桜満集無双 (らんの)
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第一章
#1発生 genesis


随分と遅れてしまいました。30分間分まるまる書くのは疲れますね

セリフの前には人物名を入れ、モブには何も無いこととします。


通学途中の電車内、俺は大きく欠伸をする。昨日できた頬の擦り傷が少し痛んだ。やはり肉弾戦での多闘戦は無理があったか、

 

祭「おはよう!集。その傷大丈夫?」

 

中学からの友人である祭が声をかけてきた。気づくのが早い…

 

集「うん、大丈夫だよ」

 

祭「あまり危険なことしないでよ?集は昔から危なっかしいところあるから」

 

集「昨日怖い人達に絡まれちゃってさ」

 

祭「もう、集が強いのは知ってるけどやっぱり心配だよ」

 

集「大丈夫だよ。祭を置いて行ったりしないから、」

 

祭「急に…そんなこと言われても……」

 

顔が俯いている。怒らせちゃったか?

 

目のやりどころに困り、なんとなく窓の外を見るとそこには戦車があった。それはいつものことだが少し違和感がある。

 

集「なんか多いな、今日。」

 

いつになく多いGHQの戦車や兵を見てつぶやく。

 

祭「ニュース見てないの?」

 

昨日は不良と闘って家帰ってすぐ寝たからなぁ

 

祭「昨日、テロとか何かあったらしいよ、」

 

祭は端末を見ながらそう言った。

 

祭「お台場…じゃなくて今は24区だっけ?」

 

集「ふーん」

 

そんなことがあったのか。確かに今の現状を良いとは思わない。しかし一介の男子高校生がどうこうしようとは思わないしできるとも思わない。そんなことを考えながらぼんやり窓の外を眺めていた。

 

-------------------------------

学校に着いて自席に座ろうとする。

 

颯太「おい集!」

 

クラス一のお調子者、同じ映研に所属する颯太が俺に駆け寄ってきた。

 

集「何だよ、」

 

颯太「これ見てくれよ!」

 

颯太は自分の端末を俺に見せてきた。そこにはどっかで見たような見なかったような映像が映っていた。

 

颯太「これ、EGOISTのPVなんだけどさぁ」

 

興奮気味に俺に話してくる。

 

集「エゴイスト?ああ、サイコパスのED歌ってたアイドルグループか、」

 

颯太「EGOISTはウェブアーティストだし俺はサイコパスは見てねえんだよ、」

 

これもノイタミナ枠だろうが、見とけよ。まあいいか、

 

集「それで?これがなんなのさ?」

 

颯太「いや、こんなすげぇ映像だぞ⁉︎映研としては抑えとかなきゃダメだろうが!」

 

集「おっ、おう…」

 

うーん、ミステリアスって感じか?つーかこれに匹敵するほどのを作るのは面倒だぞ⁉︎あえて無理とは言わない。というよりやる気さえあれば可能ではある。さらさらやる気などないが

 

颯太「でもそれだけじゃなくてよぉ!このボーカルのいのりちゃんを見てくれよ!」

 

いのり?どっかで見たような…まあいい。とりあえず見てみた。何かピンク掛かった髪とかどこかのブラコン姉を思い出す。寒気がしてきた。とは言ったものの細部は違うみたいだ。なんかこいつは生物のように見えない。なんつーか、人形みてえだ。そんなことあまりにも失礼だから言えたものではないが。

 

集「こいつがどうかしたのか?」

 

颯太「どうかしたって…可愛いと思わねえか⁉︎」

 

やはりそういう話題だったのか…むしろこちらがメインか?男子高校生はこういう話で盛り上がるのかねぇ?ただし

 

集「悪い、タイプじゃない。俺の苦手なやつに面影が似ててさぁ…」

 

そう、2029年にロスト・クリスマスを引き起こした張本人。俺の実の姉である桜満真名にどことなく似てる。全責任が彼女にあるとは言えないが。俺の化け物発言は関係ないだろう…ないよな?ないわ。

 

颯太「…お前……なんか大変なんだな…」

 

お調子者のテンションがここまで下がるとはね…まあ自分の可愛いと思った異性をここまで否定されればそうなることもわからなくもない。

もう戻って行ってしまった。

 

祭「颯太君、可哀想…」

 

集「いや、嘘ついて可愛いとでも言えってのかよ、」

 

祭「ちょっとは空気読もうとか思わないの?」

 

別に怒ってるわけでなく本気で疑問に思っているようだ。

 

集「思うわけない」

 

空気は読める。ただ読まないだけだ。読んでるつもりで全く読めてないクズよりはマシだろう。俺は本当のことを言っただけだしな。

 

 

「空気を読む」俺はその必要性がわからないわけではない。でもそんなことをして友達風のものを大量に作るくらいならば、本音を言い合える友人が数人いるだけでいい。もしそれで一人も友人がいないのであればそれでもいい。友人がいなくても死なないし飯も美味い。その感覚がズレていることも分かっている。

内心焦りながら皆と話を合わせていても、そんなの居心地が悪いだけだ。

 

 

日本は今、独立風の主権で運営している。母さんはそう言う。10年前、アポカリプスウイルスのパンデミックでこの国は滅茶苦茶になって、大勢の余所の国にとんでもなくお世話になった。今でもお世話になりっぱなしで日本はようやく屋台骨を支えている。色んな事実が俺らに伝えてくる。

 

“君たちには任せておけない”

“君たちには大切なものを守る能力がない”

 

だが、そんなのは間違っている。こんな状況をいつまでも続けて行くことを俺は良しとしない。だから、

 

「強くなる」

 

そう言い残し10年前、俺の前から去って行った親友と共に俺は強くなると誓った。俺にもやれることがあると信じて。そして俺の大切なものを守るために、

 

祭「でも集はああいう子は好みじゃないんだ…」

 

ホッと一息つきながら小声で呟いた。

 

集「ピンク髪より茶髪の方が好きだからな。」

 

祭「っ…⁉︎そっ、そういうことは普通聞いてないものでしょ!」

 

顔を真っ赤にしながら怒った。

理不尽だ、

 

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昼休み。俺は映研の作業をしようといつもの廃校舎に向かっていた。そこで弁当も食う。なぜならあそこは誰の干渉も受けないベストプレイスであるからな。ちなみに言っておくが俺はぼっちではない。颯太や祭、それから谷尋というクソイケメンと委員長もなんだかんだ付き合ってくれる。俺の性格を受け入れてくれてるのか、それとも映研だからかは知らん。

 

 

廃校舎に着いた。しかしすぐ中に気配を感じた。

ここにこの時間、誰かがいたことは一度もない。俺以外がいることは滅多にないのだが例外あってもおかしくない。99%ならば1%が起こることだってあるのだ。

俺は少し警戒しながら中へと入っていた。

 

♪咲〜いた〜 野〜の花よ〜

 

歌声が聞こえる、これは今朝聞いた…「エウテルペ」

 

声の持ち主はやけに露出のおおい少女だった。

うーん、すごい既視感。

その光景に気を取られていた俺は落ちていた空き缶に足を当ててしまった。

 

カランカラン

 

いのり「……っ⁉︎」

 

こちらを振り向き警戒体制に入った。すると少女の影から白いタチコマみたいなのが飛び出してきた。そしてワイヤーを俺の左足へと伸ばしてくる。その姿を見ながら前へ走り、ジャンプで避けながら一気に距離を詰める。手の届く範囲まで一瞬で近づき、そしてタチコマを片手で掴み持ち上げた。どうやら最後の抵抗だったらしい。タチコマは力尽きたようだ。よくできているもんだ。

少女は恨めしそうに俺を睨んでいた。その髪からそれが誰なのかは見当はついているが、

 

 

集「侵入者はおまえらだろ?急に失礼じゃねえか」

 

少女の目を見て睨み返しながら言う。よく見るとボロボロのようだ。どうりではだけているわけだ。

 

集「……EGOISTの、いのりだな?」

 

ボロボロの格好、俺に気づくまでの反応、警戒心、そして昨日の24区でのテロ。これらを掛け合わせ、そしてあることを思い出した。

 

“楪 いのり”

 

どこでその名を見たのかを思い出した。随分前に、葬儀社とか言う名のテログループのコンピューターにハッキングしたときに、名簿の中にそんな名前があったのだった。ちなみにあそこのセキュリティは他のテログループのと比べ少し強かったが、俺が失敗するほどではない。

それはそうとこいつがテロリストであることは間違えない。このご時世、テロリストに人権はないのだから、つまり今ここでどうしようが俺の勝手だ。サツに届けるのが一番模範的だがそこまでGHQに協力するつもりはない。

 

ググゥーー…

 

そんな思考を張り巡らせていると、

この緊迫した状況の中で間の抜けた音が鳴った。

 

-------------------------------

 

カタカタカタカタ

 

 

作業に取っ掛かりながらおにぎりを一個食っている。他は楪にやった。昨日から今までろくに飯も食べてないのだろうしテロリストに飯与えたくらいで罪にはならんだろうしな。最悪知らなかったで済ませればいい。これだけでテロリストだと勘づく奴なんて俺くらいだろうしな、

 

 

いのり「…EGOISTの曲で何が一番好き?」

 

おにぎりをムシャムシャ食いながら聞いてくる。警戒解くの早えなぁ…いつまでも警戒されてても面倒ではあるが、

 

集「“名前のない怪物”だな、」

 

いのり「そっちなの…」

 

なんかションボリされた。

 

 

-------------------------------

 

いのり「ロンドン橋落ちた♪落ちた♪落ちた♪」

 

上でタチコマを弄くってるようだ。

 

集「なぜここにいるんだ?」

 

上に上がり尋ねてみる。もちろん分かってはいるが念のためと反応を確かめてみるためだ。あと出てってもらうためにも。

 

いのり「この子を涯に届けるの。」

 

集「え?」

 

一瞬戸惑った。だが一瞬だ。涯、“恙神 涯”のことだな。ハッキングした時に見た。そのタチコマは持ち物らしいから恐らくは“その中身”が重要なのだろう。まあそれが何だっていい。それが世界を揺るがすものだろうが、ここで取り返すような正義の味方らしいことはしない。

 

ちなみにこいつは俺の問いに答えられていない。恙神 涯にそれを届ける気があるのならば速やかにこの場から立ち去り一刻も早くリーダーの元へと行ってもらいたいものだ。しかしこんなところにいるくらいだからトラブったんだろうな…せいぜい頑張って欲しいものだ。

 

いのり「取って、…えっと……、」

 

 

集「桜満 集だ。」

 

そういやまだ名乗ってなかったんだな。

そんなことはどうでもいいがこいつ、俺にあやとりを突き出してきた。どこかのブラコン姉を思い出させる。まあいい。あやとりが得意なわけではないがこれくらいはできる。とりあえず取ってやるか。

 

集「ほい、」

 

すると楪は笑顔を見せた。

 

そのとき、

 

 

ドカッ!

 

扉を蹴る音、そろそろ来たか。

 

 

駆け寄ってくるアンチボディズの兵達を平然と見下ろす。

 

いのり「ふゅーねる、」

 

そう呟いて下へと飛び降りて行った。自分を犠牲にしてまで守るとは。そこまで大事なものなのか、

その目的意識には感心する。

 

ふゅーねると思われるタチコマは前に進もうとしたが力尽きる。俺を倒そうとした気合はどうした!気合は!

 

いのり「っ……!」

 

グエン「おっと」

 

撒こうとするがすぐにハゲに捕まる。あいつが親玉か。

 

いのり「ウッ…⁉︎」

 

一人の兵がライフルで楪の腹を殴った。女相手に容赦ねえなぁ、俺は女は“極力”傷つけないようにしてるぞ。極力。

 

バタッ

 

まあ楪は倒れた。

 

グエン「学生か?」

 

威圧するように俺にそう言う。

 

集「ええ。やはりそいつ、何か昨日のテロと関係あったりするんですかねぇ?」

 

確信してた様子は見せない。何言われるかわからないし。まあ動揺はしてないけど。

 

グエン「察しがいいな、この女は犯罪者だ。もし庇うのであれば君も同罪として浄化処分するぞ。」

 

兵二人が俺にライフルを向ける。

 

集「別に庇う気なんて無いですよ。少し気になっただけです。」

 

両手を挙げ、敵意がないことを示す。こんなことをしなくてもここで今すぐ浄化処分されることはないだろうが、余計なことは避けるべきだ。

 

グエン「フン、中々肝の据わったガキだ。データ照合の結果は?」

 

 

兵「六本木の、葬儀社の一員に間違いありません。」

 

ビンゴだったな。どうでもいいが、

 

グエン「フン、テロリスト風情が!」

 

ハゲは容赦無く楪の顔に蹴りを入れる。そこまでひでぇことは俺でもしねぇよ。少し引いた。

 

グエン「連行しろ、」

 

兵達「ハッ!」

 

こうして楪は引きずられて行かれました。

 

-------------------------------

 

カタカタカタカタ

 

作業を再開させる。今回はかなり変わったことがあったが所詮何も関係ない。俺はまたいつもの俺に戻るだけだ。

 

ギュイーン

 

集「は?」

 

ふゅーねるがこちらに猛スピードで近づき、そして地図を表示する。つーかこいつまだいたのな。すっかり忘れてた。

恐らく地図で示された場所に恙神 涯がいるんだろうな。GHQに楯突くという目的の下届けるのもありではあるが、やはり面倒だ。とりあえず中身見てみるか。見るだけならバチも当たらないだろう。

軽い気持ちでふゅーねるを開けてみた。しかし、

 

集「…⁉︎これは!」

 

液体の入った見覚えのあるシリンダー。いや、忘れるはずがない。突如俺の中で10年前の記憶が呼び起こされる。

 

 

 

------------------------------

10年前、真名によって滅茶苦茶になってしまった教会を尻目に俺は走り出していた。父親の元へ、

 

しかし予想外のことが起こっていた。父-桜満 玄周-が血塗れの状態で倒れていたのだ。

 

集「父さん!しっかりしてよ!」

 

俺は父に必死に呼びかけていた。

 

玄周「…し……集…。父さんは……もうダメだ。」

 

集「そんな…」

 

玄周「いいか……よく聞け。今からお前に投与するのはとても恐ろしいものだ…。しかし……これがたった一つの……希望なんだ…。」

 

内心一体何を言っているのかわからなかった。父は涙を流し、そう言いながらポケットから一つのシリンダーを出す。

 

玄周「これから…お前は辛い思いをすることとなるだろう……。だが…、僕はもう……これをお前に託すことしかできない。これが……僕の…意思なんだ……。大切なものを守りたいのなら……この力を使いこなしてくれ!」

 

そして、父は俺にシリンダーを刺した。

 

------------------------------

 

それからはよく覚えていない。ただとても苦しんでいた記憶がある。気がついた時には母さんがいただけだった。そして分かったのは、父と姉が死んだということだった。

 

集「そうか、あいつ、セフィラゲノミクスから…」

 

俺はふゅーねるを恙神に届ける気はさらさら無かった。しかし中身を見てしまった以上“王の力を持つ者”として、協力しなければならないという義務感が生まれてしまう。これが誰の手に渡ろうが俺には関係ないはずであるのだが。

やむを得ない。これから地図の示す場所まで行くか。

 

------------------------------

 

ふゅーねるを抱えて地図で示されたところまで来た。六本木か…。できれば来たくなかった。なぜなら、

 

「おいおまえ」

 

こういう人たちがいるからだ。

 

集「はい」

 

とりあえず当たり障りの無いように返事をしておく。

 

「それ炊けんの?」

 

集「は?」

 

「それ飯炊けんの?」

 

集「いや、それはないだろ…」

 

炊飯器持って歩く奴がいるかアホ。

 

「それ置いてけよ」

 

集「それは無理だ。」

 

 

すると相手はいきなり殴りかかってきた。

単純な攻撃だったため、避けて一発鳩尾に膝を入れる。

 

「グフォッ⁉︎」

 

集「こっちは両手塞がってるんだからもうちょいがんばれよ…。」

 

「なんだあのガキ⁉︎やりやがったな!」

 

他の三人が襲いかかろうとする。だが昨日のより人数は少ない。

 

「野郎!」

 

一人が背後から殴りかかってくる。

 

背後に回り込みながら回し蹴りのような動きで背中に膝を思いきり打ち付ける。

 

「ガァッ!」

 

一人倒れた。

 

「やりやがったな!」

 

また一人こちらに走ってくる。正面にふゅーねるを持ったまま走って向かいうち、最低限の首の動きで拳を避ける。走った勢いそのままに腹部へと頭突きした。

 

「ウゴォッ!」

 

二人倒れた。

 

「畜生!」

 

最後の一人がナイフを取り出した。穏やかじゃない。気に留めることなく再び走り、飛び上がって顔面に両足で蹴りを食らわせた。

 

「ブフッ!」

 

最後の一人も倒れた。

 

手応えが無い。こちらは両手が塞がってるわけだし数でも勝っているのだからもう少し頑張ってほしい。

 

 

 

 

 

ドンッ!

 

すると突如こちらを無数のライトが照らした。

 

涯「やあ、死人の諸君」

 

金髪の男が俺を見下ろす形で言った。こいつが恙神 涯か?そいつの顔をよく見ると、記憶の中の誰かと重なった。そしてすぐにそれが誰なのかわかった。印象は相当変わっているが俺の直感が間違うはずはない。そう、彼は幼少時代を共に過ごした、

 

 

集「トリトン…なのか?」

 

 

かつて強くなるといって去っていった親友。それがトリトンだった。彼が居なければ今の俺は居なかっただろう。断言できる。

 

 

涯「ほう、覚えていたか。」

 

トリトンは笑みを浮かべる。

これが運命の悪戯かと思いつつ気配を感じたのでそちらへと視線を向ける。

 

集「ん?」

 

 

ツグミ「それふゅーねるでしょ⁉︎返して!」

 

ふゅーねるをそこにいた猫耳に奪われた。

 

集「感謝ぐらいしてくれてもいいんじゃないのかな?…猫耳ちゃん。」

 

ツグミ「いのりんを見捨てるような最低男に感謝なんてしないわ!ベーッ!それと私はツグミよ!」

 

集「知るか」

 

あれ見捨てたってことになるのか?俺が助ける義理ないよな?そもそもあの状況で一介の男子高校生に何を求める?

 

その間にも恙神 涯がこちらに向かって来た。

 

涯「で、あれと一緒にいた女はどうした?」

 

ふゅーねるを指差しながら言った。

 

集「ハゲ率いるアンチボディズの方々に連れてかれた。」

 

涯「見捨てたのか」

 

集「助ける義理はないだろ。」

 

ドーン!

 

俺がそう言った瞬間に近くで爆発が起こった。

 

「涯!GHQの白服共が街に入り込んで来てます!」

 

ヤバイな、なぜこんな時に。やはりゲノムはここまでしてでも取り返したいのか。

 

------------------------------

 

 

街まで来てしまった。

 

アルゴ「チックショー、あいつら!お構いなしに実弾をばら撒いてやがる!」

 

不良っぽい見た目をした奴がそう言って走って行った。どんな独り言だよ…

 

涯「ツグミ、綾瀬達はどうしている?」

 

ツグミ「綾ねえ達は…左方に機影!」

 

左方を見てみる。エンドレイヴとか言うロボがこちらに走ってきているようだ。最悪飛び越えるか。

 

だが上から来たもうひとつのエンドレイヴがそれを踏み潰した。

 

ドゴーン!

 

目の前で爆発が起こる。

 

集「チッ!」

 

バックステップで少し距離を置く。

 

 

綾瀬「どいて!邪魔よ!」

 

エンドレイヴから声がした。へいへい。

 

涯「行け!集!そいつを絶対に手放すな!今度こそ守ってみせろ!」

 

テロリストの仕事押し付けて走って行きやがった。一応感動の再会のはずなんだけどな。まあ依頼されたら何も言わずすっぽかす俺では無いので走り出した。

 

今見た感じなら、エンドレイヴ一機くらいなら生身でも勝てるだろう。エンドレイヴは痛覚が直接パイロットに行くと聞いたことがある。使徒でも倒しに行くのか知らんけど。つまりは痛覚を刺激すればパイロットを倒せるだろうから強制ベイルアウトにでも追い込めばいいだろう。

 

とりあえずヴォイドゲノムを守りきることが俺のノルマだな?

 

------------------------------

 

ビルの物陰から出る。すると瓦礫の上へと登っていく楪がいた。しまった!エンドレイヴと対峙してるじゃねえか!

 

躊躇いなく俺は最高速でエンドレイヴへと駆け寄っていく。

 

集「ハアアアァァァ!」

 

大声で叫びながら向かっていく。こちらに注意を引き付けるためだ。

 

エンドレイヴの一つがこちらに銃を向けてきた。よし、

 

 

チュドン!

 

 

一発こちらへと打ってくる。俺は上へと飛び上がりそれを避ける。人は敵と自分とに圧倒的な戦力差があれば絶対に油断する。今パイロットは絶対に勝ったと思っただろう。ニ発目を打ってこないことが何よりも証拠である。俺はエンドレイヴまでの距離を一気に詰め、そして瓦礫の上の楪のすぐ横を通過する。もう一度飛び上がり、エンドレイヴの痛覚部分へとかかと落としを食らわせる。

エンドレイヴは思いきり地面へと叩きつけられた。

 

もう動かない。やったか。しかし周りを見渡してみるとまだ複数のエンドレイヴがいた。

 

集「これは、まずいよな?」

 

すぐに瓦礫を登り、そして楪を抱きかかえ逃げようとした。

 

集「行くぞ!楪」

 

そう呼びかける、しかし、

 

いのり「集…お願い!私を……使って!」

 

そしてこちらへ両腕を開く。すると銀色の光が光り始めた。

 

『この力を使いこなしてくれ!』

 

急に、父さんの言葉が聞こえてきた気がした。そうか。

 

 

「これが“王の力”なんだな!」

 

 

そして俺は楪の胸へと手を伸ばした。

 

 

 

 




感想・アドバイスありましたらよろしくお願いします
m(_ _)m


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#2適者 survival of the fittest

やっと二話が投稿できました!どうしてもペースが遅くなってしまいます。

遅くても月一では出そうと思いますし、エタることは無いと誓いますので安心してください

擬音語は割と適当なので目をつぶっていただけるとありがたいです。


辺り一面に炎が燃え盛る中、集は左腕にいのり、そして右手に剣を持った状態で平然と歩いていた。

 

 

集がヴォイドの力を使ってからというもの、闘いというよりは集の一方的な残滅が続いていた。

エンドレイヴが集へと走っていけばすぐに斬られ、そしてミサイルを打てば破壊されるだけであった。

 

 

 

これが王の力か、想像以上だ。いつか母さんが言っていた。

『ヴォイドとはすなわち人の心なのだ』と、

そんなものが壊れてしまえば無事なわけがない。そう、俺は今楪の命を預かっているということなのだ。だとすれば、

 

 

バシューッ

 

またエンドレイヴがミサイルを打ってくる。俺はただ剣を振るだけでエンドレイヴを巻き込みミサイルも破壊する。

 

ドーン!

 

エンドレイヴの爆発音が鳴り響いた。

 

 

こんな力、あっていいはずがない。

 

 

 

 

 

四分儀「あれがヴォイドの力ですか…」

 

離れた位置から望遠鏡で爆発の様を見ていた四分儀はそう言った。隣にいた涯はただ黙っているだけだった。

 

 

--------------------

 

一通り破壊すると、エンドレイヴは居なくなった。なるほど、一応有限なのか。

 

剣を地面にブッ刺す。するとそれは銀色の光を纏い消えていった。楪の中に戻って行ったか。

 

 

ウィーン

 

 

機械音がした為に振り向くとそこにはタチコマ…じゃなくてふゅーねるがいた。

 

涯「桜満集、」

 

ふゅーねるからトリトンの声が聞こえてくる。可愛い見た目からこの声は若干キモい。

 

涯「15秒やる、いのりを回収して離脱しろ。」

 

集「へいへい…」

------------------

 

一体のエンドレイヴが走っている。

 

綾瀬「ツグミ、次のターゲットは⁉︎」

 

ツグミ「十時の方向に、距離400」

 

ディスプレイを見ながらツグミは指示を出していく。

 

綾瀬「遠過ぎ!もっと近いのは⁉︎」

 

ツグミ「なら引いてよ。綾ねえ頑張り過ぎ。その子もう限界だよ?」

 

実際に綾瀬の乗っているエンドレイヴ-ジュモウ-は既に限界を迎えていた。

 

綾瀬「でもできるだけ……ッ⁉︎」

 

綾瀬の操作するジュモウの前に、一体のエンドレイヴ-シュタイナー-が姿を現した。

 

ダリル(何かずんぐりした奴がいる。急いで来てよかった♪)

 

『皆殺しのダリル』と呼ばれる少尉 ダリル・ヤンは、楽しげな様子で銃を連射した。

 

 

綾瀬「ンッ⁉︎アァッ!」

 

ジュモウは大量に被弾する。その痛みは直接綾瀬を襲った。

 

 

 

トドメにダリルは剣を構える。その様子を見たツグミは、

 

ツグミ「ベイルアウト‼︎」

 

綾瀬の危険を感じすぐに強制ベイルアウトした。

 

 

ジャキン!

空っぽとなったジュモウをシュタイナーが貫く。

 

 

ダリル「あれ?悲鳴は?なんだ、つまんないの、」

 

相手がベイルアウトしたと分かったダリルは、ジュモウを投げ捨てた。

 

 

 

----------------

 

とある廃ビルの屋上で俺とトリトンは向かいあっていた。楪は気を失ったままだったから寄りかけといた。ちなみに15秒離脱には成功した。全力疾走はできればしたくないんだが、

 

ピピピピピ

トリトンの端末がなる。

 

綾瀬「すみません、涯。」

 

女の声が聞こえてきた。

 

涯「綾瀬か、状況を。」

 

綾瀬「機体を失いました。申し訳ありません、私の責任です。」

 

機体を失った?葬儀社側のエンドレイヴパイロットか?

 

涯「そうか、確かに残念だな。俺は君に、あの旧型で18分間持ち堪えるという過酷な命令をし、君はそれに応えた。だというのに、君は自分の責任だと言う。つまり俺は指揮官失格ということか。」

 

 

 

 

綾瀬「ち…違います!これは私が失敗したからであって、その…」

 

涯「冗談だ。」

 

綾瀬「⁉︎」

 

涯「君が無事で良かった、綾瀬。」

 

中々きつい冗談だ。トリトンは通話をやめたようだ。ならばさっさと

 

 

集「おい、トリトンこれ返す」

 

俺はヴォイドゲノムの入ったシリンダーを投げた。こんなもの返さなくては、

 

パシッ、トリトンはシリンダーを受け取りそれを見つめている。

 

涯「……元々持っていたのか…王の力を、」

 

そりゃそうなるわ。自分達がヴォイド盗んでたらヴォイドの力持ってる奴がいたんだから。

 

集「まあお前が去ってからいろいろあったんよ」

 

涯「…そうか、」

 

それでいい。別にトリトンだからと言って詳しく教える必要もない。

 

集「お、起きたか楪。」

 

コツッ、コツッという足音が聞こえた。

 

集「まあ、見捨てて悪かったな。よく頑張った。」

 

楪の頭に手を置く。一応こいつらが言うに俺はこいつを見捨てたらしいからな。謝ってはおく。

 

いのり「うんうん、」

 

楪は首を横に振り、否定の意を示す。

 

涯「今回は集に助けられたな、」

 

集「不本意ながらな、後一ついいか?トリトン」

 

涯「俺はもうその名ではない。今の名は、恙神涯だ。」

 

集「あぁ、そうか。」

 

いきなり別の名を言われても急に変えられるわけもない。適当に流してトリトン呼びでいいや、

 

涯「で、聞きたいことがあるんじゃないのか?」

 

集「そうだった。楪のその見た目のことだ。やはりこいつは姉貴に関係してたりするのか?」

 

始めから気になっていたことだ。これがはっきりすれば大体のことが予想できる。トリトンの目的も、はたまた相手側の目的も。

 

涯「……ああ。こいつは、真名のインターフェイスだ。」

 

なるほど…ビンゴだな。

 

集「そうか。すると姉貴はまだ生きてるというわけか。」

 

涯「鋭いな。そういうことだ。」

 

集「大体分かった、ありがとな。」

 

これで俺の仮説はほぼ確信となった。最も、これが本当ならば俺も行動しないとヤバそうだが……まあ今日はもう帰りたい。

 

ピピピピピ

 

またトリトンに着信が

 

涯「どうした、」

 

アルゴ「やべぇことになったぞ、涯。」

 

は?

 

------------------

 

 

どうやらフォートの住民100人くらいがアンチボディズの奴らに捕まっちまったらしい。はっきり言ってどうでもいい。早く帰してくれないですかねぇ?なんで俺こんなアジトみたいなところにいるの?

 

 

四分儀「不足の自体です。現時点での戦力差を鑑みるに、救出はリスクに見合いません。撤退を進言します。」

 

お?参謀君、いい事言ったぞ、そうそう撤退しよう。

 

 

涯「いや、見過ごせないな」

 

見過ごせよ…

 

 

涯「これは、不足じゃない。天佑さ。」

 

 

何言ってんだよ

 

 

涯「全メンバーに告げる!我々はこれより、アンチボディズを殲滅、フォートの住民を救出する!」

 

おい、殲滅を誰にさせる気だ?

 

涯「尚、本作戦はこれまでのように隠密作戦ではない。現時刻を持ち我々葬儀社はその存在を世界に公表する!存分に働け!」

 

過激なこと言ってやがるなぁ…つうかなんでメンバー方こんな盛り上がってんだよ、マジで帰りたい…

 

四分儀「流石です、シナリオをとばしますか。」

 

完全に皮肉にしか聞こえない

 

四分儀「ただ、少し急ぎすぎでは」

 

涯「返事はどうした、」

 

参謀君の言うことを思いきりスルーして俺に言ってきた。だが

 

集「俺はお前には協力するが従いはしない、それをよく覚えとけ、」

 

俺はそう言い放った。つーかここまで協力するだけでも感謝して欲しいんだがな。というよりヴォイド届けたら俺の仕事終わりじゃね?奪ったわけじゃねえんだが流される理由もないんだが、

 

不幸だ、

 

------------------

 

コツン、コツン

 

狭い地下を四つん這いに楪と俺は歩いていた。ちなみに楪のケツが目の前にあろうとも何も感じない。なぜなら性欲あれど淫楽の欲求は生じないからな。

どこぞの劣等生だよ。つーか性欲あんなら少しは反応しろよ。まあいい、多分あれだ。姉貴のインターフェイスだからだ。うん、そういうことにしておこう。

 

窓から何か見える

 

「無駄な抵抗を!吐け!リーダーは誰だ!言え!」

 

ベストプレイスでのハゲが重なる。やっぱり引くわ。俺は弱者を一方的に痛めつけることはしてないし楽しむこともしてないからな?

