<ポケットモンスター トライアル・パレード> (にじのふで)
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1章「新しい旅先」
登場人物・ポケモン紹介


<ポケットモンスター トライアル・パレード>に出てくる
登場する人物・ポケモンの紹介一覧です。

本編1話~、読まれていない方は、ご注意して下さい。
また、内容の修正や追加も、ありますのでご注意下さい。


主要人物:

 

サトシ

 

性別:男

年齢:11歳

職業:ポケモントレーナー

 

(ポケモンアニメ原作キャラ主人公)

当作品の主人公。

カントー地方マサラタウンの出身。

10歳の時、ポケモントレーナーとなり、マサラタウンから旅立った。

相棒のピカチュウと共に、カントー地方をはじめ、様々な地方を巡った。

各地方のジム戦やリーグ大会、様々なポケモン関連大会に出場し、数々のバトルを行った。

旅先では、友達(旅仲間)、ライバル、多くのポケモン達と出会ってきた。

家族は、母親と父親だが、父親はトレーナーであり、長く旅に出ていて、帰って来ていない。

 

この物語では、1年後の11歳となり、新しい地方へピカチュウと共に、冒険の旅に出る。

 

 

 

元気で明るくて、調子に乗りやすい性格。また、負けず嫌いで、正義感が強く、

一つの事に向かって真っ直ぐ突き進む純粋な心の持ち主でもある。

凄く仲間思いで、それは人間もポケモンも問わない。

それは、自ら危険な場所へ飛び込んだり、身を挺して仲間を守る程。

食いしん坊な事もあり、食べることを最優先する時がある。大好物は、コロッケ。

 

バトルスタイルとしては、基本ポケモンの気合と根性を重視し、攻撃は最大の防御と考え、攻め重視の戦法を多用する。

直感や閃きに優れていて、ポケモンの相性だけに限らず、ポケモンの特性やバトルフィールドを生かした

予想外で柔軟な発想を持ちいり、相性の悪さを機転で覆すことがある。

 

 

過去の戦績:

 

ポケモンリーグ(セキエイ大会):ベスト16

オレンジリーグ:名誉トレーナー認定

ジョウトリーグ(シロガネ大会):ベスト8

ホウエンリーグ・サイユウ大会:ベスト8

バトルフロンティア:完全制覇・フロンティアブレーン候補認定

シンオウリーグ(スズラン大会):ベスト4

イッシュリーグ(ヒガキ大会):ベスト8

カロスリーグ(ミアレ大会):準優勝

アローラリーグ(マナーロ大会):優勝

etc...

 

 

手持ちポケモン:

現在ピカチュウ以外手持ち無し(オーキド研究所等に預かり中、その他諸事情)

 

 

 

ピカチュウ

 

サトシが、オーキド博士から貰った。最初のポケモンで、長い付き合いのある相棒。

サトシが、ポケモントレーナーとしての旅をした初日から今日まで常に、一緒で共に旅をしている。

モンスターボールに入るのが嫌いで、そのため常に外で活動中。

ピカチュウのモンスターボールは、サトシが常に持ち歩いてはいる。

様々なバトル(ジム戦やリーグ戦にも出場)した歴戦のポケモンでもある。

性別は、オス。好物は、ケチャップ。

 

とくせい:せいでんき

 

わざ:

10まんボルト

でんこうせっか

アイアンテール

エレキネット

(―――)

 

 

 

 

 

ヒョウリ

 

性別:男

年齢:13歳

職業:ポケモントレーナー?

 

当作品のオリジナルキャラ。2話~から登場。

本人曰くシントー地方の出身。

旅の途中で、サトシが出会った少年。年齢は13歳で、サトシより2つ上。

何かの仕事をしているらしく、休暇が取れて、アハラ地方へ行く予定。

その道中に、サトシと共に事件に巻き込まれた。その際、意見が別れる等もあったが、

互いに何かが理解出来たようで、彼もアハラ・シントー地方に行く予定があり、

地理に詳しい為、サトシと共に旅をすることになる。

過去に、いろいろと事情があり、身体中に古傷がある。

 

 

 

戦績:

詳細不明

 

手持ちポケモン:

 

 

ラグラージ:

ヒョウリのポケモンで、サトシと会ってから最初に出して見せたポケモン。

暴れていた多数の野生ポケモンを相手にし、ピカチュウともバトルをして見せた。

かなりのパワーを持ち、近接技であるかわらわりは、ピカチュウのアイアンテールに引けを取らない。

性別は、オス。

 

とくせい:げきりゅう

 

わざ:

ハイドロポンプ

れいとうビーム

じしん

かわらわり

(ワイドガード)

 

 

ハッサム:

ハッサムのモンスターボールは、通常のボール用ベルトに付けてなく、

ヒョウリの右腕の裾に隠し持っている。

本人曰く非常用のポケモン。普通のハッサムより、飛行能力が高い。

性別は、オス。

 

とくせい:テクニシャン

 

わざ:

バレットパンチ

エアスラッシュ

でんこうせっか

(ファストガード)

(かげぶんしん)

 

 

 

ルカリオ

 

ヒョウリのポケモンで、サトシの前に出して見せた3番目のポケモン。

初戦で、サトシのピカチュウとタッグを組んで、ロケット団と戦った。

性別は、オス。

 

とくせい:せいしんりょく

 

わざ:

はどうだん

サイコキネシス

カウンター

バレットパンチ

(ファストガード)

 

 

 

 

デンチュラ

 

ヒョウリのポケモンで、サトシの前に出して見せた4番目のポケモン。

フィオレ地方のむしポケモン達が生息する森で出した。

性別は、メス。

 

とくせい:ふくがん

 

わざ:

ギガドレイン

エレキネット

10まんボルト

シザークロス

(かげぶんしん)

 

 

 

 

残り手持ち:

2体

?????

?????

 

 

 

 

 

マナオ

 

性別:女

年齢:10歳

職業:ポケモントレーナー

 

当作品のオリジナルキャラ。

ハルタス地方・田舎の村(ノウトミタウン)の出身。4話~登場。

 

今年、10歳となり、ポケモントレーナーになってまだ3ヶ月になる。

 

ポケモントレーナーとなって旅に出たが、ハルタス地方内で、初のジム戦をやって、惨敗。

その後も立て続け惨敗し、他の一般トレーナー達にも連敗した。

その結果、彼女とカラカラは共に自信を無くして、スランプに落ちいり、地元へ戻ってきた。

亡くなった両親や家にいる祖母に、立派なトレーナーになった証拠として、バッチを

見せる約束をしていたが、上記の理由と焦りから、バッジ狩りをはじめてしまった。

後に、いろいろとあって、サトシのことを師匠と呼び、弟子入りし、共に旅をすることになる。

 

家族は、祖母だけで、両親は、幼い頃に事故で亡くなった。

相棒は、カラカラ。 

 

 

戦績:

詳細不明

 

 

 

 

 

手持ちポケモン:

 

カラカラ

 

5歳の時、両親からプレゼントで貰ったポケモンタマゴから生まれた。

赤ん坊の時から、彼女が育てて家族同然の存在。、

10歳で、トレーナーとなり、モンスターボールに入れてから共に旅に出る。

性別は、オス。

 

とくせい:いしあたま

 

わざ:

ホネブーメラン

ホネこんぼう==▶ボーンラッシュ

ずつき

(にらみつける)

(きあいだめ)

 

 

 

保護:謎のポケモンのタマゴ

 

(謎のポケモンのタマゴ:イラスト)

pixivに掲載中:URL以下

https://www.pixiv.net/artworks/107309269

 

 

 

 

 

 

レギュラーキャラ:

 

 

ロケット団(通称:ムコニャ)

 

(ポケモンアニメ原作キャラグループ)

1年以上、サトシとピカチュウに時々付きまとい、遭遇するロケット団のメンバー。

今回、サトシが旅立った地方でも遭遇してしまう。

サトシのことを「ジャリボーイ」、その仲間の男を「ジャリボーイ」女を「ジャリガール」と呼ぶ。

 

 

 

メンバー:

 

ムサシ

 

性別:女

年齢:26歳

職業:ロケット団

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

サトシが、トレーナーとして旅立った時に、遭遇した悪の組織の一員。

それ以来、サトシのピカチュウを主に狙い、他のポケモンに狙いを付けて、様々な計画で、手に入れようとする。

 

高飛車に、我儘な性格で、ナルシストでプライドも高い。

暴力的な面もあり、運動神経はメンバー内では一番高く、素手でポケモンを倒したことも度々ある。また、視力は良くて、5.0とのこと。

ムコニャ内では、いつも他の二人をこき使う。

女優を目指していたこともあり、自分を「大女優」ということがある。

そのこともあり、サトシと遭遇した各地方で、ポケモンコーディネーター、ポケモンパフォーマーとしても活動し、いい成績を残している。

 

過去の生活での影響で、雪が大好きで、雪が降ると大はしゃぎする。雪に醤油をつけて、食べていたとか。

弱いという理由でポケモンを見捨てたり、、自分のポケモンには確かな愛着を持っている。

ポケモンを奪う悪事をしているが、本質的ではポケモンを大事にする面もある。

 

過去:

チャリンコ暴走族をしていて、「チェーンのムサシ」という異名がある。

少女時代にはアイドルを目指して、オーディションを受けたが、落選。

その後、看護師を目指していたが入学出来なかった為、ラッキー専門看護学校へ入学し、諸事情で退学。

これらの事情から、最終的にロケット団へ入団し、試験を合格して、エリート団員となった。

当時、ペアを次々と落選していた為、周囲から「死神ムサシ」と呼ばれていた。

最終試験で組んだペアが、コジロウと喋るポケモン(ニャース)であり、それが出会いとなった。

 

幼少期から母親と暮らしていたようだが、ある日を堺に親戚の元を転々とし、

引き取った祖母と貧困な家庭で育った。その影響もあり、一部一般人との価値観がズレてる他、極度の味覚音痴となった。

また、ミヤモトというロケット団員が母親という話があり、当人はある任務中に、現在まで行方不明となっている。

 

 

 

コジロウ

 

性別:男

年齢:26歳

職業:ロケット団

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

サトシが、トレーナーとして旅立った時に、遭遇した悪の組織の一員。

それ以来、サトシのピカチュウを主に狙い、他のポケモンに狙いを付けて、様々な計画で、手に入れようとする。

 

ナルシストな所もあるが、ヘタレでお人好しな面が大きい。また、子供っぽく単純な一面がある。

メンバー内では、メカニック技術やパソコン操作・ハッキングなどに長けていて、ニャースと共に、メカやアイテム作りを行う。

本質的には仲間思いで、仲間を平気で見捨てる真似を嫌い、行った他の悪人を嫌う。

実家が富豪で、育った環境が良かった事もあり、テーブルマナーや楽器の腕前がある他、

多種多様なスキルを持っている。

 

趣味で、2歳からはじめた瓶の王冠集めをしている。

くさタイプのポケモンが好きなのか、よく相性が合う。

悪役らしく卑怯な手も使う一方で、大会では正々堂々と勝負する事も少なからずある。

ポケモンを奪う悪事をしているが、本質的ではポケモンを大事にする面もある。

 

過去:

大財閥の一人息子の家庭で、両親がいる。親決めた、性格に問題がある許嫁との結婚から逃亡する為、家出した。

自由を求め、チャリンコ暴走族をしていて、「補助輪のコジロウ」という二つ名を持つ。

子供時代にポケモンゼミに通っていたが、落選した。

その後、これらの事情から、最終的にロケット団へ入団し、試験を合格して、エリート団員となった。

最終試験で組んだペアが、死神と呼ばれていたムサシと喋るポケモン(ニャース)であり、それが出会いとなった。

実家には、ガーちゃんというポケモンのガーディがいる。

 

 

 

ニャース

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

サトシが、トレーナーとして旅立った時に、遭遇した悪の組織のポケモンであり一員。

それ以来、サトシのピカチュウを主に狙い、他のポケモンに狙いを付けて、様々な計画で、手に入れようとする。

 

誰にもゲットされていないポケモンで、ロケット団(ムコニャチーム)のメンバーの一人。性別はオス。

過去にあったある諸事情で、人間同様に二足歩行が出来て人語を話せ、人並みの手作業や知能を持っている。

その代わりに、その影響で本来の四足歩行やわざ「ネコにこばん」が取得出来ない、進化出来ないなどと

ポケモンとしての潜在能力を殆ど使い果たしてしまっている。

 

とくせい:不明

 

わざ:(諸事情で、以下の以外のわざを獲得・使用できない。)

ひっかく

みだれひっかき

かみつく

きりさく

 

 

ソーナンス

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

ムサシのポケモンで、性別オス。

かつて、ある事情で、間違ってポケモンを交換して入手した。

鳴き声は「ソーナンス」のみで、稀にムサシのボールから勝手に出てくる時がある。

カウンター・ミラーコートなどの反射わざがメインとなる。

ロケット団(ムコニャ)内では、最強の盾でもある。

サトシのピカチュウをはじめ、数多くのポケモンのわざを打ち返した。

 

とくせい:かげふみ

 

わざ:

(カウンター)

(ミラーコート)

―――――

―――――

(―――――)

 

 

 

その他:

 

 

1話~登場

 

 

サトシの母親(ハナコ)

 

性別:女

年齢:30歳

職業:専業主婦

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

サトシの母親。マサラタウン在住。家では、専業主婦と活動していて、庭で家庭菜園をしている。

サトシの父親であり、夫となる人物は、ポケモントレーナーであり、長く家を空けている。

現在は、遠くに行っているとのこと。

かつては、彼女自身もポケモントレーナーとして旅を夢見ていたことがあり、オーキド博士の元教え子でもある。

バリヤードのことをバリちゃんと呼び。たまに、ピカチュウのことは、ピカちゃんと呼ぶ。

 

追記:

原作小説版設定では、サトシの家は、食堂「マサラハウス」として彼女一人で経営して生計を立てており、

若い頃はモデルとポケモントレーナーを夢見ていたが、結婚後にサトシの育児と食堂に専念した。

また、サトシの父親(夫)と祖父はポケモントレーナーで、旅先で行方不明となっている。

 

 

バリヤード

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

サトシのポケモンであり、サトシの家に住んでいるポケモン。

かつて、ある事情からサトシや母親(ハナコ)と出会い、家に居候。その後サトシがゲットした。

基本、サトシの家で、サトシの母親であるハナコの手伝いをしている。

サトシの母親に懐いていて、本人からは愛称で「バリちゃん」と呼ばれている。

家に居る時は、エプロンを着ている。家事全般のスキルはとても高く、よく家の前を箒がけをしている。

陽気で、コミカルな性格をしている他、パントマイムやカンフー体操をよく行う。

バトルでも強くて、家や母親(ハナコ)がピンチな時はバトルをする。性別はオス。

 

とくせい:不明

 

わざ:

サイコキネシス

きあいパンチ

リフレクター

(バリアー)

(―――――)

 

 

 

オーキド博士(オーキド・ユキナリ)

 

性別:男

年齢:56歳

職業:ポケモン研究の博士(オーキド研究所の所長)

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

マサラタウンにあるオーキド研究所の所長であり、ポケモン博士の第一人者。

サトシが

タマムシ大学携帯獣学部名誉教授でもあり、ポケモンのタイプにより分類法を提唱した人物でもある。

ポケモン研究を体系化した偉大な人物として、ポケモン関連の研究者やトレーナーからも尊敬されている。

かつて、凄腕のポケモントレーナーであり、ポケモン図鑑の完成を目指し、旅をしていたが、

年齢の肉体の限界で、引退した。サトシのライバルであるシゲルの祖父でもある。

アローラ地方に、ポケモン研究をしているナリヤ博士という従兄弟がいる。

 

追記:

原作小説版では、在学中の25歳で博士号を取得し、故郷のマサラタウンで研究所を構えた。

また、オーキド博士には兄弟居て、彼は三兄弟の末弟。長兄はマサラタウンの町長で、次兄は郵便局長をしている。

 

 

 

 

ケンジ

 

性別:男

年齢:10代中頃

職業:元ポケモンウォッチャー、現在オーキド博士の助手

 

(ポケモンアニメ原作キャラ)

 

サトシが、オレンジ諸島で出会ったポケモンウォッチャー。

オレンジ諸島ので旅で共に活動をしていた。

マサラタウンに戻った後、尊敬しているオーキド博士の元で、助手をしている。

絵が上手い。頼まれたら断れにくい性格でもある。

 

 

 

 

トオキ

 

性別:男

年齢:9歳

職業:小学生

 

当作品のオリジナルキャラ。

マサラタウンの在住で、サトシが旅立った後に、引っ越し来た家の子供。

来年10歳となる為、オーキド研究所で博士によるポケモンやトレーナーについての

説明を受けていた。

しかし、その場で出会ったサトシとある賭けをして、それが理由でサトシは旅に出ることとなる。




再度。内容の修正や追加もありますので、ご注意下さい。


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設定・用語まとめ

<ポケットモンスター トライアル・パレード>に出てくる設定・用語のまとめ紹介一覧です。

本編1話~、読む前に読まれる方は、ご注意下さい。
また、内容の追加や修正は、後日行われる予定です。


設定:

 

当作品におけるポケモン設定

 

 

ポケモンが覚えれる・使用できるわざ。

 

わざのスロットは最大5つ

内:

攻撃・ダメージ系わざは1~4つまで

変化系わざ1~3つまで

 

例:

攻撃ダメージ系わざ4つ+変化系わざ1つ 計5つ(MAX

攻撃ダメージ系わざ2つ+変化系わざ3つ 計5つ(MAX

攻撃ダメージ系わざ2つ+変化型わざ2つ 計4つ

 

 

各わざの種類判断

 

攻撃ダメージ系わざ:(例)たいあたり、かえんほうしゃ、でんこうせっか、カウンター

 

変化系わざ:(例)なきごえ、まもる、こうそくいどう、どくどく、あられ

 

 

 

 

用語:

 

 

<地名・町名>

 

ハルタス地方

 

アハラ地方の東側、フィオレ地方の北側、ジョウト地方の西側に位置する地方。

サトシが、最初に入った地方。マナオの故郷がある。

 

町村:ミョウコシティ、ノウトミタウン、ヨヨミキシティ、チョウドタウン

 

 

フィオレ地方

 

(原作ゲームに存在する地方)

ジョウト地方の西側沿岸に面した小さな地方。

自然が豊かな環境で、北に、シクラ山脈が聳えていて、地方内には、古代遺跡も点在している。また、地方内には代表的な町が、東西南北に4つある。

(北:ウインタウン、東:フォルシティ、南(離島):サマランド、西:リングタウン)

 

 

アハラ地方

 

ホウエン地方の東側、ハルタス・フィオレ地方の西側に位置する地方。

今回、サトシの目的地の1つでもある。

 

 

シントー地方

 

ホウエン地方の東側、アハラ地方の南側、ジョウト地方の西側に位置する地方。

今回、サトシの目的地の1つでもある。ヒョウリ曰く、シントー地方は本人の出身地らしい。

 

 

 

 

<イベント名>

 

 

ソウテン大会

 

今年、シントー地方とアハラ地方の両方で開かれる事となった合同ポケモンリーグの大会。

6年前に、何らかの事情で、シントー地方とアハラ地方のポケモンリーグ大会が中止となり、6年間行われなくなった。そして、今年になってポケモン協会により、2つのリーグ大会を混ぜた合同リーグを開催することを決めた。

開催するにあたり、条件は少し通常のリーグ戦と、異なるものがある。現在、詳細不明。

 

開催場所は、現在不明。

 

 

 

ポケモントレーナー・ベストカップ

 

ポケモン協会公認で、ポケモンリーグやポケモンコンテストとは別で、ポケモントレーナーの為に出来たイベント。

トレーナーを挑戦者として、用意した試練に挑ませ、達成した者を優秀なトレーナーとして扱う大会。

主に、ハルタス地方、フィオレ地方、アハラ地方、シントー地方で、行われている。

開催は、毎年2シーズン毎で行われて、開催場所や試練の内容は、シーズン・試練毎でランダム。

試練は、最初の第一の試練から最終の第五の試練が用意されていて、第一から順に達成し、次の試練へ挑める。

挑戦者一人と共に、参加出来るポケモンは一体のみ。

 

 

開催される各試練では、その試練の責任者である監督役がいる。

各試練の内容は、開催当日の開始時に、運営・監督から挑戦者達への発表説明が行われる。

試練の内容は、関係者の中でも監督役をはじめ極一部の者しか、知らないようになっている。

また、試練の内容は、毎回内容が変わり、対策が難しく、試練の順を追う毎に、その難易度が高くなっていくようになっている。

ヒョウリ曰く、最初の第一の試練にへ千人が挑戦し、最後の試練に達成出来る者は両手で数えれる程しかいないとの事。

 

試練への挑戦者は、参加時にポケモンを一体決めて、参加登録させる。

参加登録していないポケモンは、原則使用や持ち込むが不可能となっている。

違反防止の為、未登録参加の手持ちポケモンは、運営または非挑戦者である第三者へお預かりとなるか、送信装置付きのボールロックを付ける事となる。

また、所持している未使用である空のモンスターボールも持ち込めないので、運営または非挑戦者である第三者へ預ける事となる。

 

試練を見事達成出来た者には、達成者としての証のベストカップコインが貰える。

第一の試練では、ファーストコインが貰える。各試練毎にコインがあり、そのコインを獲得している者が、次の試練への挑戦権利を持つ。

コインの受領後、次の試練の開催場所と日程を教えられる。

試練の日程は、原則決定日に開催される為、当日までに到着・登録参加が出来ない場合は、未出場扱いとなり、参加出来ない。

その場合は、次のシーズンで受ける事も可能だ。未出場・試練失格となっても、次のシーズンで挑戦が可能。

 

当イベントは、厳しいセキュリティチェックで管理・監視されていて、挑戦者の身元や登録時の身分証がすぐに把握出来る。

過去に、当イベントを含めてポケモン協会開催によるイベント行事で、違反行為による参加禁止を受けた者並びに犯罪行為による指名手配された者は、挑戦出来ない。

また、各試練でも監視管理体勢が高く、試練中の違反・不正行為は、すぐに分かるようになっている。

その場合、その試練での監督役または運営により、挑戦者の処遇が決定される。永久追放となれば、一生挑戦は不可能となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

<機械・道具名>

 

 

シークレットボール

 

某企業が今年になってサービスを開始したレンタルポケモンの専用ボール。

中に入ったポケモンは、利用者には秘密で、開けてから判明する。

見た目は、通常のモンスターボールと同じ形状と大きさだが、ボール全体が紫カラー。また、ボール上面部の中央ボタンの上には、?の印があり、下部には長方形上の枠が入っている。下の枠は、中のポケモンを出すと、使用できるわざが表示される。

 

サトシ達の前に現れるロケット団(通称:ムコニャ)が使用していた。

 

費用は、貸し出し期間+使用回数(レンタル期間中ポケモンをボールから出した回数)で請求される。ロケット団は、給料から天引きされるとのこと。

 

キャッチフレーズとして、

「強いポケモンが入っている」

「どんなポケモンが入ってるかは、開けてからのお楽しみ」

「お金があれば、貴方も強いポケモンに勝てる」

というものらしい。

 

 

 

 

ボールロック

 

ポケモントレーナーベストカップで、サトシがはじめて知った者。ヒョウリ曰く、ここ最近で世間に出たもの。

見た目は、特殊な樹脂製の短いベルトが2本あり、重なって十字状なっている。

使用方法は、モンスターボールを、それで覆うように固定する。

4本のベルトの内、3本の先に留め金があり、残り1本の先に付いた留め金の固定部位で、他3本の留め金を固定する。

これにより、モンスターボールが開かなくなり、中からポケモンが出れなくなる。

一部のトレーナーで人気があり、勝手に出てくるポケモンへの防止用、危険な場所や保管しているポケモンが、誤って出て来ないようにも使うとの事。

また、着脱認識用の送信装置付きのモデルもあり、その場合一度モンスターボールへ装着させた後、取り外した瞬間。受信器に、取り外したという信号が送られる仕組みになっている。

これにより、挑戦者の不正が分かるようになる。




再度。内容の追加や修正がありますので、ご注意下さい。


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1話「マサラタウンの少年」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、お読み下さい。



<サトシの旅がはじまって一年後>

 

カントー地方にある、山に囲まれた田舎町<マサラタウン>。

時刻は、朝日が山を超え、温かい日差しで町を照らしている時間。その光に照らされ人々やポケモン達は目を覚まし、新しい一日を迎えていた。

その町に、ある1つの二階建ての一軒家。その二階にある部屋から、電子音が鳴り響いていた。その部屋では、一人の少年が鼻提灯を作り、いびきをかいて寝ていた。彼が、サトシだ。

そこは、サトシの部屋でロフトベットのある仕様だった。壁には、ポケモンの<ヒトカゲ・ゼニガメ・フシギダネ>のポスターをはじめ、ポケモン関連の壁紙や写真などが貼られている他、ポケモンの人形やフィギュアがあり、ポケモン関連の本がある本棚や机、いろいろなポケモンバトルの大会で手に入れたトロフィーやメダルが並べられた台などと、ポケモン好きの彼らしい部屋模様だった。だが、部屋は床も含めて余り片付けられておらず、散らかっていた様だ。そんな部屋で、先程からヘッドボードに置かれたモンスターボール型目覚まし時計が、アラームを鳴り続けているのに対して、一切起きる気配がないサトシ。そのサトシの体に僅かに掛かったタオルケットに、1つの膨らみが出来ている。暫くすると、その膨らみは動き出し、目覚まし時計を目指した。タオルケットから黄色い小さな腕が飛び出し、必死に時計を触ろうとした。

すると、サトシが寝ぼけながら、起き上がった。その拍子に、タオルケットが引っ張られ、黄色い手の正体が顕になった。それは、でんきタイプのねずみポケモンであり、サトシの相棒ピカチュウだった。タオルケットから抜け出たピカチュウは、一回自分の頭を振るうと、寝ているサトシに向かい「ピカピカ」と話しかける。どうやら、早く起きるように言っているのだ。だが、ピカチュウの言葉が聞こえていないのか。サトシは、上半身を起こしながら、まだいびきをかいていた。その姿を見て、ピカチュウは呆れた顔をしながら、ため息を出す。

「よぉ~し、行くぞぉ~」

すると、サトシが突然、寝言を言うと、腕を伸ばして右手で目覚まし時計を掴んだ。

「ピッ・・・ピカピカ、ピカチュウ!」

その状況を見たピカチュウは、すぐに慌てた声で、サトシに話かけ何かを注意している。その言葉は、寝ぼけているサトシへ伝わる訳がなく、ピカチュウの注意を無視して、彼は。

「キミに・・・決めた!」

彼のよく使う決め台詞を発しながら、腕を大きく振るい、モンスターボールこと置き時計を壁へ向かってスイングした。その結果は、ピカチュウが恐れていた通り、時計はバラバラのガラクタへと姿が変わり、床に転がった。

「ピーカー」

時計の成れの果てを見たピカチュウは、頭から汗を流し、再度ため息を付いた。そして、少し怒った顔つきに変え、サトシへ向き直った。

「ピィカァーチューウ!!!」

ピカチュウは、全身から得意な電撃を放ち、鼻提灯を出しているサトシに浴びせた。その電撃を受けたサトシは、全身が伸び縮みを繰り返しながら、言葉にならない悲鳴を出した。電撃が終えると、彼の髪はアフロ状となり、全身は黒焦げになっていた。ピカチュウの電撃を受けるこれは、毎回行っている彼らのコミュニケーションと言うべきか悩むが、彼らなりの触れ合い方なのだ。二人が共に旅をしてから、この1年以上、ずっとこのようなことを何百、何千回以上と行っている。そのせいか、通常の人間なら既に目を覚ましたり、体が痛みと痺れでまともに動けないのだが、サトシはというと。

「いぃぞ~、ピカチュ~ウ~。10マ~ンボルトだぁ~」

再び、鼻提灯を作り寝ていた。その姿を見たピカチュウは、本日三度目となるため息をつく。そんなサトシを見てピカチュウは、(サトシは、まだ早起きが出来ない変わりに、僕の電撃に耐性が付くばかりだ。どうしたものやら)と悩んでいるような顔をした。そうしていると、ピカチュウの耳が突然、何かに反応した。

「!」

何かが部屋に近づいて来ることに気付いたピカチュウ。だが、その反応を聞いて少し喜んだ表情になった。ピカチュウは、ロフトから降りて部屋のドアの前に立つと。ドアが開き、一人の人間が入ってきた。入って来ると、そのまま寝ているサトシに近づいた。

「こぉ~ら、サトシ」

サトシに話しかける大人の女性。いつまでも、寝ているサトシを揺さぶり、起こそうとする。

「いい加減、起きなさい!」

「ん・・・うん?あれ、・・・ポケモンバトルは?」

やっと目覚めたサトシは、夢から現実に引き戻されたが、まだ寝ぼけているようだ。

「何が、ポケモンバトルよ。いい加減、目を覚ましなさい」

そんなサトシの姿を見て、少し怒った顔をして強めに話すと。

「あ、ママ」

「ママじゃありません。もう朝よ。11歳にもなって、まだ一人で起きれないの?!」

「ご、ごめん」

「全く、もう」

この女性は、サトシの母親である。名前は、ハナコといい、年齢は今年で30歳となる。

「ほら、目覚まし時計片付けてから、顔洗って来なさい。朝ご飯、出来てるわよ」

両手を腰に当てて、サトシにそう告げると。足元で見上げるピカチュウに目を向けた。

「さぁ、ピカチュウ。ポケモンフーズの準備が出来てるからね」

「ピッカー!」

それに喜ぶピカチュウは、返事すると部屋を出て一階へ降りて行った。サトシの母親も後に続いて出て行く。

「ハァ~」

大きな欠伸をしたサトシは、起き上がり、ロフトの階段をゆっくり降りていく。そして、先程投げた置き時計の残骸の前でしゃがみ込んだ。

「ハァー、やっちゃたな。・・・ごめんな」

サトシは、時計にそう謝ると、残骸を1つ1つ拾い集め、ビニール袋に入れていく。集め終わると、袋ごとゴミ箱に捨てた。それから、一階に降りて洗面台で手と顔を洗い、サトシはリビングへ入った。

リビングでは、ピカチュウがテーブルの上に置かれたポケモンフーズが盛られたポケモン用のトレーから1つ1つ手で取って、喜んで食べていた。

「ほら、サトシ。席に付きなさい」

サトシのママは、サトシの朝食をテーブルに並べていた。

「うん」

席につくと、並べられた朝食の前で手を合わせた。

「いただきます」

早速、朝食を食べ始めた。

朝食は、バターとはちみつの掛かったトーストに、ハムエッグとサラダ、コーンスープだった。サトシは、美味しそうに、食べていった。

「ふぅー。ご馳走様」

「ピピカチュ」

朝食を終えたサトシとピカチュウ。母親は、二人の食器を片付けながら、話しかけた。

「サトシ。今日は、オーキド博士のところに行く約束があるんでしょ?」

「ん?うん。ちょっと、子供たちへのポケモン講習会の手伝いを、頼まれたからね。来年からトレーナーになる子もいるから、ちょっと旅の話やレクチャーとかしてほしいって。それと、預けているポケモンたちに顔も出さないといけないし」

「そういえば、ヤマヒコさんの所のケン君に、お花屋さんの所のスミレちゃん、ミチナガ牧場のカンくん、あとは去年引っ越して来たウチマさん家のトオキ君も、参加すると聞いたわねぇ。今年は、結構多いみたいよ」

「そうか。そんなに来るんだ。よぉーし、いいとこしっかり見せないと」

サトシは、やる気を出そうと気合を入れる。

「なら、ちゃんと、しっかりしないさ。貴方は、この街でも有名なポケモントレーナーなんだから」

「わ、分かってるって」

「どうだか。ねぇ、ピカチュウ」

「ピカ、ピカ」

「なんだよ、ピカチュウまで」

ピカチュウと母親の二人に、少し不安に思われるのに不満なサトシ。

「ところで、オーキド博士との約束の時間は何時なの」

「えぇと、確か。9時だったかな」

「・・・もう8時55分よ」

母親は、掛け時計に指を向けると、サトシもその時計を見た。

「・・・」

「・・・」

突然、黙る二人。その沈黙の空気を、ピカチュウの声で終わらせる。

「・・・ピ、カァーーー(ため息本日4度目)」

「うわぁぁぁ!遅刻だぁ!」

同時に、慌て始めるサトシ。急いで、洗面所に行き、うがいをして歯磨き粉をつけた歯ブラシを口に突っ込み。二階に駆け上る。部屋に戻り、歯を磨きながら、服を着替えていく。そんな慌ただしい音が2階から響くのを1階から見上げる母親とピカチュウ。

「1年経っても、あの子は成長しているやら。ねぇ、ピカチュウ」

「ピカピカ」

それから、3分程が経過した。

「よし、準備OK」

サトシは、着替え終えると、机に置いてあった帽子を掴み、1階へ降りていく。

「ピカチュウ!」

サトシは、玄関で靴を履きながらリビングに居たピカチュウを呼んだ。ピカチュウは、その声を聞いて、玄関まで駆けていく。

「じゃあ、行ってきます!」

玄関を開けるサトシは、リビングにいる母親に向かって出掛ける挨拶をした。

「はい、いってらっしゃい。気をつけなさいよ」

サトシが玄関から出ると、家の前でエプロンを身に着け箒がけをしているポケモンのバリヤードが居た。このバリヤードは、サトシがかつてマサラタウンで起きたある騒動の後でゲットし、現在はサトシの家で母親であるハナコの手伝いをしつつ、一緒に住んでいるのだ。母親のハナコになつき、家族同然に暮らしている。ちなみに、母親からはバリちゃんと呼ばれている。

「おはよう、バリヤード」

「バリバリ」

バリヤードは、右手で手を降ってサトシへ挨拶を返す。

「ピカピ」

「よし、行くぞ!ピカチュウ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、サトシの肩へ飛び乗り、サトシと共にオーキド博士のいる研究所へ向かった。

 

 

サトシとピカチュウが向かった先は、丘の上にある巨大な建物だ。屋根は赤色で半円のアーチ状や三角形状があり、巨大な発電用の風車が備えてある。そこは、オーキド研究所だ。

マサラタウンにあるポケットモンスター研究施設で、カントー地方で最も有名なポケモン研究の施設でもある。ここは、ポケモン研究学会では、有名なオーキド博士の研究施設であり、マサラタウンに住むポケモントレーナーを志す子供達へ支援や初心者用のポケモンやポケモン図鑑を渡すことにもなっている。更に、ここではオーキド研究所で登録している多くのポケモントレーナー達がゲットしたポケモン達を預かり、世話をし、時に研究や観察を行うための、自然豊かな広い敷地を保有している。ポケモン数は、既に千体を超えていると言われている。

二人が、玄関の前につくと、少しだけ息を整え、呼び鈴を押した。暫くして、待っているが反応が無かった。

「あれ」

サトシは、再度呼び鈴を押すと、扉の奥から僅かに足跡が聞こえてきた。そして、玄関の扉が開き、一人の男が出迎えた。

「は~い、お待たせし。あぁ、サトシ、ピカチュウ」

「やぁ、ケンジ」

「ピカピカチュー」

二人を出迎えたのは、ケンジという青年だった。年齢は、サトシより少し年上の10代中盤。かつて、サトシがオレンジ諸島で旅をしている途中で、出会い暫く共に旅をしていた。ポケモンウォッチャーとして、世界中を旅し、様々なポケモンの特徴や能力を観察、研究していた。現在は、ここオーキド研究所でオーキド博士の助手を務めている。

「遅かったな。また、寝坊したのか?」

「ご、ごめん」

二人を研究所に招き入れて玄関を閉めたケンジ。

「もしかして、もう終わったとか?」

「まだ、大丈夫だよ。予定より少し遅れて始まったから」

「そうか、良かった。それで、子供たちは?」

「もう、みんな来ているよ。今は、オーキド博士が研究所内を案内しているところ」

「そうか、よーし。気合い入れていくぞ」

「ハハッ、あんまり力まなくてもいいよ」

「何いってんだ。先輩トレーナーとして、格好いいところを見せないと。それに、来年からトレーナーになるならキッチリ教えて上げないと」

「まぁ、いいけど。あんまり調子に乗って、恥じをかいても知らないぞ」

「大丈夫だって」

ケンジは、二人をオーキド博士と子供達の所へと案内し、ある部屋に入って行く。

部屋の中では、研究用の書物が並んだ本棚や機械が置かれていた。その奥では、7,8人の子供たちと白髪で白衣を身に纏った初老の男性が立っていた。

それの男性が、オーキド博士。このオーキド研究所の所長であり、ポケモンのタイプによる分類法を提唱し、ポケモン世界におけるポケモン研究の第一人者だ。

「という訳じゃ。お?やっと来たか、サトシ」

子供たちに説明をしているオーキド博士は、部屋に入ってきたサトシ達に気付いた。

「ごめんなさい、オーキド博士。ちょっと寝坊しちゃって」

遅れたことに謝るサトシは、申し訳ない顔で近づいていく。

「全く、1年経っても変わらんのう」

困り果てた顔をしたオーキド博士は、サトシを見て眉をひそめ、1度咳払いをしてから子供たちに向いた。

「さて、みんなに紹介しよう。この少年が、1年前にここマサラタウンからポケモントレーナーとなって、旅をしたサトシじゃあ」

オーキド博士は、子供たちにサトシを紹介すると、サトシは背筋を伸ばしぎこちない感じで子供たちに手を振った。

「ど、どうも、みんな。はじめまして・・・サトシです」

「ピカッチュ」

サトシの挨拶に続いて、ピカチュウは肩から降り床に着くと、自己紹介をした。

すると、子供たちはサトシからピカチュウに目線を変えて笑顔になった。

「わぁー、ピカチュウだ」

「私、はじめて見た」

「かわいい」

子供たちは、ピカチュウへ凄い好奇心を示し、すぐさまピカチュウに近づいて、囲んでしゃがんだ。

「ピ、ピカ、ピカ」

その突然の状況に、ピカチュウは辺りを見渡しつつ驚く。そして、子供たちの手はピカチュウへと伸びていった。

「ピカー」

「あ、あぁ、みんな!ピカチュウをあんまり」

ピカチュウは、余り知らない人から体を無闇に触られたり、いじられると怒って電撃で放つ癖がある。この1年近く、旅の中でそういったことは何度も見て、自分の体でも直に経験してきた。そのことを全く知らない子供たちが、ピカチュウを下手に刺激して、電撃を食らったら不味いとサトシは、慌てて止めようとする。だが、ピカチュウの鳴き声で、サトシの不安は一瞬で消えた。

「チャ~」

ピカチュウは、子供たちに触られても怒ることも電撃を放つこともなく、喜んでいた。

子供たちは、顎の部分を撫でられたり、しっぽを優しく触られたりと、気持ちよさそうになっていた。

「あ、あれ?」

「びっくりだろ」

意外な顔をするサトシを横からケンジが話しかける。

「ここ最近、子供たちにピカチュウが人気なんだ。そのせいか、ピカチュウに関する本が売れたりして、ピカチュウの扱い方を知っている子供が多いんだよ」

「へぇ~」

だが、子供たちが自分よりピカチュウに興味しか示さないことに、少しだけ嫉妬したサトシ。

「ちぇ、俺より人気になりやがって」

ピカチュウをちょっと細目で眺めつつ、舌打ちをした。

「さぁ、サトシ。これまでの冒険やポケモンと出会い、バトルについて話してやってくれ」

そうこうしていると、オーキド博士に頼まれていた要件を、早速お願いをされた。

「あ、はい」

「それじゃあ、みんな。これから、サトシの旅の話を聞いてくれ」

それから30分近く、サトシによるこれまでの旅の話が始まった。最初に、ピカチュウとの出会いから初のポケモンゲット、ジム戦、仲間が出来たこと、いろいろな思い出を語っていく。しかし、サトシは、余りたくさんの人前で、このようなプレゼン的なことをしたことが無く、不慣れな説明で、時々言葉が止まったり、噛んだりした。それでも、出来るだけ、子供たちに丁寧に話そうと必死に説明し、最後までやり切った。

「ハァ、ハァ、い、以上です」

「はい、サトシ。説明、ありがとうございました。さぁ~みんな、彼に拍手しよう」

ケンジは、説明を終えたサトシに拍手をし、子供たちにもお願いをした。それに対して、何人かの子供が軽い拍手をしてくれた。

「ど、どうも」

やり切った顔をしたサトシは、少し疲れたような顔をし、拍手をする子供たちに手を振る。

「じゃあ、質問タイムに入ろうか。みんなは、何か質問はあるかな?」

「・・・」

「・・・」

質疑応答時間に入り、ケンジが子供たちに聞いていく。しかし、子供たちからは何も無かった。

「では、次はマサラタウンで貰えるポケモンを見ていこうか」

ケンジは、それから次から次へと予定を進めていった。一方、サトシは思ったより自分の活躍する場面が余り無いことに、不満にはなっていた。あれから1時間以上が経過した。

「そうだ。ポケモンバトルについてだけど、サトシから何かレクチャーをして貰おうか。彼、ポケモンのジム戦をたくさんしているし、リーグ戦でもいっぱい出ているんだよ」

先程から、不満な顔をしていたサトシに気を利かして、ケンジが話題に出す。

「へぇー」

「お兄ちゃん。凄かったんだ」

「そうさ。えっへん」

子供たちから憧れる眼差しを向けられて、一気に元気を取り戻した。

そのサトシを見て、(現金だな)と思うケンジだった。

子供たちから一人ずつ、質問をされていくサトシは、答えていく。だが、説明が偏りすぎて子供たちの質問と眼差しは徐々に薄れていった。それにまた、ショックを受けるサトシ。そうしていると。

「フン」

先程から、窓際の壁に背を預け、両手をポケットに入れた少年が居た。

「ん?あの子は」

サトシは、その少年に気付いていると、背後から近づいたオーキド博士が口開いた。

「あぁ、トオキくんじゃあな。去年、お前さんが旅立ってから暫くして引っ越して来た家のお子さんじゃよ」

そう二人が話していると、同じく気になっていたケンジがトオキに近づた。

「ねぇ、トオキくん。君もサトシのレクチャーを聞かないのかい」

「いいよ。あの人の話なんか。全然、宛にならない」

「あ~ぁ」

「?!」

その言葉を聞いて、汗を垂らすケンジ。だが、時は遅く。その言葉はサトシの耳にも届いてしまった。

「おい、お前。なんで、俺の話が宛にならないんだ?」

少し怒りを出したサトシが、トオキに近づいて行く。

「フッ。そんなの簡単だよ。サトシさん」

そういって、ポケットから手を出すと腕を組んで、サトシの顔を見て言った。

「貴方、セキエイ大会でベスト16だった人でしょ?」

「ウッ。そ、そうだょぉ」

少し痛い過去を言われたサトシは、声を小さくして返事する。

「それで、シロガネ大会でベスト8」

「そ、そうだ」

「次のサイユウ大会でも、またベスト8」

「ッ」

「スズラン大会では、やっとベスト4上がり」

「フン」

「そしたら、ヒガキ大会でまたベスト8へ転落」

「(ガク)」

「あとは、ミアレ大会では準優勝でしたっけ」

「そう、そう、準優勝だぜ。凄いだろ!」

最後に自身を持って大声を出すサトシ。だが、トオキはサトシに向かい。

「ねぇ。サトシさん」

「ん?」

「これだけリーグ戦に参加しているのに。いつに、なったら・・・優勝できるの?」

最後にトオキは、サトシを舐めきった顔をして、トドメを放った。その顔と言葉に、サトシはついに。

「な、なぁぁぁにぃぃぃ!」

サトシは、噴火した。

「お、落ち着け、サトシ」

途中から嫌な予感していたケンジは、慌ててサトシを後ろから羽交い締めにして、止める。サトシは、怒りの余りに2つも年下の子供に大人気ない態度で突っ込もうとする。

先程の、言葉がかなり癇に障り、怒ったオコリザルの状態だった。

「俺は、マナーロ大会で優秀しているんだぞ」

サトシは、怒りつつも反撃の言葉を放った。その言葉を聞いて、トオキは少しだけ間を空けてから質問をした。

「マナーロ大会?・・・どこの大会?」

「アローラ地方だ!」

「あぁ、あの観光地で有名な」

「そうだ」

「つまり、田舎の小さい大会ってことか。・・・意味ないね」

「・・・この野郎ぉぉぉ!」

怒りのボルテージがもう一段階上がったサトシをケンジは必死に止める。

「おい、サトシ。相手は、年下の子供だぞ」

大人気ないサトシのため、ムカつくが守らないといけないトオキのため、必死に踏ん張るケンジ。その彼の気持も露知らず、トオキは言葉を続けた。

「どうせなら、もっと大規模な大きい大会で優勝しなよ」

「クッ」

「まぁ、僕なら来年ポケモントレーナーになって旅に出て、初の大会で優勝とは流石に行かなくても、ベスト4入りの自信はあるね。それで、次の大会では優勝出来るさ」

「フン、どうせお前には出来ないよ」

「何を根拠に、少なくとも貴方より可能性はありますよ」

「見てろ!俺は、次のリーグ戦で優勝してやる。絶対に」

トオキに指を向け、勢いよく宣言したサトシ。

「じゃあ、出来なかったら、どうするの?」

それに対して、問うトオキ。

「絶対、なってみせる」

「なれなかった話だよ。何か賭けてよ」

「な、何か賭けろって・・・言われても」

突然、賭けを持ち込まれ、困るサトシ。何を賭ければいいのか全然考えれないサトシにトオキは、提案をした。

「では、こうしましょう」

「ん?」

「<僕は、マサラ、いやカントー地方で一番ポケモンバトルのセンスがない駄目トレーナーです>って書かれたタスキを一生につけて貰おうかな」

トオキは、サトシにドヤ顔をして内容を説明した。

「ウッ」

それに対して、萎縮してしまったサトシ。その顔を見てトオキは、続けて舐めた態度で言う。

「自信ないの?」

「や、やってやるよ!そんなもの。だが、お前も賭けろよ」

ムキになったサトシを誰も止めない、いや止めれないのだろう。このまま、早く収まってくれとケンジが願う。

「なら、もし本当に優勝したら、貴方に謝罪でも弟子にでも何でもやってあげますよ」

トオキは、どうせ叶わないと分かってるのだろうか、自信満々に自分自身にも厳しい賭けをした。

「よっしゃ!見てろ、今年のリーグ戦で優勝してやるぜ」

「逃げないでくださいね」

「誰が逃げるか!」

年の差2つの子供が喧嘩している光景を眺める、他の子供たちとケンジ、オーキド博士、そしてピカチュウ。

「本当に、サトシはこの1年成長しているのかしてないのか分からん奴だのぉ」

「ハハッ、本当ですね」

「ピカピカ」

その顔は、呆れているという他に無かった。

 

 

昼になり、子供たちは家に帰る時間となった。子供たちを見送ったケンジとサトシ。

最後に、トオキはサトシの方を見て小声で。

「逃げるなよ」

それに対してサトシはというと。

「誰が逃げるか。べー」

舌を出して子供みたいな反撃をした。

もう止めることも突っ込むことにも疲れたケンジは、ただそれを見ているだけだった。

子供たちを送り返した二人は、研究所内に戻りオーキド博士の元へ返った。

「さて、昼食食べますか」

ケンジは、そういって昼食を提案する。

「そうじゃな」

「サトシとピカチュウも予定通り食べて行くだろ」

「うん。母さんにも既に言っているし食べていくよ」

「ピカ」

そう言って、リビングに向かって一緒に昼飯の用意をする。

「わしは、昼飯のカレーを温めるから。そっちはポケモンたちのを頼む」

「はい。サトシ、ポケモンたちの昼飯も用意するから手伝って」

「うん、分かった」

そう言って、研究所にいるポケモンたちのポケモンフーズを用意していく。冷蔵庫から昨晩作っただろうカレーのタッパーを取り出し、鍋で温めるオーキド博士。準備している途中で、ケンジがサトシにふっと話かける。

「ところで、サトシ。本当に大丈夫なのか?あんな約束までして」

「え?何が?」

「何がって、リーグ戦に参加することだよ」

「なんだよ。ケンジまで俺が優勝出来ないとか思っているのか?」

その言葉、サトシは少し不機嫌になる。先程の怒りがまだ残っているようだ。

「いや、そうじゃなくてリーグ戦に参加することだよ」

「・・・どういうこと?」

ケンジの意図する言葉に理解出来ていないサトシ。その会話に、オーキド博士は昼飯のカレーを温めるながら、サトシに話しかける。

「サトシ」

「はい?」

「もう、今年のリーグ戦じゃが。カントー地方もジョウト地方もやらんぞ」

「え?」

オーキド博士の言葉を聞いて、沈黙するサトシ。1分が経過した。

「えぇぇぇ!」

やっとリアクションをして見せたサトシ。

「やっぱ知らなかったか」

「オーキド博士、う、嘘ですよね」

サトシは、オーキド博士にかけよって問う。

「本当じゃあ。とっくに終わった。次は、1年後じゃ」

「・・・」

黙ってから、ほんの数秒考えるサトシは、続けてオーキド博士に投げかけた。

「な、ならホウエン地方だ。それに、シンオウ地方もあるから大丈」

「そちらの2つも、もう終わったよ」

今度は、背後からケンジが答えた。

「そ、そんなぁぁぁ」

「ちなみに、ホウエン地方は3ヶ月前で、シンオウ地方は1ヶ月前にね」

その言葉を聞いて、両手と膝を床につき、絶望した人間のポーズを形作るサトシ。

「きっと、あのトオキくんは、それを見越してあんな条件を突き出したんだよ」

「へぇ?な、なんで教えてくれなかったんだよ」

「いや、僕もあの時すぐに気付かなかったよ。子供たちを見送る時にフッと思い出してさ」

「サトシ、お主が悪い。11歳になっても、年下の子供の挑発に乗った自分を反省するのじゃな」

「・・・」

「ピカピカ」

最後に、慰めるピカチュウがサトシの腕に手を当てる。

サトシの絶望感は、もう立ち直れないかもしれないと言わんばかりに悲痛な状況へと変わっていった。サトシの頭の中では、(神様、伝説のポケモン様、た、助けて)と考えていた。

この絶望的状況で、どう打開するか考えても考えられない中、ケンジが話かける。

「サトシ、嫌かもしれないけど。トオキ君に謝ろう。まだ許しくくれるよ」

「そ、それだけは」

それだけは、嫌だと駄々をこねるが、サトシにとってそれはポケモントレーナーとして、一人の男として許せない。その様子を見て、オーキド博士はため息をつくと、カレーの火を消して、サトシへ近づく。

「だが、・・・ラッキーじゃぞ。サトシ」

「まだ、チャンスはある」

救いの言葉を聞いたサトシは、顔を起こし、オーキド博士を見る。

「え?」

「アハラ地方とシントー地方の大会が残っている」

「ア、アハラ?シントー?」

余り聞き慣れない言葉に、サトシは言う。オーキド博士の言ったワードを聞いてケンジは問いかける。

「ですが、博士。あそこは、何年もリーグ戦をしていませんよ」

「あぁ、確かに6年前からやっておらん。しかし、今年は特別にアハラ地方とシントー地方を混ぜた合同リーグ大会をやる事が決まったのじゃよ。先週、ポケモン協会のバトル協議会で開催が決まったと、連絡が来ていてのお」

「合同リーグ?」

また、はじめて聞く言葉にサトシは聞いた。

「合同リーグ大会。アハラ地方とシントー地方、それぞれで開かれていた2つのリーグ戦を、1つに混ぜて行うという大会じゃよ。その名もソウテン大会」

「ソウテン、大会」

サトシは、立ち上がりオーキド博士に質問を続ける。

「博士。そのアハラ地方とシントー地方って、どこなんですか?」

「アハラ地方は、ジョウト地方から西の方向で、フィオレ地方やハルタス地方の向こう側じゃあ。そして、シントー地方は、フィオレとアハラの南側。丁度、ホウエン地方とジョウト地方の間に位置する大きな島じゃ」

「やったぜ!俺には、まだチャンスがある」

そう言って、両腕を上げて大声で言った。

「ヨーシ!ソウテン大会へ行くぞ!なぁ、ピカチュウ!」

「ピッカチュウー!」

格好をつけて決めるサトシと、続けて腕を伸ばして返事をするピカチュウ。だが、その二人の空気をぐぅ~と大きなお腹の虫が鳴り響いた。

「と、その前に、昼飯」

「チャーーー」

結局、最後に決まらずピカチュウは、転けた。




はじめまして。はじめてSS投稿します。完全オリジナルでなくオリジナル二次小説です。作品でポケモンを選んだ理由は、10年以上ポケモンに触れておらず、他のゲームや漫画にハマっていました。最近、子供の頃好きだったアニメのポケモンが終わるとか聞いて、ここ数年の作品を調べてました。そして、趣味で小説をたまに書いているので、これを機会に二次小説を投稿しようと思い、書いています。結構、文章力が駄目だったり誤字脱字もありえるので、気付いたら修正します。
最後まで読んで頂ければ、幸いです。

ハーメルンもはじめて使いますので、使用を間違える場合もあります。
Q&Aでも分からない点もありますので、教えて頂ければ嬉しいです。


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2話「次の旅路へ」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。


オーキド博士の元で、サトシの次なる旅先が決まった。

サトシは、アハラ地方とシントー地方に向かう為、オーキド研究所で自分のポケモン達に顔を出した後、すぐさま家に帰った。早速、家で母親のハナコにことの説明をすると、旅の仕度をはじめた。

それから2日後の朝。今日は、ピカチュウのお陰でもあるが珍しく早起きをして、朝食を済ませて、出発前の準備をはじめた。今回も、サトシが旅で着ていく服を、母親が新しく手作りで用意した。ズボンや上着の他、いつもサトシにとって欠かせないもの帽子もだ。

その服へ、着替え終わったサトシは、荷持を背負い、ピカチュウと家から出た。家の前では、母親とバリヤード、それと家までわざわざ見送りに来たオーキド博士が待っていた。

「サトシ。ちゃんと着替えや寝袋、ピカちゃんの餌とか全部持ったわね」

「大丈夫だよ。俺は、もう11歳なんだよ」

「11歳でも、まだピカチュウと私に起こされているのに、どこが大丈夫なの」

「今日は、ちゃんと起きたよ」

「毎日起きなさい」

「ウッ」

「もう。本当に、気をつけないよ」

「う、うん」

そうやって親子の挨拶をするが、母親であるハナコは少し心配な顔をしていた。これから暫く、一人息子の顔が見られない。1年前に、サトシがポケモントレーナーとして旅に出る時は、元気に旅立ちを祝い、応援して見送った。けど、不安はやはり心の中にあったようだった。息子が、様々な地方に旅に出る度に、何度も味わい経験していた感覚。次第に慣れていき、急に旅立つことを言われても、応援して見送ることが出来ていた。本人も、サトシの旅出は、当たり前のように、思っていた。しかし、1年ぶりに、その不安が出てきてしまった。

「ハハハ、サトシのママさん。サトシは、ポケモントレーナーになって旅をして、もう1年が経つんじゃ。まだ、心配する点は多いが、この子は大丈夫じゃよ」

「博士」

オーキド博士がそういって宥めると、ポケットから赤い何かの取り出しサトシに渡す。

「サトシよ。新しい地方でまた新しいポケモンとの出会いもあるじゃろ。これを持っていくといい」

「これって」

「今年出た最新のポケモン図鑑じゃあ。今回は、新しい機能も付いておるから、きっと役に立つはずじゃ」

「ありがとうございます」

「それと、留守番をしているケンジも、頑張るよう言っておったぞ」

「はい、ありがとうと伝えて下さい」

「バリヤード、母さんと家のこと頼むぜ」

「バリバリ」

「ピカチュウ、サトシのことお願いね」

「ピカァ」

家族や博士との別れの挨拶を済ませたサトシとピカチュウは、早速出発することにした。

「じゃあ、行ってきます」

「ピッカピカチュー」

サトシとピカチュウは、みんなに手を振り、家を離れていく。

「気をつけるんじゃぞ」

「バリリー」

「こまめに連絡頂戴ね」

 

 

今回、旅の目的となるアハラ地方とシントー地方の合同ポケモンリーグ「ソウテン大会」出場のため、サトシは対象となる地方内にあるジム戦を回らなければならない。それで、サトシは、ホウエン地方の東側にあるアハラ地方へ行くことを決めた。まずは、カントー地方からジョウト地方に移動する為、ヤマブキシティからコガネシティを走るリニアに乗る必要があった。

サトシは、マサラタウンから徒歩でトキワシティに向かった。トキワシティでは、ヤマブキシティ行きのバスがある為、それに乗車し、2時間弱でヤマブキシティの駅前に到着した。

「久しぶりのヤマブキシティだなぁ。ピカチュウ」

「ピカ~」

「さて、早速チケット買うか」

そう言って、駅内に入り券売機でチケットを購入し、落とさないように財布に挟み、ポケットに仕舞った。

「リニアの出発時間は・・・あと40分か。今のうちに、駅弁買っとこうかな。なぁ、ピカチュウ。弁当買いにいこうぜ」

「ピカピカ」

二人で、駅内にある弁当売り場に向かった。この駅の弁当売場には、人間用の弁当も普通に売っているが、最近ではポケモン用の弁当も打っていて、ポケモンフーズを改良したものから様々な好みに合わせた弁当が作られて売っている。

「お、ヤマブキ名物のトンカツ弁当か。新しい旅のはじまりだし今のうちに願掛けでカツにしようかな」

「ピカピ」

「お、ピカチュウは、その卵かけトマトソース風味のフーズにするのか」

「ピッカァ」

二人で弁当を選び終えると、レジで会計をするサトシだが、財布を出す際に、先程買ったチケットが滑り落ちてしまった。その事に気付かないサトシとピカチュウは、弁当を購入してすぐに早速改札口に向かった。その後、レジで会計をする人が、足元のチケットに気づく。

「さて、まだ時間あるし、次の町に備えて道具とかも買っとくか」

「ピカ」

二人は、駅内にあるアイテムショップで少しだけ買い物をした。

「よし、10分前だけど行くか。さぁ、ピカチュウ。久しぶりのリニアだぜ」

「ピカ~」

それから改札口に到着すると、駅員に購入したチケットを渡すため、財布を取り出した。

「お客様、乗車券を拝見します」

「はい、えぇと・・・あれ」

財布の中を見ても、チケットが見当たら無かった。

「あ、小銭入れに入れたかな」

そう言って小銭入れの中を見る。

「あれ?」

「ピカ?」

続いてカード入れの中、もう一度お札入れの中も見た。そして、両手で自分のポケットに突っ込んでみた。だが、手には何も触れるものがなかった。ただ、ポケットの生地だけの感覚が伝わる。

「う、嘘だろ」

サトシは、ポケットの隅から隅まで手探りで探す。そして、奥の生地を摘んでポケットから引き抜き、中身を全て出す。しかし、チケットはなくあるのはただ1本の糸くずだけ。

「も、もしかして・・・チケット落とした?!」

「ピィ・・・カー!!!」

サトシは、慌てて周りを探した。だが、チケットは見当たらなかった。

「くそ、どこだ。どこに落とした」

改札口から離れたサトシとピカチュウは、床や壁の端を見回りながら、先程歩いてきた道や階段、駅弁売り場まで探して行った。念のため、店員に落とし物を聞いたが無いと答えられ、そのまま駅の中で歩いた場所を順番に回っていき探した。

ただ時間だけが過ぎて行った。余裕を持って10分以上前に、改札に行ったのに、その余裕は、一刻一刻と減っていく。

「やっぱ、さっきの改札口かな」

サトシはそういうと改札口に戻った。だが、やはりチケットは見当たらなかった。

「くそ、あと2分も切ってしまった」

「ピカピ」

「勿体ないけど。買い直して、次のリニアに乗るしかないか」

「チュー」

「ごめんな、ピカチュウ。俺のミスで」

「チューチュー」

ピカチュウは、サトシに首を振るが結局見つからなかった事にサトシ同様に残念な顔をする。そして、二人は諦めて券売機まで戻り買い直そうとした時だ。

「君」

突然、後ろの方から誰かに呼び止められた。サトシは、振り返り今の声の主を探した。すると、一人の男の人が立っていた。

「こっち、こっち」

男は、サトシに手招きしながら話かけた。サトシは状況がよく分からなかったが、言われるがまま男に近づいて行く。

近づいて顔をよく見ると青年だった。見た目は、好青年というような良い人に見え、年は少し大人のような雰囲気はあるが、サトシとそう余り変わらないよう若さだった。

男は、近づいたサトシに右手を差し出す。

「これ、君のチケットだろ」

「え?」

サトシは、男の右手へ視線を移すと、そこにはチケットが掴まれていた。

「もしかして、俺のチケット?」

「あぁ」

「けど、どうして?」

「さっき弁当売り場のレジ前で拾ってね。君、さっき会計する時に落としただろ」

そう言われて、サトシは先程のレジの時に、財布を取り出す際のことを思い出す。

「チケットの発車時間を見て、一応ホームで待って探したけど、見当たらなかったからさ。最悪駅員に渡しても良かったんだけど、そしたら誰のチケットなのか確認したりする手続きで時間取られるだろうから。ここで待っていたんだよ。ほら」

サトシは、彼の手に持っていたチケットを受け取る。

「あ、ありがとうございます」

「ピカピカチュウ」

「どう致しまして」

そして、サトシのピカチュウは、改札口を渡り、無事リニアに乗車出来た。

先程の男も、同じく改札口を通り入っていった。

 

 

それからコガネシティ行きのリニアは、予定時刻通り出発した。

座席についたサトシとピカチュウは、窓から景色を眺めて旅の気分を味わっていた。出発してから20分が過ぎた頃には、二人のお腹が空き始めていた。

「なんだか、お腹空いてきたしお昼にしようぜ。ピカチュウ」

「ピカ」

ヤマブキ駅の弁当売り場で買った弁当を広げ、サトシはトンカツ弁当を、ピカチュウはポケモン用トマト風味の卵かけフーズ弁当を食べて、楽しい時間を送った。

それからリニアが発射して、約1時間でジョウト地方のコガネシティに到着した。

リニアから降りたサトシとピカチュウは、駅から出て久々のコガネシティの地に足を着けた。

「久しぶりのコガネシティだ」

「ピカピカ」

「だけど、町を回る時間はないから、いつかまたの機会だな」

「ピカァ」

サトシは、そのまま駅の前にあるバス乗り場に向かった。この駅から目指すアハラ地方のすぐ隣にある地方、ハルタス地方「ミョウコシティ」行きのバスが出ているのだ。サトシは、早速バスの乗車券を購入し、また落とさないように注意して、今度は胸の蓋付きポケットにしまい、しっかりボタンをして蓋をした。次に、乗り場を回って行き、ハルタス地方「ミョウコシティ」行きと書かれたバス停の行列に並んだ。それから5分程で、バス停にバスが停車して運転手が降りてきた。

「よし、これだな。ピカチュウ、このバスに乗るぞ」

「ピカ」

一人ずつ乗車券を見せて、乗っていく十数人が乗っていくとサトシの番が来て、チケットを渡した。

「はい、ありがとうございます。それでは、5のDにお座り下さい」

「はい」

サトシは、バスに乗り込み早速自分の指定された席を探した。

「えぇと、5のD、5のD、5のD」

チケットを持ちながら、席を探す。向かって左側がCとDの列だと分かり左の方を3、4と順番に数えながら進んでいく。そして、5のDの書かれたプレートを見つけた。

「あ、ここか」

サトシが席に座ろうとすると。サトシの隣になる通路側の席に、既に男性客が座っていた。サトシの席は、窓側の席のため、その客の前を通らないと行けない。それで、サトシが一言言おうとした時だ。

「ん?あれ、君は」

サトシは、自分より先に男の方から話しかけられた。そして、男の顔を見て気が付いた。

「あれ、貴方は、さっきの」

リニアに乗る前に、サトシが無くしたチケットを拾ってくれた人だった。

「もしかしてお隣さん?」

「あ、はい」

「そうか。すまない。はい、どうぞ」

席から立ち上がり、道を開けてくれた。

「ありがとうございます」

「ピカピカ」

「どういたしまして」

そして、サトシの後に続いて彼も席に座った。乗客全員が乗り終えると。

「それでは、お客様出発致します」

バスの運転手により、アナウンスが鳴り、ハルタス地方のミョウコシティへ発車した。

それから暫くして、サトシの隣側の男から話かけられた。

「君たちは、どちらで降りるのかな?終点?」

「はい、ミョウコシティまで行きます」

「そうか、なら一緒だね」

「あの先程は、本当にありがとうございます」

「チケットのこと?別にいいよ。偶然拾っただけだから」

「あ、俺、マサラタウンから来たサトシと言います。こっちは、相棒のピカチュウ」

「ピーカピカ」

「そうか、俺の名は、ヒョウリだ。ちょっとだけの間だろうが、宜しく」

それからサトシは、ピカチュウと外の景色を楽しみながら、ヒョウリと度々話を続けることになった。

 

 

バスは、次第にコガネシティを抜けて、森の道へと入っていった。徐々に人里から離れ、北西へ進んでいく。発車してから、1時間程が経過した。バスは、右側に丘や森があって、左側が谷になっている道に入っていた。見ると不安な予感もあるだろうが、安全対策としてガードレールや補強などがあり、道もバスの倍近くある幅で、安全性はあるように思える道ではあった。一方、バスの中はそんな道の様子を無視して、眠っていたり、隣と談笑したり、ゲームをしている等と30名程の乗客はそれぞれで過ごしていた。無論、サトシやヒョウリも話を続けていた。

「そうか。1年前にポケモントレーナーとして旅立って、リーグ戦に出ているのか」

「はい、カントー地方やジョウト地方とかのリーグ戦にも出場しました」

「それは、凄いな。ところで、サトシくんは、マサラタウンの出身と言っていたが、ハルタス地方まで観光とかかい?」

「いえ。今度、アハラ地方とシントー地方で合同で開かれるソウテン大会に出るんです」

「あぁ、あの合同リーグ戦か。ということは、まずアハラ地方に行くんだ。ジムバッチ狙いで」

「はい」

「あの、ヒョウリさんは観光ですか?」

「俺は、観光というより旅かな」

「旅ですか」

「あぁ、ちょっと仕事で休暇がやっと取れたからハルタスやフィオレ、アハラとか見ていこうかなと思って」

「へぇー、ヒョウリさんも旅ですか。いいですよね旅。俺もポケモントレーナーになってあちこち旅をしたんですけど、凄く楽しく。それで、今度いくアハラ地方やシントー地方とか凄く楽しみなんです」

「そうか。きっと、いい旅が出来るよ」

「ありがとうございます。ヒョウリさんも、いい休暇が出来ますよ」

「ふっ、そうかい?」

話がドンドン弾んで言ったのが、それからも話しを続けた。そんな中、バスに突然の衝撃が走った。

「うわっ」

「きゃあ」

「え?」

突然、バスの急ブレーキが掛かったのだ。そのせいで、バス全体が前に慣性の法則で力が加わり、中の乗客達は前の方へ倒れそうになった。

「痛、一体どうしたのよ?」

「な、なんだ?なんだ?」

「どうした?」

「うぇぇぇ」

乗客は、頭を撃ったり、驚いたり、子供の乗客が泣き出したりとパニックになった。

「あぶねぇ」

「ピカチュウ!怪我はないか」

「ピカァ」

「良かった。ホッ、けど一体なにが」

「分からん」

サトシやヒョウリたちも突然のことで、驚いていると、運転手が運転席から立ち上がり乗客へ話かけた。

「申し訳ございません。お客様、お怪我はありませんか?」

そう言って、客の安否確認をする。

「ちょっと、一体何よ?」

「運転手さん、どうしたんだ?」

「す、すいません」

乗客の何人かは怒り、運転席に問いただし文句を言う。すると、ヒョウリは席から立ち上がり、運転手のところ向かった。

「皆さん、落ち着いて。一体、どうしたんですか?」

「それが、道の先でポケモンが」

「?」

運転手に言われたヒョウリは前の方へ向かい、正面ガラス越しに前方を確認した。

「あれは」

目線の先には、バスから前方約50mの先、道の中で、複数のヘルガーと複数のリングマが争っているのだ。

「ヘルガーの群れと、リングマの群れか。野生っぽいな」

ヒョウリは、ポケモンたちを確認していると、後ろからサトシもやって来た。

「あ、ヘルガーとリングマが」

「あぁ、どうやら喧嘩のようだが。だが、なぜここに」

そうしていると、他の客も同じように見てきた。

「うわ、ポケモンの喧嘩だよ」

「リングマじゃあ。あんなにたくさん、ヤバいな」

客がそう驚いていると、ヒョウリは話し出す。

「この辺りは、野生ポケモンがそれ程多くない地域だったはずだ。それに、この道は、野生のポケモンで凶暴なものが生息していない地域で選ばれていたはずだ。だろ、運転手さん?」

「はい、確かにそうです。私も、この道を5年以上走っていますが、リングマやヘルガーなど見たことありません」

二人はそう話あっていると、今度は傍観していた乗客の一人の女性が、二人に話賭けてきた。

「あの」

「はい?」

「私、この先の村に住んでいるのですが。最近、この辺りの山で何かの開発工事が行われたんです。そのせいで、縄張りを失った野生のポケモンたちが、あちこちで争いはじめたと」

「そんなことが」

その説明を聞いたヒョウリは、そう言葉を漏らす。

「運転手さん、どうします?」

「そうですね。一応、本社に連絡して迂回か、引き返すしかないですね」

ヒョウリと運転手は、相談していると。戦っていた一体のリングマが、バスに気付いた。

その視線を感じたヒョウリは、険しい顔をし、リングマを見た。そのリングマは、側にあった大きい岩を持ち上げて、バスに目掛けて投げてきたのだ。

「うわぁぁぁ」

それに気付いた運転手も、驚いて大声を上げるが、運良く岩は、バスの横へズレて道に落ちた。

「ふぅー。不味いな」

ヒョウリは、そう言うと。

「奴らは、人間のせいで縄張りを失った。なら、俺たちを恨んでいるはずだ。運転手さん、早くバックして、ここから離れましょう」

「あ、はい」

すると、戦っていた一匹のヘルガーもこちらに気付いて、突っ込んできた。

「運転手さん。早くバック」

「は、はいぃ」

運転手は、ギアを入れてペダルを踏んで、ゆっくりバックし始めたが、遅かった。

突っ込んで来たヘルガーが<かえんほうしゃ>を吐き出したのだ。そのわざは、バスの車体前方の底部に命中した。その衝撃で、バスはバランスを崩し、運転がしずらくなり、右側の壁に激突してしまった。

「うわぁ」

「きゃあ」

「いて」

乗客たちにも、その衝撃を伝わった。よりパニックになっていった。席から倒れそうになった人をサトシは、助けて起こして上げた。

「大丈夫ですか」

「あ、ありがとう」

運転席の側で立っていたヒョウリは、運転手に対して促した。

「運転手さん、早く」

「はい・・・あれ、あれ」

「どうしました?」

「タイヤが動かない。まさか?」

先程のヘルガーの<かえんほうしゃ>で前輪の2つのタイヤが溶けてしまい、走行が難しくなってしまった。

「タイヤがやられたみたいです」

バスの運転手がそう言っていると、今度は先程とは別のヘルガーもやってきて、再びこちらへ<かえんほうしゃ>を放った。バスの右側の壁に命中した。

「うわぁ」

「くっ」

「このままじゃあ。バスが燃えて爆発してしまう」

運転手は、そう叫んでいると、ヒョウリは何かを決した。

「仕方ない。あいつらとバトルするしかないな。運転手さん、貴方は無線で状況を言って、救援を呼んで下さい」

「はい、分かりました」

ヒョウリは、後ろの乗客に向かって話しかけた。

「この中で、ポケモンを持ってるトレーナー、バトルが出来る人いますか?」

突然、ヒョウリに言われた乗客達は、中々状況が理解出来ないのか。誰も答えようとしなかった。

「今、バスは動けないです。それには、あのポケモンとバトルをして、他の客と一緒に逃げる必要があります。俺は、戦いますが、相手の数多いんです。トレーナーやバトル経験者がいれば、一緒に戦ってくれ」

ヒョウリから説明と説得を受けた客たち、それから数秒ほど間を置いてから客の中から声が上がった。

「あ、はい。俺、元トレーナーでポケモン持ってるっす」

「わ、私も。ポケモンバトルしたことあります」

「僕も。ポケモン、今持ってます」

彼らに続いてサトシも、名乗り上げた。

「俺もやります」

「ピカァ!」

「よし、では早く動きましょう」

「サトシくん?手持ちは?みずタイプのポケモンを持っているか?」

「え、えぇと。今はピカチュウだけで。けど、俺のピカチュウは滅茶苦茶強いです」

「ピッピカチュ!」

「わかった」

そして、バスからヒョウリとサトシをはじめ、バトル参加者たちは次々と降りた。

「運転手さんは、念のためお客さん達をバスから降ろして離れるよう行ってください」

バスの中にいる運転手に

「俺とサトシくんで、正面のポケモンたちの相手をしますから。皆さんは、自分や他の客に近づいたポケモンの相手をお願いします」

「「「はい」」」

そして、運転手の指示のもと、乗客は一人ずつ降りていき、トレーナー達は自分のポケモンを出して陣を構えた。

サトシとヒョウリは、そこから前にいるヘルガーやリングマ達に向かっていった。

「サトシくん?準備はいいか?」

「はい、大丈夫です。それと、俺のことは、サトシでいいですよ」

「・・・OK。なら俺もヒョウリでいい、サトシ」

「ん?」

「君、年は11歳だと言ったな。俺は2個上だが、そんなに変わらん。それと、敬語を余り使われると、ちょっとむず痒い」

「よし、分かった。いくぜヒョウリ」

「あぁ。相手は、リングマ7体、ヘルガー8体。うち、こちらに向かっているのが1体と2体だ。俺は、ヘルガー2体を相手にする。サトシは、リングマ1体を頼む」

「わかった。いくぞ、ピカチュウ」

「ピカ!」

ピカチュウは、サトシの肩から降りて、前に飛び出しリングマに向かって行った。

「さてと」

ヒョウリは、サトシ達から目の前にいるヘルガー2体に視線を戻した。

ヘルガーは、デルビルから進化した(ダークポケモン)で、タイプは(ほのお・あく)。

口から炎を吐き出すことが出来て、その炎はヘルガーの体内にある毒素を燃やしたものらしく、鼻に突き刺す様な臭いがする。また、頭から角が2本生えていて、一番大きく反り返っている個体は、そのグループのリーダーの証だと言われている。

「いくぞ」

ヒョウリは、腰につけたピンポン球の大きさのモンスターボールの1つを掴み取り、ボール中央の出っ張りのスイッチを押す。すると、野球ボール程の大きくなった。

モンスターボールは、野生ポケモンを捕まえ捕獲する世界中で使われているポケモントレーナー必須アイテムであり、捕まえたポケモンや手持ちにするポケモンを保管する為に使われる。その製造企業や構造は、表向きには秘密とされていて、一部の開発者はポケモン研究者しか知られていないトップシークレットとのこと。

ヒョウリの投げたモンスターボールは、空中で開き、中から光が溢れ出て、地面に向かっていった。その光が、徐々に形作られていって、光の中からポケモンが出てきた。

(あれは)

サトシは、ヒョウリが出したポケモンを見た。

それは<ラグラージ>だった。

ラグラージは、ヌマクローが進化した(ぬまうおポケモン)で、タイプは(みず・じめん)。

重さが1トン以上もある岩を持ち上げる力持ちで、更に両腕は岩のように固くて一振りで相手を叩きのめす程のパワーのあるポケモンだ。

ヒョウリは、出したラグラージに合図をする。

「行くぞ。ラグラージ」

それに答えるラグラージ。

「ラージ」

「ラグラージ、右の奴にハイドロポンプ!」

ヒョウリに指示されたラグラージは、<ハイドロポンプ>を2体のうち、右側のヘルガーへ放った。ハイドロポンプは、ヘルガーに向かっていくが、すぐさま躱した。

「ラグラージ、一気に突っ込め」

「ラージ」

次の指示で2体に突っ込んでいくラグラージ。

「かわらわりだ」

指示を受けるとラグラージの右手が光り出し上へと振り上げた。そして、先程のとは別の一体のヘルガーに対して、勢いよく腕を振り下げた。<かわらわり>は見事に命中し、そのままヘルガーは地面にめり込んだ。結果は、一撃で戦闘不能となり、目を回している。

「ガウ」

その光景を見ていたもう一体のヘルガーは、警戒心を強めて背後からラグラージへと飛びかかった。今度は、<かみつき>攻撃のようだ。その状況を見たヒョウリ。

「ラグラージ、後方!ワイドガード!」

すぐさま次の指示を出し、それに従うラグラージ。左腕をヘルガーに向けると、力込める。そして、<かみつき>をしてきたヘルガーの攻撃を防いだ。

「今だ、かわらわり!」

再度、ラグラージは<かわらわり>をヘルガーに対し攻撃、見事に命中し奥へ吹き飛ばした。

そのヘルガーも見事に、一撃で戦闘不能となった模様。

「さて、次は」

奥で戦っているリングマやヘルガーの群れに見る。

 

 

一方、サトシとピカチュウは、一体のリングマとバトルをしていた。

リングマは、ヒメグマから進化した(とうみんポケモン)で、タイプは(ノーマル)。

どんな匂いも嗅ぎ分ける嗅覚を持ち、深く埋まった食べ物も残らず見つけ出す程。

また、縄張りにある美味しい木の実や果物のある木に、自分の爪で傷跡をつけ、マーキングを付ける習性がある。

「ピカチュウ!でんこうせっか!」

「ピカ、ピカピカピカ」

サトシの指示を受けて、ピカチュウは体を瞬時に早く移動し、わざの名前の如く電光石火で動き、相手であるリングマに直接ぶつかり物理的ダメージを与える。

「グァ」

攻撃を受けたリングマは、声を出して体がよろける。

「よし。次は、10マンボルトだ!」

「ピィカァーチュー」

サトシのピカチュウの得意技である10マンボルトがリングマを襲う。一気に、強力な電撃を食らうリングマはついに両膝をついた。

「よし、続いてアイアン」

その時だ。リングマの真横の丘の草木から小さい何かが飛び出し、リングマに近づいたのだ。

「!」

「ピカ?!」

突然、現れた何かを見たサトシとピカチュウは、すぐにその正体が分かった。

「あれは、・・・ヒメグマ」

姿を見たサトシは、そう言葉に出す。かつて旅の中で、リングマと同じく見たことがあるポケモンだからだ。ヒメグマは、リングマの進化前で(こぐまポケモン)と言われているノーマルタイプのポケモン。

「ヒメヒメ」

サトシは、ヒメグマの様子を伺っていると、ピカチュウのダメージを受けたリングマを必死に助けようとしていた。すると、ヒメグマはピカチュウの方を見て、前に出てきた。どうやら、戦おうとしているのだ。

「ヒメェ!」

「もしかして、あのリングマの・・・子供?」

そう考えると、ヒメグマの目から涙が出ていることに気が付いた。泣いているのだ。そして、凄く体が震えていた。恐らく、今までまともにバトルをしたことが無い個体なのだろう。

「・・・」

サトシは、迷った。今は、非常時だからと野生のリングマやヘルガーの群れと戦うことにしたが、ヒメグマの状況を見ると、どうしても攻撃を続ける気持ちが無くなって言ったのだ。

「ピカピ」

「あ、分かってる。けど」

「ピィー」

サトシの表情を見たピカチュウも次第に戦う意欲が薄れて行った。このままでは、自分たちが弱いものいじめをしているようだと。けど、このままだと後ろのバスの乗客達に被害が出てしまうかもしれないと、任された以上守らなければいけないと、2つの気持ちがぶつかる。

サトシがそう悩んでいると、バトルをしていたリングマとは別のリングマが突然、丘の上から現れた。そして、ピカチュウに向かい飛びかかってきたのだ。

「あ!」

「ピカ!」

リングマは、<きりさく>を使ってきた。

「不味い」

サトシは、すぐにピカチュウに指示を出そうとしていたが、時は遅かった。

「ピカァァァ」

リングマの<きりさく>は見事に、ピカチュウにクリンヒットした。突然のことに、ピカチュウ自身も躱すことが出来なかった。そのまま、攻撃を受けたピカチュウは、吹き飛ばされ、地面に転げた。

「ピカチュウ!」

攻撃をしたリングマは、続けてピカチュウに突っ込んでいき、もう一度<きりさく>攻撃を仕掛けようとしていた。ピカチュウは、先程の攻撃で立てる様子は無かった。

「くっ」

サトシは、すぐさま迷うことなくピカチュウを助けに走った。

「おぉぉぉ」

大声を上げながら、ピカチュウに向かうサトシは、途中で地面をスライディングし、そのまま倒れたピカチュウを抱え込む。だが、リングマはほぼ目と鼻の先まで迫っていて、サトシとピカチュウを共に<きりさく>で攻撃しようとした。

「!」

サトシは、ピカチュウを守るように抱きしめ、背中をリングマへと向ける。

「ラグラージ、ワイドガード!」

間一髪だった。ヒョウリの指示で、ラグラージはリングマの<きりさく>を防ぎ、サトシたちを庇うことに成功した。

「あ」

「ラグラージ、かわらわり」

リングマに<かわらわり>の攻撃を行い、吹き飛ばした。

「よし、ハイドロポンプだ」

更に、ハイドロポンプを受けたリングマは、そのまま先程の倒れたリングマと側にいるヒメグマまで飛ばされた。

「グァ」

「ヒメヒメ」

ふっ飛ばされたリングマに駆け寄るヒメグマは、泣きながら、リングマの体を揺する。すると、ピカチュウによってダメージを受けていたリングマが再び立ち上がり、戦闘態勢を取った。

「まだ、やる気か。仕方ない、ラグラージ・・・トドメにまとめて、れいとうビームだ」

「ラージ」

ラグラージは口を大きく開いた。口の前に青白い光が現れ、徐々にそれは大きくなる。(れいとうビーム)の光が貯まると攻撃をする。

「待ってくれ!」

攻撃寸前で、サトシがピカチュウを抱えたまま、ラグラージの前に駆け寄ってきた。

「待て!ラグラージ」

咄嗟に、ヒョウリはラグラージに攻撃中止を命令する。

「なんだ?!どうしたサトシ?」

いきなりのことに、声を上げるヒョウリ。それに対して、サトシは答える。

「あのリングマたちを攻撃するのは、待ってくれ。俺に、・・・任せてくれないか。頼む」

「・・・何をする気だ?」

「あいつらと話す」

「・・・あいつらは、野生の中では人を襲う傾向があるポケモンだぞ。それに、さっきの地元民が言ってただろ。開発工事、人間のせいで、縄張りを失ったと。いわば、俺たちは復讐の対象なんだぞ」

「だからだよ!だから、こんなやり方じゃあ。やっぱり駄目だと思ったんだ。これじゃあ、結局」

サトシは、訴えた言葉を聞いたヒョウリは、一言で突き返した。

「綺麗事だ」

「!」

「事情は、分かってる。俺たち人間の都合で、野生のポケモンたちに迷惑をかけて、この様な事態になったこともだ。だが、それで俺たちが襲われても抵抗、反撃しないのとは訳が違う」

「それは、分かってる。ただ」

「サトシ。お前は、俺たちの後ろにいるトレーナーでもない民間人がいるのを、分かって言ってるのか?」

「あっ」

「俺達が駄目だったら、次はあっちに向かうんだぞ。今、あっちに護衛としてついてるトレーナー達とポケモン。パッと見て、正直、宛にはならない。群れ全員で襲われたら全員負けるだろう」

「ッ」

「そして、お前のピカチュウだ。これ以上、ダメージを受けると取り返しがつかないぞ」

「・・・」

ヒョウリの正論に、サトシは黙った。今、抱えているピカチュウが、ダメージを受けて、危険なこと、ヒョウリが言っている内容も、サトシは、分かっている。自分の我儘で、自分が正しいと思ったことをやろうとする事で、他の人や、ピカチュウにも迷惑がかかることも。サトシは、悩んだ。一番大事な事が何なのかを。

「ピ、カピ」

「!。・・・ピカチュウ」

「ピカ、ピカピ、ピカピカ、チュウ」

「・・・あぁ」

サトシに、ピカチュウは話かける。ポケモンであるピカチュウの言葉は、普通なら人間には理解出来ない。だが、その声と仕草、そして目と目で通して、長い付き合いのあるサトシには、ピカチュウの気持ちが伝わった。そんな二人が、やり取りをしているのを見たヒョウリは、サトシに告げた。

「一度だけだ」

「!」

「もし、上手くいかないなら俺がやる。いいな?」

「・・・あぁ」

「ラグラージ、下がれ」

「ラージ」

ヒョウリはそう言って、ラグラージを下げた。サトシは、そのままヨロヨロで立ち上がるリングマに近づいた。

「グァ」

「リングマ、落ち着いてくれ!」

サトシは、リングマに話しかけた。

「さっきは、悪かった。俺たちは、別に君たちと争う気はないんだ」

「ピカピカ、ピカチュ、ピカピカチュ」

サトシとピカチュウは、必死にリングマを説得しようとする。リングマは、サトシとピカチュウの顔を見た。そして、二人が全く敵対することも悪意がないこともポケモンとしての本能で理解は出来たのだ。

「グゥ」

「分かってくれたのか」

サトシがリングマと通じたようで、話を続ける。

「俺たちは、ただこの先に向かうだけなんだ」

「・・・」

「お前たちが、縄張りを失ったことは聞いた。本当に申し訳がないと思う」

「・・・」

「だから、頼む。もう、辞めてくれ」

「・・・グァ」

リングマが突然、何かの気配を感じた。それは、説得をしているサトシの側に、一匹のヘルガーが近づいていた。

「ピィカ」

「あ」

サトシは驚き、少しだけ警戒をする。だが、一切攻撃をしてこない。そして、そのヘルガーの角は、大きく反り返っていた。恐らく、この群れのリーダーだろう。その事に、サトシは気付いてはいないが、ヘルガーにも話をはじめた。

「ヘルガー、俺たちはお前らと戦う気はないんだ」

「ガウ」

「それと頼む。リングマと争ったりしないでくれ」

「ガァウ、ガァ、ガァァ」

「もしかして、縄張りのことを怒っているのか。確かに、俺たち人間が悪いことをしたと思う。俺は、そんな事をやってないけど、同じ人間として責任を感じる。けど」

サトシは、必死に話す。このまま、平和的に解決することが出来るかもしれないと信じていた。実際、話しているリングマもヘルガーもそう望んでいた。だが、不幸な出来事が起きた。

先程、ヒョウリのラグラージが倒したヘルガーの一体が、目を覚ました。そのヘルガーは今丁度、サトシの後ろ斜めに位置した。その事、サトシもピカチュウも、そのヘルガーやリングマも気付いていない様子。そのヘルガーは、敵対していたリングマより、人間の目が移り、睨んだ。出来るだけ音を立てずに、ゆっくり起き上がり、足に力を入れた。

「・・・ガァァァ!」

そのヘルガーは、遂にサトシへ飛び掛かって行った。

「ピカピ」

「ッ」

咄嗟に気付いたのは、ピカチュウだ。しかし、先程のわざの怪我でまともに動けない為、サトシを助けれない。振り返ったサトシは、ヘルガーに気付き。ピカチュウを右手で庇い、左手でヘルガーから攻撃を防ごうとした。

「クッ」

サトシは、目を閉じて身構えた。それから10秒経過しても痛みも何も感じない。サトシは、不思議に思い、恐る恐る目を開けた。そこには、氷漬けになったヘルガーの姿があった。

(氷漬け)

「例え、ほのおタイプでも、全身凍らされたら動けないだろ」

後ろを振り返ったサトシ。やはり、ヒョウリのラグラージによるもの(れいとうビーム)だった。

「・・・ガウ、ガァァァ」

「!」

氷漬けになった仲間の見て、怒りを顕にした。すぐさま、ラグラージへ走り出し、攻撃をしようとした。

「駄目だ。やめろ!」

サトシの声は、もう届かない。走りながらヘルガーは(かえんほうしゃ)を吐き出す。

「ハイドロポンプ」

ヒョウリの指示で、(ハイドロポンプ)を放ち、(かえんほうしゃ)を相殺。激しい水蒸気が発生し、その煙の中を1体のヘルガーは突き抜ける。今度は、近接戦に持ち込もうとしてきた。そのヘルガーの牙から、僅かに電気が放っていた。でんきタイプの物理わざ(かみなりのキバ)だ。恐らく、(ハイドロポンプ)を放つラグラージが、みずタイプだと分かり、そのわざを選択したのだろう。だが、ラグラージはみずとじめんの2つを併せ持つポケモン。じめんタイプのあるラグラージにでんきわざは、殆ど効かない。野生のヘルガーには、その知識や経験が無いのだろう。ヘルガーのリーダーは、そのまま突撃して(かみなりのキバ)で、ラグラージの左腕に噛みついた。噛みつくダメージを受けるが、ラグラージは平気な顔をしている。そして、肝心な牙に覆う電気は、ラグラージに通じていない。

「残念だ。・・・かわらわりだ」

ラグラージは、噛みつくヘルガー目掛けて右手で殴った。見事に、クリンヒットしたヘルガーは、宙を舞い、そのまま道路の左側の谷へずり落ちていった。

「あぁ」

その光景を見た、サトシ。彼の元に、ヒョウリとラグラージが近づいて来た。

「サトシ」

「・・・」

「悪いが失敗だ」

「そんな、まだ」

サトシは、ヒョウリに悲痛な顔で見ていると。奥で戦っていたヘルガーとリングマ達が、こちらに向かってきたのだ。

「!」

「ハッ」

それに気が付いた、ヒョウリとサトシ。

「争いを辞めて、こちらに向かって来るだと?・・・どうやら、余程俺達(にんげん)を恨んでいるようだな」

そう判断していると、向かってきたヘルガー達は、(かえんほうしゃ)で攻撃してきた。

「ハイドロポンプ!全て撃ち落とせ!」

(ハイドロポンプ)で(かえんほうしゃ)を全て相殺していく。

「続けて、れいとうビームだ」

ヘルガーやリングマ目掛けて放たれる(れいとうビーム)が次々と、彼らを凍らせていく。

「くそ、こんな」

サトシ、それを見て、悲しい顔をする。そうしていると、(れいとうビーム)を抜けた一体のリングマが近くに居たサトシに襲いかかった。

「グァァ」

「あ」

「ピカチュー」

ダメージを負っているピカチュウは、必死に動き、(でんこうせっか)でリングマを押し返した。

「ラグラージ、れいとうビーム」

そして、そのリングマも凍らせた。残るは、リングマ2体とヒメグマだけとなった。

「グァァァ」

先程、話していたリングマは、いきなり大声を上げて、サトシやヒョウリを睨んだ。そして、側にいたヒメグマと倒れているリングマに話しかけ、怪我を負ったリングマを抱えて、ヒメグマをと共に、丘の向こうへ逃げて行った。

「やった!逃げていくぞ」

「助かった」

「すげーぞ。あのトレーナー達」

バスの後ろで隠れていた乗客達が、その光景を見て、喜んでいた。誰も怪我もせずに良かった。そう喜んでいる空気が賑わっていた。ただ、その場の一人と一体のポケモン、サトシとピカチュウだけは凄く悲しい顔をしていた。

「大丈夫か」

後ろから、ヒョウリが地面に座るサトシに近づいて来た。

「ほら、キズぐすりだ。応急処置だが、ピカチュウに使え」

そう言って、サトシにスプレー系のポケモン用回復道具であるキズぐすりを差し出す。

「あ、ありがとう」

サトシは、目を合わさず、それを受け取る。手渡したヒョウリは、バスへと戻ろうとした際、サトシへ一言告げた。

「サトシ、・・・お前。いつか、後悔するぞ」

「・・・」

その言葉にサトシは、ただ黙っているしか無かった。

 

 

騒動の発生から1時間が過ぎた。連絡を受けて、ハルタス地方側から警察やバス等がやってきた。サトシや乗客たちは、迎えに来た救助隊によって、無事に保護された。




今回は、サトシが新しい旅へ出た話でした。
(アハラ地方・シントー地方)で開かれる合同リーグ戦に参加する為、手前の地方ハルタス地方へ移動する時の話です。

そのうち、登場する人物やポケモンが増えたら、キャラまとめ一覧も掲載予定です。
また、オリジナル関連については、別途設定まとめも掲載を考えています。
話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

掲載された作品で、文章・誤字脱字などに気付きましたら、後日改めて修正する可能性もあります。


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3話「サトシとヒョウリの考え」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。


ハルタス地方<ミョウコシティ>

ここは、ハルタス地方で最も東の街で、真南に進めばフィオレ地方、真東に進めば、ジョウト地方となる。

サトシとピカチュウ、ヒョウリ、そして他の乗客達は、バスでの騒動の後、無線で駆けつけて来た救援隊により、保護を受けた。そのまま乗客と共に、迎えに来た別のバスに乗り、この街へ無事に到着した。到着した時刻は、既に夕暮れで、乗客達は急遽手配されたホテルやポケモンセンターで一泊することとなり、後日改めて事故について一人一人に事故の聞き取りをすることになった。勿論、野生ポケモン達とバトルしたサトシ達もだ。

翌日、サトシは昼前にポケモンセンターの個室で、警察のジュンサーから事故の時にあった出来事で、詳しく状況を聞かれ答えた。話は、30分程で終わり、その後昨日からジョーイに預けて怪我の回復を受けていたピカチュウを受け取り、ポケモンセンターの食堂で昼食を取っていた。

「昨日は、散々だったな。ピカチュウ」

「ピィ~カ」

飯を食べながら、サトシとピカチュウとそうボヤいていると。

「やぁ、隣いいかい」

横から話かけられ、サトシは振り返り、見上げた。

「・・・ヒョウリ」

そこに居たのは、昨日バスで一緒になり、共に野生ポケモンとバトルした上、少しだけ口論となったヒョウリだった。

「あぁ、いいよ」

サトシの了承を受けたヒョウリは、テーブルの反対側の席に付いた。

「ピカチュウ、元気そうで良かった」

「あぁ」

「ピカ」

「警察の話は、終わったのか?」

「あ、うん」

「そうか。俺もさっきだ」

そして、ヒョウリも食事を始めた。二人は、そこから暫く会話がないまま食事したが、サトシの方から、会話を切り出した。

「なぁ、ヒョウリ」

「ん?」

「その・・・」

「・・・」

「昨日、その・・・悪かった」

「・・・」

「俺、あの時、どうしても嫌になったんだ。あのまま、あのリングマやヘルガーをただ、撃退することが、良いことだと思わなかった」

「ピカピ」

サトシが、また悲しい顔をして話すのを見て、ピカチュウは、サトシを宥めようとする。

「・・・」

「勿論、あの時は、バスに乗った乗客の人を助けることは第一に考えたさぁ。それでも、もっと他に解決する方法があったんじゃないかなって。だって、あのリングマやヘルガー達だって、好きで争ってる訳じゃないみたいだったし、人間があいつらの生活の場を奪った話しが本当なら」

「俺たちにもその責任があるから、これじゃあ、我々人間が悪だと・・・言いたいのか?」

「あ、・・・うん」

「先に言っておく。サトシ」

「・・・」

「俺は、お前の気持ちを否定している訳じゃない。ただ、あんなやり方と考えでは、世の中、そう簡単に通用しないと言ってるんだ」

「確かに、そうだけど」

「まぁ、俺も少し酷い言い方をしたのも事実だ。そこは、謝罪する」

「いや、別に謝って欲しいわけじゃあ」

「だが、人間が悪くてもポケモンが悪くても、敵対した以上、自分や周りの者を守るのは大事なことだと俺は思っている。それで、結果が悪でも、守りたい自分や周りの人を守れるなら、時には手を汚す必要もあるんじゃないかと。それは、決して自分が無実だと言っている訳ではない」

「・・・」

「だから、俺が悪党に思えるなら、それでもいい。俺は、ああやるべきと、判断してやった」

「別に、俺はお前のことを」

「俺のあんなやり方を見て、一度も俺が嫌な奴に思わなかったのか?」

「・・・ごめん。少し思った」

「ふっ、別にいいさ。人には、それぞれ好みと考えがあって当然だ。ポケモンも同じ。好きな奴、嫌な奴、そんな奴らと出会ってこそ、人もポケモンもまた学んで、成長する」

そう言って、ヒョウリは、コップの水を一口飲んだ。

「さて、この話しは終わろう。お互い、気分が悪くなるだけだ」

「あ、あぁ、そうだな」

その後も互いに食事を続けたが、サトシは食事のペースが遅かった為、先にヒョウリが食事を終えて、黙って立ち上がる。そのまま、食器返却口へと持って行く彼は、立ち止まった。

「なぁ、サトシ」

「?」

「あとで、俺とバトルしないか?気晴らしに」

サトシに、ポケモンバトルを申し込んだ。

「・・・あぁ、やろうぜ」

「ピカピカ」

サトシとピカチュウは、少し元気を取り戻してバトルを受け入れた。

 

 

二人は、ポケモンセンターの外に出た。

施設の隣には、トレーナーが利用するポケモンバトル用の練習場があった。丁度、練習場内には誰も居ない様子で、フィールドは使用出来るようだった。

「それじゃあ」

「やるか」

サトシとヒョウリは、互いに左右へ別れると、フィールドのトレーナーゾーンに移動し、ヒョウリがバトル前のルール確認を取った。

「使用ポケモンは、互いに1体ずつ。戦闘不能か降参した方が負けだ。いいな?」

「あぁ、勿論だ」

互いに確認が取れたことで、お互いに参加させるポケモンを出すことにした。

「行け、ピカチュウ!キミに決めた!」

「ピィカ!」

サトシに呼ばれたピカチュウは、彼の肩から飛び降り、バトルフィールド内に入る。

「行け、ラグラージ!」

ヒョウリは、腰のモンスターボールを1つ、上へ投げた。投げたボールが開き、光を放つとフィールドに中のポケモンを出て来た。

「ラージ」

ボールから出たラグラージは、フィールドの中でピカチュウと対峙する。

「いいか?」

「あぁ」

「それじゃあ。・・・開始だ」

ヒョウリがバトル開始の合図を出した。その合図の瞬間、サトシは、ピカチュウへ速攻で指示を出した。

「ピカチュウ、でんこうせっかだ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、(でんこうせっか)で一気に、ラグラージに正面から突っ込んでいた。それに対して、ヒョウリも指示を出す。

「ラグラージ、じしんだ」

「ラージ」

ラグラージは、両腕を思いっきり振り上げると、一気に地面に手を打つ。すると、フィールド内が一気に地震の如く激しく揺れた。

その激しい揺れにのせいで、(でんこうせっか)のスピードで向かって来ていたピカチュウのわざが途中で、キャンセルされた。

「ピ、ピカァ、ピカァー」

「ラグラージ、れいとうビーム!」

ラグラージは(じしん)を辞め、口を大きく開き、そこから青白い光を発生させる。そして、(じしん)で動きが止まったピカチュウへ目掛け、その光から(れいとうビーム)を放つ。

「ピカチュウ、10マンボルトだ!」

「ピカ。ピィカァ、チューーー!」

咄嗟に、サトシの指示でピカチュウは、(10マンボルト)を放ち、向かって来る(れいとうビーム)にぶつけ、空中で相殺し、爆発した。

(やっぱ、強いな。問題は、ラグラージは、みずとじめんタイプ。ピカチュウの電撃は殆ど通じない。なら)

サトシが、そう考えていると、ヒョウリが先に次の指示を出す。

「ラグラージ、上に目掛けてハイドロポンプだ」

「な?」

サトシは、突然のヒョウリによる妙な指示内容を聞いて驚いた。ラグラージは、その指示通り上空目掛けて(ハイドロポンプ)を放つ。上へ放たれた(ハイドロポンプ)は、空中で、分散し、その水が雨の如く、フィールド内へ降り注ぐ。

「何か分からないが、ピカチュウ!ラグラージに突っ込め!」

「ピカ!」

ピカチュウは、再度ラグラージに突っ込み一気に間を詰める。

「ピカチュウ、アイアンテールだ!」

「ピィカー」

ピカチュウの尻尾は、白く光リ出す。

「ラグラージ、かわらわりだ」

「ラージ」

すぐさま、(ハイドロポンプ)を中断し、ラグラージの右腕が光る。そして、ピカチュウは尻尾を大きく振るい、ラグラージは右腕を振るった。

ピカチュウの(アイアンテール)とラグラージの(かわらわり)は、ぶつかり合った。その衝撃波は、周囲へ風と振動を伝え、周りの木々やサトシとヒョウリの髪が揺れる。それから、その反動もピカチュウとラグラージに影響を与え、互いに後方へ吹き飛ぶが、上手く着地する。

「やるな。お前のピカチュウ」

「そっちこそ。ラグラージ、強いな」

「あぁ。ラグラージ、れいとうビームを相手のフィールドに撃て」

「ラージ」

ラグラージは、またピカチュウ目掛けて(れいとうビーム)を放つ。

「ピカチュウ、躱せ!」

ピカチュウは、難なく(れいとうビーム)を躱す。だが、問題はそこからだった。躱した(れいとうビーム)は、そのままピカチュウ側のフィールド周囲へと当たって行ったのだ。そこで、サトシとピカチュウは、気付いた。

「あっ!」

「ピカッ!」

「気付いたな」

ピカチュウ側のフィールド表面が、凍っていたのだ。先程のラグラージの(ハイドロポンプ)によるスプリンクラーの雨でフィールドが濡らされ、今躱した(れいとうビーム)がフィールドを凍らせて、氷のフィールドへと変えたのだ。

「ピカッ」

「くそ、これじゃあ。余り動けない」

凍らされたフィールドの表面は、摩擦抵抗が少ない為、機動力が高いピカチュウにとっては、体勢を維持することが難しくなる。

「さて、ここからだ。ラグラージ、ハイドロポンプだ」

「こうなったら、正面勝負だ。ピカチュウ、でんこうせっか!」

ラグラージへ突っ込んでいくピカチュウ。

「また、同じ手か。ラグラージ、かわらわり」

「躱せ!」

間一髪で、ラグラージの(かわらわり)を躱し、背後へ回った。

「よし。ピカチュウ、アイアンテールだ!」

「ピィカー」

「後方、ワイドガード!」

「ラージ!」

両腕を構えて、ピカチュウの攻撃を間一髪で防いだ。

「今だ、尻尾を掴め!」

「ピカッ!」

ラグラージは、(アイアンテール)を終了したピカチュウの尻尾を強く掴んだ。

「相手側に投げろ」

指示通り、ラグラージは、そのままピカチュウをサトシ側のフィールドに投げ飛ばした。

「ピカァァァ」

「あ、ピカチュウ」

投げ飛ばされたピカチュウは、凍ったフィールドにぶつかるとそのまま滑っていった。

「よし、れいとうビーム」

「くそ、10マンボルト」

互いのわざが、またぶつかり合い、空中で爆発して煙が舞い起こる。

「ふん、まだ無理か。だが、そのフィールドじゃあ。ピカチュウは、まともに動けない。煙が消えたら、ピカチュウへもう一度、れいとうビームだ」

ヒョウリは、勝つ確証した上、次の攻撃準備に入る。だが、サトシも打開策を考えていた。そして、ピカチュウにある指示を出した。

「ピカチュウ。あの手を使うぞ!」

「ピカ!」

(あの手?・・・何をする気だ?)

