうか。では世界のためにせいぜい励めよ。わしは少し眠る。」

 

そういうや否や、師匠は早速寝息をたて始めた。無理もない。肉体はありえないほど疲労しているし、精神はこの数か月の間一度も眠っていないのだから。

俺は師匠に毛布をかけると、アジトを出て『ルーラ』でベルガラックに移動した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─ベルガラック─

 

()()()()から──ラプソーンがベルガラックの町長ギャリングの邸宅を襲撃した事件からしばらく時間が経っており、しかも町には特に被害が出ていなかったためか、ベルガラックは変わらず活気に溢れていた。俺はカジノに向かって走ってくる人々をなんとか避けながらギャリングの邸宅へとたどり着いた。

 

「うっわー…すごい人ですねぇ…」

 

ギャリング邸では王城と見紛うほどの数の兵士が番をしていた。おそらく先の襲撃でギャリングは自分が狙われたであろうことを正しく察知したのだろう。原作では腕力自慢で豪気な男であるくらいしか情報は無かったが、なかなかどうして賢明な男じゃないか。…まあいい。さっさとギャリングに会いに行こう。俺には最高の()()()()があるからすぐに会えるはずだ。俺はドラクエⅢの女戦士みたいな兵装をした暇そうな門番に話しかけた。

 

「もし、ギャリング氏にお会いしたく参ったのですが。」

 

「なに?うーむ、お前のような興行師の来客は聞いていないぞ。名を何という。」

 

「ドリィと申します。ベルガラックの町長であるギャリング氏にどうしてもお伝えしたいことがあり参上しました。」

 

「知らん名だな…要件はここで言え、あとでギャリング様に伝える。」

 

「…」

 

それは困る。賢者の話題を一門番に言伝を頼むのは少々センシティブすぎるし…。よし!俺は懐から紙を取り出して門番に見せた。

 

「こちらをご覧ください。アスカンタ王国の国王直筆の証書です。本当は大っぴらにしてはいけないのですが…私はアスカンタ王室の()()としてベルガラックに参ったのです。」

 

「なにっ」

 

門番は紙をまじまじと見ている。こんなこともあろうかと昔パヴァンにサインをもらっていて正解だったな。もちろんパヴァンやシセルには許可を貰っている。むしろ「僕のサインと判が証書としてドルマゲスの役に立つならば、存分に使ってくれ!」と全面的に協力してくれた。優し過ぎである。

ふっふっふ、三大国の一国であるアスカンタの証書を前にして慄かない人間はいまい。

 

「むむむ…いよいよ怪しい!貴様!何者だぁっ!」

 

えええええっ!?

 

「えっと、だからアスカンタの密命だと…」

 

「問答無用!!アスカンタの名を借り、ギャリング様の命を狙う盗賊めっ!」

 

「(めちゃくちゃだ…)ん?」

 

門番はいきなり斬りかかってきた(もちろん刃はしまっているが)。よく見ると相手の兵装は門番というよりも旅人のそれである。もしやギャリングは門番を傭兵で賄っているのか!?

 

門番が声を荒げながら暴れるので、他の衛兵たちも何事かとやってきた。

 

「(もう…面倒ですねぇ…)『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』」

 

「えっ!?アレッ?消えた?」

 

俺は姿を消して屋敷に潜入した。不法侵入は事後処理がややこしくなるためあまり好ましい手段ではないのだが…門番があそこまで世間知らずな人間ならあそこから巻き返すのは不可能だろう。はぁあ……。

 

 

一度テラスから屋敷に入ってしまえばこっちのものだ。俺は古き良きⅡ・Ⅲ時代のチート呪文『アバカム』で屋敷内の扉を開けまくってギャリングの私室へと向かい、最後の大扉を勢い良く開いた。…うーん、これじゃ十分賊だな。そういう意味では門番の言い分は正しかったかもしれない。

 

「ギャリングさん!初めまして!」

 

「なんだ!?扉がひとりでに開いたぞ!?」

 

まあ聞こえないよね。俺は扉を閉め、『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』を解除した。スーツに身を包み、豊富な髭とは対照的なつるっぱげ、葉巻を加えたガタイの良い中年の男が俺を見て驚きの声を上げる。そう、このマフィアチックな男性こそがベルガラックの町長にしてカジノのオーナー、賢者の末裔ギャリングだ。

 

「ぬっ!?なんだ、貴様は!どこから現れやがった!」

 

「初めまして、ギャリングさん。私はドルマゲスと申します。…単刀直入に申し上げます。本日は先の襲撃についてのお話をしに来ました。」

 

即座に戦闘態勢を取るギャリング。しかし「先の襲撃」という言葉で彼の眉が少し上がった。

 

「何?……貴様、あの件の関係者か?…わざわざおれの前に現れるとはいい度胸だ!歯ァ食いしばれよ…!」

 

「ちょっちょちょ!やめてください!私は犯人じゃないですよ!」

 

門番と言い家主と言いなんでこんなに喧嘩っ早いのか。…なんかもう嫌になってきたなぁ。

 

「賢者の末裔」

 

「!?」

 

「…」

 

「貴様、何故それを…」

 

ギャリングは今にも俺を殴ろうとしていた腕をピタリと止めた。ああよかった。一か八かの賭けだったが…ギャリングは自分が賢者の末裔であることを自覚していたようだ。

 

「話を、聞いていただけますか?」

 

「…」

 

「…」

 

ギャリングはしばらくこちらの目をじっと睨みつけていたが、俺が全く退かないであろうことを悟ると諦めたように目線を逸らした。

 

「ちっ、話したいなら話せ。…ほら、そこに座んな。」

 

ギャリングはどかっと部屋の中央にあるソファに座り込み、俺を向かい側に座るよう促した。ギャリングは脳みそまで筋肉で出来ていそうな豪傑だが、考えなしではなさそうだ。早速俺はお言葉に甘えてソファの端に腰かけ、暗黒神の話をし始めた。

 

 

「ほう…トロデーン王国の崩壊、マユツバものの話だと思っていたのが真実で、しかも犯人はお前だとな。しかも暗黒神はお前からお前の女に乗り移って、それがおれの屋敷を襲ってきたとは……ウーム、どうも信じがたいな。」

 

「信用を得られないことは覚悟しております、しかし──」

 

「だが、()()()()()信じようじゃねぇか。事実は小説より奇なりってな。正直お前の格好も佇まいも言うことも全部胡散臭ぇが……お前のする話は一貫してる。さらにおれの『私兵団』がかき集めてきた襲撃の情報とも大方一致している。……要は今後おれはしばらくの間お前と連絡できるこの石板を携帯し、身辺警護を強化していればいいんだな?」

 

「…!はい」

 

ギャリングは俺が手渡した携帯念話肆號(フォンⅣ)を手に持ってひらひらと動かせてみせた。この人、話が分かりすぎる。豪傑は総じて脳筋だと侮っていた過去の自分をぶん殴りたい。自分の感情や勘を軽視せず、かつ理論的な思考も持ち合わせているとは…。

ところで『私兵団』…?ああ、原作でギャリングの敵討ちのため闇の遺跡に来たはいいものの、『太陽のカガミ』が無くてうろうろしていた人たちのことか。

 

「信じていただきありがとうございます。」

 

「いいってことよ。……で?それだけか?お前の要件は。」

 

(くゆ)る葉巻の煙の奥でギャリングの目がギラリと光る。流石、鋭いな。

 

「本題はさっきの話ですが、持ってきた話はそれだけではありません。ここだけの話、実は私『会社』を持っていまして、現在アスカンタ王国とは取引しているのですが、(きた)る大戦に備えて事業を拡大しようと思っていまして…」

 

そう言った瞬間、ギャリングはニッと笑った。俺も大概だが、この人の笑顔もなんか怖い。アウトローな雰囲気が全面に出てるんだよな。

 

「つまり、商談だな?…面白い!おい、フォーグ!!ユッケ!!いるんだろ?そんなとこで盗み聞きしてねぇで入ってこい!」

 

「えっ?」

 

ギャリングがドアに向かって声をかけると、ギイィ…という重厚なドアの音と共に俺が入って来た方とは逆の扉が開き、少し気まずそうに少年と少女が入ってきた。周囲の気配には注意していたつもりなのだが、全然気が付かなかった…

 

「えへへ、バレちゃってた…?」

 

「ユッケ!妹よ!お前の鼻息が荒いのが原因だぞ!」

 

「何よ!お兄ちゃんだって聞き耳立てようとしてドアに頭をぶつけてたじゃない!きっとそれが原因よ!」

 

「ゴチャゴチャ見苦しいぞお前たち!おれはお前らがドアの前に来たときから気づいてんだ。」

 

盗み聞きがバレた原因を擦り付け合っていた二人だが、ギャリングに一喝されるとしおらしくなってしまった。

 

この二人はギャリングの養子。鮮やかな水色の髪をしているのが兄のフォーグ、鮮やかな黄緑色の髪をしているのが妹のユッケだ。原作で出会う時には父であるギャリングは既に亡くなっていたため、元々の性格とゲームの性格は異なるところもあるかと思っていたが、この様子だとそこまで変わりはなさそうだ。そう判断した俺は小声でギャリングに耳打ちをした。

 

「(彼らはいつから聞いていたんですか…?)」

 

「(少し前からだろうな。でも安心しな、むやみやたらに言いふらすようなガキ共じゃあねぇ。)」

 

「(そうですか…)」

 

まあ…それならいいか。いいのか?…いいか。

 

「改めて紹介するぜ。コイツらはおれのガキ、こっちがフォーグでこっちがユッケだ。」

 

フォーグはこっちを見て軽く一礼したが、ユッケはあっかんべーをした。どうやらまだ信用してくれてはいないらしい。最低限の礼儀を持って接しているが、フォーグもおそらく気持ちは同じだろう。

 

「パパ、この人信用して大丈夫なの?もしかしたら例の襲撃犯で、今度は直接パパを襲いに来たのかもしれないのよ?」

 

「妹の言う通りだ父さん、あの時は何故か屋敷には傷ひとつついていなかったからよかったものの今度はどうなるか…」

 

フォーグとユッケはギャリングに詰め寄る。いくら親だとはいえ、こんなマフィアのドンみたいな男を前にああも強気に出られるのはちょっと羨ましい。

 

「あー、この道化の言うことには、あの時屋敷を守ったのはコイツの張った結界らしいぜ。コイツはむしろおれたちの恩人じゃあねぇのか?」

 

「ええ~~!?そうだったの!?ゴメンねドルマゲスさん!疑ったりして!」

 

な、なんて単純n「ええ~~!?それでいいのか!?単純!単純すぎるぞ妹よ!!」うんうんそうだねフォーグ君。君が正しい。

 

「ムッ!あたしがどう思おうとお(にぃ)には関係ないでしょ!!」

 

「今は父さんとギャリング家全体の問題なんだ!」

 

再びギャースギャースと口論を始める兄妹。流石のギャリングも手を焼いているようで、どうしたものかと頭を掻いていた。

 

「い、いつもこんな感じなんですかね?」

 

「ああ…顔を合わせりゃいつもああやって口喧嘩だ。仲が悪いわけじゃねぇんだがな…」

 

確かに、本当に仲が悪いなら相手を「妹」だの「お兄」だの呼ぶことは無いような気がするので、本当は仲良しであることはなんとなく推測できるが…難儀なものだなぁ。

 

「で、パパ?なんであたしたちを呼び入れたの?」

 

「そうだな。何かわけあってのことじゃないか?」

 

ほら。ここぞという時は息ぴったりだ。

 

「あ、ああ。コイツが商談を持ってきたって言うんでな。いい機会だ。将来ギャリング家を継ぐ者としてコイツとの商談を成立させてみろ。」

 

「え?」

 

「…成程。彼の持ってきたビジネスがギャリング家の利になるか否かを判断しろ、ということだな。」

 

「よし!じゃあより良い条件で商談を成立させた方がギャリング家の次期当主ってのはどう?お兄ちゃん!」

 

「乗った!」

 

「がっはっは!何でもいい!好きにやってみやがれ!!」

 

「イヤ、私あなた達個人と取引するわけじゃないんですけど…」

 

俺の声はギャリングの豪快な笑い声でかき消され、そのまま商談が始まった。なんかこの町に来てから「え?」ばかり言っている気が…。…しかし二人とも経営者としての手腕は大したもので、俺がいざプレゼンを始めると真剣にメモを取ったり質問をしたり、兄妹で真面目に話し合うこともあった。ギャリングはそんな二人を満足そうに頷きながら見ていた。

 

結局、こちらの発明品を格安でベルガラックに輸出する代わりにベルガラックは継続的にU.S.A.に資金援助を行うことで合意。ベルガラックに入ってきたセキュリティサービスを始めとした防衛システムの管理権はフォーグに、『洗濯機(グルピカ)』『冷蔵庫(ヒンヤーリ)』『テレビ(シロクロ)』などの現行『家魔(カーマ)』の管理権はユッケに譲渡されることが決まって商談は終了した。中々手強かった。

 

 

「ふう…最初こそ胡散臭く思っていたものの、なかなか面白い御仁じゃないか。」

 

「あら、やっとお兄ちゃんも気づいたのね。あたしは最初から分かっていたけどね!」

 

「…今回ばかりはお前が正しかったようだな、妹よ。」

 

「うふふ。でしょ!」「ふん…」

 

 

 

「あの~、そういうのって私が帰ってからやってもらえますかね…」

 

俺はまだ部屋の隅で帰る準備をしていたのだが、それをよそに二人は勝手に兄妹の絆を深めていた。門番から当主、その子供たちまで、もう本当にここの家の人たちは行動に予想がつかない。彼らは嫌いじゃないし、むしろ好ましいタイプの人間だけど…。うーん、ちょっと疲れる…かも…。

 

「これは失礼した。…そうだ、そろそろ日も傾く。夕食でもいかがかな?」

 

「それ、いいアイデアね!」

 

「…いや、嬉しい申し出ですが遠慮させていただきます。少し急いでいるもので。また別の機会があればよろしくお願いしますね。」

 

これ以上一緒にいるといよいよツッコむ体力がなくなる。食事はまたの機会にしたい。

 

「そうか。ではまたいつでも来てくれたまえ。」

 

「残念。でもあなたならいつだって歓迎するわ!」

 

俺は二人に手を振ると部屋を後にし、そのまま屋敷から出ようとしたところでギャリングに呼び止められた。

 

「もう帰るのか。」

 

「ギャリングさん。はい、流石に少し疲労が溜まってしまって…まだやることもありますしね。ここらでお暇させていただきます。」

 

「そうか。」

 

「では…」

 

「待て。」

 

「?」

 

「その…ありがとうよ。おれを、おれの家を暗黒神の襲撃から守ってくれて。色々あって結局礼は言えてなかった。もしおれがあそこで死んでたらガキ共に遺言の一つも残せなかったろうからな…」

 

「…!ギャリングさんって意外に不器用なところもあるんですね。」

 

「おう言ってくれるじゃねぇか!仁義を重んじる男と言いやがれ!」

 

ギャリングは力強く肩を組んできた。ちょっと痛い。…やっぱり彼も豪快な性格で裏表がない。そういう意味ではウチの現場監督とも似ているかもしれないな。好ましい人間だ。…死んでほしくない。

 

「では!何かあったら直ぐに私に連絡を取ってくださいね!」

 

親指を立てて返事をしたギャリングに手を振り、俺は『ルーラ』でサーベルトのいる『王家の山』へと移動した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

─闇の遺跡・深層部─

 

滴る水滴の音すら大きく響き渡る暗闇の静寂(しじま)。その中央で悍ましい闇のエナジーに包まれていた一人の女が、ついに繭を破って地に降り立った。

 

「ククク…傷は癒えた。これで問題なく動けるぞ…!」

 

端正な顔に似合わぬ邪悪なオーラを纏う女は、ひた、ひたと一歩ずつ歩きながら身体の感覚を確かめる。

 

「折角自由になったことだ。()()()()()()()を今すぐにでも殺しに行きたいが…生憎『準備』の方を優先せねばな…」

 

その瞬間、女の、杖を持っていない方の腕が凄まじい力で女自身の首を掴んだ。

 

「ぐうっ!?…相変わらず忌々しい身体(おんな)だ…我の潜むべき仮の宿としてはこの上ないほどの『暗黒』と魔力をその身に宿してはいるが、この女…()()()()()()()()

 

女は持っている杖で自身の首を絞める腕を突き刺し、肩の関節を外して腕が動かないようにすると、またひた、ひたと暗い遺跡の更に深いところへ向かって歩いていく。

 

「ハァ…忌まわしい…我は根源的恐怖、闇を支配する神なるぞ…!昼の世界と闇の世界、二つの世界を融合させてその世界に君臨するのは我だ…ハハ…くははっ!あははははははははははははははっ!!」

 

女の笑い声は反響して遺跡中に響き、闇の遺跡の彷徨える魂たちは主の帰還の喜びに打ち震え、滂沱の涙を流したという。

 

 

 

 

 

 




ギャリングに賢者の自覚があったかどうかですが、きっとあったと思います。むしろ自覚度ランキングではかなり上位ではないでしょうかね?

賢者の末裔自覚度ランキング~!(私調べ)

1位:メディばあさん…めちゃくちゃ自覚してると思う。家の近くに暗黒神の配下を寄せ付けない結界も張ってあるし。息子グラッドが神鳥レティスのことを知っていたのもメディが教えたのではなかろうか?

2位:ギャリング…かなり自覚しているのでは?そもそも彼の先祖もギャリングである。名前を世襲制にしたのはおそらく賢者の自覚が薄れないようにするためではないか。他にも竜骨の迷宮イベントや3DSのイベントでは「自分が生きていれば世界は平和」という発言もあったため(それが先祖か現代は不明だが)やはり賢者としての自覚はあったと思われる。

同3位:オディロ院長・法皇…それなりの自覚はあったはず。しかし二人ともあの世界では珍しい真の聖職者であったため、慈愛の心に充ち溢れすぎていた。結果対話を試みて失敗。できれば自分が死んだ後の世界についても考えを巡らせてほしかった。

5位:マスター・ライラス…それなりの自覚はあったはず。数字の関係上5位に落ち着いているが多分上位層と変わらないくらいの自覚はあったと思う。しかしメディばあさん以外の上位層全員に言えることだが、子孫を残さないのは最早七賢者への反逆と言えるのではなかろうか。血筋絶やすな言われてるでしょ…。

6位:サーベルト・クランバートル…自覚無し。そもそもクランバートル家とアルバート家の家系図がかなりややこしい上に、両家がそこを有耶無耶にしてしまったため大事な情報が正しく伝達しなかったのだと思われる。

7位:チェルス…自覚無し。しかし悪いのは間違いなくハワードの方である。なんなら七賢者クーパスのハワードとチェルスの関係を繋げるという判断もおかしい気がする。繋げるならせめてどちらが正当な賢者の末裔かぐらいははっきりさせる呪いも一緒にかけた方が良かったんじゃないかな。


こんな感じです。ここはこうでないの?という意見がありましたら是非コメントをお寄せください!それではまた!


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番外編 元王室侍女キラの憂鬱

ちょっとおまけです。
おまけを四つ投稿です。







活動報告書Vol.12

 

ユナイテッド・サービシーズ・オブ・アスカンタ(以下Uと表記)

ドリーム重化学工場(以下D)及びマゲス研究所(以下M)

 

 

報告者名:

いたずらもぐら・マッドドッグ(言語研修中のためマドハンド代筆)・ホークマン

所属組織/部署:

ユナイテッド・サービシーズ・オブ・アスカンタ及び下部組織

 

 

活動概要:

【U】

・領域最終拡張工事の完了及び領域内全土地整備の完了

・第一層の大型商業施設開業

・全従業員の人間語習得学習の継続、第5期新規従業員へのセミナー開催

 

【D】

・『家魔』製造の低廉化に成功

・第一層、第二層に上下水道を開通

 

【M】

・未知のエネルギー『電力』の研究に着手

・掘削工事中に発生、採取した可燃性のガスの日用品及び兵器転用実験(詳細は別紙参照)

 

活動詳細:

【U】

・前報告からの拡張は18%、U.S.A.発足以前の『モグラのアジト』から領域は758%増加。これ以上の掘削は海水の浸入を招くと判断されたため掘削工事は終了した。しかし一部の従業員が無視して掘削を続行しようとしたため現場監督がこれを鎮圧、懲戒委員会に連行した。従業員の一部は仕事を任せないと暴動を起こすため掘削した土地の整備に割り当てた。

 

・第一層大型商業施設の初週の売り上げはほとんどなし。従業員は自由に利用できることと、外部からの顧客を招くことに難航しているのが主な理由。南の大陸本土に出向き、マイエラ地方やアスカンタ地方で積極的な告知を行う案が提言されている。なお、二階の宿屋と道具屋で計二件のトラブルが発生したものの、他の従業員によって取り押さえられ事態は早期に収束。破壊された備品の代替品はアスカンタ王国に発注済み。クレーマーは懲戒委員会に連行した。

 

・現在の全従業員の人間語識字率は56%、前報告から17%減となった。一週間前に『王家の山』の魔物を中心としたサザンビーク地方の魔物たち(197名)が新たに従業員に加わったことが理由。一時的に下落した識字率を立て直すために、新規従業員への会社説明を兼ねた基礎言語セミナーを開催。『先生』と『教授』による17時間にも及ぶ講釈の末、新規従業員の識字率は2%から21%に上昇。途中セミナーに耐え切れなくなった34名の「マッスルアニマル」「かくとうパンサー」が暴れ出すも、駐屯していた安全委員会がこれを鎮圧。当該従業員たちは懲戒委員会に連行した。

 

【D】

・アスカンタ王国の技術者を客員研究員として5名招き、共同で研究を行うことで『家魔』の低廉化に成功。製造コストの25%カットに成功した。なお、客員研究員たちは人間であるため、魔物のみの当該施設で研究施設で過ごすことによるストレスを鑑みて、滞在中は常に橋渡し役として同じ人間である福祉委員会のキラを配置するという案が受理された。施行の結果は成功、客員研究員たちのストレスレベルは大幅に低下した。

 

・マゲス研究所と合同で製作していた海水淡水化装置(オートストレーナ)が完成したため、土地の整備を完了させて手の空いていたモグラたちを指揮して上下水道工事に着手。予定より2日早く工事は完了した。現在は第三層の工事が進行中。

 

【M】

・所長の助言により『電力』という概念を発見、研究に着手。サンプルとして所長から拝借した『デイン』の魔法玉を使って様々な実験を並行して行っている。詳細は実験レポートVol.11へ。

 

成果/結果:

【U】【D】【M】

N/A

 

課題/問題点:

・懲戒委員会の負担が大きい。

・モグラたちに任せる仕事がそろそろ少なくなってきている。

・人間に慣れていない魔物が多い。これは人間が我々に怯える原因の一つでもある可能性がある。

・新規従業員が増加した影響で施設内の治安が若干悪化している。

 

改善策/提案:

・懲戒委員会を増員する。モグラたちを交代制で懲戒委員会に通勤させる。

・呪文習得特訓の時間を一時間削って人間と魔物の共存をテーマにした道徳の時間を設ける。

・懲戒委員会を増員する。

 

従業員から寄せられた意見(一例):

・福祉委員会の食事メニューを増やして欲しい。

・情報委員会が何をやっているのかイマイチ分からないので公表するか解散すべき。

・隣人がうるさい。寮の部屋を変えてほしい。

・寮が狭すぎる。改築してほしい。

・新しく相部屋になったオークキングが自己中すぎるので寮の部屋を変えてほしい。

・懲戒委員会が厳しすぎる。懲戒委員会を解散してもっと自由に過ごさせてほしい。

・ショッピングモールの品ぞろえが少ない。もっと増やすべき。

・なぜ人間を襲ってはいけないのかが分からない。人間は襲うべきだと教育した方が良いと思う。

・トップには会ったことがないが、人間が自分の上に立つことが気に入らない。引きずり降ろして八つ裂きにすべき。

・新規従業員たちの気性が荒すぎる。────────。

・──────────────。─────────────、────────。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「はあ…」

 

途中まで真面目に報告書を読んでいたキラは、「従業員から寄せられた意見」という項目でそれ以上読み進めることを断念した。意見どころかクレームばかり、まるでこれでは初等部の目安箱ではないか。

 

「せっかくいい場所で暮らせてるのに、みんな文句ばかり…!」

 

「おや、キラ女史じゃないか。」

 

「あ、えーと…」

 

向かいからやってきた一匹の魔物。彼の名前を憶えていないキラはちらりと相手が首から下げている名札を見た。人間には魔物の判別がつきにくいのだ。

 

「ホーク(ワン)様。お疲れ様です。」

 

「お疲れ様。今日は非番じゃなかったか?」

 

ホーク1は研究所で遺伝子工学部門(グリーン・チーム)部門長(チーフ)として働いている「ホークマン」だ。かしこさが高いためか理性的であり、人語も完全に習得しているのでまだまだ魔物に親しみきれていないキラでも話せる数少ない常識人(魔物)である。

 

「そうなんですけど…えーと…あっ、それよりホーク1様はこれからどちらへ?」

 

「私か?私はこれから道具屋へ寄って、それから第四層へ向かうところだな。なにやら所長の師匠という人間が休養しているらしく、挨拶に行くことにしたんだ。…かなり気難しいらしいので菓子折りの一つでも持っていこうかと思っていたところだよ。」

 

「へーなるほどドルマゲス様の師匠の…」

 

ドルマゲスの師匠であるマスター・ライラスという人間が昨日やってきたのは知っていたが、昨日は忙しくてキラはどうしても時間が取れなかったのだ。彼が師事する人間とはどんな人だろう?興味の尽きないキラは後で挨拶に行こうと心に決め、思わず報告書を強く握ってしまう。

 

「ああっ」

 

…と報告書はくしゃくしゃになってしまった。折り目を伸ばそうと躍起になるキラをホーク1は不思議そうに見ている。

 

「ん?それは活動報告書?なぜキラ女史が?」

 

「あっえっ……こ、これをですね、今日は私に持って行かせてください!って情報委員会の方に頼んで渡してもらったんです。でも…」

 

「あー…、なるほど?なんでまたそんなことを…」

 

「ドルマゲス様は昨日ベルガラックから帰ってきてここにいますよね?だから渡さないといけないんですけど…」

 

「…」

 

「その…最近会ってなかったので気まずくて…」

 

「わかるよ。所長に報告書渡すのって緊張するよな。(怖いから)

 

まだ折り目が気になって何度も指で紙を引っ張っているキラの前で、ホーク1は腕を組んで心からそう思うという風に頷いた。

 

「え?ホーク1さんも緊張するんですか!?!?(え!?それって好…?)」

 

「え?それはするさ。ドルマゲス所長と会う時は多分みんな緊張してると思うぞ。(怖いから)

 

(!?!?!?!?)へ、へー…!」

 

「所長はすごい(怖い)人だから…呼ばれたり、何か報告しないといけない時は何としても行かなければ…!って気持ちになるな。(行かないと何されるか分かったもんじゃないし)

 

「た、確かにドルマゲス様はすごい方です。そんな方に呼ばれたら確かに行かないわけにはいかないですよね!」

 

「だからここの魔物はみんないつもドルマゲス所長(の顔色)を気にしながら毎日生活してるんじゃないか?」

 

「そ、そうなんですね…(まさか1000を超える魔物たち全員から心を奪っていくなんて…罪な方…)

 

「キラ女史、目が怖いぞ?それにしても同じ人間のキラ女史から見てもそう見えるんだな。少し意外だ。所長は同じ人間に対してはかなり慈悲深いと思っていたのだが…」

 

「え?むしろホーク1さんみたいな魔物の方がその…そういう目でドルマゲス様を見てる方が意外ですけど…!」

 

「だって、機嫌損ねると実験台にされるか煮て焼いて食われるし…」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

「はあ…」

 

結局勘違いだったらしい。キラは少し安心したが、よく考えると何が安心なのかもよく分からない。…ホーク1は最後まで「じゃあ私が報告書を持って行ってやろうか?」とは一言も言わなかった。たとえ言ったとしても彼女は渋るだろうが。

 

「あっ!」

 

その時、キラの懐から大人の握りこぶし程度の大きさの箱が転がり落ちたかと思うと、みるみる箱は展開して獣の姿を象った。仮想自律戦闘人形(プロトオートマタ―)二号機、『奇襲(ソルプレッサ)』だ。彼はベルガラックでパーティから飛び出したキラを迎えに来て以来、すっかりキラのパートナーとして懐いている。彼女がアスカンタ王国でメンテナーとして業務を行う時も同行し、今こうやってアジトで過ごしている時も、場を弁えない魔物によって襲われる可能性があるキラを護るために一緒にいる。今は普通の「キラーパンサー」と同じサイズだが、ドルマゲスの考案した特殊な技術によって肉体を「折り畳んだり」「展開したり」することで小さな箱になることや民家より大きな八足の豹になることができる。

 

「がるる…」

 

「あっ、もしかして慰めてくれてるんですか?…ありがとうございます」

 

「くるるる」

 

「ああ…私を理解してくれるのはやっぱりソルプレッサさんだけです!」

 

「…」

 

キラはソルプレッサに抱き着いた。ごわごわした毛並みがむしろワイルドで、王室育ちのキラにとってはそれが愛おしい。

 

「この報告書…渡さなくてもいいでしょうか…?」

 

「!?」

 

「ドルマゲス様との気まずい空気を直したくて、勇気を出して情報委員会から貰ってきたはいいものの…やっぱりドルマゲス様と顔を合わせる勇気は私には無いです…」

 

「がう、がうう、がる」

 

「いや…でも私もこの数週間頑張ってお仕事してきたんです。ソルプレッサさんも一緒にいてくれますし、私、もう足手まといじゃないですよね?」

 

ソルプレッサは満足そうに大きく頷いた。

 

「よし!じゃあ渡さなくていいですよね!」

 

「!?!?」

 

「だって、もう足手まといじゃないんだからドルマゲス様と仲直りする必要は無くて、だから報告書は渡さなくても良くて…え?私おかしなこと言ってないですよね?」

 

ソルプレッサはぶんぶんと首を横に振った。

 

「や…やっぱり渡さなくちゃダメですか…?うぅー…」

 

その後も散々迷ったが結局キラは直接渡しに行くことができず、そこを偶然通りかかったドン・モグーラを捕まえて報告書の配達を懇願し、持って行ってもらうことにした。

 

「せっかく仲直りするために報告書を貰ってきたのに…いや、でも…」

 

「…」

 

ソルプレッサは報告書を渡してなお葛藤している友人を見て大きくため息を吐いた。彼女のこの煮え切らなさは優しさの裏返し、美点なのだが、ご主人(ドルマゲス)はそれに気が付いているのだろうか。できれば友人とご主人には早めに仲直りしてほしいものだ。

 

そんなことを考えていると少し腹が減ってきたソルプレッサは、まだ目の前をうろうろしているキラをせっついて福祉委員会に昼の配給を貰いに行くよう促すのだった。

 

 

 

 

 

 




仮想自律戦闘人形二号機『奇襲(ソルプレッサ)』

科学による戦力増強を目指したドルマゲスによって作られた人造モンスター。一号機に殲滅特化の『踊り子(バイラリン)』三号機に物理特化の『侍(エスパーダ)』がいる。モンスターの素体に制御装置を組み込んで人工筋肉で補強しただけのセキュリティサービスとは異なり、プロトオートマターは細胞単位で創造されている。そのため機械というよりは生物に近い。二号機ソルプレッサは豹の魔物「キラーパンサー」をモデルに作られた素早さ特化の兵器であり、例えば「はぐれメタル」や「メタルキング」が逃げ出した時に
 ▼ しかし まわりこまれてしまった!  できるくらいには速い。「すばやさのたね」をモリモリ食べて『ピオラ』を重ね掛けし、「ほしふるうでわ」を装備したLv99の勇者の「しっぷう突き」と並走できるくらいには速い。


U.S.A.ホールディングス内の部門

総監督、所長、工場長、代表取締役社長(全部ドルマゲスAが兼任)

現場監督(モグラの子分)、研究部門長(ホークマン)、グループリーダー(ドン・モグーラ)

情報委員会(情報を管理する。何やってるか詳細は不明)
安全委員会(施設内を循環し、危険な場所を報告したり危険因子を排除したり暴動を抑えたりする)
福祉委員会(従業員たちに衣食住と娯楽を提供する。有休もここで申請する)
懲戒委員会(企業倫理から大きく外れたり、社内ルールに違反したものを処罰する)

先生・教授等の客員講師、その他の膨大な魔物の共同体

一般魔物(王家の山で修行しているサーベルトが見込みのある魔物を次々送りつけてくるのでまた増えた)


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幕間:(閲覧自由) 美食道化師の諸国たべある記Ⅲ

【閲覧注意】
この話には一部グロテスクな表現が含まれます。
本編とは関連していないので読み飛ばしていただいても問題ないです。


三回目にして「このコーナー要る?」って思い始めました…
まあ元々思い付きだけで始めた企画ですし、読みたくない人は飛ばしてくれているはずなのでこれからもテキトーに続けていくことにします。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本棚から一冊の本を手に取ったあなたは内容を読んでみた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶり。私は食に対し飽くなき探究心を持つだけのしがない道化師です。……獣は生命維持に欠かせない必須の栄養素を摂取するために食べ物を食べますが、我々人間にとっての「食事」は動物のそれと少し意味を異にします。「誰かと同じ時間を過ごすため」「何かを分かち合うため」「味を楽しむため」人は食事に様々な意味を付加してきました。食事とは人生の楽しみ、人生に豊かさを持たせる儀式ともいえるでしょう。さあ、新たな料理の産声を聞きに行きましょう!

 

 

 

それではどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─ベルガラック地方─

 

・キラーパンサー

肉は堅く食用に適さないが、反面その他の部分の経済価値は高い。皮は「まじゅうの皮」としても使えるほか敷物として加工すれば高く売れる。骨は豹骨として高価な漢方薬の材料になる上、肝・眼球・血・脂などもまた漢方薬の材料として売却することができる。しかし、明言は避けるがベルガラックでは「ある組織」によってキラーパンサーの能動的な狩猟が禁止されており、バラすためには「こちらを襲ってくる種に対するやむを得ない防衛」という形を取らねばならない。

 

・メタルライダー

「騎士の芽」という未知の生命体に寄生されてしまった「メタルスライム」が背からライダーを生やした個体。生えてきたライダーとの自我の奪い合いに負けてしまったスライムは魂を乗っ取られて抜け殻となってしまう。そのため「メタルスライム」単体よりももらえる経験値は少ないのだが、味の方はそこまで変化しない。むしろ通常種より鉄臭いので食用には不向き。二つの意味で『旨味』が少ないので無視してよい。

 

・マペットマン

「パペット小僧」の近縁種のため性質は同じ。こちらは「ドラキーマ」のパペットのみ食べることができる。レモン風味のサラダチキンのような味だが、ガサガサしていて歯ごたえは悪い。もちろん本体は不味い。

 

・バードファイター

ベルガラック最優秀食材候補その1。魔力を抜けば上質な鶏肉として様々な料理に使用できるのはもちろん、その肉質や性質は鶏よりもむしろ烏骨鶏に近いので、内臓を取り除いたバードファイターの胴体の中にもち米、ナツメ、クリ、ニンジン、ネギを詰めて煮込んだ贅沢な烏骨鶏湯としても良い。なお、装備している剣は市販のものなので魔力を抜く必要はない。

 

・シャイニング

太陽の化身らしく熱調理ができない。かといって燃えているわけではないので冷やすこともできない。そもそもエレメント系の魔物なので食用には向いていないのだが。討伐する際は本体の周囲を衛星のように周回している小さな炎(彼の名は「プロミネンスくん」というらしい)から倒すと、シャイニング本体は物理的な攻撃手段を失うのでその後袋叩きにしよう。しかし「はげしいほのお」を吐くことがあるので注意。一応徹底的に弱らせれば簡易コンロくらいにはなるかもしれない。

 

・ポイズンキラー

×

生体はもちろん卵にもマヒ作用のある神経毒があるため食用には向かない。加熱すれば毒素を消すことはできるが、成体の場合毒素を消すほど熱すると可食部が無くなり、幼体や蛹は炭化してしまう。群れで移動するため見つけたら早めに退散するのが吉。…のはずですが私の同行者はモリモリ食べていました。みなさんはやめておきましょう。

 

・オーク

ベルガラック最優秀食材候補その2。個体によって肉は堅かったり柔らかかったりするが、弱いオークは通常の豚肉と遜色ない食感を出せる。臭みが強いのでよく煮込むか、焼くときは「どくけし草」「まんげつ草」「ヌーク草」などの香草と共に焼くと匂いが上品になって良い。実は剥製としての人気も高い。

 

・夜の帝王

強い光に極度に弱いので、光の呪文、もしくは強い光を放つアイテムなどを向けると簡単に気絶させることができる。しかし夜の帝王はフルーツなどを食べて生活している「ドラキー」種と異なり拾い食いばかりしているので焼いても煮込んでも臭みが取れずかなりの大味である。カレーにすれば多少はマシになるがそれでも臭い。

 

・ウドラー

仲間意識の強い樹木の魔物。「じんめんじゅ」と同様に葉を毟れば「せかいじゅの葉」がたくさん採れる、というわけではない。ウドラー自身が摘むことによってその葉がせかいじゅの葉と同等の効果を持つようになるのか、それとも別のプロセスがあるのか分からない(友好的なウドラー個体に聞いたところ、本人たちもよく分かっていないらしい)が、とにかくウドラーを襲っても期待していたような結果は得られない。しかし胴体を乾燥させれば上質なチップとして燻製に使用できる。

 

・アーマービートル

強靭な外骨格に包まれている甲虫。倒した後も生半可な刃物では傷ひとつつかず生体を食すには困難が伴う。反面土中にいる外骨格形成前の幼体は柔いので食べることができ、エネルギーも豊富で滋養強壮に良い。食べる際は水(「せいすい」だとなお良い)に半日ほど漬けて砂や金属を吐き出させ、フライにするか皮を剥いて生で食べる。濃厚な味わいはアボカドとカニ味噌を和えたような不思議な味で、しかしクセになる。

 

・かくとうパンサー

×

両手に爪を装備した獰猛な獣人。たゆまぬ鍛錬の末に完成した鍛え抜かれた筋肉は触れた者に鋼を想起させる。もちろん堅すぎて食べられない。好戦的で気性が荒く人にも懐かないので「キラーパンサー」のように手懐けることは難しく、また経済価値も低い。しかしこちらが戦う意思を見せないと、興味を失って見逃してくれる潔い一面もある。

 

・キングスライム

「スライム」が八匹集まって生まれた、スライムたちの王。味はスライムと大差ないのだが、デカすぎて食べづらい。王冠を外してスライムに戻した方が戦うのにも食べるのにも便利である。余談であるが、研究の結果キングスライムの体内には強大なエネルギーが眠っており、理論的には口から強烈なビームを放つことができる。この世界のキングスライムがそれをしないのは手心なのか、ビームを撃てることを知らないのか…どちらにせよスライムだからと言って油断するのはおすすめしない。

 

・メガザルロック

×

少なくとも数万年は生きている岩石の魔物。争いを好まない性格をしており、いざとなれば『メガザル』を唱えて仲間たちを助けようとする自己犠牲の精神を持っている。こちらに戦闘する意志が無いと、無視するか、もしくはそのまま去っていく。魔石の類かと当初は考えられていたが、その組成を調べたところ通常の珪酸塩鉱物とあまり変わりないため、おそらく魔石ではなく長年形が変わらなかったことによる付喪神の一種かと思われる。そのため経済価値はなく、もちろん食用ではないため見逃してあげてほしい。

 

 

 

 

─トロデーン国領─

 

・ばくだん岩

×

爆発物を含む岩石から生まれた魔物。一撃で戦況をひっくり返す『メガンテ』が怖いが、先手必勝で砕いてしまえば安全に対処できる。しかし倒した後の残骸にも爆発物は当然残留しているので注意。大きめのものは「ばくだん石」として売却、小さめのものは「ばくだん岩のカケラ」として錬金や他の魔物への牽制に使うと良い。

 

・イーブルアイズ

「サイコロン」の亜種。美しい金色の毛皮の需要が高く、食用も可能だが、毛皮は極力傷つけないように心がけるとよい。こちらも主に食べられるのは眼球部で、グリルでよく焼いたコラーゲンたっぷりの目玉は硝子体が融けて食べやすくなり、余分な脂が飛んで低カロリーなので女性の方にもオススメ。プルプルの目玉は一口で。のど越しを楽しみましょう。

 

・マドハンド

×

土食文化はこの世界には無いようで、食べようとしたらドン引きされてしまったのでオススメはしません。一応、健康に良い微量元素や抗生物質を含み、消化促進剤としての役目も果たします。食べ方としては地面からもぎ取って、煮込んだりパンや米に練りこんだりするのが王道ですね。しかしただの泥なので美味しくはない…。労働力としてはとても価値が高いんですけどね。

 

・ベロニャーゴ

一口大にカットした後は天日干しにして乾燥肉にする。干している間が一番匂いがきついので香りにつられてやってくる他の魔物に注意。乾燥肉にした後でも脂分が残っているので煮るなり焼くなり自由に使える。匂いが強いことに目を瞑れば万能肉と言えるだろう。爪に触ると眠くなってしまうのでそこには注意。

 

・デビルパピヨン

大きな体を浮かせるためか、翅の付け根の筋肉が発達している。筋肉質で弾力があるため、翅をもいだら毛を炙って焼き切り、身を少し厚めにスライスして強火で焼くとジューシーで美味い。なお、内臓には命に関わるほどの劇物が入った猛毒袋があるので決して触れてはいけない。

 

・ブルホーク

牛と鶏両方の特性を持つ「あばれうしどり」の近縁種。非常に美味。牛の繊細さと鶏の弾力を併せ持った肉は、酒・醤油で調味した米と細かく切った野菜などと一緒に炊いて混ぜご飯にしたり、そのまましゃぶしゃぶにしても良いが、叩いて柔らかくしたものを焼いてハンバーグのパティとするのがこの食材の最適解。

 

・マッスルウータン

桃色の体毛は美しいが、斬撃に耐性を持つため調理の際は全て抜いておくとその後の行程がスムーズに進む。しかし筋肉は堅く、内臓も肝臓以外は栄養価も期待できない。そのため食事するために狩るのはおすすめしない。

 

・ガルーダ

たくましい両足には筋肉がつまっている。乳酸が溜まれば溜まるほど筋肉は柔らかくなるので、狩猟するときは奇襲ではなく正面から戦闘を挑むと効率がいい。内臓だと、大きな体躯を俊敏に操るためにひときわ発達した心臓が美味い。臭みがあるため十分に血抜きをする必要があるが、その後は生姜と共に煮る、酒や塩を振りかけて焼くなど簡単な調理で美味しく食べられる。弾力が強くかなり食べ応えがある。

 

・ホークマン

グリル、揚げ物、炒め物、煮物、ロースト…ベースが鶏肉なのでどんな調理をしても一定の味は保証される。しかし知能が高いため捕獲前に逃げられることも多い。その頭脳を別の分野に活かすことができればあるいは…。

 

・ベホマスライム

「もっちりとしたゼリー」というなんとも摩訶不思議な食感。ラズベリーの香りが上品さを漂わせる贅沢な食材だが、触手は青臭いので事前に取り去っておく。ホイップクリームなどと非常に相性が良く、腹を満たす料理というよりかはデザートとして重宝する。食材として使わない戦闘の場合は真っ先に全戦力を向けて討伐すること。

 

・はぐれメタル

×

群れからはぐれた「メタルスライム」の成れの果て。文献によれば精霊ルビスによって祝福を受けた「バブルスライム」という説もある。流体金属でできているため、よく調理しないまま食べると肺に侵入され窒息死する可能性がある。そもそも鉄臭い「メタルスライム」よりさらに味が悪いので食べようと躍起になる必要はない。

 

・じごくのよろい

×

トロデーン王国の鎧に地獄の怨念が憑りついて誕生した魔物。つまりトロデーン国民からすると「自国の鎧」が「地獄の鎧」に…。なんとも「食えない」魔物ですね。…おあとがよろしいようで…

 

・いばらドラゴン

…とある道化師の愚行により暴走した魔力が、いばらと絡み合って生まれた竜。見つけ次第即刻焼き払うべし。

 

・メタルハンター

×

メタル系モンスターを狩る、銀色の機械兵。この世界において機械兵はとても重要な意味を持ち、その内部回路からは製作者の卓越した頭脳が垣間見える。使えないパーツはひと欠片もないほど研究・開発には有用だがもちろん食べることは不可能。よって一般の冒険者の方にとってはメタル狩りを邪魔される厄介な存在となるのみだろう。

 

・フラワーゾンビ

人々の嘆きと悲しみを養分に、魔力を吸って咲いた花。瞬間冷却など、適切な手順で魔力を抜けば食用花(エディブルフラワー)として食卓に飾れないこともないが、なんにせよ色合いは悪い。人間の負の感情で育っているので味も苦い。極め付きにちょっと臭い。しかしこれらの特徴をうまく活かせるような料理があればその機を逃さず使ってみよう。

 

 

 

以降、詳しい調理の手順などが記載されている…あなたは気分が悪くなり本を閉じた。

 

 

 

 

 

 




ちなみにこの手記は実際にこのドラクエ世界で入手できるようです。エイトたちが手に取ることは無いでしょうが、スレ民たちならばあるいは…?


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幕間:(閲覧自由) ドラクエ新作をみんなで一緒に実況するスレpart3 前編

この形式は、話の構成を俯瞰したり、物語の内容の振り返りに応用したりできるので、物書きの端くれたる私にとっては重要な形だったりします。

閲覧自由です。作品の世界観を損なう可能性があるため、メタフィクション的世界観が苦手な方はこの回を無視して同日投稿の番外編をお楽しみください。








1:名無しクエストⅧ(主)

おーしそろそろやろうか?

 

2:名無しクエストⅧ

スレ立て乙

 

3:名無しクエストⅧ

 

4:名無しクエストⅧ

スレ立て乙

 

5:名無しクエストⅧ

補足:ここは「ドラゴンクエストⅧ」のリアルタイム実況スレです。

・誰でも参加オッケーだけどネタバレは控えてね。

・作品そのものに対する評価はファンスレ・アンチスレで。

ドラゴンクエストⅧファンスレ7

http://⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

ドラゴンクエストⅧアンチスレ4

http://⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

6:名無しクエストⅧ

サンキューイッチ

 

7:名無しクエストⅧ(主)

>>5

ありがとう!!

 

8:名無しクエストⅧ

来たな、イッチ(ドン!!)

 

9:名無しクエストⅧ

ちょっとプレイは制限されるけど、なんやかんやでみんなとやるの楽しいからいつも待ってる

 

10:名無しクエストⅧ

全クリ勢ワイ、高みの見物

"上"で待ってるで

 

11:名無しクエストⅧ

まだクリアできてないけどもう少しだと思う。飛べるようになったし

 

12:名無しクエストⅧ

>>11

飛ぶって?

 

13:名無しクエストⅧ

>>11

おい

 

14:名無しクエストⅧ

>>12>>13

ごめんなさいさっきのコメ無視して

まじでスマン

15:名無しクエストⅧ

来たぞー

 

16:名無しクエストⅧ

よし間に合った

 

17:名無しクエストⅧ

前回イッチはベルガラック地方「海辺の教会」まで行ったんよな?ワイはまだそこまで行ってないから先に始めとくわ

 

18:名無しクエストⅧ

オッスオッス

 

19:名無しクエストⅧ

>>17

あっしもそうするでげすよ

 

20:名無しクエストⅧ

前日からイッチが宣伝してた甲斐あって結構人集まってるな?良いことだ

 

21:名無しクエストⅧ(主)

前回から丸一日空けちゃったから進んでる人は進んでると思うけど、俺たちを温かく見守っててくれ!

じゃあ始める!

 

22:名無しクエストⅧ

はいよー

 

23:名無しクエストⅧ

スタートするで

 

24:名無しクエストⅧ

トイレ行ってくるンゴ

 

25:名無しクエストⅧ

ちなみに剣士像の洞窟のボス倒したやつおる?勝てなかったから無視して進んだ者だけど。

 

26:名無しクエストⅧ

おいら昨日も30分くらいやってたんだよ。ドラクエ。まあレベル上げしてただけなんだけど。

 

…でないと…ねぇ?

 

27:名無しクエストⅧ

敵強くね?バグ?

 

28:名無しクエストⅧ

てきつよ

もう少し何というか手心と言うか…

 

29:名無しクエストⅧ

は?早速全滅したんやが?

 

30:名無しクエストⅧ

ベルガラックってこれパルミドの次に来るところで合ってる?強くない?雑魚がもうボスじゃん。ボスまだ戦ったことないけど。

 

31:名無しクエストⅧ

>>26

30分とか念入り杉内ww

とか思ってたけど。うん、納得した。

 

32:名無しクエストⅧ

かくとうパンサーとキラパンはほぼ確定でこっちより行動早いから素早さで上回るようになるまでは連戦になるときついな…かといってそっち優先したら今度はどくやずきんがいやらしい。ベルガラックじゃこのメンツが基本みたいだな。

 

33:名無しクエストⅧ

おうふ

ちょっとパルミド戻ってレベル上げてくるわ

 

34:名無しクエストⅧ

>>25

倒したよー、剣士像の洞窟のボス。めちゃ強かった。倒そうと思えば最低でもレベル28はいるだろうね。

 

35:名無しクエストⅧ

ベルガラックでもカジノやってるんだ?景品も凄いよ、グリンガムのムチ!

 

36:名無しクエストⅧ

グリンガムのムチとかこんな序盤で出てええ武器か?

 

37:名無しクエストⅧ(主)

マジでアホみたいに敵強いな…こまめに錬金とか繰り返して装備は潤沢だったからごり押せたけども。さて、ベルガラックにドルマゲスはいるのか?

 

38:名無しクエストⅧ

見た感じ、街で騒ぎは起こってないっぽい?ドルマゲスは来てない?

 

39:名無しクエストⅧ

トロデ締め出されててかわいそう王様なのにw

 

40:名無しクエストⅧ

>>39

見た目化け物だし警戒するのも多少はね??

 

41:名無しクエストⅧ

ゼシカかわいい定期

 

42:名無しクエストⅧ

典型的な歓楽街って感じだな。カジノがあって、デカい酒場があって。バニーショーもやってる。銀行もある。

 

43:名無しクエストⅧ

なあワイ抜きで盛り上がらんでや

敵強すぎて全然町まで辿り着けんのやが

 

44:名無しクエストⅧ

>>34

マジ?凄いな。んでボス倒したらなんかイベントあった?

 

45:名無しクエストⅧ

ドルマゲスがおにゃのこと一緒に…?妙だな…(コナン)

 

46:名無しクエストⅧ

国家転覆の次は少女誘拐ですか…

 

47:名無しクエストⅧ

犯罪でおおなみこなみすな

 

48:名無しクエストⅧ

ドルマゲス「デカい犯罪した後に小さい犯罪したらインパクト薄れるな…せや!閃いた」

 

49:名無しクエストⅧ

>>48

通報した

 

50:名無しクエストⅧ

>>49

国滅ぼした時点で通報しろよ

 

51:名無しクエストⅧ

>>50

通報で済んだら勇者はいらんのよ

 

52:名無しクエストⅧ(主)

ヤンガスの話の通り、今のとこオディロ院長の話を信じるとすればドルマゲスの仲間はアインスって傭兵がひとりなんだよな。『物乞い通りの魔王』がそのアインスではないとすると、誘拐された(推定)少女は次の被害者の可能性は十二分にある。ああ、いかがわしい意味じゃなくて殺害ってこと。

 

53:名無しクエストⅧ

ラパンハウス…?これベルガラックとは別?誰か行っとる?

 

54:名無しクエストⅧ

>>53

行ってる。フリーのお使いクエストやね。レベル上げついでに行ってみてもいいと思う。大分移動楽になる

 

55:名無しクエストⅧ

あはあ、『物乞い通りの魔王』来てるのね?流石にここで戦闘は無いと思うけど…

ないよね?

 

56:名無しクエストⅧ

これゲルダの船見つけた後どうすんの?またパルミド戻って振出しに戻るだけじゃない?

 

57:名無しクエストⅧ

お?イベント?

 

58:名無しクエストⅧ

うわでた

 

59:名無しクエストⅧ

ちぃかわ!!!

 

60:名無しクエストⅧ

おお?ここで魔王と再会か。

 

61:名無しクエストⅧ

いやあ、黙ハムとちぃかわの初邂逅からこんな早く再開するとはなぁ。流石に戦闘はないだろうけど

 

62:名無しクエストⅧ

ちぃかわ(なんか血ぃ出てるかわいそうなやつ)ねw

 

63:名無しクエストⅧ

ん?

 

64:名無しクエストⅧ

はえ~すっごい…勝てる気がせんわこんな怪物

 

65:名無しクエストⅧ(主)

前の『物乞い通りの魔王』とは話し方とかに違和感があった。似た別人?って線もないわけじゃないけど流石にそんなに謎めいた新キャラも増やさんだろうし…だとすると『杖』か?怪しいのは。杖が本体の可能性。

 

66:名無しクエストⅧ

品 性 を 疑 う

 

67:名無しクエストⅧ

>>65

あー、ドルマゲスも被害者のパターン…あるかもなぁ

 

68:名無しクエストⅧ

『闇の遺跡』か次行くとこは。でも町の人に聞いたら闇の遺跡は北西の孤島ってとこにあって、定期船もないんだとさ。どう行くのか?次は船入手イベかな。

 

69:名無しクエストⅧ

>>68

普通にゲルダの船借りていくんじゃね

 

70:名無しクエストⅧ

ワ……ァ……!

 

71:名無しクエストⅧ

>>70

(町長の家壊せなくて)泣いちゃった!

 

72:名無しクエストⅧ

結局ちぃかわはベルガラックの町長を殺しに来たけど、誰かに邪魔されて帰ったってことでおk?

 

73:名無しクエストⅧ

>>72

うん。黙ハムたちは何故か微妙にずれた推理してるけど、ちぃかわのセリフから察するに多分町長のギャリングを結界で守ったのはドルマゲス。だからドルマゲスは悪じゃない説が浮上してる。

 

74:名無しクエストⅧ(主)

仮に回想シーンでドルマゲスが最初に持ってた杖がなにかしらの思念が宿った媒体だとしたら、それを『魔王』が持ってる今は『魔王』は杖に操られてるってことになる。でも思い返したら『魔王』がゲルダをボコしてた時は杖あんなんじゃなかったような気がするんだよな。杖が関係して人格が変わるのか、それとも『魔王』が元から暴力的だったのかが測りかねる。

 

75:名無しクエストⅧ

ドルマゲスが仮に善人だとすればマイエラ修道院でのオディロ院長の行動にも納得いくな。オディロ院長はドルマゲスが悪人じゃないと知っていたからドルマゲスと連絡を取っていた。…ならなんでそれをククールや勇者に言わなかったのかが分からんが。

 

76:名無しクエストⅧ

今んとこドルマゲスとちぃかわ(本体は杖?)に襲撃されたのは①マスター・ライラス(死亡)②ゼシカの兄(死亡)③オディロ院長(生存)④ギャリング(多分生存)の四人か。共通点は見出せんけど後々分かるんだろう。

てかイッチ杖の違いとかよく見てたな

 

77:名無しクエストⅧ

ワイはちぃかわがドルマゲスから杖奪って暴れまわってる説を推すで

 

78:名無しクエストⅧ

じゃあワイはドルマゲスとちぃかわが手を組んでる説推すわ

 

79:名無しクエストⅧ

やっとベルガラック着いたし…めっちゃ後れをとったな

 

80:名無しクエストⅧ

まとめると秘宝の杖はトロデーン王国からドルマゲスが奪ったはずで、なぜか今は魔王が持ってるってことか?

 

81:名無しクエストⅧ

今はギャリングの家入れんから素直にゲルダの船探しに行かなあかんみたいやな

 

82:名無しクエストⅧ

>>44

メタキン2,3匹分くらいの経験値貰った。しばらくは無双して進めそう。あと中に入ってた「ビーナスの涙」って宝石をゲルダに見せたら交換で「いかりのてっきゅう」ってヤンガス用の武器も貰えた。でもストーリーには直接関係なさそうだったよ。それと「美食道化師の諸国たべある記」って本…これはちょっと文では説明できん

 

83:名無しクエストⅧ

ディム?出てきた。誰だっけコイツ?

 

84:名無しクエストⅧ

>>82

はえ~サンガツ

その美食何とかって本はなんや?

 

85:名無しクエストⅧ

>>83

人によっては会ったり会ってなかったりする謎の冒険者やで

君がパルミドより前にバトルロード行ってなかったら多分会ってない

 

86:名無しクエストⅧ

製作の都合上あまり突っ込まない方がいいんだろうけどディムってどうやって一人でベルガラック生き抜いてんのかな。そこまで強くなさそうだけども。

 

87:名無しクエストⅧ

ドラクエ恒例のいつものおつかいイベントやね。

どっかで船入手→サザンビーク王国で太陽のカガミ入手→闇の遺跡

メモメモ

 

88:名無しクエストⅧ

なんやかんやでまともなイベントは初な気がするが。

 

89:名無しクエストⅧ

こちら「マイエラ→アスカンタ→願いの丘」組、「マイエラ→パルミド→ベルガラック」組に告ぐ!

「願いの丘」にてイベントが発生、月の民の助力で船を入手!!これより西の大陸へ向かう!

 

90:名無しクエストⅧ

>>89

は?

 

91:名無しクエストⅧ

>>89

あーもうめちゃくちゃだよ

 

92:名無しクエストⅧ

>>89

これマジ?

 

93:名無しクエストⅧ

>>92

マジ。俺たち願いの丘組は逆にベルガラックのことなんか全然知らん。

 

94:名無しクエストⅧ(主)

いよいよルート分岐が顕著になって来たな?とりあえずディムについてだけど、昔提唱した「先代勇者」の説って覚えてるか?ディムがその「先代勇者」なんじゃないかって今ひそかに考えてる。てかここまででそれらしきキャラがアイツしか思い浮かばない。後になってもっとそれらしきキャラが出てきたら乗り換えるけど、現時点では、やっぱりこのディムが怪しいんじゃなかろうか?もしディムがめっちゃ強いなら旅の先々で一人旅できてるのも頷けるし、先代勇者に会ったことある?ゼシカが特に言及しないのも、何らかの高度な変装をしてるって考えればそこまで矛盾は出ない。

 

95:名無しクエストⅧ

>>94

確かにリーザスの村にはモシャスの話してる女の子がいたな。あの話も実は変装を示唆する伏線だったりして…?

 

96:名無しクエストⅧ

アインス=ディムの可能性

襲撃はドルマゲスとディムのマッチポンプなの バ  レ  バ  レ

 

97:名無しクエストⅧ

パルミド(二回目)出たら次どこ行くか教えてクレメンス

 

98:名無しクエストⅧ

>>97

トロデーン城やで

 

99:名無しクエストⅧ

トラペッタは行っても行かなくてもいい感じか?

 

100:名無しクエストⅧ(主)

これももしかしたら分岐になるかもしれないな。とりあえずトラペッタ行くか。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

150:名無しクエストⅧ

うーんなるほど。これは…うーん?

 

151:名無しクエストⅧ

 

₍₍⁽⁽人₎₎⁾⁾

 

見て!『物乞い通りの魔王』が踊っているよ

かわいいね

 

人 

 

みんながトラペッタで魔王の過去を暴いてしまったので、魔王は踊るのをやめてしまいました

お前らのせいです

あ〜あ

 

 

152:名無しクエストⅧ

>>151

 

153:名無しクエストⅧ

まあこれでドルマゲス=魔王説は瓦解したな。

 

154:名無しクエストⅧ

ぅゎょぅι゛ょこゎぃ

 

155:名無しクエストⅧ

占いのおっさんは善人だろ

知らんけど

 

156:名無しクエストⅧ

>>155

前言撤回コイツとんでもない守銭奴だわ

処すべし処すべし

 

157:名無しクエストⅧ

占いの代金高すぎて草これ払えんやつ出てくるやろ

 

158:名無しクエストⅧ

>>157

どうも所持金の割合ダメージらしい。現にベルガラックで貯金してたプレイヤーはほとんど取られんかった。

 

159:名無しクエストⅧ

>>158

割合ダメージ草

そのためのベルガラック…?優しいんだか優しくないんだか

 

160:名無しクエストⅧ

ファーwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

161:名無しクエストⅧ

だから銀行は有効に活用しろとあれほど

 

162:名無しクエストⅧ

あー、ポルトリンクの横の道が通れるようになってて、そこからトロデーン城に行くのね

 

163:名無しクエストⅧ

黙ハムに悲しい過去…

 

164:名無しクエストⅧ

悲しい過去ノルマ達成

 

165:名無しクエストⅧ

「幼少時代の記憶がない」ってぼかすってことは黙ハムの出自、もしくは幼少期にも何か謎があるんだろうな。なんだろ。うーんまあエンディングまでには明かされるか。

 

166:名無しクエストⅧ

主人公ってゼシカとくっつくのかな?ククールとゼシカも怪しいと個人的には思うんだけど

 

167:名無しクエストⅧ

>>166

馬姫様の本当の姿次第やぞ

 

168:名無しクエストⅧ

>>166

ダウト。勇者の正妻はヤンガスだから。

 

169:名無しクエストⅧ

なるほど。城の前ってのはアスカンタじゃなくトロデーンか。ともかくこれでモリーにお願いされた三匹は送れたからモリーメモのおつかいは終了?これはもっかい格闘場戻ればいいのかな。

 

170:名無しクエストⅧ

破壊された街並みと言ったら初代のドムドーラの町とか思い出すなぁ。

こっちはイバラになった人が生きてる分より残酷に感じる。

 

171:名無しクエストⅧ(主)

何気にちゃんとしたダンジョンって初めてか?ボスはいるんだろうか

 

172:名無しクエストⅧ

スラリンおらんねんけど

 

173:名無しクエストⅧ

>>172

多分スカウトモンスターの画面表示数の限界。一回城入って出たら出てくると思う。

 

174:名無しクエストⅧ

>>171

滝の洞窟、願いの丘、剣士像の洞窟に行ってなかったら初やね。トロデーン城は結構長丁場やから痛い目に遭わんように気つけてな

 

175:名無しクエストⅧ

正味ベルガラックの魔物と戦えるレベルならトロデーン城が長丁場でも大して苦戦はしないと思う。

変なところで優しいんだけど、これゲームバランス間違ってるくないか?

 

 




どうでもいい裏設定ですがイッチはネット上では男のフリをしている女の子です。


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幕間:(閲覧自由) ドラクエ新作をみんなで一緒に実況するスレpart3 後編

201:名無しクエストⅧ(まとめ)

ここまでのまとめ(コテハン失礼!!)

パルミド勢

パルミド→ベルガラック→船返却→トラペッタ(任意)→トロデーン

 

アスカンタ勢

アスカンタ→願いの丘→アスカンタ→船入手

 

202:名無しクエストⅧ

>>201

まとめだ、ありがたい

 

203:名無しクエストⅧ

だいぶ上の方で見逃してたんやけど、改めて剣士像の洞窟のボスと報酬について教えてくれんか?そろそろ俺もリベンジしたいわ

 

204:名無しクエストⅧ(ボス解説)

コテハンに便乗

>>203

ボスは『エスパーダ』。HPは体感1500?くらい。素早さも防御も低いし呪文も使わん一回行動。ただ攻撃力がバカみたいに高くてレベル27までの勇者(ゼシカなら33はいる)だと一撃で沈むか致命傷。痛恨だと即死。耐えても眠り・マヒのどっちかが確定で入る。混乱の耐性が低いからゼシカかククール、生きてる方が『メダパニ』かけて次のターンで立て直してを繰り返すのが安定。防御なんかあってないようなもんだから守備力より回避率の方が重要。ククールが狙われるかどうかは運。

 

倒したら宝箱が開いて「ビーナスの涙」と「美食道化師の諸国たべある記」が手に入る。「ビーナスの涙」はゲルダに渡したら「いかりのてっきゅう」が貰える。ヤンガス用装備。たべある記の方は今んとこ無益。何に使うんかわからん。

 

205:名無しクエストⅧ

エスパーダは攻撃耐えても行動不能にされるのが姑息よな

 

206:名無しクエストⅧ

たべある記ほんと不快百害あって一利なし

 

207:名無しクエストⅧ

>>206

ま?自分は結構好きだけどなこういうの

 

208:名無しクエストⅧ

別に内容はいいんだよ。でもなんせ長いのなんのって…!ボタン連打しても5分はかかったよ。

 

209:名無しクエストⅧ

>>204

ありがとな。もっとレベル上げてくるわ。

 

210:名無しクエストⅧ

ベルガラック行って、トロデーン出る頃には剣士像の洞窟行くのにちょうどいい頃合いかもしれんね。

それでもきついか?

 

211:名無しクエストⅧ

ん、早く船について書かれた本を探すべき。

 

212:名無しクエストⅧ

としょんか

 

213:名無しクエストⅧ

月の世界!?急にメルヘン!

 

214:名無しクエストⅧ

いいやんロマンティックで月影がドアになるとかオシャレ

 

215:名無しクエストⅧ

ファッ!?なんだこのドア!?

 

216:名無しクエストⅧ(主)

月の世界か。これが本当に月かどうかは分からないから一応まあ異世界ってことで。内装とか明らかにこっちの世界の物じゃなさそうだしな。

 

217:名無しクエストⅧ

イシュマウリは男?女?答えろ、それが重要だ

 

218:名無しクエストⅧ

男女男男女男女

男女男男女男女

男女男男女女男女男女

女男女男女男男女

 

219:名無しクエストⅧ

>>217

女かもしれんし、男かもしれんのや

シュレーディンガーや

 

220:名無しクエストⅧ

こいつ魔法使い?

 

221:名無しクエストⅧ

いやでも同じ魔法使いのゼシカに靴から記憶引っ張ってくるみたいな芸当ができるとは思えんし、もっと高次の存在ちゃうか

 

222:名無しクエストⅧ

イシュマウリ、人間じゃない説ある?いや普通に人外か

神さまみたいな感じだったりするのかな。

 

223:名無しクエストⅧ

とりま『月影のハープ』ってのを持ってきたら船が貰えるんやな。

あれ、じゃあ願いの丘組はそこでイシュマウリの依頼受けたってことか。

 

224:名無しクエストⅧ

アスカンタへ行こうぜ……久しぶりに(弦が)きれちまったよ……

 

225:名無しクエストⅧ

で?ハープはアスカンタにあるの?なんでわかったの?

 

226:名無しクエストⅧ

>>225

お前トラペッタ経由せずにトロデーン行ったクチだろ

トラペッタの占いで「トロデーンとアスカンタにカギがある」って出た。だから多分トロデーンに月影の窓、アスカンタにハープがあるんだと思う。

 

227:名無しクエストⅧ

一回アスカンタに行って、ハープ貰って、またトロデーンに帰ってきたらいいってことか。

めんどくさ…

 

228:名無しクエストⅧ

>>227

モンスターバトルロードとかやって気分転換でもしてきたらいいんでない?

 

229:名無しクエストⅧ

モンスターバトルロード楽しすぎwwwwwwwwwもう冒険には戻れんwwwwwwwwwww

 

230:名無しクエストⅧ

そういえばトラペッタのすぐ横にいたバトルレックスいなくなってるよね。ドランゴだったっけ。スカウトできるようになったから捕まえてやろうと思ってたんだけど

 

231:名無しクエストⅧ

>>230

ドランゴwwwwwwおらンゴwwwwwwww

 

232:名無しクエストⅧ

>>231

マヒャデドスやめろ

 

233:名無しクエストⅧ

>>231

あほくさ

 

234:名無しクエストⅧ

>>231

ちぃかわに潰されて欲しい

 

235:名無しクエストⅧ

>>231

大不評で草

ワイはすきやで

 

236:名無しクエストⅧ

今ベルガラックでラパンのおつかいやってるんだけど、これってどこ行けばいいの?

四つのキラパン像までは見つけたけど、その中心行っても何もない(I love you)

 

237:名無しクエストⅧ

>>236

何もないくん!収容室へ帰ろう!!\管理人!管理人!/

 

238:名無しクエストⅧ

その中心で夜明けまで待つんやで。

そしたら木が出てくるから、そこにおるキラーパンサーの幽霊にラパンから貰った「深き眠りのこな」を振りかけたらクエスト終了や

 

239:名無しクエストⅧ

深 き 眠 り の こ な (サーッ!(迫真))

 

240:名無しクエストⅧ

あー、今ちょうどラパンの話してるから聞きたかったんだけどさぁ、こな振りかけてバウムレンは成仏するじゃん?それはいいんだけど、そん時一緒に成仏してるおっさんは一体誰なわけ??

 

241:名無しクエストⅧ

>>240

これ思った

何だこのおっさん!?って思いながら見てたわwあんなキャラ今まで出てきた?見逃してるだけ?

 

242:名無しクエストⅧ

まあ大方バウムレンと同じように自分が死んだことに気づいてない一般の方だったんだろう。うん。…なんで出す必要があったか?知らんよそんなの。みんな成仏してめでたしめでたしですよ。

 

243:名無しクエストⅧ

これであの成仏したじいさんが重要人物とかだったら笑う

成仏しないでクレメンス…

 

244:名無しクエストⅧ

>>243

それは草

 

245:名無しクエストⅧ

アスカンタついたー

 

246:名無しクエストⅧ

前のスレで行ってるやつもいたけどワイはアスカンタ初めてや!未来国家楽しみやで!!

 

247:名無しクエストⅧ

トロデの話じゃ、アスカンタ王国の国王はトロデーン王女の生誕祭で行われる余興にドルマゲスを推薦したんだとか?めちゃくちゃ怪しいよな。

 

248:名無しクエストⅧ(主)

>>247

いや、それもドルマゲス善人説に照らし合わせたらそこまでおかしくもないかもしれない。少なくともトロデーン王国で何かが起こるまでドルマゲスは普通に有名な旅芸人として稼いでて、アスカンタ国王もその芸と人柄の良さに惹かれて善意で推薦したとか。そしたらアスカンタ国王は悪気が無かったってことになる。んでドルマゲスも悪気無し、トロデも悪気無し。悪かったのはトロデーンの『秘宝の杖』だけ。どう?

 

249:名無しクエストⅧ

イッチ面白い考えやな

じゃあワイもそう考えることにするわ

 

250:名無しクエストⅧ

未来都市ってのは伊達じゃないな。つっても俺らの現代とそう変わらんけど、それでもこの文化レベルの中これはすごい。……魔物がいること以外は

 

251:名無しクエストⅧ

男の子ってこういうのが好きなんでしょ?

 

252:名無しクエストⅧ

>>251

が刺さってはしゃぎだすククールとヤンガス可愛い

 

253:ゼシカすきです

>>252

おいゼシカが可愛くないみたいな言い方するな

ゼシカかわいい定期!

ゼシカ最強!ゼシカ最強!ゼシカ最強!ゼシカ最強!ゼシカ最強!

 

254:名無しクエストⅧ

>>253

ゼシカ過激派こわいめう~

 

255:名無しクエストⅧ

イッチの説で行くとトロデの予想(アスカンタもドルマゲスに洗脳されている)もハズレってことか。もしそうだとすると今度は連鎖的にトラペッタも洗脳じゃなくなるってことになるな。

 

256:名無しクエストⅧ

いや普通にドルマゲスが黒幕だろ。そんで先代勇者がそれおっかけてて、それを勇者たちが後追いしてんだろ?それが一番わかりやすくていいと思うけどな。魔王がドルマゲスの仲間、もしくは関係者だってことは二回目のトラペッタで分かってるし。

 

257:名無しクエストⅧ

これで全部ひっくり返して、実は先代勇者もドルマゲスの自作自演、ドルマゲスが世界の憎まれ役を背負ってて、物乞い通りの魔王がガチの魔王で、ドルマゲスが幼馴染の魔王に引導を渡す展開とかあったら熱い

 

258:名無しクエストⅧ

>>255~257

妄想乙

 

259:名無しクエストⅧ

いいだろ考察なんだから

 

260:名無しクエストⅧ

申し訳ないが考察を妄想だと唾棄する奴はNG

 

261:名無しクエストⅧ

『スキャン』とかいうからトロデ弾かれるんか思ったら普通に入れとるヤンケ

おかしいヤンケわけわからんヤンケ

 

262:名無しクエストⅧ

町にスライムベスとかデンデン竜おるヤンケこれってトラペッタと同じヤンケ

 

263:名無しクエストⅧ

スレにトダーが湧いてますね…

 

264:名無しクエストⅧ

イベント戦!?いきなりこんなとこで!?

 

265:名無しクエストⅧ

このクソ王いつも厄介ごと持ってくるじゃん

 

266:名無しクエストⅧ(ボス解説)

クッソ硬いデンデン竜 HP220くらい。守備力がかなり高いので全然打撃が入らない。レベル30の勇者でもダメージは20前後。呪文も12~18ポイントくらいしか効かない。なぜか攻撃はしてこないのでホントに耐久戦。まじん斬りとか覚えてるなら積極的に使ったらいいと思う。

 

267:名無しクエストⅧ

サンキューボス解説

 

268:名無しクエストⅧ

サンボ

 

269:名無しクエストⅧ

!?もっとデカいやつ来たで

 

270:名無しクエストⅧ

このキラーパンサー、脚多くないか?

 

271:名無しクエストⅧ

おいっ 助けろっ! ククールがオシャカになったっ!

 

272:名無しクエストⅧ

デッッッッッ

 

273:名無しクエストⅧ

!?

 

274:名無しクエストⅧ

あ、戦わんのね。

 

275:名無しクエストⅧ

正直消耗してたから助かるわ

 

276:名無しクエストⅧ

>>275

それ。町って安全が確約されてる場所って認識なんだから急に戦闘に入られると困る。俺いつも宿屋行ってから教会行く派なんだよ。ここまで来たのにセーブする前に全滅したらたまったもんじゃないよ。

 

277:名無しクエストⅧ

U.S.A.ホールディングス?アスカンタ王国専属メンテナー?またなんか妙なのが…

 

278:名無しクエストⅧ

てか、「ホールディングス」なんて明らかにドラクエに出て良い言葉じゃないよな。これどうなってんの?未来人でも来てるの?現代知識でウハウハしてる異世界人がいるの??

 

279:名無しクエストⅧ

経験値ウマすぎやろこのデンデン竜

 

280:名無しクエストⅧ

これもしかして街のモンスター全狩りしたらめちゃくちゃレベルあがる?やりますか

 

281:名無しクエストⅧ(主)

あー。そうきたか。ここの人たちは真の意味でこの魔物たちと共存してるんだ。さっき倒した『デンすけ3号』は武器屋の息子の友人で、道具屋の店主のペットだったわけ。そら外から入ってきた旅人が友人を残骸に変えたら殺意も沸くか。でこのキラって子は勇者たちを憎みながらも事を荒立てまいとしてくれてるんだな。いい子。

 

282:名無しクエストⅧ

でもよぉ…普通町に魔物がいたら、外から来た人間は間違って討伐するもんじゃないか?もちろん善意でさ。注意書きも何もなくて、いざ倒したらハイ許さんはちょっと理不尽だろ。

 

283:名無しクエストⅧ

そもそも向こうが襲ってきたのは黙ハムがトロデを連れてきたからで、むしろ町の安全を守ろうとしたのはデンすけ3号の方なんだよなぁ…。普通の旅人じゃ倒せないくらい硬いし。人間は襲わないってのはさっきの戦いでわかったじゃん?人間以外がこの国に入ってくることは想定されてないから知らされてなかったのかも。

 

ここまで言っといてなんだけど、流石にモンスターいるけど無害ですよーくらいは初めに言うべきだと思う。アスカンタ王国に物申したい。

 

284:名無しクエストⅧ

なんじゃかんじゃ言うてこの子ハープくれたな。王様には会えなかったけども。あとはこれをトロデーンに持って帰るだけやな。

 

285:名無しクエストⅧ

【朗報】ワイ、キラに一目惚れ

金髪まとめてるのもいいし、体小さくてライダースーツが絶妙に似合ってないのも愛おしいンゴねぇ

 

286:名無しクエストⅧ

>>285

わかる。金髪ポニーテールからしか摂取できない栄養がある

 

287:ゼシカすきです

は???ゼシカの方が可愛い定期!!キラはブス!ゼシカの方が可愛い!

 

288:名無しクエストⅧ

>>287

ゼシカ過激派こわいめう~

 

289:名無しクエストⅧ

コテハン(笑)くん君多分定期の使い方間違っとるで

 

290:名無しクエストⅧ

「しあわせの耳飾り」をキラから貰ったな。効果は「戦闘に参加していないメンバーも経験値を取得できる」か。これどうなんだ??微妙な気もするが…

 

291:名無しクエストⅧ(ボス解説)

ボスじゃないけど解説するね。

「しあわせの耳飾り」 守備力+2 素早さ+2 HP+15 MP+15

戦闘に参加していないメンバーも経験値を取得できる。「戦闘に参加していない」状態というのはなんらかの状況でフィールドに出ていない状態か、戦闘不能(死亡)状態のこと。あと隠し性能として装備者が増えれば増えるほど取得経験値も増えるみたい。倍率はたぶん一人(1.1倍)、二人(1.25倍)、三人(1.5倍)、全員(1.75倍)。正直低レべ攻略目指してる人以外は装着して問題ないと思う。逆にレベルあがって簡単になりすぎる可能性もあるね。この先のストーリーがどうなるかは私も分からないけど。

 

292:名無しクエストⅧ

サンボ

 

293:名無しクエストⅧ

サンボ

 

294:名無しクエストⅧ

は?装備するしかなくないか??

てかこの効果…これ更に仲間増えるフラグやったりする?

 

295:名無しクエストⅧ

 

296:名無しクエストⅧ

おー。すごい。船が動いてるわ

 

297:名無しクエストⅧ

船ムービーに見入って過疎るスレ

 

なんか、いいな。心が洗われる。

 

298:名無しクエストⅧ

これで船使って世界中回れるようになるんでしかね?

 

299:名無しクエストⅧ(まとめ)

ここまでのまとめ

トロデーン→アスカンタ→トロデーン→船入手 nextサザンビーク王国

先に船入手してた人たちもベルガラック寄ったりでそこまで差は無さそう。ここで統合ですね。

 

300:名無しクエストⅧ(主)

>>300なら終わり。

今日は船入手まで進んだ。次はサザンビーク王国でディムと待ち合わせだな。三つの大国、その最後の国はどんなところなのか楽しみ。じゃあ俺はここまでにしとくよ。じゃあまた!

 

301:名無しクエストⅧ

サンキューまとめ

 

302:名無しクエストⅧ

サンま

 

303:名無しクエストⅧ

イッチお疲れ!今日も楽しかったで!!

 

304:名無しクエストⅧ

おつー

 

305:名無しクエストⅧ

結局船まで行かんかった…眠いし明日で船までやるわ

 

306:名無しクエストⅧ

>>299

ん?闇の遺跡に行くんじゃないのか??

 

307:名無しクエストⅧ

>>306

ディムの話を信じるなら闇の遺跡には結界が張ってあって入れないから、その結界を破るチカラがある鏡を持ってるサザンビークに行くんやで

 

308:名無しクエストⅧ

ありがっと

 

309:名無しクエストⅧ

では次のスレでお会いしましょう!またのぅ~~~!

 

310:名無しクエストⅧ

おつかれさん

全然進んでないけどエスパーダを倒せたので満足満足。よぅし「たべある記」読んでから寝るぞう…なにが書いてあるのか楽しみだ

 

311:名無しクエストⅧ

ぐっばい宣言

 

312:名無しクエストⅧ

 

313:名無しクエストⅧ

おつ

 

314:名無しクエストⅧ

おつ

 

315:名無しクエストⅧ

なぁ待ってくれ…アスカンタで魔物狩りまくってたらクソ強いキラパン来て国から追放された…ハープだけ投げつけられたけどおまいらが貰った「しあわせの耳飾り」とか貰ってないし…まだこの街で買い物とかもしてないんや…ワイが悪かったからもう一回入国させてくれ…

 

 

 

 

 




お疲れ様です。これでACT4は終了、次回からはACT5に突入します。サザンビークで勇者を待ち受ける王子とは…?そしてドルマゲスはついに自身の運命の分岐点である闇の遺跡に挑みます。彼は運命の収束を乗り越え、闇の遺跡編を生き残ることができるのか?次回もお楽しみに!(感想・評価・お気に入り登録もよろしくお願いします!)


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ACT5:サザンビーク国領~闇の遺跡
第三十章 聖人騎士とダメ王子


お待たせしました、始まります!
一応『闇の遺跡』編が終わるとこの小説は一区切りとなりますね。原作ではここでドルマゲスは退場しますので。果たしてドルマゲスくんは歴史の修正力に打ち勝つことができるのか?







ハロー、U.S.A.でひたすら書類仕事をしている道化師ドルマゲスです…。今確認しているこれでようやく報告書類は最後ですが…ああ…疲れた…。特に新規従業員の一覧が多すぎます。ドン・モグーラさんによればサーベルトがサザンビーク地方から次々と魔物を送り込んできているようですが…。

 

 

 

 

ギャリングの邸宅、もといベルガラックから『王家の山』に俺が移動したころにはすっかり日は落ちてしまっていた。なんだか王家の山は以前来たときよりも格段にすっきりしている。通行に邪魔な岩や植物を採取したり取り去ったりしたこともあるが、一番はやはり数が激減した魔物だろう。山に入ってからしばらく山道を歩いているが、まだ一度も魔物とエンカウントしていない。生息地を移しているだけなので狩猟しているわけではないが…これってもしかしなくても生態系破壊しまくってるよな?今になって怖くなってきた。クラビウス王に怒られたらどうしよう。

 

ブオン ブオン

 

「?」

 

異音が聞こえたので俺は少し足を速める。何かイレギュラーが発生したのか?ラプソーンが未だ『闇の遺跡』から動いていないのは衛星「ハエ男」からの情報で確認済みだが、イシュマウリの言う『星の筋書き』は既に狂っているので安心はできない。……しかしそんな俺の不安は杞憂に終わった。山の中腹、大きく開けている場所まで来ると、サーベルトがめちゃくちゃデカい岩を括り付けた模造刀で素振りをしていた。異音の正体は素振りの音だった。…。

 

ええ…何それ、怖…

 

「ん?ドリィ!ドリィじゃないか!久々だな!!」

 

「あー、えー、はい……」

 

 

サーベルトは俺を見て声をかけるなり汗を流してくると言い、クソデカ模造刀を放り出して早々に滝の方へ行ってしまった。刀と言ってもほとんどデカい岩なのでそんなもんを放り出すと当然轟音と共に山が揺れる。もうこれ以上山を弄らないでくれよ…。自分のことを棚に上げた俺はイスとテーブルを亜空間から取り出して紅茶を淹れる準備を始める。夜空の月は今日も綺麗だ。月の世界は本当に月にあるのだろうか?いつか世界が平和になったらロケット事業でもおったてて検証してやろうか。そんなことを考えていると、ラフな服装「たびびとのふく」に着替えたサーベルトが戻ってきた。うーん、ゼシカとよく似た栗色の髪、愛嬌ある大きな目、シュッとした端正な顔立ち。改めて見ると本当にイケメンだなぁ。

 

「?」

 

思わず見惚れてしまった俺を見てサーベルトは小さく首を傾げる。それ、あざとすぎるからやめなさい。

 

「えぇと、とりあえず座ってください。再会を祝して月夜のティータイムとしゃれこもうじゃないですか。」

 

「それはいいな!…よっと。それにしても久々だなぁドリィ。王家の山(こっち)にいた分身のドリィはそこに生ってる『ジョロの実』や他の野草や魔物の採取を済ませるとさっさと帰ってしまったから…」

 

「言ったって数週間の話ですけどねぇ。サーベルトはさみしがり屋ですか?ふふ」

 

俺はティーカップをサーベルトの前に置き、皿にクッキーを並べた。ベルガラックで購入した"ちゃんとした"クッキーなのでもちろん魔物は1グラムも入っていない。ティータイムと食事は分けて然るべきである。サーベルトは甘党だからお砂糖は4つくらい入れてあげよう。俺はサーベルトのことをよくわかっているのだ。

 

「あ、砂糖はもう一つ入れてくれ。」

 

前言撤回。サーベルトのこと全然わかってなかった…。うん、やっぱりお砂糖の数は事前に訊いておくのがマナーだよな。俺は自分の紅茶にも砂糖を入れるとマドラーでくるくると混ぜた。紅茶に映っていた月がかき混ぜられて揺れる。

 

「あと、俺はさみしがり屋じゃないさ。しかし数週間も話ができる人間が周りにいないとそうなるのも庸常じゃないか?」

 

「人語の話せる魔物たちはいるはずですが?」

 

「魔物じゃあなあ…全員が全員悪い奴ってわけではないのは分かっているが、やっぱり腹を割って話すなら人間が良い。」

 

「まぁ、それは同意ですね。」

 

「…ん?これは美味い…!こんな美味い紅茶は飲んだことがないぞ!」

 

「アスカンタのアジト近くで栽培している茶葉を使ってみました。どうです?これを新しい商品にしても面白いと思いませんか?」

 

「賛成だな!俺が客なら木箱いっぱいに注文する。」

 

「それはよかった。」

 

本当はティーパックなどを使う通常の淹茶式でなく「おいしいミルク」を煮て直接沸騰させる煮出し式で淹れる、など他にも工夫を凝らした逸品の紅茶なのだが、まくし立てるように全てを解説するのは美しくない。俺もミルクティーを啜った。あっつっ!

 

「ところで、今日はどうしたんだ?もう時期が来たのか?」

 

「ああ、それもあります。勇者たちが船を入手したので直にサザンビークに到着します。そうすればこの『王家の山』に勇者たちは現れるでしょう。でもそれだけじゃないんですよね。本題は…」

 

「本題は?」

 

「私の師匠、マスター・ライラスの反魂に成功したということです!!」

 

「??はんごん?」

 

俺はおもむろに立ち上がって喜びを表現したのだが、サーベルトには伝わらなかったらしい。ちょっと変な空気になってしまった。

 

「ごほん、生き返ったのですよ、師匠が」

 

「なにっ!?」

 

ここでようやくサーベルトも立ち上がった。

 

「本当か!?!?すごい、ど、どうやって…いや、流石はドリィだな!!!!本当にすごいぞ!!!」

 

「あ~~やめて~~そんなに強く揺さぶらないで~~~脳が揺れる~~~」

 

「あっ、悪い。」

 

ふぅ。サーベルトはもうとっくに常人の域を超えたパワーを持っているので肩を持ってゆすられただけでも首ががくんがくんする。タイミングが悪けりゃ首の骨が折れてもおかしくないかも。

 

「それで?ライラスさんは今どこに?」

 

「アジトですね。サーベルトも修行は十分できたでしょう?一回アジトに戻ってゆっくり休息をとって、師匠に顔を会わせてあげてください。」

 

「なるほどな。そういうことならアジトに帰還しよう。…ところでこっちのドリィが完成させて置いていった"アレ"も一緒に持って帰るのか?」

 

「まさか。あれは勇者たちにぶつけるんですよ。もともと『アルゴングレート』ごときじゃ大した経験値にもならないでしょうし。他の生体に影響を与えるような行動はしてませんでしたか?」

 

「ああ。一日中丸まって寝ているか水を飲むかしかしてないな。」

 

「それは重畳。じゃ、クッキーを食べたらアジトの入り口まで送りますよ。…そういえば、会社に送られてきた大量の新規従業員たちは全てサーベルトが?」

 

「ああ、それはだな…」

 

その後、俺はサーベルトとたわいない会話で深夜の紅茶を楽しみ、夜になって寝ていた魔物たち(U.S.A.の職員のみ)を叩き起こして全員をアジトまで送り届けた。ドランゴにも声をかけたが、彼はこの山に残るようだ。彼の周りには野生の「バトルレックス」の舎弟が何匹もいたから、もしかしてここで棲みつくのかもしれないな。俺はアジトでひと眠りすると勇者たちに先を越されないようにさっさとサザンビーク王国へ『ルーラ』で飛んだ。

 

 

─サザンビーク王国─

 

「うーん、まだちょっと寝足りないかなぁ…?」

 

勇者がいつ来るか分からんので急いで来てみたはいいものの、彼らはまだ来ていなかった。まあいい。サザンビークは面白い街なので数日は寝泊まりしても飽きないだろう。もうじきバザーも開催されるしな。チョロリと地を這うトカゲを横目に、俺はディムに変装して街を見て回ることにした。

 

「もし、旅のお方。」

 

「ああはい、なんでしょうか?」

 

「ここらでチャゴス王子を見かけませんでしたかな?今朝から姿が見えないらしく…まだこの国を出てはいないはずなのですが。」

 

国の中央を流れる美しい運河を眺めていた俺に話しかけてきたのはこの国の衛兵だった。

 

「チャゴス?はて?」

 

「ご存じないですか…旅の方ならば仕方ない。失礼。」

 

立派な赤い兵装に身を包んだ衛兵はさっさと次の人に聞き込みに行った。チャゴス?もちろん知ってるとも。しかし彼を知っていると言えば俺まで王子探しに付き合わされるかもしれない。なんであんな尊大白豚をわざわざ探してやらねばならんのか。ここで一日中川の流れを見ている方がずっと建設的だ。

 

「──チャゴス王子、また逃げ出したんだって?」

 

「ええ、でも今度はベルガラックに行かせないように門番を増員したって聞いたから国外脱出はできないんじゃないかしら。」

 

武器防具屋の荒くれと道具屋のバニーの会話を耳にはさみながら俺は散歩を続ける。全くしようのない王子だなぁ。人目を盗んでギャンブルに入り浸るわ、儀式も勉学も嫌がるわ、プライドも高くて、しかし実力はない。しかもその人徳の無さが国民全員に知れ渡ってるのがもう救えない…。

 

「王子が次期国王になったらと思うとわたし不安だわ。」

 

ほんとにそうだよ。

 

サザンビーク王国は立地も良いし国力も高い、文句なしでこの世界で一番大きな国なのだが、如何せん王族の性格に難点がある。広く国中に悪名が轟く次期国王のチャゴスはもちろん、王位継承者でありながら一目惚れした女性を追って失踪するエルトリオ、さらには一見厳格に見えるクラビウス王も、チャゴスという傲慢の擬人化みたいな怪物を育て上げたという点では、その甘さも十分に難点と言える。おまけに政治を補佐する大臣も息子が世間知らずなラグサットなので、もはや大臣すらも怪しい。…え、改めて考えるとサザンビークの中枢やっべえな。

 

以前サザンビークには全国周遊の際に来たことがある。観光がてら城下で手品を披露して日銭を稼いでいたのだが、その時運悪くチャゴス王子に目をつけられてしまった。チャゴス王子はその日もベルガラックで遊んでいたところを衛兵に連れ戻されてきたところらしく非常に不機嫌で、民衆から喝采を浴びる俺を疎ましく思ったのかもしれない。「貴様の品のない芸のタネを暴いてやる!!」と突っかかってきた王子を見て他のギャラリーはみな散り散りに帰ってしまい、俺は王子の手前手品を披露しないわけにもいかず、しかたなく消失マジックをやってみせた。しかし呪術を使っているため当然タネなどは無く(あったとして王子に見破れるかどうかは定かではない)タネを見破れなかった王子は逆上して俺を口汚く罵ったのだ。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「なんだこの…なんだこの手品は!!見ていてつまらん!!どうだ!その証拠にぼくの他に誰も見物人はいないではないか!」

 

「(それは王子がみんなに嫌がられているからでしょ…)」

 

「大体お前のような貧相な格好をした貧乏人がぼくの国でデカい顔をしているのが大層不快だ!」

 

「(王子の方が顔デカいじゃん…物理的に)」

 

「何か言ったらどうだ!それとも言葉の使い方も知らないのか?」

 

「……差し出がましいようですが王子、王子がいらっしゃるまでは見物人はいましたよ。」

 

「うるさい!!僕の前で許可なく発言するな!不敬だぞ!」

 

「(^^)」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

嫌な記憶を思い出してしまった。俺は運河を一通り見て回ると城の前まで来た。勇者と合流する前に城の内部構造把握も兼ねて王城も散歩してもいいかもしれないな。

 

…まあ別に手品の感想は人それぞれなので、手品をいくら悪く言われようと、それはギャラリーを楽しませられないこちらの落ち度と受け止められるのだが、チャゴスは手品ではなく俺の身なりや出自など、自分が優位に立っている点でのみ俺を(そし)ってくるのだ。生まれや貴賤でマウントを取る人間が俺は苦手である。それからというもの俺は彼奴のことがかなり嫌いなのだ。ゲームとしてドラクエⅧをプレイしていた時から憎たらしい奴だとは思っていたが、実物はもっと鬱陶しかった。その時は最終的に罵倒を聞かされ続けてげっそりしていた俺を見かねて、城の衛兵が王子を連行してくれたおかげで場は何とか収まったが、もしあの時サザンビークにユリマちゃんなど連れてこようものなら俺への暴言に怒ってチャゴスに殴りかかっていた可能性さえある。ユリマちゃんを取り戻したとしてもできれば王子には会わせたくないな…。

 

城で王子に鉢合わせるのも嫌なのでやっぱり宿屋でチェックインの準備でもするか…と思っていると、視界の端でタルがにじり、にじりとゆっくり動いているのが見えた。魔物?いやあんな魔物は知らないし…気になった俺が近づいて確認しようとすると、いきなりタルから声がした。

 

「おいっ!そこに誰かいるのか?衛兵じゃなきゃ誰でもいい。このタルを持って国の外へ出て、ベルガラックまで連れて行ってくれ。」

 

「(この声………はぁ)」

 

俺は頭を掻いた。タルの中にいるのはチャゴス王子だ。一番合いたくない男に一番会いたくないタイミングで出会ってしまったらしい。どうやら今度はタルに隠れて国外脱出を図っているようだ。もちろんベルガラックまで連れて行く気など毛頭ないがこのまま衛兵に突き出すのは面白くない…。

 

…そうだ。俺は悪い顔をした。

 

「もっ、もしやタルの中にいるのはチャゴス王子であらせられますか!?」

 

「いかにも。さあ、どこの誰とは知らぬがぼくをベルガラックへ送り届けてくれ。」

 

「もちろんでございますとも王子。ところで王子は腹など空かれてはおりませんか?」

 

「ん?そういえば腹は減ったな。何かくれるのか?いい心がけだ、褒めて遣わすぞ。」

 

「ええ、ではこれを。少しタルの蓋を緩めてくださりますか?」

 

話し方もそうだがもう声色から腹が立つなぁ。俺は近くにいたトカゲを拾い上げ、少しだけ開いたタルの隙間に放してやった。王子はトカゲが大の苦手なのだ。

 

「おお、暗くて見えないがこれは…?」

 

「…」

 

「こ、こ、これ…は…!?!?」

 

俺はダメ押しに「トカゲのエキス」の残りを隙間からねじ込む。『王家の山』に入山する前に俺とサーベルトに振りかけた残りだがもう必要はない。これで中のトカゲは元気に活動し始めるだろう。

 

 

「ひいいいいいいいいっっっっ!!!!!!なっ、ななっ!!と、トカゲだああああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

俺は無表情のままタルをロープでぐるぐる縛る。遠めに見れば梱包作業に見えないこともないかもしれないな。

 

 

「ぎゃああああああっっっ!!!こっち来るなぁあああああ!!!!!!で、出れない!!!出せ!!!」

 

 

後は王子捜索に出払ってがら空きになっている城門を通って中に入り、そこらに転がしておけばOKだ。

 

 

「おわあああああああ!!!おっお前!!!僕を騙したなぁっ!!」

 

 

別に嘘はついてないしぃ。トカゲだって食べ物よ。さっき入れたトカゲは毒も牙も持たない安全なトカゲだから王子がケガをすることもない。そもそも王子はめちゃくちゃ素の防御力も体力も高いじゃん。

 

 

「ぎょええええぇぇぇぇ!!!服に、服に入ったぁ!?!?!?」

 

 

…流石にやかましい。恐らく性根が図太すぎて気も失えないのだろう。そこだけはちょっと気の毒な気もする。俺は喚くタルを放置し、外に出てまだ王子を捜索している衛兵を呼んだ。

 

「衛兵さん!城内に王子の声がするタルが!!」

 

「何だって!?情報提供感謝する!!」

 

衛兵は慌てて城に走っていった。これで王子も懲り…はしないだろうが、まあしばらくは落ち着いているだろう。こちらのストレス解消にもなったのでめでたしめでたしだ。

 

 

「のわぁぁぁぁ!!!!ぐげええ!!!!」

 

 

「お、王子!?!?何を!?」

 

後ろで衛兵の困惑する声が聞こえる。あの衛兵には申し訳ないな。悪いけど王子監督不行き届きの罰だと思ってほしい。…なぜかひどく疲れた俺はもう宿屋で休むことにした。

 

 

 

 

 




ドルマゲス
レベル:50→53

サーベルト
レベル:45→49

チャゴス
SAN値:20000→1


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Chapter19 サザンビーク国領 ①

チャゴスが人気(?)で何よりですねぇ。
Ⅶのレブレサック(現代)の村長と並ぶクズと称される彼ですが、村長は不都合な真実より都合の良い伝説を作ることで村を守ろうとしたという一応の言い訳があるのに対して、チャゴスは終始自分のことしか考えておらず、どちらかと言えばチャゴスの方がヘイトを貯めやすそうですね。

今回は特に何もない繋ぎの回です。








アスカンタ王国で『月影のハープ』を入手し、それを月の民イシュマウリに渡すことで古代船を手に入れた一行。目的は『物乞い通りの魔王』がいる闇の遺跡だが、さすらいの冒険者ディムによれば、闇の遺跡には結界が張ってあるため入れないと言う。結界を破るアイテムを手に入れるために一行はサザンビーク王国へと船を走らせる。

 

 

 

 

「順風満帆、天気は快晴!磊磊落落(らいらいらくらく)の航海じゃ~!」

 

「王様!危ないですよ!やあっ!」

 

船上に這い上がってくる魔物。而してそこは戦場と化していた。甲板をはい回る「プチアーノン」が「わかめ王子」を燃やしていたゼシカの股下を潜り抜ける。

 

「あっ!?ククール!そっち一匹行ったわよ!」

 

「了解っ!」

 

「おっさん!戦闘中くらい馬車に引っ込んでるでがすよ!!」

 

「やかましい!こんな時だからこそ舵を放棄するわけにはいかんじゃろうが!この考えなしが!」

 

「いっ!?」

 

平時より何故か語気の強いトロデに若干怯むヤンガス。それでも飛びついてくる魔物はちゃんと叩き落としているところを見ると、彼ももう一流冒険者であると言えよう。

 

「磊磊落落じゃなかったんでげすかね…」

 

「王様は舵輪を握ると性格が変わるタイプだから…」

 

ククールが的確に「プチアーノン」の脳天を射抜き、最後はエイトが追い詰められた「さつじんいかり」のグループに『デイン』をお見舞いして戦闘は終了した。

 

「ふぃ、終わった。」

 

「まったく、今まで定期船で移動していた時は大して現れなかった魔物がこんなにたくさん…厄介だな…」

 

まだ使えそうな矢を甲板から引っこ抜きながらククールがぼやく。

 

「ディムが言ってた『海の魔物の狂暴化』と関係がありそうね。大方、『魔王』の持っている杖の強すぎる魔力にあてられて活性化してるとか、そんなところじゃない?」

 

「そうだねぇ…」

 

剣に付着した魔物の体液を拭き取りながらエイトは返事をする。きちんと拭き取っておかないと、船上では潮風に吹かれてすぐに錆びついてしまうのだ。せっかくアスカンタで新調した「きせきのつるぎ・レプリカ」を早々に錆びさせるわけにはいかない。

 

「(しかしこの新しい剣、すごい切れ味だ。こんなのが大量に、しかも安価で売ってるなんて、やっぱりアスカンタはすごい…)」

 

「ん?」

 

左手で舵輪を握りながら、右手で望遠鏡を覗いていたトロデが前方の小島の存在に気づいた。

 

「おっさん、何か見えましたかい?」

 

「うーん?あそこに見えるのは…わしの頭の中の地図によると…おお、そうじゃ、あそこは『メダル王国』じゃな!」

 

「「メダル王国?」」

 

「そうじゃ。『ちいさなメダル』の蒐集を使命としている王家の者が住んでいる小さな島国じゃ。なんでもメダルがあれば景品と交換してくれるのだとか。…寄るか?エイトよ。」

 

「うーん。みんなはどうする?僕は行ってもいいと思うけど。」

 

「いいんじゃない?私たちも『ちいさなメダル』なら何枚か持ってるし。」

 

「それに聞いたことがある。メダル王のご息女、メダル王女はどうやらかなりの美女らしい。オレとしては是非拝見したいもんだ。」

 

「兄貴が行きたいならあっしはどこへでもお供するでがすよ。」

 

「なら決まりじゃな!面舵いっぱい!」

 

トロデは舵輪を大きく回転させ、船はメダル王国の波止場へ接岸した。

 

 

道中の魔物はやたら強かったが、「ランドゲーロ」や「タップデビル」など、トリッキーな戦法を取る魔物以外はベルガラックとそう変わりなく、さっさと一行は王城へとたどり着いた。

 

「王様は…どうしましょうか?」

 

「わしは馬車に残る。船でのサザンビークの行き方を試行しておくわい。早めに戻ってくるんじゃぞ~」

 

「承知しました。じゃあ開けるね。うおおお…」

 

「…門番とかいないのか?この城には」

 

「仕方ないわね…みんな、エイトを手伝いましょ!」

 

城門を開けてくれる門番がいないので、仕方なくエイトたちは自力で門をこじ開けて城内に進入した。

 

 

「いらっしゃーい。お客さんが…って!お客さん!?アイツ以外に!?…た、大変だ!!王女様~!大臣~!」

 

城に入ると、喋るスライムがこちらを見るなり血相を変えて飛び出していった。

 

「…?」

 

しばらくして、これまた血相を変えた若い女性と小太りの男性がスライムと一緒に戻ってきた。服装から察するに王女と大臣なのだろう。しかし、王女のドレスはボタンは掛け違えるわ王冠を模した帽子はズレているわでかなり不格好である。

 

「も、申し訳ありませんこんな格好で…さっきまで寝ていたもので…!」

 

「ハァ…ハァ…大臣の私まで眠ってしまうとはなんたる不始末…お許しくだされ」

 

「あー、とりあえずあんたがこの国の大臣でこちらのお嬢さんが王女様ってことでいいのか?」

 

「初めまして、僕たちは航海の途中で立ち寄った旅人です。こちらでメダルを集めている王女様がいらっしゃると聞いてここへ参りました。」

 

「なんと!」

 

「なら…もしかして、あなた方はちいさなメダルをお持ちくださったのですか?」

 

「はい。」

 

「まあっ!それは素晴らしい!まさかドルもごご」

 

「王女!王女!それは言わない約束ですぞ!!」

 

「ああっ!そうでした。ええと…よ、よくお持ちくださいました!早速おあじゅ、お預かりさせていただきますね。大臣!景品の用意を!」

 

「王女!まだメダルを数えておりませんぞ!」

 

「そ、そうでした!おほん…ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつつ、大臣!今は何時ですか?」

 

「六つ時ですが?」

 

「ななつ、やっつ、ここのつ…」

 

「王女様!数え間違いが発生しています!」

 

「そんな!」

 

「…」

 

エイトたちは目の前で繰り広げられる寸劇(コント)に唖然とするほかなかった。寝起きで頭の回っていない王女のボケに、これまた寝起きの大臣が対応する。大臣も頭が回っていないので使用人までフォローに入る始末だ。

 

「な、なんですかいこりゃあ…」

 

「あの…慌てなくても大丈夫ですよ…?」

 

その後、やっと落ち着きを取り戻したメダル王女がメダルを数えて、エイトたちは無事に景品(あみタイツ)を賜ったのだった。

 

 

「ねぇ、大臣さん?王家の儀式は…いつも…その、あんな感じなの?」

 

エイトが銀行に、ククールが買い出しに行っている間にゼシカは先ほどのてんやわんやについて大臣に聞いてみた。

 

「王家に仕える者として何とも不甲斐ない限り…申し訳ない」

 

頭を抱える大臣。そこに自分の話をしていると気付いた王女も服装を直しながら会話に入ってきた。

 

「わたくしも重ねて謝罪させてくださいませ…その、この国にはある一人の人物を除いて他に旅人が訪れたことが無く…その…」

 

「?」

 

「その方は何度もいらしており、気の知れている仲なので、彼の前なら…まあ、寝間着姿のまま出ても良いかなと思っていまして。」

 

「そうしたらまさかまさかのあなた方がいらしたので急いで着替えたという次第ですぞ。」

 

「ええ…」

 

王家の者として、一人の女性として、旅人の前に寝間着姿のまま登場するのは流石に如何なものか、と提言したかったが、ゼシカはすんでのところで踏みとどまった。いかに相手がツッコミどころ満載でも、彼女は王族なのだから。

 

「では、僕たちはこれで失礼します。」

 

「次は36枚になった時に『おしゃれなベスト』を差し上げますわ。どうかがんばってくださいましね。」

 

「本日は遠路はるばるお越しくださり、感謝の極みでございますぞ。ところで、貴殿らはこれからどちらへ向かわれるのですかな?」

 

「ああ、これからサザンビーク王国へ行くんですよ。知人を訪ねに行くんです。」

 

「なるほど、サザンビーク…。」

 

「最近は魔物も狂暴化していると聞きます。どうかお気をつけてくださいませ!あ、メダルを集めたらまたよろしくお願いいたしますわ!」

 

エイトたちはペコリと頭を下げると王城を出て行った。

 

 

「…」

 

「ああ、ビックリしましたわ。まさか本当にドルマゲス様以外にメダルを集めておられる方たちがいらっしゃるなんて!これからは謁見の間に出る前に寝間着で出ても良いか確認しなければいけませんわね?…大臣?」

 

「失礼、王女、少し席を外しますぞ。王女は王に儀式の報告をお願いします。私はドルマゲス殿に報告を申し上げますので…」

 

「ああ、そうでしたわね。そういうことならばお任せしますわ!……もうこの服脱いでいいかしら?