 

どうでもいいから進むか。

 

アンチボディズとは確か感染者を独自に認定できて、その判断に基づいて感染者を処分できる権限があるんだっけか?マジで権力一つに集中させたら暴走するって先人の方々が言ってたじゃないですか〜。まあ三権分立の仕組みなんてとっくになくなっちゃったんだけど。

 

 

------------------

 

「やめてください!夫が何をしたって言うんですか!」

 

ダリル「切ない光景だね。胸が震えるよ。」

 

ターゲットであるダリルが全くそう思ってなさそうな様子で花を片手に歩いてやがる。ナルシストが、

 

 

「軍人さん!」

 

ダリルに女が駆け寄ってく。あのバカ、死ぬぞ。

 

 

「お願いです!助けてください!」

 

 

あ、花びらが吹き飛んだ。ヤバイ、怒るぞ、

 

ダリル「何すんだクソババァ!」

 

ダリルが女を蹴った。だから弱いものいじめやめろよな…

 

ダリル「菌がうつるだろうが!」

 

さらに追い打ちをかけていく。こりゃ権力の暴走だわな。これがトリトンの闘ってる敵だと…

 

はっきり言ってこのまま見捨ててもいい。俺はただ作戦に従えば、

 

その時俺の目に、その女の連れていた子供が入ってきた。このままじゃ、

 

『俺はお前には協力するが従いはしない、それをよく覚えとけ、』

 

作戦に従うのはねえな。救うのなら救える分だけ救わなければ。

 

集「楪、俺行くわ」

 

いのり「えっ⁉︎」

 

戸惑ってるようだがその間にも俺は楪のヴォイドを引き抜き、それを格納する。そう、俺の「集める」ヴォイドにな。大体分かった。父さんの意志も、俺の力も。

 

 

俺は飛び出した、ダリルのいる方へと。

 

集「オラァァァ!」

 

傍から見れば丸腰の学生が軍に挑んで行くようにしか見えないだろうな。だがヴォイドにより身体能力の強化された俺は、まさに無敵。

 

ダリル「グフォッ!」

 

奴の顔面に思いきり鉄拳制裁してやった。思いっきりぶっ倒れる。

 

集「甘ったれんな。親の力だけに頼りやがって。」

 

司令官ヤン少将の息子であるが故にわがままが通用するところがあるんだろうな。父さんが生きてたら、パパに言いつけてやるっつってわかままが言えたかな。いや、ないな。

 

ダリル「だっ…誰だてめぇ…」

 

集「うるせぇ、誰でもいいだろうが、」

 

俺はダリルのヴォイドを引き抜いた。

 

ダリル「ガァァ…」

 

ダリルは白目を向いて倒れた。後で返すから安心しろ。

 

 

 

「なんだあいつ⁉︎」

 

さっきまで目隠しした住民たちに銃を向けていた兵や、それ以外までもが一斉に俺に銃を向けてきた。ったく。

俺は空へと手のひらを向ける。

 

集「行くぞ、」

 

俺は自らのヴォイドで兵たちの意識を集めた。次々と倒れていく兵たち。

 

これであとはあのハゲを片付ければ終わりだな。

 

 

------------------

 

離れた場所から恙神涯は様子をうかがっていた。

 

涯「何をしているんだ、あいつは!」

 

俺の作戦が崩れ始めたのは言うまでもなく集が突っ込んでからだ。

 

ツグミ「どうするの⁉︎涯!」

 

涯「全員待機だ!事が動き次第連絡する!」

 

通信機でツグミに指示を出す。一体どういうことだ…

 

集が勝手に動いたことも去ることながら、奴は明らかにアンチボディズの奴らを圧倒している。さらには自分のヴォイドまでも使いこなしているとまで来ている。これが、集の力か。

 

涯「フフッ、」

 

思わず笑みがこぼれる。愉快なのではない、呆れたのだ。俺は強くなった。目標へと追いつき、そして追い越し、守るべきものを守るため。それがどうだ。俺の目標はさらに強くなっていた。これほどに情けないことがあるだろうか。

 

こんな状況で、ただ俺は脱力していた。

 

 

------------------

 

 

集「おい出てこいハゲ!」

 

俺はトラックの上から奴のいるであろう場所に向かい叫んだ。

 

トン…トン…

 

出てきたのはあの時俺のベストプレイスを荒らしたハゲ-グエン少佐-であった。

 

グエン「お前はあの時の…賢いガキだと思っていたが実に残念だ。」

 

集「うるせぇよ、さっきのフォートの住民への扱いで心境が変わったんだよ」

 

俺の口調が気に食わなかったかだんだんと不機嫌な様子をあらわにしていくハゲ、

 

グエン「どうやらお前は状況が分かっていないようだな!このままならお前は蜂の巣だ!」

 

一斉にデカイ銃が俺に向く。あーあ、穏やかじゃないねぇ…

 

集「状況が分かってねぇのはてめえの方だハゲ!降参して人質解放するなら命まで取らねぇよ、」

 

俺も手荒なことはしたくないからな、

 

グエン「ふん、とんだハッタリだ!いいだろう、後十秒数える間に撤回しろ!そうすれば命を取りはしない。」

 

仕方ないな。忠告はしたからな

 

 

 

ツグミ「涯、早く!このままじゃあいつが」

 

涯「心配には及ばない。集なら大丈夫だ。」

 

 

 

グエン「10……9……8……」

 

これはあいつ自身の人生終了のカウントダウンである。

 

グエン「7……6……5……4……3……2……1…………時間だ!」

 

一斉に俺に向かいレーザービームが集中してくる。その間に俺は格納していたダリルのヴォイド「万華鏡」を手に持ち、そして打った。

 

ビュヒャーン

 

無数のレーザーは反射し、そして何度も跳ね返りながらグエンの方へととんでいく。

 

グエン「…ッァ⁉︎」

 

 

チュドーン

 

レーザーの集中攻撃を浴びたグエンのいた車は大爆発を起こした。

 

まあ自業自得だ。

 

------------------

 

辺りが燃え盛り、そしてボロボロになる無数のエンドレイヴは地獄絵図だったとだけ言っておこう。

 

俺は全てを終わらせ、そして目と口を塞がれた住民たちをたすけているところだった。

 

「本当にありがとうございます。」

 

さっきの女が深々とお辞儀していた。

 

集「いや、礼には及ばないですよ。くれぐれもお気をつけて。」

 

ちなみに意識を失った奴らはかなり遠くのとこにまとめてある。

まああとで返してやろう。

 

 

涯「何故だ、」

 

トリトンが俺に近づいてきた。

 

集「何がだ?」

 

まあ予想はついているが、

 

涯「何故俺の命令に従わなかったかと聞いているんだ、」

 

口調は少し強めだ

 

集「重なったんだよ。」

 

涯「…どういうことだ?」

 

集「あそこで父親と母親が殺されれば、あの子は一人になるだろ?」

 

そう、俺はあの時自分を投影したんだ。かつての、何もできなかった自分を

 

集「親を亡くす悲しみは、よく分かっているつもりだ。」

 

涯「そうか…」

 

少し気まずくなったな。重かったか。

 

集「あとは…救える命は救いたかった。それだけだ、」

 

涯「まあ、今回は結果が良かったから良しとするが次は…」

 

集「次⁉︎」

 

こいつは何か勘違いをしている。

 

涯「何だ」

 

集「今回は状況が状況なだけに仕方なく手伝ったが、もう次はない。」

 

折角の再会ではあったが、俺は背を向けて歩き始める。

 

涯「おい!」

 

集「じゃあな、トリトン。健闘を祈る。」

 

俺はトリトンの姿は見ずに手を振った。そしてもう、振り返ることはなかった。

 

 

------------------

 

 

これで良かったんだ。

 

俺は教室の窓から空を見上げていた。確かにトリトンは親友だ。しかし奴のやること全てに付き合ってやる義理はない。恐らくヴォイドの力があれば彼らはやっていけるだろう。いや、そう祈るばかりだ。だから俺はまた、日常に戻るだけだ。

 

「今日はそれからもう一つ、このクラスに転入生が入ります。入ってー。」

 

先生がそんなことを言った。この時期に転入生とか…おいおい、まさか

 

ガラガラ

 

「おお、女子!」

 

「可愛いじゃん。」

 

 

「楪 いのり君だ。」

 

やはりかよ…

 

どうやら、俺が日常に戻れるのはもう少しかかるようだ。

 

 

 

 

 




眠い中書いたので、もしかしたら誤字脱字他文法がめちゃくちゃになっていたりなど、問題があるかもしれません。
設定でも、不可解な点や間違っている点などを指摘していただけるとありがたいです。

それでは、今後ともよろしくお願いします。
m(_ _)m


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#3顕出 void-sampling

やっと三話です。非常に難産でした。
今回は無双はないと思います。繋ぎ回なんでね、




涯「俺達は、淘汰される者に葬送の詩を送り続ける。故に葬儀社。俺達は抗う。この国を我が物顔で支配し続けるGHQに。俺達は戦う。俺達を淘汰しようとする、全てのものと…」

 

集「中二病が…」

 

 

-------------------------------

 

先生「えぇ、もう皆さんご存知だと思いますが…昨日の六本木の事件に関して、GHQから第二級の非常事態宣言が出されました。葬儀社と名乗るテロリストに関して何か情報のある者は、速やかに当局に申し出るように、とのことです。」

 

すみませんご迷惑かけて。あれじゃ俺が主犯…つーよりかは俺の単独犯行だわ。やらかした…

 

先生「それからぁ、今日はもう一つ。このクラスに転入生が入りまぁす。」

 

おい、この時期には珍しくない?まさか、

 

先生「入ってー」

 

ガラガラ

 

「おお女子!」

 

「可愛いじゃん。」

 

集「は?」

 

そのまさかだったか…

 

先生「楪 いのり君だ。」

 

おい、何の冗談だ⁉︎

 

「あれ?どっかで…」

 

「いのり⁉︎」

 

どうした、

 

「マジかよ⁉︎」

 

「EGOISTの⁉︎」

 

エゴイスト……?ああ、あいつ表向きではそんなアイドルグループにいるんだっけか?

 

「まさか⁉︎」

 

いのり「ホントだよ?」

 

嘘であって欲しかったです。

 

「おおぉぉぉぉ!」

 

クラスの奴らが大騒ぎしてやがる。これほど疎いのもまあ俺くらいなのかもしれんが、

 

-------------------------------

 

 

EGOISTボーカル・楪 いのりの登場によってクラスは大盛り上がりを見せていた……怠い。はしゃぐのはあまり好きじゃないからな。

 

冷静に考えてみればこれは恐らく俺の監視…あわよくば葬儀社に引き入れる気かもしれない。もしくは別………いや、これは俺の妄想に過ぎないからやめておこう。

 

颯太「いっ…いのりさん!」

 

あのお調子者が緊張気味…そうだった、楪を最初に見せてきたのは颯太だったな。そりゃ憧れてた奴が同じクラスに来りゃあそうなるだろうがな。

 

颯太「あの…葬儀社とかってどう思います?」

 

集「」

 

………なん…だと⁉︎

もし俺の妄想が本当なら颯太は目撃者になるんだが…

 

花音「いきなり何よ颯太君!」

 

いきなり転入生にテロリストのこと聞くかよ、普通。

 

颯太「だってぇ…EGOISTの歌ってなんか葬儀社っぽいじゃん。」

 

は?

 

颯太「だから、好きかな?って」

 

花音「なわけないでしょ⁉︎」

 

なわけねえよ

 

 

「あーサインしてくんない?」

 

「俺も俺も、」

 

あぁ…そんな寄ってたかるなって、

 

八尋「いい加減にしろよ。楪さん、困ってんじゃん」

 

さすがクソイケメン、今回は助かったな。

 

八尋「ごめんな、こいつ魂館颯太ってんだけど、すげぇ君のファンでさ。無礼は許してやってよ。」

 

こいつは事態を丸く収めることに関してはすごいやつだと思うが、本音を言っているところは一度も見たことがない。目を見ればわかる。まあ俺が何言おうとも悪い顔をしないから構わないがな。かのような人格の典型やな。

 

八尋「ああ、ちなみに俺は寒川八尋。」

 

颯太「俺と八尋と、あそこの集ってやつで、現代映像文化研究会って同好会を作ってて、それでぇあの!」

 

八尋「だから焦るなって、」

 

八尋が颯太を止めに行った。つーかナチュラルに俺を会話に混ぜようとするな。できれば学校内では関わりたくない。

 

八尋「皆もだ。俺達これからずっと一緒のクラスなんだからさ?慌てないでいこうぜ、な?」

 

フフフフフ、いつからずっと一緒だと錯覚していた!放課後トリトンに文句言って突っ返してやる!

 

それと颯太、おめえ絶対映研に誘うなよ?来そうだから。

 

颯太が目撃者って線は考え過ぎか…

 

-------------------------------

 

俺は今、体育館で適当に走っている。にしても楪が来たのは間違いなく俺に関係あんだよなぁ…

いっそGHQに差し出すか。いや、それ俺も危ないから却下。

 

「でもさぁ、実際に見てるといのりって何か人形っぽくね?」

 

まあ、インターフェースだからそれはそこまで間違ってないんだよな。

どうしてこうどいつもこいつも核心を付くのか…

 

集「そうか、まあリアルの方がCGっぽいっつーか」

 

颯太「何言ってんだよ集!」

 

集「は?」

 

颯太「いのりはCGなんかじゃねえよ!目を覚ませよ馬鹿!」

 

うざっ!

 

集「うるせぇよ、思ったことそのまんま言って何が悪いんだよ。」

 

颯太「思ったことそのまま言って傷つくことだってあんだよ!」

 

そんなの向こうに非があるんだろうが。傷つくようなこと思われるんなら思われないようにすればいい

 

颯太「大体お前はいつもそうだよ!空気を読まずに次から次へといろんなことを言いやがって!」

 

集「じゃあ何だよ。相手に対して思うことがあろうと自分の中に押し留めてニコニコ笑ってろと?そんなの御免だ。」

 

俺は周りに合わせてストレスのかかるようなことだけは避けたい。別に虚言を吐かないとかそういうわけではない。

 

颯太「っ…!とにかく、そういうこと絶対本人に言うなよ!いのりは傷つきやすいんだからな!」

 

そう言って奴は前へ走って行った。

 

集「知るか、」

 

俺はそう独り言ちた。

 

 

-------------------------------

 

昼休み

 

 

颯太「フンっ!」

 

颯太は明らかに不機嫌な態度を取っていた。

 

集「ダルい…」

 

誰に聞こえるわけでもなく呟く。

 

八尋「おいおい、どうしたんだ?颯太。」

 

颯太「おお八尋ー。聞いてくれよ、集がよぉ…いのりのことをCGっぽいとか言ったんだぜ?失礼極まりないと思わないか?」

 

おいお調子者、何告げ口している。そして狙ったかのように楪が教室にいない。

 

八尋「まあ人に対してCGは酷い気もするけどさ、集だって学校にまで来られてうんざりしてるんだ。そうだろ?」

 

俺が聞いていたことに始めから気づいてたようで、俺の方に振り返りながらそう言った。

 

集「ま、まあな。」

 

颯太の意見に肯定しつつ俺の擁護もする。流石無難な返しだ。だがまあ俺の心を理解してくれたことに関して言えば悪い気はしないな。

 

颯太「ちぇっ、」

 

やはり颯太は納得していない模様。そりゃそうだ。

 

 

-------------------------------

 

今日は疲れた。言わずもがな楪のせいだ。ったく、今になってヴォイドゲノムを持って行ったことを後悔する。持っていかなかったら相当まずいことにはなってただろうが…

とにかく、楪とは関わらないようにするか。

 

集「っで…」

 

さっきから気になってたことがある。ずっと同じ気配がしていた。そう、

 

集「何故お前がここにいる⁉︎楪!」

 

楪はビクッとした。何故気づかれないと思ったのかが不思議でしょうがない。

 

いのり「涯の命令だから…」

 

平常心を取り戻した楪は当然のように鍵を開けやがった。葬儀社の技術パネェよ…

 

集「おい、入るな。おい、」

 

さっさとドア開けて入って行きやがる。俺の安寧はいつ来るんだよ。

 

集「っておい!何だよこの荷物、」

 

いつの間にか中には大量の段ボールが置いてあった。迷惑にもほどがある。

 

集「おいっ、ちょっと待てよ!」

 

どんどん先に行く楪を俺も追う。

 

ゴスッ

 

足に何かが当たった。

 

集「ふゅーねる、お前もいたのか。」

 

ウィーン

 

ふゅーねるが先に行ってしまう。

 

集「おい待てよ!」

 

俺も進む。リビングでは既に楪が着替え始めていた。ラッキースケベが露骨過ぎんだよ…

 

ピコピコ

 

ふゅーねるがご立腹の様子でスタンガンを構えている。いや、全く興味ねえからな?

 

バサッ

 

電気にやられるのも嫌なのでブレザーを掛けてくるんでおいた。

 

ガシャガシャ、

 

ふゅーねるが抵抗するがもちろん離さない。しばらくこのままでいいか。

 

集「何で家にくんの?つーか何で開けられんの?」

 

いのり「ふゅーねるがやってくれた。」

 

ふゅーねる、叩き割ってやろうか?

 

集「で、楪。」

 

いのり「いのり。」

 

集「いや、呼ばないからな?」

 

今何故少し落ち込んだ?まあいい。

 

いのり「ねぇ集」

 

集「んだよ?」

 

いのり「お腹減った。」

 

マジかよ…

まあ腹減ってんなら仕方ない。飯抜きにするほど俺も鬼ではない。

 

集「ったく、で、何がいい?」

 

いのり「おにぎり」

 

気に入ったのな。ったく、具無しの塩むすびでも出してやろうか、

まああれはあれで美味いけど

 

-------------------------------

 

いのり「ハフッ…」

 

おにぎりはお気に召したようで、

一応具も入れた。

さっさとこいつ追い出したい…そんでもって一人を満喫したい。

家くらいくつろがせろってんだ。

 

集「母さんにどう説明しようか…」

 

とりあえず愚痴る。

 

いのり「桜満春夏、セフィラゲノミクス主任研究員。帰宅は週に一度程度。あと数日は戻る見込みがない。」

 

集「どっから仕入れて来てんだよその情報。」

 

呆れたものだ。数日は戻る見込みがないのはこいつの方だ。

 

いのり「迷惑?」

 

集「あん?」

 

いのり「桜満集は、いのりが迷惑?」

 

おいおい…そんな聞き方されたら

 

集「迷惑か迷惑でないかで言ったらはっきり言って迷惑だな、」

 

別にバッサリ言うんだけどね

 

いのり「そう…」

 

楪は随分落ち込んだ様子だった。少し言い過ぎたかもしれないがこれでいい。少し気を許すとすぐに付け込まれそうだ。

 

ピンポーン

 

ベルが鳴った。

 

-------------------------------

 

八尋「よう!遅くに悪いね、」

 

悪いと思ったら来るな。

 

集「どうしたんだよ」

 

八尋「ちょっと思い出してさ…」

 

何かを差し出してくる。

 

八尋「これ、この前話してた映画。見るか?」

 

ケースには禍々しい青い顔と血をモチーフにしたフォントの題名が書いてあった。そういやこんなの話してたっけ、

楪が寝てからじっくり見るとするか。何それ、まるでエロいビデオでも見るみたいじゃん。

 

集「あ…ありがとう。でもこのためにわざわざ来たのか?」

 

八尋「今日のお前、様子おかしかった、ような気がした。」

 

気がしただけでまあご苦労さん。にしても楪が来たことによる動揺が多少でてしまってたのか。俺としたことが、

 

八尋「昨日何かあった?」

 

っ⁉︎どうしてそうどいつもこいつも核心をついてくるかなぁ…さっきもそうだが。

 

集「何にも無かったよ。まあまたちょっとゴタゴタに巻き込まれてな。」

 

俺が暴力沙汰に巻き込まれることはしょっちゅうあった。昨日は少し規模が大きかっただけだ。大き過ぎたけど、

 

八尋「そっか………あれ?」

 

集「ん?……って、」

 

楪、何故出てきている…念を押しといた方が良かったか。そこまで馬鹿とは思ってなかったんだが、

 

八尋「君、どうして?」

 

ふゅーねるまで抱えて…これじゃ怪しまれて当然だぞ、

 

いのり「連絡が来た。一緒に来て、集。」

 

質問に答えてやれよ…そのままホントのこと言われても困るが、

 

 

集「色々事情があるんだよ、」

 

一応嘘ではないが…

 

八尋「どういう事情?」

 

どう説明しようか…

 

集「悪い、とりあえず明日、な?」

 

無理、俺でもこれ誤魔化すのは無理。とりあえず逃げよう。

 

八尋「何かあったら言えよ?」

 

集「ありがとう、そうする。」

 

そうしないが気持ちだけ受け取っとこう。本当にいい友人を持ったものだ。クソイケメンなところは気に食わないが。

 

-------------------------------

 

しかし八尋の適応力には驚くべきものがあるな。普通もう少し問いただすものだと思うんだが……にしても同級生が転入生の女子と同じ部屋にいるとか。色恋沙汰だと勘違いされてるんだろうなぁ…

 

どうしよ、颯太に刺されたら。

 

いのり「寒川八尋は、集の友達?」

 

うーん、友達の定義にもよるが…

 

集「ああ、少なくとも俺はそう思ってるな。」

 

だがあいつがそう思っているかは知らん。あいつはそもそも本性を現してねえからな。まあ、俺が空気を読まずにあいつが読む。その関係なら俺はストレス無いからいいんだけどな。つくづく俺嫌な奴だな。

 

集「あいつは偉い奴だと思うよ。自分以外の奴をちゃんと見て、思いやれて。比べて俺はホントダメなやつだと思うよ」

 

いのり「それは違う。」

 

集「え?」

 

何を言うんだ?

 

いのり「涯の命令を無視しても皆を助けた。だから集も人のことを思いやれる。」

 

集「フン、そんなんじゃねえよ。」

 

そうだ、あれは人を思いやったんじゃない。ただダリルの奴やハゲにムカついただけだ。あの子供が俺に重なった気がしただけだ。そんなの、結局俺の自己満足でしかない。

 

いのり「それだけじゃない、」

 

集「えっ?」

 

いのり「集はあの時、私をエンドレイヴから命がけで守ってくれた。だから集はダメなんかじゃない!」

 

集「おっ、おい…」

 

いつになく感情的な楪に思わず戸惑う。こいつ…人間味あるじゃねえか…

不意に体育の時間に言ったことを思い出す。無神経だったな。

 

楪はいつもの無表情とは違った険しい表情で俯いている。

 

集「楪?」

 

呼びかけてみる。反応がない。

 

集「楪!」

 

いのり「!」

 

驚いた表情でこちらに顔を向ける。

 

集「まあ、その…俺の言ってることが間違ってたよ。お前の言う通りだ。」

 

目をそらしながらどうにか言う。

 

いのり「そう…」

 

楪は何か満足した表情でそう返事した。

 

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涯「ああ、今終わった。OAUは乗り気だ。ただ、一つ条件を出された。後で詳しく報告する。」

 

トリトンは通信を切った。OAU…アフリカ国家連合機構か。

 

涯「御苦労だったな。」

 

集「いや、にしてもすげえ格好だな。とても指名手配犯には見えねえよ。」

 

涯「銃を持って走り回るだけでは、世の中変わらないからな。」

 

剣を持って走り回って世の中を変える自信ならある。主に終わりの方向に、

 

涯「ツグミ、尾行は、」

 

ツグミ「オールクリアでぇ〜す!」

 

ムカつく。猫耳、少しテンション下げろ。

 

集「それより何のつもりだよ。楪を学校や俺の家に、」

 

涯「問題が発生した。昨日の作戦中、俺達を目撃した奴がいる。」

 

集「やはりか…」

 

俺の妄想が本当に当たっているとはな。

 

涯「フォートの住人なら対処はできたが、どうやら外の人間。お前と同じ学校に通う学生だったようだ。」

 

集「何か危ないことしてたなそいつ…」

 

学生がギロッポンにいるなよ………そういやぽぽぽは最近見ないな。

 

涯「“ノーマジーン”聞いたことはあるか?」

 

ん?ああ、あの最近若者の間で流行ってる…

 

集「…確かアポカリプスウイルスワクチン研究中に偶然見つかったっていうあれか。じゃあそれを買いに来てた、」

 

涯「取引の時には“シュガー”と名乗っていたらしい。無論偽名だろうが。お前といのりは、高確率でそいつに目撃されている。探し出せ。」

 

集「分かったよ。」

 

涯「ほう、やけに素直だな。」

 

集「さっさと楪に帰って欲しいからな。じゃあ探すから教えてくれ、そいつのヴォイドの形状を。分かるんだろ?ヴォイドが、」

 

涯「ほう、なぜそう思う?」」

 

集「六本木での作戦。あれはダリルのヴォイドが分かってなければ成り立たない。それだけだ。」

 

涯「なるほど、御名答だ。そいつのヴォイドは…ハサミだ。」

 

集「なるほど、分かった。さっさと見つけだして俺の平穏な日常を守ってやるよ。」

 

-------------------------------

 

翌日

 

集「ふわぁぁぁ…眠い。」

 

今日も電車に揺られる。

 

祭「おはよ、集!すごい欠伸。どうしたの?」

 

集「ああ、昨日ちょっと夜更かししちゃってさ。」

 

明け方までだからちょっとどころではない。何せ毎朝してたランニングをする気力が出ないほどだからな。八尋に借りた映画見てたらあんな時間になっちまった。楪寝るの遅いんだよ。

 

祭「もう、気をつけてよ?楪さんもおはよう。」

 

一応楪には距離を開けておけと言っておいた。まあそのおかげで祭は不審に思っていないようだ。

 

-------------------------------

 

集「おい颯太。」

 

ホームルーム前の教室、俺は颯太に声を掛けた。

 

颯太「…なんだよ。」

 

まだ不機嫌のようだ。だが今回は俺に非がある。何せ俺の言ったことは誤りだったからな。

 

集「その…昨日は悪かった。」

 

無駄のない90度で御辞儀する。完璧だ…。誠意はあるよ?

 

祭「集が…」

 

花音「謝った⁉︎」

 

女子生徒約二人ほどが思い切り驚いてやがる。別に間違ったことしたら謝るぞ。俺だって、

 

颯太「おっ…おう。俺も悪かったよ。昨日はカッとなり過ぎた。」

 

戸惑ってやがる…。そんなに珍しいかよ⁉︎

 

祭「そういえば昨日体育のときに揉めてたけど、何の話だったの?」

 

集「ああ、俺がゆz…」

 

颯太「ああああぁぁー!!!こいつが風子をいらない子とか言ったからついカッとなっただけなんだよ。ハハハ」

 

は?そんなことだったっけ?つーか祭と委員長どころか楪までキョトンとしてるぞ、

 

颯太「おい、いのりの前でそういうこと言うなって言ったよな?」

 

俺の耳元で囁く。

 

集「悪い、うっかりしてた。」

 

危ない危ない。もう少し上手い言い訳して欲しいがな。つーか俺風子はいらない子なんて思ったことないんだが。公子先生の結婚式マジ泣きだったからな?AFTER STORYより感動したまである。ガチで、

 

花音「ねぇ…それ何の話?」

 

八尋「エロゲーの話だよ、」

 

爽やかスマイルでクソイケメンが歩いてくる。言ってること酷いけど、

 

颯太「CLANNADはエロゲーじゃねぇ!」

 

このやりとりお約束なの?ちなみに智代アフターと混同してエロゲーだと思ってた時期があったのは秘密だ。

 

祭「エ…エロゲー////」

 

八尋「な…何かごめんな?」

 

祭が既に勘違いを始めてる。というかこれ、傍から見れば痛い子だよな…

 

 

 

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休み時間

俺の貴重な睡眠時間である。特に今日なんかはいつにも増して眠いわけだから本当に寝たい。だが、

 

いのり「集?ヴォイドのルール、覚えた?」

 

目撃者を探し出すミッション。与えられてるんだよなぁ。

 

集「まあな。一つ、ヴォイドは17歳以下の人間からしか出せない。理由は不明と言っていたが恐らくは生まれた直後からヴォイドの影響を受け続けたからだと推測。」

 

いのり「そうなの?」

 

集「あくまで推測だ。ただ確率は高い。」

 

不明ってなんだよ。何か理由を考えようとしたことあんのかなぁ?

 

集「一つ、取り出された相手はヴォイドを取り出される前後の記憶を喪失する。理由はイントロンの記憶へと解放された時のショック、だよな?」

 

いのり「うん、」

 

なんとも都合がいい性質である。まあ、やりやすいから言うことはないが。

 

集「一応練習からしておくか、」

 

ちょうど連絡通路を祭と委員長が歩いてきた。よし、まずは委員長からだな。祭なら目撃されてもどうにかなりそう。願わくばどちらも記憶を消しておきたいが、

 

ダダッ

 

集「委員長!」

 

花音「え?」

 

二人の目の前に立ち構える。委員長の目を見た。銀色の光が現れ始める。これだ、

 

集「悪い、少し眠っててくれ!」

 

花音「うっ…」

 

俺は委員長からヴォイドを取り出した。もちろん気を失った委員長は支えてるよ?

 

集「レーダー?やっぱり目撃者じゃないか。」

 

まあ委員長が売人だとは思ってなかったけど

 

祭「し…集…なにこれ……」

 

祭が思い切り戸惑っている。これ以上見られるのはまずい。

ヴォイドを手放しそれは委員長のもとへ戻っていく。俺は左手で祭の右手を掴むと、こちらへ引き寄せながら自分の右手を伸ばした。

 

集「ごめん祭、」

 

祭「んっ…」

 

ヴォイドを引き抜く。…包帯……だよな?

 

祭「何それ?…集」

 

集「え、」

 

なぜ気を失っていない!っとこんなことを呑気に考えている場合ではない!

 

祭のヴォイドを手放し元に戻す。それと同時に俺のヴォイドで祭の意識を集める。一つしか無いんだけど、

 

祭「ふぇ………」

 

集「おっと、」

 

どうにか強引に祭の意識を失わせることに成功した。ていうかふぇって萌えキャラかよ…

 

いのり「なんで意識が…」

 

楪も驚いているようだ。だがなぜか俺にはわかった。

 

集「手を…取ったからだ……」

 

いのり「……どうしてそう思うの?」

 

根拠は無い。ただ、

 

集「…分からない。でも思うんだ。どうやって自分の腕を動かしているのか説明できないようにな…」

 

いのり「…進撃?」

 

集「分かるのかよ……」

 

台詞は若干ふざけたが感覚としては同じだ。それどころかヴォイドを手に取っただけで使い方も分かるような気がするんだ。もし本当ならば、祭のヴォイドは相当の力を持っていることになる。

 

集「つーかよぉ…」

 

意識を失った女子生徒が二人。傍から見れば襲ったと見られてもおかしくないよな…

今日は痛い子に見られたり犯罪者に見られたりと忙しいなぁ…

 

 

-------------------------------

 

コツは掴んだ。もともとそこまで不安要素無かったけど。

 

颯太「〜♪」

 

上機嫌でアイル橋を渡る颯太。EGOISTでも聞いてるのか?

 

集「おい颯太!」

 

颯太「えっ⁉︎」

 

俺は物陰から一気に飛び出た。

 

集「しばらく眠ってろーっ!」

 

颯太の胸からヴォイドを引き抜く

 

颯太「ぐぁぁぁぁー…!」

 

白目向いて倒れた。これは、「開く」ヴォイドだな。違ったか。

 

しかし人の心を覗くというのはなかなか面白い。ちょっと遊んでみるか、

 

-------------------------------

 

放課後

 

結局休み時間だけでは限界があったので延長戦に突入した。ちなみに祭にはいろいろ聞かれたがはぐらかしておいた。ゴメン祭、

 

 

集「すみませーん!」

 

「え?」

 

俺の声に反応して男子生徒が振り返る。

 

「がぁぁっ⁉︎」

 

ヴォイドを引き抜く、これの繰り返しだ。全くハサミは見つからないがこうして心を覗き見ているだけでも飽きない。目を見れば真偽は見破れるつもりだが何考えてるかまではわからんからな。

 

集「ニッパーか……これでいいんじゃね?」

 

いのり「ダメ!」

 

強く否定された。そこまできつく言わなくてもいいじゃないのよ。

 

集「へいへい。じゃあ、次行くぞ!」

 

ダッダッダッ

 

俺は全力疾走を始めた。疲れることは嫌いな俺だがハマった事はとことんやるタイプだ。ちなみにトリトンが去ってからずっとやっている修行もその一つだ。

 

いのり「待って…速い…」

 

よくここまでついてきたと思うよ。女子としては相当の運動神経だと思う。でもここまでだ、

 

集「じゃあそこらへんで休んでろよ〜!」

 

そう吐いてその場から走り去った。一人の方が好き勝手できて面白い。

 

-------------------------------

 

生徒会室前

 

完璧人間、供奉院亞里沙会長の本性はやはり気になる。あの仮面の下に何があるのか、いざ!

 

集「すみませんね…」

 

生徒会室の中を覗き見、そして会長以外の意識を「集める」

便利すぎるな。このヴォイド。

 

バタッ!