ピカチュウは、サトシの意図を理解したようで、返事をする。一方、ヒョウリは、サトシの言葉を聞いて警戒した。

「ピカチュウ、地面に向かって思いっきりアイアンテールだ!」

「ピカ。ピィカァー!」

ピカチュウは、自分のフィールドに目掛け、渾身の(アイアンテール)を食らわせた。それにより、攻撃を受けたところを中心に、氷のフィールド全体の地面ごとヒビが入り、氷が砕け散ったのだ。

「何!」

「よし、これで足場は大丈夫だ」

「ピカ」

その光景を見たヒョウリは、少しだけ驚いた顔をした。

「そうか、中々のパワーのようだ。だが、先程から受けたダメージは、ピカチュウの方が多いぞ」

「まだまだ、これからだぜ。ピカチュウ!もう一度、近づくぞ」

「ピカッ!」

「でんこうせっか」

「ピカァァァ」

「ラグラージ、じしんだ!」

「ラージィ!」

「飛べ!ピカチュウ」

ピカチュウは、(でんこうせっか)の勢いに乗って、高く飛び上がった。そのまま、ラグラージに目掛けてジャンプする形となり、突っ込んでいく。

「空中なら、躱せないぞ。ラグラージ、れいとう」

「ピカチュウ、エレキネットだ!」

「ピィカ!」

ピカチュウの尻尾に黄色の電気の球体が発生し、そのままラグラージに目掛けて投げた。そして、その球体は飛ぶ途中で開き、網状へと変化した。でんきタイプで、相手の動きを封じることが出来るわざだ。

「ッ、れいとうビームで落とせ!」

ラグラージは、(れいとうビーム)で(エレキネット)を相殺する。それで、僅かに起こった煙の中を、ピカチュウは勢いよく突き進んだ。

「そのまま、回転して渾身のアイアンテールだ!」

「ピィィィカァー!」

ピカチュウは、空中で身を翻しながら、尻尾を光らせ、ラグラージへ向かう。

「ラグラージ!かわらわりで打ち負かせ」

「ラァァァジィ!」

ピカチュウとラグラージ、互いの尻尾と手がぶつかり合い、先程よりも凄い衝撃波が起こった。互いのパワーは、このバトルの中で最大のパワーを出しているのだろう。トレーナーであるサトシとヒョウリは、ただ自分たちのポケモンを見守るだけだった。

「頑張れぇ!ピカチュウ!」

サトシは、ぶつかり合いをしているピカチュウへ応援する。

「・・・ラグラージ!」

だが、ヒョウリは、ラグラージへの応援でなく、ある指示を出した。

「もう1つを使え!」

突然の指示にラグラージは、答えた。今、ピカチュウの尻尾を受けている右手とは逆の左手で、今度は(かわらわり)を発動したのだ。

「なっ!」

サトシは、その事に気付いた。

「マズイ。ピカチュウ、気をつけろ!」

サトシは、すぐさまピカチュウに警告する。だが、ピカチュウには、それに答える事が出来なかった。今、最大パワーで(アイアンテール)を放ち、ラグラージを押そうとしているからだ。少しでも、力や集中を抜いたら、打ち負かされてしまう。それでも、ラグラージの左の(かわらわり)が発動し、ピカチュウに目掛けて突き出した。

「ピィカ!」

やっと、その事に気が付いたピカチュウ。すぐさま、(アイアンテール)を中断し、回避行動に移ろうとするのだが。

「遅い」

ピカチュウは、身を翻そうとしたが、尻尾に力を込め過ぎた上、中断したせいでバランスを崩し、そのまま左手の(かわらわり)を受けてしまった。

「ピィッカァァァ」

そのまま、サトシに向かって突き飛ばされた。

「ピカチュウ!」

サトシは、ピカチュウの落下地点まで走り出し、そのまま体で受け止めた。

「ピカチュウ、大丈夫か!」

「ピカ、ピ」

ピカチュウは、返事をするが、ダメージが受けたせいで、まともに会話は出来ない。サトシは、ピカチュウの顔から尻尾に目線を移す。尻尾は、怪我のように腫れていた。それに身体中、あちこち擦り傷が出来ていた。

一方、ヒョウリは、自分のラグラージの元へ駆けっていた。

「どうだ、ラグラージ」

「ラァー、ジ」

ヒョウリに返事をするラグラージは、少し苦痛な顔をしていた。ヒョウリは、ラグラージの右手を見ると、凄く腫れて怪我を負っているのが分かった。その怪我を見たヒョウリは、サトシに抱かれているピカチュウの方を見た。

「あのピカチュウのパワー、想定以上だな」

(もし、ラグラージにじめんタイプが無かったら、この勝負は負けてたかもな)

ピカチュウに対して、そう評価するヒョウリは、ボールを取り出して、ラグラージを戻した。

「ご苦労だ、ラグラージ。・・・サトシ」

サトシは、ヒョウリに呼ばれ、顔を向ける。

「この勝負、引き分けだ。このままだと、ポケモン達にダメージが重なって、明日もポケモンセンターで1泊する羽目になるぞ」

サトシは、ヒョウリの言っていることは、正しいと分かっていた。少し悔しさもあるが、ピカチュウの方が、大事だと理解もしていた。

「・・・あぁ、この勝負。引き分けだ」

サトシとヒョウリは、互いにその結果で納得し、バトルを終えた。

二人が、その様なやり取りをしている中、練習場の中にある林に潜んでいる者達がいた。先程からのバトルを、その何者か達が、ずっと見ていたのだ。

「あのラグラージ、結構強そうだな」

「えぇ、あのピカチュウを、あそこまで相手に出来るんだから、間違いなく強いポケモンよ」

「ピカチュウは、今のダメージでまともに動けないにゃ」

「となれば、あのラグラージと共に、確実にポケモンセンターに預けられる。そこで」

「私たちが、預かった他のトレーナー達のポケモンと一緒に盗めば」

「ニャー達のものにゃ」

「ソーナンス」

潜んでいる彼らが、その様な悪巧みをしていることに、誰も気付かなかった。

 

 

ポケモンセンターに戻った二人。サトシは、受付で怪我をしたピカチュウを預け、ヒョウリはラグラージ以外のポケモンを含めて5つのモンスターボールを、ジョーイに預けた。預かったジョーイは、後にピカチュウとラグラージの怪我の具合を見て、サトシとヒョウリへ少しだけ注意をして、それを受けたサトシとヒョウリは、ポケモンを預けた後、センター内の休憩所で、お茶を飲んでいた。

「お前の、ピカチュウ。本当に凄いな」

「あぁ。俺のピカチュウは、世界で最強のピカチュウで、俺の一番の友だちだから」

「友達か。確かに、お前らの見ていると丸で親友って感じがするな」

「あぁ、ピカチュウは俺の大事な親友だ」

「他のポケモンはどうなんだ?」

「え?」

「あのピカチュウ以外にもゲットしたポケモンは勿論いるんだろ」

「あぁ、勿論。他の皆も大事な俺の仲間さぁ」

「お前、みたいなトレーナーにゲットされて、そいつらも凄く嬉しいだろうな」

「まぁな」

「・・・なぁ。・・・昨日の件をむしり返すようなことは言いたくないが」

「ん?」

「お前が、もし自分のポケモンでもないポケモンまで助けたいという気持ちがあるというなら、もっと賢く動いた方がいいぞ」

「・・・」

「じゃないと、いつか、もっと大切なものを失う羽目になる」

「・・・」

「さてと」

ヒョウリは立ち上がり、飲みきった紙コップをゴミ箱へ捨てた。

「俺は、ちょっと用事があるから、夜まで出掛ける。じゃあ、またな」

ヒョウリは、そのまま外へ外出し、サトシはセンターの中で時間を過ごした。

 

 

時刻は過ぎて行き深夜0時過ぎ。

街のあちこちでは、次第に明かりが落とされていき、ポケモンセンターも一部を除いて電気が切られていた。サトシをはじめ、ポケモンセンターに泊まる多くのトレーナー達は、各自の部屋で眠りに付いていた。一方で、預けられてたポケモン達は、モンスターボールの中や回復用の機器やベッドの上で眠っていた。昼間に怪我を負ったピカチュウも共に。

センター内の一室では、明かりが点いていた。

「はぁ~~~」

中では、明日の準備と、本日治療したポケモンのデータをパソコンでまとめているジョーイが、まだ起きていた。明日も仕事があるのに、仕事熱心な彼女は、あくびをしながらも仕事をしている。

「ハピハピ」

そこへ、一体のナースの格好をしたハピナスが、ジョーイにコーヒーを持ってきた。

「あら、ありがとう。ハピナス」

「ハピハピ」

コーヒーを受け取り、眠気を和らげ仕事を早く済ませようとしていたその時。

ウィーン、ウィーン、ウィーンと施設内で、警報音が鳴り響いた。

「な!」

「ハピ!」

突然の警報に、ジョーイとハピナスは驚いた。そして、ポケモンセンター内にある宿泊者のいるフロアでは。

「ン、ンンン。ハッ・・・なんだ?」

個室で寝ていたサトシが、突然鳴り響いた警報音に気付き、目覚めた。急いで、部屋を出ると。廊下では、他の部屋から顔を出して、たくさんのトレーナー達も起きていた。

「なんだよ、この夜中に」

「火事か?」

「ちょっと、何よぉ」

突然の警報音に、パニックになる宿泊者達。

すると、ドガァァァン、ガシャャャンと今度は何かが壊れたり、崩れたりする音が響いた。

「なんだ?爆発か?」

「逃げた方がいいじゃないか?」

よりパニックになる彼らに対して、サトシは。

「ピカチュウ!」

すぐに動き出し、音がした方へと走って行った。

 

 

先程の崩れる音を聞いたジョーイとハピナスは、音がした方へ向かっていた。そこは、トレーナーから預かったポケモン達のモンスターボールや治療中のポケモンがいる保管と治療のフロアだった。フロアの中に入ると、煙が充満していた。

「くっ、煙。火災?けど、火災警報は鳴ってない。一体、何が。・・・あれ、モンスターボールがない」

「ハピハピ」

「それに、ここで寝ていたはずのピカチュウも」

部屋に入ると、預かっていたポケモン達のボールや治療用のカプセルに入ったポケモン達の姿が消えていたのだ。何が起こったのか理解出来ないまま、次々起こるアクシデントに驚くジョーイもハピナス。そこへ、サトシが走ってきた。

「ジョーイさん」

「ん?あ、君は、昼間のピカチュウのトレーナー君」

「一体、何があったんですか?」

「大変なの。預かっていた皆のモンスターボールや貴方のピカチュウが消えたの?」

「えぇ!」

ジョーイの言葉を聞いて、サトシは驚き、すぐに部屋の周り見渡した。そこには、たしかにモンスターボールやポケモン達の姿が消えていた。

「ピ、ピカチュウ!」

サトシは、不安な顔となり、すぐさま大声でピカチュウの名前を叫んだ。

「・・・」

「ピカピ」

「!」

すると、煙の奥から微かにピカチュウの返事が聞こえたのだ。

「ピカチュウ!一体、どこなんだ」

「気をつけてね」

「くそ、煙で何も見えない」

サトシとジョーイは、煙の中に入っていく。前は、全く見えない為、サトシはゆっくり近づいていく。

「「フフフ」」

「!」

サトシは足を止めた。進む先の立ち込める煙の中から、笑い声が聞こえてきたのだ。

「誰かいる?」

「一体、誰なの?」

ジョーイが、笑い声の相手に向かって、そう問いた。

「一体誰なのっと、聞かれたら」

「答えてあげるが世の情け」

ジョーイに対して答えた声は、大人の男と女のものだと分かった。そして、その声とセリフを聞いたサトシの顔つきが、一気に変わった。

「まさか、その声とセリフは」

サトシには、その声とセリフに聞き覚えがあった。

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵(かたき)役」

「「とぉ!」」

煙の中を2つの影が飛び上がり、その正体が現れた。

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆ける、ロケット団の二人には」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

「ニャーんてな!」

「ソーーーナンス!」

その正体は、胸にRと書かれた白い服を身につけた、大人の赤髪のロングヘアーの女性とセンター分けにした青髪の男。そして、ポケモンのニャースとソーナンスだった。

サトシは、その一団を見て、やっぱりと思って叫んだ。

「ロケット団!」

サトシがそう怒鳴ると、女が返事をする。

「やぁ、久しぶりねぇ。ジャリボーイ」

男も続けて話しかける。

「元気にしてたか?」

そして、ポケモンなのになぜか人の言葉が話せるニャースも話した。

「久しぶりなのにゃ」

彼らを見たサトシは、拳をぎゅっと握り睨んだ。

「お前らの仕業か」

彼らの会話を聞いていたジョーイは、彼らを見て何かを思い出した。

「ロケット団って、確か、ポケモンを使って悪事を働くとかいう」

「はい、あいつらは、その悪い奴らの仲間です」

サトシが、そう言って彼らに向けて指を指した。

「はじめまして、ミョウコシティのジョーイさん。俺の名はコジロウ」

「私は、ムサシって言うの、よく覚えておきなさい。まぁ、もう二度と合うことはないけど」

「にゃーは、ニャースだけどにゃ」

「ソーナンス」

そう自己紹介をしていると、ロケット団の後ろから緑色の何かの大きな籠が上がって来た。

「あ」

サトシは、上を見上げた。そこには、ニャース柄の気球があり、その気球から下へ張られているワイヤーは、緑色の大きな籠に繋がっていた。その正体は、気球のバスケットだった。

「それじゃあ、バイナラ」

ロケット団は、後ろへ振り返り、バスケットへ飛び乗っていく。

「待てぇ!」

サトシ達は、彼らを追おうとすると、乗る気球はドンドン上がっていき、バスケットの下からワイヤーで釣らされている大きな袋が目に入る。

(まさか、あの袋の中は)

「よしっ」

サトシは、吊り下げられた袋に何かを気付いて、すぐに袋へ飛び掛かろうとした。

「そうはいくか」

コジロウは、バスケットの中から何かを取り出した。それは、先に球体が付いた長い円錐上の機械で、それをサトシへ向けた。

「ポチッとな」

コジロウが、機械のスイッチを入れる。すると、その機械の先から電撃が飛び出して、サトシに直撃した。

「ぐぁぁぁ」

サトシは、電撃を浴びて、叫び声を上げて倒れる。

「君、大丈夫?!」

「ハピィハピィ」

それを見て、慌てて駆け寄るジョーイとハピナス。

「くそぉ」

サトシは、痛みに耐えながら、起き上がろうとする。

「ハハハ。お前に今浴びせた電撃は、この機械から撃ったのさ。そして、その動力源はこちらだ」

コジロウがそう言うと、隣にいたニャースが何かを持ち上げて、それをサトシに見せた。

「ピカピ!」

それは、ピカチュウが閉じ込めているガラス上のカプセルだった。それを見たサトシは、叫んだ。

「ピカチュウ!」

「これは、対ピカチュウ用の捕獲カプセル。ピカチュウの電撃やアイアンテールにも丈夫な構造をしている。そして、もしカプセルがピカチュウの電撃をうけるとカプセルが吸収して、この機械を繋いだケーブルを通し、その電撃をこの機械が貯めて撃てるのさ」

「つまり、あんたが食らったのはピカチュウの攻撃なのよ」

「どうだにゃ。ニャー達が今まで受けてきた痛みが、分かるかにゃ」

「さぁ、ピカチュウ。もっと電撃を出すのよ。そしたら」

「あのジャリボーイに向かって撃つことが出来るからな」

「ピィカァ~」

「嫌なら、大人しくしてるのにゃ」

その脅しを聞いたピカチュウは、抵抗する気が失せてしまった。

「くそ!ピカチュウや皆のポケモンを返せ!」

「返しなさい!」

「ハピィ!」

サトシ達は、気球で上がっていくロケット団に向かって大声を上げる。それを上空から見下げるコジロウとムサシ、ニャースは、彼らを煽った。

「ふん!返せと言われて、返す泥棒が、この世界が居るもんか。べぇー」

「悔しいなら、ここまでおいでぇ。べぇー」

「今、おみゃーのポケモンは、このピカチュウだけだと知ってるにゃ」

「そして、歴代のお仲間のジャリボーイやジャリガールも居ないこともなぁ」

「今回は、残念だったわねぇ。ジャリボーイ」

コジロウやムサシも、勝った気で、サトシを煽っていく。

「くっ」

サトシは、ただ悔しがり見上げるしか無かった。一方、気球では、歓喜が上がっていた。

「「「ヤッター!ヤッター!」」」

「ジャリボーイに、初勝利の瞬間だぁ」

「感動だにゃー」

「私達に、遂に運が回ってきたのね」

「ソーナンス」

既に、盛り上がっているロケット団の乗る気球は、見る見る上昇し、ポケモンセンターの屋根のより高く登っていき、次第にポケモンセンターから離れようと移動して行く。

「くそ、どうしたら」

サトシは、考えた。

(ポケモンは、他に持っていない。ピカチュウは、あの状況。気球は、ドンドン上がっていって、届かない。仮に、飛び乗ろうとしたら、あれで撃たれて、落ちてしまう。)

彼は、途中で考えるのを辞めて、ただ追いかけて奪い返すしか無いと、すぐさま判断し、動こうとしたその時だ。

「サトシ!」

後ろから、自分の名前を呼ばれて、サトシは振り返った。そこには、駆け寄って来たヒョウリだった。

「一体、何があった。それに、あの気球は」

何があったのか理解していないヒョウリに、サトシは教える。

「ヒョウリ、大変だ。ポケモン達が奪われた!」

走ってきたヒョウリにそう教える。

「何!まさか、あのニャース柄の気球で飛んでいる連中にか」

「あぁ」

サトシに続けて、ジョーイも彼に告げた。

「相手は、ロケット団よ」

「何?」

ジョーイから相手の名前を聞いたヒョウリは、目つきが変わった。そして、上空の気球とポケモンが入ったモンスターボールの袋を睨む。

「・・・ジョーイさん。俺が預けたポケモン達5匹は?」

「貴方のポケモンも、他の人達のと一緒に」

「俺のピカチュウもだぁ。あのバスケットの中で、捕まってる」

ほんの少しだけ、黙ってから彼は発言した。

「よし、・・・俺に任せろ」

「え?けど、君のポケモンもロケット団に」

「ある」

端的に答えヒョウリは、自分の右腕を少し動かした。すると、右腕の裾の中から1つのモンスターボールが出てきて右手で掴んだ。それを見たサトシとジョーイは、目を丸くした。

「モンスターボール?」

「なぜ、そこに?」

「こいつは、非常時用で常に持ち歩いている奴だ」

そう言って、ヒョウリはモンスターボールのボタンを押し、大きくなったボールを投げた。

「いけ」

投げたモンスターボールから出てきたのは。

「ハッサム!」

(むしとはがねタイプ)であるはさみポケモンのハッサムだった。

「あれは、ハッサム」

「ハッサム、あの気球から吊り下げているワイヤーを切れ。無理なら、牽制しろ。俺がやる」

「ハッサム」

ヒョウリの指示に、羽で空を飛んでいるハッサムは聞いて、空を飛んでいくロケット団の気球目掛けて飛んでいった。

「ハッサムは、そんなに長く飛べないし、相手の抵抗があるだろう。俺が、直接気球に取り付く」

ヒョウリは、そう言うと、外へと走っていた。

「え?どうやって、おい」

サトシは、彼の後を追いかけた。

空を飛んで逃げて行くロケット団は、勝利気分を味わっていた。すると、ニャースが下の方をふっと見て、あるものに気付いた。

「ニャー大変だにゃ。下からポケモンが向かって来るにゃ」

その言葉を聞いて、ムサシとコジロウも共に見る。

「「何?」」

目線の先には、飛行しているポケモンのハッサムが居た。

「ハッサムだにゃ」

「誰かのポケモンか?くそ、預けていない奴のか」

「ちょっと、どうするのよ」

三人が焦っていると、コジロウが足元の機械を見た。

「仕方ない。まだ、撃てるこいつで」

コジロウは、先程サトシに撃った機械を取り出した。それを、飛んできたハッサムに向けて、狙いを定めるとスイッチを押した。そして、溜めていたピカチュウの電撃を、機械の先から再び放つ。

「!」

ハッサムは、飛んできた電撃を間一髪で、避ける。

「くそ、ちょこまかと」

続けて、コジロウが電撃を立て続けに2発、3発と撃つが、全て躱される。

「ちゃんと狙いなさいよ」

「分かってるよ」

ロケット団は、気球に向かってくるハッサムを相手に、完全に気を取られている。一方で、気球の真下では、ヒョウリが走っていた。ポケモンセンターを飛び出して、ロケット団の気球を追う彼。その後ろには、同じくサトシも追いかけて走る。

暫くして、気球はポケモンセンターを離れて、街を出ようと街中を漂う中、ヒョウリは気球が通る先を見て、歩道橋があるのに気付いた。彼は、すぐに階段を登る。登りながら、彼は、腰に着けていたウエストポーチから何かを取り出した。それは、グリップにトリガーの付いたL字状の道具で、先に何か鋭いモリのようなものが付いていた。登りきった彼は、すぐさまそれを気球のバスケットの底へ狙いを定めた。そして、トリガーを引いた。先に付いたモリの部分が発射され、それが見事にバスケットの底に刺さった。モリの根本には、細いワイヤーがついていて、ヒョウリの手に持つ発射器と繋がっていた。

「ヒョウリ!」

階段を登ってきたサトシは、ヒョウリに近づく。そして、彼の手に持つものを見た。

「それは?まさか、それで」

「あぁ。悪いが、俺だけが行く。俺とお前ではワイヤーが切れる。だから、下から追いかけろ」

そう言って、歩道橋の手すりへ足をかけて一気に飛び降りた。

「あ」

サトシは、飛んだ彼を見て驚くが、ヒョウリは飛んだ瞬間に握っていた発射器のトリガーを再度引いた。すると、内蔵されたモーターが回転し、ワイヤーをドンドン巻き上げたのだ。

それで、地面に落ちること無く、気球へと引かれていった。

「・・・よし」

それを見守っていたサトシは、歩道橋から急いで降りて追跡を続けた。

 

 

一方、ロケット団達は、飛んでいるハッサムに狙い撃ち続けていた。

「くそ、もうエネルギーがない」

「何?」

「ピカチュウ、もっと電撃を出すにゃ」

ニュースがカプセルに閉じ込めているピカチュウに、そう催促する。

「ピィーカ」

ピカチュウは、当然の様に、そっぽを向いて無視をする。

「く、駄目だにゃ」

「こうなったら。念のために用意したポケモン捕獲用ネットランチャーで」

コジロウが、何か新しい道具を出そうとしたその時だ。

グラッと気球が突然揺れた。

「おわぁ」

「なによ」

「なんだにゃ」

突然の揺れに驚くロケット団。暫くして、ドスンと下から何かの音がした。3人は、互いに目線を合わせて、嫌な顔をした。そして、すぐさま真下を見た。

「「「あぁぁぁ!」」」

目線の先には、先程ポケモンセンターから盗んできたモンスターボールの入った大きな袋が、道に落ちていた。

「ちょっと落ちてるじゃない」

「なんで?」

「どうしてだにゃ」

「ソーナンス」

4人が、突然のことで理解が出来ていない中、誰かが話しかけて来た。

「そりゃ、俺が切ったからだよ」

「「「・・・」」」

突然の声、驚く4人。声がする方を見ると、一人の男が、バスケットの中に乗り込んでいた。ヒョウリだ。

「うわぁ、なんだ」

「なんなのよ」

「何者にゃー」

「ソーナンス」

いきなり、現れた男にビビっている4人。

「なぁ、お前ら」

そんな4人にヒョウリは話しかけ、質問した。

「お前ら、本当にロケット団か?」

その質問に、4人は。

「あぁ、そうだ」

「そうよ。ロケット団よ」

「有名な悪い組織だにゃ」

「ソーナンス」

そう答えた4人。そして、ヒョウリは、4人のうち、人間であるコジロウとムサシの顔、そして、服装のRの字を見た。

「そうか。どうやら、本物らしいな」

ヒョウリは、彼らがロケット団だという何かの確証を持ったようだ。

「そうよ。あんた、人の仕事を邪魔するんじゃないよ」

「あぁ、それは悪いな」

「さぁ、痛い目に合いたく無かったら」

「この気球から出て」

「だが、邪魔させて貰うよ」

彼らの言葉を遮り、そう答えた。

「返して貰うぞ。・・・俺のポケモン、それとそのピカチュウ」

そう言って、男は、構えた。

「そうは、いかないにゃ!」

ニャースは、手の爪を伸ばし、ヒョウリは飛び掛かり、右手で(ひっかき)で攻撃しようとした。ヒョウリは、一瞬で上体を後ろへ引き、(ひっかき)を躱す。

「フッ」

次に、自分の右手でニャースの右手を掴むと、自分の右側へ引き込む。そして、右膝を一気に上げて、ニャースの腹に一撃を加えた。

「にゃあ」

そして、掴んだまま、ヒョウリは体を時計回りで回転させて、その勢いでニャースをムサシに目掛けて投げた。

「え?ぎゃあ」

「ニャース!ムサシ!」

コジロウは、二人を見て心配すると、次は自分から飛び掛かった。

「くそ」

だが、ヒョウリは、コジロウの拳を躱して、左手でボディブローを放つ。

「ガハァ」

そして、彼もが倒れ込む。

「くそぉぉぉ。お、お前、何者なんだ?」

「俺か?」

コジロウの質問に、ヒョウリは、少しだけ黙り、最後に答えた。

「・・・ただの、休暇中の旅行者だ」

ヒョウリは、ピカチュウのカプセルを彼らから奪い取り、抱えたまま、飛び降りた。

「ハッサム」

彼のそう叫ぶと、周囲を飛んでいたハッサムが彼の元へ飛んできて、両腕で彼を掴んだ。そして、そのままゆっくりと効果して行き、地面に着した。

「ふぅー、ご苦労だ。休んでくれ」

ヒョウリは、息が僅かに上がったハッサムに礼を言い、モンスターボールにしまった。

「ピカチュウ!」

すると、彼らの元へ、サトシが走ってきた。

「ピカピ!」

「ピカチュウ!」

駆け寄ってきたサトシを見て、ヒョウリはピカチュウのカプセルを見て、ロックを外した。すると、蓋が相手、ピカチュウが飛び出し、サトシに向かい飛んだ。

「ピカチュウ!」

「ピカピ」

サトシは、ピカチュウを抱きしめ、互いに無事を確認し合った。

「さぁて、感動の再会中に悪いが、お二人さん」

二人にヒョウリが、割って入った。

ヒョウリに、呼ばれた二人は、彼を見ると。彼から頼まれた。

「上の奴らをやってくれ。俺のハッサムは休憩中だ」

それを聞いたサトシとピカチュウは、互いに目を見た。

「行けるか?ピカチュウ」

「ピカァ!」

サトシは、ピカチュウに確認を取り、ピカチュウはやる気の返事をした。

「よぉし。行け、ピカチュウ!」

「ピィカ!」

サトシから降りて、ピカチュウは、上空を睨んだ。その頃、上空を飛ぶバスケットから下を見たロケット団はというと。

「痛たわねぇ。あれ、奴はどこよ」

「痛いにゃ」

「く、いてぇ。奴ならピカチュウを持って、逃げた」

「何?」

「・・・てことは」

「まさか」

「この展開は」

「いつものにゃ」

「ソーナンス」

嫌な予感をして、ロケット団は全員青ざめていた。そんなロケット団の乗る気球を睨むピカチュウは、赤い両頬の電気袋から電気をビリビリと放ち、力を溜め込んでいく。

「ピィーカァー」

わざの準備に入るピカチュウ。そして、真下を見て、そのことに気付いたロケット団は慌てて大声を上げた。

「「あわわわぁ、やっぱり」」

「辞めてくれにゃ!」

「ソーナンス!」

最後に、サトシは合図を出した。

「ピカチュウ、10マンボルトだぁ!」

「ヂューーーウ!」

最大チャージをした放たれたピカチュウの10マンボルト。それは、逆さまの稲妻な如く、天空へ立ち登り、気球に直撃した。そして、気球で大爆発が起きた。激しい爆発と煙の中を4つの影が遠くへ飛んでいくのが見えた。

「久しぶりのピカチュウの10マンボルト」

「流石、1年間も俺たちに使い続けたわざ」

「ニャー達、いつも最後はこうだにゃあ」

「ソーナンス!」

「「「やな感じ〜~~!!!」」」

ロケット団は、今まで最後に捨て台詞を言って、遠くの彼方にまで飛ばされた。そして、姿が見えなくなった最後は1つ星の如く煌めきが見えた。

その光景を見たサトシとピカチュウ。

「やったぜ!」

「ピッカ!」

大声で喜ぶ二人を見て、ヒョウリは笑って告げた。

「流石だな。お前のピカチュウ」

「ありがとう。ヒョウリのお陰だよ」

「ピカピカ!」

ヒョウリに対して、お礼を言うサトシとピカチュウ。

「どう致しまして。けど、サトシとピカチュウが最後に終わらせたから、手柄はお互い様だ」

そして、3人は奪い返したモンスターボールの元へと向かった。

 

 

事件の後、警察が来て奪い返したモンスターボールは全て回収出来た。

その後、ポケモンセンターでは、緊急対応として他のポケモン医療の関連スタッフが応援に来て、一匹ずつ診断してチェックして行った。事件の収集や調査もジュンサー達、警察が引き続き、対処してくれることになった。ピカチュウも無事だと分かり、すぐさまサトシの元へ返された。

結局、もう一泊することになった。サトシとピカチュウは、無事だったポケモンセンターの宿泊フロアの個室で一緒に泊まることになった。夕方には、治療が終えたピカチュウは、ベッドの上ですやすや眠っていた。それを見て、頭を優しく撫でるサトシ。そこへ、ドアにノックがした。

「はい」

サトシが、返事をする。ドアが開き、相手が顔を出した。ヒョウリだった。

「少し、いいか」

「あぁ」

サトシから許可を貰い、部屋に入る彼は、入り口の側にあった椅子に座った。

「ピカチュウは?」

「あぁ、大丈夫だ。完全に回復した」

「そうか。何よりだ」

それから、暫く互いに沈黙が続いた。そして、ヒョウリが口を開く。

「サトシ。・・・俺の、昔の話をしていいか」

「?」

「・・・」

「あぁ」

サトシは、ヒョウリの顔を見て、何かを察したのか了承し、ヒョウリは語り始めた。

「俺が、まだ幼い頃。お前みたいに野生のポケモンを助けようとしたことがあるんだ」

語り始めたヒョウリの話を、サトシは黙って聞いていく。

「詳細は、省くが。その野生ポケモンは、ある街で人間やポケモンを傷つけた危険なポケモンだった」

「!」

ヒョウリは、脳内で昔の記憶を思い出しながら話をした。

「俺が、まだ7歳の頃だった。ある用事で、自分の町から離れて別の町へ行った時だ。その町では、丁度野生のポケモンが街に現れて、人やポケモンを襲った事件で話題になっていた。その話しを最初に聞いた時は、俺も怖くなった。街中、子供は家に、大人たちやトレーナーは警察と共に警備に当たり、殺気立っていた。俺も、子供だからと安全な所へ行くように言われたが、どうしても用事で、その町の外れになる森の中へ入る必要があった。それで、隙を見て、森へ行った」

「・・・」

「俺が、森に入ってから暫くして、傷付いたポケモンを見つけた。見たことのない、今でも名前を知らないポケモン。姿は、もうほとんどおぼろげで調べようもない。そのポケモンが、件の町騒がせのポケモンだった。街で聞いた話で、何人かのトレーナーがポケモンを使い、撃退し、相当のダメージを与えたと聞いたから、こいつのことだとすぐに分かった。本当なら、すぐ街に戻って警察や大人達に伝えるべきだっただろうが、俺は助けたくなった」

「・・・」

「街へ戻り、大人たちに黙ったまま、どうにかキズぐすりやオレンのみを入手し、そのポケモンに使った。暫くして、そのポケモンも動けるようになった。それで、俺は喜んだ。そして、俺はそのポケモンに襲われた」

「!」

サトシは、何とも言えない顔になった。

「大した怪我じゃないが、それで打撲と切り傷を負った」

そういって、ヒョウリは、左手で袖越しに右の二の腕部分を少し擦る。

「そのまま、怪我で動けなくなった俺は、ここで死ぬのかなと思った。けど、運がいいのか、ポケモンの捜索を行っていた大人達が森に来ていて、偶然にね。それで、俺を見つけた。そのポケモンと一緒も共に。そして、すぐに俺は、大人たちに保護されて、トレーナーだった者達は、そのポケモンとバトルした。だが、その場にいたトレーナーのポケモン達は次々とやられた。相当強かったよ。そんなポケモンを、俺は手当して回復させてしまった。きっと、あのダメージは、多くのトレーナーやポケモンが犠牲を払った中で、ようやく付けたものなのだったんだろうな」

「・・・」

「結局、既に地元民が応援で呼んでいた優秀なポケモントレーナーが駆けつけていて、そいつのポケモンと共にそいつは倒された。最後は、ポケモン自然保護法とかもあるし、その場でゲットして捕獲。無事に事件は終わった。そのポケモンが、その後どうなっただが、聞いた話じゃあ。ゲットした後も、トレーナーの言う事聞かない上、襲おうとして暴れ、結局危険と判断され、そういう危険なポケモンを収容する専門施設に渡されたみたいだ」

ヒョウリは、話終えると立ち上がった。

「さて、話は以上だ。すまんな、時間とって」

「いや、・・・別にいいよ」

「それじゃあ、俺は部屋に戻って寝るわ」

「なぁ、ヒョウリ」

「ん?」

「お前は、そのポケモンを助けた事、・・・後悔してるのか?」

「・・・いいや」

ヒョウリは、部屋出ようとドアノブを握って開くが、ふッと動きを止めた。

「そうだ。街を出る前に、一応家族に連絡はしておけよ。家でお袋さんがいるんだろ」

最後に、そう言って部屋から出ていった。サトシの母親の件は、一緒に乗ったバスの中で話した時、マサラタウンの家に母親が一人いると話したからだ。その後、サトシは、ポケモンセンターの電話で、家に連絡を入れて、無事に街へ着いたことを連絡した。

 

 

翌日、サトシはミョウコシティを出ることにした。

サトシと全回復出来たピカチュウは、朝食を終えた後、すぐに出発の準備をしてポケモンセンターを出た。そのまま、アハラ地方へ向かう為、通過することになる地方、ハルタス地方のミョウコシティへ向かうことにした。

「さて、行くぞ。ピカチュウ」

「ピカ」

街を出て、西を目指して歩いていくサトシ、次第に建物が無くなっていき、草木が生えた一本道へ入っていくと、看板の側で一人の男が佇んでいた。

「あれ」

「よぉ」

ヒョウリだった。

「サトシは、このまま予定通り、ハルタス地方を抜けてアハラ地方へ行くのか?」

「あぁ、そうだけど」

「そうか。なら、一緒に行かないか?」

「え?」

「丁度、俺もアハラ地方へ行くんだし、折角だ。これも何かの縁だ」

「・・・」

「それに、シントー地方にも行くんだろ。俺はあそこの出身地で、昔居たからな。ある程度、土地勘もある」

「もしかすると、旅の途中までになるかもしれないが、・・・どうだ?嫌ならいいさ」

ヒョウリは、サトシの前に移動した。サトシは、ヒョウリの誘いに、少しだけ迷った。サトシには、ヒョウリは嫌な奴に思えていた上、やり方が酷いと考えていた。正直、一緒に旅をしたくないと1度は考えていた。けど、昨日の出来事や話しを聞いて、その考えが少しだけ変わった。彼は、決して悪党だからでなく、ただ自分のやり方で、その危険や困難を打開して、最善だと思ったことを必死にやっている人なのだと、見た。

「あぁ、一緒に旅しようぜ」

サトシは、笑顔で右手を差し伸べた。その手を見て、彼も少し笑い、握手をした。

「では、宜しくだ。サトシ」

「あぁ、宜しく。ヒョウリ」

互いに握手したサトシとヒョウリは、共に旅をすることになった。




今回は、サトシが出会ったヒョウリとの話です。

同じアハラ地方へ向かう二人が、偶然に出会い、嫌な事件で互いに認めれない点がありましたが、共に旅をすることになりました。
違う考えを持つ彼らが、今後どのような旅をして、どのように展開が動くのか。

そのうち、登場する人物やポケモンが増えたら、キャラまとめ一覧も掲載予定です。
また、オリジナル関連については、別途設定まとめも掲載を考えています。
話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


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4話「バッチ狩り娘マナオ 彼女の約束」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


サトシとピカチュウ、そして旅の仲間に加わったヒョウリは、ミョウコシティを出て、次の街を目指して、西に進んでいった。彼らが、街を出てから、1時間程が経過した。暫く歩いていると、森が見えてきた。彼らは、そのまま森の道へと入って行く。

二人が、森に入ってから暫くして、ヒョウリがサトシに話しかけた。

「ところで、サトシ。お前、地図とか買って用意してるのか?」

「え?いや、持ってないけど」

「そうか」

「・・・もしかして、そっちも?」

「あぁ」

「ピィカ?!」

「えぇぇ!・・・どうしよう、道分からないじゃん」

「いや、俺に文句言うなよ。普通、旅に出るなら用意するもんだろ」

「いや、そうだけど」

「サトシも、今までたくさん旅してたんだろう。地図は、どうしてたんだ」

そう言われて、サトシは少しだけ目を逸らしながら答える。

「今までは、その、仲間に・・・頼ってたからぁ」

「ピカピ」

「・・・ハァー」

サトシは、ピカチュウに、少しだけ目を細められ、ヒョウリからため息をつかれる。

「まぁ、地図は持ってないが、これがあれば」

ヒョウリは、左腕を自分の胸まで上げた。

左手には、金属で出来た腕輪の様なものが嵌めていて、右手でその腕輪のボタンのようなものを押した、すると腕輪から薄い光の線が数本伸びて、それが増えていく。すると、その線が濃くなっていき映像のようなものが出来た。

「おぉ、スゲェ。それって?もしかして、最新のポケナビ?ポケッチとかか?」

それを見たサトシは、驚き、テンションを上げて、腕輪に顔を近づけて聞いてきた。

「ん?あぁ、いや、俺個人の奴だ。既製品を使って、自分なりに改造して作ったんだよ」

ヒョウリは、サトシのリアクションに少し驚いたが、答えた。

「一応、ハルタス地方のマップデータを入れているから、あとは位置座標や距離測定、電波受信等で現在位置を補足しながら、道が分かる。ただ、ここ最近で道が変わり、自然によって通行止めになったりしてるのは、分からないがな」

ヒョウリは、マップを表示しながら、そう説明した。

「もしかして、ヒョウリって科学者、発明家とかなのか?」

「いやいや、ただそういった技術系の知識と腕があるだけでそっちが本業という訳じゃないよ」

「そうか。俺の以前、旅をしていた仲間に、発明好きの奴が居てな」

それからサトシとヒョウリは会話をして、ヒョウリのマップを頼りに、森の中を進んでいった。森に入ってから2時間が経った、次第に森を抜けていき、徐々に視界のいい、草原に挟まれた一本道に出た。

「やっと、森を出た」

「ピカ」

「この先、あと30分程、この道を歩いて行けば、コンビニあるからお昼にそこを寄って行こう」

「あぁ、そうだな」

「ピカピカ」

暫くして、ヒョウリの言った通り、コンビニが見えた。店の看板にPという文字を掲げている。シンオウ地方からホウエン地方まで全国展開しているコンビニストアのチェーンの1つ「Pマート」。その規模は、フレンドリィショップに匹敵するとのこと。駐車場には、車やバイクが止まっていた。コンビニの中には、何人かがコンビニで買い物をしたり、外で飲み物を飲んでいた者も居た。他にも、ポケモンを連れたトレーナーも休憩を取っていた。

サトシ達も、コンビニに入り、昼食や道具などの買い物をした。それから、サトシたちは、買い物を終えて、外に出た。そのまま彼らは、コンビニのすぐ側に、テーブルや椅子などが置かれた休憩所があったので、そこで食事を取ることにした。

「そういえば、サトシって、あちこちのリーグ戦に出場したんだろう。ジムバッチ、結構持ってるのか?」

食事中、ヒョウリから質問をされ、サトシは答える。

「あぁ、カントー地方やジョウト、ホウエン、シンオウとか50個以上はあるかな」

「ほお、ベテランのポケモントレーナーだな」

「そ、そうか。へへ」

二人がそんな、会話をしていると。少し近くの席で座っていた人物が、二人の会話に耳を反応させた。そして、二人の姿を横から睨んだ。

 

 

それから二人は、10分程で休憩所を出た。

ヒョウリがマップを使ってナビゲートしながら、彼らは次の街まで歩き続けた。暫くして草原の地帯から、人気のない林の中へと入っていく。サトシは、左右を見渡し、野生のポケモンがいないか見渡した。一方、ヒョウリは、マップと正面を見ながら、サトシと並んで歩いている。その時だ。

「!」

ヒョウリは、正面から何かが来ているのに気が付いた。

「伏せろ!」

咄嗟に、前触れもなくそう叫び、蹲んだ。ヒョウリの声を聞いて、ピカチュウも同様に。

「え?何?」

だが、サトシだけが突然のことに、対応出来ず、正面から飛んできた何かがサトシの顔へと向かった。

「ガァ」

その何かが、サトシの顔に直撃し、彼は倒れた。

「ピカピ」

「いてぇ!」

サトシは、両手でぶつかった場所を押さえた。一方、サトシにぶつかったそれは、白くて細長い、まるでブーメランのように、回転しながら宙を舞い、サトシたちの後方を飛んでいた。が、途中で円を描き、引き換えしてきた。そのまま、立ち上がったサトシの後方から向かった。

「ッ、痛。・・・今のは、なん、ガァ!」

今度は、サトシの後頭部に直撃して、彼は前に倒れた。

「いてぇ!一体、なんだ!」

サトシは、自分の顔と後頭部を両手で抑えながら、そう叫ぶと。

「フフフ」

突然の誰かの笑い声が聞こえた。

「「「!?」」」

その笑い声に反応するサトシ達は、辺りを見渡す。

「誰だ?どこにいる?」

そして、サトシは、正体が分からない相手に問うと、すぐに返事をした。

「ここだよ」

そう答えた相手は、サトシ道の先の林から飛び出してきた。飛び出した相手を、サトシ達は見ると、一人の人間と1体のポケモンだった。

「痛い目に会いたくなければ。・・・バッチ寄越せ」

そう言った人間の方は、フード付でチャック式のパーカーに、ショートパンツの格好をしていた。顔は、フードは被っていた為、はっきり見えないが、先程の声からして、どうやら女の子のようだった。

(女の声か、それと隣のポケモンは)

ヒョウリは、フードの女から、その隣にいるポケモンを見て、正体がすぐに分かった。

「カラッカ」

「カラカラ」

カラカラは、(こどくポケモン)。じめんタイプのポケモン。頭に骨のヘルメットを被っていて、本当の顔を見た者はいない。また、被っている骨の染みは、会えない母親の思って泣いた時の涙のあとと言われている。

突然、現れた女とカラカラに警戒するサトシ達。そこで、ヒョウリが問いかける。

「バッチを寄越せと言ったな」

「・・・えぇ、言ったわよ」

「まさか、お前、バッチ狩りか?」

「そうよ」

二人の会話を横で聞いていたサトシは、彼女へ怒った声で話す。

「何!バッチ狩りって、他人のバッチを取るって言うのか」

「そうだけど、それが何か?」

「何かじゃないだろ。何を考えてるんだ!」

「ん!」

女は、サトシの激怒した顔に、少し怯んだ反応を示した。

「ジムバッチは、そのトレーナーがポケモンと一緒に頑張ってバトルして、苦労して勝利した者だけが貰える大切な証なんだぞ。それを奪うなんて、何を考えてるんだ!」

「ピカピカ」

「ッ。渡さないのね」

「当たり前だ」

「そう。・・・なら、力尽くで」

「!」

サトシとピカチュウ、女とカラカラは、互いに向かい合い睨み合い、闘争心が徐々に湧き出て、もうあと1歩でバトルをしようとした瞬間。

「ちょっと、待って」

「「!」」

二人の闘争心は、ヒョウリの言葉で止められた。

「なんだよ、ヒョウリ」

突然、割って入り止めてきたヒョウリに、サトシは文句を言う。一方、女の方は。

「どうしたぁ?ビビって、バッチを渡す気になったのかなぁ?」

彼女は、少しニヤついて、舐めた口で聞いてきた。

「いいや」

「って、ちょい。じゃあ」

「お前は、俺らからバッチを取ることが目的なんだな?」

「・・・そうだけど」

「そうか。・・・なら、残念だな」

彼女は、ヒョウリが一体何を言いたいのか理解出来ないでいたが、次の言葉で理解した。

「俺らは、今・・・バッチ0だ」

ヒョウリが回答してから、暫くその場に沈黙が漂った。

「ハッ?」

彼女は、そう声を漏らし、数秒間黙った。

「・・・ハァ!いやいや、だって、さっきコンビニの側で」

「ん?」

「だって、バッチ50個以上持ってるって、言ってたじゃん」

「あぁ、君もさっきの休憩所に居たのか。なるほど、それで俺らを狙った訳か」

状況を把握したヒョウリは、納得したように話す。一方、女の方は。

「お前、嘘ついたのか?」

サトシに向かって怒りを放つ。それに対して、サトシも反論した。

「嘘じゃない!持ってるさ。ただ、今までの全部家に置いてきただけだ」

「・・・ちなみに、家はどこよ?」

「マサラタウンだ!」

「マサラ、タウン・・・どこかで」

「ジョウト地方より向こうのカントー地方の街だよ」

「カントォー?」

マサラタウンの言葉を聞いた彼女は、場所を思い出せ無かった。その彼女に、ヒョウリが教えると、驚いたリアクションを見せた。

「で、君。どうするの?バッチを持ってない俺たちと、バトルする?」

そう言って、ヒョウリは腰のモンスターボールを1つ取り、見せる。

「くっ、こうなったら」

「カラッカ」

ヒョウリの挑発に、彼女とカラカラは構えた。そして、彼女は、大声で叫んだ。

「撤収!」

「カラカラ!」

彼女の号令と共に、彼女とカラカラの二人は、一目散で奥へと駆けていった。

「あぁ、待てぇ!」

逃げる二人に、サトシは呼び止めるが、すぐに姿が見えなくなってしまった。

「くそ、なんだよ。あいつら」

「ただの地元の不良娘ってところかな」

 

 

そんな出来事があったが、サトシ達は、無事に林を抜けることが出来た。そして、ある田舎の村が見えてきた。

「あぁ、やっと外に出られたぁ~」

「ピカァ~」

「やっと村が見えたか」

視界に見えるのは、広い土地で田舎の村だった。

「さて、この先の道は、村を抜けて北西に進むと次の街へ行けるが、その間に森や山を超えないといけない。少し早いが、今日はこの村でキャンプだな」

「え?ここポケモンセンターとか宿屋はないのか?」

「あぁ、ここは、はっきり言って田舎も田舎、ポケモンセンターも宿屋もない。ただ、民家があるだけの村さ。ちなみに、店もないから、買いに行くなら、さっきのコンビニに戻る必要がある」

「そっか。ところで、ここはなんて村なんだ」

サトシの問いに、ヒョウリは口でなく指で示した。サトシは、その指先へ目を向けると、斜めに倒れて、寂れている看板を見た。その看板の書かれている<ノウトミタウン>という文字が微かに読めた。

「さて、ここじゃあ。キャンプは出来ないから、もう少し先へ行こう」

「あぁ」

二人は村の中を進んでいった。周りは、田んぼや畑が僅かにあるが、殆どが、草原だった。

村の家屋は、見える範囲で20件も無い程で、見かける人も数人程度しか見えなかった。

「結構、人も家も少ないんだな。あと、なんか寂しい感じがする」

「ピカ」

「ノウトミタウンは、俺も訪れたことがないが、話で聞いたことはある。20年前まで、広大な田舎で農家が多くて、周囲の街や地方にも農作物を出していたが、年々若者が減って行った上、他の街で農作物の生産が活性化して行き、結果他へ移住する人や農作物を辞めた人が増加したんだ。そして、今の現状は、ここに残った人たちは、自分たちの分だけ食料を確保して生活しているって感じだな」

「そうなことがあったのか」

暫く歩いて行って、二人は開けた土地を見つけた。

「よし、ここをキャンプ地としよう。周囲には建物も畑もない。完全に空き地だな」

ヒョウリが、そう言って荷物を降ろした。サトシとピカチュウは、疲れたのか倒れた大木に、腰を着ける。

「ふぅー、疲れたな」

「ピィカァ~」

それから、二人でキャンプの用意をすることにした。暫くして、夕食や夜に備えて薪集めなどをしていると。

「たく、あの女、絶対許さない」

サトシが、急に愚痴り始めた。それにヒョウリは、問いかけた。

「なんだ、ホネブーメランの2連撃か?」

「違う、いや、それもあるけど、そっちじゃない。バッチのことだよ」

「あぁ、いうことする奴、探せばどんな地方に一人や二人いるもんさ」

「だから、許せないんだよ。他人の努力を奪う行為なんて」

「まぁ、まぁ、良かったじゃねぇか。何も取られる事なかったし。まだ、バッチを1つも取って無いのが功を奏したな」

「なんか嫌だな。それ」

そうやって話していると、二人に近づいて来る人物が居た。

「君たち、他所から来たトレーナーさんかい?」

二人は、話しかけた人物に反応する。その人は、村の人だと思われる中年男性だった。

「あぁ、はい」

「えぇ、今日は一晩だけここでキャンプします」

彼に対して、サトシとヒョウリは答える。

「そうか。私は、この村に住んでいる者だ。いやぁ、この田舎に宿屋が無いから苦労かけるねぇ」

「いえ、俺、キャンプとか好きですから」

「ピカァ」

「そうかい。あぁ、そうそう。もう1つだけど」

「?」

「さっき、バッチを取られた、取られていないとかを話していたが。もしかして、女の子とポケモンのカラカラにバッチをせびられたかい?」

「あ、はい」

「そうです」

男に聞かれて、サトシとヒョウリは答えた。

「あぁ、やっぱりかぁ。大丈夫だったかい?」

「はい、俺達は、何も取られていませんから」

「えぇ、被害と言えば彼の頭に骨が2回当たりましたが」

「ム」

ヒョウリに少し馬鹿にされたような気がして、少し怒るサトシ。

「ピカァ、ピカァ」

「悪い、悪い」

それを宥めるピカチュウ。ヒョウリも、少しからかったことに謝り、男へ質問した。

「それで、その子を知っているのですか?」

「あぁ、この村の子さ。名前は」

 

 

同じ頃。先程、サトシ達を襲ったフードの女とカラカラは、ある古い家に向かって居た。家は、古い和風系の木造一軒屋。屋根は瓦で敷かれているが、所々ひび割れた瓦や抜けて木が見えている所があった。壁も木が少し汚れているだけでなく、所々凹んだり、割れているところあった。あとは、穴が空いているのか、釘と木材で補強している箇所も見受けられた。

女は、家の前に着くと。両手で、顔を隠していたフードを下げた。フードの下は、赤色と黒色が混ざったようなマルーン髪色のセミショートに、顔立ちは10歳位の少女だった。

「ふぅ、よし」

家の戸の前で、一息着けると戸を開けた。

「おばあちゃん。ただいま」

「カラカラ」

家の中に、大声で言うと。

「あら、おかえり。マナオ、カラカラ」

家の奥から腰を悪くした高齢の女性が現れた。

「今日も、特訓して来たのかい?」

「あぁ、う、うん。・・・そうだよ、おばあちゃん」

祖母に、聞かれたマナオと呼ばれた少女は、その質問に何かを隠したかのように、嘘をついた。

「あ、そうだ。予備の薪がもう無かったよね。今夜も必要になるし、裏で薪割ってくるねぇ」

「あ、そうかい。すまないねぇ」

「いいよ。お婆さんは、無理しないで。行こう、カラカラ」

「カラァ」

そう言って、マナオはカラカラと共に、家の裏へ行った。

 

 

「マナオは、今ではこの村の唯一のポケモントレーナーでねぇ。今年、10歳になったから3ヶ月前に、トレーナーとして旅立ったばかりなんだよ」

「そうですか」

「あの」

「ん?」

「その、マナオは、どうしてバッチ狩りのようなことを?」

サトシの質問に男は、少しだけ間を置いて語り始めた。

「遂1ヶ月程前、旅立ったはずのマナオが突然、村に戻って来たんだよ。理由は、少しの間、ここで修行する為と言って、それ以上のことは言ってくれない。それに、誰も詳しい理由を聞かなかった。あ、隣いいかな」

「あぁ、はい」

男は、サトシが座っていた同じ倒れた大木に座り、話を続けた。

「実は、この村で、幼い子供は、マナオ位しかいなくてね。それで、赤ん坊の頃から村中から可愛がって貰っていた。だけど、彼女が、6歳の頃に両親が事故に遭って亡くなってしまい、祖母と二人暮らしになってしまった。そこからかな。他の村や町の子供とよく喧嘩をするようになって、赤の他人と仲良く出来なくなってしまった。あの子が親しくするのは、よく知っているこの村の人間と、唯一の肉親である祖母とカラカラだけ。日々、カラカラと遊んだり、野生のポケモン相手にバトルして勝ったりと。将来は、いいトレーナーになるんだろうなと村でも思われていた」

「「・・・」」

「そして、10歳になってからポケモントレーナーとなって、カラカラと一緒に旅立ち、戻ってきた。理由は、修行と本人は言ったがねぇ。実は、おじさん。この村の近くにあるハルタス地方のポケモンジムで働くスタッフと知り合いなんだがねぇ。どうやら、そのジムに何度も挑んだけど、全部負けたみたいなんだ」

「「!」」

「おそらく、連敗したことが、相当ショックだったんだろうね。それで、この村に返ってきた」

「けど、それで、なぜバッチ狩りを。自分でバッチを取ろうとしていたのに」

「おそらく、約束だよ」

「約束?」

「以前、あの子に聞いたことがあるのさ。生前の両親と祖母に約束をしたって。ポケモントレーナーになったら、凄いトレーナーになった証を持って家に帰るって見せるって。既に、両親は亡くなっているが、家にある両親の仏壇に見せたいのさ」

「証、それでジムバッチか」

「あいつ、だからバッチを」

「だけど。さっき言った通り、結局バッチを取れなかった。だから、バッチ狩りなんて馬鹿なことを考えちゃったみたいなんだ。この辺りを通るトレーナーに手当たり次第、バッチを賭けてバトルを挑んだりした。時には罠を仕掛けて奪うとしているんだ。今のところ、一度も成功していないみたいで。仮に取ってもすぐに奪い返されたり、バトルで負かされたりで事は済んでいるらしいがね」

「その事、村の人達で、本人に何も言わなかったんですか?」

ヒョウリは、聞いた。

「あぁ、もう既に言ったよ。それと彼女からも事情を聞いた」

「それで詳しい訳ですか」

「村の人間で、このままじゃあ駄目だと思い、あの子に一度言った方がいいと考えた。それで、私が代表して、あの子に言う事にしたよ。けど」

「けど?」

「あの子に頭を下げられて、お願いされたんだよ。バッチ1つだけ、それだけをお婆ちゃんに見せたら、こんな悪いこともう辞める。そして、バッチは本人に返すって」

「「・・・」」

「その後、相手に事情を言って、借りようとしたけど。何度も断られて結局借りることも出来なかったらしい。その結果が、君たちってことになる。本当、すまないねぇ。これは、私の責任でもある」

「なるほど、答えて頂きありがとうございます」

ヒョウリは、男へ礼を言った。

「いや、被害を受けた君たちには、言うべきだと思っただけだよ」

サトシは、話を聞き終え、何かを考えて立ち上がった。

「だけど、やっぱり間違ってる。約束したなら、他人から奪ったものでも借りたものでも駄目だ」

「まぁ、確かにな」

「あの子に、一言言わないと」

「ピカピカ」

サトシは、そう言って、マナオに説教をするつもりになった。そこで、ヒョウリは、男に聞いた。

「その子は、どちらに住んでいるのですか?」

「あぁ。ここから1キロ程、北に歩いた所に小さなボロ屋があるんだけど。そこに、高齢のおばあさんと一緒に、孫娘であるマナオと一緒に住んでいるんだ」

男は、そう言って、指を北へ向けた。

 

 

マナオは、薪割りを終えて、家の奥にある自分の部屋に居た。そこで、上張りが破れたり穴が空いたりした襖を開けて、中に上半身を突っ込んで、押し入れの奥で何かを探していた。

「よいしょ」

そして、体を出して何かを取り出した。彼女の手には、錆びついた鍵のかかった金属の箱があった。

「カラカラ、行こぉ」

「カラッカ」

「おばあちゃん、ちょっと出掛けてくる」

「そうかい。晩飯までには、戻るんだよ」

「うん」

マナオとカラカラは、家から出かけて、近くの林へ向かった。林の中に入ると、丁度広いスペースの空き地があり、そこにあった大きな切り株に、彼女とカラカラと座った。マナオは、持ってきた金属箱を開けて、中を見た。そして、中から何かを取り出し、それを見る彼女。

次第に、彼女の両目には涙が溢れてきた。

「私、このままじゃあ」

彼女が、悲しい顔をしているのを、それを見たカラカラが励まそうとする。

「カラカァ」

「カラカラ。そうだね」

彼女は、両手で涙を拭き取ると、カラカラを抱きしめた。

「泣いても仕方ないよね」

それから暫くして、二人でいろいろと話をしていると。

「よし」

「出来たな」

「完璧にゃ」

林の奥の方から、誰かの話し声が聞こえてきた。

「ん?」

そこへ、マナオとカラカラが近づいていく。

「誰か、そこに居るの?」

林の向こうにいる何かに話しかける。

「ヤバい」

「誰か来るわよ」

「隠れるにゃ」

マナオは、林の奥へとドンドン行くと、林を抜けた向こうが見えた。

「あれ」

しかし、そこには誰も居なかった。

「おかしいな、さっきまで声がしたのに」

「カラァ」

前へ前へと歩いて行くマナオとカラカラ。周りを見ながら、歩いて行くと。突然、ガサッとマナオの足が地面を抜けた。

「・・・え」

「・・・カラァ?」

そのまま、ズルッとなぜか柔らかい地面の中を、体ごと擦り抜けていき、カラカラと共に、地面の中へ落ちていった。

「きゃあぁぁぁ」「カラァァァ」

マナオとカラカラは、悲鳴を上げた。

「いたっ」「カラッ」

二人は、落下後に尻を激しく地面に打って状態で着地した。

「いたたた。・・・一体、何なのよ」

彼女は、打った自分の尻を摩りながら、空を見上げた。そこには、土色で大きな円状の空間に真ん中は、青空と白雲の景色が見えた。彼女は、それを見て状況が理解出来た。

(お、落とし穴?落ちたってこと、私達。)

深さは、10mはあるだろうか。マナオは、落とし穴の周りや上を見た。

(一体誰が、こんな所に落とし穴を)

マナオが、そう考えていた時だ。穴の向こうから、誰かの声が聞こえてきた。

「一体、何なのよと聞かれたら」

「答えてあげるが世の」

「ストップにゃ」

「何だよ、ニャース。俺のセリフの途中だぞ」

「折角、キマって登場してるのに」

「ジャリボーイとは、別の奴が掛かったのにゃ。そんな事、やっている場合じゃないにゃ」

「「あぁ」」

外で話している者達は、マナオが入っている落とし穴に、顔を覗かせた。覗いたのは、大人の男一人と女一人、そしてポケモンのニャースだった。

「あんた誰よ」

覗いた一人の女が、マナオに聞いてきた。

「あんた達こそ、誰よ」

マナオは、面と向かって、そっくりそのまま返した。

「俺たちは、ロケット団だ」

すると、今度は男の方が返してきた。

「チッ、折角ジャリボーイのために掘った穴を」

「だから、落とし穴じゃなくて、ボタン式のネットトラップにしようって言ったのに」

「何?私のせいぇ?」

「ムサシが、言い出したんだぞ。穴の方が確実だって」

「コジロウのは、用意に時間掛かるし、金も掛かるというから、仕方なく提案したんですけど」

「だけど、結局関係ない奴が落ちただろうが。落とし穴は、狙ってやらないと引っ掛けるの、結構難しいだから」

「まぁまぁ、もう仕方ないにゃ。こうなったら、獲物を変更だなにゃ」

マナオは、急に喧嘩する3人を黙って見ていたが、怒鳴った。

「だから、あんた達は、一体何者なのよ!」

「「仕切り直しだ」」

彼女に怒鳴られたムサシとコジロウは、仕切り直しで口上を再度はじめた。

「一体何者なのよと聞かれたら」

「二度目でも答えてあげるが世の情け」

「は?」

突然、何かを始めた彼らに、マナオは気の抜けた声を出した。

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵役」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆ける、ロケット団の二人には」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ」

「ニャーんてにゃ!」

「ソーーーナンス!」

彼らにとって、登場で決まって行う口上を終えることが出来て、テンションを上げた。

「よぉし、ちゃんと言えたぜ」

「やっぱ、これやらないと締まらないわね」

「確かに、これはやって起きたい気持ちは分からない訳でもないにゃ」

「ソーナンス」

そんな彼らは、自分たちで話を盛り上げていこうとしていたが、無視した上に、落とし穴に落とされた怒りが上がっていき、マナオは再度怒鳴った。

「あんた達は、ほんとなんなのよ!」

落とし穴からの怒鳴り声に、ロケット団達は、マナオへ振り返る。それに、コジロウが答えた。

「今説明した通り、ロケット団さ」

「ロケット団?どっかで、聞いたような聞いてないような。・・・あ」

マナオは、ロケット団という名前に心当たりがあったのか、少しだけ記憶を整理して、思い出した。

「ほ、やっぱり知っているか」

「そりゃ、私達、ロケット団が有名人だからよ」

自慢気に話すコジロウとムサシ達へ、マナオは自身満々に答えた。

「どっかの漫才トリオでしょ」

「「違うわぁ!」」

ムサシもコジロウも大声で、怒りの声を上げた。

「誰がお笑い芸人だ!」

「ふん、田舎娘には、所詮私達の凄さを知らないのね」

「ニャー達は、悪者にゃ!」

そうマナオへ話していると。

「お、なんだ。この箱」

コジロウが、足元にあった箱を見つけて、持ち上げた。

「あ」

マナオは、それを見て気付いた。彼女が、先程まで持っていない金属の箱だ。落とし穴に落下する際、手から離れて、地上に残して落としてしまった。

「私の宝箱を返しなさいよ」

すぐさま、マナオは文句を言った。

「ほう、宝箱か」

「じゃあ、これはニャー達が貰うにゃ」

「ちょ、何よ。それは、私のなんだから返して」

「あんたのものは私のもの、私のものは私のもの」

「なっ」

話しが通じない上、横暴なロケット団にマナオを言葉が出ない。

「ちなみに、こっちもな」

そんな会話をしていると、コジロウが何かの手のようなものが付いた道具を取り出す。すると、手のようなものがアームハンドとして伸びていき、マナオの隣にいたカラカラを掴んだ。

「カラッカ!」

「あ!」

「よし、ゲットだぜぇ」

アームハンドに捕まったカラカラは、全身を覆われて身動きが出来ない。そんなカラカラを、コジロウが器用に操作して、掴んだまま落とし穴から引き上げる。

「ちょっと、カラカラを返してよ」

「誰が返すもんですか」

「カラカラも宝箱も、2つともニャー達が貰っていくにゃ」

「「じゃあねぇ」」

そう言って、ロケット団は落とし穴から離れていった。

「カラカ、カラカ」

カラカラが、叫びを上げて、マナオを呼ぶ。その声は、落とし穴のマナオにも聞こえた。

「待ってぇ!」

その声を聞いて、マナオは必死に落とし穴を登ろうとする。だが、深い上、土が柔らかくて、手や足を引っ掛けると、崩れていく。

「くっ、返して、返して。ッ、返してぇぇぇ!」

マナオは、大声で何度も叫ぶ。その声は、落とし穴から離れるロケット団の耳にも届く。

「たく、うるさいわねぇ」

「それより、早く気球のところへ戻るにゃ」

「そうだな。行くか」

「ソーナンス」

その時だ。

「ピカチュウ、10マンボルト!」

「ピィカァヂューーー!」

その声と共に、激しい電撃が、ロケット団を襲った。

「「「ぎゃあぁぁぁ」」」

ロケット団達は、その電撃を受け、悲鳴を上げる。

「!」

「にゃあ、今の声と電撃はまさかにゃ」

「げぇ、ジャリボーイ」

「それに、あの暴力ジャリボーイもいるぞ」

ロケット団が見た先には、サトシとヒョウリが居た。

「ロケット団」

「昨日の奴らか」

二人は、ロケット団を見て構えていると、近くにある大きい穴から大声がした。

「助けて誰かぁ」

その声を聞いたサトシとヒョウリは、すぐさま落とし穴を見る。

「この声、まさか」

「どうやら、あの女らしいな」

「おい、落とし穴にいるのはマナオか?」

サトシは、落とし穴の方へ向かって、大声で問いかける。

「ハッ、そう私です。お願い、誰か分からないけど、助けて」

「分かった、待ってろ!くそっ、ロケット団も相手にしないといけないのに」

サトシが、そう言うと。

「仕方ないな」

ヒョウリは、右手の裾からモンスターボールを出して、それを投げた。

「いけ、ハッサム」

「ハッサム」

ヒョウリは、ハッサムを出した。

「落とし穴の中にいる女を出せ」

「ハッサム」

ハッサムは、指示を受け、落とし穴に入っていた。

「え?」

「ハッサム」

「わ、ちょ」

ハッサムは、マナオを抱えて、羽で飛んで落とし穴から出た。

「あ、ありがとう。って、貴方達は」

「よぉ。バッチ狩り娘、話は後だ。ハッサムご苦労。そこに居て待機。あとで、合図する」

「ハッサム」

ヒョウリは、ハッサムにそう指示を出した。続けてサトシが、ロケット団に問いただす。

「おい、ロケット団。お前たち、ここで何をしてるんだ?そのカラカラを離せ」

「ふん、別に。あんたを待ち構えていたら、余計なそこの邪魔ガールが釣れただけよ」

「まぁ、お陰でカラカラとお宝は手に入ったがな」

コジロウは、そう言って、アームで捕まえたカラカラを見せた。

「返しなさいよ。私のカラカラと宝箱」

マナオにそう言われると、宝箱を持っているニャースが返事をした。

「誰が大人しく返すかにゃあ」

その隣で、カラカラを掴まえているコジロウが話す。

「お前のカラカラは、我々ロケット団で悪のポケモンとして世界征服の仲間となるのだ」

マナオは、コジロウの世界征服という言葉を聞いて、呆れ顔で返した。

「世界征服?馬鹿じゃないの。大人のくせに」

「うっさいわねぇ。あんたみたいな、ガキンチョには分からなくて結構よ」

「そうだ、そうだ」

その言葉を言われて怒るムサシにロケット団。

「お前たち、マナオのカラカラと宝箱を返すんだ!」

「ピカ!」

サトシとピカチュウは、構えてロケット団を迎え撃とうとする。それを見て、ロケット団も構えた。

「くそ、こうなったら。昨日、注文してやっと来た」

「このシークレットボールを使う時がきたぁ」

ムサシとコジロウが手にして向けてくるモンスターボールは、普通のモンスターボールとは違った。

通常のモンスターボールである上部が赤色、下部が白色となっているが、そのボールは全体が紫色だった。更に、上面部のボタンの上には、<?>と書かれていた。それを見たヒョウリとサトシ。

「・・・あれは」

「なんだ、あのボール」

そのボールを見て、それぞれのリアクションを取った彼らに、ニャースは答えた。

「特別に、にゃーが説明してやるにゃ。これは、シークレットボール。我がロケッ、じゃにゃくて、今月からとある凄い大企業が全国へ展開するポケモンレンタルサービスのボールだにゃ」

「ポケモンレンタル?」

サトシの質問にニャースは続ける。

「そうだにゃ。使ったトレーナーの言うことを聞くように訓練を受けたレンタル制のポケモンを貸し出して、レンタル期間が切れると、会社に返さないといけない仕様だにゃ」

ニャースに続けて、今度はムサシが話す。

「そして、特別に特訓させた強いポケモンが入っているというシークレットボール」

今度は、ムサシに変わってコジロウが。

「投げるまで何が出てくるか。分からないワクワク感」

また、ムサシに戻り説明。

「それでも、そこらのポケモンより強いポケモンが入っていると言われている嬉しいボール」

そして、最後にコジロウが泣きながら話す。

「1回借りるだけでもお金を払わないといけないのに、1回投げて出す度に、レンタル会社にカウントされて、俺たちの給料から天引きされるという財布に優しくないボールなんだぞぉ」

「ソーナンス」

「「・・・」」

ロケット団の説明を最後まで聞いた二人は、黙って構えた。そして、その空気で、バトルのゴングが恐らく鳴り響いた。

「「さぁ、行け。シークレットボール!」」

ムサシとコジロウが息を合わせてシークレットボールを投げた。そして、宙を舞う2つのボールはそれぞれ開いた。

ムサシが投げたシークレットボールから出てきたポケモンは。

「グオォォォ」

「やったわ。ニドキングよ」

ニドキングだった。ニドリーノの進化した(ドリルポケモン)で、タイプは(どく・じめん)。

皮膚が、鋼のように硬く、頭部から長く伸びた角が特徴。その角は、ダイヤも突き刺せて、毒がある。また、太い尻尾で、鉄塔をへし折るは改良を誇る。そして、ニドキングは全ての個体がオスなのだ。

一方、コジロウが投げたシークレットボールから出てきたポケモンは。

「マニュ」

「おぉ、俺はマニューラだ」

マニューラだった。ニューラが進化した(かぎづめポケモン)で、タイプは(あく・こおり)。

普段は、雪が多く降る寒い地方に生息している。基本は、4,5匹の群れを成して、獲物を追い込む。爪を使い、石や樹木にサインを描いて仲間とコミュニケーションを図り、時に連携して、敵を追い込む。サインの種類は、500以上と言われている。

ムサシとコジロウが、ポケモンを出し終えると、ポケモンを出したシークレットボールを見始めた。シークレットボールの正面上部には<?>のマークがあるが、下部には長方形上の枠があった。その欄をじっと見ると二人。

「あら、出てきたわね」

ムサシが、シークレットボールの正面下半分に何かが表示されていた。

「お、本当に出た。何々・・・おっ、結構良いわざを覚えているな」

「あいつら、何やってんだ。ボールをジロジロと」

サトシは、彼らの行動を変に思っていると、ニャースが説明をしてきた。

「にゃーが、説明するにゃ。このシークレットボールは、ポケモンを出すと、入っているポケモンが覚えているわざを、ボール正面の下部分の枠内に表示する代物なのにゃあ」

「そうかよ。・・・ニドキングに、マニューラ!」

サトシは、ロケット団が出してきたポケモンを見て、強く警戒した。

「くっ、気をつけろピカチュウ。かなり手強いぞ」

「ピカッチュ!」

「ヒョウリ、お前も頼む」

「・・・あぁ」

ヒョウリは、少し黙ってたが、サトシの頼みに返事をした。

「さて、俺の新しい仲間を紹介しよう」

彼もバトルに参加する為、ポケモンを出そうと、ベルトのモンスターボールの1つを手に取り投げる。

「いけ!」

投げたボールが開き出てきたポケモン。それを見たサトシ、そしてロケット団が驚きた顔をする。

「あ、あれは」

「な」

「あれって」

それは、サトシやロケット団、彼らが過去に数度見た強いポケモンの1体だったからだ。

「「「ルカリオ!」」」

ヒョウリが出したポケモンのルカリオを見て驚いた。

「げっ、あいつも強そうなポケモン出して来たぞ」

「ふん、こっちだって強いポケモンよ」

「そうだにゃ。やってやるにゃ」

「行きなさい!ニドキング」

「ガアァァァ」

「お前も行け、マニューラ!」

「マニュ」

ムサシのニドキングは、サトシのピカチュウへ、コジロウのマニューラは、ヒョウリのルカリオへ向かった。

「ピカチュウ、でんこうせっかだ!」

「ピカ!ピカピカピカ、ピカァ!」

「ニドキング、どくばり攻撃!」

ムサシに指示を受けたニドキングは、口を大きく開くと、口から複数の(どくばり)を、ピカチュウへ放つ。

「躱せ!」

「ピカ」

「ピカチュウ、10マン。あ、駄目だ。ニドキングは確かじめんタイプ。なら、ピカチュウ、近づいてアイアンテールだ」

「ピカ。ピカァー!」

「ふん、そうはいかないわ。ニドキング、だいちのちから」

「ガアァ」

今度は、ニドキングの前の地面が割れ出し、その亀裂がピカチュウへ向かっていく。

「ピカ!」

亀裂は、ピカチュウの真下と周りへ進むと、一気に裂け出し、ピカチュウの足場が崩れていく。

「ピィカ、ピカァ」

ピカチュウは、足がよろけ、亀裂へ落ちそうになる。

「危ない。ピカチュウ、エレキネットだ」

「ピィカァ!」

ピカチュウの尻尾から放たれた(エレキネット)が、広がり(だいちのちから)に向かって、張ると、その上に着した。その御蔭で、足場を取り戻すことが出来た。

一方、ヒョウリとコジロウは、バトルでは。

「よし、マニューラ。メタルクロー」

「マニュ」

コジロウの指示でマニューラは、爪を光らせて(メタルクロー)を仕掛ける。

「ルカリオ、はどうだん!」

「グゥル」

ルカリオは、両手を前に突き出し、光の球体を生み出し、突っ込んでくるマニューラへ放った。

「マニュッ」

「くそ、こうそくいどう」

マニューラは、(メタルクロー)と行いながら、(こうそくいどう)で速く移動し、間一髪で

(はどうだん)を躱す。

「続けて、はどうだん!」

ルカリオは、(こうそくいどう)で動き続けるマニューラへ次々と(はどうだん)を放つ。

「ふっ、そんなもの二度は当たらん!近づいて、リベンジで仕返しだ」

「マニュ!」

マニューラは、(はどうだん)を躱しながら移動し、ルカリオへ近づいて行く。それに、合わせてヒョウリは、ルカリオに指示を出そうとする。

「ルカリオ」

そして、マニューラの(リベンジ)攻撃が目の前に近づいた瞬間に。

「カウンター!」

彼が言ったわざをリベンジが当たる寸前で、ルカリオは実行して、紙一重で殴り飛ばした。

「ヴァル!」

「マニュゥゥゥ」

「あぁ」

マニューラは、カウンターで吹き飛ばされ、宙を舞う。

「そのまま、サイコキネシス」

地面に付く前に、マニューラをルカリオは、(サイコキネシス)を使って空中停止させた。

「ニドキングに投げろ」

「何!」

ヒョウリの指示を聞いたコジロウは、声を上げる。ルカリオは、(サイコキネシス)で浮かせたマニューラをそのまま、ムサシが指示出すニドキングへ向けて投げる。それに、気づかないムサシとニドキングだが、ニドキングの真横からマニューラがぶつかってきた。

「ガァァァ」

「マニュゥゥ」

互いにぶつかって、ぶつかったダメージを受けるニドキングとマニューラ。それを見たムサシは、コジロウへ怒鳴る。

「ちょっと、コジロウ!何してのよぉ」

「いや、悪い。けど、あいつが強すぎて」

「ちょっと、あんた。人のバトル邪魔にしないでくれる?」

ムサシは、ヒョウリに指を差して文句を言うが、ヒョウリは言い返した。

「何言ってんだ。これは、言うなればタッグバトルだろ。なら、俺がどっちを攻撃してもいいはずだぞ。サトシ、俺と変われ、ニドキングが相手じゃあ。ピカチュウには難しい。マニューラをやれ。アイアンテールが一番効く」

「あぁ、そっか。よぉし、ピカチュウ交代するぞ」

「ピカ」

サトシは、ピカチュウへ

「く、ニドキング。どくばり」

ニドキングは、再度ピカチュウへ(どくばり)攻撃を仕掛ける。

「ルカリオ、ファストガード」

「グゥル」

ルカリオは、すぐさまピカチュウの前に出て、腕を前に向ける。すると、半透明の赤い円状の盾が出てきて、ニドキングの(どくばり)を全て防いだ。

「ちょっと、邪魔するじゃないわよ!こうなったら、ニドキング。メガホーンよ」

続けて、ニドキングに指示を出し、ニドキングはルカリオ達へ走り出すと、角が光出し、少し大きくなった。そして、角を、ルカリオ達へ向けた。

「ルカリオ、サイコキネシス」

サイコキネシスで、突っ込んでくるニドキングの動きを止めようするが、今のルカリオが無防備状態となり、隙があることに気付いたコジロウ。

「今だ。マニューラ。れいとうビーム!」

マニューラは、(サイコキネシス)を使って動きが鈍いルカリオ目掛けて、(れいとうビーム)を放つ。あと少しで、ルカリオに当たる瞬間。

「させるか。ピカチュウ、10マンボルト!」

ピカチュウの10マンボルトで相殺した。

「くそぉ、おしい」

ピカチュウに防がれて、悔しがるコジロウ。

「すまんな、サトシ」

「気にすんな。今は、タッグバトルなんだから当然だろ」

「あぁ、このニドキングは任せろ」

「あぁ。ピカチュウ、マニューラに、でんこうせっか」

「ピカピカ」

ピカチュウが、一気に走り込んできた。

「来やがった。マニューラ、躱して。メタルクロー」

「マニュ」

「ピカッ、ピカァァァ」

「あ、ピカチュウ!」

マニューラのわざを受け、突き飛ばされるピカチュウ。一方、(サイコキネシス)でニドキングを動きを止めるルカリオ。それに対して、手も足も出せないニドキング。

ヒョウリとムサシは互いのポケモンの押し合いに目を見張っていた。

「やはり、パワーは向こうが高いなぁ。・・・よし、ルカリオ。そのまま、持ち上げろ!」

「ヴァル」

「えぇい、ニドキング。どくばりよ」

「グォウ」

ニドキングの口から放たれた(どくばり)は、動けないルカリオに目掛けた。

「ウワァルルル」

「くそ、踏ん張れ、ルカリオ。そのまま、持ち上げるんだ!」

「グァルゥゥゥ!」

ルカリオは、何とか持ち堪え、そのまま集中と全身力を一点に集中した。そのまま、(サイコキネシス)で動きが止まったニドキングを、徐々に宙に持ち上げていった。

「グァ、グァル」

「な!持ち上げた。もう一度、どくばり」

ヒョウリのルカリオとムサシのニドキングが戦う隣では、ルカリオと交代したピカチュウがマニューラと戦っていた。

「ピカチュウ、10マンボルト」

「ピィカァヂュー!」

「躱せ」

「よし、ピカチュウ。お前の本気を見せてやれ。でんこうせっかで近づけ!

