数多の英雄を束ねる者 (R1zA)
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ギリシャ神話編
とある青年の手記01


◆注意◆
・FGOのイアソン憑依物。ただし能力が誰おまレベルで別物。
・俺tueeなどの地雷要素あり
・ギリシャ神話については殆ど知らないのでwikiで調べながら書いてるから時系列的な矛盾があるかも。
・多少違和感を感じてもご都合主義ってことで許して。
・最初の間は基本日記形式。

以上のことを頭に入れて読んでくれたら嬉しいです。


 

 

◆月◇日 晴れ

 

『先生』が5歳の誕生日に紙とインクをくれたので、こうして日記を書くことにしてみた。ちなみに読まれたら恥ずかしいから日本語で書こうと思ったけど先生に解読されたらたまったものじゃないから普通に書いてる。

 

では最初に俺の身の上を書こうと思う。

 

俺は転生者である。前世の名前は思い出せない、今世の名前はまだ知らない。俺に新しく付けられた愛称がイアソン。…どこかで聞いたことがある気がするけど気の所為だろう。

 

この世界は恐らく最近よくある剣と魔法のファンタジー世界、つまり異世界だ。なんなら天界的な所に神様も実在している。根拠?勿論あるとも。

 

今捨て子だったらしい俺をこうして育ててくれていて、他にも俺以外の色々な人を一緒に育てている『先生』。彼の存在自体がファンタジー要素マシマシなのである。

 

いや、確かに魔法とか使ったりするけどそういうことではなく、『先生』の存在自体が物理的にファンタジーなのである。

 

 

 

――『先生』はケンタウロスなのだ。

 

 

そう、腰から下が馬でファンタジー世界によく出てくるケンタウロスである。始めて見たときは正直びびった。だって目を開けてイケメンだと思ったら下半身馬だったから。

 

まあ、なんか赤ん坊になっててその後に俺が『俺』だと自覚…思い出した時にはもう拾って貰っていた以上、その『先生』改めケイローン先生に他の色んな子供たちと一緒に色々教えて貰っているのだ。ただ、この世界は…というか今俺達の住んでいる先生の家こそが色々おかしい。いやほんとマジで。

 

 

まず、先生は剣、弓、槍、パンクラチオンとかいうつよつよ格闘技、他にも騎乗や薬学、更には魔術(魔法では無いらしい)など、戦うことからその他諸々全ての分野において人外級の腕を持っていたのだ。いや元々人外だしなんなら不死身らしいけど。

 

勿論これだけでは無い。先生は俺達の才能を的確に見抜いて、生徒全員を何かしらの分野で化け物級に育て上げているのだ。

 

過去の生徒の多くは英雄と呼ばれる存在になっているらしい。いや、もうそれどこのなろう系主人公?

 

 

まあ、とにかく人外なケイローン先生の話はこれくらいにしておこう。

もうすぐ今まで基礎訓練だけだった俺も本格的に指導を受けられるようになるから、魔術の適正があるかケイローン先生に聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■月□日 雨

 

俺氏、わりとヤバかった件。

 

早速先生の所に行き、俺に魔術の才能はあるか聞いてみるが先生曰く、俺に魔術の才能は魔力量自体はかなりあるが、魔術回路は一般人に毛が生えた程度しかないらしい。

 

その時の俺はちょっと落胆したが、一応体に魔力を流す練習をということで、体に魔力を通してみたら何か雷が出てきました(・・・・・・・・・・)。いや、意味わからん。

 

何でもこの雷はケイローン大先生曰く、回路を使った魔術ではなく俺に元々備わっていた権能のような物らしい。うん、余計意味わからん。

何で俺のような純粋な人間に権能なんざついてるんですかねぇ…。

調べて分かったことなのだが、この雷はこの世界のトップとも言える神ゼウスの雷の権能【雷霆(ケラウノス)】に似ている、というかほぼ同じで、なおかつ俺には神ゼウスとその妻であるヘラの加護が備わっているらしい。

 

……いやなんでぇ?

 

さんざん周りの人達の事を人外呼ばわりしてまさかの俺も既に一般的人間の枠を外れていた事に衝撃を受けざるを得ない今日このごろ。

 

ぶっちゃけ強いのは得しかないから嬉しい。

 

その他にも基本的な武器を色々試してみたが、武術は剣と槍が比較的使えるセンスが在るらしいけど何ていうか……しっくりこない。

 

なんか槍くらいの長さで刃渡りがあるもの無いの?薙刀とか鎌とか。まあ無いならいいけどさ。

 

取り敢えずあと3年くらいは素振りと勉強だってさ。まさか異世界でも勉強とか…

 

 

あ、あと友達が出来たことを書いておく。二人いて一人はカストロ。ケイローン大先生の基で過ごしている俺達の中で珍しく俺と同じ純粋な人間。厳密には双子でカストロが人間である母の血を、妹が神の父の血を色濃く継いでいるため、二人はゼウスの子だがカストロが(多分)人間、妹は(多分)半神らしい。

 

 

うん、ゼウス神さぁマジで…俺の雷がゼウスの権能の一部って知られたとき、ちょっと俺が一方的にだけど気まずくなったやん…。

 

もう一人はアスクレピオス。太陽神アポロンの子で半神である。こいつは一言で言うなら医術キチ。ケイローン大先生曰く医術なら自分を遥かに凌ぐ才能らしいが、俺的には代わりに狂化がかかってる気がします。だって加護のおかげか傷の治りが速い俺を見て実験体にしようとするんだよ?なに医学の発展の為に人殺そうとしてんの。

 

 

 

 

 

 

✦月✧日 曇り

 

 

―――突然だが、空を飛べるようになった。

 

ちょうど12歳の誕生日を迎えた頃には俺も成長し、剣の扱いも素振りと大先生の指導のおかげで達人級の腕前になった。

 

あと何か剣を打ち合ってたら相手の動きが何となく分かったり、突然頭の中に未来のことがフラッシュバックするようになった。先生曰く直感が鍛えられた証拠らしい。いや直感万能すぎでしょ。

 

それで雷ももっと使えるように!と雷を身体全体に纏って跳んでみたらなんか体が浮いた。やったぜ。

 

他にも俺は他人よりも頭の回転が非常に早く、操船の才能に関してはケイローン先生からしても剣と槍に比べ本物の怪物級だったらしい。

 

あとちなみに、雷の権能って言ってるけど実際は大した事ない。権能っていうのは、事象の変動、時間流の操作、国造りといった「世界を創造しうる」レベルの力なんだけど、俺の場合は加護のような概念的な物を破壊出来る効果とビームが打てる。それだけなのでまあ正直最強ってわけでは無い。ただし、日に日に力が強くなってる気がするので将来は本当に権能みたいに成るかもしれない。

 

先生の指導を受けながらどんどん成長する俺達。そろそろ強くなるにしても目標が無いとモチベーションが無くなりそうでつらいです。

 

にしてもやっぱり何か引っかかる事があるんだよなぁ…

 

 

改めて成長してきた俺や皆の顔を思い浮かべる。俺は金髪で翠緑の瞳のイケメン。アスクレピオスは銀髪で緑目のイケメン。カストロは金髪で水色の瞳のイケメン。…そして俺の今の名前はイアソン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――異世界は異世界でも、ここ異世界の地球やんけ。

 

というかじゃあ、何で俺に雷の能力なんか生まれ持ってついてるんですかねぇ…

 

 

 

 

 

 

❖月★日 晴れ

 

顔的に俺が型月のヘラクレス大好き船長なのは確定なので、目標はやっぱりヘラクレスと見せかけて、同じ5次の青タイツにしようと思う。

 

 

そうだ。速くなって攻撃を避けて、相手を何かしらの方法で確殺すればいいのである。あのスピードは俺のゼウスの雷(暫定)出せるし槍もまあ一応使える。剣の方がいいけど。まあ問題はあの槍である。あれは流石に神話体系が違うから無理。ここギリシャだし影の国の行き方とか知らんし。

 

もう取り敢えず当たれば絶対殺せる技を編み出せば良いんじゃね?という結論に達したので、雷の権能と合わせて確殺できる技を開発する自由研究でも始めようか。

 

 

 

 

 

 

 

#月∆日 雨

 

 

 

―――忘れてた。

 

此処がギリシャだって忘れてた。ケイローン大先生の所に引きこもってるから。ちなみに最近14歳になった。

 

そう、ギリシャの人達は屈指の美少年(ショタ)好きなのだ。なんか健全な教育の為らしいけど、あれは完全に個人の趣味で襲われそうになった。あれが健全ならこの世の終わりだわ。

 

あとはよく男に『や ら な い か?(意味深)』って誘われたりする。もうお前ら何なんだよ。(頭のおかしさが)確実に現代人よりも遥か先を行ってるよ。

 

自分で言うのもあれだけど俺は実際イケメンでしかも超強いので町に繰り出したときはもう色々と凄かった。二度と思い出したくないから詳細は記さないが、とにかくケイローン大先生ありがとう。これからは前も後ろも守りながら生きて行きます。

 

……でも砂浜に座った時も太ももフェチが寄ってくるから座っていた跡を消そうねってどうなのよ。ちょっと我々日本人のOMOIYARIとOMOTENASHIの心を学んできて欲しいですねぇ。

 

ただ何か俺を襲おうとしていた方々に雷が片っ端から落ちてたのには気になった。カストロ?そんな目で見ないで?俺何もしてないから。

 

 

 

 

 

◐月◑日 曇り

 

 

―――最近、不思議な夢を見る。

 

なんか寝たら変な場所に居て、其処にはなんか輝いてる石像のおっさんがいるのだ。おっさんが何か思ったよりフランクに話しかけてくるのでまあ夢の中だしと色々何も考えずに話してたらめっちゃ仲良くなった。

 

とにかく良い人で、雷の扱いを俺に詳しく教えてくれた。ある程度使えるようになれば、俺の場合は山一つ程度なら消し炭に出来きて、大抵の防御能力を無視出来るらしい。

 

 

――――――いや、思っていたより雷の権能強くね?

 

 

もう絶対勝てるじゃんそんなん。あの権能俺の魔力大して使うわけでもないから半永久的に使えるし、元々身体強化と空飛ぶのにしか使ってなかった昔の俺を殴りたい。

 

他にも、武具や手足を介して雷を噴射する魔力放出などの使い方も学んだ。俺の場合、神クラスの武器じゃないとまともに運用出来ないらしいが。

最近は昼間にケイローン大先生から操船、剣術、パンクラチオンを学び、時にボコられ、寝てる間はこのおっさんに雷の権能の力の使い方を学んでいる。

……そういえばこの人雷の権能使えるってことは、例のゼウス神じゃね?

 

 

そのことをある日聞くと、まだ気づいて無かったのかと爆笑された。折角なので色々聞くと、まずここは天界で、俺の親たちはイオルコスという国の元王様。

ペリアスという俺の叔父に王位を奪われ、当時胎内に宿していた俺が将来王位を奪還出来るよう、三日三晩祈ったらしい。

それを見た女神ヘラが俺に加護を宿した時に、俺の魂が全く見えないことに興味を持ってゼウスに報告。

ゼウス曰く、それは初めてのことだったから異質な魂をもつ俺の事を気に入り、俺は英雄の素質がある(いい暇つぶしになる)と思って自身の権能を俺に分け与えたんだとか。それと何か将来戦う運命の敵がいるとか何とか。

 

その後、俺の親は生まれた俺を実はゼウスの異母兄弟?だったケイローン大先生に預けたらしい。

 

へー、すっげー(適当)。でも王様には興味無いですね。型月世界の王様とか碌なこと無さそう。

 

正直に思った事をゼウスに言った。ゼウスは分かってたのか全然動じていなかった。

 

そうしたらゼウスがとある提案をしてきた。我と戦え、傷一つでもつけられたらお前の勝ちって。…俺多分死ぬかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

$月%日 晴れ

 

 

―――やったぜ。

 

 

今日また夢の中でゼウスと戦った。と言っても殆ど俺が一方的にやられて、やられる直前に最初の方から用意していた全力の雷撃をぶつけて、ほんのちょっとの傷を与えただけ。全能神やべぇ。

 

戦いの後で何でこんなことをしたのかと言うと、どうやら俺を一度試してみたくなったらしい。今まで余興として鍛えてきたが、此処で期待以下ならば消すことにして。本当は勝てる可能性なんてほぼ無かったらしく、俺が逃げるかどうかを見極めたかったとか。ただ俺は勝った。勝っちゃった。予想を上回ったからか、ゼウス自身は面白いものを見るように見てきた。

 

ゼウスは俺のことを認め、褒美を上げるから何かしら言ってみろとのこと。ふーん。じゃああの権能のこともっと教えて下さいお願いします。

 

 

ついでに武器が欲しいと考えていたら、そのうち武器を送ってやるって言われた。そんな軽いノリでいいの?まあ神だしそうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼月◀日 曇り

 

 

朝起きたらなんか力がみなぎってる。ほんとに何で?

 

取り敢えずケイローン大先生の所へ直行して最近の事を全て話す。最初は落ちついて聞いていたケイローン大先生は途中からは目をぱちくりさせていたし、ゼウスに直接認められたのはとんでもないことらしい。

 

改めて、ケイローン大先生が俺の身の上を話す。

 

ディオメデス。イオルコスの王子であり先代の王アイソンの息子、女神ヘラとゼウスの加護を受けた次代のイオルコスの王となるもの。今は改名してイアソンらしい。

 

 

まあ名前は初耳だけどそれ以外は知ってた。だけど王にはならん。絶対。

 

ケイローン大先生と色々相談して決めたところ、俺の存在自体は知ってるかもだから、取り敢えず18くらいになったらイオルコスに行って、俺は王なんて興味ないからこれからも王様よろしくね〜。的な挨拶をしてこようということになった。

…まあでも親の願いを無下にするのもあれだから、場合によってはペリアスとやらを王位から叩き落してその後に誰か適当なやつに王位を押し付ければいいや。

 

それにしても、こうして育てて貰って、強くしてくれて、なのに俺はケイローン大先生に何も返せていない。何か力になれることは無いだろうか。

 

そういう旨のことをケイローン大先生に伝えると、先生は少し困ったように笑って、そんなことは必要無いと答えた。

でもやっぱり何もしないわけにはいかないので、鍛え上げられた直感が酔ったヘラクレスに気をつけろと言っていたことだけを伝えた。もしかしたらケイローン大先生の死因に関係してるのかもしれない。今まで俺の直感が外れたことは無いのでケイローン大先生も覚えていてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆月■日 晴れ

 

――15歳になって最近この周辺は結構色々な動物がいることに気づいた。流石神代か、ちょっと歩けばワイバーンの群れやドラゴンも居るし、精霊種や神霊もどきも偶に出てくる。普通にインフレしてて草生えるわ。

 

それにしても、こんなにサンドバッグが居るのならもっと早く気づけば良かった。

 

 

そこのドラゴン、おい、デュエルしろよ(迫真)

 

 

ということでデュエル(物理)してドラゴンの死体の出来上がり〜。これがほんとの三分クッキングだね!

 

自慢してやろうと思って荷台に積んで皆に見せにいったらなんかもう凄かった。

 

ケイローン大先生には頭叩かれるし、アスクレピオスは何かドラゴンの血採取してるし、カストロは「そうか、まあいつかやるとは思ってたぞ。」とか言い出した。キレちまったよ…久々になあ!

 

それでカストロと戯れていたらまたケイローン大先生に怒られた。あの冷ややかな目は怖かった。普段温厚な人ほどこういう時って怖く感じるよね。

 

 

 

 

 

 

 

α月β日 曇り

 

ゼウスが雷の権能の真髄を俺に授けてくれるらしい。神ではない俺には不可能だが、最高で星を溶かしたり出来るらしい。なんだそれ、バケモンジャマイカ。

 

ゼウスが俺に手をかざすと、何か第三者視点の走馬灯的なのが頭を駆け巡って、権能の使い方が更に頭に入ってきた。

これって多分ゼウスの戦いの記憶だよね、眼の前で戦ってるの見えたし。何かゼウスの周りにいるのが完全に戦闘要塞だし、向こう側に白っぽい巨人、いや巨神か?が見えた気もするけど、気の所為気の所為。

―――まさかあれと戦えとか言わねーよな。まあ流石に有り得んか。

 

その名を、【我、星を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)】星をも溶かすこのギリシャ神話最強の一撃である。

 

まあ俺には多分無理。権能って言っても一部だけだし、これをしようとしたら先に俺の身体が溶けそうになった。こうやってビームを放つ使い方なら、精々山を吹き飛ばしたりする程度しか出来ん。

 

名付けるなら【我、大地を覆う雷霆なり(アースディシプリン・ケラウノス)】といった所か。ゼウスのが対界宝具なら、俺のは対城宝具くらい。でも他には加護を破壊したり、魔力放出で身体強化したり、お空飛んだり出来るからノーカンノーカン。そういえば武器の件ってどうなったんですかねぇ。

 

そうしたら、忘れてたと言わんばかりに金剛の鎌を取り出して俺に渡してきた。どうやらこれを貸してくれるらしい。

 

銘を【掻き抉る時の大鎌(アダマント)】。農耕神クロノスが元は所有したもので、大地母神ガイアが夫ウラノスを去勢する為に作った物だとか。ヘルメスが英雄ペルセウスに授けた【不死身殺しの鎌(ハルペー)】とは似て非なるものらしい。『屈折延命』とか含めほぼ同じ力だけど。

 

だけどこれはもしかしたら俺にとって理想の武器かもしれない。鎌として相手を掻っ切る使用方法。剣と槍の中間程度の使い心地。丁度前から欲しいと思ってた理想の得物だ。

これなら俺も純粋な技術の伸びしろがある。ケイローン大先生に作ってもらっても良かったけど雷に耐えられる素材が無かったから無理だった。

 

因みに何でこれかというと、近いうちに分かると言われた。

 

そして朝起きたら掻き抉る時の大鎌(アダマント)がしっかり俺の手に握られてたからやっぱり神の力ってよくわからんと思いました。まる。

 

 




イアソン:一般人?だったがケイローン先生の厳しく優しい指導と古代ギリシャのやべー環境に適応したせいで頭のネジが何本か外れた人。
 ただし精神性は一般的なままのある意味やべー奴。
 神々に目を付けられてるけど全能神のおかげで今の所は悪いことは何も無い。
 因みにfateの知識はstaynightとzeroとfgoの二部三章までと、apoの大まかなストーリーしか知らない。EXTRA?Fake?名前しか知らん。


……勿論ギリシャ神の正体も知らん。


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とある青年の手記02

しばらくはこっちの方をメインで書いていきたい。
後、話は史実が基本で進んで行きます。だからまあFate的におかしい部分があっても許して下さい。

あとここからは三人称も結構な割合で入ってきます。


 

――その竜は生態系の頂点とも言える存在だった。

 

沼地に住み、体液の毒は例えどんな者でも解毒は出来ず、九つの首を持ち再生能力をも併せ持つ不死の存在。

 

そして幻想種の頂点に位置し、撃破すれば人類最高峰の偉業『竜殺し』とされる存在でもある『竜種』。

 

―――その名を毒竜(ヒュドラ)。かの大英雄ヘラクレスさえも苦戦させた最強格の竜種である。周囲にはその竜に敵うものは無く、その地には如何なる生き物も近づかなかった。いや、近づくことが出来なかった。

 

自らに恐れ、どんな生き物も自身に寄り付かない。英雄と呼ばれる人物達も敵わない。この竜にとっては天国のような環境だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

――――――ふと、金剛の鎌を携えた少年が訪れるまでは。

 

 

初めは獲物が迷い込んできたとほくそ笑んでいた毒竜だったが、直ぐにその考えを改め、少年を倒すべき『敵』と断じた。

 

 

それは少年の纏う覇気が桁違いだった為である。今までこの身を滅ぼそうと、英雄と呼ばれる者たちが挑んで来たことはあったが尽くを返り討ちにしてきた。

 

しかしこの少年の覇気に自身が気圧されていることを感じた。

 

気圧される?矮小な人間風情に?そんなことは有り得ない。

 

 

―――だが現実は非情だった。眼の前の少年の姿が突然消えたと思えば、自身の首の一つをその手の大鎌で切り裂いていた。

 

馬鹿め、と竜は考えたが異変に気づく。再生するはずの首が復活しないのだ。自身が唯一苦手とする炎で傷を焼かれた訳でも無いというのに!

 

そのままその少年は竜種の動体視力を以てしてもなお視認出来ない速度で毒竜の首を二つ、三つと切り裂いていく。その顔は、何も感じさせぬ無表情であった。

 

『――――――汚染の原因は排除。これ大事。』

 

押されている。最強の竜たる自身が人間如きに!何故、何故!

 

毒のブレスを周囲に吹くが、奴は居ない。――ふと上から何かが弾ける音がして上を見る。

 

――そこには、雷霆を纏いし少年()が自身を変わらずの無表情で見下ろしていた。

 

 

―――ああ、人間如きではなく、神に属する存在であったか。

 

そう自身の愚かさを悟った毒竜は瞬間、蒼の雷光によってこの世から消滅した。

 

 

余談だが、この蹂躙劇を観ていたとある最高神とその他の神は、ヒュドラに対して思ったより一方的過ぎてドン引きしたり、まだかなり若いイアソンの圧倒的実力に感心したりしていたとか。

 

 

__________________________

 

■月◆日 晴れ

 

 

何かヒュドラが居た。嘘だろお前。

 

でも何かこう…思ってたより小さかったし油断してそうだったから行けるかな〜って思って行ったら倒せた。何なら相性的に余裕だった。でもやっぱ毒がやばいのは知ってたからすっごく顔が強張ってた気がする。やっぱり戦闘になると少し緊張してしまう。

 

不死だろうとあの大鎌で容赦なく無効化出来るし、ブレスを吐かれたときは一瞬焦ったけど、雷の権能で空飛んでそのまま雷撃浴びせたら倒せたわ。というか少しの肉片以外何も残らんかった。

 

くそう、ヒュドラの毒欲しかった…

 

まああっても使わんけど。ヒュドラの毒は厄ネタ、いいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆月■日 曇り

 

 

ケイローン先生にヒュドラと遭遇したことがバレた。なんで言わなかったのかとめっちゃ怒られたけど最後は褒めてくれた。因みに採取した肉片はアスクレピオスが持っていった。まあ別にいらんかったしいいや。

 

あと多分【掻き抉る時の大鎌(アダマント)】が渡されるのって絶対俺が毒竜と出会うの知ってたやろあの神。言ってくれたっていいじゃん。

 

ケイローン大先生曰く、ヒュドラ殺しは英雄として最高峰の偉業であるが為に俺の名が広まるのは時間の問題らしい。

 

 

いや、嬉しくないです。此処ギリシャにおいて有名になるのは消費税が5%程一気に上がるよりも辛いです。何故ならその辺の国のジジ…王様や神々に目を付けられて無理難題を出される可能性が増えるから。やだよ、ふざけんなよマジで。

 

 

 

 

 

 

 

▼月●日 晴れ

 

 

今日で一通りケイローン大先生の学習塾の課程が終わった。ある日は狭い通路で大量の矢を避け、またある時はケイローン先生とのパンクラチオンの組手でひたすら投げ飛ばされたり、………本当に色々あった。殆ど思い出したくない事ばっかだけど。

 

でもおかげでケイローン先生との模擬戦では勝ち越せるようになった。鎌は無しで勝てたから遂に先生を自分の実力で倒せるようになってまさに感無量である。

 

 

 

アスクレピオスは見聞を深める為に此処を離れることにしたらしい。一緒に来るかと聞かれたが何となく行ったら嫌な予感がするので辞めておいた。

 

カストロも此処を去って行くらしく、例の双子の妹に会いに行くと言っていた。いつも可愛い可愛いとシスコンっぷりを見せつけていたのでどんなのか気になったけど、「妹はやらんぞ!」って言ってなんかそのまま出ていった。

 お前は一体俺を何だと思ってるんだ。

 

 

取り敢えずカストロは次会ったら殴るとして、俺は後二年くらいは此処に居ようと思う。18の若造が王様に会いに行ってもアレだし。まあ20でも大して変わらん気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●月▶日 雨

 

 

今日は権能(仮)があるからと長年忌避してきた魔術の追加講習をケイローン先生から受けました。

 

個人的に一般的程度の才能って、型月的にゴミ同然だと思ってたけど、此処神代だから一般の基準から既にバグってたよ。まあ現代最高クラスの魔術師程度の技量は得られそう。戦闘では強化くらいしか役に立たんけど。

 

まあなら戦闘に使わなければ良いわけで、日常生活はそれなりに便利になった。風の魔術でちょっとした強風を吹かせられるようになったりもした。魔力砲とかも威力だけなら結構凄い。

 

 

……正直要らんかった。魔力勿体無いし。

 

 

 

固有結界的なの俺も出してえ。

 

 

 

 

 

 

 

○月□日 曇り

 

 

実は密かに通っていたゼウスを祀る神殿にお参りに行ってたらなんか人間味の無い人が居て求婚された。

 

なんと出会ってここまで脅威の二秒。道端のトレーナーにポ○モンバトルを挑まれるより速い。当然お断りである。

 

 

 

そしたら何か突然殺そうとしてきた。もう用は無いとのこと。怖すぎ。情緒不安定なのは良くないと思いました。

 

それで幾らか打ち合ってたら異変に気づいた先生が助けに来てくれた。なんかこういう展開前も見た気がする。でも正直助かるのでありがとうございます。

 

後で知ったんだが、先生曰く「神霊になり損なった精霊」だそうだ。こんなのがうようよしてるこの時代がどれだけやばいか小一時間程語りたい。

 

 

あの精霊は先生に一瞬囮になってもらって、速攻で首を切って倒した。つまるところゴリ押しである。

 

 

因みに神殿の話だが、取り敢えずアテナ、ゼウス、ヘラ、アルテミス辺りは頻繁に通っている。

 ゼウス、ヘラは言わずもがな、アテナ神は型月は関係無いけどそういう名前のキャラが結構好きだったから、アルテミスはFGOの恋愛脳(スイーツ)を知ってるから。色々複雑だけど知ってるから一応。

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

「さあ、もう私が貴方に教えられることは何も無い。大丈夫、ヒュドラを討伐し、神に準ずる精霊を倒した貴方に恐れるものなどありませんよ。」

「ああ――」

「―――じゃあ行ってくるよ。先生、ヒュドラやその毒には気をつけろよ。マジで、本当に。」

「はい、肝に命じておきます。」

 

 

今から俺はイオルコスに向かう。

 成人した俺は昔ケイローン先生と決めた通り、先代王アイソンの息子として現王ぺリアスに王位の返還を求めに行く。今でも王には興味がない、やりたくないという事に変わりはないが、まあ一応顔も知らないとはいえ親の願いだ。

 

 どうせこれからも関わらないだろうとはいえ、その願いくらいは親孝行として叶えようか。そして王になったら速攻で誰かに押し付けて俺は自由に生きよう。うん。

 

 

 

 

 

―――先生の元を去っておおよそ二日程で、イアソンはイオルコスの近くまで着いた。

 

(……何か川の流れがおかしいんですが。おいおいペリアス、海神の血が入ってるとはいえこんなこと出来ない筈だしやり過ぎだろ。)

 

そんなことを考えていると、イアソンは川岸に老婆を見つける。

 

 

「そこの若い御方。イオルコスへ向かうのですか?」

「ん?ああ、お婆さん。そのつもりですが、もしかしてお婆さんもですか?」

「はい。そうなのですが、この川の流れでは……急いでいるのですが…」

 

ふむ、川の向こう岸までの距離は…行ける。とイアソンは考え、

 

「よろしければお婆さん、私が向こう岸までお運び致しましょうか?」

「ええ?向こう岸まではかなりあるけど、大丈夫なのかい?」

「鍛えてますから。」

 

そう言ってイアソンはお婆さんを抱え、魔力放出で足を強化して一気に川を飛び越えた。

 

 

ちなみにこのお婆さんが実は女神ヘラが変装しているものであり、なおかつこの状況も彼女が作ったことを彼は知らない。あと抱られているヘラはイアソンが泳いで行くと思っていたので内心結構驚いているのにも気づかなかった。

 

それを知ってるわけでもないが、お婆さんを優しく下ろして支える紳士ムーブを無意識に決めていくイアソン。そんなことは教えられてないだろ。

 

「よし、これで大丈夫ですよ。…あと、お恥ずかしながら王宮の場所を教えて頂けませんか?」

「紳士だねぇ…王宮はあちらの建物ですよ。お気をつけて。」

「ありがとうございます。お婆さんも用事に間に合うと良いですね。」

 

イアソンはお婆さんに別れを告げて、ペリアスとやらが居るであろう王宮に向かった。

 

 

 

 

そして、それを見送った女神ヘラはイアソンの好青年っぷりに感心していた。

 

 彼女は自身の神殿を穢して放置し、散々蔑ろにしてきた王ペリアスを憎んでおり、奪った王位を奪い返されるという最大の屈辱を与えるために丁度良い立ち位置に居たイアソンに目を付けた。

 

 彼を英雄に仕立て上げてペリアスを潰すつもりだったが、夫は彼をいたく気に入り、なにかの目的の為にあの人間を育てているようだ。そして彼もそれに答え、ヘラクレスが倒した程では無いが、ヒュドラを倒してみせた。しかも一方的に。

 

それが少し気に食わなかったが、彼は自身の神殿にも頻繁に訪れ祈りを捧げているので、特に何か嫌がらせをするつもりは無かった。が、一度直接会ってどんな人物か見極めるつもりでもあった。

 

そして彼の人格を見て今は、これから英雄としてどう足掻いていくのか(楽しませてくれるか)、何処まで成長するか楽しみだと、彼女は人間味の無い笑みを浮かべていた。

 

 

 

__________________________

 

 

イアソンは王宮に着いた後、王と謁見する許可を得てペリアスと対面した。

 

そして彼は自身の来歴を話した。先代王アイソンの息子であること、森の賢者の下で自身を鍛え上げたこと、数年前にヒュドラを討伐したのは自身であることなど。

 

ヒュドラが生息していて討伐されていたことには向こうも気づいていたのと、倒したのはイアソンという青年だという噂が周辺に広がっていた為か案外あっさり信じられた。

 

 因みにもし駄目だったら素手でドラゴンを撲殺するショーを見せてあげる予定だったと後にイアソンは語っている。

 

 

彼はかつて強奪した王位の返還を求めた。

 

 だがペリアスは老害となってなお、奪い取った王の座を奪い返されるのは耐え難いものだったらしく、王位を奪われない為に、こんな時に備えて用意しておいた逃げ道を使うことにした。

 

 

「……良いだろう、ちゃんと王座は返す。しかしイアソンよ、王座に就くには、ちゃんと相応しい英雄としての証を立てなければならんよ。」

「(なんか雲行きが怪しくなってきたな……)ええ、その通りですね。」

「それでな、わしらの親戚にプリクソスとヘレという二人の兄妹がいるんだが、この二人は継母にいじめられて、それは辛い思いをしたそうだ。そこへ、神ヘルメスが黄金の羊を遣わし、二人が羊に乗ると、羊は空高くまい上がったらしい。」

「(突然何いってんだこいつ)…つまり何が言いたいのですか?」

「最後まで聞けい。空の旅の途中、哀れなことに妹ヘレは海へ墜落してしまった。一方、兄のプリクソスは無事にコルキスの地まで飛んでいくことが出来た。……そして今も、コルキスにはその黄金の羊の皮が祀られているそうだ。元々はわしらの親戚のものなのだから儂らの物でもあろう。イアソンよ、コルキスまで行って羊の皮を取ってくるのだ。その暁にはそなたを認めて王座を返そうではないか。」

 

これはこの時代ではかなりの無理難題である。だって船しか移動手段がないから。

 

 

「(要は時間稼ぎかこのクソジジイ……)―――良いでしょう、直ぐに取ってきて見せましょう。但し、書面を用意してそこにこの取り決めを記しておきましょうよ。―――約束を無下にされては困りますから。」

「……良かろう、イオルコスの国王ペリアスの名において、この契約を締結する。」

 

その後イアソンはこの契約を民衆にも周知させ、ペリアスの逃げ場を封じた。破れば神ゼウスの裁きが下るとして。

 

 

 

そうして、アルゴンコインを求めて、彼の冒険が始まることになった。

 

 

__________________________

 

 

 

「――ふはは馬鹿め老害。これであいつは絶対に約束を無下にすることは出来ない。あとはコルキスに行くだけ…なんだけどなぁ、こんなことならその辺のドラゴン一匹飼いならせば良かった。」

 

イアソンが悪どい笑みを浮かべながら街を歩いていると、其処に見知った影を見かけた。

 

「あれは、カストロと……誰?」

 

其処には兄弟弟子兼友達のカストロと、彼によく似た女性が居た。当然そんな人物に面識の無いイアソンは困惑する。

 

「あ、おお!イアソンじゃないか、会うのは久々だな。」

「な、なあカストロ。そちらの女性は…?も、もしかしてお前、かのzy…」

「違う!こいつはポルクス。前に言っていた妹だ!」

「……兄様、この人が例の雷を身体から出したり、空を飛んだり、ヒュドラを倒したりした人ですか?」

 

イアソンは思った。お前は妹に一体何を吹き込んだのかと。でもあながち間違ってないから言い返せない。

 

「あ、そうだ。二人共、空を飛ぶのとドラゴンを手懐けて飛んでいくのどっちが良いと思うよ?」

「はあ?何の話をしているんだ?」

「いや、そりゃあペリアス王にアルゴンコイン……金羊の皮を渡すためにコルキスに行かなきゃならんから、どうやって行こうかっていう。」

「「!?」」

 

その兄弟は思った。こいつは一体何を言っているんだと。コルキスまで飛ぶ?ドラゴンを手懐ける?

 

「はあ……。イアソン、お前は馬鹿か?いや、馬鹿であったな。」

「はあ!?馬鹿ァ!?お前こそ何を言っている?コルキスくらいまでなら、船を使うんじゃなくて島を跨ぎながら飛んでいった方が速いだろうし、二日ぐらいで着くはず……」

「そんなわけないだろォ!」

 

普段は落ち着いているカストロが思わず雄叫びを上げる。いつもとテンションが違いすぎて地味にポルクスが驚いている。

 

「いいか?そういうのは直線距離で飛んだら着くなんて単純な話じゃないんだよ!途中で絶対に色々あるから飛んで行くなんて馬鹿な考えは止めとけ!ほら、さっさと鍛冶師の所に行って船を作ってもらいに行くぞ。全くなんでいつもいつも何で貴様は突拍子もないことを言い出すのだ……」

「え?ちょ、やめて引っ張らないでぇぇ!」

「―――ちょ、兄様達待ってください!」

 

カストロに半ば呆れられながら引きずられるイアソン。そして地味に置いていかれたポルクスなのであった。

 

 

 

そして渋々ながらもイアソンは双子を介してイオルコスの鍛冶師アルゴスに船の建造を頼む。

 すると案外彼は快く引受けてくれ、船の建造を始めた。その間、イアソンとカストロ、ポルクスの双子は船員たちを募る事になった。

 

 

 

「まさかここまで簡単に行くとは…こうなったら、他の乗組員を探さないとな。早速ケイローン先生にでも頼んで、こういうのに興味がある方々を探そう。」

「それも良いと思うが、先生に迷惑だろう。大人しく普通に募集したらどうだ。」

「こんな面倒な冒険に行きたがる奴がいるとは思えんし、言っちゃ悪いが、俺だぞ?普通遠くの知らんやつの冒険なんかついてこないだろ。」

「いえ、貴方の噂は結構広く広まっていますよ。ドラゴンが暴れていたところに颯爽と現れて退治したことや、これは余り信じられていませんが、ヒュドラを討伐したことも。」

「Oh My God……」

 

自分の噂がかなり広まっていることと、想像以上に美化して広まっていた事にイアソンは驚きを隠せなかった。思わず今は存在しない英語を発音してしまうくらいに。

 

二人が近くにいる英雄達に声を掛けに向かったので一人になるイアソン。ふと近くを見回すと、其処には見覚えのある顔があった。イオルコスに行く途中でいた老婆だ。

 

「船員集めは順調ですか?」

「あ、あのときのお婆さん。いやあ、恥ずかしながら私の伝手ではまだ2、3人ほどしか集まっていませんでして……これから声を掛けに行くところでした。……はあ。」

「そうですか。―――ならば、私がそれに相応しい英雄たちを集めてご覧にいれましょう!」

 

老婆がそういった次の瞬間、その姿は非常に美しく母性に溢れた―――女神ヘラとなっていた。突然のことにイアソンは呆けていたが、何とか持ち直し驚愕の声を上げる。

 

「――ファ!?へ、ヘラ様だったのですか!?」

「ふふ、全く…イアソンよ、空を飛んでも直ぐにはコルキスには着きませんよ。道中には数々の試練がありますから。でも安心なさい、貴方がペリアスから王位を奪還出来るよう、この私が全面的に補佐しますから。ふふふふふ………」

「あ、ありがとうございます……」

 

怪しげに笑うヘラを見て、嫌な予感しかしないが、取り敢えずお礼を言うイアソンなのであった。

 彼の直感も碌なことがないと示している。まあ、ヘラとしてはペリアスを陥れたいだけなのであながちその予想は間違ってない。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

女神ヘラの導きにより、ギリシャ内でも並々ならぬ実力者達がイオルコスのイアソンの元に集結した。

 

 十二の試練と言われる試練を成し遂げた『ヘラの栄光』の名を冠する大英雄ヘラクレス。 

 北風ボレアスの息子達で足のくるぶしのところに翼を持つカライスとゼテス。 

 音楽の名手として有名なオルフェウス。

 後にカリュドーンの猪狩りなどで名を馳せる事になるアタランテ。 

 女性から男性へと成ったカイネウス(カイニス)。

 怪物ミノタウロスを退治したテセウス。 

 トロイア戦争で有名な大英雄アキレウスの父親であるペレウス。 

 ペリアス王の息子アカストス(この時、こいつに王位を押し付けようとイアソンはひっそり決意した)。 

 ここに後に航海の守護神とされるディオスクロイ兄妹も加わる。

 

そして―――

 

「久しぶりだな、イアソン。」

「うへぇ…アスクレピオス、お前も来たのか。」

「当たり前だ。冒険には怪我が付き物だ、このような英雄達が集まる場は貴重だしな。きっと医術の発展に役立つことだろう。」

「……まあ、お前の腕は信用出来るからな。多少怪我しても大丈夫というのは大きなメリットだ。」

 

数年前にケイローン学習塾を一足先に旅立ったアスクレピオスも来ていた。でも色々されかけたイアソンにとっては安心半分、不安半分といった所か。

 

「……報酬は怪我をした英雄達を治療する権利、といった所か。お前らしいと言えばお前らしい。」

「―――それもあるが、やはり特殊な体質な君の身体をか――」

「献血くらいならしてやるが、それ以上は絶対にしないからな!」

 

どっちかというと不安の方が強くなった。

 

 

 

 

 




イアソン:戦闘中(びびって緊張してるから)無表情で戦う系男子。周りからは強キャラ認定されてる。


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とある青年の手記03

マテリアルを書いたけど出すのは結構先になりそう。


 

 

 

そうして集まった英雄達だが、イアソンに先ず待っていたのは結構な数の質問攻めだった。

 

 本当にヒュドラを倒したのか?ドラゴンを素手で何体も倒してきたのか?などなど、正直事実であるのだが証明する手段が無い。だが彼らはイアソンが無意識に放っている覇気から、噂は真実だと察していた。

 

「ふむ……どうやら噂の実力は本当の様だな。ここで戦いを挑むのは筋…決闘を申し込む!ヘラクレス―――そして、イアソン!」

 

声を上げたのは英雄ペレウス。将来の子供のアキレウスに似た爽やかな顔して爆弾発言しやがったぞこいつ。

 

 

「ああ、構わな………いや、待って。ちょっと待て。ヘラクレスに決闘を挑むのは俺も十分分かる。強いしな。だがなぜその決闘に俺も含まれている!?おかしいだろ!」

「おかしくなどない!強き武人に勝負を挑むのは同じ武人として当然の事であろうに。―――あのヒュドラを倒したのが本当であるならばな!」

 

 

ペレウスの言葉を皮切りに、次々と他の英雄達にも俺も俺もと決闘を申し込み、最終的に一人ずつは面倒くさいからと乱闘になった。

 とは言っても事実上、沢山の英雄達VSイアソンである。最早只のリンチ状態。

 

 

「―――まあ、こうなるのが分かっていたとはいえ、ご愁傷さまだな。」

「あーこれやばいやつだな、うん……。分かったよ!―――こうなったら全員ぶっ倒してやるよぉぉ!」

 

 

やけくそ気味なイアソンの叫びが決め手となり、決闘が決まった。これが後に語られる、アルゴナウタイの大乱戦である。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

流石に街中で戦うと、イオルコスが地図から消滅してしまうので、イアソンを含めた英雄達は移動し、近場にあった人気の無い草原へと決闘の場所を移し、開始の合図もなく戦いを始めた。

 

けれど、それは決闘と呼ばれるような物では無かった。その光景はどちらかと言えば、蹂躙劇と称したほうが良いかもしれない。

 

各々が、自身の武技に誇りを持ち、英雄と呼ばれるに相応しい、それ相応の力を有していた。

 

 だが十二の偉業を成し遂げて無敵の肉体を持つヘラクレスの前では、全てが児戯に等しく、彼らは大した傷をつけることさえ敵わず、一瞬で蹴散らされてしまったのだ。

 

そしてイアソンも戦闘が始まった瞬間、何処からともなく大鎌を取り出し、全方位から来る剣、弓矢、槍などのあらゆる攻撃を圧倒的技量を持って打ち破り、相手を蹴散らして行く。

 

 

―――そうして、気付けばその場に立っている者は二人を除いて居なくなった。

 

 

「どうやら、残ったのは我々だけの様だな。」

「―――不本意ながらその様だな、ヘラクレス。あの数の強者に襲われて大きな怪我が一つも無いとはな……素晴らしい、流石は生きた伝説といったところか。」

「驚いているのはこちらもだ。そちらの方こそ、我が一撃を受け止めてなお、微動だにしないとは―――面白い。」

 

 

 

ヘラクレスは自身が力を込めて振り下ろした斧を大鎌の柄で受け止め、微動だにしないイアソンを称え、内心歓喜していた。武人として自身と鎬を削れる者が現れたことに喜びを噛み締める。

 

そんな中イアソンは正直、魔力放出や強化を掛けて漸く受け止めることの出来たヘラクレスの力が凄すぎて内心焦ったのは言うまでもないが、久々に互角の相手と戦えるこの状況に心躍り、無意識に笑みを浮かべる。

 

 

 そして身体に雷を纏い飛び上がり、思いきり横薙ぎに鎌を振るう。ヘラクレスは大きくバックステップをしてそれを回避。

 

 イアソンが雷撃を放つがヘラクレスは大きく飛び上がり回避しながら、弓に矢を数本つがえて放つ。

 

 一切のブレなく放たれた弓矢は一直線にイアソンに向かうが、大鎌を構え直したイアソンは、瞬く間に全ての矢を両断する。

 

 

二人の激しい攻防による衝撃の余波とイアソンの雷が辺りに飛散し、掘り起こされた地面や瓦礫を含んだ強烈な烈風となり周りに居た者たちを襲う。

 

 

 

 

 何とかその場に踏みとどまっている者や、衝撃に耐えられず何メートルか吹き飛ばされた者たちも中には居た。

 しかし、誰一人としてその事に関して文句を言う者も、この状況で声を上げる者も居なかった。

 皆、眼前で行われている戦いの苛烈さ、凄まじさに唖然としながらも、その戦いを食い入るように見ていたからだ。

 

二人は彼らの目では捕捉できない程の速さで戦っている。

 

 

 雷をその身に纏い、速度を上げているイアソンに関しては、まるで一筋の光のように見えた。

 実は、ヘラクレスの動体視力を持ってしてもイアソンの姿を完全に捉えられている訳では無い。

 

 イアソンを遥かに上回る経験による長年の戦士としての勘を駆使して、彼の次の攻撃を予測して鎌を躱し、時折斧で受け流し、カウンターを入れようとしていた。

 

 その二人の戦いぶりは、さながら神同士の戦いのようにも見える。

 

 

 

だが、お互いにこのままでは永久に決着がつかないことを察していた。

 それに周囲の地形も初めとは似ても似つかない程に抉れてしまった。

 

 

 

 この戦いに終止符を打つには、何方かが決定的な一撃を浴びせるしか無い。

 

 

 

 

 

そして先に動きを見せたのは――ヘラクレスだった。

 

 

 

 

 ヘラクレスはイアソンから少し距離を取ると落ち着いた声音でありながらも、確かな意志の強さを秘めた声で言う。

 

 

 

「貴殿のその強さ―――感服した。故に我が流派、その一端を貴殿にお見せしよう。」

 

 

そうヘラクレスが言った瞬間、イアソンの脳裏に直感があるビジョンを浮かべ瞬間、戦慄する。

 

 

 それは竜の形をしたホーミングレーザーが九発同時に放たれ、自分が射殺されている姿だった。

 イアソンは本気で危機を察知し、ヘラクレスから距離を取る。そして、自身の雷を収束してとっさに出せる最大の一撃を用意する。

 

 

射殺す(ナイン)―――――」

我、地を裂く(アースディシプリン)―――――」

 

 

瞬間、

 

 

「――――百頭(ライブズ)!」

「―――――雷霆なり(ケラウノス)!」

 

 

九つの竜と、圧倒的熱量の雷がぶつかり合った。拮抗する二つの力。その圧倒的威力で起きた余波が近くの丘を消し飛ばした。

 

 それを見た英雄達は震えた。余波であれならばその中心はどうなっているのかと。

 

暫く拮抗した二つの力だが、次第に変化が訪れる。九つの竜の勢いが次第に失速し、最終的に蒼雷がヘラクレスごと竜を飲み込んだ。砂埃のせいで、周りからは様子が確認出来ない。

 

「―――よもや、我が肉体に傷を負わせるとはな。」

「あ、悪い!結構火傷してるけど大丈夫か?」

「謝る必要は無い、もとより最初に全力を出そうとしたのは私だ。貴方はそれを迎え撃っただけに過ぎない。」

「………やっぱり、あれちょっと殺しに来てたよな。普通に死んだと思ったんだが。」

「それに関してはすまない。…この辺りで決闘は終わりにしないか?これ以上は歯止めが利かなくなりそうでな。」

「ハハッ、違いないな。」

 

そう言って二人は元々あった草原が跡形も無くなってしまったクレーター、夕焼けの下で笑いながら固く握手を交わした。その光景に、見ていた英雄達や神々はいたく感動したという。

 

ただ、ヘラクレスが思ったより重症なのと、身体に大した怪我は無かったものの、精神的な疲れでイアソンが気絶したので、アスクレピオスに冒険が始まる前からお世話になる羽目になるのであった。

 

 

 

 

 

そして次の日、回復したイアソンは皆を集めて船長を決める会議を開いた。

 

「――やっぱり、ここはヘラクレスが船長をするのが無難じゃないか?経験、実力の面でも一番だ。」

 

そうイアソンが提案するが、

 

「いや、私はそんな柄では無いから遠慮しよう。それに、…これは貴方の始めた冒険だ。貴方が船長をやるべきだろう。」

「そうだぞ、それにお前先生から操船の技術べた褒めされてたじゃん。最適な人選だろ。」

 

と、ヘラクレスとカストロに言われてしまい、イアソンは異論がないかを他の面々に尋ねる。

 そして、一人挙手する者がいた。アタランテだ。ちなみにケモミミは後世の伝承でついたものなので、今は無い。

 

「私自身は何方が船長であっても異論は無いが、ヘラクレス殿の言う通り、これは汝が始める冒険だ。汝が船長をやるのが筋だろう。」

「―――ああ、その通りだな。皆、頼む。俺についてきてくれ!これは今までにない大冒険、成し遂げれば最高の偉業だぞぉぉ!!」

 

アタランテの言葉で決心がついたのか、イアソンが皆に向かって声を上げる。その宣言に対する返答は歓声という形で返された。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

●月○日 曇り

 

 

アルゴスさん曰く、もうすぐ船が完成するそうだ。あとあのヘラクレスとの大決戦を神々が見ていたらしく、色んな神が俺のもとに来てくれた。例えばアポロンは「―――クソ、あと六年早ければ。」と言って帰って行った。うん、もう二度と来なくていいよ。対してアテナは何か凄い盾のような何かをくれた。銘を『神体結界(アイギス)』というらしい。

 

……何で神様は俺にこんな軽いノリで明らかにやばそうな物をくれるの?何か怖くなって来たんですけど。対価で早死にしそう。

 

でもこれすっごく便利。展開したら周囲をファン○ルみたいに動いて、エネルギーバリアみたいなの出して弓矢とか全部防いでくれる。

 

 でもヘラクレスの一撃を耐えれるか検証したら、なんかミシミシ言いだしたから急いで中断した。これは間違いなくヘラクレスのほうがおかしい。

 

てかエネルギーバリアみたいなやつ出したりするファン○ルとか、某正義の味方の投影する熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)とかも実体じゃ無いし、何か型月のギリシャの文明って所々何かおかしくね?

 

あとヘラクレスといえば、ヒュラスって言う美少年と一緒なんだけど、ヘラクレスがヒュラスにメロメロなんだよね。ほら、昔も書いた気がする此処の少年愛(ショタコン)文化。 

 

 

……これから俺はヘラクレスを純粋な目で見れないかもしれない。いや、ここでは普通だから否定はしないけども。何というか、個人的な気分の問題で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼月△日 晴れ

 

ついに船が完成し、出発の日になった。完成した船はアルゴスの名に因んでアルゴー号と名付けられ、女神アテナの祝福を受けた俺達はコルキスにある金羊の皮を求めて出発した。総勢五十人の大人数である。

 

でも船長って意外と大変。この時期はまだ帆船だから帆を俺達がコントロールしなきゃならんし、乗組員たちは全員が我の強い英雄達だ。もうアタランテやポルクスがナンパされたり、それでカストロがブチギレたり、俺が頑張って止めたりと初日から内輪揉めで疲れるとは思わなかった。おかげで早速アスクレピオスのお世話になった。え?ストレスが原因?そんなのは自分が一番分かっとるわ。

 

 

 

 

 

 

☆月★日 曇り

 

 

オルフェウスの竪琴で気分を盛り上げながら数日の航海の後に俺達が最初にたどり着いた島、レムノス島。でもさ……このレムノス島、とんでもない呪われた島だったよ。

 

少し昔話的な事をしようか。

 

曰く、俺たちが来るしばらく前、島の男たちはトラキアってとこと戦争して、戦利品として若い女たちを連れて帰りました。男たちは妻を忘れて若い娘とお楽しみの日々。

 

 そしてキレた妻達によって事件は起きた。「わたしという妻がありながら最低!ぶっ殺してやる!」と、一致団結して夫たちに酒を飲ませ、酔ったところを皆殺し。生き残った男たちも「こいつらやべえよ…」とビビって逃亡。こうして、島は女だけになってしまったのでした。おしまい。

 

うん、終わってる。男もそうだけど、ここの女性たち過激派すぎんだろ。そりゃあ男は寄り付かんわ。

 

正直絶対に行きたく無いが、残念なことに丁度嵐が起き始めていたため、その島に留まらないと船が沈没する。

 

 

数日で終わる冒険とか笑えないので、何とかしてレムノス島に泊まる事を島の彼女たちに許して貰おうとしたのだが、そうは問屋が卸さないと彼女たちと勝負する羽目になったよ。まあ勝負の末、当たり前だけど此方が勝利して島に入る事は出来たが、美女しかいなくて男に餓えてる島、基本的にプレイボーイな英雄達。

 

あとは、……分かるね?

 

 

 

 

♢月❖日 雨

 

 

まあそういう状況だから、皆の下半身の管理はゆるゆる。男ならヘラクレスと俺以外はそれはもうお盛んだった。いつもはシスコン野郎のカストロも今日は珍しく行ってた。アスクレピオスもまあノリノリ……では無かった。ヘラクレスはヒュラス(男)LOVEだからね。しょうがないね。

 

それでまあやることも無いし、同じく用事の無いアタランテやポルクスと遊んだり、時折ゴミを見る目で皆を見つめて過ごしていた。

 

 地味に特技の一つの竪笛を披露したときは結構驚かれたが、ウケは良かった。キャラじゃないとでも言いたかったのか、おい。此処じゃあこれくらいしか趣味がないんだよ。料理はまあ、うん……キレなかった俺を敬って欲しい。マジで。

 

そんなこんなでそこそこ平和に過ごしていたのだが、島の女王が誘ってきたのでいよいよ他人事じゃあ無くなってしまった。

 

 丁重にお断りしてやろうと思ったが、予言者であるイドモン氏が断っては駄目だよというから、仕方なく、()()()()一夜を共にすることになった。大事なことなので二回言いましたってか、ハハッ。

 

グッバイ、俺の長らく守ってきた貞操よ……

 

 

 

 

α月β日 晴れ

 

こんなところに居られるか!俺は帰らせてもらう!って言うことでさっさとこんな島はおさらばしたいので、ヘラクレスと結託して当初の目的を忘れかけている馬鹿どもの部屋のドアを叩きまくった。

 

何とか夕方までに全員を叩き起こすことが出来たので、喝を入れて早速出発。ちなみにカストロはポルクスにしばかれてた。ざまぁ。

 

いやはや、嵐を凌ぐだけの予定が一週間も滞在してしまうとははねえ……。何か一年間あの島でハッスルしてるビジョンが視えたんだけど。絶対にお断りだわ。しかも女王はあの一夜でデキたらしいし。

 

 

 

 

■月□日 曇り

 

 

あれから約十二日程。嵐に見舞われながらも俺達はキオス島という島に辿り着いた。俺含めた皆は連日の嵐でかなり参っていて、ここで水の補給をしないといけない。

 

ただ、またここで面倒なことが起きた。ヘラクレスはヒュラスとお楽しみタイムをしようとして島に上陸したのだが、俺はやけに嫌な予感がしたので泉に水を汲みに行ったヒュラスを追いかけていった。するとなんということでしょう。ニンフ(泉の妖精)がヒュラスを泉に引きずり込もうとしているではありませんか。

 

 ちょ、待てよと言わんばかりに俺は引き止めようとしたのだが―――

 

―――なんということでしょう(二回目)。ニンフ達は俺を見るなり一緒に引きずり込もうとしているではありませんか。なんでさ、何が『――――――イイ。』だよ。俺はどこぞの正義の味方みたいな女難の相なんて持ってねえんだよォォ!!

 

 

 

まあ何とかヒュラスを引き上げて、船に逃げ帰ることに成功。ヒュラスが居なくて焦っていたヘラクレスに伝えると、本気で感謝され、号泣しながら二人は抱き合っていた。

 

 ……俺は一体何を見せられているんだろう。

 

取り敢えずこれ以上居ても碌なことが無いと思った俺達は、急いで船を出航させようとしたが、なんということでしょう(三回目)。……このくだり飽きてきたな。

 

 まあとにかく、俺達を、というより一目惚れしたヒュラスを逃がしたくないニンフの手によって神もどきが召喚されてきました。―――でもなあ、こっちにはヒュラスを取られかけてブチ切れたヘラクレスが居るんだよォ!俺達に勝ちたかったら本物の神を連れて来やがれってんだよ。

 

そんなわけで、俺とヘラクレスの同時攻撃で即、殲滅した。……明らかにヘラクレスの射殺す百頭(ナインライブズ)の威力が上がってたけど。ヒュドラの毒の矢も使ってたし、決闘の時でさえ本気じゃなかったんかい。

 

 

 

▽月△日 晴れ

 

ちょっと皆マジでそろそろ自重しない?海の上でアタランテ達にナンパして俺が鎮めるって流れ何回目だと思ってるのよ。最近はなんか半分おふざけみたいになってるし。ほら、もう弓取り出そうとしてるからやめてやめて。

 

それのおかげで好感度が上がったのか知らんが元々若干男嫌い気味な性格だったのに時々デレてくれるようになったじゃねえか。

 

 

こんなこともう止めるんだ!(建前)。

 

 

 

いいぞもっとやれ(本音)。

 

 

 

 

 

 

◐月◑日 晴れ

 

なんやかんやあって俺達はビテュニアって言う、訳の分かんない土地にたどり着いた。ここの王は、海の神ポセイドンの息子アミュコスというらしい。

 

 こいつは大変な力自慢で、この土地を通る旅人に必ずボクシングの試合を申し込み、負けたら殺すという普通にクソ野郎だった。マジで何がしたいのお前。こちとら水の補給に来ただけなのに迷惑極まりねえよ。

 

 

 

そして俺たちにもボクシングの試合を申し込んできた。良いだろう、ならばこちらはボクシングの達人ポルクスを投入してやろうではないか。

 

カストロには最初反対されたが、よく聞いてほしい。前一度軽く手合わせしたことがあったんだけど、もうめっちゃ強かったから。だから彼女の実力は信頼出来るし、勝つと俺は信じている。もし万が一傷一つでもつけられたらリンチする。分かったなシスコン。

 

そう力説したらカストロも渋々引き下がってくれた。なんか若干ポルクスが照れてた気もするが気の所為でしょう。なのでアタランテさん足踏まないで。

 

最初はポルクスが女だから舐めていたようだが、試合が始まった瞬間に『あ、こいつやべえわ』と気づいたようだがもう遅い。次の瞬間、ポルクスの拳が顎の骨を砕き、耳にもう一発打ち込んでいた。多分最後の一発はオーバーキルだね。

 

何はともあれ、俺達は水を貰ってさっさと次の地へ出発した。大丈夫、多分死んでないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




イアソン:女神アテナからアイギスを貰った。やっぱり俺に神は何かさせたいんじゃないかと考える。あながち間違ってない。アポロンからは成人してたからギリギリのラインで見逃して貰えた。やったね。
何気にヘラとアテナ、そしてちゃっかりアフロディーテから加護を貰っている。これは史実でも変わらないのだが、特にアテナ辺りからの加護がちょっと強すぎる気がする。
ギリシャの文明がおかしいことに漸く気づき出す。早く気づいたほうが身のためだよ。


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とある青年の手記04

なんか予想の数倍伸びてびっくりしてる自分が居る。
見切り発車で始めたからFGO本編でイアソンが何処から参加するか考えて無かった……


 

 

 

□月■日 雨

 

……何か色々凄かった。

 

俺達は次の島へ向かうために海上に居たんだけど、突然暴風雨に襲われてしまった。俺も帆をコントロールしたりして何とか保たせていたんだが、一際強い波が来て、もうダメだってなった瞬間、カストロとポルクスの頭上の星が強く輝いて、気がついた頃には、すっかり雨が止んでたんだよね。

 

何が起きたか俺達もよく分からなかったんだけど、多分二人のお陰だってなってカストロとポルクスを胴上げした。

 

…ただ、俺の見間違いかもしれないが、あの瞬間二人から放たれた……神力っていうのか?まあとにかく、雨が止んだ瞬間ゼウスなどの神に近い気配をあの二人から感じたんだよね。

 

もしかしたらカストロ達って一時的に人間になった神様だったりするのか?でもだとしたら型月のギリシャってどんな感じなんだ……?うーん、分からん。やめだやめ、俺達はなんか助かった。それでいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

●月◆日 曇り

 

次に俺達がたどり着いたのはトラキアという島。曰く、この島にはすげえ不幸な王ピネウスが住んでいるとか。この人は、盲目だったからと神様に予言の力を授かったらしいが、この力を使いすぎて「そんな全部未来を告げるんじゃない」とゼウスの怒りを買い、王座を追われて険しい岸辺に住むようになった挙句、ハルピュイアという怪鳥を日々送られて、ご飯が食べられないそうだ。……ゼウス、ゼウスかあ。やっぱり俺もいつかこの力を使いすぎたら神々と対立するのだろうか?なんかどちらかというと良いように使い潰されそう。

 

このハルピュイア、どんなのかって言うとまあ、一言で言うならハーピィみたいなもの。但し普通にキモい。ピネウスが言うには、ご飯を食べようとしたら飛んできて料理を奪っていき、挙句の果てには臭いフンを大量に撒き散らしてから帰っていくとか。

 

うーん、控えめに言って地獄。俺がそんな状況になったら自殺してしまうまである。普通なら餓死するんだろうがこの人は、幸か不幸か長寿も授かっているからずっとご飯が食べられない毎日。

 

 

こんな話を聞いたら流石に俺も含めて、基本的に善人な皆は助けるしかない。だが今回の相手は空を飛ぶので戦力になる人は限られている。そして選ばれたのは翼を持つカライスとゼテスでした。一応念の為地上ではヘラクレスやアタランテにも待機して貰うことにした。俺?雷の威力の微調整とか無理だし今回は指揮官ポジである。要は何もしない。

 

結果、ピネウスの妨害に来たハルピュイアをカライスとゼテスがメインで狩り尽くして終わった。当初は追い払うだけの予定だったけど、「それって結局何も解決しなくね?」と誰かが言ったことによって殲滅が決まった。人助けをしようとするなら最後まで解決しよう。じゃないと後味悪いし。

 

そして数年ぶりの食事をとるピネウス。……数年ぶりの食事って結構なパワーワードだよね。兎に角、今回のことに感謝するピネウスはこれからの事を予言してくれた。これから通る巨石を通り抜ける方法らしい。

 

それは何かというと、

 

・まず、巨石の近くに来たら鳩を飛ばす。

・鳩が通り抜けようとしたら、巨石は閉じる。

・鳩がくぐり抜けたら、巨石はまた開く。

・開いて、また閉じるには少し時間がかかるから、その隙に急いで通り抜けてね。

 

との事だった。何で鳩限定なんだよとか、無理矢理すぎるとか言いたいことは沢山あるけどまあそういうのは気にしないお約束なのだろう。

 

 

 

 

 

▶月◀日 曇り

 

 

トラキアを出発した俺達は、先日ピネウスに予言してもらった通りの方法で、見事あの岩の間を通り抜けることができた。あとちょっとで潰される所だったので、皆と船を全速力で漕ぎながら、ギリギリ脱出出来た。

 

でも凄い勢いでぶつかった岩が一つの岩みたいになってたけど、これって次通る人達は大丈夫なのだろうか?そもそも岩を通る必要があったのは俺達だけとかやめてね。マジで。

 

まあでも、コルキスまではあと少し。ここまで長かった……のか?一年も経って無いけど。まあさっさと金羊の皮を頂いて、コルキスからはお暇するとしよう。

 

 

 

 

__________________________

 

 

「―――もうすぐで、コルキスに着くな。」

「ああ、中々大変な航路であった。」

 

イアソンが呟き、ヘラクレスが相槌をうつ。

 

「全くだ。最初に比べたら少し人数も減ってしまったしな。……殆どが何とも言えない理由ではあるが。」

 

実際、船酔いが辛くて抜けたり、女神と結婚することになって抜けたり、なんなら「飽きた」と抜けていく奴も居た。まあ英雄なんて基本的に気分屋なので仕方無い。

 

「だが、今も殆どの奴は貴殿を信じて着いてきてくれている。それはきっとお前に人望があるからだろう。私も、私を恐れない者たちが居てくれるこの船は居心地が良い。」

「そう言ってくれると助かる。…まあ、コルキスの竜なんぞ俺達にかかれば楽勝だがな!」

 

ヘラクレスの心からの称賛と思いが聞けたのが嬉しかったのか、イアソンから笑みが溢れる。そして自信満々に楽勝だと言う。実際今此処にいる二人のどちらかが居れば、たかが竜一匹程度倒すのは造作もないことである。

 

「―――まあ、アルゴンコイン……金羊の皮を手に入れるには今回も今までみたく一筋縄ではいかないようだがな。」

「貴殿の直感か。ならばきっとそうなのであろう。」

 

イアソンの直感。それは今まで一度も外れることの無かった実質的な予言。なので船員達もイアソンの発言には絶対的な信頼を寄せている。

 

 

―――夜空を見ると、丁度月に雲が掛かる所だった。

 

 

__________________________

 

 

翌日。コルキスに辿り着いたアルゴナウタイ一行は、英雄たちの凱旋だと歓迎され、その後はイアソン以外の乗組員はコルキスの観光や散策に向かい、イアソンはアイエテス王の住まう王宮へと向い、たった今王と謁見の間にて会合していた。

 

「アイエテス王よ、私はアルゴー号の船長イアソンと申します。私達の旅の目的は、この国が所有する金羊の皮。どうかお譲り頂けないでしょうか。」

 

イアソンはド直球に頼むが勿論断られる。当然だ。金羊は神ヘルメスが遣わした神獣で、その皮はコルキスの国宝として厳重に保管されているのだ。たとえギリシャ全土にその名を轟かせつつあるイアソンであろうとも、はいそうですかと渡すわけが無い。アイエテスは考えた末、無理難題を押し付けて諦めて貰おうと思いついた。汚い。

 

「イアソンよ、私としても渡したいところな(絶対に渡したくない)のだが、その品は我が国の国宝。そなたに渡す資格が有るかを試させて貰いたい。

まず、わが国には火を吐く牛がいて、畑を焼き尽くして困る。この牛を飼いならして畑を耕せ。そして我が国の山岳部には竜が住み着いている。この竜を退治してその歯を畑にまけ。さすればその竜の歯が兵士になるだろう、その兵士を全部退治してみせよ。それと、仲間に助力を乞うのも禁止だ。」

「そ、そうですか……フフッw

 

との事だった。イアソンは苦渋を噛み潰したような顔をしている。アイエテスにとってはイアソンが無理だと思っていると感じているだろう。

 

だがしかし、これは演技である。こういう時に「え?それくらい余裕ですよ?」なんて反応をすれば、どうせまた何かしら上乗せしてくると考えたイアソンが考えた策の一環である。現にイアソンは勝ち誇ったようなアイエテスの顔を見て割と必死に笑いを堪えている。この猿芝居に気づかないアイエテスもやばいね。

 

あー面白い……三日ほど時間を頂きたい。その試練、この私が達成して見せましょう。」

「そうか、それが虚勢でないことを願っているぞ。」

 

勝ちを確信したのかニヤニヤしているアイエテスを見て、やっぱりこのおっさん面白いと思いながら、どれだけ早く試練をクリアするかのRTAをしようと考えたりしながら王宮を後にするイアソンだった。だがしかし、こんなしょうもないことを考えていたが故に、彼は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――イアソン、さま。」

 

この一連の流れをアイエテス王の後方で見ている少女が居たことに。その少女の名はメディア。女神ヘラの思惑によって女神アフロディーテの祝福(呪い)を受け、たった今イアソンという存在に恋心を抱いてしまった少女。彼女もまた、神の被害者の一人と言って良いだろう。

 

メディアは先程の父との会話を見て考える。このままでは一目惚れしたイアソンが死んでしまうと。ここでメディアは密かにイアソンを助けることを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はまず王宮の宝物庫に向かい、秘密の箱から「プロメテウスの草」という謎の薬草を取り出した。これは何と身体に塗りつければ、火に焼かれても、剣で突かれても怪我をしない身体になるという普通にとんでもない薬草であった。どっちかと言えば金羊の皮なんかよりこっちのほうが価値あるはずなんだが、イアソンを助けたい一心でメディアはそのことを気にしない。恋は盲目といった所か。

 

 

 

 

そして数時間後、すっかり日も暮れ、外を出歩く民も居なくなりつつある中、メディアは姉弟子キルケーと共に学んだ魔術を使いイアソンの位置を特定していた。いいのかそれで。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして王女と勇者(船長)は接触する。

 

 

 

 

「夜分遅くにすみません。英雄イアソン様、少々お時間を頂いても?」

「―――!?あ、あなたは一体…?」

 

一瞬イアソンの身体が強張ったのに疑問をもつメディアだったが、特に気にせず話を続ける。

 

「ああ、まだ名乗っておりませんでしたね。私はメディア。この国の王女です。今宵あなたのもとに馳せ参じたのは、お父様からイアソンさまが課せられた試練のお手伝いを、と思いまして。」

「……それは貴方の独断か?まあいい、話だけは聞こう。」

「はい。ではこの薬草を体に塗って頂ければ、炎も、剣も効かない体になりますよ。それでも不安なら私が魔術をかけましょう。いかがですか?」

 

メディアは微笑む。これでイアソンが死ぬことは無いと。だがしかし、彼の返答は完全に予想外の物であった。

 

「―――――いや、不要だ。」

 

瞬間、彼女の身体にイアソンが発した雷が流れ、意識が眩む。その時メディアは感じた。この雷は何かおかしいと。自分の中の自分ではない(アフロディーテの)何か(加護)が壊されていると。

 

彼女が意識を失う直前、眼の前の青年が何か言っていたようだが、それが聞こえていたのかは彼女にしか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――安心しろよ、王女サマ。俺はそのくらいじゃあ死なんし、神の思惑通りになる気もないからな。」

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

「ほんと、神様達はなんだかんだロクデナシだよな。こんな娘に催眠紛いのことをするなんて。まあそれをOKした俺も俺だが」

 

独り愚痴をこぼすイアソン。彼の腕の中には先程意識を落としたメディアが抱えられている。所謂お姫様抱っこの状態で。

 

「てか大丈夫かなこれ。さっきは概念的な物の破壊に全振りしたからちょっと痺れたくらいだと思うんだが、試したことないしなぁ……」

 

無事に彼女の加護(呪い)を解いたのまでは良かったが、まさかのぶっつけ本番だったらしい。仮に怪我をさせていたらどうするつもりだったのか。

 

 

無事にメディアを抱えて王宮まで辿り着いたイアソンは、衛兵の目をくぐり抜け、王宮の奥まで進む。彼曰く、「隠密プレイは主人公ポジなら出来てて当然」だそうだ。ここはRPGの世界じゃねえよ。

 

 

 

「―――よし、この辺りでいいか。」

 

そういったイアソンはメディアをそっと通路に横たわらせる。きっとそのうち見回りの兵士が彼女を回収してくれるだろうという考えで。まあ目的地なんてもとから無かったからね。

 

 

そしてイアソンは気配を断ちながら王宮を移動し、誰からも気付かれぬまま去った。

 

__________________________

 

 

翌日。イアソンは例の火を吐く牛たちの前に佇んでいた。そして隣にはイアソンが頼んだ見届け人としてアタランテもいた。アカストスにイアソンがお願いした所、直接手を出さないのなら良いとのこと。完全に舐められている。

 

 

「汝も厄介な星の下に生まれてきたのだな。折角此処まで来たというのに、また面倒事に巻き込まれるとは。」

「まあ突然押しかけてきた奴らに国宝を渡してくれる王なんか居ないだろ。あっち見てみろよ、しっかり見に来てる……お、メディアも居るじゃないか。」

 

 

少し遠くには、例のアイエテスと、イアソンを心配してきたのかメディアも居た。あの様子を見るに、昨日のアレで特に影響は無かったらしいとイアソンは密かに安堵した。が、アタランテに弓で背中を叩かれる。

 

「痛え……何すんだよいきなり。」

「………いや、今度はここの王女を誑かしたのかと思ってな。」

 

アタランテにジト目で見られる。正直神ありきとはいえ、あながち間違ってない。まあだから昨日向こうが接触してきたときに加護を消したのだが。

 

「そんな事実は無い、いいからさっさと始めるぞ。お前は時間でも測っててくれ。今日中に終わらせるから。」

「油断して焼かれるんじゃないぞ?」

「ハッ、俺がやられるなんて思ってないくせに。」

 

イアソンがそう言い、アタランテは微笑む。傍から見ても、二人がお互いのことを信頼しあっているのは明らかであった。

 

 

 

 

そして駆け出したイアソンが見据える先には、今も喧嘩しあっている二頭の牛が居た。二匹の牛はイアソンが近づいてくるのに気づいた瞬間、先程まで喧嘩していたとは思えないほどの連携で、イアソンに向かって炎を吐く。しかもこの炎、ただの炎ではなく当たればたちまち鉄を溶かす超高熱の炎だった。そして炎がイアソンに迫った瞬間―――

 

 

「―――来い、神体結界(アイギス)。」

 

光の盾が、イアソンの前に現れた。女神アテナが彼に授けた神具、アイギス。彼を守るこの超兵器の前には、たかが幻想種の牛が吐く炎なんて無意味である。

 

 

牛たちは、自分たちの炎が効かないと察して、じりじりと後ろに後ずさる。普通の相手なら炎が効かなかった所で突進攻撃をかますのだろうが、眼の前の相手にはそれが出来なかった。

 

 

「なあなあ、牛肉って旨いんだぜ?最近はワイバーンの肉とか果物とか固いパンしか食べてないからさ……な?」

 

 

眼の前の人間が片方の手に大鎌を構えてブンブン振り廻しながら、ものすごくいい笑顔で自分たちにとって洒落にならないことを言っているからである。元々笑顔とは威嚇の意味があったらしいが、今この状況においてはまさにその通りだろう。現に牛たちは、最初の威勢は跡形もなくなり、ブルブルと身を寄せ合って震えている。

 

「―――まあ、この鋤っていう道具を嵌めて、そこの畑を耕してくれるなら見逃してあげるからさ……やってくれるね?」

 

 

イアソンの笑顔(圧)の問いかけに牛たちは快く応じたのか、首をブンブンと物凄い速さで振っていた。今は早速畑を耕すのに勤しんでいる。

 

 

「よし、最初の試練はクリアだな。次はドラゴン退治か……取り敢えずその辺の森に行くか。」

「汝…何と言うか、凄いな。牛たちが可哀想になってきたぞ…。」

 

ある程度性格を知っている仲間からもこの言われようである。ちなみに、遠くから観戦していたアイエテス王はすっかり仏頂面になっていたとか。

 

「じゃあしっかりついてきてくれよな。お前の足の速さは俺達の中でもトップクラスなんだからな。」

「ああ、分かっているさ!」

 

そう言って二人は走り出す。アタランテは持ち前の俊足で、イアソンは魔力放出でロケットのように飛び出す。そうして、瞬く間に二人は遠くへと行き、跡には牛たちと観戦に来ていた一部の人達が残った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

「さーて、森に来たわけだが住みついている竜は一体何処に居るんだ?」

「はあ、はあ……あちらの方角から物音がする。きっと汝が探している竜だろう。」

 

かなりの距離を走ったので若干息切れ気味のアタランテがイアソンに竜の大まかな居場所を伝える。彼女はその生まれと環境から、五感等が常人よりも優れているため、僅かな物音でも察知することが出来るのだ。

 

「あっちか、―――やっぱりお前は頼りになるな、アタランテ。助かる。」

「―――こんなことでいちいち礼を言う必要は無い。汝は私達の一番上に立つものだろう?…全く。」

 

少しイアソンを窘めるように言うアタランテ。でもイアソンからは見えなかったがその顔は朱く染まっていて、見る人が見れば、ただの照れ隠しだと直ぐに分かっただろう。とうの本人は顔が見えないので、反省しているような顔をしているが。

 

 

「お、あれか。―――下がっててくれ、アタランテ。直ぐに倒す。」

 

ついに目標の竜に接敵し、イアソンはアタランテに後退を促す。アタランテも頷いて、少し離れた木の上まで移動する。だが、相手は特に特別な個体ではないといえ、幻想種という枠のなかでは最高位に属する竜種。そう簡単には行かないだろう。

 

 

 

 

 

 

―――だが、今回は相手が悪かったようだ。

 

 

ドラゴンも生き物だ。自分の命を狙う輩が来れば当然迎撃する。翼を広げ、空へと飛び立ちイアソンのことを見据える。イアソンは懐に小型化してしまっていたアダマントを取り出して構える。

 

そして、竜も己の状況を本能で理解しているのか、最初から本気のブレスを放つ。竜種のブレスとは圧倒的な破壊力を持ち、防御系の宝具を持つサーヴァントでさえ本来防ぐのは難しいはずなのだが……

 

「――その程度が効くとでも思っているのか?」

 

眼の前に立つ存在は例外中の例外なので、常識など通用しない。すかさず空いている左手をかざして雷を放ち、ブレスの衝撃を周囲に分散、そして同時にアイギスを自身の正面に展開。僅かに残った攻撃も完全に防ぎきった。そして―――

 

 

「―――――弱いな、隙だらけだ。」

 

 

自分の誇る最大火力を難なく防がれたことに動揺した竜。その隙を見逃さずイアソンは走り、瞬間、右手の大鎌を魔力放出の後押しを合わせて振るい、すれ違いざまに首を難なく掻き切った。竜の鱗というのは本来非常に固く、攻撃を通すのも至難の業なのだが、神造兵装を複数持つイアソンに対しては、紙が画用紙になる程度の違いしか無かっただろう。

 

 

「よし、これで二つ目の試練もクリア。後はさっさとさっきの牛たちの所に行って、雑魚敵を数十体倒すだけの簡単なお仕事か……楽勝だな。」

 

まだ時間も太陽が登りきった辺りなので、日没まで時間も十分ある。これなら今日中に全ての試練を達成出来ると笑みを浮かべるイアソン。でもなんだかんだ言っているが、速くクリアした所で何かあるわけでは無い。つまるところ自分たちを舐めていたアイエテス王への嫌がらせで。思考がまるで小学生のソレである。かなりしょうもない。

 

「……これはまた随分とバッサリと行ったな……死体はどうやって持ち帰るのだ?」

「いや、取り敢えず歯は抜いたからその死体は放置しておこう。俺は早く帰ってあのおっさんのビビる顔が見たい。」

「変な所で性格が悪いな……」

 

アタランテにも呆れられる。そりゃそうだろう。ただの嫌がらせ兼RTAでこんなに急いでいるのだから。

 

二人は再び先程の牛たちのもとへ走り出した。

 

 

 

 

 




長くなりそうだから一端ここで切る。

イアソン:アイエテスにムカついたから嫌がらせで試練クリアRTAを自主的に始める。今の所二時間程しか経っていない。ちなみに殆ど移動時間。


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とある青年の手記05

なんか予想の数倍神話編が長引きそうなんですがソレハ……


 

 

 

「ば、馬鹿な…」

 

そう言葉を零したのはアイエテスという男。彼は先日来訪した英雄達の長にして自らの国の国宝である金羊の皮を求めたイアソンに対して、自分でも絶対に不可能だと言い切れる程の難題を出した。

 

ああ、確かに普通ならば不可能だろう。だが現実は非情である。

 

アイエテスが見つめる先には、‘‘手に握っていた大鎌を巨大化させ、一振りで竜牙兵の大部分を狩り尽くした’’金髪の男が居た。そう、彼が例の男イアソン。アルゴー号の英雄達を束ねる船長でありながら、最強と名高いヘラクレスと互角以上に渡り合う実力を持つ超一流の武人。ちなみにこの竜牙兵との戦いは試練の最後の過程なのだが、まだ開始から三時間しか経ってない。完全に難易度設定を間違えたね。

 

 

 

今回、アイエテスには二つの落ち度があった。

 

 

一つは、本来の歴史において、神の祝福(呪い)を受けた自身の娘メディアがイアソンを助けることを想定出来なかった事。だがこの時空においては、その呪いはイアソンによって人知れず打ち消された為に直接的な原因とはならなかった。

 

 

では、彼の何がいけなかったのだろうか?それはもう一つの理由。それはきっと―――

 

 

 

 

――――――彼が、『英雄』と呼ばれる存在をあまりにも舐めていたからであろう。

 

そう、アイエテスは決して優秀な王では無いが、愚かな王でも無かった。だからアルゴー号の面々が来訪したときも国を上げて歓迎した。だが、それだけである。彼はイアソンの能力(ちから)を見抜けなかった。もしも詳しい冒険の話が事前に広まっていて、耳に入っていたのなら、彼はきっと某ヘラの栄光がかつて難行を与えられたように、三つどころか十二程の試練を与えていたことだろう。

 

だが、今となってはもう遅い。そしてすっかり竜牙兵を正攻法で圧倒し、倒しつくしてしまったイアソンを見て、呆然とするしかなかったアイエテスなのであった。

 

 

 

 

「なんだもう終わりか。案外呆気なかったな。」

 

そうイアソンは言葉を零す。彼の周囲には粉々にされた竜牙兵の残骸が大量に転がっていた。これだと素材もドロップしそうにない。別に要らないが。

 

「……いや、それは汝がおかしいだけだぞ。」

 

アタランテがイアソンに言う。実際イアソン自体がおかしいので事実である。

 

実際自分でもおかしいとは多少自覚しているのか、イアソンは少し苦い顔をするが、直ぐに表情を戻してアイエテス王の下に向かう。

 

そしてアイエテスの下まで来たイアソンは、いっそ清々しい程の満面の笑みを浮かべて話しだす。

 

「―――王よ、貴方の課した試練は達成しました。これで私に金羊の皮を賜る資格があると証明出来たかと。あ、三日ほどと言いましたが一日もかかりませんでしたね。」

 

最後はちょっと煽り気味になって話す。アイエテスも癪に触るのか額に青筋を立てている。

 

 

 

「よ、よくぞやってくれたイアソンよ。しかし、いま儂の手元には無くてな。近いうちにそなたに授けるが故、暫し待たれよ。」

 

しかしアイエテスも此処まできたら引き下がれない。こんなやつに我が国の国宝を渡してなるものか、と。だから一先ず保留という形を取り、時間稼ぎをすることにしたのだ。その考えの裏では、どうやってイアソン達を諦めさせるか、いっそのこと殺してしまおうかなどと考えていた。イアソンの力を見たこの状況でこんなことを考えられる辺り、案外アホなのかもしれない。

 

 

そして此処までの会話を近くで見ていたメディアの存在に気づいたイアソンは、去り際に彼女に対してニヒルに笑いながら言う。

 

 

「―――ほら、あの時言った通り何とかなっただろ?」

「―――!」

 

そうしてイアソンはこの場から去って行ったが、メディアはイアソンの事を自分でも無意識に、どこか熱の籠もった瞳で見つめていた。

 

 

 

 

 

 

それは運命の悪戯か、それとも元からこうなるのが決まっていたのか―――

 

 

 

 

―――コルキスの王女は、本当の意味でイアソン(主人公)に惚れてしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆月●日 晴れ

 

今日は例の王様からの試練があった。昨日言われたことなんだが、昨日は色々あったから今日書き記しておく。

 

まず俺が、王様にアルゴンコインちょーだい!って言ったんだよ。そうしたら王様が腹立つニヤニヤ顔で要約するとこんなことを言ってきた。

 

・わが国には火を吐く牛がいて、畑を焼き尽くしてくる。この牛を飼いならして畑を耕せ。

・その後は我が国に住んでる竜を退治してこの竜の歯を畑にまいてね。

・そーしたらその竜の歯が兵士になるから、その兵士を全部退治しろ。

・合格!羊の皮をプレゼントするよ。

 

舐めてんのか。まず火を吐く牛はもう牛じゃなくてUSIだよ。あと竜の牙を畑にまけってそんなことする余裕があるなら畑が焼かれた所でそんな困らんだろ。そもそも(以下ry

 

 

……愚痴をとんでもない行数書いてしまった。取り敢えず近いうちに消しておこう。

 

まあそして今日は、その試練を速攻で終わらせてあのおっさんにドヤ顔するためだけに頑張った。まずはアイエテスに立会人という名の助っ人をもらう許可を貰う。…まあ案外あっさり許可を貰えたんだが。次にその人員決めをする。これは出生の都合から他の皆より五感が優れていて索敵に長けたアタランテが適任だった。こんなしょうもないことに付き合わせてすまん。

 

まあそんな感じで万全を期して挑んだんだが、正直楽勝過ぎてびっくりした。まずUSIは炎を防いで優しくお願いしたら直ぐに従ってくれたし、竜は純粋にそこまで強い個体じゃ無かった。そして最後、骨の兵士…竜牙兵との戦いだが、結局雑魚敵がいくら集まっても大したことはなくて、適当に魔力を込めた斬撃一発で殆ど方がついてしまった。おいおい楽勝すぎんよ。やはりYAMA育ち……YAMA育ち以外は恐るるに足らず。

 

まあそして目的のおっさんにドヤることは出来たからいいんだけど、近くにメディア嬢が居るのは気づかなかった。もうこうして外に出ているってことは俺の雷は特に影響がなかったようで何よりです。宣言もしっかり守れたしね。

 

 

 

 

○月▽日 曇り

 

 

と、まあ此処までは良かったのだが、やっぱりあのおっさんはこちらに金羊の皮を意地でも渡したくないらしい。なんでや、あんなの只の手触りが良い毛皮だろ。

 

何となくだが、あのおっさんは俺達を殺そうとしている――気がする。流石にそんな自殺一直線みたいなことはしないと思うが、おっさんだしなあ………ほんとに毛皮の為だけに必死になりすぎやろお前……

 

このままここに居るとまた碌な目に合わない気がしてきたから、もういっそのこと盗んでトンズラするか。それでいいや、うん。

 

ということで皆を集めて先にアルゴー号の近くで待機して貰うことにしよう。置き去り、ダメ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてイアソンはいつまで経っても金羊の皮を渡す素振りを見せず、あろうことか自分達を殺そうと画策し始めているアイエテス王に痺れを切らし、金羊の皮を盗むことを決意した。

 

そのことをイアソンはアルゴナウタイの皆に話したが、返ってきたのは批判ではなく後押しの声だった。彼らもイアソンが課せられた試練を突破したのは知っていたので、それでも未だ煮え切らずに先延ばしにしているアイエテス王に対して少なからず不満を持っていたようだ。

 

その後早速、金羊の皮が森の奥にあって近くで竜が守っているという情報を得たイアソンはその森に向かう。しかし、そこには予想外の人物が居たのだった。

 

「―――あ、イアソン様!」

「――――――why?」

 

そう、メディアである。彼女は史実において、イアソンを導きコルキスの竜を眠らせたとされるが、この時空においてはすべての元凶ともいえるアフロディーテの加護を先に破壊しているので、メディアが自分達について行くことは有り得ないと考えていたイアソンにとっては、これは想定外の邂逅だ。まあまさか、意図せずに殆ど同じような状況になっているとは夢にも思わないだろう。

 

先日の一件の後に、彼女は自身の父アイエテス王がアルゴノーツの面々をどうにか排除しようと躍起になっているのに気づいた。そうして、どうにかそのことをイアソンに伝えようとして魔術でイアソンの位置を探したが、その時にイアソンが金羊の皮の場所を探り、盗もうとしていることを知った。王女という立場からすれば本来は王に密告しなくてはならないのだろうが、なんだかんだイアソンに惚れてしまった彼女にその選択肢は存在しなかった。そして今に至る。

 

彼女は自分が竜を眠らせると伝えるが、イアソンは額を手で抑えながら溜め息を吐き、こう言った。

 

「―――つまり、此処に居るのは俺達が王様に命の狙われているから、竜から金羊の皮を盗む手伝いをする為だと。……単刀直入に言うが、そんなもの不要だ。帰れとは言わんが、大人しく後ろで見てろ。」

「――!?何故ですか、私もイアソン様の力に――」

「阿呆か、もしここでお前が俺を助けたら名実ともに国の裏切者だ。俺等と来れば逃げることは出来るが、きっと一生後悔するぞ。だから何もするな。それなら後で俺に無力化されてただのいくらでも言い訳が出来るだろ。」

 

メディアは最初、自身が必要とされていないという事実にショックを受けそうになったが、実際は違った。彼は彼女の身を案じているのだ。それを感じたメディアの雰囲気は一転し、終始ご機嫌だったという。

 

 

その後二人は森の奥まで進んで行き、遂に目的の場所へ辿り着いた。そこには、木に引っ掛けられた金羊の皮。―――そして、目の前で唸り声を上げている竜の顔があった。まさに顔面宝具。

 

咄嗟に竜を眠らせようとメディアが詠唱をしようとするが、イアソンはそれを手で制する。いいから黙って見てろと。そして二人……一人と一匹の睨み合いが始まる。

 

 

数秒後、先に動いたのは竜の方だった。鋭い牙で相手を噛み千切らんとイアソンに迫る。対して、イアソンはいつもの武器すら構えておらず拳を握りしめている。流石に不味いと思ったメディアが防御魔術の詠唱をするが、

 

次の瞬間―――竜の腹に目にも止まらぬ速度でイアソンは掌底を打ち込んでいた。イアソンは先程までとはうって変わり無機質な眼を竜に対して向けており、それに対して竜の方は苦悶の表情を浮かべているように見える。

 

確かに数々の英雄を噛み殺し、アルゴンコインを今迄守って来たのは紛れもなくこの竜であるのだが、この竜の種としての格はせいぜい中の上程度。その辺の竜よりは強いが、紛れもなく最上級の竜種であろうヒュドラを単騎で葬る存在に敵うはずが無かった。

 

だが竜も負けじとその戦闘経験から、小規模のブレスを吹きながら爪を振りかざすが、それも簡単に躱され顎を殴られ、首に強烈な蹴りを入れられる。しかもこの時点でイアソンは自身の十八番である大鎌アダマントと雷を一切使ってない(・・・・・・・)のだ。竜の方も相手がまだ本気では無いことを悟ったのか焦りが出始めている。

 

ただ、此処でメディアには一つの疑問が浮かんだ。何故直ぐに殺さないのか、何故執拗に竜の顔面や首周りを狙っているのかと。

 

「―――クソ、諦めの悪い奴だな!―」

『―――!?――!』

 

距離があるので彼女には聞こえなかったが、今もイアソンは竜に対して何か言いながら攻撃を加え続けている。あくまで拳なので竜も絶命出来ず、痛みに苦しみ続けている。いや拷問かよ。

 

そうして続けるうちに、竜の方にある変化が起きた。それは『諦め』。もう無理だ、勝てないと本能で理解してしまった竜は、もうその瞳に戦意を宿しては居なかった。それを察したイアソンも攻撃を止めて、竜を見つめる。そして―――

 

「―――…お座り」

『――!』

 

命令に従う竜。何とイアソン(このアホ)は竜種を自身の力のみで屈服させ、従えてみせたのだ。竜殺しの英雄は人類史を見てみるとそこそこの数存在するが、竜を従えるなんて偉業を成し得たのは果たしてどれ程少数の人物なのか。この際竜の扱いが完全に犬なのや、某殴り愛聖女とやったことが同じなのは気にしないでおこう。

 

余談だが、自分の素の実力だけで竜を屈服させたのを見ていた神々は、感動を通り越して「こいつ本当に人間だっけ?」とドン引きしていたとか。

 

 

 

 

「す、凄い……」

 

メディアは改めて自身の想い人の偉大さを思い知った。それと同時に、ある思いが彼女の内に芽生える。自分もこの人と一緒に行きたいと。だが同時にイアソンに先程の会話で言われたことが脳をよぎり、そして彼女は考える。これから自分はどうしたいのかと。

 

このまま国に残るのか?成る程、確かに自分が世間知らずという自覚はあるが元々これで十分満ち足りた生活だった。きっと死ぬまで穏やかに過ごせるだろう。…でもそれで良いのだろうか?

