真・恋姫†無双~夢空飛譚~ (ジャックIOVE)
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第一話 一つの星、一つの男墜つ

 

 

 

 

 

 

 

日中でも、光輝く流星に大陸のものたちは心を奪われる。

 

とある占い師は言った、「その流星は、乱れた世を沈める天からの御遣いである」と

 

 

とある文官が言った、「あの流星は、これからの世が乱れることを告げる凶星である」と

 

 

とある将は言った、「あの光輝く星は、我々の力を示すための世が来ると吉兆である」と

 

 

皆々様々な予想、予言をたてただがその予言はすべて正しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乱世が始まる」

その一点に関しては…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、光輝く流星の横に、垂直に落ちている物体に誰も気づかない

 

物体ではないそれは、人である。

意識もしっかりしている。

髪は金で緑の目をした男。

青年と呼ぶには少し年を取っている。

そして今彼は夢を叶えている、長年夢見た空を飛ぶという夢を

 

「ふむ、生身でこの空を飛ぶというのは奇妙な感覚がするものよ。あの筋骨隆々の男も粋な計らいをしてくれる。」

彼は物思いにふけっていた。空で頭から落ちながらご丁寧にも手を顎に当てて感慨深い表情をしている。

「とはいえ…」

彼は思い出したかのように真上、地面がある方向を見る。地面まではあともう少し。あと10秒もたたないうちに地面に到着するだろう。

「聞いていないぞ!?少年!?」

 

そして地面に激突する。

これは天の御遣いの物語ではない。一人の空を飛びたかった男の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確か彼は自分のことを未来への水先案内人と言っていた。

 

 

 

 

真恋姫十無双~夢空飛譚

 

 

________________________________________________________

 

 

 

「ぐはっ!」

「ふみゅ~…」

地面に当たると思い衝撃に備えたが、思っていような痛みは無かった。まぁ、痛いのだが…

頭に重い痛みが走る。

何かが頭にぶつかったか、再びの死すら覚悟したのだが

その必要は無かったようだ。周りの風景を見渡すと

見渡す限り荒野が広がっていた。

「いや、しかし…」

ここは私がきたことがないところだということは確かだ。空から落ちてきたとき遠くに見えた建物、あれはなんだ。昔武士道を学んだ師の家に似ているがそれよりも華美なものだった。そして、私は視線を自分の体に落とした。服装ユニオンの部隊にいたころの隊服になっていた。なぜ服装まで変わっているのか。自分の足元まで視線を落とすと

「……………」

私の近くに仰向けに倒れている少女がいた。服装はとても人前に出ていいような格好ではないと思うのだが…

いや、まずは安否の確認だ、脈はしっかりあるな。だがきを失っているようだ。ならば抱えて…

「おう、兄ちゃん高そうな服きてるじゃねぇか。」

後ろからそういって声をかけられた。

「何者だ…」

私は警戒をして後ろを振り返る。そこには民族衣裳、いや、鎧を纏っている三人組が持っている刃物をこちらに向け近づいてきている。

「お、アニキ女もいますぜ!」

「お、ちょうどいいな、これで暫くの間は金に困らなくてすみそうだ。ってことであんたの持っている金と、服とその女おいていきな」

こいつらは盗賊かなにかなのだろう。彼らの放つ殺気が私に悟らせる。

考えるのだ。こういった修羅場は何回も通ってきた。だが今の私には銃どころか得物すらない。彼らに勝つことはできるであろう。だがこの少女をおいてとなると…

と少女に視線をやると

 

 

 

「…………?」

バッチリ目があった。

「あれ、シャン…なんでこんなところで寝てるの?」

場違いなことを言うものだから少し緊張の糸が弛む

「それは私も聞きたいのだがな」

「あー、落ちてきた人」

落ちてきた人とはおそらく私のことだろう。

「それは私のことかな?」

「うん。お空に流れ星が見えたから見に行ったら…シャンの頭の上に落ちてきたの。おーって思ってたら避けるの忘れちゃった。」

マイペースに言葉を続けているが、その反対私の視線の先には三人組がもうすぐそばまで迫ってきている。

「君、あの三人組が見えるか?」

「うん。見えるよー」

「あの人たちは悪い人のようでね。私が時間を稼ぐから君は逃げたまえ。」

さすがにこのような少女に人間の汚さを見せるのは早い

少女がいなければ得物の無い私でも善戦することは可能だろう

「あの人たち悪い人?」

「あぁ、そうだ。だから…」

「なら…」

そう言った少女は、もう私の後ろにはいなかった。

「へブッ…!」

そして三人組の方向を振り返ると三人組の一人が倒れていた。少女の持つ巨大な得物によって

「まずは一人」

少女は当たり前のごとく言う。だが殺したわけではないようだ。倒したものはすぐに起き上がる。

「今のは警告、今度きたら…」

と、彼らを脅す。少女と侮っていた背中から明らかに、マイペースに話していたときとは違うオーラが出る。こんなものを見せられたのはいつぶりだろうか自然と冷や汗が出てくる。だが…

「しょ、所詮女一人だしかも足手まといの男もいる!そいつからやっちまっ……へ?」

否応なく高ぶってしまうではないか!

「おーやるー」

私はリーダー格の男をこかし、蹴り飛ばした。

「すまない。私は君を少女と侮っていた。その覇気、並大抵の鍛練では身に付かないもの。尊敬に値する。」

「そこまで言われると照れる。」

「なに、事実を言ったまでそのまま受入れればいい。だが、まずはあれを片付けなくてはな。」

お互いに目を合わせる

「シャン…」

すると彼女が口を開く

「そう呼んで言い」

「名を預けてくれると言うのか、ならば」

三人組に目を向け

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我が名はグラハム・エーカー!我が友シャンのため、貴様らの歪みを破壊する!」

 

 

 

 

 

 

 



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第二話

「「「お、覚えてろーーー」」」

 

そう言って、盗賊の三人組は荒野に逃げていった。

 

「ふぅ、徒手空拳の腕もまだ鈍っていなかったようだな。」

 

「お兄ちゃんやるー」

 

「お、お兄ちゃんか…できれば違う呼び方で呼んでもらえなないだろうか?」

 

「じゃあ....................お父さん?」

 

「..............お兄ちゃんでお願いする......」

 

マイペースな彼女との会話を楽しむ。

盗賊達との戦闘時の覇気は全く感じない。というか、今この少女を見ると、可憐で弱く見えてしまう。片手で持っている大斧をを除けば…

戦闘の時は怯えるほどの覇気を放ち、それを今は完全に押さえている。どれほどこの少女は強いのだろう?

そう考えれば考えるほど昔の血が滾るが…今は現状把握が必要だろう。

再び周りを見渡すと周りはやはり荒野所々大きな山が見える。様々な地形を見てきたがこのような地形は初めてか荒れ地になった箇所はわかるが、ここはもとから草木があまり育たない場所なのだろう、少し違うように感じる。ならここはどこだ?

 

「お兄ちゃん…?」

 

というか、私は確かあの時に死んだはず.........それから先の記憶は靄がかかったように曖昧だ。マッチョなほぼ裸の男に送られてきたことは認識はしているが.....

あの盗賊達も奇妙だ。なぜ今の時代銃火器で武装せずに刀剣類のみでの武装で.....だが殺気は本物であったし、場数はいくつも踏んでいるのは確かであり逃げる判断もよかった。

 

「お兄ちゃんってば......」

 

「おぉ、すまないシャン殿。一人で考えてしまっていた。私も今の現状を理解しきれていないのでね。」

 

「やっと気づいてくれた。お兄ちゃんって結構強いんだね。せやーーとか、そやーーとか。見ててかっこよかったよー。」

 

「誉めてくれるとはありがたい。シャン殿のほうこそ、とても良い戦い振りであった。」

 

「えへへー」

 

反応は見た目相応だ、あの戦いを見た後だと印象がまるで変わるものだな。私が考えた疑問も彼女に話せば解決まではしなくても情報は得られるだろう。

 

「シャン殿聞きたいことがあるのだ」

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

聞こうとしたとき、上空から声が聞こえてきた。

上を見上げると女性が私に薙刀で斬りかかろうとしていた。

 

「っ!?」

 

何とか後ろに飛びかわす。

 

「シャン殿帰りが遅く心配いたしましたぞ。あの奇妙な服を着ているものが見かけた盗賊ですかな?しかもあやつ香風殿の真名まで呼んでいた様子。この趙子龍加勢いたしますぞ。」

 

と言い女性はシャン殿を守るように構えている。

当人であるシャン殿は

 

「???」

 

後ろで首を傾げていた

 

もう一方の女性はもう私に斬りかかる準備をすませている。状況を見たところ香風殿の御友人なのであろう。

それで私をあの盗賊と同類のものだと勘違いをして私に斬りかかってきたのか。だがそれ以上に憤慨している。

私から何を言っても聞いてくれそうな雰囲気ではない。また、戦わなければならないのか。いや、これならば逃げたほうが良いのか…と相手を見るが

 

逃がしてくれそうにはないなならば…

と構える。相手は薙刀こちらは徒手。圧倒的なリーチの差がある。

 

そうして二人目線が合わさりどちらかともなく飛び込もうとした

 

「ちょっとまったーーー」

 

「香風殿?」

 

シャン殿が私達の間に割ってはいってきた

 

「あのね、お兄ちゃんはシャンの...シャンの...そう友達。だからね星もお兄ちゃんも喧嘩しないでー。」

 

「そうなのですか?私の早とちりでしたかな?」

 

一瞬にして張り詰めていた空気が弛む。少し冗談を言うような軽口で女性はシャン殿に話しかける。

 

「そうだよー星も焦りすぎーシャンが負けるわけない」

 

と、胸をはって言うシャン殿

 

「はははっ。その通りですな。」

 

と女性と会話を始める。そしてシャン殿と一言二言話した後私のほうに近づいてきて

 

「いや、すまなかった。盗賊と早とちりしてしまっていたようだ非礼を詫びさせてほしい。」

 

「いや、私も紛らわしかったのだろう。貴殿のような腕のたつかたが間違われたのだ。こちらこそすまなかった。」

 

「おや、一目見ただけでわかりますかな?」

 

「もちろん。こう見えて見る目はあるのでね。」

 

「貴殿もなかなかやるようではないですか。どうです?ここで一勝負。」

 

「いや、やめておこう。友がそちらに構いすぎでむくれてしまうのでね。」

 

沈黙が続く、会話は普通のものだが。この会話の真意はお互いがどういう人物なのか?危害を加える人物か?というのを見極めるというものだ。彼女もなかなかの強者であり、こう話している間でもこちらから目を離さずに、一挙手一投足を見ている。

そして品定めが終わったのかため息をついて、手を伸ばした。

 

「面白い御方だ。我が名は姓は趙名は雲と申す。香風殿の友人であり旅の仲間だ。」

 

姓名?日本の文化圏かここは。いや、趙雲か、武士道を学ぶ際兵法書を呼んでいるとき目にした名のようなきがするがどうだっただろうか?

まぁ、まずはこちらも礼を正さねばな。

 

「そうか。私はグラハム・エーカー。シャン殿の友である。よろしく頼む趙雲殿」

 

 

「ぐらはむえぇかぁ?言いにくく長い名だですな。もしや異国ものか?」

 

「どうやらそうらしい。私はあの空から降ってきたのだからな。」

 

私が空を指差すと

一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐ笑いだし

 

「ははははははははっ!いえ、もう冗談はなしでございますよ。私とあなたの仲ではないですか。」

 

「シャン殿。そうであったよな?」

 

「うん。お兄ちゃん空からヒューーーって降ってきたの」

 

「それは誠ですかな?この趙子龍を二人してからかうとは、どうなっても知りませんぞ?」

 

と、いたずらな笑みをうかべたが

 

「「..................」」

 

「ほ、ほんとなのですかな?」

 

と、二人して圧をかけると少し焦ったような顔をした。

そしてシャンと共に今までの事情を話すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当なのですかな?いや、香風殿が嘘を言わない人であることは百も承知なのですがあまりに話が飛んでいるものですから。」

 

「うん。シャン嘘つかないよ。」

 

やはりそう簡単には信じてはくれないようだ。どうしたものかと困っていると

 

「あの占い師が言っていた人ではないのかなーと風は思うのですよー」

 

 

「天の御遣いですか?彼が?」

 

と、また違う女性の声が二つ聞こえた。

 

「あ。風、稟。」

 

と彼女達の名を呼ぶ。というかシャン殿は趙雲殿を呼ぶときに星と言う名で呼んでいた。この地の特有の文化なのであろう。最初から礼儀を失すれば信用は得られまい。

眼鏡をかけた女性と、頭の上に奇妙な人形を乗せた少女にたいして

 

「そちらのお二方もシャン殿の御友人であろうか?私はグラハム・エーカー。先ほどシャン殿に助けられ友となった。以後お見知りおきを。」

 

と、地に正座をし頭を下げる。

 

「これはこれはどうもご丁寧に~私は程立と呼んでください~」

 

「天界から来ても礼儀は知っているようですね。私は今は戯志才と名乗っています。」

 

「それにしてもぐらはむえぇかぁって言いづらいですね~本当は名前の一つや二つつけたいところですがいささか時間が悪すぎましたね。」

 

「風何かありましたかな?」

 

「何かあったの....?」

 

「どうやら苑洲の太守の隊がこちらに向かっているようなのです。」

 

すると皆の顔が面倒事が起きたような顔をしていた。

 

「ということでおじさんはその人たちを頼ってください」

 

警備の隊か、まぁ確かにここがどこかもわからん私にとっては身を寄せるには適当なところであろう。

というかおじさんか......私も歳を取ったものだ。

だが、なぜシャン殿を含む皆は嫌がっているのだろうか?

 

「私達を、盗賊か何かと勘違いしておられますな。失礼な」

 

「星....人のこと言えない.....」

 

「お、そうでしたな。でも心配なさるな。私達は流浪の身今はどこにも仕官することは望んでおりませぬ。だが、私達を知っている人が腕の立つ我等四人を見つけたらどうなると思います?」

 

優秀な人材であれば取り入れたいと思うのは当たり前の心情であるが、それをこの四人は今のところ望んでいない。

なるほど

 

「そういうわけか」

 

「そういうわけなのです。ならば私達は早くこの場を去るとしましょう。行きますよ風。」

 

「は~い。ではおじさんおさらばです~」

 

「では私も。よき縁を願っておりますよ。行きましょう香風。」

 

「あ.....」

 

といって四人は荒野の向こうに去っていった。

うーむ、何も情報を聞き出せなかった。

分かるのは武器を帯刀していると言うことはそれなりに危険がつきまとう場所であると言うこと。仕官と言っていて口振り的に仕官先が複数あるのだろう。ということは

 

「戦が公にある世界ということか....」

 

この結論は私の仮説と勘でいたった結論ではあるが最低でも戦はある地域なのだろうだが内戦と言う程切迫してはいないようにも感じる。あの四人が仕官先を迷える時間があるのだから。

ただ天の御遣いと言っていたが、なんなのだろうか占いがどうとか言っていたが....

と考えている間に逆の方向から歩いてきている人がいる。うむ人数は表立って立っているのは三人。長い黒髪の女性、青色の髪の女性、そしてその女性達の少し後方に綺麗な金髪を左右で結んだ女性がいた。

 

「華林さまこやつが例の賊でしょうか?」

 

近づく長い黒髪の女性が私を見て言う。

 

「いや、おそらく違うわね。もっと年かさの中年の男たちだと聞いたわ。見たところ歳は30ほどでしょう。それ以前に顔立ちが私達とは違うじゃない。異国のものなのではないかしら。ならば皆、妙な顔をしていたと言うはずよ。」

 

「ですが、どういたしましょう。連中の仲間であるかもしれませんし、引っ立てましょうか?」

 

おっとまったここで捕まってしまっては元もこもない。

 

「苑洲の太守というのはどなたか。」

 

「あら、異国の者なのに言葉が上手じゃない。でも名乗るならあなたが先ではなくて?」

 

「失礼した。我が名はグラハム・エーカー。つい先ほど空から墜ちてきたばかりの者です。」

 

そう言うと訝しげな顔をする女性達

 

「空から?あなた、私に冗談を言うつもり?」

 

「冗談ではありません。右往左往も分からぬ状態であり。一時保護していただけるとありがたい。」

 

「空から?そんな冗談華林様の前で通じるか!こやつ、やはり嘘をついてます!何か隠さねばならぬことがあるのでしょう。引っ捕らえましょう華林様。」

 

黒髪の女性はそう華林と呼ばれる少女に言い私に大きな剣を持ちながら近づいてくる。青髪の女性は私を敵を見るような目で見て見定めている。ここで下手なことをすればすぐに殺すという殺気が伝わってくるほどだ。

 

「待ちなさい春蘭。」

 

金髪の少女が、黒髪の女性を退けて近づいてくる。

そして私の首に鎌のような刃を持つ武器を突き立てる。

そして私の目を見ている。

 

「..............」

 

「..............」

 

今日で二回目の嫌な沈黙が続く。だが、この沈黙はさらに重圧が乗る。首に得物を突き立てていると言うのもあるが、少女の覇気が私にそうさせる。恐怖が私の感情を支配する。逃げなければ、立ち向かわなければ殺される。私の中で私が警鐘をならす。

だが、ここで目を逸らしてはいけない見続けなければならないそうでなければ私は少女の持つ得物によって首をはねられる。少女は私の覚悟を示せと言っている。ならば私も覚悟を示すまで。

 

「........」

 

「.........」

 

 

「良い眼をしているわね。歴戦の武人の眼を。」

 

「貴殿こそ、良い眼をしている。まるで研ぎ澄まされた刃のようだ。」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ。」

 

そう言って得物を私の首から遠ざける。

 

「えぇ。信用してあげるわ。あなたは嘘はついていない。春蘭、秋蘭武器を下げなさい。」

 

「しかし....」

 

「下げなさい。」

 

再び凄むと大人しく二人は武器を下げた。

 

「試すような真似をして悪かったわね。確かぐらはむと言ったかしら。」

 

「あぁ、グラハム・エーカーだ。」

 

「そう。ならば私を名乗らなくてはね。」

 

少女は胸をはりこう言うのだ。

 

「苑洲の太守、名は曹孟徳。そして後ろにいるのは夏侯惇と夏侯淵よ。」

 

そして私は知るのだ。よく知っている彼女の名を。

 

「魏の曹孟徳......」

 

私はこの時やっとのことで理解した。彼女の名を知り、覇気をこの身で受けたのだ。もう否定しようもない。ただ一つ疑問なのが

 

 

なぜ美しき少女になっているのかだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話

 

 あの後、曹操と言った女性に連れられ近くにある村まで連れて来てもらった。まぁ連行に近いのだが…

だが、良いこともあった。あの後シャン殿が駆けつけてくれたのだ。理由としては

 

『お兄ちゃんなんか変なことしてからまわり?してそうだったから』

 

だそうだが、まぁ良いだろう。気が知れた仲が一人いればこれから過ごすこともできるだろう。

そしてとある部屋に連れられてシャン殿と私達が逃がした盗賊について、加えて私のことについても聞かれた。

 

「なるほど…盗賊の件はわかった。だが…空を飛ぶ機械などとは…信じられんな…」

 

主に私に話をしていて夏侯淵殿が言う。

 

「やはりこいつ嘘を!」

 

と夏侯惇殿は食って掛かるが曹操殿に止められる

 

「信じられんのも仕方あるまい。私も魏の曹操殿が生きていた頃の時代だとは…私も信じられん。」

 

と、私が話し

 

「彼の話は信じても言いと思うわ。私の字を知っていて、今後大陸に覇を唱えるために必要だと思っていた魏と言う名を共に言ってくれたのだもの。

あなたも自分で言っているのだから現状を受け入れなさいな。」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「よろしい。徐晃…入ってらっしゃい。」

 

すると、扉が開きシャン殿が私のとなりに立つ。

 

「お兄ちゃん。大丈夫だった?」

 

「私は大丈夫だ。シャン殿も私について来て良かったのか?関わりたくなかったのだろう?」

 

そう、彼女達4人趙雲、程立、戯志才そしてシャン殿は、流浪の身であり誰にも遣える気はないと言っていた。その本人が私を心配して来たとすればこちらも感じる事がある。

 

「うん。良いの。お兄ちゃんに聞きたいこともあったし、お金も尽きてきてたしそろそろかなと思ってたから。」

 

「それなら良いのだが…礼を言う。」

 

「いいよ、いいよ。」

 

今は短くすますが、後で何かしてあげればな。

 

「そうだ、あなたは何ができることはあるの?盗賊の証人ってだけで暮らしを保証してあげても良いのだけど、用がすんだらそれまででしょう?どうやらこの世界に関して何も知らないようだし。徐晃は都での実績もあるから雇うのは申し分ないのだけれど。徐晃もあなたがいると心置きなく私に仕えることができるでしょうし。」

 

と、曹操は言う。彼女の瞳はまた、私を試すような目をしている。だが今度の目は、何か楽しみにしているようなそんな感じがした。多分私が言うこともお見通しなのだろう。だが私にも選択肢がない、今の私をこの世界で極限まで生かすのは…

 

「曹操殿、兵として雇っていただけないだろうか。」

 

やはり武人としての道だろう。そして一武士としてあの曹操の行く道を見てみたいという個人的なものもあるが。

 

「あら、でも私あなたの武人としての眼は認めたけれど、実力を見てないのよね…そうね.....春蘭!」

 

「は!」

 

「あなたがこの....ぐらはむの相手をしなさい。」

 

「はい!わかりました!」

 

 

「では外に行くわよ。」

 

 

そうして夏侯惇と、私は外に誘導される。するとシャン殿が私の服の裾を掴んで

 

「気を付けて。あの人すごく強い。」

 

そして夏侯淵は

 

「姉者は強いぞ。覚悟をして挑め。でなければ死ぬぞ。」

 

うむ。それはわかっている。曹操殿もそれを面白がっているのだろう。彼女に抗ってみなさいと。そう言っているのだろう。

ただやはり私の性分は死んでも直らないようだな。先ほどの盗賊との戦いの時よりも昂るのだ。

 

「わかっている。」

 

そう一言呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの男から話を聞いて確かにこの我々のいる世界の住人でないことはわかった。空を飛ぶ機械にのって戦っていたという言葉はいまだに信じがたいが…あの男も同じような感覚なのだろう。

そして何故か華林様に仕えるために姉者と仕合うこととなった。武わ示すためと言うが、姉者でなくともと言うのが私の意見だ。特にあの男は、私達の目の前で華林様の得物を突きつけられ覚悟を示している。華林様にも何か考えがあるのだろうか?確かにあやつは強いのかもしれんだが姉者程かと聞かれるとそれは否だ。ただ、異国のいや、正確に言うならば、異界の太刀筋を見たかったのかもしれない。

 

「気を付けて。あの人すごく強い。」

 

と徐晃殿が言う。徐晃殿も相当な実力者なのだろうこの短期間見ただけで判断したので。対する男は無言のまま徐晃殿を見ている。私も一応注告しておくか。

 

「姉者は強いぞ。覚悟をして挑め。でなければ死ぬぞ。」

 

すると男は私を見ずに一言

 

「わかっている。」

 

と言った男の後ろ姿に恐怖や恐れというものはなかった。

これが姉者の強さを理解していないからなのか、男の強さか私にはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた得物はどうするの?」

 

「確かに何があるだろうか?」

 

「ならこの中から選びなさい。訓練用のもので刃は引いてあるわ。春蘭はもう決めているから早くしなさい。」

 

ここに来てからは得物はにぎってすらいない。日本刀はさすがにないだろう。似たような武器があれば良いのだが。あるのは剣と、薙刀、槍、手斧まである。

まずは薙刀を手に取るがやはり手に合わないか…武士道を学んだ時に振ったことはあるがここまで長い武器は合わんな。槍も同じか。

やはり私には剣だろう。やはり刀よりは重いかだが

 

「曹操殿、二本選んでも良いのだろうか?」

 

「えぇ、別に構わないわよ。それがあなたの型なのでしょう?」

 

「感謝する。」

 

少し重めの剣と、軽い剣を二本手に取る。そして素振りをす上段二段、中段一閃、下段二段と順に打っていく。

 

「……………」

 

それを他の皆は黙って見ていた。

そして、夏侯惇の前に立つ。夏侯惇の武器は大剣か…

あれを受けきるのは至難の技だろう。回避主体または流しをするしかないか…

 

「準備はもう良いのか?」

 

夏侯惇殿がこちらに話しかけてくる大分軽い表情だ。

 

「あぁ、すまない。もう大丈夫だ。いつでも可能だ。」

 

「そうか、そうか。この夏侯元譲の前に立つ度胸は認めてやる。精々死なぬようにしろよ。」

 

お互い軽い言葉を交わし戦闘態勢に入る。

そして

 

「それではこれより夏侯惇とぐらはむによる模擬戦を行う。勝敗は相手に先に一太刀浴びせる又は、完全な状態で得物を突きつけること。奮戦を期待しているわ。それでは始め!」

 

 

「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

曹操殿の始まりの合図が聞こえた瞬間、夏侯惇殿は即座に正面から突っ込んで来る。明らかに無防備に見えるが大きな好きは見えないそして

一閃

私が居た地面には大きな窪みができていた。

 

「ほほぅ……」

 

やはりこれ程の力を持っていたか。恐らくこの世界このようなことを成すやからは他にもいるのだろう。

 

「どうした。怖じ気づいたか!」

 

といってさらに私に迫る。今度はその大剣を私の持っている剣で受けた。両腕に重い痛みが襲う。しかも一撃では終わらず。あの重いであろう大剣を軽々と振り回し連激をくり出してくる。私は7合受けた後逃げるようにしてなんとか弾き距離を取ろうとするが次の瞬間にはすぐ目の前に現れまた一方的に打たれる。

それは私を試しているような立間わりではなかった。お前を圧倒して見せる。お前を殺す。そう言ったものが伝わってくる。

また、私は同じ間違いを犯してしまった。ここは私が生きていた世界とはまた違う世界。私のいた世界より死が身近にある不安定な世界。そして国家が、国家として成り立ってもいない世界。それが一般人にも及ぶ世界。私のいた世界も死と隣り合わせであったが、確実にこちらの世界のほうが不安定。そんな世の中、戦の中であろうと訓練であろうとこのような実力を見るだけの仕合いであろうと気を抜かない。

いや、抜けないのだ。だからこそここまで生き残ってこれたのだろう。

夏侯惇殿非礼を詫びよう。貴方をただの腕の立つ兵だと思っていたこと、この世界の人々を愚弄していたこと。

私も決して手を抜いていたのではない。だが心構えが違った。再び改めるとしよう。

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「なっ…!?」

 

これまでよりもより強く、殺すつもりで押し返す。

夏侯惇は弾かれ大きく下がる。

 

「非礼を詫びよう。夏侯惇殿。」

 

 

「何が非礼だ。もしやこれからが本番だとでも言うつもりか?」

 

「いや、ここからが始まりだ。さぁ、思う存分死合おうではないか!!」

 

 

今度は私から攻める。両方の剣で連続した技を大剣に、夏侯惇の力に負けぬよう力強く振るう。何度も何度も打ち合う。だがさすが夏侯惇殿、こちらの少しの隙を連激をくり出す毎に制度の上がる反撃をしてくる。

その反撃を弾けてはいるものの、時間の問題だろう。この打ち合いのなかで夏侯惇殿が私よりも力が強く剣の腕も高いことがわかる。

 

「くっ……」

 

予想通り大剣が服に少し触れる。やはりここは早期決着しかないか。私は連激を止め大きく後ろに下がる。

そして再び構える。そして目の前の敵と目を合わせる。その目はとても楽しそうに見えた。

お互いに構えたまま微動だにしたい。タイミングは一瞬。そこをはずせば私の首は飛ぶことだろう。

空気が一段と張り詰める。こういった時に先に仕掛けたほうが負ける。だが

あえていかせてもらおう!

 

そうして夏侯惇にむかい全速力で走る。それに合わせて夏侯惇もこちらに向かってくる。

速いもう目の前で大剣を振りかぶらんとしている。私の剣はまだ左右に開かれている。この一振は避けられない、剣で受けることはできない。

 

 

だが、これで良い。避けられないそれが良い。剣で受けることができないそれが良い。この状況が、死合っているこの場がそうさせる、いち早く眼前の敵を殺せという意志が良い。これこそが私の一つの勝筋。

 

「とったぁぁぁぁぁぁ!」

 

そして一つの剣と大剣が合わさり甲高い音をあげる。

 

ようやくだ……ようやく

 

「つ……捕まえたぞ……夏侯惇…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

あやつの雰囲気が変わった。明らかに今まで打ち合っていた時とは覇気が違う。だが、私夏侯元譲。そのようなものには屈しない。

 

「非礼を詫びよう。夏侯惇殿。」

 

と突然、私に対して謝罪の言葉を飛ばす。

 

 

「何が非礼だ。もしやこれからが本番だとでも言うつもりか?」

 

「いや、ここからが始まりだ。さぁ思う存分死合おうではないか!!」

 

速い!先程とは違う。

強い戦士だとは思っていたがそれまでだと思っていた。でも今は違う。前より速く前より力強く打ち込んでくる。これ程の高揚感を感じたのはいつぶりだろうか。それほどまでにこの男は強い。

だが、私よりは弱い。私も目が追い付き反撃をする。それを時間が立つ毎に回数を増やしていく。

そして一太刀が服を掠めると男は下がった。

男はこちらを向き剣を構える。そして目を合わせる。

こいつ次で決めるきか。

その気概はよし正面から叩ききってやろう。

 

そして一時たったのち走り突っ込んでくる。それに合わせ私も走る。そしてお互い間合いに入る。対する男はまだ打つ構えにも入っていない。

 

もらった!!

 

勝利を確信し大剣を振るう。

 

一つの剣で男は受けようとするが関係ないその剣ごと叩き切る!

 

「とったぁぁぁぁぁぁ!」

 

甲高い音とともに衝撃がはしる。だが、男はその場から動いていない。そして

 

「つ……捕まえたぞ……夏侯惇…!」

 

血を口からだし私の大剣を受け止めている男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話

 

 

正直に言うと彼と春蘭では、実力の差が明確だと思っていた。彼には確かに武人としての才はあるのだろうけど慢心というか何か達観しているつもりのような雰囲気を感じた。正直そういった相手には春蘭は負けない。単純な実力なら多少劣った程度でも、偶然勝てることはある。この世の中に必然などないのだから。でも、そのような心構えなら春蘭には絶対に勝てない。

私としては春蘭と仕合わせて、負けさせた後少し問い詰め敗因を自ら確かめさせるつもりだった。自らわかったのなら将として取り入れようとも思っていた。確か多くの町で有名な占い師が天の御遣いに関する噂が出回っていたわね。それを理由にして側に置いておくのもよしと思っていた。

最初は予想通り春蘭が一方的に打ち込んでいた。だが彼も春蘭よ一太刀一太刀を器用に受けている。彼の腕も確かなようだけど、やはり純粋な実力では春蘭に敵わないようね。

でも、中々の実力ではあった並大抵の兵では初手の一撃を剣で受けようとしてそのまま吹き飛ばされるでしょうね。

 

 

 

 

途中から彼の纏う空気が変わった。そう思った瞬間に打ち合っていた春蘭を後方に下がらせて見せる。これには隣にいる秋蘭、徐晃も驚いたような表情をしている。そして今度は彼から攻めてみせる。二つ剣を持つ利点である手数を生かし春蘭に攻めかかる。春蘭もさすがに受けに専念していたが途中から隙を見ての攻撃と、打ち合いが多くなっていく。

打ち合いが続き春蘭の大剣が彼の奇妙な服を掠める。先程の彼より少し強くなっても春蘭の実力には届かない。そして、彼は春蘭の間合いから外れ、構える。良い策ではある。実力差があるときに持久戦では実力が劣っているほうが確実に不利。どれだけ策を重ねようと小出しで出した策など力で潰してしまうだろう。だが、一発の勝負なら一つの策で一つの技で決着がつく。どうでるかと楽しみにしていたところ彼がとった行動は春蘭に向かっての突撃であった。春蘭を一瞬呆気にとられるが即座に反応走り出す。

春蘭のほうが速く大剣を振りかぶる。対する彼はその態勢にすらはいっていない。そして…

 

 

甲高い音が響き、地面に少量の血が落ちる。

 

「つ……捕まえたぞ……夏侯惇…!」

 

彼は春蘭の一太刀を体で受けてみせた。彼の左手は剣を握っておらず、春蘭の腕を掴んでいる。

春蘭の大剣は彼の剣で押さえられているが、剣の脊で受けておりもう一方の脊は彼の体に埋まっている。

これだけならば春蘭も力で押しきれるだろう。だが春蘭はそうしようとしない。いや、できないのだ。彼女の大剣を握っている手は彼の腹に埋まっていた。これでは力を出せない。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

そして判断が遅れた春蘭に彼の右手で握っていた剣が振りかぶられる。

 

貴方のことを改めましょう、グラハム。何故急に変わったか、理由はわからない。だが今の貴方は自分なりの覚悟を決めている。そしてそれにたる意志を持っている。良き武人であると。

 

「そこまで!勝者グラハム!」

 

良き才を持つ者よ。私のもとで覇道を作る一矛となりなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曹操殿の声が響く。

その瞬間私は地面に倒れる。

「かはっ……はぁ…はぁ…はぁ…」

なんとか勝ったは良いが体のほうが持たなかったか。正直ここまでの力だとは思わなかった。

耐えきれず。地面に這いつくばる。

骨は折れてないか…

 

 

「か、華林様申し訳ありません…」

 

「春蘭貴方も良き敵ができたのだからこれからも精進して行きなさい。お疲れ様。久しぶりにあなたの武を見て嬉楽しかったわ。」

 

負けた春蘭は曹操殿と話している。

 

「お兄ちゃん。大丈夫?」

 

「あぁ…なんとかな…」

 

シャン殿がこちらにかけより、私の体を支える。

 

「血出てるけど。本当に?本当に大丈夫?」

 

シャン殿はものとても心配してくれていたのだろう。

心配されるのも久しぶりなものだな…

というか血か。と胴を見るが外傷はない。

 

「口だぞグラハム。これを使うといい。」

 

と夏侯淵殿は手拭いをこちらに渡してくる。それをシャン殿が受け取り私の口もとを拭く。すると手拭いは少し赤く染まる。そういえば血の味がする。

 

「一応姉者の全力を体で受けたのだ後で医者にでもかかるといい。」

 

そう労いの言葉をもらう。

 

「あら、敗者よりも勝者のほうがぼろぼろじゃない。」

 

「ははは……確かにそうだな…だが今は…勘弁して…もらいたい……」

 

まだ完全に行きを整えきれていないので途切れ途切れだ。

 

「まぁ、いいわ。あなたは私に武を示した。約束通りに雇おうと思ったのだけれど少し予定を変えるわ。」

 

もしや今から約束を反古にするのだろうかと曹操殿の表情を見るが、笑っていた。

 

「あなたを私の軍の一将とすることにしたわ。その武私の行く覇道のために使いなさい!いいわね。」

 

ここまで言われてはさすがに断ることもできない。もともと断るつもりもなかったのだが一兵よりも一将のほうが私の力も遺憾なく発揮できるというもの。

私はシャン殿に一言言ってから。離してもらいその場で片膝をついた。

「は。この力曹操殿のため、覇道のため、その礎となりましょう。」

 

そして頭を垂れる。

 

「よろしい。ならばこれから私のことは華林と呼びなさい。この意味わかるわよね。」

 

名を預けられた。まだこの名の、私が知っている曹操という名とは違った名の意味を知らない。だが、彼女らを見ていると身近な人に言うことを許しているようだ。これは信頼の証のようなもので、いやそれ以上のもなのであろう。証拠に兵には教えている様子はない。この名を預けられるということは、それなりの責任が伴う。だが私は

 

「もちろん。名を預けたことを後悔させぬ活躍をしてみせよう。」

 

そう宣言する。

 

「では、そろそろ戻りましょうか。私の城に。春蘭!秋蘭!準備をなさい。一刻後にはここをでで陳留に向かうわ。」

 

「「は!」」

 

なんとかなったか。力が抜け尻もちをつく。シャン殿は心配して私を見てくる。私は自然と手をシャン殿の頭にもっていき撫でる。最初は不思議そうにしていたが、今は気持ちよさそうにされるがままになっている。

 

 

 

 

空を見る。

 

雲もない青い青い空。

 

少年よ。君は未来をその手に掴みとるため、自由を掴みとるため戦った。その理想の実現立ち会って見たかったが私は水先案内人となりそちらで死に、また新しく奇妙な縁でここにいる。

 

私はこちらで自由に生きようと思う。あの世界ではできなかった生き方をしてみよとう思う。もうあの世界に戻れなかったとしても……

 

 

 

さらばだ少年。いや刹那・F・セイエイ。いずれ地獄で合おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、大きい砦だ。」

 

「何を当たり前のことを言っている華林様の暮らす砦だ。大きくなければ示しがつかん。というかもっと大きくしても良いほどだ。」

 

と、春蘭殿は言う。

陳留に行くまでの間この世界の様々のことを教わった。

真名についても教えてもらったがこの世界では特に重要なものであったらしい。下手に華林殿の真名を間違えて言えば首が飛んでいたほどらしい。

あの後夏侯惇こと春蘭、夏侯淵こと秋蘭の真名も預かった。シャン殿の真名は香風であり知らぬ間に真名を許されていたらしい。

そして私の予想通り争いの絶えない世の中だということも…

覚悟は決めてはいるが、実際に生身で人を殺めたことはない。これはなれていかなければならないだろうな。この世界でいきるためにはな。

 

考えていると、もう砦の目の前にいる。入り口には出迎えだろうか華林殿に良くにた少女と何人かの兵が立っている。

 

「今帰ったわ栄華。何も問題はなかったかしら?」

 

「はい、何も問題ありませんでしたわ。お姉様の方はいろいろあったそうですわね。」

 

「えぇ。盗賊を捕まえられなかったの癪だったけれど、良き者を見つけてきたわ。二人とも紹介なさい。」

 

「グラハム・エーカーだ。一将として働くこととなった。よろしく頼む。」

 

「そうですか。」

 

興味がないのだろう。返答が素っ気ない。まぁ新人が将として働くとなれば仕方ないだろう。

そして私の後ろに隠れていたシャン殿も挨拶をする。

 

「徐晃です。よろしくお願いします。」

 

 

「まぁ!まぁ!まぁ!」

 

と急に顔が笑顔で染まる。そしてシャン殿に即近づいて手を握り

 

「えぇ!こちらこそよろしくお願い致しますわ。性は曹、名は洪字は子廉ですわ。どうか栄華とお呼びくださいな。さぁさぁお疲れでしょう。速く城に参りましょう!あ、長旅をされていたのですよね。なら、お風呂の準備もいたしますから。」

 

「う、うん。シャンも香風でいいよ。」

 

「香風さん!では行きましょう!」

 

と、曹洪と名乗った少女はそのまま手を握り駆けようとする。

 

 

「お、お兄ちゃん。この人何か怖い。」

 

とシャン殿は私の後ろに隠れる。

 

「はぁ。栄華、少し落ち着きなさい。香風が引いているわよ。それよりもこの二人の部屋などの準備はしているのかしら。早速働いてほしいことがあるのだけれど。」

 

と華林殿が注意をしながら私達のことを話す。

 

「まぁ、用意はしていますが…本当に役に立ちますの?香風さんは過去の経歴がありますしかわいいですから良いですけど。」

 

かわいいからいいのか……歪んだ愛を感じるぞ…

 

「その傷物の男は本当に役に立つんですの?」

 

と、私を指差す。

 

「確かにその傷は気になるわね。いったい誰に追わされた傷なのかしら春蘭に一回といえども勝てたあなたが苦戦するということは中々の実力者ではないかと思うのだけれど。それとも若い頃の傷かしら。」

 

私の顔の傷について聞いてくる。皆これまで聞くのは避けていたのだろう。

春蘭に勝ったという言葉を聞き曹洪殿は驚いている。

 

「この傷は、そうだな。私の誇りであり恥でもあるものだ。理由は詳しく説明できないのが残念だが…」

 

「あらそう。天で起きた話なのでしょう。話したくないなら話さなくても良いわ。」

 

「天?程立殿が言っていた天の御遣いのことか。」

 

「えぇ、そうよ。そういったほうがわかりやすいじゃない。それで栄華、春蘭に勝った者を取り入れるのは悪いことではないと思うのだけど。」

 

曹洪殿は不服そうだがうなずいた。そして私達は城に通されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?誰っすか?」

 

城のなかに通され女性陣は湯浴みやら仕事に移った。後で玉座の間に来るようにと言われたが暇だったので散策がてら彷徨っていると頭上より声が聞こえた。

見上げるとまた華林殿に良く似た少女が屋根の上に座っていた。

 

「はじめましてと言わせてもらおう。グラハム・エーカーだ。華林殿に、良くにておられる。妹か?」

 

「ぐらはむえぇかぁ?難しい名前っすね。というか華林姉を知ってるっすか?」

 

「あぁ、華林殿に拾われた身でな。今日から一将として遣えることになった。」

 

そう簡単に挨拶を返し今の自分の身分を言う。

 

「へぇ。じゃあ私と一緒すね。グラっち。」

 

「グラっちか…名にか他の呼び方はないのか?」

 

と少し考える素振りを見せると閃いたように

 

「えぇっち!」

 

「やめていただこう!グラっちでいい!」

 

「ならよろしくっすね。グラっち私の名は曹仁っす。グラっちなら華侖でいいっすよ!」

 

真名だと思うのだがよいのだろうか?まぁ貰ったものを返すのも無礼であろう。

 

「では、よろしく頼む、華侖殿。」

 

「じゃあよろしくっすーー!」

 

と言って私に飛び込んで……飛び込んでくるだと!屋根の上からだぞ。油断していて受け止める態勢が取りきれていない。

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

誰かわからない女性の声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話

 

 

「もう!姉さんったら怪我でもしたらどうするの!しかも他人を巻き込んで!」

 

「ぶぅー。怪我しなかったからいいじゃないっすか…グラっちも無事だったっすし。」

 

「それでもよ!怪我したら皆に迷惑をかけるんだから……

申し訳ありません。貴方は華林お姉様が書簡で書いていた方ですよね。本当に申し訳ありません!姉が危険なことを……」

 

姉妹喧嘩を区切り華論殿と、華林殿に良く似た少女が頭を下げる。

 

「ははは、問題ない。この通り怪我もしていないのでな。」

 

「そうっすよね!グラっち。」

 

と、私の前にピョンピョンも跳ねるように来る。

まるで子供のようだな。

 

「もう。姉さんった……それよりも自己紹介がまだでしたね。華林お姉様の従姉妹、曹仁の妹、曹純と申します。」

 

綺麗な所作で挨拶をする。ふむ姉とは全く違った性格のようだ。だが顔はそっくりだな。華林殿にも瓜二つではないか。

 

「華論殿の妹ぎみであったか。私の名はグラハム・エーカーである。一将として華林殿の下働くこととなった。よろしく頼む。」

 

「姉さんも華林お姉様も真名をお許しになったのですね。なら、私のことも柳琳とお呼びください。グラハム様。」

 

「ならばありがたく受け取らさせてもらおう。柳琳殿よろしく頼む。」

 

お互いに挨拶を済ます。本当に礼儀正しい子だ。まぁ苦労人なのであろうが。

 

「よーし、じゃあグラっち行くっすよーー」

 

華論殿が腕を引っ張ってくる。

 

「おっと、ど、どこに向かうというのだ。」

 

なんとか踏み留まる。力が結構強い。さすが一将と言ったところか。

 

「華林姉が言ってたっすよ。えぇーと…なんだったす?」

 

頭に?がうかんでいる。

 

「姉さん。玉座の間に集合というお話だったでしょう。グラハム様もですよね。」

 

そう言われもう時間かと思いながら頷く。

 

「じゃあ全速力でいくっすよーーー!」

 

「うぉ!」

 

だんだんと速度が上がり私の足が浮く。

 

「あ、きをつけてくださいね。姉さんはとっても足が速くて私達姉妹の中だと一番力が強いんですよ。

えぇと……が、頑張ってください。」

 

と、段々と距離が離れていく程に諦めたような口振りになって声が小さくなっていく。

 

 

「聞いていないぞ!うをぉ!?本当に!聞いていないぞーーーーー!」

 

 

「さぁさぁ!急ぐっすよー!」

 

華論殿に引きずられて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、貴方はぼろぼろなのかしら…」

 

上の玉座に座っている華林殿が話しかけて来る。

私は華侖殿に引きずられて玉座の間につれてこられた。

 

「華林姉グラっちつれてきたっすよ!」

 

少し苦笑いしながら華林殿は頷く。

 

「こら!グラハム!玉座の御前だぞしっかりせんか!」

 

確かにこういったところでは礼は正さねばな。と身だしなみを整え、秋蘭殿の指示された場所に立つ。

周りには春蘭、秋蘭、華侖、柳琳、曹洪殿そしていつの間にか私のとなりにがいるシャン殿。私が見るとニコッと笑顔を返してくる。愛くるしい……いや、私はロリコンではないぞ断じて断じてだ!

 

「それでは会議を始めましょうか。秋蘭」

 

「は、前回入った盗賊の件ですが。やはり豫州に逃げ延びたようです。」

 

「そう。」

 

「そして豫州の相に早馬をだしましたが、入ることはまかりならんと……」

 

「まぁ、そうでしょうね。」

 

やはり他の国に行くのにも一苦労するような場所なのであろう。

 

「盗まれた物は仕方ないわ。でも、収穫はあったは。二人とも前に出なさい。」

 

そう言われて、シャン殿が前に出る。それについて行くように私も少し前に出る。

 

「盗賊を追っている時に偶然見つけた二人よ。自己紹介なさい。」

 

「性は徐、名は晃、字は公明。都では文官をしておりました。旅の途中曹操様に拾われました。以後お見知りおきを。」

 

シャン殿そのような挨拶ができたのか。

だがドヤ顔をうかべえっへんと言いそうな顔で私を見てくる。やはり子供のようなところが目立つな。

次は私の番か。

 

「私の名は、グラハム・エーカーである。曹操殿に一将として仕えることとなった。出身は皆の知らぬ天の国。この世界のことはあまりわからぬ身だがよろしく頼む。」

 

自己紹介を終え頭を下げる。天の国というのは華林殿が書簡で書いてくれていたのだろう、ざわめきはない。

 

「この二人には私の真名を許しているわ。まだ真名を許していない者は後で許すように。徐晃には文官の補佐と将として、グラハムには一将として隊を率いてもらうわ。良いわね。」

 

「「は!」」

 

と私と、シャン殿は片膝をつく。

 

「良い返事よ。それではこの会議は終了とするわ。秋蘭とグラハムは残りなさい隊の編成をするわ。」

 

会議は終了となった。そして私と春蘭以外の皆が部屋から去っていく。私の近くから曹洪殿がシャン殿を引き剥がし

「お、お兄ちゃんーーー」という悲鳴が聞こえてくる。

 

「他の皆は行ったわね。それじゃあ始めましょう。その前に一つ聞いても良いかしら?」

 

三人以外誰もいなくなった後華林殿が私に問いかける。

 

「あなた人を殺めたことは。」

 

「ある。」

 

即答した。これはただの確認だということはわかっている。が軍人としてこれは即答しなければならない。私は確かに平和を守るためという大義名分がある。だがその下に屍があってこそ平和だ。力を行使するものがわかっいなければならない。これがわからなければ正義を語り行動することは許されない。

 

「まぁ、向きになるなグラハム。これからお前の部隊の役割を話すのだ。そう変に殺気だたれてはこちらも叶敵わん。」

 

秋蘭殿が私の肩に手をおき宥める。そこまで殺気だっていただろうか。

 

「構わないわ。そこまでの覚悟がある証拠だもの。あなたの部隊だけれど基本は秋蘭の部隊と共に行動してもらうことにするわ。」

 

「ん?それならば皆の前で言っても……」

 

「まぁ待ちなさい。それであなたには50人程の兵をつけるわ。ただ外面は秋蘭の部隊を取り入れ何百人程度に見せかけるつもりよ。そしてここからが重要な部分。」

 

「今我らの軍に足りないのはなんだと思う?」

 

と、秋蘭が隣で聞いてくる。

全く見ていないが唯一わかることはある。

 

「戦える将が少ない。」

 

「正解だ。良くこの短期間だけで気づいたな。」

 

「秋蘭殿は獲物が弓であろうし、華侖殿も実力はあるだろうが春蘭には遠く及ばない。柳琳殿は良くわからぬが…」

 

「まぁ、おおむね正解よ。柳琳のことは後々わかるわ。だからあなたには将の相手をしてほしいの。」

 

「それは当たり前のことではないのか?」

 

将を削り勝利に近づく。戦の基本ではないか。これで大将を取りに行けならば奇襲部隊としてわかるのだが。

 

「春蘭の負担を減らしてほしいのよ。今敵将を相手取るのはほとんど春蘭がしているの。あなたのいう通り春蘭並みの将はいなくてね。でもあなたがいるなら話しは別。これからおそらく世は荒れることでしょう。戦も多くなるわ。その中でいくら強くても春蘭を酷使するわけには行かないの。」

 

「姉者ならば喜んで受けるだろうがな。」

 

秋蘭はあきれたようにいう。

あぁ、なるほどだから皆を下がらせたのか。

春蘭も愛に生きるものなのか。やはりこの軍の関係は良い。好意を抱くよ。

だがあまりにも深すぎるのではないかとも思う。これがいきすぎなければと思うのだが。

 

「了解した。引き受けよう。だが人数の少なさには他の理由もあるのだろう。」

 

「やはりあなた、戦なれしているわね。偵察の部隊もかねているのよ。少数精鋭で最前線に向かってもらいたいの。あなた隠密の経験は?」

 

「さすがにないな。訓練程度なら受けているが……」

 

モビルスーツでの隠密戦などほぼ無意味だ。いくらジャマーがあろうと結局ばれてしまい、あの大きな機体を隠す場所などないのだから。

 

「経験がないよりましよ。これももちろん引き受けてくれるわよね?」

 

確実に危険な任務を受けることになるだろう。だがこれからの仲間のためとならば良いだろう。これ以上身近な者を失いたくはないがな。

 

「もちろん。」

 

また覚悟を決めそう言うのだった。

 

「良い返事よ。それではあなたには早速仕事を与えるわ……」

 

そういって着任早々に仕事を受けるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あやつうまくやるでしょうか?」

 

「春蘭が実力を見ためたものならばと言っていたのはあなたでしょう。」

 

グラハムの配備は秋蘭からの提案であった。確かに春蘭ばかりに負担をかけてしまっていることは自覚していた。

そこで偵察隊を秋蘭の部隊に取り入れることそして、グラハムという良き才をもつ武人を加えることによって秋蘭の部隊も寄り前にでて戦うことができる。

 

「確かにあやつの武は姉者に匹敵するほどのものですが……何か少し歪んだように見えるのです。その歪みが良くわからぬのです。」

 

歪み…ね。彼は確かにどこか違う。それは天から来たという理由ではない。もっと根本的なものそれが歪んでいる。人としては不快感を与えぬ普通の人物だといえよう。少し感情的な部分はあるが…

 

「わからなくても。私はそれを利用しきってみせるわ。秋蘭もそのようなことは気にしないで部隊の再編成をなさい。これからはあなたもより全線に立つことになるわ。」

 

「は!」

 

秋蘭は返事をし玉座の間から出ていく。

 

「さて、グラハム。その才で私を楽しませてくれるのかしら?」

 

一人玉座の間で、歪んだ笑顔をうかべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今陳留の町で一人彷徨っている。一応十分なお金はもらってはいるのだが。

この肉まん中々いけるではないか。

町をある程度回って感じたことは結構賑やかであるということだ。このような戦ばかりの世なのだ。民の不安があっても仕方ないとは思う。だがこの町はよくそれを隠せている。良き政治を行っている証拠であろう。

ただ、やはり目線が刺さるな。周りとは異様な雰囲気を纏った物がいるのだ。

服だけでも変えておけば良かったか…

いや、それよりも任務である。内容は

 

『部隊としてあなただけでは不安でしょう。でも今はそれにさける人員がいないの。あなたの判断でいいわ。誰か一人、町又は周辺邑から良き才を持つものを一人探してきなさい。』

 

ということであった。

昔の私なら

乙女座の私ならばと意気揚々と町に繰り出し。いざ会えたならば、乙女座の私にはセンチメンタリズムの運命を感じずにはいられない。

と言っていただろうがそのような自信はもうない。といってもそれは少年と私の出会いのみの運命だったはずだ。そんな誰にでも運命といっているわけではないのだよ。このグラハム・エーカー運命を軽んずることはない。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 

後ろから女性の叫び声が町中に響く

 

「盗っ人よーーー」

 

盗みかそれは看過できないな。

どうやら盗人は通りを横切り私のほうに走ってくる。

初の仕事とするか。

と構えるが。

 

「でぇやぁぁぁぁ!」

 

「グッフカッスタッム…!」

 

盗人は何かの衝撃を受け吹き飛ばされる。

衝撃波だと!

盗人は壁に頭から刺さっている。

 

「大丈夫ですか。」

 

「えぇ…」

 

「良かった。これが盗まれたものですね。それでは。」

 

と言いながら女性は去っていく。

 

「乙女座の私にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられないな。」

 

と感慨にふけり。彼女の後をついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六話 私はストーカーでも気持ち悪い者でもない!

 

彼女を、つけ始めてからもう半刻がたっただろうか

彼女の見た目は特徴的であり後ろで編んだ長い銀の髪。

服の間や顔には多くの傷のあとが目立つ。

その立ち姿には隙がなく優々と歩いている。

どうやら買い物の途中らしい。

所々の店で消耗品や食料を買っているようだ。

 

ただ、もっとも気になるのはあの盗人に放った衝撃波のようなものだ。あのような技などもちろん見たことななどない。あれは拳から放っていた。どういった原理なのだろう。この世界の住人は誰でも衝撃波を打てるのだろうか。

 

「あのー……」

 

私も打てるようになるのだろうか…さすればその反動で違う方向に飛ぶことでの回避。グラハムスペシャルができるのではないか!うむそれは良い。どのような鍛練をすれば打てるようになるのだろうか?後々春蘭にでも聞いてみるとするか。

 

「すみません。私に何かようですか?」

 

「うぉ、なにようかな?」

 

考えすぎてしまったらしい。いつの間にか少し町の外れまで来てしまったらしい。そして目の前には疑いの目を向けながら私を見るあの女性がいた。

 

「盗人の仲間かとも思いましたが……その割には堂々とついてきていましたし。殺気などもかんじません。しかもこのような人のいないところにまで誘導してみても何もせずに考え事をしているようですし……何者なのです?」

 

といいながら拳わ構える。獲物はやはり徒手か…

いや、そういっている場合ではない。このような場所で戦闘になってしまっては華林殿に申し開きがたたんな。

 

「申し訳ない。私の名はグラハム・エーカーだ。決して怪しいものではない。」

 

「怪しい人物は皆そういったことをいうのですが…」

 

「一応身分としては曹操殿の一将として仕えている。」

 

「曹操様の!?それは本当ですか?」

 

「もちろん。こんなことで嘘はつかぬよ。疑うのなら城に今から向かうとしよう。私の部屋がある。」

 

こちらの目をじっと見つめてくる。この世界には人の目で判断するものが多いようだ。それだけ強きものが多いいということだろう。逆に言えばそうしなければ生きていけないということだが…兵ではないものもそうなのか。

 

「疑ってしまい申し訳ありませんでした。私は楽進と申します。将軍様が私に何のご用でしょうか?」

 

信じてはくれたようだ。では早速用件に移るとしようか。

 

「早速で申し訳ないのだが。私の隊に仕官するつもりはないか。」

 

「……え?私がですか!?」

 

「うむ。実力も盗人を退治した時に確認した。私が考えに没頭していたこともあったが追ってくる者にたいしての処理もできている。そして何よりも……」

 

「何よりも?」

 

「君との間に運命を感じた。乙女座に産まれたことに感謝しなければな。」

 

「な!?わ、私は乙女などではありませぬよ!顔も体も傷だらけですし……しかも運命なんて……」

 

と、なぜか小声でモジモジとしている。

 

「まぁ、まずは一旦城に来てもらい。夏侯淵殿も交えて説明しようと思うのだがどうかね?」

 

「……はい。わかりました。ついていかせていただきます。」

 

「よろしい。ならば向かうとしよう。」

 

城に向かい歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直にいってまだ信用しきってはいない。

私のような出自不明の者を町中で勧誘するなど聞いたことがない。

兵の募集は常にしていると聞いたことはあるが、兵が足りないなど聞いたことはない。というか新兵が何人も逃げるほど既存の兵は精強であるという噂を聞くほど練度は高いことで有名だ。

その軍の一将が町中で見ず知らずの人間を勧誘するなど本当に良くわからない。もしかして私は誘拐されてしまうのだろうか!?でもこんな傷物の私など……

だが目の前のぐらはむと名乗った男からは、嘘をついているようにも邪気も感じない。ただ、嬉しそうな雰囲気を醸し出しながら

 

「やはり私には乙女座の運命が……」

 

とか

 

「これでグラハムスペシャルに一歩近づける……」

 

など意味不明?な独り言を発している。

悪い人ではないと思うのですが……なにか気持ち悪いですね……

でも仕官できるなら悪い話ではない。私が武功を立てれば後々沙和や真桜を仕官させることだってできるはずだ。そうすれば私達の邑の人に少しでも楽な生活をおくってもらえるかもしれない。また、軍で私が賊を退治すれば必然邑が襲われる危険性も少なくなるはずだ。

よし。私が頑張らなければ!

 

考え事をしているともう城の目の前である。

ぐらはむは悠々と入っていく。門番は礼をして迎え入れる。そのとなりに立っていた私もろくな確認もせずに通されなかに入る。

 

「取り敢えず、紹介もかねて夏侯淵殿を紹介しよう。今は部屋にいるはずだ。」

 

「はぁ……」

 

なんというか呆気ない。軍とはここまで緩いものなのだろうか。砦の前や城の周りには多くの兵を在中させているようだが、城の中は手薄だ。

 

「周りをそんなに見てどうした?」

 

「いえ、城内がこんな手薄でいいのかなと……」

 

「恐らくこれぐらいのほうが良いのだろうな。曹操殿の近くにはいくらか兵か、夏侯惇殿がおられる。その周りの城に在中している将は私を含めて一筋縄ではいかぬものばかりだ。無駄に兵を集めると巻き添えをくらってしまうかもしれんからな。」

 

「確かにそうですね。昔からそうなのですか?」

 

「いや、私も将となった、というか仕えたのは今日からなのだ。」

 

「は!?今日……からですか?」

 

「あぁ、今日からである。そして最初の任務は君のような有能なものを連れてくるというものであったな。」

 

なんというか緊張度がぐっと下がりました。どうやら私がはいれば同僚となるかたらしい。

緊張して損をした気分である。だが将につく程の武はもっているのだろう。

 

「あらグラハム。もう帰ってきていたのね。隣の者は?」

 

と、奥から一人で金髪の女性が歩いてくる。

 

「あぁ、紹介しよう。楽進殿だ。」

 

私は一応礼をする。

 

「あら、以外ねあなたにたらしの才能があるなんて。」

 

「女性をたらす趣味はないのでね。今日は説明を聞きにきてもらっただけだ。」

 

「ものにできるといいわね。仕えることとなったらまた紹介してちょうだい。秋蘭ならまだ部屋にいるはずよ。それじゃあ私も仕事があるのよ。」

 

といって会話を切り女性は、廊下の奥に消えていく。

 

「あの方は?将のかたでしょうか?それとも文官のかたですか?」

 

言葉使いからしてぐらはむよりは立場は上なのだろう。だがそこまでの上下関係を感じさせなかった。文官か、武官のそれなりのかただろうと思った。

 

「曹操殿だな。」

 

「……あの…もう一度言ってもらってもいいですか……」

 

「曹操殿。曹孟徳殿であるな。」

 

「……………」

 

「それでは夏侯淵殿のもとに向かおうか。

ん?楽進殿どうした固まっておるのだ。楽進殿楽進殿。」

 

あぁ……私は来て早々何足る失敗を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋蘭の部屋の前につき戸を叩く。

 

「秋蘭殿入ってもよろしいだろうか。」

 

「その声はグラハムか。いいぞ。」

 

「失礼する。もう一人いるのだがいれても良いだろうか?」

 

「構わんが……もう見つけてきたのか?」

 

「そうだ。うむ、見た瞬間運命を感じたよ。」

 

そう。やはり思えば思うほどあれは運命だったのだろう。まさにガンダムを、見たときのような感覚には届かないが似ている。これを運命と言わず何と言おう!?

