【完結】世界を救ったヒーローの二週目特典である完璧美少女ボクがライバル全員TSしてるせいで負けヒロインな件 (柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定)
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ゲーム1:大勝利? 否、負けヒロイン
「―――今日こそ、決着をつけるぜ≪ゾディアック・キング≫!」
いつか、どこかの採石場。
傷だらけの、しかして目に強い光を宿す青年が叫んだ。
対するは怪人だった。
そう、怪人。
チェスの駒、そのキングを模した白と黒の化け物。
発せられる威圧感は尋常ではなく、常人ならばその前に立つことすら叶わない。
だが、青年は一歩も引かなかった。
むしろ、前に出て、懐からドライバーを取り出す。
『リバースドライバー!』
長方形の、二つの円形スロットが開いたバックル。それを腰に押し当てると端からベルトが伸び自動で装着される。
続け、ジャケットの内側ポケットから掌サイズの分厚いコインを取り出し、両手で握る。
表裏が白と黒で二つに配色されたそれに、力を込めればそれぞれ分離し、ドライバーのスロットに差し込む。
『オルターブラック! オルターホワイト!』
ベルトから発せられるテンションの高い機械音声。
スロットの中の黒のコインは縁に金、白のコインは縁に銀の装飾が同時に追加。
足元に黒縁緑色の碁盤の目状のフィールドが展開。
それぞれの目に半透明な金縁の黒、銀縁の白のオセロの駒がずらりと並ぶ。
同時、バックルの二つのコインから黒と白のスパークが発生し、青年の全身を蝕むように広がり、
「―――ハァッ!」
気合い一声。
スパークが身体から消え、足元のオセロの駒が青年の背後に集結し、システマチックな太極図を模した魔法陣となる。
そして、青年は右手の甲を前に、左手の平を前にして腕をクロスし叫ぶ。
「―――
『
歌の様に流れるシステムボイス。
背後の魔法陣が少年を潜り抜け、閃光を放った時―――青年は変身を完了させていた。
『オセロー――――オルタナティヴ・ゼロ!!』
白と黒を基調にし、随所に金と銀をアクセントとした機械的なアーマー。
左右の複眼はやはりそれぞれ白と黒であり、同じように右腕、左足と左腕、右足がアシンメトリーで黒白を纏う。
腰から生じたチェック柄マントをはためかせ、ソレは叫んだ。
世界を滅ぼそうとする悪逆非道の怪人へと。
自らがいかなるものかを証明するために。
「救世プレイヤー―――オセロー! さぁ、ここからひっくり返すぜ!」
世界を救う、最後の闘いが此処に始まった。
「ウオオオオオオオオオオ!!」
●
長谷川シロウ。
彼は転生者である。
前世で死んで、神に転生させられて、第二の生を得た。
『武装プレイヤーオセロー』として。
それは生前、日曜朝の時間帯にやっている特撮ヒーローシリーズの一つだった。ボードゲームをモチーフにしたそれは番組枠としては子供向けながら、そのストーリーの複雑さとオセロならぬ信頼と裏切りをテーマにし、大人からも人気の一作だったが、同時にその複雑さと人間関係の重さ故に賛否両論にもなっていたらしい。
らしい、というのはシロウはその手のヒーローものを見たことなかった故に。
いずれにしても彼は転生し、ヒーローになり。
出会いと結束、別れと裏切りを繰り返し、世界を救った。
そして、今。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
「うるさいですよ、シロウ。キングを倒したようなテンションでゲームをしないで―――、ボクの勝ち」
「うわああああああああああ!!!!」
「キングとの戦いだったら世界が滅んでましたね」
ある高層マンションのリビングにて、ゲームで大敗していた。
黒髪黒目、黒シャツに黒のスウェット。筋肉質な身体や整った顔立ちは若手俳優やタレントのようだ。
全身真っ黒の二十代の青年。
それがシロウ。
彼はソファにひっくり返りった姿はまるで世界を救ったヒーローのようには思えない。
「なんでだ……なんで俺が負け続けるんだ……? おかしいだろ……」
呪いの言葉のように負け惜しみを呟く姿は憐みすら誘う。
だが、シロウを負かした相手は鼻を鳴らし勝ち誇るだけだった。
「ふふん。頭の出来が同じはずなのにこれとは。またボクの方が優れていると証明してしまいました……顔もいいし、ゲームも上手い……困りましたね、これは」
澄んだ声を持つ女性。
カーペットに直接座り、抱えたクッションの上でコントローラーを握っている。
白の長い髪、透き通るような白い肌。赤い瞳。白いカッターシャツに白いハーフパンツ。
瞳以外は真っ白の美女。
カッターシャツを押し上げる胸は豊満に膨らみ、露わになった太ももは肉感的で艶めかしい。
彼女もまた人気女優やモデルのような外見をしている。
だが、女の溢れる女性的魅力にはまるで構わず、
「それは間接的に俺を褒めているのか?」
「君の顔が良いのは認めますが、それでも中身が……」
「それは間接的に自分を貶しているぞ、あほめ」
「貴女もですよそれ――――何せ、
彼女の名はクロエ。
長谷川クロエ。
クロエと性別と色の違いはあれど同じ顔立ちは双子のようであり―――もっと、深いものだ。
クロエはシロウの中にいた
ある戦いにおいて≪オセロー≫の力を限界まで引き出す為に、シロウは自らの裏側と対面した。
それが自分そっくりな、性別や性格が反転した女。
彼女と対立し、和解し、理解し合うことでシロウはオセローの最強の姿≪オルタナティヴ・ゼロ≫となり世界を救った。
救ったのだが。
「くそっ……何度思い出しても腹が立つぜ」
シロウはゲームのコントローラーを背の低い机に起きながら毒づく。
壁に備え付けの大型液晶テレビには自分のキャラクターが倒れ、同じキャラを使っていたクロエが屈伸を繰り返している。
キレそう。
「
そう、彼は世界を救った。
オセローにおける敵組織≪ゾディアック≫の王、キングを倒して物語はハッピーエンドになった。
なるはずだった。
問題はその後。
世界を救ってひと眠りしたシロウの夢の中に、彼を転生した神が現れて色々なことを言った。
要約すると、
『おつー。頑張ったので経験や能力そのままにもう一回人生やり直してエンジョイできるようにするね! 作中の裏切りとか死人とかそういうの全部なくなった平和な世界! やったぜ! ループ、というか一応よく似た世界に転生だから、特典で君に最高のヒロインも付けてあげる!』
というものだった。
色々と筆舌にしがたい。
平和な世界、というのは嬉しい。