「ピィカァ!」

10マンボルトを躱したマニューラ目掛けて、一気に(でんこうせっか)で目の前に近づく。

「躱せ」

また、マニューラは躱す。だが、ピカチュウは、側に近づいた寸前で、(でんこうせっか)を辞めた。

「マニュ?!」

その行動を見たマニューラは、不審に思った。

「今だ、アイアンテール!」

「ピィカァ!」

「マニュぅぅぅ」

「マニューラ!」

(アイアンテール)を食らったマニューラは、上へと打ち上げられた。

「よし、もう一度だぁ!」

「ピィカァァァ」

落下してくるマニューラ目掛けて、ピカチュウは、(アイアンテール)に力を貯める。

「チュー!」

「マニュゥゥゥ」

「あぁ」

落下したマニューラへ見事にヒットし、そのままマニューラは吹き飛ばされ、そのままコジロウに目掛けて、突っ込んでいった。

「って、おいおいおいおい。げふぅぅぅ」

コジロウは、吹き飛ばされマニューラに激突し、倒れ込んだ。その際、カラカラを捕まえた装置を話してしまった。そして、見事にマニューラは目を回して、気を失っていた。

「やったぜ」

「ピッカァ~」

コジロウは、シークレットボールにマニューラを戻すと。

「くそ、こうなったらカラカラだけでも持って。って、あれ」

「ハッサム」『ガシャン!』

装置を探すコジロウの背後からハッサムの鳴き声と何かが壊れる音がした為、振り返る。すると、カラカラを捕まえていたアームハンドの本体が壊れ、感じなカラカラはハッサムに抱えられていた。

「あぁ!」

「よくやった。そのまま戻ってこい」

「カラカラ」

「カラカッ」

「良かった。無事で」

「カラカラ」

無事に、カラカラを取り戻して貰ったマナオは、カラカラと共に抱きしめ合った。

「ちょっと、コジロウ。何やってんの」

「す、すまねぇ」

ムサシは、負けた上に、カラカラを取り戻されてコジロウに切れる。その隙を、ヒョウリは見逃さなかった。

「今だ。ルカリオ、サイコキネシスで、持ち上げてそのまま投げ飛ばせ」

「しまっ」

「ヴァルゥゥゥ!」

ルカリオを渾身の力で、(サイコキネシス)で浮かされたニドキングを、投げ飛ばした。そのまま、ニドキングは、近くにあったロケット団の作った落とし穴に落ちていった。

「あぁ、ちょっと」

ムサシは、急いで落とし穴を覗いていくと、そこには目を回したニドキングが穴でひっくり返っていた。

「あぁ、私のニドキングぅ。えぇい」

ムサシは、シークレットボールに戻す。

「どうするんだよ?」

「くぅ、こうなったら」

コジロウとムサシが話していると、サトシがピカチュウへ指示を出した。

「ピカチュウ、あいつらに10マンボルト」

「ピカ、チューーー!」

「くっ、ソーナンス。ガードよ」

「ソーナンス!」

ムサシは、バトルに参加して居なかったソーナンスへ指示を出す。すると、ソーナンスは二人の前に現れ、体が光を帯びはじめた。それからピカチュウの電撃わざ(10マンボルト)を受けると、それを反射した。その電撃は、ピカチュウとサトシに向かっていた。

「うわっ」

「ピカッ」

「くっ、ソーナンスのミラーコートか」

このソーナンスは、ロケット団のムサシの手持ちポケモン。ソーナノが進化した(がまんポケモン)。タイプは、(エスパータイプ)。ポケモンの中では、反射系わざが得意なポケモン。物理反射のカウンターや、特殊反射のミラーコートを持つ。自身から攻撃わざを殆ど持ち合わせずに、完全に防御と後手がバトルスタイルになる。また、ソーナンスは、光やショックを受けるものを嫌う性質で、攻撃を受けると、体を膨らませて反撃が強力になる。

このソーナンスは、正にロケット団最強の盾なのだ。ピカチュウとルカリオ、ソーナンスが構えていると。

「おみゃーら、準備出来たにゃ。早く逃げるにゃ」

近くの林の中からロケット団のニャースが、ムサイとコジロウに何かの合図をして来た。

「くそ、仕方ないわねぇ」

「逃げるぞぉ」

ムサシとコジロウは、急いでニャースのいる林へ走って行く。

「あ、待て!」

サトシは、逃げるロケット団を呼び止めるが、それを無視してロケット団は走って行った。

「急ぐにゃ。宝物だけはゲットしたにゃ」

二人を急がせるニャースは、宝物というワードを言った。その言葉に対して、マナオは反応した。

「あ、しまった!私の宝箱が」

「宝箱?」

マナオの言った言葉に、サトシは彼女へ振り向く。ロケット団の二人は、林の方へ逃げて行き、その林の中から巨大なニャースの顔が現れた。

「あれは」

「昨日の、気球か」

「ピカチュウ、10マン」

「待ってぇ」

ピカチュウへ指示を出すサトシを止めたのは、マナオだった。

「何だよ?」

「あれには、私の宝箱が」

「あっ、くそ。ピカチュウの10マンボルトじゃあ。吹っ飛んでしまうか」

サトシは、ピカチュウでの攻撃を躊躇する。

「お、ピカチュウが攻撃してこないぞ」

「その宝箱があるから手出し出来ないみたいよ」

「なら、早く逃げるにゃ!」

気球はドンドンとサトシ達から距離を離していく。

「待って、私の宝物返しなさい!」

「ふん、やなこった」

「悪いが、これだけでも貰っていく」

そう話していると、ヒョウリがルカリオへ指示を出した。

「ルカリオ、サイコキネシス」

「ファルゥ」

ルカリオは、サイコキネシスで気球の動きを止めた。

「「「え!」」」

「止まったぞ」

「嘘ぉ」

「やっぱ、逃げられないのかにゃ」

ロケット団は、青ざめた声で反応するのだが、ルカリオの顔が優れなかった。

「ッ、グルゥ」

「ルカリオ、限界か?」

「ル、ルゥ」

ヒョウリのルカリオは、先程のバトルで体力が消耗し、(サイコキネシス)を使い過ぎて限界に近づいていた。そのせいか、止まった気球も徐々に、上へ上へと上昇する。

「お、動いてるぞ」

「やったぁ。逃げれるわ」

逃げられることに、喜ぶロケット団。だが、ヒョウリは、待機していたハッサムへ指示を出した。

「ハッサム、行け!」

「ハッサム」

「気球へ、エアスラッシュ」

ハッサムは、両腕のハサミを光らせ、一気に前へ振る。すると、光った腕から、光の刃が飛び出した。両腕から1本ずつ、計2枚の刃である(エアスラッシュ)が、そのままニャース柄の気球へ飛んでいき、布を切り裂いた。

「「あぁ」」

「落ちるにゃ」

気球は、落下し、そのまま地面に不時着。その衝撃で、バスケットは傾き、中に居たロケット団は全員、外へ放り出された。そして、盗んだ宝箱も転がって行き。それを、ハッサムが素早く、取り返した。

「あぁ、宝箱が」

ハッサムは、そのまま宝箱を持って戻っていき、ヒョウリに近づく。

「よし、あの女に渡せ」

ハッサムは、指示通り奪い返した宝箱をマナオに返す。

サトシとヒョウリは、

「よぉし。ピカチュウ、10マンボルトで決めるぞ」

「ルカリオ、はどうだん。いけるか?」

「ピィカ」「ヴァル」

ピカチュウとルカリオは、わざを準備する。それを見たムサシは、ソーナンスを頼る。

「くそ、ソーナンス出番よ」

「ソォ、ナン、スゥ」

「ん?」

ムサシが振り返ると、そこには、目を回しているソーナンスが居た。

「駄目だ。ムサシ」

「不時着のダメージで、目を回しているにゃ」

「なにぃぃぃ」

「ふん、どうやら盾を失ったそうだ」

「あぁ、ピカチュウ。渾身の10マンボルトだ」

「ルカリオ、はどうだん」

「ピィカァ」「ヴァァァ」

ピカチュウの(10マンボルト)、ルカリオの(はどうだん)がロケット団目掛けて放った。

「チュー――!」「ルゥーーー!」

(はどうだん)の周りを(10マンボルト)が多い、2つのわざが次第に重なっていき、電撃を帯びた光の球が、そのまま向かっていった。

「「「あぁ、あぁ、あぁ」」」

そして、ロケット団に当たった。

「「「ぎゃぁぁぁ」」」

激しい爆発が起きた。2つわざの力、側にあった気球のガスに引火したのか、大爆発が起きた。そして、その舞い上がる煙の中を、4つの影が飛び出し、天高く飛んでいく。

「もうぉ、折角金払って強いポケモン借りたって言うのに」

「やっぱ、1年もバトルしまくってるジャリボーイに勝つのは厳しいのかね」

「ニャー達も、1年間バトルや苦労してるはずなんだけどにゃあ」

「ソォーナン、スッ!」

「「「やな感じ〜~~!!!」」」

ロケット団は、そのまま再び彼方先まで飛んでいき、星の如く光った。

「大丈夫か、ピカチュウ」

「ピカァ」

「ルカリオ、ご苦労だった」

「ファルゥ」

「ハッサムもだ」

「ハッサム」

そして、サトシはピカチュウを抱えて、ヒョウリは2体をモンスターボールに戻した。

「ふぅー、疲れたな」

「あぁ、全くだ」

サトシとヒョウリがそう話していると。

「あ、あの」

宝箱を持ったマナオが二人へ話しかけた。

「「ん?」」

「その、あ、ありが・・・とう、ございます」

「カラァ」

マナオは二人へお礼をいい、頭を下げた。その隣に居たカラカラもマナオに続けた。

「あぁ」

「別に気にするな。あいつらを毎回やっつけるのは、慣れてから」

ヒョウリとサトシは、彼女にそう言った。

「その宝箱、大丈夫か」

「あ、はい」

彼女は、持っている宝箱を見る。そして、中身を開けた。そこには、1枚の写真と、小さなおもちゃがいくつか入っていた。その写真には、小さな女の子とポケモンのタマゴ、そして

大人の男性と女性、それに老婆が写っていた。それは、マナオの家族写真だった。

「ッ」

彼女は、その写真を見て、涙を浮かべた。そんなマナオを見たサトシ達は、ただ黙って見ていた。

「「・・・」」

「カラァ」

そんな彼女にカラカラは近寄って手を当てる。

 

 

「さて、暗くなるしキャンプ地に戻るぞ」

「あぁ」

早速、サトシ達は自分達のキャンプ地へと戻ることにした。

「あの」

すると、マナオに呼び止められた。

「「ん?」」

二人は、マナオの方へ振り向いた。

「なんだ?まだ用か?」

ヒョウリは、彼女へ聞くと、マナオは少しおどおどしてから話す。

「あの、その、えぇと・・・うちに、来ます?」

 

 

あれから、サトシ達は、マナオに誘われて彼女の家に、お邪魔させて貰った。そこで、マナオに紹介されて、祖母に挨拶をした。すると、祖母から温かく持て成しを受けることとなり、

夕食をご馳走して貰う上、1泊させて貰うことになった。家に入ってから、和室に案内されたサトシとヒョウリ。今は、二人で畳の上で胡座をかいて、祖母が用意した和食を彼女たちと共に食べることになり、ポケモン達のピカチュウやカラカラは、用意したポケモンフーズを食べる。

「どうぞ、今日はゆっくりして行って下さいね。ご飯や漬物は、まだありますから」

「はい、ありがとうございます」

「ピカピカ」

「どうも、お構いなく。ご馳走になってしまって」

サトシとヒョウリは、マナオの祖母にお礼を言い、夕食を食べた。用意された夕食は、少し質素な和食で、味の薄い味噌汁やご飯、漬物に、卵焼きだった。サトシ達の事は、マナオに説明して貰った。マナオとカラカラが、変な連中に襲われていた所を、彼らが助けたことで、恩人という立場で、お邪魔させて貰っている。

「そうですか。うちのマナオがお世話になりましたねぇ」

「いえ、こっちこそ娘さんには、お世話になりました。特にサトシくんの頭とか」

「!」

(ギクッ)

ヒョウリがさり気なく、言った言葉にサトシとマナオはそれぞれ反応した。

「おい、ヒョウリ」

サトシは、ヒソヒソ話でヒョウリに注意する。実は、この家に来る前に彼女からバッチ狩りをした件を伏せるようにお願いされていたのだ。

「はいはい、分かってる、分かってるって」

「お前って、たまに意地悪なところあるな」

ヒョウリは、軽い意地悪なつもりでやったみたいだ。そんな、やり取りをしていたのを祖母は変に思った。

「ん?」

「・・・」

そして、マナオが気不味い顔をしてビクビクしていたのに気付いた祖母はサトシ達に訪ねた。

「もしかして、マナオが何か?」

「いえいえ」

「いえ、何でもありません」

サトシとヒョウリは、さり気なく誤魔化した。

「そうですか。どうぞ、今日はゆっくりして行って下さいね」

「はい」

それから、食事を続けているとサトシは、部屋の奥に小さい仏壇がある事に気付いた。

(あの仏壇。もしかして、マナオの)

夕食を終えたサトシ達は、そのまま客間として扱っている部屋を1つ貰い、そこで、一泊することなる。そこで、古い布団を借りて寝ることになった。

「にしても、お前も相当お人好しだな」

「え?何が?」

ヒョウリにお人好しと言われてサトシは、返事をする。

「だって、お前。あのマナオって奴に、一度痛い目合わせたのに」

「あいつを助ける上に、あの三馬鹿吹っ飛ばした後、あいつに文句言わないんだから」

「いや、」

「それに、いいのか?サトシ」

「」

「いや、最初にあいつに説教しようと考えていたんだろう」

「あ、そういえばそうだった」

「忘れてたのかよ」

「ピカピィ」

就寝前に、サトシ達が会話をしていると、部屋の襖をノックされた。

「ねぇ、あの、いいかな」

ドア越しに、マナオの声が聞こえた。それに、サトシが答えた。

「あぁ、いいぜ」

サトシの許可を得て、彼女は襖を開ける。

「どうした?」

「あの、サトシ、さん」

「俺か」

「少し、話しいいかな?」

「あぁ」

そう言って、サトシは彼女に呼ばれていった。そして、部屋に残されたヒョウリとピカチュウ。暫くして、ヒョウリの口からポロッと言葉が出た。

「・・・告白か?」

「ピッカァ!」

ヒョウリの唐突な言葉を聞いて、ピカチュウは驚く反応をした。

 

 

マナオに連れられて、サトシは家の外に出て、裏庭に行った。そこには、古い木製の長椅子が置かれていた。

「ここに、どうぞ」

「おう」

サトシとマナオは、共に椅子に座った。

「で、話って」

サトシが、早速話を聞いてきた。

「・・・昼間は、ありがとうございます」

「あぁ、良かったな。カラカラも宝箱も取り戻せて」

「えぇ」

「あのカラカラは、5歳の時に、死んだ両親から貰ったポケモンのたまごから生まれたの。私にとって、家族同然だったから、取り戻してくれて。本当にありがとう」

「そうだったのか。道理で、お前ら凄く気が合ってるもんな」

「うん、5年間も、毎日ずっと一緒だったから」

「そうか。俺もピカチュウと出会って1年だけど、ずっと一緒なんだ」

「サトシさんのピカチュウも、卵から?」

「いや、俺の場合は、貰ったんだよ。マサラタウンにあるオーキド研究所で、新人トレーナー用のポケモンを用意して貰ったんだ」

サトシは、そう説明しながら、1年前の旅立ちの日を思い出す。

「あの日、俺は旅立ちの日だからって寝坊して、欲しかったゼニガメやゼニガメ、フシギダネの全部が他のトレーナーに貰われていってた。けど、まだ一体だけ残って」

「それが、ピカチュウ?」

「あぁ、最初は、愛想が悪くて、俺の言う事聞かないし、ボールにも入りたがらない。それに、俺電撃を食らわせたんだ」

「あ、ス、スゴイ、デイデスネ」

「ほんと、当時は参ったよ。俺、このままじゃあ。トレーナーとして旅が出来るのかって不安になってさ。けど、その後、いろんな嫌なことや困難を、俺とピカチュウで何度経験した。それで、俺たちは、トレーナーとポケモンじゃなくて、相棒であり親友になったんだ」

「相棒・・・親友ですか」

「あぁ。それから、一緒にカントー地方やジョウト地方、ホウエン、シンオウ、遠くの地方まで行った。そこで、出会った仲間やゲットしたポケモンとジムを巡って、ジム戦で勝って、バッチを揃えて、リーグ大会に出場した。だから、ずっとピカチュウと一緒さ」

「・・・サトシさん」

「ん?」

「ごめんなさい」

突然、マナオはサトシへ頭を下げて謝罪する。

「貴方から、バッチを奪おうとして」

「・・・マナオ」

「本当に、ごめんなさい」

「なぁ、マナオは、・・・お前はポケモントレーナーになって何がしたいんだ?」

「え?」

「実は、俺、お前のこと、近くに住んでいる村の人に少し聞いてたんだ。お前が、トレーナーになって旅立って、1ヶ月前に戻ってきたことや家族との約束したことか」

「そ、そうだったんだ」

「ごめん、黙ってって」

「いいえ」

「マナオは、家族との約束、頑張って守りたかったんだな。・・・けど、やっぱり他人のバッチを奪ったり、借りて約束を果たすのは間違ってる。それじゃあ、亡くなった家族を騙してる」

「・・・はい」

「あ、ごめん。ちょっと、キツイこと言っちゃったかな」

「いえ、私が間違ってるのは、もう分かってます」

「そうか」

「今日、カラカラと宝箱を取られた時、・・・凄く嫌だった」

「マナオ・・・」

マナオは、泣きながらそう話した。

「私、馬鹿だ。大切なもの取られて嫌なはずなのは当たり前なのに、あんな事して」

「・・・」

「サトシさんの言う通りだ。頑張って手に入れたバッチを取って自分のものにするなんて」

「あぁ、そうだな。だから、もうバッチ狩りなんて、あんな馬鹿な真似はしちゃ駄目だ。自分とポケモンと一緒に取るから意味があるんだ」

「・・・はい」

「マナオ、・・・ジム戦ではじめて負けた時、悔しかったか?」

「・・・はい。凄く悔しかった」

「俺も、はじめてのジム戦、・・・ボロ負けだったよ」

「え?サトシさんも」

「あぁ、凄く悔しかった」

「はじめて、戦ったジム戦で、俺はピカチュウでバトルした。そこで、結局何も出来ないまま、俺はみっともなく降参した。ピカチュウは、頑張ってバトルしてくれたのに、自分は何も出来ない、役に立たない、それで、ピカチュウだけが傷付いた。・・・凄く自分に腹が立ったよ」

「・・・」

「けど、俺には、それは良い機会だった」

「え?」

「その後、俺はピカチュウと勝つために強くなる為に、頑張って特訓をした。それから、ジムを巡り、どんなジム戦でも必ずポケモンと一緒に、頑張って、努力して、特訓して、何度負けても必ず次は勝ってやるんだって、何度も、何度も」

「・・・」

「次へ進んでいく。だから、俺は、絶対に諦めない。どんだけ、負けても、次は必ず勝つ。そして、ポケモンマスターになるんだって」

「ポケモンマスター?」

「あぁ、世界中のポケモン達に出会って、いろんなのポケモンをゲットして、ポケモンバトルして勝ちまくって、いろんなポケモンの大会、ポケモンリーグで優勝するんだ。まぁ、まだ他にいろいろとやらないといけないことあるんだけどね。ハハ」

「サトシさんって、・・・強いですね」

「え?俺が、強い?」

「どんな事があっても、挫けない、諦めない、そんな強い心を持っている。凄く強い人だと思います」

「そう、そうかな」

サトシは、褒められたせいか少し照れる。

「私も、サトシさんみたいに、強くなれるかな」

「あぁ、きっとなれるさ」

「私、家族との約束を守る為に、ジム戦に挑みましたが、本当はただ自分が立派なトレーナーになった事を見せたいだけなんです。だから、ジムバッチが以外で何か、凄いのを1つ残したい、それが今やりたいことです。そして、将来立派なトレーナーになる。これが、私の今の目標です」

「そうか。それがマナオの目指したいものなのか」

「はい」

それから二人は、会話を続けた。

「明日、早速出発するよ。アハラ地方に行かないといけないんだ」

「アハラに、ですか?」

「あぁ、実は、俺。今度、開かれる合同リーグのソウテン大会に出るんだ」

「あの6年ぶりにやるリーグ大会に」

「その為に、これからアハラ地方とシントー地方にあるジムを巡って行くんだ」

「そうなんだ。じゃあ、急いで行かないといけないですね」

「あぁ」

それから、二人は上を向いて、夜空を眺めた。

「さて、そろそろ眠たくなったし、戻ろうぜ」

「・・・はい」

 

 

翌朝。マナオの誘いで、家に1泊させて貰ったサトシとヒョウリは、翌日の朝食もご馳走して貰った。そして、(ノウトミタウン)を発つため、サトシ達は出発の仕度をして、玄関前でマナオと祖母へ別れの挨拶をしていた。

「「お世話になりました」」「ピカピカピ」

サトシ達は、お礼とお辞儀をした。そんな彼らに、マナオの祖母は明るく、返事をする

「いいえ、いいえ。道中、お気をつけて下さいね」

「じゃあな、マナオ」

「う、うん」

サトシから、別れての挨拶をされて、何か浮かない顔をしているマナオ。それに気付いたサトシは。

「なぁ、マナオ」

「ん?」

「お前なら、きっと良いトレーナーになれるさ」

「え」

そのまま、サトシは、マナオの足元にいるカラカラを見た。

「大丈夫だ。お前と、カラカラと一緒なら。なぁ」

「カァラ」

サトシに、言われて、カラカラは返事を返し、マナオも答えた。

「・・・うん」

「それでは、お世話になりました」

「じゃあな、マナオ、カラカラ」

「ピカピィ」

ヒョウリとサトシ、ピカチュウは挨拶をして、西へと歩いて行った。マナオ達は、彼らの姿が小さくなるまで、見送っていった。

「さぁ、マナオ。家に入ろうか」

マナオの祖母は、そう言って部屋に入ろうとすると。

「ねぇ、おばあちゃん」

「ん?なんだい」

「話があるの」

 

 

あれからサトシ達、次の街へ繋がる道を歩き、間もなく村から出て、森へ入ろうとしていた。

「ってぇ!」

その時、後ろから声が聞こえた気がした。

「!」

先に気付いたのは、ヒョウリだった。彼は足を止め背後を見る

「サトシ」

すると、ヒョウリはサトシを呼び止めた。

「ん?」

「ピカ?」

サトシとピカチュウは、立ち止まったヒョウリへ振り向くと、後ろから誰かが、走って来ているのが見えた。

「待ってぇ!」

「ピカ!」

「マナオ!」

走ってきたのは、マナオだった。サトシ達は、走って来るマナオの方へ、走って行き、近づいた。

「ハァー、ハァー、ハァー」

マナオは、急いで走ってきのか、両手を両膝に付いて、息を切らした。

「おい、おい、大丈夫かよ」

「どうしたんだよ。マナオ」

「ピピカ」

皆、突然のマナオが来たことに驚き、心配をする。

「ねぇ、いや、あの」

まだ、呼吸を整えることが出来ず、言葉が上手く喋れない。暫くして、呼吸が整えた彼女は、話した。

「お、お願いがあるの」

「お願い?」

マナオから突然のお願い、傾げるサトシ。

「その」

その言葉を出してから、また黙り始めたマナオは、何かを決心したのか続きを言った。

「私も一緒に・・・旅をしていいかな?」

「「・・・」」

彼女のお願いを聞いて、彼らは黙った。

「だ、駄目?」

彼らの反応を見たマナオは、少し不安になり、問いて見ると。

「サトシが決めろ」

ヒョウリは、サトシにそう言って、託した。サトシは、一度マナオの目を見て、答えた。

「あぁ、いいぜ。一緒に行こう」

「ピカチュ」

サトシとピカチュウは、共に笑顔で答えた。

「あ、ありがとう」

そう答えてくれて、マナオは少しだけ涙を出して、喜んだ。

「おいおい、泣くなよ」

「ご、ごめんなさい。嬉しくて」

二人がそうやり取りをしているとヒョウリも入ってきた。

「けど、いいのか?お婆さんだけ、家に残すことになるぞ」

「それなら、大丈夫。実はお婆ちゃん、そろそろ老人ホームに入ろうかって考えてたの。ただ、私が家にいる間は、先延ばしにしてたから、迷惑かけちゃってって」

「そうか。ならいい」

「それじゃあ。一緒に、行こうか」

サトシは、マナオに早速出発しようと言うのだが、まだ彼女から話があった。

「うん。あと、それと、・・・もう1ついい、かな」

「ん?」

「もう1つ?」

これ以上、まだ話があるのかと思った二人。マナオは、二人にまた何かをお願いしようとした。

「わ、・・・を」

急にマナオの声の音量が落ちて、何を言っているのか聞こえたなかった。

「ん?ごめん、聞こえない」

サトシは、もう一度話すように言った為、マナオは、声を大きくしてもう一度話す。

「私を」

「「?」」

「私を、サトシ師匠の弟子にして下さい!」

マナオは、そう大声で叫んだ。

「「・・・は?」」「ピィカ?」

その言葉を聞いたサトシ、ヒョウリ、ピカチュウは、すぐに理解する事が出来なかった。




今回は、サトシと旅仲間に加わったヒョウリが共に、旅をはじめてマナオという少女に出会った話です。

偶々、通りかかった村で出会った新人トレーナーの少女:マナオとポケモンのカラカラ。
彼女がした約束。そして、目標。
今後、サトシ達とどう展開していくか。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


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5話「新しい仲間 弟子志望 マナオ」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


サトシと相棒のピカチュウは、ミョウコシティで共に旅をする仲間になったヒョウリと途中、小さい村(ノウトミタウン)に立ち寄った。そこで、新人トレーナーの少女マナオに出会った。はじめは、サトシが彼女に襲われてバッチ狩りにあったが、その理由とロケット団から彼女を助けた事で、サトシは彼女を許し、彼女もサトシに感謝した。そして、サトシ達が村を出る際、マナオから一緒に旅をしたいとお願いをされて、共にアハラ地方へ向かう事になった。しかし、彼らに、いやサトシに、ある重大な問題が起きていた。

「師匠、お荷物お持ちします」

新しく仲間に加わったマナオは、サトシの横から和やかに話かける。

「いや、いいよ」

それに対して、サトシは気まずい顔に頬に汗を垂らして、そう答える。それから1分も経たずに。

「師匠、肩揉みましょうか」

今度は、自分の両手で肩を揉む仕草をしながら、サトシにそう聞いてきた。

「いや、いい」

サトシは、先程同様に気まずい顔で断る。それから暫く歩き、丁度いい休憩場所の空き地があったので、少しだけ休憩を取ることにした。サトシは、休憩する為に、偶々あった切り株に腰を駆けると、再びマナオが話かけてきた。

「師匠、お茶をどうぞ」

そういって、両手で紙コップに入ったお茶を差し出して来たのだ。

「あ、ありがとう」

サトシは、気まずい顔をしつつも、今度は拒むこと無く受け取り、飲む。

「美味しいですか?」

「あ、あぁ、お、美味しいよ」

「良かったです」

彼女は、満面な笑みで喜んだ。そして、彼女が、引き下がると、サトシはガクと俯き、ため息を付く。

それから、一息しようとしていると、また彼女が現れて、今度はタオルを持って来た。

「師匠、汗拭きますか?私が、拭きましょうか?」

「え、いや、いいよ。」

「なら、師匠のかっこいい靴を磨きましょうか?」

今度は、靴みながら、サトシの前に出て靴磨きを申し込んできた。

「いや、だから」

サトシは、その後も1時間近く、マナオからそのような態度と接し方をされた。

「師匠」「師匠」「師匠」

サトシの頭の中では、常にマナオの声で師匠と言う言葉が飛び交っていた。そして、遂に我慢の限界が来てしまった。

「ッ、あぁぁぁ!いいって、言ってるだろぉ!」

思いっきり両腕を伸ばし、大声を上げるサトシ。それに、驚いて尻餅をつくマナオ。

「ひぃ、ご、ごめんなさい」

「ピカァ!」

「カラァ!」

「あぁ~、・・・緒が切れたか」

周囲では、突然のサトシの大声で驚くポケモン達と、察していた男が反応を見せた。

「あ、悪りぃ」

サトシは、周りを見てヤバいと思い、軽く謝った。

「ごめんなさい。師匠、私、何か失礼なことをしました?」

「あ、いや、そうじゃないくて」

「・・・」

「なぁ、マナオ」

「はい・・・あ、もしかして」

「ん?」

「お腹、空いてます?はい、どうぞ」

「は?・・・何これ」

「おにぎりです。さっき、私が旅に出るって行ったら、すぐ作ってくれました。あ、皆さんの分もありますので」

「ど、どうも、ありが・・・そうでもなあぁぁぁい!!!」

「ひぃぃぃ!!!」

「ピッカァカァカァ!!!」

突然のサトシの轟きに、マナオとピカチュウは驚いて声を出す。大声を叫んだサトシは、叫び終わると、息継ぎをして肩を落としていた。

「ハァー、ハァー」

「そ、それじゃあ。何があったのですか?」

サトシの突然の大声に、理由が分からないマナオは、彼に問いかける。

「そ、それは」

マナオは、ノウトミタウンを出たサトシ達の後を追いかけて来て、共に旅をしたいと申し込んだ。そして、サトシが了承した結果、同行することになったが、更にもう1つの願いをされた。それが、サトシに弟子入りしたいというマナオのお願いだった。サトシは、最初は理解が追いつかず、マナオに訳を聞いた。その訳は、ただサトシを褒める言葉ばかりだった。

貴方というポケモントレーナーに惚れた(恋愛という意味でない)とか、ピカチュウとのコンビネーションに痺れて自分とカラカラもああなりたい、流石各地方でバッチを50個以上も獲得してリーグ戦にも出場したベテラントレーナーなどなどと、とにかく褒め称えた。

そのせいで、サトシは照れた上に、嬉しくなって鼻がダーテング状態に、更に調子に乗ってしまった結果、軽い気持ちで弟子入りを了承してしまったのだ。

それから、数時間が経過した今、サトシは彼女からの話し方や接し方、態度に歯痒い思いをしていた。弟子入りした彼女は、師匠となるサトシへの接し方が、ドンドンエスカレートしていき、遂にサトシの我慢が出来なくなってしまった。

「ッ。本当は、俺、お前の師匠になりたくないんだ」

「えぇ!ど、どうしてですか?」

「どうしてって。それは」

「私が、嫌いなんですか?」

「いや、そうじゃ」

「もしかして、カラカラで師匠の頭をボコボコにした事を、まだ怒って」

「それも違う」

「では、どうして」

「俺は、ただ・・・一緒に仲間として旅をしたいと思っただけなんだ」

「ですが、私を弟子にしてもいいって」

「あの時は、その、調子に乗って、OKしちゃったんだ。だから」

「そんな・・・」

「ごめん」

「それでも、私は、どうしても弟子にして欲しいんです。それで、私。勇気を持って、また旅に出よう。強くなろうって、・・・思えたんです」

「マナオ・・・」

「ピィーカ」

それからサトシとマナオは、黙ったままになってしまった。暫くして、その状況を横から黙ってみていたヒョウリは、遂に見かねたのか、サトシだけを話そうと呼び出し、林の方へと行った。

「なぁ、ヒョウリ。どうしたらいい?」

「弟子入りの件か?そんなに嫌なら断ればいいだろう」

「いや、それは分かってるけどさ。あんな事言われたら・・・」

「ここは、心を鬼にして、やっぱ一緒に旅をすることが出来ないから、帰れと言えばいいじゃないか」

「いや。流石に、そんな事、言えないよ」

「なら、弟子には出来ないけど、一緒に旅はしていいぞって、正直に言えばいいじゃねぇか」

「それは、さっき言っただろ。そしたら、あぁなって、それで」

「ハァー。まぁ、あの女がどうしてお前にそこまで弟子入りしたいか。普通なら分からないだろうけど。俺には、何となく理解出来るよ」

「え?」

「だって、サトシ。お前は、馬鹿で正直で真っ直ぐなんだよ。そして、お前の前向きで、ポケモンを信頼している。相棒のピカチュウとのコンビネーションをもとい、お互い信頼しているのも分かる。その他、諸共含めて、馬鹿だけで良い人ってのも分かる」

「・・・それって、褒めてるのか?」

「フッ、半分な」

「お前と会って、まだ数日にしかならないが、お前という人間は、何となく理解出来てきたよ」

ヒョウリは、そう言ってから、暫く考え事をした。そして、新しい提案をしてきた。

「ポケモンバトルしたらどうだ?」

「ポケモンバトル?」

「あぁ。いいか。ゴニョニョにゴニョニョ」

ヒョウリは、サトシにある打開策を提案した。

 

 

サトシ達が離れてから、10分近くが経過した。

(師匠達、遅いなぁ)

あれから、マナオは座り込んだまま、サトシ達の帰りを待っていた。まだ、帰ってこないのかと徐々に不安がっていると、林の方から二人が戻って来たのに気付いた。

「あっ、師匠」

「悪いな、マナオ。待たせて」

ヒョウリは、そう謝ると、マナオに話が問いかける。

「いいえ、大丈夫ですけど、お二人は何を?」

その回答を、サトシがする。

「なぁ、・・・マナオ」

「は、はい」

「その・・・ゴホン。お前に、試練を言い渡す」

「し、試練?・・・はい、なんでしょうか?」

マナオは、慌てて立ち上がり、そう聞き返した。

「あぁ。今から、俺のピカチュウとお前のカラカラでバトルする」

「バトル、ですか」

「それで、勝利するか良いバトルが出来たら、お前を正式に弟子として認める」

「ほ、本当ですか」

「あぁ。ただし、それで見込みが無かったら」

(ゴクリ)

「お前を、破門とする」

「は、破門!!!」

サトシが言う破門という言葉を聞いて、驚くマナオ。すると、サトシに続いてヒョウリも説明をはじめた。

「ちなみに。どうしても、この試練が、バトルが嫌だというなら、それでも破門だ」

「そ、そんな」

「サトシが、折角のチャンスをくれたんだ。これに乗らないと、永遠に弟子入り出来ないよ」

ヒョウリが、彼女へそう促していると、サトシが小声で彼に耳打ちをした。

「おい、ヒョウリ。プレッシャー与えすぎだぞ」

「そうでもしないと。あの女、悩んで悩んで時間かかるだろうし、プレッシャー与えていた方が、弟子入りしなくても済むだろ。一応、お前の方が、勝つとは思うけど」

「・・・だけど」

「わ、分かりました」

「「ん」」

「見込みがあれば、いいですね?」

「あ、あぁ」

サトシが、そう頷くと、マナオは答えた。

「なら。その試練、受けます」

「それじゃあ、さっさとやるか。俺が審判をする」

 

 

彼らは、ポケモンバトルが行いやすい広々とした場所へ移動した。そして、審判を務めるヒョウリがルールの確認を始めた。

「ルールだが、互いにポケモン1匹ずつ。どちらかが戦闘不能になるか降参した方が、負けということでいいな」

「あぁ」

「はい」

「では、お互いにポケモンを出せ」

「頼むぞ。ピカチュウ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、サトシの前に出て、戦闘態勢を取った。

「行け、カラカラ!」

「カラァ!」

マナオは、モンスターボールを投げてカラカラを出した。

「それでは、・・・はじめ!」

ヒョウリの合図でバトルが開始した。

「行くぞ!ピカチュウ、でんこうせっか」

「ピカァ!」

サトシのピカチュウが、先攻を取った。ピカチュウは、(でんこうせっか)でカラカラへ突っ込んでいく。

(さて、マナオのバトルは、はじめて見るが、どう出る?)

サトシは、マナオとカラカラを見てそう考えた。

「よし!カラカラ、ホネブーメラン」

「カラァ!」

マナオは、カラカラに指示を出した。カラカラは手に持った骨をブーメランの如く、突っ込んでくるピカチュウへ投擲した。(ホネブーメラン)、カラカラの必殺技の1つで、手に持つ骨をブーメランとして扱う遠距離技。

「躱せ」

「ピカッ」

ピカチュウは、向かってきた(ホネブーメラン)を難無く躱した。だが、(ホネブーメラン)は、言葉通りブーメランの様な技、つまり投げた攻撃(骨)が返ってくるのだ。ピカチュウは、回避した後も、カラカラ目掛けて突っ込んで行く。そのピカチュウの後方から骨が飛んで近づいて来ている。

(お、気が付いていない感じ?よし、このままピカチュウに当たれば)

マナオは、舌で軽く自分の唇を舐めて、ピカチュウを睨む。

そして、次第に骨は勢いよくピカチュウへ近づく。

(よし、いいぞ)

接触まで、あと少しの所でサトシが叫んだ。

「今だ、躱せ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、サトシの言葉通り、回避行動を取り、見事に後方から飛んできた攻撃を躱した。それも、後方を見ないでやって退けた。

「な、後ろも見ないで」

「カラッ!」

その芸当に、マナオとカラカラは驚いた。そして、カラカラは投げたホネブーメランを受け取る体勢を行った。

「よし、でんこうせっかのまま突っ込め」

「ピッカ!」

ピカチュウが、一気に(でんこうせっか)のまま、突っ込んでいく。そして、ホネブーメランを取ろうとした瞬間。

「な、カラカラ」

「カラッ?!」

「今だ、アイアンテール!」

「ピィカァーーー!」

(でんこうせっか)から(アイアンテール)へとスムーズに切り替えたピカチュウ。ホネブーメランを受け取ったカラカラの目前には、ピカチュウの光る尻尾が向かってきていた。そして、バトルの結果は、すぐについた。

「カラカラ、戦闘不能!よって、勝者サトシ!」

ヒョウリが、勝敗の結果を出し、サトシへと腕を向ける。

「やったぜ!って、あ」

サトシは、いつも通り大声を上げて喜ぶが、すぐさま辞めた。なぜ、今バトルをしているかを忘れてしまったサトシは、対戦相手であるマナオに、気不味い顔を向ける。

「そ、そんな、一撃で」

マナオの前に、目を回したらカラカラが倒れていた。ピカチュウの(アイアンテール)で吹き飛ばされ、一撃でノックアウトされたのだ。マナオは、そのまま膝から崩れ落ちて、地面に尻もちをつき、俯いた。

「あ・・・」

「ピィ・・・」

サトシとピカチュウは、気不味いがそのままマナオへと近寄っていく。審判を務めたヒョウリも肩をすくめて、サトシに釣られて寄っていく。

「マ、マナオ」

「ピィピカ」

サトシとピカチュウは、俯くマナオに話しかける。すると、彼女の膝に水滴がポツン、ポツンと滴っていた。

「!」

サトシは、それを見て、足を止めた。マナオの両目から涙が溢れていたからだ。

「あぁ、泣いちゃったよ」

それを見たヒョウリは、サトシの横でそう呟く。

「マナオ、ご、ごめん。やりすぎた」

「おいおい、やりすぎたって。やらないといけない話だったろ」

「いや、そうだけど」

サトシとヒョウリがそう話していると、マナオから話かけてきた。

「私、・・・破門ですか」

マナオから聞かれた言葉に、サトシは答える。

「え?あ、いや、その、・・・うん」

「そう、ですか」

「いや。あれは、飽く迄弟子を辞めるという話だけで、それで」

サトシは、マナオへ

「私は、サトシ師匠に弟子入りする為に、一緒に旅をすることにしたんです」

「「!」」

「より強くなるためには、もっといいトレーナーとなり、カラカラを鍛えることが必要だって。けど、私達だけじゃあ駄目だった。だから、弟子入りしようって。強くて、ポケモンと強い信頼が持てて、諦めない気持ちがある貴方に、弟子入りしたいって。それで私」

「「・・・」」

「ですが、もう弟子でない以上。私が、ご一緒にする必要はないでしょ」

マナオは、目を回しているカラカラをボールへ戻し、立ち上がった。すると、そのまま自分の荷物であるカバンの元へ歩いていき、その場で背負った。そして、サトシ達に振り向いた。

「まだ1日も経っていませんが、・・・お、お世話になりました」

「え?マナ」

サトシが、彼女の名をいう瞬間。

「ッ」

彼女は、走り出した。

「あ、マナオ!」

「ピピカ!」

「・・・」

走る彼女の両目からは、雫が流れ出ていき、地面に点々と跡を残していく。そして、そのまま西の森へと走っていった。

「あぁ、行っちゃたな」

「行っちゃったじゃないだろ。どうするんだよ」

「どうするも何も仕方ないだろ。本人が出ていっちゃたんだから。たく、人の話を最後まで聞かない奴だな」

元々、ヒョウリが提案した計画予定では、弟子としてクビにはするが、その変わり一緒に旅をしていく中で、彼女の成長を見ていき、そのうち再度試験をした上で、弟子復帰を考えるという内容だった。あとは、サトシ次第で弟子に取るか取らないかを考えながら、一緒に旅を続ければいい。最悪、弟子が嫌なら旅が終えるまで、試練を与えない上、最後にさようならと言えばいいと。それにサトシも納得して実行した。だが、結果はこうなってしまった。

「まぁ、計画と違ったが、良かったんじゃないか」

ヒョウリは、そう言ってサトシの肩に手を当てる。

「だけど」

「じゃあ、お前はあのまま弟子にしておきたいのか?師匠、師匠、師匠って」

「それは、嫌だけど。・・・俺は、ただ一緒に旅をしたかっただけなんだ。お互い、弟子でも師匠でもなく。対等な立場で」

「だが、あいつが言っただろ。一緒に旅をするのは、弟子入りする為だって」

「・・・あぁ」

「てか、お前。なんで、そんなに弟子が嫌なんだよ」

「え?」

「それに、たっぷり扱き使えるし、雑用として楽出来るのにな。それと、あの女、結構可愛い方だぞ。俺の好みの娘ではないけど」

「え?付き合う?どういう意味?」

「・・・そうか、まだ子供ってか」

「ん?」

「まぁ、いいよ。この話は。結局、お前にも非があるのは事実だからな」

「非?」

「お前が、簡単に弟子入りを了承しなかったら良かったんだよ」

「ご、ごめん。つい、嬉しくて」

「あぁ、そうだろうな。最初、あの女に褒められまくった時、結構ニヤついていたぞ」

「え?そ、そうかな」

「あぁ、ちょっと気持ち悪かった」

「うっ」

サトシは、図星を突かれたが、気持ちを変えて、話す。

「確かに、嬉しかったよ。自分の実力を認められたことになるし、トレーナーの先輩として後輩に敬わられるのは、気持ちよかったよ。それで、俺、調子乗っちゃったけどな。・・・ただ、実際に弟子として接されると、段々嫌になってきた。別に、俺は偉くなりたい訳でもない、誰かに上目遣いして欲しくもない。ただ、普通に、一緒に旅をしたい。そして、一緒に強くなりたいと・・・そう思ったんだ」

マナオが走っていた森へ目を向けるサトシ。

「俺、ちゃんと、あいつに気持ちを伝えられなかったかな?」

「どうだろうか。伝わったようにも思えるが、心から理解したとも言えないかもな。けど、もう過ぎたことは仕方ないさ。本人が行っちゃたし。仮に、また会って何て言うのさ」

「・・・」

「ピカピ」

サトシは、

「ハァー」

ヒョウリは、ため息をついて、荷物の元へと歩く。

「ほら、次の街へ向かうぞ。あと、1時間で昼だが、もう少し歩いて行こう」

「・・・あぁ」

荷持を背負うヒョウリにそう言われて、サトシも自分の荷物へ向かった。

「マナオ、大丈夫かな。また、村で一人塞ぎ込んで、バッチ狩りとか馬鹿なことしないよな」

「さぁ、ただ、それは無いんじゃねぇか」

「どうして、そう言えるんだ?」

「だって、あいつ」

ヒョウリは、マナオの走っていた方へ指を示す。

「村と逆方向、西へ行ったぞ」

「え?」

「村とは逆方向に行って走ったぞって」

「嘘だろ。だって、あいつ」

「恐らく、破門の件がショックで、思考が停止していたんだろうな」

「なんで、もっと早く言わないんだよ」

「いや、すぐあいつ走っていったし。それに、もしかして一人で旅をするのかなと思ってな。何しろ、俺らも次の街までは、あの森へ入らないといけないからし」

「・・・」

「とにかく、早く次へ行こう。どうせ、次の街まで2日掛かる」

そう言って、ヒョウリは左腕の腕輪でマップを表示させる。

「あの森に入ってから、3時間程歩くと、トレーナーご利用のコテージがあるみたいだ。そこで、一泊しよう。じゃないと、ここか森で野宿になるぞ」

「・・・」

「もしかすると、そこでマナオに会えるかもしれないぞ。どうしても気になるのなら、ちゃんと話せばいいだろ」

「あ」

「ピカピ」

「そうだな」

少しだけ元気になったサトシは、ピカチュウとヒョウリと一緒に西の森へと向かった。

 

 

サトシ達と別れて、一人で走って行ったマナオは、森の中を歩いていた。

「・・・」

彼女は、サトシからの破門のショックで暗い表情を浮かべながら、前でなく地面を見て歩いていた。

(私、やっぱり全然駄目なトレーナーなのかな)

先程から、心の中でそうネガティブに考え、自分を責めていた。3ヶ月前、ポケモントレーナーとしてカラカラと村を出てから街へ行き、そこのポケモンジムで戦った。結果は、連敗。何度も彼女は、挑んだ。負ける度に、カラカラと特訓して、時には他のトレーナーともバトルをした。だが、ジムリーダーや他のトレーナーにも負け続けた彼女は、次第に自身と自分の力を疑い、バトルから逃げるようになった。普通なら何度も負けるとポケモンを疑うだろうが、決してカラカラを責めなかった。彼女にとってカラカラが家族同然の存在だからだ。ただ、自分自身を情けないトレーナーだと、自分に才能が無いからと、何度も自分を責めていくようになり、結果的に故郷の村へ戻って、引き籠もった。唯一の家族である祖母や村の人々に、嘘をついて。ただ、自分とポケモンバトルから逃げ出していた。しかし、かつて生きていた両親との約束を守りたいという気持ちがまだ残っていた。その約束と現実に挟まれた彼女は、苦渋の決断をした結果、バッチ狩りという愚かな行いへ進んでいってしまった。それもサトシ達との出会いで変わり、再びトレーナーとして修行の旅に出ようと考えた。サトシへ弟子入りすれば、より凄いトレーナーになれると考えた上で。

(やっぱり、私なんかじゃあ。立派なポケモントレーナーには慣れないのかな)

俯いて、ただそう自分に対して悪い評価をする。この行いは、日に日に彼女の習慣になろうとしていた。そんな彼女は、前へ前へと森を進んでいくのだが、途中一本道だったのだが、カーブになっているところがあった。本来の道なら左へと沿っていくのだが、右側に少しだけ細身道になっていたのだ。更に、その別れ道の中央には、看板が刺さっており、左側が(ヨヨミキシティ行き)と、(この先約2kmコテージ)と書かれ、右側は(通行注意✕)と書かれていた。この看板を見た人間なら大抵の人なら、迷わず左へ行くだろう。しかし、俯いた上、判断力が低下している彼女には、その看板の存在も、道が別れている事にも気付かないまま、右側へと足を踏み入ってしまった。本人は、自分の状況に気付かないまま、一歩一歩と足を動かし、奥へと歩いて行った。

 

 

マナオが出て行ってから、3時間程が経過した。

サトシ達は、マナオが入った森へ入り、ヒョウリのマップを頼りに、進んでいた。そして、マップ通りに森の奥にあるコテージへと無事に付いた。

「いらっしゃいませ」「いらっしゃい」

サトシ達が、コテージに入ると店員らしい男女がやってきた。

「私は、このコテージを運営しているオーナーです。こちらは、私の妻です」

「ようこう、お客様」

「お客様は、2名様でしょうか」

「えぇ」

ヒョウリは、右手で2本を立てて、そう言った。

「はい。それでは、こちらに記入をお願いします」

「はい」

ヒョウリは、オーナーに言われて、宿泊客の契約用紙へ必要事項を記入していく。

「はい、サトシ」

次に、ヒョウリはサトシにペンを渡して、交代する。

「あぁ」

サトシは、ペンを受け取り、用紙に書いていく。

「はい、サトシ様とヒョウリ様ですね。1泊の予定でお間違いないでしょうか」

「はい、そうです」

「あの」

サトシが、オーナーへ話かける。

「はい?」

「ここに、さっきパーカーを着た女の子が来てませんか?」

「パーカーを着た女の子?」

「はい、赤黒色短めの髪の毛なんですが」

「さぁ、分かりません。女性客は、本日は来ておりませんが」

「え?・・・そうですか」

「如何されましたか?」

「いえ、大丈夫です」

ヒョウリは、サトシの変わりにオーナーに答えた。

「そうですか。では、お部屋の鍵はこちらとなります」

ヒョウリは、鍵を受け取ると、二人で、部屋に向かった。部屋に入ると、そこは二段ベッドが1つある古い洋式の八畳間程の部屋だった。1つの窓があり、窓の向こうには、森や遠くの山の頂上が見えていた。二人は、荷物を降ろす。

「俺、上のベッド使うわ。あ、ちょっとトイレ」

そう言って、ヒョウリは一人トイレへと向かった。一方、サトシは下の段へ座り込む。

「・・・」

マナオの事が心配になったサトシは、窓の方を見る。まだ、日は明るいが、あと数時間もすれば、一気に外は暗くなり、気温が落ちて寒くなるのを知っている。

「あいつ、ここを過ぎて行ったのかな」

「ピィカ」

暫くして、ヒョウリが戻ってきた。

「なぁ、ヒョウリ」

「どうした?」

「本当に、マナオはここを過ぎたんだろうか」

「さぁ、どうだろうか。ここを過ぎたら、次の街や宿泊が出来る施設までは、最短でも1日半は掛かるぞ」

「1日半・・・」

「・・・なぁ、サトシ」

「ん?」

「ここへ来る途中、別れ道あったよな」

「あったけど」

「あいつ、まさかあの右側のヤバい道に行ったってことはないよな?」

「え!」

「ピカ!」

サトシとピカチュウは、その言葉を聞いて、動揺する。

「いや、飽く迄可能性の話しさ。あいつが、間違って別の道へ行ったんじゃないかなって」

「マナオが、」

「まぁ、流石に、あの看板見て右側へ行くアホは無いよな」

「そ、そうだよ」

「ピ、ピカピカ」

「けど、もしかするとわざと行ったのかもな」

「え!」

「ピカ!」

「な、なんで?わざと」

「だって、お前に破門にされたんだぜ。旅立ち初日に、彼女に取って、トレーナー人生として新しい出直しである新しい旅。だが、その1日目にして、敗北。そして、破門」

「ッ」

「余程ショックだったんだろうな」

「ウッ」

「きっと今頃、森の中で」

「えぇ」

「ピィカァ」

「・・・ハァー、可哀想に」

「やめろよ!」

「ピカピカァ!」

「悪い悪い、冗談だって」

「冗談にしては、酷いぞ!」

「ピカァ!」

「すまんすまん。ただ、あいつが、本当に危険な道へ行った可能性は0じゃないからな」

「あっ・・・」

「それと、さっきオーナーに聞いたんだが。あの道、ドンドン進むと道が無くなっていき、迷子になりやすいって。そして、崖になっているところもチラホラあるらしい。稀に、誤って怪我をした人や亡くなった人もいるとか」

「え」

「どうする?・・・お前、マナオを探しに行くか?」

「あ、あぁ」

「逆に思い過ごしだったら、探しに行った俺らが危険な目に合うが。それでもか?」

ヒョウリが軽く脅すが、サトシは迷いなく答えた。

「それでも、探しに行く」

「ピカピカ」

二人の真剣な顔を見て、ヒョウリは少し驚いた素振りで言う。

「マジか?俺は、辞めときたいんだがな。確証もなくリスクを取るのは」

「なら、俺一人でも行く」

「ピカピ」

「あぁ、そうだな。俺たち、二人でもだ!」

「ピィカ!」

そんなサトシ達を見て、ヒョウリはため息をつく。

「ハァー、そうか」

ヒョウリは、そのまま上の段のベッドへ登っていき、横たわる。それを見て、サトシはただ黙って部屋を出た。

 

 

「えぇと、こっち・・・だような。いや、こっちか」

サトシは、ピカチュウと共にコテージを出た。先程は、一本道でコテージが見えたのだが、コテージからは、道が4つになっていた。サトシ達が来た道は、東の方だと分かっていたが、東側には2つ3つの道があり、途中で枝分かれもしていた。3つの道を見て、サトシは迷っていたのだが。

「よし、こっちだ」

そう言って、サトシは1つを選び、サトシは慎重に進んでいく。

「これで、俺まで迷子になったら笑えないな」

「ピカピ」

サトシとピカチュウは、互いに不安な顔を合わせて、そう言う。

「そっちじゃない」

すると、後ろから誰かに呼び止められた。振り返ると、そこには、彼が居た。

「ヒョウリ」

「お前、やっぱりだな。普段から地図を見たり、持ち歩かないから、そういう奴だと思っていたが・・・なんだよ、気持ち悪いぞ」

ヒョウリは、サトシの顔を見てそう言った。サトシとピカチュウの顔が少しだけニヤついていた。

「いや、お前なら来てくれる気がしたんだよ。な、ピカチュウ」

「ピカ」

そう言われるとヒョウリは、少しだけ顔を赤くして。

「お前、俺を揶揄ってるなら、帰るぞ」

「あぁ、ごめん、ごめん」

「ピカ、ピカピカ」

慌ててヒョウリに謝った。

 

 

サトシ達が、マナオを探しに向かう頃。マナオは、危険な道をドンドン進んでいた。

「どうしよう。この先であってるのかな」

マナオは、間違った道を進んでいた途中で、やっと現状を理解した。自分が村とは別の道へ向かった上、ヤバイ道へ入ってしまったことに、徐々に気付き始めた彼女は、来た道へ戻ろうとした。しかし、道が整備されていない為、草木や雑草が生えて上、逆から見ると、複数の道に見えてしまい、元来た道が全然分からなくなってしまった。

「どうしよう、本当にこっちでいいのかな」

マナオは、不安になりながら、道を進んでいくと。

カサカサと傍らの林から音がした。

「ひぃぃぃ」

マナオは、驚いて尻もちをつく。そのまま、何かが潜んでいる林の方をじっと見ていると。

「キノキノ」

草むらからポケモンが姿を現した。それは、野生のキノココだった。

「なんだ、キノココか」

キノココは、マナオをチラっと見ると、そのまま無視して、反対側の草むらへと入っていった。

「けど、私・・・完全に道に迷っちゃったな」

マナオは、そう呟いて周りを見渡す。どこを見ても草木と木々だらけで、現在位置を教える看板も目印になるものも無い、勿論建物や人の影すら見当たらない。それから、彼女は考えると、何かを閃いた。

「そうだ、ポケモンなら」

彼女は、腰にあるモンスターボールを1つ取り出して、投げた。

「出てきて、カラカラ」

「カラッ、カァ」

カラカラは、ボールから出てきたのだが、すぐに前へと倒れてしまった。

「あぁ、ごめん」

マナオは、慌ててカラカラの元へより、抱き上げる。

「やっぱり、まだダメージが残ってるのね。ごめんねぇ、キズぐすり出すから」

そう言って、マナオは、自分のカバンの中を見て、手探りでキズぐすりを探すのだが。

「あ、どうしよう。私、持ってない」

(やっぱ、私駄目なトレーナーだな)

そんな事を考えていると、ポツ、ポツ、ポツポツと、突然雨が降り始めた。

「嘘」

彼女は、天を見上げて、先程までに無かったはずの空に黒い雨雲が出来ていた。

「カラカラ」

マナオは、すぐさまカラカラをモンスターボールに戻した。

「どこか雨宿りしないと」

そう言って、マナオは立ち上がり、すぐに動いた。当たりを改めて周りを見渡すが、雨宿りが出来そうな空間が無かった。

(どこか洞穴やしっかり屋根になったところでもあれば)

そう言って、すぐ奥へと進んだ。暫くすると、雨が激しく振り始め、視界も悪くなった。彼女が進む道は、次第に悪くなり、石や岩で歩き辛い上、少しだけ斜面になっていった。

「どっか良いところないかな」

マナオは、そう思いつつ、雨宿りの出来る場所を探し続けていると。

ズルッ

「?!」

濡れた地面に足を滑らしてしまい、そのまま。

「あっ」

彼女は、斜面を転げ落ちてしまった。

 

 

二人が、別れ道まで戻り、通行禁止の危険だと言う道を進んでいた。

「マナオ!いるなら返事してくれぇ!」

「ピピカ!」

サトシとピカチュウは、マナオの名前を叫び呼ぶ。

「マナオ、この道は危険だ。すぐ戻れ!」

ヒョウリもマナオに危険な道だと警告して伝える。

暫くして、ポツンポツンと雨が降り出してきた。その雨は、次第に威力と量が増してきた。

「不味いな」

ヒョウリは、見上げて雨に警戒する。

「雨が降ってきちゃったな」

「ピィカァ」

サトシとピカチュウも雨に濡れてきて、嫌な顔をする。だが、彼らはより真剣な顔をした。

「よぉし。行こう」

「待て、サトシ」

気合を入れて進もうとするサトシに、ヒョウリが呼び止める。

「!」

「さっき言ったように。この道は、整備されていない上、足場がドンドン酷くなし、崖もあると聞く。この雨じゃあ、遭難もそうだが。下手に動けば、軽い怪我じゃ済まないぞ」

「だけど、探さなきゃ」

「あぁ、分かってる。だが、サトシ。はっきり言って、彼女がここへ来た可能性は5割だぞ。もしかすると、コテージを通り過ぎた線だって、一応はあるんだ」

「そうかもしれない。けど、あいつがこの道を来ていたら!」

(・・・不味いな、こいつ)

サトシがマナオを探し始めてから、徐々に焦りが見えてきていた。そして、サトシを見るヒョウリには、冷静さを感じなくなっていっていた。

「早く、マナオを探さないと」

「誰かを助けたいなら。冷静に、賢く、最善に、考えて行動しろ!」

突然、ヒョウリが怒鳴った。

「!」

その声に、サトシは驚いて体が止まる。

「・・・」

「今のお前は、冷静さが欠けている上、賢い選択が出来ていない。もし、お前が救助隊の人間なら不合格だ。まぁ、俺も本職の人間じゃないけどな」

「・・・ごめん」

サトシは、そう謝り、徐々に気持ちを落ち着かせ、冷静になっていった。

「もし、マナオが、こっちで危ない目にあってたら。俺があいつを・・・ッ」

「・・・俺も悪い。お前だけじゃなく、俺にも責任はある。こうなったのは、俺にもあるからな」

サトシが、悲痛な顔をしているを見て、ヒョウリも少しだけ気を使い、そう告げる。

「・・・分かった。一か八かだが」

すると、ヒョウリは、何を考えついたのか。腰にあるモンスターの1つを選び、それを投げた。

「出てこい、ルカリオ」

「ファル」

ボールから出てきたのは、昨日ロケット団を相手に、サトシとタッグバトルをした時に使ったルカリオだった。

「ルカリオ?・・・そうか、波導でマナオを探すんだな」

「お、御名答だ。波導を事、知ってるのか。俺のルカリオは、波導をそれなりに使えるように修行しているし、よく波導での周囲の把握や追跡をやらせている」

ヒョウリは、出したルカリオに近づいていき、本人に説明をする。

「ルカリオ。昨日、会った女の子とカラカラを覚えているな。あいつらの波動を見つけてくれ」

「ヴァル」

指示されたルカリオは、急に静かになり、集中した。今、ルカリオは、自身の波導と周囲の波導を合わせて、読み取ろうと、マナオの捜索を始めた。

波導は、全ての物質が持つ固有の振動、俗に言う気やオーラ等のエネルギー波、を操る技術のことを言う。その波導を使いこなせるポケモンが、様々な存在が放っている近いエネルギー並を読み取る能力を持つ。ルカリオも、その一種のポケモンである。更に、ルカリオは、人語を理解する程の高い知能を持っていて、他のポケモンや人間が発する波導をキャッチ出来て、その種類や考えから動きに至るまでも、鮮明に感じ取ることができる。無論、ルカリオ、進化前のリオルというポケモンも含めて、波導を使いこなす為の修行が必要ではある。

「後は、ルカリオがそれらしいのを見つけることが出来たら、捜索を継続。ただし、見つからないなら、悪いが今日は中止、最悪引き上げだ。いいな?」

「・・・あぁ」

ヒョウリの考えに、サトシは渋々承諾した。

(頼む。ルカリオ)

サトシは、そう心から願った。そして、ルカリオは静かに、自身と周囲の自然にある波導を合わせていき、その範囲を徐々に広げていった。

 

 

「う、うぅ」

マナオは、地面にうつ伏せの状態だった。

「・・・ここは」

彼女は、目をゆっくり開けて、顔を起こすと、周囲を少し見た。先程、歩いていた道とは、全然違う風景ではあったが、同じ様に木々と草木ばかりだった。雨は、まだ強く降っていた。

「よいっ、いてっ」

マナオが、立ち上がろうと両足を動かした瞬間、左足から激しい激痛が走った。

「くっ、ッ」

左足を少し動かしただけで、痛みが走る。激痛のせいで、彼女の目から涙の粒が出てきた。

やっとの思いで、仰向けになり、自分の足を見た。だが、靴下や靴を履いている為、よく見えなかったが、少しだけ靴下を降ろしていく。

「痛」

少しでも触れると足に痛みが走るが、我慢しつつ、足首を露出させていき、それを見た。

「あ、どうしよう。足が」

足首のあたりが、青白くなり腫れていたのだ。それを見たマナオ自身、理解が出来た。足を挫いたか、骨折でもしたのだろうと。

(ヤバイな私、歩けない・・・ね)

それから、周囲と自分の惨状を見た。そして、最後の記憶を思い出していく。

「私・・・落ちちゃったんだ」

冷静になってから、そう判断して、落ちてきたと思う。斜面の上を見た。

「・・・そうだ。助けを、けど、通信用の道具とか持ってないし・・・ここ森の中だし、それに・・・雨降ってるし」

先程から悪い状況が重なっていく中、マナオの心は疲弊していった。

(私、・・・助かるかな)

ネガティブになっていたマナオに、この状況は余りにも酷い話だった。よりマナオの諦める心が強まり、助かろうという気持ちすら、薄くなっていく。

だが、彼女には、一瞬だけ。サトシが出てきた。(絶対に、諦めない)その言葉が、最後の彼女の心にあるものを突き動かした。

(誰かに助けを呼ばないと、何か、方法が)

「そうだ。カラカラを・・・駄目だ。ダメージ負って、でも・・・ごめん」

彼女は、カラカラの入ったボールを再度投げて出した。

「カラァカ~」

カラカラは、ボールから出て着地をしようとしたが、尻餅をついた。

「ごめん、カラカラ大丈夫?」

「カラ」

カラカラは、痛いのを我慢して、マナオに返事をする。カラカラは、体中に傷を負っている上、先程のピカチュウとのバトルでのダメージがまだ残っている。そして、回復させる事が出来ないが、動けるのはカラカラしか居なかった。

「お願い、誰かに、助けを求めてきて。動けないの」

「・・・カラ!」

カラカラは、元気よく返事をすると、手に持つホネこんぼうを杖代わりにして、斜面を登っていた。

 

 

ヒョウリは、左腕にしている腕輪に内蔵した時計を見た。

「もう、夕方だ」

(既に時刻は、16時過ぎ。季節的に、あと1、2時間もすれば、日は落ちて真っ暗だろう)

「どうだ、ルカリオ」

「・・・」

ルカリオは、ヒョウリの言葉に返事をしない。それだけ、今は集中をして、まだマナオ達が見つける事が出来ていないのだろう。それを隣で、見ていたサトシが心配しつつ見ていた。

「くそ、まだ見つからないか」

「仕方ない。この森は、結構広い。野生のポケモンもいるだろうし、ましてや」

そうヒョウリが話していると。

「ファ!」

突然、ルカリオが言葉を発した。

「どうだ?」

「ファル、ヴァルヴァル」

ルカリオは、何かを話すと手招きをした。そして、そのまま森の奥へと走って行った。

「行くぞ」

「あぁ。待ってろ、マナオ」

 

 

「さ、寒い」

あと、半刻もしない内に、日は落ちて完全に、森は真っ暗になるだろう。雨はまだ降っている。いや、先程より増していた。マナオは、斜面に背を倒し出来るだけ楽な姿勢を取っていた。彼女は、怪我をした左足の痛みに耐えながら、助けを待っていたのだが、雨で増す中、夕暮れも重なって、辺りの気温が一気に落ちていった。そして、それに比例するかのように彼女自身の体温も落ちていく。全身が雨で濡れている上、雨宿りも出来ない、火を焚いて暖を取ることも出来ない状況では、彼女の体温は徐々に落ちていった。このままでは、低体温症にもなりかねない。

そんな危険な彼女は、やっと助かろうとする気持ちが、また消えていっていた。

「私、このまま、・・・死んじゃうのかな」

また、彼女はネガティブに、自分の悲惨な末路を口ずさむ。だが、仕方ないかもしれない、この状況で諦めない心を持つのも、そう簡単なことではない。普通なら、死んでもおかしくない状況で、助かる望みが無いに等しいなら、尚更だ。

「・・・だ」

彼女の両目から次第に涙が溢れてきた。

「嫌だよぉ」

彼女は、自分の悲惨な末路を否定した。

「私が、今まで悪いことした罰なのかな」

彼女は、今ままでの行いを思い出してきた。両親が死んでから、他の村の子と喧嘩したことや、トレーナーになってから逃げるように村へ戻って、それからやり始めたバッチ狩り。彼女自身、それらは悪いことだと自覚はしていた。その事への報いが今来たのだと思いはじめた。

「お、おとうさん、・・・おかあさん」

彼女は、死んだ両親を呼ぶ。

「おばあちゃん・・・ごめんな、さい」

次に、まだ生きている祖母の名前を出す。

「・・・し」

そして、彼女の体力が限界に差し詰まっていた。もう声に力が入らないのか、はっきり言葉が出てこない。そして、最後の喉に力を出して、名前を呼んだ。

「サ、・・・トシ、・・・師、しょ」

サトシの名前を呼んだのを、最後に意識を失った。あと1時間もしないうちに、放置し続ければ、彼女の存命は難しいだろう。助けを呼びに行ったカラカラは戻らないまま、時間だけが過ぎて行った。

(私の旅、いや人生はここまでか)

彼女の心の中で、最後の人生について考えていた。

「ォ」

(私、なんで、こんなに駄目人間なんだろう)

「ナォ」

(ん?なんか聞こえたかな。・・・気のせいか。このまま、誰にも知られずに、この世を去っていくんだろうな)

「マ、オ」

(ん?また聞こえる、さっきより声が大きいな。もしかして、助けに?カラカラが呼びに行ったのかな。けど、もう立てないし、動けないよ)

「ナオ!」

彼女が聞こえる声が、次第に大きく聞こえてきた。

「マナオォ!」

「!」

彼女の元に、誰かが近づいて来て、大声で名前を呼んでいる。そして、その人物は、私の側にくると、体を起こして、身を寄せる。

「くそ、体が冷たい」

「俺の雨合羽を着せる、それと携帯カイロが入っているから。それで」

マナオの側で、二人組の男が会話をしている。マナオは、殆ど開かない目を開けていくと、そこにある男の顔を映った。

「し、しぉ」

「大丈夫か。マナオ」

サトシは、マナオを抱き寄せて、雨合羽を被せていく。

「よし、俺が背負うから、道は頼むぞ」

「あぁ、ルカリオ。時間がない、最短コースで頼むぞ」

「ヴァル」

そして、サトシはマナオを背負、ルカリオを先頭にして、暗い雨の降る森を走って行く。

「もう、大丈夫だからな。マナオ」

「わた、カラ、カラ」

「お前のカラカラは大丈夫だ」

「あぁ。カラカラは、俺がキズぐすりで手当して、カバンの中で眠ってる」

ヒョウリは、走りながら話して、背中のカバンに親指を向ける。

「だから、もう安心だ。あとは、コテージでお前を治療するだけだ」

サトシは、そう言って、マナオを背負いながら、必死に走る。

「し、しょ」

「ん?」

「・・・ご、めん、さぁぃ」

「・・・俺も悪かった」

 

 

あれから、マナオとカラカラを見つけたサトシ達は、ルカリオの先導のお陰で、無事にコテージに戻る事が出来た。コテージに戻ると、すぐにヒョウリがオーナーに事情を説明し、医者を呼んで貰うようにお願いをした。だが、外は雨が降っている上、既に夜だった為、医者が来るのは明日の正午だと聞かされた。そこで、ヒョウリの指示の元で、マナオの応急手当をすることにした。先に、冷え切った体を温める事が先と判断し、オーナーの奥さんにお願いをして、温い湯船で体を温めて貰った。その次に、彼女の足を、コテージやヒョウリの手持ちにある医療道具で、手当てした。そして、簡易なギブスを作り、足を固定した。

「よし、あとは動かず安静にして。医者に見て貰おう」

一方、傷を負ったカラカラには、再度キズぐすり使い、コテージにあったポケモン用の木の実(オボンのみ)を与えた。それから、カラカラは徐々に回復していき、翌朝には元気になった。それから、オーナーが呼んでくれた人間専門医者が来てくれた。早速、マナオの診察とちゃんとした手当をして貰い、無事に治療は終わった。昼の時間は過ぎて、午後となった。

「マナオ、俺達だけど入っていいか」

「は、はい、どうぞ」

サトシ達は、マナオの部屋に入る。この部屋は、オーナー夫婦がマナオの為にと、特別に用意してくれた個室だ。部屋に入ると、一段ベッドで毛布に包まれて横になったマナオと、彼女に身を寄せるカラカラがいた。

「マナオ。どうだ、調子は?」

「はい、お陰様で大丈夫です」

「そうか」

「それで、具合は?」

「お医者様は、明日には動けるだろうけど。出来るだけ無理はしないように。あと4、5日は安静にしないと」

マナオは、左太ももを摩りながらそう言う。

「良かった」

「ピカァピ」

サトシは、安堵した。すると、マナオの顔が少し暗くなり、俯いた。

「どうした?マナオ」

「あの」

「?」

「ごめんなさい。お二人には、ご迷惑をおかけしまして」

「カラカラカラ」

マナオとカラカラは、頭を下げて謝罪した。

「もう、いいよ。マナオとカラカラが無事ならそれで。助かって、本当に良かったよ」

「ピカッピカチュ」

「あぁ、よく助かったな。普通に、危なかったぞ」

「・・・はい」

彼らから、励ましを含めた言葉に少しだけ、元気になったマナオ。だが、暫くしてヒョウリから言われた言葉に、再び曇らせることになる。

「さて。マナオは、元気になったら。ちゃんと家に返った方がいいな。俺らは、次の街へいく」

「え?」

「なっ!」

「ピッカ!」

突然のヒョウリの言葉、一同は驚く反応をした。そんな事を言い出したヒョウリに、サトシは問いかける。 

「ヒョウリ、何を」

「今のマナオは、もうお前の弟子でないし、自分から出ていったなら旅仲間でもないも同然だろ。そして、彼女は、まだ安静にしないといけない状態。だが、サトシは旅を早く続けて、ジム戦に挑戦しないといけない。なら、俺らは、明日にでも出発して、マナオは完治したら、自分で村に帰って貰えばいいだろう」

サトシは、ヒョウリに

「そ、そんな言い方しなくてもいいだろう。それに、マナオは」

「あぁ、言い過ぎかもしれないが、言っていること事実だろ。現に、こいつは、破門されたら共に旅は出来ないと言って、出ていった。その上、自分のミスで、自分の命を落としかけた。そして、こうやって迷惑までかけた。例え、これをサトシが許す、許さないに限らず、こいつは反省するべきだ。今後、こいつ自身の為にも、自分一人で旅をするなら尚更だ」

「・・・」

サトシは、ヒョウリの言うことに言い返せなくなった。そして、マナオにも、理解は出来ていた。

「ヒョウリさんの言う通りです」

「え」

「私が、馬鹿な行動をした挙げ句、自分を危険に晒して、心配で助けに来たサトシ師、さん達に迷惑をかけた上、同じ危険な目に合わしかけたんです。・・・当然ですよね」

「マナオ・・・」

「危うく、この子まで失うところだった」

マナオは、カラカラの頭を撫でた。

「やはり、私」

マナオは、反省しているサトシ

「確かに、マナオ自身が招いた事かもしれない。けど、俺にも原因はあった」

「・・・」

「そして、俺やお前に助けられることになった。だけど、それが仲間って者だろ。俺は、マナオは仲間だとまだ思ってる。例え、マナオが、そう思っていても」

「・・・サトシさん」

「なぁ、マナオ」

「は、い?」

「俺たちと旅をしないか?」

「!」

「今度は、師弟でもなく、ただの旅の仲間としてさ」

「けど」

「弟子入りが目的で、一緒に旅をしてたのは、分かってる。けど、もう師弟関係なく旅をする気持ちがあるなら、一緒に行こうぜ」

「ですが、・・・また、ご迷惑を」

「今度は、気をつけるようにすればいいだろ。それに、例え何か問題が起きても、俺が助けるし、協力するさ。それが、仲間だろ。もし、俺が困っている時があったら、助けてくれマナオ」

「・・・」

「これで、文句は無いだろ。ヒョウリ」

サトシは、マナオからヒョウリへ向き直り、そう告げる。

「・・・あぁ、サトシがそう決めたなら、別にいいさ。ただ、そいつが気持ちを改めて旅が出来るならな」

ヒョウリは、そう答えると、マナオを見て、続けて言う。

「良かったな。サトシが良い奴で」

マナオは、暫く考えた。だが、答えが出せなかった。

「サトシさん」

「ん?」

「少し、返事を待ってくれますか?」

「あ、あぁ、分かったよ。まだ、時間はある」

そして、サトシ達は、部屋から出た。

 

 

夕方。

「ほら、夕飯持ってきたぞ」

ヒョウリが一人、マナオの所へ来た。部屋に入ると、彼女の夕飯を載せたプレートを机に置く。

「ありがとうございます。・・・ヒョウリさん」

マナオが礼を言うと、ヒョウリは部屋から出ようとしたが、立ち止まった。

「ん?」

「なぁ、マナオ」

「は、はい?」

「悪かったな。あんな言い方して」

「え、いや、その。・・・大丈夫ですから」

「お前、あの村に帰っても、いつかまた旅に出ようとするだろ。なら、もっと前向きに生きろ。そして、世の中をよく知れ」

「・・・は、はい」

「そして、もっと自信を持て。自信は、無くして当たり前だ。だが、ずっと無くしてたら、意味がないんだ。

「・・・」

「自信は、無くしてこそ、次の自信を強くするんだ」

「・・・強く」

「サトシは、ほんと甘ちゃんで、良い奴だよ。きっと、この1年近くの旅も、そうだったんだろな。人にも、ポケモンにも、優しかったんだろうさ」

「そうですね。サトシさんは、優しいです」

「なぁ。あいつは、お前を弟子でなく仲間として接したい理由が、何か分かるか?」

「理由、ですか?・・・分かりません」

「あいつは、上も下も作らない。仲間は、大切で対等な存在。そして、時に、助け合い、励まし合い、喧嘩もすれば、仲直りもする。それが、あいつにとっての仲間としての考えなんだよ。そう、友達と言ってもいいかもな」

「友、達」

「だから、あいつにトレーナーとして、教わりたいなら。弟子でなく、ただの仲間として、あいつに教えて貰え。そして、お前が選ぶんだ。一緒に、旅をするか、帰るかだ」

「・・・」

「どちらを選んでも、俺たちの事は気にするな。それが、お前の心からの答えなら、あいつも俺も、それを受け止めて、ちゃんと答えるさ」

最後に、そう告げると部屋を出ていった。

 

 

あれから、マナオの怪我は、2日で治った。

「良かったな。早く治って」

「はい」

「あのサトシ、さん」

「?」

「私も、一緒に旅をしていいですか?」

「・・・あぁ、勿論だ」

「本当ですか?私、貴方達に迷惑をかけたし、余り役に立たないですし」

「そんな事ない、迷惑なんて仲間として当然だろ。それに、役に立つ立たないて関係ないだろ。人には、向き不向きだから。マナオにも、きっと役に立つことはあるさ」

「そうだな。マップも読めない、冷静に考えることも出来ないサトシとは、別の特技があるさ」

「おい、ヒョウリ。やっぱ、お前、馬鹿にしてるだろ」

「そう思うなら、そうじゃないかな。フッ」

「くそ、俺にはポケモンバトルがあるんだよ。なぁ、ピカチュウ」

「ピ、・・・ピカァ、ピカァ」

「おい、お前のピカチュウ。一瞬、躊躇したぞ」

「フッ」

そんなやり取りをしていると、マナオが少しだけ笑った。

「そうですね。私にも何か役に立てるかもしれませんね」

「サトシさん、ヒョウリさん、改めてお願いします」

「あぁ」

「はいよ。今度は、勝手な行動をするなよ」

「はい。あと、サトシさんに、お願いが」

「ん?」

「私、その・・・もう弟子ではないですけど。その・・・また師匠って呼んでいいですか?」

「え?どうして」

「やはり、私は、貴方からポケモントレーナーとして、いろいろ学びたいと思ったんです。例え、正式な弟子でなくても、私にとって貴方は師匠だと思うんです。だから」

「・・・」

「そして、いつか。貴方に、改めて弟子入りをお願いします。ですから、その時、答え下さい」

「・・・分かった。どうしても、そう呼びたいなら、それでいいさ」

「はい、ありがとうございます。サトシ師匠」

「ンンン。やっぱり、恥ずかしいな。ハハハ」

「ピカピカ」

「ふぅー、一件落着ってところかな」

そうやってサトシ達は、新しくマナオを改めて仲間として向か入れた。

 

 

翌日の朝。サトシ達は、コテージを出て、次の街へ出発することにした。

「「「お世話になりました」」」「ピカピカ」

サトシ達は、コテージのオーナー夫婦に頭を下げて、お礼を言った。

「いいえ、またいらっしゃって下さい」

そう言われたサトシ達は、コテージから出た。

「よぉし。今日も、いい朝だな」

「ピカピカ」

「さぁ、ピカチュウ、ヒョウリ、マナオ。次の街へ向けて、行くぞ!」

「はい、師匠!」

「ピカァ!」

「朝から元気だな。お前ら」

「当たり前だ。早くアハラ地方へ向かって、ジム戦に挑戦しないと。さぁ、ヒョウリ。道の先導を頼むぜ」

「はいはい、了解です。サトシ隊長さん」

新しい仲間マナオとカラカラを迎い入れた彼らは、次の街へ旅を続けた。




今回は、サトシ達一行に、新しい旅仲間であり、サトシに弟子入り志望の女の子(マナオ)が加わったお話です。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


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6話「ハルタス地方・ヨヨミキシティ トレーナー・ベストカップへの挑戦」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


サトシが、ミョウコシティから旅立って7日目。

サトシとピカチュウは、ヒョウリに加えて、新しく旅の仲間となったマナオと共に、ヨヨミキシティに向かって歩いていた。

「お、見えてきたぞ」

「あれが、ヨヨミキシティか」

「あぁ、ハルタス地方の中心にある大きい街だ」

森を抜けたサトシ達は、行く先に目的地の街が見えてきた。

「よし、早く行こうぜ」

サトシが、そう言って急に街へ向かって、走り出した。

「あ、師匠待って下さい」

「たく、なんで走るんだよ。ここで」

マナオとヒョウリも、彼に続いて街へ向かって走って行った。5分程、駆けて行くと、街の中に入れた。

「やっと、着いた!」

「ピカァ!」

サトシと肩に乗るピカチュウは、共に大声を上げて、両腕を上げた。

「喜ぶのはいいが、急に走るなよ」

「あ、ごめん」

後ろから駆けてきたヒョウリに、一言謝りを入れる。すると、その隣に居たマナオが街の風景を見渡して、喜んだ。

「久しぶりに来ました。ミョウコシティ」

「マナオは、ここに来たことあるのか」

「はい。3ヶ月前、最初に旅立った後、この街に来ましたから」

「そうなのか」

「もしかして、ここで登録をしたのか?」

ヒョウリが、マナオにそう聞く。

「え、えぇ。ここで、しましたよ」

「登録?あぁ、ポケモントレーナーの登録のことか」

「はい、私の村で一番近くのポケモンセンターがあるのは、ここだったので」

本来、ポケモントレーナーになるには、条件がある。年齢を10歳に満たし、ライセンスを持つ者。ポケモントレーナーのライセンスとして、ポケモン取り扱い免許証が発行される。これにより、正式なポケモンの捕獲、モンスターボールの購入と正式な所持、公式のポケモンバトルやジム戦、大会にも挑戦・参加が可能となる。一方、トレーナー資格が無い者、10歳未満の者について。基本、資格保有者や関連指導者の元で、許可・指導を受けている者、経営や設営されたポケモン使用の商業と行事での場合等、ある一定の条件下でのみ許されている。

そして、ポケモントレーナーのライセンスを取るには、決まった場所と手順がある。まずは、10歳を迎えた後に、審査と講習・試験がある。一般的に、審査はトレーナーへの申込みを行い、ポケモン協会にあるポケモントレーナー運営委員会が申請者の経歴を査定し、特に問題が無ければ、すぐに通過となる。そして、講習や試験は決まった場所や試験監督資格を持つ者の元で行われる。サトシの場合は、10歳になった年で、監督資格を持つオーキド博士の居る研究所で行った。一般的に、ポケモン関連の研究所やポケモンセンター、ポケモンスクール等で、講習と試験が行われる事が、殆どで研究施設や資格保有者が居ない場合は、近くのポケモンセンターで受ける事が可能。10歳になったらポケモントレーナーになりたいと言う者が、年々増える為に、ポケモンセンターやポケモンスクールが増えて行っている。

そもそも10歳から小卒での成人法がある世の中、ポケモントレーナー以外でも中学への進学やポケモン関連の業務、小卒でも可能な就職等の進路もある。その中で、全体の半数近くを締めているのが、ポケモントレーナーだ。ポケモントレーナーは、一般的にはポケモンの捕獲とバトルを基本とするが、他にもポケモンの育成・教育を目的したポケモンブリーダーやポケモンコンテストを専門とするポケモンコーディネーター、トレーナーとポケモンの相性を診断し、トレーナーへのアドバイスを行うポケモンソムリエ等といった様々なトレーナーがある。

「それじゃあ。まずは、ポケモンセンターに行って、ポケモンを診て貰うか」

「あぁ。その後で、買い物と昼飯にしよう」

「はい。ポケモンセンターは確か、こっちです」

マナオは、過去に行った事のあるポケモンセンターへ、サトシ達を案内した。

 

 

「すいません」

ポケモンセンターに着いたサトシ達は、中に入ってから正面にある受付へ歩いた。受付では、ポケモンセンターの責任者であり、治療を行うジョーイが居た。

「はい。ポケモンセンターに、ようこそ。治療ですか?診察ですか?」

「はい。診察です」

「それでは、こちらのプレートに、各自のモンスターボールを置いて下さい」

「はい。俺のピカチュウは、ボールに入らないので、このままで」

「はい、それでは、こちらの台に乗って下さい」

「ピカ」

ピカチュウは、自分で台に乗ると、サトシ達も自分達のボールを預けていった。

「はい。それでは、暫くお待ち下さい。ラッキー、ハピナス」

ジョーイは、診察室の方に向けてポケモン達の名前を呼ぶ。診察室から、ナース姿のラッキーとハピナスが出てきた。

「ラッキー」

「ハピ」

「診察するから、モンスターボールとピカチュウを運んで頂戴」

「ラッキー」

「ハピ」

返事をしたラッキーとハピナスは、診察室へとモンスターボールとピカチュウを運んでいく。

「ピカピカ」

「じゃあ、ピカチュウ後で迎えに来るからな」

「ピッカ」

運ばれていくピカチュウに、サトシは手を降って言った。

「さて、この間に買い物と昼飯を済ませよう」

「はい」

「あぁ」

そうして、サトシ達はポケモンセンターを出ようと、出入り口へと向かって行った。すると、サトシが、壁にあった掲示板に目が移って、何かを見て立ち止まった。

「あれは」

「ん?どうした?」

「師匠?」

サトシが、急に立ち止まった事に、ヒョウリはすぐに反応した。すると、サトシが掲示板の方を見ているのに気付いた。

「なんだ、これ」

サトシは、掲示板へ近づいて、目に止まったポスターを見て、内容を読んだ。

「ポケモントレーナー・ベストカップ?」

そう呟くと隣になったヒョウリもポスターを見た。

「まだ、この大会やってるんだな」

「ヒョウリ、知ってるのか」

「あぁ、ポケモントレーナー・ベストカップ。ポケモン協会公認で、ポケモントレーナーの為に出来たイベントみたいな奴でなぁ。ポケモンリーグやポケモンコンテストとは別で、ハルタス、アハラ、シントー、フィオレ地方で行われているポケモントレーナーによるイベントの1つさ」

ヒョウリがそう説明していると、反対側からマナオも話に入って来た。

「あ、ベストカップですね。話には、聞いたことあります。確か、いくつか用意された試練を乗り越えて、優秀なトレーナーとして認められる試練の大会とかだったような」

「試練の大会?」

「そうです。ポケモントレーナーと手持ちのポケモン1体のみで参加して、試練に挑戦するとかだったような」

「その試練ってどんなものなんだ?」

「すいません。私、参加したことも無いので、それ以上は」

「俺も参加した事も無いが、聞いて調べた程度なら分かる。各指定された会場で挑戦が受けることが出来る。第一の試練から最終の試練までが用意された施設を順番に巡っていき、達成した者が次の試練に挑む権利があるとか。毎年、2シーズン毎に行われていて、開催場所や試練の内容は、シーズン毎にランダムだったはずだ」

「へぇ」

「それと、各試練の内容は、当日の開始時に挑戦者達に明かされて、毎回内容も変わるから対策も難しい。何より難易度も試練の順を追う毎に高くなっていくとか。確か、最初の試練に千人が挑戦して、最後の試練に達成出来る者は両手程度しかいないとか」

そう言いながら、ヒョウリは両方の手を上げると、指達を軽く動かして見せる。

「聞いた話だと、最初の試練となる第一の試練だけは、複数の会場でやると聞いたが、場所を書いていないか?」

サトシは、ヒョウリから正面のポスターへ顔を戻すと、記載されていた内容を改めて読んだ。

「えーと、えーと、あった。・・・第一の試練会場は、以下の通りです。アハラ地方・モモメンシティ、フィオレ地方・クバノキシティ、それとハルタス地方・ヨヨミキシティ・・・って、ここだよな」

「あぁ、そう書いているな。そうか、今シーズンの第一の試練は、ここでもやるのか」

「開始日は、明日の9時って書いていますね」

「「「・・・」」」

サトシ達は、ポスターを見ながら、そう話していき、暫く沈黙となった。そして、サトシが第一声を上げる。

「よし。俺、そのトレーナー・ベストカップに出場する!」

「師匠、参加するんですか?」

「おいおい、何となくそんな気はしたが、サトシ。お前、今はリーグ戦、ソウテン大会を目指しているんだろ?」

サトシの突然の発言に、マナオとヒョウリは反応をする。

「それは、それ。これは、これだ。トレーナーとポケモンが頑張って試練に挑む。そんな、楽しそうなイベントあるなら、参加するしかないだろ」

「はぁー、そうか」

熱くなったサトシは、ヒョウリにそう答えると、次にマナオに向かって言った。

「なぁ、マナオ。お前も参加しないか?」

「え?えぇ!わ、私もですか?」

「あぁ、お前の修行にもなるし、きっと参加することで、よりマナオもカラカラも強くなれるはずだ。そして、何かを学ぶことも出来る」

「で、ですけど、私じゃあ。それに、ベテランのトレーナーでも達成が難しいのに、私なんて」

「やる前から、何諦めてるんだ。失敗なんか恐れちゃ駄目だ。それに、例え失敗しても、それはただ負けたんじゃない。より、自分が強くなれるチャンスなんだ」

「強くなる・・・チャンス」

「あぁ、どんな事にも無駄なんてない。今まで、俺だっていろんなバトルや大会にも出場したけど、何度も負けたり、失敗もした。そうして、ドンドン強くなって来たんだ」

「・・・」

サトシが、そうマナオに説得をするのだが、俯いてしまった。

「あ、どうしても、嫌ならいいんだ。無理してでも、参加して欲しい訳」

「分かりました」

「!」

「やってみます。私も、試練に挑戦します」

「あぁ。そのいきだぜ、マナオ」

「はい」

「それじゃあ。早速、特訓に行くぞ!」

「はい、師匠!」

「おい、お前ら」

「なんだ、ヒョウリ。お前も参加」

「お前ら、自分のポケモンを預けたのを、忘れたのか?」

「あっ」

「そうでしたね。てへ」

「たくよぉ」

「「あ、は、は、は」」

サトシとマナオを見て、呆れるヒョウリ。そして、苦笑いで返す二人。

「さて、予定通り買い物行くぞ。キズぐすりや食料とか、いろいろ買う物多いからな。特訓は、戻ってからだ」

「そうだったな」

「では、行きましょう。いやぁ、街での買い物久しぶりです。あ、けど。私、あんまりお小遣い無いんですよね」

「じゃあ、師匠に奢って貰え」

「えぇ、俺が?てか、まだマナオを正式に弟子入りさせてないんだぞ」

「けど、お前が誘ったんだから。似たようなもんだろ」

「師匠、お願いします。いつか、お返ししますから」

マナオは、両手を合わせてお願いをするポーズを取り、それを見て、サトシは折れた。

「・・・ハァー」

ポケモンセンターを出たサトシ達は、そうやって街へ買い物に向かった。

 