 

「はぁ…?まぁ、連れてきたのなら顔を見せてほしい。背中を預けることに成やも知れんからな。入っても構わんぞ。」

 

秋蘭から許しをもらうと楽進殿が部屋に入ってくる。

すると頭を下げ

 

「は、初めまして!性は楽、名は進、字は文謙と申します。」

 

もう頭が床につくのではないだろうか。腰なんて180度曲がっているぞ……

もはやそれは礼ではない気がするのだが

 

「そんなに固くならなくていいのだぞ。座ってくれ。グラハムは…」

 

「私は立ったままでも構わん。」

 

そして楽進殿にたいする説明が始まる。

主に全線で戦うことが主となること、主に将と戦う者の補佐に回ること可能性として敵方の将とあたる可能性もあるということ。

 

「あの、質問よろしいですか?」

 

「なにか不服なところでもあったか?」

 

「いえ、全線に出るならそれほどの危険はもちろん承知のうえです。ですがこんな身分もなく出自不明なものを取り立て、重要な仕事を任せるなど……」

 

「不信に思うか?」

 

秋蘭がそう言うと首を縦に降る。

それもそうだ。私とてそのような話があったら怪しく思うのも仕方ない。

有り体にいえばただの捨て駒。

そのように思うだろう。

 

「楽進殿が思っていることはないと思ってくれ。私の姉夏侯惇が前に出るのは変わらず。私達がやるべきことは姉者の負担を減らすことだ。それ以上のことはしないさ。」

 

「……はい。」

 

少し不服そうだが楽進は頷く。

秋蘭殿はそれをさっしたのか笑顔を浮かべ 

 

「無理強いするつもりはない。まぁ、考えてみてくれ。私は少し席を外すから後はグラハム頼んだぞ。」

 

私も少々顔に出ていたようだ。出さないようにしていたのだがさすが秋蘭殿。

秋蘭殿は私と目を少し合わせたあと部屋から出ていく。

私は空いた席に座り楽進殿と顔を合わせた。

やはりよく表情に出ている。疑念、恐怖様々な負の感情がまじあってなにかと葛藤しているのだろう。

沈黙が続く。

その沈黙を破ったのは

 

「あなたは不安ではないのですか?」

 

楽進殿のほうであった。

 

「あなたもこの軍では新参者。過去にどんな実績があったとしても入ってすぐに将軍になり、このような隊を任せられるのはおかしいとは思わないのですか。」

 

当たり前の疑念。

 

「まるで捨て駒ではありませんか……」

 

当たり前の恐怖。

 

「これが軍として当たり前なことは重々承知です。ですが……」

 

当たり前のの葛藤であった。

 

「楽進殿。不躾な質問だが顔の傷をなぜ隠そうとしないのかね?」

 

「この傷は邑の人々を守るため負ったもの。恥じらうものではありません!隠すなんてことはできません!」

 

怒気をはらんだ声で反論してくる。

 

「怒らせるようで悪かった。なら私の顔の傷を見てどう思う?」

 

「その傷も同じようなものなのでは?戦で負った傷は名誉と聞きますし、あなたは隠そうともしていません。」

 

「そうか、ならば認識を改めなければな。この傷は私の人生における最大の汚点なのだよ。」

 

楽進殿は驚いた表情を浮かべる。

 

「ならばなぜ?」

 

「私も隠したことはあった。だがあの頃の私は未熟だったのだよ。過去を隠すことが怖かったのだ。」

 

「…………」

 

「この傷は私が憧れ、憎んだ者から受けた傷なのだよ。それだけならば名誉なのかもしれん。ならばなぜ汚点なのかわかるか。」

 

「………」

 

無言で考えてはいるが返答は帰ってこない。

 

「戦うことこそが望みだったからだ。その者と戦い打倒したい。他のものなどどうでもいい。その後他の者に殺されようが打倒し打ち砕く…例え刺し違えてでも。それが私の悲願だった。私は自ら命を捨て戦場に立っていたというわけだ。まるで捨て駒だな。

そして彼とは数々の果たし合いをし最終的に私が負けた。私はその時殺せと彼に言った。だが彼は私を見逃した。そして最後に『生きるために戦え』とそう言い残し去っていった。

私は執着しすぎていたのだよ。私も平和な世を生きるための世を目指し戦った一人であった。だが生きるためという目的を忘れ戦っていたのだよ。そう気づき思い出した時私は仮面を外し、ただのグラハム・エーカーに戻ることができたのだよ。」

 

楽進殿は私の顔をじっと見つめている。

 

「楽進殿はどのような目的があり戦っているのかね。」

 

「わ、私は邑の皆の為に……」

 

「そう。それでいい。この軍にも様々な目的をもったものがいる。だがな、それに一つ付け加えてほしいのだよ。『生きるために戦う』と。本当に勝てないとわかれば撤退することに力をさけば良い。貴殿が生きることでその邑の人々は喜んで迎え入れてくれ、貴殿は邑を守るために力を尽くせる。我々は死ぬために戦いにいくわけではないのだよ。私達が生きるために戦うことを忘れなければ捨て駒になることはない。もし捨て駒になるような任務があればその時は共に裸足で逃げ出せばいい。生きるためにな。私を私の部隊を捨て駒にするわけにはいかないのだよ。

私はそういった心づもりで戦う。楽進殿もどうだろう。もし、自分のためにこの隊が利用できるのであれば存分に使い潰しその後除隊してもかまわない。

加えてこれは私の勝手だが貴殿と共に戦えたらと思うのだがどうかね?」

 

「それ曹操様に聞かれてもよろしいのですか?」

 

「華林殿なら笑って許してくれるだろうさ。」

 

「なんというか自分勝手ですね。」

 

「自分を大事にしなければ、人のことなど考えることなどできないさ。」

 

「私はたくさんの給金がほしいです。」

 

「良き目標ではないか。」

 

「私は友人を仕官させようと考えています。」

 

「美しい友情だな。華林殿に話をしておこう。」

 

「私は……死ぬのが怖いです。何かを成せず死ぬのが本当に怖い……」

 

「…………」

 

「私は死にませんか?」

 

顔が変わった。今までのような武を志している者の顔ではない。これはただの人の、女性の顔をしている。

 

「勿論だとも。私のもとで働いくからには生きるために戦ってもらう。死ぬことなど許さん。」

 

 

いくつかの質問に答えたあと彼女は呆れたように微笑を浮かべる。

 

「生きるために戦え、ですか……」

 

噛み締めるように言う。

 

「グラハム殿!いえグラハム隊長。」

 

今度は覚悟を決めた顔で私を見据える。

 

「不肖楽進、真名は凪、グラハム隊に入隊いたします。生きて苦しんでいる邑の人々を救うために。そして生きるために!」

 

「良く言った凪!生きるために共に戦おうではないか!」

 

「は!」

 

こうして私の初の任務は良き部下であり友の凪の勧誘成功で終わった。確かに凪の言うとおり私の隊はただの捨て駒なのかもしれない。

それでも私は私達は生きるために、生きて未来を切り開くために戦うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




そろそろネタを書きたい………


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第七話

 

 

とある朝。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

「ふっ!」

 

鍛練を行う一組の男女がいる。まだ、一部のものは起きていない時間ですのに考えてほしいものですわ。

といっても悪いことばかりではないのですが。

凪さんがあの男[グラハム・エーカーである。]の下についてからこの鍛練は続いている。最初は場所を決めていなかったからか庭の隅で行っていた。その結果城壁や庭が崩れ荒れその修繕費が莫大にかかったのは思い出したくもありませんわ。凪さんにならお金をかけてもいいのですが……

あの男[グラハム・エーカーである!]に使うのは気が引けますが。

武の腕を考えれば仕方ありませんね。春蘭さんよりお金はかかっていませんし。

周りには新兵やあの男[グラハ]もうわかりました!!地の文に突っ込まないでくださいまし!

グラハムさんの隊の皆さんをいらっしゃいますわね。

これがこのお二人の鍛練の利点。新兵たちの意欲向上ですね。

お二人はお互い徒手で仕合をしています。

凪さんはとてもたくましい武。勇猛果敢に突き蹴りを行う激しい物である。ですが武を心得てない私でも綺麗なものだと思うぐらい完成しているように見える。

一方グラハムさんの武は…………とても美しく感じてしまいます。

凪さんの寸前で避け、反撃を繰り出す。そして凪さんの攻めが弱まると攻撃を仕掛ける。反撃も攻撃もきまった所作、一貫しているものがあるように感じる。

また、鍛練であるので二人とも基礎の動きしかしていない。ただの見せ物というわけてはなく良き見本となっている。

 

「むぅ、やはり勝てないか……」

 

「いいえ、隊長も腕を上げていますよ。しかも本来の得物は剣ではないですか。ここで私が勝たなければ面目が立ちませんよ。」

 

と、決着はついたようですわね。

倒れたグラハムさんに凪さんが近寄る。グラハムさんは立ち上がり少し話している。反省をしているようだ。

そろそろ話しかけてもいいだろう。

 

「凪さん、グラハムさん。おはようございます。」

 

「曹洪殿か、なにようかな?」

 

「栄華様おはようございます。」

 

この男[グ]もういいです!

真名はお姉様の指示で許してはいるのですが、彼は頑なに私の真名は呼ばない。彼が言うには

『嫌いなものに名をしかも真名を呼ばれるのは苦痛であろう。』

らしい。一度お姉様が真名を呼びなさいと注意はあったが。等の本人は名前を避け、私しかいない時や事情を知っている者の近くでは真名をよばず、姓名で呼ぶ。

律儀というかなんというか……男のわりにはきちんとしていらっしゃる方ではあるのでしょうね。男のわりにはですがね。

他の方からの評価もそんな感じである。

ですが、何か気持ち悪いといった評価もある。主に凪さんや、春蘭などの鍛練を一緒にしている人からなのだが。

いや、私はなぜこんなことを考えているのだろう。

要件があったというのに

 

「お二人とも鍛練はここまでにして少し手伝ってください。新兵の皆さんも今日が何の日かわかったいるでしょう?」

 

「あぁ、どこかの相がくると言っていたが。まだ謁見の時間には早いとだろう。」

 

「豫州沛国の相ですわ。しっかり話は聞いていたんですの?貴方も立ち会うのですわよ。」

 

「そうなのか。では、凪これで朝の鍛練は終了しよう。グラハム隊の皆も解散とする。」

 

30人ほどの兵からの返事が聞こえ、それぞれ去っていく。

 

「私はどうすればよろしいでしょうか?」

 

「経験も大事であろう。謁見に立ち会ってみればいい。それまでは私の手伝いをしてもらおうかな。」

 

「わ、私がですか!?そんな!恐れ多くて……」

 

「あら、一応凪さんも部隊の副将なのですよ。」

 

「そうですが……」

 

「そこまで気にしないでいいさ。私なんてまだ文字は書けないのでな。」

 

「でもなぜ文字は読めるんですか?しかも難しい書物まで……」

 

「本当になんでなんでしょうね?

それはともかくこの紙に書いているものを買ってきてくださいな。お金はこれで足りるはずです。」

 

「了解した。凪行くぞ。」

 

「はい。隊長。」

 

と二人は町の方向に歩いていく。

最近は町の警邏も自主的にやっているようですし迷うこともないでしょう。

他の方からも信頼を得ていて、働きもそこそこ。

他の男よりもましなようですわね。

あの男[グラハム・エーカーであ]

 

「もう、うるさいですわよ!!頭の中でずっとずっと自己紹介しないでください!気持ち悪い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「必要なものを準備しなくてはな……」

 

「そうですね、隊長。まずは……」

 

私の隊の運営は順調だ。

朝夕の鍛練、仕事として町の警邏をさせている。

隊員同士の仲も良くなっているようだ。

凪もよく私のサポートをしてくれている。

良い部下をもったものだ……やはりあの出会いは運命。

 

「あ、たいちょうさん。今日はどうしたんだい?楽進様もおはようございます。」

 

「おぉ飯屋の店主ではないか。少し使いを頼まれてな。」

 

「おはようございます。」

 

買うものを集めていると、凪とよく行く飯屋店の店主とあった。最初に凪につれられていき、同じものをと頼んだ時のことは懐かしい。

まさか凪があのように辛いものが好きだとは……

その後も店にはよく行くが、凪や店主の調整によって美味しく食べられる辛さのものを食べている。そう考えると凪の食べていたものは異常だったのだな……

 

「たいちょうさんだー」

 

「楽進様だー今日も遊んでよー」

 

子供たちも集まってくる。

少年少女たちとも町の人と関わっていくなかで遊ぶこともある。子守りも町の治安を良くすることに繋がる。

子供が元気な町は栄えるというしな。

 

「すまぬな。今日は大事な予定があるのだ。また今度な。」

 

「「えーーーーー」」

 

「たいちょうさんも楽進様も忙しいのよ。ほら迷惑かけないの。」

 

「「はーーーーい」」

 

と子供たちは諦めたように違う方向にかけていった。

 

「申し訳ありません。子供たちが…これお詫びですので楽進様と一緒に食べてください。」

 

桃を2つもらう。鍛練が終わってからすぐだったので丁度よい。もらった桃の一個を凪に渡す。

 

「ありがとうございます。

隊長は町の皆からも尊敬されているのですね。」

 

「ははは、ありがたいことだ。

凪こそご老人の方々に人気ではないか。」

 

凪はご老人の方々の手伝いを、警邏の間にしていることが多いい。私よりも町の人には顔が広いだろう。

 

「そんなことはありませんよ。隊長のほうこそ子供たちに人気ではありませんか。

というか、こんなところで話している暇ではないのですよ。急ぎましょう。」

 

「そうだな。」

 

残りのお使いを、すませるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方町人は

 

「やっぱりたいちょうさんと、楽進様仲がいいね!やっぱりそういった関係なのかね?」

 

「こらお二人に失礼でしょうが。でも私もう一つ気になることがあるのよ。」

 

「ん?なんだ?」

 

「隊長さんのお名前ってなんなんでしょうね?」

 

「「え?たいちょうって名前じゃないの?」」

 

意外!!グラハム・エーカー町人に自己紹介はしておらず部下や凪が言っている隊長を名前と勘違いされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹洪殿はいるか?頼まれたものを届けにきたのだが?」

 

「グラっち!丁度よかったす!」

 

「グラハムさんおはようございます。」

 

「華侖殿、柳琳殿どうした?」

 

曹洪殿が指定していた場所にいなかったため凪と探していると、従姉妹である華侖殿と柳琳殿と出会った。少し慌てているようだが……

 

「どうかしたのか。」

 

「えぇーーと……ようしゅうはいこくのしょうがきたらしいっすよ。だから早く来いって華林ねぇが言ってたっす。」

 

「豫州沛国の相ね。

どうやら思っていたより早くこちらについたみたいなので至急謁見の間に集まれと言われたので皆さんに手分けして声をかけていたのですよ。」

 

確か予定の時間は昼過ぎ頃だったはずだ。大分早まったようだな。

 

「わかった。身だしなみを整えてすぐ向かおう。」

 

「よろしくっす。」

 

「よろしくお願いします。」

 

やはり正反対の姉妹であるな。

お互いを補完しあっている良き姉妹である。

少し羨ましくも思うがな……

 

「じゃあ行くっすよーーー」

 

華侖殿が腕を掴んでくる。

 

「凪後は任せた……」

 

「はい………」

 

私は華侖殿に腕を掴まれ引きずられながら自分の部屋に向かい、着替え今度は担がれ謁見の間の前に行く事になるのだろう。

 

「隊長慣れすぎです……」

 

凪は哀れなものを見るような目でこっを見ており。

 

「あはは…………」

 

柳琳殿は苦笑いをしている。

 

「よーーーい!どんっすーーーー!」

 

このグラハム・エーカーこの程度ではもう動じぬ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豫州沛国の相との謁見はすぐに終わった。

内容としては私が来たばかりに襲ってきた盗賊たちが豫州で力を付け無視できない勢力になってしまった。だからそちらの責任もあるから手伝ってほしい。

ということだった。途中私が知らない袁紹という名が出たとたん、華林殿の顔が変わり同盟を結び半月後に豫州に賊退治に出ることがきまった。袁紹……よほど重要な人物なのだろう。

まぁ、後で聴いておこう。

それよりも豫州沛国の相なかなか侮れん相手だ。名は陳珪と言ったか……嘘はついていなかったが、真の目的は定かにしていない。他州の兵を領地にいれるのは異例であり異常なことである。何が狙いなのだろうか。華林殿を巻き込み何を企んでいるのか……

ああいった者の対処はしたことがなかったからな。というかおなごの扱いなどここにくるまでしてこなかった。イェーガン等の部下はいたが…

思い出すのはやめておこう。

悪いことばかり思い出してしまうな……

今は賊の対処について考えなければ…

 

考えようと窓を見ると庭で手招く陳珪殿とあきれたような顔をする娘の陳登殿がいた。

 

 

 

 

「なんでくるのさ……」

 

「あら、本当に来てくれるなんて思ってなかったわ。」

 

「手招きをされてはなにかあるのではと思ってしまいまして。私の名はグラハム・エーカー一将として曹操殿に仕えています。」

 

と頭を下げる。

 

「あら、そこまでかしこまらなくていいのよ。私は陳珪。豫州沛国の相をしているわ。この子は」

 

「陳登……」

 

名前だけ言ってその後はなにも言わない。

 

「ごめんなさい。この子人見知りなのよ。」

 

「人見知りじゃない。無駄なことを喋りたくないだけ。」

 

これはまた正反対な親子であるな。陳珪殿は妖艶で何を考えているのかわからない。陳登殿は生真面目で言いたいことは言う。似ていないものだな、親子というのも……

 

「それで私になにかご用でしょうか?」

 

「そうそう、気になっていたのよ。」

 

というと私の右腕を胸に当てるよう抱える。

 

「曹操様の軍の唯一の男の将。

あの曹孟徳が初めて身内に取り込んだ男はどれほどいい男なのかをね?」

 

紫がかった目で私を見てくる。

 

「買い被りです、陳珪殿。私は一武官として仕えているだけです。信頼にたる行動をしようとは思っておりますがまだまだ……」

 

「信頼は十分にされているじゃない。曹操様だけでなく他の家臣からも……」

 

「まだ、私は新参者なのできをかけてくれているだけですよ。私にはもったいない。」

 

「本当に?どこか不満とかあるんじゃないの。」

 

「今のところ困ったところはないですな。

ところでいつまでも他国の将の腕に抱き付いていてはいけません。見られてしまっては私が怒られてしまいます。」

 

まぁ、もう見られているだろうが……

陳珪殿はパッと手を離し

 

「それもそうね。私もせっかくこぎ着けた同盟を破棄にされたくはないし。」

 

陳珪殿も気づいているようだった。

さすがだ、しかもこの短い会話の中でも駆け引きがあった。流されれば呑み込まれる感覚をずっと感じていた。声色も変えずよく言う。

 

「母さんそろそろいかないと……」

 

「そうね。じゃあまた会いましょう。グラハム様。」

 

といって二人の親子は何人かの部下をつれて城を出ていく。

できれば会いたくないのだがな……

 

 

「あなたにも苦手なものがあるのね?」

 

「華林殿覗き見とは趣味が悪いぞ。」

 

覗いてたの我等の主、曹孟徳こと華林殿であった。

 

「あなたが誑かされそうになっているのよ。自分の物の管理ぐらいしっかりしないとね。」

 

「誑かられてはいないさ。苦手であることは確かだがな。」

 

返答に納得しなかったのだろう。

私の顔をじっと見て

 

「本当に女性に対する欲はないのね。」

 

「何の話だ?」

 

急に変な話題をふられる。

 

「だってあなた、凪を副官として手に入れ、城には私が愛する花が何人もいる。女官だって多くいるのよ。それなのに手をださないなんて。しかも陳珪の色仕掛けなんて全然きいてなかったじゃない。もう、枯れてしまったのかしら?」

 

「失礼な。枯れてなどいない。」

 

「ではどうしてかしら?あなた顔つきはいいのだし女の一人や二人落とせそうなものだけれど。」

 

華林殿は純粋に疑問に思っているようだった。

ここの女たちは大体華林殿に抱かれている。性的な意味で。仕事に影響しない範囲で楽しんでいるようだが少しは自重してほしいものだ……

 

「今はここで生きることに力を注いでいるだけだ。落ち着いたら嫁でも探しに行くとするさ。」

 

「あらそう。ならもっと働かなければね。落ち着くのはもっと先でしょうから。期待しているわよ。」

 

そういった小言をいいながら華林殿は去っていくのであった。

 

さぁ、私も久々の戦の準備をしなければな。

この手で人を切ることになるのだ。モビルスーツ越しではない、私の手が持つ剣で……

恐怖はないだが覚悟は必要だ。

夏侯惇殿と久々に鍛練でもするとするか。

 

 

 

 



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第八話

 

我等曹軍は陳珪殿から知らされた賊がいると思われる地域に兵を引き連れて向かおうとしている。今はそれの最終確認だ。

陳珪殿たちが帰られた後早々に戦の準備に取りかかった。

半月で遠征の準備というのは厳しいものであった。私も自分の隊の準備だけではなく、他の部署の仕事の手伝い、遠征のための鍛練等に駆り出された。他の皆も大変なようであった。曹洪殿は、たまに死んだ目をしながら手を動かしており、香風殿が話しかけてもいつもの嬉々とした声を出さずに挨拶だけをしていた。

春蘭殿と華侖殿はいつも通りだったが、妹である秋蘭殿と柳琳殿は大分苦労をしていたようだが……

各々が信頼しているのはよいことだが一部の武官や文官の負担が多いいように思う。帰ったら他部署の手伝いに行けるよう相談してみるか。今の我が隊は少し手持ち無沙汰ではあるからな。

華林殿に関してはさすがの一言といえよう。我等の軍には軍師がいない。軍師は華林殿が兼任しているのが現状であった。大将としてのすべての決定を下しながら、軍師の仕事もしている。

だが今の表情からは疲労の色は見えない。この半月の間そういった表情は見たことがない。

というか今は口角をあげ嬉しそうにしている。

 

「最高よ、桂花私を二度も試す度胸と知謀気に入ったわ。」

 

「恐れ入りましてございます。」

 

「ならばこれからは、我が覇道のためその全身全霊をもって私に尽くしなさい。いいわね?」

 

「はっ!」

 

 華林殿の足下で跪いているのは荀彧という者である。曹軍の軍師になるために、予定の糧食を半分にし華林殿を試した。

華林殿に得物を突きつけられようとも自分の意志を貫き通した。

この軍師は非力ながらに自分の道の最短を選んできたのだ。どのような人物なのか気になるものだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「近づかないで!穢れがうつるわ!気持ち悪い!」

 

うむ。

なぜ初対面でこのような反応なのだろうか…

秋蘭殿春蘭殿や、シャン殿、凪には普通に挨拶をしていたのに私だけこの対応である。

 

「あの、桂花様一応グラハム隊長は私の部隊の隊長で将の一人なのですが……」

 

と、凪が助け船を出してくれるが

 

「まさか!あんた部下を…!」

 

という、あらぬ誤解を受けそうになったため止めさせた。

凪は不服そうな顔をしていたが言うことは聞いてくれた。

ようやく手に入れた軍師なのだ。変に反感を買って非協力的になってはたまらないからな。

 

「お兄ちゃん。大丈夫?」

 

「シャン殿。私はあぁ言われた程度では折れんよ。だからシャン殿も気にするな。私は人に嫌われやすいようだからな。

それよりも今は賊の退治が優先だ。」

 

「うん。お兄ちゃん いいこいいこ」

 

「シャン殿恥ずかしいのだが……」

 

私もさすがに恥ずかしいという感情はある。この年で年下に頭を撫でられることがあるとはな

シャン殿の手をどけて、今度はシャン殿の頭を撫でてやると

 

「…………」

 

荀彧殿がものすごい形相で引いていた。一方のシャン殿は気持ち良さそうな顔をしている。

わかり会えるはずなのだ。そのはずなのだ。

 

「おーい。」

 

春蘭殿がこちらに馬で駆けてくる。

私か?私は徒歩だ!

 

「姉者、どうした?」

 

「華林様から、将の者と桂花を連れてこいといわれてな。偵察の兵が戻ってきてな、前方に何者かわからない集団を見つけたらしい。」

 

「集団……賊の可能性も捨てきれんか。わかったすぐに向かう。」

 

秋蘭殿の返事で私達も華林殿のもとに向かう。華林殿は先頭を馬で歩いているが、距離はそう遠くもない

 

「なんであんたもついてくるのよ!」

 

荀彧殿が絡んでくる。どうやら私のことが相当気に入らないらしい。

 

「私も一将なのでな向かうのは当たり前であろう。」

 

「あんたみたいな役立たず来なくていいって言ってるのよ。どうせ曹操様に泣きついて将として残っているだけなんでしょ?」

 

まぁ私の実力は知らないだろう。私も新参者であるからな。この年で名を挙げていないとなるとそう思われても仕方ない。見る目はあるのだろうが、何か別のもので私を差別しているように感じる。それを知るまで触れるのは止めておいたほうがよいだろう。

 

「言わせておけば……」

 

凪が前のめりになる。

 

「凪」

 

「隊長!ですが!」

 

凪は相当苛立っているのだろう。

認めた者が下に見られるのは苦しいものだろう。

だが荀彧殿の口は止まない

 

「隊長も隊長なら部下も部下ね!部隊も少人数だし囮にしかなれない部隊でしょう?」

 

「桂花!そこら辺で……」

 

秋蘭が止めるが少し遅かったな。

まぁ、私も大人だ。しかも相手は今日入ってきたばかりの

新参者ではないか

 

「秋蘭殿、言わせておけばいい。私を知らぬものがいくら言おうと構わん。

部下のことに関しても仕方ない。私を案じてのことだったが大声を出してすまなかった。非礼を詫びよう。」

 

私は頭を下げる。後ろから凪の声が聞こえるが気にしない。

 

「あら、性根は腐っていないようね。」

 

「だが……」

 

顔をあげる。周りが静まり返る。

何故なのだろう笑顔を浮かべているはずなのだが…

 

「言い過ぎだな。そんなことを言ってしまえば軍全体の意識が下がる。そんなことを考えることのできぬ荀彧殿ではあるまい。言うならばせめて少人数の時にいってほしいものだ。

おっと、こんなところで話している場合ではなかったな。

春蘭殿案内を。」

 

「あ、あぁ。そうだな。皆私についてこいよ。」

 

一向は微妙な空気で華林殿のもとに向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、隊長お待ちください!」

 

「お、お兄ちゃんーー」

 

あの男と親しいものはこの空気に耐えられなかったの男の身を案じてかすぐさまについていった。

 

「な、何なのよあいつ……」

 

なんであいつは……

 

「桂花。あれは言い過ぎだったぞ。」

 

夏侯淵が私に注意してくる。

 

「何よ。事実をいったまでじゃない」

 

そう事実なのはずなのだ。私が曹洪様のもとで働いている時に軍の内情を探ったが、あの男に目だった功績はなかった。それどころか他の兵にはあまり知られていないようだった。彼が書いたと思われる書簡もない。名前も珍しいくせに聞いたこともない。なのに一将としてつかわれている。そしてその隊は30人にも満たない部隊ときた。これは囮に使うための部隊だとすぐに思った。少人での陽動、偵察それをする部隊なのだと。それなのに側近である夏侯姉妹や、曹操様の従姉妹である者とも仲が良い。それが気にくわない。

 

「それが事実でないから言っているのだがな。」

 

「どこが事実じゃないのよ。」

 

「全てだ。」

 

全て?

私が間違ったというの。私の考えが。

 

「曹洪様のもとで働いていた時の働きを見れば確かな目をもっているようだが。グラハムに関しては曇るのだな。」

 

「あなたこそ曇ってるんじゃないの?」

 

私は絶対的自信をもって微笑を返す。

 

「そうか。では良いことを教えてやろう。」

 

彼を擁護する言葉がでるのだろう。私は何を言ってきても反論できるよう準備を整える。どうせ小さな功績や過去のことを語るのだろう。

 

「グラハムはこの軍の中で現状二番目に強い。」

 

「嘘」

 

咄嗟に反論ではない言葉が出た。

 

「いや、真実だ。あの男は強いぞ。姉者を一回下したのだからな。その後の鍛練では負けているようだが。」

 

あの男が?あり得ない。

そんなこと一回も聞いたことがない。何か汚い策を使ったに違いない。証拠も…

 

「華林様と私が見届けたのだ。」

 

「曹操様が!?」

 

曹操様が汚いまねを許すわけがない。なら本当に。

いや、だったらなぜあの時彼は武器をださなかった。それほどの実力があるのだ。雰囲気だけで、殺気だけで、黙らせることもできただろう。なのに

 

「なんであんな悲しいい目を……」

 

私は見た。あの目を。悲しそうな諦めたような。

あの顔を。無理に笑顔を作っている顔を。

あれは強者のする表情ではない。

あれは

 

「桂花。あれは違う。

もっと深く黒い何かだ。」

 

なにもできない弱者がする表情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何よ。この空気は。」

 

確かに空気は悪いが気にすることではない。まずは目の前のことだろう。

華林殿は最初少し何がおこったのか考えていたが。そのような様子を見て春蘭殿、秋蘭殿、荀彧殿が姿勢をただし

 

「いいえなにもありません、華林様。」

 

そう言われると、華林殿は皆の目を見て最後に私の目を見ると何かを察したのだろう

 

「なら話し始めましょうか。」

 

と、本題に入り始める。

どうやら前に何十人かの集団がいる。

ということであった。

 

「そうさて、どうするべきかしら桂花。」

 

「はっ!もう一度偵察を出し状況次第で迅速に撃破すべきかと。

将の選抜までお任せいただけるなら……夏侯惇、徐晃、ぐらはむこの三名を中心に据えるのが良いでしょう。」

 

「おう。」

 

「まかせて」

 

「了解した。」

 

と春蘭殿とシャン殿は返事をする。

守りは秋蘭だけで良いのだろうかとも思ったのだが。

 

「そちらでの判断はグラハム、あなたにまかせるわ。あと一応凪も連れていきなさい。」

 

華林殿がなにも言わないということは大丈夫なのだろう。

凪の件に関しては経験なのだろう。

 

「了解。それではすぐにいくとしよう。」

 

「お前が命令するなグラハム!というか何故私ではないのですか!?さすがに私も偵察なのに突撃などは……」

 

それは

 

「するでしょうね」

 

「するだろうな」

 

「するわね」

 

「華林様までーー」

 

満場一致である。

 

「じゃあ華林様いってきます。」

 

「さぁ行くか。凪いくぞ。」

 

「はっ!」

 

「わ、私をおいておくなーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで私たちは華林殿の部隊の少し前を先行している。

 

「まったく。賊ならば突っ込んで残らず蹴散らせば良いだろうに」

 

春蘭殿は少しの苛立ちを含みぶつぶつと呟いている。

 

「春蘭殿、奇襲されようとも私達であれば賊など一捻りであろう。」

 

「心配しないで春蘭様。」

 

「心配なさらないでください。春蘭様」

 

「そこは心配していないのだが……」

 

皆に言われても納得できないようであった。恐らく一人でも大丈夫と言いたいのだろうがそれは差し迫った時にしかしてはならない。何者かわからぬもに突撃するなど。それではただ死ににいっているようなものだ。

恐らく春蘭殿は無事であろうが……

 

「隊長前方に集団を発見!なにやら騒いでいるようですが……」

 

「なんだ?宴でも開いているのか?」

 

確かに春蘭が言うように宴を開いているように騒がしい。

だがさすがにこんなに荒地の真ん中で宴など開かないだろう。

 

「あ、なにかとんだ。ほらあそこ。」

 

シャン殿がなにか飛んだものを確認したらしい。指を指された方向を見ると確かになにかが集団からとんだようだ。

あれは……

 

「隊長!あれは人間です!人間が空を飛んでいます!」

 

 

「わぁ。シャンもあそこにいけば飛べるかな?」

 

すると私達よりも先行した兵の一人が状況を伝えにくる。

 

「十人以上の賊と一人の少女が戦っております!」

 

「なんだと!」

 

というと春蘭殿は乗っていた馬に鞭を当て一気に加速する。

 

「春蘭殿!

シャン殿共に春蘭殿を追うぞ。

凪は後ろからついてきて、あぶれた賊の追跡だ。恐らく私達の追う賊の一部なはずだ。」

 

「了解しました。」

 

「深追いはするなよ。ではいくぞシャン殿!」

 

「りょうかい」

 

と、私達は全速力で春蘭殿の後を追う。

 

 

到着すると桃色の髪をしている少女が賊に囲まれているところに春蘭が切りかかっている。

 

 

「でええええええい!」

 

「私共も負けてられんシャン殿!」

 

「うん。

はあぁぁぁぁぁ!」

 

「うをぉぉぉぉぉ!」

 

という私達も囲んでいる賊の二人を斬る。私は殺さないようにしているが春蘭はその気はないようだな。

 

「待たせたな!勇敢なる少女よ。」

 

「えっ。はい!」

 

少女は驚いた顔で一瞬固まったがすぐに返事をする。どうやら怪我などもないようだ。

 

「子供相手に大人数で囲むなど卑怯というのに生温い!貴様らの相手はこのグラハム・エーカーと」

 

「シャンがひきうけた?」

 

「おい。私を忘れるな!?」

 

そう名乗ると

 

「ちっ!増援だーー!退却ーーー!退却ーーー!」

 

と同じ方向へと逃げていく。

 

「く、逃がすかーーー」

 

春蘭殿は追おうとするがそれを私は手で押さえる。

 

「何故だ!離せグラハム!全滅させて良いと桂花も言っていたではないか!」

 

「まぁ待て。そこは凪が動いてくれている。凪の経験のためだ。少し押さえてくれ。」

 

「凪のためか……なら仕方ないのか?」

 

それよりも

 

「あ、あの……」

 

桃色の髪の少女が話しかけてくる。

 

「ありがとうございます。助けてくれて。」

 

「おぉそれよりも怪我はないか?」

 

「はい!おかげさまでピンピンしてます!」

 

「それは何よりだ。しかし何故こんなところで一人で戦っていたのだ?」

 

「それは……」

 

春蘭殿と少女が話していると後ろから本隊が合流してきた。

 

「グラハム。謎の集団はどうしたの?あなたたちが殲滅だたと聞いたのだけれど……」

 

「それならばもう逃げている。一応凪を追跡に回した。恐らく本拠地もすぐ見つかるだろう。」

 

 

「あら、気が利くじゃない。」

 

「あたりまえのことをしたまで。」

 

そして華林殿は一人で戦っていた少女に目を向ける。

 

「この子は?」

 

少女は緊張はしているのだろうが先ほどと雰囲気が違う。

 

「お姉さんもしかして国の軍隊……?」

 

「えぇ、そうなる……っ!」

 

華林殿が言い終える前に少女の得物である刺のついた大きな鉄球が華林殿の眼前に迫る。一発目は躱しただが

 

「てやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

二発目を間髪いれずに放つ。

一発目を急すぎて反応できなかったが二発目は華林殿の前にたち剣で受けた。

 

「くっ!!」

 

重い!

がなんとかはねのける。

 

「華林様に何をするか!」

 

「国の軍隊なんて信用できるもんか!ボク達を守ってもくれないくせに、税金ばっかり重くして……!」

 

前方で今度は春蘭殿と少女が戦い始める。

 

「国が守ってくれないから邑で一番強いボクがみんなを守らなきゃいけないんだ!盗人からもお前ら役人からも……!」

 

「くっ!こいつなかなか……」

 

春蘭殿が押されているだと!

しかし手をだすわけには……

あの少女は自分の正義のために戦っている。そのものに春蘭と私の二人がかりでは殺してしまいかねない。

何か解決策は……

 

「…………」

 

すると後ろにいた華林殿がゆっくりと少女と春蘭が戦っている方へと歩みを進める。

 

「曹操様!」

 

「……お姉様」

 

一緒についてきたであろう荀彧殿と柳琳殿も意外そうな声を挙げた。何をするきなのだろう。私は止めようと手を伸ばしたが彼女の後ろ姿ががそれを防いだ。

その後ろ姿は王の衣を纏っていた。

 

「二人ともそこまでよ。

剣を引きなさい!そこの娘も、春蘭も!」

 

「あ……はい!」

 

華林殿の圧に負けたのだろう。少女も武器を落とす。

あれほどの得物を振るうまでにどれ程の鍛練を積んできたのだろうか?しかもこの年端もいかない少女が。

いつの世もこのような場所はあるのだな……

 

「あなた名前は?」

 

「き……許緒といいます。」

 

少女は華林殿の放つ圧に呑み込まれており今までのような敵意はない。

そして華林殿は少女の前に立つと

 

「許緒ごめんなさい。」

 

頭を下げた。

その行動に私を含めた曹軍一同驚愕し驚いた。

王のまま頭を下げたのだ。この世界私がいた世界よりも身分の格差は広い。一軍を率いるものがただの少女に頭を下げたのだ。

 

「名乗るのが遅れたわね。私は曹操、山向こうの陳留の地で太守をしているものよ。」

 

「え!?山向こうの?それじゃあ……こ、こちらこそごめんなさい。山向こうの噂は聞いています!向こうの太守様は立派な人で、悪いことはしないって。もしかして商人の人が言ってた賊を退治する陳留の太守様って…」

 

「……」

 

華林殿は黙ったまま頷く。

すると少女は頭を地につくまで下げて謝る。

 

「本当にごめんなさい!!」

 

「構わないわ。今の政事が腐敗しているのは私が一番よく知っているもの。官と聞いて憤るのも無理のない話だわ。だから許緒。あなたの勇気とその憤りこの曹孟徳に貸してくれないかしら。」

 

「え?ボクの……」

 

「私はいずれこの大陸の王となる。けれど今の私の持つ力ではあまりにも小さすぎる。だからあなたのその力私に預けてはくれないかしら。」

 

王になるという発言。覚悟の決まっている言葉だった。それがどれほど重い覚悟なのか私でもわかった。

 

「この大陸の皆が安心して暮らせる私はこの大陸の王となる。」

 

「この大陸の……皆が……」

 

「あぁ、曹操様……」

 

後ろでは荀彧殿な恍惚な表情を浮かべていた。

そして私も自然と笑みがこぼれた。

この王に拾って貰えて良かったなと

 

「うん。曹操様。私も皆が安心して暮らせる大陸にしたい!私にもお手伝いさせてください!」

 

「ふふっ……ありがとう。春蘭、香風。許緒はひとまずあなた達の下に付けるわ。」

 

「はっ!」

 

そして華林殿はこちらに戻ってくる。

少女は春蘭殿と香風殿と話をしているようだ。

 

「華林殿……」

 

「何?」

 

「私は運が良かったようだ。」

 

このような優しい王に拾われて。

 

「あたりまえでしょう。」

 

含んだ笑みを向けてくる。

 

「このグラハム・エーカー改めて、華林殿の覇道の為に落ちた命使いましょう。」

 

「前の宣誓は飾りだったのかしら?」

 

覚悟を言うと悪戯な笑みを浮かべてくる。

 

「なに。覚悟がさらに決まったまで。」

 

「本当暑苦しい男……

ではこの後の戦いでその覚悟示して見せなさい!」

 

「はっ!」

 

そうして初の戦へと進む。

私の王のために……

 

 

 

 

 

 



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第九話

 

 

「凪、偵察ご苦労。敵の拠点につくまでは陣の中程で休憩を取りなさい。」

 

「は!」

 

許緒殿が隊に加わった後すぐに私の隊を引き連れ凪は戻ってきた。偵察は成功し、敵の拠点を見つけたということだった。

どうやらこの先に廃棄された砦があり、それを再利用し拠点としているらしい。

そして敵の数は三千。賊にしては多いいな……

 

「三人が三百にそして今は三千か……いくら賊といっても多いいな。」

 

「一人一人の実力は低いでしょうけど、籠城されると面倒ね。桂花、良い策はないかしら?」

 

「は!今のところ……」

 

華林殿、夏侯淵殿、荀彧殿の中心陣はこれからの作戦を考えている。一応春蘭殿も近くにはいるが理解はできていないようだ。

私達も準備をしなければな。と両脇に挿している剣に手を当てる。私の鎧と2振りの剣は町の鍛冶士に私用にカスタムして貰った鎧は二着つくって貰ったが基本は曹操殿の軍の象徴である骸骨の装飾を両手にあしらったもの。もう一着は私の趣味で作らせたものだ。着ることは一生ないであろうがな。

剣は日本刀に近づけるため刃を薄くし片方の刃は潰して貰った。まだ試作の段階だがいずれ日本刀を振るいたいものだ。

そして私の部隊は私と凪を含めて三十人。皆剣も弓も使える。使えないのは私と凪だけ。訓練すれば使えるだろうが私と凪はそもそも役割が違う。最初、集められた兵は士気は高くなかった。少数部隊だが私と凪の鍛練や一人一人面接することによって士気を高く保っている。ここ1ヶ月の鍛練で皆優秀な兵となった。少しきつめの鍛練になったのは許してほしい。これ以上部下を失うわけにはいかないからな。

 

「集合!」

 

「は!」

 

そう叫ぶと凪を先頭に全ての隊員が集まる。

 

「凪、尾行ご苦労である。貴殿の活躍でこれからの戦有利に進む。大義である。」

 

凪は無言のまま頷く。

 

「だが我等の隊の初の戦であることには違いない。

まだどのような策を行うかはわからない。しかし、臆することはない!今までの私と凪との鍛練を思いだせ!さすれば勝利を必ずや掴めるだろう!健闘を祈る!」

 

敬礼を取る。

すると隊の皆も敬礼を返す。

昔を思い出すな……

 

「「「了解!!」」」

 

「いつでも出撃できるよう準備しておけ。解散!」

 

各々の準備をするため散る。

 

「隊長、良き激でした。」

 

凪が二人になると話しかけてくる。

 

「そうでもないさ。良くあるものだろう?」

 

「そんなことはありません。その証拠に皆の士気は上がっていますよ。」

 

「そうか……なら受け取っておこう。

それよりも尾行はうまくできたか?」

 

「もちろんです。初めての尾行でしたがうまくいきました。隠密もむいているのかもしれませんね。隊の皆にも隠密や尾行の鍛練をしてみてはいかがでしょうか?」

 

少数の部隊ならではの隠密か……確かに私の隊ならそういったことをするかもしれぬな

 

「そうだな……帰ってから鍛練を練り直すか。

凪も少し休憩をしておけ。これからが本番であるからな。」

 

「いえ。私は大丈夫です。隊長こそ大丈夫ですか?戦闘があったと聞きましたが?」

 

「あの人数に送れはとらぬよ。春蘭殿とシャン殿もいたのでな敵の方がかわいそうだったよ。ははは」

 

「確かにそれはかわいそうですね……」

 

このような笑い話ができるのならば大丈夫だろう。私に気を使っているわけでもなさそうだ。

 

「では華林殿達の軍議が終わるまで鍛練を練り直すとするか。付き合ってくれるかね?」

 

「もちろんです!隊長!」

 

年相応の笑顔を浮かべる。

本当に良い副官をもったものだな。

 

「ねぇ、金髪の男の人。」

 

「私か?おぉ許緒殿ではないか。私になにかようかな?」

 

金髪の男はこの軍に私しかいない。恐らく私のことを呼んでいるのだろう。そう思い振り返ると春蘭殿相手に大立ち回りを演じていた許緒殿がいた。

 

「春蘭様と香風様から軍の人に挨拶してきなさいって言われて……後はここだけなんだけど、何かしてるみたいだったから声かけづらくて…」

 

少し怯えたような様子だ。やはり小さい。このような子供までと思ってしまうが取り払う。彼女は自分の守るべきもののため立ち上がったのだ。その覚悟を受け入れなければ。子供でも大人でも戦場に立てば一人の兵なのだから。

 

「そうか。ならば名乗らせていただこう!我が名はグラハム・エーカー!これからよろしく頼む。」

 

「ぐら…は…む?変な名前……あぁ!ごめんなさい。失礼なこと言っちゃって…!」

 

「構わんよ。珍しい名であることは代わりがないからな。言いやすいように呼べばいい。

あっちを見てみろ。」

 

「?曹仁様と曹純様のほう?」

 

柳琳殿と話している華侖殿の方を指差す。

すると気配を察したのかこっちをばっと振り返り

 

「グラッちーーーー!どうしたっすかーーーー!」

 

と、手をぶんぶんと振りながら大声で語りかけてくる。

 

「この遠征が終わったら飯でも食いにいかないかー!」

 

私も大声で返す。

 

「ほんとっすかーー!柳琳も誘っていいっすかーーー!」

 

「もちろん!誰でも誘っていいぞー!」

 

「やったっすーー!約束っすよーーーー!」

 

と言うと柳琳殿に笑顔でまた話し始める。柳琳殿もこちらに苦笑いしながら頭を下げる。

 

「というように、私をグラッちと呼ぶものもいるし、呼びづらく隊長と呼ぶものもいる。」

 

「隊長!私はそういうわけでは……」

 

「はははは。問題ないさ。だから許緒殿も好きなように呼んで構わん。」

 

「う~んじゃあ兄ちゃん!」

 

「兄ちゃん?それまた何故?」

 

「やっぱりだめ?」

 

まぁ、おじちゃんとか言われるよりかましか。

 

「いや、構わん。今日から私は兄ちゃんだな。」

 

「うん!兄ちゃん!」

 

満面の笑みで私を見てくる。

 

「で兄ちゃん、隣のお姉さんは?」

 

「私は性は楽、名は進字は文謙といいます。グラハム隊の副官をつとめております。春蘭様や香風も真名を許しているようですし凪で結構です。よろしくお願いします。」

 

凪よ子供相手には固すぎるぞ。

 

「う、うん。よろしくお願いします……凪様……

二人ともボクは季衣でいいよ。」

 

少し萎縮してしまっているではないか。

「よろしく頼む季衣殿。」

 

「季衣殿、よろしく頼みますよ。」

 

その後季衣殿はいつの間にか軍議から離れた春蘭殿を見つけ駆けていく。凪には顔を会わせないように……

 

「私は何か悪いことをしたでしょうか?」

 

「まぁ、気にするなよ」

 

と肩を叩いたが凪は不思議そうな顔で私を見ているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、あれが敵の砦かなかなか大きいものだな……」

 

廃棄された砦と言ってもなかなか壮観なものだ。また、砦からは大人数の叫び声も聞こえる。三千といった数も納得するほどの声量だ。

 

「隊長気をつけてください。そろそろ華林様と栄華様、荀彧様が前方に上がり銅鑼をならします。それで賊がつれたら私達の部隊と一部の兵が華林様と入れ替わり下がりながら受け止めます。その後は両脇から山に隠れている春蘭様、秋蘭様、華侖様、香風が挟み込み我等の部隊も反転いたします。重要な役割ですよ。」

 

確かに相手に気取られないよう全力で逃げてはならない、全力で攻めてもいけない。なかなか難しい作戦を組むものだな我が軍の軍師候補様は。

籠城されないよう逃がさないようにするにはこの作戦が良いだろうが。

 

ゴーーーーン

ゴーーーーン

 

銅鑼がなったか。

 

「そろそろくるぞ皆いつでも戦えるよう準備しておけ!」

 

さぁ、初の生身での戦だ……心が踊ってしまう

が抑えなければな

我々は戦のない平和な世を作るために戦うのだ。そんなことは考えてはいけない。

 

考えていると前から華林殿が、兵を率いてこちらに駆けてくる。

 

「よし。全方の隊と交代した後戦闘に移る!皆励めよ!」

 

「「「了解!」」」

 

「グラハム・エーカー、出撃する!」

 

と入れ替わる時に荀彧殿と目が合う。それは挑戦的な目

「実力を見せてみなさい」とそういっている。

一方隣にいる華林殿は前を向き私と目は合わせないが微笑を浮かべている。華林殿らしいな

敵はもう眼前に迫っている少ない人数で先頭の敵と肉薄する。勢いはあるが武の腕は高くない。これなら我が隊でも受けきれるだろう。

 

「総員!下がりなら受け止めろ!凪と稜と傔は突出した敵を叩け!」

 

 

「「「了解!」」」

 

まだ引き付けなければ。敵の勢いを抑えすぎないためまだ倒してはいけない。もどかしい時間だ。

 

それから後退しながらの戦闘を続行。

だんだんと押されている。だが

もう作戦は成功か

そう思った時に大量の矢が敵を襲う。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

「く、どこから!?」

「おい俺らいつの間にか囲まれてるぞ!」

「なに!は、早く逃げるぞ!」

「逃げるってどこへ!?」

 

敵はうまいこと混乱している

 

 

「でりゃぁぁぁぁぁ!」

 

いつもの掛け声と共に賊が何人かが宙を舞う。

 

「さぁ、攻めるっすよーー!」

 

「おー」

 

華侖殿、シャン殿も敵に突撃する。

敵は総崩れか

 

「凪!」

 

「お供します!」

 

「稜!隊を率いてついてこい!道は私達が切り開く!」

 

「は!反転!反転!」

 

後ろに引くのをやめ反転し混乱している敵先頭に凪と二人で突撃する。

 

手には肉を引き裂く感覚が剣をつたい伝わる。熱い返り血が顔にかかる。

それでも私は両手の剣を振るい道を開く。この者達は生きるために他人の死を厭わなくなったもの。その歪みは破壊しなければならない。

凪は私の隣で、拳で殴り時には氣を放ち敵を飛ばす。本当にでたらめな技だ。

 

「ぎゃぁぁぁぁ」

「ひぃぃぃぃぃ!」

 

「逃げるものは追うな!向かってくるもののみ対処せよ!」

 

さて、敵は総崩れ。後は時間の問題か。だがまだ向かってくる者はいる。血眼で私達を見て叫び剣を振り上げる。それを私は振りおえる前に首を斬る。血渋きが舞う。

また、血で汚れてしまったか。

あぁなってはもう救えないな……

周りの敵は部下が倒していてもう手の届く範囲に敵はいない。

 

「隊長、楽進様。周囲殲滅完了いたしました。隊の損害は皆無です。」

 

「わかった。今から逃亡者を追う。ついてこれるものはついてこい。投降者は武装解除し後方の部隊に預けろ。」

 

こうして私の初の戦は終わった。

十人を斬ることによって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人、やはり突撃していましたね。お姉様」

 

「そうね。グラハムと凪は春蘭には勝てないけれど高い武を持つものよ。これぐらいして貰わなきゃ困るわ。」

 

曹操様はそう言っているが顔は面白いものを見るような表情をしている。

正直この策で最も重要で難しい役を与えた。さすがに負けるような策は組まない。だが、そこで少し苦戦でもしてくれれば可愛げがあったのに。

彼は策を成功させた上賊を圧倒する実力を見せた。

 

「これじゃ認めないわけには……

そうよ。曹操様の駒が強いに越したことはないわ。あいつは強いけど男は男。認めるわけにはいかないわ。」

 

そんなことより私は曹操様のために知を振るうの。あの男なんて気にする時間なんてないのよ。

 

「桂花。」

 

「は、はい!曹操様!」

 

「良き策ね。誉めてあげる。」

 

「ありがたきお言葉。」

 

「もう一度言うわ。その知、私の覇道のため役立てなさい。」

 

「あぁ!曹操様!」

 

 

 

 

 

嬉しさのあまり頭の中からグラハムのことが抜け落ち、扱いが変わらないのは仕方のないことなのだろうか?

 

 

 

 

 

 



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第十話

 

「新兵の鍛練を私に?」

豫州での賊退治から数日。非番の日に華林殿に呼ばれていくと新兵の鍛練をしてくれと頼まれた。新兵の鍛練は確か春蘭殿がしていたはずだが……

そうか、春蘭殿は確か香風殿と他の国の救援で賊退治に向かっていたな確か秋蘭殿も別の国に行っている。

その代わりということか

 

「前々から新兵の鍛練をあなたに預けようと思っていてね。春蘭も今離れているしちょうど良い時期だし。」

そういうわけではないようだ。だが期待には答えるとしよう。

「了解した。こちらで内容は組ませてもらうが、良いだろうか?」

「えぇ、構わないわ。けれどあなた達がここ最近行っているものは不要よ。新兵には余計よ。」

 

最近の我が隊の鍛練は凪と考案した隠密を取り入れている。隊としての役割を広げるために始めたものであったが皆飲み込みが早くある程度身に付いているものもいる。だが私はどうやらそういったことが苦手らしい。探す側と隠れる側に別れた鍛練ではまっさきに見つかってしまうのだ。隊員である棱いわく『隊長は存在がさわが……輝いていますから……』ということらしい。

 

「基本のみ教えれば良いのだな。心得た。良き兵士に育てて見せよう。」

 

「楽しみにしているわ。

あとついでで悪いのだけどこの書簡を桂花に渡してもらえるかしら?いる場所はわかるわよね。」

 

「もちろん。引き受けさせていただこう。」

 

書簡を華林殿から受けとる。荀彧殿とは賊退治以降軍議でしか顔を会わせていない。しかも印象は合ったときのまま。軍議で顔が合ったときも露骨に嫌そうなな顔をしながら顔をそらし、機嫌の悪い時には『こっち見ないでよ!気持ち悪い!』など軍議中にも言われるしまつ。男が嫌いということもあるだろうがそれだけではない。男と見れば軽く見るが実力がある男とは嫌々ながらも抑えている。

何故私だけなのだ……!

 

「それじゃあ任せたわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の扉を叩く

 

「グラハム・エーカーである。荀彧殿に書簡を渡しにきた。入ってもよろしいだろうか?」

 

…………

沈黙が続く。この時間は仕事で必ず私室にいるはずなのだが?耳をたてると物音は聞こえる。中に人はいるはずなのだが……ふっ嫌われたな……

仕方ない

 

「入らせていただく。」

 

「な!なに勝手に入ってきてるのよ!許した覚えなんてないわよ!まさかあんた……!やっと正体を表したわね!」

 

思った通りの反応というか、ここまでくると清々しいものがあるな。

 

「こちらも急いでいたのでな無礼を承知で入らせていただいた。」

 

といい書簡を彼女が作業をしている机の上におく。

 

「華林殿からの荀彧殿に渡せと言われたものだ。」

 

「華林様から?それを先に言いなさいよ。」

 

書簡をすぐに広げ見始める。真剣な表情で書簡に目を通している。よほど重要なことだったのだろうか?

だが真剣な表情もつかの間、顔が歪んでいく。

 

「何か怪しいことでも書いてあったのか?」

 

問いかけるが返事は返ってこない。

読み終えた後、私に何とも言えない顔で睨み付ける。

書簡をバンと机の上におく。

 

「あなた新兵の鍛練をするのよね?」

 

「今日引き受けたばかりだが……その書簡それが書かれていたのか?」

 

「えぇそうよ。そして私はその新兵から華林様の親衛隊を選任する役目につくことになったわ。でもそんなことどうでもいいの。」

 

また違った目でこちらを睨んでくる。どんな感情が込められているかはわからないが仲間を見る目ではなかった。

 

「あなた本気?」

 

試されているのか私は?いや、だが合えて言わせて貰おう雰囲気が違うと。

これは私なんかが新兵の鍛練をするなんてけしからんと言いたい訳ではない。そんな剣呑なものではない。だが明らかに私が新兵の鍛練をすることに何か嫌なことがあるらしいのだ。

 

「本気って聞いてるのよ!」

 

「あ、あぁもちろん本気だ。華林殿に拾われた恩を返すためまだ足りないぐらいだがな。」

 

「そういうことじゃなくて!あんたも私もお互いに嫌いでしょう!」

 

ん?お互いに嫌い?

 

「初めて話したときあんなこと言ったやつと仕事なんて真っ平ごめんでしょ。私もあなたのことが気にくわないし。」

 

「嫌少し待ってくれ」

 

「何よ。当たり前のこと言ってるだけでしょう。あなたに嫌われてることは謝らなくていいわよ。心置きなくあなたを嫌うことが出きるし。」

 

「嫌荀彧殿のことを嫌うなどできまい。逆に好意すら感じているとも。」

 

「…………は!?」

 

「あそこまで初めて会った者に敵意を向けることは普通の人ではできない。あそこまで警戒でき啖呵を切れるのだたいしたものではないか。

その後の作戦も見事なものであった。私の隊の実力を確認しながらも失敗しない犠牲も最小限ですむような作戦であった。そのように才のある者を嫌うなど無理な話だ。特に私は咄嗟の判断は得意だが事前の作戦は専門外だ。足りない物を補完してくれるこれほどありがたいことはない。」

 

思っていたことをありのまま話す。

 

「私は自分で自覚するほど人に嫌われやすい人間だ。私を嫌うのは構わんよ。」

 

「…………」

 

なに、嫌われることにはなれている。初めてあったもの…いや付き合いが短いものにも過去のことで判断され嫌われたこともある。あの時は対話することもできなかった。そんな後悔はもうごめんだ。

 

「あなたやっぱり変態よ。気持ち悪い。」

 

といい立ち上がり部屋から出て行く。後ろ姿からは少しの苛立ちが見えた。わかり会えずとも良い。今は対話が重要だ。これから話す機会は増えてくるだろう。その時に少しずつ少しずつわかりあえばいいのだ。

 

「何よ!あいつ!大人ぶって!あぁぁぁぁぁぁ!」

 

ははは元気なものだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新兵の訓練所に立ち寄ると結構な人数がおり各々鍛練をしている。とあるものは素振り、とあるものは十人ほどで集まり走っているものもいる。春蘭殿が指示していたのだろう。一定のもの達はいくつかの班にわかれ淡々と訓練をこなしている。

だが、なにもせず鍛練をしないものも何人かいる。

 

「隊長あやつらはどういたしましょうか?」

 

「放っておけ。今指摘しても何も変わらないさ。明日からでいい。今日は私達は非番だ。」

 

「ですが……」

 

やはり凪は良き兵であるな。

 

「グラッちーーー!季衣連れてきたっすー!」

 

「兄ちゃん?それに凪様までどうしたの?」

 

華侖殿が季衣殿を連れて向かってくる。

 

「華侖殿は何も話していなかったのか?」

 

「ふぇ?」

 

「うん。何も聞いてないよ。ただ兄ちゃんが呼んでるっすよーって言われたからついてきただけ。」

 

「そうか、季衣殿は何も聞いていないのだな。

賊退治の時に華侖殿と話しただろう。食事にでも行かないかと。華林殿に聞いてみれば柳琳殿と曹洪殿は仕事だが二人は非番だと聞いた。だからこうして昼食の誘いに行かせた訳だが……」

 

華侖のほうを見ると照れたように笑っている。

あれは何も話していないな。

 

「まぁいい。それでどうかな一緒に昼食でも。私の奢りだぞ。」

 

「行くーーー!」

 

「良しならば向かうとしよう。」

 

 

 

 

 

町の飲食店内にて

 

「はふはふはふ……はっはふはふ……ははふ」

 

「……!ん~~~~~美味しいっす。これもう一つくださいっす!いや~柳琳と栄華にも食べさせてあげたかったすね~。」

 

「………もぐ………もぐ」

 

三者三様の食べ方をしていた。

季衣殿は周りを気にせずただただ食べ続け

華侖殿は新しい料理に手付けるごとに大袈裟に反応し

凪は黙々と真っ赤に染まった料理を口に運んでいる。

机に並べられた様々な料理はあっという間に消えていく。

良く食べ良く眠るものは育つと言うが……ここまでとは…

 

「本当に良く食べるな……」

 

私も歳か……皆が食べている所を見てみると私まで腹が膨れて……いや、私もまだ若いはずだ。確か辛い食べ物は食欲を促進すると聞いたことがある。ならば!