特にシロウは転生して、仲間に何度も裏切られ、心を痛め、結局別のプレイヤーは最後にはほとんど死んでいた。
それぞれに色々な理由があり、恨んでいる相手も、恨み切れなかった相手もいる。
だから、ご都合主義だとしても、二周目の平和な世界があるのならそれでもよかった。
特典とかいう最高のヒロインが、もう1人の自分であることを除けば。
「世界を救って平和な二週目の特典ヒロインが自分なんてどうかしてる……!」
「君、特典扱いされたボクの気持ちも慮ってください」
「自分を慮る必要は?」
「あるでしょう」
「それはそう」
肩を竦めつつ、立ち上がる。
一周目では知り合いの家に居候――最終決戦の直前に知り合いの家族ごと爆破された――をしていたが二周目は高層・高級マンションの一室だ。
一週目は転生として生まれた時から始まったが、二週目では≪ゾディアック≫との戦いが始まる一年前からスタートし、どういうわけか高い生活水準や安定した収入が確保されていた。
なので今のシロウは無職である。
無職のヒーローだ。
ちょっとどうかと思う。
二週目特典、というやつだろう。
ちなみに≪ゾディアック≫は二周目開始直後にシロウとクロエで速攻で組織丸ごと潰しているので世界の危機は最早ない。
収入も安定しているので概ね彼と彼女は暇なので、平和な日々を謳歌するだけだ。
「それはそれで困るけどな……」
立ち上がり、リビングからシステムキッチンまで足を運び、冷蔵庫から炭酸飲料を取り出す。
「私のもお願いしますー」
「おー」
何を、とは聞かずにミネラルウォーターのボトルを手に取る。
シロウは炭酸が好きで、クロエは炭酸が嫌い。
味の好みも反対だ。
リビングのソファに戻り、彼女に適当に放れば、危なげなくキャッチ。
「今日の予定は」
「あー」
時計を見れば、もうすぐ正午で、
「昼過ぎからシャーリーとランチだ」
「!!」
クロエの反応は劇的だった。
シャーリー。
シャーリー・B・田中。
アメリカ人とのハーフであり、金髪碧眼の美女。
そして、救世プレイヤーモノポリーでもある。
一週目ではシロウにとってライバルと呼ぶべき存在だった。
初めて出会う自分以外のプレイヤーであり、最初は敵であり、何度か信じて仲間になり、また何度か裏切られて敵になって――――最後にはシロウが自ら殺した相手でもある。
変身アイテムである≪ゲームコイン≫の奪い合いから始まり、ゾディアックに対する意見で対立し、1人では倒せなかった敵を倒す為に共闘し、ゾディアックの姦計で決裂し、それを超えて共闘し、彼の目的のために裏切られ、その目的が故に許し、結局わかり合えることはできなかった。
信頼できる敵であり、油断できない味方。
そんな女。
そんな女―――――に、なった。
シャーリーは一週目では男だった。
完全に生物学的にも外見的にも男であり、金髪碧眼のイケメンだった。
が、何故か二周目では女になっていて、色々な問題は解決し、偶然にも出会い、シロウとはまっとうな友人関係を結んでいる。
「それは……」
クロエはこっちを見なかった。
「おう」
「それは……デート、ですか?」
「え? いや、ははは。そんなわけないだろ。シャーリーだぜ?」
「はははー、そうですねー。釣り合いませんねー。おっぱい大きいですし」
「ははは、お前も大概だ」
シロウは笑い、
「じゃ、俺は行ってくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
●
「あああああああ絶対デートだああああああぁぁぁ少なくとも向こうはそのつもりだあああああ」
シロウが家を出た直後。
1人広い部屋に残ったクロエはクッションに顔を突っ込みながら呻き声を上げた。
シャーリーという女を、クロエは知っている。
前世では男としてだが、シロウとして、彼の内側からずっと見ていたのだから。
そして二週目で出会い、
「シャーリーは完全にシロウを狙っています……!」
金髪碧眼、ついでに巨乳長身。
アメリカパワーとでもいうのか、身長170ほどのクロエよりもさらに高く、全体的にボリュームにあふれている。
おまけに一週目の男は面倒に粘着して戦っている相手だったが、抱えていた問題が解決したからだろう優しくお淑やかな淑女になってしまった。
抱えていた問題。
彼女、或いは彼は所謂本編開始前に妹をゾディアックに囚われ、妹を救うためにプレイヤーとして戦い、そのためにはシロウを裏切ることも厭わなかった。
だが、二周目に入り、当然それを知っていたシロウはゾディアックを潰す際、攫われる事件をそもそも潰した。
だからシャーリーの問題は解決されたのだが。
新たな問題は、妹を助けた場面をシャーリーが目撃してしまったということ。
化物に攫われそうになった妹を颯爽とかっこよく助けたイケメンのヒーロー。
惚れない理由がない。
そしてそんなのはシャーリーだけではない。
≪救世プレイヤーチェッカー≫市松風。
糸目関西弁の詐欺師は二周目では糸目関西弁のままの、飄々とした美女になった。
ゾディアックの傘下だった宗教団体に両親を洗脳され、彼女も同じ目にあったところをシロウが救った。
≪救世プレイヤーナインモリス≫十六夜撫子。
協力や共闘を厭い、1人で戦うことを望んだ孤高の男は、スレンダーでクールな美少女高校生になった。
ゾディアックの襲撃に逢い、当時の友人らに裏切られ、唯一の親友を失い、復讐の鬼になるはずだった彼女を、友人ごとシロウは救った。
≪救世プレイヤーコネクト≫水門蓮。
ゾディアックやプレイヤーシステムを研究材料とする神経質な科学者の男は、機知に富んだ美女になった。
自分が知らないものの存在を納得できない彼女に対して、ゾディアックが何故生まれたのか、どういう存在なのかを教え、何より最大の研究対象と定められることによってその知識欲をシロウは救った。
≪救世プレイヤーフリッツ≫フリッツ。
本来ゾディアックのキングの息子であり、次代のキングとなるはずの子供は、カリスマを秘めた美少女になった。
正しく優しい心を持ちながら、自らの運命に諦め、偽悪的に振る舞わねばならなかった少女に、その運命ごと破壊することで彼女をシロウは救った。
一周目で男だったはずのプレイヤーは全員女になっていて、その上で、シロウはその全てを救った。
二周目というアドバンテージを活かし――なにより彼は、人を救うヒーローだったから。
転生とかループとかそんなの関係なく、長谷川シロウは誰かを助けるヒーローだった。
なのに、
「どうして……どうしてそのヒーローのヒロインとして生まれたボクとは何の進展もしないんですか……!?」
神という上位存在はシロウにとって最高のヒロインとしてクロエを生んだ。