 

――先程脳裏に浮かんだもう一つの道。国を、父を、今ある全てを捨てて想い人(イアソン)と共に行く道。別にまだ引き返すことも出来る。自分は結局彼の手伝いはしていないので、行かないと死ぬ訳でも無いだろう。

 

でも何故だろうか。―――彼が、イアソンが居るのならと考えると不思議と不安感が薄れて行くのを感じた。

 

―――そうして意を決したメディアは、自らその道へと一歩踏み出す。史実において自身を苦しめた、裏切者の道へと。

 

「あ、あの―――どうか私も、連れて行ってくれませんか?」

「えぇ……おい、話聴いてたか?」

「はい。それを踏まえた上でこうしてお願いしているのです。」

「―――もう一度言う。俺達と来るならもう二度と故郷には帰れないと思え。……それでも来るのか?」

「もう覚悟は出来ています。行かせて下さい」

 

真剣な顔付きで再度問いかけるイアソンだったが、もう彼女の意志が揺るがないことを察したイアソンは、はぁ、とため息を吐きながら、半ば諦めにも近い感じで了承の旨を伝えたのだった。その時のことを後に彼はこう語る。

 

「目に光があったから多分大丈夫だと思った。後悔はしてる。」

 

 

 

 

 

 

そして明け方、アルゴー号へと二人は辿り着いた。燦然と輝く金羊の皮を見て興味を持つものや、やっぱり誑かしてるじゃないかとイアソンの脇腹を思いっきり抓るものも居たが、イアソンは持ち前のカリスマで皆を纏め、さっさとコルキスから離れるために出発するのだった。

 

しれっと竜を連れてきていたのに関しては、もう今まで散々イアソンがやらかしてきたせいで耐性がついたのか「あぁ、今度は竜か」程度で皆済ませていた。それでいいのかアルゴノーツ。但しイアソンが竜に適当にポチと名付けようとしたときは総出で止めたが。

 

 

そしてその日の夜、アイエテスはイアソン一行が帰ったという知らせを聞いて終始ご機嫌だったが、少しするとメディアが居ないことに気付き王宮の状況は一変。金羊の皮の保管場所に兵を向かわせた所まさかの竜ごと盗まれてたことが判明。急いでアイエテスは自ら軍隊を率いておびただしい数の船と共にアルゴー号を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

(⁠・⁠∀⁠・⁠)月(⁠ ⁠╹⁠▽⁠╹⁠ ⁠)日 曇り

 

俺達はメディアを連れて出発した。案外直ぐに馴染んだのか、今はもう魔術を使った医療班としてアスクレピオスに指導を請けてたりする。

 

……ほんとに何でこうなった?あれか?クソ神の呪いが再発でもしたか?それとも惚れた?……無いな。大したことはしてないし仮にそうだとしても俺からしたら事案だよ。知ってるか?ギリシャの結婚適齢期って14,5歳なんだぜ?―――どう考えてもアウトですありがとうございます。

 

あとヘラクレスと最初に会ったときは凄い怯えてて、ヘラクレスがショックを受けてた。ドンマイ。

 

 

それとポチ(仮名)は最初は空を飛ばしていたんだけど疲れるからどうしようと考えてたら、何かいきなり船の船首につけてた女神像がペラペラ喋りだして小型化の魔術(魔法)を授けてくれた。やったぜ。今知ったけどこの船はアルゴス曰く、ドドナの木って言う神木から作ったものらしい。

 

―――もう突っ込まんぞ。まあ此処神代だから、うん。色々おかしくても仕方ないなんて分かってたから(震え声)。

 

まあ取り敢えず人語を教えつつ同胞の肉でも喰って貰おうか。神秘を蓄えれば強くなる。ここテストに出るから覚えておいてねー。

 

 

 

 

 

 

 

(⁠ ⁠;⁠∀⁠;⁠)月ლ⁠(⁠^⁠o⁠^⁠ლ⁠)日 雨 

 

 

―――あ、ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

 

「メディアが眼の前の少年に対して

        杖を向けて魔術の詠唱をしてる」

 

――な、何を言っているのか わからねーと思うが 

 

俺もよく分からんかった…… 

 

サイコだとか無慈悲だとか

 

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ………

 

 

まあ別にその子死んでないけど。だからこうしてネタに走ってるけどその瞬間の空気は本当にやばかった。

 

 

経緯はこう。

 

 

まず突然沢山の船が来たな〜って思ったら瞬く間に包囲される。そして次に、アイエ………何だっけ?まあとにかくおっさんが俺達に金羊の皮とメディアを引き渡すように伝えて来た。

 

この宣告に俺達は困る。当然だ、何故なら―――

 

 

―――このままだと(向こうに)死人が出る。俺達は一応光側の人間なので、こんなしょうもないことで何人も殺したくは無い。

 

それでどうにか上手く突破する方法はないかと、ちょっと重い雰囲気になったんだが、そうしたら突然向こうの船からまだ十歳くらいの男の子が来て、帰ろうとメディアに言う。後から知ったのだがこの子の名前はアプシュルトス。メディアの弟なんだと。

 

そしたら次の瞬間、メディアが魔術の詠唱を始めだすからあら大変。幸いその子を狙った物じゃなくて船に向かってブッパしただけだったけど、その時の相手側の空気はやばかった。うん。

 

そうしてメディアは弟に帰るように促した後、大声で俺達と行くと宣言。おっさんが激昂してたけど、それ以上は許すわけ無いよなあ?

 

 

 

―――いつから俺が天候の操作が出来ないと錯覚していた?

 

 

 

まあ出来るかって言われたら微妙なラインだが。雷を少しの範囲に降らせるくらいしかまだ出来んよ。俺の使う雷と同質のものだから破壊力パないけど。

 

それでハッタリを掛けて、相手が怯んだ所をもう全力で逃げた。向こうも警戒して追って来なかったしもうこれで諦めてくれるやろ。

 

でもメディア、そんな躊躇なく魔術使ったりしちゃいかんよ。しばらくは常識を教えるOHANASHIをしなくちゃいけませんねぇ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




多分また次話までしばらく時間が開く。

イアソン:まさかメディアが付いてくるとは夢にも思わなかった。でも想像よりは遥かにマシなので安心。ちなみに原作知識は描写こそしていないが殆ど忘れつつある。

メディア:そこまで切羽詰まる状況じゃなかったので、弟殺害フラグが無事に折れた。よかったね。


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とある青年の手記06

もうすぐテスト週間なので投稿頻度落ちます。

追記:最後の方に文章を少し追加。


 

 

ರ⁠╭⁠╮⁠ರ月(⁠´⁠;⁠ω⁠;⁠`⁠)日 雨

 

あの後何とか一息つくことは出来たが、直後軽い嵐にあったせいで皆ヘトヘトになってしまった。だから少し何処かの島に行って一息つきたかった訳で、丁度あった近くの島に行ったわけ。

 

そして辿り着いたのはアイアイエー島。あの有名?な大魔女キルケーが住まう島でした。

 

 

助けて!愛豚(ピグレット)にされちゃう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――別にそんなことなかったわ。早とちりしてごめんね。

 

 

 

そういえばメディアとキルケーって知り合いだったの忘れてた。てか女神ヘカテーって何者やねん。俺オリュンポス十二神以外の神なんか知らんがな。

 

まあとりあえずメディアのお陰で許可を得たから一日程滞在してさっさと出ていきましたよ。まあそしたらこの島の一日は人間界の半年に相当するって出た直後に知ったんですけどね。

 

 

 

なんでや。

 

 

 

 

 

▼月▲日 曇り

 

今日はセイレーンの住まう地域を通った。せっかくだからセイレーンについて軽く解説をしておこうじゃないか。

 

まず、セイレーンは英語でサイレンともいい、パトカーとか消防車のサイレンの語源なんだとか。顔は美しい女性で、下半身は鳥とか魚。人魚伝説のご先祖様であり、所謂元ネタである。岩の上で得も言われぬ美しい声で歌い、その歌声を聞いた船乗りは魂を奪われて、もっと近くで聞きたくて居てもたってもいられなくなり、ついには海へ引きずり込まれてしまうという魔性の女。

り、ついには海へ引きずり込まれてしまうという魔性の女。

 

―――こっわ。やっぱり神代って碌な奴居ねーな。

 

 

 

まあ最強無敵の俺達もこの声を聞いたら流石に不味い訳で―――

 

―――と言うとでも思っていたのか?(ドヤァ)

 

甘いな、グラブジャムン(現代のインドにある世界一甘い食べ物)と同じくらい甘いぞ。

 

こんな事もあろうかと、俺達の船には、稀代の音楽の天才にして意外にも歌の神でもあるアポロンの息子。オルフェウスが搭乗しているのだ。こいつは音楽の天才で、彼が歌うと動物も耳を傾け、雲も川も流れるのをやめるという伝説の持ち主。殊音楽に関しては無敵と言ってもいい。実際俺も最初聞いた時感動した。

 

そんな感じで、セイレーンを蹴散らして、俺達は進んで行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もいろいろあって、クレタ島を通ったアルゴノーツ一行。そのクレタ島には、タロスというとんでもない巨人が存在していた。

 

―――タロス。史実においてはクレタ島の王、ミノス王の家来。全身青銅でできていて不死身というハイスペック。どんな敵が襲ってきても踏みつぶしてしまい、船が来ると絶対に迎撃して沈めてしまうという厄介者。それはこの時空においても変わらなかった。只――

 

 

 

 

「―――巫山戯るのも大概にしろや!何でこの時代から機関銃がついてんだよ!スパ○ボかよ!」

 

 

―――それはまさにスーパーロ○ットだった。赤熱する体躯、機関銃の搭載された手など。そして極めつけはそのサイズ。約数十メートル。随分と頭がおかしい。今までのことである程度順応したとはいえど、流石にこれは見過ごせなかったのか叫ぶイアソン。そろそろギリシャ(此処)はおかしいと学べよ。

 

突然の超兵器の登場に流石のアルゴノーツも僅かに苦戦する。本来の歴史ではここでメディアがタロスの弱点(実はタロスは踵だけは青銅で出来ておらず、そこの栓を外すと絶命する)を見抜き撃破するのだが―――

 

「皆さん落ち着いて下さい!タロスには弱点がっ―――あ、イアソンさま―――!?」

 

やはりここでもイアソンが動く(何してんだお前)。皆が機関銃の迎撃に四苦八苦している中、いち早くタロスに向かって雷を纏いながら飛び立つ。それを感知したタロスはイアソンに向かって機関銃を乱射するが、イアソンが持つアイギスによって防がれる。

 

 

そしてこのアイギスはイアソンが使用していくにつれて、少しずつさらなる力を引き出していた。

それによって今までは浮遊式の結界だったが、今のイアソンの周りに浮遊するアイギスは無く、代わりにその腕には新たにガントレットが、肩には黒のマントが纏われていた。

 

そう、彼は後にオデュッセウスのみが使用できた、例外的にこれを物理的な『鎧』として身に纏う方法を身に着けた。すなわち、概念防御を有する無敵の鎧として。因みにマントはファン○ルみたいに分離したり、そのままブースターになったり、レーザーソードやビームキャノンを撃てたりする。実に多機能。

 

「ぐっ、あぁああぁぁぁあぁ!」

 

そうして、空中でアダマントを限界まで巨大化させ、それを両腕で、雷の魔力放出と背中にブースターとして展開されたアイギスの補助を受けつつ持ち上げる。この段階でのアダマントはおおよそ三十メートル程になっており、振るうことが出来れば眼の前のタロスも真っ二つに出来るだろう。

 

『―――■■■■!』

 

しかし自分の危機に対して無防備でいるほどタロスは雑に作られていない。流石はゼウスがエウロペに対して送った神造兵器の一つといった所か。魔力を胸部に収束させてイアソンに向けて光線を放つ。

 

 

―――忘れてるかもしれないが、ここは古代ギリシャであって、決してスーパーなロボットが対戦をする場所じゃ無い。

 

 

そうして、青銅の巨人(タロス(仮))?の放つビームと、イアソンのまるでギロチンの刃のように振り下ろされた大鎌がぶつかり合い、その莫大なエネルギーによって瓦礫や砂が烈風と共に飛び散り皆の視界を塞ぐ中―――

 

 

「――今更ビームが通用するとでも?」

 

掻き抉る時の大鎌(アダマント)』がタロスの放ったビームをまるで物体を切るかのように真ん中から両断する。本来実体を持たないビームは物理的に切ることは不可能なはずなのだが、一つ思い出して欲しい。

 

―――神秘とは、ソレを重ねる毎にその強度を増していく物であることを。例えば魔術。同じ魔術だとしても神代と現代ではその規模が違う。そして今一度考えてみよう。

……神代とはいえ神秘の塊と言える竜種や精霊を焼肉しようぜ!お前肉な!って感じで屠り続け、神の権能そのものである雷霆を戦闘時常に纏わせていればその武器はどうなるか。

 

 

 

――――――A,性能が変化する。『掻き抉る時の大鎌(アダマント)』は今や本来のソレとは別物といっても差し支えない性能となっていた。

 

 

まず元々備わっていた『屈折延命』。これは本来ならば不死系の特殊能力を無効化する神性スキルであり、この鎌でつけられた傷は自然ならざる回復・復元ができなくなる。といったものであったが、今は最早そんな可愛い力では無くなってしまった。

それはまさしく『因果の操作』といった所か。それが例え実体を持たないものだとしても刃を当てれば、「切った」と言う結果を押し付け、切れる。

 

彼曰く、「不死殺し(・・・・)なら何でも切れるでしょ」だそうだ。

 

 

―――いや、それはちょっとおかしいと思います。

 

 

きっとそこに同じ不死殺しの鎌(ハルペー)を扱う紫髪の槍兵がいればそう言っていただろう。そりゃあそうだ。そんな理不尽は権能と言っても差し支えのないのだから。

 

そして、既に為す術もないタロスの頭上に『掻き抉る時の大鎌(アダマント)』が迫り――

 

 

 

 

「――――――えぇ…」

 

 

それは果たして誰の声だったのか。後に残ったのは返り血一つ浴びず無傷なイアソンと、額から身体を真っ二つにされて倒れるタロスの残骸だけとなった。

 

こうして、突如始まったスー○ーなロ○ットによる戦いは終わったのであった。

 

 

 

 

 

(⁠ノ⁠*⁠0⁠*⁠)⁠ノ月\⁠(⁠°⁠o⁠°⁠)⁠/日 晴れ

 

もう嫌や。おかしいよこの時代。何でスーパーロボットがいるんだよおかしいだろ。

俺達はタロス島って島の近くを通ったんだけど、そこに何がいたと思うよ。

 

スーパーテクノロジーの産物だぞ(白目)

 

なんか巨大な物がズシンズシン動いてると思ったら出てきたんだぞ!?森から。何か頭にトサカがついた感じのやつが。

 

正直めっちゃダサかった。

 

 

それで向こうが機関銃をブッパしてきて迎撃せざるを得ない状況になったので戦うんだが、これがもう硬いったらありゃしない。ヘラクレスやアタランテがしっかり引き絞って放った矢でちょっとしか傷つかないとか…

 

もうチートやチーターやんそんなん!(byK氏)

 

 

まあ倒したんですけどね。確かに超兵器いっぱい積んでたけど動きが比較的トロかったから真っ二つにしてやったぜ。

これもアイギスが日に日にスーパースーツみたいになってるお陰でしょうね。

 

フハハハ!ギリシャ(神たち)科学力(おかしさ)は世界一ィィィィイ!

 

 

だけどメディア曰く、このタロスには弱点があったらしく、踵の栓をコルクのように抜いたら普通に倒せたらしい。

 

 

―――え、もしかして俺の頑張りって無駄?……アッそうですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――突然だが、そもそも何故イアソンがアルゴンコインを求めて旅に出たかを覚えているだろうか?

そう、全ての元凶とも言えるイアソンの叔父ペリアス(the☆マジカル☆老害)。彼はイアソンが帰ってくるまでざっと四年程と見積もっていた。そして今も政務の傍ら、イアソンの父アイソンに少しずつ嫌がらせをしたりしていた。

 

そしてある日、いつものように玉座でふんぞり返っていると、一人の臣下が慌てた様子で向かってきた。

 

「王よ、申し上げます!」

「何だ、儂は今忙しいのだ。要件ならばあとにせい。」

「いえ、これは重要な報告です。」

「―――許す。さっさと申すがよい。」

「はい。先程、1隻の船が我が国の港に漂着致しました。その船の名は―――アルゴー号。あの王子がお帰りになられました。」

「―――な、馬鹿な!?有り得ん、まだ二年も経っておらんのだぞ!?」

 

 

余りにも突然の事態にペリアスは混乱する。確かにペリアスの予想は間違って居なかった。現に本来の、いや、あり得たかもしれない可能性の世界(原典世界)では、きっちり四年間かけて彼らはギリシャに帰って来たのだから。

尤も、この時空ではちゃんとヘラクレスが居たりと本来とは比べ物にならない戦力であったり、イアソン自身の人望の差などもあったりするのだが。

 

「―――ええい、兵士達に命令だ!速やかに―――イアソンを殺して来るのだ。誰にも気取られぬようにな。」

「お、王よ、お止めください!もし万が一彼らに気づかれてしまえば―――」

「だから気取られぬようにといったのだ!認めん、あんな巫山戯た書面一つで王位を退かねばならんなど、儂は認めんぞ!」

 

完全にご乱心しているペリアス。臣下の者達が諌めようとするが、今もなお王位に固執しているペリアスには意味が無かった。

―――そうして、彼は自ら破滅へと歩む。

 

 

 

 

 

「しかし、何でお前等もついて来るんだ?ただ会ったこともない親に顔を見せに行くだけだぞ。」

「何だ、汝は私達が付いてくるのが不満か?」

「私はイアソン様の親御様にご挨拶を、と思いまして……」

「いやご挨拶て。」

 

そう談笑しながら歩く三つの人影。上からイアソン、アタランテ、メディアの順である。

三人は、……というより、イアソンは謁見の前に、折角だから親の顔でも見ておくかと思って出ようとしたのだが、それに何故か二人が反応して、付いてくることになったのである。

 

傍から見れば完全にイチャついてるカップルという名の美少女二人侍らせたクソ野郎なのだが、なんとこの三人は別に婚姻してるわけでも無い。

まあそれには、この時代では合法でも、この年の娘に手を出したら事案だとイアソンが思っているのや、純潔の誓い云々で悩んでいる狩人など、色々な理由が混ざりあったせいという裏話があるのだが。

 

 

そうして歩くこと数分。彼らはイアソンの両親が暮らしているという郊外の家へと辿り着いた。

しかし、彼らは此処で違和感を覚える。

 

「……変だな、周りがやけに静かだ。」

「はい、何故でしょう?」

「―――――――――伏せろ!」

 

咄嗟に動く三人。メディアはイアソンが即座に抱えて移動する。そして次の瞬間、ぞろぞろと十人程の兵士が現れる。

 

「―――成る程、ペリアスの差し金か。つくづく救いようの無い奴だな。」

「全くだ。くそ、こんなことなら天穹の弓(タウロポロス)を持ってくれば良かった。」

「いや、殺せば外聞が悪くなるから必要無い。―――メディア!結界を張ってアタランテと一緒に籠もってろ。俺が全員無力化する。」

 

そう言ってイアソンはファイティングポーズを取り、周囲の兵士達を見据える。瞬間、兵士達は突然重圧に襲われたように感じる。いや、錯覚等ではない。実際に彼の出す覇気で周囲に凄まじい重圧が掛かっているのだ。

 

「―――う、うわぁぁあぁあ!」

 

そうしてその重圧に耐えきれず、パニックを起こした一人の兵士が槍を構えて走る。そうして槍がイアソンを貫こうとした瞬間、イアソンは誰もが見惚れるような華麗な動きで槍の柄をへし折り、兵士に固め技を決めていた。

 

 

 

 

 

そこからはもう後の祭り。やけくそになって向かっていく奴も居れば、予想以上の圧倒的実力差に絶望して逃げ出す者や膝をつく者も居た。

だが、ペリアスが帰還した英雄一行を殺害しようとした今回の一件が広まると、民のペリアスに対する不信感が増し、更には神のもと契約した約束事を破るという禁忌を侵したペリアスの失脚は免れえぬ物となった。

 

 

 

そうして呆気なくペリアスは王位を追われ、その後は宮殿の離れに隔離されたとのことだが、その後のことは文献には載っていない。

現代の学者達の考察では、その後はヘラの謀略によって殺されたのではと言われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――で、今に至るってわけ。

 

 

「王よ、如何なされましたか?」

 

 

――あぁいや、何でもない。

 

 

何でこうなった。俺は王になどなるつもりは無かったのだぞ!?何で帰ってきて一年経った今もこうして俺は玉座に座って政務をしているのだ!?

まあ逃れられなかったからなんですけどね。おのれペリアスが、余計なことしやがって。

あの一件のせいで相対的に俺の評価は爆上がり。王も強制的に退位させられたから断るに断れなかったじゃねえか。アカストスに王位を押し付けたくとも多分あと最低一年はこのままだよ。

 

あのあと一応両親と感動の再会(初対面)をした。いやあ、最初見たら二人共凄いやつれてたからびっくりしたよ。

どうやらペリアスに日々嫌がらせをされてて心身共に限界ギリギリのラインだったらしい。もっと帰るのが遅れてたらと思うとヒヤヒヤしたわ。ちなみに今は二人共王宮で楽しく暮らしてます。

 

そして他にも色々あった。まずアルゴノーツの皆は暫くは此処に留まるんだと。あざます。

あとあの連れ帰った竜なんだけど、幻想種の肉を毎日食わせてたらなんか凄いデカくなったわ。因みに名は無い。……ネーミングセンスが無いんだよ。察せよ。

今は完全に国の守り神扱いされてるし。もう放逐していいかな。

 

 

 

他にはまあ、―――INOSISIを倒した。猪じゃない、INOSISIだ。ここ重要。

 

何があったかと言うと、これは大体数ヶ月前のことだが

まずメレアグロスがアタランテにまたナンパしてたから見に行ったら、今回は少し毛色の違う物だった。

 

曰く、カリュドーン王オイネウスは、ある夏、オリュンポスの神々の生け贄を捧げる際に、アルテミスのことを忘れてしまったらしい。それにキレたアルテミス(恋愛脳)はINOSISIを解き放ったらしく、そのINOSISIが暴れている。そんなヤベー奴を何とかしてくれと勇士を募っているらしい(いや自業自得でワロタ)。ちなみに倒した人にはそいつの毛皮と牙をプレゼント。

 

 

 

 

―――いや、(そんなもの要ら)ないです。

 

 

 

 

 

―――ていうか今まで流してたけどメレアグロスお前、妻いるやろ。堂々と浮気しようとすんなや。

 

 

 

まあ身体動かしたかったしとメディアと一緒に付いてったら他にも結構な知り合いが居て驚いたよ。カストロとポルクスに、カイネウスに、ペレウスにアカストス。そこに俺とアタランテとメレアグロス。他にも俺は知らんけどそこそこの人数が居た。ヘラクレスは俺が行くなら大丈夫やろとのことでお休み。

 

ただ此処で問題発生。曰く、狩りは男達だけで行うのが聖なるしきたりだとかでアンカイオスとケーペウスと言う双子がアタランテの参加を反対。

 

 

―――馬鹿なのか?俺は野郎共だけと一緒とか嫌だぞ。

 

そんな俺の私情しかない反対意見と、メレアグロスの反論で無事にアタランテも参加出来るようになった。やったぜ。

 

 

そして更にここでメレアグロスが爆弾発言。妻がいる癖に、堂々と親族や俺達の前で「アタランテと結婚出来る男はどんなに幸せなのだろう」と言い放った。何なのお前?イケ麺なら堂々と浮気発言しても許されると思うなよ。

 

あとアタランテ、このタイミングでチラチラこっち見てこないで。なんか恥ずかしいから。そしてメディア、何でそんな怖い顔してるの?目の光が消えてるんですがソレハ……

 

 

―――うん、この話は辞めよう。俺の胃に宜しくない。

 

 

そして本命の狩りは、メレアグロスの案に従うことになって、各人が数歩ずつの間隔を置いて半円形を描き、猪がねぐらとする森に入っていくことに。ちなみに俺の作戦は王様達に却下された。

 

―――何故だ、俺の『全員でとりあえず突撃(レベルを上げて物理で殴れ)』作戦は完璧なのに。

少なくともヘラクレスとは基本的にこれだけで全て解決したし。

 

 

まあおふざけタイムはこの辺にしておいて、俺達は遂に猪と相まみえた。そしてその姿は――――――

 

 

 

―――猪じゃなくてINOSISIだった。

 

いや、今でも俺はアレを猪とは認めん。なんか背中から触手みたいなの出てたし、黒い瘴気纏ってたし。

 

そしてその後はもう酷かったね。我先にと突っ込んでやられる奴もいれば、投槍を使って味方にフレンドリーファイアかます奴も居たし、正直見ていられなかった。バトロワの野良かよ。

 

だから俺が指揮を取った。アルゴノーツ以外の前線組を下がらせて、連携を取りやすくしながら後衛に一旦任せる。その間メディアに生きてる奴の治療を頼む。

……片っ端から修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)を刺すのはどうかと思ったが。傍から見たらトドメ刺してるようにしか見えねえ。

 

その後直ぐにアタランテがしっかりとINOSISIを射抜いてくれたので、後は俺が飛びながら近づいて腹を掻っ切るだけの簡単なお仕事。

 

 

 

―――行くゾ!ヘラクレス直伝、『射殺す百頭・鎌式(ナインライブズ・リーパー)』!

 

 

 

 

―――フッ、またつまらぬものを切ってしまった(ドヤァ)

 

 

 

あ、牙は一応貰うけど皮は要らねーからアタランテにあげよ。

 

 

そんな感じでINOSISI狩りは終わった。あとはメレアグロスの妻に匿名で夫が他の女に目移りしてるよーって手紙を送るだけでオーケー。これにて一件落着。ざまあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




カリュドン狩りはしっかり書く予定だったけど疲れたからダイジェストにしました。

イアソン:なんか流れで王になっちゃったやつ。建築や料理チートはやろうと思ったが流石に自重した。でもある程度は好き勝手にやってる。

ちなみに外見イメージとしては、FGOイアソンの第三再臨の、上半身の(もふもふとかの絶妙にダサい気もする)過度な装飾を外して、背中のマントをオデュッセウスが着てる『神体結界』のマントに変えた感じ。


『射殺す百頭・鎌式』
ランク:B
種別:絶技宝具 
レンジ:1〜2 
最大補足:1

ナインライブズ。彼と並ぶギリシャの大英雄、ヘラクレスの『射殺す百頭(ナインライブズ)』をヘラクレスの戦いを近い位置で見て、戦った彼が自身のオリジナルの型として会得したもの。
アダマントによる無数の連撃、もしくは限りなくほぼ同時に放たれる九つの斬撃。その力は命なき怪物であろうと素の技量のみで鏖殺可能な程。
流派ヘラクレス・イアソン分派。



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前触れ

この話から、神話時代は多大な独自解釈+設定が出てきます。違和感を感じても、「ああ、そういうものなんだ」くらいのノリで読んでくれると助かります。


 

 

 

 

 

―――貴方と初めに出会ったのは何時だったでしょうか。

 

 

ああそう、あれは兄様と街を歩き回っている時だった。元々その人の事は兄様から聞いていましたが、最初は只の冗談だと思っていた。

 

曰く、彼は他の人とは一風変わった価値観や考えを有しており、そのせいかは知らないがヘラとゼウスに目を付けられている。

ある日突然外出したと思えば夕方頃に帰ってきて、何をしていたかと聞けばヒュドラを一人で倒していたという。

そして兄様が森の賢者の元を離れた後も日々様々な怪物を打ち倒し、周囲にその名を轟かせている。

 

成る程、やはりいつ聞いても常軌を逸している。この世に一人で、それも難なくヒュドラを討伐出来る人間なんて……いや、神の血を持つものでさえそう沢山は居ないでしょう。

 

 

 

―――そうして私は、貴方と出会った。

 

 

 

元々彼に対して少なからず興味を抱いていたかと聞かれれば、イエス、と答えるだろう。だって、基本的に人間を嫌う兄が、彼のことを話すときだけはとても穏やかな顔をするのだ。

 

だからどのような人間(ひと)なのか気になった。

思えば私がこうして兄様以外の人間(ひと)に強く興味を抱いたのはこれが初めてだった。

 

そして貴方は開口一番に、こんなことを言ってきた。

 

 

―――なあ、コルキスまで行くのに、空を飛ぶのとドラゴンに乗るの、どっちがいいと思うよ?

 

 

瞬間、私は衝撃を受けて固まってしまった。多分横で兄様も似たような反応をしていたと思う。その時、私は兄様の言っていた『一風変わった価値観や考えを持っている』という言葉の意味を初めて理解できた気がする。

今の移動手段は船による航海だ。空を飛ぶなんて発想は誰にもなかったし、そもそも色々な場所が異界と繋がっているので、空を飛んでも意味がないからであろう。

 

そしてそれから、私達は貴方の船に乗って様々な旅をした。途中、私はボクシングが得意だったから貴方に手合わせを頼んだ。引き分けだった。そして貴方は惜しげなく私に称賛の言葉を掛けてくれた。―――嬉しかった。

思えば、私はあの頃から既に貴方に惚れていたのかもしれない。

 

だからなのかもしれない。貴方がアタランテやメディアと話して居るのを見ると言い様のない気持ちに駆られるのは。

そしてその想いは時が経つほどに膨れていった。

徐々に実感する。

 

貴方と共に戦うことが、

 

貴方と他愛のない話をすることが、

 

何よりも貴方と一緒にいることが――――――好きだ。

 

 

貴方と一緒にいる間は幸せな気分に浸ることが出来る。兄様と一緒に居るときとも違う、そんな気持ち。

 

元々私にとって、兄様以外の人間(ひと)なんて確かに神の血を強く引く私の慈愛の対象ではあるが究極的にはどうでも良かった。だから周りの全てが無彩色の風景のような物だった。

 

―――でも、貴方と出会ってから私の風景に色がついた。

貴方はとても優しいから、複数の人から好意を向けられている。それが少し気に食わないが、私は、私達は導きの星として貴方を導き、こんな日々がこれからも続けばいいと、そう思っていた。

 

 

―――でも、運命(Fate)とは残酷なものだった。

 

 

 

『ギガントマキア』、後の世で人間にそう呼ばれるようになる戦いで貴方は―――――――――

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

イアソン達が住まう人界とはまた違う、人界に長い間顕現出来ない神々が普段住まう場所、天界。

 

 

其処には、人とは一風変わった者が一人佇んでいた。尤も、実際その正体はお世辞にも人とは言えないのだが。

 

 

そして彼が見つめる先にあるのは―――何の変哲もないとある大地だった。全能の力を持ち総てを見ることが出来る彼が珍しくしっかりと其処を見据えているのは、きっと其処に凝視するほどの何かがあるということなのだろうか。

 

 

「―――遂にこの時が来てしまったか」

 

 

 

そう言葉を零す。この時(・・・)とは果たして何なのだろうか。ただ少なくともその緊張感から只事では無いことが伺える。それに、何処かそれを忌々しげに見ているようにも見える。

それはまるで、嘗て一度殺された宿敵を見るかのような目で。まあ実際に自分の本来の身体を壊されたという意味では、一度殺されたと言っても良いだろう。

 

 

「ヘラクレス、そして―――イアソン。我の子、我の(雷霆)掻き抉る時の大鎌(我の嘗ての■■)を授かりし者よ、―――今こそその役目を果たす時が来た。」

 

 

ある一点を見つめながら今このギリシャにおいての『最強』たる二人の名を口にする。背丈も、肌の色も、血筋も、仲は良いが似た部分の無い二人には何か共通点があるのだろうか。―――そして、役目とは何なのだろうか。

まあ、後世において『星座にすれば解決すると思ってるやつ』『大体ゼウスのせい』と称されるろくでなしな最高神のことだから、きっと二人にとっては碌なことでは無いだろう。

 

 

 

 

そして彼が見据える大地、その先にあるのは―――

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

―――戦っている。

 

 

ゼウス達神々が、ヘラクレスが、カストロが、ポルクスが、他のアルゴノーツの皆が、

 

 

――――――そして自分(イアソン)が。

 

 

普通に考えれば珍しい事だろう。夢の中(・・・)で第三者視点で自分を含めた物事を見るのは。

だがイアソンにとっては割とよくあることなのだ。全能神の加護を賜った頃に発現した、後世で生まれるブリテンの赤い竜(アーサー・ペンドラゴン)を上回る圧倒的な直感。

それがこうして時々、夢の中で断片的な未来視に近い出来事を映すのだ。

 

しかし今回は只事ではないだろう。いつものような今日の朝ごはんは何だろうとか、明日の天気は何だろうとかそんな能力の無駄遣いな予知では断じてない。

 

 

そう、戦っている(・・・・・)。しかも神々と共に戦っている自分達が押されているのだ。

戦っている相手には靄が掛かっているせいで何と戦っているのかは分からないが、かなりの巨体だということだけは分かった。

こうして夢に出てくるということは近いうちに、少なくとも一ヶ月以内にはこの光景が実際に起こることを示している。この予知夢は一度も外れたことが無いので、きっとどう足掻いてもこの未来は避けられないのだろう。

 

 

 

「(てか何で神々まで出たオールスター対戦になってるんですかねぇ…………特撮ものの劇場版ですか?)」

 

 

そんな馬鹿なことを考えながら見ていたイアソンだったが、此処である変化に気付く。

 

 

「(お、靄が無くなってきた――――――え、マジで?流石にソレはまずくない?)」

 

 

 

 

 

―――(もや)がなくなって見えてきたのは……複数の『何か』だった。

英雄(ヒト)でも、(かみ)でも、エネミー(魔獣)でもない存在。後世において神話や伝承にも現れない怪物。

 

 

 

 

 

 

―――『何か』以外で表すならば、人影、だろうか。

 

そう形容できる特徴を確かにソレは備えていた。数十メートルを超えるその巨躯は所々異形な部分があるが基は人型だろう。

ソレらは、その赤い双眸で果敢に戦う皆を捉えており、

その頭頂部周辺には、不気味に輝く巨大な『()』がある。

 

 

 

『『『―――――――■■■■■■■!』』』

 

 

そして、ソレらの叫びはまるで空間そのものを大きく振動させるかのような不気味さ、異質さがあった。

 

 

イアソンの目に映る視界の中では、自分達がその巨人達に苛烈な攻撃を仕掛けているが、ダメージを受けてる様子は無い。

寧ろその攻撃を吸収して徐々に巨大化しているように見える。

このままでは自分達がやられるのも時間の問題であろう。尤も、見ているだけの今のイアソンにはどうすることも出来ないのだが。

 

そうしている内に突然、視界が暗転する。空間が歪み、まるで()の中のような雑音が聞こえながら、脳裏には認識することは出来なかったが様々な情景が流れていく。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(―――嘘、だろ?なんで、みんなが)」

 

 

 

 

そして、視界が良好になった時には、目の前は惨状と化していた。

抉れた地面、怪物達の残骸、そして――――――事切れた仲間たちの姿。生き残っているのは神々やヘラクレスなどの数多の英雄達を含めても一握りの強者のみ。ここが夢の中だと分かっていても今見ているものを認識したくなくて目を逸らす。

 

そしてその先を見ると、自分の姿があった。左腕と右足は潰れ、身体中から血をこれでもかと流していたが何とか生き延びたようだ。

―――何となく今、目があったような気がする。視線を外そうとする自分の意志とは裏腹に、自分の目は自分(イアソン)を捉えて離さない。

そして、今までは雑音が入り乱れて殆ど何かを聞き取る事は出来なかったが、そのイアソン(自分)が発した言葉だけは、どうしてか鮮明に聞き取ることが出来た。

そして視界が暗転する。どうやら向こう(現実)で目が覚めたようだ。

 

 

 

 

 

 

――――――変えてみせろ。

 

 

 

その一言を心に刻みつけ、イアソンは目覚めるべく自らの意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――っ!!」

 

凄い勢いで飛び起きる。夢の内容が内容なのでまあ仕方ないかもしれない。

 

そして少しずつ眠気が覚めて、改めて先程の夢が本当に自分の未来予知(仮)で見てしまったものだと察して一言。

 

「特大の死亡フラグじゃないですかヤダー……」

 

 

ここに来てまだ其処まで言えるのが地味に凄いが、目からは光が消えかけてるので単純に諦めの境地に至っただけかもしれない。

 

「逃げることは出来る」、「自分は生き延びて居るのだから逃げれば良い」、「結局一番大切なのは自分の命だ」とそんな思いが脳裏をよぎる。

きっと此処でイアソンが折れたとしてもそれを責めようとする者は殆ど居ないだろう。誰だって自ら死地に向かってヘッドスライディングするような真似はしないし、人助けだって根底には自分の安全がある上で行うのが普通なのだから。

自らの生死を厭わない他人の救済なぞ、それを実行出来るのは聖人や異常者などのどこか歪とも言える人達しかいないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――まあ、そんなことが分かっててもやるしかないけど。これあれだよね、神話でいうギガントマキアだよね?どのみちやらないと世界滅んじゃうパターンのやつだよね?

 

 

 

それでもイアソンは運命に歯向かう。仲間が死ぬと知っていて、(いや)、自分の惚れた人達(・・・・・)が傷つくと知りながらそれを見捨てられるほど自分の価値観が失われていないからだろう。

―――人達と複数形な辺りが何とも言えないが。

 

 

 

 

 

後に彼は星見屋にてこう語る。

 

 

「いやだってさ、今までそういうのと無縁だったのに突然美少女と知り合って、それで距離感が凄い近かったり色々してくれたらそりゃあ鈍感系主人公な訳じゃない普通の男なら意識するだろ?オリオンとかも言ったら多分分かってくれるはず。よって俺は悪く無いはいQED証明完了」

 

 

 

 

 

 

 

先ずイアソンはこういう時に頼りになる人を考えて、真っ先に思い浮かんだ人物のもとへ向かう事にした。様々な分野に精通している、育ての親であり師である森の賢者の所へ。

 

ただ遠い。ひたすらに遠いのだ。幼少期は気にならなかったが、ケイローン塾の家は森の奥深くにあるので、かなりの距離を動かねばならない。

神体結界と魔力放出でかっ飛んで近くまでは直ぐに移動することが出来たが、間近まで飛んでいって撃ち落とされましたは洒落にならないので、こうして歩いて向かっている。

 

 

 

 

そうして、ようやくケイローンの住む場所まで辿り着いた。何気に再会するのは4、5年ぶりなのでそわそわしている。

 

「おーい!先生、急用があるのだが」

「おい、あんた先生の知り合いか?」

「ん?」

 

 

イアソンが前を見るが、其処には誰も居ない。今度は下を見てみると、およそ4歳程の緑髪の少年がこちらを見ていた。新しいケイローン塾の入門生だろうか。

 

 

「ああ、そうなのだが先生は何処に?」

「ちょっとまってて……先生!なんか先生の知り合いって人がきたー!」

 

そう言っておおよそ3歳の少年とは思えない速さで走って行く。少しすると、ケイローンの腕を引っ張りながら戻って来た。

 

「ほら先生、こっちこっち!」

「はは、そんなに引っ張らなくても大丈夫ですよ―――!?」

 

イアソンの姿を見たケイローンは予想外の人物だったのか驚きの表情を見せるが、直ぐに嬉しそうな顔をする。

 

 

「おお!イアソンではないですか、お久しぶりですね」

「ああ、四年、いや五年か?とにかく久しぶりだな」

「いえ、私こそ会えて嬉しいです」

 

何となくイアソンがケイローンの背後をちらりと見てみると、ケンタウロスの尻尾を無意識でかブンブン振っているのが見えて、師の言葉が紛れもない本心だと思うと、少し気恥ずかしくなる。

 

「なあ先生、この人誰なんだ?」

「ふふ、実はですね……彼は貴方の父ペレウスも乗っていたあのアルゴーの船長なのですよ」

「ほんとに!?凄い!」

 

少年がキラキラした目でイアソンを見つめる。ただイアソンは途中聞き捨てならない言葉が聞こえたのを聞き逃さなかった。

 

「おい、ちょっと待てよ……父親がペレウスってことはこいつもしかして……」

「おや、知っていましたか?そうです、この子はペレウスの息子アキレウスですよ」

「―――マジで?」

 

そして再びイアソンは今も自分を見つめる少年を見る。そして心の中で一言。

 

 

―――この子が将来女装したり、戦闘狂になるのかぁ……私は悲しい。悲しいよ。

 

 

何処かの円卓に居そうな赤髪の騎士風に言ってみる。まあ実際に言わなかっただけまだマシだろう。

そして、忘れてるかもしれないが、此処には世間話をしに来たわけでは無い。

 

「―――先生、そろそろ本題に入るが構わないか?」

「―――いいでしょう。アキレウス、貴方は他の部屋に行きなさい」

「はーい」

 

 

アキレウスが去ったのを確認してから、イアソンは少しずつ話し出す。

自分は夢で時々未来が視える事。今回見た夢では何か強大な巨人が迫ってきて、最後には一部を除く殆どが死んでしまったこと。

イアソンの話を一通り聞いたケイローンが、神妙な顔つきで話し出す。

 

 

 

「―――結論から言うと、イアソン。貴方が視たというその巨人、心当たりがあるかもしれません。」

「本当か!?あれはいったい何なんだ!?」

「ほら、落ち着きなさい。順を追って説明しましょう。尤も、私も実際にそれを見たわけではないのですが」

 

 

不死の肉体を持つ神霊たるケイローンが見たこと無いと断言するもの。それは即ちケイローンが生まれる前に起こった出来事ということ。とんでもない怪物が迫ると改めて認識したイアソンは冷や汗を流す。

 

「では、先ず今のオリュンポス十二神、彼らの事を語らねばなりませんね。

 

 

 

 

 

 

―――まず、彼らの正体。それはこの世界の物ではありません。その実態は地球で発生した神々ではなく、別の宇宙から漂着した宇宙艦隊、という物らしいです。イアソン、これは冗談ではなく本当のことですよ。

 

 

ある時ゼウスと語らう機会があったのですが、その時聞いた話によれば、彼らを生み出した別の宇宙の超文明は既に滅んでおり、「母星の文明再建」を至上命題として旗艦であるカオスから送り出されたんだとか。

 

過酷な宇宙の旅の中で艦隊とやらは次第に数を減らしていき、残った十二の艦が地球に漂着した。

地球上にいた原始人類により神として崇められたことで彼らは初めて「歓び」を知り、人と共に在りたいと願うようになった。ゼウスやヘラという名前もその時に得たものである。

 

 

―――というのが、彼らオリュンポス十二神の真実です。ほら、いつまでも呆けてないで、まだ話は終わっていませんよ。

 

 

その後は人類と共に文明を築いていき、いまは無いですが大西洋のアトランティスで繁栄を極めるものの、およそ一万年前に転機が訪れたそうです。

この世界の外から何でも、巨神?と呼ばれるものが来襲し、これへの対応を誤ったことで十二神はその真体を失ってしまった。

それを悔しそうに語るゼウスはええ、大変愉快でしたよ。

 

―――以上が、このギリシャに君臨する彼らの真実です。」

 

「うっそでしょ……」

 

色々と有り得ない情報が次々と飛んできて唖然とするイアソン。前々から確かにおかしいとは思ってた。アイギスはビーム出したり飛んだりできるし、ミノス島の一件はおそらく一生忘れることは無いだろう。

しかし神々自体がメカだなんて、誰が予想出来よう。

 

「というか知ってるのなら教えて下さいよ!」

「聞かれませんでしたから。」

「そりゃあそうでしょ!神の姿自体見たことのある人が殆ど居ないんだから!」

 

まだ言いたいことは沢山あるが、ふふ、と悪戯を成功させた子供のような師の顔を見ると、何も言えなくなるイアソンなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





Q,何でギガントマキアの難易度がルナティックになってるの?

A,だいたいゼウスのせい


-追記-2/5

そういえば二部七章で勇者王が出たらしいですけど、ある意味でこの作品のイアソンとは似通っている部分もありますね。
この話に出てきた‘‘あり得ざる可能性’’を示した予知夢ですが、これが現実になっていれば異聞帯勇者王に近い結末になったかもですね。


 



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訪れる決戦


まだ持ってなかったので孔明ガチャ回したらエウロペおばあちゃま(二枚目)が降臨して泣きました。


遅れましたがお気に入り数5700人突破、投票者数110人突破有難うございます!

できるだけ早く更新できるように頑張ります。


 

 

 

「―――ふむ、まさかアレがそんな代物だとは思わなかったがとにかくそれに関しては把握した。では次に、あの巨人達について知っている事を教えてくれ。」

「いいでしょう。」

 

若干動揺して震え声になりつつもイアソンが続きを話すことを促し、再びケイローンが話し始める。と言っても、アレらに関しては流石の賢者でも殆ど知らないようだが。

 

 

 

 

曰く、あの巨()は今から一万年前、最終的には星の内海で鍛えられた神造兵装、『聖剣』によって滅ぼされた、()星の尖兵、白の巨神(ヴェルバー02)の系譜を継ぐものであること。そしてこれを迎撃するには、全能神(ゼウス)の予言によると人の子の力が必要であるということ。

 

実際此処とは別の世界線(史実)においては、神々と共に戦場に立ったヘラクレスがその伝説級の弓術によって巨人達の撃退に成功している。尤も、この世界線においては敵側の総合的な脅威度は桁違いになっているのだが。

 

 

 

「今の私に分かることはこれくらいですね。―――あまり力になれず申し訳ない」

「いや、なぜそこで先生が謝るんだ?意味が分からん。何も知らなかった俺からすればこれは予想を遥かに上回る収穫だ。―――感謝する」

 

 

ケイローンは本気で愛弟子の力になれない事を悔やんでいるようだが、イアソンからしてみれば大収穫だ。なにせ何も知らなかった状態から、一気に敵や神々のバックボーンといった、ある程度の情報は得られたから。

 

―――情報とは紛れもない武器の一つだ。たとえ圧倒的な戦力差があっても情報という武器を利用し、駆使すれば、それこそが戦局を左右する鍵になりうる。

それは人類史において、極東の島国の歴史だけに絞ったとしても、桶狭間、長篠を始めとする数々の戦の記録がそれを物語っている。

 

「―――そろそろ帰るか」

「おや?今日は此処で食事をすると思っていたのですが……」

「いや別に――――――いや、分かった」

 

イアソンは断ろうと思ったが、奥の方で既に料理の準備がされているのを見て『NO』とは言えなかった。決して目の前の師から圧を掛けられたとかではない。決して。

 

 

 

 

 

そして久しぶりにケイローン宅での料理を食べることになったのは別に良いのだが、途中からイアソン自身は完全に残業明けのサラリーマンのような顔になっていた。

 

アキレウスがアルゴーの冒険譚を語ってくれとお願いしてくるのだ。別にそれ自体は構わない。自他ともにアルゴノーツは最高の船であり、最高の仲間だと思っているから。

子供が特段嫌いというわけでもない。そもそも近くにアタランテという超が付くほどの子供好きがいて子供を嫌いになる訳がない。 

ただこの少年(アキレウス)、少々元気があり過ぎではなかろうか。時々誰かに冒険譚を聞かせる機会はあったが、三十分も話せば満足してくれるのに、アキレウスは二時間ほど話した今も目を輝かせて次の話をせがむ。

 

別に話題が尽きることはない。たかだか数時間で語れるほどあの冒険は薄っぺらい物ではないのだから。

ただ流石にそろそろ喉が枯れそうだ。

師に対して助けを求める視線を送っても気づいていないのか、もしくはこの状況を楽しんでいるのかずっとニコニコしながらこちらを見ているだけなのだ。

イアソンの経験からして間違い無く後者であるだろうが。

 

「―――ちょ、もうまじで無理喉枯れる……」

「えー!もっと話聞きたい!」

「いやどうしてそんなに元気なんだよ。あと、何でそんなに話を聴いてられるのかが分からん。」

「―――ぼくも船長みたいな英雄になるから!誰よりも、船長よりも強い最強の英雄に!」

「―――そうか。」

 

きっとこの少年は生まれながらの英雄なのだろう。

女神テティスと英雄ペレウスの間に生まれ、踵以外は不死の肉体を授かった。

彼は人生の岐路を幼少時に突きつけられた。戦争で華々しい活躍を遂げた英雄として死ぬか、平凡な人間として長く生きていくか。母テティスに問われた際、アキレウスは迷わず前者を選択したそうだ。

女神テティス、英雄ペレウスの間に生まれたアキレウスは、幼い頃からその運命を定められていた、と言える。

 

―――無論、彼は英雄として生きるその先に悲劇が待つことを知らないだろう。たとえ知っていたとしてもその歩みを止めるとは思えないが。

 

 

 

 

「―――まあ、俺の知ったことじゃないな。」

「イアソン!はやくつづき話せよ!」

「急に呼び捨てタメ語とはいい度胸だなクソガキ」

 

 

 

その日、森の賢者の家では夜遅くまで話し声が絶えなかったらしい。

 

 

 

余談だが、朝イオルコスに帰ったイアソンに対してメディアが、

 

「朝帰り!?朝帰りですか!?イアソン様昨日の夜は一体何処に行ってたんですか!」

 

 

と大声で言ってしまったことによって誤解を解くまでに一波乱起きるのを彼は知らない。

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

そしてそれから数週間。イオルコスの王宮前の広場には、多くの人々が集っていた。まあ、その全てがアルゴーの英雄なのだが。

 

 

女神と婚姻し、人々から医神と呼ばれるアスクレピオス。

カリュドン狩りを終え、林檎フラグも折れたアタランテ。

導きの星として元々そうだったとはいえ、ほぼ神のような存在となったディオスクロイ。

海神ポセイドンの偏愛と祝福を受け、疑似的な不死を有するカイネウス(カイニス)

「生まれついての英雄」と讃えられ、ミノタウロス(アステリオス)を討ち果たしたテセウス。

神々や厄災でさえ鎮めるほどの、アポロンの息子であり音楽の天才オルフェウス。

途中でゼウスとポセイドンにより女神と結婚することになって船を降りたものの、女神とは結局育児の方向性の違いで別れたペレウス。

史実ではカリュドンの猪を討ち果たした張本人であり、この世界線ではイアソンのチクりによって妻とOHANASHIして浮気性が若干マシになったメレアグロス。

 

 

最後の方の紹介はなんかパッとしないが、錚々たる面子がこの一堂に会している。彼らの実力は後に聖杯の泥によってボディペイントをしてイメチェンした復讐者(アルケイデス)が、「誰もが自分を殺すことができた」と言い切るほどであり、全員が誰しもが認める一流の英雄である。

 

そして彼らは何故此処に集っているのか。

それは、この全員が一癖も二癖もある彼らを束ねた船長、全員が指揮官としても戦士としての実力にしても強い信頼を向け、この国の王でもあるイアソンが彼らを招集したからである。

―――ただ、その本人は未だこの場に現れていないのだが。

 

 

「―――おーい船長、さっさと出て来やがれ!此度はなんの用件でオレたち(アルゴノーツ)を集めたんだぁ!」

 

カイネウスがこの場に集まった皆の気持ちを代弁する。その直情的な性格と気性はひとえにその身に宿す海神(ポセイドン)への怒りから来るものなのだろう。実際に後の世では(彼女)復讐者(アベンジャー)としての適性を持つとされている。

 

 

「―――騒ぐな、直ぐに話す

 

 

一斉に声がした方、と言っても真正面だが、そちらを見る英雄達。その先には、王としての装いでは無く、あの船での冒険を繰り広げたときと同じ服装をするイアソンと、護衛としてかその後ろで付き従うヘラクレスとメディアの姿があった。

無意識に彼が垂れ流している戦士としてのオーラ、そして指導者としての風格により先程までざわめきの聞こえた周囲は、時が止まったと錯覚するほどに静かになる。

一言発するだけで英雄達を御することが出来るなぞ、なんて出鱈目なカリスマ性だろうか。それは人間が到達しうる最高峰、ランクにしてAランクのカリスマをも凌駕するのではないだろうか。

 

 

「まあ、結論から言うと―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――世界が滅ぶかも。

 

 

そう言われた英雄達の反応は『驚愕』が八割、『既知』が二割だろうか。既知とは言葉の通り、イオルコスに居た為にこのことを既に知っていた面子だ。この中ではディオスクロイ兄弟、ヘラクレス、メディア、アタランテ辺りが該当する。まあ、驚愕と言っても彼らのものは若干目を見開く程度のものだったが。

 

「―――それで?僕達を此処に集めたということはその原因(疾患)を取り除く策があるのだろう、イアソン。勿体ぶらずに早く言え」

「ああ、勿論だとも。まあ分かりやすく言うと―――今回だけは神々と共に戦うことになる」

 然り 

「「「!?」」」

 

虚空から突如声が響く。聞くだけで足を震わせ、身動き一つ取れなくなるような感覚に陥る威圧感。

存在からして自分達とは決定的に違うもの。

 

 

『此度のみは拝謁を許そう。―――我はゼウス、汝らが崇め賛える全能の神である。』

 

 

―――此処に、ギリシャ神話最高の存在が顕現する。

 

 

まあ一時的なものだが。

 

「―――色々思う所は各々あるかもしれない。本来は決して相容れることの無い存在だろう。てか俺だって嫌だ。でも、今この時だけは一旦因縁は忘れて、互いに背中を預けるんだ。さもなくば―――――俺達は全滅だ。」

 

 

かつてない程の真剣な顔をして話し始める。英雄達も本当なら不愉快極まりない存在(クソ野郎こと下半神)が眼の前にいるが、ここでそれを気にする者は居なかった。

 

 

そしてイアソンは神々の技術に物を言わせて説明を始める。ホログラムで敵陣の観測をした映像を映し、それを根拠にした戦略、布陣をイアソンが懇切丁寧に語る。始めは一部が苦言を漏らしていたが、それが合理的かつ最善の戦略だと理解した英雄達は最終的にはある程度納得したようだ。

 

 

その戦略は即ち、最大戦力を開幕からぶつけることによる短期決戦。

はっきり言って戦略と言える要素が微塵も存在しないが、これこそがかの巨神と戦うときの最適解なのだ。

 

かの巨神には『魔力吸収』という力がついており、生半可な攻撃は返って逆効果なのである。よって開幕ブッパこそが最適解にして最善の策なのである。

例えば、IFの世界で白の巨神(ヴェルバー02)が飛来した時に、その世界の下半神(ゼウス)がオリュンポス十二機神で合体をして総力戦を仕掛けた結果、撃退に成功している。

 

 

「じゃああとは俺から一つ―――死ぬなよ、勝つぞ

 

 

 

◆◆

 

 

そしてその日の夜。イオルコスの王宮内。そこを歩く一人の少女の姿があった。

その少女の名はメディア。この時代からすれば遥か遠くの国であるコルキスから訪れた皇女であり、周囲の人々からは公表こそされていないがイアソンの王妃的な立ち位置だと思われている。あながち間違ってないが。

 

 

そうして彼女は階段を登り、飛行魔術を使い『彼』がよく好んで向かう場所である王宮の屋根まで辿り着く。

 

其処には星空を眺める一人の男の姿があった。彼のまるで金糸のような髪が星々の光を反射して淡く光っている。

 

「―――メディアか」

「あ、えっと、お邪魔でしたか?」

「いや全然」

 

体勢はそのままに、目を僅かに開いてメディアの方を見つめる。メディアは静かに微笑み、そのまま隣に腰掛けた。

 

「イアソン様は、よく星空を見上げていますけど、何かあるのですか?」

「……この星空を見ていると、あの冒険の日々がまるで昨日の事のように思い出せるから、かな。」

「確かに、あの日々は新参者の私でも楽しかったです。皆が笑っていて、その中心にはいつも貴方が居て、ええ、本当に―――」

 

そして数分程の静寂が流れる。

 

「いよいよ明日、ですね」

「ああ、お前はアスクレピオスと並んで皆の生命線だからな。しっかり休んで英気を養っておくといい」

「怖く、ないのですか」

 

自分でも無意識にそんな問いを投げ掛ける。それは元々戦うことが得意ではない彼女の感性故か、もしくは今感じている言い様のない不安故か。そして直ぐにハッとした顔になった彼女は発言を撤回しようとしたが、先に彼が答えた。

 

「怖い、か――――――勿論怖いに決まってる(・・・・・・・・)。俺は不死でも何でもない只の人間。ちょっとでも怪我すればすぐ死ぬからな。」

「――――――そうですか」

「まあ死ぬ気なんて一切無いし、そもそもお前とアスクレピオスがいる限りは死んでも蘇生されそうだがな。」

 

少し困った風にイアソンは言う。そして再びメディアは微笑む。

 

そうだ、彼が立つ場において、敗れることなど有り得ない。なぜなら彼が戦場に立っているだけで皆勇気が湧き上がるから。

戦場で彼と共に戦っている時に、どれ程の乗組員たちがこの感情を有しただろう。

 

彼の戦いは空想上から生まれ出たかの様な、一騎当千という言葉すら生温い。

 

そこに立ちはだかるあらゆる難行、あるゆる辛苦を、その一振りにて両断する出鱈目のようなその様は、誰もが惹き付けられ、励まされる。

 

本人が聞けば勘違いや錯覚と言うのだろうが、それは後にスキルとして昇華されるほどの確かな力を持っている。

 

 

「―――イアソン様、一つ約束をしましょう。」

「何だ?言ってみろ。」

「昼間、イアソン様は私達に言いましたよね、「死ぬな」と。だからイアソン様も死なないでください。それが約束です。」

「……まあそれくらいならお安い御用だ。」

 

二人は手を合わせ、目を瞑る。口約束ではなく心に刻みつけるかのように。

 

そして数刻後、二人は目を開けて夜空の星を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

(………今更名前思い出したけど、あの軍勢って要はセファールの軍団だよね。しかも多分他にも神獣クラスの増援が湧き出る可能性があると、―――もしかしなくてもヤバくね?無理ゲーじゃね?)

 

 

そして、ようやく明確な巨人の正体に辿りついたお馬鹿が一人。

 

 

 

 

 

 

 

かくしてこの時代における『ティタノマキア』に続く第二のマキアにして最後のマキア、『ギガントマキア』が始まった。

その数は十三。そのすべてが白きマキアの巨神、セファール(ヴェルバー02)の系譜を継ぐ破壊の具現。今も横一列に並んであらゆる障害を破壊しつつ進んでいる。

全員が本家には及ばぬものの『魔力吸収』を持ち、攻撃を受ければ受けるほど巨大化し、膂力は人のソレを超える、神話時代を以ってしてもまさしく前代未聞の軍勢。

 

対するはイアソン率いる総勢五十近くの英雄とゼウス、ヘラ、アポロン、アテナ、アルテミス、ポセイドン、ヘカテー等の神々というこちらもまた前代未聞と言ってもいい軍勢。

神々と人間が共に戦うなぞ、後にも先にもこの戦いだけであろう。

 

 

「これは想像以上の数だな……!」

「――さてどうする、当初の計画通り行くのか?」

「ああ、―――正面戦闘は神共の仕事だ。まず弓使いは後衛で露払いに徹しろ。そしてあれにダメージを与えられる火力のあるカイネウス、ディオスクロイ兄妹は遊撃手として自由に動け!」

「ハッ!あんな(クソ野郎)なんぞに任せるのは業腹だが、今回ばかりは仕方ねえ、―――――殺ってやるよ」

 

カストロとポルクスは頷き、カイネウスは獰猛な笑みを浮かべ戦場に突入する。同時に、アタランテ等の後方組は各方向に散開する。

 

「手負いになった者はすぐに下がれ!アスクレピオスとメディアの治療を受けろ!」

「今回ばかりは自重してやる。だが、面白い怪我を負ってくることを期待するのは辞めないがな。」

 

アスクレピオスが治療時の白衣に着替えながら言う。メディアも事前に用意した魔力回復薬の確認をしている。

 

「そしてヘラクレス、―――言うまでも無いな。俺と一緒に最前線だ、指示など無い!行くぞ!」

「了解した―――我が友よ!」

 

そして二人の大英雄は()ぶ。その片割れはネメアの獅子の毛皮、アレスの戦帯、宝剣マルミアドワーズと剛弓を纏った完全装備のヘラクレス。もう一人は神体結界(アイギス)をその身に纏い、搔き抉る時の大鎌(アダマント)を構えながらその身体に雷霆を奔らせるイアソン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――今、世界の命運を懸けた争いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





何気にマルミアドワーズって威力だけならエクスカリバーよりも強いって頭おかしいと思うんだ。


ギガース:wikiによるとセファールの系譜を継ぐものと言う以外の情報が無かったので、独自解釈により、嘗てのセファールの残滓のような物たちの総称という設定。よって内部にバックアップが居たりはしない。
 見た目は顔無し状態のセファール。
本体には及ばないが『魔力吸収』という攻撃無効のスキルがあるのでランクで表すとBランク以下の威力の攻撃は通じない。なおかつトドメは人間が刺さねばならないという鬼畜ぶり。ただし跡形もなく滅ぼせば特に関係ない模様。
 つまりはオリジナルに比べれば話にならないくらいに弱い。


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ιγαντομαχία(ギガントマキア)

ボックス周回中の脳死状態で書いたから文章がおかしいかも。
そしていつもの独自設定&独自解釈。



 

 

 化外の軍勢と英雄と神々。

 

 

 ソレが衝突する汎人類史最期のマキア。その戦いのことを人々は後にこう名付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       ιγαντομαχία(ギガントマキア)、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「―――■■■■■■■■ッッッ!」

 

 巨神達は咆哮と共に進軍する。

 膂力が違う。神々はともかく、如何に神話に名高いイアソンの率いる軍勢アルゴノーツといえど、中身はだいたい人間。……その多くは半神だが。

 

 

 「―――『射殺す百頭(ナインライブズ)』」

 

 

 だがそんなの関係ねえと言わんばかりに。

 

 規格外にして人類最強の戦士の放つ弓矢が戦場を覆う。

 

 後の聖杯戦争においては、狂戦士として召喚されてしまったが故に、封じられた技術。

 

 

 曰く、ヘラクレスはヒュドラ殺しにおいて百頭同時殲滅の射撃を行った。そしてソレを原型とした射殺す百頭。

 その本質は、攻撃が一つに重なる程の高速の連撃にある。

 

 長い戦いを繰り広げてあらゆる武具を使いこなし、様々な怪物・難行を乗り越えた、状況・対象に応じて様々なカタチに変化する「技」であり、剣であれば剣の最大手を、槍であれば槍の最大手を、弓であれば弓の最大手を発揮していた。

 英霊となった後も万能攻撃宝具とされていることからも分かるように、その変化の幅は広く、手にした武具、あるいは徒手空拳により様々な武を行使することで、対人から対軍、城攻めに至るまで状況に合わせて千差万別に変化するとされる。

 

 そしてソレは一つの流派として成立した。

 

 しかしソレを宝具という明確な形で会得出来たのは彼を除き、後のローマ(神祖)と友である英雄船長(イアソン)など一握り、しかも冠位(頂点)に至る可能性を持つほどの者たちのみ。

そんな彼らですら会得できたのは一部のみ。如何なる人物も届かない大英雄の究極の流派。

 

 

 

 ソレが今、巨神達に牙を剥く。その全てを討ち取らんと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜の頭部をした数百の(・・・)ホーミングレーザーが巨神目掛けて一直線に迫る。同時に理不尽の具現たる神と戦いながらこれをいなせる程巨神は高度な思考を持ち合わせてはいない。

 

 そうしてイアソンの放つ雷霆の威力を大きく上回るゼウスの放つ雷霆によって弱らされた巨神を次々と射抜く。

 

 

 その光景を見て、ヘラクレスを脅威と明確に認識したのかギガース達のうちの一体が丁度今も女神ヘカテーに松明でボコボコに殴殺されかけている中、それを打ち払い攻撃目標を変えるが、対してヘラクレスは動じず、静かに武器を背中に携えた大剣に持ち替える。

 

 

 その剣は、威力だけならば『聖剣』という武器の中で最強とされる『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』をも上回り、

後の世ではアーサー王が所有することになる宝剣。

 伝承中では、ヘファイストスと同一視される鍛冶神ウゥルカーヌスによってヘラクレスのために鍛えられたものだとされた。

 後の世でこれを見つけたアーサー王は当時非常に喜び、「これがあればもうエクスカリバーなんていりませんね!」と暴言を吐き、某花の魔術師は頭を抱えたとか。

 

 

その名は―――

 

「―――『業火熾す神の宝剣(マルミアドワーズ)』」

 

 

 そして刀身から赫焉の極光が放たれる。星の内海で鍛えられた聖剣を上回るというのは伊達じゃなく、一切の抵抗を許さずに極光は巨神を飲み込み、討ち滅ぼす。

 

 人類では傷一つつけられないネメアの獅子の皮と、着用者の神性と筋力、体力、敏捷、魔力の値を大きくブーストする特性を持つアレスの戦帯を身に纏い、弓矢とマルミアドワーズだけでなく、戦車、ヒュドラの首を刈るのに一役買った鉄鎌、一振りでジブラルタル海峡を生み出した棍棒や、アキレウスの持つ『蒼天包みし少世界(アキレウス・コスモス)』を自分仕様で持っているなどその強さとチートぶりは留まるところを知らない。

 

 

 

 

 ―――それが神に至りし大英雄、ヘラクレスである。

 

 

 

 

 後にイアソンは語る。

 

『あんなの勝てるか、チーターだよチーター』

 

なお圧倒的ブーメランだということには気づかなかった模様。

 

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 

他の場所でも激しい戦闘が行われている。ポセイドンやアテナなどの一部の神々は遠く離れた場所まで飛ばした後に、島を打ち付けたり、火山をぶつけて攻撃している。規模が違う。

 

 「恐れよ――」

 

 「崇めよ――」

 

「天にて輝くのは、導きの星――!」

 

「我らは此処に降り立たん―――!!」

 

「「―――『双神賛歌(ディオスクレス・デュンダリダイ)』!!」」

 

 

 戦場を駆ける二柱の星、ディオスクロイ。(彼女)らが放つのは宝具の域にまで昇華された二人の放つ完全・完璧なコンビネーション攻撃。人の身に堕ちようとも揺るがない絶大なまでの信頼が生み出す連携技。

 ソレは本来のランクこそ対人のBランク宝具だが、魔力放出などと組み合わせて擬似的にAランクの域にまで達していた。それによって彼らの巨躯にも僅かながら傷がつく。が、ソレも束の間、直ぐに傷の再生が始まる。

 

 そして彼らが使用する武具、『星の光盾(アルファカストロ)』、『星の光剣(ベータポルクス)』。星の光と輝きを武器にしたものであり、導きの星たる二人が使うに相応しい兵装である。

 

「怪物共、貴様らはあいつの敵、よって我らの敵だ。疾く死ね。」

「ええ、イアソンを傷つけるような物などこの世界には必要ない。大人しく死ぬと良い。」

 

 二人はすっかりこんな感じになってしまったが、カストロは人の身に墜ちたとはいえ、二人は歴とした神である。故に本来は一個人に執着などしない。神は不変の存在であるから。それがあの船の生活の中でこうなってしまった。もちろん何処かのアホ(イアソン)のせいである。

 今も二人的にはイアソンに立ちはだかる障害を排除せんと躍起になっているだけなのだが、それがイアソンの胃の穴を開ける一助になっているとは思いもしないだろう。

 

 

 

 いやほんと何でこうなった。と後に船長は語る。

 

 

 

「―――よう、苦戦中か?双子神。」

「ほざけ、貴様なんぞ呼んどらん。」

「違うな、お前らの連携は確かに強力だが、それだけだ。決定打としては弱い。あいつもそれを分かっているはずだ。」

 

 荒れ狂う嵐を纏い、カイネウスが駆けつける。その手には海神より与えられし神造兵装である三叉矛が握られている。

 それは自身が与えられた不死性を示す宝具、『海神の偏愛(ネプチューン・ブレッシング)』の転化。その本質は防御に類する加護と祝福だが、こちらは攻撃についての加護と祝福を別個に具象化したものであり、その気になれば権能の一端を再現することも可能である。

 

 尤も、まともに権能なんぞ振るえば神核が砕け散るらしいが。

 

『―――■■■■ッッッ!』

「……どうやらアレはオレ達にお怒りのようだな。」

「ハッ、只の人影風情が図に乗るな!行くぞ、ポルクス!」

「はい!合わせてください、兄様!」

 

 

 

 そして巨神の一体と双子神、海神の偏愛を受けた戦士が激突する。

 

 

 

◆◆

 

 

 

『……概ね予測通り、といったところか。』

 

 

 全能の神(ゼウス)は空から戦場を俯瞰する。勿論雷霆による攻撃の手は緩めずに。

そしてその戦場は圧倒的に此方側が優勢だった。……かの巨神は確かに脅威である。これは間違い無い。コレ一体の戦力はサーヴァント数騎分にも匹敵し、かつて飛来した大元(セファール)であれば神々でさえ敵わないだろう。

 だが、其処から出てきたギガースがサーヴァント数騎分の戦力というのは、ソレがいい意味でセファールとは別物であり、残滓に過ぎないということを表している。

 

 大前提として、彼もとい、オリュンポス十二神は機械、スパコンである。故に人の形をとっても演算機能による未来の擬似的な予測は可能。

 そしてこの状況が予測通りということは、ソレらとの戦いにおいての勝利は"既に決定づけられた"ということである。

 

 まあ実際に史実では、神々とヘラクレスだけであの巨神達に、今と同等の戦果を挙げて圧勝しているのだが。

 

 

 だがしかしそうするとイアソンの観測した未来の原因など、解せない部分がいくらか存在するが、神はそれら全てが折り込み済みということなのだろう。

尤も、あの未来(Gルート)は既に訪れることが無くなっていることは誰も知らないのであるが。

 

 

『なに、奴らは所詮前座に過ぎん。しかし(ガイア)よ、―――此処で動くか』

 

 

 ゼウスがまたしても地獄みたいな厄ネタの気配のする言葉を零す。もしもこの場にイアソンが居れば、

 

「流石下半神、厄ネタが一つ静まろうとした瞬間に新たな厄ネタを呼ぶ。そこに痺れず憧れねー」

 

 

とでも言っていただろう。

 

 

 

 

 

 

 其処では、雷霆をその肉体と鎌に纏い、一筋の閃光と化した者が同時に三体の巨神達相手に大立ち回りをしていた。

 

 その表情に一切の曇りは無く、ただ只管に敵を蹂躙する。神の雷を纏ったその一撃は、その驚異的な武練と合わさり、通常攻撃でさえAランク級の威力を獲得するに至る。

 

 

「……はぁ、これじゃあ埒が明かんな」

 

 

 しかしそれだけで倒れる程に、かの巨神は甘くなかった。傷をつけようとも即座に傷が癒え、その傷を糧とし巨大化する。

 

 故に必要なのは必殺の一撃、あの再生を突破する剛の業。その手に握られた鎌の柄を両手で掴み、その刀身を見せつけるかのように構え、―――その技名を口にする。

 

 

「―――『射殺す百頭・鎌式(ナインライブズ・リーパー)』」

 

 

 そして一息の間に九つの斬撃が放たれ、その躯体を破壊する。『射殺す百頭・鎌式(ナインライブズ・リーパー)』、ソレは彼がヘラクレスとある日は平和に殺り合い、ある日はコッソリ技を盗み見て完成させた流派ナインライブズ、そのオリジナルの型。

 

 現代においては、鎌という武器は実戦では役に立たないとする意見もある。

 武器としての鎌はその形状から突く、切る、と言った攻撃が基本的に出来ないこと、薙ぐ場合も手前に引く動作が必要となるために、手の届く距離の半分程度しか有効間合いにならないとされている。イアソンが使っているのは本質は置いておくが、原型(元ネタ)は正真正銘アダマスの鎌なので、伸縮自在なお陰で射程問題は幾分かマシになり、万物を切り裂くその特性と、万物を破壊する雷霆(ケラウノス)の特性の悪魔合体により、切れさえすれば最強ではあるのだが。

 まあ此処まで言えば分かるだろうが、鎌という武器は実用性があるから使う武器などでは断じてなく、格好いいから、ロマンがあるからこそ使う武器なのである。

 

―――だがしかし、常人には難しいその一連の動作を視認できない程の速度で行ったら?そしてソレを九回ほぼ同時に行えば?