 

王女は病床に伏している王の部屋へ行き、大臣はベランダに出た。勇者たちの船が離岸するのを見届けると、大臣は石板を取り出し、教えられたとおりの手順で石板に念を込めてみた。

 

「確かこう…わっ、光が!?」

 

『もしもし?えーと三号機だから…メダル王国の大臣ですか?』

 

「その声は…ドルマゲス殿ですかな?」

 

『はい。無事に『フォン』は繋がったみたいですね。』

 

「ええ。私のようなほとんど魔力の無い者でも使えるのは素晴らしい代物ですな。」

 

『ありがとうございます。魔法とは少しプロセスが異なるのでね…。そんなことは置いておいて、今回はどういったご用件でしょうか?王女様の愚痴なら後で…』

 

「いやいや。ドルマゲス殿が予言していた通り、新しくメダルを献上しに来た旅人たちが現れたのです。赤いバンダナをした青年を筆頭に、太った荒くれ者、若い女性、長身の男性の四人組でした。」

 

『ほう!やっぱり来ましたか!私のことは隠してくれましたか?オイッ!エイヘイ!モタモタシテナイデハヤクタスケロ!』

 

「王女が危うく言いかけましたが、なんとかバレずに済みましたぞ…ところで、そこに誰かいるのですかな?声が…」

 

『あー、いや、ちょっとトカゲ嫌いの問題児が…えと、気にせず続けてください?』

 

「旅人たちは『知人を訪ねる』と言ってさきほどサザンビークへ発たれました。このまままっすぐ行くならば、2日あればサザンビークへ到着しそうですな。」

 

『…。なるほど、ありがとうございました、助かります。』

 

「礼には及ばないですぞ。ちなみにドルマゲス殿とあの旅人たちはどういった関係なのですかな?」

 

『えーと、彼らの言う「知人」というのは実は私のことなんですよね。でもそれは彼らには隠しておきたいので大臣や王女様には黙っておいていただいたのですよ。』

 

「なるほど、そういうことでしたか…では報告は以上となりますぞ。」

 

『ありがとうございました。王女様にもよろしくお伝えください。』

 

「そうそう、王女と言えば、今日は朝が早かったものでドルマゲス殿の時の様に寝間着で出られようとしたものですから…」

 

『お、王女様の愚痴ならまた今度…ではまた何かあればご連絡ください!』

 

「…?何も聞こえなくなってしまいましたな…」

 

石板は完全に沈黙し、光を失ってしまった。しかし報告は終えたのでまあいいか、と割り切った大臣は空を見上げ、穏やかな日差しに目を細めた。朝からのドタバタで少し疲れてしまったので朝食を食べたらもう少し寝ようと心に決め、階下の食堂に向かうのだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「いや~、メダル王国の人は濃い人ばかりだったでがすね。」

 

「銀行員がホイミスライムだったり、従者がスライムだったり、魔物も多かったね。あれもトラペッタやアスカンタで見たような機械なのかな?」

 

「普通に喋ってたから違うと思うけど…まあいいじゃない。面白い王女様だったわ。メダルが集まったらまた行きましょ!」

 

「確かに美女ではあったが、ちょっとガサツすぎたかな。…そうだ、ところでじいさん、サザンビーク王国への行き方はわかったのか?」

 

「ああ。結局ベルガラックから歩いていくのが一番早そうじゃ。ちと面倒じゃが、サザンビークは周囲を岩山で囲まれておるゆえ仕方あるまい。」

 

「そうか。ならベルガラックに寄るのはどうだ?もう一度バニーショーを見に行きたいな。」

 

「「「「却下で。」」」

 

何も全員で言わなくても。ククールはエイトたちの冷たい視線を浴びて、ばつが悪そうに肩を竦めた。

 

ここはまだ杖の魔力が及んでいない海域らしく魔物たちも大人しいので、一行は悠々と船旅を堪能し、予定通りにベルガラックに到着することができたのだった。

 

 

「うーん!海の上はあんまり景色が変わらなくて退屈だったから、やっぱり陸地はいいわね!」

 

「でも、船も全然揺れなくてびっくりしたよ。流石古代の魔導船だね。」

 

「ふふん、古代の技術と、わしの操舵技術の賜物じゃな!」

 

絶対におっさんの操舵と船の安定性は関係ない、と言いかけたヤンガスだったが、船の上にいるトロデは気性が荒く、何を言われるかわからないのでやめておいた。錨を降ろして船を降り、各々伸びをしたり荷物の確認をしたりし、出発の準備は整った。

 

「さあ、早いとこサザンビークへ行ってディムと合流しようぜ…ん?」

 

「どうしたの?」

 

「あれ…誰か走ってきてるな。」

 

仲間でもひときわ長身で視界も広いククール。彼の指さす先を見ると、こちらに向かって走ってくる人影が見えた。

 

「あ、あれはディムでがすね。」

 

「なんだディムか。どうりで見覚えのある人影だと思ったぜ。」

 

「ヤンガス、見えるの?すごいね!」

 

「いやあ、昔っから感覚は冴えてるんでがすよ。」

 

「それより、ディムが来てるの?もしかして私たちを迎えに来てくれたのかな!?」

 

「お~い!ディムや~い!わしらも船を手に入れたぞ~!」

 

ようやくエイトたちにもディムを目視できる距離になると、ディムは手を大きく振りつつ息を切らしてやってきた。

 

「みなさん…はぁ…はぁ…お久しぶりです…まさかこっちの岸から来るとは…」

 

「久しぶり、ディム。大丈夫?お水ならあるけど?」

 

「失礼、頂きます…」

 

エイトが差し出した水をディムは一息で飲んでしまった。相当喉が渇いていたようだ。

 

「ぷは。ありがとうございます。…みなさん、無事に再会できて何よりです。じゃあ、後ろのそれがみなさんの船なんですね!うわあ…大きいなあ。」

 

「うん。これで僕らも闇の遺跡へ乗り込めるよ。」

 

「あっしらがこの船を手に入れた経緯は話せば長くなるでがす…」

 

「まあまあヤンガス、その話は後にしましょ!ね、ディム。今闇の遺跡に行っても何か結界があって入れないんでしょ?それでサザンビークにある…えーと、ナントカって鏡を貰いに行くのよね?それってどこにあるの?」

 

「『太陽のカガミ』ですね。まあ、詳しい話は向こうに行ってからにしましょうか。じゃあ行きましょう!」

 

「ここからサザンビークまでどのくらいかかるんだ?」

 

「?十数秒もかかりませんが…さあ、僕の近くに…『ルーラ』」

 

「「!?」」

 

その瞬間一行は光に包まれ、その場から姿を消した。

 

 

 

 

 




メダル王女、大分キャラ崩壊させちゃったな…もしかして、一番原作から離れちゃってるんじゃないか…?とか思ってたんですけど、この小説の主人公が誰で、ヒロインが誰なのか、すっぽり抜け落ちてました。


エイト
レベル:26
武器:きせきのつるぎ・レプリカ(アスカンタで購入)

ヤンガス
レベル:25
武器:キングアックス・レプリカ(アスカンタで購入)

ゼシカ
レベル:25
武器:マグマの杖(錬金釜で作成)

ククール
レベル:27
武器:クロスボウ(パルミドで購入)


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第三十一章 姫様復活と王の再臨

前回も今回もこれからもしばらく見どころはないです。勇者とドルマゲスは共に行動している間は勇者視点とドルマゲス視点を交互に書こうかなと思っています。








ハロー、勇者と無事に合流した道化師ドルマゲス改めディムです。原作プレイヤーとしては勇者たちと一緒に冒険ができるなんて夢みたいですよねぇ。しかもよく見ると勇者とヤンガスが持ってるのは私が設計したレプリカシリーズ。自分の考えた武器がゲームで見たキャラの懐に収まっているのを見るとなーんかむず痒い気持ちです。悪い気はしませんけどね。

 

 

 

 

『ルーラ』は問題なく発動し、俺含めた勇者一行はサザンビーク王国に到着した。しかし勇者たちは俺を見たまま固まっている。え?気が抜けて変装解けたとかじゃないよな?俺は咄嗟に手足や服装の確認をしたが、特におかしなところは無かった。

 

「うそ…『キメラのつばさ』も使わずに転移できるなんて…」

 

「え?いやエイトさんも使えますよね?『ルーラ』」

 

「う、うんそうなんだけど…」

 

「…わしも王位について長い。宮廷魔導士も多く抱えていたが『ルーラ』を行使できるものは魔導士の中にはいなかった。さらには同時代に『ルーラ』の習得者は二人といないという学術論文まで発表される始末じゃ。そんな中現れたのが類まれなる「ゆうき」を持ち、『ルーラ』を習得したエイトじゃ。トロデーンの国民たちはエイトが『ルーラ』を覚えたことは知らんが、これで他に『ルーラ』を使えるものはおらんと思っていたのじゃが…だからこその驚きじゃ。」

 

ええ…『ルーラ』ってそんなスゴイ呪文だったのか…確かに主人公以外の誰かが『ルーラ』を覚えてるのは記憶の中のドラクエにはないが。ん?いや、ククールお前使えるだろ。

 

「ふーん。兄貴しか使えないはずの『ルーラ』をディムも使えるってことは、トロデーンの魔導士たちも結構いい加減な発表をしたんでがすね。」

 

「えーと…ヤンガス、あの論文は魔法を勉強したことのある人なら誰もが耳にしたことのある有名なものなのよ。だからエイトが『ルーラ』を使えると知った時、私、内心で小躍りしてたのよ?スゴイ人に出会っちゃった!って…なんでディムも使えるのよ…?」

 

いや、そんなこと知らん。俺はゲームで『ルーラ』を幾度となく見たことがあるのでイメージが容易で割と楽に習得できたんだけど。と言いたいが、そんなこと言っても話が長くなるだけなのはわかっているので「なんででしょうね。えへへ」と雑に濁して終わらせた。

 

「ま、そんなことはいいじゃないか。目の前にドデカい城がオレたちを待ってるんだ、さっさと鏡を借りに行こうぜ?」

 

さして興味も無さそうなククールの声に俺は威勢よく同調し、サザンビーク王国へ入城しようとした。トロデはお留守番らしい。まあ姿が姿なので仕方ない。別に俺の『妖精の見る夢(コティングリー)』で元のトロデ王の姿に外面だけなら変えてあげられるのだが、ミーティアを一人で城の外に待たせておくのは忍びない。『コティングリー』はただの変身術なので、姫を人間の姿には変えられても言葉を喋るようにはできないのだ。呪いを一時的にでも解く術があれば…あれば…?

 

ん?

 

俺は何かを思いつきそうで、勇者たちには見えないように『賢人の見る夢(イデア)』内をゴチャゴチャとまさぐった。手に触れたのは開発中の武器、予備のセキュリティサービス、整備済みのプロトオートマター、ナニカの肉…そして次に触れたのは薬瓶。直感で俺はそれを取り出してラベルを見た。「サンプルNo.05」…これだ!!

 

 

「お…お父様…!?」

 

その場にいる誰もが目を疑うような奇跡を目の当たりにして驚いている。無理もない、国が滅亡してからずっと馬の姿だったはずのミーティア姫が人間の姿を取り戻したのだ。勇者は久方ぶりに見る幼馴染の姿を、トロデは渇望していた娘の無事を、他の仲間たちは初めて目にするトロデーン王国の姫君を。ミーティア自身も信じられないと言った面持ちで自分の手や足を見つめている。俺も驚いている。めちゃくちゃ可愛い…

 

「お父様!見てください!ミーティアは…ミーティアは人間の姿に戻りましたのよ!!」

 

興奮するミーティアは高ぶる感情をそのままにトロデに声をかけたが、当のトロデはその目玉が零れ落ちんばかりに目を見開き、何も言えずにただミーティアを見つめている。その様子を見てミーティアは不安になったのか、あからさまにおろおろし始めた。

 

「どうしたの?お父様…ま、まさかミーティアは人間の姿に戻った夢でも見てるというの?これは幻なの……?」

 

トロデはその悲しそうなミーティアの声を聞いてようやく我に帰り、涙を浮かべて何とか答える。

 

「おお…あまりに突然のことで思わず言葉を見失ってしまったわい。ちゃんと見えているぞ、姫よ…!さあ、もっと近くに来てその愛しい姿を見せておくれ…!」

 

「お父様っ!」

 

トロデとミーティアは手を取り合い、これまで奪われた時間を取り戻すかのように話し始めた。辛い思いをさせたと謝るトロデ、それをやんわりと否定し、みんなの役に立てて嬉しいと微笑むミーティア。俺含む勇者パーティたちはそれを温かく見守っていた。俺は内心で安堵のため息を吐く。ぶっつけ本番だったが、無事に凝固させた「ふしぎな泉」の解呪成分は泉の外でも効力を発揮してくれた。これも裏で研究を進めてくれていたウチの「ホークマン」たちのおかげだな!よし、これで勇者たちからの評価も爆上がりだろ!

 

「なあ…ディム…お前、ほんとなんなんだ?ドルマゲスにかけられた馬姫様の呪いをやすやす解いちまうあの薬はなんだ?なんでお前はそんな代物を持っている?」

 

あっ逆に疑われてしまった。ククールに次いでゼシカやヤンガスも俺ににじりにじりと詰め寄る。疑う、というよりも困惑しているようだ。どーすっかな…。ふと勇者に目をやると、彼はトロデとミーティアをにこやかに眺めながら、拳をぎゅっと握りしめていた。きっと彼もあの中に混ざりたいだろうに、トロデの気持ちを汲んであえて傍観しているのだ。なんと健気な近衛か…。俺は勇者やトロデたちの邪魔をしないように、あらぬ疑いをかけられないように、この「ふしぎなサプリ」の説明をした。

 

 

─サザンビーク城─

 

「元の姿と寸分たがわぬこの顔!髪!身体!素晴らしいぞディム!」

 

「お褒めにあずかり光栄です!しかしトロデ王は本当に王様だったのですね。その姿が良くお似合いです。」

 

「褒めても何も出んぞ!わっはっは!」

 

「なんでい、魔物の頃と大して変わらねぇじゃねぇか。」

 

「なんじゃと!ヤンガスよ、表に出い!」

 

「まあまあ、トロデ王。あなたもお姫様も町に入れたんだからよしとしましょうよ。ね?」

 

「…」

 

ミーティアは無言で、しかしにっこりと微笑んで頷いた。その様子にヤンガスもトロデも毒気を抜かれて大人しくなる。ミーティアさんマジ姫様。

 

俺は『コティングリー』でトロデとミーティアを人間だった頃の姿に変え(トロデの造形に関しては本人からかなり厳しい監修が入った)、全員で堂々と入城した。「ふしぎなサプリ」の効力は原作ふしぎな泉よろしく数分で消えてしまったので、ミーティアは喋れないままだが、こうして黙って歩いている分には何も問題はない。どうしても話さなければならない時だけサプリを服用すればいいのだ。まだ数粒余っているのでなんとかなる。ミーティアは久しぶりに自由に動けるということもあってパタパタと走って色々なところを覗きながら進んでいた。

 

「ディムよ、重ねて感謝するぞ。…効果が切れて姫がまた馬になってしまった時は落胆したが、久方ぶりに姫と話すことができた。それも全ておぬしのおかげじゃ。姫も感謝しておるぞ。なあ?」

 

ミーティアは首を大きく縦に振り、駆け寄ってくると俺の手を取った。王族らしい綺麗な手のひら、その柔肌の感触、そして超至近距離から放たれる美少女スマイルの輝きに俺は飛び退きたくなる。へらへら生きている道化師にとって王女様の笑顔は眩しすぎるんだ…

 

「王様も言ってるけど本当にすごいよ、ディム。一瞬とはいえ、あのドルマゲスの呪いを解くことができる薬を作れるなんて…」

 

呪いかけたの俺じゃないんだけどなあ、と言いたいのを堪えて快活に返事をする。彼らにとってはまだ『ドルマゲス』が諸悪の根源なのだ。あっ、まさかこんな調子でキラちゃんとも話してたんじゃないだろうな?…もしかして最近キラちゃんが寄ってきてくれないのは勇者たちと話して俺の存在に懐疑的になったから……?今度改めて誤解を解いておかないとな。

 

「もし時間があればここから西にずっと行ったところの隠者の家を訪ねてみてください。そこにさっき説明した、解呪能力を持つ『ふしぎな泉』が湧いていますよ。」

 

「もちろんじゃ!なあエイトよ!」「はい!」

 

勇者は力強く返事をした。彼も少しだがミーティアと話せて元気を取り戻したようだ。絶対にドルマゲスを倒して二人の呪いを解く、と息巻いている。ちょっと複雑…。とにかく、ここにトロデ王とミーティア姫本人がいる。そうなればサザンビーク王クラビウスもこちらの要望を無下にするわけにはいかないだろう。もしかすれば『王家の山』イベントもまるまるスキップできるかも?そうなったら次はどうしようかな、と俺は想像を巡らせた。

 

 

「誰だ!武装した大人がこんな大勢で何の用だ!」

 

「…わしの顔を見て何も思わないのか?こやつらは護衛、わしはトロデーン王国の現国王であるぞ!控えおろう!」

 

「な、まさか……とっ、トロデ王!?!?なぜ今…いっいや!失礼しました!急ぎクラビウス王に報告して参ります!」

 

ぞろぞろと城に入ってきた俺たちを警戒する衛兵だが、そのうちの一人にさらりと三大国の元首が混じっていることを認識すると顔を青くして階段を駆け上がっていった。まあそうなるわな。むしろビックリしすぎてパニックにならなかったことを褒めてあげたい。

 

「…はえ~改めて、おっさんってほんとに王様だったんでがすね。」

 

「ああ…別にエイトも認める手前、心から疑ってたわけじゃないが…いざこういうところを見せられると王様!って感じがするな…」

 

「わっはっは!こんな反応をされるのは久しぶりじゃ、愉快愉快!さっ!クラビウス王に会いにゆこうぞ!」

 

王族貴族がすこぶる嫌いなククールは顔を顰めていたが、快活に笑うトロデを見て、彼はやはり彼だということが分かったのだろうか、肩を竦めて階段を上るトロデについていった。

 

「ところで、ディムは私たちが船を探している間はサザンビークにいたのよね?なにをしてたの?」

 

ゼシカが尋ねてくる。…まあ、色んなことがあったな。メダル王国に行ったり、月の都に行ったり、あんたの兄ちゃんとお茶したり。

 

などと言えるわけもなく、「太陽のカガミ」について調べていたんですよ。と無難な回答をしておいた。ゼシカも「ふーん。すぐに借りられるといいわね」とそれ以上の詮索はしてこなかった。

 

 

「こ、これはトロデ王!クラビウス王はこちらの玉座の間にいらっしゃいます。いくらトロデーン王国の国王とはいえ、国王様の御前では変な気を起こされないようお願い申し上げます…」

 

「物騒じゃな。何もわしは宣戦布告をしに来たわけではないんじゃ。ディム、例の薬を姫にあげてもらえるかの。」

 

「あっ、はい。姫様これをどうぞ。」

 

「…!」

 

「おっさん、クラビウス王に何を話すつもりなんでげすか?」

 

「なに、トロデーン王国の現状報告と王国復興までの簡易的な不可侵条約の締結くらいじゃ。もちろん『太陽のカガミ』についても掛け合うぞ。クラビウス王は硬派だが話の分かる王じゃ。何らかの便宜は図らってくれるじゃろう。」

 

「王族ってのは考えることが多くて大変そうでがすね。」

 

俺が「ふしぎなサプリ」を渡すとミーティアは嬉しそうにそれを飲み込んだ。まばゆい光があたりを満たすが、元々馬の姿だったものを『コティングリー』で人の姿に変えているため、外側だけ見れば別段姫に変わったところはない。

 

「えーと、姫様に変わったところは見られないけど、実際は今だけ呪いが解けているってことよね?」

 

「ええ!ゼシカ様!ミーティアはこの通り、お喋りができるようになりますのよ!」

 

「わっ、ビックリした。ミーティア姫は元気で素直なお姫様なのね。…馬姫様だったころからなんだか気品のようなものは感じていたけれど。」

 

話せるようになると分かればミーティアは途端に饒舌になる。まあ数か月の間言葉を発することができてないことを考えると、むしろいくら話しても話し足りないくらいだろう。

 

「ミーティアや。相変わらず可愛い声じゃが、今はクラビウス王との面会が先じゃな。チャゴス王子ももしかすれば玉座の間におるかもしれんの。」

 

「あっ、そうでしたわ…」

 

ミーティアの顔が少し暗くなる。…無理もない、あんなブタくんが婚約者、しかも勝手に決められたものだったら誰だって顔を顰める。他の人、例えば俺の連れならばどうだろう。…良くも悪くも正直なユリマちゃんはきっと顔に出るだろうし、女神のように優しいキラちゃんでさえ頬を引きつらせるだろう。…いや、この時のミーティアはまだチャゴスには会ったことないんだっけか?だとしたらなおのこと可哀想…。これから絶望することになるんだから…

 

「兄貴、チャゴス王子って誰のことでげすかい?」

 

「チャゴス王子はこの国の王子で、姫様の許嫁にあたる方だよ。僕も姫も顔は見たことないな。」

 

「へーぇ。姫様がこんなに美しい女性なんだ。そのチャゴスって王子もオレほどじゃなくとも、なかなかの美形なんだろうな。」

 

「では開きますよ!」

 

俺はさっさと進みたくて会話を遮るような形で扉を開ける。サプリの効果はもっても5分が限界だ。中途半端なところで効果が切れられてはたまらない。扉を開くと、そわそわした様子でクラビウスが座っており、その横で大臣が同じくそわそわしている様子で佇んでいた。そりゃそうだ。何のアポもなくいきなり他国の、しかも無視できない規模の国の王が城内に現れて面会を求めてきたのだ。多少なりとも緊張する。俺だってここがゲームで見た世界でなければ緊張で震えているだろう。だが勇者たちはトロデが今までの姿と特に変わらないので緊張はしていないようだ。うーん流石は一流冒険者。

 

「ようこそ。トロデ王。」

 

「うむ、久しぶりじゃ。クラビウス王よ。」

 

傾いた太陽の光が差し込み、クラビウスの額に汗が浮かんでいることを知らせる。しかしそれはトロデも同じようだ。何となく重苦しい、しかし苦痛というよりは少し神々しい、思わず跪きたくなるような…ああ、そうか。これが『王』か。俺は一人で勝手に納得していた。

 

緊急の国家間会談が始まる。

 

 

 

 

 

 




ミーティアの一人称がミーティアなのって可愛いですよね。これだけでもミーティアがどれだけトロデに甘やかされて、それでも立派に育ってきたのかがなんとなく推測できます。


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Chapter20 サザンビーク国領 ②

【お詫び】
前回でめちゃくちゃ『ルーラ』の設定を盛りましたが、私のリサーチ不足でククールも覚えられることが分かってしまいました。応急処置の一文を追加しましたが、改めてお詫び申し上げます。だってククールでルーラ使ったことなくてェ…(言い訳)







ディムと合流し、闇の遺跡に張られた結界を破るアイテム「太陽のカガミ」を手に入れるべくサザンビーク王国に到着した一行。冒険者ディムの不思議な術と薬の効果でトロデは元の姿を、ミーティアは元の姿と一時的に声を取り戻すことができたため、二人も堂々と王国に入れるようになり、トロデはその足で王室まで出向きサザンビーク王クラビウスとの面会を要求するのだった。

 

 

 

 

「…我が国の現状については以上じゃ。」

 

トロデはぽつぽつと、しかしテンポよく自国に起こった悲劇について詳細に語った。姫の生誕祭にアスカンタ王パヴァンに推薦された道化師ドルマゲスを招いたこと。自分の過ちで彼を秘宝の杖に曝露させてしまったこと。その後のドルマゲスによって建物は破壊され、人々はイバラに変えられてしまったこと。しかし体裁を考慮したのか自分と姫が姿を変えられ、今のこれは偽の姿であるということは伏せた。思わずヤンガスがツッコミそうになったが、咄嗟にククールがヤンガスの口の中に手袋を突っ込んだことで事なきを得た。

 

その後も、全員がトロデの話を沈痛な面持ちで聞いていたのだが、ディムだけは周りとは少し違う、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「そんなこと言われたら…もう変装しないとこの国に来られないじゃん」という彼の愚痴は静まりかえった部屋の中でも聞こえないほどに小さく発せられ、誰の耳にも入らないまま彼の口の中で消えた。

 

「…にわかには信じがたいが、トロデ王。貴殿がわざわざ我が国まで出向いて伝えに来るというのだから間違いはあるまい。この度は貴国の不幸、心中察すると共に貴国を脅威にさらした悪ドルマゲスの調査を我が国も請け負うことを約束しよう。それらしき人物が国内で発見されればすぐに拘束し、貴殿に伝達する。」

 

「ご助力感謝する。ありがたい限りじゃ。」

 

「クラビウス王、ミ…わたくしからもお願いいたしますわ。」

 

「ミーティア姫。こうして会うのは初めてか…君は母親によく似ているな。……国のことは不愍に思うが、君やトロデ王が無事で良かった。サザンビーク王国は友好国であるトロデーンの復興に協力することを約束しよう。もちろん侵略などは以ての外だ。ドルマゲスを捉えたならばあの手この手で情報を引き出そう。」

 

クラビウスはミーティアを見て少し顔を綻ばせた。彼の重厚な、しかし安心感のある声にトロデは笑みを浮かべ、ミーティアの顔もパッと明るくなる。しかし彼らの顔が明るくなればなるほど後ろのディムの顔は険しくなっていくのだった。

 

「して、クラビウス王よ。ドルマゲスの行方は依然として不明じゃが、ドルマゲスの関係者と見られる者…"悪徳の町"パルミドで『物乞い通りの魔王』と呼ばれていた女が北西の孤島に在る『闇の遺跡』へ向かったという情報を得たのじゃ。しかし闇の遺跡には闇の心を持つ者以外を阻む結界が張ってあって入れん。そこで『太陽のカガミ』を貸して欲しいのじゃが…」

 

「なに?トロデ王、何故我が王家に伝わる『魔法の鏡』が『太陽のカガミ』だと知っている?あの鏡が太陽の光をため込むことができるというのは国民でも一部の者しか知らないはずだが…」

 

「ぬ?そうなのか?わしはそこにおる冒険者のディムから聞いただけじゃが…」

 

クラビウスが訝しむようにトロデから視線を送られたディムを睨む。王家の秘宝について妙に詳しいディムがどこかの組織の手先なのではないかと疑っているようだ。

 

「い、いや、僕は、その、あっ、そう!西の森に住むおじいさんから聞いたんです!彼は確かかつてこの国で名を馳せた宮廷魔導士だったとか。僕は彼の友人なので聞かせていただいたことがあったのですよ。はは…」

 

クラビウスは思い当たる節があるようで、「ふむ、そうか。」というと玉座に座りなおした。そんなことより気がかりなことがあるようで、それ以上の追求はせずに口をもごもごさせる。もしかして「彼」のことだろうか。ミーティアは自身も気になっていることについて尋ねてみた。

 

「ところでクラビウス王、本日はチャゴス王子はいらっしゃらないのでしょうか?」

 

「!?…あ、ああいるとも。我が息子チャゴスもミーティア姫に似合うような王子になるため日々邁進中なのだよ…だが今はまだ未熟でな…」

 

「そ、そうなのですね…」

 

図星だったようで、クラビウスは露骨に早口になる。その対応だけで、多感で聡明なミーティアは自身の婚約者となる人物がろくでもない男であるとうすうす感じたのだろう。少し声がか細くなった。その時、ディムがピンと背筋を伸ばすとトロデの真横まで忍び寄り、耳元でクラビウスと大臣には聞こえないくらいの声で囁く。

 

「(トロデ王、鏡の交渉については僕に考えがあります。一度ここは僕らを置いて姫と共に退出を。ミーティア姫の薬の効果ももう切れてしまいますので…)」

 

「(なるほど、この場で姫が馬の声を出してしまうのはよろしくないわい。…わかった、わしらは城の外で待っておる。言いたいことは全て伝えたし、おぬしらもわしの従者、もとい護衛だと分かった以上は無下にはされんはずじゃ。エイト、そしてディム。頼んだぞ。…ミーティア、わしに合わせよ。)」

 

「(わかりました、お父様!)」

 

「トロデ王よ、どうかしたか?」

 

「おほん、おっと、これはいかん!わしとしたことがとても重要な用事を忘れていた!!急ぎトラペッタに向かわねばならん!」

 

「あ、あー!ミーティアも早くトロデーン国領であるトラペッタの町へ行かなければですわー!」

 

トロデはともかく、ミーティアはヤンガスやゼシカもビックリの棒読み演技だが、まさかそんなところで嘘を吐くとは思っていないクラビウスは動揺を露わにする。

 

「なに?それはいかん、すぐに御者を…」

 

「いや、ありがたいが問題ない。城の外に馬車を待たせておるでな。特急で帰るゆえ、荷物になるこやつらはここに置いていくぞ。それでは失礼させてもらおう。」

 

「誰が荷物でがすか。」

 

「む?そ、そうか。そこまで言うならば…大臣、トロデ王を見送る準備を。」

 

「いやいい。もともと突然の訪問で迷惑をかけたのはわしじゃ。……クラビウス王、この度は世話になる。次会う時は姫の結婚式でな。」

 

「あ、ああ…トロデ王、ミーティア姫も無理だけはしないようにしてほしい。」

 

「(うーん、めちゃくちゃな演技だし苦しい設定だけど大丈夫かな…そもそもディムは何を考えてこんなことを…?)」

 

挨拶もそこそこに、トロデはエイトたちに目配せをしてミーティアの手を引き、さっさと退出してしまった。クラビウスは呆気にとられていたが、しばらくして我に返ると残されたエイトたちを見て何かを悩んでいる。

 

「そなたらはトロデーンの兵士か?」

 

「いや、兵士はここにいるエイトの兄貴だけで、アッシらはただの旅人でがす。」

 

ヤンガスがエイトの背中を軽く押して一歩前に出させた。

 

「…エイトか。…。」

 

「クラビウス王様、どうかなさいましたか?」

 

「いや、そなたの人相が親族に似ていたものでな。すまない。少し聞きたいことがある。」

 

「(親族…もしかして僕の出自に関係することかな…?)なんでしょうか?」

 

「そなたらの事情はよく分かった。しかし先ほども述べた通り、魔法の鏡は王家の家宝。いくらトロデ王の頼みであってもおいそれと渡すのは王の沽券に関わるのだ。…力にはなりたいのはやまやまだがこちらも民を束ねる身、分かってほしい。」

 

「やっぱりダメでがすか…。おっさんってあんまり人望ないんでがすかね?」

 

「いや、そんなことは無いと思うけど…」

 

「まっ、そんなこったろうと思ってたよ。はなっから借りられるとは期待してなかったけどな。」

 

「どうすればいいのよ…サーベルト兄さんのカタキを討つには魔法の鏡が必要だってのに!」

 

手掛かりに繋がる魔王の居場所が判明し、あとは目と鼻の先というところでの停滞。エイトたちにフラストレーションが溜まっていく。一方で、飄々とした様子でやっぱりダメかと肩を竦めたディムは、クラビウスの前に進み出て跪いた。

 

「む?そなたは我が国の元宮廷魔導士の友人だと言っていた…確か、ディムだな。何か?」

 

「王よ、憚りながら申し上げます。何かお困りのことは無いでしょうか。我々、腕っぷしの方は並の兵士を凌駕すると自負しております。…例えば王が力仕事の任務を我々に与え、その見返りとして魔法の鏡を貸与していただく…という形ならば我々も王のお役に立て、かつ目的も達成することができます。如何でしょうか。」

 

「貴様!王に対する無許可の進言、無礼だぞ!」

 

「よい、大臣。こちらからも提案しようと思っていたところだ。……しかし決めあぐねていた理由はその内容にある。」

 

「その理由ってのを聞かせてもらえないでがすか?」

 

クラビウスは一行に語った。もうじき息子のチャゴスが一人前の王になるために通過する儀式があるのだが、彼は大嫌いなトカゲとの戦闘を嫌い、頑なに儀式を拒否しているという。王者の儀式は命を落としかねない儀式であり、苦渋の策として護衛をつけることも考えたが、城の兵士に手伝わせれば王者の儀式の条件である「一人で完遂する」を達成できていないことが国民に知られてしまうため、中々決断に踏み込めないというのだ。

 

「そなたらに護衛についてもらうことも考えたが、そなたらはトロデ王とミーティア姫の護衛を務める者…滅多なことは頼めん。やはりこの話は…」

 

「クラビウス王!私たち、どうしても魔法の鏡が必要なんです!護衛でもなんでも任せてください!」

 

「あっしも王子を守るくらいのことはできるでがすよ。おっさ…トロデ王の護衛は元々ここまでの予定でがしたからね。」

 

「もちろん、心配しなくてもトロデ王には黙っておくくらいのことはしておくさ。オレたち、エイト以外はトロデーンの兵士じゃないからな。」

 

「…。」

 

「……」

 

エイトたちはここぞとばかりにあることもないこともまくし立て、なんとかチャンスを得ようとする。クラビウスはしばし目を閉じると、とても重そうに口を開いた。

 

「…では頼みたい。そなたらに超機密の任務を課す。内容はチャゴスの護衛、報酬は魔法の鏡だ。……チャゴスを呼んでまいれ。」

 

 

「…で、なんで私たちまでチャゴス王子を探さないといけないわけ?」

 

「仕方ないだろ、チャゴス王子が謁見の間に来る前に逃げ出したってんだからな。」

 

「いくらトカゲが苦手と言ったって、王者の儀式は王位を継承する者全員が通る道だってクラビウス王も言ってたでがす。チャゴスって王子はそんなヘタレなんでがすかね?」

 

「王子様っていうからには勇敢で人望に厚い人を想像してたんだけどね…」

 

「そりゃまた、ベタでがすな。」

 

「しかも名前までチャゴスだもんね。なんだかパッとしないわ。」

 

「おいおい、それは関係ねーだろ。名前にまで罪は無いと思うぞ。」

 

「ディムはチャゴス王子のこと、何か知ってる?」

 

儀式を嫌がって逃げ出したチャゴスを探すという名目で王城を適当に散策するエイトたち。エイトがディムにチャゴスのことを知っているかと聞くと、ディムはそれはそれはイヤそうな顔をした。

 

「あー、はいはい。よ~~~く知ってますよ。アホで高慢ちきな太っちょ君のことでしょう?」

 

「「ちょっ!?」」

 

「滅多なことは言うもんじゃないでがすよ!!」

 

予想だにしなかった暴言に慌ててヤンガスが口をふさぐ。エイトは周りを確認するが、城の関係者は近くにはいないようで胸をなでおろした。

 

「おいおい、命は大切にしろよな。王子の悪口なんて王様の耳に届いたらただじゃすまないだろ?」

 

「だって本当のことですし。お城の人たちもきっと見て見ぬふりしてくれますよ。…僕、昔王子に酷いこと言われたんです。それから王子のことはあまりよく思っていないんですよね。大人げないことを言っているのは自覚してますが、みなさんも実際に護衛の任につけば彼がどういう王子サマか分かると思いますよ。」

 

「…」

 

「…え~、温厚なディムがここまで言うんだもん、相当"スゴイ"人には違いないわ。……どうしよう、ちょっとイヤになってきたかも…」

 

「えぇ…カタキはどうするんでげすか…」

 

「ん?あそこ、人が集まってるね。行ってみようか。」

 

早くも信念がブレ始めるゼシカにヤンガスが呆れていると、エイトが広間の突き当りに十数人の人だかりを見つけた。王子の行方と関係しているだろうと直感で感じたエイトは人ごみの一番外側で話をしていた侍女に話しかけてみる。

 

「すみません。僕たち国王様の命でチャゴス王子を探しているんですが、王子の行方をご存じないでしょうか?」

 

「あら、旅の方ですか?チャゴス王子ならすぐそこにいますが…」

 

侍女は目の前の扉を指さす。どうやらこの扉の向こうにチャゴス王子がいるらしい。エイトがではなぜみんな集まっているのかと問うと、近くにいた学者姿の男が代わりに答えた。

 

「私たちもみんな国王様に命じられてチャゴス王子を迎えに来たのです。」

 

「でもチャゴス王子は国王様の元へ連れていく途中で逃げ出してしまい…」

 

「この使用人の部屋に立てこもってしまったのですわ!」

 

「ドアを開けようとすると舌を噛み切るぞと脅してくるし…」

 

学者の次は兵士、召使い、そしてまた侍女と怒涛の勢いでチャゴスの愚行をまくし立て、最後は揃ってため息を吐いた。

 

「「「どうすれば…」」」

 

「…。」

 

「どうしよっか?王子をなんとか部屋から出さないと…」

 

「王子と交渉でもするか?扉の前にカワイ子ちゃんがいるぞー、とか。」

 

「あはは、神話みたいですね。」

 

「「…??」」

 

「あっ、あっ!すみません。僕の故郷に似たような伝承があって…」

 

「とにかく、王子をどうにかして部屋から出さないことには始まらないでげすな。」

 

「大丈夫です、僕に任せてください!」

 

「おっ、いやに威勢がいいな。どうやって王子を部屋から出すんだ?」

 

「いいですか?城の皆さんのあの反応、おそらくチャゴス王子がどういう人間かを嫌というほど知ってる方たちだと見受けられます。そこを利用するんですよ。見てて下さいね…」

 

ディムは自信満々と言った様子でポンと胸を叩くと、堂々とした歩みで人だかりをかき分けていき、おもむろに扉の前に立ってとわざとらしく嘆いた。

 

 

「あ~弱ったな~~!!王子がまさか舌を噛み切ることのできるほどの勇気の持ち主だったなんて!!!」

 

 

「「「・・・。」」」

 

「…ディム、なにを「確かに、それもそうだな!」「あけちゃえあけちゃえ!」「私、ちからの強い人呼んできます!!」えっ?」

 

ディムの一声で城の関係者たちはやんややんやと騒ぎだし、まもなく全員で扉を押し始めた。すぐに扉の向こうで悲痛な叫び声が上がる。

 

「ウワーーーッ!こ、コラーー!やめろっ!おいっ!無理やり扉を開けようとするな!し、舌を!舌を噛み切るぞ!!」

 

「王子、その時はトカゲの尻尾の細胞でも移植すればまた生えてくるやもしれませんぞ!さあみんな!押せーー!!」

 

「ヒッ!お前何てことを…あっ!やめ…やめろ!やめてぇっ!!ああっ」

 

ガチャン!

 

遂に扉の鍵は壊れ、チャゴスと城の者を隔てるものは何もなくなる。チャゴスは起死回生を夢見て次の立てこもり部屋に走るも、十数人の包囲網から逃れることは叶わず、両手両足を掴まれてまるでブタの丸焼きのような格好で運ばれていった。一方で一部始終を見ていたエイトたちはディムのとんでもないゴリ押しに開いた口が塞がらない。

 

「…」

 

「いっちょあがりです。ブイブイ。」

 

「いや、なにピースサインしてんだよお前…。結果的にはこれでいいんだけどよ…」

 

「ディム…きっと相当酷いことを王子に言われたのね…どしたの?話聞こうか?」

 

「ゼシカも言ってたでげすが、あのディムにあそこまで強引な手段を取らせる王子を今からあっしらは護衛するんでがすね。…うへえ、確かにこれは気が滅入るでがす。」

 

「ま、まあ行こうよ。これでチャゴス王子もきっと王者の儀式に行かなきゃならないだろうし…」

 

知識が豊富で人懐っこいディムでも機嫌を損ねることはある。先刻王子が運ばれる光景を、とてもスカッとした爽やかな顔で見ていたのをを見て、エイトたちは少しだけディムの認識を改めた。普段温厚に見える人ほど怒った時は怖いものなのだ、と。

 

 

 

 

 

 




最近はグダグダ続きでしたが次回は流石に王家の山に入れるようにします。
チャゴスの描写に妥協はしたくないですからね。

前話(三十一章)より
『ミーティアは首を大きく縦に振り、駆け寄ってくると俺の手を取った。王族らしい綺麗な手のひら、その柔肌の感触、そして超至近距離から放たれる美少女スマイルの輝きに俺は飛び退きたくなる。へらへら生きている道化師にとって王女様の笑顔は眩しすぎるんだ…』

─同時刻 闇の遺跡─

ラプソーン「む?今誰か知らぬ女が道化師に触れたような気が……いや、我は何を考えているのだ……」


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第三十二章 珍道中と天誅

やっと王家の山に入りました。ホントに入っただけですけど。
今回はチャゴスとゼシカのターンですね。








ハロー、結局チャゴス王子のお守りをすることになってしまった道化師ドルマゲスです。トロデとミーティアがいれば展開は変わってチャゴスが一人で儀式に挑戦することにならないかなと思ったのですが…逆に『ドルマゲス』は出禁になってしまいました。それどころかトロデが私の風貌をよく覚えていないのか「面妖な術を使う道化師」としか伝えていないので、今後サザンビークにくる道化師や旅芸人は全員捕捉されてしまうのではないでしょうか。可哀想な同業者たち…心から同情します。

 

 

 

 

俺はチャゴスを部屋から無理やり引きずり出させた後、悠々とクラビウスの元へ戻った。道中でゼシカが「どしたの?話聞こうか?」と出会い厨みたいなことを言いだしたり、エイトやククールがこちらを窺うような素振りを見せたりしていたが…。うーん、ちょっと調子に乗って鬱憤を晴らしすぎたかもな。これからはしばらく大人しくしていよう。

 

 

「おお、戻って来たかエイト、そしてその仲間たちよ。一応紹介しておくべきかな。この者が我が息子にしてサザンビークの次代の王となる者、チャゴス王子であるぞ。」

 

部屋には王と王子と大臣と俺たち以外は誰もいない。どうやらチャゴスを連れてきた(連行した)城の者たちはそれぞれの持ち場へ戻ったようだ。毎度毎度お疲れ様です。にこやかに息子を紹介するクラビウスを見ると、どれだけ息子が堕落していようと、ああ、この人は本当に息子を愛しているんだなと少し優しい気持ちになる。…もっとも、その優しさが原因で生まれた怪物に何人もの国民が苛立ちを募らせているのだが。一方で紹介されたチャゴスはこれまた不満そうな顔をしている……腹立つなあホント。

 

「お待ちください父上!なぜこのような見るからに身分の低そうな輩にこのぼくを紹介するのですか。」

 

早速チャゴス節が炸裂した。厚顔無恥で血統主義なチャゴス君は、相手が多人数であれ武器を背負っている人物であれ、自分より身分の低い者を見下すことを恐れない。チラリと横を見ると、ゼシカとククールはもう嫌な顔をしている。

 

「身分なぞ問題ではない。お前の儀式を補佐してくれる者たちにお前を紹介するのは当然のことであろう。」

 

「儀式ですと!?ぼくはそんな話きいておりません、行くと言った覚えもありません!何度もトカゲはイヤだと申したではありませんか…」

 

「よく聞け、チャゴスよ。どんなにイヤでも儀式を済ませ強い王になれるとわしらに示さねば、ミーティア姫と結婚できんのだぞ。」

 

「ぼくは結婚なんか別に…」

 

父親自らが説得してもなお全然儀式へ行く気がないチャゴスに、流石にクラビウスも焦りを見せはじめた。依頼の請負人たる俺たちもこの現場を見ているのだからなおさらだろう。

 

「本当にそう思っておるのか。…実は先程までミーティア姫とトロデ王がこの国に来ていたのだが…。」

 

「えっ!?も、もう帰ったんですよね?ぼくが城の者共に運ばれるところなんて見られてないですよね!?」

 

チャゴスはどうでもいい心配をしている。どうせこれから痴態はどんどん上塗りしていくんだから心配なんてしなくていいのに。

 

「ああ…ミーティア姫はそこにいるおなごに勝るとも劣らぬ…」

 

 

「ぼんっ!きゅっ!ぼーん!!」

 

 

「……なスタイルだったぞ。」

 

「おお…!」

 

クラビウスの声に力がこもり、俺は肩を竦めた。DQ8屈指の迷シーンに立ち会えたことは感動ではあるが…。ああ、ほらみんな幻滅してる。あの優しくて冷静なエイトですら、クラビウスの不躾すぎる発言に目が死んでしまっている。やっぱりクラビウスにも「この親にしてこの子あり」な部分はある気がするな。…それ以外は立派なんだけども。

 

「私をダシにしないでよね。」

 

チャゴスから下卑た視線を受けたゼシカは分かりやすく苛立っている。…まあククールも認めるように、確かにゼシカのプロポーションは抜群(本人によると母のアローザはもっとスゴイらしい)で、俺も一人の男である以上興味はある。が、チャゴスと同類と思われるのはひっじょ~~~に心外なので俺はゼシカの方を見ないようにした。

 

…うーん、ゼシカかあ。ディム君は若干10~12歳のショタなので、姉御肌のゼシカに頼み込めば「ぱふぱふ」くらいはしてくれるかもしれないが、正体がバレた時のことを考えたら絶対に口には出せないな。あとサーベルトに会わせる顔もなくなるし。

 

「……おほん、チャゴスよ。城の者が陰でお前をなんと言ってるかここでわざわざ言うまでもないだろう。少しでも悔しいと思うのなら儀式を済ませ、男をあげてみせろ。」

 

「…」

 

「そこにいるエイトたちも陰ながらお前の力になってくれよう。どうだ?チャゴスよ。行ってみんか?」

 

「うぅ…行ってみようかな。あっ、でもやっぱりどうしようか「おお!行くと申すか!表向きお前は一人で王者の儀式へ出発したことにするからな。一足先に城下町を出て門のそばにあるエイトたちの馬車に乗り込んで待っていろ。よいな?」

 

「えっ!?」

 

「よし大臣。チャゴスをさっそく儀式へ送り出せ。さもひとりで行ったように見せかけるためにも兵士を連れて行き、派手に門の前で見送らせろ。」

 

「ははっ。仰せの通りに。」「そんな、ぼくはまだ…」

 

チャゴスの困惑もどこ吹く風、大臣はチャゴスの首根っこを掴んでそのまま引きずっていった。部屋にいるのがクラビウスと俺たちだけになると、クラビウスはため息を吐いた。

 

「ふぅ、やっと行きおったか。エイトよ、くれぐれも護衛のことは誰にも口外しないでくれよ。…特にそなたの主君であるトロデ王とその娘ミーティア姫には黙っておいて欲しい。チャゴスにもメンツというものがあるのだ。」

 

「えーと…」

 

どうやらエイトは嘘を吐くのが苦手らしい。いや、そりゃ原作では一度も言葉を発していないので実際のところは分からないが…だとしたらこういうところもサーベルトに似ている。ゼシカがエイトに兄の姿を投影したのにはこういう一面もあるのかもな。

 

「あと、王者の儀式に関しては城の外でチャゴスにでも聞いてくれ。そなたが見事この任を成し遂げてくれれば約束していた魔法の鏡はくれてやる。では、頼んだぞ。」

 

 

「王子は有無も言わさず連れてかれやしたね。ただの親バカかと思いきやクラビウス王も厳しい人でがすな。」

 

「どこがだよ。厳しく育てた上で王子がああなったってんなら王子は筋金入りのダメ人間だぜ。」

 

「あの王様、結構やらしいわね…私の身体を見てぼんっきゅっぼーん!とか言わないで欲しいわ!まったく!」

 

王子が無理やり送り出されたのを見届けた後、俺たちはのんびりと城門まで歩いていく。エイトたちの足取りは重く、いくら「太陽のカガミ」のためとはいえ、これからあの王子に付き合わされることを考えてげっそりしているようだ。うんうん、サザンビーク王家の異常さが分かってもらえて何よりですよ。

 

「ねえ、ディム…クラビウス王から護衛のことは王様たちには言っちゃいけないって言われたよね。でも王様はきっと城の外で待っているし、王様を置いて王家の山に行くわけにもいかないし…どうしたらいいかな…」

 

「エイトさんは誠実でいい人ですね。でも大丈夫です。トロデ王とミーティア姫に僕がかけた変身の魔法は二人が城を出た時点で解除してますし、何よりクラビウス王の中では今の王と姫は御者と馬、つまり僕たちの同行者としか認識されていないので、事情を話したとしても大きな問題にはなりませんよ。」

 

「そうよね。そもそもいずれ親族になる相手に隠し事をするってのもおかしな話だと思うわ。」

 

「でも、それじゃあクラビウス王との約束を反故にする形に…」

 

「あのなあエイト、クラビウス王から課せられた任務は王子の護衛だ。それだけ遂行すりゃ何も文句はつけられねえだろ。じいさんにもきっちり説明すりゃ秘密は守ってくれるだろうしな。あのじいさん、物分かりは中々いい方だし。」

 

「もともと王子にこっそり護衛をつけて国民を欺こうとしてる国王でがす。あっしらにも嘘の一つや二つ吐く権利くらいはあるんじゃないでがすか?…ってこれはあっしの野蛮な自論でがすが。」

 

「…そうだね。みんなの言うとおり、王子はしっかり護衛しよう。あとはまあ…こう…うまいこと…やろう!」

 

パーティの正常性最後の砦であるエイトも遂に折れ、斯くして俺たちはワルの集団になった。エイトにはクラビウス王がミーティア姫の姿態をチャゴスの動機づけに利用されたのが効いたようだ。ともかくこれで全員が気持ちよく(よくはない)王家の山に行けるようになったのでよしとする。さあ、バリバリレベルを上げてもらおうかね。

 

 

俺たちは王家の山へと向かった。チャゴスはやれ馬車がせまいだの歩くのはしんどいからやっぱり乗せろだの儀式に行きたくないだのベルガラックに向かえだのやかましく、トロデもうんざりしていた。最初は丁寧に接していたゼシカももう愛想をつかし、常に理由をつけて馬車から離れている。ちゃんと王子に対応しているのはエイトだけだ。俺はこんな婚約者を持ってなお気丈に歩いているミーティアを心から不憫に思い、彼女のたてがみををひと撫ですると、ミーティアはこっちを見て大丈夫、ありがとう。というふうな表情をした(馬なのでよく分からないけど)。健気すぎる…大丈夫、結婚式は勇者がぶち壊してくれるからね。

 

というか今思えば王家の山スキップしなくて良かった。これでチャゴスが護衛なしで、あったとしても正当な手続きで儀式完遂してたら、クラビウスに婚姻を破談にする理由がなくなってたじゃん。そりゃあエイトが竜神族の里でウィニアの「アルゴンリング」を持ってくればサザンビークの王太子であることは証明されるだろうが、あの親バカ王ならそのまま勢いでチャゴスとミーティアをくっつける気がする。やっぱりこのイベントは必須だったか。

 

あとはチャゴスが原作と違って、勇気を出してアルゴリザードに挑むなどのイレギュラーが発生しないかどうかだが、まあこれは大丈夫だろう。チャゴスは相変わらずの嘘つきで威勢だけのヘタレ、しかし俺は彼を信用している。「何も信頼できない」という一点をひたすら信用している。

 

─王家の山─

 

「では、ぼくは王家の山の管理人に話をつけてくるからな。お前たちはここでじっとして待っていろよ!」

 

チャゴスは管理人の家へと入っていった。俺も王家の山の生態系をめちゃくちゃにしてしまったことについて謝りに行った方がいいのかな?

 

「…ところで王子って戦えるのか?道すがら魔物と戦う機会だってイヤってほどあるだろうしよ。」

 

「まあ…戦えるんじゃないかな…?その、一般人程度には。」

 

「まんがいち死なれたらやっかいでがす。王族を死なせたとあっちゃアッシらは打ち首でがすぜ、打ち首!」

 

「わっ わっ わっ!なに言ってんのよバカ!その口ぶりだとまるで私たちがこれから王子を殺害するみたいな言い方じゃないのよもう!」

 

「そうじゃぞ、王子を死なすなら事故を装うのじゃ。」

 

「おっさんいつの間に!てか何を言ってんでがすか!!」

 

トロデはめちゃくちゃ遠い目をしていた。目に光がない…というかもう黒目しかないんじゃ?ってくらいない。怖っ!…そりゃ苦心して作った錬金釜を邪魔だと言って道端に放り出されたり、ミーティアが休憩していると使えない馬だと言われたり、チャゴスの視界に入るたびに不気味な奴だと罵られたりすればこうもなる。むしろミーティアが虚仮にされたときに飛び出さなかったのは本当に偉いと思う。俺なら錬金釜を投げ捨てられた時点で何らかの魔法か呪術は使ってる。

 

「へっ、冗談じゃ。冗談…たぶん」

 

「「「おいっ!」」」

 

「まあいい。おぬしら、ここからが本番じゃ。さっさと王者の儀式を完遂して魔法の鏡を手に入れ、闇の遺跡へと向かうぞ。」

 

「そうね、冴えない王子のお守りはもうごめんよ。」

 

「どうした、何の話をしている?」

 

チャゴスが帰ってき(やがっ)た。間がいいのか悪いのか…。

 

「あら王子、大丈夫、関係ないわ。私の知り合いにどうしようもないダメな男がいてね、その人の話をしてたの。」

 

「そうか。そいつにはぜひぼくのような品格を身に付けてもらいたいものだな。ところでエイト、これを渡しておこう。『トカゲのエキス』だ。」

 

「(…)」

 

ゼシカの顔が張り付けた笑顔のまま固まり、眉だけがひくひくと動く。図太さもここまで来ると皮肉も無意識にカウンターできるのか…と俺は思わず感心してしまった。

 

「トカゲのエキス…ですか?」

 

「その袋には人間の匂いを消す粉が入っているんだ。今から山に入るからお前たちもその粉を身体に振りかけておけよ。儀式で戦うことになる『アルゴリザード』はな、人間の匂いに敏感で近づいただけでも逃げ出してしまう。そこでその粉で体臭を消しトカゲ臭くなれば奴に逃げられず戦うことができるようになるって寸法だ。」

 

「くんくん、ずっと王子から臭い匂いがすると思ったら、その袋と同じ匂いでがすな。王子はもうエキスを浴びてるってことでがすか?それは準備万端なことでげす。」

 

「これは…数日前に誰かに陥れられて振りかけられた大量のエキスが今も取れていないだけだ。…うう、思い出すだけで寒気がする。あとぼくを臭いと言ったな?すぐに謝罪しろ。」

 

「…」

 

俺は思わず目を逸らした。チャゴスが言っているのは、間違いなく俺がタルに入っていた王子で遊んでいた時の話だ。話が脱線してコイツがドルマゲスの話でも始めると面倒なことになるので、俺は率先してトカゲのエキスを被る。そこまで悪い匂いってわけでもないんだけどな。

 

その後エイトがエキスを浴び、ヤンガスが浴び、トロデとミーティアも浴び、ククールも嫌々ながら浴び、ゼシカも浴びようとしたところでまたしてもチャゴスから横槍が入った。

 

「おい、さっさと準備しろよ、女。いつまで経っても山に入れないではないか。」

 

「…だから、今トカゲのエキスを浴びようとしていたところじゃない!」

 

さっきのこともあってか、カチンときた様子のゼシカは少々語気も強めにチャゴスに対して抗議する。それが良くなかったのだろう。慣れない不便な旅で苛立ちがピークに達していたチャゴスのスイッチが入ってしまった。

 

「おっ、お前!!平民の分際でぼくに口答えする気か!?これだから身分の低い女は野蛮で良くない、ぼくがわざわざ下手に出てやればこうだ!お前の家柄など知りたくもないが、さぞ情けない血筋なのだろうな!平民の親もやはり平民というわけだ!ぼくは親切心からお前の準備が遅いことを指摘しただけなのに!それなのにお前は一体何様だ?ただの女のくせにぼくの厚意を無下にするなど、無礼極まりないということすら理解できないのか?」

 

「チャゴス王子、言い過ぎです。ゼシカはちゃんと…」

 

「黙れ!お前とは今話をしていない!…女!即刻謝罪しろ!そうすれば許してやらんこともない。さあ謝れ、額を地面に擦り付けて!!」

 

「…っ!」

 

「王子様、それ以上はお止めになってください。帰るのが遅れてしまいますぞ。ささ、行きましょう。」

 

「……!……ふんっ。それもそうだな。こんなところからは、そしてこんな奴らとも一刻も早く離れたい。おいっ!お前たち、野蛮なら野蛮なりにしっかりぼくを護衛しろよ!」

 

「…」

 

…いくら傲岸不遜だからって、流石にチャゴスがここまで言うとは思っていなかった。トロデが良いタイミングで止めていなかったらどうなっていたことやら。ククールを筆頭にエイトもヤンガスも憎々しげに山に入っていくチャゴスの後姿を睨んでいる。ゼシカなんてもう泣き…泣いてる!?座り込んでしまったゼシカに俺が急いで駆け寄るや否や、ゼシカは俺に寄り掛かってぽろぽろと涙をこぼした。

 

「…ディム…!」

 

「…あんな横暴に耐えて、我慢できて尊敬します…本当にスゴイと思います。僕ならきっと言い返すか手が出ると思うので。」

 

「…わ、私だって、言い返してやりたかった。…でも!もしここで王子がへそを曲げて王者の儀式に行かないって!そう言われたら!鏡が貰えなくなって…そしたら兄さんのカタキも取れなくなって…!…だから…私…わたし…。…く、悔しいよ…うぅ……。」

 

「…流石に僕も今のは良くないと思う。撤回してもらわないと。」

 

「…ちっ、アレが護衛の対象でさえなきゃ王族だってなんだってぶん殴ってやったところなのによ!」

 

「今からでも遅くはないでがすよ、ククール、兄貴、夜の闇に紛れて一発殴ってやりましょうぜ!」

 

「みんな…」

 

…そうだ。ゼシカはチャゴスにまくし立てられて怖くなって泣いてしまったわけでも、酷いことを言われて悲しくなってしまったわけでもない。ただ、言いたい放題言われて、実家であるアルバートを、家族をバカにされて、それでも言い返すことができなかった状況が涙を流すほど悔しかったのだ。斯くいう俺も今のはかなりイラついた。

 

…俺は「偉い、本当に偉いです…」と言いながら子供をあやすようにゼシカの頭を優しく撫でる。きっと強気な姿勢が崩れてしまった彼女にはこれが一番効くはずだ。

 

「みんな…ありがとう、私のために怒ってくれて。でも…いいの、大丈夫。それよりほら、王子が行っちゃう。きちんと王子を護衛して魔法の鏡を手に入れなきゃ…でしょ?」

 

ゼシカは流れる涙もそのままに、無理して笑顔を作ってみせた。

 

あー。これダメだ。その笑顔はダメだわ。俺の中で何かがプッツーンと音を立ててキレた。『しばらく大人しくしていよう』?そんなの無理に決まってんだろ。俺は手を引いてゼシカを立ち上がらせると、勇者たちにちょっと待ってて、のジェスチャーをし、つかつかと後ろからチャゴスに近づいて『マヌーサ』をかけた。

 

「うん?あっ、うわあああああ!!!???と、トカゲの化け物!?ぐぶっ!!」

 

「王子!アレは王家の山におわす伝説の霊竜です!大丈夫ですか!!」

 

「か…身体が…おも…」

 

想像する限りチャゴスが一番恐れるであろう『竜神王』の幻覚を見せ、『ベタン』の呪文でチャゴスの周りだけ重力を数倍にした。隣でおろおろしているトロデとミーティアにも「大丈夫」と目配せする。

 

『お前が此度の王者の儀式を受ける者か…』

 

「ひっ!しゃ、喋った……!!」

 

『見ていたぞ、お前の所業…貴賤問わず民を思いやれぬものに王の資格は無い…そのまま醜く潰れよ…』

 

「たっ、!おい!お前たち!助けろ!!」

 

「王子!謝るのです!さっきゼシカさんに言ったことを全て撤回するのです!」

 

幻惑状態にない勇者たちからはもちろん竜神王の姿など見えていないし、いきなりチャゴスがうずくまって叫んでいる変人に見えるだろう。ん?それはチャゴスに話を合わせている俺も同じか。

 

「そんな…ぼくが下賤な女なんかに…」

 

『ではさらばだ…豚よりももっと醜く意地汚い男よ…』

 

「早く!助けてくれ!」

 

何て体力。やっぱりしぶといなコイツ。俺は『ベタン』を『ベタドロン』に強化した。たちまち王子は情けない悲鳴を上げて倒れこむ。俺はゼシカにこっちに来るように促した。

 

「?」

 

「やっ、やめてくれ!謝る!謝るよぉ!!」

 

「ふん…」

 

俺は『マヌーサ』を治療し、『ベタドロン』を解いた。

 

「さあ、王子、ゼシカさんに謝りましょう!」

 

「…ん?なぜぼくが謝る必要がある?あの大きな恐ろしいトカゲはもうどこかに行ったのだから、ぼくが謝る理由はどこにもないだろう。」

 

「!」

 

「…ッ!ほんっとに救いようのない奴…!『ベタロール』」

 

「ああああああああ!!!!くそおおおおお!!痛い!痛い!!謝る!!謝るよ!!!わ、悪かった!!女…ゼシカ!!お前に言った全て!全部撤回する!ご、ごめ、ごめんなさい!あああああ!!早く!早く止めろおおおおお!!!!」

 

「!…まあ、いいわ。許してあげる。」

 

俺はまだ不満だったが、これ以上やって王子が死んでしまうと困るので(多分死なないけど)今度こそ魔法を解除し、半分以上地面にめり込んでいる王子を引き上げた。

 

「王子、かの霊竜の怒りはおさまったようです。では行きましょう。」

 

「げほっ!ごほっ!くそー…酷い目に遭った。早くアルゴリザードを狩って帰るぞ!」

 

さっきまで高等重力魔法を食らっていたとは思えない丈夫さでチャゴスは歩き始めた。…一応重力魔法は最大HPの割合ダメージがベースのはずなので、いくら王子でも受けたダメージは少なくないはずなのだが…まあ、そこもチャゴスらしさと言えばらしさではある。……腹立つなあホント。トロデからこっそり立てられた親指に免じて赦してやるか。その後勇者たちも後から追いついてきた。

 

「ヒュー。やるじゃん。さっきの王子の情けない謝罪、あれお前がやったんだろ?中々楽しめたぜ。」

 

「王子もあっしらやディムのことは微塵も疑って無さそうでげすね。どうやったのかは分かんないでげすが、スカッとしたでがすよ。」

 

「僕らじゃどうやっても良い結果にはならなかったかもしれない。ありがとう、ディム。この恩はいつかきっと返すよ。」

 

「いえいえ、僕も皆さんと同じように王子が許せなかっただけですよ。みなさんの苛立ちも解消できたみたいでなによりです。じゃ、行きましょう!」

 

ああ、と頷きチャゴスと馬車に続いてアルゴリザードを探しにいく勇者たち。俺も、と思った時、後ろからゼシカに呼び止められた。

 

「ディム!」

 

「あっ、ゼシカさん。」

 

「ディム…ありがとう。さっき、私が『大丈夫』って言った時……本当は大丈夫じゃなかったの。悔しい気持ちで心の中がいっぱいで…でもディムが王子に謝らせてくれたおかげで…この胸のもやもやも、全部ふっとんじゃった!…だから私はもう大丈夫!今度はもう本当に大丈夫だから!」

 

「みんなが私のために怒ってくれたのももちろん嬉しいけど、私は、まだ小さいのに、一緒にいてまだ日の浅い私のために、誰かのために怒れるあなたを心から尊敬したいの。ふふ、知らないところからやってきて、誰も知らないやり方で誰かを笑顔にするなんて…アイツみたい」

 

「アイツ…あいつとは誰のこふ」

 

「…ありがとう…これはお礼!ふふ、ポルクとマルクとか、村の子どもたち以外には、…兄さんにもしてあげたことないんだからね!」

 

「…!」

 

ゼシカは屈んで俺を優しく抱きしめると、またカラッとした笑顔に戻って勇者たちの方へ駆けて行った。ちょっとドキドキしたのはご愛嬌、いくら修行して、勉強して人外みたいな力が使えるようになっても、やっぱり俺も人間の男なんだなぁと安心した。てかゼシカめっちゃ良い匂いした。トカゲのエキスじゃあ到底隠し切れないおいろけスキル、恐るべし…。

 

その後、俺はさっきの抱擁のあの圧迫感はキラちゃんには出せないだろうな…など失礼なことを考えたり、これ俺が元の姿だったら絶対やってくれてないだろうな…など考えたりしたが、やっぱり思い浮かぶのはサーベルトの顔だった。なんかごめんなぁ。いや煽りじゃなくて、何か…普通に、うん。

 

「(求む、親友の妹に抱き着かれた時の対処法──。)」

 

 

 

 

 




いつも当小説を読んでいただきありがとうございます。
読者様の中に「おや?この小説、お気に入りに登録しているのに評価はしていないなあ」という方がおられましたら是非評価のほどをよろしくお願いします!
もちろんこの小説を初めて読んで続きが気になってくださった方はお気に入り登録していただけると更なるモチベになります!


原作との相違点

・トロデとミーティアがクラビウスと面会した。
クラビウスが割と強情だったので王子の儀式は予定通り護衛付きで行われることになったが、後のことを考えると結果オーライ。

・チャゴスが更にクズ。
クズ度が250から255になったところで誤差ではある。

・天誅
その後一週間にわたってチャゴスは夜な夜な竜神王の悪夢を見て魘されていたという。


エイト
レベル:26

ヤンガス
レベル:25→26

ゼシカ
レベル:25→26

ククール
レベル:27
クロスボウをエロスの弓に錬金した。




─同時刻 闇の遺跡─

ラプソーン「今度はクランバートルの賢者の末裔じゃない方を無性に殺したくなってきたが…何故だ?」


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Chapter21 サザンビーク国領 ③

UA数200000、お気に入り数2000、感想350件突破…!
そして評価もⅧ(8.00)を超えました!これも皆様のおかげ、いつも応援していただきありがとうございます!
これからも感想・お気に入り待ってます!!







魔法の鏡を手に入れるため、ついに重い腰を上げた王子に付き従う形で王者の儀式に出発した一行とディム。チャゴス王子の横暴に皆が苛立ちを募らせる中、ついに爆発したディムの怒りがチャゴスに天誅を下した。少しだけ胸のすく思いをした一行は引き続き「アルゴリザード」を探して山を散策するのだった。

 

 

「くそう。逃げられたか…。こんなイヤなことはさっさと終わらせて一刻も早く城へ帰りたいのだがな。」

 

「王子が愚鈍なだけでは?」

 

「…おい。よく聞こえなかったが、もしやぼくに失礼なことを言ったか?」

 

「いいえ?王子はどんな時も一生懸命だなあ、と。」

 

ディムが魔法によってチャゴスに強烈なお仕置きをしてからというもの、ディムはチャゴスへの敵対心をまるで隠さないようになった。しかし一方でチャゴスも他人の感情を慮る能力がないため、ディムの嫌味にも気づくことなく流している。

 

「そういえば、アルゴリザードはとても臆病だから近づくときは後ろからそっとだと大臣が言ってたな。」

 

「へぇ!それは知らなかった。王子と一緒なんですねぇ。」「貴様!」

 

「王子と一緒で慎重な生き物なんだなと思っただけですよ。」

 

もうトカゲ探しに飽きてきていたククールは、その様子を見て思わず近くにいたエイトに声をかけた。

 

「…なあ、エイト」

 

「ん?どうしたのククール。アルゴリザード見つけた?」

 

「いや。…ディムって意外と、いや結構いい性格してるよな。」

 

「んん?…あ~、うん。」

 

「料理も上手いし優しくて面白い奴なんだが…まあ、なんだ。敵には回したくないというか、ネチネチしてるというか……。」

 

「「それはそう。」でがす。」

 

いつの間にか近くに来ていたゼシカとヤンガスも大きく頷いた。

 

 

王家の山は本当に自然のものなのか疑わしいほど整然としていた。適切に間引かれた樹木はある程度規則的に並び、雑草は景観を損なわない程度の量。流れる川は不自然なほど澄んでおり、しかも草木の生えていない街道のようなものまである。明らかに獣道のような自然に形成されたものではなく、麓に管理者はいても、彼らだけでまるで観光地のような山を維持できるとは思えなかった。魔物は確かに生息し、そのほとんどが強力な戦闘力を持っているのだが、それでも数は少なく、さらにこちらを見ると「何か」に怯えて逃げ出す個体もいたため、連戦にならないこの状況ではチャゴスや馬車を守りながらでも安定して戦闘を終えることができた。

 

「くそっ、また逃げられたか。…なにか、大臣から聞いていたよりアルゴリザードの数が少ないな…こうも効率が悪くては全然帰れないぞ!」

 

「アルゴリザード」もしばしば散見されたが、後ろから近付いてもチャゴスが悲鳴を上げたり肝心なところで急かしてきたりするのでまだ一匹も討伐できていないのが現状であった。

 

アルゴリザードの数が少ないと言われディムは一瞬顔を強張らせたが、誰もそれには気が付かない。

 

「あ。チャゴス王子、あそこ…ここからだと草木に隠れて見えにくいですが、アルゴリザードがいますよ。」

 

「ほう…フン、でかしたエイトよ。褒めて遣わす。ん?…おっ、ちょうど良いことにあそこに生えているのは『ジョロの実』ではないか。」

 

「ジョロの実?それはなんでがす?」

 

「なんだ、そんなことも知らないのか?…ジョロの実は王家の山に群生する植物「ジョロ」の果実で、アルゴリザードの好物でもある。奴らはジョロの実の匂いに敏感で、眠っていても目を覚ますらしい。それだけ大好物だということだ。…まあいかにも蛮族的な風体をしているお前なら知らなくとも無理はないか。悪かったな。」

 

ディムによるさっきの仕打ちを既に忘れたのか、終始見下した態度を崩すことなくジョロの実を解説する王子。王子の余計な一言に、顔面に一発いいのをお見舞いしてやろうか、と思ったヤンガスだが、先ほどのゼシカの覚悟を思い出し拳を引っ込める。ここまできて魔法の鏡を手に入れるチャンスを失うわけにはいかないのだ。

 

「おい、そこの。ジョロの実を持ってきてあそこのアルゴリザードをおびき寄せろ。そうして今度こそ奴を仕留めてやるぞ。」

 

「しゃーねー。……よいしょっと、なあんだ。思ってたよりは軽いな。おいエイト、ジョロの実はオレが持つからアルゴリザードの場所まで誘導してくれ。」

 

一通りジョロの実を品定めするように見て回ると、ククールは自分の顔が隠れるほど大きなジョロの実の、その蔓を切って持ち上げた。

 

「ありがとうククール。でもいいの?僕が持とうか?」

 

「いいんだよこれくらい。それに、これ持ってる間は王子の素晴らしいご尊顔を拝まずに済むからな。できるなら耳にもジョロの実を詰め込みたいところだぜ。」

 

「あはは…(ん?これ立場的に笑っていいのかな僕…)」

 

一行はぐっすり眠っている一匹の「アルゴリザード」の十数メートル前まで近づくと木陰に隠れ、ククールがジョロの実を道の真ん中に投げて炸裂させた。橙色の殻が地面に落ちた衝撃で破れ、完熟した南瓜のように甘美な、それでいて摘みたての葡萄のような瑞々しさをも感じさせる芳醇な香りがあたりに広がる。

 

「?……!」

 

「来たぞっアr」「王子は喧しいので少々黙っててくださいね。」

 

ジョロの実の匂いで目を覚ましたアルゴリザードは何が起こったのか分からずしばらく周囲を見回していたが、落ちているジョロの実を見つけると嬉々として飛びつき、ジョロの実にかぶりついた。

 

「今だっ!」

 

「キシャァァァ!?」

 

ククールによる狙いすまされた弓の一閃。放たれた矢は対象の眉間に命中し、アルゴリザードはたまらず吹っ飛んだ。

 

「ち、額に当てたってのに。どれだけ硬い頭蓋なんだか。」

 

「まあいいだろう。アルゴリザードは一撃でも攻撃を当てれば臨戦態勢に入る。さあ、ぼくに続けお前たち!アルゴリザードを狩るぞ!」

 

アルゴリザードは頭を狙撃された衝撃で目を回している。自分より劣っていると認めた相手にはとことん強気に出られるチャゴスは自身のトカゲへの恐怖すら忘れ、この機を逃してなるものかと「せいなるナイフ」をアルゴリザードの首元に突き立てた。

 

「うおおおおおっっ!!!」

 

「「「(まさか…王子は本当の実力を隠して…!?)」」」

 

 

キンッ

 

 

「ひっ!?」

 

「グゥッ!?キシャアアァァ!!!」

 

「やれやれ…世話の焼ける」

 

ナイフは情けない音を立てて弾かれ、その反動でチャゴスは尻もちをつく。全くと言っていいほどダメージは入っていないが、首元を刃物で攻撃されたアルゴリザードは完全に戦闘態勢に入った。

 

「たっ、助け…腰が抜けて…」

 

「はいはい王子、今行きますよ…っとほい。危ないので後ろにすっこんでてくださいね~…皆さん、僕は王子を安全なところで逃げないように見張ってますので、そのアルゴリザードは頼みます!」

 

「任せて!」

 

がちん、と大きな音を立てて嚙み合ったアルゴリザードのアギトを間一髪避け、ディムはチャゴスをひょいと持ち上げた。そのまま後方へと下がると、交代で勇者たちが前線へ飛び出す。

 

「『ヒャダルコ』!動きを止めるわ!」

 

体勢を立て直したアルゴリザードがなおもチャゴスを追おうとするのを、ゼシカの唱えた氷の呪文が阻む。魔物であっても一応は爬虫類に分類されるアルゴリザードは、急激な気温の低下に対応できず身体の動きが極度に鈍る。

 

「打ち上げるでがすよ!兄貴!ククール!」

 

「「よしきた!」」

 

ヤンガスが動きの鈍いアルゴリザードに『蒼天魔斬』を下からジャストミートさせ、空中に吹っ飛ばす。その落下地点に回り込んだエイトと、弓から剣に持ち替えたククールが落下に合わせてWで『火炎斬り』を放った。

 

「ギャシャアァァ!」

 

「わっ、危ない!下がれっ!」

 

胸に十字(クロス)の火傷跡を負ったアルゴリザードは激情を湛えながらも、追撃を阻止するために「もうどくの息」を吐き、次いで火球を吐く準備をする。

 

「こいつ!意外と冷静な判断をっ!」

 

「こっちからは近づけないけど、それはさっき近接で痛い目を見た向こうも同じことよ!ここで一気に押し切るわ!『メラミ』!」

 

ゼシカに合わせるようにククールは『バギマ』、エイトは『ライデイン』を唱える。炎と雷が吹き荒れる、まるで竜の巣を思わせるような魔力の奔流がアルゴリザードを襲い、完全に戦意を喪失させ追い払うことに成功した。

 

「こういうとき、あっしも魔法が使えれば…って思うでがすね。」

 

「中々知識と知性が必要なんだぜ?呪文唱えるのって。そこらへんヤンガスにゃキツいだろ。」

 

「…ククールのイヤミもチャゴス王子の後だと特に気に障らないでがすな。」

 

「…それはそれでなんかむず痒いな。…ん?おい、何か落ちてるぞ?」

 

アルゴリザードが去った後、赤い石のようなものが落ちていることに気が付いたククールが拾おうとすると、いつの間にか戻ってきていたチャゴスがそれを横取りした。

 

「うわっ!」

 

「ほう!これがアルゴンハートか。…随分小さいんだな。アルゴリザードも気色悪かったが、見た目ほど強くなかったし…」

 

「…おい、ディム。王子を引き留めておいてくれるんじゃなかったのか?」

 

「すみません…アルゴリザードが倒れたと分かった瞬間急に走り出したもので…」

 

過去の出来事の関係でトロデ、ゼシカを除く王族貴族に良い感情を抱いていないククールはパーティーの中でも特にチャゴスとウマが合わないようで、チャゴスが急接近してくると虫を発見してしまった反射的に飛び退いてしまった。虫のような扱いをされている哀れなチャゴスに続いてディムとトロデ、ミーティアも合流する。そんな失礼ともとれるククールの反応を気にもかけず、良い事を考えた、とチャゴスは続ける。

 

「よし!ここはひとつ、もっと大きいのが手に入るまでアルゴリザードを倒し続けるとするか。フフン。」

 

「ふんだ。言ってくれちゃって。自分はすぐに逃げ出したくせにさ。」

 

「アルゴリザードに挑むときの王子のセリフがあんまりに勇ましかったもんで、あっしはつい王子が実は強いのかと思っちまったでげすよ。まあ、結果は見ての通りですがね。」

 

「(それは僕もちょっと思った…)」

 

「それにしてもみなさん、すごいですね!アルゴリザードも弱い魔物ではないはずですが、それを無傷で倒してしまうなんて…」

 

「そいつはどうも。オレたちも一端の冒険者の仲間入りを果たしたってことさ。」

 

「あの王子サマが迷惑なことを考えているせいでまだ終わりにはならなそうだけどね……あーあ。私、これでやっとサイアクなお守りから解放される!って思いながらアルゴリザードと戦ってたのにな…」

 

「というか、王子はほとんど戦闘に参加していないでげすが、これで儀式は遂行されたことになるんでがすかね?」

 

「さあ…それを判断するのはクラビウス王ですからねぇ…」

 

護衛をつけた時点で既に本来の儀式と異なっているため、それでもチャゴスを送り出したクラビウスには彼なりの考えがあるのだろうとディムは続けるが、それでもチャゴスがここで何かを掴むとはエイトたちには到底思えなかった。

 

その後も何度かアルゴリザードと対戦するも、チャゴスが満足するような「アルゴンハート」は手に入れられず、そのまま日は落ちてしまった。

 

 

「これもダメだ。こんな大きさじゃ父上たちは驚きもしないだろう…。もっとアルゴリザードがたくさん出てくれば、それだけ大きいのが手に入る確率も増えるのだろうが…。ふん!トカゲどもときたら、このぼくに恐れをなして巣穴から出てきやしない。強すぎるというのも罪だな。ぶわっはっは!」

 

「…ホントにおめでたい性格ね。この困ったちゃんの王子様とお別れできる日が待ち遠しいわ。」

 

「う、嘘だろ…ほとんど戦ってないってのに、王子はアルゴリザードを自力で倒したと言い張ってるのか…?いやいや、いくらなんでも…」

 

「しかし今日はもう疲れたな…。おい御者。今日の狩りはおしまいにするから、どこか開けた場所に案内しろ。疲れたから休みにするぞ。」

 

驚きを通り越して呆れるゼシカ、その呆れをも通り越してまた驚くククール、そんな彼らの言葉には気にも留めずトロデに指示を出すチャゴスに流石の一行にも隠し切れない疲れが見えて来ていた。トロデもチャゴスのことを良く思っていないのは同じだが、間近でチャゴスの横暴に曝されているエイトたちを慮ってか、愚痴を言うようなことはせず、そのまま一行は山頂の開けた場所で一夜を明かした。

 

 

「!?」

 

翌朝、エイトはミーティアの悲鳴を聞いて飛び起きた。何かあったのだろうか?すぐに装備を整えて声のした方へ飛び出した。

 

「姫っ!大丈夫ですかひ…め…」

 

「エイトさん、おはようございます。お早いですね。」

 

「来たかエイト!」

 

「………???」

 

「~~~!!~~~~!!!!」

 

ミーティアがいるはずの広場に行くと、そこにはこれまでになく憤怒した表情のトロデと少し毛並みが乱れ、トロデの後ろに隠れているミーティア、何でもないように朝食の準備を始めているディム、そして──。

 

「お、王子……?」

 

「~~!~~~!!~~~~~~~~!」

 

頭から腹まで真っ逆さまに地面に埋まっている状態のチャゴスだった。

 

「えーと、ディム…これはどういう…」

 

「このアホがミーティア姫におイタをしましてね。もう一度『霊竜サマ』に降臨していただいたんですよ。あ、サンドイッチなら先に出せますけど今食べますか?」

 

「えーと、王様…これはどういう…」

 

余りに落ち着きすぎていて話にならないディムを一旦置いて、エイトはトロデに説明を求める。ここまでの男とは思わなかった、とトロデはわざわざ眠っていたゼシカ・ククールや用を足しに行っていたヤンガスを連れて来てまで、今朝チャゴスがミーティアにどんな酷い仕打ちをし、それを強く制止できなかった自分がどれだけ憎らしかったかを熱く語った。エイトたちはチャゴスの酷く身勝手で残酷な所業に思わず顔を顰め、その間ずっとディムは朝食を用意していた。

 

「…もっと早くわしがミーティアを庇っておれば…ミーティアや、怖い思いをさせてしまったね…情けないわしを許しておくれ…」

 

ミーティアは気にしてないですわ、とトロデに頬ずりをした。

 

「…ひでえ、胸糞の悪い話でがす。とことん美点の見つからない王子様でがすね…」

 

「でも、姫様がムチで打たれる前にディムが助けに来てくれたのよね?姫様が無事で本当に良かったわ。」

 

「~~~~~!~~~……~~!!!!」

 

「ところでディム…その結果チャゴス王子は頭から地面に埋まってるわけだが、これは…大丈夫なのか?いくらコイツが腹の立つ奴でも死んじまったら生き返らせられないぜ?」

 

「大丈夫ですよ。空気は確保してますし、無理な体勢では埋め込んでません。せいぜい頭に血が上ってクラクラするくらいでしょうか。あと、先ほどまでトロデ王がお話しされていた内容と皆さんの王子への罵詈雑言は本人には聞こえていないので安心してください。」

 

あ。とエイトたちは揃って口を手で押さえた。トロデも「わしとしたことが…」という表情をしている。かちゃ、と最後の食器を並べ終えたディムはおもむろに立ち上がって伸びをした。

 

「さて。準備も出来たことですし朝食にしましょうか。今日で儀式が終わったらいいですねぇ。」

 

見覚えのない小洒落たテーブルに椅子。おそらくディムがどこからか用意したものであろう食卓の上にはこれまた見たことのない、しかし非常に食欲をそそる料理たちが並べられている。エイトたちは思わず唾を飲み込んだ。

 

「そうだね。せっかく用意してもらったし温かいうちに食べようか。凄く美味しそうだね。」

 

「王子のことは気に入らねぇが、おかげでディムの飯が食えるならもう少しだけ我慢してやるか。」

 

「昨日の夜に続いてこんなお料理が朝から食べられるなんて!私ディムのお料理大好き!」

 

エイトたちはそれぞれ席に着くとパンやサラダを取り分け始めた。ディムはそれを確認すると埋まっているチャゴスの脚を掴んで引き上げた。

 

「おーい。王子もご飯の時間ですよー。」

 

大根のように引っこ抜かれたチャゴスはまだ存在しない幻覚に怯えていた。土まみれのまま食卓に座られると困る、と呟いたディムは水の初等魔法『ザバ』をチャゴスにぶつける。

 

「ぶはっ!やめて食べないで……ん?お前はディム?れ、霊竜は?もういないのか?」

 

「はい。王子の祈りがきっと届いたのでしょうね。それか興味を失ったか。でももしまた仲間を軽視したり、他者の権利を侵したりするようなことがあればすぐにでも飛んでくると思いますよ。」

 

「ひっ…!…くそ、や、やってられるか!儀式はもうやめだ!ぼくは帰るぞ!お前たちは何の役にも立たなかったと父上に言いつけてやる!」

 

「そうですか。ところでそろそろ朝食の時間ですが、王子はもうお帰りになるのでいらないということでよろしいですか?」

 

「!……食べるよ!早くよそって持ってこい!」

 

「もうお料理は並べてますよ。」「ふん!」

 

帰る、という言葉はどこへやら。チャゴスは長卓の中央席にどかっと座り込むと、黙々とサンドイッチを食べ始めた。ディムはミーティアのための野菜ケーキを配膳すると、自分も席について食事を始めた。

 

 

 

 

 





原作との相違点

・王家の山がキレイ。
ドルマゲスは元々魔物や植物のサンプルを採取するだけのつもりだったのだが、生来の几帳面さが顔を出し少し手入れをしてしまった。元から王家の山は複雑な構造をしていないので単に景観が良くなっただけである。

・魔物が少ない。
サーベルトが限度を知らず片っ端から見込みのある魔物をアスカンタへ送りつけたため、魔物の数は激減した。しかし下がったのはエンカ率だけであり、魔物が弱くなったわけではないので低レベルでも安心、というわけでもない。「バトルレックス」や「かくとうパンサー」に囲まれれば苦戦は必至である。

・天誅その2
チャゴスが朝っぱらから凶行に走ることをもちろんディムは知っていたが、トロデがチャゴスという人間に深く失望し、最後の土壇場でミーティアとチャゴスの結婚式を阻止する選択を確実に取らせるためにはチャゴスの腐りようを目の当たりにする必要があると考え、苦悩の末にギリギリまで不干渉を貫いた。防げたイベントであるにもかかわらずミーティアを恐怖に晒してしまったお詫びとして、ミーティア用の朝食(もちろん魔物食材でない)は最高級の食材を使用し、腕によりをかけて作った。




最初はチャゴスがミーティアに乱暴する(語弊)シーンも400字ほど書いていたんですが、書いていてあまりに不快だったため全て削除して簡略化しました。

原作を知らない方のために軽く説明すると、山頂で一夜を明かした翌日の早朝、チャゴスは何を思ったか嫌がるミーティアに無理やり乗ろうとします。ミーティアは馬車馬であり、人を乗せる馬ではない(なんなら呪いをかけられるまでは馬ですらなかった)ため常人よりも重いチャゴスを乗せて歩くことなどできず、暴れまわってチャゴスを振り落とします。それに逆上したチャゴスは躾と称してミーティアをムチで打とうとし、それを庇ったトロデをも躊躇いなく攻撃しようとします。原作ではアルゴングレートを見つけたヤンガスによって間一髪二人はムチ打ちから逃れられるのですが、今回はチャゴスがムチをトロデに打とうとしたところでディムが『マヌーサ』→『念力』のコンボでチャゴスを頭から地面に埋め込みました。


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第三十三章 ボス戦と自罰

感想欄みていつも爆笑してます。みんなチャゴス嫌いなんですね~。私も好きではないですが、イジりがいのあるキャラクターではあると思ってます。
でも書いてると腹が立ってくるのでそろそろ退場していただきたいところですね。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



あとがきにイラストを載せています!是非ご覧ください!








ハロー、少年の身体を利用して冒険を楽しむ道化師ドルマゲスです。元の姿だと仮に私がドルマゲスだと知らなくてもここまで勇者たちは仲良くしてくれないでしょうからね…。ショタパワーは底が知れないです。

 

 

 

 

飄々とした振る舞いをしている俺のことがチャゴスは気に入らない(一方で『霊竜』云々の作り話は信じ切っている)ようだが、食事については話が別らしく、文句もつけずにもぐもぐと食べている。昨日初めて料理を振舞った時は「平民の作った料理など食えるか!」などとぬかしていたが…

 

チャゴスは料理に一通り手を付けると食器を置いて口を拭った。コイツ、食事中は音もたてないしテーブルマナーも完璧なんだよな。おおよそ来賓として外で食事をする機会があった時に恥をかかないようクラビウスから仕込まれたのだろうが、テーブルマナーだけ完璧なのもそれはそれで腹が立つ。クラビウスは一緒に対人マナーも教えてくれればよかったのに。

 

「おい、この料理はなんだ?城でも似たものが出るが少し味が違うな。」

 

「それはオムレツですよチャゴス王子。炒めた肉や野菜やチーズを手早く焼いた卵で包んだものです。その土地柄によって味付けも異なります。」

 

「卵?鶏の卵か。」

 

「…広義で言えば鶏の卵と言えます。」

 

狭義で言えば「バードファイター」の卵です。…バードファイターって鶏に分類していいよね?

 

ベーコンはともかく、野菜は勇者たちの馬車にあった市販のものを使うしかなかった。この世界に「オニオーン」や「ダンスキャロット」、「ナスビナーラ」、「ズッキーニャ」などがいないのが悔やまれるな。ピーマンとパプリカはいっぱいあるんだけど。

 

「気に入ったぞこの料理。貴様の態度は気に入らないが、特別に厨房で雇ってやる。」

 

「嬉しい申し出ですがお断りさせていただきます。料理は趣味で嗜んでいるだけなので。」

 

「ぼくの厚意を無下にする気か?サザンビーク王子にして正式な王位継承者であるぼくの権限で、浮浪者の貴様を定職に就かせてやるというのに。」

 

「…王子、あんまりうるさいと次の料理にはトカゲを入れますよ。それかトカゲをスムージーにして飲ませてあげます。」

 

「な!?ふ…ふん、そ、それでぼくを脅すつもりか?本当に気に入らない奴だ!」

 

なぁんでサザンビークなんかでコックさんをしなきゃいけないのか。どうせ料理人になるならアスカンタかトラペッタで料亭を開くっての。あと冒険者のことを浮浪者って言うな。

 

「王子のトカゲ嫌いと同じように、私にも苦手なタイプの魔物がいるわ。たとえば目がたくさんある魔物とか身体がぬるぬるベトベトした魔物なんかは見るのもイヤね。」

 

ゼシカはニッコニコの笑顔でカツサンドを頬張る。美味しそうに料理を食べてもらえるのはこちらとしても本当に嬉しいし有難い。お礼にそのカツサンドがまさにそのタイプの魔物でできているという事実は言わないでおこう。

 

「オレもそういった魔物にはできるだけ近寄りたくないもんだ。…マイエラ修道院の前身となった施設にはそういった魔物がうじゃうじゃしてるって噂を聞いたことがあるが、最近は町でもそういう噂もぱったりと聞かなくなったな。…ところで、オレと兄貴が抜けた最近の修道院はどうなってんのかね?」

 

「おっ、ククール。ホームシックでがすか?青くて良いでがすねえ…」

 

「そういうんじゃねぇって。」

 

食事中はチャゴスがほとんどしゃべらないこともあるだろうが、勇者たちはチャゴスがいる空間でもかなりリラックスして会話ができるようになってるな。順応性が凄い。エイトもククールたちの話に混ざりつつ、トロデやミーティアと談笑している。うーん、わちゃわちゃした食卓はやはり良い、冒険はこうじゃないと!

 

 

「ごちそうさま、今日も美味かったぜ。おまえ、ホントにウチのパーティに来てくれよ。歓迎するからさ。」

 

「ん?これ儀式が終わらなければずっとディムの飯を食い続けられるんじゃないでがすかね?」

 

「えぇー。それは私、流石にイヤよ。」

 

「僕と皆さんは闇の遺跡までも一緒ですから、儀式が終わってももうしばらくは作ってさしあげますよ。」

 

俺は魔法で皿を洗いながらヤンガスに笑いかけた。まあ、ゼシカの言う通りずっとここにいるわけにはいかないのも事実だ。ラプソーンがいつまでも『闇の遺跡』に留まっているとは限らない。ここはゲーム通りの世界じゃないんだから。

 

王家の山イベントで最も重要な案件である「チャゴスが自力(笑)で戦って得たアルゴンハートを取得する」という目標は昨日達成した。まあ一撃しか入れてないけど。これを渡して説明すればクラビウスは俺たちの任務達成を認めて『太陽のカガミ』を譲ってくれるはずだ。

 

また、次に重要な「チャゴスが如何に自分勝手で最低な人間かをトロデに示す」という目標も昨日のゼシカの件と今朝のミーティアの件で達成したと言えるだろう。正直何もしなくてもトロデは勝手にチャゴスに失望するような気がするが、念には念をということで昨日一日は「アルゴリザード」との追いかけっこに付き合ってあげたわけだ。トロデが席を外していた際にそういうクソイベントが起きた時のために『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』第二の能力である音波制御と、「ミラーシールド」の受けた魔法を記録して再出力する特性を応用して作った録音機を忍ばせていたわけだが、必要なかったかもしれないな。

 

つまりもうこの山に用は無いし、王子のお守りもそろそろ勘弁なので帰りたいのだが、せっかくなので最早世界でも有数の実力者である勇者たちの戦闘データの収集、そして勇者たち自身の研鑽のためにちょっとした試練をぶつけてみようと思う。原作で本来戦うはずだった「アルゴングレート」よりも強いボスだ。俺はかつて『旧修道院跡地』のボス「なげきの亡霊」を勝手に浄化してしまったので、原作より勇者たちはボス戦が一回分少ない状態にあるが…まあ誤差の範囲内ではであるはず。なのでちょうどいい…と思う。

 

「おい、さっきまで地面に埋められていたせいか肩が痛い。マッサージしろ。」

 

俺はチャゴスをガン無視して食事の後片付けをエイトたちに任せると、「お花を摘みに行ってきます」と言い残してその場を去った。

 

 

「えーと確か目印は大岩が二つの洞窟…ああ、ここか。」

 

仮想自律戦闘人形(プロトオートマター)四号機『書記(メモリア)』。実験中の不慮の事故でお亡くなりになってしまった「アルゴングレート」を素体にして作成した兵器である。圧覚を始めとした感覚器を多く搭載しており、受けた衝撃をデータとして数値化し、同系統の攻撃を再現して相手に返すことができる。どんな攻撃にでも対応できるようにしたためスペック的に反射の威力は大したことは無いのだが…コイツの本来の運用目的はデータの収集・記録・保存なのでさしたる問題ではない。その代わり、と言ってはなんだが「はぐれメタル」などの流体メタルを人工筋肉に練りこんで耐久値はかなり高くしたので滅多なことでは斃れない。

昔試運転をした際、サーベルトが全力でダメージを与えようとしていたが、「ヒノカミカグラ」をぶっ放せば普通に『メモリア』が壊れる可能性があるのでやめさせた。

 

「ん…よいっしょっと。…えーと?……ふんふん、異常はないようですね!よしよし、じゃあ…発進!」

 

魔力炉を起動させると、『メモリア』は眠るように丸まっていた状態から立ち上がり、のそのそと洞窟から這い出た。特筆すべきはその大きさだ。民家より少し小さいくらいの一~三号機よりも大きいその赤紫色の体躯は、「アルゴングレート」をそのまま大きくしたような…「キングスライム」三匹分ほどの全長を誇る。見上げると太陽に重なり、俺は目を細めた。『メモリア』の身体が影で黒くなると、かの大怪獣ゴジラとそっくりだ…というかそれをちょっと意識して作ったところもある。『メモリア』は洞窟から出ると勇者たちを呼び寄せるために大きく咆哮した…おっと、データを集める側の自分が戦闘に参加しちゃあ意味がない、隠れてないとな。俺は椅子を出して少し離れたところで腰かけると、『ラグランジュ』で姿を消した。ふふふ、お手並み拝見。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ガオオオォォォン…

 

「!?」

 

王家の山全体に届くかのような咆哮が響き渡る。ちょうど皿を片付けていたヤンガスは危うく皿を落としてしまいそうになった。

 

「な…なんでがすか!?」

 

「分からないわ。アルゴリザードの鳴き声にも似ていたけど…」

 

「その通りだ!今のはアルゴリザードの鳴き声、しかもかなりの大物とみた。よし、確かめに行くぞ!」

 

「…」

 

「片付けなんて二の次だ!…早くしろ!!」

 

「はあ…。」

 

王子はエイトたちを急かすが、かといって絶対に一人では行こうとしない。王者の儀式とは一体何なのか…一行は全員深いため息をついて声のする方へ向かった。

 

 

「おおー!あれは正にアルゴリザードの親玉に違いな…い…え?」

 

「おいおい…こりゃあデカすぎねぇか?」

 

「どうみてもアルゴリザード10匹分はあるでがすね…」

 

「あんなのがこの山に巣食っていたなんて…」

 

鳴き声の発生元に駆け付けたチャゴスと一行は相手の想像以上の大きさに思わず自分の目を疑った。

 

「ちょ、ちょっと流石に?アレを相手にするのはいくらぼくが強くてもなかなか骨が折れそうだな?時間の浪費というか、えぇと、別の手ごろなリザードを探しに…」

 

「王子、でもきっとあのリザードからはとても素晴らしい『アルゴンハート』が取れますよ。きっとクラビウス王も満足します。」

 

「そうよ。ねぇ、最後くらい勇気を見せたらどうなの?この際だから言っちゃうけどね、王子。あんたこの山に来てから何の見せ場もないわよ。期待してくれている王様や国民たちに申し訳ないとか、期待に応えてやろうとか思わないわけ?」

 

「な、え?いや…でも…どうしよう…」

 

「あのリザードを倒せば王様も喜んでカジノ行きを許可してくれるかもしれないぜ?」

 

「チャゴス王子、これは国民たち全員を見返す大チャンスですぞ。」

 

本来ならここまでデカい魔物なら勇者たちは戦おうとは思わなかっただろう。戦略的撤退である。しかし勇者たちはトカゲ探しと王子のお守りに飽き飽きしていた。端的に言うともう疲れていたのだ。そこに現れた巨大なリザード、アレを倒せば確実に最大規模のアルゴンハートが手に入る。王子が満足すれば儀式は終わる。……そう考えれば勇者たちが巨大なリザードに挑もうと考えるのはほとんど必然であった。

 

「え…じゃあ…たたかう…?いや、「よし!じゃあ行ってくるでがす!!!!」は?なっ!?」

 

ヤンガスは王子を持ち上げると魔物に向かって放り投げた。昨日までの彼なら絶対にそんなことはしなかっただろうが、ディムがずっと王子をからかって遊んでいたことで王族に対する扱いがマヒしていたのと、王子に対する極度のストレスが原因の蛮行である。巨大なリザード…『メモリア』は目の前に落ちてきたチャゴスが視界に入ると、先ほどと同じような爆音の雄たけびを上げた。

 

「あっ、あっ、む……無理だあぁぁぁ!!!」

 

「おっ、王子!どこへ行かれるのですか!」

 

「あんなやつに構うなエイト!こっちにくるぞ!」

 

「さーて…今度こそ冴えないおぼっちゃんとの旅の幕を下ろしてやるわ…」

 

「おっさんと馬姫様は安全なところへ隠れてるでげすよ!」

 

逃げたチャゴスには目もくれず向かってくるメモリア。ククールは弓を構え、射程に入った瞬間「さみだれ打ち」を放つ。矢の一つが相手の目玉に直撃するが、なんでもないように突進してくる。ゼシカは魔法を唱えようとしたが、動きを止められなかった場合を想定し、まずは突進の回避に専念する。

 

「よけろっ!」

 

「うっ!?」

 

「ククール!?どうしたでがすか?」

 

「なんだ…?あいつ口から唾を矢のように…」

 

「まずいっ!」

 

突然のことに回避が遅れたククールだが、ヤンガスがククールを突き飛ばしなんとか初撃を避けることに成功する。

 

「動きは遅いみたいだ。落ち着いて攻撃しよう。」

 

「そういうことなら安心ね。『メラミ』!」

 

「シギャアアァァァ!!」

 

「えっ!きゃあっ!」

 

「ゼシカ!!」

 

「大丈夫。でもアイツも火球を…いや、アルゴリザードも火を吐くんだったわね。」

 

「…?(何か、違和感が…)」

 

「背中ががら空きでがすよっ!」

 

ヤンガスが突進直後の硬直姿勢にある『メモリア』を後ろから斬ってかかる。「かぶと割り」だ。命中し相手の守備力が下がる…所までは良かったのだが。

 

「!ヤンガス!危ない!」

 

「え?」

 

『メモリア』の尻尾がオノを模した形状に変化し、ヤンガスを薙ぎ払った。先ほどとは反対に「かぶと割り」の硬直状態にあったヤンガスは尾の一撃をまともに食らって吹っ飛び、後方の崖に叩きつけられる。

 

「ぐ…っ!」

 

「ヤンガス!大丈夫!?」

 

ヤンガスはぐむぐむと口を動かしたかと思うとペッ、と血を吐き出した。内臓が出血している証だが、そんなことはお構いなしとばかりに平然と立ち上がる。

 

「心配には及ばないでがす、兄貴。…しかし、なんでぇ。アイツはアルゴリザードの親玉じゃあないんでがすか?今の攻撃はトカゲの動きを超えていたように見えたでがすが。」

 

「分からない…ん?でももしかすると…はっ!また来る!突進だ!!」

 

『メモリア』自体の動きは鈍い為、体力の減ったヤンガスでも回避に問題はない。

 

「あんたがトカゲかそうでないか見破ってやるわ!『ヒャダルコ』!」

 

「今度は眉間を打ち抜いてやるぜ…」

 

「ダメだ!矢継ぎ早の攻撃は…っ!」

 

ゼシカが呪文の詠唱を始め、ククールは弓を引き絞る。エイトは違和感の正体に気が付いて慌てて制止するも遅く…

 

「ギシャアァァァ!!」

 

「いやあっ!」「ぐああっ!」

 

二人からの攻撃を受けた『メモリア』は口から連続で唾を弾丸のように打ち出し、着弾した唾はその場で炸裂して全方位に石礫のような大きさの氷柱を発射する。唾の直撃を受けたゼシカは氷柱によって身体に無数の穴が空いて倒れ、ククールも氷柱でかなりのダメージを受けてしまった。

 

「え、エイト…これは一体…」

 

「今は回復が先決!僕とヤンガスが陽動するから、ククールは『ベホマ』で自分を癒してからゼシカの復活をお願い!」

 

そういうとエイトは『メモリア』の突進攻撃を誘導すべく駆けだしていった。ククールはエイトの言う通り自身の身体を回復し、『ザオラル』でゼシカを蘇らせる。

 

「うぅ…ありがと、ククール。ベルガラック地方で死に慣れてるとはいえ、戦闘で死んだのはしばらくぶりね。…それよりさっきのは何?飛び道具のようにも魔法のようにも見えたけど…」

 

「オレも防御で精一杯だったからよくわからなかったが、どうもエイトは何かに感付いているみたいだな。」

 

「兄貴!こいつはどういうカラクリでがすか?ほっ…っと遅い遅い!」

 

「ククールとゼシカも聞いて!おそらくだけど、このリザードは攻撃を反射する!…というか攻撃された形式と同じ形で反撃してくる!そのかわり動きは遅い!だから…」

 

エイトは最低限の動きで突進を避けると、懐のトーポに「かちかちチーズ」を食べさせ、その息をヤンガスに集中して吹きかけさせた。それを見て意図を正しく理解した二人もそれぞれ『スカラ』『バイキルト』をヤンガスに付与する。

 

「反撃を最小限に抑えながら攻撃する!ヤンガス、いける?」

 

「なるほど!そういうことならまっかせてくだせぇ兄貴!昨日と今日のストレスを全部あのトカゲモドキにぶつけてやるでがすよ!」

 

ヤンガスはテンションを溜めると跳びあがって再度「かぶと割り」を放つ。反撃の尾の一撃を食らうも、さっきほどのダメージは負っていない。すぐにククールが『ベホマ』をヤンガスにかけて回復、ゼシカは『ピオラ』を付与し、エイトは『ギラ』で周囲の植物を焼き払って煙を出し、『メモリア』の視界を阻む。

 

「まだまだっ!おらあっ!でやあっ!」

 

「シャギャアァァァッ!!」

 

「かぶと割り」の3連撃を受け、流石の巨大リザードも…ということはなくオノの形をした尻尾をムチのようにしならせ縦横無尽に振り回して反撃する。しかし『ピオラ』を受けたヤンガスは山賊としての持ち前の勘も相まってその反撃をも避け続ける。

避けて殴る。受けたら癒す。切れたら掛けなおす。補助魔法を一身に受けたヤンガスはさながら飛び回る蜂のように大怪獣の身体に傷を付けて行く。

 

 

「ギ…シャアアアァ!」

 

「くっ…コイツ、とんっでもなくタフでがすね…!」

 

戦闘開始からはや数十分。反撃を受けるのはあくまでヤンガスのみだが、通常攻撃としての薙ぎ払いや突進、火球やもうどくの息には他メンバーも気を張らねばならないため、MPが無尽蔵ではないエイトたちはジリジリと削られていった。

 

「ヤンガス!MPの回復アイテムが尽きた!『ベホマ』が使えるのはあと一度だ!お前のタイミングでかける!」

 

「…ッ!ならそれは今でがす!次で決める!」

 

「…わかった!『ベホマ』!頼んだぞ!」

 

ヤンガスは戦いながらも相手の消耗を感じ取っていた。おそらく相手の体力ももう僅かだ。ならばこちらのMPが尽きる前に押し切る。ヤンガスは未だかつてなく俊敏で、強力で、強靭だった。

 

「うおおおおおっっ!!!『蒼・天・魔・斬』!」

 

「ガオオアァァァ!!!」

 

 

故に尺度を誤った。

 

 

「シャギャアァァァッ!!」

 

「た、倒しきれな…」

 

反撃が来る。しかし、大技を打ったヤンガスに避ける暇はなく…

 

「!」

 

来るはずの衝撃が来ず、ヤンガスが恐る恐る目を開くと、目の前に尻尾を剣で抑えるエイトの姿があった。

 

「兄貴…!」

 

「ぐ…っ…ヤンガス!もうあと一押し…っ!」

 

尊敬する兄貴分に一度ならず二度も救われて男を見せないわけにはいかない。ヤンガスはキングアックス・レプリカを大きく振りかぶった。

 

「ゼシカ!あっしに合わせるでがす!」

 

「でも!反撃が来るわよ!」

 

「次は確実に終わらせる!信じてくれ!」

 

「…!わかったわ!」

 

刹那、放たれる『メラミ』。今までのものよりひときわ大きな火球が『メモリア』の頭部に直撃し、意識がゼシカに向いた一瞬の隙を逃さずヤンガスは下から『メモリア』の顎に向かって振り抜いた。

 

ズガアァァン!!

 

「…ふぅ、いっちょ上がり。とんでもない強敵だったでがすな。」

 

会心の一撃。完全に沈黙した『メモリア』を見据え、ヤンガスは朝からどっと疲れたでがす、と笑いながらエイトたちに愚痴をこぼした。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

…。

 

一部始終を見ていた俺は今までにないほど複雑な感情に苛まれていた。きっかけは単にデータの収集を目的として思いついたイベント。しかし、いつしかそれは自分の発明した兵器が今どこまで通用するのかを試す、という興味関心にとって代わられつつあった。

 

俺はエイトたち勇者を神格化しすぎていたのかもしれない。彼らは確かに世界を救う冒険者ではあるが、それでも人間である。殴られたら痛いだろうし、生命が維持できなくなれば死ぬ。俺はそれをわかっているようでわかっていなかった。結果、勇者たちは傷つき、ゼシカが死んだ。原因は全て俺の好奇心にある。俺が『メモリア』をけしかけなければゼシカは死ななかったのだ。やっていることは何ら悪役と変わらない。…悲しいなぁ。

 

途中で助けに行けばよかったのでは?と思いつつ、一方で勇者たちの戦闘を目に焼き付け続けたい、とも思った。…なんのことはない。俺は、俺だけがまだこの世界を「ゲームの世界」だと思っているのだ。勇者たちにとってはここが現実なのに。俺は自分の浅はかさ、軽率さを酷く恥じた。

 

『メモリア』を一度『ラグランジュ』で見えなくしてから『賢人の見る夢(イデア)』に回収する。故障はしているが破損はしていないので復元は容易だ。しかしこればっかりはキラちゃんやアジトの魔物たちに修理を一任するわけにはいかない。自分の責任は自分で取る。今日徹夜で修理を行うことが俺の中で今決定した。

 

 

「あっ、ディム!大丈夫だった?さっきまで巨大な魔物がいて…」

 

「?」

 

「ディム?どうしたの?何か嫌なことでもあったの?」

 

「みなさん、僕をおもいっきりぶってください。」

 

俺は全員の目を見て大真面目に言い放った。

 

「「「??????」」」

 

「い、いきなりどうしたんでがすか?何か悪い物でも食べたんでげすかい?」

 

「ばか、食い物作ってるのはディムなんだから、悪いものなんて入れてたらオレたちも全滅だろ。……てか、お前ホントに何を言ってんだ?」

 

「ごめんなさい。僕はみなさんの信用を裏切るようなことをしました。僕は最低です。みなさんがこんなに傷ついていたというのに、僕は…」

 

「「「??????」」」

 

勇者たちは俺が何の話をしているのかてんで見当もついていない様子だ。本当なら全てを曝け出して謝りたいところだが、ここで勇者一行と敵対すると本当に全てが水の泡になってしまうので核心部分だけは言えない。…もしかしなくともこれ余計怪しいな?

 

「(ねえ、もしかして)」

 

「(なに?エイト)」

 

「(ディムはどこかから僕たちの戦いを見ていて、でも何か理由があって戦いに参加できなかったことを謝ってるんじゃないかな)」

 

「(なるほど、線としては十分あり得るな)」

 

「(ディムみたいなガキンチョならあんな怪物、見るだけでも怖気づくのが普通でがすよ)」

 

エイトたちは何かをこそこそと話しているが、生憎よく聞こえない。ちぃっ、録音機があれば…録音機はチャゴスに付けたままだ。

 

「ねぇディム。私たちには貴方を殴る理由がないわ。今までいっぱい私たちを助けてくれたじゃない。」

 

「仮にお前がオレたちを裏切るようなことをしたとしてもだ。お前はオレたちにそれを告白して懺悔したじゃないか。神様もきっと赦してくださるさ。」

 

なんか殴ってくれなさそうな雰囲気…しかしこればかりは俺のけじめの問題なのでなあなあにはできない。

 

「みなさんの優しさ、本当に痛み入ります…それでも…僕の気が晴れないんです。どうか僕をぶってください。お願いします。」

 

「へっ、ディム。もしかして()()()()()()に目覚めたんでがすか?」

 

ヤンガスが茶化すように言ってくるが、もうこの際何でもいい。全て自分が仕組んだことではあるが、彼らに傷を負わせて、それを安全なところから見ていた張本人がその後も何食わぬ顔で旅に同行するというのはどうにも心持ちが悪い。

 

「はい。()()()()()()です。みなさんに一発ずつぶってほしいところですが、どうしてもというならゼシカさんに殴ってほしいです。」

 

ゼシカを死なせてしまったからね。俺がここまで堂々と言い切ると、茶化した本人であるヤンガスですら言葉を失ってしまった。

 

「お…おおう…そうでがすか…」

 

「ど、どうするみんな…?」

 

「…はあ、仕方ないわね…。私がやるわ。この子も変に頑固で、てこでも動かなさそうだし。……ディム。今回はキミの特殊な趣味、()()()()()()()()()()()()()()。でも、やるからには手加減しないからね。」

 

ゼシカはため息を吐くと俺の前に立って屈み、顔を近づけてウインクをした。…容姿といい決断力といいほんとにもう、端から端まで魅力的な女性だ。俺が転生したのがドルマゲスでなくリーザスの村にいる誰かだったなら、きっと朝から晩までゼシカのことを考えるような人間になっていただろう。俺はそれに応えるように目を閉じた。

 

「え?ゼシカほんとにやるの?」

 

「当たり前じゃない。ふうぅ………おりゃああああっ!!」

 

パシン!!!!

 

愛の籠ったゼシカ全力のビンタは、俺のHPを有り得ないくらい削った。

 

「はあ…はあ…どうよ!これで満足かしら!」

 

「あ…ありがとうございます!」

 

「「ディム………」」

 

こんなもので許されたとは思っていないが、残りは俺が精力的に彼らの手助けをすることで償っていきたい。

 

まあ、本当に()()()()()()があると思われたのならばそれはそれで非常に心外ではあるが。

 

 

 

 

 




人造モンスターを倒したので勇者たちのレベルはめっちゃ上がりました。

少し長くなってしまいました、すみません。今回は本作勇者たちにとってはほとんど初のボス戦ですね。話の都合上初戦で撃退していますが、かなりの強敵で、しかも耐久値だけやたら高いため実際のゲームで実装されていればクソボスとして認識されることでしょう。

一方で悪役をやめると決めたドルマゲスにとって今回の浮かれた自分の軽率さにはかなり参ったようで、後半はかなりキャラが崩壊して暴走してしまいました。これからは自分の発明品を勇者たちにけしかけるようなことは無くなるでしょう。(勇者たちが勝手に首を突っ込んできた場合は別)「剣士像の洞窟」にいる仮想自律戦闘人形(プロトオートマター)二号機『エスパーダ』もこれを機に回収されることになります。


セキュリティサービスとプロトオートマターの違いについて

セキュリティサービスは大部分が魔物の本来の肉体でできています。身体の一部を人工筋肉で強化したり表皮を合金で覆ったりする程度の改造と、脳の中枢部に行動を制御する単純な装置を埋め込まれています。(セキュサの元になる魔物は既に絶命しているため意志は無い)人間には絶対に危害を加えない、魔物は撃退する、の二点を遵守するように作られており、メンテナンスすればアスカンタのセキュサたちのように荷物運びをさせたり、子どもの遊び相手になったり、日常生活を共にすることも可能。

プロトオートマターは科学技術と魔法技術を駆使して一から作られた機械兵器であり、魔力炉を原動力としています。複数の魔物の細胞を埋め込むことで様々な特殊能力を持っており、「殲滅(一号機、形状モデルは「バベルボブル」)」「攻撃(二号機、モデルは「ヘルクラッシャー」)」「速攻(三号機、モデルは「キラーパンサー」)」「耐久(四号機、モデルは「アルゴングレート」)」と様々な能力に特化しています。プログラム次第では今回のように人間を襲わせることもできますが根底には人間第一のルールがあります。操作権限はドルマゲスとキラ(三号機のみ)にしかありません。











最近出番のない彼女のイラストを描いてみました。絵柄は藤森ナッツ先生リスペクトです!