 

一斉に役員達が机に突っ伏す。

 

亞里沙「っ⁉︎皆⁉︎一体何なの…⁉︎」

 

ガラガラッ!

 

俺は戸を一気に開け、短時間で会長までの距離を詰める。

 

亞里沙「だっ…誰⁉︎……うっ!…」

 

無言でヴォイドを引き抜いた。

 

集「……盾?」

 

結局守りに入ってるのね……

何か本性分かんなかったなぁ。がっかり、

 

この様子見られたら俺明らかに重犯罪者だよな…

早いうちに立ち去るか。

 

 

-------------------------------

 

生徒会の皆さんの意識と会長の盾を返し、俺はその後もヴォイドを引き抜き続けた。誰かのヴォイドを引き抜き、目撃されればそいつのも引き抜く。それの繰り返しだ。

 

いのり「集、まだ見つからないの?」

 

もう楪も呆れているようだ。感情思いきりあるじゃねえかよ…

 

集「まあな。でも次が最後だ。」

 

いのり「どうして?」

 

集「それはな…ある男を除いて全校生徒全員のヴォイドを引き抜いたからだ!」

 

フフフ、苦労したんだぞ?まあヴォイドの形も十人十色で飽きなかったけどな。

 

いのり「うわっ…」

 

あっ!今完全に引いたよね?

 

集「……まあいいだろ?面白かったんだから。それより早く目撃者のところ行くぞ!いやー、まさか当たりが最後まで出ないとはね、あはは。」

 

いのり「…最初から分かってたんでしょ?集、」

 

こっちを睨みつけてくる。おこなの?

 

集「まあ、他にも可能性はあったからな。あはは…」

 

いのり「………。」

 

無言で睨みつけてくる。

 

集「…ゴメンナサイ……。」

 

とにかく今はあいつに合わなければならない。

 

 

 

 

 

-------------------------------

 

体育館2F ギャラリー

 

八尋「よう、集」

 

俺はメールで八尋を体育館まで呼び出した。

 

集「ごめんな、こんなところに呼び出して。」

 

八尋「全く。何の用?」

 

そうは言いつつ怒っている様子はない。本当にいい奴だ。

 

集「これ、返したくてさ。」

 

俺は昨日借りた映画を返す。

 

八尋「そうか、それだけ?」

 

さあ、これからだ。最後の男よ

 

集「八尋の趣味って意外だよな。」

 

八尋「なんだよ?いきなり、」

 

八尋は笑いながらそう言う。

 

集「責めてるわけじゃねえけどさ。人の中身と見た目は結構違うよな、って言いたいんだよ…」

 

シュガー。その言葉は言わないでおく。

 

八尋「そう?俺ってどんな奴だと思われてるのかなぁ、」

 

笑顔でそう呟いた。しかしその笑顔が本物でないことは一目でわかる。

 

ダダッ!

 

集「少なくとも、刃なんてものは無いと思うぜ!」

 

俺はそう言いながら八尋の方へと走る。目があった瞬間、俺は八尋の胸へと手を伸ばす。銀色の光が当たりに漂い始める。

 

…貰った!!

 

 

 

 

ガンッ!

 

 

 

 

-------------------------------

 

ヴォイドの引き抜くはずだった右腕に、鈍器で殴られたような痛みが走ったのを集は感じた。八尋は集の右腕を掴み、手すりに打ち付けたのだ。

 

八尋「…またあの変な力を使おうとしたのか……」

 

俺は八尋の物とは思えない目に睨みつけられた。

 

集「っ⁉︎」

 

集は八尋の左手と手すりに挟まれた自らの右腕を振りほどくと、一気に距離を取った。

 

八尋「いつから気付いてたんだ?」

 

集「昨日俺の家で楪を見た時の反応もそうだが、

“集だって学校にまで来られてうんざりしてるんだ。”

絶対おかしいだろ?」

 

集はそう言い、口角を上げた。

 

八尋「なるほど…俺もうっかりしてたなぁ。気付かれるとは思わなかったよ。」

 

口調は穏やかに聞こえるものの、目は冷徹なままであった。

 

集「バカ言え。目撃者がいたってのも葬儀社情報だし、これでも全校生徒のヴォイド引き抜いてきたところだっつーの。」

 

いのりはただやり取りを続ける二人を集の後ろから見ている。

 

八尋「へえ、抜かりがないな。それで?どうするつもりなんだ?」

 

集「…。」

 

集がその問いに答えあぐねていると

 

カチャッ

いのりが銃を構えた。

 

いのり「ここで消す。」

 

集「おいっ!」

 

バンッ!

 

集は叫んだが遅く、銃声は体育館全体に響く。しかし、

 

八尋「遅い、」

 

八尋の頭は確かにいのりの撃った弾の軌道上にあった。しかし八尋はそれを避けると、走り出した。

 

いのり「っ⁉︎」

 

ガシッ

 

八尋は集と取っ組み合いになる。

 

集「楪!お前の手に負えるようなやつじゃねぇ!離れろっ!」

 

集は後方を気にしながらそう叫ぶ。

 

いのり「…わかった。」

 

いのりは集の言うことに従い、体育館から急いで出た。

 

八尋「集、隙があり過ぎだぞ。」

 

集「っ⁉︎」

 

八尋はそう告げると集の腕を掴み、ギャラリーの下へと投げ飛ばす。

 

集「うわっ⁉︎」

 

集は八尋に不意を打たれ、思いきり飛んだ。

 

 

スタッ

 

どうにか着地する。

 

集「おいおい、俺じゃなきゃ死んでたぞ…」

 

集は呟いた。

 

八尋「そっちだって殺す気なんだから構わないだろ?」

 

そう言い、ギャラリーから飛び降りる。

 

集「あのなぁ…別に俺は殺す気なんてないんだからな?そもそもお前が望んであんなことしないとも思ってる。絶対何か事情があって…」

 

八尋「うるせぇよ、」

 

集の言葉を遮るように言った。

 

八尋「まだ友達ごっこを続けようと言うのか?」

 

集「っ⁉︎」

 

先程の冷徹な目とは違い、今八尋が集を睨みつける目には強い殺気が感じられた。

 

集(こいつを相手にしたらただでは済まない。ここは…)

 

そう思いながら集は自分のヴォイドで八尋の意識を「集める」体勢に入る。しかし、

 

集「ブフォッ⁉︎」

 

いのり「集⁉︎」

 

八尋は一瞬で近づき、右足で集の頬に空中回し蹴りをする。

集は思いきり左側へと飛んでいった。

 

八尋「君が兵士達の意識を奪ったところは見ていた。そう簡単にさせる気はない。」

 

床に倒れている集の方を見ながら言った。

 

集「なるほど、お前も殺る気なのね…」

 

八尋「ああ、」

 

集「だったら遠慮なく行かせてもらう!」

 

スタッ!

 

八尋「グッ⁉︎」

 

集は八尋の目の前に一気に近づくと、渾身の右フックで左方へと八尋を吹っ飛ばす。

 

八尋「チッ!」

 

片手で倒立回転をしながら立て直す。

 

八尋「喰らえ!」

 

走りながら右ストレートを集の顔へと繰り出す。

 

集「遅い」

 

集は顔を右へずらし、避けると同時に八尋の顔へ左手を出す。しかしそれは八尋の左手に妨げられる。

 

ついに接近戦が始まった。

 

 

 

-------------------------------

 

集「はぁ…はぁ…」

 

八尋「はぁ…はぁ…」

 

どれほど時間が経っただろう。互いにひたすら殴り、蹴り合う激しい攻防戦だった。久々に本気を出したがかなり疲れた。まさかこんな近くに強敵がいたとはな。

 

集「随分強えじゃねえか。どうした?」

 

八尋「危険な仕事も多いからな。時には必要なんだよ。」

 

俺らは互角に渡り合っていたが、最終的にはクロスカウンターが互いに直撃し二人ともダウンした。今はどちらも床で大の字になっている。

 

集「なあ、」

 

八尋「んだよ?」

 

集「俺はお前のしていたことをバラす気はない。だからお前も俺のことを黙ってろ。」

 

八尋「…なんでそこまでするんだ。今なら俺を殺す絶好のチャンスなんじゃないのか?」

 

もう先ほどのような覇気はない。疲れきったようだ。

 

集「俺は今もお前のこと、結構いい友人だと思ってるんだぜ?」

 

八尋「…だから今までの俺は全て偽りなんだぞ⁉︎」

 

集「だとしてもだ。それにお前と殺り合うの、俺は楽しかったぜ?お前もなんだかんだ楽しそうだったじゃねえか、」

 

最近は弱い奴ばかりだったからな

 

八尋「フン、否定はしないな。」

 

八尋の声は笑っていた。

 

集「なあ、お前本音言ってみろよ?」

 

八尋「ん?」

 

集「俺みたいに思ってること正直に言えばいいんじゃねえかな?周りを取り繕うことばっか考えずにさ。」

 

そう、こいつは今まで一度も本当の自分を見せなかった。それがどれほどストレスの溜まることか。

 

 

八尋「…考えてはみるか。まあ、お前ほど馬鹿正直にもなるつもりはないがな、」

 

八尋は俺をからかうように言う。

 

集「うるせぇよ。」

 

俺も冗談交じりにそう返した。

 

集・八尋「…フフ……アハハハハ」

 

 

 

 

いのり「…。」

 

いのりは、二人の少年の行動をただ影で見ていただけだった。

 

 

-------------------------------

 

集「痛っ!」

 

自宅に帰ってから楪に消毒されてるところなのだが、これがとにかく染みる!

今日の戦いで傷が結構ついたからな。

 

いのり「我慢して」

 

集「へいへい、」

 

しかし楪の手つきは手慣れたものである。テロリストという性質上そういう場面も多いのだろうか。

 

いのり「終わった。」

 

集「おう、サンキュな。」

 

どうでもいいことを考えているうちに終わってたみたいだな。

 

いのり「ねぇ集」

 

集「ん?なんだ?」

 

いのり「今日、寒川八尋に銃弾を避けられた後、こちらに来られそうになったでしょ?」

 

集「ああ、あったな。」

 

銃弾撃った楪にも驚いたし避けた八尋にも驚いた。

 

いのり「そのときに、心臓の辺りが一瞬冷えたような感じがしたの。これって一体…」

 

こいつ、感情が分からないのかな?まあインターフェースだし多少しゃあないところもあるのか?

 

集「多分“恐怖”だろうな、」

 

いのり「恐怖?」

 

集「まあ、殺されそうになったみたいだし銃弾避けるような人外だったから怖かったんじゃねえの?」

 

いのり「人外ってことなら集もエンドレイヴの撃った弾を避けてたじゃない…」

 

集「それを言うな」

 

まあそんなこともあったなぁ。八尋のしたことの方が個人的にはすげぇと思うがな、

 

いのり「分かった。その……ありがとう。」

 

集「お、おう。」

 

こいつ感情ないみたいだけど普通に話せるんだよな。多分分からないだけなんだろうが

 

ピロロロロ

 

端末が鳴る。

 

集「はい、もしもし。」

 

涯「集、目撃者の件はどうなった?」

 

トリトンから連絡だ。

 

集「もう全て解決した。今後は手出し無用だ。」

 

涯「そうか……分かった。」

 

ピッ

 

もう終わったんだ。これで俺の日常が帰ってくる。

 

 

-------------------------------

 

いのり「ねぇ、集?」

 

電車内、楪が話しかけてくる。

 

集「なんだよ?」

 

いのり「迷惑だってことはわかってる。それでも私は集と一緒に居たい。知りたいの。集のこと、皆のこと。だから…」

 

必死に言葉を探しているのが分かる。こいつは少しずつ普通の人間に近づきたいのかもな、

 

集「別に俺のことを知っても面白くねえぞ。まあ勝手にしろよ。」

 

こんな日常も悪くないと思った。所詮人と接することに新鮮味を感じてるだけに過ぎないのかもしれないがな、

 

いのり「あ…ありがとう、」

 

顔を赤くしてそう言う。恥ずかしがるなよな。こっちまで恥ずかしくなる。

 

キキーーーッ!

 

集「うわっ!」

 

なんだ?何でこんなところで停まる?

 

「おい!なんだあれ!」

 

「GHQ⁉︎」

 

見るとホームにはGHQの兵達が並んでいる。

 

パンッ

 

扉が開くと同時に俺の背中が押される。思わずホームに飛び出る。

振り返るとそこには、

 

八尋「悪いな、」

 

八尋が居た。

 

そして電車は走り出してしまう。

 

楪は心配そうに俺の方を見ていた。そんな目すんなって。

 

集「なるほどね…」

 

完全にうっかりしてた。電車内だからって油断してたよ。そもそも奴が気配を消し去ってたってところもあるけどさ。

 

集「俺も甘かったかねぇ」

 

口約束一つをあてにした甘さに我ながら呆れる。

さて、どうしたものか…

 

嘘界「桜満集君」

 

コツッコツッ

 

幹部と思わしき人物が近づいてくる。

 

嘘界「あなたを…逮捕します。」

 

楽しげにそう言ってきた。

 

 

こりゃ俺の日常が戻ってくるのはほど遠いな。




八尋は強いのは今後役立つってことで。
にしても戦闘描写は辛いです。何かコツがあるのでしょうか?


集の見た目についてですが普段は独裁者になったときの集みたいな目をしています。
それ以外のときはまちまちですかね

それでは、今後ともよろしくお願いします。
m(_ _)m


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#4浮動 flux

ホンットに遅くなってクソスミマセンでした!
一応弁明だけさせて頂くと忙しかったんですよね、最近

頑張ってどんなに遅くとも月一は目指したいと思います。


谷尋「悪いな」

 

同じ学校の生徒の一人がGHQに捕まる。その異様な光景に、車内にいた天王洲第一高校の生徒達は皆戸惑いを隠しきれない。

 

花音「桜満君?…」

 

その一人、草間花音もそう言うことくらいしかできなかった。

 

 

-------------------------------

 

恩を仇で返すという言葉がある。俺は今回まんまとそうなっちまったわけである。わざわざ目撃者を殺すこともせず穏便に済ませようとしたらこのザマだ。

とにかく今は谷尋をぶん殴ることしか考えていない。

 

カチャ

 

ピエロのような風貌の男に手錠をかけられる。俺のヴォイドで意識を奪ってしまおうとも考えたが、これ以上抵抗するとさらに状況がややこしくなると思ったのでこうして素直に従っているのである。

 

嘘界「君はとてもいい友達を持ちましたね。」

 

集「ええ、ぶん殴りたくなるほどいい友達をね。」

 

こいつ性格悪いな。今の一言で分かった。

 

 

-------------------------------

 

車内。どこに連れてかれているのかは検討もつかない。とりあえず死刑と終身刑は御免だ。

ちなみにこの日本にも終身刑が導入された。ロストクリスマスの後にね。

 

ピッピッピッピッ

 

どうやら横でさっきのおっさんが携帯をいじってやがる。しかもガラケーときてやがる。まだ生きてたのかよ。

 

嘘界「桜満君、君に質問があります。」

 

集「答えられる範囲であれば何でもどうぞ。」

 

質問によっては答えないぞと釘を刺す。

 

嘘界「…“脚にフィットするパンツやタイツのこと、スパッツやカルソンとも。”四文字。なんだと思います?」

 

集「えっ、」

 

何か尋問するんじゃなかったのか⁉︎まあいいや

 

集「レギンスじゃないですか?」

 

嘘界「なるほど⁉︎ありがとうございます!レギンスっと、」

 

ピピピピッ

 

高速で打ち込む。手慣れてるねぇ。

 

嘘界「私はパズルの空欄が大嫌いでねぇ…君にはそのパズルを埋める協力をして欲しいのです。少し狭いですが静かに考えられるよう部屋を用意しました。パズルが解けるまで、好きなだけ居ていただいて結構ですよ?」

 

居ねえよ。さっさと俺を日常へと帰しやがれ。

 

集「ところでおっさん、」

 

嘘界「おっさんとは失礼ですね。私には嘘界=ヴァルツ・誠という立派な名前があるのですよ?」

 

苦笑しながらこちらに話してくる。

 

集「へえ…父さん並みに酷い名前ですね、」

 

嘘界「あまり桜満博士を馬鹿にするものではありませんよ?」

 

自分自身については否定しないのかい。とりあえず話ができそうな人で良かった。あの脳筋ハゲデブ野郎だったらどうなってるか分からんかったからな。

 

 

 

-------------------------------

 

教室

 

颯太「ええっ!集がGHQに捕まったって。あいつGHQの兵士を殴ったりしたのかよ⁉︎」

 

当たらずとも遠からず、と言ったところである。これが日頃の行いというものなのか。

 

花音「私もびっくりして先生に確認したけど、何も分からなくて…」

 

 

祭「集が…って。嘘でしょ⁉︎」

 

祭は集のことを聞いて涙ぐむ。その光景をいのりはただ見ているしかなかった。

 

-------------------------------

 

茎道「桜満博士の息子を?」

 

嘘界「はい。葬儀社に関与した容疑で拘束しました。お気に障りましたか?」

 

画面越しに特殊ウィルス災害対策局長-茎道修一郎-は怪訝そうな様子でそう言う。

 

茎道「そうではない。君の心証は?」

 

嘘界「黒です。彼が葬儀社に関与しているのは間違いありません。」

 

そう言って嘘界は映像を流し始める。

 

-------------------------------

 

嘘界「寒川君からのプレゼントです。」

 

そう言ってからおっさんがディスプレイに表示させたのは、俺がトリトンと話してるところやその他葬儀社についての写真だった。

 

集「まあ…これは随分と迷惑なプレゼントですね。」

 

本当に迷惑だよ…

 

嘘界「これは恙神涯、葬儀社のリーダーだ。」

 

ディスプレイに映ったトリトンの写真を指し、そう言う。

 

嘘界「なぜ君のような少年がこんな所にいて、こんな男と話さなければならなかったのかな?」

 

ああ。もう完全にバレてる…

 

集「まあ……運命の悪戯って奴ですよ…」

 

一応嘘は言ってない。

 

嘘界「桜満君、」

 

おっさんは一瞬「?」といった表情を浮かべたが、さほど気にしない様子で話し始めた。

 

嘘界「ここのご飯は美味くないよ?あのソフト麺ってやつを、僕は給食以来初めて食べました。その辺のことをよーく考えて話したまえ。」

 

これは脅しのつもりか?最も、ここにいれば葬儀社に振り回されることもなくタダ飯も出されるというのであればここで過ごすのも悪くないんじゃないかとまで思えてきた。それに…

 

集「俺が小学生の時にソフト麺なんて出ませんでしたが、」

 

嘘界「まあ!それは羨ましい限りですね、」

 

にこやかに返される。この人見かけに寄らずいい人なんじゃないかって思えてきた。

 

-------------------------------

 

映像が終わる。

 

嘘界「…と、黙秘しておりますが…」

 

茎道「明らかに余計なことを言っていないか?」

 

嘘界「そこはお気になさらずに、」

 

ところどころ雑談が過ぎたようだ。

 

嘘界「ただ、テロリストにありがちな思想に固まった感じが全くしないあたり、ただのメンバーでもないようだ。つまり、謎です!」

 

 

 

 

茎道「見たまえ、嘘界少佐。」

 

そう言われると画面に葬儀社のリーダー-恙神涯-の姿が映る。

 

茎道「七分前に、さまざまなニュースポータルに一斉送信されたらしい。」

 

涯『明日、葬儀社はGHQ第四隔離施設を襲撃する。抵抗は無駄だ。我々は、必ず同志を救い出す。』

 

嘘界「ほほう、犯行予告ですか…」

 

すると恙神涯と桜満集の話す光景を不意に思い出した。

 

嘘界「局長、一つ閃いたのですが、」

 

-------------------------------

 

ズルズルズル

 

俺は一人個室でソフト麺というやつを食べていた。確かにおっさんの言うとおり美味くはないが、決して食えない味ではない。というより俺は食べ物に対して贅沢は言わないのだ。

 

ガチャン、ガラガラ

 

眼鏡が入ってきた。飯中なんだけど…

 

 

 

手錠をかけられた俺はそのまま嘘界のおっさんのもとへ連れてかれた。

 

嘘界「状況が変わりました。君に全てを話しておきましょうか。」

 

すると手錠が外された。

 

集「お、自由にしてもらえるんですか?」

 

ダメ元で聞いてみる。

 

嘘界「いえ、少し見せたいものがあるのです。」

 

まあ無いわな。

 

-------------------------------

 

車に乗せられる。

 

集「うわっ、」

 

何故か武装した兵がそこらじゅうに配置されていた。

 

嘘界「物々しくてすみません。非常警戒中でして。棟の地下にいるある囚人の警戒を強化しなければならなくなりましてね。まっ、詳しい話はまた後で、」

 

集「そ、そうですか…」

 

囚人かぁ。そういやルーカサイト攻略にスカイツリー爆破事件の犯人が必要なんだっけ?ソースは葬儀社のメインサーバー。セキュリティーがガバガバなんだよ…

 

とりあえずまあ、トリトンも動くんだろうなぁ…

俺は放っておいて欲しいが。

 

嘘界「ともかく君に見てもらいたいものがあるのですよ、」

 

楽しげに言ってきた。そんなに見せたいものってなんぞや?

 

-------------------------------

 

どっかの建物の中に連れてこられる。

 

嘘界「隔離用の病棟です。ここの施設は本来、この病棟のために作られたのですよ。そして、寒川君がどうして君を売ったか、その理由もここにあります。」

 

集「さいですか…」

 

嘘界「彼は中毒患者ではありません。シュガーはノーマジーンの売人でした。あの日封鎖されていた六本木に行ったのもその取引のために。彼はどうしても金が必要だったのです。」

 

大体話が読めてきたぞ?

 

嘘界「なぜならば、ご覧なさい。」

 

そこには無数のベッドとそこに横たわるアポカリプス患者、そして看護師がいた。

 

集「…なるほど、ここはアポカリプス発症者のための施設であると、」

 

嘘界「そうです、そしてあそこにいるのが…」

 

そう言って指を差す。その先にいたのは、

 

集「…谷尋……」

 

ベッドの横に座る谷尋。そしてそこに横たわるのは…

 

嘘界「彼の名は寒川潤。谷尋君の弟です。」

 

既に谷尋の弟には多量のキャンサーが出ていた。

 

集「あれくらいになると、ステージ3……いや、4ですか、」

 

嘘界「ええ、その通りです。」

 

集「つまり奴は弟の治療費のために俺を売ったと…」

 

嘘界「ええ、それを踏まえてどう思いますか?」

 

こんなところに入れておいても気休め程度にしかならねえのになぁ。こいつら感染してるかもわからない奴らを平気で殺そうとする集団だぞ?

 

集「変わりませんよ。やはりあいつは殴りたいくらいいい友人です。」

 

嘘界「ほう、」

 

おっさんは薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 

-------------------------------

 

今度は一面ガラス張りの部屋に連れてかれた。金かけすぎだっつーの。

 

嘘界「コーヒーはどうしますか?」

 

集「ブラックでいいです。」

 

砂糖もミルクも邪道だ。

 

 

 

 

嘘界「…私は許せないのです。必死で守ろうとしている秩序を乱そうとする葬儀社が。」

 

これまでの日本の経緯について話した後、こう締めくくった。

 

集「なるほど、あなた方の言い分もまあ一理あると思いますよ。」

 

ホント、こんな献身的な対応、涙が出てしまいますよ(棒)

 

嘘界「それは嬉しい限りです。しかしすると余計にわからない。桜満君、なぜ君のような賢い少年が我々の善意を踏みにじろうとするのか。」

 

集「そうですね…まぁ、あれが善意とは思えなかったからです。」

 

嘘界「あれ、ですか?」

 

集「六本木の件ですよ。目の前で人が殺されそうになってたんですよ?あなた達にね、」

 

嘘界「フォートの住民達は非登録民です。定期的なワクチン接種も拒んでいる。いわば感染の温床だ。」

 

集「…なるほど。それなら人を殺していいというのですか」

 

納得いかないな。少なくともガキから親を奪おうなんて人のすることじゃねえよ…

 

嘘界「我々の兵士も殺されました。彼らも故郷のある身です、異国の地で死にたくなかったと思いませんか?」

 

集「…⁉︎」

 

返す言葉が無い。

フォートの住民を助けることと同時に兵士の命を奪ったことは事実。俺は最小限に止めているが、

 

集「結局、絶対的な正義はないのかもしれませんね…」

 

嘘界「と、言うと?」

 

ここからはもう自分達の都合の話になるな

 

集「つまりあなた達の正義のためにフォートの住民は犠牲になってしまう。そして、兵士達は葬儀社の正義のために犠牲になったということですよ。」

 

嘘界「そうですか…ならば大量虐殺犯を解放することも正義だと言うのですか!」

 

力強く眼差しでそう訴えかけてきた。大量虐殺犯…城戸研二のことか

 

集「…目的のためなら、やむを得ないのかもしれませんね。」

 

無論、俺もこれはどうかと思うがな。つーか俺フォートの住民救ったんだからもう葬儀社とは関わりたくない。

 

嘘界「……。」

 

無言でスクリーンのリモコンを操作する。

 

嘘界「あのスカイツリー爆破事件の犯人、城戸研二。葬儀社は力尽くで奪うと言ってきました。あなたではなく。」

 

そう言ってきた。だがこの人は一つ勘違いをしている。

 

集「当たり前ですよ。別に俺は奴らの仲間になった覚えはありませんから」

 

別に俺はあいつらの助けを望んでなどいない。

それに出ようと思えばこんなところ、簡単に抜け出せるしな。

 

嘘界(この状況でこれだけの平静を保つとは、やはり面白い子だ…)

 

嘘界は愉快に思った。

 

嘘界「桜満君、一つコツを教えましょう。“自分を信じろ”と言う人間に気をつけなさい。」

 

俺は はなっから一番信じられるのは自分なんですがね。それに、

 

集「友人信じて裏切られた俺に、自分すら信じるなとはどういうことですか?」

 

少し冗談めかして言った。

 

嘘界「フフッ…」

 

ん?

 

集「どうかしました?」

 

嘘界「いや、君はつくづく面白い子だ、と思ってね。」

 

笑いながらそう言った。

 

集「それは光栄ですよ、」

 

 

カチャ

 

おっさんはオレンジ色のペンをテーブルの上に置いた。

 

嘘界「これは発信機です。恙神涯と一緒にいる時、このボタンを、青、青、赤の順に押してください。そうすれば我々が彼らに相応しい罰を与えにいきます。例えそれがどんなところでも…」

 

例えそれがどんなところでも?それ完全にルーカサイト起動するつもりじゃねえか!前言撤回。こいつ全然いい人じゃねぇじゃん。俺ごと殺す気だわ。まあ面白い。少し揺さぶるか、

 

集「へぇ、面白いや。試してみよう」

 

嘘界「…⁉︎」

 

俺はそれを手に取る。

 

集「青、青…」カチッ、カチッ

 

順番に押していく。

 

嘘界「やめなさい桜満君!」

 

結構必死そうに止めてきたので、赤に指をかけたところでやめておいた。

 

集「冗談ですよ。俺もさすがに自分の命が惜しいので、」

 

あんたのその反応が見れただけで満足だわ。

 

嘘界「…君はそれが何なのか分かるんですね。」

 

集「大体見当は付いてますよ。」

 

嘘界「本当に厄介な子だ。」

 

集「まあ、念のため貰っておきますよ。気分次第では葬儀社を潰してあげられるかもしれないですからね。」

 

それに普通のペンとしても使えるしね

 

嘘界「そうなることを期待してますよ…」

 

今ので割と疲れたようだ。

 

-------------------------------

 

♪咲いた、野の花よ

 

いのりの歌声が虚しく廃校舎に響き渡る。

いのりはディスプレイに映し出された集の作成していた映像を、ただ見ながら歌っていた。

さまざまな描写が思い出される。ふゅーねるを掴んでこちらを睨んできた集や、エンドレイヴを前に走り込んできた集、八尋と闘う集にホームに取り残された集。どれも集のことばかりであった。

 

いのり「ねぇふゅーねる。どうして私、寒いの?集なら、知ってる?」

 

-------------------------------

 

また個室に戻っていた。ベッドもあるので普通にゴロゴロしていた。学校行くよりかはここに来た方が割と面白い気がする。まあ授業なんて怠いから寝てるんだけどな。

 

ガラガラ

 

俺の平穏が邪魔された

 

「弁護士との接見だ。出ろ、」

 

へいへい…

 

-------------------------------

 

面会室の椅子に座らせられ手錠をされる。海楼石でもない限り俺を拘束することはできないっつーの。あっ、俺能力者じゃなかったわ。てへっ、

 

「やあ集君!初めまして、」

 

弁護士が来た。非常にうるさいって…

 

集「…⁉︎」

 

トリトン…何をしている…

目の前にいたのは変装したトリトンであった。

 

涯「君のお母さんの依頼を受けて、君の弁護をする、メイスンだ。もう何も心配しなくていいよぉー」

 

お前が一番心配だわ!

 

涯「早速始めましょうか!」

 

ツグミ『あい!メインシステムへのハッキングを開始!』

 

通信していたツグミが返事をし、そしてカメラとマイクを潰すべくハッキングを仕掛けたのだった。

 

涯「もう話しても大丈夫かな?」

 

ツグミ『カメラとマイクは潰したよ。いつでも始めて、』

 

涯「よし、全員スタンバイ開始。」

 

急に従来の悪い目つきに戻った。俺のトリトンに関する記憶だとまだ新しいのだがな。

 

集「お前も城戸解放作戦に向かえよ。俺は一人で十分だっつうの。」

 

涯「そこまで勘付いてるとは、もはやすごいを通り越して気持ち悪いな。」

 

集「黙れよ、」

 

真顔でそんなこと言うとは腹立つなぁ

 

涯「まあ話が早くて助かるな。お前はこれからここを出て…」

 

集「それより面白いもの貰ったんだぜ、」

 

涯「」

 

集「テッテレー!ルーカサイト発射装置ー!」

 

我ながら中々酷いネーミングである。

 

涯「は⁉︎」

 

驚いて目を見開いてやがる。フフフ、見たか

 

集「これを青青赤の順に押すt…」

 

ガチャン

突如暗闇と化す。折角いいところなのに。

 

プープープー

警告音が鳴る。

 

「システムは、何者かのハッキング攻撃を受け…」

 

ハッキングしたってバレたら二流だぞ。だから俺に知らないうちにいろいろ見られてるんだよ。

 

涯「作戦を開始する。」

 

ドゴーン

爆発音がする。ミサイルまで撃ち込み始めた。これでは本当にどちらが正しいかわからねぇぞ…

 

涯「時間がないぞ、」

 

窓の外は地獄絵図である。

 

集「しゃあない、行きますかね…」

 

結局流されてばかりだ。面倒だ、

 

いのり『集⁉︎』

 

集「は?楪?」

 

通信機から声がする。

 

いのり『良かった、行くから待ってて、』

 

集「いや、待てはしねえよ…」

 

お前の力より俺の力の方があてになるしな…

 

ガンッ

 

涯「待機だと命令したはずだ!どうしてお前が!」

 

作戦通りに行動しないとは…本当に迷惑な奴だ。俺?さあ、なんのことですかねぇ?