 

「凪よ。その料理貰っても良いだろうが?」

 

「はい。構いませんよ。」

 

と真っ赤な麻婆豆腐を貰う。

うっ中々辛そうではないか。だが行かせて貰おう!

口のなかにいれる

うむ、これは中々いけ……

 

「グハッ………!」

 

「にいふぁん?」

 

「ふぇ?グラッちどうしたっすか?」

 

「た、隊長!しっかり!」

 

「は!あまりの辛さに意識を失っていただと!」

 

「逆に情報把握が早くて気持ち悪いよー。」

 

なめていたここまで辛いとは……夜に響かなければ良いのだが。

 

「凪よ……水を貰っていいだろうか……」

 

「水ですね。どうぞ。」

 

と水を一杯のみほす。

すると激痛が口のなかに広がった。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉ……!」

 

「隊長ーーーーーーー!」

 

辛いものは人を傷つける武器となる。そう記憶しておこう。

その後皆食事が終わり会計の額に驚愕し財布にも痛手を受けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、ようやく仕事が終わりましたわね。もうこんな時間になってしまいましたわね。」

 

最近は周りの国との関係でお金が動くことが多く私の仕事は多忙だった。最近は毎日働いているような気がする。休みはありますけれど最近は香風さんもいませんし。癒しが足りませんわ。最近はあの熱いおとこすら忙しそうですし………

今日はきませんのね。

でも

 

「とりあえず。なにか食べませんと。この時間だと城の厨房はしまっているでしょうし……どうしま……」

 

バン!

 

「グラハム・エーカーである!」

 

「なんですのもう!」

 

扉が急に開きグラハムさんが出てくる手には何やらお盆のようなものを持っており上には二つ器がのっている。

 

「こ、こんばんは栄華ちゃん……」

 

「柳琳さんまで……それで乙女の部屋に堂々と入ってきてあなたは何をしに来たんですか!?」

 

「夕食を食べていないのに厨房もこの時間には開いていないその悩み、このグラハム・エーカーが引き受けた。」

 

「何なんですか!この人!」

 

 

「ははは、なにそんなに喜ぶな。まぁ座りたまえ。」

 

といって後ろにいた柳琳さんと共に机に座らされる。

ここ私の部屋なんですけど!

そして目の前に持ってきていた器が置かれる。

 

「なんですのこれは……柳琳さんなにか聞いてまして?」

 

「ごめんね。私もなにも聞いてなくて廊下を歩いてたら探していたんだって声かけられてそのままついて来ちゃってたの。」

 

「本当に何なんですのこの男「グラ」グラハムさん!は」

 

「それでは食べるといい。私特性の親子丼だ。」

 

と蓋が開けられる。

中身は黄色に輝く卵とその中にとじられている鳥がご飯の上にのせられている。

 

「美味しそう……」

 

隣の柳琳は目を輝かせながら器を見ている。

グラハムさんわと言うと早く食べろと言わんばかりにこちらを見てくる。

 

「これをあなたが?」

 

「あぁ、昼には華侖殿と一緒に食べに行ったのだが、二人は仕事が忙しいと聞いていてな。その代わりに私が用意したものだ。日頃の感謝のしるしだ。」

 

中々気遣いができるじゃありませんの。感謝のしるしなら食べないわけには行きませんわね。

お箸でご飯と一緒につまんで口に運ぶ。

 

「……美味しい……」

 

「うん。甘くて美味しいね栄華ちゃん。」

 

「よかった、よかった。材料がなくてないくつか代用したのだがうまくいったようで良かった。」

 

「これはグラハムさんが生まれた国のりょうりなんですか?」

 

「いや、これは日本という国の料理だ。私が日本で修行している時に良く作っていたのだよ。」

 

「やはり天の料理は色々あるんですね。そうだ!今度、天の料理を教えてください。」

 

「いいともいつでも空いた時間にくるといい。」

 

柳琳さんとグラハムさんは天の料理の話をしている中、私は黙々と親子丼なるものを食べていた。

本当に美味しいですわねこれ。

この男にこんな特技があるなんて思っても見ませんでしたわ。

最近はこの男も頑張っているようですしお姉様からも言われていますしいい加減真名で呼ばせても……

は!駄目ですわ栄華これは罠かも知れませんのよ。心を許させあわよくば……あぁやはり男は信用なりませんわ!

 

「おっとそれでは私はここで去るとしよう。後は二人で楽しんでくれ。器は廊下に置いておけば朝のうちに回収しておくと言っていた。」

 

「帰られるのですか?最後までここにいてもいいのに。」

 

柳琳さん!

 

「それもいいのだが明日から新兵の鍛練をすることになってな。その準備がまだあるのだ。」

 

よしいいですわよ!

 

「なら仕方ありませんね。」

 

「そうですね……仕方ありませんね。今日はありがとうございました。ではおやすみなさい。」

 

「あぁ、おやすみ。」

 

と言ってあの男はそそくさと出ていった。

 

「もう栄華ちゃんたら……」

 

「なんですの……それよりも今は私達二人久々にゆっくりお話しましょう。」

 

「そうね。でも後でグラハムさんにお礼いって置いてくださいね?」

 

「……もちろんですわ」

 

「栄華ちゃん……」



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第十一話

 

「はじめましてだな!新兵の諸君!今日から貴殿らの鍛練を見ることとなったグラハム隊隊長グラハム・エーカーである!私を知らないものもいるだろうがそれは鍛練中私との手合わせでわかってもらおう。ここで私がいくら自らにたいして語った所で信用も得られんだろうからな。

あぁ、それと私のとなりにいるのは楽進。私の隊の副隊長をしている。」

 

と言うように今日から私は新兵の鍛練を務めることとなった。昨日の状況を見た凪が「私も手伝わせてください」と熱心に私に言い手伝うことになったのはありがたいことだ。私だけではこの人数を見るのは難しいだろうからな。春蘭殿はどうやってこの人数を見ていたのだろうか?なにかコツがあるのであれば聞いてみたいものだな。

 

「自己紹介はこれぐらいでいいな。ならば鍛練をはじめよう。」

 

春蘭殿の育てた曹軍兵の力の源である新兵の実力楽しみであるな。

 

 

鍛練が始まってから一時間ほどが経過した。準備体操を入念にし、走り込み。そして素振りなど全体でできる鍛練を行い終えた。そして今は少休憩だ。

これまでほとんどなにも言わず見たところ、そこまで中々と言ったところだ。体力、剣の使い方は申し分ない。さすがといったところだな。何人かはさらに上をいっている。今から戦場に行ってもある程度の活躍は出きるだろう。

気合が入っていない気もするが…春蘭殿のことだ、気合がをいれろとずっと言っていたに違いない。それに比べ私は淡々と指示をしているだけだ。そういった違和感もあるのだろうな。だが問題はあの者か……腕は確か、いやほぼ一番と言っていい。そのもの達が新兵の何人かを引き連れて動いている。周りのものは笑顔を取り繕いながらそいつの話を聞いている。鍛練のときもあの者が仕切っていたな。

 

「まるで将ですね。」

 

「凪もそう思うか?」

 

「はい。ですがあのままでは……」

 

「危ういか?」

 

凪は黙って頷く。

あれで他の将なみの腕があればいいのだがそこまでの腕ではないだろう。いったとしても正規兵の中といったところか……そんなものが将のように振る舞うなど春蘭殿がそんなことを許すわけがない。というか問答無用で吹き飛ばすだろうな。その春蘭殿が、いなくなったからこうなっているのだろうが。

あやつが良き指導者や率先して鍛練に参加する者ならばあのままで良いのだ。指揮することを伸ばすのも鍛練になるからな。だがあいつは違う。この中で一番強いという自信を持っているがゆえこの中での指揮命令権も自分が持っていると思い込んでいる。

ああいうやからは戦場にでたら真っ先に死ぬだろう。

こういった者の対処方法は二つ。実際に死の淵に立つか、自分より強いものと戦い相手の本気を引き出せないまま負ける。最初から本気で戦っては駄目だ。強すぎる者と戦うと、

あいつは強すぎるから、あいつは特別だから

と言った言い訳が出てくる。この役目は春蘭殿では無理だな。

本気を出さず手加減されているのに負けた。その屈辱こそ成長につながる。それをわからせなければならん。

もともとその予定であったが少し早めるか

 

「やるのですか?」

 

「仕方あるまいよ。」

 

「無理はなさらないでくださいね。」

 

「わかっているとも。

よし、休憩は終わりだ。これから皆には私と組手を行ってもらう。実力計りこれからの指導をどうすべきか考える。この中で一番力に自信の有るものは前に出ろ!」

 

すると予想通りあの男が前に出てくる。

 

「はい!俺です!」

 

「ほう。そうかそうか中々の自信であるな。」

 

「もちろんです!俺の邑でも一番強くってここに来たのもたまたま来た兵士に誘われて来たんですよ。いつかは将になりたいと考えています。」

 

まぁ、典型的な例だな。

自信過剰になったいる。口調が丁寧なのが唯一の救いか

 

「なるほどな。では相手をするとしよう。どこからでもかかってこい。」

 

「はい!」

 

といって鍛練用の剣を構えるが攻めてこない。

私はただ立っているだけだ。

 

「あの」

 

「何だ?攻めてこないのか?」

 

「武器は……」

 

「大丈夫だ。そんなものいらんよ。さぁ心配することなく来るといい」

 

他の新兵がざわつく

私が言ったのは新兵の攻撃など当たらんよといっているようなものだ。自分達が舐められていると思うのは当たり前のことだ。しかも今日来たばかりの知らない者に言われたのだ。怒りを覚えている者もいるだろう。目の前の男のように。

 

「ほ、ほんとにいいんですね……」

 

「もちろん。怪我をさせてもいいのだが……」

 

「チッ……舐めやがって」

 

小さな舌打ちと小言が私に聞こえる声で言われる。これで私を舐めていることはわかったな。

 

「どうなっても知りませんからね。」

 

剣が振るわれる。

うむ。流石だ。確かに筋がいい。空振っても体幹が崩れず、その後の足運びも基本に沿った良いものだ。速度も中々出ている。

だがそれだけだ。それは強者であれば当たり前のこと。ただ強くなる条件が揃っているだけにすぎない。

振るわれる剣を私は後ろに退かずに避ける。

もう21振りを避けた。だんだんと息もきれてきている。

 

「どおした。当たっていないぞ。息もきれているが大丈夫か?」

 

「はぁはぁはぁ……まだまだ!」

 

疲れと焦りか振りが大降りになる。

そんなもの私だけではなく正規兵でも当たらんよ。

冷静さを欠いた攻撃ほど避けやすいものはない。

だから鍛練をしいつでも冷静になれるようにするのだ。または焦っていても太刀筋が迷わないように鍛練をする。

こやつはそれを自分の自信でしか支えておらず、鍛練はおよそしていないのだろう。そこをつけば容易に崩れる。

弱いな。

私も冷静になれない時もあるが、それでも太刀筋はあまり変わらない。凪や、春蘭殿、他の将もそうだろう。

 

「何で!…はぁ…あたらない…!」

 

「それは」

 

己を己で理解できぬようなら他社が言うしかない。

 

「お前が弱いからだ。」

 

剣を躱し前に出て彼の前に立つ。

 

「……!」

 

剣は振れぬように左手で手首を抑える。

そして右手で彼の額を指で弾く。

 

「いたっ!」

 

といい尻餅をつく。驚いた顔をしている新兵に近付き

 

「自分がどれ程の強さか理解できたか?」

 

新兵は苦虫を噛み潰したような顔をする。

自分が弱いという事実を思い知ったのだ仕方あるまい。

他の新兵達のほうに振り向く

 

「このようにお前達は未だ、戦場に立つほどの実力に達していない。新兵であるのは軍の規律が理由だけではないのだ。お前達を戦場に立たせるため、生き残らせるために新兵という期間がある。その期間を舐めていると……

戦場で真っ先に死ぬぞ。

この中に死ぬために戦っているものはいないだろう。皆何かのために戦っている。それが給金が欲しいという理由でもれっきとした理由だ。目標を達せずに死ぬのは嫌だろう。

なのでこれからは私が!お前達を死なぬよう戦いかたを教授する!私についてくることができれば犬死はしないことを約束しよう。

今私にこれだけ言われて悔しいものもいるだろう。だがさっき言ったことは事実だ。私から言えることは一つ

私に勝つ程の実力を着けて見せろ!以上!」

 

といい終わったあと、未だ地面にいる新兵に手をのばす。

 

「貴様もどうだ?強くありたいのだろう?」

 

「……」

 

少しそっぽを向いていたが

 

「わかったよ……」

 

と私の手を取る。

 

「良しならば、今度は全員一人づつかかってこい!今のお前らの全力このグラハム・エーカーに見せて見せよ!」

 

「「「はい!」」」

 

「さぁ!こい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれほどの連戦に耐えられぬとは……」

 

「当たり前です!新兵であろうともあの人数を一日で相手にするなど……」

 

あの後新兵達との鍛練の続きである組手をした。終わりまでは立っていられたが終わると同時に力尽き倒れた。凪のおかげで自室まで運んでもらったわけだ。

 

「まぁ、無理をすることはわかっていましたけど……」

 

「なら止めてくれれば良かったろうに。」

 

「私が言って聞いていましたか?」

 

呆れたような顔で言ってくる。

 

「それもそうか……くっ」

 

「もうまだ寝ていてください。今日はもうなにもないのですから。」

 

「なに、可愛い部下に夕食でも作ってやろうと思ってな。」

 

「か、可愛い!?私がですか?!」

 

「照れるな照れるな。」

 

さぁて今日は何を作ろうか親子丼は昨日作ったし別のものを……天ぷらならいけるかタレないが塩で野菜肉もある。良しいけるか

 

「え、ちょっとどこに行くのですか!隊長?」

 

やはり部下というものは良いものだな。

 



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第十二話

 

「良し今日の鍛練はここまでだ!しっかり体を休めるように。解散!」

 

新兵の鍛練をはじめてある程度の日にちがたった。

前と比べて明らかに良くなった。春蘭殿がやっていたであろうただやり続けそれを高圧的に押し付けるでも軍であるならば良いのだが、それでは皆同じ実力までしか伸ばせない。だが新兵一人一人又は組ごとに鍛練のメニューを組むことによって伸ばすところを伸ばす。基礎も怠らない。そうすることによっていざ正規の兵になったとき隊の特色に合うように分けることができる。もし希望の隊があるのならその隊にあった鍛練をすればいい。

我ながら良き鍛練だ。

 

「大将!」

 

「司馬朗か。またあれか?」

 

「そうそう!今日も鍛練つけてくれ!お願いだからさ!な?」

 

兜を脱ぎ顔を出したのは、私が最初の鍛練ではじめに試合をした青年であった。

白髪を短く揃えている身長も私と同じくらいの目は鋭く桃色の目をしている中性的な顔立ちの青年だと思っていた者だ。

 

「ていうか、いい加減真名で呼んでくれって。大将と俺の仲じゃない。」

 

「鍛練の時以外は言っているだろう。特別扱いはできんからな、桜居《おうい》。」

 

「こら、司馬朗!隊長にたいして何て口の聞き方を……!」

 

「あ、副大将もいた。いやお疲れ様です。嫌でもだってお互いに許しあってるわけですしね?大将?」

 

「私は構わんが他の新兵の前では止めてもらおう。」

 

「隊長もこういっているだろう!」

 

 

「いやいや、今みたいに大将と副大将とかだけなら大丈夫ってことですよ?」

 

おっとこのままではまたいつも通り謳居と凪の喧嘩になってしまう。

 

「副隊長と喧嘩しているようでは我が隊にはいれられないな。」

 

「イヤーオレト副隊長ハナカイイヨ」

 

「はぁ……早く桜居も準備をしろ。私達はこれからが本番だぞ。」

 

「はい!副隊長!」

 

「まったく……」

 

まぁ、このように仲が深まったのはあの鍛練の翌日の鍛練後の話になるのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませんでした!」

 

立っているというのに頭が地面についているぞ。

 

「まぁ、頭をあげてくれ。えー」

 

「私の名は司馬朗字は伯達真名は桜居といいます。

ぜひ俺いや違う…私を弟子にしてくださいお願いします!」

 

真名とはもっと大事なものだったはずでは?とも思ったがここでは人が多いい。

 

「謝罪は嬉しいが、場所が悪いな。ついてこい。」

 

と言い私の部屋に向かう。

 

「今帰った。」

 

そう言い扉を開くと

 

「お疲れ様です、隊長。」

 

「凪も仕事ご苦労。悪いな事務仕事ばかりさせてしまって……」

 

「いえ、お気になさらず。隊長をお手伝いするのが私の仕事ですから。

それよりも……」

 

と凪も後ろにいる司馬朗に気付き。警戒しているような表情をしている。

 

「そう警戒するな。司馬朗と言うものだ衆人の前で謝罪され、別に話もあるようなのでな、ここにつれてきた。」

 

「まぁ、隊長が仰るならいいですが……無礼がないように」

 

と司馬朗に言う。

 

「えーと……」

 

「何だ言いたいことがあるなら早く言え」

 

だから凪よ高圧すぎるぞそれでは春蘭殿と変わらん。

 

「じゃ、じゃあ言いますよ。

 

 

 

 

 

夫婦ですか?」

 

 

「……!?ふ……!?夫婦!?」

 

「いやーだって端から見たらなんていうかねぇ?」

 

少しふざけてみるか。

 

「良き女子であろう?」

 

「な、何を……!?」

 

「あぁ、やっぱり」

 

「やらんぞ」

 

「……?……!?……」

 

凪は顔を真っ赤に染めている。からかいがいがあるものよ。

 

「いや、流石に俺は女だからいい男がほしいな。」

 

そうかそうか……ん?今なんと言った。

俺は女だからいい男がほしい?ということは

 

 

「つかぬことをお聞きするが……」

 

「失礼なことをしましたか?」

 

「女性なのか?」

 

と聞くと司馬朗は急に上を向き足を開き腰を落とす

そして

 

「俺は女だーーーーーーー!」

 

「隊長……」

 

 

 

 

 

「ほんっとうにすみませんでした!」

 

また地に頭がついているぞ。

 

「いや今回は私が悪い。すまなかった。」

 

「いえ良く間違われるので。」

 

「いや人を不快にさせたのだその時点で私が悪いのだろう。なので先程の弟子の件受けさせてもらおう。」

 

「まじ!本当に!」

 

正直いうと私の部隊にも人がほしいと言った理由もあるがな。弟子も悪くない。他の新兵とは違って私の技術をそのまま教えることができる。弟子、後継者心踊るではないか?

 

「稽古は明日からで良いか?」

 

「はい!大将!」

 

「あと口調は私達の前では今のままでいい」

 

「へぇわかるんだ。やっぱり大将すごい人なんだね。」

 

「それほどでもない。

すまんがこれから私達も仕事があるのでな……

おい、凪。いつまで固まっている。仕事を終わらせるぞ。」

 

固まっていた凪の肩を叩く。

すると動きだし

 

「はははい!隊長!」

 

ともと居た場所に座り直す。

 

「いやぁやっぱ可愛い……」

 

「そうだろう可愛い部下だ。」

 

「もう!隊長も止めてください!司馬朗も早く帰って今日の鍛練の反省でもしていろ!」

 

「はいはーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこともあり今では個別に鍛練を見ている。

凪も最初は訝しげであったが桜居の鍛練への誠実さを見て凪自身も一言二言言うようになった。

 

「だんだん攻めが甘くなっている!集中しろ!」

 

「わかってる…て副将!」

 

これでは私の弟子ではなく、私と凪の弟子だな。

 

「じゃあ副将!これはどうかな!」

 

拳を前に出す桜居。すると拳の先から衝撃波が出る。

 

「なんと……!」

 

あの衝撃波をものにしたというのか!?私などまだ氣すらまだうまく扱えないと言うのに……

凪の目の前に衝撃波がうっすらと見えるが

ヴゥオン!

凪はそれを片手ではね除けた

 

「……マジかよ……」

 

「威力が弱い!本当の氣弾とはこういうものだ!」

 

「いやちょ!本気は勘弁し…グゥアハ」

 

だから凪よやりすぎだ。

 

「そこまで。勝者凪!」

 

「まだまだだ。氣の使い方は上手くなっているが基本の体術を伸ばさなければな。」

 

「はーい。」

 

凪はああ言ってはいるが順調に強くなってきているそろそろ新兵からグラハム隊にいれても良い時期だろうか?

次の戦いの時に我が隊に追従させるのも良いな。

 

「グラハムこんなところにいたか。」

 

「あ、夏侯惇様」

 

「ん?確か司馬朗だったか。なぜここに居る。新兵の鍛練はもう終わったはずだが……」

 

「私が個人的に指導しているのだ。中々骨があるのでな次期二人目のグラハム隊副将候補だ。

それよりも帰っていたのだな。賊退治であったか?良き戦いはできたか?」

 

「それがまったくだ!

だって賊のやつら私を見た瞬間夏侯惇だーーって逃げていくんだぞ。戦いなんてできたものじゃない。お前と鍛練をしていたほうがましだった。」

 

あれからも春蘭殿とは鍛練をたまにしている。最終的に昂り死闘になり秋蘭に二人揃って怒られることがほとんどだが。仲は良好といったところだろう。

 

「そうかそうか。それで私に用があるようだがなんだ?」

 

「あぁそうだった。華林様が至急来いということだった。護衛任務だそうだ。私でも全然良いと言ったのだが……」

 

やはり華林殿を愛しているのだな。

 

「華林殿が春蘭殿を気遣ってのことだろう。大事に思っているからこその結果だろう。」

 

「そうか?そうか!そうだろう私は華林様に大切にされているのだふふ~ん。」

 

この単純さもなおれば良いのだが

[そこが可愛いのだろう?]

それは私のみが許されたものなはずだぞ

 

「凪は待機しておけ、明日は私は非番なのでな。桜居はついてくるか?」

 

「それ俺がついていってもいいのか?」

 

あぁ、確かに新兵がついていくのは無理があるかなら

 

「では今日からお前はグラハム隊の一員だ。調整は明日しておこう。そしてこれは初の任務だ私について任務とはなにかを覚えろいいな。」

 

「隊長……」

 

凪よ。そのように呆れたような顔をしないでくれ頼むから。

 

「はい!大将!この司馬朗グラハム隊として活躍してみせる!」

 

「良い返事だ。ではそろそろいくとするか。お叱りは後で聞こう。」

 

「わかっているならいいんです。それではいってらっしゃいませ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陳登殿の邑の視察か?」

 

「そうよ。」

 

城を出てから数キロ立ってから華林殿から聞かされた。

陳登殿が陳留の邑で農作業をしていることはしっていたがここまで近いとは。

ちなみに同行者は季衣殿と桜居と私。少なすぎないか…まぁよいか。

 

「でもまさか貴方が連れてきたのが司馬懿の姉とはね……」

 

「いや、まさか曹操様が私の妹のことを知ってるとは思いませんでしたよ。」

 

「当たり前よ。あれほどの才ほしいに決まっているじゃない。あなたからも言ってくれないかしら?私だと断られてしまうのよ。」

 

華林殿の誘いを断るだと!?あの華林殿の誘い(脅し)を躱すとは司馬懿何者なのだ。

 

「なにかこの男は失礼なことを考えているわね。」

 

「兄ちゃん顔がひきつってるよ。」

 

「う……そんなに顔に出ていただろうか?」

 

「兄ちゃん凄い顔に出るよ。春蘭様と戦う前とか戦ってるときとか特にそうだよ。凄い嬉しそうな顔してるし。」

 

「はぁ……この無自覚男は放っておいて桜居。司馬懿の件考えてもらえないかしら?」

 

「いやそれが今あいつもう家出たんですよね。」

 

「なんですって!」

 

「少し旅をしたいって言ってたので帰るのは一年後ぐらいじゃないですか?」

 

「囲っておけば良かったかしら?」

 

我が王よ……

いやそれよりも

 

「それで私を連れてきたのは何故だ?護衛なら季衣で間に合っていると思うが。」

 

護衛がこれほど少ないのであれば本当に季衣だけで良い。付き添いなら軍師である荀彧殿でも良いはずだ。

 

「あぁ、それはね」

 

「それは?」

 

「貴方が唯一陳登とまともに話していたからよ。」

 

それは私ではなくても良いのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのときの頭がおかしい人」

 

「ほらね。」

 

陳登殿が放った言葉で季衣と桜居は吹き出し華林殿は得意気な顔をする。

 

「覚えてくれるのはありがたいのだが……その覚え方は……」

 

「だって母さんのあんな誘いにのって一人で来るなんて考えられないよ。だから頭がおかしい人。」

 

「そんなことは」

 

「「あるわね(よ)」」

 

「大将……そんな風な感じなのか……」

 

仕方ないか。

 

「華林様、頭おかしい人。今日はなんで来たの?視察?」

 

頭おかしい人でそのまま行くのか。

 

「そうね今日は時間もあるからゆっくりと見させてもらおうかしら。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頭のおかしい人。」

 

「なにかな?」

 

一人で田畑を眺めていると陳登殿が声をかけてくる。華林殿たちは邑民に話を聞いているようだ。

 

「本当にこれで反応するんだ少し引くかも……」

 

「陳登殿が言っているのではないか……」

 

「まぁ、いいや。はいこれ。」

 

小さな書簡を渡される。

 

「母さんからあなたにあったら渡すようにって。

あ、まだ開けないでね。」

 

「何故だ?」

 

「母さんが言ってた。」

 

「じゃあいつ開けばいいのだ?」

 

「さぁ?」

 

「じゃあこれで。」

 

「いや待たれい。私からも話があるのでな。」

 

「なに?雑談なら別の人としてよね。」

 

本当に無駄なことが嫌いと言うか。私よりも性格に難があるのではないか……

 

「いや、邑がここまで発展しているのだ。そろそろ兵の導入を考えてはどうだろう。こちらも新兵を出して在留の兵として出すと今考えたのだが」

 

「……」

 

驚いた表情で固まっている。

 

「陳登殿?」

 

「頭おかしい人がまともなこと言ってる。」

 

「ふぅ……まぁいい。それでどうかな?」

 

「それはそっちに任せるよ。僕はこの邑に被害がでなければいいから。」

 

「了解した。」

 

「じゃあ今度こそこれで」

 

「あぁ」

 

母も母なら子も子であるな……

 

 



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第十三話

 

 

「グラハムではないか。久しいな。」

 

午前の鍛練が終わり廊下を歩いていると秋蘭殿が声をかけてきた。

恐らく今帰ってきて報告はすませたのだろう。

 

「秋蘭殿ではないか。本当に久しいものだ。そちらの遠征は上手く行ったのか?春蘭殿や華林殿に会えなくて気が気でなかったのではないか?」

 

「それは今からいくらでも埋め合わせができるさ。

遠征は上手くいったが……」

 

「なにか問題が」

 

「いや、貴様ならいずれ聞くだろう。

華林様が苑州の州牧になることになった。」

 

「ほうそれは良いではないか。」

 

州牧とは確か州で一番地位の高い役職なはずだ。覇道のための一歩となるだろう。

 

「だが……」

 

「だが……?」

 

「これを提案してきたのが陳桂なのだよ。

これまでの遠征も他の国が私達に降るのも全てあのものの策略だと思ってな」

 

確かに陳桂殿ならばそのことを考えて今まで行動していたやもしれん。そして大きくなりすぎた国を叩き手に入れる。常套句だな。

だが

 

「それでも華林殿はその話を受けたのだろう。」

 

「わかっているではないか。

華林様はどんな策があろうともそれを食い破ると。

少しこの判断は危ういとも思ったが」

 

「それを何とかするのが私達家臣の役目であろう。」

 

「………」

 

「なんだそんな驚いた顔をして」

 

「いや何でもない。姉者見たいなことを言うなと思ってな、少し驚いただけだ。」

 

「あそこまで戦い好きではないのだが……」

 

「姉者と同じような顔で死合うのだ。ほぼ同じではないか。」

 

そこを言われると厳しいものがあるな

 

「そんな顔をするな。大丈夫だ。貴様には姉者のような可愛さはないぞ。」

 

「私に可愛さなどあっても誰もうれしくわないだろう。それに可愛さなら春蘭殿、シャン殿、凪で間に合っている。」

 

「華林様は可愛くないのか?」

 

秋蘭殿はこういったからかい癖があるのが厄介だ。澄ました顔のままなのでたまったものではない。

もし華林殿に聞かれていたらと思うと冷や汗が出てくる。

結局この後何を言ってもからかわれるなら正直なことを言うか。

 

「華林殿は可愛くないとはいわんがそれほどではない。」

 

 

「ほう……」

 

「そこまで怒気をだすな。可愛さならの話だ。

華林殿は美しいという言葉が似合うと思うがな。私はあれほど美しい者を知らんさ。」

 

「確かにそうだな。私も華林様ほど美しい者は見たことがない。

だがグラハムがそのような目で華林様を見ているとは警戒しなければならないか?」

 

今日は機嫌が良いようだ。いつにもなくからかってくる。私も話を合わせるか。

 

「それもいいと考えたのだが。華林殿を落とすには先に秋蘭殿を落とさなければならぬな。どうだろうこれからお昼でも」

 

「なんだ?口説いているつもりか?」

 

「もちろん。」

 

といい右手を前に出す。

がその手は秋蘭の左手によって下ろされる。

流石だ。わかっている。

 

「フッ……振られたな。」

 

「ふふ…七番目程なら構わんよ。

だが昼からの買い物に付き合ってくれるなら少しは意識してやらんこともないな。姉者も仕事なのでな荷物持ちがほしかったところだ。」

 

「ならばぜひ同行させてもらおう。」

 

丁度昼からは何もない労うのも良いだろう。

といい買い物に出かけるためお互い準備をしにいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしてたんだ秋蘭とグラハムは?」

 

昼飯に秋蘭を誘おうと探していると、グラハムと話しているところだった。

何を話しているのだ?

 

「どうだろうこれからお昼でも」

 

「なんだ?口説いているつもりか?」

 

「もちろん。」

 

といいグラハムは右手を前に出す。

がその手は秋蘭の左手によって下ろされる。

本当に何をしているのだ?

 

「フッ……振られたな。」

 

「ふふ…七番目程なら構わんよ。」

 

最後の部分は声が小さく聞こえなかった。

 

話が終わったのか二人は別々のほうに歩いていったのだ。

 

 

「うーむ……何かモヤモヤするのだが……何故だ?」

 

「あ、春姉!」

 

「春蘭様ーー!」

 

う~む

 

「春蘭様?」

 

「お、おぉ、華侖と季衣ではないかどうしたんだ。」

 

「お昼に誘おうとしたっすけど……」

 

「何かあったんですか?」

 

「いや、それがな……」

 

今見てきた秋蘭とグラハムのやり取りを私が見聞きした範囲で言った。

 

「えっそれって……」

 

「おぉ、季衣はわかるかあれがなんだったのか。」

 

「えぇーー!グラっち秋姉のこと好きだったすか!?」

 

「なに……」

 

「だから秋蘭様を好きだった兄ちゃんが秋蘭様に告白して……」

 

「許さん……」

 

「もしかして春蘭様しっ」

 

「許さんぞ私の秋蘭を奪おうなどといくらグラハムでも許さん!」

 

大切な秋蘭を奪おうなど!奪おうなど!

 

「あぁあぁあぁああぁ!?」

 

「ふぇ!?」

 

「きゃ!?」

 

 

奇妙な声を上げ春蘭は走り出す。

そしてグラハムを探し出す。右往左往怒りに任せ城の中を暴れまわるそんななか

 

「なによあのばか!?」

 

「なんなんですの!?」

 

「しゅ、春蘭様!?どうされたのですか!?」

 

「春蘭様!?鍛練の時より怖い顔をしてどうしたんです!?」

 

「春蘭さん!?」

 

「うわぁ……どうしたの春蘭様?」

 

「どうしたのよ春蘭」

 

数々のものを巻き込みながら

春蘭は事情を早口で皆に喋り回り秋蘭とグラハムを探す。

もう町にでた二人を探して……グラハムが振られたことを言いふらしながら。

 

 

 

 

 

「さて、買い物をすますぞグラハム。最初はここだな。」

 

買い物にでて最初に来たのは

 

「ここは……」

 

女性もののアクセサ…こちらではなんというのだ?飾り物

でいいのか秋蘭はあまりこういったものはつけない。誰の物かはすぐわかる。

 

「華林殿へか?」

 

「あぁ、忙しくて土産も買うこともできなかったからな。何か渡せたらいいと思ってな。」

 

そして物を選ぶため考えこむ。

 

「………………」

 

黙って真剣な顔をする。

店主がどう声をかけたものかと困っている。一応こちらは自分で選べると言って店主を下がらせる。

周りも秋蘭のことも私のことも知っているのだろう。後ろからも視線を感じる。

 

「うむ。これと……これか……」

 

「決まったか?」

 

少したち秋蘭が2つの首飾りを手に取る。一つは青い宝石が埋め込まれているもの。もう一つは曹軍の印である骸骨のもの。

本当に何故骸骨が印となっているのだろう。兵の兜ですら骸骨だからな……

 

「いや、2つで迷っていてな……グラハムはどう思う。」

 

「私か?あいにくと私はそういったものを選んだことがないのだが……」

 

「まぁそんなに深く考えるな

一応男からの意見もほしいのでな。」

 

「そうか……ならそちらの青いほうだな。瞳の色と同じであるしな。そして華林殿は他にも骸骨の装飾品はいつも身に付けている。いつもとは違った物を身に付けるのも楽しみに繋がるだろう。」

 

「ふむ。確かに……いつもとは違う華林様………ふふ」

 

秋蘭殿その顔はやめたほうがよいぞ。変に緩みすぎて不気味だ。店主も顔がひきつってきているぞ。 

 

「よし店主。これをもらおうか」

 

と言って最初の買い物は終了した。

 

「次はどこへいくのだ?」

 

「次は食材だな。いい場所はわかるか?」

 

「それならば市場にいくとしよう。私の知っている店がもっともある場所だな。だが、何故食材を?」

 

「華林様と姉者に今日の夜は夕食を作ろうと思ってな。」

 

休みをもらってまで主君や姉のために尽くすとは……

よき愛だ……

 

「よし!荷物持ちでも何でも今日は私が引き受けよう!」

 

秋蘭殿から少し変な目で見られるがそれを無視し市場に向かう。

途中の会話は何気ないものをする。

お互いの近況、仕事の成果、秋蘭があっていなかったものの近況。そして春蘭の可愛さ……

やはり淋しかったのではないか。

少し遠回りをしたせいかその雑談は長く続いた。

失敗したときの春蘭、成功したときの春蘭、戦場での春蘭、事務仕事中の春蘭。

各春蘭殿の可愛さをこと細かく語る。

そして

 

「やはり姉者は可愛いな。」

 

そう結論をつけた。

そうだな。目的地はもうすぐだ。

 

「あそこを右に曲がれば目的地だ。」

 

「そうか。遠回りしたかいがあったな。よく話せたよ。」

 

角を右に曲がった瞬間私達は家屋の屋根に登る。

そして私達の後ろにいた者のなかから二人に目星をつけ

上から押さえつける。他の人達は驚いているが押さえているのが私達だと気付くとさっとその場から去っていく。

 

「さて、このものたちは何者だろうな?まさか賊どもの生き残りか?それにしては……」

 

「秋蘭殿。まぁ落ち着け。それで何をしていたか聞いてもよいか?」

 

「は……はい夏侯淵様、隊長……」

 

「隊長……こいつらはグラハム隊の者か。賊にしては隠密が上手いと思ったがなるほどそういうことか。だが何故グラハム隊が隊長であるグラハムと私を尾行するのだ?」

 

「「それは……」」

 

二人の隊員は口ごもる。

だが表情は何かを隠してはいるが、ただいいづらいだけだと見える。何も裏切りやらそういったものではなさそうだ。

そう考えていると隊員の一人が口を開く

 

「あの……とても申し上げにくいのですが……」

 

「構わん。言ってみろ。」

 

「は!

城内で隊長が夏侯淵殿に迫りひどく振られたという噂が急速に広まっています。」

 

「「なに…?」」

 

私と秋蘭殿は同じ表情をする。

あれを見られていたのか流石に調子にのりすぎたか……

見られたのは荀彧殿か?いや華侖殿の可能性も……

 

「そしてその話を聞いた後に隊長が夏侯淵様と外にでた所を見た兵がいまして。少し心配になりグラハム隊独自に全員動いております。許可はは楽進様から得ています。」

 

「ふふ、なかなか面白いことになっているな。さてグラハムどうしようか?」

 

「こういった噂は不和の原因にもなりうるからな早々に解決したほうがよいだろう。わかった一応貴様らは戻って事実無根だと言え。後で私も「いたっすーーーーー!」ぐはっ……!」

 

「あ、華侖様がお兄ちゃんに刺さった。」

 

どうやら華侖殿が私に飛び込んできたらしい。

そしてシャン殿よ……できれば止めてほしかった。

 

「グラっち大丈夫っすか!春蘭から聞いた後栄華から聞いたっす。凄い悲しいっすよね?何かしてほしいことないっすか?何でもいってほしいっす!」

 

まさか発端は春蘭殿か……

それはまぁ想像できるな。

恐らく私達のやり取りを見た春蘭が皆に言いふらしたのだろう。

 

「ということでお兄ちゃん。」

 

「なんだシャン殿?」

 

といい腕を広げ

 

「今日はシャンたちに甘えていいよ?」

 

といい頭を抱いてくる。こんな男が幼女に抱き締められているとどこか犯罪臭がするものだな……

というか離れん!腰に抱きついている華侖殿も頭を抱き締めているシャン殿も力が強い。というかシャン殿それでは口が塞がれて息が……

 

「華侖、シャン。離れてやれ。それではグラハムもやすらげないだろう。」

 

「おっとそうだったす。」

 

「わかった秋蘭様。」

 

秋蘭の一言で解放される。

その後二人に事情を説明する。最初は私が気を使っている

のではないかとまた心配している表情をされたが何とか誤解をとくことに成功した。

 

「まぁ、良かったっす。グラっちが傷ついてなかったからいいっす。」

 

「シャンたち心配したんだよ。」

 

「悪いことをした。紛らわしいことをしてしまったなこれからは控える。」

 

「なかなか好かれているではないか。だが、その噂はシャンがいっていた通り姉者が?」

 

「うん。春蘭様が凄い怒ってシャンの所に来て、グラハムはどこだーー、って言ってた。そしてお兄ちゃんが振られたって話も凄い早口でいってたよ。多分他の人達も同じだと思う。」

 

ん?怒って

 

「何故怒っていたんだ?私が振られていないならまだわかるが……」

 

この妹ありて姉ありだ。この姉妹は深い愛で繋がっている。そこで嫉妬が生まれるのは仕方ないかもしれんが

もしや

 

 

「姉者なら一部を切り取って私を取られたと思ってもおかしくはないかもな。」

 

「心の内を読まないでくれ。確かにあの春蘭殿なのであれば……」

 

「でもめちゃくちゃ怒ってたっすよ。

ほらあんなふうに……」

 

私の後ろを指差す華侖殿。

後ろを振り向くと

 

「グラハム……」

 

な、なんだこのどす黒い覇気は!?というかあの黒い煙はどこからでている!?

そして抜き身の大剣を構え切っ先を向け

 

「グラハムーーーーー!!秋蘭は渡さんぞーー!!」

 

なんだあの早さは!?あれが春蘭殿の真の力とでもいうのか!?

 

「あぁ、私のために激怒する姉者……」

 

悦に入るな!

というよりも先き春蘭殿だ。あの一撃恐らく受けきれずに私の得物が折れるであろうな。

だが、ここで怯む私ではない!

 

「さぁこい!貴様の愛の一撃このグラハム・エーカーが受け止めてみせよう!」

 

「グラハムーーーーーー!」

 

「春蘭ーーーーーーー!」

 

叫びと共にお互いの武器がぶつかるが脅威的な力で後ろに吹き飛ばされ塀に激突する。

 

「グラっち!?」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

体の至るところが痛いが立ち上がる。

 

「流石だと…いわせてもらおう……春蘭…殿……」

 

そして私は意識を失った。

 

その後は春蘭殿を秋蘭殿が押さえて誤解を解き。

城内の噂も華林殿の計らいで何とか消すことができたが、たまに女官が噂するのを聞くのはずっと先の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話 乱世の奸雄と裏切り者

あの騒ぎの数日後我々将と華林殿は視察として城下にでることとなった。庭に集合だといったが

 

「少々、早く来すぎたようだ。」

 

まだ約束の時刻まで半刻程ある。

やはり凪や桜居でも同伴させれば良かっただろうか?

というかまだ背中が痛むな……春蘭殿はやはり流石だ。あれほどの力をだせるとは……

塀に叩き付けられたときの衝撃など忘れはしない。

いや年甲斐もなく燃え上がってしまったな。正直あそこは春蘭殿も正気ではなかったから逃げるべきだったな。

シャン殿や華侖殿にも心配をかけたしな。というか帰ってきてからの凪や桜居にも苦労をかけたしな。

だが、あれほどの力を目の前にし燃えない武士はおらん。

私もまだまだということか。我慢弱い性格は死んでも治らんようだ。

しかし、私ももっと強くなる必要がある。この世界で生きていくと決めたのだ。春蘭より強いものと戦う機会もこれからでてくるだろう。

やはりグラハムスペシャルの早期開発を……

体術で……いや…駄目だそれでは体を動かすのに限界がある……氣を極めればもしや…凪の衝撃波を流用すればもしくは……

だが、グラハムスペシャルは遠距離からの攻撃に対する回避技術。これでは躱せたとしても一太刀が限界詠まれれば死ぬ……別の技を……はっ!トランザムを氣で再現すれば……!?そのためには氣の鍛練をしなくてはな……また凪に教えてもらうとするか……」

 

「おぉ、グラハム早いじゃないか、集合まではまだもう少しあるはずだが?というか一人でなにを話している……控えめに言って気持ち悪いぞ。」

 

「本当に気持ち悪いわ。」

 

「おぉ、春蘭殿に荀彧殿ではないか。

なにこれから強くなるためどうすれば良いのか考えていただけだ。」

 

「脳筋は一人で十分よ……」

 

「誰が脳筋だ!」

 

やはりこの二人は仲が悪いな

元気に喧嘩をしている。手が出なかったり過度なことは言ったりしない。もしや仲が良いのかもしれんな。

 

「私の力は華林様の敵を倒すためのものなのだ!州牧になられた今そういった敵は増えていくだろう。」

 

「だから、その力を使うのは私軍師なの!頭まで筋肉だと役立たずなのよ。」

 

「なんだとぉ!」

 

仲が良いのか……?

 

「ははは、確かにどちらも大事であるな。だが、力ばかり、知識ばかりではいけない。戦ではどちらも必須なものなのだよ。戦士も全線に立てば変わり続ける戦場に対して臨機応変に対応しなければならん。軍師も本陣に奇襲が来るものは珍しいことではない。その時最低限身を守れるような力は身に付けてほうが良いかもしれんな。」

 

とまともなことを言うとなんだこいつといった表情で見ている。空気も読めないのもどうやら死んでも治らぬようだ。

 

「ねぇ……」

 

「何かな?荀彧殿。」

 

「あなた何様なのよ……」

 

「これでも年長者を自負しているのだがな。まだ若い者には負けてられんさ。」

 

「確かに年齢は上だったな、それで何歳なのだ?」

 

春蘭殿が聞いてくる。

 

「35だ。」

 

「「な!?」」

 

いやそんな何故そんな驚くのだ?

 

「何故そんなに驚くのだ…普通のことだろう。まぁ恐らく将の中では一番年をくってはいるが。」

 

「いや、だってあんた35?結構年いってるのね……」

 

「私よりも10以上離れているだと……」

 

一体何歳だと思っていたのか……

 

「皆が若すぎるだけだ。」

 

話していると華林殿が秋蘭殿、栄華殿、華侖殿を連れてこちらに来る。

 

「どうしたの春蘭、桂花?そんなに驚いた顔をして」

 

「それが私の年の話をしたら驚かれてな。」

 

「そういえば聞いてなかったわね。幾つなのよ。」

 

「35だ。」

 

「……思ったより上だったのね。」

 

華林殿もまでもかというか

 

「そうでしたの…」

 

「私より上だとは思っていたが……」

 

「え!?グラっちそんなに上だったんですか?敬語使ったほうがいいっすか?」

 

他の皆もか……

というか秋蘭殿はからかっているだろう

 

「いや、そんなことは必要ない今までで結構。

それよりも今日は城下の下見なのだろう。」

 

「そうだったわね。では早くいくとしましょうか。賊が町に現れたという情報も入っているわ警邏もかねてするように。」

 

 

 

 

 

 

その後城下町に繰り出した私達であったが人数の多さか二人一組にわかれることとなった。何故かあそこまで来ていた荀彧殿は留守番ということだった。

そして私は

 

 

「あなたとこう二人で話すのは久しぶりね。」

 

華林殿と一緒に行動することとなった。

護衛としては実力は十分だが

 

「あら、私には秋蘭にしたように口説きはしてくれないかしら?」

 

案の定華林殿は弄ってくる。

 

「口説いてなどいないさ。」

 

「そう?秋蘭に夫はいないのだけれどあなたの眼には叶わなかったのかしら?もっと年上の方がいいのかしら?」

 

「口説いていたら口説いていたで、私は華林殿にどんな目に遭わせられていたことか……」

 

「わかっているじゃない。」

 

やはりサディスティックだな。

 

「まぁ今のあなたでは愛などほど遠いいものでしょうね。」

 

何か傷つくことを言われたが無視するとしよう。

私がいつも行く市場につく。

華林殿は統治者の目で市場を見ている。

流石華林殿。切り替えが早い。もう私をからかっていた影はない。

私とはこの市をみるところは違うのだろうな。

市場事態はよく賑わっている。多くの人々が商品の売り買いにいそしみ何人かは道の端で雑談を楽しみ、子供は何人かで遊んでいる。

問題になる点としてはあまり整備されていないことだろう。道が急に狭くなるところもある。

子供も行き交う場所だ。何か事故がおこることもありえるな。細い道が多いいと治安が悪くなるかもしれんな。後で書く報告書にはそう書いておくとするか。

 

「あら隊長さん。今日は買い物ですか?いい桃がまた入ったんですよ。」

 

よく話しかけてくる果物屋の女性が話しかけてくる。

 

「いや、今日は仕事でな。すまないが今日は遠慮しておこう。」

 

「それは残念…また今度いいもの買ってくださいよー」

 

「ははは、わかったわかった。」

 

と笑いながらわかれる。

その後も何人かの商人に話しかけられ会話を少しする。

子供に話しかけられたときは少し困ったが華林殿のほうを指差し

 

「今日は任務なのだよ。」

 

というと笑いながら去っていく。

 

「あなた顔が広いのね。」

 

「最初は顔の傷で怖がられたが日々話すたびにな。やはり話すことでわかりあえるのだよ。」

 

「あらあなたらしくないと思うのだけれど誰かの受け売りかしら?」

 

「よくわかっている。流石華林殿。昔とある少年が言っていたのだよ。」

 

「そう。とても平和的ね。

あぁそれよりもあなたには伝えておくべきことがあるの。」

 

今思い出したのだろう。

 

「あなたとは別に天の御遣いと名乗る人物が現れたわ。」

 

「なんと……」

 

「世迷い言だと思っていたけれど噂は大陸全土につたわっているわ。白いぽりえすてる?を使った服を着ているそうよ。天にはそのようなものがあるのかしら?」

 

「確かにある。というか大抵の衣服には含まれていたもので間違いない。」

 

「なら、あなたと同じ天から来たということは本当なのでしょうね。今は劉備と名乗る人物と共に人を集めているそうよ。」

 

劉備とは!?劉玄徳のことかやはり出てくるか

 

「挙兵でもするつもりか?」

 

「恐らくはそうでしょうね。まだ小さいけれど注視しておいて損はないでしょう。

あぁついでだけれどあなたも青の御遣いとして噂を流しておいたから。あなたはもう他国に曹軍にいる異国人として知られているわ。」

 

なんと。そこまで目立ったことはしてこなかったはずだが……

 

「発言のもとは陳佳よ。」

 

「なるほど。陳佳殿らしい。」

 

「それで異国人だとはくがないから、あなたの服の色からとって青の御遣いと名付けておいたわ。」

 

「大それた名だな。」

 

「あら、なら魏の種馬にした方がよかったかしら。凪や桜居にも手を出していて私の秋蘭にも手を出したのだし。」

 

「やめてもらおうか……」

 

そういったいわれはないのだがな。話を変えるか……

 

「そういえば華林殿、州牧になられるのだな。」

 

「そうよ。あなたも桂花のように否定するのかしら?」

 

「いやそんなことはしないさ。わかり合うためには力を持つことが必要だ。力のないものがどれだけ理想を並べようと話し合いの場を整えようと応じる所は少ないだろう。そのための足掛かりとしては悪くない。少々早尚だとは思うがな。だが、華林殿なら大きな間違いもないだろう。」

 

「信用されているのね。」

 

「もちろんだとも。我等が覇王はそんなことはせんさ。もしそれでも暴走するのなら私が止めるさ。」

 

「あら頼もしいわね。

でも私を止めるにはまだ立場が足りないわね。」

 

「ははは、これは手痛いかえしを喰らってしまったな。」

 

「まぁ楽しみにしておくわ。青の御遣いさん。」

 

そう言って再び視察に戻る。

本当に久々に二人で話した。いつも周りには他の者がいることが多いい。愛が多き者だからな。

今の華林殿なら道を踏み外すことはないだろう。手段はソレスタルビーイングと変わらない。それでしか解決できないような世の中だ。それまで私達がそれを支える者となればよいのだ。私の部下やカタギリのようにな。

 

 

 

 

そして市場をあらかた見終わり集合場所に戻ると

 

「なんであなたたちは揃いも揃って同じ竹籠を持っているのかしら?」

 

「「「「…………」」」」

 

春蘭と栄華、秋蘭と華侖で行動していたはずだが……

春蘭栄華ならまだしも秋蘭が持っているとは

 

「朝竹籠の底が抜けていることに気付きまして……」

 

「あなたのことだからそれがずっときになっていたのでしょう?」

 

「はい……」

 

なんとも秋蘭らしい。

そして春蘭と栄華はというと…

 

「どうしますの春蘭さん!」

 

「どうするといわれてもだな……華林様に嘘はつきたくないしでも失望されたくはないし……」

 

後ろの竹籠を覗き込めばそこには大量の衣服。

恐らく春蘭殿は華林殿。栄華殿はシャン殿季衣殿にたいしての服なのだろう。

もちろんそれには華林殿も気付いているが

 

「まぁいいわ。今回は目をつむりましょう。だけれど報告書はしっかりと書いてもらいますからね。」

 

「「はい……」」

 

そして報告書を書くために城へ戻ろうとした時。

 

「そこのお人……お主には強い相が見える……」

 

一人の老人が、声をかけてきた。

 

「なんだあれは?」

 

「恐らく占いを生業としているものでしょう。お姉様早く行きましょう。」

 

と栄華殿が説明し、華林殿を急かす。

 

「あら。一体なにが見えるというの言ってみなさい。」

 

だが華林殿その老人の話しにのる。

 

「お姉様!」

 

「いいじゃないの栄華。ただの戯れよ。」

 

といい栄華殿をさとす。春蘭も秋蘭も止めようとしていたが止める。

 

「力ある相じゃ。兵を従え、知を尊び……お主が持つのはこの国の器を満たし、繁らせ栄えさせることのできる相。この国にとって稀代の名臣となる相じゃ。」

 

「なんだよくわかっているじゃないか。」

 

うんうんと首を縦に振りながら満足そうに言う春蘭。

だが占い師は

 

「国にそれだけの器があればじゃがの……

お主の性今のひび割れた国では収まらぬ。その器から溢れた野心は国を侵し…野を侵しはるか地まで名を轟かせる類いまれなる奸雄となるだろう……」

 

「貴様華林様を愚弄するきか!!」

 

「それ以上口にするなら容赦はいたしませんよ!」

 

奸雄という言葉を聞いた瞬間、秋蘭と栄華は怒声を放つ。奸雄とは悪知恵でのしあがる英雄だったか?確かに自分の主君がそう言われればそうもなるか。

だがそこで華林殿が口を開いた

 

「秋蘭!栄華!落ち着きなさい!」

 

「しかし、華林様!」

 

「そう乱世においては奸雄となると。」

 

「左様。それも千年、万年……人の世が続くまで名を残すやもしれぬほどのな。」

 

「…………」

 

剣呑な雰囲気が周りを包む。

華林殿は鋭い目で占い師をじっと見続け。

秋蘭殿と、華侖殿は今にも占い師を取り押さえようとしている。

春蘭殿と華侖殿は頭の上に?を浮かべている。

どうやら占い師の言った意味を理解できていないのだろう。

どうなるのだろうな?

と思っていた矢先に

 

「ふふふ……」

 

「華林様?」

 

「ははははは……良いわ。実にいいわ。乱世の奸雄大いに結構。遠くの国まで名が残る奸雄いいじゃない。」

 

「ははは、なんとも華林殿らしい。」

 

私も釣られて笑ってしまう。他の者はなんとも言えない表情だ。

 

「グラハム幾ばくかの礼をこの者に渡しなさい。」

 

そう言われ、懐から銭を取り出し占い師に与える。その時占い師が私の耳元で

 

「お主は三度大きな選択を迫られる。よく考えて選ぶことじゃ。さもなくば裏切り者として歴史に名を残し破滅と離別を迎えるじゃろう……気を付けることじゃ。」

 

「なに?」

 

そう言った。

 

「なにをしているのグラハム。もう用は済んだのだから行くわよ。」

 

華林殿から急かされる。秋蘭殿華侖殿がもう我慢の限界なのだろう。

 

「了解した。」

 

そう言って占い師の言葉を反芻しながら華林殿たちの元へ駆けていくのであった。

 

「裏切り者………」

 

 

 



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第十五話

 

「お兄ちゃんと一緒にお仕事楽しみ。」

 

「香風様、賊がいつ出てくるかわからないのですから降りられた方が……」

 

「まぁまぁいいじゃないですか副大将。香風様は大将に構ってもらえなくて拗ねてたんですから。」

 

「今ぐらいは全然構わない。シャン殿なら賊が来たところで問題ないだろう。」

 

「そうそう。んふ……」

 

我々グラハム隊とシャン殿は陳留周辺の邑に賊が現れたとのことで退治のために移動中だ。

最近賊がまた増えてきたおりその退治に我々は乗り出している。春蘭殿も秋蘭殿も華侖殿も城を出て退治に当たっている。その賊も現れる場所も頻度もばらばらであるが唯一の共通点は黄色の布を巻いているというところだ。世に言う黄巾の乱か……ただ便乗しているだけなのか。大きな意思によるものなのかまだわからんな。

ちなみに私は初めて外で馬に乗っている。徒歩でもいいのだが凪から

「隊長はよくても皆が遠慮してしまうのです!」

と言われ仕方なく馬に指導役としてシャン殿と共に乗っている。馬に乗れないこともないのだがシャン殿が私が乗ると言って聞かなかったためこのようなことになっている。本当に娘みたいだ。

シャン殿は私の前に座り満足げな顔を浮かべている。

そして少したつと邑が見えてきた。

 

「隊長そろそろ邑に到着いたしますので準備をお願いします。香風様もそろそろ降りられてください。」

 

「うぅ……」

 

「シャン殿。帰りはゆっくり帰れる。それまでの辛抱だ。」

 

「……はーい…」

 

シャン殿は仕方なく私の馬から降り自分の馬に乗る。

確か情報としては賊は約30。邑周辺に集まっているということだ。こちらの数は70少し少ないが向かう邑は他の邑よりも大きく自警団もいるとのことということでこのような少人数となった。

 

「何もおきなければよいが……」

 

「大将……そんなこと言うから何かおきるん……いや、おきるんです。」

 

と桜居が凪にすごまれながら言う。相変わらず丁寧な言葉で喋られると違和感がすごいものだ。

凪ももう少し仲良くしてくれればいいのだが。

 

「ねぇお兄ちゃん」

 

「どうしたシャン殿?」

 

「あれ」

 

前を指差して険しい表情を浮かべるシャン殿。

その方向には砂埃が待っておりその中には何人もの人が見えた。そして鉄同士が打ち合う音。

く……少し遅かったか!

 

「至急邑の長に使いを出せ!我々は即刻賊との交戦に入る!桜居は他の者を連れてついてこい!凪、シャン、私の三名は突貫をかける!」

 

「は!」

 

「うん!」

 

「了解!」

 

すぐに馬からおり全速力で駆け寄る。

敵の数は目測で200以上、義勇軍は100よりは少ないといったところか。だがなんとか持ちこたえている……どころか奮戦しているようだ。

 

「うをぉぉぉぉぉ!」

 

「せい!」

 

「てやーーーー!」

 

賊の何人かを横から蹴散らす。

 

「な、なんだあいつらは!」

「味方か?」

義勇軍側から声が上がる。これは名乗らなければな

 

「名乗らせ」

「この方は苑州の州牧曹操様の命で参られた曹軍、グラハム・エーカー将軍、徐晃将軍である。これより義勇軍の皆様に加勢する!」

 

「おーーーー!」

 

できれば私に言わせてほしかったのだが今はそんなことを気にしている暇ではないな。

そして目の前を見て黄色い布を纏うものを一人二人と徒手で相手をする。凪も徒手。我々は殺さないよう立ち回る。シャン殿は

 

「ち、ちかづくなーグェッ!!」

「ヒッ助けてくれーーーグハゥ!!」

 

「どーーーーーん」

 

シャン殿それは……殺してはいないよな。何人か潰れているような気もするがまぁ気にしない。

何人か倒すと桜居が率いる本隊が到着する。

すると賊どもは不利を悟ったのか散らばり逃げ始める。

 

「よし何人かは追跡を。残りは義勇軍の治療を優先。被害情報を報告。残党がいるかもしれん。周囲の警戒を怠るな。」

 

「「「は!」」」

 

これで賊退治は終わりを迎えた。

義勇軍も何人か犠牲者は出たが一人ですんだ。怪我人は少し多かったが。賊も20ほどの亡骸をおいて去っていった。幸い邑に被害が出ていない。

 

「ありがとうございます。あなた方のおかげでこの邑を守ることができました。」

 

今はシャン殿と共に邑長の家に招かれている。

 

「いえ、そちらの義勇軍あってこその被害の少なさ。私共も見習わなければならないと思っていたところだ。」

 

「いえいえそんなご謙遜を。」

 

「いやそんなことはない。どのような訓練をされているのかななかなか士気が高かったように感じたが……」

 

「あぁそれは恐らく旅芸人のおかげでしょうな。」

 

旅芸人?

 

「三日前までこの邑に珍しく三人組の旅芸人がおられたのですよ。その三人がとても愛らしく歌もお上手で我等邑の男たちは熱狂しておりましてね、皆やる気に満ち溢れていたのですよ。」

 

「歌での士気上昇か、確かに効果はありそうだな。それでその旅芸人とやらは?」

 

「いつの間にか居なくなっておりました。旅芸人でしょうからまた違う邑や町に向かわれたのでしょう。」

 

「そうか。他にはなにかなかったか?

