イゼルローン要塞の事後処理 (名無し名人)
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イゼルローン要塞の事後処理

宇宙暦796年5月銀河帝国軍が擁するイゼルローン要塞はヤン・ウェンリー少将率いる第13艦隊によって陥落、6度に渡って同盟軍兵士の血塗られた記録は7度目によって途切れ、その所有者を一滴の血も流さず変えたばかりのこの要塞で一つの問題を抱えていた。

ー要塞司令部ー

ヤン提督

「民間人?」

グリーンヒル中尉

「はい、帝国側の民間人およそ二十万人以上かと思われます。」

パトリチェフ准将

「駐留艦隊や要塞守備隊の家族・・・という訳ではなさそうですなぁ?」

ムライ准将

「そうだ、兵士達の休暇や仕事終わりを相手に商売や飲食を主にやっていたそうだ。」

シェーンコップ大佐

「そういえば縛りあげた帝国兵の中には酒を飲んで酔い潰れていたとの報告も挙がっておりましたな。」

フィッシャー准将

「では彼等はどうなさりますか?」

ムライ准将

「・・・・民間人とはいえ帝国側の人間ですから拘束、勾留となるとは思いますが・・・・」

パトリチェフ准将

「前例がないと?」

ムライ准将

「そうだ、我が同盟はこれまで帝国軍兵士の扱いは承知しているが帝国側の民間人を拘束した例はない。これまでの戦場はいずれも同盟領で帝国側民間人等見かけることなど無かったからな。」

シェーンコップ大佐

「我々もヴァンフリートやカプチェランカでも基地攻略の際はそういった捕虜は見かけませんでしたな。」

フィッシャー准将

「だが、現にこうして二十万人以上の民間人がいる。そのままには出来ないぞ?」

パトリチェフ准将

「となると、やはり拘束して同盟領に送るしかないですなぁ」

グリーンヒル中尉

「ところが、そうもいかないかも知れません。国内の複数の人権団体が帝国側民間人の人権擁護の動きの兆しがあります。拘束、勾留などしたら彼等は人権侵害だと騒ぐ可能性があります。」

ムライ准将

「だが、亡命者でもない彼等を同盟市民と同じ扱いなど出来ないぞ。彼等とてその気などないだろう。」

パトリチェフ准将

「ヤン提督はどうお考えです?」

ヤン提督

「・・・・私は彼等を帝国に送り返そうと思っている。」

ムライ准将

「ヤン提督!?」

ヤン提督

「ムライ准将、言いたいことは分かるけどまずは私の話を聞いてからにしてくれ、まず当たり前だが彼等をこのままイゼルローン要塞に留めておくわけには行かない。敵国の人間の相手など心情的にも無理だろうしね。次に本国に送還・勾留も却下、敵国の民間人とはいえ法的根拠なしに拘束なんて無理があり過ぎる。そしてこれが一番の理由なんだけど帝国が同盟に民間人を拐われたとプロパガンダに利用されるのを危惧しているんだ。帝国がそれをしない保証なんてないからね。」

シェーンコップ大佐

「帝国ならするでしょうな、本音はともかく臣民を叛徒共に拐われたなどと言われれば民衆は怒り狂う筈です。」

パトリチェフ准将

「ですが可能でしょうか?」

ヤン提督

「今なら可能だと思う。向こうはまだイゼルローン失陥のショックが抜けてない筈だ。向こうがその事実に気付く前に送り返す。」

ムライ准将

「本国にはどう説明為さるおつもりですか?」

ヤン提督

「人道的観点から現地軍同士の一時停戦で民間人を送り返すとでも言うさ同盟政府にしても二十万人以上の民間人を食わせる余裕なんてないさ。他になにか意見あるものは?」

グリーンヒル中尉

「私も賛成です」

パトリチェフ准将

「穏便に済むならそれに越したことはないですなぁ」

フィッシャー准将

「私も異存はありません」

シェーンコップ大佐

「帝国のご婦人方との語らいも興味深いがそれは次の機会に致しましょう。」

ムライ准将

「提督がそう決められたのなら従うのみです。」

ヤン提督

「ではその方針で行こう。グリーンヒル中尉は本国に連絡を、パトリチェフ准将は民間人に帝国に送還する旨を伝えてくれ。ムライ准将は送還用の宇宙船の手配を、フィッシャー准将は船の護衛艦の選定を、私とシェーンコップ大佐は帝国側に連絡する。シェーンコップ大佐通訳を頼む。」