元々はシロウの人格の一部であったが、二周目が始まると同時に別の存在として、そしてシロウのヒロインとしての存在を確立されている。
クロエにとってシロウのヒロインになることは存在理由だから。
だって、シロウは一周目、あまりにも多くに裏切られ、失った。
モノポリーの話だけではない。
チェッカーが自らの嘘で自滅していく様をシロウは見た。
ナインモリスが復讐のために命を削り、そして復讐を果たして死ぬ様をシロウは見た。
コネクトが研究欲の為にゾディアックへと裏切り、そしてそのゾディアックの実験体として怪人になるのをシロウは見た。
フリッツが運命に負けて敵になり、それを倒したらキングに失敗作と殺されるのをシロウは見た。
その度に彼の心はひび割れ、しかしそれでも世界を救った。
それはあまりにも美しく、痛ましく――――愛おしい。
全てが平和の――――シロウが平和にした世界で、彼が救われて欲しいと思う。
なので、二周目が始まって真・ヒロインとしてラブコメを始めようとしたのだが。
「ナルシストのシロウが自分ヒロインのボクに全くなびかないのはおかしいでしょう……!」
彼はナルシストだ。
実際顔がいい。
そして行動が伴っているのでナルシストが様になっている。
ナルシストというが嫌味な雰囲気はないし、むしろ自分に自信が溢れているのは彼の魅力でもある。
だが、それは彼の反対である彼女も同じで、
「シロウ……告ってください……! 押し倒してくださいよ……!」
クロエは自分からアクションを起こすことが、そのナルシスト性故に許さなかった。
遠回しなアピールはしているが、どうにもシロウに意味はない。
直接的なアピールは、クロエの精神性のせいで行動できない。
「あぁぁあ……」
解っている。
解ってはいるのだ。
素直になればいいだけの話。
それができれば苦労しないのだが。
正直、性別反転したプレイヤーたちなんて相手にならないと思っていたが。
クロエが手をこまねいているせいで、いつのまにか毎日誰かしらとシロウとデートをしている。シロウが鈍いせいなのかなんなのか決定的なことにはなってないらしいがそれも時間の問題だ。
愛しい相手に、想いはあるけれど、行動できないし、意味がない。
人はそういう存在をこう呼ぶ。
――――負けヒロインと。
「世界を救ったヒーローの二週目特典である完璧美少女ボクがライバル全員TSしてるせいで負けヒロインなのおかしいじゃないですか……!」
3~5話ほどの予定です
普段描いてる一次長編の息抜き短編。
よろしければそちらもどうぞ。
感想評価ここすき頂けると幸いです
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ゲーム2:大集合? 否、唯我独尊
カフェ・ドミノ。
遊全市の外れ、その一角に居を構える古民家カフェだ。
古民家を改造した室内スペースと店主自ら整備をした小さなビオトープに面したテラススペースがあり、自然と調和した隠れた名店である。
そのテラスにて、
「ふぅ……やっぱここで飲むここのコーラは格別だな。」
黒の春用ジャケット、黒シャツ、黒ズボン、黒のスニーカーに、黒のサングラスという全身黒尽くめで、ドミノ自家製のクラフトコーラを味わい、
「あらあら。シロウさんはほんとに炭酸が好きですねぇ」
頬に手を当てた美女――シャーリー・B・田中は柔らかく微笑んだ。
薄いブルーのワンピースに、日の光に輝くはちみつ色の髪をショートカットにした令嬢。
女性にしては長身でありながら、肉付きが豊満なのはアメリカの血なのだろう。
ランチを終えたシロウとシャーリーは春の陽気に包まれながら、二人で穏やかな時間を過ごしていた。
「シャーリー」
「はい」
「最近はどうだ?」
「ふふっ。楽しくやらせてもらっています。事業も順調ですし、妹も大学を卒業したばかりで、新入社員として頑張っていますしね」
シャーリーはアメリカを本社とし、遊全市に支社を構えるブレイス財団の若き女社長である。遊全市は都市全体で様々な遊び、ゲームを作り販売する会社が群雄割拠しているが、その中でもブレイス財団は最大手。
彼女もその美貌を活かし、自身が広告塔にもなりながら社長業にいそしんでいる。
「シャロンも会いたがっていました。もちろん私も」
「忙しい身だろうに。仕事はいいのか?」
「社長にも休息の時間は必要でしょう? 身体も、心も」
それにと。
シャーリーは青い目を微かに細め、ぺろりと舌を舐める。
「シロウさんとの時間であれば、最優先にしていますわ」
囁くような声は男の理性を溶かすようなものだった。
街の産業の最前線を走る女が、しかし他の何よりも貴方を優先するべきだという言葉。
並みの男であればその視線だけで骨抜きになり、声の質だけで腰が砕け、その言葉に魂すらも囚われるだろう。
だが、
「ふっ……まぁ当然だな」
長谷川シロウという男は一切揺らがなかった。
「…………ふふっ。流石ですねぇ」
それを解っていたかのようにシャーリーは微笑む。
彼はそういう男だと、彼女は良く知っている。
そうでなかったら、出会って1年以上立つのにも関わらず、自分のものになっていないはずがないのだから。
だからこそ、燃えるというもの。
シャーリー・B・田中は、欲しいものを独占したがりなのだ。
さぁ、次はなにをどうしようか。
そう考えたその時、
「いやー、はっはっは。振られたのぉ、シャーリー!」
快活な笑い声がテラスに響く。
「……」
「おや」
知っている声にシャーリーは振り返る。
シロウもサングラス越しに店内へと視線を向ければ、
「よぉーよぉー、シロっち! 一昨日ぶりやのぉー。元気してたかぁー?」
黄色のスポーツウェアに身を包み、茶髪をサイドテールにした糸目の女。
首筋にネックバンド型のワイヤレスイヤホンがあり、ランニングか何かの途中のような様子だ。
彼女のことをシロウもシャーリーも知っている。
「風か、その一昨日のフットサル振りだ」
「おー、シロっちのおかげで大勝利やったわー、ありがとさん!」
飄々と笑う糸目の美女、市松風。
一周目の世界では軽薄な詐欺師の男はこの世界では活発なスポーツ美女となっている。
シロウとはよく何かしらのアクティビティをする仲であり、彼女自身パーソナルジムのトレーナーをしている。
彼女はシロウの左側の席に自然に座り、
「よっ、シャーリーも。奇遇やなぁ」
「……えぇ、全く」
にへらと、風は笑い。
あらあらと、シャーリーも笑う。
目だけが笑っていなかった。
シロウは日々誰かに誘われて何かしらに出かけているが、別に二人きりと決めているわけではない。むしろ、二人で始まって、途中で誰かが参加することも珍しくないのだ。