 

………

 

………

 

 

長話をさせてしまったかな?なにか不足があったら書簡でも送ってくれ。」

 

「はい。ありがとうございました。」

 

と外に出て町をシャン殿と回る。

 

「それでなにか怪しいところはなかったか?」

 

「ぜんぜん。ただのいい人だと思うよ。」

 

「私もそうだ。うーむなら収穫はなしだな。」

 

邑の被害が明らかになかったことから少し疑ったが恐らく杞憂で終わるだろう。そのためにシャン殿を呼んだのだ。感性はすごいからな。

邑は少し気分が自分達の力で賊を撃退できたと高揚しているようだ。酒を飲む若者などがほとんどだ。

 

「おーい隊長さん!あんたも飲んでいきなよ!」

といった声も聞こえたが私達には行くべき場所があるから。

少し歩くと雰囲気が変わる布を被せられた遺体。今回唯一の犠牲者。それを取り囲むように恐らく家族が弔っている。先ほどとは違う悲しみが辺りを包む。だが他の喜びに浸っている人々に気を使いひっそりと行っている

見える位置まできて遺族に挨拶をする。なにかいわれるとも思ったがなにもなく頭を下げられる。勇敢な戦士に私は敬礼をおくる。シャン殿も真似をして敬礼をする。

これが私達に出来る敬意の表しかたとなるだろう。君の守ろうとした邑は守れた。安心して眠りたまえ。

 

 

 

 

「大将!」

 

「桜居か。追跡の件どうだった。」

 

「いや~それが……あいつら四方八方に逃げてて何人かは捕まえたけど多くは逃がしちまった。しかもあいつらなかなか口を割らなくてよ。だんまりを決め込んでやがる不甲斐ねぇ……」

 

「仕方あるまい。こちらも収穫はなかった。もう帰るとするか。」

 

「「はーい」」

 

間の抜けた返事をしてわたしに近づいてくる。

桜居の後ろからとてつもない早さで凪が駆け寄って来るのは見なかったことにしよう。

部下には厳しいのだな……

 

 

 

 

「報告は以上だ。」

 

その数日後将全員が揃いお互いの情報を共有する。

まぁ黄色い布を巻いている。自分達のことを黄巾と名乗るものもいる。手勢が増えている。襲われる回数も段々と増えている。

といった皆が知っていることだけであった。

 

「流石に多いいわね。何か他に情報はないの桂花。」

 

「は!

首魁は張角という者らしいというところまでは調べられたのですが……申し訳ありません。情報操作がなされているのか名前以外はわかりませんでした。」

 

「尋問をしても話さないのです。どれ程の忠誠心を持っているのか。」

 

「それほどまでの者なのかしら戦うのが楽しみね。」

 

華林殿よ少し不謹慎だ。荀彧殿や曹洪殿もそう思っているのか少し表情を歪める。荀彧殿は「あなたと意見が会うなんて最低」といった表情に切り替わっているが……

 

「わかっているわよ。流石に私もそこまで暇ではないわ。それよりもまた西南の方で黄巾がまた現れたらしいわ。」

 

「それなら私が行きます!」

 

「季衣……」

 

真っ先に手を上げたのは季衣殿であった。

戦力敵に申し分ない。経験についてもこの黄巾との戦いで積んでいる。

だが……

 

「季衣は最近私と出てばかりだ。流石に疲れもたまっているだろう。」

 

春蘭殿が言うとおりだ。最近の季衣殿は連戦による連戦を繰り返している。春蘭殿についていくとは別に華侖殿や個人でもついていき戦っている。体力があることは重々承知しているがそれでも限界がある。

 

「季衣。あなたは連戦で疲れているでしょう。今は休みなさい。」

 

「いいえ疲れていません。僕は困っている人たちを助けるためにここにいるんです。僕に行かせてください。」

 

「えぇそうね。私もそのつもりよ。でもね目の前の百の民のためあなたが命を投げ打ってはその先救えるはずの何万という民を見殺しにすることに繋がるの。……わかるかしら?」

 

「それじゃあ百の民を見捨てるってことですか!」

 

「そんなわけないでしょ!!」

 

華林殿は声を荒らげる。

 

「季衣殿、我々は仲間であろう。仲間が手の届かないところに手を伸ばすのは当たり前だ。」

 

「そうだぞ。お前が休んでいる時は、私達が代わりにその百の民を救ってやる。だから、今は休め」

 

「そうだぞ。姉者とグラハムの言うとおりだ。」

 

「そうですわ。季衣さんは自分の体も大切にしてくださいまし。」

 

私を含めた様々なフォローが入るがまだ季衣は沈んだ表情をしている。

 

「でも……」

 

「まだ無理をするときではないのよ。それにあなた一人に全てを背負わせるほどではないわ。我々には支えてくれる仲間がいるわ。こういう時には頼って上げなさい。そういうものを仲間というのよ。」

 

「はい…わかりました……」

 

季衣は渋々といったようだが納得はしたようだ。

その後西南の方向には秋蘭と柳凛が行くこととなった。

情報収集をかねたものになるといったところか。私も志願したが

『あんたは新兵の鍛練があるでしょう』

と荀彧殿に言われてしまった。

 

「私も不甲斐ないものだ。」

 

「はははあの時の兄ちゃんすんごい顔してたよ。」

 

「そうだったか?」

 

「うんうん。僕でもあんな顔しないよ。あー面白かった。」

 

今は会議も終わり城壁の上で季衣殿と共に雑談を楽しんでいる。

 

「やっぱり僕焦りすぎてたのかな……?」

 

「どうしたのだ急に。」

 

「華林様にも言われちゃったから……」

 

「いいや。悪くはないのだ。その心意気は良し。誰かを守るために戦うなど、普通の人にはできないさ。」

 

「でも……」

 

「ただその中に自分が入っていない事が問題なのだよ。」

 

「僕も?」

 

「そうだ。守る対象に自分をいれなければな華林殿が言ったように。百守れたとしても後の万を守れん。」

 

「でもそれって自分が生きるためなら他の人を見捨ててもいいことにならない?」

 

「いや。それを支えるために私達がいるのだよ。

季衣殿を心配しているものがいる。何かあったら悲しくなるものもいる。そういったものを守るにはどうすればいいと思う?」

 

「あっ……」

 

「そういうことだ。」

 

季衣殿は私が言いたいことにようやく分かったのか納得したような表情を浮かべる。

 

「全てを守るのは難しいことだ。だが自分が潰れてはそれも叶わぬよ。」

 

そうして季衣殿はめを閉じて考え始める。

少し時間がたち目を開け私の方を見る。

その顔はいつものような満面の笑みであった。

 

「兄ちゃんなんか年寄りみたいだね。」

 

急になにを言い出すかと思えば……気にしていることを

そして城壁の上にたち歌を歌い始める。

 

「なかなか良い歌ではないか。」

 

「これ?確か賊退治でよった邑で旅芸人の三人組が歌ってたんだ。名前は張角さんだったかな?」

 

「私もその話は聞いたことがあるな私が行った邑でも……

いや、少し待て今なんと言った?」

 

「嫌だから旅芸人の三人が……」

 

「いや名前だ!」

 

「だから張角って……あ!!」

 

そう、私達が賊退治をした邑で見聞きした旅芸人三人組の一人の名前が、先の会議で出ていた黄巾の首魁の名前と一致しのだ。

 

「これって偶然かな?」

 

「いや、偶然かもしれぬが可能性を否定できない。早く華林殿に伝えにいくぞ!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十六話

 

「グラハムの言っていた通り調査を行いましたが、言っていた通り黄巾の者共が集まっていた近くの邑で件の三人組の旅人を発見しました。」

 

「そのものたちが今回の黄巾の首魁で間違いなさそうね。桂花」

 

「はい。上から張角、張宝、張良となります。少し前までは普通の旅芸人をやっていたそうです。」

 

季衣殿と私が気付いてから秋蘭殿に伝令を出し調査をしてもらったところ案の定すぐに見つかり裏をとれた。

といえば、もう黄巾で定着しているのだな……歴史は繰り返すということか。

 

「いっぱしの旅芸人がなにを思ってこんなことをやっているのだ?」

 

春蘭殿が言うとおりだ。旅芸人が急に国をとるという野心を抱えるのはどれだけ国が荒れていると言っても少し疑問が残るな。それよりも一番考えられるのは

 

「信仰か……」

 

「信仰?それに何が関係があるのだ?」

 

「いや、経験談だが。行き過ぎた信仰は争いを生む。例え信仰の対象が争いを拒んでいたとしてもな。」

 

「???」

 

どうやら春蘭殿は理解していないようだがそれは秋蘭に任せるとしよう。

 

「それは厄介ね。そういった者は後始末が大変だもの。野心を持っていれば叩き潰しがいがあったというのに。」

 

華林殿また出ているぞ……

曹洪殿も頭を抱えているではないか……

 

「後始末は確かに大変だ。」

 

「現に苦しんでいる民がいるし、そんなことを気にしている暇はないは。桂花その時は任せたわ。」

 

「御意。」

 

「一刻も早く黄巾を退治するわ。朝廷からも書状がきていることですし……」

 

朝廷か……今は漢だったな。

 

「それにしても遅すぎるのではないか?黄巾が現れ危険性がしれわたってからそれなりの時間が経っている。統治機関はどうなっている。仕事をしていないわけではあるまい。」

 

「漢王朝の力はそれほどしかないということですわ……一部な腐敗しているのも理由の一つですが。」

 

なんと。こうも力がないとは……しかも腐敗もしている。なるほど滅ぶ国の特徴としては当てはまっているな。

 

「それでは各自いつでも出陣できるよう準備しておくように!かい…」

 

「た、大変っすーーーーーーーー!!」

 

「姉さん!?どうしたの!?」

 

軍議が終わろうとした時玉座の間の扉を勢いよく開け華侖殿が入ってくる。

 

「どうしたの華侖。」

 

「報告っす!えぇっと…陳留の隣の郡でまた黄色い布の人達がたくさん出たらしいっす!」

 

なんとも間の悪い。秋蘭殿と柳琳殿は帰ってきたばかりだ。春蘭殿、香風殿も近場に出ていったばかりである。今準備をして出れるのは兵の数を鑑みて私の隊だけとなる。だが数のことを考えると私の隊と当直の兵では足りないだろう。

 

「桂花、栄華今から兵の準備をするのにどれぐらいかかるかしら。」

 

「今から準備をするとなると早夕になるかと思われます。またいつものようなものではなく集団での行動ですので烏合之衆とは違います。入念な準備が必要かと。」

 

「糧食も、補給が必要ですし桂花さんの言うとおりになるかと」

 

「遅いわね……」

 

そうなるのも当たり前だ。こうなっては時間稼ぎしかあるまい。

 

「ここはわた「僕が行きます!」……季衣殿」

 

「しかしまだお前も…」

 

春蘭殿は季衣殿と一緒に行動することが多く過労であるかどうかは彼女が一番良く知っているだろう。だが季衣殿は緩めない。

 

「こんな時にこそ僕が出るべきだと思います!華林様お願いします!」

 

華林殿を見つめる目は覚悟が決まった目だった。

 

「……いいでしょう。ではあなたが一部の隊を連れて即襲われている郡に向かいなさい。」

 

「華林様。私と柳琳の隊はまだ兵装を解いていません。今からでも出れます。」

 

「そうね。それじゃあ季衣、秋蘭と柳琳の部隊を率いて行きなさい。兵の運用はあなたに任せるわ。」

 

「え…僕が秋蘭様と柳琳様の部隊を……?」

 

「えぇ。今疲れている秋蘭たちに指揮はあまりさせたくはないの。でも秋蘭のほうがあなたより指揮がうまいのは確かよ。助言を聞きなさい。」

 

「季衣、よろしく頼むぞ。」

 

「季衣さんよろしくお願いしますね。」

 

「は、はい……」

 

「それでは各隊は明日には出れるよう準備を進めなさい。解散!」

 

さて私も準備するとするか

そう思い玉座の間から出ようとした時

 

『くっ!このままでは耐えられんぞ!』

 

『夏侯淵様!西門も破られましたなのーーー』

 

『東門もあかん!もう限界や!』

 

『城壁内にも敵がはいりこん』

『許褚様ここは私が……』

 

『駄目だよ楽進さん。もうすぐ兄ちゃん達が来てくれるんだ。それまで持ちこたえるよ。』

 

 

 

 

「何だ……今のは……」

 

突如頭の中に叩き込まれたイメージ。

これから起こることのイメージか?いや、凪が季衣殿のことを許褚と呼んでいた。季衣も楽進さんと……

 

「あら。あなたはまだいかないの?」

 

華林殿が頭を抱える私に声をかけてくる。

 

「いや、問題はない。少し季衣の事が心配でな。」

 

「そしたらあなたの部下でもつければいいじゃない。よい副官がいるのでしょう?」

 

「その手があったな。凪を行かせるとしよう。」

 

「そう。なら早く準備なさい間に合わなくなるわよ。」

 

「了解した。」

 

今はあのイメージを考える暇はないか……まずは凪に準備を指示しなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

「さぁ!皆のもの急げ!秋蘭の元にいち早く向かうぞ!」

 

春蘭殿の指示のもと一部の兵を除き曹軍全軍の強行軍だ。

 

「いやー圧巻圧巻」

 

「ここまで並ぶと確かに圧巻ではあるなだが桜居よ。流石に油断しすぎではないか?今日は我が隊の副将なのだぞ。」

 

我々は今回春蘭殿の隊列に参加している。凪は予定どおり季衣殿の隊の中に十名をつれて同行している。そこで空いた副将の枠に桜居をおいたのだ。

 

「それ、本当に俺でよかったのか?稜の旦那とか、慊の旦那もいたし……俺この隊で一番新参ものなのに。」

 

我が弟子だが自信のないことだ。

桜居は黄巾が暴れている間も私と凪で鍛練は欠かさずやっていた。新兵の鍛練もあるので教えていた時間は凪のほうが多いいが凪からは氣を、私からは剣の指南をしている。実力は新兵の頃から大幅に向上し、氣にかんしてはもう私を越えてしまっている。総合的な強さはまだまだだが確実に一般兵よりは明らかに強い。

 

「昨日も話し合いで話したが、桜居は皆の同意のもと副将となっている。司馬郎の存在はもう我が隊にかかせないものなのだよ。それを自覚しなければ一人前にはなれぬよ。」

 

「そこまで言われると照れるな……

わかった胸をはって副将を努めるよ。」

 

「その意気だ。」

 

これで将としての立場を分かってくれればいいのだがな。稜も、慊も優秀な兵であるが将になれるかと言われれば否だ。幾度も関わったことによって将になれる才覚を秘めていることはわかった。依怙贔屓かもしれんがな。

それを腐らせるのも開花させるのも私だ。まずは経験を積まさなければな。

 

「グラハム将軍!」

 

考えていると春蘭殿の部隊の一人が私を呼ぶ。

 

「どうした!」

 

「本陣にて秋蘭様の隊より敵が想定よりも多く苦戦しているとの伝令あり。行軍を早める前に軍議を行うと言うことであり至急本陣までいらしてください。」

 

あの秋蘭殿が苦戦するとはな。凪を行かせて正解だったようだ。だがここに伝令が来るということは私達が到着する頃には門は破られている可能性が高いか……

 

「了解した。

桜居これからの隊の指示は任せる。稜、慊援護は任せる。」

 

「りょ、了解!」

 

「「了解!」」

 

よしそれでは私なりに始めるとするか。

久方ぶりのワンマンアーミーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真桜!沙和!」

 

「分かっとるちゅうねん!ひっさしぶりにあった親友に注文が多すぎるわ!」

 

「そうなのー!少しぐらい手加減してなのー」

 

「そんなこと言っている場合か!もう西門も破られかけているのだぞ!秋蘭様お願いします!」

 

「弓隊!構え!放て!

こうも数が多いいと私でも流石に捌ききれんぞ!」

 

「皆!もう少しで兄ちゃん達が来てくれるよーそれまでなんとしても守りきるよーー!」

 

「「「おぉぉぉぉぉ!」」」

 

本当に私達だけでは少し厳しかったな。義勇軍がいてくれて助かった。しかもそれが凪の友人ときたものだ。凪を連れてきて正解だったようだな。

さて、だがもう限界も近い。兵の士気は持っているが敵との数の差は多きいい。華林様が間に合うかが重要だな。

弓の数も残り少ないか。

 

「てやぁぁぁぁ!

くっ数が多すぎる!季衣様」

 

「わかった!えぇぇぇい!

あっ門が!」

 

くっ門が破られたか!さぁここが正念場だ。

 

「チッきりがない!あぁもうしゃあないわ!夏侯淵様!許褚様!」

 

「どうした李典!」

 

「軍の人達下げてください!ここからは義勇軍が引き継ぎます。」

 

「さぁくそったれの蛆虫共!びびらず前に出るのー!」

 

「お前達!?」

 

確かにこの局面、時間稼ぎをするならば二手にわけたほうがよいだろうが、まだ犠牲を出すような局面ではない。しかも私達は民を守るのが役目だ。これを受けるわけには……

 

「駄目だよ!!」

 

「季衣……」

 

「季衣様……」

 

「そんなことばっかり考えてちゃ誰も救えないよ!自分を救えない人が他の人を救えるわけない!私達が戦っていれば絶対助けは来る!だからそんなこと言っちゃ駄目!」

 

季衣がこのようなことを言うとは意外だった。華林様の言葉をしっかりと生かせたようだ。だが少し違うような……

 

「よく言った!」

 

やはり貴様か。勝手に次期親衛隊の者を教育するのはやめてほしいのだがな。

黄巾の軍勢の中から聞こえた声。その声の持ち主は巻いていた黄色の布を引きちぎり、我々の元に一目散に駆けてくる。

 

「なんなんやあの人!」

 

「うわ~なんか気持ち悪いの……」

 

「兄ちゃん!」

 

「隊長!」

 

「隊長って……凪が文に書いとったあの!?」

 

「兄ちゃんっていう歳ではないのー……」

 

「え!一人でここまでいらしたんですか!?」

 

「ふっ……さんざんな言われようではないか。」

 

そして我等の軍勢の前にくると

 

「皆のものよく頑張った!その働きに敬意を表する!ここからはこの私!グラハム・エーカーと」

 

破られた門のほうを指差すと

 

「あ、あの旗印は!」

 

翻る旗は曹、そして夏

 

「お姉様達です!」

 

「ほら!来てくれるって言ったでしょ!」

 

「我等曹軍がお相手しよう!」

 

黄巾の者共はいつの間にか背後に現れた敵と目の前に突然現れたグラハムを見て動揺している。目の前で味方だと思った人物が味方を殺して寝返ったように見えるだろう。疑心暗鬼にもなる。

 

「大分派手な登場だな。」

 

「秋蘭殿か。これ程しなければ私ではあるまい。

季衣殿!」

 

「は、はい!」

 

「ここまでよくやった!さぁ将としての最後の仕事だ指示を!」

 

「うん……うん!皆味方が来てくれたよ!ここから反撃だ!突撃ーーー!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」

 

 

 

 

「あいつ一人で突貫しおったな!」

 

「いいじゃない春蘭。混乱させることには成功しているのだし。」

 

「あの策を聞いた時には肝が冷えましたわ。」

 

「あんなのただの無茶よ。」

 

「最後に指示を出したのは私よ。彼はそれを一人でやりとげたの。実際には二、三人は部下を連れていけとは言ったけれどね。内情を知るのが当初の策だったけれどこれはこれで悪くないわ。それじゃあ私達も行くとしましょう。グラハム一人に任せるわけにはいかないもの。」

 

 



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第十七話

 

黄巾との戦闘は無事勝利を納めた。

何人か集団で逃げた姿が確認されていたが桜居の指示のもとグラハム隊か偵察にでているということだった。流石桜居だ。やれば出きるではないか。

私の今回の任務はいち早く黄巾の軍に潜入し軍が入り込めるよう工作を行うこと、情報収集をすることが目的であったが思ったよりも敵の攻勢が強く門が破られた。何かあってはと思い私も突入した。すると季衣殿があのような言葉を言うのだ。それはでずにはいれらない。私は我慢弱いのでな。そして今

 

「隊長!なにをされているのですか!!」

 

「いや……あれは偵察をかねてのものでな……情報収集もあったわけであって……」

 

「それでもです!しかも三人でですか!隊長は人に生きるために戦えといいますが、言った本人が命をないがしろにしてどうするのです!」

 

「うむ……」

 

「隊長はこういった無理をするから……」

 

と凪に怒られているのだった。その隣ではクスクスと笑っている、女性が二人。凪の昔からの親友だという。この者達が義勇軍を組んでおり大いに今回の戦闘で活躍したときいた。良くできたものなのだろうが……

 

「大将も副大将も止めましょうよ。こんな町の真ん中でみっともない夫婦喧嘩なんて誰も食べないですよ。」

 

と渋い顔で止めてくる桜居。

そういうとなにに反応したのか、顔を真っ赤にして

 

「からかうな桜居!お前もお前だ!隊長を止めずして何が副将か!」

 

「うわっ!こっちにも飛び火した……助けてよ隊長!」

 

すまない今の私は頭が上がらないのだよ。

視線を合わすと桜居はさっと逃げていく。

 

「こら!桜居まて!隊長も逃げないでくださいよ!」

 

桜居を追って行ってしまった。

 

「愛されとるな、隊長さん。」

 

「あのお堅い凪ちゃんが……以外なのー」

 

二人は私のそばによって話してくる。そろそろはじめましてだなをしなくてはな。

 

「はじめましてだな。私の名は…」

 

「みなまで言わんといいです。あんたの名前は凪からの手紙でよ~く知っとるで。グラハム・エーカー様やろ?」

 

「知ってもらえているとは光栄なことだな。そのとおり曹軍で将を務めている。」

 

「それも知ってるのー」

 

「そうかそうかなら話しも早いな貴殿らも曹軍の兵となったのだこれからもよろしく頼む。」

 

この者達は義勇軍としての武功を認められ、いや季衣の言伝で華林殿が仲間として迎え入れた。春蘭殿や秋蘭殿との面識も合ったようだし調度よかった。

 

「ほな、自己紹介させてもらいます。性は李、名は典、字は曼成。真名は真桜っていいます。得意なことは工作や!武器から絡繰まで何でもまけせてや!よろしく頼むで隊長さん。」

 

「沙和はー性は于、名は禁、字は文則。真名は沙和なのー好きなことはおしゃれなのー♪」

 

「あぁよろしく頼む。真桜殿、沙和殿。

最初は誰かの下につく等の指示は聞いているのか?」

 

「一応二人とも凪と一緒に新兵の鍛練をしてほしい言われててな。その代表があんたっちゅうからな。」

 

「あ、でも部隊は別のところに配属って言われたのー」

 

新兵の鍛練担当か。確かに今回の戦闘において義勇軍の活躍は目を見張るものがあった。それを試すため華林殿は新兵の指導者としておいてみるということか。まぁ凪が居るからといった理由もあるのだろうがな。

 

「あいわかった。だが取り敢えずは黄巾の退治が先だ。それまでは秋蘭……夏侯淵殿に指示をあおるといいだろう。」

 

「了解ー!」

 

「だがあいにくと我々は今から軍議なのでな今からこの町の者たちの被害状況の調査と炊き出しを行うのだ手伝ってもらおう。凪!桜居!」

 

「はい!」

 

「は、はい!」

 

ギリギリ見えるところで桜居が凪に怒られている姿を確認に名前を呼べば返事が返ってくる。

 

「私は軍議に向かう。本当はついてきてほしいが恐らくすぐに出る。いつでも出られるよう準備をしておけ。」

 

「「了解!」」

 

「それでは私はこれで。何かあったらおそらく曹仁殿がおられるだろう。なにかあれが頼るといい。

とてもよき私の友人だ。」

 

「あんがと、隊長さん。」

 

「ありがとうなの~隊長さん。」

 

うむ。

私の名はそれほどに読みにくいのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黄巾党の構成員は若者が中心で、散発的に暴れているようでした……特に主張らしい主張もなく現状であいつらの目的は分かっていません。」

 

軍議はもちろん我等が軍師荀彧殿のが仕切って行われている。今は先遣隊の秋蘭の報告となっている。

 

「首魁の張角も女ということまでは分かったのですがほれ以上は……それ以外は不明。どこにいるかも分かりません。」

 

「黙っているだけならばまだいいけど本当に知らない可能性まで出てきたわね。」

 

「それについては私から話させてもらおう。」

 

私が口を挟むと荀彧殿がまたすごい顔をし私を睨む。

もうなれてほしいのだがな

 

「黄巾共と共に行動していき聞いたところ、知らないものもいるようだ。だが張角達三人を見た者から話を聞けた。その者は『合った方がいい!あんたみたいなやつでも絶対気に入るから!』といったふうだった。なんとも狂信的に誘われたが振り払うのに苦労した。」

 

本当にあの時は苦労した。あの後何人かに囲まれ『あんたも興味があるのか?』のような声掛けをされたのだ。

 

「なるほどね。おそらく黄巾の争いを聞きつけた賊等が合わさってこの数まで膨らんだのでしょうね。この数であれば知らないものもいるはずだし、散発的なのも納得がいくわね。でも厄介ね悪い段階に入ってきているわ。」

 

「悪い段階……?どういう意味ですか?」

 

「春蘭あなた……ここの大舞台を見たでしょ。無為に暴れるだけの烏合之衆ではなくなったの。それなりの指揮官とそれなりの策を使って攻めてきているの。」

 

「ふむ……」

 

荀彧殿の説明を聞いてもなお春蘭殿はわからないようだ。仕事が違うのだ仕方ない面もあるだろうが少し問題もあるな。

 

「ともかく一筋縄ではいかなくなったのは確かよ。ここでこちらにも味方が増えたのはよいことだけれど……これからの策誰かある?」

 

華林殿が策を募る。ここで真っ先に手を上げるのが我が軍師。

 

「ここまで多くの衆が集まっているのです。本拠地があるはずです。即刻見つけ叩くべきでしょう。」

 

「本拠地か……グラハム、黄巾潜伏中に何か聞かなかったか?」

 

良いタイミングだ秋蘭殿

 

「本拠地に関しては聞くことができなかった。逃げて兵も散乱に逃げていたようで追跡も難しく、桜居が捕えた兵も何も吐かなかったそうだ。」

 

「ほら。役に立ってないじゃない。」

 

「まぁ、そういうな荀彧殿。収穫ではないがここまで大きくなったのだ探す策などいくらでもあるだろう。」

 

「それが難しいからいってるんじゃない!今いる部隊を散開させて探すのも時間がかかりすぎる。再び黄巾が現れるのも時間ぎかかるし民の不満も高まる一方よ。まともなことを言わないなら下がって頂戴。」

 

と私に対して不満を言ってくる。

 

「おぉ怖い怖い……だが少しばかり視野が狭くなっているようだ。」

 

陣の中の雰囲気が悪くなる。確かにここでこんなことを言っている場合ではないのだが

 

「な……!?」

 

「勘違いしないでもらいたいのだが、私は内輪揉めをしたいわけではないのだよ。」

 

華林殿のほうを少し見ると気にしていない表情であったため続行する。これは荀彧殿にも必要なことだ。

 

「そうだな……では春蘭殿。」

 

「お、おう!なんだ!」

 

「軍において最も必要なものは何かな」

 

「そんなもの力に決まっている。力こそが勝敗を分けるのだ。」

 

「では、秋蘭殿は。」

 

「私はそうだなやはり金だろうか。武具や防具、兵を揃えるのにも金がかかる。」

 

「では最後に曹洪殿。」

 

「そうですね……いつもならお金と言うところですが今は糧食と言っておきましょう。現在私達はお金はありますけれど糧食に困っていますし。」

 

「……!?」

 

「それがあったわね……」

 

荀彧殿と華林殿は気付いたようだな。

 

「気付いたようなら何よりだ。それでは私は外で指示を待っている。いつでも出陣できるように凪と桜居に言っているのでな。」

 

と言い陣から出ていく。

春蘭殿と季衣殿は最後まで頭の上に?を浮かべていたがまぁいいだろう。

荀彧殿は気付いていたようだし構わんだろう。

 

「なんなのよあいつーーー!」

 

また罵声が聞こえたが無視させていただこう。

 

 

 

 

 

 

 

するとまもなくして伝令が来て私達にとある場所の調査と敵がいたときの追跡が任された。どうやら我々の隊以外も同じような伝令が行っているようだ。一番遠くの地点の調査だが……これは先に準備をしていたからだろうな。

 

「っていうか大将。どうして気付いたんだ?」

 

「何をかな?」

 

「いやこんな早く準備させてたから何かあったのかなって……」

 

「いや、私達の軍師を信じていたまでだ。」

 

「えぇ……じゃあ無駄足だってこともあったてこと……」

 

「それはないさ。それよりも桜居よ。」

 

「なに?」

 

「後ろは見ない方がいいかもしれんな。」

 

「桜居………」

 

黒い覇気を纏っている凪に後ろから睨まれている。

 

「は……はい……何でしょうか副大将……」

 

そして首もとを捕まれ二人はどこかへと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、彼を将にいれたのは正解だったわね。なかなか面白いものが見れたわ。」

 

本隊本陣の中曹操とその側近である夏侯姉妹と軍師である荀彧で話している。

曹操は笑顔を浮かべているが荀彧は苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「私としたことがこんなことにも気付かないなんて……」

 

「確かにそれは問題ね。でも彼のせいで事なきを得たのだから、今回は目をつむりましょう。秋蘭は彼についてどう思うかしら?」

 

「なかなか良い男なのではないでしょうか。武も姉者よりかは劣りますが十分。知も軍師として抱えるならば不足はありますが将としては十分すぎるものでしょう。」

 

「あら、あなたに珍しく高評価じゃない。春蘭はどうかしら。」

 

「はぁ……私としてはあまりなにもないのですが……ですが鍛練の相手ができて良いですね。もう少し強くなってほしくもありますが。」

 

「それじゃあ桂花はどう?」

 

「……悔しいですが有能としか言いようがありません。」

 

「そうね。確かに彼は有能ね。」

 

荀彧は悔しそうに言う。

 

「なかなか楽しませてくれるじゃない。でも勿体ないわね。」

 

「勿体ないとは?」

 

夏侯淵が疑問に思い聞く。

 

「彼はこれ以上成長しないもの。もう殆ど成長仕切っているわ。才を好むものとして過程まで楽しみたいじゃない。」

 

「成長しないのですか?」

 

「恐らくね。もしかしたら何か転機があるかも知れないけどね。今のところは飽きないからいいわ。それよりも桂花」

 

「はい。なんでしょうか。」

 

「今回のことで罰を与えるわ。今すぐにとはいかないわねこの戦いが終わり次第私の部屋に来なさい。たっぷりお仕置きして上げる。」

 

「あぁ華林様~」

 

「ずるいぞ桂花!」

 

「嫉妬している姉者も可愛いな……」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十八話

 

「なかなかすぐに見つかったな」

 

あれから荀彧殿の指示の通り調査を行った。するとすぐに敵の本拠地を見つけることができた。

なぜ見つかったかは簡単なことだ。兵が多ければ多いいほどそれを養うための物資が必要となる。例えば糧食のような。それをたどれば自然と見つかる。それを我等は気付いたということだ。

 

「廃棄された砦ですか……」

 

「へぇなかなか大きいですね。大将、華林様が言ってたやつ参加すんですか?」

 

「いや、我等の隊は参加しない。悪戯に部下を死地にさらすことはしないさ。」

 

桜居が言っているのは華林殿が言った『一番高いところに旗を建てた者に褒美を与える。』と言うものだ。偵察の情報では黄巾の連中は漢軍と戦っている。桂花が言うに王朝にこの砦を落としたのを大々的に見せることによって名を広めるということだ。そのため一番目立つ場所に旗を立てる。皆はそれぞれ意欲はまちまちだがそれぞれ砦に攻め行っている。春蘭殿や季衣はすごいやる気を出していた。恐らくこの二人が旗を立てることになるだろうな。

功ばかりを得ようとした動きかただ。この世では必要である。華林殿の先には必要になってくるだろう。だが

 

「いささか興が乗らん。」

 

そう言った理由で我々の隊は周辺の偵察に回されている。

これも重要な任務だ。最初真桜殿や沙和殿が我々の隊にこの戦闘の間入ることとなっていたが戦わない隊にいても仕方ないということもあり秋蘭殿の隊へ参入する流れとなった。

 

「興が乗らないって……大将……そんな理由で大丈夫何ですか。俺達怒られないですよね。」

 

「桜居。そんなことを言っても隊長は聞かない。この隊では当たり前のことだ。」

 

「ははは、よく分かっているではないか。それでは行くとするか」

 

砦に掲げる曹の旗を一本手に取り凪に声をかける。

 

「はぁ……一人で行かせるわけには行きませんよ……おともいたします。」

 

「え、どこかいくんです?」

 

流石私の片腕よく分かっている。もう片方の腕はよく分かっていないようだがな。

 

「それでは桜居。私達は別のところに向かう後は任せる。」

 

「え?」

 

「しっかりするんだぞ。我隊の信頼を落とさないように。」

 

「え?」

 

本当によく分かっていないようだが。まぁ、構わんだろう。上手くやるさ。何せ桜居であるからな。

呆然としているが本当に大丈夫だろう。

 

「それでは行くとしようか。」

 

「はい。隊長。」

 

それでは見せてもらうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「華林様!」

 

「何よ桂花。」

 

私の可愛い軍師が何かあったのか報告にやってくる。表情を見るに重要な要件のようだ。

 

「砦に侵入する隊にグラハム隊の名がありませんがよろしいのでしょうか。」

 

「あぁ、その事。彼なら今は砦周辺の偵察をしてもらっているわ。どうやら今回の策には気が乗らないらしいわ。」

 

「気が乗らないってそんな理由で!しかもあいつはまだ……」

 

「大丈夫よ桂花。彼なら心配することはないわ。今は砦の攻略に集中なさい。」

 

「ですがまだあいつは素性が分からぬ身。自由にさせるのはまだ早いかと。」

 

どうやら彼が裏切ると思っているらしい。確かに彼は未だ素性も掴めない怪しさは他の占いと同じようなものだけれど……でも確かにそうね。彼なら自分の納得いかないことがあれば裏切りもするでしょうね。でも

 

「大丈夫よ。彼は裏切るなら私に直接言ってくるわよ。彼も言ってたじゃない曲がったことが嫌いだと。」

 

「ですが任務を果たすためには何でもするということを先の戦いで示しています。反乱を起こした場合どうなるか……」

 

「ふふ……それも面白いわね。」

 

「華林様?」

 

聞かれたでしょうけどまぁいいわ。でも彼と戦うのも悪くないわね。彼が軍を持って私の前に立つ。そして私がそれを打ち砕く。とても楽しいものになるでしょうね。

 

「いえ何でもないわ。でも本当に気にしなくてもいいわ。二度も言わせないで頂戴。」

 

「はい……」

 

やはり納得していないようだけれど兵に指示をするため私から離れていく。

桂花には少し教育が必要かしらね。陳留に返ってからが楽しみだわ。

 

 

一方戦場では

 

 

「はぁぁぁぁぁ!」

 

「ていやぁぁぁぁぁ!」

 

黄巾の者共をもっている大剣で切り伏せる鬼と、とても大きな刺付きの鉄球を用いて叩き潰す鬼。そうこの2人こそ曹軍の夏侯惇と許褚本人である。

 

「季衣勝負だぞ!どれだけ上にに旗を立てれるかだ!」

 

「はい!春蘭様!負けませんよ!」

 

「はぁ!言っていろ!というかグラハムはどこに行ったのだ。」

 

「兄ちゃん?見てないです。」

 

「なんだ?早々に諦めたか。張り合いのないな!」

 

喋りながら迫ってくる敵を倒している。いくら数が多くても夏侯惇と許褚には敵わない。圧倒的な力でねじ伏せられている。

 

「ちっ!それにしても!うざったらしい!まずは掃除からだ!」

 

「はい!春蘭様!」

 

そしてそれを少し離れたところに

 

「姉者は気合いが入っているな。」

 

「秋蘭様はいかなくていいの?」

 

暴れている二人を見ている夏侯淵と徐晃。

 

「香風のほうこそいかなくていいのか?」

 

「お兄ちゃんどっか行っちゃったからいい。」

 

「ならついていけばよかっただろうに。」

 

「シャン流石に働く。」

 

と徐晃は体躯にそぐわない斧を片手に黄巾に攻めていく。

その姿は怒っているよりも拗ねている子供のようだ。

 

「それでは私も援護するとしようか。」

 

 

 

 

 

「なかなか壮観なものだな。」

 

私と凪は砦より少し離れた所にある高台に昇り下を見下ろす。その下では黄巾と軍が戦っている。その軍とは

 

「やはり数は多いいですね。流石王朝の軍ですね。」

 

そう今の王朝であり最高戦力であるはずの漢の軍。だが……

 

「押しているようだがいささか勢いが無いな。」

 

数では漢軍が上であり、もう砦が攻められていることも黄巾には伝わっているだろう。その証拠に後方ら大混乱だ。逃げるものまでいる。そういった者と戦っているがこれが最高峰の軍とは言えない。士気が弱すぎるのか攻めるに攻めきれていない。流石に混乱がなくても勝てるだろうが苦戦を強いられるだろう。

 

「隊長、2つの部隊が前に出ようとしています。」

 

凪の声で再び前線に目を写す。言う通り2つの部隊が黄巾に突貫している。1つは騎馬を中心にした隊もう1つは歩兵が中心か。旗印は張と華。

そして部隊が黄巾とぶつかると

 

「ほう……」

 

ものともぜず前進する。あの隊は士気が高いようだな。だがこうも士気に差があるとなると軍隊としては危うい。というか内戦の危機と言ってもいいだろう。こういったことは歴史上良くあることだ。

それにしても強いな。あの隊ならば我等曹軍と仕合ったとしても良い戦ができるだろうな。特に最前線で戦っている将であろうか。ここからははっきり見えないが尋常ではない力をもっていることがわかる。

 

「凪よ。将らしき者はわかるか?」

 

「はい。恐らく最前線の2名かと。ですがここまで強いとは思ってみませんでした。官軍は一部を除き頼りにならないと聞いておりましたので。」

 

「そこまで民に言わせるとは……華林殿の言う通りになりそうだな。」

 

「恐らくは。隊長、そろそろ引きましょう。黄巾もで逃げ初めております。官軍にばれては厄介なことになりますので。」

 

「確かにそうだが……もうそれは心配いらない。」

 

「?何故です?」

 

「もう見つかっているからさ。」

 

戦場より馬上にいる彼女は確実に目線を私に合わせている。いや、睨んでいるが正しいか。ここからでもわかるこの覇気……やはりただ者ではないか。

だが私は睨み返す。武人としての礼儀であろう。そして手に持つ旗を広げ私達が曹軍であることを示す。

すると纏っていた覇気を急に納め。黄巾に再び突貫する。

 

「気付かれていたのですか。あの戦場の中で……」

 

「経験による勘や気配といった類いだろう。良き武人がいるようだな。それでは帰るとしよう。」

 

「はぁ……それにしても何故官軍が見たかったのですか?」

 

「いや、この国の正規の兵はどれ程かと気になったのだよ。」

 

「それでわざわざ見てどうだったのですか?」

 

「少々問題はあるがあれ程の武将が何人かいるのだからまだいいだろう。士気の差を見ると恐らくその上の上司が出来ているのだろうな。その者がいる限り大きな問題になることは少ないだろうが、その者が動いても変わることはないだろうな。国とはそういうものだ。」

 

「まるで見てきたようにいいますね。」

 

「なに、ただの勘だよ。さて帰るとしようか。そろそろ我等の軍が砦を落としたころだろう。確か一番高いところに旗を立てた者には褒美を与えるだったか」

 

「やはり春蘭様でしょうか?」

 

「やはりそうか?だが季衣殿も捨てがたいな。大穴で華侖殿もあり得るな。」

 

「というか話してる場合ではないですよ。終わってからだと桂花様にどれだけ怒られるか。」

 

「そうだな。それは避けたい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それであんたはどこに行ってたわけ?」

 

「華林殿から聞いていなかったか砦周辺の偵察を行っていた。」

 

「それで伝令を送ったらあなたがいなかったと聞いたんだけど?」

 

「少し離れた所に偵察に行っていたのだよ砦周辺も中々広くてな。」

 

「あぁもう!あぁ言えばこう言う!大々……」

 

というように案の定だが荀彧殿に少し怒られているが気にしない。実際偵察をしていたのは確かではあるからな。

それよりも

 

「秋蘭~……」

 

「はぁ。いじけている姉者も可愛いな。」

 

「やったーー!勝ったーーー!」

 

「流石です。季衣さん。」

 

「やったすね!」

 

「流石ですわ!」

 

どうやら勝負は季衣が勝ったようだ。

 

「あら、グラハム遅かったじゃない。どうだったかしら?」

 

「見ていて正解だった。感謝する。」

 

「なら結構。見てきたものを私の元で生かしなさい。」

 

「了解した。して、これからどう……」

 

「あんたまだ私の話が終わってないでしょ!あんたのせいでどんだけ迷惑被ったと思ってるのよ!」

 

「いいじゃない桂花。それよりも早く帰還の準備をなさい少し開けすぎたわ。それと季衣。」

 

「は、はい!」

 

「褒美の内容は決まったかしら?」

 

「それがまだ……」

 

「そう。なら帰るまでに決めておきなさい。なら帰りましょうか」

 

ようやく少し長い遠征が終わるか。浮遊艦船や、モビルスーツがないのがこのときばかりは不自由に思うな。

 

「曹操様!ご報告です!」

 

そして帰る支度を整えるために陣から出ようとしたところ慌てたようすで中にはいってくる。

 

「早く言いなさい。」

 

と荀彧殿が急かす。

 

「は!豫州沛の国の陳珪殿より伝令が来ています。」

 

「陳珪から……いいわ通しなさい」

 

「は!」

 

と言い今度はまた違った兵が入ってくる。外装は大分汚れている。ただの使者ならばこう言った格好では来ないはず。なにか悪いことが起こっているのだと皆勘づいている。一部を除いて……

 

「謁見ありがとうございます。」

 

「礼はいいわ。要件を伝えなさい」

 

雰囲気を悟り華林殿が答える

 

「はい。黄色の布を巻いた集団が大群を率いて、我等が沛国の都を襲っています。」

 

「なんですって!?」

 

流石にここまでは華林殿も予想はしていなかったようだ。後ろにいる荀彧も驚いた表情を一瞬浮かべるが即顔を戻し思案にふける。

 

「包囲が完了するまでのわずかな時間で陳珪様の命を受けこの地に出陣している曹孟徳殿に助けを求めるようにと……」

 

確かに誰も予想はしていなかった。ここの黄巾も少なくない数だった。治めればある程度安定するだろうと考えていたが浅はかだったか。相手は賊の集まり。軍とは違いいつでも集まることが出来戦力の補給は用意。

 

「分かったわ。あなたは控えていなさい。向こうに食事と寝床を用意させるわ。」

 

「感謝いたします。」

 

華林殿の言葉に礼をしふらつく足取りで陣を出ていく。よほどつかれていたのだろうな……

 

「それにしても困ったことになったわね。」

 

本当にそうだ確か陳登は今沛国に帰っているのだったな。

 

「どうなさいます?」

 

秋蘭殿が華林殿に聞く。

 

「もちろん。助けにいくわ。陳珪には借りも多いし、陳登はこれからの陳留に欠かすことの出来ない人材よ。」

 

「反対です。」

 

華林殿が下した決断に反論する人物荀彧殿だ。

 

「我が軍は連戦に連戦を重ね疲弊しきっています。そして何より糧食が足りていません。」

 

「わたくしも桂花さんの意見に賛成ですわ。救出に向かうにせよ、いちど陳留まで戻り、準備を整えるべきかと」

 

意見に賛同した栄華殿に押され荀彧殿はさらに言う。

 

「陳珪は朝廷との癒着の証拠も多く見つかりました。こちらを潰すための罠の可能性も否定できません。官軍と結託している可能性すらあります。なので事実を確認し救援に向かうのがよろしいかと。」

 

「……くだらんな」

 

途中で抑えようとしたがつい言葉が出てしまった。私の悪い癖だ。陣の中は静まり返り私にのみ視線が集まる。

 

「何がくだらないのよ!」

 

流石に怒った荀彧殿が声を荒げる。

 

「いや、良き策だと思っただけだ荀彧殿。確かにそうだな。兵を疲労困憊、糧食も尽きている確かにそうだ。事実に違いない。こちらを潰すための罠、官軍と繋がっている。ふむ、確かにそうかもしれない。それをかんがみていちど引き事実確認をしてから出陣。良い策ではないか。」

 

「な!?……なら何よくだらないって」

 

何故誉められているのかわからないと言った感じなのだろう。戸惑いながらも反論を返す。流石我が軍師。

 

「それでこの良い策をとって陳珪殿と陳登殿を救援できる可能性はいかほどか聞かせてもらってもいいかな。」

 

「………一割」

 

「なるほどそうか。ならば九割見捨てる策を取るということで間違いないな。」

 

「そうよ。確かに見捨ててしまうかもしれない。でもあんたも言った通りの状態なの。こちらも不可能なことはできないそれだけよ。」

 

なるほどあぁも裏切りを掲示したのはこの策が一番と華林殿に説明するためか。今の荀彧殿の表情は悔しそうな顔をしている。それを知り得ただけでも私の悪い癖が出た意味があったな。ならばこれからは私の出番だ。

 

「申し訳ない荀彧殿。くだらないと言った言葉訂正しよう。その策でいこうではないか。」

 

「何よ急に!しかもあんたが決めることじゃないでしょ!」

 

「栄華殿糧食のあまりはどれ程だ?」

 

「は、はい。もう1日もつかどうかだと思います。」

 

「軍ではない。30人ならばどうだ。どれぐらいもつ。」

 

「貴方まさか!」

 

「あぁ、グラハム隊が先行して向かう。」

 

そう言うとまた陣が静まり返る。

そして口を開くのは私ではなく華林殿

 

「グラハム何故そう考えたのか聞かせてもらっていいかしら?」

 

「私の隊の役目は有用な将を生け捕り仲間に加えることだ。陳珪殿も陳登殿を有用な人物これをなくすのはおしい。二人程度なら隠密に優れた隊である私の隊ならば可能性はあるだろう。」

 

そしてしばし沈黙が続く。私の目と華林殿の目が重なる。流石のプレシャーだ。足がすくみそうになるが抑える。

 

「それで本音は?」

 

「私の矜持に反する。仲間が死にそうになっているのだ。それを助けずして何が仲間か。」

 

華林殿はやはりなんでも見通してくるものだ。私でも口では勝てないな。

私の言葉に最初皆黙っていたが

 

「へへっ兄ちゃんらしいや。華林様僕も着いていっていいですか?」

 

季衣が笑いながら私の側に立つ。

 

「僕も困っている人たちを助けたいんです。今回のご褒美を僕のわがままに使わせてください。」

 

季衣殿……やはり成長したようだな。

 

「………はぁ」

 

ため息をつく華林殿。そして顔を上げる

 

「二人とも早とちりしないで頂戴。誰が見捨てると言ったかしら?」

 

人を試しておきながら良き顔をするものだ。我等が王は。

 

 

 

 



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第十九話

 

「西門より報告です。敵多し援軍求むとのこと。」

 

「分かったわ。西門にいくらか城の兵士を向かわせましょう。下がりなさい。」

 

と言って兵を下がらせる。

 

「ここまで良くもったほうかしらね。」

 

豫州沛国の相として信用はしたいけれど流石に無理でしょうね。もう包囲されてから多くの時間がたっているわ。西門も東門も正門も限界が近い。何とかなってはいるけど破られればすぐに決着はつくでしょうね一応出した曹操様への援軍の依頼も9割来ないでしょうね。

 

「母さん入るよ。」

 

私の娘である喜雨が入ってくる。いつもは農がいつもの仕事だけれど緊急なこともあり兵の糧食だけではなく装備の確認までまかせている。

今回も、報告だろうが少し見た目が違う。私にとっては見慣れたものを身に付けている。

 

「あら喜雨。その眼鏡はどうしたの?」

 

「あぁ……装備の調整をしてるときに落としちゃって割れちゃったんだ。予備があって良かったよ。」

 

「そう。それで報告を聞こうかしら。」

 

「うん。糧食もほぼ尽きてきてる。あともって2日。装備も全然足りないし修繕も間に合ってない。」

 

「本当にもたないかしらね。」

 

そして私は机の棚から単刀を取り出し、娘に渡す。本当に母親失格ね。

 

「これは……」

 

「一応渡しておくわ。本当は包囲される前に貴方だけでも逃がしてあげれれば良かったのだけれど……」

 

「母さんの娘だもん。それぐらいの覚悟ならしてるよ。」

 

「そう……苦労をかけるわね……」

 

「そんなこと言わないでよ。母さんらしくない。」

 

確かにそうかもね。この娘は誰に似たのかしら。

そしてごく短い親子の会話を楽しむ。それは全て軍のことだったり残った民のことだったり、犠牲者の数だったり親子にしてはとても悲しいむなしい会話だったけれど何故か

楽しくも感じられた。でもそれは一瞬。

 

「報告です!西門が破られました!」

 

「早いわね。分かったわ、今いる人員を全て城に集めて頂戴。」

 

「城で籠城ですか……ですがそれでは兵が入りきりませんが……」

 

「残念だけれど。これしか取る方法はないの分かって頂戴」

 

「……は!」

 

もうここまできてしまった。落ちるのも今日か明日になるでしょうね。

 

「母さん……」

 

やはり怖いのだろう私をじっと見つめる娘と目を合わせる。

 

「私は少し兵を纏めてくるわ。」

 

「ボクも行くよ。後ろに立ってばかりじゃ面目が立たないしね。」

 

その手は少し震えている。やはり酷なことだろう。

 

「報告!!」

 

すると今度とは違った兵が入ってくる。

 

「何かしら……」

 

「西門の方角から別の軍勢が迫っています!」

 

「敵の増援か……いやでも……」

 

「陳珪様!」

 

また別の兵士が入ってくる。今度は大分焦った様子だ。

 

「西門より入った敵の一部が巻いていた黄色い布を捨て相手を襲っています。」

 

本当に来てくれるなんてあの子には悪い印象しか与えていなかった気がするけれど。

隣にいる喜雨は少し安堵したようだ。

 

「そして黄色い布を捨てた者の代表が陳珪殿と会いたいと……」

 

恐らく何か策があるのでしょうね。私ならある程度合わせることはできるけれど、ここまでの策を取って伝えてくるっていうことは……どれだけ荀彧殿は私のことが嫌いなのかしら。

 

「恐らく援軍よ。通しなさい。それからあなたはすぐに攻勢に出れるよう準備を整えるよう城にいる全兵に伝えなさいいいわね。」

 

「「は!」」

 

そして兵は去っていく

 

「曹操様の援軍?」

 

「えぇそうね。しかもわざわざここまで来てくれたらしいわよ。」

 

そしてまた開く扉。だがそこにはいつもの兵士ではなく見慣れない男が立っている。一度しかあったことのない曹軍唯一の男の将

 

「曹軍グラハム隊隊長グラハム・エーカーである!久方ぶりだな、陳珪殿、陳登殿。無事であったか」

 

「うわぁ………そういえばいたね……」

 

グラハム・エーカーであった。

それにしても喜雨そこまで引かなくてもいいんじゃないのかしら?彼ならこれが当たり前なのよ。

 

曹軍が来ることによって戦はすぐに終わった。

 

 

 

 

 

 

 

我々が来ることによって戦はすぐに終わった。ここに来るまでは様々な国や邑にたちより食料を買い何とか糧食を持たせそしてその礼に豫州沛国を譲り曹軍の傘下に入ると言う。為政者としては間違ったことをしているがどのような意図があるのだろうか私にはわからないが。華林殿より戦が落ち着いた後に聞いたときは荀彧殿もさぞ驚いていた。まぁ今は華林殿の閨で楽しんでいるようだが……

私達は戦が終わったのに後処理をすませ何日かは陳珪殿の城に留まることとなった。そして夜私は砦から町を見下ろす。見張りの者である秋蘭殿の部下がいたが私がいると言うとそそくさと帰っていった。物わかりが良すぎはしないか……まぁいい。

町は少ない被害ですんだ。民間人も少しの犠牲ですんだ。ただ多くの兵が死んだ。多くの人の日常が奪われた。失くなったものは思うより多いい。

 

「不甲斐ないものだ。」

 

「そんなことないわよ。」

 

そんな感傷に浸った独り言はとある女性により拾われる。

 

「趣味が悪いのではないか陳珪殿。」

 

「ふふふ…そうかしら、まだここは私の城よ。私が私の城で何を聞こうか自由だと思うけど。」

 

「まぁそうだな。」

 

そう言うと、私に近付き目の前で止まる。

 

「ありがとう私達を助けてくれて」

 

「それは華林殿に言うことだ。私に言うことではないよ。」

 

「そう?あなたが真っ先に助けに行くと言ったのだと華侖様が言っていたのだけれど。」

 

「いいや。見捨てるのが私の矜持に反していただけだ。」

 

「でも来てくれたのは事実じゃないしかも私達のもとに最初に来たのはあなたよ。それなのに礼の一つももらってくれないのかしら?」

 

「ふ……そうだな礼は素直に受け取って置かねばな。」

 

やはり陳珪殿に私は弱いようだ。華林殿のような先を見通す目そこに年長者のなんでも知っている雰囲気いや、彼女は文字通りなんでも知っているのだろう。そういった、者と話す機会はなかったからな。

 

「そうね。それがいいわ。」

 

「それで私に何か用かな城の城主がここまで来られるのだ。何かあるのだろう。」

 

「あら、何も用事がなくてもいいじゃない。でも正解。あなた私が喜雨に渡すように言った書簡はまだ見ていないの?」

 

「あぁ見るなと言われていたからな。」

 

まだ私の部屋の戸棚にしまっている。あれから一切開けていない。

 

「それが何か気にならないの?」

 

「気にならんと言っては嘘だが、そこまでは気にしていないな。」

 

「そうなの。本当に律義な方なのね。」

 

少し考えたようにしていたがすぐに私を見直し

 

「まだそれは見ないで頂戴。まだその時ではない気がするの。」

 

「了解した。」

 

「あら、何も聞かないのね。」

 

「聞いたところで言う陳珪殿ではあるまい。」

 

陳珪殿は秘しなものは死んでも秘したままにする。そのような者だ。そのような者に何を言おうといつも通りあしらわれるだけ。

 

「可愛げないわね……」

 

「この年で可愛げは必要あるまい。」

 

「あら?それは私にたいしての当て付けかしら?」

 

「そんなことはないさ。私ならはっきり言うとも。」

 

年が近いならではの小話を挟みつつ雑談は続いていく。軍のことについても聞かれたが

 

「喜雨はどう。陳留ではどうだったかしら?」

 

「懸命に働いていた。あの年であれ程の農作技術、そして豊富な知識将来が楽しみだ。」

 

「私の娘ですもの。」

 

と言った母親らしいところも見れた。陳登殿も陳珪殿を少し鬱陶しいとは思っているものの母のことを話していた陳登殿の言葉の中にはそれなりの親子愛を感じた。

 

「大分話したわね。それでは本題を話しましょうか。」

 

本題は陳登殿のことかとも思ったが違ったようだ。

 

「もう皆には言っているのだけれど。私の真名は燈。これからはそう呼んでくださいねグラハム様。」

 

ははは……やはり陳珪殿、いや燈殿は苦手なようだ。なかなか腹の中が読めん。

 

「分かった。改めてグラハム・エーカーである。燈殿、これからは同じ軍の仲間としてよろしく頼む。」

 

「えぇよろしくお願いするわ。」

 

そういい夜の中握手が交わされる。

 

その後燈殿は少し寒くなったからと城の中に帰った。恐らくはもう一人を気遣った結果だろう。

燈殿と話している間ずっと見られていると感じていた。帰ればなくなるだろうと思ったが今でもなくならないのを見るに私に用があるのだろう。

 

「もう営業時間は終わっているぞ。陳登殿。」

 

すると物陰から陳登殿が出てくる。

 

「気付くなんて将って名前だけじゃないんだね。」

 

いつもの飾るきのない物言いで話しかけてくる。

 

「それで何か用かな。」

 

「ずいぶん母さんと仲がいいんだね。」

 

「それほどでもないさ。だが仲間であることに変わりわないがな。」

 

「ふーん。母さんがあんなに話すなんて珍しいし。あ、年が近いこともあるのかな?」

 

う……やはり年下から言われると刺さるものがあるな……

いや!これは燈殿に失礼だ。やめておこう

 

「まぁ、信用してるならいいかな。」

 

「陳登殿?」

 

「喜雨でいいよ。」

 

「真名をこんな気持ち悪いものに預けても良いのかな?」

 

「……自分で言ってて悲しくならないの?」

 

それを言うな……

 

「別にいいよ。助けてもらったことは確かだし。信用してる。」

 

「そうか。ならその信用に答えなくてはな。喜雨殿は私達とほぼ同時期に陳留に行くのだろう?」

 

「うんそうだけど。」

 

「その時は私を頼るといい。少し街並みも変わっている新しい農具等もいるだろう。案内する。」

 

「それ怪しいでしょ。」

 

「失礼な。ただの親切だ不安なら凪をつけよう。私の部下である女性だ。」

 

流石に男一人とで言われては不安だろう。

 

「うーん。ならいいよ。」

 

そうしてまだ、不安そうだが了解を取れた。

 

「がっかりさせないことを約束しよう。」

 

「うん。その時はよろしくグラハムさん。」

 

「承った喜雨殿。

そろそろ夜も遅い私は戻るとするが……」

 

「僕もそろそろ帰るよ。じゃあまたね。」

 

といい、呆気なく去っていく。喜雨殿らしいな。

燈殿とはまた違った関わりにくさだが、私としてはあのように本心を表に出すのは好ましい。苦手とは言えない。本心で語らえる友も言えばよいだろうか。まぁ…それで傷つくものは多くいるだろうが……

 

といっても流石にあの親子と話している時間は短く感じたが思ったより時間が経っていたようだ。そろそろ戻らなくてはな。

明日は確か町の復旧の手伝いだったか、後戦後の報告もあったな。さぁ早く戻るとしよう。凪にばれる前にな。

 

そういい戻るが結局凪にばれていて怒られるのである。

自分が隊長であるということに不安を覚えるのだが気にしないことにしよう。

 

 

 



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第二十話

 

 

黄巾の集団が燈殿の国を攻めてから数日、我々曹軍はやっとのことで陳留に帰ってきた。喜雨殿も私達と共にこちらに来ることになり今はまた農業研究の邑に留まっている。燈殿は華林殿に降ったもののまだ国が安定していないこともあり国に残っている。

喜雨殿を農具などを見に行かないかと誘ったが、お互い忙しいから無理。でも農具は紹介して後で何とかするから。らしい。確かに今は私も忙しい。あの量の黄巾を仕留め捕縛すれば収まるとも思ったがそう甘いものではないらしい。今でも黄巾の者たちの暴走は止まっていない。というよりも大集団で動くことは少なくなったが小集団での行動は増えてきている。だから我々将も大忙しというわけだ。

 

「もっと楽になると思ってたのに~なんでこんな忙しいんだーー」

 

「そうだね……多すぎる。」

 

隣の桜居は嘆いているがそんなことをしている場合ではないことも彼女は分かっている。

 

「桜居!もう敵勢はすぐそこだぞ。そんなこと言っている場合か!」

 

今も黄巾の者共を追っているが今回は春蘭殿、季衣殿、シャン殿もいる。

結構な戦力を割いているが相手は前程の大集団ではなく中集団ほどだが今回は官軍が主として動いているという情報が入り援護として向かっている。

そして少し前進していると官軍と黄巾が争っている。

 

「旗は張と、華になります!」

 

先頭を走る春蘭殿の兵の誰かが大声で叫ぶ。

 

「あの時の部隊か!」

 

そう曹軍が一拠点である砦を攻めていた時に私が見た官軍の中で士気が高く、強かった部隊か。たが戦況を見るに押されているな……有象無象のやからに押される部隊ではないはずだが……将に何かあったか?

 

「グラハム。」

 

そう考えていたが隣に来た春蘭殿が私を呼ぶ。

 

「何かな?春蘭殿。」

 

「前回の戦ではお前の不戦敗だったな。」

 

「旗を一番高いところに立てるだったか。確かに私はあの場にいなかった残念だが負けということでいいだろう。今話すことか」

 

「あぁ。そうだな貴様の敗けだな。しかし私も季衣に譲ってしまってな。しかもその後もあまり強い者とはやりあえなかったのでな少し暴れたりないのだ。だから」

 

「ここで勝負がしたいと?」

 

「あぁ確かに数は少ないが勝負でもすれば気分も乗る。どうだ?」

 

あまり戦場でそういったことをするのは控えたいが……春蘭殿はそうしてこそ真価を発揮するのだろうな。

 

「いいだろう。無力化した数でいいな。」

 

「お分かってるじゃないか。そういったやつは私は好きだぞ。よし!それでは我等は黄巾の部隊に突貫する。あんな有象無象のやから我等精兵が恐れることはない!掛かれーーー!」

 

「「「うをぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 

「ははは。良いではないか!では私は本陣にでも向かうとするか。右も左も譲ろう!」

 

「お、おい!ずるいぞ!