『アスカンタ王国専属メンテナー(勤務初日)』



「あのぅ、ドルマゲス様…このような服、私は見たことも着たこともないのですが…その、大丈夫なのでしょうか?アスカンタ王国では少し浮くというか、恥ずかしいというか…」

「いやいや、ライダースーツは防寒性や防水性、通気性にも優れていて機能的なんですよ?あとちょっと大人っぽく見えます。…キラさんはよく似合いますねぇ、カッコイイですよ。」

「あ…えへ……そ、それなら問題はないのですが…で、では!早速メンテナンスをしに行って参ります!」

「いってらっしゃ~い」

【挿絵表示】


普段キラが移動する際に足となる仮想自律戦闘人形三号機の『ソルプレッサ』は乗り込み型なので、別にキラがライダースーツを着用する必要はないのですが、そこはカッコいいもの好きなドルマゲスの趣味にまんまとのせられちゃった形です。


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Chapter22 サザンビーク国領 ④

ゼシカがドルマゲスを虐めているところをドルマゲス陣営が見たらみんな泣くと思います。

サーベルト(優しい妹が豹変してて泣く)
キラ(ドルマゲスが可哀想で泣く)
ライラス(弟子が情けなさ過ぎて泣く)




ユリマ(目の前の光景が理解できなさ過ぎて幼児退行し、泣く)









チャゴス王子の自尊心を満たすためのワガママに一行が辟易(へきえき)していたところで登場した巨大なリザード。あのリザードを倒せばきっと王子でも満足するようなアルゴンハートが手に入れられると確信した一行は怪獣のようなリザードに挑戦する。王子は当然のように逃げたが、一行は死力を尽くしてなんとか勝利をもぎ取ったのだった。

 

 

 

 

「…まさかディムの奴、本当に変な趣味に目覚めたんじゃないだろうな?」

 

「それは流石にない…と思いたい…けど…」

 

エイトとククールが胡乱な視線を送った先にはゼシカにぶたれて真っ赤になった頬を魔法で癒しているディムの姿があった。殴った当のゼシカはと言うと殴られたディムよりもおろおろしている。

 

「ごめんね…痛かったよね…」

 

「いえ、こうでもしてもらわないと僕の気が収まらなかったので…むしろ僕の気持ちを汲んで全力でぶつかってきてくれたのが嬉しかったです。…なにそのDV彼氏みたいなムーブ?

 

「わしやミーティアを助けてくれたことといい、間違いなく悪人ではないじゃろうが、いかんせん妙なやつだの。」

 

「まあそれはあいつの個性ってことでいいんでないでがすか?…と、ん?あれは…?…な!」

 

「ヤンガス、どうしたの?」

 

「兄貴、見てくだせぇ!こーんなにでかいアルゴンハートはきっと他にないでがすよ!」

 

ヤンガスは背の高い草をかきわけ、自身の顔ほどの大きさがある「アルゴンハート」を持ち上げてみせた。おそらく先ほど撃退した怪獣『メモリア』が落としたものであろうその宝石は、通常のアルゴンハートよりも数倍大きく、かつより煌びやかに太陽の光を反射して輝いていた。

 

「ほーう。こいつは凄いな。売ればひと財産築けそうな宝石だ。」

 

「これだ!ぼくが求めていたのはまさにこれだ!この大きさならきっと父上も家臣もぼくを見直すはずだ!」

 

「王子!?いつの間に!?!?」

 

「ククール、そいつはあっしのセリフでがすよ。」

 

勇者と怪獣の激戦が終結したことを察知したのか、本当にいつの間にか帰ってきていたチャゴスは、反射で飛び退くククールの手からアルゴンハートをひったくると醜悪な笑みを浮かべながら特大の宝石を眺めた。

 

「ぐふふ…皆の驚く顔が目に浮かぶ。きっとぼくを褒めちぎるだろうな。まあ苦労したんだから当然だな。うん。…よし!ぼくは満足したぞ。さあお前たち、ぼくを乗せて城へ急げ。」

 

「ちっ」

 

「なっ!?だっ誰だ今舌打ちしたのは!!」

 

憤慨したチャゴスがひとりひとり疑うように睨みつけると、トロデとエイトはぶんぶんと首を振り、ヤンガス、ククール、ゼシカ、ディムはしらを切るように明後日の方向を向いた。

 

「あのさ、王子。苦労してリザードを倒した私たちにお礼の言葉とか、ないわけ?」

 

「…貴様はあの怪物トカゲが出た時、どさくさにまぎれてぼくに『良いとこ無し』だなどと言って侮辱しただろう。そんなやつに礼など必要あるものか。むしろこの場でぼくがその無礼を許してやっていることに感謝するんだな。」

 

「…」

 

「…さあ御者よ。サザンビーク城まで急いでくれ。いくらその馬がトロいと言っても急げば今日中か明日の朝までには着くだろう。お前たち、ぼくは今からこの狭い荷台でひと眠りするから静かにしているんだぞ。」

 

「…はい。」

 

チャゴスが荷台に乗り込んで見えなくなった瞬間ゼシカは、べ!と舌を出してチャゴスを非難した。

 

「ハァ…ではエイトよ。山を下りて帰るぞ。」

 

「わかりました。」

 

エイトたちはディムに回復しきれなかった傷を癒してもらうと、それでも回復しきれない疲れを抱えたまま山を下りた。しかしやっとこの苦行から解放されると思うと、その足取りは自然と軽いものになるのだった。

 

 

─サザンビーク城─

 

「ようやく帰ってこられたな。しかし随分長いこと城を離れていたような気がする……ん!」

 

一行が城下町に入ると、以前来たときとは異なり町は華やかに飾り付けられ、色とりどりの旗飾りが町の空を飾っている。どうやら王者の儀式を行っている間にサザンビークではバザーが開催されていたようだ。

 

「おお、あれはバザーの開催を告げる旗飾り!もうバザーが始まっていたとはな!…よし!エイトよ、城へ戻るのはバザーを見学した後だ。ここからは別行動にする。」

 

バザーの旗飾りを目にした瞬間チャゴスは露骨にそわそわし始め、別行動にすると言うなりさっさと人ごみの中に消えてしまった。

 

「あとは王子をクラビウス王のもとへ送り届ければ私たちはお役御免だってのに…どうしてこう上手くいかないのかしら。早く城へ戻ってほしいわ…」

 

「まあ、僕は一刻も早く王子から離れたかったので少し助かりましたよ。僕らも少しバザーを見ていきませんか?」

 

「いい考えでがすね。あの王子さまと一緒にいると四六時中監視されてるようで気がおさまらなかったでがすよ。ここらで少し羽を伸ばさねぇとやってられないでがす。」

 

「じゃ、じゃあ僕、武器を見に行ってきてもいいかな?」

 

「兄貴、見に行きたくてたまらないって顔でがすね…」

 

「はあ…仕方ないわね…エイトは武器を見始めると動かなくなるし、私もついていくわ。…ディムも来る?」

 

「いやあ、僕も他に行きたいところがあるので、嬉しいですが遠慮しておきます。」

 

「じゃっ、オレたちも別行動と行くか。一時間後に宿で集合しようぜ。」

 

そう言うとククールもバザーの人ごみへ消えていった。

 

「(…ククールも根っこのところは意外とガキでがすね…)さて、あっしはどこへ行きますかね。」

 

盗みで生計を立ててきた過去を持つヤンガスは、こと買い物に関してはドライであり(アスカンタ王国の場合は技術革新に興奮しただけ)、エイトのお守りをゼシカが請け負うことになった以上自分が一時間という時間を持て余すことは明白であった。

 

「ん…?アレはディム…」

 

最後まで入り口で残っていたヤンガスは一度バザーに入ったはずのディムがこっそりと反対側から出て行くのを見つけた。

 

「…へへっ、ディムが何をするかってのも興味あるでがすね。いっちょう元・盗賊の腕の見せ所といきますかい。」

 

ヤンガスは『しのびばしり』を使ってディムの後をバレないように尾行した。『しのびばしり』は気配を最小限に抑え、音を完全に絶つ独特の歩法である。姿さえ見つからなければ滅多なことでは気づかれない。ヤンガスはこれでも元々は名の通った盗賊、ディムとの対角線上に常に障害物がはさまるように移動し、向こうからは自分の姿が見えないよう、完璧に立ち回っていた。ディムもキョロキョロと周りを気にしているようだが、本気になったヤンガスを発見するには同じく本気で索敵する必要があり、まさか仲間に尾行されているとは夢にも思っていないディムは最後まで背後に潜むヤンガスに気が付くことができなかった。

 

「(…教会の裏に…?一体何をする気でがすか…?)」

 

バザーが開催されたことにより逆にいつもより閑散としている教会の、その裏まで行くと、ディムは再度周りに誰もいないことを目視で確認すると懐から石板を取り出した。

 

「(…あれは、確か修道院のナントカって院長が同じようなものを持っていた気が…?)」

 

「やほー。キラさんですか?……はい、お久しぶりですね。そっちの私との『同期』を待つより口頭で伝えた方が早いと思いまして。……はい。サーベルトも呼んでもらえますか?……え?ちょうど今一緒に昼食を?へぇ…。……ん?『違います!』…って何が…?……ああ、はいはい。今度私もぜひご一緒させていただきますね。」

 

「(…?『サーベルト』…どっかで聞いたような…そもそもディムは今誰と会話を?近くには誰もいないようでがすが。それに『私』…?)」

 

「おかげさまで闇の遺跡に張られている暗闇の結界は取り去ることができそうです。……ああそうですね。ゼシカさんは前会った時よりさらに立派に成長してましたよ。……やだなあ。お嫁だなんて、あの子にはフィアンセのラグサットがいるじゃないですか。……えーと、そういうことは今はどうでもよくてですね。」

 

「(一体何の話をしてるんでがすか…?)」

 

「前々から言っていた通り、いよいよ闇の遺跡に突入します。師匠は……はい、まだ負担がデカいですかね、何かあってはダメです。やめておきましょう。伝えないでくださいね、でないと無理にでもついてくるでしょうし。サーベルトは準備をよろしくお願いします。……なぁに、付き合わせてゴメン、だなんて言いませんよ。私とあなたは一蓮托生の親友ですからね。……そうですね、早いとこラプソーンから『杖』と『ユリマさん』を取り返しましょう。」

 

「!!!」

 

よく分からないが途轍もなく嫌な予感がしたヤンガスは咄嗟にその場を離れた。焦りながらも最後まで足音ひとつ立てなかったのは流石、元・一流の盗賊と言えるだろう。昔取った杵柄である。

 

「(『サーベルト』『ラプソーン』が何を意味してるのかは分からねぇが……『杖』…いやこれだけじゃ…しかし『ユリマ』ってのはあの占い師の娘…『魔王』の名前と同じ…)」

 

「(とんでもない偶然の一致って可能性もあるでがす。それにディムが『魔王』の関係者だとは思いたくないってのが一番…)」

 

「…」

 

「(…兄貴たちにはまだ伏せておくでがす。)」

 

ヤンガスは不安を拭うように道具屋を物色し始めたが、商品が頭に入ってくるほど落ち着くのには数分の時間を要した。

 

 

「あー、ヤンガスも帰って来たわ。聞いてよ!エイトったら本当にてこでも武器屋から動かないのよ?今持ってる剣の方が強いって何度も説明してるのに!」

 

「うーん。それはゴメン。でも一度見始めると止まらないんだよね。精錬された鋼の美しさとか、この剣を作った人はどんな偉大な職人なんだろうとか、そういうことに思いを馳せてたらどうしてもね…。」

 

「お前は?何やってたんだ、ディム。」

 

「僕は向こうの…あそこです。あの屋台で『せかいじゅの葉』を販売している女の子と話してましたね。なかなか興味深くてついつい長話になっちゃいました。」

 

ディムは「せかいじゅの葉」を一枚取り出すとそれを団扇(うちわ)のようにして扇いでみせた。ディムが葉っぱ売りの少女と話し込んでいたのは間違いないのだが、尾行していたヤンガスは当然それ以前の彼の行動についても知っている。

 

「ディム…」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

「……。いや、なんでもねぇ。忘れてくれ。さっ、兄貴。これからどうします?」

 

「?……………!マジか、聞かれてた?」

 

その時、ゼシカが宿の横にある階段の上で怪しげな男となにやら会話をしているチャゴス王子を発見した。

 

「ねえ、あれってチャゴス王子よね?」

 

「だな。そろそろ王子に城に戻るよう言ってやらないとな。はあ。つくづく世話が焼けるぜ。」

 

「そうだね。王子の所へ行こうか。」

 

エイトたちが階段を上ると、チャゴスの手に大きなアルゴンハートがあるのが見えた。それは王家の山で手に入れたものよりも少し、ほんの少しだけ艶があった。当然今手に入れたものではなく、そこに立つ怪しげな商人から買い取ったものであろうことは明白である。

 

「お、王子。それは…?」

 

「おっ、ちょうどいいところに来た。エイト、これが何だかわかるか?…じゃじゃーん!なんとアルゴンハートだぞ!信じられんだろう?これほど大きなアルゴンハートがまだあるなんて!」

 

「…そこの男から買い取ったのね。」

 

ゼシカが養豚場の豚を見るような冷めた目でチャゴスの後ろにいる男を睨むと、人相の悪い痩せこけた男は下卑た笑い声をあげた。

 

「ぐへへ。お客様は神様だぜ。金さえ出せばもう一個売るぜ。」

 

「その通りだゼシカ!ぼくが王家の山で手に入れたアルゴンハートも見事だったが、輝きはこちらの方が上だ。…ということで今まで手に入れたアルゴンハートはエイト、そなたにくれてやる。ぼくはこれを持って城へ戻る。もちろんこのことは内密にな。この商人もバザーが終わればやがて国を出るだろうから秘密が漏れる心配は一切ない。ぶわっはっは!」

 

「…」

 

「ではここでお別れだ。皆の称賛を浴びる僕の晴れ姿を見たければお前たちも城へ来るがいい!」

 

そう言うとチャゴスはゴキゲンで城へと走っていった。エイトたちは最早彼にかける言葉を探すことすら億劫だった。

 

「…ああ、もう、サイテーでがす。結局最後は金の力で解決でがすか。」

 

「私、信じられないわ。最後の最後でチャゴス王子があんなことをするなんて…王家の山まで行ってアルゴリザードと戦った私たちっていったいなんなの……。」

 

「…よくオディロ院長から『この世に救われない人間などいない』だなんて聞かされてたけど、あの王子を見てたら疑問に思うね。そりゃあ盗みをしたとか、人殺しをしたとか、そういうわけじゃねーけどさ。神サマだってあの王子を救うのには苦労すると思うぜ。」

 

「…結局こうなるんですね。あのアルゴンハートはすごく大きかったから、王子も喜んでそのまま持っていくと思ったんですけどね…」

 

「…王子について思うところはあるけど、行こうか。城へ。報酬の鏡はちゃんともらわないとね。」

 

バザーで楽しくなっていた気分を見事にぶち壊してくれたチャゴスに、エイトたちは言いようもない空しさを感じながらトボトボと城へ歩いていった。

 

 

─サザンビーク城3F・バルコニー─

 

息子の帰りを今か今かと待っていたクラビウスは幸運にも、あるいは不幸にもチャゴスの闇商人との取引の一部始終を見てしまった。

 

「チャゴス…お前は…なんということを……」

 

その時の彼の失意は察するに余りある。

 

 

 

 

 





原作との相違点

・アルゴングレートがいない。
不幸な事故でアルゴングレートは亡くなってしまった。なので彼の骨格や細胞をふんだんに投入した別の更に強大な大怪獣が一行の前に立ちはだかった。

・アルゴンハートが大きい。
大怪獣『メモリア』は本来勇者たちが手に入れるはずだった大アルゴンハートよりもさらに大きな特大アルゴンハートを落とした。それによりチャゴスが闇商人からアルゴンハートを買い取ることは無くなったかに思えたが、ドルマゲスは彼の貪欲さをまだまだ侮っていた。

・ディムが何かを隠していることにヤンガスが気付いた。
ヤンガスはディムを疑いたくない(疑うことによりパーティに亀裂が走ることを恐れている)ので、確証を得られるまではディムとも通常通り接するし、エイトたちにもディムが何かを隠していることを伝えないつもりでいる。



エイト
レベル:26→28

ヤンガス
レベル:26→28

ゼシカ
レベル:26→28

ククール
レベル:27→29

プロトオートマターを討伐したのでレベルが大幅に上がった。



サーベルト「ゼシカをドリィに嫁がせるのはどうだろう?」
キラ「は?えっ?いやっ、ゼシカさん?にはフィアンセがいるのですよね?だ、ダメですよ勝手に決めては…」
サーベルト「うーん。確かにドリィが俺の義弟になるのはなんだかむず痒いな。」
キラ「(そういうことじゃないと思うんですけど…?!)」


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第三十四章 救えぬ王子と儀式の結末 前

サザンビーク編遂に決着です。(というか次で決着です。)できるだけ早く次話は書き上げます。

今回は続き物です!(前編・中編・後編の一話目)








ハロー、チャゴスからようやっと離れられたことが嬉しすぎて警戒を怠り、ヤンガスに念話を聞かれてしまった無能道化師のドルマゲスです。あ、終ですがどうやらヤンガスはエイトたちには何も話していない様子。彼が何を企んでいるかは知らないですが、とりあえず様子見です。

 

 

バザーを一通り見まわった俺たちはサザンビーク城に入城した。決してチャゴスの目も当てられないような儀式の結末を見たいわけではないが、クラビウスから魔法の鏡を貰う許可を得るためには仕方ないのだ。魔法の鏡は4Fの宝物庫にあることは原作知識と事前の潜入捜査によって分かっている。

 

ぶっちゃけた話、当初は俺が宝物庫に『賢人の見る夢(イデア)』なりなんなりで侵入して鏡をかっぱらい、勇者に渡すのが一番手っ取り早いと思っていたのだが、いざ侵入しようとすると謎の力で弾かれてしまった。恐らくはサザンビークの宮廷魔導士団が張った拒絶結界だろう。俺も宮廷魔導士たちには劣らない魔力を持っている自負があるが、相手は王国から選抜された精鋭の魔導士団、数十人分の魔力を依代に張られた結界が相手では、世界一の大魔法使いの弟子である俺であっても流石に敵わない。全ての魔力を解放し、霊力で魔力を完璧に最適化すればあるいは結界を破壊できたかもしれないが、その余波で城が半壊する恐れがあるので断念し、結局正攻法で鏡を狙うことにしたのだ。易々と宝物庫に侵入した原作ドルマゲス(&ラプソーン)の魔力の異常さがよく分かる。

 

「王子のイカサマをおっさんに話したら、おっさんの王子に対する評価がさらに下がるでがすな。」

 

「チャゴスに対する評価はもうこれ以上下がりようがないだろ。なんたって最低なんだから。まあ、チャゴスの人となりが分かったんだから、じいさんも姫様の結婚を考え直すんじゃねえか?」

 

「でもさー。国のメンツがあるからトロデ王としても、やっぱり結婚は中止にするとは言えないんじゃない。そこらへんどう思う?エイト。」

 

ゼシカから話を振られたエイトは難しい顔をして考え込む。俺としてもトロデの最も信頼を置く部下の一人でありミーティアの近衛でもあるエイトの知見は気になるところだ。原作じゃあ一言も喋らないし。

 

「うーん…これは僕も王様から聞いた話なんだけど…」

 

そう前置きするとエイトはチャゴスとミーティアの婚約が生前から決まっていた理由について語り始めた。長くなるので要約すると、

 

昔チャゴス王子の祖父がまだ王子だったころ、彼は身分を隠して諸国漫遊の旅に出ており、旅の途中で出会ったトロデーンの姫と恋に落ちたという。しかし当時のトロデーンとサザンビークは犬猿の仲であり、二人の結婚は認められなかった。そのかわりに自分たちの子どもを結婚させようという約束を交わしたようだが、無念なことにチャゴスの祖父もミーティアの祖父も男の子どもにしか恵まれなかったらしく、約束を果たせぬまま他界した父親を哀れに思ったクラビウスは『親同士が果たせなかった約束を、自分たちの子どもを結婚させることで果たそう』とトロデに申し出たという。同じく失意のうちに亡くなった母親に思うところがあったトロデもそれに賛成し、ここに晴れてチャゴスとミーティアの婚約が成立した、というわけらしい。

 

「へぇ。ただの政略結婚じゃないってことか。王族の考えることってのは高尚過ぎてオレにはわかんねーな。」

 

「おっさんに悪気はないでしょうが、王子がどんな人間か判断してから婚約を決めるべきでがしたね。」

 

「なーるほど。二つの王家、その親子三代にわたる願いが込められた婚約ってわけね。それじゃいくら娘思いのトロデ王でも簡単に婚約破棄は出来ないわよね…」

 

俺もそんな話は知らなかった。もしかしたらゲームでもどこかで語られていたのかもしれないが…ゼシカの言う通り、ミーティア第一のはずのトロデが王家の山の時点で憤慨して婚約の破棄を言い渡さなかったのはそういうわけだったのか。トロデはあれでかなり義理堅いので約束、しかも親が絡んでくるものになると自分の感情一つではその重い腰を上げられないのだろう。

 

「僕としては姫が幸せに暮らせるのが願いなんだけど…チャゴス王子は…ううーん。……と、そうこうしてるうちに着いたね」

 

明言は避けているものの、エイトもあからさまにチャゴスを良く思っていない。まあむしろアレの面倒を見させられて好きになれというほうが酷ですらある。

 

「本当よ!わたし見たんだから。王子の持ってきたアルゴンハートは漬物石くらいくらい大きかったわ!」

 

「なんと!あの王子が…」

 

王の間の近くで宮廷魔導士の女性と王城の兵士が立ち話をしている。見栄っ張りなチャゴスのことなのでわざとアルゴンハートが見えるようにしながら歩いていたのだろう。よくもまあ人から買ったものを自分が取って来たもののように見せびらかすことができるもんだ。そのふてぶてしさだけは本当に尊敬に値する。

 

「あのねぇ…」

 

「ゼシカ、時にはウソも必要でがす。無事に魔法の鏡を貰うには黙っているのが一番でがすよ。」

 

「……そうね、ここまで来て問題を起こすわけにはいかないわよね。」

 

兵士たちに苦言を呈そうとしたゼシカをヤンガスが制止する。…なんだかんだ言って、勇者パーティの中で一番大局が見えているのはヤンガスだ。一番年配だからだろうか。目的を明確に捉えて行動し見失わず、手段と方法をはき違えることもない。ある意味一番俺の秘密を知られたくなかった相手だが、逆にヤンガスが冷静な男であるからこそ俺はまだ口頭で痛いところを突かれていないとも言える。俺に向ける視線が少し鋭くなった気がするが、今の所変わったのはそれくらいだ。……実際俺の念話をどこからどこまで聞いていて、どこまで気が付いているのかは全く把握できていないのが苦しい現状ではあるが、警戒されている以上こちらからこれ以上余計なアクションは起こすまい。意図的なものならまだしも、ガバで原作チャートを狂わせるのは御免だ。

 

エイトが扉を開けると、儀式に参列していた城の者たちが一斉にこちらを向いた。

 

「申し訳ありません旅の方。今は少し取り込み中でして…」

 

「よい。その者たちは特例として参列を許可する。」

 

扉の一番近くにいた若い衛兵がやんわりと退出を促してきたが、クラビウスの許可が出たため衛兵は慌てて一礼すると列に戻る。俺たちは少し疎外感を感じながらも列の端っこにくっつくようにして並んだ。事情を知る大臣は俺たちを一瞥すると軽く会釈をし、咳払いをして儀式を再開した。

 

「それではチャゴス王子。我らに王子の持ち帰ったアルゴンハートをお見せください。」

 

得意げな表情を崩さないチャゴスは待ってましたとばかりに台上に被せられた白い布を取り去り、巨大なアルゴンハートを露わにする。その素晴らしい輝きに、参列した人々は感嘆の声を漏らした。そもそもアレって本物なのか?アルゴングレートの落とすものよりも数段デカいアルゴンハートとなると、相当巨大なリザード、それこそ『メモリア』レベルのものが野生に存在することになるが、そんなものはいるのだろうか。…案外、精巧な硝子細工(ガラスざいく)だったりして?

 

「おぉ! 何と大きい…」

 

「これほどの物は見たことがないわ!」

 

「歴代の王が持ち帰った物の中で一番大きいんじゃないかしら?」

 

「あれだけの大きさだ。かなり巨大なリザードが相手だったに違いない。」

 

「ふふん!どうだ?」

 

今まで自分を蔑んできた城の者たちを見返すことができたチャゴスはふんぞり返ってご満悦である。皆が()()のため息をついている中、俺たちは()()のため息をついた。一般人は「アルゴリザード」と戦闘する機会がないため仕方ないのだが、どう考えてもチャゴスが一人でそんな魔物を相手取れるわけがない。チャゴスの性格上兵士の訓練場に顔を出すようなこともないだろうし…。どうも城の者たちはチャゴスが臆病で卑怯な人間と理解しながらも、やはり彼を「クラビウスの息子」として過大評価しているようだ。

 

「私、寸前になって王子がアルゴンハートの提出を考え直すかもってちょっと、ほんのちょっとだけ期待してたんだけどな……」

 

「…残念だが期待するだけ無駄だったみたいだな。そもそも王子に良心が欠片でもあればあんなもの買わねーだろうよ。」

 

「ささ、チャゴス王子。あなたの勇気と力の証であるアルゴンハートをクラビウス王にお納めください」

 

「いや、よい。」

 

「?」

 

台本通りに進める大臣の言葉を遮り、クラビウスは立ち上がった。そのまま見下ろすような形でチャゴスの前に立つ。表情は硬く、チャゴスが特大のアルゴンハートを持って無事に帰還したことを喜んでいるようには見えない。良かった。クラビウスはちゃんと『見て』いたようだ。元々長身で強面なクラビウスが、険しい表情でさらに威圧感を引き上げた。

 

「チャゴスよ。これはお前が倒したリザードから得たものであると神に誓えるだろうな?」

 

「も、もちろんです父上。」

 

「…仮に協力者がいたとしても、お前が戦ってこれを手に入れたのならわしはお前の力を認めるだろう。だが、それ以外の方法で手に入れたのならわしはお前を認めん。今一度問う。戦って得たのだな?」

 

「は、はいその通りです!これはぼくがアルゴリザードと戦って勝ち得たものです!」

 

チャゴスの答えを聞いて、クラビウスはがくりと肩を落とした。愛情を注いで溺愛してきた息子に嘘をつかれたわけだからそうなるのは分かる。誰だって失望するだろう。しかし今回の場合、チャゴスの業はもっと深い。

 

「バカだなぁ。アルゴリザードを倒さないと手に入れられないアルゴンハートを持ってきてるのに『倒したリザードから得たものであるか?』なんて聞かれた時点で何かおかしいって気付けよな。大方クラビウス王はどっかからあの取引を見てたんだろ。そんでさっきのは王子への最期の助け舟だったってわけだ。」

 

ククールのボヤキに俺は無言で頷く。確かに、チャゴスは見栄っ張りだ。父親や城の者たちの目に晒されて引き返せなくなり、つい真実とは違うことを口走ってしまう、ということはまだ分からなくもない。実際ドラクエXIではサマディー王国のファーリス王子が見栄を張るために出来もしないことを宣言し、その後になって主人公たちに泣きついてきた、という事例がある。

 

しかしチャゴスの性格を知っているクラビウスはあえて息子に「逃げ道」を作ってやったのだ。それすなわち「仮に協力者が~」のくだりである。そもそも護衛をつけることを提案したのはクラビウスなのだから、本人がそんなことを言っている時点で、チャゴスは遅くともそこで何かがおかしいと気付かなければならなかったのだ。そこで全てを白状すれば、見栄を張ったという恥は被れど、その条件でも王が認めると言っているため儀式は成功していることにはなる(王子が見栄っ張りなことなんて城の者も熟知しているので実質ノーダメ)。俺はこれだけでも十分息子に甘い王だとは思うのだが…

 

が。

 

そんなクラビウスの慈悲すらも蹴っ飛ばし、チャゴスは見栄の為だけに不正を続行したのだ。ほとんど戦っていないとはいえ、重い腰を上げて王家の山へ出向くことを決心した自分自身すらも平気で裏切るような行動である。もう誰も彼を庇うことができない。あまりに救えない。俺はクラビウスの内心など分からないが、彼は人生でも屈指の虚しさと哀しさを感じているのではなかろうか。悲しいなぁ…。

 

「……大儀であった。お前の力の証、しかと受け取ったぞ」

 

失意に暮れるクラビウスはそのまま適当に儀式を終わらせて退出するつもりだったが……皆に認められて気分が高揚したチャゴスの、その後の発言で歩みを止めた。

 

「いやーはは!ぼくが本気を出せばアルゴリザードも雑魚も同然です!()()()()()()()()()()()()ですよ!」

 

「…!」

 

儀式を貶すこと。すなわち歴代サザンビークの王たちの勇気を貶すことと同義。それはクラビウスにとっては自分や、自分の憧れである思い出の中の兄、最後まで愛を信じた父親、敬愛する先祖たちを侮辱するような発言だった。仮にそれが真実であるならば、いい。伝統とは得てして打ち破られるもの。歴代の王を凌駕するほどの類まれなる勇気と強さを持つ息子を讃えるべきだ。しかしクラビウスはチャゴスの言うことが真っ赤な嘘だと知っている。故に、滅多に切れることのない、堪忍袋の緒が切れた。…あれ?こんな展開あったっけ?

 

「チャゴス……この大馬鹿者が!!

 

「ひえっ!?」

 

父親から聞いたことのないほど大きな怒声が発せられ、動転したチャゴスは尻もちをついた。

 

「お前がいくらわしの顔に泥を塗ろうとも許そう。自分の経歴に傷をつけようとも容認しよう。しかし、わしはお前の…ご先祖様の勇気を軽んじるようなお前の言葉を許すわけにはいかん!」

 

「なっ!父上ほどのお方が何を分からないことを…これは確かにぼくのアルゴンハート!歴代でも最も大きなものですよ!!」

 

俺は思わず目を手で覆った。バカすぎる…この期に及んで言い逃れとは。……王者の儀式で最も重視されるのは『成果』ではない。『勇気』だ。恐ろしい相手に単身立ち向かい、それに打ち勝つ勇気こそが王族に要求されるもの。故にアルゴンハートの大きさは儀式の結果を左右しない。そりゃ大きなものを持って帰れば一目置かれるだろうが、それだって勇気を讃える歓声の副産物でしかない。そもそもアルゴンハートは指輪に加工されるのだから大きなものを持って帰って褒められるのは今この一瞬のみだ。そこらへんをチャゴスは理解しているのか?

 

クラビウスは、突然激昂した自分に恐れを抱いている大臣や城の者の表情を見てある程度の冷静さを取り戻し、真っ直ぐにチャゴスの目を見据える。威圧的な父親の目に見つめられたチャゴスは思わずたじろいだ。

 

「…ではお前を信じよう。チャゴスよ。」

 

「(ほ…。)」

 

「…大臣、アルゴンハートとは何だ?儀式の道具としてでなく、物質としての特徴を申してみよ。」

 

「は、はっ!アルゴンハートは魔獣『アルゴリザード』の体内で形成される魔石です。ルビーのような紅く美しい輝きを放ち、加工に数日かかると言われる硬度を持つという性質があります。」

 

大臣の言葉に軽く頷くと、クラビウスは台からチャゴスのアルゴンハートを持ち上げた。…お?これは面白いことになりそうだ。原作の展開とは違ってしまったが、せっかくなのでクラビウスに協力してやろう。

 

「(『悪魔の見る夢(アストラル)』『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』『賢人の見る夢(イデア)』)」

 

知覚できなくなった俺の分身が城の壁を抜けて外へ飛び出す。()()()()の場所が変わっていなければすぐに戻ってこられるはずだ。これまでのお礼としてチャゴスに盛大な(はなむけ)をしてやる。

 

「チャゴスよ。ではわしがこのアルゴンハートを『うっかり』落としてしまっても何も問題はないな?」

 

「ち、父上、何を…!?」

 

エイトたちも城の者たちも事の成り行きを固唾を飲んで見守っている。俺もこんな展開は知らないのでどうなるのか、少し緊張する。

 

「このアルゴンハートが本当にアルゴリザードを倒して手に入れたものならば、床に落とした程度では傷ひとつつくまい。そうだろう大臣?」

 

「はあ…そ、その通りですが…王よ、一体…?」

 

「!!!父上!バカなことはお止め下さ…」

 

父の意図に気が付いたチャゴスの制止ももう遅く、クラビウスはアルゴンハートを持った手をくるりとひっくり返した。当然、アルゴンハートは重力に従って速度を上げながら床へと引っ張られ…

 

ガッシャーン!!!

 

(つんざ)くような音を立ててアルゴンハートは粉々に砕け散った。ホントに硝子だったのか。城の者たちは最初は悲鳴を上げていたが、しばらくして落とした程度では傷もつかないと大臣も認めていたアルゴンハートが粉々になったことに疑問を感じ始めたようだ。互いにひそひそと話している。

 

「ちょっとスッキリしたわね。クラビウス王もやるじゃない。ねっディム!」

 

「はい…(これ掃除する人可哀想だなぁ…)」

 

表情を全く変えないクラビウスと、対照的に数分前まで自慢げだった顔を真っ青にするチャゴス。

 

「さて、チャゴスよ。申し開きを聞かせてもらおうか。一体わしにどんな言い訳を聞かせてくれるのだ?」

 

「あ…ああ…!」

 

ずいずいとクラビウスに詰め寄られ、どんどん後ずさるチャゴス。ここまでチャゴスが動揺していることを見れば、彼が嘘をついていたことなど最早誰の目にも明らかだった。

 

「なーんだ、王子様は偽物を持ってきていたのか。」

 

「ついに勇気を出してトカゲ嫌いを克服したのかと思っちゃったよ。王子様に限ってそんなわけないよな。」

 

「自身の父親である国王様ですら欺くなんて…ひどい」

 

「さあ、チャゴスよ。この状況について何か申してみよ。…全て白状すればわしは今日あった事全てを水に流し、お前を許そう。」

 

「う、ううう…」

 

チャゴスはもう後がないと悟り、泣きべそをかいていた。

 

「やれやれ。王子も年貢の納め時でがすな。」

 

つまらなさそうにそうつぶやいたヤンガスの声が王子の耳に届き、王子の目に光が宿った!ように見えた。一瞬だけチャゴスは醜悪な笑みを浮かべたかと思うと、急にしおらしくなって膝をつく。俺の背中に悪寒が走った。…嘘だろ?コイツまさか…

 

「…父上よ、全て白状いたします。ぼくは、この神聖な儀式の場に偽のアルゴンハートを持ち込んでしまいました…否、『持ち込ませられた』のです……」

 

「ほう…?」

 

「そこにいる平民共の卑劣な手によって!!」

 

チャゴスは俺たちを指さし、こちらからしかその表情が見えないような角度でぼくの勝ちだ!!という風に笑った。

 

俺は咄嗟に飛び出そうとするヤンガスの脚を踏みつけ、杖を取り出そうとするゼシカの二の腕をつねり、手を出そうとしたククールの腕を抑えた。そして俺はというと、エイトに羽交い絞めにされている。ありがとうエイト、そうでもしてくれないと、俺はチャゴスに二度と醒めない夢を見せてしまうかもしれない。

 

 

 

 

 




チャゴスの話書くときだけなんか筆がノるんですよね。
もう逆にチャゴスのこと好きなのかもしれない。これが…恋!?


ミーティア・チャゴス婚約秘話はサザンビークの宿屋の女将か、3DS版のみクラビウスから聞くことができます。


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第三十五章 救えぬ王子と儀式の結末 中

しょうもない責任を押し付けあう中ボスとラスボス
ドルマゲス「チャゴスがものすごいクズになってる!!お前が操ってるんだろ!!」
ラプソーン「我があんなゴミを仮の宿にするわけがあるか!!貴様の入れ知恵に決まっている!!」
イシュマウリ「元からカスですよ」
ドルマゲス&ラプソーン「「そっか!疑ってゴメンね!!」」HAPPY END


今回は前回の続きです!(前編・中編・後編の二話目)






「…父上よ、全て白状いたします。ぼくは、この神聖な儀式の場に偽のアルゴンハートを持ち込んでしまいました…否、『持ち込ませられた』のです……」

 

「ほう…?」

 

「そこにいる平民共の卑劣な手によって!!」

 

チャゴスは俺たちを指さし、こちらからしかその表情が見えないような角度でぼくの勝ちだ!!という風に笑った。

 

あ”???????

 

フゥー……危ない危ない。思わずヒートアップしかけた頭を落ち着かせる。追い詰められたネズミは猫をも噛むと言うが…まさかここでこっちに飛び火するとは思っていなかった。俺を羽交い絞めにしているエイトにもう大丈夫です、と伝えて放してもらうと俺は大きく深呼吸した。一瞬とんでもない殺気が勇者たちから出ていたが、今は各々自分を落ち着かせているようだ。しかしそれは必ずしもチャゴスへの殺意が消えたことを意味しない。あと一言何か言えばぶった切ってやる。そんな危険な感情がエイト以外の全員から溢れている。てかエイトは暢気すぎな。一方で外野の者たちも困惑してざわついている。そもそもしれっと参列している俺たちが何者かも知らないのだ。

 

「…こうなっては仕方あるまい。大臣、皆の者に彼らを紹介せよ。」

 

「…不正に加担した以上説明責任もありますし、やむを得ませんな。皆の者、静聴せよ。そこに並ぶ者たちは腕の立つ冒険者。王者の儀式に同行したチャゴス王子の護衛である。王子の身を案じた国王によって秘密裏に任ぜられた者たちだ。皆を騙す形になったことは申し訳ない。」

 

クラビウスも大臣に合わせ、頭を下げる。

 

王子はやっぱり一人で出発したんじゃなかったのか、という失望の声が一瞬あがるが、静聴せよという大臣の発言を思い出したのかすぐに王の間は再び静寂に包まれた。

 

「ご苦労、大臣。…皆の不満はわしが後で全て受け止めよう。…しかしどうか、今は気持ちを抑えてほしい。」

 

王子はともかく、現国王には全幅の信頼を寄せている参列者たちは王に従って頷いた。

 

「…さて、チャゴスよ。彼らの手で偽のアルゴンハートを持ち込むことになったとはどういうことか?……エイト!そしてその同行者たちよ、前へ出て証言せよ!そなたらに非がある、または証言を偽るようなことがあれば裁判にかけられることもあり得ると心得よ。」

 

衛兵たちが剣を抜いたので、俺たちは言われるがまま王の前に進み出た。クラビウスとチャゴスが並び立ち、それに俺たちが対峙する形だ。チャゴスが何を言っても誰も何も文句を言わないのは、ヤンガスたちの頭が大分冷えてきた証拠だ。曲がりなりにもここは王の御前、許可なき発言はそれだけで不敬とされる。しかしだからといって何も言わないのは「屈した」からではない。「窺って」いるだけである。

 

「…父上、ぼくは確かにアルゴンハートを手に入れました。しかしこいつらにとって誤算だったのは、儀式があまりに上手くいきすぎてしまったということです。アルゴンハートを手に入れて帰ろうとしたぼくを見てこいつらは焦りました。このまま何の役にも立たなければ、護衛の仕事を全うできず、報酬が貰えない!とでも考えたのでしょう。こいつらは数の力でぼくを脅し、無意味なアルゴリザード狩りを続けさせたのです。」

 

「……連戦させて疲弊させ、お前が助けを呼ばざるを得ない状況を作り出すためか?」

 

「えー…と、まさにその通りです!しかしどんなアルゴリザードも易々と倒してしまうぼくに業を煮やしたのか、帰ってきた後バザーで売られていた偽のアルゴンハートを、ぼくを騙して購入させ、あろうことかぼくの手に入れたアルゴンハートを全て盗んだのです!しかしぼくは儀式での連戦で疲れ、抵抗できず…くそー、なんて卑劣な…」

 

「……エイトよ、そなたは実際にアルゴンハートを持っておるのか?」

 

「…ディムが持っています。」

 

「ディム。見せてみよ。」

 

俺は無言でエイトから預かっていたアルゴンハートを全て取り出した。指輪サイズのものが三つと、『メモリア』が落とした大きなものが一つだ。

 

「なるほど。……チャゴス、続けよ。」

 

「全てのアルゴンハートを奪われたぼくの手にはその偽物しか残されていませんでした。ぼくは日を改めて再度王家の山へ向かおうと考えました!しかしまたもこいつらに脅され…すぐへ王城へ向かうように言われました。きっと報酬が待ちきれなかったのでしょう。ここに来たのもきっとぼくを嗤うためです。卑しさに限りがありません。」

 

「卑しさに限りが無いのはどっちよ。」

 

「暴力に屈してしまったぼくは、それでも父上を悲しませるような事だけは避けたいと思い…このような…えーと、王家とご先祖様に泥を塗るようなことをしてしまったのです…うぅ…」

 

チャゴスはしょぼい泣きまねを始めた。正直アレで誰が騙されるのかと思ったが、城の者たちの中には感じ入って涙ぐんでいるものもいる。ざっと見たところ、チャゴスの言い分を信じている者が半分、チャゴスを白い目で見ている者が半分といったところか。しかし城の者がどうかというのは正直何の関係もない。重要なのはクラビウスがチャゴスの言い分を信用するかどうかである。チャゴスに対しては宇宙一甘いクラビウスがチャゴスを全面的に信用すればその時点で全ては終わる。

 

「…なるほど、お前の言い分は分かった。」

 

穴だらけではある…が、足りない頭を総動員したか、追い詰められて頭脳が覚醒したか。チャゴスが急ごしらえで作ったにしては筋の通ったストーリーだと思う。しかも奇跡的にアルゴンハートの取引の場面を補完している。あそこで「こいつらが購入して僕に押し付けた」などと言っていれば、取引の場面を見ていたであろうクラビウスにはそれが誣告(うそっぱち)だということはわかる。しかし遠くから見ていただけのクラビウスにとっては、チャゴスが言っている通りのこと、つまり「勇者に唆されアルゴンハートを購入させられた」という事態が起こっていた、ように見えなくもない。

 

つまりどういうことかというと、かなりピンチです。

 

「次はそなたに問おう。エイトよ、チャゴスの言い分は全て真実か?」

 

重苦しい空気の中発せられたクラビウスの厳かな声は相手を委縮させるには十分だ。しかしエイトは物怖じなどしない。間髪入れずにその質問に回答する。トーポよ、しっかり見てるか?お前の孫は立派に成長してるぞ!

 

「いいえ、チャゴス王子の言い分には一部事実と異なる箇所があります。」

 

「…申してみよ。」

 

「まず、王子は王家の山ではほとんど戦闘に参加していません。それにアルゴリザード討伐の続行を提言したのはチャゴス王子その人です。」

 

「うっ!?」

 

なぁにが「うっ!?」だよ。そりゃ反論するに決まってるだろ。頭チャゴスか?チャゴスか。

 

「偽物のアルゴンハートを購入したのも王子であり、こちらのディムが今持っているアルゴンハートは盗んだのではなく王子から押し付けられたものです。」

 

「王子は疲労で動けないどころか、儀式中も何もしてないから帰ってきても元気いっぱいでがしたよね。」

 

「ざっ!戯言だ!父上、この者たちは虚偽の証言をしています!即刻処罰を!」

 

「…。」

 

「王子が自分からもう一度王家の山に行こうと思うなんて、それこそ戯言よ。城のみんなもどう思う?このチャゴス王子が進んで王家の山へ戻ろうとすると思うかしら?」

 

ゼシカが誰に言うでもなく語りかけると、さっきまで涙ぐんでいた城の者たちも首を傾げ始めた。

 

「「「確かに…。」」」

 

「あっ、わたくし、王子様がバザーでお買い物をされていたところをお見かけしました!疲労など感じさせない軽快な歩みで、その時は気にも留めなかったのですが…」

 

「なっなんだと!?そ、それは見間違いだ!」

 

「私も見ました。」「そういえばあの時イカメシ料理を提供していた店の前にいたのは…」「広場のステージで、バニーショーの最前列に陣取っていたのって王子様ですよね?」

 

「ち…違う!!違うんだ!みんなこいつらに騙されている!!父上、ぼくを信じてください!!」

 

クラビウスはチャゴスの言葉が聞こえているのかいないのか、目を閉じたまま深く頷き、一歩前へ出て俺の目の前に対峙した。

 

「ディムよ。」

 

「はい。何でしょうか?」

 

「わしとて一国の王、バカではない。そなたらの言うことに嘘はないことくらいは見抜いたつもりだ。しかし同時にチャゴスを信じたいというどうしようもなく甘い自分もいる。…そなたらが正しいとわしを納得させられるような証拠はあるか?」

 

「そ、そうだ!証拠がないぞ!父上がどちらの言葉を信じるかなんて一目瞭然だ!!ぶわっはっは!」

 

「ありますよ?」

 

俺は何を当然のことを、という風にさらりと答えてみせた。その言葉にクラビウスは目を見開く。エイトたちもこちらを困惑した表情で見ており、チャゴスにいたっては負け惜しみだ!と勝ち誇った顔をしている。…というか、なんでそんなに強気なんだよ…。全く理解できないチャゴスの態度に呆れながら俺は果物ナイフほどの大きさの水晶を取り出した。

 

「それは?」

 

「これは私が『録音機』と呼んでいる、音を記憶する魔道具です。これに城を出発した時から今までの王子周辺の会話は全て記憶されています。といってもいきなり信じろと言うのは酷かと。手始めにこの部屋の音を呼び戻してみましょう。」

 

「なるほど。ではやってみせよ。」

 

俺が水晶を指で弾くと、水晶が淡い水色の光を発して震え始める。

 

・・・

 

 

『…こうなっては仕方あるまい。大臣、城の者に彼らを紹介せよ。』

 

 

『…不正に加担した以上説明責任もありますし、やむを得ませんな。皆の者、静聴せよ。そこに並ぶ者たちは腕の立つ冒険者。王者の儀式に同行したチャゴス王子の護衛である。王子の身を案じた国王によって秘密裏に任ぜられた者たちだ。皆を騙す形になったことは申し訳ない。』

 

 

『…父上、ぼくは確かにアルゴンハートを手に入れました。しかしこいつらにとって誤算だったのは、儀式があまりに上手くいきすぎてしまったということです。アルゴンハートを手に入れて帰ろうとしたぼくを見てこいつらは焦りました。このまま何の役にも立たなければ、護衛の仕事を全うできず、報酬が貰えない!とでも考えたのでしょう。こいつらは数の力でぼくを脅し、無意味なアルゴリザード狩りを続けさせたのです。』

 

 

・・・

 

「さっきのは国王様の声…?」「大臣と王子様の声もしたぞ!」「内容も一言一句同じ…」

 

「…間違いない、今の声は我が息子、チャゴスの声だ。なるほど、その魔道具の効果は確かに音の記録で間違いないようだ。それでそなたはわしに何を聞かせたいのか?」

 

録音機は無事に作動し、効果の信憑性もクラビウスに認められた。後ろを振り返ればエイトたちがいつの間にそんなものを手に入れたの、という顔をしている。暇だから作っただけよ。

 

「これから王に聞いていただきますのは王子と偽のアルゴンハートを取り扱う商人との会話です。…それがどちらが正しいかの証明にはなりませんが、少なくともどちらが嘘をついているかの証拠にはなるかと。」

 

「よ、余計な事をするな!!やめろ!」

 

「まあまあ落ち着くでがすよ、王子。王子は嘘なんてついてないんでしょう?だから安心して聞きましょうや。なあ?」

 

俺に飛び掛かろうとするチャゴスをヤンガスが抑える。ホントに空気の読める男だ。吠えるブタの腕を掴むヤンガスに感謝しつつ俺は水晶を二回弾いた。

 

・・・

 

 

『お、王子。それは…?』

 

 

『おっ、ちょうどいいところに来た。エイト、これが何だかわかるか?…じゃじゃーん!なんとアルゴンハートだぞ!信じられんだろう?これほど大きなアルゴンハートがまだあるなんて!』

 

 

『…そこの男から買い取ったのね。』

 

 

『ぐへへ。お客様は神様だぜ。金さえ出せばもう一個売るぜ。』

 

 

『その通りだゼシカ!ぼくが王家の山で手に入れたアルゴンハートも見事だったが、輝きはこちらの方が上だ。…ということで今まで手に入れたアルゴンハートはエイト、そなたにくれてやる。ぼくはこれを持って城へ戻る。もちろんこのことは内密にな。この商人もバザーが終わればやがて国を出るだろうから秘密が漏れる心配は一切ない。ぶわっはっは!』

 

 

『…』

 

 

『ではここでお別れだ。皆の称賛を浴びる僕の晴れ姿を見たければお前たちも城へ来るがいい!』

 

 

・・・

 

「!!!」

 

「…いかがです?」

 

クラビウスは今の会話を聞き完全にどちらが真実を言っているのか悟ったようだ。というよりかは、俺たちが正しいことを言っているのは分かっていたが、心のどこかで疑いきれず、一縷の望みを託していた息子の良心に完全に裏切られてしまったという方が正しいか。さっきよりもさらに肩を落とし、項垂れている。

 

「ああ…もうよい…もう…分かった…」

 

「父上、で、デタラメです。そんなこと、言うはずが…」

 

「あーあー。王子の言い訳もキレがなくなってきたな。」

 

その時、俺は体に独特な感覚を覚えた。外で探し物をしていた分身から信号が送られてきたのだ。クラビウスには申し訳ないがダメ押しだ。こんな茶番はさっさと終わりにしよう。

 

「国王様、証人が到着しました。」

 

「何…?」

 

俺は扉を開くと同時に分身を回収する。開かれた扉の前に立っていたのは、あの闇商人だった。一目見るなり、チャゴスは心臓が飛び出るほど驚いた顔をし、クラビウスの後ろに慌てて隠れた。

 

「ん?旅人の兄ちゃんいつの間に部屋の中に…それより、大量に宝石を買いたいと言っているお客様はどこだ?」

 

「ディム、その男は何者だ?」

 

「装飾品を取り扱う店をバザーで出店している行商人です。王子と取引をした張本人でもあります。」

 

「げげっ、国王…様!?」

 

「…最早聞きたくもないが、問おう。行商の男よ、そなたは我が息子と取引をしたか?」

 

「おっ、王子様なんてわたくし、顔も知りませんし…へへ」

 

「(よし!いいぞ!このままならやり過ごせる!)」

 

「ん?何をやっている、チャゴス。前へ出ろ。」

 

「え!?あっ!ちょ…」

 

クラビウスはぐいと王子を引っ張り出し商人の目の前に突き出した。王の機嫌を損ねないよう手を揉んでいた商人の目が、チャゴスを見てカモを見る卑しい目に変わる。

 

「おっ、アルゴンハートを購入してくれたお客様じゃねぇか。もしかしてお客様が…?」

 

「ちっ!ちが…」

 

「…なるほど、アルゴンハートだな。お求めとあらば何度でも売るぜ。なんてったってお客様は神様だからな。ぐへへ…」

 

「あ…あああ…」

 

闇商人はチャゴスが提出したものと全く同じものを取り出してみせた。自分の主張と完璧に食い違うエイトたちの主張、城の者たちの目撃証言、王も認めた当時の音声、そして偽のアルゴンハートを売りつけた本人である商人の発言。今度こそ、完全にチャゴスは崩れ落ちた。逆に商人が出てくるまで自分が優位だと思っていたことの方が驚きだ。何のことは無い。王子は最初から詰んでいたわけだ。初めはちょっと焦ったが、その後どんどん自分からボロを出してくれて助かった。

 

俺は用済みとなった商人を口八丁で誤魔化し、また城下町へ戻らせる。グレーな商売をしている彼だが、今はもういい。彼のやっていることがこの国の法律に抵触するならばまた後でこの国の兵士に捕らえてもらえばいい話だ。

 

チャゴスを信じる余地がもうひとかけらも無くなってしまったクラビウスは落とした肩を小刻みに震わせ始め、そして一粒の雫が床へ落ちる。

 

「!?」

 

「チャゴス…お前は…お前はなんと…」

 

「ちっ、父上!?!?」

 

「泣いてるわ…」

 

「泣いてるな。」

 

「泣いてるでがすね。」

 

「泣いてるね…」

 

クラビウスは音もなく泣いていた。王族は国民の模範、滅多なことがない限りは泣いてはならない。それが王たるものの責務だ、とかつてパヴァンが言っていたのを聞いたことがある(妻が死んだら悲しみで2年以上も引きこもる男が良く言う)。つまり、あの厳格な王であるクラビウスが涙を流すほどにチャゴスの裏切りは彼の心を深く傷つけたのだ。城の者たちも王の涙を見るのは初めてであり、異常な事態が起こっていると察したのだろう。王を気遣い、誰が言うともなくひとり、またひとりと退出していった。

 

「なんと…不甲斐ない…情けない…わしは…」

 

「父上っ!?父上っ!!」

 

「わしが…育ててしまったのか…こんな恥も外聞も誇りもない王子を…」

 

「は、やっと気づいたかよ。ったく、王子様には苦労させられたもんだぜ。」

 

「クラビウス王、取り込み中の所悪いでげすが、あっしらも急いでましてね…」

 

ククールがクラビウスに悪態をつく。おいおい…と思うが、皮肉屋な彼のことを考えるとよくここまで我慢したものだとは思う。一波乱あったが最後の最後に吹っ掛けられた冤罪も退け、なんとかこれで任務は遂行したと言えるだろう。悲しみのあまり膝をついてしまったクラビウスには悪いが、さっさと宝物庫に入る許可を貰おう。

 

「…だ……んだ………なんだ…!」

 

うずくまったチャゴスがぶつぶつと何かを言っている。俺はそれをその後の自分に降りかかってくるであろう多方面からの叱責の恐怖に怯えているのだろうと思って気に留めなかった。エイトたちも最早チャゴスに微塵も意識を向けていなかった。

 

俺たちは大きな誤解をしていた。失念していた。チャゴスのあきらめ(往生際)の悪さを。

 

 

 

 

 




本当は普通にさっさとチャゴスを返却して、魔法の鏡を貰って、そのまま闇の遺跡に向かうつもりでした(なんなら王家の山もスキップする案もあった)。つまるところChapter22でサザンビーク編は終わるつもりだったんですね。でも皆さんのチャゴスへの愛に応え、最後に一花咲かせてやろうと思ったわけです。まさかその結果20000(奇しくも彼のHPと同じ)字近く費やすとは思っていませんでしたが…


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第三十六章 救えぬ王子と儀式の結末 後

今回は前回の続きです!(前編・中編・後編の三話目)

まさか6話くらいで終わらせようと思っていたサザンビーク編が11話も続くとは…しかし今回でホントのホントに終わりです!チャゴスファンの皆様は退場するチャゴス君に喝采を送ってあげてください!





うずくまったチャゴスがぶつぶつと何かを言っている。俺はそれをその後の自分に降りかかってくるであろう多方面からの叱責の恐怖に怯えているのだろうと思って気に留めなかった。エイトたちも最早チャゴスに微塵も意識を向けていなかった。

 

俺たちは大きな誤解をしていた。失念していた。チャゴスのあきらめ(往生際)の悪さを。

 

「お前たちの言うことがぼくの言うことより信用されるわけがない!父上はぼくの味方だ!ぼくは間違ってないんだ!」

 

「…流石にしつこいですよ、チャゴス王子。あなたは不正を犯し、僕たちはそれを暴いた。それだけの話じゃないですか。」

 

「うるさいぞ!平民は喋るな、ぼくに口答えをするな、何も口を開くな!下賤な者はその生まれを恥じて慎ましやかに生きるべきだ!お前たちがいなければ全部全部上手くいっていたんだ!!」

 

チャゴスは泣きながら喚き散らす。本当にくどいししつこい。恥をかいては罪を犯し、罪を重ねては恥を上塗りし…罪と恥でライドンの塔でも作る気か?

 

「…そんなわけないでしょ!チャゴス王子、私たちが不甲斐ないアンタのためにどれだけ必死にリザードたちと戦ってきたと思ってるの!アンタ一人で上手くいったって?何が上手くいくっていうのよ!戦いを私たちに任せっきりかと思ったら酷い悪口も言うし、馬や御者も虐めて、帰ってきたらニセモノの宝石を買って提出して!あまつさえそれがバレたら私たちに責任転嫁!詰められたら最後は逆上なんて…!アンタ、私が今まであってきたどんな人よりもぶっちぎりでサイテーの男よ!!」

 

「うるさい、うるさーい!!!!」

 

「!!!」

 

「きゃっ!?」

 

チャゴスはとうとう狂ったか、儀式のときから持っていた「せいなるナイフ」を振りかざし、ゼシカに飛び掛かる。まさか土壇場でそんな行動に出ると思っていなかったゼシカは咄嗟に動けず、衝撃に備えて目を閉じるしかない。それは仲間たちや暗い顔をしたまま黙っているクラビウスも同じだ。だから、呪術を使える俺しか間に合わない。

 

「『ラウンドゼロ』」

 

チャゴスの兇刃がゼシカに届く一歩手前、俺はチャゴスから「攻撃するはずだった時間」を奪い、一瞬チャゴスの動きを止める。続いて蝋燭の火を吹き消すようにピンポイントで「やけつく息」を吐いた。神経に作用して動きを止める微粒子がチャゴスの自由を奪う。

 

「ぐぐ…!身体が…」

 

チャゴスとて理性ある人間、何も明確な殺意を持ってゼシカを殺そうとしたわけではないだろう。彼としては自分の痛いところを突いてくる口うるさい女を黙らせたかっただけで、ナイフを彼女の柔肌に突き立てて深く刺そうと思ったわけではないのかもしれない。しかしいくら常人離れした打たれ強さを持つゼシカも、その喉笛を裂かれては大きなダメージを負う。魔物でない人間(オトコ)に襲われ殺されかけたことでトラウマを植え付けられるかもしれない。

 

まあ、そんなことを考える暇はなく。今の俺はもうこのカスに対するどうしようもない悪感情しかなかった。怒り、苛立ち、諦念、軽蔑。あるいはその全てか、どれでもないか。とにかく、もう『霊竜』なんて幻や重力魔法に頼る気はなかった。頼ろうとも思わなかった。

 

「…いい加減にしろ…どこまで腐ってんだよ…!このッ!クズ野郎ーッ!!」

 

ドゴッ!!

 

「ぐぶあっっ!?」

 

魔法は使わない。呪術も使わない。科学も使わない。何の強化も施されていない、しかし全力を込めた拳で俺はチャゴスの顎を思いっきり打ち抜いた。チャゴスは放物線を描いて大きく吹き飛び、壁にぶつかって床に叩きつけられた。気絶はしているようだが、傷はひとつもない。

 

「…」

 

「ちゃ、チャゴス!!無事か!!」

 

「ディム…ごめんなさい、私が油断してたばっかりに…」

 

「いや、良いんです…ゼシカさんが無事で良かった。」

 

「!…うん、ありがと…」

 

「ディム…王子を、殴っちゃった…ね…」

 

「…オレはお前を責めないぜ。お前がやらなきゃオレがやってたさ。」

 

皆、困惑と諦めの表情を浮かべる。いくら任務を完遂したとしても、王族に対する直接的暴力は国家への反逆を意味する。この瞬間、俺たちが「太陽のカガミ」を譲り受けることは出来なくなってしまった。

 

 

「みなさん、ほんっとうに申し訳ありません…僕が考えなしに行動したせいでこの数日が全部台無しに……」

 

「大丈夫、誰もディムを責めたりしないよ。闇の遺跡に入るための別の方法をまた探そう。」

 

「エイトさん…」

 

動きを止めるだけでよかったのに、つい頭に血が上ってチャゴスをぶん殴ってしまった。その場に監視の目はなく、気絶したチャゴスを介抱していたクラビウスしかいなかったため、ほとんど逃げるような形で俺たちは王城から脱出した。立派な犯罪者である。しかしどうしようか…「太陽のカガミ」が無いと闇の遺跡を守る結界は打ち破れない。せめて貰えなくとも観察させてもらえさえすれば同様の効果を持つ模造品を作れたのだが…やってしまったものは仕方ない。悲しいなぁ…

 

とっくに日は沈み、バザーの明かりで城下町が幻想的に輝く。……ああ、あの時のトロデーンもこんな感じだったな。人々の幸せな笑い声が真夏の風鈴のように小気味いい音として俺の耳を潤す。……やはりここで止まるわけにはいかないよな。うん、別の方法を考えよう。

 

「こ…ここにいたか…」

 

「っ!?く…」

 

振り向いた俺たちの前に立っていたのは、息を切らせたクラビウスだった。城からここまで走ってきたのだろうか?

 

「クラビウス王…」

 

「ぜぇ…ぜぇ…待て…話がある…」

 

「……言っておきますが、今更謝罪はしませんよ。確かに僕は王子を殴ってしまいましたが、そうしなければウチのゼシカが傷つけられていましたからね。」

 

もう俺は無用にへりくだるような話し方はしない。既にこの国に用はないので、態度に腹を立てて捕まえようとしてくるなら全力で逃げるだけだ。

 

「なぜそなたが謝る必要があるか。謝りに来たのはわしの方だ。ディム、エイト、ヤンガス、ゼシカ、ククール。愚息が大変な迷惑をかけた。心から謝罪の意を表しよう。」

 

クラビウスが人目も憚らず深々と頭を下げたので俺たちは仰天した。まさか王から頭を下げられる日が来るとは…。人通りの少ない道を選んだのが幸いしたか、頭を下げる王の姿が国民の目に映ることは無い。

 

「今回のことでわしはチャゴスに対してあまりに甘く接しすぎていたと痛感した。あんな人間に育っていたと気付くことすらもできなかった。」

 

「…そうですよクラビウス王。『愛情を込めて育てる』ことと『籠に入れて甘やかす』ことは全く違います。」

 

「…耳が痛いな。……わしは、妻を亡くし、兄を失い…これ以上家族がわしの前からいなくなってしまうことが何よりも恐ろしかった。だから一人息子のチャゴスくらいは、わしが何としても危険から守ってやらねばならないと、そう思って今日まで育ててきた。その結果、傲慢で卑怯な人間に成長してしまい、自分の見栄のためにそなたらを陥れ、あまつさえ傷つけようとした。息子の責任は親が取らねばならない。だからこうして謝りに来た。」

 

「…王子はどうなったでがすか?」

 

「今は寝ている。…そなたがチャゴスを殴ってくれたことでむしろ吹っ切れたよ。全部やり直しだ。チャゴスも、わしも。王位を継ぐなど論外、妻を娶ることもあやつにはまだまだ早いな。明日からチャゴスは自室に軟禁して帝王学の勉強漬けだ。と言っても、もちろん最も重視すべきは倫理道徳の学問だがな。はっはっは。」

 

ヤンガスは王子が無事であると知り胸を撫で下ろした。良いヤツすぎ。

 

クラビウスの言いたいことはまあ分からなくもないが、それにしたってまだまだ甘い。本当に厳しくするつもりなら「息子の責任は親が取らねばならない」など言わず、叩き起こして引き摺ってでも今ここでチャゴスに謝らせるべきなのだ。チャゴスがいなくなると(エイトは記憶を封印されているため)サザンビーク王家が断絶してしまうので王国から追放するわけにはいかないだろうが、偽証、国家反逆未遂、傷害、果てには殺人未遂まで犯しておいてまだ王宮で暮らすことができるとはずいぶんと寛大な処置だ。…まあ今回のことでクラビウスも懲りただろうし、流石にチャゴスのこれ以上の悪化はない…と思いたい。今回クラビウスに曝露したものはチャゴスの悪事の一環である。もしいつかまた王子がやらかすようなことがあれば残りも躊躇なくバラシてやろう。トロデとミーティアとクラビウスとチャゴスで四者面談でもすればいい。

 

「…クラビウス王。これを。」

 

「これは…?」

 

「王子が唯一戦闘に参加して得たアルゴンハートです。といってもアルゴリザードにはかすり傷一つ与えていませんでしたけどね。一応渡すべきかと思いましたので。」

 

俺はアルゴリザード(初戦)から得たアルゴンハートを取り出し、一旦エイトに手渡してからクラビウスに渡させた。エイトは不思議そうな顔をしているが、気にしないで欲しい。必要なアクションなのだ。

小さな宝石だが、指輪にするなら本来これくらいのもので良いのだろう。受け取ったクラビウスは嬉しそうに宝石を眺めた。

 

「わしは屋上から見ておったのだ、チャゴスが商人から大きなアルゴンハートを渡されるところを…もしかすると、チャゴスは王家の山に行くことすらしなかったのかと思った。だが…そうか…自分一人の力でなくとも、己で戦ってこれを手にしたか…。ならば素直にこれを差し出せばよいものを…未熟者めが。大きさなどわしは気にせんのに。」

 

「いや、勝手にいい話風にしないで貰えます?王子のせいで僕らがどんだけ苦労したと思ってるんですか??」

 

思わず王の話をぶった切ってしまった。クラビウスの反省の色が見られない発言にゼシカもククールもヤンガスも、流石のエイトもため息を吐いた。ああ、クラビウスもダメかもしんない。全然甘いままじゃないか。よっぽど妻の死と兄の出奔が心に大きな傷を残していると見える。妻の方は知らんが、兄の方はまだ防げただろ!俺は天上のエルトリオを恨めしく思った。いや、悪いのはエルトリオとウィニア、二人の交際を頑なに認めなかった竜神族の上層部か。待ってろよ…いつか竜神族の里に行ったら集落中のチーズを「超辛チーズ」と挿げ替えてやる。俺はトーポを睨んだ。

 

「す、すまぬ…とにかく、そなたらは見事依頼を果たしてくれた。約束通り、魔法の鏡はくれてやろう…いや、持って行って欲しい。わしとチャゴスに変わるきっかけをくれて本当に感謝している。そして、済まなかった。」

 

クラビウスは後ろ手に持っていた「太陽のカガミ」を差し出した。おおっ、これは願ってもない話だ。最終的に鏡が貰えるなら何でもいい。よし、これで完全にこの国でやることは終わりだ。今夜は宿をとってさっさと──

 

「まさか、それだけじゃないわよねぇ?」

 

「えっ」

 

「『鏡』は『アルゴンハート』との引き換えの報酬でしょ?『ディムの王子への傷害』は『王子の私への殺人未遂』で両成敗とするにしても、まだ『王子が嘘の証言で私たちを陥れたこと』についての誠意は見せられてないわよ?」

 

「そ、それは…すまない」

 

「あー。トロデ王にチャゴス王子に酷い目に遭わされたって言っちゃおうかな~」

 

「ゼシカ…」

 

「っ!!そっそれは困る。す、少ないがこれでいいか?」

 

チャゴスに痛烈に罵倒されたり、こき使われたり、あまつさえナイフで刺されかけたゼシカはこのサザンビーク編一番の被害者と言えるだろう(次点でトロデとミーティア)。何度かチャゴスが酷い目に遭う度に「スッキリした」とは言っていたもののやはり思うところは多いのか、ゼシカらしくないねちっこさを見せてクラビウスを追い詰めてみせ、結局クラビウスから50000Gの慰謝料を徴収した。さらにその後ククールの「儀式中の王子の嫌がらせで精神的に摩耗したのでオレたちには継続的な療養所が必要」というほとんど言いがかりのような要求も突きつけ、俺たちは半永久的にサザンビークの宿屋に無料で宿泊できることになった。…ヤンガスなんかよりよっぽど二人の方が輩である。

 

色んな意味で肩を落としながら王城へ戻るクラビウスの小さな背中を見送ると、俺たちは早速無料になった宿で今までで一番深い眠りに落ち、翌日の早朝に闇の遺跡に向けて出発した。

 

 

 

さらばチャゴス(クズカスバカマヌケ)。ヘンリー王子(幼年)よりも捻くれで、ホルス王子よりも臆病で、キーファ王子よりもワガママで、ファーリス王子よりも見栄っ張りで、そしてどこのどんな王子よりも更生の見込みがない哀れな男よ。できれば金輪際顔も見たくない。

 

 

 

 

 




「ラウンドゼロ」:DQMJ2で登場した特技。敵味方の続く行動がキャンセルされ、強制的にそのターンをそこで終了させる凶悪な特技。「しっぷう突き」や「すてみ」と非常に相性が良く、ネット対戦で猛威を振るった。小説である本作ではターンの概念がないので某少年漫画の「キング・○リムゾン」のような時を飛ばす技になっている。

「やけつく息」:DQ3から登場しているブレス攻撃。敵グループを確率でマヒさせる。「やけつく」という語から炎系の攻撃と勘違いされがちだが、マヒを引き起こす神経毒に侵されると焼かれているような痛みを味わう、ということから「やけつく息」という表現がなされていると思われる。そして息ではあるがおそらく無味無臭。


チャゴスはこれから食事と睡眠以外を全て勉強に費やしますが、残念ながら性格が改善されるようなことは無いと思います。キレイなチャゴスなんてチャゴスじゃないでしょう?(ニッコリ)


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Chapter23 闇の遺跡地方 ①

スミマセン、サザンビーク編終わって燃え尽き症候群になってました。…サザンビークはそんなに重要な回ではなかったんですけどね…。








「王者の儀式」中に散々一行を困らせてきたチャゴスは城に戻ってもなお罪に罪を重ね、最後まで手を焼かせた。王子への怒りをついに爆発させたディムがチャゴスを殴り飛ばしてしまったことで闇の遺跡の封印を破る魔法の鏡の入手は絶望的かと思われたが、サザンビーク王クラビウスはチャゴスと共にやり直すいい機会を得たと感謝し、魔法の鏡を一行に託したのだった。

 

 

「ねぇディム、少し鏡を見せてくれないかな?」

 

「あっ、良いですよ。はい。」

 

一行は現在サザンビークを出発し、エイトたちの船で闇の遺跡にある北西の孤島へと向かっている。天気は良く、北の孤島から漏れ出る瘴気にあてられた魔物は、島に向かうにつれ少しずつ強力になっていたものの、この程度の魔物では巨大リザードを退けたエイトたちの相手にはならなかった。

 

「へえ…これが『魔法の鏡』か…」

 

「あっしには普通の鏡にしか見えないでがすがね。」

 

「『魔法の鏡』ねぇ。…トロデーンの『魔法の杖』といいアスカンタの『魔法の竪琴』といい、何か関係あるのかね?じいさん、そこんとこどうなんだ?」

 

サザンビークの秘宝をしげしげと眺めるエイトと、一歩引いた位置で鏡とディムを交互に見るヤンガス。ククールに何か知っているかと尋ねられたトロデは首を横に振った。

 

「わしは何も…父上やおじい様からは終ぞ杖の秘密について聞くことは叶わなかったからの…。故にマイエラでお主の育ての親、オディロ院長から『魔法の杖』が『神鳥の杖』だと言い当てられた際には目が飛び出るかと思ったわい。」

 

元より答えに期待していなかったククールはああそう、とばかりに首を竦めた。

 

「エイト、次私にも見せてよ。」

 

「はい、どうぞ。」

 

「ありがと。わあ、キレイ!…けど、ん?……これって『魔法の鏡』なのよね?それにしてはなにか…魔力を感じないというか…?」

 

ゼシカが首を傾げると、ゼシカさんも気づきましたかとディムが口を開く。

 

「僕がサザンビークの元宮廷魔導士と友人関係にあることは以前クラビウス王の前でもお話ししましたよね?彼曰く、この鏡には太陽の魔力が籠められているらしいんですけど…。」

 

「ああ言ってたなそんなこと。…てことはなんだ、太陽の魔力が入ってないと暗闇の結界が破れないってことか?」

 

「…そういうことになりますね。鏡は魔力の蓄積機であるとともに魔力の増幅機でもあります。魔力が込められていない今の状態ではそのどちらの役割も果たせません。きっと結界も取り去ることができないでしょう。」

 

「え、それって結構マズいんじゃ…?」

 

「…あんの王様!私たちが王子を無下にしたからってニセモノ掴ませたのね!インシツだわ!インシツ!」

 

「じゃあ本物と取り換えてもらうようクラビウス王に直談判しに行く?」

 

「絶対にイヤよ!誰があんなとこにもう一度行くもんですか!」

 

「どうどう。どっちにしたって今更遅いでがすよ。でも、魔力を籠められてないならどうするでがすか?あっしらは誰も太陽の魔力なんて持ってないでがすが。」

 

すっかりサザンビーク王家のアンチになってしまったゼシカを暴れないよう羽交い絞めにしたヤンガスは、そのままの姿勢でディムに問いかける。口調は柔らかだが、その視線は鋭い。

 

「…あっ、じゃあディムのその友達っていう魔導士の人に会って相談してみるのはどう?もしかしたらいいアイデアをくれるかもしれない。」

 

エイトは一度大陸に戻って知恵者の知見を借りることを提案したが、ディムはなぜか得意げに指を振ってみせた。この動作主が成人男性だったなら苛立ちを覚えそうな動きであるが、見目麗しく、まだ幼いディム少年がそんな仕草をするとどこかアンバランスで、そこが微笑ましい。

 

「いいえいえ、ご心配には及びません。実は僕…既に闇を払う光の魔法を習得しているのです。鏡から魔力が失われているのは予想外でしたが、それならまた籠めなおせばいい話ですからね。丁度いい、ゼシカさん、鏡を頭の上に掲げてください。今から鏡に光の魔力を送り込みます。」

 

「ん?こお?」

 

「ありがとうございます。他のみなさんは光から目を守るため、手で顔を覆って後ろを向いていてくださいね。トロデ王とミーティア姫は何があるか分からないので念のため船室に入っていてください。」

 

何が何だか分からないまま、ゼシカは両手に鏡を持って掲げ、エイトは素直に後ろを向き、ヤンガスも一歩遅れてエイトに続いた。トロデは老体扱いするなと不満そうだったが、姫に強い負担がかかる可能性を伝えるとコロリと主張を変えて船室へ引き下がっていった。ククールだけがニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「はは、俺らが後ろを向いてる間に、両手が塞がって無防備なゼシカに何するつもりだ?おマセさんよ。」

 

「…えっ!?ちょ、なに!?ディム、そういうつもりだったの!?」

 

「ち、違いますよ!誤解です誤解!」

 

「さぁね、どうだか?なんたってオレたちには後ろを向いてる間に何が起こってるのか見えないからなあ。」

 

「もう!不満ならやらなくたっていいんですよ!」

 

「へっ、ジョーダンだよ。ホントに面白い奴だなお前は。…まあそう睨むなって。ハイハイ、顔を覆って後ろを、だったな。終わったら言ってくれ。」

 

「もう…。…では改めまして。ゼシカさん、目を閉じてください。」

 

「な、何もしないの…よね…?」

 

「しないってば」

 

ため息を吐いたディムを見て覚悟を決めたのか、ゼシカはきゅっと目を強く閉じた。ディムはそれを確認すると光の呪文を詠唱し、まばゆい光で世界を白く塗り潰す。

 

「『ジゴフラッシュ』」

 

その暴力的なまでの光は、さながら地上の恒星と呼んでも差し支えないほどの輝きを放った。

 

 

「…あ~、まだ目がちかちかするぅ…。」

 

「すみません、出力を間違いました…」

 

太陽の魔力を持つ光の魔法が鏡へと吸収される…ところまでは良かったのだが、吸収されてなお余りある『ジゴフラッシュ』の輝きは、硬く目を瞑っているはずのゼシカの網膜をも眩ませてしまい、現在ゼシカは目を押さえて寝転がっている。

 

「あー、こりゃ可哀想に。おいディム、ゼシカにも後ろを向かせりゃ良かったんじゃないのか?鏡は掲げられてさえいりゃいいんだし、何も持ち手まで正面向かなくたっていいだろ。」

 

「それだとなんか…ホントにいかがわしい感じになっちゃうじゃないですか。」

 

誰からも見えないような状況を作って、鏡で両手の自由を封じた上で目を閉じさせているだけでも十分気まずいのにその上後ろを向かせるなんて、とディムは言い訳を述べる。

 

「なんだ、やっぱりお前も結構気にしてるんじゃねぇか。思春期くん?」

 

「もう!わた…おほん、僕はですね、ゼシカさんの尊厳を考えて…」

 

「…。」

 

…別に、もし、もしもさっきの一瞬に自分とディムとの間に『何か』が──それこそ思春期の少年が持て余す感情に関連して起こるような『何か』──があったとしても…みんなには黙っててあげたのに。そんな言葉をもちろん口に出すことはなく、船の甲板に寝転んでいたゼシカはなんとか見えるようになった目を開いて腕の中に納まる鏡を眺めた。鏡に映る自分の頬に赤みがさしているような気がするのは、きっと照り付ける日光のせいである。

 

 

「ほう、ではそれが魔法の鏡改め『太陽のカガミ』ということか?見た目は先ほどと相違ないようじゃが。」

 

「大丈夫よトロデ王。さっきと違って今度はバッチリ魔力を感じられるわ。」

 

「王様、これで無事闇の遺跡にも進入できそうですよ。」

 

「うむ、それならよし。では引き続き闇の遺跡を目指すぞ。わしは航路が乱れないように舵輪を見ておるから用があるならいつでも呼ぶがよい。」

 

そう言うとトロデはミーティアを連れて船首の方へ歩いていった。数刻前、ディムは二人に自分がいる間だけでも元の姿でいてはどうかと提案したのだが、トロデは人目につくと面倒だから今は必要はないとこれを固辞。ミーティアも頷いた。色々な苦労はあるが、二人は今の姿にも随分慣れたようだ。

 

「ところで、ディムはどうして闇の遺跡へ?そろそろ教えてくれるかな?」

 

「あっしにもぜひ、教えて欲しいでがすね。」

 

「えー。まあ、要は人探しですね。北西の孤島で探している人がいるんです。」

 

「…ほう、奇遇でがすな。あっしらも闇の遺跡には人を探しに向かう予定でがしてね。」

 

ヤンガスはディムの顔を見つめて目を離さない。まるで何かを試すような、何かを引き出そうとしているかのような、そんな眼差しに耐え切れず、思わずディムは顔を逸らした。

 

「『魔王』でしたっけ?」

 

「そうでがす。奴にはあっしのダチを傷つけてくれた礼をたっぷりしてやる必要がありましてね。ククールの推測じゃ『魔王』は兄貴やおっさんの国を滅ぼした『ドルマゲスの野郎』とも繋がりがあるとか。なら『魔王』をぶっ飛ばしてドルマゲスの情報を吐かせるのが一番手っ取り早いんでがすよ。」

 

「…」

 

『ドルマゲス』。その名が出た一瞬、ディムの肩が震えた…ような気がした。しかし表情や声色には特に変化が見られず、神色自若たる態度でディムは黙ってヤンガスの話を聞いている。

 

「妙な話でがすね。ベルガラックで聞いた話だと北西の孤島はおおよそ人の住める環境ではないとか。一体何のためにそんな場所に向かったんでがすかね。」

 

「…それは」

 

「周囲には凶悪な魔物が跋扈し、島にはめぼしい資源やお宝も無いと来た。となると北西の孤島に向かう人間の目的は一つ、闇の遺跡以外にないでがす。」

 

「…」

 

「……ディム、もしかしてアンタの探してるって人の名前は、『ユ──」

 

「!!!」

 

「もうヤンガス、顔近いよ。ヤンガスは普通の人より強面なんだから気をつけないと。ほら、ディムはまだ小さいんだからさ。あんまり怖がらせちゃダメだよ。」

 

「兄貴…」

 

ヤンガスとしては恫喝したり詰問したりしているつもりはてんでなかったのだが、どうやら周りから見るとそう見えるらしい。チンピラが寄ってこないのは良いが、この風貌も考え物でがすな、とヤンガスは頭を掻いた。

 

「やー、悪いなディム。このオッサン、顔は怖いが割と気の利くやつなんだ。だからあんま怖がってやるなよな。」

 

「誰がオッサンでがすか!あっしはまだ30代でがすよ。」

 

「十分オヤジだよお前は!」

 

「いえ、すみません…ヤンガスさんが悪い人じゃないということは分かってるんですが、いざ詰め寄られるとどうしても…あはは、こんなに冷や汗なんてかいちゃって、僕もまだまだですね。いや冷や汗かどうかなんてわかんないですけどね、汗って三種類あるらしくて、ほら今日はいい天気でここは甲板ですし。僕何言ってんでしょうね、誰かメダパニかけました?なんて、ハハ…。」

 

「…???」

 

まくしたてるように特に意味のないことをペラペラ並べるディムは、周りのエイトたちが怪訝な顔をしているのを見てコホンと小さく咳払いをした。

 

「…私の探し人は、えぇと、『リリコ』という女性でフリーの歴史学者なんです。」

 

「歴史学者…」

 

「はい。北西の孤島はどの国の領土でもないので立ち入りは自由ですよね?歴史学者、もしくは考古学者…というよりかは彼女の趣味という感じですかね。草木も生えない北西の孤島、ヤンガスさんの言う通り、彼女は島の中央にそびえる闇の遺跡に興味を持ったのでしょう。彼女は私の知らないうちに飛び出してしまい、僕はそんな彼女を探しているわけです。最初はどこに行ったのかすら分からなかったのですが、ある町で彼女が北西の孤島へ向かったと聞いて…ほら、海も魔物が狂暴化して危ないでしょう?だからその…」

 

「ん?でも闇の遺跡には結界があって入れないんじゃ?」

 

「そうです。でも僕が前に北西の孤島へ行ったときには島のどこにもいなかったので…でも、幸いなことに死体も見つかりませんでした。なので後は闇の遺跡に望みをかけるしかないんです。なのでみなさんに協力してもらって暗闇の結界を破る鏡を手に入れる必要があったんですね。」

 

「なるほど、そういうことだったんだ…。」

 

「ああ、お前は一度闇の遺跡に行ったことがあるってベルガラック地方で会った時に言ってたな。…成程、そのリリコって女がお前にとっては命を投げうってでも見つけ出したい、よほど大事な人ってわけだ。」

 

「はい。僕には彼女が必要です。」

 

話がひと段落したところで、それまで真面目な表情だったククールが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「そいつはお前のガールフレンドか?」

 

「!」

 

「ククール…」

 

「まあいいじゃねぇかエイト。暗い話ばかりでも気が滅入るだろ?オレたちは今からあのとんでもない化け物女に挑みに行くんだぜ。」

 

「まあ、それはそうなんだけど。」

 

「で?どうなんだディム?」

 

突然ククールがぶち込んできた下世話すぎる質問に、しかしディムは狼狽えることなく回答する。

 

「いえ…彼女とは確かに短くない付き合いですが、友達…と言うよりかは近いような遠いような…なんだろう、ちょっとよく分からない関係です。リリコさんはガールでフレンドですが、俗にいうガールフレンドではないですね。彼女募集中です。誰か紹介してください。」

 

依然として真面目な表情を保つディムの口から想像の斜め上の答えが返ってきたのでククールとエイトは思わず吹き出してしまった。

 

「ぶっ、あはははっ!やっぱお前面白すぎだろ!募集中って!くっ、ふふ…」

 

「ご、ごめんディムの顔があんまり真面目だから…」

 

「ディムはフリーだってよ。なあおい、よかったなゼシカ!」

 

「…何もよかないわよ!…ディム、そのリリコさんって人、きっと無事よ。だから安心して!私たちも一緒に探すわ!」

 

「もちろん!ディムには今まで色々助けられてきたしね!」

 

「ゼシカさん、エイトさん…ありがとうございます!」

 

「おいおい、オレも手伝うからな?」

 

「はんっ、あんたみたいなデリカシーのないオトコなんて願い下げよ!ねえ?」

 

「おーいお前たち!北西の孤島が見えたぞ!上陸の準備を整えておくのじゃ!」

 

「っと…そろそろ上陸ですかね。」

 

「はい!王様!じゃ、僕は荷物を見てくるね。トーポにチーズもあげないと。」

 

「私も着替えてくるかな。」「仕方ない、他にやることもないし海でも眺めて待ってるか。」

 

トロデの号令で散開するエイトたち。恐るべき『魔王』との決戦が控える北西の孤島…暗闇渦巻く闇の遺跡はもう目と鼻の先である。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

嘘をついている。

 

騙し騙され、盗み盗まれながら今日まで生きてきたヤンガスはなんとなくだが気づいてしまった。彼の目の前で自身の「目的」を吐露している少年の、その口から出る言葉が全て出まかせであることに。

 

第一、そのストーリーも穴だらけではあった。大型の船でも危険で航行できないような北西の孤島へ、リリコはどうやって渡ったのか。何らかの方法で辿り着いたとして、ディムは闇の遺跡を除く北西の孤島にリリコは見当たらなかったと言うが、既に他の場所へ移動したとは考えなかったのだろうか。そもそも「リリコ」なる人物は実在するのだろうか。しかしそれを問い詰めるには、ディムは自分たちのパーティに『溶け込み過ぎていた』。先刻の一幕だってそうだ。兄貴──エイトは何もディムが隠し事をしていて、それを庇おうとして自分を咎めたわけではない。「何となくディムが可哀想」に思ったから助け船を出しただけである。しかしそれだけでヤンガスは質問を続行することができなくなってしまった。ククールやゼシカ、トロデやミーティアに至るまでも彼を全面的に信頼しており、自分だってサザンビークで彼の不穏な会話を聞いていなければそちら側に回っていたことは言うまでもない。今、自分たちは非常に危険な状況にある。今のところディムは害意の片鱗も見せてはいないが、それは害意が無いわけでなく、文字通り見せていないだけである。そんな爆弾のような男を自分たちは雛鳥を擁するように甘やかし、信じ、彼に導かれるまま鏡の入手までこぎつけてしまった。今この瞬間、否、そのずっとずっと前…パルミド地方で初めて出会った時から自分たちの手綱は彼に握られていたのだ。

 

「…ままならないでがすな。」

 

『違和感を感じないという違和感』にはようやく気付くことができた。しかしそれはあまりにも遅すぎた。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・ゼシカがサザンビーク王家のアンチになった。
原作でもまあまあな嫌いっぷりを見せていたが本作ではその比ではない。無料宿泊権を勝ち取った宿屋の利用以外で彼女にサザンビークへ行こうと提案するとものすごく嫌な顔をするようになる。

・隠者の家/ふしぎな泉へ行くイベントが無くなった。
太陽のカガミについてはディムがその性質についてよく知っているのでわざわざ隠者のじいさんに聞きに行かなくても良くなった。また、トロデとミーティアはディムより一時的にだが暗黒神の呪いを解呪できる錠剤「ふしぎなサプリ」を何粒か献上されており、戻ろうと思えば元の姿に戻れるためふしぎな泉にも行かなくてよくなった(そもそもエイトたちはふしぎな泉の存在自体知らない)。

・海竜と戦闘するイベントが無くなった。
ディムは船着き場で「オセアーノン」が連れてきた「海竜」より『ジゴフラッシュ』を既に習得していたので、わざわざ海竜を探して『ジゴフラッシュ』を喰らい、魔法の鏡に光を籠める必要がなくなった。

・ヤンガスがちょっと気づいた。
ちょーっと遅かったね!

レベル 変化なし


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第三十七章 収束と暗黒 ⑤

ゼシカって…可愛いですよね。
キラちゃんも…可愛いですよね?
ユリマちゃんは…超可愛いですよねぇ??

一番ドルマゲスが親密に感じているのはぶっちぎりでサーベルトなんですけどね。








ハロー、運命の戦いが近づいてきてドキドキしている道化師ドルマゲスです。ユリマちゃん/ラプソーンのこともそうなんですがヤンガスがほとんど真相に到達しててヤバいですね。いずれはサーベルトたちと共に正体を明かすつもりなんですが、いつ明かすかとかは全然考えて無くて…とりあえずラプソーンとの戦闘中に不和は生まないよう、闇の遺跡においては現状を維持しておきたいですね。既に不安定な足場ですが。

 

 

─北西の孤島─

 

俺はサザンビークでボロを出してしまったことを今めちゃくちゃ後悔している。さっきから、というかサザンビークを出発してからヤンガスの目が怖すぎる。その視線は最早人に向けるものじゃなくて完全に仇の魔物を見る目なんですよぉ。ゼシカはともかくあんたには何もしてないのに。この風貌か!?おちゃらけたゲマみたいな見た目がいかんのか!?…いやいや今は変装(変身)してますし…。

 

「なーんか気味の悪い島…こんなとこにほんとに『魔王』はいるのかしら?」

 

「むしろピッタリじゃないか?オレからすりゃあんなのにベルガラックやサザンビークみたいな人の多い場所に居座られる方がずっとコワいぜ。」

 

「でも、闇の遺跡に『魔王』がいるってことを裏付ける証拠が魔王本人の独り言だけなのはちょっと心もとないよね。」

 

「うーむ、仮に魔王がここにいたとして、その間にドルマゲスがどこかで悪事を働いておる可能性もなきにしもあらずじゃ。魔王がいたなら魔王の討伐、いなかったらその時はその時じゃ。わしらにできることはさっさと闇の遺跡を探索して次に進むこと。そもそもの目的はドルマゲスなのじゃからな。」

 

「ドルマゲス、早く会いたいわ…会ったらこの手でボコボコに叩きのめしてやる。」

 

ゼシカがなにやら物騒なことを言っているが知らん。今の自分はディムだもんねー。俺たちは船を海岸につけ、北西の孤島に上陸した。流体力学を嘲笑うかのようなふざけた船だったが、乗り心地は良かった…流石は魔導船。ここはぜひとも分解して内部の機構を見てみたいところだが…そんなことしたら怒られるどころじゃ済まないだろうからやめておく。

 

北西の孤島は岩場と荒地だけで構成された物寂しい島だ。年中霧が立ち込め、闇の遺跡から発生している紫雲によって日の光も差さない。おまけに生息する魔物はかなり面倒な種が多いと来た。できれば長居したくない場所だ。サザンビークから今までは経験値分配的な意味で勇者たちの戦闘には極力参加してこなかったが、補助くらいはしてもいいかもしれない。湿気の高さゆえか服が肌に張り付いて気持ち悪いので早く帰りたいです。

 

「ん?あれは船…どうやらあっしらの他にも誰か来てるみたいでがすね。」

 

ヤンガスが指さした方を見ると、なるほど、確かに小さな船が見える。遠いのによく見えるなあ。…あれは『ギャルーザー』…か?ベルガラック町長にして賢者の子孫ギャリングの私物の船だったはず。

 

「ほんとだね。…ちょっと見に行ってみる?もし僕たちと目的が同じ人が来てるなら協力を仰げるかもしれない。」

 

まあ無駄だとは思うけど…と言いたい気持ちを抑え、俺はエイトたちについていった。

 

 

「…このまま奴を追っていくのは危険ではないか?何しろ奴はギャリング様の邸宅を…」

 

「あの~…」

 

「むっ!何者だっ!?」

 

「いきなりすみません。僕たちは旅の者でして…こんなところでいったい何をしていらっしゃるのですか?」

 

「…私たちと奴以外にこんな島を訪れる者がいるとは……。モノ好きな連中だな。忠告しておいてやろう。この島の中央にある古い遺跡には近づかないことだ。もし忠告を無視して遺跡に向かうのなら何が起こっても知らないぞ。」

 

「…ありがとうございます。ところであなたたちは?」

 

エイトがそう尋ねると、先ほど丁寧に忠告してくれた顎のめちゃ長い戦士は立派な髭の僧侶と心細そうな表情の魔法使いを集め、自分たちこそギャリング私兵隊だと名乗った。

 

「ギャリング、ギャリング…聞いたことがあるな。」

 

「ククールさん、ギャリングはベルガラックの町長の名前ですよ。」

 

「ああ、どうりで。そういや結局ゲルダの船を返すために町を離れたまま、ベルガラックには立ち寄ることは無かったな。あんたらの御主人は元気でやってるのか?」

 

「うん?キミ、あの事件──ギャリング様の邸宅が襲撃された事件を見ていたのか?もちろんギャリング様もフォーグ様もユッケ様も息災だ。しかしあのような襲撃が二度無いとは限らない。私たちは襲撃事件の調査を命じられて犯人を捜索しているのだ。」

 

「ふむ。ならオレたちと一緒か。ならもちろんその相手があの悪徳の町(パルミド)で恐れられている『物乞い通りの魔王』だってことくらいは知ってるよな?」

 

「当たり前だ。我々はパルミドにもわざわざ足を運んだのだからな。」

 

あんな薄汚い街にはできればもう行きたくないものだが、と顎のすごく長い戦士はため息をつき、後ろに控える僧侶と魔法使いもうんざりした表情を浮かべる。どうやらこの顎のやたら長い戦士が私兵隊のリーダーらしい。ギャリングも独自に捜査を行ってくれているようで、それは結構なのだが、この私兵隊、どうみても任務に実力が見合ってない。レベルにして20前後だろうか?一般人にしてはかなり鍛えられていそうだが、こんなんじゃ闇の遺跡の魔物にも太刀打ちできなさそうだ。パーティも3人だし、かなり挑戦的な構成である。

 

「それで、ここでなにをしてるんでがすか?」

 

ヤンガスがそう言うと顎が超長い戦士はぐっ、と言い淀んだ。

 

「恥ずかしい話だが…ここら一帯の魔物が強力で前に進めんのだ。」

 

「…と言うのは建前で、そもそもギャリングさんにケンカを売るほどの度胸と実力のある相手を前に私たちの勝ちの目はあるんでしょうかってことなんです。」

 

こっそりと髭の立派な僧侶が付け足す。建前もくそも事実でしょうよ。あんたらにラプソーンが倒せるわけないし魔物にも勝てんよ。彼らも雇われの身とはいえ随分損な役回りを押し付けられたもんだ。可哀想に。

 

「あたしたちはギャリング様から『どうしても危なそうだったらそこで調査を切り上げてもいい』と仰せつかっているのよね。だから帰ろうかどうしようかでさっきまでみんなで相談していたわけなのよ…」

 

魔法使いは「私はもうさっさと帰りたい派です」と言わんばかりのげっそりとした顔をしてそう話をまとめた。なるほど、ギャリングもついに「いのちだいじに」を学んだわけだ。そうそう。エイトたち(こいつら)と違って我々は死んだら終わりですからね。

 

「でしたら…」

 

「キャシィィィア!」

 

「まずいっ!魔物の群れだっ!」

 

エイトたちは一斉に臨戦態勢を取り、俺は襲ってきた相手を注意深く観察する。…ふむ、「死霊の騎士」2体、「レッサーデーモン」1体、「きめんどうし」1体、「マージマタンゴ」3体か。状態異常にしてくる「きめんどうし」と「マージマタンゴ」が面倒か。数も多いし、ちょっと加勢が必要かな?

 

「ぐぅっ!おいっ!キミたち!コイツは任せろ!他は頼む!」

 

そう叫ぶとギャリング私兵隊は3人がかりで「きめんどうし」を囲んでタコ殴りにし始めた。その様子はどう見てもリンチにしか見えないのだが、正直厄介な呪文を使う「きめんどうし」を剥がしてくれたのは助かる。

 

「ありがとうございます!エイトさん!そっちの骸骨と赤い化け物は頼みます!僕はこっちのキノコの足止めをします!」

 

「わかった!すぐ終わらせてそっちに行くからなんとか耐えてて!行くよヤンガス!」

 

「がってん!」

 

ヤンガスの大きく振りかぶったオノが「死霊の騎士」の脳天に炸裂し、頭蓋骨がはじけ飛ぶ。しかし相手は死霊、頭が無くなったところで動きは止まらない。

 

「さて…」

 

俺は目の前の魔物に向き直った。こう見えて今、俺は内心でかなりドキドキしている。…なにも目の前のキノコが怖いわけではない。

 

……これまで幾度となく『運命が収束する』場面があった。俺が数年前から勝手に活動してチャートを乱しまくっていたのに、結局はトロデーンに向かう羽目になり、同国は原作通りイバラに包まれてしまった。勇者たちは原作でのイベントを、違う形とは言えほとんど消化して来ているし、俺がおこなわなかった役回りは現在何故かユリマちゃんが担っている。偶然にしては出来過ぎだ。ともかくなにかしら人知の及ばないことが起きていると断定してもいい。…となるとこの闇の遺跡で俺、あるいはユリマちゃんが死亡する可能性は大いにある。キャラクターならば俺、役回りならばユリマちゃんが死ぬ。もちろん本来死んでいるはずの賢者たちやシセルが生きているため根拠もへったくれも無いのだが、あえて言えば「イヤな予感」がする…ネットリ張り付くような死の気配に緊張が収まらないのだ。

 

…要するに、準備を怠ると芳しくない結果を催すことは確実、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 

俺はじりじりと距離を詰めてくる「マージマタンゴ」たちに対話を試みた。

 

「(この島に杖を持った女性が現れましたね?その人は今もこの島にいますか?)」

 

マージマタンゴたちは一瞬驚いたように顔を見合わせたが、すぐに警戒した表情に戻った。

 

「(さぁナ。来たかもしれんし、来てないかもしれねェ。お前に教えてやる義理はねェ。)」

 

「(知ってるが、お前はどうせおれらの養分になるんだし関係ねェ。)」

 

「(せめて痛くないように眠らせてから息の根止めてやるヨ!)」

 

随分とガラの悪いキノコだ。ま、こんな荒んだ土地で育ったのだから性格も荒んでいたとして、誰が責められよう?俺はマージマタンゴたちの吐く「甘い息」を「ぎゃくふう」で押し返した。流石に相手も自分の息で眠るようなことはなさそうだが少し怯んでいる。俺はその隙を逃さず素早くマージマタンゴAとの距離を詰め、目玉をむしり取って口に腕を突っ込み、口内から『イオラ』を爆裂させた。すぐにマージマタンゴAの全身から黒煙が噴出し、物言わぬキノコとなる。目玉はおやつにでもしようかな。

 

「(お…な、なんだお前ェ!?)」

 

「(しらばっくれるのをやめたら逃がしてあげますよ。)」

 

「(ほざケ!)」

 

俺はマージマタンゴBの突進を躱し、懐から取り出した「鉄のクギ」で相手の足を地面に縫い付けた。

 

「(てめェ…何をする気ダ!)」

 

「(下拵えです。)」

 

「(…ハ?)」

 

俺はそういうや否や取り出した「ひのきのぼう」で思いっきりマージマタンゴをぶん殴った。ほとんどダメージは入っていないし、脚が固定されているので吹っ飛びもしない。しかし構わず俺はもう一発殴る。もう一発、もう一発、さらにもう一発。

 

「(テメッ!ぶっ!くそッ!がっ!なんの!つっ!もりっ!でっ!)」

 

「(キノコはですねぇ、『肉』なんですよ。)」

 

「(なにヲ…)」

 

マージマタンゴたちから表情が喪失した。

 

「(殴れば殴るほど肉質が柔らかくなる。変な粉も落とせて一石二鳥です。あなたが意識を失っても死んでも殴るのをやめません。この弱っちいひのきのぼうであなたの身体の輪郭があやふやになるまで殴ります。そうすれば人間の子どもでも安心して食べられる柔らかくてヘルシーなミートの完成です。きっと栄養もあるんでしょう。ああ、今から食べるのが楽しみです…。)」

 

「(エ…!?)」

 

殴られ続けているマージマタンゴBも、遠巻きに傍観することしかできないマージマタンゴCも言葉を失っている。殴っていてわかるがマージマタンゴ、こいつはかなりいい食材だ。水分の少ない荒地で育ったからか旨味が凄い。…というのはさっき爆裂させたAを少し齧っただけだが、味付け無しでもキノコの上品な香りが染みついていて美味かった。毒も無さそうだし、今度来たらいっぱい捕まえよう。

 

「(一度そうなってしまえば自然と魔力も抜け、保存も効くんですよね。何にしましょうか?強火で炒めてキノコステーキ?バターと一緒に閉じ込めてキノコホイル焼き?簡単に醤油(ソイソース)だけでキノコ炒めにするのもアリかも。…あ、もう意識ないですね。じゃあこのくらいにして…保存しときましょう。)」

 

俺は目玉も歯も全て抜け落ちた、辛うじてキノコの原形を保っているマージマタンゴBをパックに入れて異空間に仕舞った。

 

「(さて、アナタはどんな料理になりたいですか?)」

 

「(ヒ…も、もう…)」

 

「(もう?)」

 

「(もうかなり前になりますが確かに杖を持った女がこの島にやってきました。その女はまっすぐ闇の遺跡へと向かい、今日までそこから出てきたという情報は現在まで入ってきておりません。遺跡内から出てきた魔物たちの話によると『ラプソーン様がお帰りになった』と彷徨う魂たちが騒ぎ出したらしく、このことから遺跡にやってきた女は暗黒神ラプソーンの新たな依代であることが推測されます)」

 

さっきまでの片言はどうしたんだとつっこみたくなるほど流暢な喋りで、マージマタンゴCは情報を教えてくれた。やっぱり情報を吐かせるには同じ種族を相手の目の前で調理するのが一番手っ取り早い。全ての生命体には「食われる」ことに対する根源的恐怖が備わっているものなのだ。約束は約束なので情報をくれたマージマタンゴは逃がしてやったが、これでラプソーンがまだ闇の遺跡にいることが確定したので良しとする。

 

「…ふう」

 

料理はいい。料理のことを考えている時だけは他の悩みも全部吹き飛ぶから。どうやらエイトたちの方も無事に終わったようだ。

 

 

「それでね、赤い魔物はまぶしい光をぶつけてきてみんな目がくらんじゃったんだけど、私は全然大丈夫!ディムの『ジゴフラッシュ』の方がもっと眩しかったからね!」

 

ん?嫌味かな??サーベルトの妹君にしては中々良い性格してるじゃないですか~~~。

 

「あ、いや、違う違う!褒めてる!誉め言葉だから!」

 

俺の微妙な顔を見てゼシカは慌てて捕捉を入れる。褒めてくれていたらしい。サーベルトと似て良い子だね!!!

 

「ごめんね、僕たちが手こずっちゃったせいで加勢に行けなくて…大丈夫だった?」

 

「はい、相手は逃げていきました。分断したのが功を奏したのかもしれませんね。」

 

「ってか、ギャリング私兵隊だっけ?あいつら結局帰ったのかよ。何しに来たんだか。」

 

「まあいいじゃないでがすか。無理なことをさせて目の前で死なれる方が寝覚めが悪いでがす。」

 

「ま、それも一理あるな。」

 

そう、さっきの戦闘が終わった後、ギャリングの私兵隊は全員ズタボロの満身創痍になっていた。正直「きめんどうし」一匹に何をどうしたらそうなるのか小一時間ほど問い質したいものだが…まあ、全員無事で良かった。こんなんじゃ『魔王』には絶対通用しない、と伝えると戦士も僧侶も魔法使いも死にかけの状態ながら大きく頷き、船で逃げるように帰っていった。彼らは弱いわけではない、ただ来る場所が悪すぎただけだ、と彼らの名誉のために付け加えておくことにする。

 

「しかし、あの私兵隊とやらもこの島に来ておるということは、いよいよ『魔王』がここにいることは間違いなさそうじゃな。お前たち、気を引き締めていくんじゃぞ。」

 

俺たちは島の中央にある闇の遺跡の前まで到達した。霧は更に深い濃霧となり、紫の靄と混ざり合って気味の悪い何かが蔓延している。先ほどまで襲ってきた魔物も徐々に数を減らし、今は互いの呼吸の音が聞こえるほどの異様な静けさが場を支配していた。

 

「なんだ、結界なんてないじゃない。入り口もほら、開いてるわ!」

 

ゼシカは颯爽と遺跡の内部へ走っていったが、しばらくすると同じ勢いのまま入り口から飛び出してくる。

 

「あ…あれ?みんないつの間に先回りして…?」

 

「僕たちはずっとここにいたけど…ゼシカが戻って来たんじゃなくて?」

 

「あれぇ…私はまっすぐ走ってたつもりなんだけど…」

 

「まさか、これが『暗闇の結界』か?」

 

「はい、おそらくそうです。通常の結界が外界からの侵入物を鉄壁の守りで拒絶する『硬』の結界だとすれば、暗闇の結界は侵入物を受け流して中へ通さない『柔』の結界とでもいえますかね。『暗闇』の掴みどころのなさが結界にも反映されているのかもしれません。…そこで太陽のカガミの出番というわけです。」

 

小首をかしげるゼシカや困惑するククールたちに俺は適当な考察を述べ、エイトに太陽のカガミを手渡した。

 

「これをどこかに嵌めるってこと?でもどこに…」

 

「…ん、おっ!エイト、ここじゃないか?ちょうどいいところにその鏡くらいの大きさのくぼみがあるぜ。」

 

「…なあ、ゼシカ。あっしらはこのままアイツの言う通りにしてもいいんでがすかね?」

 

「?何言ってんのよヤンガス?ディムはリリコさんを探す、私たちは『魔王』を探す、利害が一致してるからこうやって協力してるんでしょ?」

 

「しっ!それはその通りなんでがすがね、あっしにはどうもみんながディムに操られているような気がしてならないんでげすよ。」

 

「えぇ…何言ってんのよ。……ゲルダさんが傷つけられて許せない気持ちはよく分かるわ。でもその怒りはディムじゃなくて『魔王』にぶつけるべきだと私は思うんだけど。何か気になることがあるなら…ってな、なに!?ご、ごめん後で!」

 

なんとなくヤンガスが余計なことを言いそうな気がしたので俺は急いでエイトに鏡をはめ込ませた。瞬間、鏡に蓄積された光の魔力がレーザーのように放出され、まばゆい光の輝きをまともに浴びた暗闇の結界は完全に霧散する。

 

「よし、これで闇の遺跡に入れそうじゃな!エイトよ!わしはお前たちの勝利を信じて姫と共に待っておるぞ!」

 

「はい!王様!行ってきます!」

 

「任せときな、『魔王』をとっ捕まえてドルマゲスのことも洗いざらい吐かせてやるぜ。」

 

「負けっぱなしでいられるもんですか!次は『魔王』に一泡吹かせてやるわ!」

 

「……まあ、今は目の前の魔王が先でがすな。」

 

「(ユリマさん…)」

 

俺たちは結界を破ってなお暗黒渦巻く闇の遺跡へ、初めの一歩を踏み出した。

 

 

 

…正確には「エイトたちは」か。俺は最初の一歩が最後の一歩になったわけだから。

 

 

─闇の遺跡─

 

俺たちが闇の遺跡に侵入した瞬間、「声」がした。おそらく脳内に直接語りかけるテレパシー。俺だけか、それともエイトたちも聞こえたのかどうかは知らないが、その声は良く知ったものだった。忘れられるはずもない。

 

『やっと、来てくれた…来てくれるって信じてました…』

 

「!!!ユ…」

 

その瞬間、俺の身体がふわりと浮き上がる。というよりかは『重力』で上に引っ張られていると言った方が正しいか。俺は直ぐに自分の身が危険に曝されていることを察知し、携帯念話弐號(フォンⅡ)に魔力を流し込んだ。

 

「きっ、キラさん!そっちの私に急ぎ連絡を!今すぐ準備を整えてください!」

 

『ひゃっ!え、ど、どるま、えっ!?あっ!はい!準備は既におわ、おわ、だ、大丈夫で─』

 

最後まで聞き終えることなく、ぐしゃん、と材質的に有り得ない音を立てて石板はグズグズに潰れてしまった。やばい…っ!

 

「でぃ、ディム…それどうなってるの…?」

 

「準備って…誰と話してんだ…?」

 

「…」

 

「エイトさん、僕は一足先に最深部に行くことになりそうです。虫のいいお願いでごめんなさい、できるだけ早く、早く最深部まで…!皆さんの力が必よ…」

 

俺の身体は浮き上がったまま前に強く引っ張られた…正しくは前に()()()。その速度は正しく自由落下、加速度的に速さを増していく…!間違いない、これは重力魔法!俺と師匠以外は使えないはずの…ッ!

 

「ぐ…ぅ…は…息が…」

 

(ディム)の名を叫ぶエイトたちの声が急速に小さくなっていくのを、俺はぼんやりと聞くしかなかった。

 

 

 

 

 




これで最深部まで到達したとして、そこで中途半端に融合してドルマゲスのことが病的に大好きな暗黒デブが爆誕してたらヤダなぁ。


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第三十八章 収束と暗黒 ⑥

お久しぶりです、頑張ります。短めです。







「うっ!くっ…ぐぅっ…」

 

文字通り落ちるような勢いで前方に引っ張られる俺は、障害物や魔物から身を守るので精一杯だった。魔法で守備力を底上げし、身体を丸めてダメージを最小限に抑えているが、先端の尖った彫刻などぶつかると本当に危ない物や、前方から吹っ飛んでくる人間に戸惑っている魔物などは体を捻って蹴り飛ばしたり魔法で迎撃したりしてなんとか対応していた。

 

「(異空間にも逃げられない…っ!呪術が妨害されている…!?)」

 

俺を「ディム」たらしめていた変身魔術『妖精の見る夢(コティングリー)』は既に剥がれてしまっていた。『賢人の見る夢(イデア)』を使おうにも、空間に穴を空けることまではできても繋げることができない。せいぜい壁や床に激突しそうな時に壁抜けとして使用できるくらいだ。しかし引っ張られ続けて分かったこともある。俺は今間違いなく「まっすぐ」に引っ張られており、行き先は十中八九闇の遺跡の最深部。つまり俺を待ち受けているのはラプソーンだ。…やばいのよ。俺とサーベルトじゃもう手に負えないから勇者を連れてきたってのに、ここで引き剥がされてタイマンに持ち込まれたらベルガラックでの戦いの焼き直しだ。今度は相手に退く理由がないのでどちらかが死ぬまで戦う可能性が高い。かなりの奇跡を期待しないと死者無しで勝つのは不可能だろうな…。

 

俺は…ここで死ぬのかもしれない。そのあと勇者たちがユリマちゃんを倒して……また原作に帰結するのかもしれない。何となくそう思った。その考えには妙な説得力があった。

 

「(もしそうだったとしても…ただでは死んでやらんし、死にたくもない。…とことん足掻いてやる)」

 

俺は前方へ向かう重力を利用して、進行方向に突っ立っている「トロル」に向かって剣を思いっきり振り抜いた。こちらのことを認識すらできなかった哀れな魔物は、その焦げ茶色の体躯が真っ二つになって初めて自分が殺されたことに気が付いた。

 

 

……

 

「…っ!がっ!」

 

かれこれ十数分は空中を引き摺られていただろうか。突然俺を引っ張っていた魔力が消えたため、俺は慣性に従うまま吹っ飛ばされ、床に体を打ち付けて転がった。

 

「…ここは」

 

俺はすぐさま『ベホマ』で完全に回復し、注意深くあたりを見渡した。薄暗いのは相変わらずだが、無数の蝋燭と天から差す竜胆色の光は禍々しくも畏ろしい。間違いない、ここが闇の遺跡の最深部…。

 

「…っち、まだ呪術は使えない…!」

 

俺は『イデア』を使おうとしたが、やはり空間を繋げることができない。アスカンタのアジトにいるサーベルトと合流しないことにはまず話にならない。キラちゃんと繋がっている携帯念話(フォン)はさっきグズグズに潰されてしまったため連絡も取れない。どうする。…どうする。

 

 

『ククク…来たか。哀れな道化よ。』

 

 

「ラプソーン……!姿を現せ」

 

 

『我の姿を捉えられないのが余程恐いと見える。ククク…悲しいなぁ…』

 

暗い大広間に声がこだまする。ユリマちゃん…の姿をした暗黒神(ラプソーン)は天井からゆっくりと降りてきた。ユリマちゃんの端正な顔が醜く歪み、俺に懐いてくれていたあの頃のままの声で俺を嘲る。本当に不快だ。

 

 

「貴様…一人だな…あの賢者の出涸らしはどうした?…ククク…尻尾を巻いて逃げたか…!」

 

 

「サーベルトのことか?はん、せいぜい笑ってろ。もうサーベルトはいつでもお前の首を斬り飛ばせる位置で機を窺ってるよ。」

 

「陳腐なハッタリだな。此処は我を崇める祭壇…最早庭のようなものよ。貴様以外には誰もいないことなどわかっている。…ああ、あと入り口付近に取るに足りん雑魚が何匹かいるようだが、ここには決して辿り着くまい。」

 

「く…」

 

「ハッタリまで不得手になったか?道化の称号も形無しなわけだ…悲しい、悲しいなぁ…」

 

「…」

 

ラプソーンは薄く笑うと、目にも止まらぬ速さで体当たりをしてきた。俺はとっさに「ふぶきのつるぎ」で防御するが、たまらず吹っ飛ばされる。

 

「我は今気分がいい。貴様が時間を浪費していたために我が仮の宿は完全なる回復を遂げ、『準備』も今しがた完了した。貴様の功績だ。褒美として苦しまぬよう一撃で葬ってくれよう…。」

 

「…ッ!易々と殺せると思うなよ!『メラゾーマ』!」

 

俺は立ち上がりざまに豪火球を放ったが、直撃を受けたはずのラプソーンは涼しい顔をしている。

 

「…実に悲しい。こんな弱小な蠅が今まで我を苛立たせていたかと思うと…な」

 

「(全然効いてない!?くそっ、一人だと詠唱もままならないからか!完全な状態で魔法が放てない…ッ!)」

 

まずい…まずいまずいっ!何が「かなりの奇跡を期待しないと死者無しでは勝てない」だ。それが既に思い上がりだった…ッ!こうして対峙すると嫌でも分かってしまう…!