 

 

 相手は死ぬ。当然。

 

 

『―――■■■■■■ッッッ!!』

 

 

 同胞の一機が眼の前で細切れにされたのが堪えたのか、おおよそヒトには理解の出来ぬ声で叫びながらイアソンを握り潰そうとその巨大な腕を伸ばす。

 

 だがその動きはイアソンに比べれば余りにも鈍過ぎた。イアソンは後ろに飛び退き、瞬時に巨神と距離をとる。

 

「―――光よ」

 

 そして同時に背部に搭載されている砲塔が起動し、八つの光線が巨神目掛けて放たれる。しかしソレは威力が足りず吸収され、その巨体は更に大きさを増す。神体結界(アイギス)の武装ではかの巨神の守りを突破することは不可能らしい。

 

 

 だが問題は無い。忘れているかもしれないが元々神体結界(アイギス)は鎧であり、盾なのだ。

 ビームを撃てたり空を飛べたり、挙句の果てには分裂して若干自律行動する方が圧倒的におかしいのだ。

 

 

 まあ攻撃が通らないのならば別の方法をとれば良い訳で。

 

 イアソンは再び飛行して距離をとり、巨神はそれを追う。それを少しの間行い、とある地点まで来た瞬間、イアソンは急停止して振り返り、ソレを見据える。

 

 

 その顔は――――――笑っていた。勝ちを確信したかのような如何にも余裕気な笑みで。

 

 

 

「―――チェックメイト、だな」

 

 

 瞬間、その巨神が立っている位置に眩い光の斬撃が、極光が放たれる。巨神はその中で己の躯体を維持出来ず、言葉にできない悲鳴を上げながら灰も残さず光となる。

 

 

 

 イアソンが極光の放たれた方向を見れば、其処にはマルミアドワーズを振り下ろしたヘラクレスの姿があった。

 

 そう、特別なことはしていない。ただヘラクレスが別の巨神に向けて放ったマルミアドワーズの光の斬撃の射線上に巨神(ギガース)を誘導しただけである。

 ナインライブズ然り、イアソンにもギガースを屠る手段は幾つも存在するし、そもそも未だイアソンは自身の"切り札"と言えるモノを使用していない。

 

 

 そんな彼が何故此処で態々他の攻撃でギガースを屠ったかと言えば、ソレは単に「必要ないから」の一言に尽きる。

 何もそれぞれが大量に消耗する攻撃をそう何発も撃つ必要は無いのだ。

 

 個人の戦士としての誇りは必要無く、倒せる所は体力の温存の為に纏めて倒す。それこそが効率的で合理的。不意打ち搦手もどんどん使う。

 武人の誇りもへったくれもないソレこそが、指揮官たるイアソンの戦闘スタイルであり理念である。

 

 

 

 

 

 

 宙に浮き、イアソンは戦場の全体を見る。

 

 元々此処は森林があったと記憶していたのだが、巨神の糧となり、戦闘の余波を受けたりした影響か、もうすっかり見る影もなく、辺り一面に惨状が広がっていた。

 

 全体的に大地はひび割れ、荒れ果て、ある場所は半径数十メートルに渡って地面が陥没し、水が入って巨大な湖となり、またある場所には元々は荒野だった場所に新しく山が建っていたりした。全くもって環境破壊もいいところである。

 

 

 別の方角を見ると、最後の巨神が、今まさにヘラクレスの弓矢の餌食になっている場面だった。

 

 

 やっと終わったかと思い、一息つこうと丁度近くにあった岩に腰掛けていると、偶然と言うべきか、遠くに居たアポロンの発した言葉だけが、百メートル離れたイアソンの所にまでやけに鮮明に届いた。

 

 

『―――やったか!?』

 

と。

 

 

 ―――ソレはフラグです。と言える人は当然居らず、周囲に早速暗雲が立ち込めてくる。

 しっかりとフラグ回収されたことは明らかなので、イアソンは頭を抱えながら戦場の中心部へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

―――大地が、(いや)()()()()()()()()()()()

 

 未だ何も現れていないというのに、空気は震え、綺羅星が如く英雄達でさえ膝を突かざるを得ない超重力が彼らを襲う。

 

「何だ!?一体何が起きている!?」

「慌てるな!取り敢えず下がれ!」

 

 ようやく迫りくる脅威を退けたと言うのにノータイムで次の脅威が迫ってくるというのはどうなのだろう。鬼畜にも程があるのではないか。イアソンはそう思いながらも重圧を跳ね除け必死に立っていた。

 いくら一人一人が一流の英雄とはいえ、完全に想定外の状況には弱く、若干のパニックに陥る。

 

 

『静まれ、人の子よ。我々がいるからには問題無い。』

「その神々皆『あれは無理』って逃げてったんですけど」

『―――マジで?』

「本気と書いてマジです」

 

 自信満々だったゼウスも、流石にそれは予想外だったらしく、ポカンとした顔になる。ソレを見てイアソンは呆れる。

 神々が圧を、その存在を感じ取っただけで身の危険を感じ、威厳の欠片も無く踵を返して逃げるなどソレはなんという化物か。

 

 

「―――そんな、私達は神に、アルテミス様に、見捨てられたというのか…?」

 

 

 誰かが無意識に零したその一言で一気に地獄のような雰囲気になる。ギリシャ神話の世界で神は基本ロクデナシだが、それでも神は神、歴とした信仰の対象である。

 

 敬虔な信徒であれば尚の事その精神的ショックは大きいだろう。そんな神々が尻尾を巻いて逃げたということは、所詮人たる自分達にはどうしようも無く―――

 

 

「―――いや、諦めるな!!この程度の窮地、脱せずして何が英雄か!!」

 

 

 イアソンが皆を鼓舞する。その言葉にハッとした顔をした面々は力強い顔つきとなり再び戦闘体勢をとる。

 何が来たとしてもやれるものなら掛かってこいと。

 

 

 

 

 

 

 彼らが見据える先は大地、今それが割れて真なる敵、最強の怪物が現れる。

 暗雲の中で日の光が消えると同時に、誰もがその方向を、その怪物の姿を見た。

 見て────心が折れた。

 

 

 

 「────何だ、何なんだ!?アレは!!」

 

 

 ソレこそは正しく『異形の怪物』だった。ヒュドラもネメアの獅子も、地獄の番犬ケルベロスでさえも、ソレの前では塵芥となり、名実ともにソレが全ての魔獣達の王だと骨の髄まで理解させられる。

 

 一瞬の内に何が起きたか、何が現れたかを彼らは本能でこそ分かっていたものの、頭では全く理解出来なかった。

 否、理解することを拒んでいた。

 

 

 

 理解不能。その一文字が皆の脳内を駆け巡る中で、ソレはその姿を完全に現した。

 

 

 

 ソレの頭は三つ首。

 両腕を伸ばせば東西の世界の果てにもたどり着くほどの巨体と後世の神話で称された腕の正体はロケットのような見た目のブースターであり、これだけでも全長数キロを記録する。

 

 

 かの機神と同じ躰。紅く輝き躍動する一対の光の翼は軽くはためかせるだけで暴嵐を生み、背には凄まじい数の光砲を備え、放たれる吐息は、かの雷霆にも匹敵しうる、最高峰の破壊の理を備えていた。

 そして他者を生物レベルで圧砕する威光と神威。

 

 

 

 曰く、最強。ギリシャ神話における全ての魔獣の王であり、戦闘力はゼウスに匹敵……凌駕するソレは傲岸に、不遜に眼の前の塵芥を見下ろしていた。

 

 

「―――ヒトよ、神よ、星の命だ――――――滅べ」

 

 

 歩むのは天。制するは地。

 

 

 一二機神と同じく、外宇宙より飛来せしモノ。

 人の世ではなく『星』の劣兵として、この神話体系へと取り込まれるに至った、機神殺しの竜。

 それも只の竜ではなく、外宇宙を祖とするソレは、竜種の冠位とも評されし境界の竜に比肩し、凌駕しうる程の力を内包する。

 

 

 

 それこそは地球(ガイア)が手向けた神への粛清。

 

 

 

 そして総てを滅する終末装置。

 今ここに、神々を含む全ての生命を平等に滅ぼす破壊の化身にして『ギリシャ神話の嵐』と称された―――太祖竜∶テュフォンが降臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q:ギガース弱すぎん?

A:元々真体無しの弱体化した神々とヘラクレスだけで余裕だったということはせいぜい対神に特化した真祖程度の強さしかないのでは?ということで納得して。
あとは展開の都合上ということで。

テュポーン:史実では大地母神(ガイア)がゼウスの粛清の為に神タルタロスと交わって生んだ怪物とされる。
 型月世界でも存在はしているものの特にこれといった情報が出てこなかった。
 よってこの作品においては、「大地母神ガイア?でもどんなのかわからないしなぁ……」
「せや、大地母神(ガイア)じゃなくて地球(ガイア)が神々とその他諸々に対しての粛清とした放ったことにしよ!」
「そういえば汎ヴォーティガーンもブリテンの終末装置的な役割があったんかな……、テュポーンもギリシャに対しての終末装置的な役割だったのでは?」

という作者の安易な思いつきオンリーの産物。今後本編にテュポーンが出てきても多分別物だと考えたほうが良き。

 見た目のイメージは、腰から下が蛇で、上半身は人間と同様のものだが、肩から数百の蛇頭が生えており、背中からは羽が生えている。
 あとは腰回りから触手が生える。



次回からはコイツとイアソン&ヘラクレス&ゼウスのバトルが始まります。アルゴノーツの出番は殆ど無くなる。
感想待ってます⁠(⁠>⁠▽⁠<⁠)⁠ノ

※2023年10月29日∶追記
本編でテュポーンの言及が来たかと思えば、思ってたのと大分違うのが出てきてやばたにえん。
なので上のテュポーンに関しての説明は地平の彼方にすっ飛ばして、新たに設定を再構築したいと思います。


一先ず、呼称をテュポーン→テュフォンに修正。 
及び見た目も異形の巨人→ロボ味のある三ツ首竜に修正。

さらにさらに本作テュフォンは、外宇宙より飛来→ゼウス達同様星の神話体系に純粋竜として統合。
       ↓
ゼウス達が『人』の守護者となったのに対し、テュフォンはゼウスの対局、『星』の守護者となり、ゼウス達などの機神特攻持ちである怪物の源流である太祖竜兼ギリシャ神話の終末装置化。


という流れにしておこうと思います。
当てつけみたいな物なので、以後修正される可能性は大いにありますが。

もしも変わってない部分があれば誤字報告してくださると助かります。




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終末装置/太祖竜

いつもの独自解釈と独自設定。
そして最後の方からこの結末までは若干インフレ気味に感じるかも。

※追記|2023.10.30∶サブタイトル変更。


 

 

 ――――――終末装置。

 それは数々の神話において語られる、歴史に終止符を打つきっかけ、またはソレそのものを打つもの。

 

 おそらく終末装置という名も、後に誰かが名付けたに過ぎず、ブリテンの魔竜ヴォーティガーン然り、北欧の炎の巨神スルト然り、それ等神話最大級の怪物を便宜上『終末装置』と呼称しているに過ぎない。

 

 

 その正体は、各神話形態に存在する、神代を終わらせる者。

 

 

 星の遣わす尖兵であり、星を人体に例えるならば、彼らは人間でいう白血球などの抗体のような物、といえば分かるだろうか。

 

 

 彼らに共通した所は無く、強いて特徴を挙げるとすれば、それぞれが基本的に全ての物語において最大級の敵だと言うことだろうか。

 

 

 ソレがやって来る切っ掛けとなるのは、神代が定められた終焉ノ時へと近づく時。

 地球が発した「どうか奴らを、あの神秘を、絶滅させて欲しい」という要請を星が受信したこと。

 

 

 

 そんな彼らの中で明確に『終末装置』として名を知られているのは二体。

 

 

 一体は『炎の巨人王:スルト』。

 

 北欧神代の最終戦争ラグナロクにおいて、世界と神を灼き尽くした終末の巨人。「黒き者」の異名を取る。

 

 旧くは巨人の諸王の一人であったが、現在は火炎領域ムスペルヘイムに住まう火の巨人たちを支配する王としての知名度が高い。

 

 北欧神代の破壊神と呼ぶべき存在であり、彼を召喚する事は旧き神の召喚に等しい。

 ソレは原初の巨人ユーミルの怒りの残滓であり、北欧神代を終わらせるための終末装置。

 

 汎人類史では伝説からさえも消え失せた、原初の巨人に秘められた破壊者としての一面を最も色濃く受け継いだモノ。

 

 

 イアソン曰く、「ぼっちの自分に唯一話しかけてくれただけの女の子に執着した恋愛クソ雑魚ストーカー男。」

通称:『スルト敗北剣』。

 

 

 

 

 もう一体は『魔竜:ヴォーティガーン』

 

 ブリテン島の意思、分身として現れた小さな部族の王。ブリテンそのものであり、ブリテンを肉体とする。

 白い竜の化身。

白き竜の血を飲み、ブリテン島の意思と同化して魔竜と化し、ブリテンを守護するために人間を滅ぼそうとした恐るべき王。

 

 

 何処かの異聞史世界では、白い竜の化身としてではなく、『奈落の虫』として『ブリテンの終末装置』としての役割を全うした。

 

「約束された勝利の剣」と「転輪する勝利の剣」といった聖剣の光を喰らい、ソレを呑み込む。

 ただの一撃でガウェインを地に伏せ、2人の騎士を除く友軍を蒸発させ全滅に追い込んだ。

 

 

 

 

 そしてそんな二体に連なる、現れた第三の終末装置。

 

 

 その正体は、『ギリシャ神話の暴風:テュフォン』。

 

 幻想種の中で最高位の『神獣』カテゴリへと分類され、ギリシア神話に登場する殆どの怪物達の源流となった、神とも怪物ともいわれる大祖竜。

 

 同神話体系における最大最強の怪物で、史実の伝承においては、神々の王ゼウスに比肩するほどの実力をもち、そのゼウスを破った唯一の存在でもあるとされている。

 

 

 更にその大元―――かの太祖竜の源流は、十二神と同じ外宇宙。

 そこより来たりしかの存在は、機神の撃滅を至上命題とし、機神を倒すためだけに生じた、文字通り世界の生んだ怪物の頂とも言えるだろう。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 ―――蛇に睨まれた蛙。なんて次元で片付けられる話では無かった。例えるなら、そう、恐竜に踏み潰される直前のミジンコ。そんな感じ。

 

 

 ソレは未だ何もせず、只々自分達を見下ろしていた。

 それだけだと云うのに、―――誰も、動かなかった。

 

 否、動けなかった(・・・・・・)

 

 

 その存在からして文字通り、格が違う。その肩から生えた、数百の蛇からの視線に晒されただけで、『勝てない』と細胞レベルで理解させられる。

 

 

 戦いにおいて、『数の力』というのは非常に有効な力である。一人一人の実力が劣っていても、束になればその前提を覆すことが出来る。

 ソレが全員一騎当千の強者たる英雄達ならばなおさらだろう。

 

 

 しかし、眼の前の化け物にそんな陳腐な理屈は通用しない。

 

 

 たとえ無限に人数を増やせたところで、完成された生命、究極の一たる厄災の具現には敵わない。

 

 

 その場にいる全ての英雄達が膝を折り、今尚働く重圧に押し潰される。

 このままだと死ぬ。それを頭では理解していても、意志に反して体は動くことを拒んでいた。

 

 

 

 

――――――静かに立ち上がり、悠然と歩み出す二人と、今尚威厳ある佇まいを崩さない一柱を除いて。

 

 

「そんなっ…!!無茶です、ヘラクレス!イアソン様!アレは私達にどうこうできる代物ではありません!!」

「だったら誰がやる?ゼウスの野郎か?……無理だ。きっとアレはタイマンじゃあ……神の手にも負えない。」

「ならば私達がやるほかあるまい。―――やっと理解した。何故ゼウス(父上)が私を産ませたのか、全ては―――今この時の為にあったのだ。」

 

 メディアが咄嗟に立ち上がりイアソンの裾を掴むが、イアソンはそれを振り払う。

 イアソンとヘラクレス。二人の瞳には強い覚悟を灯した『意志』があった。もう何を言われても止まらない程の。

 

 

「でも、でもっ…!!あんな怪物と戦えば、イアソン様は…!!」

 

 

――――――死んでしまうかもしれない。

 そう彼女が言い切る前に、イアソンが手のひらでメディアの口を覆う。それ以上はいけない、と。

 その状態のまま、メディアは今にも泣きそうな目でイアソンを見る。

 イアソンは微かに微笑み、彼女の口を覆っていた手を離し、その手で彼女の頭を撫でながらこう言った。

 

「いいか、メディア。どんな敵と戦う時も、命の危険っていうのは常に鬱陶しい程に俺達に纏わりついている。今回だってちょっと相手がヤバいだけでそれは変わらん。―――――――――でもきっと大丈夫だ。お前と『約束』したからな。死にそうになったら皆見捨ててでも逃げてやるさ。」

「――――――ずるいですよ。そうやって言われたら、………何も言えなくなっちゃうじゃないですか。」

 

 ―――知っている。眼の前の彼が実際に皆を捨てて逃げるような男では無いことを。

 知っている。実際にそんな状況になれば、彼は間違いなく自分の命を犠牲にするのだろうと。

 

 でもそれを今口にするというのは野暮というものだろう。『約束』だと言ったのだ。ならばきっと彼は心半ばで倒れたりは絶対にしないだろうと。

 

 

―――たとえ、それがどのような結末であっても。

 

 

 そしてイアソンは必死に脚を震わせ立ち上がるアタランテとディオスクロイの方を見る。

 

 

「おい、聴いてたな。取り敢えずお前等は撤退しろ、そして後方で一旦メディアとアスクレピオスに傷を癒して貰え。」

「―――私達に汝のことをおいて行けと言うのか……!!!」

 

 無理だと思った。

 喩えごく一部の例を除いて常勝無敗を誇るイアソンやヘラクレスであっても、其処に間違いなく最強と言えるゼウスを差し入れても、たった三人で何が出来ると言うのだろうか。

 見捨てろと。彼はそういうつもりなのだろうか。

 

 

「そうだ。そもそもお前等はさっきの戦いで疲弊しているだろうに。……なーに、ちょっと殿を務めるだけだ。それに、――――――別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」

「………っ!!……分かった、汝の言う通りにしよう。―――直ぐに戻るからな!!」

 

 ニヒルに笑うイアソンを見て、苦虫を噛み潰したような顔でアタランテは走り出す。

 それを皮切りに他の英雄達も悔しげに撤退を始める。

 

 ただ、ディオスクロイは未だ動かなかった。いや、正確にはポルクスが残り、カストロはそれを見守っている。

 

 

「―――お前等もさっさと行け。」

「待って下さい!我らは、私は導きの星として最期の時まで貴方を導くと誓ったのです……それなのにっ…!!」

「……カストロ」

「――――――承知した」

「兄様っ…!?」

 

 状況が状況とはいえ、妹に手を上げることは堪えるのか、カストロが悲しげな顔で手刀をしてポルクスの意識を刈り取り、背に担ぐ。

 その様子をイアソンは只々見つめていた。

 

 そして二人がすれ違う瞬間、最後の会話を交わす。

 

「………英雄イアソン、貴様は……我の生涯忘れぬ友だ。」

「――――――ああ、俺もだよ。」

 

 その言葉を最後に、カストロは背を向けて走り去る。

 でも奴らの事だ。きっと傷を癒やした後に直ぐ向かって来るのだろう。

 

 

 みんな(アルゴノーツ)が戻るのが先か。

 

 

 こいつ(テュフォン)を倒すことが先か。

 

 

 分岐点は訪れた。

 

 

―――ならばそれまでに決着をつけるまで。

 

 

 後に残ったのは二人と一柱。目を見合わせ、頷き、眼の前の敵を見上げる。

 

 

 

『――――――今世最後の別れは済んだか?』

「こいつ既に勝った気でいやがる」

『たかが二足歩行ができる程度の有機生命に我が負ける道理なぞ無い。――――――しかし貴様等は度し難いほどに愚かだ。 我は神を捌く機構、故にその抹殺対象はそこの神性のみであるというのに』

 

 

 

 そう言ってテュフォンはその竜の駆体より生えし、巨大な腕で空に浮かぶゼウスを指差す。

 

 眼中にない、というべきか。竜の三ツ首全ての双眸は、ゼウスのみを捉えている。

 しかしそれも致し方なし。ソレの放つ神気は強大であり、神の血を一切引かない人間がソレと会話を成立させられる時点で異常なのだ。 

 尤も、向こうがこちらの言語を使用しているからこそ会話が可能なのだが。

 

『―――星が生み出しし厄災、(いな)。 我らオリュンポス十二神と祖を同じくするモノよ。 貴様のその傲慢が身を滅ぼすことをこの全能たる我が……否、我らが教えよう。』

「ヘラクレス、お前は弓矢で援護に徹しろ」

「承知」

 

 対するはこちら側の最大戦力。

 何処かの世界で別のイアソン()は言った。

 

「1を10にするよりも、10を100にするほうが強い」と。

 

 

 今回だって然程変わらない。

1(アルゴノーツ)を10にするのではなく、10(自分達)を100にするのだ。

 それこそが最適解。それこそが犠牲を最も少なくする唯一の道。

 そしてそんな彼らを視た終末装置(テュフォン)は、それでも尚、その余裕を欠片も崩さなかった。

 

 

『そうか、貴様らはそうするのか。――嗚呼、哀れであり、愚かである。………ならばその選択を永遠に悔いながら死ぬと良い!!』

「だが断る!!行くぞ!」

 

 

 

 ――――――怪物と勇者、神は激突し、星が揺らいだ。

 

 

 

 

 

 

 ソレは叩きつけるかのように竜の尾から放たれる。

 触手、と呼称するべきだろうか。

 そう思うほどの数ある、数十の触手が凄まじい密度で分裂して彼らに襲いかかる。

 

 その正体は――泥。

 大地母神、或いは人類史を焼けるような獣が使いし、怪物という生命の源泉、ケイオスタイド。

 機神()()を確実に、徹底的に潰すことを至上命題として生み出されたかの竜は、生命の海を創らずとも、その泥の力を駆体の一部――我が物として扱っていたのだ。

 

 

 「――射殺す百頭(ナインライブズ)」 

 

 

 ソレに対して放たれるは怪物狩りの一射。

 九つの竜頭が一直線に迫り、その触手を射抜かんとするが―――

 

 

 

 

 

 

―――その触手は竜頭を弾いた。その表面にも傷一つついた様子が無い。

 

「む、」

『はは、効かぬな。―――汝らが倒した人理を否定する獣、ネメアの獅子は我を基とした物であるぞ? ましてや(ソラ)の彼方より飛来した我に、このような人間の生んだ道具が効くはず無かろう!』

「そうか、私としたことが迂闊だった。ならば、これならどうだ―――!!」

 

 

 ヘラクレスは腰の帯に力を込める。するとその腰帯から莫大な神気が発生し、ヘラクレスの力を高める。

 

 

 ―――戦帯。軍神アレスの分体である軍章旗を帯の形に直したもので、着用者の神性と筋力、体力、敏捷、魔力の値を大きくブーストする特性を持つ。

 さらにその神気を矢に纏わせることも可能。ならばそうして神気を弓矢に纏わせれば―――

 

 

『―――ほう、少しはやるようだな』

 

 

 テュフォンの体に弓矢が刺さる。

 神気を込めた弓矢は人類の武器にグレーゾーンではあるが含まれないらしい。

 

 

『――――――良いだろう。少しばかり汝らとも戯れてやろう。奴等の寵児、大いなる願望の体現者……塵芥となるその時まで、愉しませてくれよ?』

 

 

 

 そう述べた怪物は、背より数十の光線をヘラクレスとイアソンの下へと放った。

 

 

◆ 

 

 

 

―――凄まじい密度で光線が迫る。

 

 

 その僅かな間を起動したアイギスで高速飛行しながらくぐり抜け、根本近くの懐に入ったイアソンは滑らせるようにアダマントでその尾の一つを切り裂いた。

 

 ここで驚くべきは、イアソンの鎌を振るう速度はテュフォンの挙動より遥かに速かったことだ。

 

 

 『ふむ』

 

 

 僅かにテュフォンの尾が切れて、鮮血が舞う。

 

 しかし、本体であろう胸部のコアを狙わない限りは切り裂いた所で、ダメージは微々たる程度しか入らない。

 翼を斬ろうにも、その炉心より沸き起こる魔力……絶えず放たれる光線の雨を単騎では抜けられない。

 

 

 『ほう、本来直ぐに治るはずの傷が治らぬ。ソレがその武器の力か。……しかも神気を感じる。そこの神と同質のな。』

 

 

 そう感想を述べながら、テュフォンは再び数十の光線でイアソンを襲う。

 

 

 

 「―――射殺す百頭(ナインライブズ)

 

 「――『(いかづち)』」

 

 

 ソレを数十の数はある竜頭と、神の雷が撃ち落とす。

 ヘラクレスによって放たれた弓矢は全てが寸分の狂いも無くテュフォンの光線を相殺し、神の雷は無秩序に破壊をもたらす。

 

 障害が消えたイアソンはテュフォンに接近し、神体結界に搭載された背部の砲塔を展開し、左手で右手を支えながらその人差し指を向ける。そして、

 

 

「―――多重照準(マルチロックオン)開始、全砲門展開―――一斉掃射(フルバースト)

 

 

 指から、背部から、計九つの光線が放たれる。

 ソレは全てが別々の対象を狙い、急所を穿ち、確実に殲滅する。その名の通り対集団戦においては最高峰の力を誇る『一斉射撃(フルバースト)』。

 防御宝具でありながら、その威力は並のAランク宝具を凌駕する。

 

 

 『ほう、……だが温い。その程度の攻撃は効かぬ。』

「チィッ!」

 

 

 

 しかし、目の前の怪物には通じない。圧倒的な質量を持つ巨体には急所など存在せず。 平然と、雄大に空の上を飛び続けていた。

 そしてソレはいつまでもこのような戯れを続ける程優しくも無かった。

 

 某太陽のランサーは言った。真の英雄は目で殺すと。

 ならば真の怪物たるテュフォンも目で殺す(・・・・)のは道理であり、当然というものだろう。

 

―――え?その理屈はおかしい?………考えたら負けだ。気にするな。

 

 

『―――『燃えろ』』

 

 

 その一言だけで十分だった。

 その口元には紅い焔が満ち、ソレが半径1メートル程の球体となった瞬間、敵対者の下へと放たれた。

 

 

 竜の吐息(ドラゴンブレス)。 その焔は余熱だけで地面を溶かし、融解させながら大地へと進む。

 相殺出来るか?否、正面からあれを打ち破る技はあるが、今からでは間に合わないし、消耗は避けたい。

 

 

「なっ!?逃げ――」

『もう遅い』

 

 

 そしてソレは地面への着弾と同時に破裂し、辺り一帯が核が爆発したかのような爆音と共に衝撃に呑み込まれる。

 

 

 

―――ソレはただの一撃でさえ甚大な被害だった。

 ゼウスはともかく、二人はそれぞれが盾などの防御手段を持っているので無傷とは言わずとも健在ではあったが、周囲の地面は雑草一つない焦土と化していた。

 元々ただでさえ荒野と化していたのに、地面としては死体蹴りのような目にあっている。

 

 

 

『ふはははっっ!』

 

 

 しかし休む間なぞ与えられない。直ぐ様テュフォンは次の行動へと移る。

 六つの竜の目が光ったと思えば、今度は球体ではない、広範囲へとその吐息が放たれる。

 先程と違い一つ一つの威力は相対的に弱くなっているが、それでも都市一つは用意に焦土と化して見せる程の、決して無視出来ない威力である。

 

 

 「『天空(てんくう)』」

 

 

 しかしこちらにも神が居る。手を翳すだけで雷撃を放ち、その強大な力を以てほぼ全ての焔を掻き消した。

 

 

 

「―――『業火熾す神の宝剣(マルミアドワーズ)』!!」

 

 

 そして光線が途切れた瞬間を狙って、通常時の星の聖剣を上回る力を持った、赫焉の極光がテュフォンへと放たれる。

 その極光はそのまま腕のロケットエンジンへと直撃したが、その衝撃により一時的に発生した煙で視界を塞がれる。

 

 

「……邪魔だ」

 

 

 その一言と共にイアソンは大鎌を振るう。その瞬間煙は飛散し、再びあの巨体が視界に映る。

 

 

『―――驚いた。たかが二足歩行の有機生命と侮っていたが、まさか我が身に傷をつけるとはな。』

 

 

 終末装置たる怪物、太祖竜は感嘆の声を漏らす。

 まさかここまでやれるとは思わなかったと。

 だがこれは同時に、向こうの慢心はこの一撃によって取り払われたということ。

 

 

『我の言葉を訂正しよう、小さき有機生命よ。これより汝らは明確な――――――我の敵である。』

 

 

 

 

 ―――故に、此処からはさらに苛烈な戦いが始まるだろう。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ―――何だこいつ強すぎワロタ。

 

 今までの魔獣の能力全部乗せとか節操なしにも程があるだろ。なんか足にはロケットブースターみたいなのついてるし、コイツもスパロボ時空ですかそうですか。

 いやほんと、横にいる下半神野郎はどうやってこいつに勝ったのよ?

 

 

 

 うん、そういえば一回負けてたんでしたね。

 

 

 

 ってことはこれ実質負けイベント?何それ。

 

 

 やっぱりアレか、自信なんて欠片も無いけどドヤ顔で勝った感出したのが駄目だったのか。

 

 

 くそったれがよお、―――テュフォンって型月に出てきたこと無かったじゃん!!(100dB)

 

 そりゃあこんな頭おかしい強さしてたら出禁喰らいますわ。

 

 

 

 ふむ、しかしどうしようか。お相手さんここから所謂第二ラウンド的なアレに入るっぽいし。

 

 

 

―――やっぱりアレ(・・)、使うか?

 あの下半神、まさかこんなバケモンみたいな機能詰めた状態でアダマントを渡して来てたとは思わんかったからさあ、その性能も相まって結局一度も使ったこと無かったから反動とか怖いんですけど。

 

 あとどうでもいいけどコレの詠唱近未来風だよね。

 

 

 

 

 

 仕方無い。

 

 

 

 

 

 

―――SYSTEM(システム)ΖΕΥΣ(ゼウス)、起動。……真体(アリスィア)装甲、展開。

 

 

搔き抉る時の大鎌(アダマント)』、全拘束(・・・)、解除開始。

 

 

 

 

 第一拘束『 対因果介入機構 限定解除 』

 

 

 第二拘束『 対空間切断機構 限定解除 』 

 

 

 第三拘束『 対時空攻撃機構 限定解除 』

 

 

 第四拘束『 対概念破砕機構 限定解除 』

 

 

 

―――搔き抉る時の大鎌(アダマント)』完全起動……完了。

 

 

 





Q,最後の何?

A,次話で説明します。

ちなみに今のイアソンのステータス(白目)はこんな感じ。

 筋力B 耐久B+ 敏捷A+ 魔力B 幸運A+ 宝具EX

【所持スキル】
 対魔力:A、騎乗:A++、気配遮断:C、三女神の加護:B、主神の加護:A、神授の叡智:A+、友と征く遥かなる海路:A++、求めし金羊の皮:EX、虚口にて閃く:A+、雷の権能:A+++、頑健(偽)B、魔力放出(雷)A、直感:A+、
【宝具】

・『神体結界(アイギス)

・『掻き抉る時の大鎌(アダマント)

・『射殺す百頭・鎌式(ナインライブズ・リーパー)

・『■■、■■■■■■■』


何だこれ。
 まあ最低でもこれくらいじゃないとワールドエンドクラスとは戦えないと言うことで。

後、何気にテュポーンの発言からイアソンの脳内迄には結構な空白の時間が開いています。






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嵐/雷霆


なんか色々おかしい部分があるかもだけどそのためのご都合主義タグだからね。頭空っぽにして読んだ方が良きかな。
 あと若干のパワーインフレ。



 

 

 

 

 

 戦況は直ぐに再生したとはいえ、腕を持っていかれたテュフォンが本腰を入れたために徐々に押されていくと思われた。

 

 

 

 アレに対して持久戦を挑むのは悪手だ。

 

 

 向こうはバックに星がついている為に実質無限の魔力を持っているが故、ガス欠は期待出来ない。

 

 対してこちらは確かに継戦能力自体は全員が三日三晩余裕で戦い続ける程度の体力も魔力もあるが、流石に大技を凌ぐためだけに雷霆やマルミアドワーズなどの大技をほぼ常時打ち続けるのは厳しい。

 

 

 今は耐えているものの、押し込まれるのは時間の問題であった。

 

 

『……どうしたッ!全能の名が聞いて呆れる!……弱い、弱すぎるぞ!』

 

「―――……」

 

 

 厄災はゼウスに対して吠える。

 弱すぎる。本気を出せと。

 

 ……(テュフォン)には預かり知らぬことではあるが、ゼウスが全力を出す事は不可能だ。本来の力を十全に扱うには、本来の身体である真体(アリスィア)が必要不可欠なのだから。

 

 

 

 

―――真体(アリスィア)、本来のオリュンポス十二神の肉体、宇宙航行艦であり、今から凡そ一万年前にセファールに破壊されたモノ。

 

 その旗艦であるカオスから授けられた機構、権能こそが彼らの力の源であり、対して今の地球の信仰を由来とする、概念的な神となった人形端末(ヒトガタ)ではその力に限界がある。

 

 

 もしもゼウスの真体が現存、尚且つ全盛期の能力を維持していれば、目の前の厄災も一息に……とは行かずとも、最終的には討ち滅ぼすことが出来たであろう。

 だがそんなもしもの話をしても意味はなく、そのことを知らないテュフォンは落胆する。

 

 

 

『―――期待外れにも程があろう。これならまだ其処の人間の方がマシだ。』

「―――……」

 

 

 三つの竜の顔が歪み、明確な侮蔑を向ける。

 だが当のゼウスはその発言の尽くを聴き流す。

 話すことなど無いと言うかのように。

 

 

『何も言わぬ―――か。ならば、疾く死ね』

 

 

 再び吐息として充填される、終末の焔。

 其処には現代の魔術師……否、神代の魔術師であろうとも卒倒するほどの膨大な『神秘』が集約され、ソレが総てを破壊する焔を言う形で顕現し、周囲を薙ぎ払う。

 

 

 

 その焔は太陽神ですらたじろぐ終末の具現、地球という素体に巻かれた『人理』という布、『神代』という布を焼き尽くすことが可能な代物。

 

 

 

 その純粋な温度は数万度を上回る。

 因みに地球の中心の温度が5500℃、太陽の表面が約6000℃なので、その規格外さがよくわかるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……故に、出し惜しみなぞしている場合では無く、

 

 

 

 

 

 

 

「―――仕方無い」

 

 

 

 

 劣勢なのは此処まで。

 此処からは全身全霊、全てをかけた戦いの幕開け。

 

 

「―――……対知性体保護機能、解除。」

 

 

 イアソンがアダマントの刃を魅せるように構え、刃をなぞる。

 

 史実ではゼウスが振るったアダマスの鎌。

 そしてこの世界における搔き抉る時の大鎌(アダマント)。その本質は武器にあらず。

 ゼウスによってアダマントに後天的に付与された機能制限。その枷を外す機構(マスターキー)、『SYSTEM(システム)ΖΕΥΣ(ゼウス)』。

 ソレを今起動する詠唱が紡がれる。

 

 

SYSTEMΖΕΥΣ(システムゼウス)、起動。…真体(アリスィア)装甲、展開。」

 

 ――『SYSTEM(システム)ΖΕΥΣ(ゼウス)』。それは主神(ゼウス)の加護を受けし者、またはゼウス本人にしか使用を許されぬ、アダマントに取り付けられた枷を外す(マスターキー)

 

 

 

 第一拘束:『 対因果介入機構 』

 

 第二拘束:『 対空間切断機構 』

 

 第三拘束:『 対時空攻撃機構 』

 

 第四拘束:『 対概念破砕機構 』

 

 

 次から次へと聞こえてくる、只の1メートル程度の武具の中に内包されているとは到底思えないような、規格外の塊。

 ソレが今、その一言を以て、開放される。

 

 

 

 

「『搔き抉る時の大鎌(アダマント)』、完全起動……完了」

 

 

 そう言い終わると同時に、数刻前までとは比べ物にならず、荒れ狂う雷霆がアダマントとイアソンを覆い、その刀身は蒼く輝く。

 アダマントに施された鎖の意匠。

 ソレが開放と同時に光り、消滅する。

 

 

 そして自身はその身に雷を纏い、たとえ視力を十倍にしたとしても絶対に視認できないような光――蒼い閃光となり飛び出す。

 そして一言、その一言だけで状況は傾く。

 

 

 

「―――『裂け』」

 

 

『―――ッッッ!』

 

 

 ―――瞬間、テュフォンが何かに気づき、両腕のブースターを稼働させ、その場をその巨体からは有り得ない速さで飛び退く。

 それと同時に、蒼色の閃光と化したイアソンがテュフォンの対魔力を突破して腕の一つへと迫り、その駆体を僅かに削いだ。

 切り口からは神血が舞うが、直ぐにイアソンの纏った雷霆に触れて蒸発した。

 テュフォンは視界で一切認識出来なかったその恐るべき速さに対し、生まれて初めて、僅かながらに動揺する。

 

 

 

『何を―――した』

 

 

 

 テュフォンが自身の腕を確認すると少し切られただけの筈の腕が、まるで両断されたかのように(・・・・・・・・・・)その僅かな切り口から先が無くなっていた。

 大凡先端の二割が吹き飛んだ腕は肘より上が消滅し、ブースターの出力も大幅に低下する。

 

 

「―――この鎌は不死殺しであり、嘗てのゼウスの肉体(・・・・・・)そのものだ。……ならば多少の理不尽が出来るのは当然だろう?」

 

 

 

 そう言ってイアソンはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 ―――ソレはアダマントに内包された機構(権能)が一つ、

『 対因果介入機構 』。

 その名の通り因果の操作・確定を行う。

 

 あくまで『限定解除』である今は因果逆転のような出鱈目は出来ないが、先に『原因』を生みだせば、『結果』をある程度望むものに変える程度は出来る。

 

 

 そして今は、刃で相手の腕を僅かに『切った』という原因を生み出したので、相手の腕が『切れた』という結果を生み出した。

 

 

 要はほぼ権能のような物である。

 ソレは最早権能一歩手前どころでは無く、おそらく爪の先程度の間しか空いていないだろう。

 

 

 

『―――ハハ、』

 

 

 

 何たる理不尽、何たる出鱈目。

 

 

 例えるなら某色塗りゲームの洗濯機(害悪武器)

 当たってない筈なのに当たる。掠っただけなのに死ぬ。そんな感じ。

 

 

 この瞬間、宙より来たりし太祖竜は理解した。

 明確な命の危険と言うものを。

 

 

『―――良いだろう!人の子よ、名乗るがいい!』

「――…イアソン。アルゴーの船長だ。」

『ふむ。―――では、イアソン。(ゼウス)の雷を振るいし、英雄使いよ。 我らどちらかの身が朽ちるその時まで、存分に―――殺し合おうではないかァ!』

 

 

 

 そして死力を尽くして戦うことに喜びを感じることを。

 この瞬間、かの怪物の眼にはイアソンしか映っていなかった。

 

 

 

―――どうやらテュフォンは、戦闘狂(バトルジャンキー)の素質があったらしい。

 

 

 

 

 

 

 「何だ―――アレは。」

 

 

 ヘラクレスは今の状況についていけなかった。

 突然イアソンが鎌を掲げ、聞いたことのない詠唱を始めたと思えば、今までとは似ても似つかない程の威力の雷霆を放ち、互角にテュフォンと戦いだしたのだ。

 

 

 あの雷がどのようなものかは心当たりがあった。

―――そう、現在進行系で変な発言をしている横のコイツ(ゼウス)だ。

 

 

「ふむ、未だ出力は6割弱だがそれでも予想以上の力を…!締めの一手は別で仕込んでいたが、やはり事前に教えておいて正解だったか……!」

「―――おい、我が父……ゼウス神よ、アレ(・・)は何だ!?我が友(イアソン)に一体――何をした!!」

 

 

 間違い無くイアソンがあの力を振るっている裏にはゼウスが居る。

 ヘラクレスにはある種の確信があった。

 アレは間違い無く『権能』だ。権能一歩手前だとか、権能級などの比喩では無く、正真正銘神が振るう『権能』に属するもの。

 

 

 そんな代物を人げ……人間?

 

 まあとにかく生まれだけは少なくとも人間な筈のイアソンが理由も無くあんな力を持っている筈がない。

 絶対に此奴(ゼウス)が関わっている。

 

 

「何、そう騒ぐ程のことでも無い。アレ(アダマント)(イアソン)の理論上出せる本来の力を出しているに過ぎん。」

「だからソレが何かと言っているんだ!」

 

 

 そうして会話の(暴投しかない)キャッチボールは行われる。

 驚くべきは、こうして会話をしている今もヘラクレスは通常時と寸分たがわない精度で弓矢を射続けていることだろうか。

 対してゼウスは既にこの戦いの行く末を見抜いたのか雷霆での援護がお粗末になっているが。

 

 

 「……折角の機会だ。どうせアレの使い手は二度と現れないが故、その概要を語ってやろう。光栄に思え。」

 

 

 既にヘラクレスは違う方向を向いていたが、会話自体を聞く素振りはあった。

 少し離れた所では蒼い光(イアソン)災厄(テュフォン)がしのぎを削ってぶつかり合う中、ゼウスは一人語りをする。

 

 

「本当なら何故我の身体(真体)さえもアレ(アダマント)に組み込んだのかをしっかり語るのが筋と言うものだが……面倒だな、うん。―――そう、アレ(アダマント)の機能なぞ大して複雑な物ではない。ソレは―――……」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

権能(雷霆)の完全行使―――か。』

「あぁ……その通りだ。」

 

 

 奇しくも全く同じタイミングで答えに辿り着いたテュフォン。

 その問いにイアソンは頷く。

 

 

 

 そう、『掻き抉る時の大鎌(アダマント)』の本質、最初に想定された使用方法。

 それこそが(ゼウス)の雷、雷の機能の完全行使。

 

 

 

 そもそも、『権能』とは何を以て権能とするのか。

 

 『権能』とは、

 サーヴァントのスキルや宝具とはカテゴリーの異なる特殊能力であり、事象の変動、時間流の操作、国造りといった「世界を創造しうる」レベルの力。

 通常のスキルや能力は「このような理屈でこういう事が出来る」というものなのに対し、権能は「ただ、そうする権利があるのでそうする」だけのものである。

 

 

 そう、(0)から万物()を生み出し、世界の理にさえ干渉する理外にして超常の力。

 それこそが『権能』であり、神や人類悪(ビースト)にのみ使うことを許される絶対的な力である。

 

 

 

 それらを踏まえて、幼少のイアソンにゼウスから授けられた『雷の権能』。アレは権能と呼ぶに相応しい力であったか。

―――(いな)、否である。

 

 確かに加護等の概念に干渉する力もあったし、非常に万能な力ではあった。

 普通の論理感で見ればこの時点で超常の力であることに変わりはない。

 

 

 

 

――――――だがまだ足りない。

 

 

 

 

 『権能』は、『雷霆(ケラウノス)』は、その程度の力で説明出来る程度の力ではない。

 何処かの世界線で、死にかけで弱体化されたゼウスの振るったものでさえ、時空に大穴を開けることが可能な程。

 ギリシャ神話最強の名を冠するこの力がこの程度な訳が無い。

 

 

 

 

 ならば何故その力が振るえないのか。

 

 

 答えは簡単。

 イアソンが持つその(権能)肉体(うつわ)能力(スペック)が追いついていないからだ。

 人間が権能の力を振るうことはほぼ(・・)不可能。

 それが世界の共通認識。

 

 

 例えばカイネウス(カイニス)

 (彼女)が持つ第三宝具、『海の神、荒れ狂う大海嘯(ポセイドン・メイルシュトローム)』。

 ソレは同じく彼女()が持つ海神の三叉矛(トライデント)による『海の権能』の一端。

 しかし制限がかかっており、まともに権能を振るおうとすれば神核が砕け散るという。

 

 

 

 

 

 例に漏れず、イアソンに与えられし『雷の権能』にも制限があり、単独で本気を出すことは叶わなかった。

 

 だから『掻き抉る時の大鎌(アダマント)』が存在するのである。

 

 

 あの四拘束も全て『雷の権能』の力をアダマントを通して段階的に解除しているに過ぎない。

 そしてそれにより掛かる莫大な負荷。ソレを防ぐための真体装甲。紛れもなくゼウスの身体の一部であったソレは本来掛かる負荷をかなり軽減する。

 そうした権能の完全開放。それによる負荷の緩和。

 それこそが『掻き抉る時の大鎌(アダマント)』の概要である。

 

 

 

『―――フッ、フフフ、フフフフフ、フハハハハハハ―――!!』

 

 

 テュフォンは、太祖竜は笑った。

 成る程。ゼウスよ、()()()()()()か。

 

 我が身は確かに機神を屠るために飛来せしモノ、神々そのものと戦うときにこそ、完全なる性能、その真価を発揮するであろう。

 

 故に、己の雷霆の大部分を、己の抹殺対象とは最も遠い、『ただの人間』に譲り渡すとは。

 ――――――イカれている。 ソレを是とした神も、身に余る力を得て限界をとうに超えながらも、己を今尚打ち倒さんと命を燃やす英雄使い(にんげん)も。

 

 

 ……化け物め。

 人の身をも超越した、なんの邪念も無い極まった光? そんな綺羅星が如き存在こそ、化け物(救世主)と言わずして何と言う。

 

 

 言わばソレは、世界の希望を背負う者。 

 神が望んだ、大いなる願いの体現者。

 

 

 怪物の対極―――即ち、英雄。

 

 

 そんな数多の英雄を束ねた末に、ここに立つは未来永劫現れることのない、輝ける星。

 そんな男が今此処へ立っているのは、最早定められた運命と形容する他ない。

 

  

『―――ああ、素晴らしい。素晴らしいぞ、英雄使い。』

 

 

 そう感想を零しながらテュフォンは思う。

 何時までもこの至福の時間が続けば良いと。

 

 そんなテュフォンの駆体はズタズタであった。

 一射一射が通常時のエクスカリバー級の威力であるヘラクレスの援護により、一対一で満足に戦えなかったこともあるが、既に再生能力は衰え初め、体中に傷跡があった。

 それでも余力が全然ありそうなのは流石といったところか。

 

 

 

 「―――こふっ、……チィッ!」

 

 

 対するイアソンも既にガタが来ている。

 確かに負荷を軽減するとは言ったが完全に無くなる訳でなく、過剰な力の行使は少しずつその身体を蝕んでいた。

 吐血し、その姿は血に濡れ傷だらけ。

 特に視界からは分からない体の内側、内臓の損傷なんて酷いもので、逆に動けているほうがおかしいレベルだ。

 

 

 

 

 

 

 戦いの終わりの時は近い。

 

 

 

『―――最後に一つ問おう。なぜお前は我に武器を向けた?』

「……いきなりどうした」

 

 

 テュフォンがイアソンに問いを投げる。

 それに対してイアソンは懐疑的な視線を向ける。

 

 でも理由はお互いに察していた。

 既に限界は近く、おそらく次が最後の一撃となるから。

 

 

『――…貴様がこの場から退いていれば、今こうして生命の危機に瀕することは無かった。 我の運命線(ひとみ)はその運命を映している』

「ああ」

『故に―――なぜ貴様は戦う?』

 

 

 ソレは嫌味でも何でもなく、純粋な疑問からだった。

 だからこそイアソンはその問に応じた。

 

 

「何で戦うか―――か。―――……あれ?本当に何で今戦ってるんだろうな。」

 

 ハハッ、とイアソンは力無く笑う。

 まあ確かにそうかも知れない。

 「生きる」という誰しもが持つ生存本能。

 ソレを導守するならば、テュフォンと正面から戦うのは一周回って最早バカとかの次元すら超えている。

 

 

 

 まあそんな冗談はさておき、とイアソンは言い、テュフォンを見る。

 

 

「強いて言えば―――『意志』だ。」

 

 

 

「……地獄のような未来を視た。ソレに負けないという思いがあった。そのために足掻き、諦めずにこうして此処(最後)まで走り抜いた。」

 

 

 

 イアソンの独白は続く。

 あの災厄を見てからの自身の歪められた運命(Fate)を視て。

 否、そもそもこの力を得た瞬間から、『自分』が生まれた瞬間から、『イアソン』という男の辿る運命は歪んでしまったのであろうが。

 

 

 

 

「ソレが俺の戦う理由―――…まあ、只のエゴだ。」

 

 

 

 そうして短い彼の独自は終わる。

 尤も、彼の内心の口調を通すとシリアスが終わってしまうので考えないようにしよう。

 言語補正とは偉大なものである。

 

 

 

『そうか―――ならば、次の一撃を以てこの戦いを終わらせよう。』

 

 

 何か彼の琴線にふれる物があったのかは分からないが、テュフォンは言った。これで最後だと。

 結果はともかく、これこそがお互いの全てをぶつけ合う最後の瞬間。

 当然、その力、その覚悟は自身の命を燃やすかの如く。

 

 

 

 テュフォンはその背の翼をはためかせ(ソラ)へと昇る。

 

 それと同時に、後方からヘラクレスの援護の弓矢がテュフォンに襲いかかるが、ソレが放つ莫大な『神秘』を纏った、風速数百メートルの暴風の壁に阻まれ、かき消される。

 

 

 再びその眸に焔が灯る。

 辺りに嵐が、吹き荒れる。

 

 

 三ツ首の口を開き、これまでとは比べ物にならない、最大級の魔力を叩き込む。

 その焔は史実においてゼウスと互角の戦いを繰り広げた万物を破壊するもの。 既に数十メートルを超えたソレは、ただ存在しているだけで周囲に被害を与える。

 

 まさにそれは炎の巨人スルトの全盛期、もしくは太陽神が振るう権能に匹敵しうる最大の一撃。

 指定範囲次第では神代という一つの時代そのものを焼き尽くす対星規模の力。

 ソレが今たった一人の生命に向けて放たれる。

 

 

 

『――――――星よ、終われ。

 

 

 

 

  総ては灰燼と化し、

 

 

                  『 人 』

 

 

 

       『 神 』

 

 

 

 

 

   『 神代 』

 

 

 

 

 

               『 人理 』

 

 

 

 

 

   

その総てを無と断ずる。

 

 

 

 

 

 

 

  我は嵐にして焔、終末をもたらす者―――!!!』

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「―――とんでもないな……」

 

 

――――そうして見上げる先にあるのは『太陽』であった。

 (いや)、厳密には本物の太陽では無いがソレを一言で表すならば太陽が相応しかった。

 

 それこそはギリシャの終末装置、太祖竜テュフォンの放つ最大の一撃。

 その概要は「自身の生命力の大部分さえも費した超質量の焔……及び、ドラゴンブレスによる世界焼却」。

 

 

 ただ自身の焔を限界まで集めただけ。

 その周りを、瞬間風速数百メートルを優に超えた嵐の壁が覆うことで、辛うじて球体という形を做していた。

 其処に理屈は存在せず、質量などない焔が集まり、原理のない莫大な力が形成される。

 

 何より恐ろしいのは、コレがそういう能力では無く、ゼウスの雷に近しい性質を持つテュフォンの焔。 ギリシャ全土を覆う、テュフォンの嵐。

 ソレらを莫大な魔力だけで巨大化させ、此処までの大きさにしたのだから。

 

 

 その温度は表面が数千℃、中心が数十万℃。

 地球の中心を遥かに上回る高温が地上に君臨し、周囲には核爆弾の爆発程の威力はあろう烈風が吹き荒れる。

 

 

 

『―――さあ、打ち勝ってみせよ。さもなくば死ね。』

 

 

 

 そして、地上に堕ちればまず間違いなくギリシャが地図から消えるであろうモノ。

 まさに終末の具現たる一撃が、落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――……」

 

 

 こうなってしまえばイアソンに出来ることは少ない。

 避けるか?……否、そもそも避けられる規模でも無いし、仮に避けようものならギリシャ全土とついでにイタリア辺りが後世の地図から消滅するだろう。

 

 

 ゼウスの力を借りるか?

 否、先程から雷霆の援護が止んでいるし、少し見てみると不自然なほどにその場から動かず、何かを行っていた。

 故にコレを何とかするならば自分が頑張るしかない。

 

 

「―――ふっ」

『む……?』

 

 

 そんな絶望的な状況。

 だというのに、イアソンはニヤリと笑みを浮かべていた。

 その行動が理解出来ず、テュフォンは困惑する。

 

 

 

 そして彼が笑みを浮かべる時は絶望する時ではない。

 『勝った』と確信したときだ。

 笑みを浮かべながらもその思考はかつてないほどに冴え渡る。自身の安否すらも捨て、ただ冷徹にその頭脳は勝利への道を導きだした。

 

 

 

 そして―――勝利を確信する。

 

 

 

 

 「ああ―――やってやるとも。」

 

 

 

 再びアダマントを天に掲げ、自身は宙に浮き上がる。

 空には暗雲が満ち、空気が震え、その周囲には蒼雷が集う。

 

 

 

 そしてその枷を―――今度は完全に取り払う。

 

 

 

 

 望むのは終末に対抗する一撃。

 万象を揺るがす破壊の究極。

 それこそ、因果も、空間も、時間も、概念も、今はまだ定められていない物理法則さえも完全に無視し、世界を裂く究極の一。

 

 

 

 

 

 嘗てのゼウスが振るいし星を裂く一撃。

 

 

 

 

 

 故に、その一撃の名はゼウスのソレと同じ名を冠した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、世界は『蒼』の光に埋め尽くされた。

 

 

 

 





「ワタシハカミダァァァ!!」


おかしい、本当はこの話で締める予定だったのに……



其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)
ランク:EX 
種別:対界宝具 
レンジ:1〜99
最大補足:1000

掻き抉る時の大鎌(アダマント)】を核として行う真なる雷の権能の完全開放。ゼウスの雷による完全破壊。概要は「知性体保護機能(リミッター)を限定的に解除し、全機構を開放したアダマントを核として雷の権能を完全行使。そこから放たれる因果、空間、時間、概念総てを断ち切る究極切断。」


 ようはとにかくあらゆる障害を「だから?」の一言の下捻じ伏せる究極の一撃。 


 ゼウスの雷の疑似再現。壊せぬ物なぞあんまりない。 
 大源(マナ)を力の源とするため、神代ならば魔力消費は微々たるもの。
 ただし人の身でこんな代物を振るえるはずがなく、アイギスが無ければ多分イアソンはこれを放った直後にステラしていた。



名前はゼウスの『我、星を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)』から流用。
 概要はこれとほぼ同じだが、ゼウスのコレはおそらく対星宝具なのでこれよりも強いとかいうインフレの極み。


 当然だがこれを物理法則の整った聖杯戦争で振るえば抑止力案件。まあ当たり前。



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一人の英雄の終幕(オワリ)

結構アレかもしれないけどタイトルが全て。
後若干今回は文章が長い。


 

 

 ―――黄昏の空の狭間。

 この地を焼却せんと暴風と共に迫っていた第二の太陽と、神の領域に至った雷霆がぶつかり合い、周囲はその光に呑まれる。

 

 その光景はまさに星の終末。通常の生命には理解できない領域にソレはあった。

 

 

 

「──────」

 

 

 数刻後、光が消えて二つの人影が現れ、墜ちていく。

 其処には──────大凡身体の六割近くを消し飛ばされ、片翼を失ったテュフォンの姿と、神体結界(アイギス)が半壊し、瀕死の重症を負って死に体のイアソンの姿があった。

 

 

 

『───見事』

 

 

 

 その半身を消し飛ばされ、大地に墜ちていきながら、太祖竜(テュフォン)は思わず言葉を漏らしていた。

 

 

 

 あの瞬間だけは最早言葉を口にすることさえ叶わなかった。

 

 

 眼の前の男は、純粋な人間(ヒト)の身で神の領域に至るどころか、神の御業を再現してのけたのだ。

 それは人類史においても一握りの中のさらに一握りしか居ない、それこそ最大級の偉業である竜殺しですらも児戯だと思わされる程の伝説の御業。

 

 

 思わずその一挙一動に注視させられ、魅せられた。

 

 

 たとえ半身を消し炭にされようとも。

 

 

 

『は、はは……ああ全く、人間の可能性とは素晴らしいものだ』

「───」

『ほら、周りを見てみるがいい。星に敷かれた敷物(テクスチャ)に穴が空いておる。世界そのものを裂くとは、恐ろしいものよ』

 

 

 そしてそれを成し遂げた英雄(イアソン)に称賛の言葉を送る。

 

 

 確かに魅せた人の行き着く可能性。

 ソレが辿った果ての到達点。世界さえ裂いた究極の一。

 

 それに至るまでの努力。血濡れになっても尚止まらない強靭な意志。眼の前の男のすべてに対しての称賛の気持ちが溢れる。

 

 

『あ、あぁ────』

 

 

 何も知らないギリシャ各地の民草はただソレに圧倒されるのみだった。

 

 端から見ても理解の範疇を超えた、天変地異としか認識できない巨人(ギガース)災厄(テュフォン)との戦いの数々。

 その果てに、何故か一切熱さは感じなかったが(・・・・・・・・・・・・)、突如(ソラ)から太陽が現れ、墜ちてきた時は世界の終わりを幻視した。が、

 今度は途轍もない蒼の光が総てを呑み込み、光が消えた頃には全てが消え去っていたのだから。

 

 

 その様子にある人は神が我々を助けてくださったのだと祈りを捧げ、またある人は何故か自分達の国の偉大なる王の姿が脳裏に浮かび、涙を流した。

 

 

 

『それにしてもマメな奴だ。こうして貴様を捨て駒にしながらもやることはしっかりやっておるのだから』

「何、を」

 

 

 イアソンがその事に気付いてないことを察したテュフォンは、敗者として勝者に筋を通す。

 

 

『下を見てみよ』

「───」

 

 

 

 今も両名は自由落下を続けているので、そこから復帰するのが最優先事項の筈だが、イアソンは言われるがままに周囲を見回す。

 そして目に映ったのは、ある一定の範囲から一切戦闘の影響を受けていない大地だった。

 自分達の周りの地面は抉れ、焼かれと散々な目にあっているのに遠方はあの戦闘の余波を受けている様子が無ければ気付くのは当然と言えるだろう。

 

 

『さしずめあの神が行ったのだろう。……良かったではないか、もし奴があの地と此処を隔離していなければこの星に敷かれた敷物(テクスチャ)は崩れていただろうな』

「それは───そうだな」

 

 

 つまるところゼウスが自身の力の殆どを用いて自分達の戦場を隔離していなければ世界は軽く崩壊していたというわけで。

 ───役立たずと思っててごめんね。とイアソンは心の中で密かに謝罪した。

 

 

 そして思い出す。

 一つ、やることが残っていたと。

 

 

「おい、口開けろ」

『む―――何を、投げた?』

「あのクソ野郎(ゼウス)が渡してきたんだよ。確か………ああ、アレだ」

 

 

 ―――『無常の果実』。

 ゼウス神がこのテュフォンを攻略するに至った鍵であり、今回用意されたもう一つの切り札(ジョーカー)

 その性質は、言わば『反願望器』とも言えるような物であり、願いとは文字通り真逆の出来事を引き起こす。

 正史において、『強さ』を求めてコレを喰らったテュフォンは、その願いが叶わず、逆に弱体化してしまったことで、ゼウスに敗れた。

 

 

『―――成る程、確かに力が削がれていくのを感じる。 コレは願望の破却……言わば『生』への否定か』

「ああ、その通りだ。コレでお前は、もう復活することはない」

『ハッ、大層な物だ。その様なことをせずとも、無様に足掻くつもりなぞ無い』

 

 

 無常の果実が、テュフォンの内に残る『生』への渇望を感じ取り、ソレを叶えない為の効力―――大幅な弱体化を施していく。

 『搔き抉る時の大鎌(アダマント)』に刻まれた鎖の意匠と同じ物がテュフォンの駆体へと広がっていき、その大いなる太祖竜としてのリソースへ楔を入れた。

 

 

 

『……さて、我はもう此処までか。人間に敗北した以上大人しく表舞台からは退くのが筋と言うものだろう』

 

 

 そう述べてテュフォンは残り僅かな力で落下軌道を変える。

 その先には───世界の敷物(テクスチャ)が雷霆によって破壊されたことで一時的に生まれたブラックホールのような穴……世界の裏側への道があった。

 

 

 

「───逝くのか」

『……否、我が、我々がいつか還るべき場所に行くだけだ。貴様が神と成れば、此方側にも来れるぞ?』

「絶っっ対にやだ」

 

 

 ───そうしてテュフォンが世界の裏側に通ずる(あな)へと吸い込まれる直前、両者は最後の会話を交わす。

 

 

『……イアソン(・・・・)。英雄使い、イアソン。貴様はこうして人の身で我を討つに至ったのだ。……誇るがいい』

「ああ、お前は俺の人生で最大の強敵だった。……死にかけるほどのな」

『もうほぼ死に体の癖に。……ああ、確か人間はこういう時こう言うのだったな。──────さらばだ』

 

 

 そうして世界に混乱をもたらした(テュフォン)はこの世から消失した。

 (いや)、星の裏側に還ったと言った方が表現としては正しいだろうか。

 どちらにせよ、もうアレと出会うことは無いだろう。

 

 

「―――ハッ、向こうが願おうと、こっちは()()()()()()()()()がな」

 

 

 そうしてテュフォンは去った訳だが、イアソンはようやく今の状況に気づいた。

 ───アレ? 今の状況かなりやばくね? と。

 

 まず今、重力に従って数百メートルの紐なしバンジー中。

 アイギスは半壊して機能停止。

 権能の行使もした瞬間に死ぬだろうから却下。

 

 

 結論、詰んでる。

 まさかあの激戦の末の死亡理由が空から墜ちてミンチになると言うのは少々酷すぎやしないだろうか。

 あ、でもこれがギリシャの日常だったね(悟り)。

 

 

 地面がすぐ近くに迫る中、運命を受け入れ(諦めて)、目を瞑り、身を委ねようとしたら───浮遊感が訪れた。

 浮遊感? Why? となって目を開けると───

 

 

「イアソン!? 無事か!!」

「……ああ、どう見ても致命傷だろバカヤロー」

 

 

 初めて会った時は圧倒されたものの、今では見慣れた(ヘラクレス)に抱えられていた。

 でも下を見渡した時、姿は確認出来なかった筈。

 まさか、数km先から自身の姿(・・・・・・・・・・)を確認して此処まで(・・・・・・・・・)十数秒で走ってきた(・・・・・・・・・)とでもいうのか。

 

 安定の化け物度合いに軽く戦慄したが、もう既にそんな事を言っている場合ではあるまい。

 出血多量に火傷に全身打撲に加えて内臓もいくつかやられているのだ。

 もう本当にきつい。死ぬほど痛いというか死ぬ。

 

 

「……悪いが向こうまで運んでくれ。もう息をするのもきついんだ」

「───しっかり掴まっていろ」

 

 

 

 ヘラクレスはその剛腕で抱えていたイアソンを背中に背負い、焦燥感を抱えながらも、すぐさま弾丸のように走り出した。

 (イアソン)は気付いてないようだか、既に血が足りないが故か、顔が真っ白になりはじめ、身体を灼かれた直後なのに体温も若干下がり始めている。

 テュフォンとの決着がついて気が緩んでしまった影響か。

 

 

 

 

 ───このままではイアソンは死ぬ。

 

 

 

 

 それを分かっていたから、ヘラクレスは身体の筋繊維一本一本に至るまでのすべてを総動員して全速力で荒れ果てた大地を駆ける。

 彼が再び目を覚ますという僅かな可能性に望みを以て。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「───カストロ、其処を通せ。汝も判っている筈だろう……!」

(いな)、この先に行くことはこの俺が許さん。それこそが奴の意志だ。……ポルクス、それがたとえお前であっても」

「兄様……」

 

 丁度時は遡りイアソンとテュフォンの勝負の決着がつく直前、戦いの余波が届かない所まで撤退していたアルゴノーツの面々は遠くから彼らの戦いを見ていた。

 が、暫くして周囲に蒼の雷霆の光が満ちた時、何人かはイアソンの下に向かおうとしたが、制止の声を出し其処に立ち塞がる人物が居た。

 

 

 

 

 カストロだ。今もその手に円盤を構えて彼ら彼女らの前にただ悠然と佇んでいる。

 彼は人間の身でありながら一風変わった視点を持つが故、比較的冷静でいた為か、あの皆を下がらせた瞬間のイアソンの真意を読み取っていた。

 

 

 そしてこう考える。

 

 

 ───(イアソン)我等(アルゴノーツ)があの戦場に向かう事を良しとしていない。

 成る程、悔しいが自分を含めた面々が向かおうともあの怪物には敵わないだろう。

 純正の神だった零落前の自分であれば話は別なのだろうが。

 

 

 ならどうする? 此処で待っていろと? 

 

 

 否、確かにそれしか選択肢は無いのだが、彼らアルゴノーツは、……特に、……(ポルクス)等のイアソンに好意を向けている面々は必ず奴の下に向かおうとするだろう。

 だが今の奴はソレを望んでいない、たとえ決着がついた後だとしても。……だから皆を此処に縫い付ける足止め役が必要だ。

 

 

 

 ……ならばこうしてその役を担おうではないか。

 

 

 それこそが今、導きの星(ディオスクロイ)として出来る唯一のことなのだと。

 

 

 

 そうした考えの下、カストロが最前線に向かおうとした面子の前に立ち塞がり、辺りは一触即発の空気と化していた。

 尤も、この行動はテュフォンと戦う直前のイアソンの意志を完全に汲み取ったものであるので、感情論を差し引けば、合理的に見てカストロの方が正しかったのかもしれない。

 

 

「……アレは──────ヘラクレス?」

 

 

 この雰囲気を何とか取りなそうと右往左往していたメディアであったが、ふと彼方から音速に近い速度で誰かが駆けて来るのを見つけた。

 ヘラクレスだ。しかし遠視の魔術で視た所、何かを背負っていて何処か切羽詰まった形相をしているように見える。

 そしてソレに気付いた皆の注目が集まり、同時に一つの疑問が生まれる。

 

 

 

 そう、船長(イアソン)は? 彼は何処に居る? 