宇宙暦796年5月自由惑星同盟軍少将ヤン・ウェンリーの名で銀河帝国に通信が送られた。その内容とはイゼルローン要塞に残っていた帝国側民間人二十万人を送還するというものだった。驚いた銀河帝国軍宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥は直ちにフリードリヒ4世に謁見、事の次第を報告。フリードリヒ4世はミュッケンベルガーの名で交渉に応じる様に命じた。勅命を受けたミュッケンベルガー元帥は直ちにイゼルローン要塞に受諾する旨を回答し、幾つかの交渉の末帝国側宙域アムリッツァにおいてヤン提督率いる輸送船団と合流、戦艦ヒューベリオンにおいてミュッケンベルガー元帥とヤン・ウェンリー少将が会談、署名し非公式ながらミュッケンベルガー元帥が謝辞を述べた。そうしてお互いがそれぞれ自軍のもとに帰還していった。これは150年に渡る戦いの中の一幕である。

 




旧作ではイゼルローン攻略戦の中民間人らしき女性が写ってたけど彼女達はその後どうなったのかな?と思い書きました。


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トイレ

宇宙暦796年5月自由惑星同盟軍ヤン・ウェンリー少将率いる第13艦隊によって陥落したイゼルローン要塞において引き継ぎの艦隊が来るまで要塞内の調査をしていた調査隊の報告を聞いたヤン少将を始めとした幕僚達は頭を抱える事になった。

 

《第13艦隊司令官ヤン・ウェンリー少将》

「これは…まいったねぇ?」

 

《首席幕僚ムライ准将》

「迂闊でした、まさかこんなことが…」

 

《次席幕僚パトリチェフ准将》

「仕方ないといえば仕方ないでしょうが…」

 

《副司令官フィッシャー准将》

「うぅむ…」

 

《薔薇の騎士〘ローゼンリッター〙連隊長シェーンコップ大佐》

「失念しておりましたなぁ?まさか…」

 

「「「「「軍事施設内に女性用トイレがないとは…」」」」」

 

調査隊の報告では民間人居住区には女性用トイレはあるものの、軍事関連施設には一切見当たら無いという報告が各フロアに派遣した調査隊から上がって来た。これには軍に女性が居るのは当たり前だった同盟軍には盲点であり意外なところで頭を悩ます問題に発展したのだった…

 

《副官フレデリカ・グリーンヒル中尉》

「調査隊の女性達から早期の対策を要求しています。というより艦隊の女性全てが、です。」

 

《ヤン提督》

「まぁ確かに帝国軍には女性兵士は居ないから女性トイレは必要無かったんだろうけど…」

 

《ムライ》

「まさかこんな形で影響が出るとは思いもしなかった…」

 

《パトリチェフ》

「どうします?男性トイレの幾つかを転用しますか?」

 

《フィッシャー》

「それでは逆に男性が困ってしまうのではないか?工兵隊に早急に作って貰えば…」

 

《シェーンコップ》

「工兵隊に問い合わせてみましたが、資材と人数が絶対的に足りないそうですな」

 

《パトリチェフ》

「では艦で仕事をしてもらうというのはどうでしょう?」

 

《フィッシャー》

「其れはそれでいざというときに動けないのではないのか?」

《ムライ》

「提督どういたしますか?女性兵にはかなり切実な問題ですが?」

 

《ヤン提督》

「…グリーンヒル中尉現在使われていない士官室はあるかい?」

 

《フレデリカ》

「はい、埃被ってる部屋が幾つかあると報告が上がっておりますが?」

 

《ヤン提督》

「なら幾つかそれを一時的に女性用トイレに使おう。その間に本国に業者なりを早急に派遣してもらおう」

 

《ムライ》

「確かにそれしか方法はないかもしれませんな」

 

 

 

 

 

後日イゼルローン要塞よりハイネセンに送った通信にトイレ業者の早期派遣を要望したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 



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