例えば、シャーリーとのランチの後に風が現れたり、
「―――早めに注文をしたほうがいいと思いますよ」
音もなく、黒髪の少女がシロウの右側の席に座ったり。
姫カットの艶やかな長髪に、セーラー服の上に紫色のカーディガンを羽織っていた。
表情は無に近く、冷たささえ滲ませていた。
「撫子、学校はもう終わったのか」
「はい、お兄さん」
「…………撫子さん」
「おーおー。バイトガールやんけ」
シャーリーの頬がひくひくと引きつる。
十六夜撫子。
一周目では親友の復讐に燃える少年。
今では現役女子高校生であり、シロウを兄と慕う美少女だ。
ちなみにこのドミノのアルバイトでもある。
「まだお昼過ぎですけど、もう終わったのですか?」
「テストで半日でした」
「結果はどうだった、撫子」
「もちろん、問題ありません。学年一位の自信があります。お兄さんに教えてもらいましたから」
シロウにしか見えない角度で、撫子が小さくはにかむ。
学校では全く笑わず表情を変えない『新月の姫君』と呼ばれる彼女は、シロウの前では妹のような、けれど妹では全く満足していない少女でもある。
「わははは、集まるなぁ」
「……はぁ。となれば」
「いやぁ、皆お揃いだねぇ」
「はーっはっはっはっは!! 1人おらんが! まぁよい!!!」
響き渡る低い声と喧しい高笑い。
しかし最早誰も驚かず、苦笑するか、動じないか、ため息を吐くだけだった。
1人はオーバーサイズの白衣と眼鏡の女。
緑のカッターシャツに黒のスキニージーンズ。目の下の隈はひどく、姿勢は悪いが顔立ちそのものはシャーリーたちに負けない美女だ。胸元あたりまでの濃い茶色の髪は緩くウェーブが掛かっていた。
1人は子供らしい赤のワンピース姿の十になったかどうか幼い少女。
幼いながらも器量の良さは尋常ではなく、どこか浮世離れしている。
プラチナブロンドのツインテールの毛先が赤く染まっているのも、彼女の年齢不相応の雰囲気を生み出すのに一役買っていた。
「くひひ、シロウ君だけではなくこうまで集まっているとどんな化学反応が起きるのか興味が尽きないねぇ」
「フッリツ参上! で、あーる! 妾を差し置いて会合とは全く笑えんの! わははは!」
水門蓮とフリッツ。
科学者とゾディアック・キングの娘。
蓮はふらふらと、フリッツは尊大な足取りで近くの席から椅子を運び、当然のように同席する。
ほんの数分前まで静かだったテラスがあっという間に人でいっぱいであり、全体的に尋常ではない顔面偏差値だ。
これから撮影か何かが始まると言われても不思議ではない。
「……」
シャーリーが思わず額を抑え、
「くひひ。目論見が外れたという顔をしているねぇ」
「ここで会おうとするのがミスやったなぁ」
「わはは、居候の身としては助かるがのぅ」
「ですが、ついつい来てしまうのは分かります。お兄さんのお気に入りですから」
「当然だな、この店は最高だ。飲み物も食べ物も。
「良き御仁であるのは間違いのぅ。行き場のない妾に、何も聞かず引き取ってくれたり」
シロウが目を細め、静かに笑う。
≪ゾディアック≫を壊滅させ、身寄りのないフリッツをこのドミノに紹介したのは他ならぬシロウだった。
この店のマスター、彼が「おやっさん」と呼び慕う人ならばフリッツを受け入れる度量の持主だと知っていたから。
なにせ、一周目の自分がそうだったのだ。
「へいへーい、シロっち。こんな美人たちに囲まれておやっさんの話とは贅沢なやつやなー。ぶっちゃけさ、なんのかんのこうして皆集合っての……1人いないけど、まー珍しいし」
へらへらと風は笑う。
けれど細い目を僅かに開き、
「実際、このメンツで誰が一番魅力的だと思うん?」
そんなことを言う。
反応は様々だった。
シャーリーはにっこりと笑い、撫子は表情を変えず目を細め、蓮は興味深そうに眼鏡の位置を直し、フリッツは胸を張った。
そして、
「ふむ……簡単だな」
シロウはただ、肩を竦めた。
「決まっている――――俺だろう」
●
「虫みたいにわらわらと集まって……!」
シロウのナルシスト発言に場の空気が弛緩し、途中参加の面々がそれぞれ注文をし始める様を、少し離れたビルの屋上からクロエは見ていた。
手にした大型のスマートフォンのカメラをそのまま望遠鏡の様に使っている。
『スマートボードフォン』というプレイヤーシステムのスマートフォン型サポートだ。折り畳み型のスマホで、無駄に装飾がゴテゴテとしてどう見ても携帯しにくいのだが、色々便利なものでもある。
おまけに下らない質問に、下らない答えを。
あんなの、
「シロウが一番に決まってるじゃないですか」
長谷川シロウはナルシストであり、実際に顔が良い。
一周目の世界で、いつの話だったろうか。
世界で一番イケメンの皇子様と世界中で人気な某国の皇子が遊全市に来たことがあったが、なんとシロウにうり二つだった。街を歩いてたらモデルや俳優にスカウトされることもしょっちゅうだし、遊全市内にちょっとしたファンクラブだってある。サングラスを付けているのは単なるファッションではなく、ちょっとした変装でもあるのだ。
おまけに前世と一周目と人生経験が豊富なために知識や能力も高い上に、世界を救った実績と自信も相まってちょっとした完璧超人なのだ。
そして普段はナルシストらしい気障な言動を取る。
クロエと家の中では気を張らない――――というよりも、もう1人の自分なのだから張る必要がないので全力のオフではあるが、人前だと自意識過剰ともいえるような、自身にあふれた大胆不敵な男になる。
それが、彼自身が定めたヒーローとしてのペルソナであることを、クロエだけは知っている。
二周目の世界で、人生を変える惨劇を救われた彼女たちは、どれだけ想ったとしてもそれに気づくことはできない。
それだけはクロエの特権であり、僅かな優越感でもある。
最も、実際にシロウを囲んでいる彼女たちの輪に混ざらず、遠くから覗いていて勝手に優越感に浸るのはある意味で惨めかもしれないけれど。
『或いはそうだな』
望遠拡大したスマホの画面でシロウは言葉を紡ぐ。
彼はサングラス越しにゆっくりと周りの美女美少女を見回し、
『お前たちとこうして、このカフェで、飲み物を楽しむことが俺の魅力を上回るものかもしれないな』
そんなことを言う。
そしてクロエは思い返す。
一周目。
あの場の全員が男だった頃、あぁして全員で同じテーブルを囲むことは一度もなかった。
6人のプレイヤー。
彼らが共闘したのはただの一度きり。
そしてその後は加速度的に全てが崩壊した。
それをシロウは覚えている。
本来、笑い合うことがなかったはずの者達が、性別は変われど笑い合っている。
それはシロウにとって救いであり――――だからこそ、クロエもあの光景を邪魔することはできなかった。