 

 

俺はコイツに敵わない……!!

 

 

剣の鍛錬が甘い俺ではラプソーンに攻撃を当てられない。『イオナズン』を放つ。ほとんどダメージは無い。『ベギラゴン』を放つ。大岩を落とされて消火される。『マヒャド』を放つ。動きすら止められない。『ザバラーン』を放つ。闇のイバラで押し返される。閉鎖空間なので『バギクロス』を連発すると真空に近づいてこちらが呼吸できなくなるので使えない。『ドルモーア』は相手が闇の化身であるため、『ジバリーナ』は相手が浮遊しているため、『ベタロール』は相手が高速で動くため、効果が期待できない。『メラガイアー』を始めとした極大呪文は詠唱破棄では打てない。呪術も魔術も満足に使えない…!

 

「ハハハ…そんな貧相な雷撃に頼る他ないか?もう少し我を楽しませてくれると思ったがな…」

 

「(ちくしょう…比較的効果がありそうなのが雷速で放てて確実に命中させられる『ギガデイン』しかない…でも『ギガデイン』一辺倒だとすぐに適応される…!)」

 

だからってどうする?俺にはもう『ギガデイン』を打つことしかできない。

 

「『ギガデイン』!『ギガデイン』!」

 

くそっ!くそっ!

 

「『ギガデイン』!『ギガデイン』!『ギガデイン』!」

 

ちくしょう…!

 

情けない戦い方をする俺に失望したのか、それまで不敵に笑っていたラプソーンの顔から表情が消えた。

 

「…もう、よい。もうわかった…貴様は……つまらん。二度に渡って我を追い詰めてみせたのは賢者の出涸らし共とこの宿主であって、貴様ではなかったのだ。貴様は一人では…あまりにも無力。吹けば飛ぶような塵芥よ。」

 

「…!」

 

ラプソーンは一瞬で目の前に移動してきた。俺は呪文を放った直後であり、一瞬だが動けない。

 

「(あ…これだめだ…死…!)」

 

「永久に闇を彷徨いながら孤独に果てよ」

 

「!!!」

 

 

「…?」

 

来るはずだったラプソーンの一撃はいつまで経っても届かず、俺はゆっくりと目を開けた。すぐ目の前にはラプソーンが俺の腹に向けて杖を突きだしていたが、薄皮一枚隔てた所で止まっており、ラプソーンは心底不快そうな表情をしている。

 

「なんだ…なんなのだお前は…!なぜまだ抗える…!」

 

「くっ!どういうことだ…?」

 

俺はバックステップを取って距離を取る。ラプソーンはぎこちない動きで姿勢を変えながら地面に降り立ち、頭を抱えた。

 

「なんなんだ!我は貴様の自我を完全に制圧したはず…なぜだ!何故一介の村娘風情が…暗黒神の力に対抗できる!?」

 

「だっ…て…そこに…目の前に……いる…から……ひとり…じゃ…ない…」

 

「(なんだ…ひとり言…?いや違う!)」

 

「ドルマゲス…さん…ドルマゲスさん…は一人じゃない…わ…わた…し……います…」

 

「おおっ…!く…やめ…ろおっ!」

 

「(まさか…ユリマちゃんが…)」

 

ラプソーンの肉体から紫色の光が吹き出したかと思うと、さらにどす黒い光がそれを覆う。それを破ってまた紫の光が漏れだす。俺はそれをただ眺めることしかできない。とにかく今のうちに次の手を…と思ったところで気が付いた。

 

「…!呪術が…!」

 

呪術がもう阻害されていない。ラプソーンの意識が逸れているからか?なんにせよ今の内だ!俺は間髪入れず『イデア』を発動、なかば強引にサーベルトと分身の俺を引きずり出した。

 

「どっ、ドリィ!大丈夫か!ここは…」

 

「…いきなり音信不通になって、何があったのです!?」

 

「サーベルト、いきなりで悪いですがクライマックスです。相手はラプソーン、ベルガラックの時よりも力が増しています。分身の私は融合して少しでも基礎戦闘力を上げましょう。」

 

「「わかった!」」

 

やっぱり俺は一人じゃ何もできない。でも、それでいい。俺には仲間がいるから、そう、ユリマちゃんの言う通り「一人じゃない」。原作ドルマゲス(拗らせ孤独おじさん)とは違う。

 

 

「この…我を、暗黒を冠する神を嘗めるなよおぉぉぉ!!!」

 

ひときわどす黒い光が強まったかと思うと、光の中から息を荒げながらラプソーンが現れた。

 

「ハァ…ハァ…手こずらせる…我は仮の宿を間違えたのか…?………むん?賢者の出涸らし…いつの間に…」

 

「ラプソーン!対峙するのは三度目だな!今度こそ貴様を討つ!」

 

「今更貴様ごときが力を取り戻した我を前に何になる…ククク、蠅が1()()()()2()()()なろうと変わりはせぬわ…」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「蠅が1()()()()2()()()なろうと変わりはせぬわ…」

 

 

(…?)

 

 

 

「そんなことはない!()()()()()()()()()()どんな困難も乗り越えてきた!」

 

 

 

(…何を、言ってるの?)

 

 

 

「貴様と…たしか()()()()もいたか?仲間など…くだらん。大いなる闇の前には全て無力よ!」

 

 

 

(は?誰が、女が、誰の仲間って…?)

 

 

 

「ラプソーン…お前の言う通り、俺は…私は一人じゃ何もできない!でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()何でもできる!お前を倒すことも!」

 

 

 

(…え…?……え……!?)

 

 

 

え?????????????????????????????????????????????

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ククク…では群れたところで何も成せないということをその身をもって……!?な!?う、うおおおおおぉぉぉ!?!?」

 

「!?」

 

突如、ラプソーンを中心に鮮烈な紫の光が瞬き、俺は思わず目を閉じてしまった。時間にして0.1秒にも満たない瞬間。次に俺が目を開けると、服同士が触れるほどの距離にラプソーンが…いや、ユリマちゃんが立っていた。ユリマちゃんの左目にハイライトはなく、白い右目は更によどんでいた。そんな目で、真っ直ぐ、串刺しにされそうな視線で俺の目から目を逸らさない。

 

 

 

「ねぇ、答えてください。ドルマゲスさん、私に手紙をくれたあの日から…ずっとあなたは一人だったんじゃなかったんですか?…私を騙していたんですか?」

 

 

 

 

 




ラプソーンはドルマゲスが本当に一人で闇の遺跡に挑んできたと思ってます。ドルマゲスを最深部まで引っ張ってきたのはもちろんユリマで、ラプソーンはそのことには気づいていませんでした。



ラプソーン「トロデーンでいい宿主みーつけた!」

ドルマゲス「こっからは俺のステージだ!」

ラプソーン「ぐぬぬ」



ラプソーン「ベルガラックでいい宿主みーつけた!」

ユリマ「黙ってろよクズ」

ラプソーン「ぐぬぬ」


原作だとマルチェロにも自我を制されてるし、ラプソーンは特段精神汚染には秀でているわけではないのかも?


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第三十九章 収束と暗黒 ⑦

前回の感想で「ラプソーンが脇役にしか見えない」「裏ボスがラスボスと同時に出てくるな」「どっちが魔王だよ」などと散々なコメントを多数いただき爆笑の渦でした。
これが闇の覇者ですとか破壊神ですとか大魔王ですとかならまだメンツが保たれるんですけどねぇ、ラプソーンは微妙な小物感をちょくちょく出してくるラスボスさんなので…(例:マルチェロ)








「私を…騙してたんですか?」

 

思いもよらない、よるわけもない発言を投げかけられ、俺は全ての思考が一瞬停止する。

 

「え…?」

 

「ドリィ危ない!貴様!ドリィから離れろ!!」

 

サーベルトがユリマちゃんに斬りかかるが、まるで歯牙にもかけず動きを止められ、そのまま空に持ち上げられる。

 

「あの、邪魔しないでください。…邪魔なんですよ。」

 

「ぐ…これは…!」

 

「サーベルト!それは重力です!待って…『ベタン』!」

 

我に返った俺は飛び退き、重力初級呪文を反対向きに放って重力を相殺する。やはり解除できた。闇の遺跡中を引っ張り回されていた時から感じていたが、本気で俺を殺すつもりなら引っ張る必要なんてなく、遠隔から速攻で潰してしまえばよかったのだ。初級呪文で解除できるということは、ユリマちゃん…?ラプソーン?におそらく重力による殺害の意志はなかったのだろう。

 

「うっ…はぁ、助かった…浮かばせられるまでまったく気が付かなかった…。」

 

「仕方ないです。元から重力呪文は見えにくい。しかし、詠唱破棄どころか呪文の『名』すら省略して呪文を行使するなんて…」

 

MPを依代に言霊で精霊─エレメントを呼び出し、ゲートに魔力を注ぐことで魔法を使うドラクエの魔法理論において、『呪文の名前を口にすること』は非常に重要なプロセスなのだ。むしろ呪文の名を叫ぶことが起点となると言っても過言ではない。ある程度の使い手になれば呪文の詠唱を破棄できるようになるが、破棄できるのは長々とした『詠唱』であって『名』は破棄できない。俺や師匠すらそんなことはできない。

 

しかしそんな離れ業をやってのけたにも関わらず俺やサーベルトをすぐに殺そうとはしなかったのはつまり…肉体の主人が俺を殺すことを躊躇わないラプソーンからそんなことはできないユリマちゃんに変わった…?だが、そう仮定してなお…相手の底は依然見えない。

 

「邪魔な人はでてってください。私たちは大事な話をするんですから。大事なんですよ、大事な話。」

 

「サーベルト!」

 

「二度も喰らうか!!」

 

サーベルトは素早く横方向に転がり見えない魔法を回避した…かと思われたが。

 

「なっ!?くっ!ぐうう…」

 

「(初めから回避先を予測して放っていた…?)サーベルト!?まずい!」

 

サーベルトはまた捉えられてしまった。しかも今度はかなり重力の内圧が高い。サーベルトの苦悶の表情がそれを物語っている。

 

「今助けます!『ベタン』!…?『ベタン』!…まさか」

 

「ぐ…ぐああ…ッ!」

 

「もうドルマゲスさんの前に姿を現さないって言うなら、誓うなら解除してあげますよ。ほら…苦しいでしょ?痛いでしょう?だから早く言って。『もうドルマゲスさんの前から消えます』って。はい、どうぞ。」

 

「そんな…そんなことは…ぐああっ!」

 

「サーベルト!!くそっ!なんだってこんな時に…ッ!!」

 

MP切れ。分身と融合した際に多少回復したと思っていたが、まさかさっきの『ベタン』一発で底をつくなんて。先のラプソーン戦で限界近くまでMPを消費してしまっていたのか。

 

どうしよう、このままではサーベルトが………考えろ、考えろ、考えろ!

 

「(何も…思いつか…)」

 

「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

水気を含んだような、嫌な粘っこさを含んだ叫びがサーベルトの口から漏れ出る。俺はほとんど無意識に叫んだ。

 

「サーベルトを放せッ!!やっ、やめろおぉぉッッ!!!!!!」

 

「あっ、はい!わかりました!」

 

ぼと、とその場に落とされるサーベルト。呼吸は荒いが命に別状はなさそうだ。…が、今の俺はそれどころではなかった。

 

「え?」

 

なんで?

 

全然分からない。

 

「?」

 

ユリマちゃんはニコニコしながら首を傾げている。数年前までなら非常に愛らしく感じたであろうその仕草も今の俺にとっては困惑、ひいては恐怖の対象だ。本当に訳が分からない。

 

「…なんで……なんでそんなことを?」

 

「?だ、だってドルマゲスさんがやめろって言ったから…」

 

ぜはーっ、ぜはーっ、と苦しそうにしているサーベルトを、本来ならすぐに助けに行くべきなのだが俺は脳のキャパシティを超える困惑にまるで動けなかった。なぜ俺が言えばサーベルトは解放されるんだ?それで相手に何のメリットがある?油断させる罠?余裕の表れ?それとも俺は何かを見落としている?…否、この機会を無駄にするわけにはいかない。俺はすぐに駆け出しサーベルトを拾い上げると相手から距離を取った。相手はそんな俺を眺めていたが、俺がサーベルトの前で構えると我に返ったようにしゃきんと背を伸ばし、自分の頭を小突いた。

 

「…?……!あっ!私ったら!ドルマゲスさんは私を騙してるかもしれないのに…ついつい言うこときいちゃった…」

 

「お前は…なんだ…?ラプソーン…なのか…?」

 

「…」

 

瞬間、ユリマちゃんの顔から表情が抜け落ちる。まるで出来の良い人形を見ているようだ。その両の目からだらだらと流れる鮮血さえなかったなら。

 

「…なんで私の前で私以外の人の話ばかりするんですか。ねぇ、ドルマゲスさん。」

 

「…。」

 

「私はユリマです。トラペッタに住む占い師ルイネロの娘…小さな時からあなたを見てきた、あなたの隣に立ちたいと追いかけてきた一人の女ですが…覚えてない…?忘れたの?ねぇまさか、忘れたんですか?」

 

ユリマちゃん?の声色はそう言葉を紡ぎながらあからさまに低くなっていった。俺は未だ困惑から抜け出せないながらも段々と現状を把握しはじめた。なるほど、確かに今はユリマちゃんの人格が表に出ているらしい。人格がラプソーンだったとするならサーベルトを生かす/逃がすという選択肢が出るわけがないからだ。戦闘以外の選択肢が存在する以上、とにかく情報を引き出すためにも会話が重要だ。会話をしながらなら対策を考える時間を稼ぐこともできる。

 

しかし昔から多少感情の重さの片鱗を見せることはあったが…ここまで酷かっただろうか?

 

「忘れるわけないでしょう。あなたが何者かはともかく、あなたのその肉体の主はユリマさん。私の大事な、とても大事な人です。」

 

「!…も、もう、すぐそういうこと言う…

 

俺がそう言うとユリマちゃんは一瞬頬を紅潮させ表情を綻ばせたが、すぐにぺちんと頬を叩いて先ほどまでの刺すような眼と冷たい表情に戻った。

 

「…ドルマゲスさんは本当に道化だったんですね。一人だなんて嘘をついて。私を弄んで自分は仲間と…お、女の子!と旅ですか。随分と良い御身分じゃあないですか。私がどんな目に遭ったかも知らないで。」

 

「私は一人だとは言ってませんし、あなたを弄んだつもりもありません。ですが聞かせてください、これまであなたの身になに「弄んだ!!!」

 

ユリマちゃんの声が部屋に大きく反響する。見ると、ユリマちゃんの両目から流れていた鮮血が頭からも流れ始め、頬を伝って地面に滴っていた。

 

「嘘…嘘ついてますよ…ねぇ。ドルマゲスさんは私に嘘をついてます…あぁあ、話にならないなぁ!」

 

「お…落ち着いて…!!私は…」

 

「そうだ!ドルマゲスさんは悪くない!悪いのはドルマゲスさんを唆して、騙して、取り入ろうとする人たち!」

 

遺跡の最深部が小刻みに震え始める。蝋燭が倒れ、老朽化の進んでいた柱に蜘蛛の巣状の罅が入った。

 

「そこの男の人と!…あぁあ、女!女の子!金髪の…ぜっっったいにあの人だ…!ドルマゲスさんのことが好きなんだ…なんでここにいないの!?隠れてる!?来ていないの!?」

 

「…!」

 

ユリマちゃんは突然荒ぶり、神鳥の杖であたりの蝋燭を薙ぎ払った。

 

…いや、あれはユリマちゃんではない。人格こそ彼女のままだが、精神にラプソーンが潜んでいることで負の感情が増大しているのだろう。それによって豹変してしまった似て非なる別人だ。俺は相手をそう断定し、視線を相手に向けたままカバンをまさぐった。

 

「(…!一つだけ残ってたか!助かった!)」

 

『エルフの飲み薬』。MP回復アイテムはすぐ取り出せるような場所には保管していなかったと思っていたが、ダメ元でも探してみるものだ。俺はすぐさま不思議な香りのする液体を飲み干すと、サーベルトと自分に『ベホマ』をかけた。

 

「ドリィ…さっきから俺は役立たずだな…」

 

「(ぐえぇ、まっずい…)いいんですよ。まだまだこれからです。…しかしどうしたものか…」

 

ユリマちゃんも原作のゼシカみたいに叩けば治ったりするのだろうか?まずは神鳥の杖を奪わないことには何も始まらないが…。俺が少し思案していると、ユリマちゃんが少し落ち着きを取り戻した様子を見せたため、相手の動きに集中した。どうくる。どう来ても対応してみせる。否、対応しなければこちらが殺られる。

 

 

 

しかしユリマちゃんの取った行動はあまりにも予想外だった。俺が咄嗟に対応できたのはほとんど偶然だった。

 

 

「えっ!?なっ、ちょ──」

 

「あは!やっぱり『中』まで来てたんですね!泥棒の猫さん!」

 

ふと動きを止め、口角を吊り上げたかと思うと、なんとユリマちゃん──ユリマは空間を手で引き裂いて『開き』、何も状況を把握できていないキラちゃんを『引きずり出した』。そう、俺がサーベルトをここに連れて来た時のように。

 

「!?!?キラ!?何故ここに!?おいドリィ…ッ!」

 

「は!?いや、まっずい…!!!」

 

今の精神的に不安定なユリマの前ではキラちゃんも五体満足でいられるとは考えにくい。何しろキラちゃんは一度ユリマに殺されているのだ。俺の脳裏に夜の草原で魂を引き剥がされたキラちゃんの亡骸がフラッシュバックする。

 

「ここは、!?あな、たは…」

 

「私はユリマです。あなたですよね?金髪の女って。返してください、奪わないで。私のものなんです。」

 

「…ぅ…!」

 

「『ジゴフラッシュ』!」

 

見間違いだろうか、ユリマは俺が()()()()()()()()()()キラちゃんを取り落とし目を閉じた。

 

俺は尻もちをついているキラちゃんを抱きかかえると、サーベルトの方へ放り投げた。乱暴で申し訳ないが、今はユリマから引き離し、もっとも安全な場所へ最速で移動させるのが吉だ。この戦いが終わって生きてさえいれば後でいくらでも謝ることはできる。

 

「ごめんなさいキラさん!」

 

「けほっ!う…ドルマゲス様!私は平気です!」

 

「…なんで。」

 

「なんで…その子を庇うんです?護るんですか?…大事な人だからですか?」

 

「サーベルト!キラさんはあなたに任せます!いいですか!『絶対に守れ』!!」

 

「応!任せろ!俺が命に代えてもキラを守り抜く!」

 

「話を聞いてよ…ドルマゲスさん…」

 

「キラさんは壁を背にしてできるだけ死角を無くしてください!前面はサーベルトが守ってくれます!…よし」

 

「わっ、わかりました!」

 

「聞いてくれないなら…」

 

ユリマはサーベルトに向かって『メラミ』を放った。しかしその火球は俺の張った見えない壁によって阻まれる。ギィンと鈍い音を立てて空気が震えた。

 

「これは…結界…!?」

 

「…ギリギリ間に合いましたね。…はい。私と貴方を囲うようにキューブ状の結界を張りました。貴方の攻撃はサーベルトたちには届きません。もちろんサーベルトたちも入れません。」

 

「えっ!それってつまり…」

 

「…これで、二人きりですね…。話を、しましょうか。」

 

「!!!!!」

 

ユリマは濁った右目もハイライトのない左目もキラキラと輝かせて、嬉しそうに身体をくねらせる。俺は額から今もなお流れ続ける冷や汗を、彼女に悟られぬようにこっそり拭った。

 

 

 

 

「ドルマゲスさんと二人っきり…!ふふ、えへ、何年ぶりかな?」

 

俺は暗黒神本人ではないので詳しいことは分からないが、今のユリマはラプソーンを自力で抑え込み、人格を護持している。ラプソーンの精神汚染を抑え込むのは俺や原作マルチェロですら苦労するのに、ユリマは割と平然としているように見える。つまり精神力でラプソーンを上回っている可能性が高い。

 

そんな相手とまともにやって勝てるはずがないので、俺はできるだけ相手を刺激しないように言葉を選びつつ相手の情報を探ることしかできない。その後のことはまだ…

 

「あなたは…何故私の異空間に干渉することができるのですか?ベルガラックで私が保管していたその『神鳥の杖』を持ち出したように、今回キラさんを連れてきたように…」

 

ユリマはまたもや不機嫌そうな顔になると、左手で髪の毛を弄り始めた。

 

「へーぇ。あの子、キラって言うんですね。ふーん。…まあ、あとでドルマゲスさんに謝らせて、どこか遠い遠いところに追放するつもりなので覚える必要もないんですけど。」

 

「はぐらかすな。どうやって『賢人の見る夢(イデア)』に入り込んだ?」

 

俺が語気を強めると、ユリマは一瞬きょとんとし、ゆっくりと俯いた。

 

「ドルマゲスさんはそんな荒っぽい言葉遣いをしません。」

 

「…」

 

「優しいドルマゲスさんに戻ってください…」

 

「…。どうやって私の『イデア』に入ることができたのですか?」

 

一対一だと絶対に敵わないことが分かっている以上、俺が相手の機嫌を損ねるような事は極力避けねばならない。避けられる戦闘は避けるべきだ。()()()()()()なのだから。

 

「…ドルマゲスさん、覚えてます?『呪術』の練習をしてた時、よく遊びに来ていた私に言ってくれましたよね。『呪術が使えるようになるためには霊力の存在を信じることが大事』だって。」

 

確かに言った…。というか呪術を習得しようとしていたあの時期、ほとんど口癖のように言っていた。魔法薬の開発中だった師匠にはうるさいと怒鳴られ、幼少期のユリマにはよく「またそれ言ってる~」と笑われたものだが…。

 

「…!まさか…」

 

「うん!ふふ…そう。私も信じました、霊力。正確には『霊力を信じるドルマゲスさん』を信じてました。」

 

「…。」

 

俺は内心で頭を抱えた。そうだ、あくまでも一般人である俺が扱えたのだ。なぜ他の人間がそこに至ることを想定していなかった?

 

「お父さんには何度も言われてたんですけど、私、ドルマゲスさんを『盲信』してるらしいです。私自身はそうは思ってないんですけど…。でも、やってみたらできました!えへへ!」

 

「…な、るほど…ではあなたは、私がトラペッタを去ってから何を?」

 

「……。…ああ、やっと話せる。ドルマゲスさんに。私は──」

 

ユリマは俺がいなくなってから毎日が辛かったこと、俺からの手紙を読んで師匠の薬を持ち出してトラペッタを発ち、海に流されてマイエラ地方まで流されたこと、俺を探してパルミドで潜伏していたこと、パルミドの情報屋から俺がベルガラックにいることを突き止めたことなどを事細かに語った。

 

「パルミドはすごく怖かったです…。毎日男の人が襲ってきて…酷い目に遭わされそうになったことも一度や二度ではないんですよ?でも、ドルマゲスさんを助けるためだと思ったら…その、我慢できました…えへ…♪」

 

ユリマは顔を赤らめてもじもじしている。その仕草は年相応の乙女のようで……本当に、本当にこういう時どういう顔をすればいいのかがまるで分からない。ただ、このまま相手のペースに乗せられるのだけはダメだ。

 

「で、ではベルガラックで一度杖を奪ったのは何故ですか?」

 

「…特に他意はないです。私がようやくドルマゲスさんに会えた時、あなたは宿屋で眠っていました。その寝顔を見ていたらそれだけで満足しちゃって、起こすのも忍びなくて。また次の日に会いに来ようと思っていたんです。でもその時急に頭が痛くなって…気づいたらこの杖の入った箱を持って宿屋を飛び出してました。もしかしたらドルマゲスさんに追いかけてきてほしかったのかも。」

 

「(なるほど…そこでラプソーンの精神汚染が…)」

 

「でもここでやっと会えた。ドルマゲスさんを守ることができる。そこの男の人から、女の子から、世界から!」

 

「わ、私は虐められているわけでは…」

 

ゴキキ、と嫌な音を立てながらユリマはこちらを振り返った。首が有り得ない角度までねじれている。

 

「それは違いますよ?ドルマゲスさんは『せんのー』されてるんです。だから酷い目に遭わされていることに気が付いていないだけなんです。」

 

「私は何も酷い目に遭わされたことは無いです。なにか、勘違いをしているのでは?」

 

「…私、道中でドルマゲスさんの敵になりそうな魔物や人間はボコボコにしました!」

 

俺の言葉も無視し、シュッシュッとボクサーのような動きをしてみせるユリマ。俺の脳裏に異常なまでに小さく圧縮されたオセアーノンの遺体がよぎる。今なら彼の遺言も意味が通る。オセアーノンはユリマにやられたのだろう。あの重力魔法を見れば納得だ。

 

「ドルマゲスさんを酷い目に遭わせたイカさんも、ドルマゲスさんのことを嗅ぎまわっていたパルミドの男の人(情報屋)も……あなたの生きる道の障害になるような石ころは全部私が取り除きます!これまでも、これからも…今も!そのために魔法もいっぱい覚えましたし、呪術も習得しました!…ドルマゲスさんの見様見真似ですけどね。あは…」

 

「…!」

 

「あぁ、素敵な服、サラサラの髪、キリっとした眼、変わってない…背は、ちょっとだけ小さくなりました?…あぁ、私が成長しただけ?ですよね。ふふ」

 

「何で…私、を……助けに…?」

 

「………。あなたが、一人だから…。私を救ってくれたドルマゲスさんを、今度は私が救うんです。ねぇ、帰りませんか?トラペッタに。誰もドルマゲスさんを責めてなんかないんですよ。ライラスを殺したかどうかなんて私にはどうだっていいんです。あなたが、あの町に、私の近くにいてくれるんだったら…。」

 

「!」

 

「…ねぇ、私、頑張りました。すごく、すごーく。あなたの為に…。昔みたいに『ごほうび』くれませんか?…ほ、ほら!凄いですねぇ、偉いですねぇ、って言いながら頭を…撫でて…欲しい、です。」

 

褒めて褒めてと頭を差し出すユリマは、俺に頭を撫でる意志が無いとみると、自分で俺の手を掴み頭に乗せようとした。その行動に得体の知れない恐怖を感じた俺は思わずその手を振り払ってしまった。

 

「…。」

 

「…は?」

 

「ユリマさんは心優しい子です。私の師匠を呼び捨てにしたり、その命を『どうでもいい』なんて評するはずがありません。」

 

「……あの、いや、え?」

 

「…私にはあなたを正気に戻す責任があります。さあ、まずはその杖を渡して…」

 

「…え?はは、やだなあ、私は正気ですよ…あの、ドルマゲスさん?」

 

この子をこのまま野放しにしていてはいけない。ここで確実に元に戻しておかないと、ある意味でラプソーンよりも危険かもしれない。聞けば、こうなったのには俺の存在が関わっているようじゃないか。だったらなおさら俺の手でユリマを元に戻さなければなら──

 

バツンッ

 

「!?け、結界が…!?」

 

金属を凄まじい力で引きちぎったかのような音がしたと思うと、俺のすぐ後ろの結界に、スプーンでくりぬいたかのような丸い穴が空いていた。通常、結界は破られるにしろ蜘蛛の巣のような亀裂が直前に入るはずなのだが、今回は穴が空いた場所以外まるで損傷がない。つまり損傷部にのみとんでもない圧力がかけられたということだろう。……なんて出鱈目な魔力…。

 

「…ねぇ、ドルマゲスさん?なんでそんな酷いこと言うんですか?私が私じゃないとか正気じゃないとか…ねぇ。私、別に恩を売るつもりできたんじゃないんです。本当にドルマゲスさんを助けたくて…だからこんなことはあまり言いたくないんですけど、……それが助けに来てくれた人への態度ですか?」

 

「…ユリマさん、あなたは間違っています…が、それは貴方のせいじゃない!さあ、杖を…」

 

俺はもはや汗をぬぐうことも忘れ、ただ結界内を駆け巡る闇のオーラに耐えながら相手から目を逸らさないことで精一杯だった。

 

「…この杖が大事なものだってこと、知ってます。でも、私がドルマゲスさんにこの杖を渡したら、ドルマゲスさんはあの男と女の所へ帰らないといけないじゃないですか。私がドルマゲスさんを守るためにはこの杖は私が持っていないといけないんです。そうすれば永遠に二人のまま…。」

 

「そんな、何を根拠に…」

 

「根拠なんて必要ですか?私が貴方を助けたいと思う気持ちに理由が要りますか?あっあっ!ごめんなさいドルマゲスさん、怖い顔してしまって!ドルマゲスさんが私の助けが不要だと、そう言いたいように聞こえてしまって…そんなわけないですよね!…あぁあ、きっと私の言うことも信用しないように『せんのー』されてるんだ…ゆ、許せない…」

 

「(……ま…まるで話が通じない…)と、とにかく落ち着いて!!」

 

ユリマは無言でその場に杖を刺し、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…()()()、このまま話してたって堂々巡りなんですよ。さあ、ドルマゲスさん、私が優しく言っているうちに結界を解いてください。それとも私の声はもう届いてないですか?」

 

「…ユリマ、さん、私は──」

 

「……まあ、答えはもう『観え』てるんですよ。大丈夫、すぐに私がドルマゲスさんの『せんのー』を解いてあげますから!」

 

「(来るっ!)」

 

ユリマは身を翻すと、遠心力を利用して杖をハンマーのように叩きつけてきた。俺はできるだけ少ない動きで避けると、右手に持っていた「ふぶきのつるぎ」を上に投げて視線を誘導、左手に隠し持った「オリハルコンの棒」でユリマを突き飛ばした。

 

「う……痛い…けど、それは私を殴るドルマゲスさんの心も同じ、ですよね。私を傷つけたくないのに…ごめんなさい、ごめんなさい…私がすぐに助けますから…!」

 

「(んー…傷つけたくないのは、その通りなんだけどな…)」

 

「オリハルコンの棒」を使う判断をしたのは別に相手を嘗めているわけでも、騎士道だとか、同情だとかに乗っかっているわけでもない。殺傷能力はないが、ひたすら硬く、軽い。それが今の戦闘に最も適していると思っただけだ。

 

もうこうなったらタイマンで相手を戦闘不能まで追い込むしかない。絶対にこんな状態のユリマをサーベルトやキラちゃんに近づけてはいけない。あくまで憶測にすぎないが…おそらく、ユリマは俺を殺さない。向こうも同じくこちらを戦闘不能にしようとしているのだろうが、地力が違う。俺は全力を出しても相手を殺せないが、相手は俺を一捻りで殺せる、故に手加減をしなければならない。

 

そしてユリマは…昔から手加減が下手だった。そのラグを祈って戦うしかない。

 

「…やるなら…とことんです。私と踊りましょうか、お嬢さん?」

 

「ドルマゲスさん、情熱的…♪そんなところも大好きです!さあ、早く横になって、眠っててくださいね。すぐに終わらせますから♪」

 

直後、2つの『メラゾーマ』が激突し、結界内は爆炎に満たされた。

 

 

 

 

 




ユリマが途中サーベルトに『メラミ』を放ったのは体積の大きい『メラゾーマ』を放つと直線状にいるドルマゲスに当たってしまうからです。ユリマのドルマゲスへの愛は本物です。…偏愛ですが。

「オリハルコンの棒」:DQSに登場する武器。「竜皇帝バルグディス」を倒すと一度だけ入手できる。攻撃力は低いが、オリハルコンでできているためDQSでは最強の剣の素材となる。本作ではオリハルコンの加工技術をサザンビークの老魔術師から学んだドルマゲスが、作業の傍らでできた切れ端を繋いで完成させたもの。物理はもちろん、魔法にも強い。


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第四十章 愛と闇と道化と呪われし町娘 前

ついに闇の遺跡編も終わりですかね…さてこっから続けようか続けまいか。

今回は長くなってしまったので二つに分けました!分けたらちょっと短くなっちゃったけど…
後編は今日中に投稿しようと思います!








ハロー、なんて言っていられませんね。どうも、ドルマゲスです。ユリマさんとの再会を、まさかこんな場所で、こんな最悪の形で果たすことになろうとは…。傷つけたくない、という感情に嘘はありませんが、それが通るような甘い状況でもありません。…倒さねば、倒される。「私が」ではなく「サーベルトやキラさんが」です。…この戦い、負けるわけにはいきません。

 

 

 

 

キューブ状の結界の中が、外から視認できなくなるほどの光が炸裂する。俺の『メラゾーマ』とユリマの『メラゾーマ』が激突したのだ。

 

「くっ……!」

 

「熱い…ああ、熱いなぁ…ふふ」

 

俺は直前に『ザバ』を自分を対象に詠唱し、全身を水でコーティングしていた。ダメージが抑えられるわけではないが、炎呪文の追加効果である火傷は防ぐことができるのだ。一方ユリマは全身を炎に覆われたため、大火傷を負ったはずだが…

 

「(熱さを感じていない…、というより『痛み』に慣れ切っている感じか……なんて厄介)」

 

「いいんですかドルマゲスさん?…こんなに温められちゃったら私、もっと『熱狂』しちゃうかもしれないですよ?」

 

ユリマは恍惚とした表情のまま『ベギラゴン』を唱える。どうやら重力魔法以外の魔法は詠唱を破棄できないらしい。

 

「(『ベギラゴン』の対処法は…導線をなぞるようにして回避しながら詠唱者の懐に……)うわっ!?」

 

『メラ』を始めとする炎呪文を「火球」とするならば『ギラ』系の灼熱呪文は「火炎放射」である。魔力操作によってある程度コントロールを効かせることのできる『メラ』系と違い、『ギラ』系は放たれると何かにぶつかって炎上するまで直線的な動きしかできない。その隙を狙った、つもりだったが。

 

「重力で軌道を曲げて……!」

 

「…寄り道も回り道も大事ですよ?全速全身、当たって砕けて良いのは恋だけです♡」

 

「ぐああっ!」

 

『ベギラゴン』の直撃を貰い、俺はもんどりうって吹き飛ばされた。かなりのダメージだ。先ほど水を浴びていなかったならこの傷は二度と治らないものになっていたかもしれない。

 

「ただし私の恋は除きますけどね!『ライデイン』!除いてくれますよね??除けますよ!ドルマゲスさんになら!!」

 

「(ライデイン!回避は不可、なら…)」

 

相手の詠唱を見た瞬間に「てつのつるぎ」を取り出し地面に突き刺す。即席の避雷針だ。そのまま「まじゅうの皮」を取り出して身体を覆う。

 

『デイン』系は自然現象としての雷ではないので避雷針で無効化することはできないが、雷の性質上ある程度威力を分散させることはできる。

 

「(はあ…はあ…よし、雷のダメージはほとんどなし…次は…)」

 

「『バギクロス』ですね?服がびりびりに破れないくらいでお願いしますよ!」

 

「(!?読まれた…?)ばっ、『バギクロス』!」

 

「きゃー♪」

 

相手の『バギクロス』に応戦する形でこちらも同じ呪文を放つ。二つのハリケーンはベーゴマのようにぶつかり合い、対消滅した。ユリマは深く腰を落とし、その凶悪な笑みからは今にもこちらへ飛び掛かり、喉を食い破ってくるような勢いすら感じる。

 

「…」

 

「考え中ですか?ならこっちから行きます…!」

 

「…ユリマさん、ちょっと待ってもらっていいです「いいですよ♪」」

 

ユリマは直ぐに体勢を戻し、後ろ手に杖を持って微笑んだ。素直すぎてこちらが驚かされる。

 

「今のバギクロス…なんで私が使うと思ったんですか?」

 

「…んー…」

 

ユリマはちょっとばつの悪そうな、悪戯が親にバレた子供のような笑みを浮かべた。

 

「その前も、貴方は私が交渉を決裂させることが分かっていたかのように行動しましたね?他にもサーベルトの回避先を読んで魔法を放ったり、私が『ジゴフラッシュ』を唱える前に防御反応を取ったりしました…」

 

「あー、やっぱり気づいちゃいました…?」

 

「ユリマさん、貴方…『少し先の未来が見えて』ますね?」

 

彼女はやっと気づいてくれた、と薄く笑った。

 

 

「ちょっと遅かったですよ?ドルマゲスさん。あんなにヒントを出していたのに。」

 

「…やはりそう、ですか。」

 

…そうではないと言ってほしかったと思いながらも、俺は観念したように首を振った。

 

「『少女の見る夢(リリィ)』って呼んでます。私、昔からよく予知夢を見る…っていうのはドルマゲスさんもご存じですよね。それが派生して?進化して?順応して?…よくわからないですけど『未来を見る』能力に変わったみたいです。…ふふ、ドルマゲスさんなら『認識された霊力が予知夢の力と混ざりあって、その不安定な状態のままパルミドで危機意識が大きく成長したことがトリガーになったのか…!?』なんて分析しそうですよね。」

 

…嘘やハッタリの類はなさそうだ。原作でも水晶玉の場所や勇者の到来を予知していたユリマ、その予知夢の力は俺もトラペッタにいた時に確認している。それがこんな具合に魔術として昇華されるとは…。

 

「凄いですね。その術はどうすれば未来が見えるのですか?」

 

「こうやって、両手の親指、人差し指で空を四角に型取ると…見えます。あそこを見ててください、ドルマゲスさん。14秒後にそこの柱にひびが入ります。」

 

「…」

 

「…あとは自分に危険が迫っている時も数秒先の未来が見えたり見えなかったり、そんな感じですね。私に似て気まぐれな能力なんですよ。」

 

ユリマがそう言い終わるや否や、俺から見て右前方20Mほど先にある石柱に亀裂が入った。

 

「…!!」

 

「ね?……ああ、ビックリした顔も素敵です♡…さて、どうします?降参してもいいですよ。私が言うのもなんですが、ドルマゲスさんの勝ち目は薄いと思うんです。」

 

「…何ですって?」

 

「出力は互角でも魔力量は私が上、『ベタン』系呪文は詠唱も破棄できる、一足先の未来も見える。今のドルマゲスさんじゃどうやったって勝てっこないですよ?降参した方が身のためなんじゃないですか?」

 

「…」

 

「あっ、ドルマゲスさんがザコだとか、そういうことじゃないですよ??ただ私が強すぎってだけで…」

 

「…仮に私が降参したらどうなるんです?」

 

「!!!」

 

よくぞ聞いてくれましたとばかりにユリマは目を輝かせる。しかしその眼は俺を見ているようで見ていない。

 

「ドルマゲスさんが降参したらこの陰気な島を出て私とドルマゲスさんは全ての(しがらみ)から解放されて二人で暮らすんです。海のどこかには『地図にない島』なんてものがあるみたいで、そこに丸太小屋でも建てて二人で住みましょう!…天気も良いある朝、鳥のさえずりに導かれるままドルマゲスさんが目を覚ますと、隣で寝ているはずの私がいないんです。ドルマゲスさんは焦ってベッドを飛び出しますが、キッチンにエプロンをつけて、お玉を片手に朝ご飯を作っている私がいてドルマゲスさんは安心するんです。豆から挽いたこだわりコーヒーを淹れて一口飲んだ後、ドルマゲスさんが『今日は随分と早いですね、どうしたんですか?』なんて聞いて来るのを『別に何も!でも、たまには私もできる女だってところを見せたいんです!』って返したりなんかして。小屋は最初は小さいんですけどだんだん大きくしていくんです。ドルマゲスさんに家具を創ってもらってる間に私は花壇を作るんですよね。バラをたくさん咲かせるんです。覚えていますか?ドルマゲスさんがいつかくれたあのバラです。アレをたくさん咲かせて、いずれは島中の植物をバラに変えるのが私の目標なんですよ。慣れない朝ご飯を作って、花壇いじりもした私は多分疲れちゃうので少しお昼寝をするんです。それで目が覚めたらもうお昼過ぎ。寝起きでまだ意識が混濁している私を覚醒させてくれるのは昼食の準備をしてくれているドルマゲスさん。不思議な力で色んな工程を一気にこなすその姿に、お鍋がぐらぐらと煮えたり、肉が焼けたりする調理の音に、私の知らない香辛料や材料が使われた料理の何とも言えない魅力的な香りに魅せられて、私は思うんです。『ああ、これが幸せってことなんだろうな』って。私の幸せは目の前にあるんです。」

 

「…私が降参すれば貴方は幸せになれると?」

 

長すぎて最初の方はもう忘れてしまったが、最後の文から強引に話をまとめる。

 

「そうです!それでぇ…その…私はどっちでもいいんですけど、その、ドルマゲスさんがどうしてもっていうなら……子「その場合、ルイネロさんは?トラペッタの町のみなさんにはなんと説明するんです?今でさえみんな心配していると思いますが。」

 

「…」

 

「…」

 

「……お父さんや他の人には手紙なりなんなりで生存報告だけすればいいじゃないですか。お父さんにもいい加減独り立ちしてほしいですし。……心配かけてって言うならドルマゲスさんも一緒ですよ。」

 

「…」

 

…それはそうか。師匠が回復したら一度トラペッタに向けて手紙を出すのもありかもしれない。しかし全ては今を切り抜けてからだ。ユリマは心なしか少し苛立っているように見える。

 

「ね、降参してください。私も好きでドルマゲスさんを虐めたいんじゃないんです。そういう子じゃないんです。この結界を解除して『歯向かってごめんなさい』『助けに来てくれてありがとう』って言ってくれたら全部終わりなんです。この終わりが私とドルマゲスさんの始まりになるんです。」

 

「…。」

 

「ねぇ?」

 

「……私が降参して結界を解いたら、外にいるサーベルトとキラさんはどうするつもりですか。」

 

「…!」

 

「…答えてください。」

 

「……か…」

 

「?」

 

「……こんな時でもあの人たちの心配ですかァ!?なんで!?なんっっで私じゃダメなんです!?私と来た方が絶対幸せですよ!ドルマゲスさんの望むことならなんでもしますよ!!何不自由なく過ごせます!私…わたし頑張りますから!信じてくださいよ!!ねぇ!!!」

 

「信じてないわけじゃない、むしろ嘘は一つもないと思ってますよ。だからこそです。ユリマさんが私を大事に思ってくれているように、私はそこにいる二人を大事に思っているんです。」

 

「…は?」

 

「…」

 

「ドルマゲスさん()()()に私の気持ちの何が分かるっていうんですか。分かるわけないでしょう?私の血、私の涙、私の痛み…それをあんな人たちと一緒にしないでくださいよぉ!!!」

 

「…。」

 

「霊力を信じる俺を信じ」て呪術が使えるようになったのなら同様に「サーベルトたちを大事に思う俺を大事に思う」ことでその矛を収められるかと思ったが。…逆効果だったようだ。ユリマの全身から血液が滲みだし、目から大粒の涙が零れだす。乾いていた頬の血痕が涙で溶け出し、図らずとも般若のような血化粧になった。

 

「もう…もういいですよ!!!ドルマゲスさんなら分かってくれると思ったのに!もう知らないです!!ドルマゲスさんは絶対に私が連れていきます!あなたの腕が無くなっても、あなたの脚が無くなっても、亡骸になっても連れていきますから!泣いて謝っても絶対止まらないから!!!!!」

 

「止まらない?………そんな覚悟、私はとうの昔…貴方の故郷を出発した時に決めてるんですよ。」

 

俺は外にいるサーベルトにハンドサインで無事であることと警戒待機の続行を伝えると、先ほどあけられた結界の穴を塞ぎ、「オリハルコンの棒」を構えた。

 

「第二ラウンド、始めましょう。」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「ドリィ…」

 

「ドルマゲス様、大丈夫なのでしょうか…」

 

サーベルトは爆炎が、猛吹雪が、暴風が荒れ狂うキューブ結界を凝視したまま親友(とも)の名を零す。その後ろで、結界内で戦闘を繰り広げている憧れの人、もとい想い人を心配するのは金髪の女ことキラである。キラは自分を『絶対に守れ』とドルマゲスから託されたサーベルトの顔を見た。バケツを被ったような形(フルフェイス)の兜である「オリハルコンの仮面」を装備しているサーベルトの顔色は窺い知ることができない。

 

「ああ。ドリィはきっと問題ないさ。さっきもサインを送ってきただろう?アレは確か…スライム語で『私・無事』という意味だったはず。だから大丈夫だ。」

 

「…アレはスライム語ではなく自然語です…。意味は同じですけど。」

 

…窺い知ることはできないが、キラは自分を守る鎧兜の剣士が自分と同程度か、それ以上にドルマゲスを心配していることをよく知っていた。

 

「(きっとサーベルト様は今すぐにでもドルマゲス様を助けに行きたいのでしょう。しかし当のドルマゲス様が私を守れとサーベルト様に命令されているので、サーベルト様は動きたくとも動けないのかもしれません。)」

 

「…」

 

「(もしそうだったら…)」

 

私だって、わたしだって…

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「逃げないでくださいよォ!私が『鬼ごっこ』苦手なこと知ってるくせに!!」

 

「よく知ってるからやってるんです…よっと!」

 

俺は力場が乱れて上も下も分からなくなってしまった空間の中、有り得ない挙動で迫ってくる大魔法の数々をいなしながらユリマに一撃を入れては離れる。いなすといっても、ダメージを押さえているだけで、確実にHPはガリガリと削られている。この後大魔法を一撃でもまともに食らえば一巻の終わりだろう。こんな時こそ冷静に、と俺は自分に言い聞かせた。

 

「痛い!」

 

「全然効いていないように見えますけどね!」

 

「……。…痛いって言ってるじゃないですか?…いくらドルマゲスさんだからって私が何でも許すと思わないでくださいね?」

 

「!!!」

 

俺の足元を中心に蜘蛛の巣のような亀裂が入る。咄嗟に跳びあがって脱出を図ったが俺の足はまるで石のように微動だにしなかった。

 

「足だけに重力を…っ!!」

 

「『メラゾーマ』!燃えて!!!!」

 

「くっ!」

 

俺は眼前で『賢者の見る夢(イデア)』を開き、迫りくる『メラゾーマ』を間一髪で異空間に送った。

 

「だったら…『少女の…」

 

「させないっ!」

 

開いたままの異空間から「ばくだん岩のカケラ」を取り出し、即座に投げる。空気との摩擦で赤熱したばくだん岩のカケラはその性質に従い、ユリマの胸の前で炸裂して燃え上がる。

 

「きゃあっ!!」

 

俺は隙を突いて緩んだ重力から抜け出し、またよろめいたユリマをオリハルコンの棒で刺突した。

 

「ユリマさん、貴方のその魔術…『少女の見る夢(リリィ)』でしたか。あらゆる事象を未然に知り、対応できる最強の後出しジャンケン。無敵に近い素晴らしい能力です。が…無敵に近いと言っても欠点が無いわけではない。」

 

「ゲホッ!はあ…はあ…ふん、本当にそんなものがあるなら言ってみてくださいよ…」

 

「…まず一つ、指で空間を切り取ら(フレームを作ら)なければ未来が見えないこと」

 

俺は弾丸のような速度で飛んでくる岩石を『ザバラーン』でまとめて押し流す。その水流に乗って接近し、また棒をユリマの肩に叩き込む。

 

「あ゛っ!」

 

「…二つ目、緊急時には自動で発生するという『リリィ』、()()()()()()()()()()()、例えばこのような、刃も魔力もないただの棒の攻撃は『リリィ』の致命打の対象に入らないっ!」

 

「っ!『バギクロス』!」

 

「ぐうぅぅっ!!」

 

至近距離で圧縮した『バギクロス』を放たれ、回避できずに俺は咄嗟に右腕で受けた。ギャリギャリと嫌な音を立てながら右腕の肉が削げ落ちていく。

 

「(痛い痛い痛いッッ!!)あああああっっ!!ハアッ!」

 

削られた右腕の骨が見えるか見えないかというところでユリマを突き飛ばし、左手に握りなおした棒を全力で投擲した。しかし彼女の額を狙った棒は紙一重で避けられ、結界にぶつかってポトリと落ちた。

 

「…ふふふ、ど、どうですか!棒を無くしちゃもう形無しですよ!それから…っ!」

 

ユリマは指でフレームを作り、覗き込んだ。『リリィ』は正常に発動し、未来を確認したユリマは口角を上げた。

 

「…ほら、やっぱり…!武器が無くちゃもう…」

 

「三つ目」

 

「え?」

 

「三つ目ですよ。あなたの『少女の見る夢(リリィ)』の欠点の三つ目」

 

俺は人差し指をくいと引いた。右手はもう感覚もないので左手の指だ。

 

「……?」

 

いくら殺傷能力のない棒と言えど、その素材は世界最硬のオリハルコン。何度も殴られれば満身創痍に至るのは不思議なことではない。ユリマは無駄に突っかかってくることはせず、俺の次の言葉を警戒している。

 

「未来が見えるのは指と指の間から覗き込んだ光景のみ。なので『死角』の未来は見えない。」

 

「!!!」

 

「そして、私の最も得意としている呪術は…『念力』です」

 

「ま、まさかっ!!!」

 

ユリマが後ろを振り返った時にはもう遅く、眼前に迫っていた「オリハルコンの棒」が彼女の額にクリーンヒットした。

 

「…っ……!」

 

「どうやら私のことを良く知らないみたいですね、お嬢さん…?一緒に住みたいなら、まずお互いを知るところから始めましょうね。」

 

とさりと崩れ落ち、意識を失った少女を見下ろしながら俺はふうとため息を吐いた。

 

ちょっと、疲れた。

 

 

 

 

そこで俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 





ユリマは脳内でラプソーンが叫び回り暴れ回っているストレスMAXの状態で戦ってます。



「オリハルコンの仮面」:FFシリーズの最硬防具「ガラスのマスク」をイメージしてドルマゲスが作った兜。「はぐれメタル」等の生体細胞である「メタルのカケラ」を「オリハルコン」と錬金しており、尋常ではない耐久力と衝撃吸収性を誇る。勇者たちが王家の山に赴いている間に「はやぶさの剣・改」と共にドルマゲス(分身)から支給された。


『少女の見る夢(リリィ)』:元来予知夢を見る能力を持つユリマが霊力を認識したことによって図らずとも発現した魔術。二つの能力を持つ。
①予知夢の力を指と指の間に限定することでいつでも未来の光景を覗き見ることができる。覗く先の時間を設定することはできないが、その光景が現実化するまでの正確な秒数は頭に入ってくる。あくまで未来の自分の視界を借りているだけなので、全方位を見渡すことはできない。
②自分の命に届きうる危機が向かってきた際、指で空間を切り取らずとも自動で頭に未来の光景が流れ込んでくる。この場合、迫ってくる危機の方向と到達までの秒数も判明するが、致命打にならない攻撃には反応しない。

どんな事象も事前に知ることができるが、確実に回避できるというわけではない。百合(リリー)の花言葉は「純粋」「虚栄心」「呪い」。少女はただ、道化師の役に立ちたいだけだった。




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終章 愛と闇と道化と呪われし町娘 後

書きたいものが書けた。








 

「あっ!」

 

固唾を飲んで勝負の行方を見守っていたサーベルトとキラは、ユリマが倒れたことで一瞬湧いたが、その後すぐにドルマゲスも倒れて結界が消失したことで一気に血の気が引いた。

 

「ドリィ!」「ドルマゲス様!」

 

全速力で駆け寄り、脈を測ろうとしたキラは最早原型をとどめていないドルマゲスの右腕を見て頭を抱えた。

 

「ああ!あああ!ど、どうしましょう!?うで、うでが!!」

 

「落ち着けキラ!呼吸はしてる!心臓は…よし、こっちも大丈夫…意識を失ってはいるが安定している…酷い損傷だが…」

 

「よ、よかったぁ…!」

 

「ああ…!本当によかった…!」

 

キラの目尻に涙が浮かぶ。今まで自分の前で苦戦したドルマゲスの姿を見たことのなかったキラにとって、此度の観戦はあまりに刺激が強かった。トロデーンやベルガラックでドルマゲスと共にラプソーンと激戦を繰り広げたサーベルトにしても、ドルマゲスが倒れた時はもうダメかと思わずにはいられないほどであった。

 

「とにかく『特やくそう』のゼリーを…!」

 

「『ベホマ』を封じた魔法玉はなかったか?」

 

「今は持ち合わせていないです…」

 

「そうか…俺に魔法の才が無かったことをこんなに恨めしく思ったことは無いな…ご先祖様から受け継がれてきた魔法の才能は全てゼシカが持って行ってしまったから…」

 

負担をかけないようにドルマゲスの頭をそっと自分の膝の上に乗せ、磨り潰した「特やくそう」を「スライムゼリー」で包んで嚥下しやすくしたものをドルマゲスの口に流し込んだ。対象に意識が無くても安全かつ確実に回復できるように、とキラが考案して開発した回復薬である。

 

「結局…あの女の人は何者だったんでしょう…?」

 

「アレは暗黒神ラプソーンが憑依した一般女性だ。ドルマゲスとは知り合いのようだが…。俺はベルガラックでも一度戦ったことがある。…不俱戴天の仇であるが暗黒の神を名乗るだけある凶悪な強さだった…。」

 

「不快…。私をそんなのと同じにしないでくださいよ。」

 

「…え?」

 

 

 

静まりかえった遺跡の最奥に吸い込まれていく、キラでもサーベルトでもない3()()()の声。その声の主はもちろん、キラの膝の上で眠っている道化師のものではなかった。

 

「「!!!!!」」

 

「私はわたしです。ですが…そうですか、この杖を手に取ってから頭にガンガン響くこの声の正体が…そのラプ…なんでした?」

 

「ひっ!あっ、ああ…」

 

サーベルトは即座に「はやぶさの剣・改」を抜き、キラとドルマゲスを庇うような位置で構えた。その体勢は「霞の構え」。サーベルトの持つ最高の技『天照神楽(ヒノカミカグラ)』を放つための構えである。

 

「貴様!何故貴様が生きている!先ほどまで確かに…っ!!」

 

「…あはあ、貴方たち()()からは見えなかったんですかね。…ドルマゲスさんはずっと棒一本で私と戦ってたんですよ。最後の一撃は流石に意識がトぶかと思いましたが、あんなのじゃネズミも殺せないです。」

 

「…!」

 

よ、と杖を突いてユリマは立ち上がった。服は破け、肌は爛れ、腫れ上がっているが、その眼は依然として妖しい輝きを衰えさせない。そんなユリマを見てサーベルトは剣を握る手に力を込めた。相手のどんな挙動にも対応できるようにするため…というのは建前で、実際は止まらない震えを抑えようとするためである。

 

「ドルマゲスさんは優しすぎるんですよ……。」

 

「…」

 

ユリマはどこかやりきれないような表情で俯くと、ドルマゲスに視線を合わせて少し微笑んだ。…しかしその顔はドルマゲスの頭がキラの膝の上にあることを認めると途端に不機嫌な表情に戻る。

 

「流石に魔力も身体もガタガタ、とはいえあなたたち二人をめちゃくちゃにすることなんて造作もないですが…」

 

「…ッ!!!」

 

「…ですが、ちょっと興が削がれましたね。」

 

「…それは、どういう…」

 

「ねぇ、お兄さん。お兄さんはドルマゲスさんのこと、どう思ってます?」

 

なぜ今、なぜそんなことを、そもそも相手はドリィを下した敵、こんな悠長に会話していていいのか、などの思考が浮かんだが…僅かゼロコンマ数秒。それらを全て捨て置いてサーベルトは即答した。

 

「ドリィ…ドルマゲスは俺の初めての…最高の友人、親友だ。決して失いたくない、かけがえのない相棒。」

 

その回答で納得したのかしていないのか、ユリマは表情を崩さず今度はキラへ問う。

 

「…。ふぅん…じゃ、そっちのあなた。あなたはドルマゲスさんの何なんですか?男二人に守られて恥ずかしくないんですか?というかそんな貧相な膝にドルマゲスさんの頭を乗せてもしもドルマゲスさんが首を痛めたらどう責任を取るつもりですか?」

 

「………」

 

「…こんなのも答えられないようじゃ──」

 

「わ、私はドルマゲス様の小間使いで、助手でもあります。私を広い世界へと連れ出していただいたドルマゲス様には返しきれない恩があります。私だってずっとお二人に負担をかけてばかりいる自分には呆れているし情けなく思います。だからこれからはそんな不甲斐ないことはないように何か策を考えます。私は確かに肉付きも悪いし色気もないですが……、ですがそれでも貴女にドルマゲス様を託すよりは私の膝の方が10倍、いや100倍安全です。」

 

「……」

 

キラは正座したままの体勢でユリマの朱く輝く左目を、光を失い白く濁る右目を、その両の目を物怖じせずに睨みつけた。

 

「私は…自身の欲望のためにドルマゲス様を…私の憧れの人を(いたずら)に傷つけた貴女を許せません。そこまでドルマゲス様のことを大好きだ、とお慕いしているのに…こんなになるまで傷つける貴女の気持ちは絶対に理解できないし、したくありません。」

 

キラは決してユリマから目を逸らさなかった。弱小な魔物からも逃げまどっていた過去の彼女の姿を知るサーベルトは彼女の成長に、覚悟の強さに僅かながら目を見張る。

 

「………………………」

 

「…。」

 

「……へぇ。言うじゃないですか。私より背も低いくせに、胸もないくせに。魔法も呪術も使えないくせに、戦えすらしないくせに。……私に出来なくて、貴女にできることなんてあります?」

 

キラは大きな深呼吸を一つすると、よく通る声で言い放った。

 

 

 

「私はいつだってドルマゲス様を信じています。」

 

 

 

「……!!!!!!」

 

躊躇なく言い放たれたキラの言葉に、ユリマは一瞬、酷く動揺した。顔が驚愕に、恐怖に、衝撃に歪む。まるで落雷が貫いたかのようにユリマは体をびくんと震わせた。そして何か言い返すこともなく、そのまま後ろを向いてひた、ひたと歩き出す。

 

「待て、どこへ行く…!」

 

「別に。最後のお仕事ですよ、お兄さん。……ほんとは今でもあなたたち二人をペチャンコの肉餅にしたくてしたくてたまらないんですけどね。」

 

「…。」

 

「でも…。あなたたちを傷つけるとあの人が悲しむから。だから、見逃してあげますよ。」

 

ユリマは杖を横一文字に薙ぎ払った。瞬間、サーベルトに、キラに、ドルマゲスに上向きの重力が発生し、天井に張り付けられる。

 

「なっ!?くそ、おい!これは何の真似だ!下ろせ!」

 

「な、なにをするつもりで──」

 

「そこで指をくわえて見ててくださいよ。私はあなたたちより()()()()()()()()()()の応対をしなければならないんです。」

 

さらに天井に張り付けられた三人を紫の繭が包む。外界と遮断され、もう繭の中の声は外のユリマには届かない。

 

「私も入っていた繭です。中は変な水で満たされていて、治癒力を活性化させる効果もあります。少なくともキラちゃん…でしたっけ。あなたの膝なんかより1000倍ドルマゲスさんを癒せますよ。」

 

最早キラにその声は届かないことは分かっていながら、少し対抗してみる。ユリマは闇の遺跡最深部の入口へ向かおうとして……血を吐き、崩れ落ちた。

 

「!?!?ゴボッ…」

 

口から赤黒い血がビチャビチャと滴る。それを拭おうとして、指が思うように動かないことにも気が付いた。

 

「…!」

 

「は……は……なんだ、ドルマゲスさん手加減してたわけじゃなかったんだ……。そりゃあ、ドルマゲスさんだもん。武器に毒を塗り込むことぐらいするよね。」

 

「…」

 

「(指先に痺れ、慢性的な眠気、血液凝固を妨害する毒…)うーん、ふふ。体中にドルマゲスさんを感じる…♡」

 

先の戦いの最中、ユリマはハイになっていた。暗黒神の魔力を借り受けて得た仮初の力に舞い上がり、恩人であるはずのドルマゲスを軽んじ、蔑み、哀れんだ。そんな自分の浅慮さと愚かさに思わず顔が赤くなってしまう。

 

「何が『歯向かってごめんなさい』ですか、『助けに来てくれてありがとう』ですか。助けに来たなんて言っておいてドルマゲスさんを傷つけて…バカみたいですね、私。」

 

そしてユリマの鼓膜にこびりついて離れないのは先ほどのキラの言葉。

 

「(『私はいつでもドルマゲス様を信じています。』……か。)」

 

「(悔しいなぁ。私が誰よりドルマゲスさんを信じていたはずだったのに。悔しいけど…気づかされた。)」

 

「…。」

 

杖をついて立ち上がり、再度佇まいを正すと、ユリマは入口を見据え、それから一度だけ天井の繭に目をやった。

 

「(戦いの最中、偶然見えちゃったもう少し後の未来…もうすぐ来る…)」

 

「……認めますよ。あなたたちはドルマゲス様を『せんのー』なんてしてません。私と同じように、ドルマゲスさんに惹かれて、好きになっちゃったんですよね。……癪ですけど、守ってあげます。謝罪の意味も込めて。」

 

その瞬間、ギギ、ギ…という耳障りな音と共に扉が開いた。そして姿を現したのは……

 

 

 

 

 

 

「ディム!ねぇディム!!いるんでしょ!!返事して!!!」

 

「ゼシカ!ディムはドルマゲスかもしれねぇんだ。気持ちはわかるが……隙は見せるなよ?」

 

赤みがかった栗色の髪の女、長身で銀髪の優男。

 

「!てめェ…『魔王』だな…」

 

「僕らは旅の冒険者です。少し…お話を聞きたいのですが。」

 

ガタイの大きな益荒男、中肉中背の好青年。

 

「誰ですか?あなたたち…私、今忙しいんですが。」

 

「『魔王』…!よくもゲルダを!!!」

 

こちらの問いかけに激高し、飛び掛かってくる男をユリマは『バギマ』で地面に叩き落とす。

 

「(あれ…『バギクロス』を放ったつもりなのに…ちょっと魔力もセーブしないとダメかも…。あとホントに誰なんですかこの人たち)」

 

「ヤンガス!…仕方ない、行くぞ!」

 

「ゼシカ、ディムの行方はあの人が知ってるかもしれない。とりあえず今は!」

 

「ええ、大丈夫よ。…『魔王』見てなさい!震えて動けなかったあの頃の私とは違うのよ!」

 

四人の乱入者(ゆうしゃ)が一斉にユリマへ牙を剥く。

 

 

 

 

 

「(ドルマゲスさん…私、もう間違わないです。絶対にあなたを守りますから。)」

 

最愛の人を守るため、魔王は世界の希望を相手取る。

 

 

 

 

 

 




当初の予定では闇の遺跡編でこの物語を終わらせる予定でした。しかし風呂敷は広がったまま。こんな中途半端な出来では到底納得できないため、もちろん次回からも続きます!これからももう少しお付き合いください!「終章」とあるのは一つの区切りです。


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Chapter24 闇の遺跡地方 ②

何も知らない勇者たち
VS
何も分からないドルマゲス(寝てる)
VS
何も興味がないユリマ

レディ…ファイッ!!








フリーの冒険者ディムの行使した魔法によって魔法の鏡は「太陽のカガミ」となり、その力で闇の遺跡の結界を打ち破った一行。これで『物乞い通りの魔王』や、その後ろで暗躍するトロデーン滅亡の元凶ドルマゲスに大きく近づくことができると希望を滲ませる。しかし闇の遺跡に一歩踏み込んだ瞬間、ディムは謎の力で宙に浮きあがり遺跡の奥へと連れ去られてしまったのだった。

 

 

 

 

「オオーン、オオーン……。何百年も破られることのなかった暗闇の結界がついに破られてしまった…。ここは我らのあがめるラプソーン様の復活の日を願って──」

 

「やっかましいわね!私たちは今それどころじゃないっての!」

 

「──ぁ」

 

闇の遺跡内部を漂う「さまようたましい」を消し飛ばしながらゼシカはズンズン進んでいく。一行はディムを追う形で、闇の遺跡の最奥を目指していた。

 

「ちょっと落ち着いて…もしかしたらここの遺跡の構造にも詳しいかもしれないし、何か有用な話も聞けるかもしれない。でも…心配なのはわかるよ。」

 

「…。」

 

「ん……そ、そうよね…ごめんエイト、ちょっと混乱してた…。」

 

ゼシカは自らの額をぺち、と叩き、はやる気持ちを落ち着かせた。どこまでも続くモノトーンの壁と床は、確かに気が滅入る。ゼシカのように苛立つ気持ちも分からないわけではなかった。そんな中、思いつめた表情をした者がもう一人いた。

 

「──」

 

「…はぁ?ディムがドルマゲス?突然何言い出すんだお前、頭がバカになったか?」

 

「…言い方…いや、今はいいでがす。兄貴も、ゼシカも…ディムがいなくなっちまったこの機に聞いてほしいことがあるでがすよ。」

 

「ん?どうしたの?ヤンガス」「なになに?階段でも見つけた?」

 

「いえね…これからあっしが話す内容は少し…特にゼシカには酷かもしれないでがすが…一旦は黙って聞いてほしいでがす。…ディムの正体について」

 

このパーティの中で唯一ディムを訝しがる者、ヤンガスは闇の遺跡を進みながら、己の持論を語り聞かせた。

 

 

「…というわけで、あっしはディムこそがドルマゲスなんじゃないかと疑っているんでがすよ。」

 

「…」

 

「…なにそれ?くっだらない!ヤンガス、アンタ私を怒らせたいなら素直にそう言いなさいよ!!」

 

動揺を隠せず、一行は思わず足を止めた。エイトとククールは困惑した表情で俯いている。一方、ゼシカは鬼気迫る表情でつかつかとヤンガスに歩み寄り、その分厚い胸倉を掴んだ。

 

「ドルマゲスは…私の兄さんを殺した張本人なのよ。その話はあんたも知ってるでしょ!?私たちに良くしてくれたディムの正体がそのドルマゲスなんて…」

 

「…あっしもこんなことを考える自分がイヤになりそうでがしたよ。でも…ディムが本当にドルマゲスなら、あっしは兄貴に報いるためにもディムをふんじばって尋問しなければならないでがす。」

 

「確かに……ディムが闇の遺跡に行く理由を聞いた時、オレもちょっと違和感を感じたんだ。どうにもとってつけたような…お前の言葉を借りるなら『嘘』の匂いってやつがした。オレもイカサマは大得意だからな、そこらへんは何となくわかるんだ。」

 

「ディムが行く先々の事情を熟知していたのも…それら騒動の元凶がドルマゲスだと仮定すると辻褄が合うね。」

 

「…実際にあっしだってサザンビークでディムが誰かと話しているところを見るまでは微塵も疑ってなかったでがすからね。」

 

ククールもエイトも、思い当たる節はあった。ただ「ディムを疑う」という発想自体が全く頭になかったため、今まで本当に何も感じていなかったのだ。それほどにディムはエイトたちの心身を掌握していた。

 

「ゼシカ…信じてほしいとは言わないでげすが、どうか分かってほしいでがす。あっしは、あっしが嫌われ役になって全員が助かるなら、別にそれでもいい。全員がドルマゲスの手に堕ちる可能性があるんなら、あっしはそれを黙ってみているわけにはいかないんでがすよ。」

 

ゼシカは力なくヤンガスの胸倉から手を放し、後ろを向いた。

 

「……。私だってヤンガスがこんなとこでデタラメを言うような性分してないって…知ってるわよ。でも、でもね。私、ディムのこと気に入ってたのよ。料理も上手で、面白くて、粋で、優しい。そうでしょ?」

 

ヤンガスは黙って頷く。

 

「兄さん…サーベルト兄さんは私のたった一人のきょうだいで、お母さんはいつもあんなだから、ずっと私は兄さんと一緒だったの。そんな兄さんを私がどれだけ慕っていたか、ヤンガスもきっとわかるはず…」

 

暗にゲルダのことを示しているのだろう。ヤンガスは正しくその意図を理解し、顔を顰めた。

 

「ゼシカ。だが…」

 

「うん。ゴメン。もう文句言わないわ。ヤンガスだって『魔王』にゲルダさんを傷つけられてるもんね。子どもだったのは私のほう。真偽はどうあれ、やることは同じでしょう?……行きましょ。ディムを探さなきゃね。」

 

「ゼシカ…」

 

張り詰めた雰囲気が緩み、エイトとククールは息をついた。

 

「…一旦話はまとまったって感じか?じいさんもここにいれば説明の手間が省けたんだがなぁ…」

 

「なるほどの。わしとしても思うところはあるが…ディムを見つけんことにはどうにもならなさそうじゃな。」

 

「…」

 

「「「「おっさんいつの間に!?」」」」

 

「さっきからおったわい!それとエイト、お主さっきわしのことを『おっさん』と呼んだな?聞こえておったからの…」

 

「すっすみませんでした!つい…」

 

「…まあいいわい。じゃっ、わしは馬車で待っておるからな!…とと、何のために危険を冒してこんなところに来たのか忘れるところじゃったわい。」

 

本当にいつの間に近くまで来ていたのか分からないトロデは、エイトに十字架を模した大振りな剣を手渡した。

 

「これは?」

 

「お主らが遺跡に入ったあとすぐに錬金が終わったのでな、持ってきたのじゃ、『ゾンビバスター』。陰気な遺跡の魔物どもに天誅を下してやるのじゃぞ!」

 

「王様、ありがとうございます!」

 

エイトが頭を下げると、トロデは手を振って反対方向へと戻っていった。

 

「…じいさん一人で大丈夫なのか?オレたち結構奥の方まで来ちまったが…」

 

「おっさんは魔物でがすから他の魔物にも狙われないんじゃないでがすかね。知らないでがすけど。」

 

「王様は意外と武闘派だから大丈夫だよ。それよりも…」

 

「ええ、行きましょう!ディムを探しに!『魔王』を倒しに!!」

 

元気とやる気を取り戻したゼシカに続いてエイトたちも先に進むことを決めた。

 

 

 

「(…ん?『サーベルト』はゼシカの兄だったんでがすか…ディムも同じ名を口にしていたような…?)」

 

ヤンガスはちらりとゼシカを見た。手に持った杖で「エビルスピリッツ」をボコボコに叩きのめしている。

 

「(…また拗れても面倒でがす。黙っておくことにしやしょう…)」

 

ゼシカの兄への感情の重さを考えると、ヤンガスがこの時サーベルトのことを黙っていたのは賢明な判断だったと言えるだろう。新たな武器も手にした一行は、遺跡内の魔物を蹴散らしながら進軍していった。

 

 

「オオーン、オオーン…しばらく前、ラプソーン様のお力を感じたのだ。まさかラプソーン様はここをお通りになったというのか?」

 

「知らないわよそんなの。それよりアンタ、この先に随分面倒そうな仕掛けが見えるじゃない?…あれの答えのルート教えてよ。私たち急いでるの。」

 

「オオーン…さては貴様、神殿を汚しに来た異教徒だな?異教徒と話すことなど何もない…」

 

「ククール、お願い」

 

「へいへい…『ベホイミ』」

 

闇の遺跡の中腹、異教徒を阻む大迷宮を前に、ゼシカは一体のたましいに目を付けた。こういう時のゼシカの頭(悪知恵)のキレは流石のククールも感心するしかない。聖なる祈りが亡者の魂にまとわりついて少しずつ浄化され、魂の輪郭はみるみるうちに小さくなっていった。

 

「オオオオーン!!!やめろっ!昇天してしまうっ!」

 

「じゃあ教えてくれるわよね?」

 

「オ、オオーン…悪魔か…?」

 

「悪魔を信仰してるやつが何言ってんだか。」

 

ククールは肩を竦めた。一行は「さまようたましい」に(脅して)道案内をしてもらい、レバーを操作して足場を上下させる迷宮を最速で駆け抜けた。

 

「なかなか厳重な作りになっているんだね…僕たちだけじゃ結構時間がかかったかもしれない…。」

 

「案内役さまさまでげすな。わざと正解の宝箱を間違えて「ミミック」と戦わされたときは殺意が湧いたでがすが。」

 

ここは闇の遺跡の地下二階層。厄介なギミックなどはなく、壁一面に巨大な壁画が描かれている大広間である。壁画を目にした瞬間、ククールに抱えられている「さまようたましい」が歓喜の声を上げた。

 

「オオーン!生ある者よ、見よ!あの壁画を!!」

 

「なっ、なんだいきなり?」

 

「壁画…というとアレのことでがすかね。」

 

ヤンガスが指さした先にある大きな壁画には、凶悪な形相をした一体の魔物が、無数の魔物を引き連れているという、お世辞にも趣味の良いものとは言えない絵画だった。

 

「あの壁画こそ、世に暗黒をもたらすために戦われたラプソーン様の勇姿を描いたものである。」

 

「(ディムはその名も口にしていたでがすな…)そのラプソーンってのは何者なんでがすか?」

 

「オオーン、痴れ者が…!異教徒がラプソーン様の名を軽々しく口に出すな…!」

 

そう言いながらもやはりラプソーンへの畏敬は隠し切れないのか、「さまようたましい」は口早に語り始めた。

 

「かつて闇の世界の調律者であるラプソーン様は、分断された光の世界と闇の世界を一つに融合させて暗黒の世界を作るため、我らに従わない者どもの屍で大地を埋め尽くそうとなされたのだ。数百年前の竜神族との戦いにも勝利し、光の世界の征服は目前…というところで…オオーン…ラプソーン様は憎き鳥レティスと配下の賢者たちによって封印されてしまった…」

 

「さまようたましい」は力なく俯いた…実体がないのでそう見えるだけであるが。

 

「…僕たちが生まれるよりずっと前の話みたいだね。」

 

「オオーン、オオーン……この奥にラプソーン様を祀る暗黒の祭壇があるぞよ。」

 

「ってことはそこがディムの言っていた『最深部』か?」

 

「十中八九そうでがすね。てことは案内はここまでで良さそうでがす。」

 

「…だってよ。ここまで案内してくれた手前、悪いと思わないでもないが、オレは聖職者なんでな。迷える魂は天に導くように言われてんだ。」

 

「私の魔法で消し飛ばされるよりは有情でしょ?」

 

「……オオーン…ラプソーン様は今も世界のどこかで復活に向けて動いている…いつか貴様らのような異教徒を踏み潰し、この世界を暗黒に染め上げてくださるだろう…──」

 

「さまようたましい」は呪詛の言葉を吐きながらククールの手によって昇天させられ、消え去った。

 

「さ、早くいこうぜ。その暗黒の祭壇とやらに。」

 

さらに進むと、先ほどとは違う絵が描かれた円形の部屋へ到達したが、隠し通路の壁が破壊されたのか、素通りできるようになっていた。尚も襲い来る「トロル」や「しにがみきぞく」「ブラッドマミー」「なぞの神官」を下し、ついに祭壇へ続く扉へと辿り着いた。

 

「ここが…」

 

「ああ、おそらくここが『暗黒の祭壇』、ディムの言っていた最深部だ。」

 

「「…」」

 

「たましい達が口にしてた『暗黒神ラプソーン』ってのも気にかかるけど、今は『魔王』に集中しよう。多分ディムを連れて行ったのも『魔王』だと思う。」

 

「兄貴の言う通りでげす。ここいらの魔物も驚異的な強さだったでがすが…」

 

「そうだな。あの時の『魔王』に比べちゃ全然大したことなかった。仮に『魔王』を倒せても、この中の誰かが永久に帰らぬ人になってるかもしれないぜ。」

 

「やめてよククール…縁起悪いなぁもう…」

 

「ううっ…あっしはみんなのことを一生忘れねぇでげすよ…」

 

「ヤンガスも同意するのやめてよね。まるで私たちのうちだれか死ぬみたいじゃない!みんなで生きて帰ってくるのよ!」

 

重厚な扉を前にして緊張していた全員の心がふっと軽くなる。ヤンガスがおどけてみせたせいだが、それは仲間のためを思っての行動だということはみんな分かっていた。

 

「いよいよ正念場だね…行くよ!」

 

エイトが先導し、全員で扉を押して開いた。

 

 

「ディム!ねぇディム!!いるんでしょ!!返事して!!!」

 

「ゼシカ!ディムはドルマゲスかもしれねぇんだ。気持ちはわかるが……隙は見せるなよ?」

 

部屋に入ると真っ先にゼシカはディムを探し始め、ククールはそんなゼシカに警戒を促す。闇の遺跡の最深部、暗黒の祭壇は道中よりも暗く広い場所だった。蝋燭の明かりだけが部屋を照らし、生温かい風がエイトたちの頬を通り抜ける。目を凝らしてよく見ると部屋のいたるところに破壊跡が確認できた。

 

「(明らかに老朽化のひびじゃない…ここで誰かが戦っていたのか…?)」

 

そして部屋の中央、最も暗くなっている場所に人影を認めた。人より眼の良いヤンガスはその正体に一目で感付く。

 

「てめェ…『魔王』だな…」

 

人間の可能性もある相手、よく考えれば自分たちは『魔王』と意思の疎通を図ったことは無い。相手がこちらの存在に気づき、エイトはダメ元で尋ねてみる。

 

「僕らは旅の冒険者です。少し…お話を聞きたいのですが。」

 

しかし相手は少し首をひねると、あなたたちのことは知らないと答えた。それに憤ったのはヤンガスだ。

 

知らない…だと?こっちはダチがてめェの世話になってんだぜ…『魔王』…!よくもゲルダを!!!」

 

激高したヤンガスをエイトは止めることができず、ヤンガスは『魔王』に飛び掛かって「かぶとわり」を放とうとする。しかし相手は強烈な風を発生させてヤンガスを地面に叩きつけた。

 

「ぐおっ……」

 

「ヤンガス!…仕方ない、行くぞ!」

 

ヤンガスをサポートすべく、ククールが飛び出した。やはり戦いは避けられないかとエイトは肩を落とすが、すぐに気を取り直して部屋中を見回してディムを探しているゼシカにも開戦を促す。

 

「ゼシカ、ディムの行方はあの人が知ってるかもしれない。とりあえず今は!」

 

「ええ、大丈夫よ。…『魔王』見てなさい!震えて動けなかったあの頃の私とは違うのよ!」

 

ゼシカは杖を構え、エイトは剣を抜き、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点(ほとんど全部)

・ヤンガスが語る。
ヤンガスがディムを疑い始めたのはChapter22から、確信したのはChapter23から。エイトとククールは「そう言われてみれば…!」と言う感じ。ゼシカは大丈夫だと言っていたが実はまだちょっと混乱中。ドルマゲスの良い面(自分や村の子どもたちと遊んでくれた)を知っているのがゼシカだけなのも混乱に拍車をかけている。

・道中でトロデが来る。
錬金が完了したのでわざわざ届けに来てくれた上に面倒な話を二回もする手間が省けた。用が済んだらさっさと安全なところへ退散、有能極まりない王である。

・迷宮スキップ。(プレイヤーはできない)
先を急ぐ勇者たちによって捉えられた「さまようたましい」によって面倒なギミックを無視して進むことができた。暗黒神を信仰する闇の手先なので、ちょっと可哀想だが、最期は昇天させられてしまった。ちなみにレティスの翼にレーザーを当てて焼くことで道が開けるみみっちい嫌がらせのギミックもあったが、そっちは例の女に破壊された。

・ドルマゲスがいない。(最重要)
「原作との相違点」シリーズで一番重要な相違点。厳密にはいるにはいるのだが、ゼシカの兄とアスカンタの魔物使いと共に天井に張り付けられて眠っている。代わりに変な女がドルマゲスの位置に居座っている。



エイト
レベル:28→29

ヤンガス
レベル:28→29

ゼシカ
レベル:28→29

ククール
レベル:29→30(ベホマラー習得)

原作ドルマゲスとならなんっとか戦えるかな…?って感じ。(間接的に)ドルマゲスに貰った「しあわせの耳飾り」さまさまです。

闇の遺跡って明るすぎると思うんですよね。いくら暗闇の結界が破壊されたと言ってもあの鏡には「海竜」一匹分の魔力しかこもってないし。なので本作ではかなり薄暗い設定にしてあります。なので勇者たちが天井に張り付けられたドルマゲス達に気づくことはありません。…さて、次回が闇の遺跡編のラストになります!乞うご期待!!


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Chapter25 闇の遺跡地方 ③

ドルマゲス「なんでこの子こんな強いんだ…?」

ラプソーン「なんでこの女こんな強いんだ…?」

ドルマゲス&ラプソーン『(絶対暗黒デブ(哀れな道化)のせいだ…!)』

(◍|◡|◍)「愛ですよ愛」








闇の遺跡を探索しながら、冒険者ディムの正体にも迫りつつある一行。とにもかくにもディム本人を探さないことには始まらないため、ディムの言葉を信じて最深部へ向かうことで合意したエイトたちは、闇の遺跡最深部『暗黒の祭壇』で仇敵『物乞い通りの魔王』と邂逅する。攻撃を仕掛けたヤンガスが叩き落とされたことを皮切りに決戦の火蓋は切られたのだった。

 

 

 

 

「ちぃっ!なんて魔法出力…ッ!おいお前ら!できるだけ攻撃は回避してくれ!無理そうなら攻撃のスパンを空けろ!じゃねぇと回復がとても追いつかねぇ!」

 

「…これでも全力じゃないんですよ?」

 

「『魔王』こっちよ!これでも食らいなさい!『メラゾーマ』!!」

 

魔王の背後に回ったゼシカが特大の豪火球を放つ。魔王は自分に迫る火球を一瞥もせず、ため息をついて魔法を詠唱した。『メラゾーマ』と魔王の火球がぶつかり合ってかき消える。

 

「観えてますよ…」

 

「(わっけわかんない!なんで私の『メラゾーマ』を『メラミ』で相殺できるの!?死角から攻撃してるのに気取られてるし!)ヤンガス!交代お願い!!」

 

「がってんでがす!兄貴!!」

 

「うん!やってみるよ!トーポ!」

 

エイトは魔王の杖から放たれる氷塊を最小限の動きで避けると、「フバフバチーズ」をトーポに食べさせ、()()()()()()息を吐き出させた。粘性のある煙幕が魔王を包む。

 

「げっほげほ!なにこの、煙…?」

 

その隙にヤンガスは「しのびばしり」で音を消し、魔王の背後からオノを振りかぶって跳びあがった。煙幕の中でも相手の位置を捕捉できるのは「とうぞくのはな」のなせる業である。

 

「(…取った!)」

 

「!…そんな物騒な攻撃だと観えるんですって。わかんないかなあ。」

 

「!?」

 

ヤンガス渾身の「蒼天魔斬」は魔王の持った杖で横から薙ぎ払われたことで軌道が逸れ、虚しく空を切った。着地後の隙を魔王は見逃さず、ヤンガスの体内を起点に『イオラ』を詠唱する。程なくして鈍い音と共にヤンガスは突っ伏して倒れた。口からは黒煙が漏れ出している。

 

「が…は…」

 

「ヤンガス!」

 

ヤンガスの危機に飛び込んだエイトの『ベホイミ』がギリギリで間に合い、なんとかヤンガスは一命を取り留めたようだが、一方、その後ろで何が起こったのかを理解したゼシカは全身が粟立つのを感じた。爆発呪文の真骨頂、収縮と発散によって「イオ」系呪文は広範囲を攻撃することができる。魔王はその爆発の起点座標をヤンガスの体内に設定し、発生する衝撃を余すところなく伝えたのだ。常人の域を逸しているレベルに到達した肉体を持つヤンガスでなければ、今ごろ肉の花火が打ちあがっていたことだろう。

 

「なんて恐ろしい発想をするヤツなの…!」

 

「あ、兄…貴…!」

 

「くっ、内臓のダメージは僕の回復呪文じゃカバーしきれない!ククール!」

 

「任せとけ!今のオレなら内臓のダメージも癒せる!」

 

颯爽と戻ってくるククールだが、その額には冷や汗が浮かんでいる。かつてパルミド地方で魔王に内臓を傷つけられたゲルダを癒せなかった屈辱から、隙を見ては鍛錬していた臓器の回復だが、まさかこうも早く披露することになるとは。

 

「あんま無茶すんな…とは言えねぇがよ…」

 

「わ、わかってるでがす…すまねぇククール…」

 

「謝んな。…さ、治ったし行くぞ。前線がゼシカとエイトじゃすぐに突破される。」

 

 

そして前線、ククールに並ぶパーティーの頭脳(ブレイン)・エイトはある違和感を感じていた。攻撃が当たらないのだ。それも不自然に。ヤンガスとククールが復帰するまで積極的な攻撃は控えるようにゼシカに伝えると、バックステップで重力魔法の範囲外まで距離を取る。

 

「(攻撃が当たらないのは避けられるから…いや、『避けられる』というより『既に避けられている』…?)」

 

「(でもどうやって?…いや…相手の能力は分からないけど、何度かダメージは与えてる。突破口はある!)」

 

エイトは煙幕が晴れ、ヤンガスとククールが復帰するのを確認すると同時に駆けだした。そして相手に自分の位置をあえて知らせるため、かつ意識を自分に多く割かせるために大声で叫ぶ。

 

「ゼシカ!!『控えめ』に!」

 

「(…!やってみろってことね…信じるわ!)」

 

「うおおおおっ!」

 

エイトはそのまま「ゾンビバスター」を振りかぶり、魔王に「かえんぎり」を発動させた。燃え上がる十字の剣が、薄暗い暗黒の祭壇を照らし出す。

 

「…私、男の人ってだけでもう好きじゃないんですけど、学ばない人はもっと嫌いなんですよね(…?未来が頭に流れてこなかった…声で分かったけど)」

 

まあとにかくこの男は迎撃して終わり。魔王がそう思いながら『ライデイン』を詠唱すると、エイトは大上段の構えを即座に防御に変更し、剣で雷撃を逸らした。しかし衝撃は剣を通してびりびりと伝わり、エイトは後ろに吹っ飛ばされる。

 

「(…未来が観えなかったのは最初から攻撃する気はなかったから…!?)」

 

「(でもなんっ──)」

 

その瞬間、魔王の腰に氷柱が激突する。

 

()ッ──!」

 

「あ、当たった…の?」

 

エイトの「控えめに」という言葉通り、限界まで出力をセーブした『ヒャド』を放ったゼシカだが、攻撃が今回初めて当たったことには本人が一番驚いていた。

 

「…やっぱり!みんな聞いて!相手は何故か分からないけど強い攻撃が当たらない!でも弱い攻撃なら当たる!呪文は初級、攻撃は峰打ち、手数を多めに!そして『いのちだいじに』!」

 

普段のエイトからは想像も出来ないほどの声量、そして早口だが、その意図は確かに仲間たちに伝わった。

 

「「「了解!!」」」

 

各々武器を持ち換え、吹き飛んで転がっていくエイトを庇うように仲間たちが一斉に飛び出した。

 

 

 

 

「…へえ。考えなしに突っ込んできたってわけじゃなかったんですね。でも『一人で』『もっと奥まで』気付いたドルマゲスさんには遠く及ばない」

 

「あなたはドルマゲスの何を知っているんだ!」

 

ユリマと赤いバンダナの男が鍔競り合う。鍔競り合いと言っても方や「神鳥の杖」、方や「鉄のヤリ」である。なるほど、こんな弱い武器では『少女の見る夢(リリィ)』は発動しない。ユリマは内心で舌打ちをした。

 

「(ドルマゲスさんには気付いてほしかったけど、別に誰彼構わず看破されたいわけじゃなかったんですよね…。)」

 

我ながらめんどくさい女。ユリマは自分の厄介さを十分理解している。しかしその信念を曲げるつもりなど毛頭ない。

 

「(まあいいか。『未来』が見えてることまで見抜かれたのはドルマゲスさんだけ。それでいい。)」

 

「何を知ってるか?…何を知っているんでしょうね。昔は全部知ってるつもりでしたけど、今はもうわかりません。…あとドルマゲス『さん』ですよ。次呼び捨てにしたら潰しますから。」

 

「…!」

 

バンダナの男はヤリが弾かれるとすぐに下がり、続いて三連棍を持った大柄な男が前に出てきた。

 

「あんたは何者だ!何が目的でゲルダの船を奪った!」

 

「ゲルダ…ああ、船を譲ってもらった。とても良い船だったと伝えておいてください」

 

「ふざけるな!!」

 

男は慣れた手つきでヌンチャクを振り回し、ユリマはその切っ先を何度か喰らってしまった。「くさりがま」の鎌部分を潰しただけの即席三連棍にしては中々の練度をしている。

 

「ゔ…ゴホッ!…ハァ…いい船はいい船だったんですよ。あなた、ゲルダさんの宝物を侮辱する気ですか?…あと私、あなたみたいな野蛮な殿方がいっちばん苦手なんですよ。近づかないでくだ…っさい!」

 

「ぬおっ!」

 

ユリマは自分の肩にめり込んだヌンチャクの先を掴み、杖で勢いをつけて男の腹にドロップキックを食らわせて吹き飛ばし、ダメ押しで『メラミ』を打ち込んだ。しかし、『メラミ』は男の元へ到達する直前で男のオノの「なぎはらい」で霧散する。

 

「へ…二度も喰らうかよ…」

 

「…!」

 

間髪入れずユリマの視界に火球が映る。身体を逸らせて回避すると、呪文の発射元に目を向けた。

 

「よそ見なんて随分と余裕じゃない…!」

 

「生憎目は二つしかないんですよね。流石、4人がかりで女の子1人を叩く人たちは目の付け所が違う」

 

ムチを装備した女は矢継ぎ早に呪文を放ちながら距離を詰めてくる。ユリマは飛んできた魔法を全て『ベタン』で下に落とし、槍のように杖を突き出した。狙いはもちろん女の額である。

 

「取っ…ゴフッ…!」

 

「あっ…ぶないわね!!」

 

ユリマの突き出した杖が女の眼前に迫った時、ユリマは腹部に強い痛みを感じて血反吐を吐き、攻撃がわずかに逸れてしまった。溶解性の毒だ。ドルマゲスによって打ち込まれた毒は着実にユリマの体力と判断力を奪っている。

 

「ここなら届くわ!」

 

女の放つ「双竜打ち」でユリマはこの戦い初めてのクリーンヒットを貰う。女の持つ武器は「ヘビ皮のムチ」。ヒモにヘビ皮を巻いただけの簡素な武器は当然『リリィ』の対象にはならない。

 

「いっったいなぁ!!私はですね、虐めるのも虐められるのも趣味じゃないんですよ!!男の人も苦手ですけど女の人はもっと嫌いです!()()()の近くをうろつかないで!!」

 

「何普通気取ってんの、あんたなんか十分アブノーマルよ!…ディムをどこへやったの!!」

 

そんな人知りませんよというセリフと一緒にユリマは女の顔に口内に残っていた血液を吐きかけ、相手の視界を遮る。

 

「あっ!…な、目が…」

 

「そんなにそのディムって人が好きならどこへなりと行って結婚すればいいじゃないですか!!今だって三人も男を侍らせてるくせに、なんでドルマゲスさんを狙うんですか!!!この…」

 

ユリマは続く言葉を慌てて飲み込む。年頃の女性が下品なことを言うものではない、とドルマゲスならきっとそう言って窘めるだろう。ユリマは女の足を重力で固定し、杖を全力で振り抜いた。しかし、杖のフルスイングは女の腹にめり込むことなく、長身の男によって防がれる。

 

「ククール?なの?ありがと!」

 

「(重…!)目潰しされてるのか?下がって治療してもらえ!ふくろに水が入ってたはずだ!」

 

「次から次へと…」

 

長身の男が持つのは「兵士の剣」。刃部分が潰されているのか、こちらも殺傷能力がない。本当に面倒だと内心で悪態をつくユリマだが、リーチの長い長身の男の攻撃をいなし続けるうちに悪態をつく余裕すら失われていった。

 

「ディムが、ドルマゲスがここにいるなら会わせてくれ。オレたちはあんたを殺したいわけじゃない。」

 

「最初に手を出してきたのはそちらなんですが?……あとドルマゲスさんに近寄る蠅は全部退治する、というのは決定事項です。今の私にはそれしかないから…もしかしてあなたたちもドルマゲスさんが好きなんです?」

 

右手を『バギ』で硬化し、左手に持った杖と共に長身の男の剣戟を弾くが、相手もかなりの手練れ、やはり何回かは攻撃を喰らってしまう。

 

「…?いや全然。ドルマゲスはトロデーンを滅ぼした張本人だろ?」

 

「…」

 

ユリマは上からと下からの重力で長身の男を挟み込んで動きを止め、氷結呪文『ヒャダルコ』を食らわせる。

 

「ぐああっ!」

 

「…呼び捨て厳禁…あなたみたいなのを見ると、よっぽどあのお兄さんやキラちゃんの方がマシだと思っちゃいますね」

 

さらにもう一発『ヒャダルコ』を打ち込もうとして、頭に『未来』の映像が流れ込んだため即座に回避する。その瞬間先程まで自分がいた場所に雷光が迸った。赤いバンダナの男の『ライデイン』だ。

 

「忌まわしいですね…本当に…!!」

 

 

 

 

小さな攻撃を繰り返し放っては距離を取り、十数秒単位で前衛と後衛がスイッチし、休みなく攻撃を続けてくる勇者たち。何度か呪文を当てて戦線を離脱させたものの、蘇生呪文やナントカのチーズだなんてふざけたアイテムでまた舞い戻ってくる。そして今度は同じ手が通用しなかった。勇者たちはこの死んだそばから復活して適応していく戦法をベルガラックの地獄(ゾンビアタック)と呼んでいるのだが、ユリマにとってはそんなことは知ったことではない。攻撃自体は大したことないのだが、手数が多いため指で空間を切り取る必要がある『少女の見る夢(リリィ)』を発動する余裕がなく、加えてドルマゲス戦での蓄積ダメージ、疲労、マヒ・眠気・猛毒(ドルマゲスさんの置き土産)。魔力体力も枯渇寸前、あらゆる要素がユリマを追い詰めていた。それでも彼女が立つのはひとえに「愛する人を守るため」────。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

 

「『魔王』、なんてタフ…!」

 

 

「でも…あと一息でがす…!」

 

 

しかし、どんな高尚な想いも、行動原理も、敵わないものがある。魔王は悪で、勇者は正義。いつだって闇は光に祓われ、悪は正義に打ち滅ぼされる。ユリマはついに膝をつき、立ち上がることも叶わなくなる。

 

 

「ヤンガス!『魔王』はもう攻撃を避けられないわ!決めて!!」

 

 

「任せろ!う、おおおおおっ!!」

 

 

「(…ああ、ここで終わりですか)」

 

 

「(チッ、(われ)が力を貸してやった小娘もここまでか、つまらん。…まあよい、『準備』は終わった。宿の肉体が消滅して暗黒の力が霧散する前に全て回収させてもらうぞ)」

 

 

身体中の暗黒が全て杖へと凝縮され、すっかり闇のオーラが消えうせたユリマの視界の中でオノを振りかぶる男の姿がスローに映る。

 

 

「(ドルマゲスさん、こんな人たちや、暗黒神なんかに負けないで、どうか無事でいて)」

 

 

嗚呼、愛は正義と違って必ず勝つとは限らない。()()()()()()だと決まっている。ユリマだってそんなことは知っている。知っているが…では今ユリマの頬を伝う涙を呼び起こした感情の名はなんと呼べばよいのか?

 

 

「(ああ、もっと遊びたかったなあ。もっといろんな服を着て、いろんなところへ行って、いろんなものを食べて…あなたと一緒に。)」

 

 

「…。ドルマゲスさん。ずっとずっと、大好きです」

 

 

而して、無慈悲にもオノは振り下ろされ、ユリマは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この世界には『()()()()()()』に中指を立てて生きることを決めた特異点がいた。月の世界の管理人に『星の筋書きを乱す者』と呼ばれた男がいた。悪の権化である暗黒神と真っ向から対立し、正義の使者である勇者に嘘をつきながら自由に行動する道化師がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤンガスの会心の一撃が炸裂し、土埃が宙を舞う。

 

「やった…のか…?」

 

「ヤンガス!」

 

「兄貴!手ごたえがないでがす!避けられた!!」

 

「なっ!?」

 

「そんな!?一体どこに…」

 

再度一箇所に集結し、周囲を油断なく警戒するエイトたち。そんな彼らの後ろに『彼』はいた。

 

「ユリマ、俺の為に……」

 

砂埃舞う『暗黒の祭壇』。しかしそのシルエットは確かに──

 

「「「「ディム!?」」」」

 

尋ね人を発見し、喜色満面で驚きの声をあげるエイトたちだが、その視線はすぐに腕の中に抱えられた『魔王』に集中する。

 

「『魔王』!?ディムが…なんで!?」

 

「ディム!そいつから離れて!危ないわ!!」

 

「そいつから離れろディム!引導を渡してやるでがす!」

 

絶対にここで仕留めておかないと、後でどう化けるかわからない。相手が人間だろうとそうでなかろうと不安要素はここで潰さねばならない。手を汚すのは元々後ろ暗い過去を持つ自分でなければならない。そんな思いがヤンガスを突き動かし、ほとんど衝動的にオノを持って飛び掛かった。MPの限界を超えて放つ「蒼天魔斬」である。しかしヤンガスのオノの一撃は煙の中から現れた仮面の剣士によって防がれた。そしてもう一人、小柄な少女も現れる。薄暗く、砂も舞っているせいか顔は良く見えない。

 

「なっ…なんだてめぇは!!」

 

「…」

 

「…アインス」

 

ディムの呼びかけに応じてアインスと呼ばれた仮面の剣士はヤンガスの攻撃を悠々と弾き、ついにはオノを奪い取って羽交い絞めにした。その動きに目を奪われたのはゼシカだ。ゼシカは、この仮面の剣士の一連の身体運びに確かに覚えがあった。

 

「!?!?!?に…兄…さ…!?」

 

「すみません…『ラリホーマ』」

 

「な…ぅ…ぐぅ」

 

「!?ヤンガス!!」

 

仮面の剣士は眠りに落ちたヤンガスをゆっくりとその場に横たえた。ゼシカは放心状態のままへたり込み、残ったのはククール、そしてエイト。思慮深い性格をしている二人は飛び掛かってくるようなことはせず、こちらの出方を窺っている。しかし最早ディムを歓迎するような雰囲気ではなかった。

 

「…お前、ディム…やっぱり騙していやがったのか…」

 

「君がドルマゲスだったんだね…」

 

「…」

 

「何とか言えよ!おい!オレたちを騙して遊んで楽しかったか!?…オレはなあ!お前の料理、好きだったんだぜ!ゼシカも、ヤンガスもだ!お前のことを心底可愛がってた!全部嘘だって言うのかよ!!」

 

「…ディムがサザンビークで姫を一瞬でも元の姿に戻してくれた時、僕はあの時の姫の笑顔をずっと忘れない。君が何を考えてそんなことをしたのかは計り知れないけど…今のこんな状況でも、僕は君に感謝してるんだ。だから、だからこそ、すごく残念だよ。すごく…」

 

「…」

 

ククールは柄にもなく感情をむき出しにして吠え、エイトは俯いた。ディムもまた、辛そうな表情で…しかし下を向くことはなく、真っ直ぐ二人の目を見た。

 

「…隠し事をしていたことは、ごめんなさい。でも…騙していたつもりはありません。本当です」

 

その時、ディムの腕の中の『魔王』が苦しそうに小さく呻いた。

 

「…急がないと。キラ、アインス、手を」

 

アインスは黙ってディムの肩に手を置き、もう一人の少女は両腕を広げてディムに抱き着いた。嗚咽が聞こえてくるところをみると、少女は泣いているようだ。ディムは一瞬困惑したような表情を見せたが、すぐに優しい微笑みで少女を抱き寄せ、再度エイトたちを見据えた。

 

「エイトさん、ククールさん、ヤンガスさん、ゼシカさんも。いつかまた会いましょう」

 

「おい!待てよ!おい!!!」

 

「ディム…」

 

「兄さ…ん…ディム…わたしを…おいていかないで……」

 

『リレミト』の言葉と共にディムたちは光に包まれて消え、後には立ち尽くす勇者たちと、持ち主を失った『神鳥の杖』のみが残された。『暗黒の祭壇』には生温かい風が変わらず吹き込んでいた。

 

 

 

 

 

 




「フバフバチーズ」:トーポの大好物であるチーズの一種。「ふつうのチーズ」と「まほうのせいすい」を錬金して作ることができ、使用すると味方全体にブレス・火炎・氷結系のダメージを軽減する『フバーハ』の効果がある。今回は煙幕として使用。奇しくもユリマに『フバーハ』がかかり火炎・氷結属性に耐性ができたせいで、ゼシカの放つ『メラ』や『ヒャド』がユリマの『少女の見る夢』の危険判定から外れるようになった。



原作との相違点

・戦闘終了後、ディムを筆頭とした謎の一団が突然現れてユリマを連れ去っていく。
1ミリも原作にないシーン。しかし終わってみると大体原作と同じような状況になっている。『神鳥の杖』を回収し忘れたのはドルマゲス最大のガバであるが、運命の収束の働きによるものなのである意味必然のガバである。

エイト
レベル:29→30

ヤンガス
レベル:29→30

ゼシカ
レベル:29→30

ククール
レベル:30     ※倒してないけど撃破はしたので経験値はもらえる



ここで一区切りです。(一区切りなのに最後めちゃくちゃ曇っちゃったよ~!)この先のプロットは全然ないのですが、それはこれまでもそうだったので大丈夫です。しかしこれから、第一話から最新話まで読み返して多少文章を追加したり、設定を確認したりする作業に入るので、次回はちょっとだけ時期が開くと思います(多分2週間後くらい)。ではまたお会いしましょう!…あ、幕間は近日中に書こうと思ってます。


エイト→曇る

ヤンガス→わかってたけどやっぱり曇る

ゼシカ→今一番情緒が不安定な上に曇る

ククール→実はパーティー内で一番ディム離脱が精神的に堪えてるし曇る

ドルマゲス→自分のせいで多くの人が傷ついて曇る

サーベルト→折角ゼシカに会えたのに喋れなくて辛いし、ゼシカを苦しめてしまって曇る

キラ→ドルマゲスが無事に目覚めて嬉しい

ユリマ→意識はないけど今幸せな気がする

ラプソーン→誰か拾え~拾ってくれ~



そういや評価してないや…って方・いつも感想言ってないけど折角の区切りだし…と思っている方!評価・感想いつでもお待ちしています!では!!!


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番外編 ライラス氏の優雅なる療養生活

ガチで存在忘れられてそうなおじいちゃんのためにおまけです。








コツ…コツ…

 

ライラスの療養室の前の廊下を誰かが歩く靴音がする。

 

「…」

 

ぺた…ぺた…

 

もう一つ、療養室の前を誰かが歩く足音?がする。

 

「……」

 

ウジュルルル、グジュルルル…

 

さらにもう一つ、療養室の前を誰かが歩く?音がする。

 

「……!」

 

3つの足音はライラスの療養室の前を通り過ぎたかと思うとまた引き返し、しばらくすると踵を返してまた通り過ぎようとする。要はドアの前をうろついているのだ。ベッドの上のライラスは無視を決め込んで研究日誌を書き込もうとするが、どうも頭に入らない。

 

コツ…コツ…

ペタ…ペタ…

ウジュルルル、グジュルルル…

 

「…ッ!!うるっさいぞさっきから!用があるなら入ってこんか!!」

 

ライラスが我慢できずに怒鳴り散らすと、ドアが勢い良く開いて三体の魔物が転がり込んできた。「ホークマン」「パプリカン」「マドハンド」。三体とも人間を脅かす凶悪な魔物である。しかし三体はライラスを襲いに来たわけではなく…。

 

「入る時はドアをノックせんか!お前たちは『マナー』の講義も受けてないのか!!」

 

「「すっ、すみません!」」

 

ホークマンは美しい角度で完璧な謝罪の礼をし、一頭身のパプリカンは地面に突っ伏すような形で平伏した。言葉を発せないマドハンドは謝罪のジェスチャーを取る。

 

「ふん、もうよいわ…して、要件はなんじゃ?わしは忙しいのだ。」

 

「あのぅ、ライラス客員教授…今朝の実験のことなんですけど…」

 

実験と聞くと、途端に険しかったライラスの眉は上がる。実験と研究はライラスのライフワークにして最高の趣味。多少の無礼など実験結果の前には些事なのだ。

 

「ほう!もう実験は終了したのか!今朝というと…」

 

「…」

 

ライラスは手にした研究日誌をパラパラとめくった。ただでさえびっしりと書き込まれているページには膨大な量のメモや付箋が貼付してある。その内容は世界を三度ひっくり返すほどのとんでもない大発明のアイデアが大量に書き込んであるのだが、難解過ぎてライラス本人にしか読み解けないというある意味での機密文書である。三体の魔物たちはその傍らで気まずそうに縮こまっていた。

 

「『仮想錬金釜による黄金の生成』か。ドルマゲスの提案ではあるが、わしも気になっていた実験ではないか。お前たちが担当だったのか、よくやったな。…さて、報告書はどこだ?」

 

「…」

 

「…何だ?どうした」

 

怪訝な表情になったライラスを見て、ホークマンは滝のような冷や汗を流し、パプリカンは呼吸が浅くなる。マドハンドなどもう中指の第二関節ほどまで地中に埋まってしまっていた。

 

「そ…その…今朝の実験のことですが…」

 

「なんだ、煮え切らないな。…失敗したか?失敗など気にするな。失敗は成功の基とも言う。失敗程度でわしがお前たちを叱責すると思ったか?」

 

マドハンドは喋れないのをいいことにホークマンを急かすように小突いた。

 

「(コイツ(マドハンド)あとで絶対ボコす…)ら、ライラス客員教授…実験なのですが…作業中に研究員が…い、居眠りをし!」

 

瞬間、療養室の温度が3℃ほど下がった。…正確にはライラスの顔色が急変したので魔物たちの血の気が引いて体温が下がったのだが。

 

「…適切なプロセスを踏めなかったばかりかッ!と、当該研究員は叱責を恐れて責任者に報告を行わず…!」

 

「……続けろ」

 

この時、パプリカンは自分が二体で一体の魔物であることに心底安心感を感じたという。地獄に行っても俺たちは一人ぼっちではない…と。

 

「け、結果としてぇ!仮想錬金釜は暴走を起こし消失、錬金実験は錬金釜消失後も継続されたため、空間の過度な収縮により虚数空間が16秒間出現…当該研究員は既に避難済みだったのですが…あ、「あーむど」実験サンプル1~7と試作自律戦闘人形(プロトオートマター)5号機、3㎏分の複製オリハルコン、そしてそれら全ての実験報告書が虚数空間に飲み込まれ…完全に、しょ、消失しました…」

 

「……」

 

「……っ」

 

「…居眠りをした研究員は何人だ、どこにいる」

 

「今は懲戒委員会に…!さ、3体です!申し訳ございませんでしたぁっ!」

 

「2分以内にそいつらを連れてこい。お前たちは全データを復旧して1日で実験前の状態に戻せ。何が何でもだ。できなければ…」

 

「「はい!失礼しましたぁ!」」

 

光のような速度で療養室を後にする魔物たち。2分後、同室から地獄の窯の蓋を開けたかのような絶叫が聞こえてきたのは言うまでもない。

 

 

大魔法使いマスター・ライラスはトラペッタに一軒家を構える魔法研究者にして賢者の末裔である。かつてトロデーンでの戦いでラプソーン操る自分の弟子によって腹に風穴を空けられ確かに絶命したが、月日が経ち、ライラスは弟子・ドルマゲスの手によって現世に舞い戻ったのだ。実の弟子によって殺され、生き返らせられたというわけである。「死を自覚していなかったこと」と「迷える魂の止まり木」が偶然かちあったことが原因だと弟子は述べていたが…ここらへんは要検証。ライラスは自分の知らないことをそのままにしておくことに我慢ができない性分であった。

 

何はともあれ、復活──ドルマゲス的に言わせると「反魂」なのだが──を果たしたライラス。とはいえ長時間にわたって冷凍保存されていた自分の肉体は思うように動かすことができず、復活後はしばらく寝たきりの毎日であった。しかし転んでもただでは起きないライラスは、動けない時間を使って頭に溢れる抽象的な研究のアイデアを実像化してまとめあげ、身体が動かせるようになった瞬間から大量のプロジェクトを進行させ始め、今に至る。

 

ここはU.S.A.。「モグラのアジト」のもつ広大な領地に目を付けたドルマゲスによってアスカンタ王パヴァンから割譲され、地下に巨大な実験施設と商業施設を建設したドルマゲス達の拠点である。地上には荒野が広がるのみであるが、その実、地下には世界一の大国サザンビークの王城がすっぽり入るほどの領域が広がっている。ここで生活する魔物はドルマゲスとその部下によって厳しい規律と美味しいご飯で管理されており、人間を襲うような種はいない。よってU.S.A.は事実上世界で最も安全な場所であり、ライラスも安心して療養することができたのだ。

 

 

「ふう…全く、睡眠時間は十分にくれてやっとると言うのにその時間で遊び惚けておるから居眠りなぞするのだ。ドルマゲスが魔物用に改良して広めた『すろっと』や『びんご』などというチャラついた遊戯にも問題があるのではないか?」

 

「しかしライラス客員教授、遊戯室の開放によって従業員たちのストレスレベルが低下したのは事実でして…」

 

「…」

 

ライラスは少し言葉に詰まり、無意識に手で顎をさする。

 

「…まあ、あやつの考えることが間違っていることは稀だ。わしの言うことは年寄りの戯言だと思って気にするな。」

 

ライラスの隣で歩きながら老人の愚痴に付き合ってあげているのは「ホーク3」。四つある研究部門の内の3つ目、考古錬金学部門(レッドチーム)を担当する責任者(くろうにん)の「ホークマン」である。現在ライラスとホーク3は地上にある実験サイトへ向かうため、地下3階層から伸びる架空昇道(エレベイター)に乗っていた。

 

「…所長、ドルマゲス所長はライラス客員教授のお弟子様なのですよね。所長からは『師匠の言うことは私の命令よりも優先させなさい』と従業員全体に仰せつかっているのですが…」

 

「…うーむ、あやつめ…」

 

困惑したような表情のホーク3につられてか、ライラスもばつの悪そうな表情になる。そもそもライラスは言葉にこそしていないが、ドルマゲスは自分を超えていると認めている。魔法の才はもちろん、こういった組織の経営力や戦闘力に至るまで、自分ではもはや敵うまいとまで思っているのだ。研究者としても自分と同等かそれに近い発想力や企画力を有していると思っている。そしてここは彼の創立した組織。ライラスは、少なくとも実験の関係しない場所では他人の領域でデカい顔をするほど図太い精神をしていなかった。

 

「ドルマゲスはわしのことを崇拝しすぎだ。わしとて『客員』の研究者、ここではあやつが一番偉い事には変わりあるまい」

 

「…左様でございますか」

 

架空昇道は地上に到着し、実験サイトで作業を行っていた魔物たちはこちらを確認すると慌てて報告書を準備し始めた。

 

「チーフ、客員教授、お疲れ様です。こちらが報告書です。」

 

「うむ…」

 

ライラスは報告書を受け取ると、重要事項のみを人間離れした速さで頭に入れた。

 

「なるほど…実験はほぼ成功だが、完成には至っていないと」

 

「はい…我々も分量を調節したり、成分や周囲の環境を変えてみたりしたのですが結果は振るわず…」

 

そう言いながら白衣を身にまとった「ウィッチレディ」が差し出したのは試験管に入った無色の液体。しかし試験管から放たれるその仄かな輝きには、膨大な魔力が渦巻いていることはこの場の全員が理解していた。ライラスはその試験管を受け取り、注意深く観察する。

 

「(魔素の流れは磁場に沿って一定…マデュライト鉱石も視認できないレベルまで分解され、かつ安定…保管状況も問題なし…)ホーク3、もう一度成分表を」

 

「はい、こちらに」

 

ライラスは試験管に入っている成分表と試験管を見比べつつ…突然拍子抜けしたように、ほ、と息をついた。

 

「何だ、これでは生体への順応性がほぼゼロではないか。誰か、『命のきのみ』の抽出エキスを持ってきてくれ」

 

「ブラッドハンド」がライラスにエキスの入った注射器を手渡すと、ライラスは手動でエキスを注入しようとしたので、ホーク3は思わずそれを咎める。

 

「きゃ、客員教授!数ミリ単位の作業ですので、一度移し替えた方が…」

 

「阿呆が、老い先短い研究者がそんな悠長なことをやっていられるか。わしがどれだけ魔法の研究に携わってきていると思っている、これしきの作業、眠っていてもできる」

 

そうしてライラスがエキスを試験管に滴下すると、液体が蒼く発光し始めた。

 

「おおっ!これは!予測と同じ…!」

 

「……やれやれ…やっとか。苦節数年、ようやく完成した。…ドルマゲスよ、あの時は失敗作を服用させて悪かった。今度は完璧だぞ。」

 

実験の成功に湧く実験サイト。その成功の瞬間を見届けたライラスは、今はここにいない弟子へ思いを馳せた。そのライラスの背中を見つめるのはホーク3。その顔には、どこか感心と納得の表情が浮かんでいる。

 

「(頑固ジジイだが信頼できる人…なるほど、所長の言う通りだ。…今確信した。所長のアレは決して過大評価などではなかった)」

 

ライラスが満足げに眺めている液体の名は「真・大魔聖水」。かつてドルマゲスやユリマが口にした「大魔聖水」の完成版にして、生死の狭間を彷徨っているユリマを此岸へ引き戻し得る唯一の手段である。

 

 

 

 

 

 




ライラスおじいちゃんはかっけーんだぞーってところを見せたかったです。
原作でも、不器用なだけで真面目で優しい人ってところは描写されていますからね。(すぐ原作ドルマゲスに殺されたけど…)あくまで一軒家で何かと不便だったであろうトラペッタと違い、USAには広大な実験場、あらゆる資材と潤沢な人手・資金があるためライラスの考えるようなことは何でもできます。まさに地上の楽園と言えるでしょう。

とにかくライラスもこれで完全復活!次章からドルマゲス陣営へ参戦します!