 

2時間後、買い物と昼食を終えたサトシ達は、ポケモンセンターに戻って来た。

「はい、貴方達のポケモンは、元気になりましたよ」

受付で、ジョーイから預けた自分たちのポケモンの入ったモンスターボールやサトシのピカチュウを返された。

「ありがとうございます」

「ピカピ」

「ピカチュウ」

「チャ~」

サトシに飛びついて来たピカチュウを、サトシは抱きしめて受け止める。そして、サトシは、ピカチュウの顔を見て話をする。

「ピカチュウ。元気になって早速だが、特訓だ。明日、俺とマナオは、トレーナー・ベストカップに出ることになった」

「ピカ?」

サトシ達は、ポケモン達を受け取ると、ポケモンセンターを出た。そして、近くにあるトレーナーご利用のポケモンバトル練習場に来た。ここで、明日のベストカップに備えて、サトシとマナオが特訓を始めることにした。

「それじゃあ。俺は、見学するよ」

参加しないヒョウリは、近くのベンチで座りながらそう言って、寛いだ。その前では、バトルフィールドの中で特訓をはじめるサトシとピカチュウ、マナオとカラカラが話していた。

「よぉし。早速、特訓をやるぞ!ピカチュウ、マナオ、カラカラ」

「ピカァ!」

「はい!師匠」

「カラァ!」

始める前に、気合を入れる為か、皆で大声を上げた。

「はぁー、全く。元気だな、あいつら」

彼らを見たヒョウリは、彼らを見届けていった。

「まずは、マナオ。お前のバトルとしての特訓だ」

「はい」

「ところで、マナオのカラカラだけど。何のわざが使えるんだ?それと、とくせいは?」

「はい。この子は、ホネブーメランに、ホネこんぼう。あとは、ずつきに、ええと。あ、にらみつけるときあいだめです。とくせいは、いしあたまです」

「攻撃わざ3つと、変化わざが2つ。それと、いしあたまか。うーん」

「あの何か?」

「うん?いや、カラカラのわざで、どう戦ったらいいか、どう攻め方をすればいいかなぁって。あとは、合わせ技とか」

「合わせ技?」

「あぁ、わざとわざを組み合わせて、より良い動きがしやすくなったり、わざが決まりやすくするコンボみたいなものさ」

「は、はぁ、コンボ・・・ですか」

「そうだ。俺とピカチュウで手本を見せるよ」

そう言って、ピカチュウに指示を出す。

「行くぞ、ピカチュウ。まずは、でんこうせっか」

「ピカァ」

サトシが指し示した方向へピカチュウが(でんこうせっか)で一気に加速する。向かう先には何も無いが、サトシは続いてのわざを指示した。

「続いて、アイアンテール」

「ピィーカァー!」

ピカチュウは、指示通り何もない所で、尻尾を光らせ、(アイアンテール)を繰り出す。すると、(アイアンテール)によって、突風を巻き起こった。

「す、凄い。これって、此間私に出したやつですね」

「あぁ、ピカチュウの得意な合せ技だ」

「ピカ」

わざを出したピカチュウは、サトシの元に戻った。

「ピカチュウのでんこうせっかで、一気に敵に詰めて、その勢いに乗ってアイアンテールを繰り出す。この合わせ技は、でんこうせっかのスピードで、間合いを詰めながら相手のわざを躱せるし、相手のわざで足場が不利や障害物が出来ても上に躱して飛ぶことも出来る。そして、でんこうせっかの勢いを使って、アイアンテールの威力も上げられる。それに、でんこうせっかがそのまま相手に当たれば、怯んだ相手に続けてアイアンテールを出せる。例え、躱されても、タイミング次第で相手の背後からアイアンテールを当てれるってことさ」

「へぇー、師匠もピカチュウも凄いですね。私達じゃあ、今すぐには難しいですね」

「まぁ、この戦法は、俺とピカチュウが長いバトルの中で編み出したやつだからな」

「ピィカ~」

「今すぐは、難しいかもしれないけど。いつかは、作れるさ。だから、マナオのカラカラも焦らず、日々特訓しながら学べば良いよ」

「はい、分かりました。頑張ろう、カラカラ」

「カラァ!」

「じゃあ、まずはバトルの練習からはじめるか」

「はい」

あれから、サトシ達は、バトル形式での特訓を始めた。

「ピカチュウ、エレキネット」

ピカチュウは、尻尾から放つエレキネットを、カラカラへ目掛けて放つ。

「カラカラ、躱して」

「カラ」

カラカラは、エレキネットを躱そうとするのだが、ギリギリでカラカラの体に引っ掛かってしまう。

「カッラ!」

「あっ」

「マナオ。まずは、落ち着いて相手とわざを見るんだ。ここぞという、タイミングが必ずある」

「は、はい」

「相手のわざを1つ1つよく見て、どんなわざを持っていて、どのように戦ってくるかをしっかり見て覚えるんだ」

「はい」

「フィールドの周りをよく見るんだ。時に、地形を利用して勝利を導く事もある」

「はい」

サトシは、次々とバトルをしながら、マナオにポケモンバトルのレクチャーをしていく。ポケモンの息の合わせる、次々と指示を出しと判断、マナオは1つ1つ覚えていく。ポケモンのカラカラは、マナオに従い、素早く移動、わざを繰り出していった。そして、特訓をはじめてから時間は1時間、2時間と経過して行った。

「ハァー、ハァー」「カラァー、カラァー」

マナオとカラカラは、バテててしまい息が上がって、激しく呼吸をする。二人とも疲れてしまったのか。地べたに座り込んでいた。

「二人は、ちょっと休憩しようか」

「は、はぁい」「カ、ラ」

そう言って、マナオはベンチの所へ向かって行き、カラカラは近くにあったポケモン用の水飲み場に行った。

(まぁ、最近トレーナーになったばかりなら、こんなものかな)

サトシとピカチュウは、日頃やっている事もあるのか、彼女達に比べて、それ程息も上がっていなかった。

「ピカチュウ、お前も飲んでこいよ」

「ピカ」

ピカチュウもカラカラに続いて、水分補給を取りに行った。そして、マナオが休憩でベンチに向かっていると、座っていたヒョウリが立ち上がって、彼女に何かを渡した。次に、彼はサトシに向かって話しかける。

「おい、サトシ」

「ん?」

サトシは、彼の方を振り向く。すると、ヒョウリが何かを軽く上に投げて、それはサトシに向かって落下していく。

「おっ」

サトシは、落ちて来るそれを両手で上手く受け取った。見ると、スポーツドリンクのペットボトルだった。サトシは、それを見てヒョウリに礼を言った。

「サンキュー」

受け取ったサトシは、礼を言うと、早速飲み始めた。それから、水分補給を取り、5分程の休息を取ったサトシは、ピカチュウを呼びかけた。

「ピカチュウ、まだ大丈夫か?」

「ピッカ!」

「よぉし。マナオ、続きを」

サトシは、マナオとカラカラの方を見て、特訓の続きをしようと言うのだが、肝心の二人はというと。

「・・・疲れた~」

「カラァ~」

ベンチの上で、疲労感を漂わせて、伸びていた。

「ありゃ、駄目だな」

「ピカ~」

二人を見て、サトシもピカチュウも特訓の続きは難しいと悟った。

「よし、それじゃあ」

すると、サトシは、その隣のベンチに座るヒョウリに声を掛ける。

「おい、ヒョウリ。そこで、座ってないで。お前も特訓の手伝いをしてくれよ」

「え?俺もか」

突然、サトシに誘われたヒョウリは、少しだけ面倒くさい顔をして、返事をする。

「参加しないかもしれないけど、いいだろ」

「たく、仕方ないな。ちょっとだけ、だからな」

そう言って、ベンチから立ち上がるヒョウリは、腰のモンスターボールを1つ手に取り、上に放り投げ得る。そして、中から出てきたの、こないだのロケット団戦でサトシとのタッグバトルで出したルカリオだった。

「ルカリオ」

「ファル」

「サトシ達の特訓に付き合うぞ」

そうして、サトシとヒョウリの特訓、バトルがはじまった。

「よし、ピカチュウ。10マンボルト」

「ルカリオ、はどうだん」

「ピカチュウ、でんこうせっか」

「ルカリオ、カウンター」

ピカチュウとルカリオのバトルは徐々に激しさを増して行った。

「す、凄い」

「カラァ」

そんな彼らのバトルを、目の当たりにするマナオとカラカラは、瞬きも忘れる程、真剣に見ていた。

 

 

そんな中、サトシ達が特訓している所を、上空から見ている者達が居た。空を飛ぶニャース柄の気球。そこから吊り下げられている緑色のバスケットの中に、搭乗している人間2人とポケモン2体が乗っていた。彼らは、デジタル型の双眼鏡で特訓をしているサトシ達を見つつ、パラボラアンテナの形状をした指向性の集音マイクで、拾った彼らの会話を聞いていた。

「ジャリボーイ。こんな所に、居たのね」

「一緒にいる女は、此間のカラカラのトレーナーだな」

「さっきから、ジャリボーイのことを師匠と言っているにゃ」

「もしかして、あいつ弟子でも取ったのか?」

「ソーナンス」

正体は、ロケット団のムサシとコジロウ、ニャースに、ソーナンスだった。此間のノウトミタウンで、サトシのピカチュウとヒョウリのルカリオによって、吹き飛ばさた彼らは、ジャリボーイことサトシを見つけたのだ。

「さぁ、どうでもいいわ。あのジャリガールとカラカラ、結構弱いみたいだから、驚異じゃないし、無理してゲットしなくてもいいわね」

「あぁ、ただ。ベンチに座っているあいつ。あの暴力ジャリボーイが居るな」

「どうやら、今回のジャリボーイの仲間は、あの暴力ジャリボーイに、貧弱ジャリガールみたいだにゃ」

「奴らが特訓で疲れている所を狙う。これは、ピカチュウゲットのチャンスよ」

「あぁ。確かに、そうだけど。問題は」

「あの暴力ジャリボーイだにゃ」

「此間使ってきたルカリオに、飛んできたハッサム、そしてピカチュウと互角に戦えていたラグラージ、あいつら結構強かったからな」

「それと、トレーナー本人もにゃ。気球にまで乗り込んできて、にゃー達をボコボコにした奴は、結構手強いにゃ」

「ちょっと、面倒そうだな。どうする・・・辞めとくか」

「何言ってんの!私達は、今まで、どんな仲間もポケモンも相手にして来たじゃない。ビビってどうすんのよ」

「ソーナンス」

「けど、あの暴力ボーイとポケモンは、厄介だぞ」

「そうだにゃあ。恐らく、失敗するにゃ」

「じゃあ、何か良い手を考えないさい」

「そんな急に言われても」

「ニャース、あんたの知恵で何とかしなさい」

「そう言われてもにゃ。どうにか奴が居ない状況になれば楽になるのだがにゃあ」

ロケット団は、そうやって計画を考えつつ、時を待った。

 

 

時刻は、流れていき夕日へと変わっていた。

「ピカァー、ピカァー、ピカァー」

「ファッー、ファッー、ファッー」

ピカチュウとルカリオは、互いに息が上がり、激しい呼吸を繰り返す。

「「ハァー、ハァー」」

トレーナーであるサトシとヒョウリも同様、ポケモンへの指示を次々と繰り出し、喉が渇き、集中力と体力が共に、削れていた。バトルはまだ決着も中断もしていないが、互いに戦いと指示を出し続けた結果、バトル中の一息として、暗黙の休憩タイムとなっていた。

「おい、そろそろ降参したらどうだ」

「ふん、まだ俺とピカチュウは、この程度じゃあくたばらないぜ。そうだろ」

「ピカァ!」

「くそ。トレーナーに似て、こいつもしつこいな。なら、さっさと倒すしかないか。ルカリオ、ケリをつけるぞ」

「ヴァル!」

「ふん。こっちだって、勝ちに行くぜ。ピカチュウ、次で終わらせるぞ」

「ピカ!」

先程から、サトシとヒョウリのバトルを横で見ていたマナオとカラカラは、汗を掻いていた。ただ、それは特訓で動いた出た汗では無かった。先程から強いトレーナー、強いポケモン同士によるバトルを見て、凄く興奮と驚きによるものだった。

「いつの間にか、特訓でも模擬戦でもなく、ガチガチの熱いバトルになっちゃたね」

「カラァ~」

「あの人も、やる気無かったのに、夢中になっちゃたし。けど、これは勉強になるから、しっかり見よう」

「カラァ!」

そう会話をしていると、サトシとヒョウリがまた動き出した。

「いくぞ、ピカチュウ」

「構えろ、ルカリオ」

互いに休憩を終え、バトルを再開しようとした瞬間だった。ピピピッピピピッと何かの電子音が鳴り響いた。

「!」

それに気付いたのは、ヒョウリだった。そして、自分の腕輪を見た。

「よし、ピカチュウ。アイアン」

「タイム!」

「えっ?」

突然、ヒョウリが両手でTの字を作りながら、止めてきた。ピカチュウへわざの指示を出す瞬間だった為、サトシは急に気が抜けてしまった。

「なんだよ、いきなり」

サトシは、ヒョウリに向かって文句を言っていると、それを無視して彼は、自分の腕輪からモニターを表示させて何かを見ていた。

「・・・」

すると、ヒョウリはモニターを消して、サトシに告げる。

「悪い。俺は、ちょっと用事があるから、ちょい抜けるわ」

「え?どこ行くんだよ、ヒョウリ。まだ決着もついてないし。それに、最後はマナオも混じって、特訓を」

「ちょっと、仕事の連絡だ。バトルはお預けだ。安心しろ、すぐ戻るし、特訓相手にルカリオは残すから。ルカリオ、サトシたちの練習相手に少し付き合ってくれ」

「ヴァル」

そして、ヒョウリは練習場を離れていき、彼の後ろ姿を見るサトシ。

「まぁ、仕方ないか。マナオ、カラカラ、もう大丈夫か」

「はい、もう大丈夫です」

「カラァ」

「よし、じゃあ。特訓再開だ。ピカチュウ、最後の特訓頑張るぞ」

「ピッカ」

「ルカリオも、続けて頼むぜ」

「ファル」

残ったサトシ達は、特訓を再開した。

「マナオ。それじゃあ、ピカチュウの攻撃を躱す特訓だ」

「はい」

「ピカチュウ、エレキネット」

「ピカァ」

ピカチュウの尻尾から放たれた球体が網状に変化して、カラカラを捕らえようとする。

「カラカラ、躱して」

「カッラ」

カラカラ、素早く移動して、(エレキネット)の範囲外へ逃げる。

「よし、いいぞ。続いて、でんこうせっかだ」

「ピカァ」

「カラカラ、ピカチュウをよく見て」

「カラ」

カラカラは、マナオの指示を受けて、ピカチュウを目で見張る。ギリギリまで、引き寄せてから躱そうとしているのだ。

「今よ」

カラカラは、躱そうと動き出した。ピカチュウの動きにタイミングに合わせて、動いたお陰で、最小限の動きできれいに躱せた。

「上手い上手い。さっきに比べて、ドンドン調子が良くなってるぞ」

「はい」

「よし、次は」

サトシが、続いてピカチュウに指示を出すその時だった。上空から何かが降ってきた。

「ピカ!」「カラ!」「ヴァル!」

サトシ達よりもピカチュウ達、ポケモンが本能的にそれに気付いた。落ちてきたのは、黒い球体状の何か。それは、サトシ達の中心に落ちていき、地面に接触と同時に破裂、中から大量の黒い煙が勢いよく吹き出した。

「うわぁ、なんだ」「きゃあ」

突然の事に、サトシとマナオは声を上げる。更に、その場に居たポケモンの上空には、小型の機械的な立方体のブロックが降ってきた。そして、ブロックから光の線が複数伸びていき、ピカチュウとカラカラ、ルカリオを取り囲んだ。

「ピカッ!」

「カラッ!」

「ヴァル!」

ピカチュウ達を包んだ光は、次第に鉄条の棒へと変わっていき、鉄の檻となり、ポケモン達を閉じ込めた。ポケモン達の慌てる声を聞いたサトシ達は、声を上げる。

「ピカチュウ?!くそ、見えない」

「カラカラ、どこなの?」

煙のせいで、視界が無くなり、ピカチュウ達の方向や周囲の状況が分からない二人。そして、ポケモン達を閉じ込めた檻は、捕らえた状態のまま上へと上がっていった。

「ピィカァ」

すぐさま、ピカチュウは(アイアンテール)で檻を壊そうとし、それに続いてルカリオやカラカラも行動に出る。だが、檻は壊れる事が無かった。

「ピカピ」

「ピカチュウ、どこだ」

ピカチュウは、慌ててサトシを呼ぶが、その声を聞いたサトシはピカチュウの場所が分からないでいた。すると、捕われたルカリオが、檻から腕を出し、両手を構えた。

「ピカッ?!」「カラァ?」

その行動を見たピカチュウとカラカラは、ルカリオが何をするのか理解出来なかったが、すぐに分かった。ルカリオは、檻の外へ突き出した両手で大きい(はどうだん)を作り、それを発射した。狙った先は、黒い煙で覆われている外側の誰も居ない練習場。そして、(はどうだん)は見事に着弾し、それによって発生した爆風で、煙はたちまち吹き飛ばされた。

「うあぁ、今度はなんだ」「くっ、風が」

サトシ達は、突然の爆風に驚くが、その風で視界が晴れていき、周囲を見渡す事が出来た。

「あれ、どこだ」

サトシとマナオは、周囲を見てから、ふっと空を見上げた。

「ピカピ」

「ピカチュウ」

「カラァ」

「カラカラ」

空へ上がっていく檻は、次第に宙に浮かび上がっている何かに引き寄せられて行った。檻を吊っているものは、ニュース柄の気球をしていて、それに繋がっているバスケットからだった。

「あれって、気球ですか?」

「あぁ。やはり、お前達か」

サトシは、気球を見て何かに気付いたようで、それに向かって大声で怒鳴った。

「お前達かと言われたら」

「挨拶を返すのが世の情け」

すると、気球から人の声が返ってきた。

「あれ。この台詞、どこかで」

マナオは、そのセリフを聞いて、何かを思い出す。

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵(かたき)役」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆ける ロケット団の二人には」

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ」

「ニャーんてにゃ!」

「ソーーーナンス!」

「ロケット団!」

「あぁ。あの時の、訳分かんない人達」

ロケット団の挨拶が終わり、サトシとマナオが叫ぶ。

「誰が訳分かんない人だ」

マナオに言われた言葉に、怒るコジロウ。だが、続けてマナオは言う。

「だって、世界征服とか。大の大人が、そんな馬鹿なこと言っていたじゃない」

「ば、馬鹿なことだと」

「ちょっと、そこの小娘。あんた、ロケット団を馬鹿にしたわね」

隣のムサシもキレ気味に言い返すが、そんな事を無視して、サトシはロケット団に文句を言った。

「おい、ロケット団。ピカチュウ達を返せ!」

「そうよ、返しなさい!」

「ふん、毎回言われるけど、誰が返すもんですか」

「そうだ。お前のピカチュウと強いルカリオ、おまけでカラカラも貰っていくよ」

「くそっ」

サトシは、不意に腰のベルトに手を当てて、モンスターボールを触ったが、不意に手を止めた。

(あっ、そうだった。俺、他のポケモンを持ってない)

そんなサトシの行動を上から見ていたロケット団達から質問が来た。

「ところで、ジャリボーイ。あんた、どうして他のポケモン持ってないの?」

「いつもみたいに、こっちで新しい仲間でもゲットするのか?」

「お前らに、関係ないだろ」

「まぁ、別にいいけど。お陰で、こっちはこのまま退散するだけだし」

「こういう時は、ひこうポケモンを出されて、よく気球を落とされるからな」

「それで、いつも酷い目に会うのにゃ」

「ソーナンス」

「さて、邪魔ものが帰って来る前に、おさらばするわよ」

「了解にゃ」

気球は、次第に上がって行き、サトシ達と距離が離されて行く。

「あぁ、逃げていきます」

「ピカチュウ、10マンボルトだ」

「ピカ。ピカァチュ―!」

ピカチュウは、すぐさま(10マンボルト)を放つが、効果はなく。

「アイアンテール」

続けて、(アイアンテール)を打つが、やはり壊れなかった。

「無駄無駄無駄」

「この檻は、対ピカチュウ対策の他、アイアンテールを含めて、通常のわざ全てに耐えられる素材と設計になっていえるのにゃ」

「どうしましょう。師匠」

「くっ」

(どうすれば)

サトシは、考えた。いつもの彼なら、すぐさま考えるよりも前に行動をするのだが、流石に今回は手が無いと分かった。そんな彼に、ピカチュウが名前を呼ぶ。

「ピカピ」

「ピカチュウ・・・くっ」

サトシは、歯を食いしばり、ピカチュウに向かって、大声で叫んだ。

「諦めるな!こんなピンチ、何度も俺たちは、乗り越えてきただろ。諦めるな」

そう言って、サトシは急いで走り出した。

「し、師匠、どこへ」

「ヒョウリを探してくる。まだ、近くにいるはずだ。あいつのポケモンで」

サトシは、すぐさまヒョウリを探しに駆けていく。だが、サトシの行動に気付いたロケット団達。

「そうはさせないわよ。ジャリボーイ」

「そうだぜ」

ムサシとコジロウは、下に向かって何かを投げた。それは、<?>のマークが付いた紫色のモンスターボールだった。そう、以前ロケット団とポケモンバトルをした時に使ってきたシークレットボールというものだ。2つボールは、空中で開くと中からポケモンが飛び出した。

「グオォォォ」

「マッニュ」

飛び出したのは、此間のニドキングとマニューラだった。2体は、サトシの目の前に現れて、道を塞いだ。

「くっ」

「さぁ、お前たち。少し、ジャリボーイを可愛がって上げなさい」

「グオォォォ」

「マッニュ」

「くっ」

(どうすれば)

サトシは、ニ体のポケモンに対峙する。すると、後ろからマナオが叫んだ。

「師匠、逃げて」

「ピカァ!」

ピカチュウも、上からサトシ達の状況を見て、不安な顔で叫ぶ。だが、サトシの言葉を思い出したピカチュウは、側にいるルカリオとカラカラに話しかけた。

「ピカピカ、ピィカッチュ、ピカピカ、チュー」

「ヴァルヴァル、ガァルーーー、ファルファル」

ピカチュウとルカリオは、何かを話し合う。そして、最後にルカリオは首を縦に振った。

「ピカ、ピピカッチュー」

「・・・カラァ」

次に、カラカラにも話すピカチュウ。そして、カラカラも同様に首を縦に振った。お互いに目を合わせて、すぐに行動へ移した。ピカチュウとカラカラは、共に端へ移動すると。ルカリオは、何かを用意した。

「ピィーカァーーー」

「カラァーーーー」

ピカチュウとカラカラは、わざの力を溜めていると、ルカリオは彼らの方を見て、身構えた。

「ヴァル」

そして、ルカリオが合図を出した。すると、ピカチュウとカラカラは、一気にルカリオ目掛けて、(アイアンテール)と(ホネこんぼう)を連続し繰り出し始めた。その音と振動は、上にある気球のバスケット。それに乗るロケット団にも伝わった。

「ん?なんだ?」

「何よ、この振動は」

「どうやら、檻の方でピカチュウ達が暴れてるにゃ」

「大丈夫なんでしょうね」

「一応、ピカチュウをはじめ大抵のわざのダメージには耐えられる用になってるにゃ」

そう言い、特に気もしなかった。一方で、檻の方では、ピカチュウ達は、ルカリオへの攻撃を辞めた。既に、三匹の内ピカチュウとルカリオは体力の限界だった。

「ヴァル」

「ピカッ」

「カラッ」

すると、ピカチュウとカラカラは、ルカリオの左右に移動して、三匹で檻に向かって並び立つ。そして、それぞれはわざの構えに入った。

「・・・ピカ!」

ピカチュウの合図と共に、三匹は檻に向かって攻撃をした。

「カァーラァーーー!」

カラカラの渾身の(ホネこんぼう)で檻を殴り。

「ピィカァーーー!」

ピカチュウは、全力で(アイアンテール)で檻を殴る。

「・・・」

ルカリオは体に溜め込んだ何かを拳に集中させていた。そして、それを解き放つ時が来た。

「!」

ルカリオは、その拳を檻に目掛けて突き出し、一気に力を爆発させた。ドガァァァンと檻で大爆発がなった。

「「「!」」」

その爆発に、地上のサトシ達に上空のロケット団は、驚いた。

「何が」

「まさか」

ロケット団達は、顔色を青くすると、爆発が起きた檻から何かが落ちてきた。

「あっ」

サトシは、それを見て、受け止めようとした。落ちてきたのは、ピカチュウ達だったからだ。吊り下げられている檻は、爆発で壊れていた。

「なっ」

「壊れたにゃ」

「なぜだ」

理由は、ルカリオのわざだった。最初に、ピカチュウとカラカラがなぜかルカリオに目掛けて攻撃を繰り出して、途中で檻へと攻撃をした。そして、ルカリオは彼らの攻撃をただ受け止め、何かを溜めていた。そして、他の二匹に合わせて檻へわざを出した。そのわざは、彼が覚えているわざ(カウンター)だった。受けたダメージを倍にして返す反射わざのカウンターを、ルカリオは放たないように必死に我慢して、ピカチュウとカラカラの攻撃を受けていた。そして、ピカチュウとカラカラに合わせて、溜めていたダメージを倍増した反射(カウンター)を放ったことで、素材や設計を凌駕して檻を破壊する事に成功した。

「ピカチュウ!」

サトシは、落下してくるピカチュウを受け止めた。

「カラカラ」

続いて、マナオもカラカラを見事に受け止めて、尻餅を着いた。

最後に、ルカリオは何とか自力で着地に成功した。

「ピカピ」

「ピカチュウ」

「あぁ、くそ。やっぱり、こうなったじゃない」

「くそ、頑張って檻作ったのに」

「そうだにゃ。このまま黙って引き下がる訳には、いかないにゃ」

ポケモン達に逃げられたロケット団は、怒りが湧いた。そんなロケット団に、サトシは言う。

「くそ、お前ら。いい加減に、ピカチュウを諦めろ」

「諦めるものですか」

「そうだ。1年間の苦労を思い知れ」

「行きなさい、ニドキング!」

「お前も行け、マニューラ!」

「グオォォォ」

「マッニュ」

「くっ」

サトシの前に居るニドキングとマニューラは、徐々にサトシ達へ詰め寄っていく。

「ピカ」

それを見たピカチュウは、サトシから離れて、相手に戦おうとするのだが。

「ピッ、カ」

「あ、ピカチュウ」

ピカチュウは、一歩前に出ると同時に倒れてしまった。既に体力の限界だったのだ。

「ヴァ、ル」

その側に居たルカリオも膝を突き、今にも倒れそうだった。二匹とも、特訓でのバトルから続けて、体力を使い、挙げ句にロケット団からの逃亡にも体力を削り、ダメージも負った。現状で最も戦えるのは、マナオのカラカラのみとなった。

「どうやら、ピカチュウもルカリオも動けないみたいだぞ」

「アンラッキーかと思ったけど、ラッキーはまだ私達に付いているようね。さぁ、ジャリボーイ達からポケモンを奪うのよ」

「くそ、このままじゃあ」

サトシは、ピカチュウを抱き抱えながら、後退る。

「どうしよう、どうしよう」

「カラカ」

「!」

「カラァ」

「・・・うん」

「行くよ!」

「カラァ!」

マナオとカラカラは、サトシ達の前に立ち、ニドキングとマニューラに向かい合った。

「わ、私が相手よ」

「ほお、ジャリガール。あんたが相手するの」

「マナオ」

「え、えぇ、そ、そうよ。せ、正々堂々、私と1対1で、勝負しなさい」

マナオは、強気でロケット団に向かって発言するが、その体と声は、震えていた。

「ふーん」

その事に、ムサシは気付いたようで、彼女に答えた。

「いいわよ。行け、ニドキング」

「グオォォォ」

「いけ、カラカラ。ホネこんぼう」

カラカラは、相手に突っ込んでいき、(ホネこんぼう)を構える。

「ニドキング、どくばり」

向かってくるカラカラへ、どくばりを放つニドキング。

「はっ、躱して」

「カラ!」

カラカラは、咄嗟にマナオの指示で右へ身を翻して、攻撃を躱し、背後を取る。

「よし、ホネブーメラン」

そして、ニドキングの背中に目掛けて、(ホネブーメラン)が投擲された。

(当たれ!)

(ホネブーメラン)が直撃するまで、あと一歩という所まで行ったその時。

「マニュ!」

突然、カラカラの(ホネブーメラン)をマニューラが割り込んできて、払い除けたのだ。

「カッラ!」

「あっ!」

「ナイス、コジロウ」

「おうよ」

「ちょ、ちょっと、何するの。2対1なんて卑怯よ」

「そうだ。ロケット団」

「え?俺たちが卑怯だって?特に、ジャリボーイ。何言ってんだ」

「私達は、卑怯で悪いロケット団なのよ。いい加減に理解したらどうなの。さぁ、ニドキング。とっしんよ」

「グオォ!」

「あっ、避」

「カッラァ!」

マナオは、突然の事にすぐ対応が出来ず、カラカラへの指示が遅れてしまった。そのせいで、ニドキングの(とっしん)が決まってしまった。

「カラカラ」

マナオは、ふっ飛ばされたカラカラの元へ寄って行く。

「ふん、お前の実力は特訓を盗み見ていたから、とっくに分かってたんだよ」

「そのカラカラ、どうよう弱いという事は、お見通しなのにゃ」

「くっう・・・」

ロケット団に、そう言われて悔しがるマナオだが、言い返す事が出来なかった。

「さぁ、やっておしまいなさい。ニドキング、メガホーンよ」

「マニューラ、お前もだ。メタルクロー」

「あっ」

「マナオ。逃げろ!」

サトシは、急いで彼女を逃がそうとするが、彼女もカラカラは迫りくる2体のポケモンに

萎縮してしまった。

(私、・・・また)

マナオが、諦めかけたその時。

「ハイドロポンプ!」

突然、その言葉が彼らには聞こえた。

「「「!」」」

サトシやマナオ、ロケット団は、その言葉を聞いて、一瞬動きを止めた。そして、マナオとカラカラ目掛けて突っ込んでいくニドキングとマニューラが、何かの水で勢い良く吹き飛ばされた。

「あぁ」

「え?」

「なっ」

その場に居た全員が、その光景に驚き、水が飛んできた方を見た。

「おい、サトシ、マナオ。何、やってんだよ」

そこには、ヒョウリとラグラージが居た。

「ヒョウリ」

「ヒョウリさん」

「あいつ、もう戻ってきたぞ」

「くっ、邪魔な奴が増えたじゃない」

彼の登場に、焦るロケット団。そして、サトシとマナオは、彼を見て少しだけ元気になる。

「ヒョウリ、ナイスタイミングだ」

「ナイスじゃねぇよ。俺が居ない間に、何してんだよ」

ヒョウリは、そう言ってサトシ達の元に走って行くと、ルカリオの側に寄った。

「ルカリオ」

「ヴァル」

「済まなかったな。戻ってくれ」

ヒョウリは、助け出したルカリオをモンスターボールに戻した。

「はぁー、助かった。・・・これでもう大丈夫だね」

「カラァ」

ヒョウリの登場で、マナオとカラカラは一安心した。これで、もう自分がバトルせずに、彼が変わりに戦ってくれると。自分もサトシ師匠も守ってくれると考えたのだが。

「おい、マナオ」

「は、はい?」

ヒョウリが助けに来たことで、一安心していると不意に本人から名前を呼ばれたマナオ。

「丁度いい機会じゃあねぇか」

「え?」

「お前もバトルしろよ」

「わ、わ、私も、バトル、ですか?!」

「当たり前だろ。お前、さっき自分から前に出てただろう」

「あれは、その、師匠達があぁでしたし、私とカラカラしか戦えなかったから、その」

「あぁ、分かってるよ。だから、だよ。あと、明日の為に、良い練習相手になるだろ。さぁ、スタンダップ!」

「いや、だって。私達じゃあ。まだ、あんな強いポケモンに」

マナオは、予想外の展開に驚きながら、バトルを拒む。そんな彼女を見たヒョウリは。

「そうか。分かった」

「?」

「明日、試練に挑戦するなら、丁度いい練習になると思ったけどな。・・・その程度の覚悟と弱腰なら、明日も辞めとけって」

「え?・・・ど、どうして」

突然、ヒョウリに言われた言葉に、マナオは動揺しつつ問う。

「どうしても何も。戦えないっていうなら、俺が変わってやるさ。ただし、明日の試練も辞めるんだな。こんなバトルで、戦えない奴が、明日の試練に達成出来ると思うか?カラカラが弱い?バトルの才能がない?笑っちまうぜ。肝心な事が分かってないから」

「・・・」

「お前の心が負けてんだよ。鼻っから」

「ッ」

マナオは、黙ってしまう。

「おい、ヒョウ」

「サトシ」

「!」

「お前は、どうなんだ。マナオは、出来ると思うか?」

「ッ」

ヒョウリの問いに、サトシも黙ってしまった。

「ンンンンンン、ちょっと!」

そんなやり取りを横から黙って見ていたロケット団。徐々に苛立ちを覚えていき、遂にムサシが大声を上げてきた。

「何、私達を無視して話を進めてんのよ」

「そうだ。無視するんじゃない!」

「にゃー達を、舐めてるなら痛い目を見るにゃ」

「ソーナンス」

「はいはい、ちょっと待て。今すぐ相手してやるから」

彼らのクレームを軽く返し、ヒョウリが手の平を向ける。そして、黙っていたサトシは、マナオを見て、口を動かした。

「・・・マナオ!」

「!」

サトシに呼ばれ、

「お前なら、出来る。自信を持て!」

「し、師匠」

サトシに、そう言われたマナオ。続いて、側にいたカラカラにも話しかけられる。

「カラカ」

カラカラを見たマナオは、彼の目をじっと見た。

「・・・」

そして、彼女は立ち上がり、ヒョウリに並んで、ロケット団に立ち向かった。

「やれるんだな?」

「はい」

「よし。お前は、出来るだけニドキングの相手をしろ。じめんタイプわざが、奴に効く」

「はい。・・・師匠、見ていて下さい」

マナオは、サトシにそう告げ、サトシは答えた。

「あぁ、見てるぜ」

「さて、お待たせだ。2回目のタッグバトルを始めようか」

ヒョウリは、ロケット団にバトルの合図を出した。

「何よ、調子に乗って。ギッタンギッタンにしてやるわ。ニドキング、どくばり」

「マニューラ、れいとうビーム」

「グオォ」

「マニュ」

「ラグラージ、れいとうビーム」

「カラカラ、躱して。ホネブーメラン」

(れいとうビーム)同士が衝突し、隣では(どくばりを)を躱すと同時に、カラカラはニドキングへ目掛けて(ホネブーメラン)を投擲する。

「ニドキング、避けなさい」

ニドキングは、ムサシの指示通りに咄嗟に動こうとしたが、ギリギリ間に合わずに(ホネブーメラン)が命中してしまう。

「グオッ」

「あぁ、何やってんの。えぇい、メガホーンでやりなさい」

「グオ」

「カラカラ、来るわよ。ギリギリまで引き寄せて」

「カラッ」

突っ込んでくるニドキングを、カラカラは構える。

「今」

「カラ!」

カラカラは、ニドキングの左側に向かって飛んでいった。

「そのまま、ホネこんぼう」

カラカラは、ニドキングの側面へ避けると、そのまま(ホネこんぼう)で殴りかかろうとした。

「ニドキング、横に向かってとっしん」

ムサシの判断で、すぐさま対応されてしまった。ニドキングは、左から来るカラカラ目掛けて向きを変え、その巨体な体でぶつかった。

「カラァ」

「あぁ」

カラカラは、(とっしん)によりそのまま勢い良くふっ飛ばされてしまう。

「カラカラ、大丈夫?」

「カァ、カラァ」

「よし」

(けど、どうしよう。次は、次は)

バトルに焦り始めたマナオ。咄嗟に、隣のヒョウリの方を見た。そちらでは、ラグラージの周りを(こうそくいどう)で、素早く動くマニューラに手を焼いており、すぐに決着も応援にも来れそうになかった。

(駄目だ。自分でなんとかしないと、けど)

彼女は、この様にバトルでカラカラがピンチな時、負けそうになった時、焦り始めて動揺してしまう癖があった。自分でも何度も直そうと治そうとしたが、癖が抜ける事は無かった。そのせいで、余計負けやすくなって行き、逃げ出した。それでも、また立派なポケモントレーナーになろうと、彼らについて来た。ここで負ける訳にはいかない彼女。その時、サトシの言った言葉を思い出した。

(そうだ。まずは、落ち着いて、相手をよく見る。そして、どんなわざかを覚える)

「ニドキング、どくばり」

「避けて」

「カラ!」

(相手のニドキングのわざは、どくばり、メガホーン、とっしん、それと)

「ニドキング、だいちのちから」

ニドキングの足元から地面が裂けていき、それがカラカラに近づいて行った。

「カラカラ、上に飛んで」

カラカラは、高く飛び上がって地面から足を離すと、その場に出来た裂け目から光が溢れた。

(だいちのちから。攻撃わざは、これで全部か)

「よし」

(ニドキングは、体が大きいけど、スピードはそれ程でもない。それに、ほとんどが接近して行うわざばかり。なら、大きな隙が必ずある)

「くっ、ニドキング。どくばり」

「躱して」

「えぇい、メガホーン」

「躱して」

「くぅ、あんた躱してばっかいるんじゃないよ」

「文句あります?」

「えぇい、ニドキング。もう一度、メガホーン」

ニドキングは、再び(メガホーン)で突っ込んできた。前屈みになった状態で、頭の大きい角を光らせて、カラカラ目掛けて走って行く。あと、少しという時、マナオは叫んだ。

「カラカラ、屈んで!」

カラカラは、指示通りギリギリのところを屈むと、その真上をニドキングの顔が通過していった。その瞬間を、マナオは待っていた。

「上に向かって、ずつき!」

マナオは、タイミングを見計らってカラカラに指示を出した。

「カラァ!」

カラカラは、そのまま両足を思いっきり蹴り出すと、ニドキングの鼻先目掛けて、(ずつき)を行った。そのまま、見事に命中し、ニドキングは大声を上げた。

「グオォォォ!!!」

ニドキングは、そのまま後ろへと倒れかかり、よろけてしまう。

「グオッ、ォォォ」

「なっ」

ニドキングは、両手で自分の顔を押さえて痛みに悶ていた。だが、そんなニドキングに、マナオとカラカラは、反撃も休む暇も与えなかった。ムサシも、そのニドキングにどうすればいいか、戸惑っていた。

「よし、効いてる」

(今だ)

「続いて、ホネこんぼう」

「カァーラ!」

カラカラは、自分の(ホネこんぼう)を両手で強く握り、そのままニドキングの頭目掛けて、殴りつける。

「グオォォォ」

ニドキングは、もう一度頭部へのダメージを受けてよろけていき、倒れ込んだ。

「よし、もう一度」

カラカラが、二度目の(ホネこんぼう)を打ち込むとする。

「えぇい、ソーナンス。ニドキングを助けなさい」

「ソーナンス」

だが、ムサシのソーナンスが行く手を阻んだ。そして、カラカラの(ホネこんぼう)を(カウンター)で受けて、倍にして反射した。

「カラァ」

「あっ」

そのまま、カラカラに返ったダメージで、吹き飛ばされて地面に転がってしまう。

「今よ、コジロウ」

ムサシは、隣でヒョウリとバトルしているコジロウに合図を出した。

「おい、マニューラ。あいつに向かって、れいとうビームだ」

コジロウの指示に、ラグラージと戦っていたマニューラは、すぐに方向転換した。

「マァニュー」

「ちっ。マナオ、気をつけろ!」

「はっ。カラカラ、気をつけて」

「カラッ」

立ち上がろうとしたカラカラは、マナオのお陰でマニューラの(れいとうビーム)に気付いた。そして、素早く躱した。

「カッラ」

だが、着地時に足を滑らしたしまったカラカラ。原因は、片足だけが凍っていたからだ。

「しまった!」

(躱しきれなかったんだ)

早く動いたが、片足だけがギリギリ(れいとうビーム)が当たってしまった。そのせいで、カラカラの片足は氷漬けとなり、歩行が困難となった。

「おぉ、チャンスだ。マニューラ、トドメに強いれいとうビームを撃て」

マニューラは、再度カラカラ目掛けてれいとうビームを放とうと力を溜めた。

「クッ。ラグラージ、れいとう」

「させないわよ。ニドキング、メガホーン」

「グオォ!」

「ッ。ワイドガード」

「ラージ!」

ヒョウリは、ラグラージでカラカラを助けようと、(れいとうビーム)を使おうとしたが、ニドキングによって、邪魔が入ってしまった。

「チッ(間に合わんか)」

ヒョウリのラグラージでの援護は間に合わない。カラカラは、片足が凍ってまともに動けない。

(あぁ、どうしよう)

マナオには、もう手が思い付かなかった。

(折角、勝てそうだったのに・・・私のせいで)

彼女が、また自分を攻めようとした。

「カーラァーーー!!!」

だが、カラカラが大声を上げたことで、それは止められた。

(え?)

マナオは、カラカラの方を見た。すると、カラカラの持つ骨が青白い光を放ちはじめた。

「何?」

青白く光っていた骨は、そのまま次第に太く長くなっていった。

「さぁ、撃て」

コジロウの合図でマニューラが、(れいとうビーム)を放った。そして、それはカラカラに当たった。

「あぁ」

マナオは、涙してカラカラを見た。やられてしまった。負けてしまった。カラカラがまた傷付いてしまったと、そう思った。だが、事実は違った。

「カラァ!」

「は!」

カラカラは、無事だった。(れいとうビーム)を受けたのにも関わらず。彼は、持つ青白い骨を横の状態で前に突き出していた。カラカラは、骨を縦代わりにして、(れいとうビーム)を防いだのだ。それに、驚くコジロウとマニューラ。

「なにぃ!」

「マニュ!」

カラカラは、そのまま凍った足目掛けて、骨で殴ると一発で氷を割った。

「カラカラ」

自由になった足を軽くバタつかせて、両足で地面に強く立ち、マニューラを睨む。一方、カラカラの持つ青白く光った骨を見たサトシ。

「あれは」

サトシには、似たものを見た事があった。すると、隣で戦っているヒョウリもカラカラの骨を見て、気付いた。

「「ボーンラッシュだ!」」

二人は、そう言った。

「マナオ、カラカラが新しいわざを覚えたんだ」

サトシの言葉に、マナオは反応する。

「新しい、わざ」

「あぁ、それはボーンラッシュ。強力なじめんわざだ」

次に、ヒョウリの言葉を聞いて、わざ名を知ったマナオ。

「ボーンラッシュ」

(よし)

「カラカラ、ボーンラッシュ!」

「カラァ!」

カラカラは、(ボーンラッシュ)を持ったまま、ニドキングに突っ込んでいく。

「させるか、マニューラ」

マニューラは、カラカラを再度攻撃しようと近づいていく。

「ラグラージ、ハイドロポンプ」

「マニュ」

だが、ラグラージによって、行く手を阻まれた。そして、カラカラは、ニドキング目掛けて、突っ込んでいく。

「カラカラ、本気のボーンラッシュよ」

「くっ、どくばり」

ニドキングは、(どくばり)を放つが、カラカラは(ボーンラッシュ)を器用に回転させて、全て弾き落として行く。

「なら、もう一度よ。ソーナンス」

「ソー」

ソーナンスがまた、カラカラのわざを防ごうとした瞬間。

「ハッサム」

突然、ソーナンスの真横からハッサムが現れて、掴みかかり互いに転がっていった。

「あぁ、ソーナンス」

突然のハッサムの邪魔に、驚くムサシ。そして、邪魔が消えたお陰で、カラカラは一気にニドキングに詰め寄った。ムサシは、ソーナンスに気を取られていて、指示が間に合わない。

(今だ!)

「行けぇぇぇ!」

「カァーラァ!!!」

ニドキングの腹に向かって、ボーンラッシュを決める。

「グッ、オォ、ォ」

その結果、ニドキングは前に倒れて込み。目を回して戦闘不能となった。

「あぁぁぁ、私のニドキングがぁ!」

「ハッサム、下がれ。奴に、れいとうビーム」

そして、ヒョウリのハッサムは、すぐにソーナンスから離れる。そして、ソーナンスに目掛けて、ラグラージは(れいとうビーム)を放った。そして、そのまま命中したソーナンス。

「ソ、ソ、ソーナン、ス」

(れいとうビーム)により、氷漬けになってしまった。

「ちょっと、あんた。何すんのよ!」

「あぁ、悪いな」

「悪いじゃないわよ。あんた、何3体目出してんの」

「は?お前らも3体目を使ったんなら。お互い様だろ、文句あるか?」

「大有りよ!」

「そうか。だが、これは此間の仕返しでもあるんだよ。二度も、俺の前に現れて休暇の邪魔をして、俺のポケモンを奪おうとしたんだ。お前ら・・・俺が、キレてるのは分からねぇか?!」

ヒョウリは、半ギレの状態で、ロケット団を激しく睨んだ。

「こ、怖」

「な、何よ、あんた。私達、ロケット団の前で悪党みたいな真似をしちゃって」

コジロウとムサシは、その顔に少しだけビビってしまう。ヒョウリの顔が、ただ怒っているというよりも、丸で悪魔の如く恐さと悪い雰囲気を醸し出していたからだ。

「真似じゃねぇよ。俺は・・・お前らより、悪い奴なんだよ」

ヒョウリは、目を鋭く尖らせ、冷たい目線で言った。

「!・・・ふん。コジロウ、あんな奴さっさとやりなさい」

ムサシは、やられたニドキングと氷漬けのソーナンスをボールに戻して、コジロウへ怒鳴る。

「あぁ、分かってるよ」

コジロウは、続けてマニューラに指示を出して、ラグラージへ攻撃を行う。

「マニューラ、こうそくいどう」

マニューラは、こうそくいどうで、次々と移動して行き、ラグラージに近づいて行く。

「ラグラージ、構えろ」

「ラ―ジ」

ラグラージは、指示を受けて、マニューラを待ち構えた。

「ふん、どうした。これじゃあ、攻撃出来ないだろ」

コジロウは、先程からマニューラの機動性を活かして、ラグラージを翻弄して、隙を伺っていた。

「今だ。メタルクロー」

マニューラが、一瞬でラグラージの目前に来ると(メタルクロー)で、ラグラージの顔目掛けて爪を突きつける。

「決まったぜ」

そうコジロウは、早めにガッツポーズを取ったのだが。

「かわらわり」

ラグラージは、そのまま右腕で前にいるマニューラ目掛けて縦に(かわらわり)を繰り出す。そして、(メタルクロー)と(かわらわり)がぶつかるが、ラグラージのパワーが上だったのか(メタルクロー)は押し負け、そのままマニューラごと地面に叩きつけられた。

「マッ」

そのまま、地面にバウントして上に浮いた所を、ヒョウリは続いて攻撃した。

「ハイドロポンプ」

ラグラージの口から放った(ハイドロポンプ)は、宙を舞うマニューラに目掛けて当たった。

「マニュゥゥゥ」

マニューラは、そのまま吹き飛ばされて地面に落下。目を回して、戦闘不能となった。

「あぁ、マニューラがまた。くぅそぉ、出す度に金払うんだぞぉぉぉ」

コジロウは、泣きながら愚痴を言って、目を回すマニューラをボールに戻す。

「不味いのにゃ」

ニドキングもマニューラ、そしてソーナンスもやられてしまった。ロケット団は、もはや打つ手を無くした。

「くぅー。こうなったら、逃げるのよ」

ムサシは、悔しがりながらそう命令する。

「急速上昇だ」

「急げなにゃ」

それに合わせて、コジロウとニャースは、急いで気球を操作し、上昇させて逃げようとして行く。気球が、みるみる上げっていくのを、地上のサトシ達は見ていた。

「ピィ・・・ピカァ!」

サトシに抱き抱えられたピカチュウが、離れて地に足を着けた。

「ピカチュウ、大丈夫なのか」

「ピカピカ」

サトシの問いに答えたピカチュウ。サトシは、ロケット団に指を差す。

「よーし、決めるぞ。ピカチュウ」

「ピッカァ!」

「ヒョウリ、マナオも行くぞ」

「あぁ」

「はい」

サトシ達は、息を合わせて、逃げるロケット団に睨んで指示を出した。

「ピカチュウ。10マンボルト!」

「ラグラージ、ハイドロポンプ」

「カラカラ、ホネブーメラン」

ピカチュウ、ラグラージ、カラカラのわざによる一斉攻撃が、ロケット団に向けて放たれた。集中したわざは、気球ごと爆発させた。それにより、ロケット団達は天高く吹き飛ばされた。

「やっぱ、こうなったか」

「こうなったかじゃないでしょうが」

「もう怒っても仕方ないにゃ。もういつもの最後に入ってしまったにゃ」

「それでは」

「「「やな感じ〜~~!!!」」」

そして、ロケット団の彼方先まで飛んで行った。

「さて、邪魔者は消えたな」

ヒョウリは、彼方に消えたロケット団を見て、そう言うと隣にいたマナオがカラカラの元に走る。

「カラカラ」

「カラァ」

カラカラは、マナオに向かって飛びつき、彼女は強く抱きしめた。

「良かった。貴方が戻って来くれて」

「カラァ」

「それに凄いよ、カラカラ。新しいわざまで覚えて」

「カラカラ」

互いに、安心した様子で抱きしめ合っていると、サトシから話しかけられた。

「マナオ」

「は、はい」

「さっきのバトル。見事だったぜ」

「・・・」

サトシに褒められたマナオは、すぐに返事を返さなかったが、目元から涙を溢れさせた。

「え、おい。マナオ、どうして泣くんだ」

「ピカッ、ピカピカ」

急にマナオが泣き出した事に慌てるサトシとピカチュウ。そんな彼らに、揶揄う男が居た。

「あーあ、泣―かせた」

「え?俺のせいかよ」

「あぁ、きっとそうだろうさ」

「あっ、えぇと。マ、マナオ。その」

サトシはたじたじとなって、マナオをどう泣き止んで貰おうか、将又謝ろうかとしていると。

「大丈夫です」

マナオから、そう言うと、自分の手で涙を拭いた。

「これは、嬉しい涙ですから」

「嬉しい?」

「はい。私とカラカラの初勝利のです」

「あっ。あぁ、そうだ。マナオの初勝利だ。おめでとう」

「はい」

「この調子で、明日も頑張ろうな」

「はい。頑張って、明日の試練。必ず達成してみせます」

サトシとマナオが、話していると。

「良い所で悪いが、さっさとポケモンセンターに戻るぞ。ポケモン達を回復させないといけないし。明日に備えて、晩飯を食って、さっさと寝ないとよぉ」

「そうだな」

ヒョウリに言われて、全員でポケモンセンターに戻って行った。

「ところで、ヒョウリさん」

「ん?なんだよ?礼なら」

「前から思ったんですけど。貴方、本当に意地悪な人ですね」

「はぁ?」

ヒョウリは、彼女の言う言葉の予想が外れて、そう口から漏らす。

「そうだよな」

すると、マナオの隣で歩くサトシも彼女に肯定し始めた。

「おいおい。俺は、こいつの為に、煽ったり唆したりしたんだぜ。むしろ、感謝して欲しいよ」

「だとしても、もっと別の言い方とかあると思います」

「悪いなぁ。俺は、こういうやり方が、性に合ってるんだ」

「師匠も、どうしてこの人を仲間にしたんですか?」

「いや、俺も何となく。」

「今すぐ、この人だけ脱退させましょう」

「おい、お前。俺に対して、急に態度が変わったな。あれか、初勝利したからって調子に乗ってるな」

「いえいえ。貴方にも、感謝はしています。ただ、師匠の言葉の方が、何倍も心に響きましたから」

「おい、サトシ。今度の特訓付き合ってやるよ。この女をボコボコにするから」

「まぁまぁ、落ち着けって。マナオも、ヒョウリが助けに来たから助かったんだからさぁ」

「師匠が、そう言うならいいですけど」

喧嘩しつつも、賑やかな3人は並んで、ポケモンセンターへ戻った。




今回は、サトシとヒョウリ、マナオが立ち寄った街で、ポケモントレーナーのイベントの1つ「ポケモントレーナー・ベストカップ(本作オリジナル設定)が開催される事を知り、サトシとマナオが参加する事を決めて、その特訓の話になります。

次回は、いよいよサトシとマナオが、トレーナー・ベストカップの第一の試練に挑戦します。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


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7話「トレーナー・ベストカップ 第一の試練」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


ヨヨミキシティに着いたサトシ達は、そこでポケモントレーナー・ベストカップという大会の開催を知る。翌日、最初のステージとなる第一の試練が、この街で偶然開かれるので、サトシはマナオを誘い、共に挑戦する事を決めた。そして、試練に挑戦する為に、サトシとマナオは特訓を行い、マナオと彼女のポケモンであるカラカラは少しだけ成長出来た。

 

 

翌日の朝。

ポケモンセンターから出たサトシ達は、トレーナー・ベストカップの第一の試練が行われる会場へやって来た。

「ここが、会場か」

「結構でかいな」

訪れた会場は、大きな野球ドーム状の施設が複数組み合わさっていた。施設の中央に巨大なドームが1つあり、それより小さい6つあるドームが周囲を取り囲んでいる構造だった。その施設の大きさは、全長約1.3km、高さ約70mにも及んだ。

そんな巨大な施設に大勢の人が入って行った。サトシ達も、施設内に入っていくと、受付が見えたので、参加登録をすることにした。

「あの、第一の試練に、参加したいんですけど」

「はい。それでは、挑戦者の方は、こちらのスキャナーに身分証を置いて下さい」

「はい」

サトシとマナオは、自分たちの身分証明書となるポケモン図鑑を置くと、受付の人が登録作業を行った。

「それと、出場できるポケモンは、一体のみとなります。出場させるポケモンは、モンスターボールから出して、こちらの台に乗せて下さい。ご登録します」

そう言って、係の人が隣にある台を手で示した。

「それと、登録していない他のポケモンの使用や持ち込みは出来ませんので、こちらのボールロックを付けて頂くか、またはモンスターボールをこちらで責任を持って預かります。なお、身につけた空のモンスターボールも持ち込めないので、そちらもお預かりします」

係の人が、何かを取って、それを見せる。

「ボールロック?」

見られないもの、聞き慣れない言葉を聞いたサトシは、それを見て呟いた。すると、ヒョウリが隣から話しかけた。

「あぁ、モンスターボールを開かなくしたり、中からポケモンが勝手に出れなくする代物だよ。最近、作られた奴で一部のトレーナーでも人気だよ。勝手に出てくるポケモンの防止や、危険な場所や保管しているポケモンが誤って出て来ないようにも使う」

「へぇー。あ、俺はこのピカチュウで出場します。それ以外、今はポケモンを持ってません。腰のは、全部空です」

「分かりました。では、空のモンスターボールをお預かりします。それでは、サトシ様のピカチュウを、ご登録致します。こちらに乗せて下さい」

「はい。ピカチュウ」

「ピカ」

ピカチュウは、サトシの肩から降りて、台の上に移動した。

「それでは、スキャンします」

そう言って、台の上に乗るピカチュウをスキャニングした。

「これで、ご登録が完了です。次は、マナオ様」

「はい」

続いて、マナオの番となり、カラカラの入ったモンスターボールを取り出した。

「出ておいで、カラカラ」

「カラァ」

カラカラのスキャニングも済ませると、係の人からケースを渡された。

「これが、トレーナー・ベストカップの証を入れるケースとなります」

「ありがとうございます」

サトシとマナオは、係から貰ったケースを見た。一辺12cm程の正方形の形で、厚さ1cm程のコンパクトなケース。ケースの表面には、ベストカップのシンボルマークが描かれていて、ケースを開けると中に証を納めると思われる5つの凹んだ部分があった。

「あと、少しで会場に入れますので、この場でお待ち下さい。なお、挑戦者でない方は、入れませんので、こちらか外でお待ち下さい」

「はい」

ヒョウリは、そう係に返事をして、サトシ達は受付から離れた。

 

 

「ここに居る全員挑戦者か。100人はいるぞ」

ヒョウリが会場の待機場にいる大勢を見渡して、そう言う。

「多いですね。私、大丈夫かな」

マナオは、大勢の挑戦者達を見て、少し弱腰となってしまった。

「何弱気になってるんだ。マナオ。こういう時こそ、絶対勝つと思わないと」

そんなマナオを見たサトシは、彼女に一喝を入れる。

「は、はい!」

「そういうサトシは、大丈夫なのかよ」

「あぁ、当然だろ。俺は、今まで多くのジム戦やリーグ戦にも出たんだ。これ位で、ビビったりしないぜ」

「ピカァ」

サトシとピカチュウは、そう強い気で彼に答える。

「だが、サトシ。今回の試練は、普通のポケモンバトルとは違う。昨日、説明しただろ」

ヒョウリが、そう告げられて、サトシもマナオも昨日の事を思い出す。それは、昨日襲ってきたロケット団を撃退してから、ポケモンセンターにポケモン達を預けて、治療待ちをしている間、彼らが待合室でした会話だった。

「あれから、お前らが特訓中の間、俺もベストカップについて調べた」

「そうだったのか」

「トレーナー・ベストカップというのは、毎回第一の試練から第五の試練が用意されている」

「5つもあるんですか」

「あぁ。さっきも話した通り、開催される場所や試練の内容もランダム。内容は、当日に挑戦者達に発表するぶっつけ本番仕様で、関係者の中でも極一部の者しか知らないようになっている。また、挑戦するに当たり、持ち込めるポケモンは一体のみ。それ以外は、預けて持ち込み不可能となっている。まあ、ズルや違反を防止の為、だろう。過去に、同じポケモンを6体持ち込む馬鹿がいたみたいだし。隠してモンスターボールを持って入り、バレない所で、入れ替えたりと例年いるみたいだ」

「そんな奴がいるんだな」

「まぁ、普通に居て不思議じゃないだろ。世の中、全員が真面目や正直者じゃないんだからさ」

「俺は、絶対しないけど」

「私もです」

「で、話を続けるけど。その挑戦した試練を見事達成出来た者には、達成者としての証のコインが渡されるらしい。そして、次のステップとなる試練が行われる開催場所と日程を教えてくれる。それで、次の試練へ達成者達が、その日までに行くという流れだ」

「では、終わったらすぐに移動しないと行けないのでしょうか」

「おそらくな。まぁ、仮に間に合わない場合は、次のシーズンで受ける事も可能だ。実際、試練の落ちても次回受けて合格し、次の試練で落ちたら、また次のシーズンで受けられるというシステムになってる」

「俺は、今シーズンで絶対取るぜ」

「わ、私も・・・頑張ります」

「それが出来たら、お前らは優秀なトレーナーだということさ。ただ、甘くないから覚悟はしておけよ」

ヒョウリは、そうサトシとマナオに忠告をした。

「それと、結構厳しいセキュリティチェックの方、挑戦者もすぐに把握されるようになっている。もし、過去に違反行為で参加禁止を食らってたり、指名手配でもされてたら、すぐにバレて退場となる」

「わ、私、大丈夫でしょか」

突然、マナオは不安な顔をして、そう言い出した。

「え?マナオ、何かしたのか?」

「その、師匠。ほら、私、バッチ狩りしてたじゃないですか。だから」

「・・・あっ」

サトシは、マナオのとの出会った時を思い出す。だが、その事について、ヒョウリが話し始めた。

「多分、大丈夫だろうよ。お前、ジュンサ―に捕まったり、取り調べとかされなかったんだろ。それにバッチは結局取れなかったんだし。まぁ、大丈夫さ」

「なら、いいですけど」

マナオは、少しだけ安心した顔をした。

「とにかく、明日に備えて。さっさと飯食って、寝るぞ。明日、寝坊しても知らねぇぞ」

昨日は、その会話の後、ポケモン達の治療が終え、一緒に夕食を済ませてから、入浴、歯磨き、就寝した。

そうして、サトシ達が昨日の内容を振り返ったり、これからの試練を挑戦する上で、気持ちの整理をつけていると、会場へ入れる大きな扉が開き出した。

「おっ、開いたぞ」

「そろそろか」

待機していた挑戦者達は、次々と開かれる扉を見て、近づいて行く。すると、開いた扉の中から大会の関係者だと思われる係の人が数人現れて、扉の前に佇んだ。それから、会場内のスピーカーからアナウンスが鳴った。

『間もなく、第一の試練が開催されます。挑戦者の方は、係の者に従い、中にお入り下さい。また、挑戦されない方は、中には入れませんので、外でお待ち下さい。なお、出場出来ない方は、入れませんので、ご注意下さい』

そのアナウンスが終わると、佇んでいた係の一人が話始めた。

「それでは、挑戦者の皆様。自分のポケモンと並んで、列を作って下さい。一組ずつ、確認を取らせて頂き、入場させます。また、入場者には、本日使用するこの番号バッチをお渡ししますので、自分の服の胸部分に、お付けて下さい」

そう指示を聞いた挑戦者達が、次々と扉へ向かっていき、行列を作っていった。そして、扉の所に居た係の人間が、登録した者とポケモンを一組ずつ確認して、番号バッチを1つ渡して、中へ通していった。

「うわぁ、もうこんなに行列が出来ましたね」

「もう少し、減ってから行こうか」

マナオとサトシは、そう話して人が減るのを待った。そうやって、ドンドン挑戦者達が扉の中へ入っていくと、扉に佇んでいた係の一人が、突然一組の挑戦者の前に立ち塞がった。

「な、なんですか?」

「ボン?」

道を塞がれた挑戦者の男と隣に居たポケモンのニョロボンが問う。そんな彼らに立ち塞がった係員は、男に対して答えた。

「失礼。貴方を、お通しする事は出来ません」

「な、なんでだよ!」

男は、係の言葉に理解出来ずに、大声で怒鳴る。その声で、周りの気付いていない人間も注目し始めた。

「なんだ?」

サトシ達も、その方を見る。

「それは、貴方が当試練の正式な受付をされていないからですよ」

「は?いやいや、俺はちゃんと受付をしたぞ。ほら、この身分証でしっかりとな」

男は、そう言ってポケットから取り出し、身分証を見せる。それを見た係は、言葉を返す。

「えぇ、それで受付をされた事は、存じています」

「だったら」

「ただ、そちらは・・・偽造の身分証ですよね?」

「え?(ギクッ)」

その言葉を言われて、男の顔は青ざめた。

「それに、貴方は過去にベストカップ挑戦の際、他の複数の施設で違反行為を多数行っていますよね。それで、貴方はトレーナー・ベストカップへの挑戦権が永久的に剥奪となりました。ですから、貴方は偽造身分証を使って、参加しようとされた。・・・それで、お間違いありませんよね?アハラ地方のタキツボタウンのツルトコさん?」

「なっ、俺の名前まで」

「どうされますか?このまま、ジュンサーさんをお呼びしても構いませんが」

「あっ・・・し」

男は、ジュンサーという言葉を聞いて、後ろに一歩引いた。

「失礼しゃしたぁ~~~!」

「ボォ~ン!」

そして、男とニョロボンは、そう叫びながら慌てて会場から逃げ出した。

「はぁ~、噂通りのセキュリティだな」

ヒョウリは、そう言うと扉の所や会場のあちこちに、設置されたカメラを見て思った。

(最新の顔認証や過去のトレーナー経歴やらを、短時間で焙り出したか。流石、パロント財団の最新セキュリティシステム)

「あ、あぁ、いう挑戦者もいるんですね」

「そ、そうみたいだな」

マナオとサトシは、突然の事に驚きつつ、そう話した。暫くして、挑戦者達がドンドン入って行って、行列は減っていき、いよいよ最後尾が入ろうとしていた。

「そろそろ、いいか。行こうぜ」

「ピッカ!」

「はい。いくよ、カラカラ」

「カラッカ」

サトシとマナオ達は、列の最後に並んで、扉へと歩いていった。

「それじゃあ。俺は、ここで待ってるよ。頑張れよ、お二人さん」

ヒョウリは、挑戦者である二人に、手を振る。

「あぁ」

「頑張ってきます」

サトシとピカチュウ、マナオとカラカラは、会場の中へと入って行き、係によって扉は閉められた。

 

 

サトシとマナオが、扉を抜けて中に入ると、そこは広い空間だった。上には、大量の照明で照らされていて、外みたいに明るかった。そして、左右には高くて黒い壁があり、正面は広大な空間のフィールドが見えた。

「広いですね」

「あぁ」

サトシとマナオも、施設を外観で見た時に察していたが、実際の中の広さに、少し驚いた。

彼らは、他の挑戦者達につられて、徐々に辺りを見回しながら進むと、施設内の構造に見覚えが合った。

「あれ」

正面中央にある空間より向こうの上側には、大量の座席らしいものや複数の大型モニターのようなものが見えた。挑戦者達が入ってきた場所は、どうやらドームでいう観客席側ステージの一角だという事が分かった。左右にある壁は観客席デッキの端であり、その間の選手入場口となっていた。それから、挑戦者達は、中央に広い空間であるフィールドに入ろうと移動したが、大量の高い柵で通行止めとなっていて、そちら側にいけないようになっていた。

「あれ、この奥で試練するじゃないのか?」

「行けねぇぞ」

「もしかして、ここで待つのかな」

そう挑戦者達は、口々に言って待ってみた。

サトシや挑戦者達が、会場に入ってから5分が過ぎた。今だ、何の連絡も無ければ、係が誰一人と顔も見せないでいた。中に入った100人近くの挑戦者がまだかまだかと、首を長くしていた。

「くそ、まだかよ」

「おいおい、どうなってんだ」

「なんかあったのかな」

「・・・遅い」

そう不満を募られていたその時だ。ガツンと大きい音がなり、彼らの視界は闇となった。

「なっ」

「あっ」

「えっ」

突然、会場の電気が消えたのだ。会場の挑戦者達の多くが驚き、中には冷静な者も居た。

「なんでしょう」

「分からない」

サトシやマナオも急に不安な顔になっていると、彼らに向かって1つの照明が点けられた。

「うわっ」

「なんだ」

突然の照明に、驚いている挑戦者達。すると、その照明の向きが動きだし、自分たちが入ってきた出入り口側へと進み、壁を登っていく。そして、壁の上の少し高い位置に、1つのステージがあり、そこで照明は固定された。それから、照明が照らしたステージに、スーツ姿の男性が一人現れた。男は、黒髪で右頬に傷跡があり、ガタイの良い体格をした年齢は40代だと思われる。男は、片耳にマイクイヤホンのようなものをつけていて、そのマイクが彼の声を拾って、会場内のスピーカーが響かせる。

『ようこそ、挑戦者のトレーナー諸君。ここ、ベストカップ第一の試練が用意されたトライアル会場へ』

男は、下にいる挑戦者達に目降ろしながら、話し始めた。

『私は、本日ここで行われる、第一の試練の監督を務める責任者のオオバヤシだ。これより、諸君には、ベストカップの第一の試練に挑戦して頂くことになる。そして、試練に達成した者のみが、第二の試練への挑戦権を手にする事が出来る』

オオバヤシと名乗る男は、挑戦者達に自己紹介を終えると、パチンと指を鳴らした。その合図で、消された会場内の照明が、再び点灯されて、明るさを取り戻した。

『では、今回の試練が行わるフィールドを、お見せしよう』

続いて、オオバヤシは中央ステージを指差しながら、そう告げると、ガッガッ、ガァーガァー、ウォーンウォーンと、何らかの機械音や金属が擦れる音が響き始めた。

「「「!」」」

挑戦者達は、急になり響いた音の方向が、会場の中央にある広大なフィールドからだと気付き、そちらを振り向いた。サトシやマナオも、同じくして会場中央へ目線を移した。中央のフィールドの床から次々と巨大な壁がいくつも迫り上がって行き、徐々に何かを形成していく。それから、5分もかからず、駆動音が鳴り止み、フィールドの動きも止まった。

次に、機械音が再び鳴り響き、中央への侵入を拒んでいた柵が、真ん中で切り開かれ、左右へスライドされていった。挑戦者達は、黙ったまま、中央フィールドの中へ入って行き、飛び出した巨大なステージへ近づいて行った。

「なんだ。この壁」

「砦みたいだな」

「たけぇ」

「20m以上あるぞ」

間近で見た挑戦者達は、その大きなオブジェクトに息を呑んだ。

『これが、第一の試練のフィールドとなる』

再びオオバヤシの声が聞こえた。挑戦者達は、彼の方を再び見たが、先程のステージには居なく。すぐ近くの観客席側にある高台のステージに、彼は移動していた。

『その名も、迷宮発走、ラビリンス・ラン』

「迷宮?」

「ラビリンス?」

「ラン?」

彼の言った試練の名前に、挑戦者達は口ずさむ。

『それでは、時間が押しているので。これより、第一の試練について、説明を行う』

オオバヤシによる第一の試練の説明が始まった。すると、彼が立つ後方にある観客席の上にある大型モニターや周囲の他のモニターが点きはじめた。

『今回、ここでの挑戦者となる106名の諸君には、制限時間終了までに、この迷宮の中を通っていき、ゴール地点に到達して貰う。それが今回、ここで用意された第一の試練の内容だ』

そう言うと、モニターには挑戦者106名という表示と、彼の言う言葉に合わせて文字が表示され、オオバヤシによる説明が行われて行った。

『詳細だが、挑戦者が各自決められたスタート地点からゴール地点に到達して貰う。制限時間は、30分。開始から30分後までに、ゴールに到達したトレーナーとポケモンが合わせた組のみが、達成者となる。なお、ステージ内は迷宮という言葉通り、中は迷路となっていて構造は複雑。そして、迷路内には、それぞれ様々なギミックやトラップが仕掛けられている。迷路内には特別な訓練を受けた敵役、エネミーポケモンが待ち構えても居て、挑戦者である諸君達を妨害する。エネミーポケモンの種類も力量、数もランダム。故に、ポケモンを倒すか、他の道を選ぶか、他の挑戦者と協力するのも君たち次第。もし、試練中にトレーナーかポケモンがダウンした場合、本人によるリタイアや挑戦者の違反行為が発覚した場合は、その挑戦者は失格とさせて貰う』

挑戦者達は、彼の説明を真剣に聞き、モニターに表示されたルールを覚えていく。

『続けて、その違反行為についての説明だ。ここでは、他の挑戦者に対して、故意に甚大な被害を齎す妨害行為は原則禁止となる。そう判断されたトレーナーやポケモンの組は、即刻退場させる。ただし、試練の内容や説明次第での了解を得た、バトルのみは有効とする。十分注意するように。毎回、違反する者が何人かは出ているので、諸君の中にも出てくるものと考えている。我々は、容赦なく違反者は失格。場合によっては、永久追放とするので、心するように』

その言葉を聞いた挑戦者達の多くが息を呑んだ。何しろ、先程その者とその末路を見たからだ。そんな彼らの顔色を見たオオバヤシは、気にせず最後の説明を行った。

『それでは、最後に。諸君のスタート地点を発表する。スタート地点は、入場時に受け取った番号バッチと、こちらで既に決めさせて貰った番号を振った地点が同じ場所となる』

モニターには、挑戦者の番号と同じ数字がスタートゾーンにランダムで設置されていた。

『早速、挑戦者諸君には、各自が指定されたスタート地点へ移動して貰う』

そう言われ、挑戦者達は、モニターの数字と自分の番号バッチを見比べて、スタート位置を確認しはじめた。サトシやマナオも同様に、自分のバッチとモニターを見た。

「俺は、Aの88だったな。えーと、えーと、右の方か」

「私は、Aの27だから・・・ちょっと左側の方ですね」

サトシとマナオは、互いに離れたスタート地点での開始だと分かり、その場でしばしの別れ

をした。

「それじゃあ。マナオ、頑張れよ。ゴールで、会おうぜ」

サトシは、そう言って、右手の拳を彼女へ向けた。

「はい、師匠。ゴールで会いましょう」

彼女も同じくして右手の拳を、彼の拳に当てた。それから、二人はそれぞれのスタート地点へと移動した。

あれから、挑戦者達106人は、それぞれのスタート位置に着いていくと、次のアナウンスが流れた。

『間もなく開始する。各スタート地点の迷宮ゲートを開く。挑戦者達は、指示があるまで迷宮への侵入は行わないように』

彼らの目の前にある壁がそれぞれ動き出し、下へと降りていった。

今回の試練で用意されたフィールド(迷宮発走ラビリンス・ラン)は、一辺が約15mの正方形のブロック毎に別れたエリアが並んでいた。スタート地点側の横に50ブロックが、縦に80ブロック、計4000ブロックで形成された長方形の大型迷路となっている。そのブロックの周囲や内部にそり立つ壁は、高さは20mもあった。

スタート地点となる50ブロック分の前には、先程開いた通路があり、そこから挑戦者達が侵入するようになっている。今回の試練での挑戦者は106名となり、1つの侵入口から約2名が入るようになっている。その迷宮内は、複雑な迷路となっており、スタート地点とは反対側になる50ブロックのうち、20ブロックにゴール用の出口が存在する。そこに到達するまでに、様々なトラップやエネミーポケモンが配置されていて、挑戦者達の行く手を阻む。

入口が開かれてから2、3分が過ぎた。試練開始まで、その場で待つようにと言われた挑戦者達は、今か今かとトレーナーと相棒のポケモンと共に、体が疼いていた。無論、中にはトレーナーもポケモンも共に、ジッと冷静に待ち構えている者もいた。そして、サトシとマナオはというと。

「くっ、まだか」

「ピカァ、ピカピカ」

「・・・(どうしよう。怖いよ怖いよ)」

「カラァ、カラァ」

サトシとピカチュウは、揃って興奮と気合が入っており、マナオとカラカラは徐々に緊張していた。そんな挑戦者達に、待ちに待った合図が来た。会場内のスピーカーから、アナウンスが流れた。

『それでは、間もなく試練を開始します。挑戦者の方々は、スタンバイをお願い致します』

それから、ステージに佇んでいる当試練の監督であるオオバヤシが、開始の合図を送った。

『それでは諸君・・・第一の試練を開始とする!』

その言葉が会場を響いた瞬間、挑戦者達は前方の道へと駆け出して行った。

「行くぞ、ピカチュウ!」

「ピッカ!」

「い、行くよ、カラカラ!」

「カラァ!」

サトシとピカチュウ、マナオとカラカラは、それぞれの道へと突き進んで行った。

 

 

合図が鳴り、106名にもなる挑戦者達が迷宮に入って行った。全部で50箇所のスタート地点から入り組んだ迷路の中を、真っ直ぐと、右へと、左へと次々に進んでいく。挑戦者の中には、行き止まりに入り、引き返す者。途中で、スタートとゴールの方向が、分からなくなり足を止めているもの。トラップの話を聞いて、1歩1歩と慎重に進む者。そして、スムーズに進んでいる者達も居た。その内の一人に、右から5番目のブロックからスタートした青年が居た。彼は、他の挑戦者達と違い、ドンドン先へと進んでいた。だが、彼の側には相棒となるポケモンの姿がなかった。なぜなら、床でなく上に居たからだ。

「ふん、運がいいぜ。ひこうタイプのポケモンなら、すぐに道が分かる」

彼の相棒となるポケモンは、飛行能力があるオオスバメだった。

「次は、どっちだ」

「スバ!」

トレーナーである彼の問いに、オオスバメは右の方へ翼を上下させる。

「よし、右だな」

そうやって彼は、オオスバメを上空に飛ばして、ゴールまでの進路を教えさせていたのだ。

「なんだ。ちょろいぜ」

彼とオオスバメは、何の問題もなくドンドン迷路を進んでいき、着実にゴールへ1歩1歩近づいていた。だが、トレーナー・ベストカップの試練は、そう甘いものでは無いことは、彼はまだ理解していなかった。

「スバ!」

オオスバメは、何かに気付いたのか、バッと振り返った。すると、その方向から大量の電撃がオオスバメに向い、襲った。

「スバァァァ!」

「なっ!」

そして、オオスバメは真っ黒けの状態となり、そのまま落下してしまった。

「おい、オオスバメ。大丈夫か」

「ス、スバァ」

彼が駆け寄ると、オオスバメは完全に目を回してダウンしていた。

「一体、何が」

そう口ずさむと、上空に何かが居るのに気付いた。

「なっ。なぜ、あんなに・・・レアコイルが」

彼の目線の先には、10体近くのレアコイルが飛んでいた。

「くそ。まさか、こういう時のための、飛行対策か」

彼が言う通りだ。今回の試練のフィールドと内容は、時間内に迷路を進んでいってゴールすること、ならひこうタイプなどの空飛ぶポケモンには、有利となるだろう。しかし、試練の内容やフィールドは、当日まで極秘とされていて、それを前もって用意することは不可能。仮に、彼のように運良くベストなポケモンを選んでいたとしても、その事を運営は想定して

いる。挑戦者達であるトレーナー、その相棒となるポケモンには、試練を与えて、それを乗り越えた者が、次の試練へ挑む権利を有する。その考えを持つ彼らには、どんなポケモンが来てもいいように、対応策や試練を用意してあるのだ。特に、テレポートなどのこのステージで圧倒的有利になるわざやとくせいを持つポケモンにも対策が行われていた。先程から(テレポート)を使えるポケモンに挑戦者は何度も指示しているが、一向に成功しない。このフィールド内には、テレポートを阻害する特殊な妨害装置などハイテクな機器まで用意されている。

他にも、(あなをほる)を覚えているポケモンを使って、ゴールまで道を作ろうとしたが、フィールドのブロックの強度は予想以上のもので、多重構造となっていた。また、壁に登って、ブロックの壁上を走ろうとした挑戦者とポケモンが居たが、レアコイル以外にもそれを阻害するエネミーポケモンやギミックが存在した。

「くそ、本当に迷路だな」

「ピィーカ」

スタートしてからサトシは、迷路という複雑な地形に惑わされていた。先程から、何度か行き止まりにぶつかっては、引き返しゴール側へ行こうとするも、中々その道が見つからないでいた。今は、上下左右のどのみちがいいのかを迷っていた。

「よーし」

サトシは、右手の人差し指を上に立てて、周りを1周回って見渡す。それから、1つの方向に指を降ろすと。

「こっちだ」

「ピカッ」

サトシは、指差した方向へ進んで行くと、次のブロックエリアに入り、中央付近へ右足を1歩前に出した瞬間、足元の床が少し沈み、同時にカチッと音が鳴った。

「ん?」

サトシは、その音に気付き、自分の右足に目をやった。それから、スッとその足を持ち上げて見ると、踏んだ所の床が、正方形状に凹んでいた。

(なんだ?)

そう思い、首を傾げた時だ。突然、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャンとサトシの居るブロックの周囲にある4ブロックの床から巨大な壁が上がってきたのだ。

「うわぁ!」「ピカァ!」

そうして、サトシの周囲に出来て壁により、四方を囲まれてしまった。

「か、壁?・・・これが、トラップ?」

サトシ達が閉じ込められたのは、ブロック5つ分が十字状になった空間だった。

「これじゃあ、出られないぞ。どうなってるんだ」

「ピカァ、ピカァ」

サトシとピカチュウは、現れた壁の1つに寄り添って、手で触れてみて押したりするが、びくともしない。それから、壁がどの位の厚さや硬さかも、把握してみた。

「この壁、思ったより分厚そうだな。ピカチュウのアイアンテールでも厳しいそうだ」

「ピィカァ」

壁の厚さを見て、アイアンテールではそう簡単に壊せないと判断したサトシとピカチュウ。すると、サトシは調べていた壁の中央に、何かがあるのに気付いた。

「ん?なんだ?この文字」

壁に、文字が書かれていた。そこには、『挑戦者よ。彼らを倒して、ここから出るのだ』と書かれていた。

「ん?彼ら?倒せ?」

サトシは、そう呟き、何の事なのか分からないでいると、ガァーっと後ろから機械音がしてきた。サトシ達は、音に気付いて振り返ると、床の1つが開いて中から何らかの配管状のものが飛び出してきた。そして、配管からの中から、ブーンブーンと何かの羽音が聞こえてきた。

「な、なんだ?!」

「ピッカ?!」

その音は徐々に大きくなってくると、配管の中から10体のスピアーが飛び出してきた。

「スピアーだ!」

「ピカ!」

「あっ。なるほど、こいつらを全員倒せないと、出られないってことか」

サトシは、文字と目の前のスピアーから部屋の脱出方法を理解した。

「よし、時間が無い。すぐに決めるぞ、ピカチュウ!」

「ピカァ!」

ピカチュウは、スピアー達に突っ込んで行った。

 

 

サトシが、そうしている一方で、マナオとカラカラは迷宮内に入って行き、ある場所で足止めを食らっていた。彼女の後ろには、別の挑戦者達とそのポケモン達が、揃って目を回して倒れていた。そして、彼女とカラカラは、苦戦していた。彼女達の前方には、大きな砲台のようなものが現れていた。その砲台の砲身からは、20cm程のゴムボールの弾が彼女達に目掛けて高速で発射されて、ボール弾が飛んできていた。

「避けて」

「カラァ」

「また、来る。避けて」

「カラァ」

カラカラが、躱すとその方向へ砲身の向きを変え、またゴムボールのような弾を発射する。その砲台は、近づく標的を感知して弾を発射し、向きも相手に合わせて変えられる自動砲台だった。その砲台から、発射されるゴムボールは、特殊な素材で出来ており、発射速度も速い。素材は柔らかい為、人間に当たっても、それ程怪我をすることは無いだろう。だが、威力は違った。1発1発の弾の力は、通常のポケモンが使うわざ「たいあたり」に匹敵するものとなっている。マナオ達の後ろで伸びている挑戦者組は、この砲台をトレーナー諸共、食らい目を回していたのだ。

「くっ、これじゃあ。前に進めない」

「カラァ」

「カラカラ、ホネブーメラン!」

「カラ!」

カラカラは、砲台目掛けて骨を投擲した。骨は、回転しながらブーメランの如く、向かっていく。そして、砲台に直撃する瞬間。砲台の前の床から鉄の板が迫り上がり、(ホネブーメラン)を防いで、砲台を守った。

「なっ!」

「カラッ!」

その事に、驚くマナオとカラカラ。二人が、そう反応していると砲台を守った板が下がり、また砲台が攻撃を繰り出してきた。

「くっ」

「カラッ」

再び撃ってきて、ボールの弾を躱すマナオとカラカラ。次々と砲台から発射されるゴムボールの砲弾。この弾に当たれば、通常のポケモンの(たいあたり)並のダメージを受けることになる。それが、2,3秒間隔で、次々と連続発射される。カラカラから砲台の距離はおよそ30m。弾の速さも、それなりに速い。15mのある距離を2,3秒で砲台側へ近づく事に、マナオにもカラカラにも厳しかった。

「一旦、下がろう」

「カラァ」

マナオとカラカラは、後ろへと30m以上後退する。すると、砲台も動きを止めて、撃つのを止めた。

「どうすれば」

マナオは、そう呟き側の壁に目をやった。そこには、文字が書かれていた。『この砲台を止める方法と抜ける方法』と他には砲台の説明として『砲台の前方30m以内で、対象に反応して弾を発射。砲身は自動で対象を追尾して動く。砲台を止めるには、ポケモンを使っての破壊。または、砲台の後方にある赤色の丸い<STOP>と書かれたスイッチを押すこと』とあった。

(砲台をカラカラで壊すか、それともスイッチを押すか)

彼女は、昨日のサトシとの特訓を思い出す。その中で、サトシから教わった言葉の1つ1つを記憶から出して行き、1つの言葉にあたった。

(いいか、マナオ。相手ばかりじゃなくて。時には、フィールド全体も見るんだ。そして、考えろ)

マナオは、前方の砲台でなく両側にある壁に目を移す。次に、先程から何度も見ていた砲台をもう一度見た。自分が挑む前に、後ろでやられている挑戦者達への対応から、自分が挑んだ時の様子を含めて、思い出す。最後に、相棒であるカラカラを見ていると、彼女は、何かに気付いた。

「あっ」

彼女は、それからしゃがみ込んで、しばし考えた。それから、1分程考えてから、立ち上がると、カラカラに話しかけた。

「カラカラ」

「カラ?」

「・・・囮を使うよ」

「?」

彼女の言葉に、カラカラは理解出来なかった。

「いい。カラカラ、合図したら思いっきり左の壁側に沿って走って行って。私は、右の方を走るから」

「・・・カラ!」

カラカラは、どういう手でいくのかを詳しく教わらなかったが、彼女を信じて返事をする。

「行くわよ。・・・GO!」

「!」

二人は、一気に左右へ散ってから前に走って行く。そして、射程圏内である30m以内に入った。砲台は、射程圏内に入った事で動き出した。だが、砲台が先程とは違う挙動になっていた。砲台は、右にいるマナオと左にいるカラカラと砲台が、向いてはまた逆へと向き直る動作をし始めていた。突然、2つの標的が現れて、システムが追いついていないのか、狙いを定める事が出来なかった。

(よし、いけそう)

だが、砲台のシステムは、この状況も想定されていたのか、すぐにプログラムが切り替わった。砲台は、挙動を止めると、一気にカラカラの方を向いて、ボール弾を発射した。

「!」

カラカラは、飛んできた砲台が撃ってきたのに気付き、すぐさま身を翻して、弾を躱した。

「カラカラ、止めらないで!」

彼女の言葉を聞いて、カラカラは続けて前へと進む。すると、砲台が今度は、マナオへと砲身を向け、発射した。

(今度は、私か)

マナオは、弾が発射されたボールを予想して一気に前へ倒れ込んだ。向かって来た弾は、彼女の背中ギリギリを通り抜けた。

「あぶっ」

倒れ込んだ彼女は、すぐさま立ち上がろうしたが、砲台は続けてマナオを捉えて、ボール弾を発射した。

「!」

今の彼女の体勢では、躱すのは難しい状態

「きゃあ」

ボールを見事体に受けて、吹き飛ばされた。

「カラァ!」

そんな彼女の声を聞いて、立ち止まるカラカラ。

「止まらないで」

彼女は、カラカラにそう言うと、すぐさま立ち上がり、また同じ方へと走って行った。

「カラ!」

カラカラも彼女に言われて、すぐさま前を走って行き、砲台までの距離が15mを切った。すると、今度はカラカラに目掛けてボール弾を発射した。カラカラは、今度は骨を構えて(ボーンラッシュ)で受け止めた。

だが、次から次と砲台は発射し、何発もの弾がカラカラを襲う。必死にボーンラッシュで受け取るも、徐々に後方へ押されていってしまう。その隙をついて、マナオは走っていき、裏から砲台を止めようと近づいた。

だが、砲台はすぐさま反応し、カラカラへの攻撃を止め、すぐさまマナオへ向いてから、発射した。彼女は、それでも躱そうともせず前に前に走って行く。

「今よ。ホネブーメラン。ぐっ」

彼女は、自分のことよりカラカラに指示を出した。そして、彼女はボールを受けてしまう。

「カラァ!」

カラカラは、砲台目掛けて、(ホネブーメラン)を放ち、回転した骨が砲台目掛けて飛んでいく。だが、先程砲台を守った板がまた出て来て、防いでしまった。板に当たった骨は、そのままカラカラの元に戻っていく。

「続けて、ホネブーメラン」

彼女は、続けて(ホネブーメラン)を指示する。カラカラは、言う通りに受け取った瞬間、体を回転させてその勢いでまた(ホネブーメラン)を投げた。無論、再度防護用の板で阻まれるが、それが彼女の狙いだった。

(よし。やっぱり、撃ってこない)

「そのまま続けて」

「カラァ!」

彼女は、砲台が防御されている間は、こちらに向かって撃てない事に、気付いていた。先程の同時に2つの標的を攻撃が難しい事と合わせて、彼女の計算だった。砲台の様子を観察して、周囲の状況を頭に入れて、自分やカラカラが効率良く、突破する方法を、彼女は考えた。

(今が、チャンスだ)

マナオは、カラカラが援護している間に、残った距離を一気に走り抜けて、砲台の側面から後方へと回る。そして、後方にある停止ボタンを勢い良く押した。その瞬間、砲台から駆動音が完全に消えて、そのまま微塵も動かなくなった。

「ふぅー、止まった」

「カラァー」

彼女とカラカラは、互い気が抜けて、その場に座り込んでしまう。

「・・・こうしる場合じゃない」

「カァ!」

一息しているマナオは、すぐさまそう大声を上げる。その声に、カラカラも反応した。

「急いで、ゴール行かないと」

「カラァ」

二人は、また全力でゴールを目指して、迷宮の奥へと走って行った。

 

 

サトシやマナオの他の挑戦者達も、同じ様にフィールド内のトラップやエネミーポケモンに道を阻まれ苦戦し、中には既に脱落した者達も居た。ある者は、落とし穴に落ちて、泥まみれとなり。ある者は、ベトベトンにのしかかりをされ、目を回したり。ある者は、イトマルの大群に、グルグル巻きにされる等と、次々とトラップやエネミーポケモンにやられていった。それでも、挑戦者達の中には、それらを乗り越えて、ゴール地点に目掛けて進んでいく者も居た。

試練が開始してから10分程が経過して、定期連絡のアナウンスが会場内に鳴り響く。

『残り時間、20分となりました』

あれから、責任者であるオオバヤシは会場のステージからアナウンスやフィールド全体を管理している管理室に来ていた。

「どうだ?様子は」

オオバヤシは、室内で座っているスタッフへ、状況を聞いた。

「はい。開始してから10分程が経過しました。現在までにゴール到達者は、0名。27名が脱落状態となり、違反者は今のところ出ていません」

挑戦者やフィールドの状況を表示した画面を見ているスタッフが答える。

「そうか。フィールドに問題は?」

「そちらも、現在問題ありません」

今度は、フィールド内に設置された多数の監視カメラをモニタリングしている数名のスタッフの内、1人がそう答えた。オオバヤシは、彼らの後ろからモニターを覗き、挑戦者達を見ていった。

「さて。これからが、ハードだぞ」

オオバヤシは、そう言いながら、両手を叩いた。

この迷宮は、スタート地点から中間地点、中間地点からゴール地点へと、ゴール側に近づけば近づく程、トラップやエネミーポケモンのレベルが高くなるように設計・配置がされている。大抵のポケモントレーナーやポケモンであれば、中間地点に到達出来るだろうが、劣った者や油断した者には、それまでに脱落するリスクがある。そして、中間地点を超えてからが、この第一の試練である迷宮の本番となるのだ。

このトレーナー・ベストカップでは、各試練の内容や場所を、毎シーズン毎に変える事となっている。まずは、運営によって、各地方の試練の開催場所を全て決める。その後、試練の内容を施設や街、環境に合わせたテーマで、各試練の担当をする監督や運営委員が協議や各自提案によって、最終的に決める。

この施設は、元々ハルタス地方で行われていたポケモンリーグ戦用の施設だった。しかし、10年以上も前に諸事情で使用がされなくなり、閉館。その後、トレーナー・ベストカップの運営やスポンサーによって買収し、施設の増築や改造したものとなる。その他、トレーナー・ベストカップ以外でもポケモンを利用した練習場やアトラクションとしても使えるのではないかという考えから、中央フィールドに様々な仕掛けやオブジェクトが迅速に展開出来るような仕組みにし、地下に用意した多数のアトラクション用や試練用のフィールドを格納した。また、当施設には、試練用のフィールドが複数存在した。その中で、現在利用しているものを、提案したのが当試練の責任者で、監督のオオバヤシだった。故に、このフィールド内のスタート地点からゴールまでの道順から、トラップからエネミーまでに至る内容を、彼は知っていた。

あれから、サトシやマナオの二人も迷宮の中を進んで行く。だが、その道中で、遭遇し襲いかかるトラップの数々に、すぐに道を見失ってしまう迷宮と呼ばれる複雑な迷路の構造

に惑わされながらも、必死に進んで行った。

サトシとピカチュウは、今中間地点を超えて、あるギミックのクリアに挑んでいた。彼のいるブロックの壁には、先程と同様に説明書きがされていた。

『ここより先へ進むには、いずれかのボタンを2つ、同時に押して下さい』。この内容からして、凄く簡単に見えるが、実際に目で見ているものは、大きく違った。

「くそ。頑張れ、ピカチュウ」

ピカチュウは、大きな鉄の柱に必死にしがみつき、天辺を目指して登っていたのだ。そして、サトシは、ピカチュウをただ応援している様子でも無かった。彼も、また同じ様な大きさの鉄の柱に抱きついて、登っていたのだ。

サトシ達がいたのは、四方を壁で囲まれて、1辺15mのブロックが4つ合わさって、正方形状に作られた空間だった。その空間の中では、各ブロック中央から1本ずつの柱が伸びていて、計4本の柱がそり立っていた。柱の高さは、約12m、直径1mとなり、1本ずつに『ボタンは天辺』と書かれていた。

そこで、サトシはピカチュウと共に、ボタンを目指して登っていた。ただの木や電柱なら、過去に経験があるサトシでも、楽に登れただろう。ただし、その柱はただの柱ではなかった。構造的に完全な円柱であり、柱の素材のせいかそれとも表面に何かのコーティングを施しているせいなのかは不明だが、摩擦がしにくい仕様でもあった。そのせいで、サトシもピカチュウも手や足を力強く掴もうとしても、滑り落ちてしまう状況だった。例え12mが短いとしても、そこまで登るのに一苦労する。サトシは、靴や靴下を脱いで、両手両足を使って登ろうとして、今はやっと5mを切った所だった。一方で、ピカチュウは、何とか9mまで登りきっていた。このギミックが現れた時、サトシとピカチュウはアイアンテールで、柱を根本から折ろうとも考えた。だが、柱にあった説明書きの『ボタンは天辺』以外にも続きがあった。『注意:柱を壊された場合、ボタンも壊れる』。それを読んだ瞬間、わざでの破壊案は、すぐに白紙となった。このギミックは、ピカチュウのような地上ポケモンでなく、飛行可能なポケモンだったら、すぐにクリア出来ただろう。だが、それも挑戦者との偶然に組み合わせ次第となる。それも込みなのが、トレーナー・ベストカップの試練であった。

それから、5分かけたサトシは、漸く天辺に辿り着いた。一方でピカチュウは、2分前に到着して、上からサトシを応援していた。二人が、辿り着いた天辺には、赤色のボタンが1つずつ設置されていた。

「よぉし、ハァハァ。ピカチュウ、押すぞ!」

「ピカァ!」

二人は、同時にボタンを押した。

その頃、マナオも同様に、中間地点に到達していた。

「カラカラ、ホネブーメラン」

「カラァ」

だが、彼女は、中間地点にある次の相手に手こずっていた。今度の相手は、砲台のような機械でなくポケモンだった。マナオ達に立ち塞がるエネミーポケモンは、6体のワンリキーだった。一度に、ポケモン6匹を相手にするのは、少し厳しい状況であるが、昨日から急激に成長を見せたマナオとカラカラでは、通常のポケモンバトルであるなら、何とかなる可能性はあった。

だが、今回のバトルはそうでは無かった。相手であるワンリキーが通常ではなかったからだ。ワンリキー1体1体に、バトル用のプロテクターが装着されていて、防御力が上がっていた。通常のポケモンバトルであれば、ポケモンに戦闘力を上げる為やトレーニング用の道具を、装着してバトルをする事は、珍しくはない。だが、その様な状況は、一般のトレーナーでは中々出会う機械が無ければ、まだトレーナーになって3ヶ月程のマナオには、皆無だった。

「くっ。全然ダメージが入らない」

先程から、1体ずつダメージを与えていても、ダメージが余り入っていない。その上、一体を相手にしていると、別の方向から別のワンリキーによる攻撃が繰り出される。一体一体の強さも、それ程でないようだが防御力は、それ以上だった。

『残り時間、15分となりました』

アナウンスが、彼女の耳だけでなく心にまで囁いてくる。彼女の心がまた焦らせようと、弱い自分を引きずり出そうとする。だが、彼女は昨日より、この試練の中で成長していた。

「まだまだ、諦めないわよ1」

「カラァ!」

あれから、サトシやマナオ、残った挑戦者達は次々と、先へ進んではエネミーに、トラップやギミックに遭遇し、ある者は突破、ある者は引き返し、ある者は脱落していった。

 

 

『残り時間、あと5分となりました』

試練が開始して25分後、そうアナウンスが鳴った。あと、5分で制限時間が終了してしまう。それまでに、挑戦者であるトレーナーがポケモンと共にゴールした者だけが、達成となる。

(あと、5分)

「くそ、ゴールはどこだ」

サトシは、迷路のゴール近くまで進んでいたが、ゴール地点にまだ、辿り着いていなかった。

それどころか、ゴールへの道すら、中々見つける事が出来ていなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

「ピィ~カァ~」

サトシもピカチュウも、進む毎に遭遇するトラップやポケモンとバトルをする事で、徐々に体力を失っていった。この25分間、走ってはバトルして、時には驚異的なトラップに立ち向かってを繰り返して来た。1年も様々な地方への冒険やジム戦リーグ戦をしてきた彼らでも、この試練は甘くは無かった。

サトシは、必死にゴール地点がある方へ向かうように迷路の中を進んでいく。すると、1枚の壁に開いた出入り口のようなものを見つけた。

「あっ。あそこっぽいな」

サトシとピカチュウは、一気に駆け出して行き、その中に入った瞬間。

「やっと来たか。待ってたよ」

その中から、何者かの声が聞こえた。

「ん?」

サトシとピカチュウが入ったその中には、一人の男とポケモンのザングースが佇んでいた。

(他の挑戦者?)