 

ツグミ『涯!いのりんの位置を確認!施設内に単独で潜入してる。集の独房の位置をダウンロードしてるわ!いのりんは集を助けるつもりなのよ!』

 

ありがた迷惑な話だなぁ…あといのりんいのりんって3倍エンハやりそうな呼び方はやめろ。

 

にしても単独とは奴も中々の人外やなぁ。俺がここまで強くなければ最強クラスだったのかもな。

 

「接見は終わりだ!早く戻れ!」

 

楪単独にしておくのも偲びないしまあ確保しに行くか…

 

集「じゃあな、トリトン。ちょっ、どけ、」

 

「ゴォッ⁉︎」

 

おっさんの腹に肘を入れて気絶させる。

 

涯「おい!」

 

そして俺はトリトンを無視して走って行った。

 

-------------------------------

 

バババババンッ

兵士達がマシンガンを撃ってきた。

 

集「邪魔だよ!」

 

全弾よけながら走って接近する。

 

「何っ⁉︎……グフォっ⁉︎」

 

腹を殴ったり後頭部をチョップしたりして気絶させる。武器を取ろうかと思ったがマシンガン一丁じゃとてもじゃないけど分が悪い。結局素手頼りとなってしまった。

 

 

 

集「ん?」

 

しばらく走ると目の前にエンドレイヴが立っていた。量産型だし一機だけか、チョロいな。

 

集「そこどけよ!」

 

「何っ!」

 

最高速の状態で飛び蹴りを食らわした。

 

するとエンドレイヴは吹っ飛んで壁にめり込み、動かなくなってしまった。

 

シューー

 

左からシュタイナーが来た。敵か⁉︎

 

綾瀬「あんた…今のは一体……」

 

生身でエンドレイヴ倒したところを見られたらしい。こいつ俺を邪魔呼ばわりした姉ちゃんだな?

 

集「お前に話す必要はない。とりま俺は楪の馬鹿を確保しなきゃならねえんだよ。」

 

綾瀬「そうそうあなた、いのりに何したの⁉︎」

 

集「何ってなんだよ?」

 

綾瀬「じゃなきゃあの子が涯の命令に逆らうわけないじゃないの!お陰で作戦が滅茶苦茶よ!」

 

お前の言い分が滅茶苦茶だ。

 

ん?

 

集「ちょっとどいてろ!」

 

綾瀬「何なの⁉︎」

 

シュタイナーの後ろからゴーチェが接近していた。

素早く距離を縮めるとヤツのアームを掴む。

 

集「セイヤッ!」

 

「なっ!」

 

背負い投げの原理で遥か下へと落としてやった。

 

綾瀬「何なのよ…あなた…」

 

集「ただの男子高校生だよ。それより悪いけど俺のこと運んで欲しいんだけど…」

 

もう走りたくない。疲れてはいないけどね。このくらいで疲れるほど軟弱じゃない。

 

-------------------------------

アポカリプス発症者のための施設

 

 

 

ドーン!

 

バキューン!

 

ボカーン!

 

 

先程の警告音の後から銃声や爆発音がひっきりなしに聞こえてくる。このままここにいては不味いな。俺は良くとも潤が危ない。

 

八尋「兄ちゃんが絶対守ってやるからな。少し待っててくれ。」

 

そして寒川八尋は戦場へと向かった。

 

 

 

-------------------------------

 

 

運んでとは言ったけどさぁ

 

綾瀬「ごめんちょっと隠れてて!」

 

わざわざ一番下のエンドレイヴ集中してるところに運ばなくてもいいじゃん!

 

ドシーン!

 

集「うわっ!」

 

踏み潰されそうになった。

 

集「何すんだ…っよ!」

 

俺はエンドレイヴより高い位置まで飛び上がると、頭にかかと落としを決める。

 

「ギャァァァァァァァーー!」

 

うわっ、断末魔がエグい。痛覚は伝わってるんだもんな…

ご愁傷様です。

 

ウィーンウィーンウィーン

ガシャガシャ

 

集「あっ、ヤバイ」

 

一気にエンドレイヴに囲まれた。さすがにこの量相手は無理だ。シュタイナーの姉ちゃんは……向こうで闘ってる…

余裕ぶっこきすぎたツケが来たか…

 

「ぎゃっ⁉︎」

 

ドコーンッ!

 

「なんだ⁉︎」

 

突如エンドレイヴが吹っ飛んで行った。一体…

 

八尋「ったく、世話の焼ける奴だ…」

 

集「…てっ、テメェはぁ‼︎」

 

八尋が目の前に現れやがった。どの面下げて来たんだよ!

 

集「一発ぶん殴らせr…」

 

八尋「今はそんな場合じゃないだろ…周りを見ろ。」

 

そういやエンドレイヴに囲まれてるところだった。

 

集「しゃあねぇなぁ。じゃあ半分任せたよ。」

 

八尋「分かったよ、」

 

よく分からんが八尋が来たお陰でどうにか事なきを得たのであった。

 

-------------------------------

 

集「何で来たんだよ?」

 

ホント、一般人の来るところじゃねえんだが。俺も含め、

 

八尋「お前らのせいで潤が危なかったからだよ。」

 

集「そりゃ悪かったな。」

 

八尋「じゃあ俺は潤連れて逃げる。しばらく学校には行かないからそのつもりでな。」

 

集「今度会ったら仕返しさせてもらうからな!」

 

八尋「助けてやったんだからチャラでいいだろうが…」

 

八尋は歩いて出て行ってしまった。つーか逃げるなら普通に潤連れて逃げれば良かったじゃねぇか……

 

…まあ殴るのは許してやるか、

 

 

 

 

ボーーーン!

 

集「今度は何ですか?」

 

見るとトリトンがロケランで橋を壊してるところだった。酷いな、

 

「んーっ!んーっ!」

 

噴水でもがいてる奴がいる。城戸か、

 

城戸「んっ⁉︎」

 

突然動きが止まり、銀の光と共に城戸からヴォイドが出てきた。何故だ⁉︎

 

集「ハッ⁉︎」

 

上を見る。するとトリトンは掌を城戸の方に向けていた。

 

集「なるほど。お前はもう既に…」

 

こりゃ心強いな。ただあいつが王の力手に入れたんだから俺はいなくていいだろ…

 

集「とにかく今は…」

 

残りのエンドレイヴに城戸のヴォイドを撃ってみた。

 

ヴォーンウォン…

 

集「これは…重力操作か、」

 

エンドレイヴが次々浮いて行った。

 

綾瀬「ったく!キリが無いのよ!」

 

大量のゴーチェに追われて大変そうですね。

 

バキュン

 

集「これで一気に浮かせるか、」

 

噴水の上に上がって大量のエンドレイヴを全て狙う

 

ウォンウォン

 

ウォンウォン

 

次々にエンドレイヴが浮き上がっていく。

 

涯(あいつ…射撃の腕まであるのか⁉︎)

 

綾瀬「凄い…」

 

集「これなら余裕ありそうだな」

 

いのり「集ーーーーーっ!」

 

楪が上から飛び降りて来た。来たな、メインウエポン!

さっさといのりソードで終わらせちゃおうぜ。

 

飛び上がる。楪まで届いた。

 

いのり「集…お願い、信じて」

 

俺は手を取る。そして楪からヴォイドを引き抜いた。

 

いのり「ンッ…」

 

近くに殺気を感じる。すぐさまこちらを狙っていたスナイパーの意識を集める。近くには……嘘界のおっさんもいるな。

 

 

スタッ

 

俺は剣と楪、両方持ったままおっさんの前に降りる。

 

集「おっさん、今このスナイパー殺そうとしたな。」

 

嘘界「…この素晴らしい芸術を邪魔するものは消そうと思ってね……」

 

芸術?ヴォイドの光のことか?

 

いのり「集?」

 

楪は状況が分かっていないようだ。

 

集「何が異国の地で死にたくなかっただろうだよ。ちょっと悩んで損したぜ。」

 

嘘界「そうですか」

 

特に動揺もない様子で聞いている。

 

集「やはりあんたの正義は認められない。俺は葬儀社でもGHQでもない。“俺の正義”を貫く。そう決めた」

 

そう語りながら今自分の中で整理がついた気がする。

俺は大切なものを守るためにここまで強くなったんだったよな。忘れかけてたよ。

 

嘘界「なるほど、君はどうしても私の敵となるわけですか…非常に残念ですよ。」

 

集「こんな世じゃなきゃ……いや、やっぱ何でもねぇ。」

 

思ったことを言おうとしたが、咄嗟にしまい込む。

 

嘘界「ん?」

 

集「俺は行く。多分また会うことにはなるんだろうな…では、サヨナラ。行くぞ楪、」

 

いのり「うん、」

 

俺は楪を抱え、そして跳んだ。

 

嘘界(君は、とても面白く、厄介で、本当に憎たらしい子だよ。フフフ…)

 

嘘界「美しい!これがヴォイドの光!」

 

 

 

-------------------------------

 

切り札を手にしてしまった俺はもう容赦無くエンドレイヴ達を切り裂いて行った。まさに鬼に金棒というわけだ。

 

そしてエンドレイヴがいなくなる。

 

スタッスタッ

 

俺と楪は第四隔離施設だったものを後にする。

 

バッ

眩しい

トリトンが俺の顔をライトで照らしたようだ。

 

集「城戸ならここにいるぞ、」

 

後ろで寝ている城戸を指差す。

 

涯「そうか。綾瀬、回収を。」

 

綾瀬「はい!」

 

 

 

涯「お前はどうするんだ?」

 

いのり「集…」

 

楪は見つめてくる。

 

集「俺は俺の日常に戻りたい。そう思ってたが今回の件でそれは困難なことが分かった。やむを得ない。行くよ。トリトン。」

 

いのり「ヤッタッ」

 

楪が小声で喜んだ。お前笑えるのな

 

涯「……行くぞ、」

 

トリトンは向こうへと歩いていく。そして俺達も着いて行くのであった。

 

俺の日常は当分戻ってきそうにない。




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#5訓練 preparation 1

一応前から書き終わってはいたのですが少し長くなりそうなので途中で切りました。

遅れてすみませんでした。
m(_ _)m


完全にタイトル詐欺である。そもそもトリトンですら、俺には勝てないというのに一体これ以上強くなって何になるというのか、

 

そもそもこれは本編の集g…

 

いのり「集、メタ発言はやめて。」

 

集「…へいへい」

 

怒られちゃったよ…

まあ適当に過ごすこととしようか、

 

-------------------------------

 

涯「それでは、改めて紹介しよう!」

 

トリトンの言葉が響く。俺は地下を通った後、葬儀社のアジトに来ていた。ここなら身バレしてもしばらくは安全だろうしな…

テロリストのアジトが安全なわけはないけど、

 

 

涯「桜満集、ヴォイドゲノムの持ち主だ。今後は集を、作戦の中核に据えていく。」

 

ざわざわ…

 

当然だ。突然、見ず知らずの男子高校生が作戦の中核に据えられるとか言われれば戸惑いもある。俺も立場が逆ならそう思うだろうしな。

 

涯「この桜満集の加入と城戸研二の獲得により、我々葬儀社の当面の最大目標であった、“ルーカサイト攻略”が可能になった。」

 

嘘言うな…お前もヴォイドゲノム持ってんだから自分でやれよ。

 

ピッピッ…

 

トリトンがコンピュータを操作すると、大量の文字がディスプレイに表示された。

 

涯「これが作戦案だ。状況に応じて、パターンが145通りに分岐する。全員、実行までにこれを全て頭に入れろ。」

 

とりあえず見てみるか、

 

アルゴ「時間は?」

 

“実弾をばら撒いてやがる!”って叫んでた不良っぽい奴が尋ねた。

 

涯「3日だ。それもできないなら参加するな。」

 

ざわざわ…

 

無能かお前は…

145通りにも分岐させる作戦を3日だけで暗記させるなんて、

というよりもっと分かりやすい作戦があるだろ、

 

 

四分儀「隔離施設襲撃のミッションから一日も経っていません。皆の疲労が心配されますが…」

 

 

涯「それは違う。お前達は何をしにここへ来た。ゆっくり寝るためではあるまい!目脂でボヤけた視界で敵の前に出ていくつもりか!」

 

全く、なんてブラックな

そんなこと言ってる間にも

 

集「終わった…」

 

そう呟くと辺りが静まる。

 

涯「…どうした集、」

 

集「どうしたって、全部覚えただけだよ、」

 

ざわざわ…

「え?嘘だろ?」

「マジかよ⁉︎」

「いやあり得ねえよ」

 

涯「なんだと⁉︎じゃあD-14は?」

 

集「俺が単身エンドレイヴと対峙する。」

 

四分儀「正解です……。」

 

ディスプレイを見ていた参謀君が答える。

 

涯「⁉︎ じゃあ……」

 

 

-------------------------------

 

四分儀「せ…正解です……。」

 

ざわざわ

「マジでやがった…」

「あいつ、今の時間で全て覚えたっていうのか⁉︎」

「信じられねぇ!」

 

涯「なんてやつだ…」

 

集「まあ暗記教科得意だしな。」

 

学年一位の名は伊達じゃねえぞ、

父さんにしても母さんにしても血筋は優秀だからな。

 

涯「まあいい。綾瀬、」

 

綾瀬「はい!」

 

この声…エンドレイヴの姉ちゃんか

 

涯「お前の責任でこれからこいつに訓練を施せ。」

 

………は?訓練?聞いてないんだけど

 

綾瀬「私が…ですか⁉︎それに彼なら…」

 

涯「いいからやれ、わかったな?」

 

そういって階段の方へスタスタ歩いて行ってしまう。

 

集「ちょっ⁉︎待てよ!」

 

慌てて追いかける。

 

集「おいトリトン、何考えてんだよ⁉︎」

 

耳元で周りに聞こえないように囁いた。

 

涯「いいか、お前はまだ周りに不信感を抱かれている。だからここで実力の差を見せつけておけ、」

 

そう言い残し昇って行ってしまった。

 

集「はぁ?」

 

面倒なことするなぁ…

俺は周りに信用されてようがなかろうが関係無いんだよ。

 

タッ…タッ…

 

俺はエンドレイヴの姉ちゃんの方へ歩いた。

 

集「うーん…まあほっといてくれて構わないよ?俺一人でもやることはあるし。それに車椅子の女の子に迷惑かけるのも悪いしな。」

 

我ながら素晴らしい気遣いである。

 

綾瀬「あら?随分優しいのね?桜満君、」

 

手を差し出してきた。握手を求めているらしい。

 

集「そりゃどうも」

 

俺もその手を握ろうとする。

すると姉ちゃんは俺の袖を掴んだ。

 

集「おい、」

 

グルンッ!

 

姉ちゃんは車椅子で足を払うべく回転させてきた。だが、

 

集「おっと、」

 

俺は手を振り払い、そして車椅子を回転する方向へと蹴り払う。

 

綾瀬「ええっ⁉︎」

 

勢いに乗った車椅子はそのまま回転し、俺に背を向ける。そして俺は後ろにある手押しハンドルを掴んだ。

 

集「分かったよ…女の子に迷惑かけるのは悪い。これでいいか?」

 

綾瀬「そういうわけじゃないわよ!車椅子は私の個性みたいなものだから遠慮はいらないってだけよ!」

 

酷く赤面した状態で言われても…

にしてもこいつ、こんなのが個性じゃアイデンティティクライシスに陥るのが簡単そうだな…

 

アルゴ「今の動き……」

 

アルゴは集の動きが、決して素人のそれではないことに気づいた。

 

ツグミ「綾ねえが…」

 

ツグミはただ、綾瀬が負けたことに驚くだけだった。

 

 

 

 

 

集「まあ相手が悪かっただけだ。そう気にするな、」

 

まだ怒ってる姉ちゃんを必死でなだめる、が、

 

綾瀬「むぅぅ…」

 

機嫌を直してくれない。

 

集「もう分かったよ!訓練受けるから!お願いします!」

 

機嫌悪くされるのも気分が悪いので頭を下げた。

 

綾瀬「フッフッフッ、そこまで言うなら仕方ないなぁ〜」

 

単純な奴め…

 

 

 

いのり「どう?うちの集は。すごいでしょ⁉︎」

 

ツグミ「あっ、いのりん!」

 

あまり目立っていなかった楪が得意気に猫耳に言った。

 

集「おい、いつ俺がお前のものになったんだよ…」

 

こいついたの忘れてたじゃねえか、

 

集「もう俺は寝る。目脂でボヤけた視界で十分だ、別に。」

 

面倒だ。眠いしさっさと寝よう。

 

綾瀬「トリトン?」

 

いのり「集が涯のことそう呼ぶの。」

 

綾瀬「へぇー…」

 

トリトンじゃ分からねえかぁ…

どうしよ。じゃあ恙神って呼ぼう。皆涯涯うるせえし

 

集「じゃあ姉ちゃん、寝床まで案内してくれよ」

 

手押しハンドルを掴んで、押して姉ちゃんを運び始めた。

 

綾瀬「姉ちゃん姉ちゃんって…私は篠宮綾瀬よ。後自分で動くから押してくのやめなさい!」

 

ったく。気の強い女は嫌いだ。

 

俺は案内された部屋でベッドに横たわると、すぐ眠りに落ちたのだった。

 

-------------------------------

 

…ん?どこだここは?

 

トリトン「ねえ!ホントに跳ぶの⁉︎」

 

遥か昔の記憶。壊れた橋の上で、トリトンは心配気に言ってくる。

 

集「大丈夫だよ!いいから来いよ!」

 

穴の向こう側。俺はトリトンにそう言った。

 

 

-------------------------------

 

集「…ん……あ?」

 

夢か。懐かしい夢だったな。あの頃のあいつは…どんなだったっけ?

結局今の恙神涯が重なり、“トリトン”と言う人間をにわかに思い出せない。

 

とりあえずいつもの習慣からと行こうか。

 

 

-------------------------------

 

綾瀬は、昨日自分の攻撃を簡単に避けた集の部屋へと向かっていた。

 

綾瀬(全く…あいつと来たら!)

 

しかし集が、エンドレイヴを素手で倒していく様は目の前で見ていた。そのことを考えると昨日の自分の行動は迂闊だったかにも思える。だがそれと同時に、簡単にあしらわれたことに腹立たしくも思う綾瀬であった。

 

そして集のいる部屋の前に着いた。

 

綾瀬(あいつの訓練かぁ…やっぱりあいつの言うとおり放っておいた方がいいのかなぁ…)

 

いろいろと悩む綾瀬だったが、結局ここで考えていても仕方ないと思いドアを開けるのであった。

 

ガチャ…

 

集「998,999,1000!」

 

バタン! ハァ…ハァ…

 

集は左腕のみで腕立て伏せをしていた。

 

綾瀬「何よ……それ…」

 

綾瀬は集の行動と、彼の言った桁外れの数字に驚きを隠せない。

 

集「ああ、篠宮。いつもやってんだよ。丁度右腕と左腕、両方終わったところだ。」

 

ハァ…ハァ…

汗をかいて息を切らした集は立ち上がる。

 

集「にしてもやっぱりこれはキツイな。1000回って結構多いんだぜ?」

 

綾瀬「そんなの分かってるわよ!」

 

ただ呆れた。そしてこんな男をはめようとしていた自分に対し、馬鹿らしくも思えたのだった。

 

-------------------------------

 

綾瀬「今から訓練始めるからね⁉︎もう寝る間も無いわよ⁉︎覚悟なさい!」

 

集「へいへい…」

 

さっさとやることやって寝よう。そう固く誓った。

 

 

綾瀬「あと一週間後、あんたが葬儀社のメンバーに相応しいかテストする予定なの。」

 

集「ええ!聞いてないよ!」

 

まず俺を中核に据える言うたよな⁉︎なのにテストするとかふざけてんのかよ。

 

綾瀬「では始めましょう?」

 

-------------------------------

 

暗いバーみたいなところに連れてかれた。こいつあの不良みたいなやつじゃん。

 

アルゴ「竜泉高校二年の月島アルゴだ。名前は?」

 

アルゴって、情報屋以外にもいたのかよ…

 

集「天王洲第一高校二年の桜満集だ。」

 

アルゴ「知ってるよ、」

 

集「じゃあ聞くな」

 

つーかお前俺とタメだったのかよ…

 

カチャッ

 

月島が渡してきたのは、本物のナイフだった。

 

アルゴ「殺すつもりでかかって来い。」

 

集「おいおい…」

 

穏やかじゃねえなぁ…

 

アルゴ「葬儀社の看板は重てえぞ。」

 

そう言って奴は構える。そんな看板いらねえよ

 

アルゴ「この程度でビビんなよ!」

 

ジャキーン

向こうも折りたたみ式のナイフを出してきた。仕方ないな…

 

アルゴ「おおりゃあ!」

 

俺の顔めがけてナイフを振りかぶって来た。

 

集「遅いよ…」

 

アルゴ「ちっ!」

 

最初の一撃を顔を少し横にずらしてかわす。続いてくる連撃も全てかわした。

 

アルゴ「よけてばっかじゃ勝てねえぞ!」

 

ナイフを振りながら叫んできた。

 

集「分かったよ…」

 

俺はそう言って一気に腰を落とす。ナイフは俺の遥か頭上を高速で抜けていく。

 

アルゴ「…っ⁉︎」

 

奴からは一瞬、消えたかのように見えただろう。

 

その隙を狙い、足を払う。

 

アルゴ「ヤベッ‼︎」

 

姿勢が崩れた。転ばなかったところは流石と言うべきか。だが、

 

スッ…

 

集「…終わりだ、」

 

後ろに回り込んだ俺はナイフの握られた月島の右手を掴み、そしてナイフを首に突きつけた。

 

集「殺すつもりで行ったら死ぬだろ…お前、」

 

アルゴ「フン…降参だ……」

 

カランカラン

 

アルゴはナイフを下に落とした。

それを確認し、俺も手を離した。

 

綾瀬(アルゴじゃダメだったかぁ…)

 

-------------------------------

 

 

銃を持ってひたすら走る。ふゅーねるが先導するのを追いかける形となっている。

 

ふゅーねる「心拍数、変化ナシ」

 

ツグミ「君…さっきから心拍数に全く乱れがないんだけど、」

 

猫耳が話しかけてくる。かれこれ30分か。別にそれほど速く走ってないけど。ふゅーねるのペースには合わせてるし、

 

集「スポーツ心臓症候群ってやつだよ。それに本気だせばほら、」

 

俺はふゅーねるを追い抜き本気で走る。まだ短距離ペースもいけるな。

 

ツグミ「嘘でしょ⁉︎」

 

本気だせば100m10秒台は出せるんだ。当然である。

 

-------------------------------

 

大雲「重いかも…」

 

でっけえ銃を大雲さんって人が渡してきた。これあんた用のサイズでしょ…

 

集「うーん…これ持って走ると100m11秒まで落ちるかも…」

 

片手で構えてみる。ハンドガンみたいな使い方するものじゃないけどね。

 

綾瀬「どうなの大雲?こいつは、」

 

大雲「正直、俺もここまで扱えはしない…」

 

綾瀬(パワーも申し分ないと、)

 

 

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バンバンバンバン……

 

楪が銃を連発している。なるほど、すごい精度だ。

 

綾瀬「こういうのに関しては流石ね。あんたにもこれくらいは目指してもらうからね。」

 

集「へいへい。」

 

余裕だっつーの。

 

お兄様的な感じで銃を両手で構える。

 

いのり「えっ?」

 

バンバンバンバン…

 

綾瀬「嘘っ⁉︎」

 

いのり「そんな…」

 

右手で心臓部の同じ穴に全発撃って、左手はヘッドショットした。

 

 

綾瀬(銃も問題なしと、)

 

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梟「アルゴさん集さん、どうぞ、」

 

アルゴ「すまねぇな、」

 

集「サンキュー、」

 

葬儀社でも数少ないショタ要員の梟君がタオルを持ってきてくれた。

 

アルゴ「そういやぁ、今回は涯と一緒なんだってなぁ。梟、」

 

梟「ええ!やっと一緒に戦えます!模擬戦見られないのは残念ですけど、頑張ってくださいね!集さん!」

 

痛い!ここまで真っ直ぐな眼差しが俺には痛いよ!

 

集「おうよ。お前も気をつけろよな、」

 

梟「はい!」

 

出口へと走っていく。

 

梟「それじゃあ!」

 

向こうへと走って行ってしまった。守りたい、この笑顔。

 

 

 

 

集「…恙神って、やっぱすげえやつだよ。」

 

アルゴ「あん?」

 

集「俺はあんな小さい子にあそこまで慕われるような自信はないしな。」

 

ホント、カリスマ性だけはトリトン、お前の方が上だと思うよ。

 

アルゴ「お前だってやろうと思えばできるんじゃねえか?」

 

集「え?」

 

アルゴ「六本木の時、お前ガキの母さん助けただろうが。」

 

集「あの時…」

 

こいつにも見られてたのか

 

いのり『涯の命令を無視しても皆を助けた。だから集も人のことを思いやれる。』

 

いつか、楪に言われたことを不意に思い出す。

 

集「どうなのかな。分からねえや」

 

なぜだか分からないが笑みがこぼれてきた。

 

アルゴ「フフッ…」

 

集「どうした?」

 

アルゴ「いや、お前って案外そういうとこ気にするやつなんだなって思ってさ。」

 

月島はニヤついていた。ニヤけるは誤用だぞ?

 

集「うっ…うるせえよ。余計なお世話だ。」

 

こいつ、不良かと思ってたが兄貴キャラみたいなとこあるんだな。第一印象だけで決めちゃダメだな

 

アルゴ「ところでよ…」

 

集「ん?」

 

改まって俺に尋ねてくる。

 

アルゴ「ヴォイドってのは誰からも取り出せるのか?」

 

集「えっ?ああ、」

 

自分のヴォイドが気になるんだな。分かるよ?あまりに気になりすぎて学校の生徒ほとんどのヴォイド引き抜いたくらいだから。いや、それはやり過ぎか…

 

集「17歳以下なら取り出せるはずだったけど…やってみるか?」

 

アルゴ「……ああ、頼む」

 

一瞬躊躇ったみたいだ。まあ分からなくもない。

 

俺は左手で月島の右手を取る。

 

そして目を合わした。

 

アルゴ「んっ⁉︎」

 

辺りにヴォイドの光が光り始めた。

 

そして胸へと手を伸ばす。

 

集「そりゃあ!」

 

アルゴ「うぉぉ!」

 

俺は月島のヴォイドを引き抜いた。

 

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アルゴ「これは……?」

 

集「ライト……だな…」

 

とりあえずつけてみる。すると、

 

アルゴ「うおっ!なんだこれ⁉︎」

 

集「うわっ!暗くするライトかよ!」

 

どうやらライトのくせに明るくするんじゃなくて暗くするらしい。

お前内になに秘めてんだよ…

 

 

 

アルゴ「…なぁ集……」

 

集「なんだよ…」

 

心なしか声のトーンが低い。

 

アルゴ「…俺ってそんな根暗か?」

 

集「んなこと知るかよ。会ったばかりだろうが。」

 

アルゴ「……まあそれもそうか、」

 

割とガチで凹んでやがる。何か変な空気になっちまったじゃねえか。

 

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風呂から上がった。

やはり風呂っていうのは心休まる数少ない場所である。当然、俺の訓練はやらなくていいという話になったた。明日からは自分でメニューを組める。ここも住めば都だな。

月島には明日も付き合えと言われたがな。今度はもっとコテンパンにしてやる。

 

今日はもう寝よう。明日もまたそうのんびりはしてられないしな。




集に訓練はいらない(ここ重要)
まあ目的としては圧倒的な実力差を見せつけるということなのでこれで良いかと⋯

次からはタグにもあるキャラ崩壊がでてくるかもです。
前編後編で終わるか微妙ですがよろしくお願いします。

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#6訓練 preparation 2

久しぶりの更新です。お待たせしました。
最低でも月一、できればもっと更新スピードを上げていきたいですね。


シャーー

 

まだ6時を回らない頃、集は一人シャワーを浴びていた。

集は早朝のランニング後の朝シャンが好きだった。頭皮に悪い以上、そう高い頻度で行うことはないがそれでも朝から汗をかいた時には、集としてもなるべくしたいのだ。

 

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軽い朝食を済ました後、集は以前作戦を知らされた最初の部屋へと足を運んだ。朝食は質素なものではあったが、置かれている立場を考えれば贅沢など言えない。そもそも集自身、食べ物に文句を言う気はないので普通に食べることにしたのだった。

 

涯「なんだ、風呂でも入っていたのか。」

 

中にはメンバーが何人かいた。その中には涯、綾瀬、アルゴなどといった主要人物もいる。

 

集「早朝にひとっ走りしてきたんでな。朝シャンはいいぞー。」

 

涯「お前はいつの時代の女子高生だ⋯、」

 

アルゴ(こいつ、朝もそんなことしてんのか⋯見習わねえとな、)

 

それぞれさまざまな思いを抱いた。

 

綾瀬「それで、今日から私の訓練は受けないんでしょ?どうするつもりなの?」

 

集「そうだなー。とりあえずこいつと白兵戦何回かやってからは自主トレかな。大まかには決めてるけど、」

 

アルゴを指差しながらそう答えた。

 

綾瀬「テストさえ受けてくれれば良いけど。また昨日の馬鹿みたいなトレーニングするんでしょ?」

 

呆れた様子で言う。

 

集「えぇ⋯テストするのかよ⋯。まあいいや、せいぜい覚悟しとけ、」

 

今朝もそのトレーニングをしていたことは言わずに、得意げに綾瀬に向かって指を差してその場を去っていった。

 

綾瀬「ホンットムカつくあいつ!」

 

綾瀬は、絶対集に痛い目を見せてやると誓った。

 

 

 

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アルゴ「ハァ⋯ハァ⋯」

 

いつものバーみたいな所で、何回か月島と白兵戦をした。結果は言わずもがなだ。疲れ切ったこいつは床に寝転んでいた。

 

アルゴ「なんで全く当たんねえんだ、」

 

集「いくらお前のナイフが速かろうが銃弾のそれに勝ることはないだろ?」

 

答えになってないような答えを言った。

 

アルゴ「⋯まあいい。明日も付き合ってもらうからな!」

 

起き上がった月島はそんな捨て台詞を吐いて去っていった。いつの間に師弟関係ができてんじゃねえか?

 

 

 

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いのり「集ーー!」

 

いのりが集に向かって手を振る。

夕方、集を探していたいのりは外で向こうから来る集を見つけた。

何やらリュックサックを背負ってやってきた。

 

いのり「どこに行ってたの?」

 

集「自宅とかその他いろいろ、」

 

当たり前のように言い放った。だがそんな気軽に外歩きしていい身分ではない。

 

いのり「それ、大丈夫なの?」

 

いのりは集が捕まったりしないのかについて心配した。

 

集「そう簡単に見つかるほど俺はアホじゃねえよ。まっ、こんな所にいる暇あったら訓練頑張れよ、」

 

ヒュッ!