ああ、そういえばスレ民の中にライラスをバウムレンと一緒に成仏させてしまった方がちらほら見られましたね…。一体どうなってしまうのでしょうか…。


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幕間:(閲覧自由) 美食道化師の諸国たべある記Ⅳ

【閲覧注意】
この話には一部グロテスクな表現が含まれます。
本編とは関連していないので読み飛ばしていただき、同日投稿の番外編をお楽しみください。


こんなみょうちきりんなコーナーも今回ではや四回目ですね。いやはや…
実際私自身も食の探究心は旺盛な方で、電車に揺られて一時間行った場所に行きつけの珍味料理店があります。この前はそこでトカゲのフライ、その前はカンガルーの腸を食しました。双方とも結構なお手前でした。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本棚から一冊の本を手に取ったあなたは内容を読んでみた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶり。美味しく食べるキミが好き、美味しく食べる自分も好き、なしがない道化師です。……「食わず嫌い」という性質を持つ人間というものはどんな時代にも一定数いますよね。私に言わせてみればなんと人生を損しているのか、と苦言を呈したいところです。常識というエゴに囚われない食事は新しい味覚や文化を知る機会、成長や学びの機会を与え、異なる文化や背景を持つ人々との交流を豊かにし、自己成長や性向を促す柔軟性を手に入れることができ、親しい人々との関係を築くこともできる──一方!「食わず嫌い」であることでそれら全ての可能性は閉ざされるのです!

 

 

 

…ま、こんな本(ゲテモノ)を開いている時点で「食わず嫌い」ではないのでしょうけどね。それではどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サザンビーク国領・西

 

・ウドラー

不気味な色をしているが仲間を大切にしている心優しい大木の魔物。単体で現れた際はこっちからちょっかいを出さない限り襲ってくることは無い。スモークチップにする場合、まず青臭くならないように皮を剥き、鉈や鋸で使いやすい大きさへ削っていく。その後適当な入れ物に入れて風通しの良いところで数日乾燥させれば完成。サクラチップのような香りのする良質なチップになる。臭いの強い「しましまキャット」の肉などと相性が良い。

 

・鉄のさそり

サソリには可食部が少ないので(肉の詰まった「おおさそり」は除く)揚げ物にして殻ごと食べるのが主流であるが、この種は外殻が本当に鉄でできているため食べられない。神経系を破壊したのち蒸留酒に漬け込んで薬酒にするとよい。破傷風、ひきつけ、筋肉痛、頭痛に効果があるとかないとか。酒に漬けてもなお少し鉄臭い。

 

・どくどくゾンビ

普通に考えて食えるわけがない。やんなきゃよかった。

 

・スカルライダー

骨の魔獣と共に行動しているのは悪魔の剣士。悪魔は味が悪いので食べるにしろ「せいすい」と料理酒で良く煮込むこと。一方、骨魔獣の方は油壷にぶち込んで数時間揚げるとスナック感覚でつまめるおやつになり、これが結構おいしい。塩を振って食べよう。

 

・ヘルコンドル

強制転移呪文「バシルーラ」や「ベホマラー」が面倒なのでさっさと倒すのも手。とはいえ魔物の中では珍しいゲテモノではない食材の姿をした魔物なので余裕があれば狙ってみると良い。首を落として血抜きをし、羽を毟って皮の表面を炙る。薄いそぎ切りにして、おろした生姜やにんにく、「ヌーク草」と和えて鳥刺しに。甘めの醤油が一番美味い。

 

・ランドゲーロ

人面サイドは切除しておく。皮をはいで剥き身にし、脚の付け根を切り離す。骨を引っ張ってチューリップチキンの形状にしておき、そこに塩や「上やくそう」を細切れにしたものを振りかけてそのままソテーに。それか味の淡白さを活かした料理にするとよい。

 

・マージリンリン

×物質系の魔物は食べられない種が多くて困る。

 

・ガーゴイル

ツノを折って煮詰めると出汁が出るが、別に特段美味しいわけではない。細身なので可食部も少なく、骨も多い。羽を切り離して風通しの良いところで半日ほど乾燥させると炒めたキャベツのような食感になる。色合いは悪いが料理のアクセントに添えるくらいなら○。

 

・ドルイド

【削除済み】

 

・バーサーカー

別にわざわざ食べたいと思う味ではない。普通に戦闘力が高いので手斧を奪い取るか足を破壊して機動力を奪ってから集中攻撃すること。

 

・大王イカ

ザ・海の幸。「きつけ草」と「エビラ」の肉があれば何でも作れる。赤唐辛子とにんにくとレモンでエスニック風炒めにするもよし、パスタとアサリとトマトソースでペスカトーレにするもよし、「ジョロの実」とオイスターソースでサザンビーク風炒めにしてもおいしい。ゲソもミミもワタまで全て美味しいまさにイカの大王。

 

サザンビーク国領・東

 

・ダンビラムーチョ

幅広の刃物「だんびら」を振り回す物騒な魔物。その肉は脂身だらけでとても食べられたものではないが、肉を料理ではなく「脂」として使うなら話は別。鍋に脂身と水を入れて中火にかけ、肉がそぼろになって脂と分離したら濾して冷やすと非常に上質なラードが出来上がる。「ダンビラムーチョ」のラードで作った揚げ物は独特の風味がついてどんな素材でも絶品になる。

 

・アークバッファロー

牛肉に似ているが、牛肉よりももっと低脂肪・低カロリー・低コレストロール。なお、「あばれうしどり」の亜種ではあるがあまり鶏肉の特徴は見られない。肉はやや甘く、あっさりしていて生臭くないのでステーキかジャーキーにして素材の味を楽しむのが○。

 

・グール

× 過去の反省を活かして挑戦を断念。

 

・キラーアーマー

中身は空洞なので魔力鋼を精製する以外に使い道は無いが、放置しておくと無限に「ベホマスライム」を呼び出すのでデザートには事欠かない。「ベホマスライム」の調理法は前巻参照。

 

・スライムベホマズン

全身から芳醇なマスカットの香りを漂わせている巨大なスライム。スライム種は身を攪拌してソーダで割り、カクテルにして飲むのが一般的であるが、「キングスライム」や「スライムベホマズン」は自重で崩壊しないように身が少し丈夫になっているためそのままかぶりつくこともできる。味はそのままマスカットゼリー。大抵の場合食べきる前に全回復されるので足りなくなることは無い。

 

・エリミネーター

【削除済み】

 

・メイジキメラ

通常の「キメラ」より魔力が高いので魔素を抜く作業が面倒になる。味は原種と変わらないので特に「メイジキメラ」だけを狙う必要性は無い。一方で原種よりもグルメで死肉を口にすることが滅多にないため、肉を食して中毒を起こす可能性は低い。

 

・エビルドライブ

骨の魔物に乗ったすばやさの高い魔族の剣士。ややこしいが「スカルライダー」に乗っている剣士は悪魔で、こちらは魔族である。加えて乗り物は「レッサーデーモン」の骨であり、長時間揚げていると溶けてなくなってしまう。剣士の方はワタを鍋で煮こむと美味しい。

 

・さつじんイカリ

×

 

・だいおうキッズ

ゲソを刺身にし、頭は輪切りにしてガーリック醤油炒めに。目玉がプチプチとした食感で楽しい。もう一つ面白い食べ方を考案したのだが、同行者の女性に趣味が悪すぎるとドン引きされたのでここでは割愛する。

 

・マッドロブスター

元は「ウミザリガニ」と呼ばれる食用のエビで、一般家庭でも好んで食されていた。野生化してからは見向きもされなくなってしまったが、味は変わらず濃厚で繊細。エビチリとして料理してもチリソースに「マッドロブスター」本体の味が負けないのでオススメ。

 

・オクトセントリー

上半身は雑味が多く食べづらいが、タコ足の方は身が詰まっていて美味しい。「まんげつ草」とアンチョビ、フルーツトマト、オリーブでプロヴァンス風、素材が足りないなら醤油、みりん、酒、砂糖でタコのやわらか煮にするのもアリ。

 

・ギャオース

船を襲うため船乗りから恐れられている海の竜種。炎と冷気のブレスを吐き出す器官があるため、捌くときは細心の注意が必要。一般的なトカゲ肉よりも白身魚に味が近い。寄生虫が心配なので植物性の油でカラッとフライにして抹茶塩で食べよう。

 

王家の山

 

・マッスルアニマル

筋肉自慢の魔獣。脳筋かと思いきや「マヒャド」を連発してくるなど意外と頭脳派なところもある。肉は堅すぎてとてもじゃないが食べられない。ジャーキーにしても臭みが取れないので見かけたら無視が安定。

 

・バトルレックス

巨大なハルバードを構える竜種。筋力の高さはもちろん身のこなしも軽く、ブレスも吐いてきて王家の山の中ではかなりの脅威。しかし肉は上質、らしい。私はバトルレックスに恩があるため、食したことは無いのです。味が気になるみなさんは是非バトルレックスの味を確かめてみてください。

 

・オークキング

通常の「オーク」よりもしっとりむっちりした食感の肉が特徴。ミンチにして「アークバッファロー」との合い挽き肉で作ったハンバーグの絶品なことといったら!私の同行者は二人とも涙を流していました。おすすめの割合は「アークバッファロー」:「オークキング」=7:3で作ること。門外不出でお願いしますね。

 

・アルゴリザード

体内から希少な鉱石が取れるため強欲な商人に狩りつくされ、絶滅の危機に追いやられているトカゲ。流石に種の存続にかかわるので食べていません。「ジョロの実」ばかりを食べているので肉は臭みがなくサッパリしている…んじゃないでしょうか?

 

北西の孤島

 

・きめんどうし

「メダパニ」を唱え、冒険者が同士討ちをする様を見て嗤う邪悪な魔導士。ゼラチン状の皮はブヨブヨでとてもじゃないが食用には向かない。十数時間煮込むことで「魔物の香水」の原料になることは分かったが、かといってそこまで労力をかける必要性も感じない。

 

・死霊の騎士

×

 

・マージマタンゴ

旅人を氷漬けにして養分にしようと目論むキノコの魔物。「おばけきのこ」や「マタンゴ」と違ってこの種が優秀なのは中毒性がないこと。いくら食べても問題ないのが嬉しい。先端部を薄くスライスし、火で炙った後昆布出汁に通してキノコの刺身に。残った部分はブロック状に切り分けて、「大王イカ」「マッドロブスター」「ふつうのチーズ」でシーフードグラタンにすると無駄なく美味しい。

 

・レッサーデーモン

地の底から這い出てきた地獄の悪魔。痩せこけていて可食部は少なく、肉はパサパサ、内臓も食感が悪く、翼は退化しており、皮は生臭い。食用としての価値はない。倒した後放っておくと死体が「エビルドライブ」の乗り物として復活するので死体は入念に破壊しておくこと。

 

闇の遺跡

 

・ブラッドマミー

誰のものとも知れない血に染まった「マミー」。せっかくきれいな状態で埋葬されていたにもかかわらず血まみれで復活してしまったため食用価値が無くなってしまった。厄介な感染症を移される前に遠距離攻撃で完封すること。

 

・ソードファントム

暗黒デブへの生贄に自ら志願したアホ教徒の残穢。霊体なので一般人には捕食は不可能。「ぼうれいけんし」同様、先に倒すなら剣を狙い、長期戦が予想されるならマントを集中攻撃すると良い。

 

・しにがみきぞく

魔獣のロバに乗って駆け回る外道の貴族。死神だが一丁前の誇りを持ち合わせており、ただの魔物と構えていると不可解な行動に面食らわされる。貴族の方はただの骨なので食べられないが、ロバの魔獣は普通に食べられる。ロバは「湯かけ」という調理法が良く知られているが、命を狙ってくる敵とはいえ流石に残酷すぎるので、絶命させてから「湯かけ」を行う。熱湯だけでは臭みを取ることはできないので、「わかめ王子」が余っていればチュウカスープを作り、そこにロバ肉を十数秒潜らせ、消臭効果のある「いやし草」で巻いて食べる。通常の馬肉よりも上質な甘みと柔らかさがたまらない。

 

・エビルスピリッツ

おぞましい魂が集まった集合体。霊子が圧縮されているので実体がある。棒でよく叩いて伸ばし、衣をつけて天麩羅にする。雑味が強いので、カレー塩で食べるか、「アモールの水」で作った天つゆに潜らせていただく。サクサクフニフニの食感が意外と癖になる。辛くて苦い、まるで人生のような味がする。

 

・なぞの神官

【削除済み】

 

・トロル

痛恨の一撃で山をも砕くと言われる魔物。「ダンビラムーチョ」と同じく脂身が多いが、あちらと違ってこの種はかなりの偏食家なので肉も臭いしマズい上にラードにもならない。というか元々臭いし汚らしいし強いので近寄らないのが吉である。

 

 

 

以降、詳しい調理の手順などが記載されている…あなたは気分が悪くなり本を閉じた。

 

 

 

 




「そうだ!『だいおうキッズ』を【削除済み】しながら【削除済み】するのはどうでしょうか?」

「…!……!」

「ドリィ、キラが引きすぎて言葉を失ってるぞ」

「そうですか?【削除済み】するのも中々風流で趣深いと思ったのですが…」

「………!!!」

「流石に冒涜的すぎるぞ…あと気絶したキラはドリィが責任をもって看病してくれ」




マンネリ化を防ぐためにできるだけ色違いの魔物でも別の食べ方を模索していますが…難しいですね。


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幕間:(閲覧自由) ドラクエ新作をみんなで一緒に実況するスレpart4 前編

賛否両論巻き起こるスレ回。今回も楽しく実況していきます。

閲覧自由です。作品の世界観を損なう可能性があるため、メタフィクション的世界観が苦手な方はこの回を無視して同日投稿の番外編をお楽しみください。








1:名無しクエストⅧ(主)

さあ、やろうか

 

 

2:名無しクエストⅧ

おついっち

元気?

 

 

3:名無しクエストⅧ(主)

もちろん!はよ続きやりたくてウズウズだよ!!

 

 

4:名無しクエストⅧ

スレ立て乙

 

 

5:名無しクエストⅧ

捕捉:ここは「ドラゴンクエストⅧ」のリアルタイム実況スレです。

・誰でも参加オッケーだけどネタバレは控えてね。

・作品そのものに対する評価はファンスレ・アンチスレで。

ドラゴンクエストⅧファンスレ15

http://⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

ドラゴンクエストⅧアンチスレ9

http://⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 

 

6:名無しクエストⅧ(主)

>>5

前回も今回もありがとう!

 

 

7:名無しクエストⅧ(主)

「しあわせの耳飾り」貰ってから結構レベルも苦労せず上がるようになったし、今作はそこまで苦戦という苦戦はしたことないよな。このままずっとこんな緩い感じなのか?

 

 

8:名無しクエストⅧ

イッチばっかコメしとるから過疎ってんのかと思ったけど、これただイッチがずっと喋ってるだけか

 

 

9:名無しクエストⅧ

>>7

イッチ君!剣士像の洞窟に行こう!!!

 

 

10:名無しクエストⅧ

>>7

エスパーダェ…

 

 

11:名無しクエストⅧ

>>8,9

あ、忘れてた。そうだ、行こうと思えば挑めるんだったな。フリーダンジョン。

 

 

12:まとめⅧ

剣士像の洞窟・ベルガラック・願いの丘に分岐

剣士像の洞窟勢とベルガラック勢は女盗賊ゲルダの船返却→トラペッタ(任意)→トロデーン→アスカンタ→トロデーン→船入手

願いの丘勢はそのままアスカンタに戻って船入手

前回は船入手まで進んで終わりましたね。

 

 

13:名無しクエストⅧ

サンキューまとめ

 

 

14:名無しクエストⅧ

サンマ

 

 

15:名無しクエストⅧ

マイエラ修道院→アスカンタ直行ワイ、パルミドも剣士像の洞窟もベルガラックもトロデーンも何も知らないまま船を入手してしまう

 

16:名無しクエストⅧ

月の世界の住民…誰だっけかアイツもアスカンタ直行ルートで願いの丘登って会うと驚かれるんだよな

「星の筋書きが狂っているようだ」みたいなこと言う

 

 

17:名無しクエストⅧ

>>16

ヘチマウリ

 

 

18:名無しクエストⅧ

>>16

イスマルイ

 

 

19:名無しクエストⅧ

>>16

イスマーイール

 

 

20:名無しクエストⅧ

>>16

マジレスするとイシュマウリな。それにしても何なんだろうアイツは?ムーブがもう上位存在なんだけど。

 

 

21:名無しクエストⅧ

もしかしてルビス様とか関係ある?

 

 

22:名無しクエストⅧ(主)

よし、人集まってきたし始めるぜ!

 

 

23:名無しクエストⅧ

おはイッチ

今日も早いな

 

 

24:名無しクエストⅧ

ギリセーフぽい?

 

 

25:名無しクエストⅧ

>>24

ぽいぽいぽぽい

 

 

26:名無しクエストⅧ

えーと、船を手に入れたけど闇の遺跡には結界が張ってあって入れないから、結界を破るチカラがある鏡を持ってるサザンビークに行くんやんな?

 

 

27:名無しクエストⅧ

そそ。でもほんとに結界なんてあんの?俺ディムと会うイベント逃してる勢だからイマイチコイツのこと信用してないんだけど。

 

 

28:名無しクエストⅧ

>>27

ワイもそう思って先に北西の孤島行ったんやが、確かに結界もあったし入れんかったわ。そこらへんに嘘はないっぽいな。

 

 

29:名無しクエストⅧ

そういえば最初にポルトリンクからマイエラ地方に船で渡った時、途中に城っぽい建物見えたの誰か覚えてる?急いでるっぽいディムには悪いけど今そこ向かってる。

 

 

30:名無しクエストⅧ

オッスオッス

 

 

31:名無しクエストⅧ(主)

ベルガラック町長ギャリングの家に結界張って『物乞い通りの魔王』から護った疑惑がドルマゲスにはあるんだよな。ドルマゲスが善人だとしたら先代勇者=ドルマゲスって筋も十分にあり得る。

 

 

32:名無しクエストⅧ

前回確かちぃかわ(なんか血ぃ出てるかわいそうなやつ)とドルマゲスがグルになってる派とちぃかわがドルマゲスから杖奪って暴れてる派に分かれてたよな。お前らその後どうなん?

 

 

33:名無しクエストⅧ

>>32

どうって言われてもな。今のとこ平行線だろ。俺はそもそも杖が本体でドルマゲスとちぃかわは操られてる派の者だし。

 

 

34:名無しクエストⅧ

トラペッタ経由せずにトロデーン行って船イベ見てるやつもおるやろうから一応言うとくけど、ドルマゲスとちぃかわは過去に接点があることが分かってるからドルマゲス≠ちぃかわやし二人は全く知らない仲ではないんやで

 

 

35:名無しクエストⅧ

>>34

はえーそうやったんかサンガツ

 

 

36:名無しクエストⅧ

>>11

イッチも剣士像の洞窟クリアして「たべある記」読もうや

 

 

37:名無しクエストⅧ

ラパンハウスのイベントでキラーパンサーの霊と一緒に成仏したオッサンの詳細まだ誰も分からんの?あれから結構進めたけど何の音沙汰も無くて逆に心配なんだが

 

 

38:名無しクエストⅧ

>>37

わかんねー。でもこれで本編に今後登場しなかったら伝説になるだろwww

 

 

39:名無しクエストⅧ(主)

ディムの言ってた「海の魔物の狂暴化」が起こってるから海でも魔物が出るんだな。現にベルガラック周辺と北西の孤島周辺しか魔物とエンカしないとこを見ると魔王、もとい杖はベルガラックからまっすぐ北西の孤島に向かったらしいな。

 

 

40:名無しクエストⅧ

>>29

あの城でちいさなメダル交換してくれるみたいやな。ただ今作ちいさなメダル少なすぎて大したものはもらえんっぽいけど

 

 

41:名無しクエストⅧ

ハァハァ……お、王女様…そ、そのあみタイツは王女様のおさがりですよね…?お、王女様の匂いがします…(*´Д`)

 

 

42:名無しクエストⅧ

>>41

おまわりさんこっちです

 

 

43:名無しクエストⅧ

>>41

キッショ

なんでわかるんだよ

 

 

44:名無しクエストⅧ

前回アスカンタでセキュリティサービス殺しまくったアホ以外は普通に買い物できてるんだよな。今んとこ主人公勢の最強武器は

主人公:きせきのつるぎ・レプリカ

ヤンガス:キングアックス・レプリカ

ゼシカ:バスターウィップ・レプリカ

ククール:きせきのつるぎ・レプリカ

って感じ?

 

 

45:名無しクエストⅧ

>>44

単純攻撃力はな

きせきのつるぎ・レプリカは守備力下がるし、キングアックス・レプリカは素早さ下がる。バスターウィップ・レプリカなんか呪文使えんくなるからな。適材適所だと思うぞ

 

 

46:名無しクエストⅧ

>>45

そうそう

ゼシカは錬金釜で作るマグマの杖あたりが妥当なんじゃないかな。ククールは弓装備のプロト・ビッグボウガンが多分一番強い。強いんだけどな…

 

 

47:名無しクエストⅧ

値段たけーんだよ、法外に。

きせきのつるぎ・レプリカでさえ40000Gでひいひい言ってるのに、キングアックス・レプリカで45000G。プロト・ビッグボウガンなんか70000Gだぜ?とんだぼったくりですよぼったくり。買うにしても頑張って一つ、良くても二つまでだと思う。

 

 

48:名無しクエストⅧ

(ボウガン二つで)14万!?は~つっかえ!

 

 

49:名無しクエストⅧ

パルミドの闇商人のとこでコツコツゴールド貯めてないと…いや貯めてたってキツイよ

 

 

50:名無しクエストⅧ

ちなバスターウィップ・レプリカ60000G…もうこれベルガラックのカジノでグリンガムのムチ狙った方が早いまである

 

 

51:名無しクエストⅧ

ファッ!?

 

 

52:名無しクエストⅧ

えっ

 

 

53:名無しクエストⅧ

【悲報】ディム、先代勇者で確定

 

 

54:名無しクエストⅧ

主人公以外でルーラ使える奴見るの初めてだわ

 

 

55:名無しクエストⅧ

なになに?何が起きてん?

 

 

56:名無しクエストⅧ

>>55

サザンビーク地方に船止めたらイベント始まった。ディムが主人公たちを出迎えてくれたんだけど、そのあとルーラで一瞬でサザンビーク城まで転移しやがった

 

 

57:名無しクエストⅧ(主)

これはアツいな。>>53も言ってた通り、先代勇者説はディムが濃厚か?

 

 

58:ゼシカすきです

ぜしあkくぁいい(定期)

 

 

59:名無しクエストⅧ

>>58

一周回ってコイツ好きになってきたわ

あと定期にするなら誤字るな

 

 

60:名無しクエストⅧ(主)

この世界でもルーラはだいぶ珍しい呪文扱いっぽいな。そんな中主人公以外で唯一ルーラを使えるのがディム…と

 

 

61:名無しクエストⅧ

まあ一般人はキメラのつばさで事足りるしな

あとククールもルーラ覚えられるのには触れない方向で行く感じか?

 

 

62:名無しクエストⅧ

ファファッ!?!?

 

 

63:名無しクエストⅧ

も~わけわかんない

 

 

64:名無しクエストⅧ

【悲報】ディム、有能すぎる

 

 

65:名無しクエストⅧ

今度はなんだってんだよ

 

 

66:名無しクエストⅧ

ディムが姫の呪い解いた

 

~ドラゴンクエストⅧ 完~

 

 

67:名無しクエストⅧ

ん?雲行き怪しくなってきたな。呪い解くのって呪いかけるより難しいイメージある。だいぶその呪いについて精通してないと解呪なんてできないのでは?

 

 

68:名無しクエストⅧ

うーんこの

 

 

69:名無しクエストⅧ(主)

かなり気になるが、ミーティア姫が可愛いから許そうかな

 

 

70:名無しクエストⅧ

おいイッチ気を確かに持て!確かにミーティア姫は可愛いが…可愛いなぁ…可愛い

一人称がミーティアなのもギャップでいい

 

 

71:名無しクエストⅧ

守りたいこの笑顔

あとドルマゲスはぶっとばす

 

 

72:ゼシカすきです

ゼシカの方が…かわいい?

 

 

73:名無しクエストⅧ

>>72

ちょっと揺れてんじゃねぇよ

 

 

74:名無しクエストⅧ

ミーティアおかわわわわわわ!!!!!!

 

え?てか馬の時ってほとんど服着てないよな…あっ

 

 

75:名無しクエストⅧ

>>74

通報した

 

 

76:名無しクエストⅧ

美しき哉親子愛。トロデも本当に娘が好きなんだなって分かる。いらんこともよくするけど、特に主人公や仲間の言うことを否定したりはしないし、歴代の王族の中ではかなり上澄みに入るよね

 

 

77:名無しクエストⅧ

おっさんも心は人間ってことなんでがすね

 

 

78:名無しクエストⅧ

ヤンガスもこのスレを見ています。

 

 

79:名無しクエストⅧ

ふしぎなサプリか。大丈夫?合法?

 

 

80:名無しクエストⅧ

まあ間違いなく脱法ではあるだろうな。こんな劇薬。誰も直し方分からない呪いを一時的にも解けるんだから。

 

 

81:名無しクエストⅧ

トロデは実はもとからこんなんでしたーはある意味予想してた。まあこんな感じだろなと。

 

 

82:ボス解説Ⅷ

ボスじゃないけど解説するね。

ふしぎなサプリ(消費アイテム):使うとどんな呪いでも強制的に解除する錠剤。しかしドルマゲスによってかけられた呪いは数分すると再発してしまう。

姫に使うか仲間に使うか選択でき(トロデを選択すると遠慮される)、姫に使うとしばらくの間「なかま」コマンドで姫とも会話できるようになる(効果は4~5分※要検証)。仲間に使用した場合は全ての状態異常・体力を回復し、戦闘中ならテンションを50まで上げることができる。

 

 

83:名無しクエストⅧ

サンキューボス解説

 

 

84:名無しクエストⅧ

サンボサンボ

 

 

85:名無しクエストⅧ

あっこれラスボスワンターンキルとかの企画で使われるやつですねわかります

 

 

86:名無しクエストⅧ(主)

実用性を考えると絶対ボス戦で使った方が良いんだけど、今こんなに楽しそうにしてるミーティア姫をみると姫に使ってあげたくなる…!ディム、随分狡い真似しやがるぜ!

 

 

87:名無しクエストⅧ

もっとよこせよって言いたいけどこんなん量産されてもバランス壊れるし仕方ないか。ドラゴンボールの仙豆みたいなもんだと思おう。

 

 

88:名無しクエストⅧ

それはそれとしてディム、なんなんだてめぇは本気(マジ)でよ…!

トロデとミーティアのガワだけ人間にするとか…

 

 

89:名無しクエストⅧ

これモシャスじゃねぇの?

 

 

90:名無しクエストⅧ

モシャスってこういう使い道もあるんだな。元が馬のミーティアはともかく、確かにトロデは意思疎通に問題はないし、こうすれば堂々と町や城に入れるわけだ。

 

 

91:名無しクエストⅧ

>>90

しかも顔パスで王と対面できるしな。

 

 

92:名無しクエストⅧ

は?姫には婚約者がいる?

じゃあ主人公はどうなるんです?

 

 

93:名無しクエストⅧ

くぅ~羨ましいぜ!

さて婚約者はどんな面してんだ?オレが見定めてやる!

 

 

94:名無しクエストⅧ

チャゴス王子か。名前はパッとしないけど、まああの娘大好きなトロデが認めるくらいだしまあまあな好青年なんだろな。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

595:名無しクエストⅧ

カス

 

 

596:名無しクエストⅧ

ドブカス

 

 

597:名無しクエストⅧ

ブタやろう

 

 

598:名無しクエストⅧ

>>597

おい、流石に謝れよ。ブタに

 

 

599:名無しクエストⅧ

チビデブブスとか…お前らか?

 

 

600:名無しクエストⅧ

第一印象最悪だわコイツ

 

 

601:名無しクエストⅧ

クズ

 

 

602:名無しクエストⅧ

チャゴス王子肝いわぁん

 

 

603:名無しクエストⅧ(主)

おち、落ち着いて!このままの勢いだとスレが!スレが落ちる!!

 

 

604:名無しクエストⅧ

アホで高慢ちきな太っちょ君か。最初ディムから聞いた時???だったけど、何も間違ってなかったんだな。

 

 

605:名無しクエストⅧ

>>603

イッチの言う通りやわ。チャゴス王子のせいとはいえ荒らし過ぎても良いことないし、黙ろうや。ワイは今からチャゴスアンチスレ立ててくるから不満ある奴はこっちこい。

 

 

606:名無しクエストⅧ

>>605

チャゴスの10000倍イケメン

 

 

607:名無しクエストⅧ

チャゴスは0だから一万倍しても0だぞ

 

 

608:名無しクエストⅧ(主)

助かった。とはいえみんなの気持ちも分かる。さっきのはガチでゼシカが可哀想だった。ディムがチャゴス埋め込んで制裁してくれてなかったら胸糞ゲー確定しかけてた。

 

 

609:ゼシカすきです

チャゴス絶対死刑死刑死刑死刑死刑

 

 

610:名無しクエストⅧ

>>609

ゼシカ過激派こわいめう~

 

…いや今回ばかりは妥当だわ

 

 

611:名無しクエストⅧ

で?何すんだっけ

 

 

ブタを山に棄てに来たんだっけ

 

 

612:ボス解説Ⅷ

チャゴス王子:ブタ。サザンビーク王太子のデブ。チビのクソでドブカス。性格がすこぶる悪く、傲慢で見栄っ張り。山よりも高いプライドと海よりも深い位置に品性がある。

 

 

613:名無しクエストⅧ

今回でゼシカ好きになったやつ多そう

あとディムを見直したやつも多そう

 

 

614:名無しクエストⅧ

サンボ

 

 

615:名無しクエストⅧ

ボス扱い草

戦えないことが心底悔やまれる

 

 

616:名無しクエストⅧ(主)

まあこんくらいにして。今回のダンジョンは『王家の山』だな。ブタ君の王者の儀式を遂行するためにアルゴリザードってモンスターを探さにゃならん…ってことはそいつがボスか?

 

 

617:ボス解説Ⅷ

>>616

いや、アルゴリザード自体は普通の強さですよ。毒の霧を吐いたりするくらい。

 

 

618:名無しクエストⅧ

このダンジョンなんか異様にエンカ率低くない?フィールドの半分くらいの頻度でしかエンカしないんだけど。

 

 

619:名無しクエストⅧ

なんかこっち見て逃げるモンスターもいるよな。

 

 

620:名無しクエストⅧ

ブタ君保護の名目でディムは戦闘に参加しないのもったいないな。せっかくディムの戦闘シーンが見れると思ったのに。

 

 

621:名無しクエストⅧ

何かの間違いでブタ君がアルゴリザードに食べられたりしない?

 

 

622:名無しクエストⅧ(主)

昨日のゼシカの件といい、早朝のミーティア姫の件といい…ブタ君ガチで救えない奴だな。でもここでのディムの行動がよくわからない…というかかなり人間臭い行動が多いと思った。ブタ君の行為に腹を立てたり、ゼシカを慰めたり、普通にいい人っぽい?先代勇者はほぼディムで確定だろうけど、ディム=ドルマゲス説は流石に考えすぎだったか?

 

 

623:名無しクエストⅧ

確かに仲間たちのためにここまで怒れる人間がトロデーン滅ぼしたり、トラペッタ洗脳したりしないよな。

 

 

624:名無しクエストⅧ

おっ、まてまてイッチ。杖が本体説はどうしたんだよ。今杖持ってるんはちぃかわなんだからドルマゲスは正気に戻っててもおかしくはないだろ?

 

 

625:名無しクエストⅧ(主)

あっそうか。うーん、ふりだしにもどる、か…。

 

 

626:名無しクエストⅧ

このゲーム料理の時だけ急に実写クラスの画質になるのなんなんだよ

めちゃくそ腹減るわ

 

 

627:名無しクエストⅧ

おっとぉ?ここでボスの登場!!

 

 

628:名無しクエストⅧ

ディムはこんな時にトイレ!?…妙だな…。

 

 

629:名無しクエストⅧ

俺ちょっと先に進めてたんだけど、ボス強くて今三連敗中だわ

せっかくアド取ってたのにお前らに追いつかれちまった

 

 

630:名無しクエストⅧ

でっかい怪獣だァ…こんな奴が今までこんな観光地みたいな山のどこに隠れてたんだよ

 

 

631:名無しクエストⅧ

サンボ(先制攻撃)

 

 

632:名無しクエストⅧ

ボス解説はよ

 

 

633:名無しクエストⅧ

こいつ素早さの値は低いけどやたらタフよな。あと攻撃にカウンターしてくるタイプの敵はドラクエじゃあまり見ない。

 

 

634:名無しクエストⅧ

そういうの(カウンター)はどちらかというとFFの方が有名だもんな。1ターン1回行動の概念をここで壊してくるか。

 

 

635:名無しクエストⅧ

>>634

ボスは割と1ターンに複数回行動するけど…でもまあ言いたいのはそういうことじゃないんだろうな。

 

 

636:名無しクエストⅧ

つっよ

ねぇやっぱりバランスおかしくないですかぁ!?

 

 

637:ボス解説Ⅷ

はいはいおまたせ。

 

メモリア:「王家の山」に巣食うボスでアルゴリザード10匹分はある大きなトカゲ。体力は3000くらい?でもエスパーダの2倍近くはありそう。でも素の素早さは高くないし、行動も1ターンに1回。…普通ならね

 

 

638:名無しクエストⅧ

そうそう。こっちの攻撃の種類に対応して反撃してくるんよね。だから全員で攻撃すると向こうは最大5回攻撃してくるという。鬼か???

 

 

639:ボス解説Ⅷ

その通り。例えばゼシカがメラミで攻撃したら炎系の魔法攻撃で反撃、主人公が斬ればツメで反撃、ヤンガスがオノで殴れば尻尾で反撃、みたいな。特にツメの反撃は確率で猛毒になるから注意。対処法としては誰か一人、もしくは二人にアタッカーを絞って、残り二人は回復や補助に専念するとか。体力は高いけど守備力かしこさがほとんど0みたいなもんだからそこまで気にならない。この時点で3桁ダメージバンバン出せるのは中々気持ちいいよ。ただメモリア自体の通常攻撃も普通に痛いから一瞬で盤面狂わされることもしばしばあるね。

 

倒すと経験値もりだくさん。この時点で元気玉持ってる人がいたら絶対使った方がいい。

 

640:名無しクエストⅧ

サンボ(AI2かいこうどう)

 

 

641:名無しクエストⅧ

なるほどなぁ。短期決戦狙ってククールだけに回復させてたわ。ツメが危ないなら主人公も補助に回すといいんだな。よしもう一戦してくるわ。

 

 

642:名無しクエストⅧ

>>641

そんくらい自分で気づけよな!←脳死で殴りまくってゴリ押しで倒したバカ

 

 

643:名無しクエストⅧ(主)

いや…強かった。俺も1回全滅してしまった。今回のボス戦の最適解はヤンガス一人にめちゃくちゃバフかけて殴り続ける→ダメージ受けたら残りの3人ですぐにリカバリーが一番安定してそう。

 

 

644:名無しクエストⅧ

本人も攻撃自体はしてくるからな。FFで例えるならⅤのものまね士ゴゴよりかはTAYのラスボスの方が近い。やからイッチの戦いかたが一番安定してるのは間違いないと思う。ヤンガスは一撃の威力も高いし。

 

 

645:小ネタニキ

ちなここでメモリアに近づかずに壁ギリギリに沿って歩いていくと草むらに隠れて覗いてるディムが見れる

 

 

646:名無しクエストⅧ

戦闘が終わるとそれを見計らったようにディムは出てくるんだな。怪しいな?

 

 

647:名無しクエストⅧ

>>645

やってみたらマジだった。話しかけてもメッセージウィンドウには「…」としか表示されないけど、まあディムがこっちの様子をずっと窺ってるのはわかった。

 

 

648:名無しクエストⅧ

>>645

マ?2週目やけど知らんかったわ

 

649:名無しクエストⅧ(主)

ディムが何を考えてるのかは分からないけど…まあこれでブタ君も満足しそうなアルゴンハートもゲットできたし、王家の山はここまでっぽいな。さっさとサザンビークに帰るか。

 

 

650:名無しクエストⅧ

王子も流石に最後くらいしっかりしてくれるよな。あんなんでも王族なわけやし、これを機に改心してくれることを期待する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ACT5は内容が多すぎてぎゅうぎゅうになっちゃいますねぇ。
後どうでもいいですが、「レプリカ」シリーズの武器はドルマゲスが自分の知識を基に呪術で創造したもので、「プロト」シリーズの武器はドルマゲスの提案の元、キラがUSAの科学力を結集させて開発したものです。とんでもない値段ですが攻撃力は折り紙付きの武器です。


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幕間:(閲覧自由) ドラクエ新作をみんなで一緒に実況するスレpart4 後編&おまけ

今回は掲示板回の後編です!


閲覧自由です。作品の世界観を損なう可能性があるため、苦手な方はこの回を無視して同日投稿の番外編をお楽しみください。



おまけの方は本当に落書きみたいなものなので無理せず読み飛ばしちゃってください。








851:名無しクエストⅧ

クソブタ

 

 

852:名無しクエストⅧ

小物界の小物

 

 

853:名無しクエストⅧ

大魍魎ヤミゲドウ

 

 

854:名無しクエストⅧ

神聖牙UKパンク

 

 

855:名無しクエストⅧ

(お茶の間)ブリザードメタボス

 

 

856:名無しクエストⅧ

ほんまマジで救いようないのなんなんコイツ

 

 

857:名無しクエストⅧ

闇落ちミルキ

 

 

858:名無しクエストⅧ

怪人側の豚神

 

 

859:名無しクエストⅧ

バザーのゴミ箱にぶち込みたい

 

 

860:名無しクエストⅧ

こいつに王位譲ったらマジでこの国終わるぞ

 

 

861:名無しクエストⅧ

最低最悪の魔王になる

 

 

862:小ネタニキ

ちな城内2Fにいる使用人に話しかけるとチャゴスがタルに詰められて何者かに放置されていたという回想シーンが流れる

 

 

863:名無しクエストⅧ

>>862

サンガツ見に行くわ

 

 

864:まとめネキ

小ネタニキに便乗して名前変更!

 

王家の山でやっとこさ王子の満足するアルゴンハートをゲットする

サザンビークに帰るとバザーが始まっており、王子は一目散にバザーへ飛び込んでいく(スレ民はもうこの時点でイライラしている)

丘の上で闇商人と取引をして偽のアルゴンハートを購入している王子が発見される(一瞬スレが大荒れになる)

王子は主人公勢に口止めをし、全く悪びれずそのまま城の従事者やクラビウス王に偽のアルゴンハートを見せびらかした挙句、失言で王の神経を逆撫で→からの言い逃れ→からの一瞬で見破られる(スレ民も諦め&スカッとムード)

責任をこちらに擦り付け、すぐにディムによって看破されるがさらに逆上、ゼシカを襲おうとする(これもディムによって防がれる)結局ディムが殴り飛ばしてイベントは終了、チャゴスは最後まで反省の色なし(スレはまた大荒れ、王子への罵詈雑言が止まらない)

サザンビークを出て闇の遺跡に向かう(まだちょっと荒れてる)←今ココ

 

 

865:名無しクエストⅧ

サンマ

まとめネキはネキやったんやね

これからもよろしくやで

 

 

866:名無しクエストⅧ

>>864

見れば見るほど酷いなこれ。こんなカス野郎敵側にだっておらんやろ。

 

 

867:名無しクエストⅧ

しばらくこのスレも危なかったよな。イッチとかが火消ししなかったら一瞬で1000行ってたと思うわ。

 

 

868:名無しクエストⅧ(主)

ガチで2度と会いたくないわアイツ。そんでめちゃくちゃ重大な情報が明かされたじゃん?それもチャゴスのせいでかき消されて…マジで害しかなかったじゃん…

 

 

869:名無しクエストⅧ

あー、ヤンガスがディムの何かに気づいたってやつね。サザンビークではヤンガスが何かに気が付いたって描写しかなかったけど、闇の遺跡で初めてディムの会話の全容が回想シーンで流れたんだよな。

 

 

870:名無しクエストⅧ

ディムは結局戦闘に参加せんまま闇の遺跡に入った瞬間攫われてまうんよな。

 

 

871:名無しクエストⅧ

えっディムって攫われるの?ワイまだアスカンタ近くでうろついてるから知らんかったわそんなん

 

 

872:名無しクエストⅧ

>>871

もしかして君アスカンタのセキュサ全殺しニキか?

お前はもう出禁なんやから諦めて先進もうや

 

 

873:アス禁

アスカンタ出禁を略してコテハンにしてみたわ

 

 

874:名無しクエストⅧ

>>873

ちょっとアイデンティティにしてんじゃねぇよ

 

 

875:名無しクエストⅧ(主)

順当に考えてディムを攫ったのは物乞い通りの魔王だろうな。勇者たちのことはどうみてるんだろうか。女盗賊のアジトで一応一回顔見せはしてるけど、向こうは全然こっちのこと気にも留めて無かったし覚えてないのかもな。

 

 

876:名無しクエストⅧ

攫われるときのディムの慌てようからしてだいぶ不測の事態っぽかったし、現杖の所持者であるちぃかわ側からしても元所持者であるディムと会う理由も特に考えられんしな。これは「ドルマゲスとちぃかわグル説派」と「ちぃかわがドルマゲスから杖奪った説派」の人間はちょっと立場危ういんじゃないか?

 

 

877:名無しクエストⅧ

>>876

でもそれってディム=ドルマゲスじゃないと成り立たなくないか?

 

 

878:名無しクエストⅧ

>>877

でもそれってほぼ確定みたいなもんじゃんアゼルバイジャン

「ドルマゲスもちぃかわも杖に操られてる説」論者ワイ、高みの見物

 

 

879:名無しクエストⅧ

でもディムは人間じゃないと思う。ゼシカでも覚えないジゴフラッシュとか使えるし。

 

 

880:小ネタニキ

ちな南の大陸で最初にディムに会うイベントを消化しているとこのタイミングでゼシカが『ジゴフラッシュ』を覚える

 

 

881:名無しクエストⅧ

>>880

マジかよ…

 

 

882:名無しクエストⅧ

>>880

あー。うちのゼシカがジゴフラッシュ覚えたのはそれでだったのか。

バグとかじゃなくて安心した。ありがとう小ネタニキ。

 

 

883:ゼシカすきです

チャゴスくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそくそ

ディムも帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ

 

 

884:名無しクエストⅧ

うわ…まだやってるよ

 

 

885:名無しクエストⅧ

>>884

何あれ?

 

 

886:名無しクエストⅧ

>>885

さあ…わしらには救えぬものじゃ

それより飼い主まだかよ

 

 

887:名無しクエストⅧ

>>883

ゼシカ過激派こわいめう~

 

おいもしかして飼い主って俺のことかよ!?

 

 

888:名無しクエストⅧ(主)

相変わらず魔王がディム(=ドルマゲスは9割確定)を連れ去った理由は謎だが、ここでまた新しいキャラが来たな…

 

 

889:名無しクエストⅧ

大魔王ラプソーン様!?

 

 

890:名無しクエストⅧ

>>889

暗黒神ラプソーンね。遺跡をうろうろしてる魂の話によると、数百年前に地上で暴れまわった化け物で、その時はレティスって鳥と七賢者ってやつに負けたけど、倒しきれなくて封印されたらしい。

 

 

891:名無しクエストⅧ

闇の遺跡も大分屈強なモンスター多いけど、別に死者が出るくらいの苦戦にはならないのがいいくらいのバランスだな。アツい。特にククールがベホマラー覚えてると負ける心配はほぼないはず。

 

 

892:名無しクエストⅧ(主)

最初はドルマゲスがラスボスかと思ってたけど魔王が出てきたり、ディムとして旅に同行したりでちょっとわからなくなってきてたんだよな。暗黒神ラプソーンが今作のラスボスだとすると結構スッキリするけど。ラプソーンがどこに封印されてるかだけど、…まあ杖に封印されてるって考えるのが妥当か?

 

 

893:名無しクエストⅧ

数百年前の話にしてはこの世界じゃ誰もそんな話しないよな。現実世界で考えてみるとまあ大航海時代とか戦国時代とかの話だろ?もうちょっと話題にしても良いと思うんだが。それか世界レベルで記憶が操作されてるのか?そう言えばドルマゲスはトラペッタを洗脳して認識を改変してたって考えてるやつがいたよな。

 

 

894:名無しクエストⅧ

「闇の世界の神がかつて世界を侵攻した」みたいなおとぎ話は一応伝わってるらしい。あくまでフィクション扱いだけど。ソースは隠者の家

 

 

895:名無しクエストⅧ

>>894

隠者の家ってどこ?

 

 

896:名無しクエストⅧ

サザンビーク王国のある西の大陸の端っこの方にある。近くにふしぎな泉ってのがあって、そこでもミーティアの呪いが解ける。700~750あたりのコメント見たらわかるけど、ディムからもらった「ふしぎなサプリ」との効能の類似性から関連が疑われてる。

 

 

897:小ネタニキ

ちなディム離脱後~ボス戦前に闇の遺跡を出て「ふしぎなサプリ」をミーティアに使うと、ミーティアはディムを最後まで信じているという旨のセリフが聞ける

 

 

898:名無しクエストⅧ

ありがとニキ~

 

 

899:ディムゼシの使者

見ましたか奥さん!!ゼシカさんめっちゃディムのこと気にしてましてよ!!あのヤンガスの胸倉を掴むくらい本気ってことですよね…ディムがいなくなったのって押してもダメなら…ってこと!?いじらしいですよね~!!これ王家の山だとディム→ゼシカの矢印の方がデカかったけど、王家の山と王城でチャゴカスのイベント経由した結果、ゼシカの方がどうしようもなくディムのことが気になるようになっちゃってるんですよね!!!闇の遺跡での用事が終わったらお別れか…せめてちょっとでも長く一緒に…って思ってるゼシカを嘲笑うかのようにディムが連れて行かれたんで逆に気持ちが抑えられなくって、それで昂ってるってことですよね???あー!良い…(長文スマソ)

 

 

900:名無しクエストⅧ

>>899

すげえ早口で言ってんだろうな

 

 

901:ゼシカすきです

ディムゼシとかふざけるな

絶対許さないディムとかこのままみつからなければいい

 

 

902:飼い主

>>901

ゼシカ過激派こわいめう~

 

 

903:名無しクエストⅧ(主)

ダンジョン内で話しかけられる魂の中に「ラプソーン様が最近ここをお通りになった」みたいなセリフがあった。これも杖がラプソーンだと仮定すると杖を持った魔王がここを通ったと考えれば辻褄は合うな。でもこのセリフだけだと杖は関係なくてドルマゲス自体がラプソーンって可能性も完全には否定できないか。

 

 

904:小ネタニキ

ちなレバーを上下する迷宮のマップで合計20分以上滞在した後に一つ前のマップの「さまようたましい」に話しかけるとイベントが発生して迷宮のマップを通過できる

 

 

905:名無しクエストⅧ

>>904

パズル苦手な人向けの救済措置ってわけだったんだな。俺も初見で迷宮踏破出来なくて、魂に話しかけたら偶然このイベント見つけたわ。ゼシカとククールが魂を脅してて思わず笑っちまったw

 

 

906:名無しクエストⅧ

 

 

907:名無しクエストⅧ(主)

いよいよ最深部だな。ボスは十中八九魔王だろうけど、ディムがいることも考えれば本性を現したディムとの連戦になるかもな。でもまあサクッと終わらせて今日はここらへんで終わらせるぞ!

 

 

908:名無しクエストⅧ

ざわ…ざわ…

 

 

909:名無しクエストⅧ

ん?なに?

 

 

910:名無しクエストⅧ

ざわ…ざわ…

 

 

911:名無しクエストⅧ

だめだ…まだ笑うな…こらえるんだ…!

 

 

912:名無しクエストⅧ

オイオイオイアイツ死んだわ

 

 

913:名無しクエストⅧ(主)

は?いやいくら何でも強すぎんか?負けイベ?

 

 

914:名無しクエストⅧ

強すぎだろ…てか攻撃一発も当たらんのに負けイベじゃないってどゆこと?

 

 

915:名無しクエストⅧ

わけわかめ

誰がこんな化け物女に敵うんだよ

 

 

916:名無しクエストⅧ

ようこそイッチ

俺たちの地獄へ

 

 

917:名無しクエストⅧ

>>913

Welcome to our world

 

 

918:名無しクエストⅧ

このスレのイッチより先に進んでるやつは9割方ここで行き詰ってんじゃないかな?ほんとに強いんだコイツ。全クリ勢が意外と湧いてないのもこの女が原因じゃないかってのが別の板でも噂になってる。

 

 

919:名無しクエストⅧ

ボス解説さんがこのスレにしか現れないってんでわざわざ他のスレからこっちに乗り換えた俺もいるぞ

 

 

920:名無しクエストⅧ(主)

二戦目も何もできずにボロ負け…。攻撃が9割避けられるの精神的にしんどいな。

 

 

921:名無しクエストⅧ

イッチがついに「呪われしユリマ」戦に突入したと聞いて

 

 

922:名無しクエストⅧ

頑張れイッチ!俺はいまからふて寝するから!じゃ!

 

 

923:名無しクエストⅧ

ボス解説~!!早く来てくれ~!!

 

 

924:名無しクエストⅧ

ネタバレにはならんと思うから言うな。ワイ全クリ勢(自慢じゃないがワイ以外で全クリしたやつにはまだ出会ったことない)やけど、この戦いはゴリ押しで勝ったんや。もちろんこんなんが正攻法なわけないから、ワイもちぃかわの正しい打ち破り方知りたい。教えてクレメンス。あと心配せんでもこれ以降にも何回か地獄あるから楽しみにしとけよお前ら。

 

 

925:名無しクエストⅧ

え、ゴリ押しってことは…

 

 

926:名無しクエストⅧ

>>925

うん。攻撃が当たる3~5%に賭けて殴り続ける。全滅したらやり直し。試行回数は誇張なしで70回。

 

 

927:飼い主

>>926

うっわ…

 

 

928:ディムゼシの使者

そういえば小ネタニキさんは色んなこと知ってますけど、呪われしユリマ戦の攻略法はご存じなんですか?

 

 

929:小ネタニキ

いえ、存じ上げないです。僕も全クリ勢さんみたいにゴリ押しで倒しました。

ちな全クリはしてない(これの次の次の難関で停滞している)

 

 

930:名無しクエストⅧ(主)

4連敗…やっぱりみんなここで苦戦してるのか。俺だけじゃなくて安心した。

 

 

931:全クリ勢(ソロ)

コテハン失礼。お前らの邪魔とかネタバレとか、楽しみを損なうようなことはせんから気にせんといてくれや。

 

はえ~小ネタニキもゴリ押しして倒したんすね~。まあでもしゃあないと思うわ。なんのヒントもないんやし。闇の遺跡はもちろん、北西の孤島も、ちぃかわの故郷であるトラペッタも隅々まで探したんやがそれらしいヒントは結局見つからんかった。

 

 

932:名無しクエストⅧ

イッチがんばれ!俺は10連敗!

 

 

933:名無しクエストⅧ

彡(^)(^)「遺跡内85敗タワマン住みがしょうもない人生なんですか・・・(唖然)」

 

 

934:名無しクエストⅧ

>>933

これすき

 

 

935:名無しクエストⅧ

>>933

流石にしょうもない人生言われても仕方ないやろ

 

 

936:名無しクエストⅧ

ボス解説~!!!はよはよ~!!

 

 

937:アス禁

頑張って今のうちにみんなに追いつくわ

 

 

938:名無しクエストⅧ

何が困るって今んとこ全クリしたプレイヤーが少なすぎて攻略サイトもないんだよな。クリアしたやつも正攻法じゃないっぽいし。

 

 

939:名無しクエストⅧ

これボス解説さんに期待するのも可哀想なのでは?流石にボス解説さんも一般プレイヤーだろうし…。

 

 

940:名無しクエストⅧ

>>933

タワマン(暗黒の祭壇)

 

 

941:ボス解説ネキ

お ま た せ(せっかくなので小ネタニキやまとめネキに合わせてみました!)

 

呪われしユリマ:ドルマゲスを信奉する少女。右手に『神鳥の杖』を持っている。体力は1000~1500?なんかターンごとにちょっとずつ減っていってる?ぽい。ちからまあまあ、みのまもりザコ、すばやさまあまあ、でもかしこさが異常に高く、中級呪文ですらレベルが低いと即死。「ドラゴンシールド」を全員分作って装備したとしても防げるのは「メラミ」「ベギラマ」「ヒャダルコ」くらい。「バギマ」「重力呪文(名称不明)」が来ないことを祈るしかない。「いてつくはどう」は持っていないのでバフはかけ放題、でも後述の理由からバフの内容は制限される。

 

 

942:名無しクエストⅧ

キターーーーーー!!!

 

 

943:名無しクエストⅧ

ほうほうなるほど

 

 

944:名無しクエストⅧ

見てるぞ

 

 

945:ボス解説ネキ

つづき

戦闘中相手はこちらの攻撃をほとんど回避するが、これには法則性があり、一定以上のダメージを与える攻撃に反応して回避を行う。その時の回避率は95%以上で、呪文やアイテムでも関係なく避けられる。これに対処するにはその一定以上のダメージ以下の攻撃を行う必要がある。

 

 

946:名無しクエストⅧ

え、てことはさ…レベル上げれば上げるほどキツくなる…ってコト?!

おのれドルマゲス…!なんて卑怯な

 

 

947:全クリ勢(ソロ)

ほーんなるほど…そういうカラクリやったんやね…。わかるわけないんだよなぁ!ボス解説ネキは何者なんですかね…

 

 

948:名無しクエストⅧ

『レベルを上げて物理で殴れ』がガチで通用しないタイプかよこっわ

レベル上げときゃなんとかなるだろwwwってのが今回は裏目に出るんだな

 

 

949:名無しクエストⅧ

>>945

てことは武器外して素手で戦えってこと?

 

 

950:ボス解説ネキ

>>949

素手で殴ってもいいけどカウンターで猛毒状態になるよ。

つづき

なので安定して攻撃を当て続けるには「スキルポイントを振っていない(攻撃力が上がっていない)武器の」「初期か二番目までのもの」を装備して攻撃するのがよい。ちなみに攻撃呪文も基本避けられるのでゼシカはムチ(皮のムチかヘビ皮のムチ)もしくは杖を装備して殴るのに専念する。バフも「バイキルト」を使うと攻撃が当たらなくなるので、スカラピオリムなど攻撃力以外を上げるのがオススメ。高レべだと毒覚悟で素手攻撃しないとダメだし、低レべだと相手の呪文で毎回死者が出る可能性があるというガチで鬼畜のボス。エスパーダとか比べ物にならない。それか全クリ勢(ソロ)さんみたいにひたすら高威力武器で当たるまで殴るか。

 

 

951:名無しクエストⅧ

サンボーーー!!!!

 

 

952:名無しクエストⅧ(主)

マジで助かる。ありがとう。ここまで6連敗だったけど、次で勝てそうだ!!

 

 

953:名無しクエストⅧ

うーんこの

サンボ

あんた何モンだよほんと…

 

 

954:まとめネキ

攻略法は自分で見つけたの?

 

 

955:ボス解説ネキ

>>954

うん。片っ端から色々な方法試してみた。

 

 

956:名無しクエストⅧ

いっちょやってみっか

 

 

957:名無しクエストⅧ

うわ。マジだ当たるわ。…俺このスレ見に来ててよかった。これからこっちに定住するわ。ボス解説ネキが出没するのここだけっぽいし。他の奴らにも声かけてくる。

 

 

958:名無しクエストⅧ

ほーん

 

 

959:名無しクエストⅧ

 

 

960:名無しクエストⅧ

過疎るスレ。みんな今ちぃかわ戦に熱中してんだろうな

 

 

961:名無しクエストⅧ

くっそー、初期武器買いに戻った方がいいのかなー流石に素手はキツイわ

 

 

962:名無しクエストⅧ(主)

負けた…8連敗……

 

 

963:名無しクエストⅧ

気落とすなよイッチ、攻略法わかったことを差し引いても強いんだよコイツ

 

 

964:名無しクエストⅧ

うおおおおま、まさかここで習得以降一回も使ってなかったバトルロードの「チーム呼び」が活きてくるとは…!

 

 

965:名無しクエストⅧ

>>964

確かに。ジョーはともかく、スラリンとプチノンの攻撃はちぃかわにも通るわ。

 

 

966:飼い主

うおおおおおおおおお!!!!勝った!!!勝ったぞ!!!!!!おおおおおおおおおおおおおおおお

 

 

967:名無しクエストⅧ

>>966

お前が暴走してどうする

でもおめでとう。

 

 

968:名無しクエストⅧ

>>966

おめ!俺も前回よりも格段にダメージ与えてる。今回で終わらす!

 

 

969:名無しクエストⅧ

勝った!!しゃ!

 

 

970:名無しクエストⅧ

おおおお勝ったあああ!ありがとうボス解説ネキ!

 

 

971:名無しクエストⅧ

負けたわ…みんな強いな

 

 

972:名無しクエストⅧ

いや、勝ったのは正直運。ちぃかわの呪文がバギマだったらその瞬間パーティー総崩れになるから、それ以外が連続で出ることを祈りながら戦った。

 

 

973:名無しクエストⅧ(主)

やった!勝ったよ!やったったー!

 

 

974:名無しクエストⅧ

おめでとう!!

 

 

975:名無しクエストⅧ

ちぃかわを倒すとイベント。ヤンガスがちぃかわにとどめを刺そうとオノを振り下ろすけど手応えはない。

 

 

976:名無しクエストⅧ

消えたちぃかわはディムが抱えてる…ん?どゆこと?ディムはちぃかわに引っ張られていったから敵同士なのかと思ってたんだけど?

 

 

977:名無しクエストⅧ

なんかいっぱい出てきたな。誰だコイツら。顔は良く見えないけど。

 

 

978:名無しクエストⅧ

アインスって確かドルマゲスと一緒に行動してる傭兵かなんかだったよな。てことはここでディム=ドルマゲス確定か。

 

 

979:名無しクエストⅧ

>>978

その後の黙ハムとの問答でもそれとなくディム=ドルマゲスは示唆されてるね

 

 

980:名無しクエストⅧ

兄さん?兄さんって何よ。ゼシカの兄さんはリーザス村で死んだはずだよな?

 

 

981:名無しクエストⅧ

>>980

うん。ご丁寧に死亡から葬式の火葬まで回想シーンで見せられた。あそこまで入念に描写されたから実は生きてるってこともないだろうけど…

 

 

982:名無しクエストⅧ

他人の空似?生き別れの弟とか?

 

 

983:名無しクエストⅧ

これでドルマゲスがサーベルト?だっけ?の死体操って部下にしてるとかだったら胸糞悪すぎるな。

 

 

984:名無しクエストⅧ

>>983

アインスが喋らないのもそれっぽい(ゾンビ化)からやめろ

 

 

985:名無しクエストⅧ

右の小柄な女の子もどっかで見たような気がすんだよな。

 

 

986:名無しクエストⅧ

>>985

もしかしてアスカンタでハープくれた子?

 

 

987:名無しクエストⅧ

>>986

あ、待ってそれかも。

え?じゃあつまり…どういうことだってばよ?

 

 

988:名無しクエストⅧ

アスカンタは敵側に堕ちてるってことか。ドルマゲスが敵かどうかはわからんけど。

 

 

989:名無しクエストⅧ(主)

あースッキリした!今回めちゃくちゃ長くなっちゃったけど、1000も近いしここで俺は終わるな!本当にクリアできてよかった。お前らも先に進めて良かったな!じゃあまたスレ立てるんでヨロ!

 

 

990:名無しクエストⅧ

おついっち

 

 

991:名無しクエストⅧ

お疲れ!イッチがスレ立ててくれたおかげで俺やっと先に進めたよ!ありがとう!

 

 

992:名無しクエストⅧ

オツカーレ

 

 

993:名無しクエストⅧ

ちぃかわは杖を置いていったんだな。元はといえばこれもトロデーンにあったやつか。結局何なんだこれ?…あ、ゼシカが拾った。

 

 

994:名無しクエストⅧ

ゼシカも大分精神参ってるだろうな。(兄の幻影、気に入ってたディムの裏切り発覚・失踪)

 

 

995:ディムゼシの使者

これはこれで美しいですよ。大事なものって失って初めて気が付きますからね。ディム(ドルマゲス)の周りにも女の影が見えたのも趣深いです。恋のライバルは最高のスパイス!

 

 

996:ゼシカすきです

ゼシカなかないで

 

 

997:名無しクエストⅧ

この後どうすんだろ。ククールは一旦宿屋に行こうって言ってるけど。

 

 

998:名無しクエストⅧ

手掛かり自体はまだまだあるからな。アスカンタ・トラペッタもそうだし、船でも行けるところはいっぱいあるし。メダル王国の大臣辺りも何か知ってそう。

 

 

999:小ネタニキ

ちなボス戦・イベント後仲間全員に話しかけることでストーリーが進むが、この時最後に話しかけた仲間が杖を拾う

 

 

1000:全クリ勢(ソロ)

>>999

ファッ!?ここって分岐するんかい!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ☆「呪われしユリマの強さに絶望するネットの反応集」

 

これは「反応集」系動画のオマージュです。もちろん閲覧は自由です。本編には関係しないので読み飛ばしてもらっても大丈夫です。相変わらず時系列はめちゃくちゃだぁ……

 

 

 

 

 

「呪われしユリマの強さに絶望するネットの反応集【ドラクエ8】【強すぎ】【病み】」

 

※この動画は「ドラゴンクエストⅧ」の「闇の遺跡編」までのネタバレを含みます。ご了承ください。

 

 

 

・バケモノ

 

・深夜テンションでステータスを決定された女

 

・今一番アツい女

 

・変わり種

 

・番犬ガオガオ

 

・ドラクエに吹く新しい風

 

・ドラクエを運ゲーに変えかけた戦犯

 

・平成最後の怪物

 

・なんか血ぃ出てるかわいそうなやつ

 

・ちぃかわ

 

・「レベルを上げて物理で殴る」が通用しない女

 

・ドルマゲスのフィアンセ

 

・ドルマゲスはキラちゃんが正妻だぞ

 

・ゼシカなんだよなぁ

 

・負けイベ確信してたのに…

 

・なんでこれ負けイベじゃないの?

 

・絶対負けイベだと思ってた

 

・世界を騙した女

 

・ただでさえ特殊な戦闘システムなのに、このヒントがこれまでの道中のどこにもないのがヤバい

 

・コイツ考えた奴を小一時間問い詰めたい

 

・ちっちゃなころからヤンデレで

 

・15で外道と呼ばれたよ

 

・ワイフみたいに気取っては

 

・(ドルマゲスに)触るものみな傷つけた

 

・ドルマゲスの狂信者

 

・厄介ファン

 

・吾妻由乃の友人

 

・松阪さとうの仲間

 

・佐久間まゆの同僚

 

・まゆをそんな奴らと並べるな

 

・遺跡にドルマゲスが侵入した瞬間察知して引きずり込む妖怪

 

・怪奇蜘蛛女

 

・杜王町の小路

 

・ふりかえってもいけない小路

 

・ヤツメ穴の擬人化

 

・メンヘラヤンデレピュアストーカー

 

・失礼だな、純愛だよ

 

・女版岡八郎

 

・どちらかというと星人側だろ

 

・コイツのせいでいつまで経っても攻略サイトが作れないらしい

 

・重力魔法の擬人化

 

・重しれー女

 

・弱者救済の意味を履き違えた女

 

・強者「攻撃が当たらないです」弱者「一瞬で消し炭にされます」

 

・自分とドルマゲス以外の全てに中指立ててるだけだろ

 

・コイツの親の顔が見てみたい

 

・見れるだろ

 

・ルイネロさんは義理の父だから…

 

・敬語を使うのだククール!

 

・これにはお辞儀様もご満悦

 

・目上の方には敬語を使うことをそれとなく促してくれる聖人

 

・それとなく(圧倒的暴力)

 

・コイツがラスボスであと残りは裏面らしいな

 

・攻略法が見つかるまでゴールド・エクスペリエンス・レクイエム(終わりのないのが終わり)って呼ばれてたらしい

 

・暗黒の精神

 

・眠れる奴隷の対義語

 

・ヒトは見かけによらないってことだな

 

・ヒト…?ヒト……かぁ

 

・「この人が人間側でよかった」と誰も言わないのが全てを物語ってる

 

・世界よ、これがドラクエだ

 

・世界「いや、そんなこと言われましても…」

 

・ここまでドラゴンもクエストも出てないんだけど?

 

・この女戦闘中ドルマゲスの話しかしないから「ドルマゲス」でゲシュタルト崩壊起こした

 

・正論メーカー

 

・こんだけ狂ってるのに言うことはそれなりにまともなの腹立つ

 

・最狂のボディーガード

 

・一人親衛隊

 

・藁の楯

 

・SP 闇の遺跡編

 

・守って守られて…もうこれ純愛だろ

 

・失礼だな、だから純愛だよ

 

・敵側にこんなドラマ見せられると思ってなかった

 

・ユリマ鬼つええ!このまま逆らうやつら全員ブッ潰していこうぜ!

 

 

 

ご視聴ありがとうございました

チャンネル登録&高評価よろしくお願いします








イッチは9戦目でユリマに勝利した様ですが、8回目負けた時は半ベソかいてたらしいです。可愛いね。

前編と後編の間にも様々な動きがありました。ディムゼシのカップリングに魅了される人がいたり、ふしぎな泉/隠者の家に寄り道する人がいたり、ベルガラックに寄り道してギャリングに話を聞きに行った人がいたり。でもこれ以上長引かせるのも冗長なので泣く泣くカットしました。

おまけは…どーしてもやってみたかったんです…怒らないで…

では、次回の更新をお待ちください!


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ACT6:リブルアーチ地方~メディの家
新・第一章 まだ誰も知らない物語


お久しぶりです!








ゴポポ…ポ…

 

 

 

声が聞こえる。だが何も見えない。

 

 

 

ゴボ…ゴボ…

 

 

 

光のない世界からさらに光のない世界へ、沈んでいく。濁っていく。澱んでいく。体温が急速に奪われていくのを感じた。

 

 

 

ゴポゴポ…ポ…

 

 

 

──目覚めよ、星の筋書きを乱す者よ、哀れで愛しい昼の子よ。

 

 

 

優しいハープの音色と共に、よく響く声が脳内に透き通る。誰だ?

 

 

 

──君の宝物から目を離していてはいけないよ。もうこの刹那、次の刹那に君の宝物は屍に姿を変えてしまっているかもしれない…君は今後延々と肉の偶像を崇拝することになるかもしれない…

 

 

 

誰…いや、この回りくどい言い回しは…

 

 

 

──私の気まぐれに応えてみせてくれ。彼女の存在が朧となって、月夜の泡沫へ溶け往く前に…

 

 

 

月の民の…

 

 

 

──ふふ。『窓』が無くとも、私はいつも君たち昼の子を見守っている。さあ見せてくれ、少年の魂を持つ青年。ここで退場するはずだった道化師。外なる世界から舞い降りた異分子。私も知らない、まだ誰も知らない物語(ストーリー)を…

 

 

 

次第に声は遠のき、落ちていく。墜ちていく。堕ちていく。闇より(くら)く、暗黒よりもなお(くら)い深淵へ。……しかしそこには確かな暖かさがあった。

 

 

 

 

 

 

ゴボ…ゴポポ…

 

生温い液体の中、薄紫色の繭の中、俺は目を覚ました。

 

「(ここは…)」

 

そうだ、俺はユリマと戦って、それで…

 

「(勝った?はずだよな…)」

 

ズキリ、と頭に痛みが走る。どうもそこからの記憶が無いようだ。さっきだって誰かに呼ばれていたような…そもそもここはどこだ?…いくら藻掻いても前には進めない。呼吸はできるが…。

 

さらに大きく腕を動かそうとして、俺は先の戦いで右腕がグズグズになっていたことを思い出し、思わず自分の腕を確認した。

 

「(!…千切れていない…!それどころか治療されている…)」

 

先の戦いでユリマの重力魔法と真空魔法の合わせ技『圧縮(ディープ)バギマ』を正面から喰らってしまった右腕は、皮膚や肉がズタズタに裂け、そこかしこで骨が見え隠れしているという目を覆いたくなるような惨状になってしまっていたが…今は血が滲んでいるとはいえ、左腕は包帯で丁寧に固定され、無事に繋がっていた。そしてさらにこの場を満たす謎の液体が治癒力を高めているのだろうか、俺自身でも分かるくらいの「治っていく感覚」がある。

 

この包帯の巻き方は覚えている。几帳面なキラちゃんはいつも痛いくらいに包帯をキツく巻いてしまうのだ。そしてそれに気づくと毎回慌てて謝りながらまた巻きなおしてくれる。きっとこのギチギチの包帯は彼女が巻いてくれたのだろう。

 

一方この謎の液体と繭も知っている。原作ドルマゲスが傷を癒すために籠っていたもの…もとい暗黒神ラプソーンの力で生み出されるものと恐らく同じである。現在の杖の所有者はユリマ…ということは。

 

「(…!俺はユリマを倒しきれなかったんだ…!!サーベルトは!?キラちゃんは!?無事なのか!?!?)」

 

嫌な予感が頭を(よぎ)る。彼女は俺を倒した後サーベルトとキラちゃんを酷い目に遭わせると仄めかしていた。まさか…!繭の内側にしか意識が向いていなかった俺は、ここでようやっと繭の外の世界に目を凝らす。薄暗い暗黒の祭壇の中、繭の外の音は何一つ聞こえないが、土煙が上がっているのが見えた。

 

「…!(サーベルト、キラ…)」

 

この繭から脱出したくとも…まるで動くことができず、呪術も阻害されている。

 

「くそっ…!」

 

俺は無力感に苛まれながら天井を眺めた。

 

「…?」

 

天井には繭から伸びる根が張り巡らせられている…と、そこで俺は自分の閉じ込められているものとは別の色の根があることに気が付いた。あの浅葱色の根はどこへ伸びているのだろうか…?俺はほぼ無意識に根の先を目で追う。

 

「(…!繭がもう一つ…!あっ!)」

 

もう一つの繭、そしてその中には探していた二人がこちらを見ていた。

 

「(サーベルト!キラ!無事だったのか!)」

 

「…!……!」

 

やはり全く音は聞こえないが、二人はどうやらものすごく喜んでいるらしい。しばらくするとキラちゃんは感極まったのか泣き始めてしまい、そのタイミングで我に返ったサーベルトが機転を利かせてハンドサインでの意思疎通を試みてきた。

 

「(『あなた・気絶・生存・嬉しい』……ふぅむ、なるほど)」

 

やはり俺はユリマを倒しきれず、そのまま自分が先に限界を迎えてしまっていたらしい。しかし何故二人も繭に?下で戦っているのは誰だ…?……聞けばいいのか。こういった状況だと言葉や音を介さない自然系の魔物の言語は便利だ。俺はサーベルトに『私・元気・今・下・戦闘・誰』というメッセージで答えると、サーベルトの表情が少し曇った。

 

『闇・女・対峙・男・三人……妹』

 

「!!!(な…るほど…そうか、そうなったか…!)」

 

俺はすぐに下を向いて爆発や煙の元を探す。…いた!祭壇の薄暗さに慣れてきた俺の目に、勇者に向かって呪文をぶっ放すユリマの姿が映った。しかし四人で交代しながら戦う勇者たち──エイト・ヤンガス・ゼシカ・ククール──は孤軍奮闘するユリマを確実に追い詰めている。既に『少女の見る夢(リリィ)』のカラクリも看破されているようだ。

 

「(最悪…!この戦いにどんな意味があるってんだ…!)」

 

俺は悔しさで拳を強く握った。戦場に俺がいない今、ユリマと勇者たちが戦うことには何の意味もない。勇者たちは神の加護があるから死んでもまたすぐに戻ってくるし、ユリマが負ければラプソーンはまた新しい端末を探すだけだろう。そしてユリマは一度死ねばもう生き返らない。そんな未来を分かっていながら何もできない自分が心底恨めしかった。

 

「(俺が勇者たちをここに呼んだのに…俺のせいで…ッ!)」

 

「…?」

 

「(…なんだ?音が…)」

 

その時繭に差し込む微かな爆発音。蚊の鳴くようなか細い音だったが、自身の心臓の音と気泡の音しか聞こえないこの空間でそれは確かに響いた。この繭は暗黒神の力を持つユリマの創りだしたもの、それが揺らいでいる…つまり。

 

「(ユリマの力が消えかかっている!)」

 

つまり勇者の剣がユリマの命に届きかかっているということだが…。…待てよ、これは逆に考えれば彼女を救うチャンスにもなり得るか…!?

 

暗黒神の力はあくまでユリマに「貸し与えて」いるだけ、ということを一度暗黒神に憑依されたことのある俺は知っている。力尽きる瞬間、ユリマ自身の生命力が尽きるより先に、ラプソーンはユリマに与えた暗黒の力を回収しようとするだろう。それは「ユリマが使った暗黒神の技」つまり今俺たちを封じている繭が消えることを意味する。その瞬間にユリマを救出して退散すれば、ユリマを失うことなくこの場を切り抜けられる。

 

もう少し目覚めるのが遅かったら既にユリマは殺されていたかもしれない…少し想像して思わず身震いした。俺が今このタイミングで眠りから覚めたことは僥倖と言えよう。俺はサーベルトにハンドサインを送る。

 

『すぐ・崩壊・これ・わたし・救出・闇・女』

 

サーベルトは少し…いやかなり困ったような顔をした。そして隣でまだ涙ぐんでいるキラちゃんもまたイヤイヤと首を横に振る。

 

「(…。)」

 

通常の感性を持つ者なら誰だって二人の反応が正しいと感じるのだろう。ユリマは俺を殺す気で攻撃を仕掛けてきていたし、サーベルトもベルガラックで彼女に手酷い痛手を負わされた。キラちゃんに至っては一度彼女に殺されているのだ。そんな相手を救おうと言い出そうものなら正気を疑われるのが道理だろう。

 

しかし、しかし…だ。それでも俺は彼女を助け出したい。俺は二人と違って、知ってしまっている。屈託のない笑顔、拗ねた時に頬を膨らませる仕草、父親が疲れて眠ってしまった時に毛布を掛けてあげる優しさ…俺はもう既に彼女の人間性に惹かれてしまっているのだ。ライクかラブかなど、この際さしたる問題ではない。いくら牙を向けてきた相手とはいえ、救う意思すら見せずに諦めようものなら…俺はきっと、自分を今後一生許せない。

 

俺は更にハンドサインを送った。

 

『わたし・引き受ける・責任・全て』

 

「…」

 

『頼む』

 

「(頼む…)」

 

一考の後、サーベルトはわざとらしく肩を竦めるジェスチャーをしてみせた。そしてグズるキラちゃんを諭し(内容は聞こえないが多分上手く丸め込んでくれている)、サインを返してきた。

 

『了承・引き受ける・補助・全て…わたし・信頼・最大・あなた』

 

へへっ、やっぱりお前は最高だぜサーベルト。

 

『…無茶・不可・絶対』

 

…なんだかんだ言ってキラちゃんも優しいんだもんな。ありがとう。

 

 

眼下のユリマはもう息も絶え絶えで見ているこちらも辛い。しかし最速で助けに入るためにはやはり戦況から目を逸らすわけにはいかないのだ。繭の力はますます弱まり、既に外の声も聞こえるまでになった。しかしまだ脱出は敵わない。

 

勇者たちの絞り出すような声が聞こえてくる。彼らもまた限界が近いようだ。しかしユリマは膝をついてへたり込み、もう動くことも叶いそうにない。待つことしかできないこの時間が歯痒くて仕方がない。

 

「(くそ…まだか…!)」

 

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

「『魔王』、なんてタフ…!」

 

「でも…あと一息でがす…!」

 

「ヤンガス!『魔王』はもう攻撃を避けられないわ!決めて!!」

 

「任せろ!う、おおおおおっ!!」

 

 

 

「(マズい…!早く…ッ!早く!!!)」

 

「!!!」

 

その瞬間、不気味な音と共に繭が消滅する。ラプソーンがユリマの中から完全に撤退したのだ。ついに自由になった俺は、重力のまま自由落下するキラちゃんをサーベルトに一任し、全速力で空を駆けた。ヤンガスはもうオノを振り下ろし始めている。一瞬でも遅れればユリマは死ぬ!もっと急げ俺!もっと軽く、もっと小さく…!

 

少しでも素早く動くため、ほぼ無意識に『妖精の見る夢(コティングリー)』で子供(ディム)の姿に変身した俺は一陣の風となり、今まさに終劇を迎えようとしている戦場へ突撃した。

 

 

鈍い音と共にぶわりと土煙が舞う。ヤンガスのオノの一撃から間一髪、本当に紙一重でユリマを救出することができた。煙の中から勇者たちの声が聞こえる。

 

 

 

「やった…のか…?」

 

「ヤンガス!」

 

「兄貴!手ごたえが無いでがす!避けられた!!」

 

 

 

少し離れたところで勇者たちが叫んでいるが、今の俺には腕の中で今にも息絶えてしまいそうな少女の、弱くなっていく心臓の鼓動しか頭に入らない。俺は何も考えることができずに立ち尽くしていると、ユリマの口から微かに音が漏れる。

 

「…か…」

 

「…!なんだ!?どうしたユリマ!?」

 

「わたし…が…ドルマゲスさんを…まもる…か…ら…」

 

「…ッ!!!」

 

ユリマに最早意識はなかった。今のだって寝言のようなものなのかもしれない。しかしその言葉は俺の心を深く抉った。彼女は許されざる行為を多数行ってきたが、芯はいつでも変わらなかった。良くも悪くも真っ直ぐだったのだ。そして、その思いの対象こそが…

 

「ユリマ…俺の為に……」

 

…諦めるとか諦めないとか、もうそういう次元ではない。この子をここで死なせてはいけない。ユリマを闇に堕としたのは俺、なら救い上げるのも俺でなくてはならない。俺には彼女を救う責務がある。

 

 

 

「「「「ディム!?」」」」

 

「『魔王』!?ディムが…なんで!?」

 

ああ違うんだエイト。ユリマを『魔王』にしてしまったのが俺なんだ。

 

「ディム!そいつから離れて!危ないわ!!」

 

きっとユリマはゼシカたちに恐ろしい思いをさせたのだろう。でももう危なくないんだ。

 

「そいつから離れろディム!引導を渡してやるでがす!」

 

ヤンガス…お前の覚悟、責任感、立派だよ。でもごめん、それはさせるわけにはいかない。

 

 

 

限界を超えて「蒼天魔斬」を繰り出してくるヤンガス。その顔に余裕など微塵もなく、いかにユリマが脅威的な存在であるかが窺える。だがそんなヤンガスとは対照的に、俺の顔に焦りはなかった。

 

ギィン、という金属音と共にヤンガスの一撃は弾かれる。ごめんな、サーベルト。お前だって今すぐゼシカの所へ行きたいだろうに…。しかしサーベルトに全幅の信頼を寄せられている俺が止まるわけにはいかない。俺はサーベルトを、彼が世を忍ぶ仮の名で呼んだ。

 

「…アインス」

 

サーベルトはヤンガスの攻撃を全て防ぎ切り、ヤンガスを圧倒した。俺は『ラリホーマ』を唱えてヤンガスを完全に無力化し、エイトとククールの方へ向き直る。

 

 

 

「…お前、ディム…やっぱり騙していやがったのか…」

 

「君がドルマゲスだったんだね…」

 

 

 

そうさ。俺こそが魔性の道化師ドルマゲス…

 

 

 

「何とか言えよ!おい!オレたちを騙して遊んで楽しかったか!?…オレはなあ!お前の料理、好きだったんだぜ!ゼシカも、ヤンガスもだ!お前のことを心底可愛がってた!全部嘘だって言うのかよ!!」

 

「…ディムがサザンビークで姫を一瞬でも元の姿に戻してくれた時、僕はあの時の姫の笑顔をずっと忘れない。君が何を考えてそんなことをしたのかは計り知れないけど…今のこんな状況でも、僕は君に感謝してるんだ。だから、だからこそ、すごく残念だよ。すごく…」

 

 

 

俺は嘘をついた。モンスターをけしかけたりもした。でも…

 

こんな時くらいは誠実でありたい。俺は真っ直ぐ二人の目を見た。

 

 

 

「…隠し事をしていたことは、ごめんなさい。でも…騙していたつもりはありません。本当です」

 

その時、傍らのユリマが顔を歪ませ、苦しそうな呻き声を上げた。呼吸がどんどん浅く、不規則になっていっている…限界は近そうだ。

 

「急がないと。キラ、アインス、手を」

 

サーベルトは首を横に向けたまま俺の肩に手を置いた。ゼシカを視界に入れないようにしているのだろう。絶対ちゃんとした形で再会させるから…今は本当にごめん。そしてキラちゃんは…

 

「!」

 

「……。」

 

背後から力強く抱きしめてきたキラちゃんもサーベルト同様何も言わないが、その嗚咽から泣いていることは分かった。絶対に守るってパヴァンとシセルに約束したのに…心配かけてごめん。あと…信じてくれてありがとう。

 

「エイトさん、ククールさん、ヤンガスさん、ゼシカさんも。いつかまた会いましょう。」

 

俺には最高の仲間であり友人がいる。勇者たちともいつか……。しかし今はその時ではない。

 

 

 

「おい!待てよ!おい!!!」

 

「ディム…」

 

 

 

勇者たちから逃げるように俺は『リレミト』、そして『ルーラ』を唱え、闇の遺跡から離脱した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

──アスカンタ国領北部・U.S.A.──

 

アジトへと転移した俺は変身(コティングリー)を解き、サーベルトの方を振り返った。

 

「さ、サーベルト…あの…っ」

 

「いいさ。話したいことは山ほどあるが…先にその子を連れて行ってあげてやれ。時間が無いんだろう?…ほら、キラもそろそろドリィから離れて。」

 

サーベルトは仮面を外しながら俺の言葉の続きを遮り、ユリマの治療を優先することを促してくれた。本当の本当に頭が上がらない。

 

「…ありがとう…ありがとうございます…っ!サーベルトもキラさんも、このご恩は必ずっ!」

 

サーベルトがキラちゃんを俺から引っぺがすと同時に、俺はユリマを抱えたまま師匠の下へ急いだ。師匠なら、師匠ならきっと何とかしてくれるはず。何かの根拠があるわけではないが、俺はもう師匠に縋るしかなかった。

 

 

「師匠!!!」

 

「なんだドルマゲス、ノックもなしに…と、お前…その女はまさか…!」

 

「はい、ルイネロさんの娘、ユリマさんです。もろもろの説明は後でいくらでも説明します。今は彼女を助けたいです。ご助力願えますか?」

 

師匠は自分の療養室で何かを書いていた。大抵いきなり部屋に入ると怒鳴られるのだが、今回は俺の顔を見てそんな暇はないとわかってくれたのか、師匠は無言でベッドから下りてユリマを寝かせるように指示した。

 

「…診せろ」

 

「はい」

 

俺はユリマを部屋から一番近い清潔なベッドに横たえ、師匠の診察を妨げないように、その場から一歩下がる。

 

「…」

 

「…」

 

カチ、コチ、と響く時計の針の音が、静かな部屋に過ぎてゆく時間を告げる。

 

「……うぅむ…回復は?」

 

「『ベホマ』と『リホイミ』をかけました。『キアリー』『キアリク』で状態異常は消してあります。」

 

「…うむ。確かに外傷は無いな。ではやはりユリマの肉体は…」

 

「うぅ…ぅ……」「ユリマ!」

 

ユリマが再び苦しそうな声を出したので俺も思わず大きな声を出してしまう。

 

「落ち着け。声を出せるのはまだ気力の尽き果てていない証拠だ。…こやつの容体が安定しない原因は通常ではあり得ない魔力の使い方にある可能性が高い」

 

「…。」

 

「なんらかの理由で自分の魔力量を超える魔法を何度も放ったのか?魔力のないまま無理に魔法を放とうとした結果、身体中の細胞が魔力に変換され消費されてしまっている。今のこやつは生命維持に最低限度必要な臓器以外が体内に存在しない、筋肉も骨も最低限度しか残っていない、まるで風船のような状態だ。正直…こんな状態の人間は見たことが無い。」

 

…!それでユリマを抱えた時、あんなに軽かったのか…!!臓器も組織も細胞に至るまで魔力に変換して…なんて無茶を…!

 

「…!そ、そんな…!ユリマ、さんは助かるんですか…?」

 

「わしは医者ではない…筋肉や内臓の繋ぎ方などさっぱり分からん」

 

「…ッ」

 

師匠は首を振り、俺は膝から崩れ落ちそうになった。しかし続く師匠の言葉で俺は踏みとどまる。

 

「だが」

 

「…?」

 

「わしは世界一の魔法使いである賢者マスター・コゾの末裔にして、魔法の研究者。『魔力』云々に関することでわしの右に出る者は誰一人としておらん。」

 

師匠は歯を見せてニッと不敵に笑った。本当に自信のある時しか見せない師匠の珍しい表情…

 

「筋肉の錬成、内臓の錬成…そんなもの外付けの魔力でどうとでもなる。ドルマゲスよ、運が良かったな。つい先日完成した最高の魔法薬がある。……この娘は助かるぞ」

 

「…!!!」

 

この時の俺の心情と言ったら…いや、どんな言葉でも言い表せまい。

 

 

ただ一つ言えることは…俺が「ドラゴンクエストⅧ」の世界に転生して8年……この日、俺はこちらに来てから初めて泣いた。

 

 

 

 

その後、俺は感謝の言葉と共に何度も師匠に頭を下げ、果てには鬱陶しいから外に出ていろと怒られて部屋から追い出された。だが…

 

「嬉しそうだな、ドリィ?間に合ったようで何よりだ。」

 

「サーベルト、キラさんも…ええ、とても。」

 

「…わ、私はあの人を助けたこと、まだ納得してないんですからね…」

 

俺はそんなに嬉しそうな顔をしていたのだろうか?…ともかく二人の所へ戻ってもう一度ゆっくり話をしようと思っていたから、丁度良かった。

 

「申し訳ありません…」

 

「(私が死んじゃった時もこんなに慌ててくれてたのかな…?)」

 

「まあ、言い訳はたっぷり聞かせてもらおうか。…今日は色々あって腹ペコだ。ドリィ、食堂へ行こう。一番美味い料理を食べさせてくれ。…もちろんドリィの奢りで、な?」

 

「…私も、ドルマゲス様を破産させてしまうくらい食べさせていただきますから、パフェ。」

 

「…ええ、もちろんです…!」

 

 

 

後悔は旅路の上で心を引き続ける。それでも、道半ばで歩みを止めてはいけない。…結果だけ見ればたくさんの人を苦しめてしまっていて、空回りだったのかもしれない。勇者たちにも隠し事をしたままだし、結局迷惑をかけてしまった。しかし、ここで折れてしまえば俺は本当にそこまでの男になってしまう。俺はドルマゲスだ。だがあのドルマゲスとは違う。俺の周りにはサーベルトがいる。キラちゃんも、師匠も、そしてユリマも。俺は…絶対に悲しくない、幸せだったと言えるような人生を送ってみせる。俺は硬く拳を握った。

 

 

 

──それでいい。異分子よ、もっと自由に。君のこれからの活躍を私も楽しみにしているよ…

 

 

 

その後、俺が食堂での支払金額を目にしてひっくり返るのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 




「俺たちの戦いはこれからだ!というやつだな!」

「サーベルト、縁起悪いこと言わないでください」


ドルマゲス(男・28歳)
職業:魔性の道化師
レベル:60
魔法:DQシリーズにおけるほぼ全ての呪文
呪術:想像力の限り何でもできる
科学:資材の限り何でもできる
好きなもの:仲間




落書きがちょっと気に入ったので載せます。
『少女の見る夢(リリィ)』で明日の天気を覗こうとするユリマちゃんです。


【挿絵表示】


実際には数秒~数分先までの出来事しか見えないので明日の天気はわからないですね。




新章といいながら前回の補完が大部分になってしまいました。この週末は時間があるので明日、明後日も更新できるのではないかと思っています。では完成していればまた明日!


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第 話 『ユリマ』 終

ユリマちゃん視点のお話も今回で最後です。








 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

………

 

 

ああ 神様 わたしの人生は"孤独"です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お父さんは、お父さんじゃない

 

 

どこかわたしに遠慮している

 

 

お父さん以外に仲のいい大人はいない

 

 

きょうだいもいない

 

 

目線の同じ友達もいない

 

 

好きな人ができた

 

 

でもいなくなった

 

 

 

 

 

わたしはひとりだった

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ 神様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや…もう、いい。わたしは、大丈夫

 

 

身体は痛いけど、内臓(なかみ)ももうないけど、大丈夫

 

 

わたしは最後にあの人を助けられた、守ることができた、役に立てた

 

 

だからもう、大丈夫

 

 

 

 

 

あの人の役に立ちたい

 

 

小さなころから、私とお父さんが本当の意味での親子になれたときから、ずっとそれだけが夢だった

 

 

ちょっと怖い笑顔が好きだった

 

 

見たことのない、でも美味しい料理が好きだった

 

 

時々くれる花が好きだった

 

 

褒めてくれる時に撫でてくれる手が好きだった

 

 

ずっとこの「好き」を何かの形で贈りたかった

 

 

でもわたしが贈る前にあの人は行ってしまった

 

 

その間も「好き」は膨れ上がって、居ても立っても居られなくなった

 

 

ライラスさんの家から薬を盗んで飲んで、わたしもあの人を追って街を出た

 

 

海に落ちた私をイカさんが拾ってくれた

 

 

わたしはイカさんを潰した

 

 

それからも魔物たちは絶え間なく襲ってきた、わたしは全て潰した

 

 

宿場町でわたしは「半魔」と呼ばれて追い出された

 

 

それでもよかった、あの人に近づけるのなら

 

 

老夫婦の家に泊まらせてもらった

 

 

久々にヒトの優しさに触れてわたしも優しい気持ちになった、でもごめんなさい、わたしはもうあの人以外を愛せない

 

 

あの人は見つからなくて、スラム街でしばらく寝泊まりしていた

 

 

男の人は嫌い

 

 

あの人は西の大陸へ向かったのだと聞いた

 

 

船を持っている女の人に船を貸してもらった

 

 

船を動かしたことなんてないから、船は少し壊れてしまった、ごめんなさい

 

 

宿屋でついにあの人を見つけた、すぐに飛びつきたかったけど、夜中だったし、知らない剣士の人と相部屋だったのでやめておこうと思った

 

 

頭の中で声がして、杖を手に取れと言ってきた

 

 

杖の場所はすぐに見当がついた、あの人は大事なものをすぐに異空間(ぽけっと)へ隠すから

 

 

頭の中の声に従う気はなかったけど、大事なものみたいだから誰かに盗られないよう、わたしが預かっておこうと思った

 

 

そこからしばらく記憶が無い

 

 

誰かの記憶を追体験しているような、興味のない映画をぼんやり眺めているような、わたしだけどわたしじゃないような。ずっとそんな感じだった

 

 

 

 

あれ、なんで、今、こんなこと

 

 

 

 

 

 

そっか

 

 

 

 

 

 

 

 

わたし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

目が覚めた…?息、吸える。心臓、鳴ってる。…わたし、生きてたんだ。

 

「…」

 

知らない天井、知らないベッド、ここはどこだろう…

 

「あっ!起きられたんですね」

 

わたしの顔を覗き込んできたのは看護婦のような装束に身を包んだ金髪の女の子。…えーと、キラちゃん、だったかな。よく覚えてないけど、たぶんそう。

 

面白くない。

 

「…」

 

「ちょ、ちょっとぉ!?なんでもう一回寝るんですか!?」

 

「…目覚めなおすんですよ。どうして起き抜けに見るのがあなたの顔じゃないといけないんですか?」

 

「な!な!な…!」

 

わたしが薄目を開けてキラちゃんを見ると、顔を真っ赤にして服を握りしめている。何か言いたそうにしているけど、うまく言葉になってないみたい。揶揄われ慣れてないのかな?…きっと生まれてから何も悩み事なく生きてきたんだろうな。羨ましい。わたしは起き上がってキラちゃんのおでこを指で弾いた。

 

「あでっ」

 

「…はあ、冗談ですよ。全く、ジョークの一つも理解できないでよくドルマゲスさんの近くにいられましたね?」

 

「…」

 

私が本当にもう一度寝ようとすると、キラちゃんは無言で私を殴ってきた。ぐーで。

ぱーじゃなくてぐーで!あまりに突然すぎて私はおでこにいいのを貰ってしまった。

 

「イッタ。……何するんですか?」

 

「それはこちらのセリフですよ。どうしてドルマゲス様を傷つけるような人がそこまでドルマゲス様にこだわるのですか?」

 

「…あなたには決して入る余地のない理由(わけ)が、わたしにはあるんですよ」

 

わたしは殴られたおでこをさする。元々非力そうな彼女のパンチ、しかもかなり手加減されていた。痛いはずがない、ないけど…なんか。ショックか、衝撃か、わたしの精神(こころ)は少し揺れた。

 

「私、ドルマゲスさんを虐めた貴方をまだ許していませんから。このパンチは…私の気持ちです。」

 

「…はぁ、あなたに許されないからなんなんです?なんであなたがドルマゲスさんのことで私に怒るんです?義憤ですか?わたしに対するあてつけ?アピールですか?気持ち悪い、吐き気催しちゃいますよ。おえー。」

 

「あと私を殺したことも許してません」

 

「えっ」

 

えっ、えっ。そんな、えっ?

 

「…」

 

キラちゃんの表情は真顔のまま変わらない。適当なこと言ってる?…そんな感じでもない。え、じゃあ本当なの?わたしが?記憶の曖昧な間に彼女を?

 

「ご、ごめんなさい…?」

 

キラちゃんはふふんと意地悪っぽい笑みを浮かべた。…腹が立つなぁ。ボコボコにして私の隣のベッドにでも寝かせておいてあげようか。みんなビックリするだろうな。

 

「えーと、まあその程度では許すことはできませんが、謝罪の言葉は受け取っておきますね。」

 

キラちゃんはわたしの肩を少し押してまたベッドに寝かせようとした。別に反抗する理由もないわたしはされるがまま、再度大きな枕に後頭部を(うず)める。キラちゃんは袖をまくって、濡れた布を絞り、わたしの頭にそっと乗せてきた。つめたい。

 

「…なんですか、これ」

 

「ライラス様の魔法薬の副作用でしょうか、まだ少し熱っぽいので冷やさないと。」

 

「…熱っぽいって、ヒートアップさせたのはあなたですけど?」

 

「…ですので、頭を冷やせってことです。ドルマゲス様にお熱のお嬢様。」

 

「…!」

 

わたしにはキラちゃんに言い返す言葉を見つけることはできなかった。…なぁんだ。ちゃんとユーモアもあるんだ。……そりゃドルマゲスさんも気に入るわけだよね。

 

「……はあ。わかりました。わたしは寝ます。あなたもご苦労様。帰って良いですよ。そしてもう戻ってこないでください。」

 

「いえ、貴方が目覚めたので、私はこれからドルマゲス様たちを呼んできます。」

 

「ねっ、寝られないじゃないですか!」

 

キラちゃんはくすくすと笑い、部屋を出て行った。あれ?なんか、遊ばれた?

 

…なんでだろう、わたしの方が賢さ(あたま)肉体(からだ)も、戦闘力(パワー)魅力(ぱわー)(POWER)も上回ってるはずなのに…こんなに『負けた』気がするのはなんで?

 

そんなことはどうでもよくて。今からドルマゲスさんが来るんだよね!?わたしにはそっちの方がよっぽど重要!

 

ぽっ、と火にかけたやかんのように火照るわたしの顔。どうしよう、わたしどんな顔でドルマゲスさんに会えばいいの?たくさん迷惑かけたんだよね。…あんまり覚えてないけど…。でも、会えるの楽しみ、嬉しい、大好き!

 

「好き」が止まらない。本当はもっと申し訳なさそうにしたり、葛藤したりするべきなのかな?…でも、わたしは行動原理が「好き(それ)」だから。今までも、きっとこれからも。わたしはそわそわしながらドルマゲスさんが来るのを待った。鏡もないまま髪の毛を直しちゃったりして。相変わらず右目は見えないままだけど、構わない。もう一度ドルマゲスさんを視界におさめられるのなら。

 

わたしにとっては永遠の様に長い数分の後。再びドアが開き、ひょっこり顔を出したのはキラちゃん。…ドルマゲスさんじゃない!!おあずけされて少し荒んでいたわたしは彼女に唾を吐きかけそうになったけど、飲み込む。いくら何でもはしたなさすぎるよね。

 

「!!!」

 

でも、そんな思考すら一瞬の内に消滅。わたしの目線はキラちゃんの後ろから現れたドルマゲスさんに釘付けになってしまった。

 

「あ…ぁ」

 

上手く言葉が紡げない。

 

「…」

 

ドルマゲスさんは何も言わずにずんずん近づいてくる。どうしよう、怒られるのかな、叱られるのかな。「嫌いです」「最低です」なんて言われたらどうしよう…どっ!どうしよう!!

 

「そ、の…ど、ドルマゲスさん…」

 

ドルマゲスさんは腕を広げた。叩かれるのかと思ってわたしは少し怯む。ドルマゲスさんは更に近づいてきた。ドルマゲスさんは腕をわたしの後ろに回した。ドルマゲスさんはそのまま私を強く抱きしめ──

 

え?これって

 

「…おかえり…ユリマさん」

 

 

 

 

 

─ぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『幸』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

目が覚めた。もしかしてさっきまでのやりとりは全部夢だったとか?だったら笑えない。

 

「…あっ、起きられたんですね。起きましたよ、皆様!」

 

「…」

 

「もう!なんでまた寝ようとするんですか!」

 

「…目覚めなお「おはようございます、ユリマさん」」

 

「…」

 

「ユリマさん?」

 

「おおおおおおおおおはようございますドルマゲスさん」

 

「すっごい震えてますが大丈夫ですか?」

 

心臓が高鳴る。夢じゃなかった!夢じゃ…わたし…やっと…

 

「ああっと、また気絶されても困りますからね。もうちょっと起きておいてください。…ねぇ師匠、あの薬、眠気を引き起こす成分とか入ってるんですか?」

 

「入っとるかそんなもん。医療用の薬じゃあるまいし。こやつのメンタルの問題だ。」

 

「ら…いらすさん?」

 

「ふむ、記憶に異常は見られんようだな。」

 

白い髪に白い髭を蓄えたおじいさん、ドルマゲスさんの師匠。ライラスさん。確か死んだはずじゃ…?キラちゃんといい、やっぱりここって死後の世界…?

 

「???」

 

「…面食らっておるな。」

 

「まあ、ユリマさんの中では師匠は死人ですからねー」

 

「確かにわしは長い間仮死状態にあったからな。キラも一度は完全に死んだと聞くし、サーベルトも死にかけたというではないか。さてはドルマゲス…実はお前、死神か何かじゃないのか?」

 

「人聞き悪いですねぇ。サーベルトも何か言ってくださいよ」

 

ドルマゲスさんに話を振られて口を開いたのはドルマゲスさんより少し若そうな男の人…ちょっと覚えてる。ドルマゲスさんを親友だって言ってた人だ。多分。

 

「ドルマゲスは命の恩人ですよ。ライラスさん。…顔が死神を想起させるほど怖い、と言われるとそれは俺もそう思いますけど。」

 

「一言多いんですよ!」「ははっ、悪い悪い」

 

ドルマゲスさんがあんな風に笑うのは初めて見るかもしれない。厳しいイメージのあるライラスさんも今は口角が少し上がっている。

 

「…」

 

「どうですか?」

 

「…何がです?」

 

「サーベルト様も、ライラス様も、…私も。みんなドルマゲスさんが大好きで、信頼しているんですよ。」

 

「…」

 

「貴方だけがドルマゲス様の理解者というわけではないのです。」

 

「…そう、ですね…あなたに諭されるなんて。」

 

病室で大きな声を出したせいなのか、ライラスさんに正座させられているドルマゲスさんと剣士のお兄さんを見て、わたしは自分の布団に目を落とした。そうか。わたしだけじゃなかったんだ。わたしだけがドルマゲスさんを好きだったわけじゃないんだ。じゃあ、なんのためにわたしは…

 

「そして、貴方もまた彼の理解者であることに変わりはないのです。」

 

「…!なにが…わたしはあなたたちとは違うんです」

 

「私とサーベルト様はかつてのドルマゲス様を知らない。一方、貴方とライラス様は旅に出てからのドルマゲス様を知らない。違いなんてその程度ではありませんか?」

 

「…」

 

「キラさんの言う通りです、ユリマさん」

 

「ドルマゲスさん…」

 

「このバカ弟子はわしに黙って暗黒神に決戦を挑み、しかもマヌケなことに敗走してきたと聞く。なんとも情けない話だが、今は戦力を蓄えるべきだということは知れた。そのためにユリマ、お前の力も必要なのだ」

 

「正直…俺もキラ同様、君のことをまだ許してはいない。しかし君は、俺の信頼するドリィが信頼している者。君が一緒に暗黒神と戦ってくれるというのなら、俺は君を歓迎したい」

 

ライラスさんとお兄さんは私から目を離さない。パルミドで感じたような下卑た視線じゃなくて、もっと澄んだ、美しい眼差し。男の人は嫌い、それは変わらないけど…何故か今は平気だった。

 

「ユリマさん、貴方は私にとって特別な存在ですが、それは師匠もサーベルトもキラさんも同じことです。」

 

そう…か…でも、それってやっぱりちょっと不満。わたし、本当に自分勝手。

 

「わたしは……わたしは、みなさんと同じようには考えられません。ドルマゲスさんだけが特別です。そしてドルマゲスさんにも私だけを特別だと思っていて欲しい。」

 

「…」

 

ドルマゲスさんは困ったように頭を掻いた。キラちゃんとお兄さんは顔を見合わせ、ライラスさんは大きくため息を吐く。三者三様の反応。みんな住む場所も個性も違うのに、その全員がドルマゲスさんの理解者。そこにわたしも…?