 いつもなら真っ先に帰還して来るであろうに。

 まさか───

 

 

 

 ───その脳裏に浮かんだ考えは、最悪の形で的中する。

 

 

 

 

「─────────え」

「───」

 

 

 ヘラクレスに背負われていたイアソンの姿を見た瞬間、皆が安堵の笑みを浮かべ──────直ぐにその笑みは消えた。

 

「なん、で」

 

 血が無いが故、血色の悪い肌。ワンアウト。

 

 全身から噴き出した血で血濡れの身体。ツーアウト。

 

 その顔には───死相が浮かんでいた。スリーアウト。

 

 

「あ……嫌、待って、目を開けて下さい!! イアソン様!!」

 

 

 チェンジどころか人生のゲームセット間近。

 こうなるかもしれないと頭の隅では考えていたかもしれない。でも勝手に安心していた。

 

 

 アルゴノーツどころかギリシャにおいても最強の名を欲しいままにする万夫不当の大英雄。

 そんな彼ならあの怪物さえも何時ものように斃してくれるのだと驕っていた。

 あまりの精神的ショックに呂律が回らずパニック直前にまで陥るメディア。

 

 

「───ッッ! 退け!! 疾く治療をするんだ!! まだ助かるかもしれないだろ!!」

 

 

 そんな彼女を押し退け、鬼気迫る表情でアスクレピオスはヘラクレスからイアソンを奪い去り、地面に寝かせ治療を始める。

 その様子を目の当たりにしたメディアはハッとした顔になり、直ぐ様隣に陣取りアスクレピオスの補助をする。

 

 

「お前らも何をボサッとしている!! 船長(イアソン)を助けたいのなら僕の指示に従え!!」

 

 

 そう言って周囲に発破をかける。

 その声に応じ一同は一斉に動き出し、各々に出来る事をする。医療魔術や治療の使用が出来るメンバーは全員でイアソンの治療を行い、それ以外はアスクレピオスの指示に従い医薬品や魔力回復薬の運搬を担当した。

 

 

「遡行術式、準備完了です!!」

「よし、やれ」

「はい!!」

 

 

 そして取り出したのは短剣型の魔術礼装。

 メディアという少女が生前から持つ本来の宝具。

 

 

「───其は、魂の設計図」

 

 

 彼女の周囲に大規模な魔法陣が発生し、大気から、地面から魔力を搾取し、大規模な魔力が隆起する。

 

 

「我が命脈を以て、復元、回帰、遡行を命ず……!! ──────『修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)』」

 

 

 その声と共に辺りに光が満ち、イアソンの身体を覆う。

 その光の余波を受けた他の者たちは、瞬く間に身体中にあった僅かな傷が元から無かったかのよう(・・・・・・・・・・・)に消えてゆく。

 

 

 

 ───『修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)』。

 

 その概要は、『あらゆる呪い、魔術による損傷を零に戻す』こと。但し、これは時間操作ではなく、対象が本来あるべき姿を算定することにより自動修復している。

 

 医術の祖と言えるアスクレピオスを筆頭とした『神秘』の力により現代医療涙目の能力を持つ面々。

 

 加えて、未だ神の領域に至ってないアスクレピオスでは生み出せない究極の蘇生薬、『真薬・不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』。

 ソレに迫る復元能力を有した魔術式、『修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)』。これらの力が有れば、多少は苦戦しようとも治療は成功すると、誰もがそう思っていた。

 実際に、この力に助けられた者たちも少なくないのだから。

 

 

 

 

 ───だが、この世界(ギリシャ)の機構はそんなに甘くなかった。

 

 

 

「───……どうして、何で、治らないんですかッッ……!!」

 

 

 彼女の目に映るのは一切傷が癒えていない(・・・・・・・・・・)イアソンの姿だった。

 おかしい。そうメディアは考えたが理由が分からない。死以外の全てを修補出来るペインブレイカーを使ってきて、こんなことは今迄に一度も無かったのだから。

 

 

 そして突然イアソンがパチリと目を開ける。

 そして最初に視界に入ったのは、自身を泣きそうな目で見つめる、約束を交わした少女の姿だった。

 尤も、その約束も果たせなさそうだと内心で自身のことを嗤ったが。情けない話である。

 

 

「───メディアか」

「──ッッ!? イアソン様!! 大丈夫なのですか!?」

「……」

 

 

 イアソンはその問いに答えない。

 けれど皆はその表情を見て察した。それは今迄にも幾度となく目にしたもの。

 別れの、表情。

 

 

「まさか……!! くそっ、そういうことか……!」

「───それは、どういう」

 

 

 アスクレピオスが何かに気付き、その遣る瀬無さや、行き場のない怒りから拳を握り締める。

 余りにも強い力で握った手からは鮮血が垂れていたが、それを指摘する者はいなかった。

 

 だがそれは彼の脳内で補完された結論であるので、周囲には何が解ったのかは理解出来なかった。

 故に周りにも筋を通す。それが患者を救えなかった(・・・・・・・・・)医者に唯一出来る事だから。

 

 

「───あの化け物が出していた焔、悔しいがアレは『今の』僕の理解の範疇の外にある。───逃げるときに負った火傷が全く治らないからな。さしずめ不死殺しか治癒阻害の力だろう」

 

 そう言って腕をまくるアスクレピオスの腕は手首から肘までが火傷になっていた。

 そしてそれを見た一同は再びイアソンを見て、戦慄する。

 まさかこの全身の傷総てにその呪いじみた物が架かっているとでも言うのか。

 ……というかそんな物を受けて生きているのか。

 

 

「──……そしてもう一つ、彼女の魔術が効かなかった原因だが、心当たりがある。それは───」

「『死』を覆すことは出来ない。……そうだろ?」

 

 

 イアソンが初めから知っていたかのようにアスクレピオスのセリフを補完し、アスクレピオスは無言で頷く。

 そう、万能の治療具である『修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)』にも出来ない事はある。ソレが『死』に対する干渉。

 これが何を意味するか。其処には一つの事実があった。

 

 

 もう、イアソンは──────────

 

 

「───アスクレピオス。船長命令だ、もう諦めろ」

「……諦めろだと? 馬鹿じゃないのか、僅かでも助かる可能性があるなら最善を尽くすのが医者だと……」

「いや、死に際になると自分がどうなるか分かるものだぞ。だから、最期くらいは自由にさせてくれ」

「……ッッッ! ───分かった」

 

 そうか。とイアソンは頷き、身体中から奔る激痛に苛まれながらも立ち上がり、静かに歩き出す。

 自分の命の灯はもうすぐ消える。だからせめて別れの言葉くらいは言わせて貰おう。

 振り返り、アスクレピオスを見つめ彼は言う。

 

「まあ、今回の俺は間が悪かっただけだ。……お前の夢だった蘇生薬、結局見れずじまいになっちまったが……。───お前ならあと数年もすれば作れる筈だ。女神の奥さん共々頑張れよ」

「……皮肉か。僕の医術がもっと優れていれば、もし蘇生薬を完成させていたら、お前は死なずにすんだだろうに……!!」

「まさか。思ったことを言っただけさ」

 

 

 そう言ってイアソンは再び前を向いて歩き出す。言いたいことを全部言い終わるまでは死ぬつもりは無い。

 次に近づいたのは───ディオスクロイの所だった。

 

 

「ポルクス。……ああ、泣かないでくれよ。まるで俺が悪いみた───いや、悪いな。……まあ、お前と過ごした日々は楽しかった。どうか俺の分まで幸せに過ごしてくれ」

「うう……ぐすっ……──でも、その日々に貴方は居ないのでしょう? なのに幸せになれなんて……意地悪な人」

 

 

 そう言いながらポルクスはイアソンに近づき、イアソンの身体を抱きしめる。

 

 

「……血がつくぞ」

「いえ、良いのです。少しだけ───貴方の温もりを感じさせて下さい」

 

 ならば致し方なし、とイアソンはその体勢のままカストロと見つめ合う。

 互いの心情はなんとなく理解出来ていた。

 だから最低限の会話のみでよい。

 

「後は任せた。カストロ」

「言われずともやってやる。……英雄イアソンよ、安らかに眠れ」

「全部終わったらそうするさ」

 

 

 そう言って拳を突き合わせる。

 丁度その時、ポルクスも静かにイアソンから離れた。

 それを見て、イアソンはもう一度二人を見つめ、数秒後振り返って次の人の下へ。

 それを見ていたカストロがポルクスに尋ねる。

 

「もう良かったのか?」

「はい、兄様。未だ後が残ってますし、これ以上イアソンに触れていたら───もう離せなくなってしまいそうでしたから」

「…………そうか」

 

 

 すまない、やっぱり無理かもしれないとカストロは思った。だがもう遅い。全てイアソンって奴のせいなんだ。

 

 

 ◆◆

 

 

「───アタランテ」

「イアソン……」

 

 緑髪の少女と金髪の青年は見つめ合う。

 言葉が出なかった。

 倒してみせると彼は言って、一人であの怪物と戦った。そして確かに怪物は倒したがこのザマだ。

 情けないだの色々言いたいことはあったはずなのだ。

 

 でも実際に前にすると何も言えなかった。

 なにか言葉を発しようとして口を動かしても、思い通りに話せない。

 気づけば彼女は彼の一部が破けた服の裾を握ってこう言っていた。

 

「───……お願いだ。逝かないで……」

 

 

 ああ、こんなことを言って何になるのだと未だに溢れる涙を腕で拭きながら彼女は嗤った。

 何を言っても彼はじきに死ぬ。そんなことは分かっている筈なのに。

 

 でもその一言は確かに彼の心に響いた。

 森の育ちでありながら、アルカディアの王女だと言われて直ぐに納得するほどには気品のある佇まいを崩さず、よく街の子供にお姉さんぶったりしていた彼女が此処まで純粋な思いを口にしたことは無かったから。

 

「───……!」

「あー……まあその、何だ」

 

 イアソンはアタランテの頭に手を置き、まるで宝物を大事にする子供のように、優しく彼女を撫でながら話し出す。

 

 

「お前の子供達みたいな誰かの為に頑張れるのは美点だ。でも、少し自分を疎かにするきらいがある。……前に言ったよな? 『誰かを幸せにしたかったら、先ずは自分が幸せであるべきだ』って。───どうか、お前自身にとっての幸せを見つけてほしい」

「───汝が死ぬ前に言うことではないだろ……馬鹿」

「まあ───そう、だな。その通りだ」

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 その後もイアソンはその場にいる全員に一人ずつ、誠心誠意心からの思いを口にしていた。

 

 カイネウス、ペレウス、アカストス、オルフェウス、テセウス、……ヘラクレス。他にも沢山の総勢50人。

 

 

 そして今、最後の人の元へと向かう。

 約束を果たせなかった少女の元へと。

 

「───メディア、そうだな。お前は時々意味の分からん突拍子もないことを言い出すし、実際やってることも偶にヤバいし、買い物癖はキッツいが……」

「ちょ、何で私だけ悪口なんですか!?」

 

 メディアが抗議の声を上げる。まあ確かに今までの流れはぶち壊しだ。

 でもイアソンはそれを見て穏やかに笑いながらこう続ける。

 

 

「───でも、それを補って余りある程に皆を大切にしていて、俺も沢山、お前に助けられた。そのお前の誰にでも優しく、誰かに一途に尽くす性質はお前のアイデンティティーの一つであり、紛れもない美点だ」

「──────え、えッッッ!?」

「ああ、だから──────」

 

 

 ───俺なんかよりももっと良いやつと幸せになってくれ。

 そう言いかけたが、これはかえって逆効果だろうと考えたイアソンは踏みとどまる。

 

 そうして再びおぼつかない足取りで歩きはじめ、皆の前に躍り出る。限界を超えて最後の力を振り絞り、声を張り上げる。

 

「これで最後、だな。皆、こんな俺についてきてくれてありがとう。───アルゴノーツは最高の船であり、最高の船員達に恵まれた!! そんな船の船長であれた俺は果報者だ!!!!」

 

 腕を高らかに上げながら、イアソンは感謝の声を上げる。

 同時に意識が朦朧とし、視界が揺らぐ。

 

 

「ああ! そうだとも!! みんな、こんな俺を───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───愛してくれて、ありがとう。

 

 

 

 そう言い終わると同時に、力を失った腕がだらりと下がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────今此処(ここ)に、後世まで語り継がれる一つの物語(英雄譚)の幕が降りたのだった。

 

 

 

 

 

 





無常の果実「誠に遺憾である」


死にかけどころか普通は死ぬ傷なのに普通に動いて船員達に多大なる傷を追わせてから逝く船長の鏡()

ひとまず神話編は一区切り。次回はイアソンのその後、次にマテリアル(書き終わってる)の順で出して行こうかと。……この世界のアルゴナウティカとかいう怪文書書こうかな。


修整は随時行います。加筆修整もするかも。


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閑話 英霊の座にて

早めに更新。
但しびっくりするほど短い。

数分後にはマテリアルも出します。


 

 

薄れて行く意識の中で、イアソンは思考の渦に呑まれていた。

 

 

 

 果たしてこの結末は正しかったのだろうか。

 成る程、自分が定めた勝利条件には合致しているだろう。

 結果的に誰も死ななかった。…自分を除いてだが。

 

 

 

 それにしても不謹慎ではあるが楽しかった。

 

 幼年からの目標だったものに手が届いたのだ。それはもう心躍るのは仕方無いと言っても良い。

 

 

 

 この、能力(ちから)さえあれば、あの某朱い月でさえも屠れるかもしれない。

 

 

 そんな領域(レベル)に至ったのだ。

 

 

 何れ程の耐久力を持っていても、仮に別の場所に逃げる手段があろうとも、ソレが仮に概念的存在でも、神秘的な繋がりさえあれば、この星に準ずるものであれば、確実に討ち滅ぼすことができる。

 

 

 

 正に権能らしく、「相手が如何なる存在でも、理不尽に叩きのめす」という出鱈目な力。

 

 

 

 意図したものでは無いが星の敷物(テクスチャ)さえも破壊することが出来た。恐るべし。

 

 

 

 上も下も解らず、果たして今の自分が人の形を保っているのかさえも解らない。

 辺りは光の見えない暗闇で、自分が何処にいるのかだって勿論知らない。

 

 

 

 そして再び思考に耽る。

 

 

―――悔いは…有るだろうか。

 

 

 結局約束は守れずに終わり、後の世ではトロイア戦争が発生する。平和なんて数年で消え去るだろう。

 

 

 でも、言いたいことは伝え終えたし、どうせもう会うことは無い(・・・・・・・・・)のだから別に良いだろう。

 

 

 そう、だから悔いは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――いや阿呆か。

 

 

 もう会うことは無いだと?否、否である。

 この世界が何たるかを思い出せ。

 型月だ。英雄の座があるのだぞ。

 

 

 

 

  黒歴史確定ではないか。

 

 

 

 終わった。もしこれから自分が召喚されて皆と出会う事が有り、その時に微妙な顔をされよう物ならショックでその場どころか座の本体毎消滅してしまうまである。

 そう、例えるならアレだ。

 「格好いい詠唱を考えて叫んでいたのを親に見られてしまった」的なやつとか、「自作小説を連絡帳と間違えて学校の先生に提出してしまった」的な奴だ。

 

 それからもう三日は布団の中に包まって出てこれない的な経験をした同士は沢山いるのではなかろうか。

 

 

 自分はどうか?……厨二とは恐ろしい病気だ。察しろ。

 

 

 

 

 そして先程から暗闇が続き過ぎではなかろうか。

 故に問う、何時此処から変わるのかと。

 

 

 その問いかけに応じる様に、周囲はうねり、とある風景が映し出されて行く。

 尤も、最初からこの場は存在しており、彼自身がソレを認識していなかっただけかもしれないが。

 

 

 

 

 「うん……?」

 

 

 まず最初にイアソンの目に映ったのは……木だった。

 否、正確には木材だ。スポーン地点を間違えたらしい。

 

 

 何歩か下がって、その全貌を確認する。

 その正体は―――

 

 

「アルゴー……?」

 

 男の眼の前にあったのは、全長五十メートルをゆうに超える巨船の姿があった。

 辺りを見回すと、此処は何処かの、(いや)、イオルコスの港であり、其処にアルゴー号が浮かんでいる。

 

 

 どうやら男の英雄の座の心象は、「統治した国イオルコスと自身の栄光の象徴アルゴー船」を元とした物らしい。

 

 

 梯子を登って、アルゴー船の上に登ると、その中心付近で男は見慣れない物を見つける。

 

 

あいつ等(アルゴノーツ)の武器、だと……?」

 

 

 其処には自身には然程縁の無い筈の、アルゴノーツの皆が使用していた武具(宝具)の数々が存在していた。

 何故か半透明だったが。

 

 

 

 軽く見渡すだけでも錚々たる業物の数々が揃っている。

 

 

 ヘラクレスが使っていた『神が鍛えし勝利の剣(マルミアドワーズ)』。

 アタランテがアルテミスより授かった『天穹の弓(タウロポロス)』。

 カイネウスが持っていた『海神の三叉矛(トライデント)』。

 ケイローンが愛用していた名称不明の弓矢。

 ディオスクロイの二人が使用していた円盤と光剣、『星の光盾、星の光剣(アルファカストロ・ベータポルクス)』。

 メディアが使っていた短剣型の魔術具、『修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)』。

 そしてこれは……見覚えが無いが、巨大なクロスボウ……だろうか。何故かどことなくアポロン(戦犯)の神気を感じる。

 

 他にもこれ等の武具には及ばないが、いずれもアルゴノーツの誰かが使用していた武具が一人につき一つ、という途中で発見した条件の下存在していた。

 

 が、途中で再び見慣れない武器を発見する。

 否、これは果たして武器なのだろうか。短剣ではあるが、刀身は捻れており、虹色に輝いている。

 

 

 

――――――いや破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)じゃん。

 

 

 何故だ。というかそもそもこの時空に存在していたのか。

 まさかメディアが自力で生み出したのだろうか?……だとしたら恐るべき実力。その辺の魔法使い、例えば某蒼崎よりヤバいのではなかろうか。

 

 

 

 

 まあ流石にそれはないだろう。

 

 

 

 さしあたり並行世界の自分の存在と照らし合わせて、僅かに存在する『裏切り』の逸話を無理矢理増幅させたのだろう。と自身の中で結論づける。

 

 

 それにしても何故此等が自分の座に存在し、何故半透明なのだろうか。

 気になってその中の一つを適当に手にとって見ると、突如ソレが輝き出して、その直後にはずっしりとした重みを感じさせる実体となっていた。

 自分が使おうとした時のみ具現化するのだろうか。

 

 ………まあ、恐らくはそういう宝具がこうして英霊となったことで生えたのだろう。

 

 

 

 まあそれは構わない。メリットしかないし。ただまあコレだけは言わせてくれないだろうか。

―――まだ強くするんですか?

 

 

 

 そんな訴えをするが当然返答は返ってこない。

 仕方が無いので別の場所へと移る。

 自身の心象、しかも自分の国で探検をすることになるとはこれ如何に。

 

 

 そうして時間の概念がない以上急ぐ必要もないので、ゆっくりと歩みを進めていたイアソンの視界が………突如灰色に覆われた。

 

 

 

「うおっ!?」

 

 

 正確には、その瞬間は灰色としか形容できないソレによって吹き飛ばされたのだ。

 

 一体何だ!?新手の当たり屋か!?と考えたが当然そんな筈もなく、ソレの全貌を見た。

 

 

 

 「────」

 

 

 

 灰。ゴツゴツとした灰色の鱗に覆われた、十メートル以上はある巨躯。あらゆる英雄達を殺してきた鋭い爪と牙に、人間とは違う縦に割れた瞳孔を持つ金色の瞳。

 

 舞い上がり、空を支配する証たる大翼。

 

 

 幻想種の頂点に座する神秘の頂点、更にその中で神獣に継ぐ二番目に位置する竜種が一匹。

 

 

 

 「ウゥ……」

 

 

 

 又の名を英雄殺し、コルキスの竜。

 あの時の最後の戦いでは国の守護を自分が命じたが為に出番のなかった奴。

 

 嘗てイアソンが手懐けた竜が、不満気に唸りを上げてイアソンを見据えていた。

 

 

 

 それを見て、イアソンは漸く気付く。 

 

 

 

 

 

 

――――――コイツのこと忘れてた。

 

 

 

 

 そしてもう一度体当たりを食らう。完全な自業自得である。

 吹き飛ばされて転がりながらも、元気だなあと呑気な思考を続けるイアソン。

 ただ、何故この竜はこの場所に……イアソンの英霊の座に居るのだろうか。

 もしや不法侵入だろうか。せめてノックはしてほしい。

 

 

 

 そう思って観察を続けていると、背中にアルゴンコイン……金羊の皮があった。

 それを背中に飛び乗ってすかさず回収すると、次第に半透明になって竜は消えてゆく。

 やはりかの竜も自らの宝具の一つとなってしまったらしい。

 

 

 

「……成る程、つまりペット枠か」

 

 

 最早何も聴こえて来ない。どうやらツッコミを早々に放棄したご様子で。

 これではカストロに遠く及ばないなと思いながら、彼は自分の心象の探索を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――彼が召喚される時は近い。

 

 

 

 

 

 

 其処は果たして――――――

 

 

 

 

 

 ▷原典とは異なる外典にして一つの可能性。ルーマニア・トゥリファスを舞台とする空前絶後の規模の戦争――「聖杯大戦」。

 ▶それは、未来を取り戻す物語。それは術者を過去に送り込み、過去の事象に介入することで時空の特異点を探し出し、解明・破壊する禁断の儀式。禁断の儀式の名は、聖杯探索――――――グランドオーダー。

 ▶それは、あり得ざる可能性の番外の物語。グランドオーダーでありながら、彼の知る世界のグランドオーダーではない。

―――それは、原典にイアソンという名の劇物がブチ込まれる物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





英霊となったことによる変更点。

・『其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)』の大幅弱体化。具体的にはアルジュナ・オルタと同様に基本は範囲を絞っての使用が原則となった。でも破壊力は殆ど変わらないので対して問題はない。

・『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』が新たに追加。今までのアルゴノーツ召喚とは異なり、追加で各々の英雄達の象徴たる宝具を一つずつ具現化可能となる。ただし某フェイカーのようにランクダウンはする。


・『求めし金羊の皮(アルゴンコイン)』の「地に投ずれば竜が出る」の伝承通り、コルキスの竜の召喚が可能に。しかも幻想種の肉を食わせまくったせいで結構強くなっている。


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マテリアル&番外編
マテリアル:イアソン


結論から言うとぶっ壊れ。



 

 

 

 

真名:イアソン クラス:ライダー

 

 

性別:男性 出典:ギリシャ神話/アルゴナウティカ

 

地域:ギリシャ 属性:秩序・善 

 

身長:181cm 体重:78kg

 

一人称:俺 二人称:お前/○○(呼び捨て)

 

好きな物:アルゴノーツの皆

 

苦手なもの:特になし。強いて言えば神々。

 

得意なこと:一癖も二癖もある英雄達を纏めること、口論、カリスマ性を感じさせる弁舌

 

天敵:テュフォン

 

 

 筋力B 耐久B+ 敏捷A+ 魔力B 幸運A+ 宝具EX

 

 

 

【クラススキル】

 

『対魔力(A)』

 

 魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。

 サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能。

 Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、彼に魔術で傷をつけることは出来ない。

 

『騎乗(A++)』

 

 乗り物を乗りこなす能力。

 騎乗の才能。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。

 また、英霊の生前には存在しなかった未知の乗り物(例えば古い時代の英雄にとっては見たことも無いはずの、機械仕掛けの車両、果ては飛行機)すらも直感によって自在に乗りこなせる。

 A++ランクでは本来騎乗スキルでは乗りこなせないはずの竜種を例外的に乗りこなすことが出来る。

 

 

『単独行動(B+)』

 

 マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。依り代や要石、魔力供給がない事による、現世に留まれない「世界からの強制力」を緩和させるスキル。

 Bランクならば2日はマスターなしで現界出来るが、最低限の魔力が有ればマスターなしでも現界可能。

 

 生前最後に一人で災厄と戦い抜いたことから獲得した。

 

 

 

【固有スキル】

 

 

『神授の叡智(A+)』

 

 彼は幼少期から森の賢者ケイローンの下で教えを受け、数多くの技術と、神ゼウスを始めとした数多の神から様々な力を授かった。

 「星の開拓者」や「皇帝特権」のような特定の英雄が所有するものを除いたほぼ全てのスキルを自身の元の技能に応じてC~Aランクの習熟度で発揮可能。

 「弓術」や「槍術」といった戦闘技能は勿論、「音楽」の様な芸術系のスキルから、「野外追跡」や「薬草採取」のようなレンジャー的なスキルなど多岐に渡る。

 ケイローンの持つ『神授の智慧』とは似て非なるもの。

 

 FGO風に言うと、『自身のQuick/Arts/Buster性能をアップ(30%)3ターン』という効果。

 

 

『友と征く遥かなる海路(A++)』

 

 かつてアルゴー号に乗った者を勇気凛々にする。

 普段は純粋な人間として最高峰とされるAランク相当のカリスマスキル、並びにBランクの軍略スキルの複合スキルとして機能するが、かつてアルゴー号に乗った者、縁のあるもの達に対しては、それを遥かに上回る効果を生み出す。それは最早魔力、呪いの類いと言った物。

 

 

 FGO風に言うと、『味方全体の攻撃力アップ&味方全体の宝具威力をアップ(20%)&味方全体の[アルゴー号ゆかりの者]のNPを増やす(30%)&クリティカル威力をアップ&スター発生率をアップ』という効果のスキル。

 

 

『求めし金羊の皮(EX)』

 

 彼が冒険の末に手に入れた金色の毛をした羊の皮。

 本来ならば宝具として扱われる代物。

 わりとふわふわして心地いい。ちなみに地面に投ずれば竜が現れるという伝承通り、コルキスの竜の召喚が出来る。

 

 

 

『雷の権能C+++(EX)』

 

 神ゼウスから出生時に授けられた力。

 権能なんて言っているが、人間、サーヴァントの身では、天候の操作を始めとする「ただ、そうする権利があるのでそうする」ような理不尽は出来ない。

 そもそもまともに権能なんかを振るえば100%ヒューマンなイアソンでは即座に体が砕け散る。

 つまりはちょっと特殊な雷が出せるだけ。

 媒介となる武具(アダマント)があるなどの特定の状況下ではその本来の力を発揮することが可能。

 

 

 FGO風に言うと、『自身のArts/Buster性能をアップ(50%)&スター集中度をアップ(200%)』というスキル。

 

 

『魔力放出(雷)A』

 

 雷の魔力を武具、又は全身に纏いステータスの補助や戦闘力の向上が可能。雷の権能に由来するスキルなのでランクが高い。

 

 

『三女神の寵愛(B)』

 

 ヘラ、アテナ、アフロディーテの三柱の女神による祝福。

 幸運を始めとする各種パラメーターを上昇させる。

 その他には魅了耐性や精神異常耐性なども盛り込まれている。

 

『主神の加護(A)』

 

 みんなご存知ゼウスからの加護。

 肉体の強化、各種スキルの効果上昇などなど。

 

 

 

『直感(A+)』

 

 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。

その為、彼の場合は未来を断片的に見通すことが出来る。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。

 

 

『勇気ある者(EX)』 

 

 

 ―――汝、人の身であれ。

 

 ―――汝、英雄であれ。

 

 ―――汝、世界を救う者であれ。

 

 

 彼のもう一つの呼び名から発生した、勇猛スキルの亜種。

 威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

 対象が人類や世界に対しての脅威であればその効果を大きく増幅させ、自身が悪に近しい立場となればその効果を減少させるなど、決まった値が存在しないためランクは測定不能のEXとなる。

 

 

『虎口にて閃く(A+)』

 

 自身の前に立ちはだかる敵が如何に強大であったとしても、そして窮地に陥ったとしても、自らの身を捨てるような博打をする振る舞いを起こせばそれを打破することが可能。(原典)のイアソンが持つスキルとは少し内容が異なる。

 火事場の閃き、死ぬまでの往生際の悪さにおいては、他の追随を許さない。

 要は絶対に勝てないような相手でも勝利する、又は相打ちに持っていく可能性を生み出すことが出来る。所謂主人公補正(よくあるやつ)でもある。

 

※但し本人の生還は保証しない。

 

 FGO風に言うと、『味方単体に回避状態(3回・3ターン)を付与&スター集中度をアップ&NP獲得量をアップ&自身の防御力をダウン(30%)【デメリット】』というスキル。

 

 

 

 

【クラス適正】

 

 【剣士(セイバー)】:フル装備だが、気配遮断と『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』の行使に制限がかかる。

 

 【槍兵(ランサー)】:同上。三騎士の中では最も適正がある。

 

 【弓兵(アーチャー)】:一応ある。アダマントの使用に制限がかかるが、『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』の使用の制限が緩くなる。

 

 【騎兵(ライダー)】:フル装備。唯一アルゴノーツの召喚を遠慮なく行うことが可能なのでシンプルに最強。

 

 【魔術師(キャスター)】:アダマントとアイギスの所持不可。スキルで底上げした魔術と召喚出来るコルキスの竜が居るので割と強い。

 

 【暗殺者(アサシン)】:アイギスの所持不可。アダマントの真名開放不可。気配遮断と鎌が合わさって死神に見える。

 

 【狂戦士(バーサーカー)】:純人間で権能を振るえるという存在自体が『狂っている』奴な為、狂化EXの癖に全く変化が無い。

 

 【盾兵(シールダー)】:アイギス以外の宝具使用不可。でもアイギスの武装とパンクラチオンで大体何とかなる。

 

 【裁定者(ルーラー)】:適正自体はある。召喚されるかは知らん。あと神明判決が通常より英霊に効きやすくなる。

 

 【冠位(グランド)】:完全フル装備権能の制限なしでなおかつアルゴノーツ全員集合状態。雷霆も無制限に使用可能。そして適性クラスは■■■■。

 

 

【宝具】

 

天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)

 

ランク:D〜B+++

種別:対軍/対人宝具 

レンジ:1~30/ −

最大捕捉:60人/1人

 

 

 『英雄を束ねる者』として生きたイアソンの人生。その結晶であり、二つの側面を有する宝具。

 

 船に乗ったかつてのクルーであるヘラクレス、メディア、アタランテ、アスクレピオス、ディオスクロイ、などの英雄達が召喚され、一斉攻撃を仕掛けてくれる。

 戦いにおけるイアソンの立ち位置が正しければ正しいほどに乗組員の賛同も多くなり、攻撃回数も増えていく。

 逆にイアソンの立場が明らかに悪役だったりすると、流石に乗組員達も自重して「びっくりするくらい、誰も乗ってこない(サボタージュ)」ため、威力も著しく低下する。(別に居なくても勝てるとは言ってはいけない)

 

 

我が下に集え、数多の英雄(アストラプスィテ・アルゴー)

 

 もう一つの真名。

 

 こちらの対人宝具として機能する際は、本来の担い手たる乗組員達の了承が有れば、真名の完全開放は不可能という制約込みで、マルミアドワーズ等を始めとする宝具のみを具現化させることが可能。

 

 ただし聖杯の理(クラスの概念)そのものに喧嘩を売るような性能なので、魔力の消費が通常の数倍に及ぶ欠点を孕んでいる。イアソン程の大英雄クラスの霊基では同じくアキレウスやヘラクレスレベルの大英雄を追加で一人使役するのと同等の魔力消費。

 

 さらに本来の担い手ではない為ランク最低でもワンランクは下がり、他にも『十二の試練(ゴッド・ハンド)』や、『不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』等の本人の技量や性質あってこその宝具は使えない。

 

 

 

 

 

神体結界(アイギス)

 

ランク:A 

種別:結界宝具 

レンジ:- 

最大捕捉:1人

 

 常時発動型の宝具。オリュンポスの神々によって造り出された防御兵装。鎧とも、盾とも伝えられる。

 女神アテナにアルゴー号の冒険の出発時に授けられた。彼の場合は常時発動型の結界、または体を覆う鎧となる。

 死後何故か腕やマント等の一部だけでなく全身を覆う事が出来るようになった。そのため黒と金を基調とした色合いという以外は従兄弟(オデュッセウス)と瓜二つ。

 

 彼の死後はアテナに返還され、後にオデュッセウスが使用する。

 

 

 

 

 

掻き抉る時の大鎌(アダマント)

 

ランク:A+++ 

種別:対人/対神宝具 

レンジ:1~30 

最大捕捉:300

 

 彼の所有する金剛の大鎌で、彼自身を象徴する武器であり、数多の神造兵装と比べても間違い無く最強クラスのヤベー武器。

 見た目はデメテルの立ち絵でデメテルが持っているのとほぼ同じで、鎖の意匠が施されている。

 

 元は農耕神クロノスの武器であり、この世で最も硬い金属とされるアダマス製で、凄まじい切れ味を誇り、あらゆる万物を切り裂く。大地の女神ガイアが夫ウラノスを去勢するために作り、クロノスに与えたもので、彼の失脚後はゼウスが所有する。

 

 

 ―――という神話の伝承があるが、実際はヘファイストスとゼウスが作成した神造兵装で、材料は神鋼(アダマス)とまさかのゼウスの真体(の残骸の一部)で、最高の武具を造るべくゼウスが超張り切った結果、嘗てのゼウスを彷彿とさせるとんでもない機能が多々盛り込まれている。まさに『ぼくのかんがえたさいきょうのぶき』。

 イアソンに授けられ、以後彼が使用する。

 

 

 

 分子結合崩壊機能、『屈折延命(ディスラプター)』という不死系の特殊能力を無効化する神性スキルを有し、この鎌でつけられた傷は自然ならざる回復・復元ができなくなる。他にも巨大化、または小型化もできる。

 イアソンはアルゴー号の冒険やその他諸々を通して、竜種を始めとする数多の幻想種を屠ってきた。

 

 

 その本質は規格外の機構を軸とした、雷の権能を十全な形で使うための鍵。

 開放後のそれは余りにも強すぎるのでゼウスの手によって拘束が施され、此処ぞというときにしか拘束を解除しての使用が出来なくなる。

 

 

 

 

 

射殺す百頭・鎌式(ナインライブズ・リーパー)

 

ランク:B

種別:絶技宝具 

レンジ:1〜2 

最大捕捉:1

 

 ナインライブズ。彼と並ぶギリシャの大英雄、ヘラクレスの『射殺す百頭(ナインライブズ)』をヘラクレスの戦いを近い位置で見て、戦った彼が自身のオリジナルの型として会得したもの。

 アダマントによる無数の連撃、もしくは限りなくほぼ同時に放たれる九つの斬撃。その力は命なき怪物であろうと素の技量のみで鏖殺可能な程。

 流派ヘラクレス・イアソン分派。

 

 

 

 

其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)

ランク:EX 

種別:対界宝具 

レンジ:1〜99

最大捕捉:1000

 

 【掻き抉る時の大鎌(アダマント)】を核として行う真なる雷の権能の完全開放。ゼウスの雷による完全破壊。概要は「知性体保護機能(リミッター)を限定的に解除し、全機構を開放したアダマントを核として雷の権能を完全行使。そこから放たれる因果、空間、時間、概念総てを断ち切る究極切断。」

 

 

 要はとにかくあらゆる障害を「だから?」の一言の下捻じ伏せる究極の一撃。 

 

 

 ゼウスの雷の疑似再現。壊せぬ物なぞあんまりない。 

 大源(マナ)を力の源とするため、魔力濃度の濃い神代ならば魔力消費は微々たるもの。

 ただし人の身でこんな代物を振るえるはずがなく、サーヴァントになった身でも全力で使うと反動がヤバい。

 

 なので通常サーヴァントの場合は某ユガの壊劫剣(プララヤ)のように範囲を絞っての使用が主となる。

 

 

 名前はゼウスの『我、星を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)』から流用。

 概要はこれとほぼ同じだが、ゼウスのコレはおそらく対星宝具なのでこれよりも強いとかいうインフレの極み。

 

 

 当然だがこれを物理法則の整った現代の聖杯戦争で振るえば抑止力案件。まあ当たり前。

 

 

 

 

 

 

 

 

【略歴】

 

 イアソン。

 ギリシャ神話の叙事詩の一つ『アルゴナウティカ』の主人公であり、神の血を持たない一般的humanでありながらヘラクレスと共にギリシャ神話の二大英雄として讃えられる大英雄。

 

 

 そして僕らの勇者王。

 

 

 この世界ではイアソンのせいでアルゴナウタイの知名度が桁違いな事から、アルゴ座はアルゴ座のまま残り、最大の星座であるアルゴ座の象徴たる英雄としても知られている。

 

 

 元々はディオメデスという名だったが、イアソンに改名した。

 アルゴンコインを求め、アルゴノーツの面々と様々な冒険を繰り広げた。

 純粋な人間の生まれだったが、女神ヘラと大神ゼウスに気に入られたのが切っ掛けで数々の神具、加護を賜り様々な冒険を繰り広げた。

 

 

 

 戦闘スタイルは、基本は神体結界を纏っての光線照射、大鎌アダマントと雷霆の魔力放出による白兵戦を得意とするが、それ以外にもアルゴノーツが所持していた宝具を具現化させて柔軟な対応が可能。

 

 そして権能の完全開放による範囲を絞った広範囲殲滅も可能な万能の戦士にして、怪物レベルのカリスマを持つ指揮官でもある。

 

 

 そしてギガントマキアの際は、ヘラクレスやアルゴノーツ達と共に神側として参戦することに。

 最後は突如現れたテュフォンとの戦いで『其は、世界を裂く雷霆』を使い撃破に成功するが、戦闘中に既に瀕死の怪我を負っていたこともあり直後に力尽きた。

 

 

 

 ―――そして、その存在は最早英霊のレベルに収まらず、『神霊』に届きうるものだとされる。

 が、人間の可能性を示して死んだ彼はあくまで『人間』として生き、後世で信仰されたため、彼が神性スキルを会得、及び彼の意図せず神に至ることは永久にない。

 

 そんな彼だからこそ人の英霊の証である『冠位』の資格を与えられ、その除外条件の一つである『神霊であること』も適用されることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 





追記:……FGO本編にCV:檜山の勇者王が出てきたって?


 ―――汎人類史出身じゃないし、ある程度対比がつけられる程度にはキャラ被りしてなかったからヘーキヘーキ。




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叙事詩:アルゴナウティカ(異聞)

この本はギリシャ神話に伝わる叙事詩の一つ、『アルゴナウティカ』を解説した物である。

※史実のアルゴナウティカやその他の物とは一切関係ありません。



 

 

『アルゴナウティカ』とは、紀元前3世紀にロドスのアポローニオスによって書かれた全六巻の叙事詩である。

 

 当時のヘレニズム時代の叙事詩では、唯一現存しているものであり、数々の物語で語られる英雄達が一堂に集うという、今までの叙事詩や英雄譚には存在しなかった展開で、

 同じくギリシャの叙事詩で人気を博した『イリアス』や『オデュッセイア』を上回る知名度を獲得し、近世に至るまで数々の人々に愛読され、人気を博した。

 

 

 このような数々の英雄やヒーローが集うという手法は人々に非常に好まれており、現在でも似たような題材の作品が数多く存在している。

 

 

 では、本編の解説に入ろう。

 

 

 この本の中で語られる内容は、大きく二つ。

 一つは、黒海最果ての未知の地コルキスから金羊毛皮を取り戻そうとするイアソンとアルゴナウタイの航海の物語。

 もう一つは、その冒険を繰り広げたイアソンとアルゴナウタイが再び集い、ギガントマキアを戦い抜くまでの物語である。

 

 

 

 まず第一巻。

 物語はイアソンの誕生から描かれる。

 

 当初、自身の失脚が免れえぬものと知った先代王アイソンがペリアスに対する報復のため、そして何時か子供が再び王位を取り戻すために、妻が身籠っていた子に力を授けて欲しいと女神ヘラに対して頼み込む。

 

 自身を辱めたペリアスを憎んでいた女神ヘラは了承し、まだ産まれていないイアソンに対して加護を授けた。

 

 

 そして早速ここで物語の重要な点が訪れる。

 女神ヘラはイアソンに加護を与えた時に、イアソンの魂を見通す事が出来なかったらしい。

 基本的に神を絶対とする当時の神話にとって、このことは異例と言われており、今も原因が考察されている。

 

 

 そこで女神ヘラは夫である主神ゼウスにこのことを相談した。ゼウスはこれに対して大いに興味を持ち、実際に観察したところ本当に魂のありようが視えなくて驚いたそうな。

 

 

 今までには有り得なかった存在。これをゼウスは大いに気に入り、何と自身が持つ雷霆の大部分を削って出生前のイアソンに授けたそうだ。

 

 

 そうして彼は誕生した。ギリシャの名だたる英雄達は血縁者に神が居ることが多いのだが、彼は親が何方も人間というのもまた珍しい。

 

 

 

 当時既に王位を退位させられていたアイソンは、息子を英雄にするために賢者ケイローンに息子の養育を任せたそうだ。

 

 彼は日々剣を、槍を振るい、ゼウスから授けられた雷霆を振るうために努力を続けた。

 丁度同時期には、医神アスクレピオスと、双子座の英雄ディオスクロイのカストロもケイローンから指導を受けており、彼らは非常に仲が良かったとされている。

 

 

 彼が十五歳の頃、再び彼に転機が訪れる。

 ゼウスがイアソンに自身の武器であったアダマスの鎌を授けたのだ。

 恐らく前後に何かがあったのだろうが、この頃の情報は少なく、未だアダマスの鎌を授けられた理由は曖昧なままである。

 

 

 その後、アダマスの鎌を授けられたイアソンは森へと行き、ヒュドラを討伐した。語ることはない程の圧勝。

 これはヒュドラにアダマスの鎌の不死殺しの力が作用したからだと言われている。

 

 

 

 そうしてこれを切っ掛けとして、彼の名は広まりだす。

 曰く、若いながらも数々の英雄が挑み、返り討ちにあったヒュドラを難なく倒した者として。

 

 

 

 

 

 

 

 成人したイアソンは、その後ケイローンのもとを離れイオルコスに向かい、ペリアスに対して王位の返還を求めた。自分は正当な王位の継承者であると。

 

 

 それに対してペリアスは、イアソンに対して黒海の果てにある国コルキスに存在するアルゴンコイン、又の名を金羊の皮を取ってくるように命じた。

 

 

 イアソンはこれを承諾し、金羊の毛皮を得るため、アルゴー船を準備した。

 イアソンは女神ヘラの協力のもと、全ギリシャ中から航海の参加者を募集した。

 そうして、約50人の英雄たちが航海を共にせんと集結した。

 

 イアソンの許に集まった乗員の顔ぶれを紹介しよう。

 

 まず、ヘラクレスとその従者である少年ヒュラス。

 ディオスクロイすなわちカストルとポリュデウケースの双子の兄弟。

 詩人オルフェウス、メレアグロス、ボレアースの子ゼテスとカライスの兄弟。

 アキレウスの父ペレウス、オデュッセウスの父ラーエルテース、大アイアスの父テラモーン。

 そしてアルゴー船の建造者であるアルゴスなどであった。

 

 

 

 なお、ポリュデウケースは後の世の考察で女性と判明し、本来の名をポルクスとして語られた。

 彼(彼女)とイアソンは仲が非常に良かったとされており、昔はイアソンも当時の時代背景に合わせた同性愛者であると考えられていた。

 尤も、彼の人間関係からその説はかなり早い段階に否定されたのだが。

 

 

 一行の目的はコルキスまで旅し、金羊の毛皮を手に入れることである。イアソンが指揮者を誰に選ぶかの合議を提案すると、ヘラクレスを始めとした大勢が彼を推薦し、イアソンはそれを受諾してアルゴーの船長となる。

 

 

 因みに、この合議の前に彼らが己の力を確かめ合おうとした『アルゴナウタイの大乱戦』もあるが、こちらも解説すると時間がかかるのでこれはまた別の機会に。

 

 

 

 

 

 アルゴナウタイ、アルゴノーツと後に呼ばれるようになる一行は、テッサリアの東海岸から出帆した。

 

 

 最初の寄港地はレムノス島で、同島では、女王ヒュプシピュレーに率いられた女性たちが、彼女らを侮辱した夫を皆殺しにした処であった。

 

 ヒュプシピュレーはヘラクレスを除く男たちに、島の人口を取り戻すため、女性たちと交わり、子供を作って欲しいと頼む。

 

 ヒュプシピュレーはイアソンを相手に選び、イアソンは当初は拒否していたが一夜のみの条件で渋々承諾。

 この後無事に息子を授かったらしいが、直後に彼らはレムノスを出航した為に、イアソンと息子は終ぞ会うことはなかったとされている。

 

 

 余談だが、イアソンが女性と関係を持ったのはこの一夜のみとされており、彼自身は多数の女性に好意を向けられていたとされることから、イアソンは完全無欠の英雄であると同時に、女性関係はかなりのヘタレであったとされる。

 

 もしかしたら、誰かに手を出した瞬間終わる修羅場だったのかも知れないが。

 

 

 

 彼らの次の目的地はキオス島で、そこでヘラクレスの連れの少年だったヒュラスが湖の妖精ニンフたちに攫われそうになる。

 

 が、すんでのところでイアソンがヒュラスを救出し、ヘラクレスとヒュラスは再会を喜んだ。

 

 

 が、湖の妖精達はヒュラスのみではなく、イアソンの美貌を気に入り、どうにか引き込もうと海神グラウコスを呼び出したのであった。

 そう、イアソンはかなりの美形、即ちイケメンであったとされており、一目惚れする女性が多数いたそうな。

 

 

 これには船員たちも狼狽えたが、ヒュラスが襲われて激昂していたヘラクレスと色々な意味で危機を感じたイアソンの両名によってグラウコスは撃退され、一行は次の場所へと旅立った。

 

 

 

 これが第一巻の内容である。

 

 

 

 その後も、ビテュニア島でのボクシング騒動や、ボスポラス海峡では苦しんでいた予言者ピネウスを助けるためにハルピュイアを倒したりして、一行はコルキスへと辿り着く。

 

 

 

 そして第三巻。

 

 彼らを支援する女神ヘラと女神アテナ、女神アフロディーテから描写は始まる。

 女神達はイアソンの冒険を助けることに決め、アイエテスの娘メディアがイアソンに恋するように、エロスに頼む。

 

 

 イアソンにアイギスの盾を与える程の深い寵愛を向けていた女神アテナはそれに対して苦言を呈するが、最終的にはそれを承諾。

 

 

 そしてアルゴナウタイ一行はコルキスに辿り着き、国中から熱い歓待を受ける。

 

 イアソンはアイエテスに謁見し、どうか金羊の皮を譲ってほしいと頼み込む。

 

 

 アイエテスはその話を聞いて、イアソンに、もし力と勇気を証明する試練に受かったなら金羊毛を得ることができるだろうと話した。

 

 

 それは、青銅の蹄を持つ雄牛の群に引き具をつけ、アレースの野を耕し、竜の歯を植え、土から兵士たちを出現させることだった。

 薬と魔法に熟練したメディアだが、当時既にエロスとアフロディーテの影響でイアソンに好意を向けていた彼女は、イアソンがその試練に打ち勝つ望みはないと思いイアソンへと接触する。

 

 

 

 しかし、イアソンは彼女の助力を不要と断じ、彼女が呪われていると気付いて雷霆によって彼女に掛けられた呪いを壊してしまう。

 このことをきっかけに、メディアはイアソンに対して本当の好意を向けるようになった。

 

 

 

 

 そして、イアソンは容易く雄牛の群に引き具をつけ、竜の牙は自力で竜を殺す事で獲得し、発生した兵士もアダマスの鎌を使い一息で倒してしまった。

 

 

 他の叙事詩や英雄譚では最大級の見せ場として語られる竜殺しがたったの一行で語られている辺りがイアソンがギリシャ最強と語られる由縁だろう。

 

 

 

 そしてこれを見たアイエテスは驚嘆したが、彼はイアソンに金羊の皮を与えるつもりは無かった。

 

 

 

 そして第四巻。

 イアソンがアイエテスのもとから金羊の皮を盗み出そうと考えた所から始まる。

 

 そしていざ行かんと森に分け入った時、待ち伏せていたメディアと遭遇する。

 

 メディアはイアソンに金羊毛皮を守るドラゴンを眠らせると申し出る。

 

 しかし、イアソンはこれを拒否し、一人でドラゴンを何とかすると申し出た。

 それは、国の姫に祖国を裏切らせまいとする彼なりの優しさがあったのであろう。

 

 

 そして森の奥深く、二人は遂に金羊の皮を守護する灰色の竜と相対する。

 メディアは彼が無手なのを見て当初は不安がっていたが、直ぐにその考えは払拭された。

 

 イアソンは竜へと殴りかかり、一方的に攻撃を加え続け、遂にはその竜を屈服させた。

 竜を殺した物語なら数多く存在すれど、竜を屈服させたのは彼が世界初であり、これの後に聖マルタがタラスクに対し同様の行為を行っている。

 

 

 それを見たメディアは想い人のイアソンに付いて行くことを決心し、イアソンに対して熱心に説得を続けた後に、彼らと共に征くことを許された。

 

 

 一行は金羊毛とともにコルキスを出帆する。アイエテスとメディアの弟アプシュルトスがアルゴー船を追跡する。

 

 

 

 が、メディアはこれに対して魔法を放ち、アイエテス達は動揺する。次いでイアソンが雷撃を降らし、一行はそれに紛れて撤退した。

 

 それから2、3の付随的な冒険が描かれる。

 

 トリートーニス湖(おそらくナイル川)で、ヘラクレスに殺された蛇に出くわすが、ヘラクレス本人に再び殺される。

 クレタ島では古代の人種の最後の生き残りであるタロスに遭遇し、襲われる。

 タロスには弱点が踵にあったのだが、それに気付かずにイアソンはアダマスの鎌を思いっきり振り下ろし、タロスを切り裂いた。タロスは死んだ時、身体中から神血(イーコール)を噴き出した。

 

 

そして最後、アルゴー船はテッサリアの海岸に帰国する。

 

 

 

 

 これが前半のアルゴナウティカの内容。アルゴー号の冒険だ。此処からはその後の話、イオルコスに帰還したイアソンの話へと焦点が当てられる。

 

 

 

 先ず五巻。

 

 イアソンは約束を果たしたとペリアスのもとを訪ねる。

 しかし約束を守るつもりなど無かったペリアスはイアソンを殺そうとするが、逆に返り討ちにあい、怒った女神ヘラによって殺された。

 

 そうして『王』となったイアソンは様々な改革を推し進めた。

 

 

 最初にイアソンは、大地を掘り、山から水路を敷き、川を造った。

 そうして轢かれた水路は今もギリシャに現存しており、重要文化財として指定されている。

 

 

 

 さらに、オリンピックの元もイアソンが考案したものだとされる。

 

 4年に一度、世界各国がスポーツで競い合い、人々を感動へと包むオリンピック。

 今から約2800年前、最高神ゼウスへ捧げる大きなお祭りとして始まったとされていたが、実際はそれよりもさらに昔に、イアソンが考案し、開催されたのがオリンピックの始まりだったそうな。

 

 オリンピックの聖火は、オリンピア遺跡のヘラ神殿で採火され、開催地へとリレーで繋がれていることはご存知だろうか。ヘラ神殿はゼウスの妻「ヘラ」を祀った神殿で、オリンピックとギリシャ、そしてギリシャ神話の深い結びつきが感じられる。

 

 

 実際にイアソンがこれを考案したのも、ヘラ神殿の聖火を眺めていたときだとされている。

 

 更に、当時イアソンはルールの一つに『服をちゃんと着ろ』と定めた。

 神が与えた肉体を隠すのはおかしいというのがギリシャの常識だった為に、この文の翻訳時は研究家達は大いに混乱した。

 さらに、これを定めるためにゼウスの許可さえも取ったのだから余程嫌だった事がうかがえる。

 

 まあ、その影響でイアソンが同性愛者ではないであろうことが証明される一助となったのだが。

 

 

 

 そうしてイオルコスは徐々にその勢力を広げてゆきながら繁栄し、ギリシャの中では若干異質とも言える独自の文化が少しずつ根付いていった。

 

 

 

 そして物語は女神アルテミスがカリュドーンの猪を野に放ったことで動き出す。

 

 カリュドーンの猪を退治するためにイアソンを含めてギリシア全土から勇士が集まった。

 

 この狩りでは彼の女性関係は純潔の狩人アタランテに対して焦点が移る。

 ケンタウロスの兄弟がアタランテが狩りに参加することに反対した時、イアソンはその二人を持ち前の弁舌で言いくるめたとされる。

 基本的に粗暴で直ぐに殺しが起こるギリシャにおいて、流血沙汰を避けようとするこの姿勢は評価されるべきだろう。

 

 

 そして狩りは、最初にこの国の王族達がイアソンに手柄を取らせまいと邪魔をしたことにより犠牲者を出したものの、途中からイアソンが本格的に参加したことにより、アタランテが目を射抜いた猪を仕留めることに成功する。

 

 

 

 そして最後、第六巻ではイアソン率いるアルゴナウタイとオリュンポスの神々、それに対するギガースやテュポーンの争いが描かれている。

 

 

 ここでの物語はイアソンが未来視でギガントマキアの存在を感知した事から始まる。

 イアソンは再びアルゴノーツを招集し、神々と共に巨人ギガースを撃ち倒すことを宣言した。

 

 

 そしてここに来て遂にイアソンの出生の秘密が一部明らかとなる。ゼウスはさらに前からこのことを予言しており、これに対抗するには人間の子の力が必要だとされた。

 

 そこでゼウスは人の女性とまぐわってヘラクレスを生み出し、自身の代わりに戦える人物を求めてイアソンに雷霆の多くを譲り渡した。

 

 

 

 ギリシャの二人の大英雄は此時の為に生み出されたものだったのだ。

 

 そしてギガースたちは、山脈や島々など、ありとあらゆる地形を引き裂きながら進軍し、巨岩や山そのものを激しく投げ飛ばして神々を攻撃した。

 

 

 これに対し、オリュンポスの神々を筆頭とした皆も迎撃を開始し、ティタノマキア以来の宇宙の存亡を懸けた戦争が再び始まった。

 

 

 

 結果は完勝。ヘラクレスの弓矢とイアソンの雷霆とアダマスの鎌が猛威を振るい、すべての巨人は瞬く間に撃ち倒された。

 

 

 

 しかしそれだけで終わるはずもなく、ギガースを生んだ大地母神ガイアは怒り、ギリシャ神話最大の怪物テュポーンを生み出した。

 

 出自に関してはさまざまな異伝があるが、最も有名なのは大地母神ガイアとタルタロスとの間の子で、ゼウスに対するガイアの怒りから生まれたとするものである。

 

 

 

 

 嵐の如き暴虐を纏って現れたテュポーンにオリュンポスの神々は萎縮し、ゼウスを除いて次々に逃げ出した。

 その時に動物に姿を変えたというエピソードから、後のエジプト神話が生まれたのだと言われている。

 

 

 

 かくして取り残されたゼウスとイアソンやヘラクレス率いるアルゴナウタイ。

 イアソンはアルゴナウタイの皆を逃げさせ、ゼウス、ヘラクレス両名とテュポーンに挑む道を選んだ。

 

 

 テュポーンは強かった。

 

 

 巨体は星々と頭が摩するほどで、その腕は伸ばせば世界の東西の涯にも達した。

 腿から上は人間と同じであるが、腿から下は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形をしているという。

 底知れぬ力を持ち、その脚は決して疲れることがない。

 肩からは百の蛇の頭が生え、火のように輝く目を持ち、炎を吐いた。

 またあらゆる種類の声を発することができ、声を発するたびに山々が鳴動したという。

 

 

 そんな化け物に、イアソンはアイギス、アダマスの鎌、雷霆(ケラウノス)の三つの武器を駆使し、果敢に挑んだ。

 

 

 

 そしてその暁に、テュポーンは太陽を落とし、イアソンは雷霆を撃ち放つ。

 

 

 

 神話最大の怪物は神ではなく人の手によって屠られた。

 

 

 

 此処までなら人が最大最強の怪物を打ち倒すに至った輝かしい英雄譚で終わる。

 だが哀しきかな、その戦いで力を使い果たしたイアソンはその後立ったまま息を引き取ったとされる。物語の構成的におおよそ24歳程だったのだろうと思われる。

 

 

 彼の死には多くの人々が息を呑み、そして大いに悲しんだ。

 どうか永遠に彼のことを忘れぬようにとゼウス神殿の近くにはイアソンの墓兼神殿が建てられ、今も一部が世界遺産として現存している。

 

 

 

 そして彼の死後のアルゴナウタイもその多くが彼の死の数年以内に、悲惨な死を辿った。

 

 アタランテは彼の死後婚姻を迫る者が増えたのに嫌気が差し、『自分よりも速い者と結婚する』と誓いを立てて競走をしたが、終ぞ勝者は生まれなかった。

 

 彼女は愛した男以外の者との婚姻を拒み、その後神域にてカリュドーンの猪の毛皮を被って祈りを捧げた後、獣となって何処かへ去ったとされる。

 

 

 メディアは彼の死後国にいたコルキスの竜と共に何処かへ飛び去り、俗世からは離れたとされる。

 一説によると、彼女はその後アイアイエー島に赴き、キルケーの下で魔術の研鑽に励んだとされる。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 彼の唯一の欠点はやはり『女性関係』であろうか。

 最低でもメディア、アタランテの二人、さらにポルクスも女性だったので、恐らくこの辺りは落としている。

 追加でギリシャ屈指の美形らしいので、他にも幾らかは、何なら女神も誰かしら落としているかも知れない。

 

 よって一つの説として、『イアソンはゼウスの転生体説』が囁かれている。

 雷霆やアダマスの鎌、そして手は出していないが間違いなく修羅場と化しているであろう女性関係。

 

 

 どう考えてもゼウスそっくりである。

 

 

 まあ、これは直ぐに否定された。歴史に齟齬が生じる故に仕方無い。

 

 

 

 

 

―――ギリシャ神話において、最強の戦士の一角であり、また優れた王でもあったイアソン。

 

 

 

 人の身でありながら神々を驚愕させたその生き様は多くの人々に刻まれたであろう。

 やはり武力の面においては大凡頭のおかしい逸話が多いため、真偽は不明だが、それはどうあれこれを見ている諸君も常に先駆者たる彼の智慧を活かし、先の先までとは言わずとも、その先のことを考えて生きることを意識して見てほしい。

 

 

 

 そうすればきっと君たちも上の人物や周りに流されることのない『指導者』や人生の『勝者』となれるはずだ。

 

 

 

 

 





……これがこの世界のアルゴナウティカです。

イアソン「えぇ……てか風評被害酷い」


ここでテュフォンが巨人描写なのは、後世にはそう伝わっているから。メカメカしいバケモン竜種なんて居なかったんや。


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【FGO】我らが勇者王について【ガオ○イガーではない】

本文の筆が進まないので気づいたら書いてたこちらを投稿。


……今テスト真っ最中なのに何してんだろ


因みに本編とは何の繋がりもありません。色々辻褄合わせが面倒になってくるので。

追記
地味に今やってる三章の結果も混じってるのは頭に入れてくだせぇ


 

 

1:名無しのマスター 2019/1/9 18:29:00 ID:fzI7i6J6I

 

 Fate/GrandOrderに出てくる方の勇者王についてまったり語るスレです。

 

 煽り行為は禁止。ネタバレも含むので閲覧は慎重に。

 

 

 ★次スレは>>950が宣言してから立てましょう。989までに反応がなければ>>990が立てて下さい。

 スレ乱立が起こらぬよう必ず宣言しよう。

 

 

■公式サイト

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■公式お知らせ

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2:名無しのマスター 2019/1/9 18:30:02 ID:D1+bd/fbM

でも正直似たような物だと思うんだよなぁ……

 

 

3:名無しのマスター 2019/1/9 18:39:27 ID:WbBWFc0MS

>>2本家勇者王にか?まあ分からんでも無いが

 

 

4:名無しのマスター 2019/1/9 18:42:18 ID:OaPoQtge6

とにかく主人公オーラが凄いのと、一人だけ世界観が全然違う

 

 

 

5:名無しのマスター 2019/1/9 18:44:57 ID:aahnZL4gG

アイギスは仮面ライダーだしアルゴー号はまさかのガンダムとかに出そうな宇宙戦艦だしで草生え散らかしたよ。

 

 

まあソレの何倍もヤベー設定が同時に出たせいで納得しざるを得なかったんだが

 

 

6:名無しのマスター 2019/1/9 18:53:59 ID:QJmK6+mN6

 

>>5『オリュンポス十二神』✕

 『オリュンポス十二機神』○

 

どうしてこうなった

 

 

 

7:名無しのマスター 2019/1/9 19:02:56 ID:QUz9IQxZn

でも菌糸類曰く、EXTRAの頃にはこの設定自体は定まってたらしいけどな

 

因みに十二体合体も出来るそうな

 

 

8:名無しのマスター 2019/1/9 19:04:12 ID:AK8b8Bl3H

>>7一体何処のスーパーなロボット対戦なんですかねぇ……

 

 

9:名無しのマスター 2019/1/9 19:11:03 ID:To4q9O3oi

知らんな

 

でもやっぱり初出の三章(オケアノス)は途端に不穏な雰囲気になって驚いた

 

話の途中にワイバーンが出てこなかったし

 

 

10:名無しのマスター 2019/1/9 19:12:14 ID:xcGktS8Lp

>>9ソレをいじるのは止めて差し上げろ

 

封鎖終局四海→封鎖終局‘‘神域’’

 

人理定礎値 A→‘‘EX’’

 

なおこんな感じで章初めにに露骨にヤベーオーラを出しすぎたせいでこの後の章の一部ボス格が何か物足りなく感じてしまうのは言わないお約束

 

 

 

11:名無しのマスター 2019/1/9 19:20:19 ID:A3dNbYcwx

でも言うてワイ等(ぐだーず)は何もしてなかったのは言わないお約束

 

 

12:名無しのマスター 2019/1/9 19:29:16 ID:FZgFk7zTz

終盤は最早オリオンやヘラクレス、イアソンメインのギリシャ鯖しか息してなかったようなモンだからな……

 

まあ敵が最高神の次に強い海神だったから納得と言えば納得なのだが

 

 

13:名無しのマスター 2019/1/9 19:33:50 ID:U6Ejjhn4R

流石に前半のぐだはまだまだ発展途上だからな

 

ソレまで見抜いて役割配分したならビビるくらいにイアソンが有能としか言いようが無いが

 

 

14:名無しのマスター 2019/1/9 19:38:41 ID:UYI5e2HTD

>>13マスターの顔を立てつつ他のサーヴァントを取り纏めてこっちのケツも叩いてくれるかなりありがたいサーヴァントだぞ

 

古代出身とは思えないレベルでこっちの常識に合わせてくれる程度の度量もあるしな

 

 

15:名無しのマスター 2019/1/9 19:47:54 ID:3Tw2dickg

アレ仮にポセイドンとぐだが戦闘になってたらどれくらいの難易度だったんやろな

 

 

16:名無しのマスター 2019/1/9 19:49:47 ID:t01yv1Da4

>>15獅子王以上の神霊クラスだろうから決戦ティアマト程度の強さはあったんじゃないの?

 

 

17:名無しのマスター 2019/1/9 19:53:10 ID:+4wNMGnw4

当時のレベルから見たら化け物レベルで草

 

それを割と簡単に消し飛ばしたイアソンも草

 

 

18:名無しのマスター 2019/1/9 19:59:34 ID:5s0cVzm70

最高神の一撃でもある対界宝具でしょ?

 

英雄王のエアとかと同レベルならまあ納得の強さな気がするけどな

 

 

19:名無しのマスター 2019/1/9 20:07:53 ID:Ig8+IjR1G

>>18強いて言えばマジモンの権能らしいから自傷ダメージがイカれてるくらいか

 

 

20:名無しのマスター 2019/1/9 20:15:13 ID:QSPLZRd0s

まあ原典でもそんな感じで死んでるし、本人が謎の忍耐力で耐えてるから特に問題は無さそう

 

 

21:名無しのマスター 2019/1/9 20:17:07 ID:Wlef6z/WG

あの、最近FGOを始めたばかりの初心者なんですが、そんなにイアソンって凄いんですか?

 

ストーリーも余り進めてないから全然何も知らなくて……

 

 

22:名無しのマスター 2019/1/9 20:24:06 ID:QZ1v06/EL

>>21お、なら軽くネタバレもあるかもしれんが一度我らが船長勇者王について纏めるか

 

 

23:名無しのマスター 2019/1/9 20:33:31 ID:Ckqo20a8R

>>21結論から行ってしまえばAUOとかカルナとかヘラクレスに並ぶチート鯖。

 

軽く纏めても、

 

 

・亜種カリスマA++なのでカリスマ性理論値最強。

・基本七クラス全ての適性が(一応)ある。

・宝具の効果で、アルゴナウタイの召喚+宝具ジャイアニズムとかいう王の軍勢の上位互換みたいなことが出来る(しかも喚ぶのがヘラクレスとかの有名どころばかり)

・射殺す百頭が素で使える程度には自分自身も強い

・切り札ことゼウスの雷(相手は死ぬ)

・トドメの宇☆宙☆戦☆艦

 

まさにぼくのかんがえたさいきょうのサーヴァント

 

 

24:名無しのマスター 2019/1/9 20:35:59 ID:JWbfYEWyE

>>23いや最後草

 

 

25:名無しのマスター 2019/1/9 20:36:50 ID:O3xuoCHD/

でもこういうのが好きなんでしょ?

 

 

26:名無しのマスター 2019/1/9 20:42:36 ID:8ca8CkJpf

実際に出てきた時は盛り上がり凄かったな

 

 

 

27:名無しのマスター 2019/1/9 20:51:47 ID:ZkUNiNRYA

>>26こんな超戦艦なら誰だって喜んで乗組員になるわっていう説得力に溢れてた

 

 

28:名無しのマスター 2019/1/9 20:57:19 ID:26YcdCDlh

アルゴー号乗ってみてぇって皆言ってた

俺も言ってた

 

 

29:名無しのマスター 2019/1/9 21:04:11 ID:OCMoCg7lq

きっとここから変形合体してくれるんだよ

 

 

30:名無しのマスター 2019/1/9 21:07:59 ID:Ov12cfAdh

>>29星座のアレ的に分離した後に両手足と背部スラスターになってそう

 

 

31:名無しのマスター 2019/1/9 21:10:22 ID:lVg+eBnsu

一体何処の何ガイガーなんですかねぇ……

 

 

 

32:名無しのマスター 2019/1/9 21:17:11 ID:4CavHnJx2

何かここまで来たらトロイの木馬とかも変形したりするんじゃないかな

 

 

33:名無しのマスター 2019/1/9 21:26:20 ID:uvjdKEN4+

>>32いやいや流石に………いや普通に有りそうなんだが

 

 

34:名無しのマスター 2019/1/9 21:30:45 ID:h+uo2FXg5

>>23を見たワイの反応

 

 

・普通に素が強い (・А・` )マアマア……

 

・射殺す百頭使用可 (・А・` )…イヤ、マアマア……

 

・神造兵装を複数装備 (・・∂) アレ?雲行きが……

 

・王の軍勢上位互換 (つд⊂)ゴシゴシ…(゜д゜; )……

 

・アイギスは仮面ライダー (゜д゜)……

 

・アルゴー号は宇宙戦艦 (゜д゜)……

 

 

 

35:名無しのマスター 2019/1/9 21:36:45 ID:juoNrzzuP

( ゚д゚)

 

 

36:名無しのマスター 2019/1/9 21:38:26 ID:Fiw7XJqPg

( ゚д゚)

 

 

37:名無しのマスター 2019/1/9 21:43:53 ID:rFcTEOfPT

( ゚д゚)

 

 

 

38:名無しのマスター 2019/1/9 21:45:33 ID:QVDZccW+L

( ゚д゚ )

 

 

39:名無しのマスター 2019/1/9 21:52:24 ID:dd7cWJM0A

>>38いやこっち見んなやww

 

 

40:名無しのマスター 2019/1/9 22:01:27 ID:czEKV/wHw

何だこの流れ

 

 

41:名無しのマスター 2019/1/9 22:03:38 ID:nRKtQeRaC

>>23とりま話を戻すか

 

あと一つ重要な事を忘れているぞ

 

 

 

 

42:名無しのマスター 2019/1/9 22:10:06 ID:qm/IeM76A

>>41何を?

 

 

43:名無しのマスター 2019/1/9 22:17:25 ID:R49oikGc1

>>42それは…………

 

 

 石 を く れ る こ と だ(最重要項目)

 

 

 

 

44:名無しのマスター 2019/1/9 22:23:07 ID:sfguMQWxU

>>43そうだった……忘れてた……

 

 

45:名無しのマスター 2019/1/9 22:25:17 ID:SktZb/d/X

俺はあの瞬間にブリテンの民からアルゴノーツになるって誓ったんだ………

 

 

46:名無しのマスター 2019/1/9 22:27:51 ID:dfH1vUt6F

>>45いや草

 

でも石を三十個もくれたらそれはもう正義なんだ

 

 

47:名無しのマスター 2019/1/9 22:32:59 ID:FWCrpUYMK

唯一ストーリー上でシステムのメタとか気にせずに石をくれた人(聖杯とかならば他にも何人かいるが)

 

 

48:名無しのマスター 2019/1/9 22:40:22 ID:qOPmA5mLv

でも呼べっていって石を渡したときに実装されてないのほんま草なんだ

 

呼びたいけど呼べないのよ………

 

 

49:名無しのマスター 2019/1/9 22:42:44 ID:zF9Io5JTz

ちょっと前に漸く実装されたよな

 

二部五章で再登場ワンチャン?

 

 

50:名無しのマスター 2019/1/9 22:50:43 ID:GKxPEgEo7

一応性能のリンク貼っとくぞ【URL】

それにしてもやっぱり優遇されてんなこいつ

 

 

51:名無しのマスター 2019/1/9 22:59:11 ID:FwmouIvf6

ちょっととりまもう一回ステ見て来るわ

 

 

52:名無しのマスター 2019/1/9 23:03:46 ID:UGEni8MkX

>>51行ってら

 

 

 

 


 

 

 イアソン

 

【レア度】 星5ライダー

 

【カード構成】 BBAAQ/宝具A

 

【HP / ATK】 13830 / 11287(Lv最大時)

 

 

 スキル1『友と征く遥かなる海路A++』

 

 効果「味方全体の攻撃力アップ&味方全体の宝具威力をアップ(20%)&味方全体の[アルゴー号ゆかりの者]のNPを増やす(30%)&クリティカル威力をアップ&スター発生率をアップ」

 

 スキル2『神体結界A』

 

 効果「自身に無敵状態を付与(2回・3ターン)&強化解除耐性をアップ(1回)&ガッツ(3000回復)を付与(1回・4ターン)」

 

 

 スキル3 『搔き抉る時の大鎌A+++』

 

 効果「自身のアーツ性能をアップ(30%・3ターン)&カード性能アップブースト状態を付与(1.5倍・2ターン)&HPを1500減少(デメリット)&毎ターン終了時にHP減少(3000)状態を付与(2ターン・デメリット&強化扱い)」

 

 

【宝具】

其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)

 全体Arts宝具 単体4hit

 

効果「自身に無敵貫通状態を付与(一ターン)&敵全体のArts耐性をダウン(OC効果上昇)&敵全体に強力な【天の力】と【地の力】特攻攻撃(Lv1)」

 

 

 


 

 

53:名無しのマスター 2019/1/9 23:11:51 ID:JRJ4MKYZ8

やっぱ今スカディのお陰でQ時代なのにお前ヤバイよ……

 

 

54:名無しのマスター 2019/1/9 23:14:48 ID:ygmzTZQgf

凸カレスコがあればこいつでもArtsのシステム行けるからな

 

玉藻と嫁ネロとパラP揃わないと全補正値行けんけど

 

 

55:名無しのマスター 2019/1/9 23:16:38 ID:40vhlFX4t

アーツ版スカディが出た瞬間に化けそう

 

 

56:名無しのマスター 2019/1/9 23:23:03 ID:Le5eDm8+w

てか第一スキルのアルゴノーツ判定本人が「お前もアルゴノーツだ!」したら増えるんかな

 

 

57:名無しのマスター 2019/1/9 23:25:58 ID:wHGPbP6EE

>>56増えるんじゃね?本人のノリ的に

 

 

58:名無しのマスター 2019/1/9 23:28:29 ID:k44Do7Fes

何それ面白そう

 

 

59:名無しのマスター 2019/1/9 23:36:00 ID:OVynuCUvq

てか第三スキルの癖強いけどどう使えば周回以外で使えるんだこれ

 

 

60:名無しのマスター 2019/1/9 23:37:46 ID:U1gDg+j3+

>>59そこにメディアリリィがおるじゃろ?

 

 

 

 

『以下雑談が続く』

 




きっとこの世界の2019年正月鯖は紅閻魔と李書文とイアソンの同時PUになっている()


【世界観】勇者王のイアソンが存在する世界線が原作であるFGOが配信されてる世界のスレ……といった感じ。
 勿論ここの現実の神話もあの怪文書(アルゴナウティカ)から型月要素(SFや女体化)を取り除いただけの物になってるので、誰もこの状況に違和感を抱かない。


掲示板とか小説でしか見たことないんでイメージと違っても許してね(ボソッ


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Apocrypha編
Prologue/外典にて降臨する勇者の王




(多分)続きません。


12/26、後書きと本文に加筆。


 

 

 深夜一時の過ぎたルーマニア・トゥリファスの城塞。

 

 その中でもまるで貴族が住んでいるかのような印象を与える洋館の大広間にて、数多くの人に見守られながら、

 

 

―――彼女、フィオレ・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは緊張状態になりながらもとある儀式を行おうとしていた。

 

 生まれてから変質して、動かぬ足の代わりとなる車椅子を操る手にも力を入れ、魔法陣の近くへと進んでゆく。

 

 

 

 

 これから彼女が行なわんとするのは、自身と一族の未来を決する魔術協会との一大決戦―――聖杯大戦だ。

 

 

 元々、今から六十年前までの三度に渡って冬木で行われていた本来の聖杯戦争は、7騎の英霊による殺し合いだった。

 

 

 今回も例に漏れず、7騎による殺し合いを身内のみで(・・・・・)行う予定だったのだが、魔術協会の魔術師達の決死の介入により、大聖杯の予備システムが起動した。

 

 

 

 

 

 

 ―――集結するのは本来の二倍、十四騎の英霊たち。

 

 

 魔術協会から大聖杯と共に独立を宣言した一族ユグドミレニアと、それを追う魔術協会。

 

 各々が、『黒の陣営』と『赤の陣営』に分かれ、各クラス七騎の英霊……サーヴァントを使役し、相対する七騎のサーヴァントを殲滅する。

 

 古今東西に名を馳せた一騎当千、万夫不当の英雄達がここルーマニアに集い、かつてない規模で行われる『戦争』。

 

 それが、聖杯大戦だ。

 

 

 フィオレ達ユグドミレニア一族は、この戦いに一族の将来すべてを託している。

 

 

 

 

 もし敗れることが有れば、死に、一族は滅亡する。

 

 

 

 令呪が宿った以上、後戻りすることも出来ない。

 

 

 

「ねえねえ、君が喚ぶのはアーチャーだよね!……一体誰を喚ぶのかな!」

 

 

 元気にフィオレに話しかけるこの天真爛漫を体現したかのような桃髪の少女……?である『黒のライダー』は直前に喚ばれたサーヴァントの一騎だ。

 

 周りを見ればつい先程召喚された、『黒のセイバー』と『黒のバーサーカー』の姿と、事前召喚されていた『黒のキャスター』の姿が各々のマスターの近くに見える。

 そしてこの陣営の絶対の「王」、『黒のランサー』が今も玉座にてフィオレを見下ろしていた。

 

 

 そう、此度の召喚者はフィオレのみ。

 その理由は彼女の使用する触媒にあった。

 

 

―――今日の時点で、『黒』の陣営には残り五つの召喚枠がある。

 この日、その召喚枠のうち四つを一斉召喚によって埋めてしまおうとユグドミレニアの当主、『ダーニック・プレストーン・ユグドミレニア』は考えたのだ。

 

 

 

「これが私の使う触媒ですよ、黒のライダー。」

「へー、見せて見せて!!………これって、何かの破片かな?一体誰が来るんだろ……」

「かのギリシャ神話に語られる大英雄イアソンの船、『アルゴー号』。……その破片ですよ。」

 

 

 フィオレが包み紙を解いて見せた触媒に対し、理性が蒸発している黒のライダーは相変わらず興味津々だが、その触媒の正体を今知ったダーニック以外の魔術師とサーヴァント達は驚き、瞠目した。

 

 

 

―――アルゴー号。ギリシャ神話において最強の英雄であるイアソン、その彼が金羊の皮を求めて結成した英雄船団アルゴノーツ。

 『アルゴー号の冒険』から始まり、カリュドン狩りや神話最大の対戦の一つである『ギガントマキア』など、その活躍は留まるところを知らない。

 

 

 そんなアルゴノーツに縁の深いアルゴー号の破片。それによって喚ばれる英雄はランダムだ。

 各々が一級の英霊ではあるものの、彼らは当然クラスが違う。フィオレが狙うのは弓兵、アーチャーだ。

 

 

 アルゴノーツの弓兵には、最強の一角ヘラクレス、アタランテ等を始めとした世界最高峰のアーチャーが揃っている。

 賢者ケイローンあたりが喚べたら安牌だったのだが、生憎彼は『神霊』であるので召喚不可なのは確認済みだ。

 

 

 そして彼らを確実に召喚するために、万が一彼らがアーチャー以外のクラスで現界したリスクを考え、ダーニックが彼女のみ召喚時間を僅かにずらしたのだ。

 

 

 フィオレは一瞬、召喚が成功するかの不安感から手の甲に浮き出た『令呪』を見つめる。

 これこそがこの対戦への片道切符。サーヴァントを現代の人が使役するための三回限りの絶対的な命令権。

 

 

「フィオレ、触媒を祭壇に。」

 

 

 ダーニックの指示にフィオレは頷き、膝に置いていた船の破片を祭壇に置く。

 狙うはアーチャーのクラス只一つ。

 

 生贄の血液、水銀、溶解させた宝石などをもって描かれた魔法陣がフィオレの魔力を通し光り輝く。その魔法陣は消去の中に退去、退去の陣を四つ刻んで召喚の陣で囲んだもの。

 

 周囲のざわめきは消え、黒のライダーを含んだ誰しもの緊張が高まり、当事者たるフィオレはまるで心臓が喉から飛び出しているのではと錯覚するほどに心音が鳴り響いていた。

 

 

「―――素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。」

 

 

 魔力は全身を循環し、魔術回路が備わっている両足をも通り、その苦痛に僅かに顔を歪める。

 

 

「手向ける色は“黒”。」

 

 

 それはユグドミレニアに所属することを示す言葉。これによって喚ばれたサーヴァントは‘‘黒’’のサーヴァントとして召喚される。

 

 

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。」

 

 

 次第に魔力が高まり、魔法陣からは極大の神秘を宿した暴風が吹き荒れる。

 中断は許されない。フィオレは集中力を高め、詠唱を続ける。

 

 

「――――――告げる。

 

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者。

 

 汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 瞬間、一際強い風と目が潰れんばかりの閃光が儀式場全体を覆う。降霊科の魔術師として一流だったフィオレだがここまでの規模の降霊術、大魔術を扱うのは初めてだ。

 

 そしてそれは他のマスターも同じ、自分達の召喚とは比べ物にならない光。

 かの伝説に相応しい超級サーヴァントが喚ばれたのだろう。

 

 

 

 

 そして、風と光が止み、目を開けた彼女らの前に立っていたのは………

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「―――問おう、貴様が俺のマスターか?」

 

 

 そこに立っていたのは全身に金と黒と緑を基調とした鎧と思わしき物を纏った青年だった。頭部の鎧の瞳の部分が淡い翠緑の光を発している。

 心做しか声にもノイズが走っているようにも感じ、古代の物とは思えないその見た目から何処か近未来感がある。

 

 

 少なくともヘラクレスやアタランテでは無いだろう。

 

 

 しかしフィオレの脳内で沸き上がる感情は、失望でも落胆でもなく、畏怖だった。

 それはその身体から迸る魔力が桁違いだった為か、もしくは今すぐにでもひれ伏したくなるような圧倒的な威風を纏っていたからか。

 

 

 気がつけば自然と頭を下げようとしていた。真名も分からない正体不明のサーヴァントに対して。

 

 が、途中で正気に戻ったフィオレは直ぐに姿勢を正し、必然的に見上げる形になってしまうが、それでもしっかりと意志の籠った瞳で眼の前のサーヴァントを見る。

 

 

「はい、私が貴方のマスター、フィオレ・フォルウェッジ・ユグドミレニアです。……ところで、貴方のクラスは一体…?」

「……不本意だがアーチャーだ。では宜しく、マスター。」

「ええ、宜しくお願いします。アーチャー。」

 

 

 最初に不安から思わずクラスを聞いてしまい、やってしまったと思ったフィオレだったが、眼の前の人物が気分を害した様子は無い。

 不本意という言葉には不安を覚えるが、とりあえず真名を把握すればそれも分かるだろう。

 

 

 そう考えながら二人は握手を交わす。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「…召喚された皆で自己紹介しようよ!ほら、今は味方じゃない?だったらさ!―――いっそ真名を名乗り合った方が効率が良いと思わない?」

 

 

 数分後、落ち着いた各マスターは解散しようとする流れだったが、黒のライダーの言により、皆の自己紹介が決まる……前に―――

 

「ボクの名前はアストルフォ!シャルルマーニュ十二勇士が一人で、クラスはライダー!よろしくね!」

 

 

 と、勝手に自己紹介を始めたことによって「やるか……」みたいな雰囲気が生まれた。

 理性が蒸発してるからね。仕方ないね。

 

 

 

 そしてアストルフォはアーチャー……ではなくセイバーに駆け寄り真名を尋ねるが、マスターのゴルド・ムジークが、

 

「真名の露呈は致命的だ」

 

 

 と断じて、セイバーの発言を禁じたが為に彼の真名が明かされることは無かった。

 

 その次は、バーサーカーに真名を尋ねるが、狂化によって言語能力をバーサーカーは失っていた。

 其処で、アストルフォはマスターのカウレス・フォルウェッジ・ユグドミレニアに真名を尋ね、バーサーカーの真名は『フランケンシュタインの怪物』だと判明した。

 

 

 

「最後に―――キミの真名は?あと折角だから鎧も外してみてよ!」

 

 

 そして最後のお楽しみと言わんばかりに、アストルフォは先程召喚された謎の英霊―――アーチャーに擦り寄る。

 

 彼はフィオレに対して『いいのか』という意志の籠った視線を向け、フィオレは頷く。

 

 

 この儀式場に居る全員の視線がアーチャーに集まり、静寂がその場を支配する。

 

 

 マスターの承認を得たアーチャーは己の正体を明かす。なにせ『アルゴー号の破片』という最高峰の英雄しか喚ばれない触媒から喚ばれた英雄だ。

 気にならない筈が無い。

 

 

「俺の名は―――」

 

 

 透き通るような男性の声。鎧に付けられていたノイズは解除され、美しい彼の声が響き渡る。

 瞬間、鎧が機械的な音を立てて解除され、遂にその顔が顕になって―――辺りは、驚愕に包まれた。

 

 

 本当に同じ人間かと錯覚するほどの整った顔立ち。照明の光を反射して赫く金糸のような髪。鎧と同じ翠緑の瞳。

 

 鎧の下は古代の軽装で身を包んであり、鎧に付いていた背中の光を感じさせない漆黒のマントが異彩を放っている。

 

 鎧を付けていた時は何処か近未来感のある戦士という印象だったが、今は何処か聖闘士めいた雰囲気を感じさせる。

 

 

 何より、その身から溢れる圧倒的なまでの王の風格。

 それを間近で感じたフィオレは彼の真名を理解する。

 

 

「―――アーチャー、イアソンだ。……弓兵なんて柄では無いが、まあ宜しく頼む。」

「おお!!かの大英雄イアソンに会えるなんて光栄だよッ‼宜しく、イアソン!!」

 

 イエーイ!とハイタッチをしている二人は気づいていないが、他のマスターは気が気では無かった。

 

 

「馬鹿なッ…!イアソンだと……!?」

 

 

 そう行ってゴルドがイアソンのステータスを視て―――再び驚愕した。その反応に興味を持ったダーニックを始めとする各マスターもイアソンのステータスを視る。

 

 

 

【ステータス】

 

 筋力:B

 耐久:B+

 敏捷:A+

 魔力:A

 幸運:A+

 宝具:EX

 

 

 

 

 

―――アーチャーって何だっけ。

 

 

 そう考えさせられるほどの高スペックぶりに、一同は舌を巻いた。全ステータスがB、Aランクで構成され、評価規格外の宝具をも持っているなぞ反則ではないか。

 

 

 ゴルドは最強だと思っていたセイバーをも上回るそのステータスを視て、歯噛みする。

 己の自尊心のために最優のセイバーを喚んだのに、これでは意味がないではないかと。

 

 

 

「―――さあ、マスター。もう一度聞こう、俺と共に戦う意志はあるか?」

 

 

 畏怖の視線を周りから向けられながらも、イアソンは堂々と歩き、フィオレに手を差し伸べる。

 覚悟があるならばこの手を取れと。

 

 

 

 が、既にフィオレの心は決まっている。

 叶えたい願いがあるのだ。

 

 自身が喚んだ眼の前の英雄イアソン。その圧倒的な覇気に当てられて頭を下げそうになるが、彼女は自らの意思のもとイアソンの手を取った。

 

 

「―――宜しくお願いします。アーチャー。」

 

 

 

 

 ―――此処に、聖杯大戦最強のサーヴァントとの契約関係が成立した。

 

 

 


 

 

 

 ―――‘‘黒’’並びに‘‘赤’’。両陣営のサーヴァント七騎の召喚を確認。

 

 ―――此度の聖杯戦争は、非常に特殊な形式であり、結果が未知数なため、聖杯戦争を管理する裁定者が必要と判断。

 

 

 

 

 

 ────検索開始(サーチかいし)

 

 

 

 ────、────

 

 

 

 ────検索終了(サーチしゅうりょう)

 

 

 

 ────一件一致。

 

 

 

 ────体格適合。

 

 

 

 ────霊格適合。

 

 

 

 ────血統適合。

 

 

 

 ────人格適合。

 

 

 

 ────魔力適合。

 

 

 

◆◆

 

 

◆◆◆ 

 

 

 

 

 ────元人格の同意獲得。

 

 

 

 ────霊格挿入開始(インストールかいし)

 

 

 

 ────霊格挿入完了。体格と霊格の適合作業開始。

 

 

 

 ────クラス別能力付与。スキル『真名看破』『神明裁決』。

 

 

 

 ────全英霊の情報及び、聖杯による現代までの必要情報挿入開始。

 

 

 

 ────クラス別能力付与終了。クラス別スキル『聖人』……聖骸布の作製を選択。

 

 

 

 ────適合作業終了。

 

 

 

 ────必要情報挿入完了。

 

 

 

 ────適合作業終了。

 

 

 

 ────全工程完了。

 

 

 

 

 

 

 

 ────サーヴァント、『調停者(ルーラー)』。現界完了。

 

 

 

 

 

 

 

 此処に集うは十五の英霊。七騎と七騎、そしてソレを統括する一騎の調停者。

 それ等が争い、繰り広げられる外典(apocrypha)

 

 

 ──────さあ、聖杯大戦を始めよう。

 

 

 





……こんな感じで召喚されて、なんやかんやイアソンが色々ボコった後にGOに行ったんだな〜くらいの認識でオッケーです。


 何故アーチャーかと言うと、この世界ではケイローン先生、死んでおりません。
 ヒュドラの矢を気合いで躱して、普通に不死身のまま神霊の座に行きました。
 なので代打でイアソンがブチ込まれることに。




あと他のステはこんな感じ。

【クラススキル】

 対魔力:A
 単独行動:B+

【所持スキル】

 カリスマ:A
 軍略:B
 戦闘続行:B+
 神授の叡智:A+
 金羊の皮:EX
 頑健(偽):B
 魔力放出(雷):A
 直感:A+


【宝具】

・『神体結界(アイギス)

・『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)

・『掻き抉る時の大鎌(アダマント)

・『其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)

アイギス装着時のイアソンのイメージはオデュッセウスの第二再臨の姿をイアソン(セイバー)の色合いにした感じです。


 -追記-

このイアソンが他のサーヴァントと戦ったらどうなるかを考えてみた。


 ‘‘赤’’のセイバー戦。アダマントさえ使えれば基本的に勝確。但しマルミアドワーズで戦って地雷を踏んだり、GOライオンとの連携には警戒が必要。

 ‘‘黒’’のランサー戦。ルーマニアで戦っても十分に勝てる。杭ではアイギスの防御力を突破不可。……唯一の負け筋は吸血鬼化だが、本人からすることは有り得ないのでなし。

 ‘‘黒’’のセイバー戦。Aランク以上の攻撃は無数にあるので、防御力は気にならない。バルムンクの真名開放には警戒が必要だが、マスターの力量差と、上位互換のようなものであるマルミアドワーズの力で押し切れる。

 ‘‘黒’’のキャスター戦。アダムが厄介だが、固有結界という性質上、未完成ならば雷霆で倒せるので問題ない。

 ‘‘赤’’のアーチャー戦。本人たちの心情的に先ず有り得ない対戦だが、仮に戦うならその速力で如何に距離を取って戦うかとなる。……尤も、魔力放出やアイギス込みの全力ならばイアソンの方が若干速いのでかなり厳しいが。

 ‘‘赤’’のアサシン戦。雷霆orマルミアドワーズを遠距離ブッパで勝利。耐粛清防御を持たない要塞なんてバ火力の的でしかない。


 ‘‘赤’’のライダー戦。対戦カードの大本命。最高速度のアキレウスの速度にも一応ついては行けるが、少し厳しい。伝承補正のある『輝かしき終天の一矢(トロイア・ヴェロス)』で踵を無理矢理射抜いてからの撃破が理想的だが多分避けられるので無理。『宙駆ける槍の穂先』を使われたら厄介だがギリギリ勝てると思われる。まあ踵を射抜かなくても倒せるので『其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)』で倒すと思われる。

 ‘‘赤’’のランサー戦。素の技量が化け物かつ、遠距離攻撃も強いので、最大の強敵。フル装備で戦って五分といった所で、シャクティをケラウノスで防ぎ、どうにかして倒すのが安定。でも鎧の防御自体はアダマントでどうにでもなるので、無理矢理霊核をアダマントで破壊すれば勝てなくもない。





Apocryphaはマジでこれ以降のプロットがマジで微塵も定まって無いんで勘弁してください。


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GrandOrder編 AD.1587 封鎖終局神域オケアノス
第一幕/船乗りは大抵チート


五千文字行ってないけど投稿。


オケアノスからやってくよ〜。……別に最初からが面倒だったからじゃない。うん。


 

 

 

────────王の話をするとしよう。

 

 

 とある船にて英雄達を纏め上げ、数々の冒険を繰り広げて王となった者。

 最終的には世界の危機をも救った、『勇者』であり『王』であった男の話を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男が現在いる所が、海流さえも曖昧な海の真っ只中だと気がついたのは果たしていつ頃だったのか。

 

 

 船内を見渡して見ても、嘗ての仲間たちどころか己を召喚したはずのマスターの姿さえも無い。

 挙げ句の果てには周囲には島さえも存在しない。此処が太平洋のど真ん中だとでも言うのか。

 

 

 近未来感のある鎧に身を包んだ青年は、そんな異常な召喚と、周囲の状況について行けず……はて、と首を傾げるのみであった。

 

 

「―――どこ此処。海の海流とか色々おかしいし、……え何、もしかして俺の座滅んだ?」

 

 

 そう見当違いの感想を述べながらも、男は辺りの情報収集を続ける。

 しかし当然、男の疑問に答える者は居なかった。

 

 

 当然である。

 その場所は七つの特異点が一つ、第三特異点。

 幾多の海賊が財宝を求めた時代、西暦1573年の大海原。

 

 

 ―――魔■王:■■■■(■■■◼■)が現在進行系で行っている人理焼却。

 又の名を、逆行運河 / 創世光年。

 

 ソレの息の掛かった聖杯により発生した特異点であるこの海は四方を閉ざされ、更に様々な時代、地域の海が封じ込まれているため、正確な地理情報が不明となる。

 彼が此処、オケアノスの海流を異常だと感じたのはそのためであった。

 

 

『……成る程、遂にFGOか。てか何で俺はボッチなんだよ、誰か来いよ。』

 

 

 脳内の奥底に薄っすらと残っていた記憶を引っ張り出す。

 ……が、其処の記憶とは些か状況が異なっている気がした。

 

 

「確か最後に俺がアゾられたんだよな……うん。」

 

 

 正確には違うのだが、正しい情報を思い出す必要は無い。

 知らぬが仏、というヤツである。

 

 

 ……まあ、この海における本来の『彼』の経歴は見ている側としても、本人からしても碌な物じゃ無いので仕方無い。

 

 

 

 取り敢えず原状の詳しい把握の為に、神体結界(アイギス)のバーニアを吹かせ、上空からこの世界を俯瞰する。

 ―――そして、本来ならばこの海に存在しない筈であろうモノを発見する。

 

 

「巨大な渦、か…。あんなの有ったか……?」

 

 

 そうして彼が眺める先―――この海の中心部には、直径数百メートルはあるだろう渦が出来ていた。

 あれ程の大きさであれば、海の下の地面が見えるのでは無いだろうか。

 

 

 今、彼は(エネミー)としてではなく中立(はぐれ)のサーヴァントとして召喚されている。

 それにはきっと何か意味がある筈。

 

 

 だが船に必要不可欠とも言っても良いアルゴノーツの皆を呼ぼうにも、魔力が足りない。

 ならば何処かで調達する必要が出てくる。

 そしてイアソンは考えた。

 

 

魔力(AP)が無いのなら石を砕けばいいじゃない』

 

 

 ────さらば、嘗ての俺の諭吉。

 そんな重度の課金兵(マスター)の思考で、イアソンはアルゴー船を渦とは逆方向に向け、進み始める。

 本来の目的から逸れて探し求めるのは只一つ。

 

 

 

「いざ、虹林檎(聖晶石)探しの旅へ―――ッッッ!!」

 

 

 そう宣言する男の前には複数の海賊ゾンビが乗る海賊船。

 ソレが総勢六船もの編隊を組んでアルゴー号の前に立ちはだかっていた。

 

 

『あぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!』

 

 

 雄叫びを上げながらも彼らは拙い連携で、大砲を放つ。

 が、当然ソレがアルゴーに着弾することはなく、イアソンが無造作に放った雷霆により消し飛ばされる。

 

 

「―――はあ、面倒な。……取り敢えず石よこせ。」

 

 

 そんな893ばりの発言をしながらも、彼は虚空から一振りの鎌を取り出した。

 まるで芸術品のような美しさを持つ金剛の鎌、ソレを右手に持ち、イアソンは海賊船の一つに向けて横薙ぎに振り払う。

 ―――瞬間、眼の前の船の一つが横一線真っ二つに斬り裂かれ、搭乗していた海賊ごと沈んで行った。

 

 

 

「―――魔力を使い果して消えましたじゃあ格好つかないからな。一瞬で終わらせて貰う。」

『―――』

 

 

 もしもこの海賊達に理性があったのならば、間違いなくこう考えているだろう。

 ―――喧嘩売る相手間違えた、と。

 当然、その後の決着がつくまでに一分も掛からなかった。

 

 

 

 

 ―――此処に、敵エネミーを殺戮して回るフリクエの猛者(石回収ガチ勢)が生まれたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

「……このくらい有れば良いだろ」

『(案外集まるな。結構そこら辺に生成されてる。)』

 

 

 そういう男の足元にはおよそ二十程の魔力が籠った虹色に輝く石が転がっていた。勿論全て聖晶石である。

 この男、取り敢えず海賊達を蹂躙しながら周辺をひたすら探索した後にとある群島に辿り着き、そこを歩き回ってコレを集めたのだ。

 その時の光景はまさに一流のごみ清掃員の様。

 

 

 そして石の内の一つを手に取り、砕く。

 パリン、と音を立てて割れた石からはおよそ令呪三角分にも匹敵する内包されていた魔力を余すことなく自身の霊基に宿し、宝具を起動する。

 

 

「宝具起動―――」

 

 

 それは彼の人生の具現。

 数多くの英雄達を纏めた証にして、絆の結晶。

 

 

「―――集え!!我らアルゴノーツ!