えーい貴様らやつ一人に手柄をたたせるな!」

 

「隊長に続け!香風様は右翼をお願い致します。桜居もささっといくぞ!」

 

「了解~」

 

「んや~もうおいつけな……は、はい!頑張って追い付きます!」

 

相変わらずの私の友であるな。

そして戦は始まる。

やはり徒党を組んだだけの集団急な別の軍隊からの奇襲など考えてはいなかったのだろう。数人からの焦りの声が上がるとそれを境に混乱が広がっていく。すぐに本陣にたどり着くことはできた。

 

「名乗らせてもらおう!曹軍将グラハム・エーカーである!そちらの将にお会いしたい!」

 

こちらの兵に攻撃されては敵わん。実際ここまで来るまでの官軍の兵もどうしたものか判断しかねるようだった援軍に来たことを伝えるため名乗るすると。

 

「うちはここにおるでー!」

 

紫の髪をなびかせ、さらしを巻いた女性が馬の上から偃月刀を掲げこちらに向かってくる。そして馬から降りて私の顔を確認するなり

 

「あぁ!!あんたあん時の!」

 

あの時とは恐らく私が見ていた時なのだろう。だがこちらからはあまり詳しくは見えなかった。せいぜいこちらを見ているなどしか感じられなかった。だがこの覇気は覚えがある。あの時こちらを睨んでいたあの人物。

 

「そうか。あの時こちらを見ていたのは貴方だったか。」

 

「そうや。いやー誰か見とるなーと思って上向いたらあんな堂々と旗掲げてるなんてびっくりしたわー。」

 

気さくな女性だ。いつもなら長々と話すところだがそういった場合ではない。

 

「私の名前はグラハム・エーカー。これからはこちらに任せて早く後退を。」

 

「うちの名は張遼。助力感謝するで。ありがたく引かせてもらうことにするわ。

撤退やー撤退!うちらは下がるで!

ほな、またなーー!」

 

と声を張り全軍に伝えると一斉に撤退を始める。張遼自身もすぐさま馬に乗り去っていく。嵐のような女性だ。

それと同時に右翼左翼も撤退を始める。春蘭殿や、シャン殿も上手くいったようだな。

 

「隊長!敵部隊混乱から逃げ出すものも多くおりますがこちらに向かってくる者らも少なくありません。いかがなさいますか?」

 

「逃げている者は追うな。実力はこちらが上だが数は相手が上だ。無策で挑むなよ!」

 

「「「は!」」」

 

「それでは凪よ。久々の共闘といこうか。桜居も私達に会わせてついてこい。」

 

「了解!」

 

「え!ちょっと待って……って早いって大将!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、張遼。無事だったか。」

 

「何が無事だったか?やねん!あんたが突っ込むせいで戦線が崩壊してこうなってんで。しまいには囲まれて救援もとむーとかなに言ってんねん!こっちはこっちで手一杯ちゅうねん!」

 

「お、おう……すまん。」

 

「すまんですんだら援軍もいらんねん!

はぁ……まぁええわ。被害状況は?」

 

「やはり連戦による連戦で私達の隊も多くの被害を受けた。それ以外の隊はほぼ半壊と言った方がよいだろう。」

 

「あの、アホ何進が……いやあかへんあかへんそんなもん言ってる場合じゃない。

まぁとりあえず帰るで月がまっちょる。」

 

「あぁそうだな。

それにしてもあの軍は強かったな。」

 

「あぁ苑州の州牧の隊やろ。あいつ曹軍とか言うとったし。」

 

「あいつ?」

 

「あぁこっちに来た将や。名前は何て言ったけな……ぐら…?ぐらはえいか?やったけな?」

 

「ぐらはえいか?また奇妙な名前だな」

 

「なりはわりと歳いっとたな。でも中々強そうなやつだったで。」

 

「なるほどな。こちらに来た者は一応見たことはあったが誰だったか?」

 

「てか、こんな話してる場合いちゃうやろ!早よ戻らんと!」

 

「いやちょっと待って貴様のように我等は早くないのだぞ!」

 

「何言うてるんや!早よついてこんと置いてくで!」

 

 

 

 

 

 

 

「凪よ敵の残りは?」

 

「もうここにはいないかと……ですがよろしかったのですか?」

 

「何がだ?」

 

「ほぼ全ての敵を気絶させておりますが……」

 

「情報は多いいほうがいい。まぁいつもの通りうまくいかないだろうがな。」

 

この戦場で私が殺したのは3名それ以外は全て気絶または戦闘不能の状態にしている。

凪の疑問は最もである。戦場において敵を殺す度胸のない者程役に立たないものもいない。ただ今回は相手は素人捕まえるのは容易だったためこのようにした。春蘭殿との勝負にもなにも問題はないからな。

 

「よし。グラハム隊はこれより終結作業に移る。気絶しているものの確保、周りの警戒を半数ずつ別れて行え。」

 

「「「了解!」」」

 

 

「凪と、桜居は他部隊への連絡を頼む。凪は春蘭殿に桜居はシャン殿にたのん」

 

「お兄ちゃーん」

 

「シャン殿?」

 

いつものマイペースな様子ではなく少し焦った様子でこちらにかけてくる。

 

「春蘭様が敵を追いかけてわりと遠くまで……多分違う人の領地に入っちゃったかも……」

 

「なんだと!」

 

「それは本当ですか!?」

 

「うん。シャンの方が終わって見に行ったらもういなくてって遠くを見たら砂埃がたってたから、今ごろは……」

 

「厄介なことになったな……」

 

「隊長……何がいけないんだ?」

 

桜居よ……やはり軍だけの勉強ではなく政の勉強もさせた方が良かったか……

 

「桜居よ。どこか分からない軍の一部が旗を掲げ陳留の近くに来ていたらどうする?」

 

「攻めてきたなぁて思う。」

 

「そうだな今はまさしくそのような状況な訳だ。」

 

「………あ!」

 

「はぁ……

まぁいい今はすぐに追うとしよう。シャン殿と……凪のみでいい大人数で行くとさらに困惑を招く。」

 

「お供いたします。」

 

最悪戦争の火種になりかねない。まだそうなるには早い華林殿もそれは望んでいないだろう。

厄介なことになっていなければいいが……

そしてシャン殿に案内され春蘭殿の隊が通ったとみられる道をたどる。そして

 

「あら、お仲間の登場ね。」

 

「あ、兄ちゃん」

 

「む…グラハムか。」

 

どうやらこの領地の一部隊に見つかったようだがお互い事を構える様子はない。というか後ろには縄でくくられている黄巾の姿も見える。

その部隊の将は……将か?さすがにこの戦場でその格好は薄すぎではないか?

 

「そんなに私を見てどうしたの?」

 

「いや、どのようなお人か考えていました。失礼を。」

 

「まぁいいわよ。それであなたはなんのよう?」

 

「いえ我が軍の将夏侯惇がこちらの領地に誤って入ってしまったと報告がありそれを確認するため参りました。」

 

「そ。それで名前は?あとそんなに礼は尽くさなくていいわよ。私もこんな感じだし。」

 

「そうか。ならば名乗らせていただこう。曹軍将グラハム・エーカーである。」

 

「へぇ……将なんだ。少し歳はいっているけど祭を見てたらね……」

 

「何かな?」

 

「いいえ。なんでもないわ。それじゃあ次は私ねここの領地の主袁術で客将をしている孫策よ。」

 

「それでは孫策殿我等はどうすれば良いのかな?族退治まで手伝ってもらったのだ。ただではあるまい。」

 

こうなった今袁術というものに面会をするのは必須。捕虜などは当たり前のことだろう。

 

「え?何もしないわよ。というか私としてはもう早く戻ってほしいわよ袁術にばれたら私が怒られちゃうんだから。」

 

何と言う自由奔放振り!ここまで来ると清々しいものだ。恐らく袁術とやらはそんないい主ではないのだろうな。こういった武人は成りは適当だが中の芯はしっかりしているものが多いい。しかも孫策殿からは華林殿と似たようなににかを感じる。これは客将では治まらんな。

 

「わかった。では私達は帰らさせていただく。だが礼は尽くしたい。何か私にできることはないか?」

 

さすがにここまでされて礼の一つもしないのは私の矜持に反する。

 

「うーん。そうねじゃあ、私が喜びそうなことでいいわよ。」

 

笑顔で試してくるのも華林殿とあまり変わらないな。そして私は少し考えると。

 

「酒」

 

「え?」

 

「酒と言った。次会うときに良い酒を準備しておこう。」

 

そして起こる沈黙。隣にいる凪ですら『なに言ってるんですか?』といった表情を浮かべている。春蘭殿や季衣殿も一緒だ。

だが

 

「はははっはははっは……はぁ~お腹痛い。

あなた面白いわね!いいわそれでいきましょう。期待して待っているわ!」

 

といい部隊ごと去っていく。

私も帰ろうと振り向くが皆呆然としている。

 

「どうした?私達も帰還するぞ。」

 

「え、あうん、そうだな私達も戻らねばな。総員城へと戻るぞ!」

 

「ちょっと春蘭様待ってくださいよー!」

 

春蘭殿と季衣殿は帰還の準備にとりかかる。

 

凪も諦めたような表情で

 

「わかりました帰還しましょうか。お酒代はご自身で出してくださいね。」

 

と私より先に行ってしまった。

 

「シャン殿。私は何かしてしまったのだろうか?」

 

とシャン殿に聞くが笑顔で

 

「まぁお兄ちゃんらしかったし良かったんじゃない?」

 

と返された。

うむ。何か気にさわることでもしてしまったか?

少し考えるが何もわからなかったため凪のあとを追い帰還するのであった。

 

 

 

「あんたら何してるのよーー!」

 

我等の軍師の説教を聞くために。

 

 

 



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第二十一話 休息

 

今日は久々の我等の隊の休息日。最近は我等の隊を含め曹軍は大忙しだが休息も必要不可欠。今は春蘭様と香風様が黄巾退治に出ている。あのお二方の隊であれば黄巾のものも一溜りもないでしょう。ですがあのお二方ですし副官も季衣様ですし……おさえ役がいないことが少し心配ではありますが……まぁ大丈夫でしょう。真桜と沙和も今日は町の警邏があるからと出ている。新兵の鍛練だけではなく陳留の警備隊もしているとは私の親友ながら良く働く…………

さぼってなければいいが

 

「身支度はよし。とりあえず鍛練です。」

 

この楽文進休息日といっても気を抜くつもりはありません。鍛練を一日でも怠れば実力はやはり落ちる。やはり書かすことはできません。桜居でも誘うか……いや、確か今日は勉強をしろと私が言ったのだった。しかも桜居では私の鍛練というよりも桜居の鍛練になってしまう。

 

「隊長は今日はお暇だろうか?」

 

我等の隊長、グラハム隊長の実力は私よりも高い。良い勉強になるだろう。ですが隊長も今日は休暇。何かご自身の趣味でもなされているかもしれません。やはりご迷惑でしょうか……

 

「まぁ城に向かうのは確かですしその時声をかけるとしましょう。」

 

隊長は城の一室を借りそこで暮らしている。ただ私室といっても寝る場所にしか使われていないのだろう。隊長の物は剣しか置かれていない。隊長の何もない日の行動は謎だ。正直一人になる時間がないと言った方が正しいだろう。休みの日は私や桜居、春蘭様秋蘭様などの将や隊員を誘って食事に行ったり、軽い鍛練をすることが多い。隊長と恐らく一番身近にいる私だが趣味などは一切分からない。どんな趣味をお持ちなのだろうか?

そんなことを考えながらもう城についた。門を潜りはいる。見張りの兵から深々と頭を下げられる。昔の私では考えられなかったことだ。まだそこそこ上の立場であることを忘れてしまいそうになる。今ではただの邑人ではなく一隊の副将だ。まだその立場に私は届いていないと思う。やはり鍛練をまだ積まないといけませんね……

城の中は慌ただしい。武官だけではなく文官も多忙を極めている。私達武官は現地で問題を瞬間的に解決はできる。けれどその後の安定や統治の方法を考えるのは文官の仕事になる。正直こんな時に休暇をとっていいのかとも思うが休息は取らなければならない。今は働いている方々に感謝し休むとしよう。まぁ……しようと思っていることは鍛練なのだけれど

そして隊長の部屋へと辿り着く。

 

「隊長おられますか?」

 

一応失礼のないように扉の前で声をかける。だが中からの返答はない。扉に手を掛けて開けると見なれた殺風景な部屋が見られる。そこには隊長の姿はない。

 

「おられませんか……」

 

隊長も休暇だ何かされに外に出かけたのだろう。こうなっては仕方ない。いつもの場所で鍛練をするとしましょう。

 

「あら、凪さんおはようございます。今日は休暇ではなくて?」

 

「おはようございます栄華様。いえ、隊長を探しに来たのですがいなかったようなので一人で鍛練をしようかと。」

 

鍛練に向かう途中栄華様と出会った。我等曹軍の金庫番は担当する華林様の従姉妹である人物である。本当は真名を許されるような立場ではないが預けてくれている。というかこの軍では将や将に近しい立場のものには真名を預けるという風習がある。

だけれど隊長は栄華様のことを曹洪殿と呼んでいる。桂花様のことも真名で呼んでいない。桂花様はともかく栄華様は隊長と仲は良いと思うのですが……

 

「グラハムさんなら早朝から外出していますわ。約束はしていましたか?」

 

「いいえ……私も休暇と言われて何をするか迷い来たので……」

 

「あら、何か趣味でも取り組まれてわ?」

 

「趣味ですか……」

 

私の趣味……趣味……趣味

 

「鍛練でしょうか?」

 

「それは仕事でしていることと変わらないでしょうに……暇であればお付き合いしても良いのですが申し訳ありません。仕事が立て込んでいますの……」

 

「いえ、わかっております。失礼しました。」

 

「はい。また今度ご一緒した時に。」

 

「はい。」

 

といい栄華様は少し急いだように歩いていく。

 

「引き留めてしまった……」

 

忙しいのはわかってはいましたが……もう少し気を遣わなければ……

ですが隊長は外……城下ですか。

私も一人で城下に出たことはあまりありませんでしたね。栄華様に言われた通り私には趣味がありません。

散歩というのは趣味になるでしょうか?

 

 

 

 

 

といい城下に出たは良いものの……

 

「何をすれば良いのか分かりませんね……」

 

今いるのは良く警邏で隊長と来ていた市に来ている。朝の混んでいる時期は少し過ぎているがまだ人は多いい。警邏を真桜や沙和たちに預けてから来る機会は減ったが活気は変わらない。あの二人も良くやっているよう……だ……

考えながら歩いていると人混みの中に背が他と比べて高く金髪の男性……

 

「あれは隊長ですね……」

 

近寄るといつもの天の軍服と呼ばれる青く襟の高い服を着て買い物にいそしむ隊長の姿があった。

結構な荷物を持たれているようだここは私が……!

いやもしかしたら隊長はこの荷物を持つことを鍛練の一部にしている可能性も……しかも今日は休暇一人での買い物を楽しんでいるということも……そこに私が急に入るようでは不快になられるかもしれない。

隊長はまだ買い物を続けている。食糧を買っているようだが……一人分ではないようだ。結構な量を買っている。

 

「何のために……」

 

食事は他の場所で食べていることが多いい。外食や城内での食堂もある。あんなに食糧を買い込んで何をするのだろうか。また考えにふけっていると

 

「ありがとうございますたいちょうさん。」

 

「店主こそ。急な多くの注文失礼した。」

 

「いや、構わないですよ。逆にこんなに頼んでもらってありがたいですよ。」

 

「そうか、ならばまた頼むとしよう。感謝する。」

 

「まいどーー」

 

と別の方向に歩いていく。

あ、えーと……うん。今日は散歩をするのだ。これは後を付けているのではない。うんそうなはずだ。何か最初に隊長が私にしていたことをしているかもしれないが気にしないようにしましょう。

 

 

 

「おう隊長さんやないの!」

 

「隊長さんなの~」

 

「真桜殿と沙和殿ではないか警邏ご苦労……というのは間違っているかな?」

 

「そんなこと言わんといてや。小休憩や小休憩。」

 

後を付いていくと店先で二人で談笑をしている真桜と沙和がいた。

 

「というかあの二人、確実にさぼっているではないか!」

 

まだ座って茶を飲んでいるのなら小休憩だと理解しよう。だが机の上にあるものはなんだ!

多種多様な絡繰、雑誌の山!

さぼっているだけじゃないか!後で問い詰めなければ……

 

「そんで隊長さん。その大荷物はなんなん?」

 

「あぁ休暇だったのでな少し買い出しを。」

 

「一人にしては多いいの~」

 

「それは夜にでもわかるさ。それで……貴殿らは仕事に戻らなくても良いのか?」

 

「大丈夫大丈夫。他の兵にも任せてるから、大丈夫や!」

 

「そうなの~」

 

何をいけしゃあしゃあと……!

 

「いやそういうことではないのだがそうだな……背中には気を付けた方が良いだろうな。ではまた夜に会うとしよう。では御免。」

 

「ほんじゃな~」

 

「またなの~」

 

隊長は城のほうに歩いていった。ならば……

後ろから二人に近付き肩を掴む。

 

「真桜~沙和~」

 

出来るだけ笑顔で。

 

「ひゃ!な、凪はん!え……とこれは……」

 

「へ!な、凪ちゃん!み、見逃してほしいなの~なんて?はは……」

 

「なるほど怒られてる自覚はあったというわけか。なら私が今何を言いたいかわかっているよな。」

 

「は、はい……」

 

「なの~……」

 

町の一角で何か悲鳴があがるような気もするが私は気にしないそれにしても隊長が言っていた夜にとはなんのことだろうか?

 

 

 

 

 

 

あの二人をこらしめた後また城に戻ると昼になっていた。

 

「お腹が減りましたね……」

 

城によったのですし食堂に行きましょう。最近は兵もいないですし文官のみですからあまりものでいいでしょう。その後鍛練を行いましょうか。桜居を気分転換に出すぐらいならいいでしょう。

 

「……?この匂いは……なんでしょう?」

 

食堂からは何か嗅いだことのない匂いがしますが、変な匂いですね辛いような香ばしいような……なんでしょうか。

食堂から匂いは漂ってくる。

 

「これはこれは凪さん。こんにちは。」

 

「柳琳様!驚かせないでください。」

 

匂いにつられて気配に気づきませんでした。かといって私に勘づかれないとは柳琳様は戦闘は苦手なはずでは……

 

「凪さんもご飯を食べに来たのですが?」

 

「今日の当番は初めての人でしょうか?」

 

「ふふふ……見て驚きますよ。」

 

と食堂に入り厨房を覗くと……

 

「ふむ……少し辛みが足りないか……いや多数に振る舞うとなるとこのままでは……唐辛子と生姜とにんにく大蒜だでソースを作るか。」

 

大きな鍋の前に立つ我等が隊長が立っていた。

 

「隊長……何をされているのですか?」

 

「おう凪か。ちょうど良かった座りたまえ。試食をしてもらおう。柳琳殿もいかがかな。」

 

「はいいただきます。」

 

といって強引に座らされる。

皿に白米と大きな鍋に入っていた茶色い液体を白米に掛けて私の前に出される。となりには散蓮華が置かれている。

 

「さぁグラハム・エーカー特性カレーだ!」

 

「かれー?」

 

「天の世界の食べ物らしいですよ。それをわざわざ再現してくれたんです。ねグラハムさん?」

 

「私は趣味でしたまでだ。さ早く食べるといい冷めてしまうぞ。」

 

といい後ろを向き包丁を取りた違った作業をはじめる。白米にかかっているということは一緒に食べるのでしょうか?まぁ一口食べてみましょう。

 

「美味しい……」

 

見た目に反して意外と辛いのですね。とろみがある液体と白米があいます。味わったことのない味ですが美味しいと感じる。となりの柳琳さんも美味しそうに食べている。

 

「味に深見がありますね。グラハムさんこれはどのような料理なのですか?」

 

「ここからさらに南にくだったところに伝わる料理だ。多様なスパイス……香辛料が大量に手に入ったのでな。少し値は張ったがそれは構わん。それを調合し水にいれ小麦粉でとろみを付ける。そして芋や人参等の野菜、肉をいれれば完成というわけだ。」

 

といいながら瓶に入った赤い液体を私達に差し出す。

 

「凪は辛さが足りないだろう。唐辛子を元に大蒜、生姜あと多少の香辛料を混ぜ作ったものだ。味の邪魔は少しはするだろうが大丈夫だろう。」

 

そういわれ少しかけて食べてみたところ

辛い!だが私にとっては良い辛さだ。

 

「隊長美味しいです!」

 

「気に入ってもらえたなら何よりだ。では私はまだ用意があるのでな何かあったら声をかけるといい。そうだ柳琳殿華林殿は甘いものが好きなのであったよな。」

 

「はい。辛いものは苦手なのでもう少し甘くした方が良いかと。」

 

「了解した。といってもこれから文官のものがここに食べに来るのだ少しばかり忙しくなるな。」

 

「お手伝いしましょうか?」

 

「なに私は好きでやっているのだ。凪も自分の休暇を楽しみたまえよ。」

 

といい黙々と作業を続けている。

 

「あの人らしいですね。」

 

「えぇ隊長らしいですね。」

 

休暇でも隊長は隊長だった。もう少し自分の体に気を遣ってほしいですがいいでしょう。私も食べたら鍛練に向かうとしましょう。

 

 

 

 

 

 

私は華林殿の部屋の前に来て扉を三回ノックする。

 

「グラハム隊隊長グラハム・エーカーです。入ってもよろしいでしょうか?」

 

「いいわよ。」

 

「失礼します。」

 

 

「どうしたのそんな丁寧に。貴方が私の部屋に来るのも珍しいわね。あぁ夜のお誘い?なら今はやめて頂戴。見ての通り忙しいのよ。」

 

机の上には大量の書簡がところ狭しと置かれている。足下にはそれに返すようのなにも書かれていない書簡も多く重ねられていた。適度に休憩はとっているだろうし華林殿が徹夜などという非効率なことをするとは思えない。まぁ大丈夫だろう。

 

「いや夕食を持ってきた。もう外も暗い。一息いれてはどうかな。」

 

「それもそうね。」

 

少し机を片付けそこに盆に乗せたカレーをおく。

 

「匂いはいいけれどこれは何かしら?見たことないわね……」

 

「これはカレーという食べ物だ。」

 

「天の食べ物ね……これはもちろん貴方が作ったのよね?」

 

「そうだがそれがどうかしたか?」

 

「私は美食家なのよ。どこでどんな食べ物を出されようが偽りなく評価し、修正するべきところを修正させるわ。それでもいいかしら?」

 

本当に人を試すのが好きなようだな、この王は。

 

「あぁ構わんさ。」

 

というと静かに蓮華がでカレーをすくい口にいれる。そして数回咀嚼し飲み込む。そして蓮華をおき

 

「ねぇ……グラハム。」

 

「なにかな。」

 

「これ本当は少し辛いでしょ。蜂蜜で甘さの調整をしているのでしょうけど、この甘さではこの料理の本来の味を引き出せていないわ。」

 

流石自分のことを美食家というだけある。

 

「その通りだ。口に合わなかったか?」

 

「いえ、美味しいわ。でもね私は私で料理を判断して料理家として自分なりの食べ方、作り方を考えるのも楽しみにしているの。これじゃ楽しみは半減ね。」

 

少し残念そうに言いながらカレーを食べ進めていく。

相変わらず私と華林殿との間には無言の時間が多いいな春蘭殿や荀彧殿のように話せれば良いのだが。

そして華林殿は食べ終わると

 

「次なにか作る時は私に合わせなくていいわ。そのまま持ってきなさい。」

 

「了解した。約束しよう。」

 

「それとそうね……ここの誰かに貴方が振る舞った料理は他に何かあるかしら?」

 

「柳琳殿と曹洪殿に親子丼を。」

 

「親子丼ね。それも暇になったら作って持ってきなさいいいわね。」

 

「了解した。」

 

「えぇ。それほどまでにいい料理だったということよ。それで貴方には褒美をあげないといけないわね。」

 

褒美?

 

「私が貴方の今日したことを知らないとでも?というかここに来た文官から何回も聞いてたわよ。もし私に持ってこなかったら罰を与えようとも思ったけど、持ってきてもくれたし文官や、兵の士気も高めてくれたようだし。結果には正当な褒美で返さなくてはね。今から時間は空いているかしら」

 

「あぁもう寝るだけだな。」

 

「そうなら付いてきなさい。」

 

そう言うと立ち上がり部屋をでる。私はその背中を追う。

そして辿り着いたのは

 

「さぁ入るわよ。」

 

「……はぁ……」

 

嵌められたか……

 

 

 



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第二十二話

少し短めです。


 

「貴方も早く入りなさい。そこで立ちっぱなしなのは見苦しいわ。」

 

「……わかった……」

 

まんまと嵌められた私は諦め華林殿の言うがままにされている。ここまで来たのだ。今の私の運命は華林殿ににぎられている。くっ……私としたことが……!油断したばかりに……!

 

「早くなさい」

 

従うしかないか……あちらの世界で少しでも女性との関係を気付くべきだったろうか……部下にはいたが。同じ立場で話す女性などいなかったからな。そうだ女性関係と言えばビリーは大丈夫だろうか。ミーナ・カーマインからのアプローチはなかなかのものであった。私並みのしつこさだったな。

 

「三度目はないわよ」

 

言われるがまま湯に体を沈める。

 

「ふぅ……」

 

やはり風呂とは良い文化だ。体が芯から暖まる。疲れもとれ精神的な負荷も和らげることもできる。

 

「やっぱり湯槽は良いものね。疲れがとれるわ。」

 

女子と一緒に入っていなければな。

 

「やはり華林殿であっても毎日ここを使うのは無理があるのか?」

 

「やろうと思えば出来るけれど莫大な労力と費用が必要になるわね。貴方が補ってくれるのかしら?」

 

「ははは……止しておこう。」

 

「なら余計なことは言わないことね。それじゃあ本題に移ろうかしら。貴方まだ桂花と栄華の真名を呼んでいないらしいじゃない。」

 

「そんなことか?こんなところで話すのだ、もっと重要なことかと思ったではないか。」

 

「何がそんなことよ。」

 

厳しい表情を向けられる。

 

「貴方がそんなことをするから部下が変な心配をするんじゃないの。」

 

「変な心配?」

 

「凪や桜居がそれを理由に貴方たちが不仲だと思っているという情報が入っているわ。」

 

確かに私は曹洪殿や荀彧殿のことを真名で呼んではいない。真名を許されてはいるのだが、呼ぶことはない。

 

「そういった不仲が広がると兵の士気に関わるわ無理に仲良くしろとは言わないわ。というより桂花はまだしも栄華とは仲良いじゃないの。割りと話しているところを私でも見るわよ。今日の朝も仲良く今日することを話してたじゃない。」

 

確かにそうだ。私と曹洪殿は仲が良いほうだとは思う。朝のやり取りも……

 

 

『あらグラハムさん。おはようございます。今日は休暇ではなくて?』

 

『いや、少しまた料理をしようとな……それにするのなら盛大にしようと思ったのだ。今食堂に確認したら自由にしてくださいと言われたのでな今から買い出しに出かけるところだ。』

 

『それは休暇と言えますの……?』

 

『趣味をしているのだ休暇だろう。曹洪殿もどうかな?昼か夜、忙しいのであれば部屋まで運ぶが。』

 

『お昼は忙しいですけれど、夜は余裕がありますわ。食堂にいかせてもらいます。休暇中の人に苦労はかけれませんからね。』

 

『了解した。あの時の親子丼とは違った美味しさの料理を提供することを約束しよう。』

 

『ふふ、楽しみにしていますわ。』

 

『期待に応えて見せよう。あとこの事は内密に頼む。恐らく凪がここにくるはずだ。』

 

『凪さんが?またなぜ?』

 

『凪のことだ私を鍛練に誘いに来るはずだ。』

 

『あなたがたは二人そろって休暇の意味をあまり理解していないのですわね……わかりましたわもしあったらそれとなく流しておきます。』

 

『感謝する。それでは無理をしないよう頑張ってくれ。では。』

 

 

 

といったような普通の会話をしていた。というより仲が良いといっても差し障りないかもしれないな。それでも真名を呼ばないのは何かあるのではないかと思われても仕方ない。だが

 

「私もできれば二人とも真名で呼びたいのだがな……女性との関わりを持つことのなかった過去の私を呪うよ。」

 

「なら今から学びなさい。それが出来ない貴方ではないでしょう。」

 

「あぁ、そこまで老いてはいないさ。」

 

まだまだ私も半端者ということだ。それに比べ華林殿は完璧だ。とる行動全て一貫したものを貫き曲げることはない。大願のための行動はすこし大胆なものであるとは思うがな。

 

「栄華はどうにかなるでしょうけど、桂花はどうやって懐柔するのかしら。あの子の男嫌いは相当なものよ。」

 

確かに荀彧殿は厄介だ。あれは筋金入りの男嫌いだ。私が近付けば汚れる等を普通に言う。悪いものではないことはわかっているのだがいまだわかりあえていない。

 

「やはり実力を見せなければならないな。」

 

「あの子は実力を見誤ることはないけれど、男を見る初期の評価は低すぎるわね。」

 

「警戒することを良いことだ。特に私のような男を警戒するなど当たり前のことだろう。」

 

「自分で言うのね……」

 

そんな呆れた顔で言わないでくれ。

 

「まぁ、いいわ。しっかりとしておきなさい。」

 

「期待には答えて見せよう。

それで私をここに誘いこんでまでする話がこの程度ではあるまい。」

 

華林殿の表情が真剣なものに変わる。

 

「そうね。注意はここまでにしましょう。それじゃあ……」

 

湯槽から立ち上がり芸術品のような裸体をさらし腕をこちらに向ける。その手の中にはいつの間にか手に取っていた鎌があり私の首に突き付けられている。

ここまでのことだとは思っていなかった。だが動揺を現してはいけない。平然とした様子で話しかける。

 

「急になんの真似だ?」

 

真顔で私を見添えている華林殿。

 

「貴方は私に礼は取ってはいる。今のところはね……

でもそれは他の臣下とは違う感情で動いているのを理解しているわ。」

 

確かに私は忠誠心をもっている。だが他の春蘭殿や秋蘭殿などの臣下と比べると浅い。

 

「そういった者を臣下において置くのは不安定だと思うのだけれどどうかしら。」

 

今は真剣な表情から人を試すような顔に変わっている。

 

「ははは……確かにここまで所在不明であり、前回の燈殿を助けにいくときも矜持といい軍師に反論し独断で出撃しようとした男だ。そんな理由で裏切られたらたまったものではないな。」

 

「私はまだ裏切りとは一言も言っていないのだけど。」

 

「それ以外に何がある。軍に扱いきれない者がいるのは事実だ。」

 

「それで貴方は裏切るのかしら。あの占い師が言っていたように。」

 

あの言葉を聞かれていたか。

華林殿の表情は変わらず少し微笑を浮かべている。鎌は私の首もとにあり少しずらせば死が待っている。

だが私は自分を曲げることはない。

 

「あぁ裏切るだろうな。」

 

「へぇ……」

 

鎌が少し首もとに食い込む。血が少しでてくる。だがまだ言葉を続ける。

 

「華林殿が善でなくなった時正しいと思う側が相手だった時私は裏切るだろうな。それを曲げるつもりはない。私は私なりの矜持のもと行動する。」

 

「そう。」

 

といい。鎌が振るわれる。私は目をそらすことなく華林殿を見つめる。

そして

 

「ならその首は私のために取っておきなさい。」

 

そう言って鎌を納める。

そして笑顔で

 

「私はいずれそのような選択をするでしょう。それは私の大願を果たすためのもの。それを曲げる気はないわ。貴方もそれは同じでしょう。

でも貴方のような才あるものと戦いたいという願望もあるのよ。だからその首は私のものだと誓いなさい。」

 

まったく突拍子もないことを言う。流石私の王だ。

 

「あぁ、この首は華林殿、貴方のものだ。道を違えたとしても最後には私の命をどうするか決めるといい。」

 

「良い返事だわ。」

 

といい湯槽から上がる。私もそれについていく。

そしてお互い何事もないように着替え始める。これが男女の関わりではないはずだ……

 

「結構傷は大きいのね。」

 

「そうだな。」

 

あの時の傷は顔の右側では収まらず、右胸まで傷が残っている。

 

「傷跡は消すことはできたが私は残しておきたかったのでな。」

 

「その大きな傷跡を消すって……どんな技術なのよ。」

 

「半身を吹き飛ばされても生きていれば再生が可能だ。腕を失ったところで生えてくるような再生治療があったからな。」

 

「なによそのでたらめな技術は……」

 

私もでたらめな技術だとは思っているさ。その代わりに費用は高くつくがな。

少し雑談をしながら着替え終わり共に外にでる。時間はわからないがもう夜は遅いだろう。廊下には誰もいない。

 

「私は自分の部屋に戻るわ。貴方も明日から仕事でしょう確か秋蘭と香風と共に国境の警備だったかしら。」

 

「あぁそうだな中々の遠出になるな。私も部屋に戻って寝るとしよう。」

 

「えぇそうしなさい。期待しているわよ。おやすみなさい。」

 

そう言い一人で廊下を歩き見えなくなってしまった。

 

「ふぅ……久々に焦ったな。あれは解答を間違えれば斬られていたぞ。」

 

首を擦りながらまた新しく出来た傷を確認する。

 

「これは跡が残るな……」

 

私の部屋に戻りながら包帯でも巻くとするか。秋蘭殿にからかわれなければ良いが……



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第二十三話

 

「さてもうそろそろ国境の関所につくぞ。グラハムも香風も疲れてはないか?」

 

予定どおり私達グラハム隊は秋蘭殿とシャン殿と共に国境付近まで来ている。

 

「だいじょうぶー」

 

「問題ない。

だが何故今我々は国境の関所へ赴いたのだ?このようなことをしている場合ではあるまい。」

 

この計画がわかってから少し疑問に思っていた。今我々の領土だけではなく、他の領土も侵食している。でなければ王朝から直接令書が来ることはない。他国が攻めてくることはないはず。関所破りが多いいところであると聞いたが、こんなところに我等の軍の第2の戦力がある部隊、秋蘭殿の部隊と戦力になる将がいるグラハム隊、シャン殿の部隊という多くの部隊を送るのは戦略的には間違っている。実際は少し縮小しているのだが。

 

「さぁな?貴様ならわかっていると思ったのだがな。昨日の夜華琳様といろいろあったのだろう?」

 

「……?」

 

秋蘭殿……そのような含み笑いで言わないでもらえるか。こうなれば恐らく

 

「え!大将、総大将と何かあったの……ですか?」

 

桜居が突っ込んで来るに決まっている。まぁ後ろの凪によって尻すぼみにはなっているのだが。

 

「桜居よ。ただ昨日の夕餉を運びにいったついでに話をしていただけだ。」

 

「え~本当に~……った!」

 

「いい加減にしないか!隊長に失礼だろ!」

 

拳骨が桜居の頭に落ちる。

 

「痛そう……」

 

「ははは……やはりグラハム隊は面白いな。」

 

 

そして関所につく。

関所の近くには町がありそこで一旦準備を整えることになった。まぁ準備といっても装備の点検、装着を行うだけだ。今回の私の装備は連邦の青い軍服に、籠手とズボンの下に脛当を付けているだけの軽装だ。武器は剣を二振。今回は関所という狭い場所での任務だ。もっとも動きやすいこの格好が最善だろう。グラハム隊の皆にも軽装にするようにと指示を出している。

 

「隊長。グラハム隊総勢20名準備整いました。」

 

来た凪の装備を見るといつもと変わらない装備を身に付けている

 

「凪の装備はいつもと変わらないようだが問題ないか?」

 

「は、はい。私は元より身に付ける装備を最小限に納めていますのでこれで良いかと。外せと言われれば外しますが……」

 

「いや、やりやすいようで構わん。」

 

やはり凪は良い部下だ。上官の言葉にも億さずに自分の意見を言う。普通の兵士なら恐れて出来ないことだ。桜居は……出来てはいるが……あれは少し違うな。

 

「それでは我々は関所に向かうとするか秋蘭殿やシャン殿の部隊は人数が多いい。時間がかかるだろう。先に行って手続きをすませる。」

 

「は!」

 

我々は早々に関所へと向かった。

時おり凪が私の顔を見てくる。流石に気付かれたか。昨日の夜、華林殿によって付けられた傷は包帯を巻いて誤魔化している。少し聞かれると気まずいのだが、聞く気はないようだ。私が目を合わせると少し恥じらいを含んだ顔で目をそらす。

 

「あぁ!副大将が照れてる。何かやったの大将?」

 

「私は照れてなど……」

 

「何もやっていないさ。」

 

それでグラハム隊の皆は笑う。良い隊だ。

談笑を楽しんでいると関所についた。

黄巾の連中が騒いでいるなかでも、多くの人が行き来している。

 

「こんな時でも多いんだ……」

 

「商人等は特にそうだろう。金と時は待ってくれないからな。」

 

陳留が黄巾の掃討に積極的なのは周知の事実だ。武具や、防具をこれ見よがしに売りにくるのはおかしいことではない。

見張りの兵は二十人程か。よく回している関所を破るものがいれば何人か騒ぎに紛れることも可能だろう。

まぁ仕方ない。今は兵も少々不足している。

取り敢えず近くのいる兵士に話しかける。

 

「曹軍グラハム隊隊長グラハム・エーカー。関所の視察に来た。代表者にお目通し願いたい。」

 

「青の御遣い様でしたか。少々お待ちください。」

 

最初は知らない兵に話しかけると、この顔の傷で怖がられ、この服で怪しまれたものだ。

今では青い御遣いとして多くの兵に知られている。どこか噂では確か『顔に大きな傷を持ち、万の賊に突撃し無傷で帰還した猛将』などと言われているが……誇張にもほどがあるだろうに。華琳殿も言わせておけば?と言われている。

 

「お待たせしました。グラハム将軍お待ちしておりました。」

 

「ご苦労。視察の件は大丈夫か。」

 

「視察の件は聞いております。ご自由にしてください。」

 

「了解した。ありがたく視察をさせてもらおう。」

 

そう言うと頭を下げ仕事に戻る。やはり人が足りないか華林殿に報告しておくか。

 

「よし。それではグラハム隊はこれより関所の視察及び警備を行う。私はここに留まり夏侯淵殿と徐晃殿をまつ隊員は凪と桜居の指示を聞き関所周辺の警備に回れ。以上だ。」

 

「「「了解!」」」

 

そうして私の部下たちは散らばる。

さて秋蘭殿たちが来るまでは取り敢えず待機となるか。

関所付近の警備でも手伝うとするか。

 

 

 

「お兄ちゃんー」

 

「待たせてしまったか?」

 

「おぉ、シャン殿、秋蘭殿。いや、そんなことはない。もう視察の件は話を付けておいた。」

 

「助かるよ。それでは我々も視察を始めるとしよう。」

 

「おーー」

 

「そうするか。では私は自身の隊に戻るとする。では」

 

そういい去ろうとするが手を捕まれる。シャン殿かと思い振り向くと

 

「まぁ凪や桜居も居るのだし少しぐらいは良いだろう。話したいこともあるのでな。」

 

秋蘭殿であった。私の頸もとをしっかりと見ながら。

目が少し笑っていないぞ……

これは気づいているな。というかここまでしてくるのだ見ていたのやも知れない。

というか少し気配が桜居を怒る凪に似ているぞ。下手に抵抗すれば無理やりにでも連れていかれてしまうだろう。隣にいるシャン殿にも不振がられてしまうだろう。ここは大人しく付いていくとするか。

 

「そうだな。あやつらの鍛練にもなるだろう。」

 

「そうだぞ。過保護すぎるのも考えものだな。」

 

「じゃあシャンは別のところを見てくるね」

 

となにかを察したのかシャン殿は足早に去っていく。

そして手をつかんでいた手を私の肩に置いて

 

「ではあちらで話すとするか。」

 

「お手柔らかに頼む。」

 

「まぁ取り敢えず視察をしながら話をしようではないか。」

 

私は秋蘭殿の隣を歩き始め視察を始める。

少し歩いても話を振ってこないので流石に仕事はするようだな。

 

「私が仕事をまともにしないとでも?」

 

「それは私のみの技のはずだが……」

 

そう言ったことを話していると。関所での対応を待っている列から私達の身分を察したのか「お勤めお疲れ様です。」といった声をかけられる。声をかけてくるのは様々な人で荷物を抱えた商人や武器を持った旅人、薄汚れた装備を付けなにも持たずに並んでいるものなどもいる。

 

「あの者は怪しいな……」

 

「だがなにもしていないのに捕えるわけにはいくまい。グラハムと違ってな。それで昨日は華琳様とお楽しみだったようだが?」

 

「私はなにもしていないさ。」

 

「二人で湯槽に入って何もなかったと」

 

そこまで見られていたか。だが中で何があったかは知らないらしい。

察してはいてからかっているのだろうが。

秋蘭殿を見るとシャン殿が一緒にいたときのような覇気は感じられない。

 

「あぁ決して何もなかった。」

 

「ならその頸の包帯はどうした?二日前までは付けてなかったと記憶しているが。」

 

「華林殿に試された。それまでのこと。」

 

本当のことを伝える

するとからかっているような顔は少し困惑したような表情を浮かべる。

隠しているのは傷であることを察したようだな

 

「お前は何をしたんだ……」

 

と聞いてくる。華琳殿は人を試すのは好きだが悪戯に傷跡を残すような人ではない。そのような人が私を試し傷を付けたというのだ。側近としては気になって当たり前だ。

 

「何、覚悟の再確認をされたまでよ。」

 

少し曖昧な返事で返すと、これ以上私が話すことはないと悟ったのか

 

「そうか。あまり華琳様の手間をかけさせないようにな。」

 

そう言われた直後後ろから

 

「関所破りだーー!」

 

と声が聞こえる見るとさっき見かけた薄汚れた装備を着ている男が走って関所を突破するところのようだ。

そしてその声のもと関所に並んでいる者から数名が飛び出す。

恐らくこの期に乗じて関所をこえようとするのだろう。

 

「外れたものを急ぎ捕えろ!」

 

秋蘭殿は弓をつがえながら指示を出す。

狙いは最初に関所を破った者だろう。大分距離がある。銃でも狙うのをためらう距離だ。しかも周りには多くの人がいる。

 

「こんなことをしなければ華琳様も受け入れてくださったのに……」

 

そう言い矢を放つ。そしてその矢は逃亡者の足に吸い込まれるように刺さった。

 

「お見事。」

 

「そんなことをいっている場合……いや全て終わったようだな。」

 

列から出た関所破りの疑いがあるものは全てグラハム隊とシャン殿の部隊が捕えている。広めに展開させたのは正解だったな。

 

「一応私はあの関所破りのもとにいく。こちらはまかしてもいいか?」

 

「もちろんだ。」

 

秋蘭殿は関所の方に向かっていった。

それにしてもあの弓の腕大したものだ。もしかすると銃よりも精度が良いかもしれないな。

 

「隊長!」

 

「凪か。状況は?」

 

「列から出たものを香風様の部隊と合わせて総勢12名を拘束いたしました。逃がしたものはいません。」

 

「よし。拘束を継続。取り調べをし、しかる場所に移す。」

 

「了解しました。」

 

副隊長が報告に来るのは少しおかしな気もするが人数も人数だ気にしないことにしよう。

 

む?

私の方に向かって走ってくる兵がいる。だいぶ急いでいるそうだが……

そして私の前で片手をついて

 

「報告いたします。夏侯淵様より至急帰還の準備をせよとのこと。」

 

「帰還だと。どういうことだ。」

 

確か今日は1日視察の予定だった。それを曲げるとは何かあったか。凪も疑問を持っているようだ

 

「捕えた者が黄巾の者であり密書を持っていたとのこと。」

 

なるほどそれは帰還しなければならないな。

 

「凪帰還準備を関所破りの者は連行する。黄巾のものやもしれんからな。」

 

「了解しました。」

 

凪は離れていく。

さてここに来て大人数での国境破り。

これは大きな争いは近いな。

 

 

 

 

 



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第二十四話

 

「よし、準備は怠るなよ!明日の朝には出発だからな!」

 

「春蘭様。これはどこおきます?」

 

「あぁそれはだな……」

 

「もう姉さん……わからないことがあったら教えてって言ったでしょ。」

 

「へへへ……ごめんなさいっす……」

 

場内は朝から騒がしく太陽はもう真上に浮かんでいる。皆明日の出陣の準備で忙しいのであろうな。

昨日捕まえた賊は黄巾の連絡役だったらしく、ここ近辺の部隊を集めている最中だったようだ。そしてそやつが持っていた書状には詳しい本体の位置と集合場所や集合日攻める日等こと細かく書かれていた。それを見て我々曹軍は華琳殿の決定で即座に叩くべく準備を整え相手が準備をする前に叩くことにした。

出陣は曹軍の全部隊。ここで長きにわたっている黄巾の者共との戦いを終わらせるつもりなのだろうな。

ん?それでは私は何をしているのかと?準備はしなくて良いのかだと?それはな少人数の我々の部隊、準備など一瞬にして終わっているのだ!武具防具の確認、糧食の補給、柳琳殿への報告全て済んでいる。よって

 

「暇である!」

 

「だからといって私のところに来ないでくださいまし!」

 

手持ち無沙汰だったため、曹洪殿のもとで仕事の手伝いをしている。流石に私がこの軍の金銭管理を決めるわけにも行かないためやっていることといえば曹洪殿が確認し署名をした資料をまとめたり少し荒れているこの部屋の掃除をしていた。最初は曹洪殿と周りの文官からは迷惑がられていたがいざ仕事を始めるとそれはなくなった。

 

「隊長さんこっちに未処理の書簡を回してくれます?」

 

「了解した。」

 

「隊長さん。これを夏侯惇様に届けてもらえませんか?」

 

「承知した。だが昼も近い今行けば休憩の時間と被るだろう。それが終わってからでも良いかな?」

 

「はい。問題ないです。ありがとうございます。」

 

「隊長さん。ここなんですけど……」

 

「少し見せてもらおう。」

 

ふむ。この資料は真桜殿の隊の雑費か……確かあそこは今回いつもとは違う兵器を開発しているのだったな開発費としての費用なのだろうがこれでいいのだろうか?

 

「曹洪殿。」

 

「なんですか?」

 

「ここなんだが……」

 

といいもらった書簡を渡す。

 

「また真桜さんですか……」

 

どうやらこういったことは多々あるようだ。いっそ凪にでも絞って貰うか……

曹洪殿が書簡に目を通した後

 

「はぁ……これは真桜さんに返しておいてください。雑費が明らかに多いいです。

それともうお昼ですから休憩にしましょう。」

 

と言って昼の仕事は解散となる。

 

「グラハムさんもありがとうございました。

というか皆あなたのことは隊長さんというのですね。」

 

公の場では『グラハム将軍』と言ってくれてはいるが多くの場合は『隊長さん』や『隊長様』などで言われることが多いい。グラハムと言うのは親しいものしか言っていない。『隊長さん』と言っている人物と仲が悪い訳ではない。皆グラハムという発音が少し難しいのだろう。またエーカーの部分は特に言いにくいのだろう。身近なものでもフルネームで言ってくるものなど全くいない。たまに華琳殿が言う程度だ。

 

「皆言いにくいのだろう。私も許しているから構わぬさ。」

 

「それならいいですけど……それで私に要件があるのでしょう?」

 

「要件?なんのことだ?」

 

「私に何か頼みたいことでもあったのでしょう?手伝いに行く場所なんて多くあるでしょうし。」

 

「いや、そんなやましいことは考えないさ。というかそもそも曹洪殿の仕事には手をつけてないではないか。」

 

曹洪殿は自分の仕事は絶対他人に任せることはない。プライドを持っているのだろう。合ったばかりの時手伝おうとしたが強く拒否されたことを良く覚えている。それだけ自分の仕事に真摯に向き合っているということだ。だから手伝う時は決まって周りの人に回した仕事の手伝いや身のまわりの世話などをしている。手伝いをしているのはもちろん下心もある。華琳殿から仲良くするよう言われたところなだからな。

 

「ではあなたは何の目的もなく手伝っていたと。」

 

「あぁその通りだと言いたいが目的はあるとも」

 

「なんですか?」

 

「曹洪殿と親しくなることだ。」

 

「はぁ……?」

 

そんな顔で見ないでもらいたい。

 

「良く華琳殿から注意されたのだよ。」

 

「お姉様から?」

 

「将程の地位の中で私が真名を呼んでいないものが二人いることを先日言われてな。」

 

「確かに私や桂花さんのことを真名で呼んでいませんね。」

 

「私としては無理に呼んで不快にさせるのは進まないのでな。」

 

「………」

 

何を言っているのこの人は?という顔で見られる。

私は何かおかしなことでも言っただろうか。

 

「私はあなたに真名を許していますよね。」

 

「そうだな。初対面の時に許してもらった。だがあの時は半ば強制で曹洪殿も嫌々だっただろう?」

 

「まぁそうでしたけど……」

 

「よって再び真名を呼ぶのを許してもらえるまで私は真名を呼ばぬと決めているのだよ。今は確かにあの頃より格段に信頼関係を築けているとは思うがな」

 

「………はぁ……」

 

明らかに呆れたようなため息をつかれる。

 

「それは先に言わなければ伝わりませんわ……

私はあなたにもう真名を許しているつもりです。その認識を持っているのに再び真名を許してもらうために関わりにきているなんて気付くわけありません。」

 

「うっ……それはそうだな……」

 

あまりそこを考えてはいなかった。今まで以上に親しくなりさえすれば察してくれると思っていたが確かに最初から真名を預けたと認識していたのであれば私の行動の真意には気付かない。

 

「しかも、あなたは日頃から仕事を手伝ってくれるのですからもっと良くわかりませんわ。」

 

「す、すまない……」

 

「まぁいいですわ。」

 

そういい曹洪殿は立ち上がって。

 

「私の真名は栄華。あなたにこの名を預けますわ。今度は正しく受け取ってくれますわね?」

 

「あぁ……預かった名に恥じぬよう、その信頼に答えよう。」

 

「えぇ勿論です。私の真名は安くはありませんから。」

 

私は栄華殿との信頼関係を再認識する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラハムさんから真名のことについて聞いたときは本当に呆れた。そして同時にグラハムさんは私との信頼関係を築けていないと思っているのではと思った。私の真名を呼ばないのはただの気づかいであると思っていたし実際そうだった。だがそれが本当に信頼がないから真名で呼ばなかったのでは?そういった不安がよぎった。

グラハムさんは少し言動が気持ち悪いことがありますがそれ以外は信頼に足る人物。私の仕事も必要以上に手伝わずに私の意思を尊重してくれる。そして一将としても良い成果を残してきている。これまであってきたような言葉だけの男とは違うのだろう。なので他の、あくまで他の男よりは信頼しています。それが私の一方的なものなのではないかとそう思ってしまった。

こちらが信頼しているのにあちらはなにも思っていないなど、これほど虚しいことはない。まぁグラハムさんの話を聞くとそんなことはなかった。ただ分かりにくいだけだった。誰が許した真名を再び許せということに気付けといいますか。無理な話ですわ……

どうにか私が思っていることは伝わったようで良かった。そして今はグラハムさんと外に昼食を食べに行っている。

城の食堂にいったところ、少し早い時間から休憩にしたというのに多くの兵が食事をとっていた。ある程度男の人は大丈夫といってもここまでいると少し私にはきつかった。桂花さんなら卒倒しそうですわね。

そうしたらグラハムさんが良い店があると言われて外に出た。

 

「ここだな。」

 

「なかなか歩きましたね。

といってもここですか……」

 

連れてこられたのは町の外れ。見た目は少し古い。ここが本当に店なのだろうか?という程他の民家と見た目が変わらない。

グラハムさんに言われるがまま入ると外見とは違い綺麗な内装が広がっている。

 

「いらっしゃいませ。あら、隊長さん。」

 

「二人だが大丈夫かな?」

 

「えぇ勿論ですよ。あなた!隊長さんがいらしたからいつものを二人ぶん宜しくね。」

 

「了解。」

 

奥から出迎えてくれた人の旦那さんの声が聞こえる。

 

「ささお席に案内いたします。」

 

そういって席に案内される。どうやら私達以外に客はいないようですね。

私達は対面の席にそれぞれ腰かける。

しばらく無言の時間が続く。何か気が利く言葉でもかけれないのでしょうか。待っているとお茶が運ばれてくる。

注いでいる茶器を見るとわりと本格なもののようだ。

器とり口に運ぶ

 

「美味しい……」

 

私が城で毎日飲んでいるお茶より美味しい。深みがあり飲みやすい。城で飲んでいる茶葉も安くないものなはず。それと比べてもこちらのほうが美味しいと感じるほどの差があった。

 

「そうか気に入ってくれたようで何より。」

 

グラハムさんは私の表情で察したのか笑顔で語りかけてくる。

 

「グラハムさんは良くここにこられるんですか?」

 

「あぁ。仕事終わりや休日には来ることが多いいな。失礼だが人が少ないところもいい。そして茶も上手いときた。一人で落ち着くにはとても良い場所だ。」

 

「本当に失礼ですわね……まぁ落ち着くには良い場所というのは同意します。それにしてもこのお茶……何の茶葉何でしょうか?」

 

「あら内の茶葉気に入ってくれたのお嬢さん?でもねそれは秘密にしてるの面白くないじゃない。」

 

私のことをお嬢さんと呼ぶのだから私のことを曹軍の金庫番ということを知らないのでしょう。ここにきてあまり時間がたっていないのでしょうね。このお茶だけでも話題になってもおかしくないでしょうに。

 

「はい、お待たせ。」

 

運んできた器を机の上にのせる。餃子、小籠包、焼売などの点心と先程の茶を入れる茶器と茶葉が置かれる。

 

「ここは飲茶のお店なのですか?」

 

「う~ん。少し違うわね。ここはどちらかというと点心を主たに置いているの。少し珍しいけどね。」

 

「はぁ……」

 

点心が主役なのはあまり聞いたことがない。点心とは主食が来るまでの繋ぎの料理や、軽食をさす。

それほど自信を持っているということでしょう。

 

「いただきます。」

 

グラハムさんはそう言って手を合わせる。彼のいた世界の礼儀といっていたが……そう考えてる私を見ずに彼は食べ始める。

私も食べるとしましょうか。でも少し早いのもあってあまり食べれないのですよね……結構量がありますしどうしましょうか?

 

 

 

 

 

「食べきってしまった……」

 

机に広がっていた点心はもうすでになくなり。甘味の胡麻団子ももはやなくなっている。

だって仕方ないじゃありませんの点心は全体的にあっさりとしていて少しある油もお茶で流してくれるのですから。まぁ明日から遠征な訳ですし大丈夫でしょうかど……

 

「どうだ?美味しかっただろう?」

 

「はい……食べすぎてしまうぐらいには……」

 

「ははは、ならば連れてきたかいがあったというもの。それでは帰るとするか。」

 

そしてお互いに立ち上がりお金を払いに行く。

 

「今回は私が払おう。」

 

「いえ私の分は私が払いますわ。」

 

「問題ないさ。私は給料はほとんど使っていないのでな。」

 

「それは関係ありません。お金の話は後で尾を引くんです。」

 

お金は決して勢いで無駄遣いしていいものではありません。それにここで払ってもらったとなれば下手に借りを作ってしまう。男相手に借りを作るのは進みませんわ!