あの女性陣5人はわりと仲がいいのだが、クロエは妙に嫌われているのも悲しい。
見よ、いまいち褒めているか褒めていないのかよく分らない、或いはその言葉の意味をシロウとクロエしか理解できないセリフになんかいい感じに喜んでいる女たちを。
「頼むからそこで満足していてください―――――」
そんな戯けたことをクロエが喚いた瞬間だった。
『PIPIPI――!!』
クロエの、そしてシロウのスマホからけたたましいアラートが鳴り響く。
それはこの街に散らばらせている情報収集用のプレイヤーサポートドローン『ダイスロイド』が危険な存在を発見した際の通知だった。
二周目の世界でそれを使っているのは街の治安の為―――そして、クロエがシロウのデートを監視するためでもあるのだが。
アラートが鳴るということゾディアックの怪人、或いはそれに近い存在が出現したということ。
この平和なはずの二週目の世界で。
それに対してクロエは驚き、動揺し、
『――――釣りは要らん!』
長谷川シロウは万札をテーブルに叩きつけ、飛び出していた。
ブレイス財団
B財団
財団B
危険に対して真っ先に飛び出せるのはヒーローの資質の一つかなと思います。
感想評価ここすき頂けるとモチベになります。
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ゲーム3:大乱闘? 是、連続フォームチェンジ
「きゃああ!」
「うわあああ!」
「化物だぁー!」
街に悲鳴が響き渡る。
遊全市の中央公園、すり鉢状の広場は四方は階段状の噴水となり街の憩いの場である。
だが今、そこには全身に回路基板のような細かいコードを張りつけたのっぺりとした怪人――というよりも戦闘員と呼ぶべき何かが大量に出現し、市民を襲っていた。
多くの人が逃げ惑う。
二週目の世界において、≪ゾディアック≫という組織が行動を起こす前に壊滅されたために脅威にしたする耐性がない。故に、状況を理解できずにただ我を忘れて逃げ惑うだけしかできなかった。
そんな誰もが怪人たちに背を向けて逃げ、走り出す中で。
――――たった一人、黒い影が駆け抜けていく。
混乱と恐怖の波を切り裂くように、確固たる意志を秘めたように、流れに逆らう様に。
黒は驚くべき速さで広場に辿りつき、
「うわぁ!?」
今まさに、戦闘員が逃げ遅れた少年に剣を振り下ろそうとした瞬間。
「ハァッ!!」
駆け抜け様に跳躍し、飛び蹴りを叩きつけた。
戦闘員を吹き飛ばし華麗に着地したシロウは、腰が抜けていた男の子の手を引き立たせ、
「もう大丈夫だ」
力づける様に優しく肩を叩く。
「う、うん……ありがとう、かっこいいお兄さん!」
「ふっ……そうだろう。お前も俺ほどではないがかっこよくなれる。だが今は離れるんだ」
「うん!」
少年がしっかりと走り出すのを見届けるとシロウは広場を見回した。
いつのまに数十体にもなり広場を埋め尽くす戦闘員。それに倒れ、もう息の無い人々に顔を歪める。
広場内にはもう一般人はいないが、それでも避難が完了とは言えないだろう。
しかし目下の危険、それは、
「ポーン……の、亜種か?」
シロウは眉を潜めながら記憶から似た存在を思い出す。
≪ゾディアック≫の怪人において最下級の戦闘員、ポーンによく似ている。ただ、あれはチェスの駒のポーンを模していたが、これは電子回路。
或いは同じ素体で、別のモチーフで設計されたような。そんな存在だった。
一周目の世界では見たことがないタイプの怪人。
「……まぁ、いい。やることは1つだ」
『リバースドライバー!』
懐からドライバーを取り出し装着。サングラスをジャケットの内ポケットにしまい、同時にコインを取り出す。
表裏が黒と白のプレイヤーコイン。
二つ空いたスロットの内、右側にそれを差し込むことでシロウの足元に碁盤目状のフィールドが展開、黒と白のオセロの駒がずらりと並ぶ。
腕を胸の前に十字でクロスし、彼は叫ぶ。
「―――変身!」
『
叫んだ瞬間、フィールドのオセロの駒が跳ね、シロウの身体にぶつかり素体スーツに、アーマーとなっていく。
『オセロー! ベーシック!』
初期形態、武装プレイヤーオセロー・ベーシックモデル。
左右異なるアイレンズがそれぞれの色に輝く。
白と黒の二色モノトーンのプレイヤー。
「せっかく救った街で好き勝手はさせない……!」
●
「逃げてください、早く!」
撫子に、加えて先ほどまでシロウと一緒にいた5人は広場の周辺で避難誘導を行っていた。
逃げ惑う人には子供やお年寄りのように逃げるのが難しい人もいれば、パニックで冷静さを失っている人もいる。
≪ゾディアック≫が世に出る前に関わったこととまだ落ち着けていたのと、真っ先に走っていたシロウの存在が大きかった。
「バイトガール!」
「撫子さん!」
「ひぃ……ひぃっ……」
「ふぅ……ふぅ……一先ずこの辺りは平気そう……かの」
「っ……皆さん」
広場の周りの避難が済み、気づいたら全員が一度集まっている。
シャーリーと風は普段から運動していてるので平気そうだが、日々研究室にこもっている蓮に幼い故に体力の少ないであろうフリッツは息を切らしているようだった。
「!!」
広場を見下ろせば、シロウ――オセローが戦っている。
「なにか……私たちにできることはありませんか?」
今の撫子たちにプレイヤーシステムはない。
手に入れるきっかけとなる事件、そもそも戦う相手である≪ゾディアック≫が存在していないからだ。
それでも、彼の力になりと撫子だけではなく誰もが思う。
「……風さん、何か便利なものはないのかしら?」
「ふぅ……ふぅ……!」
「いやもうちょっと体力つけぇや」
「体力なさ過ぎでしょう……」
「ぐぅ……科学者なんだが……ふぅ……いや、そもそも私は武器屋でもないんだがねぇ……」
「任せるがいい、妾の力なら、少しは――」
「―――止めておいたほうがいいですよ、皆さん」
「!」
その白い女は突然現れた。
髪も肌も真っ白で、ワンピースも靴も同じ色。
この場にいる全員が美女美少女なれど―――それでも、次元が違うと思われされるような美貌。
純白の髪が、さらりと風に揺れ、しかしその瞳だけが紅玉の様に真紅。
アルビノの美女。
長谷川クロエ。
長谷川シロウの対極たる彼女が、5人の前に現れた。
●
『ウィニング・メソッド!』
ドライバーの必殺技ボタンを叩くと、軽快なサウンドボイスが鳴り響く。
両足にそれぞれ黒と白の光が集まり、
「ハァ――ッ!」
飛び上がり、前宙、戦闘員の群れに両足によるキックを叩き込む。
必殺キックを叩き込み、十体近い戦闘員を巻き込みながら爆散、地面を削りながら滑り振り返れば、