―――『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』」

 

 そのクラスのイアソンが使用した場合の能力は只一つ、「アルゴー号の救援」にして、嘗ての乗組員たちの搭乗。

 アルゴノーツは英霊となって尚、旗頭である船長の呼び声に呼応して馳せ参じる。

 そして空間に波紋が広がり、其処から現れたのは――

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

AD.1573/封鎖終局神域(・・)オケアノス

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

―――人理継続保障機関『フィニス・カルデア』。

 

 今や神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった。

 我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。

 人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理―――即ち、人類の航海図。

 

 

 これを魔術世界では『人理』と呼ぶ。

 

 

 そして2015年の現代。

 輝かしい成果は続き、人理継続保障機関「カルデア」により人類史は最低でも100年先までの安全を保証されていたはずだった。

 しかし、近未来観測レンズ「シバ」によって人類は2017年で滅び行く事が証明されてしまった。

 

 

 何の前触れもなく、何が原因かも分からず。

 

 

 カルデアの研究者が困惑する中、「シバ」によって西暦2004年日本のとある地方都市に今まではなかった、「観測できない領域」が観測された。

 

 

 これを『特異点F』と呼称。

 

 

 人類絶滅の原因と仮定したカルデアは人類絶滅を防ぐため、実験の最中だった過去への時間旅行の決行に踏み切る。

 それは術者を過去に送り込み、過去の事象に介入することで時空の特異点を探し出し、解明・破壊する禁断の儀式。

 

 

 

 

 その儀式の名は『聖杯探索(グランドオーダー)』。

 

 

 

 未来を取り戻すための冒険は、様々な偶然が絡み合い、数合わせとして一般枠で呼ばれた魔術経験すらない素人である彼女、『藤丸立香(ふじまるりつか)』と、メイン・サーヴァントの『マシュ・キリエライト』に託された。

 

 

 

 これまで、彼らは崩壊した歴史の数々を修整してきた。

 

 

 冬木を始め、フランスのオルレアン、ローマのセプテムと、既に三つの特異点の人理定礎を修復してきた。

 

 

 今回の舞台はオケアノス。

 

 

 

 

 

 そして捜し求める聖杯は―――眼の前にあった。

 

 

 

 持ち主の名はフランシス・ドレイク。

 世界一周を生きたまま成し遂げた人類最初の偉人。嵐の航海者であり星の開拓者。

 

 

 マシュは探していたものが想定の数倍早く目の前に現れたことに驚愕するも、何故ドレイクが聖杯を持っているのかが分からなかった。

 ドレイク本人はたまたま拾った程度の認識だったようだが、海賊の一人が興奮気味にそのことを語る。

 

 

「何言ってんですか姐さん、たまたまじゃねぇ、とんでもない大冒険だったッスよ!」

 

 

 其処からの話は最早おとぎ話だとか、そういう次元の話であった。

 

 曰く、何時までも明けない七つの夜。

 

 

 海という海に現れた破滅の大渦。

 

 

 そしてメイルシュトロムの中より現れし幻の沈没都市、その名を―――アトランティス(・・・・・・・)

 

 

 

 其処より出でしデカブツこと海神(ポセイドン)が、

 

 

『"時はきた。オリュンポス十二神の名のもとに、今一度大洪水を起こし文明を一掃する也―――!!"』

 

 

 とか言っていたのに対して大立ち回りをかまして、多大な損傷を与えるついでに聖杯を奪い取って来たのだそう。

 

 

「いやーホント、あの時の姐さんは、なんかの間違いにちげえねぇんですけど、サクッと世界を救った英雄だったんじゃないんですかね!!」

「―――」

 

 

 絶句。それ以外の表現が見つから無かった。

 つまり、自分達が来る前からこの時代の人理定礎は崩壊しかけていて、ソレをこのドレイクが気分(ノリ)で解決してしまった……。ということになる。

 しかもマシュには彼女らが嘘を言っているようにも見えなかったので、余計に脳内は混乱していた。

 

 

「だってあのデカブツ、海神(ポセイドン)って名乗ったんだぜ?船乗りとして許せないじゃないか。」

 

 

 そう何てことないように酒を飲みながらドレイクはいう。

 内容はギリシャ組が聞けば発狂するレベルの大偉業なのだが、本人は本気で分かっていないらしい。

 星の開拓者とは出鱈目の化身なのではなかろうか。

 

 

「つまり、ドレイク船長はこの時代の聖杯の持ち主―――いえ、この時代を救ったコトで聖杯に選ばれた、本当の意味での聖杯の所有者です……ッッッ!」

「そんなことってある……!?」

 

 

 立香とマシュは壮大過ぎるエピソードとドレイクの凄さに感服して畏敬の籠った視線を向ける。

 

 

「ドクター!ドクター!」

『あ、ああハイハイ何だい?すまないが後にしてくれないか。』

 

 虚空より男の声が響く。それはカルデアの医療部門のトップを務める青年、ロマニ・アーキマン。周囲からは愛称として「Dr.ロマン」と呼ばれている。

 

『ちょっと探査プログラムの調子が悪いみたいなんだ。何故か君たちの前に聖杯があることになっててね……』

「いや合ってるよ!聖杯、ある、目の前に!」

『何だとぅ!?』

 

 

 立香からの報告を聞き、ロマンからも驚愕の声が漏れる。本人の顔は見えないが、間違いなく目を見開いて驚いてるのは確かだろう。

 

「これってつまり事件解決なのでは!?」

「いえ、先輩。もしかしたらなのですが……」

『聖杯から計測される数値が今までより低い。もしかするとそれは……この時代に元々あった聖杯なのかもしれないね。』

 

 

 しかし聖杯の発見自体はぬか喜びに終わる。

 この聖杯は人理を乱している要因ではないようだ。

 立香とマシュはその事実に僅かに肩を落とすが、先程の話に気になる点があったのを思い出してドレイクに問いかける。

 

 

「ドレイクさん、先程のことで一つ聞きたいことが……」

「ん、何だい?」

「その海神(ポセイドン)とかは結局どうなったの?」

「ああ、そうさね……」

 

 

 そう言ってドレイクははあ、と溜め息をつきながら空を見上げて言う。

 

 

「"分からない"」

「分からない―――ですか?」

「ああ、あのデカブツから聖杯(コイツ)を奪ったまでは良かったけど、沈めてやるまであと一歩、って所で『変なシルクハットの男』に邪魔されてねぇ、デカブツは何処かに消えたよ。……全く、次会ったら海の藻屑にしてやるよ。」

 

 

 全く、と愚痴をこぼすドレイクの話を聞いて、立香とマシュの顔が強張る。

 二人はその人物に心当たりがあった。

 でも有り得ない。その人物は先の特異点にてフンヌの化身に両断された筈だ。

 

 

「……ドクター。」

『ああ、シルクハットを被った男という情報に合致するのは間違いなくレフ・ライノール……フラウロスだ。でも彼は死んだ筈……まさか、不死身の力でも持っているのか?』

 

 ロマンも真剣に考察をするが、真偽は分からない。

 探索初日から不穏な空気を感じて二人は空を見上げるのだった。

 

 

 

 





さーて、勘のいい人なら……というか殆どの人がイアソンの代わりの敵役が分かったのではないでしょうか。
まあ名前出てるんですけどね。


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第二幕/再会

多めに書いてから大体週一か、少し短めに書いての早めの投稿か、何方が良いのだろうか。





 

 

 

 

「…集え!!我らアルゴノーツ!!

―――――――――『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』!!」

 

 

 イアソンの周囲に白金の波紋が発生し、其処から四つの人影が現れる。現状の魔力ではこの人数が限界らしい。

 

 

 

 そして、突如その人影の内の二つがイアソンの視界から消え―――視界一面を『紫』と『金』の二つが覆った。

 

 

 

「―――」

「え、ちょ―――あ"ぁぁぁぁ痛い痛いッッ!!」

 

 

 具体的に言うと、召喚されるやいなや物凄い速さでイアソンに抱きつき、明らかに表記されている筋力ステータスよりも強い力で抱きしめられている、といった所か。

 自身の肋骨がミシミシと音を立て、認識外より訪れた苦痛にイアソンは悲鳴を上げる。

 別に大丈夫だろう、とアイギスを非展開状態にしていたのが運の尽きだったようだ。

 

 

「待って、折れる…ッ!肋骨折れるから、折れちゃうからッ!ちょっと緩めて……!」

「―――…」

 

 

 その懇願に対する返答はさらなる圧力という形で返された。

 

 何でや、心当たりなんか全く無いぞと当人達が聞けば更に締め付けられそうなことを考えながらも、その後方に立っている人物たちを見て助けを求める。

 

 

「アタランテとカストロ……、助けて…!」

「断る……そもそも悪いのは汝なのだから、少しくらい我慢したらどうだ」

「―――まあ、そういうことだ。俺にはどうすることも出来ん」

 

 

 ―――それに止めた後が怖いしな。

 と言ったカストロの声は海風に掻き消されてイアソンには聴こえなかった。

 見るとアタランテは何処か拗ねたようにそっぽを向き、カストロは何とも言えない顔で肩をすくめているのを見て、助けがないことを察したのかイアソンは顔を青くする。

 

 

「あー…ポルクス、取り敢えず一旦落ち着いてくれ……!」

「―――はっ、すみません。少し感極まってしまいまして……」

「いやいや……」

 

 

 ―――絶対に少しどころの騒ぎじゃない、と言いかけたが慌てて口を噤む。態々ここで地雷を踏む必要はないのだ。

 ポルクスは手を放していそいそと数歩下がる。お陰で幾分どころかかなり楽になった。

 

 

 そして視線を下に向けると、自身の記憶とは背丈も服装も違う女性の姿。

 それでも彼女が誰かは記憶に薄っすらと残っていたのもあってか、自然と解った。

 

 

「……メディア、だよな。」

「―――」

 

 

 そう言って彼女の顔を上げさせて、その淡紫の瞳を見た。

 生前最後に見た背丈からは十センチ以上背が伸び、髪型もポニーテールから変わって髪を下ろしている。

 そして彼女の瞳からは―――涙が溢れていた。

 

 

 

 ―――ファ!?何故泣く!?やっぱ俺なんかした!?心当たりなんか無いような有ったような無いような気がしたけどやっぱり有ったかもしれん(早口)。

 ポーカーフェイスのお陰で外面では分からなかったが、脳内で行われていたのは一人漫才のソレ。

 かなり困惑気味ながらも、自身の直感を信じて掛けるべき言葉を選ぶ。

 

 

「―――『ありがとう』。……何となくだが、これだけは言わないといけない気がしてな」

「――――――あ」

 

 

 それは何に対しての感謝だったのか。

 自身の死という形での離別を経ても自身のことを覚えていてくれたことに対する感謝か。

 若しくは生前の総てに対する、自身の死ぬ直前に言いそびれてしまった感謝か。

 

 

「―――――ああぁ…いあそん、さま。」

 

 

 目頭が熱くなる。胸を突き上げてくる気持ちで闇雲に涙が溢れてくる。

 その顔をイアソンの胸下に埋め、

 

 

「うっ――あぁッ、あああァあああぁああああッ!あぁあああああああァあああああああッッ!!!!」

 

 

 やがて嗚咽が迸り出る。死別後から今まで溜まっていた気持ちがまるで決壊したダムの様にあふれるままに表出する。

 

 

 そんな彼女の様子に少々困惑しながらも、イアソンはただ只管に黙って彼女の肩に腕を回す。

 彼女の内心なぞ当然知らないから口にする言葉が見つからない。だから彼女の肩をじっと抱くことにした。

 

 

 

 そんな二人を他の面々は彼女の様子に対して安堵している様な、一部は想い人と抱き合っていることを僅かながら羨ましく感じる様な嫉妬心を同時に感じながらも、少し離れた所からその様子を見守っていた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「……少し取り乱してしまったわね。忘れて」

 

 

 暫くした後、漸く周囲の状況を把握したのかメディアは言い知れぬ羞恥の情に駆られるも、何とか持ち直して決まりが悪い表情で先程の出来事を無かったことにしようとする。

 

 

「いやいやだから……」

 

 

 ―――絶対に少しじゃ無かったよね。

 形容のできない妙な表情になりながら思わずそう言葉を漏らしそうになるが、そんな地雷にダイブするような所業がしたいわけではないので、口を噤む。

 

 

「ふふっ、でも良かったです。メディアったら、貴方が居なくなった後一度も泣かなかったのですよ?―――だから安心しました。流石イアソンですね」

「ちょっとッ!?何で言うのよ!」

 

 

 こちらの心を何もかも見透して、優しく理解するような目をしてポルクスが柔和な笑みを浮かべながら言う。

 その菩薩のような慈愛に満ちた表情は正に神霊と言った所か。

 まさかソレを言うとは思っていなかったメディアはポルクスに対してムッとした様な抗議の視線を向けているが。

 

 

 仲が良い様で何より。

 と微笑ましい物を見る目でその光景を眺めていたイアソンだったが、ここであることに気付く。

 

 

「―――そういえば、ヘラクレスのヤツは来なかったな」

「ああ、確かに言われてみれば意外だな。奴なら真っ先に来るものだと思ったのだが」

 

 

 イアソンの発言に、アタランテが同意する。

 あの大英雄ならば友の呼びかけに真っ先に応じるものだと思っていたが。

 

 

 ―――大方、彼女達の心情を汲み取って先を譲ったのだろう。とカストロは内心で結論づけるが、他の四人はその考えが頭から抜け落ちているようで、ヘラクレスが来ないことを不思議がっていた。

 

 

「―――もう一度貴方の宝具を使えば来るんじゃないかしら。ほら、あの魔力結晶が有れば可能でしょう?」

 

 そう言ってメディアは隅の方に寄せられた聖晶石を指差す。

 それを聞き、ううん、とイアソンの思考の滑車が回り、次から次へとさまざまな考えが現れる。

 

 

 そして現状を顧みて結論を出す。

 

 

「―――まあ今は大丈夫だろ。必要になったら喚べば良いわけだし、アレ(聖晶石)の無駄遣いはな……」

 

 

 イアソンがそう結論付け、そうか。と皆が答える。

 と言っても八割程イアソンの私情が混じっていたがそれで良いのだろうか。

 

 

「さて、我らの当面の目的は?」

「取り敢えず周囲の探索。そして此処(特異点)を終わらせる奴等が来たらそいつ等の手助け」

「ソレは―――一体?」

 

 ポルクスがイアソンに問い掛け、それに対してニヤリと笑みを浮かべながらイアソンは言う。

 

 

「人類に残された最後の希望―――カルデアだ」

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 翌日。

 

 朝の明るみが果てしない遠方からにじむように広がってくる、見渡す限りの大海原、其処を征く船が一隻。

 

 

 そこの船首の壁にもたれかかりながらイアソンは、ぼんやりとした顔で何処までも続いているかのように感じる水平線の彼方を眺めていた。

 

 

「―――暇だなあ」

「早いな……まだ出航して一日も経ってないぞ」

「あの時とは違って特に目的地も無ければ、近くに立ち寄る島も無い。メディアが此処を軽く工房化したから(セイル)に頼らなくて済むのは助かるが―――これを暇と言わずして何と言う、最早海賊もどきすら寄って来ないしな」

 

 

 気のぬけた欠伸をしながら愚痴をこぼすイアソンに対して、確かにそうだが。とアタランテは思うも、それを口には出さずにそのままイアソンの隣に移動する。

 

 

「―――懐かしく感じるな、あの頃が」

「――…ああ」

「こうしてこの船で海を眺めたことも、この潮の匂いがした海風も、あの時とよく似ている」

「―――そう、か?……まあそうなのか」

「少なくとも私にとってはの話だ。あの頃によく似た船旅―――もしかしたら、同郷の者にも会えるかもしれないな」

 

 

 苦難に苛まれながらも確かに美しい日々であったあの船旅を思い返して、無意識に微笑が口角に浮かびながらアタランテは太陽が昇り始めた空を眺める。

 

 

「―――ん、邪魔したか?」

「!ああいや、全然問題ないぞ!?」

 

 

 そして甲板にカストロが現れ、何となく空気を読もうとするが、アタランテがその微妙に余計な気遣いを否定する。

 と言っても、彼女はあくまで平静を装ったが、声は自分でも分かるほど上ずっていたのだが。

 

 幸いなのはここに居た面子がそれに乗じて弄ってくる人じゃ無かった所か。例えば某カイニスとか

 

 

「――で、何か用があるんだろ。本題は?」

「ああ、近くに島を発見した。メディアが言うにはサーヴァントが一騎いる可能性があるそうだ」

「ふむ―――って何でサーヴァントが居るって分かるんだよ。まだ島の面影殆ど見えないんだが」

「彼女が高い魔力を感知する魔法陣を設置したらしい。後で労ってやれ」

 

 全然何てことのないように言っているが、島がかなり離れているという点から、少なくとも現在地から数キロ以上は離れている筈なのにサーヴァントの存在を把握するとはかなりの事をやってのけている。

 絶大な感知能力を備えたルーラーの知覚能力の有効範囲がおおよそ十キロ四方メートルなので、片手間でソレの半分近くの知覚が出来るとは流石神代の魔術師か。

 

 

「―――そうするさ。船底だろう?行ってくるからお前らは上陸準備しておけよ」

「特に準備することなぞ無いがな」

「確かに」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「おーい、メディア居るかー?」

 

 壁の色と同じ分厚い木製の扉を叩き、返事が返ってくる前にさっさと開ける。果たしてノックをした意味はあったのか。

 

 

「せめてノックをしたのなら返事を待ちなさいよ……」

 

 

 当然彼女にも若干呆れの籠った視線を向けられる始末。

 それを意にも介さず、イアソンは船底に造られた工房を物珍しそうに眺め、あることに気付く。

 

 

「―――お前、もしかしてこの船の動力源になってたのか?道理でさっきからやけに速いと思ったら……」

「……私としてはこのままなのは歓迎だけど、出来ることがあるのならするのは当然のことでしょう?」

「まあ―――そうだが。それでもやり過ぎは良くないからな、身体には気をつけろよ」

「勿論よ」

 

 

 其処から二言三言と会話をしていると、遂に船が目的地の島に近づいた事を察する。

 

 

「―――あら、もう着いたのね」

「みたいだな。―――俺は錨を下ろして来るから、先にあいつ等と上陸しててくれ」

「分かったわ」

 

 そうしてイアソンは錨を下ろす為に甲板へと移動し、メディアは序に作っておいた魔術具をいくつか持ってからいそいそと外へと移動する。

 

 

 

 

 

『―――そういえば、アタランテが同郷と出会うかもとか言ってたけど、此処に居る同郷って―――あ(察し)』

 

 

 

 そして、一人の狩人の後に待ち受ける悲惨な現実を察して、錨を下ろしながら内心で合掌する男が一人。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「これは―――」

 

 

 そう言いながら上を見上げる。そこには断崖絶壁の登る方法も無さそうな山がそびえ立っていた。

 正面にはそこそこ広い森が広がっており、この浜辺含めた周辺は、こわいくらい静かだった。

 

「見た目だけなら何処にでもある島、だが―――」

「ここは全てがおかしい。この島も例外なく何かあるだろう」

「はい、兄様。きっと周囲に何か―――ッ!?」

 

 

 あらゆるアンテナを張り巡らすかの様に周囲の警戒を怠らなかった一同だが、森の方から何かの群体が飛んでくるのを察知して、直ぐ様戦闘態勢に入る。

 

 

 そしてソレは大量の砂埃を巻き上げながら彼らの元へと殺到する。それは―――

 

 

「何だ、話の途中に襲ってくる事で有名なワイバーンか」

「イアソン、恐らくソレが有名なのは貴様の中だけだと思うぞ……!」

 

 ワイバーンの大群だった。その数は二十数頭。

 通常ならば多少は苦戦してもおかしくない数だが、如何せん相手が悪かった。

 

「取り敢えずさっさと仕留めよう。汝ら、一人につき大体四匹でいいな?」

「構いません。すぐに終わらせましょう」

「なら私は援護に回るわね」

 

 

 何故ならば彼らは神代に生きたアルゴノーツ。

 ワイバーンどころか竜種がそこらにいた時代の彼らにとっては、ワイバーンなんて最早害獣程度の認識だった。

 

 

 

 

―――勿論、その狩りは数十秒もせずに終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 





「あれ?どうしたのダーリン、そっちばっかり見て。」
「いや、分かるだろ。サーヴァントが大勢来てる。……何かその一人とはスゲェ気が合いそうな気がするな。――他はかわいい娘だったらいいなぁ……。」
「ダーリン?」
「ヒィッッ!?」





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第三幕/月に代わってお仕置きよ

 

 

 あっけないほどあっという間にワイバーンを片付けた一同は、皆でワイバーンの解体をした後に森の散策に移ることにした。

 

 

「やはり、この森も何処かおかしいみたいだな……」

「そうなのですか?私にはよく分かりませんが……」

 

 

 鬱蒼とした森の中を進みながらも感じる違和感を訴えるアタランテと、普通との違いが分からずに疑問符を浮かべるポルクス。

 

 

「ああ、鳥の声は聴こえず、葉を揺らす風の向きや速さにも全く均一性が無いのだ。ワイバーンの羽音ならずっと聴こえているのだがな……」

「お前にはその違いが分かるのか?」

「愚問だな。このくらいなら数年森で狩りをしていれば分かるようになる」

 

 

 そう得意げな顔で話すアタランテ。

 彼らには預かり知らぬことだが、実際にこの島にはワイバーン等の竜種以外の生き物は生息しておらず、海風に規則性が無いのはこの特異点が、あらゆる時代、あらゆる場所の海域を繫ぎ合わせて構成されているが故のこと。

 なので彼女の推測は非常に的を射ていた。

 

 

「凄いな……俺には全く分からん」

「ああ、俺もだ……」

 

 

 そして話について行けない男性陣。

 片や英雄船団(アルゴノーツ)の船長、片や航海の守護神であり、こと海に関しては専門家とも言える二人だが、森関連などの別方面のことには疎いらしい。

 

 

 そしてその後も進み続けて数刻後、其処までは何も起きていなかったのだが、何処からともなく響いてくる遊び人風な男の声が聴こえて来て状況は変わる。

 

 

「あ―――れ―――!?」

 

「――…あの、今何か聴こえませんでしたか?」

「いやぁ……そんな若干アホそうな気配を纏った誰かの叫び声なんか聴こえなかったぞ?」

「普通に聴こえてるんじゃない………もしかしなくても、今の声が例のサーヴァントかもしれないわね」

 

 

 メディアがそう言って、一行はさっき聴こえた声の方向へと向かうと、其処には―――熊がいた。

 

 否、具体的に言うならばクマのぬいぐるみが地面に落ちていた。

 ……何処か擦られたような跡が付いていたが。

 

 

「うわぁ―――何だこれ……」

 

 そう言ってイアソンが呼称:謎のぬいぐるみXを両手で掴んで持ち上げて、眺める。

 やっぱり何度見ても初見でコレの中身がわかる奴居ないでしょとも思いながらオリオン(暫定)を眺めていると、一緒に眺めていた女性陣が表情を強張らせる。

 

 

「……ソレから何か邪な視線を感じるわね―――消し炭にしてやろうかしら」

「貴方もですか?私もなのですが……」

「イアソン、直ぐにその熊から手を離せ。今すぐにそれを射抜くべきだと私の中の何かが言っている」

 

 

 完全に不快なものを見る目になっている女性陣。

 魔法陣を展開し始めるメディア、既に弓矢を用意しているアタランテ、そしてその後ろではポルクスがシャドーボクシングを始めていた。

 ……これ真面目にオリオン死ぬのでは?

 

 

 

 そしてその殺意にも近いナニカを現在進行系で一身に受けるオリオンはそれにも動じない………事は無く、震えていた。それはもう小鳥のようにぶるぶると震えていた。

 

 しかし彼は最後までぬいぐるみのフリを続けるつもりのようなので、一つ悪戯をしてみようとイアソンは考える。

 

 

 目線で皆に耳を塞ぐように指示して、皆が耳を塞いだのを確認すると、自分はこの熊の耳元を口元に寄せ―――

 

 

「…ッスゥゥ―――あ"あ"あぁぁぁァぁァァァァぁァぁッッッ!!?

うぉぉぉぉッッ!?おいこらテメェッ!何いきなり人の耳元で叫んで―――…あ。」

「喋ったな」

「喋りましたね」

「ああ、喋ったな」

「喋ったわね」

 

 

 ―――鼓膜を破る程の勢いで叫べばほらこの通り。

 熊(オリオン)は唐突に叫びだしたこの男に文句を言おうとするが、直後に自身の置かれた状況を思い出し、口を噤む。

 

 

「―――コレ、どうする?」

「……喋る熊は珍しいわね。今後の参考として分解するから貰っても良いかしら?」

「別に良いぞ」

「全っ然良くないよ!?」

 

 

 そして処遇を勝手に話し合っていた二人に全身全霊のツッコミを入れる。まあ熊だから是非もないヨネ。

 そして微妙な雰囲気になりかけるが、一人の女性の割り込みによってさらに混沌を極めるように。

 

 

「あぁ――――――!!」

「おい待て、こいつらは敵じゃな―――いや敵かもしれないけどちょっと待………ぷぎゅる!?」

「また浮気したの、ダーリン!?私と!言うものが!ありながら!―――もう我慢の限界です!さあ、お仕置きの時間よ!」

 

 

 森の奥から現れた女性は、目にも止まらぬ速さでイアソンの腕からオリオンを掻っ攫うと、ブンブンとソレを振り回しながら凄い剣幕で怒鳴っている。

 今すぐにでも特大の溜息を吐きたい気持ちを抑えながら、イアソンは目の前の二人?に尋ねる。

 

 

「―――お前ら、多分同郷(ギリシャ)だろ。真名は?」

「アルテミスでーす!こっちは私の恋人、オリオンよ。…ん?……って貴方、アタランテじゃない!」

 

 

 笑みを浮かべながら真名を口にした直後、自身の信者の姿を確認して顔に喜色が表れるアルテミス。

 しかし、言われた本人はきょとん、と首をかしげ目を白黒させながら問い返す。

 

 

「――ああ、すまない。今しがた絶対に有り得ない単語が聴こえてな。まさかアルテミス様が喚ばれているなんてそんな……」

 

 

 何処か少し縋るように言うアタランテ。

 でも哀しきかな、現実とは非常に残酷なものなのだ。

 ―――例えば、生前色々あってもなんやかんや信奉し続けた女神が恋愛脳(スイーツ)だったりとか。

 

 

「ねぇねぇダーリン、アタランテが私のこと信じてくれないわ。どうしよう?」

「そりゃあそうだろ。俺だって正直あんまり認めたくないもん。」

「別にいいじゃない、純潔の女神だろうと誰かに恋して愛に生きたって。――ねぇ、貴方達もそう思わない?」 

「黙秘権を行使します」

 

 

 

 可哀想なアタランテ。紆余曲折あっても彼女が生前を通して信奉した相手は、全世界を見ても一、二を争う程の恋愛脳(スイーツ)兼ポンコツ系の女神だったのだ。

 これにはメディアやディオスクロイもアタランテに対して同情の念を抱かざるを得なかった。

 

 

「―――はは、やっぱり聴き間違いじゃなかった……」

「……まあ、やっぱりこうなるよな」

 

 

 数千年越しに衝撃の事実を突きつけられたアタランテの膝は、しきりに震えて立っているのも限界だった。

 白目を剥きながら額を手の甲で押さえ倒れる彼女の腰に、イアソンは手を回して彼女を抱きかかえる。

 

 そしてイアソンに礼を言いながら、そのままの体勢でアタランテは呟く。

 

「……たとえあの時見捨てられかけても、何だかんだ生まれた時からの恩があったから信奉し続けたが―――いくらなんでもこれはあんまりじゃないか!?あの時だってこんなキャラじゃなかっただろう!?」

「うん、まあ……頑張れとしか言いようが無いな。うん」

 

 

 かける言葉が見つからないとは正にこのこと。

 せめてもの慰めになるかとイアソンは思い、彼女の頭を優しく撫で、アタランテは気持ちよさそうに目を細めた。

 

 

「キャー!二人共ラブラブね〜。ねぇねぇダーリン!私にもあれやって!」

「なあお前誰のせいでああなったかご存知?」

「えっと………わかんない」

「オイ」

 

 

 だがこの女神は止まらない。喋れば喋るほど彼女のメンタルを粉々に破壊して行く存在、ソレが恋愛脳(アルテミス)だ。

 やはりアタランテは泣いていい。

 

 

「生前の私の悩みは何だったんだ……もう嫌だ……あ、そうだ、これは夢だ。今は悪い夢を見ているだけで、起きたらきっとアルゴーの中で寝ているだけで……」

「残念ながら現実だぞ」

「―――うぅ……」

 

 

 最早涙目状態の彼女は悲愴な面持ちで、身体中から深い哀愁が溢れていた。完全にメンタルブレイクされている。

 寧ろショック死しなかっただけまだマシと言うべきか。

 

 

 

 はあ……。と溜め息を吐きながら、イアソンはアルテミスの元へと近づく。

 ―――その額に青筋を浮かべて。

 

 

「アルテミス様、お伺いしたいことが……」

「ん?なにな――――――あ」

「私の名はイアソンと言うのですが、アルテミスサマ―――何か、心当たりは御座いませんか?

「ヒィッ!?アルテミス、お前何したの!?マジで何やらかしたの!?」

 

 

 イアソンの呼びかけにアルテミスとオリオンが振り返り―――瞬間、顔が真っ青に染まった。

 

 

 そう。この男、何気にブチギレていたのだ。

 顔は貼り付けたような満面の笑みで、普段は基本的に使わない敬語まで使っていて、この時点で既に不気味だが、追加で溢れ出る黒いオーラを隠しきれていない。

 テュフォンさえも打ち倒したギリシャ神話最強の名に恥じない、純粋で強烈な凄まじい殺気を真っ向からぶつけられ、一人と一匹は背筋に氷を当てられたかのように身震いする。

 

 

 

 オリオンが本来の姿ならば其処までビビりはしなかったのだろうが、今の彼は非力な熊だ。というかオリオンが殺気を向けられてるのはマジでとばっちり。

 

 

「えっと……やっぱり、あの時のこと怒ってる?」

「ん"ん?いやいや全然怒ってないですとも」

「怒ってる!それ絶対に怒ってる!あの時のパパが私達に怒ったときと同じ反応してるもん!」

「(いや待てよ、よく見たら怒ってるにしては全然瞳や表情からそういう感情が伝わって来ないんだが……)……というか気になったんだが、あの時って何?」

「―――何だオリオン、知らんのか?」

 

 

 先程とは打って変わって、突然真顔になり、困惑したような目つきをするイアソン。

 そしてイアソンの問いに首肯くオリオン。

 それを聴いてイアソンは何処か合点がいった様な顔をする。

 

「あー……、俺等生前は噂程度に聞いただけで会ったことは無いから知らなくてもおかしくはないのか。―――オリオン、ギガントマキア(・・・・・・・)って知ってるか?」

「ああ、確かヤバい化け物と神やお前たちアルゴノーツが戦って―――ちょっと待て。なんか俺すげぇ嫌な予想が頭をよぎったんだけど」

「多分そのまさかだぞ。簡潔に纏めると―――」

 

 

 そしてイアソンは簡潔に当時の事をオリオンに語る。

 

 

 巨人たちに圧勝したこと。

 

 

 その後にヤベー怪物が出てきたこと。

 

 

 

 

 それにビビったゼウス以外の神が逃げ出したこと。

 

 

 

 

 そしてソレと自分が戦って―――最終的に死んだ事。

 

 

 

 その全てを聴いたオリオンは周りのアルゴノーツのトラウマが刺激されて悲痛な表情をしているのを横目で見つつ、ぬいぐるみながらも険しい顔をして数秒の間沈黙する。

 そして満を持して口を開いた。

 

 

「取り敢えずソレはアルテミスが悪い」

「嘘ぉ!?」

「当たり前だわ!――本来は神が頑張らなきゃいけない所でさぁ!見捨てられて?挙げ句の果てには死んで?むしろ今報復で殺されないことに感謝すべきだろ!?」

 

 

 珍しく結構荒っぽい言葉遣いでアルテミスに怒鳴るオリオン。彼に言われたのがよっぽど堪えたのかすっかり気落ちした表情になるアルテミス。

 そしてこの若干重い空気の中イアソンが口を開いた。

 

 

「あ、誤解してるかもしれんが別に俺はアルテミスに対して怒ってる訳じゃないぞ?」

「え、違うの?」

「他の神々に対してもだが、怒ってるというよりは反省してくれ、って感じだな。別にアルテミス一人の有無であの結果が変わったとは思わんしな……後、これ以上アタランテのメンタルをブレイクするのはやめて差し上げろ」

 

 

 そう、落ち着いた表情で諭すようにイアソンは説明する。

 この説得は案外アルテミスにも響いたようで、彼女の顎が胸につくほど項垂れる。

 

 

「はい……ごめんなさい」

「―――まあ、お咎め無しって訳にもいかないからそれ相応の罰は受けて貰うがなァ?」

「嘘おん……助けてダーリン」

「いや俺熊だから。どうしようもないから。……多分そこまでの事はされんだろうし大人しく罰を受けとけ」

 

 

 ニヤリと冷笑を口に浮かべるイアソンを見て恐怖を覚えたアルテミスはオリオンに助けを求めるが、一蹴される。

 

 

「―――!よし、丁度良い案を思いついた。お前ら、アルゴーに戻るぞ」

「え、ええ、そうね……」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「よし、視界も良好だし戦力もまあ……一応増えた。後は星見の奴等に合流するだけだな……」

 

 

 そう船首に立ちながら上機嫌で言うイアソン。

 あれからオリオン(アルテミス)を加えた一行は再び出航し、メディアの探知に頼りながらも航海を続けていた。

 

 

「いや、それは良いのだが、アレはこのままで良いのか…?正直、かなり複雑なのだが…」

「何処かの金ピカな王様もやってたしヘーキヘーキ」

 

 

 複雑そうな顔をしたアタランテの問いを一蹴する。

 彼女の考えも尤もだった。

 何故なら彼女の見つめる先には―――正座するアルテミスの姿があったから。

 

 

「もー!板は重いし足が痺れる〜!ねぇこれ何時までやるの〜?」

「船長がいうにはカルデアって奴らと会うまでだってよ。……何でも世界を救う連中だとか」

 

 

 オリオンと会話をしているアルテミスの姿は―――アレだった。なんというかもうアレだった。

 何故なら正座して『私は駄目な女神です』と書かれた板を持たされていたから。シュール過ぎる。

 

 

 流石にアタランテも複雑な気持ちになる訳だ。

 

 

「アルテミス様の所へ行ってくる……」

「大丈夫か?」

「ああ、何というかもう汝が色々やったせいで若干あのポンコツへの耐性がついたのかもしれん……」

 

 

 そう言って少し彼女のことを心配する表情でアルテミスの元へとアタランテは向かう。

 ……あそこまで打ちのめされても、信徒でいられるのは素直に凄いのではなかろうか。

 

 そんな事を思っていると、入れ違いでオリオンがやって来る。彼はイアソンの肩に登ると何処か哀愁漂わせる表情でこう言った。

 

 

「あの双子から聞いたんだけどよ……お前も女神から祝福受けてんだろ?……しかも三柱から」

「ああ……」

 

 

 それを聴くとイアソンも穴にでも入りたそうにうな垂れて肩を落とす。お互いに女神には良い思い出があんまり無いのだ。

 オリオンにとってのアルテミスは例外だが。

 

 

「お前はまだマシだろ……あんなにどストレートな好意を向けられてんだから。……末永く爆発しとけ」

「愛がとんでもなくグラビティなんだよなぁ……。てかお前にだけは言われたくない」

 

 

 そう言って二人は何処か情けない声で、はぁ。と溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 






カルデアとの会合まで本当は書く予定だったんですが、きりが良かったので投稿しました。

 ちなみにオリオンの二人とイアソンが対談してる間、アルゴノーツの皆はイアソンの死ぬときの話で傷を抉られてメンタルブレイク仕掛けてましたが是非もないヨネ。




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第四幕/彼らの名は

今回は個人的に文章が色々拙い可能性あり。

状況は立香ちゃんたちカルデア組から始まります。


 

 

 ―――その頃、立香とマシュはドレイクの導きのもと、この特異点の原因を探す航海への旅へと旅立っていた。

 

 

 そして先程の島で新たにアステリオスとエウリュアレが加わり、立香達含め船員達の士気も上がる中―――ソレ(・・)は現れる。

 

 

「姉御!前方に船一隻!」

「海賊かい!?」

「そうです!……ああ、アレだ。あの旗だ!姉御、あの船、例の旗と同じ海賊旗を掲げてます!」

「つまり敵だね!……ん?あの船どっかで見たような……」

 

 

 見張り台に登っていた船員が船を見つけ、声を上げる。

 海賊旗を掲げていることからドレイクが敵と断定するも、何処か既視感を覚え、マシュがソレの正体を知るロマンを呼び出す。

 

 

「例の旗……そうだ!ドクター!」

『マシュ!?良かった、やっと通じたか!―――一体そっちで何が起きている!?』

 

 

 丁度通信回線が復旧したのか、ロマンの声が響き、現状の説明を求める中、立香ははっとしたような顔をする。

 

「あ……ドクターのこと忘れてた」

『立香ちゃん!?……え、もしかして忘れられてたのかなボク!?みんなのロマン、頼れるロマン先生ですよー?』

「すみません、後にしてください!」

 

 

 立香の発言に心做しかショックを受けたのか一瞬愕然とするロマンだったがそれもすぐにマシュに両断される。

 憐れロマン。

 しかしそんな事を言っている場合ではないので僅かに焦燥感に駆られた顔でマシュが本題に入る。

 

 

「先程の旗についてもう一度お願いします!通信途絶で聞き取れませんでした!」

『あ、ああ、あの旗は―――伝説の海賊旗だ。あれは恐らく、史上最高の知名度を誇る(・・・・・・・・・・・)海賊だ!』

「史上最高の知名度の海賊って……もしかして、黒髭?」

 

 

 ―――史上最高の知名度の海賊。

 その情報から立香が推測した人物は只一つ。大航海時代に海賊として世界に名を轟かした男、即ち―――

 

『そう、黒髭だ!真名エドワード・ティーチ!気をつけるんだ、二人共!』

「いや、これはヤバいんじゃないかなぁ……」

「―――そうですね、先輩。……ドクター、残念ですが、手遅れですね」

『へ?』

 

 

 既に敵船は此方側を補足している。今から逃げても的になるだけであろうし、第一ドレイクに逃げる気が更々無い。

 ―――もう、戦闘は避けられないだろう。

 

 

「あー!アイツ!アイツだ!アタシの船を追い回してた海賊!―――ここで会ったが百年目!遥か彼方まで吹き飛ばしてやる!」

 

 

 そうドレイクは憤然とした顔つきで叫ぶ。しかしソレに対して黒髭は無言を貫く。

 

 

「おい、聞いてんのかそこの髭!」

 

 

 そうドレイクが鋭い語気で言い―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――はぁ?BBAの声など、一向に聞こえませぬが?」

「―――――――――は?」

「……………………え?」

 

 

 ―――ピシリ、と周囲の時間が止まった。

 

 

 (いや)、より正確に言うと、その男―――黒髭から漏れた最初の一言が衝撃的過ぎて、誰もが目を見開いて絶句していた。

 

 

「お前、今、何、言った?」

 

 ドレイクも何か言おうとしているが、それ以上発するべき言葉が浮かばず、口をぱくぱくと動かすだけだった。

 

 

 

「だーかーらー!BBAはお呼びじゃないんですぅ。何その無駄乳、ふざけてるの?」

 

 

 周囲がその発言一つ一つについて行けず呆然とする中、黒髭は一人話に続ける。

 

 

「まあ傷はいいよ?イイよね刀傷。そういう属性はアリ。……でもね、ちょっと年齢がね、うん。―――せめて半分くらいなら、拙者全然許容範囲内でござるけどねえ。ドゥフフwww!」

 

 

 最後に薄気味悪い笑い声を発しながら己の性癖の一部を堂々と発する黒髭。

 本当にどうしてあの大海賊黒髭がここまでサブカルに染まってしまったのだろうか。

 

「―――……」

「あれ、姉御?姉御ー。―――死んでる……(精神的に)」

「ダメね、凍ってるわ。ムリもないわね。私も最初に遭遇したとき、こうなったもの。………よく生き延びたわね、私」

 

 

 地味に冷静な分析をかます船員とエウリュアレ。それよりもまずするべきことが有るのではなかろうか。

 そしてエウリュアレの姿を視界に入れた黒髭は恍惚とした顔で興奮気味に口を開く。

 

 

「んっほおおぉぉぉぉぉぉぉ!やっぱりいたじゃないですか、エウリュアレちゃん!

 ―――ああ、やっぱり可愛い!かわいい!Kawaii!ペロペロしたい!されたい!主に脇と鼠径部*1を!そして願わくば薄い本的展開Please!」

 

 

 何というかもう既に正気を疑うレベルのアレだがこの程度では黒髭は止まらない。

 彼はそのまま矢継ぎ早に一人語りを続ける。

 

 

「あ、踏まれるのもいいよ!素足で!素足で踏んで、ゴキブリを見るように蔑んでいただきたい!―――そう思いませんか、皆さん!」

 

 

 口を半ば開いてエクスタシーに戦慄きながら黒髭は叫び、彼女らに同意を求める。

 しかし彼女らは想像と180°異なる黒髭と、その言動一つ一つに本能的な嫌悪感と恐怖を感じて鳥肌立っていた。

 

 

「うぅ……やだこれ……」

「―――…」

 

 

 エウリュアレが怯えているのを察したアステリオスはエウリュアレの前に出て、自身の巨軀で黒髭の視界からエウリュアレを隠した。

 

 

「ちょ、待てよ。そこのデカいの!邪魔でおじゃるよ!?出せー、出せよー、エウリュアレ氏、出せよー!」

 

 

 それに対して若干苛立ったのかギャーギャーと投げつけるようにアステリオスに対して黒髭は喚く。

 そして漸く、マシュが黒髭ショックから抜け出して正気を取り戻した。

 

 

「―――は!?すみません、意識が遠のいていました。」

「ううん、仕方ないよ……これは……」

「その……何ですか、アレ」

「えっと……黒髭、かな?」

「イヤです。私、あの人をサーヴァントと認めたくないです」

 

 

 マシュにしては珍しい即答にして明確な拒絶。

 流石に変態な黒髭は彼女の中で解釈違いだったのか。

 と言っている間に、先程までエウリュアレに注力していた黒髭が立香とマシュの存在に気づき、まるで舐め回すかのような視線で二人を視界に納める。

 そして僅かに間を開け、一言。

 

 

「んー……んー、………(マル)!ごーかーく!てれれれってれー!」

「ひゃあ!?」

「ごーかく……?」

「ンー、片目メカクレ系は誰が好きだったんだっけ?バーソロミューの奴だったカナ?そしてもう一人はオレンジの快活系美少女っと……。―――ともかくそこの鯖とそのマスター!名前を聞かせるでござる!さもないと―――」

「さ、さもないと……?」

 

 

 二人がそう聞き返すのとほぼ同時に、黒髭は非常にいい笑みを浮かべながらこう言った。

 

 

「―――今日は拙者、眠るときにキミ達の夢を見ちゃうゾ♪」

「マシュ・キリエライトと言います!デミ・サーヴァントです!」

「そしてそのマスターの藤丸立香です!」

 

 

 流石に黒髭の夢に出演するのは御免被るのか、即答かつ大声で名前を口にする二人。

 立香はマシュよりも数歩前に出て黒髭の視界に入りにくいようにしている。

 当の黒髭は二人の名前を何度も復唱してニヤニヤと笑みを浮かべているが。

 

 

「………撃て」

「はい?」

「大砲」

「あ、姉御?」

「大砲。全部。ありったけ。いいから、撃て。さもないとアンタたちを砲弾代わりに詰めてから撃つ」

「あ、アイアイ、マム!」

 

 

 先程まで静かだったドレイクは片言で指示を出す。

 彼女はキレていた。静かに激怒していたのがプッツンして今や炎のように憤然としていた。

 それを見た黒髭はそれでもドレイクに対する煽りを止めない。

 

 

「あれ、BBAちゃん?おこなの?ぷんすかぷん?」

「船を回頭しろッ!!―――あんのボケ髭を地獄に叩き落としてやれェェッ!!」

 

 

 

 

 

 ―――もう何も言うまい。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「―――メディア、向こうの様子は?」

「……今丁度二隻の船が戦闘状態に入ったわね。―――あの橙のマスターらしい娘が居る方がカルデアかしら?」

 

 

 そう言ってメディアは映写機の要領で水晶に映し出された向こう側の様子を映し出す。

 丁度そこでは、血斧王エイリークを始めとする黒髭一味がドレイクの『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』へと迫っていた。

 

 

「……カルデア、か。今回はまともに彼女らの一助になれる様だな……」

「あら、貴方もうあの人間と縁を結んでいたのですか?」

「そう―――だが、あまり良いものでは無かった。汝もこれ以上の追求はよしてくれ」

 

 

 アタランテの顔が僅かに歪む。朧げながら自身の霊基に記録されたオルレアンでのことを思い返しているが故か。

 ソレに対し少し気の毒そうな顔でポルクスは、―――そうですか。と返すのみであった。

 

 

「……む?あの人間共、苦戦していないか?」

「大砲が全く効いてないな。恐らくあの船が俺と同じで宝具なんだろ……あーあ、アルゴーにも大砲欲しいなぁ……」

「仮に有っても大砲なんかを使う奴が居ないだろうに……」

 

 

 ―――確かに。とアタランテの指摘を聴いて直ぐに前言撤回するイアソン。

 ソナーはメディアや千里眼持ちの射手、武装は乗組員。ソレがアルゴノーツであり彼らの常識。

 現代兵器なんて要らなかったんや。

 

 

「貴方達、お喋りするのは構わないけれど、もうかなり近くまで来てるんだから少しくらい気を引き締めなさい!」

「問題ない。俺……我らに海で敵う者なぞ存在しない」

「あ、そうだ。アルテミス、取り敢えずもう立って良いぞ!さっさとアタランテと後衛の用意してろ!」

 

 

 イアソンの声を聴いたアルテミスは漸く終わる、と安堵の息を吐きながら正座を解いて立ち上がり、オリオンもアルテミスの肩へと着く。

 

 

「あー!やっと歩ける!ねえダーリン、私頑張ったよ!」

「はいはい、頑張ったな。……自業自得だけど」

 

 

 

 そんな会話を無視して船首へと躍り出たイアソンは高らかに宣言する。

 嘗てギリシャの海を渡り、数多の伝説を打ち立てた、南の星々にまで残る(・・・・・・・)英雄船団の名を。

 

 

 

 

 

「―――アルゴノーツ、出陣の時だァッッ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

「あの船は―――」

 

 

 黒髭の宝具、『アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)号』の上で十字槍を持った壮年の男―――ヘクトールは自分の目を疑った。

 

 

 ■■■■■が自身に課した指示の下、黒髭一味に加わりドレイクの駆る黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)に乗るカルデアの一味と戦い、血斧王エイリークの犠牲を出しながらも彼女らの船の船底を自らの槍で貫き、今まさに撃沈一歩手前まで追い込んでいた。

 

 

 が、あの船が自身の予想通りの物なら、少なくとも黒髭陣営の勝ち目は潰えた。

 己が生涯を掛けて尚、敵わない英雄(アキレウス)をも上回る英雄が二人も其処には居たのだから―――

 

 

「―――…いやはや、オジサンも運が無いねぇ。まさかアレよりも厄介な奴を敵に回す羽目になるとは……」

「ブフォwwまさかのここで増援ww恐ろしい主人公補正でござるなあwせめてエウリュアレちゃんは残してー!―――で、ヘクトール氏、あの船をご存知で?」

「おうとも、船長。オジサンは実際に見たことは無いんだが生前アレの噂なら沢山聴いててな、ソレは――――」

 

 

 

 

 その名を聴いた黒髭の顔が先程まではニコニコしていたのにその瞬間、一瞬だけだが真顔になる。

 そしてこの状況に対する衝撃はカルデア側も同じ。

 

 

 

 

 

 

「―――姉御、姉御ォ!向こうから突然別の船が現れました!」

「はぁぁ!?旗は!?まさかあんのクソ髭の仲間かい!?」

「いえ、見たことない船です!」

「見たこと無い船だって――ッ!?……くそ、アンタ達!撤退の用意だ!アタシは船底を見に行く!」

 

 

 再び起こる想定外に対してドレイクは撤退を選び、自身は穴の空いた船底へと駆ける。何故なら今までの船は全て敵対する船だった。ならばその船も味方では無い可能性の方が高いから。

 立香とマシュは突然黒髭の乗組員たちやヘクトールが黒髭の船の元へと戻った事で異変に気付く。

 

 

「……先輩、どうしましょう。エイリーク血斧王は撃破しましたが、所属不明の船が接近中。船も損傷していますし―――」

「万事休す、だね……。」

「はい、仮にあの船が私達の敵対勢力であれば、撤退はより困難になると思われます……ッ!」

 

 

 

 マシュの口から溢れる、苦々しい現状。

 彼女らの視点から見れば、正体不明の船が敵なら詰みだ。撤退しようにも船が保たない。

 

 

 

『二人共!その船からサーヴァント反応だ!その数は―――嘘だ、五つだとうッ!?。』

「そんな、五騎も……ッ!?」

『ああ、彼らは―――』

 

 

―――間違いなくこの場において最大の勢力だ……ッ!

 

 詰み。その二文字が脳裏によぎる。

 消耗したこの状況で五騎を相手取るなんて不可能だ。今の彼女らには祈る以外の選択肢は存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――アタランテ、やれ」

 

 

 

 尤も、その考えは完全な杞憂だったのだが―――

 

 

 

「―――ッッッ!!チクショウ、やっぱりこうなるか!」

「ファッ!?弓矢!?嘘、ここまで届くの!?」

 

 

 

 それを語るのは野暮と言うものだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――え?」

 

 

 彼女、藤丸立香は僅かながら困惑していた。

 突如現れた船。その船から放たれた一射の矢が黒髭目掛けて放たれ、あの壮年のランサーが切り払った。

 ……恐らくあの船は敵ではないのだろう。それだけは何となく分かる。

 ただこの数分間の情報量が多すぎて若干のパニック状態に自分が陥っている気がするのだ。

 

 

 

「ちょっと、どういうこと!?アレは味方なの!?それとも敵なの!?」

「お、落ち着いてください。エウリュアレさん……。恐らくですが、向こうに攻撃を続けていますし敵ではないかと」

 

 

 この状況にエウリュアレは困惑気味に叫び、マシュがそれを宥める。

 ―――私も同じ気持ちだよ。と叫びたいところを我慢して、気を引き締めるために頬を両手で叩き、意志の籠った視線でソレを見据えた。

 

 

 

 ―――その船首に六つの人影が現れる。其処には彼女達に見覚えのある人物―――翠緑の狩人も交じっていた。

 

 

 双子の英雄、神代の魔術師、俊足の狩人、彼らが搭乗する大砲もない古き船。

 もう一人の女性はいまいち分からなかったがここまでの特徴があればその正体を特定することは容易だった。

 

 

 

『これは……全員が神代の英雄なのか…?待てよ、彼らが乗る船といえば―――まさか……ッ!』

「知ってるの!?ドクター!」

『勿論だッ!黒髭……エドワード・ティーチが世界最高の知名度を持つ海賊なら―――彼らはギリシャ神話で語られる、世界最高の知名度(・・・・・・・・)を誇る英雄船団(・・・・・・・)だ!』

 

 

 そのロマンの一言で、マシュの思考に一閃の光が差し込んだ。

 ―――即ち、彼らの名。

 

 

「世界最高の英雄船団―――まさか!」

 

 

 そうマシュが結論へと行き着くと同時に、(ソラ)から大量の矢が『アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)』へと降り注ぐ。

 

 

 

『そう、彼らの名はアルゴノーツ!!ギリシャ神話の二大英雄が一人、勇者王(・・・)イアソンが率いた英雄船団だ!』

 

 

 

 瞬間、此方側を振り向いた金髪の青年が辺りに響くような大きな声で二人を叱責した。

 

 

 

「―――何をしているッッ!殿はしてやるから早く撤退しろよッッ!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

「……あらあら、まさか援軍がよりによってあのアルゴノーツだなんて運が無いわね、メアリー?」

「そうだね、アン。……それもこれもティーチのせいなんじゃないかなあ。なんかこう、汚いから……」

「お二人さん物陰に隠れてないで拙者を助けてくれてもいいんだよ!?ヘルプミー!」

 

 

 ―――何か聴こえた?とメアリーが問い、いいえ、何も。と清々しい程の笑みで返すアン。この二人、船長を助ける気ゼロである。

 当の黒髭は、降り注ぐ弓矢を船員たちと走り回りながら必死に避けている。

 何人かは避けきれずに弓矢の餌食となっていたが。

 

 

「それにしても、これで網も切れちゃったし、多分撤退するみたいだね」

「ええ、もう距離をとられてしまったし、あの判断の早さは流石フランシス・ドレイクといっただけはあるわね」

「……一発くらい撃てそう?」

「駄目ね。あの船が邪魔で撃てないわ。……撃ったら撃ったで手痛い反撃が飛んできそうですけど」

 

 

 そういう二人が見据える先には、『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』に張り付き、支えながら撤退して行くアルゴー号の姿があった。

 彼らの戦力ならばこちらを討つことは容易いだろうに、彼らは一時撤退を選択した。

 

 

「オジサン達の完敗だね、こりゃあ。あの船の船長……流石世界を救った男なだけはある。ホントに余裕そうだねぇ」

「アイタタタ……アレ?エウリュアレちゃんとBBAの船は?……逃げられちゃった?嘘おん……」

 

 

 

 


 

 

「よし!このまま振り切―――って、コレは一体全体どういう状況だい!?」

 

 

 船底から駆けてきたドレイクの視界に入り込んだのは、自分達の船のすぐ近くに張り付いている先程の船の姿だった。

 

 

 

「あっ、ドレイク船長。彼らは私達を助けてくれて、その、敵では……」

「それくらいは分かってるよ。……あれ、アステリオスは?」

「アステリオスさんは………今船を下から押しています。そして補足すると、向こうの方も一人それを手伝っています」

「はあ……?」

 

 

 突拍子もないマシュの発言に首を傾げる。

 船を押す?下から?……その時点でかなりの出鱈目だが、ソレを手伝ってる奴がいる?

 

 

 まさか。あの巨軀を持つアステリオスなら未だ分かるが、そんな奴がいる訳――――――

 

 

「疑っているようだが事実だぞ」

「ん?アンタはそっちの船員かい?」

「ああ―――我が名はアタランテ。彼女達とは……余り良い物ではないが面識がある故、代表として私が参った次第だ」

 

 

 彼女が真名を口にし、ペコリと軽く頭を下げると、ロマンが画面越しに大きく反応する。

 

 

『アタランテ!ギリシャ神話の英霊、俊足の狩人!乗組員の一人が彼女という事は―――』

「如何にも。汝らが思う通り、この船はアルゴー号だ。他の人員はそちらに居る」

 

 

 そうアタランテが言うと、ロマンは何処か納得した様子を見せ、マシュはというと、伝記で見たことのある船が眼の前にあるということに目を輝かせていた。

 

 

「これが……あの伝説の……」

 

 

 そう言って彼女がアルゴー号に手を伸ばそうとした瞬間、船全体が一瞬ぐらりと揺れる。

 何事かと一同は辺りを見回すが、その答えは直ぐに現れた。

 

 

 

「―――アステリオスと……誰?」

 

 

 

 其処には、アステリオスを持ち上げながら現れた全身鎧……というか近未来感のある戦士が居た。

 というか某特撮番組のヒーローが着てそうな見た目だった。

 

 

『あの鎧……何というか凄く格好良くないか!?』

「あー、確かにドクターこういうの好きそう……」

 

 

 その姿を見たロマンは琴線に触れるものがあったのか、モニターを食い入るように見て、立香はドクターの性格的にそうなるか、と一人納得していた。

 

 

 その人物は傷だらけのアステリオスを優しく甲板に下ろして、武装を解いた。

 そうして彼女たちに自身の真名を名乗る。

 

 

「―――既に知ってたかもしれんが、サーヴァント、真名をイアソン。クラスはライダー。

 ―――勇者王なんて大層な名で呼ばれてるとは思わなかったが……まあ、宜しく。カルデアのマスター?」

 

 

 

 ―――この瞬間から、この特異点は本来の道から少しずつ、そして大きく離れて行くことは、未だ誰も知らなかった。

 

 

 

 

*1
いわゆる下腹部




『勇者』=勇気のある者のこと。
 しばしば英雄と同一視され、誰もが恐れる困難に立ち向かい偉業を成し遂げた者、または成し遂げようとしている者に対する敬意を表す呼称として用いられる。


 勇者王ならば、意味としてはAUOに似たような物だし、イアソン(原典)は時々自分の事を勇者と例えていたからぴったりなのではと考えたので勇者王に。
 因みに勇者王といえば某スーパーロボットを思い浮かべるが関係はない。

最初にこの案を提案してくれたLAGUSTさん、その他の皆さんもありがとう御座います!m(_ _)m




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第五幕/意図


感想見てたらやっぱり勇者王に対する反響が大きくて笑ってしまった……。
それを受けて気がついたら予定のなかったロボの構想と設定まで考えてしまったという事実。
なお実際に出すにはクロスオーバータグが必要になる可能性がある模様。


 

 

 

 

「全く、アステリオスったら心配させないでよ!」

「………ぅ」

 

 

 そうエウリュアレが傷付いた身体で浜辺に座り込むアステリオスに言う。心做しかアステリオスが小さく見えるのは気の所為ではあるまい。

 

 ―――アルゴノーツとの会合の後、一同は先程までイアソン達が滞在していたワイバーンの島へと辿り着いていた。

 現在は浜辺に降り立ち、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』の損傷具合を確かめている。

 

 

「本当、どこの世界にガレオン船を持ち上げて泳ごうとするバカが居るの、このバカ!」

「………ここ、に、いる」

「威張る所じゃないでしょ!?―――もう、あなた、私を肩に乗せる役割があるのを忘れたの?そら、汚れた身体を拭きなさい」

 

 

 そう言ってエウリュアレが布でアステリオスの身体を拭こうとしているのを見ていたイアソンは、二人の元へと歩み寄る。

 

 

「少しいいか?」

「―――あら、私達の後に生まれた勇者様じゃない?いくら私が美しいとはいえ、今は忙しいから後にして下さる?」

「え、何お前自意識過剰なの?―――用があるのはそっちだ」

 

 

 そう言いアステリオスを指差す。

 するとアステリオスは不思議そうにイアソンの側を向いた。その様子を見ていたロマンは不安そうに声を漏らす。

 

 

『こ、これ大丈夫かなぁ……』

「?何故ですか、ドクター。キャプテン・イアソンは先程までの間で信用に足る人物だとわかった筈ですが……。それにアステリオスさんを甲板に運んだのもイアソンさんですし……」

『いや、それは僕も分かっているし、あの勇者王を疑うなんて罰当たりなことをするつもりはないさ。……でも、アルゴノーツの中にはアステリオスと縁の深い英雄が居るからね。確か―――』

怪物(ミノタウロス)殺しで知られているテセウス、ですね……」

 

 

 ―――テセウス。ギリシャ神話において『怪物(ミノタウロス)』殺しにおいて名を馳せたアルゴノーツの一人。

 そんな人物と過ごしていた彼ならば、アステリオスに対しても何か思う所があってもおかしくないのでは―――

 

 

 そんな不必要な緊張感を抱えながらも、立香達はその様子を見守る。

 そしてイアソンがアステリオスに手を伸ばし―――

 

 

 

「―――『雷光(アステリオス)』、か。いい名じゃないか……よくやったな、アステリオス」

「……ぅ?……ん」

 

 

 アステリオスの肩にその手を起き、何処か感慨深い顔を浮かべながら彼を称える。

 アステリオスは困惑気味な表情を浮かべながらも、眼の前の不思議な雰囲気を纏う男からの称えの声を受け取った。

 そしてアステリオスの身体を少し眺めて一言。

 

 

「んー……メディアに治してもらうか、本職のアイツを呼ぶか……いや、このくらいならアイツに治療を任せるまでも無いか―――メディア、頼む」

「―――ええ、分かったわ。さあ坊や、傷を見せなさい」

 

 

 イアソンの呼び声に応じて空間転移で現れたメディア。そして早速魔術で治療に取り掛かる。

 嘗ての船に乗っていた頃からピカイチだった治癒魔術の腕は更に磨かれている。直にアステリオスの傷は完治するだろう。

 

 

『―――いやちょっと待ってくれ!しれっと空間転移なんて魔法級の高度な技術をしないでくれないか!?それにメディアだって!?』

「コルキスの王女メディア、ギリシャ最高峰の魔術師の一角ですね……!」

 

 

 またしても現れた大物に揺れるカルデア一行。

 というかアルゴノーツ一行と出会ってから驚いてしかいない気がするのは気の所為か。

 

 

「煩いぞロマンとやら。……あと俺は味方に害を加えるような奴だと思われてるようだな……?」

『あ、もしかして聞かれてたぁ!?御免なさい許して!』

 

 

 ロマンの慌てる様を見て内心面白がりながら、イアソンは視線を立香とマシュに向ける。

 視線を向けられた二人は緊張してか棒のように背筋を伸ばした。

 

 

「―――改めて此方側の自己紹介といくか。丁度全員居るわけだしな。―――先ず、其処の双子の兄妹がディオスクロイ。兄がカストロ、妹がポルクスだな」

 

 

 そう名前を挙げられた二人。

 それに対し片方は視線を向けられて煩わしそうな顔をし、もう片方はニコリと微笑んだ。

 

 

「ディオスクロイ……!確か、双子座の元となった英雄でしたね」

『―――そんな、彼らは神霊の筈なのに何故喚ばれているんだ……?エウリュアレや彼女(ステンノ)とは勝手が違う筈……』

「黙れ、姿を見せぬ人間。我らは今ここに居る。それ以上でもそれ以下でもあるまい」

「―――まあ、そうですね。私達はイアソンの呼び声に応じただけですし、詳しいことは分かりません」

 

 

 そう二人が言うと、はあ。と溜息を吐きロマンはこれ以上の追求を止めた。諦めた。

 ―――何か聞き捨てならないようなワードが出ていた気がするが、もう聞きたくなかった。これ以上は驚きで喉が枯れる。

 

 

「それと、メディアにアタランテだな。……何か言いたいことはあるか?」

「………別の特異点では迷惑を掛けた。今回は目的を共にする仲間として、汝らにもどうか信用して欲しい」

 

 

 そう言い彼女がぺこりと頭を下げると、二人は慌て気味に返事をする。

 

 

「い、いえ、アタランテさんに非は無いと思います。……というか、記憶が有るのですか!?」

「いや、記憶は無い。そこで私がどういう立場に居て、何を行ったのかを朧気に覚えているだけだ」

 

 そう彼女が答えて会話が途切れた直後、立香がそういえば、と何かを思い出した素振りを見せる。

 

 

「―――メディアさんって、アルトリアとエミヤやクー・フーリンが言ってた人だよね?」

「あ、そうですね、先輩。それに加えて小次郎さんが、『キャスターとバーサーカーは来ないのか』とぼやいていたのを聴いた覚えがあります」

「そんな事を―――てかヘラクレスそっちにも喚ばれてないのかよ……」

 

 

 曰く、二つの特異点とその他諸々を攻略したカルデアには、今の時点でもかなりの数の英霊が揃っているらしいが、召喚されていない人も居るには居るらしい。

 顎に手を当ててイアソンが唸っていると、おずおずとマシュがイアソンに話し掛ける。

 

 

「イ、イアソンさん。―――あちらの熊に先程から話しかけている女性は?」

「アレは只の痛い女だ。気にしなくていい」

「ちょっと!流石に酷いと思うんですけど!?」

 

 

 どうやら彼女にも聴こえていたらしく、イアソンは短く舌打ちする。そして憂鬱そうで面倒な表情を浮かべながら溜め息を吐き、ぶっきらぼうにマシュに言う。

 

 

「―――コレの真名が知りたいなら直接聞け。後悔しても知らんがな」

「は、はあ。分かりました……」

 

 

 そう言ってアルテミスを指差したイアソンに対し、マシュと立香は困惑気味に頷きながらもアルテミスの方を向く。

 

 

「えっと、私はマシュ・キリエライト。先輩――マスターのサーヴァントです」

「私は藤丸立香!宜しく!」

「ほほう、立香ちゃんにマシュちゃんね。………二人共独身?」

 

 

 開口一番にオリオンが二人を口説きに掛かった瞬間、オリオンがアルテミスに掴まれ、その頭を思いっきり握られる。

 

 

「もう、ダーリンったら、何さり気なくナンパしようとしてるのかな?ホントに困っちゃうなー!」

「ああごめんなさいごめんなさい!……確かに胸とか脚とかガン見してたのは認めるけども……ぷぎゅる!?」

「「―――」」

 

 

 そんな夫婦漫才?を見せつけられた二人は呆気に取られた。

 ソレを見ていたイアソンはオリオンに対して呆れたような顔をし、アタランテは二人に同情的な視線を向けた。

 

 

「先輩、私こんなに途方に暮れるのは初めてです。―――あ、いえ。あの黒なんとかと会ったときも途方に暮れました。暮れっぱなしです」

「何か、今回の特異点は全体的にネジが緩んでるんじゃないかなあ……」

 

 

 そう言って二人は項垂れながらも、めげずにオリオン夫婦に話し掛ける。

 

 

「……真名をお伺いしても?」

「え、私?アルテミスだけど?」

「はあ!?」

「嘘でしょ!?」

「フォウ!?(マジで!?)」

『何ぃ!?』

「………」

 

 

 彼女の口から語られた衝撃的なビッグネームに一同は騒然とする。横で話を聴いていたエウリュアレなんかは絶句し、よく分かってないアステリオスが唯一の癒しだった。

 

「で、ではそちらのぬいぐるみさんは……?」

「こっち?私の恋人、オリオンよ。……ダーリンが召喚されるって聞いて不安になったから私が代わってあげることにしたの!」

『あ、ああ。成る程。神霊のランクダウンによる代理英霊召喚か………そういう例も無いわけではないらしいが……』

 

 

 またもや明かされるビッグネーム。ギリシャ最高峰の狩人が一角、『三つ星の狩人(トライスター)』オリオン。

 残念ながら姿はぬいぐるみだが。……ぬいぐるみだが。

 

 

「ドーモ、オリオンです。聖杯戦争に召喚されてたらヘンな生き物になってました。……変な生き物に……。変な……」

「あー……ドンマイ?」

 

 

 自分の状況を再確認してショックのあまり項垂れるオリオンを励ます立香。

 そしてオリオンが補足を入れる。

 

 

「あ、ちなみに俺は限りなく役立たずなので。彼女なりアルゴノーツなりに超依存しなければ生きていけないので」

「ふふ、もっと私に依存してくれていいのよ?」

「自立したいなァ……」

 

 

 そんなオリオンの心の声が垂れ流されていると、船の確認が終わったのかドレイクがやって来る。

 

 

「なんだい、アタシ抜きではしゃいじゃってさ」

「あ、ドレイクさん。船は―――」

「駄目だね。とてもじゃないけど動けやしない。―――修繕作業自体は何とかなるけど、材料も足りないしね……」

「―――有り余ったワイバーンの鱗くらいならあるぞ?」

 

 

 そうイアソンが言うと、突然立香の頭の中で静電気がはじけたような感覚が訪れた。

 

 

「そうだ……!それなら…!」

「先輩、急にどうしたんですか?」

「今思いついたんだけど、ワイバーンの鱗で船を補修(・・・・・・・・・・・・)すればいい(・・・・・)んじゃないかな?」

「―――それです!!」

 

 

 胸に天来の啓示のごとく浮かんできた考え。立香は我ながらの妙案に内心一人で感心していた。

 

 

「はあ?鱗でアタシの船を修理するってこと?」

「……あら、いいわね。竜種の鱗ってのは、鎧にすれば鋼より頑丈よ。……ただ、相当な力を持つものでないと加工は難しいのだけど……」

 

 そうエウリュアレが言っていると、体の傷が跡形も無くなっていたアステリオスがメディアに連れられてやって来た。

 

 

「えうりゅあれ、なお、して、もらった」

「―――あ、あなたがいたわね。やれる?」

「……う」

 

 

 アステリオスが自信ありげに頷いて、ドレイクも異論は無かったことから、ワイバーンの鱗を使って船の補修をすることが決まった。

 

 

「えっと、確か船底の方に鱗は積んであった筈だよな………」

「いつの間に鱗を使って船を直すなんて話になったのよ………

 ―――これだけ有れば大丈夫?」

 

 

 そう言ってメディアが空に向かって魔法陣を敷くと、其処から大きな音を立てて豪雨のように鱗が降ってくる。

 

 

「おぉ……。やっぱあの頃よりも腕が上がってる……。ありがとな、助かる」

「ふふ、どういたしまして」

 

 

 二人がそう言葉を掛け合う中、立香達は山のように積み上げられた鱗を呆けたようにキョトンと口を半開きにして眺めていた。

 

 

「私の予想の何倍もあった……」

「そうですね………。レオナルド技術長、これだけあれば修繕には十分だと思いますか?」

『ううむ、その鱗の数なら加工分の縮小を加味しても十分足りるレベルだろう。問題ないよ』

「―――なら、早速取り掛かるとするか!アステリオス、飯食ったらウチの鍛冶(オヤジ)に会わせてやるよ!」

 

 

 ドレイクの船員の海賊がアステリオスにそう言ったのを皮切りに、船員たちによる修繕作業が始まった。

 その間、アステリオス以外特に手伝うこともない立香達とアルゴノーツ一同は黒髭に対する作戦を考えることに。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「―――船の性能にそれ程違いは無かった。問題はあの装甲の厚さかねぇ」

「はい。こちらの砲弾は全く通用しませんでした。……ドクター、黒髭について詳しく教えて下さい。カルデアのデータの方が正確でしょうから」

『ああ、黒髭はそこにいるフランシス・ドレイクの百年後に生まれる海賊だね』

 

 

 ―――曰く、本名エドワード・ティーチ。カリブ海を支配下においた海賊の一人。

 黒髭の異名を持ち、世界で最も有名な海賊。海賊というイメージを決定付けた大悪党。

 船を襲う際、抵抗しなければ無傷で解放したが、抵抗すれば皆殺し。

 

 そして彼の持つ三百人の手下を乗せた黒髭の愛用の船、その名を『アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)』。

 

 その船を旗船として大船団を作り上げた黒髭は、まさに最強最悪の海賊の一人として君臨したという。

 

 

『―――そんな大海賊が、ねぇ。まさか……ねぇ』

「……その先は言わないでください。あまり思い出したくないサーヴァントなので」

「脳内からアレの姿は消去したわ。はて、何かあったかしら?」

 

 

 しらばっくれたように彼女は言う。

 尤も、黒なんとかの事を思い出したくないというのはこの場にいる全員が共通する考えだったが。

 

 

「……ドクター、宝具として可能性のあるエピソードはありますか?」

『幾つかあるにはあるが……やはり、あの船そのものが宝具という可能性が一番高いと思う。―――戦闘中、魔力の反応を計測していたけど、あの船が一番大きかった』

「大方、あの船に秘密があるんだろ。―――…例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか、な」

 

 

 何処か確信したように言うイアソンの発言を聞き、皆の瞳孔が僅かに揺れる。

 彼の推測には、言葉では言い表せないようなどこか強い説得力があったからだ。

 

 

「――…ドクター」

『……ああ、その通りだ。確かに、君たちがエイリークを倒した瞬間、明らかに船が帯びていた魔力が弱まっている。勇者王の仮説は合っている可能性が高い』

「当然でしょう?イアソンは凄いのですから」

「何故お前が誇らしげに言う……」

 

 

 まるで自分のことのように、誇らしげに胸を張るポルクスを見てイアソンの脳裏に疑問符が浮かんだが、周りを軽く見回すと他のアルゴノーツの皆も似たような反応をして頷いているので、そういうものなのだと思うことにした。

 そんな彼らを見て立香がぽつりと言う。

 

 

「いやあ、イアソン様もこうして助言はしてくれる(・・・・・・・・)んだね。ありがとう!」

「まあ、これくらいはするのが筋ってもんだろ。……サボり宣言をしたやつに礼を言う必要は無いと思うがな」

「あはは……」

 

 そう言われて頬をかく立香。ただ、イアソンの言うサボり宣言(・・・・・)とは何か。

 それはこの話し合いの最初にあった出来事―――

 

 

 

 

 


 

 

 

「―――先に言っておくが、次の黒髭戦、俺は何もしない。お前達の力で突破しろ」

『………え?』

「はあ?アンタ何言ってんだい?」

 

 

 最初に口にされたイアソンの一言によってカルデア側の空気が凍りつく。

 訳がわからない、といった風に困惑の表情を浮かべていた。

 

 

「……ッ!何故ですか、勇者王。今は人理の……」

「―――いや、別に世界を救う気はないとかそういう意味じゃなくてだな?これは一応お前らの為なんだが……」

『……理由を聞いても良いかな?』

 

 

 勿論、とイアソンは言うと、カルデア一同の方にその作り物と見紛うような秀麗な顔を向け、口を開く。

 

 

「……分かっていると思うが、向こうは三騎に対して此方は九騎。普通に考えてもまず負けることはない。……そうだろ?」

 

 

 イアソンの問いに立香達は頷く。

 当然の事だ。三と九、三倍の兵力差であり兵の質もこちらが勝っていると来たら逆に負ける方法を考えるほうが難しい。

 しかし、とイアソンは続け、その翠緑の瞳を鋭く光らせてこう言った。

 

 

本当にそれで良いのか(・・・・・・・・・・)?」

「……?どういうことですか?」

「確かにここで全員で突貫すればいとも簡単に黒髭達は倒せるだろう。何なら俺一人でも十分に出来る。ただし―――その戦法が何時までも通じると思うか?………(いな)。」

 

 

 そう言われた二人の瞳孔が無意識に見開かれ、瞳が揺らぐ。

 そしてそのまま彼女らに反論の余地を一切持たせず、イアソンの扇動は続く。

 

 

 

 

 

「成る程、確かにこの特異点では俺達がいる。

 

 

 

 

 

 

 ―――でも、戦力が十分に揃わない状況だったら?