バババババン

 

集は持っていた空き缶を投げ、素早くホルスターから銃を取り出すと右手で五発撃った。

 

集「これくらいにはな。じゃあな、」

 

いのりが空き缶を見ている間に、集は中へと入っていった。急いで缶の方へ駆け寄ると、確かに全弾命中していた。

訓練に熱を入れさせるために挑発した集の意図とは裏腹に、いのりはただ、集の銃の腕に驚いていた。

 

 

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集「⋯」カタカタ

 

俺は部屋に戻って家から持ってきたノーパソを弄っていた。特に面白いことはないか⋯

 

ガチャ

 

集「トリトン、ノックを。」

 

涯「ここは奉仕部じゃない。それよりそれはどうした。」

 

お前そのネタ分かるのかよ、

 

集「これ?家から持ち込んできた。」

 

涯「いつ、」

 

集「さっき、」

 

涯「何外出してるんだ。」

 

集「ごめんなさい。」

 

ばれてしまった。問題はない。

 

涯「まあお前のことだ。見つかるようなヘマはしていないだろう?それより飯だ。早く来い。」

 

リーダー直々に呼んでくださるとは。感激の一言に尽きますよ(棒)

 

 

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夕飯も風呂も済み、もう寝てもいい頃だ。さすがに俺とて風呂後に汗をかくようなことはしない。

 

集「⋯」トテトテ

 

集「ん?」

 

廊下を歩いていたら向こうから車椅子に乗った篠宮が来るのに気づいた。ちょうど周りには誰の気配もないこの状況。俺の中にある考えが浮かんでしまった。“ヴォイドを引き抜いてみる”という考えがな。

あいつも俺とタメだと聞いてたから引き抜けるはずだ。ササッと引き抜けば記憶は残らないしな。

 

 

綾瀬「あら?集じゃない。風呂に入っt…」

 

入ってきたの?と続けようとした篠宮の胸に手を突っ込んだ。

エロい意味じゃないよ、

 

綾瀬「うっ⋯」

 

気を失った篠宮。そして俺の手にあったのは、

 

集「エアースケーター?」

 

履いてみるとかなり速く動けることがわかる。それどころか飛べる。

 

これ貸してやればこいつ車椅子いらねえな、

使うのは俺だが、

まあ機会があれば貸してやろう。

 

俺はヴォイドを戻しそそくさと退散するのであった。

 

 

-------------------------------

 

俺はベッドに横たわっていた。

 

確か俺のテストはD-14に基づいた模擬戦だと聞いた。だとすれば間違いなく相手になるのは篠宮の操縦するシュタイナーだろう。奴の操縦するエンドレイヴは間近で見た。並大抵のやつでは足元にも及ばないだろう。何せ旧型で18分間持ち堪えるという無茶な任務すら遂行した女だ。

 

隔離施設では八尋が来なければ逃げるくらいしか手段は取れなかった。それではまだまだ未熟だ。明日以降は対策を練っていかなきゃダメかな。

 

 

⋯ダメだ。考え事を始めると眠れなくなってくる。少しそこらへんを散歩してくるか。

 

 

 

そんなことを思い立った集はベッドから起き上がると、ビデオカメラを持って部屋を出るのであった。

 

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こんな風に六本木を歩いたのはあの日以来だっけ。

 

集はそのような思考を張り巡らせながら、かつてふゅーねるを奪おうとした荒くれ者と闘い、そしてトリトンとの再会を果たした場所を歩いていた。辺りに人気はない。

 

 

かつてここはテレビ局だったらしいが今では見る影もないほどに廃れている。確かエウテルペのPVを見ながら颯太のやつはあの映像に対抗しようとしてたな。ここら辺の動画を上手く弄ればいけるかもわからないな。

 

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数日後、ついにテストの日が来た。空白の時間についてはまたきっかけがあれは語ることにしよう。

 

カチャ

 

集「ん?」

 

俺が部屋を出ると違和を感じる。何故ならいつもはそこにいないピンク髪がいたからだ。

 

集「何の用だ、楪。」

 

まだ午前3時だ。普通なら寝てる時間だ。

 

いのり「し⋯集と最近話してなかったから、今日テストだし⋯それで⋯ね?」

 

そういやまともに会ったのは自宅帰りの時だけだっけ?後は自室でパソコンいじってるかトレーニング、後は月島を始めとしたいろんな奴らを鍛え上げてたんだよな。あれ?これもう俺テストしないで葬儀社メンバーで良くね?

そんなことはともかく、

 

集「ね?って言われても分かりません。」

 

ホントに分かりません。

 

いのり「だから⋯頑張ってね、」

 

目を逸らして頬を赤らめとる、

慣れないことをするものではありません。

 

集「安心しろ、絶対勝つからよ。」

 

こっちをあからさまに見ない楪の頭をワシャワシャする。

 

いのり「もう、髪型が崩れる⋯」

 

ジト目になった。こいつ思いの外まともに喋れるのな、

天使と同等くらいか

いや、天使は篠宮か。声的な意味で、

 

タッタッタッ…

 

梟「桜満さーん!」

 

梟きゅん…ゴホンゴホン、梟君が笑顔でこちらに走ってくる。

 

集「どうしたんだ?梟、」

 

今日は客が多いな。

 

梟「今日のテスト、僕は見れませんから挨拶に来たんですよ。」

 

そうか、そういや任務行くんだったっけ?

 

梟「頑張ってくださいね!」

 

うん、お兄さん絶対勝ってくる。

 

集「当たり前だ!俺頑張るからなぁ!」

 

梟君の頭をワシャワシャする。

 

梟「それでは、さよなら!」

 

集「じゃあなー!」

 

手を振りながら向こうへ行ってしまう梟君に手を振った。

 

いのり「集⋯」

 

集「いや、いのりさん。そんな不機嫌そうにしないでください。」

 

インターフェースはわけわからん。

 

 

 

-------------------------------

 

アルゴ「集!やっちまえ!これで晴れて葬儀社の一員だからな!」

 

競技場の端から叫んでくる。俺やっぱり一員じゃなかったんだ⋯

 

綾瀬「集、どういうつもりよ。」

 

明らかに不機嫌そうに尋ねてきた。

 

集「どうって?」

 

綾瀬「あんたね!何で午前4時にテストしなきゃならないのよ!」

 

実は無理言って時間を早めて貰った。それも相当。勿論意味なくそんなことしたんじゃないぞ。

 

集「梟君のためだ。少しばかり付き合え、」

 

 

 

綾瀬「うっ、」

 

集のいつもとは違う鋭い目付きに綾瀬は一瞬戸惑った。だが、

 

集「にしてもこの朝っぱらから多いな。人、」

 

すぐいつもの様子に戻った集を見て、今のは何かの見間違いだったのだろう、と自らに言い聞かせた。

 

綾瀬「あんたのテストだからってみんな気合入ってたのよ。なんなのかしらね、」

 

 

 

集「あいつら全員俺が修行つけてやった奴らか。」

 

「集ー!頑張れよー!」

 

「集さん行けー!」

 

様々な応援が聞こえる。まあ随分と俺の人脈も広くなったもんだ。

 

綾瀬「あんたそんなことしてたの⋯。それもう葬儀社の一員でいいんじゃないかな?」

 

集「お前が言うか。俺が一番疑問に思ってるよ。」

 

大体トリトンのせい。

 

綾瀬「そろそろ気を取り直して行くわよ。これから、模擬戦を始めます。ルーカサイト攻略作戦、シナリオD-14を下敷きに、あんたが単身エンドレイヴと対峙しなければならなくなった場合の想定よ。シュタイナーを抜いて、私の後ろにある車両に駆け込めたらあんたの勝ち。ペイント弾でも当たれば気絶くらいするわ。集中して。良いわね?」

 

その言葉はいつもの篠宮とは違った硬い表現ではありながらも、確かに彼女の覇気が見受けられた。こいつ、本気で俺に勝つつもりらしい。面白い。

 

集「分かったぜ。」

 

俺は口角を上げ、そう答えた。

 

 

 

 

大雲「確かにあいつは凄いやつだ。しかし流石に無理があるんじゃないか?」

 

大雲はアルゴに尋ねた。

 

アルゴ「俺もそう思っただろうな。あいつと対峙してなければ、」

 

大雲「どういうことだ?」

 

アルゴ「あいつは強い。俺やお前、いや、涯すら遠く及ばねえ。集ならきっとやり遂げてみせるさ。」

 

数日前、自分のライフルをいとも簡単に操って見せた集を思い浮かべる。アルゴの言うことも満更ではないと思った大雲だった。

 

 

 

ツグミ「綾ねえ、接続よろしい?」

 

綾瀬「やって、」

 

その一言でシュタイナーが動き出す。

 

ツグミ「それじゃあレディー…」

 

ふゅーねるからツグミの声が流れる。

 

ツグミ「GO!」

 

その声でついに模擬戦が始まった。

 

集「フン」

 

右足でバックステップしながらシュタイナーとの距離を取る。一気に抜いて行くのもいいがそれでは実戦では状況を悪化させかねない。論外だ。

 

装備はこのマシンガン型のペイント銃一つだけだ。こんなものエンドレイヴに対しては役に立たない。正攻法で勝つのは無理だ。だとすれば、

 

綾瀬「いきなり逃げ腰?みっともないわよ!」

 

ペイント弾をぶっ放しながらこちらへと接近してくる。

 

俺はそれを全てかわした後、左の柱の陰へと隠れる。

 

綾瀬「えっ⁉︎」

 

ワーッ!

 

綾瀬の戸惑いを尻目に、会場では大きな歓声が上がる。

 

「集さんあれをかわした!」

「すげーぞ集!」

 

アルゴ「なっ!言ったろ!」

 

大雲「なるほど、」

 

アルゴの言っていることに確信が持てた。

 

綾瀬「隠れても無駄よ!」

 

シュタイナーは集の隠れた柱へと駆け寄っていく。

 

綾瀬「っ⁉︎」

 

しかしそこに集の姿はない。

 

集「後ろだ。」

 

既に集はシュタイナーの背後、それも既に跳躍した後であった。

その声にシュタイナーが振り向く前に、痛覚部分へ一発、右ストレートを入れた。

 

綾瀬「きゃあっ⁉︎」

 

痛みが綾瀬へと伝わる。エンドレイヴだから女を殴ったことにならないだろうと、集は言い聞かせる。

 

スタッ

 

集はシュタイナーの上から飛び降りた。

 

綾瀬「どうやったのよ今の。」

 

集「簡単だ。お前に対して常に柱の反対側にいればお前からは見えない。」

 

綾瀬「なるほどねっ!」

 

そう言いながら綾瀬は至近距離から集を狙撃する。この距離からの不意打ちなら決まった。そう思った。

 

集「甘い⋯」

 

綾瀬「⁉︎」

 

ペイント弾は空中で破裂した。否、集の撃ったペイント弾によって破壊されたのだ。

 

 

いのり「凄い⋯」

 

その光景を上から見ていたいのりは思わず呟く。手に持っている空き缶には、五発の弾に撃ち抜かれた穴があった。

 

 

 

綾瀬「これなら!」

 

そう言ってペイント弾を連発する。

 

集「だから甘いっつってんだろ。」

 

全てを集は打ち抜いた。

 

ワーッ!

 

会場のボルテージは頂点へと達している。

 

“いくらお前のナイフが速かろうが銃弾のそれに勝ることはないだろ?”

 

アルゴ「なるほどな⋯」

 

いつか集に言われた言葉の意味がわかった。

 

 

パパパパパンッ!

 

集は弾を撃ちぬきながら後ろへと下がっていく。そして突如

 

ズザッ!

 

集は向かいの柱へと走り出した。

 

綾瀬「また同じ手を使うつもりなの⁉︎」

 

シュタイナーは集を追いかけた。

 

あと数メートルでシュタイナーの手が集に届くと思われた時、集は柱を蹴り空中へと跳んだ。

 

綾瀬「ええっ⁉︎」

 

集は空中で一回転するとシュタイナーの頭上から垂直に蹴った。

 

集「うりゃあ!」

 

綾瀬「いたぁっ!」

 

お互いの声が鳴り響いた。

 

集「今だ!」

 

集はすぐさま飛び降りると、車両へと駆け出した。

 

綾瀬は占めたと思った。

 

確かに集の足は速い。しかしそれでもシュタイナーのそれには遠く及ばない。車両までの距離はまだまだある。それに集は今、自分に対し背中を見せた状態なのだ。勝てる、と。そう確信した。

 

綾瀬「背を向けるの⁉︎」

 

アルゴ「不味い!」

 

アルゴは危険を察知した。集はシュタイナーを見ていないこのままではペイント弾が当たってしまう。

 

パパパパパンッ!

 

シュタイナーがペイント弾を撃った。綾瀬は勝利を確信した。

 

だが、

 

綾瀬「えっ!」

 

戸惑い、

 

なんと集はその場に立ち止まり、そして背を向けた状態で全ての弾を避けたのだった。

 

 

アルゴ「何だと⋯」

 

こればかりは歓声ではなくどよめきが起きる。

 

綾瀬「っ⁉︎でもこれで終わりよ!」

 

シュタイナーは集へと接近する。万事休すかと誰しもが思った。ただ一人を除いて、

 

集「終わりはお前だよ⋯」

 

ライフルをその場に捨てる、そしてシュタイナーの手の部分を両手で掴んだ。

 

集「うおおぉぉぉぉぉあああ!」

 

綾瀬「えっ⁉︎」

 

シュタイナーが空中へ浮く。そしてそのままシュタイナーの腕を中心に転がり、ひっくり返った。

 

集「油断大敵⋯だな。」

 

集はゆっくりと歩いて車両へと入っていった。

 

一瞬の沈黙。

 

アルゴ「⋯や⋯やったぜ!」パチパチ

 

その沈黙を破ったのはアルゴの拍手だった。それをきっかけに各所から拍手、そして歓声が上がった。

 

ウォォォォォ!

 

「ホントにやりやがったぜ集さん!」

「エンドレイヴ投げたぞ⁉︎半端ネェ!」

 

様々な声が蔓延った。

 

 

-------------------------------

 

車両から出てきた俺を弟子たちが迎えてくれた。っていうかこいつらもう弟子でいいよな?

 

アルゴ「でもよ、集。いろいろ分かんねえところがあんだよ。」

 

周りの奴らも同じ意見を持っているようだ。仕方ない説明してやろう。

 

集「具体的には?」

 

アルゴ「主に二つだ。途中でノールックで弾を避けたじゃねえか。そもそも避けること自体おかしいがそこは集だからってことにしてもよぉ。」

 

避けること自体は黙認してくれるのが助かる。

 

集「それは音と空気の流れだ。」

 

アルゴ「は?」

 

集「つまり銃声で撃たれた場所の距離を図って空気の流れで弾の位置を把握する。後は避ける。それだけだ、」

 

素人にはまず無理だが、

 

アルゴ「それだけって⋯怪物かよお前、」

 

集「その怪物に勝とうとしてたのは誰だよ。」

 

アルゴ「うるせぇ」

 

笑いながら言った。

 

アルゴ「あともう一つ、最後エンドレイヴ投げただろ?あれはどうやったんだ?」

 

綾瀬「私も聞きたいわよ。」

 

腑に落ちない様子で車椅子を漕ぎながらこちらに来た。

 

集「あれは投げたというよりは引っ掛けた、という表現の方が正しいな。」

 

アルゴ「引っ掛けた?」

 

集「ああ、俺に接近してきたシュタイナーのスピードは相当の速さだっただろ?そんな速いスピードで走ってる時に腕を固定されたらどうなる?」

 

アルゴ「⋯⋯コケるな、」

 

集「そうだよ。つまりそういうことだ。無論、それには手を掴むほどの動体視力と握力が必要だがな。」

 

アルゴ「⋯何か役に立つかと思ったが全く役に立たなそうだな⋯⋯」

 

これを実践できそうなやつなんて他に一人くらいしか思い浮かばないしな。

 

綾瀬「全く、ホンット呆れた!次があったら今度こそギャフンと言わせてあげるんだからねっ!」

 

集「へいへい、楽しみにしてます。」

 

時間を確認する。そろそろ出るか。

 

集「篠宮、悪いが一つ頼みがある。」

 

綾瀬「え?」

 

 

 

-------------------------------

 

綾瀬「行くのね、集。」

 

集「ああ、もともとこのためにこんな早い時間にテストしてもらったんだからな。」

 

アルゴ「気を付けろよ?」

 

集「問題ねえよ」

 

笑いながら言った。

 

いのり「行ってらっしゃい、」

 

微笑みながらいのりは手を振った。

 

集「ああ、行ってくる!」

 

集は戦闘服のまま、アジトの外へと駆け出していったのだった。

 

 

 




集の人外度が増してしまった気がする。後悔はしてない。

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#7檻 leukocytes

三ヶ月以上ですか⋯
何故こんなことに⋯
さすがにこれは最長だと思います。これからも⋯
多分⋯

p.s.
前回は原作だと綾瀬がメインヒロインみたいでしたね。


ツグミ「大変よ!皆!」

 

集が出て行ってから数分たった。

上からツグミが呼びかける。

 

大雲「どうしましたか?」

 

アルゴ「どうした?」

 

そこにいた者たちがツグミの様子に戸惑いを見せた。

 

ツグミ「ルーカサイトが今、ポイントデルタ付近に発射されたわ!どうにか沖の方に外れたけどこのままじゃ!」

 

「ええっ!」

 

ザワザワ

 

辺りがざわつき始める。それは決して涯達が狙われていることに対してではない。

 

四分儀「集、一体あなたはどこまで見越して⋯」

 

四分儀は誰にも聞こえないほどの声でそう呟いた。

 

集が急いで出て行ったタイミングでのルーカサイトの発射。これらは決して偶然ではないと思う者は少なくない。それに、

 

綾瀬「⋯ルーカサイトって、外れることあるの?」

 

綾瀬が訝しげに呟く。そう、既に集は行動を始めているのではないか、そんな予感すらしていた。

 

ツグミ「あれ、集は⁉︎」

 

緊迫した中で、ツグミは集の不在に気付いた。

 

アルゴ「安心しろ。さっき涯のところへ向かった!」

 

アルゴは親指を立てる。集がポイントデルタへと向かって行ったという確信が、彼らには既にあったのだった。

 

 

-------------------------------

 

茎道「⋯何故だ、」

 

ディスプレイを見ながら怪訝な顔で言った。

 

「外部からの操作によりルーカサイトが制御不能です!」

 

ルーカサイトはあろうことかポイントデルタから遠く離れた沖へと発射されていた。

 

茎道「一体どういう⋯」

 

いずれ日本を完全に支配できるであろう秘密兵器、それが制御不能となればこちらの強力な手札が無くなることと同意。困惑と焦りが茎道の中で渦巻いているのであった。

 

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涯「なんだあれは⋯」

 

沖の方へとルーカサイトと思わしきものが発射され、大爆発が起こる状況が見えた。無論、異常事態であることは涯達にもすぐに分かった。

 

OAUの者達の間でも不穏な空気が流れる。

 

梟「⋯⁉︎あれは!」

 

上空から何ががこちらへと向かってきた。猛スピードで接近してくるそれは、突如叫んだ。

 

集『御機嫌よう!OAUの諸君!』

 

集が英語で話しながら両手を広げる。足には綾瀬のヴォイドがはめてあった。

 

梟「集さん!」

 

涯「集!」

 

葬儀社の者達は集の登場に驚きを隠せない。

 

涯「一体どういう事だ!」

 

集「説明は後だ、さっさと受け取るもん受け取ってずらかるぞ!」

 

ビューン

 

そう言い残し、集は再び沖へと飛んで行った。しばらくすると、またそちらへとルーカサイトが発射されたのだった。

 

 

 

-------------------------------

 

一仕事終えた俺は、トリトン達と帰っている途中だった。

 

涯「で、なぜお前がここにいる。」

 

こちらへと鋭い眼差しを向けてきた。そう怖い顔するなって。

 

集「そうだな、テスト後の事だ、」

 

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集「篠宮、悪いが一つ頼みがある。」

 

綾瀬「え?」

 

集「ちょっとお前のヴォイド貸してくれ、」

 

言うと同時に綾瀬の右手を取る。

 

綾瀬「ちょっ、ちょっと待ってよ!」

 

突然手を取られ顔が紅潮する。

そんなことは御構い無しに集はヴォイドを引き抜いた。

 

綾瀬「うっ⋯ああっ⁉︎」

 

苦しそうに喘ぐ。

 

集「そう、これだよ!」

 

エアスケーターを持ちながら愉快な様子で集が言った。

 

いのり「いつ、知ったの?」

 

いのりが横から疑問をぶつけた。

 

集「痛いところ突いてきたな⋯。普通に手を取らずにヴォイド引き抜いて知った。ほら、篠宮。廊下で一回気を失った覚えはないか?」

 

ヴォイド引き抜き大会(参加者一人)をして遊んでいたことは集だけの秘密だ。

 

綾瀬「そういえばあの時⋯⋯、ってあんた!気を失ってる間に変なことしてないでしょうねぇ⁉︎」

 

集「確かにデカイ方が好みだが断じて何もしていないぞ⁉︎あの格好は理性保つの大変だったけれども!」

 

露出の高かった綾瀬の様子が思い出される。

 

綾瀬「不安要素あり過ぎよ!」

 

いのり「大きい方が好みなのね⋯」

 

などとしばらくややこしいことにもなった。

 

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集「ってことがあってさ。」

 

全く、篠宮の奴もなかなか酷いな。気を失った女に悪戯するほど俺は溜め込んでなどいない。もっと言えば気を失ってなくても何もしない。

 

涯「随分と好き勝手やってくれてるな⋯」

 

集「あとはアンチボディズの方の通信を盗聴してたらさ、今日ポイントデルタにルーカサイト撃ち込むとか聞いたんだよ。だから急遽テストを前倒しにして助けに来たってわけよ。」

 

ちなみにこれまでのことは全て梟君のためである。

 

涯「平気で盗聴とか言ってくれるな⋯。だがどうやってルーカサイトの弾道をずらしたんだ?」

 

集「これだよ、」

 

俺はスタイリッシュにペン回しをしながら嘘界さんから貰ったペン型のルーカサイト発射装置(named by 俺)を見せた。自分でスタイリッシュ言っちゃったよ。

 

集「隔離施設で見せたことあるだろ?青青赤の順に押すとルーカサイトに発信されて、発射することが可能ってわけよ。」

 

涯「まさかそれを沖で起動して?」

 

集「飛び回ってたわけだ。」

 

涯「はぁ⋯」

 

額に手を当て呆れた様子だ。

 

涯「そこまで滅茶苦茶なことをするとはな⋯」

 

梟「凄いです!集さん!」

 

集「そう褒めるなって、」

 

涯「ドヤるな、」

 

こんな素直に褒められたらニヤついても仕方ないだろ⁉︎

だが今はこんな無駄な事をしてる場合では無い。

 

集「恙神、」

 

涯「何だ、」

 

俺は声のトーンを下げトリトンに呼び掛けた。

真剣であることが伝わったのかトリトンの目つきも真剣な物に変わる。

 

集「ルーカサイト攻略は今すぐにでも始めるべきだと俺は思う。はっきり言ってこのままではこちらが危ない。」

 

既に一度狙われたんだ。このままでは日本国内では落ち落ち眠ることもできないんじゃないか?

 

涯「ああ、俺もそう思っていたところだ。」

 

集「そうか。なら良かった。すぐにでも月ヶ瀬ダムに向かうぞー!」

 

梟「おー!」

 

こうして俺たちのルーカサイト攻略が始まったのである。

 

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四分儀「涯、よろしいですか?」

 

涯「ああ、」

 

四分儀君がトリトンに尋ねる。場所はコントロール施設近辺の臨時作戦室、トリトンが前に立ち、作戦の説明を始めた。

 

涯「揃ったようだな。今回の作戦目標は月ヶ瀬ダムの底、ルーカサイトのコントロール施設だ。俺たちはその最深部へ潜入し、コントロールコア停止させる。」

 

アルゴ「ぶっ壊すんすか?」

 

月島、今俺はお前に心底呆れたぞ。

 

集「お前アホなのか?月島。」

 

アルゴ「は?」

 

集「ルーカサイトのコントロールコアは物理刺激受けたら自閉モードに切り替わるんだよ。そしたらもう外部からの操作を一切受け付けなくなる。だから停止信号を送るには、コントロールコアに触れずに操作するしかない。」

 

辺りがざわつき始める。

 

アルゴ「マジかよ⁉︎じゃあ集、どうすりゃいいんだ?」

 

集「だからあの犯罪者を連れてきたんだろ?」

 

俺は城戸を指差して言い放った。

 

城戸「犯罪者って⋯」

 

集「奴の重力制御のヴォイドで俺が操作するって事。それが今回の作戦だろ?」

 

操作はトリトンに任すつもりだけど。

 

アルゴ「そういうことか!」

 

「なるほどー!」

 

辺りの奴らが納得し始めた。

 

涯「⋯ああ、今集が言ったことがこの作戦の概要だ。というかなぜそこまで詳しい⋯⋯、」

 

一般に知ることのできる情報ではないのは確かだがそれを聞くのは野暮だろ。

 

集「ただ恙神、提案がある。」

 

一つだけ気がかりな点があった。

 

涯「何だ、」

 

集「作戦実行時間は早めろ。日没よりも前だ。」

 

涯「何故だ?」

 

集「もうバレてるからだ。」

 

再び周りはざわつき始めた。

 

涯「一体どこの情報だ。」

 

俺は自らの額を指差して言った。

 

集「勘、かな?」

 

あくまで勘の域を出ないことは確かだが、あのおっさんなら読んでる可能性だって十分あるからな。

 

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茎道はあと四時間で三つ目のルーカサイトが軌道に乗る旨を、嘘界にモニターを介し伝えた。

 

嘘界「では残念ながら間に合いませんね。葬儀社の攻撃は2時間17分後です。」

 

茎道「それは独自の情報源かね。」

 

唐突の発言に怪訝な様子を見せる。

 

嘘界「ただの勘、と言うより、希望ですかね。」

 

相変わらずの不敵な笑みはそのままに、嘘界は言った。

 

茎道「今回ばかりは、君の読みが外れることを願うよ。嘘界君。」

 

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ローワン「2時間17分後?」

 

ダリル「日没の時間では?」

 

ローワン「そ、そうか。奴らは日没の時間に来る。」

 

エンドレイヴのコントロール施設で、ローワンとダリルが話す。

 

ローワン「退院後初の復帰戦になるが⋯ん?」

 

大尉、アンドレイ・ローワンはダリルの異変に気付くいた。

 

ダリル「桜満集、お前だけは絶対に許さない。僕の顔に傷をつけるなんて。泣いて謝ったって撃ち続けてやる。」

 

かつて六本木でダリルは集に殴られたことがある。後に集の正体を知ったダリルは、ひたすら集を恨み続けるのであった。それはローワンの声が届かぬ程に、

 

 

 

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降りしきる雨の中、俺は木陰でペン回しをしながらボーッとしていた。

学校の奴らはどうしてるかなぁ、

祭は俺のこと心配してないかなぁ、

思うことはいろいろあるが今は目の前のことに集中しなければならない。ただ早く日常に戻りたい。葬儀社での生活も快適ではあるけれども。

 

 

いのり「集、」

 

集「なんだ?」

 

楪が話しかけてきた。振り返って返事をした俺に楪は続けた。

 

楪「お願い、涯を助けて。」

 

 

 

 

 

 

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楪によればトレーラーの中にトリトンがいるらしい。でも何故⋯

 

俺は入り、トリトンから見えない位置に腰掛ける。

 

涯「俺は怖いんだ⋯」

 

トリトンは話し始めた。俺のことを楪と勘違いして話しているらしい。

 

涯「俺は10年前のあの日から、憧れだった集に近づくために強くなろうとした。」

 

淡々と一人で話し続ける。しかしそこには、『恙神 涯』と思えるような覇気が無かった。

 

涯「しかしあいつは俺を遥かに上回る強さになって目の前に現れた。今日だってあいつが居なければ、今頃⋯」

 

恐らくルーカサイトに撃たれたことを話しているのだろう。しかしそのような仮定の話をしても仕方がない。

 

涯「俺は…『恙神涯』とはあいつらに報いるほどの存在なのか?正直俺は…リーダーの顔をしているだけで手一杯だった。本当は集こそが、葬儀社を導いていくべきではないのか⁉︎俺は……」

 

シャーッ!

 

これ以上聞いていられなくなった俺はカーテンを思い切り開けた。俺の姿に一瞬トリトンは戸惑うも、すぐに何かを悟ったのか、力が抜けたかのようにうな垂れた。

 

涯「盗み聞きとは良い趣味をしているな。どうだ?失望したか?」

 

不敵な笑みを浮かべ尋ねてくる。一応GHQを盗聴したり葬儀社をハッキングしたりしてるのだから、それ系の趣味はあるのかもしれねえが、

 

集「いや、所詮そんなもんだろうと思った。」

 

涯「⋯。」

 

俺は顔色を変えずに吐き捨てる。これにはトリトンも面白くなさそうな反応を見せるが、俺は続ける。

 

集「俺は『恙神涯』という人間がそこまで大した人間だとは思っていない。所詮その程度かってくらいの認識でしかねえよ。お前みたいな奴が上にいるようじゃ、葬儀社も、そこにいる奴らもたかが知れてるだろうしな。」

 

集は毒を吐きながら苦笑した。

 

ガタッ

 

涯「集!黙って聞いてれば!」

 

唐突に立ち上がった涯は右手に握られた拳で集の顔面に重い一撃を入れた。

 

沈黙が訪れる。

 

涯「…っ⁉︎」

 

戸惑いを隠しきれぬ様子で涯は拳を引っ込める。柄にもなく感情を抑えきれずに行動してしまったこと、そして何より、

 

涯(全く手応えが無い⁉︎)

 

集「どうだ?気は済んだか?」

 

変わらぬ様子で真顔で尋ねてくる。

 

涯「⋯。」

 

腑に落ちない様子を涯は見せる。これは八つ当たりであることを理解できない涯ではない。しかし集に対する劣等感、そして集を超えることのできない自らへの怒りは、完全にやり場を無くしているのだ。

 

険しい顔をした涯に、言うことなど無いと判断した集は外へと向かい歩いていく。

 

集「くだらねえ事考えてねえで今日の作戦に集中しろ!」

 

捨て台詞を吐いた集はそそくさとトレーラーから出て行ってしまった。

 

いのり「集!」

 

涯を慰める、そのような意図で集を送り込んだいのりは、集の辛辣な言葉に戸惑っていた。

 

いのり「集、どうしてあんな事を…」

 

歩いていく集に追いついたいのりは問う。

 

集「こんな時にくだらねえ事で落ち込んでる奴になんて言えばいいんだよ?それも俺に嫉妬してる奴に、」

 

いのり「…っ⁉︎」

 

振り返った集が見せたどこまでも冷徹な目つきに、いのりは思わず身じろぎする。

 

集「気休めを言ってやりたいならお前がやれ。俺はそこまで甘くは無い。」

 

雨の中、かつての自分よりも無機物らしい言い方をされたいのりは立ち止まり、ただ茫然としていた。

 

 

厚い雲に覆われた空は、この雨が止まぬものだと示唆しているかのようにも思われた。

 

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四分儀「時間です。」

 

通信機より、四分儀からの合図が出される。

 

日没より30分前

作戦が開始される。警戒体制を取っていたGHQであったが、予想より早く乗り込んできた葬儀社に混乱が生じる。

 

茎道「どういう事だね嘘界君。君の勘よりも早く来たようだが、」

 

機嫌の悪そうな様子でモニターに映し出された茎道が言う。

 

嘘界「申し訳ありませんね。あちらにも私並み、いや、それ以上の切れ者がいた事を忘れていました。」

 

悪びれた様子を全く見せず、いつもの笑みは浮かべたまま言った。

 

「嘘界少佐!」

 

しかし外では戦闘が始まっている。そう悠長に話している場合ではなかった。

 

嘘界「おっと、それでは失礼します。」

 

茎道の返答を待たずに、嘘界は通信を切った。

 

嘘界「エンドレイヴを出してください。」

 

焦燥している隊員に対し、嘘界はそう指示した。

 

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月ヶ瀬ダム内部

集、いのり、涯、研二の四人はコアまで向かっていた。一応皆が武器を持っていたが、今のところ集のハンドガンしか使われていない。

それもそうだ。ここまで集が相手の銃を撃ち抜き、打撃で気絶させるか自身のヴォイドで意識を奪うかしかしていないのだから。

 

研二「驚いた、ここまで誰も殺さないで行くなんてね。凄いよ、桜満集君。でも早く慣れなよ。人殺しに。」

 

集「別にもう何人も殺してきてるさ。いずれお前も殺してやるから楽しみにしときな。⋯⋯うりゃあ!」

 

集は扉に蹴りを入れた。するとそこら一面が吹っ飛び道が開けたのだった。

 

研二「この手榴弾も無駄か。にしても扱い酷くない?殺人予告されたんだけど。」

 

集「当たり前だ。スカイツリーを爆破した罪は重い。」

 

全く、俺がどれほどあそこが好きだったか。おしなりくんも泣いとるぞ。ソラカラ、お前みたいなでこぼこフレンズは認めん。例えお前が公式だろうと俺は認めん。船橋市非公認もあそこまで活躍するわけだしな。

 

研二「あれにそこまで執着してるなんてね。」

 

いのり「集、人を殺したって…」

 

集「ああ、何人⋯いや、何百人も殺したかな。もう10年ほど前にはなるが。」

 

思わず全てが始まったあの日の、教会での惨状がフラッシュバックする。狂い、叫びながらキャンサーに侵されていった姉のことも。

 

いのり「集?集っ!」

 

集「えっ、」

 

楪の呼びかけに反応が遅れる。どうやら柄にもなくボーッとしてしまっていたらしい。

 

集「悪い、少し考え事をしていた。コアはこの奥だろ?行くぞ!」

 

足を踏み入れようとした刹那、集は左からの気配を感じる。

 

パヒューンッ!