と言い争っていると

 

「もうそんな言い争って。親子喧嘩は外でしなさいな。」

 

「だ、誰が親子ですか!」

 

親子と言われ真っ先に反応した。確かにグラハムさんは私よりも一回り歳をとっていて金髪で碧色の目をしていますが……って思ったより一致はしてますのね……

 

「いや、彼女は私の仕事仲間だ。少し城のほうが混んでいてなちょうど良いから連れてきた次第だ申し訳ない。これが代金だ。」

 

「あら、すみません。結構似てらしたものですから。お嬢さんもすみません。またいらしてくださいね。」

 

とグラハムさんはもうお金を払ってしまい。私も背中を押され外にでてしまった。もうこうなってはなにも言えませんわね……

 

「ありがとうございます。」

 

「こちらこそすまない親子と間違われては少し思うところもあるだろう。まぁこれ以上この話を広げないほうが良いだろうな。」

 

「はいできればそうしてください。それにしても良いところでしたね。」

 

「そうだろう。また空いてる時にどうだ?」

 

「その時は一人で行かせていただきますわ。また勘違いされたくありませんもの。」

 

「振られたな……」

 

「さてあちらに帰って仕事を済まさなくては行けませんね。グラハムさんは……「私も手伝おう」そう言うと思いましたわ。では昼前に言っていた真桜さんと春蘭さんの所に行ってから来てください。その後は手伝うものがあれば手伝ってもらいますわ」

 

「了解した。」

 

そして珍しく男性と過ごした昼は過ぎていったのだった。

 

 

やはり運動は少ししましょう……



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第二十五話 黄巾の乱

 

「隊長……」

 

我々は陳留からでて黄巾が集合している方に向かっている。今は陣を設置し周りを偵察している最中だったのだが

 

「な、何よ私達をどうするつもりよ!」

 

「そうだーそうだー」

 

「はぁ姉さんたちったら……」

 

この見た目が派手な三人姉妹に出会った。最初に出会ったのは私達ではなく真桜殿と沙和殿の部隊であった。偵察に新兵をつれでていたところ怪しい女三人を見つけ話を聞いたところ名を桃色の髪をした女が張角と名乗ったという。そこで真桜殿と沙和殿が気付き、一番近くにいて仲の良い凪がいる、私達の隊の所に応援を求めたということだ。まぁそれで来てみたものはいいもののその三姉妹は兵に囲まれながら不服そうに立っていた。持ち物はなく手ぶら、服は大分汚れているようだな。

 

「何か代表らしい人が来たわよどうするのよ人和!」

 

「わぁ大きな傷……お姉ちゃん怖いよ……」

 

「姉さんたちは黙ってて私が話すから。」

 

そういい。恐らく一番しっかりとしているであろう眼鏡をかけた女性が私の方を向き話しかけてくる。

 

「はじめまして。」

 

「あぁはじめましてだな。してこんなところになぜ女性が三人のみでこのような荒野を歩いていたのだ?護衛ぐらいつけなければいけないだろう。このように危険な世の中だしな。」

 

「それもそうですね。でも私達旅芸人をしていてとうとう護衛を雇うお金も尽きてしまったの。できれば近くの村まで送ってほしいのだけれど。」

 

「そうしたいのは山々なのだがな。いかんせん我々にも任務がる。とりあえず話すため本陣へ向かおう。私だけの判断でどうにかできるわけではないからな。」

 

「えぇそうね。ついていくわ。」

 

「結構。そうだ、自己紹介を忘れていたな。曹軍の将グラハム・エーカーだ。」

 

そういい再び顔を見ると眼鏡をかけた女性の顔がみるみる青ざめていく。後ろにいた二人の女性も同様を隠しきれず

慌てている。これは間違いないか。

眼鏡をかけた女性に近づき彼女にしか聞こえない声で

 

「貴殿たちがなにをしてここに来たか私にはわからんが私は貴殿たちに危害を加えることはない。」

 

「そんなこと信じ……」

 

「だから右袖にしまっているものを隠せ。今なら間に合う。」

 

彼女は顔は青ざめながらも袖に仕込んでいる短刀を取り出そうとしていた。恐らく一矢を報い姉達が逃げる隙を作るためといったところか。

 

「まだ周りの者は貴殿らが首魁であることを知らん。これ以上は騒ぎにさせない。命の保証はしよう。だから……さぁ」

 

とあい右手を差し出す。

 

「………」

 

不安そうな表情で私を見て、その後怯えている姉達の方を見る。そして

 

「わかったわ好意に甘えるとしましょう。姉さんたちもいいわよね。」

 

私の手をとり承諾する。その手は震えていたがどうやらわかってくれたらしい。

 

「わ、私は嫌よ!そいつあれでしょ!顔に傷があって異国人で曹軍って、青の遣いじゃない!天の御遣いから聞いたわよ!絶対ましな目に遭わないわ!」

 

「えぇ~お姉ちゃんは顔はかっこいいと思うけど~」

 

「姉さん!そんなこと言ってないで」

 

「ははは、感謝する。

それにしても私は天の御遣いにも知られているのか。なかなか世界は狭いものだ。それについても本陣へ向かうときに説明してもらうとするか。」

 

といい先に進む。

 

「ほら姉さんたちも。」

 

「ちょっとあんた!待ちなさいよ!おいていくなとは言ってないでしょ!」

 

「まってよ~二人とも~」

 

本当に性格の違う姉妹だ。

 

「隊長良かったのですか。」

 

「あぁ問題ない。華琳殿ならあやつらをほっておかないさ、良い意味でな。」

 

「………」

 

「納得いかんか?」

 

「はい。」

 

率直だな。流石凪だ。

 

「あぁ私もだ。納得はいかん、人の暮らしを破壊しつくした歪みだ。決して許されるべきではない。だがな凪よ。

私達はあやつらとも分かりあう必要がある。凪はあのものたちはなぜこちらに来たと思う?」

 

「ただ散歩していただけでは?間抜けすぎる気もしますが……」

 

「まぁそうだな。そう思っても仕方ないだろう。」

 

敵から見ればその方が処理しやすい。敵であることは確かな者ならば簡単に理由をつけ殺すのが最も簡単で確実だ。

 

「隊長はどのようなお考えで?」

 

「あくまで予想だが。彼女たちは逃げてきたのだろう。」

 

「逃げてきた、ですが。何から逃げていたのですか?」

 

「恐らく黄巾の者たちからだろうな。理由はわからんが。」

 

「はぁ……そんなことがあるのでしょうか?味方から逃げたということになりますが………」

 

「あの眼鏡をかけた少女は姉たちのためならなんでもするような覚悟があった。良き目だった。あの少女があそこまでするのだ、何かあったに違いない。いや、あそこで私に挑もうとするなど……ははは、肝が据わった少女だ。」

 

そう笑ったところ。凪の目がジト目に変わる。

 

「華琳様に段々似てきている気がしますね……少し押さえてくださいね。桜居にも悪影響です。」

 

全く。酷い言われようだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

して本陣へ連れていくとまぁ騒ぎになるわけで……

特に荀彧殿は

 

「あんたは何てもの連れてきてるのよ!」

 

と怒られもしたが。結局は華琳殿が決めることだとしてそれ以降はあまり喋らなくなった。話し合いに参加したのは華琳殿、我々将春蘭殿、秋蘭殿、華侖殿、柳琳殿、シャン殿、そして私。軍師である荀彧殿、金庫番である栄華殿。そして今回の同行を名乗り出た喜雨。

まぁ良く見る面子だ。そして三姉妹がそれぞれの名前を言うことから始まった。

三姉妹のそれぞれの名は上から張角、張宝、張梁と言った。張角は首魁として名前だけは有名だが姿はこのような女子だとはな……そしてこの黄巾が起こった理由を話し始めた。

最初はただの旅芸人として活動をしていて彼女たち。とある町で歌っていたときに言った『大陸をとる!』という言葉から周りの熱狂的な支持者が変わっていった。彼女たちは歌で大陸をとるつもりだったが、支持者が曲解し武力で大陸をとろうとした。最初は護衛としても扱えるので放っておいたのだがそれが瞬く間に広がっていき多くの武力をもつ支持者を従えることとなった。だが彼女たちは軍を従える経験も実力もない。その結果統率が取れずに仲間に盗賊などを勝手に加えられ盗みを働くようになり、ここまでの被害を及ぼしたということだった。そして流石にこのままでは自分達は黄巾の首魁として殺されてしまうと考え隙を見て逃げてきたところで私と出会ったということだった。

あいにく私の予想通りになった。

今回も信仰が争いを産み出した。自分が信じる神、今回は三姉妹を盲信するがゆえの争い。どの時代も同じなのだな……

理由もわかった。そしてここからは彼女たちをどうするかだ。確かに彼女たちも今回の騒動に巻き込まれた側の人間だ。だが彼女たちが引き起こしてしまったのには変わらない。そこで華琳殿が下した決断は。

彼女たちを殺したことにし、曹軍の新兵を集めるため、士気をあげるため雇うという。

勿論反対は出た。荀彧殿はここまでしたものを生かしておけば我が軍の汚点になる可能性があるといったもの。栄華殿も資金源の問題から反対した。

資金源の問題は張梁の金銭への理解もあったということで試用期間をもうけることで同意。

荀彧殿に関しては軍師故の最悪を考えた上での言動。華琳殿が最終的に決定したことにはなにも言わなかった。

最後華琳殿が喜雨殿に確認をし、了承して軍議は終わりとなった。

 

 

 

「喜雨殿。」

 

「どうしたの。僕に何かよう?」

 

軍議が終わった後今回の遠征に同行していた喜雨殿に話しかける。

 

「いや少し話そうと思ってな。」

 

「こなくてもよかったのに。」

 

「いや、ついてくる理由も聞いていなかったのでな。」

 

そう。彼女の専門は農業。この遠征を決めるまでは、地方の邑で農業方法を教えるために遠出していた。そして私たちが遠征の準備をしている時。定期連絡で城を訪れていた喜雨殿は華琳殿に同行を申し出て今に至るということだ。

正直彼女がここに来る必要性はない。

 

「別にただ今まで邑々を襲って母さんの国を攻めた黄巾たちの頭が見てみたかっただけ。実際はあんなのだったけどね。」

 

「確かに彼女らが黄巾を従えていたなど実際に見たものしか信じまい。」

 

「はぁ……少し向きになってたのが馬鹿みたい。」

 

「そんなことはあるまい。知りたいということは分かりあうことへの第一歩だ。」

 

喜雨殿のようなことを思えるものは何人いるだろう。自らの故郷を思い入れのある邑を荒らされ、見知った人が何人も犠牲になったはずだ。そこまでされてでもただ恨むだけでなく会ってみたいと思う。その姿勢は尊敬にあたいする。

 

「相変わらず年寄りみたいなこと言うね。」

 

「年をとることは悪いことではないさ。

それと眼鏡はどうしたあの時のものとは違うようだな。」

 

「急だね。あの眼鏡は今は私がいた邑の部屋にあるよ。あれは母さんがくれた初めての眼鏡だしね。」

 

やはり燈殿と喜雨殿は仲が良いようだ。ぱっとみ仲は悪そうなのだが……もっと表だってそれを表現すれば良いのだといつも思う。

 

「そうか。確かにそれは持ち歩けないな。」

 

「それでわざわざ僕に話しかけたのは何?」

 

「流石に誤魔化せないか。」

 

「いや、あれぐらい誰でも気づくでしょ……」

 

「ははは、やはり嘘はなれんな。

まぁもう目的は達成したさ。喜雨殿なら問題ない。」

 

「だからなんなのさ。」

 

「あのような姿を見せられて怒りに身を任せずに落ち着いていられる。それが確認できただけで良かった。

この争いが終わり次第食事でも奢ろう。」

 

「いいよ当たり前のことだしそれよりも……」

 

といい後ろを指差す。その方向を見ると、こちらにこいと手招きしている秋蘭殿がいた。恐らく戦いの編成の話だろう。

 

「そうだな。まずは目の前の戦いだな。」

 

「早く行ってきなよ。」

 

「あぁ。時間をとらせて悪かった。」

 

そういい私は秋蘭殿のもとに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

編成の準備も整い。陣もしきおわった。

 

「なかなか敵の数も多いわね。」

 

我々の眼前には黄巾の者共が陣をしいている。

 

「賊が陣を敷くか!面白いものだな、ははは。」

 

そう私が笑うと荀彧殿が少し顔を歪めて言う。

 

「なにも面白くないわよ……これならまだ雑に固まってたほうが何倍も良いわね。付け焼き刃でも陣は陣。過去の戦いで結果を残したものなのよ。」

 

「わかっている。それで今回はどのような策をとる?」

 

「まずは敵の士気を下げるわ。あの三姉妹を使えば離反するやつらも多くなりそうだし。」

 

何かやらせるのだろう。表情は確信に満ちている。

 

「ていうかなんであなたは本陣にいるのよ。」

 

そう私は今回は本陣の守りに参加している。

 

「秋蘭殿の指示だ。今回の戦はグラハム隊の一部は本陣の守護に参加する。」

 

「よりによってあんたが……」

 

荀彧殿の指示により何人か本陣に呼ぶよう言われそれを私が引き受けたということだ。桜居は秋蘭殿と共に隊を率いているはずだ。

 

『なんで俺ばっかりーーー!』

 

と言っていたが凪が圧で黙らせていたので大丈夫だろう。

 

「桂花、グラハム始まったわよ。無駄話はよしなさい。」

 

ここからでは始まったかわ実際わからない。最前線からは大きく離れている。声なら少し聞こえるがそれはただの雑音だ。その中で気配を感じ取る華琳殿、やはりただものではない。

 

戦は順調に進んでいるようだ本陣では定期連絡の伝令が行き交いそれに対して指示をだす、軍師の者たちでわかれている。華琳殿はただ前線を眺めている。決して目をそらさずに。

 

「あ~疲れた……お水頂戴よ。」

 

前線で策を終えた三姉妹が帰ってきたようだ。

ようやく私の仕事ができる。

 

「前線での任務遂行ご苦労。これからは私達グラハム隊が警護につく。よろしく頼む。」

 

私が呼ばれた理由は三姉妹の警護が目的だ。離反したものが後方から三姉妹を奪取にする場合もあるからな。伝令の情報で離反した者は約3割。そう考えれば保険として私を呼ぶのは正解だろう。

 

「じゃあ私達は休ませてもらうわ。行くわよ姉さん。」

 

「は~い。じゃあよろしくねぇ~」

 

「任せたわよ!あぁほんと疲れた!」

 

といい陣に入っていく。

相変わらず眼鏡の少女以外緊張感のない。実際に黄巾着を、率いていたのは彼女だけなのかもしれんな。

 

そうしてしばらく戦線を華琳殿を真似するように眺めていると

 

「グラハム。」

 

「どうした?」

 

「来るわよ。準備なさい。」

 

「了解した。どのように対処をする?」

 

「できれば捕らえなさい。ここまで来るということは彼女たちの熱狂的な支持者なのでしょう。これからの足場作りにも役立つわ。」

 

「了解した。」

 

そういい私は華琳殿の隣から離れ三姉妹のいる陣の警護に移る。本陣から去るときに桂花殿に睨まれた気がするが気にすることはないいつものことだ。

 

持ち場につくと数十人が後方の陣に侵入してきた。

しかし連度が低いのかすぐに鎮圧が可能だった。

親衛隊隊長を名乗るものが捕らえられた状態で声をあげる。

 

「くそっ!天和ちゃんたちを帰せ!」

 

真名を許されているということは親好も多くあったのだろう。

 

「すまないがそれはできない。」

 

「な、なら俺を張角として殺してくれ!天和ちゃんたちは関係ないんだ!ただ他のやつらに巻き込まれただけなんだよ!」

 

「黙れ!」

 

と私の兵が彼を地面に押さつける。

それでも彼は言うのを止めない。

 

「お願いだ!あの三人だけは死んじゃいけないんだ!」

 

そして彼は兵を振り払い私のもとに駆け寄る。

そこでなにもしない私の部下ではない何人か切りかかろうとするが私はそれを手で制す。

私の足下に頭をつけて

 

「俺はどうなってもいい!お願いだ!」

 

そう言うと後ろで捕らえられていた者たちも呼応するように

「お願いします!」

「どうか彼女たちでも……」

「俺らの命はどうでも良い!」

 

という声があがり皆頭を下げる。

 

「「「お願いします!」」」

 

ここまで言われては私もかなわんよ。

 

「頭をあげろ!」

 

そう一喝し頭を上げさせ私を見させる。

 

「貴様らの愛良くわかった!その愛これからも生きてあの三姉妹に尽くせ!わかったか!」

 

「それじゃ天和ちゃんたちは……」

 

「あぁ勿論無事だ。これからもな。

ただ今は拘束はまださせてもらう。それは了承してくれ。

私は本陣に報告してくる。ここは頼むぞ。」

 

「はっ!」

 

そうして本陣に戻るともう戦は終わっていた。勿論我々の圧勝。

こうして黄巾の乱は終演を迎えた。

 

 

 

 

それにしても良き愛であった。

あの三姉妹もやるものだ……



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第二十六話 

 

黄巾の本拠地を叩いてから数日がたった。

未だに残党が見られるが私達将の活躍によって終息しつつある。

戦後の処理や襲われた邑の復旧作業などで少々忙しかったが、今は城に籠らなくても政は正常に回るようになった。

そして今は

 

「……………………」

 

「……………………」

 

静かな昼食を華琳殿ととっている。来ているのは私が通っている点心の店だ。ここを静心と呼んでいる。ここを紹介したのは華琳殿と栄華殿しか今のところいない。最初にここに連れてきたのは栄華殿ではなく華琳殿だ。あの忙しい時にいつの間にと思うだろうが流石に昼には時間が空く時があるその時に誘ったということだ。美食家であるということもあり少し不安もあったがお眼鏡にかかったらしい。それからもたまに通うようになっている。

 

「そういえば、栄華のことを真名で呼ぶようになったけれど進展があったのかしら?栄華もここを知っているようだったけど。」

 

先に口を開いたのは華琳殿だった。

 

「あぁ栄華殿もここに誘った。そして真名を許してもらった。」

 

「なら栄華も仕事が忙しくなければ誘えば良かったわね。ここは特に美味しいのだから、ぜひ城の料理担当に迎えたいところだけれど。どう店主、気は変わったかしら。」

 

すると店の奥から店主が私達が座る机まで来て

 

「遠慮しますよ。細々と私が選んだお客様に料理をお出ししたいのです。どうかご理解ください。」

 

そう言って点心を机の上に置く。

 

「わかっているわよ。」

 

ここに来ると城で働かないかと勧誘をする。才を求める華琳殿にとっては当たり前のことなのだろう。

この店は完全な招待制となっている。店主や店主の奥方が選んだ者のみ入ることができる。私が入れたのはただ目の前を通った時に奥方に手招きされて訪れたのが最初だった。客は私達以外に数人来ているところは見たことがあるが両手で数えるほどだ。

 

「ありがとうございます。こちら最後の品ですが他に注文はありますでしょうか?」

 

「大丈夫よ。もう少しゆっくりしたいのだけれどこれから仕事なのよ。」

 

「そうでしたか。では何かありましたら妻に言ってください。」

 

しばらくして昼食をとり終わり会計をすませ外にでる。

 

「良かったのか?王が臣一人のみで外食など。」

 

「別にいいわよ。というか誘ったのは貴方ではなかったかしら?」

 

「それもそうだな。」

 

「私はいいのよ。でも城にいる桂花や春蘭は今頃どうしているのかしらね。」

 

確かにあの二人なら昼を華琳殿と食べたがるな。

そう言いながら歩いていくと大通りにでる。華琳殿を知っているものは立ち止まり頭を下げる。下げないものもいるが数えられるほどだ。

 

「そちらの仕事はどうなの?」

 

恐らく黄巾の残党のことだろう。

 

「まぁ上手くいっている。まだ数は多いいが徐々に減っては来ている。それよりも今は文官のほうが忙しいだろう。柳琳殿や栄華殿が多忙にしているのを見聞きしている。」

 

争いが終わって武官の大きな仕事が終わり次に大きな仕事が来るのは文官である。被害をどうするか、どれ程補修するか、予算はいくらか決めるのは全て文官。

命の危険は武官よりないが、常に頭を使い多忙なのが文官といったところだ。

今は少し緩和されてはいるようだが忙しいことに変わりはないようだった。

 

「あれが彼女たちの仕事よ。頑張ってもらわなくては困るわ。でも確かに今は忙しい時期ね。落ち着いたら休暇でも与えましょう。」

 

確かに忙しすぎていたからなそれぐらいしてもいいだろう。恐らく皺寄せは私たちに来るだろうが、それぐらいは構わないだろう。

 

「それじゃあ今日は私に付き合ってもらうわよ。」

 

「了解した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様ーどこにおられるのですかーー!」

 

隊長を探していると辺りを見渡しながら廊下を歩いている。春蘭様と秋蘭様を見つけた。

 

「どうなさいましたか?なにか探し物でも。」

 

「おぉ凪か。今は華琳様を探しているのだ。一緒に昼食でもと思ってな。でも探してもいらっしゃらないのだ。もう昼食から帰ってこられる時間なのだが。」

 

「そうなのですか……私も隊長を探しているのです。もう戻らる時間なのですが……」

 

「グラハムもいないのか……」

 

秋蘭様は少し考える素振りを見せて

 

「あぁ……」

 

何か納得したような顔をする。

 

「おぉ秋蘭何か察しがついたか?」

 

「あぁ取り敢えず栄華のもとに向かうとしよう。」

 

「栄華様ですか?」

 

何故ここで栄華様の名前がでるのだろうか。隊長とはあまり仲がよろしくなかったような……

と思ったが大人しくついていくことにした。

 

「栄華いるか?少し聞きたいことがあるのだが。」

 

「秋蘭さん?構いませんよ。」

 

と栄華様の私室に入る。金庫番の方々は最近仕事が忙しそうだが今は休憩の時間なのだろう持ってきてもらった昼食を取っていた。

 

「あら春蘭さんに凪さんまでどうなさったんですか?」

 

「華琳様がいらっしゃらないのだ。」

 

「私は隊長を探しているのですがそろそろ仕事の時間なのですが。」

 

「あぁそれなら二人で一緒に外食しに行きましたよ。お姉様は今日は昼から休みを取っているようですし。」

 

「何!?」

 

「やはりか。」

 

「秋蘭様はなぜおわかりになったのですか?」

 

「いや華琳様と二人が話しているのを見かけたからな。仕事の話しかと思ったが、予想通りのようだ。恐らくグラハムも一緒だろう。」

 

「ですが隊長が仕事を放棄して付き添うでしょうか?」

 

「グラハムさんならお昼までの仕事を全部済ませたと言っていましたが……」

 

済ませた……確かに昼からの仕事は少なく後に鍛錬をすると言っていたが……

隊長が仕事を残してどこかにいくとは考えにくい。本当に終わらせているのだろう。

 

「グラハムめ!華琳様を一人占めにしてずるいぞ!」

 

といい駆けていこうとする。恐らく華琳様と隊長を探しにいくつもりなのだろう。がそれは秋蘭様の手によって止められる。

 

「姉者流石に仕事を放棄して行くのは止めた方がいいと思うぞ。」

 

「だ、だが!」

 

「仕事を放棄したとあってはこの忙しい時期皆に迷惑をかける。ただではすまないかもしれんぞ。」

 

「秋蘭~~」

 

失礼だが姉妹が逆なのではないかと思ってしまうことがある。本当に失礼ですが。

 

「では私達は仕事に戻るよ。」

 

「わかった……」

 

「私もそろそろ行きませんと。それでは凪さんまた」

 

と言ってお三方は仕事に戻っていった。

部屋の前で一人で立ち尽くす。

 

「仕事がなくなってしまった……」

 

隊長の仕事はグラハム隊の仕事全部。それが終わったということは私や桜居の仕事も終わったということ。

実質昼から休暇になったということ。鍛練でも……

いや仕事をしましょう。町で警邏をしている真桜と沙和の監視です。前回さぼっていたから今日はしっかりと仕事をしているだろうか?

 

 

 

 

「………ちょ出すぎや沙和!」

 

「真桜ちゃんも声が大きいの~」

 

外に出て真桜と沙和を探していると物陰から通りを除いている二人を見つけた。誰かを監視しているなら良かったのだが……

 

「いやーあれは珍しいで。」

 

「なの~凪ちゃんもきっとびっくりするの~」

 

そんなことはないらしい。

またか……しょうがない……

取り敢えず頭に鉄拳を落とす。

 

「貴様ら!」

 

「いった!何すんねん!って凪!?いや……これはな理由があってな?」

 

「痛いの~でも本当に凪ちゃんもびっくりするの!ほら見てみるの!」

 

「下らなかったら承知しないからな……」

 

といい二人が覗いていたところから顔を覗かすと

隊長が華琳様と一緒に談笑をしながら歩いていた。

 

「ほら凄いやろ?」

 

「何がだ?」

 

「いやだって凪ちゃんの隊長さんが華琳様と一緒に昼から仲良く歩いてるの~逢い引きに違いないの~」

 

「だからそれがどうしたというのだ。」

 

「「へ?」」

 

「隊長はよく女性と一緒にいるぞ。私ともそうだが秋蘭様とは良く話しているし春蘭様とは良く二人きりで鍛練をしている。華侖様とはよく遊んでいらっしゃいますし。柳琳様とはよく仕事の相談をされるような仲です。最近は栄華様とも仲はいいですし。季衣様と香風様とも仲が良いですし。」

 

まぁ桂花様とは相変わらずですが。

 

「凪ちゃんはあれを見てどうも思わないの?」

 

「沙和は何がいいたいのだ?」

 

「いやだってあんな手紙送っといて付き合ってないと思う方が無理って話しやないか。」

 

「私が付き合う?誰とだ?」

 

「そんなん隊長さんに決まっとるやろ。」

 

付き合う私が隊長と?

 

「い、いや!そんなことないぞ!私が隊長となどお、おこがましい!」

 

「まぁ隊長がたらしっちゅうことはわかったわ。」

 

「なの~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か騒がしいけど何かあったのかしら?」

 

確かに騒がしいがというか原因は凪含むあの三人だな。私からはよく見えるが流石に何を騒いでいるかわわからない。

 

「問題はないだろう。よくあることだ。」

 

「そう。じゃあ今度はお茶でも飲みましょうか?」

 

「あぁ。ついていこう。」

 

そう言い足を近くの茶屋に向ける。

 

「それにしてもあんなひらひらした服が流行っているなんてね。」

 

今回行った服屋は最近できたもので流行りものを扱っている店だ。その中にはひらひらしているこの時代にはそぐわないものだった。

 

「それも急に流行ったみたいだし……あなたは何か知っている?」

 

「いや詳しくは知らないが、あれは私のもといた世界にあったものによく似ているな。」

 

「ということはあちらの天の御遣いの仕業かしら?未だに挙兵の話しも聞かないし天の知識を使って商人にでもなったのかしら?」

 

私は軍人であったからこそこの生活になれることはできたが一般人であった場合酷な世界だろう。

 

「そうかもしれぬな。戦場に出ないからこその幸せもある。」

 

「あら、じゃあ貴方も商人にでもなるつもり?」

 

「いや私は今の立場が一番あっている。私はこの生き方しか知らないからな。」

 

私は孤児でそれから士官学校を経て軍に入った。空を飛びたいその理由のために軍に入るのに躍起になっていたため普通の生き方など最近までは考えることもなかった。今は守る民も近しい人の一人となる。普通の暮らしに触れる機会も多くなった。

 

「私の視野の狭さに呆れたものだ。」

 

といいいつの間についていた茶屋の椅子に腰を下ろす。

そして注文をしてしばらくたち茶が届く

 

「貴方本当に天の世界で全うには生きていなかったのね。」

 

「まぁそうだな。本当に一つの目的だけ見ていた。目覚めたのはここにくる少し前だったな。」

 

「女性との経験も無かったと言っていたけれど」

 

痛いところをついてくる。確かに言ったが。

 

「そうだな。本当に女性と話をしたこともあるのも数えるほどだ。」

 

軍の連絡で触れることはあったが親しげに話したのは本当に少ない。軍人同士の合コンもあったが私は不参加だったしな。

 

「栄華を口説いたんだもの。経験がないと言う方が無理があるわよ。誰かここに来て手でもだしたのかしら?」

 

「残念ながらそんなことはない。」

 

「あらもったいない貴方の周りには多くの美しい花があるのに。」

 

大半が貴殿の愛人又は身内だろうによく言う。

 

「そう。例えばあの子とか。」

 

「あの子?」

 

「ほら」

 

華琳殿が指を指した方向には

 

「凪か」

 

後方からついて来ている気配はずっとしていた。

 

「あら他の二人は候補に入らないの?」

 

「真桜殿と沙和殿も魅力的ではあるがよく知らぬのでな。」

 

「そうね。でも凪は良い子よね。健気だし貴方に尽くしてくれている。私もほしくなってきたわね。」

 

「流石に止めたまえ。純情な乙女なのだ。そちらの道にいくには早いと思うが。」

 

「私は純情な乙女でないと?」

 

「凪と比べてしまっては誰でもそうなってしまうさ。」

 

少し嫌な予感もしたが華琳殿は流してくれたようだ。冗談一つであの覇気とは恐れ入る。

 

「でも本当に欲がないのね。私ならすぐに味わいたいと思うのだけれど。貴方が不能でないこともわかっているし。」

 

「それとこれとは話しが違うのだ。」

 

「そういうものかしら?」

 

「そういうものだ。」

 

といいどちらかでもなく立ち上がる。

 

「次が最後の予定よ。最後まで付き合ってもらうからそのつもりで。」

 

「わかっているさ。

ただ手加減はできないがな。」

 

「えぇ、もちろん。」

 

といい城の裏手に向かうのだった。

後ろの三人もつれて。

というか凪はいいが真桜殿と沙和殿は仕事の最中だったはずだが良いのだろうか?



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第二十七話

 

 

「っていってもあの二人どこまで行くんやろかい?」

 

「もう歩き疲れたの~」

 

私達は隊長と華琳様を追って裏山まで来ている。

 

「お前らは仕事はいいのか。」

 

「なのもう引き継ぎは済ませたわ。これ以上凪におこられたくないしな。」

 

「もう拳骨はくらいたくないの~」

 

さぼっていることに何ら代わりがないじゃないか。やはりもう一回ほど

 

「ま、まぁ凪さんも押さえてーや。凪さんも気になるんやろ?」

 

「そ、それはそうだが。」

 

私も気になる。真桜や沙和は恐らく浮わついたものを期待しているのだろうが正直あの二人がわりと近しい関係であることは周知の事実ではある。女性好きで有名な華琳様が男を連れて外を歩くのだ。噂が広がるのは必然と言える。だがそれはもうお付きの人ということで形がついてしまっている。正直二人が男女の仲かと言われたら頭を捻る。信用しあっている関係であること確かだがそこまで深い関係かと言われると春蘭様や秋蘭様と比べればそこまでではないなと誰しも思うだろう。

私が気になっているのは何故この裏山に向かわれたのかだ。この裏山は兵の訓練などで使う標高の低い山で頂上には少し広い開けた平地がある。入り口は兵で守られ許可がなければ入ることはできない。そんなところに二人きりでいって何をするのだろうか?

というか隊長と華琳様なら私達が近くにいることもわかっているはずだ。それなのにここまでついてくることを黙認している。本当に何をされるつもりでしょうか。

 

「お、平野に出たで……」

 

「ちょ真桜ちゃん!隠れないと駄目なの!凪ちゃんもかがんで!」

 

「わ!頭は止めろ!」

 

どうやら隊長たちが足を止めたらしい。平野の一角に荷物をおき少し話している。

 

「さぁさぁこんなところで男女が二人きりなにもおきないわけはなく……」

 

そう、真桜が冗談めかして言うと二人が動き始めた。

 

「動き始めたの!」

 

「こら!静かにしぃ!」

 

そして隊長と華琳様は一定の距離に離れてむきあう。どうやらまた何か話してるようだ。

 

「にしてもどうしてあの二人こんなところに来たんだろ?」

 

「そんなん二人でいちゃこらと……」

 

「でもそれならもっと良いところがあるの~こんな山奥よりずっと。」

 

やっと2人は違和感に気付いた。というか遅すぎるだろう。もう少し早く気付けばここまで……いや、結局この尾行は止めなかっただろう…

チッ……

 

「っ!!」

 

二人を見ていた視線を隊長たちに戻す。そこには先程と変わらずたちながら話している。

 

「な、なんや?今の……」

 

「変な感じがしたの……」

 

あの二人も何かを感じ取ったのだろう。

何かはわかってはいないようだが。あれはまさしく殺気の類いだ。まだちりついている。鍛錬では感じられない飲まれそうな空気。戦場ではよく感じるが、この場所では感じてはいけないものだ。そしてこの場でその空気をだせるのは二人だけ。

 

「…………」

 

「…………」

 

未だに無言でむきあっている。隊長と華琳様以外にあり得ない。

それは真桜や沙和も感じているのだろう。

 

「あれやばないか……?」

 

「嫌な感じなの~……」

 

そして二人は笑顔のまま互いの武器を手に取り構え……

笑顔が消えたと思うと

鉄同士がぶつかる音が連続して響く

日々よく聞く音。だがなにかが違う。一打一打の音が違うわけではない。纏っている空気が違う。

あれは試合ではないあれは死合なのだとわからせられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失礼だが流石だ、華琳殿。

『本気の死合をしましょう。』と言われた時はどうなるかと思っていたがなるほど失礼だが。私と近い実力を持っている。いや、私以上かもしれん。一国の王がここまでの実力を持つのだ流石と言わずしてなんと言うのか。

それにしても鎌という武器は良くわからん。まともに打ち合うといなされ体幹を崩してしまう。

なんとか対応はできているが他のことを考えている暇はないな。

一つ一つ打ち合いを丁寧に返していく。狙ってくるのは首や大腿。武器の形状上最も致命傷になるところをついてくる。ただの仕合ではないそう感じさせるには充分だ。

私もそれに答え二刀を振るう。だがそれは鎌の曲線を使いいなされ体幹を崩される。

 

「くっ……」

 

それを逃す華琳殿ではない。直ぐに攻めに転じ私を攻め立てる。呼吸を許すことのない連激。たが私も負けたままではいられない。適応していきまた打ち合いに戻る。そして激しく打ち合いを繰り返していき私が押し返していくが……

軽い……!

そう思ったのはつかの間、華琳殿の方に引き寄せられる。

右に持っていた剣を捨て蹴りを出す。それは鎌の柄で防がれるが距離は取れた。

華琳殿は平然と立っている。

 

「面白い……」

 

剣を両手に持ち構える。

即座に向かってくる華琳殿。今までとは違い一つ一つ躱していく。避けきれないもののみ剣でうける。

躱すとなると体力の消費も激しくなる。距離を取れれば別だがそうさせてくれる相手ではない。何度も躱し受けていくが段々と追い込まれていく。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

私達三人は呆気に取られていた。それもそう私が隊長と慕う男と我等の主である華琳様が本気の殺し合いをしているのだ。誰もが呆気におられるだろう。私も良く新兵の鍛錬で死ぬ気で取り組めと言うことはあるがこれは……

 

「なぁ凪……?」

 

「……なんだ?」

 

「あれ止めたほうがいいんちゃうか?」

 

真桜の言うとおりなのだろう。真意がわからず目の前で殺し合いをしている。そうだ止めるべきだ……

 

「あ、隊長さんが!」

 

と沙和が叫ぶ

すぐにそちらを向くと隊長の一方の剣が華琳様の鎌にかけられ引き寄せられていた。

だが隊長は剣を手放し直ぐに蹴りをいれることで致命傷を避け距離をとる。華琳様もそれを鎌の柄で受ける。

 

「はぁ……」

 

「びびったわー……」

 

「怖かったの……」

 

安堵の声がもれる。あそこでなにもしなければ鎌は確実に首を捉えていただろう。

そんな危険な状況なのに隊長の口角はあがっている。

そして残った長い剣を両手で構える。

華琳様は追い詰めるため間合いをつめて斬りつける。それを大きく躱す隊長。そしてまたお互いに斬り合う。前と違うのは隊長が大きく躱すので広く場所を使っている。

あのままでは体力が先に尽きるのは隊長であり。明らかに不利なはずなのにどうして……

そうか!落ちた剣をどうにか使おうと……

だがそれに気付かない華琳様ではない。目を移していないのにどこに剣があるかを理解し隊長をそこにいかせまいと立ち回る。

それが続き隊長の顔から疲れが見えてくる。息もきれいる。そして隊長が振るった剣は鎌で引っ掛けられ手から離れ上空を飛ぶ。一瞬空を舞う剣に視線を持っていかれるが

 

「隊長!」

 

咄嗟に声が出る。このままでは隊長の命が危ない。

目線を戻すとその最中に移る大きな影。いやいい今は……

と目線を移すと。お互い武器を持たない二人が向かい合っていた。

何故?華琳様の鎌は?

何かが落下する音で我に返る。

落ちてきたのは隊長の剣。そして華琳様の鎌が落ちる。

いつの間に華琳様の鎌は手から離れたのか恐らく私が目をそらしている隙に隊長が内に入り弾いたのだろう。

そろそろ止めに入らなければ!

 

「これで満足かな?」

 

「えぇ、そうね。そろそろ貴方の可愛い部下が我慢できないでしょうから。」

 

その必要はないようですね。

 

 

 

 

 

 

 

「それで貴方たちは仕事をさぼってここにいると……」

 

「いやぁ……」

 

「う~……」

 

私達の死合が終わると凪と一緒に来ていた真桜と沙和を叱っている。

 

「まぁ当然ですね。ここまで来るにも他の兵に迷惑をかけていましたし。」

 

「それは凪も同じではないのか?」

 

「私になにも言わず、全ての仕事を終わらせ勝手に行った隊長には言われたくありません。」

 

「それは悪かった。だがいかんせん急だったものでな。」

 

確かに伝えておけばここまでついてくることはなかったかもしれないな。

 

「それでどうだ?」

 

「心臓に悪いので止めてください。」

 

「いやそれはできないな。」

 

「はぁ……わかっていますよ。」

 

すまんな凪よ。性分なのだ。

 

「ですがあそこまでするとは思っていませんでした。正直春蘭様との鍛錬を想像していましたので。」

 

「春蘭殿は優しいからな。」

 

「優しいですか……?いつも倒れるまでやっておられますが?」

 

「春蘭殿は一度友と認めた者に本気の殺意は向けん。裏切り者ならわからんがな。だから華琳殿は私と死合をすると言ったのだろうな。」

 

「確かに春蘭様が華琳様とあのように立ち回ることはないでしょうが……わざわざこんなことをせず、鍛錬でもよろしいのでは……」

 

「それは好みの問題だ。主に頼まれたのだ断ることもできまい。」

 

正直に言うと少し冷や汗をかいた。少しでも気を抜けば殺されていただろうな。

 

「隊長は最後何をしたのですか?」

 

「ただ近づいて鎌を弾いたまでた。」

 

「あのそういうことではなく……どうしていたのかと思いまして。」

 

「あぁそういうことか。ならばただの力業だ。鎌と今回初めて立ち回ったが自ら攻める武器ではなく守りの武器であることは形状からわかった。そして刃の形状故に至近距離では斬るまでに時間がかかることもわかる。」

 

「はぁ」

 

一応頷いて見せる凪。

 

「立ち会っていく上でさらに至近距離での脆弱性は目についたが、その場で回しいなし、柄を利用するなどして弱点を補っている。だが私の剣を弾いた時に隙があるのは確かだった。本当はあそこで反動を利用して斬るつもりだったが……上手くはいかないものだな。」

 

あれは反省すべきだ。私の感覚を少し鍛える必要があるな。

 

「……まぁ概ね理解しました。ですがあまり無理はしないようお願いします。隊長であることを忘れないでくださいね。」

 

少し心配をかけすぎたようだな。部下に心配をかけるなど上司としては失敗だな。

 

「心配をかけて悪かったな。

もう日も落ちる帰って夕食でも食べにいこうではないか。」

 

「そうですね。お供します。」

 

そういうと華琳殿も説教が終わったのかこちらに歩いてくる。

 

「そちらの話は終わったかしら?」

 

「あぁ。もう帰ろうと話していたところだ。」

 

「そうね。でも、この格好で城に戻るのは少し騒がしくなりそうなのだけれど。」

 

という互いの格好を見ると斬り傷が何ヵ所かあり少し土で汚れている。

このまま帰っては荀彧殿や、春蘭殿から何を言われるかわかったものではないな。

 

「少し時間をずらしたほうがいいな。近くに川がある。そこで洗い流すといい護衛は真桜と沙和で十分か?」

 

「えぇ。それでいいでしょう。じゃあまた誘うわ。」

 

といい正座していた二人をつれ川があるほうに歩いていった。

 

「……楽しそうでしたね……」

 

「……性分なのだろうな……」



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第二十八話

 

「グラっちーーーーー!」

 

朝、城内をあるいていると後ろから呼ばれて振り向くと華侖殿がぶんぶんと手を振ってこちらに駆けてくる。やはりとんでもない速度だ。

だが毎度同じ轍を踏む私ではない。こちらに突っ込んでくる華侖殿の脇腹を掴み後ろに回すことによって衝撃をそらす。

 

「どうした華侖殿。今日は休みではなかったのか?」

 

「華琳姉から今日は昼からグラっちも休みって聞いたっす!それに昨日一緒に遊んだって!ずるいっすーー!私も遊びたいっすーー!」

 

あれを遊びと評するか……華侖殿が求めているものは違うだろうが。

 

「わかった。だがもう一人呼んでもいいか?」

 

「別にいいっすよ。人数がいればいるほど楽しいっすからね!あ!なら柳琳も呼んでいいっすか?お昼からは空いてるって言ってたっす!」

 

「ならば昼食時に城門前に集合でいいな。」

 

「はいっす!」

 

と、私達の隊を真似たであろう敬礼を決め駆けていく。

 

「ははは元気なものだな。」

 

私も桜居を呼ぶとするか。この時間ならば私の部屋に居るはずだ。私の部屋で休憩をしているはずだ。

 

「戻ったぞ。」

 

「隊長。外に出られたのでは?」

 

「いや、桜居にようがあってな。」

 

といい机に突っ伏している桜居に目をやる。

死んでいるように動かない。

 

「帰ってきてからこの状態なのですが……」

 

「仕方がない。荀彧殿から師事を受けていたのだこうなるのも仕方ない。」

 

そうここ最近桜居がいなかったのは荀彧殿から軍や行軍のあれこれを教わっていたから。桜居にはそのような経験がいないからな。荀彧殿に頼んだのだがこってりと絞られているらしい。その証拠に今疲れきっている桜居がいるのだが。

 

「桜居無事か?」

 

「………これが無事に見えるか?大将……」

 

凪がいるなかでこの言葉遣いをするのは十分に疲れている証拠だ。叱ろうとした凪を手でせいする。

 

「昼からは今日は空いているのだろう?華侖殿と昼食を食べる約束をしてな。その後も一緒に休暇を楽しもうと思うのだ。一緒にと思ったのだが……」

 

「行く!」

 

勢いよく顔があげられ満面の笑みを浮かべる。

 

「よし。なら準備をし、昼に城門前に集合だ。遅れるなよ。」

 

「了解!」

 

そういい前までの死んでいたような雰囲気から一転し嬉しそうにして部屋を去っていった。

 

「まったくあれでは華侖殿と変わらないな。」

 

「しっかりと学んではいるようなのですが……」

 

「構わんさ。あれぐらいなものが隊にいるだけで士気は上がる。

凪はどうする?」

 

「自分は今回は遠慮させていただきます。昼からは真桜と沙和を見に行こうと思いまして。前日の件は私が止めなかったことも原因ですし。」

 

「そうか、名残惜しいが仕方ない。今度また二人で行くとしよう。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「では、昼までの仕事を終わらせるとするか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いっすよーーー!」

 

仕事が終わり城門に向かうと華侖殿と柳琳殿が待っていた。

 

「すまない待たせてしまった。」

 

「華侖様ー」

 

「桜居っちー」

 

二人は仲が良い。波長が合うのだろうな。手を取り合い

 

「いえ、あまりまってはいませんよ。」

 

「急な誘いだったが問題はなかったか?」

 

「はい。姉さんと一緒に昼食をと思っていたので。それにグラハムさんからのお誘いを断るわけにはいきませんからね。」

 

「それはありがたい限りだ。恐らくゆっくりはできないが……」

 

「それはそうですね……」

 

少し離れたところで騒いでいる。二人を見ながら察するのだ。

その予想は直ぐに的中することになる。

 

「この肉まん美味しいっすーー!今度はあっちの出店に行くっす!」

 

「俺もついていきますよ華侖様ーー!」

 

「姉さんがすみません……」

 

飲食街のある町の中心部へと来てどこかの店にでも入ろうと思ったが、華侖殿が空腹を我慢できずに出店で小籠包を買ってからそれを皮切りに出店を回ることになっている。

 

「まぁ良いではないか。こうして歩きながら食べるも一興よ。」

 

「まぁそうですね。

周りに迷惑をかけなければ良いのですけど。」

 

肉まんを差し出しながら

 

「私達はゆっくりと行くとしようか。」

 

「そうしましょうか。」

 

そして近くの茶屋を見つけ座る。華侖殿と桜居にはしっかりと伝えている。

隣を見るとやはり大分仕事の疲れが溜まっていたのだろう。少し息をつきながら茶を飲む柳琳殿がいる。

 

「やはり今は大変な時期か?」

 

「あ……すみません。表に出さないように気をつけてはいたのですが……」

 

「無理もない。あれほど周りに頼られているのだ。」

 

柳琳殿は他の将からよく相談をされる。これが華侖殿や従姉妹である栄華殿ならばわかるが、あの秋蘭殿や強いては華琳殿の相談も受けていると聞く。自分の仕事があるなかで頻繁にそういったものがくるのだ。しかもそれに的確に答えを出している。軍の最新の情報全てを常日頃から確認していなければわからない。それを仕事としてではなく善意で行っているのだ。疲労も人一倍溜まるのも必然というものだ。

 

「わざわざ休暇に仕事の話をするのも憂鬱だ。他の話でもするか。」

 

「そうですね。でしたら……グラハムさんがいた天の料理を知りたいです。」

 

そういえば私が料理を振る舞ったときも興味がありげだったな。

 

「そうだな。どんな料理が知りたい?」

 

「グラハムさんが日頃から食べていたものには興味がありますね。」

 

「日頃から食べていたものか。そんなに美味しいものではなかったな。」

 

「前回食べた親子丼はとても美味しかったはずですが……」

 

「いや、私は軍の部隊の隊長として船に乗る時間が多くそこでは保存食や、栄養補助食をたべていることが多かったな。」

 

「栄養補助食ですか?」

 

「こちらで言うと丸薬とにたようなものだ。お世辞にも美味しいとは言えん。それにいつも出てくる食事は肉や野菜を潰しとろみをつかせたものだった。何を食べているのかも気にしなくなっていたな。」

 

「天では食は蔑ろにされていたのですか?」

 

「栄養には目を向ていたが美味しさには目を付けていなかったな。私の時代は餃子の大きさで一食を補うことができたからな。」

 

「そんなすごいものが……!」

 

この世の中では思い付かないだろうな。まぁそんなことを教えるわけにはいかない。なにも楽しみがないからな。

 

「今回は私の国の料理の話をしようか。ハンバーガーの話でもするか。」

 

「はんばあがあ……ですか?」

 

「私の母国ではとても有名な料理だ。小麦を練ったものの間に肉や野菜を挟み食べる。簡単ながら親しまれていた料理だ。」

 

「小麦を持ったもの馬拉糕《マーラカオ》でしょう。その間にお肉を……味付けは何かあるのですか?」

 

「濃いめのタレをかけていたな。」

 

「そうですか……こちらでも再現は出来そうですね。帰ったら作ってみようかしら?」

 

「その旨をよしとしよう。だが取り敢えず彼女らを呼ばなけらばな。」

 

「そうですね。でもどこに言ったかなんてわからな……」

 

「美味しいっすーー!」

 

「まだ食べますよ!」

 

騒いでいる二人が遠目に見える。

 

「探す必要もありませんでしたね。」

 

桜居は敬語が使えるのだな。何故凪の前だけでは使えないのか。一番怒られるのは凪の前だと言うのに。

 

 

 

その後まだ腹が空いていたであろう二人をつれ厨房をかり料理を始める。

 

ただ簡単な料理だ直ぐに出来た。肉は味の濃い角煮で代用した。葉野菜をつかって見た目はそれらしく出来た。

二人に振る舞うと美味しそうに食べている。その後も誰かが人伝に言ったのだろう多くの兵がつめることとなった。

華琳殿も来て食べたが口に合わなかったようだ。春蘭殿には好評だったのだがな。

 

「これでは休暇にならないのではないか?」

 

「いえ。皆さんが楽しんでいるのを見れば疲れもとれますよ。」

 

だが顔は明らかに疲れていることが見えた。だがここで取り繕くのは悪手だろう。

楽しんでいるのは確かだろうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はグラハムさんと姉さんと一緒に町に出ましたが思ったより疲れましたね。楽しかったのは確かですが最後の料理でどっときましたね。自室に戻った私はベットにすぐに横になってしまった。グラハムさんがせっかく誘っていただいたのに悪いことをした気がします。そうしていると扉を叩く音が聞こえ私は急いで姿勢をただす。

 

「はい。誰ですか?」

 

「グラハムだ。入ってもいいか?」

 

「グラハムさん?どうぞ。」

 

何か相談でもあるのでしょうか?

 

「失礼する。」

 

と前回栄華ちゃんのところに言ったときのようにお盆を持っている。上には茶器がおかれている。

 

「お茶でもと思ってな。少し持ってきた。私がここに来てから良く飲んでいるものだ飲むといい。」

 

そして茶器をおいて

 

「ではこれにて茶器は明日取りに来よう。お休み。」

 

と有無も言わさず去ってしまった。

少し気を遣わせてしまったでしょうか?ですが気を遣われるのは悪くありませんね。

そして暖かいお茶を手に取り飲む。

 

「美味しい……」



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第二十九話

 

「それでは全隊、これより各自訓練に励め。私は少し離れるが楽進副隊長や李典、干禁から師事を受けるように。」

 

「「「は!」」」

 

今日も朝から新兵の訓練をこなす。流石にもう慣れたものだ。ユニオンでは隊長はしていたが指導などをしている暇がなかったからな。しかも教えるのはモビルスーツの操縦技術ではなく剣術や徒手ときた。

 

「ふ、やはり変わったものだな。まぁ適応できているということか。」

 

「何を一人で言ってるのよ。気持ち悪い。」

 

ただ今日はいつもの訓練ではない。

この罵倒にも慣れたものだ。

 

「どうかな荀彧殿?」

 

「どうって何がよ。」

 

「お眼鏡に敵うかな?」

 

荀彧殿により華琳殿の親衛隊に仮入隊する隊員を見てもらっていた。男嫌いが有名な彼女であるが仕事までそれを持ち込みはしない。少し私だけには風当たりが強い気もするが……

 

「まぁ新兵にしてはいいんじゃない。十分だと思うわ。何人かは選考してるのよね。」

 

「あぁそちらに回せる実力を持つ新兵を記している。」

 

といい手に持っていた木簡を渡す。

 

「……少し少なくない?」

 

「そうだな。即戦力となる新兵は1月も経てば部隊に配属されるからな。足りないのであれば町の警邏をしている真桜殿と沙和殿の隊から引っ張ても良いとは思うが。」

 

「いいわよ。それに華琳様の親衛隊に中途半端なのは入れられないわ。」

 

といい。もとから目を付けていた新兵の隊を見る。

凪の指導のもと実戦形式の訓練に変わっている。そこそこの腕をしているが所詮新兵。即戦力になるかといわれればそれは否だ。新兵を見て評価するのは伸び代があるかどうかだ。この訓練で底が知れてしまったら残念だがあまり評価ができない。それは曹軍の将や軍師皆が理解していることだ。

 

「もういいわ。」

 

といい背中を向ける。

 

「兵の選抜はどうする?」

 

「そっちに任せるわ。私も忙しいのよ。」

 

といい今度こそ城内に入っていく。

仕事としてはそれで構わんが……

 

「難しいものだな……」

 

「なんや隊長さん。口説けなくてがっかりしてるん?」

 

「見ていたのか、真桜。」

 

「最初から最後まで見とったで。やっぱ隊長さんも桂花様は難しいんやな。」

 

「人とは皆難しいものだ。

それよりもいいのかここで私と喋っていて。」

 

「ん?なんで?」

 

後ろの方向を指差す。

案の定黒い覇気を纏っている凪がいる。

 

「うわやば!戻らんと。ほらお前ら鍛錬しっかりするでー!」

 

ははは、面白いものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし。これで訓練を終了する。各自十分な休息を忘れぬな。」

 

「「「は!」」」

 

日が真上にきた頃朝から行っていた訓練は終了する。昼からは休息日の者もいれば警邏に招集される者もいる。

私と凪は昼からはグラハム隊の鍛練がある。

 

「隊長お疲れ様です。」

 

「いや、今日は凪のほうが疲れているだろう。押し付けるような形になってしまった。」

 

「いえ。問題ありません。それに隊長も仕事でしたのでしようがありません。」

 

「いや部下に負担をかけているのは変わらんさ。

さぁ今度は隊の鍛練だが……その前に昼食にするか。」

 

「そうですね。」

 

と、食堂に向かって歩きだす。

 

「ですが隊長は桂花様と仲が悪いのですね。」

 

「まぁ一方的に嫌われているからな。凪こそ最初は仲良くしようとしているようには思えなかったが。」

 

最初桂花が軍師になると聞いた時なにも言いわしなかったが、不服そうだったのは凪だ。

 

「そ、それは!初対面であんなことを言われれば……」

 

あんなこととは……

 

「あぁ、我等の隊の初出撃のときか。」

 

確かにあの時はこっぴどく言われたものだ。

 

「隊長はあまり気にしておられませんでしたが、私達隊全員があの時桂花様に良くない印象を受けていたのは確かでしょう。」

 

自分の直属の上司を馬鹿にされたのだ。怒りを覚えるのも仕方ないか。

 

「その後は関わっていくうちに悪い人ではないとわかりましたし。真名を許すところまでいきました。」

 

「それは良かったではないか。私にも許してくれればいいのだが……これでは華琳殿に面目がたたないな。」

 

「まぁ隊長なら出来ますよ……」

 

と言われた時急に浮遊感に襲われる。

ん?この感覚は宙に私が浮いている。

凪が咄嗟に手を伸ばし私の手を捕まえる。その顔は大分焦っているように見えた。

そして手を捕まれるが足が地に付くことはなかった。

 

「くっ……隊長!」

 

凪は大分焦っているようだ。

 

「問題ないさ。」

 

といい足元に空いた穴から這い上がる。

 

「誰か近くにいるか!」

 

と凪が言うと周りから兵が数人出てくる。

 

「将であるグラハム・エーカーが何者かに仕掛けられた罠にはまりかけた。至急兵を集め調査をするように!」

 

「は!」

 

「隊長お怪我はありませんか?」

 

「あぁ問題ない。しかし古典的な……」

 

そう私が引っ掛かったのは

 

「落とし穴ですね……隊長は一応医者に見て貰っていてください。」

 

「いや、私も捜査に参加しよう。」

 

「いえ。あの恐らく肩を痛めていると思います。見て貰ってください。」

 

少し強めに言われたので大人しく従うことにした。

 

「わかった。見て貰うことにする。それでは後々こちらに同行する。」

 

「はい。お待ちしております。」

 

そして私は医務室に向かった。

医者には肩が少し痛めたということで包帯を巻いてもらった。

そして私が落ちた穴があった場所を見に行く。

多くの兵が周りを囲んでいた。そして中心には秋蘭がいた。

 

「グラハムだ。入るぞ。」

 

といい現場に入る。

 

「グラハムか。凪がそうとう焦っていたが……問題はないようだな。」

 

「凪に助けてもらった時に少し肩を痛めただけだ。それで状況は?」

 

といい私が落ちた中庭の穴を見る。

 

「悪戯か。」

 

「そうだろうな。」

 

その穴は人を怪我させるには少々浅すぎる。落ちたところで足を挫く程度だ。この程度の穴でも下に槍でも敷き詰めれば殺せはするだろうがそんな細工もない。

 

「私個人を狙ったものではなさそうだな。」

 

「無差別的な罠。ここまで来ると本当に悪戯だな。一応ここの近くにいた者にも話を聞いたが穴を掘った者の情報はなかったな。悪戯ならばこれ以上情報もでなければ自白もないだろう。」

 

「そうだな。

ん?凪はどこだ?」

 

「凪か。凪なら侵入者がいないか城の周りを回るといって隊を率いていたぞ。」

 

「そうか。私もそこに合流するとしよう。」

 

これでは昼からの鍛練は無しだな。

 

「わかった。一応怪我人なのだ気を付けろよ。」

 

「気遣い感謝する。」

 

といい凪の元に向かう。

感ずいていなければいいが……

 

 

 

 

凪と合流し城周りの調査をするが侵入した痕跡はない。

合流した時は大分心配されたが調査をしていくにつれ収まっていった。

戻ってくると城内も落ち着きを取り戻していた。

想像していた通り城内にいる者の悪戯として処理されたらしい。

それが妥当なところだろうな。凪は少しやるせなさを残していたが仕方のないことだ。

そしてその後鍛練をこなし凪と夕食をとり自室へと戻っていた。

もう今日はやることはない。ゆっくり茶を飲んでいると扉が開く音が聞こえ予想していた人物が入ってくる。

 

「どうしたのかな荀彧殿。新兵の候補整理ならば明日まで待ってはくれないか。今日はいろいろあったのだ。」

 

「………そう。」

 

といい私も見ながら動かない。

 

「茶でも飲むか?」

 

「えぇ……」

 

といい私の向かい側に座る。

茶を差し出すとそれをすぐに飲みほした。

 

「あんた今日怪我したんですって?」

 

「知っていたのか。恥ずかしいことを知られてしまった。グラハム・エーカー一生の不覚だ。」

 

「何よ大袈裟に。気持ち悪いわよ……」

 

「それで荀彧殿私に何かようかな?こんな夜に来るのだ。何かあるのだろう。」

 

「あ、あんたは穴を掘ったやつを探そうと思わないの?」

 

なんだそんなことか

 

「探すつもりはないな。いくら探したところで何が変わるでもあるまい。ここまでの騒ぎになるのだこんなことをすることはなくなるだろう。」

 

「そう……本当にお人好しね。」

 

「そうかもな。」

 

というと席を立ち外に出ていく。

 

「じゃあこんなところに長くいたら何かが移っちゃうわ。」

 

「ははは、嫌われたものだ……」

 

「あんたもさっさと寝なさい。怪我をそんままにされたらこっちが迷惑よ。」

 

「わかった。」

 

「それじゃあね。」

 

といい今度こそ去っていった。

やはり本来優しいのだろうな彼女は……



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第三十話 

 

「皇帝からの遣い……ですか?」

 

「あぁ、明後日来るとのことだ。私は一応参加することになっている。皇帝からの遣いが来る時は訓練や仕事も中断せよということだ。」

 

「わかりました。

それにしても今の皇帝が遣いをだすのですか。それほど重大なことなのでしょう。」

 

「華琳殿はあくまで形式上だろうと言っていたな。あと急だと少し苛立っていた。そこで邪魔だと思いここに戻ってきたわけだ。」

 

「無礼があってはいけないですから。気持ちが張り積めるのもわかります。

今あそこで寝ている者には見習ってほしいものです。」

 

「まぁ寝かしておけ。昨日は飲み過ぎだったからな。凪も大丈夫か?」

 

残党も日に日に減っていき、華琳殿が終息の宣言を出した。

そのおかげでこれから町は本来の活気を取り戻すだろう。

そして終息が宣言されてから隊ごとに休暇が与えられた。

それが我が隊は昨日であった。

日中はそれぞれの休暇を楽しんでいたが(凪と私は鍛練をしていたのだが)、夜は近くの店で酒をのみながら語り合った。もちろん私や凪、桜居も酒を飲んだのだが桜居は酒に弱いらしい。

少し飲んだあと急に呂律が回らなくなり私にもたれ掛かり寝てしまった。

そして凪も酒に弱かった。寝はしなかったが意識は酩酊しており自分で家に帰ることも出来ないと判断し、私の部屋に運びこんだ。もちろん私はこの部屋では寝ず私の部屋の隣にある倉庫で寝た。

朝は休みといっても定例の朝会はあるのでそれに参加し部屋に帰ってみれば起きて身だしなみを整えた凪と未だに私の寝床を占領している桜居がいる。

 

「自分は大丈夫です。昨日の記憶もはっきりと……まではいきませんがあります。ご迷惑をおかけしました。」

 

「構わんさ。」

 

といい何気ない会話をしていると

 

「僕だけどはいっていい?」

 

と扉を挟んで声が聞こえた。この声は喜雨殿か

 

「どうしたのだ?」

 

「少し困ったことになちゃってて……入ってもいい?」

 

喜雨殿が私に相談?

珍しいことがあったものだな……

 

「あぁ構わない。」

 

「じゃあ入るよ。って……本当に良かったの?」

 

少し訝しげな目で見られる。

 

「ん?どこかおかしなところでも?」

 

そして喜雨殿は目で凪と桜居を目たあと。

ため息をつくが

 

「まぁいいよ。それで話なんだけど……」

 

「こら!もう一人の御遣い!あんた拾ってから私達のことほったらかしにして!あんたには責任ってものがないの!」

 

「そうだーそうだー!」

 

「……はぁ。姉さんたち落ち着いて。」

 

と、天和、地和、人和というもと黄巾の首魁だったものが入ってくる。今では反乱の元となるため名を捨てて真名を名乗り確か新兵の募集などをさせるために頑張っていると栄華殿が言っていたが……予算も出ていると言っていたな。

入ってくる時に凪が少し顔を歪ませたがすぐに整える。

 

「もうあんな狭いとこいやなのよ!」

 

「もっといい生活したーい」

 

と急に言われても何があったのかはわからん。だが先に来た喜雨殿の話を聞いてからが先だろう。

 

「まぁ落ち着け。今は喜雨殿が先でいいか?」

 

「いや、この件なんだよ。」

 

「この件?」

 

そういい相談を聞くため城を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一つの小屋にたどり着く。

 

「ここは?」

 

「これがこの人たちのこれからの拠点なんだけど……」

 

「こんなところなのよ!こんなところ私達には似合わないわよ!」

 

「そうだーそうだー」

 

と地和と天和が文句を言う。ここに来るまでに聞いたことは、どうやらこの三人の監視を陳留に留まる短い期間私達の代わりに任されていたようだ。

そして彼女らは曹軍専属の旅芸人として、名前を数え役萬☆姉妹(シスターズ)と名乗り活動をしていると……

いや待て

 

「シスターズとはどこで聞いた言葉だ?」

 

少し流していたがシスターズとは私の国の言葉だ。外人は何人か町にいないこともないがここまで英語を話すものが来るとは考えにくい。恐らくは……

 

「なんか町の人たちが話してたのよ。姉妹という意味の異国の言葉らしいわ。そんなことより!こんなみすぼらしいところで私達にどうしろって言うのよ!」

 

「もっといいところで暮らしたいーー」

 

「ということなんだよ。僕だけじゃついていけなくて……そしたらもう一人の御遣いをだせって。」

 

私の疑問は早々に流されてしまった。

その小屋は町中の路地にぽつんとある。少し汚いもののある程度の大きさがある。この中で旅芸人がするような歌や踊りは問題なく出きるだろう。

恐らくはこの三人いや、二人のわがままなのだろう。

一人喋らない人和殿に目をやると諦めたように姉達を眺めている。

 

「ここを拠点にするだけだと考えれば悪くはないだろう。活動はまだ始まっていないのだから。」

 

「そうだけど……」

 

「活動が認められるようになれば自然と良い環境になる。貴殿らが稼いだ金は一定数は手元に残るのだろう。それで大きくしていけばいい。」

 

そう言い地和殿の方を見るがまだ足りないらしい。隣にいる人和殿がそう言っている。一番上の天和は大通りの方で走っている少年を見ている。

 

「それともそこまで人気がでないと踏んでいるのかな?」

 

「そんなわけないでしょ!」

 

やはり食って掛かってくるな。人和殿もそれがわかっていたのだろう。

 

「もうわかった。ならあんたはここで待ってなさい。すぐにお客さん集めて来るから!いいわね!さぁ姉さんもいくわよ!人和は準備をお願いね!」

 

といいボーとしていた姉を連れ町へ出ていった。

 

「これでいいかな?お二方。」

 

「うん。仕事はしてくれそうだし。」

 

「えぇ。姉さんたちもやる気が出たでしょ。それじゃあ私は講演の準備をするから。」

 

「いやここまできたのだ少しは手伝おう。」

 

「なら力仕事を任せるわ。私は喜雨さんと予算を話し合う予定があるから。」

 

おっと厄介なことになってしまったか?