 

 

 

 

 

 ―――相手の戦力がこちらを上回っていたら?

 

 

 

 

 たらればの話だと思うなよ?……まあどんな状況だろうと勝ち筋は当然ある。但し、それを掴み取るには、そんな状況に対応出来る経験と直感が必要不可欠だがな……」

 

 

 そこまで言い切ったイアソンは、もう分かるだろ?と言わんばかりの表情で立香を見つめる。

 そしてその話を聞き、一つの考えに至った立香はおずおずと口を開く。

 

 

「……つまり、イアソンは私達にその『経験』を積ませようとしているってこと?」

「まあ概ねその通りだな」

『……待ってくれ!それだと立香ちゃん達への負担が増えるし万が一のことがある。それは医師としても現カルデアのトップとしても容認できない!』

 

 

 そう言ってロマンはイアソンに対して反対を唱える。

 一理ある。元からカルデアAチームに所属しており、とある英霊をその身に宿したマシュは兎も角、立香に関しては元々魔術のまの字も知らなかったような一般人なのだ。

 

 

 そんな彼女に対して必要以上の負担を強いるのが堪えるのは根が善人であるからか。

 モニターに映るロマンの様子を見て、立香はロマンを手で制し、ふんという顔つきで話し出す。

 

 

「いや……大丈夫。私やるよ!イアソンが私達にそう言うってことは出来るって事だよね?―――ならやってみせるよ!バレー部の底力見せてやるんだから!」

「えっと、バレー部はよくわかりませんが……。先輩が言うのならこのマシュ・キリエライト、全力で貴方をお守りします!」

 

 

 そう言って二人は心を奮い立たせ、元気そうに意気込む。それを見たロマンは溜息を吐き、諦めたように口を開く。

 

 

『―――やれやれ。これはもうボクが何を言っても意味がなさそうだね……』

「安心しろ。万が一、いや億が一、あいつらには傷一つつけさせない程度にはフォローしてやるから」

『………貴方がそういうのなら大丈夫だろう。お願いします、勇者王』

 

 

 そう言われたイアソンはそうか、と一言返し、今尚楽しそうにじゃれ合う立香達の所から離れて、少し離れたところに居たディオスクロイの元へと移動する。

 

 

「―――どう見る」

「?イアソン、突然どうしました?」

「あいつらの事だよ。あの二人」

 

 

 そう言って立香達の方に視線を向ける。そしてそれを聞いて二人は特に悩む素振りも見せずにこう言った。

 

 

「決まっているだろう。お前と同じで、神の血も引かぬただの人間だ」

「その通りです、兄様。彼女らは今を生きる人間。私が、我等が守護し、導くべき者たち」

「だよなぁ……」

 

 

 そう言って、楽しそうな表情を浮かべる立香達を見つめる。

 

 

 彼女は本来この場にいるような人間ではない筈なのだ。

 ただの一般枠であり一般人でありながらも精神は逸般人。それが彼女であり藤丸立香。

 

 己の弱さを言い訳にせず前に出る決断力、そして自分が一番苦しい状況であっても他者の恩義や想いなどに応えようとする強い気持ちを以って再び立ち向かう。

 

 そして自分に出来る事を出来る範囲で努力し、出来ない事は出来る範囲に収めようと最善を尽くし、人の敬遠する役割も進んで請け負い、何度酷い目に遭っても立ち上がり続けながら、どれほど過酷で絶望的な状況を前にしても諦めずに足掻き続ける。

 

 

 それが後に顕となる彼女の在り方であり、到底普通の人物に行えるとは思わない。

 

 

 まるで、初めからこの立場(カルデアのマスター)に立つことを想定されていたかのような―――

 

 

「そうだな、まるで―――」

 

 

 

 ――――――英雄みたいだ。

 

 

 

 そう頭の中でだけ口にして、イアソンはディオスクロイを引き連れて彼女らの元へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 





 何気にぐだーずってかなりイカれてると思う。あそこまで善属性で居続けた後、第二部を挫折しながらも乗り越えられるんだから。
 個人的作者がなりたくない人物トップでもある。


 藤丸立香:ご存知GOの主人公。本作では漫画版のバレー部に所属している物を多少参考に。かなりの逸般的メンタルだが、其処まで人間辞めてはない。


 イアソン:しっかりやってヌルゲー化させても良かったが、自分が爆死で喚ばれない可能性を考慮して、黒髭程度は倒して貰うことに。なおもう少ししたらそんな事は言ってられなくなる模様。


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第六幕/アン女王への復讐

 

 

 

 黒髭に対する作戦会議を終えた翌日。

 一同は一日掛けて修復された『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』を眺めていた。

 

 

「―――よし、加工及び補修完了!船底の穴も完全に埋めて、水漏れもなし!……ついでに、余った鱗を衝角(ラム)に装備させたよ。面白いことになりそうだ!」

「たった一日でよく直りましたね……」

「なに、それもこれもアステリオスのお陰さ。……さあ、今回も頼むよアステリオス!怪力無双、勇猛果敢なアンタの出番さ!」

「う、うぅぅぅぅ―――ッッ!!」

 

 

 アステリオスが雄叫びを上げながら、『黄金の鹿号(ゴールデンハインド)』を海へと押し出す。

 ガレオン船を一人の力で押し出すなんて出鱈目も、極めて高いランクの「天性の魔」を有し、人の身では絶対に到達することが不可能なランクの筋力と耐久力に到達したアステリオスには造作もない。

 

 

「おぉおおお……!すっっげぇぇえええええ!!―――くそう、悔しいけど格好いいぜアステリオス……!憧れるわ……男として……」

「う……う…」

 

 

 ドレイクの船員達が尊敬の念を抱いた視線をアステリオスに向け、それに対してアステリオスは照れくさそうに頰をかいた。

 

 

「ようし野郎ども!あの黒髭野郎に復讐だ!心配するな。今回アタシたちにはアタシたち海賊の祖先とも言える奴等がついている!―――行くぞ!ついてきな!」

 

 

 ドレイクの掛け声に船員が歓声をあげる。士気は今までの中でも最高と言っていい。

 

 

「ねーねー、ダーリン。あれやろうよ、あれ。―――船の帆先で、両腕を伸ばすアレ」

「うん、勝手にどうぞ。いま丁度船長が後ろで縄持って待機してるからカモメに気をつけてやってね」

「抱きしめてくれないの!?ひどい!」

「ぬいぐるみに無茶言うなや!」

「―――おい、俺達も出航するから来い。さもないと船首に縄で括り付けて女神像の代わりにする」

 

 

 イアソンの鶴の一声により、その様子を想像したのか震えたアルテミスが素早い動きでアタランテの後ろに隠れる。

 心做しかアタランテの耳が平らに倒れている様に見えたが。

 

 

「―――助けてアタランテ!貴方の恋人(・・)が怖いの!」

「なっ―――ッッッ!?」

『―――は?』

 

 

 あの女神は今イアソンを指さして何と言った?

 恋人?恋人?コイビト?

 その言葉が彼女らの脳内で幾度となく反響し、羨望と嫉妬に満ちた感情に駆られていく。

 そして突如言い様のない悪寒を感じたカストロは隣の妹から数歩距離をとった。

 

 

「―――アルテミス姉様?少し宜しいですか?」 

「姉様……!――なあに?ポルクスちゃん!」

 

 

 姉様と言う響きが気に入ったのか心做しか目を輝かせながらポルクスの呼びかけに応じるアルテミス。

 但し顔は笑顔でも目が一切笑っていなかったのだが、駄女神がそれに気づくことはなかった。

 そうしてその中にメディアも入って女性陣だけでひそひそ話を始める。

 

 

「………なあオリオン」

「……何だ船長」

「あいつら何話してると思う?」

「自分の胸に手を当てて考えてみたら分かるんじゃないですかねぇ」

 

 

 そんな事をイアソンの肩に避難していたオリオンと話していると、会話を終えたのかアルテミスがこちらを向いて、何処か「私は分かってるわ」と言いたげな笑みを浮かべてイアソンに対してサムズアップした。

 

 

「―――何に対するGOサインなんだ……アレ」

「さあ……俺達には分からん類のモンだろ」

 

 

 そしてその一連の流れを見ていた海賊の一人が、困惑気味に口を開く。

 

 

「あの、姉御。何ですかアレ」

「気にしなくていいよ。ただの修羅場さ。……アッチの生き物も無害だから放置しておきな、アタシはフォウの方が可愛いと思うけど」

「フォウ!(あんな奴と一緒にすんな!)」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ウッヒッヒッヒッヒ……ヒョッホッホッホッホ…………」

 

 

 視点は移ろい黒髭陣営。

 その船長である黒髭は――――――寝ていた。それはもう何とも言えない寝言のようなナニカを発しながらぐっすりと。

 

 

「―――はっ!?……おぉ、夢から覚めてしまえばハーレムは遥か彼方。だけど近くには内容はともかくハーレムを実現させた奴がいる気配。チクショウ、羨ましい。

 ―――そしてここにいるのは先生と二人だけの空間を作り出している百合ップルだけである。……まぁ?拙者百合もいけるでござるがぁ……一人はさみしいなぁ」

 

 

 チラッ。効果音をつけるならそんな所だろうか。

 つぶらな様でそうじゃない瞳をアンとメアリーに向けながらそこそこ大きい声で独り言を発する。

 

 

「―――すごい、アン。この船長、同衾を求めてるよ」

「好感度がゼロどころかマイナスに達しているのに大した発想だと思いますわ。―――というかその夢に、私達出てきていませんよね?出てたら、夢を忘れるまで銃床で殴り続けますが」

 

 

 そう二人に言われると黒髭はうーん、と唸りながら先程まで見ていた夢の内容を思い返す。

 そして何ともないように一言。

 

 

「んー……出てきたヒロインが多すぎて覚えてないですなぁ」

「―――凄い、アン。この船長、僕たちを有象無象のモブヒロインにしたよ」

「うん♪やっぱり殺しましょう♪」

「あ、怒る所そこでござるのね」

 

 

 最早アウトオブ眼中という、(悪い意味で)百点満点の回答をした黒髭に対してマスケット銃の銃口を向けるアンだったが、周囲の警戒に当たっていたヘクトールの一声によって状況は変わる。

 

 

「……おい船長さん、敵がおいでなすったようですよ。例のフランシス・ドレイクとアルゴノーツが」

「―――マジ!?エウリュアレちゃん、来たの!?聖杯も!?………でも何か難易度ハードモードになってない?」

「ハハッ、その通り。それにしても一日でやってくるとは、かなり早いリベンジだ」

「―――ヒャッホー!出迎え準備ですぞ、皆のもの!」

 

 

 そう黒髭が号令をかけると、部下の海賊達は一斉に動き出し、アンとメアリーは肩をすくめながら口を開く。

 

 

「やれやれ、しょうがない。お仕事するか」

「はあ……しょうがないわねえ。………それにしても、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』が先行して来るなんてね。てっきりアルゴー号が先行してきたと思ってたわ」

 

 

 そうアンが言うと、ヘクトールは何処か得心のいかないような顔をしてアルゴー号の方を見つめた。

 

 

「―――確かにその通りだ。一番注目すべきのは、アルゴー船の動向。あちらの船長は攻めも守りも、そして頭脳も超一流。………守るだけのオジサンや基本的に攻めるだけのあいつ(アキレウス)とは比べ物にならないからねぇ。今回も何かしら考えてもきた筈さ―――まあ、オジサンの知ったことじゃないがねぇ」

 

 

 それを聞いて、今一度『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』を眺めた瞬間、向こう側の行動が読めずに黒髭は怪訝そうな顔をする。

 

 

「んんんぅぅ?無策に真っ直ぐ突っ込んでくるつもりですかな?―――BBAらしからぬ所業ですな。愚直なまでの特攻とは!」

「そうでもなさそうだよ、船長。船首に居るの、君がご執心のサーヴァントじゃないか?」

「―――ファ!?ボキのエウリュアレちゃんがどうしたの!?船首!船首に居るの!?」

 

 

 そう言って黒髭は、自身の船の船首の辺りまで駆けて、遠目に『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』を見つめながらエウリュアレに向かって叫ぼうとした瞬間―――

 

 

「―――あれ?」

 

 

 自身のすぐ近くの甲板に刺さっていたのは………矢だった。間違いなくエウリュアレが所持している弓矢の矢だった。

 

 

 


 

 

 

「―――ちっ、外れたか。いえ、むしろ外してしまったような気さえするわ。……なんかこう、矢が汚れる的な」

「すみません、そこは真剣に仕留めていただけますか。使い捨てなんだから我慢して……」

 

 

 舌打ちするエウリュアレに対して、そうマシュが諫める様に言う。

 そしてその様子を見ていた立香が続々と予め決めておいた指示を出す。

 

 

「よし、エウリュアレはそのまま撃ち続けて!もう少ししたらアタランテはオリオン達が乗り込む迄に宝具をお願い!」

「了解した」

「わかってるわよ。……まあ、黒髭本人に当てるより―――別の誰かにぶつけたほうがいいのよ。私の“(ほうぐ)”って」

 

 

 そうやって呟く様に言いながら放ったエウリュアレの弓矢が黒髭の船の海賊に当たると―――

 

 

「……あ、あ、あ、あ……。あぁぁぁぁぁぁぁッッ!?お前ら……お前ら!エウリュアレ様の為に、死ねッ!!」

 

 

 彼女の持つ魅了(チャーム)の力に掛かった海賊が、気が狂った様に叫び、黒髭に対してカトラスを向けた瞬間――――――黒髭の右腕に付いている鉤爪が海賊の胸を貫いていた。

 

 

「あ……れ?船長、何でオレを―――」

「ほーら、だから言ったじゃん?エウリュアレ氏の矢に当たったら即座にブチ殺すって。全く、返り血で濡れちゃったヨ……」

「ア、アイアイサー!!」

 

 

 ―――エウリュアレの矢に当たったら即座にブチ殺す。

 即ち、黒髭は矢を食らう前からエウリュアレの特性に気がついていたというわけで。

 恐るべき洞察力とその頭脳。腐っても英雄として座に登録されただけはある。

 

 

「アン氏、アン氏〜」

「何ですか船長。それと気持ち悪い声で呼ぶのをやめてください」

「いや、まあ取り敢えず撃ってちょんまげ()」

「………誰かさんの余計な茶々が入らなければ、そうするつもりでした」

「よっろしくぅ!」

 

 

 そんな会話を繰り広げた後、黒髭はドレイク達の方を見ながら眉間にくっきりと皺を寄せる。

 

 

「―――さてさて。まさかBBAちゃん、これだけじゃないよねぇ?」

「……あったりめえだろうが、このボケ船長。―――立香!」

「アタランテ、お願い!」

 

 

 立香の掛け声を耳にしたアタランテは、アルゴー船の船首に立ち、“天穹の弓(タウロポロス)”に矢をつがえる。

 ―――その矢は宝具に非ず。それこそは『弓に矢を番え、放つという術理』そのものが具現化した宝具。

 

 

「―――我が弓と矢を以って、太陽神アポロンと月女神アルテミスの加護を願い奉る。」

「きゃっ、願われちゃった♡」

「ごはっ―――ッッ!?……この災厄を以下略!!

    ―――『訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)』―――ッッ!!」

 

 

 駄女神(アルテミス)のせいで(精神的に)自傷ダメージを負いながらも宙へと放たれた一射は、荒ぶる神々による敵方への災厄という形、豪雨のような光の矢となって黒髭の船へと降りそそぐ。

 

 

 

「がっ、あぁぁぁぁぁぁッッ!!矢が……肩に刺さって……」

「ちょ、またこれでござるか!……おい、これは最悪食らってもいいからエウリュアレ氏の矢には当たんなよ!」

『アイアイサー!』

 

 

 

 それを何処かギャグ調な動きで甲板を駆けて避け回りながら黒髭が海賊達に指示を出す。

 因みにヘクトールとアンメアは既に甲板の下に退避していた。

 

 

 そして降りそそぐ矢の脅威が去った直後、間髪入れずに新たな気配が上から接近しているのを感じ取り、上を見上げる。

 ……そこには海面を走ってきたアルテミスの姿があった。

 

 

「ハァイ♪」

「おお……天使……。―――じゃなくて誰ナノジャ!?」

「私、オリオンでーす!……取り敢えずここにいる全員、射殺しちゃうゾ☆」

 

 

 そう言い終わると同時に、アルテミスの放った弓矢がアタランテの宝具を受けて既に満身創痍だった海賊の一人の心臓を射抜く。

 そうして再び矢を放ち、五、六人程射殺した直後に、メアリーが駆け上がって来て、カトラスをアルテミスに対して突き立てる。

 

 

「あぁら、人間さん。接近戦に持ち込まれると、私、困っちゃう」

「見た感じ、アーチャーだろうからね……ッッ!?」

 

 

 アルテミスに再び斬りかかろうとしたメアリーに対して、アルゴー船の方から弓矢が飛来するが、横に跳ぶことで何とかそれを回避する。

 

 

「くそ、何とかあっちの人達も倒さないと……!とにかく、先ずは貴方を……!」

「……残念。だったら私、逃げちゃうわ」

「何……!?」

「アルテミス!準備出来たと伝えろ!」

 

 

 甲板の下から現れたオリオンが、そう言ってアルテミスの頭の上に跳び乗る。

 そしてそれを確認したアルテミスは、ドレイク達がいる方向を向き、大声で合図を出した。

 

 

「さあ、もう一人の船長さーん!やっちゃって――!!」

 

 

 それを聞いたドレイクは、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべながら、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』を黒髭の『アン女王の復讐号(クイーンアンズ・リベンジ)』へと直進させる。

 

 

「……操舵手、取舵一杯!角度をつけて、衝角で土手っ腹食い破るよ―――!!」

「あいよ、姉御!!……取舵、いっぱあああい!!」

 

 

 そうしてかなりの速度を出しながらも黒髭達へと迫る中、黒髭達の船の中は軽いパニック状態に陥っていた。

 言わずもがな黒髭がオリオンが甲板の下から出てきた理由に気がついたからである。

 

 

 

「―――オー、マイ、ガッ!!あのチビやってくれたなあ!?……総員、対ショック体勢ー!爆発するですぞおぉぉぉぉぉぉ―――ッッ!!」

「―――え?」

「そうか、火薬庫がやられたか!」

 

 

 ―――瞬間、船は今までで最大の衝撃と揺れに襲われた。

 その余震で黒髭達の船が揺れる中、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』は突貫する。

 

 

「よし、いっけぇぇぇ―――ッッ!!」

「―――やれやれ、これはもう遅いですなあ」

 

 

 ワイバーンの鱗で補強されたことにより、鋼鉄を上回る硬さを手に入れた衝角が黒髭の船を襲う。

 二連続できた巨大な衝撃に、海賊たちの中には転んでしまった人もちらほら居た。

 

 

「やった!大成功ね、ダーリン!」

「し、死ぬかと思った!火薬庫で、導火線に、火をつけて全力で逃げろって!船長よりも人使い、いや熊使いが荒いなあ!」

「貴様ら……!」

 

 

 今回立香達が考案した作戦。

 それはオリオンがポセイドンの血筋を引くが為に、水の上を歩けるという特性を利用した内部工作。

 事前にイアソンが『オリオン達は馬車馬の様に使ってやれ』と言っていたので、其処から連想した結果今回の作戦の考案に至った。

 

 

 アタランテが手伝っていたのは、“一応”信奉する女神一人を最前線に出すのは如何なものかと考えたことによる自主的な手伝いだった。

 ―――そのせいで再び心にダメージを負ったのだが。

 

 

 

 閑話休題(話を戻そう)

 

 

 手慣れた手付きで黒髭たちの船と自分たちの船を網で繋いだドレイク達は、マシュとドレイクを筆頭として黒髭達の船へと乗り込まんとしていた。

 

 

「さて、掠奪開始だ。行くぞ!アタシの頼れるアホウ共!」

「ううぅぅぅぅぅッッ!」

「行きなさい、アステリオス!」

「マスター!」

「うん……黒髭を、倒そう!」

 

 

 立香の声に応じ意気軒昂とした彼女らは、一斉に黒髭達の船へと駆け込んだ。

 

 

 

 


 

 

 

「………ん?」

 

 

 甲板で腕を組み、立香達をほんの少し離れた所から眺めていると、誰かがこの船に乗り込んできた気配を感じた。

 

 

「ごきげんよう、こちらの船長さん?」

「―――女海賊か。何故こちらに来る、黒髭の手助けはしないのか?」

「まあ、ティーチならゴキブリみたいに生き延びるでしょうし―――」

「たとえ何もしてなくても、お前がいる限り僕達に勝ち目は無い!だから切り刻んでやる……!」

「そうか……。メディア、アタランテ、手出しはするなよ…―――来い、女海賊」

「言われなくとも……!」

 

 

 そう言ってメアリーが大きく踏み込み、イアソンに向かってカトラスを振りかぶるが―――聞こえたのは甲高い金属音だけだった。

 

 

「―――まあ、俺が相手をするとは一言も言ってないんだがな?」

「なっ……!?」

 

 

 彼女の視界には、自身の目にも止まらぬ速さで接近し、剣を打ち付けてきたポルクスの姿があった。

 

 

「―――貴方、今イアソンに剣を向けましたね?……ならば私の守護対象ではありません。殺します」

「くっ……強い……!」

 

 

 二人は幾度となく剣戟を繰り広げるが、メアリーが次第に押されていく。

 当然といえば当然だ。

 片やその剣技の腕前はヘラクレスとも十全にやり合える実力のある神話の英雄。

 片や名を馳せたとは言えども所詮は近代に生まれた女海賊の一人。

 

 その差は歴然だった。

 しかし、彼女の真髄は相棒であるアンとの連携攻撃。それを駆使すれば格上相手にも肉薄できる可能性はある。

 

 ポルクスと切り合う中、メアリーが動いた。

 

 

「―――今だよ!アン!」

「はーい。撃ちますよ!」

 

 

 そうアンが言うや否やメアリーは即座に真横に飛んだ。

 そしてメアリーが退いたポルクスの視界に映ったのは、自身の目の前に迫るマスケット銃の弾。

 これこそが二人一緒に座に登録されたアンとメアリーの真髄。以心伝心を体現したかのような連携攻撃。

 

 

 ―――しかし今回は相手が悪かった。

 

 

「―――嘘」

「―――申し訳ないですが、二人一組というのは、貴方達だけの特性ではないのですよ――ッ!」

「あっ、剣が……!」

 

 

 ポルクスの額を撃ち抜かんとしていた銃弾は、横合いから投げられた光の円盤によって弾かれた。

 その先には返ってきた円盤を掴むカストロの姿。

 

 

 そして必殺と思っていた一撃を防がれたことに対する動揺をポルクスに突かれ、もとから強度で劣っていたカトラスを真っ二つに折られてしまう。

 

 

 

 ―――彼等は文字通りの二人組、夜空に輝く双子座の元となった英雄。

 連携と言う面も含めて、完全上位互換とも言える二人に、アンとメアリーは追い詰められていた。

 

 

「―――いや、まだ行ける!アン!」

「ええ、未だ船長が戦っているというのに、途中で諦める訳にはいきません!」

「―――ほう、少しは骨のある人間ではないか。……だが、一介の海賊が神に敵う筈があるまい」

「やってみないと……わからないだろ!」

 

 

 そう言ってメアリーがディオスクロイに対して突貫する――――――と見せかけて、折れたカトラスを宙に投げた。

 

 

「―――せめて一矢報いて見せる!……アン!」

「ええ、任せて!」

 

 

 そうしてアンが放った銃弾が、空中でメアリーの投げたカトラスの刃の部分に当たって跳弾し、一直線にイアソン(・・・・)の元へと向かう(・・・・・・・)

 

 

 ―――だが、そんな絶技を行っても、その壁は余りにも高すぎた。

 

 

「―――悪いな。初めからお前たちが俺を倒す事は不可能だったんだよ」

「―――海賊よ、貴方の力に敬意を評します。……死ね」

「人間よ、俺の予想以上の実力だった。……相手が悪かったがな」

 

 

 その銃弾は、イアソンに当たる前に、イアソンの前に張られた透明な壁……メディアの結界に当たって跳ね返る。

 そうして丸腰になったメアリーと、アンの霊核をカストロとポルクスが同時に貫くことによって決着はついた。

 

 

「……あぁ、神にはやっぱり届かなかったか……」

「えぇ……船長を残して先に逝ってしまうのは少し、残念ね」

 

 

 

 

 ―――それだけ言い残して、規格外の連携を見せつけた二人の女海賊はこの特異点から完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 






イアソン:後方腕組面してずっと見てた。正直アンメアコンビが予想以上に強くて驚いた。あと今度アタランテにはアップルパイでも作ってやろうと考えた。

アタランテ:アルテミスが心配だったから手伝いをしたけど、やっぱりショックで崩れ落ちそうになった。でもイアソンが慰めてくれるから結構役得なのではと最近思い始めた。




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第七幕/黒髭、四海に沈む

……何で投稿が少し遅れたかって?

婦長のすり抜けを乗り越えてオベロンと光コヤを引けるまでフリクエ回ったからに決まってるダルォ!?

スキルマへの道は遠い。


あと、書店を漁ってapoの書籍を少し買ってきた(全巻売ってなかった)ので、その内apo編もやって行く予定です。


 

 

 

 ―――丁度アンとメアリーが消滅した頃、立香達は黒髭と激戦を繰り広げていた。

 

 

 サーヴァントの数だけで言えば、後方に居るエウリュアレを除いても、マシュとアステリオスにオリオン、聖杯のお陰でサーヴァント級の戦闘力を有するドレイクとかなり有利な状態だった。

 

 

 しかし、その程度の戦力差ではかの大海賊とその一味を簡単に抑えることなど無理と言っていいだろう。

 

 

 圧倒的戦力差? 生存は絶望的?

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 生前だってそうだった。

 軍の奇襲を受け、僅かな仲間のみで迎え撃ち、ニ十箇所の刀傷と五発の銃弾を受けてもこの身はなお力尽きる事なく戦い続けた。

 

 

 それに比べればマシといったところか。

 

 

「ぅ……じゃま……!」

「はーいお前ら!あのデカいのを総掛かりで抑えるでごじゃるよ!」

『アイアイサー!船長!』

 

 

 そう言って海賊達は素早い動きでアステリオスの四方を取り囲む。

 人間の域を超越したアステリオスの膂力を以ってしても、十数人で囲い込んでくる海賊達を瞬時に殲滅することは難しい。

 

 

 神代の存在であるアステリオスを抑え込めさえすれば、未だ少しくらいはやりようがある。

 そう黒髭は考えた。 

 

 

 

 同じく比較的近代の英雄であるドレイクと、神代の出身ながら戦闘力のない女神、そして宿る英霊自体は高名なものの、依代が無垢で未熟な少女。

 アルテミスは流石に厳しいが、そう簡単にやられる道理もなし。

 

 

「ほら、リンチとかして恥ずかしくないんですかー!?僕ちん一人でアルヨ!?あ、他のモブ船員は数に含まれないので」

「戦闘中くらいそのよく回る口を閉じれないのかい、テメェは……!」

 

 

 そう言ってドレイクは黒髭に銃を放ち、それに追従する形でアルテミスが光弾のような弓矢を放つが、黒髭はマストの柱に身を隠すことでそれを凌ぐ。

 

 そして其処からマスターである立香に向かって銃弾を放つが、そばにいたマシュがそれを防ぎ、甲高い金属音が円卓の盾から響いた。

 

 

「……ぅ、し、ね……!」

「はぁぁぁ!?ちょっともう来たの!?もうチートやチーターやんそんなん!」

 

 

 そして直後、海賊達を蹴散らしたアステリオスが右腕の片刃斧で黒髭を横合いから斬りつけるが、黒髭が横に飛び退いたことで躱され、戦斧はそのまま船の柱にめり込み、木を切り倒したような乾いた音がその場に響く。

 

 

 その様子を見た黒髭はアステリオスの膂力に目を見開いて冷や汗をかくが、その時に生まれた一瞬の隙をドレイクは見逃さなかった。

 

 

「ほら、鉛玉の味はどうだ!?」

「チィ――ッッ!?クソが、BBAのヤロー……!」

 

 

 放たれた銃弾が黒髭の左肩を撃ち抜き、鮮血が甲板に垂れる。

 ここに来て黒髭に明確なダメージを与えたことによって拳を握りしめる立香だったが、この展開に何かの違和感を覚える。

 

 

 

 そう、まるで()()()()()()()()()()()ような―――

 

 

 

 

「……やれやれ、不本意極まりないが、オジサンはさっさと命令(オーダー)を果たすことにしましょうかね―――」

 

 

 

 

 

 ……嫌な予感ほどよく当たるとは誰が言ったことか。

 

 

 

 

 

「ゴガ―――ッッッ!?……ク、ソがぁぁぁ!」

「―――え……?」

「ティーチ!?クソ、テメェ仲間を……!」

 

 

 

 次の瞬間、黒髭の胸部から槍の穂先が生えてきた。

 (いや)、詳しく言うと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 突然の裏切り。そんな想定外の事態が眼の前で起きたマシュは困惑の声を漏らし、狼狽えた。

 ドレイクは黒髭を刺した槍兵を厳しい視線で睨む。

 

 

「いやあ……少しだけだがやっと隙が出来たよな、船長?」

「―――」

「―――全く、油断ぶっこいてる振りして、どこだろうと用心深く銃を握り締めていたんだからねぇ。……オジサン、全く感心したぜ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の方がそりゃ厄介だわ」

「………はあ、道理で……裏が読めぬ相手だと……。しかし、勝ち目が残ってるのに裏切るとか、()()()()()氏はアホでござるか」

「ヘクトール……!?」

 

 

 そう黒髭は苦々しく呟いてその槍兵……ヘクトールを睨むが、ヘクトールは芝居じみた所作を取るのみだった。

 ―――ヘクトール。彼等アルゴノーツの物語である『アルゴナウティカ』に迫るほどの知名度を誇るギリシャ神話の叙事詩『イリアス』に登場し、アキレウスと激戦を繰り広げたギリシャ最高峰の大英雄。トロイアの守護者。

 

 

「……いや何、オジサンも結構な勝算があってやっていてね。個人的には正直()()()()()()()()()んだが、まあ上手く行っちまったみたいだ。ほらな―――ッッ!」

 

 

 そう言ってヘクトールが槍を引き抜くと、一同の視界には予想外のものが映った。

 ――――――黄金の杯、聖杯だ。

 

 

「舐めるンじゃ、ねえ……!」

 

 そう言って黒髭はヘクトールに対して発砲するが、ヘクトールは銃弾を槍で難なく弾く。

 

「残念、外れ。聖杯は頂いた……!!」

「聖杯が表出した……!エドワード・ティーチがこの時代の特異点だったんですか!?」

 

 

 そう言って驚愕の表情でヘクトールの手に握られた聖杯を見つめる。

 そしてヘクトールがその瞳に戦意を宿してドレイクを見る。

 

 

「後は―――フランシス・ドレイク。アンタだけだな……」

「くっ……!」

「全く、馬鹿に聖杯を預ければ歴史が狂うって話だったのにさァ。まさかそれを食い止めて有り余るだけの航海者が現れるとは。―――ほんと、人類の航海図ってのはうち(ギリシャ)含めて網渡りだよ」

 

 

 そう言って槍の穂先をドレイクに向けるヘクトールを見て、立香は瞬時に頭を回転させて、マシュに指示を出す。

 

「止めて、マシュ!」

「させません……!」

「し、ね……!」

 

 

 前からマシュが、後ろからアステリオスが、得物を振りかぶってヘクトールに襲いかかるが、ヘクトールは篭手の噴出口を吹かせて身体を一回転させながら凄まじい勢いで槍を振るい、二人を強引に吹き飛ばす。

 

 

 

「なっ……!?」

「まあ、流石に若輩者に負けるほどオジサンも老いてはいないからねぇ……」

 

 

 そう言ってヘクトールはドレイクの方へと跳ぶ――――――事は無く、近くに用意していた小型の船に乗り込む。

 ―――が、瞬間、辺りに発砲音が響き、ヘクトールの左腕から鮮血が舞う。

 そしてヘクトールが攻撃された方向に視線を向けると――――――甲板に倒れ伏しながらも自身に銃口を向ける黒髭の姿があった。

 

 

 

「ちっ!……おいおい、船長。アンタまだ生きてんのか」

「ぐひひひひ。愛の力ですぞ!………何てな、今のが最後の一撃さ」

「そいつは良かった。なら、オジサンはさっさと撤退するかね―――」

 

 

 そう言ってヘクトールは、その数メートル程の小さな船の両側に搭載されている、自分の篭手と同じような炎の噴出孔を吹かせ、一気に加速する。

 そしてそのまま、その船は普通ならば有り得ない程の速度で加速して、みるみる『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』を引き離していく。

 

 

 

「あ、くそ、アイツ船は船でも大分ヤベー船用意してやがった!ちゃっかりしてんなあ!」

「追いかけようか、ダーリン。私達なら―――」

「駄目だ」

「……何で」

 

 

 そう不満げに口をとがらせるアルテミスにオリオンは悔恨の色が現れた顔で宥める様に話し出す。

 

 

「―――今のお前も、そして俺もサーヴァントってことを忘れるな」

「むぅ。ダーリンは私が負けると思ってるわけね?」

「いや、ヘクトールっつったらアレだろ。船長……イアソンの死後に神々が介入した最大の戦争、トロイア戦争における大英雄。あの万能無敵勇者アキレウスが数年かけてやっと倒したような相手だぞ。

 ―――神体(ホント)のお前ならまだしも、俺の力をベースにしている今は、ちょっと手に余る」

 

 

 オリオンの話を聴いたアルテミスは、目をぱちくりさせて意外とでも言いたげな顔でオリオンを見つめる。

 

 

「……意外と冷静だね」

「そうでもねぇけどな。何か、立香ちゃんたちは怒り心頭みたいだし、一人くらい冷静な奴がいなきゃ駄目だろ。

 ―――それに、あのアキレウスよりも万能無敵勇者してる船長(イアソン)がこの状況で何も言わねぇって事は、何かキナ臭い事でもあるんじゃないか?」

「―――キャー、素敵!ダーリン!抱いて!滅茶苦茶にして!」

「だからぬいぐるみに無茶言うなや!」

 

 

 

 そんなことを言っている間に、アステリオスに打ちのめされて倒れていた黒髭の手下の海賊達が、次第に粒子となっていき、そのまま光となって消えてしまった。

 

 

「黒髭の手下たちが……消えちゃいました」

『黒髭が保有していた魔力で産み出されたものだからね。聖杯も無くなった今、維持できる力も無いようだ。……その割に本人は、まだ元気一杯っぽいけど』

 

 

 そう言ってロマニがモニター越しに視線を向ける先には、甲板に倒れ伏しながらも未だ完全に消滅する気配のない黒髭がいた。

 すると黒髭はやけに思い切りのいい声で話し出す。

 

 

「―――さあて、そろそろさよならのお時間ですな。BBA、これで勝ったと思うなよでござるよ!?」

「ああ、はいはい。もう何言われても負け犬の遠吠えだから。さっさと消滅しちまいな、黒髭。生き続けるのもキツいんだろ、今のアンタ」

「お、おう。そんな優しい言葉を掛けられては……BBAにデレたくなってしまう……」

 

 

 そういう黒髭の身体の端の辺りは既に退去が始まっており、徐々に光の粒子となっていた。

 それでも尚生きながらえられたのは、黒髭が低ランクの戦闘続行スキルを保有しているからであろう。

 

 

「さあて、満足したし死ぬとするか!だが、今度こそはこの首を刎ねられてやらねえですぞ」

「そうだな、今回はちゃんとその首を持って死ぬといい」

「え、キャプテン・イアソン!?いつからそこに!?」

 

 

 一体いつ乗り込んできたのか、マシュ達の横にはいつの間にかイアソンが立っていた。

 その姿を見た黒髭は、フンと鼻を鳴らしてイアソンを見る。

 

 

「おお……俺達海賊の祖。思ってた何倍もイケメンでござるなぁ……やっぱり世の中って理不尽」

「いや其処かよ……まあ海賊なんてそんなもんか。お前含めて自由を体現したような奴等だし……」

「ハハハ、だって拙者、大海賊ですからな!面白おかしく海賊やって、そして死ぬ!―――ハーレム出来なかったのは無念だが、楽しかったから良しとしよう!」

 

 

 そう言って、黒髭は何処か満ち足りたような笑みを浮かべる。が、ふと何かを思いついたような顔をしてドレイクに話しかける。

 

 

「……あ、でもBBAや。拙者がライバルとして蘇るルートとか必要では?『お前を倒すのは、この拙者と決めている…!』みたいなセリフと共に、復活とか良くない?」

「……要らない要らない。そらそら、逝けよ。その首はきっちり忘れず持っていきな!」

 

 

 そうドレイクに言われると、黒髭は何処か胸が熱くなるような感覚に襲われるも、消滅前に最後の言葉を紡ぐ。

 

 

「―――そうか、じゃあしょうがないな!は、いいさいいさ、いいってことさ!

 ―――黒髭が誰より尊敬した女が!!そして誰より憧れた英雄が!!黒髭の死を看取ってくれる上にこの首をそのまま残してくれるなんてな!」

 

 

 そう言って黒髭は空を見上げ、高らかに声を上げる。

 

 

「―――それじゃあ、さらばだ人類!さらばだ海賊!

 黒髭は死ぬぞ!くっ、はははははははははははは―――!」

 

 

 ―――その大きな高笑いを以て、カリブ海を支配下においた大海賊はこの特異点から完全に消失した。

 

 

 

 

「―――ああ、さっさと死になエドワード。どうせアンタもアタシも地獄行きだ。海賊らしく無様にみっともなく、悪行の報いを受けようじゃないか」

「……船が崩れます。戻りましょう!」

「……そうだね、戻ろっか」

 

 

 

 


 

 

 

 

「……それにしてもあの小型船、見かけ以上に速かったねえ。出足で遅れた分、あっちが止まらない限りは追いつけるかどうか微妙か……」

 

 

 そう言ってヘクトールが渡った側の方角を睨むドレイク。

 一同はその後、ヘクトールを追い掛けるために速度を上げて海を渡っていた。

 

 

 

「あの船、とてもこの時代に元からあった船とは思えません。バーニアが付いていましたし……」

『恐らく、ヘクトールの背後にいるだろう人物が与えた物だろう。だとしても、この時代には過ぎた性能だけどね』

「……追いつく方法ならばある、と言ったら?」

『本当かい!?勇者王!』

 

 

 

 ドレイクの船に乗っていた一同が、興味深そうな視線をイアソンに向ける。

 別に此方側が損害を受けたわけでは無いので、態々急ぐ必要性もなかったのだが、実際追いつける方法があるのなら願ったり叶ったりだ。

 

 

「……先ず、ヘクトールの行方。これはメディアがヘクトールの魔力を解析して居場所を割り出す事が出来る」

「へえ……遠いのかい?」

「ああ、このまま行ったらまず追いつけない」

 

 

 その知らせを聴いたマシュ達は苦々しい顔をするが、話はまだ終わって居ない。

 指を曲げ、二の数字を示したイアソンは笑みを浮かべる。

 

 

「そして二つ、アルゴー号の最大船速なら()()()()()()()()()()()()()()

「たった数時間で……!?」

「そうだ。もう準備も出来ている―――前を見ろ」

 

 

 そう言われた一同が前を見ると、いつの間にか前に来ていたアルゴー号の船尾と、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』の船首がアルゴノーツの手によってワイヤーで繋がれていた。

 それを見たエウリュアレが呆れの混じった視線をイアソンに向ける。

 

 

「……まさか、この船を引っ張るとでも言うの?確かにアルゴー号の方が一回り大きいけど、引っ張ってそんな速度が出せる訳………」

「ハッ、お前ギリシャ出身の癖に分からんのか?……俺達の船が只の船な訳ないだろうに」

「なっ……!」

 

 

 何処か小馬鹿にしたようなイアソンの表情を見て、苛立ちを覚えるも何とか堪える。

 するとメディアがこちらに移動してきて、立香達には聞き取れない言語で詠唱を始める。

 

 

「―――、――」

『これは……高速神言!?神代の言葉、高速詠唱の最上位スキルじゃないか!?』

 

 

 ―――高速神言。それはメディアを含む神代の魔術師が扱う特殊な呪文。

 区分としては一小節に該当するが、発動速度は一工程と同等かそれ以上。しかも威力は五小節以上の大魔術に相当する。

 

 

 魔術師のカテゴリーの中では有り体に言って最強クラスのスキルと言っても良い。

 そうして数秒とかからずに、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』の周辺を強固な結界が覆う。

 

 

「貴方達、絶対に結界の外に出ては駄目よ?……灰になってもいいのなら止めないけれど」

「あの、メディアさん。それはどういう……」

「……見てたらわかるわ」

 

 

 彼女にそう言われた立香とマシュは結界の内側からアルゴー号の甲板を見ると、いつの間にか移動していたイアソンの姿があった。

 

 

 ―――そして次の瞬間、彼を中心として辺り一面に莫大な魔力が吹き荒れる。

 

 

「―――魔力浸透、雷霆隆起、多重加護同時連結!……アルゴー船、()()()()()()()()へ移行!」

 

 

 膝をついて手を置き、肘から先だけ展開したアイギスを通してアルゴー号全体に自身の魔力を浸透させる。

 

 

 ―――瞬間、アルゴー号の帆が黄金に輝き、白かった帆が眩い光を纏う。

 さらに船尾の方が機械的な音を立てて変形し、木材だと思っていた部分が開き、其処から四門ずつスラスターが現れた。

 

 

 

「な―――」

『―――』

 

 

 嘘でしょ……!?と言葉が出かかったが、衝撃的過ぎたのか口をパクパクとさせる立香。

 いくらなんでも、まさか神代の船が未来のロボットよろしく変形してくるとは誰も思わないだろう。

 一応同じ地域出身の筈のエウリュアレも呆然としている。

 

 

『―――いやいやいやいやいやいやいやいや、何で!?ナンデ!?NANDE!?

 ―――さっきまでは突っ込まなかったけど、ギリシャは鎧が特撮ヒーローみたいになったり、船が変形して宇宙戦艦みたいになるのかい!?…いやすっごいロマンがあって格好いいけど!』

「ナイスドクター……!」

 

 

 恐らくこの場の誰もが思っていたことを代弁するドクターであったが、イアソン含むエウリュアレ以外のギリシャ組はどこ吹く風、というか何がおかしいのか分かっていない様子だった。

 ―――そんなの普通でしょ?と言わんばかりに。

 

 

「んー、何でって言われてもねぇ。ダーリン」

「……ここで違うって言えないのが悔しい」

「えぇ……ギリシャって魔境過ぎない……?」

「あ、発進するぞー」

 

 

 そんな気の抜けた掛け声と共に、アルゴー号のスラスターが吹き、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』を引っ張りながら急加速する。

 

 急発進、急加速による慣性の法則で身体がよろけるのを耐えながら、縁の方まで移動して周りを見てみると、先程とは比べ物にならない程の速度で海面を移動していた。

 今は『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』を引っ張っているから本来の速度には程遠いらしいが、それでもざっと90km/hは軽く出ているように感じる。

 

 

「おお!こんなに速度が出るなら本当にすぐ追いつけそうだ!……仕組みはよく分からないけど」

「大いに同感です………」

 

 

 カルデア組の中で、ギリシャへの疑問が深まった瞬間であった。

 

 





アルゴー号:やっぱり魔改造されてたやつ。神木を使った上でギリシャの名工に女神が手助けして作った船がただの船なわけないよネ。

 イアソン達がたったニ年で船旅を終わらせたのはこのその気になれば空も飛べて宇宙も飛べる反則戦艦もどきによる高速航行が出来たから。
 因みにまだ変身を残しているかもしれない。

 光の帆のイメージは、XBガンダムの『マザー・バンガード』の光の帆に近い。
 そして通常時の速度は海面なら40~100km/h超。空中ならば最高で数百km/hは軽く超える。


次回からはいよいよ特異点の黒幕との対決。
感想待ってますm(_ _)m


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第八幕/黒幕と巨英雄

逃走中を見ながら今年最後の投稿。
ここからは結構なオリジナル展開になってきます。



あと言い忘れてたがダビデは出ない(唐突)


 

 

 ―――海原を征く、何処かアルゴー船に近い造形をした一隻の船。

 推力となる光の帆、大砲の様に取り付けられた鋼鉄の弓、どれを取っても西暦1500年代どころか現代の文明レベルさえ大きく逸脱している代物。

 その一室で、紫陽花の様な一人の少女が、緑のシルクハットを被った男に付き従っていた。

 

 

「―――失礼します、マスター」

「……()()か。何だ」

「ヘクトールさまから連絡がありました。聖杯を確保したそうですよ」

「……そうか。あの男、他の使えない奴等に比べて少しは使えるではないか。うむ、報告ご苦労」

 

 

 そう言ってその少女を見ながら男は軽薄な笑みを浮かべる。

 しかし、その様子は傍から見ると不気味で、その少女を見つめる瞳にも何処か蔑みの色が混ざっていた。

 人はそんな視線を向けられれば多少の不快感は感じるものであろうが、この少女は変わらずニコニコと貼り付けたような笑みを浮かべている。自分を魔女と呼ばれようと。

 

 

「それが有れば、あの航海者風情に煮え湯を飲まされた機械神も十分に駆動出来るだろう。……ククク、あの愚かな人類の残りカス共が、圧倒的力を前に無惨に蹂躙される!―――実に素晴らしいと思わないか!!」

「はい、とても。とても素晴らしいと思います、マスター」

 

 

 目玉が飛び出るのではないかと思わせる程、突然過剰に叫ぶ男を見ても、ただただ少女は無感情に肯定の意を示す。

 そして突然叫ぶのを止めて胡散臭い笑みを口元に浮かべた男は彼女のそばに近寄りゆっくりと、そして彼女の心の奥底に語り掛けるように囁く。

 

 

「ああ、安心してくれ。奴らを捻り潰した暁に、君の願いは叶う。君が殺した男の、死の運命は焼却される」

「殺……した?よく分からないことを言うのですね、マスターは」

 

 

 そう困ったように言う彼女であったが、その瞳の奥は確かに動揺の色に染まって揺れていた。

 

 

「フン……まあいい。あの老骨を拾ったらカルデアを潰す。主の助けなど必要ないかもしれんな」

「ええ、私達アルゴノーツ。彼を除けば()()()()()、ソレが私達には付いて居るのですから」

「あの狂犬か。確かに貴様の歪曲召喚が無ければ御すのに苦労する存在ではあったが……まあ特攻兵程度にはなるか」

 

 

 

 

 

 

「―――■■■■■」

 

 

 そう何処か見下すような口調と視線を向ける先に佇むのは、とても真っ当な英霊とは思えない怪物性を醸し出している者。

 五メートルを超える巨軀、霊基の変質により身体中に浮かんだ赤い裂傷。理性を欠片も感じさせない超狂化。

 

 

 

 ―――故に、ソレに本来の真名は当てはまらない。

 

 

 

 歪んだ召喚の末に完全な怪物と化したソレの名は―――

――――――巨英雄(ヘラクレス・メガロス)

 正史においては伝承地底世界(亜種特異点Ⅱ)にて、語り手の女の宝具(物語)と聖杯の力により産み出された怪物である。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 一方その頃、立香達カルデア一行は、自分達が乗っている『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』を変形したアルゴー号に引き摺られ、凄まじい速度で大海原を駆けていた。

 

 

 さらに理論上は泥聖杯さえも制御可能な世界最高峰の魔術師の張った結界のお陰で、今みたいに嵐に出くわしても、一切の速度を落とすことなく進み続けている。

 

 

「いやぁ、二度目の嵐のライディングがこんなに楽になるとはねぇ。嵐の中でも濡れないなんて不思議な気分だ」

「二度目……ですか?」

「あれ、最初に言わなかったかい?ほら、あのデカブツを沈めた時だよ」

 

 

 そうドレイクが言ったとき、ふとマシュの脳裏に海賊達の発言がよぎる。

 ―――曰く、何時までも明けない七つの夜。海という海に現れた破滅の大河。沈没都市アトランティス。

 

 

 

 そして海神(ポセイドン)を名乗るもの。

 

 

 

 きっとこれらがヘクトールの背後に居る者たちと関係があるのではなかろうか。

 そんな事を考えていると、向こうに数隻の船が位置しているのを海賊達が見つける。

 

 

「姐御、前方に船三隻!」

「何い!?黒髭の船みたいなやつかい!?」

「はい、でも何かもうボロボロな感じっす。嵐なんでそれくらいしか……」

「望遠鏡、貸しな!……ああもう、こっちが速すぎて見づらいったらありゃしない!」

 

 そう言ってドレイクは見張りの海賊から望遠鏡を受け取り、そう言って悪戦苦闘しながらもその姿を捉える。

 

 

「……何だありゃ、幽霊船ってやつか…?」

「幽霊船……ですか?」

『うわお、ますます海洋冒険小説だ!さっきから浪漫が溢れ過ぎて、正直本にしたい!』

「―――あ、撃ち落とされました」

『そんなぁ……呆気ないなぁ……』

 

 

 そうぽかんとした様に言う海賊の視線の先には、傷だらけの幽霊船が数隻、一瞬で前の船の攻撃によって藻屑と化している光景があった。

 その船(アルゴー)には確かに現代兵器顔負けの機構は揃っているものの、大砲などの武装は無い。しかし、それを遥かに上回る戦力を誇る英霊(サーヴァント)、ソレが五十集った最強の船に死角は無い。

 

 

「……退屈ね。一体何時になったら目的地に着くのかしら?」

「エ、エウリュアレさん……でもそうですね、ダ・ヴィンチちゃん、どうでしょうか?」

『はいはい、久し振りの出番が来たダ・ヴィンチちゃんだぞっと。うーん、そうだね……今の速度とこの海域の範囲から計算するに、推測だが凡そ二十分もあればその嵐から抜け出してヘクトールに追いつけると思うよ?』

「成る程、ありがとうございます」

『……いやぁ、この有名な私の頭脳を以ってしても全く訳が分からない。最古の巨船とも言えるアルゴー号、ソレが時速80キロ近くの速度でガレオン船を難なく引っ張り、挙げ句の果てには変形システムだって?

 世界最古じゃなくて世界最新の間違いじゃないの?……是非勇者王にはカルデアに来てもらってあの船をじっくり拝謁する機会を貰いたいなぁ』

 

 

 そう興味深そうな声色で話すダ・ヴィンチ。やはり技術者として未知そのものと言えるアルゴー号が気になるのだろうか。

 そんな事を言っていると、ダ・ヴィンチちゃんの横からロマニが出てくる。

 

 

『二人共、実はその先に変な反応が在るのをつい先ほど発見した』

「変な反応?」

『ああ、場所はその先の海。恐らくだけど渦のような物だと思うんだが……観測結果によるとその大きさは……直径二百メートルを超えている』

「直径二百メートル超えの渦……把握しました。そちらには近づかないように留意します」

 

 

 そうマシュが言うと、本当に話はそれだけだったのかロマニは頷き、そそくさとモニター前から去って元の位置に戻った。

 巨大な渦……特異点化による影響か、はたまたそれ以外の外的要員か。

 今の彼女らにそれを知る方法も必要性も無かったが、この渦の正体にこの後苦しめられるとは、今の彼女達には考えもつかなかった。

 

 

 

「……おい、そろそろヘクトール達と接敵する。気を引き締めて行けよ」

「はい、了解です。勇者王」

『特異点の黒幕……可能性としてはレフが居るかもしれない。気をつけて行ってくれ』

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ヘクトールさま、腕の傷の回復が終わりましたよ」

「助かるよ、お嬢さん。……さてさて、計算ならもうそろそろってとこなんだが――――――来たか!」

 

 黒髭に撃たれた左腕を彼女に治してもらったヘクトールが、そう言ってカルデアの面子が来るだろう方向を見据える。

 ―――その先には、こちら目掛けて猛スピードで突っ込んでくる『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』の姿があった。

 

 

 

「ようし、追い付いた!取り敢えず問答無用で衝角をぶち当てる!……野郎ども!準備はいいか!?」

「うす!」

「はい!―――って、あの船の船首に居るのは……!?」

『間違いない、レフ・ライノールだ!それにあの船は……!?』

『わーお!どう見ても文明レベルを大きく逸脱した代物だ!宝具ではないと思うけど凄い魔力反応だ!』

 

 

 そうロマニが叫ぶと、レフは視線を立香達の方へと向ける。相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべているレフの姿が其処にはあった。

 

 

「レフ……!」

「やあ、最後のマスター藤丸立香。前の特異点ぶりとでも言えば良いのかな?

 だが挨拶の必要も無ければ煩わしい会話も結構だよ。未熟な君がこの特異点も順調に攻略して来たとはね。全く―――本当に吐き気を催す。どうして、こう大人しく死ぬなんて簡単に出来ることが出来ないんだい?」

 

 豹変、と形容すれば良いのだろうか。

 その目は大きく見開かれ、先程の紳士然としていた立ち振る舞いから一転、湧き上がる嫌悪感を隠そうともせずに忌々しげにこちらを見ていた。

 でもカルデアには理解出来ない点が一つだけある。

 それは―――

 

 

「……レフ教授。生きていたのですか」

『確かに可能性としては考えていたが……こうして実際に目にすると、どうやって彼処から生き延びたんだ……?』

 

 

 ―――何故レフが生きているのだろうか?

 確かに彼は第二特異点にて、召喚されたアルテラによって脳天から真っ二つにされた筈。

 例え彼が悪魔に変質する人外であったとしても、彼処からこの特異点まで移動できるとは思わない。

 

 

「フン、低能な貴様等に我が王の力が理解できる筈あるまい。……()()()()()、この特異点最強の存在と魔女の力を経て、最強の大英雄を完全に制御した。貴様らはこれで終わりだァ!ギャハハハハハ!!」

 

 

 そう言いレフは嗤い、嘲る。

 カルデアを、人類を、その尽くを見下して。

 

 

「アレは……まさか―――!!」

 

 

 ―――ソレは、英霊とは思えない狂気を纏っていた。

 出力、耐久、神性が本来の狂戦士のソレよりも大きく向上しており、その力に加え、巨大化の影響で純粋な物理干渉力も高まり、さらに普通のバーサーカー以上の絶対暴走状態、言わば超狂化のような様態になったことで怪物染みた力を発揮している。

 

 

 

 即ち、墜ちた大英雄。

 

 

 

「―――■■■■■!!」

 

 

 

 聖杯の力でも生み出せるかどうかという存在は、若かりし頃の神域の魔術師の手によって再現された。

 ソレが放つ莫大で濃密な殺気に手足がすくむのを覚える。

 正に、非情にして絶望。

 そのサーヴァントと真名を、ロマニとマシュは知っていた。

 冬木に居たシャドウサーヴァントの一騎、バーサーカー。

 

 

『……間違いない、アレはかの勇者王と並ぶアルゴノーツの中でも破格の存在。その真名を―――』

「ヘラクレス、ですね。しかし、アレは―――」

 

 

 通常の狂戦士のヘラクレスですら、正史のカルデアでは正攻法で撃破するに至らず、『契約の箱(アーク)』を利用して漸く撃破に至った化け物。

 ソレが十メートル近くに巨大化し、彼の英霊としての代名詞とも言える「十二の試練(ゴッド・ハンド)」も所有しているとくれば、本来ならば手の打ちようも無いのだが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――そうか、貴様のような雑魚が……取り敢えず死ね」

「何―――だと……!?」

 

 

 

 奇しくも、こちらには万全のソレと互角にやり合える大英雄が居た。

 後ろに回り込んでいたアルゴー号から現れたイアソンがメガロスの首を大鎌で掻き切り、首から上が消滅する。

 その時、確かにメガロスは絶命したものの、宝具である十二の試練の力によって直ぐ様首が再生されようとするが、鎌に備わる不死殺しの力がその回復を阻害する。

 

 

「ぐっ……貴様!一体何処から―――」

「後ろからに決まってるだろ馬鹿が。頭の脳味噌空っぽになってんじゃねぇの?」

 

 

 そう吐き捨てる様に言って、ちらり、とレフとメガロス(ヘラクレス)の横に居るメディア(リリィ)の姿を目にしたイアソンは目を見開くが、胸の内に訪れたのは驚きでは無く―――それを塗りつぶす程の怒りであった。

 そう直ぐに分かるほどには、かつてないほどに冷え切った冷徹な瞳をしていたからだ。

 

 

「メディア……何故そちら側に居るのかは聞かん。だが、俺の前に立つのなら容赦はしない」

「……どうかお許しを、イアソンさま。これは貴方の事を思っての事なのです」

 

 

 そう言って軽く目を伏せる彼女の様子は、何処か不気味にも思えた。普段の明るい雰囲気を纏う瞳とも違う、淀んだ瞳。

 レフは早速メガロスの命を一つ奪ったイアソンを睨みつけ、隠そうともしない嫌悪感を押し出しながら吐き捨てる様にイアソンに罵声を浴びせる。

 

 

「……っ。人類の側に立つとはやはり愚かだな、勇者王。貴様と国、そして仲間の末路を忘れたか」

「はぁ―――。……それとこれとは話が別だ。第一、俺の死に際に人類の業は関係無い」

 

 

 溜息を吐き、罵声を真っ向から切り捨てる。

 自身の死は自身が招いた自業自得であり、人類に対して思うことも無し。

 ……ぶっちゃけ国に関してはそんなに知らないですとは、この雰囲気で言い出すことは出来なかった。

 

 

 自分の望む返しが来なかったレフは不機嫌に舌打ちをし、自身のサーヴァントに命令(オーダー)を出す。

 

 

「チィ……ッ!殺せ!凡百のサーヴァント如き、私が出るまでも無い!」

「よく言った雑魚。……女神、アステリオスを貸せ。ヘラクレスもどきは俺とそいつでやる!」

「そう、ならアステリオス!行きなさい!」

「わかっ、た……!」

 

 

 アステリオスが跳び、イアソンの隣に並ぶ。

 そしてその直後、メガロスはその手の大斧をアステリオス目掛けて振り下ろし、アステリオスは両腕の斧でソレを受け止める。

 

 

「―――■■■■!!」

「ぐ…ぅぅぅ……!」

 

 

 が、膂力に関しては躰の大きさと狂化のランク差によりメガロスが遥かに上回っていた。

 限界以上の圧力を加えられたことにより、アステリオスの斧にヒビが入る。

 そこにすかさずイアソンが割って入り、懐に入り込むと、そこで一つの構えを取った。

 それこそは生前、イアソンとヘラクレスが幾度となく互いを高めあった末に彼がヘラクレスの技をパク……参考にして編み出した、必殺の絶技。

 

 

 ―――即ち、流派ナインライブズ。

 

 

 

「―――射殺す百頭・鎌式(ナインライブズ・リーパー)!!」

 

 

 一撃、アステリオスに打ち付けられた斧を弾く。

 二撃、その斧を甲板へと弾いた。

 三撃、武器を失った腕の腱を鎌で裂いて。

 四撃、両足の膝を切る。

 五撃、胸に刃を突き刺し。

 六撃、その刃で腹を抉った。

 七、八撃とその抉った傷口を十字に裂く。

 九撃、右肩からその躰を袈裟斬りにして、血の雨を降らせながらメガロスの命は一つ散る。

 

 

 もしも彼が万全の状態であれば、この連撃は難なく弾かれたどころか、その全てにカウンターを入れる程の気概を見せつけていただろう。

 しかし、ここに居るのは理性を完全に失った、大英雄の皮を被った一つの怪物。

 世界で最も見慣れているであろう、自身の技さえも弾く事は不可能だった。

 

 

 

「これで二つか……。―――アステリオス、宝具を使って俺とお前、そしてアレを迷宮に入れろ。……お前らは俺たちが出るまでヘクトールとメディアの相手を頼む!!」

「ぅ―――まよえ……さまよぇ……」

 

 

 アステリオスの脳裏に浮かぶのは嘗ての住処。

 世界最古の迷宮とされるクレタ島のクノッソスの迷宮。

 かの薔薇の皇帝や俊足の英雄が編み出した物と似て非なるもの、固有結界に近い大魔術。

 故に、現実に出来た「染み」である『固有結界(リアリティ・マーブル)』とは異なり、異界を一時的に世界に上書きして作り出すという性質とも異なり、世界の下側に作り出すという独自の性質なので、魔力消費も比較的少ない方。

 迷宮宝具という物に分類されたソレは、その特殊な性質から評価規格外のランクを与えられた。

 

 

「―――そして、しね!」

 

 

 その真名―――――万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)

 

 

 アステリオスが封じ込められていた迷宮の具現化であり、ギリシャ世界でも有数の“人を食らう罠”である。

 

 

 

 直後、何もない所から迷宮が浮かび上がり、メガロスとイアソン達を取り込んだ。

 

 

 

 


 

 

 

「イアソンさんとアステリオスさん、ヘラクレスと共に結界内へ入りました!」

『よし!目下最大の強敵は勇者王とアステリオスに任せて、ボク達はレフ達の相手だ!』

 

 

 ヘラクレス(メガロス)という難敵が何とかなる目処が立ち、希望が見える。

 然しレフは切り札と思わしきヘラクレス(メガロス)が追い詰められかけても余裕気な態度を崩さない。

 

 

「フン、旗頭が不在のカルデアなぞ叩き潰すのなんて造作もない。ヘクトール、少し保たせろ」

「へいへいっと……。まあそういうこった、オジサンもサーヴァントとしての仕事をこなさなきゃならんのさ―――ッと!?おいおい先輩方、少し血の気が多過ぎませんかねえ!」

 

 

 不毀の極槍(ドゥリンダナ)を構えるヘクトールに対して迫る一条の光―――ディオスクロイ。

 海上にゆらめく光たる「聖エルモの火」そのものと言われた『魔力放出(光/古)』による急加速でヘクトールに剣を突きつける。

 それに次いでアタランテとオリオン(アルテミス)の集中砲火が一斉にヘクトールを襲うが、相手はトロイアの守護者と呼ばれた、こと守りに関しては最強格のヘクトール。

 ポルクスとカストロの果敢な連続攻撃を受け流しながら、何とか気合でアタランテ達の弓矢を躱し、後ろに飛び退く。

 

 

「―――ほう?耐えたか、トロイアの守護者よ。だが、神たる我らの攻撃、何処まで耐えるか見物だな!」

「ハハッ……何、オジサン守るだけなら、たとえ神が相手でも少しはやれるさ!」

 

 

 四対一、しかもその内三人は神霊。

 生前長きに渡ってアキレウスと戦った時と同レベルの危機的状況に愚痴の一つも言いたくなるが、そんな思いとは裏腹に冷徹な思考で槍を握り直した。

 

 

「だったら私も―――」

 

 

 メディアリリィも杖を構えて、即座に数十の竜牙兵を召喚するも、空から降り注ぐ光線によって瞬く間にその殆どが潰される。

 リリィが空を見上げると、其処には初めて見るはずなのに妙な既視感を覚えるローブを着た女性………というか未来の自分が居た。

 

 

 

「……未来の私、ですか」

「そうよ。何故自分がイアソンさ……イアソンの敵に回ってるのか何でか分からないし考えたくも無いけど…―――黒歴史を晒す趣味は無いの。だから私の手で貴方を倒す」

「そうですか……。確かにより魔術の研鑽をした私には敵わないかもしれませんが……そう簡単にはやられませんよ?」

 

 

 繰り広げられるは自分との戦い。

 過去の自分と未来の自分、その両方が英霊の座に登録されたが故の特異な戦い。

 互いの意志のぶつかり合いである。

 

 

 そして三騎のサーヴァントが釘付けにされ、レフを守る使い魔は消えた。

 その隙を見逃さず、立香とマシュ、ドレイクとエウリュアレはレフの前へと立ちはだかる。

 

 

「成る程、確かにサーヴァントが近くに居ないマスターを狙うのは理に適っている。だが、私には()()がある!」

『二人共!かなり弱いがサーヴァント反応だ!恐らくシャドウサーヴァントだと思う!』

 

 そして二騎の黒い……シャドウサーヴァントが現れる。

 マシュは強張りながらも盾を構え、ドレイクとエウリュアレも己の武器を構えた。

 

 

 

 ―――この特異点最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 





ぶっちゃけメガロスは前座でしかないというアレ。
因みにレフ達が乗ってた船は二部五章でアトランティス防衛団が使用してたアレと全く同じ船です。


メディア(リリィ):まさかの?敵側で登場。
 理由は後に出るが、ヒントとしては、リリィの状態で座に登録された影響でアルゴノーツとの出会いから少しした辺りの記憶しか持っておらず、イアソンの死などを記録でしか知らないこと。後リリィはまだサイコ気質が残っている事。


レ/フ:トナカイマンの指示かは知らんがオケアノスにも出張してきた御仁。
 先に言っておくとレ/フは確定。但しもっと酷い目に会う模様。




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第九幕/汝、星を覆う海嘯(前編)

明けましておめでとうございますm(_ _)m





 

 

 半径五十メートル程度はあるだろう巨大な一部屋。

 アステリオスが作り替えた迷宮の一室。

 そこでイアソンは唸り声をあげるメガロスを鋭い目付きで見上げている。

 

 

「―――ッ!?よっと……!」

「―――■■■■」

 

 

 

 そして合図もなく再び戦いは始まった。

 再び拾った戦斧をメガロスはイアソンに振りかざし、それをイアソンは真横に飛び退く事で避ける。

 そのまま戦斧は床に当たり、周囲に衝撃波を放ちながら地面が大きく抉られる。

 迷宮内へ囚われた影響でメガロスはその能力を大きく弱体化されて尚、その規格外の膂力には衰えが見えない。

 

 

 メガロスの斧とイアソンの大鎌が甲高い音を立てながら二合、三合と打ち合い、メガロスに幾つか傷を負わせるものの、先程とは打って変わって殆どダメージが入らない。

 それは一重に、十二の試練の『一度殺された攻撃に耐性を得る』という能力の影響であり、既に同じ方法で二回殺したアダマントでは不死殺しの力を加味しても分が悪かった。

 

 

 攻撃が殆ど通らないことを何となく察したメガロスは、一時的に防御を捨てて、再びイアソン目掛け両腕で斧を振り上げ、力強く振り下ろす。

 

 

 

「―――『神体結界(アイギス)』!」

 

 

 

 それに対しイアソンはアダマントを霊体化させ、代わりに『神体結界(アイギス)』を全身に展開し、斧を右手から展開した光の盾で正面から受け止める。

 が、膨大な質量と膂力の合わさった一撃を真名解放無しで長時間凌ぐのは厳しく、メガロスに押し込まれそうになった瞬間、鎧の背部に備わったバーニアを吹かせて、オリンピックの体操選手ばりに身体を捻りながら無理矢理メガロスの懐に潜り込む。

 

 

「ふん――ッ!!」

「―――■■■■■!!」

 

 

 両方の拳を合わせ、ソレをメガロスの霊核目掛けて打ち込む瞬間、高出力で掌に圧縮された魔力を放ち、メガロスの胸部を穿つ。

 

 

 これで三回殺した。

 しかし、このように正面から正攻法で後十回も殺すのは流石に厳しい。

 なので、蘇生中を狙って何度も殺す必要がある。

 穿ったメガロスの胸部が宝具の力により、どんどん埋まっていく中、其処に拳を入れたまま雷霆を隆起させる。

 

 

「―――焼き尽くせ、雷霆(ケラウノス)…ッッ!!」

 

 

 神の雷霆がメガロスの全身、その髪の一本や足先に至るまで全てを焼き尽くし、メガロスはのたうち回る様な苦しみの声を上げる。

 ―――世界レベルで見ても最高峰の破壊力を持つ最高神(ゼウス)の雷、サーヴァントとなり制限を掛けられた後も、サーヴァント特攻とも言える莫大な力は変わらない。

 

 

「―――■■■■■!!!」

 

 

 そのまま蒼き雷霆がメガロスを焼き、二つ、三つ、と続けて多くの命を奪ってゆく。

 万物を破壊する最高峰の神秘(権能)の前には、十二の試練の攻撃耐性上昇も微々たる範囲の物でしかない。

 合計で六つの命を早々に奪われたメガロスは、その身に残る生物としての本能が危機感を感じ、力まかせにイアソンを振り払う。

 

 

「……う、あああぁぁぁ――ッッッ!!」

「―――■■■■!?」

 

 だが、敵はイアソンのみでは無い。

 迷宮の主、アステリオスが跳躍し、その剛腕で二つの剣斧をメガロス目掛けて振り下ろす。

 迷宮の力でその能力を弱体化させられているメガロスは、アステリオスの膂力と、上からの落下の勢いが合わさった強力な一撃によって蘇生直後の胸部を抉られ、また一つ命を落とした。

 

 

 ―――しかし、これで手元にある武装、火力源を粗方使い果たしてしまった。

 成る程、一応アダマントや雷霆ならば耐性をつけられてもあと六回程度ならば何とか殺せるだろう。

 

 

 しかしそれでは駄目だ、時間が掛かりすぎる。

 

 

 

 

 

 今もこの迷宮の外では皆が戦っている。

 あの戦力差で万が一にも負けることは無いだろうが、先程から自身の直感が最大級の警鐘を鳴らしている。

 ―――アレは不味い。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()なぞ、今のカルデアの手に負える相手ではない。

 

 

 

 ―――故に、少しでも早くヘラクレス(変わり果てた友)を倒すのだ。

 それがせめてもの慈悲になると信じて。

 

 

 

 身体中の魔力を隆起させ、宝具の真名を解放する。

 しかし常時アルゴノーツの召喚という宝具の展開をしながら、真名解放するのは今の通常霊基では負担が凄いので、アイギスの装備を外して霊基(からだ)への負担を減らす。

 

 

「―――我が船は海原を征き、天をも引き裂く英雄船。

 その船員アルゴノーツよ、その力、その誇り、その輝きを、今一度我が下に―――!!」

 

 

 それは宝具『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』のもう一つの在り方。

 通常の効果はアルゴー号を介した乗組員達の搭乗であるが、それは対軍宝具としての側面。

 しかしこの宝具にはもう一つ、聖杯の理(クラスの概念)にさえも喧嘩を売りかねない、対人宝具としての側面が存在する。

 

 

「―――我が下に集え、数多の英雄(アストラプスィテ・アルゴー)』!!

 

 

 

 ―――即ち、担い手である英雄達の認証をトリガーとする宝具の具現化。

 瞬間、地面に小さな円形の白金の波紋が生まれ、其処から一つの剣が浮かび上がる。

 

 

 その剣は、かの星の聖剣をも上回る威力を有する、鍛冶神が生み出し、ギリシャ一番の戦士が振るった至高の宝剣。

 こと『剣』というカテゴリの中では、まず間違いなく最強の一角に数えられる程の神造兵装。

 

 

「……業火熾す不朽の剣(マルミアドワーズ)―――これで、お前を斃す事になるとはな……」

「■■■■」

 

 

 狂った友を嘗ての友自身の使った武器で倒す羽目になるとは何たる皮肉か。

 内心で自身を嗤いながら、両腕で剣を持ち、力強く振り上げる。

 自身の本能が本気の危機を感じたのか、それを何とか防ごうと斧を振り上げて駆けようとするメガロスだったが、横合いから飛び出したアステリオスの突撃によりソレを抑えられる。

 

 

 

「―――真名、擬似展開。(これ)は鍛冶神が産み、至高の戦士が振るった業火の(つるぎ)

その熱は、数多の宝剣、聖剣を超える剣の頂―――!!」

 

 

 そして剣は熱を帯び、極光が剣を包む。

 六つの拘束を解除された星の聖剣を上回る熱量を誇る光の奔流が氾濫し、光の断層、光の斬撃が発生する。

 あくまで本来の担い手では無いのでその威力、力は本来のソレよりもワンランク下である『擬似』の範囲に留まるが、それでも並の英雄の宝具とは比べようもない。

 

 アステリオスはその場から離脱し、メガロスはマルミアドワーズの攻撃範囲の中に取り残される。

 そして逃げられないことを察したメガロスは、その一騎当千、天下無双の究極の肉体で真っ向勝負を挑むことを選ぶ。

 

 

 

業火熾す(マルミ)―――」

 

 

  

 剣から放たれる光の奔流は限界を超え、その先端は少しずつ迷宮にヒビを入れていた。

 ―――そして、大英雄を屠る神器の力が解放される。

 

 

 

「―――不朽の剣(アドワーズ)!!」

 

 

 剣の先端から放たれた白金の極光が、輝く光帯となって辺り一面を焼き払い、その光はメガロスの巨体を包み、残存する命を無秩序に奪う。

 その威力は伊達ではなく、本来アステリオスにしか解除出来ない筈の結界……迷宮をあっという間に崩壊させていく。

 

 

「■■■■■―――」

 

 

 嗚呼―――

 

 どうしようもないくらいに狂っているが故、その死に際さえもまともな思考は出来ず。

 何処かの世界と同じ様に、その怪物(えいゆう)は極光の輝きに呑まれた。

 度重なる衝突の影響か、同時に極光の余波を受けた迷宮も、まず天井が割れて、そこから迷宮全体が割れたガラスのように崩れ、ガラガラと音を立てて崩壊して行く。 

 

 

 


 

 

 

「よし……追い詰めたよ、レフ・ライノール!」

『レフはまだ聖杯を持っている……。前の特異点の様に魔神柱になるのを警戒していてくれ!』

 

 

 シャドウサーヴァントを撃破した立香達は、船の隅にサーヴァントを失ってじりじりと下がるレフを少しずつ、少しずつ追い詰めていた。

 気づけばメディアとヘクトールも追い詰められ、三人は船の端に背中合わせで囲まれてしまう。

 

 

「これは……潮時かねぇ。マスターや、流石にコレは少々マズイと思うんだけど、其処ん所はどうするつもりだい?」

 

 

 そう芝居がかった笑みを浮かべるヘクトールだったが、その笑みの裏では智将としての自身の頭をフル回転させて思案に明け暮れていた。

 一つ、また一つと様々な案が浮かんでは、その策は不可能だとして消えて行く。

 

 

「いや……もう終わりだよ」

 

 

 そう言ってレフが視線を向けた先に、マシュ達が釣られて視線を向けると、丁度崩壊した迷宮からイアソンとアステリオス、そして合計十三もの命を一つだけ残して瀕死ながらも生きながらえて、肩で息をしているメガロスの姿があった。

 

 制約(リミッター)のせいで七、八割程度の出力しか出せないマルミアドワーズでは、耐久性が大きく向上しているメガロスを五回分殺し切るには至らなかったらしい。

 

 

 

「―――すまない、一回分殺し損ねた」

『……凄い。そこにいるヘラクレスの霊基はもう崩壊寸前だ。あの短時間で十二回、いや最初に二回殺したから十回か……』

 

 

 ロマニの口から感嘆の息が漏れる。

 出来て当然と言うかの様に、彼は英霊の格で言えば互角であろうあの大英雄を十二回……正確には一度アステリオスが殺しているので十一回だが、ソレを殺してきているのだ。

 とてもじゃないが並の英雄には出来たものじゃない。

 

 

 

 しかし今そのことは関係ない。

 早々にレフにとどめを刺すべきだと迷宮の中で既に見切りをつけていたイアソンは、マルミアドワーズを甲板に突き刺し、アダマントを取り出して一気にレフに接近する。

 

 

 しかし、レフ目掛けて振るった大鎌はあと一歩の所で割り込んだヘクトールの槍に防がれる。

 受け止めた武具が半端な物だったならそのまま切り裂けたのだろうが、その武具は後の絶世剣デュランダルの原型。

 互いの膂力が基本的には殆ど同等(筋力B)なのもあってか、その場は一瞬ながらも膠着状態に陥った。

 

 

「……しつこいぞヘクトール。其処までする価値がそのロン毛にあるのかよ。絶対にあの帽子の下禿げてるぞ」

「んー、正直生前から見ても今回は最悪な部類だと思いますがねぇ、何度も言うけど、主を選べない戦争屋の人殺しにとって、契約中はそういう仕事なのよ」

「へぇ……。契約が無ければ何もしないみたいな言い草だな。―――まあ、生きてるかはもう知らんが」

 

 

 直後、ヘクトールの背後……レフとメディアが立っていた場所にアタランテが放った弓矢と、メディアが空から放った数発の魔力砲が降り注ぐ。

 メディアリリィが周囲に結界を張ってはいたものの、集中砲火に耐えきれずに結界はひび割れ、辺り一面に魔力砲の直撃による爆発音が鳴り響く。

 

 

 それと同時に発生した煙が無くなると、衝撃で所々服が破けているレフがその場から一歩も動かずに立っていた。

 横に立つメディア共々、この状況に至って尚顔色一つ変えない様は、不気味としか言い様が無い。

 

 

 

「ああ、もう終わりだとも―――貴様等がなァ!