 

二人の兵は四人に向け発砲した。その弾たちは四人の心臓部を貫くはずだった。だが、

 

カキーンッ

 

金属のぶつかる音がした。

 

集「危ねえな。まさか俺の神の左腕<ディバイン・レフト>を出すときが来るとはな。」

 

涯「お前はお兄様かよ、」

 

トリトンよ、久々に口を開いたと思ったらそれか。とりあえずネタを拾ってくれたことには感謝する。

 

俺は急いで敵二人の銃を撃ち抜く。

 

「何っ⁉︎」

 

銃が手元から離れ、動揺した隙に俺は一気に距離を詰め二人の鳩尾に一撃をかました。

 

「グフッ!」

 

ドサッ

 

しかしどうやらどんどん来るようだな。

 

いのり「ここは私が、」

 

集「俺もここに残る。」

 

涯「ダメだ。それでは!」

 

集「コアの操作はお前がやれ。お前にだって王の右腕があるんだろ?」

 

涯「ああ、だがしかし…」

 

集「ずっと俺の力に頼ってていいのか?」

 

涯「⋯。」

 

俺の問いに答えあぐねている。

 

兵と闘いながらなんだ。早くしてくれ。

 

涯「…来い。研二、」

 

研二「⋯はいはい。じゃあせいぜい頑張ってくれよ。」

 

二人はコアへと向かって行った。

 

集「さて、始めるか!」

 

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研二が横たわっている中、涯は一人コアルームに立っていた。

 

そうだ。俺は集に頼り過ぎていた。俺の力でこの作戦を成功させる。それこそが『恙神涯』に期待を寄せるあいつらに報いる術なんだ。

 

涯「ふゅーねる、頼むぞ。」

 

コアの回転が止まると同時にふゅーねるが停止信号を書き込む算段となっている。先程研二から引き抜いたヴォイドを、コアの真ん中へと撃つ。

 

 

 

コアの回転が止まる。その直後ふゅーねるは停止信号を書き込み始めた。やったか⁉︎

 

バババババーンッ!

 

後ろからの銃声

振り向くとそこにはゴーチェが立っていた。

こんな時にっ…!

 

ダリル「何だ、恙神涯か。どうでもいいや。」

 

涯「ダリルか…」

 

不味い。ここには手の離せない俺と気を失った研二、そしてふゅーねるしかいない。一体どうすれば…

 

集「やあダリル。久しぶりではないか!」

 

場に合わないトーンの声で聞き覚えのある声がする。悔しいがその存在に安堵した。

 

ダリル「どこだ!どこにいる⁉︎」

 

ゴーチェがあちこちを見渡す。しかし声の主がダリルには見えない。

 

集「上だよ、上」

 

ダリル「何っ!」

 

集はいつ上ったのかゴーチェの上に立っていた。

 

集「うりゃ!」

 

ダリル「ぐっ⁉︎」

 

集がゴーチェを思い切り踏みつける。痛みがダリルに伝わり声を上げた。

 

スタッ

 

集はゴーチェから飛び降りてコアとの間に立つ。

 

涯「集!あっちはどうした!」

 

集「もう全て片付けた。トリトンはそのままコアの方をよろしく頼む!」

 

全く、驚きを通り越して呆れた。こいつはどれだけ仕事が早いんだ。

 

ダリル「桜満集!探したぞ!さっきはよくも!」

 

さっき?集はずっと俺と共に行動してたはずだが、

 

集「さっき?ああ、そうか。」

 

集は何かを悟った様子だ。

 

ダリル「殺す!生きたまま存分に苦しめてから殺してやる!僕の顔に傷つけた報いをっ!」

 

集「顔?ああ。ギロッポンでぶん殴ったのをまだ根に持ってんのかよ。しつこい男は嫌われるぞ?」

 

エンドレイヴ、それもダリルが操縦するものを目の前に全く動じる様子を見せない。

 

ダリル「黙れ⋯黙れ黙れ黙れーっ!!」

 

叫びながらダリルは銃を集へと乱射する。

 

集「無駄が多すぎる、」

 

呆れた様子を見せながら全て避けつつゴーチェへと走り込んで行く。

 

ダリル「グハッ!」

 

その勢いのままゴーチェへと飛び蹴りを食らわせた。

 

吹っ飛ばされたゴーチェは後ろの床に倒れる。

 

集「おいおい、そんなもんか?」

 

さらに挑発をかける。

 

ダリル「クソっ!クソがああっ!」

 

再び銃を乱射しながら、今度は集へと突っ込んでいった。

 

集「これ以上しても無駄か。」

 

諦めたように集はスライディングでゴーチェの股下を抜け、後ろへと回り込んだ。

 

集「やめにしよう。」

 

ゴーチェの上に飛び乗ると同時にハンドガンを右手で抜き取る。

 

ダリル「何だ⁉︎」

 

そのまま集は銃を撃ち始めた。

 

ダリル「グッ!」

 

苦しそうに声を上げる。

 

ダリル「このクソがああっ!!」

 

宛先不明の弾が乱射される。しかしその弾のいくつかがコアへと命中してしまった。

 

銃声が止まる。ダリルがベイルアウトした事が分かった集はゴーチェから飛び降りた。

 

集「ふぅ…終わったか、」

 

涯「おい集、不味い事になったぞ。」

 

 

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ダリルとの激闘(笑)を終えた俺はトリトンの元へと向かう。ちなみに俺に追いつけなかった楪は置いてきた。足手まといだ。

 

涯「おい集、不味い事になったぞ。」

 

集「え?どうかしたか?」

 

ツグミ『大変よ!涯!ルーカサイト1の様子がおかしいの!このままでは、ルーカサイト1は質量のほとんどを保持したまま東京に落ちるわ!』

 

猫耳が通信機で焦った様子で言う。

コアの破損で誤作動を起こしてしまったそうな。

 

集「そうか、」

 

ダリル坊ちゃんよ、また嬉しくもない置き土産をくれたな。

 

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扉を開けようと楪とふゅーねるが悪戦苦闘。その間俺はルーカサイト発射装置でペン回し中だ。

 

涯「それを俺に貸せ。」

 

どうやらトリトンも俺と同じ考えにたどり着いたらしい。だが、

 

集「⋯嫌だね。」

 

涯「どうしてだ!」

 

この緊急事態、俺の我儘に声を荒らげる。

 

嘘界「気付かれていましたか。散々それを悪用した挙句、未だに持っているとは。しかし、今はありがたい。」

 

コツコツと後ろから嘘界のおっさんが歩いてくる。

 

集「よっ、嘘界のおっさん。」

 

涯「貴様が嘘界か?」

 

嘘界「初めまして、恙神涯君。そして久しぶりですね。桜満君。」

 

未だに不気味な笑みは崩さない。あなたもブレない人だ。

 

集「取引しませんか?嘘界さん。」

 

嘘界「何ですか?桜満君。」

 

集「あなたに貰ったこれで衛星をどうにかしますよ。その代わり一連の事件で得た俺に関するデータを全て抹消してください。」

 

涯「いや、それは俺が!」

 

嘘界「それは、あなたが的になるという事じゃないですか?そこまでしてデータを消す必要があるのですかねぇ?」

 

ニヤつきながら尋ねる。

 

集「さぁ?ただ不名誉な情報というものは誰しも隠蔽したいものでしょう?」

 

嘘界「なるほど、」

 

嘘界は、集の言葉に妙に納得した様子を見せた。

 

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このペンと撃つ衛星、そして接近してくる衛星、この三つが一直線上になった時に発信すれば衛星を撃ち落とせるわけだ。しかしそうすると俺も無事では済まないんだよなぁ。

 

そして俺は発電所の屋上へと立った。

 

涯「おい、集!俺がやる!俺よりお前が生き残った方が葬儀社にとっても…」

 

集「なあ、『涯』?」

 

涯「…⁉︎」

 

初めて集から出た『涯』という呼び名。思わずそれを聞き戸惑いを見せる。

 

集「葬儀社を引っ張っていけるのはお前だけだよ。俺はそう思う。」

 

涯「…っ⁉︎」

 

あいつは初めから俺に嫉妬する必要なんてなかったんだ。間違いなく葬儀社を作ったのは俺ではなく恙神涯だ。そして俺にはそんな事はできない。あいつにだって、俺に勝るものはある。

 

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いのり「離して!集!集!」

 

必死に集の方へ行こうと叫ぶいのりを、戦場から抜けてきたアルゴは取り押さえる。

 

アルゴ「悪いな、あいつに頼まれてるんだ。」

 

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集が屋上へと上る数分前、戦っていたアルゴの元に集が来ていた。

 

集「なあ、月島。頼みがある。」

 

アルゴ「何だよ、急に畏まって。」

 

ルーカサイトが接近しているこの状況、アルゴにも緊迫した様子があった。

 

集「俺はこれからルーカサイトを撃ち落とす。そのとき多分、楪の奴は俺を死なせまいと駆け寄ってくると思うんだ。でもそれでは困る。だからあいつを押さえててくれないか?」

 

アルゴ「っ⁉︎⋯おい!死なせまいって、お前。」

 

アルゴは集が自らの身を危険にさらすつもりでいることを悟る。

 

集「気にするな。また元の葬儀社に戻るだけだ。」

 

集は笑みを浮かべながらそう答える。

 

アルゴ「んなわけに行くかよ!だったら俺がやる!」

 

思わず声が荒々しくなった。

 

集「いや、お前には無理だ。だから頼む!」

 

集はアルゴに頭を下げる。

集の覚悟が伝わったのか、思わずアルゴは言葉に詰まった。

 

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アルゴ(クソっ!なんでお前が犠牲になる必要があんだよ!なんなら俺が行くっつうのに!)

 

 

集『おい、発射まで後何秒だ?』

 

ツグミ『後三十秒よ。耐えて!』

 

通信機で話す。

 

集「そうか、じゃあもう少しだけ。」

 

ツグミ『えっ⁉︎』

 

集は両手でハンドガンを持つと、あたりに撃ち始めた。その一弾一弾がGHQの兵の武器を貫いていく。

 

「何っ!」

 

そこらにいた兵士のほとんどが戦闘能力を失った状態となった。

 

ガチャ!

 

ゴーチェが集に銃を向ける。

 

綾瀬「させない!」

 

シュタイナーの撃った弾がゴーチェを貫通する。

 

集「サンキュー、」

 

そうだな。なんだかんだ、葬儀社にいた時間も悪くなかったかもな。

 

ツグミ『今だよっ!』

 

その声を聞いた俺はペンの赤を押した。

 

 

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衛星は見事に撃ち落とされた。しかし、月ヶ瀬ダムへの被害は生半可なものではなかった。

 

綾瀬「集…どうしてこうなったの…?」

 

ツグミ「集…」

 

アルゴ「なんでだよ!なんであいつがこんな目に!」

 

梟「集さん……」

 

そこに居た葬儀社のメンバーは皆、悲しげな表情を見せる。

 

未だに降り続ける雨は、空まで泣いているかのように思わせた。

 

涯「⋯⋯⋯。」

 

涯はただ意味深な様子で、空を見上げていた。

 

いのり「集……集っ!」

 

そしていのりは、集の死を目の前に号哭するだけだった。

 

いのり「どうしてっ、どうしてこんなことするの⁉︎私は⋯私は集のことがっ⋯」

 

「おいおい、そんなに泣くなって。」

 

聞き覚えのある気の抜けた声と共に、いのりの頭にポンと手が置かれた。

 

一人を除いた皆が驚き、声のする方へ振り向く。

 

いのり「⋯集⋯どう⋯⋯して⋯⋯⋯?」

 

喜びと戸惑いとが入り混じった感情が、いのりの中に生まれる。

 

集「ほらこれ、篠宮のヴォイド。俺の力が加われば人の目では視認できないくらい速く動けるんだぜ?」

 

沈黙。急な展開に誰も理解が追いついていなかった。しかし理解し始めると共に辺りはざわつき始め、次第に歓声が上がった。

 

アルゴ「やっぱり生きてたか!そうだと思ってたんだよ!」

 

綾瀬「調子良いわねアンタ⋯。でも本当に良かった⋯」

 

葬儀社のメンバー達は皆、集の生存に安堵した。だが、

 

パーンッ!

 

甲高い音が辺り一面に響き渡る。

楪が集の頰を叩いたのだ。

 

 

 

 

突如頰に走る衝撃、俺は自らの左の頰に手を当てる。

 

集「おい痛えよ、何すんだ…っ⁉︎」

 

楪の顔を見た俺は思わず声を途切らせる。今にも溢れそうなほどの涙を溜めた楪が、こちらを見ていた。

 

いのり「ホントに⋯心配したんだからね⁉︎私、集が死んじゃったと思った時、どうすれば良いかわからなかった。だからもう⋯こんなことしないでよ⋯⋯。」

 

ボロボロと涙をこぼしていく。こんな楪を見たのは初めてだった。

 

いのり「え?」

 

俺は楪の頭に手を乗っけた。

 

集「少し配慮が足りてなかったな。悪い。今度からはもうしないからさ、泣き止んでくれよ。」

 

いのり「⋯⋯うん、」

 

涙をこぼしながらも楪は満面の笑みを見せた。

 

⋯⋯楪に気を取られていた俺は辺りを見回す。メンバー達はポカーンと口を開けている。月島や篠宮はニヤニヤしていた。こっち見るな、

 

いのり「⋯⋯⁉︎」

 

楪が周りの様子に気づいた。

次第に顔が紅潮していくのが分かる。

 

いのり「ぅぅ⋯⋯。その⋯ゴメンね。」

 

そう告げると急いで俺の元から去っていった。なんなんだ、

 

涯「集、少しいいか?」

 

声のする方へと顔を向けると、そこにはトリトンがいた。いろいろ言いたいことはあるのだろう。

 

 

-------------------------------

 

嘘界「死者0⋯ですか⋯。」

 

部下の報告を受け、嘘界は独り言ちた。

あれほどの戦いで犠牲者が0などとは、異例の事態であった。

 

嘘界(桜満君、君はどれくらい私を楽しませてくれるのでしょうかねぇ)

 

いつもの笑みを浮かべたまま、そう思うのであった。

 

 

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涯「俺は、この葬儀社のリーダーに相応しいのだろうか?」

 

あくまで硬い表情は崩さず、淡々と話す。

 

集「まだそんなこと言ってんのかよ。」

 

呆れた様子を見せる。

 

涯「お前だって分かっているだろう?あいつらはお前を必要としている。きっとお前が導く方が…」

 

集「なあ、」

 

涯の言葉を遮るように言った。

 

集「お前は正直俺を買い被りすぎだ。」

 

涯「⋯。」

 

集の言葉を黙って聞く。

 

集「俺がこうしてやってられるのは、あくまで誰の上にも立っていないからだ。正直上に立てば俺はあいつらに仕事を任せないだろう。」

 

涯「何故だ?」

 

怪訝そうな様子を見せる。

 

集「自分しか信用できないからな。それに俺がリーダーになっても信用はされるだろうが、信頼はされないだろうな。」

 

涯「⋯!」

 

涯は目を見開いた。

 

集「葬儀社はお前に魅せられて集まった集団なんだ。お前以外にリーダーは務まらない。それに⋯⋯、」

 

集は涯に近づき、涯の肩に手を置いた。

 

集「お前がいなきゃ、強くなろうともしなかったし、今も高校生として普通に生活してただろうな。」

 

涯「そうか、」

 

“強くなる。” そう言って去っていった幼少期を思い出す。

 

集「お前は俺に無いものを持っているんだ。自信を持て!『恙神涯』!」

 

非常に情けないことだ。力の差に絶望し、嫉妬し、そんな相手に励まされるなんて。しかし、俺は集の強さに憧れてここまで来た。ならばきっと俺は、またこいつを追いかけることになるのだろう。

 

涯「ああ!」

 

そんな奴の言うことなら信じられる。こいつを越えようと思うだけ、無謀だったのかもしれないな。

 

集「おっ!」

 

集は空を見上げる。雨は止み、雲は消えていく。その上には、満天の星空があった。

 

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帰り道のワゴンの中、俺の隣にトリトンは座っていた。

 

涯「なあ集、」

 

集「何だ、トリトン?」

 

涯「その呼び名を変えるつもりは無いんだな。」

 

集「ああ、お前はいつまで経っても俺にとってはトリトンだからな。」

 

涯「フン、そうか。」

 

トリトンの横顔からは笑みが浮かんでいることが分かる。

すると、何かを思い出した様子でこちらに顔を向ける。

 

涯「そういえばダリルが、「さっきは」と言っていたが、あれはどういうことだ?」

 

集「ああ、あれ。」

 

はぐらかしても仕方ないしトリトンには話しておいてもいいかもな。

 

集「猫耳ハッカーのヴォイドあるだろ?」

 

涯「猫耳ってツグミのことか?ってあいつのヴォイドと言えば、」

 

集「御察しの通り、俺の分身があいつのエンドレイヴをぶっ倒したんだろうな。」

 

猫耳には内密にしてもらっている。いちいち分身かどうか他の奴らに疑われても面倒だしな。

 

涯「待て。それどれくらい作ったんだ⁉︎」

 

集「うーん、一隊に一人ずつくらいかな?」

 

涯「また無茶苦茶な。」

 

集「自分しか信用できないって言ったろ?」

 

涯「確かにな。」

 

俺らの顔に笑顔が浮かぶ。

その時ふと大島での日々を思い出した。そして、少しだけあの頃に戻れた、そんな気がするのだった。




感想・アドバイスなどありましたらよろしくお願いします
m(_ _)m


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#8輪舞 temptation

最低月一投稿とはなんだったのか。
もう何も言いません。


早朝、俺は一人で走っていた。この道を走るのは久方ぶりとなる。先日の月ヶ瀬ダムでの一件で、見事に自らのデータを消させることに成功した俺は、再び自宅に戻ることが許されたのであった。

葬儀社での生活も悪くは無かったが、あくまで俺は一介の男子高校生だ。リーダーとの縁があるとはいえ、テロリストとしてやっていくには限界がある。今はただ、あいつが姉貴を救い出すことを信じるだけだ。

 

不意に俺の足が止まる。橋の上から川を眺めている金髪の男。それは紛れもなくトリトンであった。

 

集「こんなところで何してるんだ?トリトン、」

 

特に驚いた様子を見せずに尋ねる。

 

涯「ああ、お前に聞きたいことがあってな。」

 

真剣な面持ちで集の方へ向き、口を開く。

 

涯「月ヶ瀬ダムでの一件、どこまでがお前の想定範囲内だったんだ?」

 

集「どこまでって、どういうことだ?」

 

半笑いで、あくまで涯を試すような口調で言った。

 

涯「ルーカサイトの暴走、それが結果的にお前の求めていた日常を取り戻すきっかけとなった。それが本当に偶然だったのかと疑わしくなってな。暴走の原因となったダリルの乱射も、お前なら抑えられてもおかしくないからな。」

 

涯の言葉を聞いた集は諦めたようにため息をして、こう告げた。

 

集「大したもんだ。ほぼ合ってる。ただ俺だって完璧に全てを想定してはいなかった。まずルーカサイトが暴走したかも分からないし、嘘界さんが要求を飲んでくれるかも分からなかった。つまり狙ってはいたものの幸運にも上手くいったってだけだ。」

 

涯「また無謀なことを、」

 

涯は相変わらず呆れた様子を見せる。

 

集「まあ、そんなわけで俺は晴れて元の生活に戻ることができたわけだ。楪が住み着いてるのは腑に落ちないが。そういうことだから葬儀社の奴らにもよろしく伝えといてくれよ。じゃあな。」

 

涯「おっ、おい!」

 

涯の呼びかけにも応じず、集はさっさと走り去って行った。

 

 

-------------------------------

 

さて、俺といえど久々の学校には緊張する。登校中もちらほらと視線を感じた。俺がGHQに捕まったのは多くの生徒が目にしてるからな。隔離施設での恩があるとしても、八尋の奴には文句の一つでも言っておきたい。次は相討ちなんて結果にもするつもりもない。

 

集「フゥーー⋯、」

 

教室の扉の前で息を吐く俺を楪と、もう一人の女子生徒が黙って見つめていた。

 

ガラガラ

 

教室へゆっくりと入っていく。

 

祭「⋯集!」

 

集「よう、心配かけたな」

 

嬉しそうにこちらに呼びかけてくる祭に答える。

 

周りからは戸惑いの様子も見える。仕方のないことだ。

 

亞里沙「GHQの皆さんは優しかった?」

 

楪と一緒についてきた女子生徒-生徒会長・供奉院亞里沙-が教室に入りながら尋ねてくる。

 

校舎を歩いている途中、嘘の証言をすることで生徒達の俺への疑いを晴らそうと申し出てくれたのだ。具体的にはGHQの落とし物を拾ったことの、事情聴取という名目だ。それにしては時間を取りすぎだが。

以前、黙って生徒会の皆さんのヴォイドを引き抜いたこともあったので少し後ろめたい気持ちもあったが、クラスメートへの言い訳に困っていたところだったのでお言葉に甘えることにしたのだ。

 

「えっ⁉︎」

 

クラスメート達から困惑の声があがる。

 

亞里沙「事情聴取なんて面倒だったでしょうけど、政府は協力しなくてはね?」

 

集「はい、俺の拾った携帯がなんかGHQのものだったとかで、」

 

亞里沙「そう。無責任な噂を流す人間も多いと思うけど、困ったときはこの私が力になr…

 

颯太「集!」

 

割り込むなこのお調子者、

 

颯太「そこに御座すは集じゃないか⁉︎どうだった⁉︎GHQって!尋問とかされたんだろ⁉︎カツ丼でた⁉︎あっ、GHQだからハンバーガーとか⁉︎」

 

寄ってくるな、暑苦しい。

 

集「そんな贅沢なもん出てねえわ。ソフト麺とかいうおいしくねえ奴が出たよ。」

 

贅沢を言うつもりはないがお世辞にもあれが美味いとは言えなかった。

 

「桜満君、私も良い?」

 

眼鏡をかけた女子が話しかけてきた。

 

「軍隊ってやっぱり、ホモばっかりなの?」

 

集「はぁ?」

 

突拍子のない質問に、思わず戸惑う。

 

集「やっぱりってなんだよ。完全に風評被害じゃないか。他と変わらずホモもノンケもまちまちだよ。」

 

「なんだ⋯」

 

おい、何で残念そうなんだ。あんた腐った趣味をお持ちで?

 

「おっかない兵隊とかいた?」

「エンドレイヴとか見た?」

「会長握手して!」

 

ワイワイワイワイと騒ぎ始め、俺と会長はあれよあれよという間に囲まれた。とてもではないが答えきれない。意図的ではないだろうが質問タイムへと上手く切り替えてくれた颯太には、感謝すべきなのかな。

 

亞里沙「取り越し苦労だったみたいね、」

 

集「いえ、会長がいてこそですよ。お陰で助かりました。ありがとうございます。」

 

亞里沙「気にしないで、生徒会長として当然のことをしたまでよ。」

 

こちらへと笑顔を向けてそう言った。なんて良い人だろうか。勝手に意識を奪ったことへの罪悪感が募る。

 

-------------------------------

 

颯太「生徒会長の供奉院亞里沙さん。クホウイングループのお嬢様で、容姿端麗成績優秀。おまけに性格まで良いんだから凄いよなぁ。」

 

昼休みの廃校舎、映研の颯太と祭、そしてそうじゃない楪がいた。さらっといるけどお前を会員にした覚えはないぞ。

 

集「そんな地位だと凄い疲れそうだけどな。ただあんな人を彼女にできたらどんなに幸せかねえ⋯」

 

冗談めかしてそんなことを言った。

 

いのり「集はああいう人が好み?」

 

集「⁉︎」ビクッ

 

おにぎりを食ってた楪がいつもと違う、冷たく棘のある声で言う。思わず驚いた。

 

祭「そうなの⁉︎」

 

俺に休んでいた間の課題を送ってくれていた祭まで反応する。

 

集「別にそう言うんじゃねえよ。単純に人として凄えなぁ、って思っただけだよ。まあ叶うならあの身体を自分の好き勝手に⋯⋯冗談だから怒るな、悪かったから!」

 

楪は凄い不機嫌そうに睨んでくるし祭は顔赤くしてこっちを見ようとしないし、どういう事だ?

 

集「ところでよ、八尋ってどうしてんだ?俺が連れてかれた日からずっと来てないってよ。」

 

祭はハッとした。

結局誰も詳しいことは分からなかった。

 

-------------------------------

 

家に帰って楪にも聞いてみる。

 

集「楪はなんか聞いてるか?」

 

葬儀社経由でなんか情報が来てるのではないかと考えた。

 

いのり「心配?裏切られたのに。」

 

不機嫌そうにする。楪もあのことに関しては面白くないらしい。

 

集「ちげぇよ、ただ仕返しの一つでもしないと気が済まないだけだ。」

 

ふゅーねるが服を畳んでくれている。一家に一台あると便利だな。

 

春夏「集!帰ってるの⁉︎」

 

集「かっ、母さん!」

 

突然母さんが帰ってきた。

しまった。楪をどうしよ。

 

集「ちょっと隠れろ!」

 

いのり「ちょっと⁉︎集///」

 

楪をどうにかしようとするが時間がなさすぎる。なぜか押し倒すような姿勢になってしまった。心なしか楪の顔が赤くなっている。

 

集「⋯ッ⁉︎母さん!またそんな姿で!」

 

見上げると、ビールを片手に紫の下着姿でいる母さんの姿があった。既に服は脱いで来てしまったらしい。血のつながりが無いんだから少しは考えてくれ。これでも思春期を迎えた少年なんだぞ!

 

春夏「あら、集は母親が帰ってきて嬉しくないの?」

 

集「別にそういうわけじゃねえけど⋯」

 

春夏「ならば良し、」

 

そう言って頭を撫でてきた。やめろ恥ずかしい。

 

春夏「こんにちは!私桜満春夏。⋯ッ⁉︎」

 

俺の後ろにいた楪に挨拶をした。戸惑ったのは姉貴の面影を見たからか?にしても不味い、どうする?母親の不在時に彼女連れ込んでましたーってことにするか?いや、それはそれで俺のSAN値がゴリゴリに削れそうだ。

 

いのり「楪いのりです。ここで暮らさせて貰ってます。」

 

正座をしてお辞儀をした。何とか言い訳は考えついた。

 

集「実はこいつの兄貴が暴力的でさ、あまりに可哀想だから少しの間ここで匿ってるんだ。でもその兄貴とも友達だから俺が力で解決するわけにも行かなくてさ。ハハハ、」

 

苦しいな。流石にこれじゃ騙されないか、

 

春夏「ゴクゴク…ップハー!お腹空いたー!」

 

集「は?」

 

春夏「いのりちゃん、お腹空いてない?ピザーニャとピザファット、どっちがいい?あー、私ケーキが食べたいかも。集、行ってきてくれる?」

 

集「はぁ?今から?」

 

春夏「美味しいもの食べながら、ゆっくり聞かせてもらうから♪」

 

俺の母が寛容な人でよかった。普通なら正座させられてこっぴどく叱られるところだったかもしれない。

 

-------------------------------

 

綾瀬「良いんですか?涯、集を学校に行かせて。」

 

葬儀社アジトにて、綾瀬が涯に尋ねた。

 

涯「仕方ない。本人の希望だ。それにあいつ、既に葬儀社抜けてるつもりだしな。」

 

アルゴ「相変わらず自由な奴だぜ、あいつ。」

 

呆れたように言う。

 

四分儀「涯、数回の戦闘で、軍事物資が不足してきています。」

 

アルゴ「OAUから金は引っ張ってこれたんだろ?」

 

四分儀「資金はあってもルートがない。購入するにも、運び入れるにもな。」

 

涯「協力者が必要だな。」

 

何かを思いついたように言った。

 

-------------------------------

 

春夏「可愛いじゃない、いのりちゃん。変わった子だけど、なんていうか⋯ほっとけない感じ?」

 

楪のいない部屋で、俺は母さんと話していた。

 

集「母さん、」

 

ここで本当のことを話しておくべきだと思った。

俺は話を切り出すことにした。

 

集「楪を見たとき、何を連想した?」

 

母さんの顔から笑顔が消え、神妙な面持ちとなった。

 

春夏「真名⋯よね?」

 

集「ああ。彼女は姉貴のインターフェース、ある人から今は預かってるんだよ。」

 

不本意ながら。葬儀社は辞めたつもりだが向こうは辞めさせたつもりがないように思える。今朝のトリトン然り楪が居座っていること然り。

 

春夏「そのある人って?」

 

集「⋯⋯⋯トリトンだよ。」

 

春夏「⋯っ!?」

 

トリトンと言っておけば恙神涯とイコールになることはないはずだ。流石にテロリストに協力してるとは言えない。

 

集「最近会って、いろいろあったんだよ。」

 

春夏「そう⋯」

 

深い事情があることを察したのか、深くは言及してこない。助かる。

 

集「まっ、今考えていたってしょうがないからね。しばらく彼女の面倒を見ていて良いかな?」

 

春夏「うん、もちろん。」

 

微笑みながらそう言ってくれた。トリトンが引き取ってくれるならすぐ引き渡すけど。

 

春夏「ところで、」

 

慈愛に満ちた微笑みから不敵な笑みへと変わった。

 

春夏「彼女のこと、女の子としてはどう見てるのよ?」

 

集「はぁ⁉︎何だよ藪から棒に、」

 

春夏「だって面倒見てるってことは、悪くは思ってないんでしょう?」

 

ダメだ。この人は俺が親切心かなんかで楪を引き取ったと勘違いしてる。俺は半強制的に押し付けられたんだよ。

 

集「なんとも思ってない。強いて言えば⋯、妹みたいな存在?」

 

なんだかんだ飯のことから何から面倒見っぱなしだしな。ご飯作ってくれるような妹いないかなぁ。

 

春夏「なんだ、つまんないなぁ。」

 

あんたは何を期待してたんだ。

そんなこと考えている間に、母さんはクローゼットから何かを見つけたようだ。

 

春夏「ああっ!あった!良かったぁ!これで明日のパーティー、何とか格好がつく!」

 

ドレスを見つけたようだった。明日パーティーなのにドレス無かったらどうするつもりだったのか、

 

-------------------------------

 

ダン「カッコつかないだろう?着任したからには一発決めないとさ。今日付けで俺の部下になったんだから、ガッツだしてこうぜ!」

 

貿易港に、ダン・イーグルマン大佐とその部下となったダリル、嘘界、ローワンがいた。

 

ローワン「お言葉を返すようですがイーグルマン大佐、」

 

ダン「ダン!親しみを込めてダンと呼んでくれ!そう言っただろ!」

 

ダンはローワンの両肩をがっしりと掴む。

眼鏡の位置を直し、ローワンは続けた。

 

ローワン「このドラグーンは地対空ミサイルでして、洋上の艦艇を撃つようには

 

ダン「撃てるよ!上に上がるなら、横にだって飛ぶさ!」

 

嘘界「その標的になる艦艇というのは?」

 

ダン「ナイス質問だ!スカーフェイス!」

 

嘘界「嘘界です。」

 

どうでも良さそうに携帯を弄りながら答える。

 

ダン「GHQに反抗的な日本人が船上パーティーをする。恐らく、貿易指定海域外で取引をするつもりだろうねぇ?」

 

嘘界「どこからそんな情報を?」

 

ダン「善意の市民からの通報でね。ほとんどの日本人がわかってるんだよ。僕らGHQがいないと、この国は回らないってことを!」

 

-------------------------------

 

さて、母さんが家に帰ってきた翌日の船上パーティー。俺などには関係ないと思ってたのによ、

 

集「なぜ俺は呼ばれた。」

 

涯「ここに話したい奴がいてな。だが表舞台にはなかなか出てこないんだ。」

 

集「それでこんな物騒な事を、」

 

客を二人捕らえ、追い剥ぎをした。そしてそれに着替えたのだ。

 

集「命は取らないんで、ホントすみません。」パチン

 

「んっ⁉︎⋯⋯Zzzz…」

 

俺のヴォイドで意識を奪った。あとで意識も返すから。あと指パッチンは格好つけてみただけだ。

 

集「あっ、そういやこの船地対空ミサイルに狙われてるぞ、」

 

涯「なんでそんな情報を…というかここ洋上だぞ⁉︎」

 

集「部下の人も同じこと言ってた。大佐がどうやらアホみたいでな。まあ問題ないだろう。」

 

嘘界さんの白衣につけた盗聴器、そろそろ気づかれても良いんじゃないの?