サトシは、男を見てそう思っていると。男は、サトシの顔を見てながら、ニヤついて話す。

「焦ったぜ。このまま、誰も来ないんじゃねぇかって」

「え?待ってた?」

サトシは、彼が何の事を言ってるのか、イマイチ理解出来ないでいた。それから、中へ更に1歩前へと進んだ瞬間。入ってきた後ろの出入り口がいきなり閉じたのだ。

「!」

それにサトシとピカチュウは、驚き振り向くが、既に出口は塞がれていた。そんな彼らを見て、男は再び話しかけて来た。

「どうやら、ここは他の参加者と2名が揃って、行われるトラップみたいらしいんだ」

「・・・それは、どういう」

サトシは、そう問いかけようとすると、男はゴール側の方にある壁に向かって指を差した。そこには、大きな両開きの扉があり、扉の中心に何かの説明文が書いてあるのに気付いた。サトシは、それを近づいて読む。

『壁には、2人の挑戦者よ。戦い、勝利者のみが、終点への権利を有する』

その言葉を読んで、サトシも要約理解出来た。

「これって」

「そう。挑戦者2人でポケモンバトルをして、勝った者だけが、この壁の向こうにあるゴールへ行けるということだ」

「・・・まさか、トレーナーとのバトルもあったのか」

「さて、疲れてる所悪いが、休ませる暇は与えないぜ。行け、ザングース。でんこうせっか!」

「グゥース!」

男は、そう指示をするとザングースが前に突っ込んで行った。

「悪いのは、こっちだぜ。バトルは俺の得意分野だ。行くぞ、ピカチュウ。でんこうせっか!」

「ピィィィカ!」

ピカチュウとザングースがぶつかる。

 

 

あれから、マナオは、何とか中間地点を超えて行き、ゴール地点までもう少しの所までやって来ていた。

「ハァー、ハァー、ハァー」

「カラァー、カラァー」

マナオもカラカラも息が上がっていた。彼女たちも、ここまでに様々なトラップやエネミーポケモンを相手にしながら、ゴールへと必死に走ってきていた。残り時間が10分を切ってから、凄く焦りだし、休憩も取らずに連続で走ってきたこともあり、彼女達の体力も限界に近づいていた。

『残り時間、あと5分となりました』

5分前のアナウンスが聞こえた。

(あと・・・5分)

「くっ、急がないと」

彼女は、ただひたすらと走った。ゴールの方角へ進んではいるもののゴールへの道が見えない。だが、彼女は着実にゴールへ近づいてはいた。そして、ある道を曲がった所で、その先であるものが見えた。

「あっ」

彼女が向いている先を、よく見るとそこには<GOAL>と書かれた看板があった。

「・・・ゴール。い、行くよ、カラカラ」

「カラァ」

彼女とカラカラは、一気に前へ前へと走った。100m近くある先に、ゴール地点の出口がある。彼女は、ただ何も考えずに走った。先程まで、トラップやエネミーに対して、警戒感を持ちはじめ、慎重に進もうとしていたが、今の彼女はゴールという目標にしか眼中がいっていなかった。

(あとちょっと)

彼女が、ゴールまで10mを切った瞬間だった。シュッと前の床から大きな影が現れた。

「!」

その影は、見る見る上に出てくると、ガシャンと大きな音を立てて止まった。

彼女とカラカラは、少し後退り現れた巨大なものを見渡した。それは、巨大な壁だった。

「・・・壁」

突然、現れた壁は、今までの壁とは色が違う赤色の壁だった。その壁の中央には、同じくして説明文が、記載されていた。『この扉を壊した者。終点への権利を有する』。その言葉を読んで、彼女は口ずさむ。

「この壁を、壊せば・・・ゴール!」

彼女は、ゴール目前のためか、残った気力を一気に体から出した。

「よぉし!」

彼女は、大声を上げて、最後の気合を入れた。

「カラカラ、ボーンラッシュ!」

「カラァ!」

カラカラは、指示通りに(ボーンラッシュ)で、壁に向かって殴りつけた。だが、ヒビ1つつか無いまま、弾かれてしまった。

「駄目か。続いて、ホネブーメラン」

「カラァ」

「ずつき」

「カラ」

「もう一度、ボーンラッシュ」

「カッラァ」

その後、続けてわざを繰り出していく。しかし、微々たる傷後は付ける事が出来たものの、壁を破壊するダメージには至らなかった。

「なんて硬さなの」

(こうなったら)

「カラカラ、きあいだめ」

「カラ。カ~~~ラァ」

カラカラに、(きあいだめ)を指示した。カラカラは、深く息を吸い込んだ。(きあいだめ)は、自身に気合を込めることで、その後の自分のわざ・攻撃が、より急所に当たりやすくなるという変化わざである。彼女は、壁をより破壊しやすくする為、(きあいだめ)を使って壁のウィークポイントを狙うようだ。

「よし。今度、気合を入れたボーンラッシュ」

「カラ!」

カラカラは、先程より力を入れた上、(きあいだめ)によるボーンラッシュを、壁のウィークポイントを狙って、強い一撃で放つ。

「・・・まだ駄目なの」

壁は、特に変化がないままだった。そして、会場にまたアナウンスが流れた。

『残り制限時間、3分となりました』

 

 

「ピィカァァァ」

「あ、ピカチュウ!」

ピカチュウは、大きく吹き飛ばさて床に滑っていき、倒れ込んだ。そのピカチュウへ、サトシは駆け寄る。

「大丈夫か」

「ピィ~カッ」

(もうピカチュウは、限界だ。けど)

ピカチュウは、辛うじてサトシに返事をするが、もはや返事する元気に出来ないでいた。

「ふん、どうやら。そろそろ限界間際のようだな」

サトシの前には、先程の男が笑いながら、そう話してきた。

「さて、あと3分らしいが、トドメの一撃で十分だし。ゆっくり終わらせてやろうか」

「くっ」

サトシは、悔しがりながらも、相手トレーナーでなく、そのポケモンに目をやった。この試練がどういうもので、どれ位大変なものかは身に沁みるほど理解はした。ここまで、辿り着くのに、トレーナーもポケモンも体力もダメージも受けていて、不思議ではない。なのに、男もザングースにも傷1つ、体力の消耗が見慣れなかった。

(くそ。なんであのザングース、あんなにピンピンしてるんだ)

そう考えていると、男はサトシの目線が、自分でなくザングースに向いている事に気付き、何を考えているのかを察した。

「・・・なぜ、俺のザングースが元気なのか。気になるか?」

「?」

サトシは、心の中で思っていた事を男に当てられて、反応する。

「特別だ。教えてやるよ」

そう言って、男は語りだした。

「俺は、この第一の試練に挑戦するのは、今回で4回でね。それで、対策が出来ないし、今度こそどうにか受かろうと考えた。そして、今回の迷宮とルールを見て。すぐに思いついた。他の挑戦者の後をつけようと」

「え」

「そいつを追って、先にトラップやエネミーの相手をして貰う。それで駄目になったら、他の奴について行けば良い。だが、誰にでもついて行けばいいという話ではない。すぐさまやられてダウンしても意味無いからな。だから、他の挑戦者達で、優秀な奴に目星をつけたのさ。過去に第一の試練へ挑戦した実力が高い者、ジム戦や多くの大会で名を挙げた腕のあるトレーナー。そういった奴らが、今回数名居たんだよ。君のようにね。マサラタウンのサトシ君」

「・・・俺のこと知ってたのか」

「あぁ。俺は、日頃他の地方の優秀なトレーナーの顔を、テレビや雑誌で覚えていてな。過去にあったジョウトリーグやホウエンリーグで覚えたのさ。まぁ、お前さんとはスタート地点が離れていたから、最初のターゲットから外したが、まさか最終局面で出会うとはなぁ」

「そうか。お前、他人に苦労させて楽して試練を達成したいのか」

「あぁ、そうだが」

「そんなの、何の意味も無い。ただの」

「負ける君に言われたくないな」

「なにぃ」

「え?分かってないの?もう、お前は俺に負けるだよ。それだけのダメージがあるピカチュウじゃあ。相手にもならないのさ」

「ッ。俺のピカチュウを舐めるなよ」

「ほう、まだやる気か。さっさとリタイアしたらいいのに。全く優しくないトレーナーを持っちまったな。なぁ、ピカチュウちゃん」

「ピッ!ピカァ!ピカァ!ピカチュ!」

すると、ピカチュウの彼の言葉を聞いて、目つきが変わり、立ち上がって大声を上げる。

「あ?なんだ、怒ってるのか?たく、人が優しい言葉をかけたのによぉ」

「何が優しい言葉だ。俺とピカチュウを馬鹿にしやがって。他人を利用して成り上がろうとするお前なんかに、俺たちは絶対負けねぇぜ」

「ピカァ!」

「そうか。じゃあ、トドメといくかぁ。ザングース!」

「グゥース!」

「ピカチュウ、これがラストだ。全力で行くぞ!」

「ピッカァ!」

 

 

あれから、カラカラのわざをいくつも繰り出し、(きあいだめ)による壁のウィークポイントを狙っては攻撃をしてきた。そのお陰で壁につけた傷は、徐々に大きくなっていった。これなら、いずれ壁に穴を開けられるだろう。だが、そんな余裕はない。

「きあいだめ」

「カラ」

「もう一度、きあいだめ」

「カッ」

カラカラが、わざの途中で、膝をついて倒れかけた。

「あ、カラカラ」

彼女は、カラカラに寄り体を支えた。

「カラァー、カラァー」

(もう無理みたいね)

カラカラも既に限界だったのに、更に気力も体力も底ギリギリに迫っていた。ポケモンバトルでない為、ダメージは受けないが、精神力と体力は動く度に、減っていく。

『残り時間、1分』

会場のアナウンスが鳴った。

「ッ。もう1分しかない」

アナウンスを聞いて、心臓が止まりかけた。もう後がない、どうしようと冷静さが消えて、焦りが出てきた。もういっそ、諦めた方が楽になるんじゃないかと、心の隅でそう呟く弱い文の声も聞こえた気がした。だが。

(諦めるな)

彼女の心には、そう強い言葉が出来ていた。サトシから教わり、言われた言葉。

(これが、最後のチャンスだ)

彼女は、カラカラの目を見て、聞いた。

「カラカラ」

「カッ、ラ」

「これが、最後・・・行ける?」

「・・・カラ!」

彼女の目を見て、カラカラは強い意思でそう返事をし、立ち上がった。そして、カラカラに最後の指示をはじめた。

「カラカラ・・・きあいだめ!」

「カァーラァ!」

「まだまだ、きあいだめ!」

「カァ―――ラァ!」

「もっともっと、きあいだめ!」

「カァ――――――ラァ!」

「もっともっと、もぉーーーとぉ。きあいだめ!」

「カァ―――――――――ラァ!」

「カラカラ、ボーンラッシュ!!!」

「カァラァ!!!」

マナオとカラカラは共に、全身全霊で壁へ立ち向かった。

 

 

「ザングース、ブレイククロー!」

「ピカチュウ、アイアンテール!」

空中で、ピカチュウの尻尾である(アイアンテール)とザングースの手である(ブレイククロー)が激突する。

『残り時間、1分』

会話の中で、会場のアナウンスが鳴った。

「残り、1分」

アナウンスが聞こえたサトシは、そう言葉に出す。一方で、相手の男もそれを聞こえて、急に焦りだした。

「くっ。しつけぇやつだな。さっさとやられちまえよ」

「悪いな。俺もピカチュウも諦めが悪いんだよ」

「ピカ」

「だ、だったら終わらせてやるぅ!ブレイククロー」

「グゥー――ス!」

ザングースは、ピカチュウ目掛けて、一気にケリをつけようと、最後に(ブレイククロー)を向ける。それを迎え受けるサトシとピカチュウも、最後の力で反撃に出た。

「ピカチュウ!お前の底力を見せてやるぞ」

「ピカァ!」

「10マンボルト!!!」

「ピィィィカァァァ、ヂューーー!!!」

フィールド内の1箇所で、激しい巨大な電撃の柱がそそり立ち、爆発が起きた。そして、10秒後に。

『第一の試練、終了!』

試練の終了のアナウンスが、会場中に鳴り響いた。

 

 

終了のアナウンスが鳴ってから、10分が経過した。ゴールに到達した者や出来なかった者など、挑戦者達全員がゴール付近のステージ前に集められていた。その中に、サトシとマナオも居た。他の挑戦者も含めて殆どのトレーナーもポケモンもボロボロだった。自力で立てないポケモンは、モンスターボールに戻され、まだ元気なポケモンやボールに入らないサトシのピカチュウのような場合は、外に出されていた。ピカチュウは、ダウンしてないものの立ち上がる力が無い為、サトシの胸に抱きかかえられていた。マナオは、既に限界だったが一緒に結果を見たいらしくボールに入るのを拒んでいた。そこで、カラカラも彼女に体を預けていた。そんな彼の前に、責任者であるオオバヤシが、姿を現した。

「挑戦者の諸君。第一の試練、ご苦労であった。見事な挑戦だった」

彼は、今度はマイク越しでなく自身の大きな声で、達成した挑戦者達に、激励を言う。

「それでは、今回の第一の試練、達成者を発表する」

そう言って、彼は右手で後ろにあった大型モニターに手を振りかざす。

「この者達だ」

すると、そのモニターに一気に名前が表示されて行った。そう、挑戦者達の中で、第一の試練が達成出来た者達だけの名前だ。

「今回の達成者は、106名中42名であった。各自、自分の名前を見つけよ」

そう言われて、挑戦者達は次々と自分の名前を探し始めた。

「えーと、えーと、俺の名前は」

サトシもすぐにモニターの端から端まで見て、自分の名前を探した。

「あ、あった」

「ピカピ」

サトシは、自分の

「やったな、ピカチュウ」

「チャ~」

そして、互いに強く抱きしめ、苦労して試練を達成出来た喜びを分かち合った。それから、サトシは、すぐ側に居たマナオの方を、振り向いた。

「マナオは」

そう彼女に問いかけるが、すぐに返事が返って来なかった。彼女は、顔も体も固まっていたのだ。それに、彼女の顔には、喜びが無かったことに気付き、サトシは嫌な予感がしてきた。すぐに、モニターを見てマナオの名前を見ようと思ったが、それで名前が無かったら、ますます気不味いと感じて、見るに見れなかった。そう彼女の口から聞くべきと考えた。

「し、師匠」

そう考えていると、彼女から不意に名前を呼ばれた。

「ど、どうだった?」

サトシは、恐る恐る聞いてみた。すると、彼女の目からドンドン涙を溢れてきたのだ。それを見て、サトシは一気に顔色が悪くなり、悲痛な気持ちになりそうにになった。

(嘘だろ)

「マ、マナオ」

サトシは、彼女に何か励ましの言葉を言うべきかと、思ったが特に良い言葉が思いつかず、ただ名前を呼んだ。

「・・・ました」

そうサトシの耳に言葉が微かに入った。

「?」

「私の名前が・・・ありました」

彼女からその言葉を聞いたサトシは、また喜びの顔と気持ちが溢れてきた。

「あ、あぁ。おめでとう」

「うぅぅぅ、やりましたぁーーー!」

喜びの余りに、彼女はサトシに抱きついた。

他の挑戦者達も、自分の名前を見つけていっては、喜び。見つからない者は、次こそはと心に決めて、その場を去って行った。

「それでは、達成者諸君には、これよりステージに上がって貰い、達成者の証を贈呈する」

あれから、会場には運営と第一の試練の達成者達のみが残った。これより、試練を達成した証を贈呈するのだ。

「これが、第一の試練をクリアした者に捧げる。ベストカップのファーストコインだ」

オオバヤシが、そう言って、1つのコインを上に上げて見せる。それから、達成者達が一人ずつ名前が呼ばれて行き、順番にステージへ上がった。そこで、第一の試練を達成した証、ファーストコインを受け取っていった。

「これが、ファーストコイン」

サトシは、受け取った後、そのコインをまじまじと見た。表には、<Ⅰ>の数字が、裏にはベストカップのシンボルマークが、刻まれていた。

全員にコインが配り終えたら、オオバヤシからの最後の説明が始まった。

「そのファーストコインは、次の試練となる第二の試練への挑戦権となる。決して失くすでない。また、試練は全部で5つ。コインも、同様に全部で5枚。諸君は、残り4枚のコインがある第二の試練から第五の試練へ、順に挑戦して、最後まで達成する事が出来れば。ベストトレーナーとして、名前が残ることとなる」

(全部で5つ)

(残り4つ)

サトシとマナオは、早速次の試練の事を考えていた。

「それでは、第一の試練を達成した諸君に、第二の試練の開催場所と日程を伝える。開催場所は、2箇所で開かれる。1つ目は、シントー地方にある北西にあるミノキノシティ。そして、もう1つがここより一番近い場所。南のフィオレ地方にあるフォルシティだ。このどちらか、向かった方で受けて貰う。日程は、どちらも今日より10日後の朝9時に開催する。もし、遅れたら次のシーズンの第二の試練を受けて貰うこととなるだろう。それまでに、移動するのも、挑戦者である諸君への役目でもある。それでは、諸君の健闘に期待する」

 

 

サトシとマナオは、第一の試練を終えてから、すぐさま外で待っていたヒョウリに合流し、ポケモンセンターへ向かった。

「フォルシティ?あの港町か。となれば、ここより南だな」

ヒョウリは、自分の腕輪からマップを出して、位置を確認する。

「そこまで、10日後までに着かないと行けないんです」

マナオは、期日についても言うと、ヒョウリが難しい顔をして答える。

「ここから、普通に行くと10日はギリギリ難しいぞ」

「それが、運営が言うには、次の試練に向かうのもトレーナーとポケモンの力次第という事で、想定された期日らしくて」

「噂通り、容赦ないハードな大会だな。ほんと」

そう言うと、サトシが話してくる。

「南なら、この街から向こうへ真っ直ぐ行けばいいんだよな」

「いや、この街から南へ進める道が無いんだ。だから」

そう言って、腕輪を操作していくと、モニターのマップに何かが表示された。

「最短コースで行くなら3つある。1つは、東に戻ってミョウコシティからフォルシティに行く。ただし、ここからミョウコシティまで最短でも5日は掛かる。そこからフォルシティまでおよそ4日。ほぼギリギリだ。次は、ヨヨミキシティの南西にある村から山を登って、危ない山岳を通っていく。そうすれば、7日で着く。ただし、結構危険な道だからプロじゃないと厳しい。正直、俺も通りたくないルートだ」

「じゃあ、あとの1つは?」

「この街から西へ行って、あと街を2つ行ったら、そこから南の森を通っていく。普通なら8,9日と1つ目と変わらない。だが、俺のマップデータを使って、何も無ければ余裕を持って6日、7日後には到着出来る。さぁ、どうする?」

ヒョウリは、全てルート説明を終え、二人に問う。

「よし。なら、西に行こう」

「そうですね」

サトシとマナオは、互いに最後の西方面のルートを答える。

「そうか。なら、明日の朝。早速出発だぞ」

「はい」

「OK」

そうして、彼らは次の目的地のルートが決まった。




今回は、サトシマナオが、ポケモントレーナー・ベストカップの第一の試練に挑戦する話です。

次回は、ヨヨミキシティから西へ向かいます。


話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


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8話「カゲギシ砂丘 綺麗な砂の主」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


サトシ、ヒョウリ、マナオの3人は、ヨヨミキシティでポケモントレーナー・ベストカップの存在を知った。そして、サトシとマナオの二人は参加し、第一の試練に挑戦した。結果、無事に達成出来た二人は、次の第二の試練が開催されるフィオレ地方のフォルシティへ向かう為、西へ向かっていた。

 

 

サトシ達は、昨日ヨヨミキシティから旅立って、ハルタス地方の海沿いの近くにある町へ向かっていた。

「なぁ、ヒョウリ。町まで、あとどの位だ」

サトシは、先頭で道案内をしているヒョウリに向かって聞いた。今のサトシは、なぜか普段より元気が無く、下を見ながら歩いていた。

「あと3時間も歩けば、チョウドタウンに着く」

ヒョウリは、腕輪のモニターを見ながら、後ろのサトシへ教えた。

「3,3時間もですか」

今度は、サトシの隣で草臥れたような顔をして歩いているマナオが、そう愚痴る。

「あぁ、そうだ。頑張って歩け」

すると、サトシが腹を押さえながら、口ずさんだ。

「腹減った」

「さっき、昼飯食ったろ」

サトシの言葉を聞いたヒョウリが、彼に振り返ってそう話す。

「昼飯って、ヨヨミキで買った保存食だろ。朝飯といい。あれだけじゃあ、まだ物足りないっていうか、味気ないっていうか。やっぱりちゃんとした料理が食べたいぜ」

「そういうなら、お前が今度材料買って料理すればいいだろ」

「いや、そうだけど。俺は・・・余り得意じゃないっていうか」

「私も余り得意じゃないですね。家では、ずっとおばあちゃんに作って貰ってたんで」

「ヒョウリは、あれで満足なのかよ」

「ふん。確かに量も味も良いとは言わないが、体が動ける分のカロリーと栄養は取れてるだろ。まぁ、俺は料理しようと思えば、出来るがいちいち買っては料理して片付けるのが毎回面倒なだけだ。ましてや、野外でそういう事をするのがな」

ヒョウリは、そう話し腕輪のマップを見ながら、先へ進んでいく。

「はぁ、タケシの料理が食べたいぜ」

「ピィカ」

サトシの愚痴に、肩に乗るピカチュウもそう頷く。すると、隣にいたマナオが質問をしてきた。

「師匠。タケシって、誰ですか」

「え?あぁ、俺が昔一緒に旅をした仲間でな。はじめてポケモントレーナーとして旅はじめたカントーから、ジョウトやホウエン、シンオンとずっと一緒に回ったんだ」

サトシは、かつての旅仲間であるタケシを思い出しながら、語り出す。

「タケシは、元々はジムリーダーをやっててな。俺が、はじめて挑んだジムで出会ったんだ。ジム戦の後、あいつがポケモンブリーダーを目指しているって言って、家族にジムを預けた後、俺と一緒に旅をすることになったんだ。それから、いろんな地方を巡っては、美味しい料理を作ってくれたり、道案内をしてくたり、ピカチュウや他のポケモンを一緒に世話してくたり、何か困った事があったら助けたり、相談にも乗ってくれた。あいつのお陰で、俺はいつも安心旅が出来たんだ」

「その人、師匠にとって、大切な仲間なんですね」

「あぁ。あれから、あいつはブリーダーでなく、ポケモンドクターを目指して、今もどこかで頑張ってるんだろうな」

「ポケモンドクター?お医者さんなんですか。ポケモンの?」

「そう。ポケモンドクターになって、いろんな怪我や病気になったポケモンを助けてるんだ」

「凄い人なんですね」

「あぁ。タケシは、凄い奴さ」

そうサトシとマナオが会話をしていると先頭で道案内をしているヒョウリが話しかける。

「そうか。そんな凄い奴がずっと居たから、お前は道案内も料理も出来ないトレーナーになっちゃったのか」

「そうそう・・・って、俺を馬鹿にしてるのか。ヒョウリ!」

「ふっ、半分かな。けど、事実だろ」

そう言ってヒョウリは、腕輪のマップをサトシにチラつかせる。

「うっ」

サトシは、道案内をしているヒョウリに、そう図星を突かれて黙った。

 

 

暫く歩き続けて、約1時間が過ぎた。草原や森、トンネルを抜けて、ドンドン先に進んで行く。すると、草木が見えていた光景が、徐々に消えていき変わりに、地面に砂が増えている事に、サトシは気付いた。

「ん?」

そのまま、ヒョウリの道案内に従って進んでいると、正面に大量の砂が広がっていた。それと見たサトシとマナオは、その光景に目を丸くしていた。

「・・・砂漠だ」

「・・・砂漠ですね」

「・・・ピカピィ、ピカ」

サトシとマナオは、砂だらけの大地を見て砂漠だと言うと、先頭のヒョウリが話した。

「正しくは、砂丘だよ」

「さ、さきゅう?」

ヒョウリの言葉に、サトシがそう聞き返した。

「ここはハルタス地方で有名なカゲギシ砂丘だ」

「あっ、そっか。ここは、カゲギシ砂丘なんだ」

マナオが、そう言った。

「知ってるのか?」

「はい。ハルタス地方で有名な観光スポットの1つで、私の両親がまだ居た頃、一度遊びに来たことがあります。ここの砂、凄く綺麗で、海岸とか良い景色なんですよ」

「そっか。マナオは、ここの地方出身だもんな。それにしても、観光スポットか。寄っていくか」

「そうですね。ヒョウリさんは?」

「まぁ。スケジュール的に、少し寄って行く分は余裕はあるな。いいぞ」

「よし。なら、決まりだな」

サトシ達は、そうやってカゲギシ砂丘で、観光する事にした。そんな彼らは、そのまま砂丘の方へ足を運んでいくと、途中で妙な場所を見た。

「なんだ、これ」

「ゴミ捨て場だ」

「結構、多いですね」

砂丘の外れに、ゴミ捨て場があった。そこには、壊れた機械や何かの金属製品に、食料のゴミ、ペットボトルなどの様々なゴミが、大量に捨ててあった。

「きっと、訪れた観光客のゴミを、集めてるんだろうさ。まぁ、機械や金属の塊は、関係ないだろうが」

「観光スポットだから。訪れた観光客のゴミを、集めてるんだろうさ」

そうヒョウリが憶測してから、そこを過ぎていくと、彼らは漸く砂丘の奥へ進んで、中へ入った。

「うわぁ、本当に砂だらけだ」

「ピカァ」

「そうですね」

「この砂、凄く綺麗だな」

「ほんと、綺麗ですよね」

サトシが、前へ足を歩いて行くと、足元からくぅ、きゅと音が鳴った。

「ん?」

もう一度、足を踏んでいると、同じような音が鳴った。

「おい。足元の砂から、音が出たぞ」

「師匠。それは、鳴き砂ですよ」

「鳴き砂?」

「鳴き砂というのは」

マナオが、サトシへ自慢で鳴き砂の説明をしようとした時だ。

「鳴き砂は、石英粒という成分があってな。その石英の砂粒は、綺麗な水や空気でちゃんと洗われた後、砂の表面の摩擦係数が、極端に大きくなる特性があるんだ。その砂達に、足で踏んだり、握ったりと力を加えると、限界まで持ちこたえるんだ。そして、更に力が加わったら砂粒が動いて、動いたら、加わった力が開放されて、砂が止める。それを、繰り返すと、砂粒が一連に振動して、音を出すんだよ」

ヒョウリが、一気にそう説明をした。それを、聞いてサトシは、納得したような声を出した。

「へ、へぇー(よく、分からない)」

サトシは、彼の説明が分からないのでなく、自分でイマイチ理解が出来ないでいたが、取り敢えず、返事だけはした。その隣では、お冠なマナオがヒョウリを睨んでいた。

「ちょっと、ヒョウリさん。私が、師匠へ説明しようとしてたのに~。(私が、しようとしていた事よりも細かく説明して。もぉ)」

そんな彼女に、ヒョウリは後目に答えた。

「遅いのが、悪い」

「むぅ~」

「まぁまぁ。マナオが教えようとしてくれたのは、嬉しかったから。ヒョウリも悪気があった訳じゃないよ」

サトシは、ヒョウリへ怒るマナオに、そう言って落ち着かせて、彼への軽いフォローを入れる。

「まぁ、師匠がそう言ってくれるなら」

「そうだ、サトシ。ここは、野生のじめんタイプのポケモンが、結構生息しているらしいぞ」

「そうなのか」

サトシが、その事に反応する。

「あ、師匠。ポケモンがいますよ」

マナオが、指を差しながらサトシへ教えると、彼は彼女の示す方向を向いた。

「ディグダだ」

そこには、カントーやジョウト地方でも見られる(もぐらポケモン)のじめんタイプ、ディグダが居た。

「あっちは、メグロコだ。お、ヒポポタスにナックラーまでいる」

サトシは、続けて目に入ってポケモン達に指を差して、名前を言っていく。

「流石、師匠。トレーナーとしてポケモンの知識が豊富」

マナオが、そうサトシを褒めるように言と、サトシは、一本指で鼻の下を擦りながら。

「いやぁ、まぁな」

そう照れていたところ、彼らの目の前に、ひょっと1匹のポケモンが現れた。

「コジョ」

現れたのは、同じくしてじめんタイプである(ねずみポケモン)のサンドだった。

「サンドですね」

「・・・そうだ。マナオ」

すると、サトシはサンドを見て何かを思いつき、マナオに話す。

「は、はい」

「ポケモンをゲットするチャンスだ」

「え?」

突然、サトシにそう言われて驚くマナオ。

「今、マナオのポケモンはカラカラだけだろ。ゲットして仲間を増やしたり出来るぞ」

「けど、私。今まで、自分でポケモンをゲットした事が無いですし」

「大丈夫だ。これも立派なトレーナーになる為の修行さ」

サトシは、

「はい」

そうして、マナオはサンドへ近寄り、カバンからモンスターボールを1つ取り出し、構えた。

「い、いけ!モンスターボール」

彼女が、大きく振りかぶって投げたモンスターボールは、そのままサンドから外れて地面に当たり転がってしまった。

「コジョコジョ」

一方。サンドは、ボールをいきなり投げられて事に驚いて、慌てて砂の中に、逃げて行ってしまった。

「あちゃー」

「ピカァ」

サトシとピカチュウは、その光景に目に手を当てる。ヒョウリは、呆れた顔で話す。

「あぁ、逃げちまったな」

「ご、ごめんなさい」

マナオは、そう彼らに謝ると、ヒョウリに続けてツッコミを入れられた。

「てか、速攻でモンスターボールを投げるのかよ」

「え?」

ヒョウリに、そう言われた彼女は、そんな声を出すと、その隣にいるサトシに指摘された。

「マナオ。こういう時は、まず自分のポケモンを出して、バトルしてからゲットするんだ」

「・・・そっか。すいません。うっかりしてました」

マナオは、片手で後頭部を掻きながら、そう言って苦笑いをした。

「まぁ、別にいいじゃねぇか、サンドぐらい。ここなら、まだいっぱいいるぞ。それに、ここでポケモンゲットはあんまおすすめしないな」

「ん?どうして?」

「今こいつが持っているのは、カラカラ。じめんタイプだぞ。じめんを続けて2体持つのは、余りおすすめしないな。特に、バトル編成として」

「別にいいだろ。じめんタイプばっかでも」

「仮に、相手がみずタイプ揃いや水場でバトルすることになったら、即全滅だが?」

「うっ。だとしても、どんなポケモンをゲットするかは、自分の自由だ」

「あぁ、そうさ。ただ、バトルや状況適用としての基本を教えるなら、そういう事を考えた上で、勧めた方がいいと思うが」

サトシとヒョウリが、なぜか言い合いをはじめてしまい、マナオは慌てて止めに入った。

「あの、師匠もヒョウリさんも喧嘩しないで」

彼らが、そんな事をしている最中だった。

「ピカ?!」

最初に、ピカチュウが気付いた。ポケモンである彼は、一瞬で危険な何かを察知出来た。次の瞬間、彼らの足場が崩れ出した。

「「「!」」」

足場の砂が徐々に沈んいき、彼らの足が砂の中へ埋もれ始める。

「うわぁ!」

「ピカァ!」

「くっ」

「きゃあ!」

その勢いは、徐々に早まっていき、3人のすぐ近くに、巨大な凹みが出来上がってきた。

「なんだ?!」

その凹みは、次第に深く大きく広がり、3人をその中へ引きずり込むかのように、クレータ状のものが出来ていった。

「すなじごくだ!」

それを見たヒョウリが、そう叫ぶ。サトシ達は、すぐさま必死に砂から足を抜こうと片足を上げようとすると、重心の方の足がより沈んでしまい、結局両足が抜けられない状態だった。

「無理か」

ヒョウリは、そう言うと右腕の裾からモンスターボールを取り出し、空へ投げる。

「ハッサム」

ヒョウリは、ボールの中から出したハッサムに指示を出す。

「ハッサム、俺を引っ張れ!」

そう指示を受けたハッサムは、羽で宙を飛んで、彼の元へ向かう。それから、砂に埋まっていくヒョウリの両脇に腕を通して、彼を引き上げる。そして、ヒョウリは、サトシに腕を伸ばして、名前を叫んだ。

「サトシ!」

「あっ!」

サトシは、ヒョウリに手を伸びし、彼の手を握りしめた。今度は、サトシがすぐ側にいるマナオへ振り向くと、腕を伸ばして名前を呼ぶ。

「マナオ」

「あっ、くっ」

彼女は、サトシの手を掴もうと、必死に腕を伸ばそうとした。あとちょっとで、指が触れる寸前だった。

「あっ」

勢い良く、彼女の体が(すなじごく)の中心へ、吸い込まれるかの様に、沈んでいった。

「し、師匠」

「マナオ」

徐々に、二人の距離が広がっていき、もう手を掴むことは不可能となっていった。

「ヒョウリ、マナオが」

「あぁ、分かってる。だが、こっちも手が離せない。今、彼女を追うと俺らも完璧に埋もれてしまうぞ」

今の彼らは、自身と人間二人分の体重を、必死に羽の力だけで、引き上げようとしているハッサムによるもの。マナオを助ける余裕は無い上、もし向かえば、再び引き上げる事は無理だろう。そうなれば、確実にマナオと助けにいった者も含めて砂の下となる。

「くっ」

サトシは、歯を食いしばり、マナオの方を見る。彼女は涙目となり、サトシへ手を伸ばしながら、悲鳴を上げる。

「きゃぁぁぁ」

「マナオ!」

彼女が、(すなじごく)に飲み込まれる寸前だった。

「行きなさい。フワライド」

どこかから男の声が聞こえた。すると、ポケモンのフワライドが、滑り落ちるマナオに向かっていった。

「さぁ、君。その子に捕まるんだ」

「は、はい!」

マナオは、その声に大きく返事をして、フワライドの手に掴まった。そして、フワライドは一気に上昇して、(すなじごく)から間一髪で彼女を救い上げていき、そこから離れていった。助かったマナオは、そのまま安全な場所で降ろして貰うと、そのまま膝をついて、口に入った砂を吐き捨てようと、咳き込んでいた。

「コホッ、コホッ」

彼女の元に、近づいて来た男がいた。その男は、彼女の元に駆け寄ると、すぐさまに話しかけた。

「君、大丈夫かい?」

「は、はい」

マナオは、近づいた男性を見て、そう返事をする。

「そうか、良かった」

男は、彼女の無事な様子に安心したようで、にこやかになった。すると、先程マナオを助けたフワライドが、男の元に近寄った。

「おぉ、フワライド。ご苦労様」

男が、フワライドにそう言うのを見て、マナオは問いかけた。

「もしかして、そのフワライドは」

「あぁ、私のだ」

そう答えを聞いて、彼女は頭を下げて礼を言った。

「さ、先程は、ありがとうございました」

「いやいや、いいさ」

そこへ。無事に、(すなじごく)から脱出出来たサトシ達も漸くやって来た。

「マナオ」

「師匠」

彼女の無事に、安心する一同。そんな彼らを見て、男は話しかけた。

「君たちは、トレーナーかい?」

「はい」

「そうか。私は、この砂丘エリアを管理している者だ。ヤマカという」

ヤマカと名乗る男は、名前を言って挨拶をすると、サトシ達も名乗っていった。

「俺、サトシです。こっちは、相棒のピカチュウ」

「ヒョウリです」

「マナオです」

 

 

そんな彼らを、遠くから双眼鏡で見ている者達が居た。

「<ボリボリ、ボリボリ>。みふきたあよ、しゃりほーひ(見つけたわよ、ジャリボーイ)」

「あぁ。あむっ<ボリボリ>。ひゃはり、こほはんほうふほっとおおほふれたか(やっぱり、この観光スポットを訪れて来たか)」

「<ボリボリ>、ゴクン。予想通りにゃ」

前回、遠くへ吹き飛ばされていったロケット団の3人組だった。彼らは、遠くからサトシ達の様子を観察しながら、ボリボリと菓子を食って会話をしていた。

「ゴクン。けど、どうする。この砂丘で」

「ゴクン。どうするも何も、ピカチュウゲットに決まったでしょう」

「いや、それは分かってる。ただ」

「今、にゃー達にポケモンは、ソーナンスぐらいしか居ないにゃ」

「そう、それ。こないだ俺たちのレンタルポケモンは、期限が来たから返却しただろ」

「にゃー達だけじゃあ。あのジャリボーイとピカチュウならまだしも、他の暴力ジャリボーイに、ジャリガールの相手は難しいにゃ」

ここ最近、ロケット団がジャリボーイことサトシ達と遭遇し、ポケモンバトルをしたのは、2回だけ。その2回とも、レンタルポケモンと言われる貸し出し用の強いポケモンを使ってバトルをしていた。だが、今はそのレンタル期間が終了して返却してしまった。

「今、俺たちの小遣いじゃあ。また、レンタルするのは厳しいから、もう少し間を空けようと決めただろ」

「だから、今のにゃー達に、戦うのは難しいにゃ」

そう、コジロウとニャースは、ムサシに言うと、彼女から言葉を返された。

「だったら、簡単な話じゃない」

「「?」」

「ポケモンをゲットするメカを作ればいいのよ」

「「メカ?」」

それを聞いて、コジロウとニャースは暫し黙ると、再びムサシに問いかけた。

「ちなみに、ムサシ。そのメカは」

「誰が用意するんだにゃ?」

二人に、そう聞かれたムサシは、両手の人差し指を構えて、真顔でこう答えた。

「あんたとあんた」

2つの指先は、コジロウとニャースへ向いた。

「「げぇ」」

「げぇって何よ。あんた達以外にいないでしょ!」

ムサシは、そう言うと菓子が空っぽになった袋を、ポイッと後ろへ投げてしまった。すると、彼らの側にあった砂の山からキラリと何かが光った。その光は、まるで彼らを砂の中から見ているようだった。

 

 

あれから、サトシ達はヤマカと話をしていた。

「実は、ここ1ヶ月の間で、妙な事が起きてねぇ」

「妙な事?」

サトシは、ヤマカに聞いてみた。

「実は、この観光スポットに訪れた人が、突然落とし穴に落ちたとか。他にも、何かに砂をいきなり掛けられたり、持っていた荷物を取られたり、一緒にいたポケモンが何かに攻撃をされたりという被害が続出してねぇ」

「そんなことが」

すると、マナオは先程の(すなじごく)の事を思い出す。

「もしかして」

「あぁ。さっきの(すなじごく)も、似た被害があったよ」

マナオの言う事を、察して肯定した。

「ここは、地元民をはじめ、いろんな街や地方から観光客が来る人気スポットだから、こういう事件が続くと、変な噂は出るし、観光客が減ると町にも影響が出る。そこで、町長から直々に頼まれて、私が調査をする事にしたんじゃ」

「そうなんですか」

「そこで、何か分かったんですか?」

ヒョウリが、そう聞いてみる。

「あぁ。この2週間の間で、調査した結果。どうやら、野生のポケモンの仕業らしいんだ」

「さっきのは、ポケモンのわざ(すなじごく)に間違いない。となると、おそらく野生のじめんタイプのポケモンが犯人ですね」

「あぁ。私もそう思う」

ヒョウリの推測に、ヤマカも同意する。

「最初、町の住人達は、この砂丘に住まうポケモン達の誰かではないかと疑った。だが、長年ここを管理している私には、そうは思えんかった」

「なぜ?」

「ここにいるポケモン達を、よく知っているのもあるが、彼らには人間に対して強く敵視したりしない。それに、強くもないのだ」

「強くもない?」

妙な言葉に、ヒョウリは聞き返す。

「1週間前、町の若いトレーナー達が、集団になって犯人を捕まえにやって来たんだ。すると、犯人が姿を表す事もなく、全員が返り討ちに遭ってしまった。結果、トレーナーやポケモン達は、怪我をして入院することに」

「そ、そんなに強いですか?」

マナオは、ヤマカの説明を聞いて少しビビリ、そう聞いた。

「あぁ、強い」

すると、今度はヒョウリが聞いてきた。

「つまり、犯人は他所者ですね?」

「そう。他所からやって来て、人間に対して凄く警戒感を持つ、強いポケモンが住み着いてしまったようだ。それが、分かってから、私は一体どうしたらいいか。砂丘を観察しながら、ずっと対策を考えている所なのだ」

「それで、今日は偶然、俺たちに出会ったと」

「あぁ」

「そうでしたか。ところで、そんなに危険ならなぜ、砂丘を閉鎖しないですか?」

ヒョウリの質問に、ヤマカは申し訳ない顔で答える。

「一応、ここの観光スポットであるが、同時に私有地でもない。一応、町と私が責任者として、管理はしているが自然の場所であり、野生ポケモンが多数いるここをそう簡単に閉鎖は出来ないんだよ。それに、今この対応をしているのが私だけでねぇ。申し訳ない」

それを聞いて、サトシはヤマカに聞いた。

「え?ヤマカさん、お一人で、やられてるんですか?町の人は?」

「実は、町は今忙しい次期で、こちらに手を貸す人材も限られておるのだ。それに、協力を頼もうと思っていた腕利きのトレーナー達も入院中。わし、一人しかいないのだ」

そう悩んでいるヤマカの顔を見てサトシは、何かを決めた顔をして話しかける。

「ヤマカさん」

「ん?」

「俺達も協力します」

「「え?」」

その言葉に一番反応をしたのは、ヒョウリとマナオだった。

「え?いいのかい?」

サトシの言葉を聞いたヤマカは、喜んだ顔をする。

「はい」

サトシが、そう返事をした瞬間、ヒョウリがサトシの前に立った。

「おい、ちょい待て」

「なんだよ」

「ちょっと、来い」

ヒョウリは、サトシの腕を引っ張り、ヤマカから距離を取った。

「どうしたんだよ?」

突然の事に、サトシはヒョウリへ問うと、逆に彼から問われてしまった。

「サトシ。なんで、俺らがその調査に付き合わないといけなんだ?」

「だって、ヤマカさんや町の人が困ってるみたいだし、ほっとけ無いだろ。それに、マナオを助けてくれたお礼を」

そうサトシが答えると、ヒョウリは真顔で言った。

「おい、お人好し。よく聞け、立派な事を言っているお前に、親切心を持って言うぞ」

「・・・」

「第二の試練まであと9日、いや約8日半。フォルシティまで、最短でも約7日。途中、問題が起きたら、半日1日ロスタイム。そして、お前の本来の目的であるソウテン大会へ出場する為、たくさんのジム戦を巡らないといけない。OK?」

ヒョウリの説明を聞いて、サトシは少し押され気味に答える。

「わ、分かってるよ。・・・けど」

サトシが、

「私も、師匠に賛成です」

マナオが、話に入ってきた。それを聞いて、ヒョウリは呆れ顔で言う。

「・・・お前もかよ」

今度は、マナオへ向いて言う。

「あと9日で、フォルシティへ行かないと間に合わないんだぞ。お前、分かってるか?」

「分かってます。だから、お願いします」

マナオは、ヒョウリに頭を下げた。それを見て、ヒョウリは聞いた。

「・・・命の恩人だからか?」

「確かに、私は、あの人に助けられました。けど、それだけじゃないです」

「ん?」

「サトシ師匠みたいに、困ってる人が居たら助けるのは、良い事です。正しい事です。それで、私も・・・だから、師匠に賛成したんです」

「・・・」

すると、横からサトシも、両手を合わせて頼んできた。

「なぁ、頼むよ。せめて、今日1日。今日1日だけでも」

「お願いします」

ヒョウリは、二人に頼まれて暫し黙った。

「たく。・・・今日1日だけだぞ」

その言葉を聞いて、二人は喜んだ。

「ヒョウリ」

「ありがとうございます」

「その変わり、俺の指示に従えよ」

「「ん?」」

三人がそうやり取りをしていると、ヤマカが近づいて来た。

「あの君たち」

ヒョウリは、ヤマカさんへ向いて話した。

「すいません。ヤマカさん、もういいです」

「あ、そうかい。もしかして、用事とかあるじゃないか。なら、無理せず」

「今日一日だけですが、ヤマカさんを手伝います」

「そ、そうかい。何か、すまないね」

「いいえ。うちには、馬鹿が2人いますが、宜しくお願いします」

そうヒョウリが言った言葉に、後ろの二人は軽くイラとしたが、すぐに我慢した。すると、ヒョウリは、ヤマカに話しかける。

「ヤマカさん」

「ん?」

「過去にあった被害内容と調査結果、見せて下さい」

 

 

あれから、30分近くが経過した。サトシ達は、ヤマカさんに案内されて砂丘近くにある彼の管理人用の小屋を訪れていた。

「彼、何者だい?」

ヤマカは、サトシ達3人にお茶を出していきながら、サトシとマナオにそう訪ねた。

「え、えぇと」

「俺たち、その・・・あいつに出会って、まだ10日も経ってなくて」

「ピカァ」

マナオとサトシは、若干半笑いをして、そう答える。

「そうかい。それにしても彼、凄いね」

彼らが見ているヒョウリはというと、ここ1ヶ月の被害や調査結果などのまとめた事件資料を、すぐさま目を通していた。資料を1枚ずつ見て、何かをブツブツといいながらメモを取っては、砂丘の地図に何かを書いたりして、時には自分のカバンから取り出した小型のパソコンを使って、キータッチで何かを入力していく。

「一体、何をするんでしょうね」

「分からない」

サトシとマナオは、ただヒョウリの作業を見ながら、ヤマカの入れた茶を飲んで過ごした。それから、更に10分が経過した時だった。ヒョウリは、第一声を上げた。

「よし。罠を仕掛けよう」

サトシとマナオは、首を傾げた。

「「罠?」」

「ヒョウリくん。具体的に、どんな罠を」

ヤマカは、ヒョウリの言う罠がどんなものか尋ねる。

「ここ1ヶ月の犯人の行動条件と活動分布、そして砂丘全体の構造を見て、考えました。作戦は、こうです」

1時間後。

サトシ達は、ヒョウリの指示の元で、小屋から出て砂丘のあるポイントに来ていた。彼らは今、4人揃って砂の丘で伏せた状態で、双眼鏡を覗いていた。彼らが見ているのは、30m程離れた砂の場を観察していた。そこには、空き缶と菓子の空き袋等が置かれていた。サトシ達は、なぜかそれを監視しながら、何かを待っていた。

「本当に、大丈夫なんですか?」

「あぁ。過去のデータから見て、安全かつ高い確立で犯人が現れる方法だ」

ヒョウリは、マナオの指摘にそう答えると、今度はサトシが言ってきた。

「けど、なぜゴミなんだよ。ポケモンをおびき寄せるなら、ポケモンフーズとかせめて中身の入ったお菓子がいいはずだろ」

「確かに、それでもいいが、それだと対象外のポケモンまで来てしまうおそれがある。ここは、じめんタイプをはじめ野生ポケモンが多く住んでいる場所だ。もし、ポケモンフーズでも食い物でも置いとけば、匂いに釣られて来てしまうし、餌を食われたらアウトだ。それに、犯人は食い物もそうだが、最も特殊なものにも釣られる習性がある事が分かった」

「特殊な習性?」

「・・・ゴミだ」

「「「ゴミ?」」」

「犯人は、なぜかこの砂丘に捨てられたゴミを回収する修正があるらしい。過去に、訪れた客の中の被害届けには、食事の際に襲われたとあったり、手持ちの食料を奪われたとあるが、大概は食った後だと予想出来た」

「どういう事かね?」

ヒョウリの言う事に、ヤマカが疑問を持って尋ねた。

「ヤマカさん。この砂丘って、確か何年か前にゴミや違法廃棄物の持ち込み問題で、ニュースになった事がありますよね」

「あぁ。確かに、以前観光スポットであるここにゴミや廃棄物を捨てる者が現れてはじめて、問題になった。それで、町では砂丘の周囲にゴミの持ち帰りや廃棄物を捨てないようにと注意喚起の看板や観光客への説明、更には警察の協力で対策を行い始めた。結果、すぐに0とはいなかったが、年々減少していった」

ヤマカは、過去にあった事を説明した。

「はい。それで、被害届の資料の中で、気になった点があったんです」

「気になる点?」

「観光スポット内に、食料を持ち込んだ者は、勿論居ます。ただ、全員が襲われた訳ではないんです。食料を持っていた者の何割かは、なぜか食料が奪われず、他の被害にあった。そして、食料が被害にあったという者の何割かは、食事中や置いてあった食料を奪われたと言ってます。しかし、資料にあった被害者の手持ちの状況では、未開封や中にまだ残っている食料が奪われ無かったみたいなんです」

「え?」

「取られてなかった?」

「なぜ?」

ヤマカに続け、サトシとマナオもそう口に出す。

「もし、犯人が食料狙いであるなら、未開封や食べ残しとはいえ、ポケモンは平気で持ち去ったり、食べたりするでしょう。しかし、そうはしなかった。そこで、思ったんです。なら、なぜ取らなかったか」

「「「・・・」」」

「彼らは、取られたという食料は、既に空だったんですよ」

「「「!」」」

「彼ら、食事中や食料を盗まれたと言ってきた者達は、恐らく食事後に放棄した弁当や袋、空き缶やペットボトルなどを放棄したんです」

「ゴミを捨てた?」

「それって」

「もしや」

「えぇ。そして、放棄した彼らは、犯人のポケモンに襲われた。結果、被害にあった彼らは、そのポケモンへ仕返しをしたい気持ちがあったが、同時にルール違反とされるポイ捨てをした事を隠したいという後ろめたい気持ちがあった。だから、わざと食事中や手持ちの食料を狙われて、襲われたと嘘の報告をついたんです」

「そうだったのか」

「そいつら、許せないな」

「けど、予想ですよね。それ」

「あぁ。確かに100%とは言えない。が、資料や状況から見て、確証持って言える」

ヒョウリは、双眼鏡を覗きながら、迷いなくそう告げた。

「許せん」

隣では、ヤマカがそう口に出した。

「この地を、汚した事を隠した上に、それをポケモンに擦り付けようだなんて。なのに、管理人である私は、騙されてしまった」

「・・・ヤマカさん」

サトシは、隣から彼の悔しい表情を見た。

「ん?」

突然、双眼鏡を覗いていたヒョウリが反応をした。

「動きがあったぞ」

「え?」

他の3人は、慌てて双眼鏡を覗き込み、罠を張っていた場所を見た。

「あれは」

彼らが置いたゴミの近くに、隆起した砂が出来ていた、それは移動しながら、ゴミへ近づいていたのだ。

「間違いなくポケモンだな」

「潜ってて分かりません」

「だが、罠に触れるなら、姿を出すはずだ」

「うん?頭に何かあるみたいだね」

双眼鏡を覗きながら、そう話す4人。最後に、ヤマカが言った何かという者は、白と赤色の何かの棒状のものだったが、砂で隠れていた為、よく見えなかった。それから、ターゲットのポケモンと見られる移動する隆起した砂は、罠であるゴミに目の前に来ると止まった。

「出るぞ」

彼らが、見る隆起した砂から次第に、正体を露わにした。

「・・・スナーバ」

彼らには、聞こえなかったそのポケモンは、その場でそう鳴いた。それを見たサトシ達。

「スナバァか」

「ほんとだ。スナバァだ」

ヒョウリとサトシは、そのポケモンを見たことがあるのか、名前を言った。

「あれが、スナバァか」

「スナ、バァ?」

一方で、ヤマカとマナオは、はじめて見たような台詞を出す。

彼らが見ているポケモンのスナバァは、(すなやまポケモン)と言われ、タイプは(ゴーストとじめん)を併せ持つ。体は、砂で小さな山を形成し、真ん中に向こう側が見えるトンネル状の口とその上に2つの目のようなものが存在する。平均的な高さは、約50cmと言われている小型のポケモンでもある。砂浜が棲み処としている。自分の口の中に、手を入れた相手を操り、自分の体を大きくさせると言われている。

「あのスナバァ、少し小さいな。まだ子供か?」

「久しぶりに見たなぁ。アローラ地方の時以来だぜ」

「師匠。アローラ地方に、行ったことがあるんですか?」

「あぁ。以前、あっちにあるポケモンスクールに通ってて、そこではじめてスナバァを見たんだよ」

「そうなんですか」

二人が、そう会話していると、マナオとヤマカにヒョウリが話しかけて来た。

「ヤマカさん、マナオ。スナバァの頭にあるあのスコップには、触ったり、抜いたりしないように」

ヒョウリに突然、そう言われたヤマカとマナオの二人は、双眼鏡でスナバァの頭部を見た。そこには、白いグリップがついた赤色のスコップの先が刺さっていた。

「あぁ、そうだったね。気をつけるよ」

「え?なぜです?」

マナオだけは、理由が分かっていないようで、ヒョウリに聞き返すと、隣のサトシも同様の注意をしだした。

「あっ、そうだった。マナオ、気をつけろ。あれには、触っちゃ駄目だ」

「だから、どうしてですか?師匠」

「その、説明が難しいが、大変なことになる」

サトシは、どう説明したらいいか、分からなくそう告げると、ヤマカが説明をした。

「スナバァの頭部に刺さったスコップはねぇ。一般的に、スナバァ本人のお気に入りのものと言われていて、失くすと木の枝や旗などを代用し、その間に自分のスコップを探して彷徨ってしまいと言われているんだよ。あとは、スナバァのスコップを握ってしまった者は、一定時間だけ体を操られてしまい、スナバァの砂の体を大きくさせる為、砂を集めさせて掛けさせるとも言われている。私自身、本物を見たのは、今回はじめてだが、そう聞いたことがある」

「こ、怖いですね。絶対、近づきません」

ヤマカの説明を聞いたマナオは、ビビった顔をして、そう答えた。

「ヤマカさんが、はじめてという事は、やはり他所の者ってことですね」

「そうだね。30年以上、この砂丘を見てきたが、スナヴァは生息した事がない」

そんな会話をしていると、スナヴァは罠であるゴミを触り始め、袋を畳んだり、空き缶を持ち上げたりした。

「あのスナバァ。もしかして、ゴミを片付けているのか」

「それなら、良い事をしているですから、いいじゃないですか」

サトシとマナオが、そう話すとヒョウリが告げた。

「だが、被害はゴミ拾いじゃない。ここへ来た人やポケモンを襲った事は、実際にある。それに、今日俺らも巻き込まれたろ」

「「・・・」」

ヒョウリに、そう言われて二人は黙ってしまう。

「さて、ヤマカさん。一応、奴が犯人と見て間違いないですね」

「うん、そうみたいだね。もし、あのスナバァが犯人というなら・・・悲しいけど何とかするしかない」

「分かりました。では、結構します」

ヒョウリは、ヤマカに確認を取ると、ポケットから何かを取り出した。それは、手で握るようなグリップの形状をしていて、上側にカバーが付いていた。ヒョウリは、それを握ると親指でカバーを開けて、中にある赤いスイッチを押した。

その瞬間、ゴミ集めをしていたスナバァの側で、何かの機械音が鳴った。

「!」

その微かな音に気付いたスナバァが、反応した瞬間。近くの砂の中から突然、モンスターボールが飛び出した。そして、宙でボールが開くと中から、ポケモンのラグラージが出てきた。「ラージ!」

そう。このモンスターボールとラグラージは、ヒョウリのだ。今回の罠を考えたヒョウリは、まず罠として用意した空き缶や菓子の空の袋などのゴミを設置した後、近く砂の中にある者を隠した。それは、彼が以前作ったと言われる遠隔式のモンスターボール収納開閉ボックスというものだった。灰色に立方体の形をしたその箱は、中にモンスターボールを収納する事が出来る。そして、先程ヒョウリがポケットから出したグリップ状のものは、そのボックスを遠隔操作するスイッチだった。そのスイッチを押すことで、電波が届く範囲であれば、モンスターボールを収納したボックスを、開くことが出来て、遠くからポケモンをボールから出すことが出来るというもの。

なぜ、今回そのようなものを使ったか。それは、サトシ達に今回の作戦を説明した内容にある。まず、1つ目にターゲットに気付かれないようにするため、遠くからの罠の監視をする必要があった事。2つ目は、それと現れたポケモンを捕まえるまたはバトルして倒す必要がある為、ポケモンを使う必要があった事。その2つ目をするには、1つ目の遠方からの監視だと出現から現場までの移動に時間が掛かる上、その間に相手に察知されて、現場到着前に逃亡されるリスクがある。そこで、ヒョウリは彼の左腕に着けたマップ機能がある腕輪のように、彼が以前自作したアイテムであるこの遠隔式モンスターボール収納開閉ボックスを使うと言った。結果、作戦通りに事が進み、ターゲットとして現れたスナバァにバレることなくポケモンを出す事が出来た。

ラグラージを出した後、グリップをポケットに直すと、今度は右耳にイヤホンマイクを着けた。

「よし、行くぞ。ラグラージ」

「ラージ」

彼は、マイク越しにそう話すと、ラグラージは返事をした。そのラグラージの首には、何かが巻かれていた。それもヒョウリが用意したもので、遠距離での通信装置の首輪だった。彼の話すイヤホンマイクの声が、そのまま首輪に内蔵されたスピーカーへ繋がり、遠くから指示が聞こえるようにしている。

「よし、ハイドロポンプだ」

ヒョウリは、マイク越しにラグラージへわざの指示を出した。すると、ラグラージは指示通りに、口から勢い良く(ハイドロポンプ)を、スナバァ目掛け撃ち出した。一方で、スナバァは突然現れた体格が倍以上あるラグラージに怯んでいた。その結果、すぐに体が動けず、そのまま(ハイドロポンプ)を受けてしまった。

「スナァァァ」

攻撃を受けたスナバァは、そのまま砂の壁に激突してしまう。砂の体は、水で濡れたせいで、色が変色していた。

「続けて、れいとうビームだ」

ラグラージは、そのまま動けないスナバァに、(れいとうビーム)を放とうと準備を始めた。

「さて。これで氷漬けにして、掴まれる」

ヒョウリは、やっと仕事が終わったという様な気持ちで、一息をつく。

「「・・・」」

一方で、サトシとマナオは、遠くからそう見ていたが、余り見ていたく無いのか、目を反らしていた。その隣で、ヤマカもこれで問題解決だという気持ちもあったが、余り喜べずにいた。各々が、そういった面持ちをしていたその時。

「ス、スナァー!ナー!ナー!」

件のスナバァが、大声を上げた。その声は、遠くの砂丘まで木霊した。

「ラ?」

「なんだ?」

ラグラージとヒョウリが、スナバァの行動にふっと動きを止める。

「ん?」

「ピカ?」

「え?」

「?」

他の3人とピカチュウもそう反応した。

「・・・よく分からんが、ラグラージ。早く、れいとうビームだ」

「ラージ」

再度、ラグラージは中断した(れいとうビーム)をスナバァへ放とうと、口を開けて用意を始めた。だが、突然地面が揺れだしたのだ。

「!」

ラグラージは、その揺れで再びわざを中断し、体勢を整えて周囲を見渡す。

「ん?地震か?」

双眼鏡で見ていたヒョウリ達にも、砂が揺れる振動を感じていた。

「うわぁ」

「ピカピカ」

「きゃ」

「地震かね」

全員も突然の揺れに慌てるが、ヒョウリがすぐに否定した。

「いや、違う。・・・何か近づいている」

彼は、足元の揺れは地震でなく何かが移動しているものだと察知した。それを聞いたサトシ達は、足元をよく集中してみると、確かに揺れが移動しているようにも感じた。その揺れは、サトシ達の側を近づく毎に大きくなったが、次第に小さくなって行った。それは、彼らから離れといいうことだ。

ヒョウリの言う通り、砂の中で何かが動いていた。それは、先程のスナバァの声に反応し、活動を始め、スナバァの元へ向かっていた。揺れは、ラグラージの方へ近づいていった為、徐々に大きくなっていった。だが、突然揺れが収まった。その事に、ラグラージは不思議に思ったのか、首を傾げた。

「ラージ?」

その瞬間。ラグラージの背後の地面から、砂が勢い良く吹き出したのだ。

「!」

ラグラージは、すぐに振り返ったが、何か吹き飛ばされてしまう。そのまま、ラグラージは砂の坂にぶつかって転がり落ち、途中で足に力を入れて止まった。ラグラージは、自分を吹き飛ばした相手を睨んだ。そこには、巨大な砂の城状のものが姿を現していて、それはラグラージへ大声を上げた。

「デスナァ!」

「シロデスナ!」

双眼鏡で、見たヒョウリは、そう叫んだ。新たに現れたのは、ポケモンのシロデスナだった。

「シロデスナだ」

「あれが、シロデスナ」

「お城みたいですね」

他の3人も姿を見て、そう話す。すると、ヒョウリは、ある事に気付いた。

「そうか」

突然、現れたシロデスナは、自分を呼んだスナバァに話しかけて、会話をした。

「デスナァ」

「スナァ~」

「デスナ」

「こいつら・・・親子だ」

 

 

作戦をはじめて40分近くが経過した。ターゲットだったとされるスナバァが、姿を現してから約5分が過ぎたが、状況は予想外の方へ運んでいった。

「デスナァ!」

突然、新たに現れたシロデスナに、ヒョウリ達は驚いていた。

「まさか、親が居たのか」

ヒョウリは、双眼鏡を覗きながら、そう声に出す。

「デカいですね」

「恐らく、周りの砂を吸収して大きくなったんだろう。スナバァやシロデスナは、周りの砂を吸収して、大きくなると聞いた」

シロデスナは、スナバァの進化系であり、(すなのしろポケモン)と呼ばれている。タイプは、スナバァ同様に(ゴーストとじめん)タイプで、通常の高さは1.3m程だと言われている。だが、彼らの前に現れたシロデスナは、3m以上もあった。

「チッ」

ヒョウリは、舌打ちをすると突然走り出し、ポケモン達の方へ慌てて走った。

「作戦中止だ!」

彼は、走りながら、そう叫ぶ。

「ヒョウリさん」

「よし、行くぞ。マナオ」

「え?私達も」

サトシも、ヒョウリに続けて走り出すと、マナオも渋々ついていく。

「君たち。シロデスナには、気をつけるんだぞ!」

ヤマカは、遅れて体を起こすと、三人の後を追った。

ヒョウリは、現場に付くと、すぐに仕掛けていた収納ボックスを回収し、モンスターボールを取り出した。それから、目の前を確認する。自分のポケモンであるラグラージと、シロデスナが対峙している。先に現れたスナバァは、シロデスナの側に近寄って、身を隠していた。

「さて、どうしようかね」

その状況を見たヒョウリは、そう口ずさむ。

「・・・」

「・・・」

ラグラージとシロデスナは、互いに静かに睨み合い、次に来る相手の動きを待ち構えていた。その静粛の間は、ヒョウリの声で幕を閉じた。

「ハイドロポンプ!」

ラグラージは、一気に(ハイドロポンプ)を放つ。それにシロデスナは、口の前で(シャドーボール)を作り、それで相殺した。互いのわざがぶつかった事で煙を起こし、視界が一瞬だけ妨げられた。すると、その煙から水色の光が突き抜けてきて、シロデスナへ向かった。ラグラージの(れいとうビーム)だ。シロデスナに、命中し体の一部が凍った。

「デスナァァァ」

シロデスナは、自分の体の一部が凍って慌てていた。

「ほお、こおりタイプのわざは、はじめてか?」

彼は、そう告げると、頭の中で考えていた。

(シロデスナは、スナバァと同じゴーストとじめんタイプ。弱点のタイプは、くさ、ゴースト、あく。そして、みぞとこおりだ。このまま、ラグラージで一気に決めるか)

「もう一度、ハイドロポンプ」

「ラージ!」

ヒョウリは、一気にけりを付ける為、ラグラージにシロデスナの苦手タイプわざを次々と指示して、攻撃した。そこへ、後ろから来たサトシ達も、その場に追いついた。

「ヒョウリ」

「ヒョウリさん」

「そこに居ろ。お前らのポケモンじゃあ。こいつの相手は無理だ」

「え?」

「シロデスナに、ピカチュウの電撃は効かない。同じじめんタイプのカラカラでも、相手の方が上手だ」

彼が、サトシ達へ言っている間、ラグラージの足元がいきなり沈んだ。

「ラァ?」

「すなじごくか・・・やはり、こいつが」

それを見たヒョウリは、焦ることは無かった。

(だが、俺のラグラージは、そう簡単にいかんぞ)

「すなじごく中央へ、れいとうビームだ」

ラグラージは、すなじごくの渦の中央へ目掛けて、(れいとうビーム)を放つ。そして、すなじごくは、中心から凍っていき、動きが止まった。

「今だ」

そうして、ラグラージはすぐに(すなじごく)から脱出した。

「あのすなじごく。まさか」

サトシが、(すなじごく)を見て言う。

「あぁ。どうやら、こいつが犯人だったらしい」

サトシの問いに、ヒョウリがそう答える。自分たちが、ここで襲われた(すなじごく)の犯人が、目の前にいるシロデスナだったという事が判明した。

「デスナァ!」

シロデスナは、再度わざをラグラージに出した。すると、先程同様にラグラージの足場が沈んでいった。

「また、すなじごくか。無駄だ」

ヒョウリは、再度ラグラージの(れいとうビーム)を使い、同じ方法で脱出させようとしたその時だった。(すなじごく)の中から砂状の手がいくつも出てきてラグラージを掴んだ。

一方、ラグラージは(すなじごく)に足を取られた上、これから(れいとうビーム)を使った脱出を行おうと、準備をしていた。結果、回避も対応が出来なかった。すると、ラグラージを掴んでいた砂の手が、僅かに緑色に光るとラグラージが大声を上げた。

「ラァァァジ」

「なっ!ラグラージ!」

ヒョウリは、ラグラージに慌てて心配する。ラグラージは、その場に手をついて、倒れかかった。

「まさか」

ヒョウリは、何が起こったのか。すぐに気付いた。彼は、シロデスナの方へ振り向くと、先程のラグラージの攻撃で、ダメージを負って元気が無くなったシロデスナが、元気になっていた。

「ギガドレインまで覚えていたか。ミスったな」

先程、ラグラージを襲ったのは、シロデスナのわざ(ギガドレイン)だった。(ギガドレイン)は、くさタイプのわざでラグラージの弱点の1つ。そして、(ギガドレイン)は相手の体力を吸い取ってダメージを与え、その半分を自分の体力として、吸収する事が出来るのだ。よって、ラグラージが受けたダメージの5割分が、シロデスナの体力回復へなったのだ。

(仕方ない)

「戻れ、ラグラージ」

ヒョウリは、モンスターボールをラグラージへ向けた、戻した。

「ふぅ~、やっと追いついた」

そうしていると、最後尾だったヤマカが漸く、3人の場所へ追いついた。ヒョウリは、サトシ達へ向かっていき、話した。

「シロデスナは、厄介だ。ましてや、砂まみれのこの場所で、あんなにデカくなった奴が相手だとな」

「では、どうするんです?」

マナオが、尋ねると。

「俺の今の手持ちで、みずタイプはラグラージだけだ。だが、あんだけ巨大化した奴を止めるには、地理的にも少し厳しい。それに、シロデスナは厄介な力を持っている」

「じゃあ」

「さっき、言ったろ。作戦は中止だ」

そうサトシとマナオに言うと、そのままヤマカに話をする。

「ヤマカさん。申し訳ないですが」

「いや、もういいよ。みんな、ありがとうね」

ヤマカは、サトシ達へ感謝を告げる。

「私が、直接話をしてみる」

そう言ってシロデスナへ歩いて行くヤマカ。

「・・・危険ですよ」

ヒョウリは、そう警告をすると、突然もう一人が歩き出した。

「俺も行きます」

サトシがそう言って、ヤマカの後を追おうとすると。

「おい、サトシ」

ヒョウリは、サトシの前へ立ち塞がった。

「・・・あの日、俺と会った日の事を、忘れたのか?」

「・・・覚えてる」

サトシは、しっかり覚えている。ヒョウリとはじめて会った日。共にバスに乗ってハルタス地方へ向かった途中で、起きた事件を。忘れたくても忘れられてない嫌な出来事を、サトシは覚えていた。

「大丈夫だ」

サトシは、まずそう答えた。

「ヒョウリ。俺は、大丈夫だから」

「・・・勝手にしろ」

そう告げてヒョウリは、彼の前から退くと、サトシはそのままヤマカと一緒に、シロデスナの近づいた。

「シロデスナ!」

「ナ?」

「私は、ヤマカという。この砂丘を管理している者だ」

ヤマカは、シロデスナに自己紹介をはじめて、話をはじめた。

「先程は、すまなかった。君の子供であるスナバァにも酷いことをした。彼らは、私にただ協力しただけなんだ。私は、君たちがこの砂丘に現れた人々を襲っていると聞いてねぇ。それで、私はどうにかしようと考えていたんだ」

「・・・」

「だが、それには事情があったんだろう。君たちは、この砂丘でゴミを捨てた人間を追い払い、そのゴミを砂丘の外にあるゴミ捨て場に捨ててくれたんだろ」

「「「え?」」」

隣にいるサトシやマナオ、ヒョウリがそう声に出す。

「砂丘の近くに、ゴミ捨て場によく誰かがゴミの山を置いていくんだ。ゴミの中には、砂が僅かに入ってたりしていて、誰かが砂丘のゴミを運んでくれたんだと思っていた」

そうヤマカが言うと、サトシ達は思い出した。

(((あのゴミ捨て場か)))

「ありがとう。私は、凄く嬉しい。君たちは、この砂丘を綺麗にする為に、そうしたんだろ」

「・・・スナァ」

「そうか。それに、この砂丘の中にいるポケモン達も守ってくれたそうだな。たまに、ここへポケモンを乱獲しようとする者もいてな。そいつらからも、ポケモンを守る為に、攻撃したんだろ。同じ、ここに住む仲間として」

ヤマカがそう言うと、マナオが声を出す。

「そっか」

「俺らが、サンドを捕まえようとしたから、攻撃してきたってか」

「そうですよ。私が、あんな事をしたから」

ヒョウリとマナオは、自分たちの原因で攻撃を受けた事を、納得した。

「ただ、シロデスナ。ここには、悪い奴らだけが来るんじゃないんだ。ここは、凄く綺麗な所だから、それを見に来る者もいる。私は、そういった人達にも見せて上げたいんじゃ。だから、悪者じゃない人やポケモンへの攻撃を辞めれくれないか」

「・・・」

ヤマカは、必死にシロデスナへ説得をしている。

「頼む、シロデスナ。俺たちは、お前の敵じゃないんだ」

「ピカァ~」

続けて、サトシとピカチュウも話しかける。

「俺たちは、お前の友達になりたいんだ。俺、はじめてここに来て、びっくりした。辺り一面、綺麗な砂の山でさぁ。踏んだら、音が鳴った。それで、友達に教えて貰った。鳴き砂って言って、綺麗な砂だから音が鳴るんだって。そんな場所を、お前は綺麗にしてくれたんだろ」

「・・・」

暫く、シロデスナから反応は無かった。時間が過ぎて行く。黙ってから、2,3分程が経った時だった。

「スナ?」

「ピカ?」

ポケモン達が、何かに反応した。

「うん?どうした、ピカチュウ」

ピカチュウの様子に、気付いたサトシが聞いてみると、ゴォォォと音と振動を感じ始めた。

「なんだ?」

「なんでしょう?」

その場に居た全員も、それに気付きはじめると。近くの砂の丘から、何匹からのポケモン達がこっちへ向かって走って来た。

「ん?」

「あっ、ポケモン達が」

ポケモン達は、そのままサトシやシロデスナ達を無視して通り過ぎ、離れていった。

「あっちに何かいるのか?」

ヒョウリは、ポケモン達が来た方向を見て、怪しんだ。

「デスナ」

すると、シロデスナがポケモン達が走って来た丘の方へと向かう。それに、ピカチュウがサトシの肩から降りていき、その丘へ走って行った。

「あ、ピカチュウ!」

サトシは、ピカチュウの後を追う。

他のヒョウリやマナオ、ヤマカにスナバァも続けて、向かって行った。

「なんだ、あれは」

サトシが、第一声を放つ。彼らが、丘の向こうで見たのは、巨大な機械的な物体が野生のポケモン達を追いかけていたのだ。

その機械は、全長30m近くある円柱状の胴体部を持つフォルムで、下半身は巨大なキャタピラが2本左右について、それで移動していた。また、胴体の真ん中には、巨大なアームと先にラッパのような部分がついていた。そして、その部分にポケモン達が次々と吸い込まれていた。丸で、巨大掃除機ロボットとも言えるその物体を見た、サトシ達は驚きの顔をしていた。

「なんだあれは」

「ロボット?」

「ポケモンが」

ヤマカやマナオ、サトシがそう口に出していると、ヒョウリが双眼鏡を覗いて、そのロボットみたいな物の胴体部を見た。その胴体の中央部に、赤色でRの文字が入っていた。

「あのマークは」

ヒョウリは、何か心当たりがあるように、見ていると。

「よし、助けに行くぞ」

「ピカ」

サトシとピカチュウが走って行った。

「あ、師匠」

「危ないぞ。サトシ君」

サトシは、ロボットの側にまで来るとピカチュウへ指示を出した。

「ピカチュウ、10マンボルトだ」

「ピカ。ピィカァチューーー!」

ピカチュウは、(10マンボルト)の電撃をロボットに食らわすが、効いておらず。ロボットは、動きを止めなかった。

「なっ。効いてない」

その後ろから、ヒョウリ達もやってきた。

「耐電加工をしているみたいだな」

ヒョウリが、そう言うと

「マナオ、カラカラのホネブーメランを試せ」

「あ、はい」

ヒョウリに言われて、マナオはカラカラをボールから出した。

「いけ、カラカラ」

「カラァ」

「カラカラ、あの変なロボット目掛けて。ホネブーメラン」

「カァラ!」

カラカラの投擲した(ホネブーメラン)は、真っ直ぐロボットへ飛んでいき、中央部上の頭部に当たる。だが、特にダメージが無かった。

「駄目ですね」

「装甲もかなりあるみたいだな。どうやら、対ポケモン用に設計しているみたいだな」

ヒョウリは、ピカチュウとカラカラのわざを受けたロボットを見て、分析をしてみた。そんな事をしていると、ロボットが動きを止めて、こちらを向いた。

「「「!」」」

それに全員は、身構えると。

『あら。あんた達、やっと来たのね』

ロボットから人の声がした。

「ロボットが、喋った」

サトシが、そう反応すると。

「いや、誰かが乗ってるんだろ」

ヒョウリが、そう否定した。

「一体、誰がこんな物を」

ヤマカは、困惑した顔で、そう呟くと。その声に、ロボットの搭乗者が反応した。

『一体、誰がこんな物を、と聞かれたら』

『教えて上げるのが、世の情け』

ロボットのスピーカー越しに、その様な台詞が聞こえた。

「もしかして」

「あぁ」

マナオとサトシは、その台詞を聞いて、すぐに勘づいた。

『世界の破壊を防ぐため』

『世界の平和を守るため』

『愛と真実の悪を貫く』

『ラブリーチャーミーな敵(かたき)役』

『ムサシ!』

『コジロウ!』

『銀河を駆ける ロケット団の二人には』 

『ホワイトホール白い明日が待ってるぜ』

『ニャーんてにゃ!』

『ソーーーナンス!』

以上のように、ロボットの操縦席に座っているロケット団のムサシ、コジロウ、ニャース、ソーナンスが順番に台詞を読み上げていった。

「また、お前らかロケット団!」

「あぁ、変人集団!」

「また、テメーらかよ。いい加減にしろ、ぶっ飛ばすぞ!」

ロケット団の登場台詞が終わると、サトシ達が各々と野次を飛ばす。それに対して、ロケット団は文句を言う。

『おい!ジャリボーイ以外のお前ら!変人集団とかぶっ飛ばすぞとか、そういう事を言うじゃない』

『誰が、変人集団よ。ジャリガール!』

『ぶっ飛ばすぞとか、そんな乱暴な事を言うんじゃないにゃ!』

『ソーナンス!』

スピーカー越しに、そう大声で文句を言っていると、サトシ達の側にいるヤマカが尋ねてきた。

「あの人達は、一体?」

「あいつら、他人のポケモンを奪ったりする悪い奴らです」

ヤマカの質問に、サトシがそう答える。すると、ロケット団が続けて話しかけた。

『そう私達は、悪者』

『天下のロケット団だ』

そんなロケット団へ、ヒョウリが話しかけた。

「お前ら。そのメカ、どうしたんだよ」

『これは、ピカチュウ捕獲用以外にもお前らのポケモン対策も兼ねて作った』

『その名も、サイクロンクン・マークZ号だにゃ』

「そうか。かなり金を掛けたみたいだな。いつから作ってた」

『今日考えて、さっき出来たのにゃ』

『それに、近くのゴミ捨て場に、丁度いい材料が捨ててあったし』

『要らない部品は、近くの店で売って、その金で良い材料を買ったのにゃ』

『試運転のため、そこらのポケモンを捕まえてみようかと思っていたら』

『この砂丘にはたくさんのじめんタイプがいるみたいじゃない』

『ついでに、この辺りにいるポケモンも全て、にゃー達ロケット団が頂く事にしたにゃ』

そうロケット団が言うと、ヤマカが一番に反応した。

「なんだって」

だが、そんな彼の事を無視して、ロケット団は次の行動に移した。

『さて、本命もゲットするわよ。ほら、ニャース』

『分かってるにゃ。ポチッとにゃ』

ニャースが、ボタンを押すと、メカの吸引が再びはじまり、アームの先のラッパ状の吸引口が、こちらへと向いた。そして、サトシたちは勢い良く吸引口の方へ体が徐々に引っ張られていく。

「全員、身を縮めろ!」

ヒョウリが、全員にそう合図をすると、全員がその場で屈んだり、体を丸めて地面に強く踏ん張ろうとした。すると、近くにいたシロデスナとスナバァも吸い込まれないように、踏ん張っていた。シロデスナは、流石に大きさと重さから吸い込まれにくく、体の砂の粒が徐々に削られていくだけで済んだ。だが、体の小さい小柄なスナバァが、吸引に耐えきれず、宙に浮いてしまった。

「スナ~!」

そのまま、スナバァが吸引口の中へと吸い込まれていってしまう。

「デスナ!」

それを見て、自分の子供を叫ぶシロデスナ。

「カラァ!」

今度は、スナバァに続いて、カラカラまで吸い込まれてしまった。

「カラカラ!」

マナオは、カラカラを助けようと手を伸ばすが、すぐに吸い込まれていってしまった。

「ピカピィ~!」

ピカチュウは、必死にサトシの服を掴み、サトシもピカチュウを掴んでいる。

「ピカチュウ捕まれ!離すな!」

『くっ、ジャリボーイ。ピカチュウを離さないわよ』

『こうなったら、吸引力を上げてやる』

コジロウが、吸引のスイッチの上げていくと吸引力が上がっていき、同時にサトシへアームを近づいていく。すると、吸引の力でサトシが持ち上がってしまった。

「うわぁぁぁ」

「ピカァァァ」

そのまま、サトシとピカチュウは吸引口への入っていった。

「サトシ!」

「し、師匠!」

ヒョウリとマナオは、名前を叫ぶ。

『『『ハ!ハ!ハァ!ピカチュウ、ゲットだぜ!』』』

『一緒に、ジャリボーイまで吸い込んじまったけど』

『中からは、どうしようも出来ないにゃ』

『さぁ、目的も果たしたし』

『撤収するか』

そうやって、ロケット団のメカは動き出し、その場を離れて行こうとした。

吸い込まれていったサトシとピカチュウはというと。

「うわぁ」

「ピカ」

メカの配管の中を通っていき、ある場所で落ちてしまった。

「イテテ」

サトシは、尻もちを着いてしまい、手で尻を擦る。

「大丈夫か?ピカチュウ」

「ピィカ~」

サトシは、ピカチュウの無事を確認すると、立ち上がった。

「ここは、ロボットの中?」

周りを見ると、そこは薄暗かった空間だった。上や壁周りは、鉄製で出来ていて、下は一緒に吸い込んだ大量の砂で覆われれていた。サトシは、ピカチュウと一緒に、周りを見渡していると。

「スナァ」

「カラァ」

共に吸い込まれてしまったスナバァとカラカラに出会った。

「スナバァ、カラカラ。二人共大丈夫か」

「スナスナ」

「カラカラ」

すると、周りの砂の山で動きがあった。そこら中に、吸い込まれたポケモンが居たのだ。

「吸い込まれたポケモンか」

サトシは、ポケモン達を見て、気合を入れた。

「よぉし。皆、待ってろ。すぐ出してやるからな」

そうして、ピカチュウと壁の側に近寄り。

「ピカチュウ、10マンボルトだ」

「ピィカァチュー!」

ピカチュウの電撃で壁を壊そうとしてみたが、全く効かない。

「中も電撃が効かないようになっているのか。こうなったら、カラカラ。手伝ってくれ」

「カラァ」

「ピカチュウはアイアンテール。カラカラは、ボーンラッシュだ」

「ピカァ」

「カラァ」

続けて、壁に向かって(アイアンテール)と(ボーンラッシュ)で攻撃をするのだが。

「くそ。硬すぎる」

壁には、特にダメージが入らなかった。

 

 

その頃、外に居るヒョウリとマナオ、ヤマカは。

「一体、どうしたら」

「ヒョウリさん。師匠が」

「あぁ、分かってるよ」

何とかサトシ達を助けようとしていたところ。

「デスナァ!」

側に居たシロデスナが、一気にロケット団のメカ目掛けて突っ込んで行った。

『なんか、来たぞ』

『シロデスナだにゃ』

『ふん。やっておしまい』

『ハイドロキャノン、発射!』

すると、メカの胴体部の両側から大きなパイプ2本が飛び出し、中から水を勢い良く吹き出した。そして、近づいて来たシロデスナに、ぶつけた。

「スナァァァ」

そして、シロデスナはその場で倒れ込んでしまう。

「あっ」

「水が」

「どうやら、対じめんタイプ用の武器らしいな」

『なぁ、ハァハ』

『万が一に備えて、水攻撃出来るように設計してあるんだよ』

『近くの海から海水を吸い上げて撃つ』

『それに、モーターの冷却用としても使える。例え、海水で腐食しても今日限りだから問題はない』

そうロケット団が丁寧に説明していくと、ヒョウリが何か思いついた。

「そうか!」

彼は、仕舞っていた遠隔式ボールボックスを取り出すと、中にモンスターボールを入れた。そして、袖からハッサムの入ったモンスターボールを出して、投げた。

「ハッサム」

「ハッサム。奴らに、エアスラッシュ。奴らの注意を引きつけろ」

「ハッサム」

ハッサムは、彼の指示通りにロケット団のロボット目掛けて、(エアスラッシュ)を放ち、回りり込む。

『今度は、何よ』

『ハッサムだにゃ』

『こないだの暴力ジャリボーイのポケモンか』

『折角だし、こいつも奪って上げなさい』

『了解だ』

ロケット団は、ハッサムへ吸引口を向けて吸引を開始した。

(今だ)