 

 

 

 そう言って顔を上げるレフの顔には、あまりにも歪んだ笑みが浮かんでいた。

 その大凡普通の人が浮かべるような物では無い狂気に等しい表情を見て、マシュ達は何かが背中をなぞるような形容し難い悪寒を覚えた。

 

 

令呪を以て命ず。『ヘラクレス(メガロス)よ、その身を我が下に捧げよ―――』」

 

 

 右腕の令呪が光り、ディオスクロイ、アステリオスとドレイクにとどめを刺されそうになっていたメガロスがレフ達の近くに転移する。

 それだけではなく、目に見えて分かる変化はまた直ぐに訪れた。

 

 

重ねて令呪を以て命ず。『ヘラクレス(メガロス)(我等)の存在を、その魂に焼き付けよ―――』」

 

 

 掲げた右腕から更に一角の令呪が消費され、メガロスの身にレフの身体から滲み出た、レフ()の情報が刷り込まれる。

 ―――即ち、彼等七十二の魔神柱の存在。

 

 

 時間神殿に居るソレらの存在を、令呪の力で霊基に刻まれたメガロスは頭を抑え、声にならない悲鳴を上げる。

 レフの手にあるのはカルデア式では無く、本来の冬木式に近い強制力のある令呪だからこそ行えた荒業だ。

 

 

「さあ仕上げと行こう!魔女よ、聖杯とヘラクレスを触媒として、我が同胞の一柱を呼び寄せるのだ!」

「分かりました。……ではヘラクレス、失礼しますね?」

 

 

 そう言ってメディアリリィは、魔術で編んだ魔力の刃でヘラクレスの背中を切ると、そのまま笑顔で聖杯を突っ込んだ。

 その一連の光景の容赦の無さに、立香達カルデアはおろか、イアソンや大人メディア含むアルゴノーツでさえ、ドン引きして全身から血の気が引く様な感覚を感じた。

 

 

「聖杯よ、我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ、牢記せよ、これに至るは七十二の魔神なり―――」

「■、■■■■―――!!」

「―――私の願いを聞き遂げよ。貴方(イアソン)を奪った神を、世界を憎み、敵対する全てを焼き払いなさい。そして、最期は、共に滅びましょう。―――序列三十、海魔フォルネウス。その力を以て、この物語に終止符を打ちなさい」

 

 

 そして次の瞬間、メガロスの肉体から目が生え、瞬く間に■■■■の七十二の魔神、その一柱フォルネウスに変貌する。

 それを見たロマニが有り得ない物を見るかの様な目で、モニター越しから声を上げる。

 

 

『魔神……!これで二体、いや二柱目か……!本当にいるのか、そんなものが……!』

「然り!!ロマニ・アーキマンよ、今貴様の目に見えている物こそが真実である!……第三の令呪を以て命ず。『その身を、()()に捧げるがよい……!!』」

 

 

 最後の一角の令呪が発動し、フォルネウスが船底を突き抜けて海へと潜り、北西の方角へと進んで行く。

 それと同時に、カルデアの管制室では一つの異常とも言える反応を察知する。

 

 

『これは……嘘だろ、こんなことが有り得るのか!?』

「急にどうしたの、ドクター!?」

『いや……計測器が壊れていなければの話だが、さっき言っていた大渦がそちらにおよそ100ノット(時速185km)の速度で向かっているんだよ!』

「100ノット……!?」

 

 

 そんなレベルの速度で移動する渦とは何事か。

 ロマニが提示した方角によると、丁度それは()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 迫りくる巨大な渦を見て、ドレイクとイアソンは咄嗟に逃げることを選択した。

 空を見上げると、渦が迫る方向から暗雲が立ち込めてきている。

 

 

「はあ!?あのデカブツ帰ってきたのかい………。アレに呑まれたら終わりだ!―――野郎ども、全速前進でアレから退避!しっかり掴まっておきな!」

「……嵐が来るぞ!俺達はもう一回ハインドを引っ張る!……テオスエンジン、起動!」

 

 

 再びワイヤーでハインドを繋いだアルゴー号は、その状態で出せる最大船速で大渦に引き込まれない程度の距離をとる。

 次第に海は荒れて行き、迫りくる大波が一同を襲う。

 

 

「……うわ、冷たっ!それにしょっぱい!」

「だ、大丈夫ですか、先輩!……でも海水ですからしょっぱいのは仕方ないかと!」

 

 

 そうして波が一時的に去り、一同は前に向き直る。

 ―――其処に居たのは、『船』だった。

 

 

 

 ……しかし、船と言っても普通のソレとは全く似ても似つかない物であったが。

 弓にクジラや巨大魚類の要素をかけ合わせたような形状で、先端には三つの巨大な砲身が搭載されている。

 

 

『アレは……一体何なんだ!?それに魔神柱が巻き付いているだと!?』

 

 

 そして何より目を引くのは、その中心部に魔神柱フォルネウスが巻き付いていたこと。

 その様子はさながら何かを覆い隠しているようにも見えるが、その答えはドレイクの発言によって判明した。

 

 

「あの化け物……アタシたちが開けてやった風穴を隠してやがる。折角苦労してぶち抜いたってのに……」

「クククッ……どうやったのかは知らんが貴様らの命運も此処までだ。アレは正真正銘の神であり、ギリシャ神話におけるオリュンポス十二神が一柱、()()()()()であるのだからなあ!!」

「ポセイドン……!?アレが……!?」

『何て魔力数値なんだ………これはもうサーヴァントどころか、最上級の神霊クラスだぞ!?特異点とはいえ、何で……』

 

 

 勿論今の立香達には知る由もないが、コレは正真正銘本物のポセイドンである。

 その正体は別宇宙に存在していた超科学が生み出した宇宙戦艦であり、正式名称:惑星改造用プラント船。

 

 

『 全生命/検索(サーチ)……一件一致、フランシス・ドレイクの存在を確認 』

「あん?アタシが何だって?」

『 フランシス・ドレイク―――殺す 』

 

 

 次の瞬間、ポセイドンから何かが込められた魔力の弾丸がドレイクに向かって射出されたが、咄嗟にイアソンが放った雷霆によって掻き消される。

 

 

『 フランシス・ドレイクの呪殺に失敗。原因解明……機体名ゼウスの権能と99.96%の一致を確認。

 並びに機体名ゼウス、ヘラ、アテナ、アフロディーテの神性を確認。

 以上/推測……個体名イアソンと情報の一致を確認。

 対話状態に移行―――、―――何故邪魔をする。ヒトは我ら神に統治されるべき存在である 』

「いきなり呪殺しようとしてきてソレか。……やっぱり神ってクソだわ。カイネウスの件もあるし……」

 

 そう言って海上に現れたポセイドンを睨むイアソンだったが、横でオリオンがとあることに気付く。

 

 

「―――え、てかアルテミスサン?俺の親父アレなの?マジでアレなの!?俺アレから生まれて来たの!?」

「うん、そうだよ。てか何でポセイドンは神体残ってるのよ!ズルくない!?」

 

 

 そう、オリオンの父親はポセイドンであると言われており、つまるところソレ(ポセイドン)からオリオンは生まれたという訳で。

 まあ恐らく真体機神が持つナノマシンであり、元素組成金属である、「テオス・クリロノミア」を使用したのだろうが、今の彼等には知る由もない。

 

 

 

 海神ポセイドンと魔神柱フォルネウスに、未だ顕現していない魔神柱フラウロス。それに加えてヘクトールにメディアという圧倒的戦力。

 

 突如急増した相手戦力に対し、カルデア一行は途端に劣勢に追い込まれた。

 

 

 

 

 






 余談だが、メディアリリィには誰も気づいていないが低ランクの精神汚染が召喚時に付与されている。



 テオスエンジン:イアソン達の時代まで僅かに現存していたテオス・クリロノミアを元にした擬似的な第二種永久機関でありアルゴー号の動力源。
 一言で端的に言うと、ほぼGSライド。


 ポセイドン:神核の代わりに聖杯をドレイクにパクられて発狂はしていないもののブチギレ状態。
 『海に出ると死ぬ呪い』を付与しようとしたもののイアソンに妨害された。


 随時加筆&修整しまする(⁠~⁠‾⁠▿⁠‾⁠)⁠~



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第十幕/汝、星を覆う海嘯(中編)

ここからは更に独自解釈&ご都合主義のオンパレードで行くのでそれだけはお覚悟を。


 

 

 

 魔元帥ジル・ド・レェ、帝国神祖ロムルス。 

 今までに相対した彼等は強敵でこそあったものの、極端な話、まだ現地に居るサーヴァントだけでも安易に解決が出来る部類であった。

 ただ、今回ばかりは例外と言うに相応しかった。

 

 

「あ―――」

 

 

 ―――格が違う。

 だだその純然たる事実がポセイドンが纏う圧倒的な神威を以って、只の人間である立香に突きつけられ、彼女は慄然とする。

 それは正しく絶望だった。

 

 

 ふと、横を見る。

 

 

「……っ」

「―――」

 

 

 ―――そうだ。

 自身の相棒(サーヴァント)でもあるこの少女も、総毛立つ様な思いをしていると言うのに、自分だけが怖がっていたら駄目だ。

 自分が折れた瞬間に世界は滅ぶのだから。

 

 

 そう決心すると、今まで気重かった心が、震えていた脚が、妙に軽くなった気がする。

 立香は再び覚悟を決めた瞳でポセイドンを見つめ、イアソンはポセイドンに問いかける。

 

 

「一つ聞きたい、海神ポセイドン。―――何故今更出張ってきたんだ?俺達の時代でも割と好き勝手やってたとはいえ、何で今になって行動した?」

『 応答/ ―――私は間違っていた。確かに嘗ては我々神による支配を止め、人と共に歩むと云う結論を出した。

 だが、今の人類の体たらくは何だ?

 強かな歩みを止め、唯只管に自らの意志で争いを続けた。今や我々に勝る何かを生み出す事はなく、星からの資源搾取を続ける日々。

 実に非効率、非効率極まりない所業である。

 故に、この様な醜い現代人類に、今一度大洪水を引き起こし、神々が君臨する世界を蘇らせるのだ――― 』

 

 

 海神は言う。

 お前達現代人は醜いと。

 ソレは神という上位存在であるが故、神代の人間という生命力の塊を見てきたが故の発言。

 要約すれば、「今のお前達の生活スタイルちょっと解釈違いだから元に戻すね」という、何処までも理不尽で―――故に何処までも神らしい理由。

 

 

「―――ハッ、何度も何度もありがたい御高説ご苦労サマ。でもあいにくアタシ達はルールに縛られない海賊って生き物なんでねぇ!……野郎ども!撃てぇ――ッ!!」

 

 

 開拓者は言う。

 お前ごときに好き勝手されてたまるかと。

 元々彼女自体がその生涯の中で、英国征服をしようとしたスペイン無敵艦隊を大敗させたりなど、圧制や征服、支配と無縁と言うに等しく、そんな彼女が、人間に好き勝手する神と相性が悪いのは至極同然とも言える。

 ドレイクが指示した瞬間、『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』に搭載されたカルバリン砲が海賊達によって一斉にポセイドン目掛けて放たれる。

 

 

 

 

 

 ―――しかし、その砲弾はポセイドンに接近する途中で爆発した。

 一時は直撃したと思っていた管制室の一同も、無傷のポセイドンを見て血相を変えながらも、直ぐに原因を探るために近未来観測レンズ『シバ』のリソースの多くをポセイドンに割く。

 しかし、シバはその優れた観測力を持っているが故に、特異点の魔力をも感知してしまう性質があることを忘れてはならない。

 

 

「ああくそ、分かってはいたけど、やっぱりあのデカブツに大砲は効かないのかい!?」

『 ―――所詮、児戯。 ……ヒトよ、平伏せよ 』

 

 

 全長1kmをゆうに超える島のような巨体から、再び圧倒的な神威が放たれる。

 『海のゼウス』とも評される程に強力な海を操る権能が行使され、瞬く間に海は荒れ、暗雲から嵐が起こる。

 それだけでは無く、指向性を持って放たれたソレは、この場にいる人だけでなく、管制室の面々にまで影響を及ぼした。

 

 

『何て魔力数値なんだ……ちょっと待ってくれ、シバが数枚吹き飛んだんだが!?』

「それよりもドクター!先程は一体何が起きたのですか!?ドレイクさんの砲弾は確かに命中した筈……」

 

 

 そうであって欲しいと言うかのような悲壮な顔持ちでロマニに問いかけるマシュであったが、それに対して返答を返したのは同じくカルデアの管制室に居たダ・ヴィンチちゃんだった。

 

 

『―――いや、砲弾は命中したんじゃなくて砲弾が命中する直前に爆発しただけだ!

 ……これはあくまで観測できた魔力反応とその位置から推測した仮説なんだが、ポセイドンと名乗るあの船の周りには超がつくほどの強力な魔力障壁が張られている。そして、ソレを支える聖杯級の魔力反応が四つ。―――いや、正確には三つとその半分といった所かな』

「……どういうこと?」

 

 

 ダ・ヴィンチの最後の発言が気になった立香がダ・ヴィンチに聞き返すと、相槌をうって、ダ・ヴィンチがより具体的に話す。

 

 

『きっとアレは四つで正しく権能級の障壁を発揮する物だった。……でも、ドレイクの奮戦によって奪った聖杯の影響でその障壁に僅かな綻びが生まれている。だから、ほんの僅かであればアレを突破できる可能性があるかもしれない』

「―――ほう?星の開拓者の頭脳とは言えどもその程度が限界か。……精々貴様らが策を弄する時間程度はくれてやる。―――そして絶望に呑まれて死ねェ!!」

 

 

 万能の天才を以ってしてほんの僅かな可能性すらも生み出せる保証は無く、ソレをレフは嘲笑う。

 多少の策略や計略程度で敗れる程、我等魔神は、そして神は生温いモノでは無い。

 ―――故に好きなだけ策を弄しろ。私達は暴力と理不尽という形を以ってして、ソレを正面から踏み躙る。

 そんな意志がレフの表情からありありと感じられた。

 

 

 

 

 そんな中、オリオンがハッとしたような顔でアルテミスを見て……一つ、問いかける。

 

 

「そうだ、アルテミスお前、何かこう、アレへの弱点とか知らねえのか?同じオリュンポスの神格だろ!?」

「……無理よ。私とポセイドンでは艦隊の中で与えられた役割も、機構(けんのう)も、全く以て別物だもの。―――私の神体(からだ)があれば話は変わって来たのだけど」

「―――ああ、()()()()()()()()()()()()()()()!………船長(イアソン)、何か策は―――ってオイ!お前何目ェ瞑ってんだよ!」

 

 オリオンが左に立つイアソンに目を向けると………彼は目を瞑って額に手を当て、何かを考え込んでいる様子だった。

 必死に頭を回転させているのか、その額からは雨水との区別は付かないが、冷や汗が垂れていた。

 

 

『さて、どうやってアレを突破する?……魔力障壁を突破するにはアレのコアを壊さなくてはならない。でも、コアを壊すには魔力障壁を突破しなくてはならない(0.2秒)

 ―――何だコレクソゲーか?……いや、相手からしてクソだったわ。見た目は厨ニ感あって格好いいけど、中身が真っ黒どころか激物だわ。……てかオリオンお前頬に肉球当ててくんなよ、オリーブ樽一気飲みさせるぞ(0.5秒)』

 

 

 そんな愉快な思考を謎に高速で続けながらも、ポセイドンを突破するための戦略だけは真面目に思考を続ける。

 ……こちらが相手に決定打を入れられるカードは多数存在するのだ。

 自身が宝具で喚ぶヘラクレス然り、本来の力を発揮したオリオン然り、そして雷を解放した自身然り。

 だが問題はどう此方側のカードを組み合わせて、最低の被害で最高の戦果を上げるか。これに尽きる。

 

 

 しかし傍から見れば、今は呑気に考え事をしている場合では無いので、イアソンの肩に飛び乗ったオリオンは、その綿が詰まってそうな腕で精一杯力を込めて、イアソンの頬を何度か叩く。

 

 

「おーい、何か思い、ついたっ、か―――!?」

「……ええい、さっきから耳元で煩くて集中出来ないんだよクソが!握り潰してやろうか!?」

「あぁぁぁぁああ痛い痛い痛い!!出ちゃう、中身出ちゃうからやめてぇぇ―――ッッ!!」

 

 

 右腕でオリオンを恐ろしい程の速さで掴んだイアソンは、そのまま苛立ちを隠そうともせずにギリギリと音を立てる程の力でヌイグルミのオリオンを握り締める。

 まあ誰だって必死に考え込んでいる時に邪魔されたら悪意がなくても苛つくだろう。

 

 

 はあ、と溜め息を吐いてオリオンを握る力を弱めて、少し顔を上げた瞬間、彼の視界にメディアの姿が映り――――――ふと、何かを閃いた気がした。

 

 

「……あらイアソン、どうしたの?」

「そうか、ソレならあの防壁と魔神柱も―――」

「おーい、一人で閃いてないで俺達にも教えろや。……あとそろそろ離して」

 

 

 未だイアソンの右手に握られていたオリオンが抑揚の無い声でそう言うが、それには聞く耳を持たずにイアソンはメディアに近づくと、オリオンを掴んでいない左腕でメディアの肩を掴む。

 突然彼と自分の額がくっ付くほどに顔を寄せられたことによって、胸の動機が心做しか激しくなるが、特にそれ以上の何かが起こるわけでは無かった。

 

 

 

 イアソンが導き出した解。

 ソレに必須とは言わないが重要なファクターである英霊の力を十全に引き出すには、彼女の力が必要不可欠であった。

 さっきから右腕に握っていたオリオンを突き出すと、続けざまにこう言った。

 

 

「―――メディア!コイツを触媒にして、()()()()()()()()()()()()()()()()()ことは出来るか!?」

「―――!ええ、やってみせるわ」

 

 

 そう自信に満ちた言い方で彼女が言うと、二人は言葉さえも交わさずに直ぐ様行動に移った。

 英霊召喚とは、本来聖杯の後押しがあって初めて成し得るレベルの大魔術であるが、彼女は唯の魔術師ではなく神代の、それも最高峰の魔術師。

 それは何処かの世界戦でサーヴァントの身でありながら、別の英霊を召喚したり、「この世全ての悪」に汚染された聖杯を願望機として問題なく扱えるなどその実力は正しく規格外のソレ。

 

 

 他には必要魔力の都合上、時間帯や霊脈に接続しなくてはならないという問題もあったが、アルゴー号自体が小型の機動要塞の様なものであり、大量の魔力が内包され、生み出されている。

 もう懸念事項は一つも無かった。

 

 

 

 しかし状況について行けないオリオンが声を上げる。

 

 

「ねえちょっと待って!?俺全然話について行けてないんだけど!?無言でコミュニケーションしないで!?」

「あー……、お前の霊基って、そのリソースの殆どが其処の女神に喰われてるんだろ?なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「―――ああ、そうか、それなら行けるな!」

 

 

 そう、呼び寄せる英霊はただ一騎(ひとり)、オリオンに他ならない。

 普通に考えれば触媒無しで呼べる類では無いが、本人が触媒となる上、その本人の中に強化リソースとしてもう一騎オリオンを喚ぶのが目的。

 それならば召喚のリスクも多少は減るし、何よりも戦力の増強と言う点では最も手早いものだった。

 

 

『……いや全く理解ができないぞ!?メディアとオリオンはもう用意が出来ているみたいだけど……それでここからどうするんだい!?』

「時間が無いから手短に言うぞ。―――アタランテとディオスクロイはドレイクの船で立香達の指揮下に入ってヘクトール達の相手!特にディオスクロイは嵐からハインドを守れ!」

「了解した」

「……フン、お前の指揮だ。我等双神の力、存分に見せつけてやろう!」

「―――はい。我等、導きの光! 航海、旅、冒険! ――それらと寄り添う者に加護を与えし神である!」

 

 

 アタランテとディオスクロイが『黄金の鹿号(ゴールデン・ハインド)』に跳び移り、ディオスクロイの二人は船頭にて己の武具を空高く掲げた。

 するとドレイクの駆るハインドの周りだけが、嵐が止んだかのように緩やかな波となっていく。

 

 

 導きの星、セントエルモの火。

 航海の守護者として信仰された二人の能力(スキル)は、ポセイドンの操る嵐や大波に対してピンポイントで突き刺さっていた。

 

 

「凄い……周辺の波が大きく弱まりました!戦闘継続、行けます!」

『―――皆、レフ達が動いた!召喚を妨害するつもりみたいだ!』

 

 

 ロマニが緊迫した口調で言うが、当のイアソンには焦りの表情が一切見られない。

 それどころか、レフ自体を其処までの脅威と認識するまでも無かったのかもしれない。

 

 

「問題ない、俺が宝具で少し時間稼ぎをしたら直ぐにポセイドンに仕掛ける。アレは任せた」

「……?ソレはどういう……」

『―――来るぞ!』

 

 

 

 


 

 

 

 ―――ヘクトールは焦っていた。

 今肌を通して痛いくらいに高まる魔力の反応。

 アレが解放されれば―――此方は負ける。

 そんな一種の確信を得ていたからだ。

 

 

 自身のマスターは静観を貫こうとしていたが、それは今回の戦略においてこの上ない悪手だった。

 個人的にはともかく、兜輝くヘクトールとしては、むざむざ相手にチャンスを与える道理は無いので、マスターに進言し、船を動かしてどうにか防ごうと思い至った。

 

 

 

 やはり防ぐには―――宝具しかあるまい。

 

 

 そう結論を出したヘクトールは、その手に握る『不毀の極槍(ドゥリンダナ)』を肩に担ぎ、篭手から炎を吹かす。

 それは決して刃毀れしないと言われた、後の絶世剣デュランダルの原型。

 それの全力投擲は大軍をも殲滅する莫大な力を持つ。

 

 

 

 標的確認―――完了。

 方位角固定―――完了。

 

 

「―――不毀の極槍(ドゥリンダナ)、吹き飛びなァッ!!」

 

 

 そうして凄まじい勢いで極槍は放たれた。

 目標……アルゴー号に向かって一直線に突き進んでいった極槍は――――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――――は?」

 

 

 

 ―――その場に突如現れた、総毛立つような白刃の光によって、余りにも呆気なく打ち払われた。

 

 

 

 


 

 

 

 

『宝具―――なのか?』

 

 

 そう言葉を零した誰かの視線の先には、凄まじい量の魔力を隆起させるイアソンの姿があり、それに呼応してかアルゴー号自体も、何処か神秘的で、幻想的な雰囲気をも感じさせる淡い光を放っていた。

 

 やはりこの船が宝具なのかと思ったロマニだったが、その考えは半分正解、といった所か。

 『今の』、この宝具の真価はその性能ではなく、数多の英雄が搭乗した(えにし)の結晶という点にある。

 

 

「―――我が船は海原を征き、天をも引き裂く英雄船。

 我等の栄光、我等が紡ぎし伝説は、たとえ幾多の時を経ても不滅也。

 ―――さあ再び集え、数多の冒険を共にした英雄達。即ち、我らアルゴノーツ!」

 

 

 船頭に立ち、胸元で右の拳を震わせる。

 奥からはヘクトールが槍を投擲しようとしているが―――こちらの方が数秒速い。

 英雄船団アルゴノーツの冒険は、幾多の時を経ても語り継がれた。

 故に、英霊に昇華された今でも、嘗ての船員たちは船長である男の呼び声に応えるのだ―――

 

 

 「―――天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)!!

 

 

 一瞬の静寂が訪れる。

 そして次の瞬間―――風を裂くような速さでイアソンに向かって投擲された『不毀の極槍(ドゥリンダナ)』が、甲板に突き刺してあったマルミアドワーズをこれまた目にも止まらぬ速度で振るった男の手により、弾き飛ばされた。

 

 

 そして、管制室の計測機を見ていたロマニが、その瞬間に起きた出来事を誰よりも早く理解し、驚嘆して息を呑んだ。

 

 

『―――嘘、だろ。こんな……、こんなことが、たった一人の英霊に出来ることなのか!?』

「え、今―――何が起きたの?」

『……立香ちゃん。これは―――サーヴァント反応だ。霊体化していた訳でも無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の反応なんだ!!それだけじゃない、サーヴァントの数は三騎で、そのどれもが……()()()の反応なんだ』

 

 

 ひゅっ、と誰かが同様に息を呑む音が聞こえた。

 サーヴァントを呼び出す宝具と言うだけでも十二分におかしいのに、ましてやソレが神霊サーヴァントとはなんの冗談か。

 彼らはイアソンの背後に立つ三騎の英霊の背後を見つめ、その三騎とイアソンは立香達の方へと向き直る。

 

 

「―――なんだ、お前達か。一先ずあいつ等に名乗れ、話はそれからだ」

「……む、ここの病原体の根絶の為なら仕方ない。……キャスター、アスクレピオスだ」

「アスクレピオス……!?ギリシャ神話に伝わる医神、アルゴノーツの一員!」

 

 

 ―――アスクレピオス。

 賢者ケイローンのもとで医術を学び、後に『医神』と呼ばれるようになるギリシャ英雄、医術の祖。

 知っての通り、死者蘇生薬を生前に生み出したものの、冥府の神の怒りを買ったことは原典における歴史と変わらない。

 

 

「……次はオレか?…カイニス、神霊だ」

「おう久し振りだなカイニ―――ゑ?

 

 

 其処でカイニスの姿を見たイアソンが目を丸くする。

 ゴシゴシと目を擦って見るものの視界に映る姿に変わりは無い。

 ―――知り合いがなんか女になってた件。

 

 

 正確には元々の姿なのだが、その辺りの話題は地雷でタップダンスをする所業だと見抜いていたイアソンにとって知る由はなかった。

 頭に驚愕の色が浮かぶイアソンを見て、カイニスは首をかしげる。

 

 

「……?おい、オレの顔になんかついてんのか?」

「―――いや、何でもない」

『絶対コレ地雷案件じゃん』

 

 

 そういうイアソンを見て、疑問符を浮かべるカイニスだったが、これ以上この話題が広がることはなかった。

 

 

 ―――直感が無ければ即死だったと、後にイアソンは語る。

 

 

 

 そして最後の一人は―――本人が名乗る前に、マシュがその名を口にした。

 

 

「もしかして―――ヘラクレスさん、ですか?」

「既に知られていたか……、如何にも。我が名はヘラクレス。此度はアーチャーのクラスを以て、我が友の呼び声に応じた次第」

 

 ―――ヘラクレス。

 イアソンと並び、誰もが知るギリシャ神話における二大英雄の一人。

 神々や数多の怪物を倒し、十二の試練を成し遂げた半人半神の英雄であり、先程のメガロスや狂戦士の霊基とは違い、その技術までも十全に振るうことが可能。

 

 

 有体に言って最強だ。

 

 

 しかもその手に握られているのは、イアソンが呼び出したヘラクレスの剣マルミアドワーズ。

 本来なら成し得ない、弓と剣の両方を装備した最強のヘラクレスだ。

 

 

 

 さらに召喚ラッシュは終わらない。

 イアソン達のすぐ横でメディアが起動した英霊召喚の儀式陣が光輝き、辺り一面が陣に立つヌイグルミのオリオンを中心として光輝く。

 

 

「うお―――」

 

 

 そんなオリオンがふと漏らした声を最後に、強い光が辺りに満ちて、その後から一つの人影が現れる。

 

 

 

 

 

「―――嘘でしょ」

 

 

 そう驚きの余り口元を抑える立香の視線の先にいたのは―――身長二メートルを超える、筋骨隆々の大男だった。

 その右手には棍棒、左手には弓矢が握られている。

 

 

 それこそは、オリオン本来の姿。

 無力なクマ時代とは一変し、ギリシャ最高の狩人を自称するだけの実力を存分に発揮する。

 その強靭な肉体はあらゆる獣を素手だろうが弓だろうが仕留めるだけの膂力を持つ無双の狩人。

 

 

「おいおい、まさか本当に成功するとはな……。じゃあ改めて―――我が名はオリオン、人の身を超越した感じの狩人だ!ここからは俺も戦えるぜェ!!」

 

 

 そして、船長(イアソン)と同じく七つのクラス……その内の弓兵の頂に立つ資格を持つ男。

 ―――アーチャー、(超人)オリオン、此処に見参。

 

 

 

 

 ―――すべての駒は揃った。

 

 マシュ。

 ドレイク。

 アステリオス。

 エウリュアレ。

 ヘラクレス。

 ディオスクロイ。

 アタランテ。

 メディア。

 アスクレピオス。

 カイニス。

 オリオン(アルテミス)。

 (超人)オリオン。

 そして―――イアソン。

 

 

 総勢一二騎、十四名の英霊によって行われるのは神殺しの英雄譚。

 イアソンはこれから起こりうる全てを見通したかの様な、盤石の自信を持った笑みを浮かべ、宣言した。

 

 

「―――準備は完(Ready )全に整った(PerfectLy)。これよりアルゴノーツは、神を―――海神(ポセイドン)を撃ち落とす!!」

『応!!』

「―――ポセイドンだと?」

 

 

 





改めて見たら戦力盛り過ぎた感エグい。


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第十一幕/汝、星を覆う海嘯(後編)

次回でオケアノスは終わりです。





 

 

 

 ―――ポセイドンだと?

 

 

 そう静かに震えながら言ったカイニスの周りに、嵐と見惑う様な暴風が吹き荒れる。

 その瞳は、青の瞳から憤激の籠もった真紅に染まり、今すぐにでも海神に駆け出しそうだった。

 何故彼女()がこのような反応をするかと言えば、それは彼女の生前の逸話にある。

 

 

 

―――カイニス(カイネウス)

 猛々しきアルゴナウタイが一員、海に愛されたる者、無双の力を以て神と傲った僭主。

 女であったが、男となった────と伝えられる。

 かつては正真正銘の女であり、美貌に名高く、テッサリアでは麗しき乙女と讃えられていたそうだ。

 数多の求婚を断り続けた彼女は──────ある時、海神ポセイドンの愛を受けた(勿論彼女の合意の上では無い)そうだ。

 

 

 

―――つまりは、そういう事である。

 

 

 

 そして満足した海神(クソ野郎)は「お前の願いはすべて叶う」と告げ、それに対しカイニスは「二度とこのような目に遭わぬよう、私を女でなくしてください」と答えた。

 そしてカイニスは無敵の男になったのだと伝説は語る。

 

 

 

 

 ………さて、そんな彼女/彼がそんな怨敵を目にすれば、どんな反応をするのだろうか?

 

 

 

「ハ、ハハッ────」

 

 

 

 

 唯一つ、確かに言えることは―――

 

 

 

「ハハハハハハ―――ッッ!!」

 

 

 

 ―――この怒りを一身に受ける相手は、まず間違いなく無事では済まないといった所であろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 第十一幕/汝、星を覆う海嘯(後編)

 

 

◇◇

 

 

 

 

 藤丸立香は困惑していた。

 つい先程イアソンの宝具『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』によって召喚された英れ……神霊のサーヴァント、カイニス。

 ソレがポセイドンの名を聞いた瞬間、突如烈火の如き怒りの表情を見せ、荒れ狂う暴風を纏ったのだから。

 今彼女の肩を掴んでいるイアソンの存在が無ければ、まず間違いなく、いの一番にポセイドンを殺しに行かんとする覇気が、其処にはあった。

 

 

「えっと……どういうこと……?」

 

 

 その逸話を知らないが故に、怒りの理由が分からない立香は困惑の色が宿った声を零す。

 対して彼女の逸話をカルデアの書物のお陰で記憶していたマシュは、立香に対して伝えるべきか、本人がこの場に居ることもあって言い渋っていた。

 しかし、その辺りをマシュと違って特に考えていなかったロマニが口を開く。

 

 

『ああ、彼女の逸話では確かポセイドンに……』

「それ以上言ったらブッ殺すぞクソモヤシ男ォ!!」

『うわあ!?ご、ごめんなさーい!!』

 

 

 ぎょっとした様に言ったその言葉を最後にロマニの映っていたモニターが消える。

 ……もしかしたら、彼女の殺気に当てられて管制室が多少の被害を受けたのかもしれない。

 その力は流石神霊と言った所か。

 

 

 

 そして今尚その瞳を紅く血走らせる彼女()に対して、イアソンは右腕で彼女()の左肩を掴み続け、淡々とした口調で彼女の役割を話す。

 

 

「カイニス、お前は遊撃だ。心ゆくまで好きに暴れて貰って構わない。―――但し、アレの攻撃が来たらカルデアのマスターの安全を最優先にしろ。これだけは譲れない」

「―――はあ?このカイニスに対して命令か?ましてや海神を目にした、怒りの具現たるこのオレにか!?」

 

 

 ギラリ、と射殺さんばかりの視線がイアソンに向けられるが、それに対してイアソンはその顔に動揺の色も見せず、ただ静かに首肯した。

 

 

「―――ッッ!テメェ―――!?」

 

 

 それに対して勃然と憤怒が沸き上がるような感覚に陥ったカイニスは、イアソンの胸ぐらに掴みかかるが、イアソンに両肩を掴まれて、互いの瞳が交差する。

 ……カイニスから見たイアソンの瞳には、僅かに咎めるような厳しい目つきが混ざっていた。

 

 

「ああ、お前の気持ちは理解できる。生前からの怨敵を、自らの手で消そうとするのは道理だ。―――だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 分かるだろう、カイニス!!お前が、誇り高き戦士であり、英雄であるのならば―――!!」

 

 

 凛とした声で言う言霊には、有無を言わせない程の覇気が込められてあった。

 

 

 ―――友と征く遥かなる海路。

 五十の英雄が一つの船に集い、とある大英雄には『人類の全てが彼処には詰まっている』とまで称されたソレを完璧に纏め上げた一人の男に与えられたカリスマの亜種スキル。

 アルゴノーツ限定でその効果を完全に発揮するそれのランクは、驚異のA++。

 魔力・呪いの類とまで言われるA+のカリスマよりも上を行く圧倒的なカリスマ性は、怒りの戦士の怒りを立ち所に鎮めてしまう程の、まさしく怪物レベルの力だった。

 

 

「……チッ、わーったよ。それだけは聞いてやる。―――貸し一つだからな」

「構わん、元よりお前にしか出来ない事だからな。……頼りにしてるぞ」

「……テメェマジでそういう所だぞ」

 

 

 舌打ちをして、右手でワシャワシャと頭を掻きながらカイニスが言う。

 理解はすれど完全な納得は出来ないと言った所か。

 そんな訳でイアソンは皆の方に向き直ると、人員に関して手短に指示を出した。

 

 

「さて、ポセイドンを担当するのは俺とヘラクレスにカイニス、そしてオリオンとアルテミスだ。

 ……まず俺がアレの気を引くから、ヘラクレスとカイニスは魔力障壁を破壊しろ。そうしたら次にオリオンとアルテミスがあの邪魔な魔神柱を一撃で射抜く。最後にその射抜いた穴から俺がポセイドンの内部に侵入して、一撃で消し飛ばす。……いいな?」

「おう、問題ねぇ。今回はアルテミスも居るんだ。あんな化け物なんざ一撃で射抜いてやるさ!」

 

 

 そう快活な表情でオリオンは答える。

 天下無双の狩人たる己に射抜けない物無しと。

 実際彼が生前もっと長く生きていれば、ギリシャの獣の類は絶滅寸前まで追い込まれるレベルなので、その実力は折り紙付きだ。

 イアソンはアルゴーの操縦桿を握り、上記のメンバーはアルゴーに乗り込んだ。

 

 

「お前等、ヘクトール達は任せたぞ!」

「当然だ、任せろ。構わずお前は疾く行け!」

 

 

 そうカストロが腕を翻して言うと、イアソンは力強いと言う様な表情で微笑を浮かべ、再びアルゴーに搭載されたビームセイルとブースターを展開する。

 そうして、船体が波を切る豪快な水音を立てながらアルゴーはポセイドン目掛けて一直線に発進した。

 

 

 

 


 

 

 

 

「おのれ……カルデアめがァ!」

 

 

 レフが手に持つ杖を折ってその場に残ったハインドを睨むが、状況はもう変わらない。

 アルゴーを止めようとしたが、速度が異常とも言える程に速すぎて止めようも無かった。

 

 

 

 確かに先程までは追い詰めていた筈だ。

 一体いつの間に状況が切り替わったのか。

 

 

 

 そもそも追い詰めているという認識こそが間違っていたということなのだが、この場にソレを指摘する者は居なかった。

 

 

 

 第二特異点の様にはなるまいとしていた筈が、どうしてこうなった?

 今は最早、第二以上の戦力差で追いこまれていると言うのが残酷な現実。

 ならば何故こうなったか、レフには心当たりがあった。

 

 

「おのれ―――勇者王イアソン!アレさえこの特異点に存在しなければァ!」

 

 

 忌々しげに叫ぶが、時すでに遅し。

 カルデアのマスター(藤丸立香)は、意を決したような面持ちで、此方を見ている。

 だが未だだ。

 聖杯が有れば、本来の姿へと還れば、十二分に戦える。

 

 

「聞くが良い、我が名はフラウロス!七十二の魔神が一局、情報を司るもの!この際だ、今の貴様らの実力、再び測らせて貰う―――!!」

『……この気配、魔神柱だ!気を付けてくれ!』

 

 

 瞬間、辺り一面に閃光が走ると、其処には変貌したレフ―――魔神柱フラウロスが居た。

 

 

「レフ・ライノール、魔神柱に変貌……!マスター、指示を……!」

「うん、大丈夫……!」

 

 

 そうして、対ポセイドン組以外の面子は、フラウロス、ヘクトール、メディアの三騎と相対した。

 

 

 


 

 

 高速でポセイドンに接近するアルゴーの船上で、オリオンが疑問符を浮かべてイアソンに問う。

 

 

「……しっかしよお、一体どうやってアレの気を引く気なんだよ?ちょっと攻撃したくらいじゃ靡かんぞ?」

「ソレを今から見せてやるって言ってんだろ……。そら、海の上を歩ける組は降りろ降りろ」

 

 

 イアソンがそう言うと、ヘラクレス以外の三人は船から降りて別行動を始める。

 そしてイアソンは深呼吸をして、徐ろに船首に立つ。

 

 

 

 

 しかしヘラクレスは見てしまった。その瞬間イアソンが―――とんでもなく悪い顔をしていたことを。

 

 

 

 既に碌な方法ではない事は確定である。

 

 

 

 イアソンは両手でメガホンの様な形を作ると、そのまま大声でポセイドンに呼びかけた。

 

 

「おーい、ポセイドンさーん?さっきから人間は愚かだの何だの言ってるけど―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一体何処の海神さんなんだろーなー!!愚かな人間よりも下って一体どんな気持ちなんだろうなぁー!

 ―――いやあ、そのアホさ加減と理不尽さ、まるで立派な()()()()()だなァ!フハハハハハ!!」

 

 

 

 ―――瞬間、辺り一面の空気が凍りついた。

 この男、的確に言ってはいけないことを言った挙げ句、『まるで神様みたい』なんていう、つまりは「お前なんか神様じゃねぇよ」なんて特大の煽りを落としやがった。

 しかしこれだけでこのアホ(イアソン)は止まらなかった。

 わざとらしく身振り手振り、芝居っ気たっぷりの口調でまくし立てる。

 

 

「……ああ、そういえばお前ドレイクにやられそうになってたんだってなあ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?ハハッ!これはこれは傑作だなあ!―――もう神様辞めたらどうだ?」

『 ……… 』

 

 

 

 でも流石にこんな煽りでは気が引けないのでは……?とも思った一同であったが、直ぐにその考えを改める事になる。

 ―――ポセイドンがアルゴー……正確にはイアソン目掛けて艦砲の一斉照射を始めたからだ。

 

 

『 迎げ…Error───殺せ 殺す 殺して 殺す殺す殺す あの機体ΖΕΥΣの勇士を必ず殺す ()かして帰さぬ死体も残さず焼却処分とする 』

「よし、俺達はこのままアルゴーでアレを引き付けるぞ」

「う、うむ……」

 

 

 ……キレていた。

 なんなら海上で一部始終を見ていたカイニスですらドン引きするレベルでブチ切れていた。

 まさに類は友を呼ぶと言った所か。

 

 

 

 

 ―――ポセイドンは煽り耐性が低かったらしい。

 

 

 

 そして120ノット(時速222km)という超速でアルゴーが周囲の海を滑るように動き、ポセイドンはソレを100ノット(時速185km)程の速度で、周囲に巨大な大渦を発生させながら追いかける。

 船上では常にヘラクレスがポセイドン目掛けて弓矢を放っているものの、一人では微妙に火力が足りずに、障壁を破れない。

 

 

 その状況が三十秒程続くと、イアソンはポセイドンからある程度離れた場所で突然アルゴーを停止させる。

 それを確認するやいなや、ポセイドンはイアソンを呑み込もうと海流を操作する。

 そうしてあと少しでアルゴーが海流に呑まれそうになった瞬間、ポセイドンの速度が僅かに低下したのを、イアソンは見逃さなかった。

 

 

「―――今だ!カイニス、ヘラクレス!!」

「カイニスが参る!―――見ろポセイドン!海も、大地も、オレを繋ぎ止めることはできぬ!見るがいい―――

 ―――飛翔せよ、わが金色の大翼(ラピタイ・カイネウス)ッ!!」

 

 

 ―――瞬間、ポセイドンの船体に黄金の翼を持った鳥が激突して、ポセイドンの障壁にピシリ、と音を立ててヒビが入る。

 それこそは彼女()が、死の折に黄金の翼持つ鳥となって空に消えたとされる逸話の具現。

 海神に由来しないその力は、ポセイドンの四重障壁を傷つけるに足る威力だった。

 

 

 

 今度はヘラクレスがマルミアドワーズを上段に構え、白熱し、極光を纏って光輝く。

 

 

「『射殺す百頭(ナインライブズ)―――」

 

 

 それこそはいわば『無差別格闘流派・射殺す百頭』という技能そのものが宝具化したもの。

 武具の力を最大限に引き出し、対人から対軍、城攻めに至るまで状況に合わせて様々な形を見せる。

 そして今回その手に握られているのは『業火熾す不朽の剣(マルミアドワーズ)』。即ち―――

 

 

 

 

「―――業火熾す不朽の剣(マルミアドワーズ)ッ!』」

 

 

 ―――瞬間、()()()()()がポセイドンに殺到した。

 単純な威力でさえエクスカリバーを上回ると言われた最強の剣の力が、最強の戦士の手によって最大以上の力を発揮する。

 神剣✕9の攻撃は流石に堪えたのか、ポセイドンの張る魔力障壁は割れたガラスの様な音を立てて崩れ落ちた。

 

 

 

 ―――ヘラクレスが行ったことは単純だ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それだけである。

 故に極光は九つに分裂した様に見え、威力は通常時とは比べ物にならない程に増加した。

  

 

 

 同じ聖剣使いの騎士王が聞けば、その余りの不条理に発狂しそうな芸当だが、その不条理とデタラメこそがヘラクレスがヘラクレスたる理由。

 

 

 

 「ヘラクレスだから」の一言で大抵のことはなんとかなるのである。

 

 

 

 こうして最大の懸念事項だったポセイドンの障壁は崩れ去り、後は巻き付いている魔神柱をなんとかするのみ。

 イアソンは既に待機していたオリオンとアルテミスに合図を出すと、自身はヘラクレスに船を任せて『神体結界(アイギス)』を纏い、ポセイドン目掛けて飛び立った。

 

 

 

「―――行くぞ」

「―――そうだね」

 

 

 オリオンとアルテミスはお互いに静かに手を取り合い、(ソラ)へと昇る。

 暗雲が立ち込めた空から、その瞬間だけは全員が―――夜空に輝く月を幻視した。

 

 

「アルテミス、その力を貸してくれ。お前と一緒なら、負ける気はしない―――」

「……うん、私もだよ。ダーリン」

「『月女神の無垢な愛(アルテミス・アグノス)……充填完了!行くぞぉ!!」

 

 

 ―――なぜこの宝具が対軍なのかというと、この宝具は一人を一軍に匹敵するものへと変化させるほどの祝福だからだ。

 副作用として常人ならば爆散するらしいが、オリオンは筋肉痛で済むのだとか。

 ……これも愛が為せる技と言う事か。

 

 

 

 

 そしてオリオンは其処から一撃必殺の矢を放つために全力で矢を引き絞り、魔神柱に狙いを定める。

 自身の危険を察知した魔神柱は、宝具の用意をするオリオンと、自身に高速で接近するイアソンに対して光線を放つが、イアソンは身体を上手く捻ってソレを躱し、オリオンは―――

 

 

「―――汝、速射の白銀(ラピッドファイア・オルテギュアー)』ッ!

 

 

 収束した光の矢を大量に放ったアルテミスが光線を弾き返した事により、無傷で済んだ。

 一部の矢は魔神柱フォルネウスに命中し、動きが鈍る。

 

 

 そして矢に限界まで魔力を込めたオリオンにより、魔神柱という()の断片を葬る一撃が放たれる―――

 

 

「……さあ月の果てまで吹き飛びなァ!

 ―――我が矢の届かぬ獣はあらじ(オリオン・オルコス)』ッ!!

 

 

 それこそは魔性、魔獣の類を一射の下に沈めるオリオン最高の一撃。

 仮に冠位で呼ばれるならば、その矢はあらゆる獣を彼の手の届くものへと貶める追加効果を得る。

 

 

 

 凄まじい爆音と共に、フォルネウスはその矢に穿たれた。

 世界最高の狩人の一射を受けて無事で済むはずも無く、その身体には半径数メートル程風穴が空き、ポセイドン内部へと通じる道が見えていた。

 

 

 

「覚悟しろ、ポセイドン―――!!」

 

 

 そう言ってアイギスを吹かせたイアソンが、単身でポセイドンの内部に突入した。

 

 

 

 


 

 

 

 ポセイドン内部。

 警報が鳴り響き、侵入者であるイアソンの排除を促す。

 

 

『 侵入者確認 侵入者確認 迎撃せよ 迎撃せよ 』

 

 ……しかし、ポセイドン内部の防衛システムは、はっきり言って杜撰だった。

 元々侵入と言う事態を想定していなかったからか、防衛機構の戦闘力は並のサーヴァントにも劣る物だった。

 

 

 

『 ―――おのれ、おのれおのれおのれおのれ!! この私が一度ならず二度までも、人間に敗れる筈が無い!

「……負けたのは認めるのか」

 

 

 無視してポセイドンの中心部へと急ぐが、此処で遂にポセイドンがやけを起こしたのかこんな事を言い出した。

 

 

 

『 ―――くそ、このまま貴様が私を倒すのなら、私はあの船の人間共を道連れにしてくれるっ! 』

「勝手にしろ」

 

 

 バッサリと一刀両断。

 カルデアの者共を盾にしようとした様だが、イアソンは微塵も興味無さげに無視するばかりだった。

 

 

 

 ―――そんな彼の態度に苛ついたのか、ポセイドンは遂に主砲を起動した。

 

 

 


 

 

 

 

「―――ハ、ハハハ、これで貴様らは終わりだ。私も巻き込まれるだろうが、その程度は問題ない」

 

 

 ―――彼等彼女等は確かに見た。

 ポセイドンが主砲を此方側に向けていることを。

 しかしその表情に焦りの色は存在しない。

 

 

 それはポセイドンが破れかぶれに放つ一撃だと何となく分かっていたからか。

 もしくは既にヘクトールを撃破し終えており、余裕が生まれていたからか。

 

 

「―――クソったれが。なんでアイツの予想はいつも気持ち悪いくらいに当たるのかねぇ!」

 

 

 自分達の前で力強く佇む戦士の姿があったからか。

 カイニスはその手の三叉矛を高らかに掲げ、ポセイドンと正面から向かい合う。

 

 

「―――見るがいい!これこそは()()()()、海神より授かりし神なる力!そして我、我が権能を以て、海神を、ポセイドンを滅ぼそう―――!!」

 

 

 三叉矛が嫣然と光輝き、周囲の海は荒れ狂う。

 対してポセイドンも、先端の三門の主砲にエネルギーを充填させて、力を高める。

 

 

 

 ―――そして、同質の力(海の権能)が特異点をも破壊する勢いでぶつかり合った。

 

 

『 汝、星を覆う海嘯(トライデント・オーシャンレイ) 』

「―――海の神、荒れ狂う大海嘯(ポセイドン・メイルシュトローム)』ゥッ!!

 

 

 片や、海を割り、星を覆う対星宝具。

 片や、海の権能の限定再現であり、超質量の大海流によって対象を粉砕する、評価規格外の対海宝具。

 

 

 大津波と破壊光線という、何方も通常サーヴァントの域を遥かに超越した、究極の一撃なのは間違いないが、同質の力であるが故、僅かに、少しずつカイニスが押され始めた。

 それだけではない。

 

 

「ぐっ……カハッ……」

 

 

 カイニスだけに当てはまることでは無いが、『権能』などをサーヴァントがまともに振るえる筈が無い。

 霊基に掛かる負担は凄まじく、吐血だけでは済まない可能性は十分ある。

 

 

 

 だがしかし、今はカイニスにあって、ポセイドンに無いものがある。

 それは―――

 

 

 

射殺す百頭(ナインライブズ)』ッ!

我が矢の届かぬ獣はあらじ(オリオン・オルコス)』ッ!!

 

 

 背中を預けるに足る仲間の存在である。

 両サイドからの強烈な弓矢の一撃を受けたポセイドンの攻撃は、次第に失速し、ついには殆どが相殺された。

 

 

 僅かな残滓が船の方に飛んでいったものの―――

 

 

「宝具、展開します―――」

 

 

 人類最後のマスターの隣には、頼もしい盾の少女が居る。

 未だ未熟ながら、高潔な輝きを放つ光の盾により、完全にポセイドンの宝具は無効化された。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

―――馬鹿な!?神の一撃が、防がれただと!? 

「……だから言っただろ。『勝手にしろ』ってな」

 

 

 その瞬間、ポセイドンは理解した。

 自分の行動はすべてこの男の手の中だったのだと。

 自分がイアソンの煽りに反応するのも、障壁を破られて激昂するのも、そして破れかぶれの一撃を放とうとすることも。

 

 

 全て、全て、予測されていたのだ。

 

 

 

 既にイアソンは中心部に辿り着いている。

 防衛システムが高速でアップデートされ、何度も攻撃を繰り返すが、全てが雷霆により一撃の下破壊される。

 

 以上のことから自身の演算システムが出した最終的な結論は―――詰み。

 何をしても覆らない事を理解した。

 

 

 

「―――SYSTEM(システム)ΖΕΥΣ(ゼウス)、起動。……真体(アリスィア)装甲、展開。

搔き抉る時の大鎌(アダマント)』、()()()、解除開始」

『 やめろ 』

 

 ポセイドンの声は虚しく響き、大鎌からはΖΕΥΣ(ゼウス)による承認が行われる。

 

 

『 承認 全拘束・解除 』

『 何故だ!ゼウスよ、何故そちら(人間)側に立つのだァ! 』

 

 ゼウスの声にポセイドンが反応するも、この声はアダマントに搭載された承認音声なので返答はない。

 

 

 第一拘束『 対因果介入機構 』

 

 第二拘束『 対空間切断機構 』 

 

 第三拘束『 対時空攻撃機構 』

 

 第四拘束『 対概念破砕機構 』

 

 

 何度聞いても規格外そのものである機構が、完全解放される。

 本来ならば特異点が崩壊してもおかしく無いが、ポセイドンが実質的な肉壁となることで、外界への被害は殆ど無い。

 

 

「―――最終裁定機構、解除。

 

 ……是なるは神の怒り、世界を裂く雷である。

 

 ―――そして、終末をも滅ぼす希望の輝き。

 

 今、裁定は下った―――『其は、世界を裂く雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)

『 ぬおぉぉぉッッ! 』

 

 

 蒼の耀(ひかり)が総てを覆い、神は呑まれた。

 終末をも滅ぼした世界を裂く一撃は、一柱の神を滅する為だけに放たれたのだ。 

 

 しかし往生際が悪く、内部に障壁が展開される。

 当然、その程度で雷霆は止まらない。

 勇者王(イアソン)は、船体内が揺れる程に声を張り上げ、雷霆は蒼き黄金となって輝きを放つ。

 

 

 

「―――ポセイドンよ、光になれぇぇぇッッ!!」

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 ―――黄金の柱が、海に昇った。

 海神は呑まれ、瞬く間に光子と化した。

 

 

「凄い……」

「馬鹿な……馬鹿なぁっ!?」

『外部からの魔力計測値、ニ百万を突破………。規格外にも程があるんじゃないのか………?』

 

 

 そう立香は言葉を零し、レフは絶望の声を上げた。

 ロマニはその圧倒的な魔力数値を見て、驚嘆の声を上げる。

 数値で表すと、通常サーヴァントで最高級の宝具火力が1000から3000と言えば、その規格外さが分かるだろうか。

 

 

 

 その様子を甲板に倒れ伏した状態で眺めていたカイニスは、憑き物が落ちた様な清々しい顔でこう言った。

 

 

「アイツ、やりやがったか……」

 

 

 そうだ。

 あの忌まわしき海神は消え去ったのだ。

 自らの手で殺せなかったのは業腹だが、イアソンが完膚なきまでに滅ぼしてくれたから良しとしよう。

 

 

 アレこそが勇者王の切り札。

 

 英雄王の乖離剣、その天の理にも並び、上回る程の、正しく勇者王神話を語るに相応しい『絶対勝利』の力である。

 

 

 

―――こうして、特異点最大の難敵である海神は撃破された。

 

 

 

 

 

 





尚ポセイドンは光すら残らずに消し飛ばされた模様。


ちなみに『汝、速射の白銀』は公式設定で存在します。
アルテミスのQuick攻撃の強化版といった感じらしいです。


ポセイドン:見せ場が無く終わった人()
 多分アトランティスでもアレなので挽回の余地はない。


−追記−

現在活動報告欄にて番外編のネタ募集中。
こんなことしてほしい!みたいな意見があれば積極的にやりたいと思ってるのでお願いします┏○┓


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終幕(Epilogue)/誇りある勇者達へ

 

 

 ―――光の柱が(ソラ)へと昇り、四散する。

 何の因果か西暦に蘇り、今一度人間(ヒト)を支配せんと目論んだ海神は、ソレを阻止すべく現れたカルデアと、偉大なる勇者達の手によって葬られた。

 

 

 

 

 最大の脅威を破ったことにより、この『大航海時代』における狂った人理は実質的に正された。

 

 

 

 ―――この時代は、救われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

Epilogue/誇りある勇者達へ

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『馬鹿な―――馬鹿なバかなバカなぁ!?人間(ヒト)の英霊如きに、神が……負けるだと……!?』

 

 

 そうして気が狂った様に叫ぶフラウロス。

 そのおびただしい数の目はまるで理解のできない物を見るかのような、怯えの色に囚われていた。

 

 

「まだ分からないか……!!―――人だから(・・・・)だ!神とは、人を導く者であり、支配するものではない!」

「兄様の言う通りです!―――神無き今の世に、神による支配など以ての外!」

 

 

 それぞれの手に持つ武具を突きつけながら、同じ神としてディオスクロイが言う。

 ソレは人間(ヒト)と、(かみ)の両方を経験し、最も近くで幾度となく人間(ヒト)の可能性を見てきた二人だからこそ言えたことである。

 

 

 

 ―――そうだ。

 

 今は()()()()()()()()()()()()()()()

 遥か昔、既に人は神の手から離れて、自らの手足で歩み始めた。

 そうして紡がれたのが『人理』であり、もう既に神の手を借りる必要性など皆無なのである。

 

 

 

「その通りです、レフ・ライノール!私達(人類)は、決して人理焼却などに屈しません―――!!」

『黙れぇっ!マシュ・キリエライト!我等が王の威容を知らぬから、そのようなことが言えるのだ!!』

 

 

 その王とは果たして何なのか。 

 無数の目に凝視されて、マシュはすーっと神経が凝結したような気味悪さを感じるが、海神が放つ神威のソレに比べれば幾らかマシなものである。

 

 

 フラウロスの全体から更に無数の目が開き、魔力が高まる。

 ソレを見てマシュは、立香達を守るために、「円卓そのもの」と称されたラウンドシールドを構えた。

 

 

情報室、開廷。過去を暴き、未来を貶す。

「真名、偽装登録―――。宝具、展開します―――!!」

 

 

 そして第二特異点と同様に、偽りの宝具と、情報室を司る魔神の怪光線は激突する。

 

 

 

『―――焼却式 フラウロス

「―――仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)』ッ!!

 

 

 全力の聖剣の類には到底及ばないものの、その攻撃は手が痺れる程に重い、強力な一撃であった。

 確かに“今の”彼女一人では支えきるのは困難だったのかも知れないが、マシュは盾が普段よりも軽いことに気が付いた。

 それはメディアによる強化があったからだろうが、コレに関してはフラウロスも同じくメディア(リリィ)からのバフを受けていたので攻撃を防げた理由では無い。

―――故に、彼女の英霊としての強さはステータスでは無い。

 

 

令呪を以って命ずる!!―――勝とう、マシュ!」

「―――はい!!」

 

 

 マスターとして共に並ぶ彼女がいる限り、そして彼女の心が折れない限り、その白亜の護りは如何なる攻撃をも通さない。

 ―――彼女達もまた、勇気ある者なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――何と

 

 

 

 故に、その結末は必然と言えるだろう。

 光線の放たれた跡には――――――無傷で佇む、白亜の盾があったのだから。

 当然、この隙を逃す筈もない。

 

 

「今だよ、皆!」

「はあ……、あんなのに矢を放つのは勿体ない気がしなくも無いけど―――女神の視線(アイ・オブザ・エウリュアレ)!!」

 

 

 魅了の力が込められた矢が命中し、僅かな混乱状態に陥るフラウロス。

 そして間髪入れずに、アタランテが限界まで引き絞った『天穹の弓(タウロポロス)』から放たれた弓矢でフラウロスを穿つ。

 引き絞れば引き絞るほどにその威力を増すという特性から、彼女自身の筋力はDランクだが、限界まで引き絞ったその矢は、Aランクを凌駕するほどの物理攻撃力を発揮する。

 

 

 

「なっ、これは……!?」

「術理、摂理、世の理……。その万象、一切を原始に還さん―――」

 

 

 瀕死のフラウロスを見て、メディア(リリィ)が回復魔術を使おうとするが、足元に現れた魔法陣によりその場に縫い付けられる。

 そのまま彼女の懐に瞬間移動したメディアは、右手に持つ歪な形の短刀を振り上げた。

 

 

「―――破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)ッッ!!」

「あ―――かはっ」

 

 

 ソレが持つのは「あらゆる魔術を初期化する」という特性。

 魔力で強化された物体、契約によって繋がった関係、魔力によって生み出された生命を戻す、ある意味で最強の対魔術宝具。

 己のマスターとの契約及び魔力パスを破戒されたメディア(リリィ)は、メディアに刺された胸部と口から、赤い糸のような細い血のすじを垂らして、その場へ音もなく崩れ落ちた。

 

 

「―――ポルクス!!」

「殺します。合わせてください、兄様―――!!」

「「―――双神賛歌(ディオスクレス・テュンダリダイ)ッ!!」」

な、何故此処までの力をぉぉぉ―――ッ!!

 

 

 そして最後に、アタランテが穿った傷口目掛けて、ディオスクロイが宝具による強烈な連続攻撃を叩き込み、フラウロスはついにその姿を保つことが出来ず、大きな音を立てて崩れ落ちた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「―――おのれ、一度ならず二度までも、我らの御柱がこうも呆気なく退けられるとは……」

 

 

 崩れ落ちたフラウロスから現れたレフは、満身創痍の身体で苦悶の声を漏らす。

 だが既に勝負は決したが故、もうすでに何を言っても負け惜しみにしかなるまい。

 

 

 

 彼は一歩、二歩と後退りしながら、早口に声を震わせ、自分に言い聞かせるように呟いた。

 

 

「―――いや、これは計算違いだ。きっとそうだ。神殿から離れて間もないと言うのに、ましてや此方の戦力もローマに比べれば最高の布陣だった筈だ。どう計算した所でこんな結果になる訳が無い。ならば―――」

「もしや、また聖杯を―――っ!?」

 

 

 その光景に彼女達は見覚えがあった。

 第二特異点において、レフ・ライノールは窮地に陥った際、聖杯を使用してアルテラの召喚を行った。

 ならば全く同じ状況である今回も、同様にして何かを仕掛けて来るのでは――?

 

 

 そう考えた立香達の行動は早かった。

 

 

「止めて、マシュ!」

「了解です、先輩―――!」

 

 

 マシュが直ぐ様レフに駆け寄り、盾を振り下ろそうとした瞬間に、レフがマシュに何かを投げつける。

 それは黄金色の、その場にいる誰もが見惑うことのないもの―――聖杯だった。

 

 

「え―――!?何で聖杯を!?」

「このまま足掻くのも良いが、どのみちこの特異点は修復されるだろうし、ソレは私の主義に反するのでね。私はこのまま神殿に帰らせて貰うとしよう―――!」

 

 

 驚愕の色を浮かべて聖杯をキャッチしたマシュを尻目に、自身の船から飛び退き、空中に飛び立つレフ。

 どうやら其処の空間を歪めて神殿に帰還する腹積もりのようだ。

 

 

 すっかり三下役が板についている。

 

 

「ハハハッ、ではさらばだ、カルデアの諸君。もし次があるのなら神殿で会おう―――!」

『……ん?レフの下になんか強大な魔力反応が……』

 

 

 その光景をモニターしていたロマニが、そう疑問の声を漏らすと、レフ以外の一同はえっ、と声を漏らして……数秒後のレフの結末を察した。

 ……その魔力反応の正体であろう者に、少なからず心当たりがあったからだ。

 

 

 

 

 

 そして、海底からの急速浮上による海鳴りの音を響かせながら、その魔力反応の正体―――勇者王(イアソン)が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()でレフの頭上に現れた。

 

 

 

 

「―――魔神フラウロス、光になれぇぇぇっっ!!

何故勇者王があぁぁぁ―――っっ!?

『あっ……』

 

 

 

 その一言を遺言として、このレフ・ライノールは、自身の概念さえも破壊されたことにより()()()()()()()

 今後彼がカルデアの前に現れたとしても、その彼はこの海での記憶を持ってはいないだろう。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「―――よし、これでヘラクレスの報いは受けさせた」

「あ、やっぱり怒ってたんだ……」

「当然」

 

 

 そう立香の呟きに首肯したイアソンは、レフを光にした余韻に浸るのも程々に、地に座り込んでいるメディア(リリィ)の元へと歩む。

 それまで崩れかけの船で、消滅を待って静かにへたり込んでいた彼女だったが、その彼の姿を目にした途端、ハッとしたような瞳に変わる。

 それは彼女の霊基を先程まで蝕んでいた、レフによる精神汚染が解けた証だった。

 

 

「ごめんなさい、イアソンさま、私―――」

「……謝る必要は無い。普通ならお前が人理焼却に手を貸すような奴じゃないことは知っている」

 

 

 彼女の発言を遮り、気にしていないと言うふうに首を振る。

 誤解されやすいかもしれないが、彼女の在り方は善性そのものに近く、数々の常軌を逸した行動も、根底に善意があるが故のこと。

 それはそれである意味一番たちが悪い気もするが、人理焼却に関しても、それなりの理由があったのだろう。

 

 

 

 ―――まあ、その理由が精神汚染の影響はあれど、『ギガントマキアによる彼自身の死の運命を覆す為に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』という理由だと知れば、彼女に対して割とマジの説教をするのは想像に難くないが。

 

 

「あれ、身体が透けて―――」

『そっちのメディアが消える……!立香ちゃん、彼女に質問を!』

 

 彼女は現状、レフや黒幕と関わりのある可能性の高い唯一のサーヴァント。

 貴重な黒幕の情報を入手出来る機会を逃す手は無かった。

 

 

「ねえ、……黒幕は誰なの!?こんなことをした犯人は、一体誰なの!?」

「……それを口にする自由を私は剥奪されています。魔術師として私は彼に敗北していますから」

『サーヴァントとしてでなく、魔術師として王女メディアが敗北した……!?』

 

 

 魔術師の中でも上澄みの上澄みである彼女を上回る魔術師とは一体何者か。

 そのような人物は人類史の中でも―――

 

 

『それはつまり―――』

「―――()()()()。魔術王ソロモンがおそらくこの事件の黒幕だろう」

「―――」

 

 その名を聞いたメディアが瞠目する。

 それこそ、彼女が言う()()()()()()()だったからだ。

 しかし、それを聞いたロマニが有り得ないと言ったふうにそれを否定しようとする。

 

 

『い、いやいやいや、ないないないない。だってソロモン王だぞ?魔神だってあんなんじゃ無いし……』

「いや、アレは確かに魔神であり、確かな獣性を宿すモノだった。……そもそもメディア以上の魔術師なんて、人類史を見てもそういない。

 俺の知る限り、強いて言えばマーリンと……太公望辺りがソロモンと同格だが、犯人はソレ以外にはあり得ないんだよ」

『う、うぐぅ……』

 

 

 否定材料が無く歯噛みするロマニ。

 それはソロモンがそんなことをするはずが無いと思っているが故か、ソロモンがマーリンなんぞと同格と言われたが故か。

 

 

『あははは。ロマニはソロモン王のファンなんだよ。昔っから憧れてたらしいよ?』

『ちょ、レオナルド!それ秘密、秘密!!』

 

 

 横からちゃっかりロマニの秘密を暴露したダ・ヴィンチちゃんに対して抗議の視線を向けるロマニだったが、ダ・ヴィンチは何食わぬ顔で受け流す。

 それを見て溜息をついたロマニは、再度イアソンに対して抗議する。

 

『はあ―――、そうだよ、七十二の魔神というのは、召喚術の始まりにして頂点だ!ソレがあんな醜悪な怪物なはずがない!』

「……まあ、確かに()()()()()人類を絶滅させようとするとは思わんが―――」

『ほぅら見たことか!だったら――』

「だが、ソレが事実だ。……()()()()()()()()、獣を狩るものとして断言する。―――少なくとも七十二の魔神はソロモン、若しくはその縁者の使い魔だ。間違いない」

『うぅ……』

 

 

 これ以上は反論の余地が無いと、管制室でロマニが項垂れている中、ソレを見ていたメディア(リリィ)の口角に無意識的に微笑みが浮かぶ。

 

 

「―――流石イアソン様ですね。ええ、ですから覚悟を決めておきなさい。遠い時代の、最新にして最後の魔術師たち。……貴女達ではアレに敵わない。()()()()()、この人理焼却の犯人には絶対に及ばないのです」

 

 ほっと息を吐きながら、彼女はもう青みがかっている夜空にて、煌めく星々に手を伸ばした。

 其処にこの自分が未だ経験していない、嘗ての在りし日の幻想―――アルゴーの輝きを見出しながら。

 

 

「だから―――星を集めなさい。幾つもの輝く星を。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、嵐の中でさえ消えない、(ソラ)を照らす輝く星を―――」

 

 

 金色の粒子を散らしながら、メディア(リリィ)は退去した。

 これにて全ての敵対サーヴァント及び、敵対者は殲滅が完了した。

 つまり―――

 

 

 

「時代修正―――完了です」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

「風が止んだ……ああ、こりゃあ終わりだね。もうどうしようもない。名実ともに、この海は終わりさね」

 

 

 そう何処か気が抜けた様にドレイクは言う。

 この特異点を構成する大元たる聖杯を確保した以上、あとものの数時間でこの特異点は崩壊する。

 

 

 サーヴァントは兎も角、生前の人物であるドレイクや海賊達には、この記憶は残らないのであろう。

 

 

「でも、これはいい終わりだ。新しい誕生だ。―――アタシたちの海が戻ってくる!」

「オオ―――イ!これでこのトンチキな海ともお別れだァ!もうあんな神同士のヤベェ戦いに巻き込まれずに済む!」

「やったなヤロウ共、でもちょっと寂しいぜ!こっちの海はロマンに満ちていたからな!」

 

 

 そう喜びの声を上げてはしゃぐ海賊達。

 彼等はドレイクの部下であることからこの特異点に入ったが故、退去も人一倍速い。

 

「おお、バンバン消えて行くじゃねぇか俺等!やっぱり雑兵から退場するのが世の常かー!じゃあな、マシュちゃん、立香ちゃん!船長を助けてくれてありがとうよ!

 オレらはいずれ縛り首だが、アンタらはまともな人間だ、これに懲りたらもう海賊になんか関わるなよー!」

 

 

 そう言い残して海賊達の最後の一人であったボンベも退去する。

 そして彼等の次には、当然他のサーヴァントも退去する。

 

 

「―――よし到着!って思ったらもう終わってるし何か身体透けてね!?え、これで終わり!?」

「いやぁ、やっとここから帰れるわ!しかもイケてるダーリンもセットだなんて最高ね!」

 

 

 先程やってきたオリオンとアルテミスも既に退去が始まっている。

 元々熊の状態で喚ばれたオリオンに、無理やりさらなるリソースを与えたから、霊基が限界に近かったのだろうか。

 

 

「―――いやいやいや、ここで直ぐに退去するか!ほらマシュちゃん達、このイケてる俺に別れのチューとか……あ、ダメ?そっかぁ……」

「ほら、逝くわよオリオン?」

「あ、ちょっとチョークスリーパー決めないでぎゃぁぁあぁあぁあぁーっ!!」

 

 

 そして三つ星の狩人(トライスター)と月女神は、大変仲睦まじく触れ合いながら退去した。

 ―――そう、大変仲睦まじくね。

 

 

「これで私達の役割もおしまいね。あーあ、何て酷いお仕事かしら。(ステンノ)駄妹(メドゥーサ)もいないんじゃ、つまらないったら無いわ。」

 

 そう言うエウリュアレが何処か優しい眼差しでアステリオスを見上げる。

 

 

「……まあでも、アンタがいたのは良かったわ。ほら、これで最後なのだから肩に乗せなさい」

「う、ん。……あり、がと、う、マスター、船長さん、そし、て、勇者の王様、ぼくは、みん、なに、見てもらえて……しあわせだ!」

 

 エウリュアレを肩に乗せたアステリオスが、そう心底嬉しそうな表情で退去し、また同時にエウリュアレも退去した。

 ……原典においては犠牲となった彼も、この時空では最期の一時まで仲間とともに、笑顔でいることが出来たのだ。

 

 

 

「―――む、次は私達か。……今度は役に立てたようで何よりだ。二度と前回のようなことはごめんだからな」

 

 

 そう言ったアタランテ以外のアルゴノーツも、同様に退去が始まっている。

 それもやはり彼女らが全員イアソンの宝具によって召喚されていたからか。

 

 

「はぁ……結局僕がしたのは自傷したカイニスとイアソンの治療だけか。おいイアソン、次はもっと()()()()()()()に僕を呼べよ」

「……ああ、善処する」

 

 

 そうして医術の祖、アスクレピオスは退去した。

 この海では彼の出番は無かったが、きっとこの旅路の中で、彼の力は大いに役立つだろう。

 

 

「では私達からも一つ―――人類よ、この先の旅路、恐れることなかれ!!我等双神が、貴方達の旅路を照らしましょう!」

「そうだ、そして挑み続けよ!お前達星見に、神の祝福を授けよう―――!!」

 

 

 双神も退去した。

 有象無象の人間を嫌うカストロさえもがカルデアの旅路を祝福したということは、きっとカルデアは彼の目に適う存在だったのだろう。

 

 

「正直、オレはまだ不完全燃焼といった所だが………まあ、今はあのクソ野郎が死んで気分がいい。だからさっさと消えるとするか!

 あばよカルデア!もしオレの力が必要になったら、その時は喚べよな!」

 

 

 神霊カイニスも退去した。

 尤も、彼女/彼とは、今後敵対する可能性が非常に高いのだが―――それはまた別の話。

 

 

「……正直、私はまだ本領を発揮していない。

 ……きっとイアソンも喚ばれるのだろう?どうかまた、私を呼んで欲しい。いや、必ず呼んでくれ。―――しかし、やっぱり私はこれからどうアルテミス様を信仰すればいいのだろうか……もういっそのこと、あの姿勢を見習うべきか……

「えっ」

 

 

 そうして純潔の狩人も退去した。

 最後に若干不穏な発言が混じっていた気もするが、イアソンは気の所為だと思うことにした。

 そう思わないとやってられない。

 

 

「アルゴノーツの最後は私、といった所かしら。正直、イアソン()に会えたのは良かったけど、もう一人の私とかが居るしで疲れたわ……」

「ねえメディアさん今イアソンのことイアソン様って……」

「言ってない」

「え、でも……」

「言ってないったら言ってないの!!」

「ア、ハイ」

 

 最後の最後で気が緩んだのか、イアソンに対する素の二人称がバレてしまったりなど一悶着はあったが……

 

 

「ん"ん"っ……私は、アルゴノーツの中では唯のしがない魔術師でしかないけれど、それでも貴女達の力になれるのなら、その時はぜひ呼んでくださいな」

 

 

 ギリシャ最高の魔術師も退去し、僅かな静寂が訪れる。

 そうしていると、遂に勇者王……イアソンの退去も始まった。

 髪の先が透け始め、金色の粒子が辺りに舞う。

 

 

「最後は俺か―――ああいや、お前達に渡すものがあったな。すっかり忘れてた」

「渡すもの―――ですか?」

 

 

 そうマシュが首を傾げてイアソンに問うと、イアソンが「コレが一番欲しかったんだろ?」とでも言いたげな顔で、得意気に指を鳴らすと出てきた物は―――辺り一面の虹色だった。

 

 

「―――え、これ聖晶石じゃん!?しかもこんなに!え、嘘、もしかしてくれるの!?」

「勿論だ。第一、俺には不要な産物だしな」

「うっひょおぉぉぉ……っっ!!やっぱり持つべきはイアソン様だァ!」

「ハハッ、どんなお宝にも靡かないのかと思えば、ソレがアンタにとっての()()ってことか、立香!」

 

 

 そう目を輝かせて総数三十の聖晶石を拾い集める立香を、何処か懐かしい物を見る目で眺めていたイアソンだったが、退去までの時間が近づいていることを察する。

 

 

「……これで、最後か。ならば一つ―――良くやった。

 そして忘れるな。今のように平和を愛する勇気ある心を。そして、俺達英霊だけでなく、お前達今を生きる人類も、カルデアにいる者達も―――」

 

 

 そう言って右腕を立香達の方に出し、逆手で拳を作り上げたイアソンは、今までで一番の奮い立つような声で言い放つ。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()であることを―――」

 

 

 ―――決して、忘れるな。

 

 

 

 そう立香やマシュ、カルデアの全ての職員達に労いの言葉を残し、勇者王はこの特異点より退去した。

 

 

 これより先は語るまでもない。

 原典と同じ様に、立香達は嵐の航海者と別れを告げ、カルデアへと帰った。

 ギリシャ最高の勇者と、星の開拓者との触れ合いは、また一つ、無垢なる少女の心に色彩を灯しただろう。

 

 

 

 

 

 故に、勇者王が言うように、

 

 

 

 

 

―我々は、この勇者達が紡ぐ伝説を、忘れてはならない―

 

 

 

 

―我々は、平和を愛する勇気ある心を忘れてはならない―

 

 

 

 

―そして、我々一人一人が、誇りある勇者であることを―

 

 

 

 ――忘れてはならない――

 

 

 

 

 

-
-
AD.1587/人理定礎値:EX

-
『――封鎖終局神域オケアノス――』
-

-

-
〜〜定礎復元(Order Complete)〜〜

-

-

-

 

 





今回を持ってオケアノス編は終了、並びに作者が当初予定していた部分も終了ということで、『数多の英雄を束ねる者』―――これにて完結です!!
