 

 

 

 

 

そういい。しばらく掃除や舞台の準備をし終える。

中々の重労働であったが今日は何もすることがなかったことを考えると有意義であったか。

 

「グラハムさん。こっちは終わったよ。」

 

どうやら喜雨殿と人和殿も話し合いが終わったようだ。

 

「こちらも終わった。少し早いが茶屋で休憩でもと思うが二人はどうだ?」

 

「確かにお腹もすいたしね。僕はいくよ。」

 

「じゃあ私もいくわ。」

 

どうやらこの二人は息が合うらしい。

少し前までは敵だったというのに。姉二人のおかげであろうな。

そして三人揃い近くの茶屋に向かう。各々茶と軽い食事を頼み席に座る。

私達は静かに茶を飲むが

 

「騒がしいわね。」

 

「大分うるさいね。」

 

通りはとても騒がしい。いつもはこんなに騒がしくないのだが……まだ昼時にも早いはずだ。少し異常だな……

少し見に行くとするか。

 

「私は少し見に行く。二人はここにいるといい。」

 

と了承を貰い騒ぎのほうに言ってみると段々と声がしっかり聞こえるようになり……

 

「さぁーて次の曲いくよーー!」

 

「姉さん!そろそろやめないと本番歌う曲がなくなっちゃう!」

 

「えーお客さんたくさん呼ぶって言ったの地和ちゃんじゃない。」

 

「それでも駄目なの!それじゃあこれで路上での講演はおしまい。続きは夕方にあそこの通りにある小屋であるから皆来てねーー!」

 

「「「ウォォォォーーー」」」

 

天和殿と地和殿が夕方に行うであろう講演の客集めをしていた。

すぐに集めると言っていたが流石の行動力だ。客集めはうまくいっているようだな。

幾らか時間がたち周りの客が少なくなってくると地和殿があちらから近づいてきた。

 

「どうよもう一人の御遣い。私達の人気!」

 

胸を張って私に言ってくる。

 

「流石だ。正直に言うと少し嘗めていた。称賛に値する。確かにこれではあの小屋では足りないな。」

 

と素直に思ったことを言うと少し顔を歪め

 

「な、何よ急に……気持ち悪いわね……」

 

「それと私の名前はグラハム・エーカーだ。そこだけは覚えていてもらおう。」

 

「その名前が言いにくいから御遣いって言ってるんでしょ!もうちょっと何かいい名前ないの?」

 

「グラハム、隊長、兄ちゃん、グラっち様々あるが呼びやすいもので構わないぞ。」

 

「ねぇそんなことよりお姉さん疲れちゃった……」

 

「もう姉さん、歌いすぎだって。」

 

大分疲れた様子で天和殿が後ろから出てくる。

 

「あそこまで歌えばそうだろう。近くの茶屋で喜雨殿と人和殿がいる。ここまで実力を見せてもらったことだ。私がここは奢ろう。」

 

「わぁーーいグラハムさん大好きーー」

 

「ちょっと姉さん!そんなこと冗談でも大声で言わないでよ!」

 

といい二人を連れ茶屋に戻ると今度は違う方向に人だかりが多く出来ている。

 

「喜雨殿あれは……」

 

「そっちの人ごみがなくなってから集まり始めたんだ。」

 

「はぁ……そっちの人ごみはやっぱり姉さんたちだったのね。」

 

「そうだよーお客さん凄かったね。」

 

「えぇこれで今日の講演は満席よ!」

 

と三姉妹は揃うと姉妹らしく話し始める。

それよりもあちらは飲食店街のはずだが食い逃げでも……

 

ドクンッ

 

「……ツ!」

 

「どうしたの?」

 

私は何かを感じると喜雨を守るように立ち剣に手を当てた。守らなければならないと感じたから。喜雨殿は困惑しているようだが、私はさらに困惑していた。

なんだこの感覚は。

嫌な予感にしては明確すぎる。

そして寒気。足の震えが止まらない。武者震いにしてはこの感覚を私は知っている。

恐怖。

私はなにかわからぬものに恐怖を感じていると言うのか?

そしてわけもわらず喜雨殿をそれから守ろうとしていると。

そしてその感覚は段々と鋭利になり近づいているのがわかる。

そして人ごみの中から現れた一人の女性を見つけ感じていた恐怖はさらに増える。

彼女は私には興味を無さそうに悠々と歩いていく。

そして目の前を通る。

その時の時間は走馬灯のようにとてもゆっくりに感じた。

 

そして目の前を通りすぎた後

まるで呼吸を思い出したかのように過呼吸になりその場に膝をつく。

周りからの声は聞こえるが内容は頭に入ってこない。

久々に感じた。

 

 

 

 

これがかつて私が愛と勘違いしたものか……

 



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第三十一話

 

あの女性が目の前を通りすぎた後次に目を覚ましたのは、城の医務室の布団の上であった。

 

「私は一体……くっ……」

 

酷い頭痛が私を襲う。

何とかしてその後のことを思い出そうとするが、なにも思い出せない。恐怖したことは覚えている。恐怖を感じたのは久方ぶり、ガンダムと初めて合間見えたときぶりだな。その時はその圧倒的性能に恐怖したがそれと共に心を奪われた。だが今回感じたものは純粋な恐怖。

しかも足が動かず、意識までも失った。

 

「昔の私に見られたら、笑われものだな……」

 

あの女性、いや歳としては少女と言ってもいいやもしれん。手合わせすらしていないのに尋常ではない圧倒的性能……いや圧倒的実力があると理解した。体は女性にしては少し大きいが春蘭殿と同じぐらいだろう。そして雰囲気はけして好戦的ではなく両手には多くの食べ物をもっていた。なぜそんな少女相手にこんなことを感じたのか今となってはわからないが。少女は恐ろしく強いのだということは私の中では曲げられないだろうな……

それはともかくだ私はどれ程寝ていたのか……取り敢えず立つとするか。

そう思って立てられて二本の剣を持つと

 

「あら。もう身体は大丈夫?」

 

これまた珍しい者が来るものだ。恐らく私の看病をしてくれていたのだろう。

 

「燈殿。すまない心配をかけた。」

 

「喜雨とあの三姉妹が意識のないグラハム様を運んできた時は城内はそれは騒ぎだったわ。とくに凪さんの慌てようは少し酷かったわね……」

 

「そうか。それは申し訳ないことをしたな……

もう沛国の統治はいいのか?」

 

「えぇ、あちらも落ち着いたからこっちに戻って来たのだけれど、すぐに皇帝陛下の遣いが来ると言われて。都の礼儀作法を知るのは私と桂花様それに香風様だけだから少し忙しいわ。略式で言いとは言われたけれど」

 

「そうか。それは申し訳ないことをした。今日は私は非番だ。何か手伝えることはあるか?」

 

「グラハム様は倒れていたのだから今日は安静にと華琳様から言われておりますから遠慮させていただくわ。喜雨や凪さんも心配していたようだし、顔を見せて上げたほうが良いんじゃないかしら?」

 

「そうか……すまない。この恩はいずれ返す。」

 

「このぐらいいいわよ。ほら早く行ってあげて。」

 

と少し急かしてくるが。私は気になっていたことを聞く。

 

「大分前にもらった書簡だがあれはいつ開ければいい。」

 

「そうね。そろそろじゃないかしら。」

 

「まだその時ではないと?」

 

「まだかしらね。」

 

「そうか。ならば気長に待つとしよう。」

 

といい部屋をでる。

 

 

 

 

 

 

「でも本当に近いかもしれないわね。私も戻る準備をしておきましょうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後

皇帝の遣いを迎える準備を終え私達一同は今かと待っている。

ん?前回の後の事が気になると?なに凪にしこたま叱られ過労なのではと疑われそのせいで仕事が偏った桜居が死んだようにしていたというだけだ。凪も同じような仕事をしていたはずなのだが今日も元気にしていた。不思議なものだ。私は二日休みをもらい完全に回復した。

しかし玉座の間にて結構な時間待っているがまだ来ないようだ。約束の時間は過ぎているはずだが。誰も話さないが

 

「………」

 

華琳殿の背中からはうっすらと怒りのオーラが見える。

あれは終わりには苦労するな。

そしてまたしばらく待っていると……

 

「呂奉先殿のおなりですぞー!」

 

そう聞こえ皆頭を下げる。足音的に来たものは三人か。それにしても呂布か……三國志最強と詠われていたがどのような者なのか気になるな。一度手合わせしたいものだ。

そして華琳殿がいつも座っている玉座のある高台へ上ると

 

「面をあげよ。」

 

といい顔を上げると小さい少女とそして紫髪の張遼殿ともう一人。昨日あった赤みがかった髪紫色の布を首に巻いているあの少女。が立っていた。

彼女が呂奉先……

だが初めてあったときとは少し雰囲気が違う。いや、私の感じかたが違うだけか?

顔は何を考えているのかわからない無表情。覇気もまったく感じられない。強さをまったく感じないが過去の私がそうはさせない。だが過去とは違い強いものと戦いたいという私の根本にある興味が今恐怖を上回っている。

どうすれば勝てる?どのような太刀筋か?どのように私を負かすのか?そういった疑問が私の頭をよぎる……

 

その時手をぎゅっと握られた。

その方向を見ると

シャン殿が私の手を握りながら心配そうにこちらを見ている。

また悪い癖がでてしまったようだ。目で心配するなと伝え安心させる。もう遣いの話しも終わりに差し掛かっている。

 

「それでは西園八校尉の任命式は後日禁中にて行われる。日取りは改めて伝えるゆえ待つようにと仰せなのです!」

 

「は!」

 

「それでは私共はこれにて失礼するです。」

 

「ちんきゅう……終わった?」

 

「終わりましたぞ恋殿。ささもう帰りましょう。」

 

といい入ってきた扉から帰っていく。

背中から怒気を放っている華琳殿をおいて。

 

 

 

 

 

 

その後怒った華琳殿から明日は休んでもいいから今日は羽目をはずしなさいと言われ解散となった。

そして今は

 

「おーーー!探したで!」

 

となぜかまだいた張遼殿に絡まれていたのであった。

周りには数人の兵がいる。どうやら私がどこにいるか探し回っていたらしい。

 

「して私を探して何のようですか?張遼殿。」

 

「なんや、そんな堅苦しい。あんな場でもないんやから。」

 

「感謝する。私もあまり堅苦しいのは苦手なのだよ。」

 

「お、のりええやん。」

 

というと私の目の前に壺を追いた

 

「これ前回黄巾の時のお礼や。老酒が入っとるから皆で飲み。」

 

「ほうこれはありがたい。是非飲ませてもらおう。張遼殿もご一緒にどうかな?」

 

「んや~ずっこいわーそう言われたら飲みたくなるやん。でも今日は遠慮しとくわ早よ帰らんと大将軍様からなに言われるかわからんからな。」

 

「そうか。それは残念だ。今度都に行く時にでも誘うとしよう。」

 

「楽しみに待っとるで。ほなまたな~」

 

と駆け足で去っていく。

本当に嵐のような人だ。

そして私は壺を抱えて部屋に戻る。今日は凪や桜居は別の仕事でここにはいない。

今は良かったと言えるだろう。部屋の周りには誰もいなかった。

椅子に座り壺の蓋を縛っていた紙の裏を見る。

そこにはやはり手紙のような文字が書かれていた。

 

『初めまして。私は董仲穎と申します。

まずは密書のような形で挨拶をすることとなり申し訳ありません。ご容赦ください。

今回このように書状を送ったのは私共の張遼、華雄をお救いくださった感謝を書きたかったからなのです。こう言ったものを正式な書状で書くのも今の都では難しくこのような形を取りました。

あなたのご助力がなければただではすまなかったと聞いております。これからもあなたのご活躍を願っております。

今回の件誠にありがとうございました。』

 

「ふぅ……」

 

少し焦ったな。あの董卓からの書状と来た。裏切りや引き抜きかとも思ったがそうではないらしい。この書き方や文字の形から察するに女性なのだろう。しかも礼儀もあるときた。

感謝は受け取っておこう。さぁ燈殿のもとにでも向かうとするか。

そう思い受け取った老酒を持って部屋をでるのであった。



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第三十二話 足技

 

「成る程ここが洛陽……都と言われるだけ栄えている。」

 

「そうだぞ。いくら天の国でもここに敵う都市はないだろう!」

 

そんなことはないのだが何も言わないのが正解だろう。ということで私は華琳殿の任命式の護衛として同行している。陳留には荀彧殿と柳琳殿華侖殿グラハム隊の凪、桜居そして季衣が留守を任されている。実際には都の見学が主な内容だ。式には私は参加できない。どうやら異国のものは禁中に入ることは許されないという話だ。時代が時代なのだろう、仕方がないさ。

少し忘れていた視線が私を見る。そして皇帝陛下のいる城にたどり着くと一人の男が私達を出迎えた。一瞬私を悪意ある視点で見たが華琳殿が目の前にいるとわかるとすぐに頭を下げ下からの態度となる。このような者にはなりたくないものだ。

 

「グラハム、悪いけど先程話した通りよ。」

 

「了解した。定刻にこちらに向かう。」

 

「えぇ。それまでは楽にしてなさい。」

 

というと皆をつれて城の中に入っていく。

ふぅここからは自由時間か……取り敢えず町を回るとするか。

 

 

町は確かに陳留よりも大きく品揃えは様々だ。流石は都と言いたいところだが……

 

「人通りは昼の町にしては少ないな……」

 

人はいないわけではなく多くの人がいる。陳留よりは多いだろう。だが大通りにしては少ない悠々と歩く場所が確保されている。陳留の昼はこうはいかない。

そして居心地が少し悪いな。見てくる視点もそうだが活発とは言い難い。暮らしにくそうだな。

そして後ろには四人か……

最初からおってきていることには気づいていたがここまで露骨だとは思わなかった。正直に言えばただの素人。あの中の唯一の男ということで拐えば脅しの材料になるとでも思っているやも知れんな。軍としての統一がとれていないか……これは本当に滅びるのは早そうだ。

取り敢えず撒かなければな何か良い道はないかと考えるが曲がり角などで撒くことは出来ないだろう。地理的な不利がある。人ごみに紛れるには人が足りない。どうしたものか……

 

「おーい!こっちや!こっち!」

 

とどこかしらか声が聞こえる。声のするほうを見ると紫色の髪、そしてサラシを巻いている女性が茶屋の前で私に向かって手を振っている。会うのはこれで三度目だな

 

「張遼殿待たせたな。」

 

「えぇよえぇよ。洛陽は初めてやろ?しゃあないしゃあない!ほなじゃあ茶でも飲もか?」

 

「そうだな。」

 

そういうと後ろをつけていた四人の気配が消えていく。

ふぅ助けられたな……

 

 

 

「あんたも洛陽についていきなり大変やったな。」

 

茶屋に入り席に座ると張遼殿から話しかけてくる。

 

「あぁ助かった。正直対処が良く分からなかったからな。」

 

恐らく負傷でもさせれば私は反逆罪で逮捕されていただろうな。

 

「えぇよー助けって貰ってたわけやし。その借り返しちゅうことで。」

 

「それは酒を貰っただろう。」

 

「あれは目的が違うわ。そやあそこの董卓の手紙見てくれた?」

 

どうにかその話に持ち込もうとおもっていたが、あちらから振ってくるとは。こんなところで話していいのだろうか?

 

「ん?あぁ別にここでは言うてええよ。元から人払いは済ませてんねん。」

 

「誰かと約束でも?」

 

「華雄って知っとる?うちの同僚やけど、まぁ、そいつがくんねん。」

 

華雄殿か恐らく張遼殿の旗と一緒に立っていた華の旗印のところの将だろう。

 

「大切なようではないのか?」

 

「んや。ただ疲れたから昼から飲もうかぁ?って話してたんよ。そして華雄遅いなーって待ってたらあんたが困ってたちゅうことや。まぁええやんええやん。それであの手紙見てどうやった?」

 

「どうもなにも……丁寧な言葉と字体から見て優しい人なのだろうと予想はあるが、実際に会ってみなければわからんな。」

 

丁寧でいてこちらへの誠意も感じられた。良く都の官僚は腐っていると噂で、そして燈殿から聞くが、彼女は恐らく違うのだろうと感じた。

 

「ならええ。賄賂と勘違いされたら迷惑かけてまうわ。」

 

そう笑顔でいいながら今きたばかりの饅頭を口にいれてそれを酒で流し込んでいる。

曹操殿の近くにはあまりいないタイプだな。

 

「ぷはぁーーーうまい。大将もう一杯!あんたも飲み!うちが奢ったるで。」

 

「残念だが一応仕事中だばれては始末書ではすまないのでな。遠慮しておこう。」

 

「なんやのりの悪いやっちゃな……っておぉ華雄!遅いねん!もう始まっとるで!」

 

まだ酔っていないはずだが酔った人のように絡んでくるが、途中私の後ろを指差し言う。

振り向くと気の強そうな女性が立っていた。

 

「そんなことを言うな。久々に呂布と手合わせが出来たのだ。」

 

「んでぼこられて。今の今までのびてたんやろ?」

 

「……」

 

張遼殿が煽るとどうやら図星だったようで沈黙する。

ただ呂布との戦いか面白そうではあるな……

 

「そんなことはどうでもいい!というかこの男は誰だ?」

 

「名乗らせて貰おう私の名はグラハム・エーカー曹軍の一将を務めている。」

 

「あぁ張遼と董卓様が言っていた……異国の将か。固い言葉遣いは不要だ。あの時は世話になった。私の名前は華雄。董卓様に遣えている。立場は将だ。」

 

と言い合いお互い手を取る。

 

「早速だが一戦どうだ?」

 

「憂さ晴らしかな?」

 

「貴様も戦いが好きなのではないかと思っただけだ。」

 

「確かにそうだが初対面の者、しかも立場の上の者に楯突くほど愚かではないつもりだ。

というのは建前だ。是非戦いたいがここで暴れてしまっては始末書いや、打ち首でもすまないだろう。私の上司は恐ろしいのだよ。」

 

「む…ならば仕方ないか……張遼私にも酒をくれ。あと食事を多めに追加だ。」

 

「なんや、あいつらも来るんかい。なら多めも多めやな。」

 

誰か追加で来るようだな。少し焦りながら店主に注文をしている。

頼んでいくがその量は大人数の宴を催すのではないかというほどの量だった。いったい誰が来るのだ……

はっ!!後ろから足技がくる!私も足技で対応しなければ!

 

「ち~ん~きゅ~う~」

「ぐ~ら~は~む~」

 

 

「「キックーーーーーー!」」

 

私が後ろ回し蹴りをし振り替えると、こちらに飛び蹴りをする小さな少女が目にはいる。

そしてお互いの足がぶつかり拮抗する。

 

 

 

 

 

こともなく

 

「いっ~~~!」

 

と踞る帽子をかぶった少女。帽子にある模様はパンダだろうか?

だいぶ痛がっているようだ。

 

「あーあ。誰にでも突っかかるからや。」

 

と呆れたように言う張遼殿。

華雄殿は何もないように酒を飲んでいる。

 

「うっ~~~っう……!」

 

と踞る少女を三者三様の反応をしていると。

 

「ちんきゅ……?」

 

と入ってくる女性。それは陳留に来て私に恐怖を植え付けた。呂布殿だった。

 

「恋殿~~!」

 

と泣きながら呂布殿の後ろへ隠れる。そして

 

「あいつが酷いことを……!」

 

と私を指差してくる。

おっとこれは少し厄介だな。ここで襲われては構ったものではない。

呂布殿は少女の頭を撫でて落ち着かせながら話をしているが

 

「仲間傷ついたら……しあも、かゆうも黙ってない……なにもしてないってことはちんきゅうが……最近よくやってる……きく?…しちゃった?」

 

どうやらその必要はないようだ。

 

「呂布殿。」

 

「なっ!軽々しく名前を呼ぶな!はぅ!」

 

「ちんきゅ……だめ。」

 

「恋殿~~……」

 

「たぶんちんきゅが悪いことした……ごめんなさい……」

 

恐怖を感じた者に頭を下げられるとは奇妙な感覚だな。

 

「いや、私も急だったとはいえすまなかった。怪我がないといいのだが……」

 

「あそこまで動けてるんなら大丈夫やろ?」

 

と張遼殿がちゃちゃをいれる。

 

「私はグラハム・エーカーだ。」

 

「うん……知ってる……月から聞いた……たぶん良い人だって……私は……呂布奉先」

 

「あぁよろしく頼む呂布殿。」

 

と挨拶をする。

 

「恋殿~~……」

 

泣きながら呂布殿の服の裾をつかむ少女をおいて

 

 

 

 

 

 

 



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第三十三話

お待たせしました。ここまで短めです。


 

「あの阿保!馬何進が!な!あんたもそうおもうやろ?なぁ!」

 

「もきゅ……もきゅ……もきゅ……もきゅ」

 

「ささ恋殿、まだまだ沢山ありますぞ。店主!早く追加を持ってくるのです。」

 

あれから一刻ほどたち店の中は酒のせいで少し……いや大分騒がしくなり始めた。昼からの酒だ、気分もいつもより舞い上がってしまっているのだろうな。

 

「貴様はやはり飲まんのか?」

 

華雄殿が喋りかけてくる。

 

「あぁ、やはり酔うわけにはいかんよ。」

 

そういい茶を飲む。

 

「華雄殿の方こそあまり酔っていないようだが……」

 

「いや、私はあまり酔えないのでな。心配されずとも量は飲んでいる。」

 

といい盃を呷る。確かによく飲んでいるな。

 

「だぁーーー!!酒が足りん酒が!もっと持ってこいやーー!」

 

張遼殿はやけ酒をしているな。

呂布殿はあれだけあった肉饅頭を追加の分まで、もうたえらげている。

季衣殿よりも食べているな。たいした胃袋だ。

陳宮殿も呂布殿のそばにずっとおり食事をしながらも呂布殿を気にかけし続けている。

なかなかの愛の深さ恐れ入る。

誰もがまぁ楽しげに酒を飲んでいる。

 

「平和なものだな。」

 

「そうだな。戦いがないのは少し残念だが。」

 

「ははは、ここまで闘争のことを考えるとはよほど好きなのだな。平和は少し嫌いかな?」

 

「嫌いではないが、やはり刺激がないとな……

こんなことをいっては董卓様に怒られかねないがな。

だが貴様も結構な軍好きだろうになぜそれを聞く?」

 

「どうしてだろうな。だが聞かざる得ないと思ったからとでも言っておこうか。」

 

「やはり貴様気持ち悪いぞ。」

 

といい盃を再び傾ける。

そして目を店の入り口に移す。

誰もいないが流石の私にもわかる。既にこの建物は囲まれている。官軍か……?

陳桂殿が言っていたようになかなか厳しい場であるのは確かなようだな。

 

「少し外に出るとするか。華雄殿もついてくるか?」

 

「あぁ同行しよう。体が火照っていたところだ。」

 

華雄殿とともに外に出ようとするが

 

「気ぃつけてなーー!」

 

「………」

 

「まったく、飲み過ぎですぞ。」

 

と言ったようにわかってはいるようだが気にしていないようだな。

さて少しばかり動こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華雄殿、こちらは終わった……そちらも終わっていたようだな。」

 

「なにこれぐらいの雑兵など何人いようが問題ないな。」

 

襲ってきた人物は4名それほどの実力はなかったように思う。ただの様子見いや実力行使に来たということは私の殺害いや誘拐が目的といったところか。

 

「だが拍子抜けだな少しは体を冷ませると思ったが……」

 

「仕方があるまい。こんな大通り近くで全力を出すわけにもいくまいさ。それより、こ奴らは誰だ?」

 

「官軍の格好はしていないようだが衣服などいくらでもごまかせる。正直わからんな。」

 

そうなるか。曹操殿に個人的恨みを持つものの線も考えられるが、今それを判断する時間はないか。

 

「こ奴らは任せてもいいか?今の私では手に余る。」

 

「そうだな。ここでお前が出てきては、董卓様が曹操と手を組んで何かしていると思われても仕方ない。

任されよう。」

 

といい警邏の兵、恐らく董卓派の兵に引き渡した。

そして先ほど言っていた店に戻ると

 

「おぉ、戻ったな!」

 

「………もきゅ……もきゅ」

 

と少し酔いが覚めた張遼と、未だに食べ続ける呂布殿。そして傍らには5人縄で括られた人が気絶していた。

 

「こちらにも来たのだな……」

 

「そうなんよ~あんたら出ていったらこいつらすぐ来よった。わいと恋を襲うちゅう命知らずや。」

 

ということは官軍の線は薄いか……

 

「陳宮は今兵を呼びに言っとるわ。そっちは大丈夫なん?」

 

「今の貴様には言われたくはない。こちらはもう終わっている。」

 

「もう華雄そんな邪険に扱わんといてや~」

 

といい少し危ないことは起こったがどうにかなった昼下がりであった。

 

 

 

 

 

 

ただの飲みを経て城の入り口に戻ると守衛は何人かいるようだが華琳殿たちはまだ終わっていないようでまだ来ていない。中で何もなければよいが……

 

「おい!そこのお前!」

 

そうして城の入り口を回っていると守衛の一人が何人かの兵をつれ話しかけてくる。

 

「私に何かようかな?」

 

「あんたそこで何をしていた?主上様のいる城に、異国の者が何かようか?」

 

どうやら少し怪しまれてしまったようだ。

 

「何をしていると言われても曹操殿を待っているだけだ。今任命式が行われている。私は曹操殿の将であり全うな理由がありここにいる。」

 

「曹操の?あぁ、あの金髪の娘か。今日だったか?」

 

隣の兵と話しはじめる。言葉遣いも突っ込みたいがどうやらそういった確認すら回っていないらしい。腐敗は上だけではないということか。

確認が終わったようで私の元に戻ってくるが

 

「確かに任命式の予定は入っているようだ。だが貴様が曹操殿の将だという証拠がない。だから……なぁ」

 

といい私を囲む。どうやら大分低く見られたらしい。

賄賂を渡せと

何をそのような虚弱なものがしなければならないことを私がする必要があるのか!

と昔の私なら一蹴りしていただろうが……流石にここではそんなことも言えまい。

 

「いや、なら結構。手を煩わせたな。」

 

そういい引く。あくまで低姿勢は崩さず。

にしたつもりだったのだが

 

「いや、ちょっと待ちなって。」

 

と肩を捕まれる。

 

「俺らはここの守衛をしてるんだ。あんたが怪しいからって捕まえることも出きるんだ。」

 

脅しか……正直逃げたいところだが騒ぎは起こせないな。

 

「わかった。」

 

「なんだ。話がわかるじゃないかあんたも曹操殿に迷惑をかけたくないだろ?」

 

「そうだが後ろを見た方がいい。」

 

私が怒られてしまうからな。

 

「私の将に何か用かしら?」

 

しかも大分不機嫌ときた。

私を囲んでいた兵も呆気にとられている。

これからどうなるか察すると少し申し訳ない気分になるが

自業自得といものなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十四話

 

「はぁぁぁ!」

 

振るわれる武器。その一撃はくらえば一溜りもないことはわかる。その武器、大剣を振り回すわ我等曹軍一の剣夏侯惇こと春蘭殿である。

流石というのも憚られるその太刀筋。大本の流派のようなものはないように思える。恐らく我流なのだろう。

とても荒々しく力強い。だがそこには一種の美しさを感じる。

だがその剣には迷いが生じている。あの夏侯惇殿がと皆思うかもしれん。

ただ相手が相手だろう。

 

「春蘭。踏み込みがいつもより甘いわよ。」

 

相対しているのは我等の王である、曹孟徳こと華琳殿である。敬愛している王に剣を向けるのだ、それは剣の腕も鈍るというもの。

 

「は、はい!」

 

といい、再び華琳殿に斬りかかる。今度の踏み込みはなかなかに良いものだったが。全力の時とは全く違う。

 

「良いけれどまだ甘いわ!」

 

 

「華琳様……もの足りなさそう」

 

「ははは、やはり春蘭殿では少し物足りないようだな。」

 

「華琳ねぇー春蘭ー頑張れっすーーー!」

 

「な、何を言っておられるのですか!これを見ている私たちの身にもなってください!」

 

「心配するな栄華。姉者もそこは弁えている。だが華琳様も大分荒れている。」

 

隣で見ているのはシャン殿、秋蘭殿、栄華殿、華侖殿。と親衛隊の兵が何人か見守っている。

私達が洛陽から戻ってきた次の日我々は華琳殿から呼び出され鍛練をするのだと言われ集まった。

しかし開けばそれは仕合。そして見守の我等を集めたということだ。

普段ならこういったことをするようなお人ではないが……

 

「秋蘭殿。やはり何かあったな。」

 

「……そうだな。だがいつもとは発散の仕方が違う。いつもは私と姉者、桂花を閨に呼ぶのだが……」

 

「まぁ確かにあの何進という大将軍は鼻につきましたね。」

 

ふむ。張遼殿が言っていた何進という者か……

一体どのようなことをしたのか

 

「あ……そろそろ決まる。」

 

そういったシャン殿の言葉で華琳殿と春蘭殿の方を見ると

 

「あ……」

 

丁度大剣が地面に落ちた時だった。

 

「そこまで!」

 

と秋蘭が声をだし勝負が終わりとなる。

 

「うっ……流石です、華琳様。」

 

「えぇ貴方もまた強くなったようね春蘭。でも私相手でも本気でかかってきてほしいものね。」

 

「は……はい……」

 

「グラハム。貴方はこれからやれるかしら?」

 

「あぁ、もちろんだ。

そちらの方こそ休憩は大丈夫かな?」

 

「えぇ問題ないわ。今ぐらいが貴方と仕合うには丁度いいもの。」

 

「そうか。」

 

腰に携えた二刀を手に構え前にでる。

 

「グラハムさん……貴方もですか……」

 

「まぁ……お兄ちゃんだし。」

 

一体なにをもって栄華殿に呆れられたのか理解は出来ないが仕合ならば私も血が騒ぐというもの。

 

「いつもので頼めるかしら?」

 

「了解した。しかし良いのかな?凪や桜居の前ではないが。」

 

あの死合の後度々華琳殿は私や私の部隊の鍛練に足を運んでいる。その時は決まって春蘭殿、秋蘭殿は連れてきていない。初のお目当てとなることだろう。

 

「春蘭。合図を頼めるかしら。」

 

「は、はい!わかりました!」

 

といい私たちの間に駆け寄り

 

「それでは始め!」

 

そして始まるは私達、王と部下との仕合い。

しかしそれは仕合いというには血生臭いそんな戦い。

実際に血はでていないのだがお互い一つ誤れば出血は必至。しかしここまで高まった華琳殿と私ならばそんなことにはならない。

しかしいつもより苛烈な攻撃、これはこちらも高まるというもの!

そして戦いの決着は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているんですか!あんなものを見せられるこちらの身にもなってください!」

 

栄華殿に怒られるという最後に落ち着いた。

華琳殿は春蘭殿、秋蘭殿と何か話しているようだが、こちらからは聞こえないな。

 

「聞いているんですか!もしも怪我でもされたらどうするんですか!確かに鍛練に怪我は付き物ですが相手はお姉さまですよ!しかもお互い全力って本当に何をしでかしてますの!?」

 

「まぁまぁ……栄華様……お兄ちゃんも反省してるしそろそろ……」

 

シャン殿が援護してくれるが……これ程まで怒っているのだもう少しは続くだろう。

 

「香風さんが言うなら……

これからくれぐれも気をつけてください。いいですね!」

 

と思ったが、いとも容易く許されてしまった。

やはり小さな少女には弱いのだろうな。休暇の時に季衣殿シャン殿を部屋に招き、様々な服を着せているという噂も聞く。

まぁ……愛の形も人それぞれか……

 

「グラハム。」

 

「華琳殿そちらの話は終わったのか?」

 

「何が終わったのか?だ!貴様何をしたのか……」

 

「姉者、もうその話はすんだろう。だがグラハム流石に栄華の言う通りだ。華琳様とグラハムの殺気を感じたときここにいるものは全員肝を冷やしただろう。これからは場所を考えるようにしろ。」

 

「ということらしいわ。良い刺激になると思ったのだけれど……」

 

「華琳様……」

 

と秋蘭が真剣な表情で華琳殿を見る。

 

「わかったわよ。グラハムも良いわね。」

 

と言い、私は首を縦に振る。

そして華琳殿、春蘭殿、秋蘭殿はそのまま城内へ戻っていった。

そして私と、栄華殿そしてシャン殿は……

 

「さぁさぁ次のお店に行きますわよ!」

 

「ふへぇ……栄華様~早すぎるよ……」

 

と言ったように服屋をたらい回しの如く多く回り行く先々で服を買っている。しかもそれは自身の服ではなく一回り程小さいものを大量にときた。もはや誰のためやら誰のものやら聞くのも野暮と言うものだろう。シャン殿は着せ替え人形に、私は荷物持ちとして今日は使われている。

 

「それでまた急に買い物なのだ?」

 

「私が休日を使うのも自由でしょう。ですが強いて言うなら……」

 

「強いて言うなら」

 

「禁中で見た董卓さんという可愛い人を見たことで、少々止められなくなっていることは否めませんね。」

 

「董卓殿が可愛い人?」

 

董卓殿はあの手紙から人相を把握するしか出来ないが……私が知っている中国史の中で董卓というと……

そう思い少し顔が歪む

 

「何ですか?董卓さんはとても可愛かったのですよ!はぁあの未成熟な身体、顔。あの身体に合う衣装を考えるだけで……グヘヘ……」

 

「栄華様……」

 

うむ。もうこれ以上は突っ込まない方が良いだろうな。栄華殿の名誉に関わってしまう。話をそらすか。

 

「栄華殿。季衣殿は誘わなかったのか?」

 

「へ?季衣さんですか?

あぁ誘いはしたのですが……何かお友達を探しているということでしたので流石に……」

 

「友人探しか……これが終わったら手伝いに行くか……」

 

「途中であった凪さんも誘ったのですが鍛練があると断られました。貴方も凪さんを預かっているのですから趣味などをお勧めしたらどうですか?」

 

「凪の趣味か……」

 

「鍛練だね……ずっと暇な時、訓練場の端でいつもしてる。お兄ちゃんと一緒に……」

 

「グラハムさん貴方もですか……これだから男性は……

まぁいいです。ではお買い物を済ませて季衣さんに合流するとしましょう。ほら香風さん行きますよ。」

 

「ちょ……栄華様ーーー」

 

ここの強引さは唯一華侖殿ににていると思うところか……

 

 



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第三十五話

本当に申し訳ない。
忙しかったもので、中途半端ですが載っけて自分のやる気に繋げます。

お気に入りも100件いただきありがとうございます。これからも頑張って書いていくので応援お願いします。


 

「まさか董卓さんが……」

 

「仕方あるまい。朝廷内部が腐っていたのも事実だ。」

 

もうこの話も何回目になるだろうか?これを伝えられたのは半月程前、董卓殿帝である霊帝を殺害し、その妹である献帝を帝とし、自身は相国となり朝廷の掃除を行っていることを我等は軍議の中で聞いた。その時の栄華殿といったら卒倒し倒れた。あの時は冷や冷やしたものだ。

 

「それはそうですが……あそこまでする人とは思えませんの……」

 

まぁそうだな。賄いを贈ったものは全て死刑などとよく考えたものだ。今では禁中の廊下は血で染まっているなどと噂されている。その噂は嘘か信かはわからないが死者がでていることは間違いではないようだった。

 

「それは私も同意だ。しかしそこまでのことをせざる得ない状態だったのだろう。ここは彼女の覚悟を尊重しようではないか。」

 

私からしても彼女が行っていることは間違っていないと感じている。ソレスタルビーイングよりも強引だとは思うがな……

 

「……これ以上言っても仕方ありませんね。すみませんグラハムさん。」

 

「いや構わんさ。仲間の愚痴を聞くのは年長者の役目だとも。」

 

と言い食事に手を付けようとするが

 

「何よ!あんたら仲良さそうに喋っちゃって!ちぃたちをほおっておくなんて、良い度胸してるじゃない!」

 

「ほうだ~ほうだ~」

 

「…………」

 

と文句を言うのは数え役満姉妹の長女と次女の天和と地和。

三女の人和は普通にお茶を飲んでいるのだが。

 

「私もグラハムといちゃいちゃする~~」

 

「そう……って違うでしょ姉さん!」

 

「?」

 

「はぁ……」

 

お、人和の顔がすこし歪んだな。流石に構うか

 

「そうだな。そろそろそちらの予算の話も始めなくてはならんな。栄華殿」

 

「はい、こちらが今回の働きの給金になります。そしてこちらは今後の予算になります。」

 

そう本来の目的はこれが本来の目的。ただ昼飯食べに来たわけではない。

給金の入った袋は上の姉ではなく、一番下の人和に手渡される。それにたいしては姉たちはなにも言わない。

 

「はい。確かに受け取りました。今月の仕事はいつも通りで良いですか?」

 

「はい。構いません。兵の慰安、兵の募集がこちらから依頼している仕事です。成果もしっかりと出ているようですし、金庫番としても喜んでお金を出せますわ。」

 

「ならもっ……」

 

「姉さん……わかりました。では今月もよろしくお願いします。」

 

「えぇお願いしますわ。」

 

と仕事モードの二人の会話が終わる。

 

「お~~」

 

と、天和が手をたたく。

 

「見世物じゃないのでしてよ。

それではグラハムさん、私はこれから別の用件があるので失礼しますわ。」

 

と言い私に昼飯の代金を手渡す。

 

「そうか。代金は……私がもつと言っても聞かぬな。ありがたく頂戴する。」

 

「えぇそれでは皆さんごきげんよう。」

 

といい店から出た。

 

「……ねぇねぇグラハム?」

 

「何かな地和?」

 

「あんたら家族?」

 

「いや違う。私はこことは違う世界から来たのだからな。

だがここの店主からも言われたの同じことを言われたのだ……」

 

「髪の色も少し褪せた綺麗な金色だし、同じ碧の目出し外見はそこそこ似てるよねー」

 

「それに、男性嫌いで二番目に有名な人なのに青の御遣い様とはよく歩いているって城下では噂ですよ。」

 

なんとそこまでの噂になっているとは。少し気をつけなくてはな……

人和が言う男性嫌いの一位は荀彧殿だろうな。

最近は私に対する暴言や悪戯は減ったが、やたらと仕事の質の高さを求めてくるようになった。華琳殿の親衛隊を決めるための鍛練や兵の選考をしているのだが。練度が足りない兵はご丁寧にも多くの竹簡と共に突き返されさらに上を掲示される。もう慣れたものだ……

 

「何あんた……そんなやりきった顔して気持ち悪いわよ。」

 

「いや、何でもない。

よしならば我々もするべきことをするか。それではこれからの君たち三人の方針についての話し合いと要望の確認だが……方針は歌で大陸を取るということで構わないな。」

 

「うん。そうだね。」

 

「勿論よ!」

 

「以上同文。」

 

「それで真っ先の要望が事務所の改築だな。それは今もらった給金で足りるか?」

 

「少し足りないわね。建てた後の安定まで考えるとまだ二月は必要かしら?」

 

「えぇーーもうあんなところで寝泊まりしたくないよーーー」

 

今彼女らは事務所というには名ばかりの建物に住んでいる。が、ある程度知名度も上がったこともあり事務所の改築を求めてきたのだ。新築と言わなかっただけまだ気を遣ってはいるのだろう。

 

「まぁそれは長い目で見よう。今この街でも兵にも人気は高いのだ。直ぐに稼げるようになるとも。

よしならばこれでこの話は終わりだ。後はゆっくりと昼食を食べるといい。」

 

といい立ち上がる。

 

「あれ?あんたはもう良いの?」

 

「少し依頼があってな。」

 

「今日は私達で仕事は終わりじゃなかったの?

ぶぅーーもっと手伝わせてあげようと思ったのに。」

 

「ははは、それはまた今度にしよう。」

 

「それで急な依頼の内容はなんなんです?」

 

「我が友の友人を探しにな……」

 

といい店主に金を渡すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然見つからないよ……」

 

「仕方あるまい。何も証言もないまましらみ潰しで回っているのだ。」

 

「でも~……」

 

と、我が友というのは季衣である。

どうやら前回の黄巾の戦いで戦果を挙げその報酬として自分の友を城に召し抱えるということにしたらしい。友のために……なんと素晴らしく純情なことだ。

そして手紙を送ったはいいものの、いつまでたってもこない。確認の手紙も送ったがもうでていて帰ってきてもいないらしい。それで今日は城下で働いているのではという予想のもとこの昼下がりに探しに来ている。

特徴は、

季衣と同じほどの身長

碧の髪

料理が得意で

熊を素手で倒す(季衣も倒せるらしい)

うむ良くわからんが、飯屋を巡りそれに私が付いていき空回りを阻止することでも見つけやすくはなるだろう。

そして田舎からの出ということで外郭から順に回り始めたのだが……

 

「全然見つからないよ~~」

 

もう城下町の中心部を残す形となった。2時間は回ったな。

 

「まぁ仕方あるまい。もしかすると市場で働いているやも知れんが今から巡るとなるとそれ以降の仕事にも影響が出るだろう。」

 

「うぅ……もうどこ行ってるのさぁ」

 

顔を見ればそこには少し疲れと焦りが混ざったような表情をしていた。こうなっては冷静な判断も出来ないだろう。

 

「ふぅ疲れも出てきたな。次行く店で腹ごなしをするか。季衣殿お腹はすいて……いるようだな。」

 

食事の話をしたら小さな身体からお腹が鳴る音が聞こえた。

 

「えへへ……」

 

「それでは行くとするか。」

 

「うん。兄ちゃん!」



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第三十六話

 

次に訪れた店はここ数ヵ月だ有名になっている店である。

腹ごなしには少し重たいが季衣殿には関係ないことだろうな。

店の中に入るともう昼時は過ぎているというのに満席か……

どうやら店員も回りきっておらず、こちらの対応は出来ない状況なのだろうか。しかもこちらの文化では勝手に席に着くことが当たり前で店員が接客することは少ない。よほどの立場の差があれば変わるのだろうが。

 

「ふへぇ……こんなに一杯だなんて……」

 

「うむ……仕方あるまい。店主に聞き取りだけして次の店に入るとしよう。すまない。」

 

「兄ちゃんは悪くないよ……うぅ、最近流行ってる料理食べたかったなー……」

 

悲しそうな季衣殿の表情を見るとこころが痛むが仕方ないそれでは店主は……

と店内を見渡すとこちらに向かって手を振る青緑色の髪の金色の鎧を着ている女性がいた。喧騒の中で声は聞き取れないが、手の動きを見るにこちらにこいということだろう。席を見るともう一人の大人しそうな髪を肩で揃えている同じよえな鎧を着た女性が困ったような顔でこちらを見ているが私の視点に気付くや否や笑顔を浮かべこちらに促すような身振りをする。

 

「季衣殿。どうやら食べられそうだぞ。」

 

「ふぇ?」

 

季衣殿の身長では見えないのだろう。手を繋ぎそこの席まで誘導する。

 

「ほらな?斗詩。きただろ?」

 

「そうだね……文ちゃん。あ、どうぞ座ってください。」

 

そして彼女らと対面するかのように座る。

 

「ありがとね!お姉ちゃんたち!」

 

「助けてもらったいました感謝します。」

 

「いいってそんなかしこまらなくても。こんなときこそ助け合いだろ?」

 

「いいんですよ私達こんな格好してますから結構広い席に通されて回りの方々に申し訳なかったですから。」

 

「そうでしたか。ですが助けてもらったことも事実ここの勘定は私がもちましょう。」

 

「よし!やったな斗詩!いやー人助けはするもんだな!よしちびっこたらふく食うぞ!」

 

「ちびっこじゃないやい!でもたくさん食べる!」

 

「ははは……すみません……」

 

「構わないさ。こういったことには慣れている。」

 

「あと兄ちゃん。」

 

「何かな?」

 

「敬語で喋るの、すんごい違和感」

 

そこまで私は礼儀知らずではないはずなのだがな……

 

 

 

 

そして数分がたつと

 

「ちびっこに負けてらんねー!」

 

「僕だって!」

 

といい大食い大会が始まっているのであった。

どうやら波長が会うのだろう。それにしてもこの量は少し予想外だな。

 

「ははは……すみません。ご迷惑をおかけして。」

 

「いや、構わんさ。」

 

隣の二人が喋っている、食べている中我々は自己紹介をすませ少し砕けて喋っても良いということは許してもらえた。

 

「でもこんなところで噂の青の御遣いに会えるなんて思っても見ませんでした。」

 

「ん?なんだ?その青のなんちゃらってやつ?すごいのか?」

 

「もう文ちゃんたら。私達の町でも有名じゃない。二人の天の遣いがいて一人は劉備と共に善政を取り持ち、もう一人の青の御遣いは武を用い様々な戦に介入していると。その武勇は聞いています。」

 

「あぁ、あの漢の兵団を一目見ただけで撤退させたってあの?」

 

「なんだその噂は……根も葉もない戯れ言だな。」

 

「ですが姿は正しく伝わっていると思いますよ。金髪碧眼そして右顔に大きな傷をもつと。」

 

「それなら兄ちゃんしかいないね。」

 

季衣殿も頷いてくる。

 

「まぁそれはおいておくとしてだ。してこの陳留にそんな鎧を着こんでなに用かな?」

 

そうこの落ち着いている時期に鎧を着込み来るなど何かあってしかるべきだ。何もないならそれでもいいがこの時期に客将志願ならば事前に文があってしかるべき。それすらせず、この者たちほどの実力がある者が来るということは何か火急な用事が誰かから下されている。と思ったほうが良いだろうな。

 

「そうですね。それはまた別のところで。」

 

流石にここでは言えないか……

 

「それで青の御遣い様は何故陳留に?」

 

「何故と言われても私は曹操殿のもとで兵を預かる身なのでな。」

 

「そうですか……そうなんですか!」

 

「おう!斗詩どうした!?」

 

「だっ…だってそんな情報入ってきてなかったし……」

 

噂を流しているのは燈だったはずだがある程度の情報統制はしているのだろう。だが何故曹操のもとにいることを伏せるのか少しわからんがな。

 

「でも知れてよかったかも。あのグラハムさん私達は袁紹様の命により曹操様に用事があるのですが取り次ぎを頼めないでしょうか?」

 

少し小声でこちらに話しかけてくる。私の予想は当たっていたようだな。

 

「了解した。その役目このグラハム・エーカーが引き受けよう。

だがその前にこの二人の状況をどうにかしなければな。」

 

「ねぇ兄ちゃんまだ食べて言い?」

 

「いいよな?斗詩!」

 

「いいぞまだ時間はあるさ。顔良殿もそれで良いか?」

 

「もう文ちゃんったら。勿論構いませんよ。」

 

なら注文をするか。少し時間がたっているため混雑は解消されはじめている。これならば店員を呼んだほうが良いだろう。

 

「すまない。注文を頼めるだろうか?」

 

「は~~い」

 

と店員の声が聞こえる。

 

「しかし今日は友を探すのは中断だな。」

 

「仕方ないよ。華琳様にとって重要なことなんでしょ。また探せばいいよ。」

 

「人探しか?」

 

「うん。僕の友達が陳留に来てるはずなんだけど全然見つけられなくて。」

 

「そうなんですか。それは心配ですね。」

 

「うん。でもしっかりしてるからもしかしたらこういった所で働いてるかもって、兄ちゃんと一緒に探してるんだ。」

 

「はーいお待たせいたしました。」

 

「そうそういつもこんな声でいつも……」

 

「季衣?」

 

「流琉?」

 

おっと感動の再開といったところだが。二人とも何故か武器を取り出し

 

「季衣!」

 

「流琉!」

 

と戦いはじめるのだ。よもや宿命にまで至っているというのか?



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第三十七話

 

「袁紹と袁術、陶謙に公孫賛。西涼の馬騰まで……良くもまぁ有名どころを並べたものね。」

 

あの後の騒ぎの後偶然町に出ていた華琳殿と夏侯姉妹に出会い城に戻り彼女達が言っていた通りの謁見が行われている。

集まっている面々は文字通り凪を含む、今の曹軍の上層部全員ときたものだ。燈殿もこちらに報告に来ていたらしく荀彧殿の隣にいる。立場としては助言役か、政の軍師といったところか。私と目が合うと意味深な瞳で此方を少し見る。

何かを伝えたいらしいがそちらばかりを見ているわけにはいかない。目の前ではこの大陸を揺るがす策が華琳殿に告げられている。

「董卓が朝廷を思うがまま支配し圧政をしき、都の民は怯えている。加えて天子様を監禁し政務の断りすらいれておらず独裁をとっている。これでは董卓が天子様に成り代わっているようなものではないか。そのようなことはあってはならない。よって袁紹はここに漢の大将軍の名の元に朝敵董卓を打つべく連合を設立することとする。今まで朝廷に受けてきた恩を返す時である。」

 

ということらしい。

 

「まぁ、真ではあるな。」

 

と一言呟く。荀彧殿がこちらを睨むが顔良殿と文醜殿の話は進んでいる。それを私達、華琳殿は静かに話を聞いている。そのどれもが全て筋が通っている。

華琳殿もうんうんと頷いている。そして彼女らは語り終えると

 

「我等の主、袁紹様からの言伝は全てになります。場をもうけてくださりありがとうございました。お見送りは不要ですので。それでは私共は失礼します。」

 

「失礼します!」

 

と、二人揃って出ていく。顔良殿は恭しく頭を下げるが文醜殿は慌てたように勢い良く頭を下げて部屋から出ていく。

 

「さて……」

 

と華琳殿があの二人が去るのを待ち口を開く。

これから即軍議が開かれることが決定した。華琳殿は顔良殿が残した書簡を荀彧殿に渡す。

 

「それでは軍議をはじめる。まず最初に……グラハム、あなたの意見を聞くわ」

 

「な!」

 

荀彧殿の驚いた声が響くがそのまま軍議は進む。通常は軍師か、ここで言うならば燈殿のように知識をもっている者から意見を聞くのが通例である。が聞かれたからには答えなければならない。

 

「全て筋は通っている。恐らく董卓が都で行っていることも噂も含めて真である可能性が高い。しかしそれが虚偽である可能性もある。そして筋が通りすぎていることも確か、無信用に信じるのも愚かだ。」

 

「ではどうするの?」

 

「連合というものに参加した方が良いだろうな。私は華琳殿が最初に言っていた名のある将は知らないがそのもの達が参加するというのに我等が参加しないわけにいかない。」

 

「らしいけれど。桂花と燈はどうかしら。」

 

「は!参加しない方がよろしいかと。グラハムの言う通り情報は不鮮明。今は静観でよろしいかと。」

 

と荀彧殿

 

「私はグラハム様の言う通り参加した方が良いかと。理由もグラハム様の言う通りです。」

 

と燈殿は言う。

お互い違う意見ではあるが言っていることは策として打倒なもの。安定か、変化か。

華琳殿が選ぶ方は決まったも当然だろうな。

全ての話を聞き終わり華琳殿が頭を上げ

 

「我々はこの連合に参加する!各自準備を進めるように!」

 

と宣言されるのだった。

 

「グラハムは残りなさい」

 

と一言加えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁもうなんなのよ!あいつ!先に全部言っちゃって!しかも私達よりも先に意見するのよ!」

 

「まぁ桂花様。隊長も悪気はなかったですし……」

 

「桂花さん少しみっともないですわ。」

 

軍議が終わり外に出て暫くたつと私の隣にいた桂花様が何か言い始めたが周りの彼との距離が近い凪様と栄華様がそれをいさめている。

流石に女性にたいしては何も言えないのか機嫌が悪そうだ。

 

「落ち着いてください桂花様。これから私達は大まかな策を考えなければならないのですから。」

 

と私もいさめるがそれが逆効果だったらしく

 

「あんたもあんたよ何勝手に聞いたと思ったら軍議に参加して軍師面してるわけ!」

 

「それは華琳様から許可を得ていたこと出し今回は私が都や他方に知り合いが多くいるからということで情報収集と、策の立案を桂花様のお手伝いをと申し遣ったのですから。」

 

桂花様は華琳様にはやはり弱く、名前を出すと弱々しくこちらを睨んでくるだけですみ。一人足早に去っていった。

 

「桂花様も少しはグラハム様を認めても言いと思うのだけれどね。」

 

「そうですわね。桂花さんも実力は認めていますけど……お姉様が関係してくると……」

 

「にしても私が見ない間にグラハム様と栄華様は何かあったのかしら?」

 

「何かとは?」

 

「いえあれだけ男性を毛嫌いしていた貴方がグラハム様を庇うだなんて……何か事情があったのかと思いまして。」

 

そう聞くと少し赤面して

 

「あ、いえ!そんなことないですわ!」

 

と強めに否定する。すると後ろにいる凪様が少し下を向く。なんというかこの二人は対照的だと思っていたけれど

どうやら似た者同士らしい。あの人が言っていた通りグラハム様もすみに置けないお人ね。こんな可愛い子達を弄ぶなんて。

 

「あら、ではやはり凪様が?」

 

「わ、私は隊長とはそのような仲では……」

 

と、凪様が今度は赤面する。今度は栄華様が凪様のほうをじっと見ている。もういじらしいわね。私にもこんな時期があったわね。

 

「あらてっきり貴女方二人か桜居さんが関係はもっているかと思ったのだけれど。」

 

そうからかうと

 

「と、燈さん!失礼でしてよ!」

 

「そ、そうです!」

 

と反応を返してくるので余計からかいたくなるもの。

 

「あら折角何か助言が出きると思ったのだけれど……」

 

「そ、そんなの必要ありませんわ!」

 

「わ、私もこれから隊の編成があるので失礼します!」

 

といって焦ったように彼女達は持ち場に戻っていく。

 

「あら、残念。」

 

そう、呟いた。

私も準備をすることがある。桂花様の案件だけではなく違うものまで手広くしなければ……

 

「本当に罪作りな人……」

 

これから起こることを予想し、あの人を思い出しながら再び呟くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでグラハム貴方はどうするの?」

 

「どうするとは?」

 

華琳殿に残るよう言われ広い部屋に我等二人が残される。

華琳殿はいつも通り喋ている。

 

「この連合に参加する理はわかったわ。でも私はあなた個人の意見を聞いているのよ。」

 

「董卓殿につくべきだ。」

 

「理由は?」

 

「正義は袁紹にはない。」

 

「それは何故?」

 

「筋が通りすぎている。しかもここで大将軍が一方的に武を示す必要はないだろう。普通漢を思うならば董卓殿を罷免する準備し、天子様を奪還すべく陰ながらやるのが正策。しかし今回はそれを公にし連合の主として腰を下ろそうとしている。私はこれをただの欲であると考える。」

 

「まぁそうね、袁紹……麗羽ならしかねないわね。なら董卓に正義があると?」

 

「正しくはないが義はある。今回の大粛清も今までの漢を掃除するというならば手段は手荒いが頷ける。しかも都の民は怯えていないことは華琳殿も知っているだろう。」

 

私に董卓殿からの密書が届くのは、誰にも知られずに送られてきているわけではない。私と華琳殿宛に別々の書状で送られてくる。それを軍師殿らは華琳殿の言伝で華琳殿に回し、私は華琳殿から許しを経て密書を受け取り返事を書いている。なので昨日届いた密書も互いに共有している。

 

「そうね。」

 

「よって私は今回董卓殿につく。」

 

そう、言いはなつ。

聞き方によっては裏切りの宣言である。

 

「ならグラハム隊はどうするの?」

 

「隊は凪か桜居が引き継ぐ。引き継げるよう準備はしている。」

 

「準備がいいこと。でも私を一度裏切るんだもの。それなりの対価を払ってもらうわいいわね。それと名前と青の御遣いも置いていきなさい、私が預かっておくわ。」

 

「もとよりそのつもりだ。」

 

「それと明日は空けておきなさい。」

 

華琳殿はそう言うと跪いている私の隣を通り部屋を出てくる。

そして出ていったことを確認し。

私は体全体の力を抜いた。

 

「流石曹孟徳殿。この圧は私では耐えられないか。」

 

立ち上がるのにある程度の時間を有した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三十八話

 

「しかし早くもこうなるとは思わなかったがな……」

 

華琳殿と話した後通常の仕事を済ませ今は私室で個人の準備を進めている。ほぼ全兵が準備をするのだ急いでも一週間ほどかかるだろう。

 

「それまでには私の準備を終えなければな。」

 

悠長にまつ余裕はあるが。心の準備をしなければならない。これまで軍部の中で我を通したことは数えきれぬほどあったが、私が今からすることは裏切りにすぎない。正しいのがどちらかはわかっている。どちらが不利かなど明確。どちらを選ぶなど必然。その選択をもう私は間違えたくはない。だから私はあのように大見得をはったのだ。

いや、今はそう言ったことは考えることは止めとこう。もう覚悟は決めた。

戸棚を空け装備を磨き始める。今日はそうして落ち着こうと思った時に扉の奥から気配を感じた。

磨いていた装備をしまい。

 

「こんな時間になにようかな?」

 

と扉の向こうに声をかけると

 

「おや、ばれてしまったな。」

 

と秋蘭が部屋に入ってくる。

 

「もう夜も遅い。少し不用心ではないか?」

 

「なに、生半可な者が私を襲ったとしても問題はあるまいさ。それよりも」

 

というと恐らく酒の入った壺と私の部屋にある盃を2つ机におき

 

「別れ酒でもしようじゃないか。」

 

「………」

 

何故知っている?そう言葉が出かけたがあそこで堂々と宣言していたのだ。誰かに聞かれていたとしてもおかしくはないが。秋蘭が最初だとは思わなかった。少々厄介だな。

 

「そんな顔をするな。まだお前が華琳様に遣えている限りは手は出さんさ。」

 

「そうか……ではいただこうか……」

 

そして我々は椅子に腰を掛ける。秋蘭によって酒が盃に注がれる。盃を持ち上げ口に運ぶ。

これは美味いが……大分強いな

 

「おや?酒には弱かったか?」

 

「まぁそうだな。私が元いた場所では酒はあまりノンで来なかったからな。」

 

「全く娯楽がなかったのか?華琳様が言うにはお前は女との付き合いも未だにないときくが。」

 

「そんなことまで言っているのか……

まぁそうだな。私はずっと軍部で働いていたからな。幼年時代も軍について学んでいた。そのせいで遊びを知らぬまま育ってしまったがな。」

 

そういい辛い酒をまた口に含む。

やはり美味いが私にはきついな……

 

「そうか。ならここでの生活は楽しかっただろう。」

 

「そうだな。良き部下を持ち、友もでき、こういった娯楽まで教えてもらったのだ。私の人生の中でもっとも有意義だったといえるだろう。」

 

正直にそう思う。前の世界……ユニオンに所属していたときは我武者羅にもがいてばかりであったな。ただ

 

「前世も悪い人生ではなかったがな。」

 

「何をいうかと思えば、まるで死んだ経験があるような言葉使いだな。

しかしそんなお前が裏切るとは思わなかったがな。」

 

「それは仕方がないとしか言えんさ。ただ、意見が違ったそれだけだ。」

 

そうだ。ただそれだけの話だ。利を求めるか、正義を追い続けるかそれだけの違い。

どちらが正しいかと言われればどちらも正しいのだろう。

 

「何故知っているかとは聞かないのだな。」

 

「知っている者、予想している者はいるだろう。」

 

「そうだろうな。グラハム隊はどうするのだ。」

 

「凪か桜居が継ぐだろうな。彼女等も良き将になるだろう。」

 

「桜居?何故凪ではないのだ?必然的に凪になるはずではないのか?」

 

確かに必然ならばそうなるな。

 

「あぁそうる可能性もあるが、なにこれから分かるさ。」

 