ヒョウリは、横からボールボックスを吸引口に目掛けて投げた。そして、ボックスは吸引されていった。それを確認したヒョウリは、ハッサムを退かせた。

「よし、ハッサム。戻れ」

『うん?あいつら、撤退するぞ』

『どうするにゃ』

『いつもなら、あいつらもゲットしたいけど。深追いは、禁物よ』

『よし。さっさと行くか』

『いざ、撤収にゃ』

そうして、ロケット団は彼らから去ろうと、移動を始めた。

 

 

「どうすれば」

あれから、サトシはロケット団のメカの中で閉じ込められて、脱出を試みていた。ピカチュウやカラカラを使って、何度も壁や天井にわざで攻撃させていた。しかし、中の構造も頑丈で一切壊れる様子はなかった。

「ピカァー」

「カラァー」

ピカチュウとカラカラも、疲れが出てきて、息が上がっていた。

(ピカチュウとカラカラも限界だ。ヒョウリ、マナオ)

サトシが、心の中で外に居る二人の事を考えていると。ウィーンと、メカの駆動音が激しくなった。

「!」

その音は、先程のメカが吸引する時の同じものだった。

「また、何か吸い取ってるのか?」

そうサトシが、言っていると排出口から砂が微々たるものと出てくると、同時に灰色の何かが飛んできた。

「いてっ」

それは、サトシの頭にぶつかった。サトシは、頭を手で押さえると、ぶつかった物を見て、手に取って見た。

「これって、確かヒョウリの」

それに見覚えがあった。ヒョウリが作った遠隔式のモンスターボール収納開閉ボックスだ。先程、ヒョウリが吸引口目掛けて投げたボールボックスが、見事サトシやポケモン達が閉じ込められた内部に入ったのだ。サトシが掴んでいた箱を見ていると、突然ボックスの一部が光リ出して、ボックスが開いたのだ。

「!」

ボックスが開くと、中に収納されていたモンスターボールが開き、中に入っていたポケモンが出てきた。

「ラージ!」

「あっ、ラグラージ」

ラグラージを見てサトシが声に出す。すると、ラグラージがサトシの元へ近づき、手で首輪を示した。

「うん?外せって言うのか」

サトシは、ラグラージの気持ちを察して、着けていた首輪を外した。

『アー、アー、聞こえるか』

「!」

外した首輪から音が聞こえた。サトシは、それがヒョウリの声だと分かった。予め、ヒョウリから今回の作戦を聞かされていた際、首輪の話も聞いていた。

『首輪が外されたという事は、サトシがやった事だと思って会話している。この首輪は、一方通行で、そちらの声が聞こえない。いいか、サトシ。今から作戦を話すから、よく聞いて覚えろ。まずは』

サトシ達がその様な事を知らないでいたロケット団達は、メカの操縦席で少し早い宴会をしていた。

「「「かんぱ~い!」」」

「ソ~ナンス!」

彼らは、操縦席から離れて後ろにあった少し広い空間の床に座り、ジュースが入った紙コップを片手に乾杯をしていた。メカは、自動操縦モードに入り、目的地目掛けて安全自動運転をしていた。

「いやぁ~。まさか、こうも簡単にいくとは」

「ほんとにゃ。にゃーとコジロウが頑張って作ったかいがあったのにゃ」

「それを言うなら。私が、メカ作ろうと言い出しお陰でしょう」

「けど、作ったのはにゃーとコジロウだにゃ」

「何よ。メカを作れるのが、そんなに偉いの」

突然、ニャースとムサシが喧嘩を始めていると、間からコジロウが仲裁に入る。

「まぁまぁ、二人共。無事に、ピカチュウとたくさんのポケモンをゲット出来たんだから、いいだろ。な、な」

「まぁ、そうねぇ」

「確かに、そうだにゃ」

「これらを、無事ボスに元へ届ける事が出来たら、俺たちは」

「「「幹部昇進、支部長就任で、いい感じ♪」」」

「ソーナンス♪」

彼らが、そう賑わっている真下では、ある作戦が結構されようとしていた。

「いくぞ」

サトシは、ポケモン達にそう言うと、ポケモン達も返事をした。

「ラグラージ、ハイドロポンプだ」

「ラージ!」

ラグラージは、排出口へ目掛けて(ハイドロポンプ)を放つ。

「よし、ピカチュウ。10マンボルト」

「ピカチュー――!」

続けて、ピカチュウも同じく排出口に向かって(10マンボルト)を放つ。よし、みんな伏せろ。サトシに言われて、中のポケモン達は、すぐに砂へ潜ったり、身を潜めた。それから、10秒程が経過した。

「よし、そろそろかな」

サトシが、そう言うと。

「ラグラージ、れいとうビームで排出口を防ぐんだ」

ラグラージは、続けて排出口へ向かって(れいとうビーム)で放って、排出口を密閉していった。

「よし、いいぞ。離れよう」

二人に、そう言って全員で中心から距離を取った。そして、サトシは先程ラグラージから外した首輪型の無線機を両手で持ち、外した留め金同士を再度くっつけた。

『よし、分かった。いくぞ』

無線機からヒョウリが合図を送ってきた。

「伏せろ」

サトシは、そう言って自分やピカチュウやカラカラ、ラグラージは共に構えた。

中でそうしていた頃、外ではヒョウリが行動に移そうとしていた。

「いくぞ、ハッサム。あの吸引口には、気をつけろ」

「ハッサム」

ヒョウリに言われてハッサムが、羽で空へ飛んでいく。

「エアスラッシュ」

ハッサムが、(エアスラッシュ)を放ち、逃げていくロケット団のメカを後方から攻撃した。

「うわぁ」

「なんだ」

「攻撃にゃ」

中で宴会していたロケット団は、攻撃の振動で気付いた。

「あっ。また、あのハッサムだ」

「なら、暴力ジャリボーイがいるはずにゃ」

「しつこい奴ね。さっさとやっちゃいなさい」

「「おう」」

自動操縦を解除して、コジロウとニャースが操縦を行い、サイクロン・マークZは方向転換をした。

『おら、かかってこい』

『おみゃ~の攻撃は、このサイクロン・マークZには通じないにゃ』

「よし、もう一度。エアスラッシュ」

再度、ハッサムは攻撃をしたが、メカは一切傷つく様子がない。

『ふん。無駄無駄』

『ニャース、さっさとこいつもやっちゃいなさい』

『了解にゃ』

ロケット団が、また吸引口をハッサムへ向けて吸い込もうとした。

「よし、ハッサム戻れ」

「ハッサム」

ヒョウリの指示で撤退をする。

『あ、また逃げた』

『くっ、逃げさ無いわよ。ほら、吸引』

『ポチッとにゃ』

ニャースがボタンを押して、吸引を開始した。このメカの主力武器となる吸引マシンは、メカ内部にある大型モーターを回転させて、吸引口から空気や物質を吸い込んでいる仕組みだ。ロケット団が、吸引開始を見てヒョウリが、イヤホンマイクで合図を出した。

「そろそろだぞ」

それから、数秒程でヒョウリの狙い通りの事が起きた。

ドガァァァンとメカの内部で爆発が起きたのだ。

『うわぁ』

『ちょ、何よ』

『分からないにゃ』

『あぁ、吸引モーターが爆発したぞ』

『にゃにぃ!』

突然の内部爆発に驚くロケット団の声が、スピーカー越しでヒョウリの耳へ届く。

「よし、計画通り」

彼が考えた作戦。それは、既に入っているピカチュウと、後からわざと中入れたラグラージ。その二人の電撃と水によって、電気分解での水素と酸素を発生させた。気体を発生させた場所は、サトシやポケモンが閉じ込められた空間でなく彼らを吸い込んだ吸引装置、それと繋がる排出口だった。排出口へ水と電気を送り、中で電気分解による酸素と水素が充満していく。それを、自分たちのへそれが来ないようにとラグラージの(れいとうビーム)による氷漬けで密閉。あとは、ハッサムで挑発させたロケット団が、捕まえようと吸引装置を動かせば。配管で充満させた水素と酸素が吸引モーターの方へ行くと、モーターの熱により一気に引火した。密閉空間での高濃度の燃焼しやすい酸素と水素に熱が加わったことで、大爆発が起きたのだ。そして、どんな硬い物質でも内部からは脆い構造になっている事、それによりロケット団のメカは中の爆発に耐えきれなかったのだ。最後に、(れいとうビーム)で密閉した事で、爆風や熱はサトシやポケモン達へ届く事がなく。彼らは、ほぼ無傷だった。

先程の爆発で、メカの一部の装甲に穴が空いた。その穴から中から何かが顔を出した。

「外だ」

サトシだった。

「うわぁ、高ぇ。ここから、皆降りるのは無理だな」

サトシは、真下を見て、そう言った。彼らがいるのは15m程の高さだった。

『あぁ、大変にゃ』

『何よ』

『さっきの爆発で、装甲の一部に穴が』

『それに、捕獲用の部屋にも穴が空いた。このままじゃあ。ポケモン達が逃げるぞ』

『なんですって!』

ロケット団達は、慌てて何とかしようとしてメカの動きが止まった。すると、ダメージを受けて倒れていたシロデスナが現れて、(すなじごく)でメカの足場が沈めていった。

『ちょっと、どうなってんの』

『すなじごくだにゃ』

メカは見る見る沈んでいく。それから丁度半分程が埋まった所を。

「デスナ!」

シロデスナが、彼らに合図を送った。地面である砂の高さがサトシ達と1m程の差まで縮まったからだ。

「よし、みんな。今のうちに脱出だ」

サトシに釣られて、次々とポケモン達が脱出していく。

「よし、急げ」

ヒョウリは、サトシやポケモン達の元へ行く。

『ヤバイ、ピカチュウやポケモン達がぁ』

『くそ、そうはいかないにゃ』

再度捕まえようと、まだ埋まっていない上半身が回転し、吸引口のアームがサトシやポケモンへ向く。

「ヤバイ。みんな、走れ」

サトシは、それに気付き逃げるポケモン達へ警告する。

『ポチッとにゃ』

ニャースが再度、吸引しようと吸引ボタンを押す瞬間。

「ハッサム、バレットパンチ」

ヒョウリのハッサムは、右腕を光らせると、その吸引口を殴りつけ、アームをへし折ったのだ。

『にゃー、アームが折れたにゃ』

お陰で、ポケモン達はメカからドンドン離れて行った。

「カラァ」

「カラカラ、良かった」

「スナァ」

「デスナァ」

カラカラとスナバァは、マナオとシロデスナに無事に再会出来た。

『もう、何も出来ないにゃ』

『こうなったら、脱出するのよ』

『無理だ。足が埋まって逃げられない』

ロケット団は、最早打つ手無しと脱出を試みるが、下半身が砂に埋もれてキャタピラが動いても、移動出来ないでいた。

そのチャンスを、サトシ達は見逃さなかった。

「よし、出番だぞ。ピカチュウ!」

「ピィカァ!」

サトシは、ピカチュウと共にロケット団を撃退する準備に入る。

「10マンボルトだ!」

「ピィカァ」

続けて、ヒョウリもハッサムへ指示を出す。

「ハッサム、エアスラッシュ」

「ハッサム」

そんな彼らに合わせて、シロデスナも(シャドーボール)を共に、放とうとした。

「ヂューーー!」

「スナァ!」

「ハッサム!」

彼らのわざは見事に、ロケット団のメカへ命中し、爆発が起こった。そして、煙の中から、乗っていたロケット団達が、爆風の勢いで空へと飛び上がって出てきた。

「くそぉ~。折角頑張って作ったのに」

「なんで、こうも簡単に壊れるのよぉ」

「短期間での設計製作は、凄く大変なんだぞ」

「そうにゃ。低予算で、頑張ってあんな素晴らしいメカを作ったのにゃ」

「ふん。結局、いつも通り壊れたら意味ないでしょ」

「それを言わないでほしいにゃ」

「あぁ、今日もなんだか」

「「「やな感じ〜~~!!!」」」

「ソーナンスゥ!」

そうして、ロケット団はまた本日も遠く彼方へと消えていった。

そんな飛んでいく彼らを、地上でサトシは眺めていた。

「どうして、あんな人達がいるんでしょうね」

マナオは、彼方へ飛んでいったロケット団を睨みながら、そう告げると隣に立つサトシは、苦笑いで答えた。

「あ、ははは。俺、ずっとあいつらに会ってきたけど、分からないや」

「さぁ。あんな恥さらしな連中、知らんし。どうでもいい」

ヒョウリは、飛んでいったロケット団に興味が無いようで、見向きもせずにそのままヤマカの元へ歩いて行った。

「ヤマカさん」

「なんだい?」

「これから、あいつら・・・どうします?」

ヒョウリが見た先では、再会に喜ぶ親であるシロデスナと子供のスナバァが居た。

「デスナ」

「スナァ~」

そんな親子を見てヤマカは。

「・・・そうだねぇ」

そう声に出した。

 

 

時間が流れて夕方。ロケット団を撃退したサトシ達は、ロケット団のメカに掴まったポケモン達を無事に全て助け出し、そのまま野生のポケモン達は、帰っていった。だが、シロデスナとスナバァだけは、その場に残った。

「ありがとう。君たちの協力のお陰で」

「いいえ。俺たちは、ただ通りかかっただけですし」

ヤマカに礼を言われて、サトシが代表して言葉を返す。

「ところで、ヤマカさん」

「ん?」

「今後、スナバァとシロデスナは」

マナオは、近くにいる親子を見ながら話す。

「シロデスナとスナバァには、このままこの砂丘に居て貰い、共にいい観光スポットを作ろうと思う」

「本当ですか」

マナオは、心配した顔で聞いてみるとヤマカは、自信を持って答える。

「あぁ大丈夫。最初の出会い方は、悪かったがあの二人は悪いポケモンじゃない。いや、悪いポケモンなんていない。だから、分かっていけるさ。同じ、この場所を綺麗にしたいという思いがあるなら」

「そうだよ、マナオ。きっと、仲良く出来るさ」

サトシも、笑顔でマナオに言う。

「それなら、いいですね」

「あぁ、きっと上手くいくさ」

「俺もそう思います。お前も、そう思わないか。ヒョウリ」

「ん?まぁ・・・上手くいくんじゃないか」

そうヒョウリは、顔反らして答えた。そうして、サトシ達はヤマカやシロデスナ親子と別れの挨拶をする時間へなった。

「それじゃあ。俺たち、チョウドタウンのポケモンセンターへ行きます」

「明日の朝には、南へ行きますので、ここでお別れです」

サトシとヒョウリが、そう説明していく。

「そうか。なら、ここでお別れだな。サトシ君、ヒョウリ君、マナオ君。本当に、ありがとう」

ヤマカは、彼らに改めて礼を言った。

「シロデスナ達と頑張って下さいね」

「俺らも、応援してます」

マナオとサトシは、最後にそう伝えた。

「じゃあな。シロデスナ、スナバァ」

「ピカピカ」

「バイバイ」

「カラカラ」

サトシとピカチュウ、マナオ、カラカラは、彼らにも手を振って別れを言った。

「デスナ」

「スナスナ」

それに答えて、シロデスナやスナバァも返事をして、彼らを見送った。

 

 

サトシ達は、砂丘から出ると、予定通りすぐ近くのチョウドタウンに向かった。

「疲れたな」

「ピィカ~、」

「えぇ、疲れましたね」

サトシやピカチュウ、マナオはそう疲れた顔で言うと。隣にいたヒョウリも同じことを言う。

「あぁ、本当疲れたぜ。全く、どこかのお人好しさんの為に、動いたら酷い目にあったぜ」

そう言うと、サトシの方をチラッと見た。目が合ったサトシは、ヒョウリに言い訳をした。

「けど、良かっただろ。砂丘のポケモン達が助かったし、シロデスナも分かってくれたんだから」

「まぁ。結果オーライにしておこうか。けど、今後こういった事はウンザリだからな」

「わ、分かったよ」

サトシは、彼に念を押されて、そう返事をしたが、その約束を守る自信が無いと言った、顔をしていた。

「その目、またやりそうだな」

「うっ」

「ピカァ」

サトシは、図星なのかヒョウリから目を逸らして、気不味い顔をした。すると、突然走り出した。

「さぁ。早く、町のポケモンセンターへ行って、休もうぜ」

「おい、話逸らすなよ」

「あっ、待って下さいよ」

サトシに続いて、走って行く彼らは、町へと向かった。

 




今回は、サトシ達が次の町へ行く為に、立ち寄った観光スポット(カゲギシ砂丘)での話でした。

次回は、南へ向かい、次のトレーナー・ベストカップ(第二の試練)が開催予定の(フォルシティ)があるフィオレ地方へと向かいます。


話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


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9話「落とし物は、ポケモンのタマゴ」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


サトシ達は、ハルタス地方を南下して行き、次に出場するトレーナー・ベストカップ第二の試練が開催されるフィオレ地方のフォルシティへと目指していた。

 

 

「この先に、スズホウタウンという街があって、その街を南へ抜けると。そこから先はフィオレ地方になる」

彼らの先頭を歩くヒョウリが、腕輪のマップを見ながら、そう告げる。その後ろでは、サトシとマナオが並んで、彼の後を追うように歩いていた。

「そっか。もうすぐ、フィオレ地方か」

「私、フィオレ地方は前から行ってみたかったんで、楽しみです」

マナオは、ウキウキでそう答えると、ヒョウリは彼女の方を向いて聞いた。

「なんだ、行った事ないのか」

「はい。私、ハルタス地方から出たことは無いんです」

今度は、隣のサトシが聞いてきた。

「マナオは、旅行とか行ったこと無いのか。ほら、こないだカゲギシ砂丘へ行った事あるとか言っていたから、てっきり」

「あぁ、そうでしたね。一番遠くへ行ったのが、カゲギシ砂丘ぐらいでして。家、貧乏だから旅行とか、滅多に出来なくて。宿泊は1泊が限度でしたし、移動は徒歩か運賃が安いバスだけでした。だから、ハルタスから出てないです」

「そっか」

「けど、それも楽しかったですよ。お父さんとお母さんと、いっぱい遊んだり。いろんな場所で遊びましたから」

マナオは、家族旅行を思い出したのか、笑顔でそう答えた。二人は、その笑顔を見て、嘘が無いのが何となく分かった。彼女の事情を知ったサトシは、彼女へ続けて話す。

「じゃあ、これからいっぱい旅行出来るな」

「え」

「俺たちと一緒に、フィオレ地方やアハラ、シントーと、いっぱい旅行出来るじゃん」

「師匠・・・そうですね。凄く楽しみです」

そんな会話をしながら、森の中を進んで行った。

彼らは、チョウドタウンから旅立って1日が既に経過し、昨日は森の中で野営をしていた。今朝は、朝食を済ませてから、次の町があるスズホウタウンまで歩き続ける為、休憩を挟みながら問題無く進んでいた。

「よし、そろそろ。休憩するか」

「賛成」

「ピカァ」

「そうですね」

森の中で、丁度いい広さのスペースに着いた彼らは、ヒョウリの提案で休憩を取った。彼らは、木に背をもたれたり、切り株や大きな石に椅子代わりに座った。各々は、カバンを下ろして、中から水筒を取り出すと、水を飲んでいく。

「ほら、ピカチュウ」

「ピィカ」

サトシは、自分の水筒のキャップをコップ代わりにして、中の水を溜めると、それをピカチュウへ渡した。それから、サトシとピカチュウは、共に水分補給を取った。

休憩をしてから10分が過ぎてから、ヒョウリが再出発の合図を出した。

「そろそろ行こう。あと1時間も歩けば、スズホウタウンだ。着いたら昼食にしよう」

「あぁ」

「ピカ」

「はい」

カバンを背負ってから、再び歩いて行こうとしたその時だった。

「ん?」

マナオが、突然背後を振り返った。

「・・・何?」

なぜ、彼女が振り返ったのか、本人にも分かって居なかった。無意識に、振り返ってしまった彼女は、奇妙な気分になった。そんな彼女に、二人は気付いた。

「どうした?行くぞ」

「・・・マナオ?」

「は、はい。行きます」

彼女は、気の所為だろうと、思い先へ歩き出しそうとした。

【■■■■】

「!」

今度は、マナオの後ろから、何かが話しかけた様な気配がした。

「ハッ」

彼女は、再び背後を振り返る。

「・・・」

一体、何者が何と言ったのかは分からない。だが、彼女は明らかに誰かに何かを言われた気がした。

(一体、何の?)

彼女は、少しだけ恐怖を覚えた。彼女は、子供の頃から怪談話や幽霊について、同年代と同じ知識を持ち、霊感こそ無いが怖いという認識はある。今の彼女には、幽霊にでも話しかけられたのではないかと考え、警戒感が上がっている。

「おい」

ヒョウリとサトシが、また彼女を呼ぶが同時に、強い何かが彼女に届いていた。

【■■■て】

「どうしたんだよ、マナオ」

【た■■■】

「おいって!」

遂に、ヒョウリに肩を掴まれて、彼女は我に返った。

「ハッ!」

「どうした?」

真剣な顔をしたヒョウリは、彼女のこわばった表情を見て、問いかける。

「えと、その・・・」

どう説明したらいいかも分からない彼女は、言葉が詰まった。だが、このまま何も言わず、黙っているも進展しない事を理解していた彼女は、答える。

「すいません。その、何かに、話し掛けられたようなで、それで」

「え?」

「もしかして、聞こえなかったんですか?」

「・・・」

ヒョウリは、不審に思い、彼女の顔を見た。それには、冗談でなく本当の事を言っているように、見受けられた。すると、サトシの方を振り返り、彼に聞く。

「サトシ、お前何か聞こえたか?」

「え?全然、何も聞こえてないけど」

サトシが、そう否定すると、次にサトシの肩に乗るピカチュウへ質問した。

「ピカチュウは?」

「ピカピカ」

首を振って、ピカチュウも同様に否定した。

「嘘」

マナオは、全員に聞こえていない事実に、驚いた。

(私にだけ、聞こえた・・・)

心の中で、そう思っていると。ヒョウリに、呼ばれる。

「マナオ、お前」

ヒョウリは、表情を変えて、彼女へ別の質問をした。

「幻覚や幻聴の持病持ち?それとも、普通の人には見えないものが見える人か?」

マナオは、ヒョウリに変な人を見るかのような目で見られて、そう言われた。それに対して、首を振りながら、彼女は否定した。

「いえ、違います」

「きっと、昨日野宿だったから疲れたんだよ。お前、まだ旅とか慣れてないからな。スズホウタウンにポケモンセンターがあるから、今日はゆっくり休め」

ヒョウリは、彼女の言葉を真剣に受けず、そう告げて、彼女の腕を掴んで歩かせようとした。

【■すけ■】

また、言葉が聞こえた。彼女は、ヒョウリやサトシの様子を見るも、本当に聞こえていない様子が、伺えた。

【本当に、私だけ?なんで?ヒョウリさんの言う通り、幻聴なの?】

【た■け■】

「まだ、聞こえる」

彼女が、そうボソリと口ずさむと、ヒョウリは心配になった。

「お前、本当に大丈夫か。確か、スズホウに人間用の病院があったから、行った方がいいかもな」

「え?」

自分が、おかしな人間として改めて言われて困惑する彼女。徐々に、本当に自分が幻聴が聞こえる病気なのではと、自分でも疑いたくなっていた。すると、サトシが話しかけた。

「なぁ、マナオ。本当に聞こえるのか?」

「・・・はい。本当に聞こえるんです」

そう言う彼女に、ヒョウリは訪ねる。

「なら、何と言ってるんだ?」

「誰かが、助けを求めてるような」

「助けを求めてる?・・・やはり、俺らには聞こえないぞ。もし、お前の言う通りなら、それは人間の耳に聞こえない上、自然の感覚に優れているポケモンにすら聞こえない。なら、音じゃないってことだ」

ヒョウリは、そう推察する。

「どこからかは、分かるのか?」

「自信はありませんが、あっちの森の奥からだと思います」

サトシに聞かれ、声が聞こえてきたと思われる後方の森へ指を差す。

「よし。行ってみようぜ」

サトシは、迷いなくそう答えると、マナオは驚く。

「!」

「俺は、マナオを信じてる」

「師匠」

サトシが、清々しい顔で、自分を信じてくれた事に、マナオは感銘した。

「ハァー。やっぱり、そう言うか」

サトシの言葉を予想出来ていたのか、急に疲れた顔をするヒョウリ。

「まぁ、誰かが本当に助けていたら、無視するのは余り良い気分になれないし、仕方ないか。1時間だけだからな」

そう言いながらヒョウリは、彼女の腕を離して、腕輪のモニターを表示させて、何かを見始めた。

「それ以上は、無しだ。今後の予定の件もあるが、この森は余り道を外れると厄介なんだ。凶暴なポケモンは、それ程いないが。崖とかあって危険なエリアだからな。いいな、二人共。俺の指示通りに動けよ」

「あぁ」

「はい」

そうして、サトシ達はマナオだけに聞こえた謎の声がする森へと、進んでいた。

「それにしても、一体誰なんだろう」

サトシは、謎の声の主が何者なのか気になった。

「分かりません。ただ、助けてとしか」

「可能性があるとしたら、ポケモンのテレパシー。だとすれば、どの個体か。エスパータイプか?」

「テレパシーか。俺は昔、ポケモンのテレパシーで何度か会話したことあるけど。いろんなポケモンと出来たからな」

「へぇ、お前もテレパシー経験者か」

「ヒョウリも?」

「あぁ、他の地方で何度かな。正直、余り気持ちの良いもので無いがな。何しろ、頭に直接話掛けるんだ。慣れねぇよ」

そう互いに、推察しながら、森の中を進んで行くと。

【たすけて】

「また、聞こえました。今度は、さっきよりハッキリと言葉が」

「「!」」

「こっちです!」

マナオは、声が聞こえた方向へ走リ出す。

「おい!森の中を走るな」

「マナオ!」

サトシ達は、慌てて彼女を追いかけた。

森の中を走るマナオは、次第に森から抜けた。そこは、雑草や花が生えている広い原っぱだった。

(確かに、こっちからだったけど。どこ?)

彼女は、声の主が近くにいるのではと、原っぱの周りを見渡しつつ、進んでいく。丁度、真ん中位に着くと、側に生えている林の中に何かの物体がある事に、気付いた。

「・・・これって」

彼女は、その物体へ近寄り屈む。

「おい、マナオ」

「急に走るな」

彼女を追っていたサトシ達も、漸く追いついた。

「ん?どうした?」

サトシは、屈んで林を見ている彼女に問いかける。

「その、これが」

二人は、マナオが指差す方向を見て、物体の普通名詞を言葉に出す。

「「ポケモンのタマゴ?」」

そこにあったのは、長さ30cm近くもあるタマゴだった。二人が、推察するにポケモンのタマゴだと直感で分かった。

「なんで、ここに」

「マナオ。まさか、そのポケモンのタマゴが?」

「分かりません。ただ、周りを見たら、このタマゴがあって。声は、確かにこの辺だと思ったんです」

ヒョウリの質問に、そう答える。

「誰かの忘れ物かな」

「一体誰が、ここに忘れるんだよ」

「そりゃ・・・ポケモンかな」

「ところで、声はもうしないのか?」

「はい。もう、聞こえなくなりました」

「だとしたら、そいつが。けど、ポケモンのタマゴの状態でテレパシーが使えるとなると、普通じゃねぇな。それに、助けを求めているなら、危険な状態なはずだ。見た限りピンチには見えないし、声の主なら対面した俺らに、また話しかけてくれるはずだが」

「うーん。師匠、どうしましょう?」

「俺に、言われても」

「置いとけ。もし、親のポケモンがいるなら、勝手に触ると襲われるぞ」

「けど、助けを求められているのに、放置するのは」

「そうだよ」

「このタマゴが助けを求めるなら、何から助けを求めているか分からないと、対応しようがないだろと言っているんだ。時間だけ過ぎちまうぞ」

「そうだけど」

彼らが、そんな会話をしているその時だ。

「グゥゥ!」

「「「!」」」

突然、彼らが向いていた森の奥から、何かの唸り声が聞こえた。その声に、3人は身構えた。

「なんだ?」

サトシは、唸り声がした森へ目を見張ると、中から黒い3つの物体が、素早く現れた。

「グラエナだ!」

その姿を見て、ヒョウリが叫ぶ。

「「グゥ」」

「ガゥ」

飛び出したグラエナは、再度サトシ達に唸り声を上げて、身を低くした。現れたのは、かみつきポケモンと呼ばれるグラエナが3体。グラエナは、(あくタイプ)のポケモンで、大昔の野生時代に群れを作って行動し、獲物を追い詰めていた。また、その活動が野生の血に残っている為、優れたトレーナーをリーダーとして認め、命令に絶対服従すると言われている。獰猛な唸り声を上げて、姿勢を低くする時は、攻撃の前触れで、鋭く尖った牙で、かみつくのが得意。正に、サトシ達の前にいる3匹のグラエナは、彼らへ攻撃態勢を取っていた。その事に、いち早く気付いたヒョウリは、警戒した。

「不味いな、戦闘態勢を取りやがった」

「バトルするしかないか」

「あれ、このグラエナ・・・このタマゴを見てる?」

マナオは、グラエナの目線が目の前にあるタマゴへ向いている事に、気付く。

「もしかすると。このタマゴ、こいつらのかもしれないな」

「じゃあ、離れた方がいいですね」

「あぁ。一応、それが懸命だ」

そうして、サトシ達はタマゴから離れて行き、グラエナの方を向きつつ、後方の来た道へと。ゆっくり後ろ歩きをした。

「そのまま、そのまま」

森のすぐ側まで来た彼らは、立ち止まりグラエナやタマゴを見張った。グラエナ達は、サトシ達が離れて事で、ゆっくりタマゴに近づいていった。

「よし。ここまで来れば、奴らも襲ってはこないだろ」

「そうだな」

「これで、大丈夫ですよね?」

「来た時はやるしかない。ただ」

「ただ?」

「肝心なテレパシーが謎になったな。もし、お前の言うテレパシーがあのタマゴからだとして、そうなれば、あのタマゴはグラエナの進化前。ポチエナが居ることになる」

「それが、どうかしたのか?」

「ポチエナに、テレパシーの特性の類を持っていない」

「・・・あっ」

「じゃあ、あのタマゴは」

そう彼らが話していると、一匹のグラエナはがサトシ達の予想を行動で教えてくれた。

「「「!」」」

グラエナが、タマゴを蹴り飛ばしのだ。そのまま、タマゴはサトシ達から見て、右側の近く木に激突した。

「あっ」

マナオは、慌ててタマゴの元に駆け寄った。タマゴを蹴ったのを見て、サトシは怒りの顔へと変わり、グラエナ達を睨む。

「あいつら」

「やはり、奴らのタマゴじゃ、ッ。来るぞ」

グラエナ達が、一気にサトシ達へ向かって走って来た。3匹の内、2匹のグラエナはサトシとヒョウリへ、残り一匹はタマゴを手で擦っているマナオへ向かっていた。その事に、マナオは気付いていなかった。

「あっ、マナオ!」

サトシは、マナオへ警告を促しながら、向かおうとした。それを気付いたグラエナの1匹が、サトシ達へ向かって、咆哮を上げた。

「ガァァァ」

すると、咆哮を上げたグラエナの口から紫色の波が発生し、彼らへ向かって放たれた。

「うわぁ」

「ピカッ」

「くぅ、バークアウトだ」

グラエナのわざ(バークアウト)だった。サトシ達は、咆哮の衝撃を受けて動けない間に、もう一匹のグラエナが一気に、彼らへ近づいて襲いかかった。サトシ達に、接触する寸前で、(バークアウト)を放つグラエナはわざを中断し、仲間への影響を配慮する。その僅かに出来た隙を、サトシは見逃さなかった。

「ピカチュウ!」

「ピッカァ!」

ピカチュウは、向かって来たグラエナが(かみつき)の攻撃で飛び掛かってきたので、(でんこうせっか)で突き返した。

一方で、マナオの方へ向かったグラエナは、タマゴを抱き抱える彼女へ飛び掛かろうとした。

「ハッ」

それに気付いた彼女は、咄嗟に体でタマゴを包むように抱き寄せ、グラエナへ背を向けた。タマゴを守ろうとするマナオ目掛けて、グラエナは1mも無い距離で、鋭い牙で(かみつこう)と口を開いた。

(ヤバイ。けど)

マナオは、このまま無抵抗に自分は攻撃を受ける事に、恐怖しながらも、無意識とはいえ抱くタマゴを守ろうとする。

それに構うこと無く、グラエナの牙は彼女で触れようとしていた。だが、突然グラエナの右頬に何かがぶつかり、そのまま吹き飛ばされて、地面を滑っていった。

「!」

マナオは、すぐ後ろで何かがぶつかった後に、何かが地面や草を滑る音が聞こえた。それから、グラエナからの攻撃が全然来ない事に、不思議がった彼女は何があったのか、ゆっくりと後ろを振り返った。

「ハッサム」

そこには、ポケモンのハッサムが居た。それを見て、彼女は、すぐさま理解した。

「あっ」

先程、サトシ達が(バークアウト)の攻撃を受ける中、マナオの危機に気付いたヒョウリが、間一髪の所で、右腕に仕込んでいたハッサムのモンスターボールを投げていたのだ。ハッサムは、ボールから飛び出した後、攻撃を受けている自分のトレーナーであるヒョウリに即座に気付き、彼を助けようとした。だが、彼のアイコンタクトにより、止めた。長い付き合いと彼の何らかの訓練によるものなのか、それだけで彼からマナオを守れと指示が分かったのだ。その後、彼女はサトシ達の方へ向かおうとしたが、彼らもまたバトルをしていた事に気付く。

「師匠達も、なら」

タマゴを抱えたまま、立ち上がった彼女は、片手で腰にあるモンスターボールを1つ取り、前へ投げた。

「行け、カラカラ」

「カラァ」

マナオも自分のポケモンであるカラカラを出して、先程襲ってきたグラエナとバトル事にした。

「ハッサム。さっきは、ありがとう。ヒョウリさんの所に戻って」

「ハッサム」

ハッサムは、彼女にそう告げられると、ヒョウリの元へ戻った。

「さぁ、行くわよ。カラカラ」

「カラ!」

カラカラは、戦闘態勢を取っていると、吹き飛ばされたグラエナは既に起き上がっていて、カラカラ目掛けて、飛び掛かって来た。

「ガァウ」

「カラカラ、ボーンラッシュ!」

「カァラ!」

カラカラは、手に持つ骨を光らせ大きくすると、そのままグラエナ目掛けて殴りかかった。だが、グラエナは間一髪で回避する。そして、カラカラの後ろを取ったグラエナは、カラカラの背中目掛けて(ずつき)をしようとした。それに気付き、すぐさまカラカラへ警告を促す。

「後ろよ!」

カラカラは、マナオの声に反応をして、振り向いて躱そうとするが、既に目の前にまで来ていたので、カラカラは自分も(ずつき)を行った。

「カラァ!」

「ガァウ!」

互いに、渾身の(ずつき)わざがぶつかり合った。それから2匹は、ぶつかったまま互いに、動こうとしなった。

「カラカラ」

心配する彼女は、名前を呼ぶ。それでも、反応しなかったカラカラの変わりに、グラエナが動き出した。

「あっ」

動いたグラエナは、そのままマナオの方へ振り返ると歩いてきた。

「ッ」

彼女は、不味いと心の中で思いつつ、タマゴを抱きしめる。このままでは、またグラエナに襲われる。ハッサムは、ヒョウリの元へ戻ってしまった。肝心のカラカラは、返事をしない。改めてピンチだと感じた彼女は、強くタマゴを抱きしめ、逃げようとする。だが、その心配はすぐに消えた。

「グッ・・・ウ」

歩いていたグラエナが足を止め、少しだけ声を出すとそのまま横へ倒れてしまったのだ。

「へ?」

何があったのか、理解出来ない彼女は、気の抜けた声を漏らす。彼女は、倒れたグラエナの顔へ目をやると、目が回っているように見えた。

「カラカ!」

すると、反応しなかったカラカラが自分の名前を呼んで、走って来た。

「カラカラ、無事だったの?」

「カラァ!」

「・・・そっか」

彼女は、気付いた。グラエナが倒れたのは、カラカラのお陰だと。先程のカラカラとグラエナの互いによる(ずつき)同士のぶつかり合い。普通、同じわざならポケモンの練度次第で、高い方が打ち勝ってしまう。だから、体格の小さいカラカラと、倍以上大きく進化をしているグラエナでは、グラエナが勝ってしまう。だが、カラカラには特性(いしあたま)があるのだ。(いしあたま)は、ポケモンのわざによって自身に返ってくる反動のダメージを無効にする特性がある。また、言葉通りに頭部の強度を増すことがある。つまり、カラカラの頭部は特性で、通常よりも固く。その頭部で出した(ずつき)が、グラエナの(ずつき)を

上回ったのだ。

「もう!心配したんだから」

「カラァ~」

カラカラは、マナオへ駆け寄って抱きつき、彼女はカラカラの頭を撫でた。

「そうだ。師匠達は」

彼女は、サトシ達の方を見て、状況の確認を取った。マナオが、バトルをしていた間、サトシ達は残った2匹のグラエナの相手をしていた。

「ガァウゥゥゥ!」

グラエナの(バークアウト)が、ピカチュウを襲う。

「ピカチュウ、躱せ」

「ピカ」

サトシの指示でピカチュウは、グラエナの攻撃をギリギリを躱した。

「ピカチュウ、10まんボルト」

「ピィカァチューーー!」

ピカチュウの得意わざ(10まんボルト)を、1匹のグラエナに浴びせた。

「ガァァァァ」

グラエナは、電撃を食らって悲鳴を上げると、その場で目を回しながら倒れ、戦闘不能となった。

「よし」

「流石、師匠。あとは」

「ハッサム、かげぶんしん」

「ハッサム」

ハッサムは、ヒョウリの指示で、(かげぶんしん)を使う。ハッサムの左右から自身の分身体を複数作り出し、残ったグラエナの周囲を囲う。多くの分身体に囲まれたグラエナは、戸惑いながら左右を見渡す。(かげぶんしん)の中に本物のハッサムが居ると考え、どれが本物か探しているグラエナに、隙が生じた。その隙をヒョウリは、見逃さなかった。

「今だ、でんこうせっか」

(かげぶんしん)の中から本体であるハッサムが、グラエナの左横から高速で飛び出し、体をぶつけた。

「ギャッン」

ハッサムの(でんこうせっか)を受けて、吹き飛ぶグラエナは、近くの木にぶつかり、そのまま目を回した。

「さて。どうやら、片付いたな」

ヒョウリは、周りを確認しつつ、三人で集まった。

「大丈夫か、マナオ」

「はい。びっくりしましたね」

「お前らの無事だな。ところで」

互いに、無事を確認していると、ヒョウリはマナオの抱えているものを見た。

「どうするんだ?そのタマゴ」

マナオが抱える今回の発端となっただろう謎のポケモンのタマゴ。

「えーと、どうするって言われても」

「タマゴは、大丈夫か?さっき、強く蹴られたけど」

「割れてはいないみたいです。ただ」

「あれから、まだ声が聞こえないのか?」

「はい。全然、聞こえなくなりました。・・・まさか、中のポケモンが」

彼女は、頭の中で最悪の事態を想像し、真っ青な顔をする。すると、ヒョウリがマナオのタマゴを両手で取った。

「貸してみろ」

タマゴを手にしたヒョウリは、タマゴ全体を見渡してから、耳を当てた。

「・・・」

「「・・・」」」

ヒョウリの聴診に、サトシとマナオは静かに見守る。

「ピィカ」

ピカチュウも同様に、心配な顔をする。それから数秒後、ヒョウリはタマゴから耳を離す。

「一応、僅かにまだ音が聞こえるから、まだ生きているはずだ」

その言葉を聞いて、マナオ達はホッとする。

「取り敢えず、スズホウタウンに行こう。ポケモンセンターで、診て貰うんだ」

「はい」

「そうだな」

サトシ達は、ヒョウリの提案により、到着予定だった町(スズホウタウン)へ、行くこと事にした。

「それと、何故グラエナがタマゴを襲ったのか分からないが、また他のポケモンに襲われる可能性もある。俺とサトシで対応するから、マナオ。お前が、これを持て。落とすなよ」

そう言ってタマゴを彼女へ返す。

「分かった」

「しっかり、持ちます」

「よし。さっきの道へ歩いて戻るぞ。道に戻ったら、走るからな。歩けば1時間だが、走れば半分で着くはずだ」

そうして、サトシ達は来た森へ戻って行った。

そんな彼らの上空に、一匹のオニスズメが飛んでいた。そのオニスズメの首には、小さなレンズの付いた機械が着けられていた。

 

 

あれから、サトシ達は元の道へ戻り、そこから走った。スズホウタウンまで、道を知っているヒョウリが正面、次にタマゴを抱えるマナオ、そして後ろをサトシが走る。ヒョウリの提案したフォーメーションを保ちつつ、ポケモンの襲撃に備えながら、町まで走った。ヒョウリとサトシが周囲に目を配った。

走ってから30分程が経過した。予定通りスズホウタウンに到着したサトシ達は、そのままポケモンセンターへ駆け込んだ。センターに着いたら、受付に居たジョーイへ、事情を説明して、すぐさまポケモンのタマゴを診て貰った。

そのまま、廊下にある待合椅子に座ったサトシ達は、心配した面持ちでタマゴが居る診察室を、ガラス越しで見守っていた。

「大丈夫かな」

「大丈夫さ」

心配するマナオを、隣のサトシが励ます。

「プロに任せるしかないさ。それに、さっき見た時、タマゴに目立った傷は見当たらなかったから。あとは、中身次第だ」

診察が始まってから1時間程が経過した。診察室の自動ドアが開き、中で見たいジョーイが出てきた。それに気づいたサトシ達。マナオは、すぐに立ち上がると、そのままジョーイへ駆けより、問いた。

「ジョーイさん、タマゴは?」

心配するマナオに、ジョーイは笑顔で答えた。

「一応、タマゴは無事なのは分かったは」

そう聞いたマナオをはじめ、サトシ達は安心した。

「良かった」

「あぁ、良かった」

「セーフだな」

そうして、安堵していたが、ジョーイから続けて話がされた。

「ただ」

「「「!」」」

「このポケモンのタマゴは、普通のタマゴと違うみたいなの」

「・・・違う?」

「どういう意味ですか?」

ヒョウリが聞く。

「先程、タマゴの検査でポケモンのタマゴ専用の検査器を使ったんだけど。生命反応以外が分からなかったの」

「え?」

「あの機器は通常、ポケモンのタマゴの中身を透視して検査する事や、タイプによってタマゴの状態を確認出来るようになってるの。けど、そのどれもが対応出来ないの」

「なら、タマゴの安全性は」

マナオが再び心配な顔をする。

「そこは、大丈夫。生体反応はしっかり取れて、健康上に問題はないわ。ただ、ポケモンのタマゴが特殊なだけみたい」

「特殊・・・」

「一体、何のポケモンのタマゴなんです?」

「それは、分からないわ。このタマゴから何のポケモンが生まれるか。実際に産まれないと、原則は分からないわ。あとは、、タマゴを産んだ親か同類のポケモンなら分かる場合もあるけど」

「そうか」

「確かに、そうだ」

「・・・けど、タマゴが無事なら安心です」

「確かにそうね。ただ、あのポケモンが何のポケモンか。分からないと親元にも返すのは、難しいわね」

全員で、ガラスの向こうにある検査器のカプセル内に置かれたタマゴを見つめる。そこで、ヒョウリが口を開く。

「そういえば。最近、ポケモンのタマゴが孵化する前に、何のポケモンか分かる装置を開発したのを、聞いたな」

「え?」

「本当ですか?」

「あぁ」

「それは、どこなんだ?」

「作ったのは、パロント財団のポケモン研究を行うピーツー機関さ」

「パロント財団?」

「5年程前から、シントーやアハラ、ハルタス地方に展開してきた世界的大きい財団だ。今年からカントーやジョウトにも、展開するって聞いたが」

「そのピーツー機関は、どこに行けばあるんですか?」

「一番近くのピーツー機関は、確かアハラ地方にあったはずだ。えぇと」

ヒョウリは、腕輪のモニターを付けると、情報を調べてみた。そうしていると、受付側でベルが鳴り、人を呼ぶ声がした。

「あの、すいません!」

声からして大人の男性の声だと分かった。

「はい」

ジョーイは、すぐさま受付を戻っていく。

そこには、一人の男が立っていた。顔は、30代位の顔で、大柄な体格。服装は、小綺麗なジャケットとカジュアルな長ズボンをしていた。

「どうかされましたか」

ジョーイは、男性に尋ねると、男は挨拶をはじめた。

「私、ヤオノといいます。実は、ここより北側の森で、私のポケモンのタマゴを、無くしてなってしまって」

その会話は、サトシ達へも聞こえた。

「・・・タマゴ」

そう呟いたマナオ。サトシ達は、そのまま受付の方へ歩いて、近くで話を聞いた。

「ポケモンのタマゴを、ですか?」

「えぇ。それで、誰かがここへ届けていないかと。こんなタマゴなんですが」

男は、ジャケットの内ポケットから1枚の写真を取り出した。そこには、ポケモンのタマゴが1つ写っていた。

「あっ」

マナオは、ジョーイの横から写真を覗いて見た。その写真に写っているタマゴは、診察室に置かれているタマゴが、全く同じものに見えた。

「ありがとうございます」

ジョーイは、写真を確認し終えると、男へ返して続けて確認を取った。

「失礼ですが、念のため、貴方の身分証を見せて頂けますか。」

そう言われ、男はズボンのポケモンから財布と取り出すと、免許証を取り出した。

「あぁ、はいはい。これです、どうぞ」

男から身分証を受け取ったジョーイは、そのまま側にあった機械を使って、身分証を読み取った。

「私、仕事は商社マンでしてね。今、休暇でハルタス地方に来ていまして、森でキャンプをしていたら、野生のポケモンに取られてしまったんですよ。本当に困ってしまって」

そう男が口で説明していると、身分証を読み取っていた機械の画面に、クリアと表示された。それを見て、ジョーイは男に身分証を返却して、話した。

「分かりました。それでは、少々お待ち下さい」

「はい」

「貴方達、ちょっと」

ジョーイは、サトシ達を呼んでタマゴのある診察室へと入っていた。ジョーイに、続いてサトシとマナオは付いて行ったのだが、ヒョウリはなぜか行かず、その場に残った。彼は、男の顔や手と見て観察していたのだ。そして、そのまま男の足元を見て、何かに気付いた。

「・・・」

診察室に入ったジョーイは、検査器のカプセルを開けて、中のタマゴを取り出す準備に入った。

「そういう訳でだから、タマゴは持ち主に返すわね」

ジョーイは、後ろの二人にそう告げる。

「はい、分かってます」

サトシは、そう返事すると隣で黙って俯いているマナオを見た。

「・・・マナオ」

「持ち主が、見つかって・・・良かったですね」

「・・・うん」

タマゴは、安全の為にとジョーイが用意した専用ケースに収納されると、受付で待っているヤオノの元へ運ばれた。

「こちらのタマゴでお間違いないですね」

ジョーイが、ケースを持ち上げて見せた。

「は、はい。それです。それ」

「こちらに居る彼ら三人が、このタマゴを届けてくれたんですよ。それも野生のポケモンに襲われていたところを、助け出して」

ジョーイがサトシ達へ手を向けて、そう説明する。それを聞いて、男は感謝した。

「そ、そうでしたか。いやぁ、ありがとうございます」

「いいえ。俺たち、偶々通りかかっただけで」

サトシは、そう答えるが、マナオは無言のままだった。

「・・・」

「それでは、こちらを」

ジョーイは、タマゴが入ったケースを、ヤオノへ手渡した。

「それでは、ありがとうございました」

男は、再度礼を言ってから、タマゴを大事に抱えて外へ出た。そのまま男は、外に止めていたジープに乗り込み、走って去った。マナオとサトシは、出入り口のところまで、去っていくジープを、見えなくなる最後まで見届けた。

「師匠・・・これで、良かったですよね?」

マナオは、隣に居るサトシへそう聞いた。

「・・・そうだな」

サトシは、マナオが寂しい顔をしているのに気付いて、そう答えた。その二人の背後から、ヒョウリが近づいて来て、話しかける。

「よし。色々あったが、昼飯にしようか」

「そ、そうだな。飯にしようぜ、マナオ。飯を食えば、元気になるさ」

「・・・はい」

彼らは、ポケモンセンターにある食堂へ向かって行く。すると、マナオだけ立ち止まった。

「ん?」

それに気付いた二人も立ち止まり、マナオへ振り返る。彼女は、黙ったまま下を見ていた。それを見て、ヒョウリとサトシは話す。

「もしかして、あのタマゴにそこまで愛着が湧いていたのか?出会って、2時間程だって言うのに」

「マナオ、俺も気持ちは分かるよ。少しだけとはいえ、出会ったポケモンやタマゴと別れて、寂しくもなるのはさぁ。俺も、今まで何度も経験がある。けど、あのタマゴは、あの男の人の大切なタマゴなんだ。だから」

「胸騒ぎがするんです」

マナオは、右手で自分の胸を押さえて、そう答えた。

「え?」

「・・・また、声が聞こえるのか?」

ヒョウリは、そう問う。

「いえ。ただの思い過ごしかもしれないです。ただ、胸の中でざわめきみたいなのが、消えないんです。あのタマゴが、あの人の元へ行ってから、ずっと」

「「・・・」」

「それに・・・ちゃんと、お別れが言えなかった」

彼女の両目に、僅かに水の粒が溢れていた。その粒は、重みでそのまま地面へ落ち、2つの小さな水跡を作った。そうしていると、第一声にサトシが言葉を開く。

「なら、追いかけよう」

「え?」

マナオは、顔を上げてサトシを見る。

「お別れが言いたいなら、ちゃんと言おう」

「・・・」

「出会って、全然短いけど。マナオが、気付いて体を張って守ったんだ。ちゃんと、お別れをしないと」

「ピカピカ、ピカチュ」

「・・・師匠、ピカチュウ」

「さぁ、追いかけよう。まだ、間に合うはずだ」

サトシは、正面の道へ走り、周りを見た。

「えーと。あの人、どっちの道へ行ったんだっけ?」

「たく。西の方、お前から見て、左側だ」

ヒョウリも道の方へ行き、サトシに教えると、後ろに佇むマナオを呼ぶ。

「おい。追いかけたいなら、さっさと行くぞ」

「マナオ、早く来いよ」

「は、はい」

マナオも二人の元へ来た。

「よし。あのジープが、西へ向かった。普通に同じ道を追っても追いつかないから、近道するぞ」

そうして、サトシ達はスズホウタウンから出て、タマゴを持ち帰ったヤオノが乗るジープを、追いかけた。町を出てから10分が経過した頃。

「ハッ、ハッ、ハッ。おい、ヒョウリ」

「なんだ」

「本当にこっちでいいのか?」

サトシ達は、普通に人が歩く道でなく、木々で生い茂る森の中を走っていた。

「あぁ、あのジームは西へ走っていた。なら、この森の中を突き抜けるのが一番速い。この先の道は、くねくね道だからな。こっちが真っ直ぐ森の中を進んでいる間、向こうは倍以上の距離を走らないといけない」

「ハッ、ハッ、ハッ」

「マナオ、大丈夫か」

「は、はい、師匠。大丈夫、です」

マナオは、息を切らせながら、必死に走っていた。

「二人とも、俺にしっかり着いてこい。この辺、危険な崖もあるからな。ハグレたら、前の時みたいになるぞ」

「分かってる」

「は、はい」

「それと、気をつけろよ」

「何を?」

「あの男にだ」

「え?」

「多分、面倒事にはなると思う」

「「?」」

 

 

サトシ達が、向かった先の森の中、ヒョウリの言う通りくねくねと曲がった道が続いていた。その道の途中で、ヤオノが乗っていたジープが、路肩で立ち往生をしていた。

「チッ。パンクしてやがる」

ヤオノは、ジープから降りて後方右側のタイヤを見て、そう言った。

「くそ、予備と交換しないと」

男は、ジープの後部に取り付けてあるスペアタイヤの取り外し、タイヤ交換の作業を始めた。

「ヤオノさん!」

すると、後ろから自分の名前を呼ばれ、作業の手を止めた。

「ん?」

後ろを振り返ると、少し行った森の中から、3人の人間が飛び出して、こちらへ向かって来た。ヤオノは、現れた3人の顔を確認して、気付いた。

「・・・あれ。君たちは、さっきの」

「は、はい。さっきのポケモンセンターで会った」

サトシ達は、漸くヤオノの元へ辿り着くことが出来たのだ。3人は、側まで近づき、立ち止まった。マナオは、息を激しく息切れをし、サトシも軽く疲れたのか、両手を膝に付いた。ヒョウリは、額に出来た汗を拭って、落ち着いて呼吸を整える。そんな3人を見て、ヤオノは事情を聞いてきた。

「どうしたんだい?」

その質問に、マナオが答える。

「あ、あの、お願いがあるんです」

「・・・何です?」

「さっきのタマゴを・・・お別れを言わせて下さい」

「お、お別れ?」

「はい」

「実は、森の中でタマゴの事を気付いたのは、マナオなんです」

サトシが、ヤオノへ説明する。

「ほお」

「それで、タマゴを襲ってきたグラエナから、身を挺して守って、その」

「その、私、タマゴが凄く気になって、どうしてもお別れを言いたいんです。お願いします」

マナオは、ヤオノへ頭を下げてお願いをした。

「・・・悪いが、無理だ」

「え」

「そんな」

「すまんな」

ヤオノは、そう言ってタイヤの交換作業を行った。

「ちょっと、だけでいいんです」

「お願いします」

「駄目と言ったろ。帰りなさい」

「あの、お願いします。別れを言うだけ」

マナオが、近寄ってヤオノにお願いをする。

「えぇい、邪魔だ」

「きゃあ」

ヤオノは、側に来たマナオを片手で突き飛ばした。そのままマナオは、地面へ尻もちを着く。

「マナオ!」

サトシは、心配して彼女の元へ寄り添う。マナオを突き飛ばした事に、サトシは少しだけ怒った表情をして、ヤオノへ文句を言う。

「いくら何でも酷いじゃないですか」

「ふん。邪魔になったから、どかしたんだ。それともお前ら、俺からタマゴを奪う気じゃないだろうな」

「そんな事しません」

「フン、どうだか。最近のガキは、大人に平気で嘘を吐くからな」

「ッ」

次第に、ヤオノの態度や言葉遣いが、ポケモンセンターで会った時に比べて、失礼で横柄になっていった。そんなヤオノに、サトシとマナオは、怪訝に思ったが、実際自分たちがお願いをする立場である事を理解して、それ以上言い出すことが出来なかった。

「もう・・・諦めましょう」

遂に、マナオが諦めてしまった。

「マナオ」

「そうかい。なら、さっさと消えてくれ」

そう言ってヤオノは、タイヤの交換作業を再び始めた。

「なっ!」

「行きましょう、師匠」

「・・・ッ」

そうやって、悔しさを我慢するサトシと諦めたマナオはヤオノから離れて、この場を去ろうとした時だった。

「なぁ、ヤオノさん」

突然、ヒョウリがヤオノへ話しかけた。その事に、二人はヒョウリを見る。

「「!」」

「あぁ?なんだ?お前も俺に用があるのか?」

ヤオノは、話しかけたヒョウリを睨んだ。

「ヒョウリさん。もう、いいで」

マナオは、ヒョウリへ諦めた事を告げようとしたのだが。

「貴方・・・ポケモンハンターですよね?」

彼のその発言で、マナオは言葉を止め、その場の全員が沈黙した。

「「「・・・」」」

十数秒の時間沈黙が続くと、ヤオノが口を開き出した。だが、いきなり自分をポケモンハンターなのかと聞かれたヤオノは、顔色が少し青くなった上、焦りながら話し始めた。

「な、何を言ってるんだ、お前は!私は、ただの旅行者だ。し、仕事は、商社マンだ。一体、何を思って、そんな事を」

ヤオノが必死に反論するのだが、それを無視して、ヒョウリは続けて話し始めた。

「そのジャケット、実に綺麗ですね。お高いでしょう?」

ヒョウリが言っているのは、脱いでジープの座席に掛かけていたジャケットを見た。

「・・・は?」

「「?」」

唐突に、ジャケットを褒めた上、その値段を問われたヤオノ。なぜ、そんな事を言い出しのかと、先程から発言同様に全く理解出来ずに、眉を顰めていた。だが、サトシとマナオも同じくして、彼の発言が理解出来ないでいた。

「なんだ、急に。べ、別に高くは、無いさ。綺麗なのは、商社マンとして普段から身だしなみをだねぇ」

「なるほど。それで、そのズボンも、凄く綺麗にアイロン掛けしてあるんですね。丸で、新品同然だ」

今度は、ヤオノの履いたズボンの方も褒めだした。

「そ、そうだとも。新品みたいに」

「じゃあ、なぜ。ブーツは、そんなに泥だらけなんです?」

「?!」

ヤオノやサトシ達全員は、ヤオノが履いているブーツを見た。ブーツは、ヒョウリの言う通りに靴先から踵まで、泥が凄く付いていた。

「さっき、貴方がポケモンセンターで歩く際、ズボンの裾が持ち上がって、足首の上まで見えました。そこも凄く泥が着いていた」

「それが、どう」

「恐らく、森の中や泥のある川沿い、泥濘などがある場所を歩いていて、付いたんだでしょう。ただし、その場合、ズボンの裾や服のどこかにも、汚れが付いていても、不思議じゃないんですよね」

「な、何が言いたいんだ」

「・・・つまり、貴方はポケモンセンターに来る前と、来た後で服装が違っているはずだと言ってるんです。丸で、前の格好だと見られると不味いかのように。それで、わざわざ新品の服を用意したとか」

「何を馬鹿な」

「ちなみに、そのブーツって、結構山岳やサバイバルでも使われる種類のものですよね。山岳や森林で活動するポケモンハンターも使う。旅行者の貴方が、なぜそれを?」

ヒョウリから話を聞いたヤオノは、次第に顔が険しくなっていた。

「ど、泥が付いていたから、なんだって。ブーツは、たまたまこれを買って履いていただけだ。これだけじゃあ、証拠にも」

「そうそう。もう1つありました」

「?」

「貴方が、ポケモンセンターから出る際、あなたのズボンにゴミが付いていたので、取ってあげましたよ」

そう言い、ヒョウリはポケットからハンカチを取り出し、畳んでいたハンカチを1度開くと、中に毛が付いていた。それを、彼はつまみ上げて、全員に見せる。

「この毛がね」

その毛を見た瞬間、ヤオノは何かに気付いたのか顔色を悪くした。

「これ、ジョーイさんに聞いたんですけど。グラエナの毛みたいですよ」

ヤマノは、額に脂汗が湧き出ながら、落ち着かない素振りを見せる。そして、サトシとマナオは、グラエナという名前を聞いて、タマゴを見つけた時の事を思い出す。

「グラエナって」

「もしかして」

「それと、その腕。結構、傷だらけですね。丸で、ポケモンにやられた跡みたいだ」

ヤオノは、自分の両腕を指摘されて、咄嗟に腕を隠すと、言い訳をした。

「これは、違う。偶々、森の中で、枝でだな」

「俺にも、あるんですよ。幼い頃、野生のポケモンに襲われて、ほら」

ヒョウリが自分の袖を捲り上げて、自分の右腕を見せた。

「どんな枝で、そんな傷が出来るんです?」

「・・・」

答えないヤオノに、ヒョウリはドスの利いた声で、再度問いかけた。

「もう一度、聞く。お前、ポケモンハンターだろ」

「・・・」

そうしている間、黙秘するヤマノから、少しだけ離れたサトシとマナオ。

「「・・・」」

「ピカァ」

サトシとマナオ、ピカチュウは、ヒョウリの話を聞いた結果、既にヤオノを敵と認識したのか、睨んでいた。周りから敵視されたヤオノは、ずっと黙ったままだったが、ふと空を見上げた。

「・・・ククク」

ヤオノは、ただ黙って空を見ていただけだったが、途中から笑いはじめた。

「「「!」」」

男が笑い始めた事へ、奇妙に感じた三人少しだけ引いていたが、それも笑い声と共に収まった。男は、再びサトシ達へ向き直ると、ヒョウリを睨みつけて、口を開く。

「貴様みたいな」

ヤオノは、自分の両手を背中に回しながら、喋る。

「目と勘の良いガキは、大っ嫌いだ!」

男は、隠して持っていたモンスターボール6つを取り出して、投げた。

「行け、グラエナ共。こいつらを片付けろ!」

ボールからは、6匹のグラエナが出てきて、サトシ達3人にそれぞれ一体ずつが立ち塞がった。サトシ達は、出てきたグラエナ達が、タマゴを襲っていた時の奴らとその仲間だと、すぐに分かった。

「行くぞピカチュウ」

「ピカッ!」

「行って、カラカラ」

「カラァ!」

「行け、ルカリオ」

「ファル!」

三人は、すぐに自分のポケモンを出し、戦闘態勢を取った。相手は、グラエナ6匹で一人に2匹が相手になっている。

「マナオ、気をつけろ。今度は2体同時に相手だ」

サトシは、隣にいたマナオへ注意を促す。

「は、はい」

一方で、ヤオノは遂に本性を現してから、サトシ達を威嚇する。

「小賢しいガキ共がぁ。お前らを倒して、そのポケモンも売ってやる!」

悪党らしい台詞を吐き捨てるヤオノ。それに対して、ヒョウリは煽り台詞で返すと同時に、先制攻撃を行った。

「やってみろよ。ルカリオ、はどうだん」

「ファル!」

ヒョウリの後に、サトシとマナオも続いた。

「ピカチュウ、アイアンテール」

「ピカ!」

「カラカラ、ボーンラッシュ」

「カラ!」

それから3対6のバトルが始まった。サトシ達は、自分のポケモンに次々と指示を出してバトルをして、ポケモンをより効率的戦わせているのだが、ヤオノは一向に行わなかった。そのせいか、数で有利だったもののポケモン自身がバトルすることで、連携や練度が悪くなり、徐々に押されていた。元々、ヤオノはポケモンバトルが得意の出なくポケモンは、ハンターとしての仕事道具として使っていた。時に人間であるトレーナーとそのポケモンを相手にすることがあったが、この様に数で押して乗り切り、不意を突くことが殆どだった。

(くそぉ。一度、こいつらにやられている以上、勝機はないか。なら、隙を見て)

男は頭の中でそう考えていた。はじめから、まともに戦う気も勝つ気もなかったのだ。サトシ達の目を見張りながら、ゆっくりとジープへ近づくと、横目で後部座席を見る。そこには、隠してあったタマゴのケースがあり、男はバレないように手をやって、グリップをそっと握る。

(よし、あとは)

男は、自分のグラエナやサトシ達とそのポケモンへと目をやって、タイミングを探った。

「ピカチュウ、10まんボルト」

「ピィカァチューーー!」

「グァァァ」

ピカチュウの(10まんボルト)を食らい、倒れる1匹のグラエナ。

「よし、ハッ!ピカチュウ、左だ!」

「ピッ!」

先程とは、別のグラエナがピカチュウの左脇から迫っていた。だが、様々なバトル経験のあるピカチュウは、すぐさま対応をした。グラエナが(かみつく)で、迫ってきた為、ピカチュウは尻尾で思いっきり地面を叩いた。その弾みで、ピカチュウの体は一気に持ち上がり、(かみつき)をするグラエナの上へと移動して、躱すことが出来た。

「!」

それに驚く、グラエナだが既に体は、かみつきと前への移動へと動いていた事で、対応が出来ない。そして、ピカチュウは宙を飛んでいる間に、次のわざを準備として尻尾へ力を込めた。

「エレキネット!」

サトシがそう指示をするが、ピカチュウにはそれが予想出来ていた。すぐさま、尻尾に黄色い電撃の球体を作り出し、真下に居るグラエナに目掛けて、電気の網を放つ。(エレキネット)は、見事にグラエナに当たり、動きを封じた。

(マナオとヒョウリは?)

サトシは、他の二人の様子を見た。

「カラカラ、ボーンラッシュ!」

「カラァ!」

カラカラの(ボーンラッシュ)の骨が、グラエナの顔に直撃し、そのまま薙ぎ倒す。だが、もう一匹のグラエナがカラカラの背後へ回っていて、(たいあたり)を仕掛けた。直撃したカラカラは、そのまま地面を転がっていった。

「あっ」

続いて、グラエナは得意な(かみつき)で倒れているカラカラへ攻撃を繰り出そうとするのだが、カラカラはそのまま起き上がれないでいた。そんなピンチな状況で、横から助け舟が来た。

「ピカチュウ、10まんボルト!」

「ガッ!」

カラカラに襲いかかったグラエナは、横からの攻撃に気づき、すぐさま攻撃を中断して、電撃を回避した。

「師匠、すいません」

「俺が、あいつを相手にするから、そっちを頼む」

マナオは、先程(ボーンラッシュ)でダメージを与えたはずのグラエナが起き上がり、再度攻撃を行おうとしている事に気付く。

「は、はい。カラカラ、起きて」

「カ、ラッ!」

返事をした彼女は、カラカラを起こす。隣のサトシとピカチュウは、電撃を躱したグラエナへと向かい合った。その様子を見ていたヤオノは、次にこの様な状況を作り出し、自分の正体を暴いた、気に入らない男(ヒョウリ)へと目を向けた。

「あ、あれ」

だが、そこにはヒョウリのポケモンのルカリオとグラエナ2匹しか居なかった。

「あいつ、どこに」

周りを見渡して、ヒョウリを探す。だが、どこにも見当たらなかった。

「おい」

背後のジープから声がした。背後を振り返ると、そこにはジープの運転席側にヒョウリが居た。

「なっ、いつの間に」

ヤオノに気付いて貰うと、ヒョウリは運転席から離れていき、ヤオノへ近づく。

「お前の目を盗んで近づく事位、余裕だよ。まぁ、お前が隙だらけなのもあるんだがな」

すると、右手で何か光るものを持っているのに、男は気付く。ジープの鍵だ。背後に回ったついでに、ヒョウリは、ジープからキーを抜いていた。

「タイヤは使えないが、念の為さ」

「そうかい、いいさ。ところで、俺のグラエナの相手をしないでいいのか?2対1だぞ?」

「あぁ、俺のルカリオなら、大丈夫だ」

ルカリオは、ヒョウリの指示を受けていない状態で、2匹のグラエナを相手にしていた。通常、トレーナーのポケモンは野生のポケモン同様に、バトル時には自身の意思で動き、わざを出せるのだが、やはり長い時間ともに活動し、特訓を重ねることで、トレーナーの思考と周囲の状況確認、判断の元で、指示がされる事でよりポケモンの強さや練度は変わる。そのため、ルカリオは普段のヒョウリからの指示を受けていた時よりも勢いは無く、普段ならすぐに倒せる力を発揮できるのだが一度に2匹の相手をしている為、未だに決着を付けれていなかった。その状況を見たヤオノは、ヒョウリに向かって話す。

「どうやら、苦戦しているみたいだぞ」

「あいつは、トレーナーの指示もないグラエナ2匹程度なら、あいつ自身で勝てる。今まで、そういう訓練をさせてきた。それに、お前が隙を見て、逃げようとするのは分かっていたから、俺一人で近づいたんだ。お前なら、平気で自分のポケモンを囮に使い捨てるだろうからな」

「あぁ、そうさ。なんだ酷いとか文句でも言うのか?」

「いや、悪党としては、利口といえば利口なやり方だろうさ。だが」

「?」

「三流以下のやり方だがな。俺なら、ポケモンで蹴散らしてからゆっくり逃げるさ」

「・・・ハ。そうかいよ、裏の人間でもない一般人がよく吠えるわ。で?俺の側まで、近づいたのはいいが、どうするんだ?」

ヤオノは、そう言って左手に持つケースとは反対の右手で背中に手を回す。今度は、モンスターボールでなく黒色で金属製の棒状のようなものを出してきた。男は、右手を軽く振ると、その棒は伸びて、長さが2倍近くになった。次に、右手の親指でグリップ部分にあるボタンを押した。すると、棒の先から小さな火花が散った。

「やるなら、やってもいいぞ。かかって来る度胸があるならな」

ヤオノが取り出したのは、電気警棒だった。これは、男がポケモンを捕獲や大人しくさせる為に使っていたもので、人間相手にも使える代物。一般的には、護身用に使われる事が多いが、所持や使用には許可を取る必要だったりもする。ヤオノは、これをポケモン用やいざっという時の為に、常に隠し持っていた。

「さぁ、来いよ。ビビってるのか」

「いや。始める前に、確認したい事がある」

「ん?なんだ?」

「なぜ、あのタマゴを、あんな森の中に置いていたんだ?」

ヒョウリは、ずっと疑問に思っていた。なぜ、あのタマゴが、あの何もない森の中の原っぱで置かれていたか。なぜ、奴のグラエナが襲ってきたのか。そうヒョウリに問われたヤオノは、さっきまで硬い表情だったが、少しだけ緩めて答える。

「あぁ?あれか。俺が、タマゴを回収した後で、小便している間に、野生のエイパムに盗られてしまってなぁ。ジープで追いかけていたが、途中木だらけの森に入られたから、グラエナ達に追わせたのさ」

「なるほど」

「その件で、俺はお前らには感謝しているんだぜ」

「?」

「最初に、お前達がタマゴを助けた際、俺のグラエナ達を倒したろ。あいつらには、タマゴを盗んだポケモンを攻撃しろ、追跡しろとしか命じなかった。そのせいで、有ろう事か肝心なタマゴまだあいつらが攻撃しやがった。危うく、ブツがパーだったぜ。日頃、俺がポケモンを襲わせ過ぎたのが、原因なのかもな」

ヤオノは、ニヤニヤしながら、そう言う。

「・・・そうかよ」

ヒョウリは、そう答えるとヤオノを睨み、戦うためか体を構えた。それに合わせて、ヤオノを構える。

「・・・」

「・・・」

互いに黙ってから、動かない二人。だが、ヤオノの方は、我慢できずに先に動き出した。

「チッ。来ないなら、こっちから行くぞぉ!」

ヤオノは、ヒョウリに向かって走り出し、彼の上半身目掛けて、電気警棒を向けた。同時に、スイッチを入れたことで、警棒の先端部分が少し電撃で光り出し、その恐さを見せつける。

(どうだ、怖いだろ。これを当てて動けなくなった後、もっと痛い目に合わせてやるからな。そして、人質に他の二人を)

そう頭の中で、考えていたヤオノは、そのまま躊躇いなく右腕を伸ばす。電気警棒とヒョウリの間が、あと10cmもない所まで来た瞬間。ヒョウリは、一気に時計回りに体を回転させると、その回転の勢いてを使い、右足の回し蹴りを繰り出した。右足は、見事に男の右手に命中し、持っていた警棒は遠くへ蹴り飛ばされてしまう。

「ガッ」

ヤオノは、右手を蹴られた痛みで、声を漏らす。

「このガキィ!」

男は、そのまま右手を強く握りしめると、そのままヒョウリの顔へ突き出していく。だが、ヒョウリは、男の拳を綺麗に躱して、掴みかかって男を倒した。

「くそぉ、離せ!ガキ」

そして、自分のポケモンへ集中していたサトシ達は、ヒョウリとヤオノが争っているのに、気付いた。

「ヒョウリ!」

「ヒョウリさん」

心配そうに二人は、彼の名前を呼ぶと、ヒョウリは振り返らずに、答える。

「大丈夫だ。お前らは、自分のバトルに集中しろ」

そのままヒョウリは、ヤオノと互いに取っ組み合いとなった。マウントを取られたヤオノは、右手で押し退けようとするのだが、ヒョウリの右手がそれを防ぐ。その為、左手で持っていたケースで、ヒョウリを殴ろうとした。ヒョウリは、咄嗟に腕で防いだが、その弾みで男の手はケースの持ち手を離してしまって、そのままケースは宙を飛んでしまった。

「しまった」

「ッ」

その事に焦るヤオノとヒョウリだが。

「あっ」

「なっ」

マナオとサトシも、それに気付いた。

すると、二人はすぐさまケースが落下する地点を見て、そこへ走り出した。

(ま、間に合わない)

マナオは、必死に走るのだが、彼女の足よりケースが落下する方が明らかに早く、距離も少し遠かった。間もなく、地面に落下しようとした時。マナオより速く走るサトシが、地面をスライディングして、両手でギリギリのところをキャッチする。

「いてぇ」

「し、師匠」

マナオも急いで近づき、心配する。

「大丈夫ですか?」

「あぁ」

それに返事をするサトシだが、彼らにピカチュウが大声で呼んだ。

「ピカピィ」

「え?」

「カラァァァ」

「あぁ」

先程までピカチュウとカラカラで、3匹のグラエナと戦っていたのだが、タマゴに気を取られたマナオの一瞬の指示が出されなかった隙に、グラエナの攻撃を見事受けてしまい、カラカラは、突き飛ばされてしまった。

「カラカラ!」

マナオは、すぐさまカラカラの元に寄るが、傷だらけでダメージを負い過ぎたのか、立つ力がもう無かった。

「ごめんね。戻って」

マナオは、カラカラをボールに戻す。

「あいつ、さっきエレキネットで封じた奴か。こうなったら、マナオ」

「はい」

「これを持って、町へ逃げるんだ」

「え?」

サトシからタマゴの入ったケースを渡された上、逃げる様に言われる。

「俺とピカチュウで、グラエナの相手をする。お前は、さっきのポケモンセンターに行くんだ」

「ですが、師匠達を置いていくなんて」

「いいから、早く」

「・・・はい」

マナオは、ケースを持ってすぐさまスズホウタウンへ走って行った。

「小娘!それを、さっさと返しやがれ」

その事に気付いたヤオノは、ヒョウリと掴み合いをしていた。

「よし、マナオ。走れ!」

ヒョウリが、そう叫んだ。

「くそ、こうなったら」

ヤオノは、ヒョウリから力いっぱい振り払い、マナオを追いかけようとするが、ヒョウリに前を防がれる。

「行かせる訳ないだろ。おっさん」

「ふん、なら」

ヤオノは、追跡を諦めると空を見上げた。そして、自分の右手の親指と人差し指で輪っか状の形を作ると、自分の口の両端に入れた。

「ヒュ~ッ!」

空へ目掛けて口笛を吹くと、その音は空まで、鳴り響いた。

(なんだ?)

その行動に、不審がるヒョウリは、男と同じように空を見た。空は、太陽の光で眩しくて、しっかり見る事が出来ないが、僅かに小さい影が見えた。

「ッ」

何かに気付いたヒョウリは、走って行くマナオへ向いて、大声を出した。

「マナオ!上だぁ!」

「へ?」

マナオは、すぐに反応して立ち止まると、空を見上げた。空から一匹のポケモンがマナオ目掛けて急降下していたのだ。彼女の目には、僅かに何かが飛んでいる程度しか分からないでいたが、その影は次第に形がハッキリと見え始め、マナオにも分かった。

(オニドリルだ)

オニドリルは、そのままマナオの正面側から向かって急降下する。

「やばっ」

彼女は、すぐに走り出して、ヒョウリ達の方へ戻っていった。だが、オニドリルはそのまま彼女を背後から襲おうと一気に加速して、近づく。

そのまま、彼女の背後から(たいあたり)をしようと突っ込んできた。

「!」

彼女は、背後から近づくオニドリルを、間一髪でわざと体を倒して、地面へ腹這いとなった。お陰で、オニドリルの攻撃をギリギリで躱せた。

「一体、何?野生?」

彼女は、上空を飛ぶオニドリルを睨んで、そう文句を言う。

「あのオニドリルは、お前のか?」

「あぁ、俺様のポケモンだ」

ヒョウリの質問に答えるヤオノ。ヤオノは、グラエナ6匹に加えて、オニドリルも所有していた。

一般のポケモントレーナーが所持しているポケモンは6体までなのが原則。これは、ポケモン自然保護法でも6匹と決められている。公式のポケモンリーグでも同様に、トレーナー1人が所持や持ち込めるポケモンは6体までとなっている。ただし、何らかの諸事情や業務上などの特殊なケースで7匹以上が必要な場合、ポケモン協会や関連団体から正式に許可された者は、7匹以上所持出来る。ただし、それは飽く迄一般的ルールでの話。無論、黙って持っている者、ヤオノように非合法的に敢えて持つ者もいる。

「さて、そういう訳だ」

ヤオノは、対峙するヒョウリから上空のオニドリルへと顔を上げると。

「行け、あの小娘を捕まえろ!」

大声でオニドリルへそう指示をした。

「森へ逃げろ!マナオ」

ヒョウリも、すぐさまマナオへそう指示をした。

「は、はい」

マナオは、ケースを抱えて森へと走り出し、オニドリルは空から森に入った彼女を追った。

その様子をヒョウリは見ていた隙が出来てしまった。それをヤオノは見逃さなかった。男は、腰に隠していたものを地面に投げつけた。投げつけたものは、3個程のゴルフボールサイズの黒い球体で、それが地面にぶつかった瞬間、破裂して中から大量の黒い煙を放った。

「仕舞った。煙幕か」

煙幕が晴れると、その場には男は居なかった。

「くそ」

周りを見たら既に男の姿は無かった。恐らく、マナオを追ったのだろう。ヒョウリは、続いてサトシの方を見た。まだ2体のグラエナを相手に戦いを繰り広げていた。他のグラエナは、ピカチュウによって、戦闘不能に気を失っていたのだが、マナオが相手にしたいた分も引き受けた上、一度に複数のグラエナを相手にするのに、やはり手こずっていた。

「くそ、このグラエナ。さっきから前に出ては退いてまともに戦えない」

「ピカァ」

どうやら、今のグラエナ達は時間稼ぎを目的とした戦い方をしているようだ。このバトルで勝つのは難しいと判断し、ポケモンハンターであるヤオノに様々な調教されていたのだろう。上手く、強いポケモンへ挑発するが、同時に攻撃を受けないようにすぐさま下がる事を繰り返し、もう一体のグラエナがそれを交代して行う。日頃、一対一で正式なポケモンバトルを続けてきたサトシとピカチュウには、少し苦手だった。

そんな彼らを見たヒョウリは、腰からもう1つのモンスターボールを出した。

「行け、ラグラージ」

「ラージ」

ヒョウリは、ラグラージを出した。

「サトシ!」

「!」

「俺が、こいつらを食い止める。マナオを追え!あの男とオニドリルが追ってる」

ヒョウリは、サトシにそう言って、残りのグラエナ達をラグラージとルカリオでまとめて相手にする事に決めた。

「・・・分かった。行くぞ」

「ピカ!」

サトシとピカチュウは、ヤオノを追って森の中へ入って行く。それをグラエナ達は、追いかけて妨害しようとするが、ヒョウリはラグラージとルカリオを使ってグラエナ4体の道を阻んだ。

「さて。お利口な君達は、俺らが相手になるよ」

 

 

森に入ったマナオは、必死に走った。慌てて森に入った彼女は、ケースをしっかりと抱えて、今はどの方角を見ているか分からないまま、前を見て走った。

「ハァ、ハァ、ハァ」

徐々に息が上がり、そろそろ走るスタミナの限界が近かった。それでも彼女は、追ってくるオニドリルから逃げようと走った。サトシに言われたポケモンセンターへ戻ろうと考えていたが、方向が分からない以上、我武者羅にただあの場から遠ざかろうと、一直線に走る。

そんな彼女を背後から勢い良く何かが突っ込んできた。それに気付かなかった彼女は、背中を強く強打した。

「がっ」

そのまま、前へ倒れ込むが、咄嗟にケースを抱きしめて体を撚ると、背中を地面へ向けてぶつける。

「くっ、いたぁ」

体に受けた痛みを堪えようとすると、先程ぶつかって来た相手を見る。

追いかけていたオニドリルだ。上から彼女を睨みつけ、翼を動かして空中を静止する。

「見つけたぞ。小娘」

「はっ」

男の声が聞こえると、そちらの方へ顔を向ける。そこには、ヤオノが居た。

「どうして」

マナオは、男の顔を見て驚く。

「ふん。隙を見て、あのガキ共から逃げたのさ。今頃、俺のグラエナ達に阻まれているだろうな。さぁ、邪魔は入らないぞ」

そう言いながら、男は倒れているマナオへ近づく。

「さぁ、返して貰」

「いやよ」

マナオは、男の言葉を最後まで聞かずに、すぐさま拒否した。

「・・・これだから聞き分けの悪いガキは・・・オニドリル」

「ギャー」

オニドリルは、再びマナオへ襲いかかる。

「ふきとばし」

ヤオノがオニドリルへ支持を出すと、オニドリルは激しく翼を羽ばたかせ、強風を起こす。

「きゃぁぁぁ」

マナオは、吹き飛ばされそうになったが、身を丸めて、必死に地面にしがみつこうとする。だが、その風の強さにマナオは、そのまま吹き飛ばされ、抱き抱えていたケースが腕からすり抜けてしまった。

「あっ」

ケースは、そのまま飛ばされ、地面の上を転がって行ってしまう。それをヤオノは、走って行き、ケースの取手を掴み持ち上げる。

「じゃあな」

マナオへそう言って、男はその場からすぐさま立ち去って行った。

「ま、待ちなさい」

マナオも男を追おうとすぐさま立ち上がろうとするが、先程のオニドリルがマナオを再び襲いかかった。

「ハッ」

彼女は、すぐに動こうとするが、体が思うように動けなかった。先程のオニドリルから受けたダメージと走って来た疲れが、彼女の体を鈍らせる。

「くっ」

自分の手持ちのカラカラは既に戦闘不能状態で、体は動かないと自覚した彼女は、もう対処が出来ないと思い、覚悟を決めて目を瞑る。あと2m程で、オニドリルの鋭い嘴が彼女へ届く瞬間。1つの電撃がオニドリルを襲う。

「ギャァァァァ」

電撃を受けたオニドリルは、大声を上げながら、全身に強い痛みと筋肉が硬直し、そのまま黒焦げになって、地面へ落下した。

「え?」

マナオは、恐る恐る目を開けて、目の前で目を回して戦闘不能になったオニドリルに驚く。

「大丈夫か」

「ピピカ」

そこに、サトシとピカチュウがやって来た。

「し、師匠」

「大丈夫か」

「は、はい。いたっ」

マナオは、起き上がろうとすると体に強い痛みが走った。

「おい、マナオ」

「大丈夫です。それより、タマゴが」

「あいつにか」

「はい。あっちへ逃げました」

マナオは、ヤオノが逃げて行った方へ、指を差した。

「よし」

「俺が取り返すから。マナオは、ここで休むんだ」

「え、けど」

「行くぞ、ピカチュウ」

「ピカ!」

そう言って、サトシとピカチュウはマナオをその場に残して、ヤオノを追って行った。

「・・・」

マナオは、その場に残って、痛みのある身体を休めた。

(私、このまま、ここで休んでいて、良いんだろうか)

彼女は、そう心の中で考えていると、あの時の言葉を思い出した。

【助けて】

頭に過った『助けて』と言う言葉。あのポケモンのタマゴから最初に話し掛けられた言葉。自分以外のサトシやヒョウリ、ピカチュウ達には聞こえず、なぜか自分だけに聞こえた助けの声。一体、なぜ自分にしか聞こえないのか、なぜ自分が助けを求められたのか、まだ分からない。正直、その事が怖かったのもあった。全く関係もない赤の他人である自分だけがタマゴに助けを求められ、タマゴが危機的状況だった事で、助けた。あとは、自身の良心とも言うべきか、あのタマゴを助けたいという気持ちから、見捨てる事が出来なかった。

(私より、師匠とピカチュウの方が強いし。それに、カラカラはもう戦えない。だから、後は師匠達に・・・)

彼女は、そう自分に言い聞かせる。これ以上、無理をしたら本当に大怪我をするかもしれない。それに、下手に自分が助けようと動いた事で、より状況を悪くして、師匠達に迷惑が掛からないかと、卑屈になってしまった。元々、ネガティブ思考のある彼女は、サトシ達と出会い、まだ短期間といえ今日まで共に旅をすることで、その悪い面が徐々に解消されていった。だが、ここでまたぶり返しが起きた。

(トレーナーベストカップを、初参加で達成出来て、凄く嬉しかった。だから、私はやれば出来るって、駄目じゃないって自信が持てた。師匠達にも励まされ、一緒にする旅が楽しくて。だから以前みたいに、1人で嫌な事に抱え込む事が無くなったし。一緒にいると、自分もあの人達みたいに出来るんだと自信が出てくる。・・・けど、やっぱり私は1人じゃ何も出来ない。あの人達の足手まといになる。私・・・やっぱり、そうだったんだ)

心の中で、そう考え込んだ。

(ずっと私、このままなのかな・・・)

「嫌だ」

そう口ずさむと、マナオは再び立ち上がった。

「行かなくちゃ」

 

 

サトシとピカチュウは、ヤオノを追って森の中を走り、遂に男の背中が視界に入った。

「居た。待て!」

「ピカァ!」

その声が、ヤオノの耳にも届き振り返ると、そこにはサトシとピカチュウが追いかけて来た事に、漸く気付いた。

(あのガキは。あいつら、足止めに失敗したな。役立たずが)

「くそぉ」

ヤオノは、全力で走って逃げる。

(手持ちポケモンは全部出しちまったし。煙幕もねぇ)

「くそ、走り抜けるしかねぇのかよ」

そのまま追いかけっこを続けた。互いに、道が悪い森の中を必死に走る。サトシとピカチュウは、普段から走る事で体力があったが、男は年齢や車移動の影響もあり、体力が衰えていた。

「ハァ、ハァ。しつこい奴だなぁ!」

ヤオノは、徐々に疲れてきた足に、より力を込めて前へと走る。

そのまま、森の中での追いかけっこを続けていると、ヤオノが何かに気付き、素早く足を止めた。

「おっとと」

そのまま、前へ倒れそうになったが、慌てて後ろへ重心を向けて、倒れずに済んだ。そして、正面の下の方を見た。

そこは深い崖となっていた。危うく、ヤオノは崖へと落下する所だった。

「ふぅー、危ねぇ。てっ、進めねぇじゃねぇか」

これ以上先へは行けない事に悔しがっていると、背後からサトシ達が追いついた。

「そこまでだ」

「ピカピカ」

ヤオノへそう警告するサトシとピカチュウ。二人は、やっと追い詰めたと考えて、徐々に詰め寄り、距離を縮めていく。

「来るな!」

そんな二人に向かって、ヤオノは大声を上げた。

「「!」」

その声に、二人は足を止める。

「このタマゴを、ここから落とすぞ」

ヤオノは、タマゴの入ったケースを持つ腕を、目の前の崖へと伸ばした。

「なっ」

「ピカッ」

男は、ニヤリと笑い、そのタマゴを崖から落とそうとした。

「辞めろ!」

サトシは、慌てた声でヤオノの行動を止めようとする。その声に反応して、動きを止めるヤオノ。

「そんな事をしたら、タマゴが」

サトシが慌てた声でそう言うと、男は彼に向かって笑みを浮かべた。

「あぁ、分かっているさ。だから、言っているんだ。俺に、近づくなと」

男が、タマゴを人質にして逃げようとしている事に理解したサトシ。

「ッ。卑怯者」

「ふん、卑怯で結構さ。悪党に、卑怯は付き物だと親に教わなかったか?うん?」

「くっ」

「ピィカァ」

サトシとピカチュウは、悔しがりヤオノを睨む。

「どうした、お前ら。このタマゴが大事なんだろ。だったら、俺を追いかけるな。それと、タマゴを諦めな」

「・・・」

サトシは、そのまま言葉を返さずに黙った。すぐに答えを返す事が出来ないからだ。

「さぁ、選びな。俺を捕まえようとして、タマゴを落とされるのと。俺を逃して、タマゴを諦めるの。どっちか選べって言ってんだ。ガキ!」

ヤオノは、大声で怒鳴る。サトシは、悔しい気持ちを顔に出しながら、考えた。だが、答えは1つしかなかった。

「分かった。お前を、捕まえようとしない」

サトシの回答にヤオノは笑いながら言った。

「ククク。利口じゃないか」

そう言って、ヤオノは徐々に後ろをチラチラ見ながら、サトシ達の方を向きつつ、バックして行った。

「いいな、こっちへ来るなよ」

男は、右手にまだタマゴの入ったケースを持ち続け、いつでも側にある崖に落とせる体勢を維持しながら、サトシ達から距離を稼ごうと一歩一歩後ろへ足を動かす。1m、2m、3mと1mずつ距離を開けていく。

「ピカピ」

「あぁ、分かってる」

そんな状況にピカチュウは、サトシに注意を促すが、サトシもそれを理解はしている。しかし、それを打開する手段や機会が無い状況だった。

(このままじゃあ。タマゴも取られるし、こいつにも逃げられる。ちくしょう)

そう悔しい気持ちを必死に抑えながら、ヤオノに隙が出来ないかと必死に睨んでいる。

「さぁ、いい子。そのまま、じっとし」

ヤオノがサトシに注意しながら喋っていた途中で、横の森から1人の人間が男へ飛び掛かかった。

「!」

「ピカ!」

その事に、ヤオノを見ていたサトシとピカチュウがいち早く気付く。

「なっ、貴様ァ!」

ヤオノは、サトシ達よりワンテンポ遅れて、真横から来た人物に気付いた。気付いたのは、僅かに聞こえた草木の揺れる音と威圧感だった。男は、相手の顔見て、声を上げる。

「タマゴを返して!」

その正体は、マナオだった。彼女は、ヤオノに飛びつくと、すぐさまケースにも手を伸ばす。

「マナオ!」

「ピカ!」

それに合わせて、サトシ達も慌てて、ヤオノの方へ走って行く。

「えぇい、邪魔だ」

マナオを必死に振り払おうとヤオノは暴れる。それに対して、マナオは男の左手で頭を叩かれても、体を激しく揺らされて吹き飛ばされようとも、必死に抵抗して離れようとしない。