「……やれやれ。たまにやたら数が多い時があったな」
思わずため息を吐く。
徒手空拳で何体も倒したし、一度にまとめて爆発させたがそれでもまだまだ広場を埋め尽くすように戦闘員が残っている。
加え、いつの間にかただの戦闘員とは違う、装甲のようなものを追加し、胸の中央に四角い回路――ICチップのようなものを付けた怪人が数体現れていた。
中にはチップが二つ付けられている怪人もおり、二体しかいないが、見るからに装甲が多く、握っている武器も物々しい。
≪ゾディアック≫でいうルークやビショップ、或いはナイトの階級に近い気配がある。
ゾディアックの怪人は戦闘員であるポーン、通常怪人のルークの強化怪人のビショップ、上級怪人のナイトがいた。
ナイトになればなるほど数は少なく強くなり、最上級であるクイーンとキングは一体だけしかいなかった。
新しい階級が現れるたびに、プレイヤーシステムをアップデートしたり、他のプレイヤーと協力せざるを得なかったのは懐かしい思い出だ。
「まぁいい」
腰のコインホルダーから新たなゲームコインを手にする。
表裏黒と白のそれは、最初の変身に用いた『オセローコイン』とよく似たもの。
それを黒を表にしてバックルの空きスロットに差し込む。
『オルターブラック!』
バックルのスロットに『オセローコイン』と『オルターオセロ』コインが並び、『オルターオセロ』に黒いスパークが弾け、二つのコインの縁に金色の装飾が追加。
通常変身と同じように碁盤目状のフィールドと黒白のオセロの駒が展開され、
「―――アップグレード」
パチンと指を鳴らし、白のコインがひっくり返り、フィールドが黒一色に染まる。それはオセローへと集結し、
『
銀色の光に包まれ、オセローの姿が変わった。
白のパーツは消え、全身真っ黒。肩や腕の装甲が鋭角的になり、随所に銀色の装飾が施される。
『オセロー! オルターブラック!』
強化形態、武装プレイヤーオセロー・オルターブラックモデル。
「さぁ―――パーフェクトゲームと行こう」
襲い掛かる怪人と戦闘員。
真っ先に来たチップの一つ持ちが振り下ろした棍棒を右腕で受け止める。
「―――」
直撃の瞬間、腕が一瞬銀に輝き、オセローは一切揺らがない。
同じように槍を突き刺してきた他の一つ持ちの一撃も左手で掴み、同じように輝く。
不動の構えに戦闘員たちもオセローを囲み、殴り、蹴り、体当たりを続け、純黒は一切反応を見せず、
「――――ハァッ!」
『リリース!』
豪! と、掛け声と共に衝撃波が怪人も戦闘員も吹き飛ばした。
オルターブラックは近接に特化したモデルであり、純粋なパンチ力やキック力はベーシックモデルの数倍に向上している。
そして、当然それだけではない。
拡張特性として、「受けた衝撃を蓄積し、衝撃波として開放する」という固有の能力を持っているのだ。
即ち、追い込まれれば追い込まれるほど逆転の一撃が大きくなるというモデルに他ならない。
戦闘員の素手の攻撃は勿論、『一つ持ち』の武器による攻撃も動きを見極め的確に両腕を使い受け止め、衝撃を蓄積。
腰を落とした掌底と共に開放すれば戦闘員たちが吹っ飛び爆発。
『パーフェクト・ウィニング・メソッド!』
全身の銀の装飾が輝き、拳に集う。
『一つ持ち』の一体に叩き込めば、着弾地点を中心にブラックホールのような漆黒の力場が発生。
打撃エネルギーをその地点で増幅し―――解き放たれる。
『一つ持ち』が爆散し、さらには他の『一つ持ち』も巻き込んで爆散した。
「――――次はこいつだ」
『ユニバーサルドライバー!』
戦闘員の数は減り、『一つ持ち』も消え、後には二体いる『二つ持ち』と数体の戦闘員。
『二つ持ち』は見るからにこれまでのよりも強力だ。
故にオセローは、別のドライバーを取り出し、取り換えた。
スロットが二つあるリバースドライバーとは違い、スロットが一つ、さらに装飾が増え、白黒に加えて金色がメインのカラーリングになっているベルトだ。
腰のホルダーから取り出したコインはルーレットのように黒白、青、黄、紫、緑、赤で色分けされた見るからに豪華なゲームコイン。
スロットに装填し、
『ユニバーサル!』
足元に六角系のフィールドが展開。
コインと同じように六分割に色分けされた中心にオセローは立ち、
「アップグレード!」
『オセロー! モノポリー! チェッカー! ナインモリス! コネクト! フリッツ! ――――
六つの各辺にオセロ、モノポリー、チェッカー、ナイン・メンズ・モリス、フォーコネクト、チェスのボード盤が彼を囲み隠すように発生。
倒れながら重なり、光は弾け、オセローの姿はさらなる強化を見せていた。
『ユニバーサルオセロー!』
金をベースに黒と白。加えて他の五色を全身に散りばめた戦士。
最強形態、武装プレイヤーオセロー・ユニバーサルモデル。
一周目の世界、ナイトまでとは比べ物にならない強さを持つクイーンを斃す為にプレイヤーたちが一度だけ、手を結ばざるを得なかったことがある。
そのために一周目のコネクトが中心になり開発したのが全てのプレイヤーシステムを統合進化させた≪ユニバーサル≫だ。
全てのプレイヤーを使えることは勿論、固有能力を合わせることもできる、まさにてんこ盛りと呼ぶべき最強形態である。
『ユニバーサル・ウィニング・メソッド!』
「はぁっ!」
ユニバーサルオセローが腕を振り、背後に各ゲームの巨大な駒が出現。
六つのゲームの駒は遊び合うように、二体の怪人を囲みながら飛び跳ね、ついでに様に戦闘員を爆発させる。
怪人二体を中心に跳ね回る六つの駒は反撃どころから避けることさえ許さずに、それらのを拘束し一か所に止め、
「ハッ!」
飛び上がり、空中キックを叩き込む軌道上にゲームボード6種類が展開。それを潜り抜けるたびに、白黒、青、黄、紫、緑、赤の光を纏い
「ハアアアア―――――ッ!」
『二つ持ち』へと叩き込んだ。
爆発四散。
最早広場には怪人どころか戦闘員は一人も残っていない。
つまり、
「―――完全勝利」
●
「――――お見事だ、オセロー」
「!」
倒した直後。
それは広場に現れた。
若い少年だった。金髪に、毛先だけが赤くなっている。おそらく十代半ばといったところ。
不敵な笑みをたたえた少年はゆっくりとユニバーサルオセローを見据え、
「妹がお世話になっているね、長谷川シロウ」
「あぁ……? お前、一体――」
「僕かい?」
オセローの質問を遮りながら彼は答えた。
そして、
「僕の名はオデッセイ」
ドライバーを取り出した。
「そして」
「!?」
ユニバーサルドライバーによく似た意匠。だが丸いコインスロットが四角な所が違う。
続いて彼が取り出したのは、それに合わせたようなフロッピーディスクのようなもの。