 

入って、いいのかな。

 

キラちゃんと目が合う。彼女は控えめに微笑んだ。

 

「(大丈夫ですよ)」

 

そう言っているように思えた。

 

「ユリマさん…」

 

「…冗談です、みなさんをちょっと困らせてみたかっただけ…わたしも、ドルマゲスさんと一緒に戦います。…というか、ずっと昔からわたしはそれが夢でした。他の人は…」

 

わたしはわたしを取り囲む人たちを見回す。みんな、わたしを見ている。高くもない低くもない、わたしと同じ目線で。

 

「…他の人も、まあドルマゲスさんの味方で居てくれる限りは仲間だと思うように努力しますよ。」

 

「…!」

 

ドルマゲスさんの顔は明るくなり、キラちゃんとお兄さんは笑みを浮かべる。ライラスさんもむすっとした表情は変わらないが、悪い感情ではなさそう。

 

「はんっ、最近の若者は素直でないから扱いに苦労してかなわんな。」

 

「え?師匠は自分のこと『最近の若者』だと思ってるんです?」

 

「どういう意味だドルマゲス、そこへ直れ」

 

「失言でしたすみません」

 

また正座させられるドルマゲスさん。その様子がなんだか微笑ましくてわたしは思わず笑ってしまった。

 

「…あははっ」

 

「…やれやれ。こんなバカが好みとは、お前も大概な物好きだな。…改めて、ライラスだ。お前には以前トラペッタで魔法を教えていたことがあるから分かっているだろうが、わしは男だ女だで対応を変えたりはせんからな。ドルマゲス同様、お前も厳しく指導してやるから覚悟しておけ。」

 

「はい。ライラスさん、これからもご指導のほどよろしくお願いします」

 

ライラスさんはふんと鼻を鳴らし、実験の途中で呼び出しおって、と文句を言いながら退出した。

 

「俺の名はサーベルト・アルバート。ドリィによればその真名はサーベルト・クランバートル。リーザスの村の領主の嫡男で、ドリィの親友だ。君とも仲良くしたい。よろしく頼む。」

 

サーベルトと名乗ったお兄さんは手を差し伸べてきた。多分、友好の証、握手。でも…やっぱり嫌だ。ドルマゲスさん以外の男の人の肌に触れるなんて…嫌だ…けど……。

 

「!」

 

わたしは差し伸べられた手の、人差し指だけを右手でつまんだ。ごめんなさい…でも今はこれで。これがわたしにできる、一番の譲歩だから。

 

「…その節は色々と迷惑をかけてごめんなさい。わたしはユリマ。出身はトラペッタの町です。ドルマゲスさんのこと、今まで守ってくれてありがとうございました。これから……よろしくお願いします、お兄さん。」

 

お兄さんはわたしの拙い握手モドキを笑って受け取ってくれた。

 

「では、次は私が……改めまして、私の名前はキラと申します。生まれも育ちもアスカンタ国領、以前は王室で小間使いをしておりました。言いたいことはまだまだあるんですけど…過去は過去、今は今、です。ユリマさん、私は貴方のこれからに期待しています。」

 

キラちゃんも手を差し伸べてきた。わたし、女の人も…特にドルマゲスさんの周りにいる女の人は嫌いだけど…ここでこの手を振り払ってしまうと、やっぱり『負けた』気がする。…だったら。わたしはキラちゃんの手を掴み、強く握りしめた。

 

「!?イタタタタ!いたっ、い、痛いですよ!!」

 

「ああ、失礼。あなたと仲良くなりたくて、つい力が入っちゃいました。キラちゃん、これからよろしくね。」

 

「~~~!!!」

 

やっぱりあの人苦手です~!とキラちゃんはドルマゲスさんの後ろに隠れた。その()()()()振る舞いにわたしは一瞬殺意を抱きそうになるけど、ダメダメ、これからわたしはみんなの仲間に入れてもらうんだから…。わたしは張り付けた笑顔が剥がれないように努めながら、こめかみに浮いた青筋を手で抑えた。そして当のドルマゲスさんは…

 

「え」

 

ドルマゲスさんはいつの間にか私の隣に立っていた。

 

「本当に…よく帰ってきてくれました。…そして、ごめんなさい。貴方を巻き込んでしまって。私が至らないばかりに、貴方を暗黒神との戦いに引き込んでしまった。その右目も…」

 

「いやっ、そんなっ!わたしはただ、ドルマゲスさんの役に立ちたくて!…痛いとか辛いとか、悲しいとか、思ったこと…ないです」

 

嘘だけど。ずっと、思ってたけど。

 

そんな本心を隠しながら、知らず知らずのうちに俯いていたわたしの頭に何かが乗せられる。

 

「!」

 

わたしはこの感触を知っている。

 

「…いいえ、痛かったでしょう、苦しかったでしょう。本当にごめんなさい。全て私と暗黒神の因縁が引き起こしたことで、貴方に罪はないのです。だから…我慢しないで」

 

「…♪」

 

頭、撫でられて。やっぱり最高。優しい気持ちになる。大好き。

 

「…本当に大丈夫です。……今、大丈夫になりました。」

 

「…そうですか。ユリマさんは強いですね。私なんかよりもずっと」

 

そんなことない、わたしは強くない、強がっているだけ。あなたがいるから、強がっているだけ。……でもそんな答えをドルマゲスさんが期待していないことぐらいはわたしにだってわかる。だったら、わたしは。

 

 

 

ここで一歩踏み込んで、「強さ」を。

 

 

 

「あ…の!ドルマゲスさん!」

 

「はい」

 

「ドルマゲスさんがわたしに贖罪をしたいと言ってくれるのなら、みなさんに迷惑をかけたわたしの要望が通るなら…」

 

 

 

自分でも納得できる「強さ」を。キラちゃんにあってわたしにないものを。

 

 

 

「わ、わたしのこと…ユリマさんじゃなくて、『ユリマ』って呼んでください。ドルマゲスさんが国を滅ぼした大罪人だと自嘲するなら、わたしにだってそれを背負わせてください。私たちは運命共同体になるんです。……敬称なんてもう…いらない、でしょう?」

 

わたしはドルマゲスさんの目を見た。見るなってって言われるまでは目を離さない。弱弱しくて、かつ確固たる意志を持って。

 

ドルマゲスさんは息を一つつくと、わたしの頭から手を離し、そのままわたしの手を取った。握手だ。友好の証…。はあ、今だけ握手が『永遠の愛』って意味にならないかな、なんて。

 

「貴方がそれを望むのなら。こちらこそ、よろしくお願いします。一緒に世界を救いましょう、ユリマ。」

 

握手の意味なんて、もうどうでもいいか。今はただこの手のぬくもりを記憶しよう。単純で桃色な私の脳の、全ての領域を使って。

 

「は、はひ…」

 

…あーあ、残念。どうやらわたしの脳は働くことを放棄しちゃってるみたい。頭真っ白だよ。

 

わたしの視線と、ドルマゲスさんの視線が交差する。嗚呼、ここで時間を切り取って保管できたなら。でも無情なことに、砂糖を蜂蜜で煮詰めたような、この甘い甘い空間はそう長くは続かなかった。ドアが開いて、ひどくうんざりした表情のライラスさんが首だけ出してドルマゲスさんを呼んだ。

 

「…おい、ドルマゲス、第二階層で魔物同士のもめごとだと。このままだと実験もくそもない、早く鎮圧してきてくれ。…ハァ、2週間かかる実験が全てオシャカになったわ。」

 

「えぇ…またですか…?従業員への教育が足りてないんですかねぇ…とにかく、了解しました!サーベルト!腕っぷしに自信のある人手が要ります!ついてきてください!」

 

「任せろ!ドリィ、案内してくれ!」

 

「ではキラさん、ユリマ、また後で!」

 

「お二人ともお気をつけて!」

 

「あ…い、いってらっしゃい!」

 

ドルマゲスさんとお兄さんは勢いよく部屋を飛び出し、ライラスさんもため息をついてまた廊下へ消える。それを見送ると、キラちゃんも荷物をまとめて立ち上がった。

 

「キラちゃんはいつもここで何をしてるんです?そもそもここってどこ?」

 

「ここは南の大陸、アスカンタ国領の北部にドルマゲス様が建設なさったアジトです。…ユリマさん、お腹が空かれているのではないですか?私は上の階層にある食堂に従事していますので、よければ案内板を見ていらしてください。腕によりをかけて御馳走しますから。それか、今からご一緒しましょうか?」

 

お腹…確かに空いてる。そういえば最後にまともな食事をしたのはいつだっけ?そう思うと急に何か口にしたくなってきた。

 

「わかりました…じゃあ、後で行きます。多分もう歩けますし。」

 

「そうですか、では……あ、そうだ」

 

「?」

 

キラちゃんは廊下を除いて誰もいないことを確認すると、ちょっと顔を赤らめながら近寄ってきた。あざとい。そしてわたしの耳元で囁く。ますますあざとい!

 

「わ、私…負けませんから」

 

「!」

 

「…」

 

「…」

 

「…す、すみません。やっぱり聞かなかったことに──」

 

やれやれ、煮え切らないなぁ。わたしはさっきよりもちょっと強めにキラちゃんのおでこを指で弾いた。

 

「あでっ!」

 

「…生意気なんですよ。キラちゃん、わたしよりも年下でしょう?……受けて立ってあげますよ。悪足掻きくらいなら、いくらでも」

 

「…うふふ、随分ひねくれたお姉様ですね」

 

「あんまり生意気だと埋めますよ?」

 

そう言ってわたしとキラちゃんは笑いあった。

 

こんなの、初めて。叱ってくれる大人がいて、頼れそうなお兄さんがいて、軽口の叩ける子がいて、好きな人と一緒に肩を並べられる。こんなの、初めて…!

 

「(あ。わたし、今──)」

 

 

ひとりじゃないんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ 神様 わたしの"孤独"が終わります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「──私たちは運命共同体になるんです。……敬称なんてもう…いらないでしょう?」

「じゃあ私のことも『ドルマゲス』と呼んでくれるんですか?」

「…そ…れとこれとは別問題です」



「──よろしくお願いします、お兄さん。」

「…ッ」

「サーベルト、どうかしましたか?」

「…い、いや…」

「(あー、妹属性が効いてるんですねー)」



どうも。長らく本編の内外で大暴れしていたユリマ氏もこれでようやくドルマゲスくんたちの仲間入りです。許されザル行いをいくつかした彼女ですが、基本的にドルマゲスとラプソーンが悪いのと、サーベルトとキラが神的にイイ人だったので受け入れてもらえました。誤解のない様に言っておきますが、ユリマの身体はキレイなままです。オセアーノンをのしイカに出来るような女がパルミドの荒くれ程度に後れを取るわけがないので。

ちなみに初期構想ではこれが最終話の予定でした。でもこれだと主人公が誰かわかんなくなっちゃうので終わるに終われず、まだまだ続けます。相変わらず先の見通しは立っていないですが、竜神の里にはいくかな、いかないかなーって感じです。ではまた明日。


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Chapter26 リブルアーチ地方 ①

原作だとリブルアーチ編が一番記憶に残ってます。ライドン、リーザス、呪われしゼシカ、ハワード、チェルス、レオパルドちゃん…キャラがたくさんです。暗黒神ラプソーンの目的やサーベルトが賢者の末裔であることが判明するのもおそらくここら辺だったはず。

気合い入れないとですねぇ。








闇の遺跡での決戦は、その雌雄が決する直前で割って入ってきたディムこと、魔性の道化師ドルマゲスの参戦により混戦状態となった。ついに正体を現したディムによって最終的に『物乞い通りの魔王』を取り逃がし、かつディムがドルマゲスであったということが確定したことで、残された一行の気分は最悪なものであった。

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

誰も、何も言わない。風吹きすさぶ暗黒の祭壇の中、エイトたちは下を向いてただ立ち尽くしていた。

 

「…」

 

「…」

 

そんな沈黙を破ったのは、やはり気丈なこの男だった。同時にディムの裏切りの件で最もショックを受けている男でもある。

 

「…なあ、とりあえずヤンガスを起こそうぜ。(いびき)もかかないんじゃ生きてるのか死んでるのかわかんねえしな。」

 

「そ、そうだね…はいヤンガス、そろそろ起きて」

 

「うぅ…ん……あ、兄貴…?」

 

「ああ、生きてたんだな。よかったよかった。さ、ゼシカも…ゼシカ?」

 

「・・・」

 

ゼシカは心ここにあらずといった風に呆けていた。ククールが呼んでも聞こえているのかいないのか、上の空である。

 

「ゼシカ…」

 

「・・・」

 

「ククール、ゼシカは大丈夫なの?」

 

「…まあ大丈夫だろうが、ゼシカはディムをだいぶ気に入ってたからか、急に奴が消えて茫然自失になってるな…放っておいたらずっとこのままって可能性もある。」

 

実際にはディムだけの問題ではないのだが、それはククールたちには与り知らぬことである。

 

「そんな…どうしよう…」

 

「オレが起こしてやるよ。まあ見てなって」

 

「?」

 

ククールはゼシカの手を引いて無理やり立たせると、ハンカチで自分の口元を拭い、その手に口づけをするフリをした。瞬間、魂の抜けていたゼシカの顔に生気が戻り──

 

「なっ!何すんのよ!!!」

 

遠慮など微塵もない、嫌悪MAX、乙女の本気ビンタがククールに炸裂した。

 

 

「…く、ククール…」

 

「……な、ちゃんと起きただろ?オレにかかりゃ朝飯前さ」

 

ククールは赤く腫れた頬をさすりながら不敵に笑う。

 

「全く…もう少しマシな起こし方はないわけ?心臓が止まるかと思ったじゃない。…もちろん悪い意味でね」

 

「くぁ…まだ頭が眠気でふわふわするでがす…」

 

「・・・」

 

「…」

 

「ゼシカ、大丈夫…?」

 

「…ん?…何が?私、何かおかしいかな?」

 

「いや…その…ディムのことでさ」

 

気が立っているいつものゼシカなら、さっきのところで「あら、じゃあヤンガスも一発ひっぱたいてあげよっか?」なんて言葉が出てくるはずなのだが、とエイトは思う。いつもとそう変わりない様に見えるゼシカも、やはり本調子ではないようだ。

 

「…。だ、いじょうぶよ。私は平気。といっても、ヤンガスが事前にディ…ドルマゲスを疑うことを教えてくれなきゃ危なかったかもね。…ヤンガスの……言う通りだったんだわ」

 

「…そうだよね。ディムは僕らを騙して…何が目的だったんだろう」

 

「…ッ」

 

「…」

 

その時ゼシカが一瞬だけ見せた怒りと悲しみと憎しみと…あらゆる感情の入り乱れた顔を、エイトは見逃してしまった。…しかしそんなエイトを責めることはできない。一見平気そうに見えるエイトとククールもその実少なくないショックを受けているのだ。ヤンガスは寝起き、ゼシカは虚勢を張っており、ククールとエイトも心の底では酷く動揺している。そんなパーティーの会話がぎこちなくなったしまうのは当然のことであった。

 

「…さて、これからどうするよ」

 

「…」

 

「と、とりあえず、ここを出よう。王様に合流して報告しないと…」

 

「今後の話はじいさんと一緒に…ってことね、りょーかい。…ならじいさんと馬姫様を拾ってそのまま宿屋に行こうぜ。サザンビークの、確かあそこ、オレたちならタダにしてくれるんだろ?チャゴス王子の一件でさ」

 

「・・・」

 

「そうだね、そうしようか」

 

「兄貴がそうするなら…ふあぁ…」

 

「ええと、じゃあ──」

 

「…?待って…!アレ…」

 

エイトが『リレミト』を唱えようとした矢先、突然ゼシカが一点を指さした。その先に転がるは一本の杖…ドルマゲスが持ち去り、『魔王』ユリマの振るった『神鳥の杖』である。

 

「あれは…トロデーンの『秘宝の杖』か…!?」

 

「杖…確か『魔王』が持っていたはずじゃ…?」

 

「きっとディ…ううん、ドルマゲスに連れていかれる時に落としていったんだわ…」

 

ゼシカは再度ディムの名を口にしかけ、首を振って訂正した。そして転がっている杖の元へ歩いていき、そのまま拾い上げる。

 

「えっ、だ、大丈夫…なのかな?触っても…」

 

突然爆発したりしないだろうか。そんなエイトの心配とは裏腹に、ゼシカは両手で杖を握ったり放り投げたりしている。一通り確認して満足したのか、ゼシカは戻ってきた。

 

「うーん、大丈夫そうよ?トロデーンの秘宝がこれだって言うなら、お城の呪いについてもこれを調べれば何かわかるかもしれないわね。『魔王』やドルマゲスがこの杖を狙っていた理由も気になるわ。」

 

「なるほど、そうかもな。…さ、こんな陰気な場所からはさっさとおさらばしようぜ、エイト?」

 

「そうだね、遺跡の魔物がここまで押し寄せてきたら面倒だし。じゃあみんな、僕につかまって…『リレミト』」

 

『リレミト』の光に包まれてエイトたちは暗い遺跡を脱出した。仲間の腕の中にどんな闇より悍ましい暗黒の神を抱えたままだとは露知らず。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

遺跡の外で待っていたトロデと合流した一行は事のあらましを話した。ワシには薄々わかっていたことじゃ、と口にしたトロデだが、その顔は決して得意げなものではなく、ミーティアもまた、喋ることは叶わないながらその表情には物悲しさが漂っていた。そして、こんな荒地にいては前向きな考えはできないと言うトロデの意見に同意し、一行はサザンビークに移動して肉体と精神の疲れを宿屋で癒すことにしたのだった。

 

 

翌日。部屋でぐっすり眠っていたエイトは廊下から響く足音、破られんとする勢いで開かれるドアの音、そしてヤンガスの大声の三連コンボでベッドから飛び起きた。その拍子にポケットから吹っ飛ばされて頭をぶつけてしまったトーポにとってはいい迷惑である。

 

「てっ、てえへんでがすよ兄貴!!」

 

「…なっ、何…!?」

 

「ゼシカが……ゼシカがいねえでげす!朝起きたらベッドはもぬけのからで、荷物も見当たらねえんでげすよっ!」

 

「…!?」

 

ヤンガスの剣幕にこれはただ事ではないと感付いたエイトはすぐさま用意を整えて立ち上がった。

 

「宿屋の他の場所には?」

 

「宿は屋根の上から絨毯の裏まで探したでげすが、やっぱりどこにもいなかったんでがすよ。んでとりあえずおっさんとククールが今宿の外を探してるんでげすが、人手が足りないってんでアッシは兄貴を呼びに来た次第でがす。」

 

こんな一大事に時にどうして自分は眠っていたのか。エイトは何とも言えない虚しい気持ちになったが、すぐに切り替えてヤンガスと共にトロデたちと合流した。

 

 

「王様、ククール!」

 

「おお、エイトか。現状は伝わっておるな?ワシもこの姿を見られぬよう頭を隠してサザンビークを一巡してみたが、特にゼシカらしい人影は見つからなかったわい…」

 

「オレはそこら中の人間に聞き込みをしてみたんだが、誰も女を見た奴はいないとよ。だが、これでゼシカが宿を抜け出したのは、オレたちが宿屋に到着した夜中から人がまだいない朝方までの間だってことはわかった。今は昼前だが、まだそう遠くには行ってないはずだぜ。」

 

「すみません、こんな大事な時に僕…」

 

「よい。寝ている間に抜け出されたんじゃどうしようもないわい。しかし、どうしたものか…」

 

「サザンビークはでかい王国でがすからね。ゼシカを探すにしろ、まずまだこの国にいるのか、それとも外に出たのか分からねえんじゃどうしようもねえでがすな…。」

 

「…」

 

あまりにも手掛かりがなさすぎる。エイトたちが世界の広さに頭を抱えそうになった時、一頭の馬の嘶きが聞こえた。

 

「!」

 

「こ、このワシに似て気品のある高貴で美しい鳴き声は…」

 

「馬姫様でがすね。」

 

宿屋の馬宿に繋がれたミーティアはエイトたちを見つけるとせわしく嘶き始めた。その様子はただ事ではなく、トロデは一目散に、続いてエイトが駆け寄った。

 

「姫、何かございましたか?」

 

「おお、ミーティアや、どうしたんだい?お腹が痛いのか?可哀想に…」

 

「…」

 

ミーティアは違うという風に首を振った。そしてまたしきりに鳴き声を上げる。

 

「姫…もしかして何か言いたいことがあるんですか…?」

 

「…!」

 

ミーティアは嬉しそうに首を縦に振った。どうやらミーティアはどうしてもエイトたちに伝えたいことがあるらしい。

 

「どうやら兄貴の言った通りみたいでがすが…」

 

「うーん、オレたちには馬の言葉はわからないしな…」

 

「み、ミーティアよ!ワシに話してくれ!なんとか解読してみせる!」

 

「…。」

 

ミーティアは半目でトロデを一瞥すると、前足でエイトが腰から下げているふくろを指した。

 

「ふくろ…?…あっ!」

 

瞬間、エイトはミーティアの意志を理解し、袋をまさぐって数粒のカプセルが入った小瓶を取り出した。抽象化(デフォルメ)された泉の紋様が描かれている、虹色の派手な小瓶である。

 

「それは…ああ、ディムに貰った…」

 

「『ふしぎなサプリ』…そっ、そうか!それがあれば一時的にミーティアを元の姿に戻せる!会話できるようになるというわけじゃな!」

 

「しかし馬姫様、大丈夫なんでげすかね?ディムはアッシらを騙して『魔王』を連れて行っちまったんでがすよ。そんな奴の残したクスリなんて何が入ってるか…」

 

「…!」

 

ヤンガスは自分なりにミーティアを心配したのだが、ミーティアはゆっくり首を振ると、真っ直ぐエイトの目を見た。彼女との付き合いが長いエイトは、その眼差しを見て迷わずサプリを一粒差し出す。意外と頑固なミーティアは一度決めたことを簡単には覆さない。…であればすぐに渡すのが吉なのである。

 

「王様、いいですよね?」

 

トロデも逡巡の後、ミーティアの瞳を見て観念したのか、許可を出した。ミーティアの頑なな性格はもちろん父親であるトロデもよく知るところである。そして、二人の保護者の許可を得てサプリを嚥下したミーティアの身体は前回と同じように光り輝いた。

 

「…。」

 

「…姫…お久しゅうございます。」

 

「おおミーティア…やはりおまえは最高に美しい姫君じゃな……」

 

「やれやれ。こんなに麗しい人間の姿を見ちまうと、馬に戻った時にまた馬車を引かせるのに引け目を感じるでがすな。」

 

「ああ、まったくだ。」

 

光が収まり、馬がいた場所には一人の美しい女性。もちろんトロデーン次期王位継承者、ミーティア王女その()()である。

 

「エイト、頭を上げて。」

 

ミーティアはエイトに笑いかけると、思いつめた表情で他のメンバーたちに向き直った。

 

「まずは皆様、トロデーンのため、お父様のため、そしてミーティアのために…いつもいつもありがとうございます。ミーティアには馬車を引くことくらいしかできませんが、お馬さんの姿でもずっと皆様のことを応援しておりますわ。これからも…どうかよろしくお願いします。」

 

「気にしないでいいでがすよ。アッシは兄貴についていくだけでがす。」

 

ヤンガスがミーティアを気遣ってフォローすると、ミーティアはヤンガスさんにそう言って頂けると気が楽になりますわ、と微笑んだ。

 

「あと一歩のところで魔王を取り逃してしまって、ディムさんが皆様の前から姿を消してしまわれて、そして今度はゼシカさんまで…」

 

「…」

 

「…こんなことを言うと皆様の顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまうかもしれませんが、実を言うと…ミーティアは今でもディムさんのことを信じているのです。」

 

「!?姫、それは…」

 

「現に今私がこうして皆様とお話しできているのは彼のおかげ…。皆様もご存じだと思われます、彼の笑顔、優しさ、お料理、お話……ミーティアにはどうしても彼が根っからの悪人だとは思えないのです。」

 

「…。」

 

ミーティアの告白にヤンガスもククールも、エイトとトロデまで押し黙ってしまう。そう、ミーティアの言うようなことは既に分かっているのだ。だからこそ混乱している、動揺している。

 

「…それでミーティアや、ワシらにそれを伝えるために薬を飲んでくれたのかい?」

 

トロデが優しくミーティアに語りかけると、ミーティアはハッとしたように顔を上げた。

 

「ああっ!そうです!ディムさんの真相を掴むためにはまずゼシカさんと合流しないと!というお話がしたかったのでした!ミーティアは今朝、ゼシカさんがトロデーンの秘宝の杖を持ってそこの正門から出て行くのを目撃したのです!」

 

「!」

 

「なるほど、姫様はずっと宿屋の外にいたから、宿を出て行くゼシカの姿も見てたってことでがすね…つまりこの国にゼシカはいねえってことか…姫様、でかしたでげすな!」

 

「おい!言葉を慎まんか!!」

 

「…しかしサザンビーク以外に絞れたとはいえ、そこからどこへ行ったかまでわかんねえとな…」

 

ククールは渋い顔をするが、ミーティアは続ける。

 

「それなのですが、その数刻後、入国してきた商人さんたちの話もミーティアは聞いていました。…彼らによるとどうやらこの大陸の北の方でとんでもない形相をした恐ろしい女性とすれ違ったんだとか。さらに妙な杖を持っていたとも噂しておりました。ミーティアの推測が間違っていなければ、それはゼシカさんのことではないでしょうか?」

 

「!それは間違いない、ゼシカだ!姫様、流石だぜ!」

 

「…杖、女性、なるほど。…でもとんでもない形相ってどういうことだろう?」

 

「アイツは時々そういう顔するだろう?昨日オレにビンタを食らわせた時とかさ。」

 

「…。」

 

「な?」

 

「えー…、とにかく!姫、それはとても重要な情報です!これで一気に行き先が絞られました。本当にありがとうございます!」

 

エイトに手を取られ、ミーティアは少し顔を赤らめる。

 

「そんな…ミーティアはこんな形でしかお役に立つことができませんが、エイトや、皆様の助けになれたなら幸いですわ」

 

「流石はワシの可愛い娘じゃ。ワシに似て思慮深く聡明じゃわい…ミーティアや、よくやったぞ!」

 

「ありがとうございます、お父様!」

 

「アッシはおっさんより姫様のがずっと賢いと思ってんですがね。」

 

エイトたちの称賛を嬉しそうに受け取っていたミーティアだが、場が落ち着くとまた神妙な面持ちに戻る。気にかかるのはやはりゼシカのことらしい。

 

「…しかし、ゼシカさんはどうしていなくなってしまったのでしょう?…もしかしてミーティアにかけられた呪いと何か関係があるのでしょうか?」

 

「…うーん…確かなことは言えないでがすが、アッシの勘じゃ『杖』がカギを握っているのは間違いないでげすね。…なんにせよ、ゼシカと合流するのが先決でがす。」

 

「そーゆーこと。でもありがとな姫様。あんたのおかげでめどが立ったよ。」

 

ククールのウインクにミーティアが微笑みで返した瞬間、ミーティアの身体から光があふれ出した。一度は完全に分解された暗黒神の呪いが、今再び像を結び始める。

 

「!」

 

「ミーティア…」

 

「あぁ、そろそろお時間のようですわ…」

 

「姫様…また馬姫様に戻っちまうんでげすね…」

 

「またな、姫様」

 

「姫…」

 

「エイト、お父様、ヤンガス様、ククール様、わたしは…ミーティアは大丈夫です。はやくゼシカさんが見つかるよう、ミーティアも心から祈っていますわ…」

 

そして光はおさまり、そこにはやる気万全!という風に鼻息を吹く一頭の馬の姿があった。

 

「おお、可哀想なミーティア…大丈夫じゃ。呪いが解けるまでもう少しの辛抱じゃからな…」

 

「よしヤンガス、ククール。姫から頂いた情報に従って北へ行こう!出発は早い方がいい!」

 

「「おう!」」

 

「兄貴!こっから北ってぇと、何があるんですかい?」

 

「ええと…確か橋の町『リブルアーチ』、その先には雪の町『オークニス』だったかな。ですよね、王様?」

 

「うむ。そしてオークニスがある雪山地方はリブルアーチ地方からしか進入できんはずじゃ。」

 

「じゃあ、まずはそのリブルアーチってとこからだな。さっさとゼシカを連れ戻さないと、こんなメンバーじゃむさ苦しいったらありゃしないぜ。」

 

こうして一行はミーティアの証言を頼りに、ゼシカを探して橋の町リブルアーチを次なる目的地に定めたのであった。

 

 

 

 

 

 





原作との相違点

・ゼシカの精神が原作よりも不安定。
心の闇、それすなわち『暗黒』。ドルマゲス・ユリマ然り、その身に暗黒を宿すものはその闇が大きければ大きいほど暗黒神の影響を強く受ける。つまり…?呪われしゼシカに強化入りまーす!

・ミーティア姫が活躍。
原作ではドルマゲス討伐後のみ、何故かミーティアは宿屋の横で佇んでいる。加えて宿屋が正門の目の前に会ったことも幸いし、ミーティアはバッチリどこかへ行くゼシカを目撃しており、エイトはディムに貰ったサプリをまだ残していたのでミーティアからヒントを貰えた。原作ではゼシカ捜索のヒントを得るのにわざわざトラペッタまで戻る必要があったことを考えると、大幅なタイム短縮である。


レベル
変化なし


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新・第二章 このはしわたるべからず

最近新規の方からも感想を頂けるようになってきて嬉しいです。反応を糧にこれからも頑張っていきますよ~








ハロー、決意を新たにした新生道化師のドルマゲスです。ベルガラックで邂逅した時からずっと懸念点だったユリマの問題も、ユリマの仲間入りという形で無事に解決して肩の荷が下りる思いです。これで全て丸くおさま…り…。……ん?何か大事な、とんでもなく大事なことを忘れているような…?

 

 

 

 

「あーーーーーーっ!!!!!!!」

 

雨雲広がる昼下がり、アジトに造設する遊戯施設の設計図を描いている途中で「あること」を思い出した俺の絶叫がアジトに響き渡った。

 

「ドルマゲスさん!?どうしたんですか!?大丈夫ですか!?お水飲みますか!?」

 

「ウワーッ!?…ゆ、ユリマ…いたんですね、あ、ありがとうございます…」

 

さっきまでいなかったのにどこから現れたんだろうか。この部屋カギかかってるんだけど…いやそんなことはどうでも良くて!!

 

「ちょ、ちょうどいいです。ユリマ、サーベルトたちを呼んできてもらっていいですか?火急速やかにです。師匠は実験中だろうが何だろうが構いません。応じてくれなければ重力魔法で引っ張ってきてください…あ、優しくね」

 

「了解ですっ!みなさんどこにいらっしゃいますか?」

 

「サーベルトは訓練室、キラさんは食堂、師匠は…多分第二実験室ですかね。お願いします…」

 

「はいっ!腕が無くなっても、脚が無くなっても、亡骸になっても連れてきます!」

 

表現が重いよ、と言いたかったが、既にユリマは部屋から姿を消していた。…だがやはりそんなことすらもどうでも良くて。心臓はどくんどくんと跳ね上がり、変な汗もかき始めた。どうやらひどく動揺しているらしい。こんな時は深呼吸だ。深呼吸……

 

しかし俺の心臓や汗腺はまるで言うことを聞いてくれそうになかった。

 

 

『杖の存在を忘れていたァ!?』

 

サーベルトたちの声がシンクロする。今、俺の自室は臨時の会議室になっていた。訓練中だったのに全力で駆けつけてくれた汗だくのサーベルト、エプロン姿にお玉をもったままのキラちゃん、やはり重力魔法で引っ張ってこられたのであろう顔に擦り傷のついた師匠、おそらく師匠に殴られたのであろう大きなたんこぶを頭にこさえたユリマを椅子に座らせ、俺は話し始める。

 

「そうです。自分でもわけがわからないのですが…今しがた突然頭に舞い降りたというか、戻ってきたというか…」

 

「む、確かに…わしも今の今まで頭になかったな。普通に考えればあんなものを忘れるわけがないのだが…」

 

「え、あ、あの杖ってユリマさんが持っていたのではなかったのですか?」

 

「あー、わたし、昨日ここで目覚めるまでの記憶があやふやなんです。杖を持ってた記憶はありますが、気が付いた時にはもう持ってなかったんですよね」

 

「ユリマはドリィと戦っている時まで確かに杖を持っていた。ということはやはり杖を紛失したのは『闇の遺跡』の中だろうな。…とはいえ不覚。俺まであんな恐ろしい杖の存在を忘れていたとは…」

 

「どうにも不可解だな。…しかし」

 

そう、ありえないのだ。特に杖の恐ろしさを何度も体験し、実際に憑依され、その出生の秘密まで知っている俺が『神鳥の杖』のことを忘れるなんて。何故闇の遺跡でユリマと一緒に回収しなかったのか!?絶対、ぜーったいおかしい。…だが。

 

「…逆境に絶望するのではなく、大事なのはここからどう動くか…ですよね、師匠?」

 

師匠は黙って頷いた。普通の人から見れば真顔にしか見えないだろうが、師匠のあの表情はかなり満足している時の顔である。よかった。今日の師匠は話を聞いてくれそうだ。

 

「…うむ。『魔法の才無し』の烙印をわしに押されたお前が『呪術』という魔法ならざる超常でわしを驚かせたのは記憶にも新しい。与えられた状況を無批判に受け入れるのは三流のすることだ。…そしてお前は違うのだろう?ドルマゲス」

 

そう。俺たちが杖のことを忘れていたのがラプソーンの力によるものなのか、()()()()からのお達しなのかは定かではないが、後手に回らされた程度で諦められるような事項ではないのだ。そっちがその気なら俺たちゃとことん抗うまでよ。

 

「はい。…ユリマの手から離れた後、杖が闇の遺跡に放置されたと仮定した場合、現在杖は十中八九勇者たちの元にあると考えてよいでしょう。…師匠、勇者については」

 

「当然、知っておる。そもそも身体を動かせずに暇を持て余していたわしに手記を渡してきたのはお前だろうが。…わしらとは異なるアプローチで暗黒神を追う一団だったな。尤も、現在はお前が標的らしいが。」

 

「ユリマはゼ…勇者たちと戦っていたよな。どんな感じだった?特に魔法使いの女性とか」

 

「だから、わたしの記憶は完全じゃないんですって。…あぁ、でも相手の中に非常識な大きさの肉玉を胸にぶら下げていた女の人がいたのは覚えてます。魔法のコントロールが巧みで中々苦戦させられましたね。それなりに鍛錬は積んでるんじゃないですか?」

 

「ほう、そうか!ほうほう!」

 

「ひっ、非常識な大きさの…」

 

「ああ、キラちゃんのは反対の意味で非常識な大きさですけどね」

 

「…。」

 

女性陣が愉快なやり取りを繰り広げているが、ああいうのに首を突っ込むと大抵ろくなことにならないのは分かっているので放置。サーベルトもなかなか棘のある言い方でゼシカを評価されていたはずなのだが満足そうだ。最終的に褒められていれば何でもいいのだろうか?ミスター・シスター・コンプレックス。

 

「…コホン、話を元に戻しますね。勇者たちは杖の中に暗黒神が封じられていることを恐らく知りません。そしてあの杖に不用意に触ってしまうと…」

 

「!」

 

ようやくサーベルトたちも事の重大さに気が付いたらしい。キラちゃんたちも口をつぐみ、緩んでいた空気が一瞬で締まるのが感じ取れた。

 

「暗黒神ラプソーンの端末となる、というわけだな。まったく、トロデ王は何故わしらにこんなものをお見せになろうと考えられたのだ…」

 

誰が杖を持っているかは分からない。仮に暗黒神と同等か、それ以上に強力な呪いを既に受けている勇者エイトが杖を手に取ったなら、ラプソーンに操られるようなことは無いだろうが、エイト本人の事なかれ主義的な思考やパーティー内での立ち位置を考えるとその線は薄いと思われる。そして…

 

「これは私の推測なのですが…勇者たちの中で最も杖を持っている可能性が高いのは…魔法使いゼシカ。そこにいるサーベルトの実の妹さんです」

 

展開的にも、性格的にも、あの杖を拾う人物がいるとするならば…それはゼシカだろう。

 

「!!!」

 

「さ、サーベルト様…」

 

「…」

 

「じゃあ、お兄さんの妹さんが杖に操られているかもしれないってことですか?…わたしみたいに」

 

「サーベルト…」

 

やはりというか、サーベルトは動揺している。視線の焦点はブレ、少しだがその肩も震えているようだ。

 

「…いや、大丈夫だ。俺は、フー…大丈夫。落ち着いている。」

 

「…?」

 

俺としては、そもそもの元凶である俺がゼシカがラプソーンの端末になることを宣言したようなものなので、サーベルトはもっと動揺するか、最悪俺に掴みかかるくらいのことは有り得ると覚悟していたのだが、そんな俺の予想に反してサーベルトはある程度落ち着いていた。

 

「…ゼシカさんがラプソーンに操られてしまったとするなら、それは「言うな」」

 

「…。」

 

「…言わないでくれ。そんな言葉は望んでないんだ。責任の所在はドリィにあり、俺にもあり、もちろんゼシカにもある。だから…」

 

「失礼、そうですね、失言をしてしまうところでした。今は対策を考える話でしたよね。ありがとうございますサーベルト」

 

サーベルトは笑った。よかった、特に無理をしているわけではなさそうだ。俺のことを責められればどんなに楽だろうに…。罪を共に背負ってくれるサーベルトの為にも行動を急がなければ。

 

「ドルマゲスさんに責任があるならわたしも背負いますよ!運命共同体ですからね!」

 

はいはいありがとうございます、と俺はユリマの頭をひと撫でしてから、世界地図を取り出して本題に入った。

 

「まず現在私たちがいる場所がここ…南の大陸の北東部、アスカンタ国領ですね」

 

この南の大陸だとか西の大陸だとかの呼称、どこを中心とした方角指標なのかが定かでない(まあ推測するに『聖地ゴルド』を中心としているのだろう)のだが、この世界ではその呼び名で広く知られているようだ。いっそミナミノ大陸・ニシノ大陸という名前だと思って覚えた方が手っ取り早い。

 

「そしてここが北西の孤島。『闇の遺跡』がある場所です。勇者たちがここから移動したとすると、おそらく現在は西の大陸にいるでしょう。可能性としてはサザンビーク王国が高いでしょうか」

 

「…まあ、道理だな。ベルガラックの可能性もあるが…お前が勇者共の行方を捜しているように相手もお前のことを捜索しているのであれば、情報が多く集まるサザンビークへ向かったという線は十二分に考えられる。わしも同じ結論だ。」

 

師匠は目を閉じたまま頷いた。……正直、ただの原作知識でそんなとこまでは考えていなかったのだが、とりあえず笑みを浮かべてそういうことにしておく。でもそろそろ原作知識も怪しくなってきたし、師匠が同調してくれるのはありがたい。

 

「…えと、ではこれからサザンビークに?」

 

「…の、さらに先を目指します。サザンビークには賢者がいないため、ラプソーンはサザンビークからもっとも近い賢者の末裔を狙いに動くでしょう。つまるところ、我々が向かうのは巨大な橋の上に建つ街、石工の聖地『リブルアーチ』です」

 

「ドリィの持つ未来の知識、というやつだな?そこにゼシカはいるのか?」

 

「…どうでしょうか。今すぐに向かえばギリギリ先回りできるかもしれません。ですが後れを取った今、時間はかなり限られています。ですので、私としてはすぐにでも出発したいですね。」

 

「…なるほど。そういうことなら仕方あるまい、わしも同行しよう。だが5分だけ待て。実験の引継ぎをしてくる」

 

そういうと師匠は即座に退出した。まだ一緒に来て欲しいとは言ってないのだが…まあ呪文に精通した大魔法使いである師匠が同行してくれるのは非常に心強い。

 

「俺はいつでも出発できるぞ。装備が全て揃っている訓練中だったのは幸いだったな。」

 

「わたしもいつでも出られます。暗黒神…でしたよね。長らく頭痛のタネだった暗黒神サマにはこれまでのお礼をしてあげたいと思ってたんですよ。」

 

「わっ、私も行きます!出先での雑務は全てお任せください!」

 

「…キラさんは…」

 

「キラちゃん、あなた大丈夫なんですか?あなたが人質に取られてドルマゲスさんの手を煩わせるようなことになったら…間違って相手ごとあなたをひねり潰しちゃうかもですよ?」

 

「…」

 

うーん、大分婉曲的な表現だがアレはきっとユリマなりにキラちゃんを心配しているのだろう。本人に意識があったかどうかは知らないが、実際ベルガラックでユリマ自身が人質のようなものになっていただけあって、その眼はいたって真剣だ。

 

「私は…」

 

「…」

 

「私は、戦えません。非力で、魔法も使えませんが…皆様の手を煩わせるようなことはもう絶対に致しません」

 

キラちゃんは手に持ったままのお玉を脇に置いてエプロンを脱いだ。その下はライダースーツ…ライダースーツ!?パツパツスーツの上にエプロンとか、大分ニッチですね、キラちゃんさん?キラちゃんはスーツのポケットからキューブを取り出し、こちらを向いた。俺とキラちゃんの視線がかち合う。

 

「ドルマゲス様のご厚意…決して無駄にはしませんから」

 

「あ~っ!?なんですかそれェ!?貰ったんですか!?ドルマゲスさんに!?」

 

アレは試作自律戦闘人形(プロトオートマター)の『奇襲(ソルプレッサ)』……。ちゃんと持ってくれていたんだな。…すばやさに特化した『ソルプレッサ』なら、前線に出ない限りキラちゃんの警護は完璧にこなせる。しかもキラちゃんは最早俺よりも巧みに『ソルプレッサ』を使いこなせるため、有事の際は乗り込みさえすれば一先ず安全は確保される。

 

もう、彼女は護られるだけの存在ではない。

 

「…分かりました。キラさん、一緒に行きましょう!」

 

彼女はかつて『足手まとい』だと、自分のことをそう思ってしまっていた時期があった。ある時にその思いを打ち明けてくれたことをきっかけに俺とキラちゃんのぎこちない関係は解消されたのだが、きっとその時、彼女なりに色々考えていたのだろう。此処に残ってサポートに徹する道もあった。今となってはこの施設内にキラちゃんをただの人間と侮る魔物はほとんどいないため、彼女にとっては此処が世界で一番安全な場所なのだ。

 

しかしその上で、安全よりも俺と共に歩む道を選んでくれたというのだから…俺としてはこれ以上なく嬉しい。

 

キラちゃんは嬉しいのか恥ずかしいのかわからないような顔ではにかんでみせた。ユリマがわたしもアレ欲しいです、とせがんでくるが丁重にお断りする。あんたはそんなのなくても戦えるでしょうが。

 

「戻った。さて、わしも準備は終わったぞドルマゲス。さっさと準備をせんか」

 

「OKです。早速行きましょうか!」

 

俺は天井ハッチを開き、『ルーラ』を唱えた。万が一に備えて、遠い昔にリブルアーチを『ルーラ』の行き先に登録しておいたことが功を奏したな。

 

 

─リブルアーチ─

 

「ここはリブルアーチ。石像作りの工房連なる職人たちの町だぜ」

 

「こんにちは。僕はディムと言います。お兄さん、少し質問してもいいですか?」

 

「よう坊ちゃん。いいぜ、何でも聞いてくれ」

 

リブルアーチは海峡の上という特殊な立地もさながら、町並みの美しさでたびたび名前の挙がる大きな街である。ちなみに隠し宝箱が一番多いのもこの街で、その総数はあの広大なサザンビーク王国を優に超えると言われている。天才彫刻家ライドン、天才呪術師ハワード、さらに七賢者の一人『大呪術師』クーパスの末裔であるチェルスをも抱える非常にボリューミーなスポットだ。

 

「…!……!」

 

「ユリマさん、鼻血出てますけど…あっ!もしかして杖の後遺症とか…!」

 

「とっととと年下に…!ドルマゲスさんが年下に…!」

 

「…。」

 

あー、冒険者ディム(ショタマゲス)の姿でユリマの前に出るのは初めてだったか。ユリマは鼻から血を垂らし、キラちゃんにペーパータオルを手渡されている。……なんかこの娘、こんな変態じみた子だっけ?…。る、ルイネロさんの育て方が特殊だったんだろう。きっと。俺は知らん。

 

「僕たち人を探しているんですけど、ここ最近で『北の関所』を通ってこの街に来た人はいませんか?」

 

「『北の関所』?…ああ、こっちで言う『南の関所』のことだな。」

 

やっぱり名前要るよね!?大陸といい関所といい、ややこしいんだよな!

 

「…うーん、俺ァ日中ずっとここで作業してるが、最近見た新顔といっちゃあアンタらくらいだな。なんだい?坊ちゃん先頭に、兄ちゃん、じいさん、姉ちゃん、嬢ちゃんと…ここへは家族旅行か何かで来たのかい?探し人は迷子か?」

 

「まあ、そんなところですかね。…ありがとうございました!」

 

「役に立てなくて悪いな!旅行楽しめよ!」

 

俺たちは街の入り口で町の紹介役を務めている男に礼を言って別れ、街の奥へと進んだ。

 

「…さっきの男の言った通りなら、この街にまだゼシカは来ていないみたいだな。…これからどうする?どこかに潜んでゼシカを待つか?…っと悪い。──もし、そこの御婦人、お荷物お持ちしましょうか」

 

サーベルト…ここではアインスか。はこんな時でも呼吸するように人助けをする。自分がどんな状況にあっても、周りの人間には関係のない事。サーベルトはその言葉を善行への言い訳に使うのだ。呆れるほどいいヤツである。そんなサーベルトを眺めていた俺は、これから向かう邸宅のことを思って気が重くなった。

 

 

「ここは…?」

 

「…ハワードという天才呪術師が住まう邸宅ですね。そしてこの家の使用人として賢者の末裔が働いているはずです」

 

俺はこれから訪ねる人間…胸糞の悪さだけなら()()チャゴスをも凌駕し得る男、天才呪術師ハワードのことを考えてため息をついた。

 

 

 

 

 

 




・マスター・ライラス
頑固なおじいちゃん。だがただの偏屈ジジイでなく、その脳内には世界を幾度ひっくり返しても足りないほどの知識を擁している。あと年の割に結構動ける。
レベル:50
職業:大魔法使い
特徴:ツンデレ
備考:本当は賢者に相当するのだが、本人が『大魔法使い』と言って譲らないので今の肩書に落ち着いている。


・ユリマ
棘しかないバラみたいな女。ラプソーンの影響から外れたことによって大幅に弱体化したが、未来の自分の視界を覗き見る呪術『少女の見る夢(リリィ)』と魔法の腕は健在。
レベル:45
職業:魔法使い(重力魔法特化)
特徴:体重は軽いが感情は重い
備考:本人曰く「世界一ちょうどいいサイズ」


・キラ
踏まれても萎れないたんぽぽみたいな女。本人は非力だが、『奇襲(ソルプレッサ)』を始めとした各種セキュリティサービスを駆使して防衛、サポートを行う。
レベル:12
職業:(広義での)魔物使い
特徴:手先が器用、頑張り屋
備考:まな板


今まで少人数だったのに急に5人の大所帯になってしまったので、キャラクターを動かすのが難しくなりました。でも楽しいのでオールオッケーですね。次回登場するハワードさんですが、根っこはまともな人なので王子よりは何千倍もマシな人だと思ってます。


今回はカットしましたが、本当はドルマゲスの仮名がディムだと知った瞬間、ユリマが過去の自分の発言を激しく後悔する一幕がありました。果たしてどのセリフのことでしょうか?


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新・第三章 呪い呪われ

前回のアンケート、ユリマとサーベルトがめちゃくちゃ競ってて笑いました。私はサーベルトが好きなので、ぜひサーベルトに正妻の座を勝ち取ってもらいたいものですね。








ハロー、また杖を見失って少々ブルーな道化師ドルマゲスです…。もうそろそろ杖を持ってた時間が持ってない時間に追い抜かれちゃいそう…。あー、やだなあ。あの杖別に要らないのに。『欲しくないけど必要なもの』ほど厄介なものもそうそうないですよね。厄介ついでに、今度は別方向の問題児にも会わないとなんですよ。トホホ…。

 

 

 

 

「天才呪術師ハワード?そんな輩がおるのか」

 

「あれ、物知りな師匠ならご存じのことかと思っていましたけど」

 

師匠がハワード邸の前で足を止めたので、したがって俺たちも立ち止まる。

 

「生憎、魔法以外のことにはまるで興味が無くてな。…ふーむ、それにしても『呪術師』か…そんなけしからんものを研究している人間がドルマゲス以外にもいるとは。」

 

「ドルマゲスさんを差し置いて『天才呪術師』だなんて。その人目玉付いてないんじゃないですか?」

 

「ユリマ、本人の家の前ですよ。あと師匠も。」

 

ホントにもうこの人たちは人目を憚らないでずけずけと物を言うんだから。後ろの優等生二人を見習ってほしい。

 

「お名前くらいは城にいた時に何度か耳に挟んだことがありますよ。何でも様々な術を使って依頼を解決し、その報酬で財を築いてリブルアーチで一番の富豪まで上り詰めた名家、ハワード家の現当主様だとか。呪術師…というからにはドルマゲス様とも何か関係がおありなのでしょうか?」

 

ほら、キラちゃんは言葉遣いも汚くないし博識。二人ともよく見て!この子が模範生ですよ。

 

…はい、それは置いといて。ハワードの使う、所謂『本物』の呪術には非常に興味がある。俺の呪術など所詮魔物の真似事と、その延長線でしかないのだから。

 

「あー、私の使う『呪術』は自分で勝手に名付けた我流のものでして、ハワード氏の使う術の数々とは全然異なるんですよ。なので原理もサッパリ。あと、彼と私は親族でもなんでもなく赤の他人です。そもそも私記憶ないですし。」

 

師匠がそういえば、という風に目を見開く。いいのよ覚えて無くて。ぶっちゃけこの身体の過去なんかこの先関係ないし俺も気にしてないし。変に記憶が戻って俺の前世の記憶とごっちゃになったら面倒だし。

 

「その当主様が賢者の末裔…というわけではないのか。賢者の末裔を使用人にするとは、ハワード氏は何が狙いなんだ?」

 

「それは話すと長くなりますので。とにかく、ゼシカさんが来る前にハワード氏に会いに行きましょう!」

 

 

「…。」

 

「ど、どうしましょう…!」

 

「うーん…」

 

結論から言うと、俺たちはハワード邸の衛兵に追い出された。…普通に不法侵入なので、別にここは咎めるようなところでもない。むしろ歴代の勇者たちはよくもまああんなズカズカと他人の家に上がり込んで、しかも制止されないよな。主人公だから、と言われると言い返す言葉もないが、面倒な手続きが無いのは少し羨ましい。…決して人のタンスを漁ってアイテムを盗っていくのを羨ましがるほど浅ましいわけではないが。

 

「前みたいに入るしかないですかねぇ…」

 

「前???」

 

「…ああ、なるほど!マイエラ修道院の時のようにして入るんだな!」

 

「前」と聞いてサーベルトはピンと来たようだ。…というのは聖堂騎士団の目をかいくぐってオディロ院長に会うため、姿を消して潜入し、邪魔してくる奴らを眠らせて本丸まで突っ切るという策もくそもないただのゴリ押し完全犯罪のことである。ちなみにサーベルトはいなかったが、ベルガラックのギャリング邸にもこの方法で押し入った。

 

俺がそう説明すると師匠とキラちゃんにはドン引きされた。だって仕方ないじゃん?

 

「時間もないので私は早速行こうと思っていますが、誰か一緒に来ますか?一人くらいならリスクなく潜入できますけど」

 

「わしはパスだな。そのハワードなる呪術師がどんな輩か知らんが、わしとはどうも反りが合わなそうな気がする」

 

そうですね。わたくしもそう思いますよ。

 

「「じゃあ、わたし(俺)が」」

 

「…。」

 

声が重なったユリマとサーベルトは、お互いの顔を見合わせた。

 

「お兄さん、ここは大丈夫ですから、わたしに任せてゆっくり英気を養ってください」

 

「ダメだ。何もしないでいることは今の俺には耐えられそうにない。今は少しでも先に繋がることをしたいんだ」

 

「呪術と聞いたら黙っていられませんよ!わたしだってちょっぴり使えるんですから!」

 

「それを言うなら俺だって同じ賢者の末裔に会いたいさ!」

 

「…。」

 

……ゴメン、もう一人で行っていい?二人ともこうなると頑なだからなあ…どうしよ…。

 

俺が困っているとそれを察知してくれたのか、仲間内で「唯一」柔軟な思考ができるキラちゃんが助け船を出してくれた。キラちゃん様マジ天使。

 

「でしたら、サーベルト様は私とライラス様と共にこの街を回りませんか?街の案内人の方はここには誰も来ていないと仰っていましたが、もしかすると暗黒神は既に街のどこかへ潜んで賢者様を襲撃する機を窺っている、という線も考えられます。なので我々と共に安全の確認を。…どうでしょうか?」

 

「おい、わしを勝手に巻き込むな。…まあだが他にやることも無し、付き合ってやってもいいが…あまり目立つなよ?」

 

「…。…よし、そういうことなら。ドリィ、俺はライラスさんたちと共に行動することにする!」

 

「OK、承知しました。ラプソーンに気取られぬよう、あまり大きな騒ぎを起こさぬようにお願いしますね。もし何かあればキラさんに。キラさんが携帯念話(フォン)を持っていますから、それで私に連絡してきてください。」

 

「お兄さん、感謝します」

 

サーベルトは少し考えて納得したのか、キラちゃんたちと共にリブルアーチをパトロールすることにしたようだ。ということで俺はユリマと共にハワードの屋敷に潜入する。潜入してハワードに会い、闇を弾く結界の作成を急いでもらうのだ。原作では間に合わなかったが、もしラプソーンの初回の襲撃までに結界が完成していればそこで無事に終わるはず。そうしてラプソーンを杖に追い込み、今度こそ回収するのだ。

 

「ユリマ、手を」

 

「…。てっ、手だけでいいんですかぁ?もっと密着した方が…なんて」

 

「手だけでいいですよ。すみません急いでるので」「ごめんなさい」

 

しおらしくなってしまったユリマを見てちょっとだけ罪悪感を感じてしまう。しかし時間があっても余裕があるわけではない今、許して欲しい。後で何か買ってあげるからね。俺はユリマの手を取り、呪術を発動させた。

 

「…よし、ではみなさん、行って参ります。『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』」

 

俺の手のひらから発生する振動が、光の波を、音の波を、波動の波を屈折させる。これで俺とユリマは誰からも見えず、聞こえず、感じられない状態になったはずだ。

 

「消えた…!?…(『レムオル』か?それとも「きえさりそう」…いや、どちらも違うな)…フン、ドルマゲスめ、なかなか興味深いことをする」

 

「頑張れよドリィ!ユリマ!」

 

「行ってらっしゃいませ!」

 

サーベルトもキラちゃんも俺たちの立っているところとは全然違う方へ手を振っている。よしよし、ちゃんと知覚できなくなってるみたいだな。『ラグランジュ』の効果を確認した俺はユリマを抱えてハワード邸のベランダまで飛ぶと、『アバカム』で窓のカギを開錠して屋敷に潜入した。不法侵入も三度目ともなれば慣れたものである。

 

 

「…」

 

屋敷の中では使用人たちが甲斐甲斐しく働いている。汚れた食器が運ばれているところを見ると、おそらく食事の時間は終わったのだろう。であればハワードは自室にいるはずだ。俺たちは階下の使用人の動きに注意を払いつつ、姿を消したまま2階にあるハワードの自室に向かった。原作でのチェルスの発言によればハワードは愛犬レオパルド以外には心を開いていないらしく、それが原因か否かは知らないが、ハワードの部屋がある2階には使用人がいない。近寄らないよう言いつけているのか、使用人が近寄りたがらないのか、その両方か。なんにせよ侵入者たる我々にとっては幸いである。

 

「(ドルマゲスさん。このお屋敷、外観と違って中身は意外と簡素な作りなんですね)」

 

物珍しそうにあたりを見回してユリマがポツリと呟いた。確かに、壁はほぼ全面が無地の紫と緑、絨毯の模様も派手なものではなく、額縁なども飾られていない。家自体がだだっ広いせいか、リブルアーチの他の家と比べても確かに少し寂しい感じはするな。石像や燭台があるぶん、質素とは到底言えないが。

 

「(まあ、シンプルイズベストと言うでしょう。私はこういう内装もキライじゃないですよ)」

 

「(しんぷ…?神父るいず…?)」

 

「(単純なものほど素晴らしい、という意味です。…さあ、この先におそらくハワード氏がいます。…ああ、ユリマ?単純なものが素晴らしいとは言いましたが、単純と短絡的を履き違えないでくださいよ?)」

 

「(?…はーい!)」

 

要はハワードに何かいらんことを言われてもすぐ突っかかったりしないでね。ってこと。あんまり期待はしてないけど。

 

俺が部屋の扉を開けて中に入ると、奇抜な服装に身を包んだ中年の男、ハワードが突然開いたドアを見て固まっていた。床には本が散乱しており、読書中であったことが窺える。そんなことを考えながら俺がドアを閉めようとした瞬間…

 

「(…!!?危ない!)」

 

突然ユリマが俺を突き飛ばし、その瞬間白く輝く物体が俺の目の前を横切った。

 

「…っ!」

 

通過した光の弾はそのまま壁にぶつかり、大きな音を立てて弾けた。突き飛ばされた拍子に俺とユリマの手が離れたことで『ラグランジュ』は解け、俺たちの姿が露わになる。今のはハワードの攻撃か…?

 

「いきなり突き飛ばしてごめんなさい!…け、ケガはないですか?」

 

「大丈夫です。『少女の見る夢(リリィ)』で攻撃が観えたんですね?助かりました」

 

そんな俺たちの前で見下したような笑みを浮かべる悪人面の小男、ハワードはでっぷりと肥えた腹を張り、ふんぞり返って鼻を鳴らした。

 

「フン、予想よりも少し早かったが…他愛ない。…貴様ら、わしを大呪術師ハワードと知っての狼藉じゃろうな?二人で来ようと、姿を隠そうと、そんなことでわしを欺けると思うてか。…わしはわしで貴様らが来ることくらい占星術でとっくに予知しとったのじゃ。故にわしを殺そうとする杖使い女を退治するまじないも既に会得済みというわけじゃ。」

 

なるほど、ハワードは俺たちこそが自分の命を狙う賊だと思ってるのか。うーん、今のところは申し開きができないほど俺たちが悪いので、ひとまず誤解を解いておこう。

 

「お言葉ですが、僕たち…杖、持ってないんですよ。なので杖使い女ではないです。ね?ユリマ?」

 

「はい。というか、それくらい見て分かってほしいです。やっぱり目玉ついてないんじゃないですか?だいたい…」

 

やはりというかなんというか、ユリマはハワードに突っかかっていきそうだったので、俺はユリマの背中をつねった。ひぅん、と情けない声を上げてユリマは沈黙する。

 

「…ぬ?」

 

「偉大なる大呪術師のハワード様とお見受けします。突然の、しかも正規の手続きを踏まない訪問を失礼します。しかし火急の要件故、とりあえず我々はハワード様の敵ではない、ということを分かっていただきたく。」

 

俺がそう言うと、ハワードはなめ回すように俺たちの姿を凝視する。…ん?ゆ、ユリマちゃん!何えずいてんの!?ここで吐くつもり!?

 

「(うぅ…汚い男の人の視線に曝されると気分が…)」

 

…俺がもしこんなことを言われたら泣く自信がある。今ここで頭を下げさせたいくらいデリカシーのない発言だが、小声で言っただけ成長と言えよう。

 

「…ふむ、なるほど。どうやら確かに杖使い女ではなさそうだな。しかし坊、そして女よ。貴様らもただものではなかろう?何者で、そしてこのわしに何の用じゃ?」

 

それは──。俺が口を開こうとした瞬間、半開きだったドアがバンッ!と音を立てて完全に開かれた。

 

「それ以上近づくなっ!!」

 

「…あ」

 

「何者だか知らないが、ハワード様に手を掛けようというのならこの僕が容赦しないぞっ!!」

 

駆けこんできたのは土色のみすぼらしい服に身を包んだ線の細い青年。冴えない糸目の彼こそが七賢者が一人『大呪術師』クーパスの末裔、チェルスである。チェルスはハワードを庇うような形で俺たちの前に立ったものの、その足は震えていてとても何かができるようには思えない。しかしその声の奥底からは、たとえ自分がどうなろうと主君の命だけは助けてみせる、という強い覚悟が感じられた。

 

「なーにがこの僕が!じゃ。お前が容赦せんかったからと言って何ができるんじゃ、このボケナス!」

 

庇われたハワードは憤慨し、チェルスを蹴り飛ばした。守るはずの主君に後ろから蹴られたチェルスはつんのめって顔から床に激突する。

 

「はっハワード様っ」

 

「そもそもお前は今更ここへ来て何をしようというのだ!来るならもっと早く駆け付けんか!この役立たずが!」

 

「そんな、私はハワード様のお部屋から大きな音がしたので胸騒ぎがしてすぐに…」

 

「そんなことはどうでもええわい!…もうお前はレオパルドちゃんにご飯でもやってこい!わしはそこの二人と話がしたいのじゃ!」

 

「は、はい…」

 

チェルスは立ち上がると、そのままトボトボと部屋から出て行った。…本当に可哀想。自分が命の危機に瀕した時、そこへ己の身を挺して駆けつけてくれる人がいる者は果たして世界に何人いるだろうか?ハワードはもっとチェルスを大事にすべきである。

 

「さて、ウチの愚図のせいで話が逸れてしまったな。…改めて、貴様らは何者で、此処へは何の用で来たのか?」

 

さて、そんなことは気にも留めていないハワード。彼は尊大に構えているが、一見無防備に見えてこちらへの警戒は解いていない。後ろ手に輝く光弾がその証拠だ。ここで相手を刺激するようなことを言っても特に良いことは無いので、俺たちは一定の距離を保ったままここまでの経緯と暗黒神の脅威について事細かに語った。

 

 

「ほう…そういうことか。にわかには信じられんが…坊がトロデーンを滅ぼした張本人というのだな?そしてそちらのお嬢が杖の二代目の持ち主、そして現在杖を持っているのがわしが占星術で予知した三代目の杖使い女というわけじゃ。」

 

「ええ。そして我々がハワード様の元へ参上したのは先ほども申しました通り…」

 

「わしの会得した結界術では杖使い女を迎撃できないというのだろう?…この結界は魔物すら通さない高等呪術、正直そんなことが有り得るとは思えんな。お前の言葉…嘘をついているようには見えねど、信用するに足る証拠は無い。…貴様、一体何が狙いなのじゃ?」

 

ハワードは声のトーンを一段落として凄んでみせた。顔が(物理的に)デカいこともあり、なかなか迫力があるな。…そりゃ普通の魔物は通さないかもしれないですけどね。今回の相手は普通じゃないので…

 

「なんですか!わたしたちはあなた(正確には賢者ですけど)の命を守るために警告に来たんですよ!もっと強い結界を作った方が良いってアドバイスしに来ただけなのに!」

 

「…僕から言えることは、杖の持ち主は三大国の内の一つを単騎で陥落させるほどの魔力を擁し、しかもその力は今ではさらに増幅しているということだけです。どうか良い答えを期待しています。」

 

「ぬぅ…」

 

一国を一人で滅ぼしたという話を強調すれば流石のハワードもたじろぐ。いくら彼が優れた呪術師であろうと、自分一人で国を一つ滅ぼすことは可能だろうか?そう考えれば歴然たる実力の差はおのずと分かるはずだ。

 

「…お前さんらの言い分はわかった。しかしわしの用意した結界以上に強力な結界の術となると、流石のわしでも簡単にはできん。…そうじゃ、遠路はるばるわしの元へ警告を届けに来てくれた礼も兼ねて、お前さんたちに仕事をやろう。それが達成できればひとまずお前さんらの言葉を信用してやるわい。わしのためにここまで来たということは、わしのために働くことを承知したも同義。引き受けてくれるな?」

 

俺はまた心配になってユリマの方を見たが、ユリマは流石にもう突っかかったりしませんよ、と肩を竦めた。

 

「…暗黒神の野望を阻止するためです。引き受けますよ」

 

暗にお前のために動くんじゃないんだぞ、という意思表示をしつつ俺はハワードの依頼を引き受けることになった。

 

「安心せい、わしのために働けるということは名誉なことなのじゃからな。…では本題じゃ。実はこの街にクランバートル家という古くからの彫刻家の家系があってじゃな。その家に代々伝わる『クラン・スピネル』という二つの宝石には強力な魔のチカラが宿っておるのじゃ。わしも以前から譲ってくれと頼んできたのじゃが、なにしろ先代が頑固者でな。聞く耳をもたんのじゃ。そこでお前さんにクラン・スピネルを譲ってくれるようクランバートル家に頼んで欲しい。いくら頑固者とはいえ、誠心誠意頼めば気持ちは伝わるじゃろ。…まあ、()()()()()()()()()()()()()()がな。」

 

ハワードは最後の一言を妙に強調して言った。…ははあ、なるほど。このセリフ、当時は「そんなに偉いアンタが頼んで無理なら一般人の俺が頼んでも意味ないだろ」と思っていたのだが、今ので納得がいった。…要するに「貰えないなら奪ってこい。だが責任はお前らが取れ」という意味だ。卑劣だが、他人を信じないハワードらしいといえばらしい。

 

「あの宝石なくしてはお前さんらの言うような結界は作れんからな。わしが占星術で算出した杖使い女の到着時刻まではもう間もない。急いで頼むぞ。」

 

「なるほど。…ところで、ハワード様の算出されたという、杖使い女がここに現れる時刻とはいつごろでしょうか?」

 

「おおよそ一日後…明日の夕方じゃろうな。わしの占星術は必ず当たる故、間違いはあるまい。」

 

ふむ、一日か。勇者たちが杖使い女(=ゼシカ)よりも早くここに来ることは有り得ないので、そう考えると思っていたよりは時間があるようだ。ちょっと行きたいところもあったし助かる。

 

「…承知いたしました。ちなみに、魔石と言えば私はこんなものを持ち合わせておりますが、これでは代用できませんか?」

 

俺は『賢者の見る夢(イデア)』を開き、中から大小さまざまな赤い宝石を取り出し、そのうちの一つをハワードに手渡した。

 

「…!?こっ…これは『アルゴンハート』か…!?クラン・スピネルに並ぶ希少鉱物が、しかもこんなに…」

 

「あと、お望みなら『ビーナスの涙』を持ってくることもできますが」

 

「!?!?」

 

サザンビーク地方の、王族と管理人のみが入山を許される『王家の山』でしか産出されない魔石『アルゴンハート』。(勇者たちから預かったままになっていた)

そしてパルミド地方に在る難攻不落の迷宮『剣士像の洞窟』に秘された魔石『ビーナスの涙』。(勇者たちが攻略していなければそのままになっているはず)

これらの所有を匂わせたことで、ハワードは目玉が飛び出るほど驚いた。いい気味だ。ユリマも掌の上のアルゴンハートを見て目を輝かせており、こういう宝石に憧れるようなところは年相応というか、なんか微笑ましい。

 

「せ…世界三大宝石の内の二つを既に所持しているというのか…?ますます正体の掴めぬ奴よ。…しかし…。よし、お前さんがそこまで言うならばこのアルゴンハートと、ビーナスの涙も貰ってやろう。じゃが結界のカギとなるのはやはりクラン・スピネルじゃ。クランバートル家はわが敷地の噴水の下に住んでおるからな、頼んだぞ!」

 

むぅ、アルゴンハートとビーナスの涙では不十分だったか。これでクラン・スピネルの代用になればもっと時間が短縮できたのだが…。作れないなら仕方ない。

 

「はい。…ちなみにハワード様?結界の作り方は既にご存じで?」

 

「…あ、当たり前じゃろう。わしを誰だと思っている?偉大なる大呪術師ハワード様とはわしのことじゃぞ!」

 

どーだか。原作にして材料が全部集まってから初めてレシピを取りにいかせるようなヒトだからなぁ。俺たちはハワードに一礼して退出し、そのまま屋敷を後にした。

 

 

「ドルマゲスさん、いやーな感じでしたね、さっきの人!わたし、ああいう人は本ッッ当に苦手なんです!」

 

「ですね。…しかしユリマ、ハワード氏の使う未来予知、『占星術』はかなり高精度ですよ?いっそ彼に弟子入りして男性嫌いの克服、そして『リリィ』の性能を底上げ…なんてのはどうです?」

 

「えっ…」

 

軽口をたたいたつもりだったのだが、ユリマは本当に泣きそうな顔で俺の顔を見てきた。あー…、この子は俺がやれっていえばなんでもやっちゃいそうだもんな。本当に弟子入りしに行くかもしれない。もっと気楽に構えてくれていいんだけど。

 

「あー、冗談ですよ、冗談。もう貴方をどこにも置いていったりしませんから。」

 

俺がそう言うとユリマはコロリと表情を変え、嬉しいです、と笑う。俺がそんな調子のよい彼女と共に門を出ようとした時、後ろから呼び止められた。

 

「あ、あのっ!」

 

「…貴方は」

 

「ハワード様の屋敷に仕える使用人のチェルスと言います。…さ、先ほどは申し訳ありませんでした!あなたたちをハワード様の命を狙う賊と勘違いしてしまって…」

 

チェルスはさっき部屋で見た時よりも少し汚れていた。おそらくハワードの愛犬レオパルドに餌をやった際に後ろ脚で砂でもかけられたのだろう。現実でも物議を醸したチェルスの「例のシーン」を知っている身としては、こういった泥汚れすら痛ましく見える。

 

「気にしないでください。僕たちがこの屋敷に不法に忍び込んだのは事実ですから。むしろ、ハワード氏を庇った貴方の忠誠心に心を動かされたほどです。」

 

「…あなたも大変ですよね、あんな人の下で働かされて。仕事を辞めたくなったりしないんですか?」

 

「…なんでしょうか、不思議とそういう気持ちにはならないんです。私がこの屋敷で働けることには何か運命的なものを感じていて…それに、私自身もハワード様のこと大好きですから…」

 

「…」

 

ユリマは有り得ないものを見るような眼でチェルスを凝視している。…すごいな、リブルアーチに来てからユリマはどんどん成長している。最初は悪口も憚らなかったのにそれも小声で言うようになり、今やめちゃくちゃ嫌な顔をするだけに留まるとは!やっぱりハワードに弟子入りさせようかしらん。

 

「…そうですか。であれば僕からは何も言いませんが…。せめてこれを受け取ってください。」

 

俺は袋から虹色の小瓶を取り出し、「ふしぎなサプリ」を渡した。チェルスは不思議そうな顔で受け取った錠剤を眺めている。

 

「…これは?」

 

「それを飲んで、その上で今の自分を省みてください。選択する権利は誰にだって与えられるべきなのですから。」

 

「…よく分かりませんが、ありがとうございます!(栄養剤みたいなものかな?)」

 

チェルスが屋敷に戻ったのを確認し、俺たちは今度こそ門を出た。

 

「選択する権利か……」

 

「…ドルマゲスさん?どうかしました?」

 

賢者クーパスが編み出し、初代ハワードの施した「因縁の呪術」によって、ハワード家とクーパス家は絶対に離れられない運命にある。チェルスが仕事に運命を感じていたり、現ハワードがチェルスを嫌っているのにクビにしないのはその呪術によるものなのだ。ある意味では二人とも先代たちの被害者である。言うなれば二人は運命の奴隷なのだから。

 

…しかしそれは俺もどうだろう?先の展開を知り、それに従って自分の行動を決定している俺も運命の奴隷とは言えないだろうか?たった今頭に浮かんだ疑問だが、考え始めると深みに嵌りそうだ。

 

「…?」

 

「…。ふふっ、失礼。何もありませんよ。…ユリマ、髪にゴミが付いてます」

 

「えっ!?…ああっ本当だ!…絶対さっきの家で付いたんだ…許せないです」

 

主人を心配する犬を彷彿とさせるユリマの顔を見ていると、面倒なことを考えるのがバカらしくなってきた。…大丈夫、俺はやりたいようにやってる。これまでもこれからもそれは変わらない。

 

さて、クラン・スピネルを貰うにはリーザス様の協力が必要だろう。俺はクランバートルとアルバートの架け橋である『彼』を探して階段に足を掛けた。

 

 

 

 

 

 




侵入者から押し付けられた怪しい薬を躊躇いなく受け取るチェルス不用心すぎる~!そこもいいところではある~!


原作を知らない方への補完

チェルスは「三角谷(ドルマゲスも超昔に行ったことあるよ!)」出身の人間で、人里に出てきて行倒れそうになったところをハワードに拾われてそのまま使用人として雇われている。しかし、ハワードはチェルスの顔を見るだけで苛立つほど相性が悪く、しかし何故かチェルスをクビにしようとは考えることができない。ハワードはそんな現状を「わしはきっと奴を死ぬまでいびり倒したいのじゃろうな」と自己分析している。一方のチェルスは自分の命を救ってくれたハワードに対して強い恩義を感じている。

一見偶然に見えるチェルスとハワードの出会いだが、これは「因縁の呪術」と呼ばれる呪術によって運命づけられたものである。ハワードの隠し書庫に収められていた初代ハワードの記録によると、賢者クーパスは弟子である初代ハワードに呪術を託した後何も言わずに消えてしまったが、「賢者クーパスの血筋を守る」事を一族の使命だと誓った初代ハワードは因縁の呪術を行使する。その内容は「世界に危機が訪れた際、クーパスとハワードの末裔は再びめぐり合う」というもの。なのでチェルスはハワードとの出会いに運命を感じており、またハワードもチェルスをクビにすることができない。

賢者クーパスと初代ハワードの誤算は、ハワード一族がその力に驕り「賢者の末裔を守る」という宿命を忘れ去ってしまっていたこと、さらに暗黒神が動き出したこの時代、当代ハワードとクーパスの末裔チェルスの相性が絶望的に悪かったという事実である。長い月日が経って自身の存在意義をも忘れてしまった両家にとっては、「因縁の呪術」もただの枷でしかなかった。



あれ?なんか前回といい今回といい全然話が進まないな?


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新・第四章 ああっリーザスさまっ

ハーメルンの好きな小説たちが軒並み更新停止して悲しいです…

なんか…全然話進まない!?サザンビーク編の二の舞にならないように、端折れるとこはどんどん端折っていきます!








ハロー、ゼシカ…もといラプソーン現着まで意外と時間があって胸を撫で下ろしている道化師ドルマゲスです。流石に呪われしゼシカが呪われしユリマをも凌駕するような能力を有しているとは考えにくいですが、いつもこちらの想定を悪い意味で上回ってくるのがラプソーンという存在。気を引き締めていかないとですね。

 

 

 

 

「…あっ、いたいた!サーベルト!師匠とキラさんも!」

 

俺はリブルアーチの武器防具屋付近でパトロールをしていた三人を見つけて駆け寄った。パトロールと言っても街を回りながら色々なものを見て回るだけの気楽なもの、言うなれば物見遊山である。

 

「やあ、ドリィ。ハワード氏には会えたのか?」

 

「会えました。…しかし話を聞いたところ、暗黒神に対抗するためにはどうやら『クラン・スピネル』という宝石が必要なようでして。今からその宝石を取りに行こうと思っているのですよ。」

 

「なるほど?それで、その宝石はどこにあるんだ?」

 

「はい。ええとその前に。…みなさん、いいですか?」

 

俺は雑談に興じていたユリマたちにも注目を促した。キラちゃんがユリマに見せているのは…石造りの文鎮だろうか、橋の意匠が施されていて超可愛い。お土産に買ったのかな?俺も後で覗いてみよう。

 

「ハワード氏から得た情報によると、ラプソーンがこの街に到着するのは明日の夕方らしいです。」

 

「…それでは、今はまだこの街は安全ということですね?良かった…」

 

「明日の夕方…意外に時間があるな。これはわしがわざわざ出張る必要もなかったか…?」

 

「ラプソーン到着の前に私はやりたいことがいくつかあるのですが、目的地が微妙に離れているので『分かれて』行きます。ですので皆さんも各々自分に必要な時間を明日まで過ごしてください。今日は早めに宿をとりましょう。」

 

「分かれて…ってドルマゲスさんは結局どこへ行くんですか?」

 

「『リーザス像の塔』、『剣士像の洞窟』、『ライドンの塔』ですね」

 

「!!!」

 

お、流石村一番のリーザス様信徒。俺が「リーザス像の塔」と口にすると、敬虔なサーベルトは素早く反応した。

 

「…い、今『リーザス像の塔』と言ったか!?あそこへ行くのか!?」

 

「はい、それも含めて明日お話しします。今日は…遅くなる前に明日の決戦に向けて休みましょう。サーベルト、休息もゼシカさん救出への大事な過程ですよ。」

 

「…ああ、俺もパトロール中に少し気持ちの整理がついたんだ。わかっているさ。…じゃあ、宿屋へ行こう」

 

サーベルトはいつもと変わらない笑顔を見せた。よし、これなら大丈夫そうだな。俺たちは日が落ちたばかりながら宿屋で軽い食事をとり、そのまましっかりと睡眠を取った。

 

 

「「「さて、行きましょうか!リーザス像の塔(剣士像の洞窟)(ライドンの塔)に!!!」」」

 

「どっ、ドルマゲスさんが…増え…!?」

 

「分身体とはUSA(アジト)で何度か世話になっていたが、増えるところを見るのは久しぶりだな!」

 

「わしに至ってはトロデーンのあの一戦以来か。同じ顔が並んでいるというのはなんとも気色の悪い」

 

「「「師匠、流石に酷くないですか?」」」

 

「ええい、一気に喋るな!頭がおかしくなる!」

 

早朝、俺は時間短縮のために文字通り「分かれて」行動する旨を皆に伝えた。久々の『悪魔の見る夢(アストラル)』の出番である。戦闘力はガタ落ちだが、既に攻略済みの「剣士像の洞窟」、出現モンスターのレベルアベレージが低い「リーザス像の塔」は問題あるまい。「ライドンの塔」も目的地は最上階のみなので、空から向かえば相手にするのは「メイジキメラ」ぐらいだろう。

 

「ドルマゲス様は凄まじいお方故、分身することなんて朝飯前なのです。ですが初めて目にしたユリマさんが驚かれるのは無理もないですよね。…私は慣れてますけど」

 

「ムッ!キラちゃんのくせに生意気ですよ!」

 

「い、いだい!ほ、ほっへをひっはらないでください~!」

 

「やめなさいやめなさい」

 

ユリマは重力を操ってキラちゃんの頬を引っ張っているのだろうか、傍から見れば透明人間に頬をつねられているかのようだ。詠唱無しであれほど細かなパワーコントロール…随分器用なことをする。

 

「どこも魔物の巣窟として知られる場所だが…お前は一人で行くのか?」

 

「そうですね、リーザス像の塔だけにはサーベルトに同行してもらいます。挑戦者が予め想定されている他二つと違ってあそこはリーザスの村の共有財産、私有地ですから。」

 

「今しがた町一番の富豪の家に侵入した輩がよく言う…」

 

「う…」

 

サーベルトキラちゃんとの3人旅をしていた時は二人とも俺を全面的に肯定してくれていたので、痛いところを突いてくる師匠がいるとどうしても調子が狂うな。別にそれが苦痛というわけではないんだけど。

 

「そ、その間、みなさんにはリブルアーチ地方で魔物のサンプルを集めておいて欲しいのです。もちろん用事があればそちらを優先してくださいね。サンプル集めの方法に関しては…キラさん、二人にご説明願えますか?」

 

「は…はいっ!任せてください!」

 

リブルアーチ地方には貴重なマシン系の魔物「アイアンクック」や摩り下ろせば「まりょくの土」に分解できる「ゴーレム」などが生息している。他にも未だ細胞を採取できていない魔物がたくさん!未開の地方は宝の山である。そしてキラちゃんはサンプル管理のプロ。おまけに最近のキラちゃんは俺より料理が上手になった。もし無人島になにか一つだけ持ち込むことができるとするなら、俺は迷いなく彼女を連れて行くだろう。そうすれば飢え死ぬ心配もなし、研究もし放題だ。そんな彼女に任せればきっと全てが上手くいく。

 

「ユリマと師匠もそれで大丈夫ですか?」

 

「都合よく利用されている気がして非常に気に食わんが、わし自身の研究にも繋げられるかもしれないのでしぶしぶ手伝ってやる」

 

「本当はドルマゲスさんと一緒にいたいけど、ずっとわがまま言ってると困らせちゃうので涙を呑んでしぶしぶキラちゃんに従います」

 

「二人とも正直で良いことですね」

 

…仲間が多い今、リーダーである俺にはある程度のスルースキルが必要とされてくる。だから、反応したら負けなのだ…!俺はツッコミを入れたい気持ちを抑えて笑顔で応えた。その後、集合場所などの細かい事項を取り決め、ラプソーンと鉢合わせる可能性があるサザンビーク地方サイドへは決して出ないように警告し、俺(たち)とサーベルトは出発した。目的地は「リーザス像の塔」、クラン・スピネルを頂きに参る。

 

 

─リーザス像の塔─

 

「…」

 

「…どうかしました?」

 

ガラガラと音を立てて回る木製の風車は、まるでそこだけが流れる時代から切り取られているかのような古めかしさを醸し出している。塔の前まで来ると、サーベルトは眼下に広がる草原を眺めてしばらくの間立ち尽くしていた。おそらく久々に帰ってきた故郷の地に降り立ち、郷愁に浸っているのだろう。…不躾だとは重々承知しているが、できるだけ早くリブルアーチへ戻りたい俺は声をかけて進入を促す。ゴメンね…。

 

「…ここから、小さくだがリーザスの村が見えるんだ。…村ではきっとポルクやマルク、母さん、屋敷のみんな、村人たちが今日も何気ない毎日を過ごしているんだろう。…俺やゼシカがいなくても」

 

「…」

 

「だから…だからこそ俺は動かないといけないんだ。村はポルクとマルク、そしてドリィ、お前のセキュリティサービスが守ってくれる。だったら俺は俺が救えるものを救いに行くだけ…それだけだよな。…悪い、待たせたな。行こうか!」

 

「ええ、行きましょう」

 

やはり、サーベルトの帰る場所はここなんだ。そう思うと少し寂しい気もする。ラプソーンの脅威が去れば、きっとサーベルトはあの村へ戻るのだろう。俺たちはトラペッタへ…あー、そう考えると一番可哀想なのは海も隔てているキラちゃんかもしれない。

 

まあ、ラプソーンをどうにかする前にその後のことを考えるなど笑止千万。まずはクラン・スピネルだ。アレが無いとゼシカからラプソーンを引き剥がせなくて最悪ゼシカが死ぬ。そしたらサーベルトの情緒が終わる。

 

「ん…っ。ふむ。この扉、押しても引いても開きませんね。サーベルトなら開けられますか?」

 

「任せろ。この扉は…っと、こうやって下から持ち上げるんだ。村民にしか伝えられない秘密だから、他の皆には言わないでくれよ?」

 

サーベルトはシャッターの要領で塔の入り口を開いた。転生者である俺は開け方などはもちろん承知しているのだが、この扉の開き方は「村民しか知らない」ことになっているので、便宜上サーベルトに開けてもらう必要があったわけだ。…しかし、分かってしまえばなんてことないとはいえ、「押す」と「引く」しかないこの世界の扉で「持ち上げる」という動作を必要とする扉、というのは心理の盲点を突いた面白い仕掛けだと思う。ウチのアジトの正門も同じ仕掛けにしようかな。

 

 

塔の構造を熟知しているサーベルトに案内してもらいながら俺たちは素晴らしい速さで最上階を目指して歩いている。というのも道中で今のところ一度も戦闘になっていないのだ。どうやら塔内にいた「かぶとこぞう」個体が俺とサーベルトの顔を覚えていたらしく、絶対に手を出すな!と塔に生息している魔物たちに触れ回っていたようだ。「ベビーサタン」や「おばけきのこ」なら煮込み鍋にしても良かったんだけどな。せっかく『トヘロス』使わずに歩いてたのに。

 

「…それで、なぜクラン・スピネルがリーザス像の塔に?宝石の持ち主はリブルアーチのクランバートル家なんだろう?」

 

「これには深いわけがあるそうですが…まあ簡単に言うと、リーザスの村の礎を築いたリーザス・クランバートル…つまりサーベルトの敬愛する『リーザス様』その人ですが、彼女は元々リブルアーチに住む賢者の末裔でした。しかしこの地方を訪れた時にアルバート家の領主様と駆け落ち、姓がアルバートになったわけです。」

 

「では…『サーベルト・クランバートル』というのは、俺やゼシカのルーツがリブルアーチにあることを示していたわけか。」

 

「そうなりますね。…リーザス様は多彩なお方だったそうです。七賢者の一人『魔法剣士』シャマルの末裔の名に恥じぬ剣と魔法の才能を持っており、加えて彫刻の才能にも秀でておられたそうで、リーザス像の塔は彼女が建築したとも言われています。」

 

「あっ!それは俺も知っているぞ!半ば神話化した伝承だと思っていたが、改めてドリィの口からそれを聞くと本当の話にも思えてくるな。…というより、ドリィはなんでそんなことを知っているんだ?」

 

「ひみつです☆」「流石はドリィだな!」

 

リーザスは確かサーベルトやゼシカの直系の先祖で、俺の記憶が間違っていなければ「ひいばあさまのそのまたひいばあさま」…つまり六代前の人間だったはず。数世紀前のことなんてほとんど神話と変わりはない。

 

「そして彼女は生涯最高の出来となった自身の像に時を忘れるほどの美しさを持つ魔石『クラン・スピネル』を埋め込みました。…何のことだか、サーベルトならお分かりで?」

 

「…!それがリーザス像…!まさか、クラン・スピネルとはリーザス像の御眼のことなのか…!?」

 

サーベルトの目が驚愕に見開かれる。俺はあえてそれを見ないふりをして階段を一番上まで駆け上がった。

 

「そういうことです…と、最上階に着きましたね。案内ありがとうございます。」

 

暗くてじめじめした塔内とはうって変わり、最上階には優しい日の光が差し込み、全く出どころが分からない美しい水が流れる、不思議で居心地の良い場所となっている。そして微笑みを湛えて最奥に鎮座しているあの彫刻こそがかの「リーザス像」…リーザス・クランバートルの最高傑作だ。

 

「…どうするか、しかし…ああ!俺はどうすべきなんだ…!」

 

「…。(さあ、こっからは賭けだな…)」

 

…さて。予想通りサーベルトは葛藤している。自身の信仰と妹の命との間で揺れているのだ。

 

信仰とは、何らかの行動を求められたときのみ姿を現すものではない。証拠が無くとも、何かを信じるためにまず必要なものこそが信仰なのだ。まずは信じなさい。さすれば其方に心の安定を。確固たる拠り所を。…それが信仰である。『背信』とは、周囲から非難されるだけでなく、自身の穏やかな心の平穏を破壊する行為でもあるのだ。

 

「…サーベルト、今まで黙っていてごめんなさい。ですがきっと昨日のうちにこのことを話せば、サーベルトはここへ来ることを渋っていたでしょうから…ゼシカさんを救う結界を作るためにはどうしてもリーザス像の御眼を取り外す必要があるのですよ…」

 

「…頭では分かっているんだ。しかし…。俺の心はいつだってリーザス様に支えられてきた…ッ!それを裏切るような事を…くっ」

 

「サーベルト…」

 

「…ドリィはいいだろうさ、君には『信仰』が無いんだから」

 

「!」

 

あらま。サーベルトが俺にこんな棘のある言い方をするとは。ちょっと驚いた。

 

…俺とて信仰に理解が無いわけではない。誰かの信心をバカにするような真似はしないし、誰かが敬意を持つ者に対しては俺も敬意を払うように努力はしている(暗黒神は除く)。しかし、いくら理解があるといっても、俺は信者ではないのだ。「理解があって」も「理解している」わけではない。

 

つまりどういうことかというと、信仰に関して、信者でない俺が信者であるサーベルトを説得するのは非常に難しいということだ。これに関してはもう仲が良いとか良くないとかの問題ではない。

 

「…わ、悪い。俺は君になんてことを…ああ、最低だ」

 

「気にしないでください。『信じる』ということは本来とても素晴らしい事なのですよ。」

 

しかし皮肉にも、『信』が集まるとそこには不和が生まれる。相反する『信』同士は激突し、信あるものは信なきものを蔑む。これも知性体の面白い点であり困った点なのだ。

 

「…」

 

「…」

 

像の両目に輝く美しい二つの宝石は、流れる水が照り返す太陽光を受けてキラキラと輝いている。俺はチラチラと像に目をやりながら苦悩するサーベルトを見守っていたが、何も起こらない。

 

「(…早く出て来てくれ~)」

 

もしかして、俺がいるからダメなのだろうか?サーベルトを連れてきたけど、それでもダメ?ねぇリーザス様?

 

「…ドリィ、少し外の空気を吸いに行ってもいいか?」

 

「…ええ、もちろん」

 

最上階は吹き抜けなのでここはほとんど外みたいなものだが、サーベルトが言いたいのは場所を変えて気分を変えたいということだ。このまま待っていても徒に時間を使うだけなので、それでサーベルトの気持ちが変わるのなら…。そう思い、俺が像に背を向けた瞬間、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

 

 

──お待ちください。勇気ある旅人、そして私の愛しい子……。

 

 

 

「だっ、誰だ!?誰か俺たちの他にいるのか!?」

 

「…これは」

 

あー、よかった…これで多分何とかなる。俺は胸を撫で下ろした。

 

 

 

──私の名はリーザス……。はるか遠き昔にこの世界を生き、この像を生み出した者です。

 

 

 

「サーベルト、どうやらこの声はリーザス様の像から聞こえてくるようです。」

 

「…では、この声の主は…リーザス様!?た、確かにお告げの時と同じ声…」

 

俺とサーベルトがリーザス像に注目すると、うっすらと人型の靄が出現した。靄は次第に濃く、輪郭を定めていき、ものの数秒で完全な像を結んだ。浮かび上がったのは腰まで届く長い髪と薄紫色のローブが特徴的な美しい女性…彼女こそがサーベルトのご先祖様、リーザスおばあちゃんである。

 

 

 

──まずはそちらの旅の方、私の近くへ……。

 

 

 

「…え?私ですか?」

 

満面の笑みを浮かべる彼女は何故か俺をご所望のようだ。…その笑顔が貼り付けたもののように見えるのは気のせいだろうか?俺は未だ混乱中のサーベルトに断りを入れ、リーザス様の霊体に近づいて耳を傾ける。

 

「ええと…リーザス様、お初にお目にかかります。ワタクシ、道化師のドルマゲスと申します」

 

 

 

──では、ドルマゲスさん、もう少し近くへ……。

 

 

 

もっと近くに?俺は更にもう二歩踏み込み、ほとんど耳打ちのような格好でリーザス様の続く言葉を待った。

 

 

 

──アンタ…

 

 

 

うわ耳くすぐったい。持ち前の美貌と透き通るような声が相まって少し変な気分になる。まさかドラクエ世界でASMRを経験することになるとは。…しかしそんな俺の余裕も次の瞬間爆発呪文(イオナズン)のごとく吹き飛んだ。

 

 

 

──何してくれてんのよ!アンタが私のこととか賢者のこととか全部言っちゃうから、私の話すことなくなっちゃったじゃない!!!!

 

 

 

「!?!?!?」

 

ギイイイイィィィン……と脳内に衝撃が走る。俺にその時何が起こったかは単純明快、リーザス様(おばあちゃん)が俺の耳元で叫びやがったのだ。俺の鼓膜は破れてたまるもんかと死ぬ気で振動し、その振動が俺の脳を揺らした。何をされたかはわかった。でも…

 

「な、なんでそんなことするの……」

 

「ドリィ!?おい!大丈夫か!ドリィ!」

 

 

 

──後で話は聞いてあげるから、しばらくそこで寝てなさい!

 

 

 

確かにお株を奪ってしまったのは悪いと思うが、そんなに怒ることだろうか…俺の脳は音の波による激しいシェイクに耐えられず、そのまま俺は意識を失った。

 

 

「…れ…起きてくれ!」

 

「んぁ…サーベルト…」

 

そうだ。俺はそこの幽霊BBAに怒鳴られて気を失ってたんだった。こうして言葉にすると何とも情けない字面だ。しかし…ううん、まだ耳が痛い。

 

 

 

──起きましたね。さて、ドルマゲスさん、サーベルトから状況は全て聞きました。クラン・スピネルは持っておゆきなさい。これが助けになるのでしょう……?

 

 

 

は?え?なかったことになったの?さっきの俺への仕打ちは?

 

 

 

──ああ、先ほどのことはごめんなさい。それで……

 

 

 

そんだけ!?…いや、もういい。これ以上拗らせたくない。

原作では芯の強く、礼儀正しい女性というイメージしかなかったリーザス様だが、なかなかどうして我儘で苛烈…。

 

…ああ、それもそうか。彼女はサーベルトのご先祖様であると同時に、あのゼシカのご先祖様でもあるのだから。そう考えると妙に納得がいった。

 

クラン・スピネルやゼシカ、ラプソーン云々のことは既にサーベルトがリーザス様に話してくれたらしい。そしてサーベルトも、信仰先のリーザス様自身がクラン・スピネルを持って行っていいと言っているので文句はない。サーベルトには(ゼシカ)信仰(リーザス)の間で酷な選択を強いてしまったが、こうすれば丸く収まる。……俺が耳にダメージを負ったこと以外は概ね想像通りだな。耳イッタ。

 

 

 

──うるさいですね。そもそも私はあなたが魔のものだと思っていたのです。だからあなたと賢者の末裔ライラスがリーザスの村へ来る際、サーベルトにお告げをしたのに…これじゃ賢者の面目丸つぶれですよ。さっきのはその八つ当たりもあるのです。

 

 

 

「もしかしてリーザス様…私の心、読まれてます?」

 

…正確に言うと、今のリーザス様は霊体ではない。魂はとっくの昔に成仏しているのだから。今の彼女はリーザスの村民からの信仰から生まれたエネルギーを、自身を模した像に宿らせて存在している「リーザス・クランバートル」の残滓…思念体のようなものだ。今の彼女は幽霊よりむしろ神や精霊に近く、であれば相手が今何を考えているかくらいは察知できてもおかしくはない。

 

 

 

──そういうことです。なのであなたが私を「リーザスおばあちゃん」なんて呼んでたのも知ってます。さっきのはその復讐でもあるわけですね。

 

 

 

「…。」

 

どうやら俺は知らぬ間に彼女の地雷をいくつか踏んでしまっていたようだ。でもそれにしたって八つ当たりで気絶させるのは酷くない?

 

「リーザス様、それくらいにしてあげてくださいませんか。ドリィがいなければ俺…私はきっと今貴方様とこうして会話することはできなかったでしょう。私は彼に本当に感謝しているんです!」

 

 

 

──……。まあ…サーベルトがそう言うなら。私の愛しい昆孫(ひ孫のひ孫)がそう言うなら……。ドルマゲスさん。

 

 

 

「はい、リーザス様?」

 

俺はリーザス様の言葉を待った。…もちろん十分に距離を取って。

 

 

 

──私はあなたに感じた魔のチカラが誤りだったとは思っていません。何かが違えば、私の目の前であなたがサーベルトを殺していた未来さえあったと、そう思っています。

 

 

 

「…。」

 

リーザス様にそう言われて、俺の脳裏に浮かぶのはあのシーン。原作ドルマゲスが殺人を犯す様子が初めて描かれたイベントである。ああ、あの時もサーベルトはリーザス様の前で…そしてドルマゲスに…。

 

 

 

──しかしサーベルトからあなたの話を聞きました。あなたはサーベルトの精神的な支えになり、ゼシカの旅を陰ながら見守って手助けしていると。世界を救うために必死で奔走していると。

 

 

 

「サーベルト…」

 

サーベルトはうんうんと頷く。サーベルトは俺を誰かに紹介するとき、俺をめちゃくちゃ褒めるきらいがある。決して悪い気はしないのだが、ちょっと恥ずかしいな。

 

 

 

──……そして、将来はアルバート家へ婿へ入ると。

 

 

 

「…サーベルト?」

 

あー。あとサーベルトは俺を誰かに紹介するとき、ちょっと誇張する悪癖もある。こっちは普通に…こういうことになると困る。サーベルトは茶目っ気のある笑顔を俺に向けてくるが、俺にとってはその隣、ジト目で睨んでくるリーザス様の視線の方が気になる…。

 

 

 

──まあいいです。今は時間が無いのでしょう。改めて、このクラン・スピネルを持っておゆきなさい。私にとってはクランバートル家もアルバート家も大事な家族…アルバートの血を持つサーベルトを、ゼシカを……。よろしく頼みましたよ。……ドルマゲスさん……。

 

 

 

「…任されました。リーザス様。必ずゼシカさんを救い出してみせます。サーベルトも守り通します。」

 

 

 

──じゃあね、サーベルト……。私はいつでも村の皆を見守っているから…次のお祭りの日、またゼシカとアローザと、三人で会いに来て……。

 

 

 

「はいっ、リーザス様…!私はきっと今日のことを忘れません…!きっとゼシカを助けて、今日のこと、貴方様のことを伝えてみせます!」

 

サーベルトがそう言って笑いかけると、リーザスおば…お姉様もまた笑って応える。その表情は強さと優しさを兼ね備えた、まさに親が子へ向ける顔だった。リーザス様の思念体はまた靄となって霧散し、石像の眼に埋め込まれていたクラン・スピネルが剥がれ落ちた。サーベルトは傷がつかないよう地面に落ちる前にキャッチし、俺に差し出す。

 

「さあ、受け取ってくれドリィ!これでゼシカを助け出すんだ!」

 

「…ええ!!」

 

さあ、これで結界が作れるぞ。戻ったら分身たちと合流して、クラン・スピネルとビーナスの涙をハワードに渡して、ハワードの愛犬レオパルドを監禁して、それから…。俺がそんなことを考えながら赤く輝く一対の宝石を受け取ったその瞬間、懐の携帯念話(フォン)が振動した。

 

「!」

 

キラちゃんからだ。…何か、あったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思えば、どうして原作ラプソーンはリブルアーチでチェルスを狙った際、勇者に見つかっただけでその場を退いたのだろうか。勇者を相手にしながらでもチェルスは狙えるだろうし、チェルスだけを最速で殺して撤退することもできたはずだ。

 

…まあ、夢のない言い方をしてしまえば、これが『都合』というやつなのだろう。星の筋書き(シナリオ)通りにプレイヤーを誘導させるための「必要な無駄」だ。

 

そして、この世界はそんなに『都合』よくできてはいない。「無駄」は最も唾棄される。

 

俺は急ぎこそすれ、時間を浪費したつもりはなかった。

 

ハワードも決して嘘をついていたわけではないだろう。

 

しかし、誤算があった。占星術とは「星の動きから未来を予測する術」。しかし逸脱者たる俺の影響で『星の筋書き』が乱れ、闇の遺跡で力を蓄えたラプソーンを、星は正しく観測することができなくなってしまっていたのだ。

 

結果、原作では的中していたハワードの占星術に誤差が出てしまった。

 

そして思い込みによる見逃し。闇の遺跡でラプソーンの云っていた『準備』とは何も自分の肉体を最適化すること()()()()()()()()

 

 

誤算は伝播する。蝶の羽ばたきが地球の裏側にまで影響を与えることがあるように。

 

 

 

終ぞ誰も見抜くことができなかったその誤算は、おおよそ考え得る最悪の事態…

 

「チェルスの死亡」

 

「リブルアーチの崩落」

 

…そして俺、「ドルマゲスの失踪」という状況を招くことになってしまった。

 

 

 

 

 

 

















本編は凄い終わり方になってしまいましたが、後書きはいつも通りのノリで行きます。


サーベルト・アルバート
レベル:59
暇さえあれば鍛錬を繰り返し、着実に剣神へと近づいている剣士。なぜかユリマからライバル視されている。本人曰く「魔法の才はゼシカに受け継がれた」らしいが、『ベホイミ』『スカラ』『ピオラ』『バイキルト』など基礎補助呪文に加え、『マジックバリア』『ディバインスペル』『フバーハ』などの特殊な補助呪文も覚えている。当たり前だが『メガンテ』や『メガザル』の使用はドルマゲスから固く禁じられており、本人もドルマゲスと固く約束したため使うつもりはない。



・リーザス・クランバートル
サーベルトの6代前の賢者。魔法・剣術・芸術に秀でた名家クランバートルのお嬢様。顔立ちも良い上にナイスバディで真っ直ぐな性格という天から与えられたものが多すぎる女でもある。何もなかった平原に塔を作り、人を集めて村の礎を作った。自身の彫った彫刻を偶像とし、そこに集まる信仰を依代に死後も思念体として現世で子孫たちを見守っている。

アローザやゼシカを見るに、二人のあの苛烈な性格はおそらく遺伝、であればリーザス様も実はあんな感じなのでは…と思いました。原作リーザス様は、訪問してきたのがなんのしがらみもないエイト・ヤンガス・ククールだったので余所行きの性格で対応しましたが、今回は直系の子孫とめっちゃ疑ってた男が来たのであんなフランクな感じになりました。お淑やかなリーザス様が好きな方には申し訳ありませんでした。

リーザス様のお告げについて
リーザス様は何もイシュマウリのように運命が円環のように廻り続けているとか、そういうことは知りません。ただドルマゲスとライラスがリーザスの村に来たことで「なんかちょっと想像と違うな…」くらいには感じていたんじゃないでしょうか。信仰のチカラで人間として一段階上の存在に昇華されたリーザス様には、原作の流れがうっすらと見えていたのかもしれません。


明日は1000字ちょっとの番外編を投稿できたらいいなと思ってます。今回がだいたい10000字なので、10分の1くらいのボリュームでしょうか。頑張ります。


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番外編 違法建築の匠

本編に入れるほどの内容でもなかったので、番外編にしてみました。
お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、新章に突入してからは正午に小説を投稿するように心がけております。「いつ更新するかわかんねえよ!」と思っておられる方は是非、12:00以降に一度ご確認ください!








悪魔の見る夢(アストラル)』で3人に分身した俺。この俺以外の二人はそれぞれ『ビーナスの涙』の回収、『クラン・スピネル』の回収という役割を割り当てられ、3人目である俺に課せられた使命は『ライドンの塔』の作成者、天才彫刻家ライドンのU.S.A.への勧誘である。

 

 

「ここが…」

 

俺の目下に(そび)えるは巨大な塔。リーザス地方のものとはけた違いに大きく、かつ豪奢で力強さを感じる。てかデカすぎだろ…個人がこんなもん建てて、何らかの法律に違反してたりはしないのだろうか?ここはサザンビーク国領だけど王都からは離れてるし、そういう法律とかは適用されてないのかも。

 

「では、私たちはある程度魔物のサンプルを採取したら、先にリブルアーチへ戻っていますので」

 

「ドルマゲスさん!いってらっしゃーい!!」

 

「…さっさと行って戻ってこい」

 

「みなさんに手伝って頂けて嬉しいです。キラさん、その『携帯念話(フォン)』はリーザス地方の私に繋がっていますので、何かあれば向こうの私に伝えてくださいね。ではまた後で!」

 

俺は大きく手を振るキラちゃんたちに手を振り返し、ライドンの塔へ飛んだ。開門に必要な「石のつるぎ」も、空を歩ける俺にとっては無用の長物である。

 

 

「ゼェ…ハァ…た、高すぎ…」

 

…いくら宙に浮くことができるといっても、なにもスーパーマンのように飛び回れるわけではない。上へ上へと移動するにはやはり歩行に相当するプロセスが必要であり…とどのつまり普通にしんどい。道中では「メイジキメラ」の集団に絡まれたが、そのうちの一匹の首根っこをひっつかんでボコボコにし、羽を全部毟って「岩塩」を皮膚に塗りこんでやると、以降は誰も俺にちょっかいを出さなくなった。

 

「あ~…やっと頂上に…着いた~…!」

 

ライドンの塔11F、地上から100mはゆうに離れているであろう最上階に俺は転がり込んだ。火照った体にひんやりとした大理石の床が気持ちいい。…ずっとこうしていたいところだがあまり時間もないので、俺はしばらく息を落ち着かせると、脚に「きつけ草」で作った湿布を貼って重い腰を上げた。

 

「…えーとライドンさんは…ああいたいた」

 

ライドンの塔の建設者(絶賛建築中)であるライドンは最上階の中央で大岩を彫っていた。内部面積だけで言えばアスカンタ城の数倍はあるこの巨塔は、あの小男がたった一人でここまで築き上げたものなのだ。彼は「天才彫刻家」なんて通り名で呼ばれているようだが、もはや「天才」でくくってしまってよいのか不安になるほどのずば抜けた才能である。その建築技術、ぜひうちに欲しい!ということで今回こうやって勧誘に来た次第だ。

 

「ハーイ!ライドンさんですよね?」

 

「ぬおっ!?なっ、なんだおめえ!いつの間にここまで登ってきやがったんだ!?」

 

「私は…ドルマゲスと言います!今日は貴方をスカウトしに来ました!」

 

一瞬仮名(ディム)を使おうかどうか悩んだが、どうせ勧誘に成功したら正体を明かすので俺は名前を隠さないことにした。

 

「……スカウトだァ…?そもそもおめえ、どっから登ってきた?わしが見た時には誰もいなかったはずだぞ!」

 

「空から登ってきました」

 

「…は?」

 

「ほら、こう…こうやってですね…ほいほいほいっと」

 

俺はパントマイムの様に何もない空に手を掛けて登ってみせた。目の前で人間が浮くのは初めてだったのだろう、ライドンは目を丸くして驚いている。

 

「…おめえ…じゃあまさか、塔に入らないでズルして登ってきたってわけか!?ああ!?」

 

「…塔の作者である貴方がそう仰るならズルなのかもしれませんが…私もここにくるまでめちゃくちゃ苦労したので、楽をして登ってきたつもりはないです。」

 

ライドンの凄みにも屈せず、俺はあくまで強気に対応する。職人気質(カタギ)のライドンなら気概のある人間のほうがむしろ印象は良く映るはずだ。

 

俺たちはしばらく睨み合ったのち…突然ライドンが我慢できないという風に吹き出した。

 

「……うはははは!なるほど、空から…とは盲点だったわい!わしにはおめえみたいな自由な発想がいつの間にか抜け落ちてたみてえだな!」

 

ライドンは豪快に笑うとこちらに向き直り、手に持った金づちを置いてコキコキと手首を鳴らした。

 

「やい若造!気に入ったぞ!そうとも、わしが彫刻家のライドンだ。お前さん、さっきわしをスカウトするだなんだとぬかしていたな?聞くだけ聞いてやる、話してみろ!」

 

よっしゃ、ライドンはとりあえず話を聞いてくれるようだ。これで「ちゃんと塔を登ってこない奴は話にならん」とか言われてたらもう時間的に諦めてた。気分屋のライドンの気が変わらないうちに早速交渉に入ろう。

 

 

「ふん、なるほど。ドルマゲス…お前さんの依頼内容はわかった。要はお前さんとこの施設の建築を手伝えってんだな?」

 

「はい。ライドンさんは普通に建築していただいて。こちらではその様子をウチの従業員に見せ、技術交流を行いたいのです。」

 

「はんっ、生意気なのは嫌いじゃあねえ。わしの技術が見て盗めると思っているなら好きなだけ見ればいいさ。生憎、見ただけで盗まれるような貧相な技術をわしは持ちあわせてないがな。…だがそれは()()()()だ。若造、悪いがわしは断るぞ」

 

「…理由をお聞かせ願えますか?」

 

何となく想像はつくが、念のため聞いてみる。

 

「他ならぬわしが気に入った若造だ。お前さんの頼みは聞いてやりたいところだが、見ての通りわしは仕事中で、この塔はまだまだ未完成!コレをお前さんみたいな奴でも頂上に辿り着けないほど高い塔にしてやるまで、わしは他の場所には行けん!うはははは!」

 

ライドンは地面に置いていた金づちをもう一度手に取った。暗に話はこれで終わりだということを言いたいのだろう。…思った通りライドンにはここを離れる気が無い。「貴方の息子が帰ってこいと言っていましたよ」などと言っても多分動かないだろう。もはや塔は彼にとって生きがいそのものなのだ。…であればこういう提案はどうだろう。

 

「では、報酬の話なのですが…」

 

「…もういいだろう?わしは金になんて興味はない。さあ行った行った」

 

「私たちに協力してくれた暁にはこの塔に必要な建材をすべてこちらで用意する、というのはどうでしょう?」

 

「!」

 

「私たち『U.S.A.』はアスカンタ王国と提携している…という話は先ほどしましたね?切り立った崖や森の多いアスカンタ国領からは上質な石材や木材が生産できるのですよ。それを見返りとして譲渡しましょう、この塔が完成するまで」

 

「…そ、れは…」

 

おお、揺れてる揺れてる。いくら金に興味が無いと言ったって、やはり人間。無欲というわけではない。塔を建設するにはやはり金と時間と手間がかかるのだ。

 

「継続的に食事もこの塔に配給しましょう」

 

「…ほう…わざわざ家に食料を調達しに行く必要が無いわけだ」

 

「建設者のみが建設中にだけ使用できる昇降機を設置しましょう」

 

「…上り下りが格段に楽になる、か」

 

「そして私たちU.S.A.のデザインはこの世界のどれにも当てはまらない独創的なものなので、きっとライドンさんにとっても良い刺激になると思います。あと今なら腰痛によく効く湿布もお付けしますよ」

 

「…乗った!口の上手い奴め、そこまで言われちゃあお前さんに付いていかないのは圧倒的に損だな!うはははは!…いいだろう。このわし、彫刻家ライドンがお前さんのとこの施設をこの塔に次ぐ世界で二番目の建築物にしてやる!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

よかった、交渉成立!やはり自分の知らないデザインというのは、芸術家にとってやはり魅力的に映るようだ。俺の出せる条件がライドンのお眼鏡にかなったようで何よりである。

 

「ははは…よし、なら早速連れて行け!…と言いてえところだが、この塔をこのままにはしておけねえな。意外なことにここに住み着いてる魔物の大半は温厚なんだが、そこはやはり魔物、狂暴な奴もいるにはいる。すでに完成した階層でいくら暴れられたところでわしの塔は微動だにせんのだが、未だ建設中の最上階はちぃとばかり不安だ。どうしたもんか…」

 

「ふむ、それでしたらこの子を番犬として置いておきましょうか。」

 

俺は『賢人の見る夢(イデア)』を大きく開き、四本の脚、四本の腕を持つ異形の機械を起動した。全身のモーターが駆動する小気味いい音と共に、黒く輝くボディが異空間からその姿を覗かせる。

 

「こ、コイツは…!?」

 

「まあ、簡単に言えば人造モンスター…とでも言いましょうか。…ほいほい、ぴっぴっぴっ…と。これで塔の最上階に何者かが侵入したら撃退するプログラムを打ち込めましたよ。ライドンさんの顔は今認証しましたので大丈夫です。」

 

「こんなおっかねえバケモンを…お前さんが作ったってのか…?」

 

「はい。こんなのがあと3体はいますよ」

 

俺は基盤の蓋を閉じ、肌触り滑らかなブラックボディを撫でた。つい最近メンテナンスの終わったばかり、キラちゃんのアイデアと量産出来た「オリハルコン」も盛り込んで更に強化された試作自律戦闘人形(プロトオートマター)初号機の『踊り子(バイラリン)』…否、もはや『試作』にあらず。完全なる自律戦闘マシン、完全体自律戦闘人形(リアルオートマター)初号機『煌星(キラリン)』と名付けたんだった。こういうこともあろうかと修理しておいてよかったよホント。

 

「く…くく…」

 

「?」

 

「お、おもしれえ!!わしも短くない時間生きてきたが、そんな姿をした魔物は見たことが無い!そんなとんでもねえのがお前さんの拠点にはまだいるってのか!?俄然やる気になってきた!」

 

「…それはなによりです!」

 

思わぬところで好印象。このカッコよさに感動してくれるライドンさんにはぜひウチのアジトにある現代住宅を見て更に腰を抜かして欲しい。

 

「よし、そんなら塔の心配はねえな。だがそっちに行く前に一度リブルアーチに寄らせてくれ。うちのせがれたちにも一言言ってやらねえと、後が怖いからな。」

 

「ええ、もちろんで──」

 

 

 

 

 

 

 

その刹那、俺の脳にズキリと痛みが走る。

 

「痛ッ」

 

「?」

 

「…ッ!!!」

 

俺の全身がぞわぞわと粟立つ。体の熱は一瞬で引き、しかし額には汗が浮かぶ。

 

「なんだ?どうしたんだドルマゲス」

 

「す…みません、…ああヤバ、少々マズい事態に…ら、ライドンさん、落ち着いて聞いてください」

 

この脳の痛みはこれまでも何度か感じたことがある、細い神経を千切られるような短く、しかし鋭い痛み。これは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の信号だ。

 

「(消されたのは…『剣士像の洞窟』に向かった俺…消えた場所は…リブルアーチ…ああ、最悪だ)」

 

「ど、どうしたってんだ?」

 

「……どうやら現在、不明な勢力によってリブルアーチが襲われているようです」

 

「な…なんだと!?」

 

「私は今から『戻ります』。ライドンさんはリブルアーチ以外の安全な場所で待機しておいてください」

 

「そんなまさか…おい、わしの家族は!」

 

「大丈夫、ライドンさんの家族も、街の人たちも全員助け出します!…ごめんなさい、私はこれで!」

 

俺は自身に掛かった『悪魔の見る夢(アストラル)』を解除する。これで俺という存在はもう一人の俺…たった今リブルアーチに到着した俺の本体にフィードバックされる。時は一刻を争う。動揺しているライドンに十分な説明ができないことを口惜しく思いながら、俺の意識はどろどろと融けた。

 

 

 

 

 

 




えー…昨日は1000字ちょっと…なんて言っていましたが、結局4500字も書いてしまいました…。すぐ長くなっちゃうんだから!