「絶対、離すもんか」

「くそぉ。こうなったら」

男は、苦渋の決断をしなかったが、最早それしかないとすぐさま決断と実行をした。

右手に持つタマゴの入ったケースを崖の方へと投げたのだ。

「あぁ」

「なっ」

「ピカッ」

マナオ、サトシ、ヒョウリは、その光景を見て声を上げる。

「・・・ッ」

一番最初に動いたのはマナオだった。男から手を離すと、すぐさま投げられたケースへと

走って行く。続けて、サトシとピカチュウも同様に、崖へ飛んでいくケースへと足を動かす。

投げられたケースは、そのまま空を舞いながら、上へ飛んでいったのだが、途中から下へ落下を始めて、放物線上に崖へと向かっていた。

ケースへ向かって走るマナオは、崖から先には足場が無いのは、百も承知だったのだが、迷わずギリギリの崖の淵から飛び跳ねて、ケースへと飛んだ。そして、見事に両手でケースを抱き込む事に成功した。

(やった・・・けど)

心の中で、ケースを無事に掴んだ事に安心したと同時に、次の問題への不安が押し寄せてきた。そのまま、マナオはケースを抱えた状態で、崖へと落下し始めたのだ。

「マナオ!」

それに対して、サトシは慌てて声を上げながら、彼女へ向かって走る。そして、彼も迷わずに崖から飛ぶと彼女の足を掴んだ。

(よし・・・けど)

サトシもマナオを掴んだのだが、次にどうすればいいか考えていなかった。

「ピカピ」

崖の所でピカチュウがサトシへ叫ぶが、何も出来ない。このまま、二人とケースは崖の下へ落下する運命でしかないのが、ここにいる全員が否定したくてもそう理解するしか無かった。二人は、予想通り崖の下へ勢いよく落下を始めた。

「ピカピ!」

「ピカチュウ!」

ピカチュウとサトシは、互いに顔を見て名前を叫ぶが、すぐさま互いの姿が視界から消えた。

崖へと落ちていく二人は、落下における真下からの強い風に煽られる。

「お、落ちるぅぅぅ!」

「し、し、ししょぉぉぉ!」

「!」

「し、死にたくありましぇぇぇ!」

「お、俺もだよぉぉぉ!」

二人は、落下まので僅かな時間にそう叫ぶのだが、状況は何も変わらなかった。ただ二人は引力によって、体が地面へ引かれて行く。このままでは、二人とも助からないだろう。過去に、様々な冒険で何度も痛い目に遭いながらも、無事だったサトシですら難しい。そんな二人が、地に直撃するまであと数秒という時だ。マナオが抱き抱えるタマゴが突然光を放ちはじめた。その光は、そのまま膨れるように側に居た二人を包み込んでいき、一瞬で彼らの姿が消えた。

「ピカピィ!」

その頃、落下したサトシ達を心配して、崖の下を覗いていたピカチュウは、必死にサトシの名を叫ぶ。それと同時に、先程まで二人が居た崖の上にあるピカチュウの側が発行を始めた。

「ピカ!」

その光に気付いたピカチュウは、慌てて振り向くと、その光が次第に弱まっていき、形がくっきり見えていき、正体を現した。

「・・・ピカ」

ピカチュウの目の前に現れたのは、二人の人間だった。その二人は、空中で静止状態で現れたが、光が完全に消えた瞬間。地面に落下した。

「いてぇ!」

「きゃっ!」

落下した事で、現れた二人はその衝撃のダメージを受けて、声を上げた。そのまま、二人は地面に倒れたが、ぶつけた所を擦りながら、ゆっくりと顔を上げた。

「いててぇ・・・あれ?」

「うぅぅぅ・・・え?」

現れたのは、崖に落ちていたはずのサトシとマナオだった。

「ここは・・・さっきの」

「・・・崖から・・・落ちたはず」

二人は、周囲を見て状況が理解出来ないでいた。

「ピ、ピカピ」

そうやって頭で混乱していたサトシにピカチュウが抱きついてきた。

「あ、ピカチュウ」

飛んできたピカチュウを抱きしめるサトシ。

「良かった。俺、無事だよ」

「ピカピカ」

「もう、お前と会えないと思ってたぁ」

「ピカァ~」

一方で、側にいたマナオは、自分が大事に抱き抱えているタマゴのケースを見た。

「タマゴは・・・無事だよね」

外観から見て、ケースに問題はなく。中を開けて見ると、タマゴにも目に見えるヒビは無かった。

「・・・良かった」

「マナオ。タマゴは大丈夫か?」

「はい。一応、大丈夫みたいです」

「良かった」

まだ、完全に安心は出来ないが、一安心をする彼女。彼らが、各々が無事である事を確認していると。側に居たヤオノが、度肝を抜かれていた。

「一体、何が」

さっき自分が崖へ投げたタマゴのケースを追いかけて落ちていった二人の子供が、何か光によって、この場に戻ってきた。彼もまた、理解出来ないでいた事で、固まっていたのだ。

「・・・て」

(そんな事考えている暇ない。今のうちだ)

ヤオノは、すぐに頭を切り替えると、サトシ達の隙を見て、その場から静かに離れていき、逃げていった。

「ピカ」

「あっ」

その事に気付いたサトシとピカチュウだが、すぐさま追うことは出来なかった。

(よし、追いかけないな。このまま森の中を)

ヤオノが、森の中へ逃げようと走っていると、その前からパッシュと何か乾いた音が響き、それと同時に前方から細い何かが素早く男に向かって飛んでいった。

「!」

ヤオノは、その音と物体に気付いたのだが、すぐさま体では反応出来ず。そのまま男の両腕と両足に、飛んできた何かがいきなりぶつかると、次の瞬間手足を動かせなくなってしまった。

「なっ」

走っている途中の体勢だった男は、バランスを崩してそのまま前へ倒れ込んでしまった。

「くぅ、一体何が」

倒れ込んだヤオノは、自分の体に何があったのか直接目で確認しようと、腕や足を見た。

「なんだ、これは。くそ、解けねぇ」

男の両腕と両足には、何かワイヤー状のものが何周にも絡まって拘束されていた。

「さて、ジ・エンドだ。おっさん」

次に、その声を耳にした男は、今の声の主であり、突然現れた奴である人物へと顔を上げる。

ヒョウリだった。

「ヒョウリ」

サトシもヒョウリの顔を見て、そう声を出した。

「やはり、貴様か。くそぉ」

ヤオノは、手足に絡み付いて拘束しているワイヤーの様なものを必死に取り払おうと動くのだが、中々外す事も切ることも出来ない。

「止めとけ止めとけ。ワイヤーで切って血が出るぞ。ワイヤーは、最新のナノ繊維で出来た代物だ。むしポケモンの糸やナノ担任の金属ワイヤーなどを練り合わせて出来てる。人間じゃあ千切るのは不可能だ」

そう言うヒョウリは、自分の左手に握られた物を男に見せる。それは、見たことも無い黒色の長い妙な形をした道具だった。

「くっ」

ヒョウリの説明を聞いて理解したのか、男は悔しい顔をしながら、諦めて大人しくなった。

「ヒョウリ。それ」

サトシが、ヒョウリの手に持つ物について質問した。

「あぁ。これか。これは、俺自家製のボーラシューターって奴だ。スイッチを押すと、この先からワイヤーが発射されて、標的に絡めて動きを封じたり、走れなくする射出式の拘束具さ。最近、警察でも使い始めみたいだが、それより」

そう説明しながら、手に持つその射出器を見せていたが、中断して二人に話かけた。

「お二人さん。無事だったか」

「あぁ」

「はい。タマゴも無事です」

「そうか」

「ヒョウリこそ、グラエナ達とのバトル。大丈夫だったのか?」

「あぁ。俺のルカリオとラグラージで全員ダウンさせた」

そうサトシへ教えると、ヒョウリはヤオノへと歩み寄る。

「さて、ここから俺の仕事だ」

「え?」

サトシは、今の仕事というヒョウリの言葉に理解が出来なかったが、この後の言動で理解する。

「おい」

「!」

ヒョウリは、拘束されて地面に倒れているヤオノに向かい、見下す目で話す。

「俺の質問全て、正直に答えろ。このタマゴは、何のポケモンのタマゴだ?」

ヒョウリは、男に睨みつけながら、尋問を始めた。ヒョウリに、質問をされるヤオノだが、目を逸らして、生返事ですぐさま答えた。

「ふん、さぁな。知らねぇ、ガァァァッ!」

ヤオノが、否定しようとした瞬間、男の足に激痛が走った。ヒョウリは、男の脛を靴の踵で、思いっきり踏みつけたのだ。

「や、辞めろ。いてぇぇぇ」

ヒョウリは、踵をグリグリと回しながら、体重をかけると、男は激しく悶絶する。

「おい。真面目に、俺の目を見て、正直に答えろ」

今度は、ドスの利いた声をしてヒョウリが再度問いただす。それに痛みに耐えようとするヤオノが慌てて、説明した。

「ほ、本当だ!本当に、知らないんだ!ただ・・・や、雇い主に頼まれたんだ。指定した場所にあるあのポケモンのタマゴを盗めって」

「誰に?」

「そ、それは・・・ガァッ!」

ヤオノが、答えるのに躊躇して、間を開けると。今度は、男の股間の部分に、ヒョウリは足を乗せた。

「もう一度、聞く。誰にだ?」

そう言いながら、彼は乗せた足へ徐々に、体重を掛けていく。

「・・・ヒョ、ヒョウリ」

サトシとマナオは、先程からヒョウリがする尋問の様子を見て、少し引いていた。すると、ヤオノは、慌てて叫びだし、ついに折れてしまった。

「わ、分かった!言う、言うから。頼む!止めてくれ!答えるから」

ヒョウリは、足へ掛ける体重を少しだけ軽くした。

「モ、モゾウという男だ」

「何者だ?」

「分からねぇ。う、嘘じゃねぇぞ。40歳位の細身の白髪の男だ。仕事は、ポケモンの売買とは言っていたが・・・恐らく違う」

「なぜ、違うと思う?」

「俺も、この道20年になる。同業者や色んな裏の人間を見てきたが、奴からは売人の臭いがしなかった。多分、裏バトルの人間だ」

「裏バトル?」

サトシは、ヤオノから耳慣れない単語を聞き、呟く。

「それ以上は知らねぇ。本当だ」

男は、質問された内容を全て話し終えると、ヒョウリは男から足を退かした。

「まぁ。・・・これ位で、いいだろう」

「そ、その人、どうするんです?」

後ろのマナオから、男についての質問をしてきた。

「勿論、ジュンサ―に引き渡すさ」

「・・・くっ」

ヤオノは、この後の自分の末路を想像し、逃げられない事も含めて観念した。

「さてと。一応、ポケモンセンター町へ戻るか。タマゴも、もう一度診て貰わねぇと」

「そうだな」

「それと、こいつはジュンサーに引き渡さねぇとな。ラグラージ、こいつを運んでくれ」

「ラージ」

こうして、突然の騒動を収まった。

 

 

その後、サトシ達はスズホウタウンへ戻った。途中、サトシとタマゴを抱えたマナオは、共にポケモンセンターへ戻り、ヒョウリは拘束したヤオノをジュンサーの所へ連れて行き、事情を説明、すぐに男は御用となった。それと、ヤマノのポケモン達は、ヒョウリが全て倒していて、トレーナーであるヤオノの捕獲後に、モンスターボールを取ってポケモンを回収し、共にジュンサーへ引き渡した。

「タマゴは、無事だったのか?」

「はい。大丈夫だったそうです」

1時間後、ヒョウリはポケモンセンターに来て、サトシ達に合流していた。

「ヒョウリ、あいつの方は?」

「あぁ、大丈夫だ。明日から、あいつは臭い飯を食うだろうさ」

「そうか」

「さて。問題は、あのタマゴだ」

「結局、あのヤオノって奴は、何のポケモンなのか知らなかったんだろ?」

サトシの質問にヒョウリは答える。

「あぁ、それは間違いないだろう。ただ、あいつが言っていた依頼人のモゾウという男が、答えを知っているのかもしれない。まぁ、本人聞くのも探すのも無理だろうけど」

「なら、やっぱり生まれてきてから、分かるのかぁ」

そう彼らが会話をしていると、女性が話しかけてきた。

「君たち、ちょっといいかしら」

その声に反応して見ると、サトシ達を呼び掛けたのはジョーイだった。

「はい、なんですか?」

サトシが返事をすると、ジョーイにタマゴの件を持ち出された。

「タマゴの件で、話があるの。タマゴの所へ行きましょう」

そのまま彼らは、例のポケモンのタマゴが保管されている部屋へと入った。タマゴは、特殊な液体で満たされたカプセル内に置かれ、全体をセンサーのついたパッドをいくつも着けられていた。

「あれから、色々と調べてみたけど。やはり、特殊なポケモンのタマゴと見て間違いないわ」

「特殊?」

特殊という言葉に反応するサトシ。すると、ジョーイは部屋にある装置へ目を移す。

「あそこにある機械は、最新のタマゴを孵す事が出来る装置なの。データの中には、過去に発見され数百種類ポケモンのタマゴの情報をインプットされていて、一体何のポケモンかどういうタイプのポケモンかを判別をするの。けど」

「該当するデータが無かった?」

ヒョウリがそう言うと、ジョーイは頷いた。

「そうよ」

それを聞いてサトシとマナオも

「それじゃあ」

「もしかして」

「えぇ。高い確率で、未発見の新種のポケモンだと思われるわ」

「新種」

「じゃあ。私たち、新発見したってことですか?」

「もしそうなら。俺たちじゃなくて、あのおっさんになるが」

「・・・ところで、特殊というのはどういう意味なんですか?」

「それについては、この機械で分析をしたんだけど。タマゴの表面が特殊な物質で出来得ることが分かったの。どんなポケモンのタマゴも、タマゴの殻にある物質を含んでいて、それで形成しているんだけど。このタマゴには、それが一切ないの。それで特殊なタマゴだと考えられるわ」

「無いと何かあるんですか?」

サトシの質問に、ジョーイは

「私の予想だけど。温めたり、時間経過で孵化する事が出来るのでないかもしれないわ」

「え?」

「それじゃあ」

「つまり、簡単に孵化が出来ないという事になるな」

「「「・・・」」」

マナオがジョーイへ話しかけた。

「あの、ジョーイさん」

「何かしら?」

マナオは、ジョーイに質問をした。

「このタマゴは、その・・・この後どうなるんですか?」

「・・・基本、野生のポケモンのタマゴであれば、親元や巣に返すのが自然としてやり方なの。けど、このタマゴが何のポケモンのものなのかも。分からない場合、原則としてうちで預かる他、大きなポケモン病院やポケモン研究所、ポケモン協会の管轄となる施設で預ける場合もあるわ」

「そう・・・ですか」

マナオは、答えを聞いて、少しだけ元気の無い顔をする。

「ただ」

「?」

「私個人として言うと。貴方達に、預けた方がいいと思うの」

「「え?」」

「・・・」

サトシとマナオは、そう反応し、ヒョウリは無言のまま目を開く。

「俺たちが、ですか?」

「えぇ。貴方達なら、タマゴを任せられると思ったの」

「理由を聞いても?」

「理由は2つ。1つは、貴方達は今日会ったばかりのポケモンのタマゴを2度も必死に守ろうとしたこと」

「「「・・・」」」

「それともう1つ。タマゴが、マナオちゃんだけに話しかけたと聞いて、私思ったの。そのタマゴは、マナオちゃんを信頼出来るから心が通じたからじゃないかって」

「・・・信頼」

「ポケモンは、自分のトレーナーや他の人間を信頼するからから仲良くなれるの」

ジョーイはそう話すとサトシと彼の肩に乗るピカチュウを見た。

「サトシ君とピカチュウのように」

そう言われて僅かに照れるサトシとピカチュウが反応をする。そして、マナオはタマゴを見て思った。

「信頼・・・私を」

彼女は、口を閉じると、暫く考えた。次に、サトシやヒョウリの目を見た。彼ら二人も彼女の目を見て、それから決断し答えた。

「分かりました。私が、責任を持って預かります」

「そう、良かったわ。それじゃあ、お願いね」

「はい」

「まぁ、仕方ないな」

「あぁ。そうだ、ヒョウリ」

サトシに、呼ばれるヒョウリ。

「ん?」

「何のポケモンのタマゴか。分かる方法があるって、言ってたよな。確か、どっかの研究の、えーと、えーと、うーーーん」

サトシは、何かを思い出そうとするが、一向に答えが出て来ない。そんな彼に、ヒョウリは肩をすくめて、答えを言う。

「ピーツー機関だろ」

「そうそう、そのピーツー機関って。近くにないのか」

ヒョウリは、腕輪のモニターを出して、何かを表示させる。

「ここから一番近いのは、確かアハラ地方のケンプクタウン。丁度、地方の北東側の山中にある町。その町から少し行った所に研究所がある」

「ここからは、遠いですか?」

「あぁ。ここから直接は行けないから、北へ戻るルートなら最短で15日。南からなら倍以上は掛かるな」

「そ、そんなに」

「結構、掛かるな」

距離を想像して、二人は少しだけ疲れる顔をする。

「あぁ。だが、別に急ぐ必要はないだろ。後にはなるが、どのみちアハラ地方へ行くんだ」

「それは、そうですけど」

「それに、向かうまでにタマゴが再び話しかけて来たり、それこそ生まれるかもしれないだろ」

「まぁ。確かに」

「そうだな。タマゴが孵ったら、それで何のポケモンか分かるし」

「では。明日は、予定通りにフィオレ地方のフォルシティへ行くからな」

「はい」

「よし。明日に備えて」

サトシが話す途中で、ぐぅ~~~と三人の腹の虫が、一斉に鳴り響いた。

「あっ」

「うっ」

「そういえば、俺たち。昼飯もまだだったな」

「そうでした。お昼にしますか」

「もう、夕暮れだから、晩飯だ。さて、飯食って風呂入って、さっさと寝るぞ」

その日、サトシ達はポケモンセンターで宿泊をして、明日に備えて就寝した。

 

 

翌日。サトシ達は、ポケモンセンターを出る準備をし、受付前に居た。

「はい。これで、タマゴを背負えるわよ」

マナオは、ジョーイと話していた。

ジョーイに用意して貰ったのは、背負うタイプのポケモンのタマゴ用収納カバンだった。タマゴは、小型のタマゴ収納ケースに納められ、ケース毎カバンへ納まるサイズになっていた。

「ありがとうございます」

マナオは、それを受け取ると背中に背負った。

「一応、強い衝撃も吸収できるし、頑丈なケースに入っているけど、気をつけてね」

「はい、気をつけます」

「タマゴの事、分かると良いわねぇ」

「はい。色々とありがとうございました」

彼らは、ジョーイへ別れの挨拶と共に、手を降った。

「それじゃあ。お世話になりました」

「俺たち、行きますね」

「さようなら」

そうして、サトシ達三人はポケモンセンターから出て、そのままスズホウタウン南へと旅立った。

森の中を進んでから暫くして。南下していった彼らは、道中一旦足を止めた。

「さぁ。ここから、フィオレ地方だぞ」

ヒョウリが、二人に対して話すと、サトシとマナオは道の側に立ててあった看板へ目を移す。その看板には、<ここより、フィオレ地方>と書かれていた。この地点は、丁度ハルタス地方とフィオレ地方との境目だという事となる。

「あと5日で、第二の試練が開催される。この森を抜けていけば、3、4日後は着くはずだ」

今後の日程予定を二人に説明するヒョウリは、次に提案をした。

「さて。ハルタス地方から足を離す前に、目標の確認をしよう」

「確認?」

「なんです?」

二人は、彼に問う。

「俺達、それぞれが何をしないといけないかの再確認だ。今後も集団行動する上で、共通の目的と各自の目的を自分で確認し、仲間に伝える大事な事だ」

「そうか」

「分かりました」

「じゃあ。まず、言い出した俺から言う。本来は、俺一人でアハラを巡ってから、シントーへ行くつもりだったが、お前たちに会ってから、一緒に旅を楽しむ事にした。だから、今後も宜しく頼むぞ」

続いて、隣りにいたサトシが話し始める。

「あぁ。次、俺だな。俺は、ソウテンリーグに出場するから、ジム戦を周る。それと、ベストカップの残りの試練へ挑戦だ」

それに合わせてマナオも話す。

「私も師匠と同じ。試練への挑戦。それと」

彼女は、言葉を止めて背中のカバンを見た。

「そのタマゴを、ピーツー機関のあるケンプクシティへ行き、調べる事だろ」

彼女が言いたい事を代わりにヒョウリが代弁した。

「はい」

「さぁ、行くか」

「なら、マナオ、ヒョウリ。一緒に行くぞ」

三人は共に、フィオレ地方へ足を一歩踏み出した。




今回は、オリジナル地方のハルタス地方最後の話となり、当物語の重要な1つの展開が加わりました。サトシ達、マナオが出会った謎のポケモンのタマゴです。これは、本作オリジナルポケモンのタマゴとなります。
そして、既に表記しておりますが、私が考えたオリジナルポケモンが今後出る予定です。まだ、先になりますが、登場に合わせてイラストが描けたらと思います。こちらで用意が出来ましたら、pixivに掲載してURLを添付でも考えています。一応、これらは予定ですので、急な変更や取り止めもありえますので、ご理解下さい。

次回は、トレーナー・ベストカップ第二の試練が開催されるフォルシティがあるフィオレ地方に入って行きましたので、フィオレ地方が舞台となります。



話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
現在、登場人物・ポケモン一覧を掲載しました。
登場する人物やポケモンが増えたら、更新します。また、修正も入ります。
今後、オリジナル設定関連についても、別途設定まとめを掲載を考えています。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。



<作者からのメッセージ>
諸事情で、作品の作成と投稿が長期に渡り出来ませんでした。今後も稀に出来なくなるケースがあります。毎回読まれていた方、楽しみにされていた方もいらっしゃいましたら、すいません。

それと、アニポケが遂に終わってしまいましたね。サトシ(松本梨香)さんが今後出る事はないとの事なので、あれが最後のアニポケ(サトシシリーズ)になるんですね。私がまだ子供の頃にアニポケが始まってそれから10年程見ていましたが、途中から見なくなりましたので、殆ど古いアニポケしか記憶していません。しかし、26年間続いて終わった事も考えると、凄く長くやった作品である事と、何か懐かしさと寂しさもあります。

それと、今後作品を書く上で、過去作品を調べたりしますが、機会があれば過去作を見たいと思っています。


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10話「むしポケモン祭り 集いの森」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


ハルタス地方からフィオレ地方に入ったサトシ達は、次のトレーナー・ベストカップが開催されるフォルシティに向けて、旅を続けていた。

 

 

「あと3時間も歩けば、フィオレ地方のウィンタウンに到着だ」

先頭で、腕輪のマップを見ながら先導するヒョウリが、後ろを歩くサトシとマナオへそう報告する。

「やっとフィオレ地方で、最初の町ですね」

やっと町へ到着する事に喜ぶマナオ。

「そこからフォルシティには、どれ位なんだ?」

一方で、その隣で歩くサトシは、ヒョウリへ質問をした。

「そうだな。ウィンタウンを抜けて、海沿いに東へ行けば、1日でフォルシティに到着だ」

「そっか」

「明後日には、到着しますね」

「あぁ。・・・試練の前日とはいえ、もう寄り道もトラブルへ首突っ込むのも無しな」

ヒョウリは、何気なく二人に念押しをした。

「は、はい」

「分かったか?サトシ」

「え、あ、・・・うん」

彼の忠告に、二人は心に突き刺さったのか横目になりながら、小さい声で返す。

「ハァー。こりゃ、何も起きない事を祈るしか無いな」

ため息1つをついて、何かに諦めてしまったヒョウリは、ただ祈るしかなかった。

ここまでの彼らの道のりで、既に数度に渡ってトラブルに巻き込まれてしまい、余裕が無いスケジュールの中で、ロスタイムが起きていた。

ロスタイムの原因の多くは、彼ら自身にある理由では無いのだが、回避出来たはずのトラブルをサトシとマナオが自ら首を突っ込んだ事で、大変苦労する羽目になった。道案内やスケジュール管理がメンバーの中で、唯一出来るヒョウリが、マップや周囲を見て道を確認しながら、休憩時間とショートカットを考えていたのだが、それを一瞬で台無しにされていた事へ徐々に嫌気が差していた。無論、ヒョウリとてサトシとマナオに悪気が無いことは理解していた。

「なぁ、マナオ。タマゴはどうだ?」

サトシは、マナオが背中に抱えているものを見て、そう問う。彼女が今抱えているのは、背負うタイプのポケモンのタマゴ用収納カバンだ。そのカバンには、ポケモンのタマゴが1つ収められていた。

つい2日前、ハルタス地方最後の町スズホウタウンの近くの森で見つけて保護したポケモンのタマゴ。一体何のポケモンなのかは不明だが、ポケモンハンターにより狙われている所を気付いたサトシ達は、助け出したのだ。そして、なぜかタマゴの声をマナオだけが聞こえてしまった。あらゆる事が不明なタマゴだが、マナオが責任を持って管理することとなった。

そのタマゴについて、何かが分かるかもしれないと、ポケモン研究を行っているピーツー機関がある研究所まで持って行く事になった。

「はい。あれから何も、聞こえないですね」

「そっか」

それから暫く、森の中を3人が歩き続けていると、サトシの肩に乗っていたピカチュウが何かに反応した。

「ピィカ!」

空を見上げると、ピカチュウが指を向けて、サトシに教える。

「ん?・・・あっ」

サトシもピカチュウと同様にそれを見上げて声を出す。それにマナオも気付き共に見た。

そこには、空に大量の飛行する虫ポケモンが集団飛行していた。

「おっ。アゲハントだ。それに、あっちはモルフォンに、ヤンヤンマ」

サトシが、空を飛ぶポケモンの名前を次々言っていく。

「凄い」

マナオは、大量のポケモンを見て、そう口ずさむ。

「群れの大移動か?」

ヒョウリは、空のポケモン達に見て、疑問に思う。

そんなサトシ達は、南へ向かって森の中を歩いていると、次第に人の姿が見えてきた。それも奥の道へ進むにつれて、人の数が次第に増えていた。

「ん?・・・なんか、さっきから人が増えたような」

それに気付いたサトシが周囲を見て言う。

「そうですね。この先に、何かあるんでしょうか」

隣のマナオも、それに同意して周辺の人を見ている。殆どの人が、サトシ達と同じ道を目指していた。

「妙だな。ウィンタウンも近いとはいえ、急に人が増えるのは何かあるな」

ヒョウリも不思議に思い、そう話す。

すると、サトシがすぐ側を歩いていた人に近づいて、聞いてみた。

「あの、すいません」

「え?」

サトシに聞かれた男の人は、足を止めて振り返った。

「この先で、何かあるんですか?」

そう質問をされたに対して、男は答える。

「もしかして、他所から来た人かい?この先で、恒例のむしポケモン祭りがあるんだよ」

「「むしポケモン祭り?」」

サトシとマナオがハモりながら、そうリアクションをする。

「一年に一度、この先の森で開かれる2日間限定のむしタイプを持つポケモン限定のお祭りさ。丁度、2日前の前夜祭が開催されていて、今日はその最終日なんだよ」

「「へぇ~」」

サトシとマナオがそう反応していると。

「むしポケモン祭りか。ジョウト地方であった虫取り大会を思い出すよな。ピカチュウ」

「ピカッ」

サトシとピカチュウが、ジョウト地方で旅をしていた時の事を思い出に浸っていると、隣でヒョウリも何かを思い出した。

「あぁ、思い出した。以前、この辺に来た時に、そんなお祭りがあると聞いたな。まぁ、その時は忙しくて祭りに行かなかったけど」

「よぉし。むしポケモン祭りを見に行こうぜ」

サトシが、テンションを上げて、そう皆に言った。

「そうですね。けど・・・」

マナオは、サトシには賛成のようだが、その表情は気不味いものになっていた。

「あっ・・・」

彼女の顔を見て、サトシは何かを思い出して顔色を変えた。そのまま二人揃って、そっとヒョウリの方を向いた。彼は、腕輪のモニターを開きながら、少しだけ眉間にシワを寄せてこちらを見ていた。

そんな彼に、二人とピカチュウは眼差しと表情を使い、彼へ行きたいアピールを放った。

「・・・」

ヒョウリは、そんな顔をしても駄目だからなと声でなく顔だけで反撃をしていたのだが数十秒後。

「・・・夕方までだからな」

ヒョウリは、折れた。

「ヤッター!」

「ピカッ!」

「ホッ。良かったです」

急遽、彼らはむしポケモン祭りに寄ることとなった。

 

 

サトシ達は、祭りを見に行く他の人々と同じ方へと歩き、5分程で開催場所に到着した。そこには、巨大な看板が建てられているゲートがあった。看板には、<むしポケモン祭り>と大きな文字と、その左右にはむしポケモンのイラストと共に書かれている。

ゲートを潜り抜けると、側に祭りの地図や説明が書かれたパンフレットを配布しているスタッフが居た。

すると、サトシは一人の女性スタッフからチラシを渡された。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

お礼を言って受け取るサトシの横で、マナオがスタッフへ質問をした。

「あのむしポケモン祭りって、何か催し物とかあるんですか?」

「はい、ございますよ。もしかして、はじめて来られた方ですか」

「そうです」

「催し物として、むしポケモンとそのトレーナーの出し物や演芸などがありますよ。詳しくはパンフレットに記載されています」

「はい」

「それと、この祭りでは注意事項がありますから、気をつけて下さいね」

「注意事項?」

スタッフから言われた言葉に、疑問を抱くサトシ達。

「今、お渡したパンフレットにも書かれていますが。この森では、原則ポケモンバトルや野生むしポケモンを捕まえる事は禁止となっております。また、自分の手持ちポケモンで、むしポケモンに危害を加える事は厳禁とされています。特に、とりポケモンをゲットされている方は、出すのは控えて十分注意して下さい」

「むしポケモンばかりの所に、とりポケモンなんか出すのは、そりゃヤバいよな」

ヒョウリは、注意事項を聞いて、そう言う。

「もし、むしポケモンを持っていらっしゃるのであれば、是非出して下さい」

「はい、分かりました」

そうして、サトシ達は祭りの中へ進んでいった。

「うわぁ。むしポケモンがいっぱいだ」

森の中を進んでいったサトシ達の目の前には、たくさんのむしポケモンの姿で溢れていた。通常の森でも、野生のむしポケモンはよく見るが、ここはその比では無かった。むしポケモン以外の姿が殆どいない上、様々な種類のむしポケモンが地面や草むら、木の根本や幹、枝、そして空を飛んで居た。

その数は、数えられない程で、この森に生えた全ての木の数より、多いと言ってもいいだろう。

「凄い数だな。ピカチュウ」

「ピカ」

サトシとピカチュウは、その多さに驚きの目をしていた。

「俺も、これだけのむしポケモンは見たことない」

隣でヒョウリも、似たリアクションで周りを見ていた。

「よし。出ておいで、カラカラ」

マナオは、自分のモンスターボールを手に取り、中に居るカラカラを出した。

「カラァ!」

モンスターボールから飛び出したカラカラは、マナオの側に寄る。

「見て、カラカラ。いっぱい、むしポケモンが居るわよ」

「カラ?・・・カララ!」

マナオに言われて、周りを見渡すとむしポケモンだらけの光景を見て、カラカラは驚いてマナオに引っ付く。

「大丈夫だよ」

マナオは、驚いているカラカラの頭を撫でながら、宥めた。

それからサトシ達は、続けて森のむしポケモン達を見て回った。

「お、こっちにミノムッチ。それに、コロボーシ、クルマユ、フシデ、バルビート、イルミーゼ」

サトシが次々とむしポケモンの名前を言っていく。

「本当に、色んなむしポケモンがいるんだ」

「ピカピカ」

「おい。あっちで、野生のカイロスと野生のヘラクレスが取っ組み合いやっているぞ」

ヒョウリが、

「本当だ」

「喧嘩でしょうか?」

「恐らくあれだな」

ヒョウリが指で差した先は、大きな木が生えていた。その木の幹から、黄色液体が垂れていた。

「樹液だ」

「あぁ」

「それでか」

「自然環境での弱肉強食の世界。その世界では、ポケモンは強い奴が弱い奴に勝って、縄張りを取り、より多いご馳走に有りつけるのさ。悲しいけど、これも自然の摂理なのさ」

「そうそう。俺、ヘラクレスをゲットしているんだ」

「そうなんですか」

「あぁ。今は、マサラタウンのオーキド博士の所に、預けているけどね」

(あいつら、今何をしているかな)

サトシは、マサラタウンのオーキド研究所に預けている自分のポケモン達の事を想像した。

「あっ、サトシ師匠。こっちのキャタピー、小さくて可愛いですよ」

マナオは、サトシにそう言うと木の側で屈んだ。彼女の目前には、通常よりも小柄のキャタピーが居て、彼女に気付くと側に寄って来た。

「ほんとだ」

サトシも、そう言って彼女の隣で屈む。

「ほら、おいで」

マナオは、手を差し出すと、キャタピーはそのまま手から腕へと登ってきた。

「あっ、私の腕に抱きついてきた。甘えん坊なキャタピーですね」

腕に抱きつくキャタピーの頭を、彼女は撫でるとキャタピーも嬉しいのか喜んだ反応を見せる。そんなマナオを見たサトシは、ふと心に思った事を声に出した。

「マナオは、むしポケモンは大丈夫なんだな」

「大丈夫って、何の事ですか?」

突然のサトシの言葉に、疑問に思ったマナオは首を傾げて聞いてみた。

「いや。その、むしポケモンが苦手とか嫌いだとかではないんだなって」

「全然そんなのないですけど」

「そっか。それは、良かった」

ホッとするサトシを見て、マナオは不思議に思いながら更に答える。

「ポケモントレーナーになるなら、どんなポケモンも嫌いになる訳ないじゃないですか」

マナオが話したその言葉を聞いてサトシは、なぜか少しだけ感動をした。

「そうだよなぁ。いやぁ、マナオがそういうトレーナーで、俺は嬉しいよ」

「どうしたんですか?急に」

突然のサトシの反応に、マナオは奇妙に思った。

「いや、なぁ。俺が昔、一緒に旅をしている仲間の一人に、同い年の女の子が居てな。そいつ、むしポケモンが凄く嫌いで、見ただけで悲鳴は上げるわ。カバンで殴って来るわで、酷いんだぜ。むしは無視って言って」

サトシの説明を聞いたマナオは、眉毛を上げて少し怒った声で話す。

「その人、酷いですね。むしポケモンだからと言って、差別するなんて。トレーナーの風上にも置けません」

「まぁ・・・そいつは、ジムトレーナーなんだけどな」

「嘘!信じられないです。ジムトレーナーは、ポケモントレーナーの基本となり、指導や教育もする立場の人間。そんな人物が、ポケモンのタイプや種族が違うだけで、差別するなんて」

「だよなぁ。俺が、初めてゲットしたポケモンがキャタピーだったんだけど。その時は、凄く嫌がった上、モンスターボールに入れていても、そのボールを近づけないでって、文句を言ってくるんだぜ」

「うわぁ、酷い」

二人が、そんな会話で盛り上げっていると、急にヒョウリが話しかけた。

「なぁ、サトシ。その子の話しは、その辺にしとけ」

「え?」

「きっと、そいつ。今頃、半端ない位くしゃみをしているぞ」

そうヒョウリに言われて、サトシは、その事を妄想して、少しだけ笑う。

「ハハッ、大丈夫だよ」

「分からんぞ。身から出た錆でもあるが、壁にミミロル、障子にリオルとも言うからなぁ」

「・・・まさか。ここにいるとか・・・な訳ないか」

ヒョウリの言葉に、一瞬ドキッしたサトシは、念にためにと周囲を見て、その人物がいないかを確認した。

「それにしても、どうしてこんなにむしポケモンが多いんでしょうね」

マナオが、疑問に思った事を口に出す。

「確かに、俺もそう思ってた」

「あぁ、俺もだ」

サトシやヒョウリも同じ疑問を持っていた。先程貰ったパンフレットには、そういった詳しい情報が特に書かれていなかったので、答えが分からないままだった。

「それは、ここが全地方で最もむしポケモン達に最適な環境だからですよ」

突然、彼らの疑問へ答えが聞こえた。スッと彼らが、声がした方へ顔を向けると、そこには中年の男性が、一人立っていた。

「はじめまして。わたくしは、この祭りの運営責任者をしています。チョウスケと申します」

チョウスケと名乗る男性は、挨拶と共に自己紹介をしてきた。

「はじめまして。俺、マサラタウンから来たサトシっていいます。こっちは相棒のピカチュウです」

「ピッカチュ」

「私、マナオです。こっちはカラカラ」

「カラァ」

「俺は、ヒョウリです」

サトシ達も自己紹介をした。暫く、チョウスケに付いて行き、森の中を歩いて回った。

「なるほど、それでむしポケモンが多いのか」

「えぇ。それに、この森はハルタス地方をはじめ、周辺の地方からもむしポケモンが最も多く通る渡り道でもあるんです」

「渡り道?」

「ここより南にサマランドという島があります。そこに、オリブジャングルという森があるのですが、そちらにも大量のむしポケモンが生息して、このフィオレ地方で最もむしポケモンにとって、最適な場所なのです。彼らにとっては、楽園と言っても良い程で、この森とあ合わせてむしポケモンの二大ポイントと言われています。その二大ポイントへ、毎年西のホウエンから東のジョウト、カントーにあるむしポケモンが、目指す事が多いのです。そのルートとして、最も通る場所がこの森なのです。森で直接来るか。または、ここを通って、島へ行くか。彼ら自身が選んで目指す渡り道なんです」

「へぇ」

「そういう事情があるんですね」

サトシ達へ、色々と説明するチョウスケは、ふと自分の腕時計を見た。

「おっと、すいません。私は、これからセレモニーの準備で行かないといけないので」

「あっ。説明、ありがとうございます」

「ありがとうございました」

「どうも」

サトシとマナオ、ヒョウリがお礼を言うと、チョウスケは慌ててその場を去って行った。

「よし。じゃあ・・・ん?なんか、いい匂いがするな」

突然、サトシの嗅覚が美味しそうな匂いを嗅ぎ分けた。

「本当ですね」

マナオも同様、同じ美味しそうな匂いを嗅いだ。

「あぁ。あっちで出店がやっているみたいだぞ」

ヒョウリが森の奥を指で差し示すと、僅かに出店のようなものチラと見えた。

「ほんとだ。お昼まだだったし、何か買って食べようぜ」

「ピカッ!」

「そうですね。私も、丁度お腹が空いちゃっていましたし」

「まぁ・・・空腹じゃあ。次の町まで行けなくからな」

そうしてサトシ達は、たくさんある出店の人混みへと歩いて行った。

 

 

サトシ達が向かった先には、20以上の出店が開かれていた。綿あめやポケモンの形をした飴細工、鉄板焼などの食べ物からむしポケモンのお面やグッズが売っている。そんなたくさんある出店の中で、一際お客さんの行列が出来ている出店があった。

「毎度、ありがとうございましたぁ♪」

赤い髪の法被を着た女性店員が客へ商品を渡して接客をしていた。

「はい。餡子入り2つとカスタード1つにゃあ」

その隣では、同じく法被を着たポケモンのニャースが人間の様に二足歩行で直立して、人の言葉を話しながら、客へ商品を手渡す。

彼らの背後には、ポケモン大判焼きと言う看板の掲げた出店があった。

「ほい。次、焼き上がったぞ!」

丸く型を取った焼き器で次々と大判焼きを作り上げている頭に鉢巻を巻いたエプロン姿の青髪の男がそう言って、出来立てを隣にいる者へ渡す。

「ソーナンス」

すると、法被を着たポケモンのソーナンスが、手に持った焼鏝で出来たて大判焼きに次々とポケモンの絵の焼印を押していく。

「いやぁ。ジャリボーイ達より先回りしてみたら」

「まさか、むしポケモン祭りなんて大イベントがあるとはな」

「こんなに大量のむしタイプのポケモンがいるにゃんて」

「全部ゲットする大チャンスじゃない」

「ソーナンス」

彼らの正体は、ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャース、ソーナンスだった。彼らは、3日前からここに来ていたのだ。偶然、ジャリボーイことサトシ達の行く先であるこの森で先回りして、罠を張ろうとしていた。しかし、この森へ到着した彼らは、大量のむしポケモンがいる事と祭りが開催される事、たくさんの出店を開かれる事を知った。

普段の彼らなら、すぐさまむしポケモンを捕まえて逃げるか。ジャリボーイことサトシのピカチュウもゲットして逃げるかがいつもの行動パターンなのだが、今回は違った。

「出店でたっぷりと資金を稼いで」

「新しい強くて強いメカを作るにゃあ」

「それと」

コジロウは、腰から紫色のモンスターボールを取り出した。

「今朝デリバード便が届けてくれた。このシークレットボールもレンタルしたし」

その隣で、ムサシも自分のシークレットボールを握って、宣言する。

「ジャリボーイ達に、今度こそ目に物見せて上げるわ」

「ソーナンス!」

前夜祭から、ロケット団が出見せで稼いだ資金を使い、新しいメカと強いポケモンレンタルのシークレットボールを用意しようとしていた。今度こそ、サトシのピカチュウと森にいるむしポケモン達をゲットする計画が、着々と進んでいた頃。

一方、影でそのような計画が動いている事を知らないサトシ達は、出店で軽い食事を済ませると、再び森の中でむしポケモンを見て回った。

「あっ。木の上に、イトマルに、アリアドス」

マナオが、木へ指を指してポケモン達の名前を言う。

「あっちは、バチュルがいるな」

サトシも隣で、別の木にいるポケモンを見て名前を言った。

「あれが、バチュル。はじめて見ました」

マナオは、自分のポケモン図鑑を取り出して、バチュルに向ける。

『バチュル。くっつきポケモン。自分では、電気を作れない為、大きなでんきタイプのポケモンに取り付いて、静電気を吸い取る。吸い取った電気は、体にある蓄電袋に、貯める。』

ポケモン図鑑がバチュルをスキャンして説明を行った。

「へぇー、くっつきポケモンか。なんか可愛いな」

「バチュバチュ」

マナオがバチュルと戯れていると。

「・・・ん?」

「ピィカァ」

サトシが、肩に乗っているピカチュウの変な所に気付く。ピカチュウの表情が、普段と違って少し不安な顔をしていたからだ。

「どうしたピカチュウ?」

サトシが、ピカチュウに問うとピカチュウは、鳴き声と両手のジェスチャーで知らせる。

「ピカ、ピカァ、ピカチュピピカチュ」

普通の人間なら、いくらポケモントレーナーといえ、ポケモンの言葉は理解出来ないし、何を言っているのかは分からない。だが、ポケモントレーナーの旅をはじめて1年以上。ほぼ毎日、ピカチュウと共に苦楽を共にしたサトシには、理解が出来た。

「あ、そっか」

「どうしたんだ」

ヒョウリが、サトシとピカチュウの様子に気付いた。

「いや、ピカチュウが、あのバチュルに警戒しちゃって」

「ん?・・・もしかして、昔バチュルに襲われたか?でんきを吸われたりとか」

ヒョウリは、状況からすぐに察した。

「あぁ、そうなんだ。昔、イッシュ地方でちょっとな」

サトシは、昔イッシュ地方でピカチュウがバチュルにやられた事を思い出した。

「そういう話、でんきポケモンでならたまに聞くな。あいつら色んな所から電気を吸収する為、野生ポケモンなら勿論。同族以外のでんきポケモンからも吸うからな」

「それで、ピカチュウのやつ。不安になっているんだよ。また、吸われて大変な目に遭うんじゃないかって」

「うんうん、確かに。現に今そうなり掛けているからな」

「そうそう・・・え?」

ヒョウリが最後に言った言葉に、サトシは一瞬理解が出来なかった。

「ピカピ!」

「ん?あっ」

サトシは、ピカチュウの掛け声で自分の周囲を見ると、すぐさま理解した。

「バチュバチュ」「バチュバチュ」「バチュバチュ」

「バ、バチュル達に、囲まれたぁ!」

いつの間にか、サトシの周りを野生のバチュルが囲んでいた。その数は、数十匹以上だった。

マナオが見ているバチュル以外にも、たくさんのバチュルが木や林に居て、そこから湧いて出てきたのだ。その事にビビるサトシと不安が更に増して強張るピカチュウ。一方で、囲んだバチュル達は、サトシの肩に乗るピカチュウをじっと見ている。そう、正に餌を求めいている顔だった。

「ピカピカ!ピカ!」

「あぁ、分かってるよ。バチュル、頼むからピカチュウを」

慌てるピカチュウとバチュル達に説得して、離れて貰おうとするサトシ。

「バチュバチュ」「バチュバチュ」「バチュバチュ」

バチュル達は、一向にその言葉を理解していないのもあるが、聞いてもいない様子だった。

「余程、空腹みたいだな。まぁ、森で野生のきのみは食えるが、野生の電気は普通に無いからな」

ヒョウリが呑気にそう言っている間に、バチュル達が次から次へと、サトシの足にくっついてよじ登り始めた。

「ピ、ピカァ」

「ヒョ、ヒョウリ、呑気な事言わずに」

サトシとピカチュウが、慌ててヒョウリに助けを求める。

「し、師匠!だ、大丈夫ですか」

バチュルに夢中だったマナオは漸くサトシとピカチュウのピンチの状況に気付いた。

「ど、どうしよう。えぇと、えぇと。可哀想だけど、カラカラ。バチュル達に」

マナオが、カラカラに指示を出して、バチュル達を追い払おうとした時だ。

「おいおい、忘れたのか。ここでのルール」

マナオは、ヒョウリに止めら、その理由を思い出す。

「けど、このままじゃあ」

「そういえば、入り口のスタッフがむしポケモンなら、出してもいいと言ったな」

「え?えぇ」

「早く」

「ピカピカ」

ヒョウリは、自分のベルトに付けたモンスターボールの1つを手に取るとそれを前に投げた。

「出て来い、デンチュラ」

ヒョウリが投げたボールから出てきたのは、でんきグモポケモンのデンチュラだった。

「チュラチュラ」

ボールから出てきたデンチュラは、目の前の地面に立って、周囲を見る。

「チュラ」

そうして、周囲に大量のバチュルが居ることを気付いた。

「デンチュラ。あいつらを、引き寄せてくれ」

ヒョウリが、デンチュラにそう指示をする。

「チュラ」

デンチュラは、ヒョウリの言う通り、サトシの方を向かうと、周りを囲んでいるバチュル達に呼び掛ける。

「チュラチュラ、チュラ」

「バチュ?」「バチュ?」「バチュ?」

突然現れて、話かけて来るデンチュラに、バチュル達は振り返った。

「チュラチュラ、チュウラ、チュチュラ、チュラ」

引き続き、バチュル達に呼び掛けるデンチュラに、バチュル達は次第に注目していると。

「あっ」

「ピカッ」

バチュル達が、サトシから離れて行き、デンチュラの側に寄り、囲んでしまった。

「チュラチュラ」

「バチュ」「バチュバチュ」「バチュウ」

それでもデンチュラは、何も警戒せず、バチュル達と話をし、向こうも敵意なく会話をしている。

「ありがとう、ヒョウリ。デンチュラ。助かったよ」

「ピカピカ」

サトシとピカチュウは、ヒョウリとデンチュラに礼を言う。

「それにしても、ヒョウリ。デンチュラも持ってたのか」

サトシは、出てきたデンチュラを見て、ヒョウリに言った。

「デンチュラ・・・」

マナオは、自分のポケモン図鑑を取り出して、デンチュラへ向けた。そして、図鑑がデンチュラをスキャンして説明を始める。

『デンチュラ。でんきグモポケモン、バチュルの進化系。敵に襲われると電気を帯びた糸を吐き出して電気のバリアを作り自分を守り、相手を痺れさせるので 武器にもなる。また、電気を帯びたお腹の毛を飛ばし、毛が刺さると三日三晩全身が痺れると言われている』

「三日三晩も。可愛いですけど、ちょ、ちょっと怖いですね」

マナオは、そう言いながら、目の前のデンチュラに警戒感を出すと。

「そいつは、結構人懐っこい性格でな。誰とでもフレンドリーな性格なんだ。攻撃してくるか、俺の指示がないと撃ってこないから安心しろ」

「なら、安心ですね。それにしても」

マナオがデンチュラや周囲のバチュル達をじっと見る。

「こう見ると、丸で親子みたいですね。お母さんと、子供達って感じで」

「まぁな。こいつはメスだし。母親みたいに、思われているんだろうさ」

「へぇー、メスなんだ」

「ここでは、むしタイプが出していいというなら、折角だし出そうと思ってな。まぁ、そのついでにお前らを助けたがな」

「助かったけど、ついでは余計だぞ」

ヒョウリがそう言うと、隣のサトシが軽い愚痴を言う。

「冗談だよ」

「ところで、ハッサムも出さないのか?ハッサムもむしタイプだろ」

「あぁ。確かに、あいつもむしタイプだから、出してもいいんだが。ちょっとな」

ヒョウリは右腕を見て、そう言う。今のヒョウリの手持ちポケモンは6体だが、ハッサムのモンスターボールだけ右腕の裾の中に隠して持っているのだ。

本人曰く、非常時にベルトからボールを取れない際、咄嗟に出やすいようにわざとハッサムのボールだけを隠している。裾の中は、小さなバンドを腕に付けていて、そこにモンスターボールがセット出来るプラグが付いている。普段は、縮小したモンスターボールは裾の中に入るので、いざという時に腕を振って、ボールが出てくるギミックになっている。

「こいつ、真面目な性格ではあるが、人見知り、いやポケモン見知りをする性格なんだよ。あんまり知らないポケモンとは仲良くしたり、必要以上に接したりしないんだ」

ヒョウリが、自分のハッサムの説明をした。

「そうなんだ。ところで、あと2体のポケモンって誰を持っているんだ?一度も、全部のポケモンを見せても、教えてもくれないからさ」

「その内な。残った二体も・・・癖のある奴らでな」

サトシの言葉に、ヒョウリは苦笑いして返した。

『本日、開催のむしポケモン祭りのコンテストを、あと30分程で開始します。参加者の方々は、ポケモンと共に会場の待機コーナーでお待ち下さい』

突然、森の中でスピーカーによるお知らせが聞こえた。

「ん?むしポケモンコンテスト?」

「何でしょうか」

「あっ。さっき貰ったパンフレットに、そんなのが書いてあったな」

ヒョウリが、貰ったパンフレットを開いて、書かれている説明を読んでみる。

「えぇと、手持ちむしポケモン達の魅力を競うコンテスト。わざや見た目、演技などなど様々な見所満載だってよ」

「ポケモンコンテストみたいだな」

「あぁ。むしポケモン限定のアプールとパフォーマンスを行うみたいだな」

「次は、それを見に行こうぜ。なぁ、マナオ」

「はい。行きましょう」

「よし。デンチュラ・・・」

ヒョウリが、デンチュラを呼び戻そうとすると、バチュル達と仲良く話しているのを見て、止めた。

「仕方ないか。デンチュラ、あとで迎えに来るからそれまでその子達と遊んでやれ。あんま遠くには行くなよ」

そう言い残して、パンフレットを開いて、会場の場所を確認する。

「さてと、会場はさっきの出入り口から真っすぐ奥の森の中にある広場に設営されている様だな。こっちだ」

ヒョウリに続いて、サトシ達は会場の方へ向かった。

その頃。その会場では、祭りの運営達スタッフ達が、コンテストの準備に入っていた。

「よし。これでこいつは完了だな。あとは」

先程、サトシ達と会った祭りの責任者であるチョウスケが、会場の準備を指揮していた。

「チョ、チョウスケさん!」

すると、一人のスタッフが慌てた顔をして、彼の元へ走ってきた。

「どうしましたか?」

チョウスケが振り返るとスタッフは、息を荒くして説明する。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ。そ、それが、この後のイベントで使う機材の、一部が行方不明でして」

「行方不明?どういう事ですか?」

「分かりません。先週、用意していた機材で、大型の送風機や大型ライトまで消えていました」

「なんと」

「チョウスケさん!」

すると、今度は別のスタッフが慌ててやって来た。

「どうしたんです?」

「それが、午後から予定していた観光用の気球の機材が、消えてしまって。今朝までは倉庫にあったのですが」

「なんと・・・まさか、泥棒が」

チョウスケは、悪い予感をして顔色を変えた。

「ジュンサーさんを呼びますか?」

「呼んでも、ここまで3時間は掛かるぞ」

「けど」

「・・・分かりました。一応、ジュンサーさんを呼びます。ただし、他のお客様に気付かれずに、騒ぎが広がらないように注意をして下さい。今日は、年に一度の大事なお祭りなんです。皆さんに、思い出を壊さないようにしましょう」

「「・・・はい」」

 

 

『それでは、大変お待たせしました。これより、むしポケモンコンテストを開催します』

いよいよ会場で、むしポケモンコンテストがはじまった。会場の舞台上では、司会進行役の女性スタッフが、マイクで進行を執り行っていく。

『今回のコンテストの審査員には、開催委員長であり当イベントの責任者チョウスケ様、ウィンタウンの町長ユキマルオ様、そしてフィオレ地方で有名なポケモンコーディネーターのツツノジ様の以上、3名の方々が評価をされます』

紹介されたコンテストの審査員3名が、ステージの端に備え付けたテーブルの前で椅子に座っている。

「おお、あのツツノジさんだ」

「去年のフィオレ、ハルタス合同ポケモンコンテストの準優勝者だわ」

審査員の1人は、フィオレ地方での有名人のようで、会場に来た観客の中に盛り上がった者達がいた。

「あの人、有名人なんですね」

「そうみたいだな」

「ある程度の有名人なら俺も知っているが、コーディネーターは余り知らないな」

サトシ達は、観客席で座り、観覧していた。

『それでは、これより予選を始めます。最初の挑戦者は、この方』

ステージの上に最初の挑戦者が上がった。一人目は男性トレーナーで、彼の側にはむしポケモンであるコンパンと2体のパラス、モルフォンが付いて来た。

『フィオレ地方リングタウンからお越しのハルマさんとそのポケモン達です』

早速ステージでポケモン達の技を使ったアピールが行われた。その光景に審査員をはじめ、会場のサトシ達をはじめ多くの観客達、驚かせて感動させられた。

『次の挑戦者の方は、ジョウト地方ヒワダタウンからお越しのメイカさん。そして、彼女のポケモン達です』

『続いての挑戦者の方は、カントー地方トキワシティからお越しのハヤミさん。それとバタフリー達です』

「おぉ、バタフリーばかりだな」

次の挑戦者は、バタフリー6体へ指示を出し、全員が見事に連携を取って、見事なパフォーマンスを見せた。

「あぁ、綺麗」

「中々いい連帯のパフォーマンスだ」

マナオやヒョウリをはじめ、観客達からはパフォーマンスは好評だった。ただ一人だけ、パフォーマンスを見ていると、自分の過去を思い出していた。

「バタフリーか」

サトシは、そうポツリか呟き、心の中である事を考えた。

(あいつ、元気にしてるかな?)

その後も、次から次への挑戦者達がステージに上がっては、アピールやパフォーマンスをして見せた。

『それでは、これにて予選は終了致します。今から20分程の準備時間を設けさせて頂きます。30分後には、予選通過者の結果発表を行い、その後通貨者達による最終選を行います』

休憩時間となった事で、観客達の一部が次々と席から立ち上がる。

「ふー。何とかなりましたね」

「あぁ、そうだな。あっ、チョウスケさん、お疲れ様です。」

舞台裏で次の準備を始めるスタッフが話をしていると、そこに審査員だったチョウスケが休憩がてら裏方を見に来た。

「二人ともご苦労様です。次の準備お願いしますね」

「「はい」」

その時、一人のスタッフが腰に付けていたトランシーバーから電子音がなった。どうやら、どこかのスタッフが無線で連絡を入れてきたらしい。スタッフは、腰から取ると、応答した。

「はい。こちら、コンテスト会場担当」

『緊急、態。ガァー、ガァー。緊、ゅ』

相手からの応答に僅かにノイズが入っているのか雑音が酷く、声が良く聞こえなかった。

「はっ?よく聞こえないぞ」

『が、ガァー、ガァー。そっち』

「お~い、聞こえないぞ」

「どうしました?」

「それが、森の中にいるスタッフからの連絡なんですが。雑音が酷くて、よく聞こえないんです。なんか、周りが騒がしいみたいな」

「貸しなさい」

スタッフは、チョウスケにトランシーバーを渡すと、彼が応答をした。

「私だ。チョウスケだが、何があった?」

『巨大な、ガァーガァー。が、ガァー、ポケモン達を』

「ん?なんだって、もう一度頼む。何があった?」

チョウスケが連絡を必死に取ろうとしていると、側に居た二人のスタッフが何かを視界に入れた。

「ん?なんだあれ」

「・・・飛行船?」

スタッフ達が指を差して、声に出すとチョウスケもそちらへと向いた。

それは、巨大なドクケイル柄の気嚢に吊るされた飛行船が、森の上を航行こちらへ向かっていた。

「あんなもの。今回の祭りで使う予定ありましたっけ?」

「いや、私は何も聞いてないぞ」

次第に飛行船は、会場の上空で到達して静止した。

「おっ、なんだ」

「何かのイベントかしら?」

「今年は、凝っているな」

真下にいる観客は、イベントの1つだと思い、そう見上げている。

「なんでしょうか?」

「ドクケイル?飛行船?」

サトシやマナオも同様に、イベントの1つだと思っていた。すると、気嚢部分の下に吊るされた巨大な鉄製のゴンドラ底面の開いたハッチから飛び出している何かが動き出した。

「!」

それは、先にT字状の大きな物体が付いたアームで、こちらへと近づいていた。

「逃げろ」

ヒョウリが勘づいて、そうサトシ達に促す。

「え?」

「はい?」

「いいから木の所まで走れ!」

それから、T字状の物体の中央にある大きい穴が急激に吸引を始めた。

「うわぁ」

「きゃあ」

「くっ」

突然の吸引にサトシ達は、慌てて近くの木まで走ると根本に掴まって、地面にうつ伏せになった。

「ピカァ」

「カラァ」

ピカチュウはサトシの腰に、カラカラはマナオの足にしがみついて、抵抗をする。他の真下に居た観客やスタッフ、ポケモン達も同様に、慌てて抵抗や逃げたりと、パニックとなった。

身を屈めたり何かに掴まったりと、必死に抵抗しようとしたのだが、長くは続かなかった。むしポケモン達が次から次へと吸い込まれていってしまった。更に、ボールから出ていた一般トレーナー達のポケモン達も吸い取られ始めた。特に、人より体重が軽いポケモンは、一瞬にして吸い取られてしまう。

「くぅ」

「きゃぁぁぁ」

サトシもマナオが必死に抵抗する中、彼らに掴まるピカチュウとカラカラが、遂に限界がきてしまった。

「ピカァァァ」

「カラァァカ」

二匹は、サトシとマナオから剥がされしまい、吸い取られていった。

「ピ、ピカチュウ!」

「カラカラ!」

サトシとマナオは大声で叫ぶが、意味はなかった。

「ピカピィ」

「カララァ」

二匹は、そのままピカチュウとカラカラは、吸引装置の中へと吸い取られていった

「くそぉ」

サトシが悔しがる中、急激に吸引が収まり始めた。

「!」

「あれ?」

「終わった?」

下に居た人々が、そう考えて時だ。

『ワーッ、ハッハッハー!』

飛行船からスピーカー越しに誰かの笑い事が消えこた。

「今度は、何だ?」

下に居たチョウスケが、そう言った瞬間だ。

『一体、何だかんだと聞かれたら』

『教えて上げるのが、世の情け』

再びスピーカー越しに、その様な台詞が聞こ始めた。

「まさか」

その声を聞いて、サトシ達は嫌な顔をする。

「ハァー、来たな。トラブルが」

「また、あの人達ですか」

サトシは勿論だが、サトシと共に行動をしてきたヒョウリ、マナオもその台詞を聞いて、同じ顔をした。

『世界の破壊を防ぐため』

『世界の平和を守るため』

『愛と真実の悪を貫く』

『ラブリーチャーミーな敵(かたき)役』

『ムサシ!』

『コジロウ!』

『銀河を駆ける ロケット団の二人には』 

『ホワイトホール白い明日が待ってるぜ』

『ニャーんてにゃ!』

『ソーーーナンス!』

飛行船のゴンドラ内部のコックピットで、台詞を読みながら、決めポーズを行うロケット団。外の人間には、自分たちの姿は見えないのに、普段の癖なのかお決まりなのか、いつもの登場時のポジションで、ポーズ決めをした。

「全く、あいつら毎回似た台詞を言っているが、全然飽きないな。おい、サトシ。本当に、あいつら1年もこうなのか?」

「あぁ・・・そ、そうだな」

ヒョウリの言葉に、何とも言えないサトシが、そう答える。そんな会話をしていると、飛行船の吸引装置を見ていたスタッフの一人が何かに気付いた。

「あれ、よく見たら。あれは、消えた機材じゃないか」

「本当だ」

『そうとも、稼いだ資金でメカを作る予定だったが、足りない分は祭りの機材を使わせて貰った』

コジロウが、指摘してきたスタッフ達へそう教える。

「まさか、あいつらが犯人か」

「コラ!お前たち。機材を返せ!」

『ふん。誰が返すもんですか』

今度は、ムサシが返事をする。

「あいつらは、一体何者なんだ」

チョウスケが、ロケット団に対して、何者なのか理解がイマイチ理解出来ていなかった。

「あいつら、ロケット団という他人のポケモンを奪う悪者なんです」

隣に居たサトシが、ロケット団が何者なのかを、いつも通りと慣れた口調で答える。

「俺らに付き纏うクソウザいストーカー雑魚集団です」

「執拗くて、最低な人たちです」

サトシに続いて、ヒョウリとマナオも酷目にして教えた。

『ちょっと!』

『ジャリボーイ以外、結構酷い言葉が聞こえたぞ!』

『特に、暴力ジャリボーイが一番酷いにゃあ!』

『ソーナンス!』

早速、ロケット団はヒョウリとマナオにクレームを放った。特に、ヒョウリには厳しく文句を言うと。

「ほぉ、集音性は高いようだな。だって、事実だろ。ウザいし、付き纏うし・・・俺たちに何度も負けた上、サトシに1年以上追い払われてるんだろ・・・雑魚じゃん、プッ」

ヒョウリの舐めた顔で、言われたくない単語を最後に言われた。

『な、な、何ぃぃぃ!』

コックピット内にいるロケット団は、ブチ切れた。

『もう頭にきた。これでもくらえ!』

コジロウが、操縦パネルにある1つのボタンを押した。すると、先程の吸引装置が出てきた底面のハッチから別のものが飛び出してきた。先程の同じようにアームで動いていたが、先端部分が円柱状で大砲のような形をしていた。

『ネチネチ弾、発射にゃあ』

ニャースがそう言って、操作すると大砲の先から勢いよく白い物体が飛び出し、サトシ達へと向かった。

「うわぁ」

「きゃあ」

「くっ、しまった」

白い物体がサトシ達にぶつかるとそれは弾けて彼らの身体中や周りの木や地面に張り付いてしまった。

『やったぜ』

『よくやったわ』

『作戦通りにゃあ』

上手くいった事に喜ぶロケット団。

「くそぉ。なんだこれ」

「いや、体がベタベタ」

「こいつ粘性高けえな。外れねぇ」

サトシ達に付いたネチネチ弾と呼ばれる物は、ロケット団が今回の為に用意した特性の粘着率が高いモチ状の捕縛用の砲弾だった。見事にくらったサトシ達は、必死に剥がそうとするが、凄い粘着性で、手で取ろうにも剥がれない上、その手にもくっついてしまうという代物だった。

『さて、このまま森にいるポケモン達も皆貰っていきましょうか』

『よし、次のフェーズに移るのにゃあ』

『よっしゃ』

肝心なサトシ達を、動けなくした事で、ロケット団は次の作戦に移った。

『それそれ、乱れ撃ちだぜ』

今度は、コジロウが操作して、先程のネチネチ弾を次から次へと発射して、下にいる会場の観客やポケモン達へ発射した。

「ぐぁ」

「きゃ」

「あた」

『いいわよ、いいわよ。ドンドンやりなさい』

『トレーナーは動けなくして』

『ポケモン達は、後でこの中和液で動けるようにしてから、捕まえるにゃあ』

ロケット団の所業を真下から見ていたチョウスケやスタッフ達。

「チョウスケさん、どうしましょう」

「我々には、あいつらと戦うポケモンを持っていません」

「避難だ。出来るだけ、多くの観客やポケモン達を逃がすんだ」

「「はい」」

チョウスケの指示により、すぐさま観客とポケモン達の避難を始めた。

「皆さん、急いで逃げて下さい」

その頃、ネチネチ弾によって動けなくなったサトシ達。

「もお。全然剥がれない」

マナオは、必死に身体中に付いたネチネチ弾を剥がそうとする。その隣のヒョウリは、腰のモンスターボールへ手を必死に伸ばそうとしていた。

「くそ。腰のボールに中々届かなねぇ」

(それしても、最悪だ。選りに選って、右腕に当たったせいで、緊急用のハッサムも出せねぇ)

「くそ。待ってろ、ピカチュウ。すぐに助けに行くからな」

サトシは、必死に剥がそうとしながら、空を飛ぶ飛行船を見て、そう言った。

あれから、吸い込まれたピカチュウとカラカラは、飛行船のゴンドラ内部にある配管を通って行き、終着点に着いた。

「ピカッ」「カラッ」

配管の出口が真上に着いていた為、真下へ落下した二匹。尻もちをついて、少しだけ居たがっていたが、すぐに周囲を見て確認した。そこには、大量のむしポケモン達が居た。二匹は、そこが捕まったポケモン達を閉じ込めている部屋だと気付いた。その場には、先程のステージに居た挑戦者や観客ポケモン、そしてこの森に住む野生のむしポケモン達など大量に居た。ロケット団の飛行船が、サトシ達の所へ来るまでに、森に居た野生のむしポケモンを捕まえながら来ていたからだ。ピカチュウは、すぐさま周りを見て、どこか出口が無いかと探し始めた。こういった事に慣れた結果、迅速に考えて動けるようになったからだろう。

ピカチュウの後ろを怖がるカラカラが付いていく。すると、一匹のポケモンがピカチュウに話しかける。

「ピカ?」

「フリィリィ」

「!」

それは、ピンク色のバタフリーだった。その姿を見たピカチュウは、ある事に気付く。

 

 

ロケット団は、あれからサトシ達から僅かに離れていき、周囲のポケモンや観客たちへネチネチ弾を発射して言った。

『あっ。ネチネチ弾が空になった』

『まぁ、大丈夫にゃあ。肝心なジャリボーイ達は、もう動けないのにゃあ』

『それと、捕まえたポケモン達の格納庫が満杯になりそうだ』

『なら、もう仕事はおしまいにして。動けないジャリボーイ達に、今までのお返しをたっぷりするわよ』

『え?』

『折角、ここまで上手くいったんだし、ジャリボーイ達は動けないなら、気晴らしにやっておかないと』

『そうだな。ピカチュウだけが目当てだったが、今までのお返しはしておきたいよな』

『それに、散々なニャー達を怒らせた。暴力ジャリボーイにも同じ目に遭って貰うにゃあ』

そうして、ロケット団は再びサトシ達の方へ進路を変更して、彼らの元へと向かった。

「くそ、剥がれない」

「これ、ほんと気持ち悪いです」

「くっ。あと少しで右腕のが剥がれそうだが、時間が」

サトシ達は、まだネチネチ弾から脱出出来ていなかった。

「くっ・・・!あいつら、戻って来たぞ」

ロケット団が戻ってきた事に、ヒョウリが気付いた。サトシもマナオも上空を見上げて、ロケット団の飛行船を見る。

『さて、これからジャリボーイ達には、たっぷりとお見舞いして上げるわ』

『ポチッとにゃ』

ニャースが赤色のボタンを1つ押すと、ネチネチ弾の発射器が格納され、代わりに別の緑色の発射器が現れた。

『この特製超激辛ソースシューターを、あいつらの顔面に目掛けて撃ってあげるわよ』

すると、発射器のアームが動かして、サトシ達へ伸びる。まず最初に、発射器はヒョウリへと狙いを定めた。

「おいおい、マジかよ。・・・俺とお前らは、まだ出会って日が浅いだろ。ほら、長年のサトシの方を、さっさとやって今まで溜めてきた鬱憤を早く晴らしたいだろ。なっ、なっ」

ヒョウリは、必死に自分からサトシへ狙いを変えるように説得を始めた。

「ちょっ、ヒョウリさん。最低です」

「お前、酷いぞ」

マナオとサトシは、そんなヒョウリにショックを受けて、文句を言う。

「悪いなサトシ。俺、辛いの駄目なんだ」

(あと、ちょっとで取れそうなんだ。時間をくれ)

ヒョウリは、心の中でそうサトシに申し訳ない気持ちでいながら、ロケット団気付かれないように、右腕のネバネバを取ろうとした。

『そうはいくかと言いたいが、確かにそうだな』

ヒョウリの言う事に、納得したのかロケット団は、アームを操作して狙いをサトシへと変更した。

『じゃあ。悪いけどジャリボーイ。今までの鬱憤を返させて貰うわよ』

『大丈夫にゃあ。暫くの間、顔がヒリヒリしたり、口が激辛の味がするだけにゃあ』

『ソーナンス!』

そう言って、ヒョウリからサトシへと狙いを変更した。

『それじゃあ。いくぜ』

「くそ」

サトシが、覚悟を決めて目を瞑った。

その時だ。

遠くの空から、ロケット団の飛行船に向かい、何かが飛んで来た。飛んできたものは、途中で光線状のものを放ち、飛行船に命中させて、それで爆発と衝撃が起きた。

「にゃあ」

「ん?」

「なんだ?」

その衝撃で、ロケット団は驚いて動揺し、サトシへの発射が中断された。

「ん?」

地上のサトシ達も、一体何が起きたのか分からなかった。すると、先程の光線が飛んできた方から、一匹のポケモンが飛行して、ロケット団のメカへ向かっていた。

「あれはバタフリー」

ヒョウリがそう言って、サトシの視界にもバタフリーの姿が入る。

飛行船に近づいたバタフリーの両目が光り、そこからエスパーわざの(サイケこうせん)が放たれた。(サイケこうせん)は、そのままロケット団のメカに命中し、当たった所に僅かな爆発と煙が起きる。同時に、メカに衝撃が走り、コックピットにいるロケット団達にも伝わった。

「うぉっと」

「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?」

「これ位で、壊れないようにしているにゃあ」

(サイケこうせん)が命中した気嚢は、僅かに焦げただけで合って、特にダメージは無かった。通常なら、燃えたり穴が空いて、中の浮遊用のガスが漏れ出し、飛行船は墜落する。だが、今回のロケット団が用意したメカの飛行船は、大量のむしポケモンピカチュウの捕獲、そしてジャリボーイことサトシ達の動きを封じる事を目的として作られていた。強力な吸引装置と頑丈なポケモンの捕獲部屋、そして強力なカーボンで出来た気嚢。これらは、前回のカゲギシ砂丘で作られたメカの元に設計し、更に改良を加えたものだった。そして、もう1つは、地上移動でなく逃亡用、地上からの攻撃や妨害を出来るだけ受けないように空中移動として飛行船が選ばれた。正に、過去に気球を破られた経験を活かしたロケット団の気合の作品でもある。

そんなメカの詳細について、サトシ達をはじめ先程から攻撃をしているバタフリーには、つゆ知らず。

「フリィィィ」

それでも、バタフリーは攻撃の手を止める事なく、(サイケこうせん)を繰り出しては、ロケット団のメカを壊そうとしている。

そんなバタフリーに、サトシはある事に気付いた。

「・・・あれは」

そのバタフリーの首には、黄色の布切れが巻かれていたのだ。

「くそっ・・・ヤバいな。またくっついてしまう」

必死にネチネチ弾を剥がそうとするヒョウリは、四苦八苦していた。すると、側の林がガサガサと音がした。彼は、咄嗟にそちらの方を見ると、中から1匹のポケモンが出てきた。

「チュラチュラ」

それは、デンチュラだった。

「デンチュラ。よく来てくれた」

ヒョウリは、現れたデンチュラが、自分のデンチュラだとすぐに分かり、喜んだ。

「これを切れ、デンチュラ。シザークロスだ」

ヒョウリは、デンチュラに自分の腕と地面に取り付いているネチネチ状の物体を見せつけ、切るように指示した。

「チュラ」

デンチュラは、早速動いた。前足2本が光だし、ヒョウリの指示通り、ヒョウリに取り付いているネバネバ状の物体を器用に切っていく。

「よし。足の方も頼む」

そうやって、ネチネチ弾から見事に脱出が出来た。

「次、俺も頼む」

「わ、私もです」

「デンチュラ、他の皆も頼む」

「チュラ」

サトシとマナオもデンチュラの助けで動けるようになった頃。先程からロケット団は、自分達の邪魔をしてくるバタフリーの対処に夢中となっていた。

「くっ、早くしなさいよ」

「分かってるって。けど、あいつすばしっこくて」

「にゃあ!」

「どうしたの?」

「ジャリボーイ達が」

「え?あぁ」

ロケット団は、サトシ達がネチネチ弾から脱出した事に、漸く気付いた。

「バタフリーに夢中になり過ぎたにゃあ」

「えぇい、こうなったら念のために用意したこれの出番よ。行くわよ、コジロウ」

「おう。ニャース、ソーナンス。後は頼むぞ」

「任せるにゃあ」

「ソーナンス」

ムサシとコジロウは、互いのシークレットボールを取り出すと、コックピットから出ていった。続いて、メカの後部のハッチが開き、中からムサシとコジロウがロープに掴まりながら、地面へ降り立ち、サトシ達へと向かう。

「よし、コジロウ達が降りたにゃ。ニャー達は離脱するにゃあ」

「ソーナンス」

ロープは巻き上げられると、飛行船はその場から離れていった。

「今日は、お前たち達を負かす大チャンスだ!」

「さぁ、行きなさい。新しいレンタルポケモン達!」

コジロウとムサシは、互いにシークレットボールを投げた。中から出てきた2体のポケモンは、サトシ達の目の前に姿を現し、攻撃体制を取った。

「ウッギャ」

「ゴロ」

強くサトシ達を威嚇する2体のポケモンを見たサトシとヒョウリ。

「あれは、モウカザル」

「隣は、ゴローニャ。それもゴローニャはアローラのすがたの方か」

「そうさ。俺たちの新しいレンタルポケモンだ」

「今度こそ勝たせて貰うわよ」

ロケット団が新たにレンタルしたポケモンは、モウカザルとゴローニャ(アローラのすがた)だった。

「モウカザルとアローラのゴローニャ・・・」

マナオは、ポケットからポケモン図鑑を取り出して、目の前の2体に向けた。

『モウカザル。やんちゃポケモン。ヒコザルの進化系。天井や壁を利用して、空中殺法を繰り出す。尻尾の炎は武器の1つで、その炎を長く伸ばし、体を大きく見せて、敵を怖がらせる。また、尻尾の炎の勢いをコントロールして、自分の得意な間合いを取って、戦う事がある』

『ゴローニャ(アローラのすがた)。メガトンポケモン。ゴローン(アローラのすがた)の進化系。名前の通り、アローラ地方に生息するゴローニャ。ダイナマイトでも傷が付かない丈夫な身体だが、湿気や雨など水分が苦手。帯電した岩石を発射。 着弾した一帯に、凄まじい電撃が迸り、掠れただけでも体が痺れ失神する威力がある』

「どうしましょう。私も師匠もポケモンが」

マナオの言う通り、サトシとマナオの唯一ポケモンであるピカチュウとカラカラは既に捕まってしまい、今の二人の手持ちポケモンは0である。その二人の前に、ヒョウリが出てきて、ロケット団に対峙する。

「俺が相手をするしかないだろ。・・・サトシ」

ヒョウリは、腰のポーチから何かを取り出すと、それをサトシへと投げ渡した。サトシは、受け取って、それを見るとある事を思い出した。

「・・・これは、あの時の」

サトシに渡されたのは金属製のL字状の道具だった。先にはモリのようなものがあり、その真下にはワイヤーがロール状に巻かれていた。手で握るグリップ部分には、丁度人差し指

が当たる所に、トリガーが付いていた。それは以前、サトシがヒョウリと出会ってから最初に訪れたハルタス地方の街ミョウコシティでロケット団からポケモン達を奪い返す為に、使ったワイヤーガンだった。

「それを使え、あの高さなら余裕で届く。俺が、こいつらの相手をする。お前らは飛行船の方を、ピカチュウ達を助けに行け」

「あぁ、分かった」

「分かりました」

サトシとマナオは、そのままロケット団のメカの方へと向かった。

「そうはいくか。モウカザル、かえんほうしゃ」

「ウッ、ギャャャ」

コジロウの指示で、サトシ達の進行方向へ(かえんほうしゃ)を放つ、モウカザル。

「デンチュラ、エレキネット」

「チュラ」

咄嗟に、ヒョウリの指示でデンチュラが(エレキネット)を、(かえんほうしゃ)に向かって撃ち、相殺させた。それにより、爆発と煙が発生する。

「今だ、行け」

「すまん」

サトシとマナオは、その煙の中を潜り抜けて走って行った。

「あっ、待ちなさい」

「おっと。お前ら、余所見するなよ。俺にまた負けたいか?」

「・・・フン。まぁ、いいわ。あんたと倒してからよ」

「そうだな。それに、ポケモン無しのあいつらには、飛行船に手も届かないさ」

二人が行くのを確認するヒョウリは、左手を腰に当てる。そこには、自分のポケモンが入ったモンスターボールがベルトに固定されているが、その周りに先程のネチネチした物体が僅かにこびり付いていた。

(右手のは取れたが、腰のが僅かに残ってすぐに剥がせない)

そう考えた彼は、右腕の裾からモンスターボールを1つ取り出して掴んで投げる。

「いけ、ハッサム」

投げたボールから出てきたハッサムは、目の前に降り立つ。

「ハッサム」

「よし。ハッサム、デンチュラ。こいつらを相手にするぞ」

「ハッサム」「チュラ」

ヒョウリの言葉に、返事をするハッサムとデンチュラは、戦闘態勢を取る。

「ゴローニャ、やってしまいなさい」

「モウカザル、お前も行け」

「ニャゴロ」

「ウギャ」

ロケット団とのバトルをヒョウリに任せたサトシとマナオは、飛行船の跡を追って行った。ムサシとコジロウを降ろしてから、飛行船は徐々に森から離れて行こうとしていた。しかし、飛行船には先程のバタフリーが空からわざを繰り出して、妨害していた。それに対して、コックピットに残ったニャースとソーナンスが、追い払いながら航行をしているものの、速度が徐々に落ちていた。

「よし。着いた」

「た、高いですね」

漸く真下にやって来た二人は、下から飛行船を見下ろした。地上から飛行船のゴンドラまでの高さは、約50m近くあり、サトシはあそこまで届くかと不安になった。

「・・・」

だが、サトシは先程ヒョウリから貰ったワイヤーガンを手に取り、それを飛行船のゴンドラに向けた。今までにこういうものを扱った事がないサトシには、上手く狙えず腕が上下左右にブレてしまい、狙いがズレてしまう。

(チャンスは1度だけ)

必死に狙いを定めてから、サトシはトリガーに指を掛けて、力を込めた。

(頼む。届いてくれ)

そう願いを込めて、トリガーを引いた。すると、ワイヤーガンの先端が圧縮されたガスが噴射し、その力により先端にあるアンカーが一気に射出された。アンカーは、勢いよく空気を切りゴンドラへと向かっていく。だが、僅かに狙いが逸れたのかゴンドラから徐々に外向きへと進路が変わっていく。

「あっ」

サトシは、声を出した。このまま外れたら、飛行船に乗り込む事は出来ない。そうなれば、ピカチュウ達を助けに行ける可能性が無くなるかもしれない。失敗してしまった事に、後悔した気持ちが湧き出てきた時だ。救いの展開が起きた。飛行船が少しだけ真横に動いたのだ。すると、ギリギリの所をアンカーがゴンドラに命中して、食い込んだ。

「・・・やった」

サトシは、飛行船の方から空を飛ぶバタフリーへと視線を移した。先程からの飛行船に(サイケこうせん)を放つバタフリーのお陰だったからだ。

「しつこいにゃあ」

「ソーナンス」

「こうなったら、奥の手にゃ!」

ニャースが、操作パネルの黄色のスイッチを押すと、ゴンドラの側面から巨大な電球の様なものが出てきた。

「!」

次の瞬間。ランプが一気に発光した。強い光がバタフリーに浴びせられ目を眩ませる。

「フッリィ」

突然の事に、驚きながら視界が真っ白になったバタフリーの動きが止まってしまった。

「今にゃあ」

巨大な吸引装置をバタフリーに向けると、内部のファンが先程までとは逆回転を始め、空気を溜めていくと、一気に放った。それは正に空気砲だった。そのまま、強力な風圧の弾は目が眩んで動きが止まっているバタフリーに命中した。

「フリィィィ」

バタフリーは、当たった勢いで、下の森の中へ吹き飛ばされて行く。

「あっ!」

その事に気付いたサトシは、バタフリーが墜落していくのを見た。

「・・・くっ」

サトシはバタフリーから飛行船へ向き直り、何かを悩む顔をする。

「師匠?登らないんですか?」

「!」

マナオにそう言われたサトシは、思い留まっていたが、すぐさま決断した。

「マナオ」

「は、はい」

「俺の変わりに登ってピカチュウとカラカラを助けに行ってくれ」

「・・・へ?」

「俺もすぐに助けに行く」

そう言うと、ワイヤーガンをマナオに手渡してから、急いで走り始めた。

「あっ、師匠。・・・行っちゃた。え、私一人で?」

サトシは、全速力で走った。走った先には、先程墜落したバタフリーが倒れていた。

「はっ」

すぐさまバタフリーに寄ったサトシは、抱き抱えて話しかける。

「大丈夫か?バタフリー」

「!」

突然、何者かに触られた事に驚くバタフリーは、慌てて暴れ始めた。

「うわっ。大丈夫だ、バタフリー。落ち着け」

バタフリーは、まだ先程のロケット団の目眩ましで、視界がまだぼやけていた。それで、相手の顔は分からないが、人間なのは分かった。きっと先程の襲ってきた仲間だと思っているのだろう。必死に抵抗しようとした所、サトシは大声でバタフリーに叫んだ。

「俺だ。バタフリー。思い出せ」

「!」

バタフリーは、その声に強く反応して動きを止めた。ただ、大声を出されて硬直したのではなく、彼にはどこか聞き覚えのある声だったからだ。バタフリーは、じっとそのまましていると、徐々に視界が戻り始めてきた。そして、やっとサトシの顔が聡明に見えた。

「フ、リィ・・・フリィィィ!」

「あぁ、俺だ」

バタフリーは、サトシの顔を漸く認識すると、凄く驚いた。

 

 

「行け、モウカザル。かえんほうしゃ」

「ゴローニャ、ロックブラスト」

「ハッサム、ファストガード。デンチュラ、エレキネット」

ハッサムは、両腕を正面に構えて赤い円状の盾を発生させて、(かえんほうしゃ)を受け止める。一方で、デンチュラは電気で出来た網状の物体を口から出して、飛んできた(ロックブラスト)を空中で相殺させた。

サトシ達と別れて、5分が過ぎた。ヒョウリは、現在使用できるポケモンであるハッサムとデンチュラと共に、ロケット団のレンタルポケモンであるモウカザルとアローラのゴローニャとバトルを続けていた。最初は、上手く戦えていたのだが、それぞれの相性が少し悪く次第にヒョウリのポケモン達が押されていた。

「相性が、ちいと悪いかな」

先程からハッサムがモウカザルを、デンチュラがゴローニャを相手にしていたのだが、戦いは徐々に追い込まれる事となった。

相手のモウカザルは、ほのおタイプでハッサムには相性は悪い。だから、出来るだけほのおわざに中止しつつ、遠距離は避けてハッサムの得意な近接戦で戦っていた。だが、相手のモウカザルは、この森に生えた大量の木を上手く使い、機動力と瞬間的な戦法を行っていた。そのせいもあり、ハッサムに対して素早い攻撃と不意打ちを行うようになり、徐々に押されていた。

もう一体のアローラのゴローニャは、いわタイプに加え、デンチュラと同じでんきタイプを併せ持つ。先程から、デンチュラのでんきわざである(エレキネット)と(10まんボルト)を放っても、効果はいまひとつであった。(エレキネット)で動きを封じようとするも、

「モウカザル、グロウパンチ」

「ファストガードだ」

「ハッサム」

「フン、今だ。モウカザル、フェイント」

「なっ」

「ハッサ!」

モウカザルは、急遽グロウパンチのままフェイントを繰り出すと、ハッサムが発生させたファストガードが打ち破られて、そのままわざがクリンヒットしてしまった。

「ゴローニャ、すてみタックル」

「チュラァ!」

「あっ、デンチュラ」

ハッサムとデンチュラは、共に攻撃を受けて、地面の上転がった。

「へぇんだ。どうだ、暴力ジャリボーイ」

「どうやら、今回はあんたの運の尽きみたいね」

ロケット団は、勝ちを確証したかのように、そう発言する。

「・・・」

それ対して、ヒョウリは何も返さない。

「あら、もしかして負けたのが悔しいの?」

「ふん。大人を馬鹿にするからこういう目に遭うのさ」

ロケット団は勝ち誇った態度でヒョウリに言葉を投げるのだが、ヒョウリの表情は悔しくも無く、ただ少しだけ俯いて何かを考えていた。

「うん?どうした急に黙って」

「ぐうの音も出ないとは正にこの事だな。今更謝っても許さないぜ」

「これで、あんたのポケモンを倒したら後は、他のポケモンと一緒に私達が貰って上げるわ」

「こないだは油断したが、力付くで奪ってやるからな」

ムサシとコジロウに、次々と言われ続ける彼だが、やっと口を開いた。

「・・・が」

ヒョウリは、ボソリと言葉を出したが、ロケット団には聞き取れなかった。

「ん?」

「なんだって?」

ロケット団に聞き返されたヒョウリは、顔上げた。その顔は、以前に彼らへ出したとても悪い顔だった。

「悪いが・・・お前らの負けだ。雑魚共」

 

 

「きゃぁぁぁ」

マナオは、大声で叫びながら、勢いよく飛行船へと登っていた。先程サトシから受け取ったヒョウリのワイヤーガンのグリップを両手で強く握りしめ、右手の人差し指でトリガーを引いていた。今の彼女は、サトシが何とか命中させて引っ掛ける事が出来たアンカーとワイヤーガンを繋ぐ細い特殊ワイヤーのみで、彼女の全体重を支えて、モーターで巻かれた力で釣り上げられる状態となっている。

「お、お願いだから切れないでね」

彼女は、細いワイヤーにそう願いならが、徐々に飛行船のゴンドラに近づいていった。

「やっと着いた・・・ど、どうしよう」

巻き上げが終わり、ゴンドラに掴まるマナオは、どうやって中に入ろうかと考えた。周りを見て、確認してもドアのような物が見当たらない。

「・・・あっ」

辺りを見ていると、ゴンドラの真下の開いたハッチに目を付ける。ポケモン達を吸い込んだ巨大吸引が取り出しているアームが中から伸びているのを見て、ここから入れるのではと考えた。彼女は、ゆっくりと手でゴンドラから出っ張ているフレームを掴みながら、内部へと入った。

「暗っ。明かりとかないの」

マナオが入ったゴンドラ内部は暗くて、ハッチから入ってくる僅かな光でしか光源がなかった。

「えぇと、こっちかな。あっちかな」

マナオは、迷いながらも内部のあちこちに這って行く。中は、配管やコードなど色々と入り乱れていて、人の通れるスペースが僅かしか無かった。

(カラカラ、ピカチュウ。どこ?)