―――嘘です。ちゃんと続編(次はバビロニア)はやります。
合間に召喚と幕間ネタを挟むかもです。



―余談―

レフは塵すら残らずに消えましたが、権能により再生の理さえも破壊されたので、神殿で復活したレフは『セプテムまでの記憶しか持たないレ/フ』となり、オケアノスのレフはこの世から消滅しました。
なので終局ではレフがカルデアに「セプテム以来だね」と言って、全マスターにネタにされます。


-追記-

そういえば二部七章で勇者王が出たらしいですけど、ネタバレを避けるために言及はしませんが、ある意味でこの作品のイアソンとは似通っている……対比になる部分もありますね。

なので何時になるかは分かりませんが、オリュンポスの後はミクトランを(気が向いたら)書くかもですね。


あと補足ですが、今は受験シーズン真っ只中なので、今月は暫く投稿出来ません。
暫しお待ちを。


2/25追記

受験直前のストレスの気休めに書いたオリュンポス編予告(仮)です。
興味があればどうぞ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=293869&uid=402014





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番外編Ⅱ
#1∣if√∶勇者王in原典



お久しぶりです。

作者が受験の間、本家に勇者王が登場したことによりモチベが完全崩壊していました。
バビロニアも文字が浮かばないので、箸休めに前々から言っていた原典召喚ネタをお一つ。


 

 

 英霊の座にて。

 

 

『―――』

 

 

 自身の逸話の象徴たる船にひっそりと立つ一人の男。

 その男―――イアソンは、封鎖終局神域にて生前にも行わなかった神殺しを成し遂げた。

 それも海神(ポセイドン)という特大神性の一角だ。

 その過程である意味一番の目的でもある人類最後のマスターとの『(えにし)』も紡ぐことが出来たのだが―――

 

 

 

 

 ―――呼ばれるかなあ、俺。

 

 

 

 守護英霊召喚システム・フェイト。

 カルデアが冬木の聖杯戦争を元に発明した召喚式。英霊とマスター双方の合意があって初めて召喚出来る。

 男はそんな人類最後のマスターの召喚方式を知っているが故に、縁を紡いだ所でカルデアに呼ばれる訳では無いことを分かっていた。

 双方の合意の以前に向こう側がこちら(英霊の座)に道を繋げなくてはどうしようもないからだ。

 

 

 此方側から無理矢理召喚式に割り込んでも構わないのだが、そんなことをすれば上司(アラヤ)に目を付けられて制限が掛かってしまう。

 故に向こうが自身との縁を元に道を繋がなくては、自身は只管待ちぼうけとなってしまうのだ。

 

 

 

 

 座に時間の概念は無く、どれだけ待ったか等の感覚は無いが故に待ち時間は分からないが、ふと身体が引っ張られるような感覚をおぼえる。

 ただ、自身の本能的なナニカが警鐘を鳴らしていた。

 

 

 ―――面倒事に巻き込まれるぞ、と。

 

 

 勘弁してくれと思い召喚から逃れようとするも、まるで何かの意志が働いているように身動きが取れなくなる。

 

 だが本当に止めてほしい。

 これでも獣殺し及び召喚対象としては某AUOに次ぐ皆勤賞を獲得出来ると自負している。

 これ以上は仮初の肉体であろうとも魂が抜けそうだ。

 

 

 そして男の抵抗虚しく視界が一面の白に覆われて―――

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ―――人理継続保障機関フィニス・カルデア。

 その中の召喚ルームにて、人類最後のマスターとなった()()藤丸立香とマシュ・キリエライトは新たな戦力を確保するべく英霊召喚を行っていた。

 

 

 円卓の証であると同時に象徴でもある彼女の盾を触媒とし召還サークルを設置。

 廻る光輪の中心に、人理修復という大義に賛同した英霊を召喚する『守護英霊召喚システム・フェイト』。

 通常の聖杯戦争とは異なり、英霊達のどれもが一つの目的の下に召喚されるので多くのサーヴァントの召喚を可能とする。

 

 

「……」

 

 

 詠唱は必要ない。

 僅かな魔術回路と、マスターとしての資質があれば、必要な魔力は施設が補ってくれる。

 術式が開始され、召喚サークルの円に沿うように、三つの光輪が紡がれる。

 今回光輪が示した色は―――眩いまでの虹色。

 紛うことなき全世界最上級のサーヴァントが喚ばれる合図である。

 

 

「クラス:ライダー。やりましたね先輩!これはトップサーヴァント級の魔力反応です!!」

「よっしゃきたあッッ!!」 

 

 

 数多の礼装(ハズレ)を引いた末に訪れた幸運。

 霊基グラフにも登録されていない新顔で、一体どんな偉人が呼ばれたのだろうと二人は期待に胸を膨らませる。

 それに答えるかのように、高まる魔力反応による煙と光が撒き散らされ、一面の視界が覆われる。

 

 

 だがしかし、今の彼らは夢にも思わなかっただろう。

 これから召喚されるサーヴァントによって、一部の英霊達にとってはとんでもない騒動が起こることになろうとは―――

 

 

 

 

 

 

『さぁて、今回は一体全体どんなサーヴァントが呼ばれたのかなぁ―――ってあれ?』

『むむ、これは中々良いセンスの装いを―――』

 

 

 

 真っ先にその存在を認識したのは、モニタールームでコーヒーを飲みつつ様子を見ていたドクターロマンとダ・ヴィンチだった。

 光が退き、煙の晴れた召還サークルの中に無言で立っていたのは―――紺色の鎧で全身を身に包む一人の男だった。

 二人が彼を男だと認識したのは、彼が比較的背も高く体つきが良かったからであろう。

 

 

 とある国の特撮に出てくる仮面をつけたヒーローを彷彿とさせるその装いを見て、立香達男性陣は感嘆の息を漏らし、マシュは言葉を発さずとも分かる、彼の王と呼ばれる英霊の中でも一、二を争うだろうそのオーラに気圧されていた。

 そうして無意識に冷える空気の中その男は口を開く。

 

 

「―――サーヴァント:ライダー、召喚に応じ参上した。ここは一体――っておいおいまじかよ……

 

 しかし、男の雰囲気からは困惑の色が漏れ出ており、その場に居る彼らは気付くことなかったが、男の視線はただ一人―――藤丸立香に向けられていた。

 そんな男の内心はというと―――

 

『(いやぐだ男やんけェ……。ぐだ子じゃないって事は別時空?マジですか?)』

 

 言葉には出さないものの、脳内は過去最大級の動揺と混乱の渦に呑み込まれていた。

 落ち着け。慌てるなと自身に言い聞かせて、現界の際に与えられた情報を高速で整理する。

 そして、自身の置かれた状況を理解した。

 

『(―――成る程、此処は俺の生まれとは違う平行世界で、このカルデアは人理修復中(第一部進行中)。目の前のぐだ男くんは俺の知る藤丸立香とは別人か。……マジやばくね?本来の俺や皆と真名バレした状態で出くわしたらムッ殺されるんじゃね?―――よし、偽名使うか)』

 

 適応力の塊と勝手に自負しているだけあって、通常ならばブチ切れて発狂するような事態にも、ある程度の冷静さは何とか保つことが出来た。

 だが、それはそれこれはこれ。

 こちらの世界線の知り合いに正体がバレた時に碌なビジョンが浮かばなかった為、速攻で真名隠しを決意する。

 

 

 この間費した時間は数秒。

 しかしその間誰もが一言も発しなかったが故、微妙な雰囲気に居た堪れなくなったのか立香が口を開く。

 

「あ、あの……?」

『!?あ、ああ。すまない、少々考え事をしていてな。お前とはコレが初対面だろう?』(低音)

「そう―――ですね」

 

 一瞬だけ今までのことを思い返すような表情をして、そう返した立香に軽く頷き、思案を深めるような仕草をとる。

 当然アイギスに何故か搭載されているボイスチェンジャーの使用も忘れない。

 ―――まさか生前も含めての初使用がこんなくっだらない事になるとは思わなかったが。

 

 

『―――事情が変わった。人理が掛かっている以上、お前達は不審に思うかもしれないが俺の真名は暫く秘匿させてくれ』(低音)

「ん?別にいいよ?」

『ああやっぱり駄目か。でも―――っていいのか!?

 

 

 まさかのあっさり承諾。

 もっとこう、不信感に満ちた視線を向けられると思っていた身としては、嬉しさよりも意外性が勝る。

 自分から頼んでおいて理由を聞くのもアレな気もするが、一応聞いてみると―――

 

 

「え?だって皆は人理の為に態々力を貸してくれてるんだよ?だから真名くらいどうってことないよ」

「ついでに補足すると―――本来の聖杯戦争では、英霊の真名は秘匿するものです。なので真名を秘匿するのも自然なことかと」

 

 

 ということである。

 確かに実際、世界にとっての非常事態である冠位指定(グランドオーダー)時以外の聖杯戦争では、どの英霊も基本的に真名は秘匿しているが……

 ちょっとこの子たちいい人過ぎやしないだろうか。

 恐らく藤丸立香とマシュ・キリエライトの二人はどんな世界線でもこんな感じなのだろう。

 

 

 まあでもこちらとしては願ったり叶ったりなので、素直に承諾するが、二人が何処か思い悩むような表情をしていたのが気にかかる。

 

『どうした?』

「あ、いえ。その場合、ライダーさんの事を何て呼べば良いのかと考えてしまって……」

「確かに……。うーん、そのままクラス名で良いかな?」

『ふむ、そうだな。なら俺のことは―――』

 

 

 二人の視線がこちらに向いたのを確認すると、一息の間を挟んで先程考えておいた通称を口にする。

 一瞬何故かその名を口にするのを躊躇われたが、まあ多少被ってても大丈夫だろうと結論づける。

 

 

『―――「オケアノスのライダー」、とでも呼んでくれ。特に意味はないがな』

「オケアノスの……?もしかしてオケキャスの知り合いだったりする?」

『……Oh』

 

 

 あかん初手の名乗りミスった。

 

 

 まさかの考えていた中でも最悪のパターンである。

 殆どが摩耗した嘗ての記憶によれば、オケキャスとは確かあのキュケオーンの大魔女だった気がする。

 一応生前の知り合いなのでワンアウト。

 

 

 そして今の装いだと―――間違いなく誤解を生む(とある冒険野郎だと思われる)

 それも確実に。

 もしもそんなことになれば余計に殺される確率が高まってしまうということでツーアウト。

 

 

 オマケに『今の』カルデアにアレが居るということは………恐らく、というか間違いなく他のギリシャ組も居るだろう。

 仮にこの世界線の自分を始めとするアルゴノーツに正体がバレたが最期、色々問い詰められた挙げ句に何をされたか分かったものじゃない。

 少なくとも誰か(大英雄とか韋駄天とか)とシミュレーターで殺り合うことになるのは確定だろう。

 よってスリーアウトチェンジ。

 

 

『いや、ただの偶然だろう。もしも顔合わせをしようと思っていたのなら気にしなくていい、頃合いを見て挨拶に行こう』

「そう?俺は別に良いけど……」

 

 

 そう早口でまくしたてるイアソン(オケライ)を見て少し不思議そうに首を傾げる立香ではあったが、それ以上追求してくることは無かった。 

 そこで相手の気遣いが出来るのは彼の人付き合いが上手い証拠だろう。

 そんな事を考えていると、虚空から女性と思わしき人物の声が聞こえてくる。

 

 

『自己紹介は終わったかな?』

「あ、ダ・ヴィンチちゃん」

『ちょっと藤丸くーん?反応が淡白過ぎないやしないかなー?』

 

 

 軽く言葉を交わした後、こほんと軽く咳払いをして話の主導権を握ったダ・ヴィンチが話し出す。

 

『さて、オケアノスのライダーくんだったかな?真名を秘匿する例は藤丸くんが言ったオケアノスのキャスターだとか、今までにも何度かあったけど、これだけは聞いておく決まりなんだ』

『質問か。俺に答えられる範囲ならば答えよう』

 

 そう行って首肯するとダ・ヴィンチは、「ありがとう。それじゃあね―――」と続けて本題へと入った。

 

 

『ライダー。君は、カルデアに―――人理修復に助力し、マスターである藤丸立香を絶対に護ることを誓えるかな?』

『―――当然だ。元より俺が喚ばれたのはその為だろう』

『……うん。その答えが聞ければ満足だよ』

 

 

 緊張感の高まりによって室内に蔓延していた重苦しい空気が霧散し、横で内心ハラハラしながら様子を見守っていた立香とマシュもほっ、と安心の溜め息を漏らす。

 そんな中、ダ・ヴィンチが「それにしても」と補足じみたことを呟き足す。

 

 

『顔どころか肌一つ見せず、声も本来の物とは変わっている。其処まで正体をひた隠しにする辺り、有名な反英雄だったりするのかな?その鎧のデザインは見事だと思うけどね』

「ちょっとダ・ヴィンチちゃん?余計なことを聞くのはダメだよ?」

『いや、俺は大丈夫だぞマスター。というかこの偽装が分かるのか……流石万能の天才と言った所か?』

 

 立香がクラス委員長的なノリでモニタールームに居るダ・ヴィンチちゃんに咎めるような視線を向けるが、イアソンはソレを宥める。

 それより、こうもあっさり声の偽装を見破られた事の方が意外なのだが、その答えは聞くまでもなく彼女の口から語られた。

 

 

『偽装自体は限りなく完璧に近いけど、消しきれない違和感と言うものがあるからね。私以外になら直感の強いサーヴァントには僅かな可能性だけど見破られるかもしれないよ。理由は―――訳ありなんだろうし、今は聞かないでおくよ』

『そうか……忠告感謝する。こちらの事情はまあ―――その内折り合いがついたら話すさ』

『そうかい、なら楽しみにしてるよ。じゃあほらロマニ、君も挨拶しなよ』

「わ、分かってるよ。急かさないでくれレオナルド。あー、ごほん。――ロマニ・アーキマンです。カルデアの医療部門のトップを務めていたんだけど、今は一応所長代理をしています。よろしく」

 

 ロマニ・アーキマン。

 この世界線でも彼は変わっていないのだろう。

 初対面の相手にすら低く見られることもしばしばで、段々お約束ネタとなっていく男である。

 だが、それは彼が■■■■の原因を作ったために、サーヴァントであれば誰もが第一印象でロマンを『理由は分からないがコイツが悪い』と感じてしまうためだとか。

 

 

『成る程、中々大変そうだが頑張ってくれ。世話になるかもしれんからな』

『や、やったあ!初めて初対面でマトモな気遣いをしてもらえたよ!』

「あはは……、良かったねドクター」

 

 両手を上げて割と本気で喜んでいるロマニの声を聞いて、立香は何とも言えない苦笑を顔に浮かべる。

 そんなロマニの様子を見ていたダ・ヴィンチも、半ば苦笑を漏らしながらも補足を付け足す。

 

『良かったじゃないか。なにせ最近は医療部門としての仕事の殆どをあの医神に取られちゃったからね?』

『本当だよ!アッチのほうが優秀だから僕からは特に何も言えないけどさあ!?』

―――え?医神?

「アスクレピオスの事だよ。時々バーサーカーみたいになるけど、医術に関しては凄い腕なんだよ!」

 

 

 ―――ああ、そんなことは知っている。

 何せ―――生前からの仲だからネ。

 まあそんなことは言えないのだが。

 

 

 しかしコレは本格的にマズいかもしれない。

 人理修復中のカルデアに最低でも医神や大魔女が在席しているということは―――双神とか狩人とか、挙句の果てにはコッチのメディアと出くわす可能性がある。

 

 

 現界時にインストールされた、この世界線のイアソン本来の逸話的には出会い頭に殺される恐れがある。

 というかシンプルに嫌悪感満載の視線で見られたら精神的なショックで退去しそう。

 

 

「じゃあカルデアの案内をするよ!マシュも来る?」

「はい!マシュ・キリエライト、先輩のお供をします!」

 

 

 ―――早急に対策を立てなくては。

 そう思案に耽りながら、イアソン(オケライ)は元気に歩いていく二人の後を追うのだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 その後、二人の説明を聞きながらボイラー室、図書室、レクリエーションルームなどを見て回っていると、今歩いている廊下の少し先に見慣れた―――見慣れすぎた顔を四つも見つけてしまった。

 

 その面々を見た二人が、喜々として声を掛けに行くが、自分としては勘弁してほしかった。

 その相手は―――

 

「お、アスクレピオスだ!」

「小さい方のメディアさんとアタランテさん、ヘラクレスさんも一緒ですね!」

『―――なんでさ』

 

 どうやら俺は運命の神に嫌われているらしい。

 いや、元々大抵の神を敬ってないので多少酷い目に合わされても仕方ないのかもしれないが。

 神なんてマフィアみたいなモノだし。

 

 

 マスター達が彼らに呼び掛けると、微笑を浮かべてこちらに振り返ってくる。

 そして振り返って来るならば、当然視線は横に居る俺にも向かってくる訳で―――

 

 

「あら……?」

『ヒェッ―――』

 

 メディア(リリィ)の双眸が仮面の奥の俺の瞳を覗き込むように見てきて、俺はまるで目薬を無理矢理に注がれたみたいな衝撃を受け、背筋が凍るような感覚をおぼえる。

 一瞬、気付かれたのかと思ったがソレは杞憂だったようで、その直後、彼女は首を傾げて俺から視線を外した。

 

 

 ……何でこんなホラー映画鑑賞中みたいな心情で生前の知り合い(別人)と会話せにゃならんのだ、俺。

 そんなことを歩きながら思っていると、四人もこちらに歩いてきて鉢合わせる形となる。

 

 

「おはようございます、メディアさん。今日はアルゴノーツのメンバーで集まっているのですか?」

「あら、マシュさんおはようございます。今日は私達、イアソンさまのお部屋でお話をしようと思いまして。……イアソンさまったら、私のことを呼び忘れていたのはいけないと思いますが!」

 

 

 その会話を横から聞いていた俺は、一応今は同じイアソンであるが故に理解した。してしまった。

 ―――多分それ、忘れてたとかじゃなくてガチで呼んでない奴だわ。

 何か呼びたくない理由でもあったのだろうか。

 

 

 ……おそらく、呼ばなくても速攻で来ることを見越して横着したというのが真相だと予想するが。

 というかそれ以外に思いつかない。

 

 

 顔を上げるとメディア含む皆が、何故か不思議そうに俺のことを見つめている。

 特におかしいことはしてないはずだが、何か琴線に触れる事でもあったのかと思っていると、メディアがおずおずと立香に問いかける。

 

「ところで、その―――横にいる方は?」

「ん?ああ、こちらはさっき来てくれたオケアノスのライダーさん。通称オケライ」

「―――オケアノスか……」

 

 そう何とも言えない微妙な声色で、アタランテが視線を明後日の方に向けて過去のことを思い返していた。

 その表情から察するに、やはり本来の俺のオケアノスでの行動は碌なモノじゃなかったのだろう。

 視線を下げると、メディアがこちらにぺこりと軽く頭を下げていた。

 

「じろじろ見ていてごめんなさい。貴方の気配が―――とある人に似ていたものですから」

『……謝る必要は無い。そのとある人とやらは貴方達にとって大切な人物なのだろう』

「まさか。無いな」

「ああ、それは無いな」 

「■■■■■」

「あはは……」

 

 ……自惚れじゃ無ければ、そのとある人はこの世界線の俺だろう。だとしたらちょっと照れる。

 だってこいつ等、俺はメディアに言ったつもりなのに態々割り込んできて言うって事はそれもう大好きじゃん。

 それが分かってるのか、立香も頬を搔きながら苦笑いしてるし。

 

 

「おーい!遅いぞお前らー!」

 

 

 ふと廊下の更に奥から自分の声と、感じられないほどのわずかな差しかない声が響いてくる。

 えらく饒舌で大きく響くその声は―――間違いなく、自分と同じ声だった。

 自分の代わりに言葉が発音されているような、不思議な感覚に脳が陥る。

 

 

 ―――しかし、本来の自分か。

 それは虹や雹のような珍しい自然現象に出会ったかのように、どうしても見過ごすことができないような好奇心……興味が湧き上がる事柄だった。

 乗組員達にも慕われている様子だし、正体こそ開かせないものの、いつか少し話をしてみたいと思う。

 僅かに身を乗り出して声のした方向を見ると―――

 

 

『―――ん?』

 

 

 変態が其処には居た。

 自身の生まれである古代ギリシャでは、砂浜に太腿の後が残っていると変態が寄ってくるという中々に可笑しいレベルで太腿は卑猥な部位的な認識だったのだが。

 あろうことか自身と同じ顔をしたこの男は、太腿を思いっきり出した露出度ハイの服を着ているではないか。

 

 その服装を見て戦慄していると、立香が耳元に小声で話しかけてくる。

 

「あー、イアソンの服装に驚いたかもしれないけど……古代ギリシャでは普通の服装らしいんだ、アレ」

『( ᐛ )パァ』

 

 いや違う絶対違う。

 アレが普通なのはHENTAIの価値観であって断じて普通の人の服装ではない。

 のどの奥に指を突っ込まれたような衝撃を受け、脳での理解が出来ず、背後には宇宙を感じた。

 

 

 

 でも他の皆は特に何も言わずイアソン(汎)と談笑をしているので、自分の方がおかしいのかと錯覚しかける。

 ―――あ、今(向こうの)俺がメディアにアームロックされてらぁ。

 

 

「ちょ、ギブギブ……息出来ない」

「駄目ですよイアソンさま。続きは部屋で話しましょう……?」

「ク、クルシイ……」

「お、おい汝ら―――はあ。すまないマスター、私達はこれで」

「う、うん……じゃあね」

 

 一つ良いだろうか。

 ―――女性ってやっぱり怖いね。

 立香も笑顔だけど頬が引き攣ってるし。

 

 

 

 とまあそんな事はあったのだが、最大の鬼門を乗り越えた俺は無事にカルデアの案内を済ますことが出来たのだとさ。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

※追記

 

このカルデアの霊基グラフに書かれたイアソンのマテリアル。

 

 

 

 

現在:オケアノスのライダー

真名:■■■■・■■■

クラス:ライダー

属性:秩序・善・地

レア度:☆5

HP/ATK:13830 / 11287

 

 

 

【クラススキル】

 

対魔力(A)

騎乗(A++)

 

【保有スキル】

 

神授の叡智(A+)

カリスマ(A)

直感(A+)

魔力放出『雷』(A)

■■■の寵愛(B-)

■■の加護(A-)

 

 

【宝具】

 

『????????』

 

ランク:A+++ 

種別:対人/対神宝具 

レンジ:1~30 

最大捕捉:300

 

 

 

『????』

 

ランク:A

種別:結界宝具

レンジ:−

最大捕捉:1

 

 

 

 

 





※このカルデアにオデュッセウスはいません

このイアソン(勇者王)が我々のカルデアに来るならば、恒常ガチャの中の0.0000001%くらいの確率で来るんじゃないかって考えたり。

イアソン(勇者王):本来の自分の服装に衝撃を受ける。
 見た目は完全に我々の知るオデュッセウスそのままであり、ボイスチェンジャーによってCV.桐本となり隙が無い。
 正体バレまであと■日。
 この世界線ではこっちがIFの可能性に含まれるため、真名が■■■■・■■■となっている。


イアソン(本来の方):異世界の自分(転生者)に変態認定を勝手に下された被害者。
 『未来は最悪だが一応王になった』という、IFの内容的に気が合うか衝突するかは勇者王に掛かっている。




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#2∣二日目

前回から早三ヶ月。
こっち書くの久しぶりで死ぬほど難産でした……


 

 

 

 ───何の因果かカルデア(正史の方)に喚ばれた次の日。

 今の時刻は7時過ぎで、己の召喚者こと藤丸立香に呼ばれるがままついて行く勇者王ことイアs……【オケアノスのライダー】。

 

 念のため断っておくと、蜘蛛殺しの蝙蝠(もう片方の勇者王)の方ではない。

 キャラ被りなどしていない。断じて。

 

「着いたよ」

「……そうか」

『(何で食堂? ───いや確かに飯は食べたいけども。俺個人のリスクが高すぎない?)』

 

 

 内心でそんな事を思っても、立香含むカルデア側は自分の事情(中身)を知らないので当然っちゃ当然なのだが。

 

 

 辿り着いたのはは食堂。

 その賑やかな音だけで多くの英霊が居ることと、楽しそうな雰囲気が伝わってきて、開いていた扉からは廊下に居る自身にも、食欲を刺激する料理の匂いが伝わってくる。

 

 ……ただそれはそれとして、料理を食べる都合上、対策はあるが多少のリスクがあるので、彼自身このカルデアでは電力による魔力供給で大人しくしておきたかったのだが。

 

 

 そんな自身の内心を察してか、立香は若干申し訳無さそうに頭を掻く。

 

 

「ここには色んなサーヴァントが居るから、オケライが馴染めるようにって思ったんだけど……」

「いや、別に嫌な訳じゃないぞ。集団に溶け込めないと不都合も多いしな」

『(端の方で一人浮いてる奴とか関わるなオーラ出してる奴って最初マジで突っかかりにくいよね。分かるわー)』

 

 

 そうして立香の一歩後ろの位置をキープしつつ、食堂に入ると、大勢のサーヴァントの視線がマスターである立香と、新顔である俺へと向けられる。

 まあ軽く見渡しただけでもかなりの数が居るのでもう慣れたものなのか、すぐに多くの視線は離れていったが。

 

 

「サーヴァントはご飯食べなくてもいいけど、結構食べる人も多いしね。───あ、おはよう!」

 

 

 ちらっと見た奥のキッチンには、赤い外套の弓兵やブリタニアの女王、犬の手足と耳と尻尾が特徴の狐のようなキャット等の、殆ど消えた前世の記憶に残っている組み合わせが見える。

 そうして辺りを見回す間に、立香は他の殆どのサーヴァントとも挨拶を交わしており、流石コミュ力EXなだけはあるとイアソンは勝手に感心していた。

 

 

「おはようございます、先輩。オケライさんも」

「おはよう、マシュ」

「ああ、おはよう」

 

 

 マシュも丁度来たのか、たたたとこちらへ寄ってくる。

 朝ご飯を貰いに赤い外套の弓兵の元へと二人が行くので、後ろで何も言わずに付いて行く。

 

 

「おはよう、エミヤ」

「おはようございます。エミヤさん」

「──ああ、マスターとマシュか。その後ろに居るのは新顔かね?」

「うん。昨日召喚したばかりだから、今日も施設の案内をするつもり」

 

 

 既に今日の予定が決まっていたことにも驚きだが、紹介されているのに何も喋らない訳にもいかない。

 よって自分からも自己紹介をする。

 

 

「マスターの言う通り先日召喚されたばかりなものでな。……訳あって真名は明かせないが、宜しく頼む」

「……ふむ。確かに英霊ともなれば、言えない事情の一つや二つあるものだろう。こちらこそ宜しく頼む」

 

 

 自身の姿のみならず、真名さえも明かせないという怪しさ満点の存在に対して一瞬顔を顰めるも、彼自身もあまり言いたくない秘密を持つが故か、それともこのようなパターンにもある程度慣れてしまったが故か、どうやら勝手に納得してくれたらしい。

 只、なんとなく自身を見る視線が童心に還った子供のようにキラキラしてる気がするのはなぜだったのだろうか。 

 

 

 

「エミヤさん?」

「──! ああ、すまない。注文を聞くのを忘れていた。マスターとマシュは……了解した。サーヴァントに食事は不要だが、魔力の足しにはなる。お前も何か食べると良い」

「まあ、そうだな……」

 

 

 

 赤い弓兵の言う通り、食事は最悪無くても良い。

 でもそれはそれとして、生前の感覚が完全に抜け切るわけではないのと、美味しい料理食べたいという本人の欲もあり、食べたいといういうのが本音だった。

 

 

 

 ───命の危機(早とちり)の割にこの男、結構余裕だった。

 

 

 

『食べるときは───口元程度なら問題ないよな。うん』

 

 

 

 ここで断ると却って不信感を招きそうだし、一方的な知り合い(此処のアルゴノーツ)である彼ら彼女らがこの場にいないのも確認済み。

 最悪の事態(正体バレ)を免れるなら、多少の妥協は許容範囲内である。

 

 

 

 

「なら俺は───」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「和食──ですか。意外です」

「うん。オケライって、日本由来の英霊だったりする?」

「いや、以前に色々知る機会があってな。その時は食えなかったから、丁度いいと思ってな」

 

 

 その言葉を聞いたマシュが、こてん。と首を傾げる。

 

 

「以前? オケライさんは、過去に聖杯戦争に召喚された経験があるのですか?」

「まあ、ちょっと特殊な形式だったがな」

 

 

 そう言うオケライことイアソンに、「そうなんだー(ですか)」と興味を示す二人。

 尤も、日本料理に関しては知る機会があったというよりかは()()()()()()()()()という方が正しいのだが、二人にそれを知るすべはない。

 

 

「……この話は別の機会にしよう」

 

 

 そう言って話を切り上げたオケライ(イアソン)が箸を持って早速食べようとすると、二人の視線が自分の顔の……特に口周りに向けられていることに気付く。

 ───その姿でどうやって食べるの? とでも言いたげな視線だった。

 

 

「……どうした? 少し食べにくいんだが」

「あ、ごめん。そのマスク外すのかなーって思って」

「ん?───ああ、神体結界(これ)のことか」

 

 

 そう言って自身の頭を指さしたオケライ(イアソン)が、口元を軽くトントンと叩く。

 するとたちまち鎧からはキュイィィィン……という駆動音が鳴り、頭部のフェイスガードが左右に割れて、オケライ(イアソン)の口元が露わになる。

 

 

 その様子を見る藤丸は、おぉ……! と瞳を輝かせていた。

 男児はこういう物に弱いのである。

 

 

「格好良いかも……!!」

「先輩?」

 

 ───このカルデアのマスターには謎丸成分が含まれてそうだな、と思いながらもイアソンは笑みを浮かべる。

 

 

「アレだ、お前の故郷にある仮面の戦士みたいだろ?」

「……流石にそれ*1知ってる人は殆ど居ないと思うけどなあ。昭和の奴だし。というか何でそんなの知ってるの」

「聖杯の知識」

 

 

 その時、何処かで昭和が昔という言葉にショックを受けていた弓兵がいたらしいが、それはそれとして飯も丁度食べ終わったので、フェイスガードを展開して元の姿に。

 一先ずこれで危惧することは無くなったと安堵の息を吐いたが、見てしまった。

 

 

 

「よう、マスター。……お、そっちは新入りか?」

「あ、アキレウス。おはよー」

『嘘だろぉ……っ!?』

 

 

 ───またしても見知った顔が寄ってくるのを。

 

 

 というか何で当然のように人理修復途中(第一部進行中)のカルデアにアキレウス等の超級サーヴァントがいるのかについては、この際もう考えない。

 

 

 

 アキレウス。

 嘗て出会った頃の幼少期からは凄まじい程の成長をして、夜空に浮かぶ綺羅星にも劣らない輝きを放つ英雄と成った男。

 自身の生きた世界線では二人のギリシャ最強に続くNo.3と語られており、その圧倒的俊足は他の追随を許さない。

 とある世界の聖杯大戦においては、一次は自分が本気で敗北しそうになる程の死闘を繰り広げた相手でもある。

 

 

 ……まあ、此処のカルデアでは関係のない話だ。

 

 

 

「───ん? アンタと俺、何処かで出会ったことあるか? 何か初めて会った気がしないんだよな」

「そう──か?」

『──え、バレてね? てかもう八割方特定されかかってないかこれ!?』

 

 

 

 まじまじとイアソンを見つめるアキレウス。

 見た目こそ嘗ての戦友と瓜二つであるが、纏う気配は完全なる別物。

 だが何処か知り合いのうちの『誰か』と似たような雰囲気を感じるので、目の前に立つこの男が赤の他人だとは思えない。

 そんな不思議な感覚をアキレウスは味わっていた。

 

 

 

 

 そしてその当人であるイアソンはと言うと……

 

 

 

 

───何としてでも誤魔化さなければ。

 

 

 

 

 といった風に、内心冷や汗ダラダラだった。

 もし仮にここで正体が割れた場合、この男(アキレウス)は間違いなく此処の自分やアタランテ辺りにそのことを言うだろう。何の悪気もなしに。

 奴はそういう男だと知っている。

 

 

 そうしてアキレウスが『あ、姐さん? 今回召喚された新入り、ライダーの船長だったけど知ってたか?』とでも言ってみろ。

 ───荒れる。それも間違いなく。

 ただでさえ最初に出くわしたときに誤魔化してしまった以上、追及は避けられず、もう自分に退却の道は残されていないのだ。

 

 

『この人参俊足野郎にはどっか行って貰うか』

 

 

 英雄船団アルゴノーツ。

 自分の知っている彼らではないが、此処にいるアルゴノーツも自身の大切な仲間であり、英雄イアソンの率いたアルゴノーツである事実に変わりはない。

 だから今のように過剰にビビる必要はそんなになかったが、「何かヤバそう」という自身の直感に従って全力逃亡する方向へ舵を切った。切ってしまった。

 

 

 その結果誕生したのが、今の『よくよく考えればこんなことしなくて良かったけど、今になって戻るに戻れないよね』という中々に愉快な構図である。

 

 

 まあ傍から見る分には───()()()()()()()()と言えるのだが。

 勿論本人からすれば堪ったものじゃない。

 

 

 それでも───

 

 

「……いや。俺は()()とは初対面だろう。あと素顔もちょっとした事情があって晒せないんだ。すまない」

「事情?」

「あぁ……」

 

 

 既に打てる手は常に全力回避の一択のみ。

 そしてイアソンは話し始める。

 ───たった今適当にでっち上げた存在しない記憶について、大真面目に。

 

 

「この鎧はとある神からの授かり物……神々の生んだ武具だ。当然強い祝福が込められている」

 

 

嘘である。

 真偽の程は定かでは無いが、神体結界(アイギス)自体にこれをイアソンに授けた本人である女神の祝福が込められているかなど、イアソン本人は知らない。知ろうとしたことさえない。

 故にこれは何かそれっぽい雰囲気でそれっぽいことを言っているだけ。

 

友と征く遥かなる海路(実質的なカリスマA)』スキル様々である。

 

 

「……神々に、祝福ねぇ。その言葉の時点で碌な事情じゃあ無さそうだな」

「その先は無暗に口にするものじゃないぞ、アキレウス。……まあ、そのせいかは知らんが()()()この装いを解くことが出来なくてな。素顔は晒せん。お前の知り合いに今の俺と似たやつが居るのなら、俺はそいつとは別の時代の担い手───つまりは別人だろう」

 

 

嘘 で あ る 。

 この男、その気になれば本当は片手間──一瞬で外せるというのに、外せない理由その他諸々を、ちゃっかり女神に全て押し付けて誤魔化したのである。

 

 

 

 更には予防線(別人である宣言)を何十にも張ることで、強引に話を畳みにかかる。

 殆どの能力をソッチ方面に割いた本家(原典)の自身には及ばないが、彼自身も中々の口八丁である。

 

 

 そのお陰か、何故か上手く行ってしまうのだ。

 

 

「……そうか。不躾な質問をして悪かった。俺はもう行く。じゃあな、マスター」

「あ、うん。じゃあねアキレウス」

 

 

 本人の才能か、相手が絵に書いた英雄そのもののような性格のアキレウスだったが故か、全く疑われる事は無く畳まれる会話。

 それもこれも神々の祝福(呪い)関連という、ギリシャ英雄にとっての地雷原が話の種だったからかもしれないが。

 

 

 ───ここでは同郷と出会いたくない物だ。

 

 

 そう考えたイアソンは、翌日シュミレーターやレイシフトでは出来るだけギリシャ英霊と同じ編成にしないでくれといった旨の要望書を提出するか検討する(でも結局やらなかった模様)

 

 

 余談だが、この後おおよそ125個の騎兵用種火(星5をLv90に上げるのに必要な量)を強制的に接種させられて死に体の男が食堂で倒れていたとかなんとか。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

「……変わらないね」

「そうだな」

 

 

 はい、なんやかんや無事にLv.Max(90)になりました。

 アレだね、種火って割と美味いんだよね。三十辺りで飽きるから後半はガチの苦行だけど。

 

 

 四回の霊基再臨を経て、俺の服装も若干変わっている。

 まず全体的に藍色だった神体結界(アイギス)の色が、所々金色になって生前と同じ色合いになった。

 

 

 ───以上である。しょぼ。

 仮に此処がアプリ時空ならぼったくりと言われても仕方ないほどの変化の無さ。だって色変えただけだし。

 

 

 第三再臨の衣装チェンジ? ねぇよ。

 

 

 いやごめん嘘。多分ある。

 

 

 

 理由はカルデア側……マスターの持つ端末に表示されている俺のマテリアルを見れば一目瞭然だった。

 

 

 

 

 真名:■■■■・■■■(オケアノスのライダー)(霊基封印状態)

 

 クラス:ライダー

 

 属性:秩序・善・地

 

 出典︰??????? (??)

 

【クラススキル】

 

 対魔力(A)

 

 騎乗(A++)

 

 

【宝具】

 

 

『???????????』

 

 ランク:D〜B+++ 

 

 種別:対軍/対人宝具 

 

 レンジ:1~30/ − 

 

 最大捕捉:60人/1人

 

 

 

 

 お分かり頂けただろうか。

 基本ステータスや所有スキルは割愛させて貰ったが、要は俺の霊基、ただレベルを上げただけだと完全形態にはならないらしい。

 

 

「何でだろ?」

「うーん、どうやら霊基再臨自体は正常に行えているようだけど、例えるなら……霊基に鍵のような物が掛かっていると言えば良いかな? だから他のサーヴァントとは違って、姿が変わらないみたいだね」

 

 

 今までと違って姿が変わらない俺を見て首を傾げるぐだ男こと藤丸に、丁度居合わせたダ・ヴィンチが現時点での考察を述べる。

 ……半分は正解である。

 

 

 そのもう半分は、その封印──霊基を抑えているのが俺で、その気になれば外す事自体は可能という事実なのだが。

 まあ大した問題ではない。

 

 顔を出すか出さないか程度の違いしか無いのだ。

 

 

「戦闘に支障は無いかい?」

「大丈夫だ。悪影響は無い」

 

 

 変わるのはあくまで見た目。

 俺自身の戦闘能力には、一切の影響がなく、何の不自由もなく力を振るえるのだ。

 というか既に真名隠しその他諸々で迷惑をかけている以上、戦闘でも足を引っ張るのはサーヴァントとしても人間としても論外だ。

 

 

 まあそれは兎も角。

 問題は俺の宝具である。

 

 

 基本、カルデアに召喚されたサーヴァントはコストの削減の為に、メインで使う宝具───真名解放の可能な宝具を一つに縛る制約がある。

 だからカルデアのヘラクレスは十二の試練(ゴッド・ハンド)を持たないし、アキレウスはあの槍の真名開放が出来ない。

 

 

 威力を抑えめにした状態や、令呪などがあれば話は変わってくるのだろうが、これは原則変わらないのだ。

 そして俺のメイン宝具としてカルデアのマテリアルに登録されていたのは───

 

 

 ……『天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)』、だった。

 やはり神は俺が嫌いらしい。

 

 

 その宝具の効果は言わずもがな。

 生前に俺が──英霊イアソンが縁を紡いだ存在、即ちアルゴノーツ。そのメンバーを任意で召喚するといったものだ。

 喚ばれる対象が俺の知る方のアルゴノーツか、それとも正規の方かは知らないが……順当に考えれば俺の知る方が喚ばれる筈だ。

 

 そしてこのカルデアには、大小のメディア、アタランテ、キルケー、ヘラクレス、アスクレピオス、そして──イアソンと、かなりの数のアルゴノーツが揃っている。

 だからこそ、一度でも宝具を使えば、同じサーヴァントを呼ぶ宝具……それもアルゴノーツということで、一発で正体が割れること間違いなし。

 

 

 最悪こっちの俺に見られなければ誤魔化しようはあるが、先程名前を挙げたやつ以外じゃないといけない制約が出来たのは変わらない。

 このカルデアに居ないアルゴノーツ……ケイローン師とか、ディオスクロイの二人とか、カイニス、カライスとゼテス、テセウス、パリス辺りか。

 ──いやパリスって誰だよ。会ったこと無いぞ。

 

 

 何なんだろうねホント。せめて掻き抉る時の大鎌(アダマント)にして欲しかった。

 

 

「ライダーの宝具ってどんな感じなの?」

「……生前の縁者の召喚、及び一時的な宝具の受領だ。他にも幾つかの宝具がある」

「他のサーヴァントの召喚かあ……イアソンの宝具みたいだね」

「……ハハッ」

 

 

 うん、知ってる。

『あ、覚えてるよね? イアソン。最初に案内した時に出会った人』と聞いてくる立香だが、聞くまでもない。

 その宝具の在り方も、原理も、担い手さえも、当然全部知っている。

 

 だって同一人物だし。

 

 

「──例の事情があるから多用は出来んがな」

「そっか……じゃあそれは仕方ないね」

 

 

 まじかよめっちゃ良い奴じゃん───良い奴だったわ。

 宝具使わないサーヴァントとか割とヤバいと思うのだが、その不条理を仕方ないの一言で済ませるとは、やはり人類最後のマスターには大物の器があると思う。

 

 

「まあ然程問題は無いはずだ。俺の本来の宝具は別の宝具だし、必要に駆られればこっちも使う」

「……まあ、それなら私から見ても大丈夫かな? マスターの藤丸くんが良いなら、私はこれ以上何も言わないさ」

「俺は大丈夫だよ。ダ・ヴィンチちゃん」

 

 

 二人が了承してくれたお陰もあってか、特に荒れることはなく俺の性能検査は終わった。

 今からのシュミレーターで、俺のサーヴァントとしての戦闘力(スペック)を測るのだそう。

 

 

 そしてゲームじゃないから当たり前といえば当たり前なのだが、戦いにターン制は存在しない。

 だから宝具を撃たずとも気合いで敵の殲滅をすれば良いのはありがたい。

 

 

 ───そうだ。

 宝具を使いたくないのなら、宝具無しで敵を殲滅すれば良いじゃない。

 それが出来れば苦労しない? 当たり前だろバカか。

 

 

 ……取り敢えず、ラミアやワイバーンといったちょっとした魔獣相手には掻き抉る時の大鎌(アダマント)神体結界(アイギス)で騙し騙しやっていこうと決意する。

 サーヴァントや大物相手は……その時の状況次第とだけ言っておこう。

 

 

 

 ……これが俺の初宝具三十分前の出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
もしかして︰ライダーマン





「俺の宝具は使うなよ! マスター!」
「了解! ライダー、宝具開放!」令呪ピカー
「????」

 って会話があったとか無かったとか。


藤丸:多分藤丸成分と謎丸成分が6対4くらいで混ざってる。


更新が遅れたもう一つの理由としては、着地点が全然定まらなかったんですよね。
このままだとエターの二文字が現実になりそうなので、何かいい感じの展開を作者にご教授してくださいお願いします(土下寝)


https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=299730&uid=402014




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#3∣三日目

反響思ってたより大きくてビビッた……


 

 

 ドーモ、イアソン=デス。

 あの軽い能力チェックの後、「じゃあ早速シミュレーターに行ってみよう!」と言われるがまま、馴染みも無ければ顔見知りでもない──―いやまあ俺の身元が不明なんだから当然何だけども。

 とにかくそんな面々と共に速攻でオケアノスに放り出された。……大方、俺が宝具として船を持っていると言ったのがオケアノスになった原因だろう。

 

 

 あと名前。

 

 

 そんなこんなで、今は俺の呼び出したアルゴーに乗船している訳だ。 乗せているパーティメンバーには一切知り合いがおらず、これといったコミュニケーションもなかった。

 

 船の方は光の帆(ビームセイル)を展開したりしなければ、パッと見は超兵器でも何でもない普通の船なので大丈夫。

 

 

 ……大丈夫だよな? 

 

 

「あ、出てきたよ。皆行けそう?」

 

 

 視線の先には、大量のエネミーを乗せた海賊船が。

 藤丸の言葉に頷く俺達は、それぞれの役割を果たすべく散開していく。

 ……でもその前に。

 

 

「マスター」

「何?」

「ここに喚ばれてから最初の戦闘だから、どれだけ戦えるか試したい。だから……()()()()()使()()()()?」

「まあ良いけど……。もし危険だと思ったら──」

「その時は構わん。お前の判断に任せる」

 

 

 敵を一掃するなら、宝具が一番手っ取り早い。

 それは当然の事だが……俺個人のリスクを踏まえると、何か割に合わないと思うんだよ、うん。

 個人でもいけるなら魔力の節約にもなるし宝具なんかいらないと思うんだ(建前)。

 

 

『──―いやホント誰来るかも分からんから止めて(本音)』

 

 

 そんな本音は心の奥底に捨て置くとして、さっさと己の役割を果たすとしよう。

 掻き抉る時の大鎌(アダマント)を右手に顕現させて、内に秘めた魔力の一端を開放する。

 

 

 

 

「──―雷霆(ケラウノス)

 

 

 その言葉がトリガーとなって、このサーヴァントとしての仮初めの肉体を構成する魔力が鳴動し、隆起して、完全に己が力の一部となった権能が起動する。

 

 

 出力は……大体全力の半分といった所か。

 本来の力を出せない縛り込みでもこれなら、その辺のエネミーの殲滅なんて容易──なんならお釣りが来る程だ。

 

 

 自身の顔を覆う鎧の裏で、申し分なしと慊焉たる笑みを浮かべた俺は──―数十の敵集団の中へと分け入った。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 ──―一言。

 ただ一言唱えただけで、周囲の空気が一変した。

 

 

『──―雷霆(ケラウノス)

 

 

 彼が何と唱えたかは藤丸はおろか、カルデアの司令室からも聞き取れなかったが、この言葉と共に周囲の空気がビリビリと震え、大気中の魔力が爆発的に増大し、その衝撃波で海原には大波が発生した。

 

 

 

 

 オケアノスのライダー。

 真名も、宝具も、姿さえ晒そうとしない異色の英霊。

 霊基グラフのマテリアルからして不確定要素の塊であり、彼の持つ特異性に少なからず疑念の声を漏らす職員も居たのは間違いない。

 

 彼の纏う雰囲気が他の英霊達とは一線を画していたのも、その不気味さを助長させた。

 例えるならばそれは──―英雄王や騎士王(異説)、征服王に太陽王等の、人理に鮮烈たる偉業を遺した王者達と同質のソレ。

 

 

 ──―即ち、世界最高峰のカリスマ。

 

 

 ステータスもかなりの高水準で、神話を由来とする英霊だと断ずるのにはそう時間はかからなかった。

 その戦闘力はカルデアからして未知数だったが……

 

 

「凄……」

 

 

 間近でソレを見た藤丸が、畏怖の混じった声を漏らす。

 その英霊(サーヴァント)の戦いを例えるならば──―一筋の閃光。

 視力の強化をして尚、マトモに姿を視認することさえ出来ぬ、蒼き雷の輝きであった。

 

 

 光の速さで立ち塞がる敵をちぎっては投げちぎっては投げ……瞬きする間も無く数隻の船が同時に沈む。

 大量のワイバーンが来たかと思えば、放たれた雷撃と鎧からの光線によって殆どが焼き払われた。

 凡百の敵を寄せ付けぬその圧倒的力は、英霊の中でも上澄みの更に上澄み──―まさしく大英雄の域にある。

 

 

 今までに何度もこのレベルの戦いを見てきたとはいえ、人智を超えた力の合戦に早々慣れる筈も無い。

 藤丸は無意識に感嘆の息を吐いた。

 

 

 だが幸か不幸か、その濃密な魔力に引き寄せられて、新たな()がやってくる。

 いち早くそれを感知したロマニが、藤丸へと伝達する。

 

 

『……!? 藤丸くん、大型の竜種が来たよ! 数は十匹……十だって? これ設定間違えてるんじゃないのかい!?』

「うん、ちょっと多くない……?」

 

 

 所謂ボスとして配置される規格の竜種が十。

 そしてその竜達は全て──―エネミーを一掃して一度止まっていたオケアノスのライダーの方へと殺到する。

 流石に不味いと直感で感じた藤丸は──オケアノスのライダーの宝具の使用を決意した。

 

 

「──令呪を以て命ず! ライダー、宝具開放!」

「──マジで? ……いや、了解した」

 

 

 右手の甲に浮かんだ令呪の線の一つが消えて、膨大な量の魔力がオケアノスのライダーへと供給された。

()()()やけに宝具を出し渋っていた気がするが、それは一体何でだったのか。 

 今の藤丸に知る由はない。

 

 

 

 

『──―来ちゃったよ。しかも令呪で。 いや戦況を見た上での判断なのは分かるよ。本来はそっち(指揮官)側だし俺。

 ……ちゃうねん。 俺別にダ○ョウ倶楽部とかじゃないから、『するな=しろ』の等式成立しないのよ。 クラス︰【コメディー(お笑い芸人)】のサーヴァントとかじゃないから。文句言っても仕方ないからやるけどさ』

 

 

 内心で長めの愚痴をこぼしながら、向き直る。

 初期に居た敵を全滅させて地に足ついていた男の視線の先には──―上空を飛び回る竜の集団。

 耳を劈くような鳴き声を響かせて、間違いなくこの場における最大の脅威である男を排除せんと動こうとしていた。

 

 

 だが既に、宝具の発動準備は整っている。

 

 

「──―さあ集え、数多の冒険を共にした英雄達。即ち我ら、アルゴノーツ!」

 

 

 魔力の高まりと共に、宝具発動の詠唱を紡ぐ。

 半分以上は端折ったが、大した影響は無い。

 問題はこの馬鹿がつい思い切りアルゴノーツって叫んでしまった事だが、藤丸達とはかなり距離が離れていたから聞こえていなかったのでモーマンタイ。

 

 

 男はそう内心で弁明する事だろう。 

 

 

「────―」

 

 

 ……冷静に考えれば正直な所、別にバレたっていいのだ。

 自身が死ぬ訳でも無く、是が非でも隠し通さねばならぬ理由なんて物も存在しない。 本当にちょっとした騒ぎになるだけだ。

 英霊の別側面(オルタ)やifの姿だって既に吐き捨てる程存在している故、打ち明けてもカルデアからは直ぐに受け入れられるだろう。

 

 

 ──―どうしたものか。

 客観的に見ると、本当に秘匿する理由が存在しない。

 

 

 ただ何となく黙っていた方が良さそうという己の直感に従った末、自分から言い出す機会を失った馬鹿野郎。

 それが現在の自身の姿であり、その行動は誰から見ても……もはや自分から見ても不可解な物。

 

 

 故に一言で纏めよう。

 ──―もう引くに引けないマジ無理助けて。

 

 

『……欲を言うなら来るのはこのカルデアに居ないメンバーで、なおかつ空気を読んでいい感じに偽装してくれそうな面子であってくださいお願いします』

 

 

 そんな叶うかも定かではない万感の思いを込めて、ヤケクソ気味に宝具を展開した。

 

 

「──―天上引き裂きし煌々の船(アストラプスィテ・アルゴー)

 

 

 ……誰かが来た気配を感じると共に、再び雷霆を纏って目の前の竜達へと前進する。

 そして自身に随伴してくる()()()()に、()()()()()()()()を見て、心の内で乾いた笑いが込み上がってくる。

 

 

『……百点満点の人選だよコンチクショー』

 

 

 雷霆は全てを消し去る程の勢いで荒れ狂い、双神は目にも止まらぬ速さで戦場を駆け回る。

 黄金の鳥は正面から竜の膂力を上回る力で捻じ伏せて、各々が敵を蹂躙していく姿がそこにはあった。

 

 

 遠目から──―藤丸達の位置から見れば炎の鳥と光の線が動き回っているようにしか見えず、動きを目で追うので精一杯だろう。

 他に比べて、この状況下をゴリ押しで有耶無耶にするにはうってつけの存在だった訳だ。

 

 

 ……きっと、魔力や霊基パターンはデータとして保存されるが。

 どっちも神霊という点を加味したら、結局巡り巡って自身の怪しさを倍増させて己の正体を明かす道から更に一歩離れたとも言えるだろう。

 

 

 そんな事を考えて、イアソンは半ば八つ当たり気味にドラゴン達を切り刻み、火や雷で焼いたり炙ったりして──―ふと気づいた頃には、竜達は皆揃って息絶えていた。

 原型など留めていなかったのだが。

 

 

「……終わりだな」

『この面子で二分かぁ……早いのか遅いのか微妙に分からんラインって凄いモヤモヤする』

 

 

 今回の功労者その一ことカストロが、自身の事を呆れた目で見てくる。

 何故かとイアソンは考えたが、己の胸に手を当てて考えてみれば

 

 

「……また面倒事に巻き込まれているらしいな」

「またって何だよまたって……いやでもマジで助かったわ」

「別に構わん」

 

 カストロとポルクスの二人は、自身の権能の宝具で光の速さに達する事が可能であり、それが先程の光の正体な訳だ。

 使い続けると反動で霊基に傷を負って退去することになるが、どのみち魔力が尽きるか、役目が終われば帰還するイアソンの宝具で喚ばれた場合は、反動などのことを考えなくて済む故に権能の性能をフルに発揮できる。

 

 

「……むう。イアソン、私の事を忘れていませんか?」

「それは無いから安心しろ。 助かった、ポルクス」

「当然の事です。ですが──―」

 

 

 そこで一度言葉を区切る。

 何だ、と思った瞬間、互いの頭がくっ付くほどに顔が近づく。

 彼女は仮面越しに、彼の耳へ触れるように囁やいた。

 

 

 

「──―この対価はまた近い内に、ですね?」

 

 

 

「……こういう時はちゃっかりしてるよな、お前」

「だって私、神様ですもの」

 

 

 実際その声色には若干の呆れの色が混じっている物の、煙たがっているような姿勢は無い。

 

 

 彼女は神、半神である。

 れっきとした神霊として座に記録されている彼女らは、本来ならば人間が……否、魔術師のサーヴァントでさえ現世に喚ぶことなど限りなく不可能に近い。

 

 

 一人の男を除いて、だが。

 

 

 ただ一つの例外、英霊イアソンの宝具による招集にのみ、神霊ディオスクロイは──―アルゴノーツの英霊達は、無条件に召喚に応じるのだ。

 

 嘗て生前に育んだ強固な縁。

 仮にこの絆を裂こうとしても、未来永劫決して切れることのない魂レベルでの誓いである。

 

 

『あまり自覚してないようですが……、神を──女神をこんなに好き勝手扱えるのなんて、貴方くらいなのですよ? 当然、相応の対価があっても良いと思うのです』

『別に良いぞ』

 

 

 ──以前何処かでそんな話をしてから、時々彼女達はイアソンに召喚の対価を強請るようになった。

 といっても、そう大層なものではない、些細な願いばかりであったが。

 

 

 生前では終ぞ実現しなかった、穏やかな日常。

 

 

 ──もう、貴方が『あの時』のように一人で離れないように。

 

 ──例え何があろうとも、二度と()()はさせない。させて堪るものか。

 

 私は貴方の──―貴方の為に在る神だから。

 

 

 

 気まぐれか、それとも当時の彼女の纏う不穏なオーラに押されてかは不明だが、彼もそれを了承した。

 因みに答えは前者で、内心では『役得じゃん。むしろこっちが得しちゃってるけど良いんかこれ』とも考えていたが、そんな能天気にも程がある域にある彼の内心のソレを知るものは誰一人居ない。

 

 

「……おい、時間だぞ」

「そうですね、兄様。……では」

 

 

 ここで宝具からの魔力供給が尽きたのか、光の粒子となり退去する二人。 

 ……自身が感じる気配から、少し離れた場所に居たカイニスも既に退去していることが分かった。

 

 

 そして『また』とポルクスが言うように、同じ軸のイアソンが続けて宝具を使用した場合、尚且つその場に同一の英霊が居ない場合のみ限定して、召喚の記憶が引き継がれる。

 本当、つくづく万能な宝具である。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

「……戻るか」

『もういっその事バレた方が楽になれるんだよなぁ』

 

 

 実際、バレた時の騒動さえ乗り越えれば、この張り詰めた空気から逃れられる。

 だが、正体を秘匿した理由の一つとして、ある懸念点があった。

 

 

『……てか、結局俺って何のために此処に呼ばれたん? あのぐだ子との縁は持ってるけど、ここのぐだ男は初対面だし。確か型月の鯖召喚のルールで間接的にも縁が一切生まれないやつは呼べましぇーん的なのあったよな?』

 

 

 朧げな記憶を引っ張り出し、生まれた疑念を言語化する。

 この身は確かに『藤丸立香』と縁を結びはしたが、この世界の『藤丸立香』ではない。

 故に召喚などされることなく、これからも縁を結ぶことは無かったはずだ。

 それでも引きずり出されるように己が呼ばれたと言う事は、自身にまつわる類で、それだけの理由が存在するという事なのだろう。

 

 だが──

 

 

「──真実は誰にも分からない、か」

『こればっかりはそれらしい証拠もないししゃーなしか。……気長に行くしかないよなぁ』

 

 

 ……一応今回の目的は果たしたので、藤丸の元へと戻る。

 戻ってきたイアソンの存在に気づいた藤丸は、笑顔でイアソンへと話し掛ける。

 

 

「お疲れ様。ごめん、勝手に宝具使わせちゃって」

「……いや、構わない。あの時のお前の指揮官としての対応は正解だ。気にしなくていい」

「それなら良かった、ありがとう。……ちなみになんだけどさ」

「……どうした?」

 

 

 一拍の間を挟み、藤丸が言葉を紡ぐ。

 

 

「さっきドクターが『これは……神霊の反応!? 彼は神霊、それも戦闘に長けた存在を喚ぶ宝具を持つのかい!?』って言ってたから、どんなのか気になってさ」

「成る程な。……というか声真似上手くないか」

「まあね」 

 

 

 成る程。

 謎のサーヴァントが本来呼べない神霊を、それも疑似サーヴァントでもないのに普通に喚べてるのは、この時期のカルデアからすれば凄いことになるらしい。

 きっと二年もすればその常識は塵一片すら残らない程に粉砕玉砕大喝采されるのだろうが、今この場にそれを指摘できる者は存在しない。

 

 

「……何の神か、か。強いて言うなら片方が航海に関しての守護神的な存在だ。もう一人は──俺も分からん」

「そうなの?」

「まあ、よくある話だろ」

『だって俺の知ってるカイネウス(カイニス)人間だし。 多分神って言ったら言ったでブチ切れられるし』

 

 

 実際、(彼女)を神霊としてなら兎も角、神として扱うのは(彼女)にとっての地雷であった。

 なんなら神という存在そのものが地雷である。

 

 

 見え透いた地雷を踏みに行くほど、イアソンは愚かではなかった。

 

 

「というか、そんな人達を呼べるオケライって何者なの? やっぱり気になる……全然分かんないけど」

「……念の為言っとくが、俺は神なんて大層な物じゃないぞ。(肉体的には)れっきとした人間だし、アレが例外なだけだ」

「へぇー」

 

 

 ……この男をただの人間として定義して良いのかは不明だが、彼等はそんな会話をしながらカルデアへと帰還する。

 だがその後にお開きとなった直後、イアソン的には死刑宣告にも近い通達を、藤丸から受けることとなった。

 

 

「あ、今回の効率が過去最速級で良かったらしいから、ライダーは明日から周回組ね」

「やめれ」

『マジでやめて』

 

 

 ……周回組一軍、投入である。

 そしてこれだけは、後に彼の正体が割れた後も終ぞ変更されることはなかったらしい。

 

 

 

 後に彼は語った。

 ──この辺りで潔くバラしておけば良かったと。

 

 

 そう言うに至る原因は、この日から四日後に訪れる。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 彼がカルデアに召喚されてから五日が経ち、漸くこのカルデアでの生活にも慣れてきたと思っていた最中のことだった。

 

 

 

「微小特異点が発生したって、本当?」

「残念ながら本当だよ、藤丸君」

 

 

 

 藤丸の問いにそう返したダ・ウィンチが、管制室に集まった面子を見る。

 藤丸とマシュという基本メンバーはさておき、問題は招集されたサーヴァントだ。

 

 

「君たちが集められた理由は分かっているね?」

「──当然分かっているぞ、ダ・ウィンチ。大方、その特異点に同行できるのが私と、そこのサーヴァントだけだと言うのだろう?」

「あれ、今日のイアソンやけに乗り気だね。どうしたの?」

「乗り気なわけがあるかバカ。 ヘラクレスではなく私が呼ばれている時点で、何かあるとすぐに分かる。──勿論、オレが最前線に立つのは断固としてお断りだからな!」

「うん、確かにいつも通りだね」

 

 

 そう。

 今回管制室に召集されたサーヴァントは僅か二騎。

 しかも、セイバー:イアソンと、ライダー:イアソン(異説)という実質的な同一人物であった。

 それを知っているのはイアソン(異説)本人のみだが。

 

 

「じゃあ、ここからはロマニに任せようかな。後よろしくねー」

「え、僕? ……さっき聞いたばかりだと思うけど、今回のミッションは突然発生した微小特異点の修復。 発生地点は──ギリシャ」

 

 

 ソレを聞き、うへえと顔を顰めるイアソン(セイバー)。

 よりによって何でオレ一人なんだとでも思っているのだろう。

 対してイアソン(ライダー)はというと、

 

 

『絶対これアレじゃん。(イアソン)に関係する類の特異点じゃん。本来の俺いるし』

 

 

 

 実質的に同行可能なサーヴァントがイアソンのみという事は、必ずそうでなくてはならない理由があるはずだ。

 座標がギリシャである辺りも、この仮説の信憑性を高めている。

 

 

 

「同行サーヴァントはイアソンとオケアノスのライダーの二人。これはイアソンが言った通り、この特異点に入れる霊基に条件があって、そこに君たちニ騎の霊基が合致したという訳だ。 ……いつもよりも厳しい環境下だ、僕たちも最大のサポートをする。頑張ってくれ、藤丸君」

「了解です、ドクター」

 

 

 そうして藤丸達がレイシフトの準備を進める中、イアソン(異説)に話し掛ける者がいた。

 イアソン(セイバー)である。

 

 

「おい、そこの鎧野郎」

「……鎧野郎は酷くないか?」

「貴様が真名を明かしていないから、こっちもどう呼べばいいか分からん。……オケアノスのライダーだったか? とにかく我慢しろ」

「それもそうか」

 

 

 謎にあっさり納得したイアソン(騎)を見て、ええ……と一瞬困惑しかけるイアソン(剣)だったが、すぐに立て直して本題へと入る。

 

 

「シールダーはマスターを守る役割があるのは知っているな?」

「ああ」

「そして私は前線には出れない」

「出ろよ。いや出ろや」

 

 

 辺りに一瞬、静寂が訪れた。

 

 

「指揮官だから! オレは本来指揮官だから! ……それに、お前がかなりの強さを持つことはそこそこカルデアに知られている」

「……つまり?」

「私の護衛を任せた」

「分かった」

『いや何でだよ、別にいいけど』

 

 

 何となくだが、実際は自分も普通に戦って活躍するのだろう。

 そんなある種の確信にも近い直感に従い、オリジナルの自分に話を合わせる。

 

 

「ならば俺の指揮はお前に任せた。指揮官としては間違いなくお前の方が上だ」

「当然だろう? オレはアルゴノーツの船長。最強の味方を使うのなら、相応の能力が必要だ。というか無いという事聞いてくれないし」

「……そうだな」

 

 

 ──俺も船長だよって顔を晒したら面白そうだと思ったが、止めておく。

 指揮官としてならオリジナルの方が上というのも事実だ。

 正体を明かすにしても今ではない。

 

 

 

 

 そうして、彼らは特異点へと向かう。

 その先でイアソン(騎)は、己の仮説が的中していたことを理解することとなる。

 

 

 

 自分が何故召喚されたのか。

 その答え合わせが今、行われようとしていた。

 

 

 

 

 




ある日のカルデア(inぐだ子)
「なあカストロ」
「何だ」
「俺、ドッキリを仕掛けようと思ってさ」
「……言ってみろ」
「まず俺が全身血だらけになって倒れて―――」
「……止めておけ。いやマジで止めろ、死ぬぞ」




活動報告にコメントしてくれた皆様、ありがとうございますm(_ _)m
番外をダラダラ続けるのもアレなので恐らくあと二話くらいで締められるようにします。


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#4∣神話の残部(ミソロジー・レムナント)

お久しぶりです。
今回のFGOのイベントをやった人には分かると思いますが、神話編でのアレに言及が来てしまったので頭を抱えていました。まあお陰でこの特異点編もいい感じに再構成できたので結果オーライ。
つきましては、この話を成立させるために神話編終盤に後付け加筆で存在しなかった記憶を植えつけてきましたので、余裕がある方は9~12話を見返してくださると助かります。


 

 

 

 

 ───絶望(じごく)を見た。

 

 

 ソレこそは、終末を齎す厄災の具現。

 オリュンポスの神々を始末するという至上命題(プログラム)を背負い、降り立った星に帰化した果てに、神代を終わらせる機構()となったモノ。

 神話にて語られる怪物にして異形の巨人ではなく、強大なロケットエンジンと同化した腕に、世界を焼き払う吐息(ブレス)を放ち、竜の三ツ首を持つ嵐の化身。

 

 

 毒竜(ヒュドラ)地獄の番犬(ケルベロス)、オルトロス、ネメアの獅子、金羊毛の竜、百頭竜(ラドン)、キマイラ等のあらゆる怪物の祖にして、原初の竜の一角。

 

 

 

 ()()()()()()()()

 それが、その()の見た災厄の名であった。

 

 

 終わる。何もかも。

 機神特攻とも称する程の能力(スペック)を持つソレに、彼らは無数の演算の果てに、逃れようのない『敗北』という結論を導き出した。

 故に逃げた。殺られると分かっているのに、むざむざ足掻くような機構は彼らに搭載されていなかったから。

 

 

 故に、己の役目も消え失せるだろうと断じて。

 そして────

 

 

 

────光を見た。

 

 

 己を懐に携えた、金糸の髪の偉丈夫。

 彼はテュフォンを前にしても引かず、己を携えたままに雷霆の真価を発揮した際は、全盛の最高神を彷彿とさせる無双の力を振るった果てに───太祖竜を破った。

 神ではなく人の手によって、神話最悪の厄災は斃されたのである。

 

 

 高位の竜に備わる運命線(みらい)を見る力。 

 それが示す先さえも覆して、己の描いた願望を、望む通りに成したのだ。 災厄を捻じ伏せ、否定の運命さえも覆した、大いなる願い(ゼウスの悲願)の体現者。

 まさしくその姿は希望そのもの。

 

 

 ──有り体に言ってしまえば、男の成した偉業に、その最期に、どうしようもなく魅せられたのだ。 

 まるで、御伽話に心惹かれる少女のように。

 

 

 ソレの持つ『無常(反願望器)』という在り方故か、まるで絵に書いたような英雄譚を間近で見せられるのは、酷く眩しく思えたのだ。

 覆しようの無い災厄を前にした上で進み、『自分以外全ての守護』という願いを実質的に叶えて……

 

 

 

 ───その代償を払い、死んだ。

 

 

 願いを叶えたから、『光』は墜ちた。

 叶えた代わりに、『生きる』という願いを叶えずに。

 そうして力なく堕ちる最中に、かの勇者は共に墜ちて行くテュフォンに対して己を食わせ、楔としたのだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()である、己を。

 

 

 

 ───何故? 

 

 おおよそ生命全てが持ちえるものであり、己は望むことさえ叶わなかった、生きるというある種の根源的願望。

 何で、どうしてどうしてどうして───それを何の躊躇いもなく、捨て去ることが出来るのだ? 

 

 

 もしも当人が居れば、困った様に苦笑して否定しただろう。誤解だ、と。

 尤も、その当人が不在故にこれ以上の空想は無意味なのだが。

 

 

 勇士。勇者。英雄。

 自らが傷付こうとも、誰かのために戦える者達。

 

 

 嗚呼───

 

 罪なるかな、咎なるかな、悪なるかな。

 罪とは願い。咎とは祈り。悪とは夢。

 

 

 走馬灯が流れる程の刹那、ソレはある考えに至る。

『願望』こそが、醜悪なる怪物の正体であるのだと。

 願いを背負い、祈りを背負い、嘗ての夢に殉じた果てに、生存の理という生命全ての持ち得る願望さえも破却した英雄(愚か者)、又の名を()()使()()

 

 

 身の丈に合わぬ力を、願望を持った故。

 アレこそが相応しい悲劇だと、人類史は示す。

 

 

 ……何故『彼』は止まらなかったのか。

 その答えを示す者は何処にも居らず、自身もその疑問に相応しい考えは持ち合わせていない。

 当然である。 事実として、ハナから英雄の……その考えとは相容れることが無いのだから。

 

 

 だとしても、考えるのを辞められない。

 考えて、考えて、己が太祖竜に取り込まれ、無くなるまでの僅かな間に、一つの解へと至る。

 

 

 

 ───あのような願いは、叶わなければ良かった。

 

 

 

 

 

 ───ならば、なればこそ、示してやろう。

 真に相応しき運命を、そしてその終末を。

 

 我が身は反願望器、無常の果実。

 故に、その願望の一切を否定しよう。

 

 

 嘗てと同じ、黄昏の空の下で───

 

 

「やはり、我/私を殺し(喰わせ)た責任程度は取ってもらわねばなるまいな?」

 

 

 ───この時、彼女はまだ気づいていない。

 

 

 高位の竜種は、基本的に自由意志を持たぬ。

 物事の行く末を視る、運命視の瞳があるが故に、その行動指針が制限されるからである。

 きっとそれは、竜種という()を羽織った際にも適用される。

 

 しかし、今やその運命線(ひとみ)に映るのは一人だけ。

 己を殺し、また己を喰わせた男。

 

 殺されたという、ある種最も強烈な体験が生んだ運命か、もしくは『彼』の呪いの域にあるカリスマに魅せられたのか、将又その両方か。

 その機能には、既に異常(バグ)が発生していた。

 

 

 かくして『神話の残部(ミソロジー・レムナント)』は動き出す。

 世界と世界の狭間にて現界したソレに感づいた世界の意志は、彼女の望む通りに、男を送り出すだろう。

 

 

 なら───何故こんなことになっている? 

 ……敢えて言おう。

 

 

「───疾く来たれ、英雄使い。お前に相応しき結末というものをくれてやる」

 

 

 だいたいゼウスの所為(いつものこと)である。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

-

-
-
BC.???? /人理定礎値:■■

-
───次元途絶界イオルコス──

-
〜〜黄昏の欠片〜〜

-

-

-

 

 ◆◆◆

 

 

 

 何処かの土地の平原のような、山の上。

 そんなありふれた場所に、レイシフトを実行したカルデア一行は降り立った。

 直後、手元の通信機が作動して、大気中にロマニの姿が投影される。

 

 

『藤丸くん、マシュ。 通信は聞こえてるかい?』

「はい。問題はありません、ドクター」

『うん、なら良かった。こっちの回線は安定してるみたいだね』

 

 

 マシュの返事に頷くロマニ。

 しかしその表情は芳しくなく、何か問題が起きたかのようで。

 ある意味それは、この特異点を攻略するにあたっての当初の懸念点が浮き彫りになる形となる。

 

 

『早速だけど悪いお知らせだ。 結論から言わせて貰うと、この特異点は───不自然だ。きな臭いとも言える』

「……きな臭い? 具体的には?」

『まず前提として、カルデアスがこの特異点を観測した時、年代は西暦以降のものだったんだ。 だからこうして問題なくレイシフトが行えた。 でも、大気の魔力(マナ)が異常値を示している。これは神代級の魔力濃度だ』

 

 

 特異点の観測は、カルデアの最優先事項である。

 レイシフトを行うには、カルデアスによって確認された特異点をより詳細に観測する必要があり、その後にレイシフトを行った後も、対象が消失しないための『存在証明』を行わねばいけない。

 これを怠るのは、レイシフト先での意味消失という、カルデアのマスターの死に直結するからだ。

 

 これだけじゃあない、とロマニは続ける。

 

 

『今もカルデア側から何度も演算し直しているんだけど、数値の一致する場所も時代も出てこないんだよ。 ……少なくとも、ギリシャに由来する土地ということだけは分かるんだけどね。 ───どうだい藤丸くん? 何か見える物はあるかい?』

「えっと───無いですね。 山岳部……山の上辺りにレイシフトしたみたいだけど、霧が少し濃いくらいで、今のところは何も」

『そっかあ、それらしい手がかりも無しかぁ。……困ったなあ、何か目ぼしい所は無いかい? レオナルド』

 

 

 藤丸達の前に展開されていたホログラムに映し出された情景が変化し、カルデア技術顧問∶レオナルド・ダ・ヴィンチの姿が浮かぶ。……正確にはモナ・リザの姿であるが。

 彼女はロマニの応援要請を受けて、管制室で藤丸達の存在証明を手伝っていたのだが、手元の計器に表示された値と、藤丸達の背後へと映る景色を見比べて、肩をすくめた。

 

 

『はいはーい、ロマニからの要請で管制室にやって来たダ・ヴィンチちゃんだぞっと。 ……と言っても、別に何か言えることは無さそうだけどねぇ』

「……ダ・ヴィンチさんがそこまで言うほどの物なのですか? この微小特異点は」

『いいや、さっきロマニが言っていたけど、色々と毛色が違うんだよ、此処。 随分今までの特異点とは在り方が異なっているらしい』

 

 

 あの万能の天才が匙を投げた。

 果たしてこの特異点はそれほどの物なのかと小首を傾げたマシュに、ダ・ヴィンチはかぶりを振った。

 別にお手上げ状態な訳ではないのだが、その口から語られる状況は、レイシフトの詳細や原理については間違いなく藤丸より精通しているであろうマシュに疑念を抱かせるには十分だった。

 

 

『藤丸くん達の存在証明は十全に行えている。これはまず間違いない。 ……でも、さっきから土地の年代や位置の座標が驚く程に安定しなくてね。 そこに居るはずなのに、居ない。まるでシュレディンガーの猫みたいだよ』

「シュレディンガーの……猫……?」

 

 

『シュレディンガーの猫』。

 1935年にオーストリアの物理学者、エルヴィン・シュレーディンガーが発表した論文中に用いた、猫を使った思考実験。

 中身を端折ってその概要を説明するならば、箱の中に入れられた猫の生死確率が50%ずつで混在した状態であり、観測者が箱を開けるまでは、猫の生死は決定していないといった状態の事を差す。

 

 即ち、『どちらもあり得る……そんだけだ』といったような言葉(セリフ)を吐けるタイミングの事である。

 この特異点もある種似たような物で、その場に藤丸達が居るという情報と、居ないという情報が同時にある。

 

 それは、まるで───

 

 

「……要は此処が地上のどこにも存在しない場所だとでも言いたいのか? それこそハデスの冥界みたいな神域や、或いは()()()()()のような場所だと?」

『確かに、そういう仮説はあるけど……つまるところ、情報不足なんだ。 身の安全という面を考えたら、一度カルデアに帰還するのも検討する程には不確定要素が高い。 ……最終判断はそっちに委ねさせて貰うけど、どうする?』

 

 

 藤丸はマシュ、イアソンの順で、何か意見はあるかと回視する。 ちなみにオケアノスのライダーは、『周囲の偵察をしてくる』と言って数分前に飛び立っていった。

 マシュは静かに首肯し、イアソンは鼻を鳴らして、「貴様の身の事だ、コレはサーヴァントである私達が決めることでは無いだろう?」と言ったことで踏ん切りがついたのか、藤丸は暫しの思慮の後にダ・ヴィンチに目を向ける。

 

 

「俺は───行きます。 ここで戻っても同じ事の繰り返しだし、まずはこの特異点の情報を集めないと」

『……了解だ。 一応私は万が一を考慮して、直ぐにカルデアに帰還できるようにしておくから、この辺りでお暇させて貰おうかな。 チェンジだ、ロマニ』

 

 

 映像が揺れて、映る人物が変わる。

 

 

『分かったよ、レオナルド。それで……周囲の様子は霧で見えなかったんだよね。依然変化は無しかい?』

「───いいや、丁度辺りを見てきたが、幾らか目に映る物はあったぞ」

「オケライさん?」

 

 

 ロマニの問いに、いつの間にか帰還していたオケアノスのライダーが割り込み、答える。

 あの会話していた間、時間にしてたった数分間で周囲の探索を終えてくるとは、彼の能力の高さが伺える。

 そして齎したモノも、今の彼らにとっては非常に価値のある情報であった。

 

 

「まず今俺達の居る山。標高は大凡二百メートル前後で、特に何も無かったが、山を降った先に一つの国らしき物があった。 流石に中身は分からんが、アレがこの特異点の中の楔だろう」

「つまり、聖杯を持っている黒幕は……」

「恐らくは其処に居る。少なくともソレに連なる者が居るはずだ」

 

 

 さも当然のように、彼は言った。

 外れることなど、あり得ないとでも言うように。

 確かに、カルデアの霊基グラフに登録された彼のマテリアルには、高位の直感スキルを有している事が記載されていたので、コレは十分信頼に足るものなのであろう。

 

 

『……凄い。お手柄だよ、オケアノスのライダー』

「……そうか? この手の類を得手とする知り合いの見真似だったが、案外役に立つらしいな」

『(まあ本職にはどう足掻いても及ばないんですけどね、初見さん。流石に皆の専門分野では勝てんよ)』

 

 

 魔術関連ならばメディア、医療ならばアスクレピオス、狩猟ならばアタランテ。 ……果たして己の専門分野とは何か、これがわからない。 航海の枠にはディオスクロイが居るし。

 そんなどうでも良いことを内心で考えていた馬鹿はさておき、セイバーのイアソンは藤丸に提案する。

 

 

「目的地が決まったのなら出発するぞ。 此処で夜を明かすよりかは、さっさと着いた先で休む方が良いだろ」

『イアソンの言う通りかもね。場所を把握しているオケアノスのライダーを先頭に、早めに移動しておきたい所だけれど……大丈夫かな?』

「俺は全然大丈夫だよ、ドクター」

 

 

 長距離移動において唯一の懸念。

 サーヴァントである面々は疲労という概念は無いが、唯一体力を消耗するであろうマスターである。

 オケアノスのライダーは内心で『船』か『竜』の何方かを出そうかとも考えたが、『船』は周囲から必要以上に悪目立ちするということと、『竜』は全員を乗せてマトモに飛んでくれる保証がないという事から、脳内決議で却下された。

 

 

 だが今はそれ以上に───少々、不味い。

 

 

『なんかもう凄い嫌な予感するんだけど。 ……具体的には存在しない記憶から現れた初対面の人に助走つけてぶん殴られる感じの』

 

 

 先程から、己の内にある警鐘が鳴っている。

 この一面に漂っている霧含め、どこか微妙な既視感(デジャヴ)を感じるのだ。

 確信を一発で持てるような、強く印象に残る気配そのもので無いというのが実に嫌らしい。

 

 

 ───果たしてその予測が的中したと察するのは、きっとソレから逃れられなくなった後なのだろう。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 結局前日は、一番余力のあるオケアノスのライダーが藤丸を抱えて飛び、ソレに付随する形で走るという力技で移動した。 この鎧(アイギス)の意匠が随分と琴線に触れたらしい藤丸は、そこそこ御満悦な様子であった。

 手頃な塒を作成した後に一晩休息をした翌日。

 

 

 目の前に広がるのは───衰亡の世だった。

 

 

「───」

「……手遅れ。(いや)、最初からこう作られたのかよ。キッツい物見せて来やがって」

 

 

 顔を顰めたセイバーのイアソンが言う通り、既にその国は、国の体を成してはいなかった。

 放棄された果て、滅んだ後の国とでも言うべきか。

 道中でもそこそこの数の魔獣が闊歩していた辺りから最悪の事態として考慮はしていたが、そのまさかである。

 

 

 歯が抜けたような荒廃の大通り。

 誰も住んでいない道端の壊れた家。

 蔦や苔、壁に囲まれた瓦礫の世界。

 

 

 それは最早、国という名の骸であった。

 

 

 

 しかし前述の通り、此処は魔獣蠢く土地の中。

 キメラやラミアを始めとした、多くの魔獣が血の匂いに釣られてやって来る。

 それをロマニは、しっかりと確認していた。

 

 

『ごめん、色々と思う所はあるだろうけど敵性反応だ。数は……八体』

「ああ、確認している」

 

 

 そう、確認していたのだ。

 

 

「だが、既にそれは斃した」

 

 

 モニターに写ったのは、横薙ぎに『掻き抉る時の大鎌(アダマント)』を振るった後の彼と、その後ろで等しく両断された後の魔獣達の死骸であった。

 ───まさか、殺したのか? あの一瞬で? 

 

 

 その事実を認識したイアソンは、背筋に酷く寒気を感じるような感覚に陥った。

 ……恐怖ではない。どちらかと言えば、某魔女と意図せず出くわした時に近い感覚。 

 それに強烈な違和感を足したような感じだった。

 

 

 他人の気がしないとは、この事か。

 

 

「……」

 

 

 そんなことは露知らず、オケアノスのライダーは既に魔獣達から視線を外し、ゆっくりと辺りを見ていた。

 当然である。何故なら自分はこの景色を───知っているから。

 

 

「───イオルコス」

 

 

 とはいえ、ソレそのものでは無い。

 所々にある精細な違いが、本物ではないと教えてくれる。

 実際にそれそのものを見たわけではなく、何かのフィルターを通してみたものを、国という概念を通してつなぎ合わせたかのような、継ぎ接ぎだらけの虚構の国。

 

 

 ならば何だ? 

 この虚構の国の残骸は一体、誰が生み出したのだ? 

 

 

『……分からん。エアプだってことは分かるが、理由が分からん。アレか、暇人だったのか』

 

 

 

 ───違います。

 

 ソレを指摘するものは、この場には居なかった。

 

 

 

 

 

 





イアソン:知らないところで型月御用達の変な縁(殺し愛)が生えてきた。知らん…何それ……怖……


謎の少女:願ったなの娘。謎に生えたガワによる殺し愛()の縁。何気に今最も作者が恐れているのは、後にこの娘が深堀されることによる解釈のズレ。でも暫く実装されなそうだし、今更(二次創作)だし良いよねの精神で登板。
この娘の二次創作もっと増えろ。


あと、出来れば鶏スタンの方も目を通してくれると嬉しいです。こちら含め、感想評価で更新速度が一気に上がります。


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