完全体自律戦闘人形(リアルオートマター)
従来の試作自律戦闘人形を、「オリハルコン」や「せかいじゅのしずく」などの希少なアイテム、さらに多様な魔物の細胞を組み込んで大幅に強化した兵器。安全性も向上した。その実力たるや作り手のドルマゲスですら単騎では敵わない。ただ燃費は悪い。

初号機『煌星(キラリン)』
かつてモグラのアジトやパルミド地方で大暴れした初号機『踊り子(バイラリン)』の生まれ変わった姿。ベルガラックでの呪われしユリマ戦でズタボロに破壊された時の反省を活かし、巨体ながら俊敏な動きが可能になっている。ドルマゲスが「キラさんとの合作だから…」とこの名前を提案した際、キラは猛烈に反対したのだが、結局ドルマゲスがこの名を気に入ってしまったためそのまま押し通された。ふざけた名前に反し、『ボミエ』重ね掛けからの四刀流剣術の凶悪さは健在であり、「やみのころも」を金属加工して覆われたボディは夜だと姿が見えなくなるという特性を持つ。全然煌めいてない。


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Chapter27 リブルアーチ地方 ②

さあてこの展開、どう料理してやろうか。








寸前で魔王を取り逃がしたものの、無事に闇の遺跡から生還した一行。しかしディムに続き、今度はゼシカがパーティーから姿を消してしまう。エイトたちは一時的に人間に戻ったミーティア姫の証言を頼りに、サザンビーク城の北にある橋の町リブルアーチを目指して進むのであった。

 

 

「姫様はああ言ってたが、案外一人でリーザス村に帰っちまったのかもな。何も言わずに出てったのは別れが辛いからとかさ……。…うーん、ゼシカに限ってそんなのあるわけないか。」

 

「どうだろうね…。」

 

ククールは矢じりに付着した魔物の体液を拭き取りながら呟いた。いくらゼシカが抜けて三人パーティーになったとはいえ、彼らは全員がレベルが30を超えた猛者。そう簡単に後れを取ることはない。

 

「宿屋で待ってりゃあ、ひょっこり帰ってきたりしないでがすかね?」

 

「うーん、それはないんじゃないかな。ゼシカが僕たちに何も言わずに出て行くなんて、いくら何でも不可解すぎるよ。」

 

「するってぇと、やっぱむさい男ばっかのパーティーがイヤになったとか……。」

 

「安心しろ。このオレがいる限り断じてそれはない!」

 

「これ!誰よりも麗しいミーティアを忘れるでないぞ!!」

 

「はは…」

 

ヤンガスもククールも暢気そうにしているが、それも全て立て続けに異変が重なって疲労しているパーティーを勇気づけるため。それを分かっているエイトは暖かい気持ちになった。

 

「オレとしちゃ、院長に頼まれたからお前らについてきただけで、もともとこの旅にさほどやる気があったってわけでもないんだが…ディムの飯も食えねえし、ゼシカがいなくなったんじゃテンションが下がりっぱなしだ。ハッキリ言ってもうマイナスだな。」

 

ヤンガスはククールの言葉を聞いて少し思案に耽る。ディムの扱いについて、未だこのパーティーでは方向性が定まっていないのだ。敵か、味方か、それ以外か。

 

「ディムね…兄貴、ディム…いや、ドルマゲスについてなんですがね──」

 

その時不本意にも、ヤンガスに重なるようにトロデが叫んだ。

 

「な、なんじゃアレは!?関所が……!?…お、おお、すまぬなヤンガス。で、ドルマゲスがどうしたのか?」

 

「何か考えがあるの?」

 

「…いいや、いいでがす。こういう話はゼシカを取り戻してからにしやしょう。それより、今はあの関所でがす。兄貴、あの関所の破られ方を見てくだせえ。…異常でがすよ」

 

「…!」

 

トロデがヤンガスの話を遮ってしまったのも、あの関所の惨状を見れば仕方ないと言えよう。一行が目線の先に捉えたのは、明らかに普通ではない手段で破壊された関所の門。鉄の柵は様々な方向にねじ曲げられ、目にした者を恐怖に誘う…これは魔界の芸術品、そう説明されても納得できそうな禍々しさがある。

 

「…ヒュー…誰だが知らねえが助かるぜ。門をこじ開ける手間が省けたんだ……なんてな。…ちっ、こんな芸当ができるのは…」

 

「まさか…『魔王』!?」

 

「そ、そんなことが…」

 

「…てことはなんだ?ゼシカは一人で魔王にリベンジを挑みに行ったってのか?……おい、それは…流石に無茶が過ぎるぜ…」

 

「ど、どうやらうだうだ言っていられる状況じゃあなさそうじゃ。急ぐぞエイトよ!気を引き締めてゆくのじゃ!」

 

「はい!」

 

今にも地面に落ちてきそうな曇天の下、一行はリブルアーチへ向かう足を速めた。

 

 

─リブルアーチ─

 

「たっ、助けてくれぇ!」

 

「俺の作品が!」「あんた!命の方が大事だよ!」

 

「なんでっ!?なんで私たちの街に魔物がいるの!?」

 

街は騒然としていた…というより半ばパニックに陥っていた。それもそのはず、町中に魔物が跋扈しているのだ。もちろんトラペッタやアスカンタとは違う、人間に対し敵対的な存在としての魔物(モンスター)。しかもそれらの中には歴戦の猛者たるエイトたちも見たことのない未知の魔物も多かった。

 

「こ…れはなんたることじゃ…」

 

「魔物が街を…?しかもあっちじゃあ魔物同士で殴りあってやがる…」

 

「…!王様!姫!危ないッ!」

 

馬車の背後から忍び寄るは乾留液(タール)と見紛う澱んだ体色を持つ魔物「スライムダーク」。エイトは剣を振るって悪しきスライムを弾き飛ばした。石造りの壁に激突したスライムダークは融けて消滅し、後には黒いシミだけが残る。

 

「なんなんだ…!?こんな魔物、見たことが無いでがす…」

 

「しかも単体じゃ大したことないとはいえ…弱かねえぜコイツ等ッ!」

 

見る者全てに不安を抱かせる実体のない悪魔「シャドー」を『バギマ』で追い払いながらククールも距離を取った。街中(まちなか)で呪文を放つのはいささか気が引けるが、どうやらそのようなことを気にしている暇はないらしく、曲がり角からはまた別のシャドーが顔を出す。

 

「くっ…ゼシカを探しに来たはずなのに…!この街に一体何が…?」

 

『──!…──ます!…──ください!』

 

「兄貴!向こうに誰か…」

 

「うん!行こう!」

 

襲い来る魔物たちを粗方対処し終えたその時、魔物のおたけびに交じって近くから少女の声が聞こえてきた。エイトたちは瞬時に声のした方向を向く。人がいる。襲われているなら助けねば。トロデの周りに魔物がいないことを確認するとすぐに走り出したエイトたちだったが、角を曲がった先で思わずその足を止めた。

 

「…ッ!こ、こりゃあ…」

 

「…このデカブツは…どっかで見たことがあるな。確か、アスカンタ王国だったか…?」

 

『皆様!落ち着いて行動してくださーい!我々は、この魔物は味方です!ゆっくりと、落ち着いて、この街から避難してください!まだ家の中におられる方は安全に気を遣いながら、だいじなものをまとめて表に出てきてください!繰り返します!現在、避難誘導を行っています!皆様、落ち着いて行動してくださーい!』

 

眼前に君臨するはいつかの日に見た「巨大なキラーパンサー」。未来国家アスカンタとの癒着が仄めかされている『U.S.A.』なる胡散臭い組織、その使者であるキラの使役する魔物である。無害をアピールするのが目的なのか、頭に大きなピンクのリボンをつけたキラーパンサーを中心に、おそらくこの街の住民たちだろう、何十人もの人間たちが寄り集まって震えていた。

 

「これは、どういう…」

 

「おい、お前たち。この街(リブルアーチ)の住人ではないな?何者だ?」

 

「ん?あ、ええと…」

 

呆気にとられるエイトたちに話しかけてきたのは一人の男。白い髪と白い髭が特徴的な老人である。気難しそうな老人を前にエイトたちがまごついていると、ガタンガタンと鳴る車輪の音と共にトロデが遅れてやってきた。

 

「エイトや、ワシらを置いていかんでくれ~…」

 

エイトたちの肩越しにトロデを視界に入れたその瞬間、エイトたちを訝しがっていた老人の目が大きく見開かれる。

 

「とっ…まさか、そこにいらっしゃるのはトロデーンの君主、トロデ王ではありませんか!?」

 

「おうおう、ワシこそがトロデ…って!?この姿をワシと見抜けるとはお主、何者じゃ…!?」

 

「おっさん、このじいさんと知り合いでがすか?」

 

「んん、むむ…?」

 

「…ハァ、私の方は二度お会いしたことがあるのですがね。」

 

「…!?!?いや、そんな、ま、まさか…」

 

トロデは老人をまじまじと見つめていたが、何かに思い当たったのか、びくりと肩を震わせた。

 

「王、やはり魔物の姿に…であればお前たちが『勇者』だな?良いところへ来た。よく聞け。この階段を上った先に大きな館がある。この町一番の富豪の家だ。そこに先刻お前たちの仲間の女が押し入った。今は我々のセキュリティサービスが迎撃しているが…それも風前の灯火、今に破られるだろう。我々は見ての通り避難誘導と魔物の撃退で手が離せん。街に発生した魔物たちはこちらに任せて、お前たちは可能な限り急いで元凶の女を止めてくれ」

 

「な…いや、待て待て、状況が…」

 

「そうでがすよ。アンタはなんでアッシらのことを?」

 

「本当に僕らの仲間が…ゼシカがそこにいるんですか?ここの魔物たちは一体どこから?」

 

「……二度は言わんぞ、さっさと行け!!!」

 

「…っ!」

 

老人の気迫に、エイトにククール、豪胆なヤンガスでさえも思わず口を噤んでしまう。

 

「や…ヤンガス、エイト、ククール。行くのじゃ。ワシも何が何やらじゃが…確かにワシはこの男を知っておる。信用して大丈夫じゃ。…この騒動の元凶がゼシカというのなら、その責任はワシらが負わねばならん。ワシはここで避難誘導に協力する。おぬしらはゼシカを追ってくれ!」

 

「おっさん…」

 

「…よし行こう二人とも!ゼシカを止めるんだ!」

 

「!…お前がそう言うなら、行くとするか」

 

「あ、兄貴~!置いていかないでくだせえ!」

 

まだ軽く混乱していながらも、今はかなり切迫した状況だということはエイトたちにもわかる。トロデがこの老人は信用に値すると断言した以上、自分たちがそれ以上その場にとどまり続けるのは不毛、かつ悪手。瞬時にそう判断したエイトはヤンガスとククールを連れて階段を駆け上がっていった。

 

「…。」

 

「…おぬしは死んだ、ドルマゲスに殺されたのではなかったのか…?『マスター・ライラス』よ」

 

「……。ではここにいる私はさしずめ肉を着た幽霊ということですかな?…はて、生身の人間と何が違うのやら。」

 

一度はトロデを見て驚愕を露わにした老人だが、今はもう元の憮然とした表情に戻っている。

 

「おぬしのことも気にかかるが、今はこっちじゃ!この街に何が起きておるのか!?誰がこんな恐ろしいことを…!」

 

老人は、慌てふためくトロデを見て、誰にも聞こえないほど小さな舌打ちをし、呟いた。

 

「『世間知らずの高枕』とは、昔の人間もよく言ったものだ。…元を辿れば誰のせいでこうなったのかも知らないで」

 

「…王よ、今は民間人の避難を優先すべきです。先ほどのお言葉、確かに聞かせていただきました。ご協力感謝いたします。」

 

「う、うむ。して、ワシは何をすればよいのか?」

 

「私と、あそこにいるキラが魔物から警護いたしますので、王は民間人たちを連れながら北上し、北口から街の外へと誘導してくだされ。黒い魔物は全て敵、それ以外の魔物は全て味方なのでお間違いなく…では」

 

それだけ言い残すと、老人は俊敏な動きでトロデの前から消えた。程なくして近くで轟音と共に橙の閃光が迸る。おそらくは『ギガデイン』、先ほどの老人が放ったものだろうか。

 

「ひっ!」

 

至近距離で響いた雷鳴に頭を抱えて蹲ったトロデだが、おそるおそる顔を上げると、その眼にはリブルアーチの住民たちの不安そうな顔が映った。泣く少女、子を抱きしめる親、困惑する青年、自棄を起こし叫ぶ女性、今にも殴り合いを始めそうな男たち…

 

「…!」

 

そう、トロデ含め皆が不安なのだ。巨大な魔物を乗りこなし、拡声器を使って住民を誘導しているあの少女だって不安を隠しきれてはいない。しかし彼女は不安を押し込め、なけなしの勇気を奮わせて動いている。

 

愛娘(ミーティア)よりも小さな少女が。

 

自分よりも勇気を持って動いている。

 

「(…魔物に怯えて蹲るのが一国の王の姿なのか?あんな小さな少女が皆を救わんと勇気を奮って叫んでいるのを、ただ黙って見守るのが君主の務めか?違うじゃろう)」

 

「…。」

 

そうは言っても下手な行動が命の危機に直結するこの状況、やはりトロデは尻込みしてしまい、ミーティアを思わず見やる。トロデの不安をきっと彼女は感じたのだろう。だが、それを知った上で彼女はゆっくりと、だがしっかりと頷いた。

 

『大丈夫』

 

ミーティアは馬、人語を話すことは(あた)わない…はずだが、トロデにはミーティアがそう言っているのがハッキリと聞き取れた。

 

「…みっ、ミーティア…!」

 

「…。」

 

「(…そうじゃ。民を導けずして何が『王』か。背中で示さずして何が『主』か。娘に誇れる姿を見せずして…何が『親』か!!!)」

 

トロデは馬車の幌によじ登ると大きく息を吸い、喉も枯れんばかりに精一杯叫んだ。

 

「皆の者!!ワシが安全な場所へ案内する!!一人も置いていかん!!不安な者は全員、ワシについて来い!!」

 

『!!!』

 

トロデの大声に、騒いでいた住民たちは一旦静まりかえるも、またぽつりぽつりと喋り始める。不安の輪が広がっていく。

 

「おい、誰だあれは?」

 

「顔色が悪いぞ」

 

「まさかあれも魔物じゃ!?」

 

「お、おい違う!待て!ワシは魔物などでは…」

 

「か、囲まれた!もう終わりだ!」

 

「うわあああああっ!!!」

 

トロデの声は住民たちには届かない。トロデは先ほどまでは確かにあった、自分の勇気の篝火がみるみる弱まっていくのを感じていた。

 

「(や、やはり今のこの姿のワシでは…ッ)」

 

────ッ!!

 

『!!!』

 

その時、大きな馬の嘶きが街に響き、騒めき始めていた住民たちをまたもや黙らせた。

 

「ミーティア…」

 

「な、なんだ?馬も魔物なのか!?」

 

「でも…なんだか気品ある鳴き声…心が落ち着くような…」

 

「あんなキレイなお馬さん、初めて見た!」

 

「しかしあの毛並み…只者ではあるまい」

 

「私の次の作品のモデルになってくれないかしら!」

 

父の思いを汲んだミーティアの心からの祈りは住民たちの心を溶かし、さらに…

 

『皆様!あちらにおられる緑の方は我々の味方です!あの方の指示に従ってください!!』

 

「…!」

 

トロデと目が合った金髪の少女もまた力強く頷いた。『貴方に任せます』と、トロデには彼女がそう言っているように見えた。

 

「み、皆の者こっちじゃ!!ここの道はまだ損傷も少なく魔物もいない!!列に並んでワシの馬車についてくるのじゃ!!」

 

「お、おいどうする…?」

 

「私は行くわ…!あの人に従ってウチの子が助かるなら…!」

 

「ボ、ボクも!!」

 

「(ワシは…トロデーンの王…たとえここが他国の領地であっても、救える民は救ってみせる!)」

 

一人、また一人とリブルアーチの住人たちは馬車の後ろに列を成し始める。トロデはそれを確認すると馬車に乗り込み、皆の足並みに合わせてゆっくりと進み始めた。未だこの街は黒い魔物たちが跳梁跋扈する伏魔殿、しかしトロデにはもう怯えてエイトたちに助けを求めるほどの余裕は残っていなかった。ただ、進む。王の、主の、親としての矜持を守るため。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・リブルアーチ全体が襲撃を受けている
原作ではハワード邸のみが狙われたが、ゼシカは第三者による妨害を懸念し町中に魔物を放っている。また、リブルアーチを占拠すれば、船では出入りすることのできない雪山地方にいる賢者の逃げ道を塞ぐことができるという狙いもある。なお、リブルアーチに放たれた魔物は「スライムダーク」「シャドー」「ブラックモス」「シャドウパンサー」など。知能が低く、戦闘力も高くはないが、数が多く攪乱に適している魔物が主である。

・謎の老人と少女
リブルアーチの南側で避難誘導をしていた少女と、民衆を狙う魔物を撃退していた老人。エイトたちは少女を朧気ながら覚えており、トロデは老人のことを見知っているようだ。

・黒い魔物と黒くない魔物
老人の言葉から察するに、黒い魔物が人間に対し敵対的、そうでない魔物はトラペッタやアスカンタにいたような人間に友好的な魔物のようだ。

レベル
変化なし



長くなったので分けました。次回は近日中に…。

ちなみにユリマは街の北側をぶんぶん飛び回って黒い魔物たちを塵殺しています。


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Chapter28 リブルアーチ地方 ③

わぁい感想500件!あかり感想大好き!








 

 

 

「はぁ…はぁ…見えてきたっ!あれがきっと…」

 

「ゼシカがあそこにいるのか!?」

 

「わからない!でも今は王様を信じるしか…」

 

「あ、兄貴!アレを!!」

 

「…ッ!!!」

 

町一番の富豪の家、ハワード邸へと続く階段を上り切ったエイトたち。そこで目にしたものは、轟音と共に倒れる大蜥蜴(オオトカゲ)と、数多の機械の残骸の中心に立つ一人の女。肌は不気味な青色に染まり、全身に悍ましい血管が浮き出ている、邪悪な笑みを浮かべている女はエイトたちの記憶の中の彼女とはまったく一致しない。しかしその姿が、持っている杖が、嫌でも彼女が自分たちの仲間『魔法使いゼシカ』であることを認識させられる。

 

「…うふふ。もう来たの?思ったよりも早かったわね。」

 

「ゼ、ゼシカ…」

 

「ゼシカ!こ、これは一体どういう了見でがすか!!」

 

「…待て、近づくなヤンガス!様子がおかしい!…何かに憑かれているのか…!?」

 

ゼシカの豹変ぶりに動揺し思わず駆け寄ろうとするヤンガスを、咄嗟にククールが制止する。「腐っても聖職者」を自称する彼はゼシカのような人間を何度か修道院で見たことがあった。「人が変わったように」と形容されるそれは…文字通り『人格が侵されている』ことを意味する。今のゼシカの様子は、精神汚染を受けている人間のそれと完全に同じだった。

 

「ククール!あれって…」

 

「…ああ、ゼシカは悪霊か何かに取り憑かれて操られている可能性が高い…!」

 

「うふふ。こんな玩具でも、一応の時間稼ぎにはなったってこと。……忌まわしいわ…!」

 

伏兵を警戒し、ゼシカに注意を割きながらも周りを観察していたヤンガスは、先ほど倒れた大蜥蜴に既視感を感じ、思わず二度見した。

 

「…?」

 

どこかで見たような。蜥蜴、とかげ、トカゲ、リザード…チャゴス?

 

「…!あ、兄貴!さっき倒れたあのトカゲ!アイツ、アッシらが『王家の山』で戦ったデカブツにそっくりでがす!」

 

「なんだって!?…いや、それも気になるけど、今はそれどころじゃないかも」

 

「……一つ言えるとすりゃ、あのゼシカはオレたちが四人がかりで倒したあのデカトカゲを一人でぶっ倒したってことか」

 

「あら。この蜥蜴以外にもたくさんいたわよ?全部塵芥になっちゃったけどね。くすくす…」

 

ゼシカはその端正な顔を醜い笑顔に歪め、杖で足元に散らばる残骸をつついた。がじゃり、がじゃり、と肉と鉄の混じった耳障りな音がする。

 

「あなたは…一体誰なんだ!何が目的でゼシカの肉体を…!」

 

「…悲しい、悲しいわ…。あなたたちは本当に何も知らないのね…うふふ…説明してあげたいのはやまやまだけど…今から死ぬあなたたちに何を言っても無駄かしら?」

 

「…!!!(ヤンガス、ククール)」

 

「(ああ、わかってる)」「(兄貴、伏兵は心配無さそうでがす)」

 

「本当なら今すぐ屋敷の中で震えている賢者を刺しに行きたいところだけど…一緒にドルマゲスを…あの哀れな道化を追って旅をしたよしみよ、先にあなたたちを死なせてあげる。…あなたたちの旅がこんな最期だなんて、悲しいわね…くすくす」

 

「…来るっ!!」

 

「あははははっ!」

 

「ぐっ…!」

 

ゼシカは低空飛行で瞬時に目の前まで移動し、いきなりエイトを杖で殴打した。すぐにエイトは「ちからの盾」で防御するも、確かなダメージが身体には残る。ゼシカは反撃で繰り出されたヤンガスの一撃をひらりと避けて距離を取ると、杖で空間を切り裂く。空間の切れ目からは、さきほどククールも相対していた「シャドー」がうようよと這い出てきた。

 

「…確か『イデア』だったかしら?…うふふ、なんともお粗末な名だわ」

 

「ちっ!増援か!」

 

「二人とも!相手をゼシカだと思って手加減したらダメだ!僕がさっき防御したあの一撃も、まともに食らったら危ない!」

 

「…レディ相手に本気にならなくちゃいけないとは、情けねえ話だぜっ!」

 

ククールは『スクルト』を、ヤンガスもオノを背負いなおし『スクルト』を唱える。硬質化していく肌の感触を感じてもなお、眼前に佇むゼシカの底知れない恐怖はまるで拭えない。しかし…

 

「はあああっ!!」

 

「ちっ!」

 

エイトのはやぶさの如き高速の二回攻撃がゼシカに命中し、一瞬たじろぐ。そうしてゼシカの意識がエイトに向いた瞬間を狙ってヤンガスがオノを振り抜き、(ひら)でゼシカの頭をぶん殴った。悪霊を追い出すにはまず頭を殴って意識を飛ばすべし、というのが僧侶ククールの教えである。

 

「痛いわね…かよわい女の子にそんな物騒な武器をぶつけるなんて…正気?」

 

「遠慮なんかしちゃあアッシらから狩られそうでがすからね。アンタの怒りはもっともでがすが、全部終わった後で甘んじて受け入れるでがすよ。」

 

「エイト!何か攻略の糸口は掴めそうか?」

 

「…攻撃は当たる。少なくとも『魔王』のような厄介さはなくて、シンプルな戦いになりそう…だけど増援とゼシカ生来の呪文の威力が厄介になるかも」

 

「りょーかい。なら雑兵どもはオレに任せろ!」

 

ククールは「しっぷうのレイピア」に「せいすい」を伝らせ、「シャドー」たちを一箇所に追い詰めてエイトたちから引き離した。無駄なことを、とゼシカはくつくつと嗤う。

 

「…随分と私を買い被ってくれているみたいね?私は魔法使いのタマゴよ?大したことはできないわ。例えばこんな…」

 

ゼシカが『マヒャド』の呪文を唱えると、エイトたちの頭上に大きな氷塊が現れ、そのまま重力に従って落下する。ヤンガスはオノで、エイトは盾で直撃を免れたが、氷塊は地面に衝突し、炸裂した氷片が二人の身体に次々と突き刺さる。

 

「うっ…!」「いてェなクソッ…!」

 

「氷を降らすことくらいしか…あら、寒そうね?可哀想に、私が温めてあげるわ。『ベギラゴン』」

 

「ぐあああっ!!」

 

「あっははは!悲しいわねぇ!」

 

「エイト!ヤンガス!待ってろ今…『ベホマラー』!」

 

灼熱の高等呪文をまともに受けた二人の損傷は激しく、ククールは完全回復の『ベホマ』と迷ったが、自分も少なからず傷を受けていることや『ベホマ』だと二人のうちどちらかが危険に曝されることを鑑みて全体回復を選んだ。

 

「…。どうせならウェルダンにしてあげようと思っていたのに…ニンゲンの丸焼きなんて向こうの世界でもなかなかお目に掛かれないのよ?…まあ単にニンゲンが不味くて食べ応えが無いだけだけど。くすくす…」

 

「『ライデイン』!」

 

「うふふ、マッサージかしら?もう少し強めの威力が私の好みね」

 

「でえりゃあっ!!」

 

「突進、大振り…ハァ、芸が無いわね」

 

エイトの呪文も、ヤンガスの攻撃もあまり有効打にはなってはいないものの、全くのノーダメージというわけでもない。戦闘は順調にも思えたが、ククールは先ほどの相手の発言が気になっていた。

 

「(『向こうの世界』だと…?霊界、いや神界…?ゼシカに憑いているのが悪霊じゃなく来訪神や産土神の類だとしたら……。状況は思ったよりもヤバいんじゃねえのか…?)」

 

ククールの信仰する神は一柱のみだが、異なる宗教にはまた別の神が存在し、何人もの神を信奉する宗教もある、ということくらいはククールも知識として知っている。現にあの『闇の遺跡』でも禍々しい異界の神が崇められていた様子が見られた。信仰によって通常ではあり得ないチカラを持つ神…来訪神(らいほうしん)産土神(うぶすながみ)などの神格実体を相手取っている場合、此方の戦力が不足していることは明白である。…しかしこちらから相手の本拠地に攻め込んでいった前回と違って、今回は防衛戦。形成が悪くなったところで退くことはできない。

 

「(ま、相手が誰であろうとやることは変わらないか。オレに出来るのはパーティーを全滅させないように後方で立ち回ること…)」

 

『バギマ』を唱えて「シャドー」たちを一掃し、レイピアから弓に持ち替えたククールは『ピオリム』を唱え、エイトとヤンガスの対処に追われ、自分から意識を逸らしているゼシカを狙い澄ます。

 

「そして、狙える時は…狙うっ!」

 

『ピオリム』により加速する脳の働きが極限の集中を促し、ククールの弓から放たれた矢は、確かな手応えと共にゼシカの肩に命中した。会心の一撃だ。

 

「くっ…!」

 

「手応えありだぜ!」

 

「……痛いし、醜いわね…弓箭とはもっと鮮やかなものでしょう?」

 

ゼシカは杖を地面に突きさすと、右手に『メラ』、左手に『ヒャド』を発生させ、掌を合わせてその二つを激突させた。…嫌な予感。それを見たエイトは今飛び込むのは危険と判断し、バックステップで距離を取る。

 

「『炎』と『氷』、相反する二つの魔力…これらをぶつけるとどうなるかご存じ?」

 

「…!」

 

「『水』になる?…うふふ、冗談」

 

「…兄貴…あれはヤバそうでがすよ…ッ!」

 

魔力をあまり持たないヤンガスでさえ、目の前で起こっているのが『異常な魔法』であることはわかった。

 

「『ただの魔力』になるの。炎でも氷でもない、ただ純然たる『力』の塊」

 

「(避け…ッいや、ここは受けて確実にダメージを減らすッ!)兄貴ッ!ククールッ!こっちでがす!」

 

白く眩い光を放つ魔力の塊を、ゼシカは弓矢の要領で引き絞る。愉しそうにこちらを見るゼシカの眼から明確な死の気配を感じたヤンガスは、エイトとククールを掴んでゼシカとの対角線上にオオトカゲが来るような位置を取り、防御の姿勢を取った。

 

「避けないで防御に専念…いい判断ね。ただ、これを受けて立っていられるかしら…?『メヒャド』」

 

「!!!」

 

ゼシカが手を離した瞬間、光速に迫る速度で魔力が炸裂し、炎とも氷ともつかない形容しがたい爆音と共に、ハワード邸の庭は大きく抉り取られた。

 

 

「う………」

 

「い、生きてるか…お前ら…」

 

「…アッシら、ここ最近で死にかけすぎじゃないでがすかね…」

 

「…あら。驚いた、本当に生きていたのね。さっきのは私もかなり全力だったんだけど…うふふ。次はどうかしら」

 

皮肉にもゼシカの言う通り回避ではなく防御に専念したのが功を奏し、強烈な魔力の一撃から三人共生存することができた。呪文に対し強力な耐性を持つオオトカゲ「メモリア」を肉壁としたのが大きな威力減衰となったのだが、そのメモリアも今の『メヒャド』で粉微塵となり、二度は防げそうにない。エイトたちが依然として劣勢であることに変わりはなかった。

 

「次はもう…耐えきるのは厳しい…!」

 

「どうするってんだ…」

 

「くそっ、万事休すか…っ!」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

少し、話は逸れるが……先ほどのククールの考察は当たっている。ゼシカに取り憑いているのは一介の悪霊程度の存在ではなく、闇の世界を統べる暗黒の神。産土信仰を受けた土着神よりもさらに高位の存在である。…だが同時に、暗黒の神は異界から来た存在、それすなわち来訪神と呼ばれる類の神である。

 

一般的な来訪神の特徴として、「グロテスクで美しい容貌をしている」「千年単位で現れる」などが挙げられるが…一番大きなものはやはり「大量の禍と、一つの希望を一緒に引き連れてやってくる」ことだろう。

 

 

 

大量の禍と──

 

 

 

「そこまでだ、止まれラプソーン!!!」

 

 

 

──一つの希望。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「…誰?そんな所に立って、死にたいのかしら?」

 

動けないエイトたちに止めを刺そうとするゼシカ。彼女の前に立ちはだかったのは見覚えのない…いや、どこかで見たことのある風貌の男性。

 

「…。」

 

訝しがるゼシカは相手の正体に思い当たると、苦虫を嚙み潰したような表情になった。

 

「…あなた…ッ!賢者の出涸らしッ!!」

 

「俺の…俺の妹の姿で言葉を発するな、ラプソーン!!!俺の名はサーベルト!ゼシカの兄だッ!!!」

 

怒りに燃える一つの希望(サーベルト)が、今終局を迎えようとしていた一つの戦いに新たな風を呼び込んだ。

 

 

「それ」は死者の名。ゼシカの兄は死んだと、ヤンガスとエイトは他ならぬゼシカ自身からそう聞いていた。だが目の前に立つ男は自身を「サーベルト」だと、「ゼシカの兄だ」と宣った。正体は分からない。目的も分からない。一体全体どういうことか分からない、まるで何も分かっちゃいないが…

 

「立てるか?」

 

「…はい、ありがとうございます」

 

彼は味方だと、エイトたちは何故か確信できた。

 

「これを飲むんだ。今は何も考えなくていい。全てはゼシカを救ってから」

 

サーベルトを名乗る男性が手渡してきたのは、服用すると完全に体力と魔力を回復できる薬「ふしぎなサプリ」。対象のあらゆる呪いを強制的に解呪する効果も持つ。

 

「…!」

 

何故貴方がこれを、という言葉をエイトたちは錠剤と共に飲み込む。今は戦闘中、彼の言う通り話を聞くのは全てが終わった後が吉だろう。

 

「戦えるか『勇者』たち!!」

 

「はいっ!!!」「問題ないでがす!」「ああ、行けるぜ!」

 

「行くぞッ!合わせろッ!」

 

全員の戦意を確認するや否や、サーベルトは残像を残すほどの瞬発力で飛び出し、目にも止まらぬ連撃「超はやぶさぎり」を繰り出した。「はやぶさの剣・改」の持つ元来の軽さをも利用した八条の剣戟がゼシカを切り刻む。そこに躊躇いなどはない。

 

「あぐっ…!」

 

続くヤンガスの「かぶとわり」は杖によって防がれるも、一度そちらへ意識を向けようものならすぐにサーベルトの追撃が飛んでくる。

 

「くっ!これなら…どう!この数は捌けないでしょう!」

 

ゼシカは再度空間を、今度は先ほどよりも倍近い大きさの裂け目を開き、何匹もの「シャドー」、さらに「あんこくちょう」や「クロコダイモス」など高位の魔物も裂け目から顔を出した。

 

「…!今だっ!『ライデイン』!!」

 

一度見た戦法、慎重なエイトがそれを見逃すはずがなく。既に三度に渡りテンションを溜めていたエイトは魔物たちが出揃ったタイミングで敵全体に雷撃をお見舞いした。白縹(しらはなだ)色のプラズマがシャドーを散らし、あんこくちょうの翼を打ち、クロコダイモスを地に堕とす。ゼシカにも一瞬足がよろけるほどのダメージが入った。

 

「っ!」

 

「お望み通り、強めの『ライデイン』だけど。お気に召したかな?」

 

「小癪な……!」

 

「コイツ等はオレたちが引き受けるぜ!」

 

なおもこちらを狙う黒い鷲と鰐。その眼球をククールが弓で狙い撃ち、敵愾心を煽って引き付けたところを背後からエイトが両断したことで二匹は消滅した。

 

「恩に着る!でやああっ!!」

 

「う…!あなたッ…さてはあの道化の差し金ねッッ!!!あなたたちは……あなたたちは何度わたしの邪魔をすれば気が済むと云うのッッッ!!!」

 

「お前の企みを止めるまでだ、ラプソーン!俺たちは絶対にお前を許さない…!」

 

「そのためなら妹の身体すらどうなろうと知ったことではないと?…うふふ、偽善…反吐が出るわね!その空虚な正義を抱えたまま、あなたの妹の魔法で消し飛ぶがいいわ!」

 

「…」

 

ゼシカは大きく飛び上がり、ハワード邸の噴水に飛び乗ると、再度『メラ』と『ヒャド』を構える。

 

「アレはマズい!!サーベルト?…の(あん)ちゃん!何かに隠れるでがすよ!」

 

融合呪文の恐ろしさを先ほど身に染みて体感したヤンガスはサーベルトに防御を促す。しかし、サーベルトは大丈夫だ、とヤンガスを手で制した。

 

「あなたはここで跡形もなく消し飛ばしてあげるわ!そして賢者を殺した後は……あの道化を探し出して血祭りにあげてやる…!」

 

「…」

 

「あなたにも教えてあげましょうか?『炎』と『氷』が合わさるとどうなるか!」

 

「…知ってるさ。『ただの魔力』になるんだろう?お前は知らないだろうが、ドリィは既にそんなステージは超えているんだ。お前は見たことがあるか?緑あふれる平原に降る『雪』(ジングル・ベル)を」

 

「分からないことを…」

 

ゼシカはギリギリと魔力の弓を引き絞る。先ほどよりも強く、速く。照準をサーベルトだけに絞る代わりに貫通力を底上げした攻撃。一度放てばどんなものも貫くだろうその攻撃の照準は、まっすぐサーベルトの頭蓋を狙っていた。

 

「俺は相手がゼシカの肉体だろうと、躊躇はしないさ。ゼシカは絶対に助ける、そうドリィは約束してくれたからな。だから俺は全力を持ってお前を切り伏せることができるのさ」

 

「…もういいわ。今すぐにその口を永遠に閉ざしてあげる。…『メヒャド』」

 

「忘れているんじゃないか?何故今までお前がドリィの下で大人しくしていたのか…はッ!」

 

キィンッ!

 

「なっ!?うあっ!!」

 

サーベルトは放たれた『メヒャド』を完全に見切り、手に握った棒で打ち返した。『メヒャド』は勢いそのままに進行方向だけが反転し、真っ直ぐゼシカの腕を穿つ。

 

「…ドリィ曰く、『ミラーシールド』を『マホカンタ』で精錬した箱…を加工した棒、だそうだ。魔法を確実に反射する箱、少し前までお前の入れられていた箱だろう?」

 

「くっ、貴様…!」

 

「そろそろ妹の身体を返してもらおうか!」

 

「減らず口を!!!」

 

「(…す、凄い…僕たちでは手も足も出なかった相手を…!)」

 

「なんて人でがすか…」

 

決してエイトたちが弱いわけではない。彼らもまごうことなき超人である。…だがサーベルトとではまるで練度が違う。剣運び一つにおいても、エイトやヤンガスのような無骨なものではなくもっと美しい、まるで舞のような…

 

「……?」

 

「…お、踊りながら攻撃して…!」

 

「止まらねえ…アイツの動き、攻撃が終わらない…!」

 

サーベルトの終わらない連撃はいつしか炎を纏い、舞のように戦場を焔で彩りながらゼシカを追い詰めていく。それはまるで神楽舞。母なる太陽へ捧げる炎の神楽が、暗黒の神を圧倒する。

 

「うぅ…!がはっ!ど、どうして…さっきから身体が上手く…!」

 

「どうだっ!」

 

「…!ハァ…ハァ…!有り得ない…有り得ないわ…なぜ私がこんな…」

 

「……。ゼシカ、そろそろ起きろ。寝坊は良くないぞ?」

 

「!!!」

 

 

 

……エイトたちにとって、サーベルトは「突然助太刀に入ってくれた謎の男性」程度の認識しかない。

 

だが、彼女にとっては違う。

 

 

 

「!か、身体…が…」

 

「ゼシカの動きが止まった…?」

 

「もしかして…ゼシカの奴、内側から抗ってるのか…?」

 

 

 

彼女にとってのサーベルトは……

 

彼女にとってのサーベルトは「人生」だった。同年代の友達が村にいなかった彼女の生活の中心には、いつも憧れの、尊敬の象徴として兄の存在があった。共に目覚め、共に食し、共に学び、共に遊ぶ。朝から晩まで、年中無休で。もはや半身とも呼べるそんな兄からの呼びかけが、ゼシカの心の奥底を大きく揺るがす。次第に肌は元の明るみを取り戻し、浮き出た血管は収まっていった。

 

「…まさか、そんな…私が…私じゃ───」

 

 

 

 

「…にいさん」

 

「ゼシカ」

 

「良かった…生きてた…生きててくれた…」

 

「ああ。俺がお前や母さんを置いて逝くわけがないだろう?」

 

「ドルマゲスが…ううん、ドルマゲスさんが兄さんを殺したんじゃなかったのね…」

 

「もちろん。ドリィは俺のヒーロー、そして…お前のヒーローさ。今も昔もな。」

 

「うん…うんっ…!」

 

「さあゼシカ、あともうひと踏ん張りだ。頑張ろう。」

 

「うんっ。兄さん、またね!」

 

 

 

 

「……ハァ…ハァ…なんて、こと…どうしてこの私が、肉体の制御権をこうも奪われるの…?…道化にも、くすんだ髪の女にも、この女にも…いくら賢者の血が二人分しか集まっていないとはいえ、こんなことが…」

 

ゼシカの肌は再び青く染まり、血管が浮き出た恐ろしい姿に戻る。だが、そこに先ほどまでの余裕は感じられなかった。表情は苦悶に歪み、力なく杖に寄り掛かる。

 

「…許さ…ない、絶対に許さないわ…見せてあげ…る……闇の世界を統べる神の本当の実力をッ!!!」

 

ゼシカは宙に浮きあがると、杖を天に掲げた。『神鳥の杖』から溢れ出る厖大な魔力が一点に集中し、極大の火球を作り上げる。あんなものが放たれれば、エイトたちはおろか、この街も消えてなくなってしまうだろう。

 

「…さ、サーベルトさん…!」

 

「……大丈夫だ、『勇者』エイト。俺たちは十分やった。後は任せようじゃないか」

 

サーベルトは腕を組んでただゼシカを見つめる。焦りなどは見られず、逆にその顔からは妙な自信さえ感じられた。

 

「任せる…っていったい誰に?オレにはあのバカでかい火球を受け切れそうな知り合いはいないぜ?」

 

「俺にもいないさ。だが、こんな時にきっとなんとかしてくれる親友はいる」

 

「親友…?」

 

「ああ、君たちも心配なら、俺の親友に懸けるんだな」

 

「…他に出来そうなことも見つからねえ、お言葉に甘えてそうさせてもらうか。」

 

ククールはおどけてみせたが、実際エイトたちにはもう打つ手が無い。エイトもヤンガスもククールも、サーベルトという乱入者の言葉を信じて祈ることしかできないのだ。

 

「…燃え尽きるといいわ……この街と共に、貴様らの命もッ!!!」

 

「…そこまでじゃ!わしの庭で好き勝手に暴れる杖使い女め!」

 

現れたるはサーベルトに続く二人目の乱入者。…いや、ここは彼の邸宅なのだからむしろ被乱入者と言えようか?奇抜な彩色の服に身を包んだ男、ハワードは自信に満ちた表情で立ちはだかった。

 

「ぶわっはっはっはぁ!!どうやら間一髪だったようじゃな!ようやく完成したわい、三つの魔石の力を注いだ結界が!」

 

「…?」

 

「わしの住むこの美しい街をめちゃくちゃにし、わしの命までも狙わんとする不届き者めが!この超強力な退魔の結界を食らえいっ!どりゃあっ!!!」

 

ハワードは気合の入った雄たけびと共に結界を展開した。加速しながら広がっていく光の領域がゼシカを飲み込む。

 

「なっ!?ぐ、ぐわあああああああああっ!!!!!」

 

魑魅魍魎だけを除外する退魔の結界。その光がゼシカから暗黒神を引き剥がし、分離する。身の毛もよだつような断末魔を上げ、ゼシカから完全に邪気が消えた。

 

「……ぁ…」

 

「ゼシカ!!!」

 

浮遊状態を維持できなくなり落下していくゼシカをサーベルトがふんわりと受け止めた。

 

「…兄さん…ありがと……」

 

「ああ。よく頑張ったな、ゼシカ。俺はお前を誇りに思うぞ」

 

「…えへへ──」

 

ゼシカはエイトたちにも見せなかったような「妹」としての笑みを浮かべると、心労からか、そのまま気を失ってしまった。

 

「終わった…!すごかったです、サーベルトさん」

 

「そんなことないさ。君たちが予めゼシカの体力を削ってくれたから、さっきだって君たちとの連携が無かったなら、俺はきっとゼシカには勝てていない」

 

「く~っ!アッシはサーベルトの(あん)ちゃんの強さに感服しやした!兄貴…は兄貴だけのものでがすから、サーベルト『(にい)ちゃん』って呼んでもいいでがすかい!?」

 

「ははは、悪いな。俺のきょうだいはゼシカだけだ。ポルクとマルクは別だが」

 

「で、サーベルトさんよ…アンタの親友ってのはあそこで高笑いしてるおっさんのことかい?」

 

ククールが指さす先には勝ち誇った笑い声をあげているハワードがいた。ククールにそう指摘されたサーベルトは非常に不本意そうに口を尖らせた。

 

「いや、あの人じゃない。…ドリィの奴め、あくまで正体を隠し通すつもりか?俺の親友は暗躍するのが好きみたいでな、此度の結界だって完成にこぎつけられたのは彼のおかげさ」

 

「ふぅん、オレたちの恩人ってわけね。ぜひとも会ってみたいもんだ」

 

もう良く知っているだろう?と言い、サーベルトはゼシカを抱えたままハワードへ事情を説明しに行った。ハワードからすれば杖使い女のゼシカは街の侵略者であり、自らの命を狙った暗殺者である。そのままでは止めを刺されてしまいかねず、そんなことになったら元も子もない。

 

「…ゼシカは大丈夫そうだね。よかった…」

 

「兄貴、これからどうします?(あん)ちゃんに事情を訊こうにも、今は忙しそうでがすよ。」

 

「…まだ街は魔物の危険に曝されてる。王様と合流して僕らも避難誘導を手伝おう!」

 

「がってん、了解でがす!」

 

「…へっ、何だか今の方が修道院にいた頃より人助けしてる気がするぜ」

 

トロデと合流すべく駆けだすエイトたち。庭には投げ出された『神鳥の杖』。サーベルトはもちろん杖の所在を気にかけているが、拾得するだけで強力な精神汚染を受ける杖を迂闊に触ることはできない。安全に拾うことができる者がいるとすれば、それは強靭な精神と自我を持つ者か、それとも────

 

「…苦節数か月、やっと取り戻しましたよ…!『神鳥の杖』!!!」

 

「ほ…予め庭で姿を消して待機していたのか。ドリィめ、ヒヤヒヤさせてくれるな」

 

魔力制御に長け、精神汚染を跳ねのけることができる者か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それとも────。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・呪われしゼシカが強くなっている。
エイトたちが『王家の山』で苦戦を強いられた試作自律戦闘人形四号機『書記(メモリア)』を易々と打ち破る魔法出力を持っており、原作には登場しない融合呪文を使う、空間の裂け目から「シャドー」以外にも闇の世界の高等モンスターを呼び出すなど、戦術にも変化が生じている。

・戦闘中にサーベルトが助太刀に入ってくる。
ゼシカ曰く彼はドルマゲスに殺され、葬式まで執り行われたはずなのだが、突如エイトたちの目の前に現れて共闘し、見事強化された呪われしゼシカに勝利した。サーベルトと対峙したことでゼシカの心の闇が取り払われて呪われしゼシカの能力が大幅に下がったこともあるが、単純にサーベルト自体もめちゃくちゃ強かった。

・退魔の結界も強化された。
「アルゴンハート」「ビーナスの涙」のチカラをもつぎ込んだ最強の結界だが、サーベルトのおかげでゼシカの心の闇はほとんどなくなっていたので、正直「クラン・スピネル」だけでもよかった。

・ゼシカをサーベルトが受け止めた(どうでもいい)
原作ではゼシカはまあまあ高いところから落ちた(あの落ち方だと膝の皿が割れててもおかしくない)のに、エイトたちは全員棒立ちで誰も助けに行かないという虐めみたいなことになっていたので、本作ではサーベルトが受け止めに行きました。イケメンですね。



エイト
レベル:30→31

ヤンガス
レベル:30→31

ゼシカ(復帰)
レベル:30→34(単騎でメモリア始めとする兵器群を完全に破壊した)

ククール
レベル:30→32



サーベルト無双回です。エイトたちとはレベルが倍近くあるので妥当ですかね。サーベルトが『メヒャド』を打ち返した棒は、第二十一章でユリマちゃんに盗まれるまで杖が入っていた箱を、ドルマゲスがバットに改造したものです。呪文をほぼ確定で跳ね返す特級呪具ですね。一方打ち返された『メヒャド』ですが、本作では『メドローア』の下位呪文として位置付けています。モンバトシリーズでは普通に『イオナズン』とかよりも威力あるのでここら辺がいい塩梅ではないでしょうか。

サーベルトのドルマゲスに対する矢印、デカすぎ…?「こいつドルマゲスのこと信頼しすぎだろ…」って書きながら自分で慄いてました。


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新・第五章 きーぷ・あ・しーくれっと

大は小を兼ねる。だが、過ぎたるは猶及ばざるが如し。








しくじった…っ!

 

リーザス様との面会を終えた俺とサーベルトは、キラちゃんからの緊急連絡を受け最速でリブルアーチに帰還した。そこで見たものは既に半壊した街道、邸宅、住宅街。俺はまだ時間はあると高を括っていた昨日の自分を殴りたくなった。

 

「な…んてことだ…美しかった街並みが…!」

 

「…サーベルト、よく聞いてください。この騒動はおそらくゼシカさん…ラプソーンが引き起こした事態です。であれば目的は賢者の血であり、ヤツはまず間違いなくハワード邸へ向かうことでしょう。私はハワード氏にこの『クラン・スピネル』を届けてきます。サーベルトはその間できるだけラプソーンを足止めしておいてください」

 

「し、しかし…街はどうする?…俺は…俺がこの街の住人を見捨ててゼシカを助けても、きっとあいつは笑わない…」

 

俺は分身──ライドンの塔へ向かった個体──のフィードバックを受けて漲ってくる力を感じつつ、サーベルトの肩に手を置いた。

 

「大丈夫、この街の人は私たちが全員助け出します。サーベルト。今だけは懸念を全て私たちに預けて、ゼシカさんを助けに行ってあげてください。」

 

「ドリィ…」

 

「さあ!」

 

「…わかった。ありがとう」

 

「さて…」

 

そういうや否やサーベルトは風と消え、後にはひびが入るほど強い踏み込みを受けた石畳だけが残った。一人になった俺は崩落した家から出られなくなっている住民を助け出しながら冷静に…できるだけ冷静に現状を分析する。

 

「…」

 

「たっ助かりました!ありがとうございます!」

 

「いいえ。お怪我はありませんか?」

 

「はいっ、おかげさまで…」

 

「…。よいしょっと。…この建物の中にこの周辺の人々を連れて隠れていてください。ちょっとやそっとの衝撃じゃ崩れやしません」

 

「どうやってこんな建物を一瞬で…いや、わ、わかりました。しかし魔物が…」

 

「大丈夫、魔物は────」

 

「ドルマゲスさーーん!!!」

 

「…ヴッ!」

 

俺が言い終わらないうちに向こうから来てくれた。凄い速度で。俺はツバメのようにまっすぐ飛び込んできたユリマを抱き止め、うまく着地させた…が、今のでアバラにダメージが…。ほぼほぼ突撃(ドラゴンソウル)だし、普通に危ないからやめてね。

 

愛情表現(あいじょーひょーげん)です!」

 

犬か!せめて最低限の人間らしさ(コミュ力)を身に付けてから愛を表現して頂戴。

 

「…ゲホッ、失礼。…魔物は彼女が全て撃退してくれます。できますよね?」

 

「任せてください!黒い魔物も黒くない魔物も、みんなまとめて塵殺です!」

 

物騒だなぁ。あと黒くないのは多分セキュリティサービスだから壊さないでね。…ともかく、俺は瓦礫から助けた男性に周辺…つまりリブルアーチ北部にいる人間を、先ほど作り出した鋼鉄製の小屋へ誘導するように頼んでその場を後にした。

 

空気を足場にして空を歩いているだけの俺と違って、ユリマは重力魔法で自分を「進行方向へ引き寄せる」ことで飛んでいるため、精密かつ速度の出せる飛行が可能だ。高速飛行は偵察にも有効であり、こと防衛に関して彼女の右に出られる存在を俺は知らない。

 

「ドルマゲスさん…えと…」

 

「はいはい。……。では任せましたよ、ユリマ!」

 

「…♪はい、頑張ります!!!」

 

ユリマは基本的に身内以外の他人に対して一切の興味を持たないのだが、今回は街一つの危機ということもあり先んじて街を守ってくれていたようだ。頭を撫でるよう俺にねだってくる(本人曰く『最も効率的に行動するための充電』らしい)のも人命救助の対価としては安すぎる。俺はユリマの頭をぽんぽんと撫でて送り出すと、ハワード邸へ向かう足を速めた。

 

 

俺が先刻リーザス像の塔に於いて、キラちゃんから受けた連絡事項は簡潔に述べると3つある。一つ目は「リブルアーチが襲撃を受けた」こと。キラちゃん、ユリマ、師匠がリブルアーチに帰還したのとほぼ同時に襲撃は始まったらしい。そして二つ目は「既にリブルアーチ南部から救助・避難誘導を開始している」こと。少し前に彼女にはアジトが襲撃を受けた際の対応マニュアルを渡していたのだが、それをリブルアーチの構造や立地に合わせて即興でアレンジしたらしい。殲滅力に優れたユリマを街北部の魔物掃討に向かわせたのも彼女の指示であり、そんなキラちゃんのあまりの手際の良さに俺は報告を受けながら思わず感心してしまった。…そして三つ目は「襲撃者は全身が黒い未知の魔物」であること。俺が一番気がかりなのはこれである。

 

「かぶとこぞう」など黒を基調とした魔物は多くいるが、本当の意味で「黒い」魔物というのはこの世界には存在しない。しかしキラちゃんは「全身が黒い」と表現したためまさかとは思ったが、俺の嫌な予感は的中していた。リブルアーチの街を破壊せんと蠢く魔物たちは「スライムダーク」「ブラックモス」「シャドウパンサー」など。『闇の世界』…つまりこことは違う異世界に存在する魔物たちだ。原作でコイツ等が登場するのはもっと後のため、イレギュラーが発生していることは自明である。「剣士像の洞窟」へ向かっていた俺も、分身とはいえ俺…リブルアーチ地方の魔物には集団で囲まれない限りは簡単には負けやしない。それが敗北したということは、やはりこの街に跋扈する魔物が生半可な強さをしていないということだろう。ラプソーンが魔物を街に放ったのは俺たち人間が同族を助けずにはいられないことを知ってか知らずか。

 

「まったく、要らん知恵をつけてくれやがって」

 

俺は「光明斬り」で黒い魔物たちを一匹ずつ確実に仕留めつつ、ハワード邸の近くまで来たところで『蝶々の見る夢(ラグランジュ)』を使って姿を消し、ハワード邸へ侵入した。

 

 

「(…はあ、『書記(メモリア)』もああなったらもはや修理はできないな…作り直しか)」

 

ラプソーンのヤツも随分派手に俺の兵器群(こどもたち)をぶっ壊してくれたものだ。昨日のうちにハワードはじめリブルアーチの住民たちに了解を得、俺は街のそこかしこにセキュリティサービスを配置していたのだが、あそこまで粉微塵にされては直せるものも直せない。しかしセキュサとメモリアが居なければリブルアーチは壊滅し、チェルスも死んでいただろうことを考えると、必要な犠牲だったのだろうか?……とりあえず今は呪われしゼシカを相手に激戦を繰り広げている勇者たちとサーベルトに託す他ない。

 

「ど、ドルマゲス様でございますか?私です、使用人のチェルスです。この騒ぎは一体…?」

 

「ああ、チェルスさん。これがハワードさんの言っていた『杖使い女の襲撃』です。しかしハワードさんの予言よりも早く発生してしまっていたようですね。今この街に安全な場所というものはありません。絶対に屋敷からは出ず、他の使用人と共に奥の部屋へ隠れていてください」

 

チェルスはまだ屋敷にいた。初代ハワードのかけた『因縁の呪術』は既に解けたはずだが、結局ここに残ることを選んだんだな。しかし不幸中の幸い、今だけは賢者の所在が掴めるのがありがたい。

 

「このような状況の中、ドルマゲス様はどういったご用件で……?」

 

「私はこの騒動を収めるため、ハワードさんに頼まれた品を持ってきたのです。彼は今自室に?」

 

「は、はい。ハワード様は既に結界の作成に取り掛かっているようです。」

 

「そうなんですね、ありがとうございます。…あっと、ところでレオパルド…ほら、ハワードさんのペットの…はどこにいるか分かります?」

 

「レオパルド様なら……ああ、ほらあそこに。外にはドルマゲス様がお置きになった魔物がいらっしゃいましたので、私が今朝屋敷の中にお連れしたのです。…おかげで腕を噛まれてしまいましたが…はは…」

 

そう言ってチェルスが腕を捲ると、左腕に痛々しい咬跡があった。チェルスはハワードの愛犬であるレオパルドにも嘗められている。そもそも飼い主であるハワードがチェルスをぞんざいに扱っているので仕方ない事であるが、賢者を守るべきハワード家の使命を考えると何ともやるせない。俺は暢気に寝転んでいる黒犬レオパルドを視界に収めつつ、チェルスの傷を癒す。

 

「ああ……包帯くらい巻けばよいものを…『ベホイミ』」

 

「あ、いや、そんなつもりじゃ!…あ、ありがとうございます!」

 

「お気になさらず。」

 

俺は再度チェルスに絶対屋敷から出ないように伝えるとハワードの部屋へ続く階段を上った。外からは度々轟音が響き、その度に屋敷は小刻みに揺れる。エイト、ヤンガス、ククール、それとサーベルトがゼシカと戦う余波が屋敷の内部まで響いているのだ。戦いの規模を考えると正直こんな屋敷などいつ消し飛んでもおかしくないのだが、賢者が跡形も残らないとラプソーンも困るのだろうか、こちらには攻撃が飛んでこないような立ち回りをしているようである。…と、そんなことを考える暇はない。俺はノックも適当にハワードの部屋へ押し入った。

 

「ハワードさん!持ってきました!」

 

「!!!なんだ、お前さんか…驚かせるでない。わしはもうてっきり杖使い女が来たのかと…」

 

「へいへい、私です。そして…はい、こちらが『クラン・スピネル』です。」

 

「おおっ、手に持っただけで感じるこの魔力の波動は間違いない!これぞクラン・スピネルじゃ!」

 

「『ビーナスの涙』はもうお持ちですか?」

 

「何を寝ぼけとるんじゃ。『ビーナスの涙』もさっきお前さんが持ってきたじゃろうが」

 

「(よし、よくやった分身の俺!)…。そうでしたよね。ではハワードさんはそれを使ってちゃっちゃと結界を完成させてください」

 

「ドルマゲス貴様、言葉を慎め!先ほどからわしに対する敬意がまるで感じられんぞ!」

 

「自身の占星術を過信して後れを取った貴方に『敬意』、ですか?」

 

「う…。」

 

「すみません、棘のある言い方をしてしまって…私も貴方の言葉を信じ切ってしまったことは反省しています。お互いこれから挽回していこうじゃありませんか」

 

「…わしはこれより結界作成の最終段階に入る。お前さんは外にいるバケモノ女を少しでも足止めするのじゃ。」

 

「わかりました。」

 

俺はいそいそと大鍋に向かうハワードを横目に部屋を後にした。ちょっぴり強めにお尻も叩いたことだし、この様子なら数分後には結界は完成しているだろう。

 

 

正直、ハワードだけを責めるのがお門違いだということは分かっている。念のためを考えて「メモリア」とセキュサ共を屋敷の庭に配置したのだって、ただの保険のつもりでしかなかった。最初から屋敷に陣取ってラプソーンを迎え撃つべきだったのだ。…俺の判断ミスでリブルアーチへ魔物の侵入を許してしまったという事実は否めない。だからこそ俺はこれ以上状況が悪化するのを防がねばならないのだ。まあハワードに対しては多少私情も入っているが。

 

「バウワウッ!!!」

 

「待て!レオパルド!『待て』!!」

 

俺はハワードや使用人が部屋に籠っている隙を突いてレオパルドを追い掛け回していた。流石に腕を噛まれたチェルスに頼むのは気が引けるし、飼い主のハワードに見られたら何を言われるか分からない。

 

サーベルトがいる限り、まず呪われしゼシカに勝ちの目はないだろう。そこのところ、俺はサーベルトを全面的に信頼している。しかしそうなると敗北したラプソーンは次の端末を探す必要に駆られる。…そして原作での次のラプソーンの端末こそがこの黒犬レオパルドなのだ。そこに至る背景には勇者たちが庭に落ちた『神鳥の杖』を放置していたことや、ハワードがレオパルドを甘やかし続けていたことなど、双方の杜撰な…本当に杜撰な管理が原因として在るが…なんにせよ、ここで俺がレオパルドをひっ捕まえて監禁していれば、彼…彼女?がラプソーンに操られる心配はなくなり、結果としてラプソーンを孤立させることができる。

 

「バウッ!!ガルルル…!」

 

「痛ッ!ホントに躾がなってないな…仕方ない」

 

……のだが。この犬、動きは速いわ近づくと迷いなく噛みついて来るわで中々捕まらない!…屋敷の使用人たちがレオパルドを恐れているのも何となくわかるな。これではペットどころかもはや猛獣…まさに獰猛な肉食獣(レオパルド)。しかし、俺もワンちゃんとの追いかけっこに興じているほど暇ではない。うちにはただでさえユリマという大きなワンコ(犬系少女)がいるのに、これ以上はご勘弁願いたく。

 

「ワウッ!ワウワウッ!」

 

「────ッッ!!!!」

 

「キャンッ!?」

 

俺は『おたけび』でレオパルドを竦ませ、すぐさま手製の檻にレオパルドを収容する。これで分かったかワン公!俺が上位者だ!!!美味しい肉あげるから大人しくしてなよ!!

 

檻に捕らえられたにも関わらず能天気に「しもふりにく」に食らいつくレオパルドを見ながら、俺は檻を屋敷の奥へ運びこんだ。

 

「…。」

 

この犬もある意味では被害者と言えよう。原作でレオパルドは散々ラプソーンに使い潰された挙句、最期は勇者たちの手によって絶命してしまう。ラプソーンに操られた経緯だって、庭に落ちた杖に興味を示して咥えてみただけなのだ。甘やかされて育った犬が庭に落ちた棒きれに興味を示したとして、それを一体誰が咎められようか?レオパルド自身に悪気は一寸たりともなく、言わば人間の怠慢と暗黒神の悪意によってその一生を終えてしまうのだ。こんなに虚しいことはない。

 

「さて、行きますか」

 

そんなレオパルドの為にも、チェルスの為にも、まだ見ぬ賢者の為にも……俺はここで確実に『神鳥の杖』を取り戻さなければならないのだ。

 

 

俺が再度姿を消して屋敷の庭に身を潜めた時には、既に勇者たちとゼシカの戦いは佳境を迎えていた。サーベルトの『天照神楽(ヒノカミカグラ)』が炸裂して大ダメージを与え、さらにゼシカの自我が呼び起こされたことでラプソーンは大きく出力をダウンさせられており、もはやこちらの勝利は揺るがない。戦いの主導権を握っているのは俺の予想通りサーベルトだが、なかなかどうして勇者たちにも光るものがある。戦況を見極めてサポートに徹するエイト、戦況を見極めて相手が一番来てほしくないタイミングで攻撃を加えるヤンガス、戦況を見極めて回復しながら攻撃のチャンスは常に窺っているククール…戦況を見極めてる奴ばっか。戦闘熟練度こそまるで及ばないが、こと戦闘センスだけに絞ればサーベルトに勝るとも劣らないだろう。

 

「……ハァ…ハァ…なんて、こと…どうしてこの私が、肉体の制御権をこうも奪われるの…?…道化にも、くすんだ髪の女にも、この女にも…いくら賢者の血が二人分しか集まっていないとはいえ、こんなことが…」

 

まあ…それは相手が悪いというかなんというか…。俺は相手の魔力を外付けの魔力で押し流しただけだし、ゼシカには精神支配を凌駕するほどのショックを与えられたから…。ユリマ?…ええと、知らん。

 

「…許さ…ない、絶対に許さないわ…見せてあげ…る……闇の世界を統べる神の本当の実力をッ!!!」

 

ついにやけくそになったラプソーンは魔力を頭上にかき集めて巨大なエネルギー体を作り出した。なるほど、式を組み込んだ『魔法』だとサーベルトに反射されるから、ただのエネルギー体に変換したわけだ。半ば理性を失いながらもこういうところで抜かりないのがラプソーンの厄介さである。…ところでそんなもんぶっ放したら賢者ごと消えそうだけどそれは大丈夫なのだろうか?

 

俺がそんなことを考えているうちにタイミングよくハワードが現れた。…うん、大体想定通りだ。もしクラン・スピネルを俺が持って行った段階でまだ結界の作成に取り掛かっていなければ間に合っていなかっただろう。事前に世界結界大全(レシピ)を探しておくように言っていたことが功を奏したかな。

 

サーベルトは俺が助けに来てくれることを期待していたようだったが…俺をそんなスーパーヒーローか何かだと思わないで欲しい。無理なものは無理!……今だって割と余裕があるように振舞っているが、それは焦っても特に事態は好転しないということが経験上分かっているからそう心がけているだけで、現在(いま)この瞬間も十二分に崖っぷちと言えば崖っぷちである。

 

「わしの住むこの美しい街をめちゃくちゃにし、わしの命までも狙わんとする不届き者めが!この超強力な退魔の結界を食らえいっ!どりゃあっ!!!」

 

「なっ!?ぐ、ぐわあああああああああっ!!!!!」

 

だが、安全地帯が確実に存在するからこその「崖」なのだ。別にヒーローは俺じゃなくてもいい。悍ましい断末魔と共にラプソーンの魔力は杖へと引き戻され、落下するゼシカはサーベルトが無事に受け止めた。戦いは無事に終了したが、俺の仕事はむしろここからだ。

 

「…。」

 

杖はカランカランと軽い音を立てて庭へ落ちた。俺は周りに一般人やレオパルドがいないことを確認すると、左腕に魔力を集中させる。常に聖の魔力を廻し続けるあの感覚を何度もシミュレーションしながら、俺は恐る恐る杖を手に取った。

 

「…(なんとも…ない、大丈夫)」

 

杖を握った時に悪しき魔力に触れられる不快感はあったものの、持って歩く分には問題なさそうだ。でも持ったままだとまた前のように眠れなくなるから、早く次の「箱」を作らないと。…まあ、とりあえず……

 

「…苦節数か月、やっと取り戻しましたよ…!『神鳥の杖』!!!」

 

俺は『ラグランジュ』を解いてサーベルトに作戦成功の意を伝えた。

 

 

 

 

 

…と同時に脳に響く声。

 

『…なんだ、草葉の陰に隠れて震えていたわけか。…ククク、なんとも哀れで滑稽な』

 

「(ラプソーン…もう貴様の出る幕はない。この街の魔物を掃討したら、お前をまた『箱』に入れる。今度はもう逃がさない)」

 

『……クク…悲しいな。嗚呼、実に悲しい。貴様…よもや()()()()()()()()()とでも考えているのではあるまいな?』

 

「…!!!」

 

俺はその瞬間耐え難い焦燥に駆られた。この言葉は負け惜しみ?こちらを混乱させるためのブラフ?それとも否?とにかく『ヤバい』。俺の脳は全力で警鐘を鳴らした。

 

「サーベルトッッ!!まだ終わってないッッ!!!」

 

俺のただならぬ叫びが届き、サーベルトは一瞬で警戒態勢に入る。ゼシカは既に屋敷の中に横たえてきたようだ。

 

『相も変わらず、反応の速さだけは悪くない…だが、貴様がやってきた小手先の準備と…我の"準備"とではまるで格が違う。貴様の準備など、所詮童の飯事(ままごと)よ』

 

何をしてくる?いや、この状態のラプソーンに何ができる?やはり負け惜しみ?…いや、コイツはそんな無駄な足掻きはしない。俺の頭はかつてないほど回転し、過去の記憶や原作知識を引っ張り出して考えられるパターンをいくつも導いていた。

 

「ドリィ!後ろだ!!!」

 

「えっ────」

 

しかし悲しいかな、原作知識はイレギュラーにめっぽう弱い。俺が振り向いた時には既に眼前に迫っていた「黒い爪」。当然避けきれずに俺は吹き飛ばされ、向かいの家の壁に激突する。

 

「があぁっ!!」

 

頭が痛い。血が出ている。失明…はしていない、大丈夫。耳も聞こえる。血の味、舌が切れた?…でも意識はある。ラプソーンは絶対に抑え込む!!!

 

『今の一撃で気を失っていれば楽に済んだものを…本当に哀れな道化よ』

 

「ドリィ!大丈夫か!」

 

「何とか…くそ、しかしここでコイツが出張ってくるとは……予想だにしていなかった…」

 

俺を痛烈に殴り飛ばした「黒い爪」の正体。翼を持つ三つ目の妖魔。ヤツもまた『この世界に存在しないはずの魔物』。

 

 

 

 

 

拾得するだけで強力な精神汚染を受ける杖を迂闊に触ることはできない。安全に拾うことができる者がいるとすれば、マルチェロのように強靭な精神と自我を持つ者か、それとも俺のように魔力制御に長け、精神汚染を跳ねのけることができる者か。

 

 

 

それとも………操る必要すらなく、最初からラプソーンに心酔している闇の手勢か。

 

 

 

「グハハハハ……さあ、並んで平伏せ、ニンゲンどもよ!!!順に八つ裂きにしてやるぞ!!!」

 

漆黒の羽根を壊れた街に舞わせながら庭の噴水に降り立った獅子と鷲の鳥魔人『妖魔ゲモン』は、手負いの俺とサーベルトをねめつけて、嗜虐心に溢れた舌なめずりをした。

 

 

 

 

 

 




レオパルドって可哀想な子だよねって話がしたかったのに!なんか暗黒デブと下品な鳥が出張ってきちゃったよ!


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Chapter29 リブルアーチ地方 ③

わーお!知らないうちにUA数が300000を突破!?こ、これはもしや本当に最終目標のハーフミリオンも夢ではないのでわ…!?
それもこれも読者の皆々様のおかげです。いつもありがとうございます。これからも頑張って皆様に楽しんでいただけるようなものを作っていこうと思いますので、どうかお付き合いください!

今回、ちょっとだけ「残酷な描写」タグが仕事します(食べある記ほどではない)ので、ご留意の程よろしくお願いします。








ゼシカの兄を名乗る男性の助太刀によってなんとか呪われしゼシカを打倒した一行。ひとまず窮地は脱したものの依然街には魔物たちがうろついており、エイトたちはトロデと共に魔物の残党たちの退治に奔走する。…そんな消化試合ムードの漂う中、突如建物の崩れる大きな音が聞こえてきた。

 

 

「なんだ?今、凄い音がしたよな?」

 

「屋敷の方でがす…兄貴」

 

「うん……嫌な予感がするね。幸い、街の北の方にはほとんど魔物は残っていないみたいだし、ゼシカも心配だ。戻ろうか。よろしいですか?王様」

 

「よい。ワシの方もこの通り、もうじき全員が街から脱出できるであろう。おぬしらもゼシカが気がかりじゃろうし、許可するぞ。少しの間だったが、住民たちの護衛ご苦労じゃった。」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「じゃ、じいさん後は頼むぜ」

 

「うむ、行ってこい」

 

そういうとトロデは引き続き住民を連れてゆっくりと街の北口へ向かう。ミーティアも久々に父親の先導者としての勇姿を見られて満足そうにしていた。

 

 

「妖魔…ゲモン…!」

 

「!…グハハハ……キサマ、ニンゲンのくせに俺のことを知っているとは…中々面白え野郎じゃねェか。そうさ、俺様こそが偉大なる暗黒神ラプソーン様が腹心、妖魔ゲモンだ」

 

所変わってハワード邸。倒壊したのは幸いにもハワード邸ではなくその向かいの家であるが、状況はゼシカと相対していた先程よりもさらに深刻である。ドルマゲスはサーベルトに肩を支えられて瓦礫と化した家から立ち上がり、噴水の上で翼を広げる半鳥半獣の魔物を睨みつけた。焦燥を隠しきれてはいないが、とっさに念力でハワード邸のドアを歪ませて開かなくし、屋敷の人間が外へ出て巻き込まれないようにする冷静さは保っているようだ。

 

「(なんでここ…しかもこんな時に…ッ!)」

 

「ラプソーン様直々のご命令により闇の世界から光の世界へ、バカな賢者どもに風穴を空けにやってきた次第よ。グハハハ…その杖はテメェのような汚らわしい下等生物が持ってていいモンじゃねェんだ、今すぐにその杖をよこしな!」

 

「…絶対に…イヤですね。断固拒否します。」

 

「この杖はこの世界を恐怖に陥れる呪物!貴様らのような闇の手先には絶対に渡さん!」

 

威勢よく啖呵を切るドルマゲスとサーベルトだが、その額には汗が浮き出ている。ドルマゲスとサーベルトが共に手負いの今、目の前の妖魔に対してはあまりに戦力が足りない。そう理解しているのだ。そんな二人の様子を見抜いたゲモンはさも愉しそうに、嘲るようにせせら笑った。

 

「グハハハハ!威勢のいいザコは好きだぜ?そうでなきゃ引き裂くときの泣き声喚き声が映えねェからな!」

 

「くっ……」

 

「ドリィ…ユリマは」

 

「んん?聞こえたぞ?ユリマといやあ、ラプソーン様が以前仮の宿としてお使いになっていた女だな?……グハハハ、そいつならさっき俺様が始末した。後ろからの一撃で墜ちたぞ。魔法出力が強くとも、防御力はゴミ同然!手応えすらなかった!ケヒヒッ、仕上げに火葬しておいてやったんだ、慈悲深い俺様に感謝するんだな!」

 

「…!」

 

「大丈夫です、サーベルト。ユリマはそう易々と斃される子じゃない」

 

「…あ、ああ、そうだよな」

 

『ゲモンよ…貴様、よもやここへ己が欲望を満たしに来たわけではあるまいな…』

 

その場にいる全員の脳に流れ込んでくるのは底知れぬ恐怖感を与える声。発生源は無論ドルマゲスが左手に握りしめている杖だ。

 

「ら、ラプソーン様!?勿論でございます!ええ!すぐにそこな男から貴方様を奪還してみせますとも!」

 

「来ますよッ!サーベルト!!」

 

噴水から跳びあがり、真っ直ぐこちらへ急降下してくるゲモン。ドルマゲスとサーベルトはそんな相手を迎え撃つべく構えたが、そんなゲモンを止めたのは杖から響く声。

 

『止まれ。ゲモンよ、計画は既に変更された。この道化をまずは確実に沈める…手筈は分かっているな?』

 

「…はっ!仰せのままに!」

 

「ドリィ!杖を黙らせることはできないのか!」

 

「さっきからもっと強く魔力を籠めていますが…!どうもこちらが乗っ取られないようにするのが精一杯で…!気を抜けばそれも危ういかも…」

 

「そうか…っ!」

 

ゲモンは急旋回して再度上空へ飛び上がると、獲物を甚振る肉食獣のような獰猛、かつ悪逆な笑みを浮かべた。

 

「グハハハハ!ザコの道化よ!その二つしかねェ目玉かっぴらいてよーく見ていな!」

 

そう言うとゲモンはくるりと向きを変え、リブルアーチの街並みに向かって「はげしい炎」を吐き出した。

 

「なっ!?」

 

ドルマゲスはすぐに飛び出し、「ぎゃくふう」で炎を跳ね返す。ゲモンは返ってきた炎をひらりと避けると今度はまた違う方向へ炎を吐いた。

 

「貴様ッ!何が目的…ッ!?」

 

「グハハハ!黙ってな!テメェのようなザコに割いてやる時間はねェ!大人しく俺様の手下と遊んでいやがれ!」

 

助太刀に入ろうとするサーベルトの背後から襲い掛かってきたのは「あんこくちょう」に「デスターキー」。ラプソーン配下、妖魔ゲモンの忠実な部下たちであり、先の戦いで呼び出された「クロコダイモス」同様、闇の世界に生息する高等モンスターである。それが甘く見積もっても十数体。影の中から現れた伏兵たちがサーベルトを取り囲んでいた。

 

「くそっ、なんて数…っ!」

 

 

「(何が目的だ…?さっきから賢者とは関係のない無差別な攻撃ばかり…)」

 

死に物狂いで「ぎゃくふう」を連発するドルマゲスだが、町中に放たれるはげしい炎を防ぎきることはやはり難しく、そのうちの何回かは街に衝突し、炎上する。分身してカバーすることも一瞬考えたが、おそらく力を分散させた状態での「ぎゃくふう」はかなりリスキーなものになるだろう。

 

「グハハハ…!チンタラしてるとどんどん街が燃えていくぜ?」

 

「さ、させない…ッ!」

 

飛んでくる灼熱を、回り込んで跳ね返す。その間に放たれる灼熱をまた回り込んで跳ね返す。回り込む、跳ね返す。間に合わない、炎上する。回り込む、跳ね返す。間に合わない、炎上する。ただでさえ頭部から出血しているドルマゲスは、全身の筋肉を酷使する運動と廻転し続ける霊力によって少しずつ判断力を鈍らせていった。そして…

 

 

 

 

「グハハハ!なかなか頑張るじゃないか?愉快愉快…だが…ただ風を吹かせるだけではこれは跳ね返せまい!」

 

そう言い放つとゲモンは鋭い爪で石造りの住居()()()()()を鷲掴みにし、そのまま投げつけた。投げた先は街の外…一見見当外れかと思いきや、外には避難したリブルアーチの住民たちが固まっていた。

 

「!!!させ、るか…ッ!『メラゾーマ』ッッ!!!」

 

ドルマゲスの放った豪火球はゲモンの投げた住宅にぶつかって弾け、海に落ちた。

 

「ハァ…ハァ…どうだ…!」

 

大方、疲弊させたタイミングでこちらの隙を突き、大量の人間を殺して心を折る作戦だったのだろう…そう予測し、相手の一撃を見事防いだドルマゲスだったが…その瞬間、ゲモンの口角が歪む。

 

「グハハハハハッ!!!…使ったな?今」

 

『クックック…使ったな?「魔法」を』

 

「なっ、くっ!し、しまった!!!!!」

 

既に頭部からの出血は地面に滴るまでになり、ドルマゲスの頭はまるで回っていなかった。しかしそれでもドルマゲスが自分を回復しなかったのは「今魔法を使うと危ない」と本能的に感じたから。しかし皮肉にも、その決断故に判断力が鈍り結局魔法を使ってしまった。

 

 

 

【…魔力とは精神力。ラプソーンが魔力を消費すれば、杖から魔力が充填されるまでは精神汚染も弱くなる。ならば、ラプソーンが魔力を解き放った瞬間であれば隙ができる】

 

 

 

かつてその理論は正しく機能し、トロデーン王国の戦いに於いてドルマゲスは見事ラプソーンの支配に一矢報いることができた。…しかし、ならばその逆も然り。ドルマゲスが魔法を使えば精神的な抵抗力は一時的に低下する。

 

そしてラプソーンは『大魔王』としてのカリスマこそ見る影もないが、闇…いわゆる「負」の部分を司る神である。卑劣で、意地が悪く、そして執念深い。一度出し抜かれた戦法をラプソーンは決して忘れはしない。ドルマゲスの背を数多の罪と悪意が走り抜け、飲み込んだ。

 

「きひゃっ! くははっ!! あはははははははははははははっ!! ひゃーはっはっはっはぁ!!」

 

 

「ドリィ…!!!」

 

「ら、ラプソーン様…お加減は大丈夫なのでしょうか…?」

 

「クク…問題ない。ただの"意趣返し"よ。ああ、先の女や町娘の身体に比べると随分と動きづらい肉体。だが…ッ」

 

ザシュッ

 

「こうする分には…まるで問題が無い」

 

「!!!」

 

ザシュッ ザシュッ

 

ドルマゲスの身体を乗っ取ったラプソーンはあろうことか、その手に持った杖で自分を串刺しにした。何度も、何度も。

 

「や、やめろおっ!!!」

 

「おおっと!そんなによそ見されちゃあ俺様の手下どもが妬けちまうぜ?」

 

「あっ!ぐああっ!」

 

ラプソーンを止めようと飛び出したサーベルトをゲモンが踵で地面に叩き落とす。そこへすかさず「デスターキー」の剣の一撃が刺さり、サーベルトの口元に泡を含んだ黒い血が垂れた。その隙を突いて他の魔物たちも畳みかけ、動けないサーベルトを殴り、掴み、裂く。

 

グシュッ ぐしゅっ ずちゅっ くちゅっ

 

サーベルトが嬲られているその傍らで、ラプソーンがドルマゲスの肉体を杖で刺す不快な音は次第に粘っこく、水っぽくなっていき、服は元の色が思い出せなくなるほどに赤黒く染まっていた。

 

「クク…嗚呼、愉快。嗚呼、滑稽。まさに『胸の()く』思いだな?ククク…哀れな。斯くも弱く愚鈍な同胞を救おうとするその虚栄心こそが己の身を亡ぼすと分からぬか、まるで学習能の無い奴よ」

 

「ラプソーン様!どうでしょうか!」

 

「重畳…やはりニンゲンは脆い…この哀れな道化の自我はもうどこにも見られぬわ。死んだか、最低でも意識はなかろう。…さて、死に逝くこの肉の殻にいつまでも宿るわけにもいかぬ。ゲモンよ!」

 

「はっ!不肖の魔、妖魔ゲモンは偉大なる暗黒神ラプソーン様復活の助力をさせていただけること、まこと恐悦至極に存じます!」

 

ラプソーンは自分の魔力を再度杖に込めると、ゲモンに杖を投げ渡した。同時に肉体の支配を解かれたドルマゲスはうつ伏せに倒れ、そのまま動かなくなった。ただ広がっていく血のシミだけがその容体の深刻さを物語っている。

 

「グハハハ…素晴らしい…!ラプソーン様の御力を受け、この肉体に魔力が更に漲ってくるのを感じるぞ…!」

 

闇の魔力で強化されたゲモンが爪を立てて引っ掻いてやれば、ハワード邸はいとも簡単に崩れ去った。黒雲の元に晒されたのはゲモンを睨みつけるハワード、呆然とするチェルス、そして屋敷の隅で縮こまっている使用人たち。彼らは戦地の真っただ中にいた故に避難することができなかったのだ。そしてチェルスの隣には未だ目を覚まさないゼシカが…

 

「さて、どいつから死にたいか?選ばせてやろう」

 

「あ…ああ…あ…!」

 

「!!!ぜ…しかァッッ!!!」

 

…『希望』未だ死なず。使用人たちが絶望に飲まれかけたその瞬間、群がる魔物たちを剣で切り開き、赤い風と化した血濡れのサーベルトがゲモンを蹴り飛ばした。

 

「ぐぬぅっ!?テメェ、その死に体のどこにそんな力が…!」

 

「ゼェ…ゼェ…」

 

家宝の鎧(サーベルトのよろい)は砕け、ドルマゲス特製の「オリハルコンの仮面」にすら罅が入るほどのダメージを受けたサーベルトに、最早ゲモンの言葉に返事をする余裕はない。

 

「お前さん…何が…いや、わ、わしはどうすればいい!?」

 

「に…げて…くれ…賢者の血を…ゼシカを…守って…」

 

絞り出されたサーベルトの声。注意していても聞き漏らしてしまいそうなそれを…その言葉に込められた確固たる意志を、ハワードはしかと受け取った。

 

「……わかった。……だが、逃げるのはわし以外の者たちだ。お前さんの妹は助ける、文句はないな?」

 

「…」

 

「ピーピー喧しいクズ共が、順番なんてまどろっこしい、全員一気に────ぐっ!?」

 

「喧しいのは…ゴボッ、お前らだ…さっさとこの街から…この世界から出て行け…っ!!!」

 

「…!ザコはザコらしくそこで寝てろ!そこの道化みたいによォ!!!」

 

 

「!!!は、ハワード様!?しかしそれではハワード様が!!!」

 

「うるさいぞチェルス!!…レオパルドちゃん!そこの女性を乗せて街の外まで行くのじゃ!お前たちはレオパルドちゃんに道案内をしろ!よいな!」

 

この家では当主の命令が絶対。黒い怪物への恐怖を心に刻まれた掟が上回り、我に返った使用人たちは急いでベッドに横たわるゼシカをそりに乗せ、レオパルドにそりの紐を括りつけようとする。しかし当のレオパルドは牙をむいて使用人たちを寄せ付けようとしない。目前の怪物にもまるで動じない愚か…あるいは豪胆な犬である。

 

「ウゥ~!バウ!バウワウ!!!」

 

「ハワード様!レオパルド様が!」

 

「レオパルド!!!わしのいうことが聞けんのか!!!」

 

「!?」

 

…猛犬と言えど飼い犬。産まれてこの方、誰にも叱られたことのなかったレオパルドは、突然の飼い主の豹変に酷く動揺した。…しかしそこは流石学習能力の高い犬、「ご主人様の機嫌が悪い時には餌が少なくなる」ことを思い出し、すぐに使用人たちに大人しく従うことを決める。使用人の内の一人が手際よくレオパルドの首輪に紐を括りつけ、そのまま全速力で階段を駆け下りていった。

 

「ハワード様!!どうか考え直して…!」

 

「チェルス!お前はどうしてそうわしを苛立たせるのだ!お前の顔などもう二度と見たくない!わしの命令には素直に従え!!さっさと逃げろ!」

 

「…っ!」

 

「…逃げてくれ。…頼む。今まで…すまなかった。」

 

「…は、ハワード、様…!?」

 

零れるように発せられたその言葉に一番驚いたのはチェルスでなく、他ならぬハワードだった。「逃げろ」など、いつもの自分では絶対に出てこない言葉。チェルスを遠ざけるような考えは今の今までただの一度も浮かんだことが無いのだ。それはドルマゲスの手引きによって二人に掛けられた「因縁の呪術」が解呪されたことが大いに関係しているのだが……彼らはそれを知らない。ハワードは自分から出た言葉への驚きをすんでのところで飲み込み、続けた。

 

「わしは…今まで大きな思い違いをしていたのだ。ドルマゲスにそれとなく諭された時こそわしを羨んだ末に口をついて出た世迷い事と思っていたのじゃが…チェルスよ、奴の言っていた通りお前こそが賢者の末裔だったのじゃ。わしなどただ大呪術師クーパス様のチカラを借り受けていただけの似非(えせ)呪術師に過ぎん。」

 

「!?そ、そんな!私は…僕はただの使用人で…」

 

「わしが『世界結界大全』を探している時、古い書庫に大呪術師クーパス様の手記と、わしのご先祖様の手記を見た。ハワード家に生まれたわしの真の使命は、賢者の末裔であるチェルス、お前を守ることだったのじゃ。今までは気持ちの整理がついていなかったが、この土壇場で決心した……チェルスよ。お前はわしが絶対に生かす。生かさねばならん」

 

「し、しかし僕は」

 

「お前とわしの出会いすら全て…大昔に仕組まれたものだったのじゃ。故にお前がわしに拾われたのも必然。お前がわしに恩義を感じる必要はない。」

 

「…」

 

「…しかしいくらお前が守るべき存在と分かったところで、わしがお前のことを嫌いなのは今も昔も変わっておらん。だから早く……行け!町の北まで!」

 

「…ハワードさまっ」

 

未練を吹っ切るように走り出すチェルス。ハワードはそれを見届けて口元に小さく笑みを浮かべると、すぐに向き直り吹っ飛んできたサーベルトを受け止めた。

 

「…ぅ…ぐ…」

 

「!(…な、なんと酷い怪我…なぜこれで立っていられる…いや、生きていられるのじゃ…)く…悪い、流石のわしでもこのレベルの傷は治せん。今ある傷の出血を止めるくらいしかできぬが…!」

 

ハワードが呪言を唱えると、全身の裂傷からどくどくと流れるサーベルトの血が止まり、体表に付着した血液は全て体内に再吸収された。

 

「恩に着る…これでまだ、戦える…!」

 

「…んなわけねェだろ!!いい加減にくたばれよ!テメェに割いてやる時間はねェっていってるだろうが!!」

 

「よくも…ドリィをッッ!!!!!」

 

「しつっこいんだよォ!!!」

 

「…!!!」

 

ゲモンは飛び込んできたサーベルトの頭を爪で掴んで地面に叩きつけ、更に上から何度も踏みつけて地面に埋め込んだ。頸椎を酷く損傷し、サーベルトは今度こそ意識を失ったようだ。

 

「(クソッ、思ったよりも時間を取られちまった…!賢者を逃がしたとあっちゃあ大失態、俺様も大目玉を食らっちまう。早く追いかけねば…)」

 

「ま、待ていっ!」

 

今しがた回復したばかりのサーベルトの敗北に慄くでもなく、怯えるでもなく、街道へ続く階段に仁王立ちで構えるハワード。その眼は今までの下卑たものではなく、自分の使命を真に理解した者の澄んだ瞳であった。

 

「……こちとらテメェにゃあ微塵も興味ねェんだ。殺す時間すら惜しい。端で縮こまっていやがれ、後でゆっくり引き裂いてやるよ」

 

「でやあああっ!!」

 

バチッ!

 

後で殺す、と言って背を向けたゲモンにハワードの放った光弾が炸裂する。その一撃は素手のサーベルトにも届かないような微小なダメージだったが、ゲモンを激昂させるには十分だった。

 

「…そうか。そおおおおォか!!!そこまで死にてェんなら!!今すぐにその首を身体とお別れさせてやるよォオ!!!」

 

額に大量の青筋を浮かべ、三つの瞳をギラギラと血走らせたゲモンは、鳥類特有の圧倒的な膂力に任せ、ラプソーンの封じられた『神鳥の杖』を投擲した。普段のゲモンならそんな不敬を働くわけがない。激昂して一時的に我を忘れた故の、異常な行動である。

 

「…ッ!」

 

咄嗟に防御結界を展開するハワードだが、内心では半ば諦めていた。ああ、自分はここで死ぬのだと。だが最後に使命を思い出せて、チェルスを逃がす時間稼ぎができてよかったと。妙な満足感すら覚えていた。

 

 

 

 

だが「悔いのない死」などという甘美なものはそう簡単に手に入らない。勝利の女神は常に公平である。

 

「…がはっ」

 

「!!!!!」

 

ゲモンの投げた神鳥の杖は、ハワードではなく、(ハワード)を突き飛ばしたチェルスの胸をまっすぐに貫いた。

 

 

 

 

 

 





原作との相違点

・レオパルドの魔犬化を回避した。
ドルマゲスは予めレオパルドを監禁することで、レオパルドがラプソーンに操られることを回避した。

・妖魔ゲモンがフライングで登場し、リブルアーチを襲った。
妖魔ゲモンは原作では次の次の次の次のダンジョンで戦うボス。その直前に戦う相手のせいで相対的に弱く見られがちだが、ボスの中では強い部類に入る。コイツが現れたのでドルマゲスがレオパルドを監禁したのは無駄だったかと思いきや、レオパルドがいればおそらくラプソーンはこちらに乗り移るはずなので、そうなればゲモンとレオパルドの二体を相手取ることになりほぼ確実に詰んでいた。

・ハワードがチェルス死亡前に自分の使命を思い出した。
原作ではチェルスが死んで初めて思い出すというなんとも虚しいことに。しかもチェルスの死に目にも立ち会えていない。大呪術師クーパスのかけた因縁の呪術はとことんポンコツである。


レベル:変化なし


妖魔ゲモンは皆様の解釈から外れすぎないよう、本作ではDQⅧの傲岸不遜な感じと、DQMJ2Pの下品な感じと、DQSの狂暴な感じを混ぜ合わせたような性格にしています。

妖魔ゲモンについて解説
妖魔ゲモンはかつてラプソーンに仕えていた直属の部下。どうみても大きな「ダークジャミラ」にしか見えない。もしかしたらダークジャミラスの中で一番大きく強い個体が『妖魔ゲモン』という名を手に入れられるのかも?原作ではラプソーンが七賢者と神鳥レティスに敗北し封印されてからの数百年間、ラプソーン復活に奔走するわけでもなく闇の世界で過ごし、レティスが卵を産んでからは闇の神鳥の巣に陣取って卵を人質に取り、ひたすらレティスに嫌がらせをするだけの毎日を過ごしていた(どちらにしろレティスは闇の世界から出られないので本当に意味のないことをしていた)。このことからラプソーンを熱烈に信仰している狂信者というわけではなく、ラプソーンを上司のように捉えている魔物のようだ。上司とはいえ自分の住む世界を束ねる神なので、崇拝はしている。本作では、そんな上司から何チンタラ遊んでんねんとお叱りを受け、慌ててこちらの世界にやってきた。闇の世界に残された卵はレティスが今も大事に温めているようである。


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Chapter30 リブルアーチ地方 ④

勇者視点なのに勇者が出てこないバグ、修正はよ。

引き続き暴力的な表現に注意です。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

「チェ…?な…なぜ……」

 

「…ハワード、さま…」

 

「ま、待て喋るな!今…」

 

妖魔ゲモンの投擲した杖によって身体に大きな穴を空けられてしまったチェルス。すぐに呪術で止血を試みるハワードだが、林檎ほどの大きさの穴が胸に空いてしまった彼をこの状態から救命することは…残念ながら誰の目にも不可能なのは明らかだった。

 

吸う息が胸の穴から抜けていく。栓を抜いたバスタブのように血液も流れてゆく。腕の中でみるみるうちに冷たくなっていく、そんなチェルスを抱えたハワード。呪術師である彼がこんなにも自分の弱さを呪いたくなったのは生まれて初めての出来事であった。

 

「…」

 

「…くそっ!わしが…!わしが未熟なばかりに…!」

 

「ちが…ぼくが…選んだ…」

 

「な…?」

 

「ぼく、は…ハワードさまが…大好きだから…だから…必然でも、運命でも…関係、ない…です…」

 

「…!」

 

「クーパスさまの子孫じゃない…ただのチェルスとして…僕は、あなたを…尊敬…」

 

「ちがっ…わしは…わしがお前を…っ」

 

「ごめ…なさ……」

 

「ま、待て!待ってくれ!逝くなチェルス!」

 

「ありがとう…ございます…僕を雇ってくれて…僕を叱ってくれて…僕に……謝ってくれて」

 

「チェルス!!!」

 

「ど…うか……お元気…で……」

 

「…!」

 

その言葉を最後に、チェルスが二度動くことは無かった。

 

ハワードの腕へと伸ばされたチェルスの手は、それすら叶わず音もなく地に墜ちる。そんなチェルスの最期を見届けたハワードの頬を涙が伝った。それはチェルスを失った悲しみか、このような事態を招いてしまった傲慢な自分への憤りか、未熟故に彼を救えなかった悔しさか。

 

「グハッ、グハハハハッ!!!こいつァ思ってもねぇ収穫だぜ!まさか賢者自らのこのこ刺されにやってきてくれるとはな!何が賢者!愚か者の極みじゃあねェか、傑作だぜ!!」

 

ゲモンは投擲した杖を回収すると、こんなに面白いものを見たことは無いという風に大きく笑い声をあげ、さらにチェルスの亡骸の前で震えるハワードに唾を吐いた。

 

「賢者が愚か者なら、キサマは最低のカス野郎だな?なんたって───」

 

『ゲモンよ…先ほど我をぞんざいに扱った不敬についてはどう弁明するつもりか?』

 

「ら、ラプソーン様!?もっ申し訳ございません!!思わず我を忘れてしまい…ばっ、罰ならなんなりと…!」

 

『……まあ、よい。我も愉快なものを目にして満足よ。賢者の血を以て此度の不敬は不問としてやろうぞ…。』

 

「おお、なんと寛大な御心…ありがたき幸せ…!!!」

 

ハワードはチェルスの亡骸をゆっくりと横たえると、ラプソーンの慈悲に涙を流しているゲモンを睨みつけた。

 

「絶対に…絶対に許さんぞ貴様ら…!」

 

「グハハハ…キサマに何ができる?…まあいい、俺様の仕事を手伝ってくれた礼だ。せめて一思いにその首を掻き切ってやるぞ」

 

「…っ!」

 

ハワードに伸びる黒い爪。あくまで呪術を扱えるだけの一般人であるハワードの首を裂くなど、ゲモンにとっては豆腐を握り潰すほどに造作もない事だろう。しかし……ハワードはこれでチェルスの所へ行けるなら、あの世でもう一度謝罪できるなら…今度こそ死んでも良いと考えていた。

 

しかし幸運にも、あるいは不幸にも、ハワードの人生は終わらない。突然ハワードの身体とチェルスの亡骸が宙に浮き、そのまま階段の下へと「落ちていく」。ゲモンの爪はハワードの首の薄皮一枚を切り裂くにとどまった。

 

「なにっがああぁぁ!?!?!?」

 

「な、なんだァ!?」

 

ぺた、ぺた、と血と泥で汚れた湿っぽい足音を鳴らし、飛ばされたハワードと入れ替わるように階段を上ってきたのは裸足の少女。

 

「…『お元気で』と言われたのなら…なにがなんでも生きなきゃダメじゃないですか」

 

「…!お前さんは…」

 

ハワードは階段の下から、少女の後姿を見上げた。

 

「あなたは彼に呪われたんですよ。『お元気で』と。だから…あなたは絶対に生き延びないとダメなんです……さあ」

 

「…っ!武運を祈る!」

 

ハワードはチェルスの亡骸を再び抱え、脱げた靴も履きなおすこともせず一心不乱に走り出した。

 

「…」

 

「な、キサマはあの時確かに…!」

 

「殴り殺した?当たってないですけど。燃やして灰にした?灼かれるのには慣れてますけど。」

 

「…!」

 

ユリマは倒れたまま動かないドルマゲスに目をやる。お願い、死なないで。そう願いながらも今は敵前。決して顔には出さない。血塗れで気を失っているサーベルトにも目をやる。きっとドルマゲスの為に死力を尽くして闘ったのだろう。ユリマは初めて、サーベルトを心から信頼できる人だと感じた。

 

「…よくも……よくも私のドルマゲスさんを…お兄さんを酷い目に遭わせましたね……!!!」

 

血と泥に塗れ、全身に火傷を負い、服ははだけて破け、艶やかだった髪は返り血で傷み……到底淑女とは思えない貧相な佇まいのユリマだが、彼女は何も気に留めない。それはひとえに彼女の愛する男性はそれでも認めてくれるから。

 

「ニンゲンってのはわかんねェなァ!どいつもこいつも誰かの為!他者に依存することでしか動けねェのか?」

 

「黙って。…次喋ったら磨り潰します。」

 

「オォ!やってみろよ女ァ!」

 

ユリマは男が嫌いである。男は下品で乱暴だから。ユリマは女が嫌いである。女は嘘つきで強欲だから。だが、ユリマが真に嫌うのは……自分の生きる理由(ドルマゲスさん)を奪おうとする者。未来を視る左目から、光を失った右目から、滂沱の涙を流すユリマの心は今、憎悪で黒く燃え上がる。

 

「あああああっ!!!」

 

「口だけのザコがッ!!」

 

ユリマの『メラゾーマ』はゲモンの「はげしい炎」と鋭い爪の乱打によって相殺される。そのまま繰り出されるゲモンの追撃は紙一重でかわし、すかさず放つ『マヒャド』。ゲモンは翼で身体を覆って防御、そして返しの『メラゾーマ』。当然ユリマには当たらない。勝負は互角に見えたが…やはり、魔力が常に杖から供給され、さらに多彩な魔法を使えるようになったゲモンの方がより有利だった。

 

 

「グハハハ…女よ、降伏する気はないか?悪いようにはしないぞ」

 

ゲモンが呪文を唱えると、全身を覆うように紫色に輝く光の膜が張られる。反射呪文『マホカンタ』だ。

 

「ハァ…ハァ…絶対…イヤ…!」

 

ユリマは相手が『マホカンタ』を唱えると見るや否や、すぐさま瓦礫を浮かせて発射する戦法に切り替え、ゲモンを狙う。降り注ぐ岩や木材に苛立ちを募らせたゲモンは、飛んでくる瓦礫の死角に隠れ、そこから尋常ならざる跳躍力で突貫してきた。そしてユリマの首筋に爪を立てようとするも、斥力によって寸前で止められる。

 

「(思ったより面倒だな……)チッ、命拾いしたな、女。俺様もこんなところで油を売ってる場合じゃあねえんだ、そろそろお暇させてもらおうか。だが、コイツは貰っていくぜ」

 

勢いよく翼を広げてユリマを弾き飛ばしたゲモンは、倒れているドルマゲスを鷲掴みにして飛び上がった。そしてドルマゲスを取り戻そうと追撃してくるユリマを『バギクロス』で押し返す。

 

「!!!きゃあっ」

 

「…」

 

「…お言葉ですがラプソーン様…この男はおそらく既に絶命していると思われます。ただのニンゲン一匹にこれ以上の措置をとる必要が本当にありますのでしょうか?」

 

『…。非常に…非常に癪ではあるが、我は何度か彼奴等と対峙した。しかしこれまで相手を卸しきることは適わなかったのだ。未だ肉体と魂の半分以上を封印されていたとしても、だ。これをただの偶然と済ませるほど、我は耄碌してはいない。脆弱で哀れなニンゲンの一人であっても、この男はもはや無視していい(ゴミ)ではないのだ。』

 

「………。」

 

ゲモンはただの人間風情をラプソーンが気にかけていることに少々不満がありそうだったが、暗黒神(かみ)の御前でそれ以上の口答えは憚られたか、何も言わずに黙った。

 

しかしそんなゲモンと対照的に、黙ってはいられない女がここに一人。

 

「ドルマゲスさんを…返せ…!」

 

ここに来る以前、ゲモンに襲撃を受けた際に死んだふりをしていたユリマは、ゲモンが去ったその後、跡をすぐには追わずに増援阻止のためリブルアーチのほぼ全域で魔物と戦っていた。そしてその全てを圧殺し、築いた屍は百を超す。が、代償にユリマも少なくないダメージを負っていた。やせ我慢は彼女の得意分野だが…どうしても限界というものは存在する。今のユリマは闇の遺跡でエイトたちと相見えた時同様、気力だけで立っていた。

 

「グハハハハ…キサマ、この道化の(つがい)か?あまりいい趣味とは言えねェな」

 

「…返せ、返して!!!」

 

「返せと言われて返す莫迦はいねェんだよ!ほら、どうだ?ほらほら!」

 

「!!!」

 

ゲモンは右足でドルマゲスの頭蓋を掴んだまま、左足の爪をドルマゲスの身体にゆっくり突き刺した。つぷ、という肉を裂く音とは裏腹に出血はない。それ則ち流れ出す血がもう残っていないことを意味する。

 

「やめてっ!!!やめてよ!!!」

 

「グハハハハッ!下等なニンゲンとは言え、やはり女の情けない泣き顔よりも(そそ)るものはねえなァ!コイツぁもうただの肉塊だってのに、ケヒヒヒッ」

 

ゲモンはこの世の何より邪悪な笑みを浮かべ、爪でドルマゲスの身体を掻き回して弄んでいる。

 

今飛び込むのは誰がどう考えても悪手。確実に自分は押し負ける。分かっている。相手はもうこの街に用はないため、自分はこのまま逃げてキラとライラスに状況を伝え、次善の策を練った方が良い。そしてドルマゲスが起きていれば彼もきっとそう勧めるだろうと。頭では分かっているのだ。だが……。ユリマの真っ黒で、しかし真っ直ぐな恋心は、連れ去られるドルマゲスを前にして逃亡の選択肢を採れるほど複雑な構造をしていなかった。ユリマは全力で大地を蹴り、飛び出す。

 

「やめてぇぇぇぇぇっっっ!!!」

 

「へっ、能無しが!莫迦の番もまた莫迦よ!」

 

瞬間、ユリマの頭に流れ込んでくるのはゲモンのカウンターを食らって地面に突っ伏し、動かなくなっている自分の姿。『少女の見る夢(リリィ)』はいつだって残酷な現実を教えてくれる。

 

「(『一秒後』…っ!一秒後、わたしはアイツに殴られる…!痛い、絶対痛い!死んじゃうかも…!…でも…っ)」

 

でも…!!!

 

「ドルマゲスさ────」

 

果して一秒後、そこには地面が割れるほどに強く叩きつけられて手足の骨がひしゃげ、意識を失った少女の姿があった。少女の思い描いた夢(りそう)は、『少女の見る夢(げんじつ)』を塗り替えることができなかった。

 

 

「グハハハハ…逝ったか?女…」

 

「…」

 

ユリマを痛烈に叩き落としたゲモンは足に掴んだドルマゲスを適当な場所へ投げ捨てると、地面に降り立った。そのまま数歩踏み出したかと思うと、ユリマが身に纏っている焦げ付いたボロ布を無造作に破り捨て、指を心臓に押し当てる。

 

「…。コイツは驚いた、まだ生きてやがったか。悪運の強い奴め」

 

指から感じる弱弱しい鼓動…ユリマが生きていると知ったゲモンは少し思案に耽る。その数秒足らずの時間から導き出されたのはおおよそ生物の考え得る最低最悪のアイデア。ゲモンはくつくつと嗤う。

 

「(いい事を思いついたぞ。…この女はニンゲンにしては顔が端正で肉付きも良い。我々魔物にとっては何の感情も抱かない虫ケラだが…同じニンゲンの男からすればさぞ劣情を煽られることだろう。…ケヒヒッ、これは随分と面白いショーが見られそうだ)」

 

『ゲモンよ…何をしている。()く道化を連れ発つのだ…我が懐かしの「闇の世界」へ』

 

「ラプソーン様!この女も闇の世界へ持ち込むことをお許しください。」

 

『何…?』

 

「このゲモン、ラプソーン様に捧げる素晴らしい催しを考えました。則ち、闇のレティシアの女子供を人質に取って、男衆の前にこの女を吊るすのです。そして────」

 

そう言いながらユリマへ手を伸ばすゲモン。その爪がユリマの肌に触れるか、触れないか。その瀬戸際。

 

バツンッ

 

「────ギッ!?」

 

「さ…わ……る、な……!!!」

 

宙を舞うゲモンの指。その向こうでゲモンを睨みつけているのはずっと死体だと思っていた道化の男。その目から発せられたあまりにも鋭い眼光に、ゲモンは足が竦んでしまった。しかしドルマゲスがそこから立ち上がることはなく、すぐにまた意識を手放し動かなくなるも……ゲモンの脂汗は止まらない。

 

「(なんだコイツ!なんだコイツ!?なん、なんで動いたんだ!ラプソーン様があれだけ身体を貫いたんだぞ!?俺様もアイツの頭をかち割って、肉を裂いて、内臓を掻き回したっ!もう流れる血も残ってないはずだ!!あ、有り得ねぇ…そんな状態から…お、俺様の指を…念力だけで捩じ切りやがった…!)」

 

今起こった出来事の何もかもが信じられず、ゲモンは捩じ切られた指を止血することすら忘れて息を呑む。普段なら無視して相手を甚振れる程度のダメージ。しかしゲモンは久しく忘れていた恐怖を思い起こし、震えあがってしまった。

 

『…。…貴様にも漸く理解できたか?この道化はいくら追い詰めようとも必ず我らの想定を超えてくる。()()哀れなのだが…まあよい、理解できたのなら、すぐに彼奴を持って運ぶのだ。』

 

「しょ…承知致しました」

 

ゲモンは虎の子を盗み出すかのようにおっかなびっくりドルマゲスを足で掴み、何もしてこないことを確認すると、そのまま飛び上がった。翼をはためかせて羽根をまき散らし、上へ、上へ。

 

 

「こ…これは…!」

 

「オレたちが屋敷を離れた十数分に何があったんだ!?人も倒れてる…生き…てるのか?」

 

「ククール!上を!」

 

「…ああ。なんって禍々しい魔物だよ…アイツが黒い魔物の親玉か?」

 

死屍累々のハワード邸、そこに現れたのは瓦礫を潜り抜けてやってきたエイトとククールだった。二人は倒壊し、いくつも地割れが起こっている屋敷の変わりようを見て驚いたが、その原因がおそらく上空の魔物の仕業であろうことが分かるとすぐに身を潜める。流石にこの状態から戦闘を吹っ掛ける気はさらさらない。むしろ相手の力量を悟って戦意を喪失したというべきか。

 

「…ククール、あれは…ダメだ」

 

「ああ、ヤバすぎる。…逃げるぞエイト。倒れてるそいつらも一緒に!」

 

一方リブルアーチ上空、ラプソーンはハワード邸跡に現れた二人の男を見て気怠そうにため息をついた。勿論、魂だけの存在であるラプソーンに息など必要ない。ただゲモンを詰めるためだけにとった形式的なアクションである。

 

『見よ。貴様が愚にもつかぬことを考えているうちに有象無象共がわらわらと…』

 

「も、申し訳ございません!すぐに全員屠って──」

 

『もうよい。貴様に任せても碌な事にならぬのは解った。一旦"代われ"』

 

その瞬間、ゲモンの雰囲気がガラリと変わる。溢れ出す暗黒のオーラを見れば、一介の魔物でしかないゲモンと暗黒の神であるラプソーンの違いは一目瞭然。主人格を交代したラプソーンは、ゲモンの肉体を使ってゼシカの時よりも更に大きなエネルギー体を作り出した。ゼシカと決定的に違うのは大きさ、そしてその色。『メラゾーマ』を思わせる特大の火球だった先刻と異なり、今回は紫電迸る黒球。『ドルモーア』を想起させるそれはまさに『闇の太陽』である。

 

「さらばだ、我の復活を阻まんと目論む全ての愚か者たちよ…」

 

今度はハワードの妨害も受けず放たれた漆黒の魔力。闇の太陽はそのままハワード邸跡に激突し、炸裂する。家を呑み、道を呑み、街を呑み、破壊して分解してその全てを無に還していく。

 

 

ゴオオォォン…ガゴオォォン……!