マナオは、カラカラ達を探しながら進んでいると。

「・・・たくにゃあ」

「・・・ス」

どこかで誰かの話し声が聞こえた。

「!」

彼女は、その方向へ行くと僅かな光がチラチラと見えた。それは空調用のガラリで、向こうからの光の空気の穴を通って、こちら側を照らしているのだ。マナオはガラリ越しに奥の方を覗いた。

「ムサシ達、遅いにゃ。早く撤収しないと警察が来るというのに」

「ソーナンス」

(あれは、喋るニャースとソーナンス)

そこに居たのは、ロケット団のニャースとソーナンスの姿だった。マナオが覗いている空間は飛行船のコックピットだった。

(よし。こいつらを何とかしてポケモン達を・・・いや無理無理無理。私、今ポケモン持っていないし。私一人だし)

マナオは、必死に考えた。どうすればカラカラ達を助け出せるか。ニャース達をどうにかして飛行船を降ろせないか。そう彼女がえている最中に、ある物に気付いた。それは、這わされている色取り取りな配線の束だった。

「・・・」

マナオは、じっとそれを見てから悩んだ表情をする。それから、背負っているリュックを降ろして中から1つのハサミを取り出す。

「スゥー、ハァー」

何かを決断したような表情をして、ゆっくりと深呼吸をした。そして、手に持つハサミを握り、もう片方の手で配線の束を持ち上げた。

「!」

ブチッと配線は切断された。その瞬間。

ニャース達がいるコックピットの操作盤が赤色のランプが点滅して、警報音が鳴り響いた。

「にゃ、にゃんだぁ!」

「ソ、ナンス!」

ニャースとソーナンスは、急な状況に叫びながら大慌てになる。

「にゃっ。飛行船の操縦制御システムが不通になってるにゃ!」

「ソォナンス!」

「しょれに、飛行船のガス制御装置も不通に」

「ソォナンス!」

すると、操作が出来なくなった飛行船は徐々に、前へ倒れるかのように傾き始めた。

「にゃあ」

「ソォ」

ニャースとソーナンスは、バランスを崩して、そのまま前の正面ガラス目掛けて顔面を打ち付けた。

「ごにょままにゃ、墜落にゃ」

「ソォ、ナス」

そう結果が見えてしまったニャースとソーナンス。

「きゃぁ」

同様に、傾斜が出来た事でマナオも前へ倒れるようになると、彼女の体重が掛かったガラリが外れて、そのまま彼女はコックピット内に転がり入ってしまった。

「いてっ」

「にゃ?ニャー。おみゃーは、ジャリガール」

マナオの姿を見て、ニャースは驚いた。

「あっ、見つかった」

「さては、おみゃーのせいだな。一体、何をしたのにゃあ」

「ソーナンス」

マナオに詰め寄るニャースとソーナンスに、彼女はおどおどしながら答える。

「そ、その、えぇと・・・切っちゃた。配線」

「「・・・」」

「・・・」

「もう駄目にゃ。墜落にゃあ!」

「え、えぇ。墜落!」

ニャースの言葉にマナオもパニックする。

「ど、どうにかしてよ」

「おみゃーが切ったからもう無理にゃあ」

「けど、このままだと落ちたら、って。あぁ」

マナオが話している最中に何かを見て、マナオは指を指して大慌てする。

「にゃあ?」「ソ?」

彼女が見ている方をニャースとソーナンスも振り返ると。正面ガラスの向こう側が森や地面が見えていて、あと少しで届きそうな勢いだった。マナオ操縦不能に堕ちた飛行船は、次第に降下していき、地面へ向かっていた。

「にゃあぁ!激突するにゃあ」

「落ちるぅぅぅ!」

「ソォナァァ!」

飛行船は、墜落した。

「あっ」

飛行船が落ちた所をサトシとバタフリーは見た。サトシは、バタフリーで出会ってから、手持ちのキズぐすりを使って、バタフリーの治療をして回復させていた。

「行くぞ。バタフリー!」

「フリィ!」

二人は、急いで墜落地点へ向かった。

墜落した飛行船は、ゴンドラの部分だけが地面に衝突した後、少しだけバラバラになりながら地面に倒れるように着地した。更に、墜落のショックで気嚢と繋がっていた部分が破損した為、ゴンドラと巨大なドクケイルデザインの気嚢は、完全に外れてしまい、気嚢はそのまま離れた所に転がっていった。

「いたた」

「いたいにゃあ」

「ソッナンス」

ゴンドラは、僅かにヒビが入り、正面ガラスの殆どが割れていた。コックピット内に居たマナオとニャース達は、僅かな打撲で済んだのか無事だった。打ち付けた所を擦るマナオは、ニャース達を見て、すぐさま立ち上がった。

「あっ、コラ。あんた達」

マナオの大声に、ニャース達へビクっと反応する。

「「!」」

「早く、私のカラカラと師匠のピカチュウ、他のポケモン達も返しなさい。一体、どこに居るの?」

「ふん、誰が教えるにゃあ」

そう言ってニャースは立ち上がると、爪を尖らせてソーナンスと共に立ち向かう。

「くっ」

マナオは、何も考えずに感情的に言ってしまい、このままだと不味いと思った。彼女は、後ろへと下がるが、そこはコックピットの密閉空間で逃げ道が殆どなかった。

「ニャー達の邪魔をすると痛み目に遭うにゃあ」

その時だ。

「マナオ!」

外からサトシの声がした。

「師匠!」

「げっ、ジャリボーイにゃあ」

「ソーナンス」

ニャース達にもその声が聞こえたすぐさま見渡した。すると、割れた窓から外に、サトシとバタフリーが居た。

「居た。大丈夫か」

「師匠。はい、無事です」

マナオは、急いで窓から飛び出して、外に出た。

「ピカチュウ達は?」

「それが、その」

「ジャリボーイ」

「!」

ニャースとソーナンスが戦闘態勢で構えていた。

「こうなったらニャー達だけで、おみゃーらを倒すにゃあ」

「ソーナンス」

「そうはいくか。バタフリー」

「フリィ」

バタフリーは、サトシの前に出て、ニャース達と対峙する。

「にゃあ。さっきのバタフリーかにゃあ」

先程、追い払ったバタフリーだと気付いたニャース。

「・・・」

ニャースは、じっとバタフリーを見つめる。すると、どこか懐かしい何かを感じて、昔のある記憶が出てきた。

「そ、そのバタフリーは、まさかにゃあ」

そのバタフリーが、かつてカントー地方で出会ったジャリボーイのポケモンだったバタフリーだと分かり、ニャースは驚く。

「あぁ、そうだ。俺がはじめてゲットした仲間だ。行くぞ、バタフリー。サイケこうせん」

「フリィィィ!」

バタフリーは、(サイケこうせん)をニャース達に放つと、ニャースはソーナンスの後ろに隠れた。

「頼むにゃあ。ソーナンス」

「ソーナンス!」

ソーナンスの(ミラーコート)で、(サイケこうせん)を跳ね返した。

「躱せ」

バタフリーは、跳ね返されたI自分の(サイケこうせん)をギリギリで躱す。

「こうなった仕方ないにゃあ」

ニャースが隠して持っていた何かを勢いよく地面に投げつけた。すると、そこから黒い煙が溢れ出し、視界が見えなくなった。煙幕だ。

「くっ」

サトシとバタフリーは、煙幕でニャース達の姿が見えなくなり、すぐに次の手を打った。

「バタフリー、煙幕を吹き飛ばすんだ」

「フリィィィ」

バタフリーは、羽を激しくバタつかせて、煙幕を払い除ける。次第に、煙幕は薄れていき、視界が戻った。

「あいつらが、居ない。どこに」

だが、ニャースとソーナンスの姿がそこには無かった。辺りを見るサトシとバタフリー。

「師匠、あそこです」

マナオが、空に指を向けて知らせてきた、サトシとバタフリーも見上げると。そこには、ロケット団がいつも使っているニャース柄の気嚢に吊り下がった気球が飛んでいた。気嚢に吊り下げられた緑色のバスケットから、ニャースが顔を出した。

「バイにゃらにゃあ」

そう言って、気球はそこから離れて行く。

「待て!」

サトシが追おうとしたが、マナオに止められた。

「師匠、それよりピカチュウ達を」

「あっ」

すぐさまサトシ達は、墜落したゴンドラの残骸へ近寄り、中からピカチュウ達を探し出す。

「ピカチュウ!」

「カラカラ、どこ?」

「フリィィ」

必死にピカチュウ達を探すのだが、一向に見つからない。すると、サトシの耳に何かが聞こえた。

「ピカピ」

僅かに、ピカチュウが自分を呼ぶ声がしたのだ。

「!」

サトシは、すぐさま聞こえた方へ向かう。

「ピカチュウ!どこだ!」

残骸の中を掻き分けていくと、巨大なコンテナ状の物体を見つけた。

「これか?」

コンテナに触って試しに叩いてみると。

「ピカピ」

中からピカチュウの声が再び聞こえた。

「居た。マナオ、バタフリー、こっちだ!」

すぐさま、他の二人を呼んだ。

「くそ、どこがハッチなんだ」

サトシは、どこか出入り口のようなものは無いかと探したが見当たらなかった。

「仕方ない。バタフリー、サイケこうせん」

「フリィィィ」

コンテナに向けてバタフリーは、(サイケこうせん)を放つ。しかし、コンテナはびくともしない程の頑丈だった。

「駄目だ。びくともしない」

「そうですね」

「恐らく中も硬いからピカチュウ達でも出れないんだ。どうすれば」

サトシは、考えてコンテナの周りをもう一度よく見た。

「・・・ん?」

すると、上側に何かが突き出ているのを見つけた。

上へ登って見ると、コンテナの中央から配管が突き出ていた。

「そっか。吸い込んだポケモンは、ここを通って」

サトシは、配管に登って上から中を覗くと、中も金属のハッチで塞がていた。

「これも硬そうだな。けど・・・よし」

サトシは、名案を思いついた。

「バタフリー。俺が合図をしたら、ここへサイケこうせんを撃て」

「フリ」

「ピカチュウ、聞こえるか。」

「ピカ」

コンテナに向かってそう叫ぶとピカチュウが返事をする。

「今から中央を攻撃するから、ピカチュウ達は真ん中から離れるんだ。それとピカチュウとカラカラも中央を内側から攻撃してくれ」

「ピカッ」

「よし」

そうして、同時によるコンテナ破壊を行った。

「いくぞ。サイケこうせん」

「フリィィィ」

バタフリーの(サイケこうせん)がコンテナの中央の配管に命中する。同時に内部では、ピカチュウとカラカラによる破壊行為を行っていた。

「頑張れ、バタフリー。もう少しだ」

「リィィィィ」

両サイドから攻撃を続けて10秒以上が経過した。次第にハッチが壊れはじめ、遂に爆発した。

「くっ、成功したか?」

中央で煙が発生して、よく見えなかった。サトシ達は息を呑んで見守っていると、煙の中から影が1つ2つと出てきた。

「ピカピ」

「カララ」

煙から飛び出してきたのは、ピカチュウとカラカラだった。

「ピカチュウ」

「カラカラ」

サトシとマナオ、彼らの名前を呼び、抱きしめた。

「ピカピ」

「カララ」

それから、二人に続いて、空いた穴から他のむしポケモン達も次々と脱出を始めた。すると、バタフリーが周りをキョロキョロと向いて、誰かを探している。

「フリィ」

すると、他のバタフリーの声が聞こえた。バタフリーが、そちらへ向き直ると、そこには

一匹のピンク色のバタフリーが居た。

「フリィ」

「・・・フリィィィ」

バタフリーは急いでピンク色のバタフリーに駆け寄った。その様子を見たサトシは、ピンク色のバタフリーを見て、思い出した。

「あのバタフリーは、あの時の」

そのバタフリーが、かつて自分のバタフリーと別れた日、自分のバタフリーとつがいとなったピンク色のメスのバタフリーだと分かった。

「そっか、それでお前。あんなに・・・ん?」

サトシは、感動したのか少しだけ涙を出していると、ピンク色のその後ろには、小柄の3匹のキャタピーが居る事に気付いた。すると、バタフリーがそのキャタピー達に抱き締めるかのように羽で包み始めた。それに合わせてピンク色のバタフリーも同じ事をした。

「もしかして、お前の子か?」

サトシが近寄りながらバタフリーへ尋ねると、サトシの方を見て、返事をする。

「フリ」

「そっか。良かった」

 

 

サトシ達が、掴まったポケモン達を無事に救助出来た頃。

「う、嘘だろ」

「なんでよ」

森の中で、ヒョウリとバトルをしていたムサシとコジロウは、額に汗を掻いて、驚愕していた。

「ハッサム!」

「ウギャ」

「チュラ!」

「ゴロォ」

先程まで優勢だったムサシとコジロウのレンタルポケモン。モウカザルとアローラのゴローニャが返り討ちに合っていたからだ。

時は、マナオが飛行船に潜入した時だ。

「ざ、雑魚共だと。いい加減にしろよ。お前!」

「あんた、前から思ったけどほんと口が悪いし、性格も悪いはね。友達居ないでしょう」

ヒョウリに雑魚呼ばわりされたロケット団は、キレつつも彼へ言い返した。

「まぁ、本当の友達と言えるのは数人かな。ポケモンは敢えて省くが」

ヒョウリは澄まし顔で、答えと今度はロケット団へ質問をした。

「ところでお前ら、レンタルポケモンばかり使っているが、自前のポケモンはいないのか?」

「はぁ?当然いるわよ」

「今はただ、上の指示で本部に預けているだけだ。それでレンタルポケモンを運用して・・・って俺たちの事はどうでもいいだろ」

「そうか。なら、その2体だけなんだな」

「「ん?」」

ヒョウリの言葉にイマイチピンとこなかった二人だが、彼は一気に反撃を始めた。

「ハッサム、デンチュラ。フォーメーションRP3だ」

「ハッサム」「チュラ」

ヒョウリの言葉にダメージを負っていたハッサムとデンチュラの目つきが変わった。

「フォーメーション?」

「RP3?」

ムサシとコジロウがそう呟くと、ハッサムとデンチュラが動き出した。

「「なっ!」」

「ハッサム」「チュラ」

ハッサムとデンチュラは、ヒョウリの指示もなく互いに並ぶと共に(かげぶんしん)を使い始めた。ハッサムとデンチュラの左右に大量の影分身の残像が出現し、ロケット団のモウカザルとゴローニャは、慌て始めた。

「ウギャ」「ニャ」

「何よ。ただのかげぶんしんじゃない。ゴローニャ、ほうでん」

「モウカザル、かえんほうしゃだ」

「ゴロ、ニャー」

「ウギャァァァ」

ゴローニャの(ほうでん)とモウカザルの(かえんほうしゃ)で、(かげぶんしん)を使っているハッサムとデンチュラへ攻撃をする。わざが命中して、次々と分身体が消滅していく。

「今だ」

突然、ヒョウリがそう叫ぶ。

「チュラ」

影分身の中にいた本物のデンチュラが突然、エレキネットを次々と発射した。

「躱しなさい」

わざを中断してゴローニャとモウカザルは、すぐに躱そうと体が動かした。最初の一撃は躱せたが、次から次へと撃ってくるエレキネットは主にゴローニャへと飛んでいく。ゴローニャは、モウカザルに比べて素早く動けない体をしている。そのまま、エレキネットは次々とゴローニャに命中して、ドンドン身動きが取れなくなていく。

「ゴロゥ」

全く体が動かせないようになったゴローニャに、ムサシを悔しがる。

「えぇい、もう。コジロウ、援護しなさい」

「モウカザル、デンチュラにかえんほうしゃだ」

モウカザルは、素早くデンチュラへ目掛けて(かえんほうしゃ)を放とうとした瞬間。いきなり、真横からハッサムが突っ込んで来た。ハッサムが(でんこうせっか)で、モウカザルへ体当たりをしてきたのだ。

「ウギャッ」

(かえんほうしゃ)を撃つ瞬間の隙を突いてので、攻撃がクリンヒットした。更に、攻撃を受けて地面に倒れるモウカザルへデンチュラは、エレキネットを発射して、命中した。モウカザルは、地面に貼り付け状態となってしまった。

「ちょっと、二体ともやられたじゃない」

「あぁ、くそぉ。なんで、あいつは何も指示していないのに」

コジロウが、そうボヤくと。

「それは、そういう戦術のフォーメーションだからだ」

ヒョウリは、話を続ける。

「俺は、自分のポケモンにいくつかの戦法とフォーメーションを訓練させていてな。通常のバトルでは使わないが、必要な時には使う。サトシ達には、まだ教えていない。俺のポケモンの隠しわざという切り札さ」

その話を聞くロケット団は、ただ悔しいとしか言えなかった。

「そろそろ終わりにするか」

ヒョウリは、トドメを指示した。

「ハッサム、エアスラッシュ」「デンチュラ、ギガドレイン」

ハッサムの両腕が光だし、勢いよく腕を振って光の刃である(エアスラッシュ)が(エレキネット)で封じられたモウカザルに命中する。

「ウギャッ」

命中したモウカザルは、そのまま気絶した。

「あぁ!俺のモウカザルが!」

モウカザルは、ほのおとかくとうタイプのポケモン。ひこうわざである(エアスラッシュ)には効果抜群だった。

一方で、デンチュラは口から緑色の光の球を放つと、それが(エレキネット)で動けないアローラのゴローニャに命中した。

命中すると、ゴローニャはまるで何かを吸われたかのように力が弱まっていき、そのまま気絶した。アローラのゴローニャは、でんきといわタイプ。くさタイプの(ギガドレイン)は効果抜群だった。更に、(ギガドレイン)の効果でデンチュラは、体力を回復した。

「なんでよぉ」

「どうして、こんな事に」

先程まで、ロケット団が優勢となって、あと一歩で勝っていたはずだった。しかし、まさかの大逆転劇にロケット団の二人は、強いショックを受けていた。そんな二人を見て、ヒョウリは突然話し出す。

「戦いで勝つ大切な事」

「「?!」」

「その1。如何に相手を知り、自分の弱点を見つけ出す。そして、その対策と切り札を用意する・・・まぁ、これは俺の師匠からの受け売りだがな」

そう言って彼は、ロケット団の方へ近づいて行く。

「前半でお前らのポケモンがどういうわざと特技を持っているか分析した。そして、俺のポケモンとの相性と弱点に対して評価した。あとは、タイミングを見計らって、切り札を使った。それに、俺のポケモンには、相性が悪い奴に使えるわざを1つでも覚えさせていてな。

いや、良かったよ。お前らのポケモンがその二体だけで。こっちは今、この二人しか俺出せないからなぁ」

ヒョウリが軽く笑いながらそう言っていると、急に真顔に戻った。

「さて、どうするお前ら?今度は、お前らが直接相手になるか?」

「「くぅぅぅ」」

ムサシとコジロウは、歯を食いしばって悔しい顔をした。だが、もう彼に対抗できるポケモンも手も持っていない二人。このままでは、自分たちも返り討ちに遭うと分かってピンチだった時だ。

「ムサシ、コジロウ!」

「「!」」

自分たちの名前を呼ぶ声が上から聞こえた。咄嗟に見上げると、そこにはいつも使っているロケット団の気球が飛んでいた。

「「ニャ、ニャース」」

気球には、ニャースとソーナンスが乗っていた。

「お、お前、飛行船は?」

「もう落ちたにゃ。作戦失敗にゃあ」

「ソーナンス!」

「「嘘でしょう」」

「あんなに頑張ったのに」

「もう何やってんのよぉ」

ムサシとコジロウは、ニャースへそうボヤく。

「仕方ないにゃ。とにかく上がって来るにゃあ」

ニャースがそう言うと、隣のソーナンスが縄梯子を降ろした。

「くっ、戻りなさい」

「戻れ、モウカザル」

ムサシとコジロウは、気絶しているモウカザルとゴローニャをボールに戻して、すぐさま気球へ上がっていった。

「覚えてなさいよ。暴力ジャリボーイ」

「今度こそ、お前も倒して。ジャリボーイのピカチュウ諸共、お前のポケモンも奪ってやる」

そう吠え面をかきながら二人が上がり切ると、一気に上昇した。

「「撤収!」」

「逃げ足は早いな」

そんなロケット団を下から見て、そう呟くヒョウリ。

「待て!ロケット団」

「逃さないわよ」

すると、サトシ達もその場にやって来た。

「げっ、ジャリボーイ」

「ピカチュウを奪い返されたから、ヤバいな」

「全速力で逃げるにゃあ」

ロケット団は、気球の勢いを上げて、すぐさま逃げようとした。

「ハッサム」

だが、彼らの気球目掛けて、ヒョウリのハッサムが飛んできた。ハッサムは、(エアスラッシュ)を放ち、気球の気嚢を切り割いた。その結果、気球は浮力を失い、一気に落下した。

「「「あぁぁぁ」」

そのまま気球は墜落してロケット団達は、バスケットから投げ出されてしまう。

「いたた」

「全くあの暴力ジャリボーイ」

「こうなったらニャー達の意地を見せるにゃあ」

「ソーナンス」

ロケット団は、最後の悪足掻きとして戦闘態勢を取る。

「お前ら、無事だったようだな」

「あぁ。ヒョウリこそ、勝ったみたいだな」

「まぁな」

ヒョウリと合流したサトシ達は、ロケット団と対峙する。

「ん?あれって」

コジロウがサトシの隣にいるバタフリーに気付いた。

「ジャリボーイの奴、ポケモンを他に持っていたのか?」

「あれって、さっきのバタフリーじゃない?ほら、黄色スカーフ巻いた」

コジロウに続いてムサシも気付く。すると、二人にニャースが答えた。

「そうにゃあ。あれは、ジャリボーイのバタフリーにゃあ」

「「え?ジャリボーイのバタフリー・・・まさか」」

ムサシとコジロウは、昔のある記憶から思い出した。ニャース同様に、かつてカントー地方で僅かに出会ったあのサトシのバタフリーを。

「「あの時のバタフリー?!」」

ロケット団が、そうリアクションをしている間、サトシ達は動いた。

「行け!バタフリー、サイケこうせん!」

「ハッサム、エアスラッシュ!デンチュラ、10まんボルト!」

「フゥリィィィィ!」「ハッサムゥ!」「ヂュラァ!」

彼らの遠距離技が、ロケット団へ向かっていく。

「ソーナンスあとは宜しく」

ムサシがそう言って、ロケット団の3人はソーナンスの背後に避難する。すると、ソーナンスは、構えて体を光らせる。

「ソーナンス!」

ソーナンスの得意わざの(ミラーコート)を発生させて、彼らのわざを見事に弾き返し、そのまま彼らの元へ戻り爆発を起こす。

「くっ」

「厄介だな。あれは」

サトシとヒョウリは、苦悶してどうすればいいか考えると、サトシが何かに閃いた。

「そうだ。バタフリー」

サトシは、早速バタフリーに指示を出した。

「ねむりごなだ!」

「フリィ~!」

バタフリーは、すぐに羽を羽ばたかせてソーナンスに向かった。それからバタフリーの両羽から青色の粉が発生して、それがソーナンスに降り注いだ。

「おっと」

「ソ、ソーナンス」

「吸っちゃ駄目にゃあ」

ロケット団達は、自分達の鼻を摘んで、ソーナンスにそう注意するが、時は遅かった。

「ソ、ナンス」

そう最後に返事をして、倒れるソーナンスは、そのまま眠ってしまった。

「ちょ、ちょっと、ソーナンス」

「ナンス♪」

ムサシの文句に、寝言で返事をするソーナンスは、もう戦闘不能状態となった。

「ニャー達は、最強の盾を失ったにゃあ」

「て、いうことは」

ロケット団達は、恐る恐るサトシ達を見た。

「今だ。ピカチュウ、10まんボルト!バタフリー、サイケこうせん!」

「ピカッヂュゥゥゥ!」「フリィィィ!」

二人の(10まんボルト)と(サイケこうせん)は途中で1つとなり、ロケット団へ飛んでいき、大爆発が発生した。ロケット団は、爆発により空へと吹っ飛んだ。

「あぁ~、やっぱりこうなったか」

「折角、稼いでゲット出来ていたのに」

「また、一から頑張るしかないにゃ」

「ソ、ナンス♪」

「「「やな感じ〜~~!!!」」」

ロケット団は、何度も見たいつもの終わり方として、遠くへと飛んでいった。

それを確認したサトシとピカチュウ、バタフリーは、共に勝どきを上げた。

「やったぜ!」

「フリィィィ!」

「ピッピカチュ!」

 

 

ロケット団の騒動が終えてから時間が経過した。既に、盗難の件で通報を受けていたジュンサーをはじめ警察が森へとやって来た。被害にあった人達やポケモン達にも大した怪我は無く。捕まったポケモン達全員が無事に開放された。

ほんの少しだけ事情聴取などを受けたサトシ達は、その後祭りの運営であるチョウスケをはじめスタッフ達から、今回の事で感謝をされた。

あれから、サトシとピカチュウはかつての仲間であるバタフリーと話を始めた。

「そうか、お前はこの森の暮らしているのか」

「フリ」

「あのバタフリーと幸せに家族が出来て、良かったな」

「フリ」

サトシとバタフリーは、ピンク色のバタフリーと3匹のキャタピー達を見る。母と子供達で何か話しているようだった。

「ピカ、ピカピカ。ピカッチュ」

「フリフリ、フリィ。フリリ」

「ピカァ~」

「フリィ~」

そして、お別れの時間がやって来た。日が山へと沈む頃。辺りは夕焼け色へと変わり、徐々に暗くなりはじめていた。

「じゃあな。バタフリー」

「ピカッチュ」

サトシとピカチュウは、バタフリーに別れの言葉を言った。

「フリィィ」

バタフリーも二人へ別れの言葉を言う。

それから、サトシは振り返り、待っていたマナオとヒョウリの元へ戻った。

「お待たせ、行こうぜ」

「いいのか、もう」

「あぁ」

「そうか」

そうして、サトシ達は次の街へと歩き出した。

「・・・」

サトシは、それから一度も振り返らないまま、歩いて行く。バタフリーも同様に、何も言わずにただ見続けた。ピカチュウは、一度だけ振り返り、バタフリーを見たが、何か辛い気持ちになると思い、すぐに前を見た。お互いに、ただ黙ったまま離れていくが、心の中では何かを感じていた。こうしてサトシとピカチュウは、かつての仲間であり、友達でもあるバタフリーと再び別れをした。

辺りが暗くなった頃、無事にウィンタウンへ到着したサトシ達は、ポケモンセンターですぐに晩飯を食べて、一泊した。ヒョウリのハッサムとデンチュラは治療の為に、センターへ預けられた。ピカチュウやカラカラの方は、特に怪我は無かったので、すぐにジョーイから返された。

その夜。ポケモンセンターの宿泊部屋のベランダからサトシは、月を眺めていた。部屋には、マナオとカラカラ、ヒョウリが眠っていた。

「・・・」

ただ静かに、月を見つめるサトシ。彼の後ろから誰かが近づいていた。

「ピカピ」

「?」

側にやって来たのピカチュウだった。サトシは、ピカチュウを持ち上げて、抱き上げる。

「なぁ、ピカチュウ。今日は色々あったけど、凄く楽しかったな」

「ピカ~」

「バタフリーにも久しぶりに会えたな」

「ピカッチュ」

「・・・また会えるよな」

「・・・ピカ」

それから少しして二人はベッドに戻って眠った。

 

 

翌日。彼らはウィンタウンへ向けて出発する。

「よし。フォルシティに向けて出発だ」

「ピッカ」

サトシとピカチュウは、元気よく両腕を上げる。

「昨日は、あんな事あったのに。本当にお前らは元気だな」

「当たり前だよ。次の街まであと少しなんだ。張り切って行くぞ」

「そうですね。あと少しでフォルシティです」

「さて、なら今日も頑張るか。もうトラブルや寄り道もごめんだぜ」

こうしてサトシ達は、次の目的地であるフォルシティへと向かった。




今回は、原作(ゲーム)に存在する地方フィオレ地方が舞台となる話でした。フィオレ地方の中にあるむしポケモンが大量に生息する森でのお祭りに立ち寄ったサトシ達。そこで、
ロケット団に遭遇。しかし、そこでサトシの最初の仲間であり、ピカチュウの友達だったバタフリーに再会が出来ました。アニメでも再会したシーンだけがありましたね。

次回は、トレーナー・ベストカップ第二の試練が開催されるフィオレ地方の港街フォルシティが舞台となります。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
今後の話が進む中で、オリジナルポケモンが登場する予定です。オリジナルポケモンのイラストを作成してアップしようと思います。
また、前回登場したサトシ達が保護した謎のポケモンタマゴのイラストをpixivで掲載しております。
詳しくは、登場人物・ポケモン紹介一覧にある「謎のポケモンタマゴ」に記載したURLから見れます。



(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


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11話「フィオレ地方・フォルシティ 港町でライバル出現?!」

ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。


サトシ達は、サトシとマナオが出場するトレーナー・ベストカップ、第二の試練が開催される町フォルシティを目指して、旅を続けていた。

 

 

そして、いよいよ試練が開催されるフィオレ地方、最大の港町フォルシティへ到着した。

「よっしゃあ!フォルシティに着いたぜ!」

「ピッピィカ!」

噴水の前で、サトシとピカチュウは両腕を振り上げ、大声で叫ぶ。

「やっと着きましたね」

「あぁ。なんとか前日には着いたな」

マナオとヒョウリも無事に町へ到着出来てホッとしていた。

「それにしても大きい町だな」

サトシが、周囲の町の様子を見て、そう言う。

「そうですね」

「何しろ、この街はフィオレ地方でも最大と言われているからな」

このフォルシティは、フィオレ地方東部の海沿いに面した港町で、旅人達の玄関としても活用される事が多い。その事もあり、地方内で最も栄えた大きな町でもある。

「これから、どうします?早速、ポケモンセンターへ行きますか」

マナオがそう尋ねるとサトシが答えた。

「あぁ、そうだな。ついでに、町も見学していこうぜ」

「ピカ」

「はい」

「よし。ポケモンセンターは、こっちだ」

ヒョウリを先頭に、彼らはポケモンセンターへ行きながら、町を見て回った。

「あの時計台、大きいですね」

彼らが歩く中、マナオが指を向けながらそう言った。サトシ達も見ると、そこには大きな古いアナログ式の時計台が、聳えていた。

「ほんとだ、大きいな」

「ピカ」

「えぇ。それに、凄く綺麗ですね」

「あの時計台、この町のシンボルの1つらしいぞ」

「へぇー」

それから、ポケモンセンターへ歩き続けていると、サトシが何かに気付いた。

「ん?」

サトシは、少しだけ立ち止まると、二人から離れて、側に外灯へ近寄った。

「師匠?」

「どうした?」

サトシが立ち止まった事に、二人が気付く。

「これって」

サトシが、じっと見ていたものは、1つの立てられた看板だった。

マナオとヒョウリもその看板を見てみると、マナオが書かれている文章を声に出す。

「この先、500m。トレーナー・ベストカップ会場・・・」

「・・・少し寄って行くか?」

「あぁ」

こうして、行き先をポケモンセンターから第二の試練が開かれる会場へと変更した。

「一体、どんな施設でしょうね」

「前の施設は凄く大きかったからな。もっと大きかったりして」

「あの運営なら有り得なくはないが、そんだけ金を費やして一体にどれだけの利益を得ているんだか」

会話をしながら、500m程歩いたサトシ達は、会場の前に当着した。

「明日。・・・ここで、行われるのか」

「これ・・・前の施設より」

「・・・小さいな」

「ピカ」

彼らの見た施設は、第一の試練の会場となった巨大なドームに比べたら、太陽とバクガメスと言う程の小さいものだった。

「まぁ。これでもポケセン位はあるけどな」

「前回のが、大きすぎたからそう見えているのかもしれませんね」

「あぁ、確かに。けど、いいさ。ピカチュウ、マナオ。明日は、頑張るぞ!」

「ピッカ!」

「はい!」

サトシが右拳を振り上げると、ピカチュウとマナオも同じように上げた。

「よし。それじゃあ、センターへ行くぞ」

そうして、予定通りのポケモンセンターへ向かおうとした時。

「ねぇ」

「ん?」

突然、サトシ達に話しかける人物が居た。

サトシ達が、振り向くと会場を歩いている一人の少年がいた。

「君達も、明日の試練の挑戦者?」

少年は、顔と体から見て、サトシとそう変わらない年齢に見えた。

「そうだけど」

少年からの質問に答えるサトシ。

「俺は違うが・・・誰?」

ヒョウリは、少年にそう言って誰なのか問いた。

「あっ、ごめん。僕の名前は、リヒト。君達と同じ、ベストカップへの挑戦者だ」

リヒトと名乗る彼は、挨拶をして、椅子から立ち上がった。

「俺は、マサラタウンのサトシ。こっちは、相棒のピカチュウ」

「ピカピカ」

サトシも自己紹介を返して、ピカチュウもサトシの肩から挨拶する。

「私、マナオです」

「・・・ヒョウリだ」

他の二人も続いて自己紹介をした。

「宜しく。いやぁ、明日の試練の会場を事前に見たくなってね。それで、周りを回っていたんだ」

リヒトが笑いながら、そう答えるとサトシも話す。

「俺達も気になって、下見に来たんだよ」

「そうか。まぁ、当然かもね。事前に下見して、気分も落ち着かせたいし」

「そうだな」

「ねぇ、サトシ。僕とバトルしないか?」

「え?」

突然、リヒトからバトルの誘いを受けたサトシ。

「いや、明日は大事な日なのは分かっているけど。ポケモンと一緒に、ウォーミングアップしたくてさ」

「バトルか。あぁ、いいぜ。どうだ、ピカチュウ?」

「ピッカ」

「そうか。だったら早速」

そう言って、サトシとリヒトから腹の虫が共に鳴り響いた。

「「あっ」」

サトシとリヒトは、互いに両手で自身の腹を抑えて、見合った。

「ハッ、ハハ。鳴っちまったな」

「あぁ。腹減ったな」

お互い、そう言って軽く笑うと横からヒョウリが話し掛ける。

「ご両人。バトルの前に、昼飯だな」

「そうだな。あっ、良かったら一緒に食べようぜ」

「いいの?」

「あぁ。飯を食った後は、バトルしようぜ」

「・・・あぁ」

 

 

それからサトシ達は、リヒトと共にフォルシティのポケモンセンターへ向かった。

到着したサトシ達は、早速センター内にあるレストランで昼食を取った。

「そうなんだ。サトシは、去年のジョウトリーグに出ていたのか」

「あぁ。ベスト8で駄目だったけどな」

「いや、凄いよ。僕なんか予選落ちだったよ」

「それでもジムバッチ8つも取ったんだから、十分凄いと思うぜ」

「そうかい。ん?もしかして、サトシはソウテンリーグに出るのか?」

「あぁ、そっちもだよ。元々、それが狙いでこっちへ来たんだ」

「そっか。俺もだ。なら、俺たちは完全にライバルだな」

「そうだな」

そうやって食事をしながら、会話を弾ませる二人。

「サトシって、すぐ誰ともで仲良くなるタイプだな」

「それが師匠の特技なのかもしれませんね」

こうして楽しい食事と会話をしていると。

「あっ。私、少しお手洗いに」

マナオは、そう言ってレストランから出て、すぐ側にある便所へと向かった。

「ねぇ。聞いた?」

「ん?」

マナオが便所へ入る直前だった。途中で、二人の女性トレーナーの会話が聞こえた。

「あれでしょ。昨日、突然この町に現れたトレーナー。なんでも強いポケモンやトレーナーに勝負を挑みまくっているって」

「そうそう。町中の強いトレーナーに挑んでは、全員を負かした上、ポケモンもボコボコにして戦闘不能にした」

「そのトレーナー達のポケモンまだここで治療中なんでしょう。本当に、怖いね」

「もし、バトルを挑まれても絶対断らないと」

「そうね」

そんな会話の内容を聞いたマナオ。

(なんか、物騒な話だな・・・)

そう思いつつ、便所に入った。

あれからサトシ達は、昼食を終えた。

「美味かった」

「ピカァ」

「さて、腹は満たしたし」

「いくか」

いよいよサトシとリヒトによるポケモンバトルを行おうと立ち上がった時だ。

すぐ側から、何かの電子音が鳴り始めた。

「「「ん?」」」

サトシ達は、周りをキョロキョロと見て回るが、どこから鳴っているから分からなかった。

「あっ、ごめん。俺だ」

リヒトは、サトシ達へそう言うと、自分の右手で左腕の袖を捲り上げた。

「おっ、懐かしいなそれ」

「それって」

ヒョウリとサトシは、彼が左腕に着けている物を見て、そう言った。

「あぁ、ポケギアだよ。旧式のだけど」

リヒトが腕に着けているのはポケモンギア、通称ポケギアと言われる携帯型端末だった。開発製造は、カントー地方のヤマブキシティに本社を置くシルフカンパニー。ポケギアには、時計機能や通話機能、マップ機能やラジオが内蔵されている。最近では、アップグレードされた新型のポケギアも出ている。今、リヒトが着けているのは、旧型である。

今リヒトのポケギアが鳴り響いていたのは、通話機能による相手から呼び出し音だった。

リヒトは、右手の指でポケギアを触ると。

「はい」

リヒトは、通話相手に出る。

『もしもし、リヒト。ミキエだけど。今、フォルシティに到着したよ』

ポケギアを通して、通話相手の声が聞こえた。声の持ち主は、女の子のもので、本人はミキエと名乗る。

「もう着いたんだ」

『予定より早い船に乗っていったからね』

「そっか」

『今、どこ?』

「ポケモンセンターだよ」

『そっか。なら、早く来てよ。町中にある時計台の側で待っているからさ』

「分かっ・・・」

リヒトは、ミキエへの返事を途中で止めて、サトシ達の方をチラッと見た。

「いや、ごめん。ちょっと、今すぐは無理。・・・明日じゃ駄目か」

『明日は試練の日でしょう。それに、明後日にはここを出発するのよ。だから、今日一緒に買物しようって約束したじゃない』

「あぁ、確かにそうだけど。その、今、ちょっと」

約束の件でリヒトは、ミキエへの説明が上手く出来ないでいた。

「あぁ、この感じ」

「彼女さんみたいですね」

横で、二人の会話を耳に入っているヒョウリとマナオは何となく理解した。

『ん?・・・もしかして・・・今、女といる?』

突然、ミキエの声色が怖くなった。

「へ?」

リヒトのいきなり言われたその言葉に、腑抜けた声を出した。

「今、女の人の声が聞こえたよ」

「いや、その別に」

「何か隠しているよね。・・・浮気してるの?」

「ち、違うよ。してない、してない、する訳ないだろ」

浮気を疑われたリヒトは、大慌てで彼女に否定する。

「だったら、動揺しているのは、なぜなの?」

「いや、その。実は、えぇと」

リヒトはなぜか答えづらいような雰囲気と醸し出しながら、オロオロしていた。

「なんか、リヒト。困ってるな」

「あれは、駄目ですね」

「全くだ。何やってんだか」

そんな彼を見たサトシ達は、それぞれそう言葉に出す。

「ハァー。仕方ないな」

すると、急にヒョウリは立ち上がると、リヒトの隣に近寄った。

「えっと。これには、あっ」

ヒョウリは、会話中のリヒトのポケギアを腕ごと自分へ引っ張ると、通話相手に話し掛けた。

「あっ。もしもし、ミキエさんですか?俺、ヒョウリと言うんですが、はじめまして。実は、リヒトと明日の試練に備えて特訓しようとしていた所だったんですよ。すいませんね。お二人の約束を俺、知らなかったので。けど、安心して下さい。デートが終わってから、特訓するんで、今すぐ彼が向かいますから。あっ、そうそう。先程、聞こえた女の子なんですけど、俺と女友達との会話だったんで安心して下さい」

一度も噛まずに長い言葉を一気に早口で話したヒョウリに、サトシ達は唖然とした。

『はぁ・・・はい』

電話相手のミキエも急な事に、追いつけていないのかただ単に返事を返した。

「ほら」

ヒョウリは、そのままリヒトの腕を話して、電話を彼へと返す。

「あっ・・・という訳だから、今から行くから待ってて」

返された彼は、彼女にそう伝えて、通話を切った。

「ヒョウリ・・・早口だったな」

「ヒョウリさん・・・何か凄い」

サトシとマナオは、そうリヒトを見ながら話す。

「こういうダラダラオロオロしているのが嫌いでね。それに、俺がさっさとこうすれば、話が進むだろ」

ヒョウリは、訳を言いながら、席に戻った。それから、通話を終えたリヒトは、サトシの方を見て、謝った。

「サトシ、ごめん!約束したけど。そういう訳だから、その」

リヒトは、申し訳ない顔をしながら、サトシの顔を伺う。そんな彼に、サトシは笑いながら、答える。

「いいよ、いいよ。大丈夫だから、行って来なよ。ここで、待ってるからさ」

「ありがとう。ほんの1時間で終わると思うから」

そう言ってリヒトは、全速力でポケモンセンターを出た。

そんな彼の後ろ姿を黙って見送ったサトシ達。

「1時間ねぇー。それで、俺たちはどうするんだ?サトシ」

「えっ」

「あいつと1時間も待つ約束をしたんだ。責任持って、お前が考えてくれよ」

「あ、あー。うーーーん。よし、俺とヒョウリがバトル」

「却下」

「えーえ」

「なら、私と」

「さっき、あいつとのバトルする話で敢えて止めなかったが、明日は大事な試練だぞ。無闇に消耗するのは、辞めたほういいぞ。それに、万が一怪我でもしてみろ。お前ら、今は一体ずつしかポケモンいないんだぞ」

「「うっ」」

「そ、それじゃあ・・・買い物と観光とかどうです?」

「別にいいが、今日じゃなくても出来るぞ。それにたった1時間だけなら、却って行き来に時間を食われて、碌に回れないと思うぞ」

「は、はい」

「・・・ハァー。ここで遊ぶか」

結局、マナオの提案を採用して、サトシ達はポケモンセンター内にあった貸出のボードゲームやトランプで、1時間程過ごすことになった。

 

 

「リヒトの奴、遅いな」

「ピ~カ」

ポケモンセンターの受付側にある待合コーナーのソファに座るサトシ達は、待っていた。

「もう2時間以上、経過したぞ。あいつ、まさかデートで夢中で忘れてるんじゃねぇか?」

「そうじゃないと言いたいですけど、あの感じだと有り得そうですね」

ヒョウリとマナオは、そう呟く。

「あーあ。折角、新しい町でバトルが出来ると思ったのに」

「ピィカァ」

バトルを楽しみにしていたサトシとピカチュウは、少しだけ残念な気持ちで話す。

そんな退屈な状況で待っていたサトシ達のポケモンセンターへ、走り込んでいる者居た。

「ジョーイさん!」

突然、二人の若い男女のトレーナーが、センター内に走り込むと男が大声でそう叫んだ。

「「「!」」」

その声に、サトシ達はすぐさま反応して出入り口を振り向く。入ってきた1人のトレーナーは、何かを抱えながら受付へと走る。そのトレーナーの姿を見たサトシは、声に出す。

「・・・リヒト」

「どうしたの?」

受付に居たジョーイが、すぐさま応対すると、リヒトの腕にはポケモンのマグマラシが抱えられていた。その姿は、傷だらけで、マグマラシ自身も凄く苦しんでいた。

「俺の、俺のマグマラシを」

両目に涙を浮かべながら、リヒトはジョーイに助けを求めた。

「まさか・・・分かったわ。ラッキー、ストレッチャーを!」

「ラッキー!」

ジョーイはすぐに助手のポケモンであるラッキーへ指示を出すと、ラッキーはストレッチャーを用意して、リヒトのマグマラシを受け取って、台の上に乗せた。

「君は、そこで待っていてね」

そのままジョーイとラッキーは、ストレッチャーでマグマラシを運び、奥の治療室へと入っていた。

「・・・あっ、はぁぁ」

マグマラシが入っていくのを見て、リヒトは泣きながらその場で崩れた。

「リヒト・・・」

彼と一緒に入ってきた女のトレーナーは、しゃがんで彼の肩に手を置く。

「大丈夫よ」

「・・・くっ」

彼女に、そう励まされるリヒトは、泣きながら凄く悔しい顔をした。そんな彼らにサトシは近づく。

「リ、リヒト・・・」

サトシが彼の名前を呼ぶと、彼はそっと振り向いてサトシの顔を見る。

「サトシ・・・」

「大丈夫か」

サトシは、地面に座り込む彼を、立ち上がるのに手を貸す。隣にいた女も反対側から腕を支えて、起こし上げた。立ち上がったリヒトは、黙ったまま俯いてた。

「・・・」

彼の顔を見ながら、サトシは彼に聞いた。

「あのマグマラシ、お前のポケモンか?」

「・・・あぁ。俺の、はじめての・・・相棒だ」

サトシの質問に涙を流しながら、リヒトは答える。

「そうか。・・・一体、何があったんだ?」

「そ、それは・・・くっ」

リヒトは、答えづらいのか。悔しい顔をしながら、言葉が出て来なかった。すると、リヒトの側に居た女が、サトシに話し掛ける。

「すいません。マグマラシは、その・・・ポケモンバトルで」

「ポケモンバトル?」

「はい。バトルで、その・・・負けて」

「負け・・・い、いくらバトルで負けたからって、あんなに」

サトシは、先程のマグマラシの怪我の具合を傍から見て、普通の怪我でないのは何となく分かっていた。だが、その原因がバトルの敗北によるものだと知ったサトシは、おかしいと思った。トレーナーになって多くのバトルをしてきたサトシには、先程の怪我が普通のバトルで出来たものにしては、酷すぎると判断したからだ。

そうサトシと女が話していると、漸くリヒトも話し始めた。

「いや、俺だ・・・俺のせいだ」

そう話すリヒトに、サトシは目を移す。

「俺が、途中で負けを認めて、いれば・・・くそ」

それから、リヒトに何があったのかサトシ達は、詳しい事情を教えて貰うことになった。

 

 

それから20分程が過ぎた頃。フォルシティのとある広場で、トレーナー同士によるポケモンバトルが繰り広げていた。

二人のトレーナーが、互いにポケモン一体ずつ出して激しいバトルを行う様子を、周囲に居た地元民や観光客、一般トレーナーなどが見物していた。

「ゴォォォ」

すると、バトルをしていたポケモンのイワークが苦しみながら、地面に倒れていった。

「イワーク!」

イワークのトレーナーである男のトレーナーは、心配しながらすぐさまイワークの元へ駆け寄る。イワークは、体中に傷を負いながら、苦しんでいた。

「くっ。戻れ」

トレーナーは、急いでイワークをモンスターボールに戻すと、相手トレーナーを睨みつける。

「くそっ」

彼が睨みつける先には、ポケモンのマッスグマ(ガラルのすがた)とそのトレーナーである一人の少年が居た。

「すげぇ」

「強すぎだろ」

「あいつ、あのマッスグマだけで15連勝じゃねぇか」

「あのマッスグマ、色が違うのね」

「ガラル地方で生息している個体らしいぞ。それもタイプがこっちのと違うとか」

先程から15戦も行われているバトルを観戦していた人々は、連勝しているガラルのマッスグマとそのトレーナーに、驚きながら感想を述べていた。

「けど」

「ちょっと、やりすぎよね」

「そうよね。ちょっと、ポケモンが可哀想」

「あんな酷いバトル見たことねぇよ」

彼らに驚きつつも、その気持ちは喜びでも興奮でもなく、ただ嫌悪感による感情、その後味の悪さが周囲の人々に漂っていた。大抵のポケモンバトルで、盛り上がりや興奮、少しの不安を感じる事もあったが、今回のは違った。先程から繰り広げるバトルは、連勝したトレーナーによって行き過ぎたものだった。一体、どのようなバトルをすれば、そうなったのかは先程までのバトルを見た者達にしか分からない。

そんな空気の中、バトルを終えた少年は、周囲の観戦者達を見た。彼は、次の挑戦者やバトルができそうなトレーナーを探しているのだ。一方で、彼と目が合ったトレーナー達は、次々と目線をズラして無視をしようとした。その中には、腕に覚える者、普段からバトルをする者が居たが、彼とのバトルを躊躇った。

「・・・もう、いないか」

少年は、対戦相手がもう居ないと判断し、腰からモンスターボールを1つ取り出すと、それを自身のマッスグマへ向けた。

「戻れ、マッスグマ」

「マス」

ボールへ戻すと彼は、その場から離れようと歩き始めた時だった。

「おい、待て!」

「!」

突然の声に、足を止めた少年。声がした方を見ると、観戦者の間をすり抜けて、こちらへ向かって来る者達が居た。それは、サトシ達だった。

「何だい、君は?」

少年は、近づいて来た彼らにそう問いた。

「お前か?ここでバトルを続けているマッスグマのトレーナーは」

先頭に居たサトシは、少年を睨みつけるかのような目で見て、そう答える。

「・・・そうだが」

「お前に用がある」

「なんだバトル希望者か?まぁ、構わん。さっさと」

「違う。文句を言いに来たんだ」

「文句?」

予想とは違った要件に、少年は疑問に思った。

「なぜ、リヒトのマグマラシをあんなに痛め付けたんだ」

「リヒト?マグマラシ?」

少年は、一体何の事を言っているか分からないでいたが、すぐに思い出したかのように答える。

「・・・あぁ。さっきの弱かったマグマラシと駄目なトレーナーの事か」

「なっ。お前!」

少年の答えた言葉に、サトシは我慢していた何かが切れたのか。いきなり両手を伸ばして、彼の胸倉を掴んだ。

「おい、落ち着けよ。いきなり、突っ掛かっても話が進まない」

「師匠。暴力は辞めましょう」

「ピカピカ」

「うっ。あ、あぁ」

ヒョウリとマナオ、それと肩に居たピカピカに止められて、サトシはすぐに冷静さを取り戻し、掴んでいた手を離した。

「あっ・・・わ、悪い。いきなり」

「いや、いい。それで、そのマグマラシとトレーナーの事で、俺に何が聞きたいんだ。自己紹介もしない、名無しさん」

少年は、掴まれて出来た上着のシワを伸ばしながら、サトシに対して、そう指摘した。

「俺は、マサラタウンから来たサトシだ」

「そうか。なら、俺も答えよう。俺は、ベルアだ」

サトシが自己紹介を言ったのに対して、ベルアと名乗る少年も自身の名乗り返した。

「ベルア。俺が言いたいのは、なぜバトルでリヒトのマグマラシを、あんなに痛めつけたあかだ。普通のバトルだけであそこまでする必要はないだろ」

「なぜか、ねぇ・・・」

ベルアは、サトシの質問にどう答えようか一旦考えて、話し始めた。

「それは、あのリヒトという奴が悪いのさ」

「リヒトが悪い?」

「あぁ。彼のマグマラシが、俺のマッスグマより弱い癖に、諦めずに何度も立ち向かってきたから。それで、さっさと片付けようと、立ち上がれなくしただけさ。勿論、正当なポケモン同士のバトルでだ」

「・・・そんなの」

「それに、トレーナーもポケモン同様に駄目な奴だった。そもそもバトルのセンスすらない」

「!」

「そうだ。彼の知人ならアドバイスをしておいてくれ。君とマグマラシは、バトルの才能が無いから、別の道を進んだ方がいいって」

その言葉を聞いたサトシは、眉間シワを作った。

「なぁぁぁに!」

「おいおい、サトシ」

サトシが再び、ベルアに掴みかかろうとしたので、ヒョウリが抑える。

「離してくれ」

「ここで、トラブルを起こしてジュンサーに厄介なってみろ。明日は出れねぇぞ」

「・・・ッ」

ヒョウリの警告を聞いてサトシは、怒りを堪えて力を緩めた。そんな二人のやり取りを聞いていたベルアは、質問をしてきた。

「明日?サトシ、君はもしかしてトレーナー・ベストカップへ挑戦中か?」

「そうだけど。もしかして、お前も?」

「あぁ、そうだ。今、この町に来た殆どのトレーナーは、第二の試練への挑戦者だ。なら、俺も君も同じ挑戦者である可能性は、十分あり得る話だろ」

ベルアはサトシと同じ挑戦者だと知り、少しだけ態度を変えた。

「そうだ。1つ提案をしていいか?」

「提案?」

「僕のやり方を、どうしても否定して反論したいなら・・・トレーナーとしてやれる事は1つ」

そういって彼は、腰からボールと手に取って、それをサトシへ向けた。

「ポケモンバトルしかないだろ。どうだ、俺とバトルするか?」

「・・・」

ベルアからバトルの誘いを出されたサトシに、ヒョウリが横から話す。

「おい、サトシ。挑発に乗るな」

「あぁ、分かってるよ」

「なんだ、しないのか?」

「あぁ。ポケモンは喧嘩の道具じゃないって、昔学んだからな」

サトシは、そう彼に対して、言い返してバトルの挑発を無視した。

「ふん。なら、俺は行くぞ。今は、明日の試練のウォーミングアップついでにバトルをしていたのさ」

「なっ、まだ話は」

「一体、何を話すと言うんだ?俺とのバトルでボコボコにされた敗者に謝れというのか?お前、そんなのでバトルをしてきたのか?」

「・・・」

サトシは、彼に言いたかった文句が次第に言えなくなってしまった。

「もう行くぞ。ここに、相手が出来る奴が一人も居ない」

そう言い残して、彼はその場から離れて行った。

 

 

その後、サトシ達は先程のポケモンセンターへと戻って行った。

受付のジョーイにリヒトとマグマラシの居る場所を聞いて、そこへ向かった。

行った先は、センターでの治療を終えたポケモン達が収容された病室のあるエリアだった。その内の1つに入ったサトシ達。その部屋には、10匹のポケモンがベッドの上で休んでいて、隣にはそのトレーナーと思われる人々が付き添っていた。

その中の1つに、リヒトの姿が見えた。

「リヒト」

サトシ達は、彼に声を掛けながら側に寄った。

「サトシ・・・」

「どうだ、マグマラシの容態は」

「ああ。何とか、無事に治療を終わった。このまま安静にしていれば、3日後には元気になるだろうって」

「そっか。良かっ」

サトシは、途中で言葉を止めた。リヒトの説明の中にあった言葉に、引っ掛かったからだ。明日は、大事なトレーナー・ベストカップの第二の試練。リヒトは、サトシ同様にその試練に挑戦する。しかし、彼から今説明された内容では、マグマラシでの明日は不可能だと気付いた。

「リ、リヒト。明日は」

サトシは、何を言えばいいか分からなかったが、それでも彼の意思を確かめたかった。

「明日は出ない」

「・・・他にポケモンは?」

「・・・あと5匹いる。けど、俺達はもう約束しているんだ」

「?」

「一緒に、最後の試練まで一緒に達成しようって。だから、俺はマグマラシじゃないと挑戦しない。・・・すまない、サトシ」

「・・・分かった」

サトシは、彼の気持ちを理科して、これ以上の事は言わない事にした。

「悪いな。約束、2度も破っちまって」

「い、いいよ。そんな事、それより今はマグマラシの事を考えてくれ」

「・・・そうだな。ありがとう」

サトシとリヒトが話していると、彼らの元に一人の女の子が近づいて来た。

「あっ」

「ん?」

「・・・さっきの」

サトシ達が見ると、それはこのポケモンセンターでリヒトと共に居た女の子のトレーナーだった。彼女の両手には、飲み物が入ったペットボトルを2つ持っていない。

「ど、どうも」

彼女は、サトシ達に軽くお辞儀をすると、手に持っていたペットボトルの1つをリヒトに渡した。

「リヒト、飲み物持ってきたよ」

「ああ、ありがとう」

彼は、彼女に礼を言って、それを受け取った。

「サトシ達が、心配してお見舞いに来てくれたんだ」

「そ、そうなの。ありがとうございます」

彼女は、リヒトからそう説明を受けて、サトシ達に礼を言う。

「いや、別に」

「そういえば、まだ自己紹介していませんでしたね。私は、ミキエです。リヒトの・・・友達です」

ミキエは、サトシ達へ自己紹介をしてきたので、彼らの方も自己紹介を始めた。

「俺は、サトシです」

「ピッカチュウ」

「マナオです」

「通話で話しましたヒョウリです」

それから、サトシ達は一度病室から出て、側の休憩ルームで共に話をした。サトシ達がベルアに会ってからの事、もう一度リヒトがサトシ達から別れてベルアとバトルした事。

「ほんと、許せないわ。私のリヒトとマグマラシを」

「そうですよね。全く許せないトレーナーです」

「まぁ、確かに。余り良いやり方とは言えないな」

そうやって、ベルアに対して不満や文句を言っていた。

それから、リヒト達と別れたサトシ達は、各々が個別で行動することにした。

「では、師匠。一緒に、センターの裏のフィールドで軽いトレーニングしましょう。カラカラ、明日に備えて頑張ろう」

「カラカラ」

「俺は、ちょっと連絡したい所があるから、また夕飯の時に合流しよう」

ヒョウリと分かれたサトシとマナオは、1時間程トレーニングを行った。しかし、途中でサトシとピカチュウは抜ける事にした。理由は、どうしてもサトシは気が入らなかった。

そのままサトシとピカチュウはセンター内の廊下を歩いていた。彼は、今日あった事で、心に感じた事や考え事が多かったせいか、少しだけ疲れているようだった。

「・・・」

まさに、サトシは上の空の状態になっていた。

「うっ、うぅ」

「!」

サトシは、廊下の端にある長椅子に座りながら、泣いている人物を視界に入れた。小さな両手を両目に当てながら泣いていて、顔は見えないが体型と大きさから見て、明らかにサトシより年下の男の子が泣いていた。

「君、大丈夫?どこか悪いのか?」

「ピカピカ」

サトシとピカチュウは、心配になってしまい、話し掛けた。

「うっ、う。ぼ、僕は、だいひょうふ」

「なら、どうしたんだ?」

サトシは、ほっとけない気がして、そのまま事情を伺う。

「うっ・・・ヒック。うぅ、うぇーーーん」

男の子は、そのまま大声で泣き出した。

男の子が、泣き叫んでから徐々に落ち着き始め、次第に事情を話し始めた。

「ぼ、僕がニドランと公園で遊んでいたら、ヒック。すぐ近くでバトルをしていた人たちが居て」

サトシは、彼の隣に座り、男の子が泣きながら話す会話を真面目な顔をして聞いた。

「ポケモンのわざが、僕達に当たりそうになったんだ。ヒック。それで文句言ったんだ。けど、僕達の事を無視して、バトルを続けると。その人勝って。急に、僕らに対して、バトルで勝ったら謝ってやるって」

「・・・」

「けど、僕もニドランもバトルとか碌にした事ないし。それで、断ったら。うっ、僕とニドランを雑魚呼ばわりして、どっか行けって。それで、僕もニドランもも怒って、ついバトルをしたんだ。そしたら、・・・・・・うぇーん」

男の子は、最後の所を説明しようとしたが、言い辛いのか中々言葉が出ず、再び泣き出してしまった。

「・・・分かった。ありがとう」

事情を理解したサトシは、そこから離れていった。

それから暫し、考え事をしたサトシは、後ろから付いて来るピカチュウを振り返る。

「ピカチュウ」

「ピカ」

サトシに呼ばれたピカチュウは、彼の目を見た。

「・・・」

「・・・」

それから互いに、黙ったまま見つめ合っていると、ピカチュウは何かを決意したような顔をして、返事をした。

「・・・ピカッ」

そして、サトシも決意した。

 

 

時刻は、既に夕暮れに差し掛かっていた。フォルシティ一帯は、徐々に暗くなり、外に居た人々やポケモンの数も減っていく。街中に設置された街灯が次々と点灯し、家屋の明かりも窓越しに光っていく。

そんな中、森の側にある広場で、ポケモンバトルをしていた者達が居た。辺りが暗くなる為、広場にあった街灯が、彼らを明るく照らしていた。

「マッスグマ、アイアンテール」

「マスッ!」

トレーナーの指示を聞いたマッスグマは、光った尻尾を相手に振り落とした。

「グラァァァ」

見事に、(アイアンテール)を受けたポケモンは、フェアリータイプの(ようせいポケモン)グランブルだった。グランブルは、相性の悪いはがねタイプの(アイアンテール)を受け、そのダメージの効果は抜群だった。

「グランブル!」

グランブルのトレーナーの男は、ポケモンを案じた。グランブルの体は、傷だらけだった。それは、今受けた(アイアンテール)によるものだけではなかった。バトルを行ってから、マッスグマを相手に、幾度もわざを受けてしまった結果だった。グランブルの方も躱したり反撃を行ったが、マッスグマとベルアの戦い方や強さには及ばなかった。

「さて、もう一度だ」

「マスッ」

ベルアは、マッスグマに再度(アイアンテール)を出して、攻撃するように指示を出す。

「ま、待ってくれ!」

それを聞いた相手のトレーナーは、大声叫びながらグランブルの側に駆け寄る。

「俺の負けでいい。だ、だから」

男は、泣きそうな顔で、ベルアに懇願した。

それを見てベルアは、フンっと鼻を鳴らし、それに合わせてマッスグマもわざを中断した。

「大丈夫か、グランブル。すぐ、ポケモンセンターに連れて行くからな」

男は、グランブルをモンスターボールに戻した。

「勝負を挑んできた癖に、その程度か」

「うっ・・・くそぉー!」

男は、ベルアからそのような言葉を吐かれたが、言い返す事が出来ずに、そのまま急いで退散した。

相手が逃げてから、ベルアは広場に設置された置時計を見て、時刻を確認した。

「戻れ、マッスグマ」

ベルアは、マッスグマをモンスターボールに戻すと、近くのベンチへと歩いて行く。そこに、彼のカバンが置かれていた為、ベルアはその隣に座った。

「ハァー」

少しだけ休憩をしようと、空を見上げた。既に、夕暮れの為、星空へと変わった空を見て思った。

(今回の試練で、腕のあるトレーナーや強いポケモンが集まると思っていたが・・・殆ど期待外れだったな)

数分してから立ち上がると、その場から去ろうとした瞬間。

「ベルア!」

彼の名前を、叫ぶ者が現れた。

「?!」

ベルアは、相手が何者誰なのかを確認しようとしたが、相手の顔がハッキリと見えなかった。

だが、相手はベルアに向かって歩いていき、その顔が薄暗い闇から街灯の光へと移り、漸く誰かが判明した。

「・・・サトシだったな。何のようだ?」

突然と現れたサトシに、そう尋ねる。

「俺とバトルしろ」

サトシの肩に乗っていたピカチュウは、前方へと飛び降りて、ベルアに向かって威嚇する。

「ピカッ」

「バトル?昼間は、喧嘩の道具じゃないと言って拒否した癖に」

ベルアは、そうサトシに文句を言った。

「ああ。確かに言ったよ。けど・・・これは、喧嘩じゃない。お前を倒さないといけないと思ったからするんだ」

「ピカ」

サトシの発言に、ピカチュウも呼応するかの様に鳴いた。

「そうか」

そんな彼らの意思を確認して、ベルアは笑みを浮かべた。

「よし。やろうじゃないか」

早速、バトルをはじめようとベルアは腰からモンスターボールを取り出そうとする。

「ピカチュウ」

「ピッカ」

サトシとピカチュウもバトルの態勢を取り、これからポケモンバトルが始まろうとした時だ。

「なら。私が審判を務めるわ」

「「!」」

暗闇から急に現れた人影が二人に向かって近づく。現れたのは、一人の女性だった。見た目から判断して、年齢はサトシ達よりも年上の若い女性だった。

「サトシ」

ベルアは、サトシの関係者なのかと彼に顔を向けて、確認しようとした。それに対して、サトシはすぐさま首を横に振り、否定した。

「誰だ?」

ベルアは、女性に対して何者かを質問をした。

「私は、ただの地元の人間よ。この町で、やんちゃをしている子が居ると聞いたから、少しお仕置きをした方がいいと思って来たの」

彼女は、右手に持っていたモンスターボールを上に軽く投げると、右手の指先で受け止めて、

クルクルと回した。

「けど、私より先約がいるなら、彼に譲りましょう。それに、審判が居た方が、安全なバトルが出来るでしょう。ね?」

女性は、ベルアに対して、軽く睨みを効かせた。

「・・・フン。構わんが」

ベルアは、そんな彼女へ鼻を鳴らして、審判の件を承諾した。

「ああ。俺も」

サトシも、ベルアと同じく同意した。

「OK。まずは、ルール確認よ。互いに使用ポケモンは、一体のみ。これでいいわね?」

「あぁ」

「それで構わない」

「OK。そうだ、君たちの名前は?」

女性は、サトシへ名前を聞いた。

「サトシ」

「ベルアだ」

「それじゃあ。サトシ対ベルアによるポケモンバトルを始めるわよ」

「よし。ピカチュウ、頼むぞ」

「ピカ!」

「そのピカチュウで来るか。なら」

ベルアは、腰にある6つのモンスターボールの内、1つを選んで手に取る。

「行け」

ベルアが投げられたボールから、ポケモンが姿を現われて、ピカチュウの目の前に降り立つ。サトシとピカチュウは、そのポケモンを見て、表情を変えた。

「ピカッ」

「あれは」

 

 

サトシが、ベルアと再会していた頃。

暗い町中を走る二人組が居た。ヒョウリとマナオだ。

ポケモンセンターから飛び出して、二人は全力で走っていた。理由は、サトシとピカチュウが突然と姿を消したから探しているのだ。

「たく。面倒を起こす天才かよ」

「し、師匠!」

最初、二人がサトシの姿が見えなくなって、すぐにセンター中に探したが見つからなかった。

すると、ヒョウリが勘でベルアのところへ向かったと考え、すぐさま外へと出た。

「さっき、すれ違ったトレーナーの言う通りなら」

サトシを探す途中で、センターへ向かっていたトレーナーを見かけたヒョウリが、念の為に聞いた。結果は、大当たり。トレーナーは、ベルアとバトルをしていて、彼がまだこの先にある広場にいるとの事だった。

二人が全力で走ってから数分後、漸く広場に到着した。

「ハー、ハー、ハー」

マナオは、息を切らせながら、両手を両膝に置いて休んだ。その隣では、ヒョウリは暗い広場を見渡していく。

「さて。あいつらは・・・おっと、居たぞ」

街灯に照らされている中で、ポケモンバトルをしている姿を見つけ、すぐさま向かった。

「ピカチュウ、10まんボルト」

「ピィカァーチューーー!」

「マッドショット」

ピカチュウの得意わざ(10まんボルト)とマッドショットが空中でぶつかり爆発する。

「くそ」

「ピカ」

サトシとピカチュウは、わざを繰り出すも相手のわざで相殺されてしまった。

「もう、押っ始めてやがった」

「し、師匠」

そんなサトシの所まで、ヒョウリとマナオがやって来た。

「ん?あれ、ヒョウリ、マナオ」

二人が来たことに気付いたサトシ。

「あれ、じゃねぇよ。お前、何して。いや、なんでバトルなんか」

「師匠。一言相談してから行って下さいよ」

「ご、ごめん」

サトシは、二人に謝罪をしてから、バトルに向き直った。

「で、結構。苦戦してるのか?」

「・・・ああ。こいつら、やはり強い」

ヒョウリに問われて、そう答えるサトシ。

「あれは、一体・・・」

一方で、マナオはベルアが出しているポケモンを始めて見る為、分からないでいた。

「インテレオンだ」

彼女の隣で、ヒョウリがそのポケモンの名前を言う。

「主にカロス地方で、生息しているみずタイプのポケモンだ」

「インテレオン・・・」

マナオは、図鑑を取り出して、インテレオンを向ける。

『インテレオン。エージェントポケモン。ジメレオンの進化形。多彩な機能を隠し持ち、指から水を噴射する。その水の速さは、マッハ3で撃つ事が出来る。瞬膜で、相手の急所を見抜いて狙う。また、背中の皮膜で風に乗る事が出来る。』

「それにしても、まさかピカチュウ相手にみずタイプを出すとは・・・あいつ」

(サトシ・・・お前、本気を出さないと)

ヒョウリは、インテレオンとベルアを見て何かを察したのか、サトシの方を見て心配をした。

その事は、サトシも先程から気になっていた。

「俺のピカチュウがでんきタイプだと知って選んだんだろ。なぜだ?」

早速、ベルアに問い掛ける。そう質問されたベルアは、にこやかな表情をして答えた。

「あぁ。確かに、理解して出した。理由が聞きたいのか?・・・お前とそのピカチュウなら、これでも十分と判断したまでだ」

「そうかよ。けど、俺とピカチュウを舐めちゃ困るぜ。だろ、ピカチュウ!」

「ピッカ!」

ベルアの挑発めいた説明をされて、サトシとピカチュウの闘志がより燃えてしまった。

「ピカチュウ、でんこうせっか!」

「ピッカ!」

ピカチュウは、素早くインテレオンへ向かって、前進を始めた。

「インテレオン、ねらいうち!」

「インテ!」

一方で、ベルアはインテレオンに(ねらいうち)を指示した。インテレオンは、自分の右手の指をピカチュウへ向けると、そこから急激に水が発射された。その水の速さは、人の目では追いきれない程の速く。ピカチュウ目掛けて飛んでいった。

「ピカッ」

だが、ピカチュウはスレスレでそれを上手く躱して、一気に間合いを詰めた。

「ピィカー」

そのまま、(でんこうせっか)のスピードに乗って、ピカチュウはインテレオン目掛けて体当たりをしようとした。

「インテレオン、かげぶんしん」

「テッ」

インテレオンは、(かげぶんしん)を左右に作り出し、周りに次々と分身体が出来上がっていく。

ピカチュウがぶつかりにいったインテレオンは分身で、触れた瞬間に消えてしまった。

「ピィカ」

そのまま、ピカチュウは分身体に囲まれてしまった。ピカチュウは、すぐさま周囲を見張った。大量に分身が出来たインテレオンに、惑わされながらも、必死に本体を見つけようと見ていく。

「インテレオン、マッドショット!」

「レオン」

すると、ピカチュウの背後の分身体の中から、(マッドショット)が放たれた。

「ピカチュウ、アイアンテール」

「ピィカァ!」

ピカチュウは、咄嗟に尻尾を光らせて(アイアンテール)を発動し、飛んできた(マッドショット)にぶつけて、受け止めた。

「あのインテレオン、やはり強いな」

外野から観戦しているヒョウリがそう評価する。

「嘘。師匠のピカチュウに、それにみずタイプなのに」

その隣で見ているマナオは、驚いてバトルを見ていた。

インテレオンが(マッドショット)を撃った後で、インテレオンのかげぶんしんは一気に消滅した。

「インテレオン、ねらいうち」

「レオン」

「ピカチュウ。躱して、エレキネット」

「ピカ」

再び互いのわざが衝突し、爆発と煙が起きた。

「よし、ピカチュウ。一気に行くぞ」

「ピッカ」

「10まんボルト!」

「ピィカァァァヂゥゥゥ!」

ピカチュウの全力の(10まんボルト)が煙の中を突き抜けて、インテレオンへ飛んでいく。

「インテレオン!・・・」

「テッ」

ベルアは、インテレオンに何かの指示を出した。だが、ピカチュウの10まんボルトはそのまま向かって行き、命中した。

「ヨシ」

「ピカァ」

サトシは、ガッツポーズをして、ピカチュウも少しだけ喜んだ。だが、予想は大きく裏切った。(10まんボルト)が命中したインテレオンは、倒れる事もなくそのまま消滅したのだ。

「なっ」

「ピッカ」

一体、なんで消えたのか理解が一瞬出来なかったサトシとピカチュウ。

「・・・(みがわり)だよ。インテレオン!」

ベルアに対して、サトシはすぐに気がついた。

「あっ。ピカチュウ、気をつけろ!」

「ピカッ!」

「マッドショット!」

「インテ」

いつの間には、ピカチュウの真後ろにインテレオンが現れたのだ。

(しまった。インテレオンは透明にもなれるんだった)

サトシは、思い出した。かつての旅で出会った時、インテレオンは透明になれるという事を。

「躱せ!」

すぐに気付いたサトシは、ピカチュウにそう言った。しかし、その言葉より先に、(マッドショット)が届いてしまった。

これは、先程のインテレオンが(みがわり)と同時に、本体であるインテレオンは透明になったのだ。そして、そのままピカチュウが(みがわり)を相手にしている間、彼の背後に近づいて距離を詰めたのだ。

「ピッカァァァ」

ピカチュウに(マッドショット)が見事に命中した。でんきタイプであるピカチュウには、じめんタイプわざの(マッドショット)は、効果抜群のダメージとなる。

命中したピカチュウは、そのまま吹き飛ばされる宙を舞う。

「あっ」

サトシは、ピカチュウを吹き飛ばされる姿を見た。

「!」

「あぁ」

観戦しているヒョウリ達も、同様だった。

このままだと、ピカチュウは地面へ落下して転がっていくと、誰も考える同じ事をサトシも予想した。しかし、ベルアはそれを許さなかった。

「インテレオン、マッドショット」

「インテ」

「え?」

ベルアは、再び(マッドショット)を撃たせた。

「なっ」

そして、吹き飛ばされて宙を舞うピカチュウに目掛けて、再びマッドショットが命中した。

「ピッカッ」

ピカチュウは、悲鳴を上げた。

「ああ」

その様子を見たサトシは、悲痛な顔をした。攻撃を再び受けたピカチュウは、勢いが増した事でより遠くまで飛び、強く地面にぶつかった。

「ピィカァァァ」

そのダメージもピカチュウを襲い、彼に苦しい顔をさせた。

「ピカチュウゥ!」

サトシは、心配して大声で叫ぶと共に、彼の元へと走ろうとした。

「今のは不味いな。これは、もう」

ピカチュウのダメージを見て、ヒョウリは分析した。

「ひ、酷い」

マナオは、ピカチュウのやられた姿を見て、少しだけ涙を出す。急いで、飛ばされたピカチュウの元へ走っていくと。

「サトシ」

ベルアがサトシを呼び止めた

「どうだい?分かっただろ。君たちの負けだ。君たちでは、相手にならない。降参しろ」

「くっ」

サトシは、顔は曇った。ベルアには負けなくない。けど、今のピカチュウは、相当のダメージを負ってしまい、非常にピンチだ。そして、何よりベルアのやり方を知った以上。今のピカチュウでバトルするのは、危険だとサトシ自身理解していた。

「くっ」

サトシは、溢れ出る悔しい気持ちを抑えた。それから、彼に向かって何かを言おうとした。

「お、俺の」

その時だ。

「ピカァ!」

ピカチュウが大声で叫んだ。

「ピカチュウ・・・」

振り向くと、ピカチュウが必死に立ち上がろうとしていた。その姿を見たサトシ。ピカチュウは、まだ諦めていなかった。痛々しい体を必死に立ち上がらせるその顔は、負けたくないという顔をしていた。それは、トレーナーであるサトシには分かった。

途中まで言おうとした言葉を止めて、一度唾を飲み込んだ。

「そうだな。・・・諦めない。まだ、勝負は終わってない」

サトシもピカチュウと同様の気持ちだった。それで、ベルアに挑戦を続けると決めて、彼への降参を行わなかった。そんなサトシとピカチュウの様子を見たベルアは、軽いため息をした。

「そうか。なら・・・潰そう」

ベルアはそう言うと、すぐにインテレオンへまた指示を出した。

「マッドショット!」

サトシとピカチュウには、一瞬の間も与えずにわざを繰り出した。

「しまっ」

サトシは、すぐにピカチュウへだが、今のピカチュウは立ち上がっているのが、やっとだった。躱せという指示を出しても躱せない。わざを出そうにも、その時間も体力も残り少ない。

このままでは、確実にピカチュウは。

「止めろ!」

サトシの悲痛な声が、大きく叫ぶ。しかし、再び(マッドショット)が放たれて、そのままピカチュウは、再び受けてしまった。

今度は、地面を滑るように転がって行き、近くの街灯の根本にぶつかった。

「ピッ・・・カッ」

ピカチュウは、起き上がろうとしたが、既に体は限界だった。もはや、自力で立ち上がる事が出来ない様子で、それは誰もが分かっていた。

「トドメだ」

ベルアは、ズボンのポケットから何かを取り出して、それをインテレオンへ向けようとした瞬間だった。

「勝負、そこまで」

審判の女が、そう宣言した。

「!」

途中で、審判が止めに入った事に、ベルアは彼女を睨んだ。

「勝者、ベルア!」

そのまま、彼女は勝者としてベルアの名前を上げた。ベルアに睨まれている彼女は、彼の方を見て、一喝した。

「貴方の勝ちよ。審判の指示には従いなさい」

「・・・」

彼女に対して、不満な顔をするベルア。だが、彼女に一切非がない事を理解している彼は、言う通りにした。

「下がれ、インテレオン」

「インテ」

ベルアは、インテレオンを自分の元へと呼び戻す。それから、サトシの方を見て声を掛けた。

「サトシ」

「!」

「俺の事が気に入らない、やっている事が嫌いなら、それで結構だよ」

「・・・」

「ただし、敗者が勝者に口出し出来ない」

「くっ」

ベルアに言われた事に、言い返せないサトシ。

「師匠。あんな奴の言うこと、気にしたら駄目です」

そんなサトシに、マナオは気にかけて、ベルアを睨みつける。

「師匠?」

ベルアは、マナオの師匠という言葉を聞いて、気になったのか彼女へ問う。

「君。さっきからサトシを師匠と言っているが、彼の弟子なのか?」

「一応、弟子・・・希望ですが何か?」

マナオは、嫌な顔をしながら、そう答える。

「いや、何でもない。ただ、彼の弟子というなら、次の試練を達成するのは難しいと思っただけだよ」

「ハッ。挑発なら結構です」

マナオは、ベルアの挑発染みた言葉を無視しようとした。

「おっと、失礼。単に、今日戦った連中の中で、君が一番弱く見えただけだよ」

「・・・」

その言葉が聞こえたマナオは、急に黙るとそっと立ち上がった。

「なんですってぇぇぇ!」

今度は、彼女がベルアへ掴みかかろうとした。

「おっと」

それを寸前で察したヒョウリが、彼女の腕を掴んで止める。

「ちょっと、あんた!今何って言った!」

「今日戦った連中の中で、君が一番弱く見えただけだよ」

「二度も言うんじゃないわよ!」

「君が言って欲しいと言ったのだろう」

「くぅぅぅ」

「落ち着けよ」

ヒョウリは、マナオの腕を掴んで止めようとする。

「全く、年下二人の面倒見るのは疲れるぜ」

ヒョウリが、そう文句を言うとサトシに話し掛けた。

「おい、サトシ。急いでセンターへ行くぞ」

「あ、ああ」

ヒョウリに言われて、すぐさまサトシはピカチュウを抱えて走り出した。

「おい、行くぞ」

「べーーーだ」

マナオは、ヒョウリに引っ張られながら、ベルアに舌を出した。

「ピカチュウ・・・」

サトシは、ピカチュウを抱えたまま、心配な顔をして見つめる。

そのまま、サトシ達は全速力でポケモンセンターへと走った。

「おい、あんた」

「?!」

ベルアが、審判をした女に話し掛ける。

「次は、あんたが相手をしれくれよ」

「そうね。元々、そのつもりだったし・・・始めようか」

彼女は、一度しまったモンスターボールを再び、取り出そうとする。

「そうえいば、自己紹介がまだだったわね。私は、アマネ。さっきも言った通り、この町の住人よ。この町で暴れた貴方を、お仕置きしようと思ったの」

自分の名前を名乗り、取り出したボールと共に彼へと敵意を向けた。

「・・・まさか、クィーン自ら御出座しとは」

「あら、私の事を知っていたの?」

「勿論さ。この町で一番強いのは、誰か調べたよ。1人は、既にこの町にいない元ジムリーダーのトレーナー。そして、もう一人があんただ」

ベルアは、アマネへ指を向けた。

「さて、始めるか。いけ、インテレオン」

「インテ」

ベルアは、先程までバトルをしていたインテレオンを再び、バトルに出してきた。

「その子でいくの・・・手加減はしないわよ。行きなさい、ジュカイン」

「ジュゥ!」

アマネが出したポケモンは、(みつりんポケモン)と呼ばれるくさタイプのポケモンだった。水タイプのインテレオンとは、相性が良い為、ベルアには不利な相手となる。それを互いに理解は無論しているだろう。すると、アマネがベルアに説明を始めた。

「一応、言うわ。この子が、私の相棒なの。貴方にとって、相性が悪くても・・・問答無用で勝たせて貰うから」

トレーナーとしてのプライドとして、相性で選んだのではないと教えるアマネ。それに対して、ベルアは全く気にもせずに、答えた。

「そんな事、どうでもいい。早く始めましょうよ。今日、はじめて本気が出せる事に、俺は嬉しいんだよ」

彼は、その日で一番喜んでいる顔を見せた。

 

 

あれから、サトシはピカチュウを抱えてポケモンセンターに走った。すぐさま、ジョーイの治療の元で、ピカチュウの怪我の手当てしていった。治療を終えたピカチュウは、小さな個室の病室に移った。大きな病室が、いっぱいになってしまったとのことだった。

「一応、貴方のピカチュウに出来る治療は一通り終わったわ」

「そうですか。ありがとうございます」

サトシは、ホッとして安心した。

「良かったですね」

側には、サトシと一緒に心配しているマナオが隣に付き添っていた。

「ただ」

「?」

「明日は、余り無理をさせないことを勧めるわ。出るんでしょう?試練に」

「・・・はい」

「ジョーイとして言うけど、ベストカップの試練は過酷なのは私も知っているは、だからあの状態のピカチュウでは・・・難しいわ」

「・・・分かりました」

それからジョーイは、部屋を出てサトシとマナオ、眠るピカチュウだけとなった。

「俺の・・・せいだ」

「!」

「俺が、」

「師匠は悪くありません。悪いのは」

「あぁ、分かってる。けど、俺のせいでもあるだろ」

「そ・・・」

「・・・」

「・・・私、何か飲み物持ってきます」

そう言って、マナオは部屋を出て行った。

「・・・」

サトシとピカチュウだけになった部屋で、サトシはただピカチュウを見つめていた。

(俺が・・・俺のせいで)

サトシは、心の中で後悔と悔しさが出して、顔を歪めた。

サトシは、覚悟を持ってベルアにバトルを挑んだ。彼のやり方が嫌いだった。彼が自分のポケモンでやった事が許せなかった。そして、ピカチュウと自分は、ベルアなんかに負けたくない、いや負けないと考えていた。それは、決して驕っていた訳ではない。今まで、幾度もピカチュウと共にバトルをしてきて勝利と敗北を経験してきた。長年、共に旅をした最高のパートナーである一番のポケモンだと思い、挑んだ。そして、何より挑む前にピカチュウと互いに意思を確認し合い、共にここを飛び出した。

だが、結果はこのような酷いものとなってしまった。その結果を受け止めたが、それでも後悔と悔しさは彼の心から溢れ出てしまう。それと共に、自分自身の罪悪感が生まれていた。

(俺が、・・・ピカチュウはこんな目に)

そう考え込んでいると。

「ピッ」

「!」

「ピ、カ」

「あっ、ピカチュウ」

ピカチュウが目を覚ました。それに気付いたサトシは、すぐに彼の名前を呼んだ。すると、ピカチュウもサトシの声に反応して、彼の方を振り向いた。

「・・・ピカピ」

「ピカチュウ」

「ピカ、ピー」

「ピカチュウ・・・ごめんな」

サトシの飲み物を買いに行ったマナオは、手にペットボトルを持って、病室へ戻ろうと廊下を歩いていた。

「マナオ」

すると、誰かに話し掛けられて足を止めるマナオ。

「ヒョウリさん」

振り向いた所にヒョウリが居た。彼は、横の廊下から歩いて来た。

「少し話がある」

「え?」

マナオは、ヒョウリに呼ばれ付いて行き、近くの休憩コーナーの椅子に座った。

「何ですか?話って」

「結論から言う。サトシは、ピカチュウは明日の試練の達成は・・・無理だ」

ヒョウリは、最後の言葉を少し詰まらせながらそう伝えて来た。

「そんな、まだ決まった訳じゃあ」

マナオは、すぐに彼の言葉を否定した。しかし、彼女の顔は理解をしているのか自信の無い面立ちになっていた。続けて、ヒョウリは説明をしてきた。

「出たとしても、試練の内容次第でほぼ脱落は免れない。前回の試練の後、お前らのから教えて貰った内容からして、今回のそれ以上の難易度があるはずだ。それに今度は、厄介な競争者が大勢いる」

「?」

「今回、お前とサトシのように第一の試練を達成して、次の試練へ挑む者達。そして、歴代の第一の試練を達成し、未だ第二の試練を達成出来なかった者達も含まれる。それも、何度も試練に挑んできた経験値がある連中がな」

「あっ」

マナオは漸く理解した。ヒョウリが言うサトシとピカチュウが達成出来ない理由は、怪我だけではない。同じ試練へ挑戦するライバル達が、脅威となるということ。そのライバル達の中には、大勢の経験豊富で何度も試練へ挑戦した者達も混ざっている事。それを考えたマナオは、ゴクリと喉を鳴らした。

「とにかく。は自分の事を、明日の試練の心配をしろ」

「・・・けど」

「せめて、師匠であるあいつの分も頑張ろうと考えればいいだろ」

「・・・」

「それに、お前には・・・お前の達成しないといけない理由があるだろ」

「ッ」

マナオは、ヒョウリに指摘されて改めて自覚した。自分自身が、なぜトレーナー・ベストカップへの挑戦を始めたのか。その理由を、何を今目指しているのかを。それを彼女は、忘れていた訳ではないが、心で決めたと誓いが、彼女の意思に食い込んできた。

「・・・悪いな。変なプレッシャー掛けること言って」

「いえ・・・」

二人の空気が、しんみりとなり、それから互いに沈黙してしまった中。

「ヒョウリの言う通りだ」

「「!」」

一人の声が上がった。

「師匠」

「サトシ」

彼らの元に現れたサトシは、そのまま近づいて来た。

「二人とも、ごめん」

「え?」

「まだ謝っていなかった。黙って、勝手にセンター飛び出して、バトルして。挙げ句に、負けてピカチュウの怪我まで心配かけて」

サトシは、二人に謝罪をした。

「いえ、謝らないで下さい」

マナオは、立ち上がると手を振って、サトシに気を遣う。

「そうだな。勝手に出た上、試練前に怪我を負わせて。あれ程、忠告したのに」

一方で、ヒョウリはサトシの言う通りだと、文句を付け加える。

「ちょっと、ヒョウリさん」

「それと、二人とも」

「「?」」

「俺とピカチュウは、明日・・・挑戦する」

サトシは、二人に対して、そう告げた。

「・・・」

「・・・で、ですが、師匠。ピカチュウは」

その言葉を聞いて、ヒョウリは黙って見つめ、マナオは大慌てでサトシに話す。

「ピカチュウ、さっき目を覚ました。謝ったよ・・・そしたら、怒られた。なんで、僕に謝るんだって」

「「・・・」」

「その後、ピカチュウに明日の試練の事を話した。俺は、お前の出たい。けど、お前には、これ以上傷つけて欲しくないって」

「「・・・」」

「そしたら、出るぞって。・・・だから、俺は出る。例え、どんな結果になっても。俺は、ピカチュウが諦めないなら、俺も諦めない。俺も諦めたくない」

「師匠」

サトシの言葉を聞いた二人は、彼の顔を見て思った。覚悟を決めた顔。もう何を言っても、諦めないと。

「そうか。なら、俺はもう言わない。だから、俺は部屋で休むわ」

ヒョウリは、そう言って立ち上がると、宿泊フロアへと向かった。

「じゃあ、明日飯の時」

最後にそう言って、彼はその場から去って行った。

「マナオ」

「はい」

「お前も、明日の事に集中して、休んでくれ」

「・・・」

「大丈夫だ。俺も、ピカチュウも」

「・・・分かりました。それじゃあ、私も休みますね」

「あぁ」

「あっ、これ買ったんで飲んで下さいね」

マナオは、買ったドリンクをサトシに渡した。

「サンキュー」

「それじゃあ。明日の朝」

「あぁ」

そう言って彼女もその場を去って行った。

それから、サトシはまたピカチュウの病室へと戻った。

「ピカチュウ」

「ピッ」

「二人に伝えてきたよ。もう大丈夫。明日はピカチュウと一緒に出るって」

「ピカ」

「・・・なぁ、ピカチュウ」

「?」

「今日のあいつ。凄く腹が立ったし、嫌な感じだったけど。最初は、何だか懐かしかったんだ」

「ピカ?」

「覚えているか。シンオンで会ったシンジの事」

「ピカ」

サトシは、かつてシンオウ地方で旅をして、リーグ戦に出た時の事を思い出した。そこで、出会った一人のライバル。

「あいつ。最初は、冷たくて自分のポケモンにも厳しくて、嫌な奴だったよな」

「ピカ」

「けど、あいつにも優しさやポケモンの事を考えている良い所はあった」

「ピカピカ」

「ベルア・・・あいつはそれとは違う気がする」

「・・・」

「ポケモンの事を、平気で傷つけて、相手をトコトン痛めつけるあんなやり方・・・俺は大嫌いだ」

「ピカピカ」

「そうだな。許せないな。けど」

「ピ?」

「もし、明日の試練。また、あいつとバトルする事になったら・・・」

サトシは、不安があった。明日の試練の内容が何になるか分からない。だが、もしそれでベルアと再びバトルことになったら、そう考えるとサトシは一気に不安になった。そんなサトシを見て、ピカチュウは喝を入れた。

「ピカァ!」

「!」

「ピカピカ、ピカ。ピカチュウゥ!ピカァ!」

「あっ、ごめん。そうだな。また、そうなったら今度こそ勝とうな」

「ピカァ」

「よっし。なら、今夜はいっぱい休もう」

「ピカァ」

サトシは、ピカチュウへ右手の握り拳を近づける。

「明日、絶対達成しよう」

「ピカァ」

サトシとピカチュウは、互いに拳を当てた。

サトシ達が広場から出ていった後、ベルアとアマネによるバトルが執り行われたが、完全な真っ暗となった今の広場に、二人の影は無かった。二人のバトルは、サトシのピカチュウが治療を受けていた頃に、終了していたのだ。

今、ベルアは町の中にある繁華街を歩いていた。彼は、夕飯がてら露店で買ったものを持ち、食べ歩きをしていた。

「折角、遠くの地方まで来たというのに、大したトレーナーが少ないな」

ベルアは、そう声から漏らすと、そのままどこかへと歩いて行った。

 

 

翌日の朝。

ポケモンセンターで支度を整えたサトシ達は、朝食を済ませた後、すぐに出発しようと外へ出た。

「いよいよだな」

「はい」

サトシとマナオがそう会話をすると、サトシは後ろを振り返った。

「ピカチュウ!」

「ピカピィ!」

サトシに呼ばれたピカチュウが元気いっぱいに走り、サトシの肩へと一気に登って行った。

「気をつけてね」

彼らの後ろには、ジョーイが居た。

「ジョーイさん、ありがとうございます」

サトシは、ジョーイに礼を言った。

「一応、痛み止めを飲んだから、痛みは引いたはずよ。けど、怪我自体は完治していないから、決して無茶はさせないように」

「はい」

彼が、ジョーイからの忠告を素直に聞いて返事をすると、ジョーイの隣に誰かが現れた。

「サトシ」

「リヒト」

現れたのはリヒトだった。

「サトシ、俺の分も頑張ってくれ」

リヒトは、これから第二の試練を受けるサトシへエールを送ると共に、自分とマグマラシの挑戦する気持ちを、サトシへ託したのだ。

「ああ、必ず達成してくる!」

「ピカ!」

サトシとピカチュウは、迷いなく彼に答えた。

こうして、サトシ達は会場へ向かった。

 

 

サトシたちが、第二の試練が開催される会場へ町の中を歩いて行く途中、彼らの進む道に人混みが増えていった。

「ん?」

サトシが、周囲の人間に気付いていると。

「こいつらも、他の挑戦者みたいだな」

ヒョウリも気付いて、そう告げる。サトシ達が居たポケモンセンターから朝の内に、何名かが会場へ向かったのを既に目撃していた。今、現れているのはセンター以外の宿泊施設や地元に居たトレーナー達の挑戦者だった。彼らも、サトシ達と同じ方角へと歩いていた。

「今回も多いですね」

マナオは、周りの人間を見て、不安そうに言うと、サトシもマナオへ伝えた。

「ああ。全員、俺たちのライバルだ。頑張るぞ」

「は、はい。頑張ります」

サトシ達は、そのまま会場へと進み。あと5、6分という地点まで近づいていると。

「ん?!」

ヒョウリが、何かに気付いた。町中にいる人々の中に奇妙な視線を感じたからだ。

(妙な奴が、チラホラいるな)

そう思いながら歩いてき、周囲を一瞥していった。

(無線機や双眼鏡を持った奴が複数人・・・)

続いて、町中の建造物や空に注目した。

(屋上には、カメラ付きの飛行・浮遊ポケモンに、屋上から街を見ている者も・・・まさか)

次々と変な発見をした彼は、何かに気付いたようだった。

「どうした?ヒョウリ」

「・・・いや、何でも無い」

(今回は、大規模そうだな)

彼は、サトシ達へ特に何も言わなかった。




今回は、原作(ゲーム)に存在する地方フィオレ地方にある町「フォルシティ」が舞台となる話でした。
この町で出会った新しいライバル達。
様々なトレーナーと出会う事になったサトシは。

次回は、いよいよトレーナー・ベストカップ第二の試練が始まります。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。


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