「成る程そういうことかだが二人の損失は痛いな。

さて私は少し邪魔なようだから少し離れるとする。その酒は記念に貰っておいてくれ。姉者には飲ませられんからな。」

 

「ありがたく貰っておこう。」

 

といい戸棚にしまう。そして彼女は出て行こうとするが

 

「あぁ一つ聞きたかったことがある。」

 

最後に振り向いて私の顔を見て

 

「もし、お前が敵として私の前に立った時は容赦はしなくても良いのだな。」

 

「結構。その弓で眉間を貫いてもらって構わない。」

 

「そうか。それが聞けてよかった。」

 

といい、今度こそ部屋から出ていった。

 

「ようやく話が出来るな凪。」

 

「はい。そうですね隊長。」

 

と扉が開き凪が出てくる。私が今日来るように呼んでいたのだ。

 

「聞いていただろう?」

 

「失礼ながら。」

 

「そうか。」

 

無言の間が流れる。

 

「疑問はないのか?」

 

「ないと言えば嘘になります。ですが軍の一部にも華琳様の決定に内心反対のものはいます。」

 

「そうだろうな……では凪。君はどう思う。」

 

「私も反対ではあります。ですが……間違っていないことも事実。否定はできないかと。」

 

「そうだな。もしこの戦乱が終わればさらに世の中は荒れるだろう。武をもって正義となす時代の到来だ。」

 

「ですが我々はそのために戦っているわけではない……そうですよね隊長。」

 

「我々は生きるために戦う。ただ我々の選択は二つに一つ。自身の正義を曲げるか、自身の正義を貫くかだ。ならば答えは必然。」

 

「それが隊長の意思なのですね……」

 

「あぁ、不義であると罵られても構わない。」

 

また少しの間無言の間が続くが

 

「えぇ、隊長らしいですね。」

 

凪は微笑んでそう言った。

 

「私もそう考えます。」

 

「良いのか?凪の悲願は邑を守ることではなかったのか?」

 

「確かにそうです。今もその願いは変わっていません。でも隊長。私はこの判断が邑の守ることに繋がると考えています。真桜や沙和にも影響を与えることこができるでしょう。そして何より

私は貴方グラハム・エーカーを隊長としてグラハム隊に入隊したのです。隊長に副将がついていくことのどこがおかしいのでしょうか?」

 

「成る程。そうか。」

 

そして凪に近寄り頭に手を置く

 

「た、隊長!?何を……」

 

「本当に良き部下を持ったものだ。その献身感謝する。」

 

「い、いえ……それほどのことでは……」

 

「では、出発は軍の準備が終わる一日前の日没後行う。向かう場所は追って知らせる。いつでも出発できるよう準備しておけ。そして顔を明かすわけにもいかない仮面はこちらで準備しよう。傷を隠すことになるがすまないな。」

 

「いえ問題ありません。了解いたしました。ですが……」

 

「なにか問題が?」

 

「部隊を桜居に任せて大丈夫でしょうか?」

 

「問題はないだろう。桜居も将の経験を多く積ませたつもりだ。それに他の隊員からの人気も高い。」

 

「ですが……」

 

「心配するな。私達が育てたのだ上手くやるさ。」

 

確かに不安はあるがなんとかなるだろう。

さて明日からは少し忙しくなるな。皆と最後の時を過ごすとしよう。

 

 

 

 

 

 



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第三十九話

 

「それでいつ去るの?」

 

「軍の出陣の前日になる。」

「あら、思ったより遅いのね。貴方のことだから準備はしていると思ったのだけれど。」

 

「仕方あるまい。二つの準備を同時並行で行っているのだ。」

 

「あら殊勝なことね。」

 

私が離反することを華琳殿に告げた翌日。一日空けておけと命令された通りに空けてはいたのだが、私の了承がなければいけない案件も回ってくる。なので部屋で簡単な事務仕事を行っていたのだが……

少し資料から目を離し正面を見ると

 

「手が止まっているわよ。」

 

そう言いながら茶を啜る華琳殿が目に入る。その姿は誰もが見ても退屈にしているようには見えない。物珍しい者を見るような目で見ている。

 

「華琳殿は今日は何もしなくて良いのか?」

 

資料に目を通しながら尋ねる。

 

「えぇ、貴方と違って今日は空けといたのよ。」

 

「それならば私も空けていたとも。」

 

「今の貴方のどこが空けているのよ。」

 

机の上だけでなく机の下にも多くの書簡が置かれている。

 

「なに。これは後日でも良く誰がやっても良い雑多な作業だ。それを少し集めたに過ぎないさ。」

 

ただに暇な時間を過ごすことは性にあわない。なのでやっても問題がなく、やらなくても苦労をかけないようなものを集めたわけだ。まぁほとんどが私の隊の戦がおわったあとの装備や仕料の調達の確認だ。今はそれを手配するための書簡をしたためている最中なのだが。

華琳殿はそれをずっと見ている。かれこれこの作業を初めてからもう数刻は経っている。凪がいなくて良かった。凪は正直な性格だ、裏切る相手が目の前にいれば動揺が見えるかもしれん。華琳殿は予想はできているだろうがな。

 

「貴方は字が書けていなかった筈だけれど、達筆なのね。」

 

「確かにそうだ。だがとあるところで修行していたときこういった筆の扱いには慣れていたからな。」

 

「確か文字も読めなかった筈だけれど……」

 

「あぁそれは、良き先生が教えてくれたのだよ。懇切丁寧にな。」

 

最初は凪や秋蘭に教えてもらっていて、書類仕事は問題なかったのだが。それでは足りないと荀彧殿にしごかれたものだ。まぁ本や竹簡を多く読まされ模写をし間違えがあればいつもの罵詈雑言を吐かれるといったスパルタも涙目な教育方法だったのだが。

 

「成る程ね。良き先生に教えられたようね。にしてもやはり派手なものね。」

 

「そうだろうか?」

 

「ここは跳ねすぎ。何とか自身で調整して書いているようだけど文字には均衡があるのよ。」

 

「ふむ。そういうものか。」

 

「そういったものよ。」

 

「ではこうかな?」

 

「いえこうよ。」

 

というと私の筆をとり、正しい字を書き始める。書いている字は、とても綺麗なものだ。

 

「うむ綺麗だな。」

 

「そうでしょう。」

 

なんともそれが当たり前のように言う。流石は華琳殿完璧なものだな。そして武術にも、軍略にも通じている。あまりこういったことは言わないが彼女が正真正銘この軍の全てであるのだろう。しかもそれを関係性の深い者は愛で繋がっている。固いものだ。

この軍とはやりたくないものだな。

 

「また手が止まっているわよ。」

 

「申し訳ない。昼でには終わらすとしよう。」

 

「えぇそうして頂戴。昼食はもう予約しているのよ。」

 

「それは早く済ませなければな。というかいつもいる夏侯姉妹や親衛隊はどうしたのだ?」

 

「今日はおいてきたわ。貴女がいれば問題ないでしょう。」

 

問題はないのだが彼女らがどうなるか。彼女たちは愛で繋がり固いが、それがたまに傷となることも多くある。まるで信者のようになることがある。信者との決定的な差は明確な愛で繋がっているので暴動などはないだろうが、少し面倒なことにあうのも事実だ。何度罵詈雑言を吐かれ、何度斬りかかられたものか。

 

「まぁその点ではないのだが了解した。」

 

また連れてきてない理由としてはまだあるのだろうが。

そして、それから華琳殿は私の仕事が終わるまで何をすることなく見ているのであった。

途中で誰かが来たようだが華琳殿がいるのを察しどこかにいったようだ。恐らくは凪だろうな。

 

 

 

そして昼になり、昼食を取りに行くが場所は案の定いつもの店であった。

 

「いらっしゃい。あら曹操様、グラハム様。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」

 

そう言っていつもの女性に案内される。そしていつもどおりの注文を済ませ席に着く。

なにも喋らず時が進む。最初茶が運ばれ。それを口に運びながら待てばすぐに料理も運ばれてくる。それを食す。

 

「食べ終わったら買い物に付き合ってもらうから。それと貴方が行きたい所も決めておきなさい。でも私が楽しめない所は駄目よ。」

 

少し食べ進めた時期にそう話しかけてきた。

 

「買い物か……」

 

「何?不満?」

 

「いや、少し思っていたものと違ったのでな。これから死合おうと言われると思っていたからな。」

 

「失礼ね。私は春蘭ほど血気盛じゃないわよ。でも貴方が望むならしても構わないわよ。」

 

「いや、止めておこう。私が無事ではすまないだろうからな。」

 

「そうね。私も手加減できるかわからないもの。じゃあ早く食べましょうか。」

 

そしてまた無言のまま食べ始める。やはりその所作は美しいの一言だろう。恐らくは女性から見てもこの美しさは変わらないのだろう。その証拠に周りの女官や女の将などは皆華琳殿に尊敬以上の感情を持っている。そこで気に入られれば華琳殿の寵愛を受けることもできる。

だが一方男は周りに侍らせてはいない。親衛隊はあくまでも兵。他の関わることのある将や文官も周りの女性(主に春蘭、秋蘭だが)の圧によって皆仕事以外では近づこうとはしない。

そのような我等の主は今、周りに誰も侍らせず、天からきたとは言われているがただの将である男と二人きりで今日一日を過ごそうとしている。

何かある。そう考えざるを得ない。一日空けておきなさいと言われた時は華琳殿も何か予定がある上でのものだと思ったが……そうではない。この為だけに時間を空けてきている。やはり先に始末しようと……いや華琳殿ならば罪を公言しそれから私が逃げるか従うかを楽しむような少女。それはない。ならば何が狙いだ?いやここで考えすぎて怪しまれてはいけない。恐らく今日は最後まで付き合うこととなる。そこまでゆっくりと考えればいい。今は運ばれてきた食事を楽しむとしよう。

 

「今日も美味であった。代金は」

 

「いいえ。もう代金は受け取っていますよ。」

 

どうやら先に華琳殿が払っていたらしい。ここは年長者らしいことをしたかったのだが仕方あるまい。

 

「そうか。ではまた来させてもらおう。」

 

「はい。ぜひお待ちしております。それとグラハム様これを。」

 

そう言われ折り畳まれた紙を手渡される。

 

「成る程。すまない。」

 

「いえ。これからですよ。お願い申し上げます。」

 

「あぁ一度引き受けたのだ。約束は違わぬよ。」

 

そういい先に出ていた華琳殿と合流する。

 

「予定はすんだの?」

 

どうやら何かあることは予想していようだ。

 

「あぁ済んだとも。」

 

「そう。それじゃあ行きましょうか。」

 

といい連れてこられたのは

 

「うーん。どちらがいいかしら?グラハム貴方の意見を聞かせなさい。」

 

もちろん男性ものではなく女性ものの服屋ではあるのだが……華琳殿が持っているのはただの服ではない。手にしているのは下着である。私の時代ではブラジャーと言われていたものだが……この時代にも似たようなものがあるとは……

いや感心している場合ではない。

華琳殿は実際に自分の胸に当ててみて私に見せつけるようにしてくる。

 

「どうしたのグラハム?」

 

こちらを向く華琳殿。私は不意にあらぬ方向を向く。

 

「何よ。目線を反らして。私は貴方に聞いているのよ。」

 

これは何か言わなければ更に小言を言われるだろう。たしか手に持っていたものは白色の下着だったはず。

 

「似合うのではないか?」

 

「ならこちらはどうかしら?」

 

と今度は近くにあった黒い下着をとり、胸に当てる。

こういうことは、春蘭や秋蘭と共にやった方が楽しめると思うのだが……

だがここでどちらも似合うと言う私ではない。それは日本アニメーションにおいて学んでいる!

 

「ふむ。華琳殿であれば後者の方が似合うのではないか?」

 

「そう。ならこれを貰おうかしら。それから……」

 

といいまだまだそういった買い物はつづくのだった。

 

 

 

 

 

 

そしてしばらくさまざまな店を回ったあと、夕食を適当に近場で済ませた。正直もっと良いところでも良いのではと思ったが華琳殿が言うにはあれで良かったらしい。豪勢なものでなく軽くですましたかったということだ。何かこれからあるのだろうか。また別の場所へ行くのだろうか?と考えていると。

 

「さぁ戻りましょうか。」

 

「了解した。」

 

といい暗くなりつつある道を歩く。

いつも通り我々は共に無言で歩いている。

この町の風景を見るのももうあと何回になるだろうか。町にこれ程長くいることはなかった。愛着が湧くのも仕方がないか。

 

「貴方、凪や栄華はどうするの?」

 

「凪はもちろん隊長の責務を果たさせて貰う予定だが……栄華殿はなぜだ?私の管轄ではないだろう。しかも裏切る身だ。別れの言葉など不要だろう。」

 

そうだ。私が決断したことはそういうことだ。どう憎まれようと構わんさ……その覚悟はできているとも。

そう、覚悟を示したのだが華琳殿はこちらをじっと見ている。

 

「貴方、やはり気付いてはいないのね。

ならそうね。少しこっちに来なさい。」

 

何故かと言ってはならないような雰囲気であった。なので大人しく近づくと、顔を引き寄せられ

 

「貴方は私に求めるべきものを気付かせてくれたわ。ならわたしも貴方が求めているものを気付かせてあげる。それは……」

 

 

 

そういった後二人の影は重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり彼も歪んでいるのね。」



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第四十話 

私が曹操殿と一日を過ごしてから3日がたった。準備は佳境を迎えている。今日で最後の軍議そして明日の明朝出立ということになるだろう。

 

「グラハムどうしたのだ?いつものお前らしくないな。」

 

「姉者の言う通りだグラハム。明日が予定なのだから今日は休んではどうだ?倒れてしまってはもともこもないだろう。

そう話しかけてきたのは春蘭殿であった。相変わらずこの忙しいときでも元気なようだ。そして後ろには秋蘭もいる。今日も仲の良い姉妹だ。

 

「なに問題はないいつもどおりだ。しかも、今日は数え役満姉妹にようがあるのでな。他の者には任せられないのだよ。あの3人はなかなかに骨が折れる。」

 

「そうか?まぁ貴様なら大丈夫だろう!ではな!」

 

といい去っていった。

大分信頼を得れているのだろう。あれから良くこうなったものだ。まだあの痛みは覚えている。

 

「そうだな覚えているとも。」

 

そう言い私は数え役満姉妹のいる場所へ向かう。

その時の私は華琳殿に直面したような覇気は一切なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの凪さん。」

 

少し覇気のない隊長を送り出した後栄華様に話しかけられた。

 

「栄華様どうかなされましたか?」

 

「いえ、グラハムさんの元気がなさそうだったので……何かあったのかと……」

 

やはり隊長関係のことだとは思っていましたがやはり気付かれましたか。春蘭様も気付いていたようですし日頃から良く見てれば見極められるものなのだろう。

 

「そうですね。確かにいつもの隊長ではなかったかもしれませんね。」

 

「やはりそうですよね。何があったかご存じですか?」

 

確かに私たちは今離反する準備をしているが、流石にそれを話すことは出来ない。しかも理由はそれではない。明らかに華琳殿と一日出掛けた後にあの様子。何かあったのは間違いない。正直心配であるが、私が声をかけたときも「大丈夫だこれは私のことなのだ」と話を遮ってきた。私が関われることではないのだろうと思っている。

 

「いえ心当たりはありませんね。」

 

だから私はこう言った。

 

「そうですか。では夜にでも食事でも持っていきましょうか……流流さんもやっと城内で働けるようですしね。」

 

だから、私は、私と同じ思いを抱いていて私より器用な人に機会を譲ろうと思います。これが裏切ることの贖罪の一つになると信じて。

 

「凪さんもご一緒にいかがですか?」

 

栄華様も私の気持ちには気付いているのに……お優しい。私はやはり不器用すぎますでしょうか。大分眩しく感じるのです。

 

「いえ、ご遠慮致します。今日の夜は桜居と予定があるので。」

 

「あら、そうでしたの……それは残念です。」

 

「なのでお二人で楽しんできてください。では私も仕事があるので失礼します。」

 

と、足早に去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凪さんどうされたのかしら?」

 

ここ数日グラハムさんと凪さんの様子がおかしい。何か浮わついたものではなくもっと違うもの。それがなんなのかわからないから聞きに行くのです。何か重大な気がしてならない。

 

「栄華様ーーー」

 

「あら、季衣さん。流流さん。丁度良かった。」

 

後ろから声をかけてきたのは可愛らしいお二人こと季衣さんと、流流さんであった。恐らくいつも健気にしている挨拶だろう。

あれ程喧嘩をしていたのにもう仲直りしているようでなんと微笑ましいことでしょう……

 

「私に何か用でしたか?」

 

「えぇ。今日の夜食事を二人分作ってほしいのですけれど、お願いできますか?」

 

「えぇ構いませんけど…一人は栄華様としてもう一人は……」

 

「グラハムさんですわ。」

 

「あぁ、お兄様ですね。わかりました。」

 

「お兄様?」

 

「はい。季衣が兄ちゃんと呼んでいましたし香風様も同じように呼んでいましたのでそう呼ばせてもらっています。」

 

「あぁそうなのですね。」

 

少し驚きましたわ。もしかしてグラハムさんは小さい子が好みなのでわ!いえいえそんなことありませんわ。それに私には何も関係ないのですもの!

 

「それではお願いしますね。」

 

「はい。お任せください!」

 

「じゃあねー栄華様ーー」

 

と二人が去ったのを確認してから私は仕事に戻るのですが……

 

「栄華。」

 

また声がかかる。それは

 

「お姉さま……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

春蘭殿たちと別れた後私は三姉妹のまつ場所に向かっていたのだが予想できない人物に邪魔をされた。

 

「お兄ちゃん……何か隠してる……それは言えないこと?」

 

そうシャン殿である。彼女は情報には疎い筈だが、野生の感で私が何か隠していることを悟ったのだろう。だが、その目は責めるというよりも、心配するような目だった。私も不甲斐ないものだ。

 

「ずっとお兄ちゃん、難しい顔してた。だからシャン話聞こうと思って一人になるの待ってたけどなかなか一人になってなかったから今日になった。ごめんね。」

 

「いや構わないさ。だが残念だがそれは言えないのだ悪いな。」

 

「シャンにも?」

 

「あぁ。」

 

「でもどっか行くことはわかってる。」

 

「それは感かな?」

 

「うん。でも仕方ない。シャンも遣えてたところ攻めるわけだし。」

 

「かなわないな」

 

「えっへん……」

 

やはり戦場にずっと立っているこの時代に住んでいる人は一味も二味も違うようだ。まぁシャン殿だからということもあるだろうが。

 

「でも、お兄ちゃんもっと違うとこで悩んでる。何かあった?」

 

「あぁ色々あったが話すまでもないさ。こう気遣ってくれるものがいるだけで安心したとも。感謝するシャン殿。」

 

といい頭を撫でてやる。すると嬉しそうに顔を寄せてくる。まるで猫のようだな。

だが私の心はまだ少し曇ったままだ。こうも心配してくれる仲間がいても払拭しきれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し合いが終わりグラハムさんは帰っていった。話し合いの内容は補佐役をつけるということであった。グラハムさんも将なのだから仕方ない。

 

「ねぇ、なんか今日のグラハムいつもと違わなかった?」

 

「そう?あんまり変わらなかった……確かになんかいつもの仰々しい言葉遣いは少なかったわね。」

 

「そう。私はいつもより静かで良かったのだけれど。」

 

そう私たち三姉妹は少しの違和感には気付いていた。でも私だけ、人和だけ少しの違和感の仲に生じた少しの歪みを捉えていた。だってそれは私達の専門分野だったから。でもそれは他人には言えないものだから。それは自分で解決しないと行けないものだから。だから私は待つの。貴方が帰ってくるその日まで。あの話は華琳様から直接聞いた多分何人か関係性の深い人に話しているのだろう。姉さんたちには話していない。これは私の胸の中にしまっておかないと。

 

「よし!それじゃあ作戦会議をしよう!」

 

「えぇーーまた?」

 

「そうね。」

 

「人和ちゃんも乗り気だねーー」

 

「地和姉さんはほおっておいて始めましょうか。」

 

「ちょっと私を置いてかないでよ!」

 

「じゃあ始めよう。

 

 

 

 

 

 

グラハム籠絡作戦!!今回の議題は……」

 

だってこんなことするぐらい貴方を慕っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三姉妹の話し合いを終え自室に帰ってきた。正直今日はやることがない。準備は終わっている。夜が更けた頃に後は出るだけだ。そしてふと机の上を見ると一つの竹簡が置かれていた。何かの指示だろうか?と思い読むと栄華殿からの夕食のお誘いだった。どうやら私の部屋で一緒に食べようという話らしい。流石に栄華殿にも気付かれてしまったか……気を遣わせてしまったな。これは受けよう。それが終わった後でも離反は間に合うか。

そう考えその竹簡を机の引き出しにしまおうとするが。

 

「そうかこれを貰っていたな。」

 

その引き出しの中には喜雨殿から貰った書簡があった。

 

「確か燈殿から貰っていた。」

 

確か時が来るまでは空けるなだったな。

いつもは絶対に開けない。そう言い切れる。それだけの人間だった。だが今の私は自分の思ったより不安定だったのだろう。どうにも気になってしまった。その書簡が見たくて仕方がなかった。そして手を伸ばして開いてしまった。そしてそこには

 

「なっ!?」

 

私はまず驚いたのは全てが英語で書かれていたこと。そして最後に書かれていた名前は

 

 

Howard Mason

 

と書かれていた。

 

「ハワード……!」

 

昔の死んだ筈の部下を見て焦ったが、まずは手紙の内容を見なければ始まらない。

 

『これを読んでいるということは隊長もこの世界にいらしたのでしょう。私はガンダムと戦い敗れ死んだ後その後隊長の顛末を走馬灯のように見ることができ目覚めたらこの世界にいました。そして私は陳挂さんと出会いどうにかここまで生きてきました。ですが私もどうやら時間のようなのです。これを書いている間にも私の存在は消えているように感じています。ですが私には後悔はありません。私はこの世界で愛を知り、その結晶である子を残せたのですから。ですので隊長も好きなことをしてください。自分の好きことを好きなように。私に残された時間は多くはなかったように、隊長もいずれ消えていく運命かもしれません。なので悔いのないよう生きていください。まぁ隊長なら大丈夫でしょうが。

では最後に、隊長がやるべきことが終わったらでいいのですが。私の妻、陳挂と娘である、陳登に私の話しでもしてやってください。

それでは御武運を祈っております。  

               ハワード・メイスン 』   

 

「ははははは……成る程ハワードらしい気遣いだ。」

 

少し目が覚めた。華琳殿から言われた言葉に動揺しすぎていた。そうだ私は過去のように追い求め続ければいいので決してそれが変わらないように。

 

「ハワード、貴殿が愛を知ったこの世界で私も愛に出会えるだろうか……」

 

そう私は華琳殿から言われた、愛を求めていると。私は愛を知らず、遠ざけているのだとそう言われた。そんな筈はないと否定したが私の頭はその否定を許さなかった。その愛は憎しみに変わりそして宿命となる。それが私が生きてきた人生で得たものだ。ではどうなる?愛したものを憎むことが、宿命として果たし合いをすることが正しいのだろうか。いや正しくはない。ならば愛など今のままの概念で固定し遠ざければいい。そう頭の中で何回もの思考の末たどり着いてしまった。

 

だが、考えを改めよう。ここでも消える運命ならば、私は愛というものを知りたい!私が追い求めていたものを知りたい。それが憎しみになろうと、宿命になろうとも!

そうだともグラハム・エーカーはそんな男だとも自己中心的で我慢弱く、落ち着きのない、曲がったことが大嫌いな人に嫌われやすいタイプだ。

ならばこの人生私の道を貫き通すまで!

 

ここまで考えようやく体に渇が入った。もう大丈夫だ。だがしなければならないことが増えたな。

 

 

「まずは栄華殿に了承を伝えに行くか。」

 

といい勢い良く部屋を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四十一話 決意と歪み

 

「燈殿!」

 

「あらグラハム様どうかなされたのですか。」

 

栄華殿に夕食の誘いの承諾を行った後に燈殿のもとに訪れた。丁度良く一人でいた。やはり言わざるを得ないのだ。

 

「燈殿すまない。そして本当に感謝する。」

 

そう頭を下げる。礼をしなければ私の気がすまなかった。

深々と頭を下げる。

 

「あらあら。見てしまわれたのですね。」

 

少し避難するような言葉だが。口調は楽しそうなものだった。

 

「あぁ、見させて貰った。故の今だ。」

 

「そこまで頭を下げなくて良いのに。」

 

そう言ったので顔を上げると。燈殿は窓から見える空を眺めながら言った。

 

「私は当たり前のことをしただけ。彼に愛され、彼を愛しただけよ。もう少し娘には構ってほしかったけれど。」

 

「そうか……」

 

懐かしむような表情で清々しく言う。もう気持ちの整理はすんでいるのだろう。

 

「そして最後に渡されたのが貴方に渡した書簡なんですもの。我が夫ながら気が狂ったのかと思ったわ。来るかもわからない相手への手紙を残すなんて。」

 

確かにそれは家族の最後の別れとしては……

 

「でもそれ以前にたくさん貰ったから。満足してるの。」

 

そう笑顔で言った。

これが……私の目指すものか

 

「最後に会っていかれますか?場所なら教えてあげますけれど。」

 

「いや、今の私では会わせる顔がない。このような元隊長など見たくもないだろう。」

 

「そう。なら夫の昔話も帰ってきてからになるのかしら?」

 

「そうなってしまうな。すまない。」

 

「いえ、待つのは得意なの。夫からの告白も何年も待ったから。」

 

「その話しは是非とも聞きたいな。」

 

「あら趣味が悪いんじゃないの?」

 

「彼がどのような人生をおくったのか気になるのでな。」

 

話を聞いてさらに私の心は晴れやかになった。燈殿の顔を見てわかる。良き人生だったのだろう。

 

「では私の要件は済んだ。私は急ぎやらねばいけぬことがあるゆえ失礼する。」

 

と、早足で出ていく。

 

 

 

 

 

 

「そこまで急がなくても良いのに……

でも覚悟は決まったようね。

ハワード様、どうかそちらで見守っていてあげてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グラハムさん、入りますわよ。」

 

そう声をかけて入る。中に入ると

 

「な、何ですの!?この書簡の数は!?」

 

「おう栄華殿。もうこんな時間になってしまったか。」

 

グラハムさんが座っている机の周りには多くの書簡が丁寧に置かれていた。しかも全て本に使うような綺麗な紙が使われている。

 

「何を書いていましたの?」

 

「いや、戦の前に認めようと思ってな。今書き終えたところだ。すまんすぐ片付けよう。」

 

この量の書簡を誰に送るのでしょうか?お礼状であれば竹簡で十分でしょうに。でもグラハムさんならやりかねませんね。

 

「では食事の準備もさせましょう。入ってください。」

 

そう言うと私が連れてきた侍女二名を入らせる。彼女らは食事の準備をし始める。彼は書簡を運んでいる。まぁ部屋の隅に追いやっている。すぐに使うのだろうか。

そして私の近くには彼がいつも持っている剣?にしては細身のものが置かれている。いつもは二本あるのに今日は一本しかないが調整でもしているのだろうか?

そう考えていると食事の準備が終わる。侍女は下がる。

 

「ほう……これは……」

 

グラハムさんが料理を見ながらそういう。

 

「これは流流さんが作ってくれたんですの。」

 

「成る程いつもと切り方などが変わっていたからな。美味しそうだ。」

 

「では食べましょうか?」

 

「あぁ、そうするとしよう。」

 

そして数分で料理を食べ終わる。

 

「いや、美味しかった。」

 

「そうですわね。流石流流さん。」

 

「それで、栄華殿出立前日にこの場をもうけているのだ。私になにようかな?」

 

やはり気付かれてはいますわね。流石の観察眼といったところでしょうか。

 

「はい。朝からいえ、数日前からお顔が優れていらっしゃらなかったので何かあったのかと思っていましたが……今のご様子を見るに杞憂だったようですわね。」

 

そう、朝までの様子はどこへやら、この部屋に来てからのグラハムさんの表情はなにか憑き物が落ちたような爽やかな表情であった。

 

「ははは、やはりばれていたか……私は隠すのが苦手らしい。」

 

「まぁ、私以外も気付いているかたもいらっしゃいましたしそうかもしれませんわね。

それで何について悩んでおられましたの?」

 

そう言うと空気が変わった気がした。何も変わっていない筈なのに何か圧を感じてしまう。この空気は感じたことがあった。

試合の空気であった。

何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか?そう思っていると。おもむろに私の前に一つの書簡が置かれる。

 

「こ、これは?」

 

「読むといい。」

 

彼は優しい表情で圧はそのままにそう言った。

その中に書かれていることを大人しく読むことにした私の顔は驚愕が隠しきれなくなってしまった。

 

「離反ですって!!」

 

思わず叫んでしまった。その書簡には、離反すること何故離反するのか事細かくかかれていた。

 

「私グラハム・エーカーは曹軍を離れ漢に協力することにした。理由は今回の連合に義がないことである。話し合いなど何ももうけずにすぐに戦など全て私利私欲のためではないかと私は考える。平和のため宮中を血に染めた董卓のほうが義があるのではないかと考えた。その後塾考を重ねた上ここを離れることにした。これは私を曲げないためでありここの者たちが悪いわけではないのは知っていて貰いたい。この理由で納得しないものもいるだろう。正直わかるものではないと考えている。その場合は私をすぐに追いこの首をとって貰って結構。私が通る道の地図を簡易的に記しておく。だが、理解してくれるのであればそのまま送り出すことを期待する。いずれ帰ってくるまでさらば。」

 

そのように書かれていた。信じられない。彼が、グラハムさんがここを裏切るなんて……こんな争いの世の中そういったことは常ではあるけれどでも……

そんなことを思ったが書簡の最後の一文が気にかかった。

「これからは個人に当てての文のようなものとなる。読むも、捨てるも自由だ。」

そう書かれているのに私が渡された物には次がない。

 

「わ、私は……」

 

声がつまっている。足もくすんで動かない。

グラハムさんが立ち上がり立て掛けてあった剣を手に取る動かないと……!

そう思い動こうとするが

 

その剣は私の前に置かれる。

 

そしてグラハムさんは私の前でしゃがみ。

 

「私は、そこに書かれているとおりここから離れる。どう思ってくれても構わない。が……栄華殿貴女には誠意を見せなければならないと思った。」

 

思ってもない言葉がでている私たちを、裏切っておいて綺麗事をと落ち着くと思えてくる。しかし次の言葉がまた私を狂わせる。

 

「栄華殿に愛された私はこれぐらいしか返すことができない。」

 

「………っ!!」

 

「この私は裏切り者だ。よってその剣で私の首を今切ってもらが問題はない。」

 

そういい首を私に差し出し、私の手を取り剣の柄に運ぶ。

この男は愛されたことの返しに命を差し出してきたのだ。なんて残酷な人なのだ。私が愛していることを知っていて命を差し出している。それがどれだけ辛いことなのかを知らないのか。

柄を持ち剣を抜く。久しくもつ重さ。命の重さ。

裏切り者ならばお姉さまや皆のためにも斬らなければいけない。そうなのに私は……斬れない。

そこまで重たいものは背負えない。恋をした相手を殺すなど……

だから私は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方を奪うことにしましたの。

私も歪んでいたのですね。愛を知らない貴方のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳様!華琳様!」

 

「なに桂花?そんなに焦って?」

 

「グラハムが軍を出たと!」

 

「あら結局皆にばらしたのね。昨日でもうお別れかと思ったけれど……」

 

「それに凪もいなくなっています!これでは軍に影響が……」

 

「あ、それは大丈夫よ。問題はないわ。そろそろ来る筈よ。」

 

すると謁見の間に入ってきた、白髪赤眼の少女そして、乱雑に切ったであろう短い金髪、碧の目慣れない装備を身につけた者が華琳に近づく。

 

「グラハム隊準備整いましたわ。」

 

「そう。

ならば今からグラハム隊の総指揮は貴女に任せるわ

栄華。」

 

「は!」

 

「桜居も支援してあげて頂戴。」

 

「了解いたしました!」

 

そして彼女らは何もなかったように出ていく。

 

 

 

 

 

腰には誰かが身に付けていた2対の剣を腰にそれぞれかけながら。

 

 

 

 



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第四十二話

 

「これでよかったのですか?今頃城内は……」

 

「なに構わないだろう。私からの礼を渡したにすぎんよ。そのせいで私の給金は殆ど使いきってしまったがな。ははは。」

 

そうして私達は道なき道を進んでいる。お互い顔を隠す仮面を被り黒を基調とした鎧を装備し、そしてこれは私の趣味だが赤の羽織を羽織っている。

 

「なかなか高価そうな鎧ですが……」

 

「気にするな。身分を偽るにはこれぐらいしなければな。だがそれよりも得物の扱いは問題なさそうか?」

 

「はい。手甲の先端に折り畳みしきの刃とは見たときは驚きましたが……使う分に支障はありませんですが……」

 

「私の得物か?」

 

と手にもつ得物を見る。それは青龍刀よりも刃が長く、柄が短い。そして一番の特徴は両端に刃があることだ。正直これでは自傷の心配はあるだろうが……

 

「問題はない。この得物も元の世界で経験済みだ。」

 

「そうですか……あ、あとこれからの名はなんと呼べば……」

 

「私のことは羅破《らは》と呼ぶといい。この時代にもあっているだろう。」

 

「は、羅破様。私のことは几箋《きせん》とお呼びくだされば」

 

「几箋か少しあからさますぎないか。」

 

「それは羅破様こそ。」

 

そう歩く我々に陰りはない。自身の正義のために進むのだ。陰りなどあってなるものか。

 

「追手は来ると思いますか?」

 

「曹操殿のことだ。勿論来るだろう。」

 

「そうですね。どうされますか。」

 

「いや、もう手は打っている。」

 

そうすると前から馬を二頭連れている女性がこちらに向かってくる。

 

「おーいまっとたでーー」

 

場違いな明るい声をあげながら笑顔で。

 

「張遼殿、すまぬな。こんな早朝に」

 

「いやいや気にせんでええよ。それより早よ乗り。曹操の追手が来るんやろ?」

 

「ありがたい。几箋頼めるか。」

 

「は。」

 

「へぇそっちの子、几箋ちゅうんか。わいは張遼や、これからよろしゅうな!

そや、あんたのことは何て言えばいいんや?」

 

「私のことは羅破と呼んでくれ。」

 

「わかった。よろしくな羅破。

ほな行くで!追手ももう近くまできとるって報告あったしな。」

 

そういい私たちは馬を走らせて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまく逃げられたわね。」

 

「すみませんお姉様……」

 

「いえいいのよ。もとから捕らえられるとは思っていなかったのだし。あなたの練習にもなったでしょう。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

「あと、グラハム隊には香風を同行させるわ。期待してるわよ栄華。」

 

お姉様に報告をしたのち離れる。

そして部隊に戻ると

 

「あ、栄華様お帰りなさい。」

 

「はい今戻りました桜居さん。」

 

グラハム隊の皆さんが出迎えてくれます。女性のかたは桜居さんしかいないのが少し苦しいですがグラハムさんの部隊なだけあって皆礼儀正しいのが救いですわね。そしてこんな私にもついて来てくれるのは本当にありがたいですね。

 

「華琳様大丈夫でした?」

 

「はい。想定どおりということでした。これからは出立に集中しろということでしたわ。」

 

「ならよかったです。俺、いつもの華琳様なら大丈夫なんですけど指揮してる時のあのピリピリした空気を纏うの苦手なんですよね。」

 

「まぁわかりますわ。」

 

だからこそこの町が成り立っているのですけれどね。

 

「それにしてもあの人はいろいろなものを残していきましたわね。グラハム隊もそうですがあの分厚い本とそれぞれの贈り物。あれを一日で用意したというのですから……しかも手作りのものが殆どをしめているといいますしなんというか気持ち悪いですわね、あのおと『グラハム・エーカーである!』………久々に来ると頭にきますわね……」

 

「そうですね。俺と栄華様は剣でしたけど、他の人たちは小道具とか小物ですもんね。華琳様なんて小さな扇をもらっていましたね。」

 

華侖さんと柳琳さんは髪飾りでしたのに……まぁ真桜さんは何かの絡繰?で、季衣さんは手甲を安定させるための腕輪のようにそっち方面ではないものも多くありそうですが……

 

「まぁ、彼らしいと言われれば彼らしいですわね。」

 

「そうですね~」

 

「ではいつでも出立できるように準備を。そして香風さんがこちらに来るそうですからその分の馬の準備を……」

 

「おーいーー栄華様ーー」

 

「あら、香風さんきてらっしゃたんですね……」

 

と辺りを見渡してみるが香風さんの姿はどこにも見えない。

 

「ん?香風さんはどこにって……桜居さんそんな上を見てどうかなされましたの?」

 

「……いやだってあれ」

 

と上を指差す。上に何があるというので……

 

 

「ねぇ見て見て~シャン空飛んでるよ~」

 

「えっ…………えっ!?」

 

上を見るとなにか大きな布?が広げられておりそれにぶら下がるように香風殿が空を飛んで………

 

「飛んでますの!?」

 

「飛んでますよ!?」

 

そしてそのまま、ふわぁと降りてくる最初布の下敷きにはなったがそこからヒョコっと顔を出す。あぁなんて可愛い……いやそれよりも

 

「香風さんこれは……」

 

「これね、お兄ちゃんから貰ったの。ぱら……しゅー……と?て言うやつ。説明がここに書いてあったからやってみたの。そしたら上手く行った。ふんす……」

 

慎ましやかな胸を張りそう言う彼女はとても可愛らしかった。

といっても空を飛ぶものですか……なんと言うものを彼は渡しているのですか!?

 

「はぁ……これはお姉様に報告ですね。他の方にもこのようなものを配っていないといいのですが……」

 

「あはは大将ならあり得ますね……」

 

そう苦笑いを浮かべていると

 

「シャン……なにか悪いことした?」

 

と、可愛らしく首を傾げているのだ。

 

「あぁ!もう!可愛いですわ!」

 

「あ、栄華様が壊れた。

グラハム隊総員出立準備!そして誰か華琳様に報告を。大将が皆に渡したもの全て調べさせるようにと。俺はは栄華様を抑えとくから。皆大将も副将もいなくなったけど頑張ってこうな!」

 

「「「オーーーーーーー!」」」

 

 

 

 

 

 

その後特殊なものは出立前に華琳様に見せるように指示をされた。だが香風さんのような特殊なものは少なかった。真桜さんの絡繰ではなく模型?が特殊な形をしているや、沙和さんに彼が着ていた服の詳しい設計書などが渡された程度であった。一人かたくなに見せない人、桂花さんがいたのだが流石にお姉様の命令には逆らえないらしくしぶしぶ服の裾から一枚の薄い紙を取り出した。

 

「これは?」

 

「栞というものらしく本や兵法書等に挟み使用するものだと書いていました。」

 

「そう。なかなか綺麗なものね。花を抑えて模様にしているようね。この花は彼岸花かしら?」

 

そう言われ返されるとまた裾にしまう。彼女らしくないと言えばらしくはない

他に渡された物は春蘭さんは新しい胸当て。秋蘭さんは小振りな剣。そのどれもがあまり見ない作りで作られている。そして燈さんは一冊の本。誰かの生涯がが書かれているらしいが誰のものなのかはわからない。でもあの分厚さ相当ですわね……

喜雨さんは最新の農業に関わる書物が五冊ほど……とほんとに様々なものを渡されましたわね……

 

「取り敢えずこのぱらしゅーとに関しては帰ってきてからでいいでしょう。皆集めてすまなかったわね。じゃあそろそろ行きましょうか。」

 

お姉様の合図のもと出立を始めるため将は各隊に戻る。

 

「そろそろですわね。」

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですわ。桜居さんこそお二方が抜けて困っているのではなくて。」

 

「そんなことはないですよ。」

 

「ならよかったです。」

 

もう覚悟は決まっている。これからの戦場で恐らく彼は私達の前に立ちふさがる。越えなければならない障害として。私の手で方をつけたいものですわね。

 

「待っていてくださいよ。グラハムさん。」

 

あなたの正義に勝つために。

 

「全軍前進!!」

 

今度は戦場でお会いしましょう。

 

 



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第四十三話

本当に申し訳ない……
次は早めに出します!


 

「ちょっとここで待っとき。すぐつれてくるわーー」

 

数日かけて到着した洛陽はとても静かなところだった。だが思ったよりは大分ましなものだ。いつもどおりの生活をしいつもどおり暮らしている。いないのは客や旅人。民はまだこの地に数多くいる。帝のいる場所といえこるから戦場になるというのに残っているということは、やはり上が信頼できるものなのだろう。

 

「間違ってはいなかったようだな。」

 

「はい。そのようですね。ですが……どうやら怪しい噂も間違ってはいなかったようですね。」

 

その通り。今や大陸に悪名高く響いている大粛清。それは事実であった。我々がここに来るまでに聞こえた叫び声そしてその後すれ違った捕縛されたもの。彼もこれから同じ運命を辿るのだろう。

 

「流石に床は赤く染まってはいなかったがな。」

 

「それでこれからどうなさりますか?」

 

「それは董卓殿しだいになるだろう。いつでも出られるよう準備を。」

 

そう几箋と喋っていると扉が開き

 

「お待たせしました。」

 

「…………」

 

外見はとても幼いが纏うものはとても大人びた少女と、明らかに私達をいぶかしんでいる目を向ける少女そして護衛である張遼殿が入ってくる。

我々は立ち上がり礼をとる。

そして上座に座る。

 

「どうぞお座りになられてください。」

 

「失礼する。」

 

「失礼します。」

 

「それでこちらではどのようにお呼びすれば良いでしょうか。」

 

「私は羅破と、そしてこちらは几箋とお呼びください。」

 

「そうですか……それでは羅破さん、几箋さん。よくぞここにいらっしゃいました。ここに来るまで多くの苦難があったと思います。ありがとうございます。」

 

といって頭を下げる。

 

「月(ゆえ)!!」

 

恐らく彼女の真名を叫ぶ隣に立つ少女。

確かに異例なのだろう。国の大将軍ともあろうものが感謝こそすれ頭を下げるなどこの時代ならば特にあり得ないのだろう。

 

「詠ちゃん大丈夫彼等は信用できるよ。」

 

「でも……」

 

「確かに其方の疑いの目も仕方があるまい。急にきたうえ仮面で顔を隠している。そのようなものを信じるというのもおかしい。そうでしょう董卓殿。」

 

「………」

 

「ならばこちらの真意を伝えるしかあるまい。」

 

ここに必要なのは少しの覚悟だ。

 

「ただ私達はこちらが全面的に正しいという理由できたのではない。逆に言うなればここまでの争乱を巻き起こした張本人を弾圧始末しに来たといったほうが正当性がある。しかも今や反董卓連合というものができ、勝ちも薄い。」

 

「あんた言わせておけば......!」

 

「だが............その自身の正義を信じる姿勢に敬意を表する。

今回大将軍になったのもこのような法外な粛清を行っているのもこの国のため。しかもこのあと董卓殿が勝とうが、敗れようがこの国は良い方に転ぶざる得ない......その決断に至るまで並々ならぬ思いがあったのだろう。その思いにただならぬ思いを感じたからこそ我々はここに来たのだ。」

 

「................」

 

「そして仮面をつけている理由だが」

 

といい仮面を少しづらし顔の傷を見せる。

 

「このような傷を見せるわけにもいかん。しかも今見た通りだが私は異人だ。この国の軍に正規の方法で入れるとは考えていないさ。」

 

「今までの話を信じろって?」

 

「あぁ。我々の真意は話した。これ以上はなにもでてこんよ。」

 

「もういいでしょ、詠ちゃん。」

 

「月……」

 

「はい。我々は貴方とその部下を客将として迎えいれます。」

 

「そうか。良かった、では几箋準備を。張遼殿も大丈夫かな?」

 

といい立ち上がる。

 

「は、了解いたしました。」

 

「おう!準備しとくわ。ちょっと待っとき!」

 

「あ、あんた何をするつもりよ!!」

 

するとこれまで話していた限り恐らく軍師殿であろう女性が慌てている。

 

「まずは我々を受け入れてもらい感謝する。だが我々が信用を得るべきは董卓殿や将たちではない。いや、軽んじているわけではない。だが最も重要なのは兵への信頼だ。董卓殿達は私の過去をしているから客将という席を与えてくれた。だが兵にとっては急に部外者が入ってきて自分達の上に立つなどたまったものではない。

ならば私達がとる行動は一つ」

 

ここからは得意分野だ

 

「仕合だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四十四話

 

「それじゃはじめるでぇーーー」

 

「えぇとこれは……」

 

張遼殿に連れられ案内されたのは多くの兵がいる鍛錬場のような場所であった。

 

「私が張遼殿に無理を言ってやってもらった。簡単に言えば模擬戦だ。だがよくここまで集めたものだ。」

 

「模擬戦ですか…?」

 

「名も知らない者が将などそう簡単に受け入れられるものではない。よって無理を承知でこの場を設けてもらった。」

 

「あ、あんた勝手にこんなことして許されると思って……」

 

「まぁまぁ、良いではないか賈詡。」

 

「華雄……」

 

「それで私の相手はどちらだ?」

 

と、華雄殿は得物である長柄の斧槍を私達に向ける。

 

「先陣は私が務めましょう。」

 

「できればそちらの男と戦いたかったのだが……いいだろう。」

 

少し拗ねた表情をするが、一瞬で武人の顔に戻る。

 

「なに、これが終われば直ぐにでも相手をしよう。

だがその前に几箋と仕合、無事であればな。」

 

「それは期待が出来そうだ……」

 

私に向けられていた気が全て几箋に注がれる。

 

「ご期待に応えられるよう頑張らせていただきます。」

 

そういい二人は視線を交差させ戦場へと向かっていく。

 

「さてどちらが勝つか……董卓殿はどう見る?」

 

「わ、私はあまりこう言ったことは得意では……」

 

「では軍師殿そちらはどちらかな?」

 

「あんた勝手に仕切らないでよね!でもそうね……」

 

そういつて軍師殿は手を顎に添え二人を見て考え始める。

 

「正直に言えば華雄かしら。」

 

「それはなぜ?」

 

「得物の差が一番かしら。彼女の武器が何なのかはわからないけれど小楯と小剣が一体化したものでしょう。あれは至近距離の白兵戦を意識したものというよりもごった返している戦場で小回りを活かすためと予想したけれど……」

 

と語る軍師殿の予想を聞いていると私の顔を訝しげな目で見てくる。

 

「あんたわかりやすいって言われない?」

 

「おっと顔に出ていたかな。」

 

「えぇ…仮面越しの目が語っていたわよ。でも予想は華雄のままにするわ。」

 

「では、私は几箋の方に。」

 

「よし。二人共準備はできたかーー?」

 

「あぁ」

 

「はい。」

 

と聞こえる。私達は他の兵より一つ高いところから見ている。隣の2人の目は戦場に立つ2人のに向けられている。

その目はただの少女ではない。軍師殿は軍師らしく見定める目。一方董卓殿は

 

「ほう……」

 

覇王の目をしていた。

やはりここまで人を集め反乱を起こし粛清したとしてもついてくる。流石、人の上に立つ者といったところか。

 

「そんじゃはじめぃ!!」

 

といい仕合が始まる。

 

「「……!!」

 

お互い周いを詰める。もちろん先に周いを征するのは華雄殿。長柄の斧を振り回す。大振りの横に振りかぶられた斧槍は几箋の胴を捉えようとする。まさに一撃必殺……だが、ただ無茶苦茶に振っているのではない。その踏み込み、狙い、先の先を狙った行動は彼女の実力を証明するには十分なものであった。

だがそれに負ける几箋ではない。

 

カン!シュッ……

 

強く横薙ぎされた斧槍を盾で受け止め上に弾く。いや受け流す。弾いてしまえばまた振るわれるよって流したほうが利点は多くある。だが難易度は流すほうが高い。しかも相手も達人と呼べるレベルだ。柄を弾かれぬよう相手に当たるタイミングで手前に引いている。ということは几箋は一番威力の高く速いものを技量で流したのだ。

明らかな隙、絶好の機会を掴んだ。刃を振るう。

 

「流石だ」

 

私が言う。

 

「流石ね」 

 

軍師殿が言う。

だがそれを言う相手は几箋ではない。

 

「はぁぁぁ!!」

 

横に流された斧槍を一歩踏み出すことによって柄が短くなり安定性を取り戻しそのまま回転し躱しつつ、さらに速さのました斧槍が再び振るわれる。

柄を短く持っているため流すことはほぼ不可能。しかも前段の流しが成功してから攻めの姿勢に入っている。

これは入った。誰もがそう思った。

だが実際にその斧槍が振り切られることはなかった。不自然に胴に触れる直前で止まっていた。

そして几箋の刃も華雄の首の直前で止まっている。

 

「寸止め?」

 

董卓殿が言う。だがそれは違う。

几箋はあの斧槍を左手一本で征した。

そして華雄殿は几箋の攻撃をまた左手で征した。

 

「なかなか面白い芸当だな、几箋とやら。」

 

「いえ華雄様こそ咄嗟の反応と言うには早すぎる。こうなることも予測していましたね。」

 

あちらで何か話してはいるがこちらには聞こえない。だがこれは

 

「止め。この勝負引き分けや。」

 

「まぁそうなるわよね。」

 

と采配が張遼殿の口から告げられる。

 

「なんだ張遼!私はまだ戦えるぞ!」

 

「何強がってんねん!あの体勢からお互い離れられへんし、離れるんはどちらか死ぬときやろ。そら引き分けにするわ。」

 

「うむぅぅぅぅ……」

 

「まぁそうなりますね。華雄様お手合わせ有難う御座いました。」

 

「あ、あぁこちらこそ。」

 

と握手を交わしている。

 

「強かったわね。」

 

「そうだろう。」

 

「でもどうして華雄の攻撃を止めれたの?几箋の攻撃はある程度止められる範囲だとは思うのだけれど。」

 

「簡単なこと。あれは柄を取っていたのではない手首を取っていたのだ。どれだけ腰で得物を振ることを意識していたとしても最後には必ず手首を振る必要がある。それがなければ威力は激減する。だから几箋は空いた左手で相手の手首を征した。それだけのことだ。」

 

「そんなこと実践で出来るの!?」

 

「難しい話だが、几箋ならやってのけるだろうな。今のようにな。」

 

といい私は几箋が戦っていた場所へ向かう。

 

「几箋。ご苦労だった。」

 

「いえ羅破様。ご期待に応えられず申し訳ありません。」

 

「いや十分だ。まだこれから慣れて行く必要があるがな。」

 

「はい。有難う御座います。」

 

「では、今度は私が行こう!」

 

「お!まっとったでこの張遼さ「恋がやる」……って恋帰って来てたんかい」

 

そう張遼殿の言葉を遮る声が入る。恐怖と懐かしさを感じる声が

 

「うん。露、ただいま。」

 

「おうおかえり。って恋がやるん?本気?」

 

「うん。恋この人と戦いたかった。」

 

そういい私を見据えるのは呂布。覇気からもその強さがわかる。恐らく董卓軍の最高戦力。その者が私とやり合うことを望んでいる。

 

「成る程彼女がこの世界での私のガンダムとなるか……」

 

「?羅破なんか言ったか?」

 

「いやなんでもない」

 

「んでどうする?」

 

「結構。呂布殿。是非一戦よろしく頼む。」

 

「ん。じゃあ準備する。」

 

ふぅ。ここで燃えてしまう悪い癖は治らずか……

 

 




次回呂布戦お楽しみに。


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第四十五話

本当に申し訳ない。

羅破=グラハム
几箋=凪


「本当にするの!?あいつ死ぬ気!?」

 

詠ちゃんが私の隣でそう叫ぶ。彼女が見つめるのは仮面を付けた謎の将、羅破。そして我等が漢王朝が誇る呂将軍。その両方が互いの武器を持ち今にも仕合おうとしている。その行為は私達は自殺行為だということを知っている。呂将軍、恋さんの実力を私達は知っている。黄巾の兵数万を一人で倒したと噂が広がり恐れられているが、実際にそれは事実。後ろに呂隊の兵が控えてはいたが、ただいただけ。全ては呂将軍がその矛を持って薙ぎ倒した。一騎当千以上の活躍。その将に、彼、謎の天から来たと言われる男は挑もうとしている。なんと無謀なことか。

 

「そんなことしたらどうなるかわかるでしょ!さっさと止めさせなさい!」

 

「は、は!」

 

そう詠ちゃんは告げる。確かにあの人のことを考えるならそうしたほうが良い。仲間内で悪戯に殺し合うなど今の我軍の指揮に関わる。だが

 

「いえ……続けさせてください。」

 

「な、何言ってるの…よ……」

 

私はここで判断しなければならない。私はこの軍のためではなく、この大陸のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼を死駒にするか活駒にするか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ!呂布殿!仕合おうか!」

 

「…?なんでそんなに…興奮してる…?」

 

私は今恐らくこの大陸において最強となるものと勝負することとなる。こんな状況

 

「興奮しないほうが無理というもの!」

 

「何やあいつ?」

 

「……いつものことです……」

 

「あんたも苦労してるんやな…うちもうちで…」

 

「ん?張遼。なぜそこで私を見るのだ?」

 

「わからんかったらええわ。んじゃやるってことでええな。」

 

「あぁ、構わん。」

 

「恋も大丈夫。」

 

そしてお互い武器を構える。

周りの兵士は野次を飛ばす者、何が起こっているかわからない者、これから起こることは大丈夫なのだろうかと心配している者様々だ。

 

「んじゃわかった。でも殺しは駄目やからな。それだけは守ってもらうで!」

 

「相分かった。」

 

「うん……」

 

「ええな。ほんじゃ始め!!」

 

始めの掛け声が響く

その瞬間私の前から呂布が消える。

これは誇張表現ではない。ただそこにあったものが消えたそう急に。何故だ何処に…

 

そして瞬き

 

 

 

 

 

 

眼前 刃

しゃがむ

目が合う

柄前

直撃

眩む

離れる

倒れる

衝撃

 

ここで漸く思考と行動が反射から正常に戻る。

 

「カッハ………!?」

 

息をするのも精一杯、それぐらいの恐怖。そして遅れてくる痛みと胴の惨状。胴は頑丈に作られて入るが粉々に砕かれている。そして口からは血の味がこみあげる。

そして前を見ると私をこの様にした者は悠然と武器を構えて立っている。

 

「なるほど……これが……最強か……」

 

こいつに勝つには何をすれば良いか分からない。そう分からない絶望という言葉が正しい。

しかし、しかしだ……

 

「ここで高揚してしまうのは悪いところだな……」

 

あの時のような高揚感を覚えてしまう。

そう言いまた武器を構える。震えを抑え相手を見据える。

ふぅ……このままでは駄目だ。先のように反射で動かなければなるまい。

ならばこの得物は不利、ならば。

得物を二つに分け、双刃から双剣に変える。

これならば対応できる。あとは全て反射と読み次第か。

 

「さぁ……まだだ呂布奉先!!」

 

そう自分を猛らせるよう、言う。今までずっとそうしてきたのだ。行けるとも!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃ恋殺る気やったな……」

 

「えぇ、明らかに殺意がありましたね。」

 

「やけどあの感じやと真ん中ちゅうところか。な、華雄?」

 

「うむ、そうだな。いつもよりは本気を出しているといったところか。」

 

「華雄は下のところでやり合ってもボコボコやもんな。」

 

「な!?そんなことはないぞ!私は善戦するとも!張遼こそ前は派手にやられていたではないか!」

 

「いやーあん時は本間ビビったわ。流石に死ぬかと思たわ。」

 

そう言いながら談笑の方に話を変えている。

しかしあの速さは尋常ではなかった。目で捉えるのも精一杯。羅破様もあれは反射で避けられたのでしょうが、二段目は反射もまにあわなかったのでしょう。それにしても強い。今の一撃だけでそれは分かりました。ですが反対に羅破様の実力も示すことができた。隣にいる張遼殿と、華雄殿の目は雑談を挟みながらも逸らされておらず、興味深げな視線をむけている。周りにいる兵も少し離れたところで見ている董卓殿や軍師殿も同じ。物珍しいものを見る目とは、明らかに違う目で彼を見ている。隊長はこれが狙いだったので………

 

 

「はぁぁぁ……」

 

「うわ!急にどうしたん?」

 

「あ、いえ気になさらず。」

 

いやえっと……分かっていましたよ。分かっていましたとも。隊長のことですから。狙っていたことは確かでしょう。ですがあの顔は…子供が浮かべそうな笑みは

 

ただ楽しんでるだけじゃないですか!!

 

しかも相手は呂布ですよ?あの呂布ですよ!それに対して楽しむなんて正気の沙汰じゃないですよ!?

 

はぁ…

まぁ、いいでしょう。しかしこれからどう戦うか見ものですね……

ってその武器そうなるんですか!?

というか身分を隠そうと武器を変えたのにそれでは元も子もないではないですか!!

まぁ!やると思いましたけど!予測していましたけど!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

構えてから数秒もしないうちに次撃が来る。

今度は腹部を狙ってくる。なかなか読みやすい大振りの一撃。しかし速さは桁違い。何処に来るか分かっていたとしても反射に頼るしかない。両手の刃で流す。しかし流しきれることはなく弾かれる。反撃を繰り出そうとするが相手の方が体制を立て直すのが速い。

 

今度は重い一撃ではなく連撃。

しかしそのどれもが洗練されている。いや、されすぎている。

速さは勿論、力も常人のそれとは比べ物にならない。

何度もぶつかる刃。こちらは二つの得物だというのにそれを凌駕する数の斬撃で攻めてくる。

なんとかその打ち合いについていく。これも読みだけでは効かない。いや読みにくい何の決まりもなく連撃が繰り出され続ける。これも反射でどうにかしなければならない。

 

それ以降も連撃戦を繰り返していると限界が近づいてくる。勿論それは私の方だ。これは一度離し

下段!

 

「成る程こちらが考える暇も無いということか!」

 

何とか無理やり距離を剥がすがまだ張り付かれ鍔迫り合いになる。

 

「力だけではなく技術や読みも相当なものだな!」

 

「お前……戦闘中なのに……うるさい……」

 

そう言われ離される。

 

「ははは、釣れないな呂布!

ならばこちらに引き込むまで!」

 

今度はこちらから攻める。力も速さも私の最高の一撃。しかしそれはどちらも呂布よりは低い。

軽々受け流される。

 

「まだまだ!!」

 

今度はこちらから連撃を仕掛ける。

二刀による連撃。圧倒的な手数のはずが、それは軽々しくあしらわれ続ける。

何度も振るうが同じこと。

 

「く…!身持ちが硬いな!」

 

「ん……しつこい……」

 

もう一度振るった刃は見事に躱される。

そして下段の足払い。

わかっていても避けられない速さ。反射でも間に合わないだろう。

 

「なんのこれしき!!」

 

気合いを入れ地面に手をつき受け身を取る

逆さの視点

こちらに向かってくる呂布

 

咄嗟に手元に向け蹴りをいれる。防御させることに成功するが打ち返される速度もただではすまない。

 

「ぐっ………!?」

 

結構な距離吹き飛ばされるが。即座に立ち上がる。

いつ斬られてもおかしくない。そう感じた。

 

また眼前。

避け……れない。

刃は既に首元。後退しようと伸びてくる。

 

「ここで終わる私ではない!!」

 

手の籠手を使い相手の偃月刀をかちあげる。

否かちあげることはできなかったが。それは必然。力で負け速さでも負けている。しかしそんな私でも反らすことはできた。当然受け流せなかった衝撃は手に響く。この戦闘中では恐らく右手は使い物になるまい。武器が右手から落ちる。

まだ相手は軽症もなしか…

しかし!

 

「まだだ呂布!さぁ全身全霊の一撃を!さぁ!」

 

そう煽ればこちらに正面から突っ込んでくる。

 

こちらも手を出すがその手は弾かれ空へ伸びる。

 

 

 

 

 

 

なんという僥倖……!!

 

 

 

 

 

そこで漸く決着がついた。

 



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