 

煙が晴れたのち、中央部を粗く抉り抜かれたリブルアーチは橋としての機能を喪失し、力のつり合いが取れなくなってゆっくりと自壊していく。かつて道だったものが、家だったものが海へ落ち、藻屑となって沈んでいった。

 

「ククク…これで我を邪魔立てする者は完全にいなくなった…。我がこの世界を手にする日もそう遠くはあるまい…悲しいなぁ…なあ道化よ?貴様は二度と光ある世界を目にすることができないのだからな…クククク…」

 

橋が崩れていく様子を満足げに眺めていたラプソーンは、海に生き延びた人間がいないことを認めると空間を裂いて開き、自らそこへ飛び込んだ。裂け目はすぐに閉じ、後にはもう何の痕跡も残らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

一時期ゼシカに憑依していたラプソーンは、仲間の内の一人、バンダナの男が珍しい上級転移呪文『ルーラ』を使えることをゼシカの記憶から読み取っていた。なのでできるならもう少し早い段階で町ごと自分への反乱分子を消滅させたかった。とはいえあの一瞬では全員を集めての『ルーラ』はまず間に合うまい。間に合ったとしても生き延びるのはバンダナの男と騎士団の男のみであり、まるで問題はない。ラプソーンはそこまで見越して魔力を解き放っていたのだ。そして町が崩落するところまで目視で確認したラプソーンに抜かりはなかった。

 

完膚なきまでに打ちのめされたドルマゲス達。まるで意にも介されず、蚊帳の外に置かれたエイトたち。これまでとは一線を画す、『完全なる敗北』。

 

「チェルスの死亡」

 

「リブルアーチの崩落」

 

「ドルマゲスの失踪」

 

その後、U.S.A.からセキュリティサービスを通して、あるいはリブルアーチから生き延びた行商人のネットワークを通してあらゆる場所に発信されたこれらの報せは、まだ見ぬ雪国の賢者に、リブルアーチを国領に持つサザンビーク王国に、ドルマゲスとの繋がりがある国々や町に、小さくない衝撃を与えた。

 

 

 

 

 

 





原作との相違点

・ハワード邸が倒壊していた。
もはや個人の判別がつかないが、血塗れの男性とあらぬ方向に手足の曲がった女性も倒れていた。

・というかリブルアーチが地図から消えた。
歴代シリーズで町や国が滅ぼされるのはもはや伝統と化しているが、大抵は跡として残るため、本当に地図から消えてしまう例は珍しい。



ヤンガスはゼシカを運ぶ使用人たちと出くわした際に街の外までの護衛を買って出たため、現場にはいませんでした。


(どうしよう…もうちょっと小物っぽい感じにするつもりが、ガチで邪悪な魔物になってしまった…。)い、いやあゲモン!許せませんね!皆様、ご安心ください。ゲモンはそのうちきっちりボコボコにされる予定です。






投稿後:誤字探し中…

ユリマ「ハァ…ハァ…絶対…イヤ…!」

「(なんかこのセリフちいかわみたいだなぁ…)」カタカタ

「…」カタカタ

「(そういえばコイツちぃかわだったわ)」


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新・第六章 ドルマゲス捜索編 其の壱

お久しぶりです(覚えておられますでしょうか!)。年末も年始も終ぞ一話もお届けできず申し訳ありませんでした…。

いつぞや以来のスランプ・ハズ・カム・バックです。全然文章が書けなくなっちゃいました。

心の中の魔人ブウ「こまった…ちょっと書けない…」








おはようございます。アスカンタ王国王室小間使い(休暇中)兼、U.S.A.所属アスカンタ王国専属メンテナーのキラです。……まさか、こんなことになってしまうなんて。…嗚呼、どうかサーベルト様が、ユリマさんが、そして……ドルマゲス様が無事でありますように。どうか、どうか。

 

 

そこかしこから建物の倒壊する音が響いていて───。

 

私はライラス様と共に、怯えるリブルアーチの住民の方々を宥め、励まして回っていました。不安からか…私に心無い言葉をぶつけてくる方も多くいらっしゃいました。私がおばあちゃんの家で過ごしていた時には、お城で王様、王妃様に給仕していた時には、ドルマゲス様たちと旅をしていた時には決して言われなかったような言葉。…正直、とてもショックでした。…しかし、弱きを助けて強きを挫くのがドルマゲス様のポリシー。なればそれは彼に付き従う私のポリシーでもあります。『ソルプレッサ』さんに乗って必死に避難を呼びかけ続けると、次第に住民の皆さんも理解を示してくださり、アスカンタでお見かけした───たしか今は『勇者』様?のお仲間として行動されている───トロデ王とミーティア王女のご助力もあって避難は順調に進んでいました。

 

ユリマさんが魔物を蹴散らし、ライラス様が護衛に入ってくださったおかげで危なげなく伏魔殿と化したリブルアーチから脱出できた私は、妙に爽やかな風の吹く平原から轟音響く街を眺めていました。

 

大丈夫、ドルマゲス様は負けません。負けたところを私は見たことがありません。ドルマゲス様が全幅の信頼を置くサーベルト様もいらっしゃいますし、ユリマさんも。…少しだけ、ほんの少しだけ胸が締め付けられる感じがしますが、ユリマさんは私よりもドルマゲス様にかけられるものが多い、というのは明白な事実です。私は彼女のように直接的なあい…コホン、感情表現はできませんし、何の躊躇いもなく命を投げうつことはできません。もちろん、仲間たちの為ならばこの身を捧げる覚悟はありますが…覚悟を決めることと行動に移すことにはやはり距離があって…。こんな時、やはり私に力が無いことを口惜しく思ってしまいます。

 

「キラよ、住民たちの様子はどうだ」

 

「ライラス様…はい、住処を追われたことによる不安は依然残っているようですが、目立った傷病人もいないおかげか、おおよそ安定しています。」

 

ライラス様はそうか、とだけ述べると私と同様に街の方角を向かれました。彼もまたドルマゲス様たちが心配なのでしょう。本人の性格から鑑みるに…決してそれを口には出されないでしょうけど。

 

「ライラス様」

 

「なんだ」

 

「ドルマゲス様たちは…きっと問題なく帰還なされますよね」

 

「…。」

 

「…」

 

「当たり前だ。アイツは暗黒神なんぞに遅れは取らん」

 

私にはその言葉を聞くと安心して口を噤みました。ライラス様がそう仰られるのなら、きっと大丈夫なのでしょう。そう思いました。

 

 

 

 

 

そう、思い込みました。私の頭の中にある嫌な予感を拭いたかったから。

 

 

 

 

 

住民のみなさんから大きなどよめきが上がった時、私は膝を擦りむいてしまった少年の手当てをちょうど終えたところでした。振り返った私の目に映ったのは…街の上空で今にも全てを飲み込まんと佇む昏く禍々しい、まるで『黒い太陽』。それを目にした瞬間私は凄まじい胸騒ぎに襲われて、一目散に飛び出しました。

 

「なっ!止まれキラ!」

 

「『ソルプレッサ』!!」

 

ライラス様の制止に聞こえないふりをして、私はソルプレッサさんを呼び出し、その背に乗って走り出しました。あんな恐ろしいものがぶつかれば、さしものドルマゲス様もただでは済まないかもしれません。今なら間に合います、今なら…!

 

「止まるんだ!」

 

「きゃっ!」

 

突然ソルプレッサさんは動きが止まり、私は慣性に従って転げ落ちました。ライラス様の口から唱えられたのはセキュリティサービスやオートマターの電源を強制的に落とす緊急停止コード。…ドルマゲス様がライラス様に伝えられたのでしょうか。私とドルマゲス様しか知らないはずだったのに……。

 

「…悪い、キラ。気持ちは十二分にわかる、しかし許せ。ここでお前を行かせてしまうと……わしはもうドルマゲスの師匠ではいられなくなってしまう」

 

「…」

 

「許せ」

 

ライラス様は座り込む私の前に杖を刺して進路を塞ぎました。黒球に飲み込まれる街、崩落していく街を見て絶望する人たちの嘆きの声、風に乗って微かに香ってくる血の匂い。そこから想起させられる様々な気持ちが重なって……どのみち私にはそこから立ち上がる気力が残っていませんでした。

 

リブルアーチだったもの、その最後の瓦礫が海に落ちて凪いだ時。その時に初めて私は事の重要性に気づきました。考えないようにしていた、可能性。

 

 

 

すなわち、『全滅』。ドルマゲス様とサーベルト様が、負ける。

 

「ああ…あ…」

 

片や出来ないことなど何もないと豪語するほどに多様な手段と明晰な頭脳を持つ最強の道化師ドルマゲス様。片や世界一の剣士を名乗ろうとも誰も文句を言うことのできないほどに完成した剣技を、今もなお磨き続ける最強の剣士サーベルト様。お二方が揃って敵わないものなどありはしない。それはU.S.A.では誰もが知る常識でした。

 

それに加えてユリマさんと勇者様がいて、どうして敗北することがあるでしょうか。私はどこかそう思っていました。いつもの通り、最終的には何とかなる────ベルガラックや闇の遺跡での一戦のように。

 

 

 

しかし夢は醒めます。現実という冷水によって。

 

「……………負けた、敵わなかった、のか…」

 

「そ、んな。そんなわけが…」

 

「…」

 

「ら、ライラス様、先ほど私に仰られましたよね?暗黒神に遅れは取らないと」

 

「……」

 

「ライラス様…!?」

 

ライラス様は口を閉ざしたまま俯かれました。その沈黙は…その沈黙が私にとっては答え合わせ。

 

「…っ」

 

「おい!キラ!何をするつもりだ!!!」

 

「…っうみを!海を探します!きっと皆様は海へ逃げ延びたのです!!!今ならまだ…ッ」

 

「無謀だ!それに…。」

 

「…」

 

「…」

 

「……そんな、そんな…」

 

ライラス様は私の肩を持って抑え込み、私は呆気なく地面に組み伏せられてしまいました。…彼が続く言葉であろう『無駄だ』と仰られなかったのは私を慮ってのことでしょうか。それとも彼もまた諦めたくなかったのでしょうか。

 

「う、うぅ…うぅう……」

 

ぱ、と手を放して立ち上がり、埃を払うライラス様の後ろでさめざめと泣く私。なんて無力なのでしょう。この時、私は何故泣いていたのでしょうか。驚き?絶望?恐怖?悲しみ?……もしかしたら悔しかったのかもしれません。自分が完全に蚊帳の外になってしまっていたことに。「私のせいで」という状況にすら至れず、私の全く関係しないところで私の敬愛する方々は姿を消してしまった。私は最初からいてもいなくても同じだった。もしかしたらこんな状況で、私は自分の為に泣いていたのかもしれません。自己本位。不義理。最低。

 

私の後ろで慟哭に暮れるリブルアーチの皆様。顔を青くするトロデ王、眠りこける勇者の女性と、同じく青い顔の大柄な勇者の男性。亡骸を抱き、泣き崩れるのは…ハワード様。では、あのお方が賢者様……。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

ああ、何も守れていないじゃないですか。何もかも。私は何のために、私たちは何のために……。

 

ふっと身体中の力が抜け、そのまま倒れる私────

 

 

 

 

「立て。いや、せめて…倒れてくれるな。希望を捨てるな!」

 

「…」

 

 

 

────を寸前で受け止めたのは、やはりライラス様でした。…前言を撤回します。彼は諦めたくなかったのではありませんでした。彼はまだ「諦めていなかった」。ずっと注意深く魔力の流れを観察していたのです。でもそうだとして、今更何が…

 

「しっかりしろキラ!"何か"が来るぞ!」

 

「…えっ」

 

準備?何が起こるの?何かって何?私がそんな思考を巡らせる暇もなく、突然私の目の前に橙色の光球が出現しました。魔物の攻撃!?…いや、そのような攻撃的な魔法ではない。魔力のあまりない私にもそれは分かります。それではこれは何?私が戸惑っていた一瞬のうちに光球は粒子となってかき消え、中から現れたのは…

 

「…!!!」

 

バンダナの勇者様、修道士の勇者様、そして……

 

「サーベルト様!!!ユリマさん!!!」

 

手足がぐずぐずに潰れて変形してしまったユリマさんと全身から夥しい血を流しているサーベルト様が血の海に沈んでいました。私は気を失いそうになる情けない自分を律すべく舌を噛み────

 

「…っ、しょ、処置を、手当てを…!」

 

よたよたと救急箱を手に駆けだしました。

 

 

 

 

突然現れた勇者様たちに驚いたのはなにも私とライラス様だけではありません。トロデ王と大柄な勇者様、そしてリブルアーチの住民の皆様も不思議な光を目にして集まって来ていました。

 

「ライラス様ッ!治療を!!」

 

「もう始めている!お前はユリマの方を!!」

 

「はい!…っ!」

 

ユリマさんはもうほとんど何も身に纏っていませんでした。自ら脱いだのか、それとも…。とにかく、衆人の眼にユリマさんの嫁入り前の裸体を晒させるわけにはいかないので、私は自分のライダースーツを脱ぎ、急いでユリマさんに被せました。変形してしまった手足を極力刺激しないように。上着を脱いだ私が着ているのはただの肌着が一枚だけ。到底人前に出て良いような恰好ではありませんが、ユリマさんをそのままにしておくという選択肢は元よりありません。

 

「おい、エイト…街が……!」

 

私が「せかいじゅのしずく」を何とかユリマさんに飲み込ませようと四苦八苦している間に、修道士の勇者様が指したのは自分たちが先程まで確かに立っていたリブルアーチがあった場所。…今はもう跡形もありません。治療は時間との勝負。私は勇者様には目もくれずユリマさんに包帯を巻き始めました。

 

「…」

 

「…!」

 

「…ホント、ギリギリセーフだったってわけだ」

 

 

「おおお!エイト!ククール!!無事じゃったか!!!」

 

「まあ、なんとかな」

 

「兄貴ィ!!!アッシは、アッシはもうダメかと…」

 

「王様!ヤンガス!ゼシカも、みんな無事で良かった…」

 

勇者様たちも再会を喜んでおられます。…私個人としてはアスカンタでの一件から勇者様たちのことをそこまで快く思っていないのですが、今はそのようなことにこだわっている時ではありません。巻き終わった包帯の合間から「せかいじゅのしずく」が作用してユリマさんの傷が引いていくのを確認したのち、私はライダースーツを羽織り、徐に立ち上がって勇者様に声を掛けました。

 

「あ…あのっ!」

 

「ん?お嬢さんは…ああ、アスカンタの。ウチのじいさんと一緒に避難を誘導していたんだったな。無事で良かった。しかし、キミのようなレディがどうしてこんなところに?」

 

「……。」

 

「なにか、アッシらに聞きたいことがあるでがすか?」

 

「その……ドルマゲス様を…お見かけしませんでしたかっ…」

 

「!!!」

 

「な……!」

 

瞬く間に凍り付く空気。しかしなりふり構っている場合では…ありません。

 

「アンタ、なんでその名を……」

 

「存じ上げています。あなた方の旅の目的、ドルマゲス様との確執。……差し出がましい申し出ではありますが、教えてくださいませんか。リブルアーチでの一部始終を。嘘偽りなく。」

 

「…!」

 

「キラ…」

 

私はバンダナの勇者様から目を離すことのないように見つめ続けました。誰かにお願い事をするときは丁寧に、丁重に。そして誠意と覚悟を見せることが重要だ、というのはかつてドルマゲス様からご教授いただいた心得です。

 

「王様、どうしましょう……?」

 

「…わからんか?あのお嬢さんはワシではなくエイト、お主に問うておるのじゃ。お主が決断すればそれが正解となるじゃろうて」

 

「まあ兄貴、話だけでも聞いてあげましょうや」

 

「ああ。それでいいんじゃないか?オレたちもそろそろずっと追いかけてる相手が何者かくらいは知りたい。なあ?キミは知っているんじゃないか?オレたちの真の敵を」

 

「はい。知っています。」

 

「…」

 

「今はただ、ドルマゲス様の所在が知りたいのです。そのためなら文字通り"なんでも"致しましょう。私に出来ることならば」

 

間髪入れず返答、追撃。しかし…嗚呼、『なんでも』などと大言壮語を吐いて、果たして私に何が成せるのでしょうか。ユリマさんの言う通り私の身体は貧相で、頭の良さもライラス様には遠く遠く、足元にも及ばず、サーベルト様のように力強くも素早くもありません。どこにでもいる、夢見がちなただの小娘だというのに。

 

「わかりました。僕たちが見たもの、見てきたものを全てお話ししましょう。」

 

こうして私は、己のちっぽけさを痛感しながら勇者様との情報交流会に臨むのです。せめてなにか、この場にいらっしゃらないドルマゲス様の所在に繋がるものを得られるでしょうか。

 

 

……

 

 

「……」

 

「そう、気を落とすな。キラ。」

 

「……はい」

 

結局、勇者様たちはドルマゲス様の所在地に関する情報は何もお持ちではありませんでした。完全に取り越し苦労で、空回りで…何してるんでしょうね、私。

 

「勇者共はドルマゲスなんていなかったなどと抜かしおったが、今しがたわしもハワードにも話を聞いてきたところだ。確かにドルマゲスはハワード邸で魔物と戦っていたようだ。」

 

「…!」

 

やっぱり…だったらどこへ。私がそう口を開こうとすると、それよりも早く私たちの間に割り込んでくる声が。

 

「ああ、俺とドリィは一緒に戦っていたんだ」

 

「…ぇ」

 

「サーベルト!?お前、もう起きたのか!?」

 

「たった今な。いつまでも寝ているわけにはいかないさ。…ほっ、はっ。……ん。よし、骨も治ってるし神経系も問題なさそうだ。ありがとうございます、ライラスさん」

 

「あ、ああ……」

 

先程まで意識を失っていたはずのサーベルト様がもう立っておられました。…なんなら身体の調子を試すためかその場で跳躍なされて…時々、彼は実は人間ではないのではないかと思ってしまう時すらあります。こんな失礼なこと、サーベルト様には口が裂けても言えませんけど。…だって、こんなの人間業とは思えない…ですし…。

 

「そ、それより!サーベルト様!…あっ、それよりじゃなくて、まずはおはようございます、一時はどうなるかと思いましたが、元気なようで私も本当に嬉しいです!…ええと、それで…」

 

「焦らなくていい、キラ。分かってるさ。ちゃんと説明する…しかし、恥ずかしながら先の戦いで俺は力及ばず途中で敗北してしまって…ユリマの声が聞こえてきたところまでは意識があるんだが…そうだ!ユリマは!」

 

「ユリマさんならサーベルト様の後ろに…」

 

ユリマさんは私が治療したのち、落ち葉を集めて作った簡易な寝床に寝かせています。ドルマゲス様がいればこんな枯草からでも上質なベッドを作れるのに…

 

「うわっ、これユリマだったのか!?俺はてっきり自然発生した『ミイラ男』の屍かと…」

 

「…サーベルト様、流石にこんな状況で縁起でもないご冗談を言われるのは…」

 

「すまん、あいや別に冗談のつもりじゃあなかったんだが…いや、むしろ結果オーライか」

 

???私個人的には完璧な治療を施したつもりで……。少し、ほんの少しだけ包帯をきつく巻きすぎてしまったような気がしないでもないですが、ユリマさんの症状は主に火傷に骨折。包帯はあって困らないと思うのですけど…。

 

「俺は目覚める前から、意識の深層でキラたちの話を聞いていたんだ。」

 

「え、えぇ……?」

 

「いよいよ人間味が薄れてきたな」

 

「…ライラスさん?」

 

「なんでもない。続けろ。」

 

「…。ゴホン、さっきキラは勇者たちと話していただろう?いずれ解く誤解とはいえ、勇者と確執のあるユリマを今引き合わせるわけにはいかなかったんだ。…まあしかしここまで個人の判別のつかない状態ならバレはしなかっただろうな。」

 

確かに…。私は先ほど勇者様たちに暗黒神ラプソーンについてお話したのでおそらくドルマゲス様やユリマさんへの疑惑はやや薄れているかもしれませんが、話す前にユリマさんと出会っていたらもうひと悶着あったかもしれません。勇者様がユリマさんを連れて脱出するときに気が付かなかったのが幸い……。……いえ、髪も変色して顔も傷だらけで。それで正体がバレなかったといって、そんなのを幸いとは言えませんよね。

 

「ユリマはまだ起きなさそうか?」

 

「お前の起きるのが早すぎるだけだ、サーベルト」

 

「そうか、はは…ま、とりあえず……」

 

「?どちらへ?」

 

「勇者たちを次の賢者のところへ向かわせないとな。雪国の町『オークニス』。…そもそも、まだ俺とユリマの命を救ってもらった礼も言えていない。」

 

「…!」

 

 

 

サーベルト様は、もう、次を、見据えて。私は。

 

 

 

「…なぜ」

 

「?」

 

私はほとんど反射的にサーベルト様の服の裾を掴んで引き留めてしまいました。

 

「なぜ…サーベルト様はそんなに気丈でいられるのですか。ドルマゲス様が…行方不明なのに」

 

「…」

 

「私は………正直心細くて今にも消えてしまいそうです。こんな気分は生まれて初めてです。世界で一番強い道化師のドルマゲス様、世界で一番強い剣士のサーベルト様、あわやその二人を失いかけて……私にはもう、何を心の拠り所にすればいいのか…」

 

やはり、サーベルト様はその心根から私と徹底的に異なっているのでしょうか。私が弱いだけ…なのでしょうか。

 

「…キラ。」

 

「はい…」

 

「俺も、君と変わりはないさ。こう見えても俺はかなり落ち込んでいる。相手に勝てなかったこと、仲間を守れなかったこと。世界の危機というドリィの言葉がここへ来ていよいよ現実味を帯びてきて、しかし当の本人はいない。……こんなに心細いことがあるか?」

 

「…!だったら…」

 

「まずはドリィを信じること。俺が倒れた後のリブルアーチで何があったのかは未だ知らないが、俺はドリィが死ぬようなヘマはしないと思っている。ですよね?ライラスさん」

 

「…まあ。あの街から生きて戻る方法については皆目見当もつかんが、あいつはこんな道半ばで死ぬようなタマではないだろうな。」

 

「…そ、それなら私も…」

 

「ああ。それは俺たちなら誰にでもできる。俺たちがしなければならないのはその先のことだ」

 

「その先…」

 

「行動するんだ。あいつならどう動くか…ではなく、あいつなら俺たちにどう動いてほしいか。それを想像して、動く。俺はそれが最善だと思っている」

 

「…」

 

「俺はドリィじゃないから、彼が何を考えているのか分からない。だがそれは彼の為に動かない理由にはならない。一歩でも動かないと。それがドリィと近しい存在にある俺たちの責務じゃないかと俺は思うんだ。拠り所は変わらない。ドリィと…まあ、ドリィの信じる俺を信じてくれれば良いさ。」

 

「…でも」

 

「?」

 

「でも、私には何も…何もないのです。頭も、身体も、心も、何も秀でていないのです。私に為せることは何も…」

 

私が絞り出すようにそう告げると、サーベルト様はきょとんとした表情に、ライラス様は眉を顰められました。…何か、出しゃばったことを言ったでしょうか?

 

「いや…キラは良いだろう?頭」

 

「えっ」

 

「頭、というより要領が良い。物事の覚えも早いな」

 

「えっ。ですがライラス様には遠く…」

 

「たわけが。十数年生きただけのお前に並ばれるようなわしではないわ」

 

「あいたっ」

 

「俺にはセキュリティサービスの操作はさっぱりだ。戦闘の指揮もできない」

 

「えっ、あっ…」

 

「キラ」

 

「は…はい…?」

 

「君は自分が思っているよりもずっとすごいヤツなのさ。…『世界一の剣士』である俺が保証するよ」

 

「…今一度考えてみるんだな。自分に出来ることを。ドルマゲスがお前にどうしてほしいか。そうすれば自ずと答えは見えてくるはずだ」

 

「…!!!」

 

サーベルト様は『世界一』と自称する際に少し照れ臭そうに、ライラス様は対照的に終始真顔で。私の価値を認めてくださいました。正直、嬉しさよりも驚いています。お二方が私をそんなふうに評価してくださっていたなんて。

 

「…。」

 

私に、出来ること。こんな私でも出来ること。私だから……出来ること。

 

「さあ、キラ。()()()。君はこれから何を成す?」

 

「尊重しよう。あのバカ弟子ならばともかく、お前の提言する案ならわしは信頼できる。」

 

「…」

 

「わ、私は…」

 

目を閉じて。私の中に在るという美点について考えを巡らせる…要領の良さ、物事の覚えの良さ、セキュリティサービスの操作能力、指揮能力。

 

目を開けて。目の前の風景を、光景を、世界を見る…消え去った街、帰る場所を失い嘆く人々、行き場のない感情を燻らせている職人たち、こんな私に期待してくれる二人の男性、すうすうと寝息を立てる一人の女性。

 

…これでしょうか。私にできる…やらなければならないこと。ドルマゲス様が私にやってほしいこと。

 

「「私は?」」

 

大きく息を吸って。

 

「U.S.A.全従業員をあげて…ドルマゲス様を捜索します。それと並行してリブルアーチを再建します。」

 

「…ほう」「つまり?」

 

「U.S.A.の全権をドルマゲス様から私に委譲します。」

 

「随分と勝手じゃないか?」「全くだ。今からわしにお前の部下になれと?」

 

「はい。とんでもない越権行為です。ちなみにサーベルト様も今から私と個人的に雇用契約を結ばせていただきます。」

 

「大きく出たな、キラよ」「へぇ…。キミにとっては俺も駒の一つというわけだ」

 

「取締役であるドルマゲス様のいない今、指導者の椅子は空席…組織には先導する者が必要です。私がその席につきます。」

 

「はあ……俺はドリィの為に動けと言ったが、道化になれとまでは言ってないぞ?」

「やれやれ、(しお)れていると思っていたら、まだこんなバカげた計画を考えられる余裕があったとはな。見誤ったか」

 

「…やっぱり、ダメですか?」

 

……なんて。優しいお二方のこと、返ってくる言葉は十分承知しています。

 

「「いいや、面白い!!乗った!!!」」

 

「…うふふっ」

 

 

 

私は…救われてばかりですね。ユリマさんの強さに、サーベルト様とライラス様の優しさに、そしてドルマゲス様の輝きに。でも、私だってもう眺めているだけじゃダメなんです。貴方様がお帰りになるまでは、私が貴方様のお城を全身全霊で守りましょう。

 

ですのでドルマゲス様…きっと、帰ってきてくださいね。私が必ず見つけに行きますから。

 

 

 

 

 

 




キラたそのモノローグ難すぃ~こんな難しい話の途中で筆置くんじゃなかった~

サーベルトが意識の深層でキラたちの話を聞いていたというのは『ドラゴンボール』シリーズでフリーザ編の悟空や生残者グラノラ編のグラノラがやっていたようなものを意識してます。サーベルトは最初から馬姫を担ぐくらいの馬鹿力なのでほぼサイヤ人みたいなもんです。

ちなみに勇者たちがリブルアーチから脱出する際に使った呪文は『ルーラ』ではなく『リレミト』です。そのうちもう少し詳しく解説する予定です。

次話…絶対書くので、そこは安心してください。私はエタりません!!!


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新・第七章 ドルマゲス捜索編 其の弐

でもただのスランプじゃねぇぞ…何度でも意志の弱さで筆を置き、停滞する

ド級のスランプ ドスランプだ!!!



「…はッ!?そ、それじゃあまさか、ドルマゲスさん、本当は『ド級のルマゲス』で『ドルマゲス』だったんですか…!?…うぅ、不肖ユリマ、こんなことにも気がつかないなんて…正妻失格です(アンケート結果参照)」

「ルマゲスって何ですか?」

「驚いた、ドリィは『ド級のリィ』だったわけか。…俺もまだまだだ、アルバート家の跡取りとして恥ずかしいな」

「何言ってんですか?貴方それ同じことお母様の前で言えます???」

「ルマゲス…様…?これからはそうお呼びした方がよろしいのでしょうか…?」

「いいんですよ呼ばなくて。キラさんは本当に素直でいい子ですねぇ」

「流石のわしも知らなんだ。お前がかの『ルマゲス』だったとは…これは一本取られたな」

「そんな一本要りませんよぅ。師匠までノると収集つかなくなるんで、いやホント」



「『ド級のルマゲス』…か。…ククク、道理で『あの』時『ああ』なったわけだ…漸く合点がいったわ…」

「は?お前は帰れよ。調子乗って適当なこと言ってんじゃねぇ帰れよ」「スマヌ」




が、頑張るぞ!








おはよう。リーザス村の領主の息子…今は一人の剣士としてドリィ達に付き、世界を破滅から護るための旅をしているサーベルト・アルバートだ。…キラにはああして強がりを言ったが、やはり俺だって不安だし、心細い。もちろんドリィが死んだとは思っていないが…いつでも自信たっぷりなあの顔を見ないとやはりどうにも落ち着かない。

 

とはいえ、だ。俺は俺に出来ることをやるだけさ。それしかないんだ。

 

 

 

 

「オークニスに…ですか?」

 

「ああ。そこに賢者はいる。きっとだ。」

 

俺はキラの決意を確認した後、ゼシカたち──といっても本人は寝ているが──に行き先を伝えた。俺は基本的に人を騙すのが不得手だし、仮に得意だとしてそれを良しとはしない。しかしそんな俺と比べ、ドリィは実に巧く嘘をつく。そして奇妙なことに大抵それで凡その物事は上手くいき、皆が満足する結果になるのだから本当に凄い。

 

『誠実な人は嘘をつけませんが、嘘をつける人が必ずしも不実だとは私は思いません。サーベルト、方便と呼んでください?合理的虚偽です、ごーりてききょぎ。』

 

以前、嘘で人を操ろうとしていたドリィを俺が諫めようとした際、彼はそう言った。…まあ屁理屈には違いないのだが、その一方で納得できるところもあったのは事実だ。ドリィは人を動かすためによく嘘をつくが、自己保身のための嘘は俺の知る限り一度もない。そもそも俺やゼシカを何度も助けてくれたドリィが不実なわけがないしな。

 

…話が逸れたが、話術も優れているキラの説明ならともかく、嘘をつけない俺が勇者たちと相対するのは少なからずリスクの伴う行為だと思う。だが、俺からの言葉であれば勇者たちは信用してくれる、とドリィが言うのであれば致し方あるまい。

 

『ゼシカさんを説得するのであればサーベルトの言葉以上に有効なものは無いでしょう。嘘をつけなくとも、真実でゴリ押せば万事意外と何とかなるものです。結局モノを言うのは勢いですからね。』

 

『…』

 

『な、なぁんですかサーベルト!その限界まで薄めた目は!』

 

『…』

 

…うーん、まあ不安が無いと言えばウソになるかもしれないが。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それは本当…なのか?」

 

「妹の前で嘘はつかない。本当だ。」

 

「…理由は。理由はそれだけってことは無さそうだが?……ああいや、気を悪くしないでくれ。オレたちは何も助けてくれたアンタのことを疑いたいワケじゃあないんだ。ただ、あー、少し──」

 

「「アンタの提案はオレたちに都合が良すぎる」…か?」「!」

 

銀髪の勇者の言い分はよく分かる。冒険者である彼らは──いや、自由の象徴たる冒険者だからこそか?『敷かれたレール』、もとい『これ見よがしに置かれた宝箱』には人一倍敏感…ということだろう。リブルアーチが襲われ、自分たちが窮地に陥った瞬間に俺が助けに来る。そして命を救われ、さらに次の行き先まで指示される。…なるほど、こうも都合のいい展開が連鎖すれば俺でも少々訝しむものだ。だが、打算こそあれど俺に彼らを害する気などは毛頭ない。その上で疑いの目を向けられる。説明したくとも、できない。もどかしい──

 

「…。」

 

ドリィはいつもこんな辛さを抱えながら動いてくれていたんだな。俺たちの為に。

 

「…サーベルトさん?」

 

「…おっと、失礼した。まだ病み上がりなものでな」

 

「病み上がりというか、オレが見た時は死体どころか肉塊と見間違いそうな惨状だったんだが…」

 

「…。」

 

人を死体だ肉塊だなどと失礼な男だ。…まさかゼシカは彼に気があるんじゃないだろうな?ゼシカはあれでいて面食いだからな、この男の面の良さに惑わされている可能性もある。

 

少々、いやかなり気になるところだが…俺は咳払いを一つして続ける。

 

「都合がいい…と言えばそうだろう。しかし生憎俺は証拠になるようなものは何も持ち合わせていなくてな。…とにかく、今はただ、北へ。それが君たちにとっても、俺たちにとっても最善なんだ。」

 

「ちょ、待ってくだせぇ、サーベルトの兄ちゃん!さっき聞いたキラのはなし──」

 

「悪いな。俺も分からないことばかりなんだ。…もう行かなくては。ゼシカをよろしく頼む。起きたら心配していたと伝えてくれ。…信じてくれなくてもいい。ただ、俺は君たちのことを信じているよ。じゃあ。」

 

バンダナの勇者はなおも俺に詰め寄ろうとする大柄な勇者を引き留めた。ヤンガスと呼ばれた男はもう少し俺に聞きたいことがあったようだが、いくつかの問答の末に勇者たちは馬車へ戻っていく。馬車が北へ向かって走り出すのを見届けた俺はキラたちの元へ戻ることにした。ふぅ、これ以上はボロが出そうだったので助かった。…全く、尋問なんてするのもされるのも得意じゃないんだ。

 

「またな、ゼシカ。」

 

「…。」

 

どうしてもゼシカのことが気になってしまう俺は、やっぱり馬車が木々に隠れて見えなくなるまで見送ることにした。

 

 

「ん。サーベルト、帰ったか。」

 

「はい、只今。…ライラスさん、やはり俺にこういうのは向いていないようです。」

 

先程までの問答を思い出すだけで顔から火が出るほど恥ずかしい。自分でも分かるほど苦しい言い分だ。指示だけを飛ばし、こちらの情報は何も開示しなかった挙句、最後には逃げるようにして話を打ち切ってしまった。ドリィかキラが見ていたら頭を抱えるほど情けない働きだったろう。ゼシカだけは俺の意志を汲んでくれるはずだから、勇者たちが今の言葉を過不足なくゼシカに伝えてくれることを祈るしかない。

 

「お前はくそ真面目だからな。…しかしお前も村の次期領主ならば、腹事だの駆け引きだのの技術経験は必要ではないのか?」

 

「う。耳が痛いですね…」

 

背を向けたままのライラスさんはユリマの治療を続けている。平静を装っているが、精密な治療には莫大な魔力と集中力が必要だということは彼の首筋に流れる汗が物語る。邪魔をするわけにはいかない。キラの所へ…

 

「キラはこのテントの裏に人を集めて演説をするつもりらしい。お前も暇ならその生まれの権力を振りかざして力添えしてやるんだな。…後、くれぐれも(やかま)しくするんじゃないぞ」

 

「!は、はい!ありがとうございます!」

 

敵わないなぁ…ライラスさんには俺の思考なぞ丸々お見通しのようだ。『賢者の末裔』という同じ肩書を持つ俺たちではあるが、人生経験や実力を鑑みると俺と彼をひとくくりにされることには少し気後れしてしまう。

 

終ぞ俺には目もくれなかったライラスさんと眠っているユリマを残して俺はテントを後にした。()()ドリィの代わりを()()キラが務めると言うのだ。微力ながら俺にも手伝わせてほしい。

 

「キラ」

 

「サーベルト様、お帰りなさいませ。勇者様たちはいずこへ?」

 

「ああ、(多分)無事に送り出せたよ。このままオークニスで賢者と出会ってくれるといいんだが…」

 

「そうなのですね!ありがとうございます!」

 

「…彼らは」

 

「はい、リブルアーチ住民の方々です。『賢者の末裔』チェルス様以外の死亡者、行方不明者は確認されませんでした。」

 

「そうか…」

 

テントの裏には既に住人たちが集まっていた。そこまでの大人数ではないとはいえ、数十人が集まってこの静けさというのは異常だ。見ると、どの住人も心ここにあらずというか、放心しつつも暗い表情をしている。恐らくは怒りや悲しみといった感情のステージを通り過ぎ、今はただただ絶望に襲われている、といったところだろうか。今ここにいるのも何かを訴えたり聞きに来ているわけでなく、ただ本当に「呼ばれたので集まってきた」程度のようだ。そんな皆の顔を見ていると俺まで胸の奥が締め付けられる思いになる。…もし、もしもリーザスの村が跡形もなく消えてしまったら俺はどうなってしまうのだろうか?……考えたくもない。

 

「何か…俺に手伝えることはあるか?」

 

「…そう、ですねぇ…。あ、では!私が危なくなったら助けていただいて…!」

 

いい案を思いついた!という風に手を叩くキラだが…それは俺が頼まないと助けてくれない薄情な人間だと思われているということだろうか…?だとしたら心外だな。

 

「…!」

 

「…。」

 

「キラ。…もし辛ければ、俺が代わろうか」

 

「ありがとうございます、サーベルト様。…でも、私にやらせてください。私がやらなくてはならないのです」

 

「…。そうか、なら頑張ってくれ。応援してるからな」

 

手も足も小刻みに震えているキラを見かねて俺は交代を提案したが…流石、自分がドリィの代わりになると言い張っただけのことはある。…この様子なら他に所用もなさそうなので、俺は黙って頷き一歩下がった。それと入れ替わり、キラが壇上に立つ。キラの両側から光が(ほとばし)り、彼女を照らす。

 

「(『レミーラ』の魔法玉か)」

 

魔法玉は俺がドリィと旅に出るきっかけの一つにもなったマジックアイテム。使用されているのを見るのは久しい。

 

「お集りの皆様、本日は思いもかけないことで、誠に残念でなりません──」

 

そして今度は拡声器。こっちの原理は…なんだったか忘れてしまったな。

 

「──そんな前置きは、皆様の聞きたいものではありませんよね。失礼致しました。」

 

「?」

 

そんな俺の心のぼやきも、キラの演説が始まるとどこかへ行ってしまった。

 

「申し遅れました、私はアスカンタ王国のキラと申します。これより皆様の欲す情報を今からお伝え致します」

 

絶望に伏している住民のうちの幾人かはその虚ろな目を壇上のキラに向ける。

 

「本日この平和な街で、世界を揺るがす大きな戦いが巻き起こりました」

 

「首魁はかの暗黒神ラプソーン。…御伽噺だと笑いますか?ではどうぞ、あの海原に沈んだ美しい街の前でお笑いになってください。止めはしません。」

 

「─!」

 

にわかには信じがたくとも、誰も笑わない、笑えない。それはそうだ。神の仕業でなくして、一体誰が街を一つ消し飛ばせようか。

 

「悪辣な暗黒神の手によって芸術の街リブルアーチは消滅しました。夢幻(ゆめまぼろし)の類ではありません。救いようもない真っ黒な現実です。ここにあった皆様の住処、思い出、そしてその結末…。心中お察し申し上げます。」

 

「…しかし私が心から喜ばしく思うのは皆様の内に命を落とした方も、行方知れずとなってしまった方もおられないということです。…たった一人を除いて…」

 

住民の内の何人か──『(チェルス)』のことを知る者だろう──はまた目を伏せる。

 

「おっ、お前に何が──」

 

「そして私もまたこの戦いで大事な人を見失いました」

 

「!?」「…っ」

 

お前に何が分かるんだ、と手を振り上げ飛ばされかけた野次は寸前で止む。俺ですら思わず息を呑むほどの気迫、圧力。絶妙な間の取り方、相手の精神に直接響く言葉選び、台詞の抑揚。『(うま)い』。俺は改めて感心してしまった。これがキラの…

 

「大事な人、大切な仲間、大好きな人…彼は暗黒神との戦いに臨み、そして相討つ形で暗黒神を撃退しました。彼は…彼は間違いなく完全に完璧に行動しました。もし彼がいなければ私や私の仲間の命はおろか、住民の皆様の安全は全く保障できないものになっていたことでしょう。」

 

…人はどんなに絶望的な状況に陥ったとしても、それより更に悪い状況を想起することで幾分か気持ちを楽に保つことができる。それはドリィもこれまで幾度となく採ってきた手法だ。

 

「彼の名は『ドルマゲス』。この名に聞き覚えのある方はいらっしゃいませんか。私たちの命を繋ぎ留めた英雄の名を…」

 

初めて聞く英雄の名にどよめくリブルアーチの住民たち。その中でずいと前に出る男が二人。

 

「…ああ、知っているとも。わしはあの男に…ドルマゲスにどれほどの感謝と謝罪を捧げればよいのか…」

 

「…待てよお嬢ちゃん。ドルマゲスってぇのはあの胡散臭い道化師の若造のこと…なのか?」

 

「町長!」「ハワード様…」「おやじ!?」「ライドンさん…知ってんのか?」

 

言わずと知れた大呪術師、リブルアーチの町長ハワード。ユリマ曰く『生理的に受け付けない男の人』らしいが、それでもこの街を統括する町長、人望は薄くはあれどゼロではないはずだ。

 

そしてライドンさんと呼ばれた御仁…ドリィが言っていた。リーザス様譲りの驚異的な彫刻の才の持ち主、俺の()()()()…ハワード氏よりも周囲の反応が大きかったあたり、どうやら人望はかなりのものらしい。

 

「貴方はクランバートル家のライドン様…ですね。ええ、確かに。貴方は彼とどういった関係なのでしょう?」

 

「…あいつは面白ぇやつだったさ。自分のとこの建物を俺に見てくれと、最高の場所にしたいんだと、目をガキみてぇにキラキラさせて言いやがる。…よく知った仲ってわけじゃあねぇが…そうか…。」

 

「あの頑固なライドンさんがああまで言うなんて…」「あ、あんなしおらしいハワード町長を見るのは初めてじゃ…」

 

気がつけば絶望一色だったリブルアーチの住民たちはドリィという「知られざる英雄(ミスターアンノウン)」を悼み始めていた。確かに自分たちは住処と財産をすべて失った。しかし『ドルマゲス』なる男がいなければ状況は更に悪くなっていたという。自分たちは『救われた』のだという。そして良くも悪くもこの街で最も有名な二人の男がそれを承認している。それが疑惑を確信へと変え、今この瞬間を以て俺たちと彼らの立場は逆転した。俺たちが「憐れまれる側」になったのだ。

 

これも全て狙ったことなのだろうか、と俺はキラの方を見た──

 

「うわっ」

 

「なっ、い、いかがされましたかサーベルト様…!?」

 

「や、なんでも…続けてくれ」

 

「は、はあ…?」

 

キラは笑っていた。…いや、なんと言うのだろうか。笑い方がドリィとちょっと…ほんのちょっとだけ似ていた。あの…どう見ても悪人にしか見えないあの…あー、強烈な?笑みだ。…どうやら計算通りらしい。話術、人心掌握についてはドリィに勝るとも劣らないとんでもないスキルだが、似なくても良いところまで似てしまっている…

 

「皆様…私は彼の恩に報いたいと思います。姿を消してしまった彼に…。皆様はどうでしょうか」

 

その実キラは一度もドリィを「死んだ」とは言っていない。演説で忌み言葉は使わない、というのが道理なのはそうだが、何だかそれすらも打算のような気がしてくる。実際リブルアーチの住民たちはもう既に『ドルマゲス』を死んだものとして演説に耳を傾けているわけだしな。

 

「お、オレ!そんな立派な人に救われたんなら!なにかしたい!」「私だって!」「しかしどうやって…?」「わしのような老人にもできることはあるかの…?」

 

「だ、だがよ!そのドルマゲスって人でも暗黒神ってやつには敵わなかったんだろ?」「悔しいが俺たちにゃ何も…」「そんな!薄情よ!」「無いじゃないか!金も!家も!」

 

「命を救ってくれた英雄だぞ!俺らが命賭けねぇでどうするってんだぃ!」「あんたァ、気持ちはわかるけどね…」「あたしたちだって助けになりたいのは山々さ。でも…」

 

「何か、僕らに出来ることは無いのかな…」「…」

 

若き彫刻家の呟きの後、住民たちは静寂に包まれる。俺はキラの方を見たが、キラも静観を決め込んでいるようだ。よし!なら今こそアルバートの嫡男としての俺の権限を…

 

「…あるぜ、坊主。わしらに出来ることがな。」「「!?」」

 

「ら、ライドンさん?それって一体…」

 

「おいお嬢ちゃん、お嬢ちゃんもドルマゲスと同じ…あー、『ゆーえす』…ナントカの人間なのか?」

 

「はい。仰る通り、私たちは南の大陸、アスカンタ王国に属する自治組織『U.S.A.』のメンバーです。」

 

「だったらお嬢ちゃん、ドルマゲスとの契約を履行させてもらおうか。ただし契約内容は一部変更、『ゆーえすえー』代表は()()()()()()()()()()()、契約者は()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

「おやじ、それってどういう…?」

 

「おめぇらは知る由も無ぇだろうがよ、わしはドルマゲスと契約を結んでいたんだ。『ゆーえすえー』から資材を提供してもらってわしの『ライドンの塔』を完成させる。そしたら今度はわしが『ゆーえすえー』の改築を請け負うって算段だったんだ。」

 

「な、なるほど…?」「ライドンさん、まだあの塔造ってたのか…」

 

「では…」

 

「ああ、わしの塔なんざ後回しだ。誠心誠意、全力でドルマゲスの住処を()()()()()の場所にしてやろうじゃねぇか。それがわしらにも出来る命の恩人への弔いってもんよ。なあおめぇら!!」

 

発破をかけたライドンに一拍遅れて野太い声がこだまする。もうそこには絶望に暮れる住民たちはいなかった。男も女も、子どもも老人も、皆の心が『知られざる英雄に報いたい』という気持ちで一致していた。その様子を見てキラはニコニコといつもと変わらない笑顔で見守っていた。…さっきの恐ろしい笑顔は見間違いだったのか?

 

その後、喧しいとライラスさんから雷(高等雷呪文(ギガデイン))が落とされるまで喊声(かんせい)は続いた。

 

 

その後、俺は全会一致でU.S.A.への移住を決定した住民たちにとりあえずU.S.A.についての簡単な説明(魔物と生活スペースを同じくすることの旨、特に安全性については再三強調した)を行い、テントに戻ってきた。遅れてキラもテントに戻ってくる。

 

「…やあキラ、凄かったじゃないか、演説。俺にはまるで出る幕が──」

 

「………」

 

「キラ?」

 

「ふ、ふえぇ~…こ、怖かったですぅ……」

 

弱弱しい声を絞り出したかと思うと風船の空気が抜けるようにして倒れこむキラを、俺は慌てて近くに合った簡易ベッドを引っ掴み、滑り込ませて受け止めた。

 

「キラ…」

 

「サーベルト様…私、しっかりやれていたでしょうか…?ドルマゲス様のように」

 

今のキラは俺とドリィがアスカンタ王国で初めて出会ったころの彼女を想起させる、小動物のような…いや、手足を縮め、繭にくるまるようにして震えている様は小動物そのものだった。

 

「ああ。完璧だった。…ちょっと完璧すぎるくらい、ドリィに似ていたよ」

 

キラの顔立ちでアレをやられるとインパクトが凄いのでできれば笑顔の方は真似しないで欲しい、という言葉は飲み込んだ。今の状況を見る限り、彼女もきっと必死だったのだろう。

 

「本当、ですか…よ、よかったぁ…っ」

 

「ああ、ずっとドリィと一緒にいる俺が言うんだから間違いはないさ。ですよね?ライラスさん」

 

「うむ。わしが静かにやれというのに言うことを聞かずに大きな声で騒ぎ立てるところもよく似ている」

 

「もっ、申し訳ありませ──」「とはいえ、内容に関しては文句はない。文句の一つも出せないのが腹立たしいところはあのバカ弟子そっくりだ。」

 

「ライラス様、それは…」

 

「…無論、誉め言葉だ。キラ、よくやった。お前はリブルアーチ住民の心を救ったのだ。これは…ああ、偏屈で口下手なわしには叶わぬことだ。」

 

「う、ありがとござ、うぅぅ~」

 

感極まったキラはさめざめと泣き始めてしまった。俺より一回りも二回りも年の離れたキラがこんな立派な演説をしたんだ。俺が領主の座を継ぐ際にはもっと素晴らしい演説をしなくちゃならないな。

 

「よしよし。…しかし本当に心を揺さぶられるような、どこか恐ろしさすら孕んだ演説だったよ。まるでドリィが帰ってきたかのような────」

 

その瞬間、奥のベッドががさりと音を立てたかと思うと…

 

「ドルマゲスさんっがぁ!!帰ってきたんですかぁっ!!??」

 

「うおっ!」「はぁ…」「ウワーッ!?」

 

「ユリマ…」

 

東洋のグール(キョンシー)のように跳ね起きた全身包帯巻のユリマは口元の包帯を引きちぎって叫んだ。あまりに突然のことで、もともと精神的に摩耗していたキラは衝撃でそのまま気絶してしまったようだ。

 

「お兄さん、ドルマゲスさんは!?…んああもう、邪…魔ッ!包帯ッ!見えっないっですっ!」

 

「はあぁ…どいつもこいつも、なぜこんなに意識の回復が早いんだ、怪物どもめ…」

 

眉間に手を当てるライラスさんの前をそっと横切り、俺は包帯を引き千切ろうと躍起になっているユリマの肩に手を置いた(一瞬で払いのけられた)。

 

「まずはおはよう、ユリマ。…それで、ドリィはまだ…」

 

「…そう、ですか。…。そう、なんですね…。」

 

「…」

 

「…」

 

「…。でも、ドリィは生きているさ。そうだろう?」

 

「!…っあ、当たり前ですよ!ドルマゲスさんがあんなドブカスに負けるわけありません!」

 

「ゆ、ユリマ。控えて」

 

「…?あっ、すみません。はしたなかったですね」

 

「…ゴホン、ドリィのことはもちろんだが、君も無事で良かった、ユリマ。…さあ、一緒にドリィを探しに行こう。」

 

「お兄さんこそ、あんなグズグズになって死んじゃったかと思ってたので、生きてて安心しましたよ。お兄さんは…ドルマゲスさんの大事なお友達なんですから、しっかりしててくださいね!」

 

差し出された俺の手の人差し指と…中指も控えめに握ってユリマは浅く微笑んだ。

 

どうだ、ドリィ。君がいなくたって俺たちはなんとか大丈夫だ。だから、安心して待っていてくれ。俺が、俺たちがきっと君を探し出してみせる。

 

 

 

 

 




「もう!キラちゃんったらこんな大事な時に寝てるなんて!だらしないですね!」

「ユリマ」

「起きてくださ~い、起きろ~」ペチペチ

「う、う~ん…」

「ユリマ、やめたげて」


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Chapter31 雪山地方 ①

久々に話を投稿するとお気に入り登録数が目に見えて減っていくのは、更新通知が来たときに「そういえばこんなのあったな。でもまあ…もういいか」となる、ということなのでしょうか。日に日に目減りしていく数値を見ると、仕方ないとはいえど自分の未熟さを思い知らされます。

100話も近い今、この小説は最早自己満足で終わらせてはいけない!と私は勝手に思っている(自己満足)ので、面白いところも面白くないところもどんどん言って頂けると嬉しいです!(感想欲求モンスター)



ところで原作(PS2版)ゼシカってエイトに気はあったのでしょうか?リーザスでのオリジナルエピソードが挿入されたリメイク版では言うまでもないですが…私が当時DQⅧをプレイしていた時は勝手にククールとくっつくもんだと思ってました。








ゼシカの兄、サーベルトの導きで雪山地方の寄合所『オークニス』を目指す一行。ゼシカを取り戻すため呪われた彼女との激戦に臨み、辛勝した彼らだが、心の内はこの空のように薄曇りを残す。あのエイトたちをしてまるで敵わないと思わせたサーベルトを、完膚なきまで叩きのめした漆黒の魔物、崩壊したリブルアーチ、キラの口より語られた『秘宝の杖』の正体…。考えるべきことがさらに増えてしまった一行は今はただ北に向かって歩くのだった。

 

 

「…暗黒神ラプソーン、か…。」

 

「…おっさん、その呟きももう何度目でがすか。そろそろ聞き飽きたでがすよ」

 

「うるさいわい!その先の情報を何も知らないのでは仕方ないじゃろうが!」

 

「…」

 

「…」

 

「か、カリカリして悪かったでがすよ」

 

「わ、わしこそ大声を出してすまなかったわい」

 

「…」

 

「…」

 

「あー、リブルアーチの人たちはこれからどうするんでがすかね?」

 

「うーむ、あのままキラに率いられてアスカンタ王国にでも移住するのではないか?」

 

「そうかもしれないでがすな。」

 

「…」

 

「…」

 

ヤンガスとトロデが衝突した時、普段ならククールが揶揄って有耶無耶になるか、エイトが諫めて双方矛を収めるかのどちらかになるのだが、今回はその二人がずっとぼそぼそと喋っているのでなんとも気まずい。にぎやかな紅一点のゼシカも馬車で眠っているのでは話に花も咲かないというものだ。こんなに静かなパーティーはエイト・トロデ・ミーティアの三人(?)でトラペッタを目指していた時以来である。ヤンガスは冷えた空気に身震いした。

 

「ねえ、ククール」

 

「なんだ?」

 

「…」

 

「なんだよ?」

 

「さっきの、ええと、キラさん?の話だけど」

 

「ああ。それがどうかしたか?」

 

「どこまでが本当だと思う?」

 

「…へぇ」

 

「ど、どうかした?」

 

「いや、うん。驚いたな。…人の良いお前のことだ、まるっきり信じてるものだと思ってた。」

 

「僕だって能天気なところはあるかもしれないけど、バカじゃないつもりだよ。彼女の話をすべて信じるには証拠に欠ける。かといって全てを嘘と断じられもしない。」

 

「オレと同じ意見だな。要所要所に嘘…というよりかは『ゴマカシ』があるように思えた。(やっこ)さん、どうにかしてオレたちをこのクソ寒い雪山に行かせたかったらしい。」

 

「となると僕たちを雪山に誘導したサーベルトさんのことも気になるんだけど…」

 

「要は果たして本物の『サーベルト・アルバート』なのか?ってことだろ。ゼシカ曰く死体は火葬までしたらしいしな。」

 

「あのサーベルトさんが偽物だとすると、彼らの目的は…?そもそもドルマゲスと彼らは本当に繋がっているのか?暗黒神ラプソーンとの関係は?…うーん」

 

わからない!と頭を抱えるエイトと肩を竦めてオレもお手上げだ、と薄く笑うククール。気がつけばちらほらと空からは雪が舞い降りてくるのが見え、大地はその様相を次第に白く染めていく。

 

「おお、コイツが雪でがすね。実物を見るのは久々でがすな」

 

「洞窟を抜ければそこはなんとやら…というやつか。しかし何という寒さじゃ…ミーティアや、歩くのが辛くはないかい」

 

ミーティアは平気だと首を振った。寒さに対する耐性も馬のそれと同程度まで引き上げられたのは不幸中の幸いといったところだろうか。

 

「こう寒いとわしも馬車に潜りたくなるわい…そうじゃ、ゼシカはまだ起きんのか?」

 

「…まだ寝てるみたいだね。傷はとっくに癒えてるはずなんだけど…」

 

「ククール、前みたくキスするふりをして起こすでがすよ」

 

「イヤだね。あんな痛い思いはもう勘弁。第一、キスしても目覚めなかったらどうすんだ?あとでゼシカにブチギレられたときにヤンガス、お前のせいにしてもいいってんなら話は別だが。」

 

「あー…いや、それは…」

 

ククールは闇の遺跡でゼシカにぶん殴られた頬をさする。痛みは消えても、痛みの記憶は消えないものなのだ。

 

「…んぅ…」

 

「あ!起きた!みんな、ゼシカが起きたよ!」「本当か!」「やれやれ、心配かけさせやがって」

 

半日以上昏々(こんこん)と眠り続けていたゼシカが遂に目を覚ましたため、トロデは風を遮れる適当な場所に馬車を停めた。

 

「…。」

 

「おはよう、ゼシカ。調子はどう?」

 

「…おはよ。……みんな、あの…その…ごめんなさい。色々。」

 

ゆっくり起き上がったゼシカは、軽く佇まいを直すとエイトたちに頭を下げ、謝罪の言葉を述べた。睡眠の深さからも伺えるが、よほど疲労が蓄積していたのだろう。今のゼシカにいつもの快活さは毛ほども見られない。

 

「…。まあとりあえずはい、これ。サンドイッチ。お腹空いてるんじゃない?スープは今から温めるから待ってて。」

 

「ありがと。お腹ペコペコだったから…すごくうれしい」

 

「…覚えてんのか?自分が操られてた時のこと」

 

「…全部覚えてるわけじゃないの。なんだかずいぶん長い夢を見てたような…でも、みんなに酷いことしたのはなんとなく…本当にごめんなさい」

 

「…確かにあの時のゼシカにゃ手痛いダメージを負わされやしたが、それがアンタの意志じゃないってことはちゃんとわかってるでがすよ。気にしなくていいでがす」

 

「ふむ…。どうやら正気を取り戻しておるようじゃな。一応、確認しておくぞ。わしらは闇の遺跡で『魔王』を追い詰め、その翌日にお前さんが姿を消した。そうじゃな?」

 

「ええ。覚えてるわ。私、禍々しい魔のチカラに完全に身も心も支配されてた…。…そう、『魔王(かのじょ)』と同じように。」

 

「…!」

 

ゼシカの言葉にエイトたちの脳内にある仮説が浮かび上がる。しかし思うところは同じ、エイトはヤンガスとククールを目で制すると、ひとまずゼシカの言葉を最後まで聞くことにした。

 

「私を支配した強大な魔のチカラの持ち主の名前は…」

 

「…」

 

「暗黒神ラプソーン…じゃな?」「!」「ふふん」

 

「(おっさんはほんと…)」「(言わせてやれよ…)」

 

どこか自慢げにそう言い放つトロデに対し、今まさにその名を出そうとしたゼシカは口をもごもごとさせる。

 

「え、ええ、そうよ。でも、一体どうして?」

 

「これで繋がったな…のう、エイト?」

 

「そうですね、王様。…ゼシカ、他にも何かわかったことはある?思い出してからでいいんだけど」

 

「そ、そうよ。私はラプソーンに操られた…だけどそのおかげで色んな事がわかったわ。聞いて。話したいことがたくさんあるの。」

 

「まあ、焦らんでよいわい。順を追ってゆっくり話すんじゃ。」

 

「うん…」

 

「じゃあエイト、ここいらで野営でもするか。向こうの空を見てみろ、とんでもない吹雪だ。まだ比較的気温も高くて風も弱い…そうだな、そこの窪みで休憩にしようぜ」

 

「そうだね、ゼシカもまだ起きたばかりだし。ヤンガス、王様、それでも大丈夫でしょうか?」

 

トロデとヤンガスの同意も得、一行は野営の準備に取り掛かった。ヤンガスの勧めでゼシカはもうひと眠りすることにした。

 

 

パチパチと弾ける焚き火を囲み、ゼシカは野菜スープを一口すする。

 

「(美味しい。それにいい温度…)」

 

熱い食べ物が好みなゼシカは、湯気立ち上るスープを思わずもう一口すすった。

 

「ごめんねエイト。さっきスープ温めてくれたのに、私またすぐ寝ちゃって…」

 

エイトは気にしてないよ、と笑った。ゼシカははにかんだような、屈託のないエイトのその笑顔に兄の面影を見た──ような気がした。

 

「(…?)」

 

「ま、そんだけ疲れが残ってたってことだよな。少しは楽になったか?」

 

「うん、ずいぶん楽になったわ。……じゃ、続きを話すわね」

 

「確かゼシカが操られてた時に得た情報…でがしたね」

 

エイトが全員にスープを配り、手ごろな岩に腰かけたのを確認するとゼシカは知り得たことを話し始めた。

 

「…私の心にラプソーンはこう命令したわ。世界に散った七賢者の末裔を殺し、我が封印を解けって。」

 

「七賢者…」

 

「七賢者っていうのは、かつて地上を荒らしたラプソーンの魂を封印した存在らしいの。賢者たちはラプソーンを完全には滅ぼせなかったけど、その魂を杖に閉じ込めて自分たちの血で封印したのね。暗黒神ラプソーンの呪いがその七賢者を狙っていて…マスター・ライラスとサーベルト兄さん…二人は七賢者の末裔だったのよ」

 

「…。待てよ、それじゃあベルガラックのオーナーも…」

 

「…そうね、きっと彼も賢者の末裔なのよ。」

 

「うーむ、ややこしい話じゃが、おおよそキラの話と一致しておるな。つまりわしとミーティアが人間に戻れなかったのはその暗黒神と関係があるということか。仮にドルマゲスに追いついて倒したとしてもきっと呪いは解けなかったのじゃろうな」

 

「それはわからないけど────って!その話、知ってたの!?おっとと!…ふぅ。キラって…えーっと、どちら様…?」

 

自分が精神と肉体を支配されてまで持ち帰ってきた情報を、既にトロデたちが知っていたことにゼシカは驚きを隠せない。思わずスープをこぼしそうになり慌ててバランスを取った。そのままぐいとスープを飲む。二回も温めなおしてもらったスープをひっくり返しては申し訳が立たない。

 

「オレたちがアスカンタ王国に訪れた時に『月影のハープ』をくれた女さ。あのバカでかいキラーパンサーを乗り回してた。覚えてないか?」

 

「あ、あ~。あの子ね。だけどどうして彼女が…」

 

「それはわからない。わからないんだ。でもゼシカ、君が実際にそう言ってくれたから確信が持てるよ。暗黒神ラプソーンの存在、呪い、七賢者。…七賢者はあと何人いるの?」

 

「ええと、あと5人よ。ベルガラックの町長と、私が狙ったチェルスと…他にもう3人。」

 

「…。」

 

ゼシカが指折り賢者を数えると、エイトたちは気まずそうに俯いた。

 

「?ど、どうしたの?」

 

「ゼシカよ、チェルスは…死んでしまったのじゃ。」

 

「!!!」

 

ゼシカは今度こそスープの椀を取り落としてしまった。顔を青くし、両手で口を押さえる。

 

「そ、んな…私…」

 

「…あまり、気に病むでない。お前さんが殺したわけではないのじゃ。」

 

「じゃ、じゃあ誰が…」

 

「キラ…彼女の言葉を信用するのならば、ラプソーンの配下の魔物がチェルスを亡き者にしたという。そのままその魔物はドルマゲスとサーベルトを打倒し、どこかへ去っていったというが…」

 

「オレたちが駆け付けた時には…ドルマゲスなんざいなかったよな、エイト」

 

「そうだね。」

 

「え?待って!?ドルマゲスさんがいたの?来てたの?え、いなかったの!?ど、どういうこと!?それに兄さんが!?あ!そうだ兄さんが私を助けてくれて…!でもあれは夢?でも兄さんはいて、でも兄さんはもう死んじゃってたはずで………アレ!?!?!?」

 

「ゼシカ?」

 

「………。」

 

自分が殺人を犯したのではないかという恐怖、そうではなかったという安堵、しかし兄と同じ暗黒神による被害者がまた出てしまったという悲しみ、その兄がリブルアーチにいたという驚き、さらにその場に恩人であり仇敵であるドルマゲス、つまりディムがいたとかいないとか…

 

あらゆる衝撃が一気に押し寄せてきたゼシカは思考を停止し、一切の動きを止めてフリーズしてしまった。そのショートした頭からはうっすらと湯気が立ち上る。

 

「ゼシカー?おーい?」

 

「………。」

 

「あー…まずったでがすなあ。」

 

「一気にいろいろ言い過ぎたね…反省」

 

「うむ…」

 

特にゼシカのドルマゲスに対する倒錯した感情をリーザスの村で本人から直接聞かされているエイト・トロデ・ヤンガスは渋い顔をした。これだけの情報を処理するにはゼシカの精神は若すぎたのだ。

 

「…まあ、今度は寝たわけでもなし、続きは歩きながらでもできる。頭が熱暴走したのなら北風で冷やせばいいさ。ちょうど吹雪も止み始めたみたいだしな。」

 

「…。確かに。ゼシカには悪いけど今のうちに進んでおこうか」

 

ククールが右親指で指した方を見ると、分厚い雲の間に晴れ間が見えた。山の天気は変わりやすく、そして吹雪の夜ほど危険なものは無い。であれば天気が穏やかなうちにオークニスまで進むのが吉。そう判断したエイトは未だ硬直中のゼシカの手を引き、また雪山を進むことにした。

 

 

晴れた雪山。

 

空の深い青と新雪の澄んだ白が美しい、心清らかな場所である。

 

 

 

「お前の兄貴、サーベルトはドルマゲスに襲われて死んだんじゃなかったのか?」

 

「兄さんは…皆は兄さんが助けてくれたんでしょ?そうじゃないの?」

 

「気を悪くしたらごめん。サーベルトさんはリーザスの村で亡くなって、火葬もしたって…僕たちは聞いたんだけど」

 

「そ、それはそうよ。私もしっかり兄さんの遺体を最後まで見届けたんだから…。兄さんが生きているはずはないわ」

 

「ということは、リブルアーチで僕たちを助けてくれた彼はやっぱりニセモノだったのかな…?」

 

「私たちを助けてくれた兄さんがニセモノなわけないでしょ!」

 

「どっちだよ」

 

ならばもう一度戻って確かめよう!と提案するゼシカだが、エイトは申し訳なさそうに首を振る。リブルアーチが消滅したことで『ルーラ』の座標が不安定になっており、一瞬で移動することはできず、かといって今から歩いて戻ると確実に夜の雪山で一夜を過ごすことになる。リブルアーチに戻るとしても一度オークニスの座標を『ルーラ』に登録してからの方が効率が良い、というククールの提言にゼシカも渋々納得し、一行は進路をオークニスから変更することは無かった。

 

「(…キラの話が全くのデタラメじゃねえってことは、ラプソーンや七賢者のことからしてなんとなく分かったでがすが、サーベルトの(あん)ちゃんやディ…ドルマゲス、『魔王』についてはまだイマイチ確信には至らないでがすな…)」

 

「ゼシカの兄を名乗る人物の素性が知れないとなると、わしらが今北へ向かっておるのも果たして正しいことなのかどうかすら危うくなってくるの…まったく、わしやミーティアがこんな寒い思いをするのも全てドルマゲスのせい…ああいや、ラプソーンのせいだったか…けしからん、許せん」

 

「…。」

 

ブツブツ…ブツブツ…

 

「(さっきからブツブツブツブツと…ま、おっさんは王族でがすから環境の変化に弱くても仕方ないでがすかね。アッシもこれ以上寒くなってたら気が立ってたかもしれないでげす。おっさんみてえにはなりたくないでげすよ。)」

 

すっかり風も止み、顔を出した太陽の照り付けで一面の銀世界は一層煌めく。良好な視界の元、ゼシカは不可思議なものを見つけた。

 

「!見て。小さな雪玉がたくさん転がって…山の上に誰かいるのかな?」

 

「…?オレには誰かいるようには見えないけどな」

 

「…小さな雪玉…?まさかっ!」

 

 

 

晴れた雪山。

 

気温が上昇すると雪の結晶構造は変化し、層間の結合が弱まる。そうして生まれた結合の綻びが雪の重量により一定の閾値(しきいち)を超えた時、発生するのは────

 

「みんなっ!危ない!!『ベギラマ』!!」

 

「私もっ!『メラゾーマ』…ッッ!ダメ!抑えきれな…」

 

「ヤンガス!『ばくだん岩のかけら』ッ!上に投げろッ!」

 

「はっ!?…いや、そういうことならっ!」

 

「ミーティア!わしから離れるでないぞっ!」

 

エイトやゼシカの健闘むなしく、山肌を大きく露出するようにして発生した全層雪崩は勢いに任せて一行を跡形もなく飲み込んでしまった。後に残ったのは顔色一つ変えない美しい雪山だけである。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点

・ゼシカの目覚めるタイミングが遅い。
原作ではチェルスが殺される寸前に目を覚ましたのだが、兄の敵討ちを達成していた原作と異なり、今回はゼシカ自身の情緒が非常に不安定であったために眠っている時間が長くなった。そのため、『ベギラゴン』『マヒャド』を習得するイベントがスキップされた。

・一行が暗黒神に対する知識を既に持っている。
原作ではもしゼシカがラプソーンの情報を持ち帰っていなければ完全にその後詰んでいたであろう危険な状況であったが、アスカンタ王国のキラが要点を説明してくれたため、全員ラプソーンや七賢者への理解度が高い。正確には全て50%程度の信用度だった話がゼシカの説明で100%まで引き上げられた形。なのでドルマゲスの足跡やサーベルトについてのキラの話の信用度は依然50%ほど、半信半疑である。

・サーベルトが生きている?
サーベルト・アルバートは目の前で息絶え、遺体がすり替えられるようなこともなく、火葬は滞りなく実行されたことは他ならぬ彼の実妹であるゼシカ・アルバートが確認している。では呪われしゼシカ戦で助太刀に来たのは誰?

・ドルマゲスがリブルアーチにいた?
闇の遺跡でディム=ドルマゲスであることをエイトに看破されたのち、姿をくらましていたドルマゲス。キラによればドルマゲスもまたサーベルトと共に黒い魔物と戦っていたようだが…どこにも姿が見当たらないのはキラがエイトたちに嘘をついているのか、それとも彼は町の崩落に巻き込まれて死んでしまったのだろうか?

・トロデとヤンガスの口喧嘩スキップ(どうでもいい)
原作では雪崩の直前、寒すぎてみんなイライラしていたが、今回は吹雪が止むまで待っていたのでまだ心に余裕があった。この場面に限らないが、基本的に一行は原作よりちょっと仲良し。



エイト
レベル:31

ヤンガス
レベル:31

ゼシカ
レベル:34

ククール
レベル:32



「なんで私が目覚めるまで待ってくれなかったのよー!私なら兄さんが本物かどうかなんて一瞬で分かったのにー!」

「ごめんね…」

「サーベルトが今すぐ北へ行けって言ったんだから仕方ないだろ。流石のオレも命を救ってもらった相手の要望を邪険にゃできないんだよ」

「サーベルトの兄ちゃんが本当にゼシカの兄貴ならゼシカが目覚めるまで待ってくれてたんじゃないでがすかね?」

「そ、そーよ!そいつニセモノよ!」

「あ、でもゼシカが起きたら心配してたと伝えるようにも言われたでがすな」

「その人は正真正銘、私の兄さんよ!」

「なあエイト、ゼシカって兄貴のこととなると途端にアホになるよな」

「んー…はは…」



エイトがスープを美味しく作れるのはディムから上手な火加減を教わったからです。というのをエイトが言ってみんながしんみりする場面があったのですが、本文からは字数とテンポの関係から泣く泣く排除しました。


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新・第八章 ドルマゲス捜索編 其の参

エイト視点の話を書くときはできるだけ「なんでこいつがこんなこと知ってんの?」とならないよう細心の注意を払っているのですが、それは自分の意識内でもう一つの意識を作り出すが如き所業で、これがなかなか難しい…

キラちゃんが勇者アンチ(Chapter18参照)なのとサーベルトの誘導が下手で雑(新・第七章参照)だったのが無ければ、エイトたちにもきっと今より正しい情報が共有されていた(私も楽になっていた)はずなんですけどね…








ライラスだ。……あのバカ弟子曰く、わしは口下手らしいからな、多くは語るまい。

………。

…はぁ、そうもいかないか。まったく、面倒事を押し付けおってからに…さっさと戻ってこい。

 

 

わしの見立てより数日早く復活したユリマに叩き起こされ、キラが目覚めたところで改めて全員集合となる。…バカ弟子を除いた全員、であるが。

 

「揺すってくれればいいのに、どうして叩くんですか~!…サーベルト様、私の頬…腫れてませんか?」

 

「ぜーんぜん、何ともなってないですよ。キラちゃんは大げさで困ります。」

 

「うーむ…腫れてはいないが真っ赤だな…まるで林檎だ…」「ほらぁ!」

 

キラの猛抗議にユリマは素知らぬ顔で明後日の方角を見る。だいたい、キラが気絶したのもユリマが突拍子もなく叫んだのが原因であり、キラにはまるで非が無いのだが…くだらなさすぎて口添えしてやる気にもならん。

 

「はやくドルマゲス様に戻ってきていただかないと私…暗黒神より先にユリマさんに殺されそうです…!」

 

「あっ、それはいいアイデアですね!ドルマゲスさんが戻ってくる前にライバルをこっそり始末しちゃうのは良案かも!」「サーベルト様ァ!けっ契約を!私を護衛する契約をっ!!」

 

「おい、その辺にしておけ。会議を始めるぞ」

 

「申し訳ございません…」「はぁい」

 

再会の喜びを不要なものと切り捨てるつもりはないが、いつまでもぐだぐだとじゃれているわけにはいかない。暗黒神や杖の状態が予測できない今は、時間がある状況とはとても言えまい。

 

「わしらが顔を合わせたのは先日リブルアーチの宿屋で宿泊した時以来だ。…たった一日だが、その一日で情勢は大きく変わった。何より暗黒神ラプソーンが自由に行動できる端末を手に入れたという。そうだな?サーベルト」

 

「…はい、現在ラプソーンが封じられた杖を所持しているのはゲモン…ラプソーンの忠実な配下です。これまでの端末…ドリィ、ユリマ、そしてゼシカと違って精神を乗っ取って制御する必要がないのでラプソーンはこれまでよりもずっと動きやすくなるでしょう。」

 

そう、それが目下最大の問題だ。世界の安寧が終わりを告げるのも正しく秒読みとなるだろう。

 

「わたしも戦いましたよ。ドルマゲスさんを連れて行ったチキン野郎ですよね?」

 

「そうだ。姿形は覚えているか?」

 

「この地方でうろうろしている『サイレス』が一番近いんじゃないですか?ねえお兄さん」

 

「そうだな。ゲモンが奴ら(サイレス)と違うのは漆黒の体色、額に角が生えていることと、体のサイズが3倍ほど大きい事…くらいだろう」

 

「強さは?といっても……戦跡から何となく察しはつくがな」

 

「わたしが万全の状態ならあんなの楽勝ですよ」

 

「…。」

 

「…それは本当か?」

 

「…う、まあ、楽勝…は言い過ぎでした。…ごめんなさい」

 

わしは今日だけで何度目かもわからないため息をついた。ユリマはこうして時折大言壮語を吐く。バカ弟子…ドルマゲスの前でなければ見栄を張ることもないかと考えていたが、今のを見るに…どうやら元からああいう性格らしい。誰が原因かと言われれば、まず間違いなく長年ユリマに隠し事をし続けていた義父のルイネロなのだろうが、今はそのようなことはどうでもいい。

 

「…楽勝、であればよかったのだがな。」

 

「しかし…ライラスさん、ゲモン単体であれば俺とドリィとユリマが万全であればそれこそ余裕をもって制圧できたことは間違いないでしょう」

 

「…なにか、含みのある言い方だな。その心は?」

 

「ゲモンは暗黒神由来の闇のチカラを借り受けて一時的に大幅なパワーアップを遂げています。ただでさえ強力な魔物に暗黒神の力を注ぎこまれては、それこそ暗黒神そのものと対峙しているも同然…リブルアーチを消し去ったのも暗黒神のチカラあってのことでしょう。」

 

「なるほど、それでは最終目標は杖の奪還から変更する必要は無さそうだな。それがゲモンの力を削ぐことにも繋がる」

 

「…!」

 

「あくまで『最終』目標だと言っただろう。別にあのバカ弟子を放置しろとは言ってない」

 

心配そうな表情をしているキラや刺すような視線を投げかけてくるユリマの為に補足してやる。ドルマゲスの捜索はむしろ最優先事項だ。ドルマゲスの持つ未来知識は今後の暗黒神対策にも必要であるし、前提として奴はここにいる者たちの精神的な支柱そのものなのだ。不在のまま事を進めると思わぬところで躓く可能性が高い。

 

「ではここまでの話も含め、いったん整理する。一度しか言わぬのでよく聞くように」

 

「お願いします」

 

「…まず、我々の目的は『暗黒神の脅威から世界を守る』ことだ。そしてそれを成すための目標が三つ。『ドルマゲスの捜索』『賢者の保護』『杖の奪還』。ここまでは良いな?」

 

引き締まった表情で全員が頷き、わしの次の言葉を待っている。「暗黒神の脅威から世界を守る」ために「ドルマゲスの捜索」が必要なことに関しては誰も疑問を持たないことから、奴の人望が窺える。奴もまあ、よくここまで人気を集めたものだ。

 

「『ドルマゲスの捜索』と『賢者の保護』は同時に進めることができる。各地を回って証言を集めていけば良い。『杖の奪還』はゲモンが現在杖を所持していることから考えて後回しにする他ない。『賢者の保護』が完了すれば相手の姿を現す場所を絞ることができることからしても、ゲモン討伐はそこまで焦る必要はないだろう。また戦力拡充の観点から見ても、確実にゲモンの討伐を達成するためにはどちらにしても『ドルマゲスの捜索』を優先的に行う必要がある。ここまでの話で異論はあるか?」

 

おずおずと手を挙げたのはキラだ。この娘もわしと初めて出会った頃はもっと臆病だったはずなのだが、今やわしに意見するまでになったか。ドルマゲスの後釜に就くと言い張ったのはどうやら半端な覚悟ではないらしい。

 

「キラ。なんだ?」

 

「あの…異論というわけではないのですが、U.S.A.の運営やリブルアーチ住民の皆さんに対する対応…取回しは三つの目標の内のどこに分類されるのでしょうか?」

 

「ふむ、確かにそれは目標とは少し異なるな。目標からは切り離された、こなすべきタスクとでも呼ぶこととする。…いい機会だ、今からそちらの話もする。」

 

「ライラスさん、リブルアーチ住民をU.S.A.まで送り届けるには船が必要です。それもかなり大きめの船…遊覧船や漁船レベルでは何往復もしなければならないですし、安全確保の為、最低でも俺、ユリマ、ライラスさんの内の誰かが護衛として乗船する必要があります」

 

「船か…」

 

わしとて血も涙もある人間、リブルアーチ住民たちをこのまま放置しておくべきではないと思っている。しかし今や安全が保障されている街は消え、この数の人間を突然他の街に受け入れさせるのは少々現実味がない。であればやはりU.S.A.で保護するのが一番なのは言うまでもないことだ。しかし住民全員が乗れるような大きな船となると…思い当たるものはトロデーンの荒野に打ち棄てられていた古代船くらいか。…そちらに頼る方がより現実味がない。であれば…

 

「サーベルト」

 

「はい、分かっています。俺がリーザスの村に戻れば、次期領主としての特権で港町ポルトリンクから商船を一隻か二隻動かすことができるでしょう。…困っているのはどこの街も同じ。リーザスの村を守るため、というのはリブルアーチの人々を見捨てていい理由にはなりません。第一暗黒神が自由に動けるようになった今、俺の情報を秘匿する必要はほぼ無くなっていますから。」

 

「たすか────」

 

「…ええと、要はリブルアーチの皆さんをU.S.A.まで送ることができればいいんですよね?できますよ、わたし。」

 

「「…は?」」

 

突拍子もないユリマの発言に、他の全員の声がシンクロする。なんだ、それはつまり…『ルーラ』いや違う…

 

「『賢人の見る夢(イデア)』か!」

 

「ご明察の通りです。もちろんドルマゲスさんほど大きな穴は空けられませんけど、人一人くらいなら入れますし…ワープゲートだってなんとか頑張れば作れるはずです。」

 

「そ、そんな…サーベルト様、ご存じでしたか?」

 

「いや、俺も知らなかった…」

 

「あれ?何回か使ってみせたことあるはずなんですケド…」

 

…ふむ。これは嬉しい誤算だ。ドルマゲスのものより多少性能が落ちるとはいえ、ユリマの『イデア』がワープゲートとしての機能を備えているのなら大幅な時間短縮になる。

 

「素晴らしいぞユリマ、早速頼みたい。ポータルの入り口はこのテントの中、そして出口はU.S.A.第一階層エントランスだ。…可能か?」

 

「う、ちゃんと繋げられるかな…そんなに意気込まれるとちょっと不安になってきた…かもです」

 

「上手くできたらたくさん褒めてあげるように俺からドリィに口添えしてあげよう」「皆さんは大船に乗ったつもりでわたしに全部任せてください!!!」

 

ユリマは突然自信を取り戻し、大きく胸を叩いた。本当に調子のいい奴だ。

 

「よし!では次に住民より先にU.S.A.に赴いて先導する者が必要だな…」

 

「私が行きます!第一階層の魔物たちにはある程度顔が効きます。サーベルト様、私に行かせてください!」

 

「やはり君が適任だ、頼んだぞ!キラ!よし、では…────」

 

サーベルト。

わしと同じく七賢者をその系譜に持つ、末裔の一人。我々の中では最も身分の高い貴族階級だが、本人の人当たりが良く、また人の扱いも巧い。責任感が強く、正しいことを好んで悪を許さない分かりやすい勧善懲悪は人々の支持を勝ち取りやすい。その上凝り固まった思想を持つわけではなく、状況に応じて考えや対応を変化させる柔軟性も持ち合わせる。時折根拠のない楽観思考を見せるのが玉に瑕だが、わしとしても気兼ねなく指示を飛ばせる存在はありがたい。お互いを尊重し、高めあえる存在────ドルマゲスの親友としてサーベルトを除いた適任者は存在し得ないだろう。

 

キラ。

何かを判断するときにはそれが合理的か否かに委ねて判断する点が非常に評価できる。しかし冷酷というわけではなく、他者を慮る心は他の誰よりも秀でており、ドルマゲスやサーベルトの良いストッパーとなっている。物事の飲み込みスピードが異常に速く、あらゆる業務で平均以上の結果を出すことができる。個人的な評価としては没個性的で人間性的に面白みの無い者とも言えるが…良くも悪くも期待した通りの結果を必ず出してくるキラはわしの胃痛を軽減してくれる無くてはならない存在だ。オーバーワーカーなドルマゲスの隣に座らせるのに最も最適な人物を一人挙げるとするならば、わしは間違いなくキラを推薦する。

 

そしてユリマ。

かつての素直さと可愛げはどこへやら。今はわしの悩みのタネそのものとなっている。合理性からかけ離れており、全てを感情論で判断する。その点ではキラと正反対と言えるだろう。最近でこそ我々の言葉にも耳を傾けるようになったが、もしドルマゲスが失踪するのがもう少し早かったのなら今ごろユリマはあてもなく一人で奴を探し回っていたに違いない。しかし行動理念の芯がドルマゲスなので、分かりやすくドルマゲスの利になるような業務は率先して行い、確実に期待以上の結果を出す。ユリマは世界一の狂犬だが、同時に世界一の忠犬でもある。我々の中でも突出したその戦闘力は、味方でいれば頼もしいことこの上ない。

 

 

「…さん!ライラスさん!ゲートが開通しましたよ!」

 

「…む、そうか。早いな」

 

…おっと、わしとしたことが考え事に耽ってしまっていた。ドルマゲスからも直せ直せと散々言われていたわしの悪癖だ。キラは既にエントランスで待機、サーベルトは外で住民に注意事項を説明しているようだ。案外この中で一番足手まといなのはこのわしだったりしてな。

 

……まあ、もちろん冗談だが。わしは重い腰を上げた。

 

「ユリマ、パルミドでドルマゲスが屈服させた『キメラ』が何体かいたはずだ。福祉…違うな、情報委員会に伝えて二体ほどエントランスで待機させておいてくれ。後でわしとサーベルトで賢者の保護に向かう際に乗って行く。」

 

「分かりました!」

 

そう言うとユリマは開いた『イデア』の向こうへと消える。その後、わしは丁度説明を終えたサーベルトと共に住民たちの列整理を行った。

 

 

「ふーっ、さっきの少年で全員ですね。」

 

「ああ、これでリブルアーチの老若男女が路頭に迷うこともあるまい。U.S.A.の生活水準は最早世界一と言っても過言ではない……無論、それは彼らの故郷を奪ったラプソーンとゲモンの罪を帳消しにすることにはならんがな」

 

「当然です。特に(いたずら)に街を破壊し、ドリィを痛めつけたゲモンは絶対にその命を以て償わせます。」

 

誘導を終えたわしはサーベルトと共に撤収作業に入る。…もうあとものの数分で夜になり、魔物が増える。今更この地域の魔物にどうにかされることなど有り得んが、面倒事は起こさないに越したことは無い。

 

「しかし…チェルスさんのことは本当に残念ですが……犠牲者がほとんど出なかったのはせめてもの救いでしたね」

 

「ああ。我々の内一人でも欠けていればそれは叶わなかっただろう」

 

「…」

 

もしかすればチェルスも救えたのではないか……というのは一度死んでいるわしや、死の淵に瀕したサーベルトの口から言うことは憚られる。ドルマゲスがあそこまでやって成し得なかったのだから。

 

だが……『仕方ない』だなどと、それこそ口が裂けても言えん。死に方を選べる人間などそうはいない。だが、死んでも仕方ないと、死んでよかったと、そう思われていい人間はこの世にただの一人もいない。死に損なったわしにできることはただ逝ったチェルスに十字を捧げることのみだ。

 

「さあ、戻るぞ。準備を整えたらすぐに出発する。」

 

「賢者の保護、そしてドリィの捜索ですね。どちらへ?」

 

「…ベルガラックかマイエラか…オークニスとサヴェッラの賢者は我々と面識がないはずだ。サーベルト、お前はどうだ?」

 

「ベルガラックとはU.S.A.が提携を結んでいますが、実際にオーナーと会っているのはドリィだけです。ですがマイエラ修道院のオディロ院長とは俺も以前話したことがありますよ。」

 

ふむ。そうだったか。このような状況に陥ることが分かっていたのなら、わしも他の賢者とコンタクトを取っておくべきだったのかもしれんな…。………いや、わしに後悔すべき過去などない。魔法の研究に没頭していたあの輝かしき日々を否定することは、このわし自身であろうと許されるべきではない。

 

「ではマイエラ修道院から向かうこととする。丁度U.S.A.のあるアスカンタからも近いからな。」

 

「…あっ!ダメですライラスさん!今は夜だ。マイエラ修道院は以前俺たちが侵入して以降、夜間の警備が厳しくなったと聞きます。厄介なマルチェロ…ああ、聖騎士団長はいないとはいえ、確実に院長と面会するならやはり朝方から昼の間が良いと思います。…すみません、失念していました…」

 

「…道理だな。最悪の事態は賢者周辺で揉め事を起こし、協力が得られなくなることだ。…良いだろう、では先にベルガラックから向かう。カジノを運営しているベルガラックなら夜でも人の気があるはずだ。」

 

「はい!」

 

最後の荷物を空間の裂け目に投げ込み、我々は日没と共に帰還した。

 

 

 

妹がいるサーベルトには悪いが、わしは『勇者』という者共に全く期待を寄せていない。敵ではないことは確かだが、今までどこをほっつき歩いていたのやら、実力がまだまだ我々と釣り合っていないのだ。あのままでは暗黒神との戦いにもついていくことは叶わないだろう。

 

……まあ、わしの大事な弟子を酷い目に遭わせ、あまつさえ世界を危機に晒しているトロデ王への私怨も多少は含まれているやもしれんがな。彼らをオークニスに向かわせたサーベルトの判断を間違っているとまでは思わないが…どちらにしろ、ラプソーンが次に狙うのがオークニスの賢者でないことを祈るばかりだ。

 

 

 

ドルマゲスよ。普段は口にすることなど絶対に有り得ないが、わしは命をお前に与えられた身。これでもお前には感謝しているのだ。だが、お前への感謝はサーベルトやキラ、そしてユリマによって必要以上に与えられていることだろう。ゆえにわしからはただ一言だけをお前に贈ろう。

 

さっさと戻ってこい。

 

 

 

 

 

 




「ライラスさん、もしかしてわたしのこと『都合のいい女』だとか思ってませんか?」

「随分人聞きの悪い言い方だが、否定はできんな」

「ライラス様…」

「やっぱり!失礼ですよ!わたしは『ドルマゲスさんにとって』都合のいい女です。二度と勘違いしないでください!」

「(都合のいい女性であることは否定しないんですね…)」

「(そもそも、サーベルトもキラもユリマも、わし以外はドルマゲスの言うことはなんでも素直に聞くだろうに…)」

「(でもライラスさんだって、ドルマゲスさんがお願いしたことは渋々でもほとんど了承していたような?)」



サーベルト(回復:於トロデーン)ライラス(反魂:於ふしぎな樹木)キラ(反魂:於ベルガラック)ユリマ(蘇生:於闇の遺跡)と、みんなドルマゲスに何かしらの形で命を救われてるのでもちろん好感度は全員カンストです。



前回載せられなかった、エイトとククールがリブルアーチからの脱出に間に合った理由ですが簡単に書き散らしておきます。『ルーラ』では「座標選択→詠唱→発動」というプロセスにより多少の時間が要されるので確実に逃げ切られませんでした。一方『リレミト』は「詠唱→発動」であり、また自分と触れ合っている必要のない範囲呪文なので、眼前に迫りくる脅威から避難するために唱える呪文としては最適解でした。エイト的には一か八かで『リレミト』を唱える賭けに出たのですが、魔物の跋扈するリブルアーチが「ダンジョン」だと判定されたためエイト、ククール、ユリマ、サーベルトはラプソーンの『ドルモーア』が当たるギリギリ直前で脱出に成功しました。


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Chapter32 雪山地方 ②

気付けば100話突破ですねぇ…。2年前、入浴中に突然天啓が降りてきた時にはここまで続くとは思いません(トロデーン城で終わらせるつもりだった)でしたがいやはや…

皆様からの祝福も泣きながら読んでます。ありがとうございます!

2024/04/24設定資料集を更新しました。ぜひご一読ください。








雪山の寄合所「オークニス」を目指して山道を征く一行。昏睡から目覚めたゼシカによって暗黒神ラプソーンの目的、その恐ろしい野望を知る。ゼシカが元気を取り戻したことでパーティーにも明るさが戻ったのも束の間、襲い来るは大雪崩。大山鳴動する大自然の脅威に一行は成す術もなく飲み込まれてしまうのだった。

 

 

依然として神秘の銀世界を一面に湛える雪山。数分前までエイトたちがいた痕跡などどこにも残っていない。そんな何の変哲もない場所へ雪をかき分け歩いてくるのは一人の老婆と一匹の犬。

 

「爆発音が聞こえてきたのはここらかね…なるほど、よく見れば地形が変わっておる…バフ!雪に旅人さんが埋まっているかもしれない、探しておくれ!」

 

バフと呼ばれた大型犬は老婆の声に耳をピクリと動かすと、鼻をひくつかせつつゆっくりと歩き始めた。一見のろまにも見える動きはその実、雪の抵抗を限界まで軽減する巧妙な足さばきである。雪山に、あるいは動物に精通する人物がこの犬を見れば、如何に彼が雪山慣れした犬なのかがよく分かることだろう。

 

「ワフ…」

 

「見つけたかい!…ん、これは…馬のたてがみだね。一緒に掘り出そうか」

 

バフが周りの雪を掘り、老婆が残った雪を払ってやると、新雪のごとく───この場所では適切な表現とは言えないが───美しい毛並みを持つ馬が現れた。美しい馬、ミーティアはすぐに目を開き、自力で立ち上がると老婆に頭を下げる。

 

「おや、感謝してくれているのかい?あなたもバフに似て賢い馬なのじゃな。して、お馬さんや。このあたりで他に埋まっている旅人さんに心当たりはありませんかな?」

 

もちろん返事には期待していない。ここで少し休んでいなさいとミーティアを座らせ、老婆が他の遭難者を探そうとした瞬間、ミーティアは再度立ち上がりかぼそく嘶いた。いくら寒さに強い身体を手に入れたとて、雪で体力が奪われてしまうことは否めない。現にその身体はぶるぶると震えている。しかしミーティアには今や自分の身体と同等に大事な仲間たちがいるのだ。

 

「…まさか、お馬さんや。そっちに誰かいるのかい?」

 

ミーティアは小さく…しかし確かに頷くと、老婆とバフを雪中の仲間たちの元へ導いた。

 

 

「…ん………」

 

妙に重苦しい感覚があった。しかし同時に暖かい。金縛りにでも遭っているのか、それともここは死後の世界か?ともかく、意識を取り戻したエイトが目を開けると…

 

「ぅわっ!?い゛っ!?」

 

「バウ」

 

自分の顔とほんの数ミリしか離れていない位置に大きな犬の顔があった。軽くパニックになったエイトは続けてベッドの端に頭をぶつけてしまう。頭を抱えるエイトをよそに、意識の覚醒を確認したバフは部屋を出て行った。…器用にも尻尾でドアを閉めて。

 

「(ここは…?僕は助かったのか…?)」

 

ようやくここが死後の世界ではないらしいことを悟ったエイトは辺りを見渡した。よく見る構造の部屋…ここはどこかの家の寝室のようだ。組木の隙間から微かに冷気が漏れていることから、雪山からは離れていないらしいことはわかる。思い出したかのように慌てて懐に手を入れると、小刻みに震えるトーポがいた。相棒の無事に安堵するも、他の仲間たちの姿が見えないことには一抹の不安が残る。

 

「(トーポの身体がまだひんやりしていることをみるに、僕たちはあの雪崩から助け出されて間もないらしい。ともかく他の皆を探さないと!)」

 

軽く身だしなみを整え、颯爽とドアを開け、階段を駆け上がる────と、当の仲間たちは上の部屋で全員仲良く暖炉にあたっていた。さっきまでの覚悟はなんだったのかとエイトは一人ずっこけそうになる。

 

「お!兄貴、起きたでがすね!」

 

「ヤンガス、みんなも無事だったんだね」

 

「兄貴、お身体の方は大丈夫でげすかい?兄貴だけ全然目を覚まさないもんで、アッシもゼシカも馬姫様も随分肝を冷やしたんでがすよ」

 

「おい、オレが冷血なヤツみたいな言い方はやめてくれるか?これでも気にはかけてたんだぜ」「もちろんワシもじゃぞ!」

 

「おはよ、エイト。無事で何よりだわ。…心配したんだからね!」

 

どうやら、全員特に雪崩に巻き込まれたことによる後遺症などはないらしい。しかし露出の多いヤンガスやゼシカですら霜焼けの一つもできていないとは…エイトは自分たちの肉体の強靭さに我が事ながら苦笑した。

 

「王様、ここは?」

 

「おお、ここは雪山の中にある山小屋で、そちらの……」

 

そう言いながらトロデが目をやった先には、人数分のマグカップを盆に乗せて運んでくる老齢の女性がいた。

 

「ええ、ここはわしの家ですじゃ」

 

「貴方が僕たちを…感謝します」

 

「ええ、ええ、頭を上げてくだされ。突然轟音がした時は驚いたものじゃが、わしが家を出た直後に花火が打ちあがりましてな。すぐに駆け付けられたのは幸いですじゃ」

 

「花火…?」

 

「兄貴。雪崩に呑まれる直前、アッシはククールに言われて『ばくだん岩のかけら』を思いっきし上に放り投げたんでがすよ」

 

「さながら信号弾ってとこだな。ちょいと、いやかなり原始的だが、それでもこうしてばあさんに見つけてもらったんだ。結果オーライさ」

 

「そうなんだ…ありがとう、二人とも!」

 

「なぁに、兄貴とゼシカが呪文で時間を稼いでくれたおかげですぜ!」

 

ヤンガスは照れを隠すように鼻下を擦った。彼はエイトに褒められるたび新鮮な反応を返してくれる。ここまで嬉しそうにしてくれるのならばエイトも褒めがいのあるというものだ。

 

「旅人さんや」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「感謝をするなら一番にあのお馬さんにしておやり。あの子が最初に旅人さんを見つけてくれたのじゃ」

 

「……姫が」

 

ミーティアは馬らしからぬ格好で部屋の隅で丸まって眠っていた。エイトは彼女の傍に寄り、感謝と尊敬の念を込めて彼女の冷たい身体を優しく撫でた。

 

「さて、最後の旅人さんも目覚めたことですし、みなさん席について…はい、この薬湯を飲みなされ。冷えた体もすぐに温まりますじゃ」

 

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて…」

 

エイトたちは老婆から受け取った薬湯を啜った。少し辛いが、飲めないほどではない。成程これは確かに温まりそうだ、とエイトは薬湯をさらにもう一口啜る。紅茶でも嗜むかのようなキザな動作で薬湯を飲んでいるククールの横で舌を出してひーひー言っているのはゼシカだ。どうやら勢いよく飲んで舌を火傷したらしい。

 

「これは『ヌーク草』の薬湯ですじゃ。これを飲めば雪国の寒さも気にならなくなりますぞ」

 

「(…知ってる味だな。…ああ、ディムの料理に入ってた香草か。……。)」

 

「ほんとだわ!何だか身体がポカポカしてきた!」

 

「雪崩から助けてもらい、宿を貸してもらい、さらには薬湯まで……何から何までお世話になりますのう」

 

あっそ~れ!ハッスルハッスル~!と陽気に踊り出すゼシカをよそに、トロデが頭を下げて礼を述べる。普段とは違う彼の姿にヤンガスは少し驚いているが…。トロデは本来誰に対しても礼儀を重んじる人物なのだ。周囲からは魔物だと恐れられ、ヤンガスやククールにも弄られ短気な性格が定着しがちだが、人を見た目で判断せずしっかり腰を落ち着けて話せば、トロデほど物分かりの良い人物はそういまい。

 

「あの…貴方はどうしてこのような場所で生活を?」

 

「ん、おや…バンダナの旅人さんにはまだ自己紹介をしていませんでしたな。わしはメディ。この山小屋で暮らすしがない薬師ですじゃ。この家の裏手には古い『遺跡』がありましてな。先祖代々、わしの家系はそれをお守りしてきたのじゃ。ゆえに今はこの場所で犬のバフと共に暮らしているわけじゃな。」

 

「『遺跡』…ですか?」

 

「ええ。しかし、その役目もわしの代で終わることになるでしょうな。跡を継ぐものもおりませんでのう…」

 

「そうなんですか…でも役目とは言え、一人暮らしは苦労も多いでしょう…?」

 

「いやいや、気楽なもんですわい。子どもの時から慣れ親しんだ土地だし、苦労など感じたことはないですじゃ。それに……こうして雪山に迷った人が訪れてくれるのでさみしくもありませんしな」

 

メディの話から察するに頻繁に雪崩が起きているというわけではなさそうだが、雪山にある一軒家というものは遭難者にとっては希望の光に見えることだろう。思わず戸を叩きたくなるのも分かる。実際、一行の冒険はメディがここで暮らしていなければ終わっていたのだから。

 

「ところで、メディさん。実はそのことで聞きたいことがあるんだよ」

 

「おや、何ですかな?」

 

話がうまい具合にひと段落したところでククールが口火を切る。その口ぶりからマジメな話になると感じたヤンガスは急いで薬湯をズズズと飲み干した。

 

「オレたちはこの雪国に『賢者の末裔』ってのを探しに来たんだ。なんのことだか分からないかもしれないが…」

 

「はて…『賢者』とはその昔暗黒神ラプソーンと戦い、見事封印してみせたというあの『七賢者』様のことですかな?」

 

「そっか……まあ知らなくとも…って」

 

「…え?」

 

「「えぇ~~~っっ!?!?」」

 

ヤンガスが薬湯を勢いよく吹き出し、その全てが向かいに座っていたトロデに降りかかる。エイトはすぐにふくろから手ぬぐいを取り出して二人に渡したが、驚愕に包まれているのはエイトも同じだった。

 

「ぬおおお~!目が、目がぁ~~!!」

 

「ば…バアさん、知ってるでがすか!?け、賢者のこと…」

 

「目が痛い!助けてくれぇ~!」

 

「な、なぜ…」

 

「何も見えん!ワシはもう終わりじゃあ~!」

 

「なぜってそれは…わしが賢者の末裔そのひとですからな。」

 

「「えぇ~~~~っっっ!?!?!?」」

 

とんでもないビッグニュースにもう一度エイトたちの絶叫が響く。その声に何事かとミーティアは目を覚まし、反対にメディの犬、バフは大きな欠伸を一つして居眠りを始めた。トロデはヌーク草のスープが目に入ったためにしばらく目を開けることができないのであった。

 

 

「チェルスの坊やが…あの子は主人の使いとやらでよくわしの薬草を買い求めに来ておったのですが、そうですか…」

 

「…」

 

「…湿っぽい話もなんですな。改めまして、わしは薬師メディ。七賢者が一人『大学者』カッティード様の血を引く賢者の末裔ですじゃ。」

 

「…おお~」

 

特に理由は無いがエイトたちは思わず拍手を送ってしまう。当のメディもこういった持て囃され方は慣れていないのか、頬を赤らめていそいそと座りなおした。

 

「オホン…それで、旅人さんたちは暗黒神ラプソーンに掛けられた呪いを解くために旅をしておるのですな。……しかし、すでに暗黒神が動き出していたとは…この山小屋はめったに情報が入ってこないのが難点ですわい…」

 

「ワシはともかく、ミーティアをこの馬の姿のまま留めておくわけにはいかぬ。そのためには我が城の秘宝の杖…いや、『神鳥の杖』を奪い返し、暗黒神が完全復活する前に破壊するしかあるまいて!」

 

「そうよ、あんな忌まわしい杖は私がゼッタイ粉々にしてやるんだから!」

 

鼻息の荒いトロデやゼシカに対し、男性陣は幾分か冷静だ。そしてエイトは黙って話を聞いているうちに、自分たちの旅のとんでもない穴に気がついてしまった。

 

「…ね、ククール、ヤンガス」

 

「はい?」「どうした?」

 

「僕たち、サーベルト?さんの言う通り賢者を見つけたよね」

 

「そうでがすね…?」「?」

 

「賢者を見つけられたのは良いことなんだけど…」

 

「…あっ!」「…あー、なるほど、そうかチクショウ」

 

ヤンガスは困ったように自分の髭をさすり、ククールはガシガシと頭を掻いて天を仰ぐ。恐らく三人とも考えていることは同じだろう。つまるところ…

 

「王様…」

 

「ぬ?なんじゃおぬしら、そんな神妙な面をして」

 

「僕たち、賢者の末裔を見つけましたけど…」

 

「うむ。それがどうかしたか?」

 

「…その、これからどうしましょう……?」

 

「……む?」

 

そう。賢者の末裔を発見した後のことをエイトたちはサーベルトから何も聞かされていなかったのだ。ただ賢者の末裔を見つけろ、とのこと。てっきり後のことはサーベルトかその賢者側がなんとかしてくれるのだろうと楽観していた。

 

「賢者の末裔が重要な人物で、護らなきゃならないってことはわかる。だが、そこからどうすればいいのか…それがわからねーんだよな。どこかへ連れて行くべきなのか?ここで護るのか?いつまで護ればいいんだ?」

 

「ワシらがこうしている間にもラプソーンが他の賢者の所へ行っている可能性も捨てきれんしの…」

 

「あ!ねぇねぇ!戻って兄さんに聞きに行くのはどう?いい考えだと思わない?」

 

「サーベルトがまだあの何もない場所にいるといいんだがな…」

 

こんなことならあの時ヤンガスを引き留めずにサーベルトともっと話していればよかったと額に手を当て、ため息を吐くエイト。だが時すでに遅し。トロデとゼシカもだんだんと事の重大さに気がつき始めたのか、すとんと椅子に座り込んで黙ってしまった。

 

「「うーん…」」

 

そうして続いたしばらくの沈黙ののち、口を開いたのは護られる対象であるメディだった。

 

「…別段隠していたというわけではないのですが、実はわしには一人の息子がおりましてのう。名をグラッドと言うのですじゃ。今は離れて暮らしておりまして、この前に顔を見たのは何年前か…しかし暗黒神復活の兆し……このような状況になったとあっては伝えないわけにはいきませんで、わしはそのグラッドに会いたいと思いますのじゃ。」

 

「あれ、でもおばあさん、さっき跡を継ぐ者はいないって……」

 

「…グラッドもわしと同じ薬師、しかしグラッドは遺跡の守り手を継ぐことを拒否したのですわい。ああ、あの子を責めないでくだされ、あの子はより多くの人の命を救いたくて、ここではなくオークニスで薬師として生きることを決めた、とても優しい子なのですじゃ」

 

「……なるほど。しかしバアさん、今の話を聞いた限り、オークニスまでは結構遠いんでがすよね?アッシらの馬車は結構ガタが来てて、バアさんみたいな人が乗るには酷な気がするでがす。なあ、ゼシカ?」

 

「うん…私もかなり長い間馬車で寝てたけど乗り心地は最悪よ。なんてったって丸一日寝ても体力がまるで回復しなかったもの」

 

メディを馬車に乗せて連れて行きたいのは山々だが、現在の馬車は物置小屋の如きカオスな散乱具合になっており、その上長旅で劣化している馬車は非常に乗り心地が悪い。いくら護衛の為とはいえ、命の恩人をグロッキーにするのは本意でないのだ。少々癪だが、馬車の乗り心地が悪いというチャゴスの文句も今思えば至極真っ当なクレームだったと言える。

 

「じゃあメディさんを置いてオークニスまでオレたちだけで行くか?…うーん、だがその間にラプソーンの野郎が来たら目も当てられないな…」

 

誰かを護衛として置いて…という方法も得策ではない。一人残した程度ではラプソーンに敵うわけがなく、しかし二人残せば今度はオークニスへ向かうメンバーが雪山の魔物に囲まれて袋叩きにされる可能性が高くなる。では可能な限り戦闘を避け、一人でオークニスへ向かうべきか?…その場合予期しないトラブルが起こったとしても誰も助けには来ないのだ。

 

「ヤンガス、メディ殿をおぶってオークニスまで行くのじゃ」

 

「アッシは良くてもバアさんが凍えちまうでげすよ!第一、魔物との戦闘に巻き込むわけにはいかないでがす」

 

「うぅむそれもそうか…」

 

「「うーん…」」

 

「(おやおや…)」

 

メディとしては動こうにも動けない一行に何か目的を与えたくての提言だったのだが…こうやってまた膠着状態になってしまっては本末転倒だ。メディは再度沈黙を破った。

 

「わしは大丈夫ですから、みなさんだけで行ってくだされ。もちろんお礼は致しますし、今晩はお食事も出させてもらいますわい」

 

「えっ!ダメよおばあさん!今一人になるのは危険だわ!」

 

当然のように湧く懸念だが、メディはやんわりと制止した。

 

「心配はご無用ですじゃ。先ほど『遺跡』の話をしましたな?そこにはかつてカッティード様がご用意された非常に強力な退魔の結界が張られておりますのじゃ。わしは旅人さんたちが戻ってくるまでそこにおりますわい。なに、ちょうど遺跡の手入れも必要になってくる時期、不自由はしませんですじゃ。それにほら、わしにはバフもいることですしな。」

 

メディが手を叩くと、寄り添うようにぬるりとバフが現れた。巨漢のヤンガスを山小屋まで運ぶことができるような犬だ。有事の際にはメディを守る盾にも矛にもなってくれることだろう。

 

「…」

 

少しばかり鈍感なエイトですらメディがこちらを気遣ってそう言ってくれていることはなんとなくわかる。メディのことは確かに心配だが、相手の厚意をむざむざ却下するのは忍びない。なによりカッティードの結界により安全が確約されていると本人が言うのだから、外様の自分たちがこれ以上とやかく言う資格は無いのだ。

 

「わかりました。グラッドさんを探してすぐにまた戻ってきます。…みんなもそれでいい?」

 

「そう…ね。そのグラッドさんがラプソーンに狙われる可能性だってあるわけだし。」

 

トロデ、ヤンガス、ククールも渋々首を縦に振る。一連の話を聞いていたミーティアは既に準備万端のようだ。

 

「うむ。そうと決まれば善は急げじゃっ!行くぞおぬしら!」

 

そう宣言するやいなやバタバタと旅の支度を始めるトロデと、それに付き合わされるヤンガスたち。自分もその手伝いに行こうとしたところで、エイトはメディに呼び止められた。

 

「それと旅人さん、もしグラッドに会ったらこれを渡して欲しいのですじゃ。」

 

メディにそう言ってほんのり温かい袋を手渡されたエイトが中身を気にするよりも先に、彼女は袋に入っているのはヌーク草だと教えてくれた。寒いオークニスで暮らすグラッドが凍えてしまわないように、とのことらしい。

 

「分かりました。メディさんもくれぐれもお気をつけて!」

 

ちょうど出発の準備を整えたトロデにエイトは着いていく。優しい微笑みを湛えて見送ってくれるメディとバフに、一行は手を振りつつオークニスに向けて足を速めた。

 

 

 

エイトには母親がいない。父親もまたいない。そしてエイト本人は忘れ『させられている』ことだが、幼少期の彼は里中から煙たがれ、祖父以外の全員から迫害を受けていた。そんな悲しい過去を持つエイトにだってわかる。この袋が温かいのは決して発熱作用のあるヌーク草が入っているからだけではない、ということが。

 

「(絶対に届けないとな…!)」

 

メディのふくろがこんなにも温かいのは、この世で最も温かいもの────そう、母の愛が入っているからである。

 

 

 

 

 

 




原作との相違点
・トロデとミーティアも雪崩に巻き込まれた。
原作ではヤンガスとの喧嘩が白熱したことが巡り巡ってトロデとミーティアを雪崩から救うことになるのだが、今回はケンカしなかったため普通に巻き込まれた。なのでククールの機転でヤンガスが信号弾(ばくだん岩のかけら)を投げていなければ最悪ここで一行の旅は終わっていた。

・メディが賢者の末裔であることが発覚した。
原作ではエイトたちの目的が「黒犬レオパルドを追う」ことだったのでメディは特に何も言わなかったが、今回のエイトたちの目的は「賢者の末裔を探す」ことだったのでメディはその正体を表した。そもそもラプソーンは誰が賢者なのか何となくわかっているので賢者たちも隠しておく意味も特にない。



レベル
変化なし



・メディ
七賢者『大学者』カッティードの子孫で凄腕の薬師。ドラクエⅧ屈指の聖人。遭難した旅人に暖かい薬湯を飲ませてあれこれ世話を焼き、その対価に旅人の話を聞くのがライフワーク。息子グラッドとは離れて暮らしているが仲が悪いというわけではなく、常に大事に思っている(グラッドの方は若干の負い目があったようだが)。原作では七賢者の末裔の中で最も活躍している人物。山岳救助犬のバフを愛犬、あるいは相棒として共に暮らしている。

・カッティード
七賢者の一人。彼に知らぬことなどないと言われた高名な学者で、その叡智を駆使してラプソーン封印に尽力した。遠い未来にラプソーンが復活することを危惧し、石碑に『神鳥レティス』に関する記述を残し、情報が失われぬよう人通りの少ない雪山地方の遺跡として洞窟に石碑を安置し、強固な結界を貼り、更に遺跡の守り手を相続させるシステムを作ったかなり用心深い人物。更に暗黒神が復活してしまった場合のことまで考え、「さいごのかぎ」をひそかに製造し、子孫に託した。末裔が聖人なら祖先も有能である。



エイトたち4人の親、8人中1人(アローザ)しか生存してないのなんなの~?ああ、もしかしたらヤンガスの父親は今も元気に盗賊やってるのかもしれないけど…



あ~どうしよ~!エイトもヤンガスもククールも割と冷静なせいでウチのゼシカがどんどんアホの子になっていく~~!



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