 

 

-------------------------------

 

さて、トリトンが交渉する間は怪しまれぬように歩いているか。母さんに見つからないように気をつけないと。

 

春夏「初めまして、セフィラゲノミクスの桜満です。」

 

誰かと名刺交換をしている。母親の働くところを見るというのは新鮮だな。

 

ピロロピロロ

 

葬儀社からだ

 

集「はいはい、テロリストに無理やり手伝わされてる可哀想で善良な一介の男子高校生ですよーん。」

 

ツグミ「あんた無理やりはともかく善良じゃないじゃない!」

 

無理やりはともかくって⋯というか俺は善良だぞ?絡んで来たりカツアゲしてくる不良をフルボッコにしてるだけで、

 

ツグミ「そんな事どうでも良いのよ!今すぐ涯に伝えて!その船、ドラグーンに狙われてるわ!」

 

やっと気づいたか。情報戦は我が制した。

 

集「とっくに知ってるし恙神にも伝えたよ。そんじゃな、」

 

ツグミ「えっ、ちょっと。どうしt…

 

プツー

 

俺に任せときゃ悪いようにはしねえよ。黙っとけ。さて、これクホンイングループ主催だし、探しゃ会長いるだろ。ヴォイド貸してー。

 

-------------------------------

 

「亞里沙さん、次のワルツは私と」

 

「いえ、僕とお願いします。」

 

「「さあ、お手を」」

 

椅子に座った亞里沙は、二人の男からワルツの誘いを受けていた。しかし、その表情は浮かなかった。

 

集「では、私と踊っていただきましょうか?ただ、ワルツなんて穏やかなものでは済まないでしょうがね。」

 

亞里沙「えっ⁉︎」

 

新たに現れた声の主を見ると、そのには見覚えのある一人の少年が立っていた。

 

亞里沙「なんで桜満君がここに⋯?」

 

「なんだお前は?」

 

先程亞里沙を誘っていた男が不満の声を漏らす。

 

集「どちらも説明してる暇は無いんでね。よいしょっと、」

 

亞里沙「きゃあ!」

 

集は一瞬にして亞里沙を、俗に言うお姫様抱っこの形で抱き抱えた。

 

集「しっかり掴まっていてください。」

 

その瞬間、集は走り出した。

 

「ッ⁉︎消えた⁉︎」

 

男達には、集が亞里沙を抱えた瞬間、消えたように見えた。

亞里沙はある違和感を抱く。

 

亞里沙「なんで皆気づかないのよ⁉︎」

 

一つの疑問を口にした。

 

集「これは『抜き足』といって、特殊な呼吸法と歩法で相手の『覚醒の無意識』に自分の存在を追いやることで、見えているのにも関わらず気づかせないという体術ですよ。」

 

亞里沙はいとも簡単にこのような体術を使ってみせるこの少年が、一体何者なのかと思った。そんな間にも集は後部甲板へと向かっていくのだった。

 

-------------------------------

 

 

亞里沙「⋯一体何のつもりなの?」

 

後部甲板で、こちらに向かって立っている会長は言った。

その声には戸惑いと、少しの怒りが感じられる。

 

集「強引に連れてきてしまい申し訳ありません。どうしても力を貸していただきたかったんです。会長としてでも、クホンイングループのお嬢様としてでもなく、供奉院亞里沙という人間に、」

 

亞里沙「ッ⁉︎」

 

目を見開いた。今の様子で一つの事が確信できた。

 

集「今この船をドラグーンが狙ってきているんです。俺はそれを止めなければならない。」

 

亞里沙「嘘ッ⁉︎そんなの、私なんかにどうにかできるものじゃないわ!」

 

集「いえ、あなたの力を俺に貸してくれれば、できます!」

 

力強い集の言葉に、思わず亞里沙は圧倒される。

 

パシッ!

 

亞里沙「えっ///」

 

集「失礼しますよ、」

 

集は亞里沙の手を取った。最も、相当の箱入り娘であり、男性経験のない亞里沙にとって社交の場以外でこのように異性に手を取られるのは非常に不慣れな事であったのだが。

 

亞里沙「…ンッ⁉︎」

 

亞里沙の胸からヴォイドが引き抜かれる。しかし亞里沙の意識が途切れる事はなかった。

 

亞里沙「何なの⋯それ、」

 

手を取りながらヴォイドを抜き取ることで、抜かれたものの意識が失われることは無くなる。あえて集がその方法を取った理由は、以前の件への罪悪感か、それともまた別にあるのか。

 

集「これは、あなたの心をそのまま表した言わば結晶。人の心に触れ、力を生み出す力を俺は持っているんですよ。」

 

一度会長のヴォイドを引き抜いた時から考えていた。この盾が一体何を意味していたのか。

 

『生徒会長の供奉院亞里沙さん。クホウイングループのお嬢様で、容姿端麗成績優秀。おまけに性格まで良いんだから凄いよなぁ。』

 

颯太がこの前言った言葉。俺は疑問だった。そこまで完璧なまま、重圧も何も感じずに生きていけるのかと。

 

『供奉院亞里沙という人間に、』

 

この言葉への反応で確信した。そう、

 

集「あなたは、完璧な自分を生きていく事を受け入れきれていないんだ。」

 

ミサイルが向かってくる。それを会長のヴォイドで受け止めた。するとミサイルは木っ端微塵に砕け散った。

 

亞里沙「どういう意味よ⁉︎」

 

棘のある声で言う。次々に飛んでくるミサイルを全て砕きながら答えた。

 

集「ホントのあなたはもっと弱い人間だ。それでもあなたは優等生として、会長として、クホンイングループの跡取りとしての鎧を着込み、自らを偽って生きてきた。弱い自分を守ろうと、誰にも本当の自分を見せなかった結果がこの盾に現れているんだ。」

 

俺の言葉にハッとしている。戸惑いも見え、既にうまく言葉が出てこない様子だ。

 

亞里沙「私は⋯そんなつもりなんて⋯⋯」

 

集「良いじゃないですか。人間なんだから、」

 

亞里沙「えっ⁉︎」

 

集「重い立場に立った時、何も感じないわけないんですよ。誰だって。重圧を感じることだってあるだろうし、完璧な自分を演じることで耐えようとすることだってあるに決まってます。」

 

亞里沙「⋯。」

 

亞里沙は集の言葉を、涙を浮かべながら聞いている。

 

集「でも、それを誰だってやり遂げられるわけじゃない。」

 

亞里沙「ッ!」

 

集「生徒会長でクホウイングループのお嬢様で、容姿端麗成績優秀。性格まで良い人間供奉院亞里沙として皆に愛されているのは、間違いなくあなたの力だ。」

 

亞里沙「ありがとう。でも、もう⋯辛いの⋯⋯。私はどうすれば⋯?」

 

今にも消えてしまいそうな声で、一言一言を紡ぐように言った。

 

集「あなたの運命は、決して逃げられるものではないでしょう。ただ全ての者に対して自分を偽るよりかは、本音を言える相手がいた方が心は軽くなるのではないですか?あなたを、ただの人間・供奉院亞里沙として見てくれる人が。」

 

亞里沙「そんな人どこにいるのよ!」

 

集「俺ではダメですか?」

 

亞里沙「⋯ッ⁉︎」

 

ミサイルから船を守りながら発せられた集の言葉に、とめどなく涙が溢れていく。

 

亞里沙「どうして⋯どうしてあなたは優しくしてくれるの⁉︎」

 

泣きながらはっきりとしない声で叫ぶ。

 

集「昨日のことの恩っていうのは一つありますが、」

 

昨日の朝、亞里沙が集を庇った時のことを思う。

 

集「何より、孤独の辛さが痛いほどよくわかるからですかね、」

 

亞里沙が目を見開いた。

 

集がまたミサイルを受け止めた。そしてそれ以降ミサイルが来ることは無かった。

 

-------------------------------

 

集「⋯落ち着きましたか?」

 

ミサイルを全て止めた後、集の胸に顔を埋めた亞里沙は数分間泣き続けていたのだ。

 

亞里沙「ごめんなさい、見たくないものを見せてしまったわね。」

 

涙を拭きながら言う。

 

集「女性の泣き顔というのも、そそる物ですよ。」

 

亞里沙「年上をからかうものではないわよ。」

 

そう言って集の額を軽く小突く。

彼女の顔には、普段とは違う心の底からの笑顔があった。

 

集は一度表情を真剣なものに変えると、こう言った。

 

集「俺は今、この力をある組織に貸しています。」

 

亞里沙「⋯。」

 

集「GHQに捕まったのもこの事が関係しています。これらの事はオフレコにしていただけると助かるのですが。」

 

困った様子で言った。

 

亞里沙「ええ、いろいろと恩もあるしね。でも一つだけ良いかしら?」

 

集「?」

 

集は何を言われるのか疑問に思った。

 

亞里沙「また何かあった時は、話を聞いてもらって良い?」

 

その言葉を聞き、そんな事でしたか、と言いながら笑った。そして、

 

集「いつでも良いですよ。ただの人間・桜満集としてで良いのであれば。」

 

その答えに亞里沙を微笑みを見せた。

 

集「オルボワール」

 

そう言い残し、集は亞里沙の前から消えていった。

 

-------------------------------

 

後日、集は葬儀社のアジトの一室で

四分儀とチェスをしていた。

 

四分儀「まあよく遊び場のように出入りしてくれますね。」

 

集「良いじゃないですか。不本意ながら、あなた方は俺をメンバーの一員として見てくれているみたいですし。それにあなたほど腕の立つ者もなかなかいません。」

 

集は結局、アルゴと白兵戦の特訓をしたり、下っ端達の指導をしたり、こうして四分儀とチェスをしたりと定期的に葬儀社のアジトを訪れていた。

 

四分儀「そう言って、私が勝ったことは一度もありませんがね。」

 

四分儀自身、頭脳戦には長けていると自負していたこともあり、集との出会いで様々な発見をしていた。

 

集「それにしても、クホンイングループとの取引が成立して良かったですね。」

 

先日の船上パーティーで見事に葬儀社は、クホンイングループとの取引に成功し、クホンイングループは国内ルートに関する協力者となったのだ。

 

四分儀「ええ、幸いにもあなたの力が第二ルーカサイトを止められることの証明してくれましたから。」

 

笑みを浮かべながら言った。

 

集「冗談はやめてくださいよ。善意とはよく言ったものです。」

 

四分儀「やはり気づいてましたか。」

 

船上パーティーの件を通報したのは四分儀であることを、集は知っていた。つまりドラグーンで狙われたのも、それをヴォイドを使って止めたのも、全ては葬儀社側によって仕組まれたことだった。

 

集「勿論。俺の力が取引材料にされることは初めから分かってましたよ。連れてこられた時点で。」

 

お互い呆れた様子だ。

 

四分儀「善意を善意と名乗ったらそれは悪意だ。涯の言葉です。」

 

集「なるほど、手のひらの上で踊っているようで気に食わなかったのですが、命が関わっていたので流石に従いましたよ。あとチェックメイト。まだまだ甘いですよ。四分儀さん。」

 

そう言って部屋を出て行った。

 

四分儀「⋯相変わらず、どこまでも憎たらしい少年ですね。」

 

笑いながらそう独り言ちたのであった。

 

 




集が堂々としてると複数のヒロインを攻略するハーレムモノに見えなくも無いですね。

感想などお待ちしております。


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#9夏日 courtship behavior

久々の投稿。忙しいせいで年内の投稿が難しいです。来年以降は更新ペースも早くなりそうなのですが。
あと台本形式止めてます。以前の話も修正していくつもりです。


「寂しい!私もついて行く!」

 

「ちょっと、そんなにくっつくなって。」

 

「集が嫌がってる。離れて、」

 

映研の合宿で俺がしばらく家を離れることを知った母さんは、ずっとこんな調子だ。早く離れて欲しい。当たってるから。主に胸が、

 

 

「もういいから離れてくれよ。」

 

すると不意に母さんは黙り、俺から離れた。

 

「行き先は大島だったっけ?」

 

「ああ、」

 

質問に対し肯定の意を示す。

 

「そう⋯じゃあ父さんに会ってらっしゃい。」

 

-------------------------------

 

「久しぶりだな、ここに来るのは。」

 

長時間船に揺られ、我ら映研は無事、大島に着いたのだった。

幼少期の記憶が蘇ってくる。あの時のトリトンはもっと可愛げがあったのにな。

 

「着いた着いたー!」

 

どこぞのお調子者がはしゃぐはしゃぐ。ノスタルジックな気持ちになってたのにぶち壊しだよ。

 

「いいお天気ー。晴れて良かったね!」

 

「これから行くとこ、集の親戚の別荘なんだって?」

 

颯太が聞いてきた。

 

「ああ、子供の頃こっちに住んでたからな。」

 

「いやー助かったぜー!」

 

そう言いながら颯太は俺の背中を思い切り叩く。なんともないけどやめていただきたい。

 

今回はトリトンの命令で颯太を大島に連れてきたのだ。合宿という名目で。なんでも今回の作戦でこいつのヴォイドが必要らしい。颯太のヴォイドは一度引き抜いているから分かる。あれから感じた力は『開く力』。確かにそれがあればどんなセキュリティでも突破できるが、俺の周りを巻き込まないで欲しい。

 

-------------------------------

 

「うわーすげぇ!立派だな!」

 

別荘に入るなりお調子者は大声を上げる。祭は委員長も颯太ほどではないが声を上げていた。

 

「桜満君の親戚って何してる人なの⁉︎」

 

「どっかの外資系企業の取り締まり役らしい。俺も詳しく知らないけどさ、」

 

委員長の質問に答える。もちろん出任せだ。実際は葬儀社が用意したのだが、

 

「おい楪、これどうしたんだ?」

 

小声で楪に尋ねる。

 

「クホウイングループが手配したって涯が、」

 

「なるほど。」

 

早速クホウイングループは役に立ってくれてるわけか。いつか会長に何かお礼でもしようか。

 

「また二人仲良くして〜、家だけにしてよ〜?」

 

すると突然、とんでもない爆弾が放り込まれた。

 

「⋯何を言ってるんだお前は。」

 

「だって二人一緒に住んでるんでしょ?」

 

平静を装ったがこれはマズイ。颯太には確信めいたものがあるように見える。

 

「えっ、なにどういうこと⁉︎」

 

委員長が驚きの声を上げた。

 

「俺見ちゃったんだよねぇ。二人が一緒に帰ってくの。ちょっと聞いてみましょう!二人の馴れ初めは?」

 

「馴れ初めってのは不適切だが出会ったのは10年ほど前かな。」

 

「「「「えっ⁉︎」」」」

 

全員が驚く。楪、お前まで驚くな。

 

「こいつとは遠い親戚だからガキの頃に会ってるんだよ。ほら、こいつEGOISTとかいうアイドルグループやってるじゃねえか。それで熱狂的なファンに追われて、今俺の家に逃げてるってわけ。」

 

「EGOISTはアイドルグループじゃないけどな⋯。それで、どこらへんの親戚に当たるんだ?」

 

「俺の母さんの妹の娘の祖母の兄の孫の再従姉妹」

 

「それお前の妹じゃん。」

 

「ハハハー、そうだっけか?よくわからん。」

 

鋭いな、おい

 

「まあ幸せな人は放っておいてもう今から海行こうぜ!海!」

 

突然颯太は出て行ってしまう。

 

「ちょっと、片付けとかは⁉︎」

 

委員長が制止しようとしても聞かずに、楽しもうぜ!とか言いながら行ってしまった。正直楪と一緒に住んでるのがバレたら、刺されるものかと思ってたが案外楽観的のようだ。登下校中は周りの気配に気を配っていたつもりだったが知らないうちにバレていたのは妙だけどな。

 

「まあ祭、そんなわけでこいつとは何もないし何とも思ってないからな?誤解しないでくれよ?」

 

「うん、集の言ってたことが本当かはともかく、手を出すほどの度胸があるとは思えないからね。」

 

「それを言うな⋯。」

 

笑顔の祭に対し、集は苦い顔をしている。嘘だとバレかかってる辺り、祭には敵わないと内心思う集であった。そんな集とは裏腹に「何とも思ってない」と言われたいのりの反応を見た祭は、こちらの方はそのつもりではないのだということに気づいた。

 

-------------------------------

 

「みんなー!早く来いよー!」

 

海に飛び込むなり颯太は大はしゃぎだ。女性陣が遅れてくる中、俺はそそくさとパラソルやシートの準備をしていた。

颯太は強引でデリカシーのないやつだが面白いやつではある。同好会の活動を積極的にやらない俺に対し、行動力のある颯太の存在はなんだかんだ有難い。これに取り繕ってくれる八尋がいれば完璧はトリオなんだが。いろいろとやらかしてくれた彼だがこうなると少し恋しくなってくる。

するとピンクでフリルの付いたビキニ姿の楪が歩いてきた。

 

「どう?集。」

 

顔を軽く紅潮させた状態で聞いてきた。

 

「ううむ⋯。」

 

引っ込むところが引っ込んでて突き出るところも引っ込んでる。これを素直に言っていいものか⋯

 

「集、今凄い失礼なこと考えてるでしょ?」

 

「ナチュラルに人の思考を読むな。」

 

楪はジト目になって言った。

 

「ねえ集!」

 

「ん?⋯ってうわっ!」

 

俺を呼ぶ声に振り向くとそこには白いビキニ姿の祭がいた。

引っ込むところが引っ込んでて突き出るところが突き出ている。これはマズイ、

 

「私達も泳ごうよ!」

 

「お、おい!ちょっと!」

 

そう言って祭は俺の腕に抱きついてくる。

 

「ほら早く!」

 

「マズイから!当たってるから!」

 

「いいから!行くよ!」

 

祭さん、今日はヤケに積極的じゃないか。これ以上は本気でマズイ。鎮まれ、俺のヴォイドよ!鎮まれ!

 

「やはり胸なのね、胸なのね⋯。」

 

二人が去っていき、一人になったいのりは自分に付いている二つの物を見ながら呟いていた。

 

-------------------------------

 

集達の様子が見える位置にある海の家で、四分儀、アルゴ、大雲の三人は待機していた。

 

「魂館颯太は無事たどり着いたようですね。」

 

小説を読みながら四分儀は言った。

 

「ミッションだってのに集の野郎、女子達と楽しそうにしやがって。羨ましい!あんなんやらせてていいのか?」

 

アルゴは面白くなさそうに言った。

 

「ここまでは順調です。問題は施設のセキュリティでしょう。」

 

感情的なアルゴに対し、大雲は淡々と告げる。

 

「こちらはツグミ達が調査中です。」

 

「しばらくは待機か。こんな島に何があるってんだ?」

 

「それは涯のみぞ知る、です。」

 

「集も知ってそうだけどな、」

 

これまで、ずっとなんでも見透かしているようにいた集を思いながらアルゴは言った。

 

「可能性はありますね。ところで、アルゴ、暑くないのですか?」

 

気温もかなり高い中、厚着でいるアルゴに対し四分儀は尋ねた。するとアルゴは

 

「気合い入ってますんで。」

 

と得意げに言ったのだった。

 

 

-------------------------------

 

祭達に寄るところがある事を告げた集は花束を持ちながら一人、ある場所へと向かっていた。すると遠くから見覚えのある二人組を見つけた。

 

 

「ツグミ、何このふざけた格好。」

 

顔を紅潮させた綾瀬は車椅子を押す、メイド姿のツグミに言った。

 

「綾瀬お嬢様もとってもお似合いですわよ?オホホホホホ、」

 

どこかのお嬢様のような服装をした綾瀬を、面白がっている様子のツグミはそう言い、わざとらしく笑って見せた。

 

「よう、篠宮。猫耳。」

 

「しっ、集⁉︎」

 

ツグミに注意を向けていた綾瀬は集の姿に気付かず、素っ頓狂な声を上げた。

 

「集、私は猫耳じゃなくてツグミよ!今猫耳してないし。」

 

名前を呼んでもらえないツグミは面白くなさそうに言う。

 

「猫耳ないと何て呼べばいいか分かんねえな。ちんちくりん?」

 

「それは絶対イヤ!」

 

ツグミは思い切りかぶりを振った。

 

「にしても二人とも、慣れない格好をしているもんだな。」

 

「えっ⁉︎」

 

「ふふん、似合ってるでしょ。」

 

恥ずかしさのあまり顔を帽子で隠す綾瀬と、得意げな顔で見せつけるツグミの反応には天と地の差があった。

 

「似合ってる似合ってる。篠宮も、馬子にも衣装とは言ったもんだな。お嬢様っぽくて可愛いぞ。」

 

集はそう言いながら綾瀬の頭を撫でた。

 

「やっ、やめなさいよ馬鹿っ!」

 

さらに顔が紅くなった綾瀬は、咄嗟に集の手を払い除けた。しかし集の顔にからかう意思がない事を認めるとまた顔を隠し、しおらしくなってしまった。

 

「私と綾ねえの扱いの差、酷くない?」

 

頬を膨らませたツグミが集に訴えた。

 

「胸の差だ。デカくなって出直してこい。」

 

真剣な眼差しでそう告げると、集は綾瀬達の来た方向へと歩いて行ってしまった。

 

「数年したら集が、馬鹿にしてすみませんでしたって土下座するぐらい成長してやるからね!見てなさい!」

 

「はいはい、」

 

(数年後に俺たちがいると思えることの幸せさよ。)

 

そんなことを思いながらツグミの叫びを受け流しつつ、歩き続ける。綾瀬が何かしら罵倒してくるものだと思っていたが、あまりにも大人しかったので不思議に思った集であったが、気にしていても仕方がないので歩みを進める事にしたのだった。

 

-------------------------------

 

「久しぶり、父さん。」

 

集は父-桜満玄周-の墓に花束を置くと、話し始めた。

 

「俺さ、やっと父さんの意思に応えられそうだよ。随分と時間がかかっちゃったけどさ、これでも守りたいものを守れるだけの力は手に入れたと思うんだ。姉貴そっくりの女子が家に転がり込んできたり、昔の友人に再開してテロ活動に巻き込まれたりして大変だけどさ、案外今の暮らしも気に入ってるんだ。まあ、なんつうか。言いたい事はいっぱいあるけどさ⋯」

 

言葉を紡いでいくが言いたい事があり過ぎてうまく出てこなかった。

 

「俺、この国を救ってみせるから。見守っててくれよ、父さん。」

 

涙を浮かべながら、集は一番伝えたかった事を言った。

 

 

「終わったか?」

 

「⋯っ⁉︎」

 

突然現れた涯に驚いた集は、急いで涙を拭いた。

 

「お前でも取り乱す事があるんだな。」

 

珍しく本気で慌てた集の姿に、涯は面白そうな様子で言った。

 

「うるせぇ⋯。どこから聞いてたんだよ。」

 

「久しぶり、父さん。のところから、」

 

「全部じゃねえか!」

 

ノスタルジックな気持ちに浸って周りを気にしていなかった自分を責めた。どうも今日は自分らしくないと集は思う。

 

「それよりお前は何しに来たんだよ。まさか墓参りに来たわけでもないだろ?」

 

「ああ、」

 

涯が歩き始める。それに続き集も付いていく。しばらく歩いた先に、

 

「あれだ。」

 

涯が指さす方向には鳥居があった。

 

「鳥居?」

 

「こいつで見てみろ。」

 

涯に渡されたスコープで見る。すると、

 

「なるほどね、」

 

レーザーが何本も見える。どうやらただの神社ではないようだと集は悟った。

 

「GHQの秘密施設だ。あそこに求めるものがある。」

 

「始まりの石か。それを取るのに颯太のヴォイドが必要なわけね。」

 

「やはり分かっているのだな⋯。」

 

こういう事はもう何度もある事なので今更ツッコむような野暮な事はしなかった。

 

「ミッションの開始は2200。それまでにあいつを指定のポイントまで連れてこい。」

 

「楪を餌にするのか。気は進まんが合理的だな。」

 

「気が進まない、か。いのりに何か思うところでもあるのか?」

 

「いや、どちらかといえば颯太の方だ。人の好意に漬け込むというのは良い気がしないしそれに⋯」

 

そこで集は言葉を詰まらせる。

 

「それに何だ?」

 

「いや、何でもない。とにかく颯太の誘導は任せておけ。」

 

そう伝えると集はそそくさと行ってしまった。集の煮え切らない態度に違和感を覚えるが、集が話さないと判断したのだから必要ないのだろうと思い直し、涯もその場から去っていくのだった。

 

-------------------------------

 

「なあ、集。」

 

「なんだよ。」

 

風呂上がり、涼んでいると縁側に座っていた颯太から、いつになく真剣な声で呼ばれた。雰囲気が昼と違うように感じる。

 

「いのりちゃんとは、本当に何もないわけ?」

 

どうやら先程は楽観的に見えたものの、実際はかなり気にしていたらしい。そりゃあれだけファンなら無理もない。

 

「親戚に恋愛感情を抱くわけがないだろ。」

 

「親戚に恋愛感情を抱かないかどうかとか、そもそも集といのりちゃんが親戚なのかとかツッコみたいところはいっぱいあるが置いておいて、だったら俺、行くから。」

 

行くとは告白の事だろう。騙すようで心苦しいが好都合ではある。指定のポイントまで連れて行くのが楽になりそうだ。

 

「思い立ったが吉日、ならばその日以降は全て凶日というくらいだし今日行ってきたらいいんじゃないか?」

 

「そうか、確かにそんな言葉を残した偉い人が居たな。そうするか、」

 

その人が偉い人かどうかは置いておいて颯太はやる気になったらしい。作戦に利用されてしまうにしても、告白くらいはさせてからにしよう。

 

-------------------------------

 

「おい楪、」

 

浴衣姿で縁側を歩く楪に後ろから話しかける。

 

「これから颯太を指定のポイントまで連れて行け。分かったな?」

 

「え、私を餌にする気?」

 

不服そうにジト目で言ってくる。

 

「葬儀社の仕事なんだから仕方ないだろ。というかお前そんな事気にするやつだったか?」

 

「むぅぅ⋯、分かった。」

 

渋々承諾してくれた。にしても一つ思う事がある。

 

「浴衣は、小さい方が似合うんだな。」

 

「それ褒めてるの?貶してるの?」

 

-------------------------------

 

ガラ空きのパーティ会場に、一人席に座り、貧乏揺すりをするダリルの姿があった。テーブルにはhappy birthdayと書かれたプレートの乗った、豪華なケーキがあった。

 

「なんだよ!」

 

ダリルに近づいたウエイターにダリルは不機嫌そうに言い放つも、特に反応はなくウエイターはそのままダリルに耳打ちした。それは、父-ヤン少将-の欠席を知らせるものだった。

 

-------------------------------

 

「ごめんね、急にさ。」

 

集達の泊まる屋敷からは離れた、人気のない夜道を颯太といのりは歩いていた。颯太は、星が綺麗だよね、などと様々な話題を振るが、一向に話が弾む気配はない。そんな中、いのりは颯太をよく観察していた。そしてある違和感を抱く。この男、全くと言っていいほどに隙がないのだ。昼の時と全く様子が違う。それに、場を盛り上げようと空回りしてるように見えるかもしれないが、内心はとても落ち着いているように見える。一般人が気づくような事ではないが、今まで葬儀社の一人として戦い続け、そして最強の男と常日頃から行動を共にしていたいのりには分かった。これは集、そして八尋に対して感じたものと全く一緒だった。しかし涯以上の実力者が、同じ高校に三人もいるなどという事実は信じ難い。どうかこれが思い過ごしであって欲しいと祈るばかりであった。

 

-------------------------------

 

颯太と浴衣がベンチに座る中、俺は物陰で身を隠していた。

 

「見せたいものがあるんだ。」

 

そう言って颯太はディスプレイを取り出した。

 

「俺、EGOISTのPVでとても感動して、居ても立ってもいられなくて、だから自分でも作ってみたんだ。」

 

すると楪は映像を見ようと颯太に肩を寄せた。なかなかに良い雰囲気だ。案外告白が成功したりしちゃってな。ただそんな理由がなくとも普段から真面目に映研の活動をして欲しいものである。彼は積極的に仕事を取ってくるが仕事をするのは九割九分俺だ。

 

颯太のディスプレイからEGOISTのエアテルペが流れ始めた。内容に関しては興味がないのでその場で見つからないように待機。

 

「綺麗⋯」

 

楪から称賛の声が上がった。そんなに出来が良いなら今度見せてもらおうかという気にもなる。さて、颯太が隙を見せてくれればすぐにでもヴォイドを抜き出したいのだが、

 

「いのりちゃん、」

 

「うん?」

 

ゆっくり颯太が立ち上がる。そして楪の方へ向くと、

 

「俺、まだいのりちゃんの事よく知らないけどさ。歌う君に感動した気持ちは本当だ。俺はいのりちゃんの事が本気で⋯」

 

ついに告白か⁉︎

 

「⋯いや、これはまた二人きりの時に伝えるよ。何せここには見物客が多過ぎる。」

 

颯太は呆れたように笑った。

 

「⋯っ⁉︎」

 

周りに潜んでいる葬儀社の連中に戦慄が走る。俺が抱いた第一の感想としては「やはりか」というものだった。

 

「出てこいよ。集、いるんだろ?」

 

「やはりバレていたか、なら仕方ないな。」

 

颯太の前に姿を現わす。想定外の出来事で動揺するかと思われた楪の表情は、意外にも落ち着いている。彼女も颯太の気配に気づいた一人なのかもしれない。

葬儀社連中には想定外の出来事かもしれないが、俺にとっては想定内だ。しかもヴォイドを引き抜いてしまえばこちらの勝ちだ。

まずは目を合わせる。辺りを銀の光が漂った。

そして抜き足で一気に距離を詰める。

 

「消えた⁉︎」

 

楪からも消えているように見えているらしい。あとはヴォイドを引き抜いて終わりだ-

 

「⋯チッ!」

 

と思われたが颯太に右腕を掴まれた事で失敗に終わる。

 

「何だ?これ、」

 

颯太は漂う銀の光に対する疑問を、表情を崩さずに述べた。

 

「へえ。これを初見で破るなんて、良い耳を持ってるんだな。」

 

「その様子だと、俺の強さを見破ってたように見えるけど?」

 

「何、今の今まで可能性の域を出てはいなかったさ。ただお前が実力者だということを見破る材料は幾つかあった。まず俺と楪が一緒に住んでいることがバレていたこと。誰かにつけられていれば気配で気づくはずなんだが、俺はお前に気付けなかった。それはお前に相当な隠密スキルがあった証拠だ。」

 

さっきの墓の件みたいに俺の感覚が鈍っている場合もあるが、

 

「へえ、じゃあ俺の耳については?」

 

「実はお前にさっきやろうとした事はな、」

 

「えっ⁉︎⋯うっ⋯⋯。」

 

俺は颯太から右腕を振り払うと、楪からヴォイドを引き抜いた。そして楪は気を失った。

 

「お前からこれを引き抜くためだ。」

 

「⋯っ⁉︎何だ⋯それ⋯⋯。」

 

「ヴォイドと言って、人の心の結晶と言ったら分かりやすいだろうか。俺にはこれを引き抜く力がある。今回のミッションでお前のヴォイドが必要だった。だからここに誘導したんだ。ミッションがなんの事かは今更言うまでもないよな?」

 

楪にヴォイドを戻しながら言った。

 

「なるほど。どうりで気配がするわけだ。集以外に6人はいるな。」

 

「⋯っ⁉︎」

 

潜んでいる者達に再び戦慄が走る。この二人は今、自分達の及ばない次元の話をしているのだと悟る。

 

「しかしそれでは良い耳を持っているの説明がつかないな。」

 

「実を言えばお前のヴォイドを引き抜いたことが一度あるんだ。覚えてないだろうがな。」

 

「⋯マジか、」

 

「ヴォイドを引き抜かれるとその前後の記憶を失うらしい。その時のお前は避けられずに、俺にヴォイドを引き抜かれた。今回と何が違ったかというと、それは音楽を聴いていたか否かだ。あの時は聴覚を遮断していたからお前は避けることができなかった、という結論に至った。違うか?」

 

「その件については何も覚えてないけどな。あとそんなに警戒しなくて良いよ。数で明らかに不利なわけだし抵抗するつもりはねえよ。」

 

いつもの颯太のように笑顔で両手を上げる。

 

「集、大正解だ。俺の感覚は普通の人間とは出来が違う。人の息遣いやら何やらをやたら感じるんだ。だからお前がいくら姿を隠そうとも耳で分かる。」

 

「ただ、聴覚だけではないようだな。俺の腕を止めるなんて。」

 

「それなりには鍛えてるからな。」

 

トリトン以上、俺や八尋並みで、それなりで済まされたら困るものだ。

 

「それで、どうするつもりだ?俺を殺すか?」

 

「まさか。黙って協力してくれればいい。」

 

お互い笑みを浮かべたまま話す。

 

「テロ活動にか?」

 

「俺を信用してくれ。」

 

沈黙が続く。友人がテロリストに協力していることがわかり、さらに間接的ではあるが協力を頼んでいる。明らかに異常な状況だが、

 

「集が入ってるなら罪の無い人を虐殺するとかはしてないんだろ?仕方ない。ただ気を失うのは嫌だな。」

 

「それなら安心しろ。気を失わない方法もある。あと俺は一時的に協力しているだけでテロリストになった覚えはない。」

 

渋々でもヴォイドを貸してくれるようだ。やはり持つべきは友達だ。

 

「その理屈は通用しないと思うけどな。じゃあ、さっさと引き抜いてくれよ。そしたら帰るから。」

 

俺は颯太の手を取り、ヴォイドを引き抜いた。

 

「こんなのが俺の中に⋯」

 

「ありがとな。終わったら返すから。」

 

「気をつけろよ。くれぐれも。いのりちゃんのことも頼んだぞ!」

 

そう言って颯太は遥か向こうへと去っていった。

 

 

「行ったか。」

 

「おおトリトン。それに篠宮ちんちくりん月島四分儀さん大雲さんもいるでしょ。」

 

「バレていたのね。」

 

「ちんちくりんって言うな!」

 

皆がいろんなところから出てきた。

 

「しかし驚いたな。あいつには、」

 

月島が感心するように言う。

 

「楪に本気でうつつを抜かしてたから、最後の最後までホントに強いのか疑ってたんだけどな。」

 

「いのりんに好きな人がいるのを悟って身を引いたのかもね。」

 

「えっ⁉︎楪って好きな奴いるのか、」

 

猫耳の言うことに思わず驚く。楪が学校で男子とまともに会話しているのを見た覚えが無いので、かなり意外だった。

 

「嘘でしょ⋯」

 

信じられないといった態度を篠宮がとった。

 

「集の意外な弱点を知った。」

 

月島がしめしめと笑っている。

 

「ホント馬鹿集ね!」

 

「はぁ⁉︎意味わかんねえよ⁉︎」

 

猫耳のあまりにも理不尽な言い分に、抗議せずにはいられなかった。

 

-------------------------------

 

「警備の目はツグミが潰している。問題なのは内部だ。集、そのカメラでゲートを撮れ。」

 

施設の前までたどり着くと、トリトンは言った。

 

「はいよ、」

 

指示された通り、颯太から引き抜いたヴォイドをゲートへと向かい撃つと、

 

「ほう、これはたまげた。『開くヴォイド』とはまた強力なもんだ。」

 

ゲートが消えたのを見て、思わずそう言わざるを得なかった。

 

「行くぞ。」

 

そう言って足を進めるトリトンに俺も楪もついていくのだった。

 

-------------------------------

 

「どういうことだ?」

 

施設を進んでいたら、突然警告音が鳴る。こちらの行動がばれる余地はなかったはずだが、

 

「俺たちじゃないな、これは・・・」

 

そう言いかけたところでトリトンは言葉を止める。壁が下りてきて逃げ場をなくされそうだったのだ。

 

「急げ!」

 

俺がヴォイドで道を開くと、走り出すトリトンを俺たちも追いかけ始めた。

 

「集!」

 

背後から俺を狙う兵に楪が気づいたようだがその頃には、

 

「グヘァ!?」

 

俺の膝蹴りが相手の顎に入ったところだった。

 

「・・・行くぞ、」

 

特に気にすることなく、トリトンは先を急いだのだった。

 

-------------------------------

 

「チッ!!やはり貴様か!茎道!」

 

腹を立てた様子で、トリトンはモニターを銃で撃つ。

最奥地に着くも、お目当ての始まりの石はすでに無かった。

 

「こりゃしてやられたな。」

 

特に深刻に思うこともなく俺はつぶやいたのだった。

 

-------------------------------

 

桜満玄周の墓の前に、始まりの石を手にした茎道修一郎は立っていた。

 

「幸福な日々を思うよりなお、大いなる苦しみはなし。玄周、私は止まらんよ。」

 

墓の中で眠る玄周に茎道は言った。

 

「本当に止まらないと思ってるのか?」

 

「っ!?」

 

突如聞こえた少年の声に、茎道は戸惑いを隠し切れない様子で振り向く。するとそこには、

 

「修一郎伯父ちゃん。久しぶり、」

 

白々しい笑顔で手を振る義理の甥の姿があった。

 

「集君、久しぶりだね。」

 

動揺を隠すように言うが、深夜帯、このような場所で出くわすのは明らかに不自然だった。

 

「こんなところで何を?」

 

集が尋ねると茎道は、

 

「たまたま仕事で近くまで来たからついでに玄周の墓参りにね。そういう君も、こんな時間に墓参りかい?」

 

茎道の問いに集は答えようとはせずに、

 

「へえ、おかしなことをするもんだねえ。自分で殺したやつの墓参りなんて、」

 

「っ!?君こそおかしなことを言うもんだ。私が玄周を殺す理由がどこにあるんだい?彼は私の親友だったというのに、」

 

突然の集の言葉に、茎道は必死で平静を装うとするも、

 

「白々しいんだよ、とっくに調べはついてるんだ。まあ、あんたがそれで罪に問われることはないだろうがな。」

 

確信を持った様子の集に、いよいよ茎道は痺れを切らし銃を向ける。

 

「黙れ!それ以上何か言うようなら撃つぞ。」

 

突如険しい表情へと変化した茎道は集へそう言うも、

 

「いや黙らないね。あんたの企みは父さんに代わって阻止して見せるし、いずれあんたもぶっ殺してやる。首洗って待っとけ。」

 

自信に満ち溢れた表情で、茎道を指さし言ってのけた集に、茎道は銃を撃ったのだった。

 

「何っ!?」

 

しかし集が血を吹きだして倒れるようなことはなく、集は消えてしまうのだった。

 

-------------------------------

 

帰りの船、疲れたようで皆寝てしまい、起きていた俺と楪だけが外で海を見ていた。

 

「集はなんでそんなに強いの?」

 

突然楪は俺に尋ねてくる。颯太の件もあり気になったのだろうが、

 

「う~ん、どうしてと言われてもだな・・・」

 

確かに幼少期より鍛錬に励んだことは大きい。だがそれだけでは到底説明できない人間離れした力がある自覚もある。何度か考えたことはあったが、結局いつも答えは出ず、こんな結論に至るのだ。

 

「守りたいものがある者は強いってことさ。」

 

「うううっ・・・」

 

俺の言葉に、楪は納得いかない様子だった。

 

 

 

 

 




感想・アドバイスありましたらよろしくお願いします
m(_ _)m


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#10 捕食 prey

大変長らくお待たせしました!
本当は3月上旬までに投稿する予定でしたがギリ下旬に入ってしまったでしょうか。
約一年に渡る用事も済んだことですし今後これ以上期間が空くことはないのでご安心ください。


銃口を口内に突きつけられている老いた修道女は、怯えた表情で上を指差す。その銃が離されると、彼女は安堵したように、またどこか後ろめたそうに俯いた。

 

「自分を責めることはありません。所詮人間でしょう?」

 

不敵な笑みを浮かべたピエロのような風貌の男-嘘界-は、数人の兵士と共に教会の奥へと進んでいった。

 

 

 

バンッ、とドアを蹴り破る。しかし既にそこはもぬけの空だった。

 

「残念、逃しましたか……」

 

嘘界は部屋の中へと入ると、黒色の結晶を拾い上げる。

 

「ヒッヒッヒッヒッ、どうやらビンゴですかね。」

 

彼は笑いを堪えられぬ様子で、窓の外を見るのであった。

 

 

-------------------------------

 

放課後の人気のない資料室で、二人の男女は話をしていた。

 

「そんなに色っぽい話ではないのだがな」

 

「何か言った?桜満君」

 

「いえ、何も……」

 

天王洲第一高校生徒会長・供奉院亞里沙に呼び出された集は生徒会の仕事を手伝わされていたのだった。

 

「話を聞いてもいいとは言いましたがこんなことまで引き受けた覚えはないですよ……というか他の人たちはどうしたんですか?」

 

「今日中に生徒会室まで運び出さなきゃいけない資料があったのにうっかり全員帰しちゃったのよ。呼び戻してミスをしたことを知られたくもないでしょ?」

 

「完璧人間を演じるために俺に迷惑をかけないでくださいよ……」

 

不服そうに口を尖らす集。

 

「それにしても良かったんですか?あなたのヴォイドを借りっぱなしなんて。」

 

船上パーティでの一件以来、集自身のヴォイドに亞里沙のヴォイドが格納された状態となっている。ヴォイドが壊れればその持ち主も命も失われる以上、それは常に命を預けていることと同義なのだが

 

「ええ、問題ないわ。私のところにあったって役に立たないわけだし。」

 

「俺は随分と信頼されているんですね。もし俺がしくじったらどうするんですか……」

 

亞里沙の全面的な信頼に戸惑う集。

 

「あら?私を口説いたときの自信はどこに行ったのかしら?絶対に守り抜くくらい言ってみなさいよ。」

 

「口説いた覚えなんてないですよ……」

 

あざとくウインクする亞里沙に、げんなりする集だった。

 

-------------------------------

校舎の前で映研の作品を撮っている颯太達を尻目に、一仕事終えた集は涯と連絡を取っていた。

 

「一週間もリーダーが不在で大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

「それは死亡フラグだ。」

 

「……俺が行かないとまとまらない話もある。しばらくはおとなしく学校を楽しんでろ。」

 

「へいへい、そりゃどうも。」

 

休日にちょくちょく月島や下っ端達の稽古をつけに行くこともあるから大して変わらない気もするけどね。家に楪がいるのも変わらないし。

それでも折角もらった休暇だ。有意義に過ごさなければ。

 

 

-------------------------------

 

「最近の集、何か隠してる気がするの。いのりちゃんが遠い親戚っていうのも怪しいし」

 

日が暮れてきたころ、祭と花音は教室にいた。

 

「年頃の男女が家で二人きりなんて、きっと既に大人の階段を昇って……」

 

「や〜め〜て〜‼︎」

 

面白がる花音に対し悲鳴をあげる祭。

 

「でも、人生望んだようには行かないよね。」

 

そう言ってため息を吐く花音。

 

「谷尋君のこと?」

 

「施設にも行ってみたけど顔出してないって。昔はよく一緒に遊んだのになぁ……」

 

儚げにそう呟く花音。

 

「ん?探し物は水族館にあり?探してるのは魚じゃないんだけどなぁ……」

 

「えへへ」

 

占いの結果を嘆く花音に笑みをこぼす祭。

 

「そっちは?」

 

「えっと、恋のラッキーアイテムは虎縞の薬缶。」

 

「そんなのどこにあるのよ。」

 

祭の占い結果に不満な様子の花音。

 

そこにゴロンゴロンと薬缶が転がってきた。それも

 

「これって」

 

「虎縞の薬缶」

 

「だよね?」

 

よりにもよって虎縞の薬缶だった。

 

「すみませーん。」

 

「……っ⁉︎集⁉︎」

 

さらにそれを持ってきたのが祭の想い人本人というおまけ付きだった。

 

「なんだ。二人ともまだ帰ってなかったんだな。」

 

「これ?桜満君の?」

 

花音の問いに対し

 

「颯太が撮影に使ってるんだよ。恋人の形見とかなんだとか、兎にも角にも楪に持たせるらしい。一体どんなセンスしてるんだか」

 

「そうなんだ……」

 

恋敵(仮)の名前が出てきたことに、少し落胆する祭。

 

「そう言えば今日のラッキーアイテムで虎縞の薬缶とかあったな。何座か忘れたけど、まさかホントに存在するとはな。」

 

「へっ⁉︎そっ、そうだね!あはは……」

 

さっきまで見ていた占いの話題を振られ動揺する祭。

 

「桜満君、そういうの見るんだ。」

 

「ああ、信じてはいないけどな。ちなみに俺のラッキーアイテムは1m以上のハサミらしい。変な物しか書いてないよな。このサイト。」

 

「その通りよね。」

 

やれやれと呆れた様子を見せる集。

すると突然

 

「わあああ!部室に忘れ物しちゃった!これ届けといてあげるから代わりに祭の買い物に付き合ってあげて?」

 

薬缶を奪い取り言った。

 

「えっ?別に構わないが……」

 

「ちょっと花音ちゃん!」

 

「ラッキーチャンス。がんば!」

 

動揺を隠しきれない祭の話も聞かず、花音は教室から出て言ってしまった。

 

「ラッキーチャンスってあの薬缶の……」

 

「さあなんのことだろうね⁉︎」

 

集の話も聞かず、祭は言い切ったのだった。

 

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セフィラゲノミクスの一室で、茎道とヤン少将は向かい合っていた。

 

「幽霊が出たそうだよ。大島の研究所に、桜満玄周博士のIDで入った人間がいる。何か釈明はあるかね?玄周博士のかつての同僚、茎道修一郎博士。」

 

「いいえ、ありません。」

 

ヤンの言葉に、茎道はただ同意する他なかった。

 

 

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電車内を沈黙が包む。

 

「なあ祭。どこで降りるんだ?」

 

「えっ、ええと。」

 

「決まってないなら、最近できたとかいうショッピングモールでも行ってみないか?」

 

「うっうん!そこでいいよ。」

 

買い物したいのに行き先が決まってないのか。女子というものはよく分からない。

 

「あっ、あの!」

 

祭が何かを発しようとした時、急に電車は減速する。慣性によって前につんのめった祭は、そのまま俺に突っ込んでくるわけで……

 

「……大丈夫か?」

 

彼女を受け止めながら平然と言う。だがこちらに当たる柔らかい感触は凶悪である。

 

「あああ……うぅっ……」

 

俯かないで欲しいな。こっちまで恥ずかしくなってくる。

 

「集……私ね……」

 

「ん?」

 

突如祭が改まって何かを言おうとする。

 

「私、あなたの事……!」

 

祭が最後まで物を言おうとした途端

 

「ハッハッハッハッ……」

 

「……っ⁉︎」

 

何者かが電車に駆け込んできた。思わず祭をかばうようにしながらそちらを見る。

 

「ハァ……ハァ……」

 

閉まった扉の外には強面の男たちが立っていた。どうやら彼らから逃げていたらしい。電車の中に飛び込んできた彼から大量の錠剤がこぼれ落ち、あまりに飛び散る。その男はすぐに立ち上がると、それらを拾い集め始めた。

 

「久しぶりだな、谷尋。」

 

「えっ⁉︎」

 

俺の言葉に驚く祭。目の前の男は反応すると、こちらへと振り向いた。

 

「集……なんだ?お楽しみか?」

 

祭に抱きつかれている俺を見て、嘲笑しながら言った。

 

「そのお楽しみを邪魔されたところだよ。」

 

俺の返答に谷尋はつまらなそうにする。

 

「谷尋君!違うの!これは……」

 

「谷尋、話がある。来い。」

 

「……わかった」

 

祭は谷尋の誤解を解くべく弁明しようとしたが御構い無しに集は続ける。

 

「祭、悪い。買い物は明日にしよう。外せない用事ができた。」

 

「うっ、うん。わかった……」

 

祭は、内心残念に思いながらも集の真剣な表情に頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

「桜満集君、あなたを張っていて正解でしたね……」

 

二人の邂逅をモニター越しに見つめる嘘界は、満足げに呟くのだった。

 

 

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工業地帯を歩きながら、谷尋は話す。

 

「葬儀者が隔離施設を襲ったときに俺は逃げた。奴らは潤を処分しようとしたからな。だがその後GHQや商売相手から追われてな。潤を連れて転々としているところだ。」

 

「俺を売って入った施設を早々に抜け出した結果がこれか。ゾッとしねえな。」

 

「返す言葉がないな。」

 

一発殴ろうと思っていたがこれほど悲惨だと同情すら覚えるな。

 

 

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「潤、どこが痛いところはないか?」

 

ソファーから落ちていた少年には、かつて見たとき以上のキャンサーが出ていた。

彼が何かに怯えた様子なのが引っかかる。

 

「あっ……ああっ……」

 

こちらの存在に気づくと潤は目を見開いた。

 

「大丈夫だ……兄ちゃんの、友達だ。」

 

ツッコミたいところだが話がややこしくなるので堪えた。

 

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しばらく時間が経ち、既に外は暗くなっていた。

 

「金、貸せないか?逃げるにも食べるにも、金がいるんだ。」

 

同情をひくために潤を見せたのが容易に想像できる。

 

「ぬけぬけとまあ……しかし潤に罪はないしな。金は貸さぬが助けてはやろう。」

 

ここで見捨てるほど人でなしになった覚えもない。潤が安全となればこいつも俺を裏切る必要もないわけだ。

 

「……恩に着る」

 

「いずれこの借りは返してもらうからな。」

 

そう言うと集は葬儀社に連絡を入れた。

 

「集?」

 

すると綾瀬が出た。

 

「保護して欲しい人が二名ほどいる。これからそっちに向かうから。じゃあな。」

 

「えっ、ちょっと待って……」

 

ちょっと待ってよと言い切る前に集は電話を切った。

 

「大丈夫なのか……?」

 

「問題ない。異論は認めない。」

 

集の適当さに谷尋も心配になるのだった。

 

 

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潤をカートの上に寝かせた状態で、集と谷尋は外を歩いていく。

 

「やっと出てきましたか。」

 

身を潜めていた嘘界と兵士達は、彼らを見下ろしていた。

 

「遺伝子キャプチャーの準備は?」

 

「出来てるけど、なんでこんなものを?」

 

嘘界の言葉に、ダリルは疑問を抱く。

 

「恋した相手を知りたいと思うのはいけないことですか?」

 

意味深な言葉を残すと、嘘界は電話を切った。

 

「やってください。」

 

それと同時に二発の銃声。

 

「「……っ⁉︎」」

 

いち早く気づいた二人は、それを瞬時に躱す。

 

「もうバレたか。」

 

「予想はできていた。走るぞ。」

 

集の言葉を合図に二人は駆け出した。

 

 

-------------------------------

 

 

既にエンドレイヴも出ている。囲まれるのも時間の問題。守りながらの戦いは厳しいが今戦えるのは俺だけじゃない。

 

「谷尋、戦えるな?」

 

「ああ。」

 

谷尋と目を合わすと、銀色の光が輝き始める。

 

「これは……」

 

「六本木で見ただろ。俺の能力だ。何、悪いようにはしないから受け入れろ。」

 

谷尋の右手を取ると、俺の右手でハサミのヴォイドを引き抜いた。

 

「うっ……これが俺の体の中に……」

 

まじまじと見ている。確かに不思議だろうが今はそんな時ではない。

 

「お前はこれで戦え。」

 

「集は?」

 

「俺にも武器がある。」

 

会長から預かった最強の盾がな。

 

「わかった。行くぞ!」

 

谷尋は駆け出して行った。

 

「あああっ……!あああっ……!」

 

潤が今までよりも怯えているのがわかる。あのハサミを見てからそれが顕著だ。

しかし今日のラッキーアイテムは1m以上のハサミだったが、あれはどう見てもそんなにない。

ヴォイドでダメならどこに存在するのだろうか。

 

「見つけたぞ桜満集!」

 

後ろで爆発音がした。後ろを振り返るとそこにはエンドレイヴがあった。

 

「その声は、ダリルか。」

 

よりによって面倒な相手と出くわしたものだ。

 

「今度こそぶっ殺してやる!」

 

そう言うが否やダリルの操縦するエンドレイヴはマシンガンをぶっ放した。

潤を庇うように盾を展開すると、それは全ての球を弾いたのだった。

 

「なんだと⁉︎」

 

「流石は会長のヴォイドだ!」

 

悔しさを滲ませるダリルと対照的に集は嬉しそうに声を上げるのだった。

 

「ならこれでどうだ!」

 

するとダリルはエンドレイヴの指を伸ばしてきた。集はそれを避ける。すると

 

「何っ⁉︎」

 

その指は軌道を変えて集を追ってきた。

 

「この光を追いかけるんだよ、こいつは。」

 

(この光⁉︎……ヴォイドのことか。ならば!)

 

「なっ!」

 

ダリルは驚きの声を上げる。なんと集はヴォイドを仕舞ったのだ。当然指の追跡は止んだが。

 

「馬鹿め!丸腰で何ができる!」

 

再びマシンガンを集に向けるも

 

「……っ⁉︎消えたっ⁉︎」

 

体術『抜き足』によって姿を消し

 

「がはあああっ⁉︎」

 

エンドレイヴの左腕にまとわりつき、そして捥いだのだった。

 

「生身だって戦える。お前は月ヶ瀬ダムでヴォイドなしの俺に負けたのを忘れたか?」

 

「クソがあああああっ!」

 

集の煽りに逆上したダリルはさらに指を伸ばすも全てを躱される。しかし

 

「ああっ……!」

 

「……どこに行く⁉︎」

 

あろうことかそれは潤を追跡し、そして刺さった。

 

「しまった!」

 

「ああああああああぁぁっ!!」

 

「潤っ!」

 

潤の悲鳴に、エンドレイヴを相手取っていた谷尋が駆け寄ってくる。

 

「おい嘘界!どう言うことだ!」

 

ダリルが不満げな声を漏らす。

 

「予定外ですが、これはこれで興味深い。あの物体とアポカリプスのキャンサーが同じ反応を示した。」

 

嘘界がそう言っている間にも、潤のキャンサーが逆流し、エンドレイヴを侵食し始める。

 

「グアッ⁉︎なんだ……⁉︎あああああっ!」

 

一瞬にしてダリルはベイルアウトした。

 

「ああああああああぁぁっ!!」

 

潤の悲鳴がキャンサーをまとったエンドレイヴから聞こえてくる。

 

「どういうことだ!」

 

「俺にも分からない。とにかく潤の身体とあのエンドレイヴを守るぞ!」

 

「……わかった。」

 

言いたいことがありそうな様子の谷尋だったが、そこは堪える。

集も判断しかねるこのイレギュラーな展開。どちらが潤の本体なのかがわからない以上、どちらも守るという選択しか思い浮かばなかった。

 

「アポカリプスウイルスでマシンがゲノム共鳴を起こしたか。では、あそこにいるのは……」

 

嘘界は戦いの様子を見ながら思考していた。

 

「おい、どうした。何があった。」

 

他のエンドレイヴの操縦士が、ダリルの操縦していたエンドレイヴに声をかけるも

 

「あああっっ!!」

 

そのエンドレイヴはキャンサーを伸ばし、一瞬にして相手を串刺しにした。

 

「グハァッ⁉︎」

 

串刺しにされたエンドレイヴは大爆発を起こすのだった。

 

「嘘界少佐、危険です!離れてください!」

 

隊員の呼びかけに

 

「ひとまず撤退します。作戦中止。」

 

と、嘘界は撤退の意思表示をしたのだった。

 

 

「谷尋、それを貸してくれ。」

 

そう言うと集は谷尋はハサミのヴォイドを奪い取った。

 

「お前、何を⁉︎」

 

集は谷尋の声も聞かずハサミをエンドレイヴに突き刺した。

 

「うおおおあああっ‼︎‼︎」

 

 

突如、集の意識は真っ白となった。

 

 

-------------------------------

 

「ここは……六本木か?」

 

集の目の前に広がったのは、六本木の光景だった。しかしそれは現在と違い。

 

「ロストクリスマスの……起こる前……」

 

「そうです。」

 

後ろから声がかかる。そちらへと振り向くと

 

「お前は、潤か。」

 

そこにはキャンサーの全くない姿の寒川潤が立っていた。

 

「ようやく話せましたね。」

 

その言葉が発せられると

 

「わああ!ありがとう!」

 

無邪気な声が聞こえる。そちらへと顔を向けると

 

「特別だぞ!誕生日だから。」

 

幼き日の谷尋と潤がいた。谷尋は潤に誕生日プレゼントの腕時計をしてやっていた。

 

「2020年12月24日。僕が一番幸せだった時間です。……もうすぐ、ロストクリスマスが起きる。この幸せな思い出だけ抱いて、僕はもう旅立ちたい。集さん、そのヴォイドで僕の命を切ってください。」

 

「……何を言ってる。」

 

「それは僕を葬るためのヴォイドです。」

 

「……そんなわけが」

 

潤を葬るためのヴォイド、それはすなわち谷尋の潤への殺人衝動を意味する。今まで潤を守るために自らを犠牲にしてきたあいつが、そんなわけ……

 

「僕の自由を奪った結晶が代わりにヴォイドが見える『眼』をくれました。」

 

「ヴォイドが見える……眼……」

 

「そこには僕に見せる兄さんとは、別の兄さんがいた。」

 

潤に見えた別の谷尋、それは潤にハサミを突きつけ、そして

 

『邪魔だ……お前は邪魔だ……』

 

「僕はもう何度も、優しい人の優しくない姿を見ました。友達、親戚のおばさん、医療センターの人、多分集さん、あなたも。」

 

集は驚いた様子で目を見開く。

 

「これ以上生きれば何度でも、この悲しみが僕を襲う。兄さんのことも嫌いになってしまう。素敵な兄さんを大好きな僕のまま、僕は生きたい。」

 

「っ!」

 

爆発音がする。ロストクリスマスが始まった。

 

「お兄ちゃん怖い、怖いよ。」

 

「大丈夫、兄ちゃんがついてる!ずっとついてるから!」

 

幼き声が聞こえる。

 

「お願いです。僕を殺してください!さもなくば…」

 

『兄さん!僕がいて迷惑だった?僕が兄さんの人生を滅茶苦茶にした?僕のこと嫌いだった?僕だって!兄さんのことなんか……』

 

「やめろっ!!」

 

「かはっ⁉︎」

 

集は潤を思い切り殴った。

 

「死にたいなんて言うんじゃない!殺してくれなんて言うんじゃない!お前が死ねば、間違いなく谷尋は悲しむんだぞ!」

 

集は声を張り上げる。

 

「だから!ホントは兄さんは僕を殺したくて……」

 

「お前を大切に思う谷尋は嘘だったのか⁉︎」

 

「……っ⁉︎」

 

集の言葉に潤は押し黙る。

 

「谷尋がお前を邪魔に思ってるのは本当なのはわかる。当然だ、あいつがお前のためにどれだけ苦労してたか、俺も少しはわかる。」

 

「……だから僕は」

 

「でもな!ちょっと苦労かけたくらいで殺すわけねえんだよ!家族なんだから!」

 

「……。」

 

潤は集の言葉を俯いて聞いていた。

 

「人間誰しもさまざまな面を持ってる。だからこいつはこうだとか、あいつはああだとか、そんな一言で人ってものは表せねえ。お前を大切に思う谷尋も、疎ましく思う谷尋も、どちらも谷尋なんだ。」

 

「そうですよ!兄さんは僕を疎ましく思って……」

 

「絶対にお前を大切に思う谷尋は、疎ましく思う谷尋に勝てる!」

 

拳を握りながら集は言う。

 

「勝……てる?」

 

「ああ、絶対にあいつはお前を殺したりしない。それになお前、ロストクリスマスの前が一番幸せだった時間とか言ってるけど大して生きてもいねえのにそんなことわかるわけねえだろ!」

 

「わかる!どうせこの世界に希望なんてない!朽ちていくだけの世界を生きることに意味なんてない!」

 

「俺が変えてやる!」

 

「っ⁉︎」

 

集のぶっ飛んだ発言に潤は呆気にとられる。

 

「お前が生きてて良かったって思える世界に俺が変えてやる。また谷尋と、普通の仲のいい兄弟に戻れるようにしてやる。」

 

映し出されていた惨状が消えていく。

 

「そんなのできるか分からないじゃないですか……」

 

集の描く理想の世界を見て、悲しそうに嘆く。

 

「ああそうだ。できるかもできないかも分からねえ。だからそれを確かめるまで生きろよ。」

 

「……無茶苦茶なこと言いますね。」

 

涙を流しながらも笑みを浮かべる潤。

 

「生きてみて、生きてて良かったと思えればそのまま生き続ければいい。死にたくなったら別にその時死んだって遅くないだろ?」

 

「凄いですね、その前向きさ。でも、僕の身体ではどちらにしてももう長くは……」

 

生きたいと願っても、きっとこの身体は生かしてはくれない。アポカリプスウイルスに侵食された今の状態では。そう諦めた潤だった。しかし

 

「俺が生かしてやる。お前のその痛みも、お前を苦しめたその目も、全部俺が背負ってやる。だから来い!」

 

そう言うと、集はハサミを手放す。そして潤へと右手を差し出したのだ。

 

 

 

『兄さん!今日は誕生日でしょ!はい!』

 

『俺にくれるのか?ありがとな、潤!』

 

 

もし、こんな世界が来るのだったら彼に賭けてみるのも、悪くないのかもしれない。

 

 

潤は安らかな表情で、集の手を取るのだった。

 

 

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さっきまで悲鳴をあげていたエンドレイヴが急に静かになったものだ。どうにかうまくいったようだな。

 

「おい!集!何をした⁉︎」

 

谷尋が駆け寄って来る。なるほど、結晶がくれた『眼』で見る世界は、中々気持ち悪いな。

 

「安心しろ、全て解決したんだ。全て……」

 

そう言って集は潤の方へ見やる。谷尋もそちらへ向くと

 

「ん……あぁ……」

 

「っ!潤!大丈夫か!」

 

潤が気がついたのを見て、谷尋は駆け寄った。

 

「お前……キャンサーは……」

 

「大丈夫、全てもう……無くなったから。」

 

キャンサーが無くなった。あり得ない現象に一瞬戸惑うも

 

「集……お前がやったのか⁉︎」

 

「ああ、俺のヴォイドの力でちょちょいとな」

 

「……ありがとう…………。」

 

突如谷尋は涙を流し始めた。

 

「おいおい!泣くなって。全くもう。」

 

泣き続ける谷尋に呆れる集。

 

「ありがとうございます。集さん。」

 

「少なくともお前の無事を喜んで泣く谷尋もまた谷尋だ。ちゃんと肝に命じておけよ?」

 

「はいっ!」

 

満面の笑みを浮かべ、潤は答えたのだった。集の『眼』に映るのは、曇り一つない感謝の気持ちだった。

 

 

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二人を葬儀社のアジトに届けた集は、自宅に戻っていた。許可も得ずに勝手に連れてきたことにお咎めがなかったわけではないが、無事保護してもらえることになり安堵する集だった。

しかしいい事ばかりでもなかった。

 

「ステージ4のウイルス吸って、これで済んだことを感謝するべきなのかねえ……」

 

上半身裸で鏡の前に立つ集は思わず苦笑いする。彼の背中には、正真正銘アポカリプスウイルスのキャンサーが出ていたのだった。

 



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