「――――変身」
『CREATE NEW GENERATION!』
緑、青、黄のネオン光に包まれ、そして少年は変身を完了させた。
三色のネオンカラー、電子回路を模したデザインの装甲に包んだそれは、
「……武装、プレイヤー……?」
「そうだ」
彼は笑う。
「僕はキングのもう1人の子供にして―――武装プレイヤーオデッセイだ」
連続フォームチェンジしたいだけの回
映画でたまにでるあれ、いいですよね。
初期:オセロー・ベーシック
強化:オセローオルターブラック
黒に純化する=盤面黒一色=オセロで完全勝利
最強:ユニバーサルオセロー
色々なゲームは世界共通、皆で遊べる姿
一周目における最初最後の全員共闘で生まれた姿
実際にはみんなで遊ぶなんて光景はなかったのですが。
遠距離用のオルターホワイトもある。
オデッセイ:なんかVシネで出てくるタイプの敵
TSヒロインズ→クロエの感情は次回描いて、そろそろ完結かなという感じ
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ゲーム4:大団円? 否、ビギニング
ゾディアック・キング。
世界の支配を目論んだ≪ゾディアック≫、文字通りその王。
一周目の世界で、それを倒すのにシロウは多くの犠牲を支払った。
モノポリーの妹を人質にし、シロウと戦う様に仕向けた。
チェッカーに施されていた洗脳により無意識でゾディアックにシロウたちの情報を流し、土壇場で裏切らせてシロウに殺させた。
ナインモリスの復讐相手であるゾディアック・ナイトの一体と決闘を用意し、相打ちさせ、シロウに見殺しにさせた。
コネクトの研究意欲を利用し、ゾディアックの怪人とし、シロウに殺させた。
フリッツという自らの娘を失敗作と断じ、心を通じかけていたその瞬間、シロウの目の前で殺した。
最後のたった一人となり、そして戦いの果てにようやく倒した因縁の相手である。
そのキングの――――息子。
フリッツという娘を妹と呼んだ青年、そして無双プレイヤーオデッセイ。
ボードゲームを模したオセローたちとも、コンピューターチェスのソフトから取られたフリッツとも違う。
オデッセイ。
古代ギリシャの詩。或いは放浪や冒険を意味する単語。
そして――――世界初の家庭用コンピューターゲームの名だ。
それはただの皮肉か、或いは。
「―――ボードゲームの時代はもう終わりだよ」
シロウと対峙したオデッセイが指を鳴らし、
「!」
半透明のエネルギーが広がり――――ユニバーサルオセローの変身が強制的に解除された。
「これは……!?」
「オセローの最強形態。対策していないわけがない。オセローからフリッツまでのライダーシステム、それはゾディアックの技術を使ったものだからね。正確に言えば、ゲームコインを全て無効化した」
「っ……そんなことが……それに、キングに子供だと!? そんな……!」
「知らなくて当然だ。フリッツが生み出されて、僕は失敗作と捨てられたからね」
「!」
「最も、≪ゾディアック≫を君が潰してくれたおかげで僕にもチャンスが生まれた―――僕を捨てたキングを超えるチャンスが!」
怒りと興奮を滲ませながら、オデッセイが右手に光球を生み出した。
明らかな破壊力を秘めたそれが激情とも共にシロウに放たれる。
「っ……!」
変身解除され、それを避けるには今のシロウでは間に合わず、
『
飛来した真っ白の円形ディスク――オルターホワイトピース4枚が、盾となってシロウを守った。
そして現れたのはオセロー・オルターブラックモデルとは真逆の白と銀のカラーリング。肩や腕が流線形となった武装プレイヤー。
『オセロー! オルターホワイト!』
もう一つの強化形態、武装プレイヤーオセロー・オルターホワイトモデル。
「……早かったな」
「遅くなったよ」
変身解除して現れたのは純白の女―――長谷川クロエだった。
●
シャーリーたちの前に現れたクロエは、手を出すなと言った。
長谷川クロエ。
アルビノの美女。
シャーリーも風も撫子も蓮もフリッツも。
彼女のことが嫌いだった―――――というと語弊があるかもしれない。
好き嫌いで語るには彼女たちのクロエに対する感情は複雑だ。
5人はそれぞれ、ゾディアックに人生を歪められかけ、しかしてシロウに救われた。
だからこそ彼に心を奪われたし、恩返しをしたいと思っているし、彼の心を手に入れたいと思っている。
助けられたから好きになった、なんて少し陳腐かもしれないけれど。
紛れもなく、彼女たちにとってシロウは救いだった。
そしてそんなシロウの隣に、当然の様にクロエは立っていた。
シロウもまたクロエがいることを当然としていた。
恋人、とは違う。家族や親友が近いかもしれなけれど、それも当てはまらない。
白と黒、男と女。
正反対の違いはあれどよく似ていて、けれど正反対の2人。
1人であろうと、2人の在り方は揺らがない。
けれど、2人であることが最も自然であるような。
誰にも付け入る隙がない、鏡合わせのような2人。
決して間に入れないと悟るしかない。
なのに、
『皆さんには皆さんのできることがあるでしょう―――それをシロウも望んでいる』
クロエはいつも、シャーリーたちを尊重しようとする。
シロウの隣に当然のようにいるのに、彼女だって彼を想っているのに。
自らは何もしようとしないし、シャーリーたちがシロウに近づくことを止めようともしない。
日々誰かがシロウをデートに誘っても、クロエは止めない。
どれだけ関係を深めようとしても彼女は止めない。
どこに行こうと、どれだけ話そうと。
結局シロウはクロエと住む家に帰るだけだ。
だからシャーリーも風も撫子も蓮もフリッツも彼女を好きになれない。
自分を救ってくれた彼の隣にいたいのに。
どれだけ隣に立っても、立とうとしても、シロウの背中には必ずクロエがいるのだから。
そのくせ、隣に立とうとすることを尊重する。
あぁ、つまり結局の所。
彼女たちは――――長谷川クロエが羨ましいのだ。
●
「君……何故変身できた? プレイヤーの力は機能不全にしたはず」
「ふむ」
オデッセイに問われたクロエは小さく首を傾げ、
「ボクは色々特別なのと……このコインは特別製ですからね。≪ゾディアック≫の技術から生まれたものというと少し違いますし」
ゲームコインやドライバーのようなプレイヤーシステムはゾディアックの技術から作られた。
だが、≪アルターコイン≫は違う。
初めてビショップのクラスの怪人と戦った時、追い込まれたシロウが自ら生み出した、ゾディアックの技術とは似て非なるものだ。
「それで、シロウ。このプレイヤーは?」
「キングの息子らしい。オデッセイだとさ」
「……なんと。道理でちょっと時代が進んでる感あるわけですね」
「当然だろう! ボードゲームなどもう古い! 僕は! さらなる未来に進んでいる!」
「いや、オデッセイって。発売されたのもう50年くらい前ですよ。レトロ通り越して化石じゃないですか。というかボードゲームにまで劣等感が?」
「――――」
オデッセイの動きが止まった。
だがクロエは呆れつつ、
「さらなる未来とか……PS7くらいじゃないと……」
「飛びすぎだろ。次のswitchくらいでいいよ」
「それは未来というかただの次世代機では?」
「いいだろ次世代機。近未来感ある」
「えぇいうるさいよ! 進歩はしているじゃないか! 確実に!」
「存外健気ですね」
「劣等感が現れてるだけだろ」
クロエは肩を竦め、シロウは嘆息し。
黒い男と白い女が並ぶ。
「君は……なるほど、キングを長谷川シロウと共に倒しただけはある……一体何者だ?」
「シロウとキングを倒した女でしょうか」
「言葉遊びをするつもりはない!」
しびれを切らしたオデッセイが腕を振れば、それだけで豪風が巻き起こり、周囲に小さく雷撃が弾ける。
「……気を付けろ、クロエ。煽るのも良いが、中々手強い」
「そうですか? 精神は子供みたいですよ」
シロウは眉を潜め、クロエは苦笑し、
『リバースドライバー!』
彼は右手で、彼女は左手で、逆の動きでドライバーを装着する。
男はオルターブラックコインを。女はオルターホワイトコインを。
それぞれを手にし、ブラックは右側、ホワイトは左側のスロットに装填する。
『オルターブラック!』
『オルターホワイト!』
ベルトから発せられるテンションの高い機会音声。
スロットの中の黒のコインは縁に金、白のコインは縁に銀の装飾が同時に追加。
二人を中心に黒縁緑色の碁盤の目状のフィールドが展開。
それぞれの目に半透明な金縁の黒、銀縁の白のオセロの駒がずらりと並ぶ。
「なんだ……君たちは、さっきから正反対のことを言って! 君たちはキングを倒した二人で一人のプレイヤーじゃないのか!?」
「違うさ」
「違いますよ」
身体にスパークを纏いながら、二人は答え笑う。
「俺とクロエは」
シロウは手の甲を前に右手を掲げ、
「ボクとシロウは」
クロエは掌を前に左手を掲げた。
「――――ずっと、ただ1人の武装プレイヤーだ!」
「――――ずっと、ただ1人の武装プレイヤーです!」
吠え、スパークが身体から消え、足元のオセロの駒が二人の背後に集結し、システマチックな太極図を模した魔法陣に。
そして、
『――――変身ッッ!』
『
魔法陣が二人を潜り抜け、光を放ち、2人が1人になる。
黒金と白銀。アシンメトリーとのプレイヤー。
『オセロー――――オルタナティヴ・ゼロ!!』
最強にして究極。
究極形態、武装プレイヤーオセロー・オルタナティヴ・ゼロモデル。
1人の人間が2つに分かれ、もう一度一つになった真の姿。
『さぁ!』
二つの声が重なる。
けれど、意思は一つに。
表裏一体、正反対だけれどその姿こそが最も自然だから。
『――――ここからひっくり返そう/しましょう!』
●
海風が頬を撫でる。
街から自宅への帰り道にある海岸。
二人は砂浜に座りこみ、肩を並べて夕陽を眺めていた。
シロウの手にはコーラの瓶、クロエはミネラルウォーターのボトル。
道路には、普段からシロウが移動で使っているバイクが止まっていた。
クロエは沈んでいく太陽を遠い目で見つつ、
「ばっちり決めセリフ決めて逃がしましたねー」
「逃がしたなー」
つい先ほどの戦闘を振り返る。
オルタナティヴ・ゼロでオデッセイを追い詰めた。
キングを倒した必殺技を叩き込み―――しかし倒しきれず逃がしてしまった。
キングの先と豪語するだけはある。
「ほら、手強かっただろ?」
「……」
指摘に彼女は形の良い唇を尖らせる。
不満は多い。
オデッセイを倒しきれなかった。
だが、それよりも、
「……折角世界が平和になったと思ったのに。なんですかあのぽっと出は。息子って。そういうのはフリッツで一通りやったでしょう」
世界を救って。
平和な世界になってやり直したと思ったのに。
戦いの無い日々をシロウに送ってもらえると思ったのに。
誰かを救うのではない。
ただ、シロウが救われて欲しかったのに。
「いいさ」
なのに、シロウは肩を竦めて、何でもないことのように言う。
「まー、びっくりしたけど。仕方ないだろ。神様も、おまけの敵はサポート範囲外だったってわけだろ」
口調は軽い。
この場にはシロウとクロエしかいないから。
飾らずに、けれどクロエにとっては悲しいことを言う。
「一周目の……初めてドライバーとコインを手にして、変身した時から。解ってたことだ。プレイヤーになった以上、生きる限り戦い続けるしかないんだ」
だからと、彼は笑う。
「まぁいいよ。戦うさ」
「……最悪です」
「ははは」
クロエは不満を零し、シロウは笑う。
結局彼は、そもそもの精神性がヒーローなのだ。
今日だって、どんな危険があるかもわからないのに、危険が起きているだけで、誰よりも真っ先に飛び出し、逃げる人々の波に逆らい迷うことなく中心に飛び込んだ。
それは、誰にでもできることではない。
きっとシロウはプレイヤーシステムが無くても同じことを言う。
誰かのために駆けだして、怯える子供を励ますことができるのなら。
人はそれを、ヒーローと呼ぶのだろう。
「戦うのが苦しくないわけじゃないけど」
「はい?」
言葉を紡ぐ、シロウは立ち上がり、
「
クロエに手を差し伸べる。
「…………もう」
思わず、彼女は苦笑する。
ずるい男だ。
だって、そんなこと言われたらこれ以上文句が言えない。
「珍しく意見が一致しましたね」
「あぁ、そりゃそうだ」
彼は笑う。
いつだって。
どんな時でも、彼は自分を、誰かを勇気づける為に。
「俺たちは2人だけど1人なんて矛盾してる。だけど――――表裏一体だからな」
そして二人は一緒にバイクに乗り、走り出す。
海岸線は真っすぐに伸びた。
けれど、二人は、二人で突き進む。
白と黒だけで完結した遊戯のように。
沈む夕日は昼の終わりと夜の始まりを告げていく。
昼と夜の境界線の中で、黒と白は進み続けて行った。。
これにて完結です、ありがとうございました。
もし興味あれば、連載している長編作品「超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方」の方もよろしくお願いします
https://syosetu.org/novel